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[18738] 相良軍曹が雛見沢に派遣されたようです
Name: ランスカンダル◆f08c234b ID:33d69884
Date: 2010/08/27 00:38
本作品を読むに当たって以下の事に注意してください


・『フルメタルパニック』と『ひぐらしのなく頃に』のクロスオーバーです


・時系列的には宗介が、千鳥の護衛任務に着く前です


・ご都合主義的な要素があるかもしれません


・ハーレムにはなりません


・ひぐらしの時系列って昭和58年じゃないの?との質問はしないでください


・ボン太君に注意



それが許容できる方だけご覧下さい



[18738] 第一話   転入
Name: ランスカンダル◆f08c234b ID:33d69884
Date: 2010/05/17 18:01
 

ひぐらしのく頃に ふもっふ


――――――――――始動!!








 扉をノックするとすぐに返事がした。

「入れ」

少年、相良宗介は従った。
中にいたのは大柄の白人。何かの資料を読んでいる為か宗介を一瞥もしない。
静かな威厳を持つこの男は彼の作戦指揮官であった。

「参りました」

カリーニン少佐は何も言う事なく宗介に資料を放る。

「任務だ、まず目を通せ」

「はっ」

宗介は資料を回し読みした。
誰かの経歴書のようで白黒の写真が付いている。
写っているのは東洋人の少女のようだった。
年は十歳前後で幼い、青っぽい黒髪を持った可愛らしい少女だ。

「写真は一年前のものだ。その少女は現在1X歳になる」

少佐はそう補足した。
宗介は黙って頷くと資料を読み続ける。まず名前。
古手梨花(Hurude Rika)
現住所は日本、□□。両親は二年前に死去。同居人が一人。
梨花自身は雛見沢にある分校に通っている。
他にも詳しい情報、身長や血液型が記してあった。
備考欄に目が止まる。
ウ□□□□□ドに該当する確立:23%(ミラー統計法による)

「それでこの少女が何か?」

「するかもしれん」

「はぁ…」

少佐は部屋に飾られていた世界地図を眺めた。
複雑に分断されたソ連領土や、南北に分かれた中国領土、点線だらけの中東地域。

「お前が知っておくべき事は、今見せたフルデ・リカが、KGBほか不特定多数の機関の手で拉致される可能性があるという事だ」

「それは何故?」

「君に知る必要はない」

「はっ」

つまりこの『古手梨花』という少女は“狙われているかもしれない”。
しれないだけ。
詳しい理由も背景も分からない、なんともあやふやな話だった。

「それで私の任務とは」

「少女の護衛をやってもらう。サガラ軍曹は日本語が使えた筈だ」

宗介は一応は日本生まれなので日本語を使える。
日本には殆ど居たことがないが…

「既に話は通してある。君一人で当たれ」

「一人でですか?」

「人員が割けない。これは決定事項だ」

宗介は単なるAS操縦兵ではない。
空中降下や偵察などの、あらゆる技能に熟練したプロフェッショナルなのだ。

「……さらに、この任務は秘密裏に行わなければならない。日本政府に知られると、厄介ごとが噴出するだろう。したがって君は、このリカ本人にも、悟られないように監視を行い、いざという時は護衛する」

宗介の顔が僅かに歪む。

「難しい」

本人の了承もなしに、こっそり護衛するなど、無茶にも程がある。だがカリーニン少佐は平然と

「やり方次第では、そう難しくない。この少女――――――フルデ・リカは男女共学の分校に通っており一日の大半をこの学校で過ごす。そしてこちらには最年少の隊員がいる、少女と年は離れているが雛見沢分校は生徒の少なさもあり全員が同じクラス、しかも日本人だ」

「?」

宗介はカリーニンが自分を凝視している事に小さな当惑を見せた。

「少佐殿。それは、もしかして」

カリーニン少佐は命令書にサインを入れながら、

「まずは文書の偽造からだ。あちらの分校に必要な書類を調べねばならんな」

「何の書類ですか」

分かっていながら宗介は恐る恐る尋ねた。

「決まっている。“転入届”だ」




―――――――――――――――――――――――――


「沙都子、知ってる。今日転入生が来るんだって。どんな子かな」

雛見沢分校の委員長であり部活の部長である園崎魅音が言った。

「オーホッホッホ、既に歓迎用のトラップの準備はバッチリでしてよ。
転入生の驚く顔が目に浮かびますわ」

それに答えたのは北条沙都子。古手梨花の同居人でもあり部活でも特にトラップに秀でている。

「転入生は転入早々に赤っ恥で、かわいそかわいそなのです」

「梨花ちゃん…かぁいいんだよー☆」

前者が宗介の護衛対象・古手梨花。
そして後者が竜宮レナ……本名は違う名前だが、とある事情でレナと呼ばれている。
皆反応は違うが、誰しもどのような転入生が来るのかに興味しんしんだ。
雛見沢は人口二千人たらずの小さい村である。それに五年前のダム戦争の事もあり余所者には、どうしても注目がいってしまう。
その時、ノックがする。

「来たよ!」

「ふふふ、我がトラップの妙技、味わうのですわ」

妙だ。既に担任の知恵が「どうぞー」と言ってから時間が経過している。
扉を開くのに時間も掛かる訳もないのに何をしているのだろうか?

ドオオオォォォォォォォン!!!!

爆音が響き渡る。
教室の扉は無残にも破壊され木片が散った。
静寂が教室を支配する、そして………

「むぅ、どうやら爆弾はなかったらしい」

担任の知恵がぎくしゃくと身を起した。
彼女は余りの出来事に呆然としてしまった。

「さっ、相良君……」

知恵の姿に気付くと、宗介はピシっと背を伸ばす。
そして口を開いた。

「知恵先生、相良宗介。本日を持ちまして雛見沢分校に着任しました」

知恵に向かって敬礼をする。
それは何度も行った動作なのか、かなり熟練していた。

「相良君、今の爆発はなんなんですか?」

「はっ、本日自分が登校したところ、教室の扉にトラップの痕跡を見つけたので…」

金色の髪を持った少女がビクッと反応した。
他の生徒達も自分達の理解が及ばない出来事を前に反応が追いつかない。

「見つけたので?」

「大事をとって爆破処分しました」

「成る程、確かに教室の扉にトラップの形跡があったら爆破しますね~……ってそんな訳ありません!!」

「お言葉ですが、不審物の最も適切な処理方法は高性能爆薬による爆破処分です」

「不適切ですッ!!本当にトラップが仕掛けられていたのかどうか知りませんが、どうせ黒板消しが落ちて来るとかそんな風なものでしょう!!」

「それは違います」

断固とした口調で宗介が言った。

「自分が確認したところ、黒板消しの他に、引き戸には画鋲が仕掛けられていました。恐らく毒が塗ってあったのでしょう。更に他多数のトラップの形跡も見受けられました。迅速にトラップを取り除く為にも爆破は必要不可欠でした」

えっへんと胸を張りながら言う。
それを委員長である魅音は、面白い子が来たッと喜んでいた。



 一度自習にして宗介の説教をする事三十分。
結局は校長先生の「元気があってよろしい!!」といった発言でお開きとなり、遅れながら自己紹介タイムとなっていた。

「それじゃ気を取り直して、相良君。自己紹介して」

「相良宗介軍曹であります」

よく通る大きな声で言った。
言った直後、自分の余りの馬鹿さ加減に青くなる。
だが殆どの生徒が、これも都会のコミニュケーションの一つなのだろうと納得した。

「だれか質問は?」

「はい!相良さんはどこから来たんですか?」

生徒の一人がたずねた。

「色々です。アフガン、レバノン、カンボジア、イラク………。長く留まった場所はありません」

再びクラスがしんっとなる。
知恵は気まずい沈黙のフォローに回った。

「つまり……相良君は、小さな頃からずっと外国で暮らしてきたんだそうです。それでついこの間までは、アメリカに居たんですよね?相良君?」

アメリカと聞くと、クラス中が騒がしくなる。
雛見沢に住む住人は一部を除いて、外国に行った事など一度もない。
何人かは外国で暮らしていたという宗介に、憧れの視線を送る者までいる。

「そうです」

知恵が呼んだはずの転入手続きの書類では、宗介の前の住所は『アメリカ合衆国・ノースカロライナ州・ファイトエットビル』と記載されている筈だった。勿論偽の住所である。
 別の生徒が手を挙げた。

「趣味はなんですか?」

「釣りと読書です」

今度は緑色の髪の少女が言った。

「どんな本読むのーっ?」

「はっ主に技術書と専門誌です。ジェーン年鑑などは頻繁に目を通しております。あの『ソルジャー・オブ・フォーチュン』などもそれなりに楽しみますし、ハリス出版の『アームスレイブ・マンスリー』も購読しております。………そうでした、日本の『ASファン』も読んだことがあります。思いのほか高水準の情報なので、いたく感心しました。いい雑誌です。最近は海事関係の書物に凝ってまして……」

し――――――――――ん……………。

言葉を失った宗介は自分の、爪先に目をやり

「忘れてください」

それ以前に誰も覚えていない。いや若干一名は関心しているようで「若いのに渋いね~おじさんも負けてらんないよ」とか言っていたが。
続いて別の女性生徒が手を挙げた。

「えと、好きなミュージシャンとかはいますか?」

この質問には困った。
宗介は音楽を全く聴かないのだ。

(む、そうだ……)

彼は出発前、同僚のクルツとマオが、今時の学生が好きだというCDを思い出し、自信を持って答えた。

「はっ。AKB48とSMAPです」





後書き

なにを書いてるんだろ………
変な勢いになってつい書いてしまった。
たぶん続かない。



[18738] 第二話   必殺・富竹フラッシュ!!
Name: ランスカンダル◆f08c234b ID:33d69884
Date: 2010/05/18 00:27
太平洋 深度50m 強襲揚陸潜水艦<トゥアハー・デ・ダナン> 




「相良さんは大丈夫でしょうか?」

小劇場ほどの広さの、中央発令所。そこは艦と部隊を統括し、指令を下す<デ・ダナン>の頭脳だった
その中心に座る、アッシュブロンドの髪の“少女”が言った。
年は宗介と同い年。襟には『大佐』の階級章が光っている。普通の大佐が、その階級に達するまでに得るはずの略称は、彼女の胸には全く見当たらない。
この少女――――――――テレサ・テスタロッサは<トゥアハー・デ・ダナン>の艦長だった(愛称はテッサ)
“艦長”である、彼女の副官である公爵《デューク》と渾名される男を差し置いてだ。
理由はカリーニンも含めた一部の者しか知らない。

「問題ないでしょう。相良軍曹が護衛についている古手梨花が、『ウィスパード』である確率は極めて低いのですから。それに彼にとっても今回の任務は、いい経験となるでしょう」

「いい経験ですか……?」

「はい、彼は平和というものを全く知りませんから、今回の任務でそれを学んで欲しいものです」

カリーニン少佐が言った。表情は相変わらず無表情に見えたが、勘のいい者が見たら父性のようなものを感じ取れたかもしれない。

「ふふふ、カリーニン少佐。なんだか相良さんのお父さんみたいですよ」

「お戯れを、私はそんな立派な人間じゃありません」

「それで少佐、相良さんを日本に置いておくのは、どれくらいの期間になりますか」

「現在では不明です。可能性は極めて低いですが、攫われる可能性はあります。相良軍曹の報告次第でしょう」

これほど幼い少女に聴かれても、カリーニンは敬語で答えた。

「相良さんの首尾次第ですね」

「肯定です、大佐殿」

一礼してからカリーニンはテッサの前を辞した。





同時刻 雛見沢分校



「宗ちゃん、こっちこっち」

「な、何をする、園崎!俺は」

「魅音でいいよ、それより一人で昼食食べてないで一緒に食べよ」

最初は廊下で古手梨花の監視及び護衛をしようと思っていた宗介だが、委員長である魅音は緊張しているのだと勘違いし自分達のグループに連行していった。
これが他の相手なら拒否するなりも出来たのだが、相手は委員長、即ちこの学校のナンバーワンであり自分の上官?のような存在である。
堅物の宗介には逆らえなかった。
だが彼にも予想外の事が起きた、なんと護衛対象である古手梨花も一緒にいたのだ。

(これは……申し出を受けた方がいいかもしれんな)

傍にいれば監視も護衛もやりやすい。
あまり親しくなって情を移すわけにはいかないが……

「はじめまして、私は竜宮レナ、レナって呼んでね」

竜宮レナ、茶色っぽい髪をした少女だ。
服はセーラー服、どうやらこの学校に指定の制服はないようだ。

「オーホッホッホ、北条沙都子ですわ」

北条沙都子と名乗った金髪の少女は、元気に笑った。
宗介が確認したところ、戦闘訓練を受けた様子はない、古手梨花の同居人と聞いて、あるいはと思ったが違うらしい。

(いや油断は禁物だ)

どんなに一流の兵士でも僅かな油断が命取りになる。
宗介は実際にそうやって死んだ者を何人も見てきた。

「古手梨花なのです、よろしくなのですよ」

にぱ~と笑ったのが、護衛対象である古手梨花。
一年前の写真のためか、資料で見たのと変わらない容姿をしている。

(こんな何の変哲もない少女をKGBや他の組織に狙われるだと?妙だな、何か事情があるのか?………いや俺のような一兵士が考えることじゃない、俺はただ与えられた任務を実行するだけだ)

「相良宗介だ、同席させてもらう」

「よろしくね、ところで宗介君。お弁当は持ってきた?」

「肯定だ。腹が減っては戦争はできない」

宗介が取り出したのはコッペパン。
そして後は……何も無い

「あの………これだけ?」

躊躇いがちに魅音が言った。
宗介はへの字のまま頷く。

「肯定だ」

「そ、それだけじゃ少なくありませんこと?」

今度は沙都子が言う。

「問題ない、好物だ」

ただ黙々とコッペパンを頬張る。
顔色一つ変えず、旗から見ても美味しそうには見えない。

「あの………宗介君。よかったらレナのお弁当、分けてあげようか?」

「なに?」

差し出された弁当を見る。
弁当には唐揚げ、ブロッコリー等の食べ物があり美味しそうだ。

「いいのか?」

「うん!その代わりレナにもコッペパンを分けてくれないかな、かな?」

「了解した」

自分のコッペパンを千切りレナに渡す。宗介自身は唐揚げをとった。唐揚げを口の中に入れると濃厚な旨味が広がる。

「美味い」

嘘偽りない賛辞を口にした。

「本当!よかったー」

「あっ、宗ちゃん、ばっかずるい、私も頂き」

「オーホッホッホ、宗介さん如きにレナさんの唐揚げは渡しませんわ」

「みー、ボクも食べるのです」

暗い雰囲気が部活メンバーに長続きする事はなかった。
気が付いたら皆で弁当を突っつきあっている。

(成る程、こんな光景はイラクでもあった。あの時も物資が少なくなりお互いの食料を奪い合っていた。恐らくこれは、単に食事をするだけでなく、緊急時での食料確保の為の訓練でもあるのだろう)

ならば話は早い。
懐からある物を取り出した。

「動くな!大人しく食料を渡せ!…………さもなければ、射殺する!」

し――――――――――ん…………
再びクラス中が静まった。
四人に向けられる銃口。
それは真っ直ぐ魅音を狙っている。
しかし魅音は怯えるどころか……

「あはははははっっ。面白いとは思っていたけど、弁当のおかず欲しさに銃を出す人は始めて会ったよ!!」

「むぅ~、食事中に銃を取り出すのはマナーが悪いと思うかな、かな」

「宗介さんは一回マナーを学びなおしたほうが宜しいのじゃありませんこと」

「みぃ、宗介に銃を向けられてボクはガタガタブルブルなのですよ」

ただ一人だけ梨花だけが、怯える仕草をした。

「はぅ~、怯える梨花ちゃん…かぁいぃよ~……」

銃口を向けても全く動じない三人に、宗介は混乱した(表情には出さなかったが)

「最終警告だ、大人しく弁当を寄越せ!!」

「はぁ~、宗ちゃん。おかずが欲しいなら勝手に取ればいいじゃん」

「なに?これが非常事態での食料調達訓練じゃないのか?」

「へ、なにそれ。えんがちょ」

「宗介さんは、貧乏でコッペパンしか買えなかったんじゃありませんこと」

「宗介は貧乏なのですか?…………かわいそかわいそなのです」

「俺は貧乏ではない、それより君達は何か訓練を受けているのか?銃を見ても怯まなかった事といい素人とは考えられない」

(もしも学校を隠れ蓑に、テロリストを養成しているとしたら、護衛対象を連れて脱出する必要がある。脱出ルートを確保しておかなければ)

魅音が怪しい笑みを浮かべた。

「ふっふっふっ、ご名答。我が部活はハードだからねぇ。どう宗ちゃんもやってみる?仮入部ってことで」

(やはりテロリスト養成所だったのか?調べる必要があるな)

 宗介は間違った認識をしながら、放課後の部活に臨んだ。

「それでは会則に乗っ取り部員の諸君に是非を問いたいと思う。相良宗介を我等の部活動に加えるか否か!」

「レナは意義な~し」

「オーホッホッホ、貧民風情に私の相手が務まるかしら」

「ボクも沙都子も賛成しますですよ」

魅音の問い掛けに三人は賛成を示した。

「全会一致。おめでとう相良宗介くん。君に栄えある我が部への入部試験を許可する!」

「待て、部活とはどういった内容だ?」

「我が部はだな。複雑化する社会に対応するため、活動毎に提案される条件化、…時には順境、あるいは逆境からいかにして…!!」

「……レナは弱いから…いじまないでほしいな。仲良くやろうね」

「レナさんは甘えていますわ。弱いものが食い尽くされるのが世の常でございますわ…」

「つまり、皆でゲームをして遊ぶ部活なのです」

三人の的を射ない説明の中、梨花だけが的を射た説明をした。
つまりこの部活というのは、魅音の趣味であるゲーム収集をフル活用したものなのだ。
毎回、魅音の用意するゲーム。或いは体力を使うゲーム(鬼ごっこ等)で勝負し負けた人には、厳しい罰ゲームといった具合。

(成る程、つまり部活というのは“毎回異なる勝利条件を速やかにクリアし、敵を排除する……これほど高度な訓練が行われているとは……)

宗介はミスリルに入る前に所属していた訓練キャンプの出来事を思い出す。
そのキャンプは『訓練生』と呼ぶのが似つかわしくないようなベテラン兵士ばかりであったが―――それでも半数以上が脱落する。訓練の内容は過酷できわまりなく性質が悪い、傭兵達は徹底的に肉体を酷使されストレスの強い環境にさらされる。それだけではない。漸く厳しい訓練が終わったと思えば、次の訓練が始まったりもするのだ。そしてその訓練を宗介は生き延びてきた(詳しくは本、またはアニメ)

 「つまり“あらゆる手段”を用いて敵を鎮圧し効率よく勝利する力を鍛えるための部活という事か」

「まぁ、間違ってないよ。あっ!だけど宗ちゃんには一つだけ注意事項。鬼ごっことか体を使うゲームは兎も角、トランプどかの頭を使うゲームでは、暴力は駄目だからね」

「暴力が駄目?つまり射殺は駄目なのか?」

不思議そうに尋ねる宗介。
魅音は注意事項を言っておいてよかったと心の底から感じた。

「当たり前でしょ!それじゃ覚悟はいい?」

「問題ない。いつでもいける」

「今日は初日だし難しいゲームは宗ちゃんに不利だから、スタンダードにトランプのジジ抜きはどうッ」

「トランプ?なんだそれは?」

ピシッ――――――
世界が時を停止した。

(ねぇ、カンボ…なんだっけ?そんな事よりッ!外国ってトランプないの?)

