-新西暦191年10月22日 午前6時30分 日本地区、佐渡島-
無人の地となった佐渡島、昔金鉱山があったという山、頂に一体の神像の如き人型機動兵器が守り神のように雄雄しく立っている。
ジャイアント=ロボ、その名で呼ばれる国際警察機構所属の、スーパーロボットである。
そのロボットの足元に佇む少年が一人、明けつつある夜に背を向けて、日本海を、その先にある大陸を強い眼差しで見据えている。
彼の名前は草間大作。かってバルマー戦役に参加した少年も、今は十六歳になっていた。
「少し、寒いかな」
夜半にこの場所に来て、六時間弱。人外と言っていいレベルまで鍛えられた彼の身体にはそんなに辛い寒さではないが、ふと呟いた。
ここが『大怪球ビック=ファイヤ』を抑える最終ラインなのは、身にしみて分かっているはずなのだが、一人でこの場で待ち続けていても、緊張も気概もない。簡単に言うとボーっとしているというのが一番近いかもしれない。
「大丈夫なのかな、僕・・・・・・」
苦笑して、傍らにある彼の半身、ジャイアント=ロボの脚を軽く叩く。
大怪球戦に向けて、ロボの修理大改造が終わったのが、半日前。外見的に胸部がわずかに膨らんだのと、背部のロケットブースターが変わった程度の差異しかないが、ロボの原動力であった原子炉が、この戦いの為、超小型縮退炉に変更されていた。
一週間前、ロボは今、世界を危機に陥れている『大怪球ビック=ファイア』と戦い、無残にも敗れ去っていた。
大怪球は、その周囲十キロにある全ての物体のエネルギーを消滅させるフィールドを発生さえていた。近接戦に持ち込む以前に、接近しただけで動けなくなってしまったロボは、大怪球の要塞並の火力に抗うことができず、その巨躯をパリの街に沈めてしまったのだ。
それから一週間、時速百キロにみたないスピードでありながら、大怪球は東進を開始。一週間のうちにユーラシア大陸の大都市に壊滅的ダメージを与え、そして今、日本に近づいている。
直径一キロの球体、その進行方向には、巨大な機械の瞳、それが大怪球『ビックファイア』の外見。その球体の中には、大都市を瓦礫の山に変えるのに一時間要さないほどの各種兵器が内臓されている。そして、遠距離からの光学兵器による狙撃においても、現地球圏における最大の威力を誇る、バンプレイオスのトロニウウムバスターキャノンですら防ぎきる程の防御能力を誇っていた。
その後、バンプレイオスは限界を超えた出力での攻撃の余波で中破してしまう。
タイミングも悪かった。今、地球圏でこの大怪球に対抗できる特機、そのパイロットが銀河各地に散っているのだ。BF団も絶妙のタイミングで作戦をしかけてきた。
この最終作戦『超電磁ネットワイヤー作戦』に参加するのは、ジャイアント=ロボの他に、北米基地から参加の獣戦機隊、火星から援軍に駆けつけてくれたダイモス、そして・・・・・・
上空を大型輸送機が通過していく。その輸送機から何か人型の物が離れていくのを、大作は見上げていた。
高度千メートルくらいだろうか、その人型の物は減速もせず、人間のように膝を曲げて着地姿勢をとっている。
そして、それはその自重からは信じられないほどの、静かな着地をロボの前で決めて見せた。二年以上稼動していなかった機体とは思えない動きだ。
蒼い、細身の、まるで人間のようなフォルム、そして特徴的な一本角、所々に改修は入っているようだが、その全体像は大作の記憶にある四年前の物と殆ど変わっていない。それが大作には嬉しかった。
