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[18589] 【習作】鋼の錬金術師~イシを継ぐ者達の福音への物語~(鋼の錬金術師×エヴァ)
Name: ラックQ◆e7d1ec43 ID:675fe86e
Date: 2010/05/04 05:27
 初めまして、ラックQと申します。5年ぐらい前に某サイトで、これと同じクロス作品を掲載してましたが、最近になって再び執筆魂に火がつきました。クライマックス間近の最近のハガレンとエヴァの新劇場版を見て、設定を全て変えて再筆するに至りました。なので【習作】というよりリハビリみたいな感じです。5年近く、物書きしてませんでしたから。
 今度は完結させるつもりで頑張ります。
 基本、原作沿いの話ですが、エヴァ設定を絡み合わせてやっていこうと思います。



[18589] 第1話 練成されし世界
Name: ラックQ◆e7d1ec43 ID:675fe86e
Date: 2010/05/23 07:23
 人は何かを得る為に何かを犠牲にしなければならない。

 代償なしに何かを得る事は出来ない。

 即ち等価交換……それは世界の真理である。




 底の無い人の欲望。
 金、地位、名誉、そして命……尽きる事の無い人間の欲望は、やがて神の領域を侵した。
 黒い月が世界に光臨し、人間は世界から消えた。
 一人の少年と少女を残して……。
 世界から人間が消えた日、少年は真理を見た。
 彼は『扉』を開いてしまった。
 人々の魂が集う部屋の『扉』を。
 そして見た。
 その『扉』の向こう側を。
 かつて黒き月の主である者が得た『知恵の実』という名の膨大な知識を。
 人間が人間たる由縁の力を。
 群体である人を単体にする『練成』の核となった少年は、『扉』を開き『知恵の実』を得てしまった。

「…………」

 呆然と。
 数多の知識を得た少年は浜辺で呆然となる。
 黒から赤へと変わった目を大きく見開き、虚空を見つめる。
 少年の脳裏に数多の情報が駆け巡る。
 しかし、少年の望む知識は無かった。
 どれだけ膨大な知識を得ようとしても、そこに少年の望むものはない。
 死んだ命は蘇らない。
 少年は望んだ筈だった。

 助けて……。

「!?」

 少年の頭に声が響く。
 誰か自分達以外に生き残りがいるのか?
 そう思って周りを見るが、そこには誰もいない。

 怖い……。
 出して……。
 暗いよ……。

 しかし、声は次第に増えて行き、男、女、大人、子供……様々な声が響いて来る。
 悲しみ、恐怖、怨嗟、慟哭、苦悶……ありとあらゆる叫び声が頭を、自分の体を駆ける。
 少年は理解した。
 その声はこの世界の人々のものだ。
 依り代となり、世界の中心にされて『扉』を開いてしまった少年は、その身に世界中の人間の魂を内包してしまった。

「うあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

 何億という人の魂から発する叫び声に少年が堪えられる筈もなかった。
 耳を押さえ、浜辺をのた打ち回っても声が消えることはない。
 浜辺に突き出ている岩に自分の額を叩きつける。
 何度も何度も……普通の人間ならとっくに死ぬほどの打撲を与える。
 しかし、少年は死なない。
 額が割れても瞬時に傷が癒え、ただ苦痛を与えるだけだった。
 やがて頭を叩きつけるのをやめた少年の目に浜辺に横たわる少女の姿が留まる。
 怖かった。
 苦手だった。
 救えなかった。
 穢してしまった。
 好きだった……かもしれない。
 太陽のように明るく、強く、逞しく、しかし誰よりも儚かった少女。
 少女は左目と右腕に包帯を巻かれ、痛々しい姿をしている。
 このまま少女は死んでいく。
 また救えないという感情が少年に芽生える。
 
「…………」

 少女から、少年は視線を横へ移動する。
 眼前に広がる赤い海。
 知識が教えてくれる。
 この海は人々の肉体が変化したもの。
 人が人の形をしていた『拒絶の壁』を取り払われ、一つになった姿。 
 少年は自分が得た知識を振り絞る。
 自分の体には世界中の人の魂があり、目の前の海は人々の肉体が溶け合ったもの。
 肉体と魂は引かれ合う。
 ならば……、と少年は両の掌をゆっくりと胸の前で合わせる。
 神に祈るようなその姿勢で、少年は地面に両手を当てた。
 瞬間、赤い稲光が少年を中心に走り、赤い海を駆け抜ける。
 その時、少年は自らの体を見る。
 彼の体はパズルを崩すかのように『分解』されていく。
 しかし、このまま、この守れなかった少女を一人死なせて行く事はできなかった。
 分解される自分の体を見て、少年は残された手で傍らで横たわる少女に触れる。
 少女の手に触れながら、少年は赤い海を見る。
 薄れ行く意識の中、少年の左目に、赤い海面に立つ蒼銀髪の少女が裸で立っていた。
 少年は微笑む。
 最初に出会った頃のように、ほんの一瞬だが、再び会えた彼女に言いたかった。
 もはや口も消え、頭半分だけになってしまった。
 しかし、少年は優しい微笑で言った。

 おかえり……。
 
 その言葉を最後に少年の体は完全に消えた。
 碇シンジという名の少年は、この世界から消えた。


 裸体の蒼銀髪の少女は、海面を移動し、浜辺に着くと朱金髪の少女を見る。
 彼女は、この朱金髪の少女が好きではなかった。
 陰と陽、表と裏、光と影、太陽と月。
 まるで正反対であったが、本質的にはとても似ていた。
 だから互いに相容れなかったのかもしれない。
 しかし、共通している事もある。
 それは同じ男性に知ってか知らずか二人とも惹かれた事だった。
 その彼が最後は、この朱金髪の少女の為に自らを代価として、自分が奪った人々の肉体を再構成しようとした。

「人は人を傷付けあう……でもまた想うこともできる」

 蒼銀髪の少女は、そっと朱金髪の少女を抱き寄せる。
 母が子をあやすように頭を撫でてやると、朱金髪の少女の左目はゆっくりと閉じられる。

「きっと戻って来る……」

 蒼銀髪の少女は赤い海へと目を向ける。
 今は、まだ形を成していない。
 しかし、彼から放たれた魂は、きっとあるべき場所へ戻り、人々は蘇る。
 蒼銀髪の少女は、視線を上へやる。
 すると彼女の目の前に『扉』が現れる。

