プロローグ
「いつか必ず帰って来るから、みんなで待っていて下さいね」
貴方がそう言ったから、私達はずっと待っていました。
与えられた部屋で、みんなで仲良く寄り添って、貴方が戻ってくるのを待っていました。
けれど、貴方がひと月経っても戻って来ませんでしたので、私達はもう待ってはいけないと言われました。
時の流れは、待ってはくれない。
だから、私達もその流れに乗るようにと。
みんなで仲良くいつまでも。
望みは、ただそれだけ。
それだけのはずなのに。
なぜ私は・・・私達は。
人殺しのための機械に乗っているの?
第一話 黒へと繋がる青い橋
「人々よ! 我らを恐れ、求めるがいい!
我らの名は、黒の騎士団!!
我々黒の騎士団は、武器を持たない全ての者の味方である!
イレヴンだろうと、ブリタニア人であろうと・・・。
日本解放戦線は卑劣にもブリタニアの民間人を人質に取り無残に殺害した。
無意味な行為だ。故に、我々が制裁を下した。
クロヴィス前総督も同じだ。武器を持たぬ、イレヴンの虐殺を命じた。
このような残虐行為を見過ごす訳にはいかない。 故に制裁を加えたのだ。
私は戦いを否定はしない・・・しかし・・・。
強いものが弱いものを一方的に殺す事は、断じて許さない!
撃っていいのは・・・撃たれる覚悟のあるやつだけだ!!
我々は、力ある者が、力なきものを襲う時、再び現れるだろう。
例えその敵が、どれだけ大きな力を持っているとしても・・・。
力ある者よ、我を恐れよ!
力なき者よ、我を求めよ!
世界は!我々黒の騎士団が、裁く!」
テレビ画面の向こうで、黒いマントをたなびかせ、黒い仮面をかぶった・・・たぶん男が声高らかに叫んでいる。
はたから見たら悪役の総大将といった風体ではあるが、それに似合わぬ台詞はまさしく正義の味方のそれだった。
それをじっと見ていた10歳から19歳の五人の少年少女は、クスクスと笑う。
「なに、あれ?何かいちいちポージングが派手で、超笑える」
「格好もあれはねえだろ・・・全身タイツみたいだし、仮面ライ○ー悪の怪人そっくりじゃね?」
「後ろの団員達は、まともな制服なのにな~・・・それが超残念」
「それだけに、印象付けるにはありとあらゆる効果があるのは確かと思いますが」
ひとしきりゼロと名乗る仮面のテロリストについて語り終えると、椅子に座っているきっちりドレスを着こみ、さらに青いケープを羽織った少女が口を開いた。
「ですが、ブリタニア皇子であるクロヴィスを殺し、あの戦姫と名高いコーネリアに苦杯を飲ませたあの手腕は見事なものです。
・・・彼を、仲間にしなければならないのです」
「格好がアレだからやだ・・・っていうのはダメよね、やっぱり」
「奇抜なカッコしてんのは、お前らだって同じだろ」
「これはステージ衣装なの!今度のイリュージョンの胴体切り、トリックなしであんたにやってあげようか?」
「心より辞退させて貰うぜ」
くすくすと笑い合う仲間達を前に、少女は席を立った。
「エディ?どこ行くんだよ」
「今度のエリア11・・・いえ、日本のゼロのことに関しては、EUでも話題になっていることでしょう。
彼と接触するべきだと、提案してきます」
「許可、されんのか?」
「許可は出るそうです」
エディと呼ばれた少女はそう断言すると、彼女の横にいた十歳くらいの童女がすぐに立ち上がり、ドアを開けた。
ぞろぞろと、他の者達もその後に続く。
「エディ様はゼロのこと、気に入ってるの?」
