1997年12月、ついにソウルが陥落した。
ソウル防衛に力を注いでいた各国軍は、防衛の失敗により戦力を大きく減少させる事になり、
その後のBETAの侵攻を防ぐ余力が残されていなかった。
これを受けて、帝国は前線への補給よりも本土防衛のために国内の戦力増強に力を入れ始める事になる。
それに合わせるように前線では、『朝鮮半島から軍が撤退するのでは?』と噂がされるまでになった。
そして、ソウル陥落から僅か1ヵ月で戦線を300km後退させることになった翌年の1月、朝鮮半島撤退作戦(通称:光州作戦)の実施が、
各部隊へ通達されることになった。
その作戦は、軍事力を温存したい国連軍の意向もあり、軍関係者の避難が優先された作戦であった。
それに対して、まだ多くの民間人を残している現地の国及び、それを支援する大東亜連合諸国は反発し、独自に民間人の避難を行っていった。
この様な追い詰められた状況になっても、人類は一つにまとまる事は無く、各国の対立を浮き彫りにするのだった。
その両者の間に挟まれることになった日本帝国は、国連軍の作戦を指示しながらも大東亜連合の民間人避難に支援を行うという、
玉虫色の対応を取ることになる。
この頃のロンド・ベル隊は、長春防衛戦からソウル防衛戦の半年ほどの間にの戦果が認められ、
俺が正式な中尉になり武田 少尉と佐々木 少尉の二人も中尉に昇任していた。
俺の昇任に際し、斯衛軍からは本土へ戻るように指示があった為、そんな暇は無いと言って俺が正式な異動願いを提出するというごたごたが起こったが、
斯衛軍司令官である紅蓮中将の口添えがあったおかげか、俺は速やかに斯衛軍から帝国軍へ所属を移す事と成功していた。
斯衛軍という安全な殻を得るとうメリットは、元々手に入れるつもりが無かったものだったので、俺はあっさりと皆と戦う事を選択したのだ。
また、手放しで喜べる理由ではなかったが、戦いの中でロンド・ベル隊が待ち望んでいた人員の補充も行われる事になった。
ピョンヤン陥落時に壊滅状態になり、不知火4機が生き残るのみとなっていた第11独立戦術機甲試験中隊と合流する事ができたのだ。
それを受け、充足率が80%を超えたロンド・ベル隊を指揮するために、俺はソウル防衛戦の直前に臨時大尉の階級を得る事になる。
臨時とはいえ大尉への昇進に対して、周りの隊員は喜んでいるようだったが、自分の能力が認められたというより、
人員の不足が主な昇進理由である事を考えると、複雑な心境になってしまい素直に喜ぶことができなかった。
ソウル陥落以後の戦闘では、人類側が圧倒的に不利な状況に追い込まれていたため、
ロンド・ベル隊が救援に駆けつけても多くの部隊が壊滅していくという結果が続くことになる。
そして、常にその戦場で最も危険な場所に配置されることが多かったロンド・ベル隊は、いつしか『死の鐘』と呼ばれるようになり、
味方から不吉の象徴の様に言われるようになるのだった。
ロンド・ベル隊に合流した第11試験中隊の生き残りは、中衛2人と複座の偵察装備を含む後衛3人,合計4機の不知火だった。
俺は合流後、第11試験中隊で運用されていた偵察装備についての扱いに頭を悩ますことになったが、偵察型とエレメントを組む俺との相性を考え、
第11試験中隊のオペレーターだった中里 優希 少尉と武田 中尉を、複座の偵察装備に乗せて運用することにした。
これにより、武田 中尉は戦術機の操縦に専念することができるようになり、ロンド・ベル隊は人数が増えたことでようやく、
中隊としての機能を発揮できる陣形を取る事ができるようになったのだ。
現在編成している部隊陣形は以下のようになっている。
ポジション
ベル1 御剣 信綱 臨時大尉 後衛→後衛兼中衛 (砲撃支援装備)
ベル2 武田 香具夜 中尉 後衛兼中衛→中衛 (支援偵察装備)
ベル3 佐々木 浩二 中尉 前衛 (突撃前衛装備)
ベル4→5 宮本 隆志 少尉 前衛 (強襲前衛装備→突撃前衛装備)
ベル5→7 前衛 (強襲前衛装備)
ベル6→8 竹下 少尉 前衛兼中衛→前衛 (強襲掃討装備→強襲前衛装備)
新加入
ベル4 黒木 重基 中尉 中衛 (迎撃後衛装備)
ベル6 後衛 (強行偵察装備→打撃支援装備)
ベル9 中衛 (強襲掃討装備)