「そう……私達は待つわ。ガフの部屋で……いつか再び出逢える日を……」

 『扉』は開き、中から無数の黒い手が伸びてくる。
 黒い手は2人の少女の体に纏わりつき、やがて彼女達の体は、崩れていく。

「ただいま……」

 2人の少女もまた、この世界から消え去った。
 少年は神話になる。
 最初で最後。
 世界を『練成』した者として……。




 砂漠を2人の少女が歩く。
 日光を避ける為に長いローブとフードを被っているが、やはり砂漠は暑い。
 左目に大きな黒い眼帯をした朱金髪の少女は頬を伝い、顎から落ちそうになる汗を腕で拭う。

「…………暑い」
「そうね」

 少女の後ろを歩くサングラスをかけた蒼銀髪の少女が答える。
 しかし、蒼銀髪の少女は汗一つ掻いてない。

「町はまだ?」
「もう少しよ」
「その言葉、もう10回は聞いてるわ」
「正確には12回目よ」
「アンタのもう少しは42.195km以上あるの!?」
「怒鳴ると余計に暑くなるわ」

 涼しげな顔で言い放つ蒼銀髪の少女の言葉に、朱金髪の少女のイライラは更に上がる。
 が、丁度、朱金髪の少女は遠方にあるものを発見した。

「日陰よ!!」

 砂の下から突き出た直方体の建物らしき一部だった。

「行くわよ、レイ!!」
「…………走ると余計に暑くなるわよ、アスカ」

 そこへ朱金髪の少女は突っ走る。
 蒼銀髪の少女もその後を追う。
 アスカ・ラングレーとレイ・アヤナミ……2人は、あるものを探し、旅をしていた。



 完全に風化した建物の影で休憩するアスカは、水筒に入った水を飲む。
 その建物は、斜めに突き出ており、壁からは鉄柱が剥き出しになっている。

「んぐんぐ……ぷは~~!! 生き返るわ!! レイ、あんたも飲みなさいよ!」
「ええ」

 アスカから水筒を受け取って水を飲むレイ。

「アメストリスに戻って来るのも久し振りね……」
「そうね」
「にしてもミサトの奴……いきなり人をシンから呼び戻して何のつもりなのかしらね」
「……………」

 レイは鞄から地図を出して広げる。
 東に大国『シン』があり、彼女達は今、砂漠を越え、真っ直ぐ西を目指している。
 西の軍事国家……『アメストリス』を。



 アメストリス国東の街リオール。
 砂漠に程近い所にあるこの街には、至る所にラジオやスピーカーが設置されている。
 その理由は、今この街で流行っている宗教の放送を聞く為だった。

【かつて太陽神レトは、欲に塗れたヒトに裁きを与えた】

 スピーカーやラジオから壮年の男の声が流れる。
 普段は賑やかな街の住民達も静かに、その放送に耳を傾けている。

【しかし神の子シンジの尊い祈りと犠牲により、レトは涙し、その涙を浴びたヒトの欲は洗い流された。忘れてはならない。慈悲深き太陽神レトへの信仰と神の子シンジへの感謝を。私は神の子の生まれ変わりとして太陽神の言葉を、子羊達に授けよう】
「ラジオで宗教放送?」
「神の子の生まれ変わりって……何だこりゃ?」

 リオールの一角で経営しているフードショップ。
 そこに異様な2人組がいた。
 金髪を三つ網にした金眼に赤いコートを着た小柄な少年と、大きな鎧を着た人物だった。

「いや、俺にとっちゃ、あんた等の方が『何だこりゃ?』なんだが……」

 店主の男性がそう言いたくなるのも無理はなかった。

「あんたら、大道芸人か何かかい?」

 その言葉に、食事をしていた金髪の少年は、食べていたものを噴き出した。

「あのなおっちゃん、俺達のどこが大道芸人に見えるってんだよ!」
「いや、どう見てもそうとしか……ここいらじゃ見ない顔だな、旅行?」
「うん、ちょっと探しものをね。ところでこの放送なに?」
「コーネロ様を知らんのかい?」
「…………誰?」

 店主は本当に知らない様子の金髪の少年に、この放送をしている人物について話した。

「コーネロ教主様さ。太陽神レトの代理人!」

 更に続けて、他の客達まで話に入って来る。

「『奇跡の業』のレト教、教主様だ。数年前にこの街に現れて俺達に神の道を説いてくださった素晴らしい方さ!」
「そりゃもう凄いの何の!」
「ありゃ本当に奇跡! 神の御業さね!」
「コーネロ様こそ正に神の子“シンジ”の生まれ変わりだ!」

 口々に街の人々はコーネロという自分について話す。
 しかし、その話を聞いていたとうの本人である金髪の少年は、テーブルに突っ伏して口に咥えたストローを上下させて遊んでいた。

「って聞いてねぇな。坊主」
「うん、興味ないし」

 サラッと答えて金髪の少年は立ち上がる。

「ごちそーさん、んじゃ行くか」

 隣に座っていた鎧の人物も立ち上がろうとしたが、2m近い巨体が天井に当たって、置いていたラジオが地面に落ちて壊れた。

「あーーーー!! ちょっと困るなお客さん! 大体そんな格好で歩いてるから……」
「ワリーワリー。すぐ直すから」

 怒る店主を宥める金髪の少年。

「『直すから』って……」

 完璧にグシャグシャになって修復不能と素人目でも分かるラジオを直すと簡単に言う金髪の少年に、店主は怪訝になる。

「まぁ、見てなって」

 鎧の人物は壊れたラジオを中心に、地面にチョークで円や三角形、文字を組み合わせた図を描く。

「よし。そんじゃいきまーす」

 鎧の人物が手をクロスさせると、稲光が走り、ぼっとラジオが光に包まれて煙が立ち上がる。

「な……!?」

 店主は我が目を疑った。
 完全に壊れていたラジオは、まるで新品同様の状態で元に戻っていた。

「これでいいかな?」

 店主はカウンターから身を乗り出し、驚きの言葉を口にする。

「こりゃ驚いた。あんた『奇跡の業』が使えるのかい!?」
「何だそりゃ?」
「僕達錬金術師ですよ」

 そう、鎧の人物がした事は奇跡でも何でも無い。
 『錬金術』という立派な学問であり、科学である。
 物事の性質を理解し、分解し、再構築する技術。
 鎧の人物がしたのは、ただラジオを再構築したに過ぎない。