(レナに聞かれても……きっとトランプがあんまり有名じゃない国から来たんだと思うな!)

(宗介さんの事ですから貧乏でトランプが買えなかったんじゃありませんこと?)

(みー、宗介は貧乏なのですか?)

「え~と、宗ちゃん。トランプっていうのはだね……」


 10分間が経過して漸く宗介がジジ抜きのルールを把握した。

「じゃあ少し遅れたけど用意はいい」

年代物のトランプを取り出した。所々が傷や染みで汚れている。

「魅音、“直接攻撃を除くあらゆる手段が問題ない”間違いないか?」

「へぇ~……問題ないよ、それにしても宗ちゃん。私の目に狂いはなかったよ」

クックックッと魅音が笑った。

「そうか……なら」

宗介が取り出したのは…………カメラ?
それを構えるとトランプを激写した。

「ちょっ、幾ら何でも卑怯ですわよ!!私がトランプの傷を把握するのにどれだけ時間が掛かったと思っているんですの!!」

「あらゆる手段を用いていいのだろう」

「沙都子。会則第二条、勝つ為にはあらゆる努力が義務付けられているッ!…忘れた?」

魅音が冷酷に斬って捨てた。確かに自分もトランプの絵柄を覚えるのには苦労した。しかし道具を使うのを禁止しなかった以上、カメラでトランプを撮る行為は違反ではない。

「くっ、実践ではギャフンと言わせて差し上げますわ!」

「面白い。受けて立とう」


 
 「むぅ………」

「オーホッホッホッ、初の部活にしては善戦したようですが、私達には適いませんでしたね」

沙都子の高笑いが響く。
結果は――――――この笑い声が物語っていた。

「でも始めての部活でここまで戦えるのは凄いと思うかな、かな」

「ボクも同意見です。初の部活では大抵がコテンパンなのに、宗介は頑張った方なのですよ」

「いや、これが実戦なら俺は死んでいる。これが模擬戦だったからいいが、実戦には次はない」

宗介が暗い声で言った。

「いや~私の見る目に間違いはなかったね!よきかなよきかな!」

「ところで魅音さん。本日の罰ゲームは一体何なんですの?」

「あっ!」

罰ゲーム、いつもはゲーム開始前に決めるソレを、魅音は宗介の度重なる奇行で失念していた。

「う~ん、じゃっ、明日学校で委員長の仕事手伝ってくんない、私一人じゃ大変でさ~」

委員長の仕事は号令だけではない。倉庫の整理やプリントの配布など様々。明日は知恵先生に頼まれていた荷物を運ばなければならない、人手が欲しかったので丁度いいだろう。

「了解した、時間は?」

宗介の転校初日は慌しく過ぎていった。





後書き

感想を見たら、凄い数の感想に作者は感動&号泣でした。
本当に感想ありがとうございます。御蔭で力が沸いてきました。
そして宗介による富竹フラッシュ!効果は覿面でしたが、百戦錬磨の部活メンバーには適いませんでした。しかしッ知能戦は兎も角、宗介の本領は戦い。体力勝負では無敵の強さを発揮してくれるでしょう
今後の展開ですが……女こまし編をやろうか迷ってます、宜しければご意見をください。



[18738] 第三話   運命を破壊する男
Name: ランスカンダル◆f08c234b ID:33d69884
Date: 2010/05/17 01:09
雛見沢村 古手梨花自宅


梨花は両親と死別した二年前から、神社の集会所の裏手にある倉庫小屋にて親友の沙都子と二人暮らしをしている。家の中には既に眠っている沙都子と人影が一つ…………いやもう一人いる。その姿は他の者には見えず、この世で唯一人、古手梨花だけにしか認識不可能な存在がいる。その名は……

「羽入!どういうこと!?どうして圭一じゃなくてあの相良宗介ってのが来ているのよ!!それに教室のドアを爆破するってなに!?この100年でも始めての経験よ!」

「あぅあぅ、僕にも分からないのです。今まで圭一が転校して来ない世界はあっても、他の人が転入してくる世界はなかったのですよ」

「えぇ、私も驚いているわ………漸く連続怪死事件の真犯人が鷹野だと分かったのに圭一がいなくちゃ始まらないじゃないの!!羽入答えて!!圭一はいつ転校して来るの!!それとも転校して来ないの!!」

「僕も一生懸命調べたのですよ。そしたら圭一の親が仕事で揉めているようなのです。なんでも速さが足りないとかで……」

「なによ!!その理由!!そんな変てこな理由で、私の最後のチャンスを奪うっていうの!!」

「ぼっ、僕に言われてもどうしよもないのです。圭一が転校してくるのが明日になるのか来週になるのか、それとも…………」

羽入は気を使って最後まで言わなかったが分かる。
圭一が綿流しが終わっても転校してこない可能性もあると。

「くっ…なんてこと。前の世界で運命なんて打ち破れると学んだばかりなのに、その圭一がいないなんて……」

「諦めるのは早いのですよ。もしかしたら転校してきた宗介が、圭一以上に頼もしい味方になってくれるかもなのです」

「圭一以上に頼もしい味方?………想像出来ないわね。圭一は何度も何度も悲劇を繰り返したからこそあんなに成長したのよ。確かに圭一より強そうだけど……それにあいつ私の事を監視していたんでしょう!?」

最初に羽入からこの事を聞いた時は、耳を疑った。だが他者には姿の見えない羽入の報告だ。間違いはない。つまり相良宗介は古手梨花を監視する為に雛見沢に来た可能性が高い。

「もしかしたら、東京から派遣された男かもしれないわ……油断出来ない…」

梨花は悔しさに表情を歪めた。
圭一は教えてくれた。
「運命なんて金魚すくいの網より簡単に打ち破れる」
だがその圭一がいなければ……惨劇に抗う事は……

「梨花……貴女は怯えているのですか?」

羽入が先程とは異なる、冷たさと威厳のある声で言った。

「怯えるって!!あのねぇ私が通っていた教室に見知らぬ他人が来たのよッ!!警戒するなっていうのが無理よ!!」

「貴女は勘違いしています。人の出会いは本来ならば、誰もが未知のもの………だけど梨花はこの100年で雛見沢で知らない人間などいなくなってしまった。だけど本当は圭一とも“初対面”の筈なのです。それを貴女は今まで見た事のない人間だからといって疑うのですか?」

「そっ、それは……」

「ならば見極めなさい。相良宗介という人間を。貴女の目と耳と心でッ!!」

「そうね、最初から疑っていたら仲間なんて出来ない。私は私なりに相良宗介を信用してみるわ」

人を信用する………まずそれが出来なければ友人なんて出来る筈がない。相手を信用するからこそ、相手も自分を信用し、そこから信頼が生まれるのだ。

泣いても笑っても最期のチャンス。行動しなければ可能性は0のまま。だけど行動すれば可能性は1にも10にもなる。
古手梨花は決意した。




鹿骨市興宮 おもちゃ屋前



 まだ六月だというのに、興宮では真夏のような暑さだった。そんな中、雛見沢分校に通う相良宗介は直立不動のまま整然と立っていた。彼の後ろには『おもちゃ屋』の看板。
 時は前日に遡る。部長でありクラス委員長である魅音から「明日の部活は町で」と言われたのだ。宗介は自分の脳味噌をフル回転させて彼女の言わんとしている事を理解した。

(町で部活……雛見沢という訓練キャンプから出ての行動、つまりは実践。そして集合場所がこの店だったという事は………誰が最も早くこの店を制圧し現金を強奪出来るかを競うのか)

ぶっ飛んだ思考をした宗介は、ミスリルのセーフ・ハウスに戻って早々に、装備を点検、整備して明日の戦闘に支障ないようにした。更に昨夜遅くに、おもちゃ屋に忍び込み店内の地理情報を入手。また脱出経路の確保の為に、店内の至る所に爆弾を仕掛けてある。もし敵に囲まれても爆発の混乱に紛れて脱出可能だ。更に念のため少々離れた場所には地雷原も設置した。

「あら宗介さん。早いんですのね――――――――ってその重装備はなんなんですのーーーーー!!!!」

「み……みぃ。流石のボクも理解不能なのです」

宗介の格好は傍目から見ても軍服。見間違いようのない軍服。おまけに手に持っているのは………ライフル?更に手榴弾らしき物まで装備している。どう考えても「おもちゃ屋」に着てくる装備ではない。

「何を言っている。確かにこの店には罠らしい罠がなかったが、それがトラップだろう」

「と……トラップ?どうして「おもちゃ屋」にトラップが仕掛けられているんですの!?」

「甘いッ、俺が昔アフガンの傭兵部隊にいた時の事だ。部隊の仲間が女へのプレゼントを買おうと宝石店にいった際に、敵に囲まれ戦死した。その男は部隊でも腕利きの狙撃手でな。敵はこちらのスナイパーを殺そうと躍起になっていたのだ、俺も油断はできん」



「んなわけあるかッ!!」



何時の間にかやって来た魅音が、宗介の頭をはたき倒した。

「痛いじゃないか」

「やかましいッ!!ここは私の叔父さんが経営している店で敵の伏兵なんてあるわけないでしょ!!」

「それは確かな情報なのか?その叔父には誘拐や失踪したという経歴は…」

「あるわけないでしょッ!んなもんッ!!!」

物凄い形相で睨んだ。

「むぅ………」

魅音はハァハァと肩で息をしながら

「私ってこんなキャラじゃない筈だったんだけどな~」

そう呟いた。



興宮 おもちゃ屋


「成る程、ようするに大会という事か…」

「そういうこと……買った人には賞金五万円、だけど部活メンバーには勿論、厳しい罰ゲームがあるよ~」

魅音の説明は分かり易かった。参加者は25人、それぞれが五卓に分かれて競い合う。ゲームの種目は店にあるものなら各卓で好きに決めていい。そして各卓の1位が決勝に進むというシンプルなものだ。くじ引きの結果、部活メンバーはそれぞれ別の卓へ……恐らく魅音が事前に仕組んだのだろう。優勝賞金の五万円は、子供には物凄い大金なので参加者は目の色が違う。中堅のプロ野球選手ほどの給料を貰っている宗介には、物凄い金額ではないが……お金の重要さは宗介もよく知っている。そして部活メンバーには賞金の他に罰ゲームがある、内容は「優勝者が一人につき一個命令」つまり罰ゲームを逃れるには優勝するしかないッ!

「はぅ~負けないんだよ!!」

レナが何時になく燃えている。勿論レナだけじゃない。沙都子も梨花も同じ様に闘志を燃やしていた。
宗介は黙って席に着いた。

「むっ、お前達は富田と岡村か」

「どうも相良さん」

「こんにちわ」

宗介の対戦相手は同じ分校に通う富田と岡村。彼等も賞金の五万円に釣られて参加したのだ。だが相手が後輩だからといって宗介に油断は微塵もない。魅音から聞かされた部活のルールでは、暴力を除くあらゆる手段が許される。彼は自分の思いつく限りの勝つ方法を考えていた。
 しかし誰かが宗介の服を引っ張った。古手梨花だ。

「どうした?」

「宗介、ボクの卓では魚釣りゲームをするのです」

「なに?」

言っている事が理解できず首を傾げる。梨花の卓ではゲーム内容は決まっておらず、梨花以外の人間がお互いにゲームを提案していた。

「それだけじゃありません。沙都子の卓は神経衰弱、レナの卓はカルタなのです」

「どういう事だ?何のゲームにするか店主と打ち合わせていたのか?」

「違うのです。これは予言なのですよ。にぱ~」

「………予言などある訳がない」

少し寒いものを感じたが、一蹴した。そんな事より自分の卓の種目を、得意ゲームに設定しなければならない。しかし……沙都子の卓に運ばれてきたのはトランプ。並べ方からすると神経衰弱だろう。ついこの前までトランプを知らなかった宗介だが、魅音から有名なトランプゲームについて教わって、メジャーなものなら知っていた。そしてレナの卓に運ばれてきたのはカルタ。
カルタを知らない宗介だが、レナの卓に座る少年達が、カルタと言っているので間違いはないだろう。
そして梨花の卓に運ばれてきたのも………

「ね、ボクの予言は外れないのですよ。絶対に外れないのです」

「………店主を買収していたのか?」

「そんな事はしてませんです。ボクには最初から未来が分かっていたのですよ」

「ならば俺が何のゲームをするかも知っているのか?」

「はい。もし宗介が何もしないなら、百億長者ゲームになりますです」

予言は的中した。もしやと想い何もせずに待ち構えていたら、運ばれてきたのは百億長者ゲーム。

「……やはり店主を買収したのか?」

「だから違うのです。ボクはオヤシロさまの生まれ変わりで予言が出来るのですよ」

「…………………………」

予言なんて不可解なものを信じるほど宗介は甘くない。今まで自分が潰してきたテロ組織にも似たような奴はいた。自分を神の生まれ変わりだと言い、予言という名のイカサマでカリスマを得る。この日本でもよくある手段だ。では梨花もイカサマを?宗介はそう思うが違う気がする。大体メリットがない。他の部活メンバーの表情を見る限り特別苦手なゲームというわけでもないらしい。もしかしたら、彼女が狙われる理由とは、この予言の事なのだろうか?

