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[16943] あるタクシー運転手の話
Name: 顔無◆0c3027e3 ID:979e69ab
Date: 2010/10/04 01:33
※ 寝取られや寝取り、その他性に関するアレなネタが多数ありますのでご注意下さい!!

とはいっても、完全に寝取られて終わるような事は有りません。

作者の精神構造上そう言った事をされるひ弱な主人公はいませんから。

後、批判でも良いので感想を下さい。


追伸 なぜかタイトルの上げ下げが編集出来ないため、短編と混ざってしまっているのですが広い心で許して下さい。

※ 短編と表記されているものに関しては基本続きは書きません。
と、言うかむしろ書けません。
続編書こうとして書けなかった作品だからです。
たまに何かを閃いて続きが書けたりする事もありますが、めったにありませんのでご容赦ください。




[16943]
Name: 顔無◆0c3027e3 ID:979e69ab
Date: 2010/03/02 19:50
タクシー








最近の不景気が影響して会社が倒産した私は、人生と言う階段から一気に転げ落ちてしまいました。

そんな行き場のない私に今の上司が紹介してくれたのが、タクシーの運転手でした。

慣れるまでは色々と戸惑いましたが、今では名の知れたタクシーの運転手として活躍しています。

今日はそんな私の運転するタクシーとそのお客さんとの話を紹介したいと思います。






「お爺ちゃん早く早く!」

まっ白いワンピースを着た少女が、お爺さんの手を引いて後部座席へ座りました。

私はお爺さんが直接頭を打たないようドアの上部に手を添えて、お爺さんを座席へゆっくりと座らせました。

最近の運転手は、運転席から降りずにただお客さんが乗ってくるのを待つだけらしく、こ
のサービスだけでも私の送り届けたお客さん達からは好評を得ています。

運転席へ乗り込みエンジンをかけた私にお爺さんが「今日はよろしくお願いしますね」と声をかけてくださいました。

その声を追いかけるように少女が「よろしくお願いします」と元気よくヒマワリのような笑顔で挨拶をしてくれました。

挨拶とは、やはり良いものですね。

嬉しくなった私もついつい「よろしくお願いします」と返していました。

ご家族の方でしょうか?

出発するに当たり、周囲を確認してた私の目に、お爺さんの家から大勢の見送りの方達が見受けられました。

私が「ご家族が大勢いらっしゃるんですね」とお爺さんに声をかけると、お爺さんは満足げに「ええ、弟が子宝に恵まれましてね」と返してくださいました。

「お兄さん、クラクション鳴らして!」

窓越しに家族へ手をふりながら、少女が私へクラクションの催促をしきます。

振られる手には安っぽい輝きを放つ指輪がはめられていました。

年齢的にお兄さんと呼ばれるには年をとっていますが悪い気はしません、私は少女の催促に答えて、クラクションを鳴らしてタクシーを出発させました。

行先自体はお爺さん達を乗せる前に上司から無線で聞いていましたが、ただ目的地へ行くだけでは私もお爺さん達も面白くありません。

中にはそう言った干渉自体がお嫌なお客さんもいらっしゃいますが、今日乗られたお客さんはどうやらお話し好きなようです。

「ねえねえ、お兄さん恋した事ある?」

少女の質問に「ええ、人並ですけどね」と苦笑しながら答えると、少女はニッコリと笑って「とっておきの話を聞かせてあげる!」と言いました。




それは、お爺さんの初恋の話でした。

小さい頃病弱だったお爺さんは、治療のために病院への通院を繰り返していたそうです。

その病院の待合室でお爺さんは初恋の人、桜さんと出会ったそうです。

最初はただ自分が診察される順番を待っていただけでしたが、その病院の待合室には老人が多く、自分と同い年の少女は目立ちました。

1度目の出会いは、ただ遠くから見詰めるだけでした。

2度目の出会いは、ただの挨拶でした。

3度目の出会いは、彼女の落としたハンカチを病室へ届けた事でした。

「あの時はどうやって病室へ入ろうかと、扉の前でうろうろしてしまいましてな、気づけば帰りのバスを逃してしまうところれした。結局その日はハンカチを渡せず、通りがかった看護師に渡してくれるよう頼んだんですよ」

4度目の出会いは、恥ずかしがっていたお爺さんに、彼女がお礼を言いに来た事でした。

親切な看護婦さんがお爺さんの特徴を少女に話してくれていたようです。

それからお爺さんは、通院に来るたびに少女の病室を訪れました。

それはお爺さんが中学生になり、病気が治っても続きました。

「病気が治ったんだからとバス代を出してもらえなくなりましてね、自転車をこいで桜に会いに行きましたよ」

少女は相変わらず入院していましたが、お爺さんが会いに来てくれるのがよほど嬉しかったようで、お爺さんが面会に来た翌日は検査結果もにわかに良くなっていたそうです。

「お爺ちゃん、夏祭りの日に初恋の人を病院から連れ出してすごく怒られたんだよね?」

あの頃は若かったと、苦笑いをするお爺さんはとても輝いて見えました。

けれども、そのお話は綺麗なままでは終われないようです。

初恋の人の両親から連絡を受けてお爺さんが病院に駆けつけた時、初恋の人はもう息を引き取っていたそうです。




「私の手元に残ったのは、夏祭りで買った安物の指輪と桜が使っていた白いハンカチだけでした。今でも昨日の事のように思い出します。私が桜の好きな白色を、黒い色の方が汚れが目立たないから白より好きだと言ったら桜は何て言ったと思います?」

さて、何と言ったんでしょうか?

「白い色は最初から白く汚れてるんですよ?」

悩んでいた私に少女が答えてくれました。

「とらえ所のない、それでいてしっかりと芯の通った女でしたよ」

懐かしむように過去を回想するお爺さんが、なんだか羨ましくもあります。

そこまで人を好きになれるなんて素敵だと思いませんか?

だって・・・

「でも、その捕まえられなかった女の子の幽霊を憑けたまま、結婚しないで死んじゃうなんて、光彦さんもどうかしてるよ?」

「そう言うな、おかげでこうしてお前と一緒に逝けるんだ。今まで一緒に居てくれてありがとう桜。やっと抱きしめる事が出来る」

少女とお爺さん・・・いいえ、桜さんと光彦さんは目的地に着くまでしっかりとだきあっていました。

長い年月を経てようやく結ばれた2人が天国へ行くのか地獄へ行くのかそこまでは分かりませんが、上司である閻魔様の元までしっかり送り届ける事にしましょう。































それからしばらくして、天国から観光案内をしてほしいと桜さんと光彦さんから連絡が入りました。

死者を乗せるためのタクシーを運転していて、リピーターからの指名を受けた時ほど嬉しい事はありません。

さて、お時間となりました。

今日はどなたにご乗車いただく事になるのか・・・

では、またいつかお会いしましょう。










後書き
典礼会館のCM見てたらなんだか思い浮かんだので書いてみました。
私の知り合いはあのCM怖いとか言う人がいますけど、私はなんだか感動しちゃって・・・




[16943]
Name: 顔無◆0c3027e3 ID:979e69ab
Date: 2010/10/04 01:25
タクシー2

光彦武勇伝









俺は女が・・・いや人が信用出来ない。

それと言うのも、手ひどく裏切られた事があるからだ。

アレは酷かった。

高校に入学してすぐに、気になっていた女から付き合ってくれと言われて、付き合いだしたのが運の尽きだった。

その女は事もあろうに翌日の放課後、俺を学校の校門前に待たせて他の男達を誘って乱交をしていたのだ。

「光彦くんは罪悪感って言うスパイスを手に入れるための道具よ。顔もまあまあ良いしね」

なかなか来ない女を探して屋上へつながる階段を上った俺に気づかずに、扉越しに甘い吐息をふくみながらそう言った女の事を俺は忘れた事は無い。

感情に任せて飛び出して行きたい気持ちを押し殺して彼女を校門前で待ち続けながら、俺は女とそれを取り巻く男達へ復讐する事を誓った。

逆恨みと言われても俺が復讐と思った以上復讐である。

復讐に備えて調査を行いながら、半年ほど女の彼氏を演じた。

思えばあの時から俺は狂ってしまっていたのだろう。

女が睦言を囁けば表面上は笑顔を浮かべて雰囲気を作り、女がキスをねだれば腸が煮えくりかえる思いでキスをした。

逆にこちらが強引に性交を求めたふりをすれば、うぶを装ってのらりくらりと追及をかわしたつもりになる。

罪悪感とやらが刺激されるのか、翌日は決まって俺を校門前に待たせて乱交を行い、素知らぬ顔で俺と一緒に帰路についた。

腹と言わず胸と言わず、体中がぐらぐらと煮える思いをしながら調査を続けた俺は、ついにその日を迎えた。

寝取られを演出しようとしたらしく、放課後に俺を呼び出して現場を目撃させたのだ。

俺は屋上に飛び込んだ瞬間に、ここへ案内した男に羽交い絞めにされた。

鈍器で叩かれたりスタンガンで気絶させられたりと言った事まで想定していただけに、拍子抜けも良い所だが、身動きがとりやすいのは良しとしよう。

「俺の彼女に何をしやがる!」

「ごめんね光彦君、私、光彦君より皆のチ○ポが好きなの」

しらじらしくも演出に乗って演技をしてやると、俺が頭の中で想定していた台詞が紡がれた。

想定はしていたが、惚れた弱みとでも言うのだろうか?

俺の心には改めて絶望感が押し寄せてきた。

だが半年前に俺は自分に誓ったし、そのつもりでここにも来ている。

甘い声を上げよがり狂う女らに対し、早くヤってしまえと怒りが募る。

復讐するは我にあり!

幸いにも関係者のほとんどが屋上に集まっており、中央の女を含めたクラスの女生徒数名に群がっている。

俺を羽交い絞めにしていた男も俺の体から力が抜けたのを確認して俺から手を離し乱交に加わった。

その事事を確認した俺は行動に移る事にした。

屋上の扉を今日のために複製した合鍵で閉める。

そして屋上に隠しておいた棒術用の棒を手に下種共に攻勢を開始した。





それから程なくして数発被弾する事になったが、ほとんど無傷で男共を鎮圧出来てしまった。

こんな簡単な事に半年も時間をかけてしまったかと思うと正直拍子抜けである。

こう言ってしまうと中二病患者に見えてしまうかも知れないが、事実だし仕方がない。

うめき声を上げる男子生徒諸君に交じって、女達のすすり泣く声が聞こえる。

だが、容赦するつもりは毛頭無い。

ちじこまって震える女、逃げ回る女、失禁する女、放心する女、全てを棒で打ちすえた。

そして最後に、この場から逃げようと必死にドアをガチャガチャとならしている最も憎い女の足へ棒をふるった。

それを目的にしたのだから当然だが、良い感じに関節を1つ増やして女は悲鳴を上げた。

「悪いな、俺はお前がここで何をしてたか付き合いだした翌日には知ってたんだよ」

足を抱えて悲鳴を上げる女の腹を蹴り上げ、髪の毛を掴んで苦痛にゆがむ顔を眺めながら俺の復讐計画をしっかりと聞かせる。

「いつか俺に現場を見せて快楽を得ようなんて考えるんじゃないかと思ってな。しっかりと準備させてもらったよ」

屋上で行われた居た痴態がしっかりと映った写真を良く見せつけた後、風に乗せて屋上から1枚づつばら撒いていく。

俺の脚にすがりつき小さな声で「止めて」「ごめんなさい」などと言っている女の姿が滑稽だ。

「あの日お前を屋上で見つけられて良かったよ。じゃなきゃ今頃俺は本当に寝取られ漫画の主人公を演じてたはずだからな」

全裸で俺に引きずられながらもしがみつく女を蹴飛ばして屋上の出口へ向かう。






















「その後どうなったんですか?」

私は後部座席に居る光彦さんの顔色をルームミラーで確認しながら恐る恐るきいてみました。

「桜の事を忘れるためにアパートを借りて県外の学校に入学したんですけどね、悲鳴を聞いて屋上に駆けつけた先生達を押しのけて、学園長に退学届と屋上の乱交にかかわった生徒の名前と行為中の写真を叩きつけて実家へ戻りました」

何と言うべきでしょうか・・・

最初に乗せた時に比べてかなりバイオレンスな印象を受けますね。

「その後その学校でどういう動きが有ったのか分かりませんが、それ以来音沙汰なしです。警察沙汰や下種共の親から慰謝料請求なんかが有るかと思ってたんですけどね」

それは間違いなく光彦さんからの更なる被害を恐れたんだと思います。

怖くも有りますが、何だか頼もしくもありますし・・・閻魔様にお願いして今度団体さんを案内する時に着いてきてもらったらいいかも知れませんね。

「あの事があって分かった事が有るんですよ。良い女って言うのは死んだ女だけだってね」

そう言いながら桜さんと唇を重ねる光彦さんの瞳には狂気の様なものがうかがえました。

















後書き
パソコンデータ消えた・・・
学生時代の事を夢で見て胸糞悪くなったので書いてみた。
半分はリアルだから感情的になってうまく書けてない気もするけど書いたまま死蔵は可哀そうだしUPしておきます。



[16943]
Name: 顔無◆0c3027e3 ID:979e69ab
Date: 2010/03/02 19:51
タクシー3








上司からの連絡を受けて河原に到着した私は、待合所で1人の少女を乗せる事になりました。

今日はそんなお話です。







待合所からこれと言って荷物も持つ事無く歩いてきた少女をタクシーへ乗せてると、少女をこれまで世話していた監視員さんが駆け寄ってきました。

「沙菜ちゃん、今まで辛く当たるような事をしてごめんなさいね」

気を利かせて窓を開けた私に頭を下げた後、監視員さんは少女に話しかけました。

「そんな事ないよ!それに、お姉ちゃんが出来たみたいで嬉しかったし」

「そんな・・・お姉ちゃんだなんて・・・」

少女の言葉にうれし涙を浮かべて監視員さんは泣きだしてしまいました。

「今までありがとうございました」

泣き出した監視員さんにつられたのでしょう、少女も涙交じりに言葉をかえしました。

そんな別れを惜しむ2人の気持ちは分からなくも無いのですが、上司に時間指定までされているため、何時までもこうしている訳にはいきません。

会話が切れるのを見計らって、ゆっくりと車を発車させます。

少女と監視員さんがお互いに「元気でね」「ありがとう」など言葉を交わします。

少女は監視員さんの姿が見えなくなるまで手を振っていました。

「お兄さん、時間ギリギリまで待ってくれてありがとう」

ハンカチで涙を拭いて、落ち着きを取り戻した少女はそう言いました。

それに対して私は内心で驚いていました。

少女は見た所小学校高学年くらいの年齢で、別れを邪魔した私に対しては、恨み事の1つや2つ言って来ると思ったからです。

その事について「沙菜さんは聡明な方でいらっしゃいますね」と言った所、彼女は「そんな事無いよ」と、呟くように答えてくれました。

「それに私が聡明なら、あの施設へ入る事なんて無かはずだよ?」

ルームミラー越しに見えた沙菜さんは、少々自虐的に笑った後、窓の外へ目を向けながらぽつぽつと自分の過去の話を語ってくれました。








その日は休日で私の誕生日だったんだ。

なのに数週間前から普段仲のいい友達も両親も、そろって今日が私の誕生日って事を忘れちゃってたみたいなの。

それどころか、私が話しかけると妙に余所余所しくて、だからすごく落ち込んじゃった。

それでね、落ち込んだ私は考えて考えて、ついに考え着いたの。

きっと私が何か悪い事をしてしまって、それを皆は怒ってるんだって・・・

だから皆に許してもらう為に、どうすれば良いのか考え始めたの。

一生懸命かんがえたんだよ?

でも答えは出なかったんだ。

友達に「ごめんなさい」って言ったら「何の事か分からない」なんて言われちゃって、妙に引きつった顔とか、すまなさそうな顔で言われたの。

だからどうしたらいいのか本当に分からなくなっちゃったんだ。

そんな誕生日の日に、お母さんから言われたの。

なんて言われたと思う?

「日が暮れるまでは家に帰ってきちゃだめよ!」そう言われて家から追い出されちゃった。

お母さんの一言で、私は自分がここに居ちゃいけないんだって分かったの。

それでね、海に飛び込んで死んじゃったの。










「何でみんなに嫌われたのか分かんないけど、お母さんやお父さんより先に死んじゃったし、仕方なく今日まで石を積んでたんだよ」

何と惨い事でしょうか・・・

「それにしても、運転手さんは不思議だね。今まで誰にも話した事無かったんだけど、運転手さんに話したらすっきりしちゃった」

ルームミラー越しに見えた沙菜さんは、瞳に涙を滲ませながらもニッコリとほほ笑んでいました。

それはとても魅力的な表情でした。

けれど、私はそんな表情を壊してでも1つ聞いてみたい衝動に駆られてしまいました。

「いまだに分からないんですか?」

ひょっとしたら沙菜さんはもう真実に気づいているのかも知れません。

ですが、私はそう聞かずには居られませんでした。

「お兄さんは分かるの?」

魅力的な表情は崩れ、座席越しの私へ詰め寄るように沙菜さんが聞いてきました。

こうなってしまった段階で私は話す事をためらいました。

ですが、このまま沙菜さんが冷たくされていたのか理由も分からずに居る事は不憫に思えて仕方がありません。

「・・・多分ですが、沙菜さんをびっくりさせるために、内緒で誕生日会の準備をしていたんじゃないでしょうか?」

「・・・・私に内緒で?・・・え?。・・・・・・そんな!・・・だって!・・・・・・でも・・・・・・」

私の言葉で何か納得出来る物を掴んだのでしょう。

沙菜さんは小さくすすり泣きはじめてしまいました。

やれやれ、私の柄じゃないんですけどね・・・

時折「ごめんなさい」と繰り返す沙菜さんが放っておけず、私は車を止めて後部座席の沙菜さんを抱きしめました。

「沙菜さんが悪いんじゃないですよ。内緒で誕生日会の準備をしていた事自体間違いだらけだったんです」

胸に縋りついて泣く沙菜さんの髪を撫でながら彼女の眼をしっかり見て言い聞かせます。

「誰か1人だけでも沙菜さんと行動を共にさせるべきだったんですよ。酷い事を言うようですけど、友人にしろご両親にしろ誕生日会の準備でスリルを楽しみ過ぎたんですよ」

「・・・スリルを楽しみ過ぎた?」

私の言った事の意味が分からなかったのでしょう、沙菜さんが目に涙を浮かべたまま可愛らしく首をかしげて聞いてきます。

悲しみに暮れる姿すら可愛いと言うのはいささか不謹慎かもしれませんが、美少女の特権と言う奴ですかね。

「ええ、準備する方はそれを本人に秘密にする事によってスリルを味わう事が出来るんですが、それと引き換えに楽しませるはずの相手に寂しい思いをさせてしまうんです。だから沙菜さんは悪くないんですよ」

再び泣き始めた沙菜さんを抱きしめながら、私はタクシー運転手を始めて以来初めての遅刻をする事にしました。

だって、こんなに泣いている沙菜さんを無理矢理上司のもとに放り出すなんて、出来るわけ無いじゃないですか!





後で上司から聞いて分かった事なのですが、沙菜さんのご両親と友人達は、パーティーの準備をした後、主役不在で白けたパーティーをして沙菜さんが帰って来ない事に腹を立てていたそうです。

まぁ、主役不在でも客人をもてなしたまでは良かったんですが、両親とも何を思ったのかお酒をかなり呑まれたらしく、翌日になって「誘拐されたのでは?」と心配になり警察に捜索願を出し、霊安室に案内されて沙菜さんの遺体と再会したそうです。

ご両親は自分達がいかに愚かしい事に全力を注いでいたのか、その時になって分かったらしく、失意の念に囚われて過ごしているそうですが、私に言わせれば自業自得です。

親とは常に最良の選択を選ぶべきなんですよ。

友人達のほうも、嘘や秘密がどれだけ人を傷つけるのか身にしみて分かったようで、中には嘘を付くだけで酷い吐き気に襲われるほど精神に傷を負った子も居たそうです。

























え?

その後沙菜さんがどうなったのかですか?

それはですね・・・

「お兄ちゃんお弁当忘れてるよ!」

「ありがとう」

家を出た所で沙菜の手作り弁当を受け取ります。

あの後上司にお願いして、天国で身寄りのない沙菜さんの身元引受人になりました。

だって、女の子を泣かせたままさよならじゃ恰好が付かないじゃないですか。

普通こんなわがままは通用しないのですが、上司も何か感じる者が有ったのか遅刻の件と合わせて、3ヶ月間給料30%カットで認めてくれました。

もっとも、私に家族が出来た事に対して祝い金を出してくれて、収支がプラスに傾く辺り上司もこの話にかなり乗り気だったようです。

私も妹が出来たみたいで嬉しかったんですが、少々困った事にもなっています。

「それじゃぁ、逝って来ます」

「お兄ちゃんもう1つ忘れものだよ!」

沙菜に言われ、仕方なくしゃがみこんだ私に抱きついた沙菜は、いつも通りそれはそれは濃厚なキスをしてくれました。

そして頬を染めて照れくさそうに笑うと、手を振って玄関に隠れてしまうんです。

嬉しくもありますが、正直こまってもいます。

いえ、別に私がロリコンじゃないとかそう言う事じゃなくてですね・・・

何て言うか、沙菜は私に対して病的に依存しているみたいなんですよ。

やっぱり素人が生半可な知識でカウンセリングみたいな事はしちゃいけませんね。

皆さんもぐれぐれも気を付けてください。



さて、お時間となりました。

今日はどなたにご乗車いただく事になるのか・・・

では、またいつかお会いしましょう。














後書き・・・と、言うより愚痴

作者は内緒で誕生日会を企画とか大嫌いです。
沙菜さんは作中で死んでしまいましたが、私の場合書置きを残して1人でキャンプに出掛け、翌日帰ってきた所を父親に文字通り殴り飛ばされました。
勝手に企画しておいて何故私が怒られるのかいまだに分かりません。



[16943]
Name: 顔無◆0c3027e3 ID:979e69ab
Date: 2010/03/02 19:51
タクシー4










「ふむ、せっかくの休みだと言うのに付いていませんね」

今日は休日と言う事もあり、遊園地へ行くつもりで沙菜を助手席に座らせていたのですが、つい先ほどから土砂降りの大雨が降り始めてしまいました。

これは今日の予定を変更しないといけないかもしれませんね。

「お兄ちゃん、あそこに女の人が立ってるよ?」

予定を変更してファミレスへ向かう途中、沙菜が高台に立つ女性を指さして言いました。

その女性は艶やかな着物を着こなしては居ましたが、傘もささずにどこか虚ろな瞳で人通りを眺めていました。

良く見れば、その顔には覚えが有りました。

長年に渡って乗車を断られてきたお客さんです。

「お兄ちゃん止めて!」

沙菜に言われてブレーキを踏んだ所、車が止まるのを待たずにドアを開けて駈け出してしまいました。

「お姉ちゃんこの傘使って!」

車を止めてどうするのか見ていると、沙菜は先日買った真新しい傘を女性に無理矢理握らせていました。

そして、女性に反論すら許さず「じゃあね!」と元気よく挨拶をしてこちらに歩いてきました。

「せっかく買ってくれたのにごめんなさい」

再びタクシーに乗り込んだ沙菜が今更のように謝ってきますが、むしろ誇らしく思います。

私の妹は、こんなにも素晴らしい行いが出来るんだ!ってね。

私の表情を見て気持ちが伝わったのか、沙菜は二コリと微笑んで女性の方へ手をふりました。

女性の方も沙菜につられたのか、普段見せないような笑みを薄らと浮かべてこちらへ手を振り返しています。

「驚いた。彼女のあんな顔始めてみたよ」

「・・・お兄ちゃんあの人知ってるの?」

「ああ、何度か乗車を断られてる」

「お客さんなんだ!」

私の一言に一喜一憂する沙菜が可愛くて、ついつい苦笑がもれてしまいます。

「でも、なんであんな所にずっと居るんだろ?」

「上司に聞いただけだから詳しくは知らないけど、ある人を待ってるんだってさ」

ただファミレスで食事をして帰るだけと言うのも味気ないので、今日はその女性の話をする事にしましょう。

お客様方も、ただ私と沙菜の食事風景を描写されるよりはその方が良いでしょう?














あの高台には昔城が立っててね、このあたりは城下町として栄えてたんだよ。

彼女はその城のお姫様だったらしい。

名前は確か咲耶姫・・・別名ブス姫だったかな?

「ブス姫?あんなに綺麗だったのに?」

・・・それはね。

困った、何と説明しょうか・・・

まぁ、これも勉強だ、少々酷な話だが話してしまおう。

沙菜も保険体育で赤ちゃんの作り方はならっただろ?

「・・・うん」

いや、そこで顔を真っ赤にされるとこっちまで恥ずかしくなるじゃないか・・・

ブスと言うのはこのあたりで作られた造語でしてね、子供が付くと書いて付子・・・つまりブスと言う意味だったんだ。

前に嫁いだ先のご主人が合戦で死んだらしくて、姫は城に追い返されてしまったらしいんだけど・・・

「お嫁さんだったのに追い返されちゃったの?」

あ~、詳しい事情は良く分からないけど、一昔前の政略結婚って言うのは色々あるんだよきっと。

「ふ~ん」

それで、城に戻ったまでは良かったんだけど、その時には既に身籠っていたらしいんだ。

そこで騒ぎ出したのが死んだご主人の親族。

彼らは、咲耶姫は返すが腹の子は寄こせと言ったらし。

とは言え、主人が死んだからと姫は追い返された訳で、今更子供だけ寄こせと言われても家の名前に傷が付くって争いになっちゃってね。

「昔は大変だったんだね・・・」

いや、そんなしみじみ言われてもな・・・

「それで?お姫様は誰を待ってるの?やっぱり死んじゃったご主人さん?」

まぁ、待てって。

物事には順序があるんだから。

「は~い」

最初は言い争ってただけだったらしいんだけど、火種はすぐに広がって戦争になったらしい。

でだ、ここからが本題。

その戦争は双方の痛み分けでいったん鎮静化したんだけど、恩賞は要らないから姫をくれって武将が現れたんだ。

確か鬼太郎(おにたろう)って言ったかな?

漢字は一緒でも鬼太郎(きたろう)じゃないからな!

「キタロウ?誰?それ?それよりも何だか鬼と桃太郎が一緒になったみたいな名前だね」

なんだか激しくジェネレーションギャップを感じるんだが・・・

まぁ良い、その鬼太郎なんだけど隣国に知れ渡るほどの猛者だったらしくてね。

殿様は他の姫を娶らせるつもりだったらしいんだけど、ここで断って事を荒立てるのも得策じゃないと思ったんだろうね、咲耶姫を鬼太郎に嫁がせたんだって。

「いきなりお嫁さんになれだなんて、お姫様何とも思わなかったのかな?」

その当時ブスで戦争の火種ともなった咲耶姫を城じゅうでさげすむ者がかなり居たらしいんだけど、鬼太郎はブスを理由に嫁ぐのを躊躇う姫に「お前ほどの器量良しを付子と言うだけで蔑むなぞ、この国の男には見る目が無いと見える!」そう言ってその場で押し倒したらしい。

そんな感じで鬼太郎だけが身重の咲耶姫を励ましていたらしいから、最初から結構仲がよかったらしいぞ?

逆に前の主人は姫の事を政略結婚の道具としか思ってなかったらしい。

「押し倒して仲が良かったも無いと思うけど・・・」

まぁ、情熱的だったって事にしとけ。

それで前の主人の赤ん坊なんだが、悲しい事に咲耶姫の体調不良が原因で生まれる前に死んじゃったらしいけどな。

その事に怒ったのが前の主人の親族だ。

わざと赤ん坊を殺したんじゃないかって言いがかりを付けてきてな。

殿様の奴ビビッて鬼太郎を煮るなり焼くなり好きにしろと言って差し出したらしい。

それまで鬼太郎の活躍でどうにか戦ってこられたって言うのに酷い奴だと思わないか?

「うん」

まぁ、それが殿様の運の尽きだったんだろうな。

なんとかその場は鬼太郎を引き渡すだけで収まったんだけどな・・・

前の主人の親族も馬鹿じゃない、色々調べて鬼太郎のせいで赤ん坊が死んだわけじゃないって分かったとたん親族たちに、ここの城は攻め滅ぼされたんだ。

それ以来彼女はあの城跡地で鬼太郎が来るのを待ってるらしい。

「・・・お兄ちゃん、鬼太郎は来るの?」

俺も仕事がかかってるからな。

鬼太郎を連れてくればどうにか出来るんじゃないかと思って八方手を尽くして探してみたんだが、鬼太郎はもう転生してるみたいなんだ。

「・・・転生。なんで!?なんで鬼太郎は咲耶姫を待たずに転生しちゃったの?」

その時代は俺達みたいな奴に担当地区って言うのが割り振られてたらしくてな、鬼太郎の地区と咲耶姫の地区じゃ担当が違ったらしい。

その頃は心のケアみたいなものは考えられてなかったらしくてな、それで今でも死に別れて逢えない故人がああしてあちらこちらで見受けられるってわけだ。

まぁ、近頃そんな事する奴は直ぐに首になっちまうがな。

「・・・私の時も仕事だったから?」

ば~か、そんなわけ有るかよ。

普段は生前仲良く連れ添った夫婦の片割れに同乗ねがったりするぐらいしかしねえよ。

増してや、お前みたいに泣いたからって抱きしめたりする事なんざねえよ。

「・・・そっか」

嬉しそうににやけてんじゃねぇ!















やれやれ、沙菜と話をするとつい言葉遣いが悪くなってしまいます。

これも沙菜の若さに引っ張られてるんでしょうかね?

「おたずね申す。このあたりに城が有ったと思うのだが・・・」

会計を済ませ、タクシーへ乗り込んだ私に、筋骨隆々とも言える黒人男性が流暢な日本語で話しかけてきました。

いや、流暢とは少し違いますねコレは・・・

「それだったら、ここから少し行った山の中に有るよ~」

「おお!かたじけない!では拙者はこれで失礼致す!」

沙菜の答えに満足したのか黒人は走って行ってしまいました。

「あのオジサン観光かな?」

沙菜はそんな事を言っていますが、長年の感が私に告げています。

アレは・・・

私は急いで彼の後をタクシーで追いかけました。

が、アレは本当に人間なのでしょうか?

車で走ったにも関わらず、古城跡に付くまで追いつく事が出来ませんでした。

「咲耶!」

「鬼太郎様!」

追いついたその先では、咲耶姫と鬼太郎(?)さんがあつい抱擁をしていました。

「えっと?どう言う事?」

「転生しても稀に記憶が残ったりする奴も居る。鬼太郎はその口だったんだろう。しっかし、転生先が国境越えてたろうに良く来たもんだよ」

その日、数百年の時を経て、二度と巡りあう事が無いと思われていた二人が再会を果たしました。

沙菜を助手席に乗せたまま二人を上司の元へ送り届けた所、当事者そっちのけで記者達に『時を超えた奇跡』と銘打たれて報道されました。

いや、マイクを向けられても、私はただ二人を乗せて来ただけなんですけどね・・・




さて、お時間となりました。

今日はどなたにご乗車いただく事になるのか・・・

では、またいつかお会いしましょう。



















後書きって言うか元ネタ

曲名:結ンデ開イテ羅刹ト骸

作詞:ハチ
作曲:ハチ
編曲:ハチ
唄:初音ミク

かって嬉しい花いちもんめ 次々と売られる可愛子ちゃん
最後に残るは下品な付子(ぶす) 誰にも知られずに泣いている

弟がニコニコ動画で聞いてたのを参考にした。
正直何か苦情が来ないかビクビクしてます。
いぁ、もうどのあたりが?
って言われそうな気もするけどね・・・
それと、沙菜を出したら異様に書きやすかったので常時助手席に乗ってもらうかもしれない・・・



[16943]
Name: 顔無◆0c3027e3 ID:979e69ab
Date: 2010/03/02 19:52
タクシー5











「さあ!遂にあの世一武闘大会の決勝戦となります!」

アナウンスの声とともに私の良く知る2人が闘技場へ上がってゆきます。

方や高校時代屋上で乱交者相手に無双した光彦さん。

方や当時隣国に知れ渡るほどの猛者だった鬼太郎さん。

今二人はどんな気持ちで舞台へ立っているのでしょうか?

「斉天大聖流棒術山本光彦!押してまいる!」

色々突っ込みどころ満載な名乗りを上げた光彦さんが棒の先端を鬼太郎さんに向けて構えました。

「唵摩利支曳娑婆訶・・・天清浄、地清浄、人清浄、六根清浄!タイ捨流、鬼ヶ島桃太郎、お相手仕る!」

野太刀を八双に構えて鬼太郎さんが構えます。

そこからは目にも止まらぬ攻防でした。

光彦さんが攻めれば鬼太郎さんが獣のような脊髄反射で守り、鬼太郎さんが攻めれば光彦さんが年齢に見合わぬしなやかな動きで守る。

両者一歩も引かずに繰り返されるその攻防に、観客達は否応なく盛り上がって行きます。

かく言う私もその死と隣り合わせで行われる攻防に興奮を禁じえません!

「ぬおぉぉおおぉおおおぉ!!」

互いの血しぶきが飛び散る舞台上で光彦さんに変化が起こりました。

枯れ木のようだった肉体から筋肉が盛り上がってゆきます。

「はぁああああぁあぁぁぁああ!!」

対する鬼太郎さんにも・・・いえ、鬼太郎さんの野太刀にも変化が起こりました。

こちらも野太刀の柄がズルズルと伸び、伸びた柄からは言葉で言い表せないような悲痛な呻き声を放つ顔の様なものがいくつも覗いていて、禍々しい気配が辺りに立ち込め始めました。

二人とも最早人間の限界を超えています。

そして・・・

「「おぉおおぉおおおぉぉおおおおおおぉおおぉぉ!!!」」

会場の盛り上がりも最高潮に達したその時、2人が同時に駈け出しました。

名残惜しいですがどうやらこれで決着のようです。

薄れる意識の中で私は両者が折り重なるようにして倒れる姿を目撃しました。




















「と、言う夢を見たんだ」

サイドブレーキのロックを外し、青信号になったばかりの道へ車を走らせます。

「夢落ち!?夢落ちだったの!?」

助手席で今までの手を握りしてめ話を聞いていた沙菜がすごい勢いで詰め寄ってきます。

「何だ?ストーリーに不満でも有ったのか?いつも以上に壊れてるぞ?」

「壊れてるって何!?沙菜壊れてないもん!」

「いやいや、依存症出てる時点で壊れてるって」

「依存じゃないもん!沙菜はお兄ちゃんが大好きなだけだもん!」

やれやれ、嬉しいんですけど少々怖くもありますね。

鬼太郎さんを乗せた時の取材で私が有名になったため、私を指名するお客さんが増えてしまいました。

そのせいで何時も留守番をさせていた沙菜には寂しい思いをさせてしまったんです。

それがいけなかったんでしょうね。

まぁ、何て言いますか・・・

沙菜曰く『お兄ちゃん分が足りない!』だそうで、3日ほど部屋から出られない事態に陥りました。

そんな事が有ったため、上司が特例として沙菜の助手席への同乗を認めてくれたんです。

助手席に乗せて営業してたまでは良かったんですけど、今日は久しぶりにお客さんも無く、沙菜も私も退屈してたんですよ。

それで冒頭に戻るわけなんですが、少々からかいがすぎたようですね。

ふむ、では今日は夢にまつわるお話で沙菜の機嫌を伺う事にしましょう。

とは言っても、結構ハードなんですけどね・・・








その日乗せたお客さんは、一郎さんって言ってヤクザの幹部さんだったんだ。

「お兄ちゃん大丈夫だったの!?」

いや、そんな体中まさぐられても怪我とかしてないから。

それに一郎さんは有る事情があってヤクザになっただけで、本人はいたって気さくな人だったよ。

まぁ、ヤクザなんで基本強面なだけで、堅気には皆優しいもんだけどな。

「そうなんだ」

身内扱いされだしたら面倒だけどな・・・

「何か言った?」

いや、何でもない。

一郎さんは早くに両親を亡くしててな、弟の次郎さんと病気がちで入院しっぱなしの妹の花子さんを養うために早くからヤクザな世界へ足を踏み入れてたんだ。

その一郎さんには夢があってな。

「どんな夢?」

花子さんの病気が治ったら兄弟みんなそろって幸せに暮らしたかったんだそうだ。

花子さんの病気は治療も難しくて多額の費用が必要だったらしくてな、そんな妹と自分を必死に足掻いて養ってくれる一郎さんに感化されて次郎さんも同じ道を進もうとしたらしいんだ。

けど、一郎さんはやっぱり優しい人だったんだな。

お前まで危ない世界へ飛び込む必要は無い!

そう言って普通の仕事を紹介したんだ。

「立派な人だったんだね」

ああ。

その甲斐あって花子さんは回復して3人で暮らせるようになったんだ。

「よかった~。3人で暮らせるようになってめでたしめでたしだね!」

いや、この話にはまだ続きが有るんだ。

今度は私がお兄ちゃんに楽をさせて上がる番!なんて言い出して、花子さんがアイドルを目指したらしい。

写真を見せてもらったけど、沙菜には負けるが薄幸の美少女って感じでなかなか可愛かった。

素材も良いし、深窓の令嬢みたいな売り出し方をしたら売れるとも思えたよ。

けどな、一郎さんは猛反対したんだ。

「何で?私だってお兄ちゃんに楽させてあげられるなら頑張るよ!」

いや、気持ちは嬉しいんだが、俺も沙菜は芸能界とか絶対行かせないからな。

「え~、何で~?」

花子さんも今のお前以上に一郎さんに反発してな。

次郎さんも何で一郎さんが猛反対するのか気にはなったものの、花子さんに味方して2人して家を飛び出したんだ。

別に一郎さんは3人で暮らせなくなるから花子さんがアイドルになるのを反対したわけじゃないぞ?

そんな浅い所でとどまるなら、一郎さんは自分の夢を諦めて応援しただろうさ。

「じゃぁ、なんで反対してたの?」

まぁ、聞けって。

花子さんは何度かオーディションに出て、アイドルとして歩む事になった。

次郎さんもそのマネージャーとして花子さんを陰ながら支える事になった。

ここまでは良かったんだ。

けどな・・・

芸能界ってのは怖い所で、裏でヤクザと繋がってる事だって良くあるんだ。

花子さんがメジャーになるまではまだ良かったんだが、トップアイドルとして活躍するようになって、一郎さんの権限じゃどうする事もできなくなったんだ。

「・・・何が起こったの?」

沙菜は昼間のテレビでワイドショーを見た事有るか?

「無いよ?あんなの見るくらいならお兄ちゃんの布団に包まれて寝てる方が良いもん」

いや、それもどうかと思うんだが・・・

まぁ見た事無いんだったら仕方ないか。

枕営業って言ってな、お偉いさんにエッチな事をさせる代わりに芸能界で融通してもらったり、逆にお偉いさんがエッチな事をさせないと芸能界で生きていけないように圧力をかけたりする事があるんだ。

「・・・え、エッチな事!?」

ああ、花子さんは後者の状況だ。

一郎さんも手を尽くしたらしいが、相手が悪かったらしい。

あっという間に周りを固められて、花子さんはそいつに抱かれることになったわけだ。

一郎さんはこれを恐れて花子さんの芸能界入りを反対してたんだ。

その事に気付いた次郎さんは遅まきながらも花子さんを連れて逃げる事にしたんだ。

もっとも、すぐに捕まっちまったらしい。

案甲斐奴らの手って言うのは長いらしい、ひょっとしたら家も鬼太郎さんの時にカメラやマイクを仕込まれてるかもしれないな?

「えっ!?」

冗談だよ。

「な~んだ。心配して損しちゃった・・・」

で、捕まった花子さんと次郎さんなんだが、一郎さんの組んだ決死隊が突入して事無きを得たそうだ。

一郎さんはその時の抗争で命を落としたらしいが、花子さんと次郎さんは一郎さんの用意したルートで無事に逃げきって国外で優雅な暮らしをしているらしい。

一郎さんの夢・・・一郎さんって言うピースは欠けちまったが、2人とも幸せにくらしてるらしい。



















ふむ、お客さんも居ませんし、今日はもう諦めて家へ帰った方が良いかもしれませんね。

「ねぇ・・・」

タクシーを会社へ停めて、自宅へと歩いていた時に、私の手を握りしめて沙菜がぽつりとつぶやきました。

「どうした?」

「一郎さんはやっぱり地獄へ行ったの?」

その事でしたか、確かに一郎さんは地獄に行ったのですが・・・

「よう、運転手!景気はどうだ?」

沙菜にどう答えたものかと悩んでいると、前方から見覚えのある人物が大きな袋のような物を引きずって歩いてきました。

袋は何故か微妙にモゾモゾと動いていて、時折「ウー!」だとか「アー!」だとか「ニャー!」だとか言ううめき声が聞こえて来ます。

袋の中身を想像すると精神上あまりよろしくなさそうなので、私は袋から目をそらしました。

「マスコミに報道されていら好調すぎますね。山が高くなればなるほど谷に落ちる時の落差が怖いですよ」

「あっはっはっは!そいつは言えてらぁ」

私が知り合いと話しているのが面白くないのか、沙菜が繋いだ手をぐいぐいと引っ張ってきます。

頬を膨らませ私面白くない!と顔全体で言っているのが見て取れます。

「お!そっちの可愛い嬢ちゃんがお前の引き取ったって言う噂のコレか?」

沙菜の事を小指を立てニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら知り合いが聞いてきます。

・・・さて、どう答えたものでしょうか?

「初めまして!私沙菜!お兄ちゃんのお嫁さんだよ!」

ちょ!

沙菜!

何言ってるんですか!

「あっはっはっは!やっぱり噂は本当だったって訳だ。これで地獄の方でも泣く女が出るな」

何ですかその噂って言うのは?

それに私が沙菜を引き取ったからってなんで女の人が泣くんでしょうか?

「初めましてお嬢ちゃん。俺は一郎って言って地獄の荒くれどもを相手に探偵業をやってるもんだ」

沙菜の頭を撫でながら一郎さんが自己紹介をしていますが、貴方・・・探偵なんて生易しいものじゃないでしょう?

「しっかし、朴念仁のお前がよくこんな可愛い嬢ちゃんを手籠めにしたもんだよ。まぁ、花子ほどじゃ無いがな・・・」

「何言ってるんですか!花子さんより沙菜の方が可愛いに決まってるじゃないですか!」

沙菜の頭を撫でていた一郎さんの手をはたき落としながらついムキになってしまいました。

「おっ!言うねぇ。ま、今日の所は沙菜嬢ちゃんの顔に免じて引いてやらぁ」

ニヤリと口元に笑みを浮かべた一郎さんはそれだけ言うと袋をズルズルと引きずりながら行ってしまいました。

「あぁ、そうだ。お前の家の周りでウロチョロしてたマスコミのクズ共が居たんで回収させてもらったぞ。家の若い奴らもお前に会いたがってるし、今度クズを送り返す時に指名させてもらわぁ」

やれやれ、とんでもない指名を貰ってしまったものです。


さて、お時間となりました。

明日はどなたにご乗車いただく事になるのか・・・

では、またいつかお会いしましょう。










後書き
あれ?
「と、言う夢を見たんだ」
運転手にそれだけを言わせるために書いてたら、いつの間にかタクシーの中で最長の話になってる!?



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Name: 顔無◆0c3027e3 ID:979e69ab
Date: 2010/03/02 19:54
タクシー6









「きゃ~~~~~っ!」

最後のヘヤピンを抜ける際、沙菜が本日何度目になるか分からない悲鳴を上げました。

怖いし危ないから今回ばかりは待ってろって言ったのに付いてくるから・・・

残るはゴールまでのロングストレートだけです。

ここを制す事が出来れば新たにお客さんを獲得する事が出来ます。

「気を抜いちゃ駄目!空牙はここで勝負をかけるつもりよ!」

後部座席から今回のお客、美野里さんが注意を促してきます。










事の起こりは、今回の乗客美野里さんからの依頼でした。

とある峠でひたすら走り続けている車のドライバーを一緒に連れていく。

それが美野里さんの乗車する条件だったのですが、相手のドライバーは自分と勝負して勝つ事が出来なければ逝かないと言うんです。

そんな事情で何度か運転手仲間がトライしているんですが、何度やっても勝てません。

今回のこの仕事は他の運転手から、私ならば行けるのではと回ってきた仕事だったのですが・・・正直勝てる気がしません。

これでもタクシーの運転歴は長いので、指定された時間に間に合わせるために結構な無茶もしてきました。

運転手仲間のあいだでは、私に速さで勝てる運転手は居ないとも言われています。

けれど、私は根っからの速さを追求する人間では無いんです。

そんな半端な気持ちが走りに表れて居たんでしょうね、ドライバーである空牙さんから「車のセッティングもだが、何より覚悟が足りない」と言われてしまいました。

悔しかったですね。

意地でも勝ちたいと思いました。

勝負事でここまで熱くなるのは久しぶりの事です。

ですが、車の整備くらいは出来るものの、私にはレース用のセッティングを行う知識はありません。

そんな時でした、それまで後部座席に乗るだけで何もしなかった美野里さんが車のセッティングをしてくれることになったんです。

これはセッティング中に美野里さんが語ってくれた在りし日の物語・・・











私と空牙はね、このあたりではちょっと名の知れたコンビだったの。

本当よ?

スポンサーとかから独占契約の話とか結構来てたんだから。

私がセッティングをして、彼がその車で勝利をもぎ取る。

そうやってコンビを続けていくうちに、彼に恋してた。

それは彼も同じで・・・

「告白はどっちからしたの?」

あらあら、沙菜ちゃん興味しんしんね。

告白は彼から。

ふふふっ、レースの時は沈着冷静なのに、彼ったら緊張しちゃってね。

いきなり段階をすっとばして「結婚しよう!」なんて言ったのよ。

でも、嬉しかった~。

これがその時贈ってもらった指輪なんだけどね。

「わ~!これってペアリングってやつだよね?良いな~」

私は機械をいじってばかりいたから、普段はこうしてネックレスにしてるの。

「あれ?でも・・・何で2つ有るの?」

「こら沙菜!すみません緑さん」

美野里です!

「・・・ごめんなさい」

沙菜ちゃんは良いのよ?

悪いのは名前を間違えた運転手さんなんだから。

わざと名前を間違えて沙菜ちゃんを庇うなんてちょっと焼けちゃうわね。

「美野里お姉ちゃん!お兄ちゃんとくっついちゃ駄目!」

あらあら、ごめんなさいね。

運転手さんが沙菜ちゃんにどんなプレゼントしたら良いか分からないって言うからちょっとね?

「私お兄ちゃんからのプレゼントなら何でも良いよ!!」

ふふふっ、良い子ね?

「いや、まぁ・・・」

それで、なんでリングが2つ有るかって言うとね・・・

私には一弥って言う弟が居たんだけど、その子空牙に憧れちゃってね・・・

私の弟だって分かると空牙が手加減するかも知れないって言って、姉弟だって事は内緒で勝負する事になったの。

「・・・内緒」

沙菜ちゃんどうしたの!?

顔が青いわよ?

「だ、大丈夫・・・気にしないで・・・」

本当に大丈夫?

「お兄ちゃん・・・」

あらあら、運転手さんに抱きついちゃって可愛い。

「あは、あはははは、き、気にしないで下さい」

むむむ、何だか気になるわね?

「ほ、本当に何でもないですから・・・」

「うん、それよりも続きが聞きたいな?」

そう?

憧れの空牙に絶対勝つんだって言って、私も一弥があんまりにも頼むから根負けしちゃってね。

マシンのセッティングを手伝ったの。

それを空牙がみちゃってたらしくて・・・

翌日レース会場に現れた空牙を見て私は自分を呪ったわ。

今空牙が乗ってる車はね、彼の車じゃないの。

あれはたびたび私達を勧誘してた企業が用意した車なの。

その事で私達の車はどうしたのか聞いたの。

そしたら「あのポンコツなら倉庫で寝てるぜ。それにこそこそ隠れて他の男のマシンいじってる奴にグダグダ言われたくない」そういわれて指輪を投げつけられたの。

ショックだったわ。

レースは終始空牙の独走で幕を閉じるし、誤解を解こうにも彼の周りを企業のスタッフが取り囲んでてどうにも出来なかった。

それ以来空牙は何かに取り憑かれたようにレースを繰り返して・・・

最後にあの峠でカーブを曲がり損ねてがけから落ちて・・・












恋のキューピットをするつもりは有りませんが、聞いてしまった以上なんとしても空牙さんに勝って美野里さんの話を聞いてもらわなくてはいけません。

けれど・・・

「何ですかあの加速は?」

私の後ろを走っていたはずの空牙さんの車が、いつの間にか私の横をすり抜けて前へと躍り出ました。

「・・・あの加速。まさかニトロを積んでるの!?」

「えぇ~~~!こっちは乗員も多いし、抜かれたら抜き返せないんですよ?嘘でしょう?ニトロって言ったらアレですか?亜酸化窒素の事ですか!?こっちはそんなもの積んでないですよ!って言うかこのレースだと違法でしょう?どう言う事なんですか緑さん!」

「美野里です!」

「お兄ちゃん落ち付いて!」

焦って美野里さんの名前を間違えてしまいましたが、気にして居られません。

まったく!レースするだけで車に負担がかかるって言うのにニトロ使ってエンジンに余計な負荷かけてどうするんですか!

もう我慢出来ません。

「沙菜!ハンドルしっかり握ってろ!」

言うと同時に窓を一郎さんに護身用として貰った拳銃でかち割り、空牙さんの車のタイヤめがけて照準を合わせます。

「にゃ~!お兄ちゃん壊れた~!」

沙菜が何か言っていますが聞いて居られません。

一応何度か一郎さんの所で手ほどきは受けていますが、あまり腕の方はよろしくないんですから・・・

「それじゃなくても、レースで負担かかるって言うのに・・・ニトロなんぞ使ってんじゃねぇ!!」

弾切れになるまで撃ち尽くすと、なんとか当たったようで空牙さんの車がスピンして行きます。

「良し!」

「良しじゃありません!!空牙!!」

美野里さんが何か言っていますが、気にしませんあちらも反則してたんですから、文句はゴールしてから聞く事にしましょう。










ゴールで待っていたのは勝利の女神からの熱いキスではなく、美野里さんからのビンタでした。

それだけ空牙さんが心配だったのでしょうが、もう死んでるんですからあれくらいでどうこうなったりしないと思うんですが。

「今回はお兄ちゃんが悪い!」

おやおや、沙菜にまで嫌われてしまいましたかね。

「でも、拳銃撃ってる時のお兄ちゃんカッコ良かったよ~!」

「はははっ、有りがとな沙菜」

沙菜の頭を撫でていると、スピンして木に激突した車から美野里さんに肩を借りた空牙さんが歩いてきます。

左手の薬指に輝くリングを見てホッとしました。

どうやら和解出来たようですね。

どこかぎこちなさも感じますが、照れ臭げにそっぽを向いた空牙さんが微笑ましさをさそいます。

「負けたぜ・・・と、言いたい所だが、拳銃なんて反則じゃねぇのか?」

「反則はお互いさまでしょう?」

「ははっ、そうだな」

負けを認めてくれて良かったです。

もう1度勝負だ!

なんて言われても、もうレースをする気になりませんよ。

当分は安全運転第一です。

「さて、今からでも上司の元へご案内したい所なんですが、あいにく私の車の窓ガラスが割れてしまいましてね・・・お二人には自家用車で向かっていただきたいんですよ」

「自家用車・・・だと?」

「ええ、今日勝負をするに当たって色々調べております。空牙さんの家の車庫に有るのでしょう?お二人の取って置きが?」





























「ねぇ、お兄ちゃん?」

窓ガラスの修理が終わったと言う事で、沙菜を連れてタクシーを引き渡して貰いに工場まで歩いているんですが、沙菜は何か不満でも有るのか数日前からご機嫌ななめです。

「何だ?」

そんな沙菜がやっと自分から話しかけてくれた事が嬉しくて、他の通行人が居るにも関わらずつい表情がニヤけてしまいました。

「何であの日美野里さんと空牙さんを乗せなかったの?せっかくお給料が増えるチャンスだったのに・・・」

その事でしたか・・・

普段大人ぶっているため、ついつい忘れてしまうんですが、やはりこういう所はまだまだ子供なんですね。

けれど、何と説明したものでしょうか?

「沙菜は俺以外の運転する車で何処か行きたいか?」

「お兄ちゃんが一緒なら・・・やっぱりヤダ!」

「それと同じさ。空牙さんが運転して美野里さんが助手席に乗る。それがあの二人にとって一番良い事なんだよ」

自己満足。

言ってしまえばそれまでですが、給料より大事なものだってあります。

今回はそれを優先しただけです。

「今頃美野里さん達どうしてるかな?」

「さぁな。取り立てて罪状はなかったから天国行きだと思うんだが・・・何処で何をしてるかまではわからないな」

工場の受付で受取のサインを書きます。

結構な修理金額になってしまいましたが、経費で落ちるでしょうか?

