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[19155] 「ネタ」何故私はSSを書いているのでしょう?
Name: REN◆334bc6ef ID:453970ff
Date: 2010/05/28 21:39
 
 答えは貴方だけが持つことになるでしょう。明快な答えは用意していないし、作る必要もないと考えています。それでも敢えて言わせて頂くなら、理想郷は自分しか作れないし、他人にとってその理想郷は砂糖でもあり毒でもあるということです。


 

 何故私はSSを書いているのでしょう?
 





 梨草京(なしぐさ みやこ)は家に帰るとPCの電源をつけた。最新型のノートパソコン。カラーはピンク。普通にインターネットを楽しむ分には全く不満のないスペック。
 京は学習机にある黒いふちの眼鏡を手に取って今付けているスマートな赤いふちの眼鏡と取り換えた。黒いふちの眼鏡は大きな丸眼鏡だ。高校へはとても付けていけないくらい、それは滑稽なデザインだった。
 パソコンが立ち上がると御馴染のネズミキャラクターが京を出迎えた。
 マウスですぐにIEを開き、お気に入りからあるホームページに飛ぶ。そこは巨大なSS投稿サイトだった。このサイトに、京はSSを投稿していた。
 カチカチとクリック音を何度か鳴らすと、彼女の作品の感想へ辿り着いた。彼女の作品――タイトル・瑠璃色の花――はそこそこ高評価を得ているようだった。内容はFateを女性目線で書き綴っていくものだ。確かに、彼女のSSからは女性独特の繊細かつ現実的な言い回しや表現が伺えた。
「今日は感想8つか」
 少しだけ不満そうに京は書かれた8つの感想を読み込んでいく。1つは荒らしで、7つはキチンとした感想だった。
 荒らしはスル―して、7つに返事を書きはじめる。SSを書いている時より、感想に返事を書く方が京にとっては至福の時間だった。
 自分の作品を見てくれている評価してくれている――初めて書いた時、これがどれほど嬉しかったか。少しだけ京は書きたての頃に思いを馳せる。
 こんなネット回線を通じて、しかも匿名で、成り済ますことも可能なのに、感想と言うものは不思議と京を幸福感や満足感の高みへと羽ばたかせてくれていた。もはや、感想のためにSSを投稿していると言っても過言ではない。
「お……」
 少しだけ京の声が弾んだ。
 感想の中に、こちらに質問する類のものがあったのだ。『シャープ(京のハンドルネーム)さんはFateの誰が一番好きですか?』というもの。
 ありふれた内容なのだが、京にとってはベストに近い感想だった。
 彼女は高校に少しだけ辟易していた。彼女の通っている高校にはオタクがいない。いや、正しく言えばオタク友達がいないのだ。
 京にも友達と呼べるグループはいる。しかし、その会話にどこかベクトルがずれているような、もどかしい気持ちを京は抱いていた。少なくとも会話が終わったあと、京は満足などしていなかった。
 日頃喋りたくても喋れない――そんな積もった想いを吐き出せる場所がこのサイトであり感想板なのだ。初め書くときに持っていた、人を楽しませよう――そういう意図からは少しずれていることは否めないが。
 うきうきと京は感想板に返事を書きこんでいく。少し長い文になってしまっていても、気にしない。
 返事を返し終わると、京は過去の感想を見返し始めた。最初から最後までじっくりと読みなおすと、更新をクリック。新たに感想がないか確認。
「まあ、こんなもんかな」
 京はこのサイトを最小化した。そのあと、デスクトップの片隅にあるメモ帳をダブルクリック。すると、そこには『瑠璃色の花』が書かれていた。
「うーん、ほんとどうしよう……」
 眉を寄せて、京は唸った。
 『瑠璃色の花』にプロットはなかった。思いつきで始めて、何とか一通り終わりを迎える体裁を整えたのだが、続けてくれと言う感想たちに背中をぐいぐい押されて、現在続編を書いている途中だ。
「ああっ、もうっ……」
 頭をくしゃくしゃと掻き毟った。京は感想が欲しいがために無理なシリアスや、恋の話などを蒸気機関車に入れる石炭のようにありったけくべてきた。もうストーリーも原作準拠ではなくなっているし、展開は詰まっているし、オリジナルキャラクターも飽和気味になっている。
 それでも京は何とかキーボードを走らせた。まるで泥土の中をもがいているような文字が真っ白な空白を頼りなさそうに埋めていく。
 だがそれも7行を超えてきたところで限界だった。そのまま5分が経過しても、空白の大地を一歩も歩めなかった。代わりに歩んだと言えば、「書き続ける」という茨の道だった。
「休憩!」
 そう言って、京は最小化にしてあったウィンドウを元に戻して、さらに戻るをクリック。彼女以外に投稿されたSSが大量に並んでいた。
(気分転換にでも見ようかな)
 京はそう思っていくつかクリックしていく。大抵はいま流行り(なのかは分からないけど)のクロス物だった。違うゲームと違うゲームをクロスするというヤツだ。
 クリック、戻る。クリック、戻る。その繰り返し。
 残念ながら彼女の興味の惹きそうなものは見つからない。
 もうニ○ニ○動画でも見よっかなー……と、呟いた時、一つの作品が彼女の眼に飛び込んできた。
「黄昏に咲く一輪の花ぁ? オリ主×なのは×恋姫×禁書×エヴァ×ネギま×Fate×ハンターハンター×ナルト×ゼロ魔ァ!?」
 滅茶苦茶すぎるよ、と驚きつつもそこにある強烈な牽引力に、彼女は一握りの期待を持って黄昏に咲く一輪の花を開いてみた。
「……………………………………………………」
 絶句、という表現が一番似合っていた。
 全てが狂っていた。起承転結を鼻で笑い、ストーリーを足蹴にして、ゲームキャラクターを使い捨てにした過去見た中でも最悪の作品だった。
 だが――――。
 彼女の眼はその狂気染みた真っ黒なブラックホールの中に、一つだけ光り輝くものを見ていた。
「楽しそうだなぁ」
 確かにこの『黄昏に咲く一輪の花』という作品は滅茶苦茶だ。それは間違いない。しかし、この文章からは作者の楽しさが伝わってくるのだ。楽しく、悩むことなく書いたのだろうなと簡単に京は想像できた。
「はぁ……感想のために書いてる人と自分のために書いてる人……いや、正しくは感想に左右される人と、感想に左右されない人、かな」
(……感想のためにストーリーに起伏をつけバトルをして恋をして――)
 少しだけ憂いを帯びた表情で、京は黄昏を眺める。見れば見るほど迷作だ。感想も大荒れしている。
「あーあ」
 ほんの僅かだけ、羨ましそうに京はウィンドウを閉じた。後ろに隠れていたメモ帳が姿を現す。
 京はキーボードを走らせた。内容は――――笑ってしまうほど陳腐だった。無理矢理終わらせたという感じが浮き彫りになっていた。京自身も自覚していた。
 しかし、黒のタッチは一度たりとも止まることはなかった。真っ白なキャンパスに描かれていく黒は、澱みなく躊躇いなく、不細工に微笑むモナリザを作り出していたのだった。







終わり


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