「エルリック兄弟って言やぁ、結構名が通ってるんだけどね」



「は~! やっと着いた!」

 リオールの街に着いたアスカは両拳を空に突き上げて、大きく背伸びする。
 とりあえずお腹が減ったというので、近くの売店で肉の串焼きを買う。

「ミサトが言ってたのって、この街であってるのよね?」
「ええ。カツラギ中佐の手紙には『リオールの新興宗教について調べて欲しい』って……」
「ったく……何だって、私達が……仕事なら自分でやれっつの!!」

 肉の串焼きを思いっ切り齧り、アスカは怒りを露にする。
 ウキーと声を上げて地団駄を踏むアスカの姿をレイは『サル』だと思ったが、口に出すと怒るので思うだけにした。
 丁度その時、レイは広場にある石像に目が留まる。
 太陽神レトと思われる石像と、それに跪く紫色に塗装された一本角の石像だった。
 レイはサングラスを外した。
 赤い神秘的な瞳が露になり、その目を細めて紫色の石像を見る。

「ちょっと、レイ。どうしたの?」

 そこへ、アスカがやって来てレイの視線の先を見る。
 レイの見ている紫色の石像にアスカは眉根を寄せる。

「何? ただの石像じゃない。アレって伝承の神の子の鎧でしょ? でもアレじゃあ神の子っていうより悪魔じゃない」

 アスカはそう言って興味なさ気に肉を齧る。
 そんな彼女にレイは複雑な視線を向けるが、すぐにサングラスをかける。

「エルリック兄弟だと!?」
「ああ! 聞いた事あるぞ!」

 丁度その時、とある一角で騒ぎが起きている事に気付く。

「何かしらね?」



 エドワード・エルリック。
 その名を聞いた街の人々は、騒ぎ立てる。

「兄の方が確か国家錬金術師の……“鋼の錬金術師”エドワード・エルリック!!」

 国家錬金術師……その名の通り、国家資格を持つ錬金術師であり、その資格を持つ者は、国より莫大な研究費や特殊な文献の閲覧許可など様々な特権を得られる錬金術師の中でもエリート中のエリートである。
 錬金術が発達したアメストリスにおいて、国家錬金術師という肩書きは一般人からすれば畏敬の対象である。
 人々の反応を見て、金髪の少年は、得意げに大きく胸を張る。

「いやぁ! あんたが噂の天才錬金術師!!」
「なるほど! こんな鎧を着てるから二つ名が“鋼”なのか!!」

 しかし、人々は鎧の人物が、巷で有名な錬金術師のエドワード・エルリックと分かり、彼に群がる。
 サインしてや、握手してなどもてはやされる鎧の人物に対し、金髪の少年は放っておかれた。
 鎧の人物は困った様子で、自分に群がる人々に言った。

「あの、僕じゃなくて……」

 鎧の人物は、金髪の少年を指差し、人々は一斉に振り向いた。

「へ?」
「あのちっこいの?」
「ウソん」

 その発言に、金髪の少年の怒りがMAXに達する……沸点は元から低いが。
 
「誰が豆つぶドちびかーーーーー!!!!!」

 誰もそこまで言っていないが、2人は改めて自己紹介する。

「僕は弟のアルフォンス・エルリックでーす」
「俺が!! “鋼の錬金術師”!! エドワード・エルリック!!!」

 鎧の人物――アルフォンス・エルリックが軽い口調で名乗り、金髪の少年――エドワード・エルリックが怒り口調で名乗る。

「し……」
「失礼しました……」

 街の人々は、エドワードの怒りに押されて謝った。

「へ~。ミサトが言ってたけど、“鋼の錬金術師”って本当に小さいのね」
「っ! 誰が目にも入らない豆粒ドチビだ!!」

 不意に……。
 後ろから失礼な言葉をかけられてエドワードは怒鳴って振り返る。
 が、その怒りはすぐに消えた。
 太陽に照らされる長い朱色がかった金髪。
 左目に眼帯をしているが、右目は空のように澄んだ青色をしている。
 自分と同じような赤いジャケットを羽織り、短パンからはスラリと長い足が伸びている。
 余り女性に目を惹かれないエドワードだったが、太陽を背に自信に満ちた笑みを浮かべる少女の姿に、つい目を奪われてしまった。

