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[19334] 『平穏』を求めて(転生・現実→魔法少女リリカルなのは)【鬱展開注意!】(旧名:魔に導かれ師)(チラ裏からきました)
Name: ゐを◆0c67e403 ID:7e265e7f
Date: 2010/06/19 23:10
ここでは初めまして、ゐをです。
処女作です、どうか宜しくお願いします。


当作品は現実世界からリリカルなのはへの転生物です。
どうかよろしくおねがいします。


注意書き
・無印、Asすっ飛ばします。
・処女作です。
・最初の方はオリキャラ大勢出ます。原作キャラは後半に出てくると思います。
・男主人公です。
・鬱展開になるので注意してください。
・チラ裏から転移してきました。



他にも注意書きにコレ足りないよ、と思った方は申し出てください。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 起きたらそこは地獄だった。
 見えない、見えない。怖い。
 普通に暮らしていただけだったのに、テロに巻き込まれて、そのまま死んだ。

 ただ巻き込まれただけだった。
 テロの爆発によって天井が崩れて足が挟まって動けなくなった。
 いくら叫んでも叫んでも誰も助けてくれない。神に祈った、仏に助けてと叫んだ、ご都合主義でもいいから、でも現実はいつも無情だ。
 そのまま体が瓦礫に埋もれて身動きが取れない状態で、また天井が落ちてくるのが見えた。
 それはまさに俺の命を奪う――


 


 そのまま多分、俺は瓦礫に頭から潰されて死んだのだと思う。

 たださ、たださ、これってどういうことだ、おい!!

「おぎゃー」
「あなた、生まれましたよ」
「おおっ! よく頑張ったな、フルン!」

 赤ん坊に転生って、どんなテンプレ展開だよ!!
 旧名≪佐藤芳樹≫、新しく名付けられた名は≪オージン≫。転生しちゃいました。てへっ☆
 って、笑えるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!


続く……



[19334] 第一話 転生しちゃいました☆
Name: ゐを◆0c67e403 ID:7e265e7f
Date: 2010/06/19 22:56
 えー、俺の名はオージンと申します。……呼びにくッ!
 自分の名前の割にものすごく呼びにくい! マジで呼びにくいよ、この名前! と自分の名前に四苦八苦していたり。

 と、まあそういうわけでして転生しました俺ことオージンです。
 前世は普通の名前だったのに今世は独特なネーミングだな、オイ。それともこの世界じゃこんなのがスタンダードなのかな。

 私、前世の記憶を持っておりますが、ここは俺の知る世界ではなく――

「ほら高い高い」
『high high』
「ばぶぅ」

 魔法で現在高い高いされてます。いや、結構楽しいよ、これ。
 てかそこのデバイス。高い高いだからって魔法名が『high high』てどういうことよ? 安直すぎるだろ。てか、その名前だと別の名になっちゃう気がするよ。因みに俺はもうそれができます。
 他の赤ん坊よりはそれが早くできるんだよ、俺。

 ……まあ、うん、分かるよね。魔法のある異世界に来ちゃいました。
 しかも母さん、それデバイスだよね。明らかに。てことは『リリカルなのは』かよ。

 いや、知ってるんだけどさ。一応オタクだったから知ってたんだけどさ。
 俺、原作知らないのよ。リリカルなのはの二次創作しか見たことないな、って感じなのよ。なのに転生って、神様出てこい、この野郎!!

 まあぶっちゃけどうでもいいわ。
 どう見ても明らかにこの世界、異世界だし。別次元だし。

 つまり次元震だとかに巻き込まれない限りは無印やAsには関わりゃしないだろう。
 関わるとしても多分StS編くらいからだろうな。

 あれ? これフラグやばくね?
 親が地球の海鳴市に移住フラグか? それとも次元震フラグか? はたまたすっげぇ才能あるから誘拐フラグで改造フラグなのか!?
 ヤバい! ヤバすぎるぞ、この世界!!







 てな風に思っていたけれどもぶっちゃけそんなことはなかったぜ。
 いや、まだ安心できないんだどけさ。

 六歳にまで成長しました。
 前世の記憶があるからチート!てな感じですると親に不気味がられてしまうからという理由で自重しようとしましたが、ここの言語明らかに難しくて逆に頭悪い子フラグされちゃいました。ここの言語覚えるのに必死だったんだよね、俺。

 しかも魔法式も無茶苦茶難しいし。暗記できるけど計算無理だな、コレ!

 ……ちくせうっ

 因みにここは第12管理世界らしい。そんでもって俺はその世界にある一族≪ギルマン一族≫ってのに生まれてきたみたいだ。
 まあ分かりやすくいうとスクライア一族とかル・ルシエ一族とかみたいなもんだと考えてくれれば分かりやすいと思う。
 
 因みに年歴とか分からん。
 一応新聞とかあるんだけど会話だけでも四苦八苦してんのに、文字とか無理だよ。無理。
 まあ写真だけで何とか理解しようとしたけども無理だったよ(笑)

 そういうわけでして現在は村の子供と遊んでます。
 大人だった経験があるのに子供と遊べるか!? と思ってたんだけど意外と童心に帰れるもんなんだね。てな感じで子供たちと遊んでいました。因みに魔法使いごっこをやっていました。
 マジで魔法使える人もいたんだけどね。

 え? 俺?
 

 リンカーコアなしだってよ……。普通ここはさ、リンカーコアあるもんじゃないの? とは思うけれど俺が望むのは平穏なんでなしでよかったとも思う。
 あったとしたらまず間違いなく原作に巻き込まれるね。
 それに俺自身、ご都合主義とかそんなのあんまり好きじゃないし。

 ハッピーエンドにしてやるぜぇ、だとかなのはを嫁にしてやるぜぇ、とかフェイト・はやてを救ってやる!てな感じに思ってしまうことはあるんだけどさ。
 会ったこともない人を幸せにしてやる、だとか嫁にしてやるだとか、実際そうは思わないんだよね。うん、残念なんだけど現実なんだよ、ここが。
 原作見ただけだし、んなもんぶっちゃけニュース見て、ああ酷いな、くらいしか感情湧かないよ。
 それになんていうかそんなのはさ、現実に彼女らじゃなくて原作の彼女らを見ているだけとしてか思えないんだよね。だからあんまりそういうの好きじゃないんだよ。うん。
 それに俺が関わったせいで原作が変わっても困るんだよね。いや、良い方向に変わるんなら大丈夫なんだけどさ、逆に悪い方向にでも変わったら俺の罪悪感が半端なくヤバくなるし。
 もしかすると『リリカルなのは』じゃなくて『とらハ』なのかもしれない……それはないか。 

 それに関わったところでリンカーコアなしの俺にできることはない!! 
 だから安心して原作と無関係でいられるってもんだぜ!!(キラッ)
 


 うん、そうなんだ。怖いの嫌いなだけなんだよ、ただ。
 ぶっちゃけ前世が前世だからさ。死の恐怖ってのに実感があるだけなんよ。そんなわけで死に対してトラウマがあるんです、俺。
 だからこそ関わりたくないんだよ! 関わったらきっと死亡フラグ満載だしねっ☆

 ごめん、きもかった。自分で言っておいてなんだけど吐いてます。

「どうしたの? オーちゃん」
「あ、うん。なんでもないよ。ファナム」

 ぶっちゃけ吐いておいてなんだけどなんとか誤魔化すことに成功した。
 いや、相手が子供でよかった。子供だからこそなんとか誤魔化せたんだけど。
 そんなわけでしてギルマン一族の子供たちで遊び中なのです。
 へへ、童心に帰っておりますぜ、旦那。

「タッチ!!」
「うお、オージン! 強ッ!」

 そんなわけでして現在タッチフット中。
 前世では体育の授業でやったな、これ。結構楽しいんだよ、タッチフット。

 あ、因みにこれ俺が教えた奴ね。さすがに異世界にタッチフットなんてないよ。
 そういうわけで俺は頭が悪いけども面白い発想をする奴だ、程度の認識ぐらいしかないわけよ。ぐすん、頭悪くなんてなんもん……。
 ここの文字読めないだけだもん、読めたらなんとかできるもん……。

 そんなわけでせめてスポーツぐらいは一番をとれるようにならないと。

「キャッチィィ!」
「ナイスだ、ファナム」
「て、お前絶対強化魔法使っただろ。反則だ、反則ッ!」
「反則じゃないもんね~」

 それも失敗に終わりました。
 
 クリフ(一族の男の子A)が空高く投げた球(フットボール)をファナム(一族の女の子A)がそのまま空高くキャッチ。そのままエンドゾーンで着地。
 明らかに魔法使いやがったよ! 俺使えないのに、ちくせうっ!!

 因みに俺が味方の時は反則とは言わずに推奨しまくってる。負けるのは大嫌いだからなっ!!(力説)

 そういうわけで魔法を使われて敗北です。
 因みにここではリンカーコアを持つ子供が生まれる確率はなんでも50%だとか。男だろうが女だろうが問答無用で50%らしいです。
 ああ、Fランクでもいいからリンカーコアが欲しかったな、とは思う。
 まあ今更どう言おうが後の祭りなんだけどさ。

 そういうわけで魔法は誰かに頼んで見せてもらっている、またはなにかしてもらっている。だって魔法だもん(意味不明)

 そんなこんなで平穏にギルマン一族で暮らしています。
 まあでも村の手伝いがしんどいんだけどね。

 小さい頃から遊びまわって体力派になったとはいえ、力仕事は嫌いです、しんどいし。
 魔法使えないから余計こき使われてるし。

「おっしゃ、ばっちこーい!」
「くっそう。こうなったらフォーメーションA行くぞ! トルテ、フレイア!」
「OK、オージン」
「う、うん」

 というわけでフォーメーションを駆使します。
 因みにトルテもフレイアも魔法を使えます。
 ぐははっ、そっちが魔法を使うってんならこっちもそれ相応も魔法合戦で相手してやろうじゃねぇかぁぁ!

「ほれほれ。パス!」
「い、いくよ。ひょい」

 トルテの投げたボールが高く飛ぶ。

「あっまーい。そんなのキャッチして、ギャァァァァァ!!」
 
 が、あまりにも高すぎてファナムくらいしか取れないボール。それを高くジャンプしてファナムがキャッチすればいきなり感電するファナム。
 
「ふははっ、よくやった。トルテ。おっしゃ、ファナムは潰れた。フレイア、後はお前の高速移動でタッチダウンしてやれ!」
「いえっさー、ボス!」

 というわけでフレイアの高速移動でボールを拾ってそのままタッチインする。
 ふふふ、なにが起こったのか説明してやろう!

 ぶっちゃけトルテの魔力変換資質『電気』でボールに電気を送りこんでいたのだ。しばらくすればその電気も霧散してしまうが、電気が霧散してしまう前に触ってしまえばバリアジャケットの張っていないファナムなどあっという間に痺れて使い物にならなくなるという作戦よ! 
 さすが俺、ビバ俺!