「つまり全ては運命だと……?」

「そうなのです。誰も運命には抗えないのですよ」

梨花が挑発するように言った。それはまるで抗えるものなら抗ってみろと言っているようでもあった。

「いいだろう。見ていろ」

宗介が同じ卓にいた富田と岡村を引き寄せた。

「なっ、なんですか相良さん!」

「ぼ…暴力は駄目ですよ……」

「誤解するな、俺は君達に危害を加えるつもりはない。俺はただゲームの種目を変えて欲しいだけだ」

「そんなっ、ずるいですよ」

岡村が言った。

「だから勘違いするな。俺は“君達になんの危害も加えるつもりはない”こちらはお願いしているだけだ」

「お願いって、そんな相良さんが有利になる事を認めるわけないじゃないですか!」

富田の問いに、目を暗くした宗介が続けた。

「富田大樹、君の両親は豆腐屋を営んでいるそうだな。もしも豆腐の中に致死性の毒が混ざっていたら大変だな」

「うぐっ」

「岡村傑、君の父は興宮に勤めていて帰りは遅い。帰り道で“誰か”に教われないか心配だな」

「ひぅ」

「どうした二人共?俺はお前達の家族について話しているだけだ」

宗介はそう言うが、あの目は殺る目だ。相変わらず光を灯さない瞳が、富田と岡村を見詰めている。

「「うっ……うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」

まだ幼い二人に、宗介の脅迫は恐ろしすぎた。慌てて店を飛び出し逃げ去った。

「俺の要求はゲーム内容の変更だけだったのだが………あの二人は何故逃げたんだ?」

「あんな事を言えば誰でも逃げ出すのです……」

余りに卑怯なやり方に、思わず突っ込んだ。

「しかし君の言った予言は外れた。俺は百億長者ゲームをプレイしない」

宗介の表情はいつもと変わらないようでもあったが、えっへんと胸を張っているようにも見えた。確かに宗介の行動は卑怯だ。確かに方法は圭一と比べれば少し――――――いやかなり卑怯だったが、宗介は運命を打ち破ったのだ。それだけじゃない、梨花から見て相良宗介という人間が自分を殺すような人間には見えなかった。なんとなくだが、いい人なんだと思う。
 梨花は自分の卓に向き直ると

「ボクは魚釣りゲームは、お魚さんが可哀想なので他のゲームにしたいのですよ」

卓にいる二人は僅かにポカンとしたが、直ぐに頷き他のゲームに取り替えた。

「どうしたんだ?あのゲームをするのではなかったのか?」

「みぃ~!!ボクもやる気が沸いてきたのです。これからもよろしくなのですよ」

いきなり機嫌の良くなった梨花を怪訝に思いつつも

「ああ、宜しく頼む」

静かに差し出された手を握り、握手をした。





 あれから不戦勝の宗介を含めた部活メンバーは全員決勝へ駒を進めたが、魅音がこれからバイトという事でお開きになった。

「みんな、今日は凄く盛り上がったよ。はいこれはお礼だ」

魅音を除いた四人に、おみあげを渡した。

「ぶーぶー、私のは?」

店主は曖昧に笑って誤魔化した。親戚の魅音にはなしということらしい。

「わっ、可愛いらしいものが出てきましたわ」

最初に包みを開いた沙都子が言った。

「はぅ~これ本当に貰っていいのかな、かな」

レナも可愛らしい人形。という事は

「むっ、これは……」

恐らく当たりだろう。最も可愛い人形が宗介の包みから出てきた。

「はぅ~宗介君のお人形さんかぁいぃよ~」

「はははは、宗ちゃんには似合わないものが出てきたね~、宗ちゃんが持ってたら明日からは不審者確実だよ」

「確かに宗介さんには、似合いませんわね」

梨花は迷っていた。あの時は宗介じゃなくて圭一だったから確信を持てないが、圭一の時は、魅音に人形を渡すのが正しいと知っていながら、レナに渡してしまった。圭一は魅音とは男友達のように接しており、その関係が崩れてしまうのを畏れたため、レナに渡したのだが、その理屈は魅音には通じない。本当は女の子として扱って欲しかった魅音は、この事で深く傷つき、それは切欠となって惨劇の幕が上がる。宗介が朴念仁かどうかは分からないが忠告をしたほうがいいだろう。

「すまない店主。出来れば他の物に変えてくれないだろうか?」

しかし梨花がアドバイスをする前に宗介は行動していた。

「そうだね、男の子にあげるには少し駄目だったかな。最近は男の人も人形を買っていくから誤解していたよ。ちょっと待っててね。確か知人から貰ったやつが……」

店主が店に戻って数分。店主が持ってきたのは――――――――――
一匹の変なぬいぐるみだった。
ずんぐりとした、まだら模様の二頭身。犬なんだかネズミなんだか、よくわからない頭。丸くて大きな二つの瞳。おしゃれな帽子と蝶ネクタイ。

「ボン太くんじゃんそれっ!!どこで手に入れたの!?」

魅音が叫んだ。

「ははは、このあいだ友人から貰ったんだけど置き場がなくてね、よかったらあげるよ」

「あはは、流石に個人じゃあれだから部活のコスチュームのひと…………」

魅音が部活のコスチュームの一つにしようと提案しようとした時、ボン太くんをじっと見詰める宗介が目に映った。

「もしかして……気に入った?」

躊躇いがちに魅音が尋ねた。

「ああ」

宗介が何かに執着したのは始めてなので、魅音や他の皆もそれ以上は何も言わず、宗介が意気揚々と帰るのを眺めていた。



余談だが、取り残された地雷原に警察官のO氏が被害を受けたが、犯人が見つからず迷宮入りする事になった





後書き

というわけで、ボン太くん初登場です。次回は詩音の初登場でその次はなんだろ?シリアスまでの道のりは長そうです。

少し時間があるので近況報告を一つ。
最近友人と好きなASは何か?という話になり、他の皆がアーバレストやファルケ、レーバテイン、コダールと答えます。
しかし私がサベージと答えると変な目をされました。私はサベージの素晴らしさについて熱く語ったのですが、格好悪い、カエルみたいと一蹴されてしまいました。
一騎当千のスペシャル機より量産機に魅力を感じるのは私だけでしょうか?

それではまた……次回は宗介inエンジェルモートです。



[18738] 第四話   エンジェル
Name: ランスカンダル◆f08c234b ID:33d69884
Date: 2010/05/20 18:45
 「クルツ………何故お前がここにいる?」

「細かい事気にすんなって、あっ俺シュークリームね」

宗介の同僚、クルツ・ウェーバー軍曹が身近にいたウエイトレスに言った。二人がいる店は、興宮にあるファミレス、エンジェルモート。この店は制服がアレなこともあり濃い客が多く訪れる。しかしそれだけではなく、この店のデザートはかなりの一品だ。決して色仕掛けだけではなく中身があるのもエンジェルモートの特徴である。

宗介の反対側に座る男、クルツは金髪碧眼の絵に描いたような美形だった。あごは細く、目は切れ長で、鼻筋は綺麗に通っている。きちんとそろえた長髪は、中世的な魅力を見事に演出していた。

「いや~それにしてもお前の住んでる場所は兎も角、この街はいい場所じゃねえか。まさかこんな店があるなんてな」

クルツはウエイトレスの一人を指差して言う。

「わからん。何故彼女達は水着で仕事をしているんだ?」

クルツははぁ~と溜息をついて

「まっ、朴念仁のお前に言ってもしょうがねえよな」

「その前に質問に答えろ。少佐は護衛には俺一人だと言っていたが」

「おいおい、別に仕事で来た訳じゃねえよ。ただ少し休みが貰えたんで、冷やかしついでにお前の顔を見に来たってわけ。姐さんも来たがってたんだけど仕事が急がしくて無理だとさ」

「そうか……………むっ、美味い」

「だろ、この店のシュークリームは美味いって評判らしいぜ」

「そうなのか?」

「たっく自分の住んでる場所の名店くらい知っておけよ………おっ、このケーキ美味いな」

黙々とケーキを食べる宗介。かたやクルツはケーキを堪能しつつ、ウエイトレスという名のデザートも目で堪能していた、セクハラ紛いの事を何度もやろうとしていたが…

「しかし俺が言うのも何だが、ここの制服は最高だぜ」

「……よく分からんが、いいものなのか?」

「当然だろ。特に足だ………確かにおっぱいも重要だが、思いっ切り晒されてる足がいい。そしてストッキング。いいか宗介。制服の美学ってのはストッキングにもあるんだよ。たかだがストッキングだと嘗めちゃいけねえ」

「そうか」

「素人は直ぐに、胸に目が行くんだが俺は違うぜ。爪先から脳天まで徹底的に拘る。その点から言ってこの店は完璧だな。いや~しかし、美人揃いだよな。一人くらい誘ってみるか」

「どうでもいいが、そのシュークリームを貰うぞ」

クルツの話には全く興味を示さず、ただひたすらシュークリームを口に運ぶ。

「ああ、さて誰を口説くかな……」

「ちょっと待ったぁ!!!」

クルツが怪しげな瞳で、ウエイトレスを嘗めるように見ていると、一人の不審者が現れた。

「突然の登場、まことに失礼いたします。先ほどまで、お二方のご考察、大変心に感銘を受け暑き大粒の涙をはらはらとこぼしておりましたが……」

「誰だあんた?」

不審者はクルツの問いを無視して続ける。

「ですがっ! 最後のお言葉だけはこのドクター…イリーの名にかけて、黙って見過ごすわけにはまいりません!
そもそもストッキングが美学の出発点であるという着眼点は良しとしますが、それで全てを悟ったとするは、あまりにも浅薄! あまりにも独善!!
まさに木を見て森を見ず、岩清水八幡宮の入り口で帰った仁和寺の法師となんら変わるものでは無いッ!!」

「なぁ、仁和寺の法師ってなんだったけ?」

「すまん、俺は古典が苦手なんだ」

「いいですか!? ウェイトレスの制服とは古来メイドとして高級階級の人々の贅沢のみであったエプロンドレスを、我々庶民の安らぎと癒しを目的としてリフォームしたのがそもそものはじまりっ!
いうなれば我々の同朋たちが血と汗、そして涙を流し培ってきた、努力と愛情の結晶なのです!!
ならば、先人が獲得し積み重ねた至福を享受し、心ゆくまで堪能し満喫するこkdhじッッッ!!」

何時の間にか宗介が、銃弾(模擬弾だがプロボクサーのパンチ並みの威力)を不審者に向かって発砲していた。
それを見ていた一人の店員が、いそいそとやって来る。

「すみませんね~、直ぐに片付けますので……………あれ?もしかして宗ちゃん?」

「むっ、魅音。何故ここにいる?」

「なんだ宗介。知り合いか?」

「俺のクラスの委員長だ。魅音、こいつは俺のどうりょ――――――――外国の知人のクルツだ。観光ついでに俺の顔を見に来たらしい」

寸前で、適当な嘘で取り繕った。

「はぁ、その宗ちゃん……ですよね?」

「?俺は相良宗介だが、どうした?――――――――ッッッ!!まさか敵の諜報員に拷問を受けて記憶を!?」

「そんなわけありませんッ!!!実は私、魅音じゃないんです。双子の妹の詩音です」

「魅音に妹がいたのか。初耳だな」

「私は分校じゃなくて興宮の学校に通ってますから。それより外国からの転入生って本当だったんですね」

宗介と一緒に座っているクルツを見て言った。

「そんなに変か?」

「はい。雛見沢って辺鄙な村ですから、私も外人さんを生で見たのは久しぶりですよ」

「成る程ね。ところで詩音ちゃん。どうだい?これから俺と遊びに行かない?」

少しキザったらしく言った。こんなキザな言い方をしても、全く違和感がないのは、クルツがクルツたる所以だろう。

「あはははは。お気持ちは嬉しいですけど遠慮しておきます。まだバイトも終わってないんで」

「ちぇっ………っと俺もそろそろ帰るわ。これから東京に行かなくちゃなんねえからな」

「用事か?」

「まあな、折角日本に来たんだから、久しぶりに里帰りだ」

「では俺も帰ろう。詩音、会計を」

「了解です。では…………2120円になります」

「よしっ。宗介任せた!」

割り勘で払おうと思い、財布を確かめている間に、クルツはさっさと帰っていった。普通の人間ならば停止させる事も出来ただろうが、クルツも宗介と同じSRT。上手い具合に逃走した。

「………………」

「あ~、残念でしたね。じゃっ、お会計たのみますよ。宗ちゃん」

結局、宗介はクルツも分まで払う事になった。
余談だが謎の不審者I氏は店外に捨てられていた所を、翌日に発見された。



~その後の雛見沢分校での一幕~

「宗ちゃん。昨日エンジェルモートってお店に行ったでしょう。聞くところじゃ大分鼻の下伸ばしてたみたいだけど~」

「…………見事だ」

「は?」

「だから見事だ。部員の同行を調べる為に、わざわざ後を付けるとは並みの人間に出来る事ではない」

「いや別に私が付けたわけじゃ……」

「謙遜しなくていい。君に俺にさえ尾行の形跡を掴ませない程の力量があったとは、正直見縊っていた」

「あのねぇ~、私は叔父さんに聞いただけだよ。エンジェルモートも私の叔父さんが経営している店の一つなの。それに昨日、詩音にも会ったでしょ」

「ああ、君とよく似ていたが双子だそうだな」

「まあね。昔は姉妹で入れ替わって遊んだりしたよ」

「おいどうやら授業が始まるようだぞ」

「あっ、いけね」

「ふむ………今日辺りにアレを完成させるのもいいかもしれんな」

「ん?何の話?」

「いや何でもない」

今までのドタバタな日常とは違い、緩やかに時間が過ぎていった。



後書き

今回は時間の関係上、短いです。申し訳ないです。
そして皆さん。お待たせしました。次回、少しですが、ついにボン太くんが動きます。



[18738] 第五話   やりすぎのウォークライ!?
Name: ランスカンダル◆f08c234b ID:33d69884
Date: 2010/05/24 02:40
「ksdjfぎこさうじぇwさj」
訳《なんですか?どこを見て歩いてるんですか?》

「kじぇrせrhふぃおえwさじ」
《そんなに涼しい顔をしているなら、少し痛い目にあってもらいます》

「jfhんhjdfbじkふいへr」
《なんとか言ったらどうですか?》

詩音は柄の悪い三人組に囲まれていた。
理由は些細な事だった。変な場所に止めてあったバイクにむかつき、つい蹴り飛ばしてしまったのだ。結果はこの通り、いつの時代だ?と疑問を抱くような格好のチンピラに囲まれている。

(あれれ……なにか妙なデジャブが……)

思い出した。最初に悟史と出会ったのが、こんな状況だった。確かあの時は…悟史君が助けに飛び出してくれたのだった。
 偶然にしては出来すぎた状況。つい詩音は前回のように、泣いたふりをしたなら、また悟史君は助けに来てくれるのだろうか?
 詩音はおまじないの感覚で、泣いたふりを臆面もなしながら、許しを請う言葉を並べてみた。
その時。
私は……耳を疑った。
不良達を遮る鋭い声がした。

『ふもっふ』

訂正、変な声がした。

「………ボン太くん………?」

詩音が思わず呟いた。
 犬なんだか何だが、よくわからない頭。ずんぐりとしたオバQ風の二頭身。くりくりと大きな丸い瞳。いちおう愛くるしい感じではある。

(うん……どう考えても悟史君じゃないわ………)

少なくとも悟史は、街中でボン太くんの格好なんてしない。

「ふも、ふもふも、ふもっふ~」

前口上らしき何かを言ってから、ボン太くんは不適に両腕を組もうとして―――――失敗した。腕が短いせいである。

「ふもっ、ふもっふ、ふもっ!」

「えdskhふぃおえwh」

「ふもっふ、ふもふも、ふもっふ~!!」

「じぇdsrひおhぎおえsh」

「ふもっ……!!ふもっふッ!!」

「いうじぇdhfjわひおfhねさうぃお」

「ふも、ふも、ふもっふ…?」

「いおえうぇdしおえwhしおへいh」

英会話教室も真っ青の言葉の応酬。雛見沢にこの両方を翻訳可能な人材はいない。東京に一人いるが、その方は陣代高校で生徒会長を務めている。
そしてついに………

「いい加減にせんかぁぁぁああ!!!」

詩音がキレた。どこからか取り出したハリセンが、ボン太くんの頭を叩く。

「ふもっふ?」

「妙な会話してないで進めてください!!話が進まないじゃないですか!!」

「ふも………ふもっふ!」

ボン太くんは『てくてくてくてく~っ!』と助走をつけて、不良Aにアッパーを喰らわした。

「ジョジョォオォォォォォォォォォォ!!!!」

不良Aの渾名だろうか?色々と不味い名前を不良Bが叫んだ。

「けrjぎえswじえf」

不良Bがナイフを持ち、詩音に近付く。ボン太くんに対する人質に使う気なのだろう。
しかしボン太くんの取り出した、暴徒鎮圧用の模擬弾を喰らい沈黙した。
だが最後の不良Cは諦めてなかった。華麗にステップを踏み

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァーーーーーッ!!!」

「ふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもォーーーーーッ!!!」

無駄に凄まじいラッシュを繰り広げる、ボン太くんと不良C。本当に無駄にハイレベルだ。

「ふもっふ!!」

ボン太くんの右ストレートが、炸裂した。しかしここで終わらない。終わらせない。

「ふもふもふもふもふもふもふもふもふもHUMOOOOOOOOOOOOO!!!!!!ふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもHUMOOOOOOOOOOOOO!!!!!!ふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもHUMOOOOOOOOOOOOO!!!!!!ふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもッーーーーーーーー!!!!」

「ぶべらっ」

不良Cはゴミ屑になって、ゴミ箱逝きした。

「あは…あははははは………」

渇いた笑い声が詩音の口から漏れた。いや助けてもらったのは悟史と同じなのだが、あんまりな出来事に思考が追い付かない。

「ふもっふ?」

「いや何を言ってるか分かりませんから」

だけど冷静になると、ボン太くんの正体が分かってきた。
ずばりヒントは三つ。
・異常な強さ
・常識外れの行動
・そして銃の使用
雛見沢で銃を乱発する男など一人しかいない。魅音がよく話していた……

「もしかして、宗ちゃんですか?」

「ふもっふ!」

その通りだ。とでも言うように頷いた。

「しかしどうしてそんな格好をしてるんですか?部活の罰ゲームとか…?」

「ふも………ふもっふ!!―――――ふも、ふもっふ。ふもっふ!」

ボン太くんは突然、何かを思い出したように、目を見開くと、再び『てくてくてくてく~っ!』と走り去っていった。

「まっ、待ってください!!」

こんな面白そうな事を逃す手はない。詩音は慌ててボン太くんの後を追った。



興宮 野球グラウンド


この日、このグラウンドでは雛見沢ファイターズと興宮タイタンズによる、ささやかながら、因縁の対決をしていた。雛見沢ファイターズとしては、勝てば監督が焼肉をご馳走してくれるというので、絶対に負けられない。最初は部活メンバーの援軍もあり、かなり優位に試合を進めていた。
だがそれはあっさり崩れ去る。超高校級のエース亀田がリリーフ登板したのだ。亀田の通う高校は、この県では甲子園常連校として知られており、亀田は高校球界を騒がすエースでもある。実際、亀田が登板してからは、記者と思われる男があちこちにいる。

「まだなのですか!!宗介さんは!!このままじゃ試合が終わってしまいますわ!!」

「う~ん、どうしたんだろ、だろ」

レナと沙都子の二人が言うが、宗介が来る気配はない。

「その相良君って子は…本当に助っ人になれるんですか…?相手はあの強豪校のエース、左腕の亀田くんなんですよ?甲子園クラスの投手を打ち崩せるなんて……一体どんな助っ人なんです…?」