腕時計に通信が入る。文字盤が開き、その裏にある、小さなモニターに、一人の少年の顔が映った。最後にあった時よりずっと大人びていたが、その面差し、優しげな眼差しは変わっていない。モニターの少年が笑った。
『久しぶりだね、大作君』
「はい! お久しぶりです、シンジさん!」
こみ上げてくる熱い思いは隠しもせず、大作は笑った。涙が少しこぼれていた。
草間大作、碇シンジ、四年ぶりの再会だった。
そして、碇シンジが乗るエヴァンゲリオン初号機も二年ぶりに封印を解除され、この作戦に参加する。
『色々話したいことがあるけど、とりあえず、頑張ろう』
優しいが、芯が入った声音、わずかな会話の中でシンジの成長を感じながら、大作は頷いた。
「はい!」
状況は圧倒的不利、成功率は二割を切っている作戦だ。しかし、大作に不安はなかった。
これ以上ないくらい、心強い仲間が、また一緒に戦ってくれるのだから。
「ロボ、いくよ」
大作の声を受けて、ロボがその新たな命の鼓動を刻み始める。
「勝負だ、BF団!!」
超電磁ネットワイヤー作戦が始まった。
BF団の一大侵攻に対応できる特機が少ない理由がもう一つあった。この作戦決行の三日前、日本、早乙女研究所において、ある事件が起きていたのだ。
真ゲッターロボの突然の暴走である。
「リョウは・・・・・・?」
ゲッターロボG、ライガーのコックピットに座りながら、神 隼人は何百回目になるかわからない質問を、研究所オーダールームに居る早乙女博士に尋ねた。
『依然、こちらからの応答には応えない・・・・・・ なにやら呟いているようだが、それも聞き取れん・・・・・・』
疲労と苦渋に満ちた返答も変わらない。
三日前、大怪球対策に真ゲッターロボの起動実験を行う為に、ゲッターチームリーダー、流 竜馬が真ゲッターロボに搭乗した。その瞬間といっていいタイミングで真ゲッターロボの炉心が、突然暴走してしまったのだ。この二年、ゲッター線の照射量は減少を続けている。もう、真ゲッターロボを起動させる為のゲッター線採取は不可能と思われていた。
今回の実験も、「動いたら儲けモノ」程度の気持ちで、竜馬が提案し、軽いノリのまま実験となったのだ。
今、真ゲッターは格納庫の床を溶解し、そのまま僅かずつ地中に沈降を続けている。現在、地中二百メートルの位置にあった。
観測カメラに映る真ゲッターロボは、白く鈍く輝いている。観測されているゲッター線の数値は、過去最大を記録していた。今、真ゲッターロボのエネルギー充填率は三百パーセントに達している。
その過剰なゲッター線の中にあって、未だに流 竜馬が生きていることが、すでに奇跡と言っていいレベルの話なのだ。
多分、ゲッター線の申し子、と言われる竜馬だから、今の状態であっても、その存在を保っていられるのだろうと隼人は考えている。ゲッター線研究者としては、すでに早乙女博士に迫る、とさえ言われる隼人だが、ゲッター線自体を一番理解しているかと言われれば、首を横に振るだろう。
流 竜馬という男は、この世界の誰より、ゲッター線を理解している。その存在の本質を。隼人と、そしてゲッターチームの車 弁慶には、その事がよくわかっている。
二人は口に出してはいないが、こう思っていた。
流 竜馬は、ゲッター線に選ばれた人間なのだ、と。
『まずいな、ハヤトよ』
隼人が作った試作ゲッターロボに乗る車 弁慶から通信が入る。彼が乗るゲッターロボは、ゲッター炉を動力源にせず、プラズマリアクターを使用した試作品だ。八割ほどの完成度だが、変形しなければ問題ないというテストパイロットの弁慶の言により、出撃していた。