ベル10 後衛 (制圧支援装備→打撃支援装備)
マザー・ベル 中里 優希 少尉 CP
装備内容
突撃前衛 装備 87式突撃砲×1, 74式近接戦闘長刀×2, 65式近接戦闘短刀×2, 92式多目的追加装甲×1
強襲前衛 装備 87式突撃砲×2, 74式近接戦闘長刀×2, 65式近接戦闘短刀×2
強襲掃討 装備 Mk-57中隊支援砲(57mm砲弾)×1, 87式突撃砲×2, 65式近接戦闘短刀×2
迎撃後衛 装備 87式突撃砲×1,74式近接戦闘長刀×1, 65式近接戦闘短刀×2, 92式多目的追加装甲×1
砲撃支援 装備 87式突撃砲×1, Mk-57中隊支援砲(90mm砲弾)×1, 74式近接戦闘長刀×1, 65式近接戦闘短刀×2
打撃支援 装備 Mk-57中隊支援砲(90mm砲弾)×1, 87式突撃砲×2, 65式近接戦闘短刀×2
支援偵察 装備 Mk-57中隊支援砲(57mm砲弾)×1, レドーム×2, 情報処理用大型バックパック, 65式近接戦闘短刀×2
部隊陣形
前
ベル5→■ ▲←ベル3(佐々木 中尉)
ベル8→■ ▲←ベル7
ベル9→△
ベル4→△ ● ●←ベル1(御剣 臨時大尉)
↑ベル2(武田 中尉), マザー・ベル(中里 少尉)
ベル10→□ □←ベル6
後
数ヶ月間行われていたMk-57中隊支援砲の運用試験だが、最終選考まで残されたのは57mmと90mm砲弾を使用するタイプであった。
57mm砲弾を使用するMk-57中隊支援砲は、中衛が装備することを考えた時取り回しに難があるとされたが、
前衛が空けた穴を拡大するために必要な面制圧能力を十分に発揮した。
そして、90mm砲弾を使用するMk-57中隊支援砲は、57mm砲弾仕様より重たくなったが単発でもBETAの動きを止めることのできる威力(ストッピングパワー)が、
後衛から援護を行うときに有効な兵装であるとされた。
これらのMk-57中隊支援砲は、他の試験中隊での運用データとも比較検討され、後に銃身がやや切り詰められた57mm砲弾仕様が98式中隊支援砲,
90mm砲弾仕様が98式支援砲として帝国軍に制式採用される事になる。
この98式中隊支援砲と98式支援砲は、帝国軍では主に後衛の兵装として運用されることになって行く。
それに対して現在のロンド・ベル隊では、取り回しがしやすいように現地改修で2/3ほどに銃身が切り詰められ、狙撃を行う際に用いられる
二脚(バイポッド)が外された57mm砲弾仕様を中衛の装備とし、通常の90mm砲弾仕様を後衛の装備として運用していた。
これは機動力を重視する俺の部隊運用により、制圧支援装備で使われる92式多目的自律誘導弾システムを有する機体が存在しないため、
打撃力を補う事を目的とした苦肉の策だったのだが、この装備と隊員たちの相性は良かったようで、思った以上の戦果を挙げることになった。
1月下旬、光州作戦の発動にあわせて大隊規模の戦術機試験部隊が、ロンド・ベル隊と戦闘を共にする事になった。
その部隊の正式名称は第03独立戦術機甲試験大隊と言い、撃震・改修型36機により構成され、正式に組織されてから僅か3ヶ月という部隊だった。
プロミネンス計画に参加していた撃震・改修型は、半年に及ぶユーコン基地周辺での試験運用を終え、
大隊規模での実戦運用が行える段階まできていたのだ。
そして今回は、撃震・改修型の製造元である御剣重工の要請で、第03独立戦術機甲試験大隊はロンド・ベル隊の要請を最大限受け入れる形で、
運用されることになっていた。
これは、事実上第03独立戦術機甲試験大隊がロンド・ベル隊の指揮下に入ることを意味していた。
通常はこの様な事を行うことは無いのだが、撃震・改修型が今まで帝国軍で運用したことが無いタイプの戦術機である事と、
俺が撃震・改修型の初期段階から関わり、運用方法を煮詰めていた事が表向きの理由とされた。
実際のところは、俺が手持ちの戦力を増やすことで、光州作戦の悲劇として原作で書かれていた出来事を、
未然に防ぐことができるのではないかと考えた事が一番の原因だった。
俺がここで想定していた光州作戦の悲劇とは、光州作戦に参加していた彩峰中将率いる帝国軍が、
脱出を拒む現地住民の避難救助を優先する大東亜連合軍の支援のために所定の位置から動いた事で、