ユニフォームを着た男が尋ねた。先日、クルツと宗介が話している時に、突如として現れた不審者……もとい入江診療所の医者であり雛見沢ファイターズの監督である入江京介である。

「大丈夫です、宗介君なら…きっと逆転させてくれますよ!本当に頼もしい人なんです!」

ざわっ!……あの亀田を打ち崩せる男がいるだと?
レナの言葉を聞いた記者団がざわめいた。

「あんなへなちょこピッチャーなんか、宗介さんには目じゃないですのよ!あんな球、楽勝でバックスクリーンを越して下さいますわ…!!」

再びざわつく記者団。その時、ベンチから一人の男が立ち上がる。亀田をマークしにやって来ていたスカウト部長だ。

「誰が相良宗介だ!写真写真ーー!!」

バンッ

響き渡る銃声。
あれだけ騒がしかったグラウンドが今ではお通夜のように静かだ。
超高校級のピッチャー亀田が、ゆっくりと崩れ落ちる。

「ふもっふ」

ずんぐりとした、まだら模様の二頭身。犬なんだかネズミなんだか、よくわからない頭。丸くて大きな二つの瞳。おしゃれな帽子と蝶ネクタイ。

「かっ……亀田がボン太くんにやられたーーーーーッッッ!!!」

「ふもっふ!ふも、ふもっふ、ふもっ、ふもっふ!!」

何か言っているようだが、何を話しているか誰にも分からない………

「『貴様等!警告は一度だけだ!!大人しく両手を挙げろ!!』と言ってるのです」

「梨花ちゃん、なんで分かるのかな、かな?」

「みー、滅多に役に立たないオヤシロパワーなのですよ。にぱ~」

どうやら理解出来る人?がいたようだ。
そして……惨劇が始まった。

逃げ惑う興宮タイタンズのメンバー達。
それを容赦なく撃破していくボン太くん。
時には模擬弾、時には手榴弾、時にはスタンロッドで敵を沈めていった。

「あらら、もう始まっちゃいましたね」

「って!詩音!?なんでここにいんの!!」

「実はですね。さっきチンピラに絡まれていたら、ボン太くんが…………ところであれ宗ちゃんですよね。グラウンドで鬼ごっこでもしてるんですか?」

「あははは、そうだったらいいね……あはは」

グラウンドにはもはや野球のやの字もない。逃げ惑う興宮タイタンズと襲うボン太くん。正に地獄絵図だ。


結局試合は雛見沢ファイターズの反則負けに終わった。
そしてそれは、焼肉の崩壊を告げるものだった。

「くそっ、あんなに練習したのに……」

「バッドを振った時間はなんだったんだッ!!」

泣き崩れる雛見沢ファイターズ一同。皆が今日この日の為に、必死に練習してきた。普通に戦って敗北するのならば悔しくても納得出来る。しかし反則のような援軍のせいで、負けたのでは、あまりにもやりきれない。

「甘いぞ。戦いは常に、何が起きるか予測出来ない。援軍程度で根を上げるのは三流以下のすることだ」

「あんたが敗因でしょうがっ!!」

何時の間にか、元に戻っていた宗介が言った。
魅音が、どこからか取り出したハリセンで宗介の頭をぶん殴る。

「くやしいよ…」

「焼肉が食べたい……」

僅かながら不謹慎な事を言っている奴もいるが、メンバー全員がすすり泣く。

「それほど勝ちたいのか?」

宗介が言った。

「勿論です。僕たちにだって意地があるんです!!」

「本気で勝ちたいんだな?」

「はい、このままじゃ……終われない」

すすり泣く富田。
宗介は彼の肩に手を置くと

「それなら俺が鍛えてやる」



 四日後。
宗介を含めた一同は学校を休んで、合宿へ向かっていた。家から近ければ逃げる者が出るとの事で、わざわざ遠出している。ついでに言うと、詩音も面白そうだからと付いて行った。

「魅音さん。本当にこの道でよろしいんですの?」

「たぶん、この辺りの筈なんだけど……」

「こっ、こんな山奥じゃボールも投げられないと思うな」

「意味不明なのです」

その時――――――
静かな森の中に鋭い罵声が響き渡った。

「このクズども!!チンタラ走るんじゃないッ!!その汚い尻で俺を誘惑してるのかッ!!」

木々の向こうに宗介達の姿が見えた。
富田、岡村を始めとするメンバー達は、野戦服姿で丸太を担いでいる。

「なんてザマだ!!貴様等はこの世界で、最も下劣な生き物だ!!便所の糞にも劣る!!」

彼等を罵倒するのは宗介だ。同じく野戦服姿で、メモ帳を片手にメンバー達と併走している。
木陰には監督と詩音もいた。

「ね、ねぇ詩音。これは一体全体どうなっているわけ?」

「あっ、お姉。初日からこんな調子ですよ。知り合いから海兵隊式ののしり手帳ってやつを借りたみたいで、私もバイトの娘に試しちゃおうかな?」

「いや、それは余りにも悲惨だから止めてあげて………」

「監督は止めないんですか?その……凄く怖い訓練ですけど?」

「いっ、医学的に見ても彼等の練習が、正しいとは思えないので止めたのですが………これは実体験に基づいての訓練と言っていましたので………それにいざとなればドクターストップを出しますから」

そう言って、あっさりと見捨てた監督。入江は、昔見た野球漫画の印象があるせいか、大抵の練習は野球だからと流してしまうのだ。

「しっ、死んじゃうよ……」

雛見沢ファイターズの面々は泥と汗と涙に塗れて、顔を歪めていた。

「いいかよく聞け糞野郎共!!俺の楽しみは貴様等が苦しむところを見る事だ。爺の●●●●みたいにひいひい言いおって、みっともないと思わんのか!この●病もちの●漏野郎!!尻の穴に●を突っ込まれたいのかッ!!●の●を●●したいなら、この場で自分の●●●を●●いてみろ!!小●垂れ流すんじゃないッ糞共ッ!!」

宗介が時おり、メモ帳に目を落としながら『教育上不適切な表現』を機関銃のように連発する。

「は、はぅ~。宗助くんお下劣だよ~」

「りっ、梨花~。どうして耳を塞ぐんですの!?」

「沙都子はまだ穢れちゃ駄目なのです」

その時、一人のメンバーが転倒した。丸太を放り出して地面に身を投げ出す。

「どうした岡村、もうギブアップか」

「ぜぇ……ぜぇ……」

「しょせん貴様の根性などそんなものだ。家に帰って貴様の大好きなフェイト・テスタロッサ(9才)のフィギアでも抱いて寝るがいい」

「うっ……」

「もっとも…お前のような腰抜けの惚れているキャラクターだ。さぞや救いようのない不細工なのだろうな」

「ふぇっ、フェイトたんの悪口を言うなぁッ!!」

涙目で殴りかかってきた岡村を、宗助は容易く足で蹴り払った。

「うぐぅ……」

「何度でも言ってやる。フェ●トは不細工の雌豚だ。違うというならガッツを見せろ!丸太を担いであと十往復だ!!」

「ち…ちくしょう…」

よほどそのキャラクターを愛しているのだろう。岡村は必死の形相で丸太を持つと、坂道を駆け上がっていった。
 宗介は厳しい目つきで彼等を一瞥すると、魅音達の所へ歩いてきた。

「ねぇ、宗ちゃん。確かに凄い訓練だけど効果はあるの?試合内容は野球であってマラソンじゃないよ」

「問題ない。俺の見た限りでは、両方のチームにそれほど差はない。この訓練を乗り切れば気迫と自信はつくだろう」

「あっそうだ、宗介くん。皆でおにぎりを作ってきたんだよ」

「ボク達が丹精込めて作ったのですよ」

リュックからアルミホイルの包みを取り出す。
しかし宗介は難しい表情をした。

「ふむ……」

「どうしたの?まさかお昼食べちゃった?」

「いや。上等な食事を与えて良いのだろうかと、考えてな」

富田達からすれば、正に天国か地獄かの分かれ目。だが神はメンバーを見捨ててはいなかった。

「いいじゃないですか。もう三十三時間は何も食べていませんよ」

「「「「三十三時間!?」」」」

「それもそうだな」

宗介は走っているメンバー達に振り向いて

「喜べ、糞共!!委員長達が食事を持ってきた!!三十三時間ぶりのメシだぞ!!終わったものから食ってよし!!」

メンバー達は一度立ち止まると、目をギラリと輝かせて、いきなり猛獣のような猛スパートをかけた。

「明日の試合……荒れるね」


試合当日 興宮のグラウンド

空はどんよりと曇り、今にも雨が降りそうだった。
観客席には多くの報道陣、知恵先生や校長の姿。そして亀田もリベンジと称して参加している。
しかし雛見沢ファイターズの面々は到着していない。やがて痺れを切らした亀田が魅音に近付いてきた。

「おい、まさか逃げちまったんじゃないだろうな?」

「いやそれはないと思うよ………あの訓練を見ればね~」

「あっ、来たよ!!」

レナの指差した方向には、野戦服姿の男たちが行進してくる様子があった。少し離れた位置には、監督である入江と幽霊マネージャーの詩音もいる。

「待たせたな」

富田達は無言だ。幽霊のような無表情。だが目だけはギラギラ輝いている。

「おっ、富田さん。大丈夫なんですの?」

「はっ。自分は大丈夫であります」

「じっ、自分?」

少なくとも、前に富田は、自分の事を自分なんて言わなかった筈だ。

「逃げずによく来たじゃないか。前回の試合では、イカサマを喰らったが、今日の試合では一人のランナーも出させないからな。良い子はママのとこへでも帰んな」

亀田が罵声を浴びせても、富田達は無表情のまま立っている。

「はじめるぞッ!」

審判(今度は興宮タイタンズの監督が審判)の声が響くと相手の選手達が、準備を始める。

「よし。戦闘準備だ!!」

一同は野戦服を「パッ」と脱ぎ捨てる。中からはピカピカのユニフォーム。
一糸乱れず整列した富田達の前に宗介が立った。

「今この時をもって、貴様等はウジ虫を卒業する!貴様等は球児だ!!」

『サー、イエッサーッ!!』

「さて貴様等はこれから最大の試練に立ち向かう。全てを得るか地獄に堕ちるかの瀬戸際だ。どうだ楽しいか?」

『サー、イエッサーッ!!』

「いい声だ。では……」

一度、宗介は空気を吸い込むと



「野郎共!!俺達の特技はなんだッ!?」



『殺せッ!!殺せッ!!殺せッ!!』




「この試合の目的はなんだ!?」



『殺せッ!!殺せッ!!殺せッ!!』




「俺達は学校を愛しているか!?雛見沢ファイターズを愛しているか!?糞野郎ども!!!!」




『ガンホー!!ガンホー!!ガンホー!!』



「勝てば焼肉だ!!敵はどうする!?」



『DIE!!DIE!!DIE!!DIE!!DIE!!DIE!!』



「OK!!行くぞ!!」

雛見沢ファイターズはベンチに向かって突進していった。先行はこちらだ。
トップバッターは宗介。

「打てーーー!!あっ銃じゃなくてバットだかんねーーーーーー!!!」

魅音は声援ついでに一応銃を使うなと警告した。

「ふんッ。はったりだ」

亀田が投球フォームに入る。
宗介は、大きくバットを振りかぶり“目標を攻撃する”
放り投げられたバットは、綺麗に飛び亀田の頭を吹っ飛ばした(絶対に真似しないでください。とても危険です)
亀田は僅かによろめき、そして―――――マウンドで沈んだ。

「次は誰だ。前に出ろ!」

宗介が不適に呟く。
グラウンドに突進してきた魅音がハリセンを落とすのと、審判が『退場!!』と叫ぶのはほぼ同時だった。

「う…うおおおぉぉぉおぉおぉぉおぉぉぉぉ!!!!軍曹殿が目にもの見せたぞッ!!野郎ども後に続けぇぇぇぇえぇえええぇぇ!!!」

「うおおぅおうぅ!!!」

それからの試合は一方的だった。スライディングをしたかと思えば二塁手を蹴り飛ばし、バットを振るときに、キャッチャーの頭を吹っ飛ばしたり(何度も言うようですが絶対に真似しないでください)正々堂々?なにそれ?美味しいの?みたいな感じに興宮タイタンズを蹂躙する雛見沢ファイターズの面々。
宗介に続いて四人の退場者が出たが、部活メンバーが変わりに入る事で何とか持ちこたえた。
そんなわけで100分後。

「私は嘗てこれほど残虐な試合を見た事がない」

と、スカウト部長は述懐した。
その余りの恐ろしさに記者団は恐怖し決して記事にしようとはしなかった。だが噂は、まことしやかに囁かれ日本球界にとって雛見沢は鬼門になったのは別のお話である。
また亀田は今回の試合の後、自分を鍛えなおすと言って猛練習に励み、将来はメジャーリーガーとなったりする。彼は自分の人生における最大の転換期と述べたそうな……

「試合には勝ったけどこれでいいのかな、かな?」

「確かに富田さん達、昔の面影が全く見えませんわ」

試合後、勝利の雄叫びをあげる雛見沢ファイターズの面々を見てそう言った。

「戦いは常に空しい。彼らは身をもってそれを俺に教えてくれた」

「自分でやっておいて、綺麗に纏めるななのです」

一方で富田たちは―――――敗北した興宮タイタンズを罵倒しまくっていた。

「終わりか?この糞野郎共。悔しかったら俺の●を●●してみせろ。さあ立ち上がってみせろ。もう一度勝負してやる。テメエの尻の●を●●●●してやろうか!?貴様等はくさい●●●にも劣った●●だ。聴いてるのかこの●●野郎!!今から俺の●を――――――――」





後書き

ボン太くん初登場!!そして大暴走。
ということで『やりすぎのウォークライ』を投稿しました。少しでもお楽しみくださったなら幸いです。

では近況報告を……
サベージが好きなのは私だけではないと分かったので、再び友人にサベージの素晴らしさを熱く語りました。
結果は………駄目でした。
もう友人にサベージの素晴らしさを伝えるのは不可能そうです。

ではまた………



[18738] 第六話   北条悟史
Name: ランスカンダル◆f08c234b ID:33d69884
Date: 2010/05/25 19:27
 古手神社には一糸乱れぬ整列をした男達が、無表情で立っている。
どこかの軍服を連想させる服装。彼等の瞳に写るのは、ターゲットの姿だけ。
あの肉を引き裂き、鬼ヶ淵沼から湧き出した鬼のように、食い荒らしたい。野生的な欲望は、人が本来持つべき理性を焼き尽くし、彼等を肉食獣を越えた鬼へ昇華させている。だが同時に彼等は兵士だった。故に暴走しない。ひたすら静かに上官の許しを待っている。
上官の顔を伺う。そして………

「では長話はこれくらいにしましょう。では乾杯~」

入江の音頭が終わるのと、富田たちが焼肉へと疾走するのは完全に同時だった。



 「それにしても凄い食いっぷりだね」

「あれだけ必死に訓練をしていたのですから、仕方ないのかもしれませんわね」

雛見沢ファイターズは見事?勝利を納め、監督の自腹で焼肉が振舞われていた。
魅音と沙都子は、向こう側で猛獣のように焼肉を食べる雛見沢ファイターズの面々を見る。富田達は親達の努力によって、昔の面影を段々と取り戻しつつあるが、宗介を前にすると再び、あの時の顔に戻るのだ。

「それにしても宗介は凄いのですよ。誰にあんな訓練方法を聞いたのですか?」

「あっ、それ私も知りたいな」

「海兵隊出身の知人から教わったのだ。しかし効果は覿面だったようだな」

「へぇ~色んな知り合いがいるんだね。あっ!もしかして宗ちゃんが前に、エンジェルモートに行った時に、一緒にいたっていう外人さんから教わったの?」

「いや、あいつは傭兵の出身だ。前は日本に住んでいたらしいが…」

「何処に住んでたの?」

「東京の江戸川区と言っていたな…」

「確かクルツさんっていいましたよね」

「そうか~クルツって名前なんだ―――――――って何であんたまでいんの!?詩音!!」

何時の間にか魅音の双子の妹である詩音がいた。

「酷いですねお姉。これでも私は雛見沢ファイターズのマネージャーですよ」

「もう一年も幽霊部員でしょうがっ!!」

「幽霊部員でも部員には変わりありません。それにわざわざ合宿に付いていって色々と宗ちゃんのサポートをしたのは、誰だと思ってるんですか?この祝勝会に招かれても変じゃないと思いますが?」

「うっ…」

魅音が顔を歪めた。確かに単なる援軍の自分達が呼ばれているのだ。一応は合宿にも参加した詩音が参加しても問題などある筈もない。

「まあまあ、詩ぃちゃんがいたらレナも面白いと思うかな、かな」

魅音と詩音の間に、レナが割って入った。
こうやって場の雰囲気を沈めるのは大抵が、レナだ。

会話に花を咲かせつつも焼肉を食べる手を止めない。
――――――――――――平和だった
この村には地雷原もなければ軍隊もゲリラもテロリストもいない。
しかし人生の殆どを戦争に費やしてきた宗介には予感があった。
雛見沢には何かがあると…………


