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[16188] 【チラ裏から移動】敵、その名は転生トラック (オリジナル 完結)【外伝2追加】
Name: 古時計◆c134cf19 ID:d842e1e7
Date: 2010/04/17 22:19
―いつもと同じ退屈な毎日―


―朝起きて飯食って学校行って授業聞いて友達と遊んで帰って家族と話して寝る―


―それが嫌だったわけじゃないけど何処か物足りなかった―


―もっと刺激のある人生を送ってみたかった―


―だから俺は――――





「転生してぇ」

「いきなり何言い出すんだお前は」

思わず呟いた俺の言葉に帰り道が同じ友人があきれた声で返す。

「えーだってよぉ、この世界にゃ何もねえと思わねえ?高校になったら何か起こると思ってたのに。
 どっかの国からお姫様が転校してくるとか空から女の子が降ってくるとか街に吸血鬼が表れるとか俺に不思議な力が宿るとかあってもいいじゃん。
でも実際は何もねえだろ。だったらもう転生してオリ主になるしかなくね!俺tueeeeとかニコポとかしたいと思うだろ!!」

「思わねえよ。俺にとっちゃこの世界に生きてるだけで幸せだしな。」

「お前はそれでいいかもしんないけど俺は退屈なんだよー。物語の主人公になりてえんだよー。
あーあ、何で俺の隣歩いてんのが幼馴染のちっちゃい頃結婚の約束した女の子じゃなくて野郎なんだよ。お前実は女だったりしない?」

「現実を見ろ馬鹿」

剣道部であるこいつは肩にかけた竹刀袋の位置を直しながら俺の思いを否定しやがった。

「ん?お前そういや部活どうした?まだやってる時間じゃねえの?」

「今日は休みなんだよ。水曜は休みだって毎回言ってんだろ」

「あれ?そうだっけ?」

ああそう言われてみればそんなこと言ってた気がする。毎回言われてんのになんでまた聞いたんだ俺?

「……やはり馬鹿か」

「待て。そこで納得すんじゃねえよ。帰宅部の俺と一緒に帰ってんだからおかしいと思うだろ普通」

「帰宅部なんかやってっから刺激が足りないとか思うんじゃねえのか。世界嘆く前に自分で何とかすりゃいいじゃんか」

「部活やったくらいじゃ何も変わんねえよ」

俺はオリ主になりたいんだよ!!
神様とか何かから不思議な力授かってチートでtueeeがしたいの!!

「………はあ。言っても無駄か。んじゃまた明日な。車に気をつけて帰れよ。」
「お前は俺の母親か!」

大体俺ん家もう目の前だっての!
肩すくめて歩いてく友人の背中に何か言ってやろうかと思ったがめんどくなったので俺もさっさと家に帰った。




「あ、お帰り孝一。帰ってきてすぐ悪いんだけどちょっと買い物行ってきてくれない。」

現実逃避にゲームでもやんべ。と思ってた俺にお袋が財布出しながら頼んできた。

「えーめんd「ぐずぐず言ってっと小遣い減らすよ」イエスマム!」

因みに俺の小遣いは5千円。正直足りないとは思うが文句言って昼飯代を1日2百円に減らされた親父のようにはなりたくない。
脱ぎかけた靴を履き直し財布を持ってあわてて外にでた。


「なんで納豆とマグロの刺身とマヨネーズを……何作る気だ、お袋のやつ?」

スーパーからの帰り道。太陽がもうすぐ隠れそうな時間だからか。人通りのない
道を歩きながら独り言をつぶやく。どうせだれも見てないしな。

「はー、やっぱ転生してえな。」

 暗くなってきた空を仰いで考える。
転生するんならやっぱネギまとかリリカルとかかな。
Fateは個人的には好きだけど死亡フラグだらけだしな。

頭ん中で中二なことを思いつつ目線を前に戻す。

「え?」

目の前にトラックが迫っていた。

運転席には何故か誰もいない。

なんで!?さっきまで車なんか一台も……!?

体が動かない。動いてももう間に合わない。

あ、俺死ぬ。

思わず目をつぶった。

見えないはずのまぶたの裏側に移ったのは今までの俺の人生。


頼りないけど優しい親父。
怒ると怖いけど家族のこと思ってるお袋。
生意気だけどよく遊んでとせがんでくる弟と妹。
馬鹿ばっかりやってた親友達。
クラスメイト。
片思いの相手。
迷惑かけた先生。


………うわ、これ走馬灯ってやつか。

どこか冷静な部分で考えてた俺が最後に思いついたのは


(お袋に買い物頼まれていたのになあ)




ズドンッと普段聞くことのない音が辺りに響いた。












………………………………??………あれ?????


来るはずの衝撃がいつまでたっても来ない。

もしやもう轢かれて痛みすら分からないのか。
そう思い目を開けた俺の視界に入ってきたのは、



真っ二つになって火花を散らしているトラックの残骸と、



「やれやれ。すぐに出かけるとは思わなかったけど何とか間に合ったか」


さっきまで一緒にいた友人が日本刀を振り下ろした状態で立っている姿だった。












「落ち着いたか?」

「ぜぇ…ぜぇ…ちょっと…待って…」

あれから

「このままでは人が集まる」

と言うコイツの意見にしたがって人気のない公園に来た。

走ってきたため少々息切れする。

「情けねえな、ちょっと走ったくらいで。やっぱ部活やったほうがいいんじゃねえか?」

「…っうるせえよ。ていうかさっきのはなんだよ。なんでいつの間にか誰も乗ってないトラックが目の前にきてんだ。何でお前は日本刀なんか持ってんだよ。いや、それよりも…」

そうだ。さっきから変だと思っていたんだ。

「お前…誰だ?!俺はお前と会ったことなんかないし一緒に帰ったこともない。剣道部だって練習は毎日あるはずだ。クラスの斎藤が言ってた。」

何で今まで気づかなかったのか不思議なくらいだ。

 コイツは鞘に納めた刀を肩に担ぎながら少し驚いた顔をしている。

「暗示が解けてる?そっか、さっきの衝撃で薄れちまったのか」

 自己完結してるとこ悪いけど質問に答えてねえぞ!

「安心しろ。ちゃんと全部説明してやる。でないと意味がないしな」

ベンチに移動して座れ、と促されたのでとりあえず座る。

 にしても意味がない?どういうことだ。

「まず順を追って説明する。お前は狙われたんだよ。転生をさせる存在『神』にな」

は?何言ってんのコイツ?

「その顔は非常に腹立たしいんだがまあいい。全部事実だ。お前もさっき言ってただろう?突然現れた無人のトラックって。
あれは奴らが好んで使う転生の道具だ。便宜上俺は転生トラックと呼んでいる」

 転生トラックってそんなことが

「あるんだよ。奴らはある条件を満たす人物を探す。その人物が見つかるとそいつを何らかの方法で『転生』させる。
転生といえば聞こえがいいがやってることは殺人と大差ない。そして死んだ奴は『神』どもの玩具として何処かに送られる。
そこで転生した奴の人生みて楽しんで居やがるのさ。お前は条件に当てはまった。だから殺されかけたのさ」

嘘つけと言いたい。
でももう理解してしまってる。
さっきの出来事がただの事故じゃないって分かってる自分がいる。
だから口にでたのは単純な疑問だった。

「何だよ、その条件って?」

「簡単さ。本人が少しでも『転生をしてみたい』と考えているかだ」

!?!???

「実はそれは俺にも分かる。だから俺は奴らのターゲットに近づいて転生させないように護衛してたってわけだ。」

まるで話はもう終わりみたいな言い方だけどまだ疑問はある。

「俺が狙われたのは分かった。でも何でお前はこんなことやってんだ?それに暗示とか見てねえけどトラックを真っ二つに出来るのはなんでだ?
お前に関しての答えはほとんどわかんねえぞ」

俺が聞くと困った顔をしながらコイツは立ちあがって空を見上げた。
「この世界はつまらない」

???

「何にも起きない。普段の生活は嫌いじゃないけど物語なんかない。だから俺は思っちまったんだ。『転生をしてみたい』ってな」

「っな!?それじゃあお前…」

「ああ、俺は以前に奴らに『転生』をされかけた。偉そうに言ってっけど俺もお前と対して変わんなかったよ。そして俺と家族が乗っていた車に無人のトラックを突っ込まされてな。
本当ならあの時俺は死ぬはずだったんだろうな。でも生きてる。何でか分かるか?
俺の両親がぶつかる瞬間かばってくれたからさ。それだけなら俺もただの事故だと思って悲しむだけだっただろう。
だが、病院で目覚めた俺がまず見たのは俺のほうを見て首をかしげてるフザケタ格好した野郎どもだった!!」

話しているうちに怒りが込み上げてきたのか声がだんだん荒くなってきている。

「『おっかしいなぁ?この子を狙ったはずなのに両親が死んじゃったよ。
まあいいか。条件満たしてないけどこの子の代わりってことで転生させるとしようか。
フフ、今度はちょっとヤバい設定で転生させてみない?』だとよ!
ふざけんなよ!俺の父さんと母さんを殺した奴らが憎かった!殺しておきながら何も罪悪感を持ってない奴らが憎かった。そして何よりそんなことになってしまった原因を作った自分が許せなかった。
事故の後、俺には不思議な力が使えるようになってた。奴らの姿が見えるのもトラックを斬ったのもその力だ。
暗示はすげえだろ。今まであったことないやつでも俺のこと古い友人のように思わせられる。
笑えるぜ。あれほどあったらいいなとか考えてたのに今はすぐにでも捨てちまいてえ。
もしかしたらこれも奴らの遊びなのかと思っちまう。でもよ、この力にも使い道があることが分かった。だから俺は決めたんだ」

空に向かって刀を向けて俺に見えない何かにコイツは叫んだ。

「てめえら『神』の遊びは全部俺がぶっ壊してやる!二度と父さんや母さんみたいな犠牲は出さないってな!!」

宣言しているコイツの姿をみて物語の主人公みたいだと思ってしまった自分を俺は情けなく思った。



「悪かった。つい熱くなっちまった」

 その後、刀を納めたコイツはいきなり謝ってきた。

「いや、俺のほうこそ辛いこと思い出させて悪かった。ところで俺はこれからどうなるんだ?また命を狙われるのか?」

「いや、奴らは同じ相手はほとんど狙わない。大抵は一度助かったらもう転生したいなんて考えないからな」
どうだ、まだしたいか?と聞かれさっきのことを考える。
 迫ってくる死の恐怖。家族達との別離。なにより『神』ってやつの思い通りになる。

 答えは分かりきってた。

「ごめんだね。だれがするか」

俺の答えに満足したのかコイツは初めてにっこりと笑って歩き出した。

「この世界はつまらなくなんかない。気づいてないだけで十分素晴らしい世界なんだ。お前はお前の物語の主人公になればいい」

俺は気づくのが遅かったからな。だんだんと離れていくのをみて気づいた。

「おい!助けてくれてありがとな。俺の名前は渡辺孝一だ。お前は名前なんていうんだ?!」

ほんの少しだけ振り返ったあと

「―――――だ」

ギリギリ届くような声で名乗って俺の友人だったやつは姿を消した。



大分時間がかかってしまったけれど無事家についた。

「孝一?帰ってきたんならこっちに来なさい」

俺はもうさっさと寝てしまいたかったので買ったもの渡して部屋に戻ろうと居間の扉を開ける。

パーンパーンパーン

「「「「孝一((お兄ちゃん))お誕生日おめでとー」」」」

「…へ?」

「あーやっぱり忘れてたのか。今日は孝一の誕生日だぞ」

「でもそのおかげでこうやってサプライズパーティが出来たんだしいいじゃん」

「部屋の準備が出来てなかったから買い物に行かせたけど随分時間かかったわね?」

「それにしても買いにいかせるものの意味が分からないの。お母さん」

「兄ちゃん兄ちゃんこれ俺と亜美から!」

「信二お兄ちゃんと半分ずつ出して買ったの」

「結構前からがんばって貯めてたもんな。よく頑張ったな二人とも」

「ほら孝一お礼は…って孝一?」

うあ。何だよこれ。世界はつまらなくなんかない、か。本当だな。

「ぐっ…ひく…あっ…ありがどう」

転生なんかしなくて良かった。
家族の前でぼろぼろ泣きながらそう思った。




次の日、泣いた恥ずかしさからさっさと家を出て学校に登校したがアイツの姿はなかった。

念のため剣道部の斎藤に聞いてもそんなやつはいないとのことだった。

そのあとはまたいつも通りの授業が始まる。


―いつもと同じ退屈な毎日―


窓から外を見て思う。


―朝起きて飯食って学校行って授業聞いて友達と遊んで帰って家族と話して寝る―


アイツはまた俺みたいな奴を助けているんだろうか。


―それが嫌だったわけじゃないけど何処か物足りなかった―


アイツのおかげで俺はここにいるけどアイツはいつか楽になる時がくるのだろうか。


―もっと刺激のある人生を送ってみたかった―


とりあえず今度アイツにあったら名前で呼んで…


―だから俺は――――


「剣道部ってきついんだろな」

部活に入ったって自慢してやろう




―この世界で俺の物語を作り出そう―








[16188] トラック、隕石、殺人犯、ガス爆発、そして……(前編)
Name: 古時計◆c134cf19 ID:d842e1e7
Date: 2010/03/08 22:49

私、小坂御幸(こさかみゆき)は名前に反して不幸な人生を送ってきたと思います。

それは決して被害妄想などではなく私の生い立ちを聞けば誰でもそう言うと思います。

小学校の入学式、友達100人出来るかな、と期待半分不安半分でドキドキしていた私はその心臓がいつもと違うことに気づきませんでした。

さあ教室に移動だ、自己紹介とか何言おうと考えていたはずなのにいつの間にか地面に倒れていて目が覚めると見たことのない天井の下、さびしげな部屋で横になっていました。

「すぐによくなるからね」
と言うお医者さんの言葉を聞いた私は早く学校に行きたいと毎日楽しみにしていました。

けれど、1年経ち、2年経ち、とうとう小学校を卒業する年になって私はお医者さんの言ったことは嘘だと気付きました。

入学初日に入院した私に友達などいません。病院で仲良くなった子たちも退院したあとにお見舞いに二回以上来てくれた子はいませんでした。

一度も通っていないのに卒業証明書が届いてもどうしろと言うんでしょう?

それでも私は望みを捨てませんでした。小学校ではだめでも中学なら、高校なら、と両親が高いお金を払って個室にしてくれた病室でずっと勉強していました。

いつかきっと他の皆のように学校に通いたい、通えるんだと信じて。

ですがこれはいくらなんでもあんまりです。

もう私の体は持たない。いつ死んでもおかしくない。

扉の向こう側で泣き声を漏らしている母と長年担当してくれた先生の会話を聞いて思いました。

神様、私何か悪いことしましたか?