結果的にその隙をBETAに突かれる事になり、指揮系統が混乱した国連軍が多くの損害を被る事になるという内容の事件である。
その後、国連軍の指揮下にあるはずの帝国軍が勝手に動いたことが悲劇の原因であるとされ、
国連からの抗議に対し日本帝国政府は彩峰中将の処罰を行う事になった。
その処罰がどのようなものであったのかは詳しく分からないが、結果として彩峰中将は歴史の表舞台から去ることになる。
そして、彩峰中将は帝国軍の中でも人気・実力共にある人物だっただけに、この処罰に反発する者も多く、
それが国連軍への不信と後の軍事クーデターへ発展することになって行くのだ。
この事件について、彩峰中将へ伝え説得する術を持たず、現地住民の避難救助に失敗した場合のマイナス要素を補う方法を思いつかなかった俺は、
一時的に戦力を増強し不測の事態に対応するという、強引な事に手を出すことしかできなかったのだ。
俺は強引なことをした事への謝罪と今後の打ち合わせのために、大隊の指揮車輌に顔を出すことになった。
「初めまして、帝国軍技術廠所属 第13独立戦術機甲試験中隊 中隊長の御剣 信綱 臨時大尉であります。」
「同じく、第13独立戦術機甲試験中隊の武田 香具夜 中尉です。」
「私が、帝国軍技術廠 第03独立戦術機甲試験大隊 大隊長の秋山 好孝 少佐だ。
そして、私の後ろにいるのが・・・。」
「副隊長の栗林 忠典 大尉です。よろしくおねがいします。」
俺たちの敬礼に対して、秋山 少佐は柔和な笑みを浮かべて答礼を行い、簡単な自己紹介を始めた。
この秋山 少佐は、大陸で帝国軍の戦車部隊を率いて幾度となく戦闘に参加し、少なくない戦果を上げている人物で、
その地形を生かした巧みな待ち伏せとBETAの動きを読んでいるかのような退却は、芸術的とさえ表現される優れた指揮官である。
特に有名なのが、ある戦闘において待ち伏せに適した地形が無いことを覚った秋山 少佐(当時大尉)は、工兵部隊に依頼し人工的に土塁を造り、
その場所でエンジンを切り伏せいていた戦車中隊が、通過して行く突撃級の群れに対して背後から強襲し、多大な戦果を上げたという戦いだ。
この戦果は、戦車部隊が受ける被害が甚大だった欧州を中心に、東洋の奇跡とも言われ多くの戦車兵を勇気付けることになった。
御剣重工は、そんな秋山 少佐の能力と戦術機の適正試験で僅かな差で落ちたという経歴に目に付け、帝国軍との交渉により
帝国軍の戦車部隊から引き抜き、撃震・改修型の国内での試験運用と部隊訓練を指揮させることにしたのだ。
俺たちは、互いの部隊の状況を再度確認した後、最も重要な指揮権の問題へと話を移していった。
「強引な要請により、我が隊の事実上の指揮下に入る事になった件・・・、
ご不快とは思いますがご容赦下さい。
また、階級が下の私からは要請という事になりますが、
実際は命令として受け取り行動していただきます。」
「兵の命を預かる者として、いくら企業側からの要望を受け入れるようにと命令を受けていたとしても、
受け入れられないこともあるが・・・。」
話が指揮権の問題へと移ると、秋山 少佐は静に俺を見つめてきた。
この表情からは感情を読み取る事が出来なかったが、場を支配する空気からは秋山 少佐が相当怒っている事が感じられ、
いざと言う時は要請を無視すると語っているようでもあった。
「最も、撃震・改修型は戦術機といっても戦車に近い部分が多いので、
細かな運用は秋山 少佐にお任せします。」
「・・・聞いていた事と話が違うな。
企業側から撃震・改修型の実戦運用は、貴官と相談して行うようにと言われたが?」
俺が部隊運用を任すという提案に、秋山 少佐は警戒を緩めることなく質問を返してきた。
「・・・秋山 少佐、戦術機とはどの様な兵科だと考えていますか?」
その問に対して、俺は更なる問を投げ掛けることにした。
俺の問に考えるそぶりを見せる秋山 少佐に対して、横に座っている栗林 大尉は『関係の無い話で誤魔化すのか?』と、睨みつけてきた。
ただ、二人ともこちらの質問の真意を掴みかね、戸惑っている雰囲気は感じることができた。
「私は過去の歴史を見るに、騎兵が最も戦術機に似ている兵科ではないかと考えているのです。」
