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[16464] 幸福な結末を求めて    ゼロ魔転生?モノ(オリ主)
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2011/06/13 00:20
はじめまして。めり夫と申します。
なんとなーくSSを書いてみようかなと思い、投稿させていただきました。
今回が初投稿ですので、文章力のダメさ加減はご容赦下さい。ほぼノリと勢いで書いておりますので…。

注意点
・ゼロの使い魔の転生モノ、オリ主(♀)です

・オリ主はザコです(主人公最強モノではありません)

・加えて性格的、根性的にダメな人です

・時間軸、原作キャラの性格など、原作の設定改変があるかもしれません

以上が苦手な方は戻っていただいた方がいいかもしれません。
稚拙なSSですが、それでもという方、読んでいただけたら幸いです。

また、ゼロの使い魔が完結していない作品ですので、一部設定など原作乖離してしまう場合もあります。
ご了承下さい。


###################





◆メモ◆



6月

更新速度がぁあばばばばばばばばばばばばばばば…orz
お話自体はできてるのですが、それを書く時間がリアルでないです。
生活に余裕が欲しい……


###################



2月14日
チラシ裏から投稿開始




pixivにて「幸福な結末を求めて」のイラストを書いて戴きました。
感謝感激です。


くろき様
ttp:
//www.
pixiv.
net/member.
php?id=
1690939

ナカジョー様
ttp:
//www.
pixiv.
net/member_
illust.
php?mode=
medium&illust_id=12551225

(*'ω'*)ツダ様
ttp:
//www.pixiv.
net/member_
illust.
php?mode=
medium&illust_id=15911923

くろき様のノベルゲーム
作者冥利に尽きすぎるにも程があります^^
ttp:
//www1.
axfc.
net/
uploader
/H/so/105384(DL後解凍が必要です)


【SSでの「幸福な結末を求めて」のオリキャラ使用に関して】

基本的にどんな扱いでも使用していただけるのは光栄ですのでOKなのですが、事後はいろいろ問題が起きそうですので…今後、事前申請だけはお願いします。
OKした後は自由にどう扱っていただいても結構です。モブの名前を考えるのが面倒な時、または被害者を出したいけど原作キャラが死ぬのは…とかいった場合にお使い下さい^^




[16464] プロローグ
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2010/02/14 11:12




ろくでもない人生だった。





平民以下の赤貧貴族に生まれ、容姿も並、魔法の才能は下から数えた方がいいレベル。
無駄な(親の)プライドで学院に入学したものの、成績はブービー賞で使い魔は生理的に受け付けないイキモノ。デカくて空飛ぶムカデって何の罰ゲーム?
ミス・ヴァリエールの平民の方がまだマシだよ。正直そんなに要らない言うなら交換して欲しかったよ。

・・・ああ、炎が迫ってくる。
学院にどうして賊が?というか何故に私は殺されなきゃならないの?
走馬灯だ。

うわー懐かしい。
借金のカタに売り飛ばされかけた(買取不可で突っ返されたけどね)幼少期や、食べ物がなくて隣の領主に恵んでもらいに行った(石ぶつけられたけどね)少女時代がすっ飛んで行く。
うん、改めてろくでもない。学院卒業したらまた貧困生活だと思うと、このまま死んだ方が幸せかも。
あー、でも焼死ってむちゃくちゃ苦し、


・・・そして。

気が狂いそうになるような苦痛の中、ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティアはその短すぎる人生を終えたのだった。


※※※※※※※※


「・・・書いてないし。所詮はワキ役以下って事か」

自嘲気味に笑い、本を閉じる。
恐らくこの章の辺りで殺されたのだろう。俺・・・じゃなくて“私”は。
机の上に置いてある小説は“ゼロの使い魔”。そこそこ知られたファンタジー小説だ。


俺は佐々木良夫、25歳。絶賛就職活動中の無職だ。

特技は全国大会まで行ったアーチェリー。他は皆無。
超絶に凡人な俺だが、何と前世の記憶を持つ転生者だったのだ!しかも異世界!

この(こちらの)世に生を受けた瞬間からバリバリに前世の事を覚えていて、まだオギャーしか話せない頃から自分は特別だと思っていた。
でも何か世界観的に違うなーとか感じていた俺が、ここを異世界だと理解したのは5歳の頃。死んでる間に魔法が廃れてカガクギジュツが発達したという予想は見事に違っていた。
それに何度試しても魔法が出ないし。ガキンチョだったから良かったものの、気付くのが遅れていたら大変な事(病院に連れて行かれる的な)になっていただろう。
棒を振り回して意味不明な言葉(スペル)を喚くって、奇異以外の何者でもないし。

最初の頃は、もし転生前の世界のように魔法が使えたら、一躍有名人になれるのになぁとか淡い期待を持っていたが、それも15の頃には諦めがついた。
同じ頃、いろいろな小説に触れあい、“転生”というジャンルを知ったのだったが・・・。

その時の落胆を想像できるだろうか?

 普通、逆だよね?

現実⇒ファンタジーが普通。
剣と魔法の世界に憧れる現代っ子が、何らかの形でファンタジーな世界に飛ばされて大冒険!魔法が使えるようになったり、剣の腕が現実じゃ不可能レベルに上がったり。

幻獣倒してお姫様と恋に落ちるとか、それが王道。みんなの夢。
でも、俺の場合はこの有様だ。
魔法は使えなくなり、知識も役立たず。俺の前世はファンタジー!とか言っても証拠は皆無だし下手すれば変人扱いだ。お前の脳味噌がファンタジーだよ馬鹿って言われるのがオチ。何と言う無駄転生。なまじ記憶が鮮明なぶん、邪魔だ。



 そんな俺が“ゼロの使い魔”に出会ったのは昨日の事だった。
転生とかファンタジーというワードが半ばトラウマと化していたので、そっちの小説コーナーにはしばらく目を向けない人生を送っていたのだが、何か懐かしい顔(二次元になっていたが)を見掛け、覗いてみた。

・・・あれー?この服って昔着てた制服に似てね?てか、この子ミス・ヴァリエールっぽくね?

ビンゴ。
表紙に居た子はミス・ヴァリエールだった。

軽い興奮を覚え、ページを捲ってみると懐かしい単語が次々に出てきた。
トリステイン、サモン・サーヴァント、あーそういやキュルケって子もいたわ。胸がデカかったから覚えてる!タバ・・・いたっけ?シエスタ・・・メイドの名前なんていちいち覚えてないや。ギーシュは知ってる。グラモン家だったっけ。1回だけ声掛けられた。社交辞令で。

使い魔の平民、才人って名前だったんだ。あの頃は興味なかったから知らなかった。ルイズの爆発懐かしいなー。吹っ飛ばされてミスタ・グランドプレに激突したんだ確か。肉の緩衝材で怪我が少なくて、微妙に感謝した記憶がある。
まさか転生前の世界がこちらで小説になっているとは思わなかった。だからどうした、と言われたらそれまでだが、膨れ上がる懐かしさで店内にも拘らず泣きそうになったくらいだ。
そして即購入。

読んでいくうちに分かったことは、“私”が描写すらされないワキ役以下の存在だったという事。
フーケ騒動とか正直怖くて部屋で震えてたし、アンリエッタ姫様がルイズ達に密命を下したなんてのも知らない。戦争はさすがに知ってるけど、どうか徴兵されませんようにと祈ってただけで彼女らの活躍なんて知らなかった。
同じ学院の生徒でもこうも行動力が違うとは・・・。
おそらく“私”は学院襲撃事件か何かで殺されたのだろう。描写されてないけど。


 そして「・・・書いてないし。所詮はワキ役以下って事か」に戻る。

得たものは多少の懐かしさ(人名とか地名)と虚しさ。
主役は無理でもチラッと名前くらい出して欲しかった。こんな事ならミス・モンモランシみたいにミス・ヴァリエールを馬鹿にしたりすれば・・・あぁ、爆発怖くて無理か。
うん、どう考えても無理だな。知らないところで殺されてるのが分相応だ。

俺は机の上の小説を一瞥すると、気晴らしに外の空気を吸いに行くことにした。ついでにコンビニでワインを買おう。“私”の頃は水代わりに飲んでたんだけどなー。


・・・そして。

アパートを出た瞬間、暴走トラックに撥ねられて。
全身への耐え難い激痛の中、佐々木良夫はその短い人生を終えたのだった。


※※※※※※※※


「女の子か」

知らない天井・・・いや、知ってる天井?それに聞き覚えのある声。

「旦那様。お嬢様のお名前はお決まりですか?」

あっるぇ~?この声もやたら懐かしいぞ?

「うむ。男ならライル、女ならラリカ。この子は女の子だから・・・ラリカだ」

え?なにその懐かしい名前。他人の口からその名前を聞くなんて何年ぶり・・・。

「ん?起こしてしまったか、娘よ」

・・・おはようございます、“お父様”。これはひょっとしなくても、アレですね?

「ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア。お前も今日からこのメイルスティア家の一員だ。貴族の名に恥じぬよう、」

“お父様”が何か言っているが、もう耳には入ってこなかった。
OK、冷静になれ、俺。・・・・じゃなくて“私”か。私か、じゃねーっての。
これはアレですか?転生モノ、じゃなくて憑依モノ、じゃなくて・・・。

ループ?ワンモアセッ?何だろう?何ていうんだろう?
ええと、これは、あばばばばばばばばばば!!???



[16464] 第一話・目指せ☆バッドエンド回避
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2011/02/09 07:42
第一話・目指せ☆バッドエンド回避





何だかよく分からないが、もう一度“私”の人生が始まるみたいだ。





とりあえず、自分自身に言い聞かせる意味でも自己紹介。

名前は“ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア”。
トリステインの貧乏貴族メイルスティア家の長女だ。兄弟は10歳年上の兄が1人いる。メイルスティア家を継ぐのは彼なので、私は(前回みたいに死ななければ)将来的にはどこかへ嫁ぐのだろう。

メイルスティア家は可哀相なくらい痩せこけて狭くて交通の便が最悪な領地と、他の土地から追われてきたようなアレな領民を抱える悲惨な下級貴族だ。特産品は特になく、豊かな領地の平民より数ランク下の生活を余儀なくされている。

父は水のライン、母は土のドット。兄は土のライン。
魔法の才能も何ていうかダメな家系だ。私も恐らくラインがやっとだろう。前回はドットで人生終了だった。努力しても無駄と分かっているのはある意味幸福なのだろうか。

私の容姿は中の中。いわゆる並だ。
銀色…なら良かったけど、どう贔屓目に見ても灰色の髪と、悪い目つきがチャームポイント。将来は魔女とか言われそう。フェイス的な意味で。
スタイルは中途半端。
磨けばそれなりに光るが、磨かなかったら永遠に輝かないといったところか。
ミスコンテストに出たなら、予選で落ちる自信がある。

性格は内向的(暗いともいう)で人付き合いが苦手。
前回では友人と呼べる者はいなかった気がする。切ない。
メイルスティア家が貧乏なので引け目を感じていたからということにしておいて欲しい。

…改めて、これはひどい。お先真っ暗もいいところだ。実際暗いが。
前回と同じ人生を歩めば焼死コースという未来予想図。
だれかー!た~す~け~て~!
何なんだコレは?明るい未来が見えない。拷問なの?苦しみをもう一度?ブリミル死ね。



うん。
ま、やさぐれたところで始まらない。もう二度目の“私”は始まってしまったのだから。

“私”がそのままループせず、“俺”を介して転生した事にも何か意味があるはずだ。
恐らく、この世界を客観的に見るために “俺”という一生があったのだろう。ただのループでは拓けなかった未来もきっと拓けるはず。

目的は『バッドエンド回避』と『なるべく幸せな人生』。
死ぬもんか。出来る範囲で幸福な一生を送ってやる。小説の知識をフルに活用し、幸福を掴んでみせる!!
…でも、こうなるならこうなると教えて欲しかった。
分かってたら設定とかまで熟読してたのに。後悔、先に立たないね~。




※※※※※※※※




人生の目標を決めた私は、バブーなベイベー時代を終えてすぐに行動した。

魔法の収得。
スペルは覚えていたが、それで即使用可能!…とはいかず、6歳でようやくドットメイジに“戻る”事ができた。
これが最初の人生なら天才レベルなのだろうが、2度目ということを考えると清々しいまでに劣等だ。恐らく、これ以上のレベルアップはほぼ望めないだろうし。

ちなみにこの頃、借金のカタに売られかけた。
前回同様に買取拒否されたが、前回ほどの精神的ダメージは受けなかった。やはり知っていたというのが大きなアドバンテージなのだろう。
嬉しくないけど。

貧しさへの迸る殺意を胸に秘めつつ、次に私が起こした行動は、秘薬作りだった。
水のドットである私は学院で2年間学んだ知識と家の蔵書を頼りに、10歳になる頃には比較的簡単な秘薬を作り出すことに成功した。

この時期、兄に魔法が使える事をバラし、作った秘薬を庶民向けに売ることを提案、メイルスティア家の財政をほんのり潤すことができた。
10歳のガキンチョが低レベルでも秘薬を作っていると知られるのは色々アレなので、作者は兄ということにしてもらい、無駄に天才疑惑を掛けられるのを回避したのだった。
お陰で食べ物を恵んでもらいに隣の領地へGO!という切ないイベントは回避できた。

そうだ、人生の引継ぎ特典なのか分からないが、弓の腕は強くてニューゲーム状態だった。
魔法はダメなのに弓はOKとかコレ如何に?
技術とかコツ的なのは引継げるのか、2つの世界共通の能力なら大丈夫なのか(魔法は“向こう”では使えないから初期化された?)、理由は不明。
ま、考えても分からないことは考えるだけ無駄なので調べようとも思わないが。

とにかく弓はOKだった。
メイジが弓使えても意味なくね?と思われがちだが、この技術は狩りをするのにすこぶる役立った。弓と狩猟刀を手に、週3くらいのペースで山へ出掛けて獲物を狩ってくるメイジ(♀)なんて、おそらくハルケギニア中を探しても私くらいだろう。
この世界が別のファンタジーだったら私の職業は間違いなくハンターだ。




※※※※※※※※




そして月日は流れ、私はトリステイン魔法学院に入学した。

“ゼロの使い魔”が始まるのは2年生から。
私はそれまでにやっておくべき事を定め、奔走した。

まずはイメチェン。
前回の私は性格的な問題もあり、極力誰とも関わらないようにひっそり生きていた。
だが、それを繰り返せばバッドエンド直行。容姿はどうしようもないけど、性格は心がけ次第で何とかなる。
前回は誰に対しても丁寧語かつ必要最低限の事しか喋らないって言うアレなキャラだったけど、それじゃ交友関係の拡大なんて無理無駄無謀だ。

鏡の前で「私は明るい女の子」と毎朝言い聞かせ(傍から見たらアブない女の子だが)、自分自身に嘘をついた。
明かされない嘘は真実と同等。本当の私は嘘の衣でぐーるぐるして、墓場まで持っていく。

で、新生ラリカが次に取り掛かるのは、最重要な人間関係の作成。
ターゲットは『ルイズ』『キュルケ』『シエスタ』『マルトー』。この辺りと自然な付き合いができる程度になれば、なんとな~く本編ストーリーに関われるようになれるだろう。
『タバサ』はパス。
彼女の固有イベントは正直危険だから関わりたくない。
『ギーシュ』はとりあえず静観で、『アンリエッタ姫』は無理。姫に関しては本編開始後も関わらない方向で行くつもりだ。死にたくないし。

そんなわけで、私は秘薬作りに精を出しつつ、交友関係作成大作戦を進めていったのだった。




※※※※※※※※




瞬く間に1年が過ぎた。

ルイズに“ゼロ”の二つ名が付いても、私は彼女を“ゼロ”と呼ばなかった。
馬鹿にしなかったお陰で、ファーストネームで呼び合える程度の仲にはなった。
…これで親しいとは言えないだろうけど、前回は話すことすらしなかったので大きな前進といえるだろう。多分。嫌われてはいないはずだ。恐らく。

キュルケはまあ、それなりに話せる。
挨拶したり世間話をちょろっとする程度だ。いつの間にか横に青い子が付いてくるようになった。彼女がタバサだろう。そっちとは挨拶しない。
というか、挨拶しても返事は返ってこないのでするのをやめた。

シエスタとマルトーは同時攻略。
元々、私は平民を見下したりはしない(貧乏ゆえに)ので、彼らとは普通に話せた。
彼らも私がメイルスティア家の者だと知っているので優しくしてくれた。同情が温かくて色んな意味で泣けた。
1年が終わる頃には、厨房の片隅で貴族への不満(私はどうやら貴族扱いされていないようだ)を共にグチるほどになった。
…いや、私も貴族なんだけどね?部屋で独り泣いた。

暇な時に作った秘薬を虚無の曜日に街へ売りに行き、それなりに蓄えもできた。仕送りゼロだからなぁ、メイルスティア家。



仕込みはまあ、それなりに上々。

我がささやかなる野望が、幕を開けた。




[16464] 第二話・本編開始
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2011/02/09 07:51
第二話・本編開始





はじめまして…いや、久し振り。私の使い魔。





使い魔召喚の儀式、私は周囲の嫌悪感溢れる視線と共に、前回と同じ使い魔を召喚した。

メガセンチビート。羽根のある巨大なムカデだ。
全長5メイルほどもあるその姿は醜悪そのもので、正直、どっかの敵モンスターにしか見えない。
うぞうぞ蠢く脚に、何か溶解液っぽい液体を垂らす口なんて、女子供でなくても怯んでしまう。

でも本当は死肉を貪る大人しい(?)蟲なのだ。
弱った動物や弱者を襲うことはあっても自分より強そうな敵とは戦わない、臆病(?)な蟲。今思えば、目つきが悪く暗い雰囲気を漂わせていた私には相応しい使い魔だったのかもしれない。見掛け倒し的な意味で。

前回はマジ泣きしながら嫌々契約したが、今回はすんなりキス。
この事態は予想の範疇内だったのであらかじめ虫耐性を身に付けておいたのだ。“佐々木良夫”という男人生を経験したのも良かったかもしれない。
ちなみに名前は『ココア』にした。似合わない?ほっとけ。


…何度か目の爆発。何かルイズが喚いている。
どうやら“成功”したようだ。クラスメイトの爆笑と、コルベール先生の声。
さて。これで役者は揃った。

私は、私の死なない未来のために、幸福な未来のために…物語へ介入していく。




※※※※※※※※




「や、ルイズ」

皆が飛び去った後、残されたルイズに声を掛ける。
使い魔…平賀才人と何か話していたようだったが、中断してこっちを向いてくれた。
うわー機嫌悪そう。

「………ラリカ。あなたは行かなくていいの?」

「みなさん『お前の使い魔キモいし怖いから一緒に移動したくない』って」

そう言ってココアを指差す。
実際はそんな事言われてないけどね。フィーリング的には感じたし、あながち間違ってはいないだろう。
ルイズの口から「ひっ」という悲鳴が漏れた。失礼な。ごく正常な反応&気持ちは分かるけど。

「そ、それってもしかしなくても…アレよね?」

見たままですわよマドモアゼ~ル。てかアレゆーな。
でも、きっと彼女は少なからず思ったはず。コイツより平民の使い魔の方が気持ち悪くないだけマシかもと。だから僻まないでねー?

「見たまんまーのムカデさん。私の一生のパートナーはムカデだったみたいですなぁ」

あはは、と笑ってみせる。

「その、何ていうか…どんまい」

…謝らないでよ。まあ、気持ちは分かるけど。

「あはは、美しくも気高くもないけど、見た目強そうだから私的にはアタリなのだよ。ただビジュアル的に避けられる予感」

(ココア、ルイズの後ろに怯えて隠れている男の子にじゃれつきなさい)

心の中で命じると、ココアは才人に襲い掛かった。
「ふわぁ!?」と情けない悲鳴をあげる才人。そのままココアにぐるぐる巻きにされる。
ちなみにルイズは突然の惨劇に固まっていた。

「ヒィィィィ!?あばばばばばばばばば!!!」

可哀相な才人は何だか分からない悲鳴をあげている。ちょっぴり同情したくなったが、男の子なんだからガマンしてね☆

「あらあら、この子がこんなに懐くなんて。あなた、お名前を教えていただけません?私はラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア。ラリカって呼んでね」

…ダメだ。聞こえてない。刺激が強すぎたかな。
ルイズはルイズでオロオロしてる。爆発でココアが攻撃されるかと思ったが、パニックでそんな事は思い付かないようだ。

(ココア、放してあげて)

凶悪そうな鳴き声をあげ、ココアが才人を解放する。あ、才人放心状態だ。
やりすぎちゃった。てへ☆

「おや、青少年には刺激が強すぎましたかな。…自己紹介は今度にするね。でも、どうやらココアは貴方を気に入ったようなので、また遊んであげてくださいな」

返事はないけどまあいいや。

「じゃあ、そろそろ私も教室に戻るね。ルイズもあまり遅くならないように」

同じく返事がないルイズに微笑みかけ、ココアの背に乗った。

メキメキ音を立てて羽根が伸び、ブーンという音を響かせながら浮かび上がる。
乗り心地も悪くない。立ったまま乗ってよし、座っても…座るには硬いからクッションか何か敷いた方がいいかも。まあ、そのへんは後で考えるか。
前回は気持ち悪くて乗ろうという発想さえなかったが、こうしてみると便利そうだ。2、3人なら普通に乗せて飛べるんじゃないか?



ともあれ、初顔合わせはできた。

今後は才人に近付く理由を『ココアのお気に入りだから』という事にできる。ココアが他の使い魔と仲良くなる可能性が皆無だってのは前回の人生で判明済みだし、知性ゼロだから私の思うがままに完全コントロール可能だ。パートナーというより道具に近いが。
問題は2人が…最低でも才人がココアに慣れてくれるかどうかだ。いつまでも怯えられていたら話にならない。
まあ、地道に慣れていってもらおう。




※※※※※※※※




その日の夜、私は厨房へと赴いた。

目的は3つ。
秘薬の材料に使えるようなモノがあったら分けてもらうためと、ココアのオヤツ(廃棄予定の肉)、そして“お願い”だ。
シエスタは別の場所で仕事をしているようで見当たらなかったが、彼女は“お願い”するまでもないだろう。



「こんばんは、マルトーさん」

「おお、ラリカ嬢ちゃんか。今日も秘薬の材料探しかい?」

1年生からの仕込みで、私は学院に勤める平民からのウケは悪くない。
まあ、前回の人生でも同情されることはあれど嫌われてはいなかった気がするが。貧乏的な意味で。

「何かいいモノあーるかな~って。そうそう、そろそろお薬切れたかなと思って持ってきましたよー」

そう言って傷薬とハンドクリームを差し出す。
傷薬といっても、平民が普通に使えるような代物じゃない。いわゆる秘薬だ。ただ、秘薬として売るには些か品質が劣るB級品。分かる人が見れば紛い物と言われるだろう。
私的には低コストかつそれなりの効能を持つジェネリック秘薬とでも呼んでもらいたい。

ハンドクリームは、元々秘薬作りで手が荒れがちな私用に作った物だ。
1度シエスタに分けてあげたら口コミで広がり、今やメイドに絶大な好評を得る商品に。
平民がハンドクリームを使うなんて、(こちらの)常識では有り得なかっただろうから分かる気がする。
これを使っている学院のメイドの手は、“働き者の綺麗な手”ではなく、普通に綺麗な手だ。

まあ、要するにワイロみたいなモノだ。お陰で皆さん何かと融通してくれる。

「おぉ!いつも悪いな!!こいつのお陰でけっこう助かってんだよ!」

「いえいえ、美味しい食事に綺麗なベッド、そのささやかなお返しですって」

“ミス・メイルスティアが仰ると説得力がありますね”。
かつてシエスタに言われた時は独り部屋で泣いたっけ。悪気がないのが余計にキツかった。貧乏は敵だ。

「くぅ~っ!やっぱラリカ嬢ちゃんはいい子だ!貴族連中に今の言葉、聞かせてえぜ!」

私も一応貴族だけどね。わざとじゃないよねまるとーさん?

「あはは、それで何か残り物はあります?前もらったキノコがあったら分けてもらいたいんですけど」

「悪いな、今日はないんだよ。その代わり、ニガニンジンならたくさん余ってるぜ」

「ああ、朝鮮人参に似たアレですね」

「チョセンニンジン?」

「いえいえこちらの話ですよー。じゃ、何本か分けて下さい」

無料より安いモノはない。
材料を取りにいくのも結構な労力だし、使い魔のココアは秘薬の材料探しには向かないだろう。よって今後も厨房のお世話になる可能性は高そうだ。

「それと、廃棄予定のお肉をもらえます?使い魔のオヤツに欲しくて」

「おお!いくらでも持ってってくれよ!それでラリカ嬢ちゃんの使い魔は何になったんだ?肉って事はイヌとかネコとか、きっと嬢ちゃんにぴったりな可愛らしい、」

「でっかいムカデです」

「…そうか。まあ、元気出せよ?」

慰められた。ヤメテ!そんな目で見ないで!!慣れてるけど。

それからしばらくとりとめのない話(主に貴族の悪口)をして、私も貴族ですよーって言って、嬢ちゃんは別だ言われて、どっちの意味での“別”なのかなーって悲しくなった所でお開きになった。

「そうそう、言い忘れるところでした」

帰り際、“お願い”を切り出した。もちろん、言い忘れていたわけではない。

「明日の朝、ミス・ヴァリエールの注文で“質素な食事”を作れって言われたら、“見た目だけ質素な食事”を作って下さい。硬そうに見えるパンとか、具の乏しく見えるスープとか。難しい注文かもしれませんが、マルトーさんならできますよね?」

「まあ、ラリカ嬢ちゃんの頼みなら作るが…何だってそんな事を?」

「何事もできるだけ悪くない方向に、と思ってるだけですよー。乙女の秘密とでも思ってください。それと、この事は誰にも言わない方向で。特にミス・ヴァリエールには絶対知られないように」

「?…ま、そう言われちゃ仕方ねえな。分かったよ、任せてくれ」



さて。

正直、ほっといても原作通りにコトは進むのだろうけど、原作を知っているだけに才人への同情はそれなりにある。
“私”の記憶がない“俺”の頃の自分がワケも分からずファンタジーの世界に連れて来られ、いきなり使い魔にされたらと想像すると、思わず力添えしてあげたくなるというものだ。
今頃彼も世の理不尽さにさぞかしヘコんでいる事だろう。
初日の朝飯くらい救ってあげてもバチは当たらないはず。
原作を知っているのに手助けとかする気のない(むしろ私の幸福のために利用する気な)私の、ささやかなる贖罪だ。




※※※※※※※※




ここで私のプランを語ろうと思う。

正直、魔法的にも頭脳的にも容姿的にもアレな私は、原作ストーリーに参加して主要メンバー紛いになるつもりはない。
ある程度の介入はするが、あくまで私の幸せのためだ。

クズ呼ばわり結構、好きなだけ罵ってもらっても構わない。
でも人間には分相応っていうものがある。脇役が出しゃばるとロクな事がないのだ。

参加する気はないと言ったが、正直なところストーリーを知っているのは大きなアドバンテージだ。
ルイズはじめ彼らは学生の身分でありながら多くの功績を打ち立て、報酬やら権力やらを得ていく。
…それを予め知っていたら。私のような人間がどういう考えに至るのか。

“お零れにあずかる!”一択だ。

確かフーケ騒動でシュヴァリエ爵位をもらえたはず。
精霊勲章だったか?シュヴァリエは従軍しないとダメとか制約があった気が…まあ、どちらにしても褒賞は出る。実に魅力的だ。
それ以降はアルビオンとか物騒な話になってくるのでパス。いくらストーリーを知っていたとしても、死亡の危険がありそうな時点で関わるべきではないだろう。

とりあえず、フーケ戦に参加した後は、主人公メンバーとそれなりに友好な関係を続けつつ、展開されているストーリー進行に気を付けて生活する事だ。
しょっちゅう怪我している才人相手に秘薬を売り付けるのもいいだろう。店でも買えるが、友達取引はそこそこ優先されるはずだ。

あとは学院に危機がありそうな時期に休学したりして、それとなーく危険を逃れればいい。
デッドエンドを回避し、美味しいところをいただき、小銭を稼いで未来を拓く。
将来、かなりの地位に就くだろうルイズや才人はいいコネにもなるだろう。もしかするとそれが一番大きなメリットかもしれない。



腹黒いなー、私。
もし誰かに心とか読まれたら、確実にクズ認定だね☆




[16464] 第三話・恩を売りましょう
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2011/02/09 07:57
第三話・恩を売りましょう





早起きは三文の徳。三文て3ドニエくらい?だったら寝てた方がマシかもかーも。





「おはよ~使い魔君。早起きだねー」

翌朝、洗濯物を抱えた才人とばったり出会う。当然、偶然じゃないけど。

「あんたは…、!?てことはム、ムカデがいるんだろ!?」

振り返り、怯える才人。昨日のアレを思い出したのか。

「上」

笑顔で天井を指差す。
廊下の天井にはココアが張り付いていた。

「うわ、」

「“サイレンス”」

悲鳴を魔法で消す。早朝から大声を出されたら他の人に迷惑だろう。

「見た目はアレだけど、襲ったりしないから大丈夫。昨日だってぐるぐる巻きにされただけで痛いコトされなかったでしょ?」

こくこく頷く才人に微笑むと、魔法を解除する。

「ふぅ。まあ、確かに俺をとって食おうって感じじゃなかったな」

若干落ち着く才人。なかなか肝が据わっている。これならココアに慣れるのも難しくはなさそうだ。

「だからあの子は君が気に入ったんだって。仲良くしてくれると私も嬉しいなーって。ええと、」

「平賀才人。使い魔君じゃなくて名前で呼んでくれ」

「ヒラガ・サイト君か。ヒラガって珍しい名前だねー」

才人が名前って事は知っているが、“普通は”知らないだろう。
すっとぼけてみる。

「いや、俺のところじゃ才人が名前になるんだ。こっち風で言うと、サイト・ヒラガかな」

「じゃあ才人君。私はラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア。ラリカって呼んでね。昨日も自己紹介したけど、聞いてなかったでしょ?改めて、よろしく」

「あ、おう」

フレンドリーな態度に少し戸惑いを見せつつ、才人は差し出した手を握ってくれた。

「それで、才人君は朝早くから何を?」

「ああ、ルイズ…俺の主人って子に洗濯しろって言われて。そうだ、洗濯できる場所教えてくれないか?」

「お安い御用ですよー。それとその洗濯物、ココアに持たせよっか?」

カサカサと天井からココアが降りてくる。
ちょっと引いてる才人の手から洗濯籠を取り、それをココアの頭に乗せた。
うん、ココアって書くと可愛らしいイメージになるなー。実際はムカデだが。

「け、けっこう従順なんだな」

「だ~から見た目は怖いけど凶暴じゃないって。それにこの子、才人君のこと気に入ってるみたいだから、きっと言うことも聞くと思うよ。試しに何か命令してみたら?」

「え?じゃあ…“お廻り”」

イヌじゃねえっての。
しかし、ココアはその長細い巨体でくるりと廻って見せた。
うん、我が使い魔ながらキモい。でも才人は少し嬉しそうだ。

「おお!ホントにやってくれた!」

「意外にいい子なのですよ。コレがまた」

理性とか知性はないけど、命令には絶対だ。才人に従えって命令してあるので大概の事は聞いてくれるだろう。
お前いいヤツだったんだなーとか言いながらココアの頭を撫でる才人。たかがお廻りしてくれたくらいで懐柔されるとは。まあ、都合がいいからいいけど。

思えば、才人は昨日から悲惨な目に遭って、相当心がナイーブな感じになっているはず。
まともに会話したのはルイズだけだし、そのルイズからの扱いも原作通りのきつーいものだっただろう。多少(?)不気味なムカデでも、言う事を聞いてくれたら心を開いてしまうかもしれない。




※※※※※※※※




「ルイズはどんな感じ?」

てくてく歩きながら話を振る。
ちなみにココアは私たちの後ろをいい子で付いて来ている。

「あー、何かすげえ偉そう?貴族だか何だか知らないけど、俺のこと平民だとか犬だとか、まともに話もさせてくれねえ」

…予想通りってか原作通りで安心。

「でも、可愛いでしょ?」

私の5倍は可愛いと自負(?)できる。整形したって敵わないだろうなー。

「…それは否定できねえな。でも性格がアレじゃなぁ」

「あの子、本当はとってもいい子なんだけどねー。でもちょ~っと今は混乱してるって言うか…使い魔は一生のパートナーだし、平民を呼び出すなんて前例がないし」

「だからその平民とか貴族とかいう考えが分かんねえ。同じ人間だろ。なのに聞いてりゃまるで別の生き物みたいにさ」

「その言い方からして、才人君は貴族と平民の格差がない地域から来たの?」

「いや、そもそも貴族とか平民とか自体がなかった。…ラリカは俺が別の世界から来たって言ったら信じるか?」

「友の言うことを信じないような女に見えますかな?」

笑ってみせる。
信じるも信じないも、“俺”はそんな世界で二十数年生きたわけだし。

それにしても、こんな早い段階で本人の口から異世界宣言が聞けるとは。
もう少し親しくならないとダメかとも思ってたし、最悪教えてもらえなくても問題はないとも思っていたけど…。

「…ありがとな」

「いえいえ、世の中いろいろあるからね。それで、その事はルイズにも?」

「話した。一応、元の世界に戻す努力はするかもみたいな事は言ってくれたけど…正直不安だよ」

「…まあ、ココアの事もあるし、心細くなったら話し相手くらいにはなるよ。でも、1つだけお願いが」

「何?」

「ルイズを嫌いにならないであげて欲しい。きつーい言葉の端にも彼女なりの優しさとか苦悩とかがあるから、それを受け止めてあげて。異世界から来て才人君自身も余裕ないかもしれないけど、どうかお願いする次第ですよ。それに、そうしてくうちに彼女のホントの魅力にも気付けるかもかも?」

「…努力はするよ。それにアイツの機嫌損ねたら俺、生活できないだろうし」

そうそう、よく分かってるじゃないか才人少年!
というか君らが仲違いとかしたら、トリステインの未来が危ない。つまりトリステイン貴族の私の未来が危ない。しっかり頼むよ。

「あ、それと今のはルイズには内緒の方向でお願いねー」

「今のって、嫌いになるなとかいうの?何で?」

「私から言われたとかじゃ逆効果だから。それに恥ずかしいじゃーないですか」

「ラリカって優しいんだな」

いえいえ、どっちかって言うと最低ですよ☆
笑って誤魔化す。そうこうするうちに、水場に付いた。

予想通り、先客にシエスタの姿がある。


「おはよーシエスタ」

「あ、ミス・メイルスティア。おはようございます。隣の方は…、ひっ!?」

ん?ああ、ココアに気付いたの。

「きゃ、」

「“サイレンス”」

まーた説明だよ。めんどくさ。




※※※※※※※※




説明疲れた。

でも私の使い魔だと言う事でシエスタも落ち着いてくれた。
信頼関係の大切さを思い知った。いや…例のワイロが実を結んだのか?

「そうだったんですか。こちらこそよろしくお願いしますね、サイトさん」

才人との自己紹介も終わったようだ。
彼女もいずれ才人に惚れたり何だりするのだろう。
ライバルは公爵の娘とか姫様だとか、やたらと強力な連中ですが頑張って下さいな。

「じゃあ才人君、後はシエスタに聞いてね。シエスタ、後はよろしーく」

「はい、ミス・メイルスティア」

「ありがとな、ラリカ」




※※※※※※※※




2人と別れた私は自室に戻った。
朝食にはまだ早い。てか、眠い。
ちなみにココアはあの場に残してきた。洗濯の帰りも荷物係として才人が使うだろうし。

欠伸を噛み殺し、鏡を見る。
うん、相変わらず目つき悪い。“作った”キャラが似合ってないコトこの上ない。
口調とか、笑顔とか、あれでも一応練習の成果なのですよ。ニセモノっぽいとか言わないで。自分が一番分かってるから。


才人はこの後、ルイズを起こして着替えをさせられて、キュルケとの初顔合わせになるだろう。そして朝食。昨日言っておいたから見た目ほど悲惨な食事ではないはずだ。

…ああ、そういえば授業で爆発する予定だったっけ。
全身全霊をもって被害に遭わないよう気を付けよう。





オマケ
<Side 才人>

「友の言うことを信じないような女に見えますかな?」

ラリカはそう言った。
正直、ああも簡単に信じるとは思ってなかった。ルイズなんて昨日あれだけ話してもまだ半信半疑なのに。
そういえば、ラリカは最初から俺に“普通の”態度で接する。この世界での平民と貴族の関係ってもっとギスギスしてるはずなんじゃないのか?

「サイトさん?」

「ん?ああ、何だったっけ?」

シエスタに呼ばれて考えるのをやめた。

「ミス・メイルスティアといつの間に仲良くなったのかなぁって」

「うん、ラリカが言うにはココアが俺を気に入ったからみたいだよ。それに、ルイズともそこそこ仲いいみたいだし。シエスタも何か親しそうだったな」

「ええ。ミス・メイルスティアは平民である私たちにも優しいから、学院の平民には人気あるんですよ。特にメイドにはハンドクリームをくれるから慕う人が多いんです」

ハンドクリーム?

「…ふぅん。やっぱ他の奴らとは違うんだな」

「ミス・メイルスティアみたいな貴族様は他にいないですよ」

笑って言うシエスタ。
ラリカか。悪い奴じゃない。むしろ、今のところこの世界で心を許せそうな唯一の存在だ。


ルイズも彼女みたいな性格だったら良かったのになァ…。




[16464] 第四話・決闘ガンバレ、超ガンバレ
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2011/02/10 07:37
第四話・決闘ガンバレ、超ガンバレ





貴族の誇り。誇りを賭けた決闘。何だかなー。平和に過ごせないものですかねー?





ちなみに、爆発はちゃんと回避した。

授業開始直後、ちょっとお腹の調子がとか言って教室を脱出したのだ。
どうせ授業は中止になるので部屋に戻り、適当に時間を潰した。この後に起こる事への準備もかねて。

メイルスティア家に居た頃に愛用していた狩猟刀を後腰に差し、ポケットにジェネリック秘薬を。狩猟刀を持って昼食なんて物騒だが、マントで隠れるから問題ないだろう。
仕込みは上々、余った時間はちょっぴり昼寝。
その間、ルイズと才人は仲良く後片付けをした事でしょう。めでたしめでたし。




「諸君!決闘だ!!」

で、今に至る。
見事に原作通り、ギーシュが薔薇杖を振り回して喚いている。
両者共に親の仇を見るような目で臨戦態勢。でも将来的には良き友同士になるのだから人生って分からない。


ギーシュがワルキューレを出す。あー才人、驚いてるねー。
初々しい反応が実に新鮮。でも呆けてるヒマはなっしんぐ。

正直、このまま放っておいても問題はない。
ある程度ボコボコにされたらギーシュが剣を作り、才人はそれを使って勝利する。そしてガンダールヴの力を示すのだ。
オールド・オスマンとコルベール先生も例の鏡で見守っている事でしょうな~。

…まあ、進行的には問題はないけど。
目の前でボロボロにされるのを見物するのは趣味じゃない。それに、これは私が介入するうえで最重要とも言えるイベントなのだ。
ワルキューレに1発殴られ、転がる才人。
追撃しようとするワルキューレに向かって、

「“錬金”」

…足元の土を泥に変え、転ばせた。
ワルキューレを破壊できる攻撃魔法なんて私には使えないしね。へっぽこ上等。
それはさておき、周囲の視線が私に集まる。こんなに注目されたの初めてよ☆
では、物語介入を始めましょ~か。



「君は…ミス・メイルスティア。何のつもりだい?」

邪魔されたギーシュが睨み付けてくる。周囲の視線も同意っぽい。

「まさか、平民の味方をするとか言わないだろうね?」

どういうつもりだ!とか邪魔してんじゃねえよ!とか貧乏貴族は引っ込めとか野次が飛ぶ。
貧乏貴族って言った奴、後で泣かす。嘘だけど。私の実力じゃ無理。

「平民の味方はど~だか知らないけど、“女の味方”はしたいかも?私としては」

「何?」

「ミス・モンモランシとミス・ロッタは二股されて傷付いたし、それに何より私の友達のルイズまで馬鹿にしてたでしょーに。3人の女の子が傷付けられてる現状、同じ女としてはちょっとアレなワケですよ」

私の友達って所は特に強調した。
ルイズ~、聞いてるー?私の友情に感激してね~?
実際、二股発覚の現場にいなかったし、馬鹿にされたところも聞いてないが原作では『ゼロのルイズの使い魔は気が利かない』みたいな事を言っていたはず。
ちょっとばつが悪そうになるギーシュ。野次も止んだ。
平民はともかく貴族仲間3名の名前を出されると、みなさん思うトコロがあるようだ。

「それに、このままじゃフェアじゃないしね。貴族が杖を使うなら、平民は…」

後腰から狩猟刀を抜き、立ち上がってコトの次第を見守っていた才人に差し出す。

「剣を使わないとね?」

彼の左手のルーンが輝く。
ガンダールヴ覚醒おめでとう。ギーシュ敗北確定ご愁傷様。


私の愛用していた狩猟刀、通称『斬伐刀』。

平民の狩人とかが山に入る際、邪魔な下草や枝を伐ったり、仕留めた獲物を捌いたりするのに使う実用的な狩猟刀だ。
名前の如く斬伐用の刃物、戦闘用の武器じゃないけど立派な凶器。あっちの“世界”なら銃刀法違反余裕の一品だ。
刃渡りは30サント程で、造りは無駄に頑丈。加えて硬化と固定化を何度も重ねて掛けてあるので青銅くらいは余裕で叩き斬れるだろう。
幾多の血(ウサギとかそのへん)を吸ったその魔剣が今、ガンダールヴ伝説の一部となる!

ま、デルフリンガーを手に入れたらお払い箱になるだろーけど。




※※※※※※※※




結果、才人はワルキューレをバラバラに切り刻み、余裕の大勝利を収めた。
原作だとかなりのお怪我を負っていたが、今回は怪我はほぼ無し。もしかの時のジェネリック秘薬は出番なさそうだ。

「ルイズ」

勝利の余韻が冷めないうちに、ルイズに声を掛ける。
まさかの結果に彼女は呆然と立ち尽くしていた。

「はっ?あ、ラリカ!何であんた、」

「凄いじゃない、ルイズ!」

文句言われる前に切り出す。

「平民の使い魔なんて、とか言ってたけど、いや~まさか“メイジ殺し”だったなんて。そこらの使い魔なんかより全然アタリだね」

「え?あ…、」

言われてちょっと状況を整理したようだ。ルイズの表情に僅かな照れが浮かぶ。

「ま、まあね…。雑用しかできない役立たずだと思ってたけど、それなりに使えそうね!ちょっとだけ見直したわ」

「おいおい、ちょっとだけかよ…。厳しいご主人様だこと」

今までギーシュに何か言ってた才人が会話に加わってきた。

「ふん、それでも平民だって事には変わりないんだからね?それより、あんた剣が使えるなんて言ってなかったじゃない!使えるなら使えるって言ってくれれば心配せずに、」

「心配してくれたのか?」

ちょっと嬉しそうな才人。ルイズは自らの失言(?)に真っ赤になる。

「ッ!?何を、」

「まあまあ。才人君だってルイズの悪口を言われたから決闘なんてしたんだし、結果的にも誰も大怪我せずに済んだし、結果おーらい万々歳ってコトにしときましょ~よ?」

「…まあ、ラリカが言うなら。でもサイト!剣の実力を隠してた事、後でしっかり説明してもらうわよ!?」

「へいへい。でも俺だって驚いてるんだぜ?実際、今まで剣なんて握った事なかったし」

「どういう事よ?まだ隠そうなんてしたら承知しないんだからね!?」

「いや、そう言われてもホントに、」

「あ~、ちょっといいかな?」

顔を腫らしたギーシュが会話に割り込んできた。
才人は顔面殴ったりしなかったはず…ああ、ミス・モンモランシかミス・ロッタに殴られたのか。自業自得とはいえ、悲惨ですなぁ。

「何よギーシュ。まだ何か用でもあるの?」

「いや、使い魔君に君にも謝るように言われたからね。その…すまなかった。もう君の事をゼロなんて言わないと誓うよ」

ルイズに頭を下げるギーシュ。

「それと使い魔君」

「才人だ。使い魔君じゃねえ」

「分かった、ミスタ・サイト。君にもすまなかった。君に完膚なきまでに叩きのめされて目が覚めた。…礼を言うよ」

「ミスタとか付けなくていいぜ。お前もいけ好かない野郎かと思ってたけど、けっこう潔いじゃんか。約束通りちゃんと謝ってきたみたいだし」

「いや、当然の事だ。それより君こそ主のためとはいえ、1人の少女の誇りを守るために貴族に挑むその勇気。実に感服したよ」

おや?どうやら男の友情が芽生えそうな予感。爽やかだなー。
打算で動いてる醜い私は退散しますか。ガンダールヴどうこうは、主要メンバーで話し合ってくださいな。

「ルイズ、私はそろそろ戻るね。また授業で」

友情してる男共を無視し、ルイズに声を掛けておく。

「あ…ラリカ。その、さっきだけど」

「はい?」

「ありがとね。私が馬鹿にされた事、気にしてくれて」

おぉぅ、狙って言ったとはいえ、ルイズが素直にお礼を言うとは。
まあ、私が別に敵対とかしてない同性だからだろうけど。これがキュルケ相手とかだったら普通に憎まれ口だろう。
でもその台詞は才人に言ってあげて欲しかったりする。

「はてさて、何のことやらっと。お礼を言われるほどのことじゃないですよ~」

わざとらしく誤魔化し、踵を返す。


作戦は大成功。信頼と友情の強化ミッションコンプリート。
この結果が、私の未来をより明るいものにしてくれますよ~に。




※※※※※※※※




その日の夜。

そろそろ寝ようとして着替えてたら、才人が入ってきた。
何故に私の部屋を知っている?あ、ココアに案内させたのか。
とりあえず、お約束的に杖で軽~くペシっと叩いといた。いやー、こういう物語のハプニング的なアレが私にも適用されるとは。…主人公特性恐るべし。


「ごめんラリカ」

何度目か分からない謝罪の言葉を口にする才人。もーいいって。
見られたの下着だしね?わざとじゃないのは分かってるし、我が肢体に魅力がないのは重々承知の上だから。それともきつい折檻がお望みだった?
私の全裸とキュルケの普段着、おそらくキュルケの普段着姿の方が扇情的だろう。だから下着を見られたぐらいで気にするかーっての。違う意味で気にするけど。
どーせ脇役にもなれないモブ以下キャラですよーだ。

「ホント、ごめん」

「だから怒ってないって。“ロック”してなかった私も悪いし。それより用件はな~に?実のトコロ、そろそろ寝たかったりする」

「あ、ああ。コレ返すの忘れててさ」

そう言って『斬伐刀』を差し出す。

「『斬伐刀』ね。才人君にあげるよ」

「え?でも、」

「戦勝記念に私からのプレゼント。あ、鞘もつけて差し上げましょ~」

木製の飾っ気ゼロの鞘を渡す。
愛用の狩猟刀だが、学院では狩りなんてしないし、そもそも下心アリで初めから譲渡するつもりで貸したのだ。

「いいのか?」

「メイジは刃物なんて使わないし。“剣士”の手にあった方がコレも幸せじゃないかな。まあ、そのうちルイズがマトモな剣を買ってくれるだろうけどね」

デルフリンガーっていう便利で反則な剣をね。

「じゃあ、さっきも言ったけど私は寝るよ。…そういえば、才人君はルイズの部屋に同居してるみたいだけど、寝床はどうなってる?」

確か暫くは藁を敷いた上に寝てた気がする。

「ん?昨日までは藁敷いただけだったけど、今日の決闘でそれなりに使えそうだからって何枚か布もらったよ。ちょっとは待遇良くなったみたいだ」

「そかそか。ルイズも優しくするタイミングをなかなか掴めないんだと思う。才人君のガンバリ次第で待遇もきっと改善されてくよ、多分」

「だったらいいんだけどな」

「信じる者は救われるって。…そろそろおやすみなさいしてい~い?」

「あ、ごめん!じゃあ、おやすみラリカ」

「おやすみ才人君。ルイズにヨロシク」


出て行く才人。今度こそちゃんと“ロック”を掛ける。
さて、眠いって言うのは算段なしのマジなので、おやすみなさいっと。




[16464] 第五話・胡蝶の夢?と不測の事態
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2011/02/10 07:46
第五話・胡蝶の夢?と不測の事態





たまに夢を見る。“現実世界”で死なずに済んだ佐々木良夫の夢。胡蝶の夢?…どっちが夢?





「何これ…?」

病室のベッドの上、俺は呟いた。

手にしているのは“ゼロの使い魔”。なぜかよく分からないが、“私”が登場人物として登場している。しかも、回を追うごとに重要さが増していく。
事故に遭う前は確か、脇役としてすら描かれてなかったはずなのに。


最初はちょっと変わった『初めての友人』。
いや、才人の最初の友人はギーシュじゃなかったか?決闘騒動の後に認め合ったりして、それから徐々に2人は友情を深めていくはずだ。
でも、今手元にあるストーリーだと決闘時には既にラリカと才人は友人で、しかも『斬伐刀』なんてのを彼に渡している。それがワルキューレ戦勝利のキーアイテムってことに。

そして才人的にはギーシュは2番目の友人という立場だ。
意味が分からない。“私”の頃、こんな事したか?あの内向的な“私”が?



ページを捲る。

身に覚えの無い展開が繰り広げられていく。
フーケ戦で援護射撃?震えて部屋に引き篭もってたんじゃなかったっけ?
アルビオン行き!?どうしてそうなった!?
おい!?何でそこでワルドと対峙してんだよ!?死ぬって!絶対死ぬって!


何だコレ?
俺、ラリカだったよな?焼き殺されて、何の因果か“この世界”に生まれ変わって…。
分からない。俺の脳味噌じゃ処理できない。

何だこれは?あたまいたい。まぶたがさがってくる。
ねむいのか?なんだこれ?


あ、暗転…




※※※※※※※※




「おえ」

久し振りに気分の悪い目覚めだ。

いや~な夢を見てた気がする。
覚えてないが、どうせ死ぬ夢とかだろう。2回もリアル死んでたりすると、リアリティさが違う。こんな経験してるの私くらいだろう。嬉しくないけど。
やはり周到に練っていたとはいえ、昨日の立ち回りは精神的に疲れたか。
明るく社交的な新生ラリカの仮面を被っていても、所詮はラリカ。重ねた無理がどばっと襲ってきたって不思議ではない。

そう言えば今日は虚無の曜日。一日中ぐてーんと寝てようかな。
秘薬を街に売りに行くのは来週まとめて…って、そう言えば今日もイベントがあるんだった。

ガンダールヴと伝説の剣、邂逅!ってヤツだ。

要するに、デルフリンガーお買い上げの日。夜にはフーケのゴーレム騒動もある。
何て充実した日なのでしょう☆…休ませろ。



決闘から数日、原作だとギーシュ戦で怪我をしたお陰で省かれた日々を、才人は別の生徒からの決闘などして過ごしていた。
何でもキュルケの元恋人連中だとか。そういえば、才人誘惑イベントなんてのもあった気がする。ごくろ~なコトです。
その戦いでは私のあげた『斬伐刀』が活躍した。デルフリンガー登場までの繋ぎを充分に全うしてくれたようで、元持ち主としても嬉しい。ルイズと才人が恩を感じてくれてたらもっと嬉しい。

そんなことはど~でもいいや。

とりあえず、私も街に付いて行こう。デルフリンガーをちゃんと買うか確認したいし。
才人に使うはずだった秘薬代が浮いてるはずだから、まず買えるだろうけどねー。


ココアを呼んでみる。
…来ない。
どうしたのかと思い、視覚をリンクさせてみると…なるほど。
聴覚もリンクさせてみた。

『ふうん、結構速いじゃない』

ルイズの声だ。

『多分、馬と同じくらいの速さじゃないか?でも空飛んでるから馬よりも早く着くだろ』

サイトの得意げな声。

つまり、すでにココアは2人の乗り物として街へ向かっているって寸法だ。
いや、ココアは私の使い魔なんだけどね?別にいいけど。

『でも良かったの?この…ココアだっけ、ラリカの使い魔じゃ?』

『大丈夫だって。ダメならココアだって乗せてくれなかっただろうし。それに俺はともかくルイズが乗るためって言えば、ラリカは絶対OKしてくれるって』

え~、なにその独自解釈。

『…それもそうね。ラリカなら笑って許してくれそう』

ルイズ、お前もか。
てか、すっかり才人&ルイズの使い魔と化したココア。
ルイズも何だかんだでココアに慣れてくれたようだ。結果オーライ?

『でも、剣を買ってくれるなんて…ホントにいいのか?』

『え?ま、まあ、あんたも決闘とかよく挑まれてるし、流石にその短刀だけじゃ心細いでしょ。それに、忠節には報いないとね』

『ふぅん。でも、長い剣も欲しいなって思い始めてたんだ。サンキューな、ルイズ』

『…っ!ま、まあその感謝の気持ちを忘れない事ね!!』

おやおやまあまあ、仲睦まじいコトで。
それにしても、2人は使い魔の五感が主とリンクできてるって覚えてるのだろうか。
つまり、ココアの前でやる事なす事しゃべる事、おーる私に筒抜け。
プライバシー?うふふ、何ソレわかんなーい☆


さて。

ココアは絶賛貸出中だし、今から馬で追い掛けても無駄。つまり詰んだわけだ。
デルフリンガーを買ったかどうかはココアを通じて分かるし、これでわざわざ私本人が街へ行く必要はなくなった。
いやー良かった良かった。


と、思ったらドアが開いた。
“ロック”は掛けたはずなのに…って、キュルケ。

「おはよーキュルケ。でも“アンロック”は禁止されて、」

「ラリカ!ダーリンはどこなの!?」

…そう来たか。
ダーリン、才人の事だろう。ギーシュ戦で惚れ、その後の決闘でより惚れたって予感。

「ダーリンて?」

でも一応訊いてみる。

「ヒラガサイト!ルイズの使い魔の彼よ!!それで、どこにいるの!?」

「いやー、わたくしに訊かれましても、」

「今朝、貴方のココアに乗って飛んでくのを見たの!」

「…どうやら街へ剣を買いに行ったような。それを訊いてど~するの?」

張り合ってシュペー卿が作ったナマクラを買いに行くの?とは言わなかった。
どっちの剣を選ぶ?騒動でフーケは宝物庫に穴を開けることができるのだ。イベントに必要なフラグをへし折ってはいけない。

「もちろん、追うのよ」

予想通りの回答さんくす。

「なーるなる。がんばれキュルケまけるなキュルケ。私は寝るけど」

タバサ&シルフィードと頑張って追いかけて下さい。

「何言ってるの。ラリカも一緒に行くのよ?」

その発想はなかった。何故にWhy?

「いや、私には足がないし。そうだ、ミス・タバサと仲良かったよね?彼女と一緒にあの風竜に乗っていけばよくない?」

「ええ。もうタバサは準備してるわよ。あとはラリカに案内してもらうだけ」

…何で決定事項になってるんだ?
シルフィードの視力&嗅覚なら、私の案内なしでも余裕で見付けられるでしょ~に。

「さ、早く早く!!早くしないとその格好のまま連れてくわよ?」

「…3分待ってぷりーず」

わぁ、もしかしなくても今日…厄日?うふふのふ。




※※※※※※※※




で、追い付いた。シルフィード速っ。

ココアもそこそこ速いけど、竜と蟲じゃレベルが違うねー。まあ、それがそのまま私とタバサのレベルの違いなんだろうけど。


空の旅は思ったより辛くなかった。タバサ的な意味で。
あの子って苦手なのですよ。無口だし、無口だし、あと無口だしね。
タバサイベントはご遠慮願う私としては仲良くならなくてもいい人材だし、むしろ仲良くなって秘密とか聞いたりしたら命がヤバい。まあ、普通に接していれば私みたいなのが気に入られる確率はゼロなんだろうけど。

そのタバサは寝巻き姿のまま本を読み続けていて、まさに置き物。私はキュルケとだけ話していたから苦痛はゼロだった。



「あ、ラリカ。…とツェルプストー」

丁度武器屋から出てきたところでルイズ達に出くわした。
私には笑顔を、キュルケには嫌そ~な顔で反応してくれる。タバサは目に入ってないっぽい。小さいからなのか、対キュルケモードに移行したからなのかは分からないが。

「あらヴァリエール。自分自身に魅力がないから、モノでダーリンを釣る気かしら?」

何か言い争いを始めた。
才人はルイズのフォローに廻るが…あ、キュルケに抱き付かれた。
そんな様子を生暖かく見守っていると、マントをくいくいと引かれる。

「…?」

タ・バ・サだ。私をじ~っと見上げている。

「あなたが、『絶望』のラリカ?」

多分笑顔が引き攣ってるだろうな~と自覚しつつ、頷く。
その二つ名…久々に呼ばれたよ。

「意味は?」

「将来的な意味で『絶望』。ミス・タバサはメイルスティア家を知らないです?」

「タバサでいい。メイルスティア家?」

言わすな。忘れたいのに。

「いわゆるひとつの貧民ってコトです。領地は荒れ果て、領民は半分流刑者みたいな方々、加えて魔法の才能は家系的に終わってる、そんなステキな貴族なんですよー」

恐らく、ルイズが私に好意的だった理由の1つにこの二つ名があるのだろう。
だって『絶望』っすよ?ある意味『ゼロ』と同義語。『ゼロ』は魔法の才能ゼロって意味だけど、私の『絶望』は全てにおいて。お先真っ暗の象徴、実質悪口の類だ。
でも最近は『傷薬』っていう二つ名もそこはかとなく広まりつつある。主に平民にだけど。…どうかそっちを覚えて下さい。

「そう。がんばって」

…これがトライアングルメイジで、ガリアの王族じゃなかったらブン殴ってるよ。
嘘だけどね。私は心が広いのです。




あー、でも、何の因果か恐れていた事態が起こってしまった。
タバサと知り合いになるつもりなんてなかったのに。

これもキュルケのせいか?うん、そうだ。キュルケが悪い。
シュペー卿のナマクラ買って、せいぜい損してお~くれ。




[16464] 第六話・ゴーレムごっついのぉ
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2011/02/10 07:56
第六話・ゴーレムごっついのぉ





女の争い男の取り合い。醜いねー。でも、それも浪漫。一度でいいからヒロインしてみたいかもかーも。なんて。嘘デスよ?





結果だけ言おう!

マチルダことロングビルことフーケは、無事に“破壊の杖”をお持ち帰りました。
私というイレギュラーがある中、よくぞ盗んでくれた!感動した!!
達成者に拍手!ぱちぱちぱち。あは。

…あー、かなり精神的に参ってるなぁ、私。
この騒動が終わったら休もう。風邪引いたとかいって1日ぐっすりゴロゴロしよう。
“ロック”+本棚か何かドアの所に置いて、超絶引き篭もってやるぜぃ。あばば。
クールダウンだ私、ひっひふーひっひふーラマーズ呼吸法。
よし、冷静な私が戻ってきた。


それにしても、フーケのゴーレム大きかった。

私の兄も土メイジだけど、あんなゴーレム絶対に作れない。トライアングルの片鱗を味わった。
前回、フーケ怖いよーって部屋でガタガタ震えていた私は正解だったようだ。
あんなもんに立ち向かうのは勇気じゃなくて蛮勇です。断言できる。




※※※※※※※※




一夜明け、ルイズ達主要メンバーと私は、オールド・オスマンに呼び出されていた。

ミス・シュヴルーズを筆頭とするダメ教師団の言い訳&罪の擦り付け合いをBGMに物思いに耽る。
フーケ騒動だけは原作メンバーに参加し、褒章をいただこうという計画だったが、正直気持ちは揺らぎまくりだ。フーケ怖い。ゴーレム怖い。
タバサと知り合ってしまうという不測の事態に続き、ラリカ死亡って言う不測すぎる事態が起きたら洒落にもならない。あくまで私が目指すのは幸福な人生であって、スリル満点な人生ではないのだ。

…でも、この雰囲気の中で1人だけ抜けるのは無理っぽいなぁ…。



「私も行きます。この中ではバツグンに攻撃力ないですけど、治療くらいはできますから」

で、結局参加の意を告げた。る~るる~、心の涙がとまらない~。
コルベール先生が生徒達だけ危険な目にとか言ってくれてるようだ。ありがとう先生。
でももう少し粘って下さい。一発でコロっと賛成に廻らないで。いつか貴方のワインに毛抜け薬を仕込んで差し上げますね。ちくしょ~め。


「ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持ち、トライアングルメイジだと聞いておる」

あ、バッドトリップしてる間にオールド・オスマンの生徒紹介コーナーになってる。
得意げな…いや、いつもと変わらない無表情のタバサ。ルイズは驚いている。私も原作読んでなかったら驚いただろう。
才人はシュヴァリエがどういうものか理解していないため、特に表情を変えない。

「ミス・ツェルプストーはゲルマニアで優秀な軍人を数多く輩出した家系の出で、自身も優秀な炎のメイジだと聞いておる」

「あら、どうも」

さも当然といった感じで微笑むキュルケ。
その自信に満ち溢れた表情、実にお似合いだ。
態度がちゃんと実力に見合っているからスゴい。私じゃ永遠に無理な境地ですな。

「ミス・ヴァリエールは座学では常にトップ、ヴァリエール家もツェルプストー家に負けず劣らず優秀な軍人を輩出する家系じゃ。彼女自身、学業に真摯に打ち込む努力は評価されておる」

ルイズ自身の魔法に関してはノータッチだが、褒めてる事に違いは無い。
ルイズもちょっと得意げだ。
知らぬが仏。この世界風に言うと知らぬがブリミル?違うか。

「そして彼女の使い魔は、ドットとはいえメイジを倒した凄腕の剣士。恐らく、剣の腕は生半可な騎士くらいでは歯が立たぬほどじゃろうと見ておる」

才人の評価も上々。
…ガンダールヴだって事はまだ話してないだろうけど。
確か、フーケ騒動が終わった時に話すんだっけ。

「最後にミス・メイルスティアじゃが、その…頑張っておるよ。まあ、なるべく怪我だけはせんようにな」

同情キターーー!!そのあからさまな優しい眼差しが痛い。辛い。
ハイハイ、どーせ私はオマケですよー。見ないで!そんな目で見ないで先生方!!
場違いだって自分が一番分かってますから!



一旦部屋に戻り、私は必死で考えを巡らせた。

フーケことロングビルも私を同情的な目で見ていたため、積極的に攻撃を仕掛けてくるとは思えないが、それでも戦場をチョロチョロしてたら邪魔だよプチッって潰されるかもしれない。
かといって彼女の隣でじ~っとしてたら人質確定だ。どう振舞うのが最善か?


ちなみに私が使える攻撃魔法は、“水の鞭”っていう中距離攻撃魔法だけだ。
攻撃に不向きな水メイジでも、本当はもっといろいろあるのだが…攻撃(狩り)に魔法より弓を使ってたのがマズかった。全然収得できてない。
だって獲物を1発で仕留めるのに水魔法は向いてないし。実質本位(というか生活本位)なのですよ、私。

まあ、とにかく“水の鞭”だけだ。
しかもこれは杖の先から水流を鞭みたいに出す魔法なので、近付かないと当たらない。
“ファイヤーボール”とか“ウインディ・アイシクル”みたいに安全な遠くから撃てるモノじゃないのだ。30メイルのゴーレムに“水の鞭”で挑むのは蟷螂の斧。
しかも私の“水の鞭”、威力あんまりないしね。当たっても、恐らくゴーレムが若干濡れる程度だろう。

改めて、何と言うザコキャラ。だからこそ原作にチラッとも出ない扱いなのだが。

…仕方ない。
もう使う必要はないと思っていたけど、そうも言ってられないようだ。
私は壁に掛けてあった弓を手に取る。腕は落ちていない。弓の腕に食生活かかってた&幼少時代からの努力は伊達じゃーないのだ。
むしろ、今度佐々木良夫で転生したら多分オリンピックだって狙える。メダルは無理だろうけど。

誰かがドアをノックする。
はいはい、今行きますよー。犯人は逃げたりしないので、急がなくてもいいんだけどねー。




※※※※※※※※




馬車に揺られながら、茶番の舞台へ向かう。ドナドナド~ナ。

ちなみにシルフィードとココアは空から馬車を追い掛けてる。馬車を追う風竜とムカデってシュールすぎる状況だなぁ。
前の方でルイズとキュルケが言い争っている。ロングビルが貴族の名を無くしたとかそんな話から始まったど~でもよさげな言い争いだ。喧嘩するほど仲がいいのですね。
才人はデルフリンガーとお喋り中。剣と喋るなんてまさにファンタジーだろう。じっくりファンタジーな世界を堪能して下さいな。

…あ~、ダメだ。精神がささくれ立ってるよ私。
頑張れ私、気合だ、気合だ、気合、

「ラリカ」

本を読む置物と化していたタバサに声を掛けられた。
大人しくずっと本を読んでて欲しかったのに。私なんかと話しても楽しくないっスよ?

「はいな」

「ラリカは、怖くないの?」

「何が?」

ていうか、怖くないように見えるのか。節穴なの?その目は節穴なの?

「相手は多分、トライアングル以上のメイジ。貴方は、水のドット。どう考えても勝てないのに」

あー、どうして勝てない相手にナゼ挑むのかってコトか。
私は笑ってみせた。精神的にアレになってるので、きっと無駄に爽やかに笑えたはず。

「いえいえ、勝てますよー?こっちには強~い仲間がたっぷりいるから」

「…他力本願?」

「他力だろーと自力だろーと、それで目的が達成できれば万々歳。別にフェアな“試合”をするわけじゃないから、要は何でも勝てばいいのです。確かに私単体じゃ何の役にも立たないだろ~けど、ほんのりサポートくらいはできるかもかも。いやー、信頼できる仲間がいるって素晴らしい。タバサもそう思わない?」

そう言って彼女の頭を撫でてみた。
よし!これでタバサからの好感度はガクンとDOWNしたはず。へっぽこかつ、お気楽なバカなどシャルロット様の交友関係には不要ですよねー?
これを機に、どうぞこのラリカめを見限って下さい。

「…何が何でも勝つ事。信頼できる、仲間…」

…あっるぇ~?
何か復唱してるよこの子。
とても嫌な予感。落ち着け私、さっきの台詞はどう考えてもダメな人の思想だろう?

「あ~、タバサ。私の言いたいのはね、」

「着きました」

ハイ、ここで空気を読まないロングビルの到着宣言。
惨めに敗北してくれ、フーケこのやろー。




※※※※※※※※




そして役割分担。

ルイズ、キュルケがちょっと離れた場所から監視する中、すばしっこい才人とタバサが廃屋に侵入。私は戦力的にアレなので、ココアに乗って上空で待機だ。
ロングビルは偵察(という名のゴーレムの準備)に行った。
いやー、素晴らしい人選。私の安全が確保されてるのが特にグッド。

「じゃあ、行って来る。もしゴーレムが現れたらルイズの爆発で教えてくれ」

はいはい、いってらっしゃ~い。

2人が中に入ってすぐ、土がもこもこ盛り上がってゴーレムが現れる。
いやー、おおきいですなー。
あんなもんに挑むなんてやっぱ無理ですよ。高見の見物としますかね。
キュルケの炎は効いてないっぽいし、ルイズの失敗魔法はあさっての方向を爆破してる。
ふれーふれー、キュルケ☆ がんばれがんばれル・イ・ズ☆

ここで不利を悟ったタバサが、シルフィードに皆を乗せて…って、ココア!?
いきなり急発進するココア。振り落とされそうになったが何とかしがみつく。

「ココア!」

急降下でゴーレムに近付いたココアに、ルイズを抱えた才人が飛び乗る。
彼女の手には“破壊の杖”ことロケットランチャー。奪還は成功したようだ。
てか、ココアは才人が呼んだのかい!?
確かにココアには『才人の命令も聞くように』って命じてあるが、優先順位ってモノがあるでしょうに!?あくまでご主人様は私だって!
あー、でも昆虫脳味噌じゃ分からないか。反省。

「ラリカ、ココアにゴーレムの周りを旋回するように命令してくれ!ルイズはどこでもいいからゴーレムの爆破を頼む!!」

「…りょうか~い」

もうどうにでもな~れ☆
恐怖も何だか麻痺してきた。今の私なら空も飛べる~ですよ?(実際飛べるが)
よ~しココア、付かず離れず、蟲らしくやらしい動きで相手を翻弄せよ!あは。

「分かったわ!“錬金”!!」

ルイズの失敗魔法でゴーレムの肩が吹っ飛ぶ。
ゴーレムがパンチを繰り出すが、纏わり付くように飛ぶココアには当てられない。イメージ的には人間にしつこいくらい纏わり付いて飛ぶアブみたいだ。あれって凄くウザいんだよね。



至近距離を飛んでるお陰で、ルイズの失敗魔法がちゃんとヒットする。
才人は才人で、ココア⇒ゴーレム⇒ココアって感じにぴょんぴょん飛び移りながらゴーレム削りに勤しんでいる。
私よりココアを使いこなしてない?
ちなみにキュルケプレゼンツのシュペー卿ナマクラセイバーはとっくに折れて、才人はデルフリンガーを使ってますよー。
はっはっは、ざまあ。

「くそっ、斬っても斬っても再生しやがる!このままじゃジリ貧だ!!」

シルフィードに乗ったキュルケとタバサも魔法を撃っているが、当然の如くゴーレムにはノーダメージ。
てか、ゴーレム倒す必要ってなくない?全員空飛んでるわけだし、このまま逃亡すれば事件解決の予感。とりあえず“破壊の杖”さえ戻ればいいってオールド・オスマンも言ってたよ?

「う~ん、これは実に難しい局面。才人君、とりあえず一旦退いて、」

すたこらさっさのとんずらだー。と言おうとしたのだが、

「駄目よ!!あいつを捕まえれば、誰ももう、私をゼロのルイズとは呼ばないわ!」

ハイ予想通りのセリフ~。
ええ、じゃあ逃げましょうってワケにはいかない事くらい分かってましたよ。

「馬鹿野郎!そんなこと言ってる場合かよ!!この状況が分かんねえのか!」

と、才人が言ってくれるけど、

「私は貴族よ!敵に後ろを見せて逃げない者を貴族と呼ぶの!!」

当然の如くルイズは聞かない。このままじゃ得る物のない無駄問答だ。



…やっぱゴーレム倒さないと駄目ですか。そうですか。
あ~う~、分かってたけど、コイツらと付き合うと命が幾つあっても足りそうに無い。
フーケ騒動が終わったら可及的速やかに距離を置こう。そうしよう。



そういうわけで。
…覚悟決めるかな~。怖いけどな~。




[16464] 第七話・決着、そしてさらば(予定)主要メンバーよ!
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2011/02/10 08:01
第七話・決着、そしてさらば(予定)主要メンバーよ!





気分は特撮。怪獣相手に効くはずもないミサイルとか撃つ戦闘機。平穏が恋しいなー。





逃げる気ゼロのルイズ。

こんなところまで“ゼロ”とは…いやはや恐れ入りますよ(呆)。
でもまぁ、これくらいの意志がないと主役なんてやってられないだろうし。
仕方がないので私もない知恵絞りますか。



(ココア、上空に退避)

心の中で命じると、ココアは一気に上昇してゴーレムから距離を取る。
ちょっとの間、タバサチームに頑張って貰いましょう。

「ちょっ!!何で逃げるのよ!?」

喚くルイズの手を握った。
そしてにっこり微笑んでみる。

「ノンノン、逃げたわけじゃ~ないのですよ、ルイズ。あの戦法じゃ無理だから、作戦変更しよ~かなって。貴族たるもの冷静に戦術を考えないと。突っ込んでくだけだったら命令のまま動く一般兵と変わらないしね」

「じゃ、じゃあラリカは何かいい作戦、思い付いたの!?」

「“破壊の杖”ならもしかしてゴーレムだって“破壊”できるかもと。そんな大仰な名前なんだし、きっと凄い破壊力だよ。多分」

「駄目よ、さっき使おうとしたんだけど…ウンともスンとも言わないわ」

そりゃそ~だ。ロケットランチャーは杖じゃないし。
私はルイズの手から“破壊の杖”を取り、ふむ、と呟いてみる。

「何か平民が使う銃に見えなくもないような気が…。才人君、どう思う?」

「え?あ…いや、それってやっぱ“ロケットランチャー”だよな・・・」

「サイト!?あんたこれが何か知ってるの!?何であんたみたいな平民が、」

「どうどう。今重要なのはコレが“何か?”じゃなくてコレで“何が出来るか”だよ、ルイズ。才人君、単刀直入に訊くけど、コレ使えばゴーレムを破壊できそう?」

ルイズうるさいからちょっと黙っててね~。
ゴーレムはシルフィードをあしらいつつ、石つぶてみたいなのを飛ばし始めてきた。
ココアが避けてくれているが、あんまりゆっくりもしていられない。

「分からねえ。でも、もしかしたら何とかなるかも…」

「じゃあ賭けてみようそうしよう!使い方は分かる?」

才人は、何故だか分かるんだよな、とか言ってロケットランチャーをカチャカチャいじくる。
多分、安全装置とかそういうのをどうにかしたのだろう。よく分からないけど。さすがガンダールヴのチート能力。

「…よし、後はこの引き金を引けばいい。ただ、1発しか撃てないから外せないぞ」

「じゃあ絶対当たる距離で撃てばいいだけの話だよ。簡単簡単、問題解決。ルイズ、お願いね」

ロケットランチャーを才人の手からルイズに戻す。

「え!?わ、私は使い方なんて、」

「ココをくいっと引けばオケーイ。才人君は飛んでくる石つぶてからルイズを守ってあげてね。私は別件。でわでわ、ご武運を~」

そう言ってココアから飛び降りる。
いくらガンダールヴが守ってくれても、ゴーレムに近付くなんてもう御免だし。
私は安全な位置から見守ってますよー。




再びゴーレムに向かっていくココアonルイズ&才人。

飛んでくる石つぶてを華麗な剣技で弾いていく。石川ゴエモンみたい。ルパンルパ~ン。
私は“フライ”で上空に待機しながら高見の見物だ。ゴーレムも私の事はアウトオブ眼中みたいで、特に何もしてこない。
魔法は一度に複数は無理っていうルールがあるので、“フライ”中の私に攻撃手段なんてないと踏んでるのか。単純にザコは放っておいてくれてるのか。
どちらにせよ、平和って素晴らしいねー。

てか早くロケットランチャーぶっ放してよルイズ。…ああ、ゴーレムが予想外に動くんで狙いが定まらないのか。大変ですな~。
まあ、外れたら外れたで、今度こそ諦めもつくだろうからいいけど。



…待てよ。

このまま高見の見物してて、本当にいいのか?
下で一生懸命戦ってらっしゃる4人と2匹。今回、私のした事って何かあるか?
ルイズへロケットランチャー渡した事?コレって功績になるか?
そんな事しなくても、きっと最終的にはロケットランチャーでゴーレムふっ飛ばしただろう。

マズイ。私、全く役に立ってない。
初めから期待はされてなかったけど、この流れでいくと、褒章を受け取る時にかなり気まずい。もし誰かが辞退しても私は受け取る気でいたけど、この状態じゃ無理だ。
何より、戦いが終わった後、彼らにどう思われるか。
やはり無駄は無駄としても、何か分かる形で印象付けとかないと。


背中に括りつけておいた弓を取り出す。

矢は“錬金”で作っておいたモノが10本程度。
100%くらいの確率で何の意味もなさないだろうけど、ゴーレムに刺さった矢を見れば、皆さん私がそれなりに頑張ったと思ってくれるだろう。
要は、参戦したって証拠を残せばいいのだ。

「それじゃ、スパーンっとな」

放たれた矢がゴーレムに刺さる。うん、意味なし。

「2本目、いっきま~す」

よし命中。狙った場所より僅かにズレたか。遠すぎるもんね、でもまあ及第点。

「よーし、この調子で3本目れっつらご~」

ストライクぅ!ゴーレムシューティング楽しい。

「でわでわ、速射やってみよう☆」

4本目、5本目、6本目、7本目、素早く番えて射る。
正確さはなくなるが、的がデカいので全部命中。ふはははは、見たかフーケ、あんたのゴーレムは私のオモチャなのだ。

…あ、調子に乗りすぎた。
ゴーレムが上空の私に顔(?)を向ける。
まさか、石つぶて攻撃!?やめて、“フライ”の速度じゃ避けられ、




大・爆・発。

………え?倒したの?
わーい。何だか知らないけど、イィィヤッホゥッ!!




※※※※※※※※




戦いは終わった。

荷台にてぐるぐる巻き(ココアによって)にされて気絶しているロングビルことフーケを一瞥し、私は改めて安堵の溜息をこぼす。

ゴーレム破壊の後、原作よろしく例の茶番があり、才人がフーケを気絶させてミッションコンプリート。皆、大きな怪我もなく解決する事が出来た。

「あ~あ、結局美味しい所はルイズに持ってかれちゃったわね」

そう言いながらも楽しそうなキュルケ。
何だかんだ言いながらも、ルイズの活躍を喜んでいるのだ。

「でも、あれは私の活躍って言うより“破壊の杖”が凄いだけで…」

おお、いつになくルイズが謙虚に。
いや、謙虚にしてるんじゃなく、本気で自分の実力じゃないと思ってヘコんでるのか。
確かにルイズ自身の魔法はゴーレムに決定打を与えられなかったし。
でもそれは皆さん同じこと。私なんて動きを止めることすらできてねーですよ。

「な~にを言ってるのルイズ。あれは紛れもなーく正真正銘、ルイズの活躍だよ?」

ちょっと俯きがちなルイズの肩を抱いてやった。

今の私は実に気分がいい。これで褒章は誰の目を憚ることなくGETできる。そして、これから先はもうこのトンデモ主要メンバーに関わる必要もない。
適当に友情っぽいのは育まれたはずだから、将来的なコネもバッチリだろう。
つまり、我が人生の目的が5割がた達成されたのだ。
ここ最近のささくれ立った精神は見事に快晴、冷静な淑女ラリカ再誕ですわ。

「貴族は魔法が使えてこそ貴族よ!あんなの、私の力じゃ、」

「魔法が使えてこそ貴族?強力な魔法を使えれば偉いの?違うでしょう?魔法を“正しく”使えるのが貴族。それに魔法が貴族の全てじゃないよ。ルイズなら分かってるはず」

おーよしよし、普段なら放っとくけど今日は慰めてあげましょー。
適当に名言っぽいこと吐いとけば納得してくれるはず。

「…でも、」

「でも、じゃない。才人君が石つぶてから守り、キュルケとタバサと私でゴーレムの注意を引き付ける。そして絶妙なタイミングでルイズが“破壊の杖”を使った。この勝利、誰が欠けても為し得なかったんだよ?ルイズはルイズの役割を立派に果たした。例えルイズ本人が違うと言っても、その事実は譲ってあげないよ」

ルイズの頭を撫でながら、微笑む。
さりげなーく私もゴーレムの注意を引き付けていたってコトにしといた。実際は何の役にも立ってなかったが。

「………」

あれ~?ルイズ?
俯いちゃってどうした?何かマズったか!?

「そ、そうよね!魔法じゃなかったけど、私がやらなかったら勝てなかったし!!うん、そうよ!何も気に病む必要なんてないわ!!」

パッと顔を上げ、笑うルイズ。あーよかった。
ここまで来て嫌われたらオシマイだし。

「まあ、ラリカの言う通りだな。何だかんだで誰がいなくても勝てなかっただろうし」

「そうね。最終的にはルイズだったけど、ダーリンや皆も充分活躍したし!」

「…何が何でも勝つ事。手段なんて、関係ない」

うんうん、勝利の余韻は清清しいものでないといけませんからな~。
友情、すんばらしいッ!!みんな、早く偉くなって友達の私を優遇してネ☆


空は綺麗な夕焼け。実に美しい。
まさに私の輝かしい未来を暗示しているようだ。

いやー、良かった。ホントに良かった…。



ちなみに。
デルフリンガーは、ロケットランチャーおでれえたって煩かったからキッチリ鞘に収められていた。
鞘の中、存分におでれえて下さい。






オマケ
<Side タバサ>

「でも、じゃない。才人君が石つぶてから守り、キュルケとタバサと私でゴーレムの注意を引き付ける。そして絶妙なタイミングでルイズが“破壊の杖”を使った。この勝利、誰が欠けても為し得なかったんだよ?ルイズはルイズの役割を立派に果たした。例えルイズ本人が違うと言っても、その事実は譲ってあげないよ」

ラリカは言った。
確かに、フーケは同じトライアングルだが、自分1人では勝てなかった。
4人の力が合わさったからこそ生まれた勝利。

…信頼できる仲間がいたからこその、勝利?

1人では無理な事でも、もしかしたら。


「…何が何でも勝つ事。手段なんて、関係ない」




そして信頼できる仲間が傍にいたら…

もしかするかも………しれない?





[16464] 第八話・計画通り…のはずだよね?
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2011/02/14 01:53
第八話・計画通り…のはずだよね?





舞踏会。踊っているのか踊らされているのか。まあ、相手のいない私には関係ないけど。らんらんら~ん。





オールド・オスマンに事の顛末を報告。

ロングビルを雇った経緯とか聞いて、老害ってホントにダメだな~と思いつつも、シュヴァリエ爵位の申請を宮廷に出してくれるって言われて見直した。
現金な奴?はっはっは、褒め言葉として受け取っておこう!

それはさておき、シュヴァリエになれば国から年金が貰える。
働かなくても自動的に入ってくるなんて、何と言う素敵システム。
タバサが精霊勲章で才人は現金貰ってたけど、関係ないしど~でもいいや。
才人オンリー居残りさせられてたのは、恐らくガンダールヴについての説明なのだろう。
うん、これも私には関係ない。

だからルンルン気分でさっさと部屋に戻って来た。




…うん、それで、何でルイズも部屋に来るの?
今夜はフリッグの舞踏会なんだから、さっさと自分の部屋に行けばいいのに。

「ええと、話ってなにかな~?言っとくけど、ドレス貸してって言われても無理だよ。貧乏的な意味で」

何故かもじもじしてるルイズにワインを出しつつ訊ねる。

「そ、そんなんじゃないわ。ええとね…その、」

なーにを恥ずかしがる?
才人相手に告白でもするならその態度はグッドだが、私にその態度は意味分からん。
ゆりりんぐに目覚めたとか言われたら逃げるよ?有り得ないだろうけど。

「…私ね、今回の事で、改めて思ったの」

「うん?」

さっさと言え。で、自分の部屋に帰る作業に戻るんだ。

「私、誰かに認めて欲しくて、でもこんな性格だから…その、友達とか言える人、なかなかできなくて、」

あー、なるなる。友情確認か。
おっけーおっけー、分かったよ。分かったから早く済まそーっと。
私はそこまで言ったルイズを抱き締める。抵抗はなかった。

お得意のツンデレーションは同性には適用されない模様。
でもキュルケには適用されてるような。違いは何だろな?

「なーにを言い出すかと思えば。私はとっくの昔からルイズの親友を自負してたんだけどな?それが私の独りよがりだったなんて言うのはナシですよ~?」

「…うん」

そうそう。親友だから将来的にヨロシクね、公爵令嬢さま☆

「じゃ、舞踏会までそんな時間ないし。また会場で会いましょ~」

ルイズを離し、私たちは微笑み合う。
いやー、この笑顔を見ると罪悪感膨らむね~。なんて。







ようやく1人になった。
…と思ったのに何故にオマエがここに来る?

ルイズを見送って(追い出して)数分後、今度は才人が現れた。
もう着替えてるって事にして部屋に入れないどこうかとも思ったが、気を取り直して入れてあげた。
でも要件はさっさと済まして欲しい。

「それで、才人君はど~した?ゴーレム戦で怪我したなら、ラリカ特製のジェネリック秘薬をあげるけど。その他学院について聞きたいなら私よりルイズが適任だよー」

「いや、そうじゃないんだ。ラリカには一度、ちゃんとお礼を言いたいなって」

「ふむ。お礼を言われるようなコトをしてあげた記憶がなっしんぐだけどな…?」

ココアの事なら別にいい。下心アリだしね。
前回の人生では微塵も使わなかった使い魔だから、別に今回使えなくても問題ないし。
どうぞ勝手に使って下さいな。

「何言ってんだよ。俺、ラリカには世話になりっぱなしじゃんか。呼び出されて最初に“普通に”接してくれたのもラリカだし、ギーシュん時も助けてくれた。自分の使い魔なのにココアをいつでも貸してくれるし、今日だってラリカに言われなきゃ、ゴーレムを倒せなかった」

「いやー、それは買い被りだよ。私は別に何もしてないって。才人君が頑張ったから、今の結果になってるだけ。むしろ、もっともっと自分を誇っていいと思うなー」

笑ってみせる。マジで私は別に何もしてない。
放っといても解決した物語に、ちゃっかり介入しただけなのだ。

「…何となく予想してたけど、やっぱそう言うと思ったよ。ラリカならさ」

才人も笑う。
屈託のない笑顔だ。同じ笑顔でも私のとは全く違う。

「そう言えば、ゴーレム戦で斬伐刀もちょこちょこ使ってたけど…デルフリンガーあるから無理に使うコトはないよ?剣士にアレは似合わないし」

一度あげると言ったモノだから、返せとは言えないが…使わなくなったら返してくれると有難い。貧乏性言うな。

「いや。斬伐刀は立派な愛刀だよ。似合わないとか言われてもずっと使うつもりだから。…それに、ラリカがくれた刀だし」

…まあ、気を遣ってくれるならそれはそれでいいけどね。
狩猟刀はまた必要になった時に買うかな。誰かに作ってもらってもいいし。

「そっか。ありがとね才人君。…ところで今夜は何があるかご存知?」

「確か…何とかの舞踏会とか言ってたっけ」

「フリッグの舞踏会。学院の生徒が着飾って踊る、ダ~ンス・パーティ~。イエ~イ」

だからして、私もそろそろ着飾らないといけないのだよ。察して出て行って下さいな。
私は杖で才人の胸を軽く小突く。

「可愛いルイズがより可愛くなってるかもかーも。一見の価値アリ。ジェントルメン、ちゃんとエスコートしてさしあげてね?…というわけで、こんな所で油売ってちゃダメダ~メ」

だからそろそろ帰ってね☆
というか早く戻らないとルイズの機嫌が悪くなるでしょーに。
そんな意味を込めて、にこっと微笑んどいた。




…。




よし。行ったか。

今度こそ誰も訪ねて来ないように、“ロック”を掛ける。
ドアには『着替え中。開けたらココアけしかけます☆』と紙を貼っておいた。
…ふう。つ~かれた。




※※※※※※※※




予想通り、私にダンスを申し込んでくるような見る目のない男子はいなかった。

いやーさすが貴族の坊ちゃま方ですな。お目が高いたか~い。あは。
べ、別にヘコんでないけどね。ヘコんでたのはお腹だけなんだからね!と心の中で独りツンデレーション。深い意味はない。
というわけで、れっつ食事。
食べようとしたら、青いのが前に座った。

…おやおや、タバサさんですか。
今から一心不乱にハシバミ草を貪るのですね?分かります。
どうぞどうぞ。良かったらこっちにあるサラダも食べて下さい。

とか思ってたら話し掛けられた。

「あなたは」

「ん?」

「ゴーレム戦で、弓を使っていた」

…うん、使ってたよ。で、何?

「どうして?」

どうしてって言われても…。

「貴族の私が“どうして平民の武器を”ってコト?」

コクリと頷く。

「あえて言えば“必要だから”。弓は確かに平民の武器だけど、平民しか使っちゃいけないなんて決まりはないしね。“使えるものは何でも使う”。コレすなわち我がメイルスティア家のモットーでありま~す。それに“フライ”をしながら遠距離攻撃できるって、色んな意味でかなり便利だよー」

上空から獲物を射る。こんな事、ただの狩人にはできないだろう。
メイルスティア家の食卓に並ぶ肉の90%は私が仕留めた獲物だったのだ。ハンター・ラリカは伊達じゃない。
…てことは、私がいない今のメイルスティア家って…悲しい食卓?

肉が食いたいよーとか喚きながら強制ベジタリアンと化した家族を想像して切ない気分になった。
いつの間にかタバサは料理を食べ始めている。私の回答は無視ですか。


「…これ」

無視してくれてた方が良かった。
タバサがハシバミ草のサラダを差し出してきた。いやそれニガイから。

「ハシバミ草か~。じゃあ、これをこ~して、こんなんどうでしょ~か」

ハシバミ草をパンに挟み、適当な肉と野菜を入れる。恐ろしく適当なサンドイッチだ。
アホみたいに苦いハシバミ草も、こうすれば何とか食べられるだろう。多分。
ナイフで半分に切り、無言でその作業を注視しているタバサに片方を渡す。

「…?」

「そのまま単体で食べるのもいいけど、こうやって色んな具と一緒に食べると、新し~い可能性が見付かるかもってコトだよ」

ま、ハシバミ草なんて単体じゃ食べられないからこうしただけなんだけどね。
一口齧ってみる。
…うん、悪くない。てか美味しい。苦味もいいアクセントになっている。
料理なんぞ丸焼きとかしかできない私だが、成功せいこ~。やってみるもんだ。
タバサもぱくっと齧り、ちょっと目を見開いた。

「…おいしい」

「お気に召したようで何よりですよー。さ、どうせ踊る気ないし、どんどん食べよーか」

人に変なモノを勧めてないで、勝手に食べててお~くれ。

「…色んな具と一緒に。新しい、可能性」

…何かまた復唱してるけど、気にしたら負けだ。
あー、料理でりーしゃす。何もかも忘れて食べてやる。

あい・きゃん・ふらーーい☆




※※※※※※※※




ダンスで主人の相手を務める使い魔に、デルフリンガーがおでれえたし始めた頃、お腹一杯になった私は会場を後にしていた。
いくら料理が美味しくたって、タバサじゃないんだから胃袋は有限だ。
どーせ残っててもダンスに誘われる確率ゼロなのでさっさと帰った方がいい。

廊下には私の足音だけが響いている。
学院のほぼ全員が舞踏会会場に行っているため、他の場所は無人だ。セキュリティとか全く考えてない。無用心にも程があるだろう。
どーでもいいけど。

「みっしょんこんぷりーと。こんぐらっちれ~しょん、ラリカ」

心地よい酔いに任せて呟く。



私の計画は“成った”。

もう原作ストーリーに関わる必要はないだろう。
ルイズ達とは付かず離れず、程よい関係を保っていけばいい。危険がない程度に状況を聞き、ストーリー進行に合わせて最善の行動をする。
私がいなくても、彼女らは勝手に世界を守ったりしてくれるだろう。間接的に私の未来を守ってくれるだろう。
そもそも私はイレギュラーだし。ここらで潔く退場しないとね?
引き際はとても重要なのですよ。



計画通り。

うん。計画通り…のはず。




[16464]  幕間1・嵐の前の平和な日常(才人)
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2011/02/14 02:02
幕間1・嵐の前の平和な日常(才人)





私は願う、みんなが笑って暮らせる世の中を。それが無理なら、私だけでも笑って暮らせる世の中ぷりーず。自分はカワイイもんなのです。





フーケ騒動が終わり、私は平和な時を過ごしていた。

“私達”じゃなくて?
いやー、私は私が平和ならいいのですよ。他はどーでも。
関係な~いしねっ☆



「ラリカ、入っていいかー?」

授業後、新しい秘薬にでも挑戦しよ~かなと思っていると、聞き慣れた声がした。

「才人君か。ど~ぞ。ドア開いてるよー」

「いや、窓なんだけど」

ココアに乗って窓からコンニチワってワケね。
すっかりココアを私物化してるなーとか思いながら、窓を開ける。

「よっと。お邪魔しま~す。何かやってたの?」

飛び込んできた才人は、デルフリンガーと斬伐刀を私の机の上に置き、ベッドに腰掛ける。
…う~ん、この部屋の主みたいな風格。
いきなりリラックスするのもどうかと思うけど…ま、別に気にしない。
最近の私は機嫌がいいのだ。

「新しい秘薬でも作ろうかと思って。子供向けの甘い味がする飲み薬。突然の腹痛にドウゾ。1瓶3スゥで新・発・売☆」

「ふぅん。よく考えるよな。で、どんな味なんだ?」

「おっ、興味ある?実は薬効成分ナシの試供品があるんだよねー。良かったら飲んでみてくださいなっと」

棚に置いてある瓶を取る。
私的には好きな味だが、こういう物は第三者の意見が重要だ。

「じゃあもらうよ。…オレンジっぽい匂いだな」

特に疑いもせず、一気に飲み干す。これが毒とかだったらどーするんだ?
まあ、私が心配するコトでもないか。

「りんごジュース?いや、微妙にパインみたいな味も…。ん、でもマズくはないな」

「そっかー、良かった~。私は好きな味だったから、マズい言われたらヘコんでたよ」

才人が味オンチという話は聞かないし、このぶんなら本当にイケるのだろう。
嬉しくて自然に笑みが零れる。
安い材料で作るから効能はアレだけど、平民相手の薬なら上等な部類だろう。
高価なのを少量作って売るよりも薄利多売だ。てか、レベルの高い秘薬は私じゃ作れない。

「ああいう味が好きなんだな、ラリカは。ルイズもクックベリーがどうとか言ってたけど、やっぱどの世界でも女の子はフルーツ系好きなんだ」

「甘いモノは別腹という格言があるように、フルーツに限らず甘味はそれだけで魔法なのだよ。ゆえに食べ過ぎてえらいことになったりするんだけどね」

ルイズがクックベリーパイを1ホール全て食べたのを見たことがある。
あの身体のどこに入るのか不思議だった。いや、その栄養がどこに向かっているのかが不思議だった。
とりあえず、胸でないことは確かだが。

「そういえばさ、才人君はよく私の部屋に来るけど、ルイズに何か言われたりしないの?某“微熱”なヒトに聞いた話によると、キュルケルームインザ才人した日なんて、けっこう手酷く怒られたって話だったケド?」

もちろん、そんな話をキュルケに聞いた事はない。原作を知ってるってだけの話だ。
それはともかく、私の所に来ることでルイズの機嫌を損ねるような事があったらマズいだろう。将来的な意味で。

「いや?ルイズ公認だし。むしろ、授業の復習とかで集中したい時なんて、ラリカの部屋にでも遊びに行ってろとか言うくらいだぞ。今日はアイツが図書館で調べ物するとか言ってたから来たんだけどな」

はっはっは、なるほどなるほど。
私は嫉妬の相手にもならないってぇコトですか。そうですか。
才人は原作だと煩悩に流されやす~い青少年だけど、この私に欲情する可能性なんてゼロだもんね。
そりゃ~安心だネ☆

「な~る、でも才人君。私も一応はレディだって事、頭の片隅に置いといてねー。ギーシュとかと同じ扱いされたら泣いちゃうよ~」

野郎友達と同じ扱いは悲しいから。
ヒロインとかそういうガラじゃないのは分かってるけど、一応それなりにレディなのだ。

「そんなの当然分かってるって。まあ、俺、元の世界では女の子の友達とかいなかったから、扱いとか慣れてなくてアレかもしれないけどさ」

「んー、どうだかなぁー。態度で示してもらわないと分かんな~いよね?」

「信用ねーなぁ俺。でも俺、ラリカに何かあった時は絶対駆け付けるから。その時にはちゃんと見直してくれよ?」

「ありがと~才人君。私感激して涙が止まらない!うるる。…ま、期待しないで待ってるよ~」

「うわっひでえ!全然信用してねえし!」

てきと~に軽口交わして笑い合う。
打算とかなしに、この瞬間は普通に楽しんだ。



「あ、そうそう、最近夜に自主トレしてるっぽいね。ココア連れて山とか行ってるでしょ?」

「まあな。ゴーレム戦で思ったんだけど、剣の腕はともかく基礎体力は付けとかなきゃって。素人が考えた訓練だからあんまり効果ないかもしれないけどさ」

「いやいや、努力は報われるよー?すくすく逞しくなって、ルイズのハートをどっきゅんしちゃってくれたまえ。女は一部を除き、へっぽこよりもたくまし~いオトコに惹かれるモノなのです。私もささやかながら協力するから」

疲労に効く秘薬モドキくらいなら、喜んで進呈する。
ルイズと才人にはトリステインを守ってもらわなきゃいけないのだ。

「え?い、いや、別に俺はルイズのことなんて、」

あたふたする才人。分かりやすいなー。

「はいはい、分かった分かった照れるな才人君。でも、このラリカさんの前では、遠慮なんてゴミ箱にポイしちゃっていいんだよー。フリッグの舞踏会でのルイズ、すごーく魅力的だったしね?惚れるのも無理はない…いや、惚れ直したのかなか~な?」

「だ、だから、」

「あはは、“サイレント”~♪何言ってるのか聞こえませんな~」

真っ赤な顔してぱくぱくする才人。もちろん何も聞こえない。
少しすると、諦めたように肩を落として口を噤んだ。困ったような、でも笑顔だ。
“サイレント”を解除し、ふてたような彼の肩を杖で軽く叩く。

「あらら、怒っちゃったかな?」

「怒ってないよ。でも…実はラリカ、けっこう意地悪い?」

「そのフリッグの舞踏会でだ~れも誘ってくれなかったので、乙女的プライドがあばばばな感じになっちゃいまして。着飾った意味もなっしんぐで。そのダメージから未だに立ち直れていないのですよコレが。だから純情ぼーいの才人君をからかわずにはいられなくなっちゃってるんだぜー」

実際は別に気にもしていない。
食べるだけ食べて、お腹いっぱいになった時点で帰ったし。
才人をからかうのは単純に楽しいからだ。そう言ったらさすがに怒りそうなので、てきと~に理由付けしてみた。

「誘うも何も、いくら探しても見当たらなかったんだよな。会場、隅々まで探したはずなんだけど」

あれ?誘ってくれようとしてたんだ。
まあ、ルイズ以外では私が唯一ダンスに付き合ってくれそうな女の子だし、分からんでもないか。
キュルケは競争率高いしタバサは黙々と食べてるし、さすがにシエスタと踊るわけにゃーイカンしね。

「それは失礼、あ~んどアリガト。じゃあ、お詫びにここで、しゃるうぃ~だんす?」

にこっと笑い、手を差し出してみる。

「え!?」

「な~んてね?また次の機会にお願いしますわジェントルメン」

「あ、ああ、次の機会にな!」

いちいち反応おもしろいなー。
ま、次の機会なんて多分な~いけど。




※※※※※※※※




「…んじゃ、そろそろ戻るかな。また遊びに来ていい?」

それからしばらく談笑し、外が暗くなり始めた頃に才人は立ち上がった。
てか、また来る気ですか君は。まーいいんだけどね?トラブルさえお土産に持ってこなけりゃ。

「いつでもど~ぞ。それと、お帰りはちゃんとドアからど~ぞ」

デルフリンガーと斬伐刀を手渡し、笑顔で言う。
今度からは窓から入ってくんなっていう笑顔の圧力…のつもりだ。効いたかど~だか分かんないけど。

「サンキューな。おやすみ、ラリカ」

「夕食まだだし、寝るのもまだだけどね~、おやすみ才人君」

んじゃ、ご飯まで秘薬作りに勤しみますか~ね。
と、そーだ。

「あ、そーいえばさっきのだけど」

「さっきの?」

ドアに手を掛けていた才人が振り返る。

「冗談抜きで、信用してるよ。期待してるし信頼もしてる。それに、見直すも何も、才人君の凄さはバッチリ分かってるから」

何せ原作読んでますから。
どんどん強く、偉くなってくれたまえ。私が今後、危険な場面に突っ込む事はないだろうけど、そうなったらしっかり守ってプリーズ。それくらいの友情特約はあるよね?

「…ああ」

一瞬驚いた顔をして、それからニカっと笑う才人。なんだど~した?
ま、私なんかからでも褒めらりゃ~嬉しいか。つられて私もニッコニコ。

「でもま、ルイズ最優先でね。あの子、強そ~に見えても内心脆いから。その代わり、それを支えてくれるヒトがいれば、きっと凄いメイジになれる。何せ“凄い”才人君を呼び出した程なんだし、私が保証するよ。…だから、お願いね」

ルイズと才人、どちらが欠けても物語は破綻する。いわば、我が幸福ロードも破綻する。
だから釘を刺しておく。

「分かってるよ。…ったく、でもどうしていつも…」

いつも何だ?お小言はうぜーってか。
はいはい、もうこれ以上は不自然だろ~し言いませんよー。

「ふふ、引き止めてゴ~メンね。それじゃ今度こそ、ばいばい」

ひらひら手を振って苦笑する才人を見送る。




いやー、実に平和だね。
こんな平和がずっと続けばいいのにねー。続かないの分かってるけど。
それでも願わずにはいられないわけですよ。
私の幸福が最優先なのには変わりないけど、それが揺るがない限り、彼らもシアワセにはなってもらいたいわけで。

だから、ちょっと声に出して言ってみる。



「どうか。私の大切な人達が、幸福でありますように」



…なんてねー。
気分は聖女~。ホントはクズ人間だけど。あは。








オマケ
<Side 才人>


「冗談抜きで、信用してるよ。期待してるし信頼もしてる。それに、見直すも何も、才人君の凄さはバッチリ分かってるから」

帰り際にいきなり言われた。

あー、その、面と向かってそういう台詞は…あれだ。うん、反則。
何でこういう時だけ普段の冗談っぽい感じじゃなく、穏やかに、それでいて真剣な眼差しで言うんだ?
その…ちょっと、嬉しくなっちまうじゃんか。

「…ああ」

照れを誤魔化すように笑って応える。
ラリカも微笑んだ。

「でもま、ルイズ最優先でね。あの子、強そ~に見えても内心脆いから。その代わり、それを支えてくれるヒトがいれば、きっと凄いメイジになれる。何せ“凄い”才人君を呼び出した程なんだし、私が保証するよ。…だから、お願いね」

続けて彼女は言う。

「分かってるよ。…ったく、でもどうしていつも…」



…そうやって、自分以外を優先しようとするんだよ。





笑顔に見送られ、廊下に出た。
でも、何か心に突っ掛かるモノがある。
やっぱ言っとかないと。俺やルイズの事ばっかじゃなく、自分の事も考えろって。
出てきたばかりのドアに手を掛ける。


『 ―――――― どうか。 私の大切な人達が、幸福でありますように 』


小さく漏れて聞こえたラリカの呟き。
ここで部屋に入ってくなんて流石に無理だ。

ったく。何だかなぁ、ホントに。



…………ホントに。




[16464]  幕間2・嵐の前の平和な日常(ルイズ)
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2011/02/14 02:17
幕間2・嵐の前の平和な日常(ルイズ)





平和って素晴らしい。苦痛のない日常、輝ける未来。どうか、こんな日々が続きますように。せめて私だけでもね。





フーケ?あーそんなのもいたっけ?

私は過去には拘らないのだよ。
過ぎ去った者なんかを思い出す暇があったら、輝かしい我が未来の展望を妄想する。
それがラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティアの生きる道なのですよ。





虚無の曜日、朝っぱらから押しかけてきたルイズが私のベッドを占領している。
眠いなら自分の部屋で寝ろ。それか才人とでもキャッキャウフフしていて下さい。

「ねーラリカー」

ゴロゴロしながら私を呼ぶ。

「ん~?」

「ひまー」

暇じゃねーですよ。
私は作った秘薬を整理したり、後で街へ売りに行くからその準備とかしたいのだ。とゆーか才人はどうした才人は。

「才人君とでもお出掛けすればいーのでわ?ここにいても怠惰で無為な一日が走馬灯の如く過ぎ去ってくだけだよ~」

「あの馬鹿犬は朝っぱらからギーシュとどっか行ったわよ。ご主人様を置いてね。どうせまた、決闘ゴッコでもしてんじゃない?」

「な~るなる。ギーシュと実戦的な訓練か。少しでも強くなってルイズを守らないといけないからね。いや~、感心ですな~」

「…まあ、最近は雑用も文句言わずにしっかりこなしてるし、鍛錬もはりきってるみたいだし、多少は認めてあげようかなって思ってるけど」

はいはいツンデレ思想ごちそうさま。

「舞踏会で着飾ったルイズを見て、気合が入ったんじゃないか~な?ルイズみたいな可愛いご主人様だったら同性の私だって張り切っちゃいそうだぜー。この小悪魔め~」

ベッドに腰掛け、寝転がっているルイズの頭をうりうりと撫でる。
子供扱いっぽいけど嫌がる素振りは見せない。むしろ大人しく撫でられているこの有様は、才人には絶対見せられない姿だろう。
将来は“虚無”の使い手になるのに、今はドットの私なんかにこんな扱いだ。ふはははは。


「ねえ、街に行かない?お勧めのお店があるの」

「あー、ランチしつつブラブラするのも悪くないかもかーも。でも護衛役の才人君はギーシュに絶賛レンタル中だよねー。キュルケを誘ってみる?」

火のトライアングルであるキュルケなら下手な護衛より心強いだろう。
タバサはきっと誘っても無駄だから除外。逆に来るとか言われたら後が怖いし。ヤツと親しくなるワケにはいかんのだよ。

「ツェルプストーはどうせ男漁ってるから来ないわよ。それにココアがいれば護衛なんていらないって」

「ん~、確かに。じゃ、街へれっつらごーしましょ~か」

断って機嫌を損ねても仕方ない。秘薬売るのはまた今度でいいか。
それに、たまにはこんな日も悪くないかも。

てかルイズ、おヘソ見えてるよ?
何でこんなに無防備なんだよ。ま、女同士だし、いっか。




※※※※※※※※




ココアに乗って空の旅。

キモ~いムカデに乗るレディ×2って、かなりシュールな光景だが、今更気にしない。
ルイズは完全に慣れており、たまにココアの頭を撫でたりする。虫って撫でられて喜ぶものなのか?感情とかなさげに見えるけど。

適当な場所に着陸し、ココアを上空に待機させながら通りをぶらぶら。
あんな怪しい飛行物体が頭上にあるのに誰も驚かないのは、私の預かり知らないトコロで何度も連れて来ているためだろう。
私は秘薬売りに来た際、ココアは近くの森に隠していたし。気を遣っていた私って一体な~に?
恐らく、街のみなさんココアはルイズ達の使い魔だと思ってるに違いない。
別にいいけどねー。


「ここのクックベリーパイ、凄く美味しいのよ」

お勧めの店ってのに到着し、開口一番、ルイズが言った。
なーる、それが食べたくて私を誘ったのか。
確かに1人で行くのはアレだし、才人と一緒ってのは今のルイズじゃ難しそう。周り、カップルだらけだし。

「ほほう、でわでわたっぷり期待させてもらおうかな」

マズくなければ何でもいいんだけど、美味しければそれに越したことはない。
公爵令嬢さまの眼鏡にかなうくらいだから、マズいわけがないんだろ~けど。
でもクックベリーパイくらいならマルトーに言えば作ってもらえるし、学院の料理はそんじょそこらの店には負けない。
それをわざわざ街まで食べに行くのは意味不明。気分か?気分の問題か?

「ルイズはそのお勧めなクックベリーパイを注文するんだよね?他のメニューは注文した事ある?」

「ううん、そんなにたくさん食べられないし」

「じゃ~私はこのマロンのを注文するね。ルイズのと半分こしよ~か」

メニュー表にはお勧めと書いてあるので、外れることはないだろう。

「名案ね!そうしましょうか。…すいませ~ん!」

店員を呼ぶルイズ。実に楽しそうだ。
原作を読んだだけでは分からない側面。才人とは言わずもがな、友人であるキュルケとの掛け合いもこんな雰囲気じゃなかった。

前回の私だったら彼女のこんな表情を引き出すなんてできなかっただろう。面と向かっては言わなくても、心のどこかで“ゼロ”と馬鹿にしてたし。
プライドばかりの公爵令嬢となんて話す気さえしなかった。
でも、今回はこうして親友ごっこしている。これも“俺”という別世界の視点を介したからこそなのだろう。

いや~、人生、何がどう転がるか分かりませんな。




※※※※※※※※




ちょっと多かった。けぷ。

私より小柄なルイズは余裕の完食だったのに。
やはりアレか?育ってきた環境か?
貧乏ゆえに日々の糧にも困り、小食にならざるを得なかったメイルスティア家と、有り余る贅で飽食の限りを尽くしたヴァリエール家の違いか?
やはり貧乏は敵だ。再確認。

「ちょ~っと多かったね。こんなに食べちゃって太らないか心配だよ。ルイズは大丈夫?」

「ええ、私は食べても太らない体質だから、全然平気よ」

「よ~し、今ルイズは全私を敵にまわした。羨ましいぞこのチート体質めー!」

「ちょっ、ひああっ!?」

わきわき。
後ろに廻り込んでくすぐってやった。もちろん、少しじゃれる程度で止めたけど。
こういうのはホドホドにしとくのが淑女の嗜みなのです。うふふのふ。


「あ、露店やってるわよ、ラリカ!」

ちょっと落ち着き、広場に出てみると、行商人っぽい方々が怪しげなモノを広げている。
異国の置物とか装飾品だろうか。
正直、ああいうモノはだいたいが後々ゴミになるので興味ないのだが、ルイズには珍しいようだ。目を輝かせてる。
うん、露天商にとっては実にいいカモだなコイツ。

「ど~せやる事もないし、ちょろ~っと見てこっか?」

仕方ない、今日くらい付き合ってあげますよー。


「おっ、貴族のお嬢さん方。見てってよ、東方の珍しいモノが揃ってるよ」

胡散臭そーなヒゲのオヤジが、明らかにニセモノっぽい商品を並べて言う。
ここまでインチキ度が満点だと、逆に清々しい。

「ふぅん、確かに見たことないデザインばかりね」

感心したように呟くルイズ。
いや、公爵令嬢には縁遠いようなダメアクセサリーだからね、見たことなくて当然デスよ?
ケバかったり逆に地味すぎたり、こんなもんを買う貴族なんていないだろう。

「あっ、あっちの露店も面白そうね」

こちらには欲しい物がなかったらしく、ルイズは別の露店に目を向ける。
と、ヒゲオヤジが私の肩を叩いた。

「はい?」

「お嬢さんにオススメなのがあるんだけど、どうです?付けてるだけでダイエット効果のあるマジックアイテム。今なら20エキューに負けときますぜ?」

なぜ私個人に売りつける?
ルイズには必要なくて私には需要があると思ったのか。
確かにあっちは美容とか全く必要なさげな美少女だけどね。ふふふ、オジさま張り倒しますわよ☆
私の殺意の波動をものともせず、ヒゲオヤジはシンプルなイヤリングを見せてくる。

…確かにほんのりと魔力を感じる。ダイエット効果があるかはともかく、マジックアイテムという事には間違いなさそうだ。

「今なら珍しいブツをオマケするんですがね。どうです?どの国の文字でもない文字が書いてあって見た事もない素材で作られた、とっておきの珍品でさあ」

もしかして“場違いな工芸品”?まさか、例の“竜の羽衣”みたいな?
でもオマケで付くようなモノじゃ大したものじゃないよなー。う~ん。



「カラコンて」

珍しいブツってのは期待通り “場違いな工芸品”だった。
そしてその正体は…!カラーコンタクトレンズでした~。ハイ残念~。

確かにオマケレベルだ。
使い方が分からないし、美術的価値もなさそうって話だったが、成程その通り。まあ、たとえ使い方分かったとしても、この世界の人間には無用の長物だろうしね。
私もこんなもん使う気はなので、ポケットに突っ込んでおく。正直、使わないけど“俺”だった世界の文字が書かれた品物は、ちょっぴり懐かしく、感慨深い。

ああ、ちなみにイヤリングは“場違いな工芸品”というオマケに興味があったからこそ買ったのだ。決してダイエット効果を期待したわけではない。
まあ、せっかくだから付けるけど。決してダイエット効果を、

「ラリカ、何か買ったの?」

「イヤリングをね。記念に買ってみたんだ。そう、記念にね」

「そっか。ラリカが買ったなら、やっぱり私も何か買おうかな」

やはり欲しいようなモノは見当たらなかったか。お目が高い。

「無駄に浪費する必要はなっしんぐだって。それに、こういうモノは自分で買うんじゃなくて誰かに買ってもらわないと」

私には買ってくれるような相手いないけどね。あは。

「ラリカが選んでくれるの?」

「いやいやいや~、私よりも相応しーいヒトがいるじゃないですかー」

才人とか才人とか、あと才人とかね。
彼に買ってもらったモノならどんなモノでも宝物になるでしょーに。

「なっ、あの馬鹿犬がそんなに気が利くわけないじゃない」

「んー、誰も才人君にとは言ってないんだけどなー」

「ななな何言ってんのよ!わ、私は別に、」

はいはい分かってますよー、つい本音がポロリしちゃったんですねー。
物理的にお腹一杯なのに、精神的にもごちそーさまだよ。

全く、微笑ましいなぁ。
こーんな何気ない日常が、平和て言うんだろうね。


「ホントに楽しいねー、ルイズ」


雲ひとつない青空の下。
冗談を言い合い、笑い合い。
何と言う順風満帆。実に素晴らしい気分だ。



幸福はもう手中に収めたも同然。
ふはははは、刮目せよ!!虚無もガンダールヴも我が将来設計の礎に過ぎないのだ!
なーんてね。
う~ん、幸せが止まらない。
後はそこはかとな~くルイズ達から離れ、身の安全を確立するのみ。

ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティアの栄光は誰にも止められないぜ~。








オマケ
<Side ルイズ>



「ホントに楽しいねー、ルイズ」

真っ赤になった私の髪をラリカが優しく撫でる。
…こうされると、もう何も言えなくなる。
恥ずかしさとか、怒りとか、全部消えて…安心感が心を満たす。



入学して、何度か魔法の実地があって、いつしか私は“ゼロ”と呼ばれた。
皆が馬鹿にし、魔法が使えないやつは貴族じゃないとか言う中で、ラリカは何も言わなかった。

『絶望』のラリカ。
『ゼロ』のルイズにも何となく通じるその二つ名に、私はどこか安心していたのだろう。この子は私と似ているんだ、だから私を馬鹿にしないと。
最初に話すようになったのは、そんな理由からだった。

でも、実際は違った。
ラリカは魔法とか関係なしに私を認めてくれている。魔法が使えない私を、他の何者でもない、ルイズとして見ていてくれている。
そして、いつも私を気にかけてくれている。


嬉しかった。



多分、私にとって最初の“親友”。
幼い頃の姫様以来だろうか、誰かと一緒にいて、こんなに楽しいと心から思えたのは。



ゴーレム戦の夜、当たり前のように親友だと言ってくれて。

抱き締められた時、私の中でちっぽけなプライドは崩れ去った。

ラリカの前ならちょっとだけ、素直になれる気がしたんだ。




「うん。…凄く、楽しい」


彼女の笑顔を見ながら、私は小さく頷いた。




[16464] 第九話・ちょっと待て・私は行くと・言ってない
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2011/02/14 07:18
第九話・ちょっと待て・私は行くと・言ってない




いや、だから。もう本編には関わりたくないんだって。潔く身を引きたいんだって。





束の間の平和な時間は光陰矢の如しで。

ギトー先生の風贔屓な授業(予定通り、キュルケが吹っ飛ばされた)がカツラ装備のコルベール先生によって中断され、でもひゃっほー休校だーってわけにはいかず、アンリエッタ姫様訪問イベントとなった。

正直な話、アンリエッタ姫様には興味がない。
貴族は貴族でも、メイルスティア家なんて赤貧下級貴族が王族と直接接する機会なんてないのだ。
関わる事もない相手に興味を抱けという方が間違ってる。
実にならない花など価値はないのだ。少なくともラリカ的には。



「へえ…あれがアンリエッタ姫様か。凄い人気だな」

別に出たくもない出迎えに行った先、なぜか隣に来た才人が言う。
な~ぜに私に聞く?
そういうのはルイズに…ああ、ワルドに夢中でダメなんだったっけ。あんな噛ませのヒゲ男のどこがいいのかサパ~リですな。
蓼食う虫も好き好き。
でもキュルケとかも魅了されたところからして、アレがカッコいいというのが正常な反応なのか?だとしたら先入観恐るべし。

「トリステインの花だからねー。才人君的にはど~なのかな?」

「うん、流石お姫様って感じだな。何か、オーラが違う」

「住んでる世界が違うからね。まあ、一応貴族な私とかでも、一生関わる事なんてないんじゃないかなー」

才人はバッチリ関わる…というか、今夜さっそく関わるんだけどね。
そして明日の朝には地獄の戦場ツアーへ出発しんこー。
何という不条理。でも、それは避けられないディステニー。
原作という神の意志には逆らえないのだよ。
ルイズやその他の主役メンバー達と頑張ってくれたまえ。

私はみんながいない間、頑張って授業とか受けるから!!のほほん幸せに過ごすから!
心配しないでネ☆




※※※※※※※※




うん、それで才人君。ど~して君は、私の部屋にいるのかな?

夜。早いけど寝ようと思ってた私の部屋に才人が入ってきた。
さも当然の如く。形式だけのノックして、返事も聞かずに入るってどーなのよ?

「えーと、才人君。今って夜だよねー」

「ああ。今日はちょっと冷えるよな」

「そうだねー。そしてここは女の子の部屋だよねー」

「ラリカの部屋だな。もう何度も来てるけど、やっぱ何か落ち着くんだよな、ここ」

うん、それは態度でよく分かる。
私のベッドに腰掛けるのが当然って感じになってるし。

「…いや、そ~じゃなくて。私が言いたいのは『こんな時間に』『ナゼ』『私の部屋に』いるのかな~ってコトなんですよ。コレがまた」

「何かルイズがずっと上の空でさ。何言っても反応しないんだ」

OK、よく分かった。コイツは馬鹿だ。
それがどーいう経緯を経て、私の部屋に来るって結論に至ったんだ?意味ワカンネー。
夜這いとかの方がまだ説得力あるよ?相手が私じゃ在り得なーいけどネ。

「そかそか。でも、ルイズだってそんな日もあると思うんだ。だから別に心配しなくていい思うし、もう遅いから部屋に戻った方がいいとも思うんだ」

今夜はアンリエッタ姫がルイズの部屋にお忍びでやって来る重要なイベントがある。そこで才人と姫様がちょっぴり衝撃的かつ印象的な出会いをするのだ。
でもコイツが私の部屋にいたらフラグがポッキンと逝ってしまう。ついでに私の未来展望もポッキン逝ってしまう。

「でもあの様子は何か変なんだよな…。ラリカは何か聞いてないか?」

知らん!知ってるけど知らん!!
うわぉぉぉぉぉ!!何やってんの!?早く帰れって!話引き延ばすなって!!
ストーリーが、原作の流れが破綻する!!
何なんだこの状況は?気をよくして気軽に部屋に入れ過ぎた私が悪いのか??
考えろ、冷静になれラリカ!ひっひっふーひっひっふー。
あれ?このラマーズ、何かデジャヴだ。

「分かった。じゃあ私も一緒に行って理由を聞き出してあげるよ。というわけで、ルイズの部屋にれっつごー」

こうなったら手段は1つ、ルイズの部屋に一緒に行くしかない。
もちろん、私は途中で何か忘れたとか言ってトンズラするつもりだ。姫様に話を聞かされたら嫌でも関わらざるを得なくなってしまう。
そういう役割はギーシュで充分。
私はもう、主役メンバーには関わらないと決めたんだって!
オマエらの危険な物語に凡人の私を巻き込むな!私は特別な存在じゃないんだよ!




※※※※※※※※




「あ、ギーシュ。何やってんだよこんな夜更けに」

「げっ!サイト!?いや、これはその…、」

「ここ女子寮だぞ。こんなとこモンモンに知られたらマズいだろ。見なかったことにしてやるから、さっさと帰れよ」

「す、すまないね。助かるよ…」

…あっるぇ~?
途中でバッタリ会ったギーシュ君。
ごく常識的な才人の意見に従い、あっさり自分の部屋へ帰って行っちゃいました☆
え?なにそれ?姫様ストーキングしてたんじゃないの?あれ?

「全く。ギーシュも困ったやつだよな」

困ったのはギーシュでなくてわたくしです。
と言うかですね、ギーシュに言った台詞はそのまま君にも当てはまるのですよ?

「さ、行こうぜ。ラリカが声かければルイズも反応するだろうし」

ちょっと待て。
いや、ギーシュがここに居たってコトは、姫様はもっと先に行ってるってコト。グズグズしてたら間に合わない。
それよりギーシュがメンバーから外れる?それって凄くマズくない?
戦闘じゃいてもいなくてもあんまり変わらないけど、ヴェルダンデは必要不可欠なんじゃないか?脱出用的に。
あそこで脱出できなかったらルイズ&才人はどうなる?ゲームオーバー?
そんな。何でこんな事態に?

いや、まだ間に合うはず。あとでギーシュに密命の事を教えてアルビオン行きメンバーに加えればいい。
うん、そうしよう。それしかない。
でも密命をどうやって教える?他人に漏らしちゃいけないから密命なのであって、

とか思考の坩堝ぐーるぐるしてたらルイズの部屋の前まで来ていた。
よし、逃げよう。考えるのはそれからだ。

「あ、そうだ忘れも、」

「ルイズー、ラリカ連れてきたぞー」

あばばばばばばばばばばば!!!!




※※※※※※※※




わぁ、お姫様。
近くで見ると本物はやっぱり違いますわね。何が違うって?ええと、その…オーラとか?あと距離とか?おほほのほ。
よしまだ私は何も聞いてない。
姫様がルイズの部屋にいたのも、幼馴染的な懐かしさからつい遊びに来てしまっただけだろう。いやー、年を経ても変わらない友情って素晴らしい!感動した!嘘だけど。

「メイジにとって使い魔は一心同体です。席を外す理由がありません」

あ、バッドトリップしてたら何だか話が進んでる。人払いかどーだかって話か。
うんうん、そりゃー才人は主役だしね。分かる分かる。
でも私は単なるルイズのクラスメート。空気を読んで退場いたしますわ。

「そちらの貴女は…」

「どうぞお気になさらないで下さいませアンリエッタ姫様。恐れ多くも姫様に名乗れるような身分の者ではございませんわ。それにどうやら込み入ったお話をなさっているご様子、わたくしは可及的速やかに退去、」

「姫様、彼女はラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア。私の“親友”です」

うおおおい!?紹介しなくていいって!出てくから、すぐ出てくから!

「…お会いできて光栄ですわ、アンリエッタ姫様。ルイズの“クラスメート”のラリカと申します。では、」

はいサヨウナラ。もう会う事はないですけど。

「まあ、ルイズの親友なのですか」

おい聞けよ自己中姫!
てかいつからルイズの親友になんかに…あー、私が調子こいて言ったんだ。死にたい。

「はい姫様。この学院で誰よりも信頼できる、大切な親友です」

ルイズ~、いい子だから黙っててね~?そんな簡単にヒトを信頼しちゃダメだよ~?
姫様も信じないでね?
もう!この子ったらありもしない事ばっかり言って、お母さん困っちゃうわ。おほほほほ。

「ルイズがそこまで言うなんて…、少し嫉妬してしまいますね。でも、そんな方だったら…」

「はい。大丈夫です」

頷くルイズ。微笑む姫様。死神の微笑みに見えたのは気のせいじゃないだろう。
やめてとめてやめてとめてやめてとめ、


「結婚するのよ、わたくし」


死んだ。





※※※※※※※※




へー、ふーんアルビオン行き?
戦場真っ只中へ国の未来を賭けドットの学生送り込むの?
アホ姫様の尻拭いに?HAHAHA、おもしろいジョークじゃないかジョン。それでオチはどこにあるんだYO?
Oh、人生終了バッドエンドってオチか!そりゃ傑作だ!!HAHAHAHA!!
あばばばばばばば。



アホ姫様を送る事になった私は、楽しそうに何か喋ってくる姫様にてきとーな返事をしながら、いまだかつてないダークな気持ちで歩いていた。

世界なんて滅んじゃえばいいのに。
どうせ宿を襲撃された時点で殺されるんだ。助かってもワルド戦に巻き込まれて死ぬんだ。
ワルド戦を生き抜いてもアルビオンから脱出できずに終わるんだ。
アルビオン城まで付いて行かなかったら、ルイズ達が死んでどっちにしろトリステインは滅亡するんだ。いこーる私の人生終了なんだ。

あ~、早く世界滅びないかなー。



「あ…、ミス・メイルスティア!?それに…アンリエッタ姫様!!」

何という偶然、何という僥倖!!
私達の目の前には元気で挙動不審しているギーシュの姿が!
才人に言われ、大人しく戻ったのは“フリ”だったのだ!!
脳味噌がオーバーヒート寸前の高速回転で廻り始める。希望が、希望が見えてきた!

「ギ…、ギーシュぅぅぅぅぅ!!!」

気付くと私は駆けていた。オン・リー・ユーーーー!!!
呆気にとられている姫様を後目にギーシュに抱き付く。

「ギーシュ!ギーシュぅぅ!!」

「え!?なな何だね!?ミ、ミス・メイルスティア!?ちょ、いいいいきなり何を!?」

…はっ!?
イカン、余りの嬉しさに動転してた。
慌てて離れ、姫様に向き直る。

「失礼致しましたアンリエッタ姫様。こちら、ギーシュ・ド・グラモン。かの名門グラモン伯爵家の四男にして『青銅』の二つ名を持つ将来有望なメイジです。それに加え、ルイズの使い魔サイトとは親友であり、日々共に技を切磋琢磨しているライバルとも呼べる存在です」

「え?そ、そうですか。あのグラモン元帥の」

姫様がちょっと引いてるけど知ったこっちゃない。今度はギーシュに詰め寄る。

「ギーシュ、分かってるとは思うけど、こんな場所にいるアンリエッタ姫様を目撃してしまったという事は、色々とてもマズいんです。だから貴方は多少無理な理屈でも、言う事を聞かないといけない。そうですね?分かりますね?当然ですね?」

「あ、ああ、当然分かるさ」

よしギーシュ、君はやれば出来る子だ!
で、再び姫様に。
冷静に考える時間なんぞ与えない。早口言葉並みに捲くし立てる。

「何と言う運命の悪戯か、こうして目撃されてしまいました。もはや彼も無関係ではありません。むしろ運命共同体なのです。ゆえに、我々の旅に彼も同行してもらう他ないと思うのです。幸い彼の実力は折り紙付き。必ず目的の成功率を引き上げてくれること請け合いです。どうか彼の同行もお許しいただけないでしょか」

いいよね?いいに決まってるよね?いいって言ってよ!?

「そ、そうですね。分かりました。ギーシュ・ド・グラモン、貴方にもアルビオン行きをお願いします。ルイズ達を守ってあげて下さいね」

「え?は、はい!一命をかけましても!!」





どっちもよく分かってない(ギーシュに至っては全く)っぽいけど、言質は取った。
死中に活、一筋の光明。このチャンス、何が何でもモノにしてやる!!

まだだ、まだ私の幸福人生計画は終わらんのだよ!!




[16464] 第十話・計画変更、軌道修正
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:d9302ed6
Date: 2011/03/06 13:27
第十話・計画変更、軌道修正





塞翁が馬。災い転じて福と為せ!考えるんだ私!最善の道を!





何だか全く分からずに命に関わる重大任務を受けたギーシュ。

後で説明すると青くなったり(重要性を思い知り)赤くなったり(そんな重要な使命を任された幸福感)と、顔色の変更に余念がなかったみたいだが、結局は敬愛する姫様直々の命令だからとやる気になってくれた。
もうっ!男の子って…ホント、バカなんだからっ☆
私も1回オトコやったけどね。その頃はバカだと思われてたのだろ~か?



かんわきゅ~だい。

とりあえず、これで主要メンバーが欠けることはなくなった。
キュルケとタバサは放っといても来るだろうし問題ない。
ラ・ロシェールまでは行動を共にせざるを得ないけど、『女神の杵』での襲撃は回避可能だ。
夜風に当たりに行くとか言ってもいいし、何なら黙ってどこかに出てってもいい。そしてルイズ達が船に乗ってアルビオンに向かった頃に宿へ戻る。

『私がいない間にそんなことが!?でも、ううん。大丈夫。ルイズ達ならきっとやってくれるわ!私信じてる!!』

とかまあ、そんな感じでその後はキュルケ達と行動を共にすればいいのだ。
ふむ、よくよ~く考えると悪くないじゃ~ないですか。
回避不能でキケンなのは街道での襲撃くらいで、あれだってすぐ援軍が来るし。一応は直々に命令受けたコトになってるから、帰還後にそれなりの報酬は貰えそうだし。

一時はどうなるコトかと思ったけど…天は私に味方している模様。あは。




※※※※※※※※




朝靄の中、ココアに荷物を括り付ける。

そんなに長い旅でもないので最小限の荷物。
もちろん、背中には弓と矢をマントで隠し持っている。ま、使う事はないとは思うけど一応。
そしてポケットには火傷に効く秘薬を幾つか。“ライトニング・クラウド”用だ。宿に着いたら適当な理由をつけてルイズに全部渡す。原作通りになるんだろうけど、念には念を入れとかないとね。
後は…うん、前に買ったイヤリングしてこう。ダイエット効果を期待してるんじゃなく、あくまでファッションで。そう、ファッションなのだよ。


「いや、遠目で見たことはあったんだが…その、君の使い魔はアレだね」

ギーシュがココアから微妙に距離を置いて言う。

「アレ言うな。ココアはすげえいいヤツなんだぞ?」

「そうよ?最初は私も怖かったけど、乗り心地も悪くないし。従順で頼りになるのよ」

ココアを擁護するルイズ&才人。代弁さんくす。
でもキモいのはギーシュに同意かもかーも。私たちは慣れちゃっただけなのだ。
ちなみに今のところ、ココアに乗るのは私とルイズ、才人とギーシュは馬ってことになっている。
ワルドが来たらルイズはあっちに乗ることになるんだけど。
3人くらいなら許容範囲なので、恐らくココアに男2人と私が乗るのだろう。

「あー、それとだね、僕も使い魔を連れて行きたいんだが…」

むしろ使い魔が重要なのですよ、ギーシュさん。実に君の数倍はね。

「あんたの使い魔ってジャイアントモールだったっけ?」

「覚えててくれてたのかい?そうさ、出ておいで!ヴェルダンデ!」

もこもこ地面が盛り上がり、でっかいモグラが顔を出す。

「ああ!ヴェルダンデ!僕の可愛いヴェルダンデ!!どばどばミミズはたっぷり食べてきたかい?そうかそうか、やはり君はいつ見ても可愛いね!!」

…うわぁい。
何ともコメントし辛いですなー。
しかしヴェルダンデは今回のミッションに欠かせない重要な存在。ないがしろにはできない。

「ギーシュ、私たちが行くのはアルビオンよ?地面を掘って進むモグラを連れて行くなんて無理に決まってるじゃない」

「そんな…お別れなんて辛すぎるよヴェルダンデ!」

モグラと抱き合うギーシュ。微笑ましい…のか?

「ルイズ、ギーシュも。確かにアルビオンまでは無理だろーけど、ラ・ロシェールくらいまでだったら大丈夫かもかーも。私的にはまあ連れてってもいいかな~とか思ってみたりするんだよね。どうかな?」

私が言うと、ルイズはう~んと唸る。

「…そのジャイアントモール、ココアの速さについてこれるの?」

「地中を進む速さは馬にも負けないさ」

「じゃあラ・ロシェールまでだったら許可してあげるわ。でもそこから先は無理よ?」

「いいのかい!?ありがとうルイズ!ありがとうミス・メイルスティア!!」

にしても、ルイズってこんな心広かったっけ?
私のてきと~な意見なんて完全無視するかなーとか思ってたのに。

…あ、ヴェルダンデが水のルビーに気付いた。
押し倒されるルイズ。
いいぞ~ヴェルダンデ、ルビーの匂いを覚える作業を続けるんだ。
ある意味、おまえの鼻にトリステインの未来がかかってるんだからね~?

「ちょ!?何するのよコイツ!?ギーシュ!どうにかしなさいよ!!」

「ああ、ヴェルダンデは鉱石や宝石の匂いに敏感だからね。ルイズ、君は何か持ってるんじゃないか?」

「そういえばあいつ、姫様から水のルビーとかいうのを貰ってたな」

「それだよ!きっとそれだ!」

ギーシュと才人は助けようともせず、ルイズの惨劇など見えてないかのようにのほほ~んと話している。
哀れルイズ。助けないけど。
突然、一陣の風が舞い上がりヴェルダンデを吹き飛ばす。ふむふーむ、コレでようやく役者がそろいましたか。

「“レビテーション”」

救世主ヴェルダンデが地面とKISSする5サント前、“レビテーション”で空中に留める。
地面に落ちたくらいじゃどうもならないだろうけど、コイツに何かあってはいけないのだ。

「おお!ありがとうミス・メイルスティア!!というか、誰だ!僕のヴェルダンデに酷い事をする奴は!?」

全員が風の吹いてきた方向を見る。
最後のメンバーにして裏切りの星、ワルド登場だ。おヒゲがステキよ噛ませ犬さん☆

それでわ、目を付けられない程度に自己紹介でもしますか~ね。




※※※※※※※※




予想通り、ワルドのグリフォンにルイズが同乗するコトになった。

「僕は馬で行くよ。その、やはりココアだっけ?そういうのはどうも苦手でね」

で、ココアに残り3人が乗るって時に、ギーシュがぐずる。
気持ちは実に痛いほどよく分かる。
前回は自分の使い魔なのにもかかわらず、見るのもイヤだったし。今回だって虫耐性を付けとかなきゃ無理だった。
才人やルイズがすぐに慣れたのは、やっぱどこかオカシイのだろう。
天才とアレは紙一重っていうけど、英雄とか伝説もいろいろ紙一重に違いない。

「んー、でも馬より楽ちんだよ?どうしても怖いなら…、」

気持ちは分かるがグズグズしてても仕方ない。1人だけ馬ってのも不都合だし。
私はギーシュの手を取り、半ばムリヤリにココアの上に乗せた。
座らせ、そのすぐ前に自分が座る。そして手を私の腰に回させた。

「こうして私に掴まってればい~よ。そうすればアラ不思議。視界に入るのは私のアタマだけ。ムカデなんて全然見えないぜー」

バイクの2人乗りの要領だ。
密着してれば視界はかなーり狭くなる。見えさえしなければキモがる必要もないだろう。

「な、こ、この体勢は…いや、まあ、確かにあまり見えないね」

なーにを恥ずかしがるのですかキミは。
ミス・モンモランシとかとヨロシクやってる身分で、魅力ゼロな私の肢体に何を思う必要ある?
あ、単純に驚いただけですか。そーですか。

「どうやら準備が整ったようだね。では、諸君!出撃だ!!」

はいはい、暫定リーダーワルドさま。仕切ってますねー裏切るくせに。
じゃあラ・ロシェールまでの旅、てきとーに頑張りますか。




※※※※※※※※




優雅…じゃないけど、そこそこ快適な空の旅。

ワルドのグリフォンが本気を出せばココアなんて余裕で置いてかれるだろうけど、こちらのペースで飛んでくれてる。

「…すまなかったね、ミス・メイルスティア。どうにかこの…ココアにも慣れてきたみたいだよ」

慣れるまで2時間かかったか。
でもそんな短時間で慣れるとは、さすがはグラモン家の男。気障ったらしい性格の中にも優秀な軍人の血が流れている。
ま、多分やせ我慢だろーけどね。

「そかそか、おとなしーの分かってくれた?見た目は怖いけど、ヒトを襲うような凶暴な使い魔じゃーないのですよ」

「そうみたいだね。うん、そう思えばなかなかカッコいい使い魔かもしれないね」

美的感覚がアレだと言われるギーシュ。新境地を開拓したか?