「御幸、起き上がってて大丈夫?」

夕方、私の入院費のために始めたパートを終わらせた母が病室を訪れ、上半身を起こしている私を見て尋ねました。

「うんお母さん。今日はなんだか調子がいいの。もしかしたらこのまま治っちゃうかもね」

私の言葉に一瞬体を震わせた母はすぐに表情を柔らかくして言ってきました。

「そうね。でもちゃんと安静にしてないと治るものも治らないわよ」

「はーい」

嘘つきだった。母も、私も。

いつ死んでもおかしくないとお互い分かっているのに嘘をつく。

いっそのこと言ってしまおうか。「お母さん、私本当のこと知ってるよ。私死ぬんでしょ?」と。

それを言わないのは私自身がやはり嘘であってほしい、と心のどこかで考えているからなのしれません。

「そうそう御幸。頼まれてた本買ってきたわよ。また随分分厚い本ね」

「あ、ありがとう。最終巻発売したって聞いてずっと気になってたんだ」

外へ出ることの出来ない私にとってテレビと本は世界のようなものです。

ですので母は何か気になる本が発売するといつも買ってきてくれます。

正直結末が分からず死ぬのはやだなあ、と思っていたのでこれは素直にうれしいです。

「あなたも好きねえ。読むのはいいけどあんまり根を詰めすぎないようにしなさいよ」

「分かってます」

早速読み始めた私を見てため息をつきながら「それじゃまたね」といつも通りのセリフを言い残して帰って行きました。
本を読んでいる時の私は会話が成り立たないのでこれもいつものことです。




最終巻は中々読み応えがありやっと半分読み終えた時はもうすぐ寝る時間でした。

「いけない。ニュース見なきゃ」

個室についてるテレビでニュースをみるのは私の日課です。

今日のニュースは興味深いものばかりでした。

ここ最近盗難届けが出されていた大量のトラックがあちこちの道路で発見されているようです。
しかもトラックは全て何か鋭利なもので切り裂かれたかのように真っ二つになっており何者かの手による一連の犯行として調べているのだとか。

次のニュースはNASAが突然現れた隕石が日本に落ちたと発表したというもの。
それって大丈夫なの?と思いましたが何故か地表にはぶつからず恐らく大気圏の突入時に燃え尽きたか巨大な氷のようなもので蒸発してしまったのではないかということらしいです。

最後のニュースはわりと近くで起こったニュースでした。
今日の午後○×銀行に拳銃を持った男達が金を要求してきたがその場に居合わせた青年が犯人達を全員取り押さえてしまったらしいです。
驚いたことに犯人の一人は青年に向かって発砲したが青年は持っていた棒状のもので防ぐしぐさをした後、目にも止まらぬ速さで犯人達を捕らえてしまった、と目撃者の人は言っていました。
犯人達を捕らえた後青年はその場に居合わせた他の人達に何かを言おうとしたらしいが警察が突入してくるのを見て慌てて立ち去ってしまったとのこと。警察は目下この青年を探しているようで。アナウンサーが青年の特徴を言い終えた後私はテレビの電源を落してベットに横たわりました。

最後のニュース、まるで今私が読んでる主人公みたい。

人々に振りかかる危険をその身を呈して助け名前を名乗らず去っていく。

そんなヒーローみたいな人が実際にいるんだ。

それなら私のことも助けてくれないかな。

ありえないことを考えているうちに私の意識は薄れていった。













……………………ん、もう朝なのかな。

あまり眠った感じがしなかったけれど、と目を開けるとそこは見たことのない場所だった。


どこまでも白
空も地面も彼方まで全部白
その中で唯一色を持っているのは私だけ。

ありえない状況の中ふと気付く。

ああ、そっか。ここはきっと…

「大変残念です」

声がしたので驚いて振り返る。

天使。そう表現するのが一番ふさわしいのだろう人(?)がそこに立っていました。
神々しい光に包まれ背中には翼があり、その顔は中性的でどこまでも神秘的で美しいものでした。

「あなたは残念ながら先ほど眠っているうちに息を引き取ってしまわれました」

恐らくそうだろうと思ってはいたけれどはっきり言われてしまうと、やはりショックです。

結局本読み切れなかったな。

母さん達もきっと悲しむだろうな。

ああ、どうせ死ぬのなら

もっと早く死にたかった。

そうすれば母さん達にも余計な負担を与えずに済んだのに。

そうすればあんなに長く苦しむこともなかったのに。

そうすれば中途半端な希望なんか持たずに済んだのに。

「お気の毒です。あなたの人生を拝見させていただきましたが本当に救いがありませんでした。
我々としてもなんとかしてあげたいと考えた結果、あなたに救済を与えるべきだという結論に至りました」

「救…済…?」

「ええ。本来ならば我々は下界には干渉しないのですがあなたは特別です。
この世界で生きられなかった分の人生を他の世界へと転生することで過ごしてもらおうと思います」

「え?」

転生?生まれ変わるということ?

生まれ変わることができたなら。

死ぬと分かってから何度も想像したこと。

生まれ変わった私は元気いっぱいで、

学校で友達と一緒にご飯を食べて、

運動部に入ってたくさん走ることが出来て、

クラスの誰かを好きになって、

家族で旅行とかに行ったり、

デートをしたり、

そんな当たり前のことすら出来なかった私にとって夢のようなことが出来るの?

「転生…すれば、私は…幸せになれますか?」

――――――――

「もちろんです。生前のような何もない人生にならないようオプションとして刺激のある生活を送れるように設定してあげましょう」

――――――な―

声の雰囲気に先ほどの神々しさがないことに再び見えた希望に思いをはせている私は気づけない。

「さてそれではどうします?あなたが望めば今すぐにでも転生させてあげますよ」

そう言って手をこちらへ伸ばしてくる天使の人(?)。

その表情は逆光のようになってよく見えない。

―――さ―るな―

タダワラッテイルコトダケハワカル


まるで何かに導かれるように私は手を伸ばし、

「だまされるな!!」

後ろからガラスが砕け散るような音がして私は動きを止めた。










[16188] トラック、隕石、殺人犯、ガス爆発、そして……(中編)
Name: 古時計◆c134cf19 ID:d842e1e7
Date: 2010/02/06 22:25
*思ったより長くなったので三つに分けました。
*********************************


目を覚ます。

「え?」

先ほどまであった白の空間じゃない。見慣れた私の病室。

「くそっまた貴様か!あと少しのところだったのに!!」

いつもと違うのは神々しさなど欠片も感じない悪鬼のような表情をした天使の人(?)と

「ようやくだ。やっと直接出てきやがったな。会いたかったぜ『神』!」

私を腕に抱き抱えている同い年くらいの男の子だった。

………あれ?抱き抱えている?私男の子に抱かれてる?今までお付き合いどころかまともに会話だってしたことないのに?!

「きゃあああああ!!」

「うおっ!?急に暴れんな!」

男の子の注意が私に向いたため目の前の天使(?)は腕をこちらにのばした。

「くらえっ!」

「っ?!ちぃっ」

飛んできた何かをかわして廊下の飛び出した男の子は、「場所が悪いな」と呟くと今度はお姫様だっこで私を抱え走り出しました。

はっきり言って今の私の顔は真っ赤だと思う。なんて恥ずかしいことをこの人はするんだろうと思い、改めて顔を見てみると、

「あれ?あなた、もしかして銀行の……」

寝る前に見たニュースで言っていた青年の特徴と一致していました。

私の声が聞こえたのか男の子は顔をしかめました。

「あーやっぱニュースになってたのか。暗示をかけようとしたら警察が入ってきたから時間なかったんだよな」

言ってることはよく分からないけどやっぱりニュースの人だったんだ。

「ねえ、なんでニュースで言ってた男の子がここにいるの?さっきのあの天使みたいな人は誰?なんで私達は逃げてるの?」

「安心しろ。ちゃんと全部説明してやる」

最近このセリフ言ってばっかだな。そう呟いたあと彼が話した内容は驚くべきものでした。

『神』と呼ばれる存在。『転生』の本当の意味。命を狙われる人々。それを阻止する彼の悲しい過去。

走りながら話を聞いているうちにいつの間にか病院を抜け外の広場に出ました。

「ここのところ奴の行動も顕著になってきてな。トラック以外にも隕石使ったり犯罪者どもの意識誘導をしたりと手段を選ばなくなってきてた。そのことごとくを潰してやったからだろうな。今まで中々出てこなかった張本人自ら出向きやがった。そうだろ?」

急に立ち止り上を見る彼の目線を追ってみれば天使…いえ『神』が宙に浮いていました。

「さがってろ」

私を下して背負っていた日本刀を抜いた彼は低い声で命令してきました。

言われた通り彼らから少し離れた位置まで下がります。

「いつもいつも後少しの所で!貴様、なぜ私の邪魔をする?」

「なぜ……だと……?てめえ…憶えてねえのか?」

「何を言って…?ん、貴様、どこかで…」

『神』は少し考えた素振りをした後、はっと顔を上げ

「お前、あの時の子供か!はははははっそうか、そうか。なるほどそれで私の姿も見えているのか!」

怒りに満ちていた顔が一転、声高らかに笑いだした。

「あの時の両親は面白かったぞ。
転生先をそれぞれの敵対国にしてお互いの両親を殺させてみたら案の定憎しみ合って何度も殺しあった。
最後に相打ちで死ぬ間際に前世で夫婦だったことを気付かせてやったのさ。
こと切れるまで相手の名を呼びあって詫びる姿は実に見ものだった。
はは、ははは、はははははははははははははははははは」

「ひどい…」

げらげらと笑う『神』には神々しいなどという言葉が最も程遠いものに思えました。

「そうか。父さんと母さんはそんな運命をたどってしまったのか」

日本刀を握りしめる音がここまで聞こえてくるのが分かります。

「その罪は俺にある。いずれは罰も受けてやる。でもそれは」

宙に浮いている『神』に向かって彼は跳んで

「てめえをたたっ斬ってからだ!!」

『神』に斬りかかった。

「馬鹿め」

突如現れたトラックに刀は食い込むが彼はバターを斬るかのようにそのまま斬り裂いた。

そのトラックの残骸を足場にし上空へと逃げた『神』へと追撃を行なう。

「落ちろ」

『神』が腕を空へ伸ばした瞬間、一筋の光が空から彼に向って落ちてきた。

「ぐっ!」

とっさに構えた日本刀で防いだのか地面に落ちた彼はすぐさま立ち上がり再び空の『神』をにらんでいます。

「全く、邪魔をしていたのは私への復讐というわけか。随分とご苦労なことだな。
だが、はっきり言って余計なお世話というものだよ?
私は彼らの望みをかなえてやっているだけなのだから」

「ふざけんな。てめえは俺達人間のことなんかちっぽけも考えてなんかいねえだろ!」

「いやいや、それはギブアンドテイクというものだよ。彼らは希望に満ちた人生に旅立ち私はそれをみて楽しむ。実に理にかなっているじゃないか。
だから邪魔をしないでくれ。今用があるのは貴様ではなくそこの薄幸の少女なのだから」

え?私?

「無理やり転生させようとしといて何を言いやがる」

「確かに彼女はまだ死んではいなかったがそれはささいなことだ。どうせ彼女は今夜死ぬ」

今夜死ぬ。

『神』の言葉が私の胸に突き刺さる。

「私……死ぬの?」

「ああ死ぬ。私の姿が見えるのがよい証拠だ。
だが安心しなさい。先ほどはコイツに邪魔をされたが君が転生したいと願えば君は別の世界で生きていける。
君が叶えることが出来なかったことを全てすることだって出来る」

死ぬ、生まれ変わる、死ぬ、生まれ変わる、死ぬ、生まれ変わる、死ぬ、生まれ変わる、シぬ、生マれ変わル、シヌ、ウマレかワル、シヌ、ウマレカワル、ウマレカワル、ウマレカワル、ウマレカワル、ウマレカワル、ウマレカワル

「おい、だまされるな!」

彼が何か言ってるけど聞こえない。生まれ変わる、そうだ、どうせ死ぬと分かってて、何を恐れる必要があるの?
死ねば終わり。
でも生まれ変わることが出来れば次がある、私はまだ生きていられる!

「わ、た、し、は」

「やめろっ!言うな!」

「転生、したい、です」


「その願い叶えてやろう」

四方から誰も乗ってないトラックが迫ってきた。

「っくそ!!」

一瞬で私の元までたどり着いた彼は日本刀を鞘に納め体を回転させながら抜き放った。4台のトラックは全部真横に真っ二つになり私に届く前に動きを止めた。

「あ…」

「おい、何考え「邪魔しないで!」て……」

文句を言おうとしていた彼の言葉をさえぎる。

「あなたに何が分かるの?!

ずっと一人で毎日を過ごしてきた私の何が分かるの?!

友達だって欲しかったのに、学校だって行ってみたかったのに、何もできなかった。

他の子達はどんどん退院していくのに私だけずっと病院で、服だってずっと病院服で、

テレビできれいな格好している同じ年くらいの子を見てどうして私はああじゃないんだろうって思ってた。

外を満足に歩くことも出来ない。

見てよ、この腕、痩せ細ってて、全然きれいじゃない。骨と皮だけみたい。

こんな体で何が出来るの?

何が出来るの?

何も出来ないよ!」

今まで我慢してきた思いが口からあふれ出す。

「だからって転生すればましになるとは限らないんだぞ!」

「それでもいいよ!

何のための私は生まれてきたの?

不幸になるために生まれてきたの?

もうこんなのいや!

こんな人生やだ!

こんな人生なら





生まれてきたくなんかなかった!!」

「っざっけんな!」

今までで一番大きな声にびくりとする。

「確かに俺にはお前の苦しみは分からねえよ。お前の苦しみはお前にしか分からないだろうよ。

だけどな。人生ってのは一回しかねえんだよ。

後悔があって当たり前なんだよ。

お前の苦しみをおれが分からないようにお前だって俺の苦しみは分かんねえだろ。

誰だって何かを背負って生きて生き抜いてたった一回の人生をやり遂げるんだ。

やり直しなんて出来ない。

最後の瞬間に何も後悔しないで死んでいける奴なんかほとんどいないだろうよ。

だから自分の人生を否定することだけはするんじゃねえ。

そんなことをすればお前はお前自身だけじゃなくお前のことを想って一緒にいてくれた両親のことすら否定することになるんだぞ。

それでもいいのか?」

……両親を否定する?否定?私がお父さんとお母さんを?

「………出来ないよ。出来るわけないよ。二人とも私のこと愛してくれてたもん。私のこと想っててくれたもん。」

「両親との思い出はないほうがよかったか?」

「そんなわけない!

頑張ろうって励ましてくれた!