「まだ直に会ったわけではないので、そういうのではないですが・・・・。
ただ、強者が弱者を虐げるのは許さない・・・そう言ってくれるのなら、彼を求めます。私達は・・・弱者ですから」
「そう・・・そうだね」
五人の少年少女は、小さく頷いた。
しばらく廊下を歩いて行くと、EU連邦副議会長の秘書室の前まで誰に遮られることなく歩いてきた少女は、秘書に副議会長への面会を求めた。
少女の名は、エトランジュ・アイリス・ポンティキュラス。
わずか15歳にして、EU連邦の加盟国・マグヌスファミリア王国の女王。
だがその国土は、神聖ブリタニア皇国のエリア16として支配されていた。
「リフレインはあらかた焼却出来たぞ、ルルーシュ」
「その名前はここではよせ、C.C」
黒の騎士団本部のトレーラーの司令官室で、仮面を外していたゼロことルルーシュは共犯者に苦言すると、彼女はフンと鼻で笑った。
「別にいいだろう、お前と私しかいないのだから」
「だからといって、いつどこで誰が聞いているかも解らない。用心に越したことはない」
「相変わらず用心深いことだな・・・猫に仮面を持っていかれるというドジを、やらかした後だからな」
その時の様子を思い出したのだろう、C.Cは実に楽しそうに笑い、逆にルルーシュは苦虫を噛み潰したような顔になった。
「黙れC.C。お前がちゃんと見張っていれば・・・!」
「私は何もしていないぞ」
「本当にな!この無駄ピザ食らいが」
あの時はむしろ、何もしない方が問題だったというのに、この女は・・・とルルーシュは嘆息する。
「まぁいいじゃないか、終わりよければなんとやらだ・・・結果はすべてに優先するんだろう?」
「都合のいいように解釈するな」
ルルーシュはそう言ったが、この女に何を言おうとも暖簾に腕押しなのはすでによく知っていたため、それ以上は何も言わなかった。
「まぁ、いい。次のミッションだ」
「なんだ、また正義の味方をやるのか?」
「黒の騎士団には、数々の功績が必要だからな・・・だが、次は違う」
ルルーシュは正義の味方ではない顔でニヤリと笑うと、パソコン画面を指す。
「ほう・・・これは・・・」
「日本解放戦線・・・それにコーネリアがチェックをかけるつもりのようだ」
コーネリア・リ・ブリタニア。
現皇帝の第二皇女であり、ルルーシュの異母姉でもあるブリタニアの戦姫。
「それを利用して、コーネリアにチェックメイトをかける」
ナリタ戦役・・・後世そう呼ばれることになる戦いの準備に向けて、ルルーシュはキョウトに連絡を取るのだった。
「日本解放戦線などと称するテロリストどもを、一人残らず殲滅せよ!」
成田連山にて、そう叫ぶコーネリア。
それを今にも迎え撃たんとする黒の騎士団の様子を昆虫型のカメラで見ていたのは、エトランジュを含む三人の少年少女、そして一人の壮年の軍人だった。
「あんなこと言ってる本人を超殲滅したいんだけど、ダメよねえエディ」
薄いステージ衣装を着た女、アルカディアがコーネリアをぶちのめしたいと訴えると、軍人が首を横に振る。
「駄目だ!今お前達が離れたら、誰がエトランジュ様をお守りするんだ」
「親父がいればいいじゃん・・・って、冗談だよ」
父に睨まれた少年、クライスはしぶしぶ戦闘意欲を引っ込めると、次は真面目に提案する。
「けど、勝負はお互い互角・・・このままじゃ、ゼロが」
「互角どころか、これは圧倒的に不利だ」
「・・・ジークフリード将軍、ゼロはいったい、何を考えているのでしょう?