「楽しめましたか?」

途中に開催された部活で敗北した宗介は、黙々と機材を洗っていた。その宗介を見つけた

「肯定だ」

「変な言葉遣いをしますね」

「よく言われる」

「でも楽しんでくれたなら幸いです。そうそう私もボン太くんが試合に乱入してきた時は驚きましたよ。あんな試合を見たのは生まれて初めてです。
ところで――――――」

入江が一端言葉を切って、集団の中で笑う沙都子を見た。

「沙都子ちゃんの笑顔を見ていると心が洗われるような気がしませんか?」

「心を洗うだと………そのような残虐な拷問を沙都子がするとは考えにくいが…」

「は?何の事です?」

「俺も似た拷問を聞いた事がある。確か、生きたまま心臓を引き抜き、苦痛と絶望を味あわせ、殺すといった内容だ」

「私はそんな意味で言ったんじゃありません!!心が癒されるという意味です!!」

「心臓病だったのか?なら早く医者に行く事だ。この国の医療水準は極めて高い。大抵の病気ならば治せるだろう」

「私は健康です!!単に沙都子ちゃんの姿を見て喜んでいただけです!!」

言ってから失言だと悟ったのか、入江が気まずい表情になった。

「なに?お前は沙都子をどうするつもりだ?」

疑惑と敵意を込めた瞳が、入江を射抜いた。

「勿論、地下拷問場に拉致監禁して調教活動に励みます。そしてやがては、私専属の肉奴隷兼メイドさんにします」

急激に周囲の温度が下がっていった。熱い筈なのに、妙に涼しい。

「………言いたい事はそれだけか……」

宗介が銃(本物)を構えた。レーザーポインターは真っ直ぐに入江の脳天を照らしている。
ひぐらしの鳴き声だけが妙に騒がしい。

「いや私は何も言ってませんよ!!これは何かの間違いです!!」

「往生際が悪いぞ」

「そうです。変態なら変態らしく潔く射殺されちゃって下さい」

「って……詩音さん!!あなただったんですか!?」

後ろからひょっこりと詩音が姿を現した。

「悪戯が成功した時の感じって癖になりますよね」

あはははは、と笑いながら詩音が言った。

「全く、詩音さんも練習までとは言いませんから、試合くらいは応援に来てくれませんか?なんというか花がないんですよ」

「あはははは、残念ですけどカッコイイ男の子がいないと応援する張り合いがないんです。宗ちゃんが雛見沢ファイターズに入るなら考えてあげてもいいですよ」

「それはいい考えです。どうですか?相良さん」

「悪いが俺は既に、魅音の部活に所属している。他をあたってくれ…」

「あれま交渉は決裂ですね。という事なんで諦めて下さいね、監督」

「仕方ありませんね………あっ!申し訳ありません。向こうで保護者の方が呼んでますのでこれで……」

監督が去ると、後には宗介と詩音だけが残された。

「…………………」

「…………………」

会話が続かない。元より出会ってから間もない宗介と詩音では、共通の話題は少ない。
最初に口を開いたのは詩音だった。

「そうだ、この前はありがとうございます」

「何の事だ?」

「ほら、私が変な三人組に絡まれてる時に助けてくれたでしょう」

「別に大した事ではない」

「またまた謙遜しちゃって、でもどうせならボン太くんじゃなくて、生身で立ち向かってたら完璧だったかな」

「むぅ……あれは結構気に入っているのだが………」

パリンッ
何かが割れたような気がした。
そう些細な事から平和は崩れ落ちる。
別に宗介に問題があるわけではない。
ちょっとした……………彼の口癖を発してしまったばかりに………

「悟史……くん……?」

「どうした詩音?」

明らかに詩音の様子がおかしい。
肩がガクガクと振るえ、まるで信じられないモノを見ているように、目を見開いている。

「まさか持病を抱えていたのか!?」

これは只事ではないと思った宗介は、周辺を見渡した。
周りには誰もいない。原因は全くの不明。医者を呼んだほうがいいという考えに至った宗介は、誰か人を呼ぼうとした

「あ、ごっ、ごめんなさい。少し混乱してました」

「……大丈夫なのか?」

「はい、少し悟史くんと同じ様な事を言われて戸惑ってしまっただけです」

悟史という名前に宗介は心当たりがあった。古手梨花を護衛するに当たって、この村で起きた事件、それに護衛対象の同居人である沙都子についても―――――――それによると

「確か一年前に失踪したのだったな」

「知ってたんですか。そうです一年前、悟史くんは居なくなって……それっきりです」

 詩音の心を虚無感が埋め尽くす。今の今まで忘却していた感情が再び襲ってきた。彼女の中に眠っていた○が目を覚ます。
此処には皆が居る。部活メンバーも雛見沢ファイターズも変態発言が多いけど大人な監督も………
だけどたった一人が足りていない。最も大切な思い出の中心がいない。

「宗ちゃんは―――――――悟史くんは生きてると思いますか、それとも…」

少しだけ間を空けて

「死んでいると思いますか?」

冷たい―――――――氷を連想させる声色で尋ねた。

「日本警察から何の訓練も受けていない学生が、見つからないままというのは妙だ。生きている確率は限りなく低いだろう」

そして彼は禁句を口にしてしまった。

「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ悟史くんは死んでなんかいない絶対に絶対に絶対に」

 宗介が何か言っているが、頭に入らない。
詩音の脳内を埋め尽くすのは、一つの感情。思考回路が燃える。悟史は生きている、それだけそ信じてきた。可能性が低いのは心の底では理解していたのかもしれない。
だが感情は理屈じゃない。認めたくなかった事実が、宗介の冷静な意見によって蓋を開けてしまった。

「詩音!どうした!?」

「うるさいッ!!私に触れるな!!」

鬼のような形相で睨んだ。

「あんたみたいのがいるから悟史くんは無責任に関係ないふりをしてだから誰にも頼れなくて結局は自分の手で叔母をそれに魅音には悟史くんを救えるだけの力があったのに救わなかったあの時私の魅音を奪ったから私が魅音ならそんな事はしなかった――――――――」

言葉が支離滅裂だ。しかし狂気だけは端からでもわかる。

「全部、園崎が悪い。あの鬼婆が裏で糸を引いて、北条家のいざこざと悟史くんは何の関係もないのに。許せない許せない許せない!!」

「詩音…………?」

「帰ります」

さっきまでの狂気が嘘のみたいに静かになると、そう一言だけ呟いた。
宗介は何か言おうとして、歩み寄るが

「付いて来ないでください!わたし物凄く機嫌が悪いんです」

そう言って詩音は宗介の前から去っていった。



後書き

六話目にして漸くシリアスのターン。詩音の口調が少し自身ないです。あの狂気に満ちた口調は中々に難しいです。

このまま惨劇が始まってしまうのか、それとも宗介が運命を粉々に破壊してしまうのかは次回の話で………



[18738] 第七話   雛見沢村連続怪死事件
Name: ランスカンダル◆f08c234b ID:33d69884
Date: 2010/05/25 19:24
 詩音が立ち去った後も宗介は、何が何だか理解出来ず立ちすくんでいた。
その時、背後で何者かが蠢く気配を察知した。

「誰か居るのかッ!」

「…………」

ばつの悪い表情をした魅音を始めとする部活メンバーが出てきた。

「見ていたのか?」

「ごめん――――――少し帰りが遅かったから………」

そう言う魅音には、いつもの覇気はない。レナも梨花も……そして沙都子はまるで死人のような虚ろな目をしていた。

(そういえば悟史は沙都子の兄だったな)

前に見た資料を思い出して、納得した。

「………宗ちゃんには話すけど、詩音はその………悟史と仲が良くてね。あんな事を言ってちゃ隠しようもないから言うけど、詩音って悟史の事が好きだったんだよ」

好きだった。過去形。つまり悟史はもういないという事だ。
宗介自身は「好き」という感情をよく分からないが、自身の上官であり師であり父のようでもあったカリーニン少佐が、今は亡き妻を今でも想っている事を思い出した。

「私が悪いのですわ……」

「沙都子ちゃん…」

今まで黙っていた沙都子が口を開いた。

「私が、にーにーを頼ってばかりで、それがにーにーを苦しめていた事に、にーにーがいなくなってしまうまで気付けませんでしたわ。どうしてにーにーがいる時に気付けなかったのか……。だからにーにーはいなくなってしまった」

沙都子と悟史は両親が死んだ後、父親の叔父夫婦に預けられた。叔父夫婦は最初からガラが悪いと評判だった。それだけじゃない。叔父夫婦は北条夫妻がダム誘致派だったせいで、彼等も村から白い目で見られており北条夫妻を恨んでいた。悟史はまだ良かった。悟史は大人しい性格だったが、嫌いな相手とも上手く付き合う事は出来た、問題は沙都子。
沙都子には嫌いな相手とも付き合っていくような力はない。悪く言ってしまえば子供だったとも言える。そうやって母の再婚相手と何度も何度も問題を起してきた。そしてそれは叔父夫婦に対しても同義であった。繰り返される虐待、懲りずに叔父夫婦に対して反抗する沙都子。そして沙都子は唯一の味方である兄へと助けを求める、求め続けた。そしてそれが積み重なり――――――限界を迎えてしまう。

「別に宗介さんが言われた事に、ショックを受けている訳じゃありませんことよ。もうにーにーは帰ってきませんのね……」

「沙都子ちゃんだけじゃないよ…」

「レナ………?」

いつの間にか厳しい目をしたレナが言った。

「私も一年前に悟史君にしてあげられる事があったのにしなかった。転校したばかりだって言い訳はしない。もっと親身になって話を聞いていれば悟史くんが人殺しをするまで追い詰められなかったかもしれない。そしてそれは、魅ぃちゃんと梨花ちゃんも同じだよ」

「えっ…」

魅音は自分に話が振られるとは思っていなかったようで、驚いてレナへと首を向けた。

「魅ぃちゃんは、私達の中でも一番力があるくせに、村のしがらみがどうとか、よく分からない理由で煙に巻いて、結局はただ慰めの言葉をかけるだけだった!」

「そっそんな事はないよ…!私も出来ることはやった!!」






「嘘だッ!!!」






初めて聞くレナの叫びが木霊した。鳥達は驚いて飛び去る。

「魅ぃちゃんが悟史君を大切に思っていたのは分かるよ。だけどそれは単なる友達として、仲間としては失格だよ!魅ぃちゃんは園崎家次期頭首としての立場と悟史くんを天秤にかけて、結局は頭首としての立場を選んだんだよね?違うなんて言わせないよ。もしも魅ぃちゃんが全てを投げ出してでも行動していれば運命は変わっていたかもしれない」

「そう…だね。認めるよ。私の罪」

「それは梨花ちゃんも同じだよ」

今度は梨花へと話が向いた。

「そう、レナの言う通りよ」

梨花が口を開くと、今まで聴いた事のない声色で話し始めた。

「最初は悟史を救う方法がないか考えた。だけどいい考えはでなくて、最後には運命だと諦めて放置した。もしも私が……行動していれば奇跡が起きたかもしれないのに……」

「たぶんこういう事だよ。詩ぃちゃんはきっと努力したんだよ。私達の誰よりも、大した力もないのに一人で、たった一人だけで悟史君を探し続けたんだよ!宗介君に悪気はなかったと思うけど、詩ぃちゃんを傷つけたのは宗介君の罪」

「――――――話は理解した」

宗介はそう言うと、何処かへ歩き始めた。

「詩ぃちゃんに、謝りにいくの?」

「肯定だ。俺が彼女に心理的ダメージを与えたのは間違いない。責任は取らなければならないだろう」

こういう時、宗介はウジウジと悩みはしない。少しだけ悩んでペースを落とす事はあっても、立ち止まったりはしない。

「でも、少し間を空けてからのほうが……」

「いや、ミスをしたら直ぐに報告する。これは基本だ」




 興宮のマンションに戻るなり、手近にあった枕を壁に向かって、投げつけた。こんな事は全く意味の無い行為だとは理解しているが、そんな事は気にならなかった。それでも怒りは収まらず転がった枕を蹴りつけ、殴りつける。兎に角、ひたすら不愉快だった。宗介が悟史くんが死んだと言った事も、悟史くんの居るべき場所に立つことにも、宗介の事が気になっているであろう魅音の事も、悟史くんを鬼隠しにした園崎家も雛見沢も全てが不愉快極まりなかった。
不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快






理解している。この溢れる感情が何なのかも。
これは嫉妬だ。魅音には恋に悩む人がいるのに、私には誰もいない。それに悟史くんが戻って来ないというのは薄々は気付いているのではないか?ただ認めたくないだけで。

「悟史くん……悟史くんっ……ううっ、うううぅぅあぁぁぁ………!!」

ぽろぽろと涙が零れる。シーツに点々ができてゆき、涙の色に染まっていった。
悟史くん……なんでいなくなったの?やっぱり園崎家?もう分からない。何も分からない。また会いたい。会って頭を撫でて欲しい。

「うっう、うあぁっぁぁあぁ…!!」

チャイムの音がした。顔を上げると、追い討ちを掛ける様に再度ベルが鳴る。
時計を見ると既に遅い時間だ。こんな時間に訪れる人はいたっけ?葛西だろうか?

「………誰ですか?」

「俺だ」

簡潔な言葉。それだけで誰なのか確信した。
驚いた。意外といれば意外すぎる来訪者だ。あれだけの事があったんだ。今度会った時に謝られるかもとは思っていたが、わざわざ興宮の―――しかもこんな時間に来るとは予想外だ。

「なんですか、こんな時間に。マナー違反ですよ」

「すまない。だがお互いの関係の修復の為にもここを開けてくれないか?」

ドアの外には、むっつりとした顔の相良宗介がいた。いつもと変わらない表情。それが更に気に喰わない。もしかしたら直接謝罪に来れば簡単に許すとでも思ったのだろうか。それならば残念、生憎私はそれほど安い女じゃない。

「お互いの関係?何の事です。私と貴方は単なる顔見知りでしょう。修復する程の関係なんてありませんよ」

「君は魅音の妹だ。そして知り合いでもある」

また魅音!腹が立つ。誰も彼も魅音魅音魅音魅音魅音魅音ッッッ!!

「帰ってください。貴方も言ったでしょう。貴方にとって、私は単なるお姉の妹というだけなんです。だから修復するべき関係も友好もありません、お引取りください」

全く余計な時間が取った。もう疲れた今日はもう寝よう。

「それは違う。君はいい人だ」

は?なんと言ったんだ、この男は?」

「魅音の妹だというのは関係ない。せめて話を聞いてくれないか?」

「ッッッ!!!……………帰れって言ってんでしょッ!!さっさと帰りやがれ!!!」

「分かった。ならば開けなくていい。この場で話す」

本当に不愉快な男だ。私は帰れと言っているのに、人の話を聞こうともしない。

「だから不愉快です。このマンションからも出てって下さい。警察を呼びますよ」

「…………了解した、出て行こう」

そして漸く相良宗介は帰っていった。
冷蔵庫の中に入っていたオレンジジュースを飲む。濃厚な甘味と僅かな酸っぱさが口内に広がり、少しだけ気分を紛らわした。
何て奴なんだろう。家にまで押しかけて来るとは、親は相当禄でもない野郎に違いない。どんな育て方をされたらアレになるのだろう。
その後、特に意味もなくベッドに寝転がりながら天井を見詰める。無論、そこに悟史くんの姿がある訳もなく、白い光景が広がるだけだ。一時間程の時間がたった時、何だか変な気配を感じて、何気なくベランダの下を見てみた。

「………嘘!」

いや間違いない。相良宗介だ。あれからずっと外で待っていたのか!?恐らくはそうなのだろう。遠目には良く分からないが、直立不動の姿勢のまま、一本の木のように立っていた。なんとなくだが昔見た忠犬ハチ公を思い出させる。

「フンッ、馬鹿な奴!!」

そういうところが一段と気に喰わないのだ。
最後に一瞥するとカーテンを閉じた。




 あれから一週間が経つ。その間、宗介は毎日欠かさず私を訪ねてきた。というより宗介だけじゃなく何故か分からないけど、魅音やレナ達まで来ている。時間的に学校帰りにわざわざ自転車に乗って来ているのだろう。私が追い返すと全員が全員、マンションの前で立っている。だが夜が更けてくると段々と帰っていく。最初に帰るのは大抵が、レナか魅音だ。確か前に聞いた話だとレナは、父親との二人暮らしで親の分の夕食を作らないといけないから早く帰るのだろう。魅音の事は手に取るように分かる。どうせ鬼婆が煩いのだろう。最初の日は夜遅くまでいたけれど、次の日からは、レナの次辺りには帰るようになった。意外なのが梨花と沙都子だった。あの二人には、帰りを待つ親は居ない。そのせいなのか遅くまで残っている。
最後の相良宗介。こいつは一番理解出来ない。眺めていても帰る素振りを見せないので、諦めて寝てしまったのだが、翌朝、早く目覚めると、未だにマンションの前に立っていたのだ。その時は朝一に来たのかとも思ったけれど違った。彼は丸一日中立っていたのだ。学校を休んでいるのかとも思い、葛西に調べて貰ったけど、学校も休まずに通っているらしい。
それが一週間、つまり彼は一週間の間、殆ど寝ていない事になる。

八日目の今日も相良宗介はやって来た。少しだけドアの向こうに居る表情を見ていたが、流石に目の下にクマがあった。そして私は日課のように拒絶し追い返す。この動作も何だか手馴れてきた。

時刻は夜の11時、そろそろ寝ようかと思っていたら、雨が降ってきた。確か天気予報では雨のマークなんてなかった筈だが………まぁ天気予報なんて外れる時もある。そう納得してベランダの外を見ると、雨に打たれながら立っている、宗介がいた。

「………馬鹿ですね……」

その様子がまるで野良犬のようで、何だか意地を張っているのが馬鹿みたいに思えてきた。
仕方ない。私は傘を取り出すと、部屋から出て下に向かって行った。

「むっ…………」

雨の中で宗介は、私の姿を見た。いつもと変わらない表情にも見えるが、やはり疲れているようだ。少しだけ弱弱しくなったようにも感じられた。

「風邪ひきますよ」

「問題ない。それより前回の兼だが、すまなかった」

八日前と変わらない声色で謝った。
たっく、それだけの事を言う為に、こんな事をしたのか、この男は!?