「こんなチビが国家資格取れるなんて、試験ってきっと簡単なんでしょうね~」

 しかし次の瞬間、この女は敵だと彼は認識する。
 これが彼等の初めての出会いとなった。


 遠い昔、神話になった少年がいた。

 少年が守ろうとした少女達。

 少年の見た世界へ足を踏み入れようとする少年達。 

 彼等は出会った。

 失ったものを取り戻す為に。

 古き神話は終わり、新たな神話の幕が開く。



 鋼の錬金術師~イシを継ぐ者達の福音への物語~   第1話 練成されし世界



[18589] 第2話 鋼の錬金術師
Name: ラックQ◆e7d1ec43 ID:0b8f7b53
Date: 2010/05/23 09:59

 鋼の錬金術師~イシを継ぐ者達の福音への物語~ 第2話 鋼の錬金術師




「アル、手ぇ出すなよ」
「兄さん?」

 コキコキと左手の指を鳴らしてアスカに歩いて行く兄の姿に、アルフォンスは戦慄する。

「この女……コロス!!」
「ちょ……駄目だよ兄さん!」

 本気で殺そうとする目をしているエドワードの腕を掴んで止めるアルフォンス。

「本当にミサトの言ってた通り、小さいって言うと面白いぐらい反応するのね」
「また小さいって……! ん? ミサト?」

 エドワードはアルフォンスを振り払ってアスカに殴りかかろうとするが、彼女の口から出た名前を聞いて手を止める。
 アルフォンスも覚えがあるようで言った。

「もしかしてカツラギ中佐の事?」
「アンタ、あの酒飲みと知り合いか?」
「そ。その酒飲み」

 エドワードは、アスカとその後ろにいるレイを見て眉根を寄せる。

「…………ひょっとしてアンタ、アスカとレイって奴か?」
「あら? 私の事知ってるの」

 きっと天才美少女だと言われてると思ったアスカは得意げに胸を張る。

「ああ。カツラギ中佐から聞いてるぜ。2人とも国家錬金術師並の凄腕だって」
「でしょう!」
「後、アスカってのは、サルみたいにやかましい女だって」

 アスカの額に青筋が浮かぶ。

「誰がサルよ!! この豆!!」
「誰が豆だ!! このサル!!」
「サルって言うな! チビ!」
「チビって言うな! サル!」

 互いに両方の頬を掴み、親指を口に突っ込んでいがみ合うエドワードとアスカ。
 余りにも見苦しい光景に周りの人々は引いてしまう。
 見かねたアルフォンスとレイは、それぞれ兄と相棒を引っ張る。

「兄さん、みっともないよ」
「アスカも」
「離せアル! この女、一発ぶん殴る!!」
「離しなさい、レイ! このガキ、痛い目あわせる!!」

 出会って3分足らずで敵視し合うエドワードとアスカに、レイとアルフォンスは2人を取り押さえつつ、溜息をついた。

「あら、今日は何だか賑やかね」

 そこへ少女の声がかけられ、4人は振り向いた。
 前髪の一部が桃色がかった白いワンピースを着た少女がフードショップにやって来た。

「お、いらっしゃいロゼ。今日も教会に?」
「ええ、お供えものを」

 ロゼと呼ばれた少女は、財布からお金を出し、いくつかの食品を購入する。
 店主が品物を袋に詰めている間、ロゼはエドワードやアスカ達に気付く。

「あら、見慣れない方が?」
「こっちの男の子等、錬金術師さんだとよ。探し物してるそうだ」
「そうですか。探し物、見つかるといいですね。レト神の御加護がありますように!」

 お供えの品物を受け取り、ロゼは去って行った。
 人々は、そんな彼女の姿を微笑ましそうに見送る。

「ロゼもすっかり明るくなったな~」
「ああ。これも教主様のお陰だ」
「へぇ?」

 エドワードが眉を寄せると、周りの人達が説明する。

「あの子ね、身寄りも無い一人者の上に、去年恋人まで事故で亡くしちまってさ……」
「あん時の落ち込みようといったら可哀相で見てられなかったさ」
「そこを救ったのが創造主たる太陽神レトの代理人、神の子シンジの生まれ変わりであるコーネロ教主の教えだ!」
「生きる者には不滅の魂を、死せる者には復活を与えてくださる。その証拠が“奇跡の業”さ」
「お兄さん達も一回見に行くと良いよ。ありゃ正に神の力だね!」
「『死せる者に復活を』ねぇ……」
「「嘘くさー」」

 余り信じていないエドワードとアスカ。
 2人声を揃えて言うと、互いに顔を見合わせてフンとそっぽを向いた。
 レイは、話を聞きながらもサングラスの下の目を足下へ向けている。

(気のせい? 前は何も感じたなかったけど……この国……)




 教会の聖堂……沢山の長椅子が並び、最奥部には太陽神レトと、それに跪く神の子の鎧である紫の石像がある。
 その石像をレイは一人見上げていた。アスカは椅子に座り、欠伸を掻く。

「ねぇ~、レイ~。いつまで見てんの~?」

 サングラスを外し、赤い目を露にして石像を見上げるレイ。
 表情に余り変化の無い彼女が何を思っているのか、アスカも良く分からない。

「あ……」
「げ!?」
「あん?」

 不意に横から声が2つしたので振り返る。
 そこには先程、街で喧嘩になりかけた鋼の錬金術師と鎧の弟が来ていた。

「何だ、豆に鎧か」
「誰が豆粒ドチビだ! サル女!」
「誰がサルよ!!」
「もう兄さん。教会では静かにしなよ」

 アスカに飛び掛りそうなエドワードの赤いコートを引っ張って取り押さえるアルフォンス。

「また会いましたね……え~と」
「アスカよ。アスカ・ラングレー。あっちの無愛想なのがレイ・アヤナミ。ミサトから聞いてんでしょ」

 石像を見上げているレイを親指で指して自己紹介するアスカ。

「ラングレーさん、こんな所で何を?」
「レイが、ちょっと寄ろうって言うから来たの。アンタ達は?」
「けっ! 誰が教えるか……」
「コーネロって人が広場で“奇跡の業”を公開するらしいから、それまでの時間潰しです」

 あっさりと答えるアルフォンスに、エドワードは肩を落として頭を押さえる。

「へ~。そんなのやるんだ……レイ。私らも見に行きましょうよ」
「…………ええ」
「あら? 確かさっきの……」

 と、そこへ新たに聖堂に入って来た人物に4人は振り向く。
 入って来たのは先程、フードショップでお供え物を買いに来ていたロゼという少女だった。

「レト教に興味がおありで?」
「いや。生憎と無宗教なんでね」
「同じく」

 エドワードとアスカの反応に、ロゼは「いけませんよ!」と言葉を強めて言った。

「神を信じ敬う事で、日々感謝と希望に生きる……何と素晴らしい事でしょう! 信じれば、きっとあなたの身長も伸びます!!」
「んだとコラ!」
「どうどう」
「あははははは!!!」

 最後の方のロゼの言葉に怒るエドワードをアルフォンスが宥める。
 アスカは腹を抱えて大笑いしている。
 エドワードは怒りを抑え、空いている椅子に座って言った。

「ったく。良くそんなに真正直に信じられるもんだな。神に祈れば死んだ者も生き返る……かい?」
「ええ、必ず……!」

 ロゼは、エドワードのその言葉から、街の人達から教主が、死んだ自分の恋人を生き返らせてくれるという話を聞いたのだと解った。
 そして、ロゼはそれを迷いの無い口調で肯定する。
 エドワードは息をつき、赤いコートの内ポケットからメモ帳を取り出して、そこに書いているものを読み上げる。