「だったらそろそろラリカから離れろよ」

ココアに乗り慣れてる才人が言う。何故かちょっと不機嫌?
そういやまだギーシュは私にくっ付いたままだった。
慣れればココアの上は5メイルのながーい足場と同等。立ったり座ったり、寝転んだりもできるのだ。
ギーシュがそこまで慣れるにはまだ少し時間が掛かるだろう。

「あ、ああ。確かにそうだね。今まで助かったよ、ミス」

「ラリカでいいよー。私はギーシュって呼んでるのに、そっちはミス・メイルスティアじゃ逆に慇懃無礼な感じがするしね。だから、ラリカでいい~よ」

「分かった。助かったよ、ありがとうラリカ」

「お役に立てて光栄至極でござ~い。でわ、引き続き空の旅をお楽しみくださいなっと」

座り方を変え、横向きに腰掛ける。

「ははは、君はいつもどこか冗談っぽいんだね。いや、いい意味でだよ?緊張感を和らげてくれる」

そりゃー光栄。
でもこちら“嘘”の自分だから、ホントの私と真逆なんだけどね~。

「ふふ、ありがとーギーシュ。私もこの任務にギーシュが参加してくれてほんと~に感謝感激してるから、そう言って貰えると嬉しかったり」

ギーシュ本体はどーでもいいが、ヴェルダンデが来てくれたのはマジで感謝感激してる。

「…あー、その、やっぱり君は変わっているね。いや、これもいい意味で」

ユニークってコトか?褒め言葉じゃないですよーそれは。

「変わっていると言えば、昨日の夜どうしていきなり僕に抱き付いてきたんだい?あれからバタバタしてたから聞きそびれてたんだが…」

「んなっ!?」

何故か才人が妙な声をあげたが気にしない。つーか、今さら言うなギーシュ。

「んー、ナゼでしょう。明かされるコトのない秘密の方向で。女は謎と言う化粧を重ねて魅力アップするものなのですよー」

言える訳ないっちゅうに。てきとーに誤魔化せばいーでしょう。
前回の人生では1回声掛けられた程度だし、ギーシュ的には私なんて路傍の石。明日になれば忘れるさー。





それにしても、才人の機嫌があからさまに悪いなー。
やはりルイズに婚約者がいて、しかも仲良くグリフォン同乗だから嫉妬の炎を隠しきれないのかね。

どーせワルドが自分から墓穴掘って振られるのに。
はっはっは、それまで思う存分、ヤキモキしてお~くれ。




[16464] 第十一話・ワルドの影が薄い気がする
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2011/02/14 07:30
第十一話・ワルドの影が薄い気がする





“私”は男に興味なかった。“俺”は女が分からなかった。“今度の私”はどうなのだろう?やっぱり、何となく、ダメなんだろうか。





数時間後、日が傾きかけた頃に絶壁に囲まれた怪しい場所に差し掛かった。

待ち伏せしよ~って考える立場としては保証書付きの絶好ポイント。戦略とか知識のない私でも分かる。
つまり、ココが例のエセ盗賊襲撃イベント会場って寸法だ。
ココアを上昇させれば回避可能なんだけど…ワルド達は低空飛行してるのに、こっちだけ上昇は不自然だ。襲撃は甘んじて受けるしかない。

とか思ってたら、火の点いた矢がココアの頭にぶつかった。
もちろん、硬い甲殻のお陰で傷にもならない。体長5メイルのメガセンチビートに安っぽい矢など無理無駄無謀なのだ。
この世界の動物ってホント規格外だなぁ。

「敵襲か!!」

前方のワルドが叫ぶ。
自分で指示しといてねー。でも迫真の演技はグッド。
すごぉいわるどさま、はくしんのえんぎね!ぱちぱちぱち。

「わわわ、な、何だ!?」

「くそっ!待ち伏せか!?」

ギーシュがテンパり才人はデルフリンガーを抜く。貴族の面目丸潰れだぜ!

「ギーシュ、“錬金”で盾を作ってもらっていい?才人君は飛んでくる矢をてきとーに打ち落としてくれい」

私?私は才人に降り掛かる火の矢を払ってもらいつつ、ギーシュの盾で安全確保。
これは戦略であってズルいとか卑怯とかではないのだよ。
どーせすぐに、

「うわぁぁぁぁぁ!?何だ!?ふ、風竜!!?」

こうやって援軍が来るしね。キュルケ&タバサごくろーさま。




※※※※※※※※




「あらラリカ。よく分からないけど、絶妙なタイミングだったみたいね」

「やっほーキュルケ。助けてくれてありがとーねー」

笑顔で迎えた。
ルイズが何か文句を言おうとして、ワルドに止められてる。

「大丈夫?」

タバサがシルフィードから降りてきて訊ねる。
いや、キミはキュルケ以外の他人に無事を確認するよーなキャラじゃないでしょーに。
ま、別に気にすることもないか。

「全く全然これっぽっちも何ともないよー。タバサもありがとう」

おーよしよし、タバ子や。
アルビオンから帰るのに必要な足を持ってきてくれたんだねぇ、えらいねー。少し見ない間に大きくなったねー。嘘だけどねー。
なでなで。
ガリアの王女様の頭を撫でるなんて、知ってたら恐れ多すぎて絶対にできないだろう。
でも私は何も知らない女の子。シャルロット?はて、そんなお方は存じませんわ。

とか何とかやってるうちに、キュルケがヒゲ男に振られた。で、才人に再ロックオン。
切り替え早いね~。ああいう過去を顧みない性格は好感持てるけどけど。
恋せよ乙女、多すぎてもアレだけど。




※※※※※※※※




男3人女4人の大所帯になった姫様の尻拭い隊は、無事ラ・ロシェールの『女神の杵』亭に到着した。

賊の尋問?何かギーシュがやってたみたいだけど、詳細は知らなーい。興味ないし。
聞いた所で何かが変わるわけでもないし。
それからワルドと才人、ルイズが船の交渉だか何だかに行って、船の出港は翌々日だよーって聞かされてスゴスゴ帰ってきた。

そして。

「部屋割りは今言った通りでいこうと思う」

ルイズとワルド、才人とギーシュ、タバサとキュルケ、私は1人部屋っていう部屋割りが発表された。どうやら3人部屋はなかった模様。
ルイズがそれなら私と一緒の部屋にするとか、まだ結婚前の男女がどーとか言ってたけど、大事な話があるっていうワルドに結局折れた。
頑張ってカタチばかりのプロポーズ受けて悩んじゃって下さいな。

「それじゃ~みなさんオヤスミなさい。明日はゆっくり鋭気を養いましょ~」

まあ、明日の夜に事態は動くんだけどねー。




「あー、私の記憶が確かなら、ここは私の一人部屋かつ、さっきオヤスミしたはずだけど」

「まあいいじゃない。どうせ明日1日は予定ないんでしょ?そんなに早く寝る必要ないわよ。夜はこれからだしね」

赤青コンビがノックもなしに入ってきた。
とゆーか自分らの部屋を素通りして普通に私について来た。
あまりに自然について来すぎて、あれ?部屋に招いたんだっけ?とか思ったほどだ。

「つまるトコロ、晩酌に付き合えってコトでオケーイ?」

「あら、話が分かるじゃない。つまるところそれよ」

キュルケは満面の笑みを浮かべ、どこに持っていたかワインと食料を取り出して見せる。
いやー、実に準備のいい事で。
うん、でも私、さっきオヤスミって言ったよね。つまり寝たいんだ。察してくれ。

「んー、でもタバサが眠そうだしな~」

「まだ眠くない」

眠いって言え。ナゼにこういう時だけ即答で反応するの?

「なるなーる。よーし、今晩は女同士の友情でも深めましょーか」

OK、分かった、付き合おう。付き合えばいいんでしょ?付き合うよ。
てか嫌と言っても無駄だろーし。
くいくいとタバサが私の服を引っ張る。何だタバ子。

「作って」

ハシバミ草のサラダとパン、肉と野菜。サンドイッチくらい自分で作れ。挟むだけでしょーが。

「じゃあ、今回は一緒に作ろっか。で、キュルケにも食べてもらおう大作戦」

そして次回からは1人で作ってくれぃ。
あー、眠い。でもこのぶんじゃ眠れないだろーなー。あ~。




※※※※※※※※




やっぱり眠れなかった。
睡眠時間3時間くらいか?正直ツラい。

最初にタバサが(私のベッドで)眠り、気力を振り絞って“レビテーション”で部屋に運んでやり、戻ってきたらキュルケが(私のベッドで)寝てた。
“水の鞭”使おうかと一瞬ホンキで思った。
で、睡魔とか怒りとか呆れとかでギリギリの精神力使って再“レビテーション”。
キュルケも彼女の部屋に寝かした後は記憶がない。朝起きたら制服のままベッドにうつ伏せになっていた。

ねぼけまなこで1階に行く。
あー、何か中庭で騒いでるなー。そう言えば才人VSワルドなイベントなんてあったなーとか思ってたら、ルイズに出くわした。

「おはよールイズ。子爵様と才人君が腕試しするの?」

「おはようラリカ。何言ってるのよ。あれは馬鹿犬とギーシュの手合わせよ?」

…はい?
どーしてそんな展開に?

「何で2人は手合わせなんて?」

「さあ。まあ、アルビオン行きも控えてるから無茶はしないと思うけど。…それにしてもあなた、眠そうね」

「うん、正直眠い。お昼まで二度寝するつもり。かくゆうルイズも眠いっぽい?」

「え、ええ。…私もちょっとね」

ワルドのプロポーズのせいで眠れなかったみたいだ。

「それでラリカ、後でまた相談に乗って貰いたいんだけど…いい?」

結婚するべきかどうするべきかってアレか。
そういうのは私じゃなく才人に相談しなきゃ。ストーリー的に。
でもまあ断る理由もないし、その時に才人にも聞いてみろってアドバスすればいいか。

「じゃあ、お昼にランチ食べながらってのでど~かな?」

「うん。じゃあ、お昼にね」

私もルイズも眠そうな顔で微笑み、別れる。
それにしても何で才人とギーシュは手合わせなんか?ワルドはガンダールヴの実力を測ったり、ルイズの気をひいたりしなくていいの?
…ダメだ、眠くてマトモに考えられない。
とりあえず寝よう。それから考えよう。幸い、宿襲撃は今夜だから時間はあるし。

あー、うー、もう二度とキュルケの晩酌には付き合わないぜー。




すごく眠い。












オマケ
<前日の夜、才人&ギーシュの部屋にて>




「ところでギーシュ。昼間話してたのってどういう事なんだ?」

「昼間?」

「夜にラリカがいきなり、とか」

「ああ、昨日の夜の話か。いや、月でも眺めようと僕が廊下を歩いていたら、姫様とラリカが歩いてきてね。いきなり彼女が僕の名前を連呼しながら抱き付いてきたんだよ。まあ、姫様の前だったから慌てて離れたがね」

「ラリカはその、何て?」

「さあ。その時は聞きそびれたし、その後も何だかんだで忙しかったからね。昼間に理由を聞いた時も誤魔化されてしまったよ。それは君も聞いてただろう?」

「…」

「恐らくだが、どうやら彼女は僕の事を好きになってしまったようだ。いや、薔薇は何もしなくとも女性を惹き付けてしまうものなんだがね。正直、彼女は狙っていたわけでもなかったからどう接するべきか困っているんだよ。うん、でも実際に話してみるとあれはあれで、」

「よしギーシュ、明日の朝決闘しようぜ」

「は?いきなり何を言い出すんだ君は?そもそも決闘する理由がないだろう」

「間違えた。決闘じゃなくて手合わせ、実戦形式の訓練しようぜ?」

「明日はゆっくりしたかったんだが…」

「いいからさ、手合わせしよう手合わせ。な?大丈夫だって」

「…何が大丈夫なのか気になるが、まあ、別に構わないよ」

「…」

「…もしかして君、機嫌悪い?」

「別に」

「そうか」

「…」

「…」


夜は、更けてゆく…。








[16464] 第十二話・泥濘の夢。ワルド空中戦
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:d9302ed6
Date: 2011/02/16 00:45
第十二話・泥濘の夢。ワルド空中戦





泥濘。…何だか分からない事ばかりだし、泥のように眠い。俺はどうなってるんだ?





相変わらず気分は最悪だ。

連日のようにある検査やら何やらは終わる気配がないのに、睡魔と頭痛だけは絶好調で押し寄せる。
そして今、俺は漸く持込を許可されたノートパソコンの前で固まっていた。


『 ゼロの使い魔の登場人物 ‐ Wikipxdia 』

ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア
  声‐佐々木良緒
  二つ名は『絶望』。ルイズの親友で、才人が召喚されて初めてできた友人。
  僻地に領地を持つメイルスティア家は貴族の中でも極端に貧しく、彼女自身辛い幼少時代を過ごしているが、それをおくびにも出さない明るい性格。
  「水」のドットで趣味は秘薬作り。自作の薬を学院の使用人達にも分け与えており、身分にこだわらない希少な貴族として慕われている。使い魔は空飛ぶ巨大ムカデのココア。
  灰色の髪に同色の瞳を持ち、やや鋭い目付きが特徴。
  魔法の腕はドットとしても並以下だがなぜか弓の腕に秀でており、


Wikipxdiaに“私”が載っている。
生徒(主要人物)のティファニアの下、キュルケの前の位置に。

ラリカは脇役以下、モブにもなれないキャラじゃなかったのか?
それがいつの間に本編に出て、Wikipxdiaに載っているんだ?

続きを読もうとスクロールしようとする。
しかし、なぜかそこから先は読み込んでくれない。フリーズ?
パソコンに詳しくないから分からない。相変わらず頭が痛い。
くそ、集中力が続かない。


俺はパソコンを閉じ、鈍痛の止まない頭で考える。

事故の前からどうして変わった?それとも、事故の前の記憶が間違ってるのか?
いや、俺の前世が“私”だったということ自体が違うのか?
どこかで見たこの“ラリカ”という空想の少女に勝手な過去を妄想し、自分がその生まれ変わりだと信じ込んでいたのか?
だとしたら佐々木良夫はかなりアレな人間だ。精神病院にブチ込んでくれ。

でも、しかし、この鮮明な記憶は何だ?滞りなく答えられる思い出は何だ?
“私”がラリカなら、この“ラリカ”は誰なんだ?



目蓋が重い。頭がいたい。みみなりがする。きもち、わるい。




なースコーるを、







伸ばした手が乱雑に積まれた小説に触れ、本は床に傾れ落ちる。

偶然開かれたその頁には、弓を番えてワルドと対峙する、ラリカの姿が描かれていた。




※※※※※※※※




「おえ」

嫌な目覚めだ。
こんな気分の悪い目覚めは暫く振り。
相変わらず夢の内容はぜ~んぜん覚えてないけど、悪夢の内容なんて覚えていたくもないからまーいいや。

こんな目に遭ってるの原因はおそらく昨日の酒だろう。
キュルケとタバサにはいつか報いを受けさせてやる!…無理だけど。
惰弱な私にはヤツらの報復を受け流す実力は皆無なのだー。とほほのほ。

ドアがノックされる。

「ラリカ、起きた?」

あー、ルイズか。そ~いやランチの約束&相談受ける約束したんだった。
めんどいなー。気が進まないなー。
でも今のうちに“ライトニング・クラウド”用の火傷用秘薬も渡しとかないと。
宿が襲撃される前に私はどっかにトンズラ身を隠す予定だしね。戻る頃にはルイズいないし。

ま、仕方ない。てきとーに相手しますか。



Q『お髭の子爵様にプロポーズされちゃったわ。大変大変どうしましょ』
A『それはキミの決める事だぜマドモアゼル』

Q『でも分からないわ!教えて先生!みんな、オラに知識を分けてくれ!!』
A『個人的には反対だ。よく分からないヤツに私の親友を取られるのは悔しいからネ』

Q『私もまだ早いと思う。アンド、本当に彼が好きなのか分からないの』
A『じゃあ簡単だ、自分の気持ちが分かるまでウェイトしてもらえばいい』

Q『待ってくれるかしらあのヒゲ』
A『キミの事を本当に想うなら当然さ!待たなかったらキミを尊重してない証拠だよ』

『分かった!ありがとうラリカ仮面!』
『ははは、正義は勝つ!でもサイト君にも相談してみたまえ!さらばだ!!』

とまあ、要約するとこんな感じでランチタイム&相談タイムは終了した。
後半のかなーり改変してるけど。でもとにかく内容的にはこんな感じで大体合ってるだろう。
正直、恋愛とかは男女両方の人生を経てなお疎いので、参考にならなかったと思うけどね~。

そして“ライトニング・クラウド”用の秘薬を渡し、買い物に行くとか言って別れた。
キュルケとタバサはまだ起きてないし、才人にも相談しなきゃならないルイズに同行される危険もゼロ。ギーシュは特に問題ないだろう。

まあ、これでアルビオンへの旅も終わりだ。
後は傭兵&フーケをどうにかしたキュルケらと合流し、全てを終えたルイズ&才人を迎えに行くくらい。
それで姫様から褒章を貰ってヒャッホウだ。

完璧だ。完璧すぎる。
やはり天命はラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティアに味方しているのだ!!







と、思ってたんですよ。さっきまでは。

今?えへへ、今はもう何ていうか…絶体絶命?死亡遊戯?あは☆
あばばばばばばばばばばば!!!




夜、適当な店でしばらく過ごそうかなーってやって来たら、なーんか聞き覚えのある声がした。
よせばいいのに、誰かなーとか覗いてみたら、フーケ&仮面ワルドが密談中。
そして運の悪い事に物音立てちゃった。てへ☆

で、現在絶賛逃亡中。オニは仮面ワルドの鬼ごっこデスレース。
どこに?ハイ、上空に向かってアイキャンフラーイですよ。だって地理もよく分からない夜の街を疾走なんて無謀すぎるし。
まあ、上空ってもっと無謀なんだけどね。

とにかくパニクって空に逃げたのだ。




※※※※※※※※




同じ“フライ”でもこちらドットであちらスクウェア。加えてあちらは風メイジ。

距離はどんどん縮まって行く。
“フライ”中は魔法が使えないから撃ち落される事はないけど、捕まったらゲームオーバー。人生終了のお報せ。
小娘がどんなにジタバタしたところで、魔法衛士隊の隊長に勝てるワケない。

「待て!どうせ逃げられんぞ!!」

とか何とか仰ってますけど、待てと言われて待つアホなんていないッつうの!!
でもこのままじゃ捕まるのは時間の問題。

どうするどうするどうするどうするどう、

「無駄だ!諦めろ!!」

いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいや、

「さっさと観念して、」

うああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!
うるさいウルサイ煩い五月蝿いィィィィィィッ!!!

思わず身体が動いた。
振り向きながら矢を放つ。精度、威力、全然足らないそれは、しかしワルドの額に命中した。

「ぐっ!?」

そのままブッ刺さってくれたら良かったのに、パワー不足のせいで仮面を割るに留まる。
てか顔見たらもっとヤバいじゃん!!絶対消される!!

ああああああああああああああぁぁ!!!
のおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!

「き、貴様ッ!!メイジのくせに弓、」



………うるさいだまれ。



無言のまま次の矢を射る。左肩に命中。

「ッ!?」

慌てて退避しようとするが、関係ない。3発目は横腹を貫く。

近付くか?
どうぞ、来いよ。向かってきたら命中率は上がる。
急所にぶち込んでチェックメイトにしてやる。フェイントなんて通用しないと思え。

逃げる?
たかが“フライ”如きのスピードで、飛ぶ鳥を射落とす私の弓から逃げられると思うか?
デカい的なんだから、外せと言う方が難しいね。全国大会レベルを舐めんな。

窮鼠、虎を噛み殺してやる。




ラ・ロシェールの上空で対峙する私とワルド。

“フライ”中で他の魔法が使えないワルドには接近戦以外の攻撃手段はない。
しかし、地上では『閃光』でも、空中では“普通よりも速い程度”だ。私の矢を掻い潜って向かって来る事はできない。
被弾覚悟で特攻して来たとしても、私には冷静に急所を射抜いてあげるだけの腕がある。

今、この時は!
私は狩人で、お前は牙も持たない獲物なんだよ!!

状況は私の圧倒的有利。

来ないの?じゃあ、遠慮なく“的”にしてあげる。
…さぁて、あと何本で死ぬかな?


私は最後の矢を番え、


…………?


あっるぇ~?最後?



矢 が ラ ス ト だ 。



冷た~い風が吹く。
矢を番えたままの私、肩を押さえながらこちらを睨むワルド。
え?あれ?これってもしかして。


すごく、マズくない?


背中を嫌な汗がダラダラ流れる。沈黙が怖い。
いや、やっぱ喋らないで。考えてるから。

どうしてこうなった?あれか?結局パニクり過ぎて逆切れしたのか私!?
どうしよう?何なんだコレは。明るい未来が見えない。



あー、そうだ。月をバックにしてるから顔はよく分からないはず。
牽制しながらゆーっくり遠ざかれば、


「メイルスティア…!!貴様一体…何者だッ!!」


バレてました。

何て答える?

『私は姫様が秘密裏に遣わしたスパイ。貴様が怪しいと最初からバレていたのだ!!』
って実は姫様の隠密だって言う?

『我々は謎の組織“ポメラ=ニアーン”。お前の悪巧みなど全てお見通しよ!』
って架空の組織でも作ってみる?

ダメだ。どっちにしても後で消される。
しかも恐らく引き出せもしない情報を引き出すために拷問付きで。

『いやー、ちょっと調子に乗っちゃいまして。黙ってるから許してぷり~ず』
うん、絶対通用しないな。正直に言うのもNG。

運良く、残り1発の矢で倒せても同じ事。このワルドは“偏在”だろうしね。
とゆーか、“偏在”のワルド倒してからどうするつもりだったんだ5秒前の私!?
この状況だって物凄い偶然が重なったからこそであって、次回以降は瞬殺される実力差だし!!



考えろ私!!

矢は残り1本、魔法はもちろん使えない。使えても意味ない。
持ち物はジェネリック秘薬が2、3個と現金少々にダイエット効果のあるらしい例のイヤリング。
あ、ポケットに例のカラーコンタクトレンズ入れたままだ。

って!!

何か、状況を打破できるような何か!!
何か何か何か何か何かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!


おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!



!?



こ れ し か な い !!




[16464] 第十三話・賭けにでてみよう☆
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2011/02/16 00:56
第十三話・賭けにでてみよう☆





逆にどこか冷静になってきた。思い出すのは佐々木良夫の全国大会。やってやろーじゃないですか。栄光と失墜の狭間で。





突然ですが、ほぼ詰みました☆

姫様の隠密 ⇒ 後で始末+情報を引き出すために拷問コース
謎の偽組織 ⇒ 同上
真実を話す ⇒ 普通に殺される
偽ラリカだ ⇒ 偽だろうと本物だろうと殺される事に変わりなし
仲間ですよ ⇒ 無理ありすぎ。素性は確実に調査済みだろ常考
強気で通す ⇒ 過大評価、目を付けられて狙われる身に

だったら何をすればいいのか。
持てる“モノ”をフルに使って、負けたら死亡の大博打に出るしかない。

冷静になれ、冷静になれ、冷静になれ、ラリカ。
いつもの事なんだ。
いつもの様に、パニクる自分に、本当の自分に、“嘘”をつけ。




「…戯れは、終いだ」

笑みを浮かべ、弓を下ろす。そしてジェネリック秘薬を投げ渡した。

「使うがいい。まあ、貴様が“偏在”だったら必要ないかもしれんがな」

「…何のつもりだ」

「まだ気付かんのか?ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。あまり私を失望させるな。それとも…とぼけているのか?」

だとしたら実に面白い男だな、とか言いながら、いかにもな声で笑いながら背を向ける。
あくまで無防備にそれでいて自然に。敵意のなさと余裕をアピールだ。
背後でワルドが一気に距離を詰めてくるのが分かる。

「ウェールズ・テューダーを始末しろ」

「何っ!?」

…セーフ。
ワルドが止まる。私の心臓は止まりそうになった。

「ヴァリエールの小娘が、あわよくば奴をトリステインに亡命させようと画策している。奴はこの戦いで死ぬつもりだが、アンリエッタの手紙の内容によっては心変わりするかもしれんからな。亡命を許してはならん。戦場で名誉ある死を与えることも許さん。ウェールズは貴様がその手で殺すのだ」

「…貴様、何者だ」

台詞はさっきと同じだが、明らかにその質は違っている。
そりゃそーだろう。学生だと思ってた奴が「王子を殺せ」だなんて普通言うとは思わない。
しかも、亡命させるなとか名誉ある死はダメだとか…明らかに異質だし。

背を向けたまま、ポケットからカラーコンタクトレンズを取り出す。
そして、顔を押えて笑うフリをしながら装着した。

「ククク、あははははは!!白々しいぞ、ワルド。見当くらいついているだろう?」

そして振り返る。出来るだけ凄惨な笑みを浮かべて。
初めて思う、目付き悪くて良かったって。

「……!」

一瞬、私の顔を見たワルドの表情に驚きの色が現れた。
口を開きかけたが、しかし応えない。
今、おそらく必死で思考を巡らせているのだろう。

彼の前に立つ“ラリカ”の瞳は普段の灰色ではなく、無駄に目立つ紅色。
近付いたからバッチリ分かるはずだ。
これが邪悪なる闇の秘宝“カラーコンタクトレンズ”の大いなる力なのだ!
嘘だけど。

「“左手”には執心しても、“頭脳”には興味がないとでもいうのか?虚無が1人でない事は知っていると思ったが」

「!!…ミョズニトニルン」

そう、私は“神の頭脳・ミョズニトニルン”。
クロムウェルの秘書にして、その正体はガリア王ジョゼフの虚無の使い魔シェフィールド。
そーいえばワルドってシェフィールドがミョズニトニルンって知ってたっけ?

いや、知ってれば“この豹変したラリカ”に対して「ミョズニトニルンか」っていう台詞は出てこないだろう。
ってことはワルドはシェフィールドという存在は知っていたとしても、彼女がミョズニトニルンだとは知らないって事でFA(ファイナルアンサー)?

ま、どっちにしろ問題ないんだけどね。
もし知ってたとしても、今の私を“操って”いるのはクロムウェルの秘書という仮の姿でなく、隠された彼女の本性って事にすればいいだけの話だ。

「本当に分かっていなかったのか?まあいい。だが、今言った任務は必ず完遂しろ。何ならクロムウェルの代弁だと思っても構わん。ウェールズのなるべく傷のない死体が必要なのだ」

言わなくてもワルドはフラれた拍子にウェールズを殺すんだし。断る理由もない。
一国の王子様を殺せって言うのはちょっと気が引けたけど、私の命がかかってるし、どーせ原作通り死ぬんだからい~よね。
うむ、私が許可する。

「理由は…戦いが終わった後にクロムウェル自身が見せるだろう。虚無の茶番劇をな」

「茶番劇、だと…?」

よし、食いついた。

「クロムウェルは、虚無ではない。私が与えし指輪を使い、虚無を演じているだけの傀儡にすぎんのだ。信じられんか?なら、“アンドバリの指輪”を調べてみるがいい」

ワルドが動揺を隠し切れずにいる。
もう一息。

「貴様は傀儡の傀儡に身を置き続けるか?それとも私の主の元で“聖地”と真実を得るか?選ばせてやる。貴様が、自ら選ぶのだ」

必殺奥義“聖地”。
対ワルドにおいてこれ以上のキーワードはない。

沈黙。
こちらは余裕の笑み。内心ビビりまくり。死にそう。
ワルドは追い詰められた犯罪者みたいな顔で苦悩している。


そして。

「教えてくれ。一体なぜ、お前は僕にそんな話をする?」

“貴様”でなく、“お前”に変わっている。ワルドがそれに気付いているかどーかは知らないが。

「貴様を正当に評価しているからだよ、ワルド。クロムウェルの玩具で終わらせるには惜しい。貴様の“聖地”への想い、貪欲な力への渇望。金や権力などに踊らされる似非貴族どもには真実に触れる資格もない。むろん、『閃光』と呼ばれる実力も十分買っている」

「伝説の使い魔とはいえ、たかが学生メイジにこの有様だがな」

やはりこのワルド、ミョズニトニルンが誰か分かってない。
とゆーか、私をミョズニトニルンだと思ってるようだ。
アホか。額にルーンないでしょーに。

「“この小娘”が伝説?笑えん冗談だ。“神の頭脳・ミョズニトニルン”の能力は知っているだろう?」

髪をかきあげ、ダイエットイヤリングを見せる。

「“ユンユーンの呪縛”。あらゆる魔道具を操る我が能力と、この耳飾りがあればドットの小娘を自在に操る事など造作もない。考えてみろ、こんな小娘の力だけで貴様を圧倒できると本気で思うか?それにメイルスティアがどんな貴族かは知っているだろう?…第一、私が自らこんな場所に出向くわけがない」

ユンユーン=電波ゆんゆん。
もちろん今考えた名前だ。センスないとかゆうな。

「では、ミス・メイルスティアは…」

「この小娘はヴァリエールやガンダールヴとも親交が深いからな。実にいい操り人形になってくれた。ククク、愉快だと思わんか?婚約者は裏切り者、友人は私の傀儡。掌の上で踊るとはまさにこの事だ」

ラリカはただ操られているかわいそーな女の子で、何も知らないんですよダンナ。
悪いのはぜーんぶミョズニトニルン。ヤツが黒幕なんですよ~。

「…なるほど、確かにそのイヤリングからは微かな魔力を感じる。そのマジックアイテムが“ユンユーンの呪縛”とやらか…。随分と悪趣味な道具だ」

そう、このイヤリングは正真正銘マジックアイテムだ。“探知”してもらっても問題ない。
ただ、その効果はダイエット(これも怪しいが)なんだけど。

「目的の為ならどんな物でも利用する。それは貴様も同じだろう?…で、そろそろ答えを訊こうか。私も愚者に用はない。ここまで言ってなお、まだ信用できんなら後は貴様の勝手にするといい。心配ならこの小娘を殺すか?いいぞ、それはそれで面白い」

勝手にしないで、お願いだから信用して!!

「待て!…まだ聞きたい事がある。なぜこんな場所まで連れて来た?戦う理由がどこにあった?答えるのはそれを訊いた後だ」

「…サウスゴータの娘の前でウェールズ暗殺の話をするのか?あの女はアルビオンに恨みがある。言えば、何をしでかすか分からん。奴は所詮、ただの捨て駒。それに用があるのは貴様だけだ。ここなら周り全てが見渡せる。誰も我々の話を聞くことはない。…戦った理由は言っただろう?“戯れ”だとな。もちろん、『閃光』の力を試してみたかった事もあるが」


…また沈黙。
ワルド、これだけやったんだから納得してくれ。
この時点じゃ知りようがなかった情報も得たんだし、メリットいっぱいだって気付くんだ!

「…分かった。お前の話、とりあえず信じよう。こちらとしても、手紙ついでにウェールズの命は奪うつもりだったのでな。注文はなるべく痛んでない死体にする事だけだろう?今回の利害は一致する。ただし、その他についてはこちらの判断でやらせてもらうぞ」

イィィヤッホォォゥ!!生き延びた!生還したよ私!!

ワルドはどうせレコン・キスタ終了と共にフェードアウト(多分)だろうから、後で私がミョズニトニルン、つまりシェフィールドを偽っていたなんてバレないはず。
シェフィールドだってそのうち死ぬし。
彼女が死ねば、全ては闇の彼方へ。明かされない嘘は、真実と変わらないのだ。
シェフィールド本人にワルドが訊いたらアウトだが、シェフィールド=ミョズニトニルンとは知らないし、彼女が自分から明かす事もないだろう。

「虚無が1人、ヴァリエールを手に入れるつもりか?ふん、好きにするがいい。だが貴様が賢くて助かったぞ。正直、この小娘の実力ではガンダールヴが妨害してきた時に対処できなかった。貴様なら奴を倒せるだろうからな」

倒せないけど。むしろ左腕チョッキン。

「それより、ウェールズを始末した後だ。お前の主とやらに引き合わせてくれるのか?レコン・キスタからそちらに身を移すのか?」

ジョゼフに?あー無理無理。だって私にそんなコネないしね。
ヒゲ子爵様には何も知らないまま無念の死を迎えていただきたいのですよ。

「急くな。貴様は何食わぬ顔で、クロムウェルに協力していればいい。レコン・キスタは傀儡なれど、いずれはハルケギニア全土を掌握する。全てはそれからだ」

「…なるほど。茶番は茶番なりに利用価値があるという事か。分かった」

第一関門突破。

でも、このままサヨウナラは無理だ。
『じゃあもうこの小娘(私)は用無しだから始末しちゃえ☆』
って話になりかねない。
だから、次の一手を打ち込む。やりたくないけどやらなきゃ死ぬ。

「私は貴様が注文通りにウェールズを殺すか見届けなければならん。こちらとしても一応は貴様が使えるかどうか見極めねばならんのでな。なに、単なる確認だ。気を悪くするなよ?で、貴様の本体は今、どこにいる?」

「ふん、疑り深い…いや、当然か。…本物はルイズと船に乗り込んだところだ。だが、お前はどうやってそこまで行く?“フライ”の速度では追い付けんぞ」

「貴様のグリフォンがいるだろう?ここに呼べ。私はそれに乗っていく。…独り、賊に襲われていたところを助けられたと言う事にでもしてな」

微かに笑い、1本だけ残った矢をワルドの目の前で自分の左肩に突き刺した。
一瞬、ワルドが微かに目を見開く。

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃぃぃ!!!!

でも、ガマンだ!表情を変えない!!涙も出さないィ!!
あくまで今の私は“操られているラリカ”なのだ。痛みも、感じないはず!!

「…これで襲われたという証拠になるだろう。ワルド、何を呆けている?」

「いや。必要だとはいえ、ミス・メイルスティアも憐れだと思っただけだ」

私が操られていると完全に信じてくれたようだ。
泣きそうなくらいの痛みに耐えた甲斐もある。

「重要でもない他人への情など何の価値もない。…それと、グリフォンに乗った後は小娘の意識を戻す。常に操るのも楽ではないのでな。しかし、小娘の目を通して貴様の行動は見えている。誰かを見逃そうなどと、妙な行動は裏切りと見做すぞ」

「言っただけだ。そんな情に流されるほど愚かじゃない。それよりもミス・メイルスティアに意識を返して平気なのか?」

痛みを堪えて笑みを浮かべる。

「“ユンユーンの呪縛”は心を操る。記憶の改竄など他愛もない事だ」

全身全霊、嘘なんだけどね。




※※※※※※※※




「痛いよぅ…じょーだん抜きで、痛いよぅ…」

グリフォンの背で呟く。
全速力での“フライ”で精神力はほぼカラッポ。“治癒”の魔法で応急処置はしたが、まだまだ全然回復には程遠い。
ジェネリック秘薬は全部ワルドにやっちゃったし。
それもまあ、作戦なんだけど。

「このイベントが終わったら…絶対ヤツらと縁を切ろう。そーしよう」

将来のコネとか、もうど~でもいい。できれば欲しいけど。
ジェネリック秘薬を平民相手に売って細々と生きよう。商才ないけど。
それか適当な貴族とでも結婚して平和な余生を送るんだ。相手いないけど。

だから、その為にも。考えて考えて、考え抜いて。
この死亡フラグをへし折ってやる。


「ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア、ふぁいとぉぉぉー!!」





ああそれと、某ミョズニトニルンの某シェフィールドさん。

全部なすりつけちゃってメンゴ。反省はしていない。




[16464] 第十四話・すれすれすれ違い
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2011/02/16 01:04
第十四話・すれすれすれ違い





哀より淡い愛のBlues。誰が言ってたっけ?亡国予定の王子と姫様。ブルースは、誰の為に?とぅる~るるん。





さすがワルド!実に素晴らしい演技だ!!

へろへろで船に追い付いた私は、驚きの表情で駆けつけて来たルイズ&才人と、心配そうな顔(白々しいけど)のワルドと合流した。
で、

「いや、ミス・メイルスティアが見当たらないのが気になってね。僕のグリフォンに探させていたんだ。どうやらそれが功を奏したようだ」

とか言われた。もちろん

「そうだったんですか…。宿に戻るところをいきなり襲われて…本当に助かりました」

って答えといたが。
いつかラリカデミー賞の助演男優賞を差し上げたい。なんて、全力で嘘だ。

で、何だかんだで偽空賊戦に囚われ、コスプレ王子様と邂逅を果たしたのでした。
怪我はワルドとウェールズの“治癒”にて完治。

殺す側と殺される側の2人の、はじめての共同作業?めでたくなさすぎる。




※※※※※※※※




「おお、これは硫黄!火の秘薬として使えば我らが名誉を示せましょうぞ!」

ぐったり寝てて、起こされたらもう城だった。
半分寝惚けてる前で、嬉しそ~に老メイジが言う。
無事に城へ帰還したウェールズが、硫黄を土産に持って来たのだ。そりゃ嬉しいだろう。

「ああ!栄誉ある敗北だ!」

どうせやられるなら派手に散る。
実に男らし~い考えだ。ほんのり共感できる風味なのは、佐々木良夫の男心か。

「ラリカ、肩は大丈夫…?」

ひゃっはー硫黄だ硫黄だーしてるの後目にルイズが訊ねてくる。
…いや、ここは敗北決定なのに笑っている彼らに何か思ってる場面じゃないのか?

「子爵様と殿下のお陰ですっかり完治だよ。いやー、魔法ってやっぱ便利ですな~」

睨まれた。
やっぱこの場面でふざけるのはアレなのか?

「…心配、させないでよ」

うぇぇぇ?なーにを言ってるんですか?今は私の事よりウェールズでしょーに。

「ゴメンな、ラリカ」

おお才人。オマエさんもこの空気を読めないルイズに何か…って何を謝る?

「“何かあったら絶対駆け付ける”とか言っといて、結局守れなかった」

なにそれ?…あー、何かそんなコト言ってた気もする。スッキリ忘れてたけど。
別にこれっぽっち気にしてないからヘコんだ顔でゆーな。

「でも、ルイズは守ってくれた。その時に言ったよね?ルイズ最優先だって。ちゃーんと約束守ってるじゃ~ないですか。だから全然全く気にしないでいいから、この話は終了っ」

てかワルドがこっち見てるんだよ!“ラリカ”が重要人物だとか思われたらどーする!?
計画が成功しても、別件で狙われたらシャレにならないんだって!

「ラリカ、才人にそんな事を?」

ルイズ、誤解だ。
才人に“私を守れ”なんて言ってない。ヤツが勝手に言ったんだ。

「ルイズ。今は聞かなかった事にして。親友として、お願い」

「分かった。でも、いつか聞かせてもらうから」

ヒィィ!?保留!?

「あー、その件でさ、前に言いそびれたんだけど、」

うるさい才人。それどころじゃない!ってか、ワルド様見ないでぇー。

「才人君も、今は言わないで。お願い」

「…分かったよ」

…何なんだコイツらは?死なせたいの?私に恨みでもあるの?
あ~、恋しい、1人で平和に引き篭もっていた前回の平和な私が恋しいよー。





そしてラブレター回収となったのだが。

あっるぇ~?
ルイズ、亡命のススメを諦めるの早すぎじゃないかな?

『殿下、亡命なされませ!トリステインに亡命なされませ!!』
『それはできんよ』
『ですが、手紙の末尾に姫様が亡命を求める文を記したのでは!?』
『そのような事は書かれていない。姫と、私の名誉に誓って言おう』
『そう、ですか。…分かりました。そう仰るのであれば』

で、終わりだ。もうちょっと粘るかなーとか思ってたのに。
表情は納得してないというか、怒ってるような感じなのに…。
何があった?どーしてこうなってる?


ちなみにルイズに渡しといた“ライトニング・クラウド”用の秘薬はウェールズに譲渡されたようだった。才人、やられてないし。
“偏在”のワルドは私の相手してたから当然なんだけど…。

原作とほんのり違う。
でもまあ、そんなに問題じゃないか。
今はあの作戦を成功させることだけを考えよう。
私の一世一代の大勝負は、まだまだ中盤戦なのだ。





がんばれがんばれ ラ・リ・カ!!死ぬな~死ぬな~ ラ・リ・カ!!


落ち込むことも(やたらと)あるけれど、私は(今のところ辛うじて)元気です☆  by危機











<Side ルイズ>


怪我を負って船に飛び込んできたラリカを見た時、私の頭は真っ白になった。
そして、その時になって、ようやく自分達の居る場所が戦場なのだと理解したのだ。

親友が、大切な親友が傷付き、もしかしたら永遠にいなくなってしまうかもしれない場所。

私はそれを…あの夜の勢いだけで受けてしまったのだ。

ワルドが居なければ、4人だけだった。
キュルケ達が来なかったら、宿での殿は誰が務めた?ギーシュとあと1人は?
恐らく、囮になるのはラリカ。ドットメイジ2人が賊とフーケに対抗できる?
戦いはスポーツじゃない。学生の決闘ごっこでもない。負けたら何が待っているか、想像したくもない。


自分の浅はかさに、苛立つ。


「子爵様と殿下のお陰ですっかり完治だよ。いやー、魔法ってやっぱ便利ですな~」


こんな時でも笑って、心配させてくれない親友に苛立つ。

そして何より。



「でも、ルイズは守ってくれた。その時に言ったよね?ルイズ最優先だって。ちゃーんと約束守ってるじゃ~ないですか。だから全然全く気にしないでいいから、この話は終了っ」



私の知らないところでそんな約束をして、



「ルイズ。今は聞かなかった事にして。親友として、お願い」



勝手な時に“親友”って言うラリカに、

甘えてしまう自分に、






………。







……みんな、莫迦ばっかりだ。









<Side 才人>


ラリカが負傷し、船に飛び乗ってきた。

1人のところを賊に襲われ、酷い怪我をして、消耗して…助けたのはワルドの幻獣。

以前、俺は約束した。
“何かあったら絶対駆け付ける”って。
ラリカは最初は冗談めかして答えたが、帰り際に言ったんだ。微かに微笑んで、でも真っ直ぐ俺を見て。

“ 冗談抜きで、信用してるよ。期待してるし信頼もしてる。それに、見直すも何も、才人君の凄さはバッチリ分かってるから ”

何がだよ。俺、全然、ダメじゃんか。



「でも、ルイズは守ってくれた。その時に言ったよね?ルイズ最優先だって。ちゃーんと約束守ってるじゃ~ないですか。だから全然全く気にしないでいいから、この話は終了っ」



貶してくれれば良かった。怒ってくれたら良かった。

なのに。

どうして自分以外を優先する?

どうしてこんな時まで他人を守ろうとする?


思い切ってあの時言えなかった事を言おうとしたのに、




「才人君も、今は言わないで。お願い」




なんで





そうなんだよ……





“神の盾”?


虚無1人しか守れねえ盾の、どこが伝説だよ。




[16464]  幕間3・絶望のラリカと落日の皇子
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2011/02/16 01:21
幕間3・絶望のラリカと落日の皇子





私は『絶望』のラリカ。私が去った後には『希望』が残る。なんてパンドラ?アルビオンがそうなればいいのに。無理だろーけど。





クライマックスは明日。

私は何としてでも生き抜き、平穏な日常を手に入れてみせる!!
つまーり、今夜の仕込みに全てがかかっているのだ。
用意周到、念には念を入れまくって。いっくぜ~☆



今夜最後のパーティーするから出席してねーとか言われ、みんな準備のために部屋に戻っていった。
もちろんワルドは残って明日のトツゼンドッキリ☆結婚式をウェールズに依頼してたけど。
別の虚無がいるって知っても、ルイズはやっぱ欲しいか。
上手くいけば思い通りに出来るかもかーもだし、当然といえば当然。ま、無理だけどね。



さてと、まずはウェールズには確実に明日、結婚式に出てもらわないと。
ルイズの説得も短かったし、妙なイレギュラーが発生してもおかしくない。
ウェールズも風のメイジだから、“偏在”を結婚式に寄越したりするかもしれないのだ。

…殺したと思ったら消滅するウェールズ。焦るワルドはきっと、“ミョズニトニルン”にもう一度チャンスをよこせとか言うだろう。
で、本物を殺すのを見届けさせられるハメに。

それは絶対に御免だ。計画がおじゃんになっちゃう。
だからとりあえず…ウェールズ殿下と、れっつ・すぴーきんぐ~。





「殿下」

ワルドが去った後、声を掛ける。
振り返ったウェールズは悲壮感バリバリの微笑を湛えていた。

「君は…ミス・メイルスティアか。怪我の具合はどうだい?」

「はい、その節は殿下自ら“治癒”していただき、恐れ多かったり有難かったりで…」

「いや。君も大使の1人だからね。負傷してまで赴いてくれたんだ、当然だよ」

おぉう、器がでっかいの~。
流石は“プリンス・オブ・ウェールズ”。
イケメ~ンだし、アンリエッタが惚れてるのも分かる気がする。後でゾンビになるんだけど。
ゾンビもホラーなゾンビじゃなかったしね。…まあ、そんなゾンビじゃアンアンさんも誑かされないか。

「ですが、…改めて言わせて下さい。本当に、有難うございました」

感謝は本当。本当に痛かっただけに。
ウェールズは「ならこちらも改めて、…どういたしまして」とか言って微笑むと、明後日の方向を向く。
窓から射し込む月の光がその横顔を照らし、無駄に絵になる光景だった。

「…今、ワルド子爵からミス・ヴァリエールとの結婚式に立ち会って貰えるように頼まれたよ。決戦の前に勇敢な私から媒酌を、という事らしい」

別に聞いてないのに教えてくれるウェールズ。
まあ、何となく語りたかったんだろう。雰囲気や状況的に何となく気持ちは分かる。

「ははっ、随分と高く買ってくれたようだ。名誉だ誇りだと言っていても、実際はアンリエッタへの未練を捨て切れていなかった私なのにな。…おっと、すまない。今のは忘れてくれ」

…ま、未練たらた~らなのは、あの手紙を宝石箱に大切そーに保管してた時点でバレバレなのですが。

「でも、だから亡命しない事を決断された。何よりも大切な姫様のために。…それだけで、充分だと思います」

てきとーに褒めて心変わりしないように釘を刺す。
やっぱ亡命するとか意見を変えないでね、と言われるよりも、しない決断は立派ですね!と肯定された方がある意味強制力があるだろう。

「…そんな解釈もある、か。ミス・メイルスティア、君は言う事が上手いな」

必死ですから。
私は答えず、ウェールズは少し笑い、でも相変わらずどこか遠くを見詰めている。

「私の恋はこの地で終わってしまったが、彼らの愛はこの地で始まる。終わる者と始まる者、同じこの城にいても、踏み出す先はまるで真逆なのだな。…だが、2人の結婚の媒酌人に選らばれた事は本当に光栄に思うよ。未来ある彼らに、こんな私が餞を送れるのだから」

その愛は始まらず、むしろ一方通行で終了するワケですが。
でも、今の台詞からすると自分本人で出席することは間違いなさそうだ。
こんなコト言われたら、ルイズなら『じゃあやっぱり亡命を!殿下にだって未来が!』とか言い出しそうだが、私は言わない。

原作とズレはないよーだし、もう無問題。もーもーまんたい~。
安心したぜ~、これでウェールズはもういいや。次に取り掛からねば。

「はい、誇って下さい。どんな始まりにも意味があるように、どんな結末にも意味があります。殿下の決断が、結末が、いずれ大きな意味を持つはずです。死は殉ずる道。世間知らずな小娘が戯言を、と思われるかもしれませんが、私はそう信じています」

つまるところ、単にウェールズの死の肯定なんだけど。
あ、王族に対してコレは失礼だったか?ま、どうせ明日滅ぶんだし、不敬罪もないか。

タバサといいウェールズといい、私の不敬さって何回斬首されるレベルなんだろなー。
今度アンリエッタ姫様に会ったら気を付けよう。あと1回しか会わないだろーけど。
むしろ、今回の褒章もらったら二度と会うもんか。

「殉ずる道か。いや、戯言じゃない。君は…不思議な子だな。ただの学生とも思えない考え方をする。何より、死を正面から見据えている気がする」

そりゃー2回リアル死んでますから。殉ずる道だなんて思ってないですけどねー。
それにしても懐大きいなぁ。怒るくらいはすると思ったのに。

ウェールズがこっちに向き直る。もう悲壮感はどこにもない笑顔だった。

「さて。そろそろ、パーティーに行かないと。君たちは、我が王国が迎える最後の客だ。さっきも言ったが、ドレスはこちらで用意しよう。もう行くといい」

「はい。では、会場で」

終わった終わった。
さらばウェールズ。もう二度と話す事もないでしょう。

とか思った矢先、呼び止められた。
何だ破滅志願者。私は次の手で忙しーんですよ。

「君がトリステインに戻った時、アンリエッタに伝えて欲しい。『ウェールズは勇敢に戦い、勇敢に死んでいった』と。それだけでいい。それだけ、伝えて欲しい」

そーいうのはルイズか才人に言うべきじゃないかなかーな?
まあ、彼らにも言うんだろうケド。

「私は殿下が、例えどんな結末を迎えたとしても、そう伝えるつもりでしたよ。だから、もう何も心配なさらないで下さい」

ってか、勇敢に戦えず殺されても成仏して下さい。
伝えといてやるから。ゾンビになっても襲ってこないでプリーズ。

「…そうか。そうだな。呼び止めてすまなかった。………ありがとう」

よし、今度こそ終わったよね?
のんびーりしる時間はないし。今度呼び止めても聞こえな~いしますよー。


言質は取ったし、まずは好調。
さーて、アタマ切り替えて次だ、次。




…国の滅亡も、いろいろドラマがあるもんだなぁ。

前回は単なる情報として聞いただけだったけど。当事者ならではですな。
さらば落日の皇子様。そしてアルビオン王国。

私、みんなのぶんも幸せになるからっ!ぜったい、幸せになるからっ!!
なーんてね?あは。











オマケ
<ラリカの知らない朝の1コマ>


ギーシュ(以下ギ)「(ゼェゼェ…)サ、サイト、そろそろ止めないか?というか、何で、素手で殴り合ってるんだ、僕たちはっ!?」

才人(以下サ)「(ハァハァ…)だから、実戦形式って、言っただろ?杖落としたり、剣落とした時のために、決まってるじゃねえか。いくぜっ!!」

ギ「うおっ!?だ、だからって、明日のアルビオン行きに響いたらどうするんだ!?」

サ「ラリカのジェネリック秘薬があるっ!!(ぶんっ)」

ギ「のあっ!!…なるほど、いいだろう。後悔するなよ!!いくぞ平民!!」

サ「きやがれ貴族!!」

2人「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」




………。




ルイズ(以下ル)「ワルド?こんな所で何やってるの?」

ワルド(以下ワ)「いや、使い魔君に手合わせ願おうと思ってたんだが…」

ル「あそこでギーシュと仲良く気絶してる馬鹿犬に?」

ワ「…貴族のサガというやつでね、噂の使い魔君の実力とやらを試してみたくなった…のだが」

ル「幾らなんでも、これから手合わせなんてただの虐待じゃない?今のあいつになんてその辺りの通行人でも勝てそうだし」

ワ「…ああ、そう思ったところなんだ。というか彼らは大丈夫なのかい?」

ル「薬はあるし、夜までには復活するんじゃないかしら」

ワ「そうか。…あー、ところでルイズ。良かったらこれから町へ出ないか?」

ル「ごめんなさいワルド。先約があるし…その、昨晩の事、考えたいから…」

ワ「そ、そうか。ああ、分かったよ」

(ガンダールヴの力を測りたかったが…ドットの小僧と互角?いや、武器を使っていないようだし…うむ…。しかし、夜まで何しよう?)




………。




キュルケ「(ZZZ…)あらぁ…すてきなオジサ…むにゃむにゃ…」

タバサ 「(ZZZ…)…はし…ばみ…、すぅ」






[16464]  幕間4・二人のライアー
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2011/02/16 01:31
幕間4・二人のライアー





ライアー・レイヤー。嘘の層は厚すぎて、ホントの私は回収不能?別にいいけどねー。らんらんらーん。





よし、ウェールズの意志ってか遺志は確認できた。

惜しい人っていえば惜しい人だけど、どーしようもない。こういう大きな流れは原作通りにしないとマズいでしょう多分。
あー、でも少しだけ罪悪感?なんて。嘘。
下手にそーいう感情持ったら、私の破滅フラグが立ちそうだしね。それは勘弁。
“俺”の頃に見た映画やらマンガやらがソースなんだけど。

ダメ人間はダメ人間を貫かなければならないのです。です。




次のターゲットはワルド。

私を“ミョズニトニルン”が操ってると信じてはくれてるようだけど、疑いの目は完全に摘んでおかなきゃーならない。
何せ、少しでも疑われたらアウトなんだし。アウトで人生から退場したくない。

ここは1つ、ギャップで攻めてみる。
ラ・ロシェール上空の“操られた私”と今の“本当の私”が違えば違うだけいいのだ。
加えて記憶がちゃんと改竄されてるように自然な感じで接すれば、ぱ~ふぇくと。

今後ヒゲストーカーに狙われる危険性をゼロにすべく、れっつらごー。
あ、ダイエットイヤリングは外しとこう。無駄な警戒与えても良くないし。




ってどこ行ったんだよあのヒゲ。

わるどー、でておいでー、おこらないからでておいでー。

とか、心の中でイタズラ小僧を探すママンしてたらバッタリ出くわした。
あぁ!今限定で会いたかったわワルド様!

「あ、子爵様」

「ミス・メイルスティア。もう会場に行ったと思っていたが」

「はい、少し殿下とお話させていただいていまして」

「…ウェールズ殿下と?」

ワルドから不穏な空気。
なぜお前が何の用で?って言いたげだ。
キケンな感じだが、それは想定内。とゆーかウェールズ→ワルドの順番は決定事項だ。
むしろ逆は本格的にマズい。

「はい、そして子爵様にも」

「僕に?さて、どんな話かな」

「お話というほどでもありませんが…」

あくまで無防備に近付く。うわー警戒してる。だが、

「ありがとうござました!」

ぺこりと頭を下げた。

「…?」

笑顔で顔を上げる。

「グリフォンに“治癒”、マトモにお礼も言わないままバタンきゅ~しちゃいましたので、その、改めて」

「ああ、何だそんな事か。いや、当然の事をしたまでだ。君はルイズの友人だからね」

警戒が薄れたのが口調で分かる。
お礼を言う順番は偉い順。ウェールズ→ワルドは当然だし、改めて言うのは不自然な事じゃーない。

「でも、命の恩人様です。子爵様の機転がなければ私は賊にアレな目に遭わされていたでしょうし、“治癒”して貰えなかったらお肌がキズ物に…あ、」

あはは、と笑って誤魔化す…振りをする。
いかにも素が出ちゃったぜチクショーみたいな。

「いや、別に構わないさ。ここは畏まる場でもないし、普段の君の口調でいい」

「あー、じゃあ、すみません。当方、育ちがよくない田舎者でして。あは」

よし。丁寧語やら尊敬語は疲れる。それに、それは“ラリカ”じゃないし。
さてと、じゃあ適当に話しますか。

「子爵様はパーティーに出席されないんです?」

「今日の主役は殿下たちと大使であるルイズさ。僕は警護でもしているよ」

「んー、なら私もお手伝いしましょうか?私、オマケみたいなものですし」

「いや、君も出たまえ。パーティーに花は多い方がいい」

「雑草みたいな花ですが。じゃあ着替えないとダメダメですね。この格好じゃ追い出されるのがオチですので」

左肩の部分が破れ、血の跡が残っている。これでパーティーは無理があるだろう。

「なら、衣装室まで案内しよう。場所は聞いているからね、ドレスを貸してもらうといい」

「ありがたやーです、お言葉に甘えさせていただきますね」




※※※※※※※※




無人の廊下を2人で歩く。

城にいる皆さん、全員パーティーに行ってしまったみたいだ。
無用心だけど…明日玉砕ってのが敵味方問わずに分かってるから無理ないかも。
どちらもお互い、無駄な事はしないのだ。約束された勝利と定められた敗北、まあ中にはワルドとかみたいな例外もいるけど。

「明日、僕とルイズはここで結婚式を挙げる」

唐突にワルドが言った。

「殿下に媒酌をお願いしたんですよね。うかがいましたよ、殿下から」

「そうか。なら話は早い。それに君も立会人として出席して欲しい。ルイズの友人だからね。なに、式が終わったらグリフォンで脱出すればいい。3人ならアルビオンを脱出するくらいなら何とかなるはずだ」

早速本題か。
私の目を通して“ミョズニトニルン”にウェールズを殺すのを確認させなきゃならないんだし。彼にとっては最重要。
そして3人、つまり才人は数に入れていない。
もう伝えて、才人は先に脱出する事を了承したのだろうか。それともまだで、彼の意思に関わらず招待する気がないのか。

てゆーか、グリフォンじゃ3人でも無理じゃない?
ああ、確認さえ終われば私は用済みだからポイしちゃえってワケか。なーるなる。

「もちろん、喜んで立ち合わせていただきましょーか。それで、いい場所あったんです?」

「ああ。礼拝堂があってね。朝、誰かを迎えに伺わせよう」

笑っているが目は笑ってない。ホントにこういう笑顔って存在するんだなー。
小説とかの表現法かと思ってたけど…コレがそれか。
というかですね、貴方は明日振られるんですよ~?

「幸せにしてあげて下さいね、ルイズの事。とっくにご存知かもしれませんけど、ちょっと素直じゃないトコロもあるものの、優しくて誇り高くて、とってもいい子ですから」

「ああ、約束しよう」

微塵も思ってないくせに、よくまー言えますなー。私もヒトの事は言えないけどね。
はっはっは、狸と狐の化かし合いですか。化かす相手は別だけど。

あ、でもルイズの評価は本心だ。冗談抜きで流石はメインヒロイン。
ツンデレーションでデコレーションされてるけど、嘘の層でガチガチに固まった私とは、中身の輝きが月とスッポンの涙。
ま、だからこそ彼女は放っといたって幸福が約束されてるんでしょーけど。


衣装室に到着する。部屋の前にはメイドが2人いて、私たちに頭を下げた。

「じゃあ僕は警護に戻ろう。ミス・メイルスティア、パーティーを楽しんでくるといい」

「はい、ではまた明日」

「ああ。こちらこそよろしく頼む」

ま、こんなもんでいいでしょ~。これ以上は話す事もないし。
じゃ、ドレスを借りるだけは借りて、部屋にでも戻りましょーかね。
パーティー?
サボりますよ当たり前かつ当然に。めんどくさいしねー。
ルイズだって確か、途中で抜け出したよーな気がするし、私がいないくらい問題ないハズ。


明日に備えて、今日はオヤスミぐっどないと☆





…うん、その予定だったんだ。さっきまでは。

でもミスった。
戻る途中で誰かに見付かったらヤダなーとか思って、ちょっと遠回りっぽい別ルートで行ったんだけど…。
ワルド再臨。いや、もう会いたくなかったんだけどなー。

「ミス・メイルスティア?パーティーに行くんじゃなかったのかね?」

てきとーに話して誤魔化すしかない。
幸い、もう憂いはないし、別にワルドはパーティーに出ないのを怒る事もないだろう。

「あはは、いやー、着替えたはいいんですが。やはり私はあの場に相応しくないっぽいので」

「そんな遠慮は無用だと思うがね。まあ、好きにするといい」

軽くヒゲ子爵は笑う。
しかし、ふいにその笑みが消えた。
…あれ?何だ?もしかして…エマージェンシー?
何かマズったか?そんなハズは…。

「1ついいかな」

ど、どんと来い。全て誤魔化してみせるけどな!!

「君は、彼らをどう思う?」

…はい?

「さっき使い魔君と話してね。彼は『分からない』と言った。ウェールズ殿下やこの城の者達が死を前にして笑っていられるのが。ルイズも使い魔君と同じような事を漏らしていた。しかし彼らは誇りと名誉の敗北を求めている。君の目に、それはどう映る?」

な~んだ、そんな話か。ほんのり寿命が縮まったぜー。

「ん。別にいいんじゃないですか?皆さん自分で決めたコトですし、幸せだと思いますよ」

「幸せ?」

「あー、そうですね。ちょっとつまらない話になるけど、いいです?」

「ああ。時間は別にあるからね」

ありがとうございます、と笑う。

「コレは私の考えなんですが。1つ、一番の『大切』を決めておくんです。それが権力だったりお金だったり、愛だったりはそれぞれですけど。で、その『大切』のために生きる。他の何を差し置いても優先すべき、『大切』なコトのために。そして、それこそが幸福なんだと思うんですよ。…殿下やお城の皆さんにとってその『大切』は『ここで死ぬこと』だったんだから、この結末は幸福でしょ~ね」

「『誇りや名誉』ではなく?」

「正しくは自分たちが『誇りや名誉』だと思っている事、ですね。玉砕で全滅希望なんですよね?誰も伝えるヒトが残らないじゃーないですか。敵さんが『やられた人たちは誇り高かった』って後世に伝えてくれるワケないですし。むしろ、歴史は勝者が正義ですから、いいイメージでは残らないんじゃないかな?」

腐敗した王党派はしぶとく抵抗したものの、革命の炎の前に敗れ去った、とか。
ワルドは一瞬だけ驚いたような顔をしたが、やがて苦笑する。

「冷静だね、ミス・メイルスティアは。そして恐らく、その通りになる」

冷静も何も、歴史の勉強したヒトなら誰でも分かるコトでしょーに。
それに私はアルビオンの人じゃないし。いちいち対岸の火事に一喜一憂してたら、この世界やっていけないぜー。

「そもそーも、『勝利すること』が一番の『大切』だったら、ゲリラでも何でもするはずですし。そこまで勝つ事にコダワりがなかったってコトでしょー。でも、別にそれがいけないとは思ってないですよ?…私は誰がどんな事を『大切』として生きていても、否定はしないつもりですから」

私の平穏な日常と幸福をどーにかされない限りね。

「…それが、例えば『復讐』や『贖罪』だとしても?」

へ?ずいぶんと極端な礼を出してきますなー、って。自分のコトなのか?
正直、ワルドってあんまり知らないんだよね。
でも何故にそんな事を?
“誰かに聞いてみたかったけど、聞ける相手が居ないよー。じゃあ明日死ぬこの小娘に聞こう!後腐れないし”
…とかそんなトコロかな?

「だとしても、です」

まあ、別にいいか。
逆にワルドが原作通りに動いてくれる確率が高まりそうだし。

「誰の『大切』も、私は否定しないです」

笑ってみせる。
復讐でも復習でも贖罪だろーと食材だろうと、どーぞお好きに。私に関係しない限りはどうでもいいのだ。

少しの沈黙。…もういいかな?話終わったなら行きたいんだけど。

「…やはり、君はパーティーに出席すべきだよ。ミス・メイルスティア」

うぇ?ナゼにWhy?

「いやー、雑草女は遠慮しときますって」

「いや、出たまえ。君は遠慮すべきじゃない」

何だってんですかこのヒゲ男は?ワケ分からん。

「遠慮などせず、食事や踊りを楽しめばいい。君は彼らを理解しているんだ、誰に憚る必要もない」

えー何それ。でも、あー、断れる雰囲気じゃないなコレ。
仕方ない。めんどくさいけど顔出しますか。
そういやウェールズにも、会場で、とか言っちゃったし。…はぁ。

「…じゃあ、今度は会場までエスコ~トしていただけますか?子爵様」

愛想笑いニコニコ。
ワルドも…あれ?ニセモノ感バレバレな笑顔はどーした?上達したのか?

「ああ。まかせたまえ」


ルイズに向ける笑顔も、そーした方が良かったですよー?


無駄だし、今更だけど。






[16464] 第十五話・ドタバタ☆結婚式
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2011/02/16 02:00
第十五話・ドタバタ☆結婚式





いっくぜ~!正真正銘、コレで終いだ!!ラリカ、ふぁいとぉぉぉぉぉっ!!





ダイエットイヤリングをして、髪型はポニーテールに。

結婚式に弓はムリなので、懐には厨房から持ってきたナイフ1本。コレ重要。
いつでも付けられるように、カラーコンタクトレンズも準備OK。
後はチャンスを待ち、作戦決行。リハーサルなしのぶっつけ本番だ。
でも大丈夫、やれるさ、私ならできる!!できなきゃデッドエンドだし。

それじゃ、本番いってみよ~☆






「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。汝は始祖ブリミルの名において、この者を敬い、愛し、そして夫とすることを誓いますか?」

私の目の前で結婚式が進んでいる。
ルイズは戸惑って…あれ?もの凄く暗い顔してる。

「誓いません」

で、即答。

「何を言っているんだいルイズ?緊張して思いもしない事を言ってしまったのかな?そうだろうルイズ。君が、僕との結婚を拒むわけがない」

「申し訳ございません、ウェールズ殿下。大変失礼とは存じますが、私はこの結婚を受けるわけにはまいりません」

真っ直ぐウェールズを見て言うルイズ。こんなにしっかりしてたっけ?
そして何か言おうとするワルドに向き直る。

「ワルド。貴方はあの夜、『待つ』と言ってくれたわ。だから私も真剣に考えることにした。真剣に考えて、答えを出そうとしていたわ。でも、これは何?待つというのはその場しのぎの嘘だったの?それとも、私の考えなんて待つだけの価値がないとでもいうの?」

「違うよ僕のルイズ。僕はただ、」

おーおー、修羅場ですなー。
あ、ワルドが激昂…まではいかないけど強い口調で何か言ってる。ウェールズも異変に気付いて…、
そういえば才人は何してるんだっけ?



とか思ってたら、ウェールズが…避けた!?



ワルドの攻撃を辛うじて回避したウェールズ。

「くっ!ワルド子爵!!貴様ッ!!」

「ワルド!貴族派のスパイだったのね!?」

何やってるのぉぉぉぉっ!?ワルド!いやウェールズ!?ええと、

「流石だな、今のを避けるとは。だが、ここで貴様には死んでもらうぞ、ウェールズ!!」

よし、冷静になれ私。まだ誤差は範囲内だ。
要するに何だかんだでウェールズが殺されて才人が駆け付けて、最終的にワルドの腕がちょん斬れる流れが崩れなければいい。
ここで私が取るべき行動は、

「子爵様…それが貴方の選択なんですね?」

とりあえず、ルイズを庇うようにして2人から距離を取った。

「…ミス・メイルスティア。すまないが大人しくしていてくれないか?邪魔をすれば、君も殺す」

ま、殺せないんだけどね。
何せ“ミョズニトニルン”に確認させなきゃならないんだし。

「ミス・メイルスティア。ミス・ヴァリエールと下がっていたまえ。手出しは無用。…ワルド子爵、私を欺くに飽き足らず、自らの婚約者までも利用するとはな。私の誇りと、彼女の名誉のためにも…貴様を討つ」

でも何だこの一騎打ちは。なぜなにど~して?

「でもウェールズ殿下!私たちもお力に!!」

よしルイズ、“私たち”って何かね?ナゼに私も含まれる?

「ルイズ!殿下と子爵様…ワルドは、トライアングルとスクエア。私たちが余計な手出しをすると逆に足手まといになっちゃう!殿下を困らせたらダメ!!」

「でもっ…!!」

私はルイズの杖を持つ手を握り、かぶりを振る。
ルイズを抑えておくってコトは、それ即ち私の参戦も回避するってコトだ。無駄に戦わせるわけにはいかない。

「そういう事だ、気持ちだけありがたくいただいておくよ、ミス・ヴァリエール。私は誰かを庇いながら戦うような器用な真似はできないからね」

「話はもういいだろう?…どうやら、役者も揃ったようだしな」

役者?
そう思った次の瞬間、礼拝堂のドアをぶち破って、ちょっぴりボロボロの才人が現れた。
何があったんだ?

「サイト!?どうして!?」

ルイズが叫ぶ。
才人は答えず、肩で息をしながらワルドを睨んだ。

「“偏在”を倒したか。流石はガンダールヴ。あらかじめ力を測っておけなかったのはやはり手痛かったな。過小評価を認めよう。だが…もう油断はせん」

…あー、一戦交えてたのか。
でも何で?そんなシナリオあったか?

「ユビキタス・デル・ウィンデ…。僕は果たすべき目的を完遂せねばならん!そのために!恨みはないが、全力で潰させてもらう!!」

“偏在”わーらわら。

うん、何か知らんが実に責任を感じる発言だな、今の。
才人を個別で狙ったのも『確実にウェールズを始末する』ためか。失敗したみたいだけど。
てことは、ウェールズが一撃で死ななかったのも…変に気合入っちゃったから?

…うん、大丈夫。
想定の範囲内だ。範囲内だ。範囲内なんだ。
才人が“ライトニング・クラウド”食らってない状態で戦いに挑むと逆にマズかったに違いない。
これはこれでダメージ負ってるし、補う意味でもウェールズがいるし、戦力的には原作と同じさ!!
多分。おそらく。きっと。

「ワルド!お前だけは絶対に許さねえ!!」

「我が杖の前に滅ぶがいい!裏切り者よ!!」

「無駄だ!!貴様らの全て、『閃光』の風に呑み込んでくれる!!」

………。

あのー、じゃあ、皆さんがんばってくださいね~。
大人しく見学してますので。




※※※※※※※※




戦闘描写?

無理。
だってよく分かんないし。
何かやたら速く動くわ、魔法びゅんびゅん飛ぶわで意味不明。
あ、でも途中で何を血迷ったか飛び出したルイズが“ウインド・ブレイク”で吹っ飛ばされた。私も一緒にね。
正直痛かった。血、ちょっと出たし。


そんなこんなしてたら、ウェールズが胸を突き刺されて吹っ飛んだ。

「ウェールズ殿下!!」

壁に背を打ちつけ、崩れる彼に駆け寄るルイズ&私。

「くそ!!そんなっ、」

「他人に構っている余裕があるのか!ガンダールヴ!!」

才人は戦闘続行。がんばれよー。

「殿下!ウェールズ殿下!!」

ルイズが必死になってウェールズの胸から溢れる血を止めようとする。彼女の手はもう真っ赤だ。

「ラリカ!“治癒”を!秘薬は!?」

「ルイズ…、何をやっても殿下はもう…」

無理だ。ウェールズは死ぬ。
わざと助けないとかじゃなく、これはもうどうあっても助からないのだ。水のスクエアとかが何をやろうとも無理だろう。
某ハーフエルフの少女が持っている指輪ならあるいは何とかなるかもしれないが、ココにない物はどうしようもない。

「何言ってるの!?まだ間に合うわ!!早く、」

「ミス、ヴァリエール…もう、いい…、ぐっ…」

苦しそうにウェールズが口を開く。

「ウェールズ殿下!!」

「殿下!もう喋っては、」

「…ミス・メイルスティア、すまない、私の結末は…こんな、ごほっ!!」

「ウェ、」

ルイズを制する。
いい子だからちょーっと黙っててね。

「私は申し上げたはずです!例えどんな結末を迎えたとしても、勇敢に戦ったと伝えると!!それに、この最期のどこが勇敢な死でないと仰るのですか!?」

ウェールズが僅かに目を見開いた。
“レコン・キスタ”のスクエア、ワルドと“戦って”の戦死。不意打ちの暗殺じゃなく、激戦の末の敗北に“嘘”はない。
それに。

…全く。
約束したじゃーないですか。伝えるって。まあ、相手が私じゃ信用ないかもですけどねー。

「…大丈夫、ご安心下さい。…伝えますよ、必ず」

微笑む。
伝えますよ。だから安心して死んで下さい。そして恨まないで下さいね。
ウェールズ…、殿下も苦しそうに、しかしどこか穏やかに微笑む。

「ウェールズ殿下…」

ルイズの目から涙が零れる。そして何か言い掛けたが、

「ぐわぁぁぁぁっ!!」

才人の叫び声で、私たちの意識は戦いの場へ戻された。





ボロボロの才人、ワルドも満身創痍だが、彼ほどじゃない。
しかも“偏在”が1人残ってるし。…これって、いわゆる大ピンチ?

「よくやった、と言うところか。だが、ここまでだガンダールヴ!」

どうしてこんな!?
やっぱり原作通りに進んでなきゃいけなかったのか?それとも“心の震え”ってのが足らない?
でも“心の震え”を引き出すにはルイズにやられてもらわないといけないし、その場合は私も矢面だ。
私もやられたら、計画は破綻。気絶なんてしちゃったら目も当てられないし。

マズい。非常にマズい。
このままじゃ、


「“エア・カッター”!!」


“偏在”が切り裂かれて消滅する。ワルド本体も思いがけない攻撃に怯んだ。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

その一瞬の隙を突き、才人がデルフリンガーを一閃する。

「くっ!?しまっ、」

宙を舞う『腕』。

「…詰めが、甘いな…ワル…ド……」

壁に背を預けたまま杖を突き出したウェールズ。
不意打ちは卑怯…とかは言わない。むしろグッジョブ。よくやった!
いやー、一時はどうなることかと焦ったけど、原作という運命は変わらずか!

ニヤリと笑い、ウェールズの全身から力が抜け落ちる。
南無。


…まあ、…カッコ良かったですよ。殿下。


うん、さっすが “プリンス・オブ・ウェールズ”!!
………うん。





………。




そして紆余曲折したけれど、原作通り場景がここに出揃った。




私の計画も…クライマックスを迎える。






[16464] 第十六話・卑劣なるミョズ!というコトでひとつ
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2011/02/16 02:00
第十六話・卑劣なるミョズ!というコトでひとつ





まだ見ぬシェフィールドさん。貴方のキャラ、勝手に作っちゃいましたァ♪ ごーめんね。てへ☆





ボロボロの才人、左腕を失ったワルド。
対峙したまま、動かない。

そんな中、ルイズが一歩踏み出した。

全ての視線は私を映してない。私に顔を向けているのは、ウェールズだけ。
でも、その目が開かれることはない。…いや、あるけどそれは別だ。

私は準備しておいた“アレ”を、そっと取り出した。





「くっ、ウェールズめ、まだあんな力が残っていたとはな!!だが、」

「そこまでだ!!ガンダールヴ!!」

できるだけ邪悪っぽい声で、ワルドの台詞を掻き消す。

まだ戦うとか言われたら困るし、ここからは私のステージだ。
私の、未来を賭けたステージだ。




3人は突然の私の声に一瞬フリーズする。
ルイズを後ろから捉え、杖を奪い取る。そして、首にナイフを突き付けた。
う~ん、流れるような動き。まさに犯罪者。
まあ、想定外の事態でルイズが全く反応できなかったからなんだけど。

「え…?ラリ、カ…?」

固まるルイズはとりあえず無視。

「ワルド!!貴様の働きは見届けた。…しかし、詰めを誤ったな」

「お前は…」

ワルドの表情が変わる。
彼らの目には、無駄に目立つ紅い瞳をして、凄惨な笑みを浮かべた“ラリカ”が映っている。
ルイズには見えてないけど。

「ラリカ!?何でルイズを、それより!!どうなってるんだよ!?」

おー、才人もパニくってますなー。

「黙っていろガンダールヴ。今、貴様には用がない」

「なっ…!!」

後で大切な用があるから、今は黙っててくれぃ。
まずはワルドをどっかにやらないとね。

「目的は果たした。退くがいいワルド。貴様にはこれ以上消耗されるわけにはいかんのでな。それにもうじきレコン・キスタの軍勢がここにやって来る。満身創痍のガンダールヴに、無力な小娘。どう足掻こうが待つのは死、のみだ」

「…お前はどうするつもりだ?」

ワルドが私に向ける目は、“ラリカ”でなく“ミョズニトニルン”への目。
感情を押し殺したみたいな…怖いねー。

「この“小娘”の身体に、もう価値はない。メイジとしても兵士としても使えんクズなど、生かしておく理由もあるまい?」

自分で言ってて悲しくなる。
でも、これって事実なのよね☆…ウェェェン。

「しかし、“ユンユーンの呪縛”は…」

「代わりなど幾らでもある」

そもそもダイエットリングを回収したところで、どーしようもないのだ。
むしろバレるから絶対に拒否せねば。
てか、グズグズしてないで行け!ヒゲ男!!

「何をしている!!忘れたかワルド!貴様の目的は何だ!?」

「ッ!!…分かった、退こう。…ここは、退く。目的のために」

よーやく“フライ”で浮かび上がるワルド。なーにを迷ってたんだよ?

「逃がすか!!」

「動くなと言ったはずだ!…大切なご主人様が死んでもいいのか?」

追いかけようとする才人に警告する。

「くっ!!」

「ラリカ…」

悔しそうに歯を食い縛り、去っていくワルドを睨む才人。
そして、戸惑うルイズの声。

…よし、ワルド行ったな。
前半終了。次だ。




※※※※※※※※




「さて、ガンダールヴ。まずは剣をこちらに投げてもらおうか」

こちらに向き直る才人。
見て分かる動揺。ま、無理ないかな~。

「ラリカ…?何だよ、どうしちまったんだよ!?」

「ラリカ!お願い、教えて!!何でこんな事を!?」

「聞こえなかったか?剣をこちらにと言っている。私は愚者が嫌いなのだ、…後は、言わずとも分かるな?」

ナイフをルイズの首にくっつける。引けば、スパッと切れるだろう。
切る気なんて微塵もないけど。

才人がデルフリンガーを投げる。私の足元に転がったそれを一瞥した。
…よし。デルフの位置はまあまあOK。

苦しそうな声を漏らして片膝をつく才人。
そーいえば、ガンダールヴの力で怪我してても動けるっていう特典があったハズ。剣を手放したからダメージが軽減されなくなったのか。

「ふん、無様だな、ガンダールヴ。武器がなければ所詮はただの平民か」

「ラリカ…」

「どうして…」

うん、そろそろ気付けオマエら。明らかにコイツ“ラリカ”じゃないでしょーが。
ちょっといろいろ心配になってきたぞ?

「待て相棒!…こいつ、恐らくラリカ嬢ちゃんじゃねえ。いや、さっきの話からすると…」

おぉデルフリンガー!!やっと台詞…じゃなくて、グッド!!

「デルフリンガー、伝説の魔剣か。察しがいいな。貴様の言う通り、この小娘は我が術中にある。この“神の頭脳”のな」

「“神の頭脳”だと!?…なるほどな。相棒、ラリカ嬢ちゃんを操ってるのは相棒と同じ伝説の使い魔、ミョズニトニルンだ!!」

なんだってー!!しょうげきのじじつだ!!

「なっ!?そのミョズ…何とかがラリカを!?」

「あははははは!ガンダールヴ、ここは『はじめまして』とでも言っておこうか?まあ、すぐに3人とも死ぬのだがな。…デルフリンガーは後で“私”が回収し、使ってやらんでもないが」

「はっ!ごめんだね!!てめえみたいなヤツには死んでも使われねえ!!」

「我が能力を前にしても言ってられるのか今から楽しみだ、デルフリンガー。…ガンダールヴとその無力な主よ。どんな気分だ?ウェールズを守ることも叶わず、裏切り者のワルドは取り逃がし、挙げ句、操られた友によって絶望の中で死ぬ。惨めだろう?悔しいだろう?ははははは!そう、その表情だ!!敗者にはその表情こそ相応しい!」

何という鬼畜。ミョズニトニルン、許すまじ!!

…ごめんねシェフィールドさん。貴女がどんどん外道になっていく。
ま、いいか。どーせ悪役だしね♪

「くそおっ!!こんな…どうしようもねえのか…!!」

「ラリカ!お願い、目を覚まして!元のラリカに戻って!!」

どうしようもなくないよ才人。てか、してもらわないと私が困る。
ルイズ、元のラリカも何も、オマエさん達の知ってる“ラリカ”自体がニセモノなんだけど。
うん、本物は暗ーい内気少女かつダメ人間なんだ。

外から爆音が聞こえる。
そろそろか。



ルイズを突き飛ばす。よろける彼女を才人が受け止め…2人はこちらを見た。
そこで初めてルイズは“私”の顔を見る。

紅い瞳、そして普段とは違う雰囲気を感じ取って下さいな。
ね?こんなの“ラリカ”じゃないでしょ~?

「ルイズ!!大丈夫か!?」

「私は平気よ!それより!…ラリカ、いえ、ラリカはそんな瞳をしていない!!」

だからそー言ってるでしょ~に。
でも瞳の色に一発で気付いてくれただけ、才人よりは優秀か。

「ミョズニトニルン!!ラリカを、私の親友を返しなさい!!!」

「ふむ…そうだな。どうせ3人ともここで死ぬのだ。考えてやってもいい」

死なないけどね。

「!!」

驚く2人。しかし。

「だが…この“ユンユーンの呪縛”は強力でな。1つ間違えば、この小娘の心は完全に失われる。それでもいいなら…さあ、どうした?やってみろ。杖を奪ってみるか?気絶でもさせてみるか?ククク、まあ、武器を失ったメイジとガンダールヴにできることなど何もないがな」

「くっ、この…、」

「ダメだ相棒!!…コイツ遊んでやがる。恐らく普通の方法じゃ“ユンユーンの呪縛”とやらは解けねえ。だが…ミョズニトニルンなら、何かのマジックアイテムを使ってるはずだ!!」

デルフ…お前って子は。本当にいい子だねぇ…。
すごい面倒が減る。もう鞘の中でおでれえたしてろ何て言わないよ…。言ったことないけど。

「6千年の時を経てもボケてはいないようだな、デルフリンガー。確かにその通りだ」

悪役っぽく笑い、できるだけ優雅な動きでイヤリングを見せ付けた。

「このイヤリングこそ“ユンユーンの呪縛”。この小娘の意識を霞の奥へ押し込め、我が思うままに操るマジックアイテムだ。そして、呪縛を解く方法は1つ」

片方を外す。
ぐっ!!とか呻きながら片目を押さえ、カラーコンタクトレンズを外した。
片方だけ元の色に戻った瞳を見て、2人が目を見開く。
…こうかはばつぐんだ!
これで、『イヤリングを外す=瞳の色が戻る=解決する』ってイメージが具体的に沸いたはず。

「こうやって外せばよい。それだけだ。2つとも外さねば完全には解けんがな。…どうだ?単純だろう。だが、それゆえに間違った事をすれば…」

「さっき言った『心が失われる』って事か…!!」

外したダイエットイヤリングを床に落とし、踏み付ける。
ショボい素材だったのか、簡単に砕けた。

「ククク…。それで、どうする?呪縛はあと1つだけだぞ?あと1つ、ただ外すだけで貴様らの大切な『おともだち』とやらが帰ってくる。さあ、どうした?」

杖を向ける。

「確かにイヤリングから何か魔力を感じる!くそっ!俺としたことが何で気付かなかったんだ!!すまねえ相棒、すまねえ娘っ子!!」

デルフリンガーの悔しそうな声。
いや、悔いなくていいから。
ショボい魔力を放つダイエットイヤリングなんて、普通は絶対気にも留めないし。
でも、証言してくれてありがと~。信憑性が実にアップした。

「結局、貴様らは何もできずに終わるのだ。何も為せず、救えず、ここで朽ち果てるのだ」

「このっ…卑怯者!!ラリカを、ラリカを返せっ!!!」

涙目のルイズが飛び掛ろうとする。

「“水の鞭”!」

しかし、“水の鞭”で彼女らの前の床を殴り付けて制した。
いくら攻撃魔法がダメな私でも、素手の女の子よりは強い。

「あははははは!誰が大人しく外させてやると言った?無力を嘆け、己の不甲斐なさを憎め。杖を奪われたメイジや“武器を失ったガンダールヴ”に何ができる?」

…そう、だから気付け才人。
この局面を解決するんだ!!自分の手で、そうすれば私の計画は完成する!!


爆音が近い。

早く。

早く気付け。


「…ふん。デルフリンガーを失ってしまえば、ただの平民だったという事か。せっかく呪縛を解く術を教えてやったというのに、つまらんな。興ざめもいいところだ」

視線を外してやる。今がチャンスですよー!!


気付け気付け気付け気付け気付け!!!


才人!!気付け!!!ヒントやっただろ!!


「消えるがいい、ガンダ、」


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


よっしゃぁぁぁぁ!!気付いたぁぁぁぁぁぁぁ!!!



才人が突っ込んでくる。その手には…『斬伐刀』。
デルフリンガーを使うようになっても、ずっと後腰に差していた、私があげた狩猟刀。

「何!?」

速っ!?冗談抜きで、ホントに…、

刹那。
刃が首の真横に煌き、ダイエットイヤリングが切り飛ばされる。
よし!ポニーテールにしといたお陰で髪の毛切られずに済んだ!!次は、


「き、貴様ァァァ!!馬鹿なッ!!ば、馬鹿なぁぁぁぁぁァァァァァァ!!!」


顔を押さえ、悲鳴を上げる。
悪役ご用達の、一度は言ってみたい台詞ナンバーワンの悲鳴を。
頭をぶんぶん振り、もがくフリをしながら残ったカラーコンタクトレンズを外す。

そして、全精神力を込め、全然明後日の方向に向かって“錬金”!!
おそらくその辺の瓦礫の一部が何かに錬金されただろう。どーでもいいけど。


「……ばか…な…」


よし、これで、精神力からっぽ…。



かんぜんに、しぜんに、きをうしなう。




あとは、もうしらない。




ヴぇるだんでが…きっと…、





これで…みっしょん、こんぷりー………




…………。




[16464] 第十七話・交錯する俺と私
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2010/02/23 21:28
第十七話・交錯する俺と私





あれからどうなったんだろう?とりあえず、起きないと。





少しだけ痛む頭を押えながら上体を起こす。

眠気も薄く、気分もそう悪くはない。
外の空気でも…と思い、ギプスで足が固定されているのを思い出した。
松葉杖は未だに慣れない。

全く、部屋にある秘薬を持って来ればよかった。
売り物だが、怪我を早く治すためなら仕方ない。
非売品のジェネリック秘薬では骨折は治せそうにないし。

…いや、やっぱりいいか。今はいい。
充電期間だと思えば、この怪我も無駄じゃない。
運転手からは慰謝料を貰ったし、貯金も50万くらいはある。幸いパソコンはあるので、ベッドの上からでも就職活動はできるだろう。
まあ、シュヴァリエの年金もあるから贅沢さえしなければ無一文にはならないし。

それにしても、暇だな。
誰か見舞いにでも来てくれたら時間が潰せるのに。
カレンダーを見る。
水曜日か。友人は仕事中だろう。吉岡ならもしかして…いや、昼夜逆転野郎は寝てるな。
となると残りはルイズや才人…もしタバ子が来たら狸寝入りをしよう。

暇だ。
読書でもしようか。まだ借りてきて読んでない秘薬関係の本が何冊かあったはず。それとも久し振りに物語でも読もうか。
タバ子が読んでいた“イーヴァルディの勇者”でも読んでみようか。
いや、それよりも輪乃木孝の新作推理小説を…、ん?
ベッドに隣接してある棚に目が行く。

ああ、“ゼロの使い魔”を読んでる途中だったな。どこまで読んだっけ?




………?




あれ?


今まで俺、何を考えてたんだ?

嫌な汗が吹き出る。



おかしい。何だ今のは?
“誰”だ、今のは?



棚から1冊抜き取る。

使い魔召喚の儀式。
“友人のラリカ”が声を掛けてきている。ルイズと才人の口論はあまりなく、代わりにココアにぐるぐる巻きにされて放心状態の才人が描かれていた。
才人は、そこで改めて自分がファンタジーの世界に来てしまったと実感したようだ。

翌朝の初仕事。
廊下でばったり“ラリカ”に会った才人は、異世界で最初の友人を得る。同時にその使い魔とも打ち解ける。
シエスタ関係は…あまり描かれていないみたいだ。

授業での爆発。
…あれ?才人はルイズを馬鹿にしない。
朝食も見た目こそ悪いが味は最高だ、と評していたし、そのお陰でルイズの『貴族と使い魔の食事は別』という言葉を『見た目だけは悪くしておかないと他に示しがつかないから』と受け取ったからだろう。
普通に納得しているし、『ルイズを嫌いにならないで』という“ラリカ”からのお願いもあってか、大きなケンカもしていない。
普通に後片付けを手伝い、たどたどしいながらも慰めた。

ギーシュとの決闘。
理由は単純に正義感から。そして貴族と平民との関係もそう深刻なものではないと思っていたから。
ルイズ以外で接した貴族が“ラリカ”とキュルケだったのが原因みたいだ。
戦いが始まり、魔法の脅威を目の当たりにする。そして…。



何だ?
これはいつの記憶だ?

前の“私”は覚えている。内気で暗く、何もしないまま、何もできずに焼死した。
それは知っている。生まれたその日から覚えていた。
じゃあ、この“ゼロの使い魔”に記されたストーリーは?
確かに前まで違和感を感じていたはずだ。記憶と違う展開に混乱していたはずだ。

でも、今は“覚えて”いる。
ルイズを抱き締めた感触、耳に残った才人の声。
前の“私”には知り得なかったものを、今は“覚えて”いる。

いつからだ?いつからこの記憶を違和感と感じなくなった?

…思い出せない。
頭の中が霞がかったようにぼやけてしまい、少し前の記憶さえおぼろげだ。

おかしい。
そもそもこの“ラリカ”の記憶は何なんだ?
前の“私”ではない“ラリカ”。“俺”の前世は“私”だった。
じゃあこの記憶にある、“ゼロの使い魔”に記されている“ラリカ”は?

いつの“私”?



頭痛はするが、耐えられない程じゃない。眠気も薄い。

まだ考えられる。今まではすぐに気を失うように眠ってしまったのに。
“ラリカ”の記憶を辿る。
この“ラリカ”は転生した“ラリカ”だ。大まかなストーリーを知っている気がする。
でも、いつ知った?知るには佐々木良夫の人生を歩む必要がある。
しかし、“俺”は今ここにいて、ベッドの上で思考を巡らせている。

何だ、この矛盾?

“ラリカ”がどう転生したかが分かれば問題は解決なのに、それがなぜか思い出せない。
思い出そうとすればするほど記憶が白く塗り潰されていくようだ。

ダメだ。
まだ本調子には程遠い。
まともに考えるのも思い出すのも、もう少し体調が戻ってからでないと無理そうだ。



別の本を取る。

…何となく予感はしていたが、やはり。
表紙にはルイズと背中合わせで立つ“ラリカ”の絵。彼女は物語の深い場所まで入り込んでしまっているようだ。
十人並みの容姿と才能、そんな少女がこの物語に付いて行けるわけがない。
周りは伝説で、英雄で、才能が溢れていて、美貌で、特別なのだ。

そんな中で凡人が存在し続けることは許されないはず。



頁を捲ると礼拝堂で倒れた“ラリカ”。

彼女はその立場を利用され、操られ、踊らされ、心を壊された。
ミョズニトニルンの“ユンユーンの呪縛”により、ルイズ達に杖を向け…。

倒れる“ラリカ”。ルイズの悲鳴、才人の叫び。
友の死で、ルイズ達はより強くなれるだろう。より優しくなれるだろう。

“ラリカ”という凡人は、そのためにだけ生み出されたのだ。

主人公とヒロインを成長させるために。

そのための“駒”として。




………。




“駒”?


主役達を成長させるだけの存在?





ははっ、成る程。おもしれぇな、その冗談。


凡人なめんな。


こんなところで終わってたまるか。終わるな、“ラリカ”。
お前の目的は何だ?
ルイズや才人の成長?ハルケギニアの平和?原作通りのシナリオ?

違うだろう?

そんなつまらないものじゃないはず。




円満なままフェードアウトし、最終巻の1コマで洗濯物か何かしながら空を見上げ、
『あれから○年か。ルイズ達は元気かなー。平和だなー』
とか言いながらへらへら笑って終わる結末。

伝説が自らの運命に苦悩する時、夕飯のメニューに悩み、

英雄が魔物を倒している時、溜まった洗濯物を片付け、

才能溢れる者が新たな道を開拓した時、ケーキの美味しいお店を発見し、

美貌が数多の愛に揺れ動いている時、夫と子供に普段と変わらぬ愛情を注ぎ、

特別が奇跡を目の当たりにした時、いつも通りの朝を迎える。

ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティアの願いは、そんな平穏なのだ。



だから。

誰かの成長のためとか、物語上の都合なんかのために…死んでたまるか。
そんなところで死ぬな。

てか、それ演技のはずだろ。アホやってないで目を覚ませ。




激しい頭痛と耳鳴り。

地面が揺れるような眠気で、思わず本が手から落ちる。


気持ちわるい。まぶたが、おもい。



でも、おれは、わらっている。





だって、“わたし”は、まけないから。






へいおんを…てに、







※※※※※※※※




「…あー、」


知らない天井だ。

どれくらい眠ってたんだろ?気絶ついでにぐっすり眠ってしまったっぽい。
でも知らない天井。私の部屋じゃ~ないのは確かだ。
夢を見ていた気もするが正直思い出せないし、頑張って思い出すだけ脳味噌の無駄だろう。

う~ん、でもここはどこでせう?
上体を起こす。服はアルビオンに行った時のままだ。
あー、ちょろっと頭痛いかも。どっかでぶった?うん、よく分からん。
…てか、ここは学院の医務室じゃーないですか。そこでぐっすり?
部屋に運んでくれれば良かったのに。


まあ、でも…。


「みっしょん、こんぷり~とっ。はっはっは、さすが私!」


あー、何て最高なんだ私。

うん。



あまりに嬉しすぎて…涙出てきた。





[16464]  幕間5・知らないトコロで話は進む
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2010/02/25 08:12
幕間5・知らないトコロで話は進む





それではみなさんさようなら。 なんて。ね。





<Side 才人>


俺は、ミョズ…何とかってふざけた野郎が見せた一瞬の隙を見逃さなかった。

もうガンダールヴの力は殆ど残ってない。
でも、奴への怒りが、ラリカを救いたい想いが俺を奮い立たせた。

後腰に差したもう1つの武器。
俺の最初の武器にして、ラリカがくれた勝利の剣。
デルフを使うようになっても、こいつは手放さなかった。手放す気にはならなかった。
暇さえあれば“固定化”や“硬化”をかけてもらい、毎日磨いた俺の小さな相棒。

『斬伐刀』が“ユンユーンの呪縛”を断った。

悲鳴をあげ、倒れ込むミョズ…何とか。いや、ラリカ。
抱きとめようとするも、ガンダールヴの力は完全に切れ、俺も膝を付く。
これ以上は動けそうにない。でも…これでラリカは戻ってくる。


ルイズがラリカを抱き起こそうとする。
悪夢は終わったんだ。後は早いとこ脱出しないと。


何やってんだよ。
どうして泣いてんだよ。嬉しいのは分かってるって。
でも今はそんな事してる場合じゃないだろ、ルイズ。




早く、ラリカを起こせよ。

なあ。

頼むから、早く。











<Side ルイズ>


“ユンユーンの呪縛”とかいうマジックアイテムが真っ二つになる。

これで、これでラリカが戻ってくる…!!
無意識のまま駆け出す。
がくりと膝を付き、しかしほっとしたような表情のサイト。
ご主人様をハラハラさせるなんて!後でお仕置き…いや、今回は素直に労おう。

倒れ込むラリカ。
表情はさっきまでの禍々しいものでなく、いつもの、穏やかな彼女のものだ。

ラリカ。
もう大丈夫。もう絶対、こんな目に遭わせたりしないから。
さっさとこんな所を脱出して、トリステインに…学院に戻ろう?

だから、



ラリカ?
どうして息をしていないの?




…え?

ええと。
ラリカ?

あ、あはは、冗談。

ラリカ?

…ラリカ?







<Side Other>


ガタンと大きな音が響き、天井の破片がパラパラと落ちてくる。
柱の一つが土に変わっており、そこから亀裂が、綻びが広がっていた。

「あ、相棒!!まずいぜ、ミョズニトニルンの奴が最後の最後に“錬金”しやがった!この礼拝堂を崩壊させて全員生き埋めにするつもりだ!!」

デルフリンガーが叫ぶ。
しかし、ルイズも才人も動かない。

「何やってんだ相棒!!早くしねえと全員、」

「ラリカが!…ラリカが、息をしてないの!!」

ルイズの悲鳴にも似た答えに、デルフリンガーは言葉を失う。

「嘘だろ…、そんな、“ユンユーンの呪縛”は解けたんじゃ…」

才人の手から斬伐刀が零れ落ちる。

「…相手は未知の呪いだ。どんな事態が起こっても不思議じゃねえ。ミョズニトニルンが言った解呪の方法だって真偽は分かんなかったんだ。だから…、」

誰も何も答えない。
壁の一部が崩れ落る。亀裂はもう天井まで達し、いつ崩壊するかも知れない。

「だから…、相棒。今は、今は脱出することだけを考えろ。このままじゃ全員助からねぇ。ラリカ嬢ちゃんも、それを望んでるはずだ」

答えは返ってこない。
ルイズはラリカを抱き締めたまま動かず、才人もその様子を呆然と見詰めている。
爆音もすぐ近くまで迫ってきている。

時間がない。でも、誰も動かない。

「相棒…娘っ子…、くそっ…」

デルフリンガーの声だけが虚しく響いた。



奇跡は、起きない。



親友の死を乗り越え、少年と少女は強くなるはずだった。

やがて来るだろう友の迎え。2人は2つの亡骸に別れを告げて、崩れゆく礼拝堂を後にする。

瓦礫が亡国の皇子と心優しい少女の上に降り注ぎ、1つの物語が幕を閉じるのだ。

…そのはず、だった。




奇跡は起きない。



( だって、“わたし”は、まけないから )



起きるのは、ただの誤算。



( へいおんを…てに、 )






「………けほっ」





小さな咳嗽と共に。終わるはずだった運命が、再び動き始めた。





※※※※※※※※



<2日後 Side ワルド>



「“虚無の茶番劇”か。確かに茶番だな」

クロムウェルの行って見せた“奇跡”。
死体を修復し、意のままに操る“虚無”。それを見せ付けられたのは昨日の事だ。
あれは“虚無”ではない。ミョズニトニルンが言っていた指輪の力なのだ。
まだ“アンドバリの指輪”を調べたわけではないが、恐らく真実だろう。
予備知識なしであれを見れば、自分も信じたかもしれない。真実には程遠い茶番を。

ウェールズをなるべく傷付けずに始末しろという依頼は、彼の死体をクロムウェルが利用するためなのだろう。
確かに強力な呪文でバラバラにしてしまっては修復できない恐れもあるし、戦場に行かせてしまったら死体の発見すら難しくなる。
王の最期は火の秘薬での自爆だったと聞いたが、ウェールズもいざとなればそうしたかも知れない。

…死体を操る、か。
ミョズニトニルンらしい下種な手段だ。
しかもその役をクロムウェルという傀儡にやらせ、自らは安全な場所で高見の見物というわけか。



崩れた礼拝堂の前で足を止める。
小さな竜巻を起こし、瓦礫を吹き飛ばす。
多少汚れはしていたが、ウェールズの遺体が姿を現した。最期の最期に一矢報い、ガンダールヴに腕を切断される切欠を作った男。
死に顔が穏やかに見えるのは気のせいではないだろう。彼は、自分にとっての『大切』を貫けたのだ。


…。


ルイズとガンダールヴ、そして彼女の遺体は見当たらない。
ミョズニトニルンはあの後どうなった?恐らく、奴からの連絡はしばらくないだろう。
レコン・キスタがハルケギニアを統一しなければ、奴とその主の計画とやらは動かないのだ。

ミス・メイルスティアの身体を操り、ガンダールヴらとどこかに?
しかし、それは考えにくい。奴が評価したように、ミス・メイルスティアはただの学生メイジ。使えるかといえばそうではないのだ。
ならば、3人の行方は…。


再び竜巻を起こし、瓦礫を飛ばす。

…なるほど、そういう事か。

直径1メイルほどの穴。誰かが穴を掘ってきて、彼らを逃がしたのだろう。
思わず口元に笑みが浮かぶ。
ならば、と地面を見回す。
…やはり、綺麗に切断された“ユンユーンの呪縛”が転がっていた。もう魔力は消えてしまっているが、間違いない。

ガンダールヴを甘く見たか、ミョズニトニルンよ。

「そうか…、生きているのか」

ルイズを手に入れるのはもう無理だろう。
既に興味もない。敵として会えば杖を向けることになるだろうが、邪魔しない限りはもうどうでもいい。
ガンダールヴと再戦するとしたら。
やはりルイズ関係だろう。こちらも同じだ。敵として向かってくるなら容赦しない。
そして、ミス・メイルスティア。
彼女はルイズを、トリステインを裏切った自分を、他とは違った目で見据えていた、

“誰の『大切』も、私は否定しないです”
“子爵様…、それが貴方の選択なんですね”

誰のどんな『大切』も否定しないと言った彼女。
あの不思議な少女と会うことは、これから先あるのだろうか?

小さく笑い、“ユンユーンの呪縛”を魔法で消し飛ばす。
再びウェールズに視線を向け、呟いた。

「殿下。貴方の『大切』だったものを、僕は否定しないですよ」


死を悼むつもりはない。殺した後悔もない。



だからこそ、その死を否定しない。その選択を否定しないのだ。






踵を返し、礼拝堂を後にする。それでもう、振り返らなかった。




[16464] 第十八話・ぐっどもーにんぐ希望の朝!
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2010/02/28 11:28
第十八話・ぐっどもーにんぐ希望の朝!





これで…今度こそ…私、幸せになります!!はっはっは~ん。





ちょっと状況を整理しよう。

今後のためにもと~っても重要なのだ。この立ち振る舞いで私の未来が決定しそう。
まず、予定通り私は助かった。
とゆーか、死ぬわけないんだけどね。ギーシュ来るの知ってたワケだし。
助かったっていうのは主にヒゲ男から。
これできゃつにとって私はもはや路傍の石コロと化したわけだから、情報欲しさにストーキングする事もないだろう。
いくら彼氏イナイ歴=人生な女でもヒゲストーカーはいただけない。うん、ないな。

でもこの“操られたラリカ!”イベントは、実にいい布石になる可能性を秘めている。

その名も“ザ・敵に操られた罪悪感と力不足の認識でパーティから離脱大作戦”だ。

長い。
まあ、要するに


『私が操られたせいで2人に迷惑を!ごめんなさい、もう私には2人の傍にいる資格はないわ!!』

で、2人が

『そうよ!敵に操られるなんて貴族の風上にも置けないわ!!』

『まあまあルイズ。でも正直、俺らも死ぬところだったしな…』

『おでれえた!おでれえた!』

変な剣1本が余分だったけどまあいい。デルフも今回の功労者だし、友情出演だ。
…話がズレた。そして、


『やっぱりドットで攻撃力皆無&水メイジなのに“治癒”とかもタバ子の方が上な私は、戦力的見解からしても無用の長物だわ!いわゆるひとつの足手まといよ!!』

『そうよ!私の失敗魔法の方が威力は上だし、何よりあんた地味なのよ!!』

『まあまあルイズ。でも正直、足手まといは邪魔だな。強くなれない者は置いていく』

『おでれえた!おでれえた!』

というコンボが決まり、


『だから私みたいなザコ子は学院に引き篭もってるわ!でも友情は変わりないよ!』

『そうよ!それが一番よ!でも友達だからそれなりに付き合いは継続するわ!』

『まあまあルイズ。でも正直、それがお互いにとっても一番だな』

『おでれえた!おでれえた!』

という完璧なミッションがこんぷり~とされる。
転んでもタダでは起きないのだよ!それが私なのだ!うふふのふ。



よしOK、実にスムーズかつ綻びが微塵も見付からない作戦が決まった。
では次の状況整理。
あれから今日で何日経った?
精神力ゼロになるまで魔法を使った試しがないからトコトン不明だ。
でも少なくとも1日は経っているだろう。長くて2日。さすがにそれ以上経ってたら着替えくらいさせるはずだ。

でもナゼに服がこのまま?単に気絶&ぐっすりすやすやコンボきめてただけなんだし、着替えさせたり身体を拭いたりくらいしてくれれば良かったのに。
気が利かないなー。ま、理由は聞けばいいか。

うん、状況整理しゅうりょー。
部屋に戻って着替えよう。お腹も減ってるし、厨房に行って何かもらおっと。
今ならケーキ1ホールくらい瞬殺だぜ~、だぜ~。
ベッドから降り、伸びをする。そしてドアに手を、

「ラ…リカ…?」

先にドアが開けられ、ルイズが現れた!逃げられない!
じゃなくて、クマできてますよー。夜更かしはダメダーメですなー。
まあ、そう美容に気を遣わなくても可愛いから平気ですか。なーるなるなる、さすがメインヒロイン!
とか思ってたら抱き付かれた。

「ラリカ!ラリカぁ!!」

何だ一体?幼児退行?
…よく分かんないながらも、背中に手を回し、片方の手で頭を撫でる。

「…おはようルイズ」

朝?の挨拶終了。ハイ終わり。だから着替え&ゴハン行かせろ。

「おはよう、じゃないわよ!!」

勢いよくルイズが離れる。くっ付いたり離れたり忙しいなぁ。
てか、どーして挨拶しただけで怒る?理不尽じゃーありませんか。
って、今度は泣きそうだ。イミワカラン。

「おはようじゃ…ないわよ…」

「ごめんね?ルイズ」

本気で分からん。長寝か?長寝がいけないのか?
…あ、そうか。散々迷惑かけたから怒ってるのか。計画通り!!
でも作戦決行は着替えと食事の後だ。そういうわけで、後からたっぷり反省するから今は退いてくだされ、ルイズどの。

「………本当に、心配したんだからぁ………」

あ、ホントに泣いた。何だこの状況は?
イジメたの?私この子をイジメたの?

「…そっか。ごめんね。ありがとう、ルイズ。でも、もう大丈夫だから。それと泣き顔のルイズも可愛いけど、私はやっぱり笑顔の方が好きかな?…だから笑うのだ!おりゃ~っ♪」

「ひゃっ!?ラリ、」

今度は私の方から抱き締めた。うーん、おフロ入ってないし、匂わないかな~。
ま、汗かいてないし大丈夫だろ。それに乙女に臭いとか言うヤツは人としてダメなのです。

…おーよしよし、いい子だから泣き止んでね~?そして早く着替えに行かせてね~?

ん?ルイズが動かなくなったぞ。ってか、寝た。
よく分かんないけどこれでようやく解放された。後はぐっすりルイズをベッドに寝かせて…、

「あ!!ミス・メイルスティア!気が付かれたのですか!?」

と思った矢先に今度はシエスタだよ。
気が付いたじゃなく、ようやく起きた、でしょ~に。
それとも何だ?この世界じゃ精神力使い果たして長寝するのはビョ~キ扱い?知らんぞそんな常識。

「おはよーシエスタ。何だかルイズが立ったまま寝るという偉業を達成したので、お任せてしてい~いかな?ワタクシ、ちょ~っと着替えとかしたいもので」

「それは構わないんですけど…起きて大丈夫なんですか?」

「はい?」

「だってミス・メイルスティアはとても特殊な状態で、だから絶対安静にっていう話だと」

なんじゃそりゃ!?
特殊な状態?…ただ長寝してたんじゃなくて?あれ?

「でも、その感じだったら大丈夫みたいですね。みんなにも知らせなきゃ。私たちメイドも、厨房のみなさんも凄く心配してたんです。でも、ただの平民じゃ何のお力にもなれなくて…。せめてお召し物やお身体をと思ったんですけど、動かしちゃいけなくて…」

シエスタの目にも涙。…うん。本格的に非常に予想GUYな状態だったんだ、私。
まだ何か言ってるけど聞こえない。

なーにが起きたんだ?まさか精神力に飽き足らず、生命力まで振り絞ったとか?
小細工で危うく自爆するところだったとか?アホか私。自己嫌悪がっくり。

「それでミス・メイルスティアが医務室に運び込まれて3日、ミス・ヴァリエールとサイトさんが交代で看病なさってたんです。だから…、ふふっ、元気になられた姿を見て、ほっとされたんですね」

え?ああ、ええと…うん。半分聞いてなかった。
とにかく、ルイズと才人が看病してくれてたって事か。で、安心したら疲れが一気にボルテージMAXになって寝たと。

「あれ?才人君も怪我してなかったっけ?」

「サイトさんの怪我は1日で完治しましたよ。あ、そうです、ミス・メイルスティアの部屋にあった秘薬を借りたと言ってました」

…うん、それ売り物。てか主不在の部屋に入って秘薬借りるって。まあいいけど。
私の茶番に付き合ってくれて、看病までしてくれたのだ。それくらいは許そう。

「なーるなる。詳しい話はまた後で聞くことにしましょ~か。今はとにかく部屋に戻るよ。この格好のままは乙女的にいろいろアレなゆえに。そんなワケでルイズをお願い。あと、身体拭きたいから部屋までお湯を持ってきてくれたら嬉しかったり」

正直言って、ルイズを抱っこ状態で支え続けるのはキツいのだ。
“レビテーション”しようにも杖がないし。それに微妙に混乱風味。
自分の身に何が起こったかを再確認しないと。

「分かりました。すぐに用意して伺いますね、ミス・メイルスティア」

まだ涙目で、しかし微笑むシエスタに、少しだけ罪悪感ちーくちく?なんて。


※※※※※※※※


上半身裸になり、身体を拭く。

さすが学院メイド。お湯の温度は実に適温だ。いい仕事してますなー。
とか思ってたら、ドアをブチ破る勢いで才人が入ってきた。

「ラリカ!目を覚ましたって、」

で、固まる青少年。
何というラブコメ体質!でも適用する相手を間違えてるぜい?
こういうのは粒ぞろいのヒロイン軍団相手にド~ゾ。で、彼女らと好きなだけラブコメして下さいな。

「あっち向いてホイ」

指で左を指す。反射的に才人は右を向いた。

「よーしそのまま暫し待たれぃ。上着だけ羽織るから…っと。ハイ、オーケイだよ」

ブラウスをてきと~に羽織る。
才人はもの凄くびくびくしながら再び向き直った。で、流れるような動きで土下座。

「ごめんなさい」

「うむう~む、でも土下座はいただけませんな。立って顔を上げて、あーんど歯を食い縛れっ!」

「ひっ!は、はいっ!!」

びしっと立ち上がる。軍人顔負けの素晴らしい動作だ。

「ていっ」

軽く額を叩く。
別にそう怒ってはいないし、でもまあ、恥ずかしかったコトには違いないので一応。
魅力ゼロばでぃと自覚していながらも羞恥心はあるのですよ~、コレが。

「ノック厳守と言ったでしょ~が。ここは一応レディの部屋なんだぜー。だぜー?」

「ご、ごめんラリカ…」

「よし許す。…というか、ずっと看病してくれてたんだよね。ありがとう、が先かな?」

そーいうワケでアリガトね、と言って微笑む。
感謝は本物だ。ルイズが目を覚ましたら彼女にも言わないと。

「え?あ、あ…、いや、そんなの当たり前っていうか…、それより許してくれるのか?その、見ちまったのに…」

「わざとじゃないって知ってるし、それだけ慌てて来てくれたって分かってるから。そんな才人君を許さないっていう方がヘンじゃないかな?うん、とゆーかスマンと思うなら忘れてくれたまへ。恥ずかしかったのは事実なのでありまーす」

怒っちゃいないが、蒸し返されるのは勘弁だ。
…って、才人の目が潤んでない?まさかコイツも?

「あー、才人君。私何かマズいコト言ってしまったりするとか?」

「…ははっ、いつものラリカだ。戻ってきてくれたんだ。また、いつものラリカに…」

無視ですかそうですか。…何か疲れた。あと、下も拭いて早くゴハン食べたい。

「才人君」

ブツブツ言ってる才人の意識をこちらに戻させる。

「才人君とルイズに聞きたい事と話したい事があるの。ルイズは今、医務室で眠ってるから…起きたら部屋で待っててくれる?用事を済ませたら行くから」

「用事?それなら俺も手伝うぜ。何でも言ってくれよ!」

「ふむふ~む、スカートと下着を脱がせてとか言わせるつもりかねキミは。それとも拭く係?はっはっは、責任とらせちゃうぞー。…とまあ、用事とは主に身だしなみ的なアレなのですよ。つまるところ、手伝ってもらうワケにはいかなかったりする」

「なっ、そ、そうか!そうだよな。だって上を拭いてる途中…、ゴメン。すぐ出てく、すぐに。あと、ルイズ連れてあいつの部屋で待ってる。俺たちもその、話したい事あるから」

話したい事。
いよいよアレか。“オマエが操られたせいで迷惑した&弱者は足手まといだ”通告。
オブラートに包んで言ってくるだろうが、気遣い無用、むしろ全面同意の心構えだ。

実に予想通りかつ、予定通り。

「うん、待ってて下さいなっと。それじゃ、また後で」

出て行く才人に笑みを向け、私は心の中でガッツポーズを繰り返した。





これでようやく平穏な未来にリーチかかかる。
微妙に不測の事態が起きたようだが、結果よければ全て良し。

そしてさらば主人公一同!こんにちは平穏な日常!!

紆余曲折、ピンチも何とか乗り越えたし、あとはエピローグ一直線。
次回!『最終話・そして数年後』に、ブリブリブリミ~ル☆
ご覧のスポンサーの提供でお送りしました!!




はっはっは!わーるど・いず・まいーん!!
今度は今度で今度こそ、ピリオドの向こうへ行ってやるぜ~。



えいえいおー!!





[16464] 第十九話・原点回帰。思い出せ!目指したものを!
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2010/02/27 12:54
第十九話・原点回帰。思い出せ!目指したものを!





『絶望』の二つ名は好きじゃない。でも、言い得て妙。『ゼロ=虚無』だったルイズみたいに。一緒にするのはおこがましいけど。





着替えが終わり、厨房に訪れた私は、

『ラリカ嬢ちゃん!ほんっとうに良かった!!俺ぁ、ラリカ嬢ちゃんにもしもの事があったらと思うと…。何?小腹が空いた?野郎ども!!今すぐ最高に豪勢な料理を、』

という感じで危うくディナー並の食事が出されるのを勘弁してもらいつつ、軽いものを作ってもらい、

『ミス・メイルスティア!!どうしてこんな事になったんですか!?貴女は一人の身体じゃない(居なくなるとハンドクリームの恩恵がなくなる的な意味で)んですよ!!』

とかいうメイド達の理不尽な怒りを受けながらも、

『でも…良かった…。みんな本当に気が気じゃなかったんです。この学院で働く平民は全員、ミス・メイルスティアを大切に思ってるんですからね?あまり心配させないで下さい』

と、ちょっと嬉しい事も言われつつ解放された。

ごはん食べるだけで、どーして疲れてるんだろう?
原因は分かってる。慣れてないのだ、心配とか思いやりとかそーいうのに。



部屋に戻る。

ルイズの部屋に行くのは少し休憩してからでいいだろう。
立ったまま寝たくらいだから、ちょっとやそっとじゃ起きないはずだし。

…深呼吸。と、現状再確認。
よし、冷静な私が戻ってきた。多分。

最近は何だかドツボに嵌っている気がする。やるコトなすコト空回りで、このままだと確実にバッドエンドだ。
寿命も前回の“私”より危うい気さえする。“俺”の年齢まで生きられる自信がない。

OK、現状は把握できている。
では、私がどんどんアレな感じ…半自暴自棄な思考回路に陥ったのはいつからだろうか。
“仕込み”をしている間は順調だった。やはり、“ゼロの使い魔”がスタートしてからか。
才人に出会い、ルイズとの関係を構築し…うん、その辺りからゆっくり崩れ始めた。とどめはフーケだろうか?

しかし、フーケ戦までは当初からの計画に織り込み済みだ。
当初の計画、つまりフーケ戦を終えて、それなりの友人関係を保ったままフェードアウトというものは最も安全かつ完璧なものだったはず。なぜ破綻した?
才人が私の部屋にいたせい?ギーシュを途中で見付けて帰してしまったせい?
何かのせいにしたら止まらなくなる。ここで自分について冷静に分析してみよう。


まず、容姿。

灰色の髪に灰色の瞳。目付きがやや悪く、スタイルは十人並み。
出るところはそれなりに出て、引っ込むところもそれなりに引っ込んでいる。ナイスバディでなければスレンダーでもない。巨乳貧乳どちらでもない、まさに十人並みだ。
才人に下着姿やら半裸姿やらを見られたが、そんなに凄く反応してくれなかったあたり、魅力は皆無なのだろう。顔はそれなり、脱いでも凄くない女。
明らかに“物語のヒロイン”ではない。


次に、性格。

よく言えば大人しく、普通に言えば内向的、悪く言えば根暗。多少陰があっても美人なら逆に魅力になるが、私ではただ単に暗い女だろう。
でも、借金のカタに売られかけたり(20エキューだったっけ?で買取拒否)、食べ物を恵んで貰いに行って石をぶつけられたり(しかも平民の使用人にまで)すれば暗くもなる。
“2度目の私”は何とか回避したが、“最初の私”はモロにそんな環境で育った。
栄養失調で死に掛けたなんてザラだし、親が『産まなきゃもう少し生活が楽だったかも』と愚痴っているのを聞いた回数も数え切れない。
セミとかカミキリ虫の幼虫とかをグルメ的な理由でなく食べた貴族も珍しいはずだ。


…うん、歪むな。客観的に見ても。友達ができなかったわけだ。

他人に夢を見ない。自分以外は全員敵。むしろ、自分すらダメ。

それが“最初の私”だ。殺される直前、この年で『死んだ方が幸せかも』と思っていた時点で人生に絶望している。
『絶望』のラリカの二つ名は伊達じゃないな。付けた方に惜しみない拍手を贈りたい。もちろん、嘘だが。

“俺”に生まれ変わり、まともな25年を送らなかったら、ラリカに再転生した時点で自殺していたかもしれない。しなくても、より一層暗くなるのは想像に難くない。
何の因果か“俺”の世界で“ゼロの使い魔”を知り、そして多少の原作知識を持ったまま再転生したお陰で“ラリカ”としての2度目の人生を絶望せずに歩む気になった。

今の性格は、ぶっちゃけ『嘘の自分』だ。
自己暗示と“俺”時代の並程度な社交性、それをフルに活用し、自分自身に嘘をつき続けている。少なくとも入学してからはぶっ通しだ。

…うん、そりゃガタも来るでしょう。
真逆の性格を演じ続けているのだ。根暗少女がへらへら笑って。引き篭もりが大冒険に同行して。マトモでいられるはずもない。
フーケ戦で終わるはずが、予期せぬアルビオン行きに繋がって…。思考回路はショート。
大ボラは吹くわ、皇子暗殺指令は出すわ、死の決意を促すわ、挙げ句の果てには解呪の大芝居は打つわ…何という綱渡り人生。正気の沙汰とは思い難い。
改めて思う、私はダメ人間だと。どう頑張っても愛されるような人間じゃない。

容姿はダメ、性格もダメ、加えて魔法の才能もダメ。
卑屈上等。それが私なのだ。器の小ささは折り紙付きだ。血統書を付けてもいい。


よし、分析完了。

とりあえず自分がダメというのが改めて分かった。
…OK、そこで挫けるな私。
私だけは何があっても私の味方なんだ。そう思えただけでも前回よりマシだと思わねば。
自分を知ることは、即ち敵(ルイズや才人も含む)を知ることにも繋がるのだ。

そして、連日の原作介入で精神的に疲労していたのも分かった。
当初の作戦自体は悪くなかった気はするが、私の足らないオツムで考えた程度じゃ穴も多かったのだろう。反省。

そして過ぎた事を嘆いても仕方ないのも分かっている。
もちろん、次に為すべき事も。


当面のイベントの流れは、ルイズ祈祷書 ⇒ 宝探しでゼロ戦発見 ⇒ ゼロ戦でのタルブ空中戦だ。
タルブ空中戦はゼロ戦に乗るのがルイズ&才人と決定している時点で、参加の可能性は低いだろう。
仮にキュルケなどが付いて行くと言っても、最速の移動手段がシルフィードだ。
追い付く頃には決着がついているかもしれない。
宝探しは回避可能。いつその話が出るか分からないが、適当な用事でも作ればいい。
強引に誘われても断り続ければ何とかなる。心証が多少悪くなっても大丈夫だろう。

…つまり、当面は安全。
しかしそれを過ぎたら分からない。レコン・キスタとの本格的な争いやガリアの問題、命が幾つあっても足らないこと請け合いだ。
だから、今のうちに手を打っておかないといけない。



…うん、どうしよう。




………。





やはり、“ザ・敵に操られた罪悪感と力不足の認識でパーティから離脱大作戦”しかないな!

やっぱアレは名案だ。それ以外思い付かない。





これをいかに上手く、そしていかにベストなタイミングで切り出すかだ。
今日、ルイズ達から通告されたらそれに越したことはないが、もし違ったら、状況を冷静に分析して実行しなくてはならないだろう。
これ以上のミスは、全力で致命的なのだ。

よし。私は今、完璧に冷静だ。自分探しの旅から帰って来たかの如く。
未曾有の危機を脱し、気持ちが落ち着いたお陰かもしれない。着替えとごはんも冷静な私を呼び覚ますのに一役買ったに違いない。

明るい未来が見えてきた気がする。






そして。





初心に戻り、冷静な心を取り戻した我が完璧なる計画は、










最初の1歩で頓挫した。








…あっるぇ~?

どーしてこうなった??






[16464] 第二十話・あれれ~はなしがつうじないよ~
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2010/02/28 11:28
第二十話・あれれ~はなしがつうじないよ~





冷静さを取り戻したと思った矢先にこれだよ。え?何?イジメ?





「だから、ラリカはウェールズ殿下が殺された直後に気を失ったの」

ベッドに腰掛け、真顔で言うルイズ。
…あっるぇ~?何それ?

彼女の部屋を訪れた私は、用意された椅子に座って話を聞いている。才人が立っているあたり、この椅子は本来才人のものなのだろうか。
いや、それよりも今の発言。それが問題だ。

ああそうか、聞き違えたのか。
そうだそうにちがいない。才人に聞いてみようそうしよう。

「あ、ああ。いきなり気絶して昏睡状態になったんだ。あれにはビックリしたよな!」

「ええ!いきなり気絶するんだもの。きっとワルドに魔法でやられたのよ!」

「うん、そうだ。そうに違いないな!」

よし、明らかに隠してるなコイツら。
こうなったらデルフリンガーに…。

「おっ、ラリカ嬢ちゃん!元気になったみてえだな!!でも相棒。あの時は、」

「デルフ黙ってろ」

「溶かすわよ駄剣」

「………俺は何も知らねえ」

お、おでれえ太く~~~ん!!
そこは頑張って言うべきところでしょう!?言った後でシマッタ!すればいいのに。

「ルイズ、才人君。何があったのか教えて。知りたいの、例えそれがどんな、」

「ラリカ」

立ち上がったルイズに抱き締められる。

「…大丈夫だから」

ナニが?

「私、ラリカのお陰で気付いたの。強くならなきゃって。大切な親友を守れないメイジなんて、貴族以前に人間失格よ。だから、もう大丈夫よ。ラリカは私が守るから」

ええと、言葉のキャッチボールがその…。

「俺も、さ?」

おお才人、オマエなら、

「強くなるよ。そして、今度こそ約束を守る。どんな奴が来たって、絶対ラリカを守るから。だから、もう一度だけ信じてくれ」

期待した私が馬鹿でした。
何だコレは?話が噛み合ってない。そしてなぜ教えない?

OK、冷静になれラリカ。ついさっき反省したばかりだろう?
大丈夫。まだ何とかなる。多分。

「ルイズは、強いよ。そして才人君も信じてる」

やんわりとルイズを離す。話を軌道修正しなければ。

「ルイズが誹謗中傷に耐えて、一生懸命努力する姿を私は見てきたし、目指すべき道へ真っ直ぐ突き進んでいると思う。そんなルイズを“弱い”なんて言う人は見る目がないだけだよ。断言。…才人君は異世界から来て、右も左も分からないのに自分を見失わないで…それだけでも凄いのに、メイジに勝っちゃうしフーケは捕まえちゃうし。アルビオンだって才人君がいなかったら戻ってこれなかったかも。強いよ、才人君は。私が保証する」

それに放っておいても2人は強くなるのだ。
今はそんな事より私の計画だ。
“操られたラリカ”というキーワードが出てこないと始まらない。

「だから、アルビオンで何があったのか教えて欲しいの」

頼むから。
もういっそ、僅かに記憶が残ってるとか言っちゃうか?

でもそうしたらミョズニトニルンについて訊かれそうだ。アレはあまり触れて欲しくない。
極限状態だったから良かったものの、冷静な状態で訊かれたりしたら致命的な死亡フラグに繋がりかねない。
もうフラグ立ってるぜ!という始祖の声は聞こえなかった事にする。

「さっき言った通りよ。そうよね、サイト?」

「ああ。さっき言った通りだ。な、デルフ?」

「………おお。もうそれでいいよ、俺も」

それで、なぜさっきよりも強い意志の篭った目で嘘をつく?
絶対に教えないっていう鉄の決意が溢れてるし。
よ、よ~し、ちょっと計画が崩れかけてるけど、まだ大丈夫だ。
ちょっと強引だが、役立たず宣言をしよう。

「そっか。でも私、アルビオン行きでは何も役に立てなかったよね。殿下が殺された時だって何もできずに怯えてるだけだった。私がいても、」

「馬鹿ね、ラリカ」

ルイズが優しく笑う。

「ラリカはウェールズ殿下の心を救ったじゃない。何もできなかったのは私の方よ。殿下が最期に笑えたのはあなたのお陰なのよ?人に安心を与えるのって、何も力が強かったり魔法が強力だったりする必要はないと思うの。ラリカを見て、私はそう思えたわ」

いやー、アレは前の晩に約束してたから…。
それに死に逝く者に対しての優しさは普通でしょーに。呪わないで的な観点からも。

「そうだぜラリカ。ラリカが弱いとか足手まといとか言う奴は、それこそ俺がぶっとばしてやるよ」

ニカっと笑う才人。
いや、実際ワタクシ弱いのですよコレが。ぶっとばされるの私ですか?

あれ?
あっるぇ~??
何なんだこの状況は。

よし、大丈夫、まだ時間はある。最悪、タルブ空中戦くらいまでは猶予期間だ。
焦って墓穴を掘るようなミスはもうしない。考えろラリカ、あくま~で冷静に。
時間はあるんだ。

でも今は、

「………ありがとう、2人とも」

そう言って、笑みを返すくらいしかできなかった。




※※※※※※※※




“ザ・敵に操られた罪悪感と力不足の認識でパーティから離脱大作戦”失敗!!



まさか完璧と思われた計画が一瞬でパァになるとは思わなかった。

危うく再び自暴自棄ルートに突入することろだったぜー、危ない危ない。
とりあえずは普段の学院生活を取り戻しつつ、打開策を…とか思いながら廊下を歩いてたら青いのが現れた。

「平気?」

おぉタバ子。
ルイズや才人も、オマエさんくらいドライだったら苦労しないのにねぇ。

「ご覧の通り、元気ゲンキ~。“気絶した”私をシルフィードで学院まで運んでくれたんだよね?ありがとう、タバサ」

なでなで。
しかしお礼を言いつつアタマ撫でるのってどうなのだろう?バカにしてると受け取られないか?しかも王族を。
まあ、嫌がってないから大丈夫なんだろう。

「ギーシュの使い魔も頑張った」

おぉ!他人(の使い魔)の活躍も伝えるとは。えらいえらい。
昔のタバ子なら…、昔のタバ子知らないや。

「そかそか、じゃ~後でヴェルダンデとギーシュにもお礼を言わないとね」

「ギーシュ本人は何もやってない」

酷え。本当だけど。

「いやいや、ギーシュがいなかったらヴェルダンデもいなかった。つまーり、彼が欠けては為し得なかったというコトなのです。だから、ギーシュにもお礼。ね?」

少し考える素振りを見せたが、やがてこくりと頷く。
おーよしよし、分かってくれたかハシバミ・タバ子よ。
それに私はお礼を言われるのは得意じゃないけど、言うのは得意なのだ。貧乏だったゆえに。
教科書に載せたっていいくらいの綺麗な土下座だってできるんだぜ☆
…自慢じゃないな。うん。

「これを返す」

40サント程の細長い棒を差し出すタバ子。
あ、私の杖か。一瞬菜箸かと思った。
医務室にもなかったし、ルイズ達も何も言ってなかったので少し不安だったのだ。
…杖との契約めんどいしね。

「弓はなかった」

「重ね重ねありがとう。弓はどーやらアルビオンに忘れてきちゃったみたいですな~。回収はまあムリっぽいけど、別にまた作るからオケ~イ」

弓の方は適当な材料と“錬金”があればどーにでもなる。魔法って便利だ。

「私にも」

「ん?」

こっちをじ~っと見上げる。どうした?なでなで具合が足らないのか?

「作って欲しい。できたら、教えて欲しい」

「弓を?そりゃまたど~して?」

「“フライ”を使いながら遠距離攻撃。魔法じゃないロングレンジ。銃と違って弓は“錬金”で矢さえ作ればすぐ使える。覚えれば、もっと戦いに幅が広がる」

流石は戦う幼女(?)タバ子。そのタクティカル思想は恐れ入る。
さて、どうすべきか。教える分には問題ないが…こやつは外伝的に深く関わると死ぬし。
でも王座に就いた時に、一連のなでなでを思い出されて不敬罪っていう事態も…ないか。
まあいい、教えるだけなら問題ないな。

「んー、じゃあ、時間のある時にちょろ~っとね?ヒトにモノを教えるのは苦手ゆえに、あんまりいい先生じゃ~ないかもなのはご勘弁」

頷く。実にドライでよろしい。

「お礼はする」

「じゃあこーやって撫でても怒らない約束で。撫でられるのが嫌だったら言ってくれい、自重するから」

「嫌じゃない」

「3度目のありがと~♪」

よし安心した。


さて、部屋に戻る前にギーシュにお礼を言いに行きますか。
姫様にも殿下の言葉を伝えなきゃいけないし…やるコト多そうだ。






…そーいえば、ココアってどうなったんだろ?








オマケ
<ラ・ロシェール近郊の森 Side ???>


山賊A「うわぁぁぁぁぁ!!ムカデのバケモンが来るぞぉぉぉぉぉ!!」

山賊B「何ィ!?それってここ数日、俺らみたいなのを手当たり次第に襲うあのバケモンか!?」

山賊A「そうだ!でも何であんなのに襲われなきゃならねえんだよ!?」

山賊C「奴らは恨みを忘れない。恐らく、どっかのバカな山賊か何かが奴を攻撃したんだろう。だから奴は“山賊”っぽい奴は敵だと判断したんだ」

山賊B「メガセンチビートなんか攻撃したバカは何考えてたんだ!?放っときゃ害はねえだろ!!」

山賊A「知るか!!てかあんなモンがここらに居るコト自体が間違ってんだよ!!」

山賊C「言い争ってる暇があるなら逃げるぞ。で、ヤツはどこなんだ」

A&B「…山賊C、後ろ後ろ」

???「キシャァァァァァァァァァァ!!!」

ABC「ヒイィィィィィィィィィィィ!!!!!?」



[16464]  幕間6・キスと夜空と自称薔薇
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2010/03/02 01:45
幕間6・キスと夜空と自称薔薇





Kiss in the Dark. 闇の中で君と私はキスをする。これは誓約、神聖な絆の契り。…なんて。ロマンチックなモノならいいんだけど。





星降る夜。
学院近くの秘密の森で。
…風の囁きを、聞きながら。

私は、運命の相手とキスをした。

最初は涙が止まらなかった。2度目は懐かしい気持ちになった。
そして今宵が3度目のキス。



―――――― また、逢えたね。




………。





てかさ、ムカデと(前の“私”合わせて)3回もキスするって何の拷問?

泣けてくる。実際泣いたが。
2度あることは3度あるし、予想の範囲内だったから、ムカデとキスすること自体はいい。よくないけど、仕方ないと割り切れる。
しかし血塗れ状態で現れ、ポリポリと“人の指っぽい”肉を齧ってたのは許容範囲外だ。
何その肉?何を襲って食べたの?教えてココアたん♪
いや、やっぱ知りたくない。私は何も見ていない。うん、何も見ていない。
でもとりあえず、コイツと味覚だけはリンクさせてはならんと再認識した。


タバ子なでな~で終了後、ココアの不在に気付いた私は、呼んでも来ない&感覚リンクもできない事に愕然とした。

使い魔契約が破棄されるのは、確かどっちかが死んだ時。
私は生きてるので、知らないうちにココアがどっかで死んだろなーと結論付け、このままだと授業の時に1人で“サモン・サーヴァント”やらされるハメになりそうだなーと予想し、そうなった時の異常な注目度を想像して軽く鬱になった。
で、だったらさっさと呼び出し、先生には事後報告でいいやという考えに思い至り、夜中にコッソリ学院を抜け出して召喚してみたら…この結果だ。

私とココアが両方とも生きてるっていう、契約破棄の条件と現状が一致しないのは疑問だったが…きっと私が仮死状態っぽくなった事が原因なんだろ~なってコトで納得。
晴れて再契約は完了したのだった。


ロマンチックとはかけ離れたサードキスを交わし、水の魔法で血を洗い流してやる。
よく考えれば、私のキスの相手はムカデおぅんりーだ。軽く死にたい。

あー、でもココアって雄なのか?
性別が全く分かんないや。カブト虫とかみたいに一発で分かるような特徴あればいいんだけど。
まあ、雄だったらどうした?って話なのだが。いくらモテた記憶のない私でも、虫相手に愛を育む気は微塵もない。
とか思ってたら、近くの茂みがガサっと動いた。

「“水の、」

「待った!!僕だ!」

“水の鞭”詠唱より一瞬早く、聞いた事のある声が私に攻撃を止めさせる。
茂みから金髪に葉っぱを乗っけて現れたのはギーシュだった。なーにやってんだコイツは?

「おぉう、ギーシュ。危ない危ない。危うくベシって叩くところだったよ」

「いやいや、“水の鞭”で殴られたらそれじゃ済まない気がするんだがね」

「ちっちっち。私の“水の鞭”は威力控え目なのだよ、才能の限界的な意味で」

フフフ、全然誇れないぜ!でもいいさ、誰かを傷付ける術なんてレディには不要なのだ。
…ということにしておいて下さい。あ、弓は別ね?

「そこは自慢げに言うところじゃないだろう…。それより、どうしたんだい?こんな夜更けに」

「ギーシュこそど~したの?まさかこの辺りでミス・モンモランシあたりと密会?」

「いや、部屋から月を眺めていたらね。誰かが窓から“フライ”で森へ飛んでいくじゃないか。少し気になってつけて来たってわけさ」

まさかギーシュに見付かるとは。
でも反応からしてアレ(ココアのお食事風景☆)は目撃されていないようだ。してたらいくらギーシュでもココアを恐れるはずだし。

「なーるなるなるほーどほど。ではネタばらし!実は…、」

「実は?」

「ココアをごしごーし洗ってたって寸法さ!ラ・ロシェールからの長旅ごくろーさまの感謝を込めて。でも学院の水場とか広場とかで洗うには明らかにアレなので、こうして夜中にコッソリ洗わないとダメなのですよ。悲しいかな」

半分嘘で半分本当だ。証拠として地面は塗れている。
血の匂いは…よし、かなり薄れてるから大丈夫なハズ。

「そうか。まあ、確かにココアは大人しいし、よく見るとカッコいいが…万人受けは難しいからね。ヴェルダンデみたいな誰が見ても愛くるしい姿ならそんな苦労もないんだが」

さすが美的センス崩壊男。
でもまあ、モグラはそれなりに可愛い。あのデカさはいただけないが。

「そーいうワケで、私の用事は終わってしまったのですよ。もう帰るけど、ギーシュはしばらく森を散歩する?」

「しないよ。というか夜の森なんて不気味以外の何物でもないじゃないか。君も女の子なんだし、いくらココアがいるからって気を付けた方がいいよ。それに君は今日、目を覚ましたばかりじゃないか?使い魔の世話もいいが無理はしない方がいい」

夜の森は狩りに最適だったから慣れてるし、別に無理もしてないのだが。
まあ、心配してくれるのは理屈抜きで嬉しい。

「お気遣い感謝感激雨あられ。じゃあ一緒にココアに乗っての空の旅でもど~でしょう?行く先はアナタのお部屋の窓際まで」

笑顔で言う。どうせ帰るし、ギーシュの部屋までなんて大した遠回りでもない。
むしろ放っておいてサヨウナラは人格を疑われそうだし。

「ははっ、じゃあお願いするよ。それと、どうやら本調子に戻っているようだね。眠っている君もなかなか魅力的だったが、やはり君はこうでないと」

魅力的?なかなか冗談が上手い…じゃなくて、ギーシュなら例え相手が私でもお世辞の精神を忘れないか。
でもそのパワーはモンモン相手に全力で発揮して欲しい。

「お世辞ドモです。しかしそーいうキザな台詞は、バッチリ決めてからじゃないとダメダメかもだぜ、じぇんとるめん?」

近付き、つま先立ちになって手を伸ばす。そして背伸びをしたままギーシュの髪に乗っていた葉っぱを取ってやった。
自称薔薇とか言いつつ、葉っぱ乗っけたままじゃカッコつかないだろう。

「ふむ。これで魅力増し増し増量完了♪っと、それじゃー帰りましょうか、我らが学び舎へ!」

「あ、ああ、そうだね」

何故に固まった?プライドがほんのり傷付いたか?
でも溢れんばかりの笑顔は何なんだ?…うん、やはりコイツはよく分からん。


※※※※※※※※


「ところでラリカ」

「ほいさ?」

ココアの背でギーシュが話し掛けてきた。

「あの夜の事なんだが…、」

「ふっふっふ、ノーコメントとだけ言わせて貰おうかー」

「やっぱりそう言うか。いや、でも気になるじゃないか?もし君がその気なら、僕としても真剣に考えなければならないしね。いや、もちろん薔薇は、」

「薔薇はみんなで楽しむモノです、だよね?でも観賞だけなら大勢のヒトに楽しんで貰えるかもだけど、手に取れるのは1人だけだよ。残念無念なコトに、薔薇は1本だけだからね。だから、なるべくその1人にターゲット絞った方がいいかも。でないと、取れなかった大勢を悲しませちゃうんだぜ~。だぜ~?」

ミス・ロッタとかね。
他は…誰かいたっけ?てか、ギーシュってホントにモテるのか?