「あぁ、わかっている・・・・・・」
地球連邦政府から、今回の真ゲッターロボの暴走に対して、通告があったのが昨日。
10月26日正午までに、暴走が収まらなかったら速やかに、真ゲッターロボを破壊せよ。それが通告の内容だった。大怪球で世界が大パニックであるにも関わらず、旧αナンバーズを過剰に恐れる現政府は、早乙女博士の意見も聞かず、臨時議会で決定してしまった。
あと六時間程で、この状況を劇的に解決できるだろうか・・・・・・ 近づくこともままならない今の状況では、その可能性はゼロに等しい。
早乙女研究所の周囲を囲むように、日本地区が誇る特機が配置されている。グレートマジンガー、鋼鉄ジーグ、エヴァンゲリオン零号機改、同弐号機。そして、GGGの誇る勇者ロボ、炎竜、氷竜。ビックボルフォック。
彼らは真ゲッターを破壊する為に、待機しているのだ。皆、隼人と弁慶を信じて、時間ギリギリまで待ってくれている。本心から真ゲッターを破壊したいと思っている者は一人もいないだろう。
しかし、彼らもまた、焦っている。
本来なら、彼らも、もうすぐ発動する『超電磁ネットワイヤー作戦』に参加するはずだったのだ。
作戦に参加するαナンバーズの仲間たちは、自分達がここで待機となってしまった為に、さらに少ない戦力で、作戦に望まなくてはいけなくなったのだ。
特にエヴァのパイロットの少女二名は、今この時も焦燥感に駆られる自分を必死に自制している。
隼人にはそれが痛いほどわかった。
本来、超電磁ネットワイヤー作戦には三機のエヴァンゲリオンを使い、大怪球を押さえ込むことが組み込まれていたのだ。
それをエヴァンゲリオン初号機のみで行うことになった時、弐号機パイロット、惣流=アスカ=ラングレーと零号機改のパイロット、綾波レイの反抗は凄まじかった。今の二人には碇シンジ以上に大事なモノはないのだから。
それを笑顔で勇めて、死地に向かったシンジ。その事を思うだけで隼人も歯がきしむほど、奥歯をかみ締める悔しさを感じる。
自分の無力をこれほど感じたことはない。今までの自分の研究は何だったのだと自責する。
『隼人くん、弁慶くん、始まったぞ!!』
早乙女博士の声で我に返る隼人。ゲッターロボGのゲッター炉の運転を完全停止、だがそれでもこの機体にも暴走寸前のエネルギーがあふれている。その増加は緩やかだが止まらない。
浅間山を望む早乙女研究所の威容が、内部から崩れていくのがわかった。六輪バギーで研究所から退避する早乙女博士とその娘のミチル、二人とも過剰ゲッター線に備える為に、大袈裟ともいえる防護服に身を包んでいた。ギリギリまでオーダールームにいた彼らだが、もう限界だった。なぜなら・・・・・・
崩れていく早乙女研究所から十数体の、人型のロボットが現れた。
真ゲッターロボの暴走により、廃棄していた試作ゲッターロボの数々が、動き出したのだ。装甲もろくについていない、骨組みだけのモノから、完成間近の機体まで、操縦者もなくただ動いている、その様はロボットというより、巨大な物の怪のようだった。
ゲッタービームの試作に使ったらしい機体が、四方八方にビームを撃ちまくる。ゲッター2の試作らしい機体がドリルを回転させ、こちらにゆっくりと近づいてくる。
廃棄ゲッターの暴走は、昨日の時点で予想できていた。隼人が今、ゲッターGに乗っているのも、このままだと、この機体も暴走する可能性があったので、直に制御する為だったからだ。
『隼人! こいつら!!』