「ひ、卑怯よ~」
「そっちが先にやったんだからな。なぁ、オーちゃん」
「だよなぁ、トルテ」
「え!? ぼ、僕に振らないでよ~!」
「くそっ、一番魔法の上手いファナムがやられた! よしっ、次のプレイからは魔法なしでやろうぜ!」
「くくくっ、そうはいくか。ものども、やってしまえぇぇ!」
『おおおおおおおおおおおっっっ!!』

 そういうわけで魔法使いまくったバトルである。
 タッチフットのいいところは魔法使えなくとも作戦立てるという役目があるということだ。
 それに魔法使えなくとも隠密役というものがある。
 そういうわけで魔法タッチフットが開催されたのであった。

 ファナムはすぐさまに復活して、逆に魔法禁止ルールを受け入れようとしたが、さっきまで魔法禁止ルールをしようと言っていたクリフは「今更遅ェ!!」と掌返してきやがった。
 ちくせう、そんなに勝ちたいのかっ!?

「オーちゃんの言うセリフじゃないだろ。同じ穴の狢」
「まぁね」

 そんなこんなでギルマン一族の子供たちと一緒に遊んでいたのだった。
 あー、楽しかった楽しかった……はっ、すっかり子供たちと同じになってやがる!
 ほ、本当の俺はもっと精神年齢高いんだからねっ!(ツンデレ気味)

 ……うん、悪かった。ごめん。素直に謝るよ。
 いや、天丼て言わないで。面白そうだったからやっただけだから。
 うん、自分でもきもいと感じているからおろろろろろろろろ

「うおおお! また吐きやがった! マジでどうした、オーちゃん!」
「うん、ごめん。これ以上はもう無理だ。フレイア、トルテ、後は……任せた」
「お、オーちゃん!」
「お前たちには、役目が、あるだろう。俺のことは、気にせず、先に、進め、おろろろろろろろ、がくっ」

 こうして俺は己が体液のたまった水たまりへと倒れ伏した。
 さらば、後は――頼む。

「おおおおおおおおおおおおおおおおちゃああああああああああああんんんっっっっ!!」
「うん、うん、分かったよ。任せて、オーちゃん!」
「お、オーちゃん! オーちゃぁぁん!」

 こうして我が意志は我が仲間たちに受け継がれるのだった。

「いや、本当になにやってるんだ、お前ら」

 うるさい、空気嫁、KYクリフ



[19334] 第二話 ギルマン一族
Name: ゐを◆0c67e403 ID:7e265e7f
Date: 2010/06/19 22:57
 俺ことオージン、すくすく育ってます。
 オリ主特有のあまりにも成長しすぎて周りのものに期待される、または不気味がられるなどといった展開もなく……。
 くすん、大丈夫だもん。俺、しっかりと精神年齢は大人だもん。

 まあつまりは周りの子供と似たようなものと捉えられている。
 もしかすると周りの人間全て転生者などではないのか、と考えたりもしたがそれもなかった。ぶっちゃけどう考えても肉体年齢と精神年齢一致してたもん。つもり俺の精神年齢も今の肉体年齢と一緒ってことですか、ちくせう!!

 まあそんなこんなで立派な十歳児に育ちました!!

「なにやってるの? オージン。手伝ってよ」
「あ、うん。ごめん、母さん」

 『リリカルなのは』の世界かよ、とも思ったが長年暮らしていれば現実として見えてくる。というか原作っぽさが全く見えないのでアニメの世界として見ることがどうしてもできないのだ。
 する気もないがな!!

 そういうわけで魔法が使えたとしても使えるもんは使えるってな感じでしている。
 因みに父母どちらとも魔導師なのになぜ俺にはリンカーコアが受け継がれなかったんだろう。逆突然変異かよ……。
 因みに父さんの魔導師ランクはE、母さんのランクはB+らしい。
 なのはたちに比べると見劣りするが、母さんのランクなんてそりゃ上位クラスだろう。ただなのはたちがチートすぎるだけだ。

 因みに魔力量だけでいうならトルテはA+、フレイアはA、ファナムに至ってはAAAランクである。
 因みにクリフは俺と同じリンカーコアなしである。

 悲しくなんてないよ? ぶっちゃけリンカーコアがあったら世界の修正力だとかオリ主のなにやらとかで原作に巻き込まれそうだし。
 あ、原作つっても『とらハ』のリリカルなのはじゃなくて、アニメのリリカルなのはの方ね。

 やっぱり原作には近づかない方が吉だよね。
 死がトラウマのオージン君はこうして平和に暮らすのでした、めでたしめでたし。て展開になってほしいよ、本当に。

「そうだ、オージン。族長にコレ渡しといて」
「うん、分かった」

 ぶっちゃけ家で手伝いするよりかは楽だ。
 渡した後、一族の皆と遊べるし。すっかりと十歳児らしい思考になったな、俺。
 まあ一族の皆に不気味がられてないし、別にいいか。

 というわけで渡しました。ぶっちゃけこの部分は略すぜ、ひゃっはーーーー!!

 すると一族の掲示板に皆群がっております。
 あ、一族とはいってもギルマン一族の子供たち。まあファナムやクリフたちである。

「どうしたのさ、皆新聞に集まって」
「あ、オーちゃん。新聞見た見た?」
「あー、見てない。てか俺、ミッド語苦手なんだよ。民族語で精いっぱい」

 掲示板には新聞が張ってある。
 まあいわゆる管理世界に配られている新聞である。これで皆は管理局や他の管理世界がどうなっているのかを知る。
 さすがに一族の一軒一軒に新聞を配るのは金の無駄使いなので一括して一枚の新聞を、族長が読み終わった後、張り上げるのだ。

 ただ生まれてから日本語が使える俺は民族語を覚えるのがいっぱいいっぱいだったため、ミッド語を覚えるまでには至っていない。まあ英語に似ていたので簡単なミッド語なら読めるようになるのだが。
 ふ、前世の俺は数学と英語が大嫌いだったからな。あまり読めねぇんだよ!!
 リリカルなのはの世界で文系ってぶっちゃけやばくね? とは思ったが魔法なんて使えないのだからどっちでも一緒か、と思い至ったので気にしてない。現代文と古文は大得意です!!
 この世界じゃ意味ないがな!!

 まあそういうわけで滅多に俺はミッド語新聞を見ない。
 勉強したくないでござる、勉強したくないでござる!!

「そう言ってないで勉強したらどうだ?」
「うっさい、クリフKY

 うるさいぞ、KY。

「おい、さっき僕の字にKYと振っただろ」
「え? メタ発言やめてよ、なにこの子怖い」
「オージンンンンンンッッッ!!」

 てなわけで喧嘩スタート!
 どっちもリンカーコアなしだから魔法使えない=仲間!? というわけではないので、気軽に喧嘩できるのである。
 ぶっちゃけリンカーコアのあるなしで仲間だの仲間でないだのといった差別をしないのがギルマンクオリティーである。
 つか強ェェェ! クリフ、俺より細身の癖して喧嘩強いな、おい!(俺は大人げなくないッ!!)

「や、やめてよ、オーちゃん。クリフ君」
「しゃーないなー。辞めるぞ、クリフ」
「なにいきなり辞めようとしているんだ!」
「え? ファナムの魔力弾喰らったら嫌だもん」
「私そんなことしないよっ!?」

 とにもかくにもファナムの仲裁で辞めることにしました。
 因みにファナム、俺の幼馴染である。いや、それだとクリフもトルテもフレイアもそうであるが、ぶっちゃけるとファナムは俺の嫁候補である。
 誰だ!? ロリコンとかいった奴は!? 俺は十歳だ! 精神年齢がどうだろうと肉体年齢十歳だし、十歳児嫁候補にしても構わんだろうがっ!!
 
 因みに俺が勝手に決めたことじゃないぞ。
 四、五歳くらいの時に結婚の約束したんだぞー。幼馴染の定番なんだぞー。
 まあ「結婚しようね」とか言われた時には「逃がさん!!」てな感じで更に好感度を上げまくったからね。
 ふふふ、前世は年齢=彼女いない歴だった俺にも遂に春が来たか、と言わんばかりに張り切っちゃったからね。

 因みに周りには既に夫婦扱いだったりする。
 俺の親もファナムの親にも公認であったりするし、族長も公認している。
 いいよね、平穏。
 
 ハーレム目指す奴の気が知れんわ。俺だったらすぐに罪悪感感じて辞めちゃうね。こう1人を愛するって感じがさ、平穏っぽくていいよね。

 うん、ぶっちゃけ俺もやられちゃったのよ。ファナムの笑顔にね。
 ああいう良い子が将来俺の嫁になるとか……最高ッス!

「そそ、そんなことよりさ。しし、新聞」

 臆病な子トルテ。因みに男の子。ぶっちゃけ可愛い女の子にしか見えないが男の子である。いわゆる男の娘である。眼鏡かけとります。つか、この世界にも眼鏡あったんね。
 どこどう見てもスクライア一族とかル・ルシエ一族そっくりみたいな感じの一族なのに。

「見てみろよ。結構面白いんだぜ、これ」

 と言ってくるのはフレイア。男の子っぽいが実は女の子である。ぶっちゃけりゃトルテの逆バージョンである。
 ただまあ胸が膨らんできているので将来は男勝りな美人になるのだろう。んー、原作で表すのならスバルっぽくなるんだろうな、とは思う。
 いや、スバル蓮尚すぎるから違うな。生意気なスバルとでも言おうか。

「まったく、君はもう少し頭を良くしなけりゃいけないよ」
「スルーします。スルーします」
「聞いているのか」

 そしてこの青い髪の少年こそが俺と同じリンカーコアなしのクリフである。
 因みに頭の良さでいえば村の子供たちの中でも随一である。
 
 ぶっちゃけ勝てるわけがねぇ! ミッド語なんて誰より上手いし、数学も誰よりも理解している。リンカーコアさえあったなら凄腕の魔導師になっただろうに。
 
 え? 俺? 現代文と古文ぐらいしか勝てるもんねぇよ! あとは前世の知識で得た地球の常識とか地球の知識だとか!
 まあ現代文と古文で勝ててもここは異世界なので意味なしなんですが。

 え? なに? こいつら、頭良くね? 十歳なのになんでこいつら頭良すぎんの? 
 ああ、あれか。世界の修正力って奴か。アリサもすずかも九歳児の割に頭良かったからね。ああ、この次元世界じゃそれがデフォってか。

「世界の修正力、恐るべし」
「なに言ってるのか分からんが、さっさと見ろ」
「ちぇ~、ノリの悪い奴~」

 仕方ないので掲示板に張ってある新聞を見ることにする。

 ん? あれ? この写真に載ってある女の子、どっかで見たことあるようね。
 えっと何々?