「うっ、そ、そうだね。心に留めておくよ」

「うむうむ、素直で実によろし~」

笑いながら、ふと下を見る。
広場に誰かいるみたいだ。剣の素振りを…学院で剣なんて使うのは1人しかいない。
才人か。こんな日まで特訓しているとは。さすが英雄予定。

「アレは才人君だね。いやー、頑張りますな。1000リーグの道も1歩から?」

「おや、そうみたいだね。いやしかし、彼は平民にも関わらず凄い奴だよ。アルビオンの時だって…あ、こちらに気付いたようだ」

才人がこちらを見上げ、手を振って?いるようだ。声は羽音と風で届かない。
適当に手を振り返しておいた。

「そういえば、どうして君は彼を『才人君』と呼ぶんだい?僕なんかは普通に呼び捨てなのに」

言われてみれば。でも特に意味はない。
ただ、“俺”の世界だとそう親しくない相手には『さん』『君』などを付けていたから、同じニホンジンな才人にも適用しただけのことだ。
それがそのまま今まで続いている、それだけだ。

「んー?特に意味ないケド。ギーシュも『ギーシュ君』の方がいいならそ~しようか?」

「む、ギーシュ君か。何とも新鮮な感じが…いや、だがしかし…、」

「私はどっちでもおーけいなので、じっくり悩んで下さいなっと。ほい、到着ぅ~」

窓際にココアを横付けする。
うん、流石に私も少し眠いかも。さっさと戻って寝よう。

「おや、いつの間に。すまなかったねラリカ。それじゃおやすみ。…よい夢を」

「うん。また明日ね、“ギーシュ君”。…ん、確かに新鮮さはあるかもかーもっと。おやすみ~」



さて。
色々考えるのは明日からにしよう。充分すぎるほど寝たけど、それでも夜は寝る時間だ。

最善の方法、最高の選択。きっと見付かるはず。
きっと…。多分、恐らく…!!










オマケ
<とある翌日の風景>


キュルケ(以下キ)「ところで」

ルイズ(以下ル)「何よ?」

キ「ダーリンとギーシュは何で決闘してるのよ?」

ル「知らないわよ。あと、決闘じゃなくて実戦形式の訓練だって」

キ「素手での殴り合いが?」

ル「だから知らないって言ってるじゃない。放っときなさいよ」

タバサ「…ケンカにしか見えない」






ギーシュ(以下ギ)「だから!!前回ので、懲りただろっ!?この訓練には疑問が、」

才人(以下サ)「そんな事、言って!また負けるのが、怖いんだろっ!(ぶんっ)」

ギ「うおっ!?何をっ!前回は、引き分けだったじゃないか!!」

サ「俺の方が、早く起きたもんね!今回だって、同じ結果だ!!」

ギ「このっ!言わせておけば!後悔するぞ!平民っ!!」

サ「やってみろ貴族っ!!」

2人「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」




[16464] 第二十一話・バタフライ・エフェクト
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2010/03/03 20:20
第二十一話・バタフライ・エフェクト





先に謝っておこう!今回は全面的に私のミスだ!!…どーしよう。





翌日、ルイズと2人でトリステイン王宮へ赴いた。

帰還当日、既に私以外の3人(ルイズ、才人、ギーシュ)は報告をしたらしいので、男2人は学院に放置。
ルイズは私の付き添いってカタチで同行した。
まあ、メイルスティア家みたいなへっぽこ貴族が単身で王宮になんて行けるハズがない。ルイズと一緒だからこそ入れるのだ。

「それで、アンリエッタ姫様はどんなご様子だった?その…殿下の件で」

ココアの背の上、ルイズに訊いてみる。

「悲しんでたわよ。亡命してくれなかった事を嘆いてたわ。それに、ワルドの裏切りにも驚いてたかしら」

…そうか。それにしても、いやにアッサリ言ったなぁ?
もっと悲痛そうな表情で、姫様を心底同情してるっぽく答えると思ったのに。

「それで、ルイズ達は何て?」

「え?別に何とも…。ウェールズ殿下の最期、あんな笑顔見せられたら納得するしかないし、私達が踏み込む事じゃないから。そんな事よりラリカの容態の方が気になってたのよ。だから、報告だけしてすぐに学院に戻ったわ」

何とも姫様に対してドライだ。どーして?
姫様とルイズってもっとアレな感じじゃなかったっけ?ルイズの部屋でわーわー言ってた時は実に原作通りだったのに。

「そっか。改めて、心配かけてごめんね」

ま、悲しみに暮れる姫様に気を遣ったとかそんなトコロなんでしょ~。
それに、これくらいの変化は別に問題ないはず。

「何言ってるのよ、親友だもの当然じゃない。…それよりラリカ。アルビオンで言ったアレ、今夜しっかり話し合うわよ?じっくりとことんね」

「あー、アレね、あれ~。あははは…」

アレって、アレか。才人のアホの失言。
嫉妬にじぇらしったワケはないはず。私じゃ相手にならないし。でも、やっぱり納得いかないのか。
まあ、少し考えれば分かるような誤解だ。簡単に解けるはず。

今は姫様にどう伝えるかのみを考えよう。
でも…殿下の“コトバ”はどんな意味で届くのだろーか。
ま、私としては約束を実直に果たすだけなんだけど。


※※※※※※※※


報告は殆ど一瞬で終わった。

ちょっと悩んだ挙げ句、殿下の言葉をそっくりそのまま伝えたら『やはり私より、名誉をお選びになられたのですね』とか微妙に嘆かれて終了。
殿下を本当に愛してたなら、別の見方とかもできそうなのになーとか思ったが、まあ、それは人それぞれ。
姫様は殿下の“コトバ”をそう受け取ったのだろう。
どーせ相手はもう死んじゃってるし、真実なんど神のみぞ知るワケだから、自分にとって都合のいい、救われそうな解釈をすればいいのにねー。

で、付き添いのルイズも2度目だからか何も言わず、私も特にコメントしなかったので異例のスピード謁見と相成ったって寸法だ。
移動が往復3時間、用事は色々込みで15分。
あまりにもなトンボ返りにちょっと拍子抜けしながらも、無事さっさと終わった事に安堵した。
正直、姫様に顔を覚えられたりしたらマズそうだし。願わくば、もう2度とお会いしたくない。色んな意味で。

そんなコトを考えつつ、ルイズと話しながら帰路についた。
何気ない話の中で、ちょーっと気になるフレーズを心に引っ掛けながら。

『シエスタ?誰よ、それ』

ルイズとシエスタって、原作だとどの時期で知り合ってたんだっけ?


※※※※※※※※


で、学院に戻って調べてみたら…。
ハイ、実にマズい事態になってましたァ~☆
いや~、嫌な予感って当たるものですなー。嫌な予感だけなら占い師になれるぜー。
あばば。

それで、どれくらいマズいかっていうと、タルブ空中戦そのものが消滅しかねない事態。
つまり、それを始点に始まるイベント全部が成り立たなくなるバッドエンドフラグ。
簡単に経緯を説明すると、

① 私、マルトーに“見た目だけ質素な食事”の注文をした

② 才人、食事に満足。ルイズへの反抗心大幅DOWN

③ 私の“ルイズを嫌いにならないで”のお願いで才人の態度が軟化

④ “ゼロ”と馬鹿にしない&教室爆破事件で普通にルイズを慰める

⑤ キュルケ事件は“ラリカの下着事件”の反省から、部屋に入って速攻土下座、そんな中にルイズが来た

⑥ ここまで、ルイズの怒りを殆ど買わず、むしろゴーレムやらで手柄を立てた

⑦ 厨房?別に用ないじゃん。で、シエスタとは洗濯時に顔合わす程度

⑧ シエスタ?ああ、メイドの娘だよな。マルトーさん?へぇ、コックさんの名前か。

⑨ てか原作だと厨房行ってたりする時間は私の部屋に遊びに来てたぜ!

といった感じだ。
うん、明らかに私の軽はずみな行動がドミノの如く連鎖して起こった事態ですね。
弁解の余地はありませんね。

ちなみに“我らが剣”とかそーいうフレーズも出なかった。
ギーシュ戦で怪我もせずに勝ち、直後に和解したので“貴族を倒した勇気ある平民”と見られなかったのだ。
平民の皆さんの目には“メイジ殺しの少年が貴族の坊ちゃんと喧嘩して仲直りした”と映ったようで、英雄視はナシ。
好かれてもいなければ嫌われてもいないって状態だった。

もちろん、シエスタとの関係も少し喋る知り合い程度。
シエスタサイドから見た才人は、“ミス・メイルスティアの友人”止まりだ。

非常にマズい。
シエスタには才人にラブ心、ルイズには嫉妬&変な仲間意識を抱いていてもらわなきゃ~ならん。
それによって紡がれる絆やら何やらが必要なのだ。
そーしないと宝探しでタルブにも行かないだろうし、運良く行ってもゼロ戦貰えない。
そしてアルビオンが侵攻してきた際に『シエスタの故郷が危ない!』って出撃する事もなくなってしまい…トリステイン終了のお報せだ。

いや、タルブとか以前にシエスタは平民ながら原作の重要人物だ。
それが単なる知り合い状態のままだと、原作の根幹から揺るぎかねないってゆーか揺るぐ。壊れる。

本気でマズい。
このまま見守れば自然と原作通りに…なるわけがないな。
そしてそんな世界的(未来の)危機を引き起こしたのは、どう頭を捻ってもやっぱり私のポカミス。ホント、誰のせいでもなく私のせい。ごめんなさい本気で。あーうーあ~!

…何とかしなければ。


正直、世界がどうなろうと知ったこっちゃない。
しかし明らかにこの危機は、放置したら私も被害を被る。
シエスタを原作から取り除いたら、原作を知ってるっていう私の唯一のアドバンテージが消失してしまうのだ。
それだけは何としてでも防がねば。
タルブ空中戦までに、せめて才人とシエスタの関係だけでも原作に近付けないと!!






とか部屋で一生懸命悩んでたら誰かがドアをノックした。
才人ならノック直後に返事も聞かずに入ってくるので…ルイズか。

「はいどーぞ。“ロック”は掛かってないですよ~」

入室許可するとピンクいのが顔を覗かせた。

「こんばんは、ラリカ。今夜はとことん話すわよ?」

…まあ、どんな作戦を取るにしても今日はもう遅い。考えるのは明日にするか。
今はそれよりもだ。

「それでルイズ、その荷物は何ぞや?」

お喋りするだけなのに、何故か鞄を持ってきている。
まるでどこかに出掛けるかのような。

「これ?着替え一式よ」

「なーるなる。で、何故に着替えを?」

「泊まるのよ」

なるほど、彼女の“とことん話す”ってのは私の考えていたモノと桁が違ったようだ。
コイツは私の部屋に泊まってく気らしい。

「…もしかして、迷惑だった?」

うん迷惑、出てけ。…とは言えない。
あー、もう。仕方ない。無下にはできないし。

「しょ~がないなぁ。その代わり、ベッド狭くても文句言いっこナシだぜぃ?」

「もちろん分かってるわ!」

物凄く嬉しそうに笑うルイズ。なーにがそんなに嬉しいんだ?
徒歩3分くらいの場所に泊まる意味がワカラン。

でもまあ、たまにはいいか。たまには、ね。


※※※※※※※※


「じゃあそろそろ話しましょうか。アルビオンで聞いた件に関してね」

とりとめのない話から始まって1時間ほど経った。

ネグリジェに着替えた私たちはベッドに腰掛け、ワインを飲みながら話している。
で、そろそろ眠って全部夢だったってコトにしちゃおうぜ!とか提案しようとした矢先、本題に突入してしまった。

「才人君が言ったアレだよね。まあ、何と言いますか…」

“何かあったら絶対駆け付ける”。
普通に考えたら殺し文句と言っても差し支えない台詞だ。誤解されるのも無理はない。
でもあれは友情的なモノであって、男から女へのカッコつけたメッセージって意味はないのだ。

「ラリカがどうして“私”を最優先で守るようサイトに約束させたか、それは何となく分かってるわ。ラリカの性格は私が一番よく知ってるから…それはもういいのよ」

…って、え?
そっち?
完全に予想外だ。
でも分かってるなら別に話題にしなくてもいいような気がする。
使い魔が自分の主を守るのは当然だろうし、それを抜きにしても主人公とヒロインの関係はかくあるべきだ。

「でも、これだけは覚えておいて欲しいの。あなたが私を大切に思ってくれているのと同じように、私もラリカを大切に思っているわ。だからサイトには私と同じようにラリカを守らせる。もちろん私も強くなって、ラリカを守る。…だからもう、自分は後回しでいいみたいな悲しい考え方はしないで」

私を真っ直ぐ見詰めて言うルイズ。
いや、別にルイズの事をそこまで大切に思ってないし、自分は後回しでOKなんて言った覚えはないんだが。
私が才人に言ったのは常識的な優先順位の話だ。

ナニが一体どーなって、そう解釈されたんだ?
よく分からんが、ルイズの中で優先順位が妙な事になってるってのはよろしくないだろう。
私の茶番な友情ゴッコは、あくまでコネ作成のためのオマケだ。ルイズと才人にはもっと大きな事をやってもらわなければならない。
それが最終的に私の利益にも繋がるのだから。

私をポイしろとは決して言わないが、そこまで重要視して欲しくない。
でも、だからってどうすればルイズの考えを“正常”に戻らせられる?

「…考えておくね」

「っ!!」

私の曖昧な答えにルイズの表情が強張る。あ、怒らせた?

「どうしてよ!!」

立ち上がり、私を睨み付ける。

「どうして、そんな風に言うの!?」

「ルイズ」

「どうして…分かってくれないの…?」

あ、涙ぐんでる。思い通りにならないからって、泣いちゃダメだ。
私がオトコだったら何とかなるかもしれないけど、乙女の涙は乙女が相手じゃ無理無駄無謀。効きません。
でも、放っておくわけにもいかない。私も立ち上がり、ルイズを優しく抱く。

「…ごめんね」

だが、考えを変える気はない。
ここでルイズの意見に賛成なんかしちゃったら、私の存在感が予期せぬデカさになってしまいそうだし。

「ごめんね、ルイズ」

親友ごっこをずっと続けるつもりはない。
近いうちに離れる予定なんだし、その時になっても友達だからと巻き込まれてはたまらない。
だから今のうち、ついでに謝っとこう。

好感度、下がったのかな?

これでもう、一緒に冒険しないとか言ってくれたら最高なんだけど…。
さて。どーだろな。







[16464] 第二十二話・バタフライ・エフェクト2
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2010/03/04 21:45
第二十二話・バタフライ・エフェクト2





ロマリアでの蝶の羽ばたきが、遠く離れたゲルマニアで嵐になる。ちっぽけな綻びが死亡フラグな墓穴になる?冗談。冗談?





別に清々しくもない普通の朝だ。

ほんのり睡眠不足。
二日酔いってワケじゃないけど、遅くまで飲んでたツケはしっかり回っている。
桶に魔法で水を張り、顔を洗う。冷たくはないけど温かくもない水は、適当に残った眠気を吹っ飛ばしてくれた。じゃー今日も1日頑張りますか。

その前に。
ルイズを起こして着替えさせる。
椅子に座らせて髪を梳かしてやり、濡れタオルで顔を拭いてやった。
…才人もこんな事やってるんだっけ?もうやってないのか?
どーでもいいが、まんま使用人だ。わたくしも一応貴族ですのよ?のよ?

「おはよー、ルイズ」

「らリカおはよ…ぅ」

おーおー、眠そうですなぁ。そういや昨日は何時くらいまで起きてたんだっけ?
抱っこしてたらそのまま夢の世界へレッツゴーしちゃったルイズを寝かせて…まあ、とりあえず健康に悪いレベルの夜更かしだったことは確かだな。
授業中居眠りしない事を祈ろう。

「ほらほら、シャキっとシャキっと!すぐにルイズの大好きな朝ごはんだよ~」

「…うん」

うん、じゃなくてダメだコイツ。
仕方ない。連れてくしかないかな。

半分寝てるルイズの手を取り、私は思わず苦笑した。
虚無の担い手なのに。このセカイの最重要人物なーのにね。

全く、原作を知っているとはいえ、なかなかしっくりこないモノですな~。


※※※※※※※※


“最初の私”で既に受けた内容にも関わらず、相変わらず授業は難しい。

それくらいのチートは適用してくれれば良かったのに。
まあ、興味のない事は覚えない主義なので、生活必需知識以外はアレなのですが。
別に首席で卒業する必要はないし、トリステイン魔法学院を卒業したって履歴さえできれば問題ないのだ。
ゆえに勉強なぞ無駄なのだよ!

うん、以上、学力的負け犬の遠吠え劇場でした。ちゃんちゃん☆



とか何とか思ってるうちに本日の授業が終了した。
可及的速やかに部屋に戻る。
昨日はルイズによって邪魔されたが、シエスタ原作復帰作戦を練らなきゃならのだ。

才人に『メイドの娘で脱いだらスゴそうな子がいるよー』とか紹介してみるか?…明らかにダメだな。どこの客引きだよ。
それとも逆に、シエスタに才人の魅力を語りまくって気になるアイツ化させる?…ノロケ話と勘違いされるのがオチか。

ダメだ。
ここまで難しい問題だとは思わなかった。

もうこうなったらミス・モンモランシに惚れ薬を作らせてシエスタに飲ませちゃお~か?
どうせ解毒するにせよ、お互いを多少は意識するようになるだろうし。
でも惚れ薬ってまだ先だったような気も。それ以前にモンモンさんと別に仲良くないし。



誰かがドアをノックして…そのまま返事も聞かずに入ってきた。
まーた才人か、と思いきやルイズ。せっかく会わないように帰ってきたのに。

「ラリカ」

「本日ラリカホテルは満室ですのでまたのご来店を…って、それは何ぞや」

ルイズの手には妙な本が。
らりかおねーちゃん、ごほんよんでー!!とか言ってくるはずがないので、恐らくアレだろう。
十中八九、アレだ。

「これ?ええとね…」

入ってきてベッドに腰掛ける。

「私、姫様の結婚式で詔を詠みあげる巫女に選ばれちゃったのよ。これはその時に使う“始祖の祈祷書”。祈祷書って言っても白紙なんだけどね。さっき、オールド・オスマンに呼び出されて渡されたわ」

やはり。
これは急がないとマズそうだ。

「ふむふーむ。で、その詔を考えるっていう特別課題を課されちゃったぜーってワケですな」

「うん。まあ、姫様直々のご指名だから仕方ないんだけど。あまり得意じゃないのよ、こういうのを考えるのって。…じゃなくて、そんなのはいいのよ」

おいおい、詔を“そんなの”扱いですか。
確かに敬愛しているだろう姫様と、野蛮と信じてやまないゲルマニアの皇帝との結婚は、ルイズ的に喜べる話題じゃないだろう。
気乗りしないのは分からんでもないが。

「ラリカ。昨日の話、覚えてるわよね?」

「あー、まあ。うん、ばっちり覚えてるよ」

本当に今日も泊まって話し合うとか言われたらヘコむぞ。
むしろワインに睡眠薬混ぜて強制オヤスミしていただく。

「今日1日、ずっと考えてたの。どうしたらラリカに分かってもらえるかって」

「…ルイズ」

まーだそんな事を引き摺ってたのか。

「でも結局、無理だって結論に達したわ。ラリカ、実は頑固だしね。いくら口で“分かった”って言わせても、考えは変えられないと思う」

それがラリカのいいところなんだけどね、とルイズは笑った。

「ガンコ、かぁ。そーかもか~も。しかしレディに“頑固”は微妙だなー、そこはせめて“意志が強い”くらいにしといて欲しかったり」

私も笑う。
分かってくれたかルイズよ。うんうん、良かった良かっ、

「だから決めたの。私、ラリカの意志を無視してでも、ラリカを守るわ」

やっぱ分かってなかったかルイズよ。

「あのね、ルイズ」

「ダメよ。ダメ。何を言っても無駄。ラリカが私を最優先にしようとするなら、私はラリカを優先する。…そうすればお互い一緒にいる限り、誰も自分を蔑ろにはしないから」

どう、この完璧な提案!?みたいな顔するなルイズ。
それ、全然完璧じゃないから。
ルイズに重要視される=各方面から目を付けられるってコトだ。逆に危険度急上昇。間接的に殺す気か。

ルイズは基本的に才人の事と、次いで世界の事、その次の次の次×3くらいで私の事を心に留めといてくれりゃーいいのだ。
これから先、物凄い方々と知り合いになってくわけだから、私みたいな凡人なんて路傍の石コロ以下でしょうに。

『ラリカ?ああ、学院時代の友達でそんな子いたわね、まぁ多少それなりに優遇してもよろしくってよ』

って将来言ってくれるくらいがベストなのだ。

「…これは譲らないわよ。私だってけっこう頑固なんだからね?」

座ったまま上目遣いで私を見る。可愛らしいが、実に強そうな意志だ。
あーもう、どうすんのコレ。昨日で好感度ダウンじゃなかったの?
仕方ない。“今”は折れるか。タルブ空中戦さえ終わればいいのだ。後は原作通りに勝手にやってもらえばいいんだし。

溜息をつき、ベッドに近付く。
う゛~って感じで見上げるな。怖くないし撫でるぞコラ。

「譲らないからね」

「おけーい了解。ルイズのガンコさも、よ~く分かってるからね。言い争いスパイラルを続ける気はなっしんぐなんだぜー。でもしか~し!1つだけ約束」

頭にポンと手を置く。

「いつか私はいなくなる。いつまでも傍にはいられないから、一緒にいられなくなるから。その時はルイズ、私じゃない別の誰かを大切にしてあげて」

で、私の事は遠い将来に思い出せばいいから。そーなったら改めてヨロシク。
まあ、 “誰か”が誰かなんてとっくに決定してるんだけどね。
それに別に“その時”じゃなくても『彼』は既に何より大切だろう。多分。
才人とか才人とか、あとはそうだなぁ…才人とか?原作という運命の決定事項なのです。
加えて“その時”は実に間近なのですよ。私の作戦が成りさえすれば。

何かを考えてるのか、じ~っと私の顔を見詰めているルイズ。今の完璧な台詞に穴などないだろう。
ふはははは、反論できまい。
やがて頷いたルイズに私は微笑んだ。よしOK、これで当面は大丈夫だろう。

「よ~し、約束完了!じゃあルイズは特別課題の詔を考える作業に戻るのだー。私もちょーっと考え事などしたい気分なゆえに」



さらばルイズ。そしてもう少ししたら、本格的にさようなら。

私はシエスタをどーにかする作戦を練る作業に戻ります。

探さないで下さい。かしこ。









<Side Other>



「なるほど。こんなものが“虚無”であるはずがない…か」

隻腕の男は、バラバラになり焼け焦げた肉片を見下ろして、鼻で笑う。

「でも良かったのかい?一応仲間なんだろ?このゾンビ君も」

フードを被った女が呆れたように、しかしどこか楽しそうに言った。

「僕は意志無き死体の仲間になった覚えはない。君の方こそどうなんだ?」

「生憎だけど、こっちは最初からあんな組織に忠誠を誓っちゃいないんでね。あんたに脅されて仲間になっただけさ。それに組織に身を置いたまま、もし私が死んだらコイツみたいに好き勝手操られるんだろ?そんなの御免だよ」

「…それもそうだな。で、これからどうするつもりだ?敵に回らなければ、もう君をどうこうするつもりはない。“確認”に付き合ってくれた事に関しては感謝しているがな。もし逃げたければ好きにするといい」

男の言葉に、女は少しだけ押し黙る。
何か考えていたようだが、やがて苦笑しながら答えた。

「いや、しばらくは付き合うさ。今のところはあんたの味方でいた方がよさそうだからね。もちろん、本格的にやばくなったら抜けさせてもらうけど」

「そうか。なら今後も僕の直属でいろ。その方がこちらとしても都合がいい。それに、もし君が死んだら死体は焼き尽くしてやる」

「ははっ、物騒な約束だけどそりゃ安心だね。こっちも同じ約束をしといてあげるよ」

そして、それにしても、と呟いた。
見詰める先の焦げた肉片からは、まだ僅かに白い蒸気がのぼっている。

「私らとゾンビ君らとの相性は最悪だね。適当な火のメイジでも仲間に加えるかい?」

「いや。今のように戦い方次第でどうとでもなる。それにこれは“確認”であって、別に表立って戦おうというわけではないからな。それよりも、やるべき事は別にある」

「やるべき事?」

言いながら女は杖を振る。
地面が泥に変わり、争いの痕跡は全て地中に飲み込まれていった。

「情報は今のところ信じるに値する。しかし奴自体はどうにも胡散臭いからな。大方、僕も利用できるだけ利用するつもりなんだろう」

「その、ミョズ何たらって奴がかい」

「ミョズニトニルンだ。だが、僕は誰の傀儡になるつもりもない。…利用するつもりで利用されるのは、奴の方だ」





双月の下、隻腕の男とフードの女は暗躍する。




バタフライ・エフェクト。

蝶の羽ばたきが影響するのは、身の回りだけではない。




―――――― 羽ばたいた蝶が知ることもできない、遠い場所にて。





[16464] 第二十三話・ハルケギニアのみんな!私に知識を分けてくれ!
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2010/03/06 17:17
第二十三話・ハルケギニアのみんな!私に知識を分けてくれ!





なーんも思い付かん。とゆーか大前提から壊れてる。あばば。





冷静に考えたら宝探し自体、キュルケがルイズと才人の気持ちをアレしよーとか、そんな感じで始めたんだよね。

で、その原因はシエスタ事件。
そのシエスタは現在才人をアウトオブ眼中。ルイズと才人は微塵もケンカしてない。むしろ仲良しこよし。
大前提からもうだめだ。
あばば。




「それでさ、コルベール先生が“エンジン”を作ったんだよ。エンジンっていうのは、」

私の悩みも知らずに才人がニコニコ喋ってる。
うん、もちろん私の部屋だ。
授業後に普通について来た。まるで自分の部屋に戻るが如く。
ルイズは詔を考えるために図書館に行くとか言ったらしく、ヒマらしい。

「いやー、凄いよな。まさかエンジンを思い付く人が、」

まだ喋ってる。

ちなみに“俺”の頃はそのエンジンがバッチリ搭載された“車”の免許を持ってたんだぜぃ?
車自体は高くて買えなかったけどな!
こーこーせーのオマエさんよりも詳しいっての。まあ、作れ言われても無理だけど。

「ふむふーむ、それが才人君の世界では魔法の代わりにイロイロするってワケですな~。実にキョーミ深い。でも今一番キョーミ深いのは、“それ”がナニかって事かな」

「これ?棚だけど」

才人は定位置(?)のベッドに座らず、部屋の一角に何か作っていた。
それが棚だって事は普通に分かる。そんなこたァ~聞いてない。

「うん、棚は分かるよ。こう見えても博識なんだぜ~?棚は分かってる。でも聞きたいのは実は別なんだよそれが。なぜ~に棚をそこに作ってるのかな~って」

「いや、デルフと斬伐刀をいつもラリカの机に置かせて貰ってるだろ?邪魔かなと思ってさ、専用の置き場を作ったんだ。収納もあるんだぜ?」

得意げに言う才人。
OK、コイツはやはり馬鹿だ。
私が聞きたいのは、『なぜ』『私の部屋に』『自分の棚を』作っているかってコトだ。

…まあいいや。注意しても分かってくれないだろーし。
皆さんと関係を清算した後は私の好きに使わせてもらおう。

「そかそか。器用だねー才人君。今度何か作ってもらっちゃったりしよ~かな」

「おう、任せとけ!」

笑い合う。
…あ゛~、どうしよう。こんなコトしてる場合じゃないのになー。

マルトーに大鍋貰って五右衛門風呂を作り、才人をぶち込んだ後にシエスタ投入してみようか?
ビジュアル的には原作通りになる。
まあ、2人ともパニックになるだけで進展どころか私の常識を疑われて終わりだろうけど。
う~ん。

「ラリカ?」

「ん~?」

考えてたら、いつの間にか才人が近付いてきてた。

「どうしたんだ?何か悩んでるみたいだけど」

おぶこーす。キミとメイドがどーやれば近付くか悩んでいるのだよ。
両思いはさすがにマズいので、シエスタ⇒激ラブ⇒才人、才人⇒少しラブ風味?⇒シエスタみたいな甘酸っぱい感じに。
あくまで本命は才人⇔ラブ⇔ルイズでね。

そうだ。
本人に意見を聞いてみよう。

「ちょぴりささやかな質問というか相談というかアレなんだけど、よいか~な?」

「俺の意見で良ければ何だって答えるぞ」

「でわでわ。…ええと、誰かを好きになる条件とは何ぞや?好きって言ってもルイズ×クックベリーパイみたいな関係の“好き”じゃなくて。異性間の、一部特例として同性間のあいらぶゆー的なアレね。わたくしイマイチ分からんのです」

才人が誰かを好きになる条件、それが分かればシエスタをそれに近付ければいい。彼女はフェイス的にもボディ的にも魅力ポイントは満たしているハズ。
何せ私より魅力的だからな!魔法以外全敗だぜ!!あっはっは!死にたい。
だから後は性格などなど付加条件的なモノさえどうにかなればいい。多分。

「好きになる条件…。そんなの人それぞれだからなァ。でも何でそんな事を?」

「ひみつ。では質問をもーちょっとカンタンにしましょ~かね」

「あー、そうしてくれ。あんまり難しいのは苦手だからな」

苦笑する才人。
ちょっと難しかったか。まあ、“愛とはなんぞや?”みたいな質問に答えられるほど人生長く過ごしてないだろうし、仕方ないか。
では、と一拍置いて。



「才人君は、どんな女の子が好き?どうしたら好きになってくれる?」



…ん?

才人フリーズ。今の難しい質問か?あれ?

ダメだ。
固まってらっしゃる。超絶答えやすいイージーモードな質問だったのに。
ダメだな、才人に聞くのは諦めよう。

「あ~、あはは、ごめんねヘンなコト聞いちゃって。今のは忘れてくれぃ。記憶の底に丸めてポイっとね。私はちょっと厨房に用事があるから、ドアだけ閉めて置いてくださ~れ」

低脳に用はなっしんぐ。
シエスタサイドに聞こう。

まだ絶賛フリーズ中の才人を放っぽって、私は厨房へ向かって行った。


※※※※※※※※


途中でギーシュとキュルケに出くわした。

何という珍組み合わせ。
青いのは…いないな。多分部屋でハシバミってるのだろう。

「あらラリカ。部屋に戻ったと思ったのに」

「ほいほいキュルケ。ちょーっと厨房にね。夜食を食べることによって、キュルケみたいなワガママボディを手に入れよーとか画策してみたりして」

「ただ食べるだけじゃ太るだけよ?」

「はっはっは、それは宣戦布告か。よし!その勝負乗らない!…負けるし」

「…君ら、本当に楽しそうだね」

ちょっぴり元気のないギーシュが笑う。でも悲壮感溢れる笑顔だ。
キュルケを無謀にもナンパしてたんじゃないのか?あ、それで振られたとか?

「この飛び散る火花が見えないとは、まだまだ乙女を知らないな、ギーシュ君」

「いや、勝負乗らないとか聞こえたんだが」

「気にしたら負けだぜー。だぜ~。それより元気ないけど、どーしたの?」

「いや、モンモランシーがね、なぜか凄く不機嫌なんだよ。僕は最近、他の女の子とどこかへ行ったりした覚えはないんだけどね。それでキュルケに相談していたところなんだ」

「あたしは単純に愛想尽かされただけでしょって言ったんだけどね」

酷え。
でもそれは無いはず。何だかんだでギーシュとモンモンさんは完全決裂しないはずだし。
…待てよ。もしかすると、使えるかもかーも。

「なーるなる。じゃあラブをもう一度作戦を取らざるを得ないですな~。ギーシュ君の凄さを再認識すれば、ミス・モンモランシもまたかつての愛を取り戻すはずだよ」

「いや、何を言っても聞いてくれなくてね…。魔法の凄さを見せると言っても、そんなのとっくに知られているし」

「のんのん、そんな方法じゃ彼女は振り向かないぜ~。相手の弱点を攻めないと。…さて問題です、ミス・モンモランシの弱点とは?」

「何だい?」

「実家が苦しいコト。まあ、メイルスティア家はぶっちぎりでアレだから置いとくとして、モンモランシ家が経営難で苦しいのは周知の事実。そこで、ギーシュ君が甲斐性を見せればアラ不思議。ミス・モンモランシの評価はぐぐーんと有頂天に」

「そう言われてもね、グラモン家だってそう裕福じゃないんだよ」

「グラモン家の財力を見せたってギーシュ君の評価は上がらないって。ギーシュ君自身の甲斐性を見せなきゃダメダーメ」

「ギーシュに甲斐性なんてないじゃない」

いちいち酷ぇなキュルケ。
その通りだけどねー。

「くっ、僕を侮辱…いや、しかしその通りだよ。学生メイジにお金を稼ぐ方法なんて、」

「あるんだなーそれが。宝探しというドリーム満載な方法が」

「宝探し?」

先に反応したのはキュルケだった。
原作だったらルイズと才人のために彼女が提案するんだから、少なからず興味はあったのだろう。
今回はギーシュのためという名目にさせてもらうけど。

「いえーす。店によく売ってる宝の地図を買って、夢と栄光を手に入れる旅へ。殆どがニセモノだろうけど、きっとあるさ真実の道。問題は休暇だけど、アルビオン行きの報酬代わりにお休み下さいってオールド・オスマンに言えばきっとくれるしね。さてギーシュ君、私の提案どう思う?」

「ううむ…、何とも運任せのような気がするが…むぅ」

「あら、あたしは賛成よ。面白そうじゃない。ラリカ、その話乗ったわ。あたしは別にお金に困ってないけど…別にいいでしょ?」

原作でもキュルケは宝探しメンバー。
もちろん問題ないというか、地図的に必要な人材だ。

「むしろ歓迎するよ。とゆ~ワケで、地図収集はキュルケにお任せしていーい?」

キュルケが買えば、原作通りの店で買って来る=“竜の羽衣”が乗ってる地図も買って来るコトになるはず。

「分かったわ。それで、ギーシュはどうするの?」

「…行こう。期待はしてないが、正直どうしていいか分からないからね。ここは賭けに出ようじゃないか」

「その意気その意気!女は度胸、男は決断力でありまーす。じゃあ、私は旅に必要な人材をげっと&オールド・オスマンに話つけてくるね」

よし、これで“食事を作るのに必要”って理由でシエスタを連れて行ける。
実に自然な理由だ。マルトーも多分許可してくれるだろう。

それにしても、何と言う幸運。そして素晴らしいヒラメキ&機転。私天才?
後は才人も誘い、シエスタに好きなタイプを聞けば準備万端だ。
たとえラブ発生が不発に終わったとしても、一緒に旅をした仲間となれば才人はタルブ空中戦に赴くに違いない。

…やばい、私ってやはり天才じゃないか?
さっきまで悩んでたのが嘘みたいだ。やれる!これで私の作戦は成る!!




あい・きゃん・ふらーーーーい☆


※※※※※※※※


「シエスタって好きなは人いるのかなかーな?」

めんどくさいので、単刀直入に聞いた。
ラブが発生しなくても、恐らく友情的なモノは発生するだろうから、さっきより危機感はないのだ。
むしろ、若干テンションが高くなってる。

「えっ?い、いきなり何を?」

「いやー、唐突に愛について思う所があったりして。学院メイドの中でも屈指の美少女シエスタさんにインタビュ~をと」

「そそそそんな…!か、からかわないで下さいミス・メイルスティア…」

「いやいや、冗談抜きで聞きたいなーと。それで、気になってるヒトくらいはどうかな?」

貴族と平民のガールズトーク。普通は有り得ないけど、相手が私なので成立する。
もし服を同じにしたら、シエスタの方が魅力的だろうし。
メイドの格好をした私なんて、おそらく似合い過ぎるだろう。マニア的な意味じゃなく、使用人的な意味で。

「その…いないです。まだわたしには早いのかも…」

原作なら才人一択だっただろう

「ふむふむ。じゃあどういうタイプが好きとかは?」

才人みたいなタイプ…ってどうなんだ?
強い人?それなりに優しい人?その辺りなら何とかなりそうだが、“可能性を教えてくれる”人とか言われたらどーしようもないな。

「それは…」

「それは?」

「まだ、分からないです」

そうきたか。
一番どーしようもなく、かつ何とかなるかもしれない答えだ。
やはり今回の宝探しはラブ発生より友情発生に期待すべきだな。

「そっか。うんうん、それでい~と思うよ。ゆっくりじっくり見付ければいいよ」

「ミス・メイルスティアはどうなんですか?」

…私?
私か。うーん、どうなんだろ?
将来的にはてきとーな誰かと結婚して、それなりに愛していければな~とか思っているけど。今はどうなんだろう。

「まだ、分かんないかもか~も」

じゃあわたしと同じですね、と笑うシエスタ。
同じかも。でも、多分根本的な何かが違うかも。ピュアなメイドと嘘まみれの貴族。
幸せを願ってるのだけは、同じかもしれない。

「いや~、こういう機微的なモノは、どーにも分からないですな~」

分かる日は来るのだろうか。
分かったら何かが変わってしまうのだろうか?


………。


ま、どーでもいいけどね☆





[16464] 第二十四話・恋せよメイド!(命令形)…せめてお友達から
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2010/03/06 23:44
第二十四話・恋せよメイド!(命令形)…せめてお友達から





今回は私が巻き込む。今回だけ。これが終われば“終わり”だから。頑張れ私、ファイトだ、オーッ!!





メンバーにはルイズも加わった。

才人と喧嘩してないので予想はしてたけど…詔を考えなくていいのか?
気分転換とか言ってたけど、…うん、まあいいや。これでルイズもシエスタと友情っぽいのを育んでくれるコトでしょう。




オーク鬼の頭に矢が突き刺さる。

突然倒れた仲間に、隣のオーク鬼が驚いた刹那、そのオーク鬼の頭にも同じ矢が突き刺さった。で、群れは恐慌状態に。

「“錬金”。ラリカ、次の矢だよ」

ギーシュに作ってもらった矢を受け取り、私は弓を番える。
宝探ししてるハズの私達が、どーしてオーク鬼なんて退治してるかと言うと…まあ、単純に宝をゲットするのに彼らが邪魔くさいってだけだ。
邪魔者は消す。う~ん実にアレな響き。でも相手がオーク鬼なら罪悪感とかゼロだ。
…まあ、私は相手が誰でも罪悪感ないけど。人間検定失格でござ~い♪

戦況。
上空、ココアの上に私とギーシュ、ルイズが乗っている。距離はかなり離れており、オーク鬼は慌ててばかりでこちらに気付かない。
まあ、気付いたとしても棍棒オンリーなオーク鬼が空中の私たちをどーこーできるワケないんだけど。
シエスタ?ちょっと離れた場所で見学中。フレイムとシルフィードがボディガードだ。

「ありがとギーシュ君。それじゃ、ほいさ~」

ちっ、外れた。肩に刺さったから60点かな?

「惜しかったね。“錬金”。ほら、できたよ」

「よーし次は外さないぞー」

…何という緊張感のない討伐劇。

「ちょっとギーシュ!こっちにも矢をよこしなさいよ!」

ちなみにルイズもココアに同乗し、こちらはクロスボウを撃っている。
最初は貴族は魔法がどーとか言ってたけど、『私も魔法使ってないよ~?』って言ったら一発で納得した。
毒液の瓶を渡してあるので、ルイズのはどこかに当たりさえすれば何とかなる。

「ああもう!“錬金”、君ら人使いが荒くないか?」

「うるさいわね。あんたは黙って矢を作ればいいの。…あ!当たった!ラリカ見て!!今当たったわよ!」

「ルイズもオーク鬼シューティングに慣れてきたかー。よし、私も頑張っちゃうぞ~」

実に緊張感がない。あまりに安全すぎても考えものだなー。別にいいけど。
あ、オーク鬼がようやく気付いた。アジトっていうか住処の廃寺院に逃げ込もうとする。

でも残念、寺院の屋根に潜んでたキュルケ&タバ子が魔法乱射。こんがりロースト&氷で串刺しだ。あめーん。

魔法が止んだら今度は才人。残った数匹のオーク鬼をデルフと斬伐刀でさっくりスライス。
…おぉ、終了か。おつかれさーま☆


※※※※※※※※


うん、知ってたけど財宝はガラクタだったんだ。正直スマンかったギーシュ。
ちょっと労ってあげるから元気出してくれたまへ。

夜、私たちは焚き火を囲みながら寄せ鍋…じゃなくて“ヨシェナヴェ”を食べていた。
で、私はっていうと…“ヨシェナヴェ”ウマー言ったり、『やっぱり財宝なんてないんだ、僕は賭けに負けたんだ』とか感情の起伏で忙しいギーシュの相手をしてる。
どうどう、落ち着けギーシュ。オマエは良くやった。頑張った。感動した!感動は嘘だけど。

「ミス・ヴァリエールもサイトさんも凄かったです!オーク鬼をあんな簡単にやっつけちゃうなんて!」

「まあ、戦い方次第って事なのよね。以前の私なら思い付きもしなかったわ。…あ、シエスタ、おかわり貰えるかしら」

「ははは、正直オーク鬼なんて初めて見たから驚いたけどな。でも皆いるし、ちょっと張り切っちゃったぜ」

シエスタとルイズ&才人は普通に楽しそうだ。実にいい感じ。
タバ子とキュルケが談笑(笑ってるのはキュルケだけだが)してるので、自然とこんな形になったのだ。
まあ、キュルケはともかくタバ子がシエスタと何か話すはずないし、ある意味当然なんだが。

「でもギーシュ君は凄いよ~。結構特殊な形の矢なんだけど、すぐ同じモノ作ってくれたしね。いやー、流石は“青銅”のギーシュ!」

「ま、まあ細かい細工とかも得意だからね僕は。あれくらいなら別にどうってことないさ。褒められるほどの事じゃない」

「ギーシュが謙遜ねぇ、珍しいじゃない」

キュルケがこっちの会話に参加してきた。オマケのハシバミ・タバ子も付いてくる。
おーよしよしタバ子や。ハシバミできなくて残念だったねぇ。ごーめんよ。
タバ子が隣に座ったので頭を撫でる。本を読んでいて反応ないけど。

「はしばみ?」

訊いてみた。深い意味はない。

「…?」

ちょっとこっちを見て小首を傾げるタバ子。
何だ、ちゃんと反応するじゃーありませんか。

「“ヨシェナヴェ”美味しかった?」

こくりと頷く。で、再び本の世界へ。何が面白いんだかねー。別にいいけど。

「そう言えばラリカ。あなたいつからギーシュの事、“ギーシュ君”って呼ぶようになったの?」

「へ?ああ、それか~。そうだ、どっちがいいか聞かずに呼んでたね。ごめんごーめん」

正直に言うと、凄くどうでもいい事なので選択したかどうかも忘れてたんだ。うん。

「何それ?ギーシュに選ばせたって事?」

「はいな。それでどっちがいい?」

「じゃあ“ギーシュ君”で。何かね、その…何かあるんだよ、その呼び方。何だろうね?よく分からないがこう、どこか心で響くんだよ」

イミフ。
でもまあ、そっちがいいならそう呼ぼう。別に2文字増えても苦じゃないし。

「オケ~イ。それじゃ~そろそろ、次の目的地を決めますか」

「そうね。ルイズ、ダーリン!ちょっとこっちに集まんなさい、明日の予定を決めるわよ」


キュルケの声に、2人が応じる。
…ん?才人が微妙な顔でこっち見てるな。どーした?んん?


※※※※※※※※


というわけで、次の目的地はタルブになった。 計 画 通 り !!

ここまで問題らしい問題はゼロ。ルイズ加入も逆にいい方向に行ってる気がする。
ラブ発展は無理そうだけど、3人の間にはほんのり友情風味なのができてるハズだ。

で、道中。
クロスボウをいじるルイズが話し掛けてきた。

「ラリカ、これの照準だけど…ちょっと歪んでる気がするのよね。どう思う?」

「どれどれ~?ってルイズ、コレを使うのは今回限りとか言ってたような気が?」

「え?ちょっと気に入ったから貰うわ。デザインも何か変わってて面白いしね。あ、もちろん部屋に飾るだけよ。使わないわ。貴族は魔法が基本だからね、うん」

…うん、問題ないはず。多分。

「あー、お話し中のところすまないんだが、ちょっと訊いていいかな」

ココア同乗は“錬金”要員のギーシュがそのまま乗っている。他はシルフィードだ。
フレイム?頑張って付いて来てるんじゃないかな。走って。

「何よ」

「どーしたギーシュ君」

「いやね、さっきサイトから毎度おなじみ“実戦形式の訓練”の誘いがあったんだが…何だかアレは八つ当たり的な何かのような気がしてきてね。君たち、彼の機嫌が悪くなるような原因を知らないかな?」

何だ?
私とルイズは顔を見合わせる。うむ、目と目で通じ合った。原因なんぞ知らん。

「さあ、気のせいじゃないの?あいつ、さっき機嫌良かったし」

「私も心当たりなっしんぐ。ギーシュ君の勘違いじゃないかなか~な」

「そ、そうかね?…むぅ、じゃあ“実戦形式の訓練”は本当に実戦形式を想定してのものなのか?うぅむ…」

唸ってるギーシュは放っといて前方を見た。
忠竜(?)のシルフィードはココアの飛行速度に合わせて飛んでくれている。
その背中に乗った才人は…あ、こっち向いた。
手をひらひら振ってみる。慌てた様子で前方に向き直ってしまった。

何だあの態度は?嫌われたのか?よく分からん。
愛しのルイズをギーシュと同乗させたのが気に食わなかったのかな?でもキュルケはココアあんまり得意っぽくないしなー。タバ子は論外だし。
ま、どうせ次で旅&私の原作介入は終わりだし、深く考えなくてもいいかな~っと。




あ、そういえば…おでれえ太君、アルビオンを最後に声聞いてないや。

今も鞘の中で『オーク鬼、意外と脂が乗ってておでれえた!』とかやってるのだろうか。
頑張れ。超頑張れ。









オマケ
<Side シエスタ>



ミス・メイルスティアに誘われた時、正直言うと戸惑った。

でも、お世話になってるしメンバーの方に見知った2人が居たから少しだけ安心した。
サイトさんは朝、たまに水場で挨拶を交わすし、ミス・ヴァリエールはミス・メイルスティアの看病をしている時に少し喋った事がある。
それにどちらもミス・メイルスティアのご友人だから、“メイジ殺し”でも貴族でも、そんなには気後れしなくて済むのだ。

旅の前にミス・メイルスティアがわたしの紹介をしていてくれたお陰か、普通に喋ってくれるし、名前も覚えていただいた。
ただのメイドが“メイジ殺し”や貴族のご令嬢と知り合いになるなんて…有り得なさ過ぎて、逆に楽しいかもしれない。


そういえば、ミス・メイルスティアは旅の話を切り出す前に、“好きな人”について聞いてきた。平民のわたしなんかに。
あれは、どういう意味なのだろうか?

ひょっとしてミス・メイルスティアには好きな人がいて、参考にしたかった?
それとも誰かを応援していて…?
どちらだろう?分からない。

それは、この旅のメンバー?

サイトさんかミスタ・グラモン?

ミス・メイルスティアはお二人のうちの誰かが好きなの?

それとも、ミス・ヴァリエールたち誰かの恋を応援しているの?

分からない。



でも、わたしに出来る事なら協力させていただきますよ、ミス・メイルスティア。




[16464] 第二十五話・タルブの風と際会の空
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2010/03/07 19:25
第二十五話・タルブの風と際会の空





戦闘機。確かにカッコいいけど、旅客機の方が好きだな。あー、北海道でカニ食べたーい。今度(生まれ変わったら)行こうっと。





“竜の羽衣”は問題なくGETした。

字が読めたら貰っていーよ☆とか墓石にも書かれてたし、村人が持っててもどーしようもないシロモノなので実に簡単にいただけた。
まあ、私にも読めたんだけどね。空気を読んで才人君すごーいとか言っておいた。

ちなみに“竜の羽衣”が運び出されスペースが空いた寺院には、ギーシュ作の銅像(モグラと戯れる少年)というゴミみたいなモノが置かれることになった。
ありがたくない。
きっと私達が帰った後に溶かされて鍬とかそのへんになるのだろう。




で、シエスタの家族に紹介され、実にすんなり村に馴染んだ。
やたら馴染んだ。馴染みすぎじゃないかってくらい馴染んだ。
原作に殆ど描写なかった気がするから比較できないけど…原作でもこのくらい馴染んだのか?

「こうやって…こうよ!!ほら、命中したでしょ?」

ルイズがシエスタの弟たちにクロスボウを教えている、というか遊んでいる。
的はギーシュ作オーク鬼像だ。リアル過ぎるとガキンチョ諸君が怖がるので若干ファンシーに仕上がっている。

「おぉ~!きぞくさますげー!!」

「きぞくさま!ぼくにもやらせて!!」

「いいわよ。ギーシュ、矢」

「…どうでもいいが、“錬金”だって少しは疲れるんだよ?」

それにしてもルイズ上機嫌だ。ココアの上でも無駄に喋ってたし。
平民の子供相手にあのルイズがねー。どういう心境の変化だろ。
てか詔は?

「ああ、そういえばラリカ。さっきやたらと笑顔なサイトが“実戦形式の訓練”は中止と言ってきたよ。そして宝探しで見付けた銅貨を『これやるから頑張れよ』とか言いながらくれたんだが。意味が分からない」

「うん、それを私に言われても微塵も分かんないな~」

どうでもいいしね。
ちなみにタバ子とキュルケはハンモックで昼寝してる。実に平和だ。

「ふぅ、結構疲れたな」

ガンダールヴの力で薪割りしてた才人が戻ってきた。ごくろーさん。

「お疲れ様、才人君。はいタオル」

タオルを水魔法で湿らせ、手渡す。

「お、サンキュー。それにしても斬伐刀、薪割るのに凄い便利だよな」

そりゃそうだ。
むしろそいつは戦闘用じゃなく、そういう事をやる為のモノだし。

「そかそか、私の愛刀だったからね。うん、よく山へ狩りに出掛けたもんですな~」

「狩りか。そう言えばラリカは貴族なのにどうして斬伐刀を持ってたんだ?」

「あれ?才人君はルイズから我がメイルスティア家のコトは聞いてな~い?」

「聞いてないぞ。ラリカの実家ってどんななんだ?」

「そっか。ええとね、ウチは実に貧困で、日々の糧を得るのにも苦労する始末なんですよ。子供の頃なんて1回売られかけたしね。買い取り拒否されたけど。そんなこんなで我が家にお肉なんて出るはずもなく、私が山で狩りをしてお肉げっとしていたって寸法さ~。で、邪魔な枝や草を伐ったり、狩った獲物を捌いたりで斬伐刀の大活躍!」

へらへら笑って話すが、才人はもの凄くショックそうな顔してる。
まあ、平民の憧れのハズな貴族にこんなダメなのがいたらショックかも。
夢壊してスマン。

でも実際、我が家よりシエスタ宅の方が恵まれてるしね。
どんだけだよメイルスティア家。

「そう言えばラリカは将来どうするんだい?確か君にはお兄さんがいたはずだから、家を継ぐのは彼だろう?」

大量の矢をルイズ&シエスタブラザーズに納品してきたギーシュが会話に加わる。

「ん~、実家帰ってもお先真っ暗闇ヤミだから。てきと~な誰かのお嫁さんになるんじゃないかなか~な?どっちにしてもメイルスティア家から出ることだけは確かだよ」

「適当な誰かって…」

「なるほどね。どこかの貴族が相手に決まっているのかい?」

「はっはっは、何を仰るギーシュさん。まだ相手なんているわけないでしょーに。それに共働きも辞さない構えですからワタクシ。貴族だろーと平民だろーとお金持ちだろーと貧乏だろーと、バリバリ尽くしちゃいますよー。愛する旦那様と多分産まれる子供たちのために!ま、最終的にシアワセだったなーと思えれば何だっていいのです。で~す」

これは本心だ。
平穏で平和な生活が最優先。金持ちでもトラブルばっかは嫌だし、少しくらい貧乏でも平和なら大歓迎。
メイルスティア家以上の超絶☆貧乏は却下だが。

「ふむ、欲がないね君は。いや、好感が持てるよ」

そう言ってギーシュは笑う。

「自分を知ってると言ってくれぃ。分相応な願いしかできない性質なのでありまーす」

いや、これでも欲深いかなーとか思ってるんだけど。
だって普通にしてたら悲惨なバッドエンドが待ってるワケだし。私の欲望パワーMAXで頑張っても、それくらいが限界だろうってだけなんだよ。

「ラリカ」

ギーシュや私とは対称的に才人は真面目な顔してる。何かを決意した風味な顔。

「ほいさ?」

「その、さ?ラリカはそのままでいいと思うぜ」

…何が?
てか、いきなり何を?

「だからこの前、」

「みなさ~ん!お昼ごはんの準備、できましたよー!!」

シエスタの声。
よし、ランチランチ~♪

「昼食か。一体どんな料理が出てくるんだろうね」

「素朴だけど、おいし~いごはんだと思うよ。さてさて、行きましょーか」

「ラリカ」

何だ才人、話なら後あと。

「俺、頑張るからな」

…?
何を?
そう言って足早に去って行く才人。

「ラリカ、彼は何を頑張るって?」

「午後からの作業?」

「そうか。うん、張り切ってるね。やはり村の者たちに頼りにされ、やる気になってるんだろう」

「薪割りって結構大変だもんね~」

「僕はやった事ないんだがね」

「よーし、じゃあ午後からはギーシュ君も薪割り体験だ!」

「いや、別に体験しなくていいよ…」

てきとーに喋りながら、私たちもシエスタの家へ戻って行った。


※※※※※※※※


夜、寝床を抜け出した私は村の傍にある草原に佇んでいた。

確か原作だと夕方に才人がほんのりホームシック風味で佇み、シエスタがちょっかい出しに来たような気がする。
“今回”は全員で見に来て、綺麗だとか凄いとか普通な感想を言って終わったが。
少し原作乖離だけど、この程度なら問題ないはずだ。ラブ発展は今後の自然発生に期待するしかない。
てかもう後は知らん。私の介入は終了した。後は野となれ山となれ。


夜風が気持ちいい。
景色とか別にどーでもいい私だけど、この風景は綺麗だと思った。

原作メンバー達に絆っぽいモノが生まれたのは間違いないだろう。“竜の羽衣”も手に入れたし、あとは正史の流れに任せるのみだ。
タルブ空中戦はゼロ戦でルイズ&才人が突っ込むのみだから、私に何の影響もない。
そしてそれを機に、自然な感じでヤツらと距離を取ればいいのだ。

「…あは、」

思わず、笑みが零れる。

「あーっ、いい風っ!吹けー吹けー、もっと吹けー!」

今まで燻っていた不安を、不幸を、吹き飛ばせ。
そして、私に幸福を運んで来い。
風が気持ちいい。双月の光が優しく身を照らす。

嬉しくて涙が出てきた。
実にいい気分だ。これでもう、




「やはり生きていたか。ミス・メイルスティア」




…実に聞きたくなかった声が、上空から聞こえてきた。


おい、ちょっとマテ。

あっるぇ~?


何これ?



こんなシナリオ…原作にあったっけ?









オマケ
<ラリカの知らないシルフィード上の1コマ>


キュルケ(以下キ)「それでね、って…ダーリン聞いてる?」

才人(以下サ)「え?あ、何の話だっけ?」

シエスタ(以下シ)「ワインのお話ですよ、サイトさん」

タバ子(以下タ)「………(本を読み続けている)」

サ「あー、悪い悪い。そうだよな、ワインは赤に限るよな」

キ「全然聞いてなかったのね。もう、そんなに気になるんだったら、あっちに乗せてもらえばよかったのに」

サ「“錬金”要員でギーシュなんだと。ルイズはともかく、ラリカが言うんじゃどうしようもねえよ…」

シ「(…これは、嫉妬?)」

キ「(嫉妬ね)」

タ「(イーヴァルディ頑張れ!)」

キ「うーん、“錬金”ならあたしもできるし、ギーシュと交代してもいいけど…」

サ「!!」

キ「(なるほど、“2人のうち誰かと一緒に居たい”んじゃなく、“2人のうち誰かがギーシュと一緒なのが気に食わない”ってワケね)」

シ「(同上)」

タ「(挿絵カッコいい)」

キ「でもムカデ苦手だから無理ね」

サ「………orz」

キ「(あ、ちょっと面白い)」

シ「(サイトさん不憫です)」

タ「(面白い、続き続き)」

サ「くそ、ギーシュの奴、デレデレしやがって。戻ったら思いっ切り…ブツブツブツ…」

シ「(ミスタ・グラモンを思いっ切りナニするんですか!?)」

キ「(うーん、ちょっと可哀相かも。仕方ないわね)………ダーリン、」

サ「何だよ」

キ「この宝探しって、何で始めたか知ってる?」

サ「さあ。ラリカに誘われたから来ただけなんだけど」

キ「そうだったの。でもね、実はコレ、ギーシュの為なのよ」

サ「!?」

キ「(面白っ!からかってみたいけど…ま、ここは)ギーシュとモンモランシーの仲を修復させる為にラリカが計画したの。ギーシュが宝を見付けて彼女が見直すって作戦で」

サ「へ?」

キ「ギーシュがあたしに相談してる所に通り掛かってね、アルビオン行きのご褒美に休暇を貰ってやろうって。今もルイズと2人で慰めてるんじゃない?結局お宝は見付からなかったし」

サ「へ、へ~、そうだったんだ。なるほどなー、それでか!ルイズも結構いいとこあるし、ラリカは優しいからな!そうかー(ニコニコ)」

キ「(単純過ぎるわダーリン!)」

シ「(分かりやすいです、サイトさん)」

タ「(避けて、イーヴァルディ!)」

サ「全くギーシュの奴、しょうがねえなぁ。よし、俺も優しくしてやろう!」

キ&シ「(でも…結局どっちへ嫉妬してたんだろう…?)」

タ「(イーヴァルディは負けない…!!)」





[16464] 第二十六話・涙の理由 Side:B
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2010/03/14 22:23
第二十六話・涙の理由 Side:B





“ ――――― どうか、私の大切な人達が、幸福でありますように ”


なら、君の幸せは?


“ でも、ルイズは守ってくれた。その時に言ったよね?ルイズ最優先だって ”


神の盾なのに。


「それ以上は、だめ。そこから先を言うなら、私はあなたを許さない」


その涙を止めることも、


「忘れて。全部、今日の事は、全部…夢。夢だから、朝になれば、また元通りだから」


誓いを立てることすら、





………できなかった。









<Side 才人>

ふいに目が覚める。

一瞬、ここがどこだか分からなかった。
そうだ。夕食で出された強力な酒をシエスタの親父さんと飲み比べて…ああ、そのまま潰れたのか。

思わず口元が綻び、我ながらバカだ、とかぶりを振る。
ルイズにもう止めておけと言われた時、素直に従っておけば良かった。
でもまあ、楽しかったからいいか。


今回の旅は本当に充実している。
異世界に来て体験してきた中では一番かもしれない。

学院で出される“見た目だけ不味そうな料理”は確かに美味い。でも、シエスタが作ってくれた素朴な鍋とは比べ物にはならないだろう。
森の中で、廃墟で、洞窟で、あいつらと囲んだ食事は、それだけで美味しかった。



いきなり俺を呼び出した挙げ句、勝手に使い魔なんかにした、ルイズ。
最初は最悪な性格だと思ってたけど、実は不器用なだけで。
高慢ちきで生意気だけど、本当は優しくて、友情にも厚いご主人様。
傍にいるだけで胸が高鳴るのは多分…そうなのかもしれない。

冗談だろうけど、俺の事を好きと言ってくれる色っぽいキュルケ。
ルイズと喧嘩ばかりしているように見えて、実はいい奴だって知っている。
何だかんだ言ってもルイズを思ってくれてるし、“ケンカするほど仲がいい”ってやつなんだろう。

キザでイヤミっぽいけど、アホで気さくな男友達、ギーシュ。
他の貴族連中と違い、コイツは平民の俺を普通の友達として接してくれる。
拳で語り合うって言うベタな事もやったし…まあ、いい奴だ。女癖は悪いけど。

頼りになる相棒、デルフリンガー。
たまに斬伐刀に嫉妬してるけど、デルフだって立派な相棒だ。
剣の師匠がいない俺に、簡単だけど剣術を教えてくれたし。ごく稀に博学っぽい見せ場もある。

タバサ…はまだ良く分からないけど、多分いい奴なんだろう。
キュルケの親友だし、ルイズの悪口言わないし。本読んでるし。…本は関係ないか。
とにかく、多分いい奴に違いない。


そして。
優しくて、思いやりがあって、明るくて。
俺やルイズを誰よりも理解してくれているのに、俺達の気持ちは分かってくれない…ラリカ。
異世界に来て最初にできた、友達。


…ラリカ、か。

やっぱりアレって…そうなんだよな?
思わずその、言っちまったけど。
でも本当のところ、俺自身、自分の気持ちが分からない。

ラリカはルイズと違って、どきどきはしない。そういうふうに意識したこともなかった。
いや、でもどこかで…、やっぱり分からない。
親友で、家族みたいで、あいつの部屋に行くと自分の家に帰ったような気分になる。
“そういうの”とは違う何か?それともその先?
分からない。

でも、今日の気持ちは本物だ。
不幸になって欲しくない。俺にできる事なら何でもするから、幸せになって欲しい。

それとも俺が…、




溜息をつく。

まだ酔ってるのかもしれない。
酔い覚ましにちょっと外の空気でも吸うか。ついでに、素振りでもしよう。
デルフは五月蝿いから斬伐刀で。



…そう思い、俺はそっと部屋から出て行った。





※※※※※※※※





「ラリカ!!」

目の前で力なく膝をつくラリカ。そして、俺を見据える…ワルド。
草原で、信じられない光景を俺は目にしていた。

「ガンダールヴか。貴様もやはり生きていたのだな」

左腕を切り飛ばしてやったはずなのに。義手か?
いや、そんな事はどうでもいい。そんな事よりも!!

「てめえ!!何でここに!?ラリカに何しやがった!!」

「答えてやる義理はないが…そうだな、彼女には“真実”を教えてやったよ。ルイズと貴様が隠していた、あの日の真実をな」

あの日の…?まさか!?
くそっ!!ルイズと秘密にするって約束したのに、言わないって決めたのに!!

「ワルドぉぉぉぉぉっ!!」

怒りが身体を震わせ、咆哮が漏れる。斬伐刀を握り締め、飛び掛った。
しかしワルドは“フライ”の高度を上げ、俺の斬撃をかわす。

「戦ってやってもいいが、これは“偏在”だ。貴様との決着はまた別に機会に取っておこう。こちらもそう暇ではないのでね」

空から俺を見下ろすワルド。悔しさに目の前が赤く染まる。

「…ではまた会おう、ラリカ。さらばだ、ガンダールヴ」

ワルドは奴が言った通り“偏在”だったのだろう、夜空に溶けるように消えていった。
そして、草原には俺とラリカが残される。


………俺の怒りは、涙を流す彼女の顔を見た瞬間、霧散した。










「…ラリカ?」

近付こうとして、躊躇う。
ラリカは泣きながら、それでも笑みを向ける。それが余りにも切なくて、それ以上近付けなかった。

「あ、あはは…、いやー、参っちゃうよねー、な、何だかさ」

「ラリカ…。その、ごめん。黙ってた事は、謝る」

今、彼女がどれほどショックを受けているのか。想像もできない。
誰よりも友達を大切にする彼女自身が、操られていたとはいえ、アルビオンでその友達を命の危機に追いやったのだ。
その事実を知らされた時、ラリカは何を思うのか。俺がその立場だったとしても辛いはず。それが俺なんかよりも優しい彼女なら…。
考えたくもない。悲しすぎて、辛すぎて、壊れてしまいそうになる。

「で、でも!あれはラリカの所為じゃなくて、」

「いいよ、もう。何でも。ひぐっ、私は、もういいから」

「良くなんてねえよ!!」

「いいの!!」

怒号が、悲鳴にも似た叫びが、夜空に吸い込まれていく。

「ぐすっ、もう、…いいから、しばらく、放っといて…?」

「放っとけるわけねえだろ…。そんな、放っとけねえよ…」

でも、泣いているラリカなんて初めてで。こんなラリカは知らなくて。
どう接すればいいのか分からない。
それでも、自分が何を言いたいのかだけは、何を言うべきかだけは、理解していた。

「ラリカ、聞いてくれ」

返事はない。代わりに嗚咽と、風の吹く音だけが草原に響く。
ラリカの涙で動揺していた心が落ち着いていくのが分かる。

「俺はさ、“神の盾”とか呼ばれる伝説の使い魔らしい。ははっ、笑っちまうよな。異世界から召喚されたって言っても、俺は普通の高校生だったんだぜ?…高校生って分かんないか。平民の学生だよ、何の取り得もない…ただの学生」

ルーンの刻まれた左手を握る。

「でも、力を手に入れた。こんな俺でも、誰かを守れる力を」

「…だめ、」

ラリカが何か呟く。でも、俺は止まらなかった。

「守れるのは主だけか?ルイズだけか?…そんなちっぽけなのが“神の盾”だなんて、そんなの!俺は認めねえ!!」

「…それ以上は、だめ」

ダメでも何でも、言わせてもらう。
もう覚悟は決めたんだ。ルイズも、ラリカも、守ってみせる。

「だから、俺は!」

「ダメ!!」

「お前をっ」

「っ!“サイレント”!!!」

振るわれた杖が、俺から言葉を奪う。
ラリカは目を赤く腫らしたまま俺を睨み付けていた。

「それ以上は、だめ。そこから先を言うなら、私はあなたを許さない」

でも、俺は…!!
声が出ない。言いたいのに、言わせてくれない。

「私は、“違う”。あなたが守るべきは、彼女。ルイズだけ!!」

何が“違う”んだよ!操られた事に引け目を感じてるのか!?自分にそんな資格がないとでも思ったのか!?そんなの、気にする必要ねえのに…!!
話せない。思いを伝えられない。泣いている彼女に何もできない。
意を決して近付こうとした瞬間、ラリカは“フライ”で飛び上がった。

「ラリカ!!」

泣いたまま、でも無理矢理な笑顔を作り、ラリカは言った。

「忘れて。全部、今日の事は、全部…夢。夢だから、朝になれば、また元通りだから」

「…ラリカ」

双月に照らされたその笑顔は、あまりに儚くて。

“サイレント”が解けたはずなのに、何も言えなくなる。

「………おやすみなさい、才人君。…ごめんね」

夜空に消えていく彼女を、ただ見詰めることしか…できなかった。






結局、何もできてやしない。








俺はまだ、無力だ。






[16464] 第二十七話・涙の理由 Side:A
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2010/03/14 22:24
第二十七話・涙の理由 Side:A





あかるいみらいがみえない。なんで、じゃまばっかするの?





何なんだコレは?

罠か?罠なんだな?くそ、卑怯だぞブリミル!!正々堂々どうどうどうどうぁぁぁぁ!!
貴方はワルド。
私もワルド。
夜空の月さえワルドなのか?
ヒゲがいけないのか?そうか、ヒゲが悪いんだ。
よーし、じゃあパパ張り切ってヒゲ剃っちゃうぞ~☆
あーうーあーうーあ~!!
あばばばばばばばばばば!!!

…ふう。
分かった事がある。
掴みかけた幸福は今や、ヒゲ野郎の掌の上。

やっぱり世界は美しくない。







「子爵様…。あなたも、ご無事だったんですね」

どうしようどうしようどうしようどうしよう、
ゆっくりと降りてくるワルド。
何で?何で?何で?何で?何でここに?何でお前が?え?え?

「あれしきの事では僕はどうにもならないさ。それより、あの状況から君が助かるとはね」

弓は持ってない。持っててもこの状況じゃ無駄なだけだ。
ミョズニトニルンを騙る?無理だ。カラーコンタクトレンズ持ってない。持っててもこの状況で付けるのは無理すぎる。

「あの状況?」

魔法で戦うなんて選択肢にすら挙げられない。というか、戦おうってコト自体が無理。
戦闘になったら秒殺。瞬殺。よりどりみどりの方法で殺される。

「…ルイズ達から聞かされてないのか?」

やめてとめてやめてとめてやめてとめ…って、何だ?
バレて、私を拷問&始末しに来たとかじゃないのか?
きょとんとする私に、ワルドは小さく笑った。

「なるほど。そういう事か」

もしかすると、まだ助かるのか?まだ何とかなるのか?

「子爵様。どういう…事なんですか?」

少しだけ考えるような素振りを見せた後、ワルドが答える。

「ミス・メイルスティア。君はアルビオンでの出来事をどこまで覚えている?」

「殿下の魔法、そして才人君が子爵様の腕を切って…あれ?」

ワルドの左腕は健在だ。ああ、義手か。

「義手だよ、僕は確かに腕を切り落とされた」

「私が覚えているのはそこまでです。そして気付いたら3日経っていて…学院の医務室でした」

「そうか。恐らく呪縛を解いた副作用だろうな。あれほどの強力な呪縛だ、それで済んで幸運だったというところだろう」

…あれ?
ひょっとして、ひょっとするかも!!僅かな希望が見えてきた!?
焦る気持ちを抑えつつ、質問する。

「呪縛?子爵様、呪縛って?」

「“ユンユーンの呪縛”。君は操られ、ルイズ達と共に死ぬところだったのだよ」

死ぬ気はゼロだったけどね。アホなミスで死に掛けはしたけど。

「そんなっ、私がそんな事を…?」

よし、やはりバレてない!危ない危ない、もう少しで自暴自棄になるところだった。
少なくとも、嘘ついた私を殺しにきたわけじゃーなさそうだ。
ひゅ~、寿命縮まったぜぃ。

「強力な呪縛だ。記憶してないのも無理はないだろう。だがまあ、そう気に病まなくていい。ルイズ達も無事なのだろう?」

「でもっ、」

「僕が言うのもおかしいが、君は悪くない。君の抱いているものは、見当違いの罪悪感だ」

お気遣いありがとー。でも何故にオマエが私を気遣う?
そこまで“ミョズニトニルン”がやなヤツだったのか。確かに見下した感をバリバリに出してたが。
我ながら素晴らしい演技力かも。

「…ありがとうございます、子爵様」

「いや、礼を言われる立場じゃない。そもそも僕は国を裏切り、君の友人を傷付けた。軽蔑してくれてもいいくらいだ」

はっはっは、な~に言ってんだか。
軽蔑してまーすとか言って、オマエが襲いかかって来たら一瞬で死ぬっちゅうに。
…何とか敵意はないですよーって感じで乗り切らねば。

「子爵様。ちょっと質問ですが、国を裏切ったのはついウッカリだったとか、ルイズや才人君を傷付けたのは何となくカッとなってとかですか?」

「いや。そんな理由じゃないさ。僕の目的の為、必要だったからだ」

「なら、私は軽蔑なんてしないですよ。貴族として国を裏切った事は許せないし、ルイズを裏切った事は友人として許せないですけど。でも、それが子爵様のやるべき事だったっていうのなら、軽蔑なんてしないです」

さりげなーく貴族的言い訳&ルイズ友人説を織り交ぜてみる。

「私は言ったはずですよ。誰の『大切』も、」

「君は、否定しない」

可笑しそうにワルドが笑う。

「はい、その通りです。それが子爵様の『大切』の為に必要な事だったなら、私は否定しません。軽々しく軽蔑するなんてもっての他です」

「許さないが、否定はしないか。本当に君は変わった少女だ。それで、どうする?許せない相手が目の前にいるわけだが?」

どうもしないって言うか、できないですよー。アホな事を聞くな。

「うーん、いざ勝負といっても私じゃ一瞬で負けちゃいますからね。じゃあ、ちょっと近付いてもらえます?今回は平手一発で勘弁してあげますよー」

「ははっ、何を言うと思えば。だが、それは怖いな。下手な魔法よりずっと怖い。…全く、君と話していると、どうも毒気を抜かれてしまうよ」

「いやいや、子爵様もどーいうわけか旅してた時より明るいですよ?いい事でもあったんです?」

よし、いい感じだ。このまま誤魔化して、『じゃあさよなら~』って感じで別れよう。
あくまでフレンドリーに。ここで別れれば、ワルドはタルブ空中戦で撃墜されて終了だ。生きてはいたような気がするけど、その後の出番は…多分ない、はず。
少なくとも“俺”の原作知識では。

「明るい、か。そうかも知れない。向かうべき道が見えてきたからね。この先、誰に何を言われようと、何が立ち塞がろうと、立ち止まらない決意ができた。だからかもしれない」

不敵に笑っている。まあ、すぐにゼロ戦に落とされて終了なワケですが。
でも機嫌は良さそうだ。よし、何か話題は?どうしてここに来たの?とかはマズそうだ。
もしも『レコン・キスタがここを攻める予定だから、その下見だよ』とか聞かされた日には、拉致or口封じコースは確実だし。

どうする?てか、特に用はないんだったらもう失せて下さいヒゲ野郎。
私はヒゲ相手の会話なんて想定してなかったから話題ないんだよ。
ヒゲ!ヒゲ子爵!ヒゲ男!フケ顔!!ヒゲヒゲヒゲヒゲヒゲもっさ!!

「ヒゲ、」

「え?」

え?
し、しまったァァァァァァ!!
思わず口に…ええと、そうだ!

「いえ、おヒゲない方が素敵ですよーって」

「唐突に何を…。放っておいてくれたまえ」

「あ、あはは。失礼しました。単純に私のくだらな~い意見ですので、忘れちゃって下さい」

あぶねーあぶねー。
てへ☆って感じで誤魔化したが…怒ってないかな?
こんなアホなミスで死にたくないぞ。

「ワルド様」

笑顔をやめ、マジメな顔でワルドの髭面を見据える。強引に話題を変えて安全策を取ろう。

「貴方の『大切』が何であるか、何を為そうとしているかは分かりません。そして私がこんな事を言える立場じゃないのも分かっています。ですが、言わせて下さい」

「………」

よし、ヒゲ野郎もマジメ顔で話聞いてる!
シリアス話&肯定でヒゲの機嫌を掴み取れ!

「あなたは国を裏切り、殿下を殺し、私の友達を傷付けました。それをしてまで貫きたかった信念を、曲げたりしないで下さい。立ち止まらないで下さい。貴方の『大切』を貴方自身が否定したりしないで下さい。貴方が傷付けた人や、築いた屍を否定しないで下さい。それだけは、どうしても言いたかったんです」

どーせワルドなんぞすぐ出番なくなるしね。てきとーに煽っとけ。
それにこういう話をされたら去るのが常道。風のスクエアなら空気を読むスキルだってあるでしょー?
曲がらずに私なんかに立ち止まらず、原作の彼方まで真っ直ぐ一直線に消えて行って下さい。

「君は、…いや、君ならそう言うと、どこかで思っていたかもしれないな」

言ってることは半分犯罪教唆なんですけど。私そんなに悪人に見えます?見えるか。
実際悪人だし。

「約束しよう。僕は自分の『大切』を否定しない。傷付けた相手や、殺した相手の事も受け止めよう。………それで。もしそれが果たせたら、君は僕を許してでもくれるのか?」

私の平手がそんなに怖いか?ま、キザ貴族のジョークだろうけど。
あ、そうか。皮肉ってヤツかも。

「はい。その時はワルド様を許します。…まあ、こんな小娘の許しなんて価値なさそうですけど」

笑ってみせる。ワルドも小さく笑った。よし、機嫌は直ったようだ。

「そうか。…では、そろそろ立ち去るとするよ。これで君と会うこともないだろう。少なくとも、僕が目的を果たすまではな」

イィィヤッホォォウ!!会話終了!ついでに会う事は無いだろう宣言まで!
タルブ空中戦でどうなるにせよ、コイツが目的とやらを果たせる可能性はゼロ!つまり二度と会わない!!
もう少しでBADENDだったけど、何とか持ち直したぜー!!

「いや、1つだけ聞きたかった」

チィッ!!何ださっさと聞け。一瞬で答えてやるから。
ほら早く、ほらほらほらほらほらほら!ハリーハリーハリー!!
GOODENDまであと数十秒!!


「君にとっての一番の『大切』とは…、――――― ん?邪魔が入ったか」


…え?
ちょっ、待

「聞くのはまたの機会にしよう。どうやらガンダールヴが、君を迎えに来たようだ」

え?え?
なにそれ?
もう少しだったのに。何でこんな時に?何でこんな場所に?
普通、あり得ないだろ?夜中だぞ?何で?何でだよ?

あとほんの1分あれば、私の安全が完全に確保されたのに。
全部終わったのに。ヒゲの奴、『またの機会』とか言ってたよ?どーしてくれるの?
タルブ空中戦の後にノコノコやって来たりしたらどうしてくれるの?
てか、多分来るよ。嫌な予感しかしないよ。

え?
なにこのタイミング。

掴みかけた幸福が崩れかけ、何とか持ち直したと思った途端に消滅。

未来は完全に分からなくなった。


私は思わず膝をつく。



「ラリカ!!」

空気を読まないアホの声がする。

「てめえ!!何でここに!?ラリカに何しやがった!?」

いや、こっちの台詞だよ。そしてオマエが邪魔したんだよ。

「…ではまた会おう、ラリカ。さらばだ、ガンダールヴ」

また会おうって…オイ。やっぱ会いに来る気なの?しかも、さらっとファーストネームで呼ばなかった?
どういうこと?
あれ?千載一遇のチャンス、消滅?

ここまで頑張ったのに?


涙、出てきた。


※※※※※※※※


「あ、あはは…、いやー、参っちゃうよねー、な、何だかさ」

あはは。やば、涙が止まらない。

「ラリカ…。その、ごめん。黙ってた事は、謝る」

黙ってた事?ああ、ヒゲ野郎が言ってたな。前回頓挫した計画が復活できそうだ。
でも、今はどうでもいい。

「で、でも!あれはラリカの所為じゃなくて、」

「いいよ、もう。何でも。ひぐっ、私は、もういいから」

涙が止まらない。何だこの感情?
悔しさ、怒り、憎しみ。そんなの耐えられると思ってたのに。湧き上がる負の感情を抑えきれない。
今まで無理してきた全てが、爆発、しそう。

「良くなんてねえよ!!」

「いいの!!」

いいから黙ってろ!そうしないと、魔法を撃っちゃいそうなんだよ!!

「ぐすっ、もう、…いいから、しばらく、放っといて…?」

マジで、落ち着くまで構わないで。
心がざわつく。黙ってて欲しい。ダメだ、ダメだ…

「放っとけるわけねえだろ…。そんな、放っとけねえよ…」

だまれ。うるさいだまれ。だまってろ。
泣いている私を見るな。無様な私を見るな。
何か言ってるが聞きたくもない。しゃべるな。これいじょうわたしをみるんじゃない。

「でも、力を手に入れた。こんな俺でも、誰かを守れる力を」

!?
嫌な予感がする。コイツが、目の前で泣く女を見たら何と言うか。

「…だめ、」

搾り出すように呟く。

「守れるのは主だけか?ルイズだけか?…そんなちっぽけなのが“神の盾”だなんて、そんなの!俺は認めねえ!!」

まずい。二度あることは三度ある。もし“そんな場面”を誰かに見られたらどうするつもりだ?
どう言い訳する?ルイズは?ワルドは?
追い詰められるのは私だぞ!
その場の同情心からくだらない台詞を吐くな!

「…それ以上は、だめ」

やめろ。

「だから、俺は!」

やめろ!!

「ダメ!!」

やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ!!!

「お前をっ」

黙れッ!!!


「っ!“サイレント”!!!」


溢れる感情を杖に乗せ、邪魔者の言葉を消し飛ばす。

「それ以上は、だめ。そこから先を言うなら、私はあなたを許さない」

憎しみを込め、睨みつける。これ以上、その声を聞かせるな。私の邪魔をするな。

「私は、“違う”。あなたが守るべきは、彼女。ルイズだけ!!」

“フライ”で飛び上がる。
今はこいつの傍に居たくない。涙を止めないと。冷静にならないと。
まだ私は終わっていない。挽回できる。私を取り戻さないと。

「ラリカ!!」

無理矢理笑顔を作る。過去最低の笑顔だろう。でも、今はこれが精一杯だ。

「忘れて。全部、今日の事は、全部…夢。夢だから、朝になれば、また元通りだから」

「…ラリカ」

後悔で一杯だ。これじゃ“前の私”と同じじゃないか。“私”らしくない。
八つ当たりなんて、まるっきりアホじゃないか。


「………おやすみなさい、才人君。…ごめんね」


呆然とする才人を一瞥し、私は夜空へ飛んで行く。






掴みかかっていた希望が大きかっただけに、ショックも、怒りも大きかった。


今までの全部が、思いっ切り噴き出してしまった。


こんなふうに泣くなんて、どれくらいぶりだろう。


いっそ、涙が枯れるまで泣いてやろう。誰に憚ることもなく、独りで。





あ゛~っ、ちくしょー。









#############


今回ほんのり長いです。
ラリカのダメ人間加減がより一層ふっくら芳醇になってきました。
いつ見捨てられるか、私自身にも分かりません。

それでもお付き合いいただける方、これからも宜しくお願いします!



[16464] 第二十八話・火の思い出
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2010/03/14 00:32
第二十八話・火の思い出




人前でマジ泣きなんて。ハズいぜチクショー。そーいう羞恥心は、あるんですよ。





正直八つ当たりしてスマンかった才人。アレの日だったという事にしといてくれぃ。

思いっ切り泣いたらスッキリした。
いやー、ストレスなど溜め込むものじゃ~ないですなぁ。これからは定期的に泣こう。
“フライ”かココアに乗って上空に行き、こっそり独りで心の洗濯。
見られたりしたらヤダからね~。
ルイズとかの100万エキューの涙ならともかく、私の涙は無様なだけなのです。





と、いうわけで学院に戻ってきた。

“竜の羽衣”に入れるガソリンは、コルベール先生が“錬金”することだろう。
でもアレはこの世界じゃチートみたいな兵器。
先生って争い系の事とか、そーいうのダメな人じゃなかったっけ?過去の虐殺とか何かがどうとかで。
でも本人がノリノリだからいいのだろう。

冷静になって考えてみると、今回の件もそう最悪でもない。むしろ良かったかもしれない。
以前潰された“ザ・敵に操られた罪悪感でパーティから離脱大作戦”が解禁になったのだ。
これはまさにワルド様々だろう。
しばらくは巻き込まれそうなイベントはないので、すぐ使う必要はないけど、カードが多いにこしたことはない。
なぜか才人がルイズにワルドと会った事を報告してないみたいだが、その辺は何とでもなりそうだ。

そしてヒゲ男。
いつ頃にやって来るのか知らないが、来たって普通に私の『大切』を教えてやればいいだけの事だ。
私の『大切』なんて“平穏な人生”以外にないんだし、何かは知らないけどヒゲの目的とやらの妨げになる事はないだろう。
互いの利害が全然かみ合わないから、敵視される事も仲間とかに引き込まれる事もないはずだ。
それ以前に実力がダメなので、放っといてくれるかもしれない。


泣いたお陰もあってか、実に晴れ晴れした気分だ。
順風満帆。

差し迫る危機もなく、穏かな日常が戻って来たみたい。








「ラリカ、またちょっと聞いてもらえる?」

私のベッドに寝転がったルイズが、あまりやる気が感じられない声で言う。

「オケ~イ。どんと来いミコトノリ!」

何回目だろうか。彼女が新たな詩を思い付く度に私が評価してあげている。
どうせ結婚式は行われないから無駄になるんだけど、そんな事言えるわけない。

「コホン。…“火は情熱。初めは小さかった種火も、手当たり次第に周囲に燃え広がり、やがて全てを飲み込んでいった。誰も、この炎を止める事はできないのだ”」

「…うん。ルイズ自身はどう思うかな?」

「私に詩を作る才能がない事だけは分かったわ」

「そんな事ないって言ってあげたいけど…同意せざるを得ませんなー。火に対する感謝っていうより、火事の脅威を感じる文だし。むしろそいつぁー詩じゃないぜ~」

それにしたってダメだ。感性の問題なのだろーか?

「ルイズ。火に対する感謝なら、火のメイジに聞くのが一番だと思わない?キュルケとか適任だと思うんだけどな」

「だから参考にしたじゃない。いつも“火は情熱”って言ってるでしょ」

あー、最初の一文か。
しかしアレで参考にしたって言ったらキュルケがどんな顔をするか。

「キュルケにも聞いてもらった?」

「ううん。ツェルプストーの事だもん、どうせバカにするに決まってるじゃない」

正解だ。で、喧嘩に発展するに違いない。
ルイズは、『 もう無理。私には才能ないのよ 』とかブツブツ呟きながら私の枕に顔を埋める。

「…うーん、困ったね~ルイズ」

なーにやってんだか。私はベッドに腰掛け、そんな彼女の頭を撫でた。
宝探しで気分転換できたとか、タルブの草原で閃いたとかしなかったのか?
詩の才能自体がゼロなら何したって無理なもんは無理なのかもしれないけど。

かくゆう私も才能ゼロでね、水に対する感謝の詩なんてビタ1文字も出てこないのだよ。
微塵も力にはなれないぜ!伊達に座学で下位をキープしてないさ!実技もアレだけどな!ぐすん。

「もう今日は寝ようかしら。ねえ、また泊まっていい?」

枕から顔を上げ、上目遣いで言ってくる。

「ほんのちょ~っと歩けば自分の部屋でしょーに。そんなにラリカさんの部屋が気に入ったんですかキミは」

「サイトが何か異様に暗いのよ。タルブから帰ってきてずっとね。部屋がどうも重苦しいから迷惑してるんだけど、あまりに異様な雰囲気だから放り出すのもちょっとね」

遠慮せず放り出せ。部屋の主人はルイズなんだし。才人なら馬小屋とかでも平気なはず。多分。
…でも才人が暗いのって、もしかしなくても私の所為か?
例の逆切れ八つ当たりで落ち込ませちゃったのか?忘れてくれって言ったのに。
あの後、才人と特に会話とかなかったから気付かなかったけど、事態はちょっと深刻なのかも。タルブ空中戦に響かないようにしとかないと。
明日にでも、お互いあの時のコトは忘れましょ~とでも言いに行くか。

「仕方ないなー。なら着替えを取りに、」

「もう用意してあるわよ。そこの棚に一式入ってるの」

才人が“勝手に”設置した棚だ。収納がどうとか言ってたが…いつの間に入れたんだ?

「そかそか。じゃあちょっと早いけどオヤスミしよっか。よーく眠れるようにホットミルク作ってきてあげよ~」

「ワインじゃないの?」

「アルコールパワーで一気呵成に寝るより、あたたか~いミルクでおだやか~に眠った方がいい時もあるのです。アタマ使ったんだから、今日は余計にね。じゃ、厨房行って作ってくるからルイズは着替えていい子で待ってておーくれ」

素直に頷くルイズの頭を、軽くポフポフする。今、子供扱いされたって気付かなかったか?
にしても、お泊りってコトは、また明日の朝はコイツの介護(?)か。
まあ、別にそう面倒でもないからいいんだけど。

「ミルク、甘くしてね」

「はいはい、お任せ下さいまーせルイズお嬢様。ハチミツをタプ~リ入れておきますゆえに」

さて。
秘薬作りもルイズが居るんじゃできないし。今日はさっさと眠りますか。


いい夢見れたらいいな~。











―――――――――――――――




戦争が本格化してきているようだ。

今の学院には男の先生はもちろん、男子生徒も殆どいない。
みんな士官不足に悩む王軍へ志願していった。
戦争はいつ終わるのか。先生や男子生徒達は戻ってくるのか。私にはよく分からない。正直、興味もない。
そういうのはお城の偉い人達が決める事なんだ。私たちは、ただその通りに従うだけ。

学院、夜の廊下を自室へと戻る。
調べ物をしていたら、随分と遅くなってしまった。
何だか今夜は嫌な空気で、早く部屋に戻りたい。自然と歩みが速くなる。

今日は、実家から手紙が届いた。
内容は読まなくても分かっている。
お金を持っていそうな男の子と仲良くなったかだとか、いいコネができたかだとか、そんな話。
そして、せっかく学院に入学させたのに、未だ何の成果も無い私への嫌味。
戦争に突入したこんな時期に、空気を読まないにも程がある。いや、それがメイルスティア家のメイルスティア家たる由縁か。だから、ダメなんだ。

それにしても、馬鹿みたいだ。
私の性格や容姿を分かっているはずなのに、家族は何を言ってるんだろう。
無理だ。無理無理。
私にはツェルプストーのような身体もなければ、モンモランシのような華もない。
痩せぎすで目付きばかり悪いと、娼館にさえ売れなかった子供が多少大きくなったって、何が変わるというのだ。

でも、もしかすると今が一番幸せな時間なのかもしれない。
親しい人は1人もいない学院だけど、ごはんはお腹いっぱい食べられるし、部屋は隙間風も入ってこない。
『絶望』とか根暗とか、多少は言われるけど酷い中傷はないし、ここ2ヶ月ほど泣いてない。

胃が痛むほどの空腹は嫌だ。寒いのは嫌だ。馬鹿にされるのは嫌だ。
でも、卒業したら全部なくなってしまう。実家に戻って何をするというのだろう。
親が結婚相手を決めてくれているわけがない。その為に学院に入学したようなものだし。
水メイジだから、秘薬でも作る?でも、そんなに上手くない。失敗の方が多いし、不完全な秘薬なんてきっと引き取り手なんてないだろう。
いっそ、平民にでも貰ってもらおうか。
…ダメだ。私は愛されるような人間じゃない。貴族という唯一のステータスも、メイルスティア家という家名は足枷にしかならない。

肩が誰かにぶつかった。

「あ、ごめんなさい…」

「こっちこそ…って、メイルスティアじゃない」

金髪の女生徒、名前は忘れた。クラスメートだった気がする。

「相変わらず辛気臭いわね。もしかしてあなたも…有り得ないか」

彼女は鼻で笑う。

「何が、ですか?」

「恋人が王軍に志願して心配してるって事。まあ、あなたにそういう相手はいそうにないわね。羨ましいわ」

「…そうですか」

それ以外に答えようがない。大切な人なんていないし、恋人なんて想像もつかない世界の話だ。
死んで困る人、と言われてもパッとこない。
そういえば、兄も戦場に赴くのだろうか。戦功をあげれば褒章が出るかもしれない。
そうしたら実家も…無理だろうな。メイルスティアが配属される場所なんて、知れている。

「皮肉を言ったつもりなんだけど?」

みんな、気が立っている。だからって私に当たらないで欲しい。

「…そうですか」

私に構わないで。空気でいいから、放っておいて。
期待するような反応はしてあげられないし、する気もないから。

「あなた、つまらないわね」

「よく、言われます」

女生徒は本当につまらなそうに溜息をつき、さっと身を翻して去っていった。
私もまた歩き出す。早く部屋に戻りたい。全部忘れて、ベッドに入ってしまいたい。
いっそ、眠っている間に戦艦でも来て、全部吹き飛ばしてくれたらいいのに。

「本当に、つまらない。全部、ろくでもないよ」

全部が。
何もかもが嫌になる。もう…、


………?

下から大きな音が響いた。
遠くで聞こえる誰かの悲鳴。

そして、階段から現れた影。

…あれ?誰だこの人。ここは女子寮なのに。
突然目の前に現れた男の人に、私は正常な反応ができなかった。

「おや。出歩いている生徒がいるとはな。こんな夜更け、」

「“水の鞭”!」

悲鳴の代わりに、思わず“水の鞭”を放つ。鞭状の水が男の人の胸を打った。
我ながら、威力が全然ない。

「…貴様」

「…っ!!」

駆け出し、窓から外へ飛び出す。
何が起こってる?この人は誰?先生じゃない。あの格好は?もしかして…賊?
何で学院に?何で賊が?どうしてこんな!?
分からないだらけだが、本能が危険だと叫んでいた。逃げないと。

「“フラ、」

逃げ、

「馬鹿なガキだ」

炎が迫って来る。
あれ?私、これで終わるの?

あは。

何だよ、これ。


ホント、ろくでもない人生だっ ―――――。





―――――――――――――――










「…あ゛~、なんぞコレは」

上体を起こしたまま、溜息をつく。
額には脂汗、実に最悪な目覚めだ。二日酔いの方がまだマシな気分。
対照的に隣には、実に気持ちよさそ~に寝息を立てるルイズ。ニヤケたような笑顔が眩しくて、思わず叩き起こしたくなる。
妄想ハーレムシティで才人とラブってる夢でも見てるのだろうか。

…久し振りに悪夢を見た。
前回の“私”が迎えた最期の記憶。真っ黒コゲの焼死体になったのか、原型を留めないくらいの消し炭にされたのか分からないが、とりあえず焼死した思い出だ。
いやー、あの時は熱かったですなぁ。熱いを通り越して痛かった気もする。トラック激突とどっちがキツかったのだろう?

まあ、そんなのどうでもいいか。
それより、今更ナゼにあんな夢なんか見たかってコトだ。
いい夢見れたらいいな☆って寝たのに、これはないだろ普通。
夢は深層心理がどーたらって話を聞いた事があるけど、それが本当なら、今の私が見るのは幸福な夢のはず。
幸福な結末を迎えられそうな状況になってきてるし、学院襲撃事件は回避可能なイベントだ。あんなイヤ~な昔を思い出す意味がワカラン。

回避可能とはいえ、着々とその日が近付いてきてるから、心のどこかがナイーブな感じになっているのだろうか。
それとも考えたくもないけど、“第六感”的な何か?

どーなんだろ。
確かにイレギュラーな事態は発生したりする。でも、そんな綻びなんて本当に微々たるモノ。
死ぬ夢を見るほどのヤヴァい綻びなんて思い付かないし。
うん。よー分からん。

でもとりあえず、まだ起きるのには早い。もう一眠りしますかね。

これは原作には微塵も影響しない“私”だけの問題。
この夢を深く受け止めるか、それとも夢なんてとテキト~に流すか。
はてさて、どーしましょうかね。






私は何か幸せそうな寝言を言ってるルイズの髪を撫で、小さく笑った。





[16464] 第二十九話・乖離?いいえ予定調和です。だと言ってくれ
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2010/03/14 20:52
第二十九話・乖離?いいえ予定調和です。だと言ってくれ





あっるぇー、いろいろまずくない?





ルイズを起こし、着替えさせる。

まだ才人にやらせてるんだっけ?それとも、そろそろ意識し出してやらせなくなった?
細かな原作知識はないし、聞くのも何だかなので分からない。カマでもかけてみようかな?
ベッドに座らせ髪を梳かし、いつかみたいに濡れタオルで顔を拭いてやる。うむ、前回よりも時間短縮。私って使用人の才能がある?嬉しくない。

ともあれ、新しい朝の始まりだ。
結婚式は1週間後。ニューイの月の1日だ。でも3日前にはタルブが焼かれて戦争開始だから、あと5日しか本当の平穏はないってコトになる。
まあ、タルブ空中戦はルイズ&才人が何とかするんだけど。



「ルイズ、おはよ~。あと40秒でシャキっとしないと、“レビテーション”で食堂輸送しちゃうよー」

「ええと、ラリカ。私起きてるわよ?」

…あれ?本当に起きてる。
じゃあ何で着替えさせたんだ?

「よーしルイズ、そこで質問。じゃあ何で自分で着替えたりしなかったのかな~?かな~?」

「だってラリカ、凄い手際よくやるんだもん。言おうと思ったけど、終わっちゃったわ」

「お褒めいただき光栄ですわ、ルイズお嬢様。…本格的にメイドでもやろーかな」

ちょっぴり本気と書いてマジな話。
あ、でもこの表現はハルケギニアでは通用しないか。漢字ないし。不便ですなー。

「そうなったら雇っちゃうかも」

「そうなったら雇われちゃうかも」

笑い合う。ルイズは冗談で言ってるんだろうけど。

「さ、ごはん食べに行こっか。祈祷書を忘れないよーに」

「うん。ねえ、今日も授業後に詔聞いてくれる?」

「はいはーい。じゃあ今夜はそっちにお邪魔するかな。マトモなのを期待してるから、ちゃーんと考えないとダメだよ?あと、私は泊まらないからね~」

「何でよ」

「ベッドに川の字になって寝るの?ちょーっとムリあるかも」

ルイズを真ん中に、私と才人で挟んで寝るか?あー、どっかの家族みたい。
誰が子役かは言わないけど。

「カワノジ?」

「…3人並んで寝るって意味ね。狭くてムリムリ」

だからハルケギニアに漢字はないんだって。危ない危ない。
ルイズだったから良かったものの、才人だったら怪しまれたかも。
アホだから気付かない可能性も高いけど。

「…むぅ、それもそうね」

さりげなく才人もベッドで寝てるか確かめたんだけど、ルイズは気付いてないようだ。
でも、どうやら才人は無事にベッドイン(アレな意味でなく)を果たしているようだし、一安心。

ソファーベッドをどうだとか呟いてるルイズを見て、自然と笑みが零れる。
やはり、夢なんてただの夢だ。



明るい未来は、目前。



※※※※※※※※


授業後、お菓子と紅茶を用意しとくから絶対来てよ!とか言うルイズに笑顔でイエスし、外に出る。
向かう先は森だ。
才人がそこで剣の訓練をしているのは、ココアとの感覚共有で分かっている。

さて、フォローでもしときますかな。



「さ~いと君っ」

デルフリンガーを振っている才人に、背後から声を掛ける。

「うぉ!?」

驚く才人。ちょっとショックだったりする。

「はっはっは、そんなに迫力ありますかねワタクシ。レディの顔を見て驚かないで欲しかったり」

「ご、ごめん…」

うむ、ルイズの言った通り暗い。真っ暗だ。“前回の私”といい勝負かも。

「おっ、ラリカ嬢ちゃん。今ちょうどラリカ嬢ちゃんの、」

何か言いかけたデルフは、瞬時に鞘へ収められた。
うわー、久々に声聞いたと思ったのに出番終了か。私の知らないところではタップリ喋れていると信じたい。
そうだよネ、おでれえ太クン?

「ラリカ。…その、」

気まずそうな空気が流れる予感がする。させないけど。

「才人君、ごめんっ」

最後まで言わせずに頭を下げる。プライドなんてないから、幾らでも下げられるぜー。

「え?」

「あの夜のコト。本当にごめんね。その…、何かぐしゃぐしゃで」

あはは、と控えめに笑ってみせる。
あー、ダメか。まだ才人はどんより暗いままだ。フォローめんどくさいな。
逆切れされた事なんていつまでもウジウジ引き摺るなっての。オトコノコでしょーに。

「私も動転してたって言うか、のーみそパニック状態だったって言うかで。あんな態度取っちゃって。いやー、我ながら情けないですよ、あは」

「…ラリカ、その、俺…」

何と言う重症。コイツ、こんなにナイーブなキャラだったか?
仕方ない。ちょっとだけ本心を話すか。
そうすりゃこっちも落ち込んだって分かってくれ、感情はトントンになるはず。
泣き顔見られて恥ずかしくなり、思わず逆切れ。よくある話じゃーないですか。そんな落ち込むな。
ゼロ戦まで墜ちたらどーしてくれる?


「実を言うとね。家族以外で涙を見られたの、才人君が初めてだったりするの。…あ~、その、あはは。それで、ええと…、」


無様な泣き顔を晒した事を思い出し、顔が熱くなるのを感じた。
他人に泣き顔。絵になる美少女ならいいけど、私のはみっともないだけだろう。

才人から思わず目を逸らす。
ヴェルダンデが居たら、即座に穴を掘ってもらいたい。大至急入るから。


「は、恥ずかしかったから、思わず…怒って。その、ごめんね」


半分以上は鬱積した無理の爆発と、グッドエンド終了と早合点した怒りなんだけど、それは言えない。
でもこっちも本当だ。

…てか、一部とは言えマジメな本心を話すのなんて、どれだけ振りだ?
普段が嘘まみれなんで無駄に緊張する。どもってしまった。

チクショー、顔が熱い。目が潤む。よし、さっさと済まそう!!
八つ当たり、スマンかった才人!だからそろそろ許してコンディション戻してくれ!
オマエさんにはもうすぐタルブ空中戦っていう大舞台が待ってるんだから!


そして。

再び視線を才人に戻し、



「だからっ、才人君は悪く、」






――――― 抱き締められた。






あっるぇ~?


なぜゆえ?



なにがどーなった?










オマケ1
<Side Other①>


「モンモランシー!モンモランシーってば!!どうして無視するんだい!?」

「分かった、照れてるんだねモンモランシー。何せ、一週間も逢えなかったからね!」

「いやあ、宝は見付からなかったが、もっと大切なものを僕は見付けたよ。そう、それは君への想いさ!」

「逢えない時間、気付けばいつも君の事を考えている僕がいたよ。そして気付いたんだ、僕はやはり君への永久の奉仕者だと!」

「モンモランシー?モンモ、ぶおっ!?」

ドアが閉められる。
一緒に部屋の中へ入ろうとしていたギーシュは、閉まったドアに思い切り顔をぶつけた。


「モンモランシー?…ええと、モンモン?」


「モンモランシー?」


「おーい」




オマケ2
<Side Other②>


ロンディニウム郊外の街、ロサイス。
様々な建物が立ち並ぶ中、黒いレンガの建物に男は入っていく。

「戻ったぞ。降下地点のタルブは…、」

そこまで言い、眉を顰める。

「…倉庫へのドアが溶接されてないか?」

視線の先にはガチガチに鉄で封印されたドアがあった。おそらく“錬金”で土を貼り付けた後に鉄に変えたのだろう。

「………ムカデがいたんだよ」

気まずそうに答えるのは緑髪の女だ。

「ムカデ?」

「こっちの部屋に入ってきたらどうするのさ」

「…別にムカデなど放っておけばいいだろう?」

「別にいいじゃないのさ。倉庫なんて、用はないだろ?」

睨まれる。有無を言わせない迫力があった。

「まあ、そうだな。別に僕もお前を咎めようと言ったわけじゃない」

「じゃあもうこの話題は終わりだよ」

「ああ」


少しの沈黙。破ったのは、緑髪の女だった。


「…ところであんた、ヒゲどうしたのさ?」

「………見て分からんか?剃ったんだよ」

男の髭は綺麗さっぱり剃られていた。お陰で印象が大分変わっている。
口髭があった頃は威厳のある凛々しさだったが、今はそれとは違った凛々しさがある。

「いや、それは分かるけど。私が聞いてるのは何で剃ったかって事よ」

「…あれだ、トリステイン王国と決別したからな」

不自然に視線を逸らし、男は答える。

「別れたから髭を剃るって…女が男と別れて髪を切るみたいなこと言うんだね」

「それに、あの顔は面が割れている。こうすれば印象が変わり、動きやすくなるだろう」

「隠密行動なんて、前みたいに仮面でいいんじゃない?」

「別に僕の髭のことなど放っておけばいいだろう?」

睨まれる。有無を言わせない迫力があった。

「まあ、そうだね。別に私もあんたに文句があって言ったわけでもないし」

「ならもうこの話題は終わりだ」

「分かったよ」


沈黙。

今度は、しばらく破られなかった。






[16464] 第三十話・はぐ
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2010/03/16 01:51
第三十話・はぐ





“そんな”わけないって。





おぉぅ、才人って結構力強いね~。

鍛錬の成果か、なかなかに逞しいじゃーないですか。
包容力は同年代の貴族なんかより、ずっとありそう。パーカーの上からじゃ分かんなかったな。

ちょっと汗の匂いがするけど、どーいうわけか不快ってワケでもない。
いわゆるひとつのフェロモン効果?浅学だから詳しくないけど。

いやー、でもまさか肉親以外の男性に抱き締められるとは思ってもみなかったなー。肉親だって幼児時代くらいまでだし。
“前回の私”じゃ考えられないかも。かもかーも。
あはははは、…あ~、ええと、

そうじゃないだろ。




現実逃避してないで考えろ私!!

どうする?どうする?どうする?
いや、マズいだろコレ。
森の中で抱き合う(一方的に才人からだが)男女って時点で色々アウトだ。見られたら確実に誤解される。

よし、順を追って状況を整理しよう!
① 逆切れしたのを謝り&フォローに行った。
② 抱き締められた。
以上。

…ダメだ、改めて意味不明だ。それがどーしてこの結果に至る?
いやそれより今は、ひあっ!?抱擁パワーが上がっただと!?これがガンダールヴの力か!?多分関係ないけど!
ちょ、待って、苦し…くはないけど、何かダメだ、ダメな気がする!放せ!!

「さ、才人…君?」

はーなーせー!人質を解放しろ!

「ラリカ、俺っ………」

ヒィィ!?耳元で呟くな!何かぞわぞわするぅぅぅ!!ち、力が抜け…、

「あの、ちょっと、苦しい…かも」

お願いします解放して下さい!ぅあ、頭がぼうっと…、

「あ…、ご、ごめん!!」

はっとしたように声をあげ、才人は慌てて私を放す。
ずいぶんとあっさり…いや、助かった。

「あ、あはは…、びっく~りしちゃったぜぃ」

いやマジで。心臓止まるかと…逆に心拍数凄いや。深呼吸。ひっひふー。
冷静になれ、冷静に。冷静になるんだラリカ。平常心だ平常心。

「ホントごめん!!思わずその、つい!」

頭を下げる才人。
OK、OK、大丈夫。正直に謝った“友”に対してハグする事なんて、テキサスじゃ日常茶飯事さ!
テキサスどころかアメリカさえも、この世界にはないけど。

でも感激の余り抱き締めることなら普通にある。はず。
そうに違いない。違いない。
いやー、友情が厚いとこういう事もあるのですなー。うんうん。うん。

「ん、い、いいよいいよ。ちょっと驚いたけどね。友情確認だと思、」

「でも俺、決めたから。迷ってたけど、もう決心付いたから」

顔を上げ、私を真っ直ぐ見詰める。な、何だその決意に満ちた瞳は?
ものすごーく嫌な予感がするんだが。
そんなわけない、そんなわけないよね?

「許してくれなくてもいい。それで嫌われたって構うもんか。俺は、」

や、やめ、


「ルイズも、ラリカも守る!!」


…え?

あ。そっか。あー、うん。
いや、助かった?とゆーか、一瞬でも“そうなのか?”とか思った自分に嫌悪だ。
“そう”なワケないのに。自分の事は自分が一番知ってるのに。

うん、何かちょっとムカつくような気が。
自己嫌悪でムカムカしてるのだろう。

「…才人君」

「また“でもルイズ最優先で”とか言うんだろ?…もういいんだ。俺、勝手にラリカの事も守るから。2人に優先順位なんて付けられねえよ」

何か以前ルイズが言ったのと同じような台詞だな、それ。
主従は似るのか?飼い主とペットみたく?じゃあ私とココアもいずれ…考えたくない。
よし、でも何だかようやく落ち着いてきた。冷静な私がアイルビーバックだぜー。

「分かったよ、才人君。キミが結構ガンコってのは知ってるし、意味のない言い合いを続ける気はないゆえに。でもしか~し、1つだけ約束を」

ここはやはり、前回のルイズと同じような言葉でいいだろう。さっさと済まして帰ろう。
何か、そんな気分だ。

『いつか私はいなくなるから、その時はルイズを大切にしてあげて』って。
最終的にはそうなるんだし、そうなるべきだ。しかもこの場面では最高に適切っぽい。

「ああ、分かってる」

真面目な顔で才人が頷く。まだ言ってないんだけど…雰囲気で通じたのか。さすが主人公!

「うん」

とりあえず、笑顔で私も頷く。

「いつかちゃんと、ケジメを付けるよ」

うん?
ああ、最終的には結婚も視野に入れるとかそういう話ね。気が早いなー。
でも、その時はせいぜい祝福しよーじゃありませんか。

「才人君の選択なら、間違いはないと思うよ。きっと納得の答えなんだと思う」

そう言うと、才人は申し訳なさそうに笑った。

「ごめん、優柔不断で。でも俺、後悔のないように、後悔させないように、真剣に考えたいんだ」

「うん、分かってるって。答えなんてじっくりゆっくり考えて、それから出せばい~のです。急かしはしないから、才人君の正しいと思う道を進むのだよ」

やはり、ルイズ×才人の公式は揺るがないか。
原作という運命の前に、多少のズレなんか関係ないようだ。実に素晴らしい。
どうやら才人も元に戻ったようだし、フォロー作戦は成功と見てよさそうだ。

「よーし、じゃあ私は部屋に撤退しましょうか。と言っても、ルイズに招待されてるから夜になったらお邪魔するんだけどね~。でわでわ、剣の練習ガンバッテくれぃ」

笑顔でひらひらと手を振り、“フライ”を使う。

さて、一旦部屋に戻ってワインでも飲みますか。何か、無性に飲みたい気分。
アル中じゃーないと思うんだけど。

…それにしても、ビックリしたな。思い出すと、あばばばば。
ヒロインの皆さんは凄いですなぁ。あーいうの、日常茶飯事なんだろうし。うん。


ホント、凄いや。




※※※※※※※※


部屋に戻ったらタバ子がドアの前で待っていた。

待ち合わせた記憶はもちろんない。
てか、タバ子に用なんぞない。向こうだって私になんて用はないはず。

「はしばみ?」

とりあえず訊いてみる。タバ子は不思議そうに小首を傾げた。
やはりダメか。“はしばみ”だけで通じるかと思ったんだけど。

「弓」

弓?…ああ、そーいや約束した覚えが。

「教えて欲しい」

どうしようか。正直メンドい。ワイン飲もうと思ってたところだし。危険度A級なタバ子とは仲良くなる気はないし。
でもまあ、約束だしな。それに、気晴らしになるかも。

「じゃあ、今日は座学で教えましょーか。部屋にどーぞ」

頭を撫でる。
夜までちょっとだけ、ラリカ先生の弓教室でも開催しますか。
生徒は1人のマンツーマン指導。どっかの学習塾みたいだ。
そういやタルブ空中戦はキュルケ&タバ子も用がなかったような。まあ、2人ともトリステイン人じゃないから余計に関係ないかもだけど。

「頑張ろうねー、タバサ」

何となく言ってみる。
幸福は目前。多少のイレギュラーはあるものの、あと少しで計画は完成だ。

この先、運命は加速する。
“虚無”の覚醒に始まり、王家との親密な繋がり、本格的になる戦争。
無能王やら教皇、エルフだって出てくる。ヒロイン候補も姫様参戦に加え、ティファニアとかいうハーフエルフまで現れるのだ。
もう、放っといても私の存在なんて限りな~く希薄になっていくに違いない。


もう少しなのだ。もう少しだけ頑張って立ち回ろう。
小さく頷くタバ子に微笑みかけ、私たちは部屋へ入っていった。








<Side 才人>


気が付いたら、思わず抱き締めていた。

いつもどこか余裕があるラリカの、あんな表情とか仕草とか、反則だ。
それ以上にラリカの事が少しだけ分かったんだと思ったら、止まらなかった。

「さ、才人…君?」

戸惑うような彼女の声。
…ラリカの身体、柔らかい。何かいい匂いもする。
こんなに華奢で小さいのに。誰よりも思いやりがあって、なのに自分は蔑ろにして。
感情が津波のように押し寄せ、抱き締める腕に力がこもる。

アルビオンで泣いたルイズに抱きつかれた事はあった。
でもあの時は彼女を慰めるのに精一杯で、それに自分からじゃなくて。

「ラリカ、俺っ………」

口が勝手に動く。自分が何を言おうとしてるのか分からないけど、それに任せてしまっても、

「あの、ちょっと、苦しい…かも」

!!

「あ…、ご、ごめん!!」

我に返り、慌ててラリカを放す。

俺、何をしようとしてたんだ!?

「あ、あはは…、びっく~りしちゃったぜぃ」

「ホントごめん!!思わずその、つい!」

正直に謝る。そして、顔を上げると同時に、自分の中にあった決意を口にした。

「でも俺、決めたから。迷ってたけど、もう決心付いたから」

以前、言えなかった言葉。言わせてもらえなかった言葉を。


「許してくれなくてもいい。それで嫌われたって構うもんか。俺は…ルイズも、ラリカも守る!!」



※※※※※※※※



「相棒、ホント優柔不断だな。何だよあの台詞。ラリカ嬢ちゃんじゃなかったら完全に愛想尽かされてるぜ?」

デルフが呆れたように言う。

「ならどう言やよかったんだよ」

「そりゃ“俺はラリカを守る”だろ。てかよお、ああいう場面じゃそう言うもんだろ。他の娘の名前を出すか、普通?」

尤も過ぎる意見だ。剣のくせに。

「俺だって言いそうになったよ、でもまだ分かんねえんだよ」

「ラリカ嬢ちゃんの事は一時の気の迷いかも、って意味か?」

「ちげえよ!…そんなんじゃねえ」

ルイズとラリカ、自分にとってどちらが“そう”なのか。まだ自分でも分からない。
だからこそ、一時の感情じゃなく、真剣に考えて答えを出したいんだ。

「ふぅん、まあどうでもいいんだけどな。俺ぁただの剣だし。ただ、投げっぱなしは後々面倒になるから気を付けろよ」

「だからケジメはつけるって言っただろ?」

「まぁ、ラリカ嬢ちゃんは相棒がどっちを選んでも納得してくれそうだけど。娘っ子の方は知らねえぞ。何でもいいけど、使い魔が痴情の縺れで主人に殺されるのなんて見たかねぇからな」

そう言ってデルフは笑う。他人事だと思いやがって。

「…ケジメは付けるさ」

「で、結局どっちなんだ?とりあえず俺にだけ教えろって」

「だから!まだ悩んでるって言っただろ?どうでもいいんじゃなかったのかよ!?」

「いや、相棒の反応があんまり面白れえんでつい、」

無言でデルフを鞘に収める。

「だから、まだ分かんねえんだよ」


溜息をつき、見上げた空には2つの月。

どちらも綺麗で、どちらかを選べと言われても選べそうにない。




「………分かんねえんだよ」





[16464]  幕間7・平穏で、平和な、小さな宴
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2010/03/19 00:36
幕間7・平穏で、平和な、小さな宴





全部終わったら、何をしよう。恋人でも見付けようか。その前に、友達かな。 “私”にできるかどうかは不安だけど。





誰かに聞いた話。

嘘つきのジレンマ。
嘘つきは、嘘を明かさない限り守られる。他人からも、自分からも。
のらりくらーりとシリアスなイベントを避けてかわして、傷付けないように、傷付かないように生きられる。

でも、嘘つきはやがて“本物”が欲しくなる。

カンタンな生き方をしてるから、カンタンに手に入りそうだと錯覚してしまう。
嘘つきは何も失わない代わりに、得ることもできないというのに。

誰かに聞いた話だ。
嘘しかつけない私には、どう頑張っても何も手に入らない?
冗談。

ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティアは諦めない。
嘘を纏って、嘘を引き摺り、それでも幸せになってやりますよ。やるので~す。






「おぉ!ラリカ嬢ちゃん!そろそろ来る頃かと思ってたぜ」

厨房に顔を出すと、マルトーはじめ数人の使用人たちが歓迎してくれた。
まあ、目当ては例のアレなんだろうけど。

「何と、私の行動はバレバレでしたか。でも、コレはバレてなかったはずですよー」

いつものジェネリック秘薬、ハンドクリームと一緒に、ショボい香水の瓶を取り出す。
新作の低コスト☆ワイロアイテムだ。

「香水?学院メイドにか?…う~ん、でもメイドが香水の匂いなんてさせてたら貴族連中に何言われるか…」

「ちっちっち、コレは特別なんです。まあ、ものは試しで…ちょっと失礼」

一緒に覗き込んでいたメイドに、香水を吹きかける。ふわりと、セッケンの匂いが香った。

「石鹸の匂い?」

「はい。清潔感を前面に出した、名付けて『働くメイドの香り』。個性ゼロに加え、派手さも珍しさもないからお洒落には向いてないですけど、逆にメイドにはピッタリかもと」

ミス・モンモランシが聞いたらバカにされること請け合いだろう。
まずこの世界じゃ需要がない。買う層も貴族や金持ちが殆どだし、そもそも香水を買う目的は個性とかお洒落だからだ。
誰がわざわざお金を払って普通の石鹸なんかの匂いを纏いたがるのかって話になる。

「一生懸命働いてると、どーしても汗とか出ます。体臭とかが誤魔化せなくなる時も。でも、コレを吹き付けておけばアラ不思議。前を横切る度に、清潔そうな石鹸の香りがふわ~りと漂っ、」

5つほど用意しておいた瓶が、メイド達に奪い去られた。

「…あ~、どうやら使ってくれるみたいですね」

「…そうみてえだな。ハンドクリームも消えてるし。大人気だな、ラリカ嬢ちゃん」

「いやー、持ってきた甲斐があるってものですよ。じゃあ、いつものように秘薬の材料になりそうなモノ、いただいていいです?」

明日は開戦前最後の虚無の曜日。
どーせやる事もないので、秘薬作りでもしようと思ってる。
お金はそこそこ貯まってるし、そんな稼ぐ必要はないんだけど、暇潰しにはもってこいだ。

「もちろん!何でも持ってってくれよ!…でもよ、ラリカ嬢ちゃん。ちゃんとした秘薬を作らなくても俺らにくれてる薬を売れば、金持ちになれそうな気がするんだけどな」

ジェネリック秘薬とかハンドクリームを?

「売れるのは最初のうちだけですよ。作り方カンタンだし、材料も安いんで、すぐに真似されるのがオチですって。で、効率の悪い私のは結局売れなくなると。だったらお世話になってる皆さんにタダであげた方が何倍もいいじゃ~ないですか」

それにジェネリック秘薬とかって効果がバラバラだし。
てきとーに作ってるから仕方ないんだけど、そんなの売ったら後で大変なコトになりそう。

「くぅ~っ!やっぱラリカ嬢ちゃんはいい子だ!!俺に息子がいたら是非とも嫁にって言うのによ!!」

息子ってかマルトーって結婚してたっけ?特に興味ないので家族構成とか聞いた事がない。
それと一応私、貴族なんですけどね。まあ、平民のお嫁さんも悪くないけど。

「マルトーさん、ミス・メイルスティアは貴族様ですよ」

メイドの1人が苦笑しながら言う。その苦笑に二重の意味を感じるのは気のせいじゃないだろう。
“貴族様”の前に、不可聴の“一応”があるような気がしてならない。

「そうだったな!いやぁ、すっかり忘れてたぜ!ラリカ嬢ちゃんは、普通の貴族連中と同じには見えないからな!」

楽しそうに笑うマルトー。悪意がないだけに始末が悪い。
私は学院の使用人たちに慕われてるのか?それとも馬鹿にされてるのか?どっちもなのか?
まあ、別にいいんだけど。そんな事にいちいち怒るようなプライドはないし。
私が実害を被らないのなら、多少のサービスもやぶさかじゃ~ないのです。


※※※※※※※※


袋いっぱいのキノコを手に、部屋に戻ったら…ドアの前に赤青コンビがいた。

「や、キュルケ。ど~かした?あんどタバサ、はしばーみ」

「何その『はしばーみ』って。あなた達だけで通じる合言葉か何かなの?」

「そうなの?」

キュルケがタバ子に訊き、タバ子は私を見る。
そうか、分からないか。大丈夫、私も分かんないから。てきとー言っただけだし。

「んー、私にも分からないな~。それよりどーした?」

不思議そうにするタバ子をナデナデしながら再び訊ねる。

「ああ、暇だから遊びに来たの。明日は虚無の曜日だから夜更かしでもしようかなって。でもドアは閉まってるし、“アンロック”で開けたけどいなかったから待ってたのよ」

こっちの都合は無視ですか。とゆーか、主不在の部屋の鍵を開けるな。

「なるなーる、つまるトコロ、ラ・ロシェールの夜みたく晩酌に付き合えと」

「つまるところそれね」

前回寝不足に陥り、二度とキュルケの晩酌には付き合わないと決心したんだが。

「う~ん、でもタバサが、」

「眠くない」

やはりあの手は通用しないか。寝ないと大きくなれないぞ~?どこがとかは言わないけど。
しかし、また3人で飲んだら確実に前回の二の舞だ。
しかも私の部屋がえらいことになりそう。宿なら放置でチェックアウトできるが、自室は私が後始末しなきゃならない。
できれば断りたいんだけど、どーせ無駄だろうなぁ。

「でも3人この部屋じゃ狭いよーな気も」

「別に構わないわよ」

いや、私が構うんだって。
何かいい方法は、と思ってたら、人生終了したみたいな顔をしたギーシュが歩いてきた。

「あ、ギーシュ君。妙なトコロで会いますなー」

ここは女子寮だ。男の子が闊歩してるのは問題でしょう。才人は別として。

「やあ…ラリカ。キュルケにタバサもいるじゃないか。ははは…、仲いいんだね…」

どんより暗い。心なしか、造花の杖もしなびて見える。

「随分元気ないわね。モンモランシーに絶交されたとか?」

「いや、それどころか全く口を利いてくれないんだ…。最近は他の女の子に声を掛けたりもしてないのに、一体何がどうなって…」

はぁ、と深い溜息を漏らす。
うん。十中八九、宝探しの所為だ。
一応オトコはギーシュ以外にも才人がいたんだけど、ミス・モンモンにとって彼は平民=カウント外。
実質、美少女3人(ルイズ・キュルケ・タバ子)&使用人2人(才人・シエスタ)、どーでもいいオマケ1人(私)で小旅行をしたって認識なのだろう。
明らかに愛想尽かされるなコレは。まあ、放っておいてもそのうちヨリは戻るだろうけど。

「何だかね、あんまり無視されるものだから、僕の存在自体が希薄になってくような気さえするんだよ…。今なら“フライ”なしでも空を飛べるかもね…あはは…」

重症だ。

「ちょっと!雰囲気暗くしないでよ!今から楽しく飲もうって時に!」

「台無し」

何気にタバ子も酷い。
でも…うん、何だか突き詰めれば私の所為っぽいし、ココは少し元気付けてあげるべきよ~な気がする。
ついでに私の部屋で晩酌するのを防いどこう。

「よし!じゃあギーシュ君も一緒に飲も~か!てきとーな部屋でも借りて、宝探しの反省会って感じでどーでしょう?」

「…反省会?まあ、それもいいわね。でもそんな場所借りれるの?」

「教室とかは無理だけど、平民の皆さん用の部屋とかなら広いのあったような。マルトーさんにお願いすれば何とかなるんじゃないか~な。質素だったりするかもだけど、そこのトコロはご容赦くださいな」

「あたしは別にどんな場所でも構わないわよ。じゃあ、ルイズとダーリンも呼びましょうか。シエスタは…タルブに残ったんだったっけ。ま、仕方ないわね」

いくら反省会って名目だからとはいえ、キュルケの口からルイズも誘おうなんて言葉が出るとは。まあ、才人を呼ぶついでなんだろうけど。
勝手に話が進み、ついていけないでいたギーシュに笑みを向ける。

「と、いうワケでして。飲んで語り合って、辛いコトなど吹き飛ばしちゃおーか。で、ミス・モンモランシの機嫌を直す方法を皆で考えよう?」

多分誰も考えてくれないけど。気晴らしにはなるだろう。
男女の機微とかはてんで分からないゆえ、それくらいで勘弁して下さいなーっと。


※※※※※※※※


厨房のすぐ近くにある一室、普段はミーティングみたいな事をやるらしい部屋が“反省会”の会場になった。

貴族のワガママなんかに…とか渋るかなーとも思ったが、すんなり部屋を貸してくれたし、簡単なおつまみも作ってくれた。加えて後片付けも免除。
ワイロ効果は素晴らしい。まあ、流石に給仕とかは付けてくれなかったけど。

「ぼくはねー、考え直したんだよ!ぼくという薔薇は、確かにたくさんの女の子をたのしませることができる!まちがいない!!でもね、ぼくは1人なんだよ!ぼくわねー!」

泣きながら語るギーシュ。確か酔うと泣くタイプだったような気が。
てかどれだけ飲んだんだ?
しかもギーシュが語っている相手はタバ子だ。
誰を相手に話しているのかすら分かってないのかもしれない。まあ、タバ子は微塵も聞いてないよーだけど。
相変わらずのマイペースでぽくぽくと何か食べている。

「ぼくはね、ぼくを得ることのできないたくさんの女性を傷付けたくないのさ。だから、今後はモンモランシーだけを、愛すると!心に決めたばかりだったんだ!なのにね…肝心のモンモランシーがあれじゃ、どうしようもないじゃないか!」

「そう」

一言で済まされ、ギーシュはさめざめと泣いた。
元気になってもらえたらと思ってたけど、スマン、ダメだったみたいだネ☆

「サイトぉぉぉ!!同じ男として!君なら僕の気持ちを分かってくれるよね!?」

「いや、分かんねえよ。それとメソメソ泣くな、気持ち悪い」

「ひどっ!!悲しみにくれる友に何てことを!?」

…今度は才人に絡んでる。うん、若干楽しそうで良かった。才人は迷惑そうだけど。

「だから、火の本領は破壊と情熱よ。命を燃やす情熱、すべてを壊してしまうような恋。素晴らしいと思わない?色恋関係なら火の性質は一番思い浮かびやすいと思うけど」

「姫様の結婚式で『命を燃やせ』とか『すべてを壊せ』とか言えるわけないじゃない。あくまで“火に対する感謝”を詩的な言葉で詠むのよ?ツェルプストーはやっぱりセンスがないわね」

「『火は熱いので気を付けること』とか言ってるヴァリエールにだけは言われたくないけどね。それ、明らかに感謝でも詩的でもないじゃない」

「私は詩人じゃないのよ。仕方ないじゃない」

「それにしたって…」

ルイズとキュルケはさっきから詔の話題で盛り上がって(?)いる。
キュルケには聞かないんじゃなかったか?時間もないのでそうも言ってられなくなったか。

「ねえラリカ、水。水で何かいいのない?」

「私の座学成績ご存知でしょーに。それよりギーシュなら色々知ってるかもかーも。女の子を口説くのに、詩とか使ってそうだしね」

「ギーシュは馬鹿だから駄目よ。ボキャブラリー乏しいもの」

「ギーシュは駄目ね。あたしも一度口説かれたけど、同じような台詞ばっかりだったし」

ルイズもキュルケも、こういう意見は合うんだ。ギーシュ哀れ。

「あ~もう、あと何日もないってのに、全然思い付かない!!」

「成績はいいのに。勉強ができても応用力はないのね」

「うるさい。あんたはいちいち一言多いのよ。ラリカー、一緒に考えてよ~」

「ラリカ、ルイズを甘やかしちゃダメよ?それにルイズ、これはあんたが考えなきゃいけないんじゃないの?一応、名誉な事なんだし、自力で何とかしなさいよ」

正論だ。ルイズは、う゛~って唸ってたが、結局反論できず、机に突っ伏す。

「だめ。なんも思い付かない」

「ま、せいぜい頑張ってね。知恵熱出して寝込まないように」

キュルケはそう言いながらルイズの頭を軽く撫でるが、ルイズは別に怒らない。そんな余裕がないだけだろうけど。
からかっているというより、何だかタバ子にしているような扱いだ。
キュルケ自身も酔ってるのかもしれない。それとも、少しだけ仲良くなってるとか?有り得ないか。

「キュルケ、女性の視点から見て、モンモランシーとぼくは元の恋人同士に戻れそうかな?しょーじきに言ってくれ!ぼくはね、まずそれをはっきりさせたいんだ!」

才人に相手してもらえなかったのか、ギーシュがフラフラとこっちに来た。

「そんなの聞かれても分からないわよ。いっそ、きっぱり諦めて次の恋でも見付けたら?あたしはパスだけど」

「次の恋か…、いやでもしかし…う~ん、」

「ケティだっけ?あの子はどうなのよ」

「いや、ケティも可愛いんだが…でもやっぱりモンモランシーが…」

優柔不断してる。ルイズは机に突っ伏したままだし、コイツはキュルケに任せよう。
何となくやる事になった“反省会”だが、まあ、それなりに悪くないんじゃーなかろうか。




戦争突入前の、本当に平和な一時。


コレでコイツらが原作メンバーじゃなかったら、こんな感じで続いていくのも良かったかもしれない。平穏で平和な空気が、ここにはあるから。



ど~せすぐに消えちゃうんだけどねー。諸行無常ってコトですな。






あははのは~っと。





[16464]  幕間8・知らないトコロで乖離は進む
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2010/03/19 02:43
幕間8・知らないトコロで乖離は進む





知らぬがブリミル。世界は多岐で、どこ吹く風で、今日もどこかで何かが起こる。何がどーなるのか、何が変化するのか。





<Side モンモランシー>


とりあえず、決心は付いた。

あの泥棒猫を始末しよう。
確かに、ギーシュとは別れた。未練はない。ないったらない。
あんな浮気っぽい男、ほとほと愛想が尽きていたんだから。
いや本当に。
だから別に悔しいとかそういうわけじゃないけど、とにかく!
あの娘は泥棒猫なのよ。
始祖に代わってお仕置きする必要があるの。

聞けば、宝探し旅行もあの娘の発案だって言うし、夜中に抜け出してデートに行ったっていう噂も聞く。
で、極め付けは昨日の飲み会。わざわざこっそり使用人の部屋まで借りて、真夜中まで何やってたんだか。

ちょっと黙ってればいい気になって…地味子のくせに!
成績だって悪いし、魔法だって才能ないし、使い魔は気持ち悪いくせに!
同じ水メイジ、しかもあらゆる点でわたしに負けている劣等生のくせに!!

…まあ、いいわ。
“これ”はギーシュに飲ませようと思ってたけど、あの娘にも飲ませてあげる。
そうね、それでマリコルヌの顔でも見せてあげましょうか。
それでどうなるか。

わたしはお似合いだと思うわよ。心の底からね。“どんな事になっても”祝福してあげる。
あの娘なんて放っておけば嫁の貰い手もいないだろうし、逆に感謝されるかも。

ふふっ。
あははっ、あはははははははははは!!!

…おっと、ダメよモンモランシー。冷静に。慎重に作業しないとね。
失敗したら大枚をはたいて買った“この液体”が無駄になっちゃうわ。
何せ、エキュー金貨700枚もしたんだから。

ふふふっ。
もうすぐできるからね~、楽しみに待ってなさいよ?