「別にもういいですよ………悟史くんが生きている確率が低いのだって分かってます……」

冷静に考えれば宗介の言う通り。日本の警察は優秀だ。それこそ発展途上国なんて比べ物にならないくらい。仮に悟史くんが家出しただけだったとしたら、まず資金はどうする?バイトで溜めたお金があったらしいけど、それだって一人で生きるには微々たるものだ。やがて路頭に迷い警察に発見されるだろう。死んでいると考えるのが一番自然――――――だけどそれを認めない自分がいる。ただそれだけ…

「侘びとして、俺に出来る事なら何でもしよう」

「何でもですか……じゃあそうですね。悟史くんを殺したのは誰だと思います?家出というのはなしですよ。悟史くんは妹を残して家出するような人じゃありません」

宗介は少しだけ考えて……

「自殺の可能性が高い」

そう口にした。

「自殺?どうして自殺するってんですか、動機は?」

「魅音達の証言を聞く限りでは、叔母を殺したのは悟史の線が濃厚だ。罪悪感からの自殺というのは十分考えられる」

「へぇ~面白い推理ですね。だけど私の推理は違います。知ってますか宗ちゃん?悟史くんの叔母殺しの犯人は、既に捕まってるんですよ勿論その犯人に、悟史くんとの接点なんてありません。そしてその犯人は留置所でスプーンを喉に詰めらせて死亡。どうですか?怪しいとは思いませんか?悟史くんが失踪した直後の事なんですよ。つまり何者かが犯人を偽装したという事なんですよ。そんな事をするメリットがあるのは誰でしょう?そんなの宗ちゃんにも分かりますよね」

そう園崎家だ。園崎家が鬼隠しで悟史くんを消したんだッ!ダム戦争とは何の関係もないのに、あの鬼婆は罰当たり者の息子だと笑いながら惨殺したんだッ!!

「誰だそれは?分からん」

「はぁ、宗ちゃん貴方馬鹿ですか?村の敵である北条家の子を殺し、おまけに犯人を偽装する程の権力を持つのが、どこなのか分からないんですかッ!!」

無意識に語気が強くなっていく。これだけ言っても分からないなんて、なんて頭が悪いんだろう。

「園崎家の事を言っているのなら、それは間違いだ」

「……まさか園崎家の肩を持つつもりですか?」

「違う。俺も少し調べたが、園崎家に犯人を偽装する力などない。確かに園崎家は雛見沢村内では、独裁者じみた権力を持っている、それは否定しない。だが所詮は雛見沢に限った事だ。興宮でもそれなりの権力を持っているが、雛見沢ほど絶対的ではない。園崎組というマフィアもバックについているようだが、田舎のマフィアにしては、少し規模が大きい程度。警察の目を四度に渡って欺く技量も、資金力もない」

「それは鬼婆がッ、市長や県議に手を回して」

「市長や県議程度の力では、捜査を撹乱する事は出来ても、偽の犯人を仕立てる事は出来ない」

「なら他の御三家がやったとも言うんですか!?言っておきますけど雛見沢で、園崎ほど力を持つ家はありませんよ」

「前提から間違っている。それ以前の問題だ。まず雛見沢にオヤシロさまの祟りとやらを起して利する者は誰一人として存在しない」

「利益じゃないんですよ!!宗教的な理由です!!」

「ありえない。その一番権力を持っている園崎家だが、所有している土地を、売りにだしている。つまり園崎家は村を閉鎖するのではなく、開こうとしている。この時点で祟りというのは、害悪にしかならない」

「じゃあ毎年起きる連続怪死事件はなんだっていうんですかッ!!」

「考えにくいが偶然だろう」

「偶然?ありえませんね。一度や二度なら兎も角、四度ですよ。四度も同じ日に人が死ぬなんて、どう考えても変でしょう!!」

「少し考えれば分かる。それぞれの事件をバラシテ考えれば、特に不審な点はない。一年目は言い争いがエスカレートしての事件、二年目は単なる事故、三年目は――――少し妙だが病死と、自殺。そして四年目は言わずとも知っているだろう」

段々と頭が厚くなっていく。それくらい宗介の語る推理は、今まで聞いた何よりも理性的で、現実的であり、そして真実味があった。




「なら私は、誰を疑えばいいんですかッ!!何処を探せばいいんですかッ!―――――――――誰を……誰を憎めばいいんですかッ――――!!!!!」




気付いたら涙が溢れていた。みっともない。そう思うけど涙は止まらなかった。まるで洪水のように、綿流しのように涙は溢れていく。

「……………………」

宗介は何も言わず立っている。何も言えないのだろう。彼はとっくに恨む人なんて誰もいないと知っているのだから。
そう考えると何だが泣けてきた。
憎む対象がいなくなった事による空虚感かもしれない、魅音が悟史くんを殺したんじゃないと分かったのが嬉しかったのかもしれない、何よりも悟史くんの死が悲しかったのかもしれない。自分でも自分の感情が分からないが、無性に泣けてきた。そして気付いたら宗介の胸で泣いていた。いきなりの事に宗介が驚いていたような気がしたが、そんな事は頭に入らなかった。

「ううっ、うぅうぅぅあぁあぁぁぁぁあああぁぁぁあ………!!」

もうどれ位の時間泣いていたか分からない。ただ何も考えられず泣いた。この一年間を洗うように、兎に角泣いたのだ。

「ごっ、ごめんなさいっ!」

冷静になると恥ずかしくなる。いきなり男の人に泣きつくなんて、どうかしてる。

「問題ない」

聴く人が聞けば無愛想な答え。
だが私はその言葉を聞いて、なんとなく落ち着いた。

「なんだか、すっきりしました。ありがとうございます」

「……そうか……それは良かった……」

そういう不器用なとこ………悟史くんみたい……」

やばい……何だか顔が赤くなっている気がする。
こんなところ見られたら……ってあれ?何だか宗ちゃんも顔が赤いような……

「もしかして宗ちゃん。八日間、一度も寝てないとか……?」

「…肯定だ…」

「そんなっ、学校で居眠りとかしなかったんですか!?」

「…教育を受けるというのは重要な事なのだぞ………俺の…いた国では……学校にすら行けない子供が……授業は受けられる時に…受けていなければ………しかし一週間の間、敵に襲われ眠れなかった事もあるのだが…………風邪とは恐ろしいものだ………うっ…いかん………」

 八日間の徹夜、そして授業を受けている最中でも梨花にテロリストの奇襲がないかと緊張状態にあり、自転車を所持していない宗介は、興宮まで走ってきている。そして今度の雨そして風邪。流石の宗介も限界を迎えた。
現役の傭兵、相良宗介軍曹は、そのままコンクリートの大地へと崩れ落ちた。

「なっ、ちょっと宗ちゃん!!大丈夫ですか!?そうだ監督に電話しなくちゃ!!」

その後、入江診療所に運ばれた宗介は翌日に目を覚まして、順調に回復した。詩音は他の部活メンバーとも仲良くなり、特に沙都子とは色々あって世話を焼く事になるのだが――――――

それはまた、別の話である。








後書き

書いた後に見直してみてビックリ、予想外に長くなりました。前回の話と一括りにしなくて正解でした。

流石に毎日の雛見沢と興宮の往復(ランニング)八日間の徹夜、学校の授業、梨花の護衛による緊張状態、風邪、最後の雨とくれば宗介も倒れてしまいました。今回の教訓は一つ。ズバリ夜更かしには気を付けましょうという事です。恥ずかしながら私自身もTUTAYAからレンタルした『空の境界』を見ていたら徹夜になってしまったのを覚えています。ですが私が悪いのではないのです!『らっきょ』が面白すぎたのです!翌日は、前日の夜更かしもあって死にそうになりました。皆さんもお気をつけ下さい。徹夜は身体に悪いです。

今回のストーリーは大まかに言えば、詩音の暴走を抑える為の話でもあったのですが………気が付いたら詩音フラグが立っていました。当初の予定では、宗介を含めた部活メンバーと仲直りするだけの予定だったのですが………

長くなりましたが次回からは、コメディーに戻ります。
ではまた次回に…………





[18738] 第八話   三年B組軍曹先生!!
Name: ランスカンダル◆f08c234b ID:33d69884
Date: 2010/06/03 20:14
 「という訳だ。授業を始めるぞ」

「いや意味わかんないから」

魅音が教壇に立つ宗介にツッコミをいれた。

「何だ、今説明しただろう。聞いていなかったのか?」

「いきなり教壇に立って、今日は俺が教官だ!……とか言われて理解出来る人がいたら、私は尊敬するね」

「むぅ、では詳しく説明しよう」




 事の始まりは、昨日の放課後。
雛見沢分校の担任、知恵留美子は悩みを抱えていた。明日は前々から予定していた北海道にあるカレー専門店に日帰りで行く筈だったのだ。しかし校長が教育委員会の仕事で学校に来れなくなるのが、いきなり決まってしまったのだ。
三度の飯よりカレーの大好きな知恵としては、北海道にある名店に行く機会を逃すなど、大統領の暗殺に失敗するより、やってはいけない事だ。
しかし知恵はカレー好きである前に、教員である。幾ら何でもカレーの為に、大切な生徒を置き去りにする事は出来ない。
だがカレーは食べたい。
その時だった。

「失礼します。古典の宿題です。ご確認を」

「あぁ、相良君。そこに置いておいて下さい」

宗介のムッツリした顔を見て、知恵は突如として名案(迷案)を閃いた。
最近、転校してきた相良宗介は、帰国子女という事もあり英語は完璧である。文系科目は悪いが、理系の成績は実に優秀だ。もしかしたら一日くらい任せられるのでは?
それにこの前は、雛見沢ファイターズのコーチ?を引き受けて、見事にライバルである興宮ファイターズに勝利した。つまり指導者としても優秀?
頭がカレー畑になっていた知恵は、アメリカに喧嘩を売った日本並に、間違った選択をしてしまう。

「相良君、実はお願いがあるのですが…」

「はっ。なんでしょうか」

「実はですね。私は明日カ―――――じゃなくて、校長先生と私は明日、用事があるので学校を留守にするのですが……」

「お任せ下さい。この校舎には、一見気付きませんが、地雷を始めとした防備は、完璧です。また教室の床には、万が一に備えて武器を用意してあります。一個師団相手でも戦えるでしょう」

「そんなもの、何時の間に仕掛けたんですか!!」

「初日です」

「早すぎます!!一体あなたは何を考えているんですかっ!」

「お褒めに預かり光栄であり「誉めてません!!」―――――――――はっ。失礼しました」

少し不安になってきたが、これも生来の生真面目さ故なのだと、自分に納得させる。

「実は貴方に頼みたいのは、明日の学校なんです」

「と…いうと?」

「この学校には、先生は私と校長先生しかいません。ですから相良君には明日一日、生徒を纏めて欲しいんです。委員長に任せようとも思ったんですけど………」

宗介は知恵の言っている事を察する。
魅音は優秀な委員長ではあるが、もしも知恵が丸一日いないと知れば、六時間全部体育という事になりかねない。

「了解しました。留守はお任せ下さい」

「はい、頼みましたよ」





 「という訳だ。分かったか?」

宗介の長い説明が終わり、漸く生徒全員が現在の状況を理解した。
つまり自分は、この危険人物の元で一日教えを受けるという事を…。
当の本人は、生徒全員の不安を気付こうともせず、某団長閣下のように『代理教官』と書かれた腕章を付けている。

「まぁ、大まかな内容は理解しましたが…………よりにもよって宗介さんにお願いするとは………知恵先生も人が悪うございますね」

「宗介の恐怖政治にボクは不安で一杯なのですよ」

「よく分からんが、俺に教えられる科目が限られているため、今日は時間割を変更する。異議のある者は前に出ろ!!」

「…………………………………………………」

そんな異議のある奴は殺すッ!みたいな目で言われて、前に出る奴なんでいる筈もない。
そんなこんなで、相良先生の授業が開始するのだった。




===一時間目:数学===


「委員長、号令だ」

「……別にいいじゃん。号令なんて面倒だ―――――ってうわぁッ!?」

すかさず宗介が発砲。
机に風穴が空いた。

「点呼もとれない者に、真の戦士になる資格はない。出て行け」

「いや、戦士なんてなる気はないし………」

「一度目だけは許す。だが二度目はないと思え」

「って無視しないでよ!!」

「どうした委員長?号令だ」

今回の宗介は絡み難い。それを本能的に悟った魅音は、大人しく従う事にした。それに今の宗介に逆らうと命が危ない気がする。

「きり~つ、れ~い」

「やり直し」

「はぁッ!?やり直しって、なんでさ?」

「そんな温い言い方で、俺が納得すると思ったのか」

「はいはい、やり直しますよ。
起立!礼!」

先程とは違い、キリッとした号令。
これなら宗介も……

「駄目だ。もう一回」

「宗介くん。今のは問題なかったと思うんだけど………」

「そうですわ!!あんな号令、歴代でも最高だったと思いますわよ」

「ふっ――――あれで最高か………四流だな。貴様等はそれでも軍人かッ!!」

「……民間人なのです……」

「まぁいい、岡村っ!!」

「はっ!」

他の者では駄目だと言わんばかりに、前の試合で洗脳した岡村を呼んだ。

「貴様と富田で見本を見せてやれ」

「了解しました――――――起立ッッ!!」

着席していた富田が、猛烈なスピードで立ち上がる。激しい動きでありながら物音は静か………完璧な起立である。

「礼ッッ!!」

しーーーーーーーーーん

「ではもう一度やるぞ」

魅音だけじゃない。
雛見沢分校にいる全員が悟ってしまった。
今日は無事ではすまないと………

(これならファンタのCMに出てくる変な先生のほうがましだよ………)

そう魅音は心の中で愚痴った。



 「俺はお前達に失望した―――――――――号令だけに三十分かかるとは今まで何をやっていたッ!!」

「厳しすぎるよ宗介くん」

「厳しすぎますわ……」

何と言っても、少しでも全員の動きが合わなければ、即やり直しである。そして逆らえば模擬弾による制裁が待っている。既に魅音は同志を集めて反乱を起そうとして……………数瞬の内に鎮圧された。

「でももう一時間目は、二十分しか残ってないよ?どうするのかな?宗助くん」

「どうするとはどういう事だ?」

「だってもう、残り時間が……」

「お前は何を寝ぼけた事を言っているッ!!号令が伸びたのはお前達の失態だ。授業は予定通りに進める。今日は三十分延長だ!!」

「どうせそんな事だと思ったのです………」

「今日ほど学校という存在を呪った事はありませんわ…」

「知恵先生………恨みますよ」

「家に帰りたい……」

「俺この授業が終わったら告白するんだ……」

「割り切れよ…でないと死ぬぞ」

「なのはタン萌えーーーーー!!」

生徒達は(若干数名を除いて)相良宗介という独裁者の前に屈服した。だが惨劇は終わらない。悪魔という名の鬼軍曹の授業は………後五時間残っているのだから。




 「あはははははははははははは、やっと昼休みだよ………ワタシ生きてるよね?幽霊とかじゃないよね?」

目が虚ろな魅音が、三人に問うが、答える者はいない。
何故なら他の三人も………

「痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「どういうこと!?私の大切な仲間達が授業一つで崩壊するなんてどうなっているのよ羽入あんた神様でしょ!?なら何とかしなさいよさもないと例の死刑用を食べるわよ!!」

「おっ、落ち着くのです。梨花」

「これが落ち着いていられる!?授業だけよ。授業で部活メンバーが崩壊するってどういう事よ!!」

「あぅあぅあぅあぅ、でも授業は二時間残っているのですよ」

「あっ!」

古手梨花は、言いようの無い悪寒を感じて、時間割を見た。
そして終わる。
全て終わる。
そう、ひぐらしのなく頃に

『体育』
それが五六時間目の授業内容だった。



 「整列ッ!!」

『サー、イエッサーッ!!』

嫌そうな素振りを全く出さずに整列した。
少しでも口答えすれば、問答無用で模擬弾が飛んでくるので、誰も逆らう事ができない。
一人の暴君に虐げられる民衆の気分を味わいつつも、時間は進んでいった。

「四時間の授業を通して、貴様等が如何に団体行動が出来ないか理解した。今日は徹底的に扱いてやるッ!だが安心しろ。もしも俺の出す課題を終わらせたものは、帰りのHRを待たずとも帰ってよし!だがクリア出来なかった者は、今日一日家に帰れないと思え!!」

緊張が走る。
つまり課題さえクリアすれば地獄から解放される。だがクリア出来なければ地獄に堕ちる。生か死か、まさか学生の身でそんな体験をするとは思っていなかった。

「では課題を発表する………課題内容は『分校と興宮の間を十週』だ。ストレッチは済ませたな。では始めるぞ」

『ちょっと待ったァァァァァァァァァァァァ!!!!!』

「どうした?声を張り上げて」

「どうした?じゃないよ!!幾ら何でも十週って何よ!!殺す気!?」

「むぅ……これは知人からの教えなのだが、訓練教官は訓練生を殺す気で扱くものらしい」

「絶対間違ってますわよ!!その考え方!!」

あの和気藹々とした雰囲気はどこへ消えたのか、生徒全員が血走った目で宗介を睨む。

「魅ぃちゃん。レナは頑張った、だけどね……もう限界かな、かなァ!!」

その時、レナが、宝探し用にと学校に置いておいた鉈を手に掴む。
異常だ。
今のレナには何の感情もない。
あるとすれば一つだけ………理不尽に対する怒りだけ。

「レナ……幾らアンタでも直接戦闘で宗ちゃんを倒す事は……」

「オーホッホッホ、魅音さんらしくありませんわよ。こんな時、我が部の部長なら、敵を倒せと一言おっしゃるだけで十分ですのよ」

「運命は打ち破れる……そう教えた人がいたから、私は立ち上がれる。たかだが学校の授業に、私の大切な仲間を傷つけさせはしない」

「そうだよな……俺も負けられないよな」

「そうだよ、相手は一人じゃないか」

「相良さんがどうした!?僕達は同じ人間だ!!」

「意地があんだろ、男の子にはぁ!! 」

「セイバーたん萌え~」

レナに感化された(若干数名は除く)生徒達に、再び強い光がともる。
そう、歴史上このような暴君は、常に打ち破られてきた。不当な権力には断固として屈しない。それが鬼ヶ淵死守同盟の結束ではなかったかッ!?