不安に思いながら領収書を手にタクシーが受付前へ回されてくるのを待ちます。

「あらあら、沙菜ちゃんをこんな所にまで連れてくるなんて、本当に仲好なのね?」

「美野里お姉ちゃん!」

回されてきたタクシーの助手席から美野里さんが出てきた時は驚きましたが、沙菜のなつきっぷりに二度驚かされました。

沙菜、何時の間にそんな仲良くなったんだ?

「その節は世話になったなロリコン運転手」

運転席から出てきた空牙さんに肩をたたかれて現実に引き戻されました。

「否定はしませんが、どうしてここに?」

「・・・否定しないのか?まあ良いや。俺達はこっちじゃまだ名前が売れてないからな、レースだけじゃ食っていけないんだ。だから、しばらくここで金を貯めて改造屋を開く事にしたんだ」

なるほど、利には叶っていますね。

「店を開いたらぜひよってくれ。チューニングしてやるからまた勝負しようぜ?もちろん今度は反則無しでだ」

「あは、あははははは、整備点検くらいは良いですけど、レースはこりごりです」

「そう嫌そうな顔するなって、サービスするから」

サービスされてももうしませんって!

「ねえねえ、お兄ちゃん」

タクシーに乗り込み、空牙さんから逃げ出すために急発進した所で沙菜が私の服をひっぱりながら話しかけて来ました。

まったく、運転中は危ないからやめてくれって言ってるんですけどね・・・

「どうした?」

「私に買ってくれるって言ってたプレゼントはどうなったの?」

・・・・・・・・・・え?

すっかり忘れてました!

そう言えば美野里さんとの会話の流れでそんな話になったんでした!



翌日服屋にてノースリーブのワンピース1着を購入する事になり、車の窓ガラスと合わせての大打撃となりました。

やっぱり給料も大事です!



さてお時間となりました。

今日は意地でもお金を稼がなくてはなりません。

では、またいつかお会いしましょう。

















後書きっていうかコレ何?

風邪かな?

頭が痛いです・・・

むしろ脳に何かわいてるんでしょうか?

今回はニトロ(アイテム)なんぞ使ってんじゃねぇ!!

を言わせるためだけに書いてたんですけど・・・

UPするか本気で迷って何時も通り、ヤってから考えるの精神の元(どんなだそれ)投下しちゃいました。

なんか色々アレなキャラも出てますし、運転手もはっちゃけてますし・・・

今回ばかりは不味いようなら消します・・・



[16943]
Name: 顔無◆0c3027e3 ID:979e69ab
Date: 2010/03/02 19:54
タクシー7








「お兄ちゃん、ノルンさん目が見えないのに大丈夫なの?」

先ほどまでタクシーに乗っていたプラチナブロンドの女性を心配して、向いの席に落ち付き悪げに座った沙菜が話しかけて来ます。

「心配無いよ」

「お兄ちゃんは心配じゃないの?」

近くを通りかかった店員にコーヒーとケーキを頼みながらそっけなく答えた私に沙菜が尚も心配そうに言います。

ふむ、そうですね・・・彼女の指定した時間まで間がありますし、今日は彼女について話す事にしましょう。










ノルンさんは別に目が見えない訳じゃないんだよ。

「え?でも、ずっと目を閉じたままだったよ?」

いや、彼女はある事情で目を開けないんだ。

「事情って何?」

あ~

取りあえずソレを説明するためには、まず彼女の生前の職業から説明する必要がある。

ノルンさんは元々占い師だったんだ。

相手の目をじっと見る事でその人の体験する未来が見えるんだそうだ。

それはもう占いと言うより未来予知の領域らしい。

ただ、問題もあってな。

のぞんだ時にのぞんだ時間軸の映像が見えるわけじゃなかったらしい。

まぁ、そんな不確かな占いだが、未来が見えるって言うのは不気味がられてな。

「何で?未来が見えたらテストで100点取ったり、かけごとで大当たり出来るんじゃないの?」

う~ん

詳しい事は分からないんだが、ノルンさんのはそう言った感じじゃなくて、もっとこう・・・

あぁ、アレに近いな。

「アレって?」

パンドラの箱って知ってるか?

「うん。女の人が開けちゃ駄目って神様に言われたのにその箱を開けちゃうんだよね?」

そう、アレの中に最後に残ったのは、希望だって言われているけど、予兆だって言われる事もあるんだ。

「予兆?」

ああ、例えばだぞ?

作る前から今日作るご飯は美味しくない!とか、出かける前から今日は交通事故にあう!とか、受ける前からテストで0点取る!だとか、最初から結果が分かってたら沙菜は頑張るか?

「やだ!」

だよな?

あの神話に出てくる予兆ってのは、そんなやる前から結果が分かっちまう事だった訳だが、ノルンさんのソレも似たような物だったらしい。

一度見えた未来は覆らない。

彼女が交通事故で死ぬと言えばそうなったし、彼女が宝くじが当たると言えば買った覚えが無くてもそうなったりな。

何か原因があって結果が起こる訳じゃ無く、結果が既にあるからそれに向かって原因が出来あがるわけだ。

「何だかちょっと怖・・・・・・!?」

そう、皆もそう思ったんだろうな?

今お前は途中で気づいて言うのを止めたわけだが、生前の彼女は平気でそんな事を言う連中に囲まれていたんだ。

だがノルンさんはその中の一人と恋に堕ちた。

「・・・堕ちた?」

・・・お前、発音だけで良く違いが分かったな?

「えへへ、お兄ちゃんの事なら何でも分かるよ~?」

・・・・・・まぁ良いか。

まず始めに、男の目を介して自分がウエディングドレスを纏った姿を見た。

そして互いの意思に反して胸の高鳴りを感じた。

次第に意思も・・・

そして結婚。

その頃には男がノルンさんを気味悪がって近づかなかった事すら忘れちまってたって話だ。

「まるで呪いだね」

ああ、本人曰く呪いの様な恋だったそうだ。

原因と結果がどうあれここで終わればまだ救いは有ったんだけどな・・・

次の呪いが彼女を苦しめる事になる。

「何が起こったの?」

男の目を通して今度は別の女性のウエディングドレスを纏った姿を見たんだ。

「え!?」

けれど、2人の気持ちに変化は起こらなかった。

ノルンさんは悩んだらしい。

夫は自分が好きで、自分も夫が好き。

夫の周りにその女性の姿は無い。

なのに夫の未来に自分では無い女性の姿が見える。

何時互いの思いが冷め、別れる事になるのか・・・

何時女性が現れて、夫の愛を奪ってしまうのか・・・

不安で、不安でたまらない・・・けれど夫の事は愛おしい。

結果彼女は自殺した。

男が結婚したのはそれから5年後の事だったそうだ。

ノルンさんを上司の元へ案内した時にはもう目を閉じててな、それ以来戒めだって言って目を開けないんだ。

せっかく何かの拍子に予知が発動しちまったら不味いってんで、上司が封印までしたって言うのに目を開けないなんて生活が不便でしょうがないだろうにな。
















そろそろ指定された時間になると言う事で、喫茶店を出てタクシーへと向かいます。

「よう運転手、遅かったじゃねぇか」

タクシーのボンネットに腰かけ煙草を吸っていた一郎さんが、気だるげに片手をあげながら話しかけて来ます。

「車が痛むのでそう言った行為は止めていただきたいですね」

「あっはっはっは!そうかたい事言うなよ」

ボンネットから飛び降り「ちょっと待ってな」とだけ言うと一郎さんは走って行ってしまいました。

「ねえ、何で一郎さんが居るの?」

繋いだ手を揺らし、可愛らしく首をかしげながら沙菜が聞いてきます。

「一緒に帰るんじゃないか?」

「にゃ?」

「この間一郎さんがプロポーズしたらしくてな、今同棲してるんだよあの二人」

「・・・え!?だって、えっと、あれ?え?え~~~~~~~!!」

どうやら沙菜の処理能力を超えてしまったようですね。

手を上下にブンブンと振り回して自分のパニックを表現するその姿は微笑ましい物がありますが、こうなるとしばらく帰って来ないんですよ・・・

「お?嬢ちゃんえらくテンパってるように見えるんだがどうかしたのか?」

ノルンさんの手を引いて再び現れた一郎さんに頭を撫でられ、沙菜がやっと落ち着きました。

ふむ、何でしょうかこのモヤモヤした物は?

自分が出来ない事を一郎さんにされて嫉妬しているとでも?

「ノルンさん!一郎さんと一緒に住んでるって本当?」

「ええ、彼と一緒なら地獄だって天国と変わらないわ」

「お、おいノルン・・・」

おや?

めずらしく一郎さんの方があわててますね。

ここは普段からかわれる側に居る分、しっかりと仕返しをしなくてはいけませんね。

「私も聞きたいですね、二人の慣れ染めは聞いた事が無かったですから」

「運転手!てめぇ、今度覚えてやがれよ?」

クックック、何と言われようと今は私達のターンなのですよ。

「ねえねえ、何て言ってプロポーズされたの?」

良いですよ沙菜!

もっと一郎さんを追い詰めてあげなさい!

「俺にはあんたみたいに明日の事なんざ分からねぇ。だが明日より今日、今日よりも今をお前と一緒に過ごしたいんだ!そう言われたの」

おお!

一郎さんなかなか言うじゃないですか!

おや?

顔を真っ赤にしてどうしたんですか?

ニヤニヤ

これはもう帰りのタクシーの中で聞けるだけ聞いてからかう為のネタを仕入れるとしましょう。


さてお時間となりました。

明日はどなたにご乗車いただく事になるのか・・・

では、またいつかお会いしましょう。









後書き・・・なのか?
うお~、何か違う。
今回の元ネタは動物の言葉の分かる女性の話をテレビか何かで聞いて(見てない!)思いついたんですけど・・・
なんでこうなった!?
出発地点と着地地点がかけ離れてる!?
しかも短い!
そして私は禁忌を犯してしまった・・・
この作品に超常現象的なものは登場させないつもりだったのに!
って、死後の世界な時点で十分超常現象なのか!?



[16943]
Name: 顔無◆0c3027e3 ID:979e69ab
Date: 2010/03/02 19:55
タクシー8







その日は行き付けだった飲み屋街からの連絡を受けて、臨時で夜道にタクシーを走らせていました。

なんでも、酔い潰れて動けないお客さんが居ると言うのです。

沙菜も寝付いて私もそろそろ寝ようかなと思っていた矢先だったので断ろうかとも思いました。

沙菜が居なかった頃なら受けていたかも知れませんが、今は沙菜と過ごす時間を大切にしたいので・・・

そんな私の考えが覆ったのは、運転手を始めた頃にお世話になった女将さんが電話に出た事でした。

お世話になった女将さんに「たまには顔を見せなよ?」と言われては断る訳にも行きません。

けっきょく、寝付いた沙菜に一応の置手紙をしてから出かける事にしました。

「無理言って来てもらっちまってすまないね」

「良いですよ。女将さんにはまだ新米だった頃、お客さんをたくさん紹介してもらいましたからね」

「何いってんだい。こっちは逆に、客や店員を紹介してもらって大助かりだよ」

女将さんはこう言ってくれますが、実際は職に困った人を無理矢理押し付けたようなもので、頭が上がりません。

「それじゃ、お客さんの事頼んだよ?」

女将さんのその言葉で会話にけりを付けて車を発車させます。

彼女以外にも顔なじみの女性店員達が「また来てね!」なんて言いながら手を振っていますが沙菜が居る以上早々これないですよ。

「お客さん大丈夫ですか?」

今回乗せた男性客3人の内うつむいてぐったりしている男性客に声をかけますが、反応がありません。

嘔吐しなければ良いのですが・・・

ですが、その心配は杞憂でした。

車を走らせていて気付いたのですが、このお客さん達どうやら泣いていらっしゃるようなのです。

ふむ、何か辛い事が有って、お酒に頼っていたと言う所でしょうか?

「元気出せよ?何もお前だけが辛い訳じゃないんだしな」

漏れ聞こえてくる会話に耳を傾けるとどうやらお客さんは皆最近自殺してこちらにいらっしゃったようです。








その女性は美く、そして醜くかったんです。

家と学校を往復するだけの毎日。

ネットゲームとアニメにしか興味の無い僕に新しい世界を教えてくれた。

彼女と初めて出会ったのは僕の家の近くで殺人事件が起こった数日後でした。

僕は彼女との面識はなかったけど、彼女は僕を知っていて、一目ぼれしたから付き合ってくれって言ったんです。

最初は僕のような人間にこんな綺麗な人が興味を持つなんておかしいと思っていたんです。

けれど次第にその不信感も取り払われ、彼女と付き合う事になりました。

御淑やかで優しく美しい彼女を手に入れたと思いこんだ僕は有頂天になって・・・

そんな時でした。

彼女の電話する姿を目撃したのは。

その口調は普段の彼女からは想像できないほど荒々しく口汚かった。

そして、最悪の一言を僕は耳にしてしまったんです。

「何言ってるのよ。私があんな気持ち悪い男の事好きになるわけ無いじゃない。あの殺人事件にかかわってるかもしれないって聞いたから私自ら出向いたって言うのに」

彼女はスクープを狙って僕に近づいて来た雑誌記者だったんです。

僕は分からなかった。

何で僕はこんな女性を信じてしまったんだろう?

何で僕はこんな女性を好きになってしまったんだろう?

殺人事件の犯人が捕まったのはそれから数日後の事でした。

それを期に女性は僕に分かれも告げずに去って行きました。

後に残ったのは無気力に負けて自殺した僕と、パソコンに保存された彼女への恨みのこもった日記だけです。






貴方もなかなかハードな人生を送ってますね・・・でも、私も負けてませんよ?

私には妹が居たんですよ。

とは言っても血のつながりなんて無いただの幼馴染って奴ですけどね。

子供の頃はお兄ちゃんお兄ちゃんって私の後を付いてきて可愛かったですよ。

その子には姉が居たんですけど、その姉の方が私に好意を持ってくれたらしくてですね。

で、告白されたて付き合いだしたんですが、今度は妹の方が私に告白してきましてね。

何をどう間違ったのか3人で仲良く付き合う事になったんです。

最初は楽しかったですよ?

両手に華で、周りから妬まれるくらい幸せでした。

所が・・・

いつの間にか私は不要になって、姉妹が付き合ってたって落ちですよ。

別れる時に言い争いになって分かったんですけど、姉は最初から妹狙いだったらしくて、あて馬にされてたみたいでしてね・・・






ほほ~、なら俺も負けないぜ?

俺にも幼馴染が居たんだがな、そいつ「大きくなったら結婚しようね?」なんて言ってた訳だ。

俺もそれなりに好意を寄せていざ告白って段階になってな・・・

その大好きだった幼馴染がオヤジと結婚するって言うんだ。

大事な話が有るからってんで、オヤジと並んで「今まで隠しててごめんね」なんて照れながら言うんだぜ?

信じられるか?

先日まで手を繋ぐのにも顔を真っ赤にするような幼馴染が、実は裏でオヤジと出来てたなんて?

オヤジにしろ幼馴染にしろ俺の気持ちは知ってたはずなんだけどな・・・

それでいつの間にか同居する事になっててな、地獄だったぜ?

裏切り者2人のラブシーンを見せつけられるわ、昨日まで名前で呼んでた幼馴染を義母さんなんて呼ばされるわ。

それに耐えきれなくなった俺はついに家を出る事にしたわけだ。

オヤジが他界したって連絡が入ったのはそれから数年後の事だった。

遺産の事もあるから帰って来いってんで家に帰ってみたら、その幼馴染は何を思ったか、今度は俺が好きだって言うんだぜ?

ふざけてやがるぜ。

あまりにもふざけていて怒りを通り越しちまった俺は、パニックを起こして詳しく話も聞かずにそいつを殴って家を飛び出しちまった。

これで死んでお終いってなりゃまだ良かったんだが、こっちでオヤジを見つけてさらに怒りが爆発しちまったよ。

オヤジの奴、こっちで御袋とのんきに暮らしてやがったんだぜ?

信じられるか?

俺の幼馴染と再婚しときながら死んだら御袋とこっちで再婚なんて?

今日はそのオヤジをぶん殴って来た帰りなんだよ。















散々不幸自慢をされた3人は、今日お前達に会えて良かったぜ!

そう言ってそれぞれの家で降りて行かれましたが、これは調査の必要がありそうですね。

3人を裏切った方々が死なれた際の判断材料に使えますし、最後に喋っておられた方の親御さんはもしかすると、裁判を行う必要があるかもしれません。

禍根を残したまま同じ世界で生きるのは不味いですからね。

聞いてしまった以上、仕事としてよりも彼らの憎しみや悲しみを和らげるために一肌脱ぐとしましょう。

そう考えながら玄関を潜ると、沙菜が抱きついて来ました。

「お兄ちゃ~ん!」

書置きを残したものの、不安だったのでしょう抱きついて離れませんし、泣きながら首元に力いっぱい噛みついて来ます。

こう言う所を見るとやっぱり病んでるんだなと実感しますが、今はされるがままにしておきましょう。

「置いてっちゃヤダ~」

沙菜を抱きかかえて部屋へ向かいますが、相当錯乱したようで部屋の中はぐちゃぐちゃでした。

やれやれ、明日は掃除だけで1日が終わりそうですね。

「分かったよ。けど、今度からは寝てても連れてくから覚悟しとけよ?」

言いながらどうにか上着だけは脱げましたが、それ以外は沙菜が離れるのを嫌って脱がせてくれません。

首から血も流れてますし、カッターシャツとシーツはゴミ箱行きですね・・・


さてお時間となりました。

明日はどなたにご乗車いただく事になるのか・・・

では、またいつかお会いしましょう。





後書き・・・だよな?
今回の乗客は珍しく(?)救いがありません。
私の世界設定の中では救いのあるお客さんの方が稀で、今回の乗客のように悩みを抱えながら自殺してしまったりした方が中心だったりします。
それだとアレなのでハッピーエンド中心にはしてありますけどね(アレで?
まぁ、私のリアルが微妙に歪んでるせいでバッドエンドが多くなるんでしょうけどね・・・
皆さんも何事に対する時も全面的な信頼はせず、どんな時も疑いの目を一度は持ってください!(マテ
裏切られた時のダメージは少なくて済みますからね。
では!



[16943]
Name: 顔無◆0c3027e3 ID:979e69ab
Date: 2010/03/02 19:56
タクシー9








「ツインテールが良いに決まっとるじゃろ!」

光彦さんが棒を構えながら一郎さんを睨みつけます。

「否!ロングのストレートに限るでござる!」

鬼太郎さんが野太刀を構えながら光彦さんを睨みつけます。

「面白い事言うじゃねぇか!ゆるく編んだ三つ編みが一番に決まってんだろうかぁ!」

一郎さんがショットガンを構えながら鬼太郎さんを睨みつけます。

まったく、この人たちは何をしているんでしょうか?

さっきまであんなに仲良くお酒を飲んでいたのに・・・

事の始まりは、3人の彼女自慢からだったんですが、ヒートアップした彼らはいつの間にか髪型の好みで喧嘩を始めてしまいました。

最初は殴る蹴るの乱闘くらいで済んでいたんですが、最終的に自分の得物を持ち出しての大乱闘になってしまいました。

「運転手!お前はどう思うよ?」

一郎さんこっちに話を振らないで下さい!

「そうじゃの、ここは運転手さんに決めていただこうかの?」

「おお!それは名案でござる!」

あ~!

完全にこちらに飛び火してしまいました。

どうしましょう・・・

ここは3人の主張とは別のポニーテールあたりを・・・

「まさかポニーテールなんてふざけた事言うんじゃねぇだろうな?」

・・・逃げ道塞がれた!?

あぁ、不味いですどうしましょう・・・




















「と、言う悪夢のような事が有ってな・・・」

近くに有ったポストへ封筒を投げ込みながら言います。

「・・・え!?夢落ちじゃなかったの!?」

いつだったか話したほら話のせいで、全く信じていなかった沙菜が困惑気味に聞いてきます。

シチュエーション的に前回のあの世一武道会と似たような話し方をしたせいでしょうか?

「なんだよ?ホントの事じゃ不味かったのか?」

「そんな事無いけど、お兄ちゃん大丈夫だったの!?」

「あぁ、運よく桜さんと咲耶さんとノルンさんが駆けつけてくれてな・・・」

「うぅ、ごめんねお兄ちゃん・・・沙菜あの時ぐっすり寝ちゃってたからそんな事になってるなんて思わなくって・・・」

その日は女将さんの店で3組のカップルをもてなす事になってたんです。

最初は皆で飲んでたんですけどね、いつの間にか男と女に分かれてパートナーの愚痴や自慢話をしているうちに、冒頭の表へ出ろ!的な展開になっちゃいましてね・・・

まぁ、あの日沙菜が最後まで寝てて良かったですよ、いつぞやみたいに首元に噛みつかれて、出血大サービスは出来る限り遠慮したいですからね。

「気にするなよ。それに言っただろ?3人に助けてもらったって」

「・・・うん」

明らかに落ち込んでます。

どうしましょう、沙菜との会話が途切れてしまいました。

「そ、そう言えばさっきの封筒何だったの?」

むむむ、それを聞いて来ますか・・・

出来れば話したくなかったのですが、せっかく沙菜が無理して変えてくれた空気ですし、ここで教えられないなんて言えませんね・・・









あの封筒はな、夜に俺一人でタクシーを出した日があっただろ?

「・・・うん」

いや、そんなこの世の終わりみたいに虚ろな目をするなよ・・・

もう置いて行かないって!

「・・・うん」

あ~もう!

この間行きたがってた宝石店に連れてってやるからそんな顔するなって!

「本当?やった~!」

おい!飛びつくなって!

やめ!よじ登るな!

ちょ!人前でキスとか止めれ!?

ったく、調子い狂うぜ・・・

「えへへ」

話を戻すぞ。

あの封筒は、あの日乗せたお客さんに関するものだよ。

光彦さんと鬼太郎さんと一郎さんをあっちでおろした後、お客さんも乗せないで人の話ばかり聞いてた日があっただろ?

「うん」

あの時に3人の乗客の死因とそれにかかわった人達に付いて調べてて、この間の食事会は調査を手伝ってくれた3人に対するお礼も兼ねてたんだよ。

事のあらましは一応話したよな?

「確か、雑誌記者に裏切られた人と、姉妹に裏切られた人と、幼馴染と父親に裏切られた人だっけ?」

ああ。

事情を話したら光彦さん達喜んで協力してくれてな。

まぁ、実際の内情を話すと、光彦さんは自分に重なる部分も有ったせいだろうね、代理で呪ってやる!

なんて言っちゃって大変だったんだけどね。

「あ、あは、あははは」

で、調べて分かったのは、雑誌記者はパソコンに残されてた日記が他の雑誌記者の目にとまってな、会社ごと叩かれたんだ。

有る意味体の良い生贄だったんだろうな・・・

「どう言う事?」

要は会社同士の足の引っ張り合いのだしにされたんだよ。

結果会社は倒産まで行かなくても雑誌の売れ行きは落ちて首に追い込まれ、自分がしていたように世間へ自分の顔が公表されて外もまともに歩けなくなったようだな。

「なんだかちょっと可哀そうな気もするね・・・」

まぁな、まともな所は雇っちゃくれないってんで、今は股を開いてどうにか暮らしてるみたいだ。

「股を開く?」

あ!?

いや!

気にするな!

今度教えてやるから誰にも聞くなよ?

「うん・・・?」

勢いで言っちまったけど、沙菜にはまだ早すぎるって・・・

「何か言った?」

いや?

雑誌記者が死んだ後どうなるのかはこれからの行い次第だが、雑誌記者の現状について書いた報告書と、呪い許可証の申請手続きに関する案内書を送っておいた。

呪うも許すも彼次第だな。

「呪い許可証って確か、夢枕にも立てるんだよね?」

ああ、恨み持って死んだ人以外にも、死んでも愛しい人に会いたいって人が許可申請を出したりもするんだぜ?

桜さんがそれだ。

「へ~」

お前も父親や母親に会いたくなったらいつでも許可証の申請手続きしてやるぞ?

「ぶ~、あんな人達の事なんかどうでも良いよ!沙菜はお兄ちゃんが居れば良いの!」

そ、そうか・・・

「それで?後の2人は?」

ああ、姉妹なんだが・・・

どうかしてるぜ?

最初妹は男が好きだったんだよ。

男も妹を好きだったようで、そのままになってればハッピーエンドだったんだけどな・・・

姉は妹が好きだった。

けど、自分は女で姉だ。

まともに男に挑んでも叶う訳が無い・・・

だからことわざに有るように、武将をしとめる前に馬をしとめる事にしたわけだ。

姉は男に告白して見事彼女の座を手に入れた。

その事にあわてて男に告白してきた妹に3人で付き合う事を提案したんだ。

後は簡単だ。

男に向いている感情を少しずつ自分へ向けていけばいい。

結果、最初から妹狙いだった姉と男への気持ちを姉へと向けた妹が残ったってわけだ。

ま、姉の方はこれで誰にも邪魔されずに妹を愛でられると思ったんだろうが、男はショックを受けて自殺しちまった。

3人が付き合ってたのは周りの男共が妬むほど周知の事実だった訳だし、別れる際の喧嘩を近所のおばさん達が聞いてたらしくてな。

後は噂が噂をよんで、姉妹が幼馴染の男をもてあそんだって事になって行く先々で姉妹そろって悪女のレッテルを貼られてる訳だ。

姉の悪だくみの結果、追い詰められた姉妹はそろって自殺した。

調査が間に合ってこの姉妹は地獄へ行ってる。

この後どうするかは分からんが、結果報告だけは男に送っておいた。

まぁ、それで男が喜ぶとは思えないけどな。

「最後の人は?」

う~ん

これが一番最後までどうするべきか迷っててな・・・

まだ投函してないんだよな・・・

最初に話を聞いた時、俺はオヤジか相当手癖の悪い奴なんだと思ってたんだよ。

向こうで幼馴染寝取っておきながらこっちで昔の女房と復縁なんて正気の沙汰とは思えなくてな。

けど、そんな事してたらさすがに地獄行きになってる筈なんだよ。

で、調べてみたら理由は簡単だった。

オヤジさんと幼馴染は入籍して無かったんだ。

「え?それって、結婚してなかったって事?」

ああ。

内縁の妻なんてのも有るが、そんなのじゃなくてな。

結婚自体嘘だったんだよ。

こっちに居るオヤジさんに話を聞きに行ったんだが、ありゃ駄目だな。

子供がそのまんま大人になったような駄目オヤジだったよ。

なんでも、煮え切らない息子を心配して芝居を打つ事にしたんだそうだ。

幼馴染もその案に乗っかって、オヤジと結婚したふりをして男の嫉妬心を煽るつもりだったらしい。

けど、耐えられなくなった男は家出同然に出て行った。

オヤジさんと幼馴染はあわてて男を探したらしいが、警察への捜索願も空しく見つかる事が無かったようだ。

それからすぐにオヤジさんは死んでこっちでまた復縁したんだが、始末に負えないのは後の事をほったらかしにした事だな。

俺が息子の事尋ねたら、何で息子に殴られたのか分かりませんって顔で俺に文句いってきた。

母親もそれに同調してた所を見ると、何でそんな親からあのまともそうな男が生まれて来たのか不思議でしょうがないよ。

幼馴染も相当アホでな。

自分が恥ずかしくて男にアタック出来ないからって、何を思ってオヤジと偽装婚なんて展開になるんだろうな?

オヤジさんが死んだ後連絡を取ろうと何年も頑張った事は認めるが、男との再会早々に「好きです!」はないだろう?

「うん。まずは落ち着いて誤解を解く方が先だと思うよ」

男の墓前で弔いを続けてるそのひたむきさは評価に値するが、心の隙間をつかれてコロっと他の男に転ぼうものなら地獄行きは確定じゃないか?

取りあえず幼馴染の現状と偽装婚の報告書、それから親を訴える場合の弁護士の紹介状と呪い許可証の申請手続きに関する案内書を用意はしてるんだけどな・・・

この封筒を送ったからって救いが有ると思うか?

「・・・沙菜は送った方がいいと思うよ?」

そうか?

「だって、男の人だけが苦しむのは間違ってるもん!その人の両親はもっと苦しむべきだよ!」

え?

「親が間違った事するなんて許せない!」

おい?

「それに裁判なんてする必要無いよ!こんな時こそ一郎さんの出番だよ!」

沙菜、落ちつ・・・

「ウフフフフフフッ、まずは家に放火してそれから・・・」












「あう~ごめんねお兄ちゃん」

暴走した沙菜を止めるためにデコピンをしたのですが、思いのほか痛かったらしく、おでこをさすりながら謝ってきます。

「良いよ、おかげで迷いなく投函出来たしな。それより早いとこ選んでくれよ?」

沙菜の頭を撫でながらショーケースに並べられた宝石の値段に脂汗が出て来ます。

不味いですねこの間の窓ガラスは経費で落ちませんでしたし、沙菜に買ったワンピースに昨日の飲食費。

それに乱射してしまった弾代も入れて、さらにここでアクセサリー代・・・

今月大丈夫でしょうか?

「あ!これが良い!」

財布の中身を計算していると、沙菜から声がかかりました。

沙菜の手にしている品は黒皮で出来たブレスレットでした。

横幅が腕時計よりよほど大きな作りで、とても沙菜の様な少女が付けるような感じじゃありません。

サイズも沙菜にはブカブカなようですし、それにも増して、2つも持っているのが気になります。

「・・・2つも買うのか?」

「1つはお兄ちゃんのだよ?」

「いや、お前が美野里さんのペアリングに憧れてたのは知ってたけど、出来れば1つにしてくれないか?」

「嫌!お兄ちゃんとおそろいが良いの!」

う~ん、こう言われては断れませんね・・・

「店主さんこれをお願いします。後これも」

沙菜が欲しがったブレスレット2つと私が選んだ髪留めを2つ購入して、店を後にします。

ちょうど良いベンチが有ったのでそこへ座り、沙菜の髪型をさっそく私好みのものにします。

今までは沙菜の自由にさせていたのですが、やはり光彦さん達に彼女自慢された手前、私も負けてられませんからね。

「・・・これがお兄ちゃんの好きな髪型?」

ポシェットから小さめの手鏡を出して私の整えた髪を右に左に振って確認します。

「ああ」

両サイドに少量のツインテールを作り残りの髪をストレートで下すツーサイドアップ。

それが私の好きな髪型です。

有る意味一郎さん以外の2人の好みは満たしていたのであの場で告げても良かった気もしますが・・・一郎さんを敵に回すのは避けたいですね。

次は沙菜にうながされてブレスレットを腕へ巻きます。

沙菜も巻こうとしたのですが、やはり大きすぎてサイズの調整が必要なようですね。

幸い革製なので加工は穴を開けるだけで出来ますが、せっかくの品に余計な穴を開けると言うのも無粋な気もします。

「あ!やっぱりぴったりだ!」

サイズ調整の事を考えていた私の横で沙菜から声がかかりました。

まさかこの短期間でサイズを無理矢理合わせたのでしょうか?

不安になり沙菜を視界に収めると、そこにはブレスレットを首へ巻いた姿が映りました。

「ねぇねぇ、似合う?」

「首!?いやいやいや、確かに似合うけど!それチョーカーじゃないから!何て言うか首輪みたいで背徳的な香りがするから駄目だってそれ!」

道行く人々が沙菜を見ては隣に居る私に対して変質者で見るような眼を向けて来ます。

沙菜は絶対に首以外には巻かない!なんて言ってますし、私はこの視線を一生浴びる事になるんでしょうか?


さてお時間となりました。

明日はどなたにご乗車いただく事になるのか・・・

では、またいつかお会いしましょう。








後書き・・・だと良いな。
今回の作品は冒頭で起こった髪型闘争事件に始まりツーサイドアップで終わる予定が沙菜の首輪事件で幕を閉じました。
私は何がしたかったんでしょうか?
この髪型闘争事件なんですが、実は第7話より先に出来ていました。
ですが、ノルンさんを登場させていなかったため急遽7話を製作。
そのため微妙に7話の内容が薄いです。
今回の話の為だけに用意されたため仕方が無かったとはいえノルンさんには悪い事をしました。



[16943] 9 IF
Name: 顔無◆0c3027e3 ID:979e69ab
Date: 2010/03/02 19:57
タクシー 9 IF








これは幼馴染と父親に裏切られた男の物語の別バージョンです。

ひょっとしたらこっちの方が良いかもしれない・・・







「最後の人は?」

それなんだがな・・・結果から言えば男の父親は最低の外道だった。

件の幼馴染以外にも何人かとっかえひっかえ女を漁ってやがってな。

しかもその女共には彼氏や主人が居てな、父親の子供が生まれてもそいつらに自分の子供として面倒見させてたんだ。

他人の女を取る事でしか満足できない下種・・・それが父親の正体だったわけだ。

「・・・酷い。上司さんの本には何も乗って無かったの?」

あっちじゃ生前に行った善悪が全て記載されてるなんて言われてるが、実際の閻魔帳は万能じゃない。

昔に比べて悪事も巧妙になってきてるからな、記入漏れや不備だってたまには出るさ。

今回はそれが男の愚痴を俺が調べた事で分かったわけだが、出来れば地獄で更生もしていないような悪人を天国に済ませるなんてさせて欲しくないもんだな。

「もしも隣に犯罪者が居たらって思うとちょっと怖いね」

まぁ、父親にかんしては上司に報告したから今頃閻魔城へ呼び出されて再審議の真っ最中だろうさ。

間違い無く地獄・・・それもわりと下層の方へ行かされるはずだ。

「幼馴染は?」

最初は男の事が好きだったみたいなんだが、父親に籠絡されてな。

「籠絡?」

あ~それも今度おしえてやるから誰にも聞くなよ?

男に父親の面影を見たんだろうな、告白して拒絶されてからはしばらくおとなしくしてたんだが、今は他の男共を家へ連れ込んでるらしい。

「男を連れ込む?」

う~ん

何て言ったらいいのか・・・そうだな、好きでも無い男の人とキスしたりエッチな事をするんだ。

「幼馴染酷い!男の人なら誰でも良いの?」

その辺は本人じゃないからなんとも言えないな。

沙菜はそんな女になったりしないでくれよ?

「沙菜そんな事絶対しないよ?お兄ちゃん以外の人とキスやえ、え、エッチな事するなんてありえないよ!」

いや、そんな「私すごく恥ずかしいです!」みたいな顔するなよ。

こっちまで恥ずかしくなるじゃないか・・・

取りあえず男宛てに父親が地獄行きになるだろうって事と、幼馴染の近況を書いておいた。

「男の人大丈夫なの?」

何がだ?

「だって、幼馴染に裏切られたと思ったから自殺したんでしょ?」

・・・いや、調べてみて分かったんだが、彼は自殺したわけじゃなかったんだ。

「え?」

他の2人の客の手前、自分も自殺したって嘘ついちまったんだ。

まぁ、幼馴染を殴った所までは本当だったらしいんだけど、遺産の放棄手続きまでしっかり取って、家族の縁も切るからお前とはもう会う事も無いだろうとまで言ってたようだ。

それからしばらくたって、仕事の忙しさから過労死したらしい。

その葬式には結婚を控えた婚約者の姿もあったって言うんだから、幼馴染の現状を報告したからってそれでどうにかなる事は無いはずだ。

あの日飲んでたのはむしろ婚約者が新しい恋人を作った事に祝い酒を飲んでたらしいしな。

「え~!婚約者を他の人に取られて、何で祝うの!?」

それは仕方無いだろ?

沙菜は生きてた時に天国で暮らす事になるなんて思ったか?

「思わなかった」

そうだろ?

光彦さんみたいに、天国で私を見守ってくれている人のために私は誰とも結婚しない!

なんて人間も居るが、普通は次の相手を探すもんさ。

「え?光彦さんが屋上で暴れたアレは?」

アレは本人も気の迷いだって言ってた。

もっとも、こっちで結婚する場合は、あっちでの関係が冷めてないと出来ないんだけどな。

「なんで?」

あっちで死んでこっちに来たら恋人は他の人と結婚してたなんて事になったらどうなると思う?

「・・・お兄ちゃん、大事件だよそれ!?」

そうならないための仕組みだし、呪いを夢枕にたつために使うのは、自分への気持ちを薄れさせるために使ったりも出来るからだ。








沙菜日記

今日は皆でご飯を食べに行った日に髪型戦争が起こっていた事を聞きました。

その後、お兄ちゃんにおいて行かれて日の事を聞いたんですけど・・・

なんだか色々分からない言葉が出て来ました。

お兄ちゃんは後で教えてくれるって言ったけど、全然教えてくれません。

その後沙菜を置いて行ったお詫びに、髪飾りと腕輪を買ってもらいました!

髪飾りはお兄ちゃんの好きな髪型にするのに必要なのでこれから毎日付ける事にします。

腕輪は少し大きくて、着けたら腕から抜けてしまいました。

でも、首の大きさを測っていて良かったです。

首にはめたらぴったりでした。

お兄ちゃんは変な目で見られるから首に巻くのは止めてくれって言ったけど、これで沙菜はお兄ちゃんのものだってしっかり分かるし良いよね?

今日は素敵な贈り物をありがとう。

お兄ちゃん大好きだよ♥








後書き・・・にしよう。
恋人が次の恋に進むのを1人祝う男・・・
なんか思ったより男が格好良くなった気がする。



[16943] 10
Name: 顔無◆0c3027e3 ID:979e69ab
Date: 2010/03/02 19:59
タクシー10








「お兄ちゃん、今日のお客さんと光彦さん達ってどう言う関係なのかな?」

光彦さんの腕を2人の方が抱くようにして歩いて来る姿を見ながら沙菜が不思議そうに聞いて来ます。

1人は言わずと知れた光彦さんのストッパーであり最愛のヒトである桜さん。

もう1人は今日上司の元へ連れて行く事になっている忍(しのぶ)さん。

二人とも長い髪形を光彦さん好みのツインテールにして嬉しそうに歩いています。

「顔が似てるし家族なんじゃないのか?」

「だって、光彦さんは自称人間嫌いで桜さんだけが好きなんでしょ?」

ふむ、そう言えば光彦さんがお客さんになってからずいぶん経ちますが、確かにそう聞いてますね。

お客さんの中には複数の女性や男性に思いを寄せられている方が時々いらっしゃいますが、光彦さんは人間嫌いでしたね。

そんな人が最愛の桜さん以外を隣に並ばせて歩くでしょうか?

これは私も気になって来ました。

ドアを開けて桜さん光彦さん忍さんの順番で乗り込んだ所で運転席に座り、エンジンをかけます。

豪邸とまでは行かないまでもそこそこ裕福そうな家からは、人の気配が無く見送りはだれもいらっしゃらないようです。

それでも何か思う所があるのでしょう。

忍さんは名残惜しそうに家へと視線を向けています。

その頬には涙がつたいはじめていました。

「……忍」

「あ、すみません。少々感傷に浸ってしまいました」

忍さんは真っ白なハンカチで目元の涙を拭き取るのですが、いっこうに頬は乾きません。

その姿を見かねた光彦さんが忍さんを抱き寄せます。

「仕方ないよ、忍ちゃんは涙もろいもんね」

「お姉ちゃん、くすぐったいよ~!」

桜さんも嫉妬するでもなく、優しげに忍さんの頭を撫ではじめました。

それを忍さんは恥ずかしそうに、そして懐かしそうに受け入れています。

桜さんが忍さんの姉だという事は分かりましたが、いよいよもって自称人間嫌いの光彦さんとの関係がよく分からなくなって来ました。

「運転手さん、お願いします」

光彦さんの合図で走り出した車の中で甘い空気が漂ってきます。

それはそうですよね……

左右の二人を抱き寄せた光彦さんと抱き寄せられた二人が嬉しそうにイチャイチャしてますしね。

「うぅ……砂糖吐きそう」

その空気に耐えられなくなったのか、沙菜が何とかしてくれとでも言うように小声でつぶやきました。

ふっ、甘いですよ沙菜。

こんな空気なんて……

「安心しろ沙菜。俺も砂糖吐きそうだ」

「全然安心できないよ~!」

ふむ、小声で叫ぶとは沙菜もなかなか器用ですね。

「あれ?沙菜ちゃん気分悪そうだけど大丈夫?」

「運転手さんが付けた首輪で苦しいんじゃないか?」

「え~~~!この運転手さんそんな趣味が!?」

「いやいやいや!違うから!違いますから!私の趣味じゃないですから!」

「そうだよ!これは沙菜がお兄ちゃんの物だってすぐ分かるようにしてるんだよ!」

「おい~~~!混乱を招くような事を言うな~~~~!」

「はっ!きっと夜になると散歩と称して裸で公園まで歩かされたり、今も服の下はバイブやローターが……」

「何!?運転手さんそれは本当かね?」

「うわぁ~この運転手さん鬼畜なんだ……」

「そんなわけ有るか~~~~~!!!」

「ふえ?は、裸で公園まで歩くの!?そんな……沙菜恥ずかしいよ~!でも、お兄ちゃんがどうしてもって言うなら……」

「言わねぇよ!」

何でしょうかこの連帯感は……忍さんが加わって浮かれているのか桜さんが暴走しています。

まぁ、沙菜はいつもの事ですけど、お願いですからそう言ったアレな知識を教え込むのはやめてください。

「沙菜ちゃん、冗談だから本気にしないの」

「え?お姉ちゃん嘘だったの?」

忍さん……あなたは一体私を何だと思ってるんですか?

「ねぇねぇ、お兄ちゃん?」

「ん?どうした?」

落ち込んだ私に構わず何か聞きたそうに袖をチョイチョイと引っ張る沙菜に気落ちしながらも返事をします。

「バイブは携帯電話とかの事だよね?ローターって何?」

沙菜の言葉でタクシーの中に痛い沈黙が……私泣いて良いですか?

そんな私をあざ笑うかのように桜さんと光彦さんは忍さんとの馴れ初め。

本人達曰く亞良々(あらら)学園奮闘記第1話を話してくれました。







前の高校を中退してから実家に戻った俺は、1つ下の弟の後輩と言う形で学校に通う事になった。

それと言うのもうちの親父殿が高校くらいは卒業しろと言うからだ。

もっとも、学費は自分で稼げと言う時点でどれだけ自分を蔑んでいるかがうかがえる。

おかげで試験から入学費用まできちんと貯まるまで3年近くを要してしまった。

やはり高校中退の学歴で雇ってくれるような場所は早々なかったし、配達系のバイトをするために免許を取ったり移動用にバイクを買ったりしたのが裏目に出たようだ。

満19歳で入学した俺を周りは不良でも見るような眼で遠巻きに見られた。

まぁ、バイクで通学するような奴がまともなわけ無いよな。

入学した後になって夜学か通信にすれば良かったと思ったが後悔先に立たずって奴だな。

とは言っても桜の行きたがっていた学校だ。

一緒に卒業は出来なくてもここ以外を目指すってのもなんか嫌だしな。

けどな……

「兄さん、今日も参加しないの?」

こいつが干渉して来るのがさらにその後悔を上乗せする。

最上級生としてこの学校に存在する自分の弟だ。

この学校は部活への参加が義務という事で仕方なく剣道部へ入部したのだが、まさか弟の光也がキャプテンだとは思わなかった。

「その気はない」

部の顧問から部活に参加しなくても良いから顔だけでも毎日覗かせてくれ。

そう言われて仕方なく剣道場へ顔を出すのだが、そのたびにコレだ……

年齢の事も在り、大会へ出場できる訳でもの無いため、顧問や他の部員達は何も言ってこない。

しかし、真面目一辺倒のコイツだけはいつまで経っても諦めないのだ。

あの糞みたいな親から生まれたとは到底思えないな……

「悪いがバイトの時間が近いんで帰らせてもらうぞ?」

時計を確認してバイトへ向かう俺を呼び止める声が聞こえるが聞こえないふりをして出口へ向かう。

まったく、もうすぐ夏休みになろうかって時にご苦労な事だ。

そんな俺と入れ違いに一人の部員が剣道場へ入ってくる。

「あ、光彦さん今日もアルバイトですか?」

顔をよく見れば俺によく声をかけて来るクラスメイトだ。

校則が緩いからとこの学校を選んだ変わり者で、腰近くまで伸ばした髪をポニーテールに纏めている。

まぁ、バイトができるからってここを選んだ俺が言える事じゃ無いがな。

こいつは親から少しは男らしくしろと言われ、仕方なく部活で剣道をしているらしいんだが、嫌ならサボれば良いと思うんだがな……

「ああ、時間が近いんで俺はもう行くぞ。北村も頑張れよ」

「はい。お仕事頑張ってください」

互いに挨拶を交わして別れると、俺はバイクに乗ってバイト先へと向かった。




「光彦さんって本当に人間嫌いなの?」

「挨拶ぐらいするわい」

沙菜の質問に不貞腐れながら答えてますけど、光彦さんって実際は人を嫌ったりはしないんですよね。

しかし先ほどから桜さんの補完を受けながら光彦さん中心で物語が進んで行きますが、忍さんは一体何処で出て来るのでしょうか?




その日のバイト先は駅前で個人経営をしている居酒屋だった。

複数バイトをしている中で俺がバイトを始めたころから裏方やなんかでバイトをさせてくれていた店だ。

金曜日と給料日が重なったせいなのか会社帰りのサラリーマンやOLで席が埋まり、時間を無視してこき使われてしまった。

まぁその分給料に色を付けてくれると言う事で、俺ともう一人のアルバイトは喜んで働いたんだけどな……

「それじゃぁ後よろしく!」

それだけ言って後片付けを俺達に押し付けた店長は帰ってしまった。

今頃は隣のビルで飲み屋の姉ちゃんを相手に馬鹿をやってるはずだ。

店長が鼻の下を伸ばしてる顔を思い浮かべてしまい洗われている皿についつい殺意をぶつけてしまいそうになる。

「光彦先輩、店内の掃除は終わりました」

「こっちもこの皿で終わりだ。忍先輩」

この店に後から入って来たという意味で自分を先輩と呼ぶ忍ちゃんに少し意地悪してみたくなってそう返した。

「も~!学校の事を言うの禁止!」

案の定同じ学校で最上級生になる忍ちゃんは不貞腐れながらそう言って来た。

「あはは、悪かった。それじゃ戸締りして帰ろっか」

隣のビルに入り数件のスナックを覗いて発見した店長に挨拶をする。

これをしておかないと色々責任を押し付けられそうで怖いのだ。

最も店長はかなり酔っ払っているのでこの事をしっかりと忘れているだろう。

だが何かあってもあの店とこのビルはそれぞれ独立した監視カメラが付いているので引き継ぎをしている映像さえ映っていれば問題もないはずだ。

普段は戸締りをしてその場でほかの店員とは別れるが、今日はいつもより遅いと言う事もあって楓ちゃんを送って行く事にした。

「最近弟とはどう?」

家の前でバイクを止めて玄関口まで送った忍ちゃんに話をふる。

高校入学とほぼ同時に付き合い始めたらしい光也の恋人だと言うこの忍ちゃんをついつい気にしてしまうのだ。

別に横恋慕だとかそう言った事じゃなく、光也には俺と同じような思いはしてほしくない。

その思いだけで忍ちゃんには色々と世話を焼いた。

「えっと、その……この間キスしちゃいました……」

えらくスローペースで付き合っているようだが、この子の周りに怪しい影はないようだし、間違い無いだろう。

このまま何事もなく光也とゴールインしてくれる事を祈るばかりだ。

そうは思うもののいい加減じれったくもなる。

そこで俺は忍ちゃんに作戦を授ける事にした。

顔がニヤケるのを必死に我慢しながらその作戦を口にすると、忍ちゃんは顔を真っ赤にしてコクリと頷いた。




「え~~~~!!!まさかの横恋慕!?」

黙って話を聞いていた沙菜が話の展開を予想して大慌てです。

「ふふふ、沙菜ちゃん気が早いわよ?ここからが盛り上がるんだから」

何故でしょうか桜さんがすごく生き生きしてます。

いや、皆さん死んでるんですけどね……




「また来たよ桜……」

忍ちゃんをバイクで送った翌日、久しぶりに桜の墓参りに来た。

夜も明けきらない早朝と言う事もあってまだ誰も居ない墓地でただ一人手を合わせる。

「昨日お前の夢を見たよ。そん時のお前は何でか俺に自分の事は忘れるように言ったんだ。本当のお前もそう思ってるのか?一時期はそんな気持ちでお前を忘れようとしたんだけどな……お前を忘れるために誰かと付き合っても結局失敗しちまう」

胸元でチェーンに通された指輪を握りしめながらついつい愚痴を零しちまう。

できればこんな姿は桜には見せたくない。

だけど……それでも俺はここに来た。

「それにな、桜。お前の顔……お前の声……どんなだったか最近思い出せなくなって来ちまってるんだ。それでもお前以上の存在なんて居ないって思う。だから……」

他にも色々と言いたい事は有った。

けれども俺はそこで言葉を紡ぐ事をやめた。

こちらに歩いて来る人影に目を奪われたからだ。

真っ白なワンピース……ツインテール……少々日焼けしているように見えるがその姿は桜そのものだった。

もやがかかったように忘れかけていた桜の容姿が鮮明に思い出されて行く。

しかし……

「光彦さん?」

俺の前に立ち下からのぞきこむようにして見上げるその仕草もまた、身長差で角度こそ違うものの桜を見ているようだ。

普段とは違い声までよく似てやがる。

「そう言えばお前とは葬式以来会ってなかったよな」

「そうだね。光彦お兄ちゃんとはあれから会ってなかったもんね」

懐かしい呼び方だ。

あの頃は桜の妹だと思って可愛がってたもんな。

それがまさか……

「忍!お前男だったのか!?」

自分の悪戯が成功した事にくすくすと笑う北村忍は、最近よく話しかけて来る同級生であると同時に桜の弟だった。




「……??……!?……!!!」

あ~沙菜が壊れた。

やっぱり気付かないよなこれは。

幽霊になると若返ったりするのは良くある事なので、お客さんがそうとうお年を召した方なのに、乗り込む時は若い容姿だったりする事はよくあります。

沙菜もそう言ったお客さんは知っているので別に驚いたりはしないんですが……

沙菜がここまで綺麗な女装を見たのは初めてでしたね。

こうなるんじゃないかと期待して性別の事はあえて言わなかったんですか、少々いじわるが過ぎたようですね。

「ここからが光彦さんの見せ場なんだから、こんな所で脱落は許さないわよ?」

桜さん鬼ですか?




布団に入りながら今日起こった事を思い出す。

桜の妹だと思っていた弟の忍。

そいつに引っ張り回されながら、カラオケ、ゲーセン、ボーリング。

喫茶店で食事をとってショッピング。

そして夕食は俺の家で忍の手作り料理。

忍には悪いが、桜が元気だったらこんなふうに毎日を過ごす事が出来たのか?そんな風に思ってしまった。

しっかし、小さい頃はただの可愛い女の子としか思ってなかったんだがな……それが実は男だったなんて思いもしなかったぜ。

隣で眠る忍にドキリとしながらもコイツは桜じゃないしかも男だと自分に言い聞かせる。

だが、華奢な体は桜そっくりで、もう少し胸が膨らんでバベルの塔が無かったら違うところを見つけるほうが難しかったんじゃないだろうか?

背中を流してくれた忍の事を思い出してバベルの塔が元気になって来る。

まずい。

まずすぎる。

このままじゃ俺は人として何か大切な道を踏み外してしまう!

「眠れないの光彦お兄ちゃん?」

俺の顔を覗き込むようにして忍が聞いてくる。

こんなに接近されるまで気付かなかったなんて相当混乱しているらしい。

「い、いや。もう寝ると……んっ!」

混乱する自分を抑え込んで「寝る所だ」そう言おうとした矢先に俺は混乱を新たにした。

口を物理的に塞がれたためだ。

押し当てられた唇は柔らかく、舌で口内をかき回される。

それなにりキスは経験したがここまで気持ちが良いと感じられたのは桜以来だろうか?

「ごめんね、光彦お兄ちゃん。私もう待てない」

「ちょ、ちょっと待て!?何が何だか!?」

強引に引き離した忍は眼からボロボロと涙をこぼしながら泣いていた。

その姿を見てやっと落ち着きを取り戻す事が出来た。

泣いてる女(?)を前にみっともなく取り乱すような真似は出来ないからな。

「……3年だよ?3年も待って諦めかけてたのに!クラスメイトになって……光彦お兄ちゃんと過ごしてるうちにもっと好きになっちゃって……なのに気付いてほしくて同じ部活に入っても気付いてもらえなくて……今日やっと気付いてもらえたのに……もうこれ以上我慢出来ないよ!だから……んっ…ちゅ……あっ…んんっ……」

ああ……踏み外しちまった。

我慢できないのはこっちのセリフだ。

体制を入れ替え押し倒した忍に返事替わりのキスをしながら後悔をする。

「先に言っておくぞ。俺は桜が好きだ。だからお前を愛する事は無い。それでも良いのか?」

しっかりと忍の眼を見ながら聞く。

嘘は許さない。

それじゃぁ結局は傷の舐め合いで二人とも駄目になるだけだ。

それにここで拒んでくれれば男に手を出す事もなくてすむ。

そんな思っても居ない建前を最後の言い訳にして忍の返事を待つ。

「良い!それでも良いよ!私はお姉ちゃんの代わりでも良いの!だから私を光彦お兄ちゃんの物にして!」

決まりだな、性別なんて関係無ぇ。

俺は忍を抱きよせ……




「か、カット!カット!何暴露してんですかここは全年齢制の板ですよ!?」

「え~!沙菜もっと聞きたい!」

壊れから立ち直った沙菜が話の続きを桜さんに催促しますが、それは無理です!