俺は戦術機が持つ高い機動性と火力、それに対してBETAの攻撃を防ぐにはあまりにも薄い装甲の事を考え、今の結論に至ったのだ。
特に、光線属種に支配されている戦域で長距離跳躍が禁じられた戦術機は、その色合いがより一層濃くなる。
「日本騎兵の父と呼ばれた故 秋山 好古 陸軍大将は、騎兵の特徴である高い攻撃力と皆無に等しい防御力を説明するために、
素手で窓ガラスを粉砕し血まみれの拳を見せ『騎兵とはこれだ』と語ったと聞きます。」
「つまり、貴官は何が言いたいのだ?」
「私が第03独立戦術機甲試験大隊に望むのは、機動力を生かして不知火に追従する支援部隊としての役割と、
塹壕や山影に隠れながらの防衛戦であり、決して最前線で戦って貰う事を考えている訳ではないという事です。
近接格闘戦を行うには、撃震・改修型の性能と装備では力不足ですから・・・。」
一概に騎兵とっても、その中で様々なバリエーションがある。
第2・3三世代機は、その戦い方が竜騎兵(小銃等の火器を主兵装とし、機動力が重視されたため装甲がヘルメットのみまで簡略化されていた騎兵。
小銃の他にはサーベルやピストルも携帯した。)に似ており、第1世代は作られた目的と廃れていった経緯が、胸甲騎兵(胴体に鎧を装備し、
敵陣へ突撃するすることを主な任務にする騎兵。)に似ていた。
そして、撃震・改修型は運用思想が騎砲兵(馬で砲を牽引し、兵士はその馬に跨って移動を行う砲兵で、騎兵に準ずる移動速度の獲得を目指して
編成された砲兵部隊)や、牽架機関銃と工兵部隊が配備されていた騎兵集団に近いと考えていたのだ。
俺は、これらの事を丁寧に秋山 少佐に説明する事になった。
「・・・貴官の考えはよく分かった。
秋山 の名を出してのご機嫌取りかと思ったが、貴官の考えは私の考えに近いものがあるようだ。
全てを鵜呑みにする訳にはいかないが、貴官の要請は最大限受け入れるようにしよう。」
「ありがとうございます。」
「正直に言うと、支援砲撃を行うのが精一杯で、接近された後に戦闘ができるほど錬度が高くないのだ。
何しろ、衛士の殆どが戦車兵から転向した者達で構成されているからな・・・。
だが、あまりこの事を語るべきではない。
帝国軍の戦術とは考え方が違いすぎる。」
確かにこの考え方は、近接格闘戦を重要視する帝国の戦術とは真逆の考え方だった。
むしろ考え方としては、射撃戦を重視する米国に近い考え方であり、軍部で未だに残っている国粋主義者達の事を考えると、
あまり声高に言える内容ではなかった。
「しかし、帝国軍も一度は採用した戦い方です。
恒常的に斬り込み戦術を使用するには、戦術機は人間と同様であまりにも脆い。」
しかし、俺はそう言った危険性よりも、正確に自分の考え方を伝えることを優先したのだ。
最も事前の調査で、それほど嫌悪感を抱くことは無いと予想はしていたが・・・。
また、戦術機に無敵の巨人としての役割を担わせるのには無理があるとは考えているが、近接格闘を完全に排除しようと考えている訳ではない。
その理由は、BETAの拠点であるハイヴ攻略では、近接格闘を重視する必要があるという事実から眼をそらす事ができないからだ。
俺は話の最後に、防衛時の戦術とハイヴ攻略時の戦術が、まったく異なる方法になると想定していることを伝え、今回の会談を終えたのだった。
ついに、光州作戦が発動となり、約一ヶ月にもわたる朝鮮半島撤退作戦が開始した。
光州作戦の初期段階で行われたBETAとの小競り合いにおいて、ロンド・ベル隊と第03独立戦術機甲試験大隊は、
初めてとは思えない整然とした連携を見せ、それにより互いの部隊に信頼関係が生まれる事になる。
そして、国連軍に所属する直接的な戦闘員以外がほぼ撤退し、いよいよ主力部隊の撤退が開始されようとした日、
突如として大規模なBETAの侵攻を受けることになった。
ただし、このBETAの侵攻はあらかじめ予想されていた範囲に収まっており、このまま推移すれば問題ないと思われていた。
「帝国軍が動き出しました。」
そこに、突然帝国軍が移動を開始したという連絡が飛び込んできた。
「帝国軍の指揮官は、彩峰 萩閣 陸軍中将か・・・。」
「ベル2(武田 中尉)よりベル1(御剣 臨時大尉)へ、
どうしたのじゃ、難しい顔をして・・・。」
「この状況で、どう動こうか考えていた。」
「どうするのじゃ?