「なにがなんでも、打ち破らなくちゃ!犠牲になった仲間のためにも!われわれ人類の尊厳の為にも!そしてなにより・・・・・・あたしたちの命の為に!」

『おお・・・・・・』

「いざ!これより我等は修羅に入るっ!人とあっては人を斬り、神とあっては神を斬れっ!!」
問答無用!大敵・相良の首を取れっ!!」

『お、おおーーーっ!』

「損害にかまわず前進せよ!あたしがヴァルハラに送ってやるぞっ!!」

『おうっ!!』

「総員突撃っ!!続けーーーっ!!」

今、一億火の玉となった、戦士達が、一人の独裁者へと迫った。







 「ルンルンルン♪今日の夕食はカレーカレーカレー♪明日の朝もカレーカレーカレー♪」

変な歌を口ずさみながら、雛見沢分校への帰り道を急ぐ。
本来なら自宅に直帰してもいいのだが、今日一日の報告書類が宗介によって、書かれて職員室に置いてある筈である。

「ってこの惨状は何なんですかーーーーーーッッッ!!!」

校庭に広がるのは生徒生徒生徒生徒生徒生徒。
宗介を除く全員が、校庭で屍となっている。
認めよう。
大抵の歴史において、悪政を行う独裁者の殆どは、滅亡してきた。
別に魅音に実力がなかった訳じゃない。沙都子のトラップが未熟だった訳じゃない。レナの戦闘力が弱かった訳じゃない。梨花の腹黒さが足りなかった訳じゃない。もしも単なる兵士相手なら打ち破れただろう。しかし相良宗介はただの兵士じゃない。幼少時には暗殺者としてKGBの組織に育て上げられ、その後はバダフシャンの虎と謳われたマジード将軍の下で戦い、ゲリラが滅亡した後は傭兵として各地を転戦とした。そう彼はスペシャリストだったのだ。
故に彼女達は敗北した。
完膚なきまでに!!

「さっ、相良くん。これはどういう事ですか………」

「知恵先生、これが授業中に反乱を起した生徒の一覧です。反逆者を収容する為に、簡単な牢屋を造っていますが、どうにも材料費が足りません。宜しければ予算を少しばかり工面して貰いたいのですが……」

「ふふふふふ、ええ牢屋に入って貰わないとなりませんね…………相良くん。貴方には」

カレーを馬鹿にされた時を超える、怒りが知恵の怒りメーターを振り切った。
鬼ヶ淵から湧き出した鬼も、泣いて逃げ出す程の、形相をすると……

「牢屋に入ってなさいッッ!!!!!」




後書き

少しだけ投稿が遅くなりまして申し訳ありません。
今後の構想を決めるのに時間が掛かってしまいました。
では次回に………



[18738] 第九話   叔父の帰還
Name: ランスカンダル◆1e65424f ID:33d69884
Date: 2010/08/25 00:51
「なに沙都子の叔父が帰ってきた?」

何時もの昼休み、レナと魅音それに何故か最近よく分校に来るようになった詩音が宗介を、分校の外に連れ出すと、そう言った。
梨花と、遅刻してきた沙都子を呼んでない事から、どうやら二人に聞かれたら不味い内容らしい。
宗介は最初は、叔父が帰ってきたぐらいで何の問題がある、と思ったが三人の表情を見て止める。
三人とも酷い表情だ。
まるで銃口を突き付けられたテロリストのように追い詰められた表情だ。

「その叔父に何か問題があるのか?」

「沙都子はね、去年まで叔父夫婦と一緒に暮らしてたんだよ」

「それは知っている。それで?」

「その叔父夫婦は、沙都子の両親がダム誘致派だったせいもあって、村から白い目で見られてたんだよ。
沙都子の両親が死んで、沙都子はその叔父夫婦に引き取られる事になった。まぁそれで……」

最後まで言われなくとも分かる。
恐らく沙都子は、逆恨みした叔父夫婦によって虐待を受けたのだろう。

「それで帰ってきた叔父は、再び沙都子に対して虐待を?」

「うん…」

魅音が辛そうに頷く。

(成る程よくある話だ。
俺の所属していた傭兵部隊の仲間が、自宅の中で銃を整備していたら、何故かそれを妻に怒られ、理不尽な暴力にあったという話がある。そういえば、あいつはどうしているだろうか?)

宗介は理不尽な暴力と言うが、その仲間というのは、家の中でも四六時中、銃の整備をしたり、夕食時には娘のいる前で、適切なナイフでの戦闘法やら、自分が敵兵士を殺した時の自慢話をするような男だったので、別に理不尽な暴力ではない。寧ろいい薬である。
ちなみにその兵士は、今でもお天道様の下で、元気に戦っているが、それは物語と全く無関係なので省略する。

「だが、それがどうした?
その叔父が沙都子に暴力を振るった所で、ここは日本だ。
アフガンやカンボジアなら別だが、日本ほど治安の良い国なら、そう、児童相談所というのがあるのではないか?」

「うん、あるよ」

「なら話は早い。
そこに相談すればいい」

「そんなんで上手くいったら、こんなに悩みませんよ!」

遮ったのは詩音。
まるで般若の如き形相で、宗介を睨みつける。

「どうした詩音?
戦友が敵に攻撃を受けているのだ、新兵なら慌てるのも無理はないが、戦場で冷静さを失うのは、命取りだぞ」

「五月蝿いッ!」

余りにも的外れな発言をする宗介に、詩音はキレた。
近くにあったイスを掴むと、宗介の頭に叩き落す。

「………痛いじゃないか」

「黙れ!こっちは沙都子の心配をして気が狂いそうだってのに、いっつもいっつもアンタはーーーーッ!少しは人の気持ちを考えなさいッ!」

詩音の踵落としが炸裂する。
いや、それだけには留まらない。宗介の腕を掴むと、投げた。
惚れ惚れするほど綺麗な一本背負いである。

「………宗介くん、大丈夫かな、かな?」

「肯定だ」

流石の宗介も、体の至る所が痛かったが、気合で立ち上がる。

「それで、何故児童相談所に話すのが駄目なのだ。
少なくとも、俺には有効な手段だと思うが?」

「それはボクがお話するのです」

「「梨花ちゃん!」」

てくてくと歩いて来たのは、沙都子の一番の親友であり、宗介の護衛対象である古手梨花だった。
レナ達に、沙都子が朝遅刻した原因を尋ねられた時は、あれほどまでに絶望で打ちひしがれていたというのに、今ではその瞳に一縷の光がある。

「話せば長くなりますですが、沙都子の兄である悟史が原因なのです」

「悟史だと?」

宗介も前に聞いた。
そうあれは、詩音が激怒した時に、沙都子の口から聞いている。

「沙都子の兄の悟史は、沙都子に対する叔父夫婦への妨害をずっと庇っていたのです。
そして一年前の綿流しから数日後に、悟史は失踪。
沙都子はそれを、悟史に頼ってばかりいた自分の責任だと思っています。

児童相談所は確かに、本人が否定していても虐待の形跡があれば、それを無視して保護する事が出来る。
だけどそれには、どうしても時間が掛かる」

「つまり、沙都子は虐待を認めない。
だから児童相談所は動かないという事か…」

大体の内容は理解した。
児童相談所といえど本人が認めるのと、否定するのとでは対応に掛かる時間が違う。
虐待の報告があり、本人がそれを認めたなら、即座に相談所は対応するだろう。
だが本人が否定すれば、相談所が動くには時間が掛かる。

「――――――――――殺す」

「なに?」

誰が呟いたのだろうかと見渡すと…詩音だった。

「私が殺す。今直ぐに。
あいつを殺すのに1500秒も必要ない、今直ぐに殺しにいくッ!」

「詩音!物騒なこと言わないで!」

魅音が詩音を制すが、それは火に油を注ぐ結果にしかならない。

「偉そうに…ならお姉は、沙都子の為に何をしてくれるんです?
何処をどう考えても私の提案が、一番お手軽で手っ取り早いと思いますが?」

「駄目だよ、詩ぃちゃん!
詩ぃちゃんは分かってない。
人を殺すって簡単に言うけど、それがどんなに重いことなのか、どんなに後悔するものなのか、詩ぃちゃんは考えてない!
それにそんな事をして沙都子ちゃんは喜ばないよ、寧ろ自分のせいで詩ぃちゃんを、殺人者にしてしまったって、絶対に沙都子ちゃんは自分を呪うよ!」

「なら如何すればいいんですか!
あの叔父のことです……沙都子は一週間もすれば身も心もズタズタになる。
それが分からないんですか!分かるでしょ!
ブッ殺す、それが一番確実な手段なんです!」

ヒートアップする詩音。
これが極一般的な人間なら別に問題じゃあない。
はっきりいって、この世の学生など「殺す」という単語を毎日のように使っている。
友達にからかわれた時、ゲームで負けた時、喧嘩した時etc………。
しかし「殺す」と口にして実際に実行する者は殆どいない。

だが詩音は違う。
彼女の目には殺ると言ったら殺る凄味があったッ!

「――――――――――二流だな」

「「「「へっ?」」」」

余りにも場違いな声が教室に響いた。
無論、言葉を発したのは宗介だ。
全員が宗介を見る。
すると彼は、いつもと変わらない淡々とした口調で言う。

「二流だと言ったのだ。
一流なら『ブッ殺す』などとは言わない。
何故なら『ブッ殺す』と心の中で思ったなら、その時既に行動は終わっているのだ」

「「「は、はぁ~」」」

――――――無茶苦茶だ。
そんな事を言う間もなく宗介は、沙都子の机に向かっていく。
他の四人はそんな宗介を呆然と眺めている事しか出来なかったが、ハッと我に帰ると慌てて宗介の後をつけた。




「沙都子、いいか」

「なんですの?」

宗介が沙都子の前のイスに座った。
手には、いつものようにコッペパン。

(如何でもいい事ですけど、毎日毎日コッペパン、しかもジャムも何にも無しでよく飽きないで食べれると思いますわ。私には無理ですわね)

「叔父が帰ってきたそうだな」

((((直球すぎる!))))

外野の四人が心の中で一斉に同じ事を呟いたが、宗介は全く気付く事無く話を進める。

「え、ええそうですのよ。
叔父様ったらいきなり帰ってくるんですもの、私も驚いてしまいましたわ!」

「それで叔父に暴行を受けているそうだな」

((((少しは気を使え!!))))

再び外野が叫ぶが、例の如く宗介は気付かない。

「オーホッホッホ、そんな事はありませんわよ。
宗介さんは何か勘違いしているのではないですこと?」

「…………嘘だな。
君の頬に確認出来るハレ、それは間違いなく人の手によるものだ」

「こ、これは……。
ちょっと叔父様を怒らせてしまって…、」

「それだけではない。
魅音を含めた四人と詩音も君が虐待を受けていると証言している。
状況証拠とその頬のハレから君が虐待を受けているというのは、まぎれもない事実だ」

「………………これは、私の家の事情です。
申し訳ありませんが、宗介さんは口出ししないでくださるかしら」

先程とは違う、仮面の笑顔ではなく能面のような無表情と、冷たい声で沙都子が言った。

「成る程、古手の言った通りだな。
悟史が疾走した事は、愚かにも敵前逃亡した己の責任だと思っているのか?」

「…………」

「お前の考えは間違いじゃない。
君は腰抜けだ。負け犬だ」

((((!!!!!!)))))

「ッ!――――――そこまで分っているなら、放って置いてくれませんこと?」

「いや、まだ話は終わっていない。
確かに一年前の君は腰抜けで凡骨だった。
しかし初実戦を恐れない新兵はいない。
君はこの一年で成長し、まだ一人前とは言えないが、それでも立派な学生となった」

「………………………」

「だが一つだけ君の友人として言わせて貰おう。
確かに敵の戦力に恐怖し逃げ出すのは四流だ。
しかし、自分一人で出来ると過信して仲間に救援を求めないのは、五流のする事だ」

「!」

「沙都子、お前には選択肢がある。
一つは叔父という敵に立ち向かわず、生きる負け犬の人生か…」

そこで言葉をきると、懐から何かを取り出した。
黒く光る鉄、ズッシリとした感触。
――――――――拳銃だ。

「今直ぐ、叔父を射殺し自由の身になるかだ」




「アホかあァァ―――――-―ッ!!!」





魅音と詩音のハリセンが宗介の頭に炸裂した。

「途中まで結構良い話だったのに、なんで宗ちゃんは最後にこう!!」

「お姉の言う通りです!
私も宗ちゃんの言葉に、少しだけ心を動かされたりしていたのに、如何して最後はそんな結論になるんですか!」

「君達の言う事は分かった。
安心しろ、死体処理にも伝手がある。
俺の知り合いの武器商人にウイルスの研究をしている奴がいてな、そいつに頼めば」

「「頼むか―――――ッ!」」

魅音と詩音にパンチが宗介の両頬に炸裂する。
流石の宗介も堪らず吹っ飛び、机の角に頭をぶつけた。
なにか血を流しているが、まぁ宗介だから大丈夫だろう。


「負け犬の人生、か―――――」

宗介と魅音達のドタバタを遠い目で見つめながら、沙都子はそう呟いた





後書き

自分でもう一回見直して、流石に宗介のキャラが違いすぎたので直しました。
長らく書いていないと、唯でさえ少ない文章力が更に下がるようです…。
外伝を何冊か読み直すことで漸くフルメタ分が戻ってきました。
次の投稿が何時になるか分かりませんが、これからも宜しくお願いします。



[18738] 第十話   一億火の玉特攻野郎
Name: ランスカンダル◆1e65424f ID:33d69884
Date: 2010/08/27 00:38
「kぁじgfけあwじkwjふぃおwかj」
訳《何故貴女は私の邪魔をするのですか?》

「駄目!にーにーの部屋だけは、駄目なんですの!」

「ぎklsjfsじゃfじゃjfけwじゃfj」
《貴女の兄である悟史はもういません》

「違いますわ!にーにーは帰ってくる!
だからにーにーが帰ってくる時のために、この部屋だけは…」

「kl世話意kjfぎあjfjねさをいじょあfklじゃ」
《誰が貴女の世話をしていると思っているのですか?》

鉄平は自分の足にしがみ付く沙都子の頬を叩く。
幾ら部活や日常では強がっていても所詮は子供。
大人であり喧嘩慣れしている鉄平を阻むなど不可能なのだ。
当然、吹っ飛ばされる。

「sjmfsj」
《貴女は馬鹿です》

沙都子を忌々しそうに見ると、鉄平は悟史の部屋の扉を……

「……駄目、ですの………
にーにーの部屋だけ、は」

「kjfげsかjfがj」
《いい加減にして下さい》

「亜khfぐぇあjsふぃおかじょfじゃhjfがkhfがおlfがおlんhふぁ」
《私はこの部屋を掃除するだけです。だから貴女が邪魔をする必要はありません》

別に鉄平もこの家に戻りたくて戻ったわけじゃない。
手を組んでいたリナが、園崎の上納金に手を出すなんて馬鹿な真似をして、それで自分にまでとばっちりが来たから、一時的に身を潜める為に仕方なく雛見沢に戻ってきたのだ。
元妻がこの家のどこかに隠した通帳さえ見つけられれば、今直ぐにでもこんな家からお去らばするつもりだ。



「―――――――――――――――――」

(体が、動きませんわ……)

沙都子は再び鉄平を止めようとするが、体が動かない。
その間にも鉄平は悟史の部屋へ踏み入ろうとする。


「―――――――負け犬の、人生」


気付いたら声が出ていた。
何故だろうか、その言葉を聞いたら、何故か知らない筈の奇妙な思い出が蘇る。

夢のように曖昧で、詳しい内容は分らない。
だが一つだけ鮮明に思い出せる言葉があった。


「でもな、そんな物は全部俺達がブチ壊してやった!!」


宗介とは種類の違う頼もしさを持つ誰か…。
無論、そんな人間を沙都子は知らない。
だが脳味噌ではないナニかが、その存在を刻んでいた。

「助けを求めないのは、五流のすること……。
そうですわね、勝つ為にはどんな手段でも使うのが真の部活メンバーでしたわ…」

沙都子は漸く気付いた。
自分は一年前に比べれば少しは成長しただろう。
だが、それではまだ悟史には並べない。
あの背中に追いつくには、耐えるのではなく、戦わなければならない。

「誰か……私を助けてッ!」

――――――――瞬間、爆発音が響いた。





雛見沢村北条邸付近の森


「たっく、本当に今年の犠牲者は北条鉄平なんですかねぇ~」

「二年目の犠牲者は北条夫妻、四年目の犠牲者は北条夫妻の息子と、その叔母。
可能性は高いだろう、って大石さんは言ってたよ」

熊谷はそう言って少しだけ愚痴る。
何と言ったって本当なら自分は今頃、休みを満喫している筈だったのだ。
それが、先輩刑事であり尊敬している大石からの頼み。
相手が大石でなければ、丁重にお断りさせてもらうところだ。

「はぁ~、そんじゃ俺はちょっと煙草吸って来るから。
少し頼むわ」

「あぁ、分りました。
まぁ急にどうこうって訳じゃないでしょうしね」

後輩の相沢に少しの間、任せて自分は、一本だけ煙草を吸う。
大きく息を吸い込むと、少しだけ疲れが消えたような気がする。

「はぁ~」

何度目かになるか分らない溜息をついた。
雛見沢の六月は暑い。
こんな炎天下に森の中でずっと家を見張るというのは、かなり辛かった。

「帰ったら奢ってくれるって言ったけど……」

どうせ大石の事だ。
奢った後に麻雀にでも自分を連れ込んで、奢った分はきっちり取り返すだろう。
そんな時だった。

「くっ、熊谷先輩!
大変っス!」

「なにィ!?」

相沢の素っ頓狂な声があがった。
慌てて煙草の火を消して相沢の下へ走る。

「どうした一体!?」

「それが……」

「それが?」







「ボン太くんです!ボン太くんが北条邸に突入しました!」


「アホか―――――ッ!