メイルスティア。“絶望”のラリカ。
このモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ のプライドを傷付けて、ただで済むとは思わない事ね。








<Side Other①>


「サイト~、夕飯の時間よ。また“ひこうき”を構ってるの?」

才人が“竜の羽衣”、ゼロ戦の整備…といっても、各部を磨いたりするだけだが…をしていると、ルイズがやって来て声を掛けた。
先日、エンジンがかかり、後はコルベールがガソリンを必要量“錬金”するのを待つのみとなっている。

「ああ、何せもうすぐ飛べるんだからな!」

嬉しそうに言う才人に、しかしルイズも苦笑する。

「こんなのが空を飛べるなんて、いまだに信じられないけどね。で、例の“がそりん”ができたらロバ・アル・カリイエに行くの?」

東の先、エルフとの争いが絶えないという世界。

「この“ひこうき”の持ち主はそっちから飛んできたっていうし、俺が元いた世界に戻る手がかりがあるかもしれないんだ。行ってみせるさ」

「やっぱりまだ帰りたい?」

「何にしても一度は帰らないとな。家族も心配してるだろうし…」

家族、という言葉にルイズが反応する。

「………」

無言になったルイズに気付き、才人は慌てて言う。

「あ、ああ!気にするなって!元気でいるって事を知ってもらえればいいだけだから」

望郷の念はある。帰らなくてもいいと言ったら嘘になる。
でも、まだここでやらなきゃいけない事が残っている。とても大事な事が。

「できればさ、」

ゼロ戦に触れた。ガンダールヴのルーンが、この古い同郷の武器の詳細を流し込んでくる。
懐かしさが心に満ちてきた。

「こっちと俺の世界を行き来できるようなモノがあればな、って思ってるんだ。そうすれば全部解決だろ?その、ロバ何とかって場所にそういうのがあったらいいんだけど」

「できる限りの協力はしてあげるわ。でも“がそりん”ができたからって、勝手に行っちゃダメよ。あんたは私の使い魔なんだから。それに、もうすぐ姫様の結婚式だし」

才人は当然だとばかりに笑う。

「分かってるって。ルイズもラリカも守らなきゃいけないし、当分は帰らないよ。せめてメールでもできればな、とりあえず無事だから心配しないでって伝えれるのに」

「めーる?」

「ああ、前にパソコンってヤツを見せたろ?あれでインターネットっていう…、あ、そういや夕飯だったっけ」

せっかくルイズが呼びに来てくれたのに、こんな所で喋っていても仕方ない。
ルイズも当初の目的を思い出したか、そうだったわね、と頷く。

「まあ、その話はまたにするわ。さっさと行くわよ。…それにしても詔、全然いい言葉が思い付かないの。ほんと困ったわ」

ルイズが歩き出しながら溜息をついた。才人もその隣に並ぶ。

「じゃあ俺も聞いてやるよ。何か思い付いたこと、言ってみ」

「えっと、“火は使いようによっては、いろんな楽しいことができる”」

「…それ、“愉快なヘビくん”の時にコルベール先生が言ってた台詞じゃないか?あと、『できる』って詩的じゃねえだろ。説明だろそれ」

「うるさいわね。“水も滴るいい女”?」

「それ、姫様を褒めてるのか?どっちにしたって詩的じゃないな」

やはり、ルイズには全く詩の才能がないようだった。


※※※※※※※※


隣を歩くご主人様を見ながら、才人は考えた。

帰りたいのは確かだが、本当に帰れる日が来たら…そして、帰れば二度とハルケギニアに戻って来られないとしたら。
その時、俺は何を選択するのだろうか。

ルイズやラリカと、笑って別れることができるんだろうか。
それとも帰るのをやめ、この世界で生きていくことを決意できるんだろうか。
“ケジメ”を付けることができるんだろうか。

分からない。
でも……、と才人は思う。
この世界でできた、たくさんの大切な存在のために、自分にできることをしてあげたい。
自分のために、友達のために。そして、2人のためにも。
後悔するような選択だけはしないでおこうと思うのだった。

そんな感情は、元いた世界では感じたことがなくって……。
何となく気持ちが引き締まり、とりあえず一番そばにいる大切な存在、ルイズの頭を撫でてみた。


ルイズは『あんた、馬鹿にしてるのね』と唸り、普通に殴られた。









<Side Other②>


「…と、まあそんなとこかね。で、どう動くつもり?」

緑髪の女、フーケは、背を向けて自分の話を聞いていた相手に訊ねる。

「情報が少ないな。思い切った真似はまだできそうにない。だが、標らしきものは見えてきた」

義手の男、ワルドは鼻を鳴らし、振り返った。

「茶番は所詮、茶番だという事だ。最後まで付き合ってやる義理はない」

「でも、利用はさせてもらう…と」

フーケが笑みを浮かべる。

「そういう事だ。だがやはり、まだ情報が少なすぎる。奴を操っているのが“かの国”だとすれば、その目的が知りたい」

「調べられないことはないけど…なにぶん時間が足らなくてね。今度の侵攻軍にも斥候隊として派遣される事になったし。あんただって“お役”を仰せつかったんだろ?」

「それなんだが、僕は“偏在”を使うつもりでいる。戦功は最早どうでもいいからな」

ワルドの言葉に、フーケは怪訝そうな顔をする。

「君も無理をするな。少しでも不利を感じたら離脱しろ。茶番と知っていて、身を危険に晒す必要はないからな」

「へえ、心配してくれてるのかい?」

「ああ。君の情報収集スキル、魔法の実力、どれを取っても僕には必要不可欠な物だ。つまらん所で無くすわけにはいかないさ」

「随分と高く買ってくれてるじゃないか。ま、そう言われるだけの事はやってるんだから当然なんだけどね」

「自信家だな、だが慢心はするな。以前の僕のようになりたくなければな」

義手になった左腕に目を落とす。

「ご忠告、痛み入るよ。…でも、あんたはまだ私に当面の目的すら話してくれてないよね?信用してくれてるなら、少しくらいは教えて欲しいもんだけど」

「知れば、抜けることも叶わなくなるが?」

フーケは少し沈黙し、やがて鼻で笑った。

「以前あんたに貰った金のお陰で、私の憂いは殆どなくなったからね。いいよ、最後まで付き合ってやろうじゃないのさ」

「本気か?」

「しつこいよ」

ワルドの口元が微かに綻ぶ。

「すまなかったな。分かった、話そう。と言っても、予想は付いているんだろう?」

「まあね。ヤツはあんな危険なマジックアイテムを持ってるんだ、いつ私らも操られるか知れない。それこそ、“傀儡の傀儡”ってヤツさ」

「やはり行き着く先は同じか。それでフーケ、君は“アンドバリの指輪”を作ることはできるか?」

「怪盗“土くれのフーケ”に何言ってるんだよ。そっくり同じ物を作ってやるさ。もちろん、見た目だけの贋作だけどね」

「上等だ」

「で、それを私に聞くって事は…冗談とかじゃなく、本気でやるつもりってわけか」

「愚問だな。フーケ、それは答えるまでもない質問だよ」

僅かな沈黙。
ふう、とフーケが溜息をつく。呆れたような、感嘆したような笑みを浮かべて。

「強い男だね……。魔法の実力だけじゃなく、心も。初めは弱い男だろうと思ってたけど、なかなかどうして。一体アルビオンで何があったんだか」

ワルドも笑う。可笑しそうに、どこか誇らしげに。

「なに、ただ背中を押されただけだ。だが、思いのほか強く押されてね。弱さを纏めて押し流されてしまった。僕自身、ここまで変われた事に驚いているんだ」

「なるほど。でも、そのあんたの背中を押したとかいう奴も、今頃後悔してるんじゃないのかい?まさかあんたがここまでやる事になるなんて、思ってなかったろうし」

「…いや、それは無いな。言い切れる」

「どうしてさ?」

フーケの疑問に、ワルドはかぶりを振る。


そして、答えた。


“例え何があっても。彼女は、誰の『大切』も否定しないのだから” と。





[16464] 第三十一話・虚無がどこかで覚醒してる頃に
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2010/05/08 21:35
第三十一話・虚無がどこかで覚醒してる頃に





“ゼロ”を乗せた“ゼロ”の名を持つ機械の翼。時間と空間の壁を越え、異世界の空を翔ける。その翼が運ぶのは?とりあえず、未来をよろしく。





<Side Other>


人影のない村に騎士は怪訝そうな顔をしたが、とりあえずドラゴンを操り、辺りの家々に火を吐きかけさせた。
次々に炎上する建物、しかし、やはり誰も出て来ない。
無人の村だと聞いた覚えはない。
領主が避難勧告をして間に合ったというのも考えられない。降下作戦は、戦争自体がトリステインには予測不能の事だったはずなのだ。
と、石造りの建物から数体のオーク鬼が恐慌状態で飛び出してきた。

「…オーク鬼に占領されていたか。村の連中は運がいいのか、悪いのか」

こんな境遇に陥った村などハルケギニアには幾らでもある。
まだ打ち捨てられて時間は経っていないようだから、数週間、もしくはほんの数日前に村人たちは去ったのだろう。
竜のブレスでオーク鬼を焼き尽くす。

そして騎士は、他の竜騎士たちの方へ戻っていった。




大きな風竜に跨ったワルドは、小さく鼻を鳴らした。

後方を見ると、レキシントン号の甲板かロープが吊るされ、兵が次々に草原へと降り立つのが見える。
茶番だな、と呟き、“5体のオーク鬼がいるだけの村”を見下ろした。いや、“いた”だけの村か。
先ほど部下の竜騎士から村は無人で、住み着いていたオーク鬼も始末したとの報告があった。
本隊の上陸前のつゆ払いが村を襲撃した目的なのだ。無人と分かった今、村をどうこうする理由はないはず。眼下に広がる家々は、ほぼ無傷だ。
幾日か前の夜、“彼女”と再会した時と殆ど変わりはない。

そろそろタルブ領主の軍がやって来てもいい頃だろう。
戦争が始まる。
かつての祖国を相手に。




※※※※※※※※




朝、禁足令が通達された。

いわゆる開戦ってやつだ。報を聞いた先生&生徒は突然の事態に混乱する。
私もショックで思わず部屋に引き篭もって秘薬作りを始めた。

…うん、全然ショックじゃないっていうか、ずっと前から知ってたしね。どーせこうなるって分かってたから、秘薬の材料たくさん仕入れといたし。
前回はトリステインの一時的勝利が知らされるまで、部屋の隅っこで怯えていたけど、今回は時間を有効活用できる。
いやー、持ってて良かった原作知識。

じゃあ、禁足令解除までタプ~リ秘薬でも、
とか思ってたら、キュルケが入ってきた。“アンロック”すんな。

「ラリカ、…ってあなた、何やってるのよ」

ご覧の通り、るつぼの中の秘薬をすりこぎでコネコネしてるよん。

「秘薬作り?」

「作り?じゃないわよ。開戦とか言われたらもう少し緊張するとか…まあいいわ。ねえ、ルイズとダーリン知らない?結婚式が無期限延期っていうから、ゲルマニア行きも中止になったはずなのに。確か今朝よね?ゲルマニア行き」

そう、詔を詠み上げるって役割があるから、2人はゲルマニアへ随行する予定だった。
無難っぽい詩が昨日の夕方完成し(結局タバ子に頼った、というか、あの子が読んだ事のある本から引用しまくって何とか作った)、誇らしげにキュルケに自慢してたし。
ニコニコ笑顔で詩を詠むルイズを見るキュルケの眼差しが、やたら慈愛じみてたのを覚えている。
ルイズもタバ子がキュルケに顛末を語っていないとでも思ってたんだろーか。

「ん~、そういえばそーだね。既に出掛けてて、途中で中止って知らされたのかも。だったらまた戻ってくるんじゃないかなか~な」

実際は既にゼロ戦でタルブに向かっているはずだ。てか、ゼロ戦速いから既に到着&戦闘してるかも?
とりあえず、キュルケに2人が行ったのを知られるのはマズい。
いずれ知られるにしろ、もうしばらくは知らないでいてもらわないと。
いくらなんでもないとは思うけど、タバ子に頼んでタルブへGO!とか言われたら堪んないし。

「あ、そうかもね。早朝出発とか言ってたし」

「“竜の羽衣”がない」

…青いのもいたのか。
キュルケの後ろからタバ子が顔を出す。

「あのへんてこりんなカヌーモドキが?ダーリンが毎日一生懸命いじってたけど…」

窓から中庭を覗く。確かにない。知ってるけど。

「ほんとにないわね。処分したのかしら?」

キュルケもアレが飛ぶなんて微塵も信じてないので、まさかアレに乗ってタルブに行ったとは思わないだろう。

「ま、ダーリンが帰ってきたら聞いてみましょ。どっちにしても禁足令が解除されないと何もできないしね。ラリカ、どうせ暇だから、」

オマエさんは暇でも私は秘薬作りで暇チガウっちゅうに。
でも最後まで言う前に、また誰か入ってきて言葉は遮られた。

てかさ、私の部屋はフリー入場じゃーないぜぃ?どうして誰もノックしないんだ?
とか思いつつ、侵入者を見る。キュルケとタバ子も振り返った。
…ミス・モンモランシ?ワイン瓶を片手に、何だ?

「お邪魔する、あっ…」

で、固まるモンモンさん。本気で何だよ一体?

「あら、モンモランシーじゃない。あなたってラリカと親しかったっけ?」

私が訊ねる前にキュルケが声を掛ける。

「しかも、何でワイン瓶なんて持ってるのよ。酔っ払って部屋でも間違えた?」

「なっ!そそ、そんなわけないじゃない!これは、」

「何よ」

「…部屋を間違えたわ」

ミス・モンモランシとは微塵も親しくないどころか、まともに喋った記憶すらない。
まあ、そう考えるのが妥当だろう。なら、ノックもなかった理由も納得だ。ワイン瓶は流石に意味不明だが。

「あー、ミス・モンモランシ。酔ってるなら部屋まで送ろ~か?」

酔ってるようには見えないが、彼女の部屋は全然違う場所だ。
それを間違えるくらいなんだから相当酔ってるんだろう。酔いが顔に出ないタイプなんだろーか。
でも朝っぱらから酔っ払うってどーよ?戦争怖くて現実逃避してたとか?
“前の私”にひけを取らないヘタれっぷりですなぁ。

「いらないわよ!」

ナゼか微妙に怒って、モンモンさんは出て行った。

「何よあれ。全く、一言くらい謝ればいいのに。勝手に入ってきて」

呆れたように言うキュルケ。うん、でもキミも勝手に入ってきてるんだけどネ☆
まあいいんだけど。

「まあまあ、誰にでも間違いなんてあるものなのでーす。それより、ホントに部屋まで辿り着けるかどーか心配かも」

「あんなの放っとけばいいわよ。それより話の続き。要するに暇なのよ」

「で、つまるところ私にどーにかしろと」

「つまるところそれよ」

ダース単位でいるボーイフレンドはど~した?出掛けられなくたって、お部屋でイチャイチャとかしてればいいでしょーに。

「そかそか。でもタバサが、」

「眠くない」

うん、分かってる。狙ってたんだし。
とりあえず、ナデナデしておく。この掛け合いも慣れてきた。
どうせもうすぐ終わるんだし、今のうちにタバ子いじりもやっとかないと。王族にこんな真似、今後は一生できなくなるからね。

「う~ん、暇って言われてもなぁ。流石にこんな時間から飲むわけにはいかないし、授業はないけど街へ行くわけにもいかないしね。実にやることないですな~」

「こっそり学院を抜け出して行けばいいじゃない?」

「多分、行っても無駄」

撫でられながらタバ子が言う。そろそろ止めるか。

「タバサの言う通り。街だってかなーり大慌てじゃないかな。買い物とかはあんまり期待できない気がしないでもなかったり」

「じゃあどうするのよ」

じゃあどうするも何も、私はスデに秘薬作ってるんですけどねー。
キュルケはキュルケで何か暇潰しを見付けてくれ。

ドアがノックされる。私が返事しようとしたら、タバ子が魔法で勝手に開けた。
だから部屋の主は…、あ~もう。何か言う気も失せた。

「ラリカ、って、キュルケ達もいたのか」

ギーシュ。
まさかオマエさんまで暇だからどーにかしろとか言いに来たんじゃないよね?

「あらギーシュ。まさかモンモランシーを諦めて、今度はラリカを狙ってるわけ?」

「違うよ!まだ僕はモンモランシーを諦め…じゃなくて。ラリカ、ルイズたちが“竜の羽衣”で飛んで行ったってのは本当なのかい?」

どこからそんな情報を。でもまあ、許容範囲だ。

「あれホントに飛んだんだ。才人君の言ってたのホントだったんだね」

「あんなカヌーモドキが?」

「すごい」

素直な2つの反応と私の嘘の反応に、ギーシュは、知らなかったんだね、と苦笑する。

「いや、僕も今朝、メイドに聞いた話なんだがね。どこへ行ったかまでは知らないようだったが、もしかしてラリカならと思って」

「残念ながら私も初耳だったりする。う~ん、何だろね」

「学院に禁足令が出ると知って、外出できなくなる前に出掛けたとか?でも、いくらルイズでもそんな事しないでしょうし。避難するために実家にでも戻ったのかしら」

「ヴァリエール家に戻るのは、逆に危険。学院の方が安全」

「ああ、一応学院は政治とは無縁の扱いになってるからね。それに、いくら何でも勝手に実家へ戻ったりはしないさ。ふむ、でもそれならルイズたちは一体どこへ…?」

戦場真っ只中へ一直線って発想はいくら何でもないだろう。
それにタルブが襲われたなんて詳細な話は生徒らに伝えられていないので、シエスタの危機に駆け付けたんだという予想にも行き着かない。

「ギーシュ君はルイズに何か用でもあったの?」

「え?いや、別に彼女らには特に用はないよ。ただついでに訊いてみただけさ。ラリカ、シエスタが君にお願いしたいことがあるようでね。もうすぐ本人が来ると思うが…」

は?シエスタ?

「シエスタはタルブで休暇中だったよーな?」

で、今頃戦争の脅威を目の当たりにしつつ、“竜の羽衣”を駆って敵を蹴散らす才人に惚れているはずだ。
それが何で?

「今朝戻ってきたんだよ。何でも僕らが帰ってすぐ、村にオーク鬼がやって来たらしくてね。村人は村から逃げて、シエスタはとりあえず学院に戻ることにしたらしい」

「タイミング悪かったわね。あたしたちが居た時にオーク鬼が来てたら蹴散らしてあげたのに」

「まったくだよ。まあ、それでオーク鬼の退治をお願いしようと、」

ドアがノックされる。無駄に来客が多い日だ。

「どうぞ~」

私が言うと、ギーシュがドアを開ける。
うん、直前の女3人の行動を見た後だからもの凄く常識人に見えるな。やったねギーシュ!

「失礼します、ミス・メイルスティア。…あ、皆さんもいらしてたんですね」

入ってきたシエスタはぺこりと頭を下げた。

「はぁいシエスタ。せっかくの里帰りが災難だったわね」

「運が悪かった」

赤青コンビの言葉に、シエスタは苦笑する。

「いえ、村人もみんな無事に避難できましたから。運が良かったですよ」

「被害者ゼロ?オーク鬼に襲撃されたのに?」

「最初、1匹だけが森に現れて。それが斥候だと村長が判断したんです。それで群れが来る前に逃げようと。私が学院に戻ってオーク退治をお願いするという事で、抵抗しようとする人もなく、すんなりみんな村を出ました」

…シエスタが断られる事とか想定してなかったのか?
まあ、あれだけ村に馴染んでたのだ。きっと来てくれると信じるのも分かる気がする。
それにシエスタだって旅でオーク鬼を簡単に倒してるのを見てるわけだから、断られるほど危険な依頼だなんて思ってないのかも。

でもタルブがオーク鬼に襲撃されるなんて原作になかったはずだ。
一体何がどーなってる?

「不幸中の幸いってわけか。オケ~イ、退治するのは問題なっしんぐだけど、今は禁足令出ちゃってるから行けないんだよね~」

それに、どーせタルブは今頃火の海だ。行ったってムダというか、危険すぎる。

「はい、わたしも学院に到着してすぐ、戦争が始まったって聞きました。それに今すぐ退治して欲しいというわけじゃありませんから、落ち着いてからでも充分です。避難先の村でも、事情が事情だからしばらくは滞在していいって言ってくれてましたし」

まさかその戦争でタルブが今、えらい事になっちゃってるとは知るよしもないシエスタは緊張感なさそうに言う。

「ま、解除されたら行ってあげるわよ。タバサ、シルフィードならすぐよね?」

キュルケが言うと、タバ子はこくりと頷いた。
どっちも面倒がる様子もなく引き受けるつもりのようだ。

「その時は僕も行こう。村人たちには世話になったしね。それに、ラリカには“錬金”要員が必要だろう?」

「おぉう、ギーシュ君も手伝ってくれるの。ちょっと感激」

多分行く必要はないだろうけど。
オーク鬼がタルブにいたとしても、今頃アルビオン軍に始末されちゃってるだろうし。

「別にあんたが来なくてもオーク鬼くらいどうとでもなるわよ?」

「いやいや、いくらオーク鬼なんかが相手だとは言え、女性だけで行かせられるわけないだろう?それに恐らく、この話を聞けばルイズやサイトも一緒に行くんじゃないか?」

「また宝探しのメンバーね。今度はのんびり泊まるなんて無理そうだけど」

「村が復興したら改めてご招待しますわ。村をあげて大歓迎させていただきますから」

「それは楽しみだ。いや、あの村の名物はどれも珍しくて美味しかったからね。うんうん」

…緊張感ゼロ。
戦争開始は知ってても、詳細なんて全く入ってこないからそこまで実感が沸かないのだろうか。キュルケやタバ子は単純に肝が据わってるだけかもだけど。

話はそこからタルブの思い出話に変わっていく。
オーク鬼が家とか荒らしてたら片付けが大変そうですよーとかシエスタが言ってたが、あんまり心配はしてないようだ。
タルブ降下作戦を知ったらどんな顔を…ああ、村人全員避難済みならそこまでショックは受けないかも。


私も適当に話を合わせつつ、窓の外を見た。
この空の下、ゼロ戦が飛んでいるのだろう。

そろそろ“虚無”は覚醒したかな?
村に降りて、誰もいないのに気付いたらルイズたちはどんな顔するんだろ?せっかく助けに行ったってのに。
ちょっぴり不憫かもかーも。





何だか微妙に原作と違うシナリオ。

一体全体、何がどう作用してこうなったんだろう。



まあ、どーせもう原作シナリオには関わらなくなるんだし、そう問題ないに違いない。
違いない。多分。





[16464] 第三十二話・虚無の告白、閃光の叛意
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2010/03/20 23:18
第三十二話・虚無の告白、閃光の叛意





無能(ゼロ)は、虚無(ゼロ)になって還ってきた。栄光と波乱に満ちた未来を背負って。凡人はそろそろ退場していいよね?





数日後、ブルドンネ街では戦勝記念のパレードが行われるなど、トリステインは奇跡の戦勝に沸いていた。
“聖女”アンリエッタ姫の戴冠も後に控え…何ていうかアレだ。
勝ったぜヒャホウって感じになってる。

ルイズ&才人はあの日の夜には帰ってきた。
原作通りなら、タルブで歓迎を受けたりするはずなんだけど、無人の村じゃどーしようもない。
最初はどっかに隠れてるかと探したが、広場に刺さっていた看板と、黒コゲのオーク鬼死体を見て理解したという。

『討伐隊の皆様、ご苦労様です。オーク鬼は石造りの建物にいます。退治が終わった○×村にご連絡下さい。 村長』

かわいそーに、それを読み上げたルイズは一気に緊張感が解け、ぶっ倒れたらしい。
シエスタはかなり感謝(オーク鬼自体を倒したのはアルビオン軍なんだけど)してたから、好感度は若干アップしただろう。
それがいつか才人への恋になると信じたい。

ちなみに彼女はタルブが解放されたから、再び里帰り&村のみんなにも知らせるとか言って帰っていった。
よって手作りマフラーイベントは消し飛んだっぽい。

まあ、そんな感じで仮初の平和が訪れた。




そして。

私の部屋にはルイズが訪れていた。
学院は街と違ってそんな雰囲気的に変化はないのだ。流石は一応学び舎。
食事がワンランク豪華になるとかくらいはして欲しかった。

「でもホント良かったわ。これで姫様もゲルマニアに嫁がなくて済むし。あ、もうすぐ姫様じゃなくて女王陛下とお呼びしなくちゃいけないわね」

クロスボウをいじりながらベッドに寝転がったルイズが言う。
どうでもいいけど、それって部屋に飾るとか言ってなかったっけ?

「よ~やく空席のままだったトリステイン王座がどーにかなるね。うんうん、戦況も落ち着いたようだし、良かった良かった」

「ラリカ」

ルイズはクロスボウを置き、じ~っとこっちを見る。
何だどうした?

「聞かないの?」

「何を?」

「私とサイトがどうやってアルビオン艦隊をやっつけたかって事」

「“竜の羽衣”の銃が凄かったって話は才人君から聞いたよ」

「違うわよ。“奇跡の光”の方」

それは超絶シークレット情報だろう。姫様以外には秘密にしといてもらわないと。
まあ、少ししたら公然みたいになるだろうけど、最初に打ち明ける相手は姫様であるべきだ。
てか、私にそんなコト話すな。

「ん~、奇跡が起こったってコトにしとけばいいんじゃないかな。正直、私の理解を超えた事態っぽいし。そのうち公式発表があるよ」

「実はね、」

って!せっかく興味ない雰囲気を出してやったのに!?
自慢したいの?でも簡単に話していいような問題じゃないだろ?

「ルイズ、」

「あれは私がやったのよ!ラリカ!信じられる!?私、虚無の担い手だったの!!」

言わなくていいよって言う前に、満面の笑顔になったルイズが抱き付いてきた。

「ル、ルイズ?」

「やったわ!私、“ゼロ”じゃなかったの!!それに、コモン・マジックなら成功するようにもなったの!成長してるのよ、私!」

「ええと、」

ふいにルイズの目に涙が浮かぶ。

「………だから、ラリカを守れるわ。約束、守れる。私、強くなったんだからね」

えへへ、と笑い、涙を隠すように私の胸に顔を押し付ける。
…あー、何だ。
それを言いたくて“虚無”を明かしたのか。そっか。
う~ん、実に迷惑だ。虚無に重要視されてるザコ学生なんて、各方面から格好の的にされるに決まってるし。

迷惑だけど…。
まあ、今回だけ。今回だけは気持ちだけ受け取っておきましょーか。いずれ考え直してもらうにしても今回だけね。
うん。

「だーから、ルイズは初めから強いよって前々から言ってるでしょーに。虚無でも、虚無じゃなくたって。ヒトの話は聞くように。…でも、アリガトね」

背中をポンポンと優しく叩き、髪を撫でる。
でもこのまま放っておくのは危険かも。そろそろ例のカードを使うかな。
面と向かって『オマエに重要視されてると逆に危険なんです勘弁して下さい』とか言うわけにはいかないし。
少しずつ距離を離していくのが一番だろう。

ノックもなしにドアが開く。
才人…と思ったらモンモンさんだった。
手にはワインの瓶。まーた酔っ払って私の部屋に?今度は戦勝で浮かれて飲んだのか?

「お邪魔、…あっ」

で、固まる。デジャヴどころの騒ぎじゃないくらい、前回と同じだ。

「ほ、本当にお邪魔だったみたいね。失礼するわ」

私が何か言う前にそれだけ言い残して出て行った。イミワカラン。
…まあいいや。酔っ払いは放っとこう。

「でもルイズ、“虚無”の事はもう話しちゃダメだよ~?みんなに言えないのは辛いかもだけど、ちょ~っと言いふらせるような問題じゃないからね」

ルイズをやんわり離し、笑顔で言う。
私に話したって事は、キュルケとかにも自慢しかねない。さっき去っていったミス・モンモランシにも。
それはマズすぎる。

「もちろんよ、サイトとも話し合ったもの。この事はラリカにしか言わないって。それに、虚無を話せなくたってコモン・マジックは成功するようになったから、“ゼロ”の不名誉は払拭できるわ」

一応考えてくれてた、じゃなくて。なぜに私オンリーに。しかも才人公認て。

「でも、ラリカがいてくれて良かった。虚無のこと相談できるもの。サイトはもちろん分かってるけど、ほら、異世界から来たから重大さがいまいち分からないと思うのよ。もしラリカがいなかったら不安で押し潰されてたかもね」

ルイズは笑って言う。笑い事じゃないんだけどね。

「いやー、過大評価かもかーも。わたくしルイズが思うほど頼りになる人間じゃ~ないですよ?私にできるアドバイスっていえば、無闇やたらに使っちゃダメかもってコトくらいで」

「充分よ。ラリカに聞いてもらうだけで不安とか、吹き飛ぶもん」

うん。
やっぱり放っとくのは危険だな。
まあ、姫様には既にバレてるだろうし、これで城に呼び出された時に“姫様と祖国のために虚無を捧げます宣言”&直属の女官就任イベントをこなせば何とかなりそうだけど。
いくら私に友情っぽいのを感じていても、姫様との本当の友情には敵わないだろう。
幼馴染パワーは凄まじいって聞くし。

「ま、お話聞くくらいだったら力になりましょ~。へっぽこドットメイジだけど、それでもいいならね」

頷くルイズに、私も微笑んだ。






翌々日。

才人が水兵服を持ってきた。凄い笑顔で。
うん、何となく予想はしてたけどね。
シエスタならともかく、私じゃ魅力ないでしょーに。

何だ、もうね。アホかと。











<Side Other>


「一兵士の君たちの責任は問わんよ。ゆっくりと傷を癒したまえ、ワルド君」

「閣下の慈悲のお心に感謝します」

クロムウェルの言葉に、ワルドはベッドに座ったまま恭しく頭を下げた。
体中に巻いた包帯が痛々しい。

「それにしても、“聖女”か。ただの世間知らずのお姫様と思っていたが、“始祖の祈祷書”を使い、王室の秘密を嗅ぎ当てたのかもしれぬな」

「王室の秘密?」

「3つの王室に始祖が分けた秘密だよ。ミス・シェフィールド」

クロムウェルが傍らの女性を促す。

「はい。トリステインは“水のルビー”と“始祖の祈祷書”。アルビオンはこの“風のルビー”ともうひとつ、まだ調査中の秘宝ですわ」

そう言って指に嵌められた透明な宝石の指輪を見せる。
確か、ウェールズが嵌めていた指輪だ。

「まあ、それはじきに見付かるだろう。それより、“聖女”どのに戴冠のお祝いを言上しなければね。…ウェールズ君」

廊下から、甦ったウェールズが部屋に入ってくる。

「お呼びですか。閣下」

「君の恋人“聖女”どのに、我がロンディニウム城までお越し願いたくてね。お迎えにあがってくれないか?君がいれば道中の退屈も紛れるだろう」

「かしこまりました」

傀儡と化した皇子の死体は、抑揚のない声で答える。

「ではワルド君。“聖女”を晩餐会に招待できたら、君にも出席願おう。まあ、それまでゆっくりと養生することだ」





クロムウェルたちが退室し、それまで黙っていたフーケが溜息をつく。

「死んだ恋人を餌に、残された恋人を釣る…ねぇ。ま、下種の小物らしいっちゃあらしいけど。似非貴族としても、司教としてもなっちゃいないね」

「だから傀儡に甘んじるしか道がないのだろう。所詮はその程度の器だ」

身体に巻いた包帯を剥ぎ取る。包帯の下は全くの無傷だった。

「あんたも役者だね、子爵サマ。これでしばらくの間は“養生”できるじゃないのさ。閣下のお墨付きまでもらっちゃって」

楽しそうに言うフーケ。

「斥候の君の協力あってこそだ。ところで、あの村の連中はどうなった?」

「タルブのかい?さあ。村もほぼ無傷で済んだし、そのうち戻ってくるんじゃないかね。けしかけといたオーク鬼は竜騎士が始末したんだろ?」

「そうか。その件も含め、改めて感謝するよ」

「そう難しくもなかったからね、別にいいよ。でも何だってあんな村を?国は裏切ったのに。あんな小さな村は守るとか…さっぱり分からないよ」

ワルドは小さく笑い、軽く溜息をつく。

「イレギュラーだ。僕とて、初めは放っておくつもりだったんだがな。あの夜、会わなければ村などどうでも良かったかもしれない」

「あの夜?偵察に行った日に誰かと?」

「あの村にルイズやガンダールヴがいたと言ったろう?怒りは人を強くする。現に、僕の“偏在”は例の飛行機械に敗れた。もしあの村に奴らの大切な者がいたとして、殺してしまえば後々面倒なことになりかねんからな」

…それに、“彼女”の『大切』があったとしたら。聡い“彼女”の事だ、村に現れた自分と、今回の侵攻を結び付けるに違いない。
だが、それはフーケには言わなかった。

「ふぅん。まあいいさ。で、これからどうする?」

「君は、あの秘書をどう見る」

クロムウェルの秘書、シェフィールド。
メイジではないようだが、ただの秘書とは思えない。
秘宝とまで言った“風のルビー”を所持していたことからも、クロムウェルから並々ならぬ信頼…もしくは彼の重大な何かを握っているのだろう。

「思いっきり怪しいね。盗賊の勘、女の勘、全部が怪しいって言ってるよ。それにこれまでに得た情報を併せると…もう、怪しむなって方が無理ね」

「懐柔できそうに、もしくは口を割りそうに見えるか?」

フーケは考える素振りも見せず、かぶりを振る。即答だった。

「僕の見立てでは、奴は“かの国”に、もしくは直接ミョズニトニルンに繋がっていると考える。利用できるなら、これ以上の駒はないだろう」

「ゾンビ君たちも生前の記憶は無くさないみたいだしね。どうせやる事に変わりはないんだ、試す価値は充分ってわけか」

ワルドがベッドから立ち上がる。

「そろそろ、傀儡の茶番は終いにしよう。これからは僕が奴らを利用する番だ」

口元に笑みを浮かべ、腰に差した杖を抜く。





「機を見てクロムウェル、そしてシェフィールドを ―――― 始末する」








[16464]  幕間9・異世界の水兵服
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2012/09/24 02:39
幕間9・異世界の水兵服





望郷?いいえ単なる欲望でしょーに。でも残念。私じゃ全然魅力不足。脱いだら凄いメイドじゃなくて、ごーめんね。





「ラリカ、プレゼントだから着てくれ」

笑顔だけど目が笑ってないぜ才人君よ。

「これは水兵服じゃーないですか。プレゼントは嬉しいけど、軍服もらってもな~」

「大丈夫、これは大丈夫な服だから」

何だそりゃ。なーにが大丈夫なんだ?

「そかそか。でもサイズが合わないだろーしなぁ」

「大丈夫、サイズを教えてくれたら今すぐメイドに頼んで直してもらうから」

全然大丈夫じゃーないでしょう。
恐らく原作みたく、おヘソが動くたびにチラ見しちゃうような丈にするに違いない。
いくら魅力ゼロを自負する私でも、それなりに羞恥心はあるのです。よって、コイツに任せちゃならん。

「…それは自分で直すからいいよ~。こう見えても裁縫とか得意だったりするかもかーも。家庭的な貴族を目指してますからワタクシ」

貧乏ゆえに身に付いたスキルなんだけどね。

「そ、そうか。それでいつできる?」

「ん~、頑張れば明日には間に合うよ。でも、」

「是非頑張ってくれ!」

「………おけ~い」

「それと、その服は特殊で着る時は紺色の靴下じゃなくちゃいけないんだ。あと、スカートはなるべく膝上15センチで。靴はローファーが理想的なんだ」

「スカートその他も指定?何故にほわ~い?」

おいおい、こっちの世界の単位はセンチじゃなくてサントですよー。どこまで焦ってるんだキミは。
でも膝上15センチって…。

「実はこの服、俺の世界でセーラー服と呼ばれる学生の制服なんだ。俺が異世界から来たって知ってるよな?そこで俺は学生だったんだけど、現在進行形で女子生徒はそれを着てたんだよ。そして実は俺も現在進行形でホームシックなんだよ。くじけそうなんだよ。故郷の風を感じたいんだよ。…だからホントお願いします」

…うわぁ。何というダメっぷり。
シエスタ(原作の)凄いなぁ。尊敬するよ。

でも、そのシエスタの運命をちょっと狂わせたのは私だし。才人も貰えるハズだった手作りマフラー貰えなかったし。
まあ、少しくらいは付き合ってあげましょーかね。

「あ~、靴下は問題なっしんぐ。スカートは、流石に膝上15サントは恥ずかしいゆえに、もーちょっと長くさせて欲しいかな。あと、ローファーって靴はこの世界にはないかも」

「膝上12サント、それより長くは妥協できない!靴は…ないなら仕方ない、いつものブーツでいいよ…」

「あー、うん、分かった。実にほんのり妥協してくれてありがとう」

本格的にダメだな~この人。でもオトコなんてそんなモンなのか?
“俺”の頃はどうだったっけ?制服とかはあんまり興味なかったよーな。嗜好が違ったか。

「あ、でも」

「まだ何かあるの!?ホント勘弁してくれよ」

勘弁して欲しいのはこっちだっちゅ~に。

「前に聞いた話だと、才人君の故郷のヒトって髪の毛の色、黒なんだよね。私みたいな灰色の髪じゃ、故郷と違うからホームシック治らないかも」

シエスタは黒髪だったから余計に似合ったのだ。
脱いだら凄くもなく、特に美少女でもないのに、髪の毛が灰色なんてダメ過ぎだろう。

「何だ、そんな事か」

ホッとしたように才人は笑う。そして、紙袋を差し出してきた。

「黒髪のカツラだよ。良かったら使ってくれ」

OK、分かった。そこまでされたら覚悟を決めよう。やってやろうじゃ~ないですか。
今までの感謝と今後のサヨウナラを込めて、ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア、根性見せますよー。

「分かったよ。じゃあ、明日までに仕上げて着る、でオーケィ?」

「待った!」

「…まだご注文が?」

「中庭だ、朝、中庭で待ってるから来てくれ。そしてくるりと回転して、『お待たせっ!』って元気よく言ってくれ」

うん、改めてダメだなコイツ。まあ、やってやると決めたのを覆すつもりはないけど。
せいぜい、シエスタバージョンとの格差に絶望してくれたまえ。

「りょ~かい。期待しないで待っててくれたまへ。似合わなくても笑っちゃダメダメだぜー」

じゃあ、仕立て直しますか。
何だかなー。伝説なのに、英雄予定なのに。


アホだなー。


※※※※※※※※


お手製セーラー服を着て、部屋を出る。

カツラはもちろん装着済み。誰かと出会ったら流石にはずかしーからね。変装的な意味も込めて。
一応鏡で見てみたけど、シエスタバージョンと違いすぎる。
明るく元気な女子高生というよりも目付きのきつい無愛想女。これで『お待たせっ!』はミスマッチだろう。

「それでぼくは言ったんだ。その肉はぼくの、」

とか思ってたら、さっそく人に会った。ギーシュとミスタ・グランドプレだ。
2人は私を見て固まる。私が誰だか分かってないっぽいな。
髪色変えるだけでも分かんなくなるもんなんだ。
…よし、あんま目立ちたくもないから誤魔化そう。窓から直に中庭に行けばよかった。

「おはよう、ミスタ・グラモン。ミスタ・グランドプレ」

てきとーに微笑み、挨拶する。
ワタシはメイルスティアなんて子じゃないデスヨ~。

「え?あ、ああ、おはよう…ええと、ミス」

「おぉ…おはよう…」

で、早足で立ち去った。
私はミス・モンモランシみたいに変わった格好で目立とうとか思わないのですよ。
そもそも似合ってないだろうしね。思った以上に恥ずかしいぜ!

さっさと才人に見せて、着替えようそうしよう。




で、中庭。

才人が忠犬みたく待っていた。
原作でルイズに犬扱いされてたけど、その時もこんなだったのだろーか。人類としてのプライドだけは捨てないで欲しい。

「おはよう、才人君」

微かな笑顔で挨拶する。
いきなり目の前で回転するのもアレだろうし、どーせ細かなシチュエーションを注文されるだろうから、『お待たせっ!』はその時でいい。

…って才人?何か反応してくだされ。
いくら似合ってないっていっても、無反応はちとカナシ~ぜよ。

「お、」

「お?うん、おはよう」

「おおおおおおおおおおおおォォォォォォォォッ!!」

咆哮し、両手を挙げる。そして跪きながら地面に拳を叩き付けた。
何やってんだ一体?

「うぉおおおおおおおおおおおおおォォォォォォッ!サイッコォオオオオオッ!!」

バッと立ち上がり、私を指差す。

「ラリカ最高ぉおおおおオオオオッ!!」

………うわぁ。
流石の私もちょーっとアレだな。何でアナタは半泣きなんでしょーか。

でも、これがシエスタだったらもっと激しかっただろう。正直スマンかった、才人。
私じゃ胸も足らないし、おヘソも見せてあげてないし。ギリギリのラインまでは短くしたから、何とか妥協して下さいな。

「それで才人君、くるっと廻って『お待たせっ!』でいいんだよね?」

でもさっさと終わらせてもらおう。

「待ってくれ!!」

はい?なぜ止める?別に止めるんなら大歓迎だけど。

「キャラが違う!その台詞は…違うんだ!!」

「あー、じゃあどんな台詞を言えばい~のかな?」

「違うんだ!台詞うんぬんじゃなくて…喋り方を、その、クールにしてみてくれ!」

キャラまで作れと?まあ、既に今の私が“作られたキャラ”だし、得意だけどね。

「コホン、…なら、どんな台詞を言えばいいのかしら?」

腕組みして口調を冷たく&目つきとかも冷ややかにしながら訊ねる。
親指を立て、それだ!と頷く才人。そんな君に生温か~い微笑をあげよう。

「私は君と違って授業も行かなきゃならないし、そんなに時間がないの。才人君、早くして欲しいな」

「そ、そうだな、ええと…」

「待ちたまえ!!」

とかやってたら、ギーシュの声が響いた。
振り返るとミスタ・グランドプレと一緒に向かって来てる。ついて来たんですかオマエら。
ヒマだなぁ。

「それはッ!何だね?その服は何だね!!」

「けしからんッ!!実にけしからんぞッ!!なあギーシュ!!」

ああ、そーいやこの人たちもアレだったっけ。

「彼の故郷の制服らしいわ。そんな事より貴方たち、覗き見していたの?感心しないわね」

「お、おぉ…し、失礼ミス、ええと…サイト!こちらのレディは?」

「レディって、ラリカじゃんかよ」

バラすな才人!…あぁ、もう。めんどくさいなー。

「メメメメイルスティアだと!?そんな!メイルスティアはもっと無駄にフレンドリーかつ頭の悪そうな喋り、」

「あら。ミスタ・グランドプレ。私の喋りが、何?」

髪(といっても黒髪のカツラだけど)をかき上げながら睨んでみる。
失礼な。一応、一生懸命明るい人を演じている結果なのに。

「何でもないです」

「そう、ならいいわ。あと一応コレ、才人君の要望ね。全く、キャラ作りなんてガラじゃないのに」

「い、いやー、ノリノリに見えるがね」

「頑張って演じてあげているのよ。あぁ、そろそろ授業に間に合わなくなるわね。戻らないと」

小さくコホン、と咳をして“いつもの”私に戻る。

「…とゆーわけでして、これにて終了でございーま。それでは皆さんさようならっと。ココア!」

私はモンモンさんじゃないので、この姿で授業に出るつもりはない。さっさと着替えさせてもらいましょーかね。
ココアを呼び、“フライ”で飛び上がる。
また誰かに出くわすのは勘弁だから、窓から帰ろう。下の方で男3人が何か言ってるけど放っとく。
サービス終了。ないだろーけど、次回にご期待下さい。

カツラを外し、ココアに乗る。
その時、バタンと窓が閉まる音が聞こえた。
…ん?誰かに見られてた?
ま、でもこっちは女子寮だし、1人くらいに見られたって問題ないかな。
後は残りの水兵服をギーシュにやってセーラーモンモンさせるなり、ミスタ・グランドプレにあげてあっちの道に目覚めさせたり好きにやって下さいなと。



あー、やけに疲れたぜ~。








オマケ
<Side Other>


ラリカが“フライ”で飛び上がっていった。膝上12サントのスカートで。
それを(真下から見上げながら)見送る漢たちの視線は、まるで我が子を慈しむ父親のようだった。

「…いやぁ、朝から眼福だね。実にけしからん」

「脳髄が直撃されたよ、ギーシュ。本当にけしからんな…」

「お前ら“見た”よな?よし、後で決闘な」

「はっはっは、君も同罪じゃないかサイト。僕らは共犯、いや、もはや戦友だよ」

「ぼくも今まで君の事を誤解してたよ、使い魔君。いや、ミスタ・サイト」

「戦友、か。サイトでいいぜマリコルヌ。ミスタなんていらねえよ」

「うんうん、友が分かり合えて良かったよ。ところで、あの衣装はどこで買ったんだい?」

「誰かにやるのか?」

「モンモランシーにね。あれをプレゼントすれば機嫌を直してくれるような気がするんだよ。さあ、教えたまえ。どこで売ってた?」

「まだあるから一着やるよ、その代わりモンモンとしっかりヨリ戻せよ?で、二度と浮気するな」

「ぼ、ぼくにもくれないか?」

「マリコルヌは誰にやんだよ?」

「…冷静に考えたら、ぼくには着てくれるような相手がいないや。待てよ、自分で着て、」

「待て。今度ラリカに着てもらう時に呼んでやるから、自分をそれ以上傷付けるな」

「ありがとう。危うく道を踏み外すところだったよ…」

「その時は僕もよろしく。ところで、あと何着あるのかね?」

「残り一着だ」

「なら君のご主人、ルイズにあげたらどうだい?少しサイズはぶかぶかになるかもだが、僕の予想では…それはそれでアリだと思うんだ」

「…!!お前、天才じゃないか?」

「やはりギーシュは見る目が違うね。その慧眼、ぼくも見習いたいよ」




ラリカが去った空を見上げたまま、男3人の会話は続く。

ちなみに授業の方は、バッチリ遅刻した。





[16464] 第三十三話・捩曲の夢と現実
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2010/03/26 08:09
第三十三話・捩曲の夢と現実





少しだけ、分かったことがある。





『 ゼロの使い魔の登場人物 ‐ Wikipxdia 』

ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア
  声‐佐々木良緒
  二つ名は『絶望』。ルイズの親友で、才人が召喚されて初めてできた友人。
  僻地に領地を持つメイルスティア家は貴族の中でも極端に貧しく、彼女自身辛い幼少時代を過ごしているが、それをおくびにも出さない明るい性格。
  キュルケ、タバサ、ギーシュがルイズ達のよき友人になった背景には、彼女の働きによるところが大きい。
  「水」のドットで趣味はオリジナル魔法薬作り。自作の薬を学院の使用人達にも分け与えており、身分にこだわらない希少な貴族として慕われている。使い魔は空飛ぶ巨大ムカデのココア。
  灰色の髪に同色の瞳を持ち、やや鋭い目付きが特徴。
  生まれ育った環境によるものか、自身の容姿や自身そのものにも価値を見出せていない節があり、他人の好意や評価に対しては極端に鈍い。
  魔法の腕はドットとしても並以下だが、幼少より家計を助けるために狩りしていたせいか弓の腕は達人級で、タバサが師事するほど。
  2巻でミョズニトニルンに操られた際には、空中で魔法使用中という超限定下だがワルドをも圧倒し、



Wikipxdiaの説明がまた変化している。

位置も、生徒(主要人物)の最上段。もはや“私”は完全に主要人物と化していた。
それ以上スクロールはできないが、その先は何となく分かる。
“私”が為してきた事が、第三者視点で見た“私”が記されているのだろう。


あの日、“私”が死にかけた時を境に、“私”の…“新しい私”の記憶を持ち帰ることができるようになった。
むしろ、“俺”がこうして動けるのは“私”の意識がなくなった時。主に睡眠だ。

“俺”との共有は不可能、あくまで一方的に記憶する。
“俺”の記憶は覚えていない悪夢としてだけ認識され、“俺”が知る情報を“私”が使う事はできない。
あれから何回か“俺”は目を覚まし、それだけは確信することができた。
相変わらず気分は最悪、頭痛と眠気でまともに行動できないし、肝心な矛盾の “始点”は思い出せないが、それでも大きな進歩だろう。


ただ、新しい疑問が生まれた。

“私”は恐らく、佐々木良夫を経て転生した“私”のはず。
自慢でも何でもないが、俺は人並みに他人の気持ちも分かるし、それなりに友人だっている。
25年間男として生きてきて、恋愛も全くしなかったわけじゃない。
彼女いない歴が年齢だが、それでも青春の淡い思い出くらいはあるし、恋愛モノの本や映画だって見てきている。

なのに、“私”はどうだ?
ルイズ達から向けられる親愛に偽りはない。
そこには友情なんてモノが確かに存在するはずだ。“茶番”や“ごっこ”で済ませられるような関係じゃない。
なのに、“私”は彼らを友人と見ていない。ただ利用し、されるだけの相手としか思っていない。
そして自分自身、今の“私”なんかに友人なんてできるはずがないと思い込んでいる。

そしてウェールズ殿下の死を確実にしようと画策したのをはじめとする、徹底した利己主義。
“俺”なら良心の呵責で苦しむだろう。いくら何でも他人の屍を踏み越えてまで自分の望みを果たそうとなんて考えない。
“私”のように、淡々とやり過ごせたりはしないはずだ。

異性を意識しないにも程がある。
確かに“前回の私”は20エキューでも売れず、容姿に全く自信がなかったが、それでも限度はあるのだ。美人じゃないが、ブスでもない。
並程度の容姿だとしても、誰にも相手にされないなんてこと自体があり得ないのに。
それに、男として生きた経験があるのなら、どんな言葉や行動に相手が反応するかくらい分かるはずだ。


“私”は“俺”だ。でも、“私”は本当に“俺”なのか?
最初のラリカでもなく、佐々木良夫を継いだラリカでもないとしたら、“あの私”は一体何なのか。



Wikipxdiaを抜け、『ゼロの使い魔 ラリカ』で検索をかける。

公式HPに載っている画像、誰かが描いたイラスト。同人画像まである。
ギャグやパロディならともかく、18禁な目に遭う“私”を見るのは妙な気分だ。容姿はだいぶ美化されているとは思うが。

文章コンテンツには、二次小説と呼ばれる類の物もあった。
才人が逆行して“ユンユーンの呪縛”を防ぐもの、序盤でゴーレムに潰されるもの、ルイズと立場が入れ替わったもの、オリジナルキャラクターが才人の代わりに呼び出され、そのキャラに惚れてしまうといったものまである。

幾つかあった“もしラリカがいなかったら”という“IF”作品。
もしかすると、その中に“俺”の知る、改変されていない原作があったかもしれない。


頭痛と眠気が強くなってきた。
どうやら、もう“私”が起きてしまうようだ。時間がない。
記憶の持ち越しはできないが、“私”が知り得なかった情報を知っておきたい。


小説を取り、頁を捲る。


…え?


ワルドが、クロムウェルとシェフィールドを暗殺しようとしている!?
何だそれ!?
何でそんな事に!?
“あの時”の言葉がそんなふうに解釈され、いらない決意を与えてしまったらしい。
しかも、フーケとのやりとりからしてワルドは…。



嫌な予感がする。

クロムウェルはともかく、いやクロムウェルでも問題だが、シェフィールドなんか殺してしまったら原作が確実に崩壊する。
ジョゼフがどんな行動を起こすか、想像もできない。


姫様とルイズの関係。
友情が知っている原作とは程遠くなってきている。
ルイズには心から信頼を寄せる“親友”ができており、彼女の他にも友情がしっかりと芽生えてしまった。
姫様は今現在の“最愛のおともだち”ではないのだ。
すでにキュルケといがみ合う事はなく、タバサとも普通に挨拶を交わす。ギーシュという男友達までできている。
共に冒険し、飲み交わし、笑い合える友人に囲まれたルイズは、原作よりも早い精神的成長を遂げていた。
劣等感が払拭され、視野が広がり、判断力の上がったルイズが、それまで姫様がしてきた言動をどう捉えたか。
アルビオンの旅や、“ユンユーンの呪縛”事件で何を思ったのか。

そして、才人の感情。
ルイズとの関係は概ね良好。些細なケンカはあるが、大きなトラブルは一度もない。
互いに互いをパートナーと認め、必要とし合っている。原作のような激しい波はないものの、着実に恋愛感情も育っているようだ。
今の才人にとってルイズは “もっと必要とされたい相手”、“一緒にいると胸が高鳴る相手”。
しかし、彼女とは別に“守りたい相手”が、“一緒にいると心が落ち着く相手”が存在する。
才人の感情はその2人の間で激しく揺れている。
逆にシエスタや姫様が占めているはずの場所には誰もいない。現状、メイドと女王は“ヒロイン候補”ですらないのだ。


乖離が激しい。
物語が進めば進むほど、綻びが大きくなる。
バタフライ・エフェクトは、“私”だけでなく、全ての運命に影響し始めている。
そして、“私”はまだ、事態を楽観視しているのだ。すぐ傍まで嵐は迫っているのに。


まぶたが重い。

次に“俺”が目を覚ます時、どれくらい話は進んでしまっているのだろうか。
鈍くなってきた手で、他の巻を取る。
字が霞んでよく分からない。

挿絵?


何だ…これは………


“わたし”が、ジョゼフとむかいあって、



なにがあった、んだ?




“そんなかっこう”で、じょぜふと、なにを、






はなし、て………、






※※※※※※※※







「うぇ」

嫌な目覚めだ。
せっかくいい気分で眠ったのに、何という台無し。悪夢の内容を覚えてないのが救いだな。

でも昨日はお世辞と分かっていつつも、ガラにもなく褒められちゃったりして、微妙に嬉しい風味な感じがしたりして。
まあ、今後の人生であそこまで容姿に感激されるなんて有り得ないしね。悪くはない経験だったかもかーも。
かといって、もう一度やるかって言われたら大至急NOだけどな!


さてと。
今日は多分、朝の授業でミス・モンモンがセーラー服を着てきた後、何だかゴチャゴチャあって、惚れ薬事件勃発な日だ。
何でそんな事になったかまでは覚えてないけど、私の出る幕は…、

ノックもなしにドアが開く。
現れたのは、最近よく現れては去っていくミス・モンモランシだった。珍しく(?)ワイン瓶を持ってない。

「お邪魔するわよ、メイルスティア」

「あ~、せめてノックはして欲しかったかも。うん、いいけどね。おはよう、ミス・モンモランシ」

酔って部屋を間違えたんじゃないなら、何の用だ?
この人とは全く交友がないはず。むしろメイルスティアってだけで蔑視されてるし。
水メイジで貧乏で趣味が秘薬作り、彼女の超劣化コピーみたいな私はどーもアレらしい。平民と仲良くするのも気に食わないのかもかーも。
プライド高いからなー、私はプライドなんて生まれたその日から捨ててるぜー。

うん、とにかく蔑視こそされても、部屋を訪ねられるような係わり合いはなっしんぐだ。
用件に至っては皆目検討もつかない。

「ふぅん、地味な部屋ね」

ダメ出しに来たのか?
馬鹿にされるのは別に気にならないけど、朝っぱらからごくろーさんなコトですなぁ。

「いや~、乙女チックとか似合わないって自覚してますから」

「それ以前の問題じゃない?貴族らしく…ああ、あなたに貴族らしさなんて求めるのが間違いよね。ごめんなさい、忘れて」

「あはは、それで何か用事でも?なかったら着替えとかしたいなーって」

ケンカの訪問販売でも始めたのか?
もちろん買わないけどな!同じ水メイジでも、実力に差があり過ぎるのです。

「今夜、わたしの部屋に来てもらえるかしら。あんたに話したい事があるのよ。それと、ルイズとか妙な取り巻きは連れて来ない事。分かったわね?」

「話したいことって?」

「とても大事なことよ。いろいろ、そう、いろいろとね…」

「何だか分かんないけど…とりあえず、りょーかいです」

「用件はそれだけよ。じゃあ失礼するわ」

で、踵を返して去って行くミス・モンモランシ。
最初から最後まで実に高圧的でしたな~。うん、“前の私”時代から慣れてる反応だけど。より顕著になってるよーな。
もしかして、怒ってるとか?心当たりないから、それはないか。



う~ん、でも何の用だろ?

なんだろなー。





[16464] 第三十四話・モンモンと私。悶々と、私。
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2010/03/29 23:35
第三十四話・モンモンと私。悶々と、私。





誰かを好きになったとして。それは“私”?それとも、好きになったと“嘘”をついてるだけ?まったく、ムズカシイ問題ですなぁ。





「それで、お話って何かな~と」

夜。
約束通りにミス・モンモランシの部屋にやって来た私は、さっさと用件を聞くことにした。とりとめのない話をするほど親しくないし、正直あんまり長居したくない。
あんまり得意じゃないんだよね~モンモンさんって。頑張って親しくなったとしても、メリットなさそうだし。

「そっちに座って。今、ワインを出すわね」

用意されていた椅子に座る。
そういえば、今朝ミス・モンモランシはセーラー服着てこなかったな。ギーシュはまだプレゼントしてないのだろーか?

「おかまいなくー。いやー何だかいい匂いがしますな~。香水?」

「そうよ。わたしの二つ名、知ってるでしょ?」

「“香水”だったよね。うんうん、納得の二つ名かも」

「そういえば、あんたも香水を作ったとか。メイドが話してたわよ」

「あ~、『働くメイドの香り』。アレを香水と呼ぶかどーかは疑問だけど」

あはは、と笑ってみせる。
もしかして呼ばれた理由ってそれか?営業妨害するな的な。でも、モンモンさんの香水とアレは用途が全く被らないハズだ。

「まあ、着眼点はなかなかじゃない。平民用としてはね。貴族は誰も使わないけど」

…私はたまに使ってるんだけどねー。
でも、この言い方からすると香水の件は特にどーも思ってないようだ。

「貴族とかが使うのを作るには実力不足ですから。あ、どうも~」

ミス・モンモランシがワインを注いでくれる。高級なのか安物なのかは微塵も分かんない。
でも多分、私がいつも飲んでるやつよりはモノがいいだろう。

「ま、弁えているのはいい事よ。そう、何事も身の程を弁えないと、ね?」

「…?」

笑顔がちょーっと怖いですよモンモンさん。

「それで、お話とは何だったかな?私もあんまり遅くなるのはちょっと。使い魔にオヤツを与えないといけなかったり」

「使い魔、あのムカデね。そういえばあんた、いつか夜中に学院を抜け出して、誰かさんと夜のデートしたそうじゃない?その使い魔に乗って」

「デート?」

何だそりゃ?
自慢じゃないが、私とデートしてくれるようなキトクな男の子に心当たりはなっしんぐ。
才人やギーシュあたりなら、頼めば一緒に出掛けてくれるかもだけど…って、もしかしてアレか?
ココアと再契約した夜の話か。

「それって、もしかしなくてもギーシュ君を乗せて帰って来た時の事じゃ~ないかな。でもあれはついでに送っただけで、デートとかそんなのじゃないんだけど」

ああ、なるほど。それが気になって呼び出したのか。
で、当事者っぽい私に確認と。
まあ、私が浮気相手だと思われる確率はゼロ(ミス・モンモランシのライバルに認められるほどの魅力ないし)だから…ギーシュが女の子を片っ端からナンパし始めた…つまり、自分とヨリを戻すのを諦めて新たな彼女作り活動し始めたとでも思ったんだろうか。
そんな心配しなくても大丈夫なのに。ギーシュは何だかんだでモンモン一筋なんだから。

「へぇ、夜中に2人きりで帰ってきてデートじゃなかったと」

「帰宅は一緒だけど、会ったのは殆ど偶然だったしね。森で使い魔を洗ってたらギーシュ君がつけて来ちゃって。窓から抜け出すのを見られてたみたいですな~」

「…ふぅん」

イマイチ信じてないっぽい。真実なんだけどね。
てか相手が私って時点でデートは有り得ないでしょーに。

「それと、少し前の夜にもキュルケ達と飲み会したって聞いたけど。ギーシュ以外は全員女の子で。あんたの発案らしいわね」

「才人君…ルイズの使い魔君も男の子だよ。それと、あれは飲み会と言うより、」

宝探しの反省会…でいいのか?名目は確かにそれだけど…。
ギーシュのためにモンモンさんの機嫌を直す方法を考える、ってのも一応あったが、誰も微塵も考えてなかった。むしろキュルケなんて、もう別の恋を探せとか言ってたし。

「飲み会というより、何よ」

「一応、反省会?」

あくまで一応。

「宝探し旅行のよね?」

「うん。結局金銀財宝は見付からなかったワケなので、残念会も兼ねて」

「残念会。ふぅん、そう。残念会ね」

…さっきからやたらと突っかかるな。
ギーシュが誰かと浮気してるか気になってるならハッキリそう訊けばいいのに。
確かにルイズは極上の美少女だし、キュルケは超絶ナイスバディ。タバサも神秘的な魅力がある。メイドのシエスタも脱いだら凄い実力を秘めてるし。
そんなのと一緒に行動するボーイフレンドを疑う気持ちも納得かもか~も。
でも彼女らに直接聞くのはプライド的にもアレだから、私から間接的に聞き出そうってトコロだろう。

「ええと、ミス・モンモランシ。不安なのは分かるけど、別に嫉妬とかしなくても大丈夫だと思うよ。だって、」

「ちょっと。誰が不安なのよ?いつ、誰に対して嫉妬したっていうの?」

うわ、言葉選びを間違えた!?
ミス・モンモランシはこちらを睨んで…あ、笑顔になった?
でも目は笑ってない。コワイですよー、そんな笑顔似合いませんよー。

「ええと、」

「ま、いいわ。今日はそんな事のために呼んだんじゃないのよ。今日はね、あんたにとっても素敵な人を紹介しようと思って呼んであげたの。感謝しなさいよ、もしかすると未来の夫候補になるかもしれないんだから」

…何だそりゃ。
モンモンさんはキトクにも、私に誰かを紹介したくて呼んだと?
ワケが分からない。展開も話にも、脈絡がなさ過ぎる。

「お気持ちはひじょ~に嬉しいんですが。なぜに私に?」

「その人が、あんたに一目惚れしたのよ。で、わたしに是非紹介して欲しいって言ってきてね。それで仕方なく手を貸してあげることにしたの」

私に一目惚れ?
どーいう感性してるヒトだろ。自慢じゃないけど、一目惚れされるホドのものは持ってない。
ちょっぴり悪い目付きがツボに?でもそれならもっと綺麗な子は大量にいるし。

「う~ん、微塵も心当たりありませんなー。誰?」

「会ってからのお楽しみよ。それよりワインをどうぞ?あんたじゃ買えない高級ワインなのよ?」

オマエさんだって貧乏…まあ、メイルスティア家とは比べられないか。

「あ~、それじゃいただきまーす」

注がれたワインを飲む。
高級なのか安物なのか、私の三流な舌じゃ判別つかない。でもマズくはない。
…てか、モンモンさん。その満面の笑みは何だ?怖いって。

「そろそろ来るはずよ。楽しみね、メイルスティア」

うむ、何がそんな楽しみなんだろう。
超もしかして、ミス・モンモランシも恋のキューピッド的なお節介を楽しむ女の子だったとか?
“俺”が中学生くらいの頃は、そんな事をして喜ぶ女子とかいた気がする。
でもミス・モンモランシがねえ…。

「ふむふーむ。まあ、会うだけ会ってみましょ~か。ミス・モンモランシがせっかく紹介してくれるんだし」

ま、いいや。
どんな人でも私なんかに惚れてくれたのなら、素直に嬉しい。
いつかは恋人とか見付けたいな~とか思ってたし。丁度いいかも。
願わくば、その人が私よりも貧乏とかじゃありませんように。


ドアがノックされる。
ミス・モンモランシは不自然なほどの笑顔のまま、“アンロック”した。

「来たわね、マリ…、え?」

そして入ってきた誰かに驚いたのか、固まる。
自分で紹介するとか言っといてその反応は何ぞや?
私も振り返っ、

「メイルスティア、だ、だめっ!!」

…た。



………。



ん?
モンモン、コレは何の冗談ですか?

「やあモンモランシー!やっと扉を開いてくれたんだね!!きみへの永久の奉仕者ギーシュが、…って、ラリカ?」

「や、ギーシュ君。こんばんは~」

ああ、分かった。そういう事ね。
私をからかったって~ワケか。ボーイフレンドとかいそうにない私に淡~い期待をさせて、実は嘘でしたーって感じでネタばらし。なるな~る。
そんな事する理由は不明だけど、どーせそんなコトなんだろう。趣味悪いなぁ。


…でも残念。私はどんな理由だろうと、ギーシュ君に会えるだけで嬉しいのですよ~。


「え?メイルスティア?」

モンモンの不思議そうな声。残念がってないから意外だったかな。

「ん?どーしたミス・モンモランシ」

「その…何ともないの?」

何が?

「私は至って健康そのものだけど。それより、お客さんですよー」

ギーシュ君を無視するなっての。
全く、どーしてこう見る目がないんだろうね。やっぱり、彼女はギーシュ君には相応しくないですな。
プライドばっかり高くて高慢なヒトには、薔薇のホントの良さなんて分からないのだろう。

「え?あ、ああそうね。ギーシュ、なにしに来たのよ。もう、あなたとは別れたはずよ」

とか言いながらも私の方をチラチラ見るモンモン。何を気にしてるんだ?
見せ付けようとかそういう意味かな。うん、いよいよ感じ悪いなぁ。

「僕はちっともそんな風に思ってなかったよ!君だってすんなり扉を開けてくれたからには僕を許してくれたんだろう?」

「それは、…それより、メイルスティア。あんたホントに何ともないの?」

だからギーシュ君を後回しにするなってーの。
あと、意味不明な質問がしつこ過ぎ。そんなに私にどうにかなって欲しいのか?

「だから全然全くこれっぽっちも何ともないって。さっきから意味不明だよ?」

「そ、そんな…。どこか間違ってたっていうの?レシピは完璧だったはずなのに…」

何だか愕然としながらブツブツ呟き始めるモンモン。
可哀相にギーシュ君がしょんぼりしてる。おのれモンモンめ。

「ギーシュ君、ミス・モンモランシに何か用だった?」

ま、その間にお喋りさせてもらいますか。好きなだけブツブツ言ってて下さいな。

「ああ、コレをプレゼントしようと思ってね。メイドに頼んで仕立て直してもらったんだ」

持っていた包みを少し開いて見せてくれる。なるほど、セーラー服か。
シエスタが不在だから仕立て直す時期がズレたのかも。

「セーラー服、気に入ったの?」

「いや、そのあれだよ。こういう変わった装いもいいんじゃないかと思ってね、うん」

「ふむふ~む。私で良ければまた着るんだけど。でもミス・モンモランシほどキレイじゃないからなー。やっぱ美人に着てもらった方がいいよね?」

「そんな謙遜は…って、今なんと?」

「お望みとあらばまた着ちゃいますよーと。昨日は時間がなかったけど、時間がある時ならいつでもオケ~イ」

私なんかで良かったら、何でもしちゃうんだぜー。だぜー。
膝上15サントだって、おヘソが見えちゃう上着だって全然余裕。恋する乙女の前には、羞恥心などミジンコ以下、

「ちょっとギーシュ!」

モンモンの怒鳴り声。せっかくお喋りしてたのに、空気を詠み人知らないにも程がある。
でも、ギーシュ君は笑顔で反応した。

…くそぅ。分かってるけど、何だかモヤモヤ。
でもでも、ギーシュ君が幸せそうなら!…あうぅ。




実にジレンマ。されど現時点の私に為す術はなっしんぐ。
私の人生の目的、『なるべく幸せな人生』と『ギーシュ君の幸せ』。

両方を叶えるために、これからも頑張らないといけませんな~。



………うん?

うん。






##############


暫く振りに更新です。
新年度で引越しやら何やらで、落ち着くまで速度落ちそうです…orz



[16464] 第三十五話・絶望と青銅の惚れ薬①
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:07f4466b
Date: 2010/03/31 21:44
第三十五話・絶望と青銅の惚れ薬①





二番目でも、三番目でも構わないから。あなたの傍にいさせて下さい。迷惑にならないように、嫌われないように、頑張るから。





逢いに行きたかった。
だから、私は再びこのセカイに生まれ変われた。

愛に生きたかった。
だから、私はやり直すチャンスを貰えた。

そして、愛に逝きたかった。
だから、私は。今度は後悔しないように。最期の瞬間まで、彼を想っていられるように。

ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア。

私という人間は私が一番理解している。
貧乏で、内向的で、愛想がなくて、才能もない。そして、それらを打破する気力すらない…枯れた人間。
世の中に“絶望”し自分にさえ“絶望”した、“いらない子”。

でも、そんな私も彼に出会って変わることができた。
嘘でぺたぺた塗り固めているけれど、明るくなろうと頑張れた。ニセモノっぽい笑顔だって、少しはさまになってきた…はずだ。
だから、私はたくさんの感謝と、隠しておくのも大変な愛情と、精一杯の想いを彼に捧げたいと思っている。

………でも、私は彼の一番にはなれない。なっちゃいけない。
奇跡が起こって結ばれたとしても。
私はきっと幸せになれるだろう。でも、彼は幸せになれない。私じゃ幸せにしてあげられない。
…彼を幸せにできるだけの力が、魅力が、器が、私には無いのだから。

それでも、だからこそ。屑は屑らしく。身の程を弁えて。

私なりの全力で、彼の事をアイするのです。







モンモンはギーシュ君に人差し指を突き付けて怒鳴る。

「そもそも!!なんであなたなのよ!」

「え?だから君は僕を許して扉を開いたんじゃ?」

「違うわよ!いえ、後で呼ぼうとは思ってたけど…じゃなくて!ああもう!!」

なーにを怒ってるんだ?
いや、それよりギーシュ君が困ってる。どうにかしないと。

「ミス・モンモランシ。とりあえず落ち着いて深呼吸しましょーか。ギーシュ君もいきなり怒鳴られたんじゃ可哀想だよ?怒るにしたって、理由を言ってあげなくちゃ~ダメかなーと思うのです」

「うるさいわね!元はといえばあんたがっ!」

「え?」

私?なぜなにどーして?

「あんたが…その、ちょっと待ってなさい!今考えてるんだから!」

何じゃそりゃ。全力でモンモンが分からない。
親しくもない私を部屋に呼び、人を紹介するとか言って(まあ、誰を紹介されても私はギーシュ君一筋だけど)からかい、やって来たギーシュ君を怒鳴りつける。
挙句、何だか私が悪いみたいな言い方だ。

「ラリカ、モンモランシーは一体どうしたんだい?」

でも、ギーシュ君はモンモンが心配そう。不安げな、でも優しげな眼差しで彼女を見てる。

「かいもくけんと~もつきませんなぁ。でもお邪魔なようなら今日のトコロはおいとまするのが吉かもかーも」

「ううむ、確かにね。どう考えてもプレゼントなんて受け取ってくれる雰囲気じゃないな。ヨリが戻ったかと期待したんだが、何だか違うようだしね」

…くぅっ。
アホみたいに胸が痛むぜぃ。今まで私、よく耐えてたな~。今後も頑張って耐えよう。
ギーシュ君の事がホントに好きなら、自分なんかが出張っちゃならぬと決めたはずだし。
彼の隣には、彼に相応しいステキな彼女が立つべきなのです。なのでーす。

「まあ、次の機会に頑張ればいいよ。ギーシュ君ならきっと大丈夫だから」

…はっはっは、余裕余裕。笑顔で言えた。これでいーのだ。
傷心につけこんでポイントアップを謀ろうとか、モンモンのネガティブキャンペーン実施しようとか考えちゃ~いけない。
確かにモンモンは苦手だし相応しくないとは思うけど、あくまで私の私見。
ギーシュ君は私なんかじゃ気付けない彼女の魅力を見抜いているんだろう。きっと。

「ああ、僕は諦めないよ。この一途な想いは必ず伝わるはずさ」

…部屋に帰ったら泣こうっと。

「うんうん、その意気その意気。私も応援してるからね~」

「ははっ、ありがとう、ラリカ」

…やっぱ泣くの中止。
こんな笑顔を向けてもらえたんだから、いい夢見れそう。
そうと決まればさっさと帰って寝ようかな。モンモンはまだ何か考え込んでるようだし、途中までギーシュ君と一緒に帰れるぜー。

「じゃあミス・モンモランシ、長くなりそうだから、続きは明日ってコトで」

一瞬こちらをキッと睨み付けてきたが、すぐにそっぽを向く。帰ってよさそうだ。

「じゃあ僕も出直すことにするよ。モンモランシー、君も夜更かしは身体に毒だから、考え事をするにしたって程々にね」

「ちょっと待ちなさい!」

引き止められた。私が、じゃなくてギーシュ君が。
一緒には帰させてくれないってコトか?

「ギーシュ、ちょっとコレを飲んでみて!」

やさぐれた目でモンモンがグラスを差し出す。

「ワイン…じゃなくて水?いや、別に僕はのど渇いていないよ、モンモランシー」

「いいから!!………正しいはずなのよ、わたしが失敗するわけ…」

何か小さい声でブツブツ言ってる。
大枚はたいたのにとか、ミスなんてするはずないとか、ちゃんと入れたのにとか、意味不明かつ怪しい単語が漏れていて、正直怖い。

「あのー、私は」

「まだいたの?念のためあんたは外に出てて。帰ったっていいわよ。…ギーシュ、さあ飲みなさいったら!飲めば許してあげないこともないから!」

今のモンモンに逆らっちゃ~ならないな。目が血走ってるし、何だか酷く焦って&イラついてるみたいだ。
ギーシュ君と一緒に帰れないのは残念だけど、ここは退きますか。

「許してって…本当かい!?何で水なんて飲まなきゃいけないか分からないけど、そう言われたら君の永久の奉仕者ギーシュ・ド・グラモン、喜んで飲ませてもらおうじゃないか」

…それに、これ以上ここに居たくないしね。
扉を開き、出て行こうとする。

ん?
そーいえばセーラー服イベントと連動して起こるイベントがあったはず。
そのイベントでルイズ達はラグドリアン湖に行き、また連動イベントでゾンビになった殿下と…。
原作とズレてて気付かなかった。と、いうことはモンモンがギーシュ君に飲まそうとしている“水”って…!

「ぷはぁっ!いやーモンモラシーから手渡された水は普通の水よりも、」

「まさかっ!!」

「え?」

「ん?」

私の声に、モンモンが反応し、ギーシュ君も振り返る。手には、空っぽになったグラス。
わ、ギーシュ君と目が合っちゃった。スマイルスマイル~♪…じゃなくて!

あれ?



「…ああ!僕のラリカ!!今ようやく気付いたよ、真実の愛に!!」



え!?

これって、もしかしなくても………。









オマケ
<ある主人公たちの顛末>


モンモランシーがラリカにワインを注いでいる頃、少し離れた廊下にて。


才人(以下サ)「ん?マルコじゃねえか。どうしたんだよ、こんな時間に?」

マリコルヌ(以下マ)「サイト。実はモンモランシーに呼ばれてね。でも聞いた部屋がどこだか忘れちゃって」

ルイズ(以下ル)「“風邪っぴき”をあのモンモランシーが?こんな時間に?嘘でしょ」

マ「ぼくは“風上”だ!“ゼロ”のルイズ!!」

サ「まあまあルイズ。お前はもうコモン・マジックなら成功するんだし、“ゼロ”なんて呼ばれても堂々と反論できるじゃないか。それとマルコ、あまり俺のご主人を馬鹿にしないでくれよ」

ル「…そうね。もう“ゼロ”じゃないから、怒る理由はないわね」

マ「“戦友(とも)”に言われちゃ仕方ないな。悪かったよルイズ。今後は馬鹿にしたりしないよ」

ル「別にもう気にしないわ。というか、“戦友”って何よ。あんたらって仲良かったっけ?いつの間にそんな仲になったのよ」

サ「男の友情が育まれるのに時間なんていらねえ。必要なのは熱い思いと志だけだ」

マ「(こくこく)」

ル「どうしてかしら。いいこと言ってるみたいに聞こえるんだけど、何か邪なものを感じるわ」

サ「何のことか分からないなルイズ。あ、それよりマルコ!お前も証言してくれよ!」

マ「証言って何を?」

サ「これだッ!(持っていたセーラー服を見せる)」

マ「!!…それはもしかして、」

サ「ああ…もしかしなくてもだ。既にルイズ用のサイズに仕立て直してある」

マ「ブラボー!ブラブラボー!!やっぱり君はすごいやつだ!…でも何を証言するんだよ」

ル「…サイトが、この変な服を着ろって言うのよ。いつの間にかサイズまで合わせてきて。ま、まあせっかくのプレゼントだし、着てあげなくもないんだけど露出が、」

サ「要するに、ルイズが渋ってるんだ。大丈夫だって言ってるのに」

マ「なるほど。協力は惜しまないけど、それって証言じゃなくて説得じゃ?」

サ「いや、証言だ。マルコ、この服、ラリカも着たよな?大丈夫だよな?お揃いだよな?」

マ「(そういう事かッ!)…うん、確かに着てたね。ルイズのとお揃いだよ」

サ「(ニヤリ)…な?だから言ってるだろ?大丈夫、この服はラリカとお揃いで作ったんだ」

ル「う…ほ、ほんとだったの?そっか、ラリカとお揃い…」

サ「だから何の心配もいらないんだルイズ。大丈夫だから。それに想像してみろよ、虚無の曜日にペアルックで街へお出かけ。実に親友っぽいじゃないか…」

マ「そ、それは実にけしから…ゲフンゲフン!いや、実に素晴らしい!もちろん友情的な意味で」

ル「何だか上手く言い包められてるような…それとあんた大丈夫って連呼しすぎよ。逆に大丈夫な気がしないっていうか、」

サ「ルイズ!」

ル「な、何よ」

サ「俺はただ純粋に、2人の友情に乾杯したいんだ。分かるな?分かってくれるよな?」

マ「そうだよルイズ。ぼくも2人(のけしからん格好に)に乾杯(というか完敗ノックアウト)したいと思ってるよ」

ル「………」

サ「マルコの証言でも足らないか。でもラリカ本人が言えば問題ないよな?」

ル「まあ、ラリカも着るって言うなら」

サ「よし、じゃあ善は急げだ。さっそく、」

マ「あ、サイト。その前にモンモランシーの部屋を教えてくれないかな。時間指定とかはなかったけど、あんまり遅くなるのもね。それにここ女子寮だから」

サ「そういや最初にそんなこと言ってたっけ。でも俺もモンモンの部屋なんて知らねえしな。かといってマルコを放っとくのも…。こんな場所うろうろしてるの見られたらマズいだろ」

ル「私は知ってるわよ。…仕方ないわね、ラリカの部屋に行った後でいいなら案内してあげるわ」

サ「だってさ。いいか?マルコ」

マ「問題ないと思うよ。何の用事とかは聞いてないし、そこまでは遅くならないんだろ?それに、ぼくも(セーラー服の)顛末を見届けなきゃいけない気がするんだ」

サ「よし、そうと決まればまずラリカの部屋だ!いくぜ!栄光を手にするために!」

マ「ああ!!ぼくらの戦いは始まったばかりだ!」

ル「………何なのよ一体」






###############


気付けば初投稿から1ヶ月半。
PV50万、感想数も1000を超えました!
クズな主人公でもまだ見てやるぜ!という方、良かったら引き続きお付き合い下さい。



[16464] 第三十六話・絶望と青銅の惚れ薬②
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:99efb4d6
Date: 2012/09/24 02:47
第三十六話・絶望と青銅と惚れ薬②





こんなのは間違ってる………はずなのに。





予期せぬ両想いになりました。

………。
あー。
うん。
その、
ええと…、
あばばばばばばばばばばばばばば!!!



よ、よし、冷静になれ。今のギーシュ君はクスリの力で私を好きに…わたしをすきに……
わ、わたしなんかをすきに…えへ///

!?
じゃなくて!!
あーうーあーうーあ~!!
ひっひっふーひっひふー!ラマーズラマーズ!!よしわたしはれいせいだ!

今のギーシュ君は正気じゃない。
こんなのは違う。こんな形じゃ彼は幸せになれないんだ。



「ギーシュ君、あの、」

「ラリカ…、愛してるよ………」

抱き締められた。
こ、こうかはばつぐんだ!らりかに9999のだめーじ!!

「や…、ぁ、」

うわー!すてーたすいじょうだ!のうみそがねつぼうそうしはじめたぞ!!
こえがでないし、ちからがでない!!だめだ!にげられない!!

「思ったより華奢なんだね…。強く抱き締めると壊れてしまいそうだよ。でも柔らかくていい匂いで、あぁ、何て素晴らしいんだ、僕のラリカは!!」

…よ、よせやぃ、照れるじゃーないですか。
ギーシュ君の方が力強くて温かくて、安心でき………あぁぁぁぁぁぁぁ!!また思考がダメな方向に!?

「ぎー、しゅ…くん、」

だめ、このままじゃギーシュ君が不幸に、

「僕は大ばか者さ。少し考えてみれば分かるはずだったのに…。離れてしまった愛にばかり目を向け、すぐ傍にある大切な存在を見落としてしまっていたよ」

そんな!大馬鹿者は私の方だよ!?
身の程も知らずに貴方を好きになってしまって。名門のグラモン家なんて、メイルスティアにとって雲の上の存在なのに。

……いやいやいや!!じゃ、じゃなくて、

「ラリカ、でも僕はもう迷わない。これからは君だけを見つめ、君だけを愛し続けよう!僕のラリカ。君のギーシュは今、ここで変わらぬ永遠の愛を誓うよ………」

ここってモンモンの部屋で!?
見てるって!モンモン唖然としながらもしっかり見てるから!!
ギーシュ君が私の髪を優しく撫でてくれる。モンモンが、みてるのに、

「ラリカ」

離してくれ…てない。両肩に手を置いて、そ、そんなに見つめないで…
と、とゆ~かこの体勢って、あ、あれですか?

「ギーシュ、くん…」

やだやだやだやだ!こんなのダメだ!
ダメだけど!…だめじゃないっていうか、その、あの、ええとぉ!!

あうぁ、ダメだ。無理。やっぱり私は最低の屑。
流れに逆らえない。好きな人を不幸にしてしまう。ごめんなさい、ギーシュ君。

「…ラリカ」

顔が近付いてくる。
ファーストキス(ムカデはカウント外)を初恋の相手に捧げられるなんて、信じられない。
でも肩に置かれたギーシュ君の手の温もりは本物で、私だけを見つめてくれている彼は幻じゃない。

モンモン、ギーシュ君が好きなら、止めて。
私はもう、止められないから。

顔が近付いてくる。不思議と心が落ち着いてくる。
凪のように静かに、でも炎のように熱く。
何だろう、この感覚?

モンモンは私たちを止めない。私たちは止まらない。それが結論。
彼が惚れ薬で正気を失っているという事実はもう、何の抑止力も持たない。
私は何度もしているかのように、自然に目を閉じる。

………あ、分かった。
たぶん、これが“幸福”なんだ。
私の独りよがり、でも心の底では望んでいた“幸福”。

唇が、触れ―――――、


なかった。

「うごぉっ!?」

鈍い打撃音と共に吹っ飛ぶギーシュ君。
へ?一体ナニが!?

「よっしゃー!ギーシュ、決闘だな?決闘したかったんだな?よし今から広場へ行こうぜ!」

「だめよサイト。ギーシュは今から私が爆発させるんだから。大丈夫、塵も残さないわ」

「ぼくには何がなんだか分からないけど、とりあえずぶっ飛ばされて欲しいとは思うよ」

才人?ルイズ?あと、ミスタ・グレンドプレ?
何でオマエらがモンモンの部屋に?
え?なにこのカオス。

「ラリカ、もう大丈夫だからな。薔薇野郎が二度と好き勝手できないようにしておくから」

「ギーシュ。失望したわ。別れた彼女の部屋で別の子とキスしようとするのはともかく、ラリカに手を出すなんて」

「ぼくには何がなんだか分からないけど、とりあえず羨ましすぎて憎いとは思うよ」

何だか分からない。分からないけど確かな事が1つ。
ギーシュ君が危ない!

「2人とも何するの!?」

ギーシュ君を庇うように前に出る。一瞬、2人は不思議そうな顔をしたが、すぐに困ったように笑った。

「そんなヤツ庇う必要ないぜ、ラリカ。大丈夫、ちょっと半殺…、四分の三…、いや十分の九殺しにする程度だから」

「ラリカは優しいわね、無理矢理あんなことされそうになったのに。でもいいのよ、ここは私たちにまかせて」

「ぼくには何がなんだか分からないけど、とりあえず静観しとくよ」

2人は必ず止めるとして、まあ、とりあえずミスタ・グランドプレは放っとけばいいや。

「…痛たた、ルイズにサイト?いきなり何をするんだ?」

ギーシュ君が立ち上がった。良かった、怪我とかはしてないみたい。

「てめえギーシュ…」

「全く野暮天だなぁ。愛しい女性と愛を育んでいる時くらいは自重して欲しいよ。親しき中にも礼儀ありというじゃないかね。それとも、こんな所じゃなくて自分の部屋でやれという注意だっかのかい?それにしても乱暴な、」

「何言ってやがる!お前モンモンとヨリを戻すんじゃねえのかよ!!」

「モンモランシーとはとっくに終わっているよ。未練はあったが、修復は無理だし、何より僕が真に愛するのはラリカだと気付いたからね。誓おう、このギーシュ・ド・グラモン、今後はラリカのみを愛し、二度と浮気なんてしないと!」

嬉し…じゃなくて、このまま会話させ続けたらマズい気がする。
ギーシュ君は惚れ薬のせいでこんな事を言ってるのだ。私なんかを愛するとか、普通じゃありえないし、あっちゃいけない。
それを真に受けられたら彼の人生に汚点が付いてしまう。
…キスできなかったのは残念だけど、これで良かったかもしれない。これで、いいんだ。

「何が『二度と浮気しない』よ!あんたにラリカは渡さな、」

「待って!!」

全員がこっちに注目する。
私は視線を集めたまま、モンモンに顔を向けた。

「ミス・モンモランシ。ギーシュ君に“何を飲ませた”の?」

「うっ!!」

今まで黙っていた部屋の主の、明らか~な反応。誤魔化せば誤魔化せたのに、そのあからさまな反応にみんなの感情が1つになる。
というか、プライドが高くて自己まんせーな彼女が、自分の部屋で元カレと別の女の子が抱き合うのを放っておいたり、勝手に入ってきたルイズ達に文句も言わずに黙ってたこと自体からして怪しさ爆発だ。
現にモンモンの額からはたらーりと冷や汗が垂れている。

「なななな何の事かしら?わたしにはさっぱり、」

「正直に言わないと、あんたの顔面を全力で“錬金”するわ。あんたの大好きな“失敗魔法”でね」

「惚れ薬を飲ませたわ」

全員が、「はぁ!?」とか「それ禁制よ!?」とか「ぼくにも作ってくれ」とか反応する。
でも、飲まされた本人のギーシュ君は笑い飛ばした。

「僕に“惚れ薬”?あの水に混ぜていたとでもいうのかい?ははは、面白い冗談だねモンモランシー。まさか僕とヨリを戻したかったとかかな。でも、その話が仮に本当だとしても、僕のラリカを愛する気持ちは変えられなかったようだ。残念ながら君の計画は失敗さ」

「惚れ薬だな」

「惚れ薬ね」

「モンモランシー、ぼくにも作ってくれ!1000エキューまでなら出す!!」

…実に説得力のあるコメントだったようだ。一撃で全員が信じてくれた。
やはりギーシュ君が私を好きになるはずないってみんな思ってたんだろう。当然なんだけど、少しだけ悲しい。

「モンモンお前、何考えてんだ!」

「仕方ないじゃない!それにこれは事故よ!わたしは悪くないわ!!」

うわ、逆切れ!?

「だいたいねぇ!全部あんたが悪いのよ!!」

そして私を指差した。って、私!?

「私!?」

「あんたが“惚れ薬”飲んだのに、全然効いてないみたいだったから!大枚はたいて高価な材料使って…失敗なんてするはずないのに、」

「ちょっと待ちなさい」

ルイズが逆切れモンモンを止める。
いや、それよりモンモンは何て言った?私にも“惚れ薬”を飲ませた?
…冗談。
私にそんなもの飲ませる理由が見当たらない。それに、原作だと“惚れ薬”はギーシュ君に飲まそうとする1杯分だけだったはず。

「な、なによ」

「どういうこと?何でラリカにも“惚れ薬”なんて飲ませたの?ギーシュとラリカをくっ付けようなんて思うはずないし…あんた、何を企んでたの?」

「そ、それは…」

言いよどむモンモン。と、ミスタ・グランドプレが口を出した。

「そういえば、ぼくは何で呼ばれたんだ?何の用事かは聞いてなかったけど」

む、そういえば私も。

「ミス・モンモランシ、確か私を呼んだ理由って“素敵な人を紹介する”とか」

私に一目惚れどーのとか。でも、ミスタ・グランドプレは別に私に惚れてないし。あの時点じゃ薬を飲んでなかったギーシュ君も私を好きになってないはず。

「…おいモンモン、お前、まさかラリカをマルコに惚れさせて“惚れ薬”の実験台にしようとか思ってたんじゃないだろうな?だとしたら…」

才人が斬伐刀に手を掛ける。
目が本気と書いてマジな状態だ。

「それで、成功したらギーシュに飲ませた“惚れ薬”を自分が使うつもりだったの?…もしそうだったら、」

ルイズが杖とクロスボウを取り出す。
目が本気と書いて(略。

「何だって!!じゃあ上手くいったらメイルスティアがぼくに惚れてたって事か!」

ミスタ・グランドプレは放っておこう。
でもなぜか目が本気(略。

でも、…いやいやいや、そんな、ありえないって。
いくら何でもそれはダメ過ぎだし、ギーシュ君が好きになった相手がそんな最低人間なはずない。それに私の想いは薬の力なんかじゃない。

「ルイズ、才人君も。私は“惚れ薬”なんて飲んでないって。ど~見ても普段どおりじゃーないですか。ね?ギーシュ君」

「ああ、いつもどおり魅力的だよ…僕のラリカ!」

ギーシュ君が私をがばっと抱き締める。そして強引に頬を持ち、さっきやりそびれたキスを…、
またルイズ&才人に引き離された。

「また!!どうして邪魔するんだよ!?」

「うるせえ!“惚れ薬”だろうと関係ねえよ!!やっぱお前はブン殴る!!」

しかも彼を叩こうと、

「才人君!お願いだからギーシュ君に乱暴しないで!!」

…あ。
ギーシュ君を殴ろうとした姿勢のまま固まる才人。
思わず彼の前に飛び出し&叫んじゃったけど、マズった?
いやいや、でも普通の友達とかだって乱暴されようとしたら止めるはずだよね。うん。
人として当然の主張をしたまでなのです。



だから、こっち見んな。




私は“惚れ薬”なんて飲まされてないって~の!!









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新年度、引越しが完了してようやく落ち着けました。
滞っていた更新も元に戻せそうです。
それにしても…光は速~い。



[16464] 第三十七話・行く先はラグドリアン
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:99efb4d6
Date: 2010/04/10 02:45
第三十七話・行く先はラグドリアン





こっちはこっちで大変で、あっちはあっちで大変なのです。まあ、とにかくラグドリアンへ。それぞれの想いを乗せて。





<Side Other>


「水の精霊か。私たちが火と風のメイジだってのが幸いね。攻守の相性は抜群なんじゃない?攻撃の方はあたしに任せてちょうだい」

キュルケはソファに腰掛け、隣で紅茶を飲む親友に言う。

「防御に専念する」

「触れられたらお終いっていうし、信頼してるわよ」

頭を軽く撫でる。
小さな友人は特に反応せず、されるがままになっている。
年に似合わない不幸を背負わされ、幾多の危険を乗り越えてきたシュヴァリエにはとても見えなかった。

「…はしばーみ?」

「…」

何となく言った言葉にピクリと反応する。
そして不思議そうにキュルケの顔を見上げた。

「これには反応するのね。本当に合言葉とかじゃないの?」

「わからない」

「でもあの子、あなたと会う度に言ってるわよね。ひょっとして何か反応するのを待ってるんじゃないかしら」

そしていつも答えられないでいるタバサの頭を撫でる。
ラリカとタバサが揃うと必ず繰り広げられる光景だ。そのため、ここ最近だとタバサを撫でる頻度はキュルケより彼女の方が多いかもしれない。

「そうなの?」

タバサは少し考える素振りをする。しかし、すぐに小首を傾げた。

「何て言えばいいのかわからない」

「じゃあ今度言われた時までに考えておく宿題ね」

答えられたら、撫でられなくなるのかしら?それとも、よくできましたとか言って、やっぱり撫でるのか。
後者の光景が容易に想像できる。
明日は命を落とすかもしれない危険な任務が待っているというのに、その想像に思わず笑みが零れた。

「さ。寝不足で本調子が出なかったとか洒落にもならないし、そろそろ寝ましょうか。まあ、少々危険な任務だけど大丈夫よ。なにが起こったって、あたしがついてるんだから」

タバサはキュルケを見上げ、小さく頷いた。

「…信頼している」



“信頼している”

その言葉に、キュルケは一瞬目を見開き…そして、微笑んだ。
タバサの心を覆う雪風のベールは、徐々に溶けてきている。“微熱”だけではこんなに早く彼女の氷を溶かせられなかっただろう。
でも、今の彼女には、親友の自分の他にも友人と呼べる存在ができている。


――― “ゼロ”と呼ばれ続けてもなお挫けない、自分のライバル。

1年の頃は険悪な感じにもなりかけたが…どうも、例の“仲裁者”のお陰で決定的な関係にはならないまま、ずるずると友人になってしまっていた。
その関係はそのままタバサにも繋がっていき、今では出会えば普通に挨拶している。
以前のままのタバサなら、いくら頼まれたとしても詔の詩を一緒に考えてくれることなんて有り得なかっただろう。


――― 彼女の使い魔の少年。

気さくな性格の彼はタバサの寡黙に臆することなく接する。
沈黙で気まずくなりかけても、“仲介者”がタバサをいじってそれを破った。
おそらく、自分と彼女はタバサの保護者のような感覚で見られているのだろう。だから、少年のタバサを見る目は、優しい。


――― およそ友人になんてなり得ないと思っていた、キザでマヌケな女好きの少年。

タバサとは絶対に接点を持たないまま、卒業まで過ぎると思っていたのに。
しかしアルビオンの時から一緒に行動する機会が増え、宝探し旅行で確定した。
“提案者”の彼女がその後も反省会を開いたせいもあり、彼は恐らく学院の男子生徒でタバサと普通に接することのできる唯一の存在だろう。
タバサに男の友人とか、1年前では考えられない。


――― そして“仲裁者”で“仲介者”で“提案者”の、少し変った少女。

そういえば彼女は自分が学院に入学してできた、最初の“友人”だったかもしれない。恋人は量産できても友人などできない(というか、敵ばかり)自分に普通に声を掛けてくる唯一の女生徒。
初めは皮肉でも込めているのか、何か裏でもあるのかと疑ってもみたが、やがて気にするだけ無駄と知った。
彼女は、“ゼロ”と呼ばれ始めたルイズにさえ変らぬ態度で接するのだ。

そして彼女はいつの間にかタバサとも親しくなっていた。
最初の頃は挨拶をしなくなったあたりから、タバサとはウマが合わなかったかとも思っていたが、気付けば毎回のように撫でられ、毎回意味不明の合言葉?まで交わして?いる。
一体どんな“魔法”を使ったのか。
仲良くなったきっかけを聞いても、2人とも分からないと言う。でも、しかし、友人になるきっかけなんてそんなものなのかもしれない。

3人の男女をタバサに繋げた少女は、自らのした事に気付いてすらいないだろう。
今のタバサには、自分以外にも“仲間”がいるのだ。
共に冒険し、飲み交わし、笑い合える…笑い“合う”のは性格的に難しいが、そんな仲間たちに囲まれれば、氷なんてすぐに溶かされてしまう。

もっと信用して、信頼して欲しい。自分たちはそれにきっと応えられるから。
タバサの背負う不幸や悲しみも、和らげることができるから。

「…なにが起こったって、あたし達がついてるんだから、ね?」

優しく肩を抱くと、タバサはほんの少しだけ目を細めた…気がした。




※※※※※※※※




ギーシュ君がフォローを交えた推理をした結果、モンモンとミスタ・グランドプレは付き合う事になった。

何を言ってるのか分からないと思うが、正直私も分からない。
推理するギーシュ君が名探偵みたいでカッコいいな~とか見惚れてたら…そーなっていた。
で、気付けばモンモンはマリコルヌとの両想いラブラブ大作戦を練って盛大に失敗したという話に。

「つまりだよ、浮気ばかりしていた以前の僕に愛想を尽かしたモンモランシーは、絶対に浮気しない新たな恋人を作りたかった。そこで白羽の矢が立ったのがマルコってわけさ。でも念には念を入れて、“惚れ薬”で完全に自分しか目に映らなくしようとしたんだよ」

「な、なんだってー!?ミス・モンモランシに狙われていたのは、ぼくだったんだね!!」

「え!?ちょ、ちが、」

「そうだったのか。それならまだ許せるな。もしラリカを実験台とかにしようとしてたなら、モンモンを泣いたり笑ったりできなくさせるところだったぜ」

「そんなわけないじゃないかサイト。モンモランシーはそんな最低のゲスじゃない。付き合っていた僕が言うんだから間違いないよ。それに、“惚れ薬”は禁制品で、しかも効果は永遠じゃないっていうしね。バレたら退学どころじゃないんだから、実験台だなんて恨まれそうな事はするわけないさ。ラリカがもし飲んでしまったとしたら、それは純粋にただの事故だよ」

「そうか…最近よく熱い視線を感じているような気がしたような気がしてたような気がしたけど、正体はぼくのピュアな心を狙うモンモランシーだったんだね」

「ち、ちが…、」

「言われてみれば確かにね。悪意を持ってラリカとマリコルヌをくっつけようとかしてたなら、モンモランシー自身に跡形もなく“錬金”をかけるところだった。ギーシュに言われて気付いて良かったわ」

「君が早まらなくてよかったよルイズ。おそらくラリカに言ったっていう“素敵な人を紹介”っていう意味は、“新恋人のマリコルヌを紹介する”って事さ。ラリカに言えばおのずと僕にも伝わるからね。直接伝えない方法を取ったのは元恋人の僕に対する、モンモランシーなりの優しさだと思うよ」

「………」

「それでモンモランシー、僕の完璧な推理はどうかな?十中八九、正解だと思うんだが」

「ミス・モンモランシ、君のやや危険な想いは確かに受け取った!でも薬なんかに頼らなくても、ぼくは浮気なんてしないよ」

「どうなんだモンモン」

「本当の事を言いなさいよ」

「せ、正解よ。もうそれでいいわよ!!」

半泣きでモンモンがそう宣言し…何だか妙な違和感を残したまま新カップルが誕生したのだった。
原作だとモンモンはギーシュ君と恋人なはずだったのに…。
でも、正直ギーシュ君の一番は、もっといい人であって欲しいと思っていた。
だから、この乖離は悪くはないのかもしれない。

………たぶん。




※※※※※※※※




「それで、そのラグ何とか湖ってとこに行けば解除薬の材料が手に入るんだな?」

翌日。
授業をサボった私たちは、モンモンの部屋に集合していた。
ちなみに昨日はルイズが私の部屋に、才人はギーシュ君の部屋に泊まったらしい。夜這い防止とかで。
まあ、少し助かった。
ギーシュ君にならいつ何をされたっていいんだけど、“惚れ薬”で正気じゃない状態じゃ後から責任を感じさせてしまう。その配慮は正解だろう。
でも私の方は夜這いなんて大それたことできないし、そもそも“惚れ薬”なんて飲んでないんだから見張りなんて要らなかったと思う。

「ええ。さっさと行って貰ってくるわよ。行くメンバーはわたしとルイズ、ラリカ、サイト、そしてギーシュの5人ね」

…いやにやる気だなぁ、モンモン。
原作だと行くのを渋ってたような気がするケド、

「待ってくれ。ぼくがメンバーに入ってないよ?ぼくのモンモランシー」

「ははは、マルコ、どうやら君の恋人はまだ一緒に旅をするのは恥ずかしいらしいね!まあ、危険はないから安心したまえ。“惚れ薬”の効果はご覧の通り、僕もラリカも全くないんだ。もし手に入らなくたって問題ないしね。どちらかというと、ただの観光旅行だよ!」

「あなた達は黙ってて!これ以上ややっこしくなったら堪らないわ!…あとギーシュ、薬が切れたら覚えときなさいよ…」

何となく理由が分かった。
今回は自分にも関係してるから気合入ってるんだろう。とりあえず、薬が切れた時にギーシュ君がとばっちりを食わないように頑張らないと。

「やれやれ、初々しいカップルは見ていて微笑ましいね!それより僕のラリカ。君はラグドリアン湖に行ったことはあるかい?」

ギーシュ君が私の肩に手を置き…ルイズにはたかれた。

「聞いたことはあるけど、行ったコトはないかなかーな?一度は行ってみたいとは思ってたケドですが」

「そうか!いや、実は僕も初めてでね!水の精霊は“誓約の精霊”とも呼ばれているそうじゃないか、丁度いい、そこで僕らも永遠の愛を誓い合おうか!」

永遠の愛。ギーシュ君と。わぁ、誓いたいなぁ…。
でも、それは叶わないし、叶えちゃいけない。だから、

「解除薬を飲んでから、ね~」

とだけ答えた。
胸がやたらとぎゅーってなる。分かっちゃ~いるけど苦しいぜぃ。

「望むところさ!この愛が“惚れ薬”のせいなんかじゃないと証明し、その上で愛を誓う。それなら未だに僕を疑うサイト達も納得するだろう?そうすれば晴れて僕らは邪魔される事なく愛を紡ぎ合える!いやー、実に楽しみだね!!」

そう言ってギーシュ君は笑う。


全く。
そんな純真な笑顔、見せられたら、色んな意味で胸が痛くなっちゃうじゃーないですか。

いざ。


貴方の心を取り戻す、旅へ。







[16464] 第三十八話・ナゾを出すなら答えを用意しといて下さい
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:99efb4d6
Date: 2010/04/13 22:19
第三十八話・ナゾを出すなら答えを用意しといて下さい





出会うべくして出会う。主要人物は巡り合う。でわでわ。私というイレギュラーが居ることで、何かほんのり変わるのだろ~か。





モンモンの毒々しいカエルが水の精霊を連れて来た。

それにしても綺麗だ。CGみたい。…喩えが微妙だが、ホントに映画のCGみたいだ。
あっちの世界の最新技術でスライムとか描写したらこんな感じだろう。

「旧き盟約の一員、モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシよ。わたしの血に覚えがあるなら、わたしたちに分かるやり方と言葉で返事をして」

モンモンの言葉に水の精霊はうねうね動き、透明なヌードモンモンになる。

「覚えている、単なる者よ。貴様に最後に会ってから、」

「覚えているのね、じゃあ早速本題に入るわ。あなたの一部を分けて欲しいのよ」

…確か原作だと機嫌を損ねちゃダメダメとか言ってたよーな。喋ってる途中で遮るってマズくないのか?

「…断る。単なる者よ」

やっぱり。

「そこを何とかお願い!じゃないとわたしが大変なのよ!!」

必死だなモンモン。

「貴様がどう大変だろうとも、我は関せぬ」

「そこを何とか、」

「ふむ、どうやら水の精霊は少々融通が利かない性格のようだね。やれやれ、それに噂ではこの世の何者よりも美しいと聞いていたが…僕のラリカに遠く及ばないじゃないか。姿を似せるならせめてラリカに似せたまえよ。美が何たるかを全く理解して、」

そこまで言ったギーシュ君がモンモンに張り倒される。
一瞬、モンモンの脳天を射抜いてやろうかと思ったけど…耐えた。今のは確かにギーシュ君の失言だし、あんまり庇うと惚れ薬疑惑が膨れそうだし。
今の最優先は、解除薬を作ってギーシュ君を元に戻すことなんだ。

「何バカ言ってんのよ!!水の精霊が怒ったらどうするつもり!?気難しいので有名なんだから、ちょっとで機嫌を損ねたりしたら大変な事になるのよ!!」

それをデカい声で言うのもより一層アウトじゃーないのか?
とりあえずギーシュ君に“治癒”を掛け、ちょっと溜息をつく。

そして水の精霊に向き直った。
…解除薬はギーシュ君のためにも必要だし、ちゃちゃっと話を進めますか。

「水の精霊さん。タダで体の一部を分けてって言うのはアレなので、何か対価になるっぽいコトを私たちが請け負うってのはどーでしょう?少しはお役にたてるかもかーも。魔法のクスリで心を惑わされちゃったヒトの“本当の心”を取り戻したいのです」

「ラリカ…」

「“惚れ薬”でギーシュの事が好きになってるはずなのに…」

才人&ルイズが私を見つめる。モンモンはばつが悪そうだ。
まあまあ、ここは任せなさいって。どーせやる事は分かってるし、相手はキュルケとタバ子。戦闘なんて回避しちゃえばいい。

あと私は“惚れ薬”飲んでないっちゅーの。あくまで解除薬はギーシュ君用。
私がギーシュ君を愛してるのはデフォなのです。
そして相手がホントに好きなら“惚れ薬”なんかに心をど~かされて欲しくないのが普通の感覚でしょ~に。

「頼むよ!水の精霊さん!何でもするから!!」

「水の精霊、お願いよ!どうしてもあなたの身体の一部が必要なの!!」

「とうわけで、ラリカの、そして僕の友人たちの頼みを聞いてくれないかい?もちろん、僕も可能な限り協力するから」

「水の精霊、今回だけでいいから、ね?旧き盟約の一員のよしみで!」

水の精霊は再びうねうねと蠢く。

「よかろう。しかし条件がある」

襲撃者をどーにかしろってね。


※※※※※※※※


というわけで、無事解決しました。

戦闘は普通に回避。
目立ちまくるココアのお陰で、キュルケ達は一発で気付いてくれた。
で、コトの経緯を語ってすんなりミッションコンプリ~ト。
モンモンがなぜかタバ子に睨まれ続けて泣きそうになってたけど、問題ないだろう。

そして翌朝、再び私たちは水の精霊を呼び出した。

「水の精霊よ、もうあなたを脅かす者はいないわ。だから約束どおり、あなたの一部をちょうだい」

水の精霊が震え、身体から水滴みたいなを飛ばしてきた。
ルイズがそれを瓶の中に受け止める。これで私&ルイズ達の目的は達成だ。
ひゃっはー精霊の涙げっとだぜーしてるルイズ&才人は放っといて、今度はタバ子サイドの本題だ。キュルケが去って行こうとした精霊を呼び止める。

「ちょっと待ってもらえるかしら」

「なんだ?単なる者よ」

「どうして水かさを増やすの?できたらやめて欲しいんだけど。今回はともかく、このままだと土地を水浸しにされた人間がまた貴方を襲いに来るわよ」

「理由があるなら聞きたい。私たちにできることなら、するから」

水の精霊が蠢く。なーにやってるんだか知らないが、実に意味不明な動きだ。
悩んでるのか?
どーでもいいけどルイズと才人はすでに帰還モード。
モンモンに早く解除薬作れって急かしてる。あんまり急がせて失敗しても良くないのに。

「貴様らの同胞に奪われた秘宝を取り戻すため、我は水で全てを覆い尽くそうとしている。いずれ水が、我が身体が秘宝のありかを知る時まで」

「秘宝?」

微妙にキュルケが反応する。お宝とかはやはり興味あるっぽい。
でも、それがあの“アンドバリの指輪”だと知ったら、

「秘宝ってもしかして、“アンドバリの指輪”?父上から聞いたことがあるわね。確か、死者に偽りの命を与えて操るとか」

「何よそれ。趣味悪いわね」

やっぱり興味を失った。何だかんだでキュルケって正論を言う。

「そのとおり。月が三十ほど交差する前のこと、風の力を行使して、数個体の貴様らの同胞が我が秘宝を盗み去ったのだ」

「ならそれが戻って来れば水かさを増やす必要はないわよね?何とかして見付けてくるから、水かさを戻してもらえないかしら?」

タバ子に、それでいいわよね?と聞き、タバ子は頷く。彼女らも進んで水の精霊との戦闘なんてしたくないのだろう。
水の精霊は少しだけ沈黙すると、透明ヌードモンモン姿で笑った。まあ、実際“笑って”はないんだろうけど。

「いいだろう。指輪が戻るのであれば水かさを増やす必要はない」

「決まりね。で、ただ闇雲にってのもあれだし、何か盗んだやつの手掛かりとかないの?」

「個体の1人が“クロムウェル”と呼ばれていた」

実に原作通り。
確か、ガリアの変人王に影で操られてる小物っぽいヒトだったよーな。会う事もないから興味ないけど。

「聞いた名前ね。確か、アルビオンの新皇帝…ん?」

で、ちょっと思案顔になるキュルケ。何か引っ掛かったか?

「貴様らを信じて待とう。では、」

「待って」

姿を消しかけた水の精霊を、今度はタバ子が呼び止めた。

「水の精霊。あなたに1つ聞きたい」

「なんだ?」

「あなたは“誓約”の精霊と呼ばれている。その理由が知りたい」

「単なる者よ。我と貴様らは存在の根底が違うゆえ、その答えは正しいか分からぬ。ただ察するに、我の存在自身が理由と思う。我は永遠に変らぬ、その変らぬ我の前ゆえに、貴様らは変らぬ何かを祈りたくなるのだろう」

「なるほど!じゃあ“惚れ薬”の解除薬とやらを飲んだら再びここに来なきゃいけないね!ラリカに僕の変らぬ愛を誓わないと!」

ギーシュ君がうんうん頷き、ルイズ&才人に睨まれる。
モンモンも怒ってるかなーとか思ったけど、どうやらルイズらの矛先が別方向に向いたのでほっとしてるみたいだ。

「ありがとうギーシュ君。でもしか~し、別に誓いは“ここ”でする必要はないと思うよ」

…ギーシュ君の想いは、解除薬で消えちゃうしね。
その誓いは別の、もっと素敵な誰かにあげて下さい。

「どうして?」

何か誓おうとしていたタバ子がこっちを見る。
いや、別に誓うなとは言ってないからご自由に祈ったり拝んだり誓ったりしていいのに。

「誓いとは、自分自身にするものと私は思うのですよ。誰かをどうかしますって誓いも、何かを成し遂げたいって誓いも、実行するのは自分自身。始祖だろーと水の精霊だろーと、所詮は他人。誓われた者サイドからしたら“自分には関係ない誰かが何だか勝手に誓ってるけど、正直どうでもいいや”って感じだろうしね。今の水の精霊の言葉からしてその通りっぽいし。まあ、結婚式やらも~ろもろの公言が必要なのは別として。とゆうかアレは誓いというより儀式かもかーも」

まあ、あくまで私見。何かに誓いたくなる気持ちは分からなくもないし。
それに自分への誓いは他人には分からないけど、誰かや何かへ誓うのはビジュアル的にも気分的にも効果はあるのだろう。

「………誓いは、自分自身にするもの」

タバ子は完全に誓うのをやめちゃったみたいだ。
まあ、別にタバ子自身はとっくに“決めて”るんだろうから、やめたところでどーも影響ないだろうけど。

「なるほどね」

キュルケが私の肩に手を置いた。何が?

「あなたが“惚れ薬”に耐えられる理由、分かる気がするわ」

今の台詞のどこにそんな要素が?てか“惚れ薬”なんて最初から飲んでないっちゅーに。
耐えるも耐えないもないだろう。
そしてなぜかうんうん頷く誇らしげなタバ子。なぜオマエさんが誇る?意味ワカラン。

「当然よ!ラリカはギーシュなんかとは違うのよ!」

ルイズ、『ギーシュなんか』って言うな。確かに私とギーシュ君は全然違うが、それはもちろんギーシュ君の方が全てにおいて上という意味で、

「ラリカがギーシュにべったりとかなってたら、今頃モンモンは星になってるよ」

才人も。ホントはべったりしたいんだよ!叶わないけどね。
というか、今の言葉でモンモンが涙目だ。安堵か恐怖か、どっちの意味での涙目だろうか?

「まあまあ、気持ちは分かるが僕のラリカを褒めるのもそれくらいにしたまえ。それとさっきから僕がどうとか言ってるが、“惚れ薬”なんて全く効いてないから。ギーシュ・ド・グラモンの永遠の愛の前には、“惚れ薬”の力なんて無力、」

「まあ、それはともかく解除薬は早く作ってもらわないとだけどね」

「いくら耐えれてるって言っても、間違いとか起こったら取り返しつかねえしな」

私に抱き付こうとしたギーシュ君を羽交い絞めにしつつ、ルイズと才人は再びモンモンに矛先を向けた。
何でもいいけど、ギーシュ君に怪我だけはさせないで欲しい。

「やはり、貴様らの考えは我には理解できぬようだ。貴様らは我と違い、個々に別々の考えを持ち、そして目まぐるしく世代を変えていく。常に変わらず水と共にあった我と、移ろい変化し続ける貴様らゆえ、当然のことかもしれぬがな」

あ、水の精霊まだ居たんだ。もう別に用はないから帰っていいのに。

「単なる者…と、満たぬ者よ。貴様らの寿命が尽きるまでは、」

「ちょっと待って」

…今、何か妙なフレーズが出たような。

「何だ、満たぬ者よ」

やっぱり!というか、それは私を指してる?
全員が私と水の精霊に注目した。

「その“満たぬ者”って何かなーと。水の精霊さん、私たちのことは“単なる者”って呼ぶんじゃなかったっけ?」

「そうだ、満たぬ者よ。ただ、貴様は“単”に“満たぬ”ゆえ、そう呼んだまでだ」

どういう意味だ?

「ええと、できれば詳しく教えて欲しいな~とか思ったりして」

「貴様自身で分からぬものを、貴様ではない我が知るはずもない。…貴様らの寿命が尽きるまで、秘宝が戻ってくるのを待っているぞ」

もう引き止める間もなく、水の精霊はごぼごぼと姿を消した。

なぞなぞ出して、答えを言わずに去るとか、何というダメ出題者。
何だか微妙な空気の中、私はみんなに振り返り、笑っておいた。

「まだまだ一人前には程遠いって意味なのかな?いやー、そう言われたらそうなんだけどねー」




満たぬ者?

ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティアは、“単”になるには“足りてない”?

何だそれ?


ほんの少しだけ、アタマの奥の方が…ずきっと痛んだ気がした。




[16464] 第三十九話・顛末、そして
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:99efb4d6
Date: 2010/04/29 11:24
第三十九話・顛末、そして





さらば、アイラブユーな私。でもでもいつか、いつの日か。再びあんな想いを抱ける日が…来るのかなぁ。実に微妙だ。





予定調和で話は進む。

ルイズがギーシュ君に代わっただけ。
精霊の涙はあまりにあっさり手に入り、偽物の感情は消え去るのだろう。
………私たちは今、学園へ戻ってきていた。



「まあ、解除薬だか何だか分からないが、そんなものを飲んでも僕の想いは変わらないだろうけどね。じゃあ、それを証明してみせるよ」

モンモンの部屋、できたばかりの解除薬を手にギーシュ君は微笑む。
その優しい笑顔に、自分の気持ちが嘘じゃないんだって確信した。この気持ちが惚れ薬のせいのはずない。
そもそも、モンモンが私に惚れ薬を飲ませる理由がないんだから。

ギーシュ君への想いは、これから先も変わる事はない。
それが報われる事はもうないだろうけど、“今”を私は心に刻む。
これからは相応しい別の人に向けられる笑顔を、心を、この一瞬だけは私に下さい。
その思い出を胸に、私はきっと歩いていけるから。

ギーシュ君が解除薬をあおる。
これで、元に戻るんだ。

「…ありがとう、ギーシュ君」

聞こえないくらい小さな声で。伝えきれないくらい大きな想いを。

「――――― だよ」

そして自分でさえ聞こえないくらいに、微かに。
ギーシュ君は前を見ている。私のその声は聞かれていない、気付かれていない。
それでいい。伝えてはいけない言葉だから、知られてはいけない想いだから。私には過ぎた、願いだから。

私の想い、身の程知らずの告白よ。
塗り固めた嘘の底へ、消えていけ。








顛末。

正気に戻ったギーシュがあばばば言いながら部屋から飛び出した後(才人、ルイズが何とも言えない表情でそれを追っていった)私も解除薬を飲みました。

いやー、参ったねコレ。
…軽く死にたい。嘘だけど。
我がダメ人間な性格のお陰で激しくアイラブユーしなかったのだけがせめてもの救い?
なぜ~に私が自分の幸福を優先順位から降格させにゃーならんのだよ。しかもギーシュ第一とか、冗談にしても笑えないぜ~。あばば。

でもまあ、感じた“幸福”はホンモノだったわけで。
今まで感じた事の無いシアワセとか温かさとか、キュンキュンとかは盛り盛りだったわけで。
水の精霊に“満たぬ者”呼ばわりされても、あの時の私は満たされていたワケで。
どういう手違いがあったかは知らないけど…ほんの~りと感謝はするのです。


ヤツらが去っていった扉を閉じ、ミス・モンモランシに向き直る。

「な、何よ」

私が怒ってると思ってるのか、彼女は警戒心MAXな顔で反応してくれた。
うーむ、たとえ私が怒っててもミス・モンモランシの方が明らかに強いし、警戒する必要はないと思うんだが。

「もう用は済んだでしょ?…何よ、何か文句、ああもう!!分かったわよ!わたしが悪かったわよ!でもいいじゃない、元に戻ったんだし、結局別にギーシュに変な事されたわけじゃないんでしょ?わたしはなぜかマリコルヌと付き合うことになってるし、早く誤解を解かないと、」

「ミス・モンモランシ」

閉めた扉に背を預け、何も言ってないのに喚き始めたミス・モンモンに声をかける。

「だ、だから謝ってるじゃない!」

「いえいえ、別に私は怒ってないからいいですよ~」

そんなキレやすい人に見えるのかな~?まあ、確かに目付きの悪さは自認済みだけど。

「怒ってない?うそよ。だって、」

「嘘じゃないよ。逆に、ありがとう」

微笑んでみせる。だから警戒を解けモンモンさん。
主要キャラじゃないものの、コイツもそれなりの重要人物。警戒されたり敵視されたりはゴメン被りたい。
それに、怒ってないのは本当だし、ありがとうも本心だ。

「へ?」

「だから。ありがとう。クスリのチカラとはいえ、誰かと両想い状態なんて…いやー、実にシアワセ体験できました。うん、あんな幸福な気持ち、初めてだったから」

うんうん。
思い出すと顔面ファイアーになりそうになるけど、確かに貴重な体験だった。

そして私の『なるべく平穏で幸せな人生』を手に入れるうえでも参考になる体験かもしれない。誰かをホンキで好きになれば、幸せ度がアップする可能性があるのだ。
今までは恋人=結婚=未来への投資みたいな考えだったけど改めねばねーば。うむ。
愛する夫&子供と過ごす穏かで平和な日々。何という完璧で理想的な構図なのだろう。

…まあ、現状はそこまでゼイタク言えないから、私の幸福最優先なワケだけど。
それと、相手を選ばないとマズそう。
誰かを好きになった状態の自分を知ることができたのは大きな収穫だ。
私が劣等感とか持たずに相互ラブできそうな相手か。そのへんの平民か、いいとこ下級貴族だろーな、多分。別に文句ないけど。
とにかく、視野は広がった。それだけでも感謝だ。

「そんな、な、何言ってんのよ…。そんなこと言われたら…」

でも感謝の気持ちを伝えたはずが、なぜかミス・モンモランシは辛そうな表情になってる。
怒る=警戒、無言=逆切れ、感謝=辛そうって、どーすりゃ納得してくれるんだこの金髪縦ロールは。
もう少しフォローしなきゃダメなの?私はただ、気にしないで以降放っておいてもらえればいいだけなんだケドね~。

「私はですね、ミス・モンモランシ。メイルスティア家というお先真っ暗な家に生まれたから、恋愛とかはほぼ諦めムードだったんですよ、実のトコロ。だって私をお嫁にもらっちゃった人は、もれなく貧困がついてくるんだから。その果てしない貧困道をチャラにできるような容姿も、アタマも、才能も持ってないから余計に無理っぽく。そんな私が、どーいうわけか誰かを好きになり、その相手も私を好きになってくれた。コレはなんて奇跡?そしてそのお陰で、うじうじしてた私の心も、頑張ってみよーかな~とか思えてきたりしたワケです」

最後は嘘だが。
まあ、逆に勇気付けられたよ!とか言っときゃモンモンさんも気を取り直すだろ。
てかね、何で被害者の私が加害者に気を遣わなきゃーならんのだ?

「………」

だめでした。
俯いて何かブツブツ呟くミス・モンモランシ。
あー、めんどくさいなー。

「あなたは私の背中を押してくれた。だから…怒ってないよ、ミス・モンモランシ」

「…っ!!」

顔を上げ、キッと私を睨むモンモンさん。ばーじょん涙目。
私は何か傷付くようなコトを言ったのですか?

「あんたはっ!!」

「な、何でしょーか?」

「っ!!何でもないわよ!…もう自分の部屋に戻りなさいよ。それと、その、………ごめんなさい」

そっぽを向きながらも謝罪の言葉を(まあ、最初に言った逆切れバージョンは別として)口にする。
何だかやたら疲れたが、どうやら解決っぽいな。じゃ、遠慮なく帰らせてもらいますかね。

ミスタ・グランドプレとの関係をどーにかするのはまた今度でいいだろう。
“惚れ薬”状態では別にいいやとか思ってたけど、やはりギーシュとモンモンさんは原作通りの関係に戻しとかないと。
何だかんだで私も原因の1つになってる問題だし、何より危険度が限りなく低いしね。
私は自分の幸福最優先だけど、それに影響しなければ誰かを不幸にする気はないのでーす。

「うん。じゃあ、お邪魔しました」

「1つだけ聞いていいかしら」

なになにな~に?

「ほいさ」

「あなたの好きな人って、誰なの?その、場合によっては協力してあげなくもなくてよ」

ギーシュじゃないから安心してくれぃ。というか、そんな相手いないっちゅーの。

「ありがとう。でも、まだ私自身、どーなのか分かってないような。これからゆっくり、見付けていきたいと思ってる所存なのです」




さて。
何だかんだ、妙なイベントに巻き込まれはしたけど…これで一段落。
戦争は徐々に本格化していって、重要人物とかどんどん出てきて、私の存在感は希薄になって行くだろう。そもそも女子生徒は戦争に参加しなくてもいいっぽいし。
フェードアウトはもはや確実なのだ。

もちろん、学園襲撃事件でのデッドエンドを回避する作戦は既に決まっている。タイミングを見計らって実家に一時帰宅すればいいだけなのだ。



ほんのり前借で幸福も味わい、未来の展望もちょっと広がった。
いやー、実に順風満帆。幸福な結末のカタチが見えてきたぜ~☆




※※※※※※※※




だと思ってたんだけどね。

塞翁が馬。幸と不幸は順に巡る。運勢はヤジロベーなバランサー。


今、私の前にはアンリエッタ女王陛下がいる。
もの凄く睨まれてる。もの凄く憎まれてる。


うん。

どうやら本格的に詰んだようだ。
分不相応な幸福の後には、やっぱり深~い奈落が用意されてたようですな。
あは。



あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば!!!!!










オマケ
<Side 扉を挟んで廊下の3人>


「ちゃんと許してくれるまで土下座しろよな」

「分かってるよ。でも一応僕も“惚れ薬”の被害者だってこと、分かって欲しいんだがね」

「うるさいわね、あんたとラリカじゃ全然違うのよ。謝罪に心がこもってなかったら、たとえラリカが許してくれても私が許さないからね」

「分かったからそのクロスボウを僕に向けないでくれないか?もう逃げないから!」

逃亡者と追跡者は、仲良く(?)モンモランシーの部屋の前まで戻ってきていた。
そして才人が扉に手を掛けた時、



『 嘘じゃないよ。逆に、ありがとう 』



その声が、扉を挟んだ向こうから…漏れて聞こえた。

                                                                          



[16464] 第四十話・かつてない(私の)危機!!てか詰んだ?
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:99efb4d6
Date: 2010/04/17 12:00
第四十話・かつてない(私の)危機!!てか詰んだ?





過去というヤツは厄介だ。忘れようとすれば牙を剥き、引き摺れば食い殺される。なんて、カッコつけてる場合じゃないっつーの!





記憶は美化され、色褪せ、失われる。

記録は美化も劣化も忘却もされない代わりに、いつまでもただ情報でしかない。
人は、記憶する。
愛しい思い出を美化する為に。
悲しい記憶を薄れさせる為に。
そして、過去の楔を解き放ち、前へと歩き出す為に。


では?
感情を抜きにして、打算と計画で動いたあの日々は。
私の持っていたのは記憶?それとも、記録?


まあ、どっちだっていいか。
要するに、過去のお陰で現在ピンチってコトですので。
あばば。





眠ろうとしてたらキュルケに拉致られた。

タバ子がどーとか、ルイズが何とか言ってたけど、正直眠かったので適当に頷き、何か外出するっぽいので杖と弓だけ装備した。
どこに飲みに連れてかれるのかなー、さっさと眠りたいのになーとか、ねぼけまなこな脳味噌で到着したのがお城。

ハイ、姫様…じぇなくて、女王陛下誘拐イベントですね。あばばばば。
で、一気に目が覚め、よーし私はあっちの森を探して、とか言い終わらないうちにシルフィード発進。死体が転がる街道上に到着したのだった。



「ひでえな…」

悲痛そうな表情で才人が呟く。
うん、確かに酷い。こんな場所に私みたいなザコを連れてくるなんて。
敵はレコン・キスタ相手に善戦した百戦錬磨なアルビオン貴族。そして確か、ゾンビ殿下と女王陛下が愛の“ヘクサゴン・スペル”をぶっ放してくるよ~な。

「生きてる人がいるわ!」

キュルケの声。腕に深い怪我した騎士が苦しそうに呻いていた。

「大丈夫?ラリカ、“治癒”を」

「りょーかい」

そういえば原作でも騎士が1人生きてたような。
治療できないまますぐ気絶してフェードアウトしちゃったけど、“今回”は私がいる。
“治癒”の魔法もタバ子以下だけど、この人の回復に成功すれば戦力が増える=私の危険が減るかも。
ジェネリックじゃない、自作の売却用秘薬を使う。騎士の怪我は何とか消えていった。

「助かった、ありがとう。あんたたちは…?」

「私たちも女王陛下を誘拐した一味を追ってきたのよ。一体、何があったの?」

「分からない…あいつら、致命傷を負わせたはず、“アース・ウォール”!!」

ほぼ同時に四方八方から魔法の攻撃が放たれ、騎士の魔法によって造り出された土の壁がそれを防ぐ。
タバ子も奇襲を予測していたようで、頭上に空気の壁を作り上げていた。
うん、明らかに私の存在できる場じゃないな。微塵も反応できなかったし。

「敵襲」

「ま、予想通りね」

タバ子が小さく呟き、キュルケが鼻を鳴らして髪をかき上げる。

「ルイズ!」

「何よサイト!下がってろとか言うんじゃないでしょうね!?」

「いや、支援を頼む」

「任せときなさい!」

ルイズ&才人も息ぴったりだ。よし、じゃあ私はひとまず城に戻って報告なんかを、
…うん。(味方によって)囲まれているな、コレ。脱出できない。
一応みなさん、私がザコだって理解はしてくれてたようだ。でも、それならそもそも連れてくるなって言いたい。
そして守ってくれてる陣形なのは有難いんだけど…敵から見たら私が重要人物に見えない?
これじゃ逆に狙われるっちゅうに!

慌てて私も前に出る。
戦闘が始まったら下がろう逃げようそうしよう。

「おや、君は…ミス・メイルスティアじゃないか。久し振りだね」

聞きたくなかった、懐かしい声が聞こえた。


※※※※※※※※


「ウェールズ皇太子!」

才人が目を見開く。
彼の死を見てないキュルケ&タバ子の反応は薄いけど、ルイズは才人同様に驚いてるようだ。

「お久し振りですね、殿下」

私も顔が引き攣ってるかも。
別にゾンビ殿下は原作知識で知ってたんだけど、いざ目の前にってなると、ど~もアレだ。
看取った身としては実に妙な感じ。それに、討死するよう背中押した感もあるしなー。

「姫様をかえ、」

「まさか君に会えるとは、思ってもみなかったよ。元気そうで何よりだ」

うん、私は実に会いたくなかったんですけどね。色んな意味で。
あと才人、台詞を潰されたからって気を落とさずにワンモアセッ!

「姫様をか、」

「女王陛下を解放しろ!!」

今度は騎士に台詞を取られた。強くイキロ才人君よ。
そーいえば女王陛下は?とか思ったら、ゾンビ殿下の後ろから、ガウン姿の陛下が現れた。

「姫様!」

ルイズが叫ぶ。よ~し、後は幼馴染同士にお任せして、私はモブに徹しましょうか。
ゾンビ殿下に名指しで呼ばれた時はじつ~にキケンな気がしたが、これで、

「ルイズ…。少し待って下さい。ウェールズさま、ミス・メイルスティアと親しかったのですか?」

ちょ、

「もう少し時間があれば、そうなりたかったのだがね。あの時はそんな時間が…いや、あんな時でないと出逢うこともなかったか。だが、彼女との出逢えたお陰で僕は決断することができた。とても不思議な子だよ、僕の死を“王家の誇りを示す討死”でなく、“大切な誰かのために殉ずる道”と言ってくれたんだ」

おま、

「え………?それって………、」

「ああ。彼女の言葉がなかったら私は迷いのまま亡命し、トリステインに取り返しのつかない迷惑を掛けていたかもしれない。彼女はそんな僕の背中を押してくれ、」

「“ウィンディ・アイシクル”」

ゾンビ殿下を氷の矢が貫く。
ナイスだタバ子!!アレ以上言わせてたら何だかとてつもなくヤバ~い事態に、

「…そうですか、ミス・メイルスティアが…」



すでに手遅れでした☆

あばばばばばばばばばばばばばばばばばば!!!!!!!!


※※※※※※※※


ゾンビ殿下は血も流さず、しかも傷口が不自然な速度で塞がっていってるっていうのに…女王陛下は表情を変えない、ってか、私を睨んだままだ。

「話の腰を折らないでくれたまえ。まあ、君たちの攻撃では、私を傷つけることはできないが」

「姫様見たでしょう!それはウェールズ皇太子じゃないわ!別の何かなのよ!」

「私は水のメイジ、そんな事はひとめ見た時から百も承知よ、ルイズ。でも、それでも構わないの」

とか答えながら私を睨んでる。

「アンリエッタ女王陛下!!」

「姫様、あんた何言ってるんだ!?」

「あなたたちも杖を、剣をおさめてちょうだい。私たちを行かせてちょうだい」

って言いながらも私を睨んでる。

「何を仰るの!?姫様は騙されているのよ!」

「ルイズ、貴方は人を好きになったことがないのね。本気で好きになったら、何もかも捨ててでも、ついて行きたいと思うものよ。嘘かもしれなくても、信じざるをえないものよ」

人と会話するときは、相手を見て話しましょう。私から視線を外して!睨まないで!!

「あら、一国の主ともあろうお方が…何とも情熱的ですわね。でも、立場を弁えないのはいかがかしら」

「同感」

キュルケ&タバ子が何か口を挟んだ。

「貴方たちもルイズと同じね。誰かを愛した事がないんだわ。世の全てに嘘をついてでも、自分の気持ちにだけは嘘はつけないものなのよ。何をおいても自分の気持ちを優先するものなのよ。愛することを知らないから、そんな事が言えるのね。…ミス・メイルスティア。貴方もね」

な、ん、で、そこで私の名前が出る!?今なーんも言ってないでしょう!?
恨まれてるの?怨まれてるの!?明らかに私に対しての敵意がハンパなくMAXだよ!!

「…姫様、今、何と?」

「あんた…、それ本気で言ってるのか?」

「あらあら、まさか女王様のお口からそんな台詞が飛び出すなんて」

「…誰に言っているの」

そしてなぜか若干怒りを滲ませるこっちサイドの4名。
ルイズと才人は分かる。一国の主が寝惚けたコト言ってんじゃねーって事だろう。
キュルケのも、自他共に認める“微熱”のラブハンターな彼女に対して何言ってるの?って事だろう。
でも、タバ子。オマエには恋愛感情とか(まだ)なさそうだし、トリステインなんて別にどーも思ってないだろうから反応する必要あるのか?

「私は誓ったのよ、水の精霊の前で、誓約の言葉を口にしたの。『ウェールズさまに変わらぬ愛を誓います』と。誓いが違えられることはないわ。…ミス・メイルスティアの“お陰”でウェールズさまに二度と逢えなくなるところだったけどね」

怨み再び!?いや、あれは私がいなくても、原作通り殿下死亡な運命だったから!!
あわわわわわわ…、

「姫様!!」

ルイズが叫ぶ。
一方、キュルケはやれやれ、とばかりにタバ子の肩に手を置き、タバ子は明らかに冷めた目で女王陛下を見据えていた。
何だこのカオス。とりあえず私は逃げたい。

「まあいいわ。こうして再びお逢いできたのですもの。だから行かせて。これは命令よ、ルイズ・フランソワーズ。貴方に対する最後の命令よ。道をあけてちょうだい」

「嫌です」

即答。
あれ?ここでルイズは説得を一時諦めて、才人が力ずくで阻止にかかるんじゃなかったか?それで戦闘開始だったような…?

とゆーかですね、女王陛下。
ルイズに命令するならルイズを見たらどうです?私なんてつまらない小物を睨んでないで!

「そんな馬鹿馬鹿しい命令、聞けるはずないじゃない。何が“愛を知らないせい”よ、何が“精霊に誓った”よ。そんなの、自分の立場から目を背けるための言い訳に過ぎないわ!!…姫様。いい加減、目を覚まして下さい。そしてお城へ戻りましょう。」

何て正論。でも今の女王陛下にそんなの通じないってか、いつまで睨んでるんですかアンリエッタ様!?

「嫌よ。命令を聞きなさいルイズ!」

「あいにくだが、俺のご主人様は性格はアレだけど、道理は知ってる。貴族とやらの正しい在り方ってのも見付けようとしてる。今のあんたの盲目になった命令なんて届かねえよ。心を操られても相手のことを考えられる子だっているのに、女王サマって立場のあんたが何だよ?いまの姫様は本物のウェールズ殿下の事も侮辱してるんだ。…そうだよな、ラリカ」

…ん?
え?
はい!?
何でそこで私に話を振る!?

「ラリカ、ごめんね。姫様は何も分かってないから…だからあんな事を。すぐに私が目を覚まさせてみせるわ!」

ルイズ!?

「ええと、私は別に、」

「“熱病”に罹った女王様を諌めて差し上げないとね。ラリカ、言いたいことは分かるから、ここは任せてちょうだい」

キュルケ!?

「何で私、」

「あなたの名誉は守る」

タバ子ォォォ!?

「…そういうことですか、ミス・メイルスティア。貴方は本当に…」

ア、アンリエッタ女王陛下?
これはですねー、その、この人らがどーいうわけか何だか勝手に、

「ウェールズ様を死地へと向かわせ、今もまた私たちの仲を裂こうとする…ルイズやこの者たちを連れてきたのもどうせ貴方なのでしょう?いえ、答えなくていいわ。もういいの」

いやいやいやいやいやいや、決して微塵もお2人の仲を裂こうなんて思ってないですって!
死地に向かわせたのは否定できないけど、それはその、運命的に見ればええと、
とにかく、それに私はむしろ連れてこられた側の人間で、

やばい。
王家オーラ?怒りのオーラ?
何だか分からないけど弁明しようにも声が出ない。



緊急脳内会議。

女王陛下が杖を握り締める。
そーいや水のトライアングルだったっけ。可憐に(今は般若だが)見えて強いんだな~。

さて、どうなんだこの状況。
原作通りにルイズ達に頑張ってもらう?でも、それだと私への恨みって消えるのか?
何だか凄まじく無理っぽくない?
円満解決への道ってあるのか?
一国の主に憎まれた、へっぽこ貧乏学生。コレをどーしろと?

あ、議長ラリカが逃亡した。書記ラリカは現実逃避してる。
議員ラリカ達はヤケクソになって歌(鎮魂歌)を歌い始めた。脳内会議はもうだめだー。

あは。




「ミス・メイルスティア。許さない。貴方は…、」



やめてとめてやめてとめてやめてとめてやめてとめて、



「私の、」



ヒィィィィィィィィィィィィ!!?
やっ、やめ、





「“敵”よ!!」





あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばぁ!!!

ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!





実家のダメ家族の皆さま。
この人生でも先立つ不孝をお許しください。
てか、そっちにも多分とばっちりが行きます。

めんご。





あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば!!!!!




[16464] 第四十一話・思考の渦と、ターニング・ポイント
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:99efb4d6
Date: 2010/04/29 17:03
第四十一話・思考の渦と、ターニング・ポイント





何が悪いのか。誰が悪いのか。最初から、分かっている答え。…ツケは。いつか払わされる。





どうしよう。

“レンアイ”っていう新たな可能性を発見して、未来予想図をグレードアップしたのも束の間、気付いたら未曾有のデッドフラグが立ってましたァ~☆
アンリエッタ女王陛下=トリステイン王国に“敵”呼ばわり。
ここに、国家vs落ちこぼれ学生メイジという、常識では考えられない構図が完成した!

あっるぇ~?
なにこれ?
え?
ギャグ?

いいえ、救いようのない現実です。

うげぁ。




熱病に罹ったような、ぼぅっとするアタマで考える。

あまりにテンパりすぎるとこんなになるんだ。新鮮。
身体の動きはやたら鈍いし、声も出ない。耳もあんまり聞こえない。
実にまずい。
本能が、理性が、人生終了のお報せを告げているかのようだ。
実際そうだが。


何が悪かったのか?

主人公達がなるはずだった“惚れ薬”イベントの後で、認識力が麻痺していたせい?
まさか解除の当日、誘拐事件が発生するとは思ってなかったせい?
それとも、殿下に確実に討死して貰えるように、背中を押したせい?
いや、そもそもアルビオンになんて行ったせい?

誰が悪かったのか?

なぜか私の名前を出したコイツらのせい?
要らない紹介なんてした、ゾンビ殿下のせい?
それとも、私をこの場に連れて来たキュルケのせい?
いや、そもそも原作連中になんて関わったせい?


いや。

結局何がってワケじゃない、誰がってわけでもない。
“惚れ薬”騒動で疲れ果て&広がった可能性に浮かれて、考えることを放棄していたのは私の怠慢。
少し考えれば予想くらいはできたはずだ。そして行くのを断る口実だってどうにかなったはず。

ゾンビ殿下の紹介は切欠に過ぎない。
彼は間違った事は言ってない。そう仕向けたのは私だから。
私がいなければ、コトは原作通りに進み、殿下はやっぱり殺されただろう。
でも、“今回”は私が仕向けた。それは否定できない真実だ。
死んで転生できなきゃ地獄行きだなーとは思ってたけど、それも甘かったかもしれない。

アルビオンに行くことになったのも、私の認識不足だ。
どの程度までルイズ達と交友を深めておくべきか、それを見誤った時点で巻き込まれることは必然だったかもしれない。
いや、巻き込まれたんじゃない。彼らを、“私の幸福計画”に巻き込んだんだ。
そしてどの時点でも、関係が壊れることを覚悟すれば逃げ出せたはず。断れたはず。
それをしなかったのは、私の欲が過ぎたからだ。
私が手にできる幸せなんて、どう足掻いたって知れているのに、それ以上を望んでしまった。
デッドエンド回避だけならどうにでもなったのに。将来的な幸せまで望んでしまった。


ルイズは悪くない。
“アンリエッタ”“ウェールズ”、その2つがキーポイントとなる今回の事件、関係者を連れて行くという選択は当然だろう。
しかも、彼女は私と一緒に殿下の死に立会い、私と殿下の会話を聞いている。

キュルケは悪くない。
彼女はただ、アルビオンに関わった人間を連れて来ただけなんだから。
ギーシュを連れて来なかったのも何となく分かる。
ラ・ロシェールに残ったギーシュは、殿下と会っても何もできない。キュルケとタバ子は戦闘要員として使えるけど、彼じゃ殆ど役に立てないからだ。
実力は最弱な私は、それでも女王陛下とも殿下とも面識があるから説得要因としてなら連れて行く価値は十分なんだろう。

だから、他の誰も悪くないのだ。



なるべくしてなり、みんな、するべくして行動した。
ただその結果がこうなっただけの事。
悪かったものがあったとしたら、それは“私”なんだろう。
私が甘く、馬鹿で、浅かった。その結果が現れただけの事。

受け容れないと。そういう事で納得しないと。進めなくなるから。
何のせいだとか、誰のせいだとか。分かって何になる?事態は好転しない。
そんな下らない事を考える暇があったら、行動しないと。


でも、詰んでる事に変りはないわけで。
円満解決なんて、私の脳味噌じゃ導き出せないわけで。
今さら反省なんてのも何の役にも立たないわけで。

私のしてきたミスのツケが、回ってきている。
ツケは払わなければならない。それは受け容れている。
でも、このまま何もせずにデッドエンドまで受け容れる気はない。

屑は屑らしく、惨めにでも足掻いてやる。


すいませんでした!と素直に謝る ⇒ 謝って済むなら警察も騎士も軍隊もいらない
ミョズさんに罪を被ってもらう ⇒ カラーコンタクト持ってきてない、ってかこの状況でやったら後でまたヤバい事態に
原作通りにルイズの虚無に期待 ⇒ 私への恨みは消えない=根本解決しない


てゆーか、どう頑張っても私への恨みは消えそうにない。
ついさっきまで“惚れ薬”でゾッコンラヴ状態だったから身に染みて分かる。
あの状態でギーシュが死んだりしたら、恐らく間接的でも殺した相手を一生許しそうにないし。

…円満解決とか、やっぱ無理だ。
“絶望のラリカ”、まさに言い得て妙。あかるいみらいがみえない。


だけど。


だから。


もう。




こ  れ  し  か  な  い  ッ  !  !