「お前達は、手を出すな!!」
グレートマジンガーのパイロットである剣 鉄也からの通信。だが、その先は言わせず、隼人はゲッタードラゴンをそのままその廃棄ゲッターロボに向かわせる。
ダブルトマホークで、まずゲッター2のアーキタイプらしいロボットを両断する。炉心停止状態でこのパワー、すでにこの機体もいつ暴走するかわからない。だが・・・・・・
「これくらい御せんで、何がゲッターチームだ!」
いつになく熱くなる隼人。自身に対する怒りをぶつけるように廃棄ゲッターを次々と葬っていく。
だが浅間山周辺にいる誰も気づいていなかった。
廃棄ゲッターの暴走が起きた時間、それは『超電磁ネットワイヤー作戦』の開始時刻だった。
「これより、『超電磁ネットワイヤー作戦』を開始します」
国際警察機構本部の置かれた、『南の梁山泊』。この作戦の総指揮を任された呉学人は緊張した面持ちで、手に持った扇子をパチンと畳む。
その音が合図になったように、作戦司令部内の様々な計器、モニターが活動を開始する。
正面大モニターには、黄海上空に浮かぶ大怪球が浮かんでいる。数時間前、北京を破壊した
大怪球はその進路を日本地区の東京に向けた。
この作戦が失敗に終わったら太平洋に抜けた大怪球を止める術は無い。そうなった時は最終手段、九大天王『静かなる中条』によるビックバン・パンチを使用することになっていた。
すべてを破壊する、とまで言われるビックバン・パンチ、それでも破壊できなかった場合は、太平洋上でのバスターマシンによる最終迎撃、となっている。ガンバスターによる迎撃、そうなった場合、地球上、とくに太平洋沿岸都市には多大な影響が出ると予想されている。最悪、地軸すらずれる、との試算すら出ていた。
国際警察機構、いやこの最悪の襲撃におびえる人類の願いを込め、『超電磁ネットワイヤー』作戦は開始された。
『さぁ、いくぜ、一矢!』
『おぉ! ダイモスのパワー見せてやる!』
通信機に入るこの作戦に参加する二機の特機のパイロットの声、ダイモスのパイロットの竜崎一矢とは面識はないが、ファイナル・ダンクーガのメインパイロットの藤原忍の声は相変わらずだ。
大作は今、ロボの左目の中にいる。これからの攻撃に備えるために急造された、簡易コックピットだ。
コックピット、と言ってもあるのは通信機と小さなモニター、それと磔をおもわせる拘束装置のみ。ロボの左目の中をくりぬいたような状態なので、完全有視界となっている。
その拘束装置に身体を固定した大作。モニターには、現在の大怪球ビック=ファイヤの現在位置が映し出されている。朝鮮半島上空を通過中。対馬にいる獣戦機隊の乗機ファイナル・ダンクーガが行動を開始した。
『やぁぁぁぁぁってやるぜっ!!』
藤原忍お決まりの咆哮がとどろいた。
作戦第一段階。
対馬北端、そこに立つファイナル・ダンクーガ。その巨人の手には、巨大な黒い筒のようなモノが握られていた。
これこそ、この作戦の要となる、超電磁ワイヤー発生装置。南原コネクションが主導になり、世界の頭脳が一同に介し造り上げた叡智の結晶。
ダンクーガのエネルギーを起動に使い、発生させる超磁力のビームが、ここから百キロ離れた大怪球に放たれた。
朝鮮半島を超え、日本列島に向かう大怪球に、そのビームの奔流が衝突する。
大怪球が、活動開始後、その移動速度に減少を見せた。国際警察機構のエージェントが、大怪球が通った後に、磁力線にだけは何の影響もなかったことに気づいたことにより、立案されたこの計画。