このまま此処に居ても、BETAとの戦闘はなさそうじゃが・・・。
いっその事、帝国軍に同調するというのも手じゃぞ。」
確かに、帝国軍が移動を開始した後の戦域マップを見ても、俺たちがいる地域にBETAが侵攻してくる兆候はない。
今まで帝国軍が展開していた地域は、国連軍主力部隊も展開している上に、BETAの予想侵攻ルートからも外れている状況であり、
防衛に関して問題は無いようには見えた。
しかし、帝国軍が抜けた事と国連軍主力も他の方面へ援軍を送った事で、この地域の防御が薄くなっており、
BETAの理不尽なまでの物量と光州作戦の悲劇の事を考えると、油断できない状況だった。
しかも、この地域が抜かれれば一直線に国連軍司令部が強襲されるという、おまけも付いているのだ。
「いや、この場所で待機する。
この程度なら、独立部隊の裁量権でどうにかなる範囲だ。
ベル1(御剣 臨時大尉)よりマザー・ベル(中里 少尉)へ、
秋山 少佐にもその場で待機するよう要請してくれ。」
「マザー・ベル(中里 少尉)了解いたしました。
秋山 少佐に、その場で待機するよう要請します。」
俺が待機を命令してから20分後、俺は背筋に悪寒を感じることになった。
「来た・・・、BETAの地下進行だ。」
「確かに微弱な振動を感知していますが、砲撃による振動の可能性が高いと思われます。」
俺の発言に対して、中里 少尉が慌てて反論してきた。
しかし、俺が感じているのは振動ではなく、BETAの気配なのでどうしても口に出して説明できる類のものではなかった。
俺がどう説明したものかと考えていると、佐々木 中尉から微妙なフォローが入ってきた。
「中里・・・、うちの隊長は変態だと教えただろ?
以前もBETAの地下進行を言い当てたことがある。
それに関しては、偵察装備のセンサーよりも正確だ。」
「そんな非科学的な事、信用できません!」
この佐々木 中尉と中里 少尉のやり取りの数秒後、偵察装備のセンサーが僅かな違和感を捉えることになった。
「マザー・ベル(中里 少尉)よりベル1(御剣 臨時大尉)へ、
微弱ですので、BETAの地下進行とは断定できませんが、
砲弾の爆発振動以外の振動を確認しました・・・。」
「分かった。
中里 少尉・・・、そのデータと共にBETAの地下進行の可能性がある事を、
国連軍及び帝国軍に報告しろ。」
「・・・了解しました。国連軍及び帝国軍へ情報を転送します。
・
・
・
情報を転送しましたが、どちらも回答を保留しています。」
素直に反応してくれるとは思っていなかったが、完全に無視されたようだった。
確定的な情報で無いと動かないというこの対応を、もどかしく思いつつも冷静に対処している事に関しては安心できると感じるのだった。
「そういえば、帝国軍には予備兵力として、斯衛軍の部隊が参加していたな。
一応、地下進行の可能性がある事を伝えておいてくれ。
動いてくれるとは思わんが、実際に現れた時に少しでも早く対応してもらえれば儲けものだ。」
国連軍と帝国軍へ振動情報を送ってから数分が経過したが、震源はゆっくりと地表に近づいており、
BETAの地下進行である確立は時間と共に高まってきていた。
そして、第03独立戦術機甲試験大隊とも連絡を取り合っていたロンド・ベル隊は、既に万全の態勢を整えBETAを待ち構えていたのだ。
「もう一度聞く、最新のデータを送った後の国連軍及び帝国軍の回答はどうなった?」
「相変わらず、保留しています。」
「やむなしか・・・。
全回線(オープンチャンネル)を最大出力にして、全軍に通達する。」
振動データから算出したBETAの地下進行の確率は、良くて五分五分と言ったところだったが、俺はここで大きな賭けに出ることにした。
「それは越権行為です。」
「命令を出す訳ではない、ただの警告だ。
これこそ、ロンド・ベルの名にふさわしい行いだと思うが?」
俺はそう言って、中里少尉に対して意地悪い笑みを浮かべた後、呼びかけを止めようとする部下の声を無視して、