誕生日にはたくさんのものをプレゼントしてくれた。

毎日つらいはずなのにお母さんは来てくれた。

すごくすごくうれしかった!」

いつの間にか頬が濡れていることに気づく。

いやなことばかりだった。

他の人たちを羨んだ。

でもあの二人は私しか持っていないんだ。

私の苦しみは私だけしか知らないように私の幸せは私しか知らないんだ。

でも、

「でも、でも、…やっぱり友達欲しかったよ…」

「だったら、」

刀を捨てた彼に両肩を掴まれ引き寄せられる。

「だったら俺が友達になってやる。

一生死ぬまでお前の友達でいてやる。

お前の名前をずっと憶えていてやる。」

抱きしめられてるけれど今度は恥ずかしいなんて感じなかった。

あるのはただ、ただうれしいという感情。

ずっと聞きたかった。ずっと言いたかった。そんな言葉が聞けた。

「本…当…?」

「ああ、本当だ。

次いでにもう一つ約束してやる。

あのくそったれをぶっ倒したら
―――――――――」

離れていく温かさ。

刀を拾った彼の目線はもう私を見ていなかった。

けれどそんなのは気にならなかった。

彼が最後に言った言葉。

それが心のなかで繰り返される。

「待っててくれたみたいで悪いけど急用が出来た。さっさと終わりにさせてもらうぞ」

「ふん。助けようとしている存在に打ちのめされるところを見たかったというのにお涙頂戴の三文芝居か。

つまらん、すぐに終わりにするのはこちらのほうだ」

『神』の頭上にまた車が現れる。でもそれは先ほどまでのトラックではない。あれは…

「……タンクローリー…」

「はは、どうする?お前の刀は随分と切れ味が良いようだが、これは斬った瞬間爆発するぞ。

よけても構わんぞ?どちらにしても爆発するがな?」

両手で握りしめた日本刀を肩に担ぐようにして彼は構えた。

辺りが熱いのか寒いのかよく分からない。

お互い動かない。

何秒か何分か何十分経ったか分からなく感じた時

「……いくぞ」

彼が先ほどとは比べ物にならない速さで『神』に向かって跳んだ。

先のが鳥のようだったら今度のはまるで弾丸だ。

「ははは、守りたいものごと貴様も転生させてやる!」

タンクローリーが迫ってくる。

彼との距離がゼロになる。

瞬間、彼は刀を振り下ろした。

ギンッという音とともにタンクローリーに亀裂が入る。

亀裂から紅い炎があふれ出る。

「はははははっ斬りおった。ははっはははっはあっはははははははははははははははは」

自らに襲いかかる炎に対して、

「うおおおおおおおおおおおっ」

彼は振り下ろした刀を斬り上げた。

「ははははっは????」

迫っていた炎が真っ二つに割れ霧散する。

割れた炎の間を通りすぎ『神』に迫る。

「俺の刀はあらゆるものを斬り裂く。

トラックも

隕石も

弾丸も

爆発も」

「な?な?」

「『神』でさえも」

二度目の振り下ろした刀は、

驚きで身動き一つ取れなかった『神』の体を二つに分けた。


*******************************
書いてて思った。
お前は両儀式か!




[16188] トラック、隕石、殺人犯、ガス爆発、そして……(後編) [加筆修正]
Name: 古時計◆c134cf19 ID:d842e1e7
Date: 2010/02/08 23:01
「待たせたな」

「ううん」

「それじゃ行くか」

両親の仇を討ったのにちっともうれしそうじゃない彼は私のもとへ来ると、また私を抱きかかえて空へ跳んだ。





「ここでいいか?」

「うん」

ずっと来たかった場所が目の前にある。

『あのくそったれをぶっ倒したら―学校へ連れてってやる』

「ここの校門っておしゃれだね」

「すごいね。下駄箱ってホント靴がいっぱい」

「うわー、この体育館広―い。病院のリハビリ室と比べ物にならないくらい」

「食堂って券で買うんだ。あ、プリンもある。えへへ、私プリン好きなんだ♪」

見るもの全てが新鮮で輝いて見えた。毎日通ってる生徒達の姿が見える気がした。

彼に案内されながらいろんなところを周り最後に一番行きたかった場所に行く。

あの日行けなかった場所、あと少しで行けた場所

「ここが教室……」

誰もいない薄暗がりの中、きれいに並んだ机がある。

「ねえ…お願いがあるんだけど……」

私の頼みごとを聞いてくれた彼は黙って教壇の上に立った。

私も一番前の椅子に座る。

「では出席を取る。『小坂御幸』」

「はい」

ピッと手を上げて返事をする。

「……そんな風に手を上げて返事をする高校生なんか普通いねえぞ」

「いいの。ずっとやってみたかったんだから」

ああ、夢みたい。友達が出来て、学校にも来れちゃった。

ドクンッと心臓が鳴る。

…ちえっもう終わりか。

「ありがとう。学校まで連れてきてくれて」

「気にすんな。友達なら当然だ」

声が震えてるのが分かる。

戦ってる時はあんなにカッコよかったのにと思わず吹き出しそうになる。

ドクンッ

「うん、でもやっぱりお礼が言いたくて」

ドクンッ

次に言えるのが最後だと分かった。

「ありがとう、私の大切なお友達」

ドクンッ

死は眠りのようだった。











さっきまで二人いた教室。

今は一人しかいない教室。

「何があらゆるものを斬り裂く…だ。」

動く一人がもう動かないもう一人に近づく。

「病気くらい斬ってみせろよ。この大嘘つきが」

覗き込んだ死に顔は穏やかだった。






病院の屋上、反対側の棟の一室を見ている青年がいる。

部屋には泣き崩れている母親とそれを支えようとする父親。

助けることができずに悔んでいる医者。

そして静かに横たわっている彼女がいた。

青年の握りしめた手から紅い何かがぽたぽたと落ちていく。

その青年の後ろに人影が現れる。

「なんだ?奴の仇打ちにでも来たのか?」

後ろを振り返らずに青年は問う。

「残念ながら違う。奴は『転生』を自分の趣味のために利用していた。

転生者の運命に干渉しすぎるばかりか条件に合わない者や無関係の者まで転生させようとしていた。

こちらとしても手を焼いている状態だった。

文字通り奴は『お遊び』が過ぎたのだ」

問われた者は『神』と同じような姿をしていた。

だが、昨夜青年が倒した『神』とは明らかに格が違う気を放っていた。

「そうかい…。

俺も今は戦う気が起きない。

用がないならさっさと消えろ」

青年の言葉を無視して横に並んだその『神』は件の病室を見やる。

「…結局死んだか。酷いな、お前も本当は分かっているんだろう?」

『神』の言葉に青年は顔を俯かせた。

「彼女は他の者達とは違う。

お前が何をしても死と言う運命から逃れられない存在だった。

今までお前は自分が頑張れば転生をする者達を救えると思い戦ってきたのだろう。

事実お前はあの日から奴が狙った相手を全て救ってきた。

助けられなかったのは両親だけだ」

「………せえ」

「だから今回もお前は彼女を助けようとしたのだろう?

しかしお前の能力は偶然が重なって得たものだがそこまでの力はない。

彼女にとって奴の提案はそれこそ救いであっただろうに。

まあ、奴の場合まともな転生をさせるとは思えないがな」

「うるせえ」

「そもそも『転生』とは生前の運命からくるものだ。

輪廻の輪をくぐる時、記憶も魂も洗われ生まれ変わる中、

生前での人生に強い未練を残した者が次へと進むことのできるようにするためのものだ。

重い罰を犯した者を来世で裁くためのものだ。

尊い偉業を残した者へのたむけとするものだ。

彼女は強い未練を持っていた。

本来の『転生』なら彼女は来世で幸せな人生を送ることができたはずだ。

だがお前が彼女の未練を薄れさせてしまった。あの状態では記憶を持ったままの『転生』は出来ない。

転生先は誰にも分からない。

下手をすればまた同じような運命をたどることになるかもしれない」

「うるっせえええ!!!」

顔をはね上げた青年は『神』に殴りかかるが触れる瞬間、青年の体はゴムボールのように弾き飛ばされた。

「ぐふぉっ」

フェンスの端まで飛ばされた青年はそのままずるずると座りこむ。

「お前は彼女を救うどころか彼女に与えられた唯一のチャンスを潰した。違うか?」

「…………ああ、そうだよ。

分かってたよ。

あの子は、小坂御幸は…俺じゃ救えないってことも、転生をしたほうが良かったってことも、
俺の言ってることは全部結局は俺の独善的なことだってことも!

何説得なんかしてんだと思った。

この子はこのまま死なせてやるべきなんじゃないかって思った。

でも転生なんかさせたくなかった。今を嘆いてほしくなんかなかった。

…いや…違う…。結局俺は『奴』の思い通りになんかさせたくないって思ってたんだ。

彼女のことなんか考えてなかった。

俺は俺のことしか考えてなかった。

何が『俺が友達になってやる』だ。打算で言ってるようなもんじゃねえか。

なのに、こんな、最低な俺に、あの子は、お礼を言ったんだ。

ありがとうって、言ったんだ。

俺のことを友達って言ったんだ。

俺には、お礼を言われる資格なんてないのに…」

顔を手で覆い呻くように懺悔する青年をみて『神』は何か納得したあと青年に声をかける。

「ふん。分かっているなら構わない。こちらとしてもお前の顔を長く見ていたくはない。

仮にも同胞の仇だからな。

さっさと要件だけ伝えさせてもらおう」

話しながら宙に向かって歩き出す。

「まず今後転生に関しては少なくともこの世界では私が担当することになった。

転生者はそれなりに厳選させてもらう。転生も元来の理由を主に行うつもりだ。奴の場合死んだ者を転生させるのではなく転生させるために死なせていたからな。以前のようなむやみやたらと転生が起きることはない」

そのまま二つの棟の真ん中まで歩いた『神』は再び青年の方へ向き直る。

「次にお前への処分だが同族には手を出すことの出来ない私達に代わり奴を討ったということで直接的には何もなしということになった。

もっとも奴と同様の考えを持っている者達はお前を殺そうと躍起になっているがな」

徐々に体が薄れていく『神』は話しながら何かを取り出す。

「最後に、お前の両親に関しては完全にこちらの責任だ。つまり、」

消える瞬間『神』は光る何かを病室に向かって放った。

「これは特別サービスだ」

青年がその言葉を聞いて顔を上げるのと病室から大きな声が聞こえたのは同時だった。








………何か声がする。……この声はお母さん?………泣いてるの?

「お、母、さん?」

「ぅぅぅぅ……御幸?」

「どうしたの?…なんで泣いてるの?」

「み、御幸ぃぃぃ!」

目を真っ赤にしたお母さんが私に抱きついてくる。よく見るとすぐそばにいたお父さんと先生も目を赤くしている。

「御幸?御幸?お父さんがわかるか?」

「信じられない…。奇跡だ…」

言われて気づく。私はあの教室でたしか死んだはず。

でも何故か私は生きてる。

それどころかずっとあった胸のうずきが消えている。

お母さんに抱きつかれながら窓の外を見ると

反対側の棟の屋上で私の友達がこちらを見て泣きながら笑ってるのが見えた。








そのあとは大変だった。

一度は確実に死んだはずの人間が生き返ったのだから当たり前なのだろうけど。

あれほど私を苦しめていた心臓の病気は完治しており検査を何度もする羽目になった。

おかげでまだ退院は出来ないけれど今までの生活とはまるで違っていた。

今でも信じられない。

私は生まれ変わらなかった。

私は生き返った。

外も自由に散歩出来る。

退院すれば学校にも通える。

あきらめていた世界の中で生きていける。

検査を終えて部屋に戻った私はあの日以来忙しくて読んでいなかった最終巻を見つける。

結末は誰もが幸せになるハッピーエンドだった。







 


(うう、緊張する)
 
 クラスの先生について廊下を歩いていく。

歩く私の格好は病院服ではなく可愛らしい制服。

あれから3ヶ月後、無事退院した私は高校へ編入することになった。

勉強する時間だけはたっぷりあったのでもっとレベルの高い学校も狙えると言われたけれど通うとしたらここしか考えられなかった。

彼と、私の友達と一緒にきた学校。

彼はきっとあの時、罪の意識を持っていたんだと思う。

声の感じから何となく分かった。

だけどそんなことは気にしなくてもよかったのに。

友達になる、と言ってくれた時の彼の表情は気づいてなかったかもしれないけど

本当に私を想っているのがわかったから。

何で分かるのかって聞かれたら答えは簡単。

私のお父さんとお母さんが私へ向ける顔と同じだったんだもの。

先生が立ち止まりここがこれから君も通う教室だと言う。

私の教室は奇しくもあの時の教室だった。

先生が先に入っていく。

「おーい、席に着け、ホームルームの前に前話してた編入生を紹介するぞ」

小坂さん入って、と言われたので中に入る。

「おお、かわいい」

「髪きれー」

「俺の物語についにヒロインが!」

クラスの皆が騒いでいる。

「はいはい静かに。それじゃ小坂さん自己紹介お願い」

黒板に私の名前を書いてくれた先生の声でしんとなった教室で皆が私を見ている。

よし、ずっとしてきた練習通りに、

「今日から皆さんと一緒に過ごすことになった小坂御幸です。皆さんと友達になって楽しく過ごしたいと思います。宜しくお願いします」



友達100人まであと99人






[16188] 【外伝】男の未練
Name: 古時計◆c134cf19 ID:d842e1e7
Date: 2010/02/17 01:29
*注意

この話は外伝です。前話までとは作風がまるで違います。
まず『彼』は出ません。
100%感動することもないと思います。
せっかく前話までいい感じだったのに何書いてんだと思うかもしれません。
読まないほうがいいかもしれません。
もし前の作品を読んだ後にこれを続けて読もうとしているのなら少しばかり時間を空けてからのほうが得策です。


それでもいい方はどうぞお進み下さい。

***************************************






























本当にいいんですね?























男は嘆いていた。

頭を抱えてうずくまる男に目の前の存在、『神』は何かを告げる。

男は耳をふさぎ何も聞きたくないという行動に出る。

だがそれはここでは意味を為さない。

抑える耳を通りぬけ男に『神』の声が届く。

男の嘆きが一層激しくなる。

なぜだ?なぜこんなことに?

知りたくなかった。

そんなことは知りたくなかった。

壊れたように叫ぶ男に『神』は止めを刺した。














(あー死ぬなこりゃ)

頭からドクドクと血が溢れてるし。

というか自分の背中が見えている時点で首が想像したくない状況になってることが分かる。

まさかバナナの皮をふんづけて階段から落ちるとは思わなかった。

それは体重が5キロのホッチキスを持ったヒロインの役割だろうが。

少なくとも受け身一つ満足に取れない俺がやることじゃない。

俺の姿を見た女子生徒が叫び声を上げて去っていくのが分かる。去るのはいいけど救急車よんでほしいなあ。

どうせ手遅れだけど。

ああやばい、目がかすんできた。

しまったなあ。今日死ぬって分かってたんならアレを―――――











「んで、ここはどこだ」

いつの間にか辺り一面白い空間にいた。

まあ死んだのは確実だろうから天国か地獄か。見た感じ地獄って雰囲気じゃないから天国だといいんだけど。

「いや、親より先に死んじまったから賽ノ河原って可能性もあるのか」

「いずれでもない。ここは転生を行なう者が訪れる場所だ」

ん?独り言に返事が。誰か居るんですか~?