第一段階、大磁力のエネルギーによって大怪球の行動を阻む、は何とか成功したようだ。
だが、問題もあった。
シールドにシールドを重ねたが、コンバトラーVが何機も寄って集ったような大磁力は、ファイナル・ダンクーガの機体各所に、ダメージを蓄積させていく。
高周波治療器を数十個つけられたような痺れが、各パイロットの肉体を襲っている。本来、二機の特機でやるはずだったこの第一段階を、単機で行っているツケが、獣戦機隊の五人のパイロットに襲い掛かっていた。
「くぅぅぅ! てめえら、負けんじゃねぇぞ!」
忍の檄に応えられたのは、アラン=イゴールと、司馬 亮の二人だけ。式部雅人と結城沙羅の二人は、操縦桿を握っているだけで精一杯という有様だった。
磁力ビームの影響か、内臓火器が収納されている場所から火花と小爆発が置き始めている。
そして、ついに大怪球ビック=ファイヤの進路が、徐々に北にずれ始めていた。
「くっ・・・・・・ ふ、藤原、もってあと、三分ってところだ・・・・・・」
アランの報告に、忍はともすれば消えそうになる意識を必死に抑え付けて、歯を食いしばる。
「た、たのんだぞ!! 一矢!!」
「おぉ! ダイモライト、フルパワー!!」
竜崎一矢の絶叫が響く。
作戦第二段階。
能登半島北端に待機していたダイモス。その手は、ダンクーガが持っていた磁力ビーム発射装置をさらに大型にいた装置が。その装置とダイモスは一体化しており、装置自体も地面に固定されていた。
「お兄ちゃん、しっかり狙ってよ!」
安全圏である五キロ離れた場所に控える和泉ナナの声援。一矢の親友である夕月京四郎も傍にいるはずだ。
この作戦のために備え付けられた特別モニターに映るのは、視界のはるか先にいる、巨悪、大怪球。
今、ダイモスの手が、この発射装置のトリガーを押そうとした時だった。
突然ダイモスの周囲に、無数の人影が出現した。ナナと京四郎が待機する指揮車の周りにも、謎の人影が、突然、出現した。
「故人曰く・・・・・・」
驚くナナを背後に庇い、京四郎は背中の剣を抜刀。覆面をした黒ずくめの侵入者、BF団の下級戦闘員が両断される。
「備えあれば、憂いなし、ってな。先生方、出番だぜ!!」
京四郎の声を合図に、沸きあがる無数の影、影、影。
国際警察機構のエキスパートたちが、BF団のエージェントを殲滅する為に動き出した。
ダイモスに近づこうとする戦闘員たちも、周通、解珍、解宝ら国際警察機構選りすぐりのエキスパート達が次々と倒していく。
「いくぜぇ! 大怪球!!」
一矢の咆哮と共に、放たれた磁力ビーム第二弾。
遥か彼方、大怪球に向かい、そして命中。すでに大怪球を被っている磁力光線に合流する。
その時、大怪球の移動速度が目に見えて急上昇した。
いま、大怪球を被っている磁力線がプラスの属性を持つとすれば、ダイモスから放たれた磁力光線はマイナスの属性を持っていた。
大怪球は、しごく単純な物理法則によって、能登半島に急速に引き寄せられていく。その速度はすぐに音速を突破していた。
「く、くぅ・・・・・・ は、早く来い! 大怪球!!」
照射一分で、すでにダイモスのコックピットの中は異常を示すアラートが鳴り響いていた。
しかも、この磁力光線発射装置は、ダンクーガが使用している物より出力が五割増しになっていた。超人的体力を持つ一矢でも、意識を保つだけで精一杯の状況だ。
だが、ここで自分が倒れては、獣戦機隊にも、自分を信じてこの場を託してくれた仲間にも、そして自分を信じて待つシンジにも顔向けて出来ない。