全回線(オープンチャンネル)での呼びかけを開始した。
「全軍に通達する、私は帝国軍 第13独立戦術機甲試験中隊の御剣 臨時大尉だ、
現在我が部隊は国連軍司令部より北へ10000の地点で展開中、
そこでBETAの地中進行の振動を感知。
繰り返す、国連軍司令部より北へ10000の地点でBETAの地中進行の振動を感知。」
「誰かこの通信を止めろ」
どこからか俺の呼びかけに対し、悲鳴にも似た怒声が聞こえてきた。
しかし、俺はその声を無視して、警告を続けていった。
「震源の上昇を確認、3・2・1・・・0。
30秒後、我らロンド・ベルは帝国軍 第03試験大隊と協力しBETAとの戦闘に入る・・・。
以上、通信終わり。」
俺が通信を終えた直後、各国軍でも振動がBETAの地下進行であることに気が付いた様で、急に通信が活発になった。
そして、慌しく部隊が展開していく事になったが、地下から出現するBETAに対応するには、残された時間はあまりにも短かったのだ。
「ロンド・ベル隊の皆、休憩はこれで終わりだ。
ここで全軍の体勢が整うまで、第03試験大隊と協力して遅滞戦闘を行う。
見渡す限り、敵だらけになるだろうが・・・、やることは普段と変わらない。
俺が後退を指示するまで、好きに動け。」
そして、俺の予告した時間通り、光の柱が地面を突き破り聳え立った。
その数は数十本に達し、光線属種のレーザーにより空いた穴からは、無数のBETAが出現することになった。
観測されたBETAは師団規模以上、つまり10000体以上のBETAに対して、僅か46機の戦術機部隊が戦いを挑むことになったのだ。
BETAの出現直後から開始された、第03独立戦術機甲試験大隊の撃震・改修型 支援装備のOTT62口径76㎜単装砲によるAL(アンチレーザー)弾の砲撃は、
光線属種級に迎撃されたことで局所的ではあったが、重金属雲を形成する事に成功していた。
重金属雲の形成を確認した後、複数の撃震・改修型がOTT62口径76㎜単装砲による超低空の遠距離射撃を、光線属種がいる区画に叩き込んでいった。
撃震・改修型から放たれた砲弾は、途中で要撃級などに当たる弾もあったが、半数以上の弾が光線属種のいる区画に到達し、見事光線属種を撃破していく。
この撃震・改修型による光線属種の撃破方法は、対人戦のスナイパー対策を思い浮かべさせる戦い方だった。
そして、撃震・改修型の砲撃と入れ替わる形で、ロンド・ベル隊の不知火は空中へ跳び上がり、後衛がAL弾へ対応している光線属種に対して、
Mk-57中隊支援砲による狙撃を行い、前衛と中衛が着地する地点にいるBETAを殲滅していった。
しかし、この戦い方も要塞級が光線属種の盾になる行動を取り出すと、上手く機能しなくなった。
そこで、第03独立戦術機甲試験大隊は、撃震・改修型の砲撃を光線属種が迎撃しやすい高度に設定し、再びAL弾の砲撃を開始した。
撃震・改修型の支援砲撃の間に、要塞級へ接近する事に成功したロンド・ベル隊は、要塞級を無視して要塞級の足元にいる光線級に対し、
全力射撃を行っていった。
この部隊連携により、はじめ100体以上確認されていた光線属種は、最初の重金属雲の発生から僅か5分ほどの間に、
十数体へとその数を減らすことになった。
だが、殆どトリガーを引きっぱなしで戦っていたロンド・ベル隊の不知火は、保有する残弾が20%を切るという事態に陥ってしまっていた。
そこで、弾薬を補給するために一旦、後ろに下がる事にしたのだった。
第03独立戦術機甲試験大隊は、ロンド・ベル隊が後方に下がることで本格的な移動を開始したBETA群に対して、
正面から扇型の陣で受け止めることになった。
この状況に対応するため秋山 少佐は、事前に92式多目的追加装甲とスコップ代わりにして塹壕を掘り、92式多目的追加装甲を前面に並べることで、
撃震・改修型が外に露出する部分を頭部と砲のみとなる状況を作り出していた。