だいたい初の描写が男の娘とかダメでしょ!?

「そ、そうだよ!お姉ちゃんそれ以上は言っちゃだめ!」

まさかここまで話されるとは思っていなかったのか、忍さんは顔を真っ赤にして桜さんに抗議しています。

光彦さんに至っては気まずいのか目線がさ迷ってます。




バイトを全てキャンセルして土曜日の夜から月曜日の明け方近くまで欲望に塗れた休日を過ごした。

忍の制服も無いし今日は休むか……

忍を抱き寄せそんな事を考えていると時間指定の宅急便で忍の衣類が届いた。

こう言う関係になれると予想して親に頼んで送ってもらっていたらしい。

その時は忍の計算高さに戦慄したが、与えた部屋に荷物を運びこんで嬉しそうにする姿を見ているとどうでも良くなってくる。

死んだ爺さんから相続して以来俺以外誰も住んでいないこの家もきっと喜んでくれている事だろう。

しかし、亞良々学園の女物のブレザーが出てきた時はどうしようかと思ったぞ。

「今日からこれ着て行こうかな?」

かわいらしく言うその姿を見てどうしても桜の姿と重ねてしまうが、それでも忍は笑ってくれる。

桜の代わりでも良いから俺の物にしてくれ……か。

「女物はやめろ。さすがにそれはマズイ」

渋々ながらやめてくれたが、男性用の服を着ると気持ちが悪いとか何とかぶつぶつと小声で聞こえてくる。

まぁ、幼少の頃から親に女の子の服を着せられて育ったと言う異色の過去を持つようだし、生理的に男物の服を受け付けないのかもしれないな。

そんな事を思いながら朝食を2人で食べ、家の戸締りをしてバイクで登校する。

灰色だった自分の世界に忍と言う色が加わってかすかだが自分の中の渇きが癒えるような気がした。

そんなささやかな幸福を感じていた事が不幸を招いたのか?

教室に着くと忍と別れて席に着いたんだが、クラスの様子がどうもおかしい。

具体的に言うと俺の方をジロジロと遠巻きに見ているのだ。

なんか嫌な空気だ。

そんな空気の中校内放送で呼び出され、俺は理事長室へ向かう事になった。

教室を出る際、噂が本当だったとか聞こえて来たが噂って何だ?

ま、後で忍にでも聞けば良いか。

到着した理事長室の中には学園長の他に忍ちゃんが居たのだが、忍ちゃんは俺へ助けを求めるような視線を送って来る。

この学園長からは常々嫌悪感を催す気配が漂っており入学当初から大嫌いなのだが……さて、何で呼び出された?

それを聞かなくては忍ちゃんの視線の意味が分からないしな。

「学園長、今日はどう言ったご用件で?」

「いや、今日呼んだのはねこう言った記事が掲示板に張られておってね」

そう言って見せられた新聞部手製だろう記事には忍ちゃんの家の前でニヤケる俺と顔を真っ赤に染めた忍ちゃんが映った写真が貼られていた。

記事には俺と忍ちゃんが剣道部キャプテンの光也に内緒で不倫デートしていたなどと面白い事が書いてある。

写真の正確な撮影時間まで書かれており、記事の内容があたかも本当であるかのようにでっちあげが為されている。

「ふ~ん良く撮れてますね。これが何か?」

「先生の中には退学処分にするべきだと言う意見も出ていてね」

得意げにいやらしく笑う男を見て今回の魂胆が分かった。

こいつの頭の中は女を抱く事しか考えちゃいない。

おそらくは……

「私も君たちのような優秀な生徒をこんなつまらない事で退学にするのは惜しい。そこでだ、取引と行こうじゃないか。」

学園長が持ちかけた取引とは次のようなものだった。

今回の件をもみ消す代わりに学園長の呼び出しに応じて学園長のお願いを聞くと言うものだった。

遠まわしに言ってはいるが要はヤらせろって事だ。

この男に入学当初から感じていたのはコレだったのか。

精神衛生上早々に排除してしまいたいものだが、今回は無理だな。

材料が少なすぎる。

次回までにいろいろ動き回ってみるか。

「どうだね?悪い話じゃ……」

「いいえ、それには及びませんよ学園長。あの日は楓先輩と同じ所でアルバイトしてたんです。必要であれば監視カメラの映像と戸締りをした際に警備装置を作動させたので警備会社へログを送ってもらえるように出来ますがどうします?」

それに毎度毎度ガセネタしか書けないような新聞部の記事を信じるなんて正気ですか?

最後にそう付け加えて話を強引に終わらせた。




「あの後授業を休んで八方手を尽くして噂を沈静化させたんですがね、それに際して少々問題がおきたんですよ」

話の方向がエロ方面から修正されたため、光彦さんが普段の落ち着きを取り戻していっていますが……まだ続きが有るんですか?

光彦さんの過去はなんて言うか普通の人より濃いですね……

「すみません。今回の話はもう少しで終わりですからもうちょっとだけ我慢して下さいね」

私の疲れた顔が目に入ったのか忍さんが申し訳なさそうに言って来ますが、実際私が疲れているのは話のせいじゃ無いんですよ。

目をキラキラさせて話の続きを期待している沙菜が暴走しないか怖いんですよ。

カッコイイお兄ちゃんが見たい!

なんて暴走されたら手が付けられませんから。




監視カメラの映像を店長たちから貰うため早めに帰ろうとした俺は光也に剣道場へ呼び出された。

剣道部員達に付き添われて道場内に到着すると逃げられないように出口を塞がれて竹刀を持たされた。

観客席は見物人で埋め尽くされ、放送部のテレビカメラも回っている。

ここへ来る途中に各クラスに設置されたテレビへかじりつくように群がる生徒が居たのでリアルタイムで放送しているのだろう。

壁にはデカデカとオッズ表が張られ、俺が4倍に対して光也が1.2倍と書かれている。

幽霊部員対剣道部のエースではあるしこんなものか?

「光也、これはどう言う事だ?」

「それを兄さんが言うのかい?」

溜息を付きながら聞いた俺を睨みつけながら光也が言うのだが、これは担がれたんだろうな……

おそらく今朝の新聞で俺と楓ちゃんの関係を誤解したこいつは、恋人をかけて決闘をするように誰かにけしかけられたんだと思う。

直接けしかけた人間までは分からないが、新聞部と放送部の共同で仕組まれた騒ぎだ。

それでなきゃここまで早い対応は出来ないだろう。

学園長とは別件だよな?

そっちは今度調べるとして……

光也を警戒しながらポケットから携帯を取り出して忍へかける。

「もしもし?忍か?」

『光彦さん?言われた通り新聞部のパソコンデータは抑えたよ?』

携帯越しに答える忍はクラスメイトとして男の声で答えた。

何と言うか、一度女(?)としての忍を意識してしまった後だと違和感があるな……

「そこに部長が縛りあげられてるだろ?そいつに俺の現状について聞いてくれ」

『現状?あぁ、テレビに映ってるね。ちょっと待ってて』

そう言って携帯をどこかに置いたらしい忍の声と部員らしい男の悲鳴がしばらく続いた。

……こ、怖え~

『そこで司会進行してる放送部の部長とここに居る新聞部の部長が、ギャーーーーー!主催者みたいだよ?』

電話越しで何が起こったのかよく分からないが、新聞部の部長は何か忍の逆鱗に触れたらしい。

絶え間なく断末魔の叫び声が聞こえてくる。

「ありがとう。今晩楽しみにしてるぞ」

『今晩は腕によりをかけて作るよ。っと、その前に忍さんをそっちに連れてくよ?それに、今日はバイト入ってないんじゃなかった?一緒に帰ろうよ?』

そう言えば万が一を想定して忍ちゃんも忍と行動させてたんだっけ。

俺は最後に「ああ」とだけ答えて携帯をポケットに仕舞った。

そんな俺を律儀に待っていた光也だが、その顔は険しかった。

「おっと!衝撃の新事実だ!!光彦選手は忍嬢と今夜一体何をする気なんだ!?」

アナウンサー気取りで場を盛り上げる放送部の部長をどう料理してやろうかと思うが、こいつのおかげで自分の失言にも気づいた。

「忍に何をした!!」

面を打ち込んできた光也が聞いてくるが本当の事を言ったとしてもこんな状態じゃ聞かねえよな?

仕方ない。

3年ぶりにもんでやるとしますかね。

光也が打ち込むのに合わせて次々とカウンターを決める。

あまりにも綺麗に入るのでついつい調子に乗ってしまったが、怒り狂っているらしい光也はふらふらになりながらも向かって来る。

互いに防具を付けていないので光也の体はボロボロだ。

真面目なのは良いが感情に任せて周りが見えないような猪突猛進じゃこんなもんだろう。

「これは驚きだ!!光也選手手も足も出ない!!」

周りは勝手に盛り上がっているようだが、そろそろ決めるかな。

必殺の威力が込められた突き。

頭に血が昇ってソレがまともに入れば相手がどうなるのか分かっていないのだろう。

その突かれた竹刀を左手で掴み取り引き寄せる。

バランスが崩れてこちらに差し出された頭、正確に言うと左側頭部へ右の膝を叩き込む。

避けようと竹刀を離せば無刀となり、体制が崩れなくても足を伸ばして左側頭部を蹴るのは変わらない。

喧嘩殺方で悪いが今回は剣道じゃ無いんだ諦めてくれ。

ドスっと言う音をたてて光也が床へ倒れ込む。

それと同時にひときわ高い歓声が上がった。

「おめでとうございます!今のご感……ガハッ!」

「お前が仕組んだ事だ。何されても文句ねぇよな?」

さんざん悪乗りしてくれた放送部の部長を殴り倒してマイクを奪う。

「良く聞け糞ガキ共!!今回の新聞部と放送部のガセネタでうちの弟と忍先輩の仲はグチャグチャだ!!こんなインチキ野郎共をのさばらせて良いのか?俺はこの場で新聞部と放送部に宣戦布告させてもらう!これ以降2つの部が改善されず馬鹿騒ぎを続けるようなら俺は2つの部を徹底的に排除してやる!」

マイクを投げ捨てた俺は光也を背負って剣道場を後にした。




「光彦さん小さい頃は病弱だったって言う割には武勇伝が過ぎませんか?」

あるいは嘘なのでは?

そう疑いたくもなりますが、髪型戦争で見た棒術の腕前は達人クラスでしたし、光彦さんなら出来てしまいそうな気もします。

「あれ?運転手さんには病名言ってなかったですか?」

そう言いながら照れ隠しに頭をかく光彦さんから告げられた病名はアレルギー性鼻炎でした。

「な、何~~~~!?」

沙菜は病名を聞いてもピンと来ていないようですが。

あれは花粉症に似た症状が出るだけで重病ではありません。

だ、騙された。

もっと重い病気だと思ってました……




「しっかし、金曜日からこっちイベントが目白押しだな」

食休みに忍の膝枕を堪能しつつ振り返る。

「忍ちゃんを家まで送って、忍と再会して、忍とこういう仲になって、忍ちゃんとのツーショットで学園長に呼び出されて放課後は光也と決闘……」

思い出してみると忍づくしの日間だったな。

「最後の決闘は光彦お兄ちゃんが電話で私の名前を言っちゃったからだよ?」

「あれは失敗だった……」

忍の指摘に思わす苦笑がもれる。

新聞部と放送部は今回の資料で黙らせられるだろう。

忍が新聞部の部長を締め上げた際に今回の話の内容をしっかり録音していたようだしな。

次挑んで来るようなら本気で潰してやる。

理事長本人は知らない事だが、念のためにと回していたレコーダーに取引の内容が収められている。

光也にも聞かせているので忍ちゃんはあいつが守るだろう。

脅しをかけて来るようなら躊躇なくテレビ局にでも売りつけてやる。

だが、それだけじゃ確実に失脚するかどうか分からないしな。

悔しいが今のところは見送りだ。

一連の騒動で言えるのは停学くらいはあるかもしれないと言う事だ。

なにせ多数の生徒を巻き込んで騒ぎを起こしたわけだしな。

そして光也と忍ちゃんは……

「ふふふ、仲直り出来たみたいだね」

かすかに聞こえるアレな声に耳をすませながら忍が安堵のため息をつく。

盗み聴きなんて趣味が悪いぞ?

気絶した光也と忍ちゃんを家にあげて光也の誤解をしっかりといたんだが、そのまま2人が良い雰囲気になっちまってな……

飯も食わずにお盛んな事だ。

「でも、忍先輩が羨ましいな……」

「なんでだ?」

「だって、私も女だったらもっと自由に光彦お兄ちゃんと一緒に居られたのに……」

なんだ、そんな事考えてたのか。

「ば~か、逆だよ。お前が男じゃ無かったらこんな深い仲になってねえよ」

きっと女だったら桜ともっと比べて、その罪悪感でこんな仲になる事はなかったはずだ。

俺達の関係は恋人じゃ無い。

俺は桜が好きで忍は俺が好き。

ただそれだけの関係。

しいて言うならスキンシップ過剰な友人って所か?

「だから泣くんじゃねえよ」

忍の瞳からは綺麗な涙がぽろぽろと零れ落ちている。

これで男だって言うのは反則だろ?

「だって、嬉しくって……」

俺達の関係がいつまで続くのか分からない。

世間は認めちゃくれないだろう。

それでも家に居る時くらいは……な?






















「とまぁ、そんな事が有ったの。その頃必死に夢枕に立ってたんだけど、この二人ったら夢だと思って全然信じてくれないし……」

「良いじゃないか、今はこうして3人で居られるんだし」

愚痴交じりに締めくくった桜さんと恥ずかしそうにしている忍さんを抱き寄せながら機嫌良さそうに光彦さんがなだめます。

むむむ、片方が男とは言え見せつけてくれますね。

「そうだよお姉ちゃん!それとも、私は邪魔?」

「そんな事ないよ?そんなに信用出来ないんだったら、別の所に住む?せっかく部屋を用意したのに……」

「うそうそうそ!冗談だよお姉ちゃん。だから私も一緒に住ませてよ!」

なんとも賑やかな事です。

しかし、忍さんが天国に行く事が決定事項みたいに言ってますが、はたしてどうでしょうか?
まぁ、例え地獄へ行っても、自称人間嫌いの光彦さんと桜さんならそちらへ移住してしまいそうですけどね。

少々いびつな三角関係ではありますが本人達の中は良好なようですし、心配するだけ損というものですね。

「ねぇねぇ、お兄ちゃん?」

相変わらず運転中にも関わらず沙菜が袖をちょいちょいと引っ張ります。

「ん?どうした?」

「ローターって何?」

「まだ言ってんのかお前は!!」


さてお時間となりました。

明日はどなたにご乗車いただく事になるのか・・・

では、またいつかお会いしましょう。




















あとがき・・・懺悔室

正直どう言っていいのか自分でも悩むんですけど・・・
未完成だったバレンタインネタとこれまた未完成だった新作の学園ものを混ぜ合わせたらタクシーになった!!
バレンタイン関係ないじゃん!!
バレンタインは一体何処へ消えたんだ!?
自分でも何を言ってるか良く分かりませんけど、読んでる読者はもっと分からないと思います!!

『この惨劇(作品)がどうして起こった(出来た)のか
私達(作者)だけでは真相に至る事がかないません

どうかこれを読んだあなた
真相を解き明かして下さい

それだけが私達(作者)の願いです』


ごめん、遊びすぎた。



[16943] 11
Name: 顔無◆0c3027e3 ID:979e69ab
Date: 2010/03/03 17:29
タクシー 11










「女!女~!」

「ひっ!」

沙菜に寄って来る害虫共をサブマシンガンの掃射で一掃します。

もっとも、もう死んでいるので体に風穴が開いてうめき声を上げ続けるだけですけどね。

「A班B班C班は予定通り村を囲んで逃亡されないように注意しながら制圧してください。
D班はこの場で運ばれて来る連中を片っ端からバスへ押し込んでください。
今見た通り、村人は躊躇うとこちらに襲いかかって来る可能性もあります。躊躇わないで下さい!」

私の指示で大量殺人のあったこの村に運転手たちが散って行きます。

ふと、沙菜が気になって顔を見ると、私の撃った男が運ばれて行くのを見て放心していました。

だから今回は家で待っているように言ったんですけどね……

「お兄ちゃん……」

震える手で服の裾を掴んだ沙菜を抱きしめます。

そうしている間にも村人がバスへ押し込まれて行きますが、一人としてまともな思考が出来ている人間は居ませんでした。

「どう言う事なの?」

やれやれ、今回は指揮するだけでかたが付きそうですし、沙菜に今回の団体さんの事を話す事にしましょう。













今回の仕事はな、団体さんを連れていく事なんだ。

「……団体?」

そう、団体だ。

飛行機や船やバスみたいに大多数が死んだだけならもっと穏便に出来るんだがな、今回はレアケースだ。

宗教が絡んだ集団自殺だったりすると理性が無い連中が大量発生する。

普通ならこんな強引な事は出来ないんだが、こいつらみたいに狂った連中は合意の上で連れて行くなんて無理だ。

そう言った連中を強制連行するのが今回の仕事だ。

周りを山に囲まれた人里離れた村って言うのは色々と変な風習なんかが多くてな。

それが今回の引き金になったわけだ。

この村は20年に1度祭りが開かれるんだ。

「お祭り?」

そう。

だけど、普通の祭りじゃないんだ。

生まれた時から巫女になる事を定められた女を寄ってたかって孕ませるんだ。

「はらま……それって赤ちゃんを!?」

ああ。

数人の巫女を20年に一度盛大に犯すんだ。

もっとも、そんな神事を行う以上ここの村人は普段から発情期の獣なみでな。

父と子が同じ家に住んでても本当に血が繋がってるか分からないなんてざらにあったらしい。

逆に巫女は神聖なものだから、20年に1度祭りの時でなければ犯せない。

まぁ、例外もあってな、巫女から生まれた子供が男だった場合はその子を殺してもう一度孕ませるんだ。

だから、ずっと男しか生まなかった巫女がやっと女をの子を産んで……って事もあったから、祭りにお前より幼いまま参加した巫女も居たらしい。

「酷い……」

……聞くの止めるか?

「聞く!最後まで聞くよ!」

そっか……

で、巫女は自分の娘が5歳になったら村の奥に祭られてるご神体の前で神への供物として自ら命を絶つんだ。

子供は巫女として育てられて20年の周期が巡ってきたらまた祭りが繰り返される。

「この村の人たちは何でそんな残酷な事が出来るの?」

村人にとってはそれが普通だからだ。

「どう言う事?」

たとえば沙菜は友達と遊ぶ時にどう言った遊びをしてた?

「えっとね……家でおしゃべりしたり、買い物に行ったり……」

おっと、それくらいで良いぞ。

まぁ、普通はそんなもんだよな。

けどな、世界には戦争ごっこをして育つ国も有るんだ。

「え?それくらいなら男の子達がやってたよ?」

いや、もっと本格的なんだ。

子供同士で敵味方に分かれて銃に見立てた武器で殺し合いごっこをする。

しかもその国じゃ生き残ったら勝ちじゃないんだよ。

死んだ人間が勝ちなんだ。

「えっ!?」

詳しくは知らないが、敵と戦って死んだ人間は天国に行けるから戦って死ねって教えを子供の頃から受けるんだ。

だから平気で自爆テロをする。

そうして育てられると同じ人間でも……

例えば俺や沙菜がその国で育ったとしたら、今の俺達とは違って平気で人を殺したり周りを巻き込んで自爆したりするようになるわけだ。

教育って言うのは有る意味では洗脳と大差ないんだよ。

まぁ、だからって教育が必要無いわけじゃないけどな。

ここの村人にとってはソレが祭りだったわけだ。

物心つく前から繰り返されて来た事。

だから疑問に思わない。

そうして次の子へその教育は受け継がれる。

「変に思う人は居なかったの?」

普通なら子供のうちに大人が教育するし、それでも疑問を持つようなら殺される。

人里離れた村って言うのは有る意味結界だ。

外からそう言った人間が入ってきたりしても、殺されて犯人の分からない殺人事件が出来上がるだけだ。

「じゃあ、この村はどうしてこんなになったの?」

教育に疑問を持つ人間が現れたんだよ。

普通ならそんな人間殺されるんだろうが、その男は自分以外の村人が平然と行うその行為に疑問を持ちながらも教化されたふりをして育ったんだ。

そして、巫女に惚れた。

巫女は娘を産めば死ぬし、それ以前に他の男に抱かせたくは無い。

だからそうなる前に村人を全て排除する事にしたらしい。

その結果がこのバスってわけだ。

「男の人はどうなったの?」

意中の巫女以外の村人を全て殺して、今は巫女と逃亡中だ。

けど、幸せにはなれないだろうな……

「警察に追われるから?」

いや、巫女は祭りで孕まされて子供を産む事を教育されて育つ。

その教育のせいで俺達にとっての普通とはかけ離れた普通の考えを持ってる。

普通って言うのはその時々で形を変える曖昧なものだ。

だから男が逃げきれたとしても男が求める普通の恋なんて出来ないわけだ。




























明け方から始まった団体バスでの強制連行は夕方にようやく終わりを迎えました。

私達の普通からはかけ離れた宗教ですが、信仰の対象となっている神様もいらっしゃるようなら一度お連れするように言われていました。

なので、一応信仰の対象とされていたご神体を確認しました。

そこには神とは名ばかりのおぞましいモノが発見され、ソレに関しては上司の依頼で相応のお方が派遣されて処分を下す事になりました。

今日の強制連行に参加したメンバーには1週間の休みと特別手当が出るそうで、上司の元でその話を聞いた同僚達はみな喜んで帰って行きました。

私と沙菜も家へ足を向けてはいますが、その足取りは重い物です。

と言うのも、沙菜が今日見た悲惨な光景を忘れられず私から離れようとしないからです。

沙菜は気丈に振舞ってはいますが、数日は私から離れてくれないでしょう。

「ねぇ、今日バスに乗ってた人達はどうなるの?」

うつむいたまま沙菜が聞いて来ますが、繋いだ手は震えていますし、きっと泣くのを我慢しているんだと思います。

さて、どう答えたものでしょうか……

「きちんとしたこの世界の神様が運営する宗教に属した人間が死んだ場合は、その宗教にそって刑罰が決められる。今回みたいに邪神を崇拝してたり神とも呼べないまがいものを崇拝している場合は、専門の施設に送られるか、記憶を念入りに消されて転生させられる」

それ以外だと魂そのものを分割して動物やなんかに転生させられたり、魂を消滅させられる可能性もあります。

来るべき時が来て、それでも沙菜が知りたいと願えま教えますけど、今はまだ必要ないでしょう。


さてお時間となりました。

これから1週間で沙菜が元気になってくれると良いのですが……

では、またいつかお会いしましょう。















後書き……
久々に書いたら色々と酷い……


今回のテーマは『普通』
『普通』って難しいですよね……
2人にとって『普通』でも10人にとっては『普通』じゃない。
10人にとっての『普通』でも100人にとっては『普通』じゃない。
100人にとっての『普通』でも1000人にとっては『普通』じゃない。
1000人にとっての『普通』でも10000人にとっては『普通』じゃない。
10000人にとっての『普通』でも100000人にとっては『普通』じゃない。

とまぁ、エンドレスに続くわけですが、私は限定された人数の過半数を超える意見が『普通』だと思っています。
私にとっての『普通』とはそんな曖昧なものです。
子供の言い訳に多い「だって皆が!」と並んで曖昧だと思ってます。
まぁ、だから何だ!と聞かれたら答えに困るんですけどね……




最後に、作中の宗教はあくまで私個人がでっちあげた物で、実際に存在する物を参考にしたわけではありません。
何かの宗教と教義が似てたりして不快に感じた方はごめんなさい。
先に謝っておきます。
では。




2010年3月3日
麒麟さんの指摘で気付いた不備を色々修正しました。




[16943] 12
Name: 顔無◆0c3027e3 ID:979e69ab
Date: 2010/03/07 21:07
タクシー 12










「智子さんも首輪付けてるんだね」

今日乗せたお客さんは沙菜の言う通り、首輪をしています。

しかも沙菜がしているような腕輪を代用したモノでは無く本物の犬用の首輪です。

「これはね、弘樹さんとの思い出の品なのよ」

髪型もツーサイドアップで、沙菜が成長したらこうなってしまうのかと少々不安にもなります。

まぁ、死んでいる以上成長も何も無いんですけどね。

今日はそんなお客さんのお話。









こんな首輪してるけど、私は最初動物がきらいだったの。

「ふぇ?」

もちろん今は大好きよ?

弘樹さんは私にそのきっかけを与えてくれた人なの。

弘樹さんはペットショップの店員さんで、お店の中で働くその姿を見て好きになっちゃったの。

「それって、一目ぼれ?」

ふふふ、そうね。

一目ぼれ。

それから毎日ペットショップの窓越しに弘樹さんを見てたわ。

そこで売られてるペットなんて見もしないでね。

それを見た弘樹さんは、私が動物が大好きだって思ったらしいの。

「犬が好きなのかい?」そう言われてつい勢いで「はい!」って答えちゃったの。

それから毎日ペットショップに通って、ついに……

「告白したの?」

ふふふ、まだよ。

ペットショップに通って、ついに動物嫌いだって言うのがばれちゃった。

何時もは囲いに入ってる大型犬がその日に限って外に出てたの。

ペットショップの入り口をくぐってすぐに飛びかかられちゃって……

その場で気絶しちゃった……

「……弘樹さんに嫌われちゃったの?」

ふふふ、心配しなくても大丈夫。

目を覚ました私は動物嫌いを克服するために通ってる事にしたの。

それからは犬の散歩をしたり餌やりをしたり、ボールで遊んでみたり、いろいろチャレンジしたの。

けどね、散歩をすれば引きずられて傷だらけになったし、餌やりをしたら体中ぺろぺろなめられちゃって……

ボール遊びの時が一番ひどかったかな?

遊ぶつもりが遊ばれちゃって、気付いたらパンツ脱がされちゃってたの。

「はぁ!?」

「お兄ちゃん、や~らしい想像禁止!」

「いや、してないから!純粋にどうすればそうなるのか気になっただけだから!」

動物嫌いの人間に限って動物に好かれちゃうのかしらね。

そのたびに弘樹さんが助けてくれたんだけど、くやしくって。

いつの間にか弘樹さんのために通ってたペットショップに動物と仲良くするために通い出してたの。

失敗しては弘樹さんに助けてもらって、何とか普通に動物を触れるようになった時、この首輪をお祝いにもらったの。

別に、沙菜ちゃんみたいに俺のものだ!とかそう言った意味で貰ったんじゃないんだけどね。

「いや、違うから!違いますから!」

「そうだよ!これは私がお兄ちゃんに買ってもらって自分で付けたの!」

あら!

だったら一緒ね。

首輪はそのペットショップで一番仲良くなれた大型犬に付ける為の新しいものだったんだけど、ついつい出来心で自分の首にはめちゃったの。

冗談で「似合いますか?」って聞いたらお持ち帰りされちゃった。

「お持ち帰り?一緒に帰ったって事?」

ええ、そうよ。

後で聞いたら「髪型だけでも犬耳みたいで可愛かったのに、首輪を付けられたら反則だ!」だって。

ペットショップを覗いてる時から私の事好きだったらしいの。

「最初っから両想いだったんだね」

ふふふ、そうね、ずいぶん遠回りしちゃったけど、今は動物も大好きになれたし、良い思い出よ。

























帰り際に沙菜がペットが見たいと言うので寄ったのですが、2人とも家を開けるんですから飼いませんよ?

「にゃはは、そんなの分かってるもん!ただ見たいだけだよ!」

分かっていれば別にいいんですよ。

「あ!この犬可愛い!」

「おや?御嬢さんは犬が好きなのかい?」

店員さんがすかさず話しかけて来ます。

「いや、今日はこの子が見た言って言うんで寄っただけなんですよ」

先に釘をさして、動物を押し売りされないようにします。

「ははっ、構いませんよ。これは趣味でやってるようなもんですから」

沙菜がキラキラした目で動物達を見る姿を懐かしそうに見る店員さんは、沙菜では無く別の誰かを見ているようでした。

「沙菜がどうかしましたか?」

「ええ、まるで妻の若いころを見ているようで……」

店員さんの言葉を聞いて沙菜がこちらに駆け寄って来ます。

「それって、もしかして……」

沙菜が話の確信に触れようとした時、ちょうどペットショップの入り口が開きました。

「こんにちは、こちらに弘樹さんと言う……きゃ!」

奥から駈け出して来た大型犬が智子さんにのしかかります。

「も~何で私はこう言う歓迎しか受けないのかしら?」

「と、智子!?」

犬をどかして立ちあがった智子さんを見て店員さんが驚きます。

「お久しぶりです、弘樹さん。今日から一緒に住まわせて下さい」











やれやれ、前回の事で落ち込んでいたのでどうなるかと思いましたが、沙菜が元気になって良かったです。

その点では智子さんに感謝しないといけませんね。

……ただ、帰り際に結成された首輪同盟って何ですか?

すごく不安になるんですけど……


さて、お時間となりました。

明日はどなたにご乗車いただく事になるのか・・・

では、またいつかお会いしましょう。

















後書き
うん。
原点に返って綺麗な話でまとめてみました。
やっぱり変な波乱が有るより書きやすい……ような気がしない事もないと思いたいと思う。




[16943] 13
Name: 顔無◆0c3027e3 ID:979e69ab
Date: 2010/03/09 18:58
タクシー13








俺の名前は匠(たくみ)夢破れてアルバイトに明け暮れるただのおっさんだ。

今日は新聞配達の途中で出会った女の子の話をしようと思う。

最初はジョギング中の女の子とあいさつをする程度だった。

年のころは中学生くらいだろうか?

髪の毛をポニーテールに結んで規則正しく揺らすその姿はフォームを抜きにすれば綺麗だった。

ただ挨拶を交してすれ違う。

それがしばらく続いた有る日道端でうずくまる女の子を目にした。

「あっ……。お、おはようございます」

どうやら足を強く捻ったようで、立ち上がるのも困難なようだ。

「おはよう。足捻ったのか?」

「い、いえ!そんな事は無いですよ?」

確認のために一応聞くと、必死に否定して立ちあがろうとし始めた。

やれやれ、俺はそんなに不審人物に見えるんだろうか?

「嘘付くな。立てないんだろ?」

それからしばらく押し問答をして、女の子を家まで送って行く事になった。

新聞配達が終わった後で良かったよ。

玄関先まで送り、後は家族に任せようと思ったのだが、女の子の家族は今家に居ないそうだ。

なるほど、これならかたくなに俺の助けを拒む筈だ。

リビングまで上がらせてもらい、治療を施す。

「おじさん手慣れてるね」

治療が開始されるまで、何処か恐怖を含んでいた雰囲気が和らいだ。

「ああ、昔野球をやっててな」

「おじさん野球してたんだ……ポジションは?」

「ピッチャーだ」

それからしばらく野球の話で盛り上がった。

女の子の名前は紫乃(しの)と言って、あと1年もすれば高校生になるそうだ。

高校に入学したらプロの女子野球でピッチャーを目指す!そう言った紫乃は輝いていた。

「しかし、今の走り方は直した方が良い。また怪我をするぞ?」

「え~!そんなに変だった?」

教師陣に恵まれないのか、その事を自覚していなかったようだ。

その日から、俺にとってのコーチ生活が始まった。







バイトの合間を縫っては紫乃のトレーニングをする。

元々有った才能が空回りしてたのが俺の出会う前の紫乃。

俺が出会ってからの紫乃は、飛躍的にその力を開花させて行った。

紫乃はトレーニングを楽しみ、俺は紫乃の成長を楽しんだ。

その楽しみはいつの間にかトレーニング以外のプライベートな部分も及んだ。

「落ち付け……たかがラブホじゃないか……」

自分に言い聞かせるが、紫乃がシャワーを浴びる音が妙に艶めかしく聞こえ、再び混乱を増長した。

別に俺達がそう言う関係になった訳じゃない。

ただ単にちょっとした事故があっただけだ。

久々に車を出して遠出をした帰りに、山道で交通事故に巻き込まれた。

ぶつかって来た車は若い男女が乗っていて、今俺達が居るホテルに入るつもりだったらしい。

それが、カーブを曲がり切れずに対向車線に居た俺達の車を巻き込んでホテルにぶつかったわけだ。

つまり、ホテルで突っ込むつもりが、ホテルに突っ込んだ……と、言う訳だ。

巻き込まれたこっちは良い迷惑だ。

怪我らしい怪我は無かったものの、丁度ジュースを傾けていた紫乃は頭から被ってしまった。

警察呼んだり、ケータイで先に現場を動かす前の写真を撮ったりと大忙しだった。

車は自走不可能でさっきレッカーに引き渡した。

このまま紫乃がジュースまみれだと気持ち悪いだろうし、タクシーにも乗れない。

だから高いホテル代を払って紫乃がシャワーを浴びているのが現状だ。

「……あの」

トレーニング用に彼女が着替えを積み込んでいてくれて助かった。

「……匠さん?」

しかし、こんな事ならもっとサービスの良いレッカー会社と契約しとくんだった。

「……やっほ~?聞いてる?」

レッカー代もばかにならないからな……

「お~い!」

バスタオルだけを身に纏った紫乃が目の前で手を振る。

「いや、聞いてる。って言うか見えそうだから隠せ!」

「ぶ~、だったら返事してよ~!」

甘えるように近づいて来るが、手で制した。

「何で服を着てないんだ?」

「え?ここはそう言う事する場所でしょ?」

いや、そうなんだが、紫乃は分かって言ってるのか?

「ひょっとして匠さんヤった事が無いとか?うわ~その年でまだ童貞なの?」

ブチ!

あ~もう切れた。

止めてって言ってももう遅いからな?

結局タクシーを呼んだのはそれから1時間以上後の事だった。







アレ以来紫乃とは会っていない。

高校受験で疎遠になったと言う見方もあるが、アレが紫乃なりのけじめだったんだと思う。

俺は相変わらずアルバイトを転々としている。

立ち止まってしまった者と進んで行く者……前者が俺で後者が紫乃。

そんな俺が紫乃と再会したのは夏の暑い日の事だった。

電話口で泣きながら会いたいと言う紫乃が心配で、俺は彼女の家へ急いだ。

相変わらずこの家には紫乃以外の気配が無い。

カーテンを閉め切り、明りの一切灯されていない部屋へ入ると紫乃の消えてしまいそうな声が聞こえた。

「匠さん……」

俺の胸にすがりついて泣く姿を見て何か有った事だけは分かるが、ソレが何かまでは分からない。

抱き寄せた紫乃の背中をなで続け落ち着いて来たのを確認する。

「何が有った?」

俺の問いに逡巡する紫乃だったが、少しずつはなし始めた。

内容はこうだ。

昨日ピッチャーの先発を任された紫乃は順調なピッチングを続けていた。

しかし、それは試合が後半になってから起こった。

捕手と合わなくなったと言うのだ。

捕手は紫乃が苦手としていた内角高めを投げろと言いだしたらしい。

一度タイムを取り、自分がそこを苦手としていて練習もまだ不完全だと説明したのだが、どうしても勝ちたい捕手兼キャプテンは紫乃に投げる事を強く望んだ。

それでも投げたがらない紫乃に苛立った捕手は部室へ紫乃を連れて行った。

そこでは監督と控えのピッチャーが繋がっていたそうだ。

「あまりキャプテンの言う事を聞かないようなら、俺が調教するぞ?」

そう言って脅された紫乃はそうされたくない一心でマウンドに立った。

精神的に追い詰められた紫乃は、連投をさせられて……

ヘルメット越しとは言えバッターにデッドボールを決めてしまったと言うのだ。

「私、どうしたら良いの?」

泣きつかれて寝てしまった紫乃をベットに横たえて考え込む。

監督が選手を?

そこまでなら有り得なくも無いが、それを見せ付けて紫乃に無茶な要求をする。

本当にきちんとした監督なのだろうか?

俺は確認のために昔の仲間へ電話をかける事にした。







翌日紫乃は何でも無い姿を装って登校して行った。

痛々しいにも程が有る。

登校した紫乃は授業を受け、部活へ参加した。

キャプテンと共にボールをぶつけてしまった選手へ謝りに行って……

謝りに行く二人をつけていた俺は一部始終と言わないまでもそれにかなり近い感じで見ていた。

落ち込んだ紫乃を慰めるその姿はキャプテンとして相応しいが、俺はソレを評価する気は無い。

ただ一言彼女が紫乃に言ってくれればそれで良い……

それが無ければキャプテンどころか選手としても最低だ。

その後も尾行を続けたが、結局彼女は紫乃にその一言を言う事は無かった。

その日はそこで解散。

彼女が完全に見えなくなった所で俺は紫乃に合流した。

「言った通りだっただろ?」

俺の一言に紫乃は力なく頷いた。

「俺は明日監督とやらに話をしに行く。見たくなければ明日の部活は休め」

それだけを言って俺はその場を後にした。







「紫乃がずいぶんと世話になったらしいな?」

グラウンドに乗り込んだ俺は、威圧感たっぷりにキャプテンを睨みつけながら言った。

「何の事だか分りかねますが、ここは部外者は立ち入り禁止ですよ?」

いきなり乗り込んで来た俺とキャプテンのやり取りに、周りの部員を始め下校中の生徒が成り行きを見守っている。

好都合だな。

これだけ見ている人間が居れば証人に事欠かない。

「早く出て行かないと警察を呼びますよ?」

後ろから気取った男の声がかかる。

下巣が!

昔から何も変わっちゃいないようだ。

「警察を呼ばれて困るのはどっちだ?」

俺の顔を見て男の顔が引きつった。

「こうして顔を見るのはお前が俺の効き腕をへし折って以来だよな?」

「ひ、人違いじゃないか?」

言い逃れをしようと必死に否定するが、昔の野球仲間から情報はしっかりと入って来ている。

「とぼけるなよ。お前は最後の甲子園で自分がマウンドに立つ為に、練習に見せかけて俺の腕をバットで強打した」

わざわざ周りに聞かせるように言った俺の言葉に観客達の視線が集まる。

それはそうだろう。

甲子園で投手として活躍した実績を買われてここの監督になったんだからな。

「まぁ、それは今どうでも良い事だ。今日はな、俺が育てて来た紫乃についてだ」

会話の主導権は握った。

後は全てぶちまけるだけだ。

「さて、キャプテン。この男に何をされて何を吹きこまれたか知らないが、紫乃の苦手な内角高めを集中して投げさせたらしいな?」

「あ、あれは勝つための作戦です!」

かかった!

「作戦?作戦って言うのは、紫乃が逆らわないようにこの男が言った調教がどうとか言う話か?」

「っ~~~~~!」

言い返したくてもこれで言い返せないだろう。

この男も馬鹿な事をしたもんだ。

紫乃が母子家庭で看護師の母親が普段家に居ないからバレ無いとでも思ったのだろうか?

「精神的に追い詰められた紫乃は、バッターに怪我をさせた。ソレに対して一緒に謝りに行ったのは評価しても良いだろう。ただ……」

「だったら別に良いじゃありませんか!!一緒に謝りに行ってそれ以上なにが不満何ですか!?」

逆切れか?

捕手にしては我慢強さが足りないな。

「ただ一言君が紫乃にごめんなさいと言ってくれればまだ救いは有った。しかし君は、紫乃に無理をして投げさせた挙句、その責任の殆どを紫乃に押し付けた!それが不満だ」

そう、彼女は一言も紫乃に謝っていないのだ。

「その不満さえ無ければ、俺はここに現れる事は無かった。この男が監督として部員に手を出していたとしても、君が自分の思いを優先して試合中強引なリードをしたとしても、それはただ入った部が悪かったと紫乃を慰めて終わるつもりだった!!けれど紫乃にのみ負担を背負わせようとしたお前らの行いは見過ごせない!」

この男に対してはまだ言い足りない部分は有ったが、観客の入りは上々。

これで野球を侮辱するような行為を働いたこいつはこのでの立場を失うだろう。

紫乃もここには居ずらくなるだろうが、プロを目指すんだったら他にもやりようは有る。








「匠さん!」

学校を後にして紫乃の今後について考えていると俺を呼ぶ声が聞こえた。

練習にも参加せず、隠れて成り行きを見守っていた筈の紫乃だ。

「カッコ良かったですよ!」

自分が野球部に居られなくなるかもしれないと言うのに呑気なものだ。

「そ、それは匠さんのおかげだよ!」

はは、ほめても何も出ないぞ?

「ボール取って下さい!」

川沿いに作られたグラウンドから少年達の声がする。

足元を見てみると、軟式のボールが転がっていた。

ホームランボールか……なかなか良いバッターが居るみたいだな。

「私が投げようか?」

ボールを拾い上げた俺に遠慮がちに紫乃が言った。

まぁ、紫乃には肩が故障して投げられなくなったって言ってるからな。

正直そう言う心配をしてくれるのは嬉しいんだが……

「いや、リハビリも兼ねて丁度いいだろ?」

思っても居ない事を口にしながらキャッチャーめがけてボールを投げる。

「え!?」

それは少年達の声だっただろうか?

それとも紫乃?

だれの声か分からないその声が上がったのは、キャッチャーミットにボールが吸い込まれて快音を立てた後だった。

「っう~!やっぱり急に投げるもんじゃないな……」

「あれ?……え!?匠さんは投げられない筈で……でも、今?」

痛む肩を回しながら紫乃の百面相を眺める。

混乱するその様が面白い。

これだけで、無理をして投げた甲斐があったと言える。















「とまぁ、俺の昔話はこんな所だ」

「その後どうなったの?」

話の続きが気になるのか、沙菜が後ろの席へ振り向きながら聞きます。

「なんだ?続きが気になるのか?」

沙菜の声は目的地に付いたために、下車しようとしていた匠さんの動きを止めました。

「沙菜、無理を言うもんじゃないぞ?」

まぁ、私も紫乃さんや匠さんがその後どうなったのか気になってるので強くは言えないんですけどね。

「はっはっは、悪いがもう時間なんでな。続きはまた今度だ」

そう言って匠さんは沙菜にボールを渡してスタジアムに消えて行きました。

選手としてそこへ向かったのか、それともただ観客としてなのか、ソレは分かりませんが今回はここまでのようです。

沙菜が受け取ったボールはまた乗車した時に話をするための映画で言う所の半券と言った所でしょうか?

やれやれ、またタクシーに荷物が増えてしまいました。

たまに居らっしゃるんですよ、思い出の品などをこのタクシーに置いて行かれるお客さんが。

ダッシュボードへ仕舞い込み、次のお客さんを求めて車を走らせます。


さて、お時間となりました。

次はどなたにご乗車いただく事になるのか・・・

では、またいつかお会いしましょう。










後書き
ホテルで突っ込むつもりが、ホテルに突っ込んだ。
これが言わせたかった。
もう5年以上前の話ですが、夜遅くに友人から電話がかかって来ました。
何事かと思えば、デートで高ぶってホテルへ行こうと峠を飛ばしていたら、ホテルにぶつけたと言うんです。
そこで私が電話越しに言った一言がコレ。
「つまりアレですか?ホテルで突っ込むつもりが、逆にホテルに突っ込んだ訳ですか?」
すかさず「誰がうまい事を言えと!?」と帰って来るあたり結構余裕あったんでしょうね。
今でも時々思い出しては笑ってしまう事があります。
警察の人もレッカーの人もラブホへ出動とかどうなんだろう?
しかも自動車保険の人は場合によっては何回もラブホへ行ったりしないと行けないんじゃないのか?
友人のせいで恥ずかしいにも程が有るでしょそれは?
なんてね……



[16943] 短編 1
Name: 顔無◆0c3027e3 ID:979e69ab
Date: 2010/03/02 20:00
サバイバル





「…」
俺の名前は東雲・京介(しののめ・きょうすけ)15歳。
高校受験を目前に控えた平凡な中学3年生。
昨日は自分の部屋で受験勉強をして、その後疲れに任せて眠ったはずだ。
そのはずだった。
それが、なんで?
なんで、気がついたら廃墟に居るんだ?
廃墟とは言ってもそこには見覚えはあった。
自分の部屋だ。
…夢、なのか?
そう思ったけれど、チリやホコリがもたらす異物感でこれが現実だと思い知らされる。
これが、現実?
だとするなら、昨日までの現実が夢?
…胡蝶の夢か。
「…って、いつまでも現実逃避してる場合じゃ無いな」
これが現実だとするなら、まずはサバイバルに適した服を探さないと。
まずはクローゼット。
「っ!」
ガタガタの扉を力任せにこじ開けて、俺は息を呑んだ。
普通、自分の所持した覚えの無いものが部屋にあったらだれでもこうなるだろう。
しかもそれが…。
「…デザートイーグル50AE!それにこっちはFMP90か?」
本物の銃器だったら。
「しかもバリバリにカスタム化してあるし!」
でも、なんでこんな所にあるんだ?
まさか親父が基地から持って帰ったのか?
「…」
あり得る…。
ミリオタが総じて自衛官にまでなった筋金入りのミリオタだ。
あり得ないとは言い切れない。
だいたい、息子に向かって銃器の説明を延々とする親が日本のどこに居るんだよ。
「悪いがハズレだ。それに、親父をあまり責めない事だ。その知識のおかげで、これから生き抜く事が出来るんだからな」
「おわっ!」
目の前に突然現れた男に驚いた俺は、今まで見ていたデザートイーグル50AEを床へ落としてしまった。
「おそらく始めて見る立体映像に驚いているだろうが、今は時間が無い。今お前が置かれている現状について手短に説明する」
「現状について?」
立体映像と言う言葉に驚いたが、今はそんな事よりも自分が今どう言う立場に居るのかを把握する必要がある。
「今お前が置かれた現状だが、はっきり言おう。ここは平行世界と呼ばれるものの一つだ」
…平行世界?
「この世界は今、大規模なバイオハザードによって壊滅状況にある。そんな世界になぜお前が居るのかと言われれば、俺もいまだに判らない。なにせ俺は、5年後のお前だからな」
「5年後!?ちょっと待てよ!それ、どう言う事だ!」
言われて見れば面影がある。
けれど、それを即座に受け入れられるかと言われれば答えは否だ。
「悪いが、ただの記録映像に怒鳴ってもなにも起こらないぞ。この映像と銃器各種はお前が生き抜くために俺が未来から送った品だ。混乱しているだろうがこれが現実だ。受け入れろ」
…受け入れるしかないのか?
この現実を?
認めたくない。
けど…。
認めなきゃ先へは進めない。
「そのクローゼットには、銃器の他にサバイバル用のバックパックなんかも入っている。
装備の説明をしてやるからとっとと着替えろ」
言われるままにごつごつとしたプロテクターとブーツで身を包む。
黒く染め上げられたそのプロテクターとブーツは、プロテクターと言うよりファンタジーに出てくる鎧と言った方がしっくり来る。
「そのプロテクトアーマーは内側からは伸縮自在で動きの邪魔はしないが、外からの衝撃はある程度防ぐ事が出来る。しかも外からの衝撃には光学障壁を張る事も可能だ。障壁の展開はただ念じれば良い。ただし、今お前が付けた左腕のガンレットが発生装置になっているから、それが壊されたりエネルギーが切れたりしたら障壁が展開できなくなるから気を着けろ。エネルギーはガンレットに表示されているはずだ」
ガンレットを見ると98%と言う数字が目に入った。
おそらくこれがエネルギーの残量だろう。
「土壇場で使えないと困る。展開してみろ。ファンタジーなんかのバリアをイメージすればいい」
言われた通りにイメージをしてみるが、何もおこらない。
「展開しない時は声に出すのも一つの手だ」
「早く言えよ!かなり恥ずかしいじゃねえか!」
ただの録画映像と分かっていても叫んでしまう。
それほどに恥ずかしかった。
けど、声に出すのも何か恥ずかしいな…。
「…障壁展開!」
やけくそ気味に叫ぶと、目の前に青白く光る壁が展開した。
「エネルギーはソーラー発電だから時間をかければ回復するが、一回の展開でかなりのエネルギーを消費するから気を付けろ」
ガンレットを確認すると数字がすごい勢いで減っていく。
「障壁を解除するときは、イメージを止めれば良い。さて、いよいよ時間が無くなってきた。とっとと装備の説明をするぞ。まずはアサルト系のF2000。これがアーマーと一体型のバックパックに装備されたマニピュレーターに連結する事で片手撃ちが可能なように作ってある。通常移動もマニピュレーターに装着しておけば落とす事は無い」
半信半疑で、重量3.6kgもあるF2000を背中に近づけると、急に腕から重みが消え、背中が地面へ引っ張られた。
2丁有るって事は、もう片方にも着けろって事だよな…。
「飲み込みが早いな。そのための左右対称銃だ。次はサブマシンガンのFNP90を腰側面に近づけてみろ」
言われた通りに近づけると先ほどと同じようにアーマーの一部からマニピュレーターが出現してFNP90を固定した。
「固定したか?次は、ピストル系の最高峰とも言えるデザートイーグル50AEだ。こいつは腰の後ろで固定出来る。それと材質は忘れたが、ダマスカスのナイフが2本。これは胸に装備しろ。後はアーマーの構造上装備出来ないが、アサルト系のH&KXM290ICWを1丁手に持てば銃は装備完了だ」
言われたとおりに木目模様とも見て取れる模様が浮かんだナイフを胸当てと一体化したサヤへ収める。
アサルト系のH&KXM290ICWを肩に担ぎ上げて装備は完了したわけだが、俺はここで疑問に思った。
デザートイーグル50AE約2kg×2、サブマシンガンのFNP90約1.6kg×2、F2000約3.6kg×2、H&KXM290ICW約5.5kg×1…。
総重量20kg以上。
…重いはずなのにそれを一切感じない。
まるで昨日とはまったく別の体を使っているようだ。
「重さを感じないのが不思議か?」
疑問に思っていた事を即座に答えてくれる。
「悪いが、それに関しては未だに分からない。ただ、これから生き抜くにはまだ不十分だ。
鍛錬を怠らないように心がけろ」
…鍛錬って、どうするんだ?
「それくらい自分で考えろ」
つまり、自分もそうしたって事か…。
「それと、ここからが重要だからよく聞け、今まで言った装備には、障壁のエネルギーを利用して弾速を加速するレールガン、もしくは切れ味を増すように改造してある。こいつもイメージで通常と使い分けられるが、撃つ時は覚悟して撃て」
モンスター級の化け物だな…。
こんな装備を持たせて、一体なにをさせようって言うんだ?
「きゃあぁぁあああああぁぁ!」
近くで聞き覚えのある悲鳴が聞こえる。
「時間のようだな。最後に一つ頼みがある。この記録装置を5年後にある場所から過去へ送ってくれ、地図は中に記録してある。そして、俺がそうしたように過去のお前を助けてくれ。頼んだぞ!」
一方的にまくしたてるように消えた立体映像の投影装置をサバイバルキッドの中へ押し込むと、俺はためらう事無く窓から飛び降りた。




2回から飛び降りた衝撃で足が痛むかと思ったが、ブーツが衝撃を吸収してくれたらしく、痛みはほとんど無かった。
だが、ブーツの性能に感心している場合じゃない。
あいつが、亜佐美がこんな大声で悲鳴を上げるなんてただ事じゃ無い。
「邪魔だ!」
道路を挟んでお隣に位置する家の扉を、俺は勢いに任せて蹴破った。
蹴破った勢いをそのままに、あの人の部屋へ駆け込む。
「Guruuuuuuu!」
駆け込んだ先で俺が見たものは、鬼を思わせる異形に襲われている亜佐美だった。
「亜佐美!」
声に反応して化け物と視線が俺に向いた。
俺の幼馴染にして片思いの相手、3つ年上の杉本・亜佐美(すぎもと・あさみ)。
その恐怖に満ちた眼差しで、異形が敵だと再確認する。
異形の鋭利な爪で裂かれたのだろう服から、うっすらと血の筋が見える。
「伏せろ!」
言うと同時に、異形へ向かってH&KXM290ICWの通常弾を打ち込む。
生まれて初めて撃った弾丸は、轟音と共に異形の胸へと吸い込まれた。
「Goooooooo!」
弾丸をまともに受けた異形は大量の体液をぶちまけたものの、倒れる様子は一切なかった。
「京くん!」
弾丸を撃ち込んだ時は伏せていたはずの亜佐美さんが、俺の後ろから声をかける。
昔から無駄に要領の良いこの人の事だ、驚くよりも先に安全を優先したんだろう。
けれど、それは俺にとっても最も安全を手に入れられる結果となった。
「女の肌に傷を付けて、ただて済むと思うなよ!!」
振るわれた異形の腕をかわして、H&KXM290ICWのレールガンをフルオートでぶち込む。
その振動は、筋力が異常にあがったはずの腕をいともたやすくもてあそび、異形を中心とした部屋中に10円玉くらいの穴を無数に開けた。
巨体がゆっくりと膝を折り、仰向けに倒れてゆく。
「Guroooooroooo!」
断末魔。
最初はそう思った。
けれども、異形に開いた穴がゆっくりと塞がってゆくのを見て、俺の背中に寒い物が走った。
「亜佐美、逃げるぞ!」
亜佐美の手を引いて一気に駆け出す。
逃げて、逃げて、逃げて…。




あれからどれだけ走ったのか分からない。
最初に出会った鬼のような異形以外にも、4足歩行をする異形や鳥の異形が襲い掛かってきた。
幸い再生する異形はあれ以来居なかったが、それでも全てを相手にするわけにはいかない。
弾に限りがあるからだ。
「はぁはぁはぁ…」
手を引かれながら走る亜佐美からは、絶えず荒い息づかいが聞こえてくる。
「ここで少し休もう」
限界がきたのだろう。
丘の上に位置する建物の前で座り込んでしまった亜佐美にそう促す。
建物によりかかって休む亜佐美を気にしながら、辺りに敵が居ないか確認していく。
「京くん…」
建物の周囲をだいたい確認した後、亜佐美の横に座ると、消え入りそうな声で亜佐美が話しかけてきた。
「どうかしたか?」
鬼のような異形によって付けられた、亜佐美の傷を治療しながら聞き返す。
右腕の肩口が薄く切れているだけだが、こんな世界だ。
放置して、どんな影響が出るか分からない。
「…京くんは、京くんだよね?」
「………」
この一言で動きが止まってしまった。
今更ながらにここが平行世界だと思い知らされる。
この世界での俺が、亜佐美にとってどういう存在なのか知らないまま、当然のように亜佐美を呼び捨て、当然のように怪我の治療をしている。
京くんと言う呼ばれ方からして、この世界の俺も亜佐美と幼馴染なのかもしれない。
けれど、細部にわたって同じ関係とは限らない。
「私ね、昨日までは京くんのお弁当作って受験勉強して、寝たはずなのに…」
…亜佐美も俺と同じなのか?
だとすると…。
「それが朝起きたら、未来の私からここが平行世界だって言われて…。私…私…」
今まで張り詰めていたものが、話をする事で一気に緩んだのだろう。
亜佐美は話の途中で泣き出してしまった。
「安心しろ。俺も朝起きたらこの世界に居たんだ。多分、年下で生意気なお前の知ってる京介だよ」
再び治療を始めながら亜佐美に言い聞かせるように言う。
「京くん!私達一体どうなるの?」
「大丈夫だ。少なくとも5年先までは生きている」
抱きついてきた亜佐美の背を撫でながら出来るだけ優しく言う。
実際は生きていける保障なんて有りはしない。
今この瞬間、俺達が死んで新しい平行世界が作られるかもしれない。
けれど、俺は、俺達は生き抜いてみせる!
例えこの世界に荒廃した大地しか存在しないとしても!
この、俺の中で震える年上の幼馴染が居てくれるなら、俺は不可能すら可能にしてみせる!






