01
不思議な現象と出会った。
それは僕自身が体験したこと。
輪廻転生を体験した。
僕は一度死んで、また生まれた。
一度死んだ世界から離れた僕は次の生でまったく違う人間になった。
名前も、姿形も、そして世界の法則さえも。
生まれ変わって十余年。
僕は新たな世界の、新たなものに興味津々だった。
【魔法】
魔力をプログラムした術式に載せて発動する技術体系の総称。
それは日常的なことから戦闘に至るまで、あらゆるものに結びついていた。
あるところでは車の動力、あるところでは医療の技術、あるところでは戦う技能。
魔法はすでになくてはならないものとして世界に存在していた。
それはまるで、前世における化石燃料のように…。
元の世界を超える科学がそこにあった。
魔法と融和したその科学を僕の中では魔科学と呼ぼうと思う。
魔科学は日常に溶け込み、なくてはならないものだ。
だったら、魔力がなくなったらどうするのかと心配する人もいるだろう。
けれど、それは違う。
魔力がなくなったら……星がなくなったらというもの類の心配と同じことだ。
つまり、魔力と星の営みは同列に語ることが出来る。
そもそも魔力は何なのか。
僕はまずそれを知ることから始めた。
町の図書館にいってもそれほど詳しく書いてあるわけではなかった。
書いてあることは一般人でも知っているようなことばかりの美辞麗句。
まるで魔法で世界が回っているかのような言葉。
実際、そうなのだからタチが悪い。
僕にとって知識とは武器だ。
いつしか頭でっかちと呼ばれるようになっていた僕は管理局に入局した。
数年前に管理局に入局した兄から齎された情報で『無限書庫』というものがあるらしい。
そこには情報が膨大にある。
ただし、整理されていないのでどうしようもないほどのお荷物だったということ。
最近になって司書が現れたということで使われるようになったらしいけれど、それまではただの巣窟だったらしい。
そして僕はそれに食いついた。
一年後、僕は執務官になった兄の紹介で無限書庫配属として局員になった。
そして、そこは宝の山だった。
見渡す限りの本、本、本、本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本。
そこは本の山、いや本の海だった。
思わず光悦してしまった。
コレだけの本を読むのにどれだけの時間がかかるだろう。
コレだけの本の中にどれほどの情報があるのだろう。
コレだけの本があるならば俺の欲求を満たしてくれるのではないか?
僕は思わず地が出てしまったりしながら本の海に突貫した。
そして手当たり次第に読み漁る。
本をたくさん読むためにマルチタスクを鍛えに鍛え、その数二桁後半。
三桁の大台にたどり着くことはなかったが、かなり優秀な部類に入るほどの並列思考をすることができるようになった。
これもすべて欲望のなせる業である。
さらに同時に読めるようになる術式を探しだし、さらにそれを改良。
大量の本をスキャンしてその文章を保存用の大容量デバイスに保存。
それを鍛えに鍛えたマルチタスクを使用して理解していく。
一つの本に使う思考の量は大体3つ。
術式事態に十数個の思考を裂いているので同時に読める本は20冊程度。
同じ本を多角的に読むために裂いている思考を、量を読むほうにシフトさせれば一気に60冊読むことが出来る。
まぁ、それをすれば僕の脳の容量を超えるので絶対にしないが。
そんなこんなで僕は無限書庫の本を読んでは自分流に理解しなおしてもう一つの保存用のデバイスに記録していく。
保存用デバイスだけで今まで溜めに溜めた金とこれからの給料三年分(前借)が飛んでいったのはご愛嬌だ。
僕は良くまわされる司書長宛ての依頼を手伝いながら本を読み続けた。
司書長とは同じ本の虫として仲良くなり、お互いに議論を交わしたりした。
主にしょっちゅう依頼を持ってくる司書長のクソ上司について。
僕が配属されてから数週間後、十数人の司書が新たに配属された。
この人たちはその全てが僕よりも年上だ。
司書長が僕より一つ下だったので、気楽だった職場が緊迫したものとなった。
しかし、そんなものはものの一週間で吹き飛んだ。
新たな司書が配属された次の日。
司書長のクソ上司が資料を要求してきたのだ。
そしてそれは全員で取りかからなければ間に合わないような量と期日だった。
そのため全員で作業に取り組み、何とか期日に間に合わせた。
司書長は瀕死の状態。
周りの司書たちも椅子にもたれてぐったりとしている。
死屍累々。
そう表すのにぴったりの光景だった。
危機を共に乗り越えたものには友情が生まれる。
それを見事に体現したのがこの無限書庫の司書の面々である。
年齢、性別がばらばらでありながら一致団結して司書長のクソ上司に対してストライキをしている。
休みをよこせ!給料を増やせ!仕事が多い!