そして、ロンド・ベル隊は第03独立戦術機甲試験大隊が作り上げた防御陣を噴射跳躍で飛び越え、
防御陣の中に置かれていたコンテナから弾薬の補給を開始した。
それに対し、BETA群は防御陣のことなどお構いなしに距離を詰めて来る。
しかし、距離1000からガトリング砲による砲撃が始まると、2個連隊の戦車部隊に匹敵するといわれる火力が、
狭い防御陣に集まる事でもたらされた高い面制圧力により、BETAは防御陣の手前で足止めされる事になった。
ガトリング砲から、毎分3,900発という圧倒的速度で発射される36mm機関砲弾は、ある程度減衰されるものの、
例え突撃級の正面装甲でも防ぎきることは不可能だったのだ。
更に、本来のBETA群なら装甲の厚い突撃級を先頭に迫ってくる筈だが、今回は地下からの出現したために、
多くの要撃級を含む乱れた隊列で接近してきた事も幸いし、BETA群に大きな出血を強いる事ができた。
撃震・改修型が予備弾倉を使い切るまでガトリング砲を撃ち、ロンド・ベル隊が補給を終えた頃には、
防御陣の前にはBETAによる肉の壁が出来上がっていた。
残弾が無くなった第03独立戦術機甲試験大隊は、一気に3kmほど下がった第二防御陣で弾薬の補給を行うため、後退を開始した。
そして、ロンド・ベル隊は第03独立戦術機甲試験大隊が補給を終え、支援砲撃が開始されるまでの間、時間を稼ぐための遅滞戦闘を行うことになった。
戦闘を開始から今までの20分ほどの間に、小型種を含めて4000体近くのBETAを撃破していたが、BETA群は一向にその数を減らす気配が無かった。
遅滞戦闘を行っていたロンド・ベル隊だったが、絶え間なく現れるBETA群によって、次第に戦域を後退させることになる。
補給を終えた撃震・改修型からも支援砲撃が行われているが、焼け石に水の状態だったのだ。
「このままじゃジリ貧だ、援軍は来ないのか?」
「国連軍は、既に他の地域で戦闘を開始しており、援軍を抽出するのに手間取っています。
帝国軍も現在位置から離れているため、早期の援軍は難しいと思われます。」
国連軍からの遠距離支援砲撃も行われているが、砲撃は散発的なもので本格的な支援とは程遠いものだった。
その結果、ロンドベル隊はBETA群の外周部を削っていくだけになり、第03独立戦術機甲試験大隊が立てこもる第二防御陣も
BETAの進行方向からずれていたため、BETA群を拘束することが難しくなっていった。
そして、BETA群の半数がこちらを無視して、国連軍部隊へ向かい出したその時、待ちに待った一報が入る事になった。
「驚異的な速度で、接近する戦術機部隊があります。
これは・・・、斯衛軍の第16大隊です。
隊長、友軍が駆けつけてくれました。」
俺が向けた視線の先では、様々な色をした36機のTSF-TYPE92-1B/不知火・壱型丙が青色の機体を先頭にして、BETA群に襲い掛かろうとしていたのだ。
「どうやら間に合ったようだな。
私は、斯衛軍少佐の斑鳩だ。
これより、第16斯衛大隊は貴官らを支援する。」
「どうしたのだ、御剣 大尉。
もう疲れたのか?」
「ここは、我々に任せて休んでいても良いのだぞ。」
斑鳩 少佐の頼もしい声に続いて、第16斯衛大隊に所属している真耶と真那が俺に対して軽口を叩いてきた。
「鳴り始めた鐘は、戦いが終わるまで止まることは無い。
そっちこそ、俺たちの戦いについてこれるかな?」
俺は、それに対して照れ隠しに気障な台詞で反すことにしたのだった。
「・・・三人とも積もる話があるのだろうが、この戦いが終わってから存分に話すがよい。
これより、我らは鶴翼複五陣でBETA群を押し留める。」
「は! ホーンド2より、第16斯衛大隊各機に告ぐ。
鶴翼複五陣で戦闘を開始せよ。」
「うむ・・・、では参るぞ。皆の者続けぃ!!」
これを合図として、本格的な戦闘を開始した第16斯衛大隊を見た俺は、再度自分の部隊に気合を入れる事にした。