後書き


最後の更新が2000年でストップしていたかなり昔に書いた作品です。
最後の更新は誤字脱字を数か所訂正しただけ……
確か、ペルーの大使館が襲撃された年に書いたような気がします。
取りあえず主人公に持たせたい武器を持たせたらこうなった……
最初はただゾンビから逃げるだけの話が、途中で飽きて急遽短編へクラスチェンジした作品です。
あの頃は若かった……




[16943] 短編 2
Name: 顔無◆0c3027e3 ID:979e69ab
Date: 2010/03/02 20:01
鳥籠



私が入れられた鳥籠の前をズシズシと言う音を響かせながらロボットが歩いています。
3m近くある体を折り曲げ鉄格子の向こうを歩く姿は、まるで大昔に存在したゴリラのようです。
小さいころに見た映像で、胸をたたいて相手を威嚇するといっていましたが、あのロボットはどうなのでしょう?
そう考えると、ロボットが少しおかしく思えてきました。
「ふふふっ」
私の笑い声が聞こえたのでしょうか?
今までただ黙々と歩いていたロボットが立ち止まり、私を凝視しはじめました。
そして私も、ロボットから・・・。
いいえ、赤く鋭い目をした彼から目が離せませんでした。
彼は何も言わずただ鋭い視線で私を見つめ続けていました。



闘技場の客席という客席から声が聞こえてくる。
だが、今俺を称えているその声に、俺自身は何も感じていない。
俺にとっては勝利が全てであり、勝利こそが俺の生き残る唯一の方法だ。
だからこそ俺は。
「殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!」
もはや生きているかも疑わしいソレに向かって拳を構えた。
俺の思考に合わせ、ガンレットが展開し、銃口が現れる。
そして、躊躇わず発射された弾丸は、ソレを中心の火柱を作り上げた。
再び上がる歓声を背に、俺は闘技場を後にした。
「ひひひっ。また勝ちなすったか。しぶといのぅ」
嫌らしい笑みを浮かべて老人が金貨の入った袋を差し出す。
並みの人間を鷲掴みに出来るほど巨大な手で袋を受け取ると、袋の重量に違和感を感じた。
「いつもより多いようだが?」
「ひひひっ。この闘技場の最高ランクへ挑戦したんじゃ、これぐらい問題ないじゃろう。むろん飯代は引いてある。その金は好きに使うがええ」
老人はその言葉を最後に話は終わったとばかりに、杖を突きながら歩き去ってゆく。
相変わらず必要外の言葉は発しない老人にため息をつきつつ、俺もあてがわれた部屋と言う名の牢獄へ脚を・・・。
「おぉ、忘れる所じゃった。主の部屋は今日死んだ奴が使っとった部屋へ引越し中じゃ。引越しの間、町に出てみたらどうじゃ?」



俺の歩みに平行して奴隷を積み込んだ車が走ってゆく。
何処から来たのかわからない。
そんな女達を乗せた車はこの先の広場で止まり、奴隷市を始めるのだろう。
千年前より続く魔械戦争によって名前すら忘れられたこの国だが、闘技場を中心として栄え、奴隷を売るのも買うのも問題無いほどに貧富の差が存在する。
そんな国だからこそ、奴隷商人がこうして出入りを繰り返す。
「ふふふっ」
哀れみの視線を向けぬようにと、顔を逸らしていた俺の耳に、鳥のさえずりを思わせる笑い声が聞こえた。
面白い奴隷も居たものだ。
大抵の奴隷は売られた事を嘆き悲しみ、何処へ売られてゆくのかを思い、又嘆き悲しむ。
だが、俺の目の前に居る奴隷は少し違うようだ。
黒髪を風になびかせ笑う様は、整った顔の作りとあいまって気品を感じさせる。
こちらの視線に射すくめられたのか、黒髪の女は俺から視線を外す事が出来ずに居た。
さしずめ籠に入れられた小鳥と言った所か・・・。
面白い。
ここで出会ったのも何かの縁だ。
誰に売られ、どんな運命を辿るのか見届けさせてもらおう。



「さてお立会い、本日この場にお集まりの皆様は、翼有人をご存知でしょうか?」
翼有人、懐かしい響きだ。
確か彼らは魔法系統に属するもの達の手で作り出された人間と鳥のキメラだ。
千年前の開戦当初には数多く量産され、魔法を駆使して戦闘機と互角に渡り合っていた事を記憶している。
千年経った今では知りうる者も皆無に等しいが、まさかこんな所で再び逢う事になろうとはな。
「エステル、脱げ!」
奴隷市の主人に強要されて黒髪の女、エステルがそれまで着ていたローブを脱ぎ捨てた。
とたんに低いどよめきが辺りを支配した。
エステルはローブの下に何も着ておらず、その白い肌に一糸纏わぬ姿で観衆の目を引いたのだ。
だが、俺が注目したのはそんな事ではなく、彼女の黒髪と対照的な純白の翼だ。
「ご覧の通り、翼有人とは翼を持つ魔物の事で、このエステルこそが、その翼有人なのです」
俺の周りではエステルの美しさに目を奪われた者達が、競りに参加している。
だが、俺はそれどころでは無かった。
マモノ?
魔物だと?
欲望に身を任せる貴様達の方がよほど魔物であろう!



私の目の前に、人の波が出来上がります。
そして私は、人買いの指示に従ってローブを脱ぎました。
顔には出ないようにしていますが、やはり人前で裸になるのは恥ずかしいです。
それに檻越しに見える人の目は、何かに取り付かれたような恐ろしいモノがあります。
私はこれからどうなるのでしょう?
今更ながら、不安になってきました。
「もういらっしゃいませんか?いらっしゃらないようでしたら、そこの紳士的な方にお売りいたします」
人買いの言葉にハッとなって視線を向けると、そこには到底紳士には見えない、嫌らしい目つきをした小太りの男が立っていました。
「こんにちはお嬢さん。私が君のご主人様だよ」
鳥籠の前まで移動してきた男の脂ぎった手が、私の腕を撫で回します。
嫌。
嫌です。
私こんな人に・・・
「待て!!」
思わず口を開いて言ってしまいそうになった私より先に、低い、けれど優しさを秘めた暖かな声が聞こえてきました。
「おや、警備用のゴーレムかと思っていましたが、お客さんでしたか」
人買いの言葉につられ、嘲笑を漏らす人が数人いましたが、彼はそんな言葉に構わず、こちらを目指して歩いてきます。
その大きさのため、広場の隅でこちらを見ていたことには気づいていましたが、まさか彼が声をかけてくるなんて思いもしませんでした。
「サウザント・デーモン」
私に触っている小太りの男が震えながら言いました。
その名を聞いて、自分の過ちに気づいたとばかりに、人々が黙り込みました。
人買いの方も、事態の異常さに気づいたのか、冷や汗が額に浮かんでいます。
「ベイクランド卿、悪いがこの娘を譲って下さらないか」
「お、お、お、お前の頼みなら仕方が無い」
「何を勝手な事を!貴様のような怪物にこの方よりも高い金額が出せるとでも言うのか!」
人買いがサウザント・デーモンと呼ばれた彼に、食って掛かります。
「金ならば有る」
彼が今まで握っていた拳を開くと、そこには一目で大金が入っていると分かる袋がいくつもありました。
「足りなければ、闘技場へ取りに来い」
それだけ言い残すと、彼は檻を粘土か何かのように易々と曲げ、私を連れ出しました。



こうして私は、サウザント様に買われる事になり、一旦は鳥籠から解き放たれる事になりました。
ですが、私はこの時知りませんでした。
サウザント様も又、檻に入れられた猛獣である事を・・・。
そして、サウザント様と私が背負う運命を・・・



[16943] 短編 2-2
Name: 顔無◆0c3027e3 ID:979e69ab
Date: 2010/03/04 21:52
鳥籠 2












私がサウザント様に連れられて闘技場と言う檻の中に入ってから1カ月が経ちました。
最初ここへ来た時は、何をすれば良いのか分かりませんでしたが、やっと自分の役目と言う物を見つけました。
機械属性のクローン技術で生み出されたサウザント様の体は大きく、きちんとしたお風呂はあっても、それは普通の人が入るサイズなのでサウザント様が入る事は出来ません。
今までは体を拭くのにも苦労していたそうです。
そんなサウザント様の体を拭き、服を繕うのが私の仕事。
奴隷市で一緒に売られて行った人達は、もっと過酷な条件で主に使えているんだと思います。
そう言った人達の事を思えば今の私は何もしていないのも同じ。
食事と賞金を運んで来るお爺さんが言うには、サウザント様は私が来てから殺し合いに出る回数が増えたそうです。
これではどちらが奴隷だか分りません。
サウザント様は私が居るだけでそれ以上は何も望まないと言いますが、私はもっとサウザント様の役に立ちたいです。




エステルを部屋に残して、檻の鍵を閉める。
こうでもしないとエステルは部屋を抜け出して外に出てしまう。
エステルが入って以来近くの檻からの嫌な視線が増えた。
おそらく、隙を見せればエステルはそう言った連中の餌食になるだろう。
檻のカギを閉めるのはそう言った事を防ぐためだ。
闘技場へ歩きながら考える。
奴隷市でエステルを感情に任せて買ってしまったが、今は持て余してる。
普通の男ならその美しい肢体を求めるのだろうが、あいにく俺にはそう言った機能は備わっていない。
戦う為だけに生み出された俺は成長を阻害するソレを最初から持っていない。
俺は外見こそ男だが、生物的に見れば男でも女でも無い三倍体とでも言うべき存在なのだ。
エステルは何か仕事がしたいと言うが、俺は特に望まない……さて、どうしたものか?




闘技場に立ち、観客の声を聞きながら思う。
目の前の対戦相手は何を考えてここへ立っているのだろうか?
震える手で刀を構えた少年は、始まりの合図を今か今かと待ち続けている。
その震える姿は、とても私に挑めるようには見えない。
「試合開始!!」
司会進行を取り仕切る男の声で少年が俺の懐へ飛び込んでくる。
その勢いのままに俺を刺し殺すつもりなのだろうが、無理だな。
俺の着込んだ鎧はそんな攻撃を通す事は無い。
「挑戦者果敢に攻めるがデーモンには全く効いていないようだ!」
しばらく鎧相手に切ったり突いたりを繰り返していたが、息が上がって来たようだ。
それに対して俺はただ立っていただけ。
唯一装甲が存在しない目元を何度か庇って手を動かした程度だ。
少年の太刀筋はなかなかのものだが、俺の装甲を抜く事は出来ない。
「おっと!ここでサービスタイムは終了!今からはデーモンのキリングタイムだ!」
司会者の声で周りの客から歓声が上がる。
この闘技場で最高ランクの闘技者となる俺には挑戦者に対して1分のサービスタイムが設けられている。
その間は攻撃を受けるか避けるかしか出来ない。
それが終われば私のターンの開始だ。
しかし、どうしたものか……
頭の隅にエステルの泣く姿が浮かぶ。
アレはこう言った弱い者いじめを嫌う。
試合を盛り上げるためとは言え、試合相手をなぶり殺しにした日はぽろぽろと涙をこぼすのだ。
あのジジイ……屋へモニターを設置したのはそのためか?
「耐えて見せろ!」
左手で刀ごと少年の腕をつかみ上げて上空へ投げ飛ばす。
そして、空通で動きの取れない少年に向かって右手のガントレットを展開して炸裂弾を叩き込んだ。
派手に爆発するよう設計されたその弾は少年に当たって破裂した。
その派手な爆発に観客達も盛り上がってる。
爆発の割に殺傷能力の低い、闘技を盛り上げる為の弾丸だ。
少年は地面に叩きつけられるとよろよろと起き上がって来た。
けれど、立たない方が良かったな。
左手のガントレットを展開して爆発能力の低い弾を連続で撃ち出す。
地面をえぐるようにわざと少年から外して行き、じわじわと少年に弾道を近づけて行く。
派手に舞い上がる土埃で観客はまたも湧いた。
そして少年の意思とは関係なく踊らせる。
その姿に観客はもはや理性を失った獣のようにたけり狂っている。
「挑戦者ダウン!これはもう死んでいるか!?」
司会者はそう言うが、周りの観客達はまた「殺せ!」コールを始めた。
右のガントレットを構えながら思う。
俺は……




モニターに映るサウザント様はボロボロの少年を引きずって血の跡を残しながら闘技場を後にしました。
観客は死体を引きずるサウザント様を見て盛り上がっています。
わざと見せつけるように歩くサウザント様の姿を見て私の瞳からは涙があふれて来ます。
私はサウザント様が戦う事は嫌いではありません。
ですが、サウザント様は闘技場と言う戦う姿を見せる為の場で、わざと残酷な倒し方を要求されます。
できるならすぐに相手を楽にしたい……けれど、それでは見世物として成立しません。
サウザント様は自分の思いと、行わなくてはならない現実に苦しんでおられます。
けれど、サウザント様はどれだけ苦しくても、どれだけ悲しくても泣きません。
ですから私は泣く事の出来ないサウザント様の為に泣くのです。
「また泣いているのか?」
声を聞いてはじめてサウザント様が部屋へ戻ってきていた事に気付きました。
「お帰りなさいませ、サウザント様!」
涙を拭いてサウザント様へ挨拶をします。
挨拶の途中でサウザント様の抱えた少年が目に入りましたが、どうなさるつもりなのでしょうか?
「この少年の手当てを頼む」
それだけ言ってサウザント様は鎧を脱ぎ始めてしまいました。
相手を殺さずに連れて来る……こんな事は初めてです。
サウザント様が何を思ってそうなさったのか分かりませんが、私はそれに答えたいと思います。
それに、初めてサウザント様が与えて下さった仕事ですし、精いっぱいこの少年の手当てをしましょう。


















後書き
古いフロッピーが出て来たので整理していたら未完成だったこの作品が出て来ました。
取りあえず手直しして投稿します。
出だし以外は新規作成なので当時のキャラクターと性格変わってないか心配です。



[16943] 短編 3
Name: 顔無◆0c3027e3 ID:979e69ab
Date: 2010/03/02 20:02
これから始まる物語




魔王と言う存在




昼間でも薄暗いこの魔王の住まう森、そしてこの場に座り込んで幾日が経っただろうか?
俺は幾度目か分からない説得をもう一度始めた。
「さあ、帰るが良い。ここはお前達が居るにはマナが少なすぎる」
自らの魔法剣に宿った精霊たちに無駄と分かっていながらも声をかける。
案の定精霊達は首を横にふって拒絶の意を表した。
「まもなくこの剣に蓄えられたマナも尽きる。早く行くんだ」
無駄と分かっていながらも説得を繰り返す。
「我が主よ。いくら言おうが、その精霊達はおぬしの側を離れはせん。今おぬしが繰り返しておる行為が無駄な事ぐらい既に分かっておろう」
俺の愛馬とも言うべき、ブラックドラゴンが、ため息を漏らしながら言う。
「わかっている。だが、お前もこいつらも俺の戦いに巻き込まれただけだ。この森から出ても人間たちに襲われる事はないはずだ!」
背を預けている巨木へ無造作に拳を打ちつける。
そんなことをしたからと言って今の高ぶった感情がどうなるものでもないが、何もしないよりはましだった。
「無力よの。我もおぬしも。これが魔王を倒し、世界を救った物の末路とは…」
そう、俺達は長い旅の末、ようやく魔王を倒す事ができた。
だが、その先に待ち受けていたのは平和などでは無く…。

……
………
「出て行け!!」
男の言葉と共に石が飛んでくる。
「嘘を付くな!魔王を倒したとか言って、実はお前が本当の魔王じゃったんじゃろ!」
旅の途中、何度も世話になった宿屋の主人が扉ごしに言う。
「この、人殺しめ!」
「父ちゃんを返せ!」
以前王を落としいれようとした大臣の部下、その身内が恨みの言葉と共に切りかかってくる。
「王よ!魔王を倒して帰ってきたと言うのに、この仕打ちはどう言う事だ!」
「お前はやりすぎた。悪へ加担したものを全て殺し、罪の無い者達まで手にかけた。これでは、魔王城に篭っているだけで、何もしなかった魔王のほうがよほどましだ!」
俺の問いかけに王は兵士の囲いを作りながら答えた。
「主よ。これが人間と言うものだ。同族と言えど、異端の者には恐怖し、妬み、憎む。今にして思えば、魔王も異端なる人間の一人」
兵士の囲いを切り崩し、俺を空中へと運んだブラックドラゴンが苦々しげに呟く。
………
……

そして、たどり着いたのが魔王の森とは、皮肉にもほどがある。
「俺は一体何のために戦っていたのだ?世界を滅ぼそうとする魔王を倒すためでは無かったのか?」
俺の問いに答える者は誰も居ない。
ブラックドラゴンも答えてはくれない。
『ククククッ。俺を倒しても戦いは終わらん。人が居る限り魔王は生まれる。異端の戦士よ、次はきさまかもしれぬな。お前は人に崇められるのか?それとも…』
魔王の心臓を貫いた時奴が言った言葉が頭に思い浮かぶ。
あの時は、何を馬鹿な事を…。
と思ったが、今なら信じられる。
人が異端なる者を魔王と呼び、異端なる者が魔王を倒す。
冷酷なほど冷静に悪を裁いてきた俺は正に異端だったと言うわけだ。
呆れを通り越して笑いがこみ上げてくる。
「ふはははははっ」
「主よ、急にどうした?」
ブラックドラゴンが俺の笑いに不審げに話しかけてくる。
だが、俺は尚も笑い続けた。
「はははははっ」
良いだろう。
今から…いや、魔王を倒したあの時から、俺が魔王だ。
人間全てを根絶やしにして、この世から悪を消し去ってやる。
「行くぞブラックドラゴン!」
「何処へ行くと言うのじゃ?」
笑い出したと思ったら急に何処かへ行こうとする俺を、哀れむような目でブラックドラゴンが尋ねるが、今はどうでも良い。
まずは…。
「まずはあの王を殺しに行こう。そして、そこから全てを始めよう、人間全てを敵に回した魔王軍の戦いを!!!」
「グオオオオオオオッ!!!!」
俺の声に反応して、森のあちらこちらから雄叫びが上がる。
当然だな。
魔王の腹心の一人が言っていた。
『仲間にならぬか?魔族は人間と違って、実力のみで権威を決め、無駄な争いはせん。お前なら魔王とならぶ権威の持ち主となろう』
前の魔王が居ない今、異端なるモノは全て俺の味方だ。
愚かな人間どもよ!
己と違うものを恐れたが故に滅びる種族よ。
貴様らが滅びぬ限り、俺が敗れても、次の魔王がお前達を根絶やしにする。
せいぜい足掻き苦しむが良い!!!




全てはまた繰り返す。
文明がいくら進化しようとも、それはただ、永遠に続く螺旋を上っているにすぎないのだから。
同じ場所を少しづく上へと。
だからこそ魔王は存在し続ける。
人間が生き続けるかぎり永遠に…。








後書き
これも最終更新が2000年でストップしていた作品。
『この作品は、RPGをプレイしていて、LV上げのためにこれだけ人やモンスター切り殺して平和になった後、主人公も平和にくらせるんだろうか?
と言う疑問が思い浮かび、唐突に1時間と言う短い時間で書き上げられたものです。
当初は細部まで描写しようかとも思ったのですが、そうすると一般に発売されているRPGソフトのキャラクターとだぶってしまったりしそうなので止めました』
と、2000年当時の私が後書きに書いていますから多分このころから私はちょっと狂った感じがあったんでしょうね……



[16943] 短編 4
Name: 顔無◆0c3027e3 ID:979e69ab
Date: 2010/03/02 20:08
オリジナル4





身勝手な2人の男とソレに惹かれる女達の話











「ごめんなさい。他に好きな人が出来たの」

彼女に呼び出されたファミレスでそう言われて俺達は別れる事になった。

「あの人は貴方と違って私の事を見てくれる」

ロングコートの前をはだけさせ、今の男に施されたであろう調教を嬉しそうに語るその体には荒縄の跡がくっきりと見てとれた。

そう言った気質を持っている事は知っていた。

彼女の口から語られるご主人様とやらもそれを見抜いて彼女を調教したのだろう。

「貴方が1カ月も私を見ない間にご主人様は私の……」

彼女を顧みなかったのは別に仕事が忙しかったとか明確な理由があったわけじゃない。

ただたんに彼女とはもう終わった気がしていたからだ。

つまらない。

それが彼女に対して思った感想だ。

それは彼女が結婚を視野に入れ始めたあたりから決定的になった。

何と言うか目標が低いのだ。

結婚=ゴール

そんな安易な公式しか成り立たない彼女に俺は苛立ちを覚えた。

彼女はそこから先の事を考えていないのだ。

だから疎遠になった。

そして今日の別れ話。

当然と言えば当然だがもはや彼女に愛着なんてありはしない。

ただ言えるのは……

「1月でその程度か……その様子だと本格的な調教はしてもらってないんじゃないのか?」

鼻で笑うと里香の顔色が変わった。

悔しがると思った男が何とも思っていないどころか、自分を見下すとは思わなかったのだろう。

「今日どうやって別れ話を切り出すか考えていた所だったんだが、お前から話が出て気が楽になったよ。ご主人様に伝えておいてくれ。こんな中古で良ければ存分に壊してくれってな」

ご主人様とやらは俺が悔しがる顔を見るためにこの近くに居るはずだ。

そう思って視線を近くの席に向けると一人の男と目が合った。

いかにも小心者で人を貶める事でしか自分の力を誇示できないような卑屈な性格をしていそうだ。

「それじゃぁな、ご・しゅ・じ・ん・さ・ま」

必死に目をそらしている男に一声かけて、俺は店を後にした。







昨日ファミレスで会ったご主人様とやらの顔を思い出してふと疑問に思う。

さて、何処で見た顔だったか……

「主任?」

考え込みすぎたか?

部下がコピーの束を抱えたまま心配そうに俺の名前を呼んだ。

「いや、何でもない。それよりすまないね、うちの馬鹿共が君みたいな有能な子にそんな雑務を押し付けてしまって」

コピーされた資料を受け取りながら思う。

彼女が後数年キャリアを積めば確実に追い抜かれるだろう。

同期の連中の中には彼女に追い越されまいと躍起になって雑務を押し付けるような馬鹿も居るようだが無駄な努力だ。

そんな事をするくらいなら自分の業績を上げる事をもっと考えれば良い。

それが分からないようじゃぁ小物のまま終わる事になるぞ?

「主任のせいじゃないですよ」

にこにこ笑っては居るが、その目は野心で輝いている。

良いね。

隙あらば私を押しのけて上へ行こうとするその姿勢。

そんな人間を部下で居させる。

いつ追い抜かれるか分からない。

そのスリルがたまらなく面白い。

「おっと、忘れるところだった。春子君、今夜どうだい?」

先に退社する胸を伝えた彼女に誘いをかける。

他の社員の見ている前だ。

おそらく彼女は断るだろう。

だが、それで良い。

これは合図でしかないのだから。

「良いですよ」

しばらく周りを見ながら考え込んでいた彼女は俺の耳元に唇を寄せて小声で囁いた。

おや?

普段は断って社外で待ち合わせるのが何時ものパターンなのだが……

さて、何を企んでいる?

それとも駆け引き抜きで誘っているのか?

ふっ、そんな事有るわけ無いな。

自分の楽観的考えに思わず自嘲する。







食事をする事になり、他の部署に勤めている彼女の妹が合流した。

社内で待ち合わせをした事以外は良くある事だ。

しかし普段は社内で連れない態度を取る彼女がなぜ今日に限って社内で応じた?

いぶかしみながらもその後軽く酔った彼女達をマンションまで送った。

いつもならそこでお終い。

それじゃあまた明日。

そう言って別れる筈だった。

それが「飲み直すぞ~!」そう言われて反論する間も無くリビングまで引っ張り上げられた。

ソファーに座って待つように言われ、始めて入った彼女達の部屋を見ている間に、テーブルの上は明らかにこの日の為に用意したと思われるつまみが慣れべられた。

そして始まった3人だけの宴。

スナックよろしく左右を彼女達に挟まれて珍しく舞い上がった俺は、リットル単位でアルコールを摂取した。

それに引きずられるように姉妹も飲みすぎた結果がコレだ。

「うえぇ~~~ん。俊介さん、私はそんなにダメ女なんでしょうか?」

「お姉ちゃん……泣いちゃ駄目だよ!私も……ふえぇ~~~~ん!」

先に述べた通り、有能な彼女達は嫌がらせを受ける事が多々有る。

今日はその愚痴がアルコールによって表に出たようだ。

普段の社内で私と彼女達はあくまで上司と部下。

互いの野心を糧に上へ昇り詰める。

そんな関係を続けながら社外では男女の関係とはならなくとも友人関係に有った。

互いに愚痴を言い合う事は有ったが、ここまで感情をあらわにして泣き崩れた事は今まで無かった。

一体何が彼女達を追いつめた?

自分よりも有能な人物を部下のままで居させる。

このままでは、そのスリルが楽しめなくなる。

アルコールのせいで回らない頭を必死に回転させて原因を考える。

だが、それらしい答えは出て来ない。

彼女達をここまで気落ちさせるような嫌がらせが出来る奴なんて心当たりが無いからだ。

「俊介さんは……私の事嫌いですか~?」

「冬子、抜け駆け禁止!」

ハンカチ代わりに私の服を握りしめて泣いていた2人の声で答えがなんとなく分かった。

……追いつめたのは俺か?

俺は彼女達を自分の部下で居させたくて友人関係を築いた。

予想通り彼女達は俺の部下としてその有能さを発揮した。

しかし、彼女達はその先を望んだわけだ。

だが、それを望んでしまえば俺が離れるかもしれない。

彼女達には里香との顛末を語っているのだから、ずいぶんと躊躇しただろう。

けれど、俺はお前達がいまだに野心を抱いてるのを知っている。

だから……

「春子、冬子、俺は欲張りだからどちらか片方なんて言わないぞ?」

そう、どちらか片方だけでは上へ昇り詰める事は出来ない。

せいぜい主従が逆転しないよう頑張るとしますかね。







「主任、お茶です」

俺に対して甲斐甲斐しく世話を焼き始めた春子。

「主任、この資料って何処にありましたっけ?」

最近になって転属願が通り、俺の部署へ来た冬子。

あの日以来俺を取り巻く環境は一変した。

彼女達が誰からの誘いも断っていた事は社内で有名だった。

そんな彼女達が、俺との食事に応じた。

つまりは2人のうちどちらか片方、もしくは両方が俺のお手付きになった。

そう言った噂が流れたのだ。

本当の事であるだけに否定は出来ず、曖昧に肯定してしまったために噂は際限なく広がった。

それによって2人への嫌がらせはずいぶん減ったようだ。

まぁ、その分俺への嫌がらせが増えたがな。

自分達の思いを成就させ、俺への下剋上も可能になる。

春子の狙いはコレだったわけか……

この奇妙な三角関係になってからも2人は俺より上へ行こうと言う野心を忘れていない。

昼は彼女達との仕事でスリルを味わい、夜は彼女達を味わう。

寝ても覚めても彼女達を味わう。

それでいて心はまだ満たされる事はない。

まだだ、まだ俺は……俺達は上へ行ける。







「1月でその程度か……その様子だと本格的な調教はしてもらってないんじゃないのか?」

観葉植物を挟んで里香の元彼が鼻で笑うのが聞こえた。

里香に別れ話をさせる際、俺から調教された姿を元彼に見せつけるつもりだった。

けど、これは何だ?

自分の彼女が寝とられたって言うのにそんな平然と出来る物なのか?

もっとこう、悔しがったりするものじゃないのか?

「今日どうやって別れ話を切り出すか考えていた所だったんだが、お前から話が出て気が楽になったよ。ご主人様に伝えておいてくれ。こんな中古で良ければ存分に壊してくれってな」

あまりにも予定と違う状況にあせった俺が、里香と元彼の座席に目を向けた時それは起こった。

「っ!」

見られた!

今完全に眼が合った!

くそ!

そんな目で見るな!

「それじゃぁな、ご・しゅ・じ・ん・さ・ま」

俺の肩に手置いた元彼はクククっとのどで笑いながらファミレスを出て言った。

くそくそくそ!

くそーーーーーーーーー!!!

何だって言うんだこれは!

これじゃ俺が道化じゃないか!

こんな事認めてたまるか!

そうだ!

そうだとも!

勝ったのはあいつじゃない!

里香を手に入れた俺だ!

思い知らせてやる!

自分が一体どれだけ良い女を手放したのか!

あの日から俺は里香をさらに調教し続けた。

最初は嫌がっていても途中からは俺の思い通りの痴態をさらけ出す里香に俺はますますのめりこんでいった。

最高だぜ……







ある日俺は別れた筈の里香から電話で呼び出された。

夜も遅くに何の用だ?

そう思いながらも近所の公園で待っていると言う里香に従って、公園へ足を踏み入れた。

そこに居たのは裸で四つん這いになり、犬用の首輪を付けた里香だった。

首輪からは鎖が伸び、その鎖をいつぞやのファミレスで見た男が握っている。

「わんわん!」

「どうだい?可愛いだろ?」

四つん這いでじゃれつく里香を男が嬉しそうに自慢する。

ファミレスの時点で引き下がってればまだ可愛げがあったものを、わざわざ呼び出して続きをみせようなんて墜ちたもんだな……

「はぁはぁはぁ」

犬のように短い呼吸を繰り返す里香の頬はうっすらと赤く染まり、男に対してそうとう入れ込んで居る事がうかがえる。

暗がりで良くは見えないが性器からは汁が滴り落ちているようだ。

「それで?これを見せてどうしようって言うんだ?」

「なっ!自分の彼女がこんなになってるって言うのに何でそんな事が言えるんだ?」

もうボロが出たか。

もう少し粘れないのか?

「元だ」

「何?」

「元彼女だ。ファミレスで会う以前からそいつはお前の彼女だろ?」

あの頃よりさらに小物になり下がった男にそう言ってやると、自分の望んだ展開にならない苛立ちから喚き始めた。

「ふざけるな!!里香は最高の女だ!なのに何でお前はそれを取られても平気で居られるんだ!!!」

どうやら自分と他人の価値観が違う事が分からないようだな。

このままここを離れても、こいつはいつまでも付きまとうだろう。

やれやれ、付きまとわれたら面倒だ。

「春子、冬子、出て来い」

俺の合図で今まで隠れていた2人が出て来る。

「……ね、姉さん?それに冬子?何で2人がここに居るんだよ!?」

混乱しているようだが、お前の姉妹は待ってくれないらしいぞ?

「俊介さんから話を聞いてすぐに分かったよ夏哉(なつや)」

「何でこんな事したの?」

「だ、だって、こいつが……」

偶然とは恐ろしいものだと思うが、この3人はキョウダイだった。

優秀な姉と妹に挟まれて育ったせいで歪んで育ってしまったらしい。

俺に迷惑さえかけなければ2人をこの場に出すつもりは無かったが、下手をすると2人まで変態の家族だと言う事で世間的につらい思いをする事になる。

まぁ、2又してる俺が言う事じゃ無いがな。

「言い訳無用!」

「あんた次こんな事したら家族の縁切るからね!」

「だ、そうだぞ?」

少々可哀そうだがこれだけ言えばもう俺達にかかわっては来ないだろう。

「くっそーーーーーーーーっ!」

殴りかかって来た男を逆に殴り飛ばして公園を後にした。

里香は何か言いたそうだったが、もう終わった関係だ。

いまさら俺が何か言う必要は無いしな。







ご主人様が殴られて気絶した。

あわてて介抱しようとしたけど、今の私は犬。

手を使う事は許されていない。

他に仕様が無くご主人様の殴られた頬を舐めていると目が覚めたみたい。

よかった……

「わん!わわん!」

四つん這いでご主人様をまたぐようにしていた私をご主人様が抱きしめた。

嬉しい……私をこんなにも愛してくれる。

冷たいあの人とは違う。

「もう、喋っても良いぞ」

ご主人様泣いてるの?

「ごめんな、こんなゴミみたいなやつがご主人様で」

そんな事無い!

「私はご主人様が大好きです!だから捨てないで」

そう大好きなんです。

その唇で貪られ、骨の髄までしゃぶられて、ご主人様の事が大好きになりました。

他の誰でも無い貴方の事が。

「ちきしょう……里香を調教して元彼の前へ連れ出したまでは良かったのに……それなのに、俺はなんでこんなにみじめなんだ?」

ダメな人……けれどそんな所も大好きです。

だから、もっと私を愛して!もっと私を傷つけて!もっと私を息が止まるくらい抱きしめて!

























後書き……懺悔室
元ネタ 極楽蝶
作詞:ミズタマ
作曲:にいとP
編曲:にいとP
唄:初音ミク



いや、相変わらずどの辺が?
とか言われると困るんですけどね……
取りあえず書きあがったんで投稿。


追伸
XXX板にある無屁吉様の作品、援交少女とサラリーマンと似ていたためリア友の意見を取り入れて無屁吉様に一応許可を頂いて掲載しています。



[16943] 短編 5
Name: 顔無◆0c3027e3 ID:979e69ab
Date: 2010/03/03 17:30
リアルハザード










この世界はリアリティーを追求した結果生まれた体感型のRPGが暴走して生まれ変わった。

そのRPGは物語の中に複数の人間をダイブさせて楽しむMMORPGだったわけだが、暴走したと言われたら普通はそのゲームからログアウト出来なくなる事を想像するんじゃないだろうか?

所がだ、モンスターやアイテムと言ったそれらゲーム世界のものがこちらに流れて来たのがこの世界だ。

今日はそんなこの世界の日常を紹介したいと思う。

まぁ、口下手で友人の少ない俺じゃ、紹介できる事は限られてるんだけどな。








俺の名前はヒロ今年で17歳。

歳で分かると思うが高校に通っている。

リアルハザード……っていきなり言っても分からないよな。

現実世界にゲームが実体化した事件の事をそう呼ぶんだが、それが起こってもうずいぶんと経つらしい。

全世界を巻き込んで突然現れだしたモンスターに、当時は軍や警察が出動する事も多かったそうだ。

もっとも、銃器では倒せず、ナイフや矢と言った原始的な武器で無いと倒せないと言うわけの分からに現象に、軍や警察は苦戦をしいられたらしい。

研究者達が言うにはゲームの設定が中途半端に作用しているため、その世界に存在しないような武器による攻撃は効かないのではないか?

と、言う事だった。

なんともふざけた話だ。

今ではそう言ったモンスターの湧いて来る場所には居住を禁止されている。

そのため被害は少なくなってきたが、たまに町中にモンスターが迷い込んで来て人を襲う事がある。

そう言った事もあってこの世界では、モンスターから身を守るための授業が小学校からそんざいする。

それとは別にゲームで使用されていた魔法や技を使用できる人間が近年現れている。

そう言った人間は能力者と呼ばれ、早ければ小学校卒業を待たずに戦士科や魔法科と言った特殊学級がそんざいする学校へ転入させられる。

力が発現する条件がわからないため、その方法を調べるために隔離されているだとか、一般人とは比べ物にならない力をもった人間を隔離するためだとか。

特殊学級が存在する学校が出来た経緯について色々噂はたっているが、普通の学校に通う俺には関係ない事だ。

自衛のために町中に迷い込んで来るモンスターを撃退する力はあるが、特殊学級へ編入されるような特殊な力は無い。

それが俺の実力だ。







今日も学校の授業を終えた俺は、小遣い稼ぎのために町の外へと足を踏み出した。

「よう兄ちゃん!今日も来たのか?」

狩り場と呼ばれるモンスターの湧く場所を目指していると後ろから声がかかった。

ここの管理を任されている換金所の隊員の一人だ。

「また孤児院の寄付金集めか?」

隊員にコクリとうなずいて、俺はさらに歩を進めた。

別に隊員が気に入らないから喋らなかったとかそう言う事じゃ無い。

ただたんに、俺は人としゃべるのが苦手なだけだ。

隊員の方も俺がそう言った人間だと言うのを認識してくれている。

それくらいはここへ通いつめたのだから。

隊員が言った通り俺は孤児院への寄付金を集めるためにここへ来ている。

別に、善人ぶりたいからとかじゃない。

ただたんに、俺がその孤児院で暮らしている孤児だからだ。

モンスターに親を殺されたらしく、身よりの無かった俺は最近まで浮浪者として町中をさ迷っていた。

それを救ってくれたのが孤児院のシスターだ。

何も出来ない俺に食事と部屋を与えてくれた。

お金がかかるからと嫌がる俺に、それでも行けと高校へ行くお金を負担してくれた。

だから、俺は精いっぱいそれに答える為に勉強した。

足し算すら出来なかった俺は猛勉強をして高校に受かった。

ここへ来ているのは経営の傾いているその孤児院を少しでも助けたいからだ。

素生の分からない俺にはアルバイトなんてとても出来ない。

だから、この狩り場の換金所へ命を賭け金としてアルバイトをしている。

非合法スレスレなそのアルバイトをする際に、死ぬ可能性が有ると何度も止められたが、俺はこうするしかシスターへ恩を返す方法を思いつかない。

モンスターを倒すと死体がゲームのお金と、まれに体力回復用のポーションなんかになる。
ゲームのお金はギルと言い、不純物をふんだんに含んだ銅で出来ている。

換金しようにも、換金費用の方が高くついてしまう。

強いモンスターになれば金で出来たギルが出て来るらしいが、ここで出て来るのは犬型のモンスターだけだ。

それでも、ギルを集める。

それがここでのルールだからだ。

ギルを集めずに放っておくと、ソレを媒体に次のモンスターが湧いて来る。

普通に湧いて出て来たモンスターと違い、そう言ったモンスターは強い。

おかげで換金出来ないギルが山のように俺の部屋へは積まれている。

だから換金してお金になるポーションが俺の狙いだ。

ポーションは簡単な怪我なら傷も残さずに治療できるため、医療機関が欲しがるのだ。

今日の成果はポーション20個。

ポーションの出現率はだいたい10匹に1個の割合……200匹狩った計算になる。

ポーションは1個500円で買い取りされているので、1万円か……

ここまで稼げるようになるまでずいぶんかかったな……







一番初めにここへ来た時は、100円ショップで買った包丁を手にしていた。

初めて刺し殺した犬型のモンスターの帰り血で、俺の着ていた服はダメになった。

それ以来カッパを着てここで狩りをしている。

その日はその1匹だけで体中傷だらけだった。

さいわい、ゲームの設定が生きているらしく、こちらが攻撃しなければ自分から襲いかかって来るモンスターは居なかったので無事に家へ帰り着く事が出来た。

それからしばらくはそれで限界だった。

技や魔法が使える人間ならこんなモンスターは1発で倒す事が出来るらしいが、俺の場合は包丁を突き刺した後にモンスターが反撃出来るくらいの体力が残っている。

一般人と能力者の差って奴だ。

あるいはちゃんとした武器ならもっと効率的にモンスターを殺せたかもしれないが、無い物ねだりをしても仕方が無い。

それからは試行錯誤の連続だった。

100円の包丁はもろくて、すぐ折れてしまった。

けれど、孤児院で育っているため、これ以上の出費は出来ない。

自動販売機の下をあさってみても、お金が落ちているなんて幸運はそうそうないしな。

道具を買うお金も無い俺は、河原に落ちていた木の棒を削って槍にする事にした。

コンクリートに擦りつけて尖らせただけの棒はモンスターに刺さりはしたものの、すぐに折れてしまった。

竹で弓を作ってみたものの、素人が作ったものだからあまり役には立たなかった。

最終的に不法投棄されていた錆びた杭打ち用のハンマーが出て来るまで続いた。

モンスターは何故か逃げもしないので、ハンマーを振りかぶってモンスターに近づく。

そしてハンマーを振りおろして頭を潰すのだ。

ビチャリと色々な物が飛んで来るが気にしない。

死体がギルに代わってそれを拾い集める。

そして次のモンスターを目指して歩き出す。

その繰り返しだ。








河原で簡単に体を洗ったら孤児院へ帰る。

そうして俺の1日は終わりを告げる。

お金は稼げるようになったが、今の収入じゃ孤児院を支えきれない。

もっともっと、頑張らなきゃいけないな。















後書き……
自分で書いてアレなんですけど……
もうちょっと設定練りこんで書けよ!
思い付きをそのまま作品にする私の作品は何処か中途半端だ……



[16943] 短編 5-2
Name: 顔無◆0c3027e3 ID:979e69ab
Date: 2010/03/05 23:36
リアルハザード 2









自己紹介はもう良いよな?

前回から引き続き俺が喋らせてもらうぞ?

ちょっとアクシデントがあってな、何時もの狩り場から少し入った所にある別の狩り場に来ている。

ここにはヘビのモンスターが居て、今日はそいつが落とすアイテムが必要なんだ!

事の始まりは昨日の夕方。

夕飯になっても帰って来ない子が居たんだ。

前も言ったが家は孤児院で飯は皆で食うのがきまりで、その時間になっても帰って来ないなんてよっぽどの事がなきゃ有り得ない事なのに……

俺達年長者は飯も食わずに探しに出たんだが見つからない。

探して、探して、やっと見つけたその子は草むらの中でうずくまってた。

顔色も悪かったから急いで連れて帰って、オジィにみせたら……

オジィって言うのは孤児院の子供を無料で見てくれる近所の親切な医者の事だ。

詳しくは知らないが、みんなからそう呼ばれてるから俺もオジィって呼んでる。

換金所のアルバイトのせいで俺も良く世話になってて、シスターと並んで頭の上がらない相手だ。

オジィに見せたら魔法毒にかかってるって言われた。

魔法毒って言うのはモンスターから受けた毒で、毒を消す為のポーションじゃないと消せないんだ。

傷は放っておけば治るけど、魔法毒は毒消しのポーションじゃなきゃ消えないし、取れるモンスターも毒を持ってるから自分からそこのモンスターを倒そうって人間も居ない。

だから、体力回復用のポーションよりずっと高い値段で取引されてる。

病院で毒消しのポーションを買ったら50万円とか法外なお金を要求される。

他にも能力者の中には魔法毒を消す魔法が使える人間も居るらしいが、こっちはもっと高い金を要求されるってはなしだ。

ふつうのRPGで最初に買えるようなアイテムが現実世界が絡むだけで超高額なアイテムになる。

くそ!

何でそんな毒を持ったモンスターが町中に居るんだよ!

オジィが言うには明日の夜が限界だろうって……

シスターは何とかお金を集めようとしてるけど、借金だらけの孤児院にそんなお金を貸してくれるような奴は居ない。

だから、俺は朝を待ってヘビのモンスターが出る狩り場へ行く事にした。

夜のモンスターは凶暴化して、近寄っただけで攻撃をして来るからだ。







狩り場へ入ってまず見えたのは、3m近いヘビがうようよと動き回る姿だった。

こいつらも、攻撃しなければ近づいて来ないらしいが、見ていてあまり気持ちの良いものじゃない。

けれど、犬の時と違い、失敗は許されない。

俺は狩り場をじっくりと見て回る事にした。

狩り場のほとんどは湿地でハンマーを振り下ろしても衝撃が下に逃げてしまいそうだ。

けれど狩り場の一角に大きな岩が有り、そこを数匹のヘビがうろついているのが見えた。

あれならハンマーで叩いた時岩に挟まれて潰れるだろう。

さっそくハンマーをふり上げて、力いっぱい頭に振り下ろした。

「ガツン!」と言う硬い物を叩いた音と衝撃が腕に伝わり、ヘビの頭が潰れた。

しばらく体だけでグニャグニャと動き回っていたが、やがて動かなくなって消えた。

……良かった。

1発で死なないようならどうしようかと思った。

安堵のため息を付いてギルを回収する。

どれくらいの確率で落とすか分からないが、出るまでやってやる!

振り上げて振り下ろす。

ギルを回収する。

振り上げて振り下ろす。

ギルを回収する。

それだけを繰り返したが、ぜんぜんポーションが出て来ない。

学校帰りに犬を狩るのと違って、もう500匹は殺しているはずだ。

いつも繰り返している動作だが、1日でここまでモンスターを倒した事は無い。

しかも岩の上に乗って来るまで待つので効率も悪い。

さっきまでま上に有ったと思った太陽がもう傾き始めている。

「何で出ないんだよ!」

それはそうだろう。

すぐに出るようなら50万円なんて金額が付く筈は無い。

けれど俺はどうしても1本必要だ。

「ぐぁ!」

しまったと思った。

集中力が切れてきて、十分な威力の乗った攻撃が出来なかった俺は、気付けばヘビに噛まれていた。

心臓がドクドクと早鐘を打つ。

まるで全力疾走をしているみたいに疲れが……

呼吸も乱れて来た。

けれど……こんな所で……俺は……








俺が目を覚ますと、そこは倒れた岩から少し移動した木陰だった。

近くにはヘビが寄って来ていない。

まるで俺の周りを避けるように移動している。

ぼんやりと自分が今どうなっているのか確認していたが、夕日が当たりを真っ赤に染めているのを見て意識が完全に覚醒した。

急いで狩らないと!

あの子が!

「……!?」

近くに置いてあったハンマーを手に取り岩の上登ると、異様な光景が目に入った。

10歳くらいだろうか?

少女の周りでは炎に包まれたヘビがあたり一面で踊り狂っている。

やがてヘビは消え、ギルがあたり一面に出現した。

「回収して……」

ぼそぼそと呟くように少女が言うと、その声に反応して白く光る球体がギルを回収していく。

学校の授業で聞いた事が有る。

多分アイテムの回収を代わりに行わせる魔法生物だろう。

その中には俺がさんざん苦労して手に入れる事の出来なかった毒消しポーションがあった。

「それは!!」

俺の声で少女の肩がビクン!と跳ねた。

どうやら俺が居るのに今気付いたらしい。

「……気が付いた?」

肩が跳ねた時と違い、感情の起伏が感じられない顔でまたもぼそぼそと聞いて来る。

だが、俺はそんな事を気にしていられない。

「頼む!その毒消しポーションを譲ってくれ!」

恥も外見も無く少女に駆け寄って頼み込む。

しばらく頭を下げていたが返事は一向に帰って来ない。

やっぱりダメなんだろうか?

諦めかけて顔を上げると少女は何事か考えているようだった。

「……何で必要?」

「俺の家族が魔法毒で死にそうなんだ!何でもする!だからそのポーションを譲ってくれ!」

もう一度勢いよく頭を下げて少女の返事を待っていると、ポーションが差し出された。

「……お礼要らない。……依頼分のポーション……集めた。……余ったから」

少女は俺にポーションを渡すとお礼を言う間も無く消えてしまった。

おそらくテレポートとか言う魔法だろう。

ポーションに気を取られていて気付かなかったが、そうとう強い能力者だったようだ。

それに、自分の毒が消えているのを考えると、あの子がこのポーションとは別に俺の為にも1本使ったのだろう。

能力者とそうでない者の差だとは言え、女の子に助けてもらって、ポーションまでもらってしまった。

悔しい……

悔しいが仕方がない。

これが持つ者と持たない者の差だ。








急いで孤児院まで戻ると、魔法毒を受けた子はすでに元気になっていた。

自分の頑張りが徒労に終わってしまったわけだが、理由が分からない。

50万円を出して毒消しのポーションを誰かが使ったのだろうか?

