ひぐらしのなく頃に ふもっふ
――――――――――始動!!
扉をノックするとすぐに返事がした。
「入れ」
少年、相良宗介は従った。
中にいたのは大柄の白人。何かの資料を読んでいる為か宗介を一瞥もしない。
静かな威厳を持つこの男は彼の作戦指揮官であった。
「参りました」
カリーニン少佐は何も言う事なく宗介に資料を放る。
「任務だ、まず目を通せ」
「はっ」
宗介は資料を回し読みした。
誰かの経歴書のようで白黒の写真が付いている。
写っているのは東洋人の少女のようだった。
年は十歳前後で幼い、青っぽい黒髪を持った可愛らしい少女だ。
「写真は一年前のものだ。その少女は現在1X歳になる」
少佐はそう補足した。
宗介は黙って頷くと資料を読み続ける。まず名前。
古手梨花(Hurude Rika)
現住所は日本、□□。両親は二年前に死去。同居人が一人。
梨花自身は雛見沢にある分校に通っている。
他にも詳しい情報、身長や血液型が記してあった。
備考欄に目が止まる。
ウ□□□□□ドに該当する確立:23%(ミラー統計法による)
「それでこの少女が何か?」
「するかもしれん」
「はぁ…」
少佐は部屋に飾られていた世界地図を眺めた。
複雑に分断されたソ連領土や、南北に分かれた中国領土、点線だらけの中東地域。
「お前が知っておくべき事は、今見せたフルデ・リカが、KGBほか不特定多数の機関の手で拉致される可能性があるという事だ」
「それは何故?」
「君に知る必要はない」
「はっ」
つまりこの『古手梨花』という少女は“狙われているかもしれない”。
しれないだけ。
詳しい理由も背景も分からない、なんともあやふやな話だった。
「それで私の任務とは」
「少女の護衛をやってもらう。サガラ軍曹は日本語が使えた筈だ」
宗介は一応は日本生まれなので日本語を使える。
日本には殆ど居たことがないが…
「既に話は通してある。君一人で当たれ」
「一人でですか?」
「人員が割けない。これは決定事項だ」
宗介は単なるAS操縦兵ではない。
空中降下や偵察などの、あらゆる技能に熟練したプロフェッショナルなのだ。
「……さらに、この任務は秘密裏に行わなければならない。日本政府に知られると、厄介ごとが噴出するだろう。したがって君は、このリカ本人にも、悟られないように監視を行い、いざという時は護衛する」
宗介の顔が僅かに歪む。
「難しい」
本人の了承もなしに、こっそり護衛するなど、無茶にも程がある。だがカリーニン少佐は平然と
「やり方次第では、そう難しくない。この少女――――――フルデ・リカは男女共学の分校に通っており一日の大半をこの学校で過ごす。そしてこちらには最年少の隊員がいる、少女と年は離れているが雛見沢分校は生徒の少なさもあり全員が同じクラス、しかも日本人だ」
「?」
宗介はカリーニンが自分を凝視している事に小さな当惑を見せた。
「少佐殿。それは、もしかして」
カリーニン少佐は命令書にサインを入れながら、
「まずは文書の偽造からだ。あちらの分校に必要な書類を調べねばならんな」
「何の書類ですか」
分かっていながら宗介は恐る恐る尋ねた。
「決まっている。“転入届”だ」
―――――――――――――――――――――――――
「沙都子、知ってる。今日転入生が来るんだって。どんな子かな」
雛見沢分校の委員長であり部活の部長である園崎魅音が言った。
「オーホッホッホ、既に歓迎用のトラップの準備はバッチリでしてよ。
転入生の驚く顔が目に浮かびますわ」
それに答えたのは北条沙都子。古手梨花の同居人でもあり部活でも特にトラップに秀でている。
「転入生は転入早々に赤っ恥で、かわいそかわいそなのです」
「梨花ちゃん…かぁいいんだよー☆」
前者が宗介の護衛対象・古手梨花。
そして後者が竜宮レナ……本名は違う名前だが、とある事情でレナと呼ばれている。
皆反応は違うが、誰しもどのような転入生が来るのかに興味しんしんだ。
雛見沢は人口二千人たらずの小さい村である。それに五年前のダム戦争の事もあり余所者には、どうしても注目がいってしまう。
その時、ノックがする。
「来たよ!」
「ふふふ、我がトラップの妙技、味わうのですわ」
妙だ。既に担任の知恵が「どうぞー」と言ってから時間が経過している。
扉を開くのに時間も掛かる訳もないのに何をしているのだろうか?