『高町なのは(10)、テロリストを砲撃で焼き尽くす!!
 地球からやってきたエースは化け物か!?』

 高町なのは……えっとこの容姿でこの名前。
 うん、あれだな。やっぱここ『リリカルなのは』か。ここに来てようやくここが『リリカルなのは』の世界だと認識できたな。
 ただデバイスとか管理局とかがある『リリカルなのは』じゃない世界という可能性もあったしな。

 ほかにも――

『フェイト・T・ハラオウン(10)、一瞬にして人質救出成功。
 その素早きこと、稲妻が如く!!』
『八神はやて(10)、ヴォルケンリッターと共にAAランク3名撃墜!!
 夜天の王、その実力を発揮!!』

 だとか載ってた。
 ああ、うん。もう無印とかAs終わってたんだ。

 ……よっしゃぁぁ!! 巻き込まれずに済んだ!! 
 後残すはStS編くらいなもんか。無印もAsも死亡フラグ満載だったけどStSも下手すりゃヤバいからな。なんとか気をつけなきゃな。
 しかもここ第12管理世界だ。ミッドチルダから結構近いから気をつけなきゃ。

 まあここに来てなのはたちのことを知れたのは運が良かった。
 これからの展開に気をつけるべくなるべく新聞読んでおこう。
 ただ見出しはなんとか読めるけど詳細なところには難しいミッド語でたまに書いてあったりするので読めなかったりする。くそ、ミッド語苦手な弊害がこんなところで来るとは!!
 これはなんとかしなければ……別にいいか。
 勉強したくないでござる、勉強したくないでござる!!
 
 やっぱ天丼は必須だよね。だから突っ込まないで。
 え? 辞めて!! 突っ込むのは突っ込むのは、アーーーーーーーーーーーッッ!!!!

「あれ? どうしたの? オーちゃん」
「いや、なんでもないよ。ファナム。ちょっと気持ち悪いの想像しただけ」

 ああ、ファナム。心配してくれてありがとう。
 さっさとさっきの想像を忘れなければ。そうでなければ夜も眠れん。

 まあとにかくさっさと続きを読むとするか。
 あれ?

「なんだ、これ?」

 四枚目の写真がついているところ、なんか見慣れない人が映ってある。見出しにもはっきりと書いてあるし。詳細もなんとか読めるミッド語だけだったので読んでみることにする。

『藤村修吾(10)、SSS(トリプルエス)ランクを貫禄を見せつけてテロリストどもを圧倒。
 最後は必殺のトライアングルアースブレイカーにてテロリストの基地を壊滅!!』
『藤村修吾(10)、高町なのは(10)、フェイト・T・ハラオウン(10)と共に管理局に入局。
 PT事件や闇の書事件でも大活躍したメンバーの1人である。
第97管理外世界出身の魔導師だというのに彼の魔力量はなんと過去最大の魔力量を誇り、実力は管理局唯一のSSSランクを誇る凄まじい魔導師である。
 しかも彼は希少技能レアスキル魔力変換資質『電気』『炎熱』『氷結』を同時に持っている。
 また彼のデバイスは、ほかには類を見ない古代ベルカ式アームドユニゾンデバイス『黄金の聖剣カリバーン』という素晴らしいデバイスである。
 アームドユニゾンデバイスとはいつもはユニゾンデバイスのように小人形態になれ、尚且つ戦闘の際はアームドデバイスのように剣状のデバイスとなり、またその状態のままユニゾンすることが可能なデバイスなのである。
 彼のバリアジャケット姿はまさに黄金の鎧を纏っている聖騎士かのようである。
 また彼の必殺技は本来反発するはずの魔力変換資質『電気』『炎熱』『氷結』を同時発動し、それを組み合わせることで通常よりも遥かに強力な砲撃が放つトライアングルアースブレイカーである』

 読み取れるだけでこれだけのことが書いてあった。
 他にもこの新聞は彼のことをべた褒めしまくっている。なんでこれだけも褒めるのだろうか、この新聞は。

 しかし藤村修吾。か。
 原作にはこんな奴いなかったな。
 


 ……………………


 …………はっ!



 まさかコレがバタフライ効果って奴なのか!?(ずこーっ!!)

 あれ? 誰かこけた奴いなかったか? ふむ、気のせいか。

 しかしこれがバタフライ効果か……俺のせいなのかな……。
 まあぶっちゃけどうでもいいか。ここは『アニメの世界』なんかじゃくて『現実の世界』なんだから。
 こんなの気にする必要もねーべ。

 そういうわけで今日もまたタッチフットで遊ぶのであった。

「ははは、はい、パス」
「オーちゃん、ジャンプして今から取りに――」
「ストップ、ファナム!」
「はっ、カットしなくていいのかよ。んじゃ遠慮なく――」
「て、取るな! クリフーー!!」
「は? フレイア、何いってギャアアアアアアアアアアッッ!!」
「ふ、愚かな。この作戦を思いついた俺にそんな単調な罠が効くと思っているのか!? よし、電気は霧散したはずだ。今ならタッチダウンできるぞ!」
「う、うん!」
「だから取るなっつたのに、クリフ! 作戦が台無しだろうがぁぁぁぁ!!」
「ごごご、ごめん。クリフ君」

 そんなこんなで今日もまたギルマン一族の皆で遊んでました。
 タッチフットはギルマンの皆には好評です。



[19334] 第三話 魔導師ランク
Name: ゐを◆0c67e403 ID:7e265e7f
Date: 2010/06/19 22:54
 よくよく考えてみればどう考えてもあれ転生者だよね、ということに最近気づいた俺。
 だからどうしたとか言われれば困るんだが。

 

第三話



 あの新聞に載ってた奴が転生者だと気付いたけれどもなにかする予定もなし。
 ぶっちゃけこの村には関わってこねぇだろとは思うしね。
 
 というか魔力資質もない俺が原作に関わることもないだろ、とも思う。

 そういうわけで村の生活を楽しむ俺たちだったのであるが。

「どうか来ていただけないでしょうか。あなたの素質は素晴らしいのです! ぜひ管理局へ!」

 そんな感じにファナムやトルテ、フレイアに勧誘してくる管理局員がいた。
 まあ彼女らほど魔力資質が高かったらそれも仕方ないだろな。
 フレイアはAだし、トルテはA+だし、ファナムに至ってはAAAクラスなのだからそれも当然といったものだ。

「しかしそうは言われてもの。ギルマンの一族は防人の一族なのじゃ。魔力資質の高いものは防人になってほしいのじゃが」
「そんな古臭いものはどうでもいい! 管理局のために働き管理世界を守ることこそがこの世で最も素晴らしいことなのだ! あなたはこんな子供たちの可能性を奪い取るというのか!?」

 族長がなんとか管理局のスカウトを宥めようとするが、管理局のスカウトは激昂している。
 管理局のことを信じ切っちゃてるよ。
 なんだ。管理局のために働け、って。魔力資質のない俺やクリフには関係ないかもしれないがこのままだと浚われかねない。

「え、えっと。私はこの村でお、オーちゃんのお、お嫁さんになるっていう役目が――」
「かかかか、管理局って。ここ、怖いよ。戦いたくなんて、ないよ」
「管理局かー。いいな、いってみようかね」

 とこんな感じである。
 フレイアはいく気満々である。まあ暫くはここで遊んでいるがいつかは管理局の武装局員になるつもりだそうだ。フレイアの魔力資質なら凄腕の武装局員になれるだろう。

 ただトルテに至っては怖がりなために管理局に行くたくはないらしい。
 まあどんなに魔法が上手くっても戦うのが怖いのなら管理局員になんてなれないだろう。内勤にでもなれば戦わなくて済むかもしれないがこれだけの魔力量だけでA+なんてあるのだから戦わない内勤だなんて周りが許さないだろう。

 ファナムなんて俺のためにここにいれてくれるらしい。うん、幼馴染冥利につきるぜ、ふはははっ!

「大丈夫さ! 君ほど魔力資質なんてあれば戦うことなんて怖くなんて全くないさ。圧倒的な魔法で叩き潰してやれる!」

 だからそれができなくて怖がってるんだろうが。
 やられるのが怖いのも当然だが、トルテの性格からして自分が攻撃するのも苦手としている。魔力変換資質『電気』という希少技能レアスキルを持っていてもこれでは意味がない。
 こんなならばすぐにでも犯罪者に潰されて終わりだろう。
 それにトルテの性格からして管理局の訓練にも耐えきれないかもしれない。

「それにしてもファナム君。そのオーちゃんというのは一体誰なんだい?」
「あ、俺ッス」

 すぐに手を挙げる俺。
 すると管理局のスカウトが鼻で笑う。あ、ちょっとムカッときた。

「ファナムちゃん。騙されちゃいけないよ。こんな魔力資質のない餓鬼に、こんな薄汚い餓鬼に。君にはそれだけ素晴らしい魔力資質があるんだ。凄腕の魔導師になれる可能性があるんだから!」

 おおうっ、喧嘩を売ってんのか、そりゃ! 売ってるんだな、売ってやがるんだな!
 買わないがなっ!!(力説)
 こちとらリンカーコアもなければ希少技能レアスキルもなし。高町家みたいな特殊な剣術も体術も習っていません。ぶっちゃけ戦うだなんておこがましいです。
 てかこんなんで管理局員に勝てるわきゃねぇだろ! だから買いません。チキンではなく、賢い撤退なのです!(力説)

「むっ、オーちゃんは薄汚くなんてない! オーちゃんは、オーちゃんはかっこいいんだよ!」

 おお、よく言ってくれた。ファナム。サンキュー。

 そんなこんなで突然として怒り出したファナムにタジタジとなった管理局のスカウトは逃げ出したのだった。だがあの調子だとまたすぐに来るんだろうな。この調子だと無理やり管理局へと入れかねないくらいだぞ。

「かっこ悪いな。オージン」
「言わんといてくれ。クリフ」

 女の子に守られる俺、カッコ悪い。
 かっこよく文句言えたらいいのだが基本チキンな俺には心の中でしかあの管理局のスカウトを罵倒することぐらいしかできない。

 まあそれも仕方ないのだろう。
 管理世界では魔力資質のある人の方が優先されている。あまつさえリンカーコアを持つ者は優秀民族であり、リンカーコアを持たない者は劣悪種であると言い出す人までいる。それだけ魔力資質による差別が酷いのだ。
 ギルマン一族が魔力資質の恵まれた子供が生まれる確率は五分五分であったため、このような差別はない。
 ギルマン一族は魔力資質のある子もない子も皆で助け合っていくのが掟だから、一族の皆は優しいのだ。
 だが一族の皆がそうだからといって他の管理世界の人間はそうではないのだから。
 
 だから俺とクリフは生まれながらにしてハンデを負っている状態であったりする。

「ほらほら、あんたたちー。さっさと飯取ってきなさいー」
「はーい」

 まあそう言われて行くのはフレイアだった。
 ギルマン一族で狩りに行くのはリンカーコアのある人間であり、また魔法訓練の施された者だけが狩人として森へと狩りをしにいけるのだ。
 勿論魔法を駆使して動物を狩るのだ。

 さすがに魔法の使えない者では狩りは危険なのだ。

「そんじゃいってくるわ。ブリシング、セットアップ」
『Ja Meister(はい、マスター)』

 フレイアが身に着けていた首飾りは白銀の槍へと変化する。ベルカ式アームドデバイスである。
 あれ? なんでベルカ式のもんがあるんだよ。とかいう突っ込みは聞かない。
 まあ古代ベルカ式じゃなくて近代ベルカ式だしね。