と、この三拍子である。
もちろん、僕もこの仕事量は不本意なので同じように陳情は上げている。
本を読みながら。
まぁ、そんなわけで。
司書として働いて、司書仲間と苦楽を共にして、たまに司書長と酒を飲みにいって…。
そうしていきながら確実に知識を溜めていった。
そして知識を溜めれば溜めるほど、使いたいという欲求が沸いてくる。
◇
「それにしても、ジンって知識を蓄えに蓄えて結局どうするつもりなんだい?」
「とりあえず、新しい魔法でも作ってみようかなって思ってる」
ユーノ司書長と共に久しぶりに無限書庫のある本局からミッドチルダのクラナガンに降りてきた。
司書長のクソ上司、クロノ・ハラオウン執務官に通信越しに直訴して見事三日間の休暇を勝ち取った。
しかし全員分の休暇を手に入れることは出来ず、二人分それもたったの三日ということになった。
いつか、あの提督シメテヤル。
で、他の司書たちに休暇を譲ろうとしたら司書たち全員が僕達二人に休暇を譲ってくれた。
曰く、「一番働いている二人が休んでください」(by司書一同)
そして僕達二人は適当にブラブラと歩いた。
最近は無限書庫に止まり続けていたので世情には疎くなっている。
知識を溜めるだけではダメだということが良く分かる。
ということで、一日目はクラナガンを散策した。
物珍しいものや、最近人気のスイーツなどを食べた。
そして二日目。
この日はお互いに合いたい人間がいるということで分かれて行動した。
ユーノ司書長は知り合いというエースオブエース(名前は忘れた)に会いに行くといい、俺は久しぶりに家に帰ることにした。
管理局に入局した後は一度も帰ったことがなかったので、こうやって帰るのは3年ぶりくらいだ。
ずっと無限書庫に篭っていたので一種の引きこもり状態だった。
何だかんだで僕は久しぶりの実家に帰ってきた。
「ただい、ま゛ぁぁあああああああああああああああああああああああああ!?」
綺麗にエコーが掛かって、僕の体は開けた扉からどんどん遠ざかっていく。
確か、ドップラー現象だっただろうか?いや、違うか。
集めた知識が多すぎてあんまり整理がついていないな。
「おかえり!おかえり!おかえり!!!」
僕のみぞおちに頭をジャストミートさせている少女、アリス。
僕の7つ下の妹で、僕達三人兄弟の中で最も魔力保有量がでかい。
順番的に言うとアリス(妹)>ユーリ(兄)>ジン(僕)といった具合だ。
アリスの魔力保有量は現段階でAAA、兄のユーリがA+で、僕がBである。
といっても魔導師ランクはユーリが一番上のAAA+、僕がB+、アリスが未判定である。
ということで、僕よりもよっぽど未来がある妹アリスはブラコンである。
兄と僕をとても慕っており、兄は定期的に帰ってきているらしいからこれほど激しい歓迎ではないのだろう。
つまり、僕に対してこれほど激しい歓迎なのは全然帰ってきていなかったからということに対する恨みと喜びということだろう。
こういう愛情表現は兄としては嬉しいが、人としては辛い。
主に鍛えていない人間としてはとても辛い。
「ぐぅ……アリス、ただいま…」
必死に痛みを我慢して答える。
それを聞いたアリスはとても嬉しそうにして僕に笑いかけた。
「お帰り~、お兄ちゃん!」
若干辛い思いをしながらも家の中に入る。
現在6歳の妹は今日も元気です。
それから僕は両親に帰ってこなかったことを一時間ほど怒られ、妹にせがまれて一緒に遊び、晩御飯を食べて風呂に入って疲れた体を癒した。
次の日はユーノ司書長との約束があるので、その日は早めに眠った。
アリスが散々せがんできたので絵本を読んであげたけど。