「水35ℓ、炭素20kg、アンモニア4ℓ、石灰1.5kg、リン800g、塩分250g、硝石100g、イオウ80g、フッ素7.5g、鉄5g、ケイ素3g、その他少量の15の元素……」
「……は?」

 いきなり沢山の数字を挙げられてロゼは目が点になる。

「大人一人分の人体の構成成分ね」

 同じように聞いていたアスカがそう言うと、エドワードは「そうだ」と頷いた。

「今の科学ではここまで解っているのに、実際に人体錬成した例は報告されていない。“足りない何か”が何なのか……何百年も前から科学者達は研究を重ねて来て、それでも未だに解明できていない。不毛な努力って言われてるけど、ただ祈って待ち続けてるより、そっちの方がかなり有意義だと思うけどね」

 エドワードは手帳を閉じて更に続けた。

「ちなみにこの成分材料はな、市場に行けば子供の小遣いでも全部買えちまうぞ。人間てのはお安く出来てんな」

 そして、その言葉を聞いてロゼは憤慨する。

「人は物じゃありません! 創造主への冒涜です! そんな事を言うと天罰が下りますよ!!」

 しかし、そんな彼女の怒りに対し、エドワードはアハハと笑う。

「錬金術師ってのは科学者だからな。創造主とか神様とか曖昧なものは信じちゃいないのさ。この世のあらゆる物質の創造原理を解き明かし、真実を追い求める……その俺達が神様に一番近い所にいるなんて、皮肉なもんだ」
「……傲慢ですね。ご自分が神と同列とでも?」
「そういや、神話であったけな」

 エドワードは太陽神レトに跪く、紫の石像を見て言った。

「神の子を利用して神に成ろうとした人間……“ゼーレ”は神の怒りに触れて、その身を滅ぼしたって」

 アスカは、エドワードの口から出たその台詞に目を伏せる。
 レイも、サングラスをしているので表情は窺えないが、エドワードの方を見ていた。



 時間が経ち、広場では人々が教主の“奇跡の業”を見ようと集まっていた。
 剥げた頭に、太った体型、法衣を着て首にスカーフをかけた壮年の男が広場の先、レトと神の子の鎧の石像の下で手を振っている。
 その男がレト教の教主コーネロだった。
 街の人々が歓声をあげ、誰彼構わず「教主様!」と声を高らかにしている。
 コーネロは宙に舞うバラの花の一つを手に取ると、稲光が発生し、大きなヒマワリに変えた。
 人々は“奇跡の業”であると騒ぐが、その中に4人、冷静な目で見ている者達がいた。
 エドワード、アルフォンス、アスカ、レイの4人だった。

「どう思う?」

 足りない身長をカバンの上に乗って補ってるエドワードがアルフォンスに尋ねた。

「どうもこうも、あの変成反応は錬金術でしょ」
「だよなぁ………それにしては法則が」
「綺麗サッパリ無視してくれちゃってるわね~」

 エドワードの言葉にアスカが付け加える。

(あの教主……違う。何か……変な感じが……)

 レイはレイで、コーネロから何か異質なものを感じていた。
 そのような会話をしていると、ロゼが4人に近づいて来た。

「どうですか!? 正に奇跡の力でしょう。コーネロ様は太陽神の御子です!」
「いや、ありゃー、どう見ても錬金術だよ。コーネロってのはペテン野郎だ」

 さらり、とエドワードが自分の敬愛する教主を侮辱するのでロゼはムッとなる。

「でも法則無視してるわよ」
「う~ん、それだよな~」

 アスカが言うとエドワードは髪を掻いて唸った。

「法則?」
「錬金術って傍から見たら何でも出せる便利な術だと思うでしょうけど、ちゃんと法則があるのよ。大雑把に言うなら質量保存の法則と、自然摂理の法則よ」

 それに四元素に三原質を引き合いに出す術師もいるとアスカが説明するが、ロゼにはちんぷんかんぷんで理解出来ない。
 そんな彼女に、アルフォンスは質量が一のものからは一のものしか出来ず、水の性質のものは水属性のものしか出来ない、と解り易く説明し、最後にエドワードが締める。

「つまり! 錬金術の基本は『等価交換』! 何かを得ようとするなら、それと同等の代価が必要って事だ」
「けど、あのタコ坊主ってば、その法則を無視して練成しちゃってるのよね~」
「だからいい加減、“奇跡の業”を信じたらどうですか!?」
「指輪……」
「え?」

 レイがポツリと呟き、ロゼが反応する。
 エドワードとアルフォンスも、同じ事を考えたのか互いに頷き合った。

「兄さん、ひょっとすると……」
「ああ……ビンゴだぜ」

 するとエドワードは今までの態度から一変して、ロゼに満面の笑顔を浮かべて言った。

「お姉さん! 僕、この宗教に興味持っちゃったなぁ! ぜひ教主様とお話したいんだけど、案内してくれるぅ?」
「まぁ、やっと信じてくれたのですね!」

 明らかに怪しさ満点なのだが、ロゼはエドワードが改心し切ったと思い込んでいて疑ってすらいない。
 アスカは呆れて、アルフォンスに言った。

「アンタの兄さんって、結構、あくどい事思いつくタイプでしょ?」
「はい……」

 悲しいけど、頷くしかないアルフォンスだった。




「教主、面会を求めている者が来ております」

 レト教の信者がコーネロの執務室に入って主であるコーネロ教主に向かって言った。

「子供3人と鎧を着た4人組で、子供一人と鎧を着た人物はエルリック兄弟と名乗ってますが……」
「何だ、それは? 私は忙しい。帰って貰え……!」

 だが、そこでコーネロはハッとなり、その発言を取り消した。

「いや、待て。エルリック兄弟だと? エドワード・エルリックか!?」
「はぁ、確か金髪の子供はそう名乗ってましたな……お知り合いで?」

 コーネロは唇を噛み締め、苦い顔を浮かべる。

「まずい事になった! “鋼の錬金術師”、エドワード・エルリックだ!」
「な……!? こんな、ちっこいガキですよ! 冗談でしょう!?」
「馬鹿者! 錬金術は年齢がどうこう言うものではない!」