「踏ん張れ、ダイモス!! ここが正念場だ!!」
一矢の気合が能登半島に轟く。
『はじまったみたいだね・・・・・・』
通信機に入ったシンジの声は、静かに、澄んでいた。緊張も気負いも感じられない。大作も先ほどから何度も、焦る気持ちを、彼の声によって静められていた。
今、佐渡は戦場になっていた。
BF団はこの場に、切り札ともいえる十傑集、『素晴らしきヒッツカラルド』『直系の怒鬼』『暮れなずむ幽鬼』の三人、そして戦闘集団『血風連』を投入してきた。
迎え撃つ、国際警察機構も九大天王『影丸』『ディック牧』『大あばれ天童』の三人のほか、梁山泊の指南、花栄と黄信ほか、選りすぐりのエキスパートを配置し、この決戦の地の防衛に当たっている。
二人がいる山頂は静かなままだが、その静寂を守るために、仲間が死力を尽くしていると思うと、大作は歯噛みをする思いになる。
しかも、この作戦、成功しても命の保障がない。ロボが大怪球の破壊に成功したとしても、その破壊の余波がどこまで及ぶか、試算すら立っていないのだ。
佐渡島だけじゃなく、日本海沿岸都市部全てに避難命令が出ているのは、その為だった。
佐渡島消失、となったら、敵も味方も無事ではすまないはず。
これは、まさに死戦なのだ。
『第二段階成功、第三段階、準備開始。いくよ、大作くん』
カウントが始まった。作戦開始一分前。
『ねぇ、大作くん』
普段通りの平静な声で、シンジが言う。
「は、はい」
『この作戦終わったら、家に遊びにこない? 今、アスカとレイと一緒に住んでるんだ』
この場面で、この誘い。大作は驚いて、なんて返せばいいかわからなくなってしまったが、シンジは続ける。
『僕、いま紅茶淹れるのに凝ってるんだ。レイもケーキ作るの好きだし。カトル君も呼んでもいいかもね。どうかな?』
この作戦の後のことを言われても・・・・・・ と戸惑う大作だが、すぐにシンジの好意に気づいた。彼は言外に死ぬな、と励ましてくれているのだ。自分の命の保障すらないこの時に。
「はい、お伺いします!」
大作の中から、緊張とか恐怖とか余計な感情が完全に晴れた。
音速を遥かに超えたスピードでこの佐渡島に接近する物体を探知、来た、諸悪の根源、大怪球ビック=ファイア!
激突の瞬間が迫っていた。
同時刻、浅間山山麓。
「な、なんだこのエネルギーは!?」
隼人は目の前の光景に飲み込まれそうになるのを、必死にこらえていた。
『ゲッター線指数、999って、おい隼人!!』
ゲッター線指数999、が意味するもの。それは真ゲッターのエネルギーによって計測が不能な領域に達したということだ。
先ほどまで無分別に動いていた廃棄ゲッターロボをスクラップにしていた隼人操るゲッタードラゴン。
だが、つい一分ほど前、とつぜん廃棄ゲッターロボの動きが止まったのだ。そして、ゲッタードラゴンも。
その瞬間、早乙女研究所は突然、太陽がその場に出現したかのような眩い光に包まれた。
光は、徐々に広がっていく。その光は廃棄ゲッターロボを飲み込み吸収し始めていた。
光の中に陽炎のように揺らめく影、真ゲッターロボが何とか視認できる。その真ゲッターロボに、廃棄ゲッターロボが吸収されているように隼人には見えた。
「な、なにが起こっているんだ!!」
その光の中に、ゲッタードラゴンもジリジリとだが引き寄せられている。弁慶の試作ゲッターロボが何とかそれを抑えていた。
-ゲッターは・・・・・・ ゆるさない・・・・・・-
焦る隼人の耳に、いや心の中に響いた声。流 竜馬の声、いや、これは真ゲッターロボの声か?