「できることなら戦いたくない。貴方たちを殺したくない。でも、どうしても行く手を阻むと言うのならっ!!」


女王陛下が杖をルイズに向け、


その刹那。



私の放った矢が、その右肩を貫いた。















<Side Other>


小さく悲鳴をあげ、アンリエッタは杖を落とし、貫かれた右肩を押さえて膝をつく。

誰も、敵も味方も反応できなかった。
無警告で、不意打ちで、誰も使わないはずの武器で、そして人質への、女王への攻撃。
一介の学生でしかない少女の、無謀とも言える一撃。
それはあまりにも予想外だった。

「へ?」

場に相応しくない、間の抜けた声を漏らすルイズ。
視線は矢を放った灰色の髪の少女に注がれる。

「ラ、ラリカ…?何を、」

「“その人”は偽物よ!!」

「え?」

今度はアンリエッタに注がれる視線。アンリエッタは痛みに顔を歪めながらも、目を見開いた。

「くっ、何を…!?私は正真正銘アンリエッ、」

「女王陛下が、“トリステインを裏切る”はずがないわ!それに、もし“彼女”が陛下だったとしたら…私“たち”は、ここで彼女を倒さないといけない!!」

悲鳴にも似た叫びに、場が静まり返る。

愛しき死者の傍らにいる事を望む、悲恋の女王。
幼き日の友を、敬愛すべき王を諌めようと参じた、虚無の担い手。
そして。
誰よりも他者を思いやるがゆえに、自らが矢面に立つ事を選んだ…“絶望”の名を背負った少女。


凍ったような時間を破るように、雷鳴。
………ぽつぽつと、雨が降り始めた。






「まったく」

キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーは、小さく呟き、口元に笑みを浮かべた。
要領が悪いと常々思っていた彼女は、やはりどこまでいっても“彼女”だった。
おそらく、放っておけば彼女は勝手に不幸になり、要らないものまで背負って潰れていく。
彼女自身はそれでも構わないと思っているかもしれない。いや、それでいいと思っているだろう。でも、そうはさせない。させてあげない。
あたしの“大切なもの”を、勝手に不幸になんてさせてあげないから。弁解も反論も抗議も受け付けない。
あたしはあたしの好きなようにさせてもらうから。ツェルプストーの炎は自分以外の誰にも縛られないから。

ふふっ。
もしかして、あたしはすっごい我が侭なのかも、しれないわね。



「でも、これが最良」

タバサは、シャルロット・エレーヌ・オルレアンは、普段と変らぬ表情で…しかしどこか楽しげな口調で言う。
彼女の言葉で、彼女が本当は何を言いたいのか、何をしようとしているのか理解した。
随分と危険な…間違えば彼女の全てが失われてしまう荒業だが、考えてみればこの方法が最良かもしれない。何より、彼女らしいと思う。
寝惚けた子を目覚めさせるには、多少の痛みは必要だからだ。言葉で言っても起きない者は、叩き起こすしかない。
起きた直後は怒っても、時が経ちアタマがはっきりすれば理解するだろう。余程の愚か者でもない限り。

…それに、もし女王が“そう”であったとしても。
彼女を何とかくらい、してみせる。



「だな。寝惚けてるその目を、無理矢理でもこじ開けてやらねえと」

平賀才人は、ゆっくりと震え始めた心を感じながら、その決意を口にした。
アルビオンで何があったか、全てルイズから聞いている。姫様の気持ちは分かる。
でも、ウェールズ皇太子の気持ちも…同じくらい分かる気がする。
そして何より、彼女の心は、矢に乗せて放たれただろう想いは………。
ファンタジーな世界の事なんてまだあまり分かってない自分だけど、彼女のした事の重大さくらいは分かる。

なら、そんな今こそ“神の盾”の出番じゃないのか?
…面目躍如ってやつだ。



杖を握り、剣を構え、弓を番える。
12の瞳は決意を持って、1人の生者と死者の一行を見据えた。



「もう。無茶するわねラリカ。でも、分かったから」

ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、全て理解し、頷いた。
きっと皆の心は1つ。
分かっていたのに吹っ切れないでいた私の代わりに、彼女が切欠を作ってくれた。
…まあ、勝手に無茶をしたことは、後でたっぷりと問い詰めないといけないけど。
相変わらず自分の事を考えない親友と、自分の事しか考えられなくなっている旧友。

どちらも本当に厄介だ。でも、だからこそ大切で、放ってなんておけない。
どちらも、守ってみせる。


「みんな、いくわよ!!」



降りしきる雨の中。


戦いが、始まった。







#################


クズ子、テンパった末に開き直り、女王に牙を剥く、の回でした。
普通は選ばないような選択肢を選び、順調にバッドエンドに近付いているっぽい主人公。
ウェールズ時に劣らぬクズっぷりを発揮しました。
ダメ人間度数がアップ!もうだめかもしれません…orz

でも、こんな主人公を見ても気分が悪くならない方、これからもよろしくお願いします!



[16464] 第四十二話・思考の渦と、ターニング・ポイント2
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:99efb4d6
Date: 2010/04/27 19:57
第四十二話・思考の渦と、ターニング・ポイント2





世界が上辺を“語る”間に、私は何を“騙ろう”か。誰が何を思い、何が誰を動かすのか。知らない間にナニかは進む。はてさて。







<Side アンリエッタ>



どこまでも、孤独だった。

愛しい人を失い、悲しみに臥す時間もなければ、それを分かってくれる人もいなかった。
枢機卿をはじめとする城の者たちは口うるさく自覚を求め、飾りの王は決断を迫られる。
責任と重圧だけが日に日に膨らみ、心の休まる暇などない。自由な時間は王女の時より格段に減った。

誰も、自分を分かってくれない。
幼き日の大切な友人、ルイズでさえも昔とは違ってしまった。
友情は確かに感じる。でも、何か変わってしまっている。
タルブでの“奇跡”を問うた時、はっきりと感じた。
今のルイズは、何でも私の言う事を聞いてくれた、昔のルイズじゃない。

時間が彼女を変えてしまったのか。
違う、アルビオンに行ってもらう前までは変わらぬ彼女だった。
愛しい人を失った悲しみで気付けなかったが、確かにあの時からルイズは変わった。“おともだち”なのに、どこか枢機卿たちのように、私に“女王の自覚”を求めているような。
そんな、胸が痛くなる感覚。


愛する人を永遠に失い、友人も変わってしまった。
何も遺されず、残されない。ただ、喪失と孤独。
“奇跡の勝利”をおさめても、“聖女”と言われようとも、心は沈んだままだった。

誰も理解してくれようとしない。本音を語り合える相手がいない。
孤独は心を蝕み、眠れない夜が続いた。


だから、彼が私の部屋に訪れた時。

それが“違っている”のを理解しながらも身を委ねてしまった。
彼が囁く言葉に、自分を何も知らない少女へ戻してしまった。

そして、何を捨ててでもついて行くと決意した。
後悔はなかった。
たとえ相手がルイズでも、邪魔をするなら戦うつもりだった。
結局、ルイズが“虚無”かどうかまでははっきり語ってはもらえなかったが、たとえ“虚無”でもウェールズと一緒なら怖くはなかった。
迷いなんてなかった。

………はずだったのに。




衝撃と痛みは全ての感情を塗り潰し、彼女の叫んだ言葉が、頭の中を駆け巡る。

女王に文字通り“弓を引いた”彼女の意思と、自分の選択。
僅かに残っていた冷静な部分が、“少女”を“女王”へ戻していく。

私は何をしていて、何をされたのか。

何を憎み、何を選ぼうとしていたのか。

感情に任せ、何を言ってしまったのか。


愛しい人は、彼女の言葉で死を決意した?
なら憎んで当然のはずだ。だって、彼女のせいで彼は死んだのだから。
彼だってはっきりと言った。彼女の言葉が背中を押したと。
『王家の誇りを示す討死』でなく、『大切な誰かのために殉ずる道』などと唆して。


………たいせつなだれかのために?


え?

彼が死を受け容れた理由がそれなら。“だから”亡命しなかったのだとしたら、

私の嘆きは、

怒りは、

悲しみは。





褐色の女生徒が放つ炎によって、傷付いても死なないはずの騎士が少しずつ斃れていく。

ルイズたちは彼女のサポートにまわり、その連携は素人目で見ても息を呑むほどだ。
爆発と矢が牽制に飛び交い、風に雨から守られた炎が襲いかかる。放たれる魔法は土壁と使い魔の剣が悉く防いだ。
ウェールズとその部下たちも統一のとれた動きはする。でも、彼女らとは根本が違う気がする。
言葉なくとも交わされる意思、繋がった心。互いが互いを想わないと叶わないだろう動き。
うらやましいな、と、場違いなことを思うほどに。

杖を握ることができれば水の鎧で炎を無力化できたかもしれない。
そうすれば戦況は一気に変わる。ウェールズたちの勝利は揺るがなくなる。
でも、動くはずの左手は右肩を押さえたままで、自由なはずの足は立ち上がれなくて。

戦場に、ただ呆然としているだけ。




杖が、遠い。






<Side 生き残りの衛士>



『もし彼女が陛下だったとしたら…私たちは、ここで彼女を倒さないといけない!!』



その言葉を思い出し、戦いの最中にも関わらず口元が緩む。

なるほど、この国もまだまだ捨てたものじゃない。
女王陛下が自分の意思で国を捨てるなどと仰った時、目の前が暗くなった。そんな主のために我が隊は犠牲になったのか、と叫びたくなった。
今まで自分たちが命を、そして誇りをかけてやってきた事を否定されたようで、絶望に杖を落としてしまいそうになった。

しかし、あの少女はやってくれた。
折れかかっていた自分の心を奮い立たせてくれた。
そうだ、自分が忠誠を誓い、命を捧げたのは“聖女”でも“アンリエッタ様”でもない。
この、トリステインという国だ。
女王陛下が国を捨てるのなら、それはもう、ただの“敵”。
自分は“敵”からトリステインを守る為に戦うだけだ。そんな簡単な事を、まさか学生に教わるとは。

女王陛下に弓を引くなど、並大抵の覚悟ではできない。それも“聖女”とまで謳われた今のアンリエッタ女王陛下に、一介の学生が。
傍目で分かる、少女の強張った表情と決意の眼差し。
あんな少女が、これほどの覚悟を持って王を諌めようとしている。ひとつ間違えば自分の命などなくなるというのに。

…これは、死なせるわけにはいかないだろう。

誇り高き者に、大人も子供も関係ない。あんな者たちにこそトリステインの未来を担う資格があるのだ。



少女に放たれた風の刃を土壁で遮る。

叩き伏せても押し潰しても再生する、人ならざる化け物ども。だが、少女の仲間が放つ炎で着実にその数を減らしている。
4人の女学生に、1人の少年剣士。魔法衛士隊の自分が遅れを取っていては、死んだ仲間に何を言われるか分からない。

「化け物どもめ。“トリステイン”を、舐めるな!」






<Side フーケ>



「は、ははっ、やってくれるじゃないのさ!」

思わず乾いた笑いが漏れた。

まさか、女王を射るとは。
予想だにしなかった展開。あのメイルスティアが、アンリエッタ女王に先制攻撃。
寝惚けた事を言う相手に痛い思いをさせて叩き起こすのは分かる。でも、相手は一国の主だ。それを普通に射抜いてしまった。
掠らせるなどという生易しいものではなく、肉を抉り骨まで貫く重傷を負わせて。
すぐ傍には魔法衛士隊の隊員までいるっていうのに。


ウェールズの死体を使った策に、例の“聖女”がどう動くのか。
それを確認するため、ゾンビ連中を尾けてきた。

トリステインという国にも、“聖女”とやらにも興味はない。クロムウェルの傀儡になったゾンビウェールズでさえ、最早どうでもいい存在だ。
ただワルドにどうしてもと言われたし、今後の対応のためには確かに把握しておきたい情報なので、結末を見届けるだけの傍観者に徹していた。
それが、こんな面白い展開になるなんて。
それもこれも、全部あの娘のお陰だ。

ロングビルとして学院にいた頃、彼女はただの成績不振な少女でしかなかった。
“破壊の杖”の時もなぜ捜索隊に加わったのか理解できなかったし、戦いでも正直なところ、何の役にも立ってなかった気がする。
………あの忌まわしい使い魔は別として。

使い魔、いないわよね?どこかに隠れてて、ラ・ロシェールの時みたく、いきなり巻きついて来ないわよね?
あのわさわさ蠢く脚で…、あしで、あし…あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!
よ、よし、大丈夫。落ち着くのよ私。こんな時はテファの顔を思い出して…。
ふぅ。落ち着いた。もう忘れよう。忘れた、忘れたから。

…しかし、まさかこんな場所まで出張り、あんな事までやらかしてしまうとは。
一体何を考えているのか。
もちろん、やろうとした事は分かる。あの場では誰かがやらねばならなかった事かもしれない。でも、それにしたって。

「まあ、どうなるにせよ、後で大変そうだねぇ」

女王を殺す気なんてさらさらないだろう。
それはそれとしても、彼女は(事情は知らないが)女王に相当恨まれているらしい。加えてこの行動はどう影響するか。
見かけによらず直情型だったのか、ただオツムが足らないだけなのか。
どちらにせよ、この顛末は見届けなければ。



…面白い、土産話ができた。

ワルドには、せいぜい面白おかしく話してやろうか。




[16464] 第四十三話・ご崩御ください女王陛下☆
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:99efb4d6
Date: 2010/04/29 17:00
第四十三話・ご崩御ください女王陛下☆





今回は、原作通りにさせちゃーならない。主に私の都合で。乖離上等、逆に燃えてきた。…うん、嘘だ。それしかないってダケなんです。





思考の渦。感情の爆発と、緊張の崩壊。

溜まった疲労とストレスが悲鳴をあげ、窮ハムスターがライオンに噛み付いた。
そして。


何かが、ぷっつり切れた気がした。



Q:一国の主に激しく酷く憎まれました。憎しみで人が殺せるのなら私はもう死んでるレベルです。どうしませう?

A:殺られる前に殺りましょう




というわけで、女王陛下にはここで死んでもらうことにしました☆

殺らなきゃ殺られそうなら、殺るしかないでしょう。私も死にたくはないのです。
救国の“聖女”の屍を越えてでも生き延びてやるぜぃ!!ぐははのは。

…うん、完全に悪役だな私!もう清々しいくらいのクズっぷり!!
死んだら確実に地獄逝きだねっ♪いや、じごくすらなまぬるい!
あはははははははははは!!
覚悟完了ゥ!やってやるぜぇぇぇぇぇ!!ひゃあっはぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!



「“その人”は偽物よ!!」

正真正銘、血統書つきの本物だけどな!!

「くっ、何を…!?私は正真正銘アンリエッ、」

うるさいだまれ!

「女王陛下が、“トリステインを裏切る”はずないわ!」

そう!
女王が自国を裏切るなんてあり得ない!ゆえにヤツは偽物だ!!ということにしといて下さいお願いします!

「それに、もし“彼女”が陛下だったとしたら、…私“たち”は、ここで彼女を倒さないといけない!!」

裏切り者には死を!!…ってよく言うじゃ~ないですか。女王だって国外逃亡企てれば立派な裏切り者じゃないでしょうか。そうだよネ!?

よしそうだ!みんなで殺れば怖くない!!連帯責任だぜイエ~イ!!
大丈夫、埋めちゃえばバレないって!一蓮托生、秘密にして墓の下まで持って逝こう!

なんて。
………。
あ~、
…はぁ。
かなりキワどい賭けだけど。てかほぼ絶望的。
基本的にルイズたちは女王陛下を守るだろう。元はといえば助けに来たんだし。
むしろ今の攻撃で私も敵だと判断されたかも。

某虚無の人『アホのラリカがついに暴走したわ!』
某伝説の人『仕方ない!とりあえずブン殴って気絶させとこう!』
某伝説の剣『おでれえた!おでれえた!』

というコースになれば、起きた時には牢獄内だろう。で、女王を襲った逆賊として処刑。

助けた衛士『おのれ貴様!ゆとりの分際で女王陛下に何をする!!』

というコースだと、この場で成敗。ルイズらもさすがに庇ってはくれないだろう。

青『いくら何でもなんて事を。愚か過ぎる。馬鹿。IQゼロ』
赤『あたしたちまで仲間と思われたら大変!汚物は焼却処分よ!』

ってコースなら…衛士とそう変わらないな。焼き殺されるか氷で貫かれるかだろう。
OK、そうなったら全員纏めて相手になってやろーじゃないですか!
くっくっく、この私を相手に何秒もつかな?………主に私の命が。
あばば。

まあ、何もせずに放っとけばどっちにしろ処刑エンドが待ってるだけなんだから、それでもいいんだけどね!
でもでも、もしかしたらってコトがあるかもしれないじゃ~ありませんか!!
すがれるモノならワラでもすがる、私は奇跡の1%に賭ける女なのです!!
てか、実際コレしか思い付かなかったんだよぉぉォォォォォ!!肩ブチ抜いちゃったし後戻りできないんだよぉぉぉぉぉぉぉ!!!

………とか思ってたら。

「みんな、いくわよ!」

…何だか、上手くいったっぽい。

あれ?
なにこれ。


ホント、なにこれ!!




よぅし、何だかよく分からないけど希望が見えてきた。
テンション上がってきたぜぃ。てか、雨の中なのに身体が熱い!燃え滾るぜヒートォ!!

それにしても、ナゼに同意が得れたんだ?
実は不満でも溜まってたとか?それとも偽物だって本気で思って…ワケないか。
一国の主にしては自己中過ぎる発言にキレたって線が濃厚だろーか?
まあいい、殺れさえすれば問題なっしんぐ。理由なんぞ後で結構ケッコーこけこっこー。

『女王陛下殺害大作戦』の成功条件は言わずもがな、アンリエッタ女王陛下の殺害だ。
憎しみの連鎖(主に私に対しての)を完全に断ち切るにはコレしかない。ってか、女王に憎まれたままトリステインで生きていくってどんな無理ゲーだよ。
原作乖離する?
こーなってはもうシラネ。原作知識ってアドバンテージが消滅するのは致命的だけどケド、先が見えないぶん、この死亡確定ルートよりはまだ希望がある。
女王陛下が死んだら、大后陛下が戴冠するのかな。それとも、公爵であるルイズのパパンが王に?ま、それもどーでだっていいや。
個人的に憎まれてさえいなければ誰でもいいのだ。

で。
この作戦を成功させるには、

①“ディスペル・マジック”を使わせない
②女王陛下を“敵”状態のまま倒す

の2つが必要不可欠になってくる。
つまるトコロ、私がすべきは“ディスペル・マジックに頼らないゾンビ攻略法”と、“女王陛下のネガティブキャンペーン”ってとこだろう。
…実にムズかしい。でも、やらなきゃバッドエンド再確定だ。

ヒゲ子爵にミョズさん騙った時並みのサドンデス状態に加え、礼拝堂で大立ち回りを演じた時以上の脳味噌稼働率。緊張と恐怖で涙が滲んでくる。
でも今さら後には退けない断崖絶壁だし、原作乖離ルートだから全力で切り開かないと前に道もない。
やるしかないのです。ないのです。ないのでーす。



※※※※※※※※



そして。

現状。
炭になった騎士の残骸と、杖を失い、ただ“不死身なだけ”と化した騎士数名In穴の中。
そしてゾンビ殿下&顔面蒼白な女王陛下って構図になっていた。
対する私たちは1人も欠けてないし、酷い怪我とかもない。びしょ濡れだけど。

…うん、実に圧倒的でした☆

肩をブチ抜かれた女王陛下は杖が持てずに戦闘不能、“愛のヘクサゴン・スペル”も無し。
せっかく降ってた雨も活用できないまま止んでしまった。

それにこっちのチームがやたらと息ピッタリだった。
炎が効くと分かるや否や、タバ子の風がキュルケの魔法を雨から守り、ルイズはクロスボウを織り交ぜつつ、正確な狙いの“エクスプロージョン”と速さ重視の“失敗魔法”を使い分けて牽制、才人&生き残り衛士が魔法吸収と土の壁で敵の魔法をガッチリガードした。
私?てきとーに矢を射つつ、たまーにガードできずに怪我した時の“治癒”を少々。
大見得切って先制攻撃したわりにはへっぽこな活躍だけど、ザコだからしかたないよね☆

ちなみに“ディスペル・マジックに頼らないゾンビ攻略法”はアホみたいに簡単だった。
要するに、杖を奪い、魔法を使えなくして無力化しさえすりゃよかったのだ。
不死身な敵の対処法は古来より(映画とか漫画的に)封印と相場が決まっている。
才人に斬られようがタバ子に貫かれようが平気なゾンビさん達は、見事に油断して腕を斬らせてくれた。で、土メイジの衛士が造った穴へポイ。
“フライ”さえ使えないから、可哀想な騎士たちは穴から出て来れなくなった。
深~い穴の中、今も彼らは元気にもがいているコトでしょう。
後で油でも注いで焼いてあげるから、ちょっと待っててネ☆

ともかく、原作より+2名なこちらと、戦闘前の不意打ちで女王陛下が魔法使用不可になったあっち。
この結果は必然だったのかもかもかーも。



「…どうやら、君たちを侮っていたようだね」

ゾンビ殿下が穏やかな口調で言う。ピンチってのにこの口調は、感情のない操り人形だからか。
もうまともに戦えそうなのは彼しかいない。
一応、隣には女王陛下がいるけど、風メイジな彼の“治癒”じゃ肩の怪我はどーしようもないだろう。私だってアレを魔法で治せ言われても無理だし。
骨までブチ抜いてるから、秘薬は不可欠でしょーな。まあ、ここで死んじゃうから治す心配なんて無用だけど。

痛みに耐え、左手で杖を取って抵抗するとしても今から“ヘクサゴン・スペル”を唱えるなんて無理だろう。
てかゾンビ殿下も戦う意志を見せない。敗北を認めて攻撃してこないのか、何か策でも練ってるのかは知らないけど。

何にせよ、もう、終わりなのですよアンリエッタ様。これで、エンドマークです。

…うん、実に悪役思考だな。てか、私やたらとテンション高い気がする。
悪役に酔ってるのかなか~な?それとも考えすぎて知恵熱暴走中?あは。

「当然です。“アンドバリ”によって偽りの命を与えられただけの存在と、ここにいる皆。背負ってるモノも、誇りも、何もかもが違うんですよ、殿下。いえ…殿下の姿をした、人形ですか」

ちょっとカッコつけた台詞でも吐いて、と。
よ~し、後はルイズとかに再説得させずに女王陛下を倒すだけだ。
ネガティブキャンペーンで追い込もう!

「ミス・メイルスティア。人形とは随分だね」

「人形ですよ。それも、悪趣味な。本当の殿下なら女王陛下を惑わせたりしない。愛しているからこそ死を選ぶ程の方が、どーしてその相手を奈落に引き摺り込むっていうんです?本末転倒、すってんころりん脳挫傷にも程があります」

いいからゾンビ君は黙ってろ。私は女王陛下に話しつつ、そのネガティブイメージを織り込んだ会話をルイズ達に聞かせて、倒す決意を確固たるモノにしなきゃならんのだから。

「女王陛下…いえ、偽物さん」

陛下が私を見る。あれ?あんま怒りが伝わってこないような?
まあいいや。痛いからそれどころじゃないんだろ多分。

「こんな事、ホントは第三者の私が言うことじゃないですし、言いたくなかったですけど、言わせてもらいます。ウェールズ殿下はアンリエッタ姫を愛していました。未練タラタラでした。見ててバレバレでした。でも、だからこそ決意しました。1日会っただけの私でさえ理解できたんです。それを、“恋人”だった女王陛下が理解できない?ニセモノと分かっててもついて行く?殿下が守ろうとしたものを、捨ててでも構わない?冗談にしても…笑えないです」

つまり、この方は偽物ってワケです。本物だけどね☆
そもそもクズ女の私に、まっとうな愛だの恋だのヒトの感情だのを語らせるのは人選ミスな気もするけど“惚れ薬”の経験値か、今なら多少は分かるかも風味。
とりあえず、相手が好きなら相手のコトを理解するのが、ムズくても理解しよ~と努力するのが普通だと思うのですよ。
多分。おそらく。自信ないけど。

…おぉ、ルイズたちがマジメな顔して聞いてる。正解?イケそうだ!!
それにしても、いつもよりやたら舌が廻るな~。くるくるくるくるくるくる、
顔が熱い。また涙が出てきた。
あれ?何だかセカイもくるくるくる、

「わた、わたしは、」

女王陛下が何か言おうとするけど喋らせない。
このまま偽物として、もしくは裏切り者として退場して下さい。

「殿下の心を、遺志を、存在を否定して。水の精霊にした“誓い”というのは、殿下の『大切』を全て否定することだったんですか?自分の意志だけ押し付けて、それが愛だと語るんですか?」

まあ、実際それも愛なんだろーけど。人それぞれなんだしね。
分かってもないのに愛を“騙って”るのは私の方。純粋なのは多分、女王陛下だ。でも勢いに任せてそのままGO。
こっちが正しいと錯覚しといておくれ。

「アンリエッタ、耳を貸すことはないさ。僕は正真正銘ウェールズ・テューダーだし、君は何も間違ってない。何度も二人だけで交わしたろう?“風吹く夜に”、」

「その風は、もう止みました!………そして今、新しい風が吹き始めているはずです!!」

ゾンビ黙れ。
そう、もうお2人の時代は終わったんですよ!!
これからは新しい(原作じゃない)風が吹く!私の生き残る道はそれしかないし!!

女王陛下が目を見開いた。憎らしい相手に、そしてこんな小娘にいいように言われ、怒り再燃?OK、ドンと来い憎しみ。
そして憎しみに任せて“敵”っぽい台詞でも吐いて下さいな。

…それにしても、何だ?身体が熱い。いや寒い!?知恵熱じゃないのか?何だこのヒート感?涙がっ?
くそぅ、何か意識がアレだ。仕方ない、もうちゃちゃっと終わらせるしかない!!

「それが分からないなら、分かろうとしないなら!貴方はっ、」

ぐわん、と視界が揺れる。マズい、さっきまでの無駄なテンションも、身体の火照りも急激にダウンしてきた。
勝利を確信して緊張が解れたからか?一気に疲労が・・・・・・・・・

“惚れ薬”騒動で疲労困憊に加え、雨の中での立ち回り。そして精神崩壊ギリギリの脳味噌稼動。“俺”の頃、バイトやりすぎ過労で倒れた時と同じ感覚だ。
あの時とはプレッシャーもストレスも比較にならないだろうし、本格的にマズい。

バイトはただクビになっただけで済んだけど、今回はリアルにクビが飛ぶ。できることならトドメは別の誰かにやってもらいたかったが…。

「貴方は、ウェールズ殿下と、トリステインの全てと、“姫様”を慕っていた私の親友と!そして、“アンリエッタ・ド・トリステイン”女王陛下を侮辱し、裏切ったのです!!」

さりげなーくルイズも裏切られたんだよ~ってコトを付け加えておく。
結局ニセモノなのか裏切りなのかはっきりしない物言いだけど、こんな状況なら誰も気にしない。とりあえず、“敵”だと認識してもらえばオーケイだ。



………よし、もうこんなモンでいいはず。動かない女王陛下に弓を番えて、


「やはり、君が一番厄介だったね」


ゾンビ殿下の風で吹っ飛ばされて、


「ラリカ!!」

「この期に及んでっ!」


才人と衛士に抱きとめられて、


「よくも」

「何するのよ!!」


タバ子とキュルケの魔法がゾンビ殿下を襲って、


「もういいわ、ラリカ。後は…任せて!!」




意識が遠退く中、ルイズの声を聞いた。





あと一歩でダウンか。

何とも私らしい、へたれ具合。



でも、ここまで上手くいけば、もう策は成ったも同然。多分。

明るいかどうかまでは分からないけど、切り開いた未来が待っているはず。

逆に自分でトドメをささずに済んだのは僥倖かも?

…この期に及んでクズの極みだな、私。でも、それが私の選択だ。

私は、私のままで、私が招いたこの未来を生きていくから。





ルイズ、信じてるから。



女王陛下を弑殺し、全てにケリを付けておいて。




それじゃ、







あとは、………よろしく






[16464] 第四十四話・人生?もうどうにでも、なぁ~れっ☆
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:99efb4d6
Date: 2010/05/16 21:53
第四十四話・人生?もうどうにでも、なぁ~れっ☆





信じる者は“すく”われる。主に足元を。古人の言うことは、なるなーるに言い得て妙かも。漢字が違うのは、この際ほっとけ。





女王陛下はご健在あそばせました。

日本語ヘンか?まあどーでもいいや。もうどーにでもなぁれ☆
ルイズなんかを信じた私が馬鹿だった。

いや。幼馴染の絆とやらが、私の考えてたよりずっと強固で強靭だったってコトだろう。
でも、仕方ないといえば仕方ない。“友情”とか私に理解しろって方が無理なのだ。友達いないしね~。
いるのは私の“策”のために友情ゴッコ熱演中な原作連中のみ。全部終わったら友達作りたいなーとかは思ってたけどもう無理だ。

…まあ、とにかく。
今、私は“絶望”の二つ名に恥じない絶望っぷりを味わいつつ、陛下の前に立っている。
謁見の間なのに、気分は裁判所だ。
流れをざっと説明すると、

① 城の医務室でウェイクアップ
② 獄中じゃない?と、いうことは女王陛下もといアンアンさんは死、
③ 裏切ルイズ「安心してラリカ!姫様含めみんな無事よ!」
④ アホの才人「ルイズが新たな“虚無”を炸裂させたぜ!ついでに奇跡が起こって殿下が正気に戻り、“ラリカにヨロシク”って言ってたぜ!」
⑤ 駄剣デルフ「おでれーた!(何せ、ウェールズの最後の台詞がそれだしな!)」
⑥ あばばばばば!
⑦ 役立たずのルイズ「姫様が“お礼”言いたいから謁見の間に来いって」
⑧ あばばばばばばばば!!
⑨ あばばばばばばばばばばばば!!!!

以下略。人生終了確定。

と、いうわけで現状。
地獄のマンツーマン面接すたーとぅでありまーす。




「…気分はどうですか。ミス・メイルスティア」

実に無理をしている感バリバリな笑顔で尋ねられる。最悪ですぅ☆とか答えたいけど、怖いから無理。
憎しみの炎は微塵も消えてないってコトだろうか。泣きたい。

結局全て無駄な足掻きだった。
“ディスペル・マジック”は原作通りに使われ、油でもかけて焼却するはずだった落とし穴INゾンビ騎士はめでたく成仏(?)。
そして奇跡の一時生還を果たした殿下は、あろーことか成仏の直前に『ミス・メイルスティアにヨロシク』とか何とか言ったらしい。殺意の波動MAX状態な女王陛下にその台詞って、まさにトドメ以外のナニモノでもないだろう。
せっかく死ぬ間際に恋人に会えたんだから、そこは空気を読んで陛下への言葉オンリーで締めくくるべきでしょーに。
風メイジなのに空気読めないとは、コレ如何に。

「ミス・メイルスティア?」

「あ、はい。申し訳ございません。まだ本調子では…」

体調はバリバリ本調子だ。精神的&肉体的な疲労で倒れたっていっても、2日も寝てたんだし余裕で回復する。
でも気分はマリンブルーなので本調子じゃないって言っとけ。
てか、この状況で元気ハツラツってどんだけマゾなのでせう?

「そ、そうですか。そうですよね………」

…ん?なんだこの空気は。とりあえず尋常じゃない雰囲気だけは感じる。

「私は」

遠い目をする女王陛下。もったいぶらないで、言いたいことさっさと言え。
“やはり許さないわメイルスティア!死刑よ!”とか“女王に弓を引いた罪について朝まで語ろうか?”とか“メイルスティア家は一身上の都合で取り潰しになりました”とか、最悪なパターンは大概考えてあるから心の準備はOKなのです。
むしろ無駄に焦らされた方が精神的に辛いかもかーも。

「私はどこか、まだ“何も知らない少女”に戻れると、思っていたのかもしれません」

…うん、回想モードに突入したな。長くなりそうだ。






長くなった。
要約すると、

ついカッとなってやった。今は後悔している。

…要約しすぎた。
とにかく、自分のした諸々について反省してるってコトだ。正直どうでもいいけど。

私にとって問題は別。重要なのは、殿下の亡命をそれとなーく阻止し、討死のススメをした“ラリカへの感情”なのだ。
これはゾンビに唆されて国を裏切りかけた事や、止めようとした自国の貴族に杖を向けた事とは全くの別問題だし。
“女王”が国を裏切るのはマズいけど、“1人の女”が恋人を間接的にでも失わせた相手を憎むのは、全く全然問題ない。むしろ健全な発想かも。しかも、

「…それにあなたは、出会って1日もかからない間にウェールズ様の信頼を得たのですね…」

うん。コレは追加で嫉妬ポイントアップな要因だろう。
てか、てきとーに話を聞き流してたら、話題が不穏な方面へ向かってる。最初から不穏だけど。

「え?い、いえ、そんな事は。…その、ありません」

「何を言うのです。そうでなければ、最期の言葉が『ミス・メイルスティアに“ありがとう”と伝えてくれ』なわけがないではないですか。そうでしょう?」

視線が痛い。
雨の中、対峙した時みたいな敵意ビンビンな視線じゃないが、明らかに“何か”考えてる。

『このクズ子をどうやってルイズにバレないよう始末しようかしら?』

とかそのへんか?今もこの謁見の間に、姿を消した暗殺者を忍ばせてるかも。
まあ、魔法衛士隊員の目の前で先制攻撃したし、冤罪とか言い逃れとか無駄な現状だ。普通に犯罪者として裁いても問題ない気もするけど。
人気絶頂・聖女アンアン陛下が『この娘は悪人だから裁きます』って言えば、民衆の皆さんは右向け右で『“聖女”に弓を引いた悪魔の首を刎ねろ!』とか言い出しそう。
事情を知ってる城の関係者も、今回みたいな“国の恥”を小娘の命1つで隠蔽できるなら、むしろ大賛成するだろう。
いや。でもルイズたちなら情状酌量の余地くらい求めてくれ、

「それに、ルイズが変わってしまったのも、きっとあなたの所為でしょう」

…ん?
てか、

「“虚無”の事、打ち明けられたのでしょう?あの子が選んだ相手はあなただったようですね。私はこの件で実際に目の当たりにしなければ、打ち明けてもらえなかったかもしれません。タルブの時も最後まで真実は語ってくれなかった…」

“最愛のおともだち”!!何やってんだ!?
ホントに“虚無”の事、私にしかバラさなかったの!?それに対して陛下が私にどんな感情抱くかアホでも分かるだろ!?

「それは、その…恐らくまだ確証が得られてない時点では陛下に話すのは憚れたとかそのへんなんだろうと思います。私に打ち明けたのはあくまで『虚無かも?』レベルの話で、」

「気遣いは要りません。分かっていますから。ルイズがあなたの事を話す時の表情を見ていれば、あの子が最も信頼する“最愛のおともだち”がもう私でなくなっている事は、誰の目にだって明白でしょう」

「………あ~、はい…そうですか…」

「ウェールズ様も、ルイズも、私が幼い頃から大切だったものが、全部あなたに取られてしまったみたい。気付かないうちに、私は多くを失ってしまったのですね」

取ったつもりも取るつもりもないっての。
…遠い目をして言う陛下が考えてる“何か”が分かった。

『この泥棒猫ッ…!』

だ。“俺”の世界の昼ドラでは日常茶飯事(?)な言葉。
つまり、私は“恋人が最期の言葉を向けるほどの仲になっていた(覚えはないけど)NTR女”で“最愛のおともだちを奪った(つもりはないけど)友情ブレイカー”。

清々しいまでに“敵”だな、それ。ドラマだったら序盤で階段から突き落とされてるか、包丁で脇腹刺されてる。
よって、殿下が私の事を話す度に嫉妬パワー上昇してたのと同じように、ルイズが私を庇おうとすればするほど嫉妬&憎まれる負のスパイラルが成り立つワケか。

ここで私が『ルイズが私の希望に反して陛下を殺さなかったのは、お二人の美しき友情の賜物にございます。てか、殿下もルイズも奪うとかそんなつもりは微塵もないでございます』とか言えば…ダメか。
友情の件は少し回復するかもだけど、私の殺意が際立つだけだ。

うん、どーしようもないなコレ。完全アウトだ。
まあ、アウト具合が100%から120%になっただけだけど。

「ミス・メイルスティア。あなたが憎い、というのが正直な気持ちです。これは女王としてではなく、1人の人間としての感情…。こればかりは、どうしようもないのかもしれませんね」

ほら、ハッキリ言われたしねっ☆
そう言いながらもこちらを見る視線に憎しみが篭ってないのが余計に怖い。いや、むしろ口元が笑って…引き攣ってるのか!?

「陛下…」

「ですが、それ以上に…羨ましいのです。私が自分の事のみに感けていた間、あなたはウェールズ様の信頼を得て、ルイズと友情を育んでいた。私も自らの立場を嘆く暇があれば、何をすべきか考え、何か行動すべきだったかもしれません」

こんなクズ子を羨ましいと?
それに殿下の信頼なんて得るほど交流なかったし、ルイズとそんなモノを育んだつもりもないんですけどね~。

「その、今からでも遅くはないと思いますよ…?」

「そうですね。ウェールズ様はもうどうしようもありませんが、友情は…その、可能かもしれません」

だからオマエには死んでもらい、ルイズを再び自分に振り向かせる事にする!ってか?
私とルイズの間にある友情っぽいのはただの茶番なハズ。陛下と彼女の仲なんて邪魔しないし、そんな気もないから勘弁して欲しい。
無理ですか?そうですか。

「…」

「…」

両者無言。精神的にかなり疲れる。
寝起きでコレはきついぜ~。陛下、もう覚悟は決まってるんで、さっさと判決でも何でも下してくださいな。
どーせ抵抗できないしね。杖も弓もなっしんぐゆえに。

うん。
何か、本気で疲れてきた。
もうさっきから極度のプレッシャーの中、2時間近く話してるし。拷問じゃね?
もう何しようともどーせオシマイなんだし、よく考えたらこの遣り取りってムダかも。
私の“嘘”は幸福な人生を送るためにあったのだ。死亡確定な状況で、他人におべんちゃらとか言ってあげる理由はない。

…そうだ。むしろ、バッドエンド確定なだけに、“今”が一番フリーダムな状況じゃ~ないですか。後の影響なんてどーでもいいわけだし。

うん、そーだそーだ。
もう、どうでもいいんだよ。あは。

てかさ、何でこんなまどろっこしーの?とりあえずじわりじわりと恐怖でも与えようっての?えげつないね~。
悪いのは私だけど。



当初の計画が狂って、

それでも何とか軌道修正頑張って、

希望が見えてきて、

茶番な“友情”とかも、それなりに何だか悪くなくて、

“コイ”とか“アイ”の可能性を知って、

…でも、“ホントの私”が疲れてて、

肝心な時に、最悪の選択をした。



ダメだ。

思考が完全にネガティブ一直線。
あー、もうメンドくさい。

あー、あー、あ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!



よし。
もういいや。全部、どうでもいいや。
来世から頑張ろう。あは。



盛大に溜息をつく。そして、わざとらしくヤレヤレ、とかぶりを振った。

「ミス・メイルスティア?」

「ふぅ、ダメですね」

「え?」

突然の豹変に、陛下…アンアンが目を丸くする。

「あなたはダメです、アンリエッタ様」

よーし殺せ!この際、不敬罪でも何でもいいや。ズバーっとやっちゃってください。
さっさと“佐々木良夫”に生まれ変わってオリンピック目指さなきゃならんゆえに。

「なっ、」

「ダメダメです。実にダメです」

笑いながらアンアンに近付いていく。
うん、最後の最後に思いっ切りバカにしてやろう。その方がアンアンも処刑しやすくなるだろーし。
また“ラリカ”として生まれ変わる事があったら、全身全霊微塵も関わらないで生きる所存なので、ご安心を。

…まあ、メイルスティア家の皆さんは今回ホンキでごめんなさい。
でも、前回の人生より多少はお金とか仕送りできたから、少しだけ勘弁してください。
てか、幼い私を売ろうとしたりしたからオアイコだよね?

「まず第一に、もう“どうしたいか”決まっているのに、要件を話さないのがダメです」

生殺しもいい加減に終わらせて欲しい。“憎い”私をどうしたいかなんて、決まってるのに。

「一国の主だっていうのに、国を捨てようとしたのはダメです」

これは正直どうでもいいんだけどね。私に直接関係なければ国とかどーでもいいし。

「止めに来た“友達”や衛士に杖を向けたのはダメです」

まあ、かくいう私も自分の“大切”の為なら誰にだって弓を向けるけどね。

「とゆーか、ニセモノだって分かってるのについて行くってのはダメです」

ピュアな乙女心に関しては私が言える口じゃないけどね。

「いや、それって殿下の顔してれば殿下本人じゃなくても良かったんじゃ?結局見た目か?って思えてくるのでダメです」

殿下もかわいそ~に。これは同情。

「そして“最愛のおともだち”とか言いつつ、ただの学生なルイズ(と私)をアルビオンとか戦場に放り込む時点でまずダメです」

私も巻き込まれた。とりあえず、それが個人的に一番ダメだな。

「そして、こんな“小物”相手に嫉妬とか、ダメダメです」

にっこり笑って、呆然としているアンアンの肩に手を置いた。

「つまるトコロ、そんなだから殿下は正気に戻った時(私は見てないけど)あんな態度を取り、ルイズは友離れしちゃったのです。全てはアンリエッタ様のダメさがダメだったんですよ」

よし死んだ!!ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア(2回目)、完ッ!!
第三部は何十年か後、佐々木良夫の死亡時からとなります。ご期待ください。

「なっ、なっ…、」

アンアン涙目。
まあ、いくら何でもここまでダメ言われたのは人生初だったろう。しかも吹けば消し飛ぶような小娘に。怒りゲージは限界振り切れていることでしょう。

あは、そう考えると楽しいね~。
楽しいついでに、イイコト思い付いた。

「そう、ダメ“だった”のです。でも、」

アンアンの頭にぽふっと手を乗せる。
うん、タバ子やルイズより背が高いから微妙だ。でもまあ、何とかなる。

…なでなーで。

「今回の件でアンリエッタ様はそれに気付けた。城に戻り、冷静に考えて反省することができた。そうでしょう?実に“えらい”です。これで立派な女王様になれるはず。なれなきゃ、第二第三の私みたいなのが現れ、大切なモノを奪ったり、弓とか魔法とか撃ってくるでしょう」

ガリア王族のタバ子に次ぎ、トリステインの女王アンアンまでもアタマ撫でることに成功した。下から数えた方が早いくらい下級貴族の小娘が。
何という快挙。
ハルケギニアの歴史のどこを探しても、そんな畏れ多い馬鹿はいないだろう。
あー、でもそんなダメ人間に涙目でアタマ撫でられてる“女王陛下”って、凄い構図。

「そーいうわけですので、私が憎いなら…アンリエッタ様の思うようにやっちゃえばいいのです。何せ“女王陛下”なんですから。前置きに湿っぽく長話なんて、もう要らないですよ。私の言いたいコトも、今ので全部ですし、ね?」

…何やってんだよ、さっさと衛士呼ぶなり、自分の杖抜くなり、何かしろってーの。
ああ、あんまりにもあんまりな状況でパニックか。ま、いいや。すぐ正気に戻ってキレる事でしょう。


私はもう一度、にっこりとアンアンに微笑みかけた。




さあ、殺せ。

















…そして。

私は学院に戻ってきた。

五体満足で。

褒章もらって。




ん?






あれ?







何ぞこれ?????




[16464]  幕間10・空白の2日間に
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:99efb4d6
Date: 2010/05/11 21:27
幕間10・空白の2日間に





この空の下、誰が何を思い、何を為すのか。そして、何が…ずれていくのか。





<Side 生き残った衛士>



あれから1日。

“弓の少女”は目を覚まさない。
ヴァリエール家の息女とその従者の少年剣士は、交代で少女の看病をしている。
赤い髪の少女と、青い髪の少女はトリステイン貴族ではないらしく、城の医務室へは最初の日に来たきりだ。
あの様子からして、2人とも来れるものなら来たいだろうに。
…こればかりはどうしようもないが。


事実上、我がヒポグリフ隊は全滅した。
何人か生き残りはいたが、隊を再編成できるまでの人数には至らない。補充するにしろ、先の戦で竜騎士隊も全滅しており、当分は難しいだろう。
隊長をはじめ、多くを失った。
自分も隊に入って以来騎乗し続けたヒポグリフを亡くし、今は仮にと普通の馬を宛がわれている。再び幻獣に跨り、空を翔られるのはいつになるか。

しかし、得たものも大きい。
全てが決した後、正気に戻られた女王陛下が誓った言葉。あの時、確かに女王陛下はあの“弓の少女”と同じ目をしていた。
迷いを断ち切り、自らの進むべき道を捉えた、誇りある瞳を。

女王陛下がトリステインを裏切ろうとした事実は変わらない。しかし、人は変われる。
過ちを悔い、それを糧にして、前へ進めるからこそ人間なのだ。
この忌まわしい事件は、しかし、トリステインという国にとって大きなターニング・ポイントとなった。もちろん、悪くはない方向への。

無くした物と新たに得た物。
天秤にかけて量れないと知りつつも、この高揚は抑え切れない。
自分は、トリステインが新たな歴史を刻む、その瞬間に居合わせたのだ。


今、ハルケギニアには着実に大きな戦争の足音が近付いてきている。
しかし、この国には悲しみを乗り越え成長した女王と、その悪夢を消し去った“虚無”の担い手、そして本気で国を想い、自らの命も顧みずに諌言できる本物の貴族がいる。
最早、何を憂う必要があろうか。
トリステインは強くなる。これまでよりずっと。そう確信が持てた。


ならば、自分の使命は1つ。

彼女らを護り、脅かそうとする敵を退けるだけだ。
…だが、その前に為すべき事がある。生き残った衛士として為すべき事が。




机の上に置かれた報告書に再度目を通す。

さっそく上がってきた“あの夜”の調査報告だ。
ヒポグリフ隊がなくなり、再編成の見通しが立っていない事と、あの夜に唯一、事件の顛末まで見届けた衛士として(生き残った自分の強い要望もあったが)、女王陛下より事件の解明を任されている。
ただ、事件の特異性から、おおっぴらに調査することは難しく…

「今のところはそれだけです。現在、我が“銃士隊”が裏付けを行っていますが」

短髪の女騎士が言う。
女王陛下が新設したばかりの“銃士隊”の隊長。その腰に差してあるのは杖ではなく、剣だ。平民の、それも女性のみで構成された近衛騎士隊。
このトリステインの歴史初だろう彼女らの隊と自分だけが、調査を行うことになっていた。

…といっても、昨日の今日だ。得られる情報など知れている。
しかし、報告書にはもっとも怪しいと思われる人物の名がはっきり記されていた。確かに彼女らが有能なのは間違いなさそうだ。

「“彼”は陛下がかどわかされるほんの5分前、王宮を出ています。その際には『すぐに戻るゆえ閂を閉めるな』と。それだけならば偶然で済ませられるのですが、裏金に関する情報でもどうにもキナ臭い噂が」

「今分かっているだけで4万エキューか。これだけでも相当だが、まだ出てきそうだ」

「屋敷に奉公する使用人に金をつかませ、情報を引き出す手筈になっています」

この女騎士も平民でありながら先のタルブ戦で貴族に劣らない活躍を見せ、貴族になったという。
しかし、いくら戦功を立てたとはいえ“平民”なのだ。宮廷では当然、風当たりも強い。かつては自分も言葉にこそ出さなかったが見下していた。

しかし、その考えも今は違う。
魔法をものともしない少年剣士、“虚無”を操りながらもクロスボウを撃つ少女、そして…。

「…しかし、これは“大物”だな。あんたはどう見る?ド・ミラン」

「いえ、まだ何とも…。それに、魔法衛士隊の方にとって私の意見などは、」

「いや、聞きたい。俺も魔法衛士隊なんて大層な肩書きは付いちゃいるが、実際は戦闘しか能のない兵隊だからな。ココの出来に関しちゃ、あんたの方が切れると思っている」

自分の頭を指で指し、軽く笑う。

「………“クロ”だと思います。ただ、どこまで証拠を掴めるか。相手もボロを出すような真似は…おそらく」

「だろうな。だが、」

「はい。もし犯罪が立証できなくとも、我が“銃士隊”が」

闇に葬る、か。

「なら、その時は俺も参加させてもらおうか」

「え?」

ド・ミランが意外そうに声を漏らす。

「いえ、しかし魔法衛士隊の方に、」

「ド・ミラン」

「はい」

「さっきから“魔法衛士隊の方”が、なんてどうでもいい事に拘り過ぎだ。今回の一件、俺たちは共同で調査を任されたはず。妙な役割分担はよしてくれ」

「………」

「それに、下らないと言われるかもしれないが…俺には“だからこそ”この件の始末を付けたい理由があるんだ」

そう。国を護るという理由からしたら、本当にちっぽけだろう理由。
しかし、こればかりは譲れない。
それが同時に国賊を討つ事にもなるのなら尚更だ。

「理由、ですか」


「ああ。我がヒポグリフ隊の、“復讐”だ」



その言葉を放った一瞬、彼女の瞳が微かに見開かれた…気がした。







<Side Other>



「な、なにさ?そこまで可笑しかった?」

“あの夜”の顛末を話していたフーケが、笑みを零したワルドに眉を顰める。
確かに“面白おかしく”話したつもりだが、あくまで無謀な行動を起こした娘を小ばかにするという意味でだ。こんな反応をされる理由が分からない。

「いや、そういうわけじゃない。ただ、納得してしまっただけだ。“彼女ならそうするかもしれない”と」

ワルドはそう言ってフーケに顔を向ける。

「そうするかもって…あの娘が?私は学院に勤めてたけど、とてもそうは見えなかったけどねぇ。って、そんな事を言うってことは、あの娘と知り合いか何かなのかい?」

「ああ、ちょっとした“知り合い”だ。ちょっとした、な」

「…ちょっとした、ねえ。繋がりが全く見えないんだけど。ああ、そういやあの娘もアルビオンへ行ったメンバーだったね。そこで何かあったのかい?」

「………別に、何もないさ」

小さく笑いながら視線を外す。口調も表情も穏やかで、それでいて楽しそうだった。
そんなワルドの意味深な態度に、フーケは『なんだかねぇ』と呟きながら肩を竦める。

「そういうことにしといてあげるよ。全く、あんたはいつも話して欲しい事は話してくれないんだからね。ホントに“相棒”として見られてるんだか」

「いや、君は大切なパートナーだ。今の僕にとってはかけがえのない、な。決して軽んじてはいないさ」

「っ、な、冗談にマジメな顔して答えるんじゃないよ、調子が狂うじゃないか」

少し焦った様子のフーケに、ワルドは口元を綻ばせたまま『それは悪かったな』と応える。
その居心地が悪いのか、沈黙が訪れる前に彼女は再び口を開いた。

「でもさ、どっちにしたって拙い事をやっちまったってのは間違いないね。何せ、女王サマ相手に弓を射ったんだし。諌言として取られりゃいいけど、いくら何でもやりすぎって気もしたしね」

「確かに、あのアンリエッタ姫…今は女王か、だからな。ただの学生を戦場であるアルビオンに放り込むような世間知らずだ。“彼女”が伝えたかった事も伝わらないかもしれない」

「“彼女”、ねぇ。…まあ、とにかく。それ以外でも個人的に恨みを買ってるみたいだったし、ヘタすりゃ逆賊として牢獄行きかもね。生憎、あの娘がどうなったかまでは見てこなかったから、どうとも言えないけど」

フーケはそう言いながら思い出す。
離れていたため、殆どの会話は聞き取れなかったが、アンリエッタ女王が叫んだあの一言は確かに聞こえた。

―――― “ 許さない。貴方は私の 『 敵 』 よ!! ”

女王に、一介の学生がそう突き付けられたのだ。憎しみの大きさが半端なものでないのは想像に難くない。
そんな相手のあの行動を、果たして女王は諌言と取られるだろうか。
よっぽど女王が大人物か、その憎しみが誤解などだった場合くらいにしか可能性が見出せない。

「そうだな。だが、例えそうなったとして、別段、問題はない」

ワルドは迷いのない瞳をフーケに向けた。

「そうだね。“聖女”とはいえ、人の子。それに女学生1人の命、」

「いや、そうじゃない。………僕が助け出すからだ」

「………へ?」

「悪くないとは思わないか?囚われの“逆賊”を“聖女”の手から救い出す“悪役(ヒール)”。登場人物を裏返せば、どこかの英雄譚のようだ」

そして再び楽しそうに笑みを見せる。
その表情はやはり、普段のワルドが見せる類のものではなかった。

「…酔狂だねぇ。まあ、私もあんたに脱獄させてもらったクチだし。あんたがそうしたいってんなら別に何も言わないけどさ」

でも、と、少しだけ悪意を込めて言う。なぜだか、そんなふうに笑うワルドが気に食わない。
フーケ自身、こんな感情が湧き出た理由は分からなかったが。

「あの娘、それで『ありがとう』なんて納得するかしらねぇ」

あれが自分の死を覚悟した諌言ではなく、つい感情に任せてやってしまった事なら、あるいは命拾いしたと思うかもしれない。しかし、そうでなかったら。
受け容れるつもりの死から“無理矢理逃げさせられた”なら。そこに感謝などないだろう。

「感謝なんて要らないさ。納得も必要ない。僕がしたいことを、ただするだけだからな。…さて、この話はもう置いておこう。そろそろ次の行動に移ってもらう」

そう言うと、ワルドは表情を引き締める。
何か言おうとしたフーケも、黙って彼の次の言葉を待った。

「ウェールズ皇太子を使った作戦が失敗したことで、奴らは新たな策を練るはずだ。厄介この上ない“聖女”を手に入れる“切り札”を失ったからな。次こそは、という気概でいるはず。クロムウェルも、シェフィールドも、その策に万全を期そうとしてくるだろう」

笑みを浮かべる。先程とは別人のような、野心に満ちた笑みを。

「背後に迫る刃など、気付かないくらいにな」




フーケが情報収集に出て行き、部屋にはワルド1人が残った。
彼はどこか遠くを見詰めながら、少し前に自分で言った言葉を思い出す。

「“感謝”も、“納得”も要らないさ。だが、」

こんな所では終わらせたくない。終わらないで欲しい。小さく、呟く。
話で聞いた情景が、まるで自分で見てきた物のように脳裏に浮かぶ。

自らの『大切』を見失いかけた女王を叱咤する“彼女”。
どこまでも凛と、真っ直ぐな視線で迷走する女王を射抜く。そこにある感情は、単純な愛国心などではないだろう。
上辺ではない、もっと純粋な、彼女の芯になっている『大切』。揺るがない、想い。
かつて自分にも向けられ、そして自分を変えた“信念”。

本当に無茶をする。放っておけないくらいに。

“敵”のはずの自分と対峙しても動じなかった彼女。それどころか、再び自分を肯定し、背中を押してくれた。
信念を曲げずに貫けば、“許す”とさえ言ってくれた。


「それに。…まだ君の『大切』が何かを、聞かせてもらってないからな、………ラリカ」


――――― だから、“諌言”が死を覚悟の上だったとしても、死なせるわけにはいかないのだ。










オマケ
<その頃の某“香水”と某“風上”と、その周辺>



食堂、1人の女生徒の周りに大勢の女生徒が群がっていた。


クラスメート1「ミス・モンモランシ、聞きましたわよ!ミスタ・グランドプレと付き合いだしたそうじゃないですか!本当ですの?」

クラスメート2「あんた面食いだと思ってたんだけど…まあ、ギーシュも服装の趣味がアレだったし、ひょっとしてキワモノが好みなの?」

クラスメート3「でもおめでとう!“彼”なら絶対に浮気なんてしないわ!もう前みたいにヤキモキしないで済むわね!」

ケ○ィ「所詮はギーシュ様とは釣り合わなかったのですね。それ見たことか、ですわ」

クラスメート4「ねえ、マリコルヌのどこに惹かれたのか教えてよ。あ、取ったりしないから安心して。知的好奇心だから。私の灰色の脳細胞が知りたがってるだけだから」

モンモランシー「ちょ、何でたった1日…というか一晩で話が広まってるの!?って、今、さりげなく某1年生がいなかった!?」

クラスメート4「知らないわ。それより彼のどこに惹かれたか教えてよ。私の脳髄の空腹を満たしてよ」

クラスメート2「でもグランドプレも痩せさえすればそこそこ…あ、でもあんたは今のままの彼の方がいいのよね」

クラスメート3「おめでとう」

クラスメート1「おめでとう」

○ティ「おめでとう」

モンモランシー「やっぱ混じってる!?じゃなくて、それは誤解で、」

マルコリヌ「ちょっと君たち!ぼくのモンモランシーが困ってるじゃないか。やめたまえよ」

クラスメート2「あ、愛しの彼の登場ね」

クラスメート3「さっそく彼女を気遣うなんて、やっぱり男は誠実さね!」

ケテ○「私は見た目も重視ですけどね」

クラスメート4「謎は全て解けたわ。浮気性のギーシュに嫌気が差し、浮気しそうにないマリコルヌを標的に選んだ。そうよねモンモランシー、いえ!“香水”のモンモランシー!!」

クラスメート1「ごきげんよう、ミスタ・グランドプレ。わたくし、ミス・モンモランシの友人でクラスメート1ですわ。ふむ、確かによくよく見ればチャーミングなお顔に見えなくもないこともないですわね」

マリコルヌ「え?そ、そうかな。そういう君も可愛、」

モンモランシー「ちょっと!いきなり浮気してんじゃないわよ!!」

クラスメート1「………」

クラスメート2「………」

クラスメート3「………」

クラスメート4「もう言い逃れできなくてよ?」

ケティ「ふっ」

モンモランシー「………あ」




「違うの。今のはそういう意味じゃないのよ。彼氏に対して言ったとかそういうんじゃなくて」



「あくまでマリコルヌが浮気しないからとか言ってたのを破ったから怒っただけで付き合ってるとかじゃなくてね、わたしはあくまで、」



「それにマリコルヌなんかに浮気されたらもう終わりっていうかそういうプライドみたいなものが、」



「聞いてる?え?何その温かな眼差しは。見守らないで。カップルじゃないから。マリコルヌ、照れないで。何お礼言ってんのよ!?」



「誤解なの。ねえ、ちょ、こっち見ん」






[16464]  幕間11・現実逃避という名の休日①
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:99efb4d6
Date: 2010/05/17 01:35
幕間11・現実逃避という名の休日①





ひゃっはーなつやすみだ!のうみそがとろけるまで、あそびほうけるぞ!あはははははははははははは!!!





何だかよく分からないうちに夏期休暇になった。

檻の中じゃなく、普通に学院で。
意味ワカラン。

あらゆる点で自分より遥かに格下のダメ人間にダメダメ言われ、上から目線で“えらい”とか馬鹿にされる。加えてなでなーで。
完全に堪忍袋の緒が切れるにも程がある状況にしてから、トドメに殺しても別にいいです的なお膳立てまでした。

なのに、どーして殺さないんだ?女王様はドMなイケナイ“じょうおうさま”だったの?
怒りを通り越して呆れた?
それともこれは罠で、破滅(別に覚悟してるからいいけど)へのプロローグに過ぎない的な何か?嵐の前の静けさみたく。

まあいいや。どうでもいいや。どーせ結果は変わんないだろーしね。
そのうちまた城に呼び出されるか、兵士が捕まえにくるさ。
その時まで、好き勝手に生きよう。もはや原作知識を守るために乖離を防ご~とかしなくていいし。あは。



そして、開き直った(悪い意味で)私のサドンデス☆夏期休暇が始まった。





って言っても正直やる事はない。
実家に帰っても狩りしてごはん作って硬いベッドで寝るだけだし。

ああ、家族の皆さんにアンアンに憎まれてるからとばっちりが行くってコトを伝えとかないと。でもまあ、彼らなら普通に夜逃げとかするでしょー。
ゆえに、それは手紙でいいや。最期の時くらいまでは美味しいごはんと柔らかいベッドを享受したい。

あー、でもごはんは無理か。マルトーとかも休んでるし。メイドも必要最小限しかいないし。ま、厨房を借りて自分で作ればいいか。材料くらいあるだろ。

………うん、何だか気分は晩年だな。でも不思議と悪くはない。
目的が完全に達成不能って分かったんで、使命感とかそーいうのが取れたからかも。
よーし、じゃあ今日は部屋に篭って“3回目の私”の為に秘薬の勉強でも、

「ラリカー、入るわよ~」

とか思ってたら“アンロック”して赤青コンビが入って来た。
おお、熱いくせに暑いの苦手な微熱さんと、この暑さで汗ひとつかかないクールな雪風さん。
今さら“アンロック”どうとか思わないから安心してくれぃ。
とゆーか、今までも口に出して言ったコトないけどけ~ど。

「や、キュルケ。昼間っから部屋で飲むとかはレディ的に遠慮したいかもかーも」

「違うわよ。街へでも行ってみようと思って。今日はルイズとダーリンもどこか出掛けちゃったみたいだしね。他のボーイフレンドも、殆ど里帰りしちゃうみたいだし」

「一緒に出掛ける」

私のマントをくいっと引っ張り、タバ子が見上げてくる。
おおタバ子、珍しく乗り気じゃ~ないですか。この暑さの中で本を読む気がしなくなった…わけないか。気分転換的なアレだろう。
秘薬の勉強は、まあいいか。コイツらとも(命的な意味で)もうじきお別れだし、少しは付き合ってもいいか。

「ん、そういうコトならオケ~イ了解行きましょー。あとタバサ、はしばーみ」

いつものアレをしてみた。これでいつものように不思議そうにしたら撫でてやろう。
それにしても、あと何回できるだろうか。不敬炸裂・王族なでなーで。

「また例の合言葉ね。タバサ」

キュルケが意味ありげに微笑む。何だ?
タバ子が私をじ~っと見上げる。そして小首を傾げ…なかった。

「………はしばーみ?」

合ってる?みたいな答え。
って!タバ子!!やっと、やっと分かって(?)くれたんだね!!

まあ、正直この問答に答えなんてなかったんだけど。気分は初めて子供に『ママ』と呼ばれたマザーだ。
多分。おそらく。子供なんていないから何となくそんな感じ?

「タバサ!」

精神的にアレなっていたからか、思わず抱き締める。で、恒例のなでなーで。

「あら、合ってたみたいね。それより喜びすぎよラリカ」

キュルケが苦笑する。

「あ、ごめんねタバサ。いやー、思わず嬉しくなっちゃいまして」

うむ、いくらなんでもやり過ぎか。ま、どうでもいいけど。
あんまりやって魔法喰らうのもアレなので、放してやる。

「別にいい」

「怒ってない?」

ふるふると頭を振る。おーよしよしタバ子、えらいねー。

「そかそか、でも暑かっただろうから、お詫びの“ミスト”をドゾ」

杖を振り、霧というか細かい水の粒を発生させる。周りの温度が少し下がり、ほんのり暑さが和らいだ。
まあ、タバ子ならこれにプラスして風を起こしたり氷を加えたりできるだろーけど。

「…こういう時に水メイジって便利よね」

「キュルケには水に加えて風まで得意なタバサがいるから問題なっしんぐかと。一家に1台高性能タバサがいるだけで、寝苦しい熱帯夜も快適に過ごせます、みたいな」

「いいわねそれ。タバサ、今日からあたしの部屋に泊まらない?」

「あ、でもタバサも寝ちゃったら魔法使えないからダメかも。とゆーか、部屋に2人の体温で余計に暑くなるかもかーも」

「だめねやっぱり。タバサ、そういうわけだからごめんなさいね」

「私は何も言ってない」

弄られるタバ子。実に微笑ましい光景ですなぁ。
思えば、最初に危惧していた“危険度AA級のタバサイベントに巻き込まれる”って結局なかった。
そこまで親しくないってのもあるだろうけど、それでも思っていたほどのキケン人物じゃなかったってのは確かだ。
うん、これも収穫だ。ま、次回の“ラリカ”では一切関わらないからどーでもいいけど。
ちょっとだけタバ子を撫で、涼しそうにしてるキュルケに訊く。

「街へって言ってもドコに行く?ブルドンネでショッピング&カフェコースか、チクトンネでちょっぴり怪しいお店探索とか」

確か、原作ではルイズと才人が働く“『魅惑の妖精』亭”に…ああ、でもあれはもう少し後かな。まだ休暇始まったばっかだし。
いや、ルイズ達がそこで働くの自体が既に怪しいかも。アンアン付きの女官に果たしてなってるかどうか。あーでもあの夜にアンアンがどーなったか訊いてた時に兵士に何か見せてたような…。

よそう。
考えるだけムダだ。

「普通にブルドンネ街でいいわよ。冷たい飲み物でも飲んで、そうね、後はてきとうにぶらぶらしてみるのもいいかも。あたしも特に目的があってってわけじゃないのよ」

「女三匹ぶらり旅か。それもそれでオツですなぁ。タバサはどこか行きたいトコロとかある?本屋さんとか、本屋さんとか。あとは…本屋さんとか」

「行く」

「それ、選択肢なかったじゃない。まあ、タバサが服のお店とか行きたがるはずないけど」

「よーし、じゃあどこかお洒落っぽいカフェで時間を潰して本屋に行って、あとはテキトーにぶらつくというプランでケテーイね。それじゃ、」

「おや、先客がいたようだね」

振り向くと、暑さと煩悩でイカれてモンモンさんを襲うはずの青銅君が立っていた。
愛しの香水さんはどーした?てか、ここ女子寮ね。一応。

「ギーシュじゃない。あなた、実家には帰らないの?」

女子寮ってことのツッコミがないのは流石キュルケ。
タバ子は興味ないだろうから、この場でそれを言う人間はいない。さも当然みたいな空気だ。

「どうしようか迷っていたんだがね。その、あれだよ。まあ、そういうことだよ」

答えになってない。正直、答えが聞きたいわけでもないけど。

「………ふぅん。ま、それ以上は聞かないであげるわ。それで何かご用?」

「いや、暇ならどこか出掛けないかなと。今日は暑いだろ?それに…そう!暑いしね」

なーに言ってんだコイツは。

「彼女は」

タバ子が口を開く。ギーシュ相手に反応するなんて、実にどうでもいい原作乖離だな。
そして相変わらず言葉足らず。

「“彼女”とはモンモランシーの事かい?そういえば、残ると言ってたね。何でもちょうど暑いからマリコルヌを痩せさせるとか何とか。言っておくけど、彼女はもう僕の手から離れていったんだよ。だから断じてこれは浮気じゃあない」

浮気とかはどうでもいいけど、ミス・モンモランシ、“彼氏”をダイエットさせる気か。
かわいそーなミスタ・グランドプレ。でも何だかんだで2人は上手くいってるみたい。
もしアレだったらギーシュとヨリが戻せるようにとか思ってたけど、要らない心配だったかも。
ふむ、ミス・モンモランシもよく分かりませんなー。

「それで次はラリカに狙いを定めたってわけね。それ、あたしが言うのも何だけどねぇ…」

「…節操がない」

「なるなーる、わたくし、ミスタ・グラモンに狙われちゃってるワケですか。でも恋の百戦錬磨なギーシュ君にとって、おそろしく攻略カンタンな相手すぎて張り合いないかもかーも。……なんてね~」

んなわけないでしょーに。
ギーシュには某ケティとかまだ何とかなりそうな子がいるだろうし、いくら倍率ゼロだからって、私みたいなのを狙うはずはない。
惚れ薬の効果がまだ残ってるとかなら分かるけど…それはないだろう。

「冗談はさて置いて。どーせ暇してるとか思ってくれたんだよね?お心遣いかんしゃ~であります。ちょうど今から街へおでかけしよ~とか企んでたトコロゆえ、ギーシュ君も一緒にいかが?」

「あら、軽くあしらわれちゃったわね。ギーシュの惨敗、と」

「みじめ」

コイツらも何をじゃれてるんだか。でもま、こうやって冗談言い合うのも…

「ちょ、失礼だな君らは、言っておくけど今回は、」

で、黙るギーシュ。キュルケ、タバ子もこっちを見て黙っていた。
…?

「ん?どーした3人とも。私の顔が暑さで蕩けてるとか?」

キュルケが笑みを浮かべる。

「違う…いえ、そうかもね」

「おおぅ、それは実にホラー。お化粧とかしてないハズなのですが」

「凄くいい笑顔だったってことよ。さっきのあなた」

「はい?そーだった?」

私、笑ってたのか?
うん、全然自覚なかったけど。ニセ笑顔が自動的に発動するようになってたのだろうか?
長かったからなー、この“嘘”も。学院に入学してずっとだったし。
もうやめてもよさげだけど、う~ん、どうしようかなー。
ちょっと考えてると、3人は何だか目配せしてこっちに向き直った。

「ま、気にしなくていいわよ。それより、いつまでもこんな所にいたって仕方ないし、そろそろ出掛けましょ。ギーシュも、まあ、来ていいから」



…まあいいか。どうでもいいし。
私が浮かべた笑顔なんて、どーせ条件反射みたいなものだろう。
別にこの瞬間がどうだなんて。

多分。





もう、終わるんだし。











オマケ
<あの日、あの後、あの場所にて>


「姫様」

「ルイズ」

アンリエッタが振り返ると、優しく微笑むルイズが立っていた。

「いかがでしたか?“彼女”は」

「そう、ですね」

“彼女”が出て行った扉を見る。
そして、アンリエッタも小さく笑った。

「…叱られてしまいました」

ふっと息をつく。

「あなたの言った通りだったわ、ルイズ。“あの後”、あなたに聞かせてもらったのは本当だった。“彼女”は、“そういう人”なのですね」

無言で頷くルイズ。

「でも、分かっていたけど、ちょっとだけまだ嫉妬があった。浅ましいけれど、憎いっていう気持ちもね。だから、少し意地悪してみたの。…女王の自覚を持ったと言ったのに、と思うでしょう?でも、あなたに“ああ”まで言われる方ですもの。試したくはなるわ」

「そのご様子だと、試した価値はあったようですね、姫様」

「“ダメだ”なんてはっきりと、面と向かって言われたのは初めてでした。ダメ出しというのでしょうか、あそこまで言われたら…でも、全部その通りで、何も言えませんでした」

でも、と続ける。
表情は、楽しそうな、そしてどこか幸せそうなものだった。

「ですが、最後には“えらい”と褒めてくれました。一体、どれくらいぶりだったでしょう?“えらい”などと言われて…頭を撫でられるのなんて。何でしょう、その、いいものですね。即位し、そんな事をされるなんて、もう一生ないと思っていたのですが」

「そういう子なんです、“あの子”は。私の“親友”は、そうやって“ゼロ”と蔑まれていた私も救ってくれたんです」

「だから、“虚無”も話すことができたのですね。あの頃の情けない、自覚の足らなかった私でなく。…分かる気がします。自らの全てを省みず、私を諌めてくれた“彼女”を見ていれば」

女王相手に弓を引き、遠慮なく真っ直ぐに叱りつけ、まるで姉や母のように褒める。
ともすれば不敬や侮辱にもとらわれかねない行為。最後に『自分を好きにしていい』と言ったのは、その全てに対しての覚悟だろう。
“彼女”は何もかも覚悟の上で、自分に“彼女”が伝えたかった全てをぶつけたのだ。そんな事をしなくても、ただ黙っていれば褒章を与えられるだけだったというのに。

何の為に?と言われたら、それは決まっている。
ルイズの言ったように、“彼女”は“そういう”人間なのだ。


―――――“ただ、『他』が為に”。


貴族のあるべき姿は、宮廷ではなく、旧友が過ごす学び舎に居た。

「…それで、いかがなさるおつもりでしょうか。姫様に“怪我を負わせた”ことや、謁見での“無礼”は」

「罰や刑などと言えば、あなたやあの時の皆さんが黙っていないでしょう?」

「はい、姫様」

「即答ね、ルイズ。尤も、私だってそんな事をするつもりはないわ」

2人は笑みを交わす。

「むしろ“あの気持ち”が強くなった…。今回は言いそびれてしまったけれど」

「“彼女”なら大丈夫です。きっと“なって”くれますよ」

「そうかしら…。私、“次”こそは上手く切り出せるでしょうか」

「大丈夫ですわ。“彼女”は、…そうですね、姫様。“前回”は話し切れなかった“彼女”の話、ここでお話させていただいてよろしいでしょうか?」

ルイズの言葉に、アンリエッタは是非、と頷く。


「では。コホン。…ところで姫様は“惚れ薬”をご存知でしょうか。実はそれを、――――― 」










オマケのオマケ
<あの日、あの後、あの場所からそこそこ離れた場所で>


…。


……。



………。




あれ?

もう城門から出ちゃいますけど、いいんですか~兵士さん?

拘束は?

捕まえなくていいんですかー?




ああ、外に出たところで暗殺者がバーンと。

バーンと。





あれ?




あれ??




[16464]  幕間12・現実逃避という名の休日②
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:99efb4d6
Date: 2010/05/20 00:41
幕間12・現実逃避という名の休日②





結局、何がしたかったんでしょーね。この人生。あばば。





思考放棄を決め込んで3日ほど経った。

とりあえず、人生の目的を見失ってるからやる事がない。
でも、何かしないと負の感情がスパイラル。
ってなわけで。
朝っぱらからジェネリック秘薬作りに勤しんでいた。


既に30個ほど完成したジェネリック秘薬。
例のハンドクリーム&香水もそこそこ量産されている。
売り物にはならないし、売ってお金にしたって使う時がない(寿命的な意味で)から、これらはマルトーとか学院で働く平民の皆さんに遺すつもりだ。
ギブアンドテイクな関係だから、お世話になったお礼とかそーいうつもりじゃないんだけど、まあどうせ最後だし、けっこう喜んでくれてたから…そんな感じで。

当初は“3回目の私”の為に普通の秘薬を勉強する気でいたんだけど、どーにも頭に入らず断念した。
勉強はまた“今度”でいいだろう。

と、扉がノック…されずに“アンロック”で開いた。タバ子だ。
夏期休暇が始まってから、毎日のように来ている。よっぽど暇なんだろう。

「どーしたタバサ?何用かな」

視線の先は…机に置いてあるサンドイッチだ。朝食用にてきと~に作ったテキトーサンド。
なるほど、餌付けされに来たのか。

「食べてい~よ。私の手作り手抜きサンドイッチだけど」

「ありがとう」

ベッドに腰掛けてサンドイッチをぽくぽく食べ始めたタバ子を観察する。
…食べるの早いな。でもさすがは王族、食べ散らかしたりはせず、どことなく気品を感じさせる早食いだ。多分。
あ、もう完食?ちゃんと噛んだか?

「マズくなかった?」

「おいしかった」

「そかそか。それは何より。で、用件はなんぞや?キュルケに私を呼んでくるように言われたとか?」

それともキュルケといるとエアコン扱いされるから逃げてきたとか?

「キュルケはギーシュと街に出掛けた」

…はい?
なんだその予想外ペアは。
でも、説明する気はなさそうだ。さすがタバ子。興味ナシ具合が半端じゃない。

「そかそか。それでなぜゆえ私の部屋に?」

「…?」

不思議そうな顔をするタバ子。あれ?今何か変な質問したか?
してないはず。何なんだ一体。

「本」

本を読みに私の部屋に来たか。そーかそーか。
だめだこいつ、はやくなんとか…しなくていいか。基本、置物と変わらないし。
暑くなったら自動で魔法使ってくれるから便利かも。

「お~けー了解。じゃあタプ~リと寛いで、」

「ラリカ~、入るぞ」

才人が入ってきた。
そして突風で吹き飛ばされて出て行った。
ついでに閉じた扉に“ロック”が掛かる。ナイスタバ子。実に流れるような一幕でした。

「…紅茶でも淹れよっか?」

閉ざされた扉を一瞥し、タバ子をなでなでする。

「もらう」

「ジャムあるけど入れる?甘いのダメなら入れないけど」

「ダメじゃない」

「ちょ、ラリカ!開けてくれよ!?タバサもいるのか?」

扉がドンドン叩かれる。復活早いな。さすがガンダールヴ!!

「追い払う?」

「レディの部屋にノックなしで入った罰は、さっきのでチャラね。“アンロック”」

鍵を解くと同時に、苦笑いの才人が入ってきた。

「やっぱり。ラリカが“ウインド・ブレイク”だっけ?なんて使うわけないと思ったんだよ。タバサが来てたのか」

…タバ子?
へんじがない、ただ本をよんでいるようだ。

「おぶこーす。使いたくても使えないのが正解だけど。で、才人君はどーした?ルイズに私を呼んでくるように言われたとか?」

それともルイズといると虐待…されないか。幸か不幸か、原作と違って2人は普通に仲良しこよしだし。

「いや、ルイズは城に行っていないんだ。今日はその、暇だったらどっか一緒にどうかなと思って」

ルイズ単体で城?嫌な予感しかしないな。ま、もうどーでもいいんだけど。

「んー、確かに暇は暇だけど…シルフィードは、」

「キュルケに貸した」

「…みたいだし、どうやらココアはルイズが乗ってったみたいだし。学院で馬は貸し出してるけどね。才人君、乗れる?」

「馬か。ココアにばっか乗ってたからな…苦手かも。でも、ココアに乗るのなら誰にも負けないぜ?」

うん、それ私の使い魔だけどな!

「うーん。タバサは学院でゴロゴロしてたそうだしなぁ」

「出掛けるなら、一緒に行く」

「だってさ。タバサも賛成みたいだし、出掛けようぜ!」

タバ子、本はいいのか本は。
でも、おでかけか。ジェネリック秘薬を量産してるのもアレだし、2人が行きたいなら行ってもいいんだけど。
街は行ったばかりだし、暑いし。お金かかるし。
そうだ。

「じゃあ、森の湖にいくのはどーかな?そこでお昼ごはんでバーベキューでも」

「賛成」

タバ子即答。食べ物が絡むと食い付きが違う。

「湖か。そういやギーシュのやつが、どっかの森に綺麗な湖がどうとか言ってたな。そこに歩いていくのか?」

「徒歩だと夜になっちゃうぜぃ。馬だよ、乗馬でゴー」

「だから俺、乗馬は、」

分かってるって。でもこの世界で乗馬もできないって…ま、いいや。
才人の将来なんて私が気にする必要もないし。必要に迫られたら自分で何とかするでしょー。多分。

「心配ご無用。このわたくしめにお任せあーれ」




※※※※※※※※




「ほい到着」

到着したよ。…到着しましたよ~?……お~い?
馬で2時間、目的地に到着した。けど、才人が降りない。
乗馬は慣れてないってわけで、私の後ろに乗ってもらったんだけど…道中、終始無言だった。私は話しかけたんだけど、どーも上の空みたいで。
スピードも出してないし、ジャンプとか無茶もしなかったハズ。

「才人君?」

もう動いてないから私にしがみついてなくていいのに。原作でも腰が痛くなった程度で怖がってとかいなかったと思うんだけど。

「…」

タバ子が杖を振り下ろすと、ボグっと鈍い音が響き、小さく悲鳴をあげて才人が転がり落ちた。
なーにやってんだか。

「寝てた?」

「え!?あ、ああ!いや、柔ら…じゃなくて、ちょっとボーっとしてて!いやー、着いたか!そうかそうか!」

何だそのあからさまな挙動不審は。
ま、いっか。
私もずっとしがみつかれてたお陰でいろいろ身体が凝った気分。
馬を降り、う゛~っと伸びをする。

「さてと。さっそくだけど、準備に取り掛かろっか。のんびりしてるとお昼時を過ぎちゃうしね」

「ええっ?ちょっと休憩、」

「一番楽をしてたのに?」

「よし!何でも言ってくれ!!」

さっきからタバ子がナイス過ぎる。

「あはは、ごはん食べ終わったらじっくり休憩しようね。じゃあ、才人君には薪になりそうな木を集めて貰おうかな。タバサは私の弓を貸してあげるから、テキト~にお肉調達よろしく。私は野菜系を摘んでくるから」

「狩りって、肉も現地調達かよ!?」

「野菜おぅんりーのバーベキューじゃ悲しいでしょーに。それに、今は夏期休暇中。学院の厨房にお肉とか置いてはないんだぜぃ?」

この世界には冷蔵庫なんてない。
だから休みの間に厨房にある食材なんて、日持ちする根菜類かガチガチに塩漬けされたモノくらいなもんだ。
パック牛肉を持って来て焼肉…みたいな才人の常識は通用しない。

「あ、取った獲物を捌くのは私がやるからご安心を。お肉は現地調達、これすなわちメイルスティア家のジョーシキゆえにね」

サバイバル貴族の実力をご覧あれ。
10歳になる頃には普通に解体とかしてたのだよ。


…それにしても、この3人でバーベキューとはねぇ。ギーシュ×キュルケのお出掛けもアレだけど、何とも妙な組み合わせ。
一体、ナニがどーなってるんだか。




※※※※※※※※




食事が終わり、涼しい木陰で一休み。

木漏れ日に水の音、風もいい感じに心地良い。
タバ子が狩ってこれたのはウサギ1羽だけだったけど、私の採ってきた野菜を加えたら十分な3人前はあった。お腹も大満足状態だ。

「それにしても、魔法って便利だよな。火も起こせるし水だって思いのままだし。やろうと思えば材料切るのだってできちまうんだろ?」

感心したように才人が言う。

「そーだね。才人君の世界は魔法がないんだったっけ?代わりにカガクってのが発達してるとか」

「ああ。この前の“竜の羽衣”も、凄く古いけど当時の科学の結晶だ。現代じゃ何百人も乗せたアレの大きいやつが、世界中の空を飛びまわってるんだぜ?」

知ってるけどな!
あー、飛行機で北海道行ってカニ食べた~い。解凍じゃなくて茹でたてを。
でも、食べられるのは今回死んで、“佐々木良夫”に生まれ変わって、加えてそれなりに大きくなってからしか無理だから…最低でも10年は掛かるのか。果てしなく長い。

「凄いな~。想像もできないけど…才人君が言うならそうなんだろうね。ある意味魔法なんかより凄いかも」

笑ってみせる。才人はこっちを見て、でも返事をしなかった。

…“才人の世界”か。
おそらく、その世界は“佐々木良夫”の世界とはまた別の世界だ。似ているかもしれないけれど、決定的に“違う”世界。
ひょっとすると、ハルケギニアと地球よりも“離れている”のかもしれない。
カニはまあ、あるだろうけど。

「タバサも、……タバサ?」

そういや反応ないなーとか思ってたけど、隣のタバ子はうつらうつらしてた。
お腹いっぱいになったら寝るとか、子供みたいだ。
いや、実際子供か。私より何倍も強いけど。

このままでもアレかと思い、膝枕して、自分のマントをタオルケット代わりに掛けてやる。
ふむ、実に気持ちよさそーに寝てますな。
髪を撫でると、毎度同じみなサラサラ感。リンスとか使わなくてもこのクオリティ、血統書付きの王族ってのはやっぱり常人と身体のデキが違う。

ここまで差ってあるもんなんだなー、同じ人類なのに。
そう思い、ちょっと笑みが零れた。
自嘲的な意味で。

「あ、あのさ、」

「ん?」

タバ子に向けていた視線を才人に戻す。
何だ?やたら真剣な表情で…、

「俺、思ってることがあるんだ。いずれはその、元の世界に帰るつもりだけど…何とか、こっちの世界と、俺の世界を自由に行き来できるようにしてみたいって」

ほほう、夢のある話ですなぁ。
叶うかどうかは、“俺”が“ゼロの使い魔”最終回まで読んでないから分からないけど。

「もし、それが叶ったらさ?俺、ラリカを招待するよ。いろんなとこ、連れてくよ。…その、知ってもらいたいんだ、俺の“世界”を」

…はい?
そんな事できるわけ…あ、“世界扉”が凄く進化したりしたらできるのか?どーなんだろ?
まあ、どっちにしろ行けるのは才人の“世界”で佐々木良夫の“世界”は無理だろうけど。

「見てもらいたい物とか、場所とか。そして会ってもらいたい人とかさ。たくさんあるんだ。だから、」

「才人君」

ちょっと落ち付け才人。取らぬ狸の何とやら、だぜー?
それに。

「…でも多分、その“世界”に私の居場所はないと思うよ。才人君はこの“世界”にも居場所を作れたけど、私にはそんなチカラも、器もないから」

そう、そもそも“私”が行ったってどーしようもないのだ。
ちゃんとした身元があってナンボな世界。
必要なのは日本国民“佐々木良夫”の戸籍と国籍だ。後付で学歴とかも将来のためには必要になってくる。

“ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア”はあちらの世界じゃ“戸籍”も“国籍”すらない住所不定無職の難民みたいな感じだろう。
普通に生きていくのも一苦労だろうし、何かあってKサツとかに厄介になる状況になったら…想像したくないな。強制国外退去って言われても、どこに行けばいーんだか。
コレはおそらく才人の“地球”も佐々木良夫の“地球”も同じだろう。
…ま、観光程度なら頑張って目立たないよ~にしてれば何とかなるかもだけど。

「なら、俺が作るよ」

「え?」

「ラリカの居場所は、俺が作る」

………はい?
なーにをホントに言っちゃってるんだろうね~。そんなカンタンなものじゃないんだけど。
だけど。
うん。何だ、やたらプッシュしますなぁ。

「…」

「…」

互いに無言。これはアレか、何か答えとかなきゃダメか。

「…ありがとう。じゃあ、その時はよろしくね。才人君」

ま、厚意には笑顔でお礼を言っとくのが礼儀ってもんだろう。
それが叶うかどうかはまた別問題で。叶わないんだけどね、実際。

私はもう、終わっちゃうし。

「あ、ああ!任せといてくれ!!」

パッと表情を明るくして声をあげる才人。
頼られるのは嬉しいかもしれないけど、それにしたって喜びすぎだ。

「大声はダメダーメ。この子が起きちゃうでしょーに」

「…ああ」

「うん」

分かればよろしい。
再びタバ子の髪を撫でながら、空を仰いだ。

木漏れ日がやたらと綺麗だ。
木々のざわめきも、鳥の声も。水のせせらぎも。
気分は完全に晩年。ある意味無我の境地?
穏やかな風が、優しく頬を撫でる。

「―――― 風、気持ちいいね」

「…そうだな」

こんな気分のまま、終われたらな~。実際待ってるのは処刑だろうけど。

ま。
仕方ないか。こんな結末を招いたのは、他ならぬ私なんだし。




はぁ。

何だか、ねえ。







オマケ
<その頃、城下町にて>



ギーシュ「この服なんてどうかな?」

キュルケ「好感度マイナス10ポイントね」

ギーシュ「ちょっと地味だけど、これは?」

キュルケ「どこの仮装パーティーに出る気?」

ギーシュ「なら、これでどうかな」

キュルケ「何でいちいちフリルが付いてるのよ」

ギーシュ「お洒落だろ?薔薇はいかなる時も女性の目を楽しませねばならないんだよ」

キュルケ「“面白い”って意味なら楽しいけど。一緒に居たくはないと思うわ。そう考えるとモンモランシーって偉大だったのね」

ギーシュ「くっ、じゃあどうしろと言うんだね?君が“まずはその格好をどうにかしなさい”と言うから選んでるっていうのに」

キュルケ「誰も面白衣装を選べなんて言ってないわよ。普通でいいのよ、普通で。“あの子”だって一緒にいて恥ずかしいような個性は要らないって言うわよ」

ギーシュ「ふっふっふ、君は“彼女”の親友なのに分かってないね。ここだけの話、“彼女”は僕に仄かな恋心を抱いてるに違いないんだよ。まだ自分の気持ちに気付いてないだけで、」

キュルケ「じゃあもう協力は要らないわね。後はご自由に、」

ギーシュ「いや、待って。ミス。君の力が必要だから!ね?頼むよ、僕も今回は本気なんだって!」

キュルケ「普通に告白すればいいじゃない。そうすれば“あの子”もちゃんと『ごめんなさい』って答えてくれるから」

ギーシュ「ダメじゃないかそれ!?お願いだからマジメに頼むよ!」

キュルケ「はいはい。冗談だってば。……そうねぇ、“あの子”は、」


…。



……。






##############


更新速度が…orz
何だかいろいろ忙しくてなかなか更新できませんが、完結まではいくつもりですので、『未完で終わらないか?』と心配されている方、多分ご安心を。

今回もまだクズ子は自暴自棄モードです。
でも、この状態のままの方がある意味“幸福”に近いかも。
幕間はもう少しだけ続きます。



[16464]  幕間13・霞の夢と、それぞれの日々
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:99efb4d6
Date: 2011/03/06 13:28
幕間13・霞の夢と、それぞれの日々





“今”の全てが“未来”に繋がるなら。今、何をすべきなのか。何をすべきじゃないのか。分かっているから苦労はしないハズ。だったのに。





病室の白い天井を見上げ、小さく呻く。

最近、“私”の眠りが浅い。先行きの不安からか、単純に寝苦しいだけなのか。
しかしそれは、“俺”の覚醒時間に直結していた。
意識が、思考が、続かない。

“あの場面”へ至ってしまう詳細を読もうとしても、頭より身体が言うことを聞いてくれない。
目覚めても、頭痛と眠気と眩暈に耐え切れず、ベッドでこうして呻いていることしかできない。
今が、本当のターニング・ポイントだというのに。


目指す幸福に、少しだけ欲を出してしまった蝶の羽ばたきは、知らない場所で嵐になり、ついにその蝶を巻き込んだ。
風に呑まれて行き着く先は、暖かな南国か、冷たい雪の世界か。
自ら飛ぶのを諦めた蝶は今、当初思い描いたものとは違えど、確かに南国へと押し流されている。でも、本人はそれに気付かない。
描いたプランと記憶したストーリーが崩れた絶望で、希望などないと心を閉ざしてしまっている。流れるままになっている。

だから。
“俺”は頭痛と眠気の中、拳を握り締める。



―――― どうか、“何もしないで”くれ。



そうすれば、“あんな”未来でなく、それなりに幸福な道を進めるはずだから。
朦朧と歪む世界で、改変された“暫定未来”が…“ゼロの使い魔5巻”が目に映る。

憂いを含んだ笑顔で、控えめに手を振る“私”。

その副題は、<トリステインの涕哭>。

内容は、読まなくても分かる気がする。この“暫定未来”を迎えてはいけない。


まだ、間に合うか…ら。



どうか、ばかなせんた、くは、




く…そ、







ラリ……カ………




※※※※※※※※




「あーたーらしいー朝がきた~、きーぼ~おは、なーい~よっと」

…あ゛~、実に清々しくない朝だな。いや、昼?
あんまぐっすり眠れた気がしない。浅い眠りと半覚醒を繰り返した気がする。
やっぱり暑いからか?でも別に汗かいてるわけでもないし。何だろう一体?
単純に疲れか?いろいろあったしなー、昨日は。

タバ子&才人でバーベキュー行ったり、戻ったら戻ったでギーシュに呼び出されて要領を得ない話されるし(途中でギーシュは才人に連れ去られ、その後は不明)、キュルケにはやたらとニヤニヤされるし。

夜は夜で、『今度は私の番よ!』とか意味不明に息巻くルイズが押し掛けてきた。
で、この暑いのに泊まろうとするから説得して、でもダメだったんで寝かし付けてから部屋に輸送。

ようやく眠れるかと思ったら、モンモンさんが“痩せ薬”どーとかで、材料になるモノがないかとか部屋を物色に来た。
あんたが持ってない材料を、格下秘薬しか作れない私が持ってるわけないでしょーに。

“痩せ薬”、乙女にとっては本当に“魔法のクスリ”だ。
街の店も材料は品薄だったっぽいけど、私に愚痴るな私に。てか、そんな親しくもないでしょーに。
結局帰ったのは、やたらスポーティーな格好のミスタ・グランドプレが『メニューをこなしてきたよ!』とか彼女によく分からん報告をしてきてからだった。


…うん、疲れだな。これだけあったなら、疲れが溜まっても仕方ない。

じゃあ今日はもう一眠りして…いや、寝るのはいいや。
近いうちに永遠の眠りが来るだろうし、転生したらしばらくはベイビータイム。
寝て泣いてお漏らしするインターバルな作業が待っている。睡眠を貪るのはその時で十分だ。

さて。
今日は、何をしますかねぇ。



………てかさ、なぜ~に扉が全開なのでせうか?寝惚けて徘徊でもしたのか?私。








<Side Other①>


「いつまで不貞腐れてるんだよ。いい加減シャキっとしろって」

いつもの服とは全く違う、地味な服を着たルイズに言う。

「だって今日から“任務”なのよ?しばらく街の宿に泊まる事になるし…だから昨晩は一緒にって思ったのに………」

「寝るまではいたんだからいいじゃねえか。それで、ちゃんとこの事は言ったのか?」

「言ってないわよ。ホントはもう少し夜更かしして話すつもりだったの!でも仕方ないじゃない!?ベッドでラリカが折れるまで寝転がって頑張ってたら、アタマ撫でられて背中ぽんぽん叩かれて、気付いたら寝てたのよ!!」

「子供じゃねえんだから…寝かし付けられるなよ…」

やや呆れ気味に言いながらも、才人の頭には昨日の光景が映し出される。
あのタバサをルイズに置き換えて…なるほど、と一人頷いた。

「いいわよ、ラリカなんて私が見当たらなくて寂しい思いをすればいいのよ。もう知らないんだから」

「普通にキュルケやタバサと遊ぶんじゃねえか?休暇の終わり頃には、あいつらむちゃくちゃ仲良くなってたりして」

「………」

才人は笑いながら、黙ったルイズの前に出ると、さっさと行くぞと促す。

「もしかしたらギーシュとも遊ぶかもね」

「………」

才人の足が止まった。

「…夏期休暇、長いわよね。無駄に長いわ」

「…なあ、別に宿屋に泊まる必要ってなくねえか?ココア使って夜は学院に戻ればいいんだしさ。その方が節約になるし」

「あんた、たまにはいいこと言うじゃない」

「お前だって変な宿には泊まりたくないだろ?なに、寝てる間はどうせ情報収集なんて無理なんだし、宿で寝たって学院で寝たって変わらねえよ。姫様だって、学生のお前に危険な夜中に出歩いて情報を集めろ、なんて言ってないんだろ?」

「ええ、むしろ危険な事はなるべく避けるように仰ってたわ」

「決まりだな。よし、じゃあまずはどこで情報収集するか決めないとな。酒場かなんかで働いてみるか?」

そう言いながら、改めて自分が選んで身に付けさせたルイズの格好を見た。
平民に混じって、という事なので格好だけは田舎娘のようだ。しかし、顔立ちや雰囲気でどこか芝居の中の“田舎娘”といった印象を受ける。

「酒場ねえ。確かに噂話には事欠かないかもしれないわね。で、どこで働くの?」

「適当に従業員募集してる店を探すしかねえだろ」

「でもあんまりいかがわしい店は嫌よ。前にギーシュが言ってたのよね、何でも妙なサービスがある“噂の店”とかなんとか」

「んなところでお前を働かせるかよ。まともな酒場だよ、それともカフェにするか?客層は違うだろうけど噂話ならそれなりに聞けそうだけど」

酒場の給仕をするルイズは想像できないが、カフェなら絵になりそうだ。

「カフェ?ああ、最近流行の“お茶”を出す“カッフェ”の事?いいわね、そっちにしましょ。酒場は客として夕方からでも行けばいいわよね。姫様から頂いた活動費でお酒を飲むのは気がひけるけど…」

「んなこと言ったら活動費は何に使うんだよ。宿代もいらなくなったんだし、別に贅沢、」

才人の台詞が不自然に途切れ、何かを目で追った。
ルイズは、不思議そうに小首を傾げて眉を顰める。

「…どうしたのよ?ぼーっとして。あ!女でも、」

「ちげーよ!俺にはもう、…じゃなくて。この世界にもオカマっているんだなーって思っただけだよ」

「オカマ?」

「さっきそこをくねくねしながら通って行ったんだ。あれは絶対オカマだな。なあ、もしかしてギーシュが言ってた“噂の店”って、オカマバーじゃねえのか?」

オカマバーなら“噂の店”になりそうだ。珍しいし、何より特殊だし。
まあ、興味はないが。

「知らないわよ。興味もないわ。それより、酒場の話は後で考えるとして、さっさと雇ってくれそうなお店を探さなきゃ」

「だな。でも、いきなり雇ってくれるもんなのかなぁ、履歴書…なんてねえし、やっぱ面接くらいはあるのかな」

「面接?」

「ああ、俺の世界でもバイトとして働く時には、―――――」






<Side Other②>


「…というわけさ。まったく、サイトも少しは空気を読む力を身に付ければいいのに。僕の感覚が正しければあと少しでラリカを落とせ…、というかだね、君も僕の話を聞いてるのかい?」

「180っ!181!182!!ああ、聞いて、るよ!!186!187ッ!!」

中庭、愚痴をこぼすギーシュの前ではマリコルヌが汗を迸らせながら腹筋に勤しんでいた。

「それで、君は何をやってるんだ?僕の記憶が確かなら君はそんなに運動好きじゃなかったはずだが」

「200ッ!!…ふぅ、いい汗かいたよ。で、何だったっけ?」

「君がそんなことをやってる理由だよ」

「ああ、モンモランシーになぜか運動するように言われたんだ。で、仕方なくやってみたら…その、目覚めたんだよ。自分の身体と心を限界まで追い込む快感にね。筋肉が悲鳴をあげても、苛めて苛めて、苛め抜くんだ。最初は苦痛だったけど、日に日に筋肉がついていく実感が沸いてきてね。今では苦痛は最高のご褒美さ!」

「身体を鍛えるのが楽しくなったって事なんだね。でもなぜだかアブノーマルな感じがするんだ。どうしてだろう?」

「そうかな?ぼくは別に変な事を言ったつもりはないけど…」

2人はううん、と首を傾げて考え込む。
10分ほど悩んだが、答えは出なかった。

「まあ、これは置いとこう。それよりギーシュ、きみもこんなところにいないで、ミス・メイルスティアを誘って出掛ければいいじゃないか。邪魔しそうなサイトは、朝早くからルイズとどこかに出掛けたみたいだし」

「…そういえば、そうだね。何が楽しくて汗だくの君と喋ってるんだろう…」

「恋は戦いなんだよギーシュ。モンモランシーが形振り構わずぼくを手に入れようと企んだみたいに、積極的な者が最後には勝つのさ!さあ友よ、押して押して押しまくるんだ!」

マリコルヌが熱く語る。ギーシュは一瞬呆けたが、やがてふっと微笑んだ。

「まさかきみに恋愛を教わる日が来るとはね。やはりモンモンを任せられるのは君だけだったみたいだ。これは…僕も頑張らないとね!」


2人は頷き合う。そこには男同士の、言葉には言い表せない何かがあった。


「…ところで、例の水兵服。まだきみが持ってるよね?モンモランシーに着せたいから譲ってくれないかな」

「ああ、進呈するよ。…着てもらう時は是非、僕も呼んでくれ」




2人は頷き合う。そこには男同士の、言葉では言い表せないナニかがあった。







<Side Other③>



「ここよ、ここ。前に通りかかったとき、ちょっと気になってたのよね」

キュルケは楽しそうに、隣にいるタバサに言う。
最近、流行り始めたカッフェなる店。前回、ラリカやギーシュと街へ遊びに行った時はオープン前だったが、今はもう開店し多くの女性客で賑わっていた。

「やっぱり連れて来ればよかった」

「でもあの子、全然起きなかったじゃない。寝言かもしれないけど“何もしないで”とか何とか呟いてたし、無理に叩き起こすのも可哀想だしね。また今度連れて来ればいいわよ」

そう言ってタバサの頭を軽く撫でる。
店内に入ってすぐ、ウェイターが席の案内にやって来た。

「いらっしゃいま…ってキュルケ?タバサも」

その声に2人が顔を向ける。

「え?ダーリン。こんな所で何やってるの?」

ウェイター、才人は一瞬だけ『しまった』という表情を見せたが、すぐに諦めたような笑みを浮かべた。

「あー、その、バイトだよ。バイト。とりあえず、席に案内するよ」





「朝から見かけないと思ったら、アルバイトなんて始めてたのね。ウェイター姿も素敵よダーリン?」

「からかうなって。それよか、ラリカは一緒じゃないのか?ギーシュの野郎の姿も見えないし…まさか!!」

「ラリカは何だか寝不足みたいで、しばらくは起きないんじゃないかしら。それと、ギーシュがどうしたの?“まさか”、何かしらね?」

言いながらキュルケはにやにやと笑う。

「…ぐっ、な、何でもねえよ」

「素直じゃないわねぇ。ま、多分大丈夫よ。ギーシュには可哀想だけど、何ていうかあれね。そういう対象に見られてなさそうだし。あたしが言うんだから間違いないわ」

「その言葉、信じるからな?気休めとかだったら、」

「注文」

タバサが服の裾をくいくい引っ張る。
才人は、小さくやべっ、と呟き伝票を取り出した。

「仕事中だった。店長に怒られちまう」

「けっこう忙しそうだものね。じゃあその話はまた後でねダーリン。ちなみにここのお勧めって何かしら?」

「飲み物は普通にお茶だな。食べ物だと、特製のサンドイッチが一番売れてる」

「じゃあそれをお願いするわ」

「6個」

普通に6人前を注文するタバサに、才人は聞き返した。

「6人前って。そんなに食うのか?けっこうでかいぞ?」

「1個はラリカにおみやげ」

「それでも5人前…」

「大丈夫よ、この子がたくさん食べるの知ってるでしょ?あ、それと支払いはルイズのツケでお願いね」

事も無げに言う。

「…やっぱ気付いてたか」

「さっきから視界の端にピンクいのがちらちら見えてるから。……ルイズ、こっちこっち」

ひらひらと手を振る。
柱の陰に隠れていたルイズは一瞬固まったが、すぐに顔を赤くして早足でやって来た。

「何であんたが来るのよ!」

「来ちゃ悪かったかしら?というか、あたしはお客よ。給仕さん?」

「うぐ。…なんの用、……御用でしょうかお客様」

「いえ、ご好意のお礼を言おうと思いまして。奢ってくれて感謝いたしますわ、ラ・ヴァリエールさん」

「はぁ?寝言言わないでよ!何であんたに、」

「ラリカに言うわよ?」

「勝手にすれば?ラリカはこんな事で私をバカになんてしないんだから」

ふん、と鼻を鳴らしてルイズは断言する。

「いえ、立派な貴族になるために庶民の生活を理解すべく、一生懸命頑張ってたって」

「サンドイッチ、1個はおみやげ。ルイズから」

「仕方ないわね。特別に奢ってあげる。…店長に給料から差し引くよう言ってくるわ」

ルイズはそう言うと、なぜか嬉しそうに、やたら軽い足取りで厨房へと消えていった。

「何ていうか、扱いに慣れてるな」

やれやれと、首を振りながら才人が呟く。
溜息の理由はキュルケに半分、単純なルイズに半分だ。

「あの子が単純なのよ。それに入学以来の付き合いだしね。…それより、後でルイズにも聞かないと。こんな所で働いてる理由」

楽しそうに言うキュルケに、才人は再び…しかし笑いながら溜息をついた。






<Side Other④>


トリステイン王宮の石床を、かつこつと長靴の響きを鳴らし、女騎士…アニエス・シュヴァリエ・ド・ミランはアンリエッタの執務室に向かう。
途中、行き交う貴族たちはすれ違いざまに立ち止まり、この“メイジでないシュヴァリエ”のいでだちに眉を顰めた。

「ふん!平民出の女の分際で!」

「“粉挽き屋”風情にシュヴァリエの称号を与えるなど、陛下も何をお考え、」

「少なくとも、タルブ戦で“それ”に見合う戦果をあげたんだ。それが認められないのなら、貴族以前に人としての器が知れるぞ」

わざわざ彼女に聞こえるように囁かれていた中傷は、突然会話に割り込んできた声に黙らされる。

「っ、エルデマウアー殿!?それはどういう、」

そのメイジの質問には答えず、エルデマウアー…あの夜、生き残った衛士は自分に気付いて立ち止まったアニエスに笑みを向けた。

「ミラン。あんたも報告に行くんだろう?同行させてくれ。…こちらも、有力な情報を手に入れたんだ」






通路に2人分の足音が響く。

「…先程は、ありがとうございました」

視線は真っ直ぐ前に向けたまま、アニエスが口を開く。

「?礼を言われる覚えは…ああ、さっきの連中の事か。なら、逆に申し訳ないくらいだ。この国の貴族は未だ、ああいった連中が大多数を占めているからな。俺も、少し前までは同じだった」

「…」

「あんたも俺を含め、貴族など信用できないと思っているかもしれないが…一応、そんな貴族ばかりじゃないとだけは弁解させておいてくれ」

「仰られずとも分かっています。私も人を見る目はそれなりにありますので。それより、良かったのですか?私を庇うような発言をしては…」

「好きに言わせておけばいい。誰に何を言われようが、俺は自分がすべき事をこなすまでだからな。それはあんたも同じだろう?」

「…はい」


そして小さく、アニエスは呟いた。



「………同じですね。私たちは」




[16464]  幕間14・変化の兆しと、変化した色々
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:99efb4d6
Date: 2010/06/07 07:30
幕間14・変化の兆しと、変化した色々





時間は心を変え、変化を促す。決意を固めたり、覚悟を揺らがせたり。プラス、マイナス、私のココロはどっちに傾く?





@いう間に1週間が過ぎ去った。光陰びゅんびゅん矢のごとし。

なのに、相変わらず同じような日々が続いている。
何がどうなっているのか。原作乖離した現状じゃ、私の知識は何の役にも立たないし。

アンアンは本気で何を考えているのか?
最期の夏期休暇をお情けで楽しませてくれるってトコロか。
それとも、原作5巻でやってた裏切り者捕獲で忙しいだけなのか。

正直、どーでもいいけど勘弁して欲しい。やるならさっさとやって欲しい。
こんな毎日が続くと、錯覚してしまうから。

…もしかして、大丈夫なんじゃないか?って、アホな希望を抱いちゃうから。





ベッドから上体を起こす。

今日も微妙に寝足りない。原因は100%くらいの確率で、“コレ”のせいだろう。
隣ですーすー気持ちよさそ~に寝息を立てるルイズを見る。暑くないのかコイツは?
暑くないか。暑くなりかけたら私が魔法で部屋を涼しくしてたし。実に寝不足の原因だ。

このピンクヘッドは連日連夜、まいるーむにお泊りにきていた。
てか、オマエさんと才人は街でギャンブル失敗した挙句、オカマが経営するアレな酒場で住み込み労働するんじゃーなかったっけ?と思い、さりげな~く聞いてみたら、お洒落なカッフェでバイトしてるとの事。

1度キュルケ達に誘われて行ってみたら、何のトラブルもなく普通に働いていた。
お酒を出していないので絡んでくる酔っ払いなんていない、というか大半は若い女性客だし、男の客も彼女同伴がデフォ。客が客だからルイズがトラブルを起こすことはない。

で、キュルケもコレに関してルイズを脅す理由はなく(店自体のレベルが高いうえに、ルイズの接客も問題ない)、王軍の士官が貴重な非番を使ってお茶なんて飲みに来るはずもなく、完全に5巻イベントは消し飛んでいた。

…まあ、正直もうどうだっていいんだけどね~。
トレビアン・オカマやその娘ジェシカ関連のイベント破綻も、今となっては軌道修正する理由もないし。もーどーにでもしてくれって感じで。

「だから夜更かしするな言ったでしょーに」

人差し指でルイズのほっぺたをつつく。起きる気配はない。
毎晩、その日のバイトがどーだったとか語ってくれるルイズ。公爵令嬢が庶民の店で働くなんて普通はありえないし、毎日が驚きの連続なんだろう。
目を輝かせて私に語る姿は、まさに入園したての園児。ままー、きょうはどろあそびしたんだよ!的なアレ。

正直、話は大してどうでもいいんだけど、その姿は何ていうか微笑ましい。同年代だけどな!てゆーかコイツ、アンアンの忠実な僕なんだけどな!

…あ~、何だこの思考。私相当疲れてる?




「ラリカ、ルイズは起きたか?」

ルイズお嬢様の支度を終えるとほぼ同時に才人が入ってきた。ノックはもういいや。

「おはよー才人君。この通り、バッチリ起きてるぜ~」

「おはょ…ぅサイト……」

椅子にポケ~っと座ったルイズを見て才人が苦笑する。着替えはバッチリ、髪だってちゃんと梳いてあるし顔も拭いた。
脳味噌の方はまだ半分夢の中だけど。

「全然ダメじゃねえか。まあ、街に行くまでには起きるか」

「ごはん食べれば起きると思うよ。才人君は朝食済ませた?」

「食ってねえ。ルイズの隠してたお菓子でも摘もうと思ってたんだけど、見付かんなかったんだ」

「あー、それは例のクッキーですな。昨日ルイズが持って来て、全部ココで食べちゃったぜぃ。…もしアレなら才人君もここで朝食食べてく?パンと目玉焼き、あーんど適当なサラダくらいな質素メニューですが」

「あ、いいの?じゃあ遠慮なく」

「じゃ~作るから、ルイズと一緒にいい子で座っててぷり~ず」

原作カップルが仲良く(?)座るのを見届け、秘薬を作る台に向かう。
“着火”でアルコールランプに火を灯し、バーナースタンドを設置。そこへギーシュ作のフライパンを乗せ、厨房からパクってきた油をしく。
ターナーを装備し、ちょっと前に森で採ってきた卵(何の卵かは知らないけど、鳥の卵ってのは確かだ)をてきとーに焼いた。塩コショウもてきとーでいいや。
あと、パンは焼かなくていいや。そのままでOK、めんどいし。

ちなみに今朝のサラダは腰痛の秘薬用に使う植物だ。
見た目はレタスみたいだし、味も匂いも殆どないから問題ないだろう。とりあえず毒じゃないから無問題。多分。

3つの皿にパンとサラダ、目玉焼きを乗せて朝食完成。飲み物は水。
シエスタが見たら悲しい眼差しを向けられそうな酷いメニューだ。

うん、貴族の朝食じゃないな。少し貧乏な平民レベル?でもまあ、食べるのは私と才人、そして半分寝てる状態のルイズだ。気にしない気にしな~い。
てか、普通の貴族は自室で朝食を作るなんてしないか。
何だかアパート暮らし中の“佐々木良夫”みたいだな。

「はいお待た~せ。ロクなものがなくてもーしわけないでありまーす」

「いや!全然俺はオッケーだぜ!…いや、むしろ最高かも」

コレが最高とは冗談も度が過ぎまくりだぜ才人君よ。最高とは学院営業中に出される貴族食。私が作ったのは粗食というか、貧困食というか。

「実に無理のあるお世辞ありがと~♪それで、食後の飲み物は何がいい?ちょっと苦い葉の紅茶でも淹れようかと思ってるけどけーど。眠気が吹っ飛ぶよー」

「じゃあ、俺もそれで」

「私…も」

おおルイズ、一応意識は保ってたか。

「オケーイ。お砂糖はどれだけ入れる?」

「あんまり苦くてもあれだし、多めに頼む」

「私は、ストレートで。眠気覚ましたいから」

「お、ルイズさんちょ~シブい!まじりすぺくとっす!でゎ、何も入れないのは味気ないので、なけなしの愛情でも入れておきましょー。ちょ~っとは味が変わるかもかーも。なんてねー」

へらへら笑いながら冗談を言う。

「!!…やっぱ俺もストレートがいい」

“彼女がシブくブラックコーヒーなのに俺は甘~いミルクセーキ”的な何かを感じたのか、才人が注文を変更する。そんなの誰も気にしないのに。
まあ、オトコのプライドってやつですかね。どーでもいいけど。

「才人君も変更ね。りょーかいっと。んじゃ、2人は先に食べてて下さいなー」




※※※※※※※※




紅茶苦っ。
こりゃー目が覚めますな。

「ところで」

「ん?」

食後、同じく紅茶を飲んでいた2人に笑みを向ける。

「なぜに2人は夏期休暇なのに街で働いてるの?そーいや理由を聞いてないなーとか、今さらギモンに思いまして」

どーせ教えちゃくれないだろうけど、話題もないし、

「あ、言ってなかったっけ?もうとっくに話した気になってたわ。姫様の依頼で間諜やってるの」

…普通に答えられた。これって秘密じゃなかったっけ。

「おい、ルイズ」

才人が口を出す。失言を止めに、

「それだけじゃ分かんねえだろ。…治安の強化、まあテロ対策とかそんな感じだな。平民に混じって噂話とか集めてるんだ。情報ってのは重要だからな、これを軽く見てた俺の国は昔、戦争で負けちまったってくらいだし」

逆に詳しく説明してくれた。
何考えてるんだこのアホ主従は。アンアンの専属部下になったんじゃないのか?
それを、“敵”と呼ばれて“憎まれて”る私にペラペラ喋るなんて。

…いや。
なるほど、そーいう事か。

「そかそか。でも、それなら夜の酒場とかの方がキナキナくさ~い噂は飛び交ってるかもか~も。街で宿とかとって寝泊りした方が効果覿面的な気がしてみたり」

2人が街に寝泊りせず、毎日わざわざ学院に戻ってきてる理由。
ルイズが無駄に私の部屋に泊まりに来るワケ。

「え?それはその…、まあ、いいじゃない。そう、節約よ、節約!それに酒場とかは多分、他の人が担当してるわよ」

「俺らが酒場でバイトしてても不自然だって。へんな店だとルイズの身とか危ないし」

原作ではバッチリやってたじゃーないですか。
…ま、しかしコレで予想は確定だな。

学院に戻り、頻繁に私の部屋に泊まる理由。それは“監視”だ。
そっちがアンアンからの密命の本命なんだろう。だから間諜とかは別に喋っても問題ないと。
その辺の兵士とかに見張らせるより、“友人”に見張らせた方がいろいろ都合がいいだろう。
私が強いメイジだったり、フーケみたいなプロ犯罪者とかならともかく、ドットのヘタレメイジ。“虚無”と“ガンダールヴ”なら脱走を止めるとしても何とでもなるし。
てっきり、忍者ばりの仕事人にでも監視されてるかと思ってたぜぃ。でもよくよく考えれば、私みたいなザコ学生にそんな無駄コストは必要ないか。
おおぅアンアン、なかなか考えたな!

「なるなーる。ギモン解決ですっきりしました。で、今日もお仕事と」

「ああ。…って、そろそろ行かなきゃまずいかな。ココアも待たしてるし」

「サイト、この部屋の窓に横付けしといて。荷物はもう昨日のうちに乗せてあるから」

…ヒトの使い魔つかまえて勝手な事を言ってるけど、まあいいや。慣れた。
才人が分かった、と答えて立ち上がり、例の棚に置いてあった斬伐刀を後腰に差す。
ん?そーいやおでれえた君はどーした?

「あれ、デルフリンガーは?」

「デルフを背負ってウェイターするのは無理だって。基本的にココアに括り付けてるから、普段はコイツだけ身に付けてるんだ。っと、急ぐか。じゃあラリカ、窓開けといてくれな!」

そう言って出て行く。
おでれえ太君…私が斬伐刀なんて渡したばかりに…。正直スマン。コレは嘘偽りなく申し訳なく思う。

「出発かぁ。ラリカ、朝食ありがとね」

「どーいたしまして。お仕事頑張ってきてくだされ」

ルイズの頭を軽く撫でる。なんて茶番。オマエ敵でしょうが。

「うん。あ、またお店に遊びに来てね。サービスするから」

「じゃー、またキュルケとか誘って行ってみようかな。ルイズの給仕さん姿も可愛かったし、才人君のウェイター姿もなかなか似合ってたし。もちろん、お茶も美味しかったよ」

笑い合う。
片や、女王直属の女官で“監視”する身。片や、女王が憎む“敵”で見張られる身。
互いの立場を理解して、上辺では気付かない振りして笑うって。無邪気そーな顔して、ルイズも内心何を考えてるんだろーね?

あは。




※※※※※※※※




ルイズたちが出発し、食器を片付けてたらキュルケが入って来た。

ちなみにフレイムは暑苦しいって理由で最近同伴してるのを見てない。実に不憫だ。
寒い季節になればきっと傍に置いて貰えるだろうけど。ぬくぬく暖房サラマンダー。

「おはようラリカ。出発するわよ」

「おはよーキュルケ。あと、唐突に出発する言われてもイミワカランぜぃ」

「暑いから湖にね。タバサがシルフィードに乗って待ってるわ」

このやりとりも慣れてきた。
赤青コンビも暇を持て余してるせいか、毎日のように誘いに来る。で、断る理由もないからついて行くと。
それに、この2人はルイズと違ってアンアンの配下にはなってないだろう。
ゲルマニア人とガリア人、実質トリステインに敵視されてるも同然な現在、こっちの方が安心できるかも。

「りょーかい。特に準備するものもないし、それじゃ~行きますかね」

ルイズたちのカッフェに行くのはまた今度でいいか。



―――“また今度”?

うお?
なーんも起きないから、“また今度”なんて自然に思ってしまってる。やばいなー。
準備万端だったココロが、放置プレイのせいでぐらつき始めてる?

やばいなー。ほんとにやばいなー。



…この状況で、処刑とか言われたら………ほんとに、どうなるんだろ?









<Side Other①>



「隊長!アニエス隊長!」

銃士隊の詰所のドアが勢いよく開けられ、若い銃士が声をあげる。

「何だ、どうかしたのか?」

近くにいた眼鏡の銃士がそんな彼女に声を掛けた。

「はい、“例の件”で動きがありましたので。それで、隊長はいずこに?」

「アニエスさまなら、エルデマウアー殿と中庭にいるぞ。何でもどこかの貴族からヒポグリフ3頭の寄贈があったそうでな」

「では、ヒポグリフ隊が復活するのですか?」

「いや、肝心の衛士が揃わなくてはな。しかし再編成されるとしたら、やはりエルデマウアー殿が隊長か」

眼鏡を指で押し上げ、中庭の方角を見やる。

「あの方が衛士隊の隊長、ですか」

若い銃士も同じ方向を見詰め、呟いた。

「そうなれば、何と言うか…我々銃士隊にとって、心強いですね」





グリフォンと馬を足して2で割ったような姿のヒポグリフに跨ったアニエスは、ぎこちない手付きでその頭を撫でた。
ヒポグリフが小さく嘶く。

「一通りの訓練は終わっているみたいだな。衛士隊の幻獣としての訓練は、もちろんこれからだが」

エルデマウアーは小さく笑う。

「エルデマウアー殿」

「ん?」

「その、先程から同じ事を、と思われるかもしれませんが…、私などにはやはり、」

「何だ?そのヒポグリフは気に入らなかったか?」

「いえ、そうではなく!やはり幻獣は魔法衛士隊のものです、私には…」

「ミラン」

やれやれ、とかぶりを振り、彼女が乗っているヒポグリフに手を伸ばす。
やはり手馴れているのか、ヒポグリフは目を細め、甘えるように嘴を擦り付けた。

「あんたは近衛騎士隊の隊長だろう?格としては元帥にも匹敵する地位だ。そのあんたが“私など”なんて言ったら、ヒラの衛士である俺はどうなる?」

「ですが…」

「ヒポグリフは寄贈されたが、まだ3頭、しかもそれに乗るべき衛士は揃ってない。隊が再編されるのはまだ先の話だ。それまでこいつらをただ飼い殺しておくなんて、余りに意味がないだろう?それに陛下よりこの3頭の管理を一任すると仰せつかったからな。何をしようが全て権限内だ」

「…」

「それに、こいつは3種の幻獣の中で一番足が速いし、夜目も効く。陛下の近衛隊長を務めるなら、これほど誂え向きな騎獣はいないと思うが?」

僅かな沈黙。
やがて、諦めたようにアニエスが苦笑した。

「後で後悔されても責任は負えませんよ」

「後悔させない働きをあんたがしてくれれば問題ないさ。それとも、近衛隊長に選ばれた身でありながら、ヒポグリフを駆るには実力不足だとでも?」

「まさか。陛下の期待には必ず応えてみせるつもりです」

「上等だ」

笑みを交わす。詰め所の方から銃士が駆けてくるのが見えた。

「…何か動きがあったようだな。さて、そろそろ本格的に“狩り”を始める頃合か」






<Side Other②>



ハヴィランド宮殿の白ホール、そのホール中心に設えられた“円卓”で、“神聖アルビオン共和国”の会議が開かれていた。

ほんの2年前まではここにいる誰よりも身分が低かった男が、今は議長兼初代皇帝として上座に腰掛けている。
それを囲むのは、彼を祭り上げた革命者たちだ。

「…」

ワルドはそんな面々に冷ややかな視線を向ける。
この中には“傀儡”はいない。しかし、似たようなものだ。
偽りの“虚無”に踊らされ、いいように利用される傀儡。逆らえば暗殺なりされて、本当の意味で“傀儡”にされるだろう。

この中の誰もが、本当の“本人”である必要がないのだ。
…そう、皇帝であるクロムウェルでさえも。

「それで、我々にある現在の戦力は、」

若い将軍が何か説明している。
クロムウェルはうんうんと頷いているが、本当に理解しているのかは怪しいものだ。
少し前まで地方の司教に過ぎなかったこの男に、戦力云々の何が分かるのか。説明する彼らも、それは少なからず思っているだろう。

「なるほどな。他に報告はないかね?余はすべての出来事を耳に入れねばならんのでね」

「では、失敗に終わりました女王誘拐作戦について、新たな報告がありましたので…よろしいでしょうか」

年配の将軍が挙手をする。

「ふむ?前回の報告以外で何かあったのかね?」

…女王誘拐作戦。
隠密裏で行われた、“虚無”で蘇ったウェールズを使った作戦だ。
前回の会議ではあと少しのところで魔法衛士隊に阻まれ、全滅した…ということになっていたはずだ。
ワルドは鋭く目を細め、年配の将軍の言葉を待つ。

「トリステインにいる“協力者”からの追報告で…、どうやら誘拐部隊を破ったのは魔法衛士隊ではなく、その、非常に申し上げにくいのですが」

「いいから言いたまえ。魔法衛士隊でないとしたら、まさか一般の兵士にやられたわけではないだろう?」

「いえ、…“女王の女官”と名乗る“学生たち”、との事です」

「学生?」

クロムウェルにしては珍しく、いつものある意味能天気とすら思える口調でない、本心から驚いたような声を漏らした。

「トリステインと言えば、貴族の子女たちの通う魔法学院があるが…そこの学生に、歴戦の軍人と我が友ウェールズ君が負けたというのかね?」

「詳細はトリステインでも最重要扱いらしく、“協力者”も詳しくは分からないとの事ですが、何でも“最上の忠臣”がどうとか。引き続き調べるように指示は送っておりますが…」

「………ふむ」

口髭を物憂げにいじり、クロムウェルは報告を終えた将軍に座るよう促す。

「なるほど、アルビオンの“元”精鋭を退けた学生に、“最上の忠臣”か。なるほどな」

そしてこほん、と咳をする。

「それは逆に都合が良いかもしれんな。余は今、誘拐作戦に次ぐ新たな計画を練っている。まだここで言うわけにはいかぬが…ふむ。それを踏まえ“協力者”に期待するとしよう。…では、同志諸君。今日の会議はこれで終わりとしようか」

彼の言葉に将軍たちは起立すると、一斉に礼をした。






「ワルド」

廊下を歩きながら、フーケは隣のワルドを見やる。

「…どこの国にも鼠はいる、か。僕が言うのも何だがな」

ワルドは前を向いたまま、ふん、と鼻を鳴らした。

「フーケ。クロムウェルの言っていた“新たな計画”とは、“例の件”で間違いないか?」

「“白炎”はもうこっちに向かってるそうだし、次の会議には発表ってなるんじゃないかね。“まだ傷が癒えきってない”あんたにも任務が来るかどうかは分からないけど」

ワルドの腕や首にはまだ包帯が巻かれている。
クロムウェルには7割程度だと伝えてあるが…それを“使える”と判断するかどうかは分からない。

「例の“最上の忠臣”って“あの娘”の事だろうね。女王サマも私怨で憎んでると思いきや、なかなかいい目を持ってたじゃないか。まあ、そのお陰でこうして目を付けられちまったってわけだけど」

「………」

「で、どうする?あんたの言った通り、クロムウェルは新たな策を実行するつもりだけど?予定通り2人を“やる”か、それともお気に入りの“あの娘”を、」

「フーケ、」

「マチルダ」

フーケ、マチルダが立ち止まる。
ワルドは一瞬怪訝な顔をしたが、立ち止まって振り返った。

「何?」

「私はもう盗賊じゃないんだし、あんたは私の本名知ってるだろ?マチルダでいいよ」

「その名は嫌じゃなかったのか?」

「…まあ、本当は呼び方なんて別にどうでもいいんだけど」

そっぽを向く。ワルドは小さく笑った。

「確かにな。なら、好きに呼ばせてもらうとしよう」

そして踵を返し、再び歩き出す。

「行くぞ、マチルダ。こんな所でぐずぐずしている暇はない」

マチルダは溜息混じりに肩を竦め、しかし口元を綻ばせた。



「はいはい、人遣いの荒いパートナーですこと」









オマケ
<Side おでれえ太君>



「なあムカデ!最近調子どうだ?」

「…」

「今日も天気いいよな!昨日も良かったけどよ!!」

「…」


…何か喋れよ。
人語は無理でも、きゅいきゅいとか、がおーとか、何か反応しろよ…。


「なあムカデ。おまえさ、実は韻蟲(?)とかで、人間に変身とかしねえの?」

「…」

「なあ、誰にも言わないから変身しろよ!そして何か喋ろうぜ!!」

「…」

「…せめて反応しろよ」

「…」



やべえ。

俺、泣きそう。




[16464] 第四十五話・私、目が覚めました!!(ダメな意味で)
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:99efb4d6
Date: 2010/06/16 07:40
第四十五話・私、目が覚めました!!(ダメな意味で)




………そして問題の『彼女』。本当はアルビオン編で退場する予定でした。
それが(自分自身よく分からないのですが)なぜか生き延びて現在こんな状況に。
本当はメイドの子やお姫様もヒロインになるはずだったのが、いつの間にか恋愛対象外になってしまいましたし、主人公が何だか色々決心してしまっています。
しかもご主人様も嫉妬するどころか逆に懐いてしまって…。ある意味、敵よりも厄介な存在かもしれません。
強力な敵はむしろ立ち向かうロマンがありますからね。異世界の恋と冒険、戦いと育まれる絆。これこそがロマンだと思うのであります。
だからあんまり魔法を使ってくれず、性格も貴族らしくない『彼女』はイレギュラーなわけで。いやほんと、何でこんな事に?
担当のSさんに聞いてみたところ、「自分が書いてるくせに何いってるんだ?あともっと美少年を出せ」と言われ、…………


                                                                   <某“世界”の、某“あとがき”より>






出る杭は、打たれる。って…誰に?誰が?






<Side Other>


「お前ごときにメイジの技を使うのは勿体無いが、これも運命か。死に損なった新教徒よ」

リッシュモンは呟き、呪文を開放させる。
杖の先から巨大な火の球が膨れ上がり、アニエスに飛んだ。

「ああ、リッシュモン殿。言い忘れていたのですが、」

余裕の表情で立つアニエス。火の球は、突如せり上がった土壁に阻まれて消滅する。

「なに!?」

嘶きと共に、驚愕するリッシュモンの頭上に大きな影が差した。
アニエスの口元が楽しげに歪む。その凄惨な笑みに、リッシュモンは思わず後ずさった。

「貴方に復讐したいのは、私だけではないのですよ」





翌日、王宮の執務室。
早朝より呼び出されたルイズは、アンリエッタと“特殊任務の報告”という名目で謁見していた。

「あなたの運んでくれた情報は、未だ若輩の私にとって何物にも代え難い糧となるでしょう。耳に痛い言葉ばかりでしたが、それこそ私が知りたかった民の本心なのです」

「姫様…。勿体無いお言葉ですわ」

「今日までご苦労様でした。学院はまだ夏期休暇中でしょう?本日付で任務を解きますから、残りの日はゆっくりと羽根を休めて下さい」

「はい、ありがとうございます」

微笑み合う2人。
コホン、とアンリエッタが小さく咳をした。

「…それで、ルイズ。“例の件”なのですが」

「ということは、以前仰っていた“後始末”がついたのですね?」

「ええ。逆賊は残らず退治できました。罠を仕掛ける少々汚いやり方でしたが…形振り構ってはいられませんでしたので。すぐ噂で耳にするとは思いますが、高等法院長のリッシュモンという男がアルビオンの間諜でした」

少しだけ悲しげに言う。
リッシュモン高等法院長といえば、フィリップ王の頃からトリステインに仕えていた忠臣だ。王の傍にいる立場上、アンリエッタとも古い付き合いだったろう。
そんな家臣に裏切られた彼女の心情を察し、ルイズは押し黙る。

「この件で痛感しました。真実を見抜く目を磨いてゆかねばならないと。だからルイズ。あなたの任務は、それを実践していくための第一歩なのですよ」

「姫様…」

「…そこで、です」

アンリエッタは再び小さく咳をする。表情からはもう憂いは消えていた。

「後始末はつきましたし、その、私には心の底より信用できる方が少しでも多く必要だと思うのです。つまり、“例の件”ですね」

「“例の件”などと大仰に構えられなくても、ご心配には及びませんわ」

「そう言われてもやはり緊張します。だって私がお友達と呼べる相手は、ずっと貴方1人だけだったのですよ?それも、幼少の頃より交友があったからこそ、こうなれたわけで…」

俯く。

「姫さ、」

「ねえルイズ!本当に大丈夫かしら!?本当にもう怒ってないかしら?愚かにも“貴方は敵だ”だなんて言ってしまいましたし、いえ、それは反省しているといった旨を前回伝えましたけれど…」

ばっと顔を上げるアンリエッタ。ルイズは苦笑した。

「“彼女”は全部分かってます、姫様。そういう人だって何度も申し上げたはずですわ」

「ええ、それは分かっています。それでも…その、難しいものです」

「…」

「あなたから一週間にわたって“彼女”のお話を聞く毎に、是が非でもという想いが強くなっていきました。“虚無”の支えになり、ゲルマニアやガリアのご友人たちとの架け橋にもなったという…。少し悔しいですが、短期間でウェールズ様の信頼を得たのも分かる気がします。今回の顛末を知るごく一部の者たちの間では“最上の忠臣”とまで呼ばれているとか」

「“最上の忠臣”ですか…」

「ええ、私もその通りだと思いますわ。あの時目を覚まさせてくれなかったら、“彼女”の言っていたように、私は全てを裏切り、何もかも失っていたでしょう」

かつて“彼女”に射抜かれた肩に、そっと手をあてがう。既に傷跡も残っていないが、あの時の痛みを忘れることはないだろう。
貫かれたのは、身体でなく心。偽りの甘い夢に堕ちかけた誇りを、命を懸けて叩き起こしてくれた。

…そして。
自分の髪にそっと手を触れる。

―――― 実に“えらい”です。これで、立派な女王様になれるはず。

お世辞やご機嫌を得るための賞賛ではなく、大仰な称揚や賛嘆の台詞でもなく。

「…姫様?」

「あ、ごめんなさい、少しぼうっとしてしまいました。話を戻しましょう。…ですからその、要するにですね、協力して欲しいのですよ。是が非でも」

そして、意を決したようにルイズの手を握った。






※※※※※※※※






才人の話を右から左へ受け流しながら、ギーシュの言葉をてきと~に誤魔化しながら。
デザートのケーキをもぐもーぐしてるタバ子の頭を撫でながら。

考える。
…今朝、ルイズはアンアンに呼び出されて王宮へ行ったという。

あれから時は流れて2週間。たまに行っているという経過報告じゃなさそうだ。
なら何か?

「ルイズも残念ね。せっかくダーリンがランチを奢ってくれたのに。まあ、女王様に呼び出されたんじゃ仕方ないか」

アルコール度数の低い果実酒を傾け、キュルケが呟く。
時間はもうとっくに昼を廻り、私たちは街の食堂でランチを食べ終えていた。

「いやいや、むしろ王宮で超豪勢な昼食を楽しんでるんじゃーないかな。女王陛下は親友らしいし、お話にもばっちり花が咲いてるかもね」

タバ子の頬に付いたクリームを拭き取りながら言う。



よし、これまで(今日)のあらすじ。

朝、着替えてたら才人が入って来た。
ルイズが早朝に“アンロック”で出て行ったまま放置だった扉は余裕でオープンし、いつかのように無駄なエロイベント。需要ないでしょーに。

土下座しながら街へ行こうと誘われて、バイトはどーした?と問うたら今日付けで終了とのコト。早朝から飛び出してったルイズの事もあって、何だかイヤ~な予感漂う中、断る理由もないのでOKした。

ココアはルイズに奪われてたんで、馬で行こう!俺またラリカの後ろで!!とかなんとかやってたらギーシュ登場。
常識的に考えてギーシュの方が乗馬得意だろうし、人数多いほうがいいかなーて思ったので同行誘ってみたら即OK。
才人とギーシュはその時、仲良く“実戦形式の訓練”を約束していた。高みを目指せオトコノコ。

じゃ~出掛けようかって時に、今度は赤青コンビが現れた。
『はしばーみ?(タバ子もキュルケと一緒に街に行く?)』
『はしばーみ(行く行く!絶賛行く!)』
というわけで多分以心伝心し、結局4人で行くことになったのだった。

で、現在ランチ食べ終えたところ。
あらすじ終了。




「それで、この後どうする?ちょっと前に買い物はしたし、特にやることないのよね」

「ふむ、休日も長すぎると持て余すものだね。やりたい事というのもそう見付からないし」

「本読む?」

「街に出た意味はないわね、それ」

ぼけ~っとしながら皆さんのんびりと話している。
何て平和。一応現在進行形で国は戦争状態なんだけどねー。

「才人君は街で何しようと思ってたの?やることないなら、ソレをすればいいような」

コトの始まりは才人の誘いだ。ということは何かしら考えがあるだろう。

「え?ああ、流行の芝居がどうのって聞いたから、それ見に行こうと思ってな。でも何か事件があったみたいで、公演中止だってさ」

「昨日の夜に魔法衛士隊まで出動する騒ぎがあったんでしょ?街のそこらで噂が飛び交ってたわね」

「なるなーる。何だか知らないケド、大変だったみたいですな~」

…劇場、事件、魔法衛士隊。
まあ、十中八九アレだろう。ルイズと才人抜きでどうやったか知らないが、間違いなさそうだ。アンアンも意外と優秀だったっぽい。

ん?
ってことは、これで“あの夜”の犯人連中は全員タイーホ(もしくは始末)終了したのか。
獅子身中の虫は退治したから、残るは憎っくきアルビオンのみ!やったねアンアン!手柄が増えるよ!!