「そんじゃいってくるぜ~」
 
 フレイアは近接戦闘ならば子供たちの間では村一番である。
 Aランクという資質を持っているためにおそらく将来的には素晴らしき防人になることは間違いないだろう。ただあまりにも性格が戦闘向きすぎて武装局員になってしまうかもしれないが。
 まあそれも彼女の人生だ。俺たちが口出しする必要もない。

 因みにトルテもファナムもデバイスを持っていたりする。
 しかも2人とも近代ベルカ式のデバイスである。

 なんでもギルマン一族はベルカ時代から続く一族らしい。
 まあ続くだけで既にベルカとはなんの関係もないが、それでもベルカ時代から続く一族であるために、ここのデバイスのほとんどの人は近代ベルカ式を駆使することが多いという。
 あの臆病なトルテまで近代ベルカ式だなんて。まあトルテの場合、ミッド式の割合が多いのだが。

 トルテの持っているデバイスは近代ベルカ式槌型デバイス『ミェルニール』、ファナムのデバイスが近代ベルカ式剣型デバイス『バルムンク』である。
 通常形態はあれだ。アクセサリーである。某リッターのデバイスのような待機形態であったりする。

 そんなこんなでいつもの日々が続くのであった。








「で、また来てたのかよ。あの管理局員」
「うん。でもなんとか帰ってもらったよ」
「あの調子だとどうせまた来るんだろうけどよ」

 何度も何度もやってくる管理局のスカウト。
 管理局も人手不足である。だからこそAAAランクの素質を持つファナムが欲しいのだろう。やらんがなっ!!
 あまりにもしつこいので、フレイアも怒り心頭である。まあ管理局にではなく管理局のスカウトに対してであるが。
 だからフレイアが管理局入りを辞めるつもりはないらしい。とはいってもしばらくしたらだ。多分2年後くらいに訓練校にでも入るつもりらしい。
 今はただのギルマン一族の子供でいたいらしい。

 今日は子供たちで大遊びする日である。
 村の子供も忙しいが、今日は村の子供全員が集まっている。年上の人もいれば年下の子供だっている。ギルマン一族の子が一斉に集まって遊ぶのだ。

「で、今日する?」
「野球!」
「サッカー!」
「カバディ!」
「バスケ!」
「タッチフット!」
「アルテメット!」
「鬼ごっこ!」
「かくれんぼ!」
「相撲!」

 といった風にたくさんの候補が上がる。
 因みに野球とかアルテメットとかタッチフットを教えたのは俺である。ふふ、前世の知識って奴だよ、前世の。
 多数決でタッチフットをすることになった。タッチフット人気だな。
 因みに勝ったのは俺、クリフ、フレイアを主軸としたチームである。やる気あるメンバーが一緒にいるということで士気が盛り上がりまくったのだ。
 あっちの主軸のトルテとファナムは士気を盛り上げるといったことができないし、作戦もあんま思いつかないのでいいようになられたのだった。
 俺、クリフ、フレイアは悪ガキ三人衆とまで呼ばれているのでガシガシ作戦が上手くいくのだった。
 まさに大勝利!!









「よっしゃ、それじゃ森行こうぜ」

 というわけでして森へと遊びに行くこととなった。因みに言い出したのはフレイア。
 とはいっても森へは結構皆で遊びに行くのだ。

 この森の近くには森がある。 
 狩りが危険とはいってもそれはやはり建前というものだ。実際にはそんなに危険ではない。 
 ただいくら危険ではないといっても生物を狩るのだから魔法を使うのが手っ取り早い。そういうわけなので狩人には魔導師が選ばれるのだ。
 管理世界では質量兵器禁止だから狩りをするための道具がないってのが一番なんだけどね。

 そういうわけでそんなに危険ではない森の中へと入る。
 危険な生物なんていないので大人も文句を言わず黙認している状態なのだ。

 というわけで魔法を見せてもらっている。

「てわけで魔法見せてくれよ。なあなあ」
「う、うん。オーちゃんがそんなに言うなら」
「ひゅーひゅー、仲がいいな。このこの」
「いや~、冷やかすなよ~」
「そんなデレデレした顔では説得力がないぞ」

 冷やかすフレイアに、突っ込みを入れるクリフ。ファナムは顔を赤くしている。さすが俺の嫁(予定)!

 そんなこんなで森の中で魔法を見せてもらうことになった。魔法使えない俺らには魔法ってのは憧れなんだよ、なあクリフ。

「そうだな。見せてくれ」
「う、うん。バルムンク」
『Ja Meister』

 剣型のアクセサリーは太い大剣となりました。正直女の子が持つにはゴツイです。

「なんでこんなゴツイのにしたの?」
「え!? こ、これはお父さんのお下がりで」

 こんなゴツイの渡すなよ、おじさん。
 まあ今更こんなゴツイデバイスに愛着を持っているらしいので、多分どう言ってもバルムンクを使い続けるんだろうけどさ。
 
 そんなわけで飛行魔法で乗せてもらいました。
 因みにファルムにおんぶしてもらってます。……最初は辛かったけどさ、今はもうどうでもいいってくらいに清々しいんだよね、なぜか? 慣れたからなのかな?
 ファナムにおんぶしてもらっての飛行魔法は楽しかったです。あれかな、まるでジェットコースターみたいだった。

「お? やべぇ、俺先に帰っとくわ! トルテ、来い!」
「え、あ、う、うん」

 どうやらフレイア慌てて一族の村へと帰る。どうやらその用事はトルテと一緒に言われていたようなのですっかり忘れているトルテと一緒に帰ることにした。
 フレイアに言われてトルテも忽ち思い出したようである。顔が青ざめてすぐさまにでも帰ることとなった。
 
 残ったのは俺とファナムとクリフである。

「……僕がいても邪魔なだけなんだろな」
「いや、そんなことあるけども」
「あるのかよ! そこは鈍感にないとでも答えろよ! ふん、まあいいさ。先に帰っておくよ」
「おー、成長したな。クリフKY
「なんで空気読んだのにKYってルビ振るんだぁぁぁぁぁ!!」

 え? ぶっちゃけ慣れ? というかイメージ?
 クリフに対してKYってイメージが固まってるから空気読んでもKYってついルビ振っちゃうんだよね。まあそこはこれからももっと空気読む道を極めてもらえば空気読める男にしっかりとなれるぞ。
 そういうわけでクリフは帰っていく。

 つまり俺とファナムの2人だけになった。
 それに気づいたのかファナムは顔を赤くしている。あ~、可愛いな、こんちくせう。

「お、そうだ。ファナム。この前、いいもの行商人から買ったんだ。ほら」

 俺はポケットからビー玉のようなものがついた髪飾りを出してファナムに似せる。
 きっとファナムに似合うだろうと思って買ったものだ。

「ファナムに似合うと思ってさ。ほらほら、つけてくれよ」
「あ、あわわわわわわわ。あ、ありがとう。オーちゃん //////」

 すっかりと顔を赤くしている。愛い奴め。
 俺のプレゼントを受け取ってくれたファナムはさっきまでしていたリボンを解き、代わりにその部分に髪飾りをセットした。本当によく似あう。
 リボンも可愛かったけれど、こっちの方がよく似合っているとそう感じる。

「そうだ。オーちゃん、このリボン、つけてくれない?」
「ん? いや、俺男だし」
「関係ないの。髪じゃなくてもいいから。腕とかでもいいよ」
「腕かー。それならファッションになりそうだし、いいか」

 こうしてさっきまでファナムがつけていたリボンを、まるで包帯のように腕につける。
 こうして見るとかっこよく見えるぜ、俺。
 定番のアイテム交換って奴だ。これはフラグがぐつぐつ立ってるぜ、YEAHHHH!!

 このまま俺はファナムと結婚して子供を産んで、その子供を育てて結婚相手をつれて孫を見せてくれて、そのままファルムやその子供、孫に看取られて幸せに暮らしていくんだな。
 なんて幸せなんだろう、なんて幸福なんだろう。
 そんな生活がいつまでも続く、そう思っていた。
 













「ぐるるるるるるるるるるるるるるる」

 
 巨大な竜が現れるまでは。



[19334] 第四話 恐怖
Name: ゐを◆0c67e403 ID:7e265e7f
Date: 2010/06/19 22:56
 平穏だった。俺はこういう平穏な日々を望んでいた。
 確かに魔法を使って戦ってみたいとか冒険したいとか望んでいたころもあったのかもしれない。
 でもそれは転生前の話だ。
 俺はあの時、死ぬことがどれだけ怖いのかがはっきりと分かった。だから死にたくないと心の中で強く強く思った。だから俺はなるべく『死』に近づかないようにした。
 転生前の俺ならばリンカーコアを欲しかったのかもしれない、魔力資質というものがあったらよかったのにな、と本気で悔しがったのかもしれない。
 でも『死』というものを体験してしまった現世の俺は逆に『死』というものに近づきたくないから。だからリンカーコアがないことに、魔力資質がないことに逆にホッとしてしまったのかもしれない。
 
 ただ目の前に、ドラゴンが現れるまでは。


「ぐるるるるるるるるるる」




第四話 




 ドラゴン。
 ファンタジーでいうところの最強の代名詞ともいうべき存在。絶対的な君臨者、獣の王、破滅的なまでの強さ、いろいろとあるがやはりドラゴンという存在はその存在自体が桁違いだ。目の前に現れてその存在の差を見せつけられる。

 ドラゴンという生物は第97管理外世界地球、また俺の前世では架空の存在。いるはずがない、いてはならない存在。
 だがこの広い管理世界ではそういう架空の存在が現存することだってある。第6管理世界アルザス、つまりル・ルシエのいる世界にはドラゴンが普通に存在する。
 ――でも第12管理世界にはドラゴンなんて生息していない。

「GAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」


 それは雄叫び、咆哮、威嚇。ドラゴンの圧倒的な差を見せつける。
 他の獣を圧倒する。それは人だろうと例外ではない。
 
 怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い、ただそれだけが俺の心の中で渦巻いていく。

 明確な『死』というものを、ここで理解してしまったのかもしれない。
 本能が『死』というものを感じ取ってしまったのかもしれない。

「お、オーちゃん……」

 ファナムは震えている。動けない状態にある。
 だが俺はもっと酷い。震えて動けないどころか口だって開けない。
 ああ、そうか。きっと本能の差なのか。ファナムには魔力資質があって、俺にはリンカーコアがないからこそ、より本能は機敏に働いているんだ。
 だがファナムの声のおかげで少しばかり冷静になれる――わけがない。

「な、んで、なん、で――」

 見た感じドラゴンというのは分かる。
 そして俺はそのドラゴンがどんなドラゴンなのか、見ただけで分かった。
 俺は勉強なんてのは嫌いだが、しかし幻獣なんてものには興味があった。なんせ前の世界ではそんなものは架空の存在だったのだから。架空の存在が現実にいるのだから興味は深くて当然であろう。
 だから俺は幻獣図鑑なんてものを、ギルマン一族の大人から貰い、眺めていた時期がある。