「……あ」

オジィにどう言う事なのか聞こうとすると、さっき狩り場で分かれたばかりの少女がそこに居た。

「知り合いか?」

「……さっき……狩り場で」

オジィの質問に少女が短く答えるが、俺はそんな事よりも、何故少女がここに居るのかが聞きたい。

「お前が出て行った後の事だ。あの子以外にも大きな病院に被害者が大量に担ぎ込まれたとかでな、国が援助してくれる事になったんだ。この子は国から派遣された能力者らしくて、ポーションを持って来てくれたんだ」

オジィの説明を聞いてその場にへたり込んでしまった。

何だよそれ、命までかけて骨折り損も良いとこじゃねぇか……

まぁ、何にしても、あの子が助かって良かった。











後書き
~~~~だ
で終わる文章が多すぎる。
何でかそこが気になって気持ち悪くなって来た。



[16943] 短編 6
Name: 顔無◆0c3027e3 ID:979e69ab
Date: 2010/03/13 20:38
オリジナルループ









※ループしているので同じ文章が複数有るのはご理解下さい。

それと名前は気にしない方向で!

キャラクターの名前考えるの飽きた……











「ピピピピピピピッ!」

手探りで携帯電話を探しあててアラームを止める。

「7時か……」

早く起きないと母さんが起こしに来てしまう時間だ。

「蓮(れん)?ご飯出来てるわよ?」

高校の制服に袖を通すと、母さんの声が聞こえた。

「分かった」

さてと、今日の朝食は味噌汁とご飯か。

うん。

何時も通りだ。

「いただきます!」

「先に歯磨きしなさいって何時も言ってるでしょ?」

ご飯を口に含んだ僕に母さんはそう言うけど、僕はご飯の後で歯を磨く方が効率的だと思っている。

食後の口臭や食べかすを洗い流せるからね。

ソレについては散々口喧嘩してるんだけど、いまだに認めてもらえない。

ご飯に続いて味噌汁を口に含むと何か変な味がしたような気がする。

寝てる間に味覚がおかしくなったかな?

「お兄ちゃんおはよ~」

歯磨きを済ませて来た妹が俺と同じ高校の制服に身を包んで元気にあいさつをする。

昼休みに一緒に食事を取ろうと、突撃してくるこいつのせいで、僕はいまだに彼女が出来ない。

クラスで僕はシスコンと言う事になってしまっているからだ。

まぁ、妹としては可愛い部類に入るので悪い気はしないけど……

「おはよう燐(りん)」

僕のあいさつににこりと微笑んだ燐は食事を取る前に顔をしかめた。

「お母さん、お味噌汁から変な味がするよ?」

「言われて見れば僕もそんな気がする……」

「そう?いつもの変わった材料は使って無いんだけど?」

燐に続いて、味覚が寝起きでボケているんだと思い込んでいた僕の指摘で、台所に立ったままの母さんが首をかしげながら味見をする。

「あら?本当に何か変ね……」

結局味噌汁は廃棄されて、僕と燐はふりかけで残りのご飯を食べる事になった。

「お兄ちゃんまだ?」

歯を磨く僕を燐が急かす。

そんなに待てないんだったら先に行けば良いのに……

軽い吐き気がするんだけど何だろう?

風邪でも引いたかな?

「それじゃあ、行ってき……」

「きゃ!お兄ちゃん!」

玄関先で兄妹仲良く靴を履いて出発しようとした所で、僕の意識は無くなった。







「ピピピピピピピッ!」

手探りで携帯電話を探しあててアラームを止める。

「7時か……」

早く起きないと母さんが起こしに来てしまう時間だ。

「蓮?ご飯出来てるわよ?」

高校の制服に袖を通すと、母さんの声が聞こえた。

「分かった」

今日は気分を変えて歯磨きを先にする事にした。

食後の口臭や食べかすを洗い流せるからと言う理由で僕は何時も食後に歯磨きをしている。

「あれ?お兄ちゃんがご飯の前に歯を磨くなんて珍しいね?」

実際は洗面所で燐と並んで歯磨きをするのが恥ずかしいのも含まれてるんだけどね……

歯ブラシを口にくわえた燐を直視しないようにしながら歯磨きをする。

口の中がさっぱりした所で燐と並んでリビングへ向かう。

今日の朝食は味噌汁とご飯か。

「「いただきます」」

手を合わせてご飯を口に含む。

「あら?今日は珍しく私の言う通りに歯磨きをしたのね?」

勝ち誇った母さんがなんだかすごく憎たらしい。

そんな顔をするから僕も朝食前の歯磨きはしたくないんだ。

「お母さん、お味噌汁から変な味がするよ?」

母さんに何か言い返してやろうと思って口を開く前に、燐が味噌汁に口をつけながら言った。

燐に習うように僕も口に含んでみると、確かに妙な味がする。

「そう?いつもの変わった材料は使って無いんだけど?」

台所に立ったままの母さんが首をかしげながら味見をする。

「あら?本当に何か変ね……」

結局味噌汁は廃棄されて、僕と燐はふりかけで全てのご飯を食べる事になった。

「それじゃあ、行って来ます!」

「行って来ま~す」

ご飯も食べ終わり、玄関先で兄妹仲良く靴を履いて出発した。







「えへへ、こんなに早く家を出るのって久しぶりだね」

そう言えばそうだった。

僕が食後に歯磨きをするようになってから、家を出る時間は遅くなった。

こうしてのんびりと登校するのも悪く無いな……

「いつもこうだと嬉しいんだけどな~」

にこにこと笑顔を浮かべながら燐が言う。

けれど歯磨きを食前にすると、口臭や食べかすが気になってしまうのだ。

「口臭とかが気になるんだよ」

そう言った僕にしばらく首をかしげながら考え込んでいた燐は、良い事を思い付いたとばかりに僕へ息を吹きかけた。

「変な臭いした?」

……いや、しなかったけど、なんて恥ずかしい事しやがりますか!

「お兄ちゃんは気にし過ぎなんだよ。それに口臭って胃腸から発生する場合もあるんだよ?」

燐の言う事はもっともだが、今は周りの目が気になる。

案の定周りの目は僕達の仲の良さに生温かい視線を向けていた。

ああ、またクラスでシスコンだの何だの言われるのか……

「あんまり気になるんならお医者さんに相談したら?」

いや、今気にしてるのはそんな事じゃないんだよ。

反論しようと口を開きかけた所で、背中に何かがぶつかる感覚によろめいた僕はそのまま倒れてしまった。

あれ?

立ちあがろうとするのだが、背中に痛みとも暑さとも判断出来ないものが走って立ちあがる事が出来ない。

「きゃーーーーー!」

燐?

何で悲鳴なんか上げてるんだ?

「ぼ、僕の燐ちゃんになれなれしくしやがって!」

聞き覚えのある声だ。

……確か…燐につきまと………

そこで僕の意識は途絶えた。







「ピピピピピピピッ!」

手探りで携帯電話を探しあててアラームを止める。

「7時か……」

早く起きないと母さんが起こしに来てしまう時間だ。

「蓮?ご飯出来てるわよ?」

高校の制服に袖を通すと、母さんの声が聞こえた。

「分かった」

今日は気分を変えて歯磨きを先にする事にした。

食後の口臭や食べかすを洗い流せるからと言う理由で僕は何時も食後に歯磨きをしている。

「あれ?お兄ちゃんがご飯の前に歯を磨くなんて珍しいね?」

実際は洗面所で燐と並んで歯磨きをするのが恥ずかしいのも含まれてるんだけどね……

歯ブラシを口にくわえた燐を直視しないようにしながら歯磨きをする。

口の中がさっぱりした所で燐と並んでリビングへ向かう。

今日の朝食は味噌汁とご飯か。

「「いただきます」」

手を合わせてご飯を口に含む。

「あら?今日は珍しく私の言う通りに歯磨きをしたのね?」

勝ち誇った母さんがなんだかすごく憎たらしい。

そんな顔をするから僕も朝食前の歯磨きはしたくないんだ。

「お母さん、お味噌汁から変な味がするよ?」

母さんに何か言い返してやろうと思って口を開く前に、燐が味噌汁に口をつけながら言った。

燐に習うように僕も口に含んでみると、確かに妙な味がする。

「そう?いつもの変わった材料は使って無いんだけど?」

台所に立ったままの母さんが首をかしげながら味見をする。

「あら?本当に何か変ね……」

結局味噌汁は廃棄されて、僕と燐はふりかけで全てのご飯を食べる事になった。

「お兄ちゃんまだ?」

歯を磨く僕を燐が急かす。

そんなに待てないんだったら先に行けば良いのに……

結局僕は気持が悪くて食後にも歯磨きをする事にした。

「それじゃあ、行って来ます!」

「行って来ま~す」

歯磨きも終わり、玄関先で兄妹仲良く靴を履いて出発した。







「もう!お兄ちゃんのせいで遅刻だよ?」

学校への道を走りながら燐が文句を言うが、何で僕が怒られるんだ?

「僕は先に行けって言ったじゃないか?」

「お兄ちゃんの鈍感!」

はあ?

何の事だ?

しばらく走っていると、登校中の生徒の姿が見え始めた。

どうやら遅刻はしなくて済みそうだ。

「口臭とかが気になるんだよ」

歩きに切り替えて息を整えながら言う。

僕と同じように息を整えながら考え込んでいた燐は、良い事を思い付いたとばかりに僕へ息を吹きかけた。

「変な臭いした?」

……いや、しなかったけど、なんて恥ずかしい事しやがりますか!

しかも、息を整えながらだから妙に色っぽいぞこんちくしょう!

「お兄ちゃんは気にし過ぎなんだよ。それに口臭って胃腸から発生する場合もあるんだよ?」

燐の言う事はもっともだが、今は周りの目が気になる。

あわてて周りを見渡すと、登校中の生徒もまばらと言う事もあって気にしていたような視線は少なかった。

「あんまり気になるんならお医者さんに相談したら?」

いや、今気にしてるのはそんな事じゃないんだよ。

反論しようと口を開きかけた所で、背後から走り寄って来る男の姿が見えた。

こいつは確か燐に付きまとってたストーカー野郎!

「っ!」

とっさに体をひねって突進を避けると、男はその勢いのまま足をもつれさせて倒れた。

避けきれなかった左腕に痛みが走って、血がダラダラと垂れて行く。

男の手にはナイフが握られているようだ。

「ぼ、僕の燐ちゃんになれなれしくしやがって!」

そう言って立ちあがろうとしているが、ソレを許すと僕の命は無くなってしまう!

そう判断して僕が男へ駆け寄ろうとするよりも早く、動くモノが有った。

助走を付けて男へ駆け寄ったソレは綺麗な飛びひざ蹴りを男の後頭部へ決めた。

「お兄ちゃんをいじめるな~!」

いや、いじめとは違うだろ?

場違いな感想を抱いてしまった僕を許してほしい。







目撃証言も多数有って以前から燐のストーカーをしていた男は警察のお世話になる事となった。

怪我の治療事情聴取で午前中の授業には出られなかったが、午後からの授業は普通に受ける事にした。

燐は僕のけがを心配していたけど、大げさなんだよ。

事件のせいでお祭り騒ぎを起こしているクラスメイト達をなだめて授業の準備をする。
あれ?

机の中から封筒が2つ出て来た。

手紙?

1通は蓮様へと丸っこい女の子特有の字で『今日の放課後屋上で待っています』等と書かれているが、名前が書かれていない。

もう1通は筆で果たし状と書かれた達筆な文字だ。

表側の果たし状と言う文字と今日の放課後、体育館裏、と言う文字はかろうじて読めるが、それ以外の内容はさっぱり読めない。

う~むどう言う事だ?

果たし状と言うからには何かしら僕に恨みが合っての事なんだと思うんだけど、全然思い浮かばない。

きっと人違いだろう。

僕は屋上へ行く事にした。

放課後になり、燐から帰りの誘いを受けたが、今日は用事が有ると告げて先に帰ってもらった。

屋上に着くと授業が終わってすぐと言う事もありまだ誰の姿も無かった。

時間を持て余した僕は、体育館の様子を伺った。

ここからでは裏側を覗く事は出来ないが、別に変った人間が出入りしている様子は見られなかった。

しばらく見続けたいると、見覚えの有る顔が出て来た。

燐?

先に帰るって言ってた筈だけど?

「!?」

それから先を考える前に僕は視界を塞がれた。

袋?

布製の袋のような物で視界を塞がれて、僕は持ち上げられた。

抵抗する暇も無く、僕は投げ出されて浮遊感を味わった。

そして自分が硬い物に叩きつけられる感触。

…アぁ…僕は屋上から………

そこで僕の意識は途絶えた。







「ピピピピピピピッ!」

手探りで携帯電話を探しあててアラームを止める。

「7時か……」

早く起きないと母さんが起こしに来てしまう時間だ。

「蓮?ご飯出来てるわよ?」

高校の制服に袖を通すと、母さんの声が聞こえた。

「分かった」

今日は気分を変えて歯磨きを先にする事にした。

食後の口臭や食べかすを洗い流せるからと言う理由で僕は何時も食後に歯磨きをしている。

「あれ?お兄ちゃんがご飯の前に歯を磨くなんて珍しいね?」

実際は洗面所で燐と並んで歯磨きをするのが恥ずかしいのも含まれてるんだけどね……

歯ブラシを口にくわえた燐を直視しないようにしながら歯磨きをする。

口の中がさっぱりした所で燐と並んでリビングへ向かう。

今日の朝食は味噌汁とご飯か。

「「いただきます」」

手を合わせてご飯を口に含む。

「あら?今日は珍しく私の言う通りに歯磨きをしたのね?」

勝ち誇った母さんがなんだかすごく憎たらしい。

そんな顔をするから僕も朝食前の歯磨きはしたくないんだ。

「お母さん、お味噌汁から変な味がするよ?」

母さんに何か言い返してやろうと思って口を開く前に、燐が味噌汁に口をつけながら言った。

燐に習うように僕も口に含んでみると、確かに妙な味がする。

「そう?いつもの変わった材料は使って無いんだけど?」

台所に立ったままの母さんが首をかしげながら味見をする。

「あら?本当に何か変ね……」

結局味噌汁は廃棄されて、僕と燐はふりかけで全てのご飯を食べる事になった。

「お兄ちゃんまだ?」

歯を磨く僕を燐が急かす。

そんなに待てないんだったら先に行けば良いのに……

結局僕は気持が悪くて食後にも歯磨きをする事にした。

「それじゃあ、行って来ます!」

「行って来ま~す」

歯磨きも終わり、玄関先で兄妹仲良く靴を履いて出発した。







「もう!お兄ちゃんのせいで遅刻だよ?」

学校への道を走りながら燐が文句を言うが、何で僕が怒られるんだ?

「僕は先に行けって言ったじゃないか?」

「お兄ちゃんの鈍感!」

はあ?

何の事だ?

しばらく走っていると、登校中の生徒の姿が見え始めた。

どうやら遅刻はしなくて済みそうだ。

「口臭とかが気になるんだよ」

歩きに切り替えて息を整えながら言う。

僕と同じように息を整えながら考え込んでいた燐は、良い事を思い付いたとばかりに僕へ息を吹きかけた。

「変な臭いした?」

……いや、しなかったけど、なんて恥ずかしい事しやがりますか!

しかも、息を整えながらだから妙に色っぽいぞこんちくしょう!

「お兄ちゃんは気にし過ぎなんだよ。それに口臭って胃腸から発生する場合もあるんだよ?」

燐の言う事はもっともだが、今は周りの目が気になる。

あわてて周りを見渡すと、登校中の生徒もまばらと言う事もあって気にしていたような視線は少なかった。

「あんまり気になるんならお医者さんに相談したら?」

いや、今気にしてるのはそんな事じゃないんだよ。

反論しようと口を開きかけた所で、背後から走り寄って来る男の姿が見えた。

こいつは確か燐に付きまとってたストーカー野郎!

「っ!」

とっさに体をひねって突進を避けると、男はその勢いのまま足をもつれさせて倒れた。

避けきれなかった左腕に痛みが走って、血がダラダラと垂れて行く。

男の手にはナイフが握られているようだ。

「ぼ、僕の燐ちゃんになれなれしくしやがって!」

そう言って立ちあがろうとしているが、ソレを許すと僕の命は無くなってしまう!

そう判断して僕が男へ駆け寄ろうとするよりも早く、動くモノが有った。

助走を付けて男へ駆け寄ったソレは綺麗な飛びひざ蹴りを男の後頭部へ決めた。

「お兄ちゃんをいじめるな~!」

いや、いじめとは違うだろ?

場違いな感想を抱いてしまった僕を許してほしい。







目撃証言も多数有って以前から燐のストーカーをしていた男は警察のお世話になる事となった。

怪我の治療事情聴取で午前中の授業には出られなかったが、午後からの授業は普通に受ける事にした。

燐は僕のけがを心配していたけど、大げさなんだよ。

事件のせいでお祭り騒ぎを起こしているクラスメイト達をなだめて授業の準備をする。

あれ?

机の中から封筒が2つ出て来た。

手紙?

1通は蓮様へと丸っこい女の子特有の字で『今日の放課後屋上で待っています』等と書かれているが、名前が書かれていない。

もう1通は筆で果たし状と書かれた達筆な文字だ。

表側の果たし状と言う文字と今日の放課後、体育館裏、と言う文字はかろうじて読めるが、それ以外の内容はさっぱり読めない。

う~むどう言う事だ?

果たし状と言うからには何かしら僕に恨みが合っての事なんだと思うんだけど、全然思い浮かばない。

けれど、僕は果たし状の方が気になった。

僕は体育館裏へ行く事にした。

放課後になり、燐から帰りの誘いを受けたが、今日は用事が有ると告げて先に帰ってもらった。

体育館裏に着くと授業が終わってすぐと言う事もありまだ誰の姿も無かった。

「蓮君?」

しばらく待っていると、近所に住む3年生の未来(みく)さんが現れた。

「えっと……まさかとは思うんですけど、この果たし状は未来さんが?」

「わっ!」

果たし状を未来さんへ差し出すと、未来さんはソレを勢いよく奪い取った。

「あ、あの、これは、違うの!これは燐ちゃんへの果たし状で……」

あぁ、未来さんと燐は何でか仲が悪いしね……

「じゃぁ、間違いだったんだ。燐には先に帰るように言っちゃったから明日にでも渡すよ」

僕は再び果たし状を受け取ろうと手を伸ばした。

「えっと、えっと、違うけど違わないの!」

どう言う事?

「果たし状は違うけど、呼び出したかったのは蓮君なの!」

「はぁ?」

事情が呑み込めない。

「す、好きです!付き合って下さい!」

え!?

飛び込んで来た未来さんを抱きとめながら混乱する。

「ずっと好きだったの!けど、何時も燐ちゃんが隣に居たから」

「ぼ、僕も未来さんの事好きだよ」

僕の返事を聞いて未来さんの顔が近づいて来る。

これって、もしかして……

そして、僕達の距離は零になった。

後ろの茂みからカサリと音がした気がしたけど、気にしない。

今の幸せに比べたら些細な事さ。







未来さんの家の前で別れた僕は自分の家へと急いだ。

色々と話しこんでいる間に遅くなってしまったからだ。

家へ帰ると明りは一切ついていなかった。

おかしいな?

母さんはパートだろうけど、燐はまっすぐ家へ帰るって言ってたのに……

書置きも見当たらないし……まさか何かあったのか!?

「あ、お兄ちゃん?ごめんね、ちょっとコンビニに居るの。ご飯は作ってあるからそれを食べてね」

適当に会話をして電話を切る。

……心配して損した。

リビングを見ると確かに夕飯のおかずが置いてある。

……悪い事したな。

これなら未来さんの料理は今度にして早めに家へ帰れば良かった。

風呂は母さんがパートから帰って来てからで良いや……

僕は燐が帰って来るまでの間寝る事にした。

ソファーで寝ていると玄関が開く音がする。

燐が帰って来たのか?

目を開けるのも面倒だな……

「お兄ちゃん?」

あぁ、やっぱり燐か。

「お帰り。ずいぶん遅かったんだな」

「うん。途中で火事があったらしくって、途中の道が通れなくなってたの。テレビカメラが回ってたから、ニュースでやるんじゃないかな?」

ふ~ん。

そう言えばさっきからサイレンが鳴ってたな。

寝転がったままテレビを付けると、ちょうどそのニュースをやるらしかった。

「あれ?お兄ちゃんご飯は?」

「あぁ、悪い。友達と外で食べたんだ」

「ふ~ん」

あれ?

テレビ画面に映る家は、信じたくは無いが、僕がここへ帰るまで居た……

「ぐぁ!」

お腹が熱い!

腹に刺さった包丁が横に滑って傷口が開いて行くのが分かる。

まるで魚がさばかれるみたいに……

「お兄ちゃんが悪いんだよ?あんな女の家でご飯何か食べるから……」

じゃぁ、未来さんは……

そこで僕の意識は途絶えた。







「ピピピピピピピッ!」

手探りで携帯電話を探しあててアラームを止める。

「7時か……」

早く起きないと母さんが起こしに来てしまう時間だ。

「蓮?ご飯出来てるわよ?」

高校の制服に袖を通すと、母さんの声が聞こえた。

「分かった」

今日は気分を変えて歯磨きを先にする事にした。

食後の口臭や食べかすを洗い流せるからと言う理由で僕は何時も食後に歯磨きをしている。

「あれ?お兄ちゃんがご飯の前に歯を磨くなんて珍しいね?」

実際は洗面所で燐と並んで歯磨きをするのが恥ずかしいのも含まれてるんだけどね……

歯ブラシを口にくわえた燐を直視しないようにしながら歯磨きをする。

口の中がさっぱりした所で燐と並んでリビングへ向かう。

今日の朝食は味噌汁とご飯か。

「「いただきます」」

手を合わせてご飯を口に含む。

「あら?今日は珍しく私の言う通りに歯磨きをしたのね?」

勝ち誇った母さんがなんだかすごく憎たらしい。

そんな顔をするから僕も朝食前の歯磨きはしたくないんだ。

「お母さん、お味噌汁から変な味がするよ?」

母さんに何か言い返してやろうと思って口を開く前に、燐が味噌汁に口をつけながら言った。

燐に習うように僕も口に含んでみると、確かに妙な味がする。

「そう?いつもの変わった材料は使って無いんだけど?」

台所に立ったままの母さんが首をかしげながら味見をする。

「あら?本当に何か変ね……」

結局味噌汁は廃棄されて、僕と燐はふりかけで全てのご飯を食べる事になった。

「お兄ちゃんまだ?」

歯を磨く僕を燐が急かす。

そんなに待てないんだったら先に行けば良いのに……

結局僕は気持が悪くて食後にも歯磨きをする事にした。

「それじゃあ、行って来ます!」

「行って来ま~す」

歯磨きも終わり、玄関先で兄妹仲良く靴を履いて出発した。







「もう!お兄ちゃんのせいで遅刻だよ?」

学校への道を走りながら燐が文句を言うが、何で僕が怒られるんだ?

「僕は先に行けって言ったじゃないか?」

「お兄ちゃんの鈍感!」

はあ?

何の事だ?

しばらく走っていると、登校中の生徒の姿が見え始めた。

どうやら遅刻はしなくて済みそうだ。

「口臭とかが気になるんだよ」

歩きに切り替えて息を整えながら言う。

僕と同じように息を整えながら考え込んでいた燐は、良い事を思い付いたとばかりに僕へ息を吹きかけた。

「変な臭いした?」

……いや、しなかったけど、なんて恥ずかしい事しやがりますか!

しかも、息を整えながらだから妙に色っぽいぞこんちくしょう!

「お兄ちゃんは気にし過ぎなんだよ。それに口臭って胃腸から発生する場合もあるんだよ?」

燐の言う事はもっともだが、今は周りの目が気になる。

あわてて周りを見渡すと、登校中の生徒もまばらと言う事もあって気にしていたような視線は少なかった。

「あんまり気になるんならお医者さんに相談したら?」

いや、今気にしてるのはそんな事じゃないんだよ。

反論しようと口を開きかけた所で、背後から走り寄って来る男の姿が見えた。

こいつは確か燐に付きまとってたストーカー野郎!

「っ!」

とっさに体をひねって突進を避けると、男はその勢いのまま足をもつれさせて倒れた。

避けきれなかった左腕に痛みが走って、血がダラダラと垂れて行く。

男の手にはナイフが握られているようだ。

「ぼ、僕の燐ちゃんになれなれしくしやがって!」

そう言って立ちあがろうとしているが、ソレを許すと僕の命は無くなってしまう!

そう判断して僕が男へ駆け寄ろうとするよりも早く、動くモノが有った。

助走を付けて男へ駆け寄ったソレは綺麗な飛びひざ蹴りを男の後頭部へ決めた。

「お兄ちゃんをいじめるな~!」

いや、いじめとは違うだろ?

場違いな感想を抱いてしまった僕を許してほしい。







目撃証言も多数有って以前から燐のストーカーをしていた男は警察のお世話になる事となった。

怪我の治療事情聴取で午前中の授業には出られなかったが、午後からの授業は普通に受ける事にした。

燐は僕のけがを心配していたけど、大げさなんだよ。

事件のせいでお祭り騒ぎを起こしているクラスメイト達をなだめて授業の準備をする。
あれ?

机の中から封筒が2つ出て来た。

手紙?

1通は蓮様へと丸っこい女の子特有の字で『今日の放課後屋上で待っています』等と書かれているが、名前が書かれていない。

もう1通は筆で果たし状と書かれた達筆な文字だ。

表側の果たし状と言う文字と今日の放課後、体育館裏、と言う文字はかろうじて読めるが、それ以外の内容はさっぱり読めない。

う~むどう言う事だ?

果たし状と言うからには何かしら僕に恨みが合っての事なんだと思うんだけど、全然思い浮かばない。

どっちも怪しすぎる。

僕はどちらにも行かない事にした。

放課後になり、燐からの誘いを受けて一緒に帰る事にした。

メールの着信が有ったので確認すると。

従妹の練(ねる)からだった。

これから来るらしい。

「燐、今から練が来るってさ」

「え~」

あきらかに嫌そうな声で答える。

何でこいつは僕の知り合いと仲が悪いんだろうか?







燐に料理を任せて練を迎えに行く途中、学校帰りらしい未来さんに出会った。

「あ!蓮君何で来てくれなかったの?」

はて?何のことだろうか?

「今日手紙で体育館裏に来てって……」

「この果たし状の事?」

体育館裏と言われてやっと分かった。

けど、何で果たし状?

「あれ?これは燐ちゃんに出す筈の……」

どうやら果たし状は燐あてだったようだ。

果たし状は改めて出すと言う未来さんへ返してその場は別れ……

「未来!私の蓮から離れなさい!」

分かれる前に本日のお客さんが来てしまったようだ。

「練!?貴女がどうしてここに居るの?」

燐もそうだが、この2人も何故か仲が悪い。

僕を間に挟んで一生即発って感じだ。

「二人とも落ち着いて!」

「「蓮(君)は黙ってて!!」」

「こら~!帰りが遅いと思ったらあんた達お兄ちゃんと何してるの!!」

ああ……僕は何て無力なんだ。

結局練に続いて未来さんも家に泊ると言う事でその場は決着が付いた。

何で?












日記
××月○○日金曜日
今日は朝燐のストーカーに刺されかかった以外は普通の一日だった。
いつもよりも死にそうになる回数も少なくて良かった。
交通事故なんて日常茶飯事だもんな……
明日もこの調子で普通の一日が過ごせる事を祈ってます。











後書き
あぁ、ネタはいくつかあってもソレが形に出来ない……
今ネタとして有るのは……
って、あまりネタばれは良く無いね……
次回はこっちの更新が大幅に遅れると思います。



[16943] 14
Name: 顔無◆0c3027e3 ID:979e69ab
Date: 2010/07/13 19:36
タクシー14








本日のお客さんは病院から飛び降りてお亡くなりになった病弱な少年でした。

タクシーに乗ってから降りるまで終始無言だったために、沙菜は少々不機嫌なようです。

やれやれ、今日はもう1件仕事が入っていると言うのに……

「お兄ちゃん、今日のお客さん何も喋ってくれなかったね……」

しばらくは首に巻いたブレスレットをいじりながらイライラを誤魔化してはいましたが、つい愚痴がこぼれてしまうのは幼さ故でしょうか?

「こう言う時もあるさ」

「やっぱり何か理由があったりするの?」

事前調査はしっかりしてありますから、理由らしきものは知っています。

ですが、これは教えても良い物でしょうか?

「お兄ちゃん、沙菜にも教えて?」

……沙菜に哀願されてはかないませんね、少々面白くない話になりますが話す事にしましょう。









彼は山田啓太君と言って、生まれつき体が弱かったんだ。

親も医者もさじを投げるような彼に、ただ1人の味方が居たんだ。

「味方って?」

……啓太君のお姉さんだ。

お姉さんの優奈さんは、学業の合間を縫っては啓太君の看病を続けてたんだ。

その甲斐甲斐しく彼の世話を焼く姿は、姉弟ってよりは、恋人同士のそれに見えるほど甘く見えたらしい。

「禁断の恋って奴だね?」

はっ、そうなりゃ良かったんだがな……

現実ってのはそんなに甘く無い。

「……何が起こったの?」

啓太君の治療費ってのはそうとう掛ったらしくてな、その治療費が払えない所まで来てたんだ。

で、優奈さんは啓太君の主治医からある話を持ちかけられる訳だ。

「うっ!この展開って……」

そう、お前が考えてるような展開だが、まだ早い。

主治医は女だ。

「え!?じゃぁ、その人女のひと同士で……」

だからまだ早いって。

主治医は優奈さんに新薬の実験を持ちかけたんだ。

その薬を服用して、服用後の検査結果を調べるって話だったんだがな……

「まさか、その薬って危ない薬だったの!?」

ああ。

媚薬って奴だ。

薬を進めたのが女医だったのは、警戒心を薄れさせるためだったんだ。

そして優奈さんは媚薬を服用させられているとは知らずに、女医の元に通い続けた。

そうする事で弟の治療費が払えるならと考えたからだ。

体の疼きを意思の力で抑え込んで、啓太君の為にと薬の服用を続けたわけだ。

体には常に微熱が伴い思考も低下する。

それでも、啓太君には気丈に振舞っていたようだ。

けど、そんな優奈さんの異変に啓太君は気付いた。

それはそうだ、自分のただ一人の味方だ。

気付かないほうがどうかしてる。

有る夜体の疼きに耐えられなくなった優奈さんは、朦朧とする意識の中で啓太君の病室へ忍び込んだ。

「も、もしかして優奈さんが襲っちゃったの?」

ば~か。

だったらあんなに落ち込んでるわけないだろ?

ギリギリで思いとどまった優奈さんは、検診の時間だからと女医の元へむかったわけだ。

そこから啓太君の地獄が始まる。

自分を訪ねて来た優奈さんの様子がいよいよもっておかしいと、病院中を探し回って啓太君が見つけた優奈さんは、病院内の医師達に輪姦されてたわけだ。

啓太君は、あわててその部屋へ飛び込んだんだが、病弱な啓太君は男達に拘束されちまった。

優奈さんから流れる純潔の血を見せ付けられ、よがり狂う優奈さんからは「弟の事はどうでも良いからお■■■ちょうだい!」なんて聞かされ……

薬でそうなっているとは知らない啓太君は絶望したんだろうな……

明け方近くになって解放された啓太君は、そのまま屋上から飛び降りたわけだ。






























「あれ?ここって、さっきの啓太って人を乗せた病院だよね?」

沙菜の言う通り、ここは啓太君を乗せた病院の前です。

「あぁ。今日もう1件仕事が入っているって言っただろ?」

屋上を見上げると、丁度良すぎるタイミングだったようです。

そのタイミングの良さに思わず舌打ちをしてしましました。

「うぅ、改めて見ると、気持ち悪いね……」

啓太君の死体を見て沙菜が顔をしかめていますが、これから起こる事を見ればそんな事は言っていられませんよ?

「きゃっ!」

私はその瞬間が見えないように沙菜を抱きしめて視界を遮ります。

「え!?何々?どうしたの!?何が起こったの?」

私に抱きしめられた事でパニックに陥った沙菜ですが、何かの落下音を耳にしてからはそちらの方が気になるようです。

私の手が離れるのを待って、沙菜は啓太君の上へ折り重なるようにして落ちて来たソレを目にしました。

「っ!!」

やっぱり声も出ませんか……

こんな事になるなら、タクシーの中で待機させておけば良かったですね……

ぐちゃぐちゃになってしまってはいますが、ソレは体の至る所に男性の白いアレを付着させた裸の女性でした。

「お迎えにあがりました、優奈さん」


さて、お時間となりました。

次はどなたにご乗車いただく事になるのか・・・

では、またいつかお会いしましょう。








後書き
どうも、お久しぶりです。
リアルで会社がつぶれてしまい、次の仕事が見つからない顔無です。
ショックのあまり運転手になってしまう所でした(マテ!
さて、久々の投稿なのですが、今回のコレは正直投稿するか迷いました。
リア友から「コレと12話がエロ漫画で似たようなネタやってるけど、パクリじゃないよな?」なんて言われてしまいまして。
友人の家で読ませてもらうと……
色々悩みましたが、一応投稿する事にしました。
では、ご意見ご感想お待ちしております。



[16943] 短編 7
Name: 顔無◆0c3027e3 ID:979e69ab
Date: 2010/08/26 00:45
最低だね!











「優斗(ゆうと)一緒に帰ろ?」

隣のクラスから駆け込んで来た美代子(みよこ)が拒否は認めないとばかりに僕を急かす。

クラスの何人かがはやし立てるが、僕と美弥子はそんな関係じゃないんだよね。

否定すれば否定するほどはやし立てる声は多くなるため最近では曖昧に笑ってごまかしている。

「最近からかわれても否定しなくなったね?」

ランドセルを揺らしながら歩く美代子が悪戯っぽく聞いて来る。

お前までそんな事言うのかよ。

鬱陶しい。

「そう言うお前も否定しなくなっただろ?」

「……そうだね」

それっきり会話らしい会話も無く家へ辿り着いた。

「おじゃましま~す!」

無言で扉をくぐる僕に対して美代子は大声で来訪を告げた。

後から入って来た美代子は僕を追い抜くと階段を駆け上がって行った。

多分兄貴の部屋へ行ったんだと思う。

美代子と違ってゆっくりと階段をのぼった僕は自分の部屋で今日出された宿題を始めた。

指定された漢字を10回づつ書いて行く。

明日はこの宿題の中から問題を出すって先生が言ってたから手を抜けない。

あの先生は点数が悪いと居残りをさせるから嫌いだ。

しばらく続けていると、壁の薄さが災いして隣からは兄貴と美代子の声が聞こえて来た。

その声は最初は囁くような語り合いから次第に生々しいものになってきた。

初めて耳にした時は焦ったが、いまではお気に入りの曲をかけて声が聞こえないように対処している。

前回もうるさかった為に、兄貴に自重するよう注意しておいたんだが、聞き入れてもらえなかったようだ。

高校生が小学生に手を出しといて、さらにいたしてる声を僕に聞かせるとかどんなプレイだよ?

父さん達は美代子の家の両親と旅行に行ってしばらく帰って来ないし、夜通し続けるつもりなのかな?

美代子も大変だね。

宿題の終わった僕は出かける事にした。

とは言っても隣の家なんだけどね。

呼び鈴を鳴らすと、待ってましたとばかりに玄関が開いて中学の制服にエプロンを付けた美弥子(みやこ)さんが迎えてくれた。

「いらっしゃい!丁度ご飯が出来た所だからまずはご飯にしよ?」

言われるままご飯を食べはじめる。

献立はシチューと手作りのパン。

とても美味しい。

しばらくは夢中でご飯を食べてたんだけど、顔を上げたら美弥子さんと目が合った。

「何?」

「なんでもないよ」

顔は笑ってるけど陰りが見える。

兄貴の事思い出してるのかな?

本人達は隠してるつもりみたいだけど、美弥子さんは1年前まで兄貴と付き合ってたから。

隣同士の幼馴染。

一番年上の兄貴とその2つ年下の美弥子さん。

さらに2つ年下の僕と美弥子さんの妹の美代子。

兄貴と美弥子さんが付き合って別れたと思ったら今度は美代子が兄貴と付き合いだした。

兄貴と付き合いだした美代子を見てるとぐっと女らしくなったと思う。

ソレを考えたら美弥子さんは相変わらず子供っぽい。

最初はそう言う演技なのかとも思ったんだけど、どうやら兄貴と美弥子さんの関係はちょっと中の良い友達くらいにしかなってなかったみたいだ。

美弥子さんは僕と兄貴を比べてしまう自分に負い目に感じてるみたいだ。

べつに僕達は付き合ってるわけでもないのに何でこんな事で遠慮するんだろ?

……ここはちょっと素直になってもらおうかな?

「ねえ、美弥子さん」

食事も終わり洗い物を始めた美弥子さんに話しかける。

並行して甘えるように後ろから抱き付いて逃げ道を塞ぐ。

「ん?なぁに?」

ちょっとびっくりしたみたいだけと、何時も通りの優しい声だ。

だけど、その優しい声は二度と聞けないかも知れないね。

「僕と居て楽しい?」

カチャリと食器が音を立てた。

美弥子さんの動揺が伝わってくるけど、今日は逃がさないよ。

「ど、どうしたの?私は楽しいよ?」

「嘘だよね?美弥子さんは僕に兄貴を重ねて見てるから分かるよ」

美弥子さんの体が時間が止まったみたいに動かなくなった。

たぶん気付かれて無いと思ってたんだよね?

でも、僕は他の人より鋭いみたいだから気付いちゃった。

幼馴染だし美弥子さんも僕が鋭い事を知ってる。

「……いつから気付いてたの?」

観念したのかな?

美弥子さんの体から力が抜けはじめてる。

「それは兄貴と美弥子さんが付き合ってた事?それとも重ねて見てる事?」

エプロンと制服の間に腕を滑り込ませながら尋ねる。

気付かれていたショックで僕の行動に待ったがかかる事は無かった。

へぇ、ふざけて触った事は有ったけど、じっくり触るとこんなにおっぱいって柔らかいものなんだ。

「多分だけど、美弥子さんは兄貴と甘酸っぱい恋がしたかったんだよね?でも兄貴は美弥子さんとエッチがしたかった。それは相手がだれでも良かったって事じゃ無いとは思うんだけど、美弥子さんはエッチな事が怖かったんだよね?だから、焦れた兄貴は美弥子さんと別れた」

この考えは多分間違って無いと思う。

美弥子さんは塞ぎ込んでたし、兄貴はずいぶん荒れてたし、美代子は八つ当たりみたいに抱かれてる事が多かったから。

壁越しに泣きながら名前を呼ばれた時はどうしようか迷ったんだけど、最近は2人とも楽しんでるみたいだし良いよね?

「きゃっ!」

スカートの中の下着はすべすべして気持ち良い……ん?

ちょっと湿ってる?

これはもうOKって事で良いのかな?

あ~あ、もう少し余裕を見て僕に気持ちが傾いてからにしようと思ったけど、抵抗もしないしもう良いや。

硬い床の上で悪いけどいただきます。







美弥子さんと眠りに付いた僕は美代子と入れ替わるようにして家に帰った。

「また美弥子の家に行ってたのか?」

準備を済ませて学校へ向かおうとした所で兄貴が隣の部屋から出て来た。

この時間まで居るって事は今日は休むのかな?

「いい加減子供じゃないんだから、美弥子に頼るなよ」

言いたい事は分かるんだけど、この人は自分の言ってる事が分かってるんだろうか?

僕は何度注意しても兄さんが自重してくれないから仕方なく美弥子さんの所に泊りに行ってたんだけど?

それともアレかな?

兄貴はいまだに美弥子さんに未練があるみたいだし、僕を警戒してたのかな?

まぁ、それだったらもう無意味なんだけどね。

いい加減面倒だし、はっきりさせておこうか。

「ソレなんだけど、子供じゃないからこそ美弥子さんの所に泊ってるって言ったらどうする?」

自分でも嫌な顔をしてるのが分かる。

本当は黙ってるつもりだったんだけど、しょうがないよね?

僕に抱かれながら兄貴の名前を呼んじゃった美弥子さんがわるいんだから。

……な~んて嘘。

一番悪いのは僕だよね。

だって、言いたくて仕方が無いんだもん。

「僕が動くたびに乱れる美弥子さんは綺麗だよ?兄貴が抱いてる美代子もきっとそうなんでしょ?」

兄貴の傷をえぐる。

兄貴にとって美代子は美弥子さんの代わりでしかないんだから。

けど、美代子の事をまったく愛してないわけじゃない。

だからいい加減に兄貴の気持ちもはっきりさせないとね。

「それじゃぁ、僕は学校行くから戸締りよろしくね?」

この場に留まって殴られても嫌だし、兄貴の返事を待たずに玄関を出るとちょうど美弥子さんが出て来た。

何て言うか微妙な歩きかたで少し歩きにくそうだ。

やっぱり小説や漫画でヒロインが言うみたいに何かが挟まったような感じがするとかそんな感じなのかな?

まぁ、僕は男だしそんなの良く分からないけど。

そのまま美弥子さんは何も言わずに僕の横を通り過ぎてしまった。

けど、怒ってる感じじゃないみたいだ。

むしろ僕と顔を合わせるのが恥ずかしいみたいだ。

その証拠に通り過ぎる直前耳元で今夜も行くよと声をかけたら顔を真っ赤にして俯いてしまった。

どうやら兄貴への想いは僕への想いで上書き出来たようだ。

油断は出来ないけどまずは一安心かな?

「おはよう優斗!」

続いて出て来た美代子が僕の肩を思いっきり叩く。

毎度毎度痛いからやめろって言ってるんだけどな。

そのまま先を歩きだした美代子を追うようにして学校へ向かう。

「なんだかお姉ちゃんの様子がおかしいんだけど、優斗心当たり無い?」

しばらく無言で歩いていた美代子が聞いて来た。

まぁ、昨日は美弥子さんと一緒に居たんだし、異変に気付いた美代子が聞いて来るのは予想できた事だけどね。

ついでだしコイツの中途半端な状態も決着をつけてやるか。

「昨日美弥子さんとヤった」

これだけで美代子には分かる筈だ。

兄貴との事もそうだし、それに……

「……そうなんだ」

先を歩く美代子の表情を見なくても分かる。

「ねえ、知ってた?あたし優斗が大好きなんだよ?」

「ああ、知ってた」

そう知ってたんだよ僕は。

1年前美弥子さんは兄貴が好きで、兄貴は美弥子さんが好きだった。

1年前僕は美弥子さんが好きで、美代子は僕が好きだった。

そして現状が一変する。

兄貴に迫られて拒絶した美弥子さん。

だけど、兄貴が好き。

美弥子さんに迫って拒絶された兄貴。

だけど、美弥子さんが好き。

自暴自棄になった兄貴に襲われた美代子。

だけど、僕が好き。

そんな3人をしり目に暗躍する僕。

白状してしまうと、荒れていた兄貴の近くで美代子が襲われやすいように仕向けていたのは僕だ。

そしてまた現状が一変する。

鍵は美代子だった。

どんなアプローチをしてものらりくらりとかわす僕に痺れを切らせた美代子は、兄貴をあて馬に選んだ。

それでも何のリアクションも起こさない僕。

そして惰性とは言え何度も兄貴に抱かれるうちに美代子は兄貴との関係におぼれた。

兄貴はそんな美代子の思惑を知らずに美代子と関係を続けた。

それでも兄貴は美弥子さんが好きだったみたいだけど、兄貴と美代子の関係を知った美弥子さんは兄貴に嫌われたと思ったようだ。

そんな美弥子さんの元に美弥子さんと兄貴が付き合っていた事など知らないかのように入り浸った僕。

そして昨日ついに僕の描いた物語は僕の望んだ結末で完結を迎えた。

「知ってたくせしてあたしの事お兄さんに襲わせたんだ?」

「ああ」

美代子が僕の思惑に気付いてたのは予想外だったけど、おおむね僕の思い通りだ。

「最低だね」

美代子が僕の思惑に気付いていた以上そう言われるのは当たり前だ。

僕はその言葉を甘んじて受け取るよ。

「でも……」

ん?

「それでもやっぱり、あたしは優斗が大好きだよ?」

振り向きざまに綺麗な笑顔で泣きながら美代子が言った。

はは。

兄貴に散々抱かれておいて今さら何を言うのかと思えば。

だから僕はとびっきりの笑顔でこう告げた。

「ああ、僕も君の事が友達として大好きだ」

「やっぱり優斗は最低だね」







もう後書きにしても良いよね?
ふぃ~
久々にネタが上手く絡んだ気がします。
しかし、あまりにも異質なために、今回はタクシーにはなりませんでした。
だって、主人公本当に小学生なのか!?
って、書いてる私自身が思ってしまいましたからね。
本当ならこれに美弥子のクラスメイトの男の子を交えて、さらにドロドロの展開が待ってたりしたんですけど、私の気力が切れたので没になりました。
しかり、アレですね。
私は基本的に暗躍するタイプの主人公が大好きなようですね。
例えるならヴァルプロのレザードとか。
まぁ、主人公じゃないですけどね。
事件が起きても黒幕のさらに後ろで、名前すら出ずに事件が解決するような主人公……一度でいいから書いてみたい(腕が無いから無理)
ではでは、このへんで。
ご意見ご感想おまちしております。



[16943] 15
Name: 顔無◆0c3027e3 ID:979e69ab
Date: 2010/07/18 00:41
タクシー15









「うわ~っ!思ってたよりも大きいよ?」

一郎探偵事務所と書かれた看板を見上げながら沙菜が驚きの声を上げます。

沙菜の中では、少数で事務所を切り盛りしているイメージが有ったのでしょうが、実際は違います。

従業員200人、依頼に対して迅速かつ誠意を持って答える、地獄最大手の探偵事務所なんです。

まぁ、またの名をヤクザ事務所とも言いますね。

地獄に居を構える時点でだいたい想像はつくと思いますが、技術系の職員よりも武闘派の職員の方が多いんですよ。

「沙菜、危ないから俺の傍を離れるなよ?」

懐にL字型の黒光りする物体を押し込めながら左手で沙菜の小さな右手を捕まえます。

トップの一郎さんが統括しているとは言え、用心に越した事はありませんからね。

今日ここへ来たのは、前回乗せた啓太君と優奈さんがここでお世話になっているので、様子を見に来たんです。

上司を経由して紹介した手前様子が気になりますしね。

啓太君も無気力でしたが、優奈さんを最初に車に乗せた時は目の焦点が合っておらず存在自体も希薄でした。

沙菜はそんな優奈さんが気になって仕方が無かったようで、何を言っても上の空で……

ここで2人の元気な姿を見さえすれば、それも治ると思う訳ですよ。

病院の方は優奈さんの司法解剖によって事件が明るみに出て、経営が立ち行かなくなっているようです。

優奈さん以外にも新薬実験と称して何人も泣き寝入りしていたようですが、これでしばらくは落ち着くでしょう。

そんな事に関わっていなかった善良な医師達にしたらとばっちりだったでしょうが、世の中そんな物です。

善良に生きていても、濡れ衣なんて何処にでも転がってるんです。

そうなった時には、どれだけ自分を正当化したり、食いぶちを稼げるように出来るかが、人生では求められるんじゃないかと私は思っています。

まぁ、病院の話はさておき、今は山田姉弟の事です。

「誰が休んで良いと言った!追加で腹筋100回!」

「はい!」

ビルの中に設けられた訓練室から威勢の良い声が聞こえて来ます。

動きやすそうな服を着た訓練生達の中に啓太君の姿が見えます。

どうやら、こちらに来てから体の自由を手に入れた彼は、2度とあんな無力感を味合わない為に頑張っているようですね。

「……良かった」

ふふふ、ただ心配だからと言う理由でしたが、沙菜が他の男を気にしているかと思うと、やはり良い気はしませんね。

さてと、続いては優奈さんなんですが……

その前に、まずは社長室へ行く事にしましょう。

啓太君と違い優奈さんはやみくもに探し回るよりも、一郎さんに居場所を聞いた方が早そうですからね。

社長室の手前には秘書室があり、たいていはそこで取り次ぎをお願いするんですが……

はて?

誰も居ませんね。

「中に誰もいませんよ?」

……沙菜、秘書室に誰も居ない事から言った言葉だと思いますが、貴女が言うと洒落にならないから絶対に言わないで下さい。

仕方ありませんね。

下の受付で通されてるんですから、このまま社長室に入っても文句は無いでしょう。

「こんにちは~!」

勢い良くドアを開けた沙菜でしたが、そこで私共々動きが止まってしまいました。

そこでは、お弁当のおかずであろう卵焼きを、ノルンさんに「はい、あ~ん」なんて言われながら食べさせてもらっている一郎さんの姿がありました。

2人とも私達が入って来た事には気付いて居ないようで、その甘ったるいオーラをあたりにふりまいてます。

あぁ、ひょっとしたら秘書さん達は壁越しに伝わって来るこの甘ったるい空気から逃げだしたのかもしれませんね。

「よ、よぉ!運転手!よく来たな」

お弁当を食べ終わって正気に戻った一郎さんが、慌てて取り繕ってはいますが今さらですよ……

すました顔で弁当箱を片付けているノルンさんとは対照的です。

まぁ、直接的なラブシーンを見せ付けられるよりは大丈夫でしたけど、次からは中を確かめて沙菜を入れないと大変な所を目撃させてしまう事になりますね。

「ねえねえ、ノルンさん!やっぱりお兄ちゃんにも今みたいなのしたら喜ぶのかな?」
「そうね~、喜ぶとおもうわよ?」

片付けも終わり、人数分のお茶を運んで来たノルンさんに、沙菜が良からぬ事を聞いていますが無視です。

ここで突っ込んだ話をすれば事が大きくなるのは目に見えています。







色々ハプニングも有りましたけど、お茶を飲んで落ち着いた所で今日の本題に入る事にしましょう。

沙菜は当初の目的そっちのけでノルンさんに色々良からぬ事を聞いているようですが引き続き無視です。

「で、例の嬢ちゃんについてだったな?」

「ええ、啓太君に関しては途中の訓練室で見ましたから」

「そうか……あの嬢ちゃんにしろあの坊主にしろなかなか面白い状況になってるぜ?」

はて?

面白いとは何でしょうか?

「坊主は確かあっちでは病気を患ってたんだよな?」

「ええ」

「そのおかげか知らねぇが、動きに余計な癖が無くてよ。本人の意思と合わせてなかなかの好成績を収めてる。頭の方もなかなか良いようでな、同期で入った荒事専門にしか使えねえ奴らよりも頭1つ2つ飛び抜けて優秀だ」

一郎さんが優秀と言うくらいですからなかなか良い所まで行っているのでしょうね。

「嬢ちゃんの方は……」

一郎さんが言いかけた所で社長室のドアがノックされました。

「っと、丁度来たようだな。入れ!」

「失礼しま~す!」

ドアを開けて入って来たのはあの日とは別人に見えるほどいきいきした……いえ、いきいきしすぎている女性でした。

「紹介するぜ、お前と啓太をここへ推薦した運転手だ」

「あ!始めまして!優奈って言いま~す!」

ん?

始めまして?

どう言う事でしょうか?

私は上司の元まで一緒に行った筈ですが?

「私やお兄ちゃんみたいな見ず知らずの人間にお仕事を紹介してくれてありがとうございま~す!」

お兄ちゃん?

ますます訳が分からなくなってきました。

「おめぇらが落ち着いたら挨拶へ行かせようと思ってたんだが、たまたまここへ来る用事が有ったらしいんでな」

「そうなんですか~!」

状況が分からない以上迂闊に話が出来ません。

何通りか考えられはしますが……

私が悩んでいると、再びドアがノックされました。

「おう、入りな!」

「社長、お呼びでしょうか?」

入って来たのは先ほどの訓練用に用意された服では無く、上から下までしっかりと黒服を着こなしたヤク……じゃなくて、啓太君でした。

「おめぇは紹介しなくても分かるよな?」

「はい。お久しぶりです運転手様。このたびは私どもを一郎様へ紹介していただいて、まことにありがとうございました!」

おおぅ、動きがきびきびしすぎていて一瞬誰か分からなくなりそうでした。

何て言うか有能なビジネスマンって感じです。

「き、気にしないで下さい」

「いいえ。私も優奈もまだまだ若輩者ですが、このご恩は必ずお返しします!」

う~ん、変わり過ぎな気がするんですが、一体何が有ったのでしょうか?

「あっはっはっは!まぁ、そのぐらいにしとけ。お前達、もう下がって良いぞ」

「はい!それでは失礼いたします!」

「は~い!お兄ちゃん行こ!」

「おい優奈引っ張るんじゃない」

話らしい話も出来ないまま2人は腕を組んで出て行ってしまいました。

とは言っても、これは下手に私と2人を会話させて互いを混乱させない為の一郎さんの気づかいでしょうね。

その気づかいに感謝しつつ、ズズズとお茶を飲み2人の違和感を整理していたのですが、これはひょっとしてそう言う事でしょうか?

「運転手ならもう気付いてると思うんだが……つまりアレだ。薬が強すぎたのか弟が死んだのがショックだったのか、それ以外の何かが原因だったのかは分からねぇが、嬢ちゃんの方は記憶が逆行しちまってるんだ。しかも坊主の事を兄貴だと思い込んでやがる」

あぁ、やっぱりそうですか。

色々とショックを受けてこちらへ来た方が幼児からやり直す事は少なくありません。

極端な例ですが、お孫さんが先に死んで、心に何らかのショックを受けたお爺さんが死んでしまった後に、お孫さんの事をお兄ちゃんなんて呼ぶなんて事もありました。

「その事に始めの内は坊主もショックを受けてたようだが、自分がしっかりしなきゃ、とでも思ったんだろうな……ひよこみたいにお兄ちゃんお兄ちゃん言いながら後をついて来る嬢ちゃんの面倒を見ながら、今じゃ立派にここの職員やってるぜ」





























駐車場に止めておいたタクシーに乗り込むと緊張の糸が一気に切れてしまいました。

一郎さんの事務所だからと言う事もありましたが、何よりもあの姉弟の事です。

……私は彼らをきちんと救えたんでしょうか?

確かに私はただの運転手です、それ以上でもそれ以下でもありません。

ですから本来こんな事まで心配するのはお門違いも良い所です。

けれど、それでも思ってしまうのです。

どうにかして不幸な目にあってしまった方に救いを……と。

「お兄ちゃん……」

力無くダラリとたらされていた私の手を沙菜の小さな手が包んでくれます。

……温かいです。

「お兄ちゃんは出来る事をしたんだから、誇って良いんだよ?」

「……そう、なのか?」

「うん!お兄ちゃんが沙菜を救ってくれたみたいに、お兄ちゃんは精一杯頑張ったんだから!」

そうでしょうか?

