ピロンピロンピロンピロン。
聞きなれない通知音にクロロは首を傾げた。
時計は深夜2時を回ったところだ。
件の子供はとりあえず締め出すわけにも(けして、けっして締め出したのがリオ=クレイヴにバレてお仕置きという名目で色々されてまた黒の歴史が一ページ・・・とかなるのを恐れたわけではない)いかず、食事を与えて寝室のベッドに寝かせてある。
ふむ、とひとりごちてからクロロはソファの上で本体を震わせている携帯に視線を落とした。
ピロンピロンピロンピロン。
"非通知着信"という黄緑色の文字がディスプレイに表示されている。
ピロンピロンピロンピロン。
つっ・・・と、嫌な汗が彼の背中を流れた。
いや、まさか、そんなはずない。
ピロンピロンピロンピロン。
というか、何でこの番号がもれているのか。
シャルナークに頼んで通常の5倍ぐらいはプロテクトをかけているはずなのに。
ピロンピロンピロンピ・・・。
放置したために留守電に切り替わったのであろう携帯にホッと息をついて、視線を読んでいた本に戻した。
まったく持って心臓に悪い。クロロは苦く笑った。
世の中のいたずら電話におびえる女性の心理がちょっとわかったような気分だ。
ピロンピロンピロンピロン。
クロロは苦く笑ったまま、ピシリと固まった。
ピロンピロンピロンピロン。
世の中のいたずら電話におびえる女性の心理がちょっとわかったような気分どころではない。
現在進行形で世の中のいたずら電話におびえる女性の心理を満喫中だ。
嫌な満喫である。
ピロンピロンピロンピロン。
ゴクリ、とクロロは生唾を飲み込んだ。
ピロンピロンピロンピロン。
大体において、こういう電話は相場が決まっている。
ピロンピロンピロンピ・・・。
こういう電話は、どんなに無視しても、どんなに取ろうとしなくても。
ピロンピロンピロンピロン。
取るまで必ず鳴るのである。
クロロは本気で頭を抱えた。
抱えたがこのまま無視してもきっと出るまで鳴り続けるに違いない。
一瞬この携帯を粉砕することも考えたが、それでは団員のメモリもろとも消去してしまう。
ああ、何でバックアップをシャルナークが進めてくれたときに取らなかったんだろう、なんて後悔しても後の祭り。
クロロは意を決して携帯を摘み上げた。
指が震えているように見えるのは、きっとバイブレーションのせいだということにして、クロロはゆっくりと通話ボタンをおす。
『久しいなクロロ=ルシ』
ピッ!
ツーッツーッツーッ
脊髄反射だった。
あの少し低めの声が聞こえた瞬間、目の前が真っ白になって気がついたら電話を切っていた。
何だろう、なんていうんだっけこういうの・・・ああ、トラウマか。
クロロは若干、遠い目をした。
ピロンピロンピロンピロン。
しかし現実は無常である。
クロロは何だが視界が水の中にいるみたいに歪んでいる気がしたが、きっと気のせいだということにして、通話ボタンを押した。
『電波でも悪かったのか?』
「っ・・・ああ、そうみたい、だな!」
『・・・?風邪か?少し声がかすれてるぞ』
「気のせいだ。気に、するな」
クロロは天井を見上げた。
見上げないといろいろなものが目から出て行ってしまう気がした。
主に、男としてのプライドあたりが。
『すまないな。またちょっとコネを使って所在と電話番号を調べさせてもらった』
「・・・」
『・・・怒ってるか?』
当たり前である。
「無駄話はしたくない・・・用件は何だ」
『相変わらずツレないな・・・。まぁ、それもまたお前の魅力のうちではあるが』
「御託はいいといっている」
『本当にツレないなお前は。切なくなるよ』
などといいながらも電話越しでもその声が笑いを含んでいるのがわかる。
クロロは天井を見ながら歯を食いしばった。
イライラしてるのと、悔しいのとで胃と肺の中間辺りがチクチクと痛む。
『まあいい。スーラは、無事にたどり着いたか?』
「・・・ああ」
『そうか。今はどうしてる?』
「寝ている」
『・・・そう、か』
電話越しに伝わる安堵。あれ、とクロロは首をかしげた。
一瞬の違和感がクロロの全身を駆け巡るがしかし、その違和感の正体がわからない。
クロロは天井を見上げたまま眉間にしわを寄せた。
『・・・クロロ=ルシルフル』
「なんだ」
『折り入って頼みがある』
「断る」
『即答か。参ったな』
「・・・大方、スーラを預かれとか言い出す気だろう」
『・・・あたりだ』
双方でため息が漏れた。
「・・・なぜ、俺なんだ」
ポツリとつぶやかれた言葉は、5年ほど前のあのときの疑問と同じで。
しかし、返ってきた声は違う答えを出した。
『お前だからだ』
「・・・」
『・・・私はなクロロ。お前が思っている以上にお前を愛している。たぶんな』
「・・・意味わからん」
『本当に?』
その声は笑っていて、クロロはさらに眉間のしわを深くした。
『スーラは必ず迎えにいく。だからそれまで・・・頼む』
クロロは盛大なため息をついてから「わかった」と、低く地を這うような声でつぶやいた。
パクノダは今回の"団長からの個人的呼び出し"について、よく事態が飲み込めていなかった。