 そして目の前にはその幻獣図鑑に載っていた幻獣がいる。そしてそのドラゴンは決してこの第12管理世界にいるはずがない。コイツの生息地はもっと別の次元世界にある。
 第124観測世界、人のいない獣だけが住まう世界。獣と獣同士がその肉を喰らいあい、戦い続ける弱肉強食の世界。
 コイツはそこにいるはずなのに、ここにはいないはずなのに。

「お、オーちゃ、ん」

「GARURURURURU」

 フェンリール・ドラゴン。
 およそ人の言葉も解せぬ獣の中の竜。獣の王を所持した破滅的な竜。
 だからこそ彼らはただ弱肉強食しか理解しない。彼らは魔法なんてものを使わない。
 ただただ肉体的なまでの強さと魔法をも弾く鱗があり、獣の速さを持つ地上を這うドラゴン。
 空も飛べぬ、だが迅雷となるだけの脚がある。
 ブレスも吐けぬ、獲物をより砕くだけの牙がある。
 理解するだけの知能もなく、弱肉強食の世界ではそんなもの不要。
 リンカーコアがある種とてたまに見かけるが、魔法を理解するだけの知能を持たず、だからフェンリール・ドラゴンは使うとしても強化魔法くらいしか使わない。ただそれだけのドラゴン。
 だからこそ普通のドラゴンよりも圧倒的な、獣の王にして凶悪な竜。

「お、オーちゃ、ん」
「に、逃げ、逃げ、る、ぞ。逃げ、ろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ」
「あ、ああ」

 逃げたい、だけど脚が動かない。
 それはファナムも一緒だった。手にはバルムンクのアクセサリーがある。それをセットアップさせすれば、もしかしたら退けられるかもしれない。
 いや、一般的なフェンリール・ドラゴンの強さはAAランクと言われている。
 魔導訓練もしていないファナムが立ち向かうには、あまりにも、あまりにも相手が強すぎる。
 だから逃げるしかない、逃げきれないと本能で理解していても、一目散でここから逃げ出すべきなのに。動かない、動けない、脚が動いてくれない。
 強く強く動け動けと命令しているのに。

 もう目の前には竜がいて。

「ぐるるるるるる、があああああああ」

 静かに、動けない獲物に牙を見せる。噛み付こうとしている。
 俺たちは餌なのだ。ただの餌なのだ。このフェンリール・ドラゴンからすればこいつらはただの餌にすぎない。脅威なんて思ってすらいない。
 だから目の前に、牙がある――

 目の前に瓦礫が上から降ってくる――

「あ、あ、あああ、あああああああああああああああああああああああああああ!!」

 記憶がフラッシュバックする。
 明確な『死』が、より明確な『死』を思い出させる。
 
 瓦礫に埋もれて動けない、そんな自分に振りかかるより大きな瓦礫が、自分の頭に向かって。身動きも取れず、避ける方法も防ぐ方法もなく、ただただ『死』しかない運命。
 運命を突破するだけの知恵も力も幸運もなく、ただ『死』を無理やりに受け入れさせられた。

 発揮しろよ、ここで発揮しろよ。
 もうご都合主義でいいからさ、厨二病で構わないから、オリ主の力をここで発揮しろ、発揮しろ。
 だって転生者なんだろ。だったらなにか特別な力があってもいいじゃないか。だからここで発揮しろ、発揮しろよ。ふざけんな、神様。
 リンカーコアなしで膨大な魔力を発揮できるでもいい、隠れたリンカーコアが生まれて出てくるんだっていい、それとも希少技能レアスキルでも構わない。それとも隠れた才能で体術で粉砕だっていい。ドラゴンの肉体を破壊するだけの圧倒的肉体でもいいから!!
 だからなにか出てこいよ、なにか発揮しろよ! 俺は厨二病だからさ、ご都合主義嫌いなんてもう言わないからさ、好きになるから、いや大好きだから。だからなんでもいいなんでもいい、なにか出てこ――



ぐしゃっ


オージンの上半身はフェンリール・ドラゴンの牙に持って行かれ、そのまま奴の腹の中に。そしてオージンの下半身は、ただ血を噴き出して倒れた。
 その光景はあまりにもホラーすぎて。怖すぎて。
 ファナムの目の前で、オージン=ギルマンは、『死んだ』。

「いやああああああああああああああああああああああああああああ!!」



[19334] 第五話 『死』
Name: ゐを◆0c67e403 ID:7e265e7f
Date: 2010/06/19 22:56
 ≪オージン≫ではなく≪佐藤芳樹≫としての記憶。

 俺が前にいたところは決して魔法なんてものはなかった。管理局なんてのも別の次元世界なんてものもない。もしかしたら俺たちが知らないだけなのかもしれないが、とにかく魔法は空想の存在ありえないものなんだ。
 
 でも俺はそのありえないものにいる。架空の世界に、空想の世界に。
 それは――なぜだろう?



第五話 



「う~ん。やはり面白いの、面白いの。暇を潰せるわい」

 そこは神のいる地。天界とも神界ともいえる天の世界。
 数ある世界を見守る神ともいうべき存在。

 そして彼の趣味はただ転生者を見ることであった。

「ほっほっほ、ハルケギニアを統一したか。うん、この過程がたまらんたまらんの。
 おお、こやつ恋の奴に負けおった。こりゃあ死んだかの。
 おお、おお、怖がっとる怖がっとる。やはりバイオハザードの世界に送り込んだのは正解じゃったな~」

 ただ見ることくらいが彼にとっての娯楽。
 人間は彼にとってはおもちゃにすぎないのだ。
 だから彼は適度に誰かを殺し適当な世界に送り込んでその人生を見る。
 
 ただ殺すとはいってもその大半は心のどこかで転生を望んでいるオタクたちだ。転生を望んでいるオタクたちも「ご都合主義最高!」「俺Tueeeeeee!!!」などをやらかして楽しんでいる。
 これは相互のためなのだ。
 オタクたちにとっては自分の願望が叶い、神にとってはその人生を見ることで暇を潰せる、相互のためになる最高の娯楽である。

「さてさて、次は……そうじゃの。リリカルなのはの世界に送ってやるかの。リリカルなのはに転生を望んどるオタクは、と。よしよし、コイツにしようかの。ここらで一番近くにあるトラックはと」

 そしてまた新たなオタク殺しを始めようとする。トラックを使うことによって。
神技能ゴッドスキルの一つ「天から遣わす転生車輪リンカーネイト・トラック」を神は発動する。ぶっちゃけ転生トラックである。
 その技能はトラックを自分の能力によって自由自在に動かすことのできる能力なのである。
 このスキルによって動かしているトラックに轢かれて死んだ者は自動的に神のもとに召喚されるというスキルなのだ。

「ほっひょっひょ。どんな物語になるのか、たまらんのぅ」

 そしてまた新たな転生者を生み出すために、「天から遣わす転生車輪リンカーネイト・トラック」を発動させる。





 

Side-Yoshiki

 俺はとある銀行にいた。それは金を引き出すためにだ。

「へっへっへ~。リリカルなのはをこれで買えるぜ」
「んなもん、パソで見りゃいい話なのになんでわざわざDVDを買うかな。理解できん」
「は? オタクを甘く見るな、てことよ」

 だからなんだよ。パソで見れば無料なのにわざわざ金を払ってまでDVDを買う必要ってあるのかよ。と心の内で思ってしまう。
 まあお前の持ってる金だ。どう使うかはお前が自由に決めろってことだな。

「でさ、リリなの買うためにさ、家賃足んなくなるんだよ。だからちょっち貸してくんない?」
「買うの辞めろ」

 前言撤回、人に借りようとすんな。
 家賃払う金がないのなら、今から買おうとするものを買おうとするな。
 そんなこんなを目の前にいる友人に向けて説教する。

「たく。お前さ、もしかしたらテンプレみたいな転生とか望んでるわけ?」
「は? お前、それはねぇよ。確かにちょっとはしてみたい、とは思うけどさ。リリなのの世界に転生でもしてみろよ。ぜろつかとか恋姫とか、それにジャ○プ、サ○デーとか見れなくなるじゃん。続き気になるじゃん。だからしたくねぇよ」
「まあそれもそっか」

 転生なんてしてしまったら続きが読めなくなるな、きっと。
 向こうの世界に同じ漫画があるかも分からないしな。
 
 たとえジャ○プとかサ○デーとかあったとしても、絶対にリリカルなのははない。
 そうしたら新しいリリカルなのはの二次創作や、それに気になってるものはきっと見れなくなるだろう。

「確かにそれは気になるな」
「だろ?」
 
 確かに友人の言う通りだ。てっきりコイツも転生最高とか言ってるオタクかと思ったけど違うみたいだ。
 やっぱり二次元は二次元ってことで見るのが一番良いってことだな。

「そういうこと。それに俺には愛しの彼女がいるからね」
「死ねよ」

 なんでコイツは俺よりずっとディープなオタクなのに彼女がいるんだ。俺にはいないのに。ちくせう!!

「てか、お前さ。いつも畜生を、ちくせうとかいう癖あるぞ」
「え!? マジで!?」

 いつの間に俺にはそんな癖が。
 どないせう、どないせう。てまたかよ!!

「まあぶっちゃけどうでもいっか」
「まあそれがお前の個性だしな」

 そんなこんなで俺は友人と話し合う。これからこの話はどうなるのか、なんとか。
 
「そんじゃ立ち読みしてこーぜ。チャ○ピオン、無敵最強格闘家がどうなったのか気になるしな」
「あ、それ俺も気になる」

 それにもう一つ、自転車レースがどうなったのかも気になる。気弱眼鏡、今頃どうなってんのかな?

 すると携帯のメロディが鳴る。あれ? このメロディは。
 思った通り、すぐに友人が携帯をとる。やはり友人の携帯だ。

「もしもし? え、マジで! うんうん、じゃな~。そんじゃ俺、あいつのとこ言ってくるから!」
「ちくせう! 神は死んだのか! 死ねよ、この非童貞!」
「あはは、それではな、明智君。ばいなら~」

 そう言って先に言ってしまった友人。多分、彼女からお誘いの電話だったのだろう。ああ、恨めしい。殺したいほどに恨めしい。
 なんであんな奴に彼女ができて俺にはできないのだ。なぜだ!?

 てか、俺また「しょう」を「せう」って言ってるな。この癖、どうにか直らないもんか?