………。
いや、アルビオンの前に、いるじゃーないですか。もう1匹、アンアン個人が憎んでる虫が。既にロックオン済み監視付きなクズ虫が。
で、監視者=ルイズがGoing王宮ね。
導き出される答えはやはり、

「ラリカ?」

「ん?」

っと、ぼ~っとしてた。

「どうしたのよ。心ここにあらずって感じだったわよ?悩み事でもあるとか?」

「え?あー、その、何しようかな~って。まだまだ休みは長いし、こんなトコロで挫けてたら後々やばいなーとか思ってたり」

笑みを造る。
何だか心拍数どきどき。危うく過呼吸ひっひっふー。

「まあ、確かにね。まだ夏期休暇って1ヶ月以上あるし、ギーシュの言う通り長すぎる休暇も――― 」

声が遠ざかる。
反比例で自分の心臓の音がやたらうるさい。
いわゆるひとつの“いよいよか?”が脳裏をよぎる。んなもん、ず~っと前に覚悟してたのに。平和ボケ期間が長すぎて…これもアンアンの作戦か?
だとしたらエグすぎですよ女王サマ。

「ちょっと、また聞いてないし。ラリカ、あなたも考えてよ。まだまだ先は長いんだから」

先は長い、か。
だったらいいんだけどね。

でも、そーはいかないんだよね。


ね~。




※※※※※※※※




廊下を歩く。

目指すはルイズの部屋。
連日連夜、私の部屋に泊まりに来てたのに、今日は来なかった。といっても迎えに行くわけじゃ~ない。私が泊まるってのも有り得ない。

用件は1つ。“結局どうするつもりか”を聞きだす事。
今は覚悟が足らない。こんな状態でタイーホ&処刑とかされたら、取り乱すこと請け合いだ。いくらデッドエンド確定とはいえ、なるべく楽に逝きたい。

それに、もしかするとルイズが何とか…いやいやいや、なーにを考えてるんだ私は。実にマズすぎるな。平和ボケと友情ゴッコの弊害か?
頭をぶんぶん振り、アホな考えを吹き飛ばす。

よーしOK、冷静な私が帰ってきた!
まさに氷の如き…それにしても、我が心音うるさいなー。さっきから無駄にドキドキしすぎ。あと何か顔が熱い。

…思考ぐーるぐるしてる間に、ルイズの部屋に到着した。で、扉に手を掛けようと…、

『…で、姫様が…の、…明後日にまた、…ぶ事に、』

ルイズの声。話してる相手は才人だろう。
私は伸ばしかけた手を引っ込め、静かに扉に耳を付けた。


『…ぁ、ラリ…は……るんだよ?この前の…わったんじゃ……』

才人。ってか、私がナニ?もしかして、

『……なわけない…い、こん…そ、……けじめ…たか………ばるって…』

『…んな、でも……分かる気が……、敵……な』

『ちゃん……がえて……。私は、……まを…えんするわ』

…あ~。うん、何となくだけど。
ちょろっと補完すれば分かる。
アンアンの“敵”である私は明後日王宮に呼び出され、あばばばってコトだ。
で、ルイズもそれに大賛成と。

『…なら仕方……れも協力………国のため…はな……』

やはりと言えばやはりだけど、才人もご主人様に賛成&協力するとのコト。
コレが“現実”ってぇヤツですか。いや、別に分かってたけどね。
なーるなる。あばば。あばば。

『そう、なら……明後日はど……ないで…止めし…ささや……会を開……』

扉からそっと離れる。
OK、さっきまでのバカで甘い期待は一発で全否定された。

良かったじゃ~ないですか、王女様。貴女の心配は杞憂だったようですよ。
ルイズは絶賛大親友で、私に取られたとかは自意識不過剰な勘違いだったようでございます。
そして、改めてルイズは私の“敵”ってワケだ。いや、私のせいで“敵”になっちゃったのか。

どっちでもいいか、今となっては同じことだし。
友情ゴッコはしていても、やっぱりルイズはトリステインの貴族で、公爵の娘で、加えてアンアンの“最愛のおともだち”。ま、それはアンアンを殺さなかった時点で分かってたけどね。
監視ごくろ~さま。どうやら明後日で任務終了みたいで。いやーオメデトウ。

あはははは。

…うん。
踵を返し、何となくその場を走り去る。もちろん物音を立てて感づかれるようなマヌケはしない。

開いた窓から飛び出し、そのまま“フライ”。ココアを呼び寄せると、その背に乗った。


上昇。
全速力で上昇。
何かから逃げるみたいな勢いで上昇する。

くそ、アタマがダメだ。意味不明にココロも動揺してる。“結局どうするつもりか”は確認できて、覚悟完了するはずだったのに。
何だこのモヤモヤ?何だこの喪失感?何だこの、

「止まれ!!」

叫ばなくても、むしろ口で言わなくても従うのに、ココアに命じる。ほぼ限界な高度にまで達していたココアは、ゆっくりと上昇をやめた。
…暑い夜だけど、この空の上は少し肌寒い。

「…処刑されるのと、自殺するのって、どっちが楽だと思~う?」

誰ともなしに語りかける。

「いや、処刑も別にいいんだけどね。でも、何だかなー。無駄に猶予があったせいで、怖気づいたっていうか、ね。カッコ悪いゆーな」

ココアの羽音だけが響く。

「久し振りに、泣いてい~い?別に他意はないけど、ストレス発散?みたいな」

1人で何言ってんだ私。

「あ~、何だかな~」

溢れて来る。ちくしょー。何で私が、
強い風が吹き、ココアの背から滑り落ちる。まあ、別に杖持ってるからどーでもいいんだけどね。

“フライ”をかけようとして…、口を噤んだ。



…ま、いっか。この方がラクだろ。



※※※※※※※※



ココアを上空に置き去り、墜ちていく。
学院の庭に真っ赤な花でも咲かせましょーか。
それにしても夜空キレイだなー。

もうどうせオシマイなんだし。どんな終わりを迎えるかは、今のところ私の自由だし。
焼死・轢死に続いて、今回は墜落死。すばらしーばりえ~しょん。



どこかスッキリしてしまったアタマで、終わるまでの短い時間に考える。

私の17年に及ぶ計画は、…いや、前回の“私”から考えたらもっとか。
とにかく、“ラリカ”の努力は完全に失敗に終わった。
無理して性格を変えたのも、嘘に嘘を重ねて塗り固めたのも、全部、ぜーんぶ無駄に終わった。
原作知識も意味を成さなくなり、せっかく生まれ変われた意義も消し飛んだ。
もう、どうしようもない。

3回目の“私”に期待するか。その時はもう原作知識を活かそうなんてせず、誰とも関わらないで死の運命だけを回避してひっそり暮らそう。
もう1度、“こんな”事を繰り返す気力なんてないし。

屑が欲なんて出すからこんな事になったんだ。屑は屑らしく、死なないだけでも感謝しながら底辺を生きてりゃいいのです。



………。



…?

あれ?
ちょっと待て。
この状況って…“どうしようもない”か?

死亡確定?でも、それって最初からじゃ?そもそも、死亡確定バッドエンドで、それをどうにかするために頑張ってきたんじゃなかったか?

確かに、原作知識アリっていうアドバンテージはあった。それを利用しようとしたのは間違いないけど、あくまで利用しただけだ。それがなかったら諦めて、また同じ結末を迎えるとか、そんな気はなかったはず。

確かに、これで私の安息の地は消えた。でも、それは“トリステインから”ってだけじゃないか?確かに故郷だし、私はそこの貴族だけど、ここだけがハルケギニアじゃないだろ。

確かに、“虚無”は敵になった。おそらくその使い魔である“伝説”も。でも、それがどうした?最初から利用する目的で近付いただけだし、裏切ったとか裏切られたとか、そんなの思う方が間違いな関係のはず。


何を折れてたんだ、私は?
ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア。お前は、“諦めない”んじゃなかったのか?
何の為に嘘を纏い、嘘に引き摺って生きてきたんだ?無理して倒れてまでしながら。

てゆーかそもそも“3回目の私”なんて保証はどこにもないでしょーに。
二度あることが三度あるって言うのは、三度目にあったとき限定だ。二回で終わっちゃう可能性も十分あるのに。これで全部終了だって可能性の方が高いかもなのに。

“たかが”一国の主に憎まれただけで、“たかが”死刑確定ってだけで。
そして“たかが”原作主人公らと袂を分けただけで。

なーにを諦める。
まだ終わってもないのに、なにを終わった気になってる?アホか、数秒前の私。
世界は、そんなちっぽけじゃ~ないでしょーに。

“明日から頑張る”は明日になっても頑張らない。“来世から頑張る”も同じだ、ここで折れたらもう終わりだ。終わってたまるか。るかー。るかー。


何故だか、口元が綻ぶ。

現実逃避はお終いだ。スタートすたーとReStart。
虚無だか伝説だか女王だか知らないけど、凡人なめるなちゅーコトです。



「“フライ”!!」



斥力発生、地面まで残り10メイルくらいでコードレスバンジージャンプが止まった。
危ない危ない。危うく今世紀最もバカな理由で自殺するトコだったぜぃ。



腹は括った。もう迷わないし、諦めない。

どんなコトになろーとも、私は“幸福な結末”を求めてやるのです。

新生ラリカ、ふぁいとだオーッ☆





さて。



じゃあ、






………逃げるか。





#################


久し振りの更新です。全部見直すのは完結後にしました。
いろいろ直さなきゃアレな箇所が多すぎ…orz
今始めたら途中で挫折する可能性90%以上っぽいです。

というわけで、今回のクズ子さんは

・ルイズとアンアン内緒の話
・情緒不安定なクズ子
・クズ子、ついに逃亡を決意

の3本でした。
完全に原作乖離ルート…?



[16464] 第四十六話・作戦開始!神算鬼謀な我が策!!
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:99efb4d6
Date: 2010/06/27 22:31
第四十六話・作戦開始!神算鬼謀な我が策!!




決然と、前へ。退かぬ懲りぬ省みる。どっかの帝王さまの、ほんのりパクりが脳裏を過ぎる。もう進軍あるのみです。背後は断崖絶壁だしね☆




思い立ったが吉日。

…なんだけど、実際私の手元にある情報はかな~り少ない。
情報は何より重要だけど、収集しようにも私には能力もツテもない。ルイズや才人に詳しく聞き出そうとかしたら、怪しまれてバッドエンドがオチだろう。
だから昨日盗み聞きした会話を補完して、トリステイン脱出計画を練らなきゃーならない。

会話でわりとハッキリ聞こえた“明後日”という言葉。
もしそれが処刑日だとしたら、明日には私を捕まえて裁判(有罪確定の茶番だろうケド)をしなきゃならない。
牢屋にブチ込んで生まれてきたことを後悔させたりもしないといけないだろうし、いくらなんでも無理な日程だ。

ってコトで、“明後日”は私を連れて行く日。
まず間違いない。ルイズたちが今日バイトを終えたのは、最期の1日、つまり明日は友情ゴッコしていいよっていうアンアンの粋な計らいか何かだろう。
もちろん“最愛のおともだち”ルイズに対して、だろーけど。


うん。

とりあえず、ってコトで今日を入れても猶予は明日しかないっぽい風雲急な状況。
準備諸々、さっさと始める他ない。

まあ、逃亡先は決まっている。
候補となったトリステインを除く4つの国。
絶賛戦争中のアルビオンに、アンアンに振られてなお同盟中のゲルマニア、虚無で人格あばばばな王のいるガリア、そして何だか陰謀臭の漂う宗教国のロマリアだ。

これらの国についての原作知識は、正直言うとあんまりない。
当初の目的はフーケ討伐で終了だったし、“佐々木良夫”も“ラリカ”が死んだ後…つまり学院襲撃より後のストーリーはそんな頑張って読んではいない。

そんな微妙なアドバンテージを活かして導き出した逃亡先、それは…

“ガリア”だ。

戦争の黒幕、ジョゼフさんがいるのに?…なーんて思われそうだが、実際あの国を将来的に治めるのはタバ子なはずだ。確か。多分。
原作で描写があったかどうかさえ分からないゲルマニアや、妙な思惑渦巻く教皇&怪しさ爆発な使い魔がいる宗教国、そして論外なアルビオンと比べてみると未来の明るさが違う。
タバ子陛下なら悪政とかしなさそうだし、変な弾圧とかもなさそうだし、ひょっとするとイザって時は王家パワーでアンアンの魔の手からそれなりに護ってくれるかもしれない。

…まあ、それはポジティブ思考過ぎだろうけど、とりあえず他の国よりはいいはずだ。
しばらくはクレイジージョゼフさんのアホ政権だろーけど、長くはないってのは分かっている。

まだ正式開戦していない今のうちに入国し、戦争に巻き込まれないように国境から離れた田舎でひっそり給仕か何かして過ごし、タバ子政権になったらちょっと都会に出てお店でも開く。
儲けようとかは思わない。ショボい秘薬を安く売って日々の食事とかに困らない程度の生活をする。分不相応な願いはもう懲りたし。
そのうち素敵な旦那様とか見付けて…何というパーフェクトな計画。

よーし、ラリカさん頑張っちゃうぞ~☆
屑は屑らしく、でも屑だからこそのやり方で…幸福を手に入れてやるのです。


我が知能をフル回転させて、ね。




※※※※※※※※




「シエスタも大変だよね。実家に帰ってのんび~りしたいでしょーに」

翌朝。
早起きした私は、洗い場にいたシエスタと談笑していた。

原作の立ち位置から完全にふっ飛び、その後の修正フォローもしてなかったので描写ゼロだったけど、シエスタは夏期休暇中も学院に残る“必要最低限のメイド”の1人なのだ。
学院に残った少数派達の洗濯とか頑張ってもらっている。

「いえ、わたしは夏期休暇前に纏まった休みをいただきましたから。これで今回もお休みなんていただいたら、同僚に何て言われるか」

「それもそうかも。まあ、何にせよ正直なトコロ、居てくれるのは実に助かってるけどね。これでメイド全員休暇なんてなってたら、学院に残された学生は死んじゃうかも。貴族とはお世話してくれるヒトがいなきゃ~ダメな脆いイキモノなのです」

「ふふ、でもミス・メイルスティアは大丈夫そうですよね」

「問題なっしんぐ。炊事洗濯お掃除まで、何でもござれな家庭的貴族がウリですから。とゆーかそれ、褒めてはないっぽい?貴族的に考えて」

笑い合う。
そういやシエスタは私の“原作介入”のせいで不幸になったヒトかもしれない。
本来は“ヒロイン”と“主人公”を取り合ったりする“サブヒロイン”になってたはずだ。
でも、“今回”は一介の学院メイドで終わりそうな予感。多少は主人公たちと交友はあるけど。

…ま、不幸とまでは言わないか。
酷い目に遭うわけでもないし。性格も容姿も私なんかよりずっといいから、“原作”とは違ったグッドな人生を送ってくれることでしょう。

「あ、そーだ。夏期休暇がヒマすぎて、ジェネリック秘薬とか大量生産しすぎちゃったんだ。部屋に置いといてもアレだし、どっか倉庫か何かに置いてもらっていい?いつものだからてきとーに使ってくれてOKだから」

「分かりました。じゃあ、後で取りに伺いますね」

快く応じるシエスタ。
それを渡して、私からのワイロを最後としよう。…もう世話になることもないから、ワイロとは違うかも。

どうでもいいか。
てきとーに役立てて下さいなっと。




※※※※※※※※




とりとめのない話をして、最後にまたタルブへ遊びに行くって約束をし、シエスタと別れた。

破るけどね、約束。
てか、むしろ破るために約束したんだし。ココ重要。
そう、全ては昨日頑張って考えた綿密な計画の、

「ラリカ、探したわよ」

青いの引き連れて赤いのが現れた。
探してたのはこちらも同じですよー。

「おはよーキュルケ。探してたってコトは、おそらくスデに私の部屋は“アンロック”で確認済みと見ましたが、ちゃーんとカギ掛け直して閉めてきてくれた?」

「………まあ、細かいことはいいのよ」

うん、開けっ放しか。盗む物もない部屋とはいえ、無用心極まりない。

「大丈夫。閉めてきた」

誤魔化し笑いのキュルケの横でタバ子が得意げに言う。

「あら?いつの間に?」

「部屋から去り際」

ぐっじょぶタバ子。

「さすがタバサ!私が見込んだだけのコトはありますな。これは褒めずにはいられないかもかーも。よぅし!かもーんタバサ!!」

両手を軽く広げる。ほーらおいで~。

「…」

タバ子は素直に近寄って来た。

「はしばーみ?」

「はしばーみ」

「おぉ、ぶらぼー!ぶらぶらぼ~」

恒例の合言葉(?)に応えたタバ子を抱き寄せ、軽くハグする。心なしか少しひんやり。
魔法で自身を冷やしてるのだろうか。さすが雪風。

「…相変わらずねぇ。そうやってると何だか姉妹みたいよ、あなたたち」

「いつも妹がお世話になってますわ、ミス・ツェルプストー。なんて」

なでなーでしながら冗談を言う。
姉妹ねぇ。
単にコドモ扱いしてるだけでしょーに。タバ子も嫌がらないからやってるだけで。こうして馴れ馴れしくするのにも打算アリなのですよ。
てか、実妹がこんな美少女だったらおねーちゃん惨めでグレちまうぜぃ。

「ねえさま?」

「どーした妹よ!って、妹に全て劣る姉かー。悲しくなってきたからやっぱナシの方向で。タバサは妹じゃなく親友、異論は認めないでありまーす」

タバ子を解放し、やや呆れ顔のキュルケに向き直る。
そういや探されてたんだっけ。

「で、キュルケはなぜに私捜索?街に出たってルイズオブ給仕はもう見れないよ~」

「そうなのよね、まだ夏期休暇続くのに中途半端な時期に辞めて…じゃなくて、1週間くらいゲルマニアに帰ろうと思うの。タバサもそれくらいの期間なら付き合ってくれるって言うし、あなたもどうかと思って」

「ツェルプストー領地へ観光?」

「見たいものがある」

「この子はトリステインには売ってない本を見たいんですって。確かに国柄でいろいろ違うしね。書店や図書館もある大きな街にも行く予定よ」

キュルケはタバ子の頭に手を置き、笑みを浮かべる。
何だかんだでタバ子が一緒に行くと言って嬉しいんだろう。1週間じゃ実質の滞在日数なんて微妙だけど、時間とかは問題じゃないっぽい。
原作ではどうだったっけ?一緒に帰郷は拒否されてたような…、ま、どーでもいいか。

「ルイズは誘ったの?」

「隣はヴァリエール領なのにツェルプストー領に行くわけないでしょ。一応、あたしたちの家って敵同士なのよ?今はトリステインとゲルマニアが同盟組んでるけど、両家の確執がなくなったわけでもないし」

「キュルケの代には終わりそうだけどね、確執。まだキュルケはルイズのこと、“敵”だと思ってる?」

「そりゃあ、」

キュルケを見詰める。タバ子もキュルケの言動を待つ。

「…何よ2人して?」

「何でもないですよー。ただ、“親友”の私たちには嘘とかナシの方向で教えてくれないかなーとか思ったりしながら答えを待つ現状?」

「…」

「…」

「………まあ、別にいいじゃない。今はトリステインもゲルマニアも同盟組んでるしね」

さっき自分で“それは別として”的なコトを言ってたのに。
でも“答えない”ってのは“そういうこと”なのだろう。答えずとも導き出される答えというヤツですな。

「ダーリンは誘ったわよ。でもルイズが案の定ダメだって。あっちはあっちで帰郷する予定でもあるんじゃない?…そんなわけで、あの2人はいいのよ。それより今は、ラリカはどうするかって話ね」

才人を誘う形で間接的に伝えたか。不器用なのか器用なのか。

「うーん、お誘いマコトに嬉しいんだけど、今回はゴメン。ちょーっと今は学院に残ってやるコトがあるのですよ。来週くらいなら大丈夫なんだけど」

「やる事って?手伝って終わることなら手伝うわよ?出発も少しは遅らせたっていいし」

「新しい秘薬作りに挑戦開始しちゃったりするんですよー。コレがまた、ムズかしい上に抽出その他に時間が掛かるもので、今はちょ~っと学院を離れられないかなー」

「そういうわけなら手伝えそうにないわね。出れるのは来週か」

「今回は2人で行って来て。私は次回を期待してるから。できるコトならおもしろそ~な場所とかを2人でピックアップしといてくれたら嬉しかったり」

「だって、タバサ」

キュルケがタバ子に振る。タバ子は心なしか少し残念そうだった。
賑やかな方が良かったのかタバ子よ。でも、行ったってどーせ本読んでるだけだろうし、別に問題ない気がする。

………。
何となく再びなでなーで。

「分かった。お土産買ってくる」

「うん。期待して待ってますよ~」

「ま、今回はタイミングが悪かったってことね。帰ってきても夏期休暇はまだ続くし、ラリカとは他の所に旅行行きましょ」

「なら復興したタルブなんていか~が?ちょうどさっきシエスタとそんな話してたし」

「タルブか。それもいいわね。じゃあ、あたしたちがゲルマニアに行ってる間にプラン練っといてよ。ダーリンやルイズの都合も聞いてね」

「ヨシェナヴェ」

「おけーい了解お任せあれ。忘れ去られたギーシュ君も、一応あの時のメンバーだから予定聞いとくよ。才人君も男友達いた方が楽しいだろーしね」

そう言って笑ってみせる。
キュルケが若干苦笑気味だったけど、別に疑われてる様子はなかった。

嘘の予定に破る前提の約束。
ここしばらくの私からすれば、清々しいくらいの屑っぷりだ。
でも、それが私。もうブレない。

「それで、2人はいつ出発?」

シエスタに続き、キュルケとタバ子も“これでよし”、と。
我が作戦、超順調に進行中。

後はギーシュと…モンモンさんとかは別にいいか。顔を合わせたら対処すりゃーいいでしょう。
あくまでメインは“ヤツら”なのだ。

私の作戦、そして今後の人生は、“ヤツら”の攻略にかかっている。失敗=バッドエンド。限られた情報に時間、読み間違いが1つでもあれば即終了だ。

ハラハラドキドキ、したくもない緊張。だけど生きてる実感。



どんとこい逆境。勝つのは、私だ!!




[16464] 第四十七話・仕込みは上々、逃亡へのカウントダウン
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:99efb4d6
Date: 2010/07/02 12:15
第四十七話・仕込みは上々、逃亡へのカウントダウン




何でもない日常。まさか、それが突然終わるなんて誰も思わない。終わりは突然だなんて誰もが分かっているのに。…まあ、そういうコトなのです。





昨日の夜になぜ逃亡しなかったのか?

答えはカンタン。
あの場で逃げたら捕まえてくれと言ってるようなモノだから、だ。
ココアに乗って逃げても、翌朝いないのがバレて追跡確定。タバ子がシルフィードを貸さなかったとしても城にはまだ竜の1匹や2匹いるだろうし、目立つココアで逃げ切れるワケがない。
ココアよりはやーい、ってヤツですな。

徒歩とか馬でも結果は同じ。
まあ、ぶっちゃけ“逃亡”は果てしなく無理ってコトだ。虚無・伝説・国家相手に個人で鬼ごっこなんて、スクエアだって難しいだろう。
だったらどうするか?
そう、“逃亡”しなけりゃいい。いやまあ、するんだけどね。結果的には。

逃げるから、人はそれを追うのです。
逃げたと分かるから、捕まえようとするのです。


夜逃げの心得。


『逃げたと悟られるまでの時間を活用せよ!』
『逃げたのではない、いなくなったのだ!』


メイルスティア家ゆえの知識も、たまには役に立つ…いや、そもそもメイルスティア家に生まれた時点でダメだったか。
あばば。




『○月×日

夢を見る。
あの夜からたまに見る夢。
私でない、誰かの記憶。
一体これは何なのか、もしかしたら、何かの役に立つかもしれない。
そう思い、日記としてここに記す。』




赤青コンビは結局、あのすぐ後に出発した。
実に嬉しい計算外。
早朝イベントでこなすのはシエスタだけのはずだったのに、あの2人の分も済ませられるとは。
それにシルフィードがいないってだけで、この脱出計画の難易度は急降下だ。
きゅいきゅいの匂い追跡対策用の自作香水とか不要になったし、2人が帰ってくるのは1週間後。
それくらいあればガリアに辿り着けるだろう。

神(ブリミル?)は我に味方せり!今のところは!

ちなみに見送る必要はないとの事だった。確かに1週間の帰郷なんて“すぐ”だしね。
たった1週間、帰ってきても夏期休暇はまだまだ続く。
…ま、その時には私はいないんだけどね~。

で、てきとーに別れた私は部屋に戻り、“日記”を書いている。
いや、日記じゃないか。フィクションは日記じゃない。


何枚か破り、何日分かメモみたいに単語だけを書く。
“侵食”、“贖罪”、“呪縛”。実にソレっぽいですな。ノッてきたぜ~!
そしてまたフィクションを書く。




『△月○日

“彼女”の記憶で見えた、もう1人の“虚無”。
でもルイズとは違う。あの“虚無”はルイズのような暖かな光じゃない。
そして“彼女”はそうなる事を望み、全て知ったうえで、』




そこから先は破る。
重要ポイントは『ここから先は破れていて読めない…』ってなってるモノなのです。
決してどう書こうか迷ったわけじゃーないのです。




『×月▽日

水の精霊の言った言葉の意味が分かった気がした。
私はあの呪縛で“欠けて”しまったのだろう。そして“欠けて”しまったそこに、“彼女”の記憶が流れ込んだ。
そう考えるのが一番しっくりくる。』




使えそうなネタはトコトン使う。解釈なんて自由なのだ。
水の精霊さん、ネタの提供ありがとう。
正直、“満たぬ者”ってどーいう意味なのか微塵も分かってないですが…別にいいヨネ?貴方も分かってないみたいでしたし。


窓からは今日も暑そうな日差しが射し込んでくる。
早朝から朝へ。学院営業中なら朝食が始まる頃か。あ~、もう1回マルトーの作ったごはん食べたかったな。
今後、あんな豪勢な食事なんて食べることはないだろう。その点は実に残念。

…てか、そろそろ“どっちか”が来てもいい時間だ。てか、来てくれないと困る。
早く来い。




『▽月○日

材料が揃った。
これであの秘薬が作れる。
私の中に残った“彼女”の記憶を引き出し、もう1人の“虚無”を』




「ラリカ、入るぞ」

ノックとほぼ同時に扉が開く。才人か。
ま、どっちでもいい。とりあえず、

「あ、おはよ~才人君」

笑顔で挨拶しつつ、ささっと“日記”を閉じた。
そしてそれを机に突っ込み、引出に“ロック”を掛ける。

「ん?何だよ、今の本」

で、狙い通りに興味を示す才人。
あれだけ“それっぽい”態度をしたんだから当然だろう。

「あー、何でもないよ。ただの日記。秘密の乙女だいあり~」

「日記か。でも今って朝だろ?普通日記ってのは夜に書かないか?」

「ん~、まあまあ、細かいことは置いといて。それより何かご用?」

わざとらしく誤魔化し、逆に質問する。これで才人の脳味噌に“ラリカの日記”がインプットされた事でしょう。仕込みはこれでOK。

「ああ、今からギーシュと決闘するんだけど、その、立会人?してもらいたくてさ」

「決闘?例の“実戦形式の訓練”じゃなくて?」

「武器や魔法はなしだけど、決闘だな。拳と拳で決着を付けるんだ。立ち会ってくれないか?」

まあ、別に断る理由もない。

「事後の回復役も兼ねて、そのお役を引き受けましょ~。でも、なぜに決闘?」

「それは…勝ったら教えるよ」

何だそりゃ。そんな興味あるわけでもないし、教えたくないならどうでもいいけど。
どーせアホな理由でしょー。
てきと~に眺めて、ちゃちゃっと“治癒”して済ますかな。


※※※※※※※


「やあラリカ。来てくれたんだね」

いつか見たような風景。
ああ、そーいや才人VSギーシュの初戦もここでやったんだっけ。原作の流れをぶった切って才人の圧勝で終わっちゃったけど。
今考えればあれのせいで才人の基本装備=斬伐刀になっちゃった気がする。今も後腰に差してるみたいだし。ごめんね、おでれえた君☆
きっと戦争とかになれば活躍できるよ!多分。おそらく。

「おはよーギーシュ君。朝から決闘なんて、元気い~よね」

「朝、つまり1日の始まりだからこそ意味があるのさ。これに勝利した者が今日1日、」

「おい、ギーシュ」

才人がギーシュの言葉を遮る。ギーシュはわざとらしく、『おっと』とか言いながら口を噤んだ。

「それで、賭け事でもしてるの?才人君は教えてくれないんだよねー」

「まあ、ある意味賭け事だね。だがこれ以上は僕も言えないよ。僕が勝ったら教えるから、今は僕の勝利を信じて見守っていてくれないか?」

「なるなーる。どっちも勝ったら教えてくれるワケですか。なら、私はどっちを応援すればいいのでしょーかね?」

別にどっちが勝っても関係ないし。
私の役目は“治癒”することくらいだろうから、勝敗とかはどうでもいい。
てか回復はモンモンの方がずっと得意…ああ、別れた彼女に頼むのもアレか。仕方ない。

「何言ってんだキザ男。勝つのは俺だぜ?ラリカ、見てろよ。ガンダールヴの力なしでもやれるとこ、証明してやるぜ!」

はいはい勝手に証明して下さいな。
とっくに才人が“伝説”なしでも強い…というか強くなってることくらい知ってるから。能力オンリー頼りきりな人が主人公できるほど、この世界は甘くないのです。
だから今さら証明とか、必要ないのにね~。てか私にそんなの証明して何になるんだ??
息巻く2人に苦笑しながら、私は開始の合図をした。




うおーとか、どりゃーとか、何か気合入った叫び声をあげながら殴り合う青春男子2名。
何が彼らをここまで駆り立てるのだろう。どーでもいいけど。
てか、そろそろお腹すいた。ごはん食べたいからさっさと終わって欲しい。
とか思ってたら、2人同時に爆発した。

「朝っぱらから煩いわね!ケンカなら別の場所で…、あ。ラリカ」

窓から顔を覗かせたのは…ルイズ。
作戦の最重要課題にして、最も厄介な“敵”。アンアンの尖兵、地獄への水先案内人だ。
私は笑顔で手を振った。

「ルイズ~、おはよー」

さて、“トリステイン脱出大作戦”ミッション☆スタートぅ!!


※※※※※※※※※※


ぶっ倒れた男子2名に“治癒”をかけ、木陰に寝かせる。

「うちのアホが迷惑かけたわね。ついでにギーシュも。ごめんなさい」

溜息をつきながら、絶賛気絶中の才人の頭を足で小突く。どうでもいいけど、今彼が目を覚ましたらパンツがモロ見えですぜルイズさん。
まあ、そうなったらそうなったで、もう1度虚無が炸裂するのでしょう。哀れ才人。

「や、別に迷惑じゃ~ないよ。でも今回のは一応決闘だったみたいだけど、中断させちゃって良かったの?」

「いいのよ。どうせ本人の意思を無視した奪い合いだし。何も教えてもらってないでしょ?」

「両人共に『勝ったら教えるぜ!』とのコト。なのに2人同時のっくあうと~で答えは霞の彼方へ。で、何を奪い合ってたの?」

「もう終わったことだし、いいじゃない。それに勝者は最後まで立ってた私ってことで」

「お、ルイズも教えてくれないんだ。じゃ~無理矢理吐かせちゃうぜ~?ぜ~?」

ばっとルイズの背後に廻り、軽くくすぐる。

「ちょ、ラリカ!やめっ、ひあっ!?」

「さあ吐いて楽になるのだ~!それとも、」

…ぐぅ。
お腹からアレな音。恥ずか…まあいいか、ルイズにしか聞かれてないし。

「尋問は後回しにして、朝ごはん食べよっか。今日は早起きしたゆえに、現在お腹と背中がくっつきそうな状態なのでーす」

「今、ラリカのお腹からくぅ~って、」

「はっはっは、れでぃに対してそーいうコトは言っちゃ~ならんよルイズ君。くすぐられ足らないかね?ん~?」

わきわきわき。

「うそうそ!聞こえてない聞いてない!あっ、ちょ、あはははは!」

茶番しながら内心ドキドキ。
ここでルイズが『じゃあ城に行きながら~云々』とか言い出したらオシマイだ。我が武力でルイズを倒すのは難しいし、そんなして逃げても追跡&捕縛は確定。

私が(たぶん恐らく騙されるような形で)城にドナド~ナされるのは明日のはず。明日で合ってるよね?


神様仏様ブリミル様。


運を!幸運を私に!!






<Side キュルケ>


風を切って風竜は進む。
今日も日差しは強く、これから日が昇るにつれてより暑くなっていくだろう。しかし、この速度で受ける風のお陰でそれほど苦痛ではない。

「でも、風を受けてると止まった時に暑いのよね。どっと疲れも出るし」

ひとりごちる。
話し掛けられたと思ったのか、前に座っているタバサが珍しく反応した。

「あ、何でもないわ。…それよりタバサ、付き合ってくれてありがとね」

「いい。私も少し興味があったから」

「変わった本、見付かるといいわね」

よく喋るようになった友人の髪をいじる。
風で乱れた髪型は、直してもすぐにまた乱れてしまった。

「…はしばーみ?」

「…?」

何となく言ってみたが、やはり合言葉?は返ってこない。

「やっぱりラリカじゃないと無理か。親友としてはちょっと悔し…まあ、あれは親友だからとかとは違うわね。やっぱりどっちかっていうと姉妹みたいなものかしら」

「…?」

小首を傾げるタバサ。思わず笑みがこぼれる。

「“ラリカおねえちゃん”も一緒に行けなくて残念だったわね」

「………いい。また今度、タルブに行けるから」

「そうね。…楽しみ?」

こくりと素直に頷く。
本当に、いつの間にこんなに懐いたのか。ただでさえ年齢よりも幼く見えるタバサが、彼女と一緒だとより幼く見えてしまう。
子供扱いし過ぎにも見えるのに、なぜだかそういう光景が妙にしっくりくる。

でも…無理ないのかもしれない。
ラグドリアンの時に知ったタバサの境遇。幼い頃から強いられてきた過酷な運命。
そんな世界を生きてきた中で出会ったラリカに、タバサは“誰か”を重ねたのだろう。あくまで予想でしかないが、何となくそうじゃないかと思う。

タバサの氷はもう溶けたのか。それともまだ、“何か”を為さないと溶けきれないのか。
答えはまだ分からない。しかし、きっと悪い方向には進んでいない。

「お土産、何がいいかしらね。って、行く前に考えることじゃないわね」

「気が早い」

「そうね。いろいろ廻って、それから一緒に決めましょうか」

相変わらずの無表情で頷く親友。
でも、どこか幸せそうに見えたのは………気のせいなんかじゃないだろう。


―――――― こんな時間が、いつまでも続きますように。


信仰心は薄いけど、心の中で始祖にそう願ってみた。




[16464] 第四十八話・Other Side そして幸福な日常は続いていく
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:99efb4d6
Date: 2010/07/16 00:27
第四十八話・Other Side そして幸福な日常は続いていく




いつまでも、こんな日々が続きますように。始祖に願いを。私の“虚無”に、誓いを。


いつまでも、俺の大切な人が笑顔でいられるように。“神の盾”…伝説の名に、誓いを。





Side サイト


『あの時、僕の中の何かが雷に打たれたんだ。それも、今までにないくらい特大のにね』

あの日。
“惚れ薬”騒動の最後に聞いた…形としては、ドアの隙間から漏れてきた声を盗み聞きしたんだけど、そこで聞いたラリカの言葉。
数日後に、話があると呼び出され、その先でギーシュは言った。

『君は信じられるかい?理解できるかい?自分の恋心を薬で弄った相手に、“ありがとう”だなんて』

やれやれとかぶりを振る。困ったような、でも笑みを浮かべて。

『あれは単純に、彼女の正直な気持ちなんだろうか。それとも、罪悪感に苦しむモンモランシーを救いたかったのだろうか』

ギーシュのその笑みは、いつものキザっぽい笑みじゃない。
同じ男の俺でも惹かれそうな、慈しむような優しい微笑み。それが誰に対してかなんて、分かりきっていた。

『おそらく、いや…きっと“両方”だ。僕には分かる。彼女は、ラリカは“惚れ薬”の支配にあってなお、自分の想いよりも相手の心を守ろうとしたくらいだからね』

――― 僕はただ薬の魔力に負け、自分勝手に想いをぶつけるだけだったのにね。

一瞬だけ自嘲的に言う。
でも、すぐに表情は真剣な、男の顔になった。

『ここまで言えば、もう僕が何を言いたいのか分かるだろうけど…あえて最後まで言わせてもらうよ。サイト、僕と君は友人だ。それはいつまでも変わりない。だが、今日からは友人であると同時に………、』



「ライバル、だな」

小さく呟く。
モンモンと付き合ってる頃からそんな気はしてたけど、やっぱりギーシュのやつもラリカの魅力に気付いてたみたいだ。
で、決定打があの“惚れ薬”騒動か。

ギーシュは悪いやつじゃない。
誰か好きな相手ができたんなら友達として応援してやる。でも、相手が彼女じゃ話は別だ。
貴族だろうが、“彼女と同じ世界の人間”だろうが知ったこっちゃない。
平民でも、“別世界の人間”でも、それでも譲れねえもんは譲れねえ。

もう決めたからな。
しっかりしてないようで、日に日に立派な貴族に、頼りがいのあるメイジになっていくご主人の女の子。
しっかりしているのに、目を離せばその優しさのせいで、誰かの不幸を背負って消えてしまいそうな女の子。

魔法の薬に心を削られながらも、身を以って“人を想うこと”を教えてくれたその姿。
あの雨の夜、偽りの愛に溺れたお姫さまに、我が身も省みずに叫んだ言葉。

そして、傷付き倒れた彼女を見た瞬間に感じた、“心の震え”。
俺の、決定打。

“神の盾”は“何”を守るのか。
俺の左手は“誰”を護りたいのか。

まあ、つまり………そういうことだ。



意を決し、ノックと同時に扉を開く。

「ラリカ、入るぞ」

「あ、おはよ~才人君」

すぐに向けられる、とびっきりの笑顔。
慣れているはずなのに、でも直前まであんな事を考えていたせいか、急に恥ずかしくなって体温が急上昇する。
うお、不覚。

「ん?何だよ、今の本」

すぐに本題を切り出すつもりが言い淀み、それを誤魔化すためにラリカがさっと仕舞った本の事を訊ねた。

「あー、何でもないよ。ただの日記。秘密の乙女だいあり~」

「日記か。でも今って朝だろ?普通日記ってのは夜に書かないか?」

話しながら心を落ち着かせる。

「ん~、まあまあ、細かいことは置いといて。それより何かご用?」

そうだ。このまま雑談してたいけどそうもいかない。
下にギーシュを待たせてるし、話の続きは“勝てば”いくらでもできるんだし。

「ああ、今からギーシュと決闘するんだけど、その、立会人?してもらいたくてさ」

そう、今日は“実戦形式の訓練”じゃなくて“決闘”だ。
賭けるものは…言わずもがなで。

「決闘?例の“実戦形式の訓練”じゃなくて?」

「武器や魔法はなしだけど、決闘だな。拳と拳で決着を付けるんだ。立ち会ってくれないか?」

真剣な目で見る。“本人に”立ち会ってくれないと意味がない。
そんな思いが通じた…わけじゃないだろうけど、彼女は微笑むと快く答えてくれた。

「事後の回復役も兼ねて、そのお役を引き受けましょ~。でも、なぜに決闘?」

「それは…、」

なぜって、そりゃあ…昔から決まってる。こういう時、男は拳で決着を付けるもんだ。
名誉がどうとかいう決闘は知ったこっちゃないが、こういう場合の決闘はアタマじゃなく心で理解できる。納得して戦える。

…まあ、それは俺たちが男だからで、ラリカに言っても理解してもらえないだろうけど。
てか、逆に止められそうだ。いや、確実に止められるな。
だから、俺は笑って誤魔化した。

「…勝ったら教えるよ」










Side ルイズ


「それでね、姫様から戴いた活動資金が逆に増えちゃって。貴族の在るべき姿じゃないのは分かってるけど、ああやってお金を稼ぐのもちょっと楽しいかもって思ったわ」

私とラリカしかいない食堂。
朝食は彼女が厨房を借りて作ってくれた野菜のスープに、簡単なサラダとゆで卵だ。
パンは焼き立てじゃない少し硬いパンだけど(ラリカが言うには厨房に常備してある長期保存用のパンらしい)、それでも十分に美味しい。
毎日の朝食がこんなだったらいいとさえ思う。

確かに学院のコックが作った料理はどれも一級品で、文句なんてつけようがないくらいなんだけど…。この朝食の“美味しさ”はきっと出せないだろう。
大好きな親友の手作りを、一緒に談笑しながら食べる。私の話に笑顔で応えてくれ、たまに行儀悪くならない程度にじゃれ合う。
もう、さっきから表情が笑顔から戻らない。

「ほんとはラリカも一緒にやれたら良かったんだけどね。そしたらきっと、もっと楽しかったと思うわ」

「こらこら、一応任務でしょーに。楽しかったのは実にぐれいとだけど、楽しむのを目的にしちゃ~イカンですよ?」

そう言いながらも微笑むラリカ。
キュルケたちと一緒に何度も店に遊びに来てくれた。時間もかなり長くいてくれて、仕事が上がる時間に待ち合わせて街で夕食を食べたりもした。
…最初、キュルケにばれた時はどうなるかと思ったけど、結果的には感謝だ。

「もちろん任務は真面目にやるのが前提よ。姫様から仰せつかったお役だもの。蔑ろにはできないわ」

ラリカは理解してくれた上で言ってるんだろうけど、一応そう答える。

「おおぅ、模範解答。それに女王陛下はルイズの“最愛のおともだち”だしね」

今度は一瞬、答えに詰まった。

“最愛のおともだち”。

“最愛”っていうくらいだから、対象は1人だろう。
姫様は…そう、ずっと“そう”だった。友人らしい友人もいなかった私には姫様が唯一の“おともだち”だった。学院に入学する前、いや、入学してしばらくの間は。

でも私は出会ってしまった。
本当に本心をさらけ出せる、ぶつけることができる相手に。
強さも弱さも全部、受け容れてくれる相手に。

「ええと、」

でも今は、あなたが“最愛のおともだち”なのよ?
そう言おうとした口は、しかし別の回答をした。

「…ええ。そうね!」

理由は単純。何となく、その、恥ずかしくなったからだ。
確かにラリカには本心をさらけ出せるけど…面と向かってその言葉はさすがに恥ずかしい。
やっぱりね~、と優しく微笑むラリカ。

…。

「あ、でもねラリカ、姫様も確かにそうだけど、」

言いかけたところでバタンと乱暴に扉が開き、才人とギーシュが顔を出した。
ちょっと!意を決して言おうと思ったのに、何邪魔入れてるのよ!?

「あ、2度目のおはよ~。才人君あ~んどギーシュ君。もう起きて平気?」

ラリカが笑顔で2人にひらひらと手を振る。
運がよかったわね2人とも。この笑顔がなかったら“虚無”を喰らわせてたところよ?

「ああ、やっぱラリカが木陰に運んで…じゃなくて!ルイズ、おまえ何しやがるんだよ!」

「きみね!男同士の決闘に横槍を、しかも不意打ちで入れた挙句、勝手に賞ひ…っ、ゲフンゲフン!とにかく!神聖な決闘を汚すとは何事だよ!」

何かと思ったら、そんなことで怒っていたようだ。
私に何の断りもなく、勝手にラリカを賞品にして決闘だなんて認めるわけないのに。

「はいはい、悪かったわね。でも朝っぱらから煩くする方も悪いのよ。もう別に止めないから続きでも何でも1日中好きにやればいいじゃない。私はラリカと1日過ごすから」

しっしと追い払うようにを振る。
案の定、2人はばつの悪そうな顔をした。

「いや、それだと決闘する意味が…」

「ルイズ、お前やっぱり全部分かってて言ってるだろ」

サイトが何か言ったけど無視する。ギーシュも恨めしそうに見てくるけど、やっぱり無視する。

「まあ、決闘するにしろしないにしろ、2人ともお腹空いたでしょ~?朝ごはんもまだだろうし、良かったら一緒にいか~が?」

ちょっとギスギスしはじめた雰囲気を、ラリカの声が打ち砕いた。
さっさと追い払おうと思ってたのに。サイトやギーシュがいたら、さっきの続きなんて言えないじゃない。
ちょっとだけ不満げにラリカを見てると、頭を撫でられた。

「“みんな一緒に”、ね?」

…。

もう。
仕方ないわね。


どうせ、そんな笑顔されたら、ダメだなんて言えないわよ。










Side シエスタ


中庭から楽しそうな話し声が聞こえる。

この学院に残っている貴族の方はほんの数人だから、その声の主たちが誰なのかはすぐに分かった。
ミス・ツェルプストーとミス・タバサは早朝に出掛けられたみたいだから、居るのは残りの4人だろう。“宝探し”旅行に行ったメンバーで、わたしの故郷、タルブを気に入ってくれた皆さん。
貴族(1人はメイジ殺しだけど)なのにも関わらず、とても気さくで、わたしたち学院で働く平民にも優しい方ばかりだ。

あの6人に悪い感情を抱いている平民はいない。
やっぱり中心にミス・メイルスティアがいるからだろうか。
平民を馬鹿にせず、平民と冗談を言い合える人。貴族らしくないと言う人もいるかもしれないけれど、わたしはそんな彼女だからこそ周りに人が集まったんだと思っている。


あ、爆音。
ミス・ヴァリエールかな?


サイトさんかミスタ・グラモンが何かやったのだろう。何度か見た光景だから、何となく想像が付く。
思わず、頬が緩んだ。

今朝方ミス・メイルスティアとも話したけれど、また皆さんをタルブに招待する日が待ち遠しい。
弟たちも『きぞくさまたち、つぎはいつ来るの?』って楽しみにしてたし、あ…でもミスタ・グラモン作の“モグラと戯れる少年”像が溶かされて農機具になったのはどう説明しよう?
…まあいいか、戦争で壊されたってことにしておこう。

そんなミスタ・グラモンの悲鳴が聞こえる。
何をやったんだろう?
よく分からないけれど、楽しそうだ。

そうだ、あとでお菓子でも差し入れようかな。



仕事だからじゃなく、あの人たちの喜んでくれる顔が………見たいから。










Side ルイズ


そして、今日が終わった。

結局どこへも出掛けず、学院の中で1日過ごしたけど充実した1日だった。
たくさん色んなことを話して、思いっ切り笑って。…たまに魔法を使って。
凄く幸せで満たされた“日常”。
学生生活が、楽しい。

「じゃあ僕は自分の部屋に戻るよ。それとサイト、」

寮の入り口でアホのギーシュが言う。

「分かってるって。正々堂々と、だな」

答えるサイト。ギーシュはひと睨みすると逃げるように去っていった。
全然懲りてないようね。
まあ、懲りてなくても私の目の黒いうちは好きになんてさせないけど。

「それじゃ~おやすみギーシュ君…って、行っちゃったか。何て素早いごーほーむ」

ラリカが私の苦労も知らずに笑っている。
全く、危機感を持ちなさいよね。ラリカは優しいから、あれでギーシュが調子に乗って告白でもすればOKしちゃいそうな気がする。
それはギーシュに限らずだけど。

サイトは?
まあ、サイトは最後の手段ね。学院卒業までにラリカに恋人とかできなかったら2人をくっつけるのもありかもって思ってる。
サイトもそうなれば元の世界に戻るのを断念するだろうし、彼は使い魔だから私の傍にいなきゃいけないってコトで、ラリカも必然的についてくる。
学院を卒業しても、3人ずっと一緒にいられるのは凄く魅力的ね。

でもそれは、あくまで最後の手段。今はまだその時じゃないわ。
ラリカになら譲ってもいいとはいえ、基本的にサイトは私の………そう、“使い魔”だし。

そういえば、何で他の学院の男どもはラリカの魅力に気付かないのかしらね。
家柄とかで見てるから?そんなの彼女の魅力の前じゃどうでもいい事なのに。まったく見る目がなさすぎる。
そういう点ではギーシュは人を見る目があるって言えるかも。だからって、ラリカを任せられるかって言えば答えはNOなんだけどね。

ラリカの相手になるなら…そうね、とりあえず私に認められなきゃ論外。
あと、私より強くなくちゃダメね。少なくともワルドみたいなのが襲ってきてもあしらえるくらいは強くないと。
じゃないと心配で任せられないし。
うん、そう考えると適任者なんていないわね。やっぱりしばらくは私が、

「んじゃ、俺は今日はどうするかな。今夜も暑くなりそうだし、なあルイズ」

「部屋で寝ればいいわよ。2人だと暑いかもしれないけど、私はまたラリカの部屋に泊まるから大丈、ひあっ!?」

いきなりラリカに脇をつつかれた。不意打ちだったので変な声を出してしまう。

「ラリカ!?もう何するのよー!」

「よーしルイズ、今自分の言ったことに何か思うトコロはないかな~?」

…え?

「私、何か変なこと言ったかしら?」

「2人だと暑いと知って、なお私の部屋に泊まろ~と?はっはっは、こう見えても私、サウナ大好き人間チガウんだぜ~?」

…あ。
でも、今までも泊まってたけど、暑くて起きたとかなかったし…。
そういえば何でだろう?昨日は自分の部屋で寝たけど凄く暑かった気がする。
そのせいで朝もイライラしながら起きたし。

「もしかして、魔法で涼しくしてくれてた…とか?」

「ご想像にお任せしよう!ただ言えるのは、3時間ごとはちと辛い、ってだけかな」

してくれてたみたいね。
そういえばキュルケがタバサに頼んで部屋を涼しくしてもらったとか言ってた気がする。水とか風とかの魔法でどうとか…。
ラリカの部屋に泊まった朝とか、もっとベッドに入ってたいって思うくらい心地よかったのはそのお陰か。

「う…、何だかごめんなさい」

「冗談じょーだん、気にしてなっしんぐ。私も一緒に寝よ~言ってくるルイズ可愛さに負けちゃってOKしてたんだし。それに今の季節はちょっぴりアレだけど、冬とかならもう大々歓迎。ヴァリエール社製ぽかぽかルイズ抱き枕?才人君と奪い合いになるのは必至だけどね~」

ラリカは笑いながら私の頭をポンポンと軽く触れる。
その様子をサイトが面白そうに見て…、あいつ絶対バカにしてるわね。
蹴っ飛ばしてやろうかと思ったけど、まあいいわ。今日は機嫌がいいから許してあげよう。

「さってとー、私も部屋に戻ろっかな。動いてはないけどたくさん喋って疲れちゃったしね」

ラリカが小さく欠伸をする。まだ寝るには若干早い気もするけど、疲れてるなら仕方ない。
泊まらないにしても、ちょっと部屋に寄って喋ってこうかと思ってたけど…今日はやめておこう。
もう任務は終わったから、残りの休暇はいくらでも一緒にいられるしね。

それに、明日は…“あの日”だし。
ないとは思うけど、寝不足で外に出たくないとか言われたら困る。サプライズも不発に終わってしまう。
ラリカはきっと、予想だにしていないだろう。

…まさか姫様が、“あなたとお友達になりたい”と言ってくるだなんて。

「そうね。疲れたなら早めに寝ないといけないわね。うん、明日のためにも体調は万全にしとかないと」

「明日?」

サイトが小首を傾げる。

「ああ、そっか。明日は、」

「…」

思いっ切り足を踏んでやった。

「いっ!?おまっ!何しやが…、」

そして文句を言おうとするその顔を睨みつける。

「…あ~、うん、何でもねえ。俺も眠くなったから先に部屋に戻るよ。うん」

ようやく思い出したか、サイトはわざとらしく誤魔化して退散していった。やっぱりあのアホに言うんじゃなかったかも。

「ふむ、才人君もよっぽど早くベッドインしたかったよ~ですな。うんうん、早寝早起きは実に健康的でよろしー」

“明日”に関して追及されるかと思ったけど、ラリカはそう言って笑うだけで何も質問してこなかった。

…危ない危ない。
こんなところでバレたら、計画がおじゃんになってしまう。
せっかく姫様に“あんな格好”をしていただくのに、最初から正体を知られてるんじゃ意味がない。
ラリカにはあくまで“女王陛下に謁見する”んじゃなく、“私の友達に会う”っていう形で会ってもらわないと。姫様は“忠実な臣下”が欲しいんじゃなくて、“心を許せる友達”が欲しいんだしね。

「それじゃラリカ、私も今日はもう戻るわね。おやすみなさい」

「ん、おやすみルイズ。暑いからって窓全開で寝たりしないよーに。風邪ひくから」

「うん。ラリカもね」

軽く笑みを交わし、踵を返す。
うん、今日もいい1日だった。


何気ないけど、充実した日々。
温かくて、心地よい幸福。

それが今、確かにここにある。
何を懸けても守りたいものはこの手の中にあって、私はそれを守るための力を授かった。
いつかした誓いは、今も、昔も、これからもずっと。



いつまでも、こんな日々が続きますように。


始祖に願いを。



私の“虚無”に、誓いを。





[16464] 第四十九話・Main Side そして偽りの日常は幕を閉じる
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:99efb4d6
Date: 2010/07/26 07:51
第四十九話・Main Side そして偽りの日常は幕を閉じる




永遠の別れってのは、思った以上に呆気ないものなのです。“経験者”は、語る。なーんてね。………真実だけど。




そして。

繰り返す日常は幕を閉じる。
始まるのは標なき道。
コンテニューな人生が辿るのは、どんな結末か。
なんて。

はてさて、どーなんでしょうかね。ホントに。





「それじゃラリカ、私も今日はもう戻るわね。おやすみなさい」

特記することもないような普通の1日、日常風景。被り慣れた“嘘”の私。
そんな“今日”が終わった。
最初はルイズとマンツーマンか!?って危惧したが、才人とギーシュが復活してきてくれたお陰で見事に解決。
4人(昼にちょっとシエスタも加わったが)でどーでもいいような話をして本日無事終了となりました。

最後の最後で運いいぜ私!
ま、“明日”なんて単語が最後に飛び出し、ヒヤッとしたけど。スッとぼけて死亡フラグを華麗に緊急回避。
で、これで正真正銘、学院生活しゅ~りょ~でありまーす。

「ん、おやすみルイズ。暑いからって窓全開で寝たりしないよーに。風邪ひくから」

風邪ひくなよ~、ちゃんとご飯食べろよ~、これからも“ヒロイン”頑張れよ~。
あと、てきとーに幸せになれよ~?
私のアホなミスのせいで敵になっちゃったけど、それを逆恨みする気はないのですよ。

むしろスマンかった。
私なんて最愛の女王陛下と比べるべくもないだろうし、ルイズ的にもきっとどーでもいい路傍の石子さんだっただろうとはいえ、“友達”のサプライズ成敗に一役買わせるような目に遭わせちゃって。
ホントに優しくていい子だから、少しは辛かったかもと思う。敬愛する姫様に弓を引いた不敬者とはいえ、心苦しかったと思う。
相手が私みたいな脇役だったのが不幸中の幸いか?でもホントにごめん。

しかもそのミッション失敗するし。
うむ、スマン気持ちはあるあるけれーど、処刑されてやるわけにはいかないんだぜー。ぜ~。

「うん、ラリカもね」

うんうん。こっちはこっちで死なないようにせいぜい頑張ります。
ルイズは微笑むと踵を返し、自分の部屋へと戻っていく。
その後姿を、ちょっとの間だけ見詰めた。



………“おやすみなさい”が私とルイズが“最後”に交わした言葉か。



もう“また”なんてないのに。“再び”が来ないのに。
“おはよう”を言うことはできないのに。
永遠の別れなんて、バイバイまた明日ね~☆って日常的なサヨウナラよりも呆気ない。

………まぁ、そんなもんなのだ。

思いを秘めたまま、
何かを為そうと決意した矢先に、
お別れって認識すらしない刹那、
ケンカしたまま、
約束を抱えた状態で、
誤解も解けずに、
続くと思った日々の隙間で、
言いたいことも言えずに、
何気ない日常のひとコマとかでも…それはやって来る。
今まで2回も覚悟すらできてない状態で、突然“永遠のお別れ(to 人生)”を迎えた私が言うんだから間違いないだろう。

今回は私の方は突然でもなく、計画通りなんだけどね。むしろそれを狙ってたし。
改めてゲス&クズな私。
転生しなかったらきっと地獄へ直行便だ。覚悟してるし、そーなるべきかな?って思ってるけど。
その時までは、罪悪感は秘めておく。反省は取っておく。
否定せずに、忘れずに持っている。
だから、それまでは幸福を求めて足掻いてやるのです。てか、私の実力じゃ悩みながら何かを為せるとは思わないしね。


そーいや、“佐々木良夫”はコンビニに向かう途中で死んだんだっけ。
“前回のラリカ”と違って、普通に家族にも多分愛されていただろう青年。
本来ならさぞや無念だったコトでしょう。幸か不幸か、再転生とかでそれどころじゃなかったけどけ~ど。


ほんの少しだけせんちめんた~るな気分になってしまったな!
イカンイカン。
学院の皆さん関係はこれにて終了なわけだけど、まだまだやる事はタプ~リあるっていうか、むしろこれからも絶賛メインだ。気分切り替えないと。

…よし切り替わった。
んじゃ、さっさと部屋に戻って最後の“仕込み”でもしましょーかね。時間ないし。
うんうん。


もう廊下の先に消えたルイズに向かって、『さようなら』とか呟かなかった。
いくら私が脇役以下のモブ子でも、ココでそんな台詞を言えば妙なフラグでも立ちかねない。
念には念を入れて慎重に。
最後にミスるほど、このラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティアは愚かじゃーないのだよ。

…でもまあ、心の中で思うくらいはいいか。
うん。いいよね。



ええと。







―――――― ばいばい、ルイズ。







きっと多分、おそらく或いはそれなりに。

嘘で塗り塗りペタペタした茶番な“日常”も、楽しかった?かもか~も。




…かもかーも。



あは。









※※※※※※※※



部屋に戻り、“ロック”を掛ける。

もうこのドアを“アンロック”することはないだろう。とゆーか、最近は普段もあんまり自分で“アンロック”してないんだけどね。
例のヤツらがこっちの返事も聞かずにどしどし“アンロック”してたから。私のプライバシーって一体。
ま、いいか。今となっては、だから。


さて。
いろいろ“仕込み”をしながら考える。

今から私は原作(っていっても、もう乖離乖離しまくりーので原作なんてあってないようなモノだろ~けど)から脱出し、再び“ゼロの使い魔”本編から姿を消す。
ある意味、本来のポジションに戻るわけだ。難易度はハードで。
そこで、あれば少しはアドバンテージだろう私が持ってる今後の原作知識についてだけど…正直、そんなに詳しくはない。

実際、私の計画に必要だったのはフーケ戦までだ。後はズルズル思惑を外れて介入しちゃってただけで、本来はあんまり重要視してなかった情報。
“今回の私”に転生して17年くらい経ってるワケだし、実にぼんやりになっている。
それでも一応、“前回の私”が死んだ学院襲撃事件くらいまではそれなりに覚えてるんだけど、実家にでも一時帰郷して回避するくらいしか考えてなかったし、“その後”にまでなると、もうさすがに想定外だ。

てか、“佐々木良夫”は完結まで読んだわけじゃないし。むしろ“ゼロの使い魔”って完結してたんだろうか?一応、最新刊までは買ったと思うけど。
確か学院襲撃事件…5巻だか6巻まではしっかり読んで、“自分”のあまりのモブさ加減に虚しくなって、残りの巻はてきとーに流し読みしただけだった。
いや、後で読む気はあったと思うけど、その時はさっと流して…コンビニに向かったんだな。で、さらば地球。ただいまハルケギニア。
あいるびー25年でバック。

そういや何で精神年齢老けてないんだろ。ココロはもう40年近く生きてるっぽいのに。…ま~いいか。
うーむ、やはり原作知識はどっちにしろダメそうだな。でも一応、凄くおおまかな記憶で。


①ルイズがどんどん“虚無”を覚えて強くなる。魔法無効化みたいのとかいろいろ。才人との仲は結局どーなったんだろう。

②才人が貴族化する。この世界じゃ実に異例だな!あ、その前に、何万人かの敵と戦って死に掛けたよーな。後だったっけ?

③戦争激化。ギーシュとかが仕官して、なんとか水隊?とかいう隊の隊長になったりする。結局仲を戻してやれなくてごめんよモンモンさん。

④ハーフエルフ登場。確かフーケの関係者で、“虚無”。巨乳を超えた猛乳。もちろん美少女。おそらくヒロイン候補。

⑤タバ子が囚われたりなんだりで、最終的に女王になる。抱っこしたり、なでなーでしたりしてたのが既に懐かしいぜ~。

⑥何か戦車とかデカいゴーレムみたいのが出てくる。あとエルフ強い。

⑦チューザレ?チェザーレだったか?そんな目の色が何か変わった人が怪しい。てか、全体的にロマリア関係が凄く怪しかった。

⑧ちなみにジョゼフ王はイヤな過去をロマリア教皇の“虚無”で見せられて人生投げやりになる。もう死んでもいいや的な。

⑨で、頼れる女性(私の個人的かつ一方的に)シェフィールドさんに刺されて死亡。彼女も自爆。今はまだ生きてるけど冥福を祈っとこう。

⑩ワルドとかって結局何したかったんだろう?暗躍というか、後ろの方でパシリというか。脇役に降格したのかな。


役に立つかどうか、微妙な記憶だな。
持ってて良かった知識は、やっぱりジョゼフ王死亡 ⇒ タバ子女王陛下爆誕!関係だろうか。ガリアへ行くのを決めた理由でもあるし。
後は多分、もう間接的ですら関係ないだろう。

それにしても、冷静に考えてみるとロマリアは怪しさ爆発だ。もしかするとラスボスになるのかも。
実は有能だった無能王さんは途中退場したし。宗教による思想統一で世界を1つに!みたいな?
ホントにありえそうだ。“佐々木良夫”の世界でも宗教戦争は激しかったみたいだし。

うん、まあ正直どーでもいいか。
どうせルイズ&才人が解決してハッピーエンドにしてくれるのでしょ~。




ボロっちい鞄に、学院の制服以外の服をてきとーに詰める。一応貴族風味だから、ヒマな時にでも仕立て直して平民風に改造しよう。
あと秘薬の本1冊に、簡単な道具一式。
ムズい物なんてどーせ逃亡生活じゃ作れないから、必要最低限の道具だけだ。高価なのを置いてくのは悲しいけど仕方ない。
我ながら荷物少ないな。装飾品とか全然ないし、家具は学院の借り物だ。
調理用具もいらない。
火も水も、食材を切るのだって魔法で何とかなるし。使い捨てのしょぼい鍋くらいなら私の“錬金”でも作れそうだ。調味料は塩があればいいや。

身軽身軽!楽勝で持ってけるな。
ココアは置いて行くから荷物が少ないのはありがたい。
最終的には(便利だから)連れて来るつもりだけど、今はマズいだろう。目立つし、それにココアを残すのにも意味があるしね。

私がガリアで落ち着いたら呼び寄せるかな。
いつになるか知らないけど、そう未来の話でもないはずだ。多分。そうであってくれ。



例の“日記”をちゃちゃっと仕上げる。
最後にちょろっと手紙っぽいのを書いて…うん、上出来。
そして再びメンゴです、ミョズ姐さん。またしてもちょっぴり名前出しちゃった☆
いやー、ミョズ姐さんってホント頼りがいがあるよね!会った事ないけど。
もう足向けて寝られないです。現在どこらへんにいるのか知らないけど。


“日記”を鍵付きの机にしまい、料理にとりかかる。
簡単なモノ…目玉焼きと野菜炒めを作り、テーブルに並べる。パンも添えてワインを置いて。目玉焼きを一口だけ齧って、これでOK。
まさに“朝起きて、普段のように朝食を食べていた”状態が完成した。まだ絶賛夜なんだけど、コレを発見した人がそんなふうに思うコトはないだろう。

実に“メアリー・セレスト号”ですな。うーんミステリー。
ラリカさんは一体全体、どこへ消えてしまったのでしょ~か。

ナイフで手を切り、目立たない場所に血溜まりを作る。すぐに“治癒”で治せるからできる細工だ。魔法ってホント便利。
魔法ついでに、“着火”でクローゼットに残った服をいくつか焼く。
火事にならないよう、煙が出ないように調整しながら慎重に。
学院の制服とかはもう二度と着ることはないだろうし、こうしてしまえば私が何着かは持ち出してるってのもバレないだろう。
まあ、そもそも私の持ってる他の服なんて、誰も知らないだろうけど。

…ついでに要らない本でも2、3冊燃やすか。第一発見者とかが重要な手掛かりだとか勘違いしてくれたらぐれ~とだし。



※※※※※※※※



そして、私の“仕込み”が完成した。

部屋の半分は全く綺麗なまま。
食べかけの“朝食”に読みかけの本。ちょっと席を外してるって感じだ。目立たないトコロにある血溜りが非日常的アクセントになってる。

で、もう半分は普通に惨状。
本や服が焼け焦げてたり破れてたり。折れた杖と壊れた弓矢が、この部屋の主が無事ではないっぽいことを示してるな。
実際、その杖は未契約の予備だし、弓矢も新たに作ったのがあるんだけど。

…それにしても、狙ったとはいえ…我ながら不可解&意味不明な空間だな。
何が起きたのか検討もつかない。
“作者”の私がそうなんだから、他人ならもっと不可解に感じるだろう。

ま、ぶっちゃけ“時間稼ぎ”なんだけどね。
無駄に推理とか憶測とかしてもらって、その間に私が逃げると。そういう計画。

『逃げたと思われるまでの時間を活用せよ!』
『逃げたのではない、いなくなったのだ!』

この“奇妙な惨劇があったっぽい”部屋に、“謎の日記”、そして“学院に残ったココア”。
今日の私は“普段通り”の私だったはずだし、“約束”も交わしている。
いずれはバレるにせよ、私がとんずらしたって断定されるには時間が掛かるはずだ。少なくとも2日くらいはバレないでほしい。
いや、できるならラリカ死亡説とかで丸く収まってくれ。誰が殺したのかは想像にお任せで。


実家から持ってきたボロっちい服に着替える。
マントは山賊対策用に一応持ってくか。
平民の女が1人旅とか、山賊さん襲って下さいとか言ってるみたいなもんだし。ハッタリでもメイジって看板ぶら下げといた方が安全だろう。多分。
ココアを連れて行けたらそんなの考えずに済むのに。仕方ないけど。




窓を開ける。

私が転生して思い描いた未来予定図は、結局失敗に終わった。
残念って言えば残念だし、虚しくないって言えば完全に嘘になる。でも、受け容れた。
覚悟完了、決然と前へ。

嘘で塗り固めた日常は、きっと若干ポジティブなカタチでENDを迎え、これからが正真正銘、新生ラリカのReスタートなのだ。多分。


寝苦しい、夏の熱帯夜。





相変わらずの生暖かい風が吹き抜け、でも、どこか爽やかな気がした。










































………気がしただけだった。

そ~上手くいくワケないですよねー。ですよねー。

はい、じゃあ、ちょっと久々に。心の底から。


いちに~の、さんハイっ☆





あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば!!!!!




[16464]  幕間15・その頃。そして残された手紙
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:99efb4d6
Date: 2010/08/02 06:52
幕間15・その頃。そして残された手紙




ダレがドコでナニを思うのか。知ることはできないから、知らないでおく。ま、どーせ私への感情なんて、ダメなのしかないしな!うん!




<Side Another>




「暑いわね!」

何かを蹴飛ばした感触で目を覚ます。
部屋は真っ暗で何も見えなかった。まだ真夜中なのだろう。
手探りで杖を探し、灯をともす。どうやら蹴っ飛ばしたのはサイトだったようだ。

やっぱり一緒のベッドじゃなく、どこか別の場所で寝かせるべきだったかも。
それにしても、床に落ちたってのによくグースカ寝てられるわね。…まあ、最初は毛布だけ被って床で寝てたんだし、きっと図太いんでしょ。

わざわざ叩き起こすのも可哀相なので、毛布だけ掛けてやる。
暑いから風邪をひくこともないだろうけど、一応ね。

「…イズもラリカも……れは1人……ケンカは……取り合っ…へへへへへ………」

サイ…バカ犬が物凄く幸せそうににやけながら寝言を言う。
何の夢を見てるんだか。
やっぱり毛布剥ぎとるべきかしらね?それとも軽めに爆破させようかしら。

机の上に置いてあった温いワインを一口飲み、ふぅ、と汗を拭った。
昨日の夜もだったけど、暑過ぎね。
サイトの世界じゃ、冷たい風を出し続ける“えあこん”?とかいうマジックアイテムがあって、暑い夏も快適だそうだけど、ハルケギニアにも必要だわ。
金貨300枚くらいなら出すから、こっちでも手に入らないかしら。“ぜろせん”があったくらいだし、どこかにあるかもね。ご神体みたいになって。

…まあいいわ。ないものねだりしても仕方ない。もっと根本的な解決策を…。
やっぱりラリカの部屋に泊まるしかないわ。うん、それで解決じゃない。
好きなだけお喋りして一緒のベッドでぐっすり寝て、朝起きたら髪を梳かしあっこして、朝食を作ってもらって、私は盛り付けとか手伝って。完璧じゃない?

となると後はラリカが魔法を使わなくて済む方法を考えればいいってわけね。
やっぱりサイトの言ってた“えあこん”が…いや、“えあこん”なんてあるかどうか分からないから他の方法を、ん?
そうそう、魔法を使わないとあんなに快適にはならないのよね。魔法を使ってたから快適だったのよ。でもラリカの部屋には泊まりたいし、
…あれ?ええと、だから、

ああああああぁぁぁぁぁ!もうっ!暑いわね!!
考えも纏まらないわよこれじゃ!

窓を全開にし…ようとしたけど、ラリカに言われたのを思い出して思い留まる。
これだけ暑ければ風邪なんてひかないだろうけど、いつも彼女の言う事は正しかったし、万が一ホントに風邪をひいたりしたら叱られそうだし。

暑い、暑い、暑い。
ずっとラリカの部屋で快適な夜を過ごしてたから、余計に暑い。
ちょっと体温下げないと眠れそうにないわ。

溜息をつき、何気なく扉を見る。
外の空気を吸いに行こうかしら。でも、そうしたら確実に足がラリカの部屋に向かうわね。断言できる。

…むぅ。
ワインを一気に飲んで無理矢理眠ろうと思えば何とかなるかもしれない。
でもラリカが、快適な部屋が…でも今日ああ言われたばっかだし…。

!!
そうよ、今日は疲れたとか言ってたからダメだけど、明日以降なら大丈夫かも!
それにもう嫌だって言われたわけじゃないしね。うん、きっと大丈夫。
明日、2人で一緒に眠れて暑くならない方法を考えればいいのよ。私1人じゃ思い付かなくても2人なら何とかなるかもしれないわ。

だから、“今日だけ”。
“今日だけ”我慢しよう。そうしよう!
だったらもう今日は無理矢理でも寝るしかないわね。さっさと“今日”なんて終わらせるわよ!


そして葛藤の末、私は“今日だけは”我慢することに決めたのだった。
他のいつでもなく、“今日”を。










「はしばーみ」

その声に、思わず振り返る。
立っていたのはネグリジェ姿のキュルケだった。

「…」

見詰めていると、キュルケは微笑みながら近付いて来て、私の髪を軽く撫でた。

「ホントに、この合言葉にはすぐ反応するのね」

楽しそうに言う。

「眠れないの?学院よりは快適だと思うけど」










「眠れないの?学院よりは快適だと思うけど」

小さな友人は自分を見上げ2、3度瞬きをした。

「そう、まあそんな日もあるわよ」

言葉で返事が返ってきたわけじゃない。でも、何となく分かる。
以心伝心?前にラリカがそう言って笑っていた。

「今日は疲れてると思ったんだけどね。でも、眠らないと明日大変よ?」

「…」

「まあ、別に昼過ぎまで寝てたっていいか。どうせやる事なんて街で買い物くらいだし。観光とかは興味ないんでしょ?」

早朝からシルフィードに乗って、殆ど休憩もせずにゲルマニアへ。疲れていないわけはないと思う。
…まあ、タバサはいつも通り本を読み続けていただけだけど。
今回の短期帰郷に付いて来た目的も、5割以上はその本のためだ。タバサの眼鏡にかなうような本が見付かればいいのだが。

「食事は?」

「ああ、それも3割くらいあったわね」

「3割?」

「こっちの話。残りの2割はお土産かしら」

「…?」

さすがに不思議そうにするタバサ。小首を傾げるその仕草が面白い。和む、というのだろうか。
こういう状況でラリカはこの子の頭を撫でる。
何となく思うが、やはり妹のように見ているのかもしれない。そしてきっと、タバサも。

「でも、親友としてはちょっと嫉妬よね。あたしの方が付き合い長いんだし。…どっちとも」

「何のこと?」

「タバサ、あたしたちも何か合言葉考えない?」

「…よく分からない」

あたしはタバサの頭をもう1度だけ軽く撫で、笑みを向けた。

「まあいいじゃない。それより眠らないんなら、街に飲みに行きましょ。着替えてくるから、タバサも着替えてシルフィード呼んどいてね」

タバサは無言、でも“了解”。以心伝心。
踵を返し、着替えに戻る。

さてと、今夜はじっくりお話でもしようかしらね。










「やめたまえマルコ!僕にその気は…!!って、夢か」

…何だか酷く恐ろしくておぞましい夢を見ていた気がする。
確か、途中までは彼女と2人きりで甘い時間を過ごしていたはずなんだが…どこでどう狂ったんだろう?

というか、寝る直前に部屋に来たマルコの印象がやけにアレだったのがいけなかったかもしれない。汗だくで、いつの間にか付き始めた筋肉を自慢げに…。
逞しいのは別に悪いことじゃないが、僕の美的感覚とはちょっと違うんだよ。
それにマッチョと薔薇って…何かな、とても危険な感じがするんだ。でもまあ、モンモランシーはそういうのがいいんだろう。
僕みたいな、どちらかというと優雅な薔薇に懲りさせてしまったのが原因かもしれない。
うん、きっとそうだ。すまないことをしたな…ホント。

でもまあ、きっとマルコは浮気なんてしないし、モンモランシーには幸せになってもらいたい。これは本心からそう思う。
モンモランシーの事は多分、初めての“本気”だったからね…。

…。

よし、冷静になったところで寝よう。寝不足は美容に悪い。
きっと近い将来、現実になるだろう夢の続きを見に、いざ眠りの世界へ。


………もしマルコがまた夢に出てきたら、あいつの部屋にワルキューレ特攻させよう。










「あ…もうこんな時間」

編み物をしていたら、随分遅くなってしまった。
2人分のマフラー、白とピンク、サイトさんとミス・ヴァリエールへのプレゼントだ。

わたしたちを心配してタルブに駆け付けてくれた(その時ちょうどオーク鬼から避難していていなかったけど)お二人に何かお礼をしたいとミス・メイルスティアに相談したところ、『例の“ひこうき”は窓を開けると寒いらしいから、マフラーとかいいかも』とアドバイスをいただき、作ってみることにしたのだ。

ミス・ヴァリエールは貴族の方だし、買えばもっといい物が…と言ったけれど、それは“気持ち”らしい。温かさが断然違うと力説された。
…本当に、ミス・メイルスティアらしいと思う。

わたしなんかの相談に気軽に乗ってくれるのもそうだけれど、何と言うか、やっぱり感覚が庶民と近しい。
決して経済状況的がとか言うつもりじゃなく、心の距離が近いのだ。そしてそれは別の誰かの心と心をも近付ける。

ミス・メイルスティアの周りを見れば、そんな方たちでいっぱいだ。
貴族と平民、差別、確執、いろんなわだかまり。
学院にも蔓延していたそれは、少しずつだけど薄れつつある。誰の所為かなんて、言わなくてもみんな分かっている。

…編み物はどう頑張っても今夜中には終わらないし、そんなに急ぐ必要もない。
わたしは編みかけのそれを、大事に机に置き、伸びをした。
明日も早い。夏期休暇中とはいえ、学院に貴族の方が1人でもいればメイドの仕事はなくならない。

でも、今残っている方の殆どは、その…“友人”だから。平民のわたしを“友人”と言ってくれる方々だから。


明日も頑張ろうって、気持ちになれるのだ。










キュルケが部屋に戻っていく。
眠れないし、飲みに行くのは賛成だ。夕食の時に出た肉の香草焼きはこの街の名物らしいし、確かに美味しかった。
少し足りないと思っていたのでちょうどいい。
でも、なぜ急に合言葉だなんて言い出したのだろう。

…。
………分からない。

合言葉?
『はしばーみ』みたいなもの、だろうか。
そもそも、『はしばーみ』が何なのか分からない。
分からないが、言ってみたらラリカが喜んでくれた。
嬉しそうに抱き締めて、髪を撫でてくれた。だから毎回、応える。

そう、抱き締めて。
石鹸だろうか?キュルケの香水とは違う、自己主張の小さな、でもなぜかとても落ち着く香りがした。

ねえさま。
…あの時何となく言ってみたけれど、悪い感じはしない。
キュルケも、私とラリカは姉妹みたいだと言っていた。どういう意味だろうか。

ラリカ。
彼女は、私にとっての何?

…。

そうだ、着替えないと。キュルケが待っている。
私は歩き出そうとして、立ち止まった。そして本当に何となく、呟く。


「…はしばーみ」










「それで思わず言っちまったのさ、“実力であんたを超えてやる”ってな。今思えば無謀なガキだった。今でも、酒の席でたまに話題に出されては冷や汗をかいてるよ」

宮殿の中庭に男女の話し声。
ヒポグリフ2頭が傍に控えるそこで、2人の近衛が談笑している。

「しかし、その伯父上殿も人が悪いというか何というか。あなたの性格を知った上で焚きつけたのでしょう?まさに彼の思い通りに事は運んだわけですね」

「ああ、何だかんだで伯父には感謝しているさ。そのお陰で俺は馬鹿みたいに鍛錬を重ね、こうやって魔法衛士隊に入れたんだからな。…っと、ほら、できたぞ」

エルデマウアーは弄っていた銃をアニエスに手渡した。

「ありがとうございます。いや、やはり見事ですね。改めて感心しました」

「しかし、まさか俺が銃の修理をさせられるとは思ってなかった。いや、別に文句があるわけじゃない。これでも一応、ヒポグリフ隊再編までは銃士隊の“特別監理官”だからな。名前ばかりでまだ任務も決まっていないわけだから、こういう雑用も喜んで引き受けるさ」

「おや、では現在修理待ちの20丁も修理していただけるのですね?」

「…それ1丁じゃなかったのか?」

「これは私の予備です。実はちょうど修理に出そうと持ってきていたので、…そういうことです」

「ああ、分かった。冗談で頼んでみたら、本当に引き受けたって事だな。してやられたよ」

楽しそうにエルデマウアーが笑みを浮かべる。
アニエスもはじめから彼が真実を明かしたところで気を悪くすることはないと踏んでいたのか、悪びれる様子もなく笑っていた。

「了解、二言はないさ。また折を見て持って来い。だが、ミラン、お前も最初に会った時と思うと随分変わったな。いや、それが地なのか」

「“復讐を分け合った”相手に、猫を被り続ける必要はないと思いましたので。それとも、こういう私はお嫌いでしたか?」

「いや、お前の言う通りだ。あんなに畏まられていては仕事も遣り辛い。だから、今のお前の方が断然いいぞ」

「…そうですか」

「そういうことだ」

少しの沈黙、アニエスが何か言おうとしたその直前、エルデマウアーが苦笑しながら沈黙を破る。
その視線は前方、明かりの消えていない女王の寝室に向けられていた。

「陛下はまだお休みでないのか。…これでは護衛の任務も楽じゃないな、ミラン」

「明日の事はご存知でしょう?というか、エルデ殿も私と共に明日はその護衛では?」

「そうだが。…あれか、明日の事で興奮して寝付けないと」

「そう仰っていました」

「なるほど。まあ、分からんでもないか。あのマザリーニ殿までもが公認の“友人”ができるのだからな。もちろん、公のじゃあないが」

アニエスはふむ、と小首を傾げる。

「例の“最上の忠臣”とやらですか。“例の夜”に陛下を諌められた方との噂ですが、そこまで信用できる方なのですか?」

「ああ、“彼女なら”できる」

「…」

エルデマウアーの即答、迷いの一切ない答えにアニエスは一瞬言葉を詰まらせた。

「…即答、ですか」

「ああ。お前も明日会えば分かるだろう。“彼女”は、そういう少女だ」

「………」

軽く笑いながら、女王の部屋から漏れる光を見詰めるエルデマウアー。その傍らでアニエスは無言で同じ光を見詰めている。


夜は深く、しかしまだ、その光は消えそうになかった。










※※※※※※※※










<Letters>





ルイズへ。

この日記をルイズが見ているということは、私はもういないのでしょう。
まあそれは別に全く気にしなくてもいいとして、とりあえず用件だけ。

1.サイト君を信じてください。何があっても。サイト君を守って、守られてください。

2.クロスボウもいいけど、ちゃんと虚無すること。おねーさんとの約束だ☆

3.陰謀臭がするので気を付けてください。怪しそうなのには警戒を怠っちゃーだめだ!

4.ちゃんとご飯を食べて早寝早起き、健康には気を付けましょう。体は資本です。

5.楽しかったです。ほんとだよ。

以上。
頑張れルイズ、君がヒロインだっ!
なんてねー。
うん。


…きっと、幸せに。




※※※※※※※※




サイト君へ。

『サイト君はこの字読めないだろうから、誰か代読してあげてください』

この日記を見てるってコトは、れでぃーの部屋を物色したって寸法ですな。
はっはっは、よーしお仕置き…って、多分もうできない状況でしょうね。残念無念。
まあそれは別に全然いいので置いといて。メッセージをいくつか。

1.ルイズを信じてください。何があっても。ルイズを守って、守られてください。

2.デルフ使えガンダールヴ!

3.陰謀臭がします。ルイズを悪い虫から守れるのは君だけだ!

4.いのちをだいじに。無茶はイカンです。悲しむ人がいる的な意味でも。

5.『この手紙を代読してくれたアナタ、ありがとう。最後に下の見たこともないような文字をサイト君に見せて下さい。』




 < 才人君、おりがとを! らりか・らうくるるー・ど・ら・ぬいるすちあ >   ※日本語表記




※※※※※※※※




タバサへ。

はしばーみ。




※※※※※※※※




キュルケへ。

いやー、今がいつかは分からないけど、人生何があるか分かりませんなー。
まさか私がこんな事に…ってどんな事になったんだ私。予想は付くけど。

とゆうかですね、キュルケはコレ読むのかな?まあいいや、読む前提で。

以前、ワインの産地を巡って討論した件ですが、正直なところワタクシ味の違いなんぞ分かりません。知ったかぶってたんだ…ごーめんね☆

あと、タバサをたまにはナデナデしてあげてください。キュルケに撫でられてるタバサは周囲に癒し効果をばら撒きます。嘘だけど。
ホントのところは炎と氷の友情いつまでも。

だからってルイズを蔑ろにはしちゃーダメです。え?ルイズはライバル?
はっはっは、(いろんな意味で)聞こえませんなァ?
周囲からはとっくに仲良しフレンズと認識されてるのですよ。諦めて友情しなさい。

よし終わり。
あ、最後に。

サイト君が靡かなくても、キュルケはホントに“いい女”ってやつです。
ナイスなバディ~だけじゃなく、ね。私には分かってるぜぃ!




※※※※※※※※




ギーシュ君へ。

惚れ薬の一件は本当に(破れていて読めない)
ミス・モンモランシーも実際はギー(破れていて読めない)
(破れていて読めない)決して面(破れていて読めない)
あば(破れていて読めない)モグ(破れていて読めない)
です。ギー(破れていて読めない)




※※※※※※※※




シエスタへ。

とりあえず私がいなくなってる状態だと思うのでコレを。

(ジェネリック秘薬などの使用説明書)

使用上の注意、用法、用量を守って正しく使って下さい。
あとマルトーさんに伝えてください。『ごちそーさまでした。毎日ご飯おいしかったです』って。
もちろん、他の厨房メンバーや掃除とかいろいろしてくれたメイドたちにも感謝してますよー。

ルイズと才人君のお世話ヨロシク。報酬は来世払いとかで。




※※※※※※※※




タバサへ。

最初のはちょっとしたジョークです。
いや、しんみーりとかされてたらアレかなーと思って。あはは。怒って魔法とか撃たないで!

なんて、できなかった系の冗談とかやってみたり。今はある意味実に安全だしね!
まあいいや。

ホントはタバサとあんまり親しくなれないかなーとか、出会った当初は思ってたんですよ、実際。
それがね~、まさかね~、うんうん、分からないモノですなー。

だから少しだけ、もう抱っこしてみたり、なでなーでするのが無理なのは寂しかったりするかも。
タバサ的には子供扱いされるのは勘弁、だっただろーけど。

ま、終わったことを言ってても仕方ないか。うん、一刻も早く忘れるべきだな!
というわけで、タバサは幸せになってください。いや、なれ。なるけど。
誰が何と言おうと、タバサは幸せになるのです。なってもらわなきゃー困る。

最後の最後にもう1度だけ。


はしばーみ。




※※※※※※※※




もう一回ルイズへ

危ない危ない、書き忘れてた。
アンリエッタ女王陛下に、もし気が向いたらとかでいいので伝えてください。

『私のことなんてどうでもよく思えるくらい、“えらい”女王さまになってください。もう、私みたいなのに諌められたりしてちゃーダメですよ?』

以上。
こんな感じかな?敬語的なのはうまく付け足したりしてください。

あ、それと友情パワーで陛下のガス抜きとかしてあげてください、ストレスとか溜まると負の感情増し増しになっていい事ないから。
国民とかの前では営業スマイル強要されてるだろうし、愚痴とかも付き合えるのはルイズだけだしね。
なるべくなら自然な笑顔でいてほしーものなのです。

…恋人を、間接的にとはいえ死なせちゃった私的は。余計にね。


ホント頼みごとばっかでゴメンねー。



それじゃー今度こそ、終了。





(ここから先はもう何も書かれていない)






###############


今回、やたら長くなってしまいました・・・orz
気付けば100万PV、私の駄文にお付き合いくださっている皆さん、ありがとうございます!
主人公が最初から精神的成長とかほぼしてないアレなSSですが、また暇つぶしにでも付き合ってやって下さい。



[16464] 第五十話・Side再度ワルド!
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:99efb4d6
Date: 2010/08/18 23:06
第五十話・Side再度ワルド!




逆転パンドラボックス。“絶望”だけが飛び出していった世界に残るモノたちは。原作通りの“約束された未来”。どうぞ、勝手にハッピーエンドを。




完璧だった。

普段と変わらない日常を過ごし、まさか“今日”いなくなるとは思わせない策。

何をどうすればあんなになるのか、やった私でさえ不明、生死すら判断できそうにない部屋を作る策。

使い魔を置いて行くことで、まさかメイジが使い魔を放って逃亡なんてありえないと思わせる策。

何となくそれっぽい情報、でも冷静に読んだら何の役にも立たない日記を、さも凄い手掛かり的に作って置いておく策。

極め付けに、あの手紙。

“ラリカが死んだ”とかは書かれてないけど、読めば死んだと勘違いしてくれそうな内容だろうし、ルイズ・才人・タバ子には『私がいなくなったけど気にしないでね』って書いといた。
アンアンも『偉~い女王様なんだからもう私に執着しないで』と暗に伝えたつもりだ。

…ついでにちょろっと言いたい事も伝えたし。うん、嘘というのは真実に織り込むことで信憑性を増すのです。
だからまあ、そーいうこと。

とにかく、策はまさに完璧。これ以上ない完全無欠の計画。びた1ミリも狂いがなかった。



はずだったのにね~。

あれれ~?なんぞコレ?
なにこの状況。

うん、改めて思う。


くたばれ☆ブリブリミル!


あばばばばばばばばばばばばばばば!!!






「星が…綺麗ですね」

「そうね」

「こんな日は、1人で物思いとかに耽りたいものですよね」

「そうかしら」

「ふふっ。じゃあ、私はちょっと森の方へ用事があるので」

「へえ。何の?」

「…“お花を摘み”に」

「すぐ傍に寮があるのに?わざわざ森まで?」

OK、冷静になれ。まず状況を整理しよう。

①作戦を完遂し、窓から飛び出ていざ新世界へ!
②あ、マチルダ姐さんお久し振りです。

以上。
自分でも何がどーなってこーなったのか意味不明だぜ☆

ってか、おマチさんが夏期休暇に学院を訪問するイベントなんてあったか!?
この人は確か、ヒゲと2人して後の方でコソコソ雑用してたはずだ。なのに何しに学院に来てるの?
つい懐かしくて?盗賊リベンジ?いや、原作に書かれてなかっただけで、実はコッソリ学院を監視し続けてたとか??
うぅ、聞いてない…じゃなくて“読んで”ないぞこんな展開!?

「ええと、ミス・ロングビル」

ひっひっふーひっひっふー、ラマーズだ!心のラマーズ呼吸法で冷静な私よ戻って来い!
大丈夫、大丈夫だ。
原作に書かれてないって事は、重要イベントじゃないって事のハズ。てきとーに会話して終了の可能性もある。多分。

「あら、その名前で呼んでくれるの。でもフーケでいいわよ。なんなら“土くれ”でも」

「いやー、私としては知的で優しいミス・ロングビルの方が…」

「フーケ」

「あ~、ミス・フーケ、私になんて用はないだろうし、きっと目障りだと思うのでささっと可及的速やかに退散、」

「謙虚ね。でも退散なんてしなくていいわよ、あんたに用があって来たんだし」

………はい?

「というか今朝から監視してたんだけど。部屋にお邪魔しようと思ってたけど、まさかそっちから出て来てくれるとはね」

…ええと。

「それで、窓からコソコソどちらへ行こうと?ミス・メイルスティア」

「いえ別にその何というか散歩的なモノに行」

「こういう場面での冗談は嫌いなの」

「ちょっとトリステインからサヨナラしようと」

ちくしょう。
まさかのピンポイント☆ターゲット。

何で?
何でフーケが?
私に用って?
恨まれる覚えなんて…あ、ココアでぐるぐる巻きの件があったか。なーるなる。

じゃなくて!!
脳味噌フル回転。

①叫んでみたりする ⇒ ルイズとか来る ⇒ フーケ撃退 ⇒ 明日処刑
②戦う ⇒ 負ける ⇒ 私刑という名の処刑

よし詰んだ。なんという無理ゲー。解決策なし!
あかるいみらいがみえない。

「…トリステインから?それ、どういう意味さ?」

あばばばばばばばばばばばばばば…って、え?
今や私は“土くれ”と同様にお尋ね者状態…むしろ小物のくせにアンアンからピンポイントで目を付けられてる“国家反逆者”なのだ。
さらばトリステインっていったら、理由はそれに決まってるでしょーに。

ああ、もしかしてこのヒト、事情を知らないのか?
無理ないか。“私”も本来は知らないハズの裏情報だし。こうして見事に看破し、逃亡を企てたんだけどね。
さっそく詰みかけてるけど。

…ん?
待てよ。
そうだ、今の私はフーケとほぼ同じ状態!
もしかすると、何とかこの危機を切り抜けられるかも!!
希望が…希望の光が見えてきた!!

「…ミス・フーケ、ちょ~っと場所移動しませんか?知ってると思いますけど、学院にはルイズとか才人君とかいるし、騒ぎはマズいと思うのです」

とりあえず、この場を離れよう。
そして何とか同情を買うなりして見逃してもらおう。

てか、それしか生き残る道がなっしんぐ。難易度ハードな人生は伊達じゃ~ないぜ!!




※※※※※※※※




窓にも“アンロック”を掛けさせてもらい、フーケと2人で森へ。

こんな夜中に女2人で誰もいない森に…禁断的な香りがしますわフーケお姐さま!
…とかまあ、アホな現実逃避はいいとして、やって来た。
ここまで来れば多少騒いだって学院に声が届くことはないだろう。それが安全なのか危険なのかは別として。

「それで、どういう事なんだい?あんたの“おともだち”を呼ぶこともしないし、忌々しいあの使い魔すら一緒じゃない。それどころか抵抗すらせずに、こんな場所まで来てるしね。一体あんた、何を企んでんのさ?」

フーケが実に怖い目で私を睨む。
美人って顔が整ってるだけに、怒るとやたら怖いな。アンアンに睨まれたよりはまだマシな気分だけど。

そして、“呼ばない”んじゃなく“呼べない”のだ。ココアと一緒じゃないのも、一緒だとマズいから。抵抗なんかはするだけ無駄だし。
最初のフーケ戦ですら何の役にも立ってなかったのに、タイマンでどーしろと?
だから警戒解いてぷり~ず。

「いえ、企んでなんて…いませんよ。私はさっき言ったとおり、この国から去ろうと思ってるだけなんです」

そう、アナタの目の前にいる哀れで貧弱で取るに足らない小娘は、今やトリステインとか虚無とか関係ない、ただの薄汚い逃亡者。
こんなクズ子を殺したり痛めつけたりするのは、元有名盗賊かつトライアングルメイジのプライドが許さないですよね?
鼻で笑って見逃して下さい。

「去る、ね。つまり逃げるっていうことかい?…で、“何”から逃げようと?」

今現在は貴方から逃げたいです。

やたらと鋭い目で睨んでるフーケ。何だ?何をそんなに訝ってるんだ?
まあいい、説明すれば『あーなるほど、アンタも私と同じ犯罪者だからか!納得納得!』とかまあ、そんな具合になるはず。
なって欲しい。

「ええと、実はですね、私は」

「マチルダ、“逃げる”でなく“去る”と言った彼女の真意が分からないか?」

…実に聞きたくない声が聞こえた。
フーケがいる時点で“もしかして”とか思ってたけど、嫌な予感は当たるんだぜ!
あばばばばばばばばばばばばば!!!!

「久し振りだ、ラリカ」

「こんばんは、ワルド様」

上空からの声に応える。
無駄な抵抗だけど見上げたりはしなかった。1秒でも長く現実逃避させてくれ。

「マチルダ、うまく連れ出せたようだな。しかし森に行くとは…少し探したぞ」

「………まあ、ちょっと事情があってね。で、あんたの方も、準備は整ったってわけ」

うん。大丈夫。
大丈夫じゃないけど大丈夫!!
大丈夫なの!!

そうだ、プランに何の狂いもない。
トライアングルとスクエアがドットのケチな犯罪者をどーこーしようとなんて微塵も思わな

「ラリカ」

「はい」

グリフォンに跨ったヒゲ男が降りてくる。
ヒゲ…あれ?

「あ、おヒゲ、」

トレードマークというか、コイツの唯一にして絶対のアンデンティティーであるヒゲが…消えた?

「ん?…ああ。いい加減鬱陶しくなっていたのでね。その、何だ。…変か?」

「いえいえ、カッコい~ですよー」

まあ、普通にイケメ~ンですよー。心底どうでもいいけど。
ヒゲ子爵は何をしたってアレだから、正直あんまり興味はないのです。てか、何でコイツ自慢のヒゲ剃っちゃったんだろ?暑くて口元がムレたか?
しかしこれから(心の中で)何て呼ぼう。ヒゲはもうないし…ロン毛でいいか。

「………、そうか」

「…?」

何だこの微妙な間は。その妙に穏やかな笑みは。あと、なぜ睨むんですかマチルダ姐さん!?
いや、ヒゲ男(現ロン毛)のヒゲの事なんぞどーでもいい!そんな事よりさっさと説明、

「ああ、そうだ。マチルダから聞いたと思うが、君にはついて来てもらう。すまないが、拒否権はないと思ってくれ」

絶賛聞いてないです。

アレですか?人質的な?だったら人選間違ってますよー。こんなゴミクズみたいなの、人質としての価値というか人間的な価値すら皆無。
せめてシエスタ…あぁ、ダメか。
私のせいでシエスタは現在ヒロイン対象外。トライアングルの赤青コンビの難易度考えたら私一択になるな。
やはり人選ミスだけど。

いや待て違う、そうじゃなくて!!

「“真意”…ねぇ。それ、どういう意味さ?」

いや、私が聞きたいです。
ワルドは答えず、私に意味ありげな笑みを向ける。私は愛想笑いでそれに何となく応え、フーケは再びこっちを睨みつけてくる。なんだこのカオス。
だれか助け…自分で切り抜けるしかないか。味方なんぞどこにも微塵もなっしんぐ。

「おっと、今はそれよりも…ラリカ」

「はい。…ええとですね、」

「そう時間もない。答えを聞こう」

オマエは人の話を聞け。

てか、さっき拒否権なしとか言ってたんだから、答えも何もないでしょーに。
ダメだ。とりあえず逃亡不能は確定っぽい。
トライアングルとスクエアからドットが逃げられるなんて1%もない。
奇跡でも起こらなきゃ無理だ。そして奇跡はルイズとか才人みたいなのの為にあるモノで、私のよーなクズに起きるわけがない。

でも、うぅむ。
ワルド&マチルダ組か。
“佐々木良夫”の原作知識では、後ろの方でコソコソ雑用してる準脇役。別の虚無とか色々凄いのが出てきて、正直ほとんど印象に残ってない感じだ。

もしかすると、2人の役目は例のハーフエルフ少女(ヒロイン候補)を登場させるためだけの可哀想なアレかもしれない。
何気にこの2人、危険度は限りなく低いのかも。少なくとも無能陛下殿が死ぬくらいまでは。

「一応ですけど、私は人質としてはお役に立てませんよ」

役立たずは死ねとか言われる前に、一応確認。そんな価値ないしね。
期待してもらっちゃ困る。
確かにキュルケやタバ子を攫うよりずっと難易度低いけど、それは難易度に見合った程度の価値しかないって事でもある。
賞金首的な価値は出るかもだけど。コイツらはそんなの魅力と思わないだろう。

「分かってるさ。君は“そういう”少女だからな」

笑うワルド。
ふむ。実に正当な評価だな、うん。でもそうなると逆に私を連れてく意味って何ぞや?
……
ワカラン。
さっぱーりだ。
でも、悩んでいる時間はない。

分かっているのは、ロン毛は私を人質にしてルイズどーこーする気はないって事。フーケも(絶賛睨んでるけど)復讐的なアレはとりあえずなさそうって事。
そして、私の置かれてる状況とかを今説明しても逃がしてくれそうにないって事だ。

…覚悟を決めるか。決めるしかないし。
実に消極的な決意ですな。あばば。

「では、ふつつかものですが。お供させていただきましょう」

大丈夫。

まだ何とかなる。
作戦はかなーりアレな方向にブレてしまったけど、私の心はブレてない。
脇役に降格した(はずの)2人と一緒に行動してれば、そんなに危険はないはず。
そして折を見てフェードアウトすればいい。

大丈夫。

本物のミョズさんとか、さっきから視線が痛いマチルダ姐さんとか、そもそもヒゲ…じゃなくてロン毛とか、不安が胸いっぱい夢いっぱいだけど、大丈夫。
何とかなる。何とか、する。


今までだって何とかなってきたし。大丈夫だ。






大丈夫。


………だよね?




[16464] 第五十一話・グリフォンの背に乗って。素敵じゃない空の旅を
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:99efb4d6
Date: 2010/09/02 03:21
第五十一話・グリフォンの背に乗って。素敵じゃない空の旅を




れっつ☆しんきんぐ・たいむ。あんど“駆け引き”おしゃべりんぐ。




グリフォンに2人乗りで空の旅。

ココアよりはやーい♪けれど、微塵も嬉しくなーい♪
てかこのグリフォンってラ・ロシェールで乗った子?うん、ロクな思い出がないぜ☆
そして後ろを飛ぶグリフォン・フーケ号。あーんど私の荷物。
後頭部にフーケからの視線を感じる。痛いくらいに。理由は未だに不明だけど、確実に睨んでるな、あの人。



「君は、」

ロン毛の声。
もちろん前を向いたままだから表情は分からない。
これがココアの上とかなら結構自由に体勢変えられるんだけど、乗グリフォンは基本的に乗馬と同じだ。向き合うどころか横向きに座るのだって無理。
まあ、コイツの顔とか別に見たくもないからいいんだけど。

「はい?」

「相変わらずのようだね」

「あー、相変わらずとは?」

「聞き及んでいるよ。アンリエッタ姫…今は女王陛下か。彼女に弓を射ったそうだな」

あれって一応極秘じゃなかったっけ?何で知ってるんだ?
ああ、地道なスパイ活動の成果か。
戦争中だし、情報戦は何より大事。きっとお城の中にはスパイの1人や2人、ザラにいるのでしょーね。
てか、それより気になるのはコイツが“それ”を知ってるならフーケも知ってるはずってコト。
でも確かにあの時、トリステインから逃亡するって言う私を訝ってた。
ど~いうコトだろう。情報伝達とかがアレなのか?

「あ~、あはははは…。まあ、やっちゃったな~って感じですよ。でも、」

「後悔はしていないんだろう?」

「はい。ああしなくちゃ、いけなかったですから」

あの時はね。

後悔するとしたら、最初の一撃で仕留めなかった事。
誰かが殺ってくれるとばかり思ってた事。
原作メンバーの友情パワーとか忠誠心とかをナメてた事だ。
信じる者が“すくわれる”のは足元だけだ。特に主人公補正とかも皆無で、逆に死亡フラグだけは乱立する私みたいな屑モブにとっては。

まあ、それが再認識できたのは収穫かも。まだ死んでないし、前向きに行こう。
後ろを向いた途端に奈落の底へGOだから。

「…もしかして、『こいつアホだなー』とか思ってます?」

ワルドが小さく笑う。
思われてるな。確実に。
もしここがグリフォンの上じゃなくて、ワルドが私より弱かったら叩いてやるのに。

「だが、君の一撃は効いたようだ。アンリエッタ女王はあの一件で大きく成長した。ウェールズ皇太子の2度目の死で、女王が怒りに我を忘れると予想していたんだがね。私情で国を、兵を動かし、徒に戦争を加速させると思っていた。だが、今の彼女は冷静だ。トリステインが現在何をすべきかを考えている」

いえいえ、現在進行形で怒ってますよ、主に私に対して。
アンアンの神聖アルビオンに対する怒り具合が原作より低いのも多分、私が原因だ。

戦闘前の会話で勘違いされた挙句、どうやらゾンビ殿下は恋人だったアンアンじゃなく、なぜか私に『よろしく』言って逝ったそうだし。
恋しさ余って憎さ1000倍。しかも死人に口なし、お相手は貧相なドットの小娘じゃプリンセスのプライドが許せないでしょー。
というわけで、アンアンの怒りは分割されたんだろう。私6割あと4割くらいに。

「はい。効いたと思いますよ。………私も、イタかったですから」

その結果がコレ。ごらんの有様だぜ!
アイタタタ~&あばばばば。

「…」

ワルドは答えない。
ま、どーせ呆れてんでしょ~。

「君は。…大概に君も、不器用だな」

「上手く立ち回れたらな~とは思うんですよ?でも、あはは…まあ、結局私は私だってコトみたいです」

あははと軽く笑い、ちょい自虐。
ワルドなんぞと話しても楽しくないけど、気まずい沈黙よりはマシだ。
私としてはさっさと連れて行く理由とか諸々を教えて欲しいんだけど、焦りは禁物。生殺与奪権は現在進行形でロン毛にあるんだし。
会話の中で徐々にそっちの話題に持ってくしかない。

「…」

「…」

でも今はどうやら沈黙タイムっぽい。空気を読んで黙ってよう。


うん、その間にちょっと整理しようか。

原作乖離しまくってて、もはや原作知識なんてあってないようなモノだろーけど、それでも大きな流れは変わらないはずだ。特に私が関ってない流れなら余計に。
正直、どーでもいいやと思ってたけど、ロン毛と行動を共にする(いずれサヨナラしてみせるけど)なら必要不可欠っぽい。

現在、夏期休暇の真っ最中。

“原作”だと、5巻ってトコだ。アンアンの命令で間諜することになったルイズ&才人が、オカマの人の店で働きながらラブコメる。
で、赤青コンビとギーシュ、モンモンさんがその店に行ったりなんだりで、まあとにかくラブコメる。ラブコメにアンアンも微妙に加わる風味。
後に学院に来る平民の女騎士が新キャラ登場してほんのりルイズと行動。ただしルイズはあんま活躍しなかったような。

結局は何だかんだでアンアンとその人が活躍して、裏切り者を倒して終わる。
確かそんな流れだっただろう。

そして当然の如く“原作”では微塵も語られてなかった“前回の私”だけど、普通に実家に帰ってた。
まだ狩りもできない役立たずな“私”だったから、肩身の狭~い思いをしながらボロっちい自室に篭ってるっていう惨めな帰郷だった。

…あんま思い出したくない&微塵も重要じゃないから帰郷の日々はうっちゃっておいてと。

休暇が終わって学院に戻り2ヶ月くらい経った頃、確かケンの月くらいに“アルビオンへの侵攻作戦”が発布される。戦争本格スタートだ。
学院の男子生徒は募兵官と共に城へ消え、学院が女子校みたいになり、年末、ウィンの月くらいに…うん、“あの夜”だな。

ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア(1回目)、バッドエンド。焼死。
焼き加減はミディアム?ウェルダン?レアは生々しすぎだから勘弁して欲しい。


ふむふーむ。

この知識を基準に考えれば、“最初の私”と同じ結末を迎える可能性はゼロだろう。
でも死亡フラグなんてどこに転がってるか分かったもんじゃないし、現状だってピンチには変わりないから安心とかしちゃ~いけない。


で、恐らく私のせいでいろいろアレになった“この世界”の状況。

アンアンの命令で間諜にはなったけど、ルイズ&才人はオカマの人の怪しい夜のお店で働くことなく、これ以上ないくらいに健全なお店で働いた。
聞けばギャンブルなんてやろうとも思わなかったようで、むしろお金は増えたらしい。
忙しそうなあの様子とか、トラブルなさそーな職場から見て…2人が原作くらいラブコメったのかも怪しそうだ。
とゆーか夜は学院に戻ってきてたし。ルイズはほぼ毎日我が部屋に泊まってたし。
イチャイチャ一緒に寝ればいーのにね。…暑くて無理か。


街で働いてるのが赤青コンビに見付かるのは一応原作と同じ。でも状況は全く違う。

昼のお店と夜のお店、如何わしい酒場とお洒落なカッフェ。当然と言えば当然だ。
キュルケも特にルイズを馬鹿にする事もなく(バイト終わるのを店で待ってて一緒に遊びに行ったりしてたし)、ルイズもにこにこしながら“今日のおしごと”を話したりしてた。

そして重要な乖離だけど、アンアンはラブコメ要員に加わらなかった模様。
やはり状況が原作と全然違うからだろうか。とにかく、才人は毎日普通にルイズと一緒に帰ってきてたし、休日も私とか学院の誰かと遊んでたんでアンアンと接触した気配は全くなかった。
裏切り者はどうやら才人とかいなくても解決できるレベルだったようだ。


こんなトコロか。

裏切り者イベント後、次の“お話”は確かルイズの実家へ行く話だったはずだ。
シエスタ連れて、何かいろいろ…まあ内容はいいや。とにかく、“次”はヴァリエール家へGOイベント。
時間軸的には“侵攻作戦発布後”、つまりこの夏期休暇が終わって2ヶ月くらい後になる。

何が言いたいかって言うと…その間は“何も起こらなかった”ってコトだ。
少なくとも“物語”に重要なイベントは。

いよいよもって現状がイミフだな。
学院に訪れた準脇役、そして連れて行かれるどーでもいいモブ女って。

人質にする気はないみたいだし、利用価値が本人である私にも見出せない。
シェフィールド=ミョズミョズだって知り、例の騙りがバレたって線も考えられたけど…ワルドの態度を見る限りそうでもなさそうだ。

一体全体、ロン毛は何がしたい?
そして何だか刺々しい態度&コトある毎に睨んできたフーケは?
分かるのは、恐らくルイズ達に…原作メンバーにとってはそんな重要なイベントじゃないって事くらい。

まあ、私なんかがどーなろ~とセカイは微塵も揺るがないから当然っちゃー当然なんだが。


…整理終了。

これから数ヶ月は原作的に重要なイベントはなかったし、もし原作にはない作戦を考えてたとしても、駒が私じゃできることはたかが知れる。
つまるトコロ、大局には影響ないワケだ。

だったらやるべきは1つ、なるべくいいタイミングでコイツらからオサラバする事だな。
やはりミョズ姐さんが(バレる的な意味で)心配だし。“前回の私を殺した”ヤツらと感動の再会?(今回は殺されはしないだろーけど)なんぞしたくもない。



「君は、何も訊かないんだね」

ナニを?
って、ああ、連れてく理由とかか。いや、ホントは無駄話なしでちゃちゃっと訊きたいんだけど。
そりゃー、ヘタこいて機嫌を悪くさせたら死ぬし。小物には小物なりの考えってモンがあるのです。

「必要なら、言ってくれると思ってますから」

もしくは会話中にさりげなく聞き出す。
ストレートに訊くのは無理ってもんだ。

「僕は君らの“敵”なのにか?」

「私はワルド様の“敵”じゃないですよ」

この状況で『そうですね、敵ですよねー。おのれワルド!』とか言えるワケない。
それに色んな意味で“敵”じゃないのは事実だ。
個人同士の実力差からしてもそうだし、国民的にも私はトリステインをオサラバした身だしね。愛国心ゼロ。

「僕はトリステインを裏切り、君の親友を傷付けた」

「私も結果的には似たようなものですよ?一緒です」

「違うだろう?僕は自分自身の目的のため。君は…」

「この問答ってタルブでもしませんでしたか?」

「分かってるさ。だがやはり、」

「ワルド様。一緒、です。…おんなじですよ」

激しい横風に、思わずワルドに摑まった腕に力が篭る。
ちょっとヒヤっとしたなー。まあ、多少のことじゃ落ちはしないだろうケド。
てか黙るなワルド。回答ミスったか心配するじゃないか。

「…分かった。もうこの質問はよそう。そして約束する。いずれ、全て話すことを」


ナニがどーしたんだ?もっと何か聞かれたりすると思ったのに。
ま、いいか。とりあえず今はこれが限界なんだろう。
さっさと情報収集したいけど、仕方ない。その“いずれ”に期待して、いろいろ策を考えとこうかな。

何だかんだで、トリステインからの脱出自体は上手くいったし。
徒歩か馬で逃亡を考えてたけど、グリフォンのお陰でかなり早く遠くまで来れた。
見方によっては幸運。
ネガティヴのスパイラルに陥ったら抜け出せないから、ポジティブ思考で考えよう。



胸の中に生まれた微妙な不安を伴い、空を翔る。

はてさて、これからど~なることやら。
前途多難。モブに相応しくないくらいのトラブル続き。

でも挫けないぜ私!一瞬あばばしても即立ち直って見せるぜ自分!!


もうブレないと誓ったし、せいぜい足掻いてやるのです。うふふのふ。





………。


「ところでワルド様。さっきからずっと背後から刺すような視線を感じるんですが」

「少し飛ばしすぎか?しかしこちらは2人、マチルダは1人乗りだ。君の荷物はあるが、そう重くはなかったはず。追い付くのが辛いことはないと思うが」



………ええと。


「…ですよねー」










<Side ワルド>




―――――― ああしなくちゃ、いけなかったですから。


自らの全てを懸け、『大切』を見失いかけた王女への諫言。
揺るがない想いを乗せた矢はアンリエッタの身体だけでなく、心までも貫き…王女は女王になった。


―――――― はい。効いたと思いますよ。………私も、“痛かった”ですから。


しかしそれは彼女の心も抉り、傷跡を残した。
誰よりも他人の心を理解できる彼女だからこそ感じただろう、痛み。
あの事件で最も“痛みを負った”のは誰だったのか。


「君は。…大概に君も、不器用だな」

「上手く立ち回れたらな~とは思うんですよ?でも、あはは…まあ、結局私は私だってコトみたいです」

だから…“去る”ことを選んだのか。
“最上の忠臣”であるからこそのけじめ。どんな形でも主君に弓を引いた自らへの戒めとして。

いや、理由はそれだけではないだろう。
以前の旅でも感じていたが、今日一日彼らの動向を観察して確信した。
ルイズとガンダールヴ、あの2人との間には単なる“友人”というだけでは済まされない感情が存在している。
ともすれば依存にも見えるくらいに甘える“虚無”に、自らの主であるルイズへ以上の好意を向ける“神の盾”。

ルイズは恐らく、トリステインよりも彼女を優先して“虚無”を揮うだろう。
“神の盾”は恐らく、主である少女と彼女のどちらも天秤にかけられないだろう。
彼女らがただの学生だったら問題なかったかもしれない。青春だと微笑ましくさえあったかもしれない。
しかし、それは適わない。彼女に依るその2人は、今やハルケギニアの重要人物たる存在なのだ。

今は絶妙なバランスで保っているとはいえ、いつ崩れるか分からないアンバランス。
崩れれば、取り返しのつかない事態にも発展しかねない現実。

彼女は、2人にとって“支え”か“弱み”か。

忌まわしきユンユーンの記憶、全てを懸けた諫言の理由。
…導き出される彼女の“真意”。


「―――― 君は、何も訊かないんだね」

簡単な事情説明はマチルダから聞いているだろう。
しかし、それだけで納得してもらえるとは思っていなかった。それなのに。

「必要なら、言ってくれると思ってますから」

「僕は君らの“敵”なのにか?」

「私はワルド様の“敵”じゃないですよ」

かつてタルブの夜に交わした言葉が脳裏に掠める。

「僕はトリステインを裏切り、君の親友を傷付けた」

「私も結果的には似たようなものですよ?一緒です」

違う。

「違うだろう?僕は自分自身の目的のため。君は…」

「この問答ってタルブでもしませんでしたか?」

分かっている。
そして“こう”答えられるのも分かっていた。彼女なら“そう”答えてくれると、心のどこかで確信していた。
しかし再び問わずにはいられなかった。

「分かってるさ。だがやはり、」

「ワルド様」

言葉は凛とした声に遮られる。

「一緒、です。………おんなじですよ」

…!

摑まる彼女の腕に力が篭る。
微かだが、確かな感触を僕は見逃さなかった。
表情は窺い知れない。だがそれだけで十分に解る。…解ってしまう。

「…っ」

ルイズの髪を撫でる時の、優しい眼差し。
ガンダールヴとの掛け合いで見せていた、楽しそうな笑顔。
そんな中で秘めていただろう、決意と想い。

辛くないはずがない。悲しくないはずがない。
だが、それでも彼女は揺るがない。信じた道を、真っ直ぐに見据えている。

「…分かった。もうこの質問はよそう。そして約束する。いずれ、全て話すことを」


彼女が去ろうとしたその日に、自分は彼女を攫いに来た。
それだけの偶然。
おこがましく“運命”などと言う気はない。“奇跡”などと信じてもいない言葉を使う気もない。

ただ、確信できた。
自分の選択は間違いではなかったと。“優先順位”は正しかったと。

そして誰へともなしに願う。

この“偶然”が、互いにとっても“必然”だったと思える日が来るように。
互いの『大切』が、ぶつかることなくいられるように。



――――― 強く儚い少女の温もりを、この背に感じながら。




[16464] 第五十二話・語られない物語
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:99efb4d6
Date: 2010/09/24 03:25
第五十二話・語られない物語





もう、正しい“世界”が分からない。





ゼロの使い魔5 トリステインの涕哭

才人はある日突然異世界ハルケギニアに使い魔として『召喚』されてしまった高校生。
ご主人様の美少女メイジ・ルイズや、その親友ラリカたちと暮らしつつ、元の世界への手がかりを探している。
夏期休暇を迎え、学院に残ったいつものメンバーはそれぞれの休日を楽しんでいた。
才人、ラリカ、タバサ3人でピクニックに出掛けたり、アンリエッタ女王に頼まれた町の偵察では、ルイズがカッフェのウェイトレスになったりと充実した毎日。
しかしそんな穏やかで幸せな日々は、何の前触れもなく崩れ去ってしまう――。
気付けなかった後悔、守れなかった自分への怒り。残された手紙に何を思うのか……。
異世界使い魔ファンタジー、波乱の第5巻!




ぼんやりと、“5巻”を見る。

表紙に描かれた“私”は憂いを含んだ微笑を浮かべ、控えめに手を振っている。
それは誰に向けてのものなのか?
“無二の親友”ルイズ?“思わせがちな男の子”の才人?
それとも“妹みたいな”タバ子か、“理解者”キュルケか。大穴で、ギーシュ?
解釈は見る人それぞれだろう。

ゼロの使い魔5 <トリステインの涕哭>

大好きな親友が、ようやく気付けた愛しい人が、“ねえさま”が、一番の理解者が、本気になった相手が、目の前からいなくなってしまう物語。
かつてアルビオンで為されるはずだった、ルイズたちの“成長”を促すために必要な悲劇。


悲劇か。
…悲劇、ねぇ。


力なく溜息をつき、小説を傍らに置く。

ルイズたちの悲しみや苦悩を思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
“私”のせいだけど、“俺”にはどうすることもできない現状。全部分かっているのに、どうにかできる知識もあるのに、何もできない。
佐々木良夫にできるのは、ただ“いち読者”として“物語”を傍観することだけだ。

5巻以降の小説、思えばずいぶん変わってしまった。
事故に遭う前に読んだシナリオはとっくに崩れているだろう。“ラリカ”が持つ原作知識など、もう何の役にも立たない。

それでも足掻き続ける“私”。
色々な人の想いに気付けないまま素通りして、あるいは知らずに踏み躙って、泥沼に嵌っていく無様な少女。哀れな少女。

望む平穏を邪魔するのは運命でも誰かの悪意でもなく、単純な『自業自得』なのだ。
それが理解できない限り、“私”はいつまでも屑のままだろう。そして多分、“私”は最期まで理解することはできないだろう。

教えてやれるのは“俺”だけなのに、それなのに。


頭が痛い。

きっと、“朝が来た”のだろう。もう“起きる”時間だ。
そしてまた、“私”の茶番が始まる。
破綻したシナリオの上で、知っていたからこそ分かる乖離に悩み、道化は何を踊るのか。

次の出番は数巻先だ。そしてそれは……。
ここからしばらく、ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティアの、語られない物語が始まる。
語られないがゆえに、読むことができない。今の“俺”にそれを知る術はないのだ。
“私”としてこれから体験する以外には。


“5巻”の表紙で微笑む、泣き笑いの“私”をそっと撫でた。


……屑は屑で、屑のまま。
どうしようもないとしても、せめてもう、“私”が誰かの不幸になりませんように。
壊れてしまったシナリオが、少しでもいい方向へ進んでくれますように。



傍観しかできない無力な当事者は、そう願ってみる。





霞む意識と、止まらない鈍痛の、中で。








※※※※※※※※




「あ、やっと起きた。おはよう、ラリカ」

清水がさらさらと流れるような、涼しげな美声。
ゆっくり開けた目に眩い金色の光が…まあそーいう表現はいいか。詳細は原作参照。
とりあえず凄い美少女がベッドに寝る私を見下ろしていた。

「…ん、おはよー」

笑顔を造って挨拶を返す。
学院の寮よりも上質っぽいベッド、実に心安らぐ花の香り、モーニングコールをして微笑む超絶美少女。
人は多分、こーいうのを“夢みたいだ”と言うだろう。

でも、“知ってる天井”は明らかに私の部屋。夢じゃ~ない。
うん、完全に目が覚めた。現実世界にかむばっくだ。

「うなされてたみたいだけど、大丈夫?変な夢でも見たの?」

うなされてた?確かに夢は見てた気がするけど、内容なんぞ覚えちゃ~いない。
夢なんて所詮は夢なんだし、私が見るべきは現実なのだ。
といってもまあ、

「いやいや、別に問題ないですよ~。ティファニア」


……“悪夢”は絶賛続行中だけどネ☆




よし説明。
話は約1週間前に遡る。

①なぜかアルビオンじゃないどっかの島に到着
②私「説明求む」 ⇒ ロン毛「ここ安全。しばらくここで待機な」 ⇒ 私「ほいさ」
③金髪エルフ登場「マチルダ姉さん、ワルドさまお久し振りです!この人が以前仰ってた云々」
④どう見てもティファニアです。本当にありがとうございました。
⑤あばばばばばばばばばばばばばば!!
④1週間経過

そういうことだ。

正直、何を言ってるのかよく分からないと思うけど、私にもよく分からん。
分かったのはココがどう考えてもウエストウッド村じゃないってコトと、イコールこのままいくと才人の死亡は確定っぽいってコトだ。

7万の軍と戦って瀕死になり、デルフパワーでその場は脱出。でもまあそこまでで、森の中でひっそりと息を引き取るだろう。
南無南無アメ~ン。才人死亡のお知らせ。
ゼロの使い魔、バッドエンド。

アルビオンとの戦争の結末も変わり、タバ子女王の未来もサヨウナラ、計画完全終了だ。
うむ、明るい未来が微塵も見えないな!まだ時間があるからテンパってないけど、ひょっとしなくても今までで最大の危機っぽい。

グリフォンの背の上で感じてた不安は的中というか、むしろ斜め上を逝ったぜ!!
あばばばば。

直接的な主人公死亡の危機っていう未曾有の状況にど~してなってしまったのか。
危機的な原作乖離はシエスタのコトもあったけど、あれは危機っていっても間接的な危機だったし、原因も簡単に分かった。対処法だって。
でもコレはあまりに予想外すぎた。

ティファニアなんぞ前回の人生では微塵も関ってないし(というか登場前に私は死んだし)、今回も間接的にさえ関って…まあ、フーケとはほんのチョッピリ関ったけど、それで何かが変わるとは思えない。
それとなく聞いてみたら、ちょっと前までは森の小さな村に住んでたけど、フーケの勧めでこの島に引っ越したんだと。
どうやら島はロン毛のアホがどっかの貴族から買ったんだと。
海は綺麗でお魚は美味しいし、安全で平和でホントにいいところよ?だと。

もう、何がナニやらどーなってんだか。
正直、最初の5日間くらいは現実逃避して半分バカンスしてたぜ!



「いい天気だから、シーツとか全部干しちゃおうと思って。だからラリカ、今日の朝食はお願いしちゃっていい?」

輝く笑顔で言うティファニア。
実に幸せそうだ。悩みなんぞこれっぽっちもなっしんぐって感じ。
性格も普通に明るくていい子だし、原作登場時点でそこはかとなく漂ってたネガティブなオーラがない。

そうなるのも頷けるけど。
この島を売った貴族にしてみれば退屈極まりない島だっただろうけど、だからこそ約束された平穏がある。
迫害される心配ゼロなココは、彼女にとってまさに楽園なのだろう。

「お任せあ~れ。干し終わる頃には食べれるように用意しとくよ。しかし味の方はあんまり期待しないでぷりーず」

こっちも笑顔で応える。
彼女の笑顔と比べたら、まさに月とスッポンだろう。いやそれ以上の差だな。
外見、内面、全てにおいて完全敗北。ま、それがサブヒロインとモブ以下クズ女との差といえばそれまでなんだけど。

「そんなことないよ。ラリカの味付け、わたしは好きだな」

「何と言う殺し文句。ティファニアが男の子だったら間違いなくトキメき~のな台詞!ふぉーりんらぶするかもかーも?」

「ふふっ、ラリカが言うと本気なのか冗談なのか分からないよ」

当然ながら、いっつハルケギニアン(?)ジョーク。
ゆりりんぐなアレは私にはNOTHINGだ。

「レディ~はミステリアスな方が魅力的なのです。誰かさんみたいにナイスなバディ~がないぶん、そっち方面で勝負!負けないぜー」

原作で才人が革命どーたら言ってた胸に向かって言ってみる。
もちろん既に惨敗してるのは承知の上だし、比較してもらえるレベルにすらなれないのも分かってる。
…もはや虚しさすら感じない程に。

「そんな事…ってラリカ、どこに向かって喋ってるのよ」

「いや、本体さんに」

「もう…」

それからテキトーに冗談を交わし、部屋を出た。
この1週間でそれなりのレベルまで友好関係は構築できたっぽいな。現実逃避なバカンスの日々も無駄じゃなかったぜ☆
…ま、とりあえず、これで乖離修正の第一段階は完了だ。第二段階は未だ思案中だけど。

原作だと才人相手にオドオドしてたティファニアだったけど、私が同性ってコトでファーストコンタクトから順調な滑り出しだった。
それにフーケかロン毛から私のことを聞いてたらしく(どういう内容かは知らないけど)、警戒心もほぼゼロ。むしろ同年代くらいの友人ができたと喜んでいた。

私が例の耳を見ても怖がらないのもポイントが高かったみたい。
才人みたいな異世界人はともかく、ハルケギニアの人間は普通エルフを恐れるモンだし。
私の場合は原作で彼女が人畜無害って知ってた&“佐々木良夫”世界の“エルフ”のイメージの方がデカかったからなんだけどね。某RPGとか。
“先住魔法”にも動じない大物とかいうワケじゃーないのです。そこんトコロは知らぬがブリブリミル。

…しかしそんな裏事情は知らないハズなのに、私が長い耳を見ても動じなかったのを当然っぽく受け止めてたロン毛はよく分からんな。
フーケはちょっと驚いてたってのに。

まあどうでもいいか。とにかく、そーいうワケで友好関係は多分上々。
ルイズたち相手に磨いた、我が友達作りスキル(ただし“嘘の私”でだけど)は多少アップしているようだ。
いつか本当に友達とか作れる日が来たら活用しよう。
来るといいなー。現状キビしいけど。




※※※※※※※※




けっこう長い廊下を抜け、キッチンに着く。

学院寮の部屋にあった簡易なのとは違い、本格的な厨房だ。コックが私じゃ猫に小判だが。
さすが貴族の別荘だっただけのことはある。てか、いち別荘なのにメイルスティア家の本宅より数十倍立派ってのが悲しい。慣れてるけど。

「さてと、これからどーしましょーかね~」

誰ともなしに呟く。
ようやく茶番が終わると思ったら、今度はティファニア相手に友情ゴッコ。ホントの私はいつカムバック?
このままじゃー嘘の仮面が完全に張り付いちゃって、私が私じゃなくなるかもかーも。なんて。
…若干本気で心配だけど。

「ホント、どーなるコトやら」

独り言なんて、いよいよヤバいな私。
危機は危機だけど時間はまだある。
ラ・ロシェールのワルド戦みたいな緊急でもないし、ゼロ戦の時よりもずっと猶予はある。アンアンみたいに直接自分が狙われてるワケでもない。

大丈夫。

やるべきコトは分かっている。
才人サイドをどーにかするのは無理だから、ティファニアをどーにかすればいいのだ。
どうやってどーにかするのか。

時間はある。大丈夫、今までだって何とかなったし、きっと恐らく多分大丈夫。なハズ。
まだ大丈夫なはずなのに…嫌な予感が未だに止まらないのはど~してだろう。



…。




てか最近、“大丈夫”って連呼してるなー。
ひょっとしなくても、私の“大丈夫”って全然“大丈夫”じゃ…




………。






うん。

ま、とりあえず、魚でも焼こうかな。



[16464]  幕間16・閉じこもった世界で
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:99efb4d6
Date: 2010/10/05 00:36
幕間16・閉じこもった世界で




――――― いつか私はいなくなる。

いつまでも傍にはいられないから、一緒にいられなくなるから。



その時は、








屋敷の中庭を駆ける。

迷宮のような植え込みの陰に隠れ、追っ手を…母をやり過ごす。
二つの月の片一方、赤の月が満ちる夜。

『ルイズ!まだお説教は終わっていませんよ!ルイズ!」

母の声は遠ざかって行く。
出来のいい姉たちと魔法の成績を比べられ、物覚えが悪いと叱られる毎日。逃げ回る自分と、それを追う母。幼い自分の日常風景だ。
隠れた植え込みの下から、誰かの靴が見える。

『まったく、ルイズお嬢様はどうしてああなんだろうねえ。上のお嬢様方はあんなに優秀だというのに』

『難儀なこった。このままだとどうなるんだろうねぇ』

言葉の刃が胸に突き刺さる。
悲しくて、悔しくて、歯噛みをする。
召使たちが植え込みの中をがさごそと捜し始め、慌ててそこから逃げ出した。

足は『秘密の場所』に、中庭の池に向かう。
唯一安心できる場所、人のあまり寄り付かない、うらぶれた中庭。
池に浮かぶ小船に忍び込み、用意してあった毛布に ――――

毛布?

この毛布は、私のじゃない。
優しい匂いがする。
優しくて、暖かくて、でもなぜか、



『そろそろ起っきしないとダメだよー。お昼になっちゃうよー。もう1人で起きれるんじゃ~なかったのかなかなかーな?』

毛布を剥がされ、“彼女”と目が合った。
場所は小船じゃなく、綺麗に整頓された“彼女”の部屋。もう何がどこに置いてあるのかまで知り尽くしている、通いなれた部屋だ。

あれ?何で私、

『何だ、起きてるじゃーないですか。ぐっもーにんぐお寝坊さん。その様子なら今朝は洗顔ブラッシング&お着替えコースは要らないっぽいですな~』

“彼女”はどこか冗談ぽく、そして瞳は優しく自分を映している。
いつもと変わらない、そんな一幕。何度も繰り返した朝の風景。

…すごく大切な、幸せな“日常”。

途端、何もかもがどうでもよくなり、疑問が、抱いていた不安が、悲しみが、怒りが霧散する。

「ラリカ?」

『ふむふーむ、いかにも私は正真正銘混じりっけなしの100%天然ラリカでありまーすが。いきなり何を言い出すルイズおぜうさま。寝惚け、』

「ラリカ!」

思わず彼女に抱き付いてしまう。
よく分からないけど、そうしないといけないような気がしたのだ。
彼女は一瞬だけ驚き、でもすぐに受け容れてくれた。まるで子供をあやすかのように背中を撫でてくれる。

『怖い夢でも見たのかな?ま、いろいろあったから仕方ないかも。ただの学生から一変、最近は波乱万々丈だもんね』

怖い夢?
そうだったっけ?分からない。
怖い夢なんて…、幼い頃叱られた時の夢の事だろうか?
確かに不安だった。悲しかった。でも、何か違う気がする。

「いろいろ…そうね、いろいろ…あった」

大好きな親友の胸に顔を埋めたまま呟く。
曖昧なまま、でもどうしてか、今彼女を放しちゃいけない気がした。

『才人君を召喚して、フーケ騒動があって、アルビオンに行って。みんなで宝探しもしたっけ。“竜の羽衣”がまさかホントに飛ぶなんて驚いちゃったね?』

「…」

思い出が蘇る。
大変だったけど、辛いこともあったけど、それでも楽しかった日々。

『惚れ薬の時は大変だったな~。まさかギーシュ君と相思相愛ふぉーりんらぶ状態になるなんて。でも、ワタクシあんな薬には負けないのです。…実は気合で我慢してたのは内緒の方向で』

「うん、あの時改めて思ったわ。ラリカは強いなって」

『はっはっは、艦隊殲滅したルイズが何をじょーだん。強いのはルイズだって。アルビオンの後にもそう言ったじゃ~ないですか』

「…うん」

『心の強さに虚無のチカラ、ルイズはホントに強くなったよ。いや~、親友として鼻が高いですな!それに才人君をはじめ心強いにも程がある仲間もたくさんいるし』


――― だから、大丈夫だよね?


「え?」

『ん?』

「今、何か…」

顔を上げる。
目の前にはラリカの笑顔。
ほんの十数サントの距離にあるのに、少しだけ遠く感じる。


――― だから、私がいなくなっても、


「!?だ、だめっ!!」

思わず叫ぶ。
今、何かを思い出したような気がする。
とても重要な何か。重要なのに目を背けたくなるような何か。
思い出しちゃいけない、何か。

ラリカはやはり微笑んでいる。
でも、…あれ?
なんで、こんなに遠く感じるの?