「ここだ」

声をした方に目を向けるとなんかすごい威圧感というかオーラっぽいものを纏っている天使みたいなのが宙に浮いてた。

「えっと、もしかして天使?」

「そのように呼ばれることもあるがお前達人間の言葉で言うなら『神』というのが一番近いものだ」

やべえ、神様なんているわけね―とかテスト後にいつも思っていたのにまさか存在するとは。

「えっと、すいません。その神様が俺に何の用でしょうか?」

「その質問に答える前に自分の現状はわかっているか?」

現状?俺が死んだってこと?

「そうだ。分かっているなら構わない。中には自分が死んだことを受け入れられず突っかかって来る者もいるからな」

そりゃあ気持ちは分からなくもないけどあの場合死んでないと思うほうが無理でしょ。

首がコークスクリューだったし。

「む……。変わっているな」

何が?

「ここに来る者は転生の資格を持つ者だ」

転生?それってよくある異世界に生まれ変わってみたいな?

「そうだ。その資格とはいくつかあるがお前はそのうちの一つに当てはまった」

当てはまった?何に?

「現世に対しての強い未練だ。やり残したことがある者。このような者達は大抵先ほど言ったように突っかかって来る。生き返らせてくれ、とな。

死者は滅多なことでもない限り生き返らせることは出来ない。ゆえに転生をさせそこで己の未練を断ち切らせるのだ」

なるほど。救済措置のようなものか。

「少々違うがまあいい。前任が好き勝手していたせいでまともに機能していなかったものだからな。

ん、話が飛んだな。お前は死ぬ間際に強い未練を残した。そのためここに来た。だというのに前世に心残りがないようなのでな」

未練?ああ確かに最後になんか考えてたな。あれ?

「どうした?」

「いや、あのすいません。その時の記憶が飛んでるらしくよく思い出せないんです」

何だったっけ?すごく大切というかやばかったことだったような

「ふむ。記憶に混乱があるのか。

本来転生者には来世で未練を断ち切れるように何らかの処置を施すのだが。

分かりやすく言えば何らかの能力や干渉だ。

だがお前自身が何を未練に思っていたのかが分からぬのではこちらとしても扱いに困るな」

すいません。

「別に謝ることではない。仕方がない、とにかくお前の未練の強さはかなりのものだった。よほど大切なことだったのだろう。一度は転生させねばならぬためとりあえず行なう。未練を断ち切るための力はその後で授けよう」

「あ、どうもありがとうございます」

未練、未練、未練…うーん、確かにある。具体的にいえば早くしないと手遅れになる的な何かが。でもそれが何だったかが思い出せない。

「ではお前を転生させよう。最後にこの時を逃せば現世との繋がりはなくなる。何かしたいことはあるか?」

へ?生き返れないんじゃないの?

「生き返らせることは出来ないがある程度の干渉は許される。少しでも未練を断ち切りやすくするためにな。

家族との最後の別れのために夢枕に立つことや自分の部屋を訪れること。過去には他者の自身の存在したという記憶を消してくれと頼む者もいたな。

さすがにそれは出来なかったが」

………ん?何か今の言葉が引っかかる。

……家族……部屋……消す……!!!思い出した!!!

「あの!」

「何だ?何かあるのか?」

「はい、というか未練そのものです」

「何?…いや…ありえなくはないか。家族を想う者などは残して死んでしまったことを強く後悔したためここに来ることもある。

そのような者達にとっては未練そのものだな。

いいだろう、誰に夢枕を行なう?」

「あ、いえ、そうではないんです」

「む?では訪れたい場所があるのか?」

「いえ、それでもないんです。あの聞きづらいんですが或る物を消してもらうことはできますか?」

「???  物によるな。先も言ったように記憶を消すことは不可能だ。当然生き物も不可だ。こればかりはそれを聞かん限り分からん。何を消してほしいのだ?」

「あ、えーと」

まずい、つい言っちゃったけどこれ神様に言ったら怒られるかな?

「どうした?遠慮なく言ってみろ」

うーん。神様もこう言ってることだしお願いしよう。早くしないと家族に気づかれてしまう。


「それでは、俺の部屋にある或る物を消してほしいんです」

「ほう、それは何だ?」


















































「エロ本です」
















































「すまぬ。よく聞こえんかった。もう一度言ってくれ」

「ですからエロ本です」

あ、やばい。神様の目がゴミ虫以下の汚物を見る目になってる。

「いや、あの、俺周りにはストイックな男として過ごしてきたので死んだ後そういうのが部屋で大量に溢れてるのを発見されるのはちょっとなあというか、立つ鳥跡を濁さずというか家族だって死んだ息子がこんな物隠してたなんて知りたくないでしょうし」

「…………お前の未練とはそれか?」

「はい」

(………ここに来るほどの強い未練、さぞかし辛いであろうと思っていたにも関わらず理由がエロ本?そんなことが未練でこの場所へ来たのかコイツは………)

何か神様が小声でぶつぶつ言ってるけど出来れば早く消してほしいな。

(………何故こんな奴のために………しかし、ここで放棄すれば横暴をしていた『奴』と変わらん、くっ仕方がない。)

「………分かった。消してやろう」

声がすごく嫌そうな感じがするけれどありがたい。

少し離れていた神様が降り立つと何か呪文を言っているようだ。

良かった。これで汚点を晒さずに済む。

「………ブツブツブツブツ……ん?」

あれ?神様が動きを止めて何かを見てる。

はっ!もしや間に合わなかったのか?!

「いや、間に合わなかったも何も










家族はお前のエロ本のことなどとっくに知っていたようだぞ?」





何………だと………?




「お前がこっそり本屋で18禁のコーナーに行くたびに『ああ、またか』と思っていたようだ」

「あ………あ…………」

「部屋でガタガタ音がしてる時は『どこで育て方を間違えたのだろう』と嘆いていたようだな。その後トイレに行くお前を見るのはもう酷く辛かったようだ」

「うわああああああああああ」

嘘だ、嘘だ嘘だああアあアあアああアアアアアアア!!!

「お前の部屋を掃除している時にベットの下に隠してあったハードな同人誌を見つけた時はもう手遅れだと思ったらしい」

やめてくれ、聞きたくない、聞きたくないいいいいいいいいい い い い い い

「因みにクラスの者達のお前への評価はストイックではなくむっつりだそうだ」


ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああ

知りたくなかった、そんな真実!!

「最後に何度も言ったが記憶を消すことは不可能だから、残念だったな」




うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ











その後、転生をすることになった俺は神様に一つお願いをした。



もし生まれ変わるなら……私は賢者になりたい。








****************************************


だから読まないほうがいいっていったのに

『彼』のその後の話は構想だけは出来てるからいつか書くかも








[16188] 彼の出した答え(前編)
Name: 古時計◆c134cf19 ID:d842e1e7
Date: 2010/04/05 22:12
平日ということもあってか自分以外誰もいない墓地を歩いていく。

肩には最早自分の半身とも言える愛刀、手には花、何とも妙な組合せだと思いながら目的の墓の前に着く。

自分と同じ名字の墓、両親が眠る墓、戦うと決めた日から一度も来なかった墓。

数年ぶりにも関わらず綺麗なままなのは恐らく掃除をしてくれていたからだろう。

花を生け、線香に火をつけた後、手を合わせる。

―――ようやく終わったよ。随分時間がかかったけど、やっと来れた。

今までの謝罪と報告を心の中で呟く。

最も―――両親の魂はここには無いことくらいは分かっているが。

それでも祈る場所はここしか無かった。声も思いも届かないだろうけど伝えたいことが、話したいことがあった。

―――終わったんだ。そう、終わったんだ。なあ父さん、母さん、俺は―――

「全く、数年間音沙汰無しかと思いきや来た時には本堂に挨拶もせんで墓参りかい。おまけに何じゃその花は。せめてもう少しマシなもん持ってこんかい、バカたれ」

ふいに後ろから聞こえた年齢に合わない口調に手を合わすのをやめる。

「母さんはこれが好きでしたから。それに、結局は何の意味もないでしょうし」

生けた花、蒲公英を一瞥した後振り返る。

「お久しぶりです。円空和尚」

「遅すぎじゃ。バカたれ小僧」

記憶よりは老けた、父の親友であり俺の後見人でもある人、円空和尚との数年ぶりの邂逅だった。









「ほれ、檀家からもらった茶じゃ。有りがたく飲め」

庫裏に移動した後、円空和尚は機嫌が悪そうにしながらも茶を出してくれた。

口は悪くとも世話を焼いてくれるこの性格を知っていることもあり不快に思うことはなく、むしろ何度もお世話になっているため頭が上がらない。

目の前に座った円空和尚を見て苦笑いしながら出されたお茶を飲む。

和尚も自分用の湯飲みを傾けながらしばらく沈黙が続く。

「…………で、ここに来たっちゅうことは終わったってことか?」

熱いお茶がぬるくなってきた頃、ようやく和尚の方から声が上がった。

「……はい。半年ほど前に仇を、『奴』を斬りました」

「………そうか。随分と時間がかかったもんじゃの。仇を討つまでは戻らんとここを飛び出したクソガキが今じゃもう大人の一歩手前かい」

それでもワシからみればまだまだ小僧じゃがな。と悪態をつきながらも一息をつく。

その姿がどれだけ俺のことを気にかけていてくれたのかが分かる。

「随分とご心配をおかけしました」

「全くじゃ、ったく。……ん?半年前?

おい小僧。なら何でもっと早く来んかった?まさか遊んでたわけでもあるまい?」

「………………」

「おい」

「信じられなかったんです」

「何をじゃ?」

「仇を、奴を倒したってことを。まだ転生者として狙われる者がいるんじゃないかって思ってあちこち探してました」

「……ふむ、なるほどのう。で、どうだったんじゃ?」

「転生したい、って考えている奴は相変わらずたくさんいました。でもそいつらを狙う気配も、転生トラックも一度も見ることはありませんでした。あの、実は『奴』を、仇を取った後『奴』の仲間の『神』に会ったんです」

その後最後に戦ったあの日のことを話した。

小坂御幸のことも、俺の両親がたどった運命も、事件の結末も、そしてあの『神』が言っていた転生に関してのことも。

それらの話しを全て聞き終えた後、もうすっかり冷たくなったお茶を飲み干した円空和尚は長い溜息をつきながらこちらを見た。

「そうか、竜司はそんなふうに輪廻の輪をたどったのかい。だがそれが一人の少女の命を救ったと言うのもまたなんというかの。分からんもんじゃな」

父さんの、親友のことを想い軽く上を見上げて目を細めていた和尚だが再びこちらを見やった時には先ほどの寂しげな雰囲気はもう無かった。

「で、つまりはもうこれからは不幸な運命を歩む者も出んということじゃな?」

「はい、恐らくは」

「そうか。


では聞くが何故お前は未だに刀を持っとる?」

「え?」

何を聞かれたか一瞬理解出来なかった。

俺のそんな姿を見た円空和尚は目つきを鋭くさせ続けた。

「ふむ。なら質問を変えるぞ。では何故お前は満足そうにしとらん?」

「―――っ!?」

今度の質問ははっきりと理解出来た。

いや、理解するまでもなかった。なぜならそれは、この半年、俺自身がずっと考えていたことだったのだから。

「今のお前からは覇気が感じられん。精気が感じられん。生気が感じられん。

まるで抜け殻じゃ。果たすことを為し、仇を取り、憂いも消え、後悔すらなく終わらせることが出来たというのに何じゃその有り様は」

円空和尚の言葉は続くが俺は何も言わない。いや、言えない。

「戦う必要がなくなったにも関わらず刀を持っていてどうする?最早お前には必要ないものじゃろう?」

俺は何も答えられない。

「……ふん。答えんのなら当ててやろう。お前は怖いのじゃろう?」

「怖い?」

思わず聞き返す。

聞き返すべきじゃないと心のどこかで分かってるのに。

「今までずっと復讐のために戦ってきたお前じゃ。その目的がなくなって何をすればよいのか分からなくなってしまったんじゃろう?」

「―――っち、違う!」

「違わんな。確かにお前が戦った理由には転生者達を救いたいという気持ちもあったのじゃろう。

だがお前の根本にあったのはお前から両親を奪った者への復讐心じゃ。そのために戦い、そのために生き、そのために憎しみ、そのために刀を振るってきた。

お前が刀を捨てんのは今の状態で捨ててしまえば本当に抜け殻になってしまうと分かっているからじゃ。心のどこかで戦うことを望んでいるからじゃ。

そうじゃな?」

「違う!確かに復讐のために戦っていたかもしれない。それは事実だ。だけどそれにとらわれていたわけじゃない。俺はただ平和に生きられるように…」

「今は平和じゃろう?」

「それは……」

声が続かない。

答えを返せない。

何を言えばいいのか分からない。

円空和尚の問いに俺は答えられない。

「今のお前は道を見失った迷子のようなもんじゃ。だから心細くて拠り所となる刀が手放せん。

全く、やっぱりお前はまだまだバカたれ小僧じゃな」

「………どうすれば」

「ん?」

「俺は………これからどうすればいいんでしょう?」

「知らん。自分で考えろ」

震える声で求めるように請うた問いに返ってきたのは突き放すような一言だった。

「考えろって…あんたは和尚だろ?こういう時こそ何か導くような説法をしてくれるんじゃないのかよ!」

思わず口調が荒くなってしまうが円空和尚はどこ吹く風といった顔だった。

「甘えるな馬鹿者。確かにワシが答えを用意してやることは出来る。だがそれでは本当の意味で解決はせん。お前がお前自身で答えを出さん限りいつかまたその思いが揺らぎ壊れてしまうじゃろう」

ぐっと唇をかみしめる。


不甲斐ない。


和尚の言うとおりだ。





でも、




いったいどうすればいいんだ。


俯く俺の頭にポンッと和尚の手が乗せられる。

「今はよく考え悩め。過去を振り返ってもよいじゃろう。何か良いヒントがあるやもしれぬしのう。もし答えが出せたならまた来い。小僧」

そう言って一撫でした後和尚は境内の方へと歩いて行った。けれど俺はしばらくその場を離れることが出来なかった。



















帰り道。とはいってもほとんど帰っていなかった誰もいない家に急いで帰る必要などなく俺は途中の公園のベンチに座っていた。

ふうっとため息をつき深く腰掛け空を見上げる。

これからどうすればいい。

戦っている間はそんなこと考えもしなかった。

ただひたすらに戦って、時間があれば鍛錬と捜索。父さんと母さんのような犠牲は出さない。そのために戦ってきたのにいつの間にか戦うことが目的になっていたのか。

戦う必要がなくなった今、目的がなくなった今、逆に先のことを考える時間が増えた。

そうだ。もう戦う必要がないのだから好きに生きればいい。普通の生き方に戻ればいい。学校にも随分いっていない。何か趣味をもつのもいいだろう。小坂御幸ではないがすることのなかった青春を謳歌するのもいい。

でも、

それが本当に俺が望む答えなんだろうか?