兵力差がこれほどあるのに、真っ向から挑むとは」
エトランジュが首をかしげるのも無理はない。
現在、ブリタニア軍は日本解放戦線の本拠地を落とすべく、かなりの数の部隊を投じているのに対し、黒の騎士団は解放戦線の兵力はあてにできず、それでいて全軍といえど素人上がりの兵士を指揮して闘っている。
エトランジュは軍の知識こそ少ないが、それでも相当に不利に思えた。
傍らのジークフリードという軍人が、それに答える。
「山の頂上に陣を敷いたところを見ると、おそらく地形を利用した戦いをするつもりでしょう。
背水の陣といえばそうですが、勝つためにはまず山の下から来る軍を叩き潰さねばなりません」
「それはそうですが・・・兵力差で劣るのに、どのようにして?」
「我らが一度、ブリタニアの軍に文字通り土をつけた策と同じでしょう」
「土砂崩れか!」
実に嬉しそうに、仲間達が叫ぶ。
マグヌスファミリア王国が占領される際の、たった一度の攻防戦。
その時、わずか二百人足らずのマグヌスファミリアの軍はマグヌスファミリアを象徴する山・アイリスモンスに立てこもり、最後の抵抗を試みた。
その際にブリタニア軍の三分の一をあの世送りにして、意地を見せた策こそが、人為的に岩玉を落とし、土砂崩れを起こし、一気にブリタニア軍を土の下に送るというものだった。
それでも全てを倒すことはできず、結局彼らは出来るだけのブリタニア軍を道連れにして、この世を去った。
「なるほど、よく解りました。
その隙をついて、解放戦線を脱出させ、そして黒の騎士団もそれに続くということですね。
ならば私達もそれに便乗し、ゼロと接触したいところですが・・・ちょっと気になる点が」
エトランジュは地図を見つめながら、ふと疑問に思ったことを口にしてみた。
「この山は相当に大きいですから、土砂崩れを起こすとなると流される土も相当なもののはず。
コーネリアの軍を何分の一倒すつもりにせよ、街中まで土が行くのは避けられないのではないしょうか?」
「そうですなあ・・・どう少なく見積もっても、その可能性は大でしょう」
「でもブリタニア軍・・・近くに戦場になる山があるというのに、国民に避難誘導なんてしていませんよね?」
「そんなことをしていたら、感づかれてしまいますから・・・解放戦線に逃げられてしまうからでしょうな」
「・・・黒の騎士団や解放戦線に、国民の避難を誘導できる余裕がありますか?」
「・・・ないでしょうなあ」
ブリタニアが弱肉強食をかかげ、戦場にいた国民の方が悪いと言い切り、見捨てるのは今までのやり口でよく知っている。
よってブリタニア軍などはあてにできない。
「黒の騎士団・・・そこまでは目がいっていないようですね。
もし黒の騎士団の作戦が原因で国民に被害が及べば、ブリタニアは嬉々として、『これが正義の味方のやることか』と非難することでしょう」
「国民を避難させなかったことを非難するってか?・・・いてぇっ!」
笑いながら言う少年の寒すぎるシャレは、実現すれば笑えないので父親からの鉄拳で応じられた。
「ブリタニアが喜ぶようなことを見逃すっていうのは、私超嫌」
「同感・・・」
その瞬間、一同の脳裏に同じ作戦が閃いた。
そして即座に、その作戦を行うことが決定される。
「“イリスアーゲート”を使い、国民の方々をナリタ連山より避難誘導します。
私が避難民の方々を説得するので、避難経路の確保をお願いします将軍」
エトランジュが軍の専門であるジークフリード将軍に確認すると、彼は頷いた。
「それでよろしいかと思います」
「じゃあ黒の騎士団との連絡のほうは、私がやっておくわ」
派手な衣装をまとったアルカディアが大きなマシンガンを背負いながら言うと、他のぶ面々は一番危険な場所に向かう彼女を心配そうに見やったが、やがて頷いて了承する。
「それじゃ、この戦いが終わった後にね!」
アルカディアがトンと地面を蹴ってナリタへと走り去ると、一同もそれぞれの役目を果たすべく、その場から歩き去ったのだった。
(こっちに落とし穴、あっちは確か油が仕掛けてあったわね)