 若干12歳で国家錬金術師の資格を取ったという噂は聞いていたが、本当に子供だったとは思いも寄らなかったコーネロ。
 だが、子供だろうが何だろうが国家錬金術師である事に変わりは無い。

「軍の狗めは余程、鼻が良いと見える」

 子供とはいえ、国家錬金術師が此処を嗅ぎつけて来たのはコーネロにとって非常にマズかった。

「追い返しますか!?」
「いや、それでかえって怪しまれる。追い返したとこで、また来るだろうからな……奴らは此処に来なかった……と、いうのはどうか?」

 そう言って薄汚い笑みを浮かべるコーネロ。側近の男もそれと同じような笑みを浮かべた。

「神の御心のままに」



「さぁ、どうぞこちらへ」

 コーネロ側近の信者に案内され、エドワードとアルフォンス、ロゼ、そして付いて来たアスカとレイは教会内に通される。

「教主様は忙しい身で中々時間が取れないのですが、あなた方は運が良い」
「悪いね。なるべく長話しないようにするからさ」

 エドワードが言うと、側近の信者は懐に手を入れた。

「ええ、すぐ終わらせてしまいましょう……このように!!」

 懐から銃を抜いた側近の信者は、アルフォンスの頭に突きつけて引き鉄を引く。
 室内に銃声音が鳴り響き、アルフォンスの兜が吹っ飛んで床に転がる。
 驚くエドワード達。
 その隙に他の信者達がロゼ以外の3人に錫杖で取り押さえる。

「クレイ師兄! 何をなさるのですか!?」

 ロゼはいきなり発砲するコーネロ側近の信者に向かって叫ぶ。

「ロゼ、この者達は教主様を陥れようとする異教徒だ。悪なのだよ」
「そんな! だからと言って、こんな事を教主様がお許しになる筈……」
「教主様がお許しになられたのだ! 教主様の御言葉は、我らが神の御言葉……これは神の意志だ!!」

 そう言って彼は、エドワードにも銃を突きつけた。

「へ~。酷い神もいたもんだ」

 しかし、その銃を持つ彼の手を突然、起き上がったアルフォンスが押さえた。

「んな!?」

 頭を吹き飛ばした筈なのに動くアルフォンスに驚く。
 当然、他の者達もだった。
 今度は彼等の隙を、エドワード達が突く。
 エドワードは自分の後ろの信者の襟を掴んで背負い投げをし、アスカは後ろ回し蹴りを腹部に叩き込み、レイは肘鉄を鳩尾に入れる。
 最後に側近の信者に、アルフォンスがアッパーをかました。

「お~、やるな、お前ら」
「これぐらい当然よ……それより」

 アスカとレイは、アルフォンスの方を見る。
 そして、ロゼも驚きを隠せぜ、震えながらアルフォンスを指差す。
 
「どどど、どうなって……!?」
「どうもこうも……」
「こういう事で」

 エドワードは鎧を叩き、アルフォンスがその中身を指す。
 ロゼは、愕然となり、アスカは目を細める。

「な、中身が無い……空っぽ!?」
「これはね、人として侵してはならない神の聖域に踏み込んだ、罰というやつさ……僕も、兄さんもね」

 兜の部分をくっ付けながらアルフォンスが言う。

「エドワード……も?」
「ま、その話は置いといて……」
「コレで神様の正体が分かっちゃったわね~」

 完全に気絶している信者達を指して、アスカが言うと、ロゼは即座に否定した。

「そんな! 何かの間違いよ!」
「あ~もう……この姉ちゃんは此処までされて、まだペテン教主を信じるかね!」

 未だにコーネロの事を信じるロゼに、エドワードは呆れる。

「ロゼ、真実を見る勇気はあるかい?」

 そう言って彼女に覚悟を聞くエドワード。
 言葉を詰まらせるロゼの様子を見て、アスカは腰に手を当てる。

「史上最年少天才国家錬金術師か……そういう理由ね」

 アスカは何か納得した様子だった。

「アスカ」
「ん? 何?」

 そこへレイが話しかけて来たので、彼女の方を向いた。




「ロゼの言ってた教主の部屋ってのはコレか……」

 エドワードとアルフォンス、そしてアスカの3人は、ロゼに言われたコーネロ教主の部屋の前に来ていた。
 そこにレイとロゼの姿は無い。
 レイは先程、「少し気になる事がある」とアスカに断り、別行動を取った。
 一方のロゼは、後に解る事になる。

「さて……」

 中に入ろうとするエドワードだったが、その扉は勝手に開いた。

「どうぞお入りください……って、言ってるみたいね」
「上等だ。おい、姉ちゃん。怖かったら引き返しても良いぜ?」
「誰に物言ってんの?」

 エドワードとアスカは互いに不敵な笑みを浮かべ合って中に入る。
 すると今度は勝手に扉が閉まり、悪役の常套手段だとアスカは呆れた。

「神聖なる我が教会へようこそ」

 部屋の奥――恐らく本来は教主が、団員に対して演説を行うであろう部屋――にある祭壇から声がした。
 壇上に続く階段に教主のコーネロが笑みを浮かべて姿を現す。

「教義を受けに来たのかね? ん?」

 コーネロのその言葉に、エドワードは挑発的な笑みを浮かべて返す。

「ああ、是非とも教えて欲しいもんだ。せこい錬金術で信者を騙す方法とかね!」
「はて、何の事やら? 私の“奇跡の業”を錬金術と一緒にされては困るね。一度見てもらえば解るが……」
「見せてもらったよ。で、どうにも腑に落ちないのが法則を無視した練成が、どういう訳か成されちゃってるって事なんだよね」
「だから錬金術ではないと……」