繰返し行なわれる自問自答。

けれど結果はいつまでたっても疑問で終わった。

どれだけそうしていたか分からないがそれなりに長い時間だったのだろう。頭を下げるとさっきまで俺しかいなかった公園に他に人影が見えた。

紅い帽子をかぶった小さな女の子だ。公園の真ん中でぽつんと立っている。両の手を目のあたりによせ鼻をぐずりながら声にならない声を出していた。

その横では二人の男女が困ったような、悲しそうな目で女の子を見ていた。

何で泣いているのかなんて分からない。もとより俺とは関係ない子だ。

だから理由を知る必要がない。

だけどその泣き顔が、すごく寂しそうなその泣き顔が何か気になって気がつけば近くまで歩いていた。

「何で泣いてんだ?」

女の子はこちらに気づいていなかったのかビクッとしてこちらを見た。

「ふ」

「ふ?」

「ふええええええぇぇんんん!!」

…………もっと泣かれた。

そばにいる男女、恐らくは女の子の両親、がギロッとこちらを見る。

別に泣かせるつもりはなかったと頭を下げて謝罪してもう一度先ほどよりも優しく話しかける。

「あー、驚かせてごめんな。ただどうして泣いてるのかなって思ってな。もしよかったらお兄ちゃんに教えてくれないか?もしかしたら何か力になれるかも知れないからさ」

しゃがみ込んで女の子と目線を合わせて話すと少し落ち着いたのかしゃくりながらも答えてくれた。

「ひっく、公園、一緒にまた来ようって、ひっく、いったのに、今度来たら、いっぱいあそぼうっていったのに、もう、会えないって、おばあちゃんが、いってた、ひっく、ふえええええぇぇんん」

言い終わるとまた込み上げてきたのか声を鳴らし始めた。

目線を上に上げる。この子の両親が申し訳なさそうに顔を伏せていた。

―――ああ、そっか。何か気になるな、って思ったらあの時の俺にそっくりなんだ。

俺はどうやって立ち直ったんだっけ。確か『奴ら』を追いかけることで気を紛らわしたんだったか。

………駄目だな。全然参考にならない。こんな子に何をさせる気だ俺は?

未だ泣き続ける女の子を放っておくわけにもいかず帽子ごしに頭を撫でる。

しばらくその状態が続く。

そういや俺もあの時は円空和尚にこうやって頭を撫でられてたな………



















何で忘れてた。そうだ、いきなりガキだった俺がそんな簡単に立ち直れるわけがないじゃないか。あの時俺を立ち直らせてくれたのは―――――

(過去を振り返ってもよいじゃろう。何か良いヒントがあるやもしれぬしのう。)

っ、何だよ。自分で考えろって言っておきながら結局は手伝ってくれてるんじゃないか。本当に頭が上がらないな。

「お嬢ちゃん、名前はなんて言うんだ?」

――小僧、名前は何と言う?――

「ひっく、……ふぇ?え、恵美、山本恵美」

あの時の円空和尚の言葉を思い出しながら俺は俺にそっくりな子、恵美ちゃんに話す。

「いいかい、恵美ちゃん。恵美ちゃんが悲しんでるのはそれだけ恵美ちゃんが二人のことを好きだったからだよな?」

「う、うん。だけどもう会えないって」

「そうだな。会えないのは悲しいよな。兄ちゃんもな、子供の頃にお父さんとお母さんと会えなくなっちゃったんだ」

「お兄ちゃんも?」

「ああ、だから兄ちゃんも恵美ちゃんみたいに泣いたよ。すっごく泣いた。

しかも兄ちゃんの場合、会えなくなった理由はほとんど自分の所為だったからな。

でもな、そんな泣いてばっかの兄ちゃんをあるお坊さんが怒ったんだ」

「お、怒ったの?」

「ああ、『お前は両親を悲しませたいのか!いつまでもめそめそ泣きおって情けない。そんなんではあいつらが可哀そうだわい!』ってな。

泣きっ面に蜂のような気もするが実際は泣きっ面に拳だったな。

でも殴られたことより言われたことの方がずっと辛かった」

いつの間にか泣きやんでこっちをじっと見ている恵美ちゃんを安心させるように微笑みながら続ける。

「『お前が悲しいようにお前の両親だってお前を一人にして悲しいに決まっておるだろう!

両親に笑ってて欲しいじゃろう!

だったら自分は大丈夫だと、安心して、と言えるようにうずくまってないで胸を張らんか!』って言われた。

正直、完全に和尚の言いたいことが理解出来ていたわけじゃないけどそれでも父さんと母さんを悲しませるのは嫌だ、って思ったんだ。

だからもう大丈夫だって言えるように何かしよう、って思ったんだ」

そうだ。だから俺は戦うことにしたんだ。

前に進むことが出来るようになるためには何が出来るか考えたんだ。

俺のために命を掛けてくれた両親のように今度は俺が誰かを救いたいって思ったんだ。

でも『奴』を放っておくことはどうしても出来ない。いつまでもそのことが心に残り、前を見ることが出来ない。

だから『奴』を倒して前を見れるようになろう、と和尚に全てを伝えたんだ。

円空和尚は最初から俺の答えを知ってたんだ。

「恵美ちゃ~ん、どこにいるの~!」

声のした方を見るとどことなく恵美ちゃんの母親に似たお婆さんがきょろきょろしながら走っていた。

「あ、おばあちゃん」

「恵美ちゃん!」

向こうもこちらに気がついたようでこちらに走って来る。

「よし。お話はこれでおしまい。恵美ちゃんが兄ちゃんの話をどう思うかは分からないけど覚えていてくれると嬉しいな」

「うん、ありがとう、お兄ちゃん」

とてて、と祖母のほうに走っていく恵美ちゃんの後ろ姿を見て最後にもう一言伝える。

「恵美ちゃん。今日は早く寝た方がいいよ。もしかしたら夢で恵美ちゃんの会いたい人達に会えるかもしれないよ」

お婆さんと手をつないだ恵美ちゃんが振り返って「わかった」と言い去って行った。その後ろを“足のない”両親がこちらを何度も振り返ってお辞儀をしながら付いて行った。














いつの間にか夕暮れ。自分の心にさっきまであったしこりのようなものが消えているように感じる。





―――ああ、本当に、



























































「何でこんないい気分の時に現れやがるんだ」


つい、と上を向くと今まで会った『神』よりもより女性らしい、見覚えのある存在がこちらを射殺さんばかりの形相で見つめていた。



[16188] 彼の出した答え(中編)
Name: 古時計◆c134cf19 ID:d842e1e7
Date: 2010/04/12 20:24
*話の都合上三人称で進めます。



金属が鳴らす独特の甲高い音が辺りに鳴り響く。

音がするたびに一つ、また一つと残骸が増えていく。

音のする位置には刀を持った青年が、そして次々と飛び交うトラックが打ち出されている場所には神秘的な雰囲気を持った、

長髪の、中性的だが女性だと分かる『神』――『女神』とでも呼ぶことにしよう――がその背にある翼を広げ上空にとどまっていた。




「なんで今になって来やがる。この半年ずっと何もなかったってのによ!」

走りながら攻撃をよけつつ青年は叫んだ。

すでに公園は見るかげもないほど荒れている。誰もいない時間帯だったことが幸いした。

もしも子供たちが遊ぶような時間ならばどれほどの被害がでていたか分からない。



「私としてももっと早くあなたを殺してやりたかったわ!けれど『あのお方』が目を光らせている状態では自由に動くことが出来なかった。

他の奴らはどいつもこいつも腰ぬけばかりであなたを殺すことをあきらめていたわ。

でも、私は、私だけは、■■■■を殺したあなたを、絶対殺すと決めたのよ!」



貯めこんでいた憎悪をまるで決壊したダムのようにあふれ出しながらどこからともなくトラックを呼び出す。

■■■■。聞きとることは出来なかったが『奴』のことだと想像するのは難くなかった。



「はっ、てことは何か?お前は上の命令に逆らってでも俺を殺しに来たってことか?」

「ええ、そうよ!きっと戻れば私は処罰を受ける。下手をすれば消されるかも知れないわ。でもあなたを殺せるのならばそれでもかまわない!」

「………」

「確かに■■■■はやりすぎだったかもしれない。転生を自分の好きに使っていた」

「けれど彼だって元からああだった訳じゃないわ。昔は転生をキチンとした形で行なっていた。

だけど転生を受けられる人間なんてほんの一握り。だから彼は転生を望む人間達を転生させてあげようとした。それなのに」


ギリッと『女神』は歯をかみしめながら体を震わせる。


「人間どもは誰ひとり彼に感謝するものはいなかった。自分のことばかり考えて勝手なことばかり。

ミスをして死なせてしまったと言ったら全ての責任をこっちに押し付けてきたわ。

馬鹿にしないで!仮にもあなた達が『神』と呼ぶ私達がそんなくだらないミスなんかするはずがないじゃない!

そいつの死に際が哀れだったから彼が嘘をついて少しでも気を楽にしてあげようとしただけよ!」



いつの間にか攻撃の手を止め『女神』は怨嗟の声を上げる。



「どうせいつかは死ぬ癖に文句ばかりの人間達。ずっと続けていくうちについには彼もおかしくなってしまった。



『あんなくだらない人間どものために何故ここまでしなければならない。転生を望む?いいだろう、ならばいくらでもさせてやる』と。



分かる?あなたはまるで■■■■が諸悪の根源のように思っているのかもしれないけどそもそもの原因は身勝手な人間にあるのよ!」



眼にためている涙は失った『神』を嘆いているのか、それともそこまで『神』を追い込んだ人間への恨みからか、どちらにせよ敵であった『神』の事実を聞き青年は自身の内心が揺さぶられたのを感じた。



「だから、殺したのか。大勢の、罪のない人達を」

「罪のない?さっきも言ったでしょう。人間どもは文句ばかりだったと。そんな奴らの人生なんか知ったことではないわ。あなただって転生を望んだ一人でしょう?自分には一切関係ないと言い切れるのかしら?」



何か言い返さなければと取ってつけたような言葉を放つが『女神』の返答に青年は黙り込んでしまう。



実際に転生をしてしまったのは青年の両親だ。だがそれは偶然でしかなく本来転生するのは青年本人だった。



もしあの時自分が転生していた時どのような行動をとっただろうか?



少なくとも



『神』に感謝したとは思えなかった。



ただ死ぬのならばともかくその後がある場合、納得したまま死ねる人間がどれほどいるのだろうか。








ヒュッとトラックが飛来する音で我に帰ると再び迫ったトラックを捌いていく。

考えるの後にして今は目の前の問題に集中しよう、と青年は刀を構えなおした。











三度刀が振るわれると同じ数だけ残骸が増えた。

斬ったトラックの数はもう数えきれないほどになっている。

さすがに息が上がるが青年自体には傷一つない。





少し疑問に思うかもしれないが人間よりはるかに上位の存在であろう『女神』が、いくら多少の能力を得たとは言え人間である青年を殺しきれないのにはわけがある。

それは青年を殺す手段として転生トラックで攻撃を続けているためである。




『神』と呼ばれるのは伊達ではない。人智の及ばぬ攻撃をすれば一瞬で青年を殺すことが出来るだろう。

だが、その場合青年は“ただ死ぬ”だけである。もちろん『女神』の目的は青年を殺すことにあるのだからそれでよいのだが、それでは『女神』の気持ちは収まらない。

転生トラックは本来の転生以外に転生を行なうことが出来るようにするための道具である。他にも隕石や犯罪者という手段もあるが最も使いやすく確実な手段はこのトラックとなる。

これによって死んだ魂の支配権はそれを使用した者、つまりは『神』にゆだねられる。支配された魂は『神』が自由に転生させることが可能となる。

例えば来世が死よりもつらい運命となるようにすることも出来る。






つまり、




(俺の死後すら許さないってことか)

息を整えながら考えをめぐらし結論に至る。もちろんそんなことは青年とて御免である。

そのためにも復讐のために動いているこの『女神』をどうにかしなければならない。

幸いこの『女神』は以前戦った■■■■よりも力は劣っているようだ。攻撃にも慣れてきた。一気にけりをつけようと足に力を込めた時、




「動かないで」




突如攻撃をやめ命令をしてきたため思わず止まってしまう。



「ふう、このままじゃあなたを転生させるのは難しそうね。だからこういう手を使わせてもらうわ」

『女神』の回りにあったトラックとは別に彼女の上空に一台のトラックが現れる。


「何だ?」

「今私の上にあるこれが何を狙っているかわかるかしら?

感のいいあなたなら気づけるんじゃなくて?」

そう言われ遥か上空に浮かんだトラックを見やる。ああ言ったからには青年を狙っているのではないのだろう。

そもそもトラック程度青年にとって脅威とは言えない。




ではいったい何を――――――





「―――っ、まさかっ!」

「そう、さっきあなたが話してたあの女の子よ。どうする?私の言うとおりにしなければすぐにでもあの子は転生することになるわよ」

「………くそっ」

彼の顔が苦々しげにゆがむ。すぐそばにいれば狙われた瞬間助けに行ける。だが今どこにいるか分からない者の元へ駆けつけるのは不可能だ。



「ふふふ、いい様ね。じゃあその邪魔な刀を捨ててくれないかしら?落とす程度じゃ駄目よ。遠くに投げ捨てなさい。

言っとくけど私に投げようとしたらその瞬間撃つわよ」


「………………」


刀を捨てる。この状態で武器を捨てるのは自殺行為だということは容易に分かる。

そのためか『女神』の命令を受けても彼は動くことなくじっと『女神』の方を睨んでいた。



「聞こえてるの?!早くしなさい!!」

「………分かった。今、刀を捨てる」

視線を外すことなく答えると腕が勢いよく横に振られ刀が彼の元から遠く離れ地面につきささる。

「ほら、刀は捨てたぞ」



刀が青年の元から離れると『女神』の口が、にまり、と上がる。

「……ふふ、ふふふ、ふふふふふふふ。あなたのその能力さえ分かっていれば私達が人間ごときに敗れるはずがないのよ。

■■■■だってそう。あなたをただの人間だと油断しなければ死ぬことは無かった。

……ごめんなさい、■■■■。あなたを助けてあげられなくて。

もっと早くにあなたを止めておくべきだった。それが出来なかった私を許して。


かわりに、あなたの仇を討つから」

しんみりと失った仲間へ謝罪を述べたと思えば一転、暗い歓喜をその顔に浮かばせながら腕を軽く振るうと青年の回りに数台のトラックが現れ逃げ道をふさいだ。

これでは刀を取りに行く間もないだろう。




「………」



「これで終わりね。さあどうする?何か言い残すことはあるかしら」

「………よし」

「?」

「お前も言ったように俺には変わった能力がある」



武器もなく逃げ場もない。絶望的な状況だというのにも関わらず青年からは恐怖という感情は見えなかった。それどころか『女神』の方を向いて軽く笑みを浮かべているくらいだ。