黒の騎士団が来る道をひた走りながら、アルカディアはブリタニア軍が来る経路に事前に仕掛けておいた罠を避けながら、まっしぐらにゼロの腹心であろう赤いナイトメアの場所をめがけて走っていた。
(あんな派手で性能のいい機体、ゼロの腹心クラスが扱うべきものだしね。
ゼロとコンタクトを取るには、まずそっちから会わないと)
もうすぐ、あの紅いナイトメアが土砂崩れを起こす。
そうなる前に、黒の騎士団の下っ端でもいい、とにかく誰かと会いたい。
(私達が味方と判断して貰うには、あからさまにブリタニアにダメージを与えることなんだけど、現在の戦力じゃ無理。
エディ達が近隣住民の避難をさせてからのほうが効果的かしらね)
そう思っていると、エトランジュ達がさっそく近隣の住民達に向けて避難するよう呼びかけている声が響き渡る。
「始まった…こっちも急がないと!」
「皆様、突然に失礼いたします。
私どもは黒の騎士団と協力関係にあります、“青い橋”と申します」
自分達が所有するナイトメア、“イリスアーゲート”に乗って住民達の前に現れたエトランジュは、大胆にもナイトメアの肩の上にちょこんと生身の体をさらけ出して右手で身体を支えて立ち、住民達に適当なグループ名を名乗って会釈した。
ナイトメアだとかろうじて見えるが、非常に古い機体であるのが素人でも解るものの、それでも住民達は慄く。
ブリタニア皇族を殺したゼロが率いる黒の騎士団の名前が出た瞬間、彼らはさらに息をのんだ。
しかし即座に逃げろなどとパニックにならなかったのは、彼らが“正義の味方”としてたとえブリタニア人であろうと、何もしていない人間に対してテロを行う集団でないことが知られていたからである。
それでもテロリストとして指名手配されているため、何事かと怯えた様子の彼らに対し、エトランジュは奇麗な英語で語りかけた。
「皆様もお判りかと存じますが、現在あのナリタ連山にてブリタニア軍と黒の騎士団、そして日本解放戦線の方々が戦闘を行っております。
ここまでは戦火が及ばないとお思いでしょうが、実はこの辺りの地盤は大層ゆるんでおりまして、土砂崩れの危険が高くなっております」
「なんだって?!」
実は故意に土砂崩れを起こすのだが、それは告げずにエトランジュは続ける。
「このままではこの辺りにお住まいの皆様にまで被害が及ぶため、私どもがその避難誘導をするよう、ゼロより申しつかった次第です。
日本人ではなく自国の方が主にお住まいのようなので、ブリタニア軍が避難誘導するかとも思ったのですが、あいにくそうではないようなので・・・貴重品だけを持ってすぐに避難して下さいませんでしょうか?」
前半は思い切り嘘だが、誰もそれを疑おうとはしなかった。
そして後半の言葉に、ざわめきが広がる。
ブリタニアが弱者を守る気などない国家であるのは、自分達がよく知っている。
普通テロリストだけとはいえ、攻撃する場合周囲の住民を避難誘導するものだが、逃げられると困るという理由でぎりぎりになってから一方的に通告するだけで、巻き添えを食っても己の力で逃げられないほど弱かったのが悪いのだということになる。
「ここまで土砂崩れが起こるという証拠はあるのか?!」
住民の一人が叫ぶように問いかけると、エトランジュは首を横に振った。
「ここまで土砂崩れが起こる、という証拠は生憎と出せません。
しかし、ごらんのとおりコーネリアの軍があちらまで来ていますし、あとはこちらで土砂崩れの可能性が高いという計算結果が出たことを信じて頂くしかありません」
確かに眼の前ではブリタニア軍の旗とコーネリアの紋章を翻した軍が、ナリタ連山を包囲している。
と、そこへ一人の男が進み出て皆に言った。
「通常の土砂崩れなら、ここまで土砂崩れが到達することはあり得ない。だが、激しい戦闘で地盤が崩れれば、あり得ますよ皆さん」
「フェネットさん・・・」
フェネットと呼ばれた壮年の男は、肩を大きくすくめて繰り返した。
「地層にはそういう、裂け目みたいなものがあるんでね・・・そこに誰かがダメージを与えれば、一気に地面が揺れてしまう。
特にここエリア11が地震が多い国だということくらいは、ご存知でしょう?」
その言葉にはっとなった住民は、やっとエトランジュの言葉を信じた。