時間は少し遡る。
北条邸から少し離れた場所にある家、そこに宗介は………

「ふもっふ」

訂正、ボン太くんはいた。
ちなみに、この家の住人には要人救出の為に借用する、と言って追い出し済みである。

「あの、宗ちゃん。本当に大丈夫なんですか?」

詩音が聞く。
どうやらボン太くんだけじゃなく、詩音と部活メンバー達も一緒に来ているようだ。

「ふもっふ。ふもっふふもふもふもーふふもふもっふふもーふッ!」

「問題ない。この程度の監視ならば証拠を残さず任務を完遂できる。
と言ってるのです」

「はう~、どうして梨花ちゃんはボン太くんと話せるのかな、かな?」

「それはボクがオヤシロさまの巫女だからなのですよ、にぱ~」

「そてにしても宗ちゃん。こんな数の監視カメラいつ付けたの?」

そう、彼等が見ているのは監視カメラの映像。
北条邸の至る所に設置されたカメラは、中の様子を余す事無く伝えている。

「ふもふもふもっふ!」

「つい一時間前だ。だそうなのです」

「「「一時間前!?」」」

ここまで来ると驚きを通り越して呆れてしまう。

「あっ、沙都子!」

画面の中では沙都子が鉄平ひ、ひっぱ叩かれていた。

「宗ちゃん!これだけ証拠があるなら直ぐに行きましょう!
そうしないと沙都子が…」

「ふもっふ」

「駄目だ」

「ふもふもふもっふ。ふもっふふもっふーーーー。ふもふもっふ」

「沙都子はまだ助けを求めていない。仮に今突入したとしても沙都子は虐待を否定し、最悪再び叔父と生活を続ける可能性がある。沙都子が自分の意思で助けを求めるまで待て、と言ってますです」

「だから!この映像があれば沙都子の言い分なんて無視して、鉄平の野郎を豚箱に突っ込めるでしょう!」

「ふもふもふもっふ、ふもっふもっふ」

「これは監視カメラの映像だ。この国の警察に渡すことは出来ない」

「だけ「ふもっふ!」―――――!」

「ふもふも、ふもっふ!」

「戦友を信じろ!と言ってるのです」

そう力強く?断言するとボン太くんは立ち上がる。
そして奥の部屋から何かを持ってきた。

「ふもっふ、ふもふもふもっふ!」

そう言った後に包みから出てきたのは………。

「こ、これは……」

「まさか…」

「ふもっふ、ふもふもふもっふ」

「俺が新たに発明した新装備だ。これは試作品で近々とある男に販売を頼もうとしたのだが、丁度いい。
実験も兼ねて君達も今日はこれを使ってくれ………ってなにそれ!!」

通訳の任務を忘れて、思わず突っ込んでしまった。
何故ならそこには、三体の○○○○○が……。

「ふもっふ!ふもふもっふ!」

ボン太くんが指?刺すとカメラの映像で沙都子が再び吹っ飛ばされたのが見えた。
そして―――――――

「誰か……私を助けてッ!」

その時、ボン太くんの瞳が輝いた気がした。




爆発音に気付いた鉄平が慌てて玄関に向かう。
立ち込める煙、そしてそれが止むと……
一人、いや四人のボン太くんが現れた。

「じゃskjふぃいあkwjうぇjf」
《貴方達は一体何者ですか?どうして私の家に無断で入ってきているのですか?》

「ふもっふふもっふもふもっふ」
《大人しくしろ北条鉄平。こちらの戦力は貴様を圧倒している。抵抗は無意味だ》

「いおえswhごあkjふぁgkjn」
《何を意味の分らない事を言っているのですか?馬鹿ですか、死にますか?》

「ふもっふふもふもっふもっふ!」
《武器を捨て抵抗しろ。さもなけば………射殺する!》

「skjぁfkがjkfがjjがhgヵんh」
《もう我慢が出来ません。貴方を痛い目にあわせましょう》

そう言うと猛烈な勢いで殴りかかってくる鉄平。
しかしそれは、宗介……もといボン太くんにとっては、子供の動きと同様だった。



※余りにも残酷なシーンなので、ここからはセリフだけをお楽しみ下さい。
ちなみに誰がどのセリフを言っているかはご想像にお任せします。




「嫌だ!助け………」

「ふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふも!!」
《死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!》

「そこ、変な方向に曲がっ―――――」

「HUMOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!」
《URYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!!!!!》

「ぎょっててえぇふしゅッ!!」

「ふもふもふも、ふもっふゥゥゥゥゥゥ!!」
《嘘だ嘘だ嘘だ、嘘だ――――――――――――――ッ!!》

「た、助けておまわりさん――――――ッ!」

「ふもっふ♪」
《チンカス♪》

「いやあああぁあぁぁあぁああああぁぁぁぁぁ!!!」

「ふもっふ!ふもっふ!ふもっふ!」
《降伏すると言え!》

「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

「ふもぉふもっふ!ふもっふ!」
《超級覇王電影弾!》

「IYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」

「ふもっふ!」
《爆発!》








そして一時間の時が流れた。



「ふ~もふもふもふもっふもー!」

「ふ~もふもふもふもっふもー!」

ボン太くんの肩に沙都子と梨花がいる。
特に沙都子は、学校での姿が信じられないほど晴れやかな笑顔を浮かべていた。

「ですけど、白馬に乗った王子様じゃなくてボン太くんが助けに来て下さるとは夢にも思いませんでしたわ」

「ボクは王子様よりボン太くんの方がいいと思うのですよ、にぱ~」

「ですがレディーの家に監視カメラを設置するだなんて、宗介さんも人が悪いですわ!」

「みー!それだけ沙都子が心配だったということなのですよ」

「そ、それはまぁ……嬉しいですけど…」

「沙都子の顔がトマトのように赤いのですーー」

「り、梨花ーーー!なんで抱きつくんですのーーー!」

雛見沢村をボン太くんが走る。
そう夕日に向かって…。

「ふーもふもふもふもっふも」

「ふーもふもふもふもっふも」





後書き

今回は早く更新できました。
そして今まで以上にカオスです。
このペースがいつまで続くか分りませんが、これからも宜しくお願いします。



[18738] 第十一話  名探偵テッサと園崎少佐
Name: ランスカンダル◆f08c234b ID:33d69884
Date: 2010/09/01 02:09
太平洋 深度45m 強襲揚陸潜水艦<トゥアハー・デ・ダナン> 


「何を見ておられるのです、艦長?」

中央発令所には何時も通り艦長であるテッサとマデューカス中佐、そしてその他の隊員達がいた。

「ええ、相良軍曹から届いた報告書なんですが………不審な点がありまして」

「不審な点というと、相良軍曹が任務を怠っていると?」

「いえ違います!気になるのは相良軍曹ではなく、派遣された分校のある雛見沢村の事なんです。
そうだ、マデューカスさんの意見も聞きたいのでご覧になって下さい」

「では……」

書類を受け取ると、一通り目に通す。
内容は任務の報告書ではなく、雛見沢村で毎年発生しているという怪死事件についてだった。
毎年『綿流し』という村祭りの日になると一人の人間が死亡し一人が行方不明になるという、如何にもマスコミが食いついてきそうな事件だ。

「どう思いました?」

「下らない、事件とは名ばかりの偶然ですな。確かに一見するとパズルに見えなくもないですが、実際には一つ一つのピースがまばらで繋がっていない。閉鎖的な村では偶然が何度も重なると信仰を持つ事があります。恐らくこれも同様の例かと」

「はい。私も最初はそのように思ったので放っておいたんですけど、よく考えると奇妙な点があるんです」

「成る程、それはどの様な?」

「三年目です。他の事件だけは単純な偶然で済ませられるのに対して、その年に起きた怪死だけが余りにも不審過ぎるんです、そう人為的な意思を感じるほどに…」

そう言うと、テッサは他の怪死事件について記された書類を捲っていく。

「先ずは第一の事件、これは在り来たりと言っては何ですが、今時バラバラ殺人なんてそれ程珍しい訳でもありません。ただ運悪く『綿流し』の日で犠牲者と加害者が村にとっては敵であるダムの現場監督である事から『オヤシロさまの祟り』というのがまことしやかに囁かれるようになりました」

テッサが次の資料を捲る。

「そして第二の事件。これは事件ですらありませんね。単なる事故です。
村人達の目を避けて旅行へ行った北条夫妻が運悪く滝壺に堕ちた、それだけ…。ただ今度もダム誘致派である北条夫妻は村にとっての敵であったせいで『オヤシロさまの祟り』というものがだんだんと現実味を帯びてきました」

次の資料を…飛ばしてそのまた次の資料を捲った」

「第三の事件については一先ず置いておきます。
それで第四の事件ですが、これも実は第三の事件ほどじゃないですけど不審な点があるんです。
警察は当初はこの『北条悟史』に目をつけていたようなのですが、まるで北条悟史を庇うかのように真犯人が現れ、その犯人は都合よくスプーンを喉に詰めらせて死亡」

そして、と区切ってから前の資料を開く。

「第三の事件、これが最も妖しい事件。フルデ・リカの父親である古手氏が病で急死したというのは別に珍しくありません。だけど次に起きたフルデ・リカの母が鬼ヶ淵村へ転落し死亡した、これは不審どころじゃない、明確な人の意志を感じます。それに僅かに残った資料と証言から古手氏の死亡が確定してから、彼女が入水自殺をするまでの時間はたったの数時間。
奇妙に思った警察が調査をしようとしたところ、上からの圧力により断念」

「つまり艦長は、雛見沢村に別の犯人を仕立て上げ、警察に圧力を掛けられるほどの存在がいると?」

「はい、最初は園崎という旧家かとも考えましたが、少し規模は大きいとはいえ、たかが田舎のマフィアに完全犯罪を許すほど日本警察は無能じゃありません。そしてこれが一番の大問題なのですが……」

「これは、相良軍曹の報告書ですね。……成る程、フルデ・リカは入江診療所へ定期的に通っている。更に相良軍曹でも侵入を拒絶する程の厳重な警備、そして医療スタッフとは思えない、訓練を受けた者特有の脚運びをする男…。これはもしや……」

「そうです。簡単な任務のつもりで派遣しましたが、この一連の事件、日本政府が関わっている可能性が非常に高いです」

「相良軍曹を呼び戻しますか?」

「いえ、相良さんは優秀なSRT要員です。可能性はほぼないとはいえウィスパード候補者であるフルデ・リカから護衛を外す事は出来ませんし、その組織がフルデ・リカそのものが狙いである可能性もあります。取り合えず本格的な調査が完了するまでは現状のまま相良軍曹を護衛につかせ、調査の結果次第でどうするか決めましょう。それまでメリッサとウェーバーさんを応援として派遣します」

「マオ曹長とウェーバー軍曹をですか?」

「えぇ、二人には五時間後の作戦終了次第、雛見沢に向かってもらいます」

念には念をいれ人員だけじゃなくM9も持って行かせた方が良いかもしれない、そう思いながらテッサは再びディスプレイに目を向けた。


だがテッサは遅かった。
彼女の判断が間違っていたわけじゃない。
ただ血に飢えた狗の行動が速かった、それだけのシンプルなミスだ。






諸君 私は部活が 好きだ
諸君 私は部活が 好きだ
諸君 私は部活が 大好きだ

UNOが好きだ ジジ抜きが好きだ 野球が好きだ 麻雀が好きだ 
ゾンビ鬼が好きだ 水鉄砲が好きだ 昼寝が好きだ 料理勝負が好きだ 缶蹴りが好きだ
平原で 街角で おもちゃ屋で 神社で 川辺で 森林で 裏山で カレー畑で
この地上で行われる ありとあらゆる 部活動が 大好きだ

戦列をならべた エースのフォーカードが 雄叫びと共に相手のフラッシュを 吹き飛ばすのが好きだ
空中高く積み上げられたジェンガが ちょっとしたミスでばらばらに なった時など 心がおどる

レナの操る 神速を超えたパンチが 敵を一方的に撃破 するのが好きだ
悲鳴を上げて 嫌がる人間を 恥ずかしがる乙女を メイド服を着せた時など 胸がすくような 気持ちだった

手駒をそろえた ゾンビの軍勢が 敵の戦列を タッチするのが好きだ
恐慌状態の 新人が 既に 負けが確定しているのに 何度も何度も立ち向様など 感動すら覚える

敗北主義の 逃亡兵達を木の上にに 吊し上げていく様などはもう たまらない
泣き叫ぶ敗者が 私の決定した罰ゲームとともに
金切り声を 上げながら村中を 歩かせるなど最高だ

哀れな一般参加者達が 雑多な 知識で 健気にも立ち上がってきたのを
徹底した脅迫により 精神ごと木端微塵に 粉砕した時など 絶頂すら覚える
好敵手の切り札に 滅茶苦茶に されるのが 好きだ
必死に守るはずだった 空き缶が蹴り飛ばされ 他のメンバーが 罰ゲームにある様は とてもとても 悲しいものだ

一般人の物量に 押し潰されて 殲滅されるのが 好きだ
知恵先生に 追いまわされ 害虫のように地べたを 這い回るのは  屈辱の極みだ

諸君 私は部活を 地獄の様な 部活を 望んでいる
諸君 私に付き従う 部活メンバー諸君
君達は 一体 何を 望んでいる?
更なる 部活を望むか? 
情け容赦のない 糞の様な部活を 望むか?
鉄風雷火の 限りを尽くし 三千世界に鴉を殺す 嵐の様な闘争を 望むか?

「部活(クリーク)!! 部活(クリーク)!! 部活(クリーク)!!」

よろしい
ならば部活(クリーク)だ

我々は満身の 力をこめて 今まさに 振り下ろさんとする レナの鉈だ
だが この暗い闇の底で 30分もの間 堪え続けて来た 我々に
ただの部活ではもはや足りない!!

大部活を!! 
一心不乱の大部活を!!

我らはわずかに 一個分隊 10人に満たぬ 敗残兵に過ぎない
だが諸君は 一騎当十万の 古強者だと 私は信仰している
ならば我らは 諸君と私で 総兵力100万と 1人の 軍集団となる

我々を忘却の 彼方へと追いやり 眠りこけている お年寄りを叩き起こそう
スカートをつかんで 引きずり下ろし 眼を開けさせ 思い出させよう
連中に恐怖のタバスコを 思い出させてやる
連中に我々の スタンガンのビリビリを 思い出させてやる
天と地とのはざまには 奴らの哲学では 思いもよらない事が ある事を思い出させてやる
十人の狂戦士の 戦闘団(カンプグルッペ)で 雛見沢を燃やし尽くしてやる

そうだ あれが我々が待ちに望んだ鬼ヶ淵の光だ
私は諸君等を約束通り連れて帰ったぞ

あの懐かしの 戦場へ
あの懐かしの 部活へ

「部長!!部長殿!!委員長!委員長殿!!部活指揮官殿!!!」

そして…鬼達は落とし穴を渡り 平原へと進む

部活メンバー各員に伝達!
部長命令である!!!


さあ諸君……




地獄が作られちゃうぞ…




ドッゴ――――ン




「魅ぃちゃん!だから宗介くんにサバイバルゲームじゃ勝てないって言ったのに!」

「部長にはね、退けない時があるのさ………ガクッ」

「魅ぃちゃん!魅ぃぃぃいぃいちゃあああぁぁぁああああんんn」



FIN



後書き


気付けば宗介が一回も登場しませんでした(笑)
次回からはそろそろ鷹野や狗そして初代フリーのカメラマンが動く、かも?
ちなみに二代目フリーのカメラマンはジョージ。



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