 コーネロが左手でこめかみを掻きながら言うと、アスカがその手の中指に嵌められた指輪を指す。

「“賢者の石”」

 ピタリ、とコーネロのこめかみを掻く手が止められる。
 アスカはニヤァッと笑って、コーネロを指差した。

「一度、その指輪外して“奇跡の業”を見せて貰えないかしらね?」

 唇に手を添え、不敵な視線をコーネロに送るアスカ。
 コーネロの顔から笑みが消える。
 彼はゆっくりと手を下ろし、左手の中指に光る赤い石の付いた指輪を光らせる。
 
「中々、賢しい娘だな」

 そして彼は険しい表情で3人を見下ろした。

「ご名答! 確かにコレこそが“賢者の石”だ!」

 “賢者の石”……それは錬金術師の間で伝説上の代物とされる術法増幅器。
 それを用いれば、原則に縛られないあらゆる錬金術が可能になる。
 例えば、道端の石ころを金に変えたり、丸太一つで家を建てたり等……性質、質量の関係が無くなる。
 即ち、錬金術の基本原則である“等価交換”を無視した練成が行えるものだった。

「探したぜぇ……!」

 コーネロが、その存在を明かした瞬間、今まで余裕だったエドワードの表情が一変する。
 そんな彼をコーネロは鼻で笑う。

「ふん! 何だ、その物欲しそうな目は? この石を使って何を望む? 金か? 栄誉か?」
「あんたこそペテンで教祖に納まって何を望む? 金なら、その石を使えば幾らでも手に入るだろ?」
「金ではないのだよ。いや、金は欲しいがソレは黙ってても私のフトコロに入って来る。信者の寄付という形でな。むしろ、私の為なら喜んで命も捨てようという信者こそが必要だ。素晴らしいぞぉ!! 死をも恐れぬ最強の軍団だ!! 準備は着々と進みつつある! 見ているが良い! 後、数年の後に、私はこの国を切り取りにかかるぞ!! ははははははははははは!」

 高笑いし、自分の目的を堂々と語るコーネロ。
 エドワードは国家錬金術師で、国に属する人間。
 そんな事を話せば、自分の目論見は国に露見する事になるが、コーネロは彼等を此処で始末するつもりなので、お構いなしに話した。

「いや、そんな事はどーでもいい」
「どうっ!?」

 が、エドワードの反応は余りにも淡白だった。
 置いといて、のポーズを取るエドワードに、思わずコーネロは噴き出した。

「我が野望を『どーでもいい』の一言で片付けるなぁ!! 貴様、国側の……軍の人間だろが!!」
「いやー、ぶっちゃけて言うとさ、国とか軍とか知ったこっちゃーないんだよね俺。単刀直入に言う! 賢者の石を寄越しな! そうすれば、街の人間にゃ、あんたのペテンは黙っといてやるよ」
「はっ!! この私に交換条件とは……貴様の様な余所者の話など、信者どもが信じるものか! 奴らはこの私に心酔しておる! 忠実な僕だ! 貴様がいくら騒ぎ立てても、奴らは耳も貸さん! そうさ! 馬鹿信者どもは、この私に騙され切っておるのだからなぁ! うははははははは!」

 自分達以外誰もいないと思って言いたい放題のコーネロに、アスカは肩を落とし、エドワードはパチパチと拍手する。

「いや~、流石、教主様! 良い話聞かせてもらったわ。確かに信者は、俺の言葉にゃ耳も貸さないだろう。けど、彼女の言葉はどうだろね?」

 エドワードがそう言うと、突然、アルフォンスの鎧の胴の部分が外された。
 空っぽの鎧のその中には、先程までエドワード達と一緒に行動をしていたロゼだった。
 ロゼは、アルフォンスの鎧の中で悪夢を見ているかのような表情を浮かべている。
 対して、それを見たコーネロも驚愕した。

「!? ロゼ!? 一体何がどういう……!?」

 ロゼがいる事もだが、それよりもアルフォンスが空っぽの鎧だという事に驚く。
 コーネロの言葉を、ずっとアルフォンスの中で聞いていたロゼは、堪らず鎧の中から身を出し、コーネロに問いただす。

「教主様!! 今仰った事は本当ですか!? 私達を騙していらっしゃったのですか!? 奇跡の業は……神の力は、私の願いを叶えてはくれないのですか!? あの人を甦らせてはくれないのですか!?」

 今まで信じていたものに裏切られたという気持ちから、ロゼは目尻に涙を浮かべてコーネロに問い詰める。
 ロゼという敬虔深い信者がいた事にコーネロは一瞬、言葉を詰まらせる。
 彼女は、街の人間からも信頼深い。
 その彼女の口から、自分の今の会話を話されたら、全て鵜呑みにしないまでも、疑念が生まれる。
 そうなっては、自分の望む死を恐れぬ軍団は作れない。
 コーネロは、どう打開すべきか考える。
 ロゼを始末するのは、簡単だが教会に行って帰って来ないとなると、それはそれで別の疑念が生まれる可能性がある。
 今のロゼは半信半疑。
 ならば、とコーネロは笑みを浮かべた。
 
「ふ……確かに神の代理人というのは嘘だ。だがな、この石があれば、今まで多数の錬金術師が挑み失敗してきた生体の練成も……お前の恋人を甦らせる事も可能かもしれんぞ!!」

 コーネロの出した結論は甘言。
 絶望の淵にいる人間には、甘い言葉で希望を与えてこちら側に引き込む。
 そうすれば、彼女の口から自分の目的が街の人間に漏れる心配は無い。

「ロゼ、聞いちゃダメだ!」
「ロゼ、良い子だからこちらにおいで」
「行ったら戻れなくなるぞ」
「さあ、どうした? お前はこちら側の人間だろう?」
「…………」

 コーネロは甘い言葉を、アルフォンスとエドワードは彼女を引きとめようとする。
 そして、アスカは隻眼を細め、彼女の動向を見守る。
 ロゼは震え、胸の前で手を握る。
 コーネロは“奇跡の業”と自分の野望を否定しなかった。
 このまま彼に従えば、いずれ街の人々は彼の言う死を恐れぬ軍団になる。

「お前の願いを叶えられるのは私だけだ。そうだろう? 最愛の恋人を思い出せ……さあ!!!」

 しかし、それが決め手だった。
 自分の最大の望みを叶えるというコーネロの言葉に彼女は逆らえなかった。
 ロゼは、コーネロに向かって、ゆっくりと歩き出す。
 彼女の出した答えに頭を抱えて息をつくエドワードと肩を竦めるアスカ。