「こちらで避難経路は整えさせて頂きましたが、もちろん私どもが信じられないとおっしゃるならば、とにかくここから避難なさって頂くだけでけっこうです。
予想戦闘開始時刻まで残り30分を切っておりますので、急いでください!」
エトランジュの残り30分、との言葉に、住民達は一斉に貴重品を取りに家へと走り出す。
「フェネットさん、でしたか・・・ありがとうございます。貴方の言葉がなければ、信じて頂けないところでした」
深々と礼をするエトランジュに対し、フェネットはいいや、と小さく首を横に振る。
「こちらこそ、貴女に指摘されるまで気づかなかった。距離があるからこちらまでは被害が来ないと思っていたので、土砂崩れまでは考えていなかった」
自然災害というのは恐ろしい。土砂崩れのスピードはかなり早く、人間の足ではどんなに早く走ったところでそれから逃げることは困難なほどなのだ。
よって土砂崩れが起こると知ったなら、その場所から一目散に逃げるしか対処する方法はないのである。
「私は仕事でこの辺りの地質を調査しているんだが・・・まったく、すぐに思い当たらないとは、地質学者失格だな」
頭を掻きながら溜息をつくフェネットは、ナイトメアを見上げてエトランジュを見た。
声からしておそらく少女、顔はよく見えないが、身長からして自分の娘と同じ年齢か、もう少し下に見えた。
娘とそう変わらぬ年齢の少女が、後方とはいえこうして戦いの場に赴いているという現実にフェネットは再度溜息をついた。
「私は君達を全面的に信用する。こうしてわざわざ忠告に来てくれた上、避難経路まで確保してくれたことに感謝しよう」
「あ、ありがとうございます。
でも、私達が直接誘導すれば後日こちらの方々にスパイ疑惑などが浮上する可能性があるので、申し訳ないですが貴方が指導したということにして頂けませんか?」
先日のオレンジ事件が尾を引いて、現在ブリタニアでは裏切り者やスパイに対してたいそう敏感になっている。
黒の騎士団の関係者を名乗るグループの指示で避難しました・・・確かに充分に、ブリタニア軍から睨まれる材料になる。
だが“テログループから警告を受けて、あり得るかもしれないと思った地質学者が念のため避難を呼びかけ、それを指導した”という程度であれば大丈夫だろう。
フェネットはそれを聞いてなるほど、と納得すると、快く引き受けてくれた。
「そういうことなら、喜んで引き受けよう。重ね重ね感謝する」
「では、こちらが避難経路です。黒の騎士団、および解放戦線の脱出路とは逆ですので、彼らとかち合う心配はないルートです」
“失礼します”と言ってエトランジュが重みのある筒に入れた地図を落とすと、フェネットはおそれることなくそれを拾い上げた。
「ありがとう」
「こちらこそ、勝手に押しかけて頼み込んでしまって申し訳ありませんでした」
再度大きく頭を下げると、エトランジュはナイトメアの中に戻っていった。
「それでは、私どもはこれで失礼させて頂きます。皆様、ご無事でお逃げ下さいね。
なお、予測戦闘開始時刻はあと15分後です」
それだけ言い残すと、イリスアーゲートは音を立てて戦場へと走り去っていく。
残されたフェネットは筒を開け、丁寧な英語で書かれた避難経路図を見て貴重品を手にして戻ってきた住民達に言った。
「すぐに避難しよう・・・もうすぐ戦闘が始まる気配だし」
「ああ、ニュースでもやってたから急いだ方がいい。
しかし、あのナイトメアと女の子はどうした?」
「ナリタのほうへ走って行ったよ・・・さて、ついさっき簡易にだが避難経路図を作ってみたんだ。
この経路なら土砂崩れがあっても、安全にブリタニアプリンスホテルまで避難が出来る」
そう言ってフェネットが先ほどエトランジュから渡された地図を見せると、住民は安堵した。
「さすが地質学者だなフェネットさん。じゃあみんな、急いで逃げよう!」
住民達は住民の一人が所有していたトラックに乗り込み、一目散にナリタから走り去る。
彼らがこの行動の正しさを知ったのは、半日後にブリタニア軍からの連絡で案の定土砂崩れが起こり、彼らが住む一帯を土が埋め尽くしたと聞いた時だった。