幻影旅団が結成してから今日までで7年ほど経つが、基本的に旅団メンバーはバラバラに活動しているし、そもそも組織化はしているものの、トップがいわゆる放任主義であるために何事か有事があるときでも、原則的に"暇なやつはこい"という命令が下る。そんな中でおそらくは始めての、団長権限を使用した絶対命令での個人的呼び出しだった。
まったく、どんな厄介ごとに足を突っ込んだんだか知らないけれど・・・――と、パクノダは軽くため息をついて指定された町の、ごくごく普通のアパルトメントのチャイムを鳴らした。
ピンポーンと、涼やかとは若干いいがたい電子音がドア越しに聞こえ、続いてパタパタパタ、と小走りに走る足音。
と、ここでパクノダは違和感に気がついた。
あのクロロが果たして、パタパタと小走りに走るだろうか。
パクノダはそのさまを想像しようとしたが、どういうわけかモザイクがかかってしまう。これがいわゆる想像不可というやつだろうか、とまで考えたところで、ガチャコ、と内側から鍵の開く音がした。
「あいー!だれー?」
いや、あなたが誰よ・・・――という言葉を、パクノダは何とか飲み込んで、ニコッとなるべく人好きのする笑みを浮かべた。
住所は間違いなくここ。何よりも見知った気配がひとつ、部屋の奥にある。
と、いうことは、だ。
今回の個人的呼び出しは、この目の前の子供関連ということに必然とつながる。
「こんにちは、私はパクノダよ」
「こんにちは!スーラです!」
ニカッと笑う子供は無警戒。
ふむ、と彼女はひとつうなずいた。
これだけ無警戒であるならば記憶を探るのはたやすいだろう。
玄関先ではあるが、先に通してもらって接点を再度作るよりこのままほんの少しだけ情報を得たほうが自然だ。
「えらいわねぇ、ちゃんと挨拶できるのね」
笑顔のままパクノダはスーラと名乗った子供に手を伸ばし、頭をなでた。
しばしきょとん、と目を丸くした子供だがすぐに「ほめられた!」と笑う。
パクノダはスッと目を細めた。
「スーラ、あなたは何歳?」
「んっと、よんさい!」
「そうなの。お父さんとお母さんは、いまどうしてる?」
「えっとねー、おとーさんはいまごほんよんでてねー?おかーさんはねー」
その瞬間流れ込んできた記憶たちにパクノダは一瞬だけ目を見開いて、だがしかしすぐに「ああ、なるほど」と笑顔に戻った。
スーラはいまだに母親の話をしているが、パクノダにとってはそれはもう子供の記憶で確認したことなので右から左に流して、適当に相槌をうつ。
――・・・クロロ、あなたこれ、文字通り自分でまいた種じゃないの・・・。
一瞬このまま踵をかえそうかと、パクノダは本気で思った。
<言い訳>
意外と好評だったので、ちょっと罠かもしれないとビクビクしつつ2話目投稿です。
電話の話は一回没にしたんですけど、こっちのほうがクロロがかわいそいやなんでもない。脊髄反射で電話を切るクロロと、上を向いて歩こう状態のクロロがかけて満足はしている。うん。
一応WEBの年表とか見て時間系列の整理をしてるんですけど、若干誤差があります。気にしたら負けです(オィイイイ)
ちなみに計算するとスーラはクロロが17,8のときの子ですね。
あれ、あんまりびっくりするような年齢でもなかったな・・・。
話数がたまったら総題を『幸せ家族計画』にしようかなと思案中です。ネーミングセンス・・・。
<感想掲示板返信>
ポチ◆ca4238a0さま>>
アハハーデスヨネー。
あ、やっぱ斬新なんですか。新ジャンルってやつですねわかりm(ry
お褒めに預かり光栄ですっ(*`・ω・´*)-3ムッフー
ななし◆c843f86bさま>>
やっぱり新ジャンルを開拓してしまったようですね・・・。
ありがとうございます、生ぬるい目で見守っててくださいませです。
real◆7d1ed414さま>>
どんまいっていわれると逆に落ち込むことってありますよね。
だがそれがイイ。
CB◆8a58fa97さま>>
スーラちゃんのイメージはじつはよつばと!のよつばだったりします。
将来的にはビスケちゃま戦闘モードですけどね(結局・・・!)
2話目にして遠い目をしたクロロ爆誕。
ハシャ◆9b5e47d7さま>>
どっちにしろ彼のガラスのハートはブレイクですね(アッー)
"シャルナークに一目ぼれして追いかけまわす幼女"・・・だと・・・!?
<<質問その後>>
クロロ「・・・(ここはボケてカルピ○の原液を渡すところだろうか。いや、まて何故俺がこんなことで悩む必要が)・・・シャルに直接聞いて来い」
スーラ「もうきいたー。そしたらねー?おとーさんにいいたほうがはやいよっていわれた」
クロロ「・・・(やっぱりカ○ピスの原液を・・・)」
(そして後方では話の成り行きをニヤニヤ見ているリオとシャルが。)
通行人◆0e16e99cさま>>
楽しんでくれているようで何よりです。がんばります(`・ω・´)
通りがかり◆0390c55bさま>>
ご期待に添えているかどうかはわかりませんが、2話目です。
しえ◆a42c0386さま>>
あなたがサドkいえなんでもありません。
ごきたいに添えるようなクロロが生産できるようがんばります(えっ)
ニャン子吃驚平城京◆e4a4d4a0さま>>
ドンマイっていわれると逆に(ry)
生ぬるい目でみてやっててください。