「一つは刀を使うことであらゆる物を斬り裂く能力。一つは並はずれた身体能力。そして最後の一つは暗示だ」

「さっきから何を言っているの?もしかして死を目前にしておかしくなったのかしら?」



『女神』の嘲笑も聞こえていないように青年は自身の能力の説明を続ける。



「この暗示は中々便利で対象に嘘の認識をさせることが出来る。同級生だと思わせたり、俺のことをいなかったことにさせたりな。だがいくつか条件がある。

それを満たさなければ効果は表れない」

「……もういいわ。命乞いをするかと思えば訳の分からないことばかり。さっさと死になさい。安心なさい。あなたの転生先は今までの誰よりも酷いものにしてあげる」

無様な姿を見たかったのに期待外れだ、と上空のトラックを青年めがけて撃ち出す。




だがそれでも青年の笑みは消えなかった。



「それに個人差もあるからどのくらい効くかもわからなかったから」

一か八かだったんだが上手くいったみたいだな








上に伸ばしたその手には“捨てたはずの刀”がしっかりと握られていた。

振るわれた刀は説明の通り迫るトラックをいともたやすく切り裂いた。







「なっ?!なんで刀を!」

慌てて先ほど青年が刀を投げた場所を見やるがそこにあるはずの刀はなかった。それどころか地面に突き刺さった跡すらない。






暗示の条件。それは『対象の眼を見て暗示の内容をしゃべらなければならない』ということ。

『今、刀を捨てる』

『ほら、刀は捨てたぞ』

わざわざそんなことを『女神』に言ったのはこのためだった。

人ではない『女神』に効くかは賭けでしかなかったがその賭けに青年は勝った。





「だったら!」

青年の回りのトラックを集結させ押しつぶそうとしたが既に青年はそこにいない。

「っな、どこに?」

あたりを見渡すが青年の姿は見当たらない。





「こっちだ」





自分よりも上から声が聞こえる、ありえないと感じるのも一瞬で振り返る。

そこには二つ目の説明通り並はずれた身体能力で高く跳びあがった青年がいた。




白い閃きが走ったかと思うと肩に激痛を感じ、次の瞬間には『女神』は地面にたたきつけられていた。

「あっぐぅっっ」





「これで詰みだ」

痛みに耐えながら『女神』が顔を上げると首筋に刀を突き付けた青年と目が合う。



「………そう、私の負けね」

「ああ、俺の勝ちだ」

先ほどとは逆の状態。違うのは『女神』にはもう打つ手はないという点。

そしてそれは決着がついた証とも言えた。




「……まあいいわ。どうせここで死ななくても私は罰を受ける。今この時が私に残された最後の時間というわけだし。さあ、好きになさい」

「言われるまでもない」

言うや否や青年の刀は音を立てて振るわれた。







この戦いが、

青年の人生での最後の戦いとなった。




*********************************************************


また三部構成になっちゃいました。

しかも前回と話の構成がほとんど同じ。もっと構成力が欲しいいい!

さて次の話でラストです。感想をいただいた皆様に楽しんでいただけるよう頑張って書きますんでもう少しお待ちください。



[16188] 彼の出した答え(後編)
Name: 古時計◆c134cf19 ID:d842e1e7
Date: 2010/04/17 01:27
数日後、

肩には愛刀、手には茶菓子を持って再び円空和尚の元を訪れる。

少しは気のきくようになったな、と言いながら前回と同じお茶をだす円空和尚は俺を一目見た時点で何をしに来たか分かったようだ。

最も、答えを得たら来いと言ったのも円空であるため分かって当然とも言えるが。



「まずはお礼を。助言ありがとうございました」

「はん?何の事だかさっぱり分からんのう?」

本当にそう思っているのではないというのは容易に分かるが和尚の優しさに甘えそれ以上は何も言わないことにした。



「さて、では刀はどうする?何ならウチで保管してやろうか?」

どことなく上機嫌に話す円空和尚を見据えて俺は自分の答えを出す。



「いえ、刀は捨てません」



「……ほう?」

片眉をあげ俺のほうを探るように見るがその視線をまっすぐに受け止める。

「俺は今までずっと戦ってきました。和尚の言うとおり今後は平和でしょう。

 でも刀を捨てることが出来なかった。

 和尚は俺が刀を失うことを恐れているからだと言っていました。

 確かにそれもあったとは思います。

 でも気づいたんです。俺の復讐につき合わせたこの相棒を、俺が復讐を終えたという理由で捨てるのは何か違うと」



円空和尚は黙ったまま続きを促してきた。



「コイツは俺と共に戦ってくれた。俺の命を守ってくれた。俺のそばにいてくれた。

だから俺はコイツを捨てません。あの時にも言ったようにこれからは前に進むためにこの刀と共に生きていきます。

この刀も復讐のためじゃない、前へと繋がる使い方をしていこうと思います。

俺には能力がある。この力を使った何かが出来る。まずはそれを探すことから始めていこうと思います」



答えを聞き終えた後円空和尚はしばらく何も言わずお茶と茶菓子を食べていたが
「阿呆が」と呟いた時の声は言葉とは裏腹に優しげだった。



「よかろう。それがお前の出した答えなんじゃ。好きに生きたらよい。

ただし、決めたからには途中で投げ出すんではないぞい」

「ええ、分かってます」

「くくっ」

「あはっ」

「「はっはははははははははははははははは!」」

笑い声が部屋に響き渡った。ここまで大きく笑ったのは両親が生きていたころだったか。










「とりあえず当面は学校に行くことにします」

「ふむ、大丈夫なのか。成績だの単位だのは」

「ええ、暗示で一発です」

「バカたれ」










最後の会話のあと殴られた頭をさすりながら俺は家路についた。

前回と同じ空模様だったけどどことなく綺麗に見えた。














のんびりと歩いていくとあの時の公園が見えてきた。トラックの残骸は何故か消えていた。

恐らく『あのお方』と呼ばれた『奴』の後任がどうにかしたんだろうと思いながら歩を進めていくと

「あ、お兄ちゃん!」

と、聞いた覚えのある声がしたためそちらに顔を向ける。先日会った時と同じ紅い帽子をかぶった恵美ちゃんが俺の方に駆けてきていた。



「おお、恵美ちゃん。元気そうだな?」

「うん!あのね。あのね。お兄ちゃんと会った日にね。パパとママが夢に出てきたの!」


弾むように話す恵美ちゃんはあの時泣いていた子とは別人のように感じられた。


「そっか。たくさんお話したか?」

「うん!それでね。それでね。パパ達も恵美が笑ってくれているほうが嬉しいって!

 天国で恵美のことずっと見守ってくれてるって!」


にこにこしながらこちらを見る恵美ちゃんの頭を優しく撫でる。


「良かったな。寂しいかもしれないけど頑張れるか?」

「もっちろん!パパ達と約束したもん!あっそうだ!

 パパ達がお兄ちゃんに会ったら言って欲しいって言われてたんだ!」

「?何をだ?」

「えっとね。えっとね。『ありがとうございます。おかげで娘とも良い別れが出来ました』だって。お兄ちゃんパパとママのこと知ってたの?」




少しジンと来た。

戦いでなくとも誰かのためになった。そう思えた。



「……ああ、ちょっとだけな。

 よし!じゃあ恵美ちゃんも頑張るみたいだし兄ちゃんも頑張らないとな」

「うん、がんばろー!」

二人でえい、えい、おー、とやった後恵美ちゃんはじゃあね、と公園に戻ろうとした。




強い風が吹いた。



恵美ちゃんのかぶった帽子が飛ばされ道路のほうに落ちた。

あ、と声を上げ帽子を拾おうと道路へ跳び出す恵美ちゃん。

帽子しか見ていなかった恵美ちゃんはトラックが走っていることに気が付いていなかった。



ほとんど条件反射で体が動いた。

トラックと恵美ちゃんの間に立ち刀を抜く。

何度もやってきた行動だ。

いつも通りトラックを斬ろうとした時、運転席に座る男性の驚いた姿が見えた。



―――思考が止まる



人?何で?




“トラックは無人のはず―――…”




(これ、転生トラックじゃ、ない)

当たり前の結論に至るのに時間がかかりすぎた。



もうよけている時間は無い。

トラックを斬る?論外だ。

残された方法は振り返って恵美ちゃんを抱きしめ庇うことだけだった。

後ろから激痛が走った。数瞬後、頭が何かに強くぶつかった。



(……恵美ちゃんは……)

安否を確認したかったが俺の意識はそこで途絶えた。




トラックから慌てて降りてきた男性が見たものは

怪我ひとつなく気絶している少女“だけ”だった。

















「まさかお前がここにくるとはな」

「俺もまさか自分がここにくるなんて思わなかったな」

「お前の顔はみたくないと言ったはずだが」

「俺だって会いたくなかったよ」



気がつくと辺り一面白い空間にいた。手には大切な刀。頭を触ってみるが血はついていないようだった。

「で、死んだのは俺一人か?」

座りこみながらあの時小坂御幸の命をくれた『神』に聞く。正直なところコイツに恨みなどない。それどころか良い奴だと思えるが円空和尚のように敬語を使う気にはならない。



「ふん。その問いの答えはイエスだ。因みに気絶していた所為でお前が轢かれたこともかばわれたことも覚えていない。

運が良かったな。いや、お前は死んでいるのだから運がいいとは言えんか」



腕を組みながらこちらを馬鹿にするように見る眼はお世辞にも俺にいい感情を持っていないことくらいは分かる。

まあそれはそうだろう。以前も言っていたように俺はコイツらの仲間を斬ったんだから。

と、気になることが浮かんだのでまた問いかける。

「おい、知っているかどうか知らんがこの前俺はお前らの仲間の一人に襲われたんだが」

「ん?」

「アイツはどうなった?」















「言われるまでもない」

そう言ったあと俺は刀を振るい鞘に納めた。



「え?」

驚いたのか『女神』はキョトンとしていたが次の瞬間顔をこわばらせると食って掛かってきた。

「なぜ斬らない!?」

「好きにしろと言ったのはあんただろ。だから好きにさせてもらった」

「ふざけるな!■■■■を斬っておいてなぜ私を斬らない!私はあなたを殺しにきたのよ!?」


峰打ちを行なった肩の痛みも感じないのか『女神』は息づかい荒く叫んでいる。


「そうだな。もしあんたが『奴』と同じだったなら斬ってただろうさ。

でもあんたは他の人間には手を出してないだろ?」

「――は、何を言ってるの?私はあの女の子を人質に「あれ嘘だろ?」したっ!!?」


途中で遮ると『女神』は今度こそ驚きを隠そうともせず黙り込んだ。



「あの時は気づかなかったが俺はお前ら『神』が誰かを狙っている場合何故かそれが分かる。
にも関わらず俺はお前がどこにいる誰を狙っているか分からなかった。

分かるはずがないよな。最初から狙っていないんだから」



『女神』は何も言わなかったが視線をそらしているその態度で俺の推測が正しかったことが分かった。



「俺があの『神』を斬ったのは復讐のためでもあるけれど、これ以上犠牲者を出さないためでもあった。

『奴』があんたの言うとおり本来は優しい者だったと知っていても多分俺は放っておくことは出来ずに結局は斬っただろう。

 けれどそれが終わった今、俺はもう、むやみに命ある者を斬りたくはない。

 お前は『奴』とは違った。誰かのために泣いて、その仇を取るために動いても無関係の者を巻き込もうとしなかった。だから殺さない」



そう言うと刀を袋に戻し背負いそのまま背を向ける。




「……許すだなんて思わないでよ。この次があれば……絶対私があなたを殺すわよ」

後ろから絞り出すような声が聞こえたが答えることなく歩き続けた。




(殺さない理由はそれだけじゃないんだけどな)

大切な者の復讐のために動いているその姿がまるで自分を見ているようだったから。


そう言ったら余計に怒らせるだけだと分かっていたのでそのまま黙ってその場を去った。












「ああ、■■か。彼女ならお前を襲撃したその後自分から投降してきた。今はその力を封じて謹慎中だ」

「処分するってことはないんだな?」

「当然だ。基本、我らは同族を殺すことは出来ない。だからこそお前が『奴』を倒したことに対して恩赦がでたのだ」

「そうか」



思わずため息をつく。もしもあの後殺されていたら俺のやったことはただの自己満足になってしまうのではないかと危惧していたが無用な心配だったらしい。



「なんだ、随分■■のことを気にかけているようだな」

「べつにそんなもんじゃない。これは単なる俺のけじめみたいなものだ」

今まで戦ってきた中で斬った命ある者は『奴』だけだ。

その分の業も、背負わなければならないと気付かせてくれたのだから。




まあ結局は死んでしまった以上あの『女神』の怒りがどうなるかはもう分からないがこればかりは仕方がない。

平然としようとはしているがやはり自分が死んだ、というのはそれなりに堪えるものがあった。



恵美ちゃんに嫌な思いをさせてしまったかもしれない。

円空和尚との約束も反故にしてしまった。



…まあ、こればかりはしょうがない。死んだことは潔く受け入れて―――



「おい待て。何故俺はここにいる?」

「?何を言っている?死んだからに決まっているだろう」

さも当然とばかりに返されたが俺が聞きたいのはそういうことじゃない。



「違う。俺を轢いたのはただのトラックだろう。昔ならともかく今の俺は転生なんかしたいとは望んじゃいなかった。

未練はないわけじゃないがそこまで強いものでもない。

なのに何故俺はここに、転生をする場所にいる?」

俺の疑問に対し、なんだそんなことか、と『神』は肩をすくめた。



「簡単なことだ。お前は転生の条件を満たしていたからだ」

「いや、だから俺は「話は最後まで聞け」っ」

小馬鹿にするような笑みを浮かべながら『神』は説明を続けた。



「前に会った時にも言ったが今転生のシステムは本来の形で行なっている。強い未練を残すもの、過去に思い罪を犯した者、そして偉業を為した者。

お前は条件を満たした。多くの者を救うという偉業をな」



『神』の説明が別の言葉に聞こえた。


偉業?この俺が?


罪なら分かる。父と母を死に追いやったという罪を来世で裁かれるためだというのならば納得出来る。

『神』は偉業と言ったが結局あれは復讐と償いの延長線の上で行なわれたようなものだ。それを偉業なんて評価を受けるだなんてとても信じられなかった。



「お前がどう思おうともこれは事実だ。実際、お前に助けられた者達は皆お前に感謝している。

お前は多くの者を救った。ゆえにお前はお前のまま転生を行なうことが出来る」



それが本当ならなんて皮肉な話だ。誰にも転生をさせまいと戦ってきた俺が結局転生を行なうことになるなんて。



「転生をする者には何らかの処置を行う。未練を持つ者にはその未練が断ち切れるように、罪人にはこちらから罰を与え転生させる。

そして偉業を為した者にはある程度の自由がきく。お前が望む世界へそのまま旅立つことも平和な世界へ行くことも、

お前の両親が再び転生した世界に生まれ変わることもな」



………何?


「父さんと母さんは、また、生まれ変わったのか?」

いつの間にか立ち上がって詰め寄っていた。今聞こえた内容はそのくらい俺にとって重要なことだ。



「ああ、さすがにあのままでは哀れだったからな。記憶を引き継がせることはさすがにしなかったが二人とも同じ世界へと生まれ変わるようにした。

上手くいけばまたあの二人の子供として生まれ変わることもできるだろう」




………考えもしなかった。俺の所為で死なせてしまった両親にまた会えるなんて。



会えたらどうする?