そして三日目、僕は母さん特製の朝食を食べて家を出た。
ユーノ司書長との待ち合わせ場所に到着。
先に来ていたユーノ司書長とクラナガンを散策、司書たちへのお土産をリストアップしていく。
僕の給料は前借をして保存用デバイスを購入したためにほとんどがなくなっていたはずなのだが、銀行で預金額を見ていると予想以上の金額が記されていた。
何でだろうと考えると答えは簡単だった。
あのクソ執務官がしょっちゅう持ってきた臨時の仕事のおかげで予想よりも圧倒的に速く返済が出来ていた。
そして時折出していた論文のおかげで予想以上の大金が入っていた。
おかげで財布事情はウハウハです。
その金とユーノ司書長の金で手当たりしだいにお土産を買っていた。
最終的に山のような数になったわけだが、そこは魔科学の結晶デバイスのすごさ、ユーノ司書長と俺が持っているデバイスの残りの容量を使用して持って帰った。
そして夜。
本局に帰る前に僕達は転送ステーション近くの屋台で酒を飲んでいた。
それはまたこの地に戻ってこようという誓いの酒であり、こんなことをしないとやっていられないという無限書庫の現実を表していた。
ああ、無情。
「新しい魔法?」
「ああ。既存の魔法体型のことは結構分かったからな。創ってみたい魔法もあるからな」
「創ってみたい魔法?」
「ああ、儀式魔法を創ってみたくってさ」
儀式魔法。
現代の魔法の中では一番進んでいない魔法の中の一つ。
魔法を使用するようになってかなりの時間が経っているが、一向に発達しない分野でもある。
それは昔からある程度の術式は存在したし、儀式魔法が使える魔導師にしても既存の魔法体型から組んでいるものばかりだ。
他の魔法、射撃魔法や強化魔法は需要が多いために常に研究の対象になっている。
時代の最先端をいっているのだ。
しかし、しかしだ。
儀式魔法はそうではない。
昔から使われている儀式魔法は時間がかなりかかる。
時間がかかる代わりに高威力広範囲の大規模な魔法になる。
しかし、その時間がかかるというのが最大のネックなのだ。
結局、時間に余裕がある時だけにしか使えない一種の形式的な魔法なのだ。
「儀式魔法って、また微妙な分野だね」
「微妙……かぁ。確かにそうだけど。やってみたいわけよ。男の子の夢って言うの?」
僕が持っている知識を総動員して作りたい魔法がある。
それが出来るのはやっぱり、儀式魔法しかないのだ。
他の魔法を考えてみても様式美と実績が伴っているのは儀式魔法しかなかったというのもある。
まぁ、ロマンという言葉で全てが解決する。
「夢……ねえ。まぁ、ジンらしいね」
「当たり前だろ。このために今まで知識を溜め込んだといっても過言ではない!」
酒の勢いで言っている気もするがすでに僕もユーノ司書長も酔っているので問題ない。
ふざけた目標にも見えるし、いま現在一生懸命魔法を研究している人間達に対しての挑戦にも思えるだろう。
だがしかし、僕にも譲れないものがあるのだ。
創りたい魔法。
そのためにはまだ足りない知識があるので無限書庫でさらに資料を探すつもりだ。
「まぁ、ほどほどにね。とりあえず、司書として働いてもらわないと困るから」
「だよな。くそ~、あのクソ執務官。いつかぶっ飛ばす!!!」
拳を大きく突き上げて宣言する。
「そうだね!クロノの奴、僕を都合のいい何かと考えているんだよ!」
ユーノ司書長も僕の拳に合わせて雄叫びを上げる。
僕とユーノ司書長はギリギリの時間まで騒ぎ続けていた。
ちなみにミッドの飲酒制限は15歳。
この時の僕は13歳、ユーノ司書長12歳の頃である。
変身魔法って便利だよね?