「ベル1より、ロンド・ベル各機に告ぐ。
斯衛軍に遠慮することは無い、俺たちで全て平らげてやるぞ。」
師団規模のBETA群を30分にも亘り、不知火一個中隊・鞍馬一個大隊で拘束することに成功した俺たちは、斯衛軍大隊と協力して更に30分間、
BETA群の半数を釘付けすることに成功したのだった。
結局この戦いは光州作戦最大の激戦となり、地下進行により出現したBETA群が拘束されている間に、態勢を整えた帝国軍及び国連軍によって、
BETA群が殲滅されたため、国連軍司令部が戦闘に巻き込まれる事態は避けられた。
この戦闘により、予定より被害を受けることにはなったが、民間人及び軍人の退却に必要な時間を稼ぐことに成功したのだ。
光州作戦は、戦艦による砲撃が行われる中、最後に残った戦術機部隊が跳躍噴射によって戦術機揚陸艦に乗り込んだ時点で終了となった。
帝国本土に帰還したロンド・ベル隊と第03独立戦術機甲試験大隊は、光州作戦での功績もあったが戦意高揚のプロパガンダとして、
大きく取り上げられ世界各国にその名を轟かすことになる。
そして、ロンド・ベル隊の部隊長を務めていた俺は、勲章を授与されることになり、帝都城で行われる式典に参加することになった。
しかし、光州作戦の余波はその程度で収まる筈もなかった。
国連軍の指揮下にあるはずの帝国軍が、勝手に動いたことが光州作戦で被害を受けることになったと、国連が主張し始めたのだ。
そしてこの問題は、
『もし厳罰が下されないのなら、彩峰中将の国際軍事法廷への引き渡しを要求することも有る。』
という声明を、国連が発表する所まで発展していくのだった。
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コメント
皆様、いつもご感想ありがとうございます。
また、先週は更新を休んでしまい、申し訳ありませんでした。
今回は、戦闘シーンのほかにも様々な戦術や戦術機に対する考察を交えた話となりました。
特に戦術機が騎兵に近いと思ったのは、私のにわか軍事知識と稚拙な考えの所為なのかもしれません。
この事について、どう思ったか簡単でいいので感想板に書いていただけたら幸いに思います。
また、光州作戦の経緯に関しては、ただBETAが迫ってくる状況で、軍を動かす理由が考え付かなかったため、
今回の様に軍を動かした後に、不意打ちでBETAが出現したという事にしました。
この方が、彩峰中将が無能ではなく、誰も予想できなかったBETAの動きにより受けた被害の責任を取らされた事になり、
彩峰中将を尊敬する将校が多く残っていた理由になると思いました。
しかし、思いっきり活躍させたはずのロンド・ベル隊ですが、原作ヴァルキリーズの佐渡島での半分以下の
活躍しかしていない事にびっくり・・・。
改めて、原作キャラたちの凄さを痛感し、チートのレベルが足りないかもしれないと心配になってきてしまいました。
返信
ゾイドにでてくるコマンドウルフさんを採用するのはどうか、というご意見がありました。
ゾイドはあまり知らないのですが、ガンダムSEEDにでてくるバクゥに似たものだと考えていいのでしょうか?
コマンドウルフさんの機体設定は、撃震・改修型の所為で需要が低下すると考えているため、
主力兵器として登場させる予定はありません。
ただし、現在アメリカ軍が研究している、犬型のロボット(気になった方は個人的にお調べ下さい。)的な
使い方なら出す可能性があると考えています。
どうなるかは流動的なため、あまり期待しないでお待ち下さい。
また、撃震・改修型の変形や戦車・自走砲の改良、センサー類の散布など様々なご提案が寄せられています。
これら全ての提案を『御剣財閥脅威のメカニズム』で解決するわけには行きませんので、説得力のある設定が思いつき次第、
使えそうな場面があれば登場させたいと考えています。
登場する確率は、今のところ五分五分ですが、登場するその時までまったりとお待ち下さい。