ごめんと謝りたい。

おもいきり抱きしめたい。

声が聞きたい。

話がしたい。

笑顔が見たい。

あの頃のように頭を撫でてほしい。

怒ってほしい。

何よりも一緒にいたい。





次々に浮かんでくる願望。

思わず手を握り締めるが手に何かを持っていたため上手く握れなかった。

視線を落とすとここに来た時に確認した刀があった。



………情けないな。あれだけ大見栄切っておいてすぐこれだ。和尚になんて言われるか分かったもんじゃない。

そもそも転生に対して俺が自分の欲を持つなんてことは一番やっちゃいけないことだ。

それは俺が助けてきた人達を、そして俺が斬った『奴』ですらも侮辱することに他ならない。





迷うな。



この刀と共に生きていくと円空和尚に誓っただろう。

頑張っていこうと恵美ちゃんとも約束しただろう。



ならば俺が進むべき道は―――あるじゃないか。

今ここにいる俺だからこそ選べる道が。

この力と刀を活かした道が。



「どうだ?何か要望はあるか?」

「――…いくつか聞きたいんだが生まれ変わる時に他の道具とかも一緒に転生できるのか?」

俺の質問に『神』は、む?と顔を曇らせたが特に隠すことでもないと直ぐに答えてくれた。


「それは無理だな。誰かの子として生まれる以上は当然生身の状態で生まれてくる。

能力を失うことを恐れているのなら杞憂だぞ。そのくらいはどうにでもなる。

…まあ仮にどうしても何か物体、―お前の場合はその刀か?―を持っていきたいというのなら今のお前のまま他の世界に行く、という手もあるが」



「分かった。それでいい」



即断した俺の意見が気にくわなかったのか『神』はその神秘的な光を持つ眼を少し細めた。

「いいのか?確かにそのまま世界を渡れば今の状態を保つことが出来るがデメリットの方がはるかに大きいぞ。

異世界にとってお前は言ってみれば存在しない者だ。当然戸籍などない上に縁も所縁も何もない世界だ。周りが受け入れるかなど分からんぞ。

下手をすればその後一生孤独だ。それでもいいのか?」

質問と言うより糾弾に近い声色で問われたが俺はただ首を縦に振った。



「…ふん、まあいい。それがお前の望みならな。まあお前の場合最初から異常に関わっていたのだから通常の者と同じにはならんかもしれんしな。

さて、他には何かあるか?」

「もう一つ聞きたいことがある」



実は次の条件が最大の問題だ。これが通るかで俺の道が決まる。



「他の世界に行くことは出来るか?」



「…は?出来るも何も他の世界にしか行けんぞ」



「すまん。また質問の仕方が悪かった。

 “他の『神』が支配している世界に行くことは出来るか?”」



こちらの意図を理解したらしく先ほどよりも一層その眼に不快さを宿らせて声を落とした。



「お前が何を考えているかは分かったがこればかりは言わせてもらう。

 やめておけ。

 転生を私利私欲に使う者は確かにいるがその全てが『奴』のように敵対した人間を転生させようとするかは分からん。

 本気を出されれば一瞬で殺されるぞ。

 私の管理下の世界ならばいくらでも擁護出来るが他の者の管理下の世界ではその者がルールだ。

 だから以前■■■■がこの世界で好き勝手に行動していた時も止めることが出来なかったのだ」

だからやめておけと忠告してくる姿が少し円空和尚と重なって見えて苦笑する。



「心配してくれてるのか?」

「っ馬鹿を言え。せっかくまともな転生に戻したのに転生先で妙な死に方をされては気分が悪いだけだ」

悪態をつくところまで似てるな、と思わず口からクッと声が漏れてしまう。

「何がおかしい!」

「いや別に。悪いが出来ると言うなら頼む。後悔はしない。

 死んだのも運命だったのかもしれない。元の世界が平和になったんだ」

だから今度は他の世界で、今度こそ本当に誰かを守るために戦う。

そう決めたんだ。




「―――…警告はしたぞ。全く、馬鹿は死んでも治らんな」

ため息をつきながら腕をこちらに向け何やら呪文を唱えると俺の眼の前に光の扉が出現した。



「そこを通れば後はもう私の管理外だ。

くぐれば元の世界との繋がりも当然終わる。最後に何かやることはあるか?

夢枕をする相手でもいるんじゃないのか?」



そう言われ何人か思い浮かぶがすぐに消した。



「やめとくよ。これから頑張らなきゃいけないのに会ったら決心が鈍りそうだ。」

円空和尚なんかは夢でも殴ってきそうだしな。とも思ったが口には出さないでおく。



「そうか。ならばさっさと行け。これで今度こそ二度とお前の顔を見ずにすむだろうな」

「ああ、じゃあな」



扉に歩み寄りくぐり抜ける直前ふと思い立つ。

「おい」

「ん?何だ?」





「―――――」





眼を丸くした『神』の顔を見た後俺は光に包まれた。





青年がいなくなった後も『神』はしばらくその場でたたずんでいた。だが青年の言葉を思い返し先ほどまでの馬鹿にした笑みではなく優しげに微笑んだ後もう届かない相手に返答した。

「構わないさ。それが私の仕事だ」

































ザンッと大きな音を立てて眼の前のトラックを斬り裂く。

「き、君は誰だい?」

後ろで腰を抜かしたらしいサラリーマンにこの世界に来て以来使っている名乗りを上げる。



「元復讐者の正義の味方だ」











ふうっと一息つく。

この世界は前の世界よりも『神』の力が強いのかトラックの威力が高いがそれでも諦める気はない。



この刀と共に頑張っていく。

たくさんの人達のおかげで俺は成り立っているのだから。




円空和尚や恵美ちゃん。

渡辺孝一や小坂御幸。

俺が助けてあげられた人達。

そして『神』








だから戦いが終わった後はいつも空を見てあの時『神』にも言った科白を遠く離れた人達に伝える。







「ありがとう」と




*********************************************************

これにて完結です。こんな拙作を読んでくださって本当にありがたいです!

一応完結したので数日したらオリジナル板に移ろうかと思います。

やめておけ、と思われましたらそう言っていただけると幸いです。

ではまたいつか他の作品なりで会えることを願って



追記 2010年4/15 オリジナル板に移動



[16188] 【外伝2】完璧な者の悩み
Name: 古時計◆c134cf19 ID:d842e1e7
Date: 2010/04/17 22:20



*注意

まず本編をご覧の方。特に本編で少しでも感動してくださった方。

ここから先は非常に危険です。

どのくらい危険かって言うと前回の本編と外伝を続けて読んだ時どうなったか考えてみてください。

あとは……分かるな。






























怒るなよ怒るなよ絶対怒るなよ振りじゃないからな。



主人公のイメージがブロークンすっかもしんないけどこれ外伝だから真実じゃないと思っていいから






































それでも読んでくれるあなたが好き




















*********************************************************









突然だが完璧な人間というものを考えたことはあるだろうか?

完璧とは欠点がなく、すぐれてよいこと、完全無欠の意である。

おそらく皆が考える完璧な人間とは理想的な人物なのだろう。

さて、なぜこんなことを問うかと言えば今回の主点に当たる人物、皇聖也(すめらぎせいや)は周りの者から完璧な人間と思われているからである。



容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能、品行方正。もうこれらの言葉だけで彼がどれだけ素晴らしいか分かるだろう。



まず容姿。髪は絹のごとく艶やかでまるでそれ自体が光を放っているのではないかと思える銀髪。肌は透きとおるように白い。

西洋の血が混じっているらしく彫りが深く中性的な容貌、宝石のような輝き常に憂いを帯びたその紅い眼をじっと見れば男女問わずたちまち虜になってしまうだろう。

身長も高くスラリとした体格はそのままモデルとして写真集に載っていそうだ。



成績は常にトップ。今まで100点でなかったのは採点ミスと満点が10点だったもののみというところから如何に彼の頭脳が突出しているかが分かるだろう。

実際、彼は高校生でありながらある教師が嫌がらせに出した世界的に有名な某大学の入試問題すらも楽に解いてみせた。

彼の通う学園では分からない問題があれば教師ではなく皇に聞け。とまで言われている始末である。



スポーツ万能。万能の表現は誇張表現でもなんでもない。彼が助っ人に入ったチームは種目に関わらず必ず勝つ。

個人競技に至っては彼の独壇場であり特に普段から走りこみを行なっているためか足の速さはそのままオリンピックに出れるのではないかと言われている。

また、武道の腕前も一流で女性にからんでいた不良達を瞬く間に地に沈めたのは有名である。



品行方正。彼は誰にでも分け隔てなく接し困っている人がいればすぐさま助けに向かう。

しかし何でも手伝うかと言えばそうではなく本人のためにならないと思えるような状況ではキチンとその旨を伝え努力させるなど誰からも好かれる性格である。

彼を妬む者がいないと言えば嘘のなるが彼に少しでも深く関われば妬みはそのまま尊敬へと変わってしまう。

そのような彼が学園での生徒会選挙で満場一致で生徒会長になるのは必然と言えよう。






このような彼に問題があるのだろうか?









家柄か?

否。

彼は「ゆりかごから墓場まで」がキャッチフレーズの大財閥、皇グループの御曹司である。

水産、農林、住宅、食品、自動車、航空、金融、医療、出版、情報などありとあらゆる仕事を行なう皇グループの名は子供ですら知っている。

そこの一人息子である彼にとってその卓越した能力を活かすには十分な場所だろう。


家族関係か?

否。

両親共に仕事のため忙しい身ではあるが家庭を疎かにすることはなく朝の短い時間でも聖也と会話をし交流を持っている。

聖也自身もそのことに不満は持っておらず忙しいにも関わらず自分との時間を作ってくれる両親のことを大切に思っている。


名前や姿が厨二臭い?

否。

高校生、厨二病や高二病を患う世代には珍しい名前はステータスである。そもそも彼を知る者からすればこれほど名は体を表すものはないと言える。



まるで神に愛されたがごとく非の打ちどころのない皇聖也。

ではやはり彼は完璧な人間なのか。

否。

完璧な人間など、理想的な人間など所詮は幻想である。どんな人間にも長所があるようにどんな人間にも欠点はある。

彼とて例外ではない。

では一体何が欠点かと言うと―――――――


















「ふああああフェイトたんかわいいよなのはたんかわいいよこんな妹ほしいよ抱きしめたいよハグしたいよ一緒のお風呂に入ってお義兄ちゃんと言われたいよ怖くて眠れないから一緒に寝てと言われたいよ義姉もほしいよ音姫姉ぇハアハアタマ姉ぇハアハア後ろから突然抱きしめられるとか頭撫でられるとかされたいよ甘えたいよ朝僕を起こしに来てくれる幼馴染もほしいよ黒髪ロングのストレートなら澪たんでもいいしちょっと薄幸少女な桜たんでもいいよスカートは膝にかかるくらいが丁度いいんだよ見えそうで見えないのがいいんだよスパッツはだめだよ邪道だよ今すぐ政府はスパッツを禁止してブルマを全国の女子に支給すべきだよそれで今見たでしょとか言ってほしいよチャイナチアガール黒ゴス白ゴス眼鏡ッ娘ツインテールポニーテールお下げ三つ編みアホ毛全部何でもどんと来い少女幻想だよ特にロリは心を潤してくれるリリンの生み出した文化の極みだよくんかくんかしたいよもふもふしたいよちゅぱちゅぱしたいよ小学生以下なら男の子でも構わないよむしろ男の娘でいいよああでも年上もいいよ先生寮母先輩熟女人妻未亡人白衣の研究員や女医虚乳も巨乳も関係ないよおっぱいに貴賎なしだよえらい人にはそれがわからないんだよツンデレヤンデレクーデレ素直デレどれもこれも最高だよ萌えるよ蕩れるよふぉおおおああああああああ!!!」


変態だった。



「ふうううぬぉおおおもう我慢出来ないいいいぃぃぇえあああああ!!!」



もうどうしようもないくらいに変態だった。











長くなってしまったがこの青年、変態という名の紳士である皇聖也のとある一日を追ってみることにしよう。

















朝6時。


昨晩は(一人で)お楽しみであったがいつも通り起きた彼は

「また今日も幼馴染の女の子は起こしに来てくれなかったか」

と悲しげに頭を振る。



余談だが彼に幼馴染はいない。というか幼馴染は突然現れるものではない。

叶わない願望に毎朝落胆しつつジャージに着替え外にランニングに出かける。

ランニングと言う名目ではあるが彼の真意は他にある。それは

「さあ、今日こそ転生トラックに轢かれるぞ」



お前は今すぐ不幸な転生を遂げた人達に土下座しろ。



罰当たりな事を口走りつつ人通りのない道をあえて走り始めた。




タッタッタッタッタッと軽快に道路沿いを走っていく。

目的は果たせていないが毎日走っているのは伊達ではなくそのスピードは衰えることなくテンポよく進む。

だがこんな理由で足が速くなりそして自分に勝った男がこんな理由で走っていると知ったら負けていったライバル達は最早立ち直れないだろう。


きょろきょろと視線を左右に振るが一向に目的の物が現れないのを確認するとがっくりと頭を下げながらも走り続ける。


と、そんな時、前ばかり注意している皇の後ろに突如誰も載っていないトラック――転生トラックが現れた。

トラックは静かに進み彼に気づかれることなくスピードを上げる。

距離を詰めるトラック、10メートル、5メートル、3メートル、1メートル―――!













くいっと交差点を曲がる皇聖也。




車は急に止まれない。

そんな標語の通り加速していた転生トラックは彼を追うことが出来ずに通り過ぎそのまま先の田んぼに落ちた。

再び聖也を追おうとしたトラックだが刀を持った青年によって一瞬で斬り裂かれその動きを停止した。


後ろで起こった騒動はイヤホンでギャルゲーのサントラ聞きながら走っている聖也には聞こえなかった。







7時。

城のように広大な屋敷に帰宅すると制服に着替え大広間に行き食卓に着く。

座るのは家族のみで彼らの後ろには屋敷のメイドや執事がいる。


メイドは皇聖也センサーには反応しない。幼いころから見慣れているメイドなど彼にとって当たり前のもので望んでいるようなものではないのだ。

いや、一応ドジっ子メイドならば欲しいとは思っているがここは由緒正しい皇家のお屋敷。

そこで働くメイドは誰もかれもが厳しい試験を乗り越えた優秀なメイドさんなのでそんな者はここでは働けない。


三つ星ホテルに勝るとも劣らない朝食を舌鼓ながら家族との会話を楽しむ聖也。

だが楽しく話していてもふと考えてしまう。

(ああ、転生すれば僕もファンタジーな世界で魔法使ってお姫様助けたりできるだろうにな)

因みに体を鍛えているのはそういう時のためでもある。


自分の考えに苦笑する姿を見た若いメイドは頬を赤らめる。

変態であることを除けば完璧な彼にはオリ主のごとくニコポが備わっている。




けっ!そんなに行きたいなら逝かせてやるよ!

とでも言わんばかりに聖也の真上にある照明が新品だと言うのにグラグラと揺れ始めたではないか。



落ちる証明。気づかぬ聖也。驚く周りの者達。ぶつかる――!