『どーしたルイズ?まだ寝惚けて…あ、そっか。寝惚けてるんじゃなくて、』


「ラリ、」




『 まだ、眠ってるんだね 』




「あ…」


全部、思い出した。

思い出してしまった。





暗転。









枕が濡れている。

私はベッドから上体を起こし、薄暗い部屋の中をぼうっと眺めた。
閉め切られた厚いカーテンのせいで、今が朝なのか夜なのかすら分からない。頭に重い霧がかかったようで、時間の感覚がなくなっている。

あれから何日経ったのだろうか。
部屋から一歩も出ず、ときおりベッドから出て、扉の前に置かれた料理を食べるだけ。
誰が置いてくれているのか分からない。味が分からない。それでも食べる理由は1つ、餓死してしまわないためだ。
ただ死なない程度に生きているだけ。
いや、今の私はただ死んでいないだけで“生きて”いないのかもしれない。


こんなことじゃダメだってくらい分かっている。
ラリカは死んだわけじゃない。ココアにまだ刻まれているルーンがその証。
…そのはずなのに。

私やサイトの言うことに、まるで私たちの使い魔みたいに従ってくれるココア。でも、なぜか『ラリカのところへ案内して』という命令には全く反応してくれない。
『ラリカ』という名前にすら何の反応も見せてくれない。
繋がっているはずなのに、主と使い魔の絆は決して切れないはずなのに。

まるで、案内できる“先”が存在しないみたいに。あの優しいご主人様を忘れてしまったみたいに。

ココアのルーン、部屋の“奇妙な惨状”に、残された日記。まるでこの事を予測していたかのような…あの手紙。
何がどうなっているのか。どうすればいいのか。
確かなはずなのに不確かな“希望”に、わけの分からない現実に。

私は動けないでいる。
私の時間は止まってしまっている。

夢の中でなら、いつでも逢えるラリカに…逃げてしまっている。
本物じゃないのに、それでも触れたくて、抱き締めて欲しくて、慰めて欲しくて。
本当に助けが必要なのはラリカなはずなのに。


…だめだ。やっぱり私は強くなんかなってなかった。




毛布を、彼女の部屋から持ってきた毛布を抱き締めた。


そう。私は強くなんかない。



強くなんかないから、大丈夫じゃないから、













ラリカ


















オマケ
<その頃の某クズ子さん>


「ティファニア~、釣れた~?」

「まだ一匹も…。ラリカは?」

「ティファニアの10倍ほど釣れてるよー」

「凄い!ラリカ、才能あるのね」

「うん、そこは突っ込んで欲しかったりして」

「え?」

「よぅし計算問題!ゼロかける10は?」

「あ。…もう」

「ま、気楽に行きましょ~。どーせ今日はヒマだし。釣れたら釣れたで食事がほんのり豪華になるし。それにせっかく海があるんだしね」

「そうだね。でも…、ふふっ」

「ん?どーかした?」

「ううん、まさか初めてできた同年代のお友達とこんな時間を過ごせるなんてね。何だか、少し前のわたしじゃ想像もできなかったから…何だか、“いいな”って思ったの」

「楽しんでもらえてるようで何よりかな?とりあえず退屈はしてないみたいで、発案者としては嬉しかったり」

「そういえば、何で釣りだったの?確かにこの島には娯楽とかないけど…」

「1日幸せになりたかったらワインを飲みなさい」

「?」

「1週間幸せになりたかったら結婚しなさい。1年幸せになりたかったらマイホームを建てなさい。そして、一生幸せになりたかったら釣りを覚えなさ~ぃ」

「何かの諺?」

「いくざくとりーその通りー。こう見えて、実は幸せになるための第一歩を歩んでいるのでありま~す。…まあ、そう言いつつ未だに一匹も釣れてないんだけど」

「幸せになるための第一歩か。うん、まだ時間はたっぷりあるし、のんびりやろう?」

「全面的に賛成。マタ~リと、いきましょーか」



[16464]  幕間17・推理は“踊る”。されど“進まず”
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:99efb4d6
Date: 2011/02/16 23:46
幕間17・推理は“踊る”。されど“進まず”




謎が生まれ、憶測が芽生え、推理は語る。…ていうか、何だか予想外に事態は深刻になってたでござるの巻。知れぬが私。




「…ミス・ヴァリエールは、」

赤髪の少女、ミス・ツェルプストーは溜息をつき、かぶりを振る。
まだ、か。

「そうか。…なら、出直すとしよう」

「混乱してるのよ。何が何だか分からなすぎて、そして余りにもショックが大きすぎて。何も出来ずにいるの。ある意味、思い切り悲しんだり怒ったり出来てた方がマシだったかもしれないわね」

「………無理もない。だが」

「そうね。でも、“らしく”ないわ。もう10日以上経つのにね。いい加減、部屋から引き摺り出してやりたいけど…」

同時に寮を見上げる。
夏期休暇中の魔法学院。殆どの生徒は里帰りしており、残っていたのは“彼女”を含めて僅か数人。
数日前までは“事件”の調査団で騒がしかったここも、今では元の静けさを取り戻しているようだ。

「しかし不思議なものだな。トリステインのヴァリエール家とゲルマニアのツェルプストー家、因縁は聞き及んでいるが…君らの関係は“そう”ではないようだ」

「最初の頃は想像する通りよ。でも、事実どういうわけか“こう”なっちゃって。ご先祖代々の伝統もどうやら私の代でお終いみたい。ま、トリステインとゲルマニアも今は同盟なんて組んでるし、そういう時代だったのかもね。それに、」

ミス・ツェルプストーは小さく笑う。
…あの忌まわしい事件の夜に見た、自信に満ち溢れた笑顔とは違う、どこか寂しげな笑みだった。

「―――“誰かさん”にも『諦めて友情しなさい』って言われちゃったし、ね」




※※※※※※※※




門まで戻ると、騎乗してきたのとは別のヒポグリフと、傍らに立つミランの姿があった。
表情で今回の訪問も果たせなかったのを察したか、彼女は成果を訊くことなく、気遣うような笑みを見せるだけに留めてくれた。

城へと戻りながら事件の事で何か進展があったか訊く。
やはり、こちらも色好い報告は聞けなかった。



魔法学院の女子生徒の不可解な“失踪”事件。
家柄はヴァリエール家と比べるべくもなく、失踪した彼女自身も特別な力を持っていたわけでもない普通の生徒。
このまま学院の夏期休暇が終わったとして、何人が彼女の不在に気付くか。
聞けば平民の使用人たちと交友があったそうだが…貴族の、学生たちの間では特に目立つ存在でもなかった少女。

彼女が、“それだけ”なら、話は済んでいた。
不可解な事実は残れど、ただ“謎の失踪”という形で締め括られていた。未解決事件などいくらでもあるのだ。

しかし、“彼女”は“虚無”の唯一無二とも言える親友で。
あの忌まわしい事件を解決に導いた“最上の忠臣”で。
そして女王陛下が求めた…、

「エルデ殿?」

「ああ、悪い。どうした?」

「いえ、この事件、どうなっていくものなのかと」

「そうだな。だが、俺に聞かれてもさっぱりだ。以前にも言ったが、頭脳労働は向いてない。…まあ、この事件に関しては、頭のいい連中も推測しかできてないわけだが」

そう、全てが推測の域を出ない。
残され“過ぎた”痕跡が、何もかも確かな事実を導き出し足りえないのだ。


部屋は“半分だけの惨状”と、“半分だけの日常”。
服や本が焼け焦げ、破壊された弓に折れた杖が転がる、明らかに戦闘…もしくはそれに近い何かがあったと思われる半分。
食べかけの食事に飲みかけのワインが、まるで少し席を外しているだけかのように思える半分。

何がどうなっているのか、理解できない。
どこから考察すべきかも分からない。

残された食事だけを手掛かりと見れば、“犯行時刻”はおおよそ割り出せる。
内容が夜食とは思えないものであり、彼女の親しい友人らが
『あれは彼女がよく作ってくれた朝の定番メニューだ』
と証言したことからも“朝食”であるのは間違いないだろう。
夜が明け、第一発見者となったミス・ヴァリエールと…女王陛下が彼女の部屋を訪れるまでの2、3時間。それが導き出される時間帯だ。

だが、これは本当に手掛かりと見ていいものなのか。
なぜ、この“朝食”は無事だったのか。
“犯人”が仕組んだ偽の痕跡ではないのか。
だが“犯人”が仕組んだとして、こんな事をする意味があるのか。



“半分の惨状”は、戦闘を行った“犯人”とは別に、戦闘の余波や戦闘で漏れるだろう音を防いだ“共犯者”の存在を匂わせる。

当日、女子寮にいたのがミス・ヴァリエールにミスタ・ヒラガ、ミス・モンモランシの3名だけだったとはいえ、誰一人として異常に気付かなかったのは部屋の防音能力だけでは惨状の規模からして説明がつかないからだ。
戦闘要員が彼女と戦い、消音担当(おそらく高位の風メイジ)がその音を消し、もう1人が戦闘の余波を防いで部屋半分のみを壊すに留める。
それが完成すれば、確かにあの奇妙な部屋は完成するだろう。
しかしそれも所詮は苦しい辻褄合わせでしかない。


そもそも彼女はミス・ヴァリールのように“虚無”でもなく、ミス・ツェルプストーやミス・タバサのようなトライアングルでもない。
どこにでもいるようなドットの女子学生、それが彼女なのだ。
戦闘能力は決して高くない。いや、正直に言えば“弱い”。

魔法学院に忍び込み、他の誰にも知られずに任務を遂行できるような者にとっては“敵”ともいえない相手のはずだ。
“犯人”の目的が暗殺でも誘拐でも、あんな痕跡など残すはずがない。

暗殺ならば朝、部屋に死体が転がっているか、もしくはその死体すら見付からず失踪したように消えているかだろう。
殺したことを隠すつもりがなければ前者を採るだろうし、捜査の撹乱がしたければ後者を採るはず。

誘拐なら後者一択だ。
不安を煽らせて身代金でも要求するなら話は別だが、それこそあり得ない。
つまり部屋があんな状態になるほどの激しい戦闘など、どちらにせよ不要なはずなのだ。

「また、」

「ん?」

「難しい顔をされてますね。その、エルデ殿も“彼女”が心配ですか」

「“メイルスティア失踪事件”は今や最重要案件の1つだからな。残された日記にあった情報だけでも価値は測り知れない。それが彼女自身ともなれば、当然だろう」

残された日記は最後の個人宛の手紙部分以外、国の預かりとなっている。
アルビオンでの悲劇、恐るべき“ユンユーンの呪縛”、不完全な解呪ゆえに欠けてしまった心と、水の精霊が告げたという真実。
そして、流れ込んだ“ミョズニトニルン”の記憶、侵食される心とそれに抗う決意。

…その内容の重大さに、一介の少女が立ち向かっていたという事実に、日記が公開された最初の会議では一時、場が驚愕に静まり返った程だ。




神聖アルビオン共和国の皇帝、クロムウェルは死者を蘇らせる“虚無”を謳っているという。
しかしそれは“虚無”ではなく“アンドバリの指輪”の力だという。それは蘇ったウェールズ皇太子という実例で目の当たりにしている。

しかし。

「最重要案件。対アルビオンの、ですね」

「アルビオンの“虚無”、皇帝クロムウェルに対する情報が少な過ぎる現状、彼女のまだ持っているだろう“記憶”と“情報”は無視できないからな」

「伝説の使い魔“ミョズニトニルン”がいなければ、魔法の指輪を使ったペテンという可能性も考えられたかもしれませんね。ですが、恐らくクロムウェルは本物…」

「……ああ」

「指輪を用い、死者を蘇らせるのを“虚無”と騙ったのは、単純に分かりやすい形で“奇跡”を見せるため。もしくは、真の“虚無”の力を隠しておくため。両方という可能性もあるでしょうね」

「そう考えるのが妥当だな。死者を手駒にできるというだけでも厄介なんだ、加えて未知の“虚無”ともなれば慎重にならざるを得ないだろう」

「やはり“彼女”は未知の“虚無”が何であるか知っていたのでしょうか。日記にもそれを仄めかすような記述がありましたし。そして、何らかの理由でそれを知ったクロムウェルが“始末”を命じた」

「確かにそれなら“犯人”の所属、動機としては申し分ないな。尤も、確かにそうだと言える証拠も何一つないんだが」

「ですが可能性としては最も高いでしょう。そして、それが真実だとすれば彼女の生死は…」

「誘拐なのか暗殺だったのか、証拠となり得るものが見付からない今…どう判断することもできない。使い魔のルーンも生死の確かな証拠にはなりそうにないしな」

彼女の使い魔、ココアに未だ刻まれたままのルーン。
使い魔の契約が外れるのは主従のどちらかが“死んだ”時だ。確かにそれは正答。
死んだ使い魔からはルーンが消滅し、それと同時にメイジは新たな使い魔を召喚することが可能になる。
1人のメイジに対し、1体の使い魔と1つのルーン、それが使い魔契約の理だ。

ただ、その逆パターン…つまりメイジが使い魔より先に死亡した場合のルーンの在り方についてはあまり知られていない。
契約により喋れるようになった使い魔がメイジの死後も喋った例もあるという。
ただし、これもあくまで一例に過ぎない。どちらとも簡単に判断できる問題ではないのだ。

「だが、使い魔が“あの”メガセンチビートだ。こう言うのも何だが、あれが人間に懐く…というより本能以外の行動をするなど普通はあり得ない。しかし今もミスタ・ヒラガらの命令を忠実に聞いている」

メガセンチビートは幻獣でも、ましてや犬や猫など普通の動物でもない“ただの虫”だ。
体躯こそ巨大だが、基本的にはその辺りを這う虫と同じ。知性はなく、理性も感情もない。長い時間共に過ごしても絆の類など生まれない。
あるのは捕食や睡眠、繁殖という生物の基本的なもののみ…有態に言えば本能だけの生き物だ。
つまりルーンの力、使い魔契約の効果がなければ、あれが人間に従うことなどあり得ない。

「生きている可能性の方が殺された可能性よりも若干程度には高い、ということですか?だとすれば…誘拐?また“ユンユーンの呪縛”か、もしくは“アンドバリの指輪”で操るか、それともただ監禁したのか…」

「操るという目的で考えると、殺害した後“アンドバリの指輪”で操るにしろ、“ユンユーンの呪縛”を使うにしろ、彼女を失踪させる意味が分からないがな。もし、操るならもっと“上手く”やれるはずだ」

それこそ、『普段通りに朝を迎えたら、彼女は既に操り人形だった』という具合に。
操り人形と化した彼女は、誰にも気付かれないままミス・ヴァリエールらと、そしてアンリエッタ女王陛下と接する。これ以上の“手駒”はないだろう。
特にあの朝、もしそうなっていたなら…トリステインは“虚無”と“女王”を一度に失っていたかもしれない。

それが、実際は不可解すぎる痕跡を残しての“失踪”。
もし今後、彼女がひょっこり戻ってきたとしたらまず疑われるだろう。そんな無駄なリスクを負ってまで、一時的にしろあんな形で失踪させる理由がない。

「では単純に誘拐し、どこかに監禁しているだけという可能性が最も高いということに・・・なりますね」

言いながら、しかし腑に落ちない表情を浮かべるミラン。
言葉にこそ出さなかったが、今の答えもおよそ納得できるような代物ではないのだろう。
言えば、また疑問が生まれる。憶測の堂々巡りが始まる。

解き明かそうとすると深まる謎。全ての痕跡につきまとう不自然。
そう、これが…この違和感に満ちたモノこそが“この事件”なのだ。


痕跡が、可能性が、推測が、どれもが“繋がらない”。

点は点のまま、線になることなく宙に浮いている。
どれかを考察すれば、別のどれかが否定される。どこから手を付ければいいのか判断できない。
重要すぎる情報の断片があるのに、それを証明できるピースが見付からない。

考えれば考えるほど…分からなくなる。身動きが取れなくなる。


「………もどかしいな」

「え?」

「何もできない事が、もどかしい」

アルビオンが黒幕で、彼女は生きている。だから助けに行く。
殺された。ならば復讐する。
思考を放棄し、“そう”と決め付けて行動できれば。怒りに身を焦がせたら、悲しみに呉れることができたら、どれほど気が楽か。どれほど良いか。

だが、それができない。
トリステインにとっては、彼女の持つ情報が重要過ぎるがゆえに。
彼女の友人らにとっては、彼女という存在が大き過ぎたがゆえに。
だから我々は同じく、何もできないでいる。

憶測ばかりを堂々巡らせ続けている。中途半端に漠然とした悲しみへと逃避している。
何も、結局何もできないでいる。


「事態は、必ず動きますよ。この前の“狩り”のように、完全な犯罪なんて存在しません」


「…」


「いつか、何かの綻びは起こるはずです。今は確かに何もできないかもしれませんが…いずれ、きっと」


気遣うように、控えめに笑みを向けるミラン。
自然とこちらの頬も緩む。

…確かにそうかもしれない。不確かは、言い換えれば可能性。
あの少女がいなくなったという事実を前に、自分でも気負い過ぎていたかもしれない。

それに。
この国に絶望しかけた自分に、希望を示してくれた彼女なら。
“虚無”を支え、“伝説”に想われ、ゲルマニアやガリアの友人らを繋いだという彼女なら。
王女を女王へと成長させた、“最上の忠臣”なら。
そう簡単に終わるはずがない。
根拠などないが、そう思える。心のどこかでそんな淡い“希望”を抱いている自分がいる。


「そうだな。…確かにそうだ、ミラン。愚痴っていても、始まらないな」



何もできない。


身動きが取れない。






そう、…“今”は、まだ。
















オマケ
<とある日のクズ子さん>


「昼寝をしてたと思ったら、起きたら深夜だった件について」

「…このところ、すっかりだらけちゃってるよね。わたしたち」

「ちょっと家事して食べて寝る。間食飲酒バッチコイで。うわ~なんという桃源郷生活。これは確実に太るな!」

「う、やっぱり?規則正しい生活に戻さないと…!」

「ティファニアは今のままでイーンダヨ。ムネ…もとい本体さんに栄養が行くから他の部分は太らないしね。私は絶賛ダイエットするけど」

「いや、それはないから!それに本体って…もう。その、そんなに変なのかな?」

「変というか何というか、恐らく正常なオトコのヒトなら煩悩直撃かもかーも。まあ、とにかくソレ目当ての野獣さんたちには気を付けよーね」

「何だかよく分からないけど、うん。気を付ける」

「指きりげんまったトコロで、とりあえずこの微妙な時間をどうするか考えよっか。今寝たら確実に寝坊する自信があるぜ!かといって、無理に起きてると明日が辛い」

「お話でもして過ごす?ラリカの話、面白いからまた前の続きが聞きたいな」

「ほいさ、りょ~かい。じゃ、ワインを飲みながらがーるずとーく(?)といきましょ~か。おつまみはクラッカーでいい?」

「うん。さっそくダイエット失敗っぽいね」

「大丈夫。明日から頑張る」

「うわ、全然大丈夫な気がしない…」

「でも、結局『それでもいいかな~』と思うティファニアであった。ちゃんちゃん♪」

「もう。…ふふっ、でも、もうそれでいっか」

「だね~」




[16464] 第五十三話・こっちはこっちでナニかが進む
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:2677e6bd
Date: 2010/11/22 01:42
第五十三話・こっちはこっちでナニかが進む




あ~ばば、あばば。島の中の鳥は、いついつ出れる?夜明けの晩に、屑と虚無が出会った。私の未来はど~こへ?




とりあえずもう1週間ほどダラダラ過ごしてみました。てへ☆

…ってのは冗談で、どうしようもなかったってのがリアルな本音。等身大の自分。自分探しの旅に出たい。具体的に言うとガリアへ。
うん、できることならとっくにそ~してるんですがね。あばばばば。


とゆーか、この状況ってもう身動きとれない。
ここは我がメイルスティア領みたいな“陸の孤島”じゃないホントの意味での“孤島”。
どこの国の領土に属してるかも不明、屋敷のてっぺんから360度見渡してみても陸地っぽいのは見当たらない。
まあ、本土と簡単に行き来ができちゃったらティファニアの危険が危ない(?)し、とーぜんっちゃ~当然なんだけど…こっち側からも島から出られません☆

“フライ”による逃避行飛行も無理。どっちにどれだけ飛べばいいのか分からない空の旅なんて蛮勇を通り越して自殺行為だ。
確実に途中でガス欠を起こして母なる海へと還るだろう。海のモクズにはなりとうない。

ここは平穏が約束された“檻”だ。見張りもいなくて柵も見えない完全包囲。
出る気とか皆無っぽいティファニアにとっては普通に天国なんだろーけど。



「ラリカ?」

「ほいさ」

隣に座ったティファニアの声に我に帰る。

「どうしたの?ぼうっとして」

「物思いに耽っていると言ってくれたまへ。そっちの表現の方が淑女的にいい感じゆえに。…ま、ちょろっと考え事をね~」

ティファニアとの間に築いたエセ友情は、今も無駄に育まれてる。
まあ、この島にいる彼女と同年代の女の子なんて私だけだし、同居してるって時点で仲良くなるのは必然だ。でも、あんまり仲良くなりすぎるのも困る。
“虚無の知人”っていうステータスはルイズの件で懲りてるしね。

確かにティファニアはルイズに負けず劣らずいい子だ。大人しくて優しくて、ちょっと世間知らずっぽいのも実にテンプテーション。
容姿と性格の魅力値MAX。もし彼女が一般人で、“原作”に出てこない人材なら迷わず心の底から友達になって下さいとお願いしただろう。
…なれるかどうかは別だけど。

でも…残念ながらこの子は“虚無”で“重要登場人物”。加えてロン毛やおマチさんと密接すぎる関係を持っている。
この現状だと才人とのラブコメ要員にはなれそーにないけど、それでも“虚無”って時点で特別枠は確定だ。この世界が、時代が放ってはおかないだろう。
ゆえに、傍にいるとどんなトンデモトラブルに巻き込まれるか分かったもんじゃ~ない。

というか、ロン毛は私をなんらかの策に利用するために連れて来てるんだし、実際は現在進行形でトラブってるな。
つまるトコロ、ここは…彼女は私の目指す“平穏”な日常とはまさに対極な場所、存在。長居すればするだけ不利になってくし、ど~にかしておサラバせねば。

「考え事って、もしかして…“故郷”のこと?」

「あ~、そーいえばティファニアはワルド様たちから私のコト聞いてたんだっけ」

「うん。詳しくじゃないけど。…ラリカはトリステインの貴族、メイルスティア家の長女なのよね?そして、親元を離れて魔法学院に通ってるって聞いてるよ」

「いくざくとりーそのとおり~。わたくし、じつは貴族のおぜうさまなんですわよ?おほほのほ。………ま、ピンキリ中のキリキリなんだけど。平民(の中でも貧乏な平民)に一番近い貴族?うん。それもアレだから庶民派貴族ということにしといてぷりーず」

「ふふ、でもホントにラリカはいい意味で庶民派かも。最初、ワルド様から貴族の女の子って聞いたときはもっと“お嬢様”を想像してたから。ここの、こういう生活とか大丈夫かなって思ってた。でも」

「『メイルスティア領での“貴族生活”より優雅な日常が…ここにあった!』」

初日、ここでの生活を説明してくれたティファニアに言った台詞を再現してみる。
ちなみに気を利かせたとかジョークとかじゃない、まるっと事実を述べたまでだ。とゆーか、メイルスティア領より過酷な土地ってあるのだろうか。
…火山地帯とか絶対凍土とか?ヒトが住めそうにないからそーいうのは除外か。

「…なんて言うんだもの」

楽しそうにティファニアは笑う。
あの時も一瞬目を丸くした後、同じように蕩けるような笑顔で笑ったのだ。
いやー、我がニセモノなヘラヘラ笑顔とは月とスッポンですな。

「悲しいかな事実なのです。とまあ、そーいうワケもあり、“故郷”を想ってどーこーすることは無いかな。というかティファニアはど~なのかな?」

そういや我がダメ家族の皆さんはどうしているのだろうか?
一応『何かやっちゃったっぽいので逃げた方が吉かもかーも』みたいな内容の手紙を送っといたし、とっくに夜逃げしてるかも。

恨まれてるかなー。でも、そこそこ秘薬売ったお金とか仕送ってたし…でも無理に捻出した授業料とかには及ばないか。
そうまでしてこのダメ娘を送り出した目的だった、お金持ちの坊ちゃんとかとの良縁…いわゆる玉の輿?も果たせなかったし。
そもそも我が器量&メイルスティアのネームブランドじゃ最初からどーしようもなかった気もするけど。

うむ、個人的な判断で両成敗ってトコか。
“本来”なら、秘薬売ったりもせずに隅っこの方でひっそり学院生活した挙句に焼死ENDだったし、それよりはマシだな!若干。

「わたしは…、うん。たまに思い出したりは…するよ。でも、今が幸せだから」

そりゃ幸せだろう。
ウエストウッドでびくびく暮らすより、この“楽園”の方がいいに決まってる。私だって、環境的には魅力的だと思うし。あくまで環境的には。

ちなみにティファニアの過去に関しては(“原作”情報で知ってるけど)詳しく聞いてない。
ロン毛、おマチ姐さん両人とも『ハーフエルフの女の子』だとしか言わなかったし、ティファニア自身も身の上は語らなかった。
実にいい判断だと思う。さすがにアルビオン王弟の隠し子と告白されたらヤバいし。そんな秘密を知っちゃうと、主におマチさんから口封じされかねない。

そういえば、ロン毛はこの子が“虚無”だって知ってるのだろうか?
“原作”では確か、おマチさんのみの関りでロン毛とは接点なかったような気がする。でも、目の前の彼女からは普通に『ワルド様』なんて単語が出てるし、むしろ何だか親しげな感じもする。

原因不明の乖離だ。一体全体どーなってるのやら。
疑問は尽きないけど、聞くのは無理。知るのはリスクが高すぎる。
でも、もしロン毛が彼女を“虚無”と知ってるとすると、ティファニアの安全というより“虚無”の1人をストックしておくためにこの島を用意したのかも。
でもそんなのティファニア☆LOVEなおマチさんが許すはずないし…。ふむ?

この話題は終えた方がいいな。陰謀臭がする。
うっかり知っちゃいけないコトとか語られたら困るしね。私はあくまで“今は”ここにいるだけであって、永劫じゃ~ないのだ。

口封じで始末されるのはもちろんヤダし、口封じ回避のためにずっとここで暮らすハメになるとかもできれば遠慮したい。
とりあえず今日の夕食にでも話題を変えようと、顔を彼女に向ける。

…はい、どう見ても『わたし幸せいっぱいですぅ!』ってぇ顔じゃ~ないですね。

むしろ哀愁。いつポロリと“本音”を語り出すか分からない顔してる。
この話題は地雷だった…!
無駄に親しくなった弊害がココに。“こいつだったら話していいよね?”的な雰囲気バリバリなんですが。
…そうはさせるか。させてたまるか。

ティファニアが小さく溜息をつく。
そして、何かを決したように息を吸い込み―――、

「ラリカ。わたし、ね」

「おりゃ」

「ふあッ!?」

私の指が決意を砕く!話題を変えてと訴える!!喰らえ!雰囲気ブレイカー!!
指で彼女の脇腹を突く。色っぽいんだか何だかよく分からない声を漏らし、ティファニアは身をよじった。
その瞬間、今まで纏っていたアレな雰囲気が霧散する。

「なっ、何するの!?」

「ん?幸せ言ったくせに暗~い顔して溜息なんてついた友人に喝を入れようと」

「それは…」

「ティファニア」

理由なんぞ言わせないぜー。聞かないぜー。
いつでも逃げられるように立ち上がる。テキトー言ってこの場は逃げようそうしよう。

笑みを作り、驚き顔から再び暗~い顔になりかけたティファニアの頭をわしわし撫でた。
ぐちゃぐちゃの髪型、これではもうカッコつかないだろう。シリアスな話はこれで封じた!
…それにしても髪の毛さらさ~ら。ルイズとタメを張れるんじゃないか?しかも貴族生活してないのにこの髪質とは…やはりエルフの血か。おのれエルフ。
チート種族ずるいぜ☆

「ラ、ラリカ?」

「溜息つくと、シアワセが零れ落ちちゃうよー。“今が幸せ”なら、“今の幸せ”をぶれいくしちゃうよ~な行為は慎みたまへ。どぅゆ~あんだすたん?」

そう言いながら大仰にやれやれ、と溜息をついてみせる。

「でも今ラリカだって溜息ついたよ?幸せ、こぼれちゃうんじゃ」

「私のは“零れた”んじゃなく、“溢れた”のです。あまりにも多すぎて。盛り盛りも~りの表面張力、湯水の如く溢れるシアワセ?」

「…もう」

ティファニアも再び溜息。でも、さっきとは質が違う。
口元にも笑みがあった。

「あ、また」

「えと、今のは…溢れたの」

「おおっと。こいつぁ~1本取られたパクられちゃったぜー。しかもその笑顔で言われたら説得力MAX。…んじゃ、気を取り直したところで話題変更。今日の夕食の件だけど、貝のパスタが食べたい風味」

よし、パーフェクト。
自然な流れで話題を変えて、無難な会話に回避した。さすが私!
でも根本的な解決にはなってないかも。爆発するはずだった爆弾が不発弾になっただけだ。
この不発弾はいつ、どんなタイミングで爆発するか分からない。

「貝のパスタ?確か前に採ってきて干した貝が残ってたような…」

少し考える様子のティファニア。
ま、とりあえずの危機は去ったようだ。にしても、こやつはナニを言おうとしてたのか。
現状に不満?ウエストウッドよりも平和なハズのこの島生活が?多少はスリルがあった方が好きとか?
それとも、“友人”に隠し事をしてるのがいまさら心苦しくなったとか…?
前者だったら知ったこっちゃ~ない&私に言われても知らんし、後者だったら逆にいい迷惑だ。多少は気になるけど今後も話させないよう気をつけねば。

「そんな保存用のじゃなくても、時間はあるから採りに行けるよ。ヒマだし、もしアレだったら私が“フライ”でひとっ飛びしてこよ~か?」

屋敷から海岸までは徒歩30分程度。林を抜けて丘を下った先だ。一直線に飛んで行けば数分で着くだろう。
岩場で貝を採るくらい別に2人で行く必要もないし、この機会に独りで考え事をするのもいいかもしれない。最近はほぼ常に一緒に居たし。
こんなほのぼの日常ゆえに薄れかけてるけど、現在も絶賛ピンチ中なのだ。

うん、そうだ。いい機会かもかーも。もう充分に鋭気は養ったし、そろそろマジメに考えねば。
今後の身の振り方についてとか、アホのワルドが私にナニをさせる気なのかとか、“その時”の対策も練れるだけこねこね練っといた方がいいだろう。

「う~ん、じゃあお願いしようかな。4人分はどっちにしたってなかったと思うし」

「オケーイ、おまかせあ~れ」

よーし、じゃあ海岸まで…

…。

4人?

私、ティファニア、以上。
ん?アレ?

「ティファニア。計算問題です」

「え、また?」

「いちたすいちは?」

「あれ?…もしかしてバカにされてる?」

「はりーはりー!早く答えを!」

「…2」

「だよね~。私とティファニア合わせると2人だよね~?4人分って」

「わたし、ラリカ、マチルダ姉さん、ワルド様の4人」

「…後半のお二方はいないでしょーに」

「まだね、でも夕方には着くと思うよ」

「……初耳なよーな気が」

「言わなかったっけ?ええとね、定期的に2人はこの島に来てくれるの。調味料とかほら、お店もないし手に入らないでしょ?そういうのを持ってきてくれたり、後はいろいろ世間話とか、」

何かティファニアが喋ってるけど、聞こえない。
確かにこの状況だったらいつ“その時”が来たっておかしくはなかったけど!
やばい。まだ、な~んも対策考えてない。


あっるぇ~?
やだ…なにこれ…。このタイミングで?


いや、まだ大丈夫だ、“その時”が今回とは限らない。
多分大丈夫だ。恐らく、きっと!

…でも、私の“大丈夫”って…今までの経験上…




………。




あ、




あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば!!!!




[16464] 第五十四話・あなたの視線に心臓ドキドキ☆マッハビート
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:2677e6bd
Date: 2010/12/10 00:03
第五十四話・あなたの視線に心臓ドキドキ☆マッハビート




挫けそうです。誰か助けろ。




ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。

“俺”の記憶にある限り、言うまでもなく、“噛ませ”である。
美形っちゃ~確かに美形だけど、ヒゲのせいで実年齢より老けて見える外見で、同年代の少女達より(発育的な意味で)年下に見えるルイズに迫る姿はロリコンの一択だ。

ラ・ロシェールでは力に目覚めたばっかのガンダールヴ、しかも10歳くらい年下の相手に大人気なく勝ちに行き、露骨に実力アピール。
ある意味逆にカッコ悪さをアピールした。

アルビオンでロリ婚しようとして見事に振られ、ウェールズ皇太子を不意打ちで殺すものの、ラ・ロシェールでの借りを返すかのようにガンダールヴにボロ負け。
おぼえてろよー的な捨て台詞と共に去る。

その後も陰でコソコソ動いてて、タルブでも特に見せ場なくゼロ戦に撃沈。
あ、そうそう、学院襲撃の時は運び屋さんやったんだっけ。クロムウェルにいいように使われるパシり扱い。

偏在が使える以外にあんまりパッとしないスクウェア。ルイズのママンと比較すると余計にパッとしない。

一応グリフォン隊の隊長らしいけど、隊を率いてる描写も記憶にないし、ホントに偉かったのか疑問。とゆーか、ヤツが部下に慕われてる姿が想像できない。

…まあ、そんな重要人物が次々に現れ、ギーシュみたいなのでもどんどん強く、偉くなっていく“ゼロの使い魔”の中で忘れ去られていくだろう存在。


そのはずだったのに。



なにこの状況。




「…というのが現在のハルケギニアだ。恐らく、戦争は長期化するだろうな」

ディナーが終わり、夜も更けて。
椅子に深く腰掛け、真面目な顔で話すワルド。
ヒゲを失い、老け顔の残念なイケメンから年相応の普通のイケメンに変わり果てている。
ルイズへの執着も見せないからロリコン言えないし、どういうわけか小物臭がしない。
もうロン毛くらいしか馬鹿にする要素が…いや、ロン毛も先入観なしで見ると馬鹿にできるモノじゃない。何でヒゲ剃っちゃったんだよコイツ。もいちど生やせ。

傍らには壁を背に、腕組みしてランプの明かりを見詰め続ける悪役的美女マチルダ。

こうして見るとやはり知的だ。ミス・ロングビルとしてやってきただけの事はある。普通に有能だったみたいだし、実際生まれも良かったはず。
アルビオンのアレさえなかったら、普通に貴族の令嬢して今頃どっかの奥様と化してただろう。
それだけのスペックはあるんだし。足らなかったのは“運”ってトコか。

食事の後片付けをする美少女ティファニアは、彼の話を哀しそうな顔で聞いている。

戦争を憂うその姿はまさに心優しき正統派ヒロイン。実際そうなる“予定”だったんだけど。
とゆーか、この子も今はこんなしてるけど、実際は大公の娘でアンアンの従姉にあたる準お姫様。
私みたいな地方貴族のなんちゃって令嬢と比べるべくもない、血統書付きのおぜうさまだ。
ついでに胸が犯罪。おマチさんも普通にある方だけど、並ぶと霞んで見えるレベル。私とは比べないで欲しい。

ニヒルっぽいイケメ~ンな裏切りの騎士に、元令嬢で元秘書で元怪盗の知的美女、王家の血を引くハーフエルフの超絶美少女。
ひょっとするとコイツらだけで普通に“物語”になるんじゃないかって錯覚に陥りそうになる。

まあ、私って言うダメ人間が混じってる時点で台無しだろし、“この期間”は“原作”では普通に飛ばされていた空白の期間。いくらそれっぽい雰囲気で何かやってても、所詮は描写もされない脇役の集いなんだろうけど。


…しかしそれでも思い描いてたのと違う。
もっとこう、小物臭くて噛ませ臭が漂う小悪党の集いを想像してたのに。


「トリステインはアルビオンを空から封鎖するつもりでいる。アルビオンは他の国に比べて極端に資源が少ない。戦争が長期化すればするほど、アルビオンにとっては不利になるからな。慎重をきすのなら、正攻と言えるだろう」

実に無駄なくらいシリアスな雰囲気。
てか、ワルドが普通に重要登場人物に見える不思議。ルイズサイドには見られない、何ていうか硬派ファンタジーの空気が漂っている。

なんぞコレ?
それとスルーしてたけど、こういう会話ってティファニアに聞かせるのはアリなのか?
ワルドとの関りといい、彼女はナニをどこまで知っているんだろう?

「アンリエッタの“聖女”サマがてっきり強引な攻めに走ると思ったんだがね。どうやら“誰かさん”のお陰で冷静になったみたいで」

小さく鼻で笑いながらこちらを一瞥するマチルダ。
その視線に気付いたか、ティファニアも不思議そうな顔で私を見た。こっち見んな。
私は何も知らないっての。

嘘。

いくざくとりーその通りー、私が原因。でも冷静になったってのは間違い。
アンアンは例の作戦(ゾンビウェールズ☆大作戦)でアルビオン憎しになる前に、泥棒猫(誤解だけど)たるワタクシに憎しみを向けたってだけだ。

原作でも私怨を晴らすための戦争だとか独白してたし、現状、アンアンは対アルビオンに関しては“恋人を奪われた女”じゃなく“女王”として向き合ってるっぽい。



…よし、私も冷静になろう。

とりあえず難しい話はよく分からないので、顔だけ真面目にして聞いてたんだけど、とにかく何だか原作乖離が一段と激しいっぽい。
もしかすると、このぶんだと危惧していた『7万の軍相手に才人奮闘&瀕死⇒ティファニア不在のためそのままお陀仏』というイベントの根幹自体が消滅してくれるかもしれない。

そうだとしたら、私の最大懸念事項が1つ消えることになる。
しかも、ロン毛の話によると何だかんだで戦争はトリステイン有利っぽいし。長引くかもしれないけど、このまま行けば敗戦ENDになることはなさそうだ。

あ、何だか明るい未来が見えてきた。

「…そうだな。だがそのせいで君はクロムウェルに目を付けられた。覚悟のうえだったのは理解しているが、…無茶をする」

…明るい未来が見えなくなった。

はい?
クロ公が私に目を付けた?
え?
何それ?


は!?

「ラリカ…、そうなの?」

驚きの表情&やたら心配そうにティファニアが聞いてくる。知らんがな!!
私も初耳だっつ~の!!

お、オーケイ、冷静になれ。頑張って整理しよう。パニクれる雰囲気じゃないし!
ひっひっふー、ひっひっふー。心のラマーズ呼吸法。

「大丈夫ダイジョーブ。心配無用の無問題、だからそんな顔しないでぷり~ず。ほら笑顔!」

無理矢理笑顔を作り、その言葉だけ搾り出す。
実際は全然大丈夫じゃないけどな!!

…うん、やはりこれから“大丈夫”は極力使わない方向で行こう。むしろ大丈夫じゃない時に大丈夫って感じだ。
ナニを言ってるのか自分でも分からないけど実際に何がナニやらぁああばばばばばばば!!!

「大丈夫って…そんな…」

ティファニアが何か呟いてるけど知らん。
整理しなくては。どういう状況だ?あばばばしてないで考えねば!!


…あ。

分かった。
ついでにワルドが私みたいな屑モブに見出した“価値”も。

私はアンアンが憎んで止まない恋人の仇(間接的に)にして泥棒猫(誤解)。負の感情的な“エサ”としては実に優秀だろう。微塵も嬉しくないが。

でも目を付けられる理由、価値は分かったけど、どう利用する気だ?
原作みたく、アンアンに攻めさせるって状況にするためにエサとして使うのか?
でも憎っくき私が囚われてると知ったところで、奪うために戦争の方針転換するとは思えない。捕虜交換みたいに使う線も微妙だ。

爆弾でも仕込んでトリステインに送るとか?そしてアンアンが簀巻きにされた哀れなクズ子に満面の笑みで近付いた瞬間どっか~んとか。
いや、それとも“逃亡しようとしていた犯罪者を捕らえた”と言って私を城まで連れて行き、喜んだアンアンが直接褒美を取らせようとしたところを暗殺するとか?

…そういや、私の失踪って現在トリステインではどういう扱いなんだろ。
例の仕込みで時間は稼げたはずだけど、指名手配とかしたのか死亡扱いか。それによっても色々違ってくる。

何にせよ、ロクな使われ方をしなさそうってのだけは確かだな。


うん、ヤバい。
どうにかしてその作戦が決行される前に状況を打破せねば。パニックになってる場合じゃない。本気と書いてマジな話。
でも今の状況って完全に手詰まりだし、どうすれば…。

ティファニアを人質にして…無理だな。相手はスクウェアとトライアングル、こっちはドット。無謀すぎる。

寝静まった頃にグリフォンを奪って逃避行飛行…も無理だな。来た時はロン毛が一緒だったから乗せてもらえたんであって、私が幻獣を操れるワケない。ココアが今だけ恋しい。
どうすれば、

「ラリカ?」

「ん?」

ティファニアの声に思考の渦から現実に引っ張り戻される。
気付けばワルドもおマチ姐さんもこっちを向いている。え、ナニ?話はどうなった?

「そろそろ夜も更けた。今日はここらでお開きにしよう」

ああ、そういうこと。そりゃ賛成だ。
この空間からはさっさと抜け出したい。抜け出して暖かいベッドで寝て全部夢だったことに…はできないから、必死こいて今後について考えようそうしよう。

「そうですね。ワルド様もマチルダさんもお疲れのよ~ですし、夜更かしする意味もないですもんね」

一瞬、おマチさんが眉を顰める。
呼び名か。フーケって呼べと言われたんだっけ。
でもこの状況じゃ仕方ないでしょーに。
ティファニアも彼女が怪盗してたのを知ってるかどうか分からないし、もし隠してたんなら後で怒りを買うのは私なんだ。
“原作”でも才人たちに「言ったら殺す」的な忠告をしたくらいだから、本人も結局ティファニアには真実を教えなかったっぽいし。判断に間違いはないはず。

「じゃあ、わたしは2人の寝室を用意してくるね。ラリカはそこの片付けをお願いしていい?」

「お任せあ~れ。ワルド様、マチルダさん、おふたりはどうされます?一応、お風呂は用意してありますけど…」

もちろん平民用サウナじゃない、貴族風呂だ。
学園のよりは少し狭いけど、造りは無駄に豪華。普段は私とティファニア専用と化している。贅沢は敵だ。でも今だけは味方。

そういえばこの屋敷のお風呂は男女別とかになってなかったな。コレの前所有者は独身?それとも…ま、どうでもいいか。

「…そうだね。潮風のベタベタがちょっと気になってたし、入らせてもらおうかね」

自分の緑髪を軽く撫で、おマチさんが言う。
私の方が若いってのに、彼女の髪の方がキューティクル。そりゃ緑と灰色じゃアレか。ちくせう。

「ワルド様は?」

「僕は、」

「ああワルド、あんたが先に入ってきなよ」

「僕はそう気にならないし、別に後でも構わないんだが」

「いいから。ちょっとこの子と2人だけで話したいんだ」

視線をこちらに向けるおマチ姐さん。うん、がーるず☆とーくって感じじゃ~ないな。
軽く笑ってるけど目が笑ってないし。丁重にお断りしたいけど…無理だろう。
腹を括るしかなさそうだ。

「…マチルダ?」

「別に変な話じゃないよ、女同士の他愛無いお喋りさ。何だかんだでこの子と2人で話す機会も少なかったし、個人的にちょっと聞きたいこともね」

「分かった。だが、あの話は…」

「分かってるって。それは明日、あんたが直接言うんだろ?いいからさっさと行ってきなよ」

しっしと追い払うように手を振り面倒臭そうに言うおマチさんに、ロン毛は仕方がないといった風に溜息をつく。
これでワルド退場、ティファニアもベッドメイキングの旅に行っちゃったし、姐さんとマンツーマンか。嬉しくなさ過ぎる。


でも、ワルドにも残られて三者面談するよりはマシか。…多分。





※※※※※※※※




「ええと、お茶のお代わりいかがですか?ミス・フーケ」

「そう長話するつもりはないからね、別に要らないよ」

さっきまでと同じ位置、同じ姿勢のまま答えるおマチさん。
感情の篭ってない声は、明らかに私に対して心を微塵も許してないことを窺わせる。警戒なんぞはドット小娘に必要ないだろうし、単純に嫌われてるのか?
思い当たる節は…やはりココアぐーるぐるの一件か。そろそろ勘弁して欲しい。

「そうだねぇ…こっちの話の前に、聞きたいことがあるなら先に答えたげるよ。こんな状況だ、いろいろ疑問があるだろ?」

…なんだそりゃ?
いきなり質問タイム?意味ワカラン。
でもまあ、訊いていいって言うなら訊いてみよう。でも要らんコトまで聞いてピンチになるのはゴメンだから、慎重に。慎重を重ねまくって吟味して。

結局できる質問は1つしかなかった。“質問”するにしても“情報”が少なすぎる。
セーフ・アウトが分からない現状、どーしようもない。

それじゃあ遠慮なく、と前置きして訊ねる。

「ちょ~っと気になったんですが、さっきワルド様が言ってた“あの話”って何です?」

「そりゃあんたにやってもらう“仕事”の話だよ。詳しくは明日、あいつから直接聞くんだね」

あばば…ま、待て。落ち付け。パニくってはダメだ。死中に活を見出せなくなる!
冷静に、冷静になろう。ある程度予想はしてたはず。まだ時間はある。
ラ・ロシェールの時よりマシなはずだ!マシなはずだと思うんだ!!

「そうですか…」

「…」

「…?」

ん?
もう質問は終わった、

「それだけ?」

それだけ?って…。
他に何が聞けると?

深入りはできるだけしたくないのです。好奇心は猫を殺すって言うし、実際こんな状況になってる大元の原因であるアルビオン行きも、アンアンから(不本意ながら)例の話を聞かされたことに始まってる。
虎子を得る気もないので虎穴には入らない。地雷原に突っ込むのは勇気じゃなく蛮勇というのです。

「あ、はい。それだけです」

だからそう答えた。

「…そう」

途端、姐さんの目付きが鋭く…元から鋭い系の目だったけどより鋭くなる。
あれ!?何か私、失言したか!?

「何だかねぇ。………やっぱり、どうも私には…」

軽く目を伏せ、呟いた。

そして再び彼女の視線が…私を射抜く。
く、空気が…、


「………あんたさ、」


絶対零度の、声。

“前の私”時代には冷たい声とか日常茶飯事で聞いてたけど(罵倒的な意味で)、それよりずっと冷たい。
馬鹿にしてる、見下してる、とかじゃなく…。
うん。これはアレだな。間違いない。



敵意、だ。




「“何”なんだい…?」






[16464] 第五十五話・雨の孤島と女の勘
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:2677e6bd
Date: 2011/01/15 23:32
第五十五話・雨の孤島と女の勘




予感・直感・第六感。虫の報せに刑事の勘。勘にもいろいろあるけれど、女の勘だきゃ、ご“勘”弁。




外から雨の音が聞こえる。

昼間は雲ひとつなかったのになー。
山の天気は変わりやすいって言うし、メイルスティア領で実感してたけど、海の天気も変わりやすいんだ~。新・発・見。
とかまあ、現実逃避はこれくらいにしといて。
…よし、なんだこのピンチ。



おマチさんの視線はやたら(ある意味)熱いのに、声は絶対零度って言う不思議。お陰で空気もカチンコチン。沈黙が痛い。
私の第六感というか嫌な予感というか…それが警鐘を鳴らしまくって耳鳴りがするくらいだ。とにかく、何かヤバい。今までとは種類の違うヤバさだ。

「え、ええと…、“何”と言われましても…」

コイツは“ナニ”を求めてる?どんな“答え”を?
慎重に聞き出さないと。

「“何”ってそのままの意味さ。私にはね、どうも…あんたが“何”なのか分からないんだよ」

絶賛私も分からないです。

「…」

だから答えられない。
YES・NO無理なら沈黙しかないだろう。今はそれが最良のハズ。
…おマチさんも沈黙したけど。

「…」

「…」

「あんたは、」

感情の篭ってない声で抑揚なく喋り始めるミス・元ロングビル。
雨のBGMにその口調は、“俺”の頃に見てたドラマのシーンみたいだ。

うん、どんなシーンだっけ?
ああそうだ、殺人犯したヒトが刑事とかに動機とかを淡々と語るシーンだな。もしくは今から殺す相手に、どうして自分が殺されるのかを教えるシーン。
…嫌な予感しかしない。

「一体何を考えてる?何が狙いなんだい?そして、何を知っている?」

「え…、と、」

いきなり3連続で疑問文投げ付けられても困る。
でも、彼女も私の即答なんて期待してなかったようだ。

「何を言ってるのか分からない、って顔してるね。でも、分かってるはずだよ。あんたの行動は…不可解すぎるんだよ。“矛盾”に満ちている」

…へ?
なーにを言っとるんだこのヒトは?
私の行動原理なんぞただ1つ、“私の幸福のために”のみだ。その考えにブレなんてないし、現在進行形で頑張ってる。手詰まり感は否めないけど。
目的に向かって一直線、行動に矛盾なんぞ…、

「ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア。地方貴族メイルスティア家の長女で、魔法学院に在籍。成績は座学、魔法ともに下の下。性格は明るく朗らか、トリステイン貴族にしては稀で、平民への蔑視がない。代わりに生徒たちからは一部を除き、やや見下されている感あり」

それはアレですか。ミス・ロングビル時代に知った我が内申書の内容とか?
プライバシーの侵害だ。…いや、プライバシーなんてコトバ、ハルケギニアにあったっけ?
どうでもいいけど、それがどーした??

「そしてヴァリエールの、“虚無”の親友。その使い魔ガンダールヴとも親しく、常に行動を共にしている。トリステイン城下を一時騒がせた“フーケ騒動”において彼女らに加え、ゲルマニアとガリアの留学生…ともにトライアングル、とフーケの捕縛に成功した」

「…ええとですね、」

口を挟もうとしたら睨まれた。
はい、まだ話の続きなんですね。大人しく聞いてますから睨まないで!!

「その後、王女アンリエッタの要請でアルビオンへ赴く。トリステインの存亡を握る密書の回収に成功した後、裏切ったワルド子爵と戦闘。戦闘にてウェールズが戦死するものの、これを撃退、トリステインへ帰還する」

あれは何と言うか不幸な偶然が重なって行くハメになったというか…。
あとロン毛と戦ったのは才人&ウェールズ皇太子で、私とルイズはモブでした。

「アルビオン新皇帝クロムウェルの“虚無”にて蘇ったウェールズらを使ってのアンリエッタ誘拐作戦においてはトリステインの“虚無”、“ガンダールヴ”に加え“フーケ騒動”でも共闘した2人と共に立ちはだかり、…トリステインの魔法衛士隊をも退けた彼らを撃破した」

いやそれも不幸な偶然が重なって行くハメになったんだし、マトモに戦ったのは私以外の皆さんで、私はやっぱりモブみたいなもんだ。

「この時、“策”に嵌り国を裏切る寸前だったアンリエッタに対して実力行使でもって諫言したのは彼女、ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティアであり、その活躍によって実質、アンリエッタ誘拐作戦は失敗に終わったとも言える」

…いやそれも不幸な何かそのいろいろアレなのが重なってやるハメになったんですよ。
やるっていうか“殺る”方ね?諫言とかチガウから。結果そうなっただけで。
私は私がいなくてもそうなるだろう原作に介入しただけのイレギュラーで、やっぱりモブみたいな…コレに関してはモブじゃないか。
バッチリ当事者です。ちくせう。

てかど~考えても内申書とかじゃないっぽい。
今、おマチさんが言ってるコレは何なんだ?

「…これは、あんたの調査報告だよ。つい数日前にクロムウェルに報告された、ね」

なーるなるなるほどほーど。


…はい?


は!?
へ!?
いやいやいやいやいや!!違うって!!それチガウ!!NG!!ダウト!!!
確かにそうだけど違うの!!何が違うってそのええと…!

「もちろん、これは“表向き”だけ。報告されなかった情報もある。…“ユンユーンの呪縛”で操られた事、そして」

一拍置いて、おマチさんは言った。



「あんたと、ワルドとの関係もね」



雨音が、止んだ気がした。




※※※※※※※※




よし。

何だ、うん。
ストレスでお腹痛い。
この沈黙を使って整理しよう。この頃、ピンチ!⇒整理しよう!の流れが止まらない気がするけど気のせいだな。

気のせいじゃないな。
いろいろ考えて行動してたつもりなのにねー。どうしていっつもこうなるんだろーねー。
やっぱクズモブ女は運命に逆らったりせずに大人しく底辺人生&死亡ルートを歩めってブリブリミルのお導きなのかなー。
そろそろ何だかゴールしてもいいよね?って気分に、

ダメだ。ネガるな私!!
まだ大丈…夫とか思うとダメな気がするから、まだ焦るような時間じゃないと思うんだ!!似たようなモンだけど!
とりあえず、おマチさんの言った事を纏めよう。


①クロ公に伝わってる“ラリカ”は何だか重要人物っぽいです

②でも彼には言ってない話があるの… byおマチ

③テメーとワルドの関係だよッ!!! byマチルダ


ネガらざるを得ない。
いいニュースが1つもない。
これだけでも挫けそうなことうけあいなのに、続きがあると?
とゆーか私とロン毛の関係って何?
アレか?偽ミョズミョズ的なアレか?…バレたってわけじゃなさそうなんだけど。

「“表向き”だけ見れば、あんたはトリステインの“虚無”の親友で、命懸けで女王を諌めた憂国の士だ。実力はともかく人脈と行動力、愛国心は評価に値するし、クロムウェルにもそう思われてる」

違うんです。

誤解なんです。
人脈とかはルイズ経由で、それも“原作”で心情を知ってるから都合よくなるよう対応してきたってだけの話なんです。
それが何だか望まないカタチで広がったりしちゃっただけで、将来的には切らせてもらうつもりだったんです。

そして愛国心なんざカケラもないんです。そもそもメイルスティアの者に愛国心なんてないんです。
惰性と見栄で貴族やってたよーなダメ家系なので。

「なのに“裏”では。あんたはその親友にとっては憎んでも憎みきれない相手で、トリステインにとっても最悪の裏切り者…ワルドと通じている。いや、通じているわけじゃないか。協力してるわけでも味方なわけでもないしね。でも、1つだけ言える。あんたは、ワルドを“強くした”」

「…え?」

思わず口に出る。
何だそれ?
それは知らないぞ?

確かに、その“表向き”の情報ってのは第三者の視点から見れば正しいかもしれない。
私が“原作知識”を使ってるなんて誰も知らないから、そう見られたって仕方なかったかもしれない。

でも“それ”は知らない。
私がロン毛にしたことなんて、それこそミョズ姐さんを演じたコトか、運悪く出会った時とかに(場をどうにかするために)テキト~に煽った、


…あ。


心の冷や汗がとめどなく流れる。
もしかして、もしかしなくても、“それ”ですか?

「あいつが言う“彼女”ってのが、あんただったなんてね。予想外…いや、知れば納得かもね」

「その、」

ワルドはこのヒトにナニを言ったんだ!?
じゃなくて、何か言い訳しないと!!思い付かないけど!!

「“虚無”との友情、大人顔負けの忠誠心に愛国心、なのに“敵”の信念を認めて背中を押す。命懸けで守ったはずの国を去ろうとする、抵抗なくその“敵”に囚われる、暢気に軟禁先で暮らしている、聞くべきことなんてありすぎるはずなのに、何も訊ねようとしない!!」

マチルダの声は抑揚のないながらも徐々に大きくなっていき、最後は苛ついたような叫びだった。

「何なんだよあんたは!?テファに“フーケ”の話もしてないし、私らのことを言及したりもしてない!さっきだってそうだよ、私のことを“フーケ”と呼べって言ったのに、あの子の前では“マチルダさん”だ。まるで“事情”を知ってて“気を利かせて”いるみたいに…!!」

ティファニアに探りを入れたのか。
で、私が何も聞かず、何も言わなかったのを逆に不審に思ったと。
言われたコトを鑑みて、今までの自分の行動を走馬灯の如く思い浮かべる。第三者の視点で見てみる。

…怪しい、怪しすぎる。何だこの陰謀臭漂うキャラクターは。
この人の言う、“表”と“裏”を知れば疑問は当然だろう。

「………もう一度聞くよ」

口調が戻る。
マチルダの手には、いつの間にか…杖。



「あんたは、――――“何”だ?」




……。




これはもう。
本格的に、“終わった”かもしれない。




[16464]  幕間18・ノコリガ
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:2677e6bd
Date: 2011/02/06 23:36
幕間18・ノコリガ




―――――― あなたが、『絶望』のラリカ?




見上げる。
目が合う。
私は無表情。
でも、彼女は優しく微笑む。


声が掛かる。
顔を上げる。
私は無言。
でも、彼女は私の髪を撫でる。
笑顔は、やはり優しい。


隣に座る。
無言。
こちらを見て、微かに綻ぶ口元。
髪を撫でる優しい掌。
ひとりの時と変わらないような、静かな読書の時間。
でも、頁を捲る手が、少しだけ遅くなった。


声が掛かる。
顔を上げる。
目が合う。
その“答え”は何?
分からないから、小首を傾げる。
また、優しい笑顔。
“答え”なくても、彼女は笑顔。
でも、私はその“答え”が知りたかった。


声が掛かる。
顔を上げる。
“アイコトバ”。
答える。
嬉しそうな笑顔。
抱き締められる。
どこか、懐かしい感覚。
撫でられる髪。
幼い頃の記憶。
微かな石鹸の香り。どこか落ち着く香り。
伝わってくる体温。


優しい、ぬくもり。




※※※※※※※※




鏡は自分の顔を映すだけで、他に何も映し出さない。
眉唾だったが、やはり“これ”も偽物のようだ。

やや華美な装飾がされた鏡を無造作に投げ捨てる。鏡はキラキラと月の光を反射しながら遥か地上、森の中へと落ちていった。
シルフィードが勿体無いとか何とか騒いだが、取り合わない。
必要ないから捨てただけ、違ったから要らないのだ。わざわざゲルマニアとの国境付近まで飛んだ目的は、こんな“宝物”が欲しかったからじゃない。

“探し人が見付かる鏡”はだめだった。
この前の水晶玉も、その前の変わった形の杖もだめだった。

…。

「学院に。少し、急いで」




※※※※※※※※




「タバサ?」

シルフィードから飛び降り、中庭に降り立った私の背に声が掛かる。
反射的に魔法を撃とうとして…辛うじて踏み止まった。

「こんな夜更けに出歩くのは…いや、今帰ってきたのかな」

薔薇の造花を模した杖を手に、ギーシュは言う。
白い制服…フリル付きだから特注だろうか?…彼の服が土で汚れているのは暗くなったこの時間でも分かった。
理由は知っているし、最近ではいつもの事なので訊ねない。

「…まあ、何だ、君もそう無理をしないようにね。なんて言ったところでやめはしないだろうけど」

「おたがいさま」

「………だね」

ギーシュは困ったような笑みを浮かべ、軽く頭を掻いた。
そして灯りの消えた寮の一室を見上げる。

「“眠り姫”は今日も起きてはこなかったよ。サイトも、君の親友もいろいろ声を掛けてはいるようだけど…ね」

「…そう」

“眠り姫”。
そういえば、いつか読んだ物語に、そんな“お姫様”が出てきた。
呪いのせいで目を覚まさないお姫様。目覚めるキーは、勇者…王子様だったか、とにかく呪いを解く鍵は、その人のキスだった。
部屋に閉じこもり、出てこない“眠り姫”。
彼女もまた“王子様”が来ない限りは目を覚まさないのだろうか。
今、本当に探すべきは、助けるべきはその“王子様”の方なのに。

「おっと、もう遅いみたいなことを言っておきながら引き止めてしまったかな。すまなかったね。寮に戻って休むといい」

再びこちらを向き、そう言ってギーシュは笑う。
よく見せるいつもの笑みとは違った笑顔だ。どこか、“彼女”の笑顔に似ていた。

「あなたは?」

だからだろうか。
普段なら無言で去るのに、こんな事を訊いたのは。

「僕はもう少しだけここにいるよ。それとも、送ろうか?」

かぶりを振る。
だろうね、とギーシュ。彼も私が頷くとは最初から思っていなかったのだろう。
再び視線を寮の一室…今度は“あの部屋”に向けると、それ以上何も言わなかった。




※※※※※※※※




無造作にマントを椅子の背に掛け、靴を脱ぎ捨てる。
杖と眼鏡を机に置き、上着のボタンを幾つか外した。
灯りは必要ない。今から本を読む気はないし、他に何かする事もない。寝巻きに着替えるのも億劫だ。
ベッドに腰掛け、枕元の小さな棚に置いてあった瓶を手に取った。

学院のメイドに分けてもらった“香水”。
質素な、悪く言えば安っぽい瓶に入れられたそれは、貴族が自己主張の為に付けるものでも平民が偶の贅沢で使うものでもない。
生徒が、いや、教師すら気にも留めていなかったメイドたちの為に“彼女”が無償で作った香水なのだ。

『ミス・メイルスティアを、お願いします』

私が彼女を探し出そうとしている事を伝えると、そのメイドはそう言ってこの香水を譲ってくれた。
この香水だけじゃない。
彼女は秘薬を、手に塗るクリームを、“お礼”と言って学院で働く平民たちに渡していたという。
特にトリステインでは平民が貴族の為に働くのは“当然”とされている。それは学院内でもそうだし、街へ出てみてもごく当たり前の光景だ。
見下したりはしないとはいえ、私やキュルケも似たようなものだったかもしれない。
でも、彼女はその“当然”を感謝し、彼女らに同じ目線で向き合い…結果こうして身を案じられている。

恐らく、彼女以外の生徒だったら。
…例え死んだところで、学院で働く平民たちは何も思いはしなかっただろう。


蓋を開ける。
薄い月明かりの部屋の中、香水の…“彼女”の匂いが漂う。
微かな石鹸の香り。
香水の匂いなら至る所で嗅いでいる。学院にいる貴族の少女たちもこぞって使っていた。キュルケなんて何種類持っているのか分からない。

でも、その中にこんな香りはなかった。
この香りは付けている者を飾り立てる“装飾品”じゃない。自分のためじゃなく、自己主張のためじゃなく、傍にいる誰かを不快にさせないために。
その在り方は製作者である“彼女”そのものだ。
だからこそ、この香りはどこまでも優しい。

手首に一滴だけ。
蓋をして棚へと戻す。

心が落ち着いてくるのが分かる。
目蓋が重くなる。
少しだけ、疲れた。
ベッドに仰向けに寝転ぶ。

いつか、キュルケが笑いながら言った。
姉妹みたいだと。
…少しだけ、嬉しかった。
あの時はなぜだか分からなかったけど、今なら何となく分かる気がする。


彼女は、大丈夫。
私には分かる。

ラリカは、大丈夫。
ラリカは“強い”から。
私は信じている。

おやすみなさい、…“ねえさま”。

きっと、探し出すから。
私があなたを、助けるから。


「………はしばーみ」


その香りに包まれて。
小さく、呟く。



“ はしばーみ ”



暗く、深く。微睡んでいく意識の中。
空耳だけど、そう返ってきた気がした。











―――――― あなたが、『絶望』のラリカ?




それは小さな、ほんの小さな興味。
運命的でも、劇的でもないような出会い。


訊ねる。

彼女は優しく微笑んで


そして、頷いた。














オマケ
<その頃の某“ねえさま”>



ええとそのなんて言えばいいか何かいい答えはだからええとそのつまり私はああぁぁばば
ばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば
ばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば
ぁぁぁぁぁばばばばばばばばばばばばばばばばばば!!!!!



[16464] 第五十六話・キーワードは“ティファニア”
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:2677e6bd
Date: 2011/02/25 23:48
第五十六話・キーワードは“ティファニア”




世界は“こんなはずじゃなかった”に溢れている。だからこそ、逆転勝利は美酒になるのです。…私としては、安酒でいいんだけど。




だめだ。

なーんも思い付かない。
冷静な私は只今品切れ中だ。
第三者視点での“私”を自覚させられ、何だかいろいろアレだ、その、よく分からん。
マチルダの視線は答えを急かしているし、時間は私に味方してくれない。疑惑とか敵意とかばっかり膨れ上がって、私の寿命は加速度的に短縮中。
逆上して立ち向かおうにも実力の差は歴然、戦いにすらならずに数秒後にはブリブリミルの身元へ旅立っていること請け合いだろう。

とか何とか考えている間も、時間ってヤツは無慈悲にも流れている。
私の立場はすくすく悪い方向へゴートゥ~ヘル。

「答えられないってわけ。なら、」

「ティファニアは、」

マチルダの言葉を無意識で遮る。ほんの僅かだが寿命が延びた感。
咄嗟に出た“テファ”の名前は効果覿面だったようだ。

「…テファが、何だって?」

…何でしょう?
うん、何て続けりゃいい?
かわいいよねー、猛乳だよねー、とか言ったら間違いなく殺される。今さらあの子何者なんですか?とか訊ねても同じだろう。

「テファが、何?…焦らすんじゃないよ。答えな、メイルスティア」

無言でも死ぬなコレ。
効果覿面すぎて逆に殺気マシマシだ。
ええい!!どーせ思い付かないんなら…!!

「ティファニアは、“虚無”の担い手。そして始祖の…いえ、多分ですけど、アルビオン王家の血を引いている」

「!?」

一瞬、マチルダの表情が固くなる。当然だけど。てか何言っちゃってんの私。
よりにもよって…ん?

あ…、お?おおっ!?これはもしや…!!
暴走中だったアタマが“何か”を閃く。
マチルダのそれが再び疑惑の目に戻らないうちに、続けた。

「ティファニアは“そう”直接は喋っていません。きっと私に知られたことも気付いてないでしょう。…とは言っても、恐らくそうだろうっていう“推理”だったんですけど、ミス・フーケの様子を見る限り…正解みたいですね」

イエス!
イエス!イエス!!イエスぅぅ!!!

…心拍数が上昇する。さっきまでのとは違う興奮だ。
考えより先に出た台詞からのスタートだったけど、これはイケるかもしれない。
脳味噌が高速回転、アドレナリンぽこじゃか噴出してインスピレ~ション沸きまくりだ。

「…“推理”?」

「私は“虚無”のルイズを傍で見てきました。だから分かるんです。系統魔法も、先住魔法も使わない…いえ、“使えない”ハーフエルフ。何気ない会話の中で聞いた、どの系統にも当て嵌まらない魔法。そしてその“虚無”が使えるのは始祖の子孫のみ。これだけヒントがあれば、誰だって“推理”できますよ」

よし、これで『暢気に軟禁生活』と『何も訊ねようとしない』理由付け完了だ!!
ティファニアに確認取ったって、“何気ない会話の中で訊き出した”んだから覚えてないのは当然だって言い張れる。
のほほーんと過ごしているようで、実はメイルスティアさん、言葉巧みに知りたい情報を聞き出してたんですよ。質問がなかったのは既にあらかた予想が付いていたから。
尋問されて仕方なく、前倒しなカタチで“推理”を公表したのだ。
実に知的ですな。策士ですな。嘘だけど。

でも、その他の…主にロン毛を煽った理由とかの言い訳はまだ無理だ。てか無理だ。
だからって諦めない。チャンスは死ぬ気で掴む。使えるものは絞りカスになるまで使ってやる。
コイツのウィ~クポイントは“ティファニア”、ならそれを徹底的に使う。
彼女の話題で冷静なアタマをヒットさせてこっちのペースに引き込んでやる。

「同時に、ティファニアにとって貴方がどんな存在なのかも…何となくですが、察したつもりです。そしてこれも“推理”になりますが、貴方が“フーケ”になった理由は、」

「…それ以上は言わなくていいよ」

マチルダが私に向けて、手で制止するようジェスチャーをする。
実に分かりやすい反応だ。OK、では追撃をば。

「私から言うのは、ダメです」

「…」

「ミス・フーケ、いえ。…ミス・マチルダ。私から言うのは、ダメなんです」

真っ直ぐにマチルダを見詰める。
さっきまでのプレッシャーとか敵意が、急速にしぼんでいくのが分かった。
ついさっきまではヤツから私への尋問モードだったのに、今はどっちかって言うと私が攻めてる構図。このまま乗り切って誤魔化し切ってやる!!

「大切なものを大事に扱うのと、腫れ物を扱うようにするのとは違います。ティファニアはもう子供じゃない。自分の足で歩き、自分の考えで進んでいく…それができる、いえ、しなければいけないんです」

まあ、実際おマチさんは“原作”で自主的にティファニアを自立させたんですがねー。“フーケ”までは伝えてなかったけど。
つまるところ、私の言ったコトは少なからず“今”のおマチさんの頭にもあることで。全否定なんぞできるはずもないだろう。

「…私が言えってのかい?“フーケ”の事を、伝えろと?」

よし乗った!!
これで『いや、まあそういうのは置いといてさっきの質問に答えな』とか言われたらちょっと危なかった。
こみ上げる高揚感を抑えつつ、真面目な顔&口調で続ける。

「全部です。“フーケ”だけじゃない、ワルド様の事も教えてないですよね?それもです。包み隠さず、何もかも。このままじゃきっと…どちらも後悔する」

乗り切れ、乗り切れ、今を切り抜けろ…!!
時間さえどーにかできれば、それっぽい理由とか考えられる。考えようによっては、第三者視点での“私”を自覚できたのは大きな収穫。
それを踏まえて最初から整理するんだ。矛盾をなくし、今度こそ完璧な“嘘”を纏ってやる。
だから、この危機は乗り越えなくては…!!

「知ったような、」

おマチさんはまだ私を睨んでいる。
でも、さっきとは篭っている意志が違う。

「知ったような口をきくんじゃないよ。あんたが思っているより、」

「貴方が思っているより、彼女は大人です。本当は私なんかよりも貴方の方が分かっているはずです。もう、彼女は無知で無垢で無関心な子供ではいられないと」

「…っ、」

「逆にお聞きします。ティファニアは、貴方の“妹”は、“娘”は…“それ”で、貴方を嫌いになると思いますか?軽蔑すると、思いますか?」

無言。
よし、イケる!!
“私”のことなんざ微塵も信用してないだろうけど、それがティファニアってコトになれば話は別。もう乖離激しくって使えないと思ってた原作知識だけど、まだまだ利用価値はあったようだ。

そして天はこの絶体絶命のピンチから私を見放さなかった!
やっぱり日頃の行いが…は、あんまりアレだから、そう、努力がようやく実を結び始めたな!!

さあマチルダ・サウスゴータ、葛藤しろ!悩め!!
こんなポッと出の小娘に、子供の頃から面倒を見てきたカワイイ可愛いテファを信じる心が負けてるなんて嫌だよねェ?でも、真実を言って嫌われちゃったらカナシ~よねェ?
それとも、ここまで言われて、あんたなんかに言われる筋合いはないって“逃げ”る?

おマチさーん、どうする?どうなる?どーしよう??
ふはははは!!大切なものを大切に思うがゆえに、オマエは苦しむのだ!私なんぞに付け入る隙を与えてしまったのだよ!!
そう、当初の目的、私がまだ答えてない“疑問”とかを忘れてしまうほどにな!!

…我ながらクズだな。今更だけど。否定する気も正す気もないけど。
屑としてしか生きられないのは自分が一番理解してるから、屑を貫いてやる。


さてと。頃合か。
私は真面目な顔を崩し、微笑んだ。


「私は、私の“友達”が“そう”ならないと信じています」


だから。


「貴方も、信じてあげて下さい。私じゃなく…ティファニアを」


そう言い残し。

私は黙りこくったマチルダに軽く頭を下げ、部屋を出て行ていった。




※※※※※※※※




正直、小躍りしたい気分だ。何と言う達成感、何と言う開放感。
実際は問題を先送りにしただけで微塵も解決してないし、言動にツッコミ所満載だったけど、時間は稼げた。
今はそれで充分、明日の朝には完璧に理論(言い訳)武装した新生☆ラリカが誕生していることだろう。

あ、でも明日はロン毛が私に“仕事”とやらを…。
いや、待てよ。
それもティファニアを利用すればもしかして何とかなるんじゃないか?

“お話”の席に彼女を同席させ、おマチさんを煽って“告白”させる。
さっきはああ言っといたが、恐らくティファニアが“怪盗フーケ”やワルドの国家&許婚裏切りを知ったら2人に対する信頼度は大幅ダウンするだろう。彼女の性格上、露骨に態度を変えたりはしないだろうけど効果はあるはずだ。
そして逆に私には、ここしばらくの共同生活で無駄に育まれたエセ友情があるのだ。
そんな状況で、ロン毛が私を囮とかに利用するなんて話せばどうなるか。

テファ 『そんな…あんまりですワルド様!!マチルダ姉さんも何か言って…ハッ!?まさかマチルダ姉さんもそんな非道い事を…!?』

そうなれば、これ以上ティファニアに嫌われたくないおマチさんは簡単にYESと言えなくなるだろう。
ロン毛も、“虚無”に嫌われてまで使い捨てるしかできない駒=私を使うなんてしないはず。
てか、もしまだティファニアが“虚無”だって知っていなかったら、その事実が分かった興奮で私なんざどーでも良くなる可能性だってある。


おぉ、凄いコレ。全部解決しそう。
神はいた!ティファニア最高、愛してる!ゆりりんぐな意味でなく!!つまり友情万歳!!ばんばんざーい!!

…よし、素晴らしい塞翁が馬状態。
方向性は決まった。後はじっくり計画を煮詰めるのみ、難易度もさっきまでとは比べるべくもなっしんぐ。この期待と高揚感はとどまるところを知らないぜ!



ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア、改めていくぜふぁいとーぅ!!!









※※※※※※※※








<Side Other>





「あ…、ワルド様」

2階テラス、背に掛けられた声にワルドは振り返った。

「ティファニアか。風呂上りに夜風でもと思ってね。…どうした?もしかして、探させてしまったか」

「いえ、その…通りかかったらお姿が見えたので、あの…お邪魔してしまいましたか?」

いや、とワルドはかぶりを振った。

「ちょうど戻ろうかと思っていたところだ。それに2人の話も終わっているだろうし、マチルダには風呂が空いたと伝えなくてはね」

そう言って微笑む。
自然と目が合い、ティファニアはどこか慌てた様子で視線を逸らした。

「…ん?」

「あ、い、いえ、何でも…そ、そうですね。マチルダ姉さんに教えてあげないと」

「ああ」

僅かな沈黙。
じゃあ戻ろうか、とワルドが促し、やがて2人は歩き出す。

渡り廊下に吹く風が心地よい。
遠くに潮騒が聞こえる。



「あの、ワルド様」

「ん?」

「夕餉は、その、いかがでしたか…?」

「ああ、貝のパスタは久し振りだったな。何年か前にどこかの港町で食べたきりだったか。…美味しかった。もちろん、お世辞じゃあない」

「!!そ、そう…ですか。ありがとうございます…」

「はは、それは逆じゃないか?礼を言うべきは僕の方だと思うが。…そうだな、改めて言おう。ありがとう、本当に美味しかった」

「その、……いえ…」


「…」


「…」


「…あのっ、」

「ん?」

「あ…、いえ、何でも……すみません…」

「…そうか。それと、別に謝らなくていい」

「……はい。その、すみま…、あっ」

「…」

「…あぅ……」


くくっと声を漏らし、微かに笑うワルド。

そして恥ずかしそうに俯くティファニアの口元もまた、同じように綻んでいた。




[16464] 第五十七話・動くモノと動かぬモノ
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:2677e6bd
Date: 2011/04/07 02:05
第五十七話・動くモノと動かぬモノ




誰の想い、事の行方。神のみぞ知り、神は知れない。前を向けば後ろが見えず、後を見れば前は見えない。つまりそーいうコトなのです。





<Side Others>



「あの…、」

シエスタは手渡された“それ”らと、彼女を交互に見て…改めて訊ねた。

「だから、あんた達の方がよく知ってるんじゃない?まあ、出来は断然わたしの“それ”の方がいいでしょうけどね。でも、出来はいいって言っても所詮は“そういうもの”だし、売り物にはならないけど」

彼女、モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシは、その問いに尊大な(といっても、学院の生徒がメイド達にするものとしては一般的な)態度で答える。
ただ、視線はどこか泳いでおり、口調も早口に近かった。

「風の噂でね、聞いたのよ。平民専用の秘薬に変わった香りの香水。それで少しだけ好奇心が沸いて、何となく作ってみたのよ。知的好奇心でね。わたしにかかれば簡単すぎたけど。それに、香水もね、他人に作れるのを“香水のモンモランシ”が作れない道理はないから作ってみたの。これはある意味証明ね。できると思ってても実際できなきゃお笑い種だし、実践しなきゃね。まあ案の定、簡単に作れたわ」

そして、聞いてもいない事をどこか言い訳っぽく語り始める。

「あの、ミス・モンモランシ」

「作れることは証明されたわけだし、レシピも憶えたし、でも売り物にはならないから廃棄しても良かったけど、それも勿体無いしね。だからあげるの。勿体無いからね。勿体無いからよ?でももしどうしても別にいらないんだったら処分してくれても、」

「あのっ!」

シエスタの声に、モンモランシーはハッとしたように目を見開き、小さくコホンと咳をする。
それで態度は普段の彼女のものへと戻っていた。

「何かしら」

「不要だなんて、そんな…ありがとうございます、ミス・モンモランシ。みんなで大切に使わせていただきますね」

ぺこりと頭を下げる。
抱くように持った“それら”は“何となく”“証明するために”作ったにしては明らかに量が多い。
しかし、シエスタはその事について触れなかった。

「そう。まあ、好きに使って頂戴。呼び出した用件はこれだけよ。もう戻っていいわ」

そっけなく言い放ち、腕組みしながら背を向ける。


「…………また、」

「え?」

「もし足らなくなったら、言いなさい。余った材料で作れるし、どうしてもって言うなら片手間に作ってあげてもいいから」

「…ミス・モンモランシ」


―――― ありがとうございます。

シエスタはモンモランシーの背中に向かって、もう一度頭を下げた。



…。


………。



「………ま、“あの子”が帰ってくるまでの間だけどね。わたしはあくまで知的好奇心で作ったのであって、別に“あの子”みたいにあんた達に渡すのが目的で作ったわけじゃないから。あくまでどうしても欲しいと言われたら作ってあげるだけで、さっきも言ったけど余った材料の処分も兼ねてってだけの事だからそこの所は勘違い、」

「メイドの子ならもういないよ、ぼくのモンモランシー」

「!?」

「今さっき廊下で擦れ違ったよ。あの瓶ってきみが作ってた例のアレだろ?何だかんだ言ってても、やっぱりあげたんだね」

モンモランシーが振り返ると、もうそこにはシエスタの姿はなく、代わりに肩にタオルを掛けたやたらとスポーティーなマリコルヌがいた。
額に汗が滲んでいるところから、恐らく何らかの運動をしてきたのだろう。

「ちょっ、何であんたが…!!それより、もしかして今の…!!言っておくけどわたしは、」

「うん、分かってるよモンモランシー」

マリコルヌは笑う。

「きみはホント、そういうのが不器用だね!」

「って分かってないじゃない!?」

「そうかな?」

「そうよ!!」

そっぽを向きながら言う。

「“お礼”?」

「……」

「…」

「……っ、“借り”を返すだけよ。あの件じゃ迷惑かけたし、戻ってくるまで少しの間“代わり”をしてあげるだけ。って言っても凄く間接的だし、限定的だし、そもそも“あの子”が望むかどうかは知らないけど。でも何だか気には掛けてたみたいだし、その…それだけよ」

逡巡した後、背を向けたまま答える。

「………それに、わたしにはこれくらいしか…、できないし」

そして聞き取れないくらいに小さな声で漏らし、沈黙した。

「…」

「…」

「彼女、無事だといいね」

「どうでもいいわよ。どうせ、へらへら笑いながら戻ってくるんでしょ。軽口叩きながら」

「そうかな」

「…そうよ」

「そうだね、モンモランシー」

背を向けたままのモンモランシー。
その後姿を見詰めるマリコルヌの表情は、優しかった。




※※※※※※※※




「サイト」

女子寮、ルイズの部屋の前。
廊下の壁に背を預けて立つ才人に声が掛かる。

「ああ、キュルケか。タバサなら朝早くから出掛けたぜ」

「知ってるわよ。たまには休みなさいって言ってあるんだけどね。…こちらにいらっしゃる“眠り姫”さんと1日だけでも交代させてあげたいわ」

「…」

閉ざされた部屋の扉を見る。
鍵は掛かっていないが、この扉は“閉ざされて”いる。あの日からずっと、閉じたままだ。
最初は何とかしてこの扉を“開け”ようとした。
説得してみたり、強引に連れ出してみたり、叱ってみたりもした。
でも、扉は開かない。時間は滞ったまま、眠りから覚めないまま時間だけが過ぎていった。

「ねえ、サイト。ルイズは…」

「さっさと起きて来いってんだよな。ったく、ねぼすけなご主人サマにも困ったもんだぜ」

しかし、冗談めかして答えるサイトの目に負の感情は感じられない。
失った悲しみに暮れる事よりも、守れなかった後悔に苦しむ事よりも、分からない“敵”に怒りを向ける事よりも、…あれからずっと動けないでいるルイズに対して苛立つ事よりも。
…彼は“そう”する事を選んだ。

理由は分かっている。あの“手紙”を代読したのは他ならぬ自分なのだから。
その時に見た彼の涙、吹っ切るように、何かを決意するように拭った後の瞳に宿っていたもの。
彼もまた、託されたのだ。約束したのだ。


――――“ルイズを信じること”


守り、守られること。


きっとそれは、彼の心にどこまでも強く刻み込まれている。
揺るぐことなく、深く。

信じているから、待っている。
あとはルイズが扉を開け、たったひとこと言えばいい。
きっとサイトは 『おせーよ、バカ』 とでも言いながら…でも笑いながら彼女の後に続く、いや、隣に寄り添って往くだろう。

無事と信じる、あの子を探しに。


「……ホントに、ね」

小さく微笑い、溜息混じりにキュルケは答えた。



…さっさと“起きて”きなさいよ、ヴァリエール。

相方はとっくに準備万端よ?淑女は準備に時間が掛かるものだけど、限度ってのもあってよ。
あなたへの手紙の内容は知らないけど、そんな姿なんて望まれてなかったはず。
そろそろあの子に、怒られちゃうわよ?

まあ、迫力はなさそうだけど。



そして、………全く。

あなたもあなたよ?…ラリカ。
この私が割り込めないって“諦める”くらいに想われてるんだから。



さっさと…必ず、無事で帰ってきなさいよね。










<Main Side>



さ~て本日の
『リアル魔法少女・ほーぷれす☆らりか』は
第だいたい50くらい話・知将ラリカの神算鬼謀!全ては我が掌の上に!!
を絶賛お送りしてる最中です☆
ブリミルブリミルっ、貴方のハートにメガ・せんちめんたるビ~~トぅ!!


ふう。

何だ、その、実にアレだな。素晴らしい。
心の中はテンションMAXアテンションぷり~ず。正直、ガッツポーズができないのが辛いです。
笑いを堪えるのがこんなに大変だなんて…、マジメな顔が崩れないように全力投球だ。
明日は顔面筋肉痛になりそう。幸せな悩みすぎて辛いぜ!!

とまあ、前置きが長くなったけど、現状説明。

おマチさんが告白してます。
ラヴな意味の告白じゃなく、どっちかって言うと神父とかにする系のアレ。罪の告白ってやつですな。
お相手は愛しのテファ子さん。

そう、昨日煽ったアレだ。我が起死回生、一発逆転奇跡の秘策。
もし話題に出なければ、多少強引にでもって思ってたんだけど…杞憂でしたかな。うふふのふ。

今日、アホのロン毛が私にやらせる“仕事”の話をする日。
朝食が終わってティファニアに退室を促そうとしたロン毛の言葉を遮り、おマチさんが語り始めたのだ。


『テファ。今まであんたが訊いても教えてやらなかった事、この期に全部話すよ』

『知らなくても良かったと思うかもしれない。そんなの知りたくなかったと言うかもしれない。でも、聞いて欲しい』

『今更、かもしれないけど、今じゃなきゃもう言えないと思うんだよ』

『もう………テファは子供じゃないから。“本当の事”を知っておくべきだと、思うんだよ』


ミス・サウスゴータ…。

貴女のその決意に、信じる心に、
私…ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイスルティ、…メイルスティア家ってもう潰れてるだろうからこの名はどーなんだろう?
まあいいや、ド・ラ・メイルスティアは…感動した!全米が泣いた!!心の中で拍手!!!

でも残念。
ティファニアは心優しい正統派なヒロイン。“悪人”とかお呼びじゃないのです。
まあ、優しいから感謝はするだろうし、表面上は何とかアレだろうけど…好感度は一気にダウンでしょうな。
仕送りする必要があったとはいえ、お金を稼ぐだけならトライアングルメイジな実力があれば別の仕事でも稼げるだろうし、盗賊業を選んだ理由には貴族に対する復讐心とかそーいうのもあったっぽいし。
結局は自業自得でFA。

全く、おマチさんも私なんぞに煽られて言わなくてもいいコトを言っちゃうなんて、甘い甘いあンまぁ~いですなぁ。
ホントは最後まで隠し通すハズだったのにね。

ま、“原作”にて背景とか過去とか知ってる私がチート過ぎるだけなわけだけど。なるべくしてなった結果というわけだな!!
うん、素晴らしい逆転劇にテンションが下がる気配がない。静かなる快進撃がノンストップだぜー。
クズ具合も比例して上昇、今の私なら地獄へ特等指定席だ。


話している途中、ティファニアは不安そうな顔で私を見てきた。
ダラダラ培ってきたエセ友情は正常動作中。現在進行形で“マチルダ姉さん”の好感度が下がり続けていく中、“友達”にヘルプ的視線が行くのは無理もないことだろう。
そこでラリカ選手、すかさず“微笑”。言葉は要らない。

“ 大丈夫、マチルダさんの本性はアレだったけど、私だけはティファニアの味方だよ。それなりに潔白だし。アンアン射ったのもそう、諫言のちょっとやりすぎたバージョン ”

伝わったと思う。
その時のティファニア、ハッとしたような表情の後、不安が消えたっぽいし。
怖い話でビビってる時に、別サイドからの優しさ。まんまヤ○ザの手口ですな。
違うのは、おマチさんも騙されてる側ってトコロか。場を支配してるのはこの私おぅんり~だ。


そうこうしてるうちに、おマチさんのお話が終わる。
そして私が振るまでもなく、ロン毛に発言権がGO。流れ的に、もうコイツも告白するしかないでしょう。

じゃあ、ちゃっちゃと幻滅させちゃって下さい。
いくら見た目イケメ~ンで小物臭が消えているとはいえ、コイツは“原作”的にも敵キャラだし、おマチさん以上に嫌われるのは確実だ。
何だかんだで私、ティファニアが危うく騙されるのを救ったカタチになるのかも。ちょっとだけ善行。



ティファニア、か。

うん。
利用しちゃってごーめんね。
おマチさんとの絆を壊しちゃってごめんなさい。悪いとは本心で思ってる。私の目的の為だから、反省はしないし撤回もしないけど。
お詫びに、おサラバするその時まで友情劇場頑張るからっ!最後の時まで私の汚い本心を隠し通すから!

これ以上はできるだけあんまり、傷付けないよう考えるから。
卑小でクズな友人モドキの存在を、赦して下さい。…赦されないだろうけど、ねー。



あー、アレだ。まあとにかく。
挽回は、逆転劇は、始まったばかり。
“虚無”に怪盗、裏切りの騎士。正義も悪も野望も願いも。我が幸福の糧になれ。
精神的に成長した私に隙などないのだ!今まで以上に上手く立ち回ってやるぜ!


くくくっ…はははは……ふははははははははははははは!!!!


な~んて、悪役三段笑いイェイ♪











オマケ
<Side おでれえ太君>



「なあムカデ!俺とお前が組んで(?)もう長いよな!」

「…」

「色々あったよな!ところでお前のご主人どうなったか、俺にだけこっそり教えてくれねえ?使い魔ならホントんトコ分かってんだろ?」

「…」

…ちくしょうやっぱり反応なしかよ!!
てか相棒ォ!!剣の稽古の時以外、何で俺、いっつもコイツに括り付けられてんの!?
定位置?もう決定なの?
あの斬伐刀とかいう剣さえなけりゃあ…!!

「いいこと思い付いた。お前さ、俺の言う通りに動いてくれよ。喋れねえんなら、俺が口になってやるからさ!移動はお前で意志伝達は俺、いいコンビじゃねえか?」

「…」

「…あ、うん、反応やっぱねえのな。分かってたけど。…へへ」

「…」


やべえな。
空がやたら蒼いぜ。



ちくしょう




[16464]  幕間19・悪女の条件
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:2677e6bd
Date: 2011/05/15 03:30
 幕間19・悪女の条件




わたしは選び、そして答えた。




それは、全てを吹き飛ばす暴風で。
それは、どこまでも優しいそよ風で。
それは、変わることのなかった日々に吹き抜けた一陣の風で。

そして、それは ――――、






だから、自分は“悪い”人間だ。
そう言う…言い切ったあの人は、どこまでも澄んだ目でわたしを真っ直ぐに見詰めていた。
自嘲しない、悪怯れない、逆にそれを誇ったりもしない。
淡々と、でも強い意志を込めて。




※※※※※※※※




出会いは、暴風。
短剣をちらつかせて迫っていた盗賊は、轟音と共にどこかへ吹き飛んで。
わたしは子供達を庇う格好のまま、杖を取り出そうとした格好のまま、突然の出来事にぽかんと口を開けていた。

木々の間から差し込む光を背に、グリフォンに跨った“騎士”は不敵に微笑む。
それはまるで、父の屋敷でかつて見た絵画のような光景。
助けてもらったお礼も言えないで、わたしはそれを見上げて、呆けていた。
…直後に背後からマチルダ姉さんが現れて、溜息混じりに『なにカッコつけてんのさ』とか言ってちょっと台無しになったけど。
それでも。
頬を撫でる風。暴風の余韻はあまりにも穏やかで、優しかった。


最初の印象は“強い人”、話してみたら、“優しい人”。
それは次第に“落ち着いた大人の男性”に変わり、そしてだんだん…。

亡くなった父とも、父の家来だった幾人かの貴族とも違う、初めて会うタイプの男の人だった。
とても強くて、知的で、自信に満ち溢れていて、でも尊大じゃなくて。
人見知りが激しいわたしだけれど、いつの間にか普通に喋れるようになっていた。
マチルダ姉さんは『流石に手馴れているね』とか呆れていたけれど。




※※※※※※※※




あの人は続ける。
自分の犯した罪を告白する。
それは今まで見てきたあの人からは想像できないようなものばかりで、わたしの中で勝手に空想していたあの人の理想とは懸け離れていて。
でも、目を背けることはできなかった。耳を塞ぐこともできなかった。

マチルダ姉さんの告白。その衝撃すら収まらない間に、あの人の告白。
ずっと知りたがっていて、教えてもらえなかった答え。
ずっと気になっていて、でも聞くことができなかった真実。
混乱しなかったなんて言ったら嘘になる。ショックを受けたかと言われたら頷くしかない。
でも、受け止める。わたしには受け止める義務がある。


国を裏切った。
父祖の時代から続いた忠誠を、騎士としての誓いを、貴族としてあるべき大儀を。
人を裏切った。
隊の部下達を、許婚だった少女を、その思い出を。餞を贈ってくれようとした王子の優しさを。

沢山の命を、想いをその手で奪い、壊してきた。
全ては自らの目的の為に。
今までも、そしてこれからも。
裏切りの騎士は、夥しい血と憎しみを背負って生きていく。




※※※※※※※※




『望郷の歌、か』

いつかの夜、中庭。
独り、ハープを弾いて歌うわたしの元にあの人は来た。
起こしてしまったのかと謝ると、返ってきたのは微笑みだった。

『謝るのは僕の方だ。盗み聴きの挙句、歌の邪魔をしてしまった』

風メイジというやつは耳だけはよくてね、と冗談めかして言う。
月明かり、遠い波の音、いつかの時みたいな、穏やかな風。

わたしたちはどちらからともなく、ぽつり、ぽつりと話し始めた。取り留めのない話、何て事のない日常の一瞬を。
あの人は出逢ったその日からずっと、わたしの過去を訊こうとしなかった。そしてわたしも、あの人の素性を追求しようとはしなかった。
それは、“そうするように”マチルダ姉さんに言われてたからというのもあるけれど、…本当はわたし自身、拒絶される可能性が怖かったのかもしれない。

 ――――― あんたは、知らなくていいんだよ。
いつか、マチルダ姉さんに“仕送り”の事を訊いた時に言われた言葉。
 ――――― 知らない方がいいことだって、あるんだ。
そう言うマチルダ姉さんの顔は優しくて、寂しげで。
…何より、そのままわたしの前から消えてしまいそうな気がして、怖かった。

訊きたくても訊いちゃいけない事。
踏み込んではいけない領域。
マチルダ姉さんとわたしとの間にさえあるように、“それ”はあの人との間にも、どうしようもなく横たわっているのだと思った。

あの人は“親切な騎士”で、“マチルダ姉さんのおともだち”。
そしてわたしは“身寄りのないハーフエルフの女の子”。
親切で優しい騎士様は、優しさからハーフエルフの少女に手を差し伸べる。友人の、妹のような存在だからこんなふうに接してくれる。

そういう…そんな関係。
だから、わたしたちはこうしていられる。
何の危険もないこの島で、誰に聞かれても“問題のない”会話で笑っていられる。

薄っぺらで、曖昧で、でも丁度よい距離。深く知らないから、壁があるから繋がっていられる絆。
繋がっていられるのなら、断たれずに済むのなら、知らない方が幸せでいられるのなら、そんな関係でいいと思っていた。

そう思おうと、していた。




※※※※※※※※




善と悪、白と黒。

この世界をその2つで分けるとしたら、裏切り者で人殺しの自分は“悪い”人間だ。貴族としてだけでなく、人としても“正しい”とされる道を外れすぎている。
それは誰の目から見ても明らかで、どうしようもなく真実だ。
だから罵ってくれても構わない。軽蔑、怯え、嫌悪を抱かれたとして当然だろう。
“だが、それでも”、あの人は続ける。
揺るがない。真っ直ぐにわたしを見る瞳は何も偽らない。

この生き方に、選んだ道に、貫くと決めた“信念”に、信じる“目的”に、後悔などしていない。してはならないと思っている。
後悔すれば、それは逆に自分が裏切ってきた人々を、積み上げてきた屍を否定することになるのだから。
歩いてきた道に“無駄”などない。誰かの怒りも悲しみも、死さえも“無駄”ではない。
誰を、いつ、なぜ裏切ったか、殺したのか、全て憶えている。命尽きるその日まで、忘れはしない。忘れてはならない。

有態に言えば、それはただの利己(エゴ)。
独善、傲慢で自己中心で…身勝手な思い込み。
やっているのは結局、力ずくで我を通すことに他ならないのだから。

でも、変われない。
変わらない。
たとええ誰に何を言われても、何があっても、譲れない。
譲らない。

だからこそ、その“悪”は…ぶれない。




※※※※※※※※




『貴族の少女が1人、ここに来る。しばらく君と一緒に暮らしてもらうつもりだ』

殆ど唐突に、それは決まった。
マチルダ姉さんは少しだけ不機嫌そうだったけれど、特に何も言わなかった。

その子は、トリステインの貴族。
メイルスティアと言う貧しい地方貴族の長女で、魔法学院に通っている。
情報はこれだけ。
いや、もうひとつ。
…その子は、“わたしの事”を聞かされていない。
それじゃあ、と不安になるわたしをあの人は諭した。

『“彼女”は、決して君に怯えたりはしないはずさ』

…。

言いながら“彼女”を思い浮かべているのだろうか。
わたしに諭しながらも、どこか遠い目。
その口元に浮かぶ穏やかな微笑も、目の前にいるわたしではなく、語る“彼女”に向けているように見えた。

『大丈夫、“彼女”なら君がハーフエルフでも、いや、たとえ純血のエルフだったとしても、恐怖や奇異の目で見たりはしない』

…ちくり。

『誰の存在も、想いも否定しない。…“彼女”は、誰の大切も否定しない。そういう少女だからね』

……ちくり。

………胸の奥が、痛い。今まで感じたことのない、妙な不快感。
数回しか会っていないという、わたしよりも接点が少ないという、その少女に向けられた…“信頼”。
その少女を語るあの人の表情は、どこかいつもと違っていて…分からないけど、なぜかそれが少し嫌な気持ちになる。

『“彼女”はきっと、受け容れる。君の友人になれる。“僕のこと”さえ理解してくれた“彼女”なら、きっと』

マチルダ姉さんに視線を向けると、不機嫌そうな顔のまま…でも否定しなかった。
マチルダ姉さんも“そう”思っている。
だから、あの人が言う評価を否定しない。無言だけどこれ以上にない肯定だった。


『 ワルド様がそう仰るのなら、きっとそうなんですね 』

『 わたしも、信じます 』


2人ともその子のこと、凄く信頼しているんですね。
数回しか会ってないと仰ったのに、その子のことを分かっているんですね。
わたしには言えない事も、どんな事でも話せてしまうんですね。
話しても大丈夫だと信じているんですね。
わたしよりも、ずっと、


…。


薄っぺらで、曖昧で、でも丁度いい…はずだった距離。


『ハーフエルフ?おーおー、ど~りでお耳が長いワケですな。よく聞こえそう。ま、それはともかくヨロシクあみーごコンゴトモ」


“その通り”だった彼女に、彼女を見るあの人の眼差しに、
わたしは ―――。




※※※※※※※※




目が合った刹那、微笑んだ“彼女”。
マチルダ姉さんの告白の時と同じように、彼女はわたしの心を全部読み取ったみたいに…いや、読み取ったのだろう。彼女は無言のまま“語る”。
わたしよりもずっと複雑な運命に翻弄されているのに、今だってあり得ないような状況なのに、それでも彼女は微笑んでいる。
全部、受け容れて。何もかもを、受け止めて。
いま、今度はわたしの不安をも支えようとしている。

誰の存在も、想いも否定しない。誰の大切も否定しない。

わたしが踏み出せなかった場所にいる人。
わたしに足らなかった勇気や、覚悟を持っている人。
やっと解った、わたしの胸の…痛みの理由。

彼女の笑顔に後押しされて、わたしは明かされた真実に向き直る。
マチルダ姉さんが、あの人が“出してくれた”………“選択肢”に向かい合う。




「…本当はね、こんな“真実”言うつもりはなかったんだよ。私も、ワルドもね。適当な理由でも作って、近いうちに姿を消すつもりだったんだ」

でもね、とマチルダ姉さんは言う。

「でも、結局こうして明かすことに決めた。嫌な思いをさせるって分かってたのに、知らなくてもいいなんて言い続けてたのに…どこまでも勝手だけどさ」

優しくて、寂しい笑顔。
いつの日か、わたしはこの笑顔に…“これ以上は立ち入るな”という拒絶を前に、近付くことを諦めてしまった。
それでも、という勇気も、踏み込む覚悟も、まるで足りていなかった。
変化に怯えて、停滞に縋ってしまっていた。
…そんなだったわたしが、本当の意味で信頼なんてされるはずなかったのだ。

「恩だとか、義理だとかは考えないで欲しい。私は好きでやってきたことだし、ワルドにしたって目的ありきだ。だからテファ、あんたは気にしなくてもいいんだ」

犯罪者、裏切り者。
“悪人”として2人は、それを理由にわたしの前から去ろうとしている。
最初からいずれは姿を消すつもりだったのだと言う。違いは、“真実”を明かしたことだけ。
“真実”を明かし、今まで何も知らされずにいたわたしが“悪人”と決別するというカタチになっただけ。
決まっていた結末に添えられる理由、それだけの違い。


でも。

これは選択肢。わたしは今、選択肢を与えてもらえた。
実際に『どうするか決めろ』なんて言われてない。そもそも2人には、そんなつもりはなかっただろう。

でも、これでわたしは選べるんだ。
もし“真実”を明かしてもらえず、適当な嘘の理由を言われたなら、わたしは受け容れるしかなかっただろう。
何も言わずにいなくなってしまったら、それこそどうしようもなかった。

でも、今、私は選べる。
“真実”を知ったからこそ、それができる。自分の意思で、責任と覚悟を持って、未来を決めることができる。


わたしは、選べるんだ。



「 ―――――――― テファ?」


不意に。
頬を、温かいものが伝っていった。

マチルダ姉さんは目を見開き、一瞬わたしの方へ手を伸ばしかけたけど…引っ込める。
あの人は何か言いかけ、でもやはりマチルダ姉さんと同じように、言葉にはしなかった。
彼女だけは、ラリカだけは変わらない笑顔で…小さく頷く。


…。


涙を拭う。

マチルダ姉さん、わたしは確かに泣き虫だけど…この涙は違うよ。そうじゃない。
ちゃんとマチルダ姉さんの想いは伝わったから。優しさ、届いたから。

ワルド様、やっぱりワルド様はワルド様だったんですね。
空想や理想の騎士じゃなく、貴方はどこまでも貴方でした。強くて優しくて、――― そして。

ラリカ。やっぱりラリカはお見通しみたいだね。わたしの“想い”。わたしが“真実”を知ったらどうするかも。
大丈夫。わたしはもう、迷わない。


ありがとう。話してくれて。
わたしに真実を明かしてくれて。
わたしに選ぶチャンスをくれて。
わたしの背を、押してくれて。


ただ、それが嬉しくて。
嬉しくて。
涙はその、感謝の証。


そして、
うん。
決めた。ううん、最初から答えなんて決まっていた。
それを言うだけだ。言葉にして、伝えるだけだ。

二択。
“悪人”たちとの決別か、それとも。
ずっと夢見続けていた平和な生活と、犯罪者や裏切り者の仲間として生きていく人生。

迷うわけない、何て簡単な選択肢なんだろうか。




そして、わたしは答えた。










貴女を“悪”と呼ぶのなら
貴方が“悪”だと言うのなら。


わたしは同じ“悪”がいい。


“悪”と共に、“悪”と生きる



“あなた”と同じ ――――――――― “悪”になる。













オマケ
<Side クズ子さん>




……………………。


……?






………え?



[16464] 第五十八話・むーびんぐ、ざ、わーるど①
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:2677e6bd
Date: 2011/06/13 00:13
第五十八話・むーびんぐ、ざ、わーるど①




因果応報、前因後果。廻り周って巻き込んで。それでもなお、蝶は羽ばたく。足掻く。無様に蜿く。無様だろーと、飛び続けるのです。




さて。
今宵、“迎え”はやって来るのでしょ~かね。

テーブルの上に置いてある“人形”の頭を指先で突っつきながら、私はぼんやり考えた。
私にできる、最後の悪足掻き。
正真正銘、ラストカードだ。切り札ってより、もうそれしか手札がなかっただけだけど。

綱渡り人生ファイナルステージ。
なのに心は無駄に平静、とゆ~かこれ以上にないくらい落ち着いている。
いろんなものから逃げまくって辿り着いた袋小路は、逆にクールな私を取り戻させたのか。それともいろいろぶっ飛び過ぎてマイハートが遂に壊れちゃったのか。
ホント、いろいろあったからなー。いろいろ。
ほんのりと追憶。
我が奇蹟的な軌跡。下手こいたら鬼籍。
まあとにかく、うん。
……いろいろあった。
あ、何だ。いろいろがナントカ崩壊し始めた。ゲシュ何とか崩壊。あばば。






※※※※※※※※



トリステインの首都、トリスタニア王宮の執務室。
アンリエッタは小さく息をつき、ゆっくりと椅子に腰を下ろす。

神聖アルビオン共和国とトリステインとの戦争は、あまりに呆気なく、あまりに意外な形で終わりを告げた。
ほんの数日前、会議中に飛び込んできた兵が持ってきた報。
神聖アルビオン共和国の解体と、虚無を“騙っていた”逆賊の死。

温くなったワインに口を付ける。

戦争は終わったのだ。
これから戦時とは別の意味で忙しくなるのだろうけれど、血は…兵や無辜の民たちの血はもう無駄に流れることはない。
でも。

革命。
“逆賊”クロムウェルからアルビオンを取り戻した聖女。
若き美貌の女王。
モード大公…プリンス・オブ・モードの血を引く、正統なる血族。
自分の従姉妹。
“ハーフエルフ”。
そして……“虚無”。

「………何が、起こっているの…?」

クロムウェルの正体は、数千人の前で暴かれたという。
彼の演説が最高潮に達する直前、兵や民の興奮が爆発する寸前、まるで演劇のクライマックスのようなタイミングで“革命”は成った。
突如、濫入しクロムウェルを取り囲む近衛騎士。うろたえる彼の前に、騎士たちが開けた道から現れた美貌の少女。その少女を見て、一斉に傅く大臣たち……。
隠された王家の、悲劇の美姫の逆転劇。
本当に、演劇の“ものがたり”のようだ。出来すぎている、としか思えないくらいに。

しかし、マザリーニは言っていた。
『そこにいた者たちは、疑問など露ほども思わないでしょう』
『むしろ、そんなものを見せられたら……。もし全てシナリオ通りだったなら、ぞっとしませんな』
と。

事実、新生アルビオンの初代女王は“革命”直後から絶大な支持を得ているという。
直に革命を目の当たりにした者たちはもちろん、彼らが広める口伝によって場にいなかった者まで同じ興奮に冒されていく。
たった数日で、このトリステインにまで聞こえてくるほどに。

血のように赤く、でも血よりも冷たい温いワイン。
ゆらゆらと揺れるその赤を、アンリエッタはいつまでも見詰めていた。




※※※※※※※※




―――― ルイズを信じてください。何があっても。ルイズを守って、守られてください。


扉がゆっくりと開いてゆく。

廊下に座っていた才人の口元が微かに綻ぶ。
手持ち無沙汰に玩んでいた愛剣を後腰に差し、立ち上がる。硬い床にずっと座っていたせいか、伸びをすると関節がポキポキと音を立てた。

扉が完全に開かれる。

腰に手を当て、開いた扉の先に立つ少女に。
才人は“いつもの”ような、屈託のない笑みを向けた。

「ったく、ようやく起きたか。寝坊にも限度ってもんがあるぞ、ご主人さま?」




※※※※※※※※




「ったく、ようやく起きたか。寝坊にも限度ってもんがあるぞ、ご主人さま?」

才人は、“私が眠る前”と同じ笑顔を向けて言った。
怒鳴られると思ってたのに、いや、もう愛想を尽かされてると覚悟していたのに。
出迎えてくれたのは、同じ笑顔。
少しこみ上げそうになったが、耐える。
この笑顔と態度に応えるのは…きっと“いつも”の私でないといけないから。

「てか今、夜だけどな。『おはよう』じゃなくて『おそよう』だな」

「っさいわね。それより準備はできてるの?」

何の、とは言わない。言わなくてもきっと分かってるはずだ。

「ばっちり。目的地さえ決まってるなら、夜明けを待たなくても出発できるぜ」

「そう。じゃあ、ラ・ヴァリエールに行くわよ。ココアで最短距離を飛べば1日ちょっとで着くはずだから」

部屋から一歩、踏み出す。
もうしばらくぶりで、ほんの少しだけ勇気が要ったけれど、二歩目からは止まらなかった。これ以上、立ち止まっているなんてできなかった。

「ヴァリエールって、もしかしてお前ん家か?」

「そうよ。実家に協力を仰ぐの」

「一応、この件ってわりと機密っぽいんだけどな」

「反対?」

「いや、大賛成。悔しいけど、俺たちだけの力じゃ何ともならねえし」

必要最低限の荷物を手渡し、そのまま歩く。才人は半身くらい遅れてついてきた。

「荷物これだけか?何か以前と思うと少なくね?」

「無駄を省いただけよ。それに、軽い方がココアも速く飛べるでしょ。それよりあんた、あの駄剣はどうしたのよ?」

「ココアに括り付けてある」

「…ヘソ曲げるわよ、あいつ」

「いや、剣の稽古の時は使ってるし、ココアとも仲良さそうだったから大丈夫だろ」

早足でもやはり才人の方が歩幅で歩みは速い。すぐに隣に並ぶ。
でも追い抜いたりはせず、私の速度に合せてくれた。

「…」

「……」

……。

「……待っててくれて、ありがと」

「…ん」

「遅くなって…塞ぎこんでて悪かったと思ってる。…ごめん、才人」

「信じてたからな。別に気にしてねえよ」

互いに前を向いたまま、立ち止まらないで言葉だけを交わす。
感謝も謝罪も素直に口から出て、才人もそれを茶化したりはしなかった。

「…うん。私も、信じるから」

“約束”したんだから。
才人、ちゃんと私を守りなさいよ。私もあんたを守ってあげるから。信じているから。
そして2人でまた、あの子に会うのよ。

もう立ち止まったりしない。
どんな手を使ってでも探し出す。救い出す。連れ戻す。
見つけ出して、何もかも1人で背負って姿を消した馬鹿な親友を殴ってやる。
そして、私たちが一方的にさせられた“約束”を、あの子にもさせてやるんだから。


―――― サイト君を信じて下さい。何があっても。サイト君を守って、守られてください。


だから、絶対に。

「絶対に、連れ戻すわよ」




※※※※※※※※




幸せになれ、と書かれていた。

彼女には家の事情を話していない。
なのに。彼女はいつからか、まるで母親のように、姉のように私に接した。
髪を撫でる掌はいつでも優しく、誰かに抱き締められる温もりも思い出させてくれた。
作ってくれた手料理の味。いつかの湖畔でしてくれた膝枕も、おぼろげだけれど憶えている。
いつも笑顔で、何も聞かないのに…何でも知っている気がする。理解してくれている気がする。
たくさんを与えてくれたのに、教えてくれたのに、何も対価を求めてこない。
そんな彼女が最後を想って遺した願いは、“ 私の幸せ ”。

杖を握る手に力が篭る。
思い返す度に、胸の奥が熱くなる。
でも、自分は無力だ。
考えうる全ては何の成果も上げれず、全てが袋小路。
だから正直、この“任務”を言い渡された時、彼女を探すのが中断されるというのに、どこかほっとしてしまった。
諦めたわけじゃないのに、諦められるわけがないのに。
杖を握る手に、力が篭る。

「お姉さま!」

風を切る前方からの声に、顔を少し上げる。

「大丈夫なのね!いつもみたいにちゃちゃっと済ませて、すぐまたラリカ姉さまを探しに行けばいいのね!きゅい!」

「……」

この子は、シルフィードは、今の自分の思いを察して元気付けようとしているのだろうか。
それともただ単に、思ったことを言ってみただけなのか。

「それにしても、いつも空気が読めないのね!こんな時に任務入れるとか、じょ~しきを疑っちゃうのね!」

「……」

空いている左手で、ぶつぶつと文句を続けるその背を撫でてみる。

「きゅい!?お、お姉さま?」

「何でもない」


「??」

小さく息を吐き、前方に向き直る。
そうだ。この子の言う通り。今は“任務”に集中すればいい。
それに、もしかするとこれが袋小路を脱する切欠になるかもしれない。今から向かう先は、前国が滅んでいようと探るだけの価値は充分にあるのだから。
任務に就くにあたり与えられた偽造入国許可証も、今後役に立つかもしれない。

「何でもない。…大丈夫だから」

「……きゅい」

大丈夫、私は前に進んでいる。
杖を握る手から、ほんの少しだけ力が緩んだ。




※※※※※※※※




「おや」

「あら」

寮の中庭、ギーシュとキュルケは殆ど同時に声を漏らした。

「こんな夜更けに…って、人の事は言えないか。どうやら、“眠り姫”に掛かった呪いは解かれたようだね。あの不器用な“王子様”がどうにかしたのか、はたまた彼女が自力で解いたのかは分からないけど」

「ええ。それで早速出発ってものどうかと思うけどね。朝も待たずに。ま、あの子たちらしいんだけど」

そう言ってキュルケは嬉しそうに笑う。ギーシュもその笑顔につられたように、笑みを浮かべた。

「そういう君も、“らしい”笑顔に戻ってるよ。置いてけぼりにされたのに、嬉しそうだ」

「あたしは今回、ここで待ってる事にしたのよ。そういうの、柄じゃないって言われてもしょうがないけどね。でも、他が居ても立っていられない子たちばかりなワケだし」

ルイズ、才人、タバサ。それぞれ彼女に対する感情は違えど、想いの大きさは変わらないだろう。

「それもそうか。でも君だって、」

「ねえ」

「ん?」

「あたしね、同性に“いい女だ”って言われたわ」

「……あ~、それはだね、ええとあの白い例の花的な意味で、」

「…」

「冗談だよ!だからそんな怖い顔をしないでくれ」

くすっと笑い、取り出した杖を再びしまう。とは言っても、最初から攻撃するつもりなどなかったようだったが。

「男たちからは聞き飽きてるほど言われてきたんだけどね。同じ言葉なのに、何ていうのかしら。……凄く嬉しかったわ」

だから、と続ける。
彼女らしい、自信に満ち溢れた笑顔のまま。

「だから譲るのよ。“いい女”ってのは、そういう気遣いだってできるものだからね。今回は帰る場所で待つのがあたしの役目。あの子たちが、ラリカが、いつ戻って来てもいいように。もちろん、必要とあらばいつでも動くけど」

「……なるほどね。まあ、うん。何となく分かるよ。女の子たちに褒められるのは確かに嬉しいし誇らしいけど、本心から男友達に褒められたら、それはまた違った意味で嬉しいからね」

キュルケなら、同性の殆どから嫌われている彼女なら、余計にだろう。
ギーシュにもその気持ちはよく理解できた。

「ま、あたしはそういうワケだけど。あなたはこれからどうするのよ?」

「……いや、ね。僕もできれば一緒に連れて行って欲しかったんだけどね」

「出遅れた、と」

「正門の陰に隠れて待ってたら、ココアに乗って飛んでいく姿が見えたよ」

「……」

「……まあ、僕もとりあえず待機しているよ。情報収集くらいならここでもできるからね」

キュルケは苦笑し、溜息を吐く。
そして身を翻しながら、不幸な友人に言い放った。

「どうせ今から寝るのも何だし、飲みましょ。悪酔いしない程度になら付き合ってあげるから」




※※※※※※※※






あの日。
クロムウェルとシェフィールド(ミョズ姐さん)は、はじめましてを言うヒマもなく天に召されました。

てか、ワルドやばすぎ。
風のスクエアが油断ゼロ、手加減ゼロで殺しにかかるとあそこまでヤバいとは思わなかった。
お命頂戴とか、殺す理由を300文字以内で答えるとかせず、まさに瞬殺。あれを回避できるヤツとかいないでしょーな。
例えるなら、顔見知りのオバちゃんがいつものように挨拶を交わした直後に暗殺拳キメてくるが如く。最強最速全力の不意打ち(ピンポイント急所)とか、無理ゲー過ぎる。
ミョズ姐さんはスキル何とか言うニセモノ人形を影武者にしてるかもとか思ったけど、そんな淡い期待は見事に打ち砕かれた。

いや、私だって努力したんですよ。
ティファニアまさかの悪堕ち(?)から始まった悪夢の日々を。必死で。

クロムウェル暗殺&傀儡として操るとかトチ狂った計画を聞かされ、そんな大それた事を3人(ロン毛、おマチ、テファ。私は含めるな)でやるなんて無理無駄無謀、せめて数十人くらいの仲間を得てからじっくりゆっくり時間を数年かけてやるべきじゃないでしょーかと訴えた。
それに翻弄される民とかどーするのとか、戦況が芳しくないしクロ公なんて操る価値ないよとか、頑張って説得した。

ティファニアを正しいルートに戻すべく、煽てもした。
“忘却”の虚無はこの世界で“最も優しい魔法”だ。癒えない傷、心の傷を消すことのできる唯一の魔法。争わずに戦いを忘却の彼方へと消し去ることのできる唯一の魔法だと。
それはきっと、悲しい過去(ティファニアの過去はあの後聞かされました。強制的に)を背負ったテファだからこそ授かったチカラなんだよ、とか。
まあ、実際はテファはそれだけ優しいし、戦いとかキライなはずだからさっさと目を覚ましてプリーズって事なんだけど。

結果。
ティファニアが女王になりました☆

わーい新国家イェーイ。おめでとー女王さまー。
そーいやこれで、我が王族ナデナーデはアルビオン女王までも達成したことになるんだーすごいなーあこがれちゃうなー。
あばば。

いやぁ、まさに快進撃でしたな。
いきなりクロ公とミョズ姐さんがむっコロされた時は鼻血が出そうだったけど、アンドバリを装備したおマチさんが一晩でやってくれました。一晩じゃないや。何晩だ?知らん。寝てない。
まあいいや、よくないけど。やってくれました。
私は私で、ミョズ姐さんを操らせないようにするのに必死で、脳味噌の120%はそれに使わざるを得なかったし。
ま、結果として“それだけは”努力の結果が実った。奇跡を起こせた。じゃなきゃ今、私はここに居ない。奇跡が起きなかったら鬼籍になってる。
…そのせいで、できればもう使いたくなかった“アレ”と、その“設定”を使うハメになったけど。右目の視力が心配だ。命に比べりゃ安いが。

とにかくだ。
2人の尊い…私にとっていろんな意味で一方的に尊かったのはミョズ姐さんだけだけど、まあその命が失われた後は、まさにチーム・ワルド無双。
いや、ティファニアの“忘却”とアンドバリの指輪が組むと、あそこまでチートになるとは思わなかったッス。はんぱないッス。

生者へのピンポイント忘却はハーフエルフの嫌忌とか諸々、そーいう邪魔なのを要人たちのアタマから消し去った。
結果、大臣らお偉方貴族にとってティファニアは何の問題もない正統なる王位継承者。しかも虚無ってなれば文句を言う人なんてなっしんぐ。
見目麗しさとかそーいうのも多分プラスに働き、女王様まんせー条件はすんなり成立したのだった。

死者はもっと楽。アンドバリで操り直すだけ。
ちなみにクロムウェル皇帝陛下殿は、死亡直後から“鬼籍の復活”を遂げ、以降例の大暴露革命ショー終了まで演出担当顧問&助演男優を務めていただきました。
死してなお、その高い演出能力で革命ショーをプロデュースするとは、ある意味尊敬ですな。南無ナーム。
お陰で“ショー”は大成功、大興奮に感動の嵐。本当にお憑かれさまでした、元皇帝陛下。もう安らかに眠って下さい。

クロの旦那とミョズ姐さんの血は流れたけど、後はほぼ無血革命。

『ラリカ、あなたが言ってくれた“優しい魔法”の意味、やっと分かったよ。このチカラのお陰で血は殆ど流れなかったから…』

成し遂げ、微笑むティファニアは何か二段階くらい大人になってる風味だった。

『…それにこのチカラなら、ワルド様の罪を、背負うものを、その…少しでも減らしていけるかもって…』

訂正。二段階くらい大人&乙女になっている風味だった。
新女王の恋のお相手が裏切りロン毛野郎のワルドとか、世界オワタタタ。もうどうにでもな~れ。原作なんぞもう知るか。




まあいい。それはいい。そこまではいい。良くないけどいい。何ていうか、耐えられた。
でも、トントン拍子で国獲りシナリオが出来上がって…ある意味順風満帆、我が精神はハチ切れ寸前な頃…“その時”はついに訪れた。

ミョズ姐さんの部屋から目を付け、こっそりパクっておいた“人形”。
そいつから聞こえてきた………声。


『…ーズ、ミューズ。聞こえているか?余の可愛いミューズ』


ロン毛たちには絶対に教えるわけにはいかなかった。知られたら、せっかく成し遂げた奇跡をフイにしてしまうから。
でも、それは放置していても同じ事。
実は頭がいい無能王さんは連絡のないミョズミョズを不審に思い、調べるだろう。メイジと使い魔の絆とやらで彼女の死を察するかもしれない。
そうなれば、手は自然とチーム・ワルドに、てか私に伸びてくる。
私の嘘はバレてチーム・ワルドは敵化、ジョゼフは普通に敵だし、もう見事なオーバーキルが待っているだろう。

返事を急かす声に、考える私。

急かす声、悩む私。

急かす声、とっくにオーバーヒートを起こしてるアタマを回転させる私。

急かす声。


……“ぷちん”。


気付いたら、馬鹿笑いしていた。
まるで“正体”を暴かれた悪役みたいに。実際似たようなモノだし、ヤケクソも6割くらい入っていたかもしれない。

そしてひとしきり笑った後、人形に向かって言ったのだ。
無駄に自信タップリの、上から目線の、余裕の笑みを含んだ声で。



『 ――――――― チェックメイト 』



と。




回想、最低の日の追憶。
私が今、“迎え”を焦がれている理由。
うん、まだ脳味噌がアレだ。何が言いたいのか自分でもサパーリだ。


……。


兎にも角にもその日より、綱渡り人生のファイナルステージが幕を開けたのだった。




[16464] 第五十九話・強引愚昧ウェイ(Going My Way)
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:2677e6bd
Date: 2011/07/20 03:21
第五十九話・強引愚昧ウェイ(Going My Way)




いつかの言葉をちょっと変えて。今度は確殺の心を込めて。 ―――― ご崩御ください、国王陛下☆




『 ―――― チェックメイト 』


私は考えた。
残された道を。

『はじめまして、ガリア国王ジョゼフ陛下』

オーバーヒートした脳味噌は、それでも私に最後の道を教えてくれた。
何てことないカンタンな結論。今まで思い付かなかったのは単純に勇気が足らなかっただけだ。

『わたくし、陛下の“チェス”の対局相手をつとめさせていただきました……そうですね、“フェイカ・ライア”とでも名乗っておきましょうか』

でも、もう追い込まれた。四方八方塞がれた。
なら、もう正々堂々、正面からブチ破るしかないでしょう。

『皇帝 <キング> になりたがった分不相応な僧侶 <ビショップ> は今や私のお人形。死体の兵士 <ポーン> たちと共にこちらの手駒になりました』

出し惜しみなんてしない。
手持ちのカードは全部出す。覚悟はできた。心は決まった。

『切り札の <クイーン> も、いえ陛下の“女神”でしたか?彼女はとても優秀な駒だったようですが、残念。相手が悪すぎたようです。儚くも散ってしまいました』

もう他人に夢は見ない。信じる者が“すくわれる”のは主に足元で、ヒーローが奇跡を起こして助けに行く対象はヒロインだけだ。
つまるトコロ、私のようなモブ以下のクズ女が平穏を掴み取るには、自分のチカラでどーにかしろってことなのです。

『それで、ものは相談なのですが。宣言したはいいものの、やはり実際に <キング> を取ってゲームを閉じたいのです。それにお互い対局相手の顔も知らないのはどうかと思いますし』

だから、私は決めた。
フーケ以降、全ての元凶であるこのアホ王。“最初の私”が殺されたのだって、大元を辿ればヤツの戦争ゲームから始まった。
そしてこれからも(原作的に)10巻以上にわたって事件は起き続ける。
ヤツがいる限り、それは約束された不幸な未来だ。
打開するには?私が救われるためには?

『お手数ですけど、迎えを寄越していただけませんか?』

結論。
ガリア王、ジョゼフ1世を“死なす”こと。
全ての元凶を、断つこと。
それが究極の解決策で、私はそれを実現できるカードを持っている。
なら、やってやるしかないでしょう?

『ふふ、感謝いたしますわ。お礼に…楽しい対局をさせていただいたお礼に、完全な敗北に添えるカタチで陛下の望みを叶えて差し上げましょう』

嘘と偽りにまみれた私だけど、嘘偽りなく貴方の望みを叶えてあげる。
求めていたものを、探し続けていたものを、与えてあげる。
貴方が忘れてしまった感情を、後悔を、死に至る“心の痛み”を届けてあげる。

『では、お会いできる日を楽しみにしていますわ。陛下』

貴方を“殺す”ことはできないけれど、
貴方を“死なす”ことなら可能だから。

もうこの先、この目的を果たすまで、私は何があっても立ち止まらない。
私の、最後の戦いだ。
これで本当に“終わる”。
この戦いの結末がどうであれ、正真正銘これで終わるのだ。

……ま、勝つのは私なんだけど。

“私”の仇。過去なんぞに囚われた憐れな王よ。
渇望した心の震えと、温かな後悔に満たされて、死ぬがいい。

『ふふふ、あははっ!あっはははははははははははははは!!!!!』

ふはははははははははははははははは!!!!!

あはははははははははは。

……ははは。

…はは。


あー………。


……ぁ。


…。


うん。
ついカッとなって言った。後悔はしていない。
していないったらしていない。
無駄な事はしないのです。どーせもう何ともならなかったしネ☆

…でも。まあ、その、アレだ。
後悔とかしてないし、ちょっぴりビビッていたとかそういうのも微塵もない。
アタマ冷えてきたら震えが止まらないとか全然ない。武者震いはしてるけど。

大丈夫、OK、問題ない。私は冷静だ。



でも、何と言うか。その。
ちょっとだけなら泣いてもい~よね?



………ぐすん。






※※※※※※※※






見慣れた病室の白い天井を見上げながら、ぼんやりと混濁した頭で…思う。

あの日の記憶。
“私”の選択。
追い込まれるところまで追い込まれた“私”が出した結論。
“俺”の、佐々木良夫の願いは、分かっていたけど…叶わなかった。



彼女の全てを賭けた最後の策は、本当に彼女の思い描く通りの結末へ届くかもしれない。

奇跡的、と言っていいかどうかは分からないが、策を果たすだけのモノもヒトも状況も全て整っている。加えて、今回彼女は表舞台に露出するのだ。
今までのように原作の誰かと一緒にではなく、ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティアという個人で。Wikiにも明記されている、“主要登場人物”として。
今までの彼女の行動、そして舞台裏や心情を明かされないまま作られた人物像は、“それ”を成し得るだけの資格が十分にある。脇役のままでは成し得なかっただろう大事も、今の彼女ならば可能かもしれないのだ。
そして、それだけにとどまらず、彼女には…“代償”まで用意されている。

たった1人で黒幕の“虚無”を倒し、戦争を終わらせる。
いくら“主要登場人物”となっても“主役”ではない者にとって破格ともいえる活躍だ。場合によっては主人公達の助けが必要になったり、予期せぬイベントが起こってしまう危険もある。
でも、それを成すのに“代償”を支払うのだとしたら。活躍につり合うだけの悲劇が用意されているとしたら。

例えば脇役でも、死と引き換えにすれば多少の強者を倒せるように、代償を支払えばそれなりの活躍が許される。“見せ場”を与えてもらえる。
Wikiの登場人物、“上から3人目”の少女が、取り返しのつかないくらいに大きな“代償”を支払えば、どこまでの活躍が許されるか。“可能”になるか。

だから彼女は……本当に、思い描く通りの結末を掴み取れるかもしれない。


でも、きっとそれは誰も本当の意味で幸せにはなれない結末。
自分を想ってくれている全ての人を裏切る、最低のエンディング。

もしも、ルイズを信じていたら。
才人を、キュルケを、タバサを、ギーシュらの間にある友情を、愛情を信じていたら。
先入観を持たず、“今”のワルドを、マチルダを、ティファニアと向き合っていたら。
自分に向けられる感情を、素直に受け取れていたら。
こんなはずじゃなかったかもしれない。
たった1人でも信じられる存在がいたなら、別の選択肢を選んでいたかもしれない。
最初に望んだものとは違っても、幸せを掴んでいたかもしれない。
…でも、ラリカは結局、誰も信じなかった。

無口で内向的な“私”を嘘で覆い隠し、明るく社交的な“私”を演じた。
利用目的で近付き、相手の境遇を、性格を、隠された内面を……“原作知識”によって得た情報を使い、取り入った。
それは、嘘の自分が嘘で築いた嘘の関係。
過ごした時間は騙した時間。
嘘の自分でいる限り、“原作知識”がある限り、全ては偽りでしかない。
そしてこの関係は、嘘の自分でいるからこそ、“原作知識”があるからこそ成り立つもの。
本来なら疎まれて育ち、見下されて過ごし、僅かな期待にすら応えられずに死んだラリカ“なんか”が手にできるようなものではないのだ。
ルイズみたいにいい子が、才人みたいにすごい子が、キュルケみたいにきれいな子が、タバサみたいにえらい子が、自分“なんか”と絆を紡ぐはずがないのだ。
どうせ、全部ニセモノなのだ。

そうラリカは決め付けていた。
ある意味、それは“ラリカ”という少女と友人になった彼らに対する最悪の侮辱だろう。
劣等感は仕方がなかったかもしれない。“原作知識”というチートを使っているという罪悪感もあったかもしれない。
彼らとの最初の出会いは、それこそ打算でしかなかったのかもしれない。
でも人は変われる。嘘から出た真実なんて幾らでもあるはずなのだ。
なのに、ラリカは頑なに決め付けた。
自嘲と現実逃避をするばかりで、変えようとも変わろうともしなかった。本当の意味で、彼らと向き合わなかった。
……こんな結論を出してしまうくらいに、誰も信じることができなかった。


IFは所詮、意味のない“もしも”でしかなく、現実は現在進行形で進んでいく。
屑は屑のまま、変われないまま、それに相応しい結末に向かっていく。


止められない物語は、彼女の物語は、加速していく。




ぼんやりと、抗えない睡魔が襲ってきた。
“俺”が眠り、“私”が目を覚ます。また再び、“私”が始まる。


…。

ラリカ。


愚かで、あわれで、どこまでもすくわれ、ない、“わたし”。




おまえ は、






※※※※※※※※






水の精霊が言った、“満たぬ者”。

それはミョズニトニルンの使った禁忌の魔具“ユンユーンの呪縛”を強制的に解呪した為に、ラリカの心の一部が破壊されてしまった事を意味していた。
それは偶然か、必然か。欠けたココロは、しかしそこに別のモノを残す。
―――― 原罪の記憶。ミョズニトニルンの欠片。
夢というカタチでそれに気付いたラリカは、自分が“自分だけのものではない”事への恐怖を抱えながらも周囲にはその事実をひた隠し…やがて完全に自分の中のミョズニトニルンを知覚していった……。
そして運命の日、魔法学院寮で起こった奇妙な事件。
あの夜、完全にサルベージしたミョズニトニルンの残留思念“悪意の欠片”を壮絶な深層心理戦の末、制御することに成功したラリカは、ある決意を胸にトリステインから去ろうとする。
そこに偶然現れたのはかつてアルビオンで戦った裏切りの騎士、ワルド。
現在は神聖アルビオン共和国に籍を置くその男を、しかしラリカは“敵”と見なかった。
なぜなら、彼女は知っていたから。
いつの日かタルブの夜。
“際会”した彼の瞳には、負の想いなど映っていなかった事を。
騙し、裏切り、殺した彼は、それでもなお、邪悪に歪んではいなかった事を。
ゆえに、ラリカは彼の言葉に頷いたのだ。
……貴方の目的の為に、私を利用するのは構わない。だから、私も貴方を利用する。
言葉でなく、その“契約”は心で交わされた。


偽りの虚無クロムウェル、その傍らに立つ謎の美女シェフィールド。
その2人を討つ事に成功した4人(ワルド、マチルダ、ティファニア、ラリカ)だが、シェフィールドが倒れた瞬間、異変が起きた。
悲鳴をあげ、顔を押さえて苦しみ出すラリカ。そして真紅に染まる、彼女の右目。

『彼女に“アンドバリの指輪”を使ってはいけない』

頭を押さえ、肩で息をしながらラリカは言葉を紡ぐ。

『彼女は、“神の頭脳”ミョズニトニルン。あらゆるマジックアイテムを“支配”する伝説の使い魔。彼女に対しては、あらゆるマジックアイテムを使ってはならない』

シェフィールドを操ることができれば、有益な情報を聞き出せるかもしれなかった。
彼女を討つ目的の1つはそれだった。
しかし、ワルドは、ティファニアは…マチルダは、ラリカの言葉に従った。



『私がトリステインを抜け出そうとした理由、そしてワルド様たちと行動を共にした理由、お話します』

眠るように横たわるシェフィールド…いや、ミョズニトニルンの屍の傍らで、ラリカの告白が始まる。
ユンユーンの後遺症、ミョズニトニルンの記憶により知った事実。
とある事情から心を失った“虚無”と、そんな主を愛してしまった使い魔。
報われない想いはやがて狂気になり、歪んだ方向へと暴走していく。
……喜びを喪った貴方へ“勝利する者の喜び”を。
 ……怒りを喪った貴方へ“裏切られる者の怒り”を。
  ……哀しみを喪った貴方へ“失った者の哀しみ”を。
   ……楽しみを喪った貴方へ“その全てを支配し見下ろす王者の楽しみ”を。
見てもらうために、思い出してもらうために、感じてもらうために。
この白の国を“舞台”に彼女は“役者”たちに演じさせたのだ。

『……私は、そんなミョズニトニルンを止めたかった。きっと、彼女を理解できるのは“彼女のカケラ”を持つ私だけだから…』

ラリカはミョズニトニルンの髪を優しく撫でる。

『これがワルド様に付いて行った理由です。付いて行けば、いつかこの人に逢えると思って。逢えたらどう説得するかとか、そこまでは考えていなかったけれど』

その結末はミョズニトニルンの死だった。

『でも、これで良かったんです。彼女が死んだ瞬間、私は全てを“識り”ました。ユンユーンの最後の呪いによって、断片的だった彼女の記憶が私に流れ込んできたから……』

ユンユーンの呪縛。
ただ人を操るだけでなく対象の人生そのものを奪い取る、忌まわしきそのマジックアイテムに残されていた、最後の呪い。
それはミョズニトニルンの死の瞬間に発動し、呪縛に囚われた者の肉体を奪い取るもの。
ラリカは呪縛から不完全なカタチでだが逃れていたため、ミョズニトニルンに成り代わられることはなかった。
だた、記憶と想いだけを情報として流し込まれ、全てを知ることができたのだ。

『……これで、良かったんです。彼女は終わりなき狂気の牢獄から、解放されたのですから』

愛ゆえに歪んでしまった最凶の使い魔。
アルビオンに災厄をもたらした彼女もまた、運命と言う名の呪縛に囚われた悲劇のヒロインだったのかもしれない……。




………。




とまあ、そんな具合で。

以上が“今までのあらすじ”…とゆ~か“設定”。使える情報や人物をフルに使い、矛盾とか疑問にも懇切親切にお答えした珠玉の嘘。
この“設定”を前提に、私の最大最後の策は始動する。もうしてるか。

チームワルドの面々は、実は全ての元凶であったミョズ姐さん(“設定”参照。死してなお利用してごめんなさい&ありがとう姐さん)が死んだからガリア関連のアレはとりあえず収まったと判断、現在は新政権を軌道に乗せるべく色々頑張っている。
実際ジョゼフ側もアルビオンを今すぐどーこーしようとか思ってないみたいだし、その判断は正解だろう。

まあ、アルビオンは戦争してたトリステインとの間では終戦しちゃったし、逆に今の状況ではガリアが侵攻とかする理由がない。
新政権が気に食わないから侵略するよ!とか空気読まない戦争はできるかもかーもだけど、現在、ジョゼフの興味は国家戦争でなく、私個人だ。

つまるところ、“今のところ”戦争は終結。どっかで小競り合いくらいはあるだろうけど、一応は平和っていえる状態に戻った。
ヤツがいる限り、危険な状態は微塵も変わらないけど、とりあえず“今のところ”は。

我が目的のその1、『戦争に巻き込まれるとかイヤなので、とりあえず平和な世界』。
――――(仮)達成。


で、次は私にメロメロ(別な意味で)な憎いあんちくしょう、ジョゼフの始末。
これ最重要。
てか、世界がいくら平和でも私の平和が約束されなきゃー意味がないし。本末転倒なんてベタ、もう我が辞書には載ってないのだ。

…ま、すでにやっこさん、まな板の上の鯉なんですけどね☆
私の挑発に乗った時点で…彼の性格からして乗るのは100%確実だったけど、その時点でほぼ終了。
私はこうして屋敷で優雅にワインを飲んでるだけで、動いたり頑張ったりする必要はNOTHING。
送迎のガリアタクシーにお城まで連れて行ってもらい、謁見の場で“例の話”を出せばチェックメイトだ。なんて簡単なお仕事…!!
後は憑きモノが落ちて生きる気力&狂気を失い、キレイなジョゼフと化した彼に、政権をタバ子にでも渡せとかタバ子ママンをどーにかしとけとか、私をアルビオンに送れ(コレが最重要)とか言って、後はまあ、自殺するなりタバ子に殺してもらうなり好きにしてもらう。
ガリアの“虚無”は、そうして私の前に為す術もなく滅びるのでありまーす。


ワイングラスを呷り、う~んマンダム、と自画自賛。
ちょ~っと酔ったかな?さっきもほんのり寝ちゃったみたいだし。
もう今宵は待ち人来ないかもかーも。あと30分待って来なかったらベッドインしよう。
どーせあんまり寝れないだろうケド、それでもベッドに入れば多少の疲れは取れるはず。
ま、どういうわけか、あんま疲れを感じないんだけどね。何と言うか、常にドーパミン分泌マシマシ状態?アドレナリンだっけ?どっちでもいいか。


…ええと、どこまで、
そうだ。
我が最後にして最大の策は、言葉の通り“最後まで”を考えた策だ。

当然の事ながら、この策を成していくうえで私は無茶苦茶に目立つだろう。
表にだけでなく、裏の方面にも。

使い魔能力は使えなくてもミョズニトニルンの記憶と知識を持ち(“設定”上)、新生アルビオン樹立のメンバーの一員(実際は人質で何の役にも立ってない)で、加えてジョゼフを“死なせ”る(予定)とか、もうフルスロットルで目立つ。

もう忘れられてる可能性は高いが、ルイズと才人っていう“主人公達”の知人ってのも痛すぎるし、アンアンにまだ恨まれている可能性だって捨てきれない。

それに、ジョゼフを“死なせる”のには例の教祖の“虚無”を利用するんだけど、余計な事を喋られたら確実に興味を持たれるだろう。あの宗教国の連中、実に怪しい方々なのでトラブることは必至だ。
せっかくジョゼフを消しても、今度は教皇に目を付けられたりしたらたまらない。原作知識もジョゼフ攻略までで打ち止めだし。

こうして挙げてみると問題は物凄~く山積みだ。
ひとつひとつ解決していくなんて無理ゲーだろう。普通なら。

でも、我が策はそれすらも楽~に解決する“手段”を持つ。“奥の手”、最終兵器。
最後まで、エンディングまで、全てとっくに計算されているのだ。



ワイングラスを…もう中身ないや。
ちょうどいい、今日はここまで。あんまり考えるとお腹すくし。夜食は横に成長する要因なのです。ただしテファの場合は胸に栄養行くけど。
じゃあルイズとかどこに行ってたんだろう?タバ子は?異次元?…どうでもいいか。

大きく伸びする。
待ち人、ガリアからのお迎えに備えてわざわざ“こんな格好”をしていたけど、寝間着に着替えるかな。
右目の“コレ”は…ホントは付けたまま寝るのはダメなんだけど、もしもの時のためにそのままにしとくか。実に視力的心配がマッハだ。

小さく欠伸をして、椅子から立つ。








どさり、と外で誰かが倒れる音が聞こえた。


とんとん、と軽いノック。
そして。



「――――“フェイカ・ライア”。あなたを、迎えに来た」



ドアの向こう、ちょっとだけ懐かしい……声がした。




[16464] 第六十話・むーびんぐ、ざ、わーるど② SideB
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:2677e6bd
Date: 2011/09/18 16:48
第六十話・むーびんぐ、ざ、わーるど② SideB




その心は、救われたのか。掬われたのか。巣食われたのか。







任務は、アルビオンの客人をガリアへ送迎すること。

決して粗相のないように、丁重に、敬意を持って“誘拐”すること。
任務は、たったそれだけの単純なものだった。
……単純なものの、はずだった。


「……フェイカ・ライア。あなたを、迎えに来た」


護衛の…いや、そう表すにもあまりにお粗末な一般兵を気絶させた私は、ドアをノックして中の人物に“迎え”の来訪を告げた。
明らかな偽名の、謎の人物。
アルビオンの重要人物であるらしいのに、女性だろうという事以外は全くの不明。どう重要な人物かなのかさえ、知らされていない。

扉の向こうに感じる気配は1人。
他に兵が潜んでいる様子もない。一応は慎重に進んできたが、ここに至るまでトラップの類も全くなかった。屋敷自体、城の敷地内ギリギリにある離れのようなもので、国の重要人物が住まう邸宅とは程遠い。
任務に就く際の事前情報でこの事を知らされ、罠かもしれないと思っていたのだが…。

かちり、とロックの外れる音。
疑問を心の奥へしまい、思考を切り替える。

いつでも、何が起こっても“対処”できるように杖を握り、警戒を、




※※※※※※※※




ゲルマニアの国境近く、ラ・ヴァリエールの城。
夜の帳は降り切って、普段なら静かな眠りに包まれているはずのそこは今、たまに開かれるパーティーよりも煌びやか?な光と、賑やか?な喧騒に溢れていた。


「ああもう!!何でこうなるのよ!?」

「こっちの台詞だよ!?てか文句言ってねえでどうにかあの人たち説得してくれよ!?」

「相棒、何かまた増えたみたいだぜ!!すげえピンチだな!でも俺今幸せ!!」

中庭を駆ける2人の少年少女、3人分の声。
それを追いかける使用人や兵士たち。

「無理よ!!もう逃げるしかないわ!交渉決裂!退却よ!!」

「いやお前の家族だろ!?とりあえず冷静になって話し合えば、」

「いっそムカデを相棒にしようか?とか考えていた時期が俺にもありました…。でもそれ間違ってた!やっぱ相棒はおまえさんだけだぜ!」

潜んでいた使用人に挟み撃ちにされるも、長刀と狩猟刀の二刀を持った少年は簡単にそれを一蹴する。
逃走は止まらない。
2人と3人分(1人は勝手に喋っているだけのようだが)の掛け合いも止まらない。

「私の家族“だからこそ”無理なのよ!!」

「うん今すごく納得した」

「武器は使われてこそナンボ!剣は振るわれてこそ輝くんだ!!言語担当とか頭脳担当とか、そんなの俺の戦場じゃねえ!!」

賑やかに逃げる2人と3人分の声の元へ、上空から細長く巨大な何かが降下して来た。
数サントの大きさでも嫌悪される虫、ムカデ。それが5メイルの巨体で鋭い牙をカチャカチャと蠢かせながら、しかも獲物に襲いかかるかの如く降下してくる。
常人が見たら悲鳴をあげそうな光景に、しかし2人は嬉しそうに駆け寄っていく。

2人の男女は“虚無の担い手”ことルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、そして“虚無の使い魔”平賀才人。
もう1つの声の主は彼の相棒、魔剣デルフリンガー。
この大規模で笑えない真夜中の“鬼ごっこ”の逃亡者たちは今、待望の脱出ポイント(ムカデ)に辿り着こうとしていた。

「ココア!こっちよ、降りてきて!!サイト、乗り込むわよ!!」

「よしきた!!掴まれルイズ!跳ぶぞ!!」

「でも俺、何か盾みたいな扱いじゃね?まあ確かにガンダールヴは“神の盾”だし、俺ってば左手用の武器なんだけど、ってもっと喋らせ、」

ルイズを抱えるために左手を空けようと、まだ何か喚いているデルフリンガーを背中の鞘に収める。
遠くでラ・ヴァリエール公爵が凄い怖い顔をしているのが見えた。

うん、今の俺、絶対悪役。娘を誑かし、攫って逃げる素敵な泥棒。
ラリカを探す協力を求めるだけのはずが、どうしてこうなったんだろう。


……。


結果から言うと…どうしようもない現状から察する通り、ヴァリエール家の力を借りようとした2人の目論見は失敗に終わった。
ルイズが『大切な友人が行方不明だから探したい』と懇願し、必死で訴える娘のために公爵が対話の席(晩餐会後の家族会議)を設けたまでは良かったのだが……。


『やれやれ。誰を探すと言うかと思えば…。“あの”メイルスティア家の娘?まったくもって下らんな。論外だ』

『その失踪事件って、例の学院で起こった事件の事?王立魔法研究所からも調査団で人員を出したみたいだけど…機密機密で胡散臭かったわ』

『何と。…ならば余計に認められんな。断固として認めぬ。そんな怪しげな事件に首を突っ込ませるわけにはいかん』

『全く、学院に入れたのは失敗だったか?そんな身分の低い者のために危険を冒し、ヴァリエール家の力を借りてまでと思い詰めるとは…』

公爵は、“彼女”を知らなかった。
どんな経緯でルイズと友人…いや、親友になり、どんな時間を過ごしてきたのかを。
なまじ事が王家の失態を含む機密だからこそ、王家と近しい公爵という立場にありながら“最上の忠臣”を知らされていなかった。
その少女がトリステイン最下等貴族の娘であるとしか認識していなかった。
とっくに退いている軍務、アンリエッタ女王の合理的な戦争と呆気ない終戦で、トリスタニアへ赴く必要がなかった。
王都に居れば耳に入る噂も、口の軽い関係者が漏らしただろう情報も、このヴァリエールの地に居ては聞こえることはなかった。

だから、恐らく何の悪気もなく、むしろ愛する末娘を案じるがゆえに……


『 ―――― 友人も、相手を選ばねばな 』


その言葉を、今のルイズにとって最悪の禁句<タブー>を口にしてしまった。

いろいろ溜まっていたフラストレーションと、大好きな親友を全否定されたルイズは爆発。
ショックから立ち直って精神的に成長しているかと思いきや、彼女は普通に感情的だった。

激昂して部屋を飛び出すルイズ。
追いかけて捕まえよとの命令に、どこに隠れていたか大量に現れる使用人たち。

『サイト!やっつけて!!』

との言葉に、廊下で待っていた才人が状況も分からないまま使用人たちを一蹴。
そこへゆっくりと部屋から現れるルイズパパ。

『……聞き分けなさいルイズ。昔はもっと素直だったろう?さあ、駄々を捏ねていないで部屋に戻るんだ』

『嫌です!もう父さまなんて知らない!!サイト、一緒に逃げるわよ!!』

もちろん、それは純粋な意味での“一緒に逃げる”だった。
でも、“そう”は受け取ってもらえなかった。
そして“そう”正しく受け取られてもいいわけがないのに、もっとよくない意味で捉えられた。
理由としては、公爵らがルイズの使い魔をココアだと勘違いしていたことだとか、だから同年代の異性でしかも平民の護衛(だと思っている)の才人に若干の不信感を抱いていたことだとか諸々あったのだが…
まあ、それらが全部悪い方向に働いてしまったのだ。

『は!?いや、その前に何がどうなって…、お前一体何やらかしたんだよ!?え、ええとすいません(ルイズの)お父さん!!でもどうか俺たちの話を、』


Q.
溺愛する娘が、夏期休暇の後半になってやっと帰郷したかと思ったら、何か平民の少年とムカデの使い魔に相乗りでやって来ました。
きっとおそらく少年は護衛でしょう。でもやけに娘に馴れ馴れしいです。タメ口です。
どうやら交友関係もよくないみたいです。底辺貴族のメイルスティアとか、娘の将来を考えてもプラスになるとは思えません。
素直ないい子だったのに、反抗的になっていました。
挙句の果てに、その護衛……相乗りでやって来た例の少年と逃避行しようとしています。足止めしろとか逃走経路を切り開けとかじゃなく、一緒に逃げようと。
父さまなんてもう知らないのに、一緒に逃げ、……誰が“お義父さん”だって?