ドオオオォォォォォォォン!!!!
爆音が響き渡る。
教室の扉は無残にも破壊され木片が散った。
静寂が教室を支配する、そして………
「むぅ、どうやら爆弾はなかったらしい」
担任の知恵がぎくしゃくと身を起した。
彼女は余りの出来事に呆然としてしまった。
「さっ、相良君……」
知恵の姿に気付くと、宗介はピシっと背を伸ばす。
そして口を開いた。
「知恵先生、相良宗介。本日を持ちまして雛見沢分校に着任しました」
知恵に向かって敬礼をする。
それは何度も行った動作なのか、かなり熟練していた。
「相良君、今の爆発はなんなんですか?」
「はっ、本日自分が登校したところ、教室の扉にトラップの痕跡を見つけたので…」
金色の髪を持った少女がビクッと反応した。
他の生徒達も自分達の理解が及ばない出来事を前に反応が追いつかない。
「見つけたので?」
「大事をとって爆破処分しました」
「成る程、確かに教室の扉にトラップの形跡があったら爆破しますね~……ってそんな訳ありません!!」
「お言葉ですが、不審物の最も適切な処理方法は高性能爆薬による爆破処分です」
「不適切ですッ!!本当にトラップが仕掛けられていたのかどうか知りませんが、どうせ黒板消しが落ちて来るとかそんな風なものでしょう!!」
「それは違います」
断固とした口調で宗介が言った。
「自分が確認したところ、黒板消しの他に、引き戸には画鋲が仕掛けられていました。恐らく毒が塗ってあったのでしょう。更に他多数のトラップの形跡も見受けられました。迅速にトラップを取り除く為にも爆破は必要不可欠でした」
えっへんと胸を張りながら言う。
それを委員長である魅音は、面白い子が来たッと喜んでいた。
一度自習にして宗介の説教をする事三十分。
結局は校長先生の「元気があってよろしい!!」といった発言でお開きとなり、遅れながら自己紹介タイムとなっていた。
「それじゃ気を取り直して、相良君。自己紹介して」
「相良宗介軍曹であります」
よく通る大きな声で言った。
言った直後、自分の余りの馬鹿さ加減に青くなる。
だが殆どの生徒が、これも都会のコミニュケーションの一つなのだろうと納得した。
「だれか質問は?」
「はい!相良さんはどこから来たんですか?」
生徒の一人がたずねた。
「色々です。アフガン、レバノン、カンボジア、イラク………。長く留まった場所はありません」
再びクラスがしんっとなる。
知恵は気まずい沈黙のフォローに回った。
「つまり……相良君は、小さな頃からずっと外国で暮らしてきたんだそうです。それでついこの間までは、アメリカに居たんですよね?相良君?」
アメリカと聞くと、クラス中が騒がしくなる。
雛見沢に住む住人は一部を除いて、外国に行った事など一度もない。
何人かは外国で暮らしていたという宗介に、憧れの視線を送る者までいる。
「そうです」
知恵が呼んだはずの転入手続きの書類では、宗介の前の住所は『アメリカ合衆国・ノースカロライナ州・ファイトエットビル』と記載されている筈だった。勿論偽の住所である。
別の生徒が手を挙げた。
「趣味はなんですか?」
「釣りと読書です」
今度は緑色の髪の少女が言った。
「どんな本読むのーっ?」
「はっ主に技術書と専門誌です。ジェーン年鑑などは頻繁に目を通しております。あの『ソルジャー・オブ・フォーチュン』などもそれなりに楽しみますし、ハリス出版の『アームスレイブ・マンスリー』も購読しております。………そうでした、日本の『ASファン』も読んだことがあります。思いのほか高水準の情報なので、いたく感心しました。いい雑誌です。最近は海事関係の書物に凝ってまして……」
し――――――――――ん……………。
言葉を失った宗介は自分の、爪先に目をやり
「忘れてください」
それ以前に誰も覚えていない。いや若干一名は関心しているようで「若いのに渋いね~おじさんも負けてらんないよ」とか言っていたが。
続いて別の女性生徒が手を挙げた。
「えと、好きなミュージシャンとかはいますか?」
この質問には困った。
宗介は音楽を全く聴かないのだ。
(む、そうだ……)
彼は出発前、同僚のクルツとマオが、今時の学生が好きだというCDを思い出し、自信を持って答えた。
「はっ。AKB48とSMAPです」
後書き
なにを書いてるんだろ………
変な勢いになってつい書いてしまった。
たぶん続かない。