「三人とも、ごめんなさい。それでも私にはこれしか……これに縋るしかないのよ」

 しかし、そう言って振り返るロゼの表情は、どこかやり切れないものが漂っている。
 そう言ってコーネロへと近付くロゼ。

「あんたの、その望み……街の人達を犠牲にしてまで叶えなきゃいけないもんなの?」

 だが、アスカの放ったその言葉にロゼは、ビクリと肩を震わせた。

「黙れ、小娘! 貴様らのような教団の将来を脅かす異教徒は速やかに粛清するとしよう!」

 ロゼを自分側に引き込み、憂いを絶ったコーネロは、壁にあるレバーを引いた。
 すると、何かが外れる音がして、続けて獣の呻き声がした。
 明かりが殆ど無い部屋の暗闇から、2体の獣が現れる。

「この賢者の石というのは、全く大した代物でな、こういう物も作れるのだよ」

 一体はライオンの上半身と、ワニの下半身をつけたような獣、もう一体は左側がサイ、右側が虎の2つの頭を持つ獣だった。

「合成獣(キメラ)を見るのは初めてかね? ん?」

 自慢げに言うコーネロだったが、エドワード達は慌てた様子が感じられない。

「こりゃあ丸腰でじゃれあうにはちとキツそうだな、と……」

 エドワードは、一度両手を合わせ、地面にその手を合わせる。
 すると地面から稲光の練成反応が発生し、床から槍が現れる。

「うぬ! 練成陣も無しに敷石から武器を練成するとは……国家錬金術師の名は伊達では無いという事か!」
「おい、姉ちゃん。危ないから下がってな」
「馬鹿言うんじゃないわよ」

 するとアスカも、エドワードと同じように両手を合わせる。
 その動作に、エドワードとアルフォンスは驚く。
 アスカも、その両手を地面に当てると、練成反応が発生し、床が盛り上がり、曲刀……シャムシールが現れる。

「ラングレーさんも……練成陣無しで……」
「お前……」

 エドワードが唖然となってアスカを見る。
 そして彼女がしている左目の眼帯にハッとなる。

(こいつも……!)
「ラングレーさん、危ない!」

 その時、サイと虎の頭を持つキメラが、アスカに向かって突進して来た。
 サイの角と虎の牙がアスカに襲い掛かり、彼女は後ろに吹き飛ばされる。

「ラングレー……!?」

 一方の、エドワードにもライオンの上半身を持つキメラがその鋭い爪を振り下ろして来た。
 油断していたエドワードは、練成した槍と、左足を切り裂かれる。

「ぐ……!」

 左足を押さえて苦悶の表情を浮かべるエドワード。

「うははははは!!! どうだ! 鉄をも切断する爪の味は!」
「……なんちって!」

 しかし、エドワードが途端に笑みを浮かべると、ライオン頭のキメラの爪が折れた。
 更に、そのキメラに向かって、エドワードは左足で蹴りを入れる。
 かなりの体格差のあるキメラは、吹き飛ばされる。

「あいにくと特別製でね」
「どうした!? 爪が立たぬなら噛み殺せ!!」

 しかし、キメラは再びエドワードに向かって飛び掛かり、大口を開いて彼に噛み付く。
 右腕を前に出すエドワード。
 キメラは、彼の右腕に噛み付いた。
 右腕を噛み千切ろうとするキメラ。
 だが、キメラが顎にどれだけ力を入れようと、エドワードの右腕は噛み切れなかった。

「どうしたネコ野郎、しっかり味わえよ」

 エドワードは全く痛みを感じていない様子で言うと、キメラの顎に向かって蹴りを入れる。
 キメラの牙は粉々に砕けた。
 その際、エドワードの着ている服も破れ、その下から彼の右腕が現れる。
 コーネロとロゼは、その腕を見て言葉を失った。

「なるほど……“鋼の錬金術師”か」
「!」

 するとその時、もう一体のキメラに吹き飛ばされたアスカが、横たわりながら声を上げた。
 それと同時に、キメラの角が切れて悲鳴を上げた。
 ゆっくりと起き上がって、まるでダメージを受けていないアスカに、エドワードが言って来た。

「何だ、生きてたのか」
「当然よ。にしても、その腕と足……“機会鎧(オートメイル)”ね」
「ああ」

 エドワードは頷くと、服を一気に引き千切った。

「ロゼ、良く見ておけ。これが人体練成を……」

 現れた右腕。
 それは生身のものではなかった。
 右腕全体と右肩から胸にかけ、彼のそれは鋼鉄製だった。

「神様とやらの領域を侵した咎人の姿だ!!」

 キメラの爪や牙すら寄せ付けぬ鋼鉄の義肢“オートメイル”……それを見たコーネロは、戦慄を覚えながらも納得した様子で言った。

「ああ、そうか……鋼の錬金術師!!」

 エドワードは、壇上にいるコーネロにオートメイルの右手を向けて挑発する。

「降りて来いよド三流! 格の違いってヤツを見せてやる!!」




 教会の地下を一人歩くレイ。
 彼女は先程から足下に何か異様なものを感じていた。
 それは地下に行く度に、どんどん強くなっていく。
 その感覚が少し懐かしいような気もしながら、レイは先に進む。
 やがて彼女は、行き止まりにぶち当たった。

(この下……)

 レイは、サングラスを外し、砂漠からずっと着ていたマントを脱ぐ。
 彼女の服は、青色の大きなゆったりした上着と白い長い袴のようなズボンで、シン国製のものだった。
 レイは両手を合わせて床に手を当てると、床は砂になってサラサラと崩れていく。
 やがて床に大きな穴が空いて、彼女はその中に飛び込んだ。
 飛び込んだ先は、巨大なトンネルだった。
 先が見えないほど真っ暗で、そのトンネルは大きくカーブを作っている。

「この穴は……!?」

 何故、教会の地下にこの様な穴があるのか考えるレイだったが、ハッとした表情で彼女は両袖に手を突っ込み、そこから小さな針と小刀を合わせたような武器――鏢を指の間に挟んで構える。

「何か……来る……」

 レイは、気配のする方をジッと見据える。
 するとトンネルに沿って螺旋に、巨大な影がこちらに向かって迫って来た。

(アレは……!)






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