「はぁ、しゃーね。俺1人で立ち読みしにいくか」

 そう思ってコンビニに行こうとする。
 だから銀行から出ようとする。

「いらっしゃいませ~」
「グヒヒ、お金引き出して、グヒヒ。なのはちゃ~ん」

 なんか気味悪いのが銀行の中に入っていく。しかも入口を占領している。なにか妄想しているのか、入口に入ったままあんま動かない。
 おい、どけよ。俺が通れないだろ。

 親友はもうとっくに向こうに言ったってのに、俺がコンビニに行けねぇじゃねぇか。
 まあこここでいろいろと文句を言ってやりたいが、面倒臭い。とっとと――



 ――俺はそこでありえないものを見た。そこから非日常の世界が待っていた。

「やめろ、やめろ、止まれ、止まれ、勝手に動く――」

 ダンプカーが、銀行の入り口めがけて突っ込んでくる光景を、ちょうどそのオタクに向かって一直線に問答無用に突撃しようとしている姿が――

どがあああああああああああああっ

 俺は咄嗟に逃げた。逃げた。目の前のオタクを助けようともせず、自分の命が惜しいばかりに逃げ出してしまった。
 だがそれでも、俺は無事なんかじゃなかった。
 突っ込んできたダンプカーは同時に大爆発を起こして地獄のような世界を作り上げている。
 それはまさにテロが起こったといっても過言ではない。いや、これはテロだ。おそらくは。

 轢かれたオタクはグチャグチャになっていて、見るだけでもおぞましく、口から吐いてしまった。体中から今日食べたものが戻ってくるのを感じて口から外に出してしまった。
 運転手はかろうじて生きている。だがすぐに亡くなるのだろう。

「あ、ああ、な、んで、なんで、勝手に動、く、んだ、よ。ぶれ、えき、効か、ないん、だよ」

 運転手がなにかを言っている。まるで目の前の光景が信じられず、今の状況が信じられず。
 それでいてさっきまでのなにか不思議なことが起こったかのように信じられず。

 だがそれ以上に、上から瓦礫が降ってくるのが見えた。
 その下には俺の姿がないことは分かりきっている。だがその下にはまだ小さい男の子が。

「ああああああああああ!!」

 咄嗟に動いた、さっきはあまりにもすぐに自分の身を案じて逃げ出したのに。
 今度はちゃんと動くことができた。子供のもとに全速力で走って突き飛ばして、そしてなんとか救うことができた。『子供』だけは。

 ぐちゃっ

 脚が潰された。瓦礫に埋もれて、骨まで粉砕された。瓦礫に押し潰されて、どうしようもなく、たださっき助けた子供がどうなったのか、助かったのか無理なのか、気にしようとすることもできず。
 ただ痛かった、ただこの世で最も不幸なのは自分だろうと酔い痴れることができるくらいには痛かった。

「―――――――――――ッ!!」

 声にならないくらいの激痛。叫びたくとも、あまりの激痛に叫ぶことすら許されない。
 なにが起こったんだ? なにがあってこの現状があるんだ?
 分からない分からない、でも分かることだけは一つ。『死にたくない』

 だから助けてと泣き叫んだ。神に祈った。でも現状は変わらない。
 そして見える。上の方を向くと、そこには――今にも落ちてきそうな天井が、今すぐにでも瓦礫となって襲いかかってくる天井があった。

「助けてッ! 誰か!! 誰か、誰か、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて!!」

 恥も外聞もなく泣き叫んだ。死にたくない想いがあまりにも強すぎた。
 だから誰か助けてくれ、助けてくれ。俺は――俺は――
 そうして降ってくるのは天井の瓦礫、それは頭を叩き潰す、人1人を即死させるには十分な瓦礫が襲い掛かる。

『死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくな――』








 ≪佐藤芳樹≫は死んだ。首から上は瓦礫に潰されて消えている。
 現場には脚と首が潰されて亡くなっている死体がそこに残った。

 そこには多くの死体があった。
 事故だったのか、それともテロだったのか。とにかくこの事件の犯人の≪蔵元源蔵≫氏はこの事件にてダンプカーの中で死亡していた。
 生存者はたったの28人、その中には小さな子供もいた。芳樹が命をかけて――かけるつもりは毛頭なかったが――救った小さな小さな、男の子である。





「リリカルなのはの世界に送ってやろうかの」
「おお、マジ!? マジで、ひゃっほーーーーーーーーーー!!」
 
 天界には神が1人の男にある特典を与えていた。
 その男はさっきダンプカーに轢かれて体中が粉々になってしまった男である。

「すまんの。わしのミスでこんなことになってしまって。代わりにお主の好きなリリカルなのはの世界に送ってやるからの。それに特典もやろうかの。なにが欲しいんじゃ?」
「そ、そうだな~」
無限の剣製アンリミテッド・ブレード・ワークスか? 王の財宝ゲート・オブ・バビロンか? それとも幻想殺しイマジンブレイカーなんてどうじゃ? なんならアルハザードや古代ベルカのデバイスを作ってやってもよいぞ」
「マジかよ。サンキューな。神様。良い人だぜ、神様は」
「ほっほ。そうじゃろそうじゃろ」

 力を与えてやることにする。何を望んでいるのか。
 そしてそのオタクは遂に特典を決めるのだった。いろいろな特典を貰った。

「よっしゃあ。SSSランクの魔力量に、古代ベルカ式アームドユニゾンデバイスのカリバーン。それに魔力変換資質『電気』『炎熱』『氷結』。そして銀髪にオッドアイ。女性にも見えるほどの美形! これで勝つる!! 待ってろよ。俺が皆を救ってやるぜ!」
「それじゃ送るぞ。気をつけてな~」
「へ? 急になるなぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 いろいろとそのオタクに特典をつけて送り出す。そこには穴があった。
 突然なのはの世界へと送り出される。とはいっても憑依でもトリップでもなく、ただの転生なため雰囲気だけであるのだが。

 こうして神の娯楽は始まるのだった。

「いやはや、たまらんの~。なんとテンプレ設定。最近テンプレを見るのも久しぶりじゃし、初心に帰ってテンプレでも見てみるかの」

 ただ娯楽のためだけに殺された。ただの娯楽のためだけに。

 ただ――そこに天使が現る。

「神様。なぜこのようなことを。死者が大勢来ていますよ!」
「なんじゃ、天使。構わんじゃろ。今回で死んだ奴を天国と地獄にでも分けてやればいいじゃろ。全く、これは事故なんじゃから」
「しかし!!」
「仕方ないの~。ほれ、何人か同じ世界に送ってやるからこれで許してちょんまげ」
 
 これは事故。
 ただ蔵元源蔵のミスによって起こった事故として判断される。それがたとえ神様の技能スキルによる≪天から遣わす転生車輪リンカーネイト・トラック≫の効果だっとしても。
 だから今回は蔵元源蔵の過失。彼は地獄行きとなってしまった。たくさんの人を殺してしまったとして。

 神はこんなことで悪びれもしない。
 それから少しして何人か選定してから同じリリカル世界へと送りこんだ。
 ただテンプレ主人公を見るのもいいが、複数人いた方が面白いかもしれない、と神が判断したからだ。
 とはいっても送るのは神の能力で、転生することで喜ぶような奴だけなのだが。

「さてさて。ん? 今回の一人だけ、技能持ちスキル・テイカーがおったんじゃな。どんなスキルなんじゃろ」

 技能持ちスキル・テイカー、それは現存するはずの世界にある能力を持った者のこと。
 いわゆるその世界ではありえない能力を持った者のことである。

 因みに転生者もその技能持ちスキル・テイカーになっていることもある。
 
 簡単にいえば恋姫無双の世界に魔法を使える者がいたり
 リリカルなのはの世界で宝具の力を持つ者がいたり
 ゼロの使い魔の世界で杖を持たずに系統魔法を扱える者がいたり
 バカとテストと召喚獣の世界で超能力者がいたり
 そういったその世界には現存しない能力者のことを技能持ちスキル・テイカーというのだ。

 そして現実世界にある、現実世界にあってはならない能力を持った者が1人いた。
 
 技能持ちスキル・テイカーは幾らでも作れる。だが今回の天然物の技能持ちスキル・テイカーのようだ。
 天然物の技能持ちスキル・テイカー、つまり神が手を加えなかった者の場合、その確率はほとんど0に近しい。それとも地球滅亡並の確立だ。それほどありえない確率。
 だがその天然物の技能持ちスキル・テイカーが見つかって興味深いとのことである。

「さてさて、どんなスキルかの。気になるの。どれ、どんなスキルだったのか、見せてみい」
「は、はあ」

 天使はあまりにも傲慢なこの神の態度に苦々しく思っている。
 だがどんなに苦々しく思ってもこの神には逆らえない。天使は神に逆らえない。それが絶対不文律だからだ。
 かつて神に反逆することができた堕天使にはこの絶対不文律がなかったために成功できたのだ。それを思い直した神は逆らえないようにDNAの一片にまでその絶対不文律を刻み込んでいる。
 だからこの天使は神に対して逆らうことができない。

「なになに? えーと、佐藤芳樹。無自覚タイプ。自分のスキルに気付かんままに死んだのか。勿体な――」

 転機が現れる。神の肉体に変化が訪れる。
 それは浸食、神の肉体を犯す者が現れたことを意味する。

「な!? や、やめ、辞めろ! 辞めるんじゃ! こ、くの、この、き、切り離さねば――!」

 あまりの浸食速度に神は恐怖した。
 今すぐにこの浸食の原因を切り離さなければ自分は食われる。

 だから神はすぐさまに切り離した。幾ばくかの能力を犠牲に、この浸食者に肉体と神技能ゴッドスキルを与えて。

「こ、殺せ! コイツを、すぐに、すぐさまに――なっ!?」

 だが切り離した途端、切り離された魂はすぐさまに消え去る。いや、さっきの穴をくぐる。その穴はさっきのオタクを送り込んだ穴。
 つまりこの魂は、『リリカルなのは』の世界に逃げ込もうとしているのだ。

「な、なんなんじゃ! なんなんじゃ!! なんなのじゃ!! あれはぁぁぁぁぁぁ!!」

 報告書にはこう書いてあった。

≪佐藤芳樹 20歳 男
 無自覚技能持ちスキル・テイカー
 所持技能(スキル):「罪と罰ギルティ・アンド・パニッシュメント
 詳細:すさまじい怨念によって自分を殺害した者を殺し奪う技能スキル










 Side-Ordin


 不思議な光景が目の前にあった。
 目の前には下半身だけになって血溜まりに倒れている俺の下半身と、それを見て泣き喚くファナムの姿があった。

 そして俺の口の中には――



――死体になっている俺の上半身があった。



[19334] 第六話 誓い
Name: ゐを◆0c67e403 ID:7e265e7f
Date: 2010/06/19 22:58
 目の前には俺の下半身と泣き喚く俺の幼馴染のファナムがいた。
 そして俺の口の中には俺の上半身があった。なにがあった――?

 理解できない、あまりの展開に頭が追い付かない。
 何がどうなって今の現状になっているのか――!?