-ゲッターは、その、存在をゆるさない・・・・・・ だから、いく・・・・・・-
『い、いくってどこにだよ、おい!!』
弁慶にも同じ声が聞こえているらしい。
隼人は、直感的に感じていた。この時、この瞬間のために、真ゲッターロボは力を貯めていたのだと。
そこへ向かう為に。わかってきた、真ゲッターロボが、ゲッター線が何を望んでいるのか。
『隼人、弁慶! 何がどうなってるのよ!? みんな、気絶しちゃったわよ!!』
金切り声の通信が入る。アスカにはわからないのが、今の隼人にはわからなかった。今、ゲッター線に包まれている自分には、あらゆることが全てが理解できた。
ゲッター線の過剰摂取により、周りにいる人間は気絶してしまった。勇者ロボでさえ、ゲッター線の影響で活動不能になっている。しかしエヴァンゲリオンはATフィールドを展開し、ゲッター線を遮った。だから、この場で意識があるのは隼人と弁慶の他は、エヴァのパイロットの二人だけだろう。
「心配するな、アスカ、レイ」
『ちょっと、旅に出るだけだ』
弁慶の声も先ほどとは違い、穏やかなものになっている。彼もわかったのだろう、ゲッターの意思が。
『旅ぃ! な、なに暢気なこと言ってるのよアンタ達!』
アスカの声が聞こえなく、いや気にならなくなっていた。
そうだ、行くのだ。その世界に。
人類を救う為に。
ゲッター線は、人類の守護者なのだから。
作戦第二段階は最終段階を迎えていた。
この場所に誘引されている大怪球。このままではダイモスに衝突することになる。一矢の気持ちとしては、このまま蹴り飛ばしたいところだが、大怪球が十キロ圏内に侵入したら、常時展開しているエネルギー吸収フィールドに寄って、稼動停止に陥ってしまう。だから・・・・・・
「エネルギーカット!!」
藤原忍が、絶叫と共に、全機能を停止させるボタンを押した。ファイナル・ダンクーガは出来の悪いオモチャのように、五機の獣戦機がバラバラになる。
「だ、大作、シンジぃ・・・・・・ あとは、まかせたぜ・・・・・・」
忍はそう言うと、抗いがたい闇の中に意識を沈ませていった。
対馬からの磁力光線が途絶えた。
「いっけぇ~~~~~~!!」
いま、大怪球はダイモスが持つ発生装置からの光線だけで引っ張られている。ダイモスは固定していた磁力光線発生装置を地面から引き剥がした。
「うぉりゃ~~~~!!」
そのままゆっくりと横に振られる発生装置。その光線の先にある大怪球も、なんとその勢いにのって軌道を変えていた。
今、ダイモスが持っている発生装置から発射されているビームは先ほどまで違う、吸引製のトラクタービームのような性質を付加されていた。
ハンマー投げのハンマーのような状態の大怪球は、大雑把ながら計算された軌道を見事に取って、進路を変えた。
最終決戦地、佐渡島へ。
「シンジ、頑張れよ・・・・・・ ジャイアント・ロボ、後は・・・・・・」
最後の力を使い果たした竜崎一矢、そしてダイモスも崩れ落ち動かなくなる。
大怪球は今、マッハ5のスピードで、佐渡島へ向かっている。作戦は最終段階に入る。
「ロボ、いくぞ!!」
大作の声に呼応するように、ロボのエネルギー値が急上昇していく。いま、ジャイアント・ロボは白く輝いているはずだ。
その場にあるだけで、地面が溶けて陥没していく。
今のジャイアント・ロボのエネルギー量は、かっての十倍にまでパワーアップされていた。
エネルギー吸収フィールドは、一瞬でエネルギーを吸収しているわけではない。その吸収能力が凄まじいので、一瞬ですべて吸い取られたようにみえるが、前回、ロボが大怪球に挑んだ時に、フィールド突入から動かなくなるまで0.8秒かかっていた。
なら、十倍のエネルギー量なら動かなくなるまで八秒。その八秒の間に、ジャイアント・ロボの最大の一撃を叩き込む、これがこの作戦の最終段階であった。
シンジの役目はATフィールドによって、佐渡島島内に大怪球をとどめること。エヴァ初号機のATフィールドの網にかかった瞬間が攻撃開始の合図になっている。
ジャイアント・ロボが背中のロケットにより急上昇していく。このまま上空一万メートルまで上昇し、そして反転、最初にして最後の攻撃に入る。
刻は迫っていた。
「フィールド全開!!!」