今回私がした事と言えば、行く当ての無い2人に職場を用意しただけです。

それで本当に精一杯だったでしょうか?

「深く考えちゃ駄目だよ?お兄ちゃんは万能じゃないんだから。それにね……」

沙菜が何か言いきる前に窓がコンコンとノックされました。

どうやらお客さんのようです。

「はい、どちらまで……」

行き先を聞こうとお客さんの顔を見て続きが出て来なくなりました。

だって、そのお客さんは……

「ほら~!やっぱり運転手さんだ~!」

「本当だ。すみません、家までお願いしたいんですが……」

はははっ、沙菜の言う通り悩む必要なんて無かったんですね。

「わ~!腕なんか組んじゃって、お姉ちゃん達恋人みたいだね!」

「うん!そうなの~!私とお兄ちゃんは恋人さんなんだよ~!」

「お、おい、優奈!」

だって、今2人はとても幸せそうなんですから。


さて、お時間となりました。

今日はどなたにご乗車いただく事になるのか・・・

では、またいつかお会いしましょう。















後書き……で良いよね?
最後のあたりが納得いかないけど、私の文才だとコレが限界です。
書きたい事は有るんですけど、ソレが自分の文才では表現出来ないもどかしさ……
私的に色々思う所は有りますが、ご意見ご感想お待ちしております。



[16943] 16
Name: 顔無◆0c3027e3 ID:6c718531
Date: 2010/10/04 01:40
タクシー 16









飲み屋街の一角で真新しいドアをくぐると懐かしい顔が私を迎えてくれました。

「あら、いらっしゃい」

店仕舞い直前の、しかも最後の客と入れ違いに入って来た私に嫌な顔ひとつせずに迎えてくれたその女性は、昔のお客さんです。

名前は明美さんと言うのですが、山田姉弟の事を考えているとふと彼女の事が思い浮かんだのです。

別に彼女は優奈さんのようにアレな事件に巻き込まれた訳では無いのですが……

「独立したんですね」

女将さんの店でお酒を飲まされて寝てしまった沙菜をボックス席のソファーへ寝かせながら問いかけます。

最近この辺りに来ていなかったため、明美さんが独立したのを知らずに女将さんの店へ行って散々でした。

主に若い子達にお酒を勧められた的な意味で。

「ええ、いい加減私も独立しないといけないかなって思ってたし、それにね?」

あぁ、そうでしたね。

女将さんの店で二代目女将なんて言われて、ソレが明美さんは嫌みたいでしたからね。

注文していないにも関わらず、私の飲みたい物をグラスへ注いでくれます。

こんな所は変わりませんね。

「含み笑いなんかしちゃって、何か良い事でもあったの?」

「ええ、明美さんは変わらないなと思いましてね」

「ふふふ、ありがとう。褒め言葉として受け取っておくわね。けど、そう言う貴方は少し変わったわね」

……そうでしょうか?

自分では良く分からないのですが。

「あの頃のままなのは私だけ……か」

昔を懐かしむように少し悲しげに微笑む明美さんを見ながら、私も昔の事を思い出します。














その日の私は、電車が女性の体を肉塊に変えるのを待って歩みを進めました。

自殺ブームとでも言うのでしょうか?

その頃は丁度自殺される方が多くて、うんざりしていたのを覚えています。

「……お迎えにあがりました」

悲しみを苦に自殺した方はたいてい、死してなお意識が有る事に絶望します。

それは錯乱だったり、無気力だったりさまざまな行動に現れますが、明美さんはただシクシクと泣くだけでした。

何時まで経ってもその場を離れない明美さんの手を引いて、タクシーへ乗り込んだのを覚えています。

本当ならお客さんに死んだ事を受け入れてもらい、お客さんに乗車を合意してもらってからでないと乗車させてはいけないと言う規則があるため、こう言った強引な乗車強要は禁止されています。

ですがこの頃の私は、自殺ブームにうんざりして、お客さんの説得を行う事も無く「悪霊化するのに比べればずっと良いはずです!」そう言って無理矢理乗車をさせていました。

その事で上司と喧嘩していたのが懐かしいです。

タクシーに乗った明美さんはすすり泣くだけで、会話らしい会話はありませんでした。

時折思い出したように「幸助……」や「ばか……」などと言った短い単語が聞こえて来ていましたが、当時の私はそんな明美さんに何を言ったら良いのか分かりませんでした。

分からないながらも、私は明美さんを慰める事にしました。

当時の私に下心が無かったと言えば嘘になりますが、それ以上に魅力的な女性が泣いているだけなんてもったいないとも思ったんですよ。

もっとも、その甲斐も無く、明美さんは泣いたままでしたけどね。

連れて来た明美さんを見た上司とまた喧嘩してしまいましたが、特にお咎めも無く帰路につきました。

いつもは始末書を書かされるのにソレが無い事を不思議に思ったのを覚えています。

まぁ、翌日になって理由が分かりましたけどね。







翌日出社した私は、無理矢理連れて来られたために精神が不安定でとても普通の生活を送れない明美さんを、ソレが改善するまでの間面倒見るように言われてしまいました。

普通こう言った心のケアは専門職の方が行うのですが、私が明美さんの面倒を見る事になったのには理由がありました。

度重なる乗車強要によって必要以上に精神が安定していないお客さんを私が何人も連れて来るので、ソレを防ぐための罰則だそうです。

理不尽な罰則に対して上司へ抗議しましたが、この罰則を受けなければクビだと言われてしぶしぶ罰則を受ける事にしました。

この罰則は今でも新人の運転手がたまに受けているのですが、ソレを見るたびにあの時は若かったんだなと思ってしまいます。

1週間ほどの強制休暇を押し付けられた私は、昨日同様にうつむいて泣いている明美さんを連れて帰宅しました。

戸惑いもありましたが、その日から私達の共同生活が始まりました。

とは言っても、明美さんは無気力で自分から何かしようとはしませんでした。

ほうって置けば私の用意した部屋で一日中泣いているために、食事もお風呂も私が無理にさせていました。

初日はそんな感じで終わりを迎えて布団に入ったのですが、隣の部屋から聞こえて来るしくしくと言う鳴き声で翌日の目覚めは最悪でした。

それが2日3日と続いて、私はとうとうキレてしまいました。

「何時までもめそめそしやがって!いい加減にしろよ!」

怒りに任せて彼女の部屋へ乗り込んだ私は、明美さんの頬を叩いていました。

叩いてしまってから私は青くなりました。

仕事の罰則として彼女を預かっているのに、手を上げてしまったのがバレたら……

そんな私などお構いなしに事態は進行して行きます。

明美さんは泣くのを忘れたかのように呆けていましたが、やがて自分が頬を叩かれたのを理解したのか、今度は私にすがり付いて泣き始めました。

「捨てないで……お願い……何でもするから……だから……」

今まで私の事を認識しているかさえ怪しかった明美さんの瞳に私が映り、強引に唇を奪われました。

私は拒もうとしましたが、叩いてしまった事が会社にバレるのを恐れた為に、明美さんをひきはがす事が出来ず、流されるまま彼女を抱く事になりました。

その時の私は自分の保身しか考えていませんでしたから。

「……あぁ…幸助!……幸助!」

ですが、彼女がうわ言のように他の男の名前を呼んだ事で私の中にある衝動が生まれました。

彼女を自分のモノにしたい!

彼女に自分を見てほしい!

前の男など一片たりとも思い出せないようにしてやる!

身勝手だったとは思いますが、あの時は本気でそう思っていました。

まぁ、結果的にソレが良かったんでしょうね。

「私ね、捨てられちゃったんだ」

事が終わって私の腕を枕に彼女が自分の事を語ってくれました。

中学高校と私立の女学校に通っていた明美さんは男に免疫が無く、彼女が幸助と呼ぶ男に言葉巧みに口説かれて手籠めにされたそうです。

流されるままに関係を続けた明美さんはその男に貢がされ尽くさせられ……

けれど男にとって明美さんは数多く居る女の一人だったようで、最後は飽きたからとポイと捨てられてしまったそうです。

それでもその男が好きで胸が張り裂けそうで自殺して今に至る……と。

「でもね、貴方に抱かれたら吹っ切れちゃった」

そう言った明美さんの顔にはまだ陰りが有りましたが、情事の前の泣く事しか出来なかった彼女はもう居ませんでした。

それから程なくして強制休暇の明けた私は仕事に復帰する事になりました。

相変わらず自殺者が多かったですが、彼ら彼女らにはそれぞれ理由があって死んだのだと私は明美さんを通して知りました。

根気良く説得し、上司の元へ連れて行く。

何度も繰り返しているうちに、私は困っているお客さんを出来る限り助けてあげたいと思うようになっていました。

誰かを助ける為にあっちへこっちへと飛びまわる毎日を送る私はいつもくたくたになって家へ帰っていました。

今にして思えばそんな私を明るく迎えてくれていた彼女が居たからこそそんな事が出来たのだし、今も続けていられるのだと思います。

朝起きると彼女がご飯を用意してくれていて……

「おはよう」

朝食を食べて玄関先で……

「いってらっしゃい」

昼は彼女が朝渡してくれたお弁当で……

「はいお弁当」

疲れて帰って来て……

「おかえりなさい」

何も言っていないのに私の食べたい物が出て来る夕飯……

「はい、あ~ん」

お風呂に入る時の……

「背中流してあげよっか?」

共に寝る時の……

「おやすみ」

彼女はいつも笑顔でした。

そんな彼女の笑顔に私は元気をもらっていたんだと思います。

けれどその生活も長くは続きませんでした。

「何故ですか?出て行かなくても……働かなくても一緒に居てくれさえすれば私はそれで!」

明美さんから女将さんの下で住み込みで働く事になったといきなり言われて私は訳が分からなくて大声で怒鳴っていました。

「貴方がそう言ってくれるのは嬉しい。けど、それじゃあダメなの」

「何がダメなんですか!」

「それは……」

明美さんは私がいくら聞いても口を濁すだけで答えてはくれませんでした。

その勢いのまま喧嘩してしまった私達の同居生活は翌朝明美さんが黙って出て行った事で終わりを迎えました。














その後私が女将さんの店へ顔を出してはぎくしゃくしては喧嘩してを繰り返している内に、いつの間にか今の距離感に落ち付いていました。

明美さんが出て行った理由は今でも聞けていませんが、沙菜と言う存在が出来てからなんとなく分かりました。

明美さんはきっと、私に頼り切った生活を続けていれば自分がダメになると思ったんだと思います。

それはあのまま関係を続けていれば、沙菜のように依存と言う形で現れたのではないでしょうか?

だから明美さんは私から離れた?

まぁ、今さら考えても仕方ありません。

だって、それはもう過去の事なのですから。

今はもう昔の話。

昔彼女が居た場所にはもう沙菜が居ます。

だから昔の事を気にするのはコレでお終……

「ちゅっ……」

ふいに唇を奪われて私の思考は遮られました。

このタイミングで何故?

「私はシンデレラにロミオを取られて終わるジュリエットなんかじゃないわ」

悪戯っぽく笑う明美さんですが、その目は逃がさないとか、覚悟しなさいとか言っているようでした。






















「うにゅ?沙菜寝ちゃってたの?」

私の背中で眼を覚ました沙菜が聞いて来ます。

「あぁ、ぐっすり眠ってたみたいだな」

町は寝静まっており、私と沙菜の声以外は私の足音だけがカツコツと響いています。

「……そうなんだ」

「眠かったら寝てても良いんだぞ?」

「うん……」

私の首元で深呼吸するように胸いっぱいに息を吸い込んだ沙菜は再び寝息を……

「シャキン!!」

たてずに私の首へ包丁を突き付けました。

「あ、あの、沙菜さん?どうしたのかな?」

「他の雌の臭いがする!どう言う事なのか説明して!」

……ゑ?

ひょっとしてバレてる?

いやいやいや、それは無い!

絶対!きっと!おそらく!多分!

無いと良いな~

と、言うかこの包丁は何処から出て来たの!?

「お兄ちゃん、沙菜怒らないから正直答えてほしいな~」

肩越しに身を乗り出した沙菜の目は瞳孔が開いて、口元はワラっていた。

アハハハハハ……ダメだコレ。

明美さんとの関係がバレたらバラされる。


さて、お時間となりました。

今日はどなたにご乗車いただく事になるのか・・・

では、またいつかお会いしましょう。













後書きと言う名の懺悔室
今回の作品はネタにした曲が多かったりします。
作詞・作曲・編曲・若干Pのキミリサイクル
それ以外にもお茶目機能とかミリしらロミオとシンデレラとか。
今回の作品、明美さんが最後に泣いて終わる予定でした。
『伝えられなかったこの想いが、幻想の彼方へ消え去るまで……』
この言葉を彼女の口から言ってもらってそこで綺麗に終わるつもりが、以外にも彼女は運転手の唇を奪うと言う暴挙に出てしまい、書いた私もびっくりしています。
では、ご意見ご感想待ってます。



[16943] 17
Name: 顔無◆0c3027e3 ID:6c718531
Date: 2010/10/10 10:40
タクシー 17










夏も過ぎ、もう少しで秋になろうかと言う今日。

私は沙菜のご機嫌取りに奔走していました。

あまりこう言った事は良く無いと思うのですが、先日の明美さんとの事が尾を引いているようで、一言も口を聞いてくれないんです。

「クレープが食べたい!」

先ほどから命令系のごく短い言葉は発してくれるのですが、私と普通に会話してくれるようになるまでにはまだ時間がかかりそうです。

「すみません、写真を取らせてもらってもよろしいでしょうか?」

知らない女性からの声に沙菜と繋がった左手が痛いくらいに握られました。

……いえ、正直に言います。

痛いです。

小さな右手で精一杯私を逃がさないように捕まえながら左手で私の左手の甲を抓ってます。

頬を膨らませて私を睨む様は可愛くても、雰囲気が浮気は絶対に許さないと言っています。

浮気なんてする気は無いんですけどね……

そんな沙菜を落ち着かせる為に右手で沙菜の頭を軽く撫でてから私は女性に私と沙菜のどちらを何の目的で撮影するのか聞きました。

いえね、一応聞いておかないと鬼太郎さん達の件でいまだに私達を狙ってる人も居るんですよ。

まぁ、そんな人はまずこんな真正面から取材しようだなんてしませんけどね。

「今町で出会った可愛い子の特集をしているので、となりの御嬢さんと貴方のツーショットを取らせていただけたらと思いまして」

なるほど、確かに沙菜は可愛い(運転手フィルターによる美化も含まれます)ですし、お客さん達にも色々そういったファッションについても聞いていますからね。

しかし、私もなんですか?

「お兄ちゃん取ってもらおうよ!」

私はどうも乗り気ではなかったのですが、沙菜は私とのツーショットと言う事で乗り気のようです。

先ほどまでの不機嫌さが嘘のようです。

ふむ、ここで断ればまた沙菜の機嫌は悪くなってしまいますし、カメラマンの女性も2枚か3枚くらいだと言っています。

時間もかからずに沙菜の機嫌が直ると思えば安いモノかも知れませんね。

私が了承すると彼女を先頭に少し歩く事になりました。

その場で取られると思っていたんですが、これは少々選択を誤りましたか?

私が彼女をキャッチセールスやもっと怪しげなモノなのかも知れないと疑い始めた頃、この近辺で一番お洒落だというカフェに到着しました。

警戒しながらドアを潜ると、店の中で一番眺めの良い席に数台のTVカメラがセットされていました。

いよいよ不味いと回れ右をするために沙菜の手を引いて店を出ようとすると、入り口を今見えるスタッフの中で一番屈強そうな男2人が塞ぎました。

嵌められた!

ですが、私は諦めませんよ!

きっと何処かに逃げ道があるはずです!

そう思って探したのですが、そんな場所何処にもありませんでした。

……はぁ、もう良いです。

ですが、私達の何を取材したいのかは知りませんが、万が一危ない方面の撮影を希望なら速攻で闇へ葬らせていただきますよ?

諦めて不安そうな表情をする沙菜を椅子に座らせて、その隣に腰かけます。

「大丈夫だ」

そう言って頭を撫でてあげると多少落ち着いたのか運ばれて来たケーキを食べ始めました。

その嬉しそうな顔を見て、私も少し警戒を緩めます。

そうですよね、こんな人通りの多いような場所で怪しい事をする筈がありませんよね。

まぁ、一応食べ物は口にしない事にしましょう。

睡眠薬や自白剤なんて入れられてたら嫌ですからね。

「じゃあ、沙菜さんは今運転手さんと暮らしてるんだ?」

最初はやはり鬼太郎さんの『時を越えた軌跡』が中心でしたが、いつの間にか今度は沙菜の話になっていました。

世間的に不味い方向に話が行きそうになるたびにフォローを入れるのは面倒でしたが、注文もしていないのに次々とケーキが運ばれて来て、沙菜はご機嫌でした。

中でも「秋物(の服)は何か買ったの?」と聞かれて「サンマを買ったよ!今年は脂がのってておいしかった!」なんて受け答えをした時などは、店の中がふわりとした空気に包まれました。

「それじゃあ、今度は運転手さんの話を聞きたいんですけど、運転手さんは昔話が好きだとか……」

おや、とうとう私の方に話がふられてしまいました。

確かに私は職業柄人の話を聞く事が多く、その時の話を沙菜に聞かせたりしていますが、それをメディアで放送するとなると少々問題が出て来ます。

お客さんの恥ずかしい話なんかをして迷惑をかける訳にはいきませんからね。

「では、運転手さんの昔話を聞かせていただけないでしょうか?」

「あ!それは沙菜も聞きたい!お兄ちゃん全然そう言うの離してくれないんだもん!」

おやおや、沙菜までそんな事を……

ふむ、自分の話となると何か良い話がありましたかね?

「何でも構いませんよ」

何でも……ですか…そうですね、あの話をしてみましょう。

私は在りし日の事を思い出しながら離し始めました。
















その日私は小学校時代の旧友の家へ集まって同窓会をする事になったんです。

同窓会とは言っても過疎化が進んだ村でしたから、全員で7人しか居なかったですし、学校自体も私達の卒業と共に閉校になってしまいました。

そのため恩師の先生方も何処に居るのか分からずじまいで寂しいものでしたけどね。

もっともしんみりしていたのは最初だけで、お酒が入った私達は子供のころを懐かしんで盛り上がったんですよ。

「そう言えばかくれんぼしてたのを覚えてるか?」

1人がそう言うと、私達は口々にその頃の事を話し始めました。

当時は神社でかくれんぼをするのが私達のはやりで、学校が終わると神社でかくれんぼをするのが毎日の日課でした。

私達のしていたかくれんぼは少し変わっていて、2チームに分かれて鬼と隠れる側を交代していたんです。

そのチームはかくれんぼを始めた頃から変わらずに卒業を迎えました。

その後は皆ばらばらに進学してしまってあまり交流が無かった為、けっこうあやふやな記憶だったのですが、昔話の為に思い出してみました。

そんな私の記憶の中では私とA君とBさんがチームメイトとして一緒に隠れたり探したりをしていました。

相手のチームの事は良く覚えていませんが、消去法で多分C君とD君とEさんとFさんが敵のチームだった筈です。

けどAくんはあまり良く覚えていないけど、自分のチームは4人だったような気がすると言ったんです。

私は昔の事なのでA君の記憶違いだと思っいました。

その証拠にC君がD君とEさんとFさんは一緒のチームだったのを覚えていました。

ただ、次にBさんが自分のチームは私とA君とBさんと後誰か2人を入れた5人だった筈だと言った為に場は乱れ始めました。

例えそれが私の記憶違いだったとしてもそれは有り得ないからです。

だって、7-5=2じゃないですか。

そうなると相手側のチームは2人しか居ない計算になります。

「嫌違う!」

「Bさんの記憶違いだ!」

お酒が入っていた私達は少し声を荒げながらもさらに話を続けました。

次にD君は自分達のチームの方こそC君とD君とEさんとFさんと後誰か1人の5人だったと主張しました。

次にEさんが自分のチームの事は覚えていないけどと前置きして、私達のチームが5人だった気がすると言いました。

そして最後のFさんは、さらにおかしい事を言いました。

私とA君とBさんと誰か後1人の4人がチームで、C君とD君とEさんとFさんがもう1つのチームだった筈だと言うのです。

「顔は思い出せないけど、確かに居た筈だよ?今日の同窓会に来ればそれが誰だったのか思い出せるかと思ってたんだけど……」

Fさんの言葉が耳に入ってからしばらく私は何を言われたのか理解出来ませんでした。

だってそうでしょう?

最初に言いましたが私達の村には7人しか子供が居ませんでした。

それは間違いない筈なんです。

私の記憶とC君の記憶に間違いが無ければ7人で数は合います。

では、Fさんの言った顔の分からないもう1人とは誰だったのでしょうか?

それがA君の4人目のチームメイトだったとすると私達は8人で遊んでいた?

けれど自分のチームが5人だった筈だと言ったBさんと私のチームが5人だった筈だと言ったEさんの話が本当なら私のチームは5人。

A君の言ったもう1人と合わせて2人の誰か分からない子を含めた9人が遊んでいた?

そしてD君の話が本当ならさらにもう1人を加えた10人で遊んでいた?

10-7=3……他の皆が言う3人とは一体だれなのでしょうか?

私は何か良く分からないモノに対する恐怖で体中に鳥肌が立ちました。

その鳥肌と寒気をきっかけに、私は皆が止めるのも聞かずに村から逃げるように帰路へつきました。

それ以来私は自分の過去が恐ろしくて村に近付く事が出来ません。















「と、まぁそんな昔話です。怪談には少々季節外れですがいかがだったでしょうか?」

話の途中から私にしがみついてふるふると震えている沙菜の頭を撫でながら話を締めくくると、私は沙菜の手を引いて店を後にしました。

出る際の店内の雰囲気は照明が明るいにも関わらず、何処か寒々しいものでした。

扉の前で私の話を聞いていたらしい男達の腕にも鳥肌が立っており、私が感じた何割かの恐怖を味わってもらえたようです。

良い気味だとも思いますが、私自身の話はこれっきりにしてもらいたいですね。

あまり良い気分にはなれませんから。

「……お兄ちゃん」

ぎゅっと握られた手から沙菜が震えているのが伝わって来ます。

少々怖がらせすぎてしまったようですね。

神様が居るこちら側では幽霊に対する恐怖を感じる事はめったにありません。

まぁ、自分達が幽霊なんですから感じる訳がないんですけどね。

ですが、何か良く分からないモノに対する原始的な恐怖と言う物はなかなか消えないモノでして……







それからしばらくの間、沙菜は私の傍を離れる事がありませんでした。

それはトイレで用をたす際もドアを開けて会話しなければならないほどで、依存が酷くなったのかと心配するほどでした。

まぁ、実際は怖くて誰かと一緒に居ないと泣きだしてしまいそうだっただけのようですけどね。

「なるほど、今度から沙菜が俺から離れようとしたら怖い話を聞かせると良いって訳だ」

「イヤーーーーーーーーーッ!」

ニヤリと意地悪く呟いた私の腕の中で沙菜が震えて首を嫌々と振りながら叫びました。


さて、お時間となりました。

今日はどなたにご乗車いただく事になるのか・・・

では、またいつかお会いしましょう。











後書き的元ネタ後悔場
『ひとりかくれんぼ』
作詞・作曲 デッドボールP
編曲(アレンジ)。調声cosMo@暴走P
今回の元ネタは実は私の体験談だったりします。
上記の『ひとりかくれんぼ』を聞いた際に、曲とはあまり関係ない話なんですが、ふと思ったんです。
小学校時代にかくれんぼや鬼ごっこなどをして遊んでいたメンバーってどんな顔だったっけ?
思いだして見ると物事を忘れっぽい私はほとんどのメンバーを思い出せず、記憶にもところどころほころびがありました。
そんな時都合良く昔のメンバーから電話があったので聞いてみると、妙に食い違いが出るんです。
まぁ、子供の頃の事だからそんなものだろうとその時は思ったんですが、ふと魔が差したと言いますか、思い浮かんでしまったんです。
『アレは本当に全部友達だったの?』
この文章を書いている今も何故か鳥肌が立ったりしてます。
皆さんにもその1割でも良いので鳥肌が立つ感覚を覚えていただけたら今回の作品は成功です。
では、ご意見ご感想をお待ちしております。



[16943] 18
Name: 顔無◆0c3027e3 ID:6c718531
Date: 2010/11/06 18:31
タクシー 18








「あ!見て見て!沙菜が映ってるよ!」

リビングに置かれたテレビの画面を指差しながら沙菜が言います。

うん、画面の中の沙菜も可愛いですけど、今目の前で笑ってる沙菜も可愛いですね。

しかし、あの場で強行突破しなくて良かったですねコレは。

あの喫茶店で問題を起こしていれば、今頃この番組は『衝撃映像!』とかそんな感じで私の乱闘シーンを映してたりしたんでしょうね。

良く良く考えれば天国側で裏関係の活動がそうそう有る訳がないんですよね。

そんな事をしたら地獄の最下層行きだったりしますし。

まぁ、中にはそう言ったリスクを背負ってでも悪事を働こうなんて人も居ますけどそんな人めったにいませんしね。

「おい、運転手……」

私を、と言うよりは沙菜を心配して一郎さんが声をかけてくれます。

「大丈夫ですよ、間違っても沙菜が芸能界に行く事は有りませんから!私が沙菜と離れるような選択肢をする訳無いじゃないですか」

「そ、そうか」

おや?

一郎さん?

何故私から距離を取るんですか?

「運転手殿!この度はご迷惑をおかけ申した!!」

そんな一郎さんと私の間に割り込むようにして白装束に身を包んだ鬼太郎さんが頭を下げます。

その姿には鬼気迫るモノがあります。

何と言いますか、放っておいたらそのまま切腹しそうな勢いです。

「かくなる上は拙者の命を持って償わせていただく所存」

止める間もなく鬼太郎さんはリビングから飛び出して行きました。

慌てて追いかけると庭にはむしろが敷かれ、その上には鬼太郎さんと並んで咲夜さんがこれまた白装束で座っていました。

「鬼太郎様、咲夜も後を追います故……」

涙を流しながら咲夜さんが言います。

「介錯仕る」

さらに鬼太郎さんの後ろに立った自称人間嫌いの光彦さんが刀を構え……

う~む、さすがに庭が血で汚れるのは嫌ですし、そろそろ止めた方が良いでしょうか?

私達は死んでますし、相当な無茶をしなければ首が切り落とされても生きて居られますけど、血は出ます。(死んでるのに生きてるって言い方もおかしいですけどね)

つまり死にはしませんが庭中に血が飛び散るため、逆に私にとって迷惑とも言えます。

「ねえねえ、お兄ちゃん、これから何が始まるの?」

沙菜は切腹を知らないのかキラキラとした目で何が起こるのか見物しています。

「おう!殺れ殺れぇ!」

一郎さんは鬼太郎さん達から数メートル離れた所でブルーシートを広げてノルンさんの料理に舌鼓を打っています。

飛ばすヤジは職業柄か少し物騒です。

その隣では「はい、あ~ん」なんて言いながらノルンさんが料理を一郎さんの口元に運んでいます。

「運転手さん、光彦さん悪乗りしてるから早く止めた方が良いよ?」

「いや、悪乗りって……相変わらず光彦さんのやってる事って統一感が無いですね本当に人間嫌いなんですか?」

桜さんが言う通り早く止めた方が良いんでしょうけど、どうしてもその事が気になりました。

「違うよ?だって光彦お兄ちゃんは疑り深いだけで実際はただの激情家だもん」
うん?

忍さんの説明で分かったような分からないような……

まぁ良いです。

とにかく今は切腹を止めるのが……

「キャーーーーーーーッ!」

遅かったようです。

首が切り落とされて血が吹き出る鬼太郎さんを見て沙菜が悲鳴を上げました。

続いて止める間もなく咲夜さんの首が切り落とされました。

……光彦さん何してるんですか、この後誰が掃除をすると?

「いや~、久々の切腹だったもので上手く行くか心配だったのですが、上手く行って良かったでござる」

いや、久々って、そりゃぁ何百年も前だからそりゃぁそうでしょうけど、転がって来た首が喋るのはなんだかシュールですよ?

「鬼太郎様、咲夜は一緒に逝けた喜びで胸が一杯です!次もまた一緒に逝きましょう」

咲夜さん、胸が一杯って、首から下は向こうなんですけど……

しかも次もって、常習化する気ですか?

PS:鬼太郎さんと咲夜さんの首は某明治の人切り漫画で出た『もどし切り』のように、首と胴体ん傷口を合わせたらぴったりとくっつきました。

光彦さんどんだけ技量高いの?








「さてと、こうして皆さんに集まってもらった訳ですが……」

一郎さんに呼ばれて切腹現場を片付けた啓太君と優奈さんを加えて今回の会合の音頭を取ります。

「運転手よぉ、もう時間くっちまってるし、硬っ苦しい挨拶はもうその辺にしてそろそろ始めようや」

む、こう言う事は形をしっかりしておかないと、後で何の為に集まったのか分からなくなって来るんですけど……

まぁ、良いです。

「それでは、乾杯!」

「「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」」

私と沙菜、一郎さんとノルンさん、光彦さんと桜さんと楓さん、鬼太郎さんと咲夜さん、それと先ほど加わった啓太君と優奈さんの総勢11人が今回の参加者です。

今日は来ていませんけど、今までのお話で紹介した方以外にもまだ紹介していない方達も参加したりします。

一郎さんとはわりと昔から良くつるんでましたけど、沙菜と暮らし始めた辺りから知り合いを集めて宴会のようなモノをするようになった気がします。

参加者の皆さんに言わせれば、なんだか壁のようなモノが無くなったと言うんですが、私は無意識に線引きでもしていたんでしょうか?

まぁ、していたんでしょうね。

明美さんと別れてからは人助けをしようと思っても、必要以上に自分へ寄り掛かって来られないようにしていた気がしますから。

「ごめん下さ~い」

おや?

誰か来たようですね。

よっこらしょと、気合を込めて立ち上がろうとした所で沙菜が私の代わりに玄関へ向かいました。

「しっかし、悪質な連中じゃなくて良かったな?まぁ、万が一お前らに手を出そうとしたら俺も周りも黙っちゃいねぇだろうがな?」

「そうですな、私も若い頃はそう言った女性を騙して部屋へ連れ込んで……なんてのを良く耳にしていましたから、話のさわりを聞いた時はどうやって懲らしめてやろうかと思ったくらいです」

相変わらず過激ですね。

しかし、これだけ過激にも関わらず一郎さんは地獄で光彦さんは天国。

光彦さんが天国に行けたのは、想像でしか有りませんが、楓さんが物理的に支え、桜さんが夢で精神的に支えていたおかげなのかも知れませんね。

「そんな、大げさな……」

「いや、大げさなんかじゃねぇよ!」

そう言って、町中で見かけたちょっと可愛い子を食い物にする方法を一郎さんが語り出しました。







運転手は知ってるから警戒してたんだと思うが、モデルをやってみませんか?

なんて言って、釣ったりするんだぜ?

ちょっと怪しくても有名な雑誌を片手にこの雑誌の記者ですなんて言われりゃぁコロっと騙されちまう。

さらに写真数枚でお金出すから何て言ったら、金に困ってる子は即カモだな。

実際その雑誌はただのブラフで、つれて行かれた先で速攻レイプって寸法だ。

で、出来上がるのがハメ撮りビデオや写真って訳だ。

それをネタに脅迫されて回数こなしてる内に今度は客を取らされるようになる。

まぁ、ちっと上等な連中になって来ると、薬で言う事聞かせるってのも有るがな。

薬っつっても麻薬を使うのは二流だ。

「そうでござるか?拙者が転生した先では依存者が町中にあふれかえっておりまして、薬を買う為なら何でもするような連中ばかりだったように思うのでござるが?」

確かにアレを使やぁ言う事を聞くようにはなるが、サツ共に嗅ぎつけられたら一発でお釈迦だ。

だからたいていの場合は媚薬で……っと、お前達の前でこのネタは不味かったな。
わりぃ。

「いえ、後学為にもお聞かせ下さい」

そうか?

じゃぁ、続けるぜ?

媚薬で性感帯を敏感にさせて調教したら、客を取らせる。

「間者に対する尋問を何度か見た事が有りましたが、やはり休みなく続けるものなのですか?」

いや、確かにそこまで徹底する連中も居るが、そこまでする必要はねぇ。

それにそう言う調教をする連中は薬を使ったにわか仕込みじゃなく、完全なSEX依存症の奴隷を作る方が仕事だったりするんだぜ?

とは言え、咲夜嬢も見かけに似合わずエグイ事知ってるじゃねぇか?

「そう言う時代でしたから……」

っと、すまねぇ。

で、何処まで話したっけか?

あぁそうだ、客を取らせても日常生活は普通に過ごさせたりするんだ。

咲夜嬢の言ったようにすると、日常生活が送れないくらい精神が壊れたり、客じゃなくて自分が楽しむようになっちまうからな。

「なるほど、あえて鎖を付けずとも薬に依存して帰って来る訳ですか?」

おぉ、光彦の旦那は良く分かってんねぇ。

薬が効いた状態に慣れると、薬が切れた状態で男に抱かれてもあまり気持ち良くねぇらしい。

だから最初は嫌々でも薬を飲まされて客を取らされるのを心待ちにするようになるって寸法だ。

客を喜ばせられりゃぁそれだけ指名される回数も増えて自分も気持ち良くなるってぇのを体に覚え込ませる訳だ。

で、誰にも相手にされなくなったらそのあたりに捨てられちまう。

俺の場合はせいぜい家出娘に仕事を斡旋して、何処へでも行けるように金を貯めさせるくらいしかしてなかったが、これも場合によっちゃぁ無理矢理男を取らせて紹介料を取るような連中も居た。

まぁ、俺の話はこんな所だ。

餌食になった女どもは可哀そうだが、男も女も性欲を持て余す以上必要悪でもあるのかも知れねぇな。








宴会はまだ始まったばかり。

次は光彦さんが話をするようです。

新たなお客さんをリビングに招いた沙菜が私に寄り添って光彦さんの話に聞き入ります。

それはいつか話に聞いた亞良々学園奮闘記第2話でした。


さて、お時間となりました。

今日の所は話のキリが良いのでお開きといたしましょう。

続きはまた次回へ持ち越しとさせていただきます。

では、またいつかお会いしましょう。











後書き的ナニカ
もうタクシー関係無くなってない?
書いてて自分でそう思ったりなんかしちゃったりして……
皆さんにはこれだけは逝っておきます。
使った事の無い方は合法でも薬はお勧めしません。
アレは使った時と使わない時の感度が酷いです。
私の使った薬が不味かったのかも知れませんが、当時の私は有る意味薬に依存した性活を送りました。
依存とは言っても別に、薬自体に常習性が有る訳では無く、使わないと感度が落ちて気持ち良くても気持ち良く感じないんです。
例えるなら味の濃い物を食べたあとに味の薄い物を食べる感じでしょうか?
相手も自分も壊れても良いと言う意思が有るのなら使っても良いと思いますが(合法に限る)そうでないのなら使用は控えたほうが良いです。
コレは私の主観および偏見から来るものなので薬を肯定する方も居ると思います。
それはそれで別に良いんです。
色々遠回りして言いましたけど、要は通販などで簡単に手に入るからと言って安易に手を出す前に考えて下さいと言いたい訳です。
コレは煙草と同じ自己責任だとおもいますから。
では、ご意見ご感想お待ちしております。



[16943] 短編 8
Name: 顔無◆0c3027e3 ID:6c718531
Date: 2010/11/01 15:44
職業……











オイラの名前はロン。

何処にでも居るような……うん、まぁ村人だ。

何時も通り畑を耕していると村から子供が走って来た。

話を聞いてみると、冒険者がまた魔王を倒しに来たそうだ。

普段は畑仕事をしているんだが、そんなオイラには別の仕事がある。

それは冒険者を魔王城の近くまで案内する事だ。

村が魔王城の近くにあるから仕方なくなんだけどな。

魔王城に入るには迷いの森と呼ばれる地元の人間でも迷ってしまう魔の森が存在する。

魔物の強さも他の地方に比べて数段強く、一度入ったら二度と出られないと言われている。

ドラゴンやキメラと言ったゲームの最後の方に出て来るだろうモンスターがうようよ居るんだから当たり前と言えば当たり前だ。

え?

何でオイラがゲームなんて知ってるかって?

簡単な事だ。

オイラが転生者って奴だからだ。

もっとも今はやりのチート系主人公とは違い、転生したからって何か特典があった訳でもない。

ただの村人として転生して農作業に従事しながら生きて来た。

え?

農業系のチートはしなかったのか?

したよ?

しましたとも。

農具に水車、猫車。

それ以外にも肥料なんかも頑張った。

おかげで収穫量は増えたよ?

けどね、頑張った所で結局はこの領地を治めていた貴族様にぜんぶおいしい所は取られちまった。

おかげでいくら頑張っても、他の村より農業がしやすいってだけで、それ以外はなんのうまみも無かったさ。

そんな時魔王が現れてこの地に城を築いた事で事態は一変した。

世界中の魔物が活性化したんだ。

魔王の出現で貴族様は逃げ出しちまった。

それにつられて逃げられる奴らは皆逃げ出した。

あとに残ったのは老い先短い爺さん婆さんと、身よりの無い子供達だった。

え?

お前は何で逃げ出さなかったかって?

簡単な事だ。

逃げ出した奴らは気付かなかったみたいだけど、村の中には何故か魔物が入って来なかったんだ。

村から逃げて襲われる連中を隠れて観察してたから間違いない!

外道だと思うなら思え!

オイラは生き残る為なら悪魔にだってなってやる!

……まぁ冗談はこのくらいにして、根っからの偽善者だったのかオイラは残った村人が見捨てられなかっただけなんだ。

結果、爺ちゃん婆ちゃんを助けようとしてる間に、村の中の方が安全だって分かった。

現代と違ってこっちは人とのつながりが大事なんだよ。

村に残ってる爺ちゃん婆ちゃんには世話になったし、身よりの無い子も含めて家族みたいなもんだ。

あいつ等はそんな爺ちゃん婆ちゃんを捨てて行こうとするから罰があたったんだ。

そんな働き手の居ない村でオイラが最初に行ったのは、村の外にある畑を、村の境界線と同じように柵で囲う事だった。

そうすると何故か魔物が入って来なくなるんだ。

命がけだったよ?

地面に杭打ち込んでて襲われた事も1度じゃ無い。

最初の内は、倒せそうなのは倒して無理そうなら村へ駆け込んでたっけな。

最近じゃ村の連中もちょっと獰猛な家畜程度にしか思って無いけどな。

え?

何で魔王城の近くに居るような強力な魔物を倒せるんだ?

簡単な事だ。

魔王が出て来て魔物が活性化したのは事実だけど、それ以前から魔物自体はそこら中に居たんだ。

肉が食いたくなったら、どれだけ強くても倒すしかなかったからな。

それが例え3m近い狼だったとしても。

その点で言えばうちの村人達はチートだったのかも知れん。

魔物を倒したらゲームみたいにレベルアップするらしくて俺を含めてみんな高レベルだったから。

それでも村人はオイラほど強くはなれないらしくて、村の周りの魔物が倒せる程度だけどな。

で、今じゃ農作業も安全に出来るし、貴族様からも税を取られなくなって村は魔王が来てからの方が豊かになってる。

まぁ、何が言いたいかって言うと、冒険者が魔王を倒さなくても俺達は別に良いかな?

なんて思ってる訳よ。

じっさい魔物と魔王は関係無いしな。









さてと、コレでオイラの置かれてる立場は分かってもらえたと思う。

それじゃあ、今からオイラは副業の時間だ。

今回案内を頼まれたのは、1人以外は全員女の4人組。

ハーレムパーティーって奴だ。

けど、武器や鎧は今まで見た中では一番強そうに見えるし、身のこなしもなかなかで、迷いの森の中で遭遇する魔物をオイラを守りながら倒している。

野営中の会話から推測するに、どうやらこの世界の勇者的な存在らしい。

あぁ、オイラ達の村もとうとう貧乏に逆戻りか……

貴族様が戻ってきたら、今まで収めてない分を全部持ってかれるんだろうな……

はぁ……

いっその事この鍋に毒でも仕込んでパーティー全滅させるか?

なんて悩んでる内に食事も終わって寝る事になった。

こんな事なら早く毒を入れておけば良かった。

夜が明けて、軽く食事を取ったオイラ達はとうとう魔王城に到達してしまった。

門をくぐると一直線に魔王の待ち構えている玉座へ向かう。

「とうとう追いつめたぞ魔王め!」←レイピアを構える女剣士

いや、別に追いつめてないけどね。

「神の名の元に滅してさしあげます」←回復魔法を使う何処かの巫女

いや、魔王が邪悪って訳じゃないんだけどね。

「貴様達に殺された両親の仇討たせてもらう!」←結構な破壊力の魔法を使う魔法使い

いや、たぶん君の仇は魔物であって魔王じゃないよ?

「俺様の力でてめえを殺す!そしたら国に帰って姫様と……うへうへへへへ」←テンプレ風な勇者(力は凄いが、むしろ『ゆうしゃ』とひらがなで書くべきアホの子な奴)

いや、ここに来るまでも思ったけど君は勇者としてどうなの?

そんなんで良くこんな可愛い子達を連れて来れたね。

「ふん、今回はなかなか骨がありそうだ!退屈凌ぎには丁度良い」←威厳たっぷりに言う魔王

いや、小心者のくせに、どうしてそう言う演技するかな……

「何時もご苦労様です。お茶をお持ちしました」←オイラにお茶を出してくれるメイド風魔族

うん、美味しい。

来る度にお茶が美味しくなるね。

「ありがとうございます」

何時見てもキミの笑顔は可愛いね。

どう?

そろそろここを辞めてオイラの嫁にならない?

「まあ嬉しい!ですが、それは魔王様に許可を頂かないと」

そっか、やっぱり駄目か~

でもこれくらいは良いよね?

「ああっ!いけません!こんな人が見ている所でそんな事!」









そんなこんなでメイドちゃんとちゅっちゅしてる間に何時も通り魔王が勝ったみたいだ。

今回こそは魔王が負けると思ったけど、どうやら杞憂だったようだ。

毒を入れようか入れまいかで迷ったオイラがバカみたいじゃないか。

「ロン!今回はなかなか楽しめたぞ!」

な~に偉そうに言ってるんだこの臆病者が!

まったく、誰のおかげで贅沢な暮しが出来るとおもってるんだ。

「ぐはっ!」

このオイラのパンチで伸びてしまったのが実は魔王と呼ばれる存在だ。

強面のこのオッサン、実は魔界から逃げて来た魔人で、魔王などとこの世界では呼ばれているが、魔界に変えればコイツより強い奴はごまんと居るらしい。

何でも、奥さんに浮気がバレてこの世界に逃げて来たそうだ。

その世界を越える時に使った力の余波で世界中の魔物が驚いて動きが活発化したってだけで、本人にこの星を征服しようって意思は無いらしい。

この世界にとっちゃ良い迷惑だけどな。

冒険者を案内して初めてここに来た時は苦戦したが、今ではオイラの方が強かったりする。

そのせいで魔王の眷属であるはずの魔族がオイラを魔王を越える魔王って感じで大魔王なんて呼んだりするけど良い迷惑だ。

オイラは村で皆と暮らす方が性に合ってる。

「大魔王様、この人間たち生きてますけどどうしますか?」

先ほどのメイドちゃんが衣装を整えながら聞いて来る。

うん、吐息が色っぽい。

けど、今は勇者達の事が先だ。

ここからはまたオイラの副業の時間だ。

「取りあえず勇者は殺しとこう。その男は役に立たないから」

見た感じ戦闘力は有ったけど、頭がダメすぎる。

こんなの連れて帰っても売り物にならない。

聖剣なんとかって本人が自慢してた剣で首をはねる。

脆いね~

こんな剣を皮膚で受け止められないなんて、それでも勇者なのかね?

っとと、言ってる傍からこちらの隙を窺ってた女剣士がオイラめがけて剣を突き刺して来た。

まぁ、皮膚で止まっちゃうんだけどね。

いや、そんなバカな!って顔されても、現実は受け入れようね?

「この女処女じゃないです!」

オイラに付きつけられた剣を蹴飛ばしながらメイドちゃんが言う。

女剣士の方は、メイドちゃんにかかれば処女かそうじゃないかくらいすぐ分かるって言うのに、何故それが分かったって顔してるよ。

まぁ、この世界にはサキューバスなんて居ないし分かんないのが普通なのかな?

う~ん、取りあえずこの子は顔も良いし、頭の中を洗濯したら奴隷商人に引き渡すか。

「何をする!やめろ!」

はいはい、君にはもう用が無いからとっとと消えちゃってね。

オイラが女剣士の頭に手を当てると今までの抵抗が嘘のように静かになった。

もうこの女剣士にはさっきまでの記憶は無い。

今この瞬間にオイラの商品として生まれ変わった。

この子の頭の中は今、一般常識を覚えているだけの何の記憶も持たないまっさらな人間になった。

今までどうやって生きて来たのか覚えていない。

これが出来るようになるまで苦労したよ?

都合の良い記憶だけを消せるようになるまで結構な数の冒険者が犠牲になったんだから。

良い年したおっちゃんが赤ん坊みたいに歩き方も忘れてお漏らしするんだぜ?

アレはさすがに売り物にならなかった。

え?

そんなに都合良く記憶が消せるんなら勇者も殺さなくて良かったんじゃない?

むりむり、ああ言った奴はどう教育しても何故か同じような性格になるんだ。

記憶は消えても脳の成長の仕方までは変えられないらしい。

「こっちの巫女は処女みたいです」

お!

今回は当たりだね。

巫女はかなりオイラの好みだけど、勇者のパーティーに居たような奴が村に居たら怪しまれる。

勿体無いけど売っちゃうしかないか。

それにこれだけ顔が良くって処女なら高く売れるはずだ。

「こっちの魔法使いは……ん?」

あれ?

どうした?

「驚きました!同類です!この女、男の精気を吸い取って魔力に出来るみたいです!」

おお、ソレはレアだね。

「しかも処女!」

レア中のレアじゃないのソレ!

魔王に眷属化してもらうかね。

「いや、めんどくさいし自分でしたら?」

ヤダよめんどくさい。

アレは疲れるんだよ。

この間試しにドラゴンを眷属化したけど、疲れるばっかりで自分が戦った方が楽じゃん。

「俺を倒して魔人になったような奴が何言ってるんだ。それに今ならメイドを付けるぞ」

まじで!

メイドちゃんくれるの!

やったね、ここに来る度にオイラの魔力流し込んだ甲斐があったよ!

「だろうな。もう半分はお前の眷属になってるし、お前が本気で魔力流し込んだらお前の眷属になるんじゃないか?」

よっしゃ!

返せって言われても絶対返さないからな!

メイドちゃんは今からオイラのだ!

メイドちゃんにありったけの魔力を流し込んで魔王からラインを奪い取る。

はっはっは!

メイドちゃんが処女なのは調査済み!

処女のサキューバスなんてレア物誰にも渡さんぞ!

「ああっ、やっと大魔王様のモノになれました!」

うんうん、メイドちゃんも喜んでるし、今日は気分が良い!

気分が良いからこの魔法使いはメイドちゃんの世話係として飼ってやろう。

まぁ、記憶だけ消して、眷属化は魔力が溜まった時だな。

どうせ作るなら強い眷属の方がいいじゃん?









女剣士と巫女を奴隷商人の屋敷まで運んだオイラは、行きと同じく転移呪文で魔王城まで帰って来た。

「何時も済まないな」

売り上げの半分を渡すと魔王に感謝された。

コイツはカミサンから逃げて来たのは良いんだけど、この世界の金がなくって困ってたんだ。

それで今回みたいにオイラが奴隷を作ったり冒険者の武器を売ったりしてお金を作ってる訳だ。

初戦闘を終えて、何でこの世界に来たのか聞きながらコイツと食事をした時は酷かった。

その辺に生えてるような草と魔物の肉が出て来たんだぜ?

これならうちの村の方が野菜が有るぶんよっぽど良いもん食ってるって思ったよ。

同じ食卓で貪るように肉を食ってたメイドちゃんが印象的だった。

それからだよなオイラがメイドちゃんを何かと気にかけ始めたのって。

今回の収入は勇者達の装備も含めてなかなかのモノだった。

これでオイラは村の拡張が出来るし、魔王は美味しいものが食べられる。

(ちなみに買い出しなんかは、メイドちゃんとは別のメイドや執事達が行ってるらしい)

「兄ちゃんお帰り!」

「お帰り!」

来たときとは逆に森を抜けて1週間ぶりに村へ帰ってくると、子供達が寄って来て口々にオイラに怪我が無いか聞いて来る。

こいつらはオイラが冒険者を食い物にしているのを知らない。

知ってるのは爺ちゃん婆ちゃんだけだ。

だからオイラはこいつらに怪我が無い事だけ伝えて、疲れを理由に別れた。

だってな~

あんな純粋な目で見られたら自分の汚れが見透かされそうで……

「兄ちゃん後ろのお姉ちゃん達は誰?」

おお!

別れたつもりだったけど、後ろのメイドちゃんと魔法使いに興味しんしんで付いて来ちまったみたいだ。

2人をオイラの嫁だと紹介してみる。

無論まだ結婚はして無いんだけどな。

「すげ~!兄ちゃん2人も嫁にもらったのかよ!けど、兄ちゃんばっかりが何故モテる!」

「兄ちゃんだけずるいぞ~!」

「そうだそうだ!」

年長組はオイラの嫁があんまりにも可愛いもんだから、嫉妬してるみたいだ。

はっはっはっ!今は存分にやきもちを焼くが良い。

お前らがもう少し大きくなったらオイラが良い娘紹介してやっからよ。

「え~今すぐ紹介してくれよ~!」

「そうだそうだ!」

はっはっはっ、このませガキ共め。

悔しかったら白いヌルヌルしたのをちんこから出して見ろ!

ま、お前らの歳じゃ無理だけどな。

「ちくしょ~!」

子供達は悔しそうに走って行ってしまった。

え?

お前子供になんて事を教えてるんだ?

だって、村って娯楽が無いからどうしてもそっち方面に話が行っちゃうんだよ。

おかげでオイラの村は現代ばりに性知識豊富だよ?

年長組の男なんか、例の奴隷商人にスカウトされて、調教師になったくらいだし。

ちゃんと相手を限定させるくらいのモラルは持たせてるし大丈夫だよ。

まぁ、そんな些細な事はさておき、オイラは自分の家へ足を運んだ。

家に行く途中で何人かの爺ちゃん婆ちゃんにも子供達と同じようにメイドちゃんと魔法使いの素性を聞かれたけど、俺の嫁って事でごり押しした。

中には魔王の関係者だって気付くのも居たけど、オイラと魔王の友好的な関係知ってるし、問題ない!

そう言う賢い人は自分がだれのおかげで楽に暮らせるか分かってるからね。









さて、こんな感じで、オイラの自己紹介は終わりだ。

メイドちゃんと魔法使いの嫁入りそうどうが有ったけど、コレがオイラの毎日だ。

人に寄ったら鬼畜とか外道って呼ばれるかも知れないけど、オイラにとっては知らない世界よりも村の方が大事だ。

だから、魔王が悪さをしないかぎり、オイラは魔王を支持する。

だって、魔物が暴れてるのは魔王のせいじゃないし、冒険者の装備は高く売れるし、税金払わなくて良いし。

さてと、それじゃぁ、オイラは今からメイドちゃん達との初夜がまってるから、帰るな。

あんたも、また何処かであったら声かけてくれよな?

おいおい、さすがにこれ以上は見せてやんねえからな?















何だよ、アンタやっぱり覗きに来たのか?

けど残念だったな。

もうちょっと早く来れば、メイドちゃんの裸くらいは見れたかも知れないって言うのに。

まぁ、もし見てたらお前の目をえぐってたけどな。

「ロン様……」

ぬ?

寝間着を整えて、後は寝るだけって時になってどうしたの?

魔法使いなんか疲れて寝てるって言うのにタフだね~

ひょっとしてまだし足りないとか?

そうならそうと言ってくれれば良いのに。

オイラはまだ全然OKだよ?

「いえ、そうでは無くて……それに、これ以上されたら壊れてしまいます」

うんうん、顔真っ赤にしちゃって可愛いね~

「か、からかわないで下さい!」

はははっ、分かった。

もうからかわないから言ってみな?

メイドちゃんの言う事ならなんでも聞いてあげるよ。

「それを聞いて安心しました。魔王様からの伝言です」

ん?

何だか雲行きが怪しくなって来たような?

「母ちゃんと仲直りしたから俺は帰る。娘をよろしくたのむ。だそうです」

………

………………

………………………

へ?

「ですから、お父様がこの世界から魔界へ帰ってしまったのです」

いやいやいや、魔王が魔界に帰ったのはこの際どうでも良いよ。

確かにこの村にとっては死活問題だけど\(^∀\)その話しは(/∀^)/こっちに置いといて、メイドちゃん魔王の娘だったの!?

「はい」

ゑ!?

軽く言われたけど魔王の娘?

全然似てないから気付かなかった!?

「それはそうです。私はお母様に似てますから」

なるほど……

「ですが、そんな事より問題があります。私は愛するロン様の為にこの世界へ残りましたが、それ以外の眷属は皆お父様へ付いて行きました」←それは又(/_-)/こっちの方に\(-_\)持ってきて

……それってこの世界に居る魔人や魔族はオイラやメイドちゃんと魔法使いだけって事?

「はい」

それじゃあ、魔王が居なくなって貴族様が戻って来るじゃないか!?

あぁ、税金が……

「いえ、それよりももっと深刻な問題があります」

いや、止めて!