 だが理解できることがある、いや理解などではなく、感じ取っていることがある。現状を。
 最初は夢かと思った。これはありえないことなんだと。さっきまでのは夢で、さっさとこの夢から抜け出して、一族の皆で遊ぼう、ファナムとデートでもしよう。

 ――無理だ。
 どれだけ現実逃避しようとも、現実が五感を通じてビシビシと伝わってくる。
 人より優れた視力が今を現実だとはっきりと認識させる。
 人より優れた聴力が風の一片一片を聴きとり、自分を人ではないと認識させる。
 人より優れた嗅覚が人では味わえぬ世界の感触を我が身に味あわせる。
 そして俺の味覚が、俺自身の味を教える。ああ、なんて俺は美味しいのだろう。自分で自分の味を感じるなんて変態もいいところだ。
 そしてこの身に纏う触感が、鱗が、自分を人ではなく竜なのだと無理やりに教えてくる。浸食してくる。
 なによりも、自分の心臓辺りに感じるのだ。自分では味わえぬ、前世でも前々世でも感じなかったものが。

 これが――魔力なのか、リンカーコアなのか。

 この身には、俺には、魔力資質があった。

 俺はもう≪佐藤芳樹≫でも≪オージン=ギルマン≫でもなく、ただの≪フェンリール・ドラゴン≫であるのだと。




第六話 




「オーちゃん、オーちゃん! オーちゃん!」
「ぐる、るううううう」

 ファナム! と叫びたくとも今のこの身はドラゴン。なによりもフェンリール・ドラゴンに理性はなく、話す必要もなく。だからこそ俺という理性を身に付けた今でも、喋る必要性のなかったドラゴンの舌は人の言葉を放てなかった。
 いくら言おうともしても、自分はオージンなのだと伝えようともしても、言えなかった。
 
 いや、それ以前の問題なのではないのか。
 なにせ≪ドラゴン≫は≪オージン≫を殺してここにいるのだ。たとえ人の言葉を話せたとしても信じなどしないだろう。寧ろ敵視する。
 当たり前だ。さっき死んだんだ。それを理解しているのだ、ファルムは。
 だからたとえ話せたとしても理解してくれなんか、絶対にしないだろう。

 とにかく、ここから逃げよう。
 俺は俺を吐き出した。俺の上半身が現れた。
 
 ――美味しかったのに、食べたい

 そんな本能を抑えて吐きだす。せめて俺を供養してほしい。
 今の俺はドラゴンだとしても埋葬してほしい。一族の皆が葬られる墓に。
 
 上半身と下半身を見事に真っ二つにされた俺の体が眼に映る。

「うぐっ」

 今はドラゴンの身であるというのに、その光景を見た途端吐きそうになる。
 体はドラゴンでも、やはり心は人のままなのか。これもいつか慣れる光景なのだろうか? そう思うと鬱になってくる。

 とにかくここから逃げ出そう。すぐに逃げ出そう。
 
 ドラゴンの身になったのは悲しかった。悔しかった。本当に嫌だった。
 でもまだ生きている、生きてられる。そして俺がこのドラゴンの身体を奪い殺したからこそ、目の前にいる俺の幼馴染のファナムを守ることができたんだから。

 だから逃げ出そう。死にたくなんてない。俺はどうせ討伐対象になるんだろう。だから一目散で逃げ出そう。俺は死にたくなんてない。

 そう思って逃げ出そうとした時だった。
 そこに1人の男が現れる。
 その男は見たことがある。俺がオージンだった頃に見た、その姿を。

 その男は管理局員だった。ファナムやトルテを散々管理局に入局させようとしてギルマン一族の村にやってきてはしつこい管理局のスカウトだったのだ。

「ファナムちゃん、大丈夫かい!? 僕が助けてあげるよ。この管理局の、ゾーク・ル・ルシエの名にかけてね!」
 
 どうやらファナムを守りにやってきたみたいだ。ファナムも管理局の人が来てくれれば安心してくれるだろう。
 だから俺も逃げ出そう。目の前に管理局の人間が現れれば、俺は人を殺したドラゴンだ。討伐対象になる。だから殺されても仕方がない。だから逃げ出さなければ俺が殺される。
 だから逃げ出そうとする。

 だがゾーク・ル・ルシエと名乗った管理局の男の肩にある小さな竜がいた。
 そして管理局の男は杖型デバイスで詠唱を始める。

「行くぞ、ナーガ!」
「ぎおっ!」

 そこには紫色の蛇のような小さな竜がいて。
 彼の周りに魔法陣が発生する。それは魔法が発動するために必要なプロセス。

「来よ、我が竜ナウギリオン、竜魂召喚!!」
「ぎおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 紫色の蛇のような小さな竜はそのまま巨大化していく。

「≪大海流るる紫蛇の竜ナーガラージャ≫!!」

 それはまさに大蛇、いやドラゴンと呼ぶにはあまりにも違う。
 それはまさにインド伝説のナーガかのような、そんな姿。

 紫色の巨大な蛇に修羅の顔と紫色の巨大な腕があり、翼もないのに宙に浮いている。ドラゴンの中でも魔法を得意とする魔導竜、≪大海流るる紫蛇の竜ナーガラージャ≫だ。
 そしてこれだけのドラゴンを扱えるこの男、ル・ルシエの名に恥じぬだけの魔導師というのは間違いない。

 圧倒的な魔力を感じる。それを扱う者の強さを感じる。

 これがドラゴンか、これが魔導師か。

 だが脚力ならばこちらが上。こちらが全力を出して逃げ出せば、今の俺ならば逃げ切れる。逃げることができ――

『――動くな』

 途端、動くことができなくなった。
 どうしたことか、本能から動けなくなってしまった。
 ここから逃げ出せと叫んでいるのに、脚に命じているのに、なぜか動かない。動かせない。まるで本能から縛りつけられているかのように――

『そのまま動かず、ナーガに殺されろ』
「!!」

 この男の名は、『ゾーク・ル・ルシエ』。【ル・ルシエ】
 ル・ルシエは、竜使いの一族。竜を扱うのに長けし一族。

 ならば俺を喰らったこの身は?
 今の俺は、フェンリール・【ドラゴン】、――ドラゴン?

 まさか、まさか、まさか!!

『魔法の使えない、ただ暴れることしかできない竜などもう不要だ。ナーガ、そのままその木偶の坊を殺してしまえ』
「ぎおおおおおおおおおおおおお!!」

 ナーガは魔法陣を発生させる。
 ナーガの持つスキルとして魔力変換資質『水』が存在する。
 そしてナーガはバインドを発生させる。ナーガラージャの魔法、≪アクア・バインド≫。
 
 今の俺は水にその体を縛られている。身動きが全く取れない。

「とどめだ! アクアプレスブレスを吐け!」
「ぎおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 動けない動けない動けない動けない!!
 肉体的にも精神的に動けない!! 二重に縛られている。
 今の俺はル・ルシエの魔法で従属させられた状態のまま、ナーガラージャのアクア・バインドで縛られた状態にある。今の状態じゃ動けない!
 このままだとナーガラージャのブレス攻撃で圧殺される! 駄目だ、駄目だ、殺される!? 死んでしまう!?
 『死にたくない!!』

 殺されても大丈夫なんじゃないのか? どうせ死んだらあのドラゴンの体を奪うだけだろ?
 なぜそう思ったのか? 分からなかった。でも死にたくなどなかった。
 『死』をこの短時間で二回も味わえば、確実に精神的ダメージを大きく、廃人となってしまうのは目に見えていた。

 殺されても大丈夫、とどうして思ったのか分からない。どうせ死なないとどうして思ったのかも知らない。
 でも分かることは一つ、このまま死んだらたとえ生きていても、もう≪佐藤芳樹≫としては≪オージン≫としては、決して生きられない、≪廃人生きた屍≫になるのは、心の底から理解できた。

 だから俺は――


 全力で、思い浮かべる。心の底で思い浮かべる。
 使えるかどうかも分からないのに、使えるわけがないのに。それでも学んできたことを。

「GAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO(≪バインドブレイク≫!!)」

 思い浮かべるのはバインドブレイクの方式。
 俺は計算は苦手だけど暗記には自信がある。だから暗記した。使えるわけがないと思っても、いつか使えるんじゃないだろうかと思って暗記していた。リンカーコアがないと分かったのは暗記し終えた後だったが。

 今、リンカーコアがある。デバイスもなく、ただリンカーコアにある魔力だけでバインドブレイクの方式を思い浮かべ発動させる。それがどれだけ大変で難しいことか、俺には分からない。
 それでも今、使わないと、また『死ぬ』!!

ばきっ

「な!? ば、馬鹿な!?」
「ぐるるるう、GAAAAAAAAAAAAAA!!」

 バリアブレイクでナーガラージャのアクアバインドを打ち破り、ついでに目の前の管理局員の従属の魔法をも打ち破った。今の俺は完全なる自由だ。
 目の前の男を殺したい、この牙で屠りたい気持ちでいっぱいになった。でも殺したら最後、もう俺は≪佐藤芳樹≫にも≪オージン≫にも戻れなくなる。
 だから俺は、脚に魔力を垂れ流し、全速力で逃げ出した。

「な!? 逃がすか、追いかけろ、ナーガ!」
「ぎ、ぎおおおおおおおおおおおお!!」

 全力で逃げ出す。
 今の俺はフェンリール・ドラゴンだ。ドラゴンの中でも陸での速さは随一の速さを誇る。だからこの場を全速力で逃げ出す。
 今の俺は理性があり、魔力を脚に集中させるということもできる。ならば魔力なしでも十分に速いフェンリール・ドラゴンは魔力を集中させることでより速くなり、ナーガラージャごときならば単純な脚の速さだけで撒くことなど簡単だ。

 とにかく俺は逃げ出すことにした。



Side-Fanam

 オーちゃんが、オーちゃんが、目の前で、目の前で、死んじゃった、死んじゃった。
 なんで? どうして? 

「大丈夫かい? ファナムちゃん。僕がここまで来たからには安心だよ」

 やだよ。オーちゃん、起きてよ、起きてよ、オーちゃん。
 目の前で二つになっているオーちゃんに心の中で願う。生きて、立ちあがって、目覚めて、と。
 でもオーちゃんは立ちあがることもなく、目覚めることもなく、死んでいた。
 どうして……? なんで?