ぶれたと思えば照明は聖也の頭上から消えた。どこにいったかと思えばいつの間にか執事長であるベンジャミン吉田氏(62歳既婚)の手に収まっていた。

「いいですか皆さん。皇家に仕える以上この程度のトラブルで慌ててはいけません。

旦那様や奥方様、そして聖也様に快適で優雅なひと時を過ごしていただくためにもどんなことにも対処できるようにならなければなりません」

さすが執事長、とうなずく他のメイドや執事達に注意しながら証明を手品のように処分するベンジャミン吉田氏。

窓の外から様子をうかがっていた刀を持った青年はそんな馬鹿な、と開いた口がふさがらなかった。











8時半。


食事を終えた皇聖也は彼の学園へと向かう。

リムジンで。

さすが御曹司。本人は皆と同じ徒歩で構わないと言っているのだがこればかりは許可が下りなかった。

だが屋敷の者達は「さすが聖也様。市井の者と同じ目線にあえて立とうという志。素晴らしいです」と感動している。

もちろんこの変態がそのような真面目なことを考えているわけがない。

「まったくこれでは口にパンを咥えた遅刻しそうな女の子とぶつかるというイベントが起きないじゃないか。

 僕はいつだってぶつかってもいいように常にジャムを持ち歩いてるというのに」

これだよ。

朝走るのも登校時にはトラックに轢かれないからという理由からである。



だがまあそのへんは彼も無理な願いだと分かっているようでリムジンに深く腰掛け思いにふける。

(きっと僕には登校時にはイベントが起きない運命なんだ。そう運命…うんめい…fate…)

「ふぇいとおおおおおおお!」

黙れ。

幸か不幸か彼の乗るリムジンは防音はしっかりされているので外にはおろか運転手にも奇声は届いていない。



まっすぐ進むリムジン。そこに面目躍如と転生トラックが猛スピードで突っ込んでくる。

刀を持った青年は無関係の人間も乗るリムジンに攻撃を仕掛けるとは思っていなかったため己の油断を呪いながらも防ごうと駆けつける。

だが間に合わない。次の瞬間リムジンとトラックは衝突しバラバラに砕け散った。














トラックだけが。





ええええええ?なんでなんで?とトラックに意志があれば思っただろう。

残念なことにこのリムジンは普通のリムジンではない。皇グループの技術力の粋を集めて作られたシェルター並みの強度と安全性を兼ね備えたスーパーリムジンである。

当然、中にいる聖也にはぶつかったことすら分からない。



「せいばああああああ!」

そっちかよ。

二度目の挑戦も無残に終わった転生トラックの残骸は泣いているように見えたと青年は思った。



9時。

授業開始である。

何やら隣の席に見慣れない竹刀袋を持った学生がいたが

「なんだよ。俺が誰か分かんないのか。“クラスメイトの顔ぐらいおぼえてるだろ”」

と言われた後はそういえばそうだったと納得して授業を受けた。







12時正午。

昼食の時間である。

授業中何やら窓側に座る学生が何度か立てかけた竹刀袋を振り回すということを行なっていたがその度に
「“なんでもありません”」と言われた教師やクラスメイトは何故か納得して何事もなかったかのように授業は進んだ。



「なあ皇、お前現状に不満があるのか?」

お昼を食べに食堂に行こうとしていたところその学生が聖也に質問をしてきた。

「君は僕が不満を抱えていると思うのかい?」

「ああ。何か悩みみたいのがあるように見えてな。なんだったら話してくれないか。もし良かったら力になるぜ」

聖也は感激した。自分の悩みなど誰にも打ち明けたことは無かった。きっと誰も僕の言うことなんか聞いてくれないと考えていた。

でも今こうして聞いてくれる友(仮)がいたことに喜びを隠せない。



何だ聖也悩みあんの?俺も相談に乗るよ、と他にも何人か集まってきてくれた。

これはもう自分の悩みを伝えるしかないとその本音を口にする。




「実は二次元みたいな女の子ときゃっきゃっうふふしたいんだ」



こいつマジで言いやがった。

普通こんなこと言ったら周りから白い目で見られること間違いなしだろう。










「あはは聖也ったら冗談ばっかし」

「お前がそういうこと言っても現実味ないっての」

「皇ってたまに変なこというよねー」

周りも普通じゃなかった。

唯一隣の席の学生だけはそれを聞いて呆然としていたが他の皆は一笑に付して各自のお弁当を片づけ始めた。



「え?いや僕は本当n「す、皇君!」え?何?」

邪魔な男子がいなくなったのを見計らってクラスメイトの女の子が手にお弁当を持って近寄ってきた。

「あ、あのこれ、お弁当作ってきたんだけど、その、良かったらどうぞ」

女の子は学園内でも上位に入るであろう可愛さを持つ女の子である。問題なくもらうことにする聖也。

「ありがとう。それじゃいただくね」

話を中断されたがそれはそれと蓋をあけると中々おいしそうなおかずが詰まっている。

横でその光景を微笑ましく見ていた隣の席の学生だがお弁当の中に急に怪しげな光が灯ったのを見ると表情を一変させ聖也を止めようとする。

「おいそれを食べ「え、ああ食べたいの。しょうがないなあ一口上げるよ」むぐっ」






あーんされた。よりにもよって怪しげな食材をピンポイントで。

口の中に広がるこの世のものとは思えぬ衝撃に意識が飛びそうになる。


駄目だ、俺は刀と共に生きると誓ったんだ、こんなところで死ぬわけにはいかない、と何とかギリギリのところで耐える青年。



ビクビク痙攣している彼の横でもぐもぐとおいしそうに食べる皇聖也に女の子が熱い視線を注いでいた。











午後2時。

体育の時間。

今日の種目は野球である。聖也はピッチャーで四番。何とも分かりやすい。



「皇く~ん。頑張って~」
「田中のボールなんかかっ飛ばしちゃえ」
「ああ私の王子様……」


周りからは見学している女の子がキャーキャー言いながら声援を送っている。



「皇ー!好きだー!結婚してくれー!」
「俺…お前になら抱かれてもいい…」
「ああ僕の王子様……」


何人か男の子も混じっている気がするが気にしない気にしない。



「いくぜー皇!」

相手のピッチャー田中の鍛えられた腕からものすごい勢いでボールが投げられる。

だがコントロールには自信があるはずのボールはまるで“神の見えざる手”に動かされたかのようにキャッチャーミットではなく聖也の頭目がけて飛んで行った。

聖也も突然のことに動きが止まる。

キャッチャーをやっていた隣の席の学生は何とか聖也の前に出て捕球しようとする。

これは逝ったか――――――






幸せの象徴、鳩がたまたまボールの前に飛んできて聖也の身代わりになるようにボールにぶつかった。

パッと舞う白い羽。

ポトリと落ちるボールと鳩。

慌てて鳩に駆け寄る皇聖也。

「ああなんてことだ。大丈夫かい?すぐに助けてあげるからね」

動物にも親身になって応急処置を施し急いで運ぶ聖也はまるで聖人のようだったとクラスメイトは後に語った。

もちろんこの変態がそのような殊勝なことを考えているわけがない。

(鶴の恩返しって何気に萌えるよね)

鳩。君死にたもうことなかれ。こんな奴のためにだけは死ぬな。













午後4時

放課後。

授業で何度か指されたが全て完璧な回答で返し羨望のまなざしをいつものように受けた皇聖也。

彼はきっと将来ノーベル賞か何かを取るのだろうと周りは噂する。

もちろんこの変態がそのような(ry

「まったく。いつ何処かに飛ばされても何でも出来るようにあらゆる知識を学んでいるのにこれじゃ何のために勉強しているかわからないよ」

少なくともそんな理由で勉強する奴はお前くらいだ。

だがこんな理由で頭が良くなりそして自分に勝った(ry



僕はいつ呼ばれても構わないのに、と帰ろうとした時、先ほどお弁当の女の子が話があるから来てほしいと言っていたのを思い出しそちらへ向かう。






場所は体育館裏。

時は夕暮れ。

頬を染めた女の子。

その子はお昼にお弁当を作ってきてくれた。

さあここから導き出される答えは何だ?



A 愛の告白
B 決闘の申し込み
C お金貸して
D その命俺が貰い受ける



「そ、その命、私が貰い受けます」



間違えた。



「わ、私、皇君のことが好きです。私と付き合って下さい!」



Aが正しい。

さあどうする皇聖也。純朴そうな女の子の気持ちに答えることが「ごめん」って早いなおい!


「僕好きな子がいるんだ」

「……そっか。それならしょうがないよね。…ねえ、もし良かったらその子の名前教えてくれないかな?」

応援するから。と振られたにも関わらず健気にふるまう女の子を見て聖也は今夢中の女の子の名を告げる。




「深夜一時に放送しているアニメに出てくる音無メロンちゃん」



あまりの事実に石化した女の子に「だからごめんね」と伝えると今日は迎えが来れないから歩きだったなとすたすた去って行った。

そのため女の子に暗い闇が纏わり着いたことに気がつかなかった。










徒歩で下校という珍しい機会なのでゆっくりと歩いて帰る皇聖也。

当然考えてることは分かりきってるので割愛。



そんな聖也を狙う魔の手が!




トラック?二度も失敗したのにもう出番なんざないよ。


先ほど振られた女の子である。

手には包丁。

眼のハイライトは消え、どす黒い瘴気のようなものを放っている。

俗に言うヤンデレ。

「なんでわたしじゃだめなのわたしよりあにめのほうがいいのそんなのだめだよいやだよそんなすめらぎくんなんかいらないよううんきっとあれはすめらぎくんににたにせものなんだほんものはそんなこというはずないものにせものはけさなきゃケさナきゃケサナキャケサナキャ  ケ  サ  ナ  キ  ャ」



怖い。



だがこの子は普段こんな子ではない。まるで何者かに操られているかのようだ。

「殺れる。私なら殺れる。その命私が貰い受けます」

やっぱり正解はDだった。





ダッと勢いよく聖也めがけて走りだす女の子。

両手でしっかり持ち背中に深々と刺そうとする。

ヤンデレは聖也の守備範囲にばっちり入っているので彼も本望だろう。













だがやはりというか予想通りその刃は聖也には届かない。

後ちょっとというところで足元の石につまずき転ぶ女の子。

刃物を持ったまま転んだら下手すれば女の子に刺さって死ぬ。

女の子が聖也を殺そうとしていたのを止めようと前に跳んできた刀を持った青年は思わず女の子を抱きとめた。



「おい。“しっかりしろ”」

女の子を見つめて話す青年。

途端に瘴気、じゃない、正気に戻った女の子は自分が見知らぬ青年に抱きかかえられていることに赤面する。

「大丈夫か?」

優しく話しかけられ、失恋とその他もろもろで情緒不安定だった女の子は次の恋に移ることにした。

「好きです!付き合って下さい!」
「は?ちょっと待て」
「駄目ですか?そうですよね。私なんかどうせアニメキャラに負けるような子ですもんね……」
「いやだから落ち着けって」
「きっとこの人も私よりアニメのほうがいいって言うんですね」
「言ってねえ言ってねえ」
「そんなの嫌です駄目ですそんな人は粛清です」
「だから人の話をうわなにをするやめ…」

どうやら元からヤンデレの気質はあったらしい。






「は~あ~。何でもいいからヒロイン的な子のドタバタが見たいな~」

聖也、後ろ!後ろ!








夜。

結局あの後は何事もなく帰宅し夕食を食べた後は早々に部屋に戻りDVDやPCゲームを始める皇聖也。

内容は言うまでもないだろう。

「ハアハア、ごめんね18時間24分17秒も君のことを放っておいて寂しかったかいもうそんなにすねないでさあデートしようか今日はどこ行く?うん?ああ僕も愛してるよ愛してるよ愛してるよおおおおおおふぉおあああああ」

変態、絶好調である。

これを寝るまでずっとこのテンションで続けるのだから恐ろしい。

「ああストレッチパワーが、ストレッチパワーがたああまあるううう!エマージェンシーエマージェンシー!僕のテポドンが抑えきれないいいいいぃぃぇええああああ!」

もうやだコイツ。



数時間後。

賢者タイムに突入した聖也はベットに入りしくしくと枕をぬらす。

別に冷静になって自分の言動を振り返って死にたくなるとかではない。

「ぐすん。僕はこんなにも愛しているのにどうしていつも君達は同じ答えしか返してくれないんだい。ああ君達と同じ世界に行ってラブラブラブラブドッキュンしたいよ」


だからさせてやろうとしてんだろうが。と幻聴が聞こえたような気がしたが気のせいだろう。

そんなことより驚くべきことに宇宙にさ迷う小惑星が何故か急に地球の、具体的には皇家に向かって飛んで来ようとしているではないか!

もし落ちれば皇家どころか町一つ吹き飛ぶだろう。

そんなことはさせない、と皇家の屋上に立つ刀を持った青年。

今回ばかりはまずいかもしれないと覚悟を決め刀を握る。






ところで場所は変わるが某合衆国での大統領宅。

「OH NOー!」

「ドウシマシタプレジデント?」

「マチガッテ核ミサイル発射シチャイマシタ。テヘッ」

「チョッ?アンタナンバショットネ!」

「オウ、ソーリー、デモ心配ナカッタヨウデース。ドウヤラ宇宙ニムカッテ飛ンデッタヨウデース」

「ソレナラ問題ナイデスネー」

「「HAHAHAHAHA」」

全然良くない。大問題である。

だが今回に限ってはそれが功を奏した。



宇宙に向かった核ミサイルは狙い澄ましたかのように隕石と衝突。粉々になった小惑星のかけらは綺麗な流れ星となって降り注いだ。

もうそんなことあるのか、と流れ星を見つめる青年だったが不意に後ろから殺気を感じその場を離れる。

「ほう、今のをよけますか。中々の手練れのようですな。ですが誰であろうと関係ありません。この屋敷に侵入する者は須らく排除します」

両手にナイフを構えたベンジャミン吉田氏。先ほど青年が立っていた場所には数本のナイフが突き刺さっている。

「おい。勘違いするな、俺はここの息子を「聖也様が狙いか!」ろうとってうお、なんだこの爺さん滅茶苦茶速え!」

一気に間合いを詰め青年と鍔ぜりあう老執事。

「待て!話を聞け!」

「問答無用!」




死闘は一晩に及んだ後ようやく誤解も解けお互いの実力を認め合い熱く握手を交わした。





「だめだ。もうコイツ狙うとこっちが疲れる」



どこかでそう呟いた神秘的な存在がいたそうな。









と、これがあくる日の皇聖也に起こった出来事をまとめたものである。



結論としては一つ。皇聖也は変態である。

だがそれ以外は完璧である。全てのステータスがMAXのようなものである。

つまり、











幸運値もMAXである。




「はあ、今日も転生できなかったなあ」


本人的にはおおいに不満のようだが。



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また馬鹿な作品を書いてしまった。

もうネタがないから転生トラックはこれで終わりだと思います。

因みに一番書いてて楽しかったのはベンジャミン吉田氏だったり。



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