何となく分かっててはぐらかしてるんだから言わないで!

「勇者を殺したせいで、とうとう世界中の国々が軍隊を派遣する事にしたようです」

最悪だよ!

魔王が魔界に帰ったこのタイミングで魔王城攻略!?

魔王が居ないって分かったら絶対草の根分けてでも探そうとするよね?

無実だろうと魔物は暴れてるんだし。

って、事は、魔人になってるオイラやメイドちゃんと魔法使いは……

「おそらく魔王と思われるでしょう」

え~

ヤダよ~

軍隊と戦っても負ける気は無いけど、村が巻き込まれるのは不味いよ~

「では、逃げますか?」

何処へ?

村の皆を置いては行けないよ!

「でしたら良い考えが有ります」

……何となく予想は付くけど言ってみて?

「私のついでに村人も守るため、ロン様は大魔王としてこの世界を支配して下さい」

魔王になれって所までは読んでたけど、世界を支配するの?

しかも村人はついでって……

「ロン様言ったじゃないですか、私が欲しいものならなんでもくれるって。だから、世界が欲しいので私に下さい!」

……メイドちゃん実は魔王よりも魔王らしかったんだね。

















名前 ロン
職業 村人、冒険者の案内、奴隷商人、大魔王


名前 メイドちゃん
職業 魔族、メイド、ロンの眷属、ロンの妻、大魔王を影から操る存在










後書き懺悔室
いや、今回はさすがに色々ぶっ飛びすぎだとは思った。
けど、筆が止まらなかったんだ。
今回の小説のコンセプトはズバリ、村人最強説。
なのでメイドちゃんをお持ち帰りした後のくだりは蛇足です。
RPGをやっててよく思うんですよ。
村や町に畑が背景として無いじゃないですか?
つまり村人達は村や町から出て農作業をしてるって事でしょ?
物語の主人公達が苦戦するような敵が出るような場所で、畑を耕す村人……
ドラ○エなんかで考えると分かりやすいと思いますが、今回の作品のように魔王城の近くで農作業とか、絶対主人公よりレベル高いはず。
つまり、魔王城近くの村人はアリ○ハンでは無敵に違いない!
まぁ、そんなこんなで書きあがったのがこの駄文。
ご意見ご感想お待ちしています。



[16943] 短編 9
Name: 顔無◆0c3027e3 ID:6c718531
Date: 2010/11/05 13:24
『撫でポ』講習会









は?

何だって?

「だから、『撫でポ』って何なの?」

ちょっと待て、状況を整理させてくれ。

つまりナニか?

お前の彼氏はお前を『撫でポ』したいって言ったのか?

「うん」

………

「ちょっと!黙って無いで教えてよ!」

……あぁ、分かった。

『撫でポ』って言うのはな、恋愛ゲームや物語の主人公がヒロインの頭を撫でてヒロインを惚れさせる事だ。

もっと詳しく言えば、撫でられたヒロインが顔を赤く染めて恥ずかしがったり気持ちよさそうにする状況の事だ。

酷い『撫でポ』だと赤の他人なのになでただけで惚れるなんて事がある。

コレはさすがに無いと俺は思っている。

だってそうだろ?

いきなり他人に頭なでられたら普通嫌だろ?

「それは確かに嫌だけど……今の話の何処が『ポ』なの?」

漫画なんかではその時の表現として『ポ』なんて擬音が使われる。

つまりは静寂を表す『シーン』や空気の重さを表す『ズーン』……一番分かりやすいのはキャラクターが泣いているシーンで『シクシク』と言っても居ない言葉が書かれてるアレだ。

『シクシク』なんて鳴き声上げる奴は居ないだろ?

「ふ~ん。でもそれって私には無理じゃないかな?」

まぁな、お前は彼氏に撫でられても照れるって感じじゃないしな。

「じゃぁ、私には無理って事?」

いや、訓練次第ではそれらしく見えるようにする事は出来る。

まず撫でられる時にちょっと俯く。

で、頭に血をのぼらせるんだ。

「って、出来るか!!どうやったら頭に血がのぼるって言うのよ!」

おお!

それだ!

「それってどれよ!」

今お前は怒る事で頭に血がのぼってる。

そうする事で顔が赤くなるんだ。

「あ!なるほど」

ただな、それだと怒ってるだけで『ぽ』には見えないから、一工夫が必要だ。

って、言うか好きな相手の目の前で理由も無くいきなり怒りを覚えるとか、怒りながら笑うなんて芸当出来ないだろ?

「そうね……って言うか、そんなの出来る人居るの?」

さぁな。

まぁ、世の中広いんだし中には居るんじゃない?

「つまり貴方も見た事無い訳ね……」

で、頭に血をのぼらせる練習だが、息を思いっきり吸ってそのまま止めてみろ。

苦しくなってもギリギリまではくなよ?

「…………っ………っう…………ぷは!ああ、苦しかった。それに頭くらくらする……」

良し、なかなかだったぞ。

「何がなかなかなのよ!それで、この行動にはどんな意味が有るの?」

お前、それぐらい気付けよ……

苦しくなって来た辺りで息を吐きだしたくなっただろ?

「うん」

それと一緒に頭に血がのぼるんだよ。

血がのぼって行く感覚さえ掴めれば、後は息を止める必要は無い。

自在に頭に血がのぼらせられる筈だ。

それじゃ、何度か練習して感覚掴め。

「……っ………っ…………ぷは!……あれ?頭が………」

おっとっと、ちょっと注意するのが遅かったな。

あんまり頭に血をのぼらせると血が引いた時に軽い頭痛やめまいがするから気を付けろよ?

ただ、その時のクラクラする感覚に身を任せるのも良いかも知れない。

そうする事で、『ポ』されてメロメロになってるようにも見えるからな。

『トロン』とした何処か呆けているような顔なら尚良し。

これで口が半開きでよだれなんか垂れてたらエロすぎて襲われちまうぞ?(※コレは『撫でポ』とは言わない)

「ちょっと、それはもう分かったから手を離しなさいよ!もうふらつきも収まったから!」

お、今の顔はなかなか良かったぞ。

そんな感じの恥ずかしがってる顔を撫でられてる時にすれば彼氏も喜ぶはずだ。

それじゃぁ、最後におさらいだ。

顔を俯き加減で恥ずかしそうな顔をしながら頭に血を集める。

最初は軽く赤くして恥ずかしそうな表情を演出する。

で、なで続けられるようなら顔を真っ赤にする。

苦しくなったらどうにかして彼氏の手から逃れて『トロン』だ。

彼氏の手から逃げるのは間違っても乱暴にするなよ?

それが出来るのは『ツンデレ』キャラだけだ。

あまりの気持ち良さに腰が砕けて座り込んだり倒れ込んだって形にするのがベストだな。

俺としては彼氏の腕の中に倒れ込むのがお勧めだ。

そのままキスに発展したりするかもしれない。

コレ以外にも色々パターンが有るから、漫画なんかで研究すると良いだろう。

まぁ、俺から教えられるのはこんな所だ。

頑張れよ!

「ちょっと待って!途中で出て来た『ツンデレ』って何よ?」

それはまた次回必要なったら伝授してやる。

ただ、お前の彼氏はそんな属性望んでないから必要無いと思うけどな。

「ふ~ん」

おっと、最後に言う事があったんだ。

「何よ?何か言い忘れた事でも有ったの?」

まあな。

今お前に練習してもらった『撫でポ』演技なんだがな、無理にしなくても良いと思うぞ?

「ちょっと!今までの努力は一体何だったのよ!!」

そう怒るなって。

お前が彼氏の為に頑張ったって結果は残るんだからよ。

実際お前の彼氏が求めてる『撫でポ』なんて簡単なものなんだよ。

お前はただ彼氏が頭をなでてくれる感触を感じれば良い。

そこにお前を思う気持ちがこもってれば、撫でてくれた手を通してその思いが伝わって来る筈だ。

お前はただそれを感じれば良い。

そうすりゃ自然と『撫でポ』になってるさ。

「………色々ありがとう」

はは、お前から感謝されるなんて珍しい事もあるもんだな。

「何よ!私がお礼を言ったらおかしいって言うの?」

いや、有りがたく受け取って置くよ。

「ふ、ふん。それで良いのよ!今回は私が特別に感謝してあげるって言ってるんだから」

はははっ、それじゃ、俺は行くぜ。

「ええ」

はははっ、あんなに嬉しそうに走って行きやがって妬けるね~

俺も早い所彼女が欲しいぜ。

それにしてもアイツ『ツンデレ』の素質があったんだな。

彼氏が居るってのに不覚にもときめいちまった。











後書き懺悔室
出来心だったんです。
今日食べたそばが胸のあたりで詰まって苦しい思いをしました。
胸のあたりで止まってるので、呼吸は出来るんですけど痛くって……
で、詰まってるあたりの筋肉に力を込めてどうにか胃に落とし込んだんですけど、なかなか落ちなくて頭にまで血が上っちゃったんですよ。
その時に思い付いたネタです。
タクシーほったらかして何してるんだろ?
『色々思う所は有るけど、私は元気です!』
では、ご意見ご感想お待ちしております。



[16943] 19
Name: 顔無◆0c3027e3 ID:6c718531
Date: 2010/11/06 19:26
タクシー 19









「媚薬とはちょっと違うんですが、私の学校……と言うか、私の近くにもたちの悪男共が何人か居ましてな。今回はその時の話をしようかと思っとります。」

光彦さんの言葉に、沙菜の目が輝きだしました。

不味いです。

光彦さんの話は一般人にしては一郎さん寄りな話が多いので、沙菜が影響を受けないか心配で心配で……え?

個性的な連中に囲まれすぎてるんだからもう手遅れだ……ですか?

……あながち否定できませんね。









それは春が終わって夏にさしかかった有る日の事だった。

昼休みに屋上の給水塔へ楓と登って昼寝をしようとした所でお客が来た。

お客とは言っても別に俺がここで商売をしてるって意味じゃねえぞ?

ただたんに、俺と忍くらいしか来ないようなこんな所に人が来るのが珍しいからそう言ったまでの事だ。

光也との乱闘騒ぎ以降、俺の周りはますます人が寄りつかなくなっちまったからな。

クラスの居心地が悪い俺が何時も来ている為、いつの間にか屋上は俺専用の休憩所になってた訳だ。

まぁ、とにかく客が来た訳だが、どう言う訳かその男は、フェンスを乗り越えて……って、おいおいおい!

呑気に観察してる場合じゃねえ!

給水塔から飛び降りた俺は、そいつが屋上から飛び降りるのを首根っこつかんで食い止めた。

「離してくれ!」だの「死なせてくれ!」だの言って暴れるそいつを抑えつけた俺は、慌てて追いかけて来た楓のも加えて、2本のベルトで拘束した。

取りあえず興奮しているようだからしばらくほっとく事にしたんだが、その顔には見覚えが有った。

新聞部の副部長だ。

2年で副部長を任されるくらいには優秀らしい。

名前は確か響(ひびき)って言ったかな?

成績も優秀。

家族との関係も良好。

なら何がコイツを自殺に駆り立てる?

……そう言えばコイツには幼馴染の彼女が居たはずだな。

ひょっとして部活にかまけすぎて彼女にでも振られたか?

やれやれ、うちのクラスにも居るが男女の幼馴染って結構難しいもんだよな。

両想いでも片思いでも、距離が近すぎて上手く行ったり行かなかったり。

家が近所だったら特に面倒だ。

だってそうだろ?

付き合って別れたり、相手に彼女や彼氏ができたりしても、近所で鉢合わせするんだぜ?

最後に笑ってさよなら出来るカップルなんてまず居ないし、いくら自分が好きでも相手はもう彼氏彼女が居るって言うのを高確率で見ちまう。

あんまり良い気はしないだろ?

なんて、くだらない事を考えてる間に落ち着いたらしい響の拘束を解いた。

そしたらなんとまぁ、俺の予想が当たっちまった訳だ。

それも最悪な展開だ。

俺は自分の事でも無いのにはらわたが煮えくりかえって来た。







最初は気のせいだと思ったんです。

けど、半年前辺りから京子の奴が急によそよそしくなって……

毎年何時も2人でイベント事は過ごしてたんですけど、1カ月前は京子の誕生日だったのに、プレゼントも受け取ってくれなくて……

問い詰めて見ても答えてくれないし……

それで、1週間前に小包が届いたんです。

送り主の名前が無かったけど、取りあえず開けてみたら、中にはDVDが入ってて……

ソレを見たら、SMみたいに縛られて、喜んで男のモノを加える京子が映ってて……

なのに京子は普通に登校して来てて……

俺、どうしたら良いか分かんなくなって、それで……







とぎれとぎれに聞こえたその慟哭は俺の心に響いた。

「お前、そのDVDはまだ持ってるのか?」

俺の質問に響は黙り込んでしまった。

何か言い辛そうにしてるんだが……

あぁ、そう言う事か。

俺がソレを性的な目的で見たいとでも思ってるんだろう。

けど、そんな事に使う気はねえぞ?

「別に変な意味で言ってるんじゃねえよ。ただ、持ってるんだったらお前には進むべき選択肢が増えるから言ってるだけだ」

「進むべき選択肢?」

自分がどうしたらいいか分からなくなってるコイツには選択肢が必要だ。

だから俺は、俺流の選択肢を与える事にした。

「そう、お前には選ぶ道がある。彼女を取られてお前1人が泣き寝入りするのか、それともお前を苦しめた奴も一緒に泣かせるのかだ。いきなり言われても分からないと思うから今日の話はことまでだ。1週間後に返事を聞かせてくれ」

俺は選択肢を与えるだけ与えて、響を屋上から追い出した。

「忍、悪いが明日から忙しくなるぞ?」

「光彦お兄ちゃんはあの人が来るって信じてるんだ?」

何が面白いのか笑いを含んだ声で忍が答えた。

「当り前だ、あんな話されてほっとけるかよ」

胃の中でぐるぐると気持ちの悪いモノが回り出す。

この感覚も久しぶりだ。

誰があいつを追いつめたのか知らねえが、俺に話が届いた以上タダで済ます気はねえぞ?

そんな俺の雰囲気に中てられたのか、忍がとろんとした目で見つめて来る。

忍に言わせればこう言った時の俺は怒っているのに笑っているそうだ。

ソレはあたかも肉食獣が獲物を前に歯をむき出しているようにも見えるとか。

まぁ、どこぞの話じゃ、笑顔ってのは元々攻撃的な顔だなんて言うし、俺のもそうなんだろう。

「光彦お兄ちゃん…ん……ちゅ」

しなだれかかって来た忍を抱き寄せながら、今にも暴れ出しそうな自分を抑え込んだ。
とにかく明日からが本番だ。

例え俺の助けを拒んだとしても、力ずくで介入してやる。

そして1週間後の放課後、前の情けなさが嘘のように鬼気迫る顔をした響の姿が屋上にあった。




相変わらず半端ない考え方してますね光彦さん。

もう少し穏やかに生きられなかったのでしょうか?

「光彦お兄ちゃんのあの顔……思い出しただけで濡れちゃいそうだよ」

「良いな~私は光彦さんの優しい所以外はめったに見られなかったから……」

「でも、お姉ちゃんは好きな時に夢で光彦お兄ちゃんに会えたんでしょ?」

「好きな時にって……呪いはそんなに便利じゃ無いの!こっちからじゃ呪えないから、向こうに行かないといけないんだよ!タクシー代だってバカにならないんだから!」

ふむ、思われていても、ずっと会えなかった桜さんと、思われていなくても、ずっとそばに居た忍さん。

どちらも苦しかったでしょうに、それでも恨みも無く冗談を言い合えるのは姉弟の絆ってやつですかね?

「何処かで聞いた事が有る話だと思えば……私抜きであの時の話をしようなんてひどいじゃないか」

「おお、すまんな」

沙菜が連れて来た新たなお客さんが駆けつけのビールを飲み干して言います。

彼の名前は響さんと言って、私が知る数少ない常識を持ったカメラマンです。

とは言ってもマスコミではなく、本業は風景写真を専門にあつかってるんですよ。

響さんは私の担当では無かったんですが、山間部を撮影しに行くと言う時に、たまたま送り迎えをさせてもらった事がきっかけで仲良くなったんです。

そんな彼が、まさか光彦さんと知り合いだったとは知りませんでした。




響の幼馴染の監視を初めてすぐに敵は分かった。

高校入学と同時に雇ったらしい家庭教師と、その派遣を行っている会社の同僚だ。

しかもその家庭教師は幼馴染以前にも教え子と関係を持っている事が分かった。

さらにたちが悪いのは、家庭教師仲間の間ではそうする事が暗黙の了解でまかり通っていて、教え子を仕込んで仲間内で回すらしい。

幼馴染もすでにそう言った会合に参加していたらしい。

その手順としてはこんな感じのようだ。

家庭教師としての実力を示して信用させる→

成績の上がったご褒美と称してデートに連れて行く→

ムードに流された事にしてキスをする→

キス以降の接触はせずに焦らす→

教え子が焦れて意識して来た頃を見計らって告白→

性的な関係に持ち込み次第に仕込んで行く→

家庭教師Bを呼び教え子にエログッズが装備されているのを発見させる(この際家庭教師はコンビニなどへ買い物へ行っており、助けを求める事は不可能)→

家庭教師Bに教え子に手を出した教師は首になると脅す(この際家庭教師はコンビニ/ry)→

脅されて仕方なく家庭教師Bと定期的な関係を持つ→

家庭教師はその事を知らないふりで今まで通り過ごす→

しばらくそんな感じで過ごして家庭教師Bに拒否反応を起こさなくなったあたりで会合に参加する。

いやに簡単に調べられたと思っただろ?

運の良い事に、捨てられた子とコンタクトが取れたのだ。

夏帆(かほ)と言う19歳の女性で、捨てられたショックに耐えきれずに、大学を辞めてしまったそうだ。

それでも家庭教師の事が忘れられずに会いに行って追い返されたらしい。

遊ぶだけ遊んで捨てる。

騙されて響を裏切った幼馴染も最悪だが、男の方も最悪だ。










屋上で新聞部を壊滅の危機に追い込んだ男に論されて1週間。

俺は考えた。

誰かは分からないが、京子を奪った相手に仕返しをすると言う事は、京子にも被害が及ぶだろう。

そうなった時、京子は許してくれるだろうか?

いや、けれど先に俺に酷い事をしたのは京子だ。

ならば、俺がし返しても良いのではないだろうか?

いや、でも……

そうしてぐるぐると考えてはみたものの、いくら京子が他の男を好きでも、俺は京子の事が好きだと言う事くらいしか考え付かなかった。

その後どうすればいいのかなんて全然分からなかった。

だから俺はまず、京子にDVDが送られて来た事を話して、俺か男のどちらを選ぶのかを聞く事にした。

「良く考えて返事しろよ?」

校舎裏へ呼び出した幼馴染が頷く。

俯いたその顔は真っ赤に染まり、体は小刻みに震えている。

普通こう聞いたら俺の告白に対して脈ありなんじゃないかと思う人もいるだろうが、実際はそんな甘い展開には到底ならないと思う。

けれども、もしかしたら……

「俺はお前の事が好きだ」

俺の幼いころからの俺の思い。

それは付き合いだしてからも変わらなかった。

だから俺は昔の関係を取り戻すために改めて告白した。

対して京子は短く切れ切れに「ごめんなさい」と呟いた。

そしてふらつきながら校門へと歩いて行った。

送られて来たDVDを見た今なら分かる。

おそらく股間だけでは無く胸にも取り付けられているであろうリモコン式のバイブに苦しみながら歩く様は見ていて気持ちの良いものでは無かった。

良く聞けばモーター音が聞こえて来るソレに何故今まで気付かなかったのだろうか?

時々顔を赤くして震えていたのはこう言う事だったのだと、何故気付かなかったのだろうか?

はははっ、滑稽だよな。

付き合いだして浮かれた俺一人が舞い上がってただけって事か?

しばらくその場に立ちつくしていると、京子を乗せた車が俺に見せ付けるように走り去っていった。

あの車は……

畜生!

アイツだったのか!

はらわたが煮えくりかえって、あまりの気持ち悪さに死んでしまいたくなりそうだがコレで俺も前に進める。

そう思いながら俺は屋上へ向かった。








「そうか、けじめを付けて来た訳だ」

響の鬼気迫る顔の意味がやっと理解出来た。

「それで、俺はどうしたら良い?」

コレは良い感じに復讐心で燃えてるな……

響が復讐しないって言っても俺がかってに動くつもりだったんだが、俺が直接どうこうする必要はなくなったな。

響の怒りにあてられて、俺は逆に冷静さを取り戻してしまった。

「お前、幼馴染は車に乗ってたって言ったよな?」

1週間の間に調べた結果、その車に誰が乗っているのかは分かっている。

取りあえずは敵が誰なのかを響にも教えておかないとな。

「……ああ。アレは京子の家庭教師の車だ。学校に何度か迎えに来てたのを見た事が有る。まさかアイツが京子を……」

って、自力で答えに到達してやがる。

悔しそうに顔をゆがめちまって……けじめは付けても吹っ切れてはいないって事か。

まぁ、幼馴染として長年一緒に居た奴の事を急に忘れろって言うのも酷な話だしな。

とは言えこれでだいたい復讐方針は決まった。

俺としては幼馴染にもしかるべき復讐をするべきだとは思うんだが、響が幼馴染相手には復讐を望んでない以上、寝取った相手を徹底的に追い詰めてやる。

「な~んだ、案外簡単に決着が付きそうだね」

「っ!誰だ!」

今まで隠れて様子を見ていた忍が姿を現した。

昨日と違って女生徒用のブレザーを身に纏って、うっすらと化粧を施している為響からは別人に見えているのだろう、凄い睨みようだ。

「だれって……忍だよ?1週間前もここに居たじゃない」

「へっ?」

ため息を吐きながらこのたちの悪い悪戯をどう止めるべきか考えていると、忍の正体に気付いたらしい響が固まってしまった。

まぁ、初見で忍の女装に気付ける訳ないよな。

桜に似て可愛いし。

それが男だって分かったら固まりたくもなる。

忍はここ数日病欠と言う事になっている。

だが、実際には女装させたうえで幼馴染に張り付かせていたのだ。

結果は敵が校外に居る事によって空振りだったが、全く収穫が無かった訳ではない。

授業中にバイブで苦しむ様や、トイレの中で1人あえぐ様をしっかりと記録してある。

こう言った事が安易に行えてしまう忍のスペックには驚かされたが、コレも敵を仕留める為だ。

「お前!」

写真を見て忍に殴りかかった響を抑え込む。

「お前の元カノを盗撮して悪いとは思うが、見ての通りコレは日常とはかけ離れてる」

「だからどうしたって言うんだよ!いくらなんでもやり過ぎだ!何でこんな写真が必要なんだよ!」

自分が捨てられたって言うのにそれでも幼馴染が大事みたいだな。

抑え込まれてもなお抵抗をする。

「こんな事をした俺を憎むのも分かるが、お前の敵は俺達じゃ無いだろ?」

30分近く格闘してやっと大人しくなった。

辺りはもう真っ暗だ。

仕方なく、俺達は場所を移す事にした。

ファミレスなんかも候補にあったんだが、いつ感情が爆発するか分からないと、響本人が言うので、俺の家へ招待する事になった。

「すまん。頭に血が上りすぎてた」

「良いって、振られてすぐだって分かってたのに俺が無茶振りしすぎたんだからな」

食後のお茶をすすりながら響が謝って来るが、ソレは俺にも言える事だ。

他人の事なのに何故こうも熱くなってしまうんだろうか?

「あははっ、二人とも青春だね~」

「……コレが男」

共犯者と言う事で俺と忍の関係は響に話してある。

最初は驚いていたが、今では楓の仕草に萌えてしまう自分にへこんでいるようだ。

忍や俺の事を世間に広めないか心配では有るが、こちらも今回の事で弱みを握っている以上大丈夫だろう。

「でだ、さっきの続きだが、あの写真に写ってた通り、普通の男女の関係でああ言う事はしないよな?」

「……そりゃあそうだけど、それと俺を泣かせた奴も泣かせるっていうのがどう関係して来るって言うんだ?」

ここまで説明したら分かりそうなもんだが……

って、やっぱり冷静じゃないんだな。

響の腕組みしてる腕が震えてやがる。

変な事を言ったらまた殴りかかって来るつもりのようだ。

「幼馴染の親を巻き込む」

「……は?」

何を言われたのか分からないって顔だが、俺はコレが最善の策だと思っている。

調べた所、幼馴染の家族は両親共に普通だ。

そう、世間一般で言う所の普通なのだ。

そんな親が、まだ未成年の子供にこんな事をさせているような男を放って置くだろうか?

そんな事はまず無いだろう。

しかもそれが信じて雇った家庭教師だ。

絶対に怒る。

娘の彼氏にするつもりで雇った訳じゃないんだからな。

家庭教師の方も火遊びに人生までかけない筈だ。

必ず2人は別れる事になる。

説明した俺に響は考え込んでしまった。

そこまで事を大きくして良いのかを考えているのだろうか?

それとも、幼馴染に嫌われるかもなんて甘い事を考えてるのか?

煮え切らない響に焦れた俺は、さらにダメ押しの一撃を与える事にした。




「あの時は盛大に傷口をえぐられる思いだったな」

「いや、あの頃はアレしか解決法を思い付かなかったんだ」

2人は笑い話のように言っていますけど、実際にはそんな笑いながら話すような事じゃないですよ。

「何つぅか胸糞悪い話だな。それで?ダメ押しの一撃ってのはどんなのなんだ?」

「なに、簡単な事じゃ」




「ちょっと、こんな所に引っ張って来てあんた一体誰なのよ!」

光彦お兄ちゃんに言われて、響先輩の元カノの友人(仮)を屋上へ連れて来た。

ちょっと強引だったかも知れないけど、女の子の格好しているし、ホームルーム終了と同時に連れ出しても少々は問題にならないよね?

この友人に(仮)が付いてるのには訳が有るんだ。

だって、こいつ……

「何とか言いなさいよ!」

ちっ、うるさいな……

ぎゃあぎゃあと喚きながら私の手を振り解こうと暴れる。

こんな汚れた女なんて光彦お兄ちゃんに言われなきゃ触る気も起きなかったって言うのに。
「離せって言ってんでしょ!」

ああ、もう無理。

我慢出来ない。

私は手を離した反動でふらつく女に軽くビンタをくれてやった。

「少し黙りなさい!私だってあんたみたいな腰振るしか脳の無い屑女なんて触りたくもないのよ」

私のビンタで倒れ込んだ女の髪を掴んでまた歩く。

ちょっと強く叩きすぎたのか私の言う事に無言で従うようになった。

入り口から死角になる位置まで連れて行くと、光彦お兄ちゃんがほれぼれするような怒りを含んだ笑顔で迎えてくれだ。

その顔を見ただけで胸がギュッと締め付けられるように苦しくなって来る。

もういっそこのままここで犯してほしいくらい。

だけど、この場でそんな事言ったりしたら、さすがに光彦お兄ちゃんでも引いちゃうよね?

「ご苦労だったな」

光彦お兄ちゃんからねぎらいの言葉もらっちゃった!

その言葉だけで私の苦労は報われちゃうよ。

私は光彦お兄ちゃんがやれって言ったら何でもする。

けど、今回の仕事はここまで。

あとは光彦お兄ちゃんがやってくれるから、私はそれを見物するだけ。

遅れてやってきた響先輩も含めて3人で糞女を囲んだ所で光彦お兄ちゃんの尋問が始まった。

「さってと、さっきの対応で分かったとは思うが、ここまで来た以上あんたに拒否権はねえ。痛い思いをしたく無きゃさっさと吐いちまいな」

助けを求めて知り合いの響先輩にすがるような目線をおくってるけど、無駄だよ?

だって、響先輩には事前に説明してるんだから。

「生憎だが、響に助けを求めても無駄だ。理由は分かるよな?」

光彦お兄ちゃんの言葉に最初は何の事だか分かりませんって顔をしてたけど、証拠を突きつけられるたびに糞女の顔色は悪くなった。

時々抵抗して喋らなくなったりしたけど、鎖骨をグリグリしてあげたら良く口が動くようになった。

コレって傷跡が残らないから結構お勧めだよ?

この糞女が何をしていたか簡単に説明すると、響先輩の元カノが家庭教師に寝取られてるのを知っていながら平気で友達面をしてたんだ。

しかもそれだけじゃなくて、自分から進んで家庭教師に抱かれてたの。

響先輩にDVDを送り付けたのもこの糞女で、落ち込む様をみてあざ笑ってたみたい。

もう最悪すぎて私からは糞女としか呼べないよ。




「忍お姉ちゃんも凄い!」

「え~それほどでもないよ~」

いやいやいや、凄いとかそんな問題じゃないでしょ?

「同じ学校の奴に手を出すなんてその家庭教師もうかつな奴だな」

まぁ、確かに頭が良いとは言えませんけど、一郎さんが言うと何故か納得してしまいます。

きっと私が知らないような後ろ暗い事もけっこうしてるんでしょうね……




俺は光彦の指示に従って、京子が家庭教師の授業を受けている間に京子の両親と話をする事になった。

事前に連絡をして、京子には内緒で話がしたいと言うと、京子の両親は嬉しそうに良いよと言ってくれた。

家の娘と正式に結婚する気になったの?

なんてからかいながら笑むその姿が、今の僕にはチクチクと突きささる。

おじさんなんか会社まで早退してくれたって言うのに……

自分の気持ちが揺らぎそうになる。

けど、コレは京子の為でもあるんだ。

きっと俺がこんな事をしたら京子は許してくれないだろう。

けど、それでも良い。

万が一あの家庭教師が京子だけを選んで幸せになってくれるなら……

悔しいけど、俺はそれで満足だ。

だってそうだろ?

光彦から聞いた夏帆さんって人みたいに、京子が散々弄ばれて捨てられるなんて、許せないじゃないか。

きっと京子は夏帆さんがそうだったように悲しむだろう。

そうなったら京子の人生はめちゃくちゃだ。

だったらまだ傷が浅くて済む内に全部終わらせるべきだ。

「いらっしゃい……今日はどうしたの?」

時間を見計らってチャイムを鳴らすと、京子のおばさんが出迎えてくれた。

俺をみてにっこりと笑ってくれたけど、後ろに居る光彦や京子と俺の友達である美知恵の姿を見て、自分達が望んだ報告やなんかじゃないと言うのが分かってもらえたらしい。

それは俺の表情が硬い事と、美知恵の憔悴ぶりからも読み取れた筈だ。

リビングに通されてお父さんと向き合うようにしてソファーに座る。

俺の顔を見て最初は喜んだおじさんも、続いては行って来た2人に怪訝な表情を浮かべた。
そして、しばらく無言の時が続いた。

「それで、今日はどうしたんだい?美知恵ちゃんまで連れて」

何時までも続くかと思えた沈黙が、お父さんの言葉で動き出した。

「今回おじさんとおばさんに話したい事って言うのはコレなんだ……」

写真を詰め込んだ封筒をテーブル越しに渡す。

これでもう引き返せない……

無言で封筒を開けて中身を見たおじさんが「なっ!」と驚きの声を発して僕を睨みつけた。

おばさんもおじさんの様子が変なのに気付いて写真を覗き込んで固まってしまった。

「……響君コレはなんだね?」

低く、それでいて良く通る声が僕の耳に届いた。

「まさか君が……君がこんな事をするなんて!!!」

あれ?

ひょっとして僕はそう言う事をさせてると思われちゃった?

あぁ、やっぱり俺も冷静じゃないから失敗しちまった……

「落ち着いて下さい」

「コレが落ち着いて居られるか!!」

今にも飛びかからん勢いで立ちあがろうとしたおじさんを光彦が見かねて止めてくれた。

「おじさん、それは俺じゃ無いよ!俺はそんな事止めさせたくて今日ここに来たんだ!!」

俺とおじさんの声で二階に居る2人に異変を気付かれたかもしれない。

けど、もうここまできたら止まれない。

「僕がやらせた訳じゃないって証拠にこれを見て欲しいんだ……」

テレビの下に設置されてるDVDデッキにあのDVDを差し込んで再生する。

画面には先生先生とあの家庭教師の事を呼ぶ。

気が動転して最初は気付かなかったけど落ち着いて考えれば、先生って言ってるんだから犯人がすぐ分かった筈なんだよな。

しかも決定的なのは、喋ってるんだよ。

京子の痴態を嬉しそうにアイツが……

何で気付かなかったんだろうな?

「見て分かってもらえたと思うけど、今二階に居るアイツが全部やらせてるんだ」

俺の言葉を聞いて、今度は二階へ駆けあがろうとしたおじさんをまた光彦が止めてくれた。

おばさんの方はその場で泣きだしてしまった。

「あの子がこんな事してるなんて……」

おじさんもさすがにおばさんの姿を見て、慰めはじめた。

「おじさん、こんな事をされてても京子は幸せなのかもしれない。コイツが京子を好きで京子だけにこんな事をさせてるんだったら、俺も泣き寝入りしたよ?けど、コイツはとんでもない下種なんだ」

光彦が1週間で調べてくれたアイツの資料をテーブルの上にぶちまける。

資料にはアイツと他の家庭教師の被害にあった子の事や、屋上で尋問した美知恵の事まで書いてあった。

「美知恵、お前の口からも言ってくれ」

俺の言葉でおばさんとおじさんの目が美知恵に向けられた。

事前説明がされておらず、ただ連れて来られたせいもあってか、それとも単純に言いたくないだけなのか、美知恵の口は一向に開かない。

「黙って無いでさっさと吐け!」

光彦に脅される形でやっと口を開いた。

その口からは、僕が屋上で聞いた時と同じ内容が語られた。

京子がアイツに弄ばれていたのを知っていた事。

京子がアイツを心の底から好きになってしまっている事。

それを知っていないがら好奇心でアイツに抱かれた事。

2人で競い合うようにアイツに奉仕した事。

アイツに連れられて他の男にも抱かれに行った事。

それ以外にも色々とその口から胸糞の悪い話が飛び出した。

美知恵がスムーズに話せるのは、光彦が屋上で行った尋問がリハーサルになっている為だろう。

しばらくそんな感じで美知恵の毒演会を続けていると。騒ぎに気付いたのか階段を駆け下りて来るような足音が聞こえた。

「お父さん、さっき大きな声が聞こえたけど、どうし………」

リビングに入って来た京子がここに居ない筈の俺や美知恵の姿を見て固まった。

その目は今も流れ続けているDVDの映像を見る事でそこに固定されてしまった。

「……響ちゃん、コレどう言う事?…で………何でこんな事するの!!」

俺がアイツとの関係を洗いざらいおじさんとおばさんに話した事に気付いたらしい。

けど、俺は止まれないし止まる気も無い。

「京子君大声出して、何か有ったの……がっ!」

続いてリビングに入って来たアイツがおじさんに殴り飛ばされた。

そのまま馬乗りになって殴り続けている。

アイツはいきなりの事で抵抗すら出来て居ない。

「お前が!お前が家の娘を!!!畜生!!!畜生!!お前みたいな男に京子を任せた私がバカだった!!!!」

「お父さん止めて!止めてよ!」

京子は俺を攻める事より自分の愛しい人が殴られるのを止める事にしたらしい。

おじさんの腕に必死でしがみついてるけど、それでもおじさんは止まらない。

「学の有る優秀な家庭教師と聞いて男だと言う事を気にもせず安心した私がバカだった!!!!京子の成績が上がったと聞いて、ただ喜んでいた自分がバカだった!!!!」

おじさんが止まったのは、アイツが顔の原型が分からなくなるほどボコボコにされて、気絶した後だった。

それも光彦に止められなければ、まだ続けていたはずだ。

「酷いよ……何でこんな事するの?私はただ…先生と一緒に居たいだけなのに……」

「それは悪いと思ってる。けどな、俺に別れ話もせずにそこに居る家庭教師と関係持たれてた俺の気持ちはどうなる?」

「だから、だからこんな事したって言うの?信じられない!!響ちゃんなんて大っきらい!!」

ごめんね、と軽く振られはしたが、大嫌い……その言葉が俺の胸をえぐった。

けど、ここで京子に逃げられる訳にはいかない。

「離してよ!」

踵を返してリビングから出て行こうとした京子の腕を掴んで自分の方を向かせる。

「これはお前の為でもあるんだ」

「これの何処が私の為なのよ!」

「良く考えてみろ!お前がいくらソイツの事が好きでも、ソイツはお前の事なんておもちゃくらいにしか思って無いんだぞ?」

「そんな事無い!先生は私を好きだって言ってくれたもん!」

「見てみろよ!そう言われて何人の女が泣いてると思ってるんだよ!」

京子の目の前に資料を突き出す。

けど、京子はそんな物見たくは無いとでも言うように顔をそらした。

「今は良いさ、好きだ、愛してる。そう言われながら弄ばれるだけだからな。けど、捨てられたらどうするんだ?他の女みたいに泣き寝入りするのか?」

「違う!私はそんな事にならないもん!」

「だったらその愛しの先生に聞いてみろよ!私を捨てませんよね?私と結婚してくれますよね?って」

そう言って俺がアイツに眼を向けると、アイツの姿は無かった。

どうやら逃げたらしい。

ちょうど庭先からアイツの乗って来た車のエンジン音が聞こえた。

けど、俺は慌てない。

「こんな状況を収集もせずに逃げ出すような奴をまだ信用するのか?」

止める間もなく京子が玄関へ向かって走った。

自分も連れて逃げてもらうつもりだろうか?

京子を追って玄関をくぐり抜けると、閉められたウインドウを叩きながら「先生!先生!」と必死に叫ぶ京子が居た。

けれどアイツは京子を乗せるつもりはないようだ。

焦っているのか、幸い車はまだ発進していないようだ。

っと、呑気に観察してる場合じゃ無いな。

羽交い絞めにして車から遠ざけたが、それでも俺を振り切って車を追おうとする。

けど、追う必要なんて無いんだよな。

なんせ……

「ドーン!ガリガリガリ!」

運転席とは反対側の車輪を外してあるんだから。

逃げるのに忙しくて気付かなかったんだろうけど、光彦が逃走を許す訳無いじゃないか。

それでも必死に動かそうとアクセル踏む姿は滑稽でしかないよな。




「はっはっはっはっは!!庭先で脱輪!!うけるぜぇ!!!」

皆お酒が入っているせいか、一斉に笑いだしてしまいました。

私もその中の一人なのですが、車の運転を生業としている身としては他人ごとではありません。

人から恨みを買った覚えはありませ……少々ありますね、これからは少し気を付けておきましょう。





勝ったな。

この家のおじさんにボコボコにされた時に携帯は取り上げて有るし、コレで逃げ場は無くなった。

後は観念してあの家庭教師が出て来るのを待つだけだな。

っと、待ってる間に忍に電話しとかねえとな。

「もしもし?」

3回ほどのコール音が聞こえて忍が電話口に出た。

電源が切られて無かったって事はもう終わったって事だよな?

「こっちはだいたい片付いた。そっちはどうだ?」

「こっちもだいたい終わったから迎えに来て」

忍には家庭教師が借りているマンションに潜入してもらったのだ。

え?

鍵?

そんなもの忍には必要無いらしい。

なんでも履歴書には載せられない特技が有るそうだ。

「色々出て来たよ?」

忍が言うには美知恵だったか?

アイツが持ち出したの以外にも色々やばいものが色々と有ったらしい。

中にはソレで脅されて言う事を聞かせられた子も居たようだ。

この調子で他の家庭教師仲間も潰してやる。

俺達の行動のせいで泣きを見る子も出て来るかも知れないが仕方ない。

俺も心苦しくは有るが、果的に後に続く人間が出なくなるんだから、我慢してもらおう。

ターゲットは残り3人。

存分に暴れさせてもらうぜ。

「あ~また笑ってる!」

おっと、どうやら声に出ていたらしい。

さてと、後は響に任せて俺は次の現場に向かうかね。

「畜生!何だってんだよ!ちょっと遊んだだけじゃねえか!」

どうやら車から出て来たらしい。

顔ぐちゃぐちゃで涙まで流してやがる。

惨めだな。

「せ、先生?」

はは、まだ家庭教師の事信じてるのかよ?

響を悪く言うようだが、なんであんなの好きになっちまうかね?

「ああ!そうだよ!俺はそんな女の事なんて何とも思っちゃいねえよ!」

「そんな!嘘ですよね?私を庇う為に嘘付いてるんですよね?」

あの女相当バカだな……

「嘘じゃねえよ!ちょっと甘い事言ったらころっとだまされやがって!なのに何だよ!何で俺がこんな目に会わなきゃなんねんだよ!」

屑だな。

一人で満足してりゃあ良いものを何人も手を出すからそうなるんだ。

ちょっと顔が良いから1人2人と上手く行って味を占めたんだろうが、油断しすぎだ。

「糞!最悪……っ!」

おお、さっきのおじさんの再現だな。

今度は響が殴りやがった。

「京子、俺はコイツがお前を純粋に好きだっていうんなら祝福したよ?お前を取られたのは悔しいけど我慢もした筈だ。けど、コイツは今自分で言ったみたいに屑だ!俺を嫌ってくれても良い、それでも俺はお前が不幸になるのが見て居られなかった」












「とまあ、そんな感じで決着が付いた訳ですよ」

「それで、その後どうなったんでござるか?」

ああ、それは私も気になります。

やはり響さんと幼馴染は険悪な関係のままだったのでしょうか?

最初に言いましたが、私は響さんを担当して居なかったのでそのあたりの詳しい履歴は知らないんですよね。

「それなんですが、しばらくは気まずそうに避け合ってたのにいつの間にかよりが戻ってたんですよ。一度裏切ったような女をまた自分の彼女にするなんて私には考えられませんけどね」

「そう言うなよ。それでも私は京子が好きなんだから」

「ふん!その愛しい女の性欲で死にそうだって泣き付いて来たのは何処のだれだ?」

「あ、アレはアイツのせいで京子の性欲が強くなってたせいだ!しばらく付き合ったら慣れた!!」

どうやらここから先はただの喧嘩になってしまいそうですね。

他の皆さんもお酒が回って寝ているような方までいらっしゃいますし、そろそろお開きにするとしましょう。


さてお時間となりました。

今日は意地でもお金を稼がなくてはなりません。

では、またいつかお会いしましょう。













後書き懺悔室

今回は元ネタと言うか、過去を思い出すきっかけになった寝取られ系エロ漫画があります。

作者までは見て居ませんが確か題名は『ごめんね…』だったと思います。

前中後に別れた3部作だったのですが、私の友人に良く似た状況が発生していたんです。
高校2年の時の話です。

私の友人は幼馴染と付き合っていました。

勘違いされないように言っておきますが、私の幼馴染ではありませんよ?

友人の幼馴染です。

で、友人と付き合ってる筈の幼馴染が車でラブホに入って行くのを見てしまったんですよ。

なぜ私がラブホ付近に居たかは気にしないで下さい。

ちょっと野暮用が有っただけです。

で、何の確信も無くいきなりそんな事を友人に言っても信じてもらえないし、しばらくは黙ってたんですけど、なんか怪しいんですよね。

それからしばらくして友人にもなんだか幼馴染がよそよそしいと相談されて、本格的にちょっと調べて見たんですよ。

調べたとは言っても、車の運転手を探しただけですけどね。

犯人はすぐに分かりました。

大学生兼家庭教師だったんです。

色々考えましたよ?

こんなの友人に言って良いのか?

とか。

でも、やっぱりそう言う浮気を黙ってるとか私は嫌なので、ついつい幼馴染の両親に密告しちゃったんですよ。

『貴方の家の娘さん、家庭教師とラブホに行ってましたよ?』ってね。

誘拐犯みたいに新聞切り抜いて手紙書くのは面白かったですね。

で、結果は親と大喧嘩の末、家庭教師と別れて友人とのよりが戻りました。

幼馴染は友人ともその事で結構喧嘩してたはずなんですけどね……

そんな事を私は何も知らないふりをして、傍観してました。

こんな事してる以上天国には行けないな、なんて思ってます。

まぁそんな感じで、半分だけフィクションです。




最後に私的に寝取られ物の主人公の悪い所を言わせて貰えば、彼等は寝取られた事を悔しいとか妬ましいとか思うだけで、全然行動を起こさない事です。

いえ、別にあそこでこうしていればとかそういう事ではなくって、事が起こった後の対応です。

取られてしまった彼女と相手の男だけが気持ち良くって、何故主人公だけが不快な思いをする必要があるんですか?

私の作品を見ていただければ分かると思いますが、基本は死なばもろともで良いんですよ。
どうせ自分にダメージが有るのなら、相手にも痛い思いをしてもらわないと。

簡単な例を上げると、奥さんが寝取られてただ別れるのが寝取られ主人公です。

奥さんが寝取られてその証拠を突きつけて慰謝料その他を要求するのが私の作品の主人公です。

どっちにしろ、奥さんを寝取られて別れたって噂は、何処からかもれるものです。

ならば、派手に自爆して、相手にダメージを与えるべきなんです。

まぁ、こちらの痛みを最小限にして相手に最大限のダメージを与えるのが理想ですけどね。

その為には、昔後書きで書いたように、周りを疑ってみた方が良いんですよ。

奥さんが浮気している事実に早く気付けますからね。


では、本編長い分後書きも長くなってしまいましたが、ご意見ご感想お待ちしております!



[16943] 20
Name: 顔無◆0c3027e3 ID:6c718531
Date: 2010/12/01 23:27
タクシー 20








「お兄ちゃん、このお弁当やお菓子の山って何なの?今日は宴会の日じゃないよね?」

後部座席に用意された食べ物を見て沙菜が不思議がっていますが、今日はコレが必要なんですよ。

なにせ今日のお客さんはお腹をすかせている筈ですからね。











今日のお客さんの名前は奈々子さんって言うんだが、後ろの食べ物は全部その子の為の物だ。

「え!? こんなに食べるの? 太っちゃうよ?」

まぁ、普通ならそうなんだが、奈々子さんは普通じゃなくてな。

「どう、普通じゃないの?」

それを説明するにはまず、彼女の生い立ちから話す必要がある。

彼女の両親は見合い結婚をしたんだ。

ろくに付き合う期間も設けずにな。

「スピード婚ってやつだね?」

……お前何処でそんな言葉覚えて来るんだ?

「えっとね、お姉さん達に教えてもらったの!」

あぁ、沙菜がどんどん汚されて行く……

「そんな事無いもん! 沙菜は何時だって綺麗だよ! お風呂だってちゃんと入ってるもん!」

いや、そんな何時もお風呂入ってます的な事じゃ無くて……まぁ、良いか。

で、その両親なんだが、父親が巨乳好きだったんだ。

それ自体は悪い事じゃないんだが、母親は貧乳と言うよりはえぐれてるってくらいに絶望的な体系だったんだ。

「えぐれてるって……お兄ちゃんその言い方は酷過ぎるよ!」

いや、俺が言ったんじゃなくて資料に書いてあったんだよ。

「それでももっと言い方が有るんじゃない? もっとこう……虚乳とか洗濯板とか」

沙菜も十分酷いと思うぞ?

最初は夫婦仲も良かったらしいんだが、性癖には勝てなかったんだろう。

父親はそれはもうグラマラスな美人さんと浮気をしたらしい。

「うん! 一番酷いのはこの人だね!」

いや、責任を転嫁するなよ……

「そんな事より続き続き!」

あ、ああ。

ソレに激怒した母親は奈々子さんを連れて家を出たんだ。

生活は裕福では無かったらしいが、それでも2人は幸せだったようだ。

「そうだよね、胸が小さいくらいで不倫しちゃうような人なんて別れた方が幸せだよ!」

だがな、その幸せは長く続かなかった。

「え? 何で?」

奈々子さんが10歳くらいの頃から第二次性徴が始まってな、ソレを期に母は奈々子さんを家に閉じ込めて無理なダイエットをさせ始めたんだ。

ふっくらと丸みを帯びて行く彼女をみて母親は「こんなにぶくぶくと醜くなってどうするの!!」なんて言いながら辛くあたったらしい。

叱られるたびに彼女は泣きながら謝るわけだが、実際は太っている訳でも何でも無く、母親の父親と浮気相手に対する憎しみから来る八つ当たりだから、奈々子さんに非は無い。

「酷い! 不倫をした父親も悪いけど母親は酷すぎるよ!」

ああ。

そうだ。

それでも奈々子さんは成長期にも関わらず満足に食べさせてもらえない欲求を必死に我慢した。

お腹が空く、満たされない。

それでも奈々子さんの体は丸みを帯びて行く。

ソレは女性として当たり前の事だから仕方が無い。

けれど母親はソレが許せない。

最終的に奈々子さんは絶食させられて死ぬんだ。







「おいしいよ!おいしいよ!」

後部座席で一心不乱に食べ物を口へ運ぶ奈々子さんが、涙ながらに言います。

それはそうでしょう。

死ぬ寸前の奈々子さんはやせ細っていて骨と皮だけになっていましたからね。

最後に「おなかすいた……」と呟いた奈々子さんの言葉をただ聞く事しか出来なかった私と沙菜はすぐにタクシーへ連れ込んでご飯を食べるように促しました。

最初奈々子さんは食べるのを躊躇っていましたが、沙菜の説得でようやく食べてくれました。

やはり男の私が進めるよりも、女の子の沙菜が進めたのが効いたようです。

「一緒にご飯食べよ?」

そう言いながら一緒にご飯を食べる沙菜を見て、やっとの事で食べてくれましたから。

母親と自分と言う限られた食生活しか知らなかったようですし、同い年くらいの沙菜が一緒に食べていると言うのはそれだけで、許しを得ている気分なのでしょう。

見ているだけの私もご飯が食べたくなるくらい、気持ちの良い食べっぷりです。

きっと上司の元に着く頃には用意した食べ物は全て無くなっている事でしょう。

そう思いながらタクシーを走らせていると、奈々子さんを気遣って一緒に後部座席に座っている沙菜の声が聞こえました。

「奈々子ちゃん、牛乳とお菓子好きなんだね」

「うん。ひさしぶりにたべたから!」

ミラー越しに姿を確認すると、若干ふっくらしてきたように見える奈々子さんが、バリバリとスナック菓子を食べて、食べこぼしがボロボロと……

あぁ、今日は掃除のしがいが有りそうですね。

お願いですからその手に持った牛乳は絶対にこぼさないで下さいよ?

「沙菜はお菓子は好きだけど、牛乳は嫌いだな……」

「え~、こんなにおいしいのに?」

「だって、土曜に給食で牛乳だけ飲んだら気持ち悪くなっちゃったんだもん!」

「どようにぎゅうにゅう?なにそれ?」

ここで若い方に言っておきます。

昔は土曜日に学校が有りまして、牛乳だけが給食として配られていました。

その牛乳だけを飲むと言うのはお腹のすいた子供に対してはけっこうな負担になるようで、体調を崩す子も中には居ました。

どうやら沙菜もその体調を崩す子だったようですね。

そしてソレを踏まえたうえでさらに説明すると、沙菜は私と出会う前は河原で何年か石を積んで居ました。

ですから、見た目は奈々子さんと同い年でも、沙菜と奈々子さんは生きた年代が違います。

つまり、ジェネレーションギャップと言う物が発生する訳です。

「なんだかよくわからないけど、おかしとぎゅうにゅうはたべたほうがいいよ? だって……」

そのギャップに気付く事無く、奈々子さんは自分がお菓子と牛乳を好きな理由を話し始めました。

監禁までされていたためでしょう、その喋りは沙菜と同年代とは思えないほどたどたどしいものでしたが、沙菜は何処かほっとしたような顔でその話を聞き始めました。

それはアリスの物語の一節のようでした。





おちゃかいにしょうたいされたアリスはジュースをのみました。

するとどうでしょういままでこしかけていたイスや、まわりのものがおおきくなったではありませんか!

いいえ、ちがいます。

まわりのものがおおきくなったのではなく、アリスがちいさくなってしまっていたのです。
これではおうちへかえれません。

たとえかえれたとしてもこんなにちいさくなってしまってはともだちとあそぶことすらできません。

それどころか、アリスのだいすきなおとうさまにあたまをなでてもらうことも、アリスのだいすきなおかあさまにだきしめてもらうこともできないのです。

ほかにもじぶんのすきだったこと、じぶんがいままでしていたことがすべてできません。

そのことをおもうと、アリスはなきだしてしまいました。

そんなアリスをみかねたチェシャネコがいいました。

おかしをたべればおおきくなるぞ。

ソレをきいたアリスはがんばってテーブルクロスをのぼり、テーブルのうえへとやってきました。

そしておかしを1くちたべました。

するとどうでしょう。

こんどはへやがちいさくなりました。

てんじょうにあたまがぶつかり、ちじこまってすわりこんでいないとへやからとびだしてしまいそうです。

どうやらおおきくなりすぎてしまったようです。

アリスはきゅうくつでしかたありません。

それにこのままではちいさいときといっしょでいえにかえることができません。

だからアリスは、またジュースをのむことにしました。

アリスはきゅうくつなへやのなかでものをこわしてしまわないようにゆっくりとコップをつまみ、ジュースをのみほしました。

するとどうでしょう。

アリスのからだはみるみるちじみ、もとのおおきさにもどったのです。




「そんな素敵な話が有るんだねなんて言うお話なの?」

「アリスっていうの!」

本筋のアリスとはちょっと違うみたいですが、沙菜はアリスを知っています。

けれど、一生懸命話をしてくれる奈々子さんを思って知らないふりをしているようです。

優しい嘘ですね。

内緒や嘘は嫌いな筈の沙菜が人の為に嘘を付く……

沙菜も成長しているんですね。

「じゃあ、牛乳はどうして好きなの?」

「うんとね、ぎゅうにゅうはね」




もとのおおきさにもどったアリスはよろこびました。

そしてチェシャネコにかんしゃしました。

するとチェシャネコは、ぎゅうにゅうをのむようにすすめました。

アリスはまよいました。

またおおきくなったりちいさくなったりしてしまうのではないかと。

けれど、チェシャネコにたすけてもらったのです。

そんなチェシャネコがアリスにわるいことをするとはおもえません。

アリスはおもいきってぎゅうにゅうをのみました。

するとどうでしょう。

むねがむずむずして、ふくがきゅうくつになってきました。

アリスはおどろきました。

おおきくなったときもちいさくなったときも、ふくはいっしょにおおきくなったりちいさくなったりしていたからです。

アリスはわけがわからなくなって、またなきだしてしまいました。

そしてなきつかれてねてしまったのです。

めがさめたアリスはねるまえのことをおもいだしました。