二年ぶりに乗るエヴァンゲリオン。半年に一度ほど、簡単なシンクロテストは行っていたが、動かすのはあの霊帝との最終決戦以来だ。
現連邦政府内ではエヴァンゲリオン初号機は特に危険視されており、封印指定すら受けていたのだ。シンジ自身、二度と乗れるとは思っていなかった。
久しぶりのエントリープラグ、LCLの中、シンジは自分でも不思議なくらい、落ち着いていた。
シンジは、この作戦に入る前、エヴァに乗り込んだとき、言葉にできない何かを感じていだ。それは母、ユイのようであり、それ以上の大きな何かのような、不思議な何か。
それに導かれている、その思いが今の最高の状態を作っているのだろう。
視認した次の瞬間には、大怪球は、シンジの目の前、といっていい場所まで飛来していた。
エヴァから放たれた過去最高とも思える大出力ATフィールドが、その巨大な球を受け止めた。
あたりに凄まじい衝撃が余波として広がる、エヴァも一キロほどその勢いで地面を削り後退した。
だが、シンジは最大の難関、大怪球の捕縛に成功した。
『うわぁぁぁぁあぁああああああぁ!!!!』
エヴァを操るシンジに、どれくらいのダメージがあるのか、わからない。今の絶叫は悲鳴なのかもしれない。
だけど、シンジはやってくれた。いま、自分のほぼ真下に、大怪球ビック=ファイアがいる。
深く息を吸い込む、そして思いのたけを言葉に乗せる。
「ロボ!! あいつをやっつけるぞ!!」
上空一万メートル、ジャイアント=ロボが非常識な大加速をかけ、降下していく。
「ちょっと、マズイわよ、これ~~!」
今、アスカの前に広がるのは、鈍く光る白色の光の壁。動けない仲間を抱え引きずってジリジリ後退している。
隼人も弁慶も妙なこと口走ったあと、何の連絡もよこさない。これはマズイと本能的に感じ、いつでも逃げ出せるように構えていると・・・・・・
『アスカ、何か聞こえない?』
少し離れたところでビック・ボルフォックと鋼鉄ジーグを抱えているエヴァンゲリオン零号機改にのる綾波レイから通信。ちなみにアスカの弐号機は、グレートマジンガーと超竜神を引きずっている。
「え、アンタも何いって・・・・・・」
と言い返そうとしたアスカだが、その時、アスカの耳にも何か届いた。言葉ではなく、思いのような、説明できない何かが。
「これ、シンジ・・・・・・?」
何気なく、動く首。向いた方向には浅間山があるだけで、何も見えない。だけど、この先にはたしか佐渡島が。
そして天空から空を裂くかのような勢いで降下してくる物体が。あれは多分ジャイアント=ロボだろう。作戦は最終段階に入ったみたいだ。
あと三秒もしない間に、決着はつくはず。
思わず、息を呑んだアスカだが、すぐにあることに気づき、再び首をめぐらした。
「え!?」
『・・・・・・な、なに?』
レイも気づいたようだ。そう、さっきまで間際にあった白い光が消えていた。そこにあるのは、廃墟と化した早乙女研究所だけ。真ゲッターロボもゲッタードラゴンもネオ・ゲッターロボも、廃棄ゲッターロボの残骸すら残っていない。
「どういう、ことよ・・・・・・」
その時、凄まじい光が世界を照らした。慌ててまた、その方向にむく。さっきまで見ていた場所と同じ、あれは佐渡島のある辺り・・・・・・
光は一秒もない時間ですぐに消えた。
「シンジは、無事、なの・・・・・・?」
アスカの心から毀れたような問いに、答えられる者はいなかった。
大作の頭から時間の感覚が消えた。
身体が中からバラバラになりそうなほどの加速、だが目は、意識は大怪球を捉えている。
ロボが右腕を振りかぶる。この一撃のために今までがあったのだ。
エネルギーは急速に減少しているが、関係ない。一撃、一撃分のエネルギーが残ればいい!
「いっけぇ~~~~~~~、ロボォォォォ!!」
自分の中の全ての思いを乗せ、ロボが大怪球にパンチを叩き込んだ!!
その時だった。
白が世界を包んだ。鈍く、淡く、だけど眩しい、例えようのない光。
それが大作の意識に残った最後の光景だった。
1998年 12月
横浜ハイヴが謎の消失
ハイヴ跡に生じた巨大クレーターの中から、生存者二名が発見される。
生存者氏名 『白銀 武』 『鑑 純夏』
そして世界は、新たな歴史を刻み始める。