A.
よ~し、パパ娘についた悪い虫を退治しちゃうぞー。


血は水よりも濃い…のかどうかはともかく、そういう諸々の原因が重なってルイズパパも娘と同じく激昂した。
引き抜かれる杖、容赦なく才人に放たれる手加減抜きの魔法。
なぜ使用人がルイズを捕獲しようとしてたかとか、なぜルイズパパが自分を攻撃してきたかとか分からないけれど、呆けている余裕はなく、才人もデルフリンガーを抜き放って迫る魔法を吸収した。
それは普通に正当防衛なのだが、公爵にしてみれば、平民のくせに貴族に対して剣を抜いた無礼者。加えて“悪い虫”。
武装使用人と私兵を追加するのには十分すぎる理由だった。


……。


そして現在。
ガンダールヴ無双しながら城から脱出し、ようやく2人は待機させていたココアの所まで辿り着いたのだった。

「これで逃げ切れ、」

「サイト!!」

「!?」

ルイズの声に、伸ばした手を引っ込める。ほぼ同時に2人の間の地面を風の刃が抉り取った。
振り返る2人。
その先には、やたらと目つきの鋭いピンクブロンドの女性が立っていた。




※※※※※※※※




「なるほど、流石はこの街一番の情報屋だ。どうやってネタを仕入れてくるのか。……約束の報酬だよ」

路地裏、街の光が殆ど届かない暗がり。
ローブに身を包んだその人物は、男なのか女なのか一瞬判断がつきかねるような美声で言った。そして前に立つ浮浪者風の情報屋に皮袋を差し出す。

「まいどあり。だが何だってあんな噂を…、っと。何でもねえ。いらねぇ事に首突っ込むと碌な目に遭わねぇからな」

ローブの人物は答えず、小さく笑う。
情報屋は肩を竦めながら差し出された皮袋を受け取った。


………


「あぁ、そういえば」

去り際、情報屋の男はそう言って立ち止まる。
半身だけ振り返り、あくまでこれも噂だが、と前置きをして続けた。


「その女、あんたと同じような“目”をしてるらしいぜ。色はまあ、違うみてえだが」


情報屋が去り、ローブの人物は被っていたフードを外す。
女かと見紛うばかりの、色気を含んだ唇に、長く整った睫。眉にかかった金色の髪をかき上げる仕草もどこか優雅で、気品めいたものを感じさせる。
それは目の覚めるような美形の、少年。


「偽りの“虚無”、本物の“虚無”。女王と3人の男女か。……次は何が、誰が、どう動くのだろうね」


呟く少年の瞳は、“月目”。
鳶色の左眼と碧色の右眼は、月明かりの下、どこか遠くを見詰めていた。




※※※※※※※※




公爵夫人の豪華な衣装を着てはいるが、感じるプレッシャーはただの“貴族の奥さま”のそれとは全く違っていた。
騒がしく追ってきていた武装使用人たちは、彼女の登場でぴたりと静まり返り…ラ・ヴァリエールの城は深夜に相応しい静寂を取り戻す。

「ルイズ。お転婆もいい加減になさい。お父さまは貴方が心配なのですよ」

ピンクブロンドの女性、見た目だと四十過ぎくらいだろうか。おそらくルイズの母親だろうその女性は、炯々とした光を放つ鋭い視線を娘に向ける。
それだけで、気の強いはずの…加えて頭に血が上っているはずのルイズが目に見えて怯んだ。父親である公爵には『父さまなんて知らない!』とまで言い切れたはずなのに。

「…か、母さま」

「城に戻りなさい、ルイズ。戻ってお父さまに謝りなさい」

「わ、私は間違ってないもん……!!父さまが、何も知らないのにあんな、」

「ルイズ!」

母の怒声にルイズは小さく悲鳴をあげて才人の後ろに隠れ、パーカーの裾を握り締める。
そのせいで今度は才人が鋭い視線に当てられることになった。

「……それで、あなたは娘の何なのですか?ただの護衛、などという見え透いた嘘は通用しませんから、そのつもりで」

「俺!?え、えっと……、その、ルイズの使い魔です」

「ああ」

と、ルイズママは頷いた。
2人の後ろの空を旋回する、従順なムカデの“使い魔”を一瞥し、溜息をつく。

「分かりました。正直に答えるつもりはない、と」

「え!?いや俺は本当に、」

竜巻がルイズママの背後に現れる。

「今回の件といい、この平民との関係といい、ルイズ、貴方には一度じっくりとお説教をする必要がありそうですね」

「こ、コイツの言ったことは本当なんです母さま!!本当にこいつは私の使い魔で、ココア…メガセンチビートはラリカの、行方不明になった友達の使い魔なんです!」

怯えた様子ながらも、ルイズが弁解する。
しかし竜巻は消えず、むしろより激しくなった。

「他人の使い魔が、ましてや知性もないような大ムカデが、主が行方不明だというのに他の者に従うと?」

「そ、それはその…友情、とか…ええと、と、とにかく本当なんです!!ココアはラリカがいなくなってからもずっと言う事を聞いてくれて!きっと本当は凄く頭がいい、」

「おだまり!…はぁ、もう話にもなりませんね」

溜息混じりの、怒気を含んだ声。
もう弁解は無理だ。抗議も言い訳も例え涙の訴えですら聞く耳を持ってくれそうにない。
そして、“おはなし”の次に来るモノはというと…。

才人は母親の怒気に気圧されて怯えるルイズを背に感じながら、自身もルイズママのオニのようなプレッシャーに晒されながら、必死で思考を巡らせる。
巨大な竜巻、つまりルイズママは風メイジ。絶対トライアングル以上、いや、ワルドを参考にするとスクエアか。
翻してココアに乗り込んで逃げるとする。逃げ切れるか?無理、竜巻に巻き込まれる。そうでなくても風メイジの魔法で撃ち落される。

…切り抜ける方法はただ1つ。

ルイズママの中では、才人は剣を使えるだけの平民で、ルイズは魔法の使えない“ゼロ”だ。
どう足掻いてもこの“お仕置き”から逃れる術はないと確信しているはず。
そこに付け入る。切り札が通用するチャンスは一度きり。

「…ルイズ」

小声で話し掛ける。

「な、何よぉ…」

「ここで捕まったらもう、ラリカを探せなくなる」

「っ!!」

服越しに伝わってきていたルイズの震えがぴたりと止まった。

「だから…やれるか?」

何を、とは言わない。
ルイズからも返答はなく、代わりに詠唱が聞こえてくる。
伝わった。
ならば、


「ルイズ。少し、頭を冷やしなさい」


ルイズママが手にした杖を、すっと2人に向ける。
それを合図に、控えていた竜巻が2人へ襲い、……かからなかった。
荒れ狂っていた竜巻は放たれようとしたその瞬間、光り輝き、消滅したのだ。
切り札その①、ルイズの虚無“ディスペル・マジック”。

「今よ!!サイト!」

見慣れぬ光、そして跡形もなく消し飛ばされたスクエアスペルにたじろいだルイズママの目の前に、背中のデルフリンガーの柄に手を掛けた才人が現れる。

「!?」

目を見開くルイズママ。完全に予想外の事態に、しかし迫ってきた相手を吹き飛ばすべく、瞬時に“ウインド・ブレイク”を放つ。

「っしゃぁ!また俺の出ば、」

抜き放たれたインテリジェンスソード(何か喚いていたが振り抜いたので聞き取れなかった)が、猛る魔法の風を切り裂くように吸収する。
切り札その②、伝説の剣“デルフリンガー”。

そして、

「ルイズのお母さん!ご、ごめんなさい!!」

謝罪と同時の一閃。
切り札その③。
暇さえあれば手入れをし、磨き、幾度となく“固定化”や“硬化”、“鋭化”を掛けてもらった勝利の剣。
まるで木枝を切り落とすかのような、そんな軽い音を立て……


“斬伐刀”に叩き切られた杖の先が、夜空に飛んだ。




※※※※※※※※




杖が、手から滑り落ちそうになる。

部屋の明かり、逆光で陰になっていて、でもその顔は見紛うはずもなくて。
その瞬間に、任務とか、いろんな“なぜか”とかすらも全部吹き飛んで。


口を開く。

ずっと考えていた言葉を、
でも、
言葉が、咄嗟に出てこない。


『助けに来た』
『遅くなって、ごめんなさい』
『あの夜に、何があったの』
『誰の仕業』
『もう大丈夫』
『これからは、私が護るから』


言いたい言葉、聞きたい疑問、幾らでもあったはずなのに。
いつか読んだ物語の“勇者”のように、囚われの“おひめさま”に救いの手を差し伸べるつもりだったのに。

口を開いて、でも何も言えずにいる私。
石になったみたいに、ただの一歩すら踏み出せなくて。



“彼女”はそんな私を見て、優しく微笑んだ。
綻んだ口元がゆっくりと開き、呆ける私よりも先に言葉を紡ごうとする。


『助けに来てくれて、ありがとう』
『心配をかけて、ごめんなさい』
『待っていた』


それは感謝の言葉か、心配させた事への謝罪か。
それとも、あの夜の事を話してくれるのか。
何でもいいと思った。どんな言葉でも、きっと自分は満たされると思った。
こんな形でだけれど、願いは叶ったのだから。

でも、彼女の口から出た最初の一言は、私が想像していたどの台詞でもなく。
私が期待していた、どんな言葉よりも……



きっとそれは、今、私が一番欲しかった言葉。



彼女は両手を軽く広げる。
笑顔は、変わらぬまま。
いつものように、いつかのように、



「――――― おいで、タバサ」







っ!!



……。


私が彼女を助けに来たのか、私が彼女に救われに来たのか。
何だかもう、よく分からない。
よく分からないけれど、分かった事。



「……し、ばーみ」

「ん?」

「はし、ばーみ」


「…ふふっ。はしばーみ、タバサ」





“ねえさま”の腕の中は温かくて。


私の中の冷たい氷を、溶かしていく。





[16464] 第六十一話・むーびんぐ、ざ、わーるど② SideA
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:2677e6bd
Date: 2011/11/15 07:54
第六十一話・むーびんぐ、ざ、わーるど② SideA




さて。刮目せよ、“世界”。ここから先は、この私が主役…ってほどでもないけど、若干主要人物だ!!




トビラを開くとそこは雪風だった。
             『 白(の)国  著:ラリ端・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティ成』


…うん、ちょこっと苦しいかなかーな?
とゆ~かこの場合は名前と苗字の順番的にラリ成・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティ端か。どーでもいいけど。

幼き日、連日猛暑の夏休み。読書感想文で少しでも涼しそうな(題名の)本をってコトで読んだっけ。雪国。
懐かしき佐々木良夫の日々よ。ほんのり追憶。
懐かしいけどまだまだ再転生に賭ける気はないぜー。私はラリカとして幸せに生きられるルートを、今から拓いてゆくのです。


とかまあ、圧倒的余裕から生まれる冗談は置いといて、ガリアタクシーの運転手、タクティカル幼女(?)タバ子は雪国の寒さに凍りついたが如くフリーズ。
ここは確かに雲が雪みたいに白い『白の国』だけど、今は絶賛夏。サマーだ。学生諸君はさま~ばけいしょん。微塵も寒くはない。
つまりタバ子氷の原因は当然寒さじゃない。驚きだろう。無理もないけど。

今のタバ子の思考を代弁すると。

『バ、バカな…!!この馬鹿は死んだはず!!それがどうしてこんな場所にッ!!!』

ってとこだろう。

『………誰だっけ?見たことあるよーな、ないよーな??』

ではないことを切に願う。我が存在感的にはあり得なくない話だけど。


うんうん、今までビビッたりテンパったりするのは私だっただけに、こういう反応とかって何だか実に新鮮だ。
本来なら原作知識持ってる時点で優位に立ってなきゃ~おかしいのに。こーいうサプライズ感が普通なはずなのに、今までの私ってホントばかですな。
……うん。さっきから思考が外れ過ぎ。酔ってるな、完全に。

あんまり放置プレイもアレなので、とりあえずタバ子を解凍するか。
しかしさて、何と声を掛けるべきか。


うーむ……。


ま、いいか、深く考えなくても。どーせタバ子だし。

てきと~にいつものようにすれば、条件反射でパブロフって我に返るだろう。
少しくらいマズっても、タバ子に対しては最大級の“決め手”があるんだし。

と、いうわけで。


「――――― おいで」


ヘラヘラと小さく笑って両手を軽く広げてみました。
ラリカ流、不敬炸裂ヘイかもんタバ子!の構え。一子相伝。おそらく次代へは伝わらない。

「……!!」

タバ子の身体がピクっと動き、いつもの、いつかのように素直に近寄って…って、速っ!?怖っ!!?

「っと」

ちょっとしたダッシュの如く飛び込んできたタバ子を抱き止め、小さく息をつく。
一瞬、攻撃されるかと思ってビビったのは内緒だ。

…そういやタバ子は本来、危険人物として扱うべき存在だったな。これまで割と大人しかったからナメてたけど…若干反省。少しは警戒すべきだったかも。
今からちゃちゃっと計画通りに言いくるめるとはいえ、現時点ではまだ味方ってわけでもないのだ。
いや、むしろルイズとの友情的に考えたら若干敵サイドか?原作主人公チームの友情レベルってどれくらいだったっけ。


「……ーみ」


ん?
何か言ったかタバ子よ?
スマソスマソ。おねーさん考え事してて訊いてなかったんだヨ。ワンモアセッ。


「……はし…ばーみ」


…。
ええと。

私にガキンチョの如くぎゅっと抱き付いたタバ子から、例の合言葉(?)が漏れる。胸に顔を埋めてるから表情は窺い知れないけど、まあ普段のような無表情だろう。
うむ、コドモは体温高いとか言うけど、流石は雪風。伝わってくる体温も暑苦しいとか不快じゃーない。逆に若干ひんや~り?…私が酔ってて体温高くなってるだけか。
だから逆に何だか心地よく、じゃなくて。

何というシュール。
条件反射とはいえ、オマエと私は(現時点じゃ)敵みたいなモンでしょーに。それともまだまだタバ子とルイズ達との友情レベルが低いのか?
私が逃亡する直前までの感じだと、それなりに仲良しこよしだったっぽかったんだけどな。

何だか微妙に気が抜けて、あーんど少しだけ可笑しくなり、思わず小さく笑ってしまう。


「ふふっ、はしばーみ。……タバサ」


背中ぽんぽん、アタマなでなーで。
もひとつオマケに何となくぎゅーっと。

まあ、とりあえずタバ子の解凍には成功したようだ。
…うん。




※※※※※※※※




と、いうわけで。

ゴーイング空の旅。追っ手もなく、実に手際のよい離陸でした。
タバ子の花なんとか騎士団としての手腕もあるだろけど、攫われやすい状況を作っておいた私の心遣いも功を奏したのだろう。

こんな城の敷地の隅っこに住まわせてもらったのも、警備をプライバシーとか何とか言って少なくしてもらったのも、我が交渉手腕&猛乳の女王陛下とのエセ友情パワーに他ならない。
多分。
利用価値がなくなったので自動的に扱いも粗末になったからとか、忙しくてアホ女1人に構ってるヒマがないとかじゃないハズだ。言い切れないのがアレだけど。
ともかく今回は逃亡一直線じゃなく、あいるびーばっくる予定なのだ。トラブルがないに越したコトはない。


考えてみれば、シルフィードに乗っての移動ってあんまりなかった気がする。

(今は懐かしき)使い魔のココアが飛べるから、移動は専らあっちを使ってたし、ココアを置いてきた後も空の旅はロン毛所有のグリフォンだった。
グリフォンも羽毛フカフカで悪くはないけど、やっぱ竜の方がデカくてゆったりできるだけいい。大は小を兼ねるとは言い得て妙かも。

それに夏とはいえ、上空でなおかつそこそこのスピードで飛んでいれば、若干冷えてきたりするもんなんだけど、タバ子を後から抱いた状態で座る私は風除け&彼女の体温のお陰でそれなりに快適だ。
まあ、こっちも背もたれになってあげてるし、ギブアンドテイクってやつだろう。


ちなみに。
学院の様子とかは、それとな~く聞き出した。


『ところでタバサ。学院の様子とか聞いてい~い?』

『いい』

『さんくゆーべりーまっち。ピンクの衝撃☆ルイズはどんな様子かなかーな?』

『いつも寝ている。なかなか起きてこない』

『ふむふーむ。パーカー大好き才人君は?』

『昼間は庭とかにいる。夜はルイズのところ』

『なーるなる。赤い情熱の炎キュルケは?』

『ルイズのところに行ったりしている』

『おおう。薔薇ギーシュ君とかミス香水モンモランシとか』

『夜遅くまで外にいたり、秘薬を作ったりしている』

『ミスタ・グラン…は、まぁいっか。うん、何となく把握したですよ。なるほどなー』


まあ、予想はしてたけど、どうやら学院は今日も平常運転っぽい。

ルイズは惰眠を貪り、ハニー兼ご主人様がだらけてて街に出れない才人は庭で暇潰しの日々。
キュルケはどうやらいつものようにルイズをからかいに行ってるようだ。
ギーシュはまあ、夜遊びでも憶えたんだろ。モンモンとミスタ・グランドプレがくっついちゃったんで夜遊びを咎めたり嫉妬する人がいないってワケか。
モンモンは普通に秘薬作りだな。ミスタ・グランドプレは筋トレだろう。見る影もなくマッスルになった彼を見れないのはどうでもいいレベルで残念だ。

あ、シエスタとかおでれえ太君を聞き忘れたけど、どーせ似たようなモンだろう。


つまるトコロ、あっちの原作メンバー+1は夏期休暇をエンジョイ中ってワケだ。ヒマそうで実にうらやましい。
原作的には空白の期間。次のイベントは、夏期休暇が終わってからのルイズ強制帰省だろうか。
でも“今回”は既に戦争終わっちゃってるし、シエスタも才人にゾッコンLOVEじゃないし、そのイベントは起こらないだろう。
才人がルイズ一家とご対面するのは相当先になりそうだ。このまま乖離が進めば、ひょっとすると『娘さんを私に下さい』的な頃になる可能性もある。どーでもいいけど。


……。


「ところで」

空の旅開始から小一時間。
私の質問に答える以外、ほぼ無言なタバ子に言う。

「私の使い魔、ココアの飛行速度は馬と同じくらいです。でもでもー?あの子に乗っていくと、目的地へは馬よりずっと早く到着できてしまいます。なぜなにど~して?」

タバ子は答えない。
答えは絶対分かってるハズなんだけど、答えない。
表情も窺い知れず、でもただ、華奢な身体が少しだけ強張ったのを感じた。

やはり“そう”か。
理由は何となく分かる。確率的には低いだろうと思ってたけど、“原作”との乖離が激しいし、そーいうコトもあるだろう。

だが想定内だ。
今度のラリカさんはあらゆる事態に対しパーフェクトなのだよ。

「解答。空の旅は最短距離を真っ直ぐGOできるからでした。……というわけでタバサ、そろそろ真っ直ぐ飛ばなーい?」

シルフィードは真っ直ぐでなく、緩やかにカーブを描きながら飛んでいる。
アルビオンから出て、恐らく現在海の上空。
暗いし目印になるようなモノは見えないからハッキリとは分からないが、私たちは同じ場所を大きく旋回、もしくは無駄に遠回りをしている。

……つまるトコロ。タバ子は今、悩んでいるのだろう。

私、ターゲットを命令に従い無能王陛下のもとへ連れて行くべきか否か。
じゃなきゃーこんな無駄時間は取らない。外回り中にサボるサラリーマンじゃあるまいし、時間を潰す意味もないし。
得られるのはせいぜい私との心底どうでもいいだろう雑談か、謹製ラリカ印の背もたれだけだ。
会話はこっちから話し掛けないと発生しないし、背もたれもタバ子がアレな性癖にでも目覚めてない限り、彼女の親友キュルケと比べたら貧相過ぎる我がバディ~に寄り掛かって悦ぶ理由がない。

まあ、とにかく。
普通だったら任務は絶対なはずだ。

でも“原作”では才人を殺す任務を途中でうっちゃり、遅めの反抗期を迎えた。今回、それが若干早めに訪れたとしても不思議はない。
私ことラリカは、アンアン陛下に弓を向けた(てかガチ殺意込み込みで射抜いた)挙句、謎の失踪を遂げた怪しさ爆発女。
そんなのがトリステインと戦争してたアルビオンに、しかも端っことはいえ城の敷地内にいて、今度はガリアへ秘密裏に招かれる。もう核爆級の怪しさだ。

そんな怪しいヤツを、本当に連れて行っていいのか。よからぬ事でも企んでるんじゃないのか?ルイズら友人たちの為に、今ココで処分しちゃった方がよくないか?
てゆーか大嫌いな叔父さん直々の客人なら、詰問とかすればいい情報が手に入ったりしないか?

……そんな感じで原作メンバーとの友情度が現在どれくらいなのかは知らないけど、具合によってはそ~いう思考に至ってたっておかしくはない。
まあ、そこまでカゲキ思考はなくたって私が無条件で信用される要素は微塵もないわけだし、警戒くらいは普通だろう。

いくら条件反射ではしばーみしても、所詮はモブ以下路傍の石子さんと原作の親友達とじゃ比べるべくもないのだ。


「ま、でもゆったりゆっくり空の旅も悪くはないかもかーも。んじゃ、時間はあるようだし、今度は私のことを話そっか」

しかーし!!この事態、想定内ゆえに対処法はとっくに準備万端だ。
てか、再会時に質問攻めに遭うって予想してたんで、本来ならその時に言うはずだったんだけど。

再会時、疑問を感じなかったはずはない。
むしろ状況から格好に至るまで、疑問じゃない点を探す方がムズかしいくらいだ。
訊いてこない理由はまあ、いろいろあるんだろうけど…命令で余計な詮索禁止令とか出てるってセンが常考的に濃厚かな。

と、言うワケで。

訊かぬなら、聞かせてやろうホトトギス。
彼女に“教える”ことが、我が策の重要な一手になるんだし。
そう、我が策はタバ子がいなけりゃ成り立たない。迎えがこの子じゃなくても、ガリアに着いたらいずれ呼んでもらうつもりだった。
この一手でタバ子は否が応にも私の“協力者”となるのだ。

「んー、でも何から話そうかなかーな~?私がアルビオンにいた理由とか、トリステインから居なくなった経緯とか、はたまた“この格好”とか」

私の“協力者”。
もちろん、友情の絆とかそーいうキレイなもんで繋がった仲じゃない。
抗えないくらい魅力的なエサと、迷う時間を与えないタイムリミット設定を使った…いや、むしろある意味脅迫に近いか。実際、他の選択肢を潰すんだし。

「偽名も気になる?実は何日も徹夜で寝て、当日即興で考えた珠玉の偽名だったりするとかしないとか壮大なストーリーうんぬ~ん。て、それはどーでもいいかな」

ヘラヘラ笑いながら、タバ子の髪を軽く撫でる。
重ね重ね無礼だし、“設定”的にはもう彼女がガリアの王族って知ってることになってるんだけど、それでもなでなーで。
もちろん、コレも計画のうちなのだ。
今から語る、シリアスな話に持っていく前フリとして。

「うん、よし。似合わないシリアスでも醸しておきますかね。今回は流石に冗談ばっかり言ってられない話だし」

大切なのは、インパクト。
必要なのは、覚悟。

この話をタバ子に…“主要人物”に語ることにより、私という存在は世界の表舞台に躍り出る。
アルビオンの3人に語るのとは比べ物にならない影響力。後戻り不能、逃れることなんて無理無駄無謀な運命の奔流に呑み込まれていくだろう。

……この“セカイ”が“納得”できる結末を、迎えるその時まで。

ま、何だかんだ偉そうにアレだけど、実際はもうこの策に賭けるしか道なんぞないんですけどねー。
覚悟とか、んなモノは人間どーしようもなくなればデキるものなのです。
というわけで、シリアスモードのまま、ハイ投下☆



「……全てをね、終わらせに行くの。この一連の悲劇を。誰も幸せにならない、この現実を。“それ”を為せるだけの切り札を、今の私は持っているから」



…。

どうよこの主要ポジション的なセリフは。今、わたくし確実にモブの壁を破りましたよ。
ハイ注目!!ここから私のターン!わーるどいず、まいーん!
あの内気で弱気で買い取り拒否で屑でグズだったラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア嬢が、ナニを血迷ったか“物語”の表舞台に乱入ですよー。
将来、思い出すだけで枕に顔突っ伏して足バタバタ必至な黒歴史を刻んじゃいますよー。



「今の私にならできるから、今の私にしかできないから。私はこの、与えられた役目を果たす。 ―――――“わたしがおわってしまう”、その前に」



そして!意味深すぎるセリフと共に、間髪入れずに自ら死亡フラグを解き放つ!!

タバ子の身体が、再び強張ったのを感じた。
掴みはOK、興味はひけたはず。てかこれで『フーンそうッスか…』とかなったら色んな意味で終わりだし。
あとはテファとかにした一連のあらすじ…“設定”と、あの時はまだ言わなかった(とゆーかまだ充分練れてなかったんで言えなかった)もう1つの真実を伝えると。
それで確実にタバ子の迷いは消し飛び、従順な“協力者”と化すはず。


…よし、気合入れていくぜ私!!
全ては我が計画を成し遂げるために!!



全ては我が若干明るい未来のために!!!




※※※※※※※※




はじまりは、アルビオンで起こった一連の事件。
あの日、少女の中には忌まわしき“呪縛”が刻み込まれた。


“それ”を再び知覚した切欠は、水の精霊が伝えた“満たぬ者”というキーワード。
その日を境に、少女の孤独な戦いは始まった。

幾度となく繰り返される、自らの中に蠢く悪意との戦い。そんな中で際会を果たした、かつての敵たち。
少女は決意し、愛する国を…学び舎を去る。

そして彼女は“虚無の担い手”でもある現アルビオン女王とも出会い、絆を紡ぎ……やがて彼女ら共に偽りの虚無と呪縛の主を討った。

無意味な戦争は終わり、アルビオンには新たな朝が訪れ、トリステインにも平穏が戻る。
全ては、幸福な結末を迎えた……はずだった。



“神の頭脳”が墜ちた日。
ミョズニトニルンの死をもって、全てが完結したのか。
少女の戦いも終わったのか。


答えは、否だ。


ミョズニトニルンの死を切欠に紅く染まった少女の右目は、時が経っても元の色に戻ることはなかった。
不完全ながらも少女の中に乗り移った記憶。遺された呪縛の痕。

1つの身体に2人の記憶が宿る。それ自体、本来なら考えられない事だ。
“ユンユーンの呪縛”が完全ならば、彼女の記憶や精神は消滅し、ミョズニトニルンに成り代わっていただろう。
その際にルーンも受け継がれ、移行は何の不具合もなく完了する“はず”だっただろう。

しかし今現在、少女の中に宿るのは彼女本来の精神と、ミョズニトニルンの…“神の頭脳”用の膨大な知識と記憶だ。
伝説の使い魔のルーンによる補助もなく、ただの少女の心にそこまでの情報量を制御できるのか。
伝説でもないのに分不相応なモノを得た少女を、天は許してくれるのか。

答えは考えるまでもない。

器は、それ以上の水を注ぎ込めば溢れ出すだろう。
流れ去る水は失えど、器は器のまま、在り続けられるだろう。

だが、それが密閉された箱ならば。
受け容れられる以上の水が、その中に突然押し込められれば。
“ただの少女”という、その脆すぎる箱は。



少女が得たのは、愛ゆえに歪んだ女性の悲しい記憶。

だからこそ、彼女の暴走を止めた。無意味な戦争を終わらせることができた。
そしてその記憶を使い、今度は彼女が愛した男を止めに行く。誰も信じられない悪意の塊となったその男を止められるのは、自分しかいないのだから。
今は何か言えないけれど、それを可能にする“切り札”を持っているのだから。


得たものと、失ったもの。
得るものと、失うもの。


“神の頭脳”の記憶と、平穏な日常。
“切り札”と、自らの未来。


どちらか一方だけなんて、そんな都合のいい話はない。

そんな出来すぎたハッピーエンドなんて、存在しない。




※※※※※※※※




月明かりを反射して淡い銀色に映る雲を眼下に、風竜は往く。

その背の上で、雲と同じ色の髪を靡かせ、少女は語った。
普段の冗談めかした口調ではなく、真剣な、でも優しい口調で。


自分にはそれができる。できるから、それを為しに行く。
“わるもの”を退治しに行く。
囚われの“おひめさま”も救い出し、“めでたしめでたし”を迎えさせてみせる。


少女は語る。
誰かの未来を。
誰かの為の、幸福な未来を。


自分にはそれしかできない。今しかできない。だからこそ、それを為しに行く。
あの哀しい女性が愛した男を、止めに行く。
最期のけじめを付けに行く。

“切り札”を収めたその“箱”が、壊れてしまう……前に。


少女は語る。
自分の未来を。
自ら為す大事の、それ相応の対価を。


遠くない未来。でも、約束された未来。
その少女は、

その脆すぎる“箱”は、






ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティアは、――――― 死ぬ。









世界はとても平等で、幸福の傍らには常に、相応の不幸が佇んでいる。











オマケ
<Side とある公爵夫人>


使用人たちが慌しく何か喚いている。
それを聞き流しながら、真ん中あたりから綺麗に切断された杖を見詰めた。

末娘の、初めての反抗。
叱られて怯え切っていたあの子は、しかし少年の一言で自分を取り戻していた。
風メイジだから聞き漏らさなかった一言。
あの子が“親友”と言い、帰省の理由になり、反抗した原因である少女の名前。
あの子にそこまでさせる少女。

手加減はしていた。
竜巻も攻撃というより無力化・拘束が目的だったし、動きの制限される服装に加え、使ったこの杖も愛用のではなく予備の物だ。
しかし、それでも放ったのは紛れもないスクウェアスペルだったはず。
なのに、どういう魔法を使ったのか見当も付かないが…そのスクウェアスペルを消滅させた。魔法が使えないはずのあの子が。
それを受け、あの平民であろう少年も臆することなく自分の元へ駆け、咄嗟に放った“ウインド・ブレイク”を切り裂き…この“烈風”を出し抜いて見せた。
結果、2人はこのラ・ヴァリエールの城から脱出に成功したのだ。

「カリーヌ!今、一体何が、」

駆けてきた夫に振り返り、かぶりを振る。
彼は切断された杖を見て目を丸くし、そして2人が飛んでいった夜空の先を呆然と見上げた。
すぐに追っ手を、と言わないのはそれだけショックを受けているということだろう。

「…あなた」

そんな夫に声を掛ける。
“あれ”を見せられて、自分の中にあった怒りは今跡形もなく消えている。
代わりに沸いてきた興味。
あの子にそこまでさせた、メイルスティアの娘とは一体どういう少女なのか。
自分の知っている、貴族の面汚しのような“あのメイルスティア家”の者とは違うのか。


「少しだけ、調べてみてはいかがでしょう。あの子が“親友”と呼ぶ少女の事を」




[16464] 第六十二話・夜空そらごと、絵空事
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:2677e6bd
Date: 2011/12/25 09:55
第六十二話・夜空そらごと、絵空事




明かされない嘘は、真実と変わらない。だから私のこの“嘘”は、誰にも決して解けはしない。……おそらく多分、いや!絶対に!!




無言。

話し終わってどれくらい経っただろうか。多分2、3分だろうけど、沈黙が痛い。
…よし、“溜め”はコレくらいでいいか。

「とまあ、そーいう具合でして!いやーラリカおねーさん困っちゃうぜー。なんて」

さっきとは打って変わって“普段通り”の明るい口調で沈黙を破る。
もちろん、意味があっての切り替えだ。このままシリアスモードを続けるのと、こうして露骨に普段通りに戻るのでは効果が全く違う。
全て予定通り。このままタバ子を“陥落”させる。

「どうして、」

沈黙ブレイクからまたしばらくして、タバ子がようやく口を開く。
出てきたのは予定通り“疑問”のセリフだった。

この衝撃(私にとっては笑撃)の事実を聞かされて出る疑問。
そのうちの1つをタバ子の口から言わせなくてはならない。あくまで私は答える立場。そしてそこから私の望む展開へ導いてゆくのだ。

「どうして、ラリカがしなくちゃいけないの」

ん?違うな、コレじゃーない。
テキトーに答えて、次だ。

「言ったとおり、私にしかできないからかな?わたくしご存知の通り、色んな意味でダメダメ人間ですから。やれることはやっとかないと、結局なーんもできないってコトになっちゃうのですよ」

……。

「どうして、ラリカなの」

コレでもない。ま、私みたいな取り得ゼロのモブ子が、こんな大事の中心にいるってのは尤もな疑問だけど。
はい次。

「それは始祖のみぞ知る?もしくは『絶望』の二つ名は伊達じゃなかった!ということで」

……。

「どうして、そこまでしてくれるの」

私の幸せのために!とか答えるのはマズいので、とりあえず誤魔化しとこう。
とゆーか、なかなか望んでる言葉が出てこないなぁ。

「う~ん、とりあえずタバサがいい子だから、とかじゃダメ?」

ヘラヘラ笑いながら頭を撫でる。かなりバカにしてるっぽい行為だけど、セーフなはずだ。
今の私は完全に優位に立ってるし。

「……」

あ、無言になった。
もしかして疑問打ち止め?
望んでる疑問もかなり鉄板だったと思ったけど…仕方ない。強引だけど、こっちからそれとなーく誘導してみるか?

「どうして、そんなふうにしていられるの」

とか思ってたら来たッ!!!
コレですよコレ!この質問!!こいつを待ってました!!
『死ぬ』言っといて、ヘラヘラしてりゃー当然浮かぶだろう疑問!わざわざシリアスモードから、通常(といってもニセモノだけど)モードに切り替えた理由!
心の中でほくそ笑み、あえて“何でもないふうに”答える。


「ん?そりゃ~死なないで済む解決策があるからねー」


答えた瞬間タバ子がいきなり立ち上がり、こっちに向き直る。ちょっとびびった。
てか若干お目々が赤いぞタバ子。もうおねむの時間なんだから仕方ないか。

「話して」

「オケーイ。…まず、言ったと思うけど、私のナカにはミョズニトニルンの知識があるんですよ。ま、大半は使えもしない無駄な知識だけどね。でも、使える知識も充分にある。その1つが“ユンユーンの呪縛”の知識」

自分の頭を指でトントンとつつき、不敵に笑ってみせる。

「私が死ぬ要因は、容量以上に詰め込まされた“記憶と知識”。てコトは、つまつまつまーり、ソレを取り除けば助かるってコト。でわでわここで問題!」

「アルビオンの……新女王…」

はい、よくできました☆
こーいうのはやっぱり、相手に答えを出させないとね?私が言うより効果的なハズだ。
しかも問題を言う前のスピード解答。自ら導き出した答えなら、納得も何もないだろう。

「大正解!さっきお話しした“忘却の虚無”ね。猛乳の美少女テファ陛下。彼女のチカラならこんな呪い、恐るるに足らぬのだー!でも逆に彼女のチカラがなかったら100%詰むっていう極悪仕様だったり。いやはや、運命ってのはよくできたものですな」

私をじっと見詰め、話に耳を傾けるタバ子。
彼女は“原作”で才人に救われ、お礼に命を捧げるとさえ言った実に漢気溢れる少女だ。
大嫌いな叔父さんを懲らしめてママンを助け出せるのなら、私みたいな怪しい奴にでもキッチリ“借り”を返してくれるだろう。

この、“貸し”を作るのが重要なのだ。
2人の間に麗しき友情とかあればそんなの無くても大丈夫なんだろうケド、私とタバ子の間にあるのはルイズ達とのエセ友情の間で生まれた副産物的な間接友情。
我が策をパ~フェクトにするにはそんな不確定な状態には頼れない。欲しいのは一か八かじゃなく、“確実”なのだ。

「とゆ~コトで、タバサにはちょろっと協力して欲しいかなーってね。私も自分カワイイ凡人ゆえ、死んじゃうのはちょっとゴメンなワケですよ」

「何をすればいい?」

「コトが済んだらまたアルビオンに送ってぷりーずお頼みもーす。お願いできるかなかーな?」

にっこり笑ってお願いする。
タバ子にとってはこれ以上に無い破格の申し出だろう。
そして、まだ教えないがもっと素晴らしい特典も付いてるし。

予想通り一瞬の逡巡もなく頷くタバ子。まさに入れ食い状態ですな。
実に計画通り。今のところ、我が策に綻びゼロ。不安要素皆無。

「ありがとう。ま、解決策はあっても、間に合わなきゃーイミがない。急かしはしないけど、時間は無限じゃないですので。そこんトコロだけよろしゅーに」

ほい“陥落”。
ふぅ、あまりにチョロすぎて逆に泣きたくなるぜー。自分が今までやってきたヘマと無駄努力を思うと。

だがしかし、余裕はあっても油断はしない。
つまり今の私は無敵。最強。まさにチート!!
王族を、虚無たちを、そして世界すら騙し切ってやるのです。うふふのふ。

……うん、まだ酔い醒めてないな自分。




※※※※※※※※




まあ、流石にミョズミョズの記憶云々は嘘だけど、学生寮の件だけはガチで嘘。
でも私がトリステインを脱出しようとした理由は本当に嘘。
ただ呪いの影響で私の命がヤバいってのはマジで嘘。
“忘却”で解決するのは本当。

というわけで、無事タバ子は私の“協力者”となりました。
今はまだガリアタクシーの運転手だけど、無能陛下を死なせた後は正統なガリア王家の後継者。そのチカラを使えば後処理なんて楽勝過ぎるだろう。

頬を撫でる風が心地よい。
ほろ酔い加減と計画が順調な満足感がハンパない。


「話の続き」

相変わらず背もたれ抱っこ状態のタバ子が急かしてきた。
もうかなり夜も更けてるのに、まだ喋り足りないのか。居眠り運転防止のために起きてなきゃーいけないワケでもないだろーに。

「ん、どこまで話したっけ」

「森の中に行ったところ」

「ああそうそう。で、新たなる食材を求めて&暇潰しのために森への突入を決意したラリカ隊長とティファニア副隊長の前には、避けては通れない問題があったのです。そう、ティファニア副隊長の激しい露出ね」

あれから。

真っ直ぐに飛び始めたシルフィードの背の上で、私たちは無駄トークに勤しんでいる。
まあ、今が日中ならいつものように置物状態で本を読むだろうタバ子だけど、夜じゃ~それも無理。魔法で灯を点すのも魔力の無駄ってもんだ。
結果、『らりかおねーちゃんおはなしして~』となったのだろう。

「邪魔な枝とか下草は斬伐用の狩猟刀で切ったり払ったりして進むんだけど、それでも全て刈れるワケじゃーない。いいとこ獣道程度の道になるだけで、やっぱりお肌が植物のトゲやかぶれる葉っぱで危険に晒されるのは変わりない。下手したら、ティファニアの玉のお肌がえらいことに!」

「ラリカは大丈夫なの?」

「私は別に慣れてるから問題なっしんぐ。それに、多少の傷やらお肌のアウチはいいのですよ。某みなさんのよーな美少女とは違って気を使うような容姿じゃないしね」

お子様時代(狩猟時代)は生傷絶えなかったし。ずっと残るレベルの傷を負わなかったのは運勢最悪な私にとっては素晴らしい幸運だろう。
……まあ、別にそういう傷があろーがなかろーが、あんま変わらない気もするけど。

「ラリカは、きれい」

「ありがと~。お世辞でもそこはかとなく嬉しいかもかーも」

でも、あまりにもミエミエのは惨めさ割増されるので勘弁かもです。
特にタバ子含めた原作レギュラー連中は揃いも揃って美少女揃いなので。そんな彼女らで(原作では)ハーレム築いてた才人ってやっぱり流石は主人公か。
佐々木良夫的に『おのれガンダールヴ!』とでも言っておこう。どーでもいいけど。

「ああ、ちなみに狩猟刀は前のを才人君にあげちゃってたので自作したんだよー。ティファニアとで1本ずつね。屋敷には私たちの細腕じゃ扱えないような斧しかなかったし。…まあ、出来は想像にお任せするけど」

その狩猟刀、私作の斬伐刀のうちの1本は今、私の後腰に差してある。
才人にあげたのより若干長くて細身な、波状刃の斬伐刀。
刃が変則の波状になっているのは仕様でない。我がお粗末な錬金による軟い刃が、硬い枝を断った時に無様にヘコんだためだ。

名付けて斬伐刀“廃刃”。
おマチさんが(気紛れか何かで)再錬金で硬化してくれたから今こうして持ってるけど、そうじゃなかったら今頃とっくに廃棄処分だっただろう。
正直、こんなのを再錬金してくれるくらいならALLおマチさん製のを創って欲しかった。贅沢言えない&多分作ってくれないだろうけど。

ま、でも重宝することは重宝する。狩猟刀も買うと結構するだろうし、トライアングルメイジの錬金した刃物はそれだけでも使える品だし。

「それは、後腰の?」

「おぅいえーす。斬伐刀“廃刃”、水のドットが錬金した至高の狩猟刀。その価値は、1エキューにも満たないとか何とか。ちなみにティファニアにあげたのはコレよりもっと小振りで細身なやつね。多分もう捨てちゃってるだろうけど」

女王になった彼女が山へ入ったりする事はもうないだろうし。アレは一応包丁としても使えるけど、その料理だって彼女がやる事はない。
料理は座ってるだけでプロの料理人が作ったごちそうが出てくるわけだし。
ちくせう。
マルトーの作った学院定食が懐かしい&食べたい。もう二度と無理だが。

「私も欲しい」

「んー、普通のメイジはこんなの持たないんだぜー。私はまあ、ご覧のとおりアレだからね」

現在の我が装備。
後腰に斬伐刀“廃刃”と折り畳み式のギミック小型弓を×状に差している。明らかにメイジの装備じゃないだろう。
加えて現在、私は貴族というかメイジの証であるマントを付けていない。てか、学院の自室から持ってきてもないし。
だから知らない人が見たら私は、………そう、普通のメイジには見えない。メイジに見えないどころか、

タバ子が私の腕から出て、半身だけ振り向く。
そしてじっと全身くまなく見詰められた。

「確かに、不思議な格好」

「はっはっは、反論の余地もございませんですな」

私の格好、ガリアに赴くにあたって用意したこの一張羅。
そう、以前アホの才人に(シエスタの代役で)プレゼントされた改造水兵服…いわゆる“セーラー服”。

私がやる、全ての行動には意味がある。
それはもちろん“この格好”にも当てはまるのだ。

似合う似合わないはさて置いて、“この格好”はとにかく目立つ。
才人はアレなんで参考にならないけど、ギーシュやミスタ・グランドプレの反応からしてもそれは実証済みだ。
アルビオン城内でも何度か実験的に着てみたけど、チラチラ見られる頻度が普段着よりも多かった。
そんな目立つ格好に、私の十人並み以下だろう容姿。両者が合わさった時に導き出される答えは1つだろう。

そう。
私に初めて会った人の印象は、セーラー服 >>(越えられない壁)>>> 私本体。
この世界では異色のセーラー服ばかりが印象に残り、平々凡々かつ面白みもない私の顔なんぞ記憶には残らないってワケだ。
全てが終わった後、平民用の服に着替えて髪でも切ってしまえばもう誰も私だとは認識できないだろう。敵を作りにいくわけじゃーないが、念には念を入れて。
それが本当の石橋なら、いくら叩いたところで崩れることはないはずだし。
ちなみに元ネタは佐々木良夫が見たニュース、女装の銀行強盗だ。印象操作ってスゴいよね☆

また、会う人にだけでなく、この格好は“世界”に対しても有効だろう。
いわゆるファンタジー世界。魔法学院の制服を着て杖を手にした魔法少女がうじゃうじゃ闊歩する世界に、現実世界っぽいセーラー服姿で弓と短刀を携えた少女。加えてオッドアイ。
それが主要人物と行動を共にする。

もうそれだけで『ああ、』って感じだ。『こいつも主要人物なんだろうな』って思うのが自然な発想だ。
私が今回騙す相手はテキトーな数人じゃなく、ある意味この世界そのものなのだ。
わーるどいず、まいん。あらゆる全ては現在私の掌の上。私の描いたシナリオ通り。

「でも、似合うと思う」

そう言い、タバ子は再び私の腕の中にぽすっと納まった。私を背もたれに、後ろから抱っこモード。
謹製ラリカ印のチャイルド(?)シートは、腕という名のシートベルトをまわしてやる。

「ありがと。一応コレ、私が今まででヒトに褒めてもらえた唯一の服だったりもするから。フツ~に嬉しかったり」

……まあ、どーでもいい事実かもだけれど、それも事実だ。
ヤツは恐らくそういうフェチで、着ているのが誰だろ~とそれなりの反応をしたんだろうけど。私以外でも、むしろ私以外の誰かの方がきっと良かったんだろうけど。
それでも。我ながら馬鹿でアホで単純だとは思いつつ、…それでも。
“最高”とまで言われて、あんな満面の笑顔で喜んでもらえて。嬉しくない理由は、ない。

この作戦が終わったらもう二度と着ないし、……着れないけれどね。

「……」

何となく、タバ子をきゅっと抱き締める。

……。

あー、ホント抱き心地はいいな~。ルイズとどっちを選べ言われたら迷う。あっちは体温若干高めだから秋冬用か?
てことは現在、才人は暑苦しさ満喫中?アツアツだということで我慢したまえ青少年。

相も変わらず、私は未だにほろ酔い気分だ。
目を閉じ、タバ子の頭に頬を預ける。そして、

「…~~~♪」

我ながらあんまり上手くもない鼻歌で歌うのは、いつか聴いた我がダメマザー(ラリカ母の方。良夫お袋はマトモでした)の子守唄。
聴いたのはハイハイもできないベイベー時代で、一度目の人生じゃほぼ記憶になかった。でも二度目の“私”はちゃんとリスニング。細部はアレだが、メロディくらいなら憶えている。

酔いを醒ますには、些かぬるい夏の夜の風。
なぜだか少しスピードを落としたシルフィードの背の上で、ゆったりとしたその歌は夜空へと溶けていった。





……。



………。





「~~~♪……っと、タバサ?」

へんじがない、ただのおねむさんのようだ。
やはり無理して起きていたっぽい。お子様はもう完全に寝ている時間なんだし。それとも任務でお疲れだったのか。
後はシルフィードの自動操縦にお任せすればいい。心配なのは寝相が悪くて落っこちることくらいだが、そんなヘマはしないだろう。

「こうやって見るぶんには、普通の女の子なのにね~。それがまあ、頑張っちゃってますなー。まったく」

そっと髪を撫でてみる。サラサラで実に羨ましい髪質だ。
あどけなさが残る…というより寝てると大人っぽさとかが完全に消え、まさにお子様。知ってなきゃ到底コイツがキケン人物とは思えない。

…さて。
今後の事を考えると私もそろそろ眠るべきだけど、その前にちょっと“仕込んで”おくか。

現在、この場には眠ったタバ子しか主要人物がいない…ように見える。
でも、実は原作知識を持っているからこそ見える、もう1人の主要登場人物がいるのだ。正確には人物じゃーないが。

「………死なないで済む解決策、ね。嘘じゃーないな、一応」

独りごちる…ふうに“聞かせる”。
ちゃんと聞いてもらえるように、私の手は“彼女”の背を撫でる。あくまで自然に、言葉の通じないペットとかに向かって、無駄な独り言を呟くみたいに。

「“ユンユーンの呪縛”は思想兵器。徐々に心に根付き、想いに取り憑き癒着する。ゆえに、呪縛を取り除くには侵された記憶“そのもの”を根本から除去しなくてはならない……か」

溜息混じりに笑う。
タバ子には“まだ”話していない設定。
私の計画した、ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティアのエンディング。

「だいたい今のところ、3年分くらいかな。記憶全部を消さなきゃいけなくなる前に、どーにか決着を付けなきゃね」

この計画を為すには、実際にティファニアの“忘却”を受ける必要がある。
“ユンユーンの呪縛”。トリステイン出奔からジョゼフ打倒までの全てがその呪縛を理由として成り立っている以上、“忘却”による解呪イベントは必要不可欠なのだ。

しかし、ありもしないミョズニトニルンの記憶、初めからないものを消すことなんてできない。
ティファニアが消す記憶をサーチできるかどうかは知らないが、その時になって消すべきモノが見当たらないなんてことになったらオシマイだ。

“忘却”を拒否したとしても、また逃亡したとしても、その先に待つのは平穏とは程遠いダイハードな人生。選択の余地はなく、そして選択できる答え<モノ>もない。
だからこの計画は本来、最後の最後で破綻する、エンディングには辿り着けない欠陥品の策なのだ。

本来ならば。
そう、あくまで本来ならば。私という例外を除いては。


もちろん、いくら私でも“忘却”で消す用のフェイクな記憶を捏造とかできるわけじゃない。
消させるのは、正真正銘“私の記憶”だ。
それは記憶箇所サーチが可能だった場合に『呪いは記憶に癒着してるから外部からの判別不能だった』っていう言い訳にできるってのもあるが、それ以上に『まさかそんな嘘はつかないだろう』と思わせる心理的な効果がある。

超ハイリスクで見返り皆無な嘘なんてどんなアホでもつきはしない。よって、私の証言だけでカタチある証拠は何一つないのに、それが真実だと思わせられる。

例えば15年生きた人間が10年分の記憶を消したらどうなるかなんて想像するにも及ばないように、見た目は子供で頭脳は大人なのは成り立っても、その逆は無理なのだ。
でも私の場合限定で、わけが違う。
この世界で唯一“その方法”をリスクなしで使うことができる。

たとえラリカ一生分の記憶を消したって、消えるのは“2回目のラリカの記憶”のみ。
1回目のラリカはもちろん、佐々木良夫の記憶も失われない。つまり、2回目ラリカに再転生したところまで“戻る”だけなのだ。

まあ、記憶の全消去は極論だけど。選択肢にないわけじゃーないというワケだ。

ちなみに今のところ、最低でも学院入学前までは消してもらう予定でいる。
私をリセットするために、失敗してしまった人間関係はもとより、今の“私”という人格そのものを消す。

学院に入学し、ルイズらに近付くために造り上げた嘘の私。
薄っぺらい笑顔に、明るいのかバカなのかよく分からない無理矢理感漂う冗談じみた口調。
最初の私が根暗無口なアレで、佐々木良夫はオトコ(しかもあんまり女縁のない)だったから随分と不自然な“明るい少女”になってしまったと今更ながらに思う。
思うけど、それが定着しちゃったのかどーだか、今ではコレが地になりつつさえある。思考も既に“最初のラリカ”とは似ても似つかないだろうし。

だから、消すのだ。これを機に。
今の私を、この“嘘の自分”と決別する。そう、ある意味でこのラリカには“死んでもらう”。膨れ上がった嘘と、真実を道連れに。
ある意味、それは最大級の証拠隠滅だろう。息を吐くようについてきた嘘たちを、永遠に葬るれるのだから。

“虚無”により記憶を消される私。

ティファニア&ロン毛は、自らが掛けた魔法だから疑うべくもないだろう。
秘密を知る微妙に厄介な小娘、でも多少の借りはあるめんどくさい相手は、そいつの望み通りに記憶を失う。
優しいテファは命は救えたんだから罪悪感を感じずに済むし、ロン毛らは厄介払いが理想的な形で完了する。

タバ子は一国の女王が施した魔法を疑いはしないだろう。この解決策はさっき自分が導き出した答えでもあるし尚更だ。
叔父さん討伐とママン救出の借りがある女、性格的に借りは返すタバ子だけど、借りの大きさがそれなりだからデカい借りってのは王族的に好ましくない。

ドラマとかであるように、将来的にはそれをネタにたかられると思うかもしれない。彼女がそう思わなくても、周りが進言する可能性もある。
でも、その心配も記憶消滅なら万事解決だ。一応、アルビオン送迎で借りは返していることになり、筋は通しているから後味も悪くないだろう。


後に残るのは記憶を失った、ただの貴族崩れ。
ミョズニトニルンの知識もない、無価値な女。
共有していた秘密を失った、単なる一般人。
知り合う前の、出会う前の、もはや友人の友人ですらない少女。
帰る家もない、知り合いもいない、自分が誰かさえおぼろげな、ヒトの抜け殻。
ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティアは生きながらにして死と同義の終わりを迎える。

そんな色んな意味で終わった人間をそれ以上どうこうする理由なんてないはず。さらに追撃でいじめるような性格はしていないはずだ。
後は記憶消去前にラリカが言い遺す『記憶を失った私はガリアの小さな町にでも放っぽっておいてプリーズ。そこで静かにひっそり慎ましく余生を過ごします』の通りに、最後の情けをかけてやって終了。

タバ子から聞き出した学院状況から、ルイズら主役連中は完全に私のことなんて忘れ去ってるみたいだし、ヤツらに関してはこっちが下手を打たない限り問題ないだろう。
とにかく、

「きゅい?」

シルフィードがその巨体に似合わない…けど顔は妙に可愛いから似合うのか?…可愛らしい声で鳴いた。
いきなり黙り込んだ私に問いかけたのか。スマンスマン、ちょ~っと考え事…というか我が策の完璧っぷりを反芻して悦っていたのだよ。

「ん、きゅいきゅーい。きゅきゅきゅーい?」

「??」

テキトーなきゅいきゅい語(?)で応えてみると、不思議そうな顔をしてこっちを見てきた。
うむ、きゅいちゃんよ。そんな顔で見ないでおくれ。言った私でさえ今のセリフは何言ってんだか分からんのだよ。逆に通じたらスゴい。

小さく笑いかけ、今度はヒトの言葉で言う。追撃の“仕込み”はもうこれくらいでいいだろう。ラリカはすでに手遅れ状態ってフラグになる発言はしといたし。
流石にもう私も寝ないと。明日いきなり謁見かもだし。

「ま、どーしようもないコトは考えたって仕方ないよね。私は私にできることをやるだけなんだし。とりあえずは、他の誰も不幸にならない結末でも目指しときましょーかね」

ルイズらにとっては、もう私の事など記憶の彼方。でも“原作”ルートの邪魔をしたイレギュラーが知らないうちに退場して間接ハッピー。
タバ子は長年の願いが叶う。めんどい女王ルートが確定するけど、それでもハッピー。
ジョゼフも欲しがってた感情をGETし、満たされて死ねるハッピー。
ついでにその愛人の何とか夫人も、間に合えばジョゼフに殺されずに済むかもしれないハッピー。
テファも一時は悲しい思いをさせるかもだけど、結果的には腹黒で屑な私と決別できるハッピー。
ロン毛&おマチさんも厄介者がいなくなってせいせいハッピー。

私のこの策は、誰も不幸にはならない。むしろ幸せにして、後腐れなく恨みを買ったりすることもなく(ここ重要)終わることができる。
アンアンからだけはただ逃げ切る形になるけど…テファかタバ子に『ラリカは死よりも悲惨な最後を迎えました』って王家の集まりか何かの時に説明してもらえば気を晴らしてくれるだろう。

「そういうわけで、英気を養うためにわたくしも寝るでありまーす。目的地までヨロシク&オヤスミきゅいちゃん。途中で落っことさないよう切実プリーズお願いね☆」

そして数々の失敗で学んだ、もう1つの真実。
私みたいなのが、単純に幸せを手にできると思うこと自体がやはりおこがましかったのだ。
運命は常に理想を下方修正し、現実はいつもバッドエンドな方向へ進められる。

だから私は逆に考えた。
バッドエンドを目指せば、運命にも邪魔されないだろうと。その時、周りが幸福ばかりなら、相対的に不幸はより不幸に見えるはずだと。
誰もが幸せな結末を迎える中、ただ1人全てを失い“原作”の舞台から消えていく。

だから運命は、今の“世界”は、バッドエンドに向かう私にとても優しい。
予想通りに、ご覧の通りに、全てが計画通りに綻びなしに動いていく。


小さな寝息を立てて眠っているタバ子を抱き枕に、目を閉じた。
途端に意識が一気に遠退いていく。
シルフィードの鳴き声が聞こえたような気がしたけど、夢なのか現実なのか、もうよく分からなかった。


ぐっどないと。“余命”いくばくもない“私”。



求め続けた平穏な幸福。
当初の予定とは全然全くチガウけれど、何だかいろいろ遠回りしすぎたけれど。


手が届くまで、あと少し。




※※※※※※※※




とか思ってたんだけどね。

……まあ、うん。

確かに私の計画は完璧だ。でもまあ、それでもあらゆる事態を100%余すところなく完全予測はちょっと言い過ぎだったかも知れない。謙虚な気持ちは大切だ。

いや、でもまあ、大丈夫だけどね。
“こういう展開”も、まあ、ええと、予想の展開の延長線上にあるといえばあるから、全くハズレではないし、対処法も同じくいろいろその、アレだ。
OK、大丈夫。まだ慌てるような時間じゃない。

今、私の目の前にはおヒゲが素敵なジョゼフ国王陛下がいる。
凄く楽しそうに、私に笑みを向けている。それはいいんだ、問題ない。
興味を持ってくれてたし、話も聞いてくれた。それでいい、問題ない。


「楽しみだ。こうまでそう強く感じたことなど、一体いつ以来なのか。きみは本当に最高の客人だ」


問題ない。
まだあわてるようなじかんじゃない。


「“絶望”の二つ名を冠する少女よ。“4人の虚無”が集うだろうその場で、チェスの敗者だというおれに、一体何を見せてくれるのだ?」


策はあるさ。うん。
まだ、まだあわわてるようなじかんじゃない。


「その名に恥じぬほどの“絶望”か、それともおれの絶望さえも奪い取り……闇色の“希望”を、おれの望みを叶えてくれるのか」


だ、大丈夫。
OK、私ならできる。


まだ、
まだ、まだあわわわてるようなかんじかんじゃ―――― 、




[16464]  幕間20・佐々木良夫の諦観
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:2677e6bd
Date: 2012/06/06 21:56
幕間20・佐々木良夫の諦観




ベッドの上、白い天井。星空の下、竜の背中。幸せに近いのは、どっち。




ヒロインなのか、黒幕なのか。
その“キャラクター”の正体については初登場時から様々な憶測が飛び交っていたらしい。


ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア。

最初に“彼女”が登場した場面は最初も最初、『第一章 俺は使い魔』だった。
才人がハルケギニアに召喚され、何が何だか分からない状態でヒロインと言い争っている時に、それを中断するような形で現れた2人目の少女。
才人視点でのルイズの評価(という名の容姿説明)は最初から『とびきり可愛い』とあったが、彼女に対しては『灰色の髪と瞳の少女』程度で、本来の“物語”では目立つことなくBADENDな一生を終えた、何とも彼女らしい評価だった。

だから、それだけだったら…、ただ話しかけただけだったら、ルイズを野次っていたその他大勢のような脇役Aとして流されていただろう。
しかし、そこで彼女はその他大勢から逸脱する“イベント”を起こす。
巻き付いてくる巨大なムカデ。主人公の五感に叩き込まれるファンタジーという名の“現実”。

それは原作ではルイズに殴ってもらって(+気絶のコンボ)思い知るはずだったイベントの代役を果たし……同時に彼女をただのモブではない登場人物と印象付けた。


ピンクブロンドの髪に鳶色の目の美少女に対し、灰色の少女。
華やかさと地味っぽさ、怒った顔に笑った顔。
対称的……とまでは言わないが、全く違ったタイプの2人。

一巻表紙のピンクな美少女はメインヒロインとして、……この軽薄そうな笑顔とわざとらしい口調の彼女は何者なのか。物語にどう関ってくるのか。
敵か味方か、それともやはり妙なキャラ付けがされただけの脇役だったか。

とか思っていたら。

翌朝イチで友人になった。
態度は初っ端から友情値7割以上(?)かというフレンドリーっぷりで、前夜のルイズから受けた貴族の印象は微塵もなく、異世界うんぬんも疑いすらしなかった。
トラウマになりかけた大ムカデは従順な犬のように言う事を聞き、ご自由にお使いくださいというサービスっぷり。

この娘、容姿的には完敗ながらメンタル面でヒロインの座を狙う、ルイズのライバル的な“役割”か?と思いきや……しっかりルイズをフォロー。
むしろやたらと親切、献身的で、果ては才人とルイズとの仲を取り持とうとするような言動&行動を見せる。

そのせいもあってか、ライバルになるどころかヒロインにまで好かれてしまった。
彼女が相手だと、ヒロインは主人公を巡っても争うことをしないだろうというほどに。


主人公らを助けるために存在するかのような“都合のいい”キャラクター性。
平民に親しまれる異色の貴族。
3人目の少女キュルケ、そしてタバサとの関係。
主要人物同士を繋げる架け橋のような存在。
フーケの事件。アルビオン。
出番は減るどころか増え続け、役割も物語が進むにつれ重要な役を担うようになっていく。


操られ、奇跡の生還を果たし、
女王を諌め、皇子の心を救い、
謎を残して失踪し、
かつての悪役たちと共に、戦争を止めた。
物語が進む時、彼女の姿は常にそこにある。

口調はいつも冗談めいていて、態度もどこか飄々と余裕を感じさせるもので。
それは“彼女”の素顔を隠す仮面のような役割を果たしていた。登場人物たちから信頼を得れば得るほど、……一部の読者視点から見れば“怪しさ”は膨らんでいった。
才人やルイズにはある一人称視点による心中の描写が“彼女”にはなかったのも“怪しまれる”要因の1つだったかもしれない。


ヒロインなのか、ジョーカーなのか。

それ以前に、善か、悪か。
ただどこまでも純粋に“いい人”なのか、大きな目的の為に動く稀代の“策謀者”なのか。

それが、今回。
他ならぬ“彼女”の放った独白で、その疑問はついに結論付けられた。
いつか、マチルダに言われた事もある疑問。


ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティアとは“何”か。


その答えは―――、




※※※※※※※※




白い天井を見上げ、溜息をつく。

事故から今日で何日目になるだろうか。
眠っている間に“私”を体験したりするせいで、時間の感覚が酷く曖昧だ。海外旅行なんてしたことないから分からないが…多分、ヘタな時差ぼけより酷いだろう。
こんなんじゃ、怪我が治って社会に復帰した時に色々とマズい気がする。そうでなくても日常生活的に……まあ、社会に復帰も何も、就職が決まらないとどうしようもないんだが。

“俺”がもし“私”だったら、就職で悩むなんてありえないだろう。平民から王族まで、コネの幅広さは常識ハズレなくらいだし、国だって4国くらいならカバーできる。
というか今現在、親友の1人は現役の女王陛下で、腕の中で眠っている少女も近い将来そうなるお方なのだ。
職探しとか、逆によりどりみどりすぎて悩むくらいかもしれない。

尤も、肝心の“私”はアレなので、そんなの思い付きすらしないだろうが。思い付くどころか全力でその関係を清算したがっている。
羨ましいのか、羨ましくないのか。“我ながら”よく分からない。

……うん、“こっちの現実”逃避はこれくらいにしておくか。久し振りに頭がクリアな“俺”の時間だ。無駄に使うのも勿体無いだろう。




<離別の序曲>(わかれのオーバーチュア)という副題の、第八章。
タバサの視点で開始したその話は、再会の物語。そして、“終わり”のプロローグ。

逢いたかった“ねえさま”、そして語られるハッピーエンドへの道。タバサは背中に感じる温もりと、彼女の歌う子守唄を聞きながら久方振りの安眠を得る。
現在…というか前々から若干その気配があったが、タバサのラリカに対する信頼度というか評価は、過大なくらいに大きかった。
それが今回の無血革命の裏話(半分事実で半分嘘だが)やら何やらで、余計に大きく強力になってしまった。
ジョゼフが“虚無”だと知っても、それに単身挑むと聞かされても、“ラリカならきっと成し遂げるだろう”とハッピーエンドを信じてしまうくらいに。


夜空、シルフィードに乗って。
ラリカに背を預け、髪を撫でられながら眠るタバサの挿絵は本当に幸せそうだった。
そっちがメインでアップになっているため、彼女を抱くラリカは口元までしか写っておらず、それがまた何ともアレな感じになっている。

“私”の思惑通り、“ゼロの使い魔”に例の台詞はカットされることなく載ってしまった。
無駄にバッチリ揃ったシチュエーションの中での独白。
これを切欠に、ラリカ黒幕説は消滅。代わりに退場フラグが聳え立った。
てか既に副題からして離別とか言ってるし。


とにかく、彼女はどこまでも愚かなくらいに善人で。
策謀も何も、この先は奇跡でも起こらない限り……全てを忘れて、失って、物語から退場する運命にある。


それが今回、確定した。




腕に付けられたよく分からない器具が外れないよう、注意しながらノートパソコンを点ける。

昨日はこんな器具付いていなかったと思ったのに、最近は目を覚ます度にいろいろ増えていて困る。
確かに大怪我はしたけど病気ってわけではないはずだし、あんまり医療費かさむようなコトはしないで欲しい。
保険金とか慰謝料?とかでその辺は大丈夫なのかもしれないけど。

まあ、本やらパソコンやらの持ち込みが許可されている限りは我慢するか。器具追加のせいで制限されるとか言われてから文句言えばいいな。
……うん、いろいろ説明聞いたはずなのに、あんまり憶えてないな。健忘か、それともムズかしい話だからって、俺の優秀とはいえないアタマが記憶するのを放棄したのか。

今度また詳しく聞こう。



……。

Wikipxdiaにpixib、ArcediaなどのSSサイトから同人検索。

登場人物説明は相変わらずの主要人物扱いで、イラストその他は当社比何割か増しの美化っぷり。
イラストでなら並み居る美女・美少女たちとも互角に戦えそうだ。地味で無個性な制服から、現在の特徴ありすぎ狙いすぎな格好になった事も相まって、実にそれっぽい。
無駄に格好つけたポーズで斬伐刀(廃刃の方)や弓を構える絵とか、もう何ていうかモロって感じだ。ある意味、“私”の計算通りと言ったところか。

ちなみに才人やルイズで調べると、そこそこの確率でココアが一緒に描かれている。
こちらに関しても、最早ココアは才人たちの乗り物だという認識が定着してきているのだろう。ココア回収はほぼ諦めているので、コレに関してはもうこのままでいいのかもしれない。

斬伐刀とデルフの立場も……、これはもう前々からか。デルフは泣いていいと思う。


二次小説や読者同士の考察での『もし○○がいなかったら』では、彼女がいなければ“詰む”みたいなことすら書かれている。

ルイズと才人、彼らとキュルケやタバサとの仲。共通の友人で緩衝材だったラリカがいなかったら、友情は成ったのか。
ギーシュ戦で斬伐刀を貰えなかった才人。下手をすれば殺されてしまうか、よくても大怪我をするか。
フーケ戦ではココア不在で、才人とルイズは地上で巨大なゴーレムと戦わなくてはならない。貴族のプライドと魔法への執着、ルイズが果たして“破壊の杖”を使えたか。
アルビオン行きではギーシュ不在は確定、キュルケやタバサとも友情が育めていないため、彼女らの参加もなかったかもしれない。
ワルドに直接接触し、交渉するミョズニトニルン。戦闘の難易度は跳ね上がり、ワルドも完全にジョゼフサイドに付いてしまったかもしれない。
タルブへ宝探しになんて行くことはなく、ゼロ戦は手に入らない。シエスタの村は蹂躙され、エクスプロージョンが敵の船団を沈めるイベントは起こらない。
ゾンビウェールズに唆されたアンリエッタを誰が止めるのか。ともすればキュルケやタバサの不在に加え、無傷のアンリエッタが参戦した場合、勝敗は。
ティファニアの運命もどうなっていたか分からない。ワルド、マチルダらと共にクロムウェルを打ち倒さなければ、戦争は終わらなかった。

敵の尖兵のままのワルド、暗殺されないミョズニトニルン、不死の軍団を率いるクロムウェル、そしてジョゼフ。
対して、その脅威を前に立ち向かえる“仲間たち”はどこまで揃えられたか。

詰みそうな例は挙げていけばきりがない。
実際はラリカなんていなくても上手くいくはずなのだけど、……むしろホントはいない状態で普通に話は進んでいたけど、“読者”が知るのは“ラリカがいる”物語。
いなかった場合はどうなるか、なんて分かりはしないのだ。
何だかんだであのメンバーが揃うとかまでならともかく、シエスタやタバサ、アンリエッタ女王陛下にティファニア女王陛下までも恋愛要員になるとか、逆にそっちの方が“ありえない”と思われるだろう。

現に、今まで見た限りでは、ラリカ不在のIFストーリーのSSでは、俺の知る“原作”の流れをなぞったものはもう見当たらなかった。


“原作”を滅茶苦茶に掻き乱し、どうしようもないくらい“彼女”が定着してしまった世界で、その元凶は今、すがすがしいまでの身勝手さ全開で今度は世界から逃げようとしている。


相変わらず例の挿絵には、ジョゼフと向き合うセーラー服姿のラリカが描かれていて、それは確かに別の意味でも“絵”になっていて。
このシナリオはもはや揺るぎそうもなく……作戦の大筋はもうほぼ成功という形で確定している。

ジョゼフの興味は充分すぎるくらいに引けているから、教皇と会うよう仕向けることも難しくはない。教皇だって“虚無”が会いたいと申し出て来れば断る理由がないはずだ。
謁見時にいろいろ訊かれるのは確実だが、“私”はそれを全く問題にしていない。むしろ答える必要がないと思っているので、回答の用意すらしてない。

『ロマリアの教皇の“虚無”で、土のルビーの記憶に触れるのです。そうすれば、貴方の望みは叶うでしょう』

“私”が彼に言うつもりでいるのは、これだけ。
チーム・ワルド対策に頑張って考えたミョズニトニルンとの関係とか、その他膨大な疑問点についての説明はしない。
相手は妙な格好をした小娘。されど計画を挫き、“神の頭脳”を撃破した小娘。
そいつが、単身で自分の城にやって来た。と思ったら、自分の質問には答えず、逆に『望みを叶えてやるからこうしろ』と上から目線で指示を出す。

ジョゼフがもし普通の王だったら、何言ってんだこのアホ娘は?と呆れながらもとりあえず情報を搾り出させることに専念する。
質問に答えさせるため尋問拷問大盤振る舞いで、“私”はあえなくBADENDだろう。
しかしジョゼフは“普通”の王じゃない。彼の性格から、面白がって“とりあえず一度は”その言葉に従ってみるだろう。

それで完全に“チェックメイト”だ。

教皇に会って、過去を知ればもうお終い。残るのは、もはや“私”が何者かとか…それどころか、全てに興味を失った抜け殻。きれいなジョゼフ。
ミョズニトニルンがいないので原作のように彼女に刺されることはないが、同時にルイズも才人もいない。そして“私”は止めない。恐らく、タバサに斬られて終わりだろう。

質問の回答を求めていた者は死に、タバサは“私”に質問しない。
質問したとしても、“私”は笑って誤魔化すつもりでいるし、誤魔化されてもタバサは追求しないだろう。

で、仕上げの記憶消去という名のフェードアウト。
“私”が救われるなんて“奇跡”は起こらず、記憶消去以外の代替案も見付からないまま答えは永遠に失われて。伏線やら謎は投げっぱなしのまま…。

広げた風呂敷そのままで、“私”の思い描いたエンディングを迎えるのだ。



……。

…そんなに経っていないのに、やたらと目が疲れた。

目の疲れと毎度の頭痛が合体なんてしたらシャレにならないので、パソコンの電源を落とす。そして目に優しそうな緑の…、めぼしい緑のモノがないな。
小説の裏表紙は緑色だが、眺めるには向かない気がする。

閉ざされた窓から見える景色は隣の建物の壁だし、この病室には観葉植物の類は置いていない。鉢物はダメとかそういう関係かもしれないが、だったら偽物でも置けばいいのに。


結局、眠くもないのに目を閉じることにした。

瞼のカーテンで白から黒に塗りつぶされる視界。そういえば、“私”は現在星空の下か。
海の上空、雲の上だから星空がやたらと綺麗だった気がする。残念ながらロマンチストとは程遠い俗物思考の“私”にはあんまり興味がなかったが。
まあ、人の事は言えないけど…いや、自分の事は言えない、か?どっちでもいいか。

このまま眠りについて、次に“私”の目に飛び込んでくる光景は何になるだろう。
海から昇ってくる太陽か、それともそびえ立つガリアの城になるのか。


順風満帆。計画は滞りなく進行中。

放置でOKと思い込んでいるルイズたちが今も自分の行方を必死で探しているだとか、
各国に『アルビオン女王と共に革命を起こした謎の少女』という情報が渡り始めているだとか、
それを耳にしてティンときた某女王陛下が、速攻でアルビオンに使いを出したとか、
そのアルビオンでは現在進行形でいろいろ大変な事になっているだとか、
完璧にWin-Winだと決め付けているこの計画が、実際は誰一人として納得しないし幸せにもなれない代物だとか、
本来なら致命的になりかねない数々の誤算はあるけれど、彼女が望む結末を迎えるうえでは問題はないのだ。
きっと願いは叶うだろう。いろんなものを踏みにじって、悲しませて、心に深い傷を負わせて。
『誰も不幸にならない最高のエンディング』だなんて馬鹿な勘違いをしたまま。

そして俺は、“私”としてそれを見ることになるのだ。




……。


眠くはなかったはずなのに、意識が、だんだんとうすれていく。
まあ、いつものぱたーんだな。

もう、なんだか、いろいろ、どうでもよくなってきた。


わたしに、おれのこえ とどかないし、なにもできやしな いんだし


ただ、   のかなし  かおはみたく い




……?


なにか が てんめつ  して


どあが



いしゃ、  ?



  ?


 …




………








※※※※※※※※











<Side ???>




「――――――― それで、本人には?」


「いずれは伝えようかと思っているのですが。ただ、なんと伝えるべきなのか。彼も自身の身に起こっている“異常”にまだ気付いていないようですし…」


「…はい、それは理解しています。ですが、このままでは決して好転しないということも分かります。だから、先生…」


「……」


「もう、わたしたちの覚悟は決まっています。良夫に伝えてください。それから家族みんなで話し合いますから…」


「彼がどう受け止めるか、そしてどんな結論を出すかは分かりません。ですが、我々としましても全力は尽くさせていただきます。…必ず治す、と言い切れないのが情けないですが」


「…先生」




「佐々木さん…分かりました。では、良夫さんが次に目を覚ました時、

 いえ、次に“生き返った”時、



 ―――――――――― 彼に手術の件を、お伝えしましょう」











――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


すごくお久し振りです。
昨年末からいろいろで、更新できないままこんなに経ってしまいました…orz
それなのに空白期間中も感想を書いていただいていて、ありがたいやら申し訳ないやらでいっぱいです。

また更新していきたいと思いますので、暇でどうしようもない時などに読んでいただければ幸いです。




[16464] 第六十三話・“無能”との遭遇。実際はこっちがアレな方だけど
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:2677e6bd
Date: 2012/08/27 01:51
第六十三話・“無能”との遭遇。実際はこっちがアレな方だけど




不幸を嘆いても、呪っても、自慢したって。何かが変わるわけでもない。変わらないから、……変えなければ、変わらないから。




ガリア王国。

ハルケギニアで最大の人口を誇る(タバ子に聞いたら千五百万人くらいとのコト)だけあって、実に見事っぽかった。
リュティスの町並みも何と言うかそう、凄かった。
あとヴェルサルテイル宮殿も、グラン・トロワも予想の斜め上を行くレベルだった。
流石は我が第二の故郷予定国!ま、私としてはどっかの片田舎、もしくは無名の町くらいででひっそり穏やかに暮らしたいので、首都とか王宮とかはワリとどーでもいいけど。
……とにかく、半分は睡眠時間だった空の旅は無事に終わり、わたくしラリカこと謎の女“フェイカ・ライア”はラスボスの本拠地に到着したのでありました。



で。

「おお、よくぞ来てくれたな!ミス・メイルス…おっと、ここはミス・ライアと呼んだ方が良かったか?とにかく、歓迎しよう」

まあ、いきなり何か豪華な部屋に直行させられ、そのラスボス自らの出迎えのうえ、身元も即バレしてたけど。
……。
…あばばばするには至らなかったぜ!想定内、余裕で予想の範疇だ。

「ご随意に。こちらこそ素敵なお迎えを寄越していただいて光栄です、陛下。お陰さまで“出国手続き”も実にスムーズで、空の旅も快適でしたわ」

だから余裕の表情で対応。
王族相手の会話とか死ぬほど苦手(主に言葉遣い的な)で、しかも相手は他国大国の大王なんで難易度はマシマシなんだけど、そこも織り込み済み。
つまり“トリステインの貴族メイルスティア家の娘”としてではなく、“謎の女フェイカ・ライア”として対応するってワケだ。
ジョゼ夫も前者には微塵も興味ないだろうし、やはりそこはTPP。TPOだったっけ?…とにかくそれ系のアレだ。

決して田舎貴族で偉い人との会話に耐性がないってわけじゃない。うん。
とゆーか、無駄に畏まったりしてたら“策”に支障が出るだろうし。

「何せ余は…おれは、“敗者”らしいからな。“勝者”に従うのは道理というものだよ。さて、それで次は何を望む?他に何かあれば言うといい」

案の定、胡散臭い小娘のそんな態度に、しかし青ヒゲ王は満面の笑みを浮かべて答えた。
うむ。上っ面だけだと実にイケメーン。そして爽やか気さくなフレンドリー陛下。実際は脳味噌のネジが吹っ飛んだクレイオヤジーだけど。

「ふふ、まさかまさかこれ以上は。畏れ多くて首都の一等地に庭付き一戸建ての豪邸と爵位を下さいなどとは口が裂けても申せませんわ」

こっちもあくまで余裕の態度で(笑えない)ジョークを飛ばす。
いわゆる軽めの挑発だ。これで激昂するような相手だったら“策”なんて達成不可能だし、それにこれくらいの態度の方が“自信満々の勝者”っぽいだろう。

予想通り、上っ面爽やか男は『そうかそうか、ミス・ライアは実に慎ましい』とか楽しそうに笑って返したけど、周囲はえらく緊張していた。
今現在、ここにいるのはジョゼ夫の忠実な部下数名とやたら見目麗しい貴婦人(多分モリモリエール夫人とかいう人)、そしてタバ子。
ガリア千五百万のトップに対してアホな態度を取る小娘、しかもマントもしてない妙ちくりんな格好に、みんなの視線は釘付けよ☆ってヤツだ。

最大にして唯一の対象なジョゼ夫の機嫌と興味はバッチリだからいいけど、タバ子を除く残りのメンバーから向けられる殺気とかその他モロモロの視線は、グラスハートな私の心をいろいろ抉る。

う~ん、まさにSAN値直葬、新鮮な警戒心と地元ならではの敵意をふんだんに盛り込んだ雰囲気ですな。
ヘルシーとは対極だけど、ストレスでダイエットには成功しそう。しないけど。


「さて、“対局者”同士の顔合わせも済んだ。正直なところ、すぐにでも“本題”に入りたいところだが…」

“本題”、つまり人形型携帯電話(?)で言ったアレのことだ。
叶えてあげると言った、ジョゼ夫の“望み”。完全なる敗北に添えられる“勝者”からのプレゼント。
私の策の決定打にして、彼が私をガリアに迎えた理由だ。

「楽しかった対局のお礼、でしたわね」

実際、私は先の戦争ゲームをチェスと称し、参戦も告げてないのに勝手にぶち壊してそれを勝利宣言しただけだ。
そんな意味不明な乱入者の戯言を勝利と認めたのは、ジョゼ夫の器が大きいとかじゃなく、“勝者”…つまり私という存在自体に興味が沸いたからに他ならない。

「ああ、だがミス・ライアを旅の疲れそのままに、いきなり本題に入っては礼儀知らずと思われてしまうかな。礼をくれると言うのに、それを急かすのも無粋というものか」

…私としてはこのまま本題に入ってもいいんだけど。
てか、こっちから『迎えに来い』って言ったわけだから、遠慮は…まあ、遠慮してるワケじゃないか。単純に楽しみたいだけだろーな。
実に好都合。

「確かに。……“急ぐ”のは虚無だけで十分ですものね」

できるだけ楽しそうな笑顔を“加速の虚無”に向けて言う。ジョゼ夫は同じく、満面の笑みで同意した。
無能とか言われつつも実は頭のいい彼のことだから、私がどういう意図で言ったかとか察したはずだけど、表情どころか声のトーンすら変化がなかった。

流石のメンタル、でも興味の楔はより一層深く植え付けられただろう。
そしてそれは、私が語る予定の“望みを叶える方法”の信憑性に繋がり、今は城内での私の安全に繋がるのだ。

「違いない!では、“それ”は明日に、ということにしておこう。今宵はささやかな宴を用意しておいたのでな、それまで部屋で休むといい」



無能王さん終了のお知らせは明日か。
まあ、全く全然何も問題なっしんぐだな。うふふのふ。




※※※※※※※※




腰に差してあった斬伐刀“廃刃”と折り畳み式の弓をやたらと高級そうな机に置き、私自身はこれまた無駄に高そうなベッドへダイブする。
あいきゃんふらーい。一瞬で着地。絹の肌触りがとってもまーべらす。

「いや、実にVIP対応ですな。ホテルのスウィートなんてメじゃなーい。実際泊まったコトないから多分だけど」

勝利が確実かつ圧倒的優位に立っていたとはいえ、やはり緊張はした。
だからこーやってダレるのは実に気持ちがいい。…っと、服がシワになったらアレだから、部屋の中では着替えとくか。

あ、その前に。

「ところでさっきからずっと反応なくて若干寂しかったりするんだけどけーど。どーしたタバサ、“ラリカを無視し続けたらどうなるか”みたいなアレが現在進行形で進行中なのですか」

謁見?後、用意された部屋に案内されたのだが、そこに世話役…という名の監視役としてタバ子が付けられた。
おそらくきっと私とタバ子の関係、同じ学院に通う学友(過去形だけど)って知ってのうえだろう。粋な計らいするじゃないですか、青ヒゲさん。

…で、まあそれはいいんだけど、タバ子が無言&無反応過ぎて辛い。
謁見後から廊下、そしてこの部屋に入るに至るまで、ずっと私をポケ~っと見つめている。
今も扉の前で突っ立ってるし。

別に普段から自動で本を読み続ける置物みたいなモンだったから無言は平常運転なんだけど、空の上ではワリと喋ってたし、こっちからアクション起こせば反応はしていただけに、ほんのり寂しいのだ。

「おーいタバサ~、タバちゃーん、強敵(とも)よ…、へいブラザー!じゃないかシスター、タバっちー、……おぉう、本格的に無視~んな予感」

大嫌いな叔父さんに、お客さんと話しちゃメッ!とか言いくるめられたのか?
それとも一応お仕事中だから、どっかの兵隊さんみたく直立不動&無言で職務にあたってるとか?
もうやる事はやったし、言う事は言ってるから問題ないっちゃ~ないのですが。今この時がどうだろうと、結果はもう決まってるんだし。

しかし、晩までヒマだ。ぐっすり寝たから眠くはないし。
勝手に出歩くわけにもいかないから、暇つぶしの道具はタバ子以外皆無。
…仕方ない、アレをやるかな。

身体を起こし、ベッドに腰を掛ける。
そして自分の膝をポンポンと叩き、腕を広げた。

「うぅ、無視されるなんておねーちゃん悲しい!というわけで、最終兵器発動いたしーま。……タバサ、“はしばーみ”」

「!!…はしばーみ」

そうそう、それでいい。
どーせ命令を下す叔父さんはすぐミョズ姐さんの許へGOだし、タバ子自身も兵隊の真似事なんぞやらなくていい立場にランクアップするんだし。
……こんな無礼なコトをしてくる、クズ女ともお別れできるんだし。



だから今、この時は。

暇なわたくしめの相手をして下さいな。未来の女王陛下どの☆








(Side Other)




「陛下、あの娘は…」

謎の少女“フェイカ・ライア”が去り、何ともいいがたい空気が残った部屋で最初に声を発したのは、ジョゼフの傍に控えていた貴婦人、モリエール夫人だった。

「言っただろう?大切な客人だよ」

「それはお聞きしていたのですが、マントもしていなかったようですし、どこか遠い異国の者なのですか?」

「いや、どうしてそう思う?」

逆に訊ねるジョゼフに、モリエール夫人は眉を顰めて不快そうに、彼女が去っていった扉を見る。
ハルケギニア最大の国の王を前に、まるで気心の知れた旧知のような態度で接していた少女。言葉遣いは辛うじて丁寧語ではあったのだが、あれは王に対する態度ではなかった。
近衛が黙っていたのは、恐らく事前にそう命じられていたからだろう。

しかし、ともすれば“上から目線”とも取られそうな発言さえも、ジョゼフは気を悪くするふうもなく、それどころか愉快そうに笑って応えていた。
トリステインの女王や、ついこの前に現れたというアルビオンの女王でも、彼に対してあのような態度で接することはできないだろう。

「陛下に対してあのような態度、礼儀を知らない未開の田舎者か、道理の違う異国の者くらいだろうとしか思えないからですわ」

この場に居合わせた誰もが感じていたであろう至極当然過ぎる答えに、ジョゼフは楽しそうに笑みを浮かべる。

「そうか。で、他に何か思わなかったか」

「……いえ、あの娘には特別な何かがあると陛下は仰るのですか?」


ふむ、と呟き、彼は自分の青い美髯を撫でた。


「モリエール夫人。あなたは“チェス”に興味はおありか?」




※※※※※※※※




トリスタニア王宮の執務室。
報告書に目を通すアンリエッタ女王の前には、エルデマウアーとアニエスの姿があった。

「これは……」

それは、いくつもの不確定な情報の1つ。
政治の大きな変わり目には必ずと言っていいほど囁かれる陰謀説や、出所不明の噂の類。

『 アルビオン女王と共に革命を起こした謎の少女 』

本来なら一笑に付していたであろうそれは、アンリエッタに長らく停滞していた別の案件の“彼女”を思い起こさせるものだった。
点と点を結ぶ線ではない。確信などはなかった。
ただ何となく、だけれど強く。
“彼女”ではないか、と思ったのだ。

そして、目の前の報告書。
公の情報だけではない、聞き込みをした結果得られた情報。
ドラマティックな革命と美貌の女王の陰で、表舞台には出ない“彼女”の噂。

ある兵士によれば、女王はワインを携えちょくちょく離れに住む“彼女”のもとを訪ねていたという。
ある使用人によれば、“彼女”は女王とタメ口で談笑し、冗談を言い合っていたという。
あるメイドによれば、新入りだと思って接したら実は要人だったらしいその少女に、手荒れ予防のハンドクリームを貰ったという。
あるコックによれば、ヒマだから料理するとか言って調理室にやって来た際、お礼にとジェネリック秘薬なるものをくれたという。

後半がもう既に特定の人物を示しているとしか思えない噂で、城にいる多くの者が何度も目撃したという“彼女”の姿 ―――、
・淡い銀色(灰色)の髪
・水兵服に似た、変わった服装
・後腰には狩猟刀と弓
・オッドアイ(これは普通の目だったという噂もあり)
むしろ別人だと思う方がおかしいだろう。

トリステインから謎の失踪を遂げた“彼女”は、偽りの虚無と“神の頭脳”との因縁を遺した日記の中に記していた。真相を求め、立ち向かう意志を示していた。

事件を推測するにあたり、排除してしまっていた可能性。部屋の惨状と“彼女”の実力で決め付けてしまっていた大前提。
殺されたのでもなく、連れ去られたわけでもなく、そもそも“犯人にやられた”という、その大前提から誤りだったらという可能性。
荒唐無稽な可能性。

「陛下は、どうお考えに?」

エルデマウアーの言葉に、アンリエッタはすぐには答えず、すっと目を閉じた。
僅かな沈黙。心音が聞こえるくらいの静寂の中、自らの考えを反芻する。

“彼女”を知らない頃の自分だったら、取り合いもしなかっただろう。
“彼女”に叱られ、そして本当の意味でその存在に触れていなかったら、『まさか』と苦笑して終わりだっただろう。

しかし、自分は知っている。
身をもって知った、そして大切な親友が語ってくれた“彼女”は。
彼女なら、あるいは。

ゆっくりと閉じた目を開く。
答えは、心はもう決まっていた。



「至急、ルイズをここへ」






[16464] 第六十四話・カンニングを駆使すれば天才に勝てるかどうか挑んでみるテスト
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:2677e6bd
Date: 2012/09/24 02:25
第六十四話・カンニングを駆使すれば天才に勝てるかどうか挑んでみるテスト




カンニング人生。鍍金で塗り固めた勝利の金色は、敗北の黒より褪せているかも。……ま、それでも私は“勝ち”に行くけど。




冷静に判断した結果、私は将来子供に甘々なダメママンになる可能性が高いことが判明した。

例えて言うなら子供の『ママこれ買って!』オーラ&視線攻撃に弱いという事。
簡単に言うならタバ子の『これちょうだい』オーラ&断られるなんて想像すらしてないようなピュアすぎる視線に屈したという事。
具体的に言うと宴までの暇潰しにタバ子で遊ぶ中、斬伐刀“廃刃”の話題になった際、

『どうして刃がこんなに歪なの?』

と訊かれ、

『最初は“錬金”から“硬化”まで自分でやったけど、能力不足で硬度ダメダメ、枝とか切っただけでご覧の有様だよ。今はおマチさんに“硬化”してもらったから硬いけどね!』

って答えるところを、ちょっぴり冗談で

『刃は鋭ければいい、というものではない。用途次第、包丁が一種類だけではないように、この刃にも深い理由があるのだ…(意味深』

みたいなコト言ったらなぜか感心されちゃって、ホントの理由が言いにくくなった。
でも別にどうしても訂正しなきゃならんコトでもないので、どうでもいいやとか思ってたら、ちょうだい言われたのだ。
まあそういう具合で。“廃刃”は将来的に女王様の手に。お子様オーラ恐るべし。って言ったら魔法が飛んできそうだけど。

親馬鹿はともかく、モンペのような馬鹿親にならないよう気を付けねばならぬえ。必要以上に甘やかされても子供には毒なのです。
ま、現状、子供どころか夫すら、夫どころか彼氏すら、彼氏どころか親しい男友達すらいないけどな!
とゆーか最低でも入学前までは記憶デリートだから、今気を付けると誓っても忘れちゃうんだけどな!
…リセットされた“私”よ、せいぜい頑張ってくれたまへ。


閑話きゅーだい。


宴の夜。
迎えに来た使用人の人がドレスを貸してくれるって言ったけど、『私の正装はこれですの』とお断りし、セーラー服のまま突撃した。

ドレスコードとかあったらヤバいかなーとも思ったけど…。
青ヒゲ王が人生絶望自暴自棄するまで、私は“私”としてより“変わった服装の女”という印象を強く与えなきゃーならん。

これは、“キャラ付け”。
漫画の登場人物が毎日同じような服装ばっかりしている理由であるそれを利用した、我が至高の策の中でも特にまーべらすなモノの1つだ。
これにより、セーラー服を脱ぎ去り、全てを忘れて新生活!となった時には、皆さん私の顔なんて薄ぼんや~りとくらいにしか覚えていないというパーフェクトな状況が生まれるのだ。

テファが関係者全員のアタマから私の記憶を消し飛ばしてくれるならこんな策は不要だけど、全員になんてそもそも無理だし現実的じゃーない。
だからこれは、どーせ死ぬ運命のジョゼ夫や、テファとかタバ子みたいな重要人物とかではない、それなりに偉かったりするんだけど“物語”では脇役な貴族や使用人、一般兵士の皆さん対策用ってワケだ。
主要人物対策は完璧な私でも、そこまでは流石にALLカバーしきれない。
ゆえに、どうしようもない状況以外では止めるわけにはイカンのです。

ちなみにこの服もタバ子はご所望の様子(人のものを何でも欲しがる年頃なのか?お子様め☆)だったが、サイズとかどーしようも無理なのでお断りしといた。
ヤツには全てにおいて惨敗とか思ってたけど、身長とムネは勝っていたのだ!!……何の自慢にもならんけどけーど。

で。
煌びやかだったり豪華だったりするドレスの中、主賓たるアホ娘はモノクロ地味~なセーラー服っていうアレな状況でも、ジョゼ夫は特に何か反応するでもなく宴を開いた。

王族主催のパーティーって~と、前回の“アルビオン滅亡前夜祭~明日は派手に散ったるで!~”が記憶に新しいというか貧乏貴族の娘にはそれくらいしか経験ないんだけど、今回のはもっと小規模なものだった。
そんなの当然なんだが、ジョゼ夫のトンデモ思考なら何するかワカランかっただけに、ほんのり安堵したのは秘密。
いくらその為の(モブ対策の)セーラー服とはいえ、なるべくあんまり大人数に知られたりするのは勘弁なのです。加えて私自身、パーティーとか得意じゃ~ないしね。

そんなこんなで。
そのうち“原作”のアルビオン分割パーティーみたく、少ししたら『眠い』とか言ってジョゼ夫が退席するだろうと、しばらく勧められるままに食べたり飲んだりしていた。

雰囲気は相も変わらずアレな感じ。
特にモリモ~リ夫人は不審そうな目で私を見る→目が合うと愛想笑いのループ。無駄に気になる。いっそガン見してくれてた方が幾分マシだ。
…浮きまくってる私をチラ見しちゃう気持ちは分からんでもないけど。

そう言えば一応、このまま行けばこの人は死なずに済む事になる。
感謝なんぞ求めないし、てか『実はアナタ、ジョゼフに殺されたハズなんですよ』とか後で言っても信じてなんてもらえないだろう。むしろ逆に想い人が死ぬから恨まれるかも。
こうして生で見るまでは、“死なずに済むからハッピー”と決め付けてたけど…現状そうでもなさげな感じがする。
アンアンの件で女の恨みはちょっぴりトラウマだし、うむ、対策としてタバ子陛下にどーにかしてもらおうかな。
“廃刃”あげるんだから、それくらいの追加サービスは期待できるはずだ。

「ミス・ライア」

宴たけなわ。
もういい時間かなーって頃。
お腹はもう九分目、お酒も明日のためにあんまり酔うわけにもいかないので、そろそろ控えよ~かなってトコロでジョゼ夫が話しかけてきた。

お開きか。
んじゃ、部屋に戻って休みますかね。明日は万全で望まなきゃーならんし。寝不足とか二日酔い状態じゃ、引導を渡されるジョゼっちもカワイソーだしネ☆
さてと、きっと世話役のタバ子も同室だろうから、

「少し話でもせぬか?きみに見せたいものもあるのでな」

…。
なるなーる。
夜はもうちょっぴり長いのかもかーも。




※※※※※※※※




「国中の細工師を呼んで作らせたのだが。ここから、と言うところで“負けて”しまったのだよ」

ハルケギニアの地図を模した巨大な模型を見下ろし、ジョゼ夫は言う。
グラン・トロワの一室、晩餐会をテキトーに締めた後、青ヒゲは私をこの部屋へ招き入れた。
確かに精巧な匠の仕事。芸術的な感性は節穴アイズで美術品など豚にパールな私でも、こーいうリアル細かい系は凄いと分かる。抽象画とかはサパーリだけど。
とにかくコイツは“原作”でモリモリエール夫人に自慢してた例のアレだろう。

ちなみにタバ子は廊下でおるすばん。いい子で私の帰りを待つのだ忠犬タバ公よ。ひとりでできるもんもんもーん。
何か言いたげ不安げな視線アタックを受けたけど、にっこり笑って誤魔化してきた。

ま、ジッサイ心配なんぞ無用なんだけどね。
殺すつもりや尋問目的でわざわざここまで連れてくる必要はないし、貞操的なキケンはそれこそ0%だ。
彼氏(彼女)イナイ暦=人生3回分っていう魅力レベルの低さは伊達じゃーない。ハズ。多分。その自信が悲しい。

「確かに素晴らしい“チェスボード”ですわ。これを使っての“ゲーム”が早々に終わってしまった残念無念さは、お察しするに余りありますわね」

「ほう、終わらせた張本人が言うではないか」

笑みを浮かべながらヒゲ王が言う。皮肉る…という程でもないけど、含んだ笑みだ。
ワルドがヒゲでなくなったので、もうヒゲというアイデンティティーは彼が独り占めだ。しかも青いからレアだ。
心底どうでもいいけど。

「ふふ。ですが自身で両の駒を動かす“一人遊び”、賽の目に勝敗を任す程度の“揺らぎ”よりは、お楽しみいただけたのではないかと?」

だからこちらも余裕っぽい笑顔で答えた。
ジョゼ夫も、この無駄に金をかけた箱庭が早々にお役御免になったのを残念がっていることはないだろう。
コイツの目的はあくまで自分が罪悪感とかで再起不能にヘコみたい(?)っていう傍から見たらマゾな願望であり、戦争ゴッコも所詮は手段でしかないのだ。

「はっはっは、確かにな!あの“人形”からミス・ライアの笑い声が聞こえてきた時は、久々に胸が躍ったぞ!あのような形での“敗北”なら大歓迎だ」

「光栄至極、エンターテイナーたる者、人を愉しませる義務がありますもの。勝者も敗者も観客も、誰も彼もを隔てなく。もちろん、自身も愉しませていただいたのですが」

微笑み合う。
傍から見れば、和やかな談笑に見えるだろう。実際は狸と狐の化かし合いみたいなモンだけど。

それでコヤツは一体全体、私にナニを見せたくて、ナニを聞きたいのだろうか。
まさかこの箱庭なんてわけはないだろーし。誤魔化す自信はあるけど、あんまりイレギュラーなモノは勘弁願いたい。
“本題”だとしても、こっちからは切り出せないし。

「くく、いや、本当に面白い。もし差し支えなければ教えて欲しいものだな、ミス・ライア。きみは一体何者で、何を望み、どこへ向かおうとしているのだ?」

とりあえず、基本的“ Who are you ? ”ってか。
確かに実際出会ってからやったのは、バレバレな偽名の紹介のみ。不審ってどころのレベルじゃない。
でも…、

「ちなみに陛下はどこまでご存知ですの?」

箱庭を眺めるようにしながら背を向ける。

「そうだな、生まれや本名、今まで何をやってきたかくらいか」

当然の如く、おマチさんが教えてくれた“クロムウェルに伝えたラリカの情報”は、そっくりそのままこっちにも渡っているだろう。
つまり私の情報は学院時代の成績云々まで完全にプライバシー☆侵害状態。それ以上ってなると、もはや我が心の内くらいしか晒すモンはない。
それは転生、原作知識っていう“虚無”どころの話じゃないくらいアウトなシロモノ。そいつぁー晒すワケにはいきませぬ。

「あら、それなら付け足すような情報はおそらくございませんわ。それ以上に関しましては“乙女の秘密”になってしまいますので。本当はお話しても構わないのですが……」

くるり、と振り返り、やや演技臭い仕草で小首を傾げ、大仰に手を広げてみせる。
笑みは湛えたまま。できるだけ愉しそうに、そしてほんの少しだけ挑発的に。

「少しくらいは謎を残しておきませんとね。だって、“その方が素敵でしょう?”」

…まあ、ロン毛たちと行動を共にしている頃は行方不明扱いだっただろうから、情報なっしんぐかもしれないけど…やってたのはテファとの自堕落無人島生活だ。
アルビオンの革命に関しては必死に止めてただけで実質なーんもやってないし。城の離れでの生活とかに至っては、正に誰得。

「なるほど、“その方が素敵だから”教えては貰えぬか。秘密を守るには最上の理由だ。それならこれ以上、きみの正体については無理に聞くわけにもいかんな」

無駄に気取って洒落にまみれた、小芝居みたいな台詞の応酬。冗談じみた駆け引き。
ジョゼ夫の機嫌はしかし、すこぶる良好だ。不遜な小娘の戯言は、小出しに明かされる誰も知らないはずの情報も相まって、計算通り着実に期待を増幅させている。
実際、もうJWP(ジョゼフわくわくポイント)は必要分溜まってるっぽいのでこれ以上は無駄なんだけど。

「お心遣い感謝いたしますわ。それに、今あまり喋ってしまうと明日の楽しみも減ってしまいますもの。それとも、予定の繰り上げをなさいますか?」

「いやいや、魅力的な提案だが、前言の撤回はせぬよ。楽しみはとっておこう。しかし、ふむ。支障がない程度で何かひとつ話してもらえぬか?眠る前の伽に、例えば……“それ”に関してなどはどうだ?」

そう言って向けた視線の先、少し離れたテーブルの上には、ボロっちい箱があった。
一見すると半分ゴミみたいなオルゴール。でもその正体が何であるかなんて明白すぎる。
見せたかったのは、コレか。で、私の反応を見たかった、と。
OK、じゃ~ほんのりご期待に沿ってやりますかね。

「ああ、“始祖のオルゴール”ですか。アルビオンのティファニア女王にバレたら国際問題ですわね。“香炉”の方なら問題ありませんのに」

あえて興味なさげ&何でもないような口調で言ってみる。
ほんの一瞬ジョゼ夫は沈黙し、そして再び嬉しそうに笑い出す。

「やはり知っていたか!予想通り、いや、期待通りだ。その口ぶりからすれば、もっと詳しいところまで分かっているのだろう?」

「さあ、どうでしょう。…ですがこれは“乙女の秘密”でもありませんし、リクエストにお応えしてひとつだけ、“コレ”にも関係する面白いお話でもして差し上げましょうか」

この時点での、ガリア側が得ている“虚無”の知識ってどの程度だったっけ?
知ってる話やあんまりありきたりな話だと、せっかく溜まったJWPを減らしかねない。でも出し過ぎると明日のネタに響くし…。
よし、んじゃ“語る”んじゃなく“騙って”あげますか、嘘吐きで偽りだらけの私らしく。
私の考えた嘘なら、確実に初耳の“新情報”になるし。

「陛下もご存知の“四つの四”の中、四の担い手たちが得る“最初の虚無”についてです」

“四つの四”とか、四の担い手っていう単語には特に反応なし。
やはり知っているor私の口から出ても不思議じゃないと思われてるか。

てか、私も正直そんな詳しくなんだけどね。四つの何たらってのも、“原作”でチューザレ?くんがそんなようなコトを言ってたから覚えがあるってだけでうろ覚え以下。
だから、この先は完全オリジナル。それっぽいだけの“おはなし”だ。




※※※※※※※※




「“虚無”は、担い手の想いに応えて発現した奇跡。それは願いであり、祈りであり、欲望でもあります。人々の想いが1つでないように、十人十色で三者三様。この場合は四者四様?……だから、担い手たちが最初に覚える“虚無”は、全員一律ではないのです」

ハイ、しょっぱなからアクセル全開でフカしてます☆
でも後半は事実。真実を程よく織り交ぜる、嘘を吐くうえでのテクニックの初歩の初歩の初歩だ。……おおぅ、何か虚無っぽいなこのフレーズ。

青ヒゲ陛下は特に口出しすることなく、黙っていい子にして聞いている。
“虚無”魔法の情報。普通に考えて、いろいろパワーバランスが崩れるほど超機密レベルだ。そりゃマジメに聞いちゃうだろう。
ただ残念ながら、ジョゼっちはこの情報を活かすことなく天に召される運命なのだ。
ま、そ~じゃなきゃ私だって話さないんだけど。


「四つの四。遥かなる時を経て、始祖の力を受け継ぎし4人の担い手たちは、このハルケギニアに目覚めた」

目を細め、視線を遠くへ思い耽るように。身振りも加えてどっかの吟遊詩人みたく詠うみたいに“騙り”始める。

「ある者は偶然という名の必然のもと、ある者は幼き日の記憶、そしてある者は求め続けた末に」

よ~し、若干ノッてきたぞー。
心地よいレベルの酔いも加わり、いい感じだ。素面だったら若干ハズくてできなかったかも。
飛び出せある事ない事!迸れ偽りのパトス!!

「とある虚無は願った。自らの可能性を覆う殻を破る光を。未来を阻む壁を壊す煌きを。…“打ち破る”為の力を」

“爆発の虚無”、ルイズ。
言ってて実にそれっぽいけど、実際は感情が爆発しやすいんで“爆発”ってのがオチだろう。もしくはヒロインらしく派手な魔法にした結果か。
てか才人への折檻に“忘却”は向いてないし、“扉や窓”で痴態を見て脅すとかどこのR18?だし、“加速”じゃガンダールヴの出番がなくなる。

「その虚無は祈った。癒えない傷をも消し去る癒しを。憎しみも悲しみも覆い隠し、塗り潰す救いを。…“争いを無くす”為の力を」

“忘却の虚無”、ティファニア。
確かに癒えない心の傷も忘れさせちゃえば消えるし、憎しみも悲しみも忘れさせれば無問題。だがそれは軽く洗脳だ。正直、癒しでも救いでもない。
実は一番アブない魔法なのかも。“忘却”&アンドバリの凶悪コンボですくすくと再興していくアルビオンを見て、しみじみ思ったもんです。

「その虚無は求めた。まだ見ぬ世界、触れ得ぬ彼方、全てを見通す眼を。全知の領域にすら踏み込む知識を。…“覗き見る”為の力を」

“扉と窓の虚無”、ロマリアの教皇陛下。
この人に関しては、何だか怪しいとしかイメージがない。実際会ったことないし。信仰心なんぞ“前のラリカ”の時点からゼロだし。だからテキトーだ。
原作では使い魔の人も激しく怪しかったから、それっぽく野心旺盛な教祖様的なキャラにしときゃいいだろ。多分。

「そして、」

一拍置き、今から言う台詞が特に重要だと匂わせる。

「そして、その虚無は望んだ。遠く閉ざされた過去の闇を振り切る術を。己が心を蝕み、停滞させる“時”の呪縛から抜け出し、逃れ得る速さを。

“一歩を踏み出す”為の力を」

“加速の虚無”、ジョゼ髭おじさん。
確か原作では、この魔法を『神に“急げ”とせかされているよう』とか言っていた気がするが、ちょっと表現を変えてみた。…急ぐ為の力、とかだと表現的に微妙だし。

もちろん、それだけが理由じゃーない。
コレは明日への“導入”だ。この表現にすることによって明日の“本題”へ入りやすい環境が作られ、同時に興味もプラスされるだろう。
……いやー、実際ここまでやる必要も予定もなかったんだけど。しかもほぼアドリブでとか。
うん、今宵のわたくし冴えまくりんぐで自分の才能と策士っぷりが怖い。

じゃ、そろそろフィニッシュといきますか。
仕切り直すように口調を一転させる。物語のエピローグを読むようなイメージで、若干切なそうに。

「四つの四、四の奇跡。願いは通じ、祈りは届き、欲求は満たされた。でも、望みは未だに叶わない」

胸に両手を添え、目を閉じる。

「足掻いても踠いても、誰よりも速く駆ける力を得てしても。このセカイのスピードには追いつけない」

一拍置いて、締めの一言。


「――――― その一歩は、未だに踏み出せないでいる」


ま、その一歩ってのは、断崖絶壁からコードレスDeアイキャン☆ふら~い的な破滅への一歩になっちゃうんだけどネ☆
それでも恐らく彼には“救い”。全く、地位やお金や名声だってあるって~のに、ワケワカランね。どうでもいいけど。

………。
余韻の沈黙十数秒。うむ、このくらいでいいかな。
眠る前の“物騙り”はここまでにして、後は明日のお楽しみと。

「っと、こんなところでいかがでしょう?これ以上は陛下のお休みの邪魔になってしまいそうですので、今日のところはここまでで」

目を開き、にっこりと微笑んでみせる。
『もうこれ以上は話さないですよー』って意思を込めて。

「……ミス・ライア。きみの知識にはどこまでも驚かされるな。そしてそれ以上に、…いや、言うとおり今日はここまでにしておくか」

意思はバッチリ伝わった。
ジョゼっちは残念そうな、でも満足げな、何だかよく分からない表情で言う。
意外と空気を読めるらしい…ってか、“無能”キャラはフリなんだし当然か。
でもJWPが天元突破したのは確実だろう。

「はい。では、失礼させていただきますわ」

できるだけ優しげな声で挨拶し、軽く一礼して踵を返す。
そしてドアを開くと、

「“半歩踏み出す”勇気を。さすれば、私が“半歩分だけ”引っ張って差し上げますよ。……“加速”の虚無、ジョゼフ様」

って相手にギリギリ聞こえるだろうって微妙な声量で、独り言っぽく呟きながら部屋を後にした。
どうだね?JWPはショート寸前かね?眠れない夜確定かね?いわゆるダメ押しというやつだよ、ジョゼ夫くん!
今宵はせいぜいわくわくしながら毛布にくるまるがいい。


やっぱ思ったより酔ってたかもかーも。

流石はガリアの最高級ワイン、控えたつもりがあんまり控えれてなかったみたい。
でもま、明日の補強ができたと思えば万事OKかな。
終わりよければ全てよしだしって、まだ数時間早いかー。こいつぁー参ったぜ!HAHAHA!
いや~、わたくし調子に乗っちゃってますねー。うふふのふ。

んじゃ、いい気分のままGoToBedと洒落込みますか!







中略







「“一歩を踏み出した”その先に、何がおれを待っているのだろうな。ミス・ライア…いや、“絶望”のラリカよ」


で、翌日の慌てるような時間じゃない時間に至るわけです。
ご覧の有様です。


さて。



………どうしよう。




[16464]  幕間21・アザー、アナザー、アウトサイダー①
Name: めり夫◆9cbc0c0c ID:2677e6bd
Date: 2012/10/10 08:08
幕間21・アザー、アナザー、アウトサイダー①




たくさんの人がいて、たくさんの想いがあって。……それはそれで、全部ちがう。





Side ティファニア


謁見の間。

鷲鼻でカールした髭の大臣は、すっかり定例となった現在の復興状況を報告する。
それは細かいけれどとても丁寧で、聞き慣れない言葉もすぐに察して簡単な言い回しに直したり、新米女王のわたしが理解するまで試行錯誤してくれる。
わたしなんかには勿体無いくらい、優秀で親切な大臣だ。

…マチルダ姉さんは今でも
『あの強欲狸親父が粉骨砕身して国に尽くす姿を拝めるなんて、まったくアンドバリの指輪ってのは怖いモンだねぇ』
とか言って笑うけれど。

そう。
この大臣は“死者”。アンドバリの指輪の力で偽りの生を与えられた中の1人だ。
各界との強力なコネに加え、とても優秀な能力を持っていたにもかかわらず、それを私利私欲、私腹を肥やすためだけに使っていた人…らしい。
らしい、というのは、わたしがこの人の“生前”を知らないからだ。初めて会った時から“死者”だったから、彼に対する印象は“優秀で親切な大臣”というものしかない。

この現在復興中のアルビオンには、彼のような“死者”がまだ何人もいた。
あの“革命”後、“死者”を少なからず解放したらしいけれど、何人かはそのまま職務を引き継いでもらっている。
選別条件は能力だったり地位や財力だったりと様々で、だけれど確かに優秀な“彼ら”のお陰でアルビオンの復興は、他の歴史に類を見ないほど早く進んでいるという。
むしろ、もう既に以前よりも良くなっているんじゃないか?…という声も囁かれているくらいだ。

政治に長けた人はその力を国のために全力で使い、お金持ちは私財を投げうって国の財源にあてる。私欲がないから手柄とか度外視で、功績は全て“新生アルビオン”のモノに。
政敵とかライバルだった相手ともわだかまりなく手を取り合い、部署部門立場も関係なく連携し合う。互いを牽制したり足を引っ張ったりする派閥争いなんて存在すらしない。

そんな、普通の国では有り得ないような一体感から生まれるパワーは相当なものらしくて。彼ら“死者”たちに“生者”たちもいい影響を受けたみたいで。
“アンドバリ引継ぎ作戦”を計画したワルド様たちの予想をも遥かに上回って…その、こういう現状というわけだ。


閑話休題。

未だに慣れることのない王座。
部屋の両側には何人もの衛士の方が微動だにせず立っていて、気にしなくていいとマチルダ姉さんたちから言われていてもなお、やっぱりすごく気になる。
執務室の方がまだ落ち着くのだけれど、『慣れていただくために、しばらくはこちらで』と大臣らからの助言に従い、こうやって女王修行中?の日々だ。

「…となっており、西地区の復興作業は完了いたしました。いやはや、それにしても流石ですな。あの一帯は職にあぶれた者たちがスラムを形成して治安問題に難があったのですが、それも同時に解決されるとは。陛下の卓越した執政の手腕にはこの私めも驚かされるばかりです」

うん、それはわたしの手腕じゃない。
というか、何をしたのかいまいちよく分かっていない。就労支援とか、施設をどうとか報告であったけれど、まだ勉強中で全部理解するには知識不足だ。
わたしが指示?したのは、『国をできるだけより良くしてください』という曖昧なもので、ほぼ大臣以下みなさんに丸投げだったのだし。

「これで民衆からの支持もより一層、いや“金絹の聖女”ティファニア女王陛下への信奉は、もう既に最上といってもいい状態でしたな。はっはっは!」

「い、いえ、そんな、ええと…、み、皆さんのご助力があってこそです。……はい」

褒められる理由もないのに褒められ、少しどもりながらも当たり障りのなさそうな返答をしてみる。
“革命”の演説とかは事前に打ち合わせしていたからしっかり“台詞”を言えたけれど、アドリブはまだまだ苦手だ。こういうのにも早く対応できるようにならないと。

そんな事を思いながら、少し離れたところにいるマチルダ姉さんを見ると、俯いて肩を小刻みに震わせていた。
…明らかに、お世辞を言われて困る私の様子を楽しんでいる。

そもそも、誰が言い始めたのか“金絹の聖女”って。
こういう二つ名みたいなのも、今のアルビオンには“復興の象徴”とか“希望の合言葉”として必要だってマチルダ姉さんたちは言うけれど…。
今の姉さんの様子を見ると、ホントに信じていいのか微妙な気持ちになる。
ラリカがからかって言った“猛乳の女王様”よりは全然いいけれど。


ラリカ、か。

恭しく一礼し、退室する大臣の後姿を眺めながら、数日前に姿を消した親友を想う。
凄く会いたい。
会って………とりあえず、溜まった愚痴を吐き出したい。
一日の終わりに、彼女の部屋でワインを飲みながらお喋りする、最高のストレス解消法はあと何日くらいお預けなのだろうか。


『 友達と海外旅行にイテキまーす。ついでにいろいろ解決してきます 』
『 ちゃんと帰るから探さないで下さい。というか、帰った時に“どちらさま?”とかヤメテね、温かく迎えてね(切実 』
『 テファ、ワルド様たちへの説得はキミに託した!頼む!お土産もバッチリ用意するからお願いします!いい歳こいて叱られたくないんです! 』
『 PS.詳細は帰ってから。あと、“彼”を責めないで下さい 』


護衛の兵士が倒され、彼女が何者かに連れ去られたかもしれないと報告があった時は、本当に心臓が止まるかと思った。
そんな中…、ワルド様やマチルダ姉さんも駆けつけ、捜索隊や救出部隊をと思っていたら出てきた置き手紙。
気の抜けるような文章と、倒された護衛の兵士への気遣い。あまりに彼女らしいその手紙に、安心するやら呆れるやらで…あの夜は大変だった。

もちろん、手紙にそうあったからといって心配していないわけじゃない。
ラリカは表舞台にこそ立っていないものの、間違いなく国の重要人物…というかわたしの大切な親友なんだし、彼女の頭の中にあるミョズニトニルンの記憶についても完全に解決してはいない。

使い魔としての能力は使えないから利用価値はない、とは言ってたけれど、それでもミョズニトニルンの主だった“虚無”の情報はあるのだろうし。
出掛けるなら出掛けるで普通にすればいいのに、こんなカタチで姿を消すのも変だし、その“友達”が何者なのか、それに“ついでにいろいろ解決してくる”の意味も図りかねる。

…うん、改めて考えると安心できる要素が全くないかも。

それなのに信じられたのは、やっぱり彼女が彼女だからか。
ふざけているようで誠実。頼りないようで、実は凄く考えて行動している。どんな時もゆとりのある態度は、どこか達観しているふうで。
彼女には言葉ではうまく説明できない存在感と安心感があるのだ。
今までの行いや態度で、彼女がどういう人なのかはみんな分かっている。ワルド様はもちろん、マチルダ姉さんだって。

だから、信じる。信じて帰りを待っていられる。
きっと、本当にちょっとその辺まで出掛けていたようなふうに、そしていつも通りの冗談を交えながら『ただいま』と帰ってくる。
わたしがリアクションに困るようなお土産を用意して。

……ワルド様たちへの説得は無理なので、大人しく叱られてもらおう。特にマチルダ姉さんは凄い張り切っていたから、いろいろ覚悟しといた方がいいかもしれない。
ちなみに、その時はわたしも一緒に怒る予定だ。



扉が開き、珍しく慌てた様子の騎士が入ってくる。
定例報告の後は謁見とかの予定は入ってなかったはずなのに、何だろうか。
彼は扉近くの近衛騎士に何やら手紙みたいなものを手渡し、介してそれはマチルダ姉さんの手によって開封された。


…あれ?
姉さんの表情が強張ってる。


一体何が書いてあったのだろう?






Side マチルダ


謁見の間。

かつて自分がこの国に貴族として暮らしていた頃、強欲な狸親父と囁かれ、同時にその影響力で畏れられていた大臣が、真面目な顔をしてテファに定例報告をしている。
彼にも多少どころではない恨みはあったが、今となってはどうでもいい事だ。
そもそも、もう既に“死者”となっているわけだし。
死ぬまで…はもう無理だが、しばらくの間は“生前”私腹を肥やすためだけに使っていた優秀な能力を、私欲を排して国の…私たちのために役立ててもらうつもりだ。
死人に鞭までは打たないが、せいぜい有用に使ってやるからさ。

なんて事を思いながら、テファのまだまだ初々しい女王様姿を眺める。

未だに座っている、というよりも座らされているといったふうの王座。
特別にしつらえたドレスも、私に言わせりゃまだまだ馬子にも衣装といったところで、身の丈に合っているとは言い難いか。あの子は美少女だから確かに栄えてはいるんだけどね。

事情やら中身やら全てを知ってる身としては、どうしたってそういう目で見ちまうもんだ。親にとって子供はいつまで経っても子供、ってみたいに。
もっとも、私ら以外の連中にとっては“見た目も中身も立派な女王様”なんだろうけど。

マジメな顔で大臣からの話に耳を傾けるテファ。
部屋の両側には忠誠心が高く腕の立つ者ばかりが控えていて、この謁見の間は安全さで言えば城のどこよりも安全な空間となっている。
でも、守られてるはずのあの子は落ち着かない様子だ。気にしなくていいとは言ってあるんだけど…段々慣らしていくしかないかね。

「これで民衆からの支持もより一層、いや“金絹の聖女”ティファニア女王陛下への信奉は、もう既に最大といっても差し支えない状態でしたな。はっはっは!」

そう大臣が褒めると、テファは顔を真っ赤にしながら『いえ、そんな、ええと、』とか言って慌てている。
まったく、これからは“そういうの”にも対応できるようにならなきゃいけないから、心を鬼にして“言わせている”ってのに。

ホントにもうしょうがない…、あ、笑ってるのがバレた。
後で文句言われるね、こりゃ。
“それ”はあの娘の役割だってのに。


あの娘。
ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア。

退室する大臣を横目に、数日前に姿を消した少女を思う。
テファの友人兼ストレス発散係は、一体いつになったら戻ってくるのだろうか。


『 友達と海外旅行にイテキまーす。ついでにいろいろ解決してきます 』
『 ちゃんと帰るから探さないで下さい。というか、帰った時に“どちらさま?”とかヤメテね、温かく迎えてね(切実 』
『 テファ、ワルド様たちへの説得はキミに託した!頼む!お土産もバッチリ用意するからお願いします!いい歳こいて叱られたくないんです! 』
『 PS.詳細は帰ってから。あと、“彼”を責めないで下さい 』


護衛の兵士が倒され、あの娘が何者かにかどわかされたと報告があった時は、正直肝が冷えたもんだ。
うろたえるテファを宥めながら、ワルドと相談しようと思っていた矢先に出てきた置き手紙。
馬鹿っぽい文章と、役立たずにも伸された護衛へのフォロー。読んで最初に感じたのは、安堵でも怒りでもなく、呆れだった。

だけど、それで捜索やら救出やらを出すのは取り止めにした。
もちろん手紙の内容を鵜呑みにしたわけじゃあないし、危惧することは幾らだってある。

あの娘も一応は、その…今のところは“仲間”なわけだし、テファも懐いているし、ああもう、そんな事よりそう、あいつの中のミョズニトニルンの記憶の件!があるしね。
例の一件でテファ達との絆がより深くなったとか、新しい未来の可能性を見せてくれたとか、そういう恩みたいなのもほんの少しだけ僅かにちょっとだけないこともないけどさ。

…とにかく。記憶の件、それが一番の危惧する理由だ。
本人曰く、
『知識は、商品なしの取扱説明書がページもランダムでバラバラに大量にある状態。それにもし商品を手にすることができても、使い魔じゃないので使えない』
らしく、“神の頭脳”的な価値はないようだけど、“虚無”の情報はあるわけだし。

…ミョズニトニルンの主の情報。
ワルドの指示でいろいろ探っていた時から、おおよその予想はついていた。
かと言って“かの国”は、“そいつ”は、おいそれと手出しできるような相手ではない。ただ会うだけでもそれなりの用意が必要な相手。
テファが、この新生アルビオンが世界に認められて初めて、同じ場所に立つことを許される存在。
実際、多少の情報を手にしてもどうしようもないってのが正直な所なのだ。

あの娘もその正体を確かに匂わせたものの、明言はしなかった。
それは正体を“知ってしまう”事をまだ早計と考えたゆえなのか、それとも何か他の思惑があっての事なのか分からないが、私たちは問い詰めはしなかった。
時期が来たらいずれ話す、という彼女の言葉を受け容れた。

手紙の言葉を信じた理由。
簡単に言ってしまえば、それは“あの娘だから”という曖昧で感情的な、でもそれとしか言いようのないモノなんだろう。

連れ出した“友達”とは誰か、一体どこへ行ったのか。“ついでにいろいろ解決してくる”とは何をしでかすつもりなのか、全くの言葉足らずで説明不足だけど…。
その全てを受け容れられるだけのものが、『きっと悪いようにはならないだろう』という根拠のない、しかしそう思わせるようなモノが、あの娘にはあったということだ。

ま、帰って来た時に怒られるのを本気で恐れているのがひしひしと伝わってきたってのも大きいんだけどね。
それは、“ちゃんと帰るつもりでいる”って事になるんだから。
家族に内緒で遊びに出掛けた娘かっての。さしずめテファは、仲裁する姉妹役かい?
もちろん、叱られたくないんです!ってアレは“フリ”としてしっかり受け止めといてやるけどさ。

……最初は何を考えてるのか分からない娘と、警戒してたんだけどね。
全く、何がどうしてこうなっちまったんだか。



扉が開き、慌てた様子の騎士が何やら手紙のような物を手に入室してくる。
扉近くの衛士に託されたそれは、“ディテクト・マジック”で妙な仕掛けなどないのを確認した後、私の手に渡った。
繊細な青薔薇の紋様をあしらった香り付きの手紙で、一見しただけで普通の代物ではないと分かる品。封蝋の印璽は…ガリアの王族?
慌てて寄越してきた理由はそれか。
それにしても、一体どういう用件で……、


『 親愛なる猛乳の女王ティファニア様

  何だかいろいろあって、ガリア王(←ミョズニトニルンの主ね。黒幕で“虚無”)の家にお邪魔しています。
  ちなみに置き手紙にあった友達ってのは、ガリアのお姫さまだったりするみたいな?印璽は彼女のを借りました。驚いた?
                       ~中略~
  というわけで、この手紙から近いうちにガリアからの正式な使者とか来ると思うので対応よろしく。
  我らが友情パゥアーで黒幕さんに「ごめんなさい」させてやりましょう。平和な世界が見えてきたぜ!

  PS.テファの噂はガリアにも届いています。“金絹の聖女”が歴史の教科書に載るの確定ですな、こ・れ・は☆

       あなたの親友かつ全自動愚痴聞き機のラリカより 』


…。
……。

ああ、

とりあえず、あの馬鹿娘、無事は無事の…ようだね。
予想の遥か斜め上をブッ飛んで行く状況だけど、それなりに事情も分かった。



後で、…帰ってきたら、じ っ く り と“おはなし”をする必要はあるようだけど。






Side ワルド


「これで今のところは全部です。また、新たな情報が入り次第、ご報告します」

それだけ告げると、女官は一礼して退室する。
残ったのは積み上げられた資料の山。全て“虚無”や聖地に少しでも触れているものだ。
比較的容易に手に入るものから、厳格な閲覧制限があるもの、中には王族以外は触れることすら許されないような品もあるという。

もし、これだけのものを地道に集めていたとしたら、一体どれだけの時間がかかったか。
いや、どれほどの時間をかけたとしても不可能だっただろう。
トリステインでは魔法衛士隊の隊長となったが、そこまでだった。
レコン・キスタとしてクロムウェルの下に居たのでは叶わなかった。
ミョズニトニルンに従い続けていても、おそらくは体のいい駒止まりだっただろう。

しかし、今。
自分の目の前には、本来なら手が届くはずもなかった知識の山がある。自分の手足として動かせる人材がいる。潤沢な資金が、“国”という巨大な後ろ盾がある。
何より、自分と共に歩むと誓ってくれた“虚無”が、信頼できる“相棒”がいる。
そして……。

何がどう繋がっていくのか。全く、人生というのも分からないものだ。
“運命”とやらを信じるとすれば、今に至る運命のターニングポイントはどこだったのだろう。
目的のため、祖国を裏切ると決めた日か。ミョズニトニルンの誘いに乗った時か。

…いや、答えなどもう分かりきっている。
あの日、アルビオンへ向かう一行の中にそれは在った。邪魔なモグラを吹き飛ばすために放った風の余韻に、淡い灰銀の髪をなびかせて笑っていた少女。
その時は、気にも留めなかった出逢いの瞬間。
あの邂逅がなければ、“今”は確実に存在し得なかっただろう。
落日の宴、タルブの空、トリステインの夜。そして、孤島での決意の朝。
それら全てが大きな意味を持ち、その出逢いは運命を、そこに至るように自分を変え……“今”へと導いたのだ。


いつか、マチルダに“変わった”と言われた事がある。
確かに当初は1つの駒として使うつもりだった彼女も、1人の対等な人間として意識するようになり、関係も彼女の言う通り“変わって”いった。
力で従わせる関係から、ギブアンドテイクの繋がりになり…やがて、なくてはならない相棒になった。

もし考え方を変えず、ただ利用するだけの関係のままだったら、恐らく彼女はティファニアの存在を自分に知らせることなどなかっただろう。
例え何かのきっかけで知れたとしても、降って沸いた“虚無”の存在に対して自分はどう動いたか。
考えるまでもなく、アルビオンでのルイズの時の再現だ。
心など開くはずもないティファニア、力ずくでも手に入れようとする自分。彼女を守るために、立ち塞がるマチルダ。
……その結果も、過程も、今となっては想像すらしたくもない。


ここに至る“運命”の紡ぎ手。
ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア。
誰の『大切』も否定しない少女。真っ直ぐで不器用で、儚くも強い少女。

数日前に姿を消した彼女を想う。
今、彼女はどこにいて、誰の運命の瞬間に立ち会っているのだろうか。


『 友達と海外旅行にイテキまーす。ついでにいろいろ解決してきます 』
『 ちゃんと帰るから探さないで下さい。というか、帰った時に“どちらさま?”とかヤメテね、温かく迎えてね(切実 』
『 テファ、ワルド様たちへの説得はキミに託した!頼む!お土産もバッチリ用意するからお願いします!いい歳こいて叱られたくないんです! 』
『 PS.詳細は帰ってから。あと、“彼”を責めないで下さい 』


彼女らしい冗談めいた言い回しで残された置き手紙。
ティファニアを安堵させ、マチルダを呆れさせたその手紙に書かれていた“帰るから探さないで”を受け、兵を動かすことはしなかった。

懸念する事など幾らでもあるし、彼女の立場や持っている情報からして、本来ならば何をおいても探し出すべきなのだろう。しかし、そうはしなかった。
こんなふうに彼女が動くのは、自らの『大切』のため。譲れない理由があったから、行動したのだ。
それを無視し否定することなど、彼女に触れて“変わる”ことのできた自分たちにはできるはずもない。

マチルダもティファニアも同じ考えだったのだろう。
探さずに帰りを待つという決定に、2人は笑いながら、呆れながらも賛同したのだから。


小さく息をつき、思考を切り替える。

つい考え込んでしまったが、物思いに耽るためにここにいるのではない。
彼女がそうしているように、自分も自らの『大切』を貫くために、徒に立ち止まっている暇はないのだ。
時間は有限で、今という時間は他のいつでもない“今”のためにあるのだから。


「しかし、何だ。多いな」

資料の山を改めて眺め、思わず一人ごちる。
贅沢な文句だというのは分かっているが、それにしたって多い。読破するのにどれくらい時間が掛かるか。
中には古い文体のものもあるだろうし、解読が必要なものも少なくはないだろう。

誰かに手を貸してもらえば時間を短縮できるかもしれないが、なかなかに難しいところがある。
ティファニアは女王としての職務と勉強で忙しいし、マチルダもその補助と“死者”たちの統括でそれどころではないだろう。
適当に学者連中でも見繕って手伝わせるのも、モノがモノだけに問題がある。
となれば、情報漏洩も裏切りも心配ない“死者”たちか。復興もほぼ終わりが見えてきた今なら、それもいいかもしれない。
もとより国が安定したら順次解放していく予定ではあったのだから、

…?

風メイジの敏感な耳が、部屋へ向かってくる足音を察知した。
この部屋に近付くことを許されている者は限られている。それなりの地位にいる大臣連中でさえも、女王の許可(実際は自分かマチルダの許可だが)なくしては立ち入ることもできないのだ。

この足音はマチルダか。
履いている靴にも拘らず極端に足音が小さいのは、盗賊時代の足音を消す歩き方の癖が残っているためだろう。

少し遅れて駆けて来る音がもう1つ、こちらはティファニ、……あぁ、転んだな。ドレスの裾を踏みでもしたか。びたん、という音が、それだけで痛々しい。
裾の長いスカートとヒールの高い靴で走るなと言っておかなければならないな。
もっとも自分が言うまでもなく、立ち止まって助け起こしているだろうマチルダに、もう注意されていると思うが。

2人の歩く速度が同じになり、どうやら仲良く歩幅を合わせてこちらに向かうことにしたようだ。
国のトップとその補佐が…全く、何をやっているのか。

苦笑しながら、手に取った資料を未読のまま机に戻す。
一拍遅れて鳴る、返答を待たない形式だけのノック。
扉が開かれるのと、椅子ごとそちらへ向き直るのは殆ど同時だった。




「―――― それで、何かあったのか?」



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