むねのむずむずはおさまっていました。

けれど、なにかおかしいのです。

アリスはそれがきになってじぶんのむねをかくにんしました。

するとそこには!

おおきくなってプルプルとふるえるじぶんのむねが!!!

そしてチェシャネコはうれしそうにそのむねでたわむれていたのです!




「だから、ぎゅうにゅうもすきなの!」

「……いや、それはどうなんだろう? お兄ちゃんはどう思う?」

沙菜、そこで私に話を振らないで下さいよ。

まったく、この子にこの間違った不思議の国のアリスを教えたのは誰ですか?

やっぱり巨乳好きの父親でしょうか?

ですが、実際には牛乳を飲んで女性の乳房が膨らむと言うのは迷信のようです。

ふくらむ子はほっといてもふくらむし、ふくらまない子は……

って、そんな事はどうでも良いんですよ!

ああもう、私はどう答えれば良いんですか!?


さてお時間となりました。

今日は意地でもお金を稼がなくてはなりません。

では、またいつかお会いしましょう。










後書き
どうも、前回の話が元ネタの友人にバレテ怒られた顔無です。
ですが、面白いネタも仕入れました。
その後の話が聞けたんです。
彼はもうその幼馴染と結婚してるんですが……
って、コレはいつかまたの機会に文章にしたいと思います。
こんどは本人の許可が下りてるので何の気兼ねも無く書きますよ!
(脚色はかなりしますけどね)
では、全然後書きじゃなかったですけど、ご意見ご感想まってます。



[16943] 21
Name: 顔無◆0c3027e3 ID:6c718531
Date: 2010/12/26 01:08
タクシー 21









今日はクリスマスイブ……なのですが、年末年始にかけてお客さんも多い今は休む事が出来ません。

こう言ったイベント事はあちら側(現世)もこちら側(あの世)も変わらず賑やかなものですが、その賑やかさの陰に隠れて新たなお客さん(死者)が現れるのもまた事実。

先ほども、独り身でやけ酒を飲んで死亡した方を上司の元へ送り届けたばかりです。

その前は定番の振られたショックによる自殺。

その前は老衰でイベントとは関係なく死んでしまったお客さん。

上げればきりが有りませんが、人々にとって幸せの日で有る筈のクリスマスとは言え、不幸と言う物は無くならないのです。

その新規のお客さんを上司に送り届ける合間を縫って、さらにこちら側のお客さんが普通の移動手段としてタクシーを利用するので、今日は昼食すら取っていません。

先ほどラブホテルまで!

なんて言ったお客さんには殺意すら湧いてしまいました。

幸いお客さんには気付かれませんでしたが、お腹が減ったまま仕事なんてしちゃいけませんね。

けど、あのお客さん達は大丈夫でしょうか?

クリスマスはラブホテルが満室になって、入室まで順番待ちの待ち時間が発生したりする事もあります。

ですから、行ってすぐには出来ない事があるんです。

場合によっては、普段誰とも鉢合わせしない筈のホテル内で、順番待ちの他のカップルと並んで待たなくてはならず、恥ずかしさに耐えかねてリタイアしてしまうカップルも居たりします。

あのカップルは初々しかったので最近カップルになったばかりだと思うのですが、大丈夫でしょうか?

……ま、私が気にする事じゃないですよね。

私はただお客さんを運んだだけですし。

「良いな~」

そんなちょっと黒い事を考えていた私の横で、沙菜が残念そうな顔をして車の窓越しにイルミネーションを眺めています。

沙菜は町中で腕を組んで歩くカップル達が羨ましいらしく、先ほどからソレばかり言っています。

そしてチラチラと私を見るのです。

カップルをホテル前へ降ろした辺りから、その視線に熱いものも混ざり始めた気もしますし、そろそろ何か気分転換になるような話をするべきでしょうか?

そう思っていると、次のお客さんが手を上げて待っています。

丁度良い事に、このお客さんは一人の様子。

そんな空気の中では、さすがの沙菜も自重してくれる筈です。

そう思って私は車をとめて、ドアを開けました。

乗り込んで来たのは明らかに会社帰りですと言うような格好をした男性でした。

お客さんは「どちらまで行きましょうか?」と聞いた私に「○○までお願いします」と、とある住宅地を指定しました。

はて?

聞き間違いでしょうか?

指定された住宅地はこの近くの駅から4つ向こうに有ります。

さらに、駅から5分歩けば到着してしまう場所なのですが……

「いや~タクシーがつかまって良かった。今日は電車の仲もカップルばかりでうんざりしてたんですよ。毎年そうですが、この日はカップルしか認めないって空気が漂ってて、息苦しいったら無いですね」

「オジサンはクリスマス嫌いなの?」

「う~ん、嫌いって言うか苦手かな?」

「え~!何で~!」

沙菜の疑問の声にしばらく悩んだお客さんは、自分がクリスマスを苦手とする理由を話し始めました。









アレは俺の大学3年のクリスマスに起こったんだ。

その日は合コンでね。

「合コン?」

合コンって言うのはね、簡単に言うと歳の近い男女が集まって親睦を深める事なんだ。

場合によっては合コンで彼氏彼女になるなんて事もあるんだよ。

「そうなんだ」

その時の俺は友人に誘われて、クリスマスに一人で過ごすよりは良いかと思ったんだ。
けど、俺はカラオケボックスに来て後悔したよ。

「何で?」

人数は友人が言った通り俺を入れたら丁度4対4になるようになってたんだけど、俺以外の3人は彼女連れだったんだ。

もうこの時点で帰りたくなったんだけど、相手の女の子も1人あぶれてるし仕方なく残る事にしたんだ。

そこの予約まで手伝わされたのに何もしないで帰るのも嫌だったしね。

名前は美羽ちゃんって言うんだけど、少し引っ込み思案でおどおどしてる姿なんて小動物みたいで可愛いし、話もわりと合った。

だから、これはなかなか良いんじゃないか?

合コン終わったら告白してみるか?

なんて思ってたんだけどその場に残ったのは間違いだったんだ。

「せっかく仲良くなれたのに何か有ったの?」

まあね。

本人達は隠してるつもりだったんだろうけど、この合コン自体が俺と美羽ちゃんを引き合わせようとして企画されてた物だったんだ。

皆が変に俺と美羽ちゃんに気を使うもんだから、途中で気付いちゃったんだよ。

俺は天邪鬼でね、だれかにお膳立てされて何かをするのは嫌なんだ。

だから俺は彼らにちょっとした仕返しをする事にしたんだ。

「どんな仕返し?」

王様ゲームをしようって話になったから、そこにお酒を持ち込んで、特別ルールを加えたんだ。

「王様ゲーム?」

やっぱり若い子はそこから説明しなきゃならないか……

王様ゲームって言うのは、合コンで会話が途切れたりした時に行うゲームの一種さ。

割り箸みたいな棒状の物で人数分のくじを作るんだけど、そのくじには番号以外に王様の印を付けたくじを入れるんだ。

一般的には王冠を書いてみたりとかなんだけどね。

で、一斉にくじを引いて王様を引いた人が、他の番号を持った人に命令するんだ。

例えば、2番が4番とポッキーゲームとかってね。

この時、初めて王様以外の人の番号が分かる訳だから、下手をすると男同士でする事になるんだ。

「ポッキーゲーム?」

両端から棒状のお菓子を折らないように食べて、真ん中でキスするんだ。

「うわ~ソレを男同士でするなんてちょっと嫌かも……」

だろ?

だから、王様ゲームをするような合コンには彼氏とか彼女を連れていくのは止めた方が良い。

下手をするとカップル崩壊の危機なんて有り得るから。

まぁ、他にもUNOや人生ゲームなんて無難な物もあるし、最近の子はあまりやらないんじゃないかな?

「ふ~ん」

俺がくわえた特別ルールなんだけど、命令を拒否したい場合は命令されてた全員がお酒を一気飲みする事にしたんだ。

「お客さん、一気飲みは体に良くありませんよ?大丈夫だったんですか?」

ああ、その事は後になって反省したんだけど、取りあえずその時は誰も危険な事態にはならなかったよ。

「オジサンあんまり無茶な事しちゃ駄目だよ?さっきもアルコール中毒で一人お客さんを上司さんの所へ連れてったんだから!」

あははっ、ごめんごめん。

それで話の続きなんだけど、皆は快く認めてくれたよ。

俺がさっき言ったみたいに、カップルで参加するんだから、下手をすると本当にカップル崩壊の危機になっちゃうからね。

要はソレの救済措置として快く受け入れられたんだ。










上手く行った。

俺はほくそ笑みながらくじを引いた。

「王様だ~れだ?」

「はいはい!私!私!」

友人の彼女が引いたらしい。

さて、誰が何を命令される?

「じゃぁね~1番が3番の手を次の命令まで握る!」

無難な命令だな。

さて、俺の番号は1番だが3番は誰だ?

「あ、あの、私……です」

どうやらこのゲームも出来レースになっているようだ。

俺に見えない位置でハンドサインやクチパクを使っている気配が感じ取れた。

俺は美羽ちゃんの手を握った。

顔を真っ赤にして俯くその姿は、なかなかに好みなのだが、コレが仕組まれた事だと思うとあまり乗り気になれない。

もっと普通に紹介してもらえさえすればちゃんと付き合う気になったかも知れないと言うのに残念だ。

それからも無難な命令が何回か続いて、ついに俺の王様が回って来た。

「それじゃ、全員が一気のみだ!」

俺が先行してイッキをすると、皆が続いた。

ニヤリと口元が歪むのを我慢して様子を伺うと、女性陣の中の1人が吐きそうな顔をしている。

コレで1人リタイアって所か?

周りが大丈夫か?

と声をかける中で俺は思う。

これでゲームをリタイアされても別に俺は構わない。

それを理由にこの場をお開きにしてしまえば良いのだから。

そんな俺の思惑に気付いたかはともかく、女性はゲームの続行を選択した。

ま、俺はどっちでも良いんだけどな。

ソレからもゲームは続き、俺が集中砲火を浴び、美羽ちゃんにハグや告白まがいの事をさせられた。

だが、キスなんかはさせていない。

この年にもなって恥ずかしい事だが、俺はまだキスをした事が無いのだ。

こんな事を言うと、幻想を抱いていると笑われるかも知れないが、ファーストキスは恋人としたいのだ。

だから、その命令が出ると、決まって酒を飲んだ。

美羽ちゃんの事はわりと気にいっている。

きっと、このお膳立てが無ければファーストキスをするのも躊躇わなかっただろう。

美羽ちゃんはそんな俺に付き合う形で同数の杯を空けている。

その為顔が真っ赤だ。

そしてまた俺の番が回って来た。

「それじゃ、4番と6番が……」

「お!俺だな」

「あ、私だ」

俺がわざと間延びして番号を告げると、命令もされていないのにもう自分だ自分だと番号を告げられた奴らがはしゃぎ始めた。

命令を告げられるまで待ってれば良かったのに、俺の思うつぼだぞ?

運の良い(?)事に彼等はカップルでは無い。

「キスだ!」

さあどうする?

まだ1杯しか開けてないお前たちじゃ素面みたいなものだ。

そんな2人が恋人の目の前でキスをするか?

したらしたで大変だぞ?

どうするか見ていると、二人とも無言でコップを手にとって飲みほした。

「よ~し!次行くぞ!」

男の方が顔を真っ赤にしてふらふらし始めたが、止めようなんて言わせないぜ?

俺はまたもやニヤリと笑みを浮かべてくじを皆に引かせた。

「2番が7番とポッキー!途中で折れたらイッキだ~!」

「俺2番だ」

「げ!お前かよ!」

アルコールが回ったのか、先ほど一気飲みした女性がケタケタと笑いながら勢いに任せて俺と関係の無い番号と命令を告げた。

コレを待ってたんだよ。

そこから先は簡単だった。

アルコールで正常な思考が出来なくなった連中は、キスやそれ以上の命令を見境無しにして、命令された側は酒を一気飲みしていく。

途中からは本当に思考がもうろうとしてきたのだろう、彼氏彼女関係なしにキスしたり胸を揉んだりとやりたい放題だ。

これで記憶が飛んでれば良いが、酒が抜けて記憶が残ってたら修羅場になるよな?

そして、潰れた人間はそっちのけで次の王様ゲームが続けられた。

最後に残ったのは、途中から酒と称して水を飲んでいた俺だけだった。

嫌がらせで酔いつぶしてはみたものの、この惨状をどう片付けよう。

半裸の女や女物のパンツを被った男達を見てため息をついた俺は、取りあえずカップル別にタクシーを呼んで押し込んだ。

そこから家へ帰れるかどうかは本人とタクシーの運転手に任せよう。









「昨日はお前のせいで酷い目にあったぜ……」

蒼い顔をした友人が、二日酔いで痛む頭を押さえながら俺に言う。

そんな友人に呼び出された俺は、何故か飯をおごらされてしまった。

友人が言うには、起きたら彼女と同じ布団でめが覚めたらしい。

酔いつぶされただけで終わりを告げたクリスマスイブを思い返して「俺は一体何をやってるんだ……」とへこんだらしい。

まぁ、こいつ等の事だ。

俺と美羽ちゃんをくっつけた後は、それぞれに別れて夜を楽しむつもりだったのだろう。
だが、俺の嫌がらせによってソレは全てパァだ。

ひとしきりへこんだ後に、目を覚ました彼女は、友人の顔を見るなりグーで思いっきり殴ったらしい。

原因は王様ゲーム終盤に起こったスワップまがいの大乱交のせいだろう。

まぁ、実際は本番までは行かなかったんだけどな。

昨日の記憶を無くして、なぜ殴られたのか分からなかったらしいが、他の連中に電話して理由が分かったそうだ。

おかげで朝から仲間ともギスギスしているそうだ。

だが、ソレに関しては俺は謝るつもりは無い。

俺を謀ろうとしたお前らが悪いとさえ思っている。

「で?あの後どうなったんだよ?」

「何がだ?」

何を聞いているのかは分かっているがあえてはぐらかす。

「とぼけるなよ、彼女連れて帰ったんだろ?」

「ああ、ちゃんと家まで送り届けたぞ」

「ちょ!まさか送り届けただけで何もしてないってんじゃないだろうな!……っう」

急に叫んだせいで頭痛が酷くなったのか、頭を抱えてテーブルに突っ伏した。

「する訳無いだろ?俺は彼女でも何でもない女に手を出す気は無い」

「お前な……あんな美味しい状況で何言ってんだよ。そんなだからいまだに童貞なんだぞ?」

あ~なんかこのまま俺が計画に気付いたのを言わなかったら、変な説教されそうだな。

こう言う上から目線の幸せを押し売る奴って嫌いなんだよな。

何で俺コイツと友達やってるんだろ?

「あのな、言おうか言うまいか思ってたんだが、余計なお世話だ」

「……どう言う意味だよ?」

「俺はな、合コンの途中から、美羽ちゃんが俺を好きなのも、お前達がソレを応援しようとして色々お膳立てしたのも気付いてたんだ」

「な!じゃあ、何で台無しにするような事をしたんだよ!」

「お前達の計画通りに俺と美羽ちゃんが付き合う事になってたとして、お前らは俺以外の全員がグルだったって事をずっと黙ってられるか?」

「……無理だな」

だよな。

お前は口が軽いから、すぐにネタばらしした筈だ。

「だよな。お前の事だから、そんな気は無くてもいつかは『俺達のおかげでお前は付き合う事が出来るんだ』みたいな上から目線で俺に言う筈だ」

「だから台無しにしたのか?」

怒っているのだろうか?

友人の腕がブルブルと震えている。

「ああ。悪いが俺は人にお膳立てされるのが嫌いなんだ」

「……最後に聞かせてくれ。もし、計画に気付かなかったら彼女と付き合ってたか?」

「そうだな。俺も美羽ちゃんの事はかなり気にいってたし、多分付き合ってたと思う。けど、お前らの誰かが暴露した瞬間に別れの話を切り出してたと思う」

「……そっか」

「せっかく計画してくれたのに悪かったな」

「いや、俺の方こそ悪かった」

そう言って頭を下げた友人の目からは涙がこぼれていた。








「それからしばらくの間、俺のせいでみんなギスギスしちゃったんだよね。だからクリスマスは苦手なんだ」

「それはお客さんの自業自得なんじゃないですか?」

「はははっ、そう言われると辛いね」

「でも、沙菜は裏でこそこそ内緒で計画を立てる友達も悪かったと思うよ?」

そうですね、私も裏でこそこそされるのは嫌いですから、お客さんの気持ちもわかってしまうんですよね。

沙菜にいたってはソレが原因で自殺した訳ですから、お客さんを擁護するのは当たり前の事なんでしょうね。

ただ、お節介焼きの私としては、お客さんの友人の気持ちも分かってしまうんですよね。

お客さんの友人は、お客さんの事を思って企画をしたんだと思います。

お客さんの友人がどんな人だったのか細かくは分かりませんが、きっと何時までも彼女の出来ないお客さんを心配してもいたんじゃないかと思います。

そして、告白する勇気の無い美羽さんから直接かどうかは分かりませんが相談を受けて計画を立てたんだと思います。

ですが、ソレをお客さんは施しと受け取ってしまった。

施しとは恵み与える事。

それは上の者から下の者への同情や憐れみ優越感などの感情がどこかに含まれてしまうものです。

友人にとっては善意でも、お客さんからしたら悪意にうつってしまったのでしょう。

「お、運転手さん止めてください」

おや?

まだ指定された場所まではまだ距離が有ると思ったのですが、何かあったのでしょうか?

私が車を止めるとお客さんは車から降りて。街灯の下できょろきょろとあたりを見回している女性に声をかけました。

「こんな所で何をしてるんだ?」

「あ!お帰りなさい。帰りが遅いから何かあったのかもしれないと思って……」

「バカ、今日は残業だから遅くなるって言っただろ?それに何かありそうなのは美羽のほうだ。歩けば転ぶし、味噌汁にネギと間違えてニラ入れるし……」

ネギとニラを間違えるって……

スイセンの葉とニラを間違えるよりは食べられるだけ全然ましですが、味噌汁にニラが入ってたら嫌ですね。

ですが、それよりも、お客さんは面白い事を言いました。

「お兄ちゃん、今お客さん女の人を美羽って!」

「ああ、俺も確かに聞いた」

「付き合わなかったんじゃ無かったの!?」

話の流れからして私もさすがに別れたとばかり思っていたんですが、どう言う事でしょうか?

「あははっ、確かに俺はあの日間接的に美羽をふったよ。けどね、後日改めて告白されたんだ」

「何ソレ!沙菜全然納得がいかない!」

「そりゃそうさ。俺もクリスマスの事があって納得がいかなかったんだ。けど、断るたびに何度も告白されてね。普段おどおどしてる美羽が俺のために勇気を振り絞って告白してくれてる姿を何度も見て考えを変えられちゃったのさ」

なるほど、何度も告白するけなげな姿に撃たれたって事ですか。

それに、そこまで来れば友人のお節介はもう関係無いでしょうしね。

「運転手さん、ここで良いです」

そう言って料金の精算を終えたお客さんは、美羽さんと連れだって歩いて行きました。

腕なんて組んじゃって、タクシーに乗った時にカップルが鬱陶しいなんて言ってた人のする事じゃないですよ?


さて、お時間となりました。

次回はどなたにご乗車いただく事になるのか・・・

では、またいつかお会いしましょう。















※没ネタ


夜を越えて、空が白み始めた頃になって、私と沙菜はやっと仕事から解放されました。

普段の勤務時間と違い、24時間ちかく仕事をしていたため手を繋いでいる沙菜も元気がありません。

「……クリスマスイブ」

おやおや、どうやら体力が無くて元気が無い訳ではないようですね。

ですが、コレが私の仕事です。

シフトを組まれればその通りに動かなければならない。

その事は以前から説明していたのですが、それでもやはり沙菜は子供と言う事でしょう。
クリスマスが諦めきれないようです。

「少しくらいはロマンチックな夜が……」

……あれ?

子供らしくプレゼントやサンタを期待してたんじゃ?

「せっかく今夜こそはと思って、下着も……」

いや、服装に気合が入ってるなとは思ってたんですけど下着までですか?

って、言うか完全に大人のクリスマスを過ごすご予定だったようですね……

一体誰が沙菜にこんな事を吹き込ん……

いえ、考えるまでもありませんね。

最近桜さんを筆頭に、お姉さん方と服を買いに行ってましたからその時ですね。

あの時荷物持ちをさせられた私や光彦さん達は備え付けの椅子でぐったりしていましたから、その時聞き逃したんですね……

あぁ、私の沙菜がどんどん汚れて行く……

出会った頃の純真無垢でちょっと病んでる沙菜が懐かしいです。

キラキラと輝く瞳の中にかすかに垣間見られる闇……

今思うとあの時に逆転移して沙菜の病状が私に移ったんですよね。

依存症が出てると分かった時点で精神科医にかからなかったからこんな事になったんですよね。

まぁ、今更この病気を治療しようとは思いませんけどね。

とは言え、あの頃から色々変わって行く沙菜が嫌いかと言われればそうでもないんですよね。

ただね、私じゃ無い誰かの影響を受けて変わって行く沙菜が、私の手が届かないような何処か遠くへ行ってしまいそうな気がして怖いんですよ。

「……ちゃ…」

けれど、人は生きていれば変わるもの。

私達は死んではいますが、存在している以上生きている。

だから常に変化して行くんです。

その変化を否定して沙菜を私に縛り付けるのも何か違う気がします。

「…ちゃん……」

では、変化から目をそむければ良い?

でもそれは、重大な変化を見落としをしてしまう。

盲目、盲信は不幸しか呼ばない。

ならば、見守るしか無いのでしょうか?

それではいつか、私の色では無い色に染まってしまう……

そんな事認める訳にはいかない!

ソレを認めてしまえば、けっきょく沙菜は私から離れてしまう。

……そうか、沙菜が他人の色に染まると言うのなら、それ以上に私が染めてしまえば良い。

そうすれば沙菜はずっと私を……

ワタシヲミテクレル。

「お兄ちゃん!」

「っ!」

沙菜に手を引っ張られて思考を打ち切らされた私は、自分が何を考えていたのか思い出して恐ろしさに身ぶるいしました。

どうやら私もそうとう病んでいるようです。

「もう!私の話ちゃんと聞いてよ!」

「悪い悪い!で、何だったっけ?」

ですが、私はもう引き返す気は有りません。

例えそれで不幸になったとしても、私は沙菜さえ居ればそれで良い。

だから沙菜、二人で何処までも堕ちて行きましょうね?








後書き

どうも皆さん、波乱万丈な人生を送りつつ、クリスマス終わってからクリスマスネタ投降とかやらかすマダオな顔無です。

はぁ、今回は難産でした。

クリスマスネタを考えて、書いては消してを繰り返してる内に、クリスマスとはほとんど関係ない内容になってしまいました。

やはり私に季節ネタは無理なようですね。

さて、ここからはリアルな話なんですが、私は3人の弟が居ます。

そのうちの1人(27歳)が知的障害者なのですが、思考が低下と言うか退化というかをしてしまい職場で全裸になりました。

幸いその職場は障害者専用の職場なのでそう言った事に対して理解も有った為に警察沙汰にはならずに済みました。

今までそんな事をするような弟では無かったので、私たち家族や職員さんも驚いていました。

そんな弟は仕事を休ませ、私が家で監視しています。

そうしないと、いきなり突拍子の無い事を始めるのです。

この真冬に熱いと言いだして窓を全開に開けた時は思わず「アホか!」と叫んでしまいました。

おかげで決まりかけていた再就職先を蹴るはめになりました。

その黒い感情が出てしまった為、没ネタが出来上がったわけです。

で、そんな弟の面倒を見ながらも、先日散髪に行ったのですが、私は散髪屋のおばさんから衝撃の事実を告げられました。

26歳の弟が彼女を連れて来て居たと言うんです。

まぁ、それ自体はもんだいでは無いんです。

家へ連れて来た事も有ったので、面識もありました。

すらっとしたスレンダーでなかなか可愛い子だったと記憶していたんですが……

高校生だと言うんです。

弟よ!

一体どこで引っかけた!?

まぁ、貧乏小学生を拾って文字通り援助交際していた私が言えた事ではないんでしょうけどね……

そしてさらに!

19歳の弟の彼女(中学生)の友達が万引きで捕まってその道ずれで彼女が捕まったそうです。

そのせいで親に携帯を止められたとかで、明日は私を入れた3人で携帯を買いに行きます。
え?

何故私まで行くかですか?

そこには深いようで浅い理由が有ります。

本当なら弟と彼女がデートでもしながら携帯を選んで、弟がその携帯の契約をする。

そして彼女に携帯を渡す事でこの話はおわる筈だったんですが……

弟は未成年の為、保護者が居なければ携帯を買えないのです。

ちくせう!

何が悲しくてリア充のデートについて行かなきゃならないんだ!

こいつら絶対いつか小説のネタにしてやる!



ああ、なんか色々書いたらすっきりしました。

こんな愚痴だか小説だか分からないような駄文ですが、ご意見ご感想待ってます。



[16943] 22
Name: 顔無◆0c3027e3 ID:6c718531
Date: 2010/12/31 22:17
タクシー 22








クリスマスも終わり、今日はもう大晦日。

あと数時間で今年も終わりを迎えます。

先ほどからこちら側の(あの世)神社仏閣へお客さんを乗せて行ったり来たり。

臨時でバスも用意されているのですが、それでも乗り遅れた方や、バス酔いの酷い方などがタクシーへと乗り込んで来ます。

もちろん神社仏閣とは関係ない場所を指定されたりもしますが、ほとんどは神社仏閣へのお客さんです。

今日はそんな神社へ向かうお客さんを乗せた時に聞いたお話です。

そのお客さんは、右京(うきょう)さんと言う男の方でした。

右京さんは最近こちらに来られたばかりで、こちらでの初詣も今日が初めてだと言うのです。

そんな右京さんに私はこちら側での初詣で気を付けないといけない事を色々と話しました。

あちらとこちらで決定的に違うのは、その神社仏閣へ神様が顕現されている事です。

それを踏まえた上でお参りをしないと大変な事になりますからね。

中にはお賽銭を神様にちょくせつぶつけてしまったなんて事も有りまして、その方は文字通り雷が落ちました。

そう言った失敗談を面白おかしく話していると、今度は右京さんが失敗談を聞かせてくれました。









失敗談と言うか、私が向こうで犯した過ちとでも言うんですか?

それを話したいと思います。

私の妻は美知恵というんですが、セフレが居たんですよ。

「セフレ?」

セックスフレンドの略称でね、友達同士でセックスしたり、セックス以外ではコレと言った繋がりの無い男女のことを言うんだよ。

沙菜さんには少し早かったかな?

「む!そんな事ないもん!」

「こら、沙菜!気にせず続けて下さい。沙菜はこんななりですが、私の助手歴も結構長いのでそう言った話にも耐性は付いてます。ですが、あまり積極的に教えていないので、その言葉がどう言った好意なのかは知らない事もありますけどね」

そうですか?

では遠慮なく。

そのセフレと妻との関係は、結婚する前はもちろん結婚してからも続きました。

「何でそんな人と結婚したの?もっと他の自分だけを見てくれる女の人を探した方がよかったんじゃないの?」

結婚する前に、セフレとは別れるから結婚してくれって言われたんですよ。

まぁ後は惚れた弱みって奴ですか?

それで、結婚してしばらく経ったんですが、どうも自分以外の男の気配と言うか匂いがするんですよ。

「失礼かとは思いますが、奥さんは貴方の事を愛していらしたのですか?時々いらっしゃるんですよ。結婚だけして他の男にうつつを抜かす女の方」

いえ、それだとおかしいんですよ。

セックス以外の夫婦生活は愛情たっぷりで満たされてるのに、それだけは拒むんです。

その愛情が演技だとは思えないくらいに満たされてました。

私は、ひょっとしたら妻の性癖が関係してるのかと思って、無理矢理襲うようにした事もしたんですが、私が1回たっしてしまうと、お互いに満足してる訳でもないのに途中で疲れてこれ以上できないって言うんです。

逆に受けに回ってみてもそれは変わりませんでした。

むしろ引かれたくらいです。

「それはまた……御苦労さまです」

いよいよもってセフレに走るその理由が分からなくて、しばらく監視する事にしたんです。

むろん万が一を考えて何時離婚を切り出されても良いように用意だけはしていましたよ?

浮気をされて私だけが負債を背負うのはバカみたいじゃないですか?

その為に監視はカメラやマイクを使って徹底的に行いました。

そしたらまぁ、相手は隣に最近引っ越してきた旦那さんじゃないですか。

セフレが誰かまでは知らなかったんですけど、これには驚きましたね。

幼馴染だとは聞いてましたけど、まさかエッチまで馴染んでたなんて。

理由も2人の会話でだいたい分かりました。

妻の性欲が強すぎて私以前に付き合った彼氏ともすぐに別れていたようなんです。

けれど、私の事は本気で好きで、別れたくない。

だから幼馴染にたのんで、たまに性欲を満たしてもらいながら私との新婚生活を送っていたと言う訳でした。

ソレが分かった時呆れましたよ。

確かに、私に逃げられると思って辛かったのは分かりますが、こちらの性欲を満たした訳でもないのに、よくもまあそんな事が言えたものですよ。

で、呆れた私はそのまま離婚しても良かったんですが、それじゃあ誰も得をしないじゃないですか。

だから私は隣の奥さんを私のモノにする事にしたんです。

「え!?」

「得をしないって……ソレはどうかと思うんですけど」

いや、ソレは建前で実際はただのちょっとした復讐心ですよ。

こっちはわざわざ妻に容赦して他の女で性欲満たしてたって言うのに、幼馴染にプレイ中に言わされたとは言え「主人より貴方の方が……」なんて言われたらね。

傑作でしたよ。

私と寝る為に用意されたはずのベットで股を広げて幼馴染にそう言う妻は。

あの顔は完全に墜ちてましたね。

私の事なんてどうでも良くなってましたよあの顔は。

「いやでも、貴方も浮気してたんじゃないですか?他の女って……」

何を言ってるんですか?

風俗は浮気にならないんですよ?

まったく、どんな御大層な理由があったのかと思えば自分の性欲のせいで私と別れたくない?

そんなのはこっちの性欲を満たしてから言えってもんですよ。

少ない小遣いやりくりして風俗行った自分がバカみたいじゃないですか。

で、え~と。

「……えっと、お兄ちゃん風俗は浮気じゃないの?」

「……難しい所ですね」

あぁ、話がループしてましたね。

つまり意趣返しで、妻のように隣の奥さんで私の性欲を満たしてしまおうと思った訳ですよ。

長馴染みとのエッチを見た感じ、べつにアレが大きい訳でもテクニックが凄い訳でも無さそうでしたから、尚の事そう思ってしまいましてね。

「それで、上手く行ったんですか?」

ええ。

意外に簡単でしたよ。

有休を取って幼馴染の彼と入れ違いで家に忍び込みました。

最初は嫌がってましたけど、途中から自分で腰をふるようになりましてね。

「それレイプじゃないですか!!」

ふむ、そう言われればそうですね。

「言われなくてもそうです!」

まぁ、すぎた事じゃないですか。

で、何度かそんな感じでやってたら、事の真相を話してくれましてね。

高校時代に妻と彼女はたちの悪い家庭教師に捕まって調教されたそうで、性欲が人一倍強くなってしまったんだそうです。

ソレが原因で幼馴染の彼と一度は別れてしまったそうなんですが、またよりを戻して結婚したそうです。

妻の方は良いパートナーに恵まれず、男と付き合ってもすぐに別れていたようです。

だから社会人になった妻が私と結婚すると聞いて奥さんは反対したそうです。

ろくにエッチもせずに結婚しても後で絶対別れる事になるからって。

それでも妻は、どうしても私と結婚したいからって言ったそうで。

今までの男のように自分の体を満たす事を捨てて、心を満たす事にしたんだそうです。

結局体の疼きは止められず、奥さんも合意の上で幼馴染の彼とのセフレ関係を続けてしまったそうです。

けど、何時までもこのままじゃいけないと思った奥さんは、近い内に私にその事を打ち明けて、別れるなり私を炊き付けて妻を満足できるようにするなりして決着をつけようとしていたそうです。

まぁ、それ以前に私が不倫に気付いていたとは知らず、私に襲われると言う結果に繋がってしまったんですけどね。

「それで、どうなったんですか?」

しばらくは奥さんと関係を続けていたんですけど、私が本当に愛しているのは妻で会って奥さんじゃないんですよ。

だから、妻を納得させる為に、妻が付かれてるからと嫌がっても強引に抱き続けました。

そしたら、普段貞淑な妻が一変して風俗嬢も真っ青な状況になったんですよ。

それはもう魂ごと絞り取られるかと思いました。

事が終わって正気に戻った妻は、別れを切り出されるのではないかとおびえていました。

私はそんな妻を抱きしめて、ただただ愛していると告げました。

けれど息も絶え絶えに言う私の言葉が信じられないのか、妻はしばらく放心していましたよ。

そして別れ話を切り出されないのがわかると、頬に涙を伝わせながら笑ってくれました。

そんなこんなでいつの間にか私と奥さんの関係も妻と幼馴染との関係も自然消滅してました。

ただ、妻の性欲を満たして私の元気が無くなるのと反比例するように、隣の旦那さんが元気はつらつとして行くのを見て、彼も苦労していたんだなと思いましたよ。

まぁ、何が悪かったと聞かれれば、私が消極的だったのがいけなかったんでしょうね。

で、ここからが傑作なんですけどね?

お隣の奥さんと同時期に妊娠した家の妻は、同じ病院で2人して女の子を授かったんですよ。

その2人が成長して、普通の家なら思春期になると男親を避けるじゃないですか。

その筈なんですけど、私も幼馴染の彼も避けられなかったんです。

けど、不思議な事があるもので、私の娘はお隣の幼馴染を嫌うし、幼馴染の娘は私を嫌うんですよ。

「ちょっと待って下さい。何だか展開が読めて来ました……」

はっはっは、なかなか感が良いじゃないですか。

女性と言うのは牝の本能として、自分に近い臭いを持った男性を嫌うそうです。

それは種の保存とかそう言った意味合いでも合理的なんでだそうですが、今回の場合は本当の親を判明させる結果をもたらしただけでした。

私が秘密裏にDNA検査を依頼した所、私の娘は隣の幼馴染と妻との間に出来た子でした。

逆に向こうの子は私と奥さんの子供だったんですけどね。

「………」

「沙菜、大丈夫ですか?さっきから固まってますけど……あぁ!!あまりの事にフリーズしてる!?」

おやおや、ここからが面白い所なのに。

あまりにべたべたする娘にやきもちを焼いた妻が、離れるように言ったところ、もう中学を卒業しようかと言うような歳の娘が「私お父さんと結婚する!」なんて言ったんですよ。

そしたらもう、妻と娘で大喧嘩ですよ。

で、あんまりにも煩かったんで、ついつい言っちゃったんですよ。

「良いじゃないかどうせ血は繋がって無いんだから!法律で結婚出来なくてもお前が望むなら抱くだけ抱いてやるぞ?」ってね。

あの時の妻の顔は傑作でしたね。

どう言う事?

そう顔に書いてありましたから。

アレだけ幼馴染に出されておいて、私の子だと何を根拠に思い込んでたんでしょうか?









飛んでも無い失敗談を語って行った右京さんを見送った私と沙菜は、次のお客さんを求めて再び車を走らせ始めました。

「ねぇ、右京さんは本当に奥さんを愛してたのかな?」

「それは俺にも分からないな。それが分かるのは本人だけだ」

私の返事に納得がいかないのか、沙菜はそれっきり黙ってしまいました。

そして何事か考えるようなしぐさをしてしばらく唸ると、沙菜はとんでもない言葉を口にしたんです。

「……お兄ちゃん、右京さんの奥さんって美知恵さんって言うんだよね?」

「ああ、確かそう呼んでたな……って、まさか………」

まさか気付いてしまったんですか?

右京さんの奥さんは美知恵さんで、美知恵さんには幼馴染の男の人が居ます。

男の人はもう1人の幼馴染の女性と結婚していて、その女性と美知恵さんは昔悪い家庭教師に……

「美知恵さんの浮気相手って……」

沙菜、お願いですからそれ以上は口にしないで下さい。

私は慌てて沙菜の口を塞ぎました。

「沙菜、それ以上は絶対に言うな。例えソレが合ってても違っててもろくな事にならない。出来るなら忘れるんだ」

沙菜は私に口を塞がれたままコクコクと勢いよく首を縦に振りました。

やれやれ、今日はとんでもない話を聞いてしまいました。

たまにこうした飛んでも無い嘘か本当か分からないような話をされるお客さんもいらっしゃいますが、さすがに今回のように、お客さんどうしが絡んだお話を聞いたのは初めてです。

無論秘密は硬く守りますが、沙菜にもそう言った事を教えないといけませんね。


さて、お時間となりました。

次回はどなたにご乗車いただく事になるのか・・・

では、またいつかお会いしましょう。













後書き

と、言う訳で、響さんの後日談を書いてみました。

響さんの話を見た友人が電話で何書いてるんだよ!

と怒鳴った後相談と言うか愚痴られたのがコレです。

色々脚色しましたが、娘が妙に懐くので心配になって検査を受けたら不安適中。

上記のように隣の御主人と痛み分けだったそうです。

一応和解して家族ぐるみの付き合いを続けているんだとか。

良く和解出来たものだと思います。

戸籍上他人の子供が我が子として育つんですよ?

まぁ、だからと言って嫁さん取り替えて再婚ってのもなんか違う気がするし……

でも、この話を聞いて私は、自分と家族のDNA検査した方が良いかな?

なんて思ってしまいました。

何と言うか、兄弟の体型が完全に違うんですよ。

私と27歳の弟は横に伸びてるのに、26歳の弟と19歳の弟は縦に伸びてるんです。

顔つきも下の弟になればなるほどイケメンになってます。

噂では、出て行った私の母は色々と不倫話も多かったとか……

いや、怖くて実際には検査なんて受けませんけどね。

だってそうでしょ?

今まで暮らしてた父親と他人だったらとか、考えただけで怖いじゃないですか。

まぁ、そんな感じで色々思う所は有りますけど、取りあえず今年はこの話で終わりにしたいと思います。

では、皆さん良いお年を!



[16943] タクシー 番外編 スナック明美へようこそ!
Name: 顔無◆0c3027e3 ID:6c718531
Date: 2011/01/21 22:09
スナック明美へようこそ!









「あら、いらっしゃい」

俺が店のドアを開けると、明美ちゃんが何時も通り迎えてくれた。

ここはいつ来ても変わらない。

「……いつものを頼めるか?」

カウンターに座って、差し出されたお絞りで手を拭きながらこれまたいつも通りの注文をする。

「今日はどうしたの?ずいぶん疲れてるみたいじゃない?」

「あははっ、やっぱり分かるか?」

「そりゃそうよ。何年ここに通ってると思ってるの?」

差し出された水割りを口にしながら苦笑する。

そりゃそうだ。

なんてったって、明美ちゃんが独立する以前からの付き合いだもんな。

「でも、貴方がそんな顔するなんて、会社が倒産して以来じゃないかしら?」

「まぁね、今日はちょっと弟の事でね」

「弟さん?確か、3人居たわよね」

「そう、その弟達の事でちょっとね……」

ため息を吐きながらここ数日の事を思い出す。

「言いたい事が有るなら吐きだして行きなさい。力になれるかは別にして、ここはそう言う場所なんだから」

「はははっ、まるでどこぞの運転手みたいな事を言うんだな」

失言だとは思いつつも、つい言ってしまった。

思い出すのは、何時も人の悩みを聞いては右往左往する男の事。

明美ちゃんの心は彼の色に染まっている。

思考が似て来るのも当然と言えば当然だ。

にも関わらず彼は明美ちゃんでは無く別の女性をそばに置いている。

『彼に寄り掛からずに生きられるようになったら、改めて告白するつもりだったんだけれど、気付いたら取られちゃってたわ』

そう言って静かに涙を流す明美ちゃんを慰めたのは記憶に新しい。

別に彼が悪いんじゃないのは分かる。

けれど、それでも俺は……

「ストーップ。彼の事は言わないで」

眉間をつつかれて俺は正気に戻った。

どうやら考え込みすぎてしわがよっていたようだ。

ソレを見て俺が何を思っているのか明美ちゃんは気付いてしまったのだろう。

「で?弟さんがどうかしたの?」

「あ、あぁ、一番下の19歳の弟なんだけど、半年前くらいから彼女が居たんだ」

「19歳のって言うと、あのイケメンの?」

「イケメンかどうかは知らないけど、その弟」

今日の出来事を思い出したイライラを抑えつけようと、煙草を取り出して口にくわえると、明美ちゃんが流れるような動作で火を付けてくれた。

明美ちゃんに点けてもらえたと思うだけで、ちょっと幸せな気分になれた。

そんな煙草の肺一杯に吸い込んだ煙をゆっくりと吐きだす。

あぁ、少し落ち着いた。

「へ~彼女ね。3人目だったかしら?」

「確かそうだな。1人目は高校の時、売りを初めてソレが弟にバレて別れた。こいつとは面識もあったし、メールのやり取りもしたな。最後は開き直って『3万円でどうですか?』なんてメールが来た覚えが有るな」

「……貴方まさか!」

「はははっ、それこそまさかだよ。もちろん無視したさ。そんな弟を悲しませたような女を呼び出すとしたら袋叩きにしかしないよ」

「そうよね、いくら貴方が節操無しだからって言っても弟の元カノをお金で買うような外道じゃないわよね」

うんうんと頷く明美ちゃん。

だが、俺が外道だってのは自覚している。

ちょっとやんちゃが過ぎたからな。

やんちゃすぎて、酔っ払った拍子に性歴を洗いざらい暴露しちまった後は、しばらく店に来ても口を聞いてもらえなかったもんな。

「まぁ、俺の事はさておいて、2人目は実は良く知らねえんだよな。時間にルーズだったとかで、すぐ別れたって聞いてる」

「今度は長く続くと……ううん、結婚出来て、ずっと幸せでいられると良いわね」

「そうだな。けど、この世に永遠に続く幸せなんて無いぞ?けっきょく何処かでどっちかが裏切っちまうんだよ」

「またそんな事言って!それは貴方に女運が無いだけよ!」

「へえへえ、分かってますよ。どうせ俺なんて、寝取られた腹いせに男女とも徹底的にボコすしか脳の無い男ですよ」

最初の恋は死に別れ。

その後の恋は2回とも裏切り。

1回目は「じゃあまた明日」そう言って別れた後、用事を思い出して彼女を追いかけると、曲がり角を曲がったすぐ先で他の男とキスをしていた。

時間を見計らって彼女の家に忍び込んだ。

無防備に騎乗されている男の足を金属バットでへし折って逃げられなくしたっけな。

そんでマウントからボコボコにしたんだよな。

間で止めに入った女は俺が力加減間違えて右手のひじが逆側にまがっちまったっけな。

2回目は社内恋愛。

バイトの子と付き合ってたら、後から入って来た後輩に……

こいつらは仕事の時間が夜中だった事も有って、個別に闇討ちしたら仕事も止めてったな。

「また悪い顔になってるわよ。止めなさいよそう言うの」

今度は頬をつつかれた。

どうやら口元がつり上がっていたようだ。

「それで?その3人目の彼女がどうかしたの?まさか、貴方のお手付きだった子なんて言うんじゃないでしょうね?」

「無い無い。ただな、彼女の友達が万引きして捕まったらしいんだけど、そのとばっちりを受けて、一緒につかまっちまったらしい」

「あら。それはまた中々に運の悪い子なのね」

「だな。けど問題はそこじゃねえんだよ。店に親と先生が呼び出されたらしくてな。
直接万引きをして無いとは言え、親から罰としてケータイの契約を止められたらしい」

「本当に運の悪い子ね。いまどきの女子高校生がケータイ止められるなんて補助輪の無い自転車みたいなものよ?」

いや、明美ちゃんが自転車乗れないのは知ってるけど、その例えはどうなんだ?

いまいちどれくらい不便なのか分からんのだが。

それに……

「1つ訂正させてくれ。その子女子高生じゃないんだ」

「え?じゃぁ、女子大生で親と先生呼び出し?それはそれで恥ずかしいわね」

「いや、そうじゃなくて中学生なんだよ」

「うわ~貴方も外道だけど、弟さんも外道ね。このロリコン共め!」

「ありがとう。最高の褒め言葉だ!って、ちゃうわ!しかも俺のストライクゾーンはもっと広いし」

「そうよね。貴方って下は10歳から上は40以上までストライクゾーン広いものね。しかも男の娘まで手を出しちゃったんだっけ?……この節操無し!」

うっ!

事実なだけに明美ちゃんの冷たい視線と言葉が胸に刺さる。

「はははっ、手厳しいね。で、その彼女と弟を連れて、今日は彼女に持たせるケータイを買いに行ったんだよ。じゃないと連絡取れなくなっちゃうからね」

「確かに連絡用にケータイは必要でしょうけど、何で貴方が一緒に?」

「年齢的な問題だよ。ケータイの契約は二十歳にならないと保護者が必要なんだよ。俺はただの名義貸しさ。ショップで2人が選んだケータイの名義を俺で購入して、金は全部弟が払ったんだ。屈辱的だったよ。運悪く、今はバイトも止めてたから職業の欄に無職って書かされて……」

「ご愁傷様」

「しかも、一緒に居る間中イチャイチャするのを見せ付けられて散々だったよ。何が一番ムカつくって、二人で寄り添ったかと思ったらこしょこしょと内緒話をしたり、笑いあったりして。それがもう幸せそうでね、あまりのピンク色のオーラに、おめでとうって言いながら藁人形に五寸釘打ち込みたい気分だったよ」

「ソレは祝ってるの?それとも呪ってるの?」

「両方だよ御嬢さん」

「ふふふっ、何ソレ。貴方いつから飛べない豚になったの?」

「はははっ、強いて言うなら、会社が倒産してから?」

2人してひとしきり笑って時計を確認すると、もうそろそろ良い時間だ。

そろそろ帰る事にしよう。

会計を済ませて店を出ようとした所で明美ちゃんから声がかかった。

「いい加減仕事が見つからないんだったら、私の所で働きなさいよ」

はははっ、嬉しい事言ってくれるね。

けど、俺はそこまでの決心がつかないし、その話は聞かなかった事にするよ。

明美ちゃんへの返事を扉越しに「ごめん」と呟くにとどめた俺は、こちら側(あの世)から肉体の繋がりをたどってあちら側(現世)へ帰り着いた。

お金の節約の為にタクシーを使わず歩いたせいで寝起きにもかかわらず足がパンパンだ。

こりゃぁ、しばらくはバイトも休んで切り詰めるかね。








後書き
皆さんお久しぶりです。
今回はタクシーのスピンオフ(?)作品をでっちあげて私の弟の事を書いてみました。
いや、しかしショップでケータイのプラン説明を受けてる間に、初音ミクの歌う『ブラックロック★シューター』が流れた時は笑ってしまいました。
ミクの曲が流れた事もそうですけど、3人して自分のケータイに手を伸ばしてましたからね。
いや、別に着信は『ブラックロック★シューター』じゃ無いですよ?
ただ、違ったとしても、ミクの曲には反応しちゃうんですよ。



[16943] 短編 10
Name: 顔無◆0c3027e3 ID:6c718531
Date: 2011/02/08 22:33
「○○、お前には隠していたが、実は俺大企業の社長なんだ」

真面目な顔をした親父からそう言われて、俺は何をバカな事を言ってるんだと思った。

だってそうだろ?

俺の家は誰がどう見たって貧乏なんだから。

築30年を超えるようなオンボロアパートに、両親と俺の3人で細々と住んでいる。

少人数にも関わらず、この家は狭い。

足を延ばして寝るのがやっとだ。

その上隣からの声が筒抜けだ。

しかも3食卵かけごはんのみ。

そんな家に住んでいるような父親が大企業の社長?

無い、無い。

有り得ないって。

俺が何も言わないのを良い事に、ベラベラと厨二病クラスの嘘が親父の口から尚も出て来る。

この生活は俺に庶民の生活がどう言う物なのか覚えさせる為?

この極貧生活の何処が庶民だ!

お前にはこれからわが社を継ぐ為に学んでもらう事がある?

本当に大会社ならこんな遅くに教育始める訳ねぇ!

「親父……真面目な顔して何バカな事言ってるんだよ」

「な!バカとは何だ!ホントの事だぞ!」

まだ言うかこの糞親父は……

生まれてからこれまで小遣いも出せないような貧乏社員が何言ってんだ。

「話がそれだけなら俺は行くぞ?バイトに遅れちまう」

全く、何考えてるんだか。

俺を騙す嘘を考える暇が有ったら、俺が自分の学費を稼がなくても良いように考えてくれよ。

大事な話が有るって言うから聞いてみりゃ、ただのほら話とかアホか。

「○○、ちょっと待ちなさい」

立ちあがった俺を、今度は母さんが止めた。

「母さん、何の用か知らないけど後にしてくれない?バイトに遅れそうなんだ」

「良いから座りなさい」

俺はため息をつきながらもう一度座った。

「で、何?まさか母さんまで父さんは社長だなんてバカな事言うんじゃないよね?」

「ええ、○○は嘘だと思ってるみたいだけど、本当の事なのよ?その証拠にコレを見てちょうだい」

母さんもかよ……

母さんは俺に1通の通帳を渡した。

名義は親父だ。

コレが何だって言うんだろうか?

不思議に思いながら中を覗いた俺は、速攻でその通帳を破り捨てた。

「な!お前何してるんだ!」

「ソレはこっちのセリフだ糞両親!真面目な話が有るからって聞いてみりゃろくでも無い嘘ベラベラ喋りやがって。おまけに通帳の偽造なんて何考えてんだよ!冗談でもやって良い事と悪い事が有るだろ!警察に捕まりたいのかよ!」

「だから嘘じゃないし、その通帳は本物なんだよ!」

「んな訳有るか!バカ言って無いで現実見ろよ!3食卵かけごはんで生活してる現実をよ!」

ったく、何考えてんだか。

俺は両親が止めるのも聞かずに家を後にした。








その日から両親から俺に対しての冗談はエスカレートして行った。

いかにも金持ちそうな格好をしたおじさんを連れて来て会社の重役だなんて言うし。

大きなビルに連れていかれてここが俺の会社だなんて胸はるし。

極めつけはトランクいっぱいの偽札を俺に見せて、好きに使えなんてバカな事言うし。

俺はその都度親父を殴り、迷惑をかけたであろうおじさんや親父の嘘で微妙に引きつった顔をする受付の人に謝った。

偽札も見つからないように焚火にくべて処分した。

バカな親ではあるが、警察のお世話にはなりたく無かったしな。

そんな両親も俺が高校を卒業してからは冗談をあまり言わなくなった。

まぁ、当たり前だよな。

なにせ……

「ご主人様、朝ですよ。起きて下さい」

バイトで稼いだ金を元金に、株で稼いだ俺は豪邸で優雅にメイドさん達とキャッキャウフフな生活を送っているからだ。

たまに両親から電話がかかって来ても無視してるし。

「今日の目玉焼きは会心の出来なんですよ~」

洗顔を終えてテーブルに着くと、調理を担当したメイドさんが朝食を並べてくれた。

ご飯に味噌汁に目玉焼き。

しかも目玉焼きにはベーコンとレタスまで付いてる。

今日はずいぶんと贅沢な御馳走だ。

しかも今晩はすき焼きだって!

あの貧乏生活が嘘みたいだ!

「ご主人様、今日は○○会社との会合の日ですよ」

朝食を食べる間にメイドさんから今日の予定を聞く。

○○会社か……

確か親父が自分の会社だなんて言って連れてったのがそこだったよな?

今回の買収が上手く行ったら親父に社長になってもらうか?

冗談を本当にしてやるのも子の務めだよな。

それに、そうすりゃちっとはあの嘘ツキも落ち着くだろうしな。

そんなこんなで会議室に踏み込んだ俺は、○○会社の重役達に混じって俺を待ち構えていた糞親父を殴り飛ばした。

「社長!」

いやいや、重役さん達、そんな嘘つかなくて良いから。

そっちの人も助け起こすなんて事しなくて良いって。

「○○!久々に会ったと思ったら、いきなり何をするんだ!」

「うるせえ糞親父が!いくら俺の親だからって、まだ買収に合意してないような会社の社長を偽る奴が有るか!買収成功したら社長にしてやろうと思ったがもう止めだ!誰かこの糞親父をつまみ出せ!」

「○○!前々から俺がここの社長だって言ってるじゃないか!」

俺のボディーガードに連れられて親父は会議室を退場していった。

「あの、ご主人様?あの方は本当にこの会社の社長さんで……」

「またまた~、そんな嘘つかなくても良いって」

「はぁ、もう良いです」

(ご主人様、他の事に関しては頭が良いのに、どうしてお父様の事になるとこんなにおバカなんでしょうか?)









後書き

名前を考えるのがメンドクサイ。

もう伏字的なコレで良くね?

さて、今回の駄文なんですが、別名『俺の親父がこんな大会社の社長なわけがない』です。

………すみません、ちょっとブーム(?)に乗っかってみたかっただけです。

題名だけで私はアレ見た事無いんですけど、つい出来心で……

で、今回のお話のコンセプトはエロゲやエロ漫画なんかに良くある、『実は我が家は凄い家だったんだ!』的な主人公がその話をまったく信じなかったらどうなるの?

才能有りバージョンです。(才能なしバージョンは後半からどう頑張っても親父の権力で社長を継がされる事になりそうなのでカットしました)

書いてて思ったんですけど、この主人公無いわ……

こんなのネギまとかの認識障害掛魔法掛ってるような場所しか有り得ないんじゃね?


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