「オージン君のことは残念だったと思うよ。でも泣いちゃいけない。
 オージン君みたいな人を増やさないためにも管理局に入るべきなんだ、君は。
 仇を取りたいんだろう。だったら管理局に入るべきだ。オージン君はそれを望んでいるはずだ!」
「オーちゃんが……」

 オーちゃんが死んだのはどうして?――真っ二つになったから
 どうして真っ二つになったの?――殺されたから
 誰に?――【ドラゴン】に。

「……許さない、許さない。許さない、殺す。殺してやる、殺してやる。絶対に、殺してやる!!【ドラゴンを!!】」
「管理局ならば君の手助けだってできる。オージン君も君の管理局入りを望んでいるはずさ!」
「……分かりました。入ります。管理局に。そして絶対に、殺してやります。絶対に!」

 私は復讐を誓った。オーちゃんをドラゴンを決して許さない。絶対に殺してやる。
 だから力を貸して、≪竜滅ぼす魔剣バルムンク≫。



[19334] 第七話 去らば
Name: ゐを◆0c67e403 ID:7e265e7f
Date: 2010/06/19 22:59
 今の俺は人ではなくなった。
 今はもう人が出入りすることができないくらい深い深い森の中。
 あまりにも危険なために魔導師でさえ出入りすることができないくらい深い森の中。
 だがこの身は既に人ではなく、ドラゴンであるために。この身は獣の王にしてドラゴンであるために。



第七話 


 三日三晩、逃げ回った。
 これは夢ではないのかと思った。だが現実であるとしか感じられず、現実として認めるしかなかった。
 今まで平和に暮らしてこれたのに。ただ嘆くしかできなかった。

 そうして嘆いて嘆いて嘆きまくって、なんとか立ち直ることができたのだった。

『どうするべきか。というか今の俺、特殊なスキル持ってるのが分かる。さっきまで分かんなかったのに』
 
 今の俺には『罪と罰ギルティ・アンド・パニッシュメント』があることが分かった。そして転生の神様に殺されたことも――神様、ぶっ殺す!!
 いや、正確には思い出すといった方が正しいのか。今の今まで、もう一度この希少技能レアスキルが発動するまでは思い出せなかったから。

 とにかく今の俺にできる能力を確かめてみよう。
 今の俺には俺の持っている技能スキルを見ることができる技能スキルがあるらしい。うわ、気になるな。とにかく見てみるか。


状態識別アイデンフィケイション
 神技能ゴッドスキル
 自分のステータスを確認することができる能力。
 ただし現状数多くの制限がされており、自分の持つ技能(スキル)を確認することしかできない。

罪と罰ギルティ・アンド・パニッシュメント
 希少技能レアスキル
 技能(スキル)保持者のすさまじい怨念によって殺害した者を殺し奪う能力。
 ただしあまりにも殺害が連続したり期間が短いと、体を奪ってもすぐにショック死してしまう。

天から遣わす転生車輪リンカーネイト・トラック
 神技能ゴッドスキル
 召喚魔法の一つ。
 自分の近くにあるトラック、または乗り物を自由自在に動かし、それで轢いた者または存在を問答無用に自分のもとに召喚する。
 轢き殺した場合、魂だけを自分のもとに召喚する。別名≪転生トラック≫
 使い慣れると遥か遠くにあるトラックでさえ動かせる。

神域の魔力テンプテーション展開導入ダウンロード
 神技能ゴッドスキル
 召喚魔法の一つ。
 天界に存在する神域の魔力を召喚する魔法。魔力のみしか召喚できない。
 因みに神域には21個のジュエルシードが全力全開で同時共鳴発動したとしても、銀河から見たミジンコ並くらいにしか見えないほどの圧倒的魔力が存在する。
 神はここの魔力をダウンロードして魔法を発動する。
 ただし現在ダウンロードしかできないため、魔法を発動するにはダウンロードした魔力を取り込む必要があるが、リンカーコアの容量以上を取り込むことぐらいしかできない。
 ダウンロードだけならば幾らでも召喚できる。

≪転生≫
 神技能ゴッドスキル
 現在使用できない使い捨ての魔法。もう一度発動するには同じ方式を組み上げる必要がある。
 誰かの母胎に入り込み、前世の知識を所持したまま誕生することができる。
 一度使ったため、現在使用できない。

≪いろいろな魔法≫
 魔法書で覚えた魔法。いろいろな術式が書いてあるのを暗記している。
 バインドブレイクも覚えているし、中には変身魔法を覚えている。人間変身魔法使用可能。

方式形成フォーミュラー・フォーマティヴ
 竜技能ドラゴンスキル
 どうして持っていたのか分からないフェンリール・ドラゴンの技能スキル
 魔力に対して外側から魔法を形成することが可能な能力。ただしその際に魔法式を思い浮かべなければいけないので知能のない生物には持っていても使用不可。
 リンカーコアを通さずともこのスキルがあれば外側から直接魔力を魔法に返還することができる。
 ただしこれを使った場合、集めて発動することができないため、魔力の濃いところでないと魔法は発動できない。
 あくまで魔力を直接変換するだけなので、魔力濃度5の世界では、リンカーコアに集めて25の魔法を発動できるが、このスキルでは5の魔法までしか発動できない。
 ただし濃度100の世界ならばリンカーコアに50までしか集められなくて50の魔法しか使えなくとも、このスキルでは100の魔法を発動することができる。
 このスキルを発動する際、デバイスは必要ないし、デバイスから通すことはできない。



 あー、結構使えるもんかと思ったら使えないの多いな。まあ途中で切り離されたし。
 なぜか持ってたドラゴンの希少技能 レアスキル方式形成フォーミュラー・フォーマティヴ≫がなかったら≪神域の魔力テンプテーション≫も役立たずだったな。
 組み合わせると最強だけど。
 どっちも単体だと使い物にならないほど使えないスキルだったわ、これ。

 でも俺、運は良くないけど悪運だけはなんとかあったな。
 単体だとどっちも使い物にならんけど組み合わせると強くなる――かもしれない。

 ご都合主義とかいうな。このご都合主義のおかげでなんとかなるとは思う。

 ギルマン、としてはきっと生きられない。既に死んでいるんだから、俺は。
 それに変身魔法で俺になったとしても変身魔法使っているんだってすぐにばれちまうのは明白だ。
 もうギルマン一族の皆にはきっと会えないだろうな。
 このまま去ろう。


 こうして俺は第12管理世界から逃げ出すのだった。
 今の俺は≪オージン≫として生きる。ただのオージンとして。



[19334] 第八話 竜滅姫
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/19 22:52
 新暦71年、とある管理世界。

 そこではドラゴンが暴れていた。
 どうやら密輸されてきたドラゴンらしく、そのドラゴンが脱走し、多くの住民をくびり殺している。 

 魔導師ランクとしてはAAAランクの強さを誇る魔獣。
 他の魔獣よりも圧倒的な膂力と、その身に纏う鱗は生半可な魔法の一切を弾き飛ばしてしまう。
 その巨体の割に、素早い高速移動を得意とする近接戦闘を旨にする獣竜。

 それはドラゴンでさえもくびり殺してしまうドラゴン、【コング・ドラゴン】である。



第八話 



「GOAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
「う、うわぁ、た、助けてくれぇぇ!」

 必死に出てきた武装局員たち。
 だがコングドラゴンの防御力の前に、彼らの魔法は無意味となる。

 彼を倒すには鱗の覆ってない口内を狙うか、それとも鱗を破壊できるだけの魔法を撃つしかない。
 だがここにいる武装局員たちではそんなことはできず、逃げ惑う者もいた。

「くそっ! 誰か、読んでくれ! AAAランク以上の人を!」
「無理ッスよ! こんな辺境なんかに来てくれるはずないッスよ!」

 これは突発的に起こったこと。
 密輸されてきたコングドラゴンが逃げ出して起こったのだ。
 ただでさえ忙しくて人手不足な管理局がこんな辺境の管理世界にわざわざAAAランク以上の魔導師を送ってくれるはずがない。たとえ送ってくれるとしてもすぐになんて来てくれるはずがない。
 だから今はここにいる武装局員たちだけでこのコングドラゴンを抑えなければならない。
この作戦で一体どれだけの犠牲者が出てくるのか、考えるだけでも身震いしてしまう。

「GOAAAAAAAAAAAAAAA!!」
「ひ、た、助けて! 助けて!」

 1人の女性局員がコングドラゴンに掴まれる。
 コングドラゴンはそのまま彼女を口の中に入れようとした。つまり食べようとしている。

「い、いや、いやぁぁぁぁぁ!!」
 
 このままでは食べられる。
 だが彼女の魔導師ランクはC+。その程度ではこのコングドラゴンに一撃を与えることも敵わない。
 彼女のデバイスは既にコングドラゴンによって大破されてしまっているために抵抗することすら許されない。
 だからもうこのまま食べられ、死んでしまう――

「≪竜滅ぼす魔剣バルムンク≫、セットアップ」
『Ja Meister(了解致しました、我が主)』

 凛とした声が響く。こんな非常事態だというのに、食べられそうになった少女はその声に見惚れてしまったかのように、この一瞬の恐怖を忘れた。
ただ安心できるかのような、もう大丈夫なのだと、心のどこかで思ってしまう。
 どうしてそう思ってしまうのかは分からないが。

「喰らい潰せ」
『Ja』

 一瞬の煌めき、流星のような一撃が、コングドラゴンの右腕を切り裂く。

「GOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA、AAAAA!!」
「きゃっ」

 それは女性局員を握っていた腕だった。
あまりの鋭さゆえにコングドラゴンは一瞬何が起こったのか理解できず、だが失った右腕を見てなにをされたのかを理解する。

一方、放り出された女性局員だったが、すぐさまに流星のような一撃を放った魔導師が彼女を抱きあげる。
そこにいたのは――

黒髪にビー玉のような安っぽい髪飾りをしており、だがその毅然とした態度はへたな男よりも尚男らしく、まるで王子様かのような印象が見られる。
その手にあるのは一本の無骨な剣、だがその剣は切るための剣というのを容易に連想させる。
 だがそこにいるのは1人の女性、女性の管理局員。
 そして凄腕の武装局員というのが雰囲気だけで理解できてしまう、そんな雰囲気が彼女にはあった。

「か、かっこいい」

 あっという間にその女性局員を惚れさせてしまった。
 因みにお姫様抱っこである。

「GA、AAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 腕をやられたことがショックだったのか、コングドラゴンは彼女に向けて突進してくる。
 今現在、さっきまでやられそうになっていた女性武装局員を抱えているために大したことはできない。
 この状態のままでは剣を振るうことができな――

「フォルムチェンジ」
『Ja , Ridill form』(了解しました、リディルフォルム)

 バルムンクと呼ばれたその剣はその姿を変える。
 剣型デバイスはフォルムを変え、リディルフォルムと呼ばれし姿へと変わる。

 剣は爪となり、彼女の右腕となって変化する。
 そのまま彼女は――

「はぁぁぁぁぁ!!」

 思い切り殴った。
 リーチが短くなったが、その分だけ一点に集中するだけの破壊力が増したのだ。
 コングドラゴンの鱗すらもその爪の拳で破壊したのだ。
 あまりの破壊力ゆえにコングドラゴンは転げ回り、叫びまわる。

 女性局員を抱えたまま、彼女は爪型デバイスで殴り、コングドラゴンの鱗を破壊することに成功したのだ。

 その目にはどうしたことか、憎しみの目が映っていた。

「これでしまい。お前は、ここで、死ぬ」
『Askalon form』≪アスカロンフォルム≫

 そして再び、バルムンクはそのフォルムを変える。
 爪型のリディルフォルムから、それは宝石がついた巨大な短剣となる。
 剣にしては太く短く、短剣にしては巨大。いうなれば巨大になった短剣というのがその姿の正しい表現だ。

 これは他の2つとは違い、近接用のデバイスではない。
 巨大短剣型フォルム、アスカロンフォルム。もっぱら遠距離専用の、いや、一撃必殺専用の形態。

「GA、OOOOOOOOOOOOO!!」

 コングドラゴンは感じ取ってしまった。
 アスカロンフォルムのバルムンクに集っている魔力を。これから放たれるのは彼女のとっておきなのだと。
 理解してしまったゆえにすぐさまに接近して殺さなければ。そう感じ取ったコングドラゴンは一目散に近づいていく。
 
 だが遅かった。
 気付くのが遅く、そして向かってくるのも遅く、近づく前に完成してしまった。

「ドラゴンスレイ、ブレイカ」
 
 抑揚のない声だった。
 あまりにも静かで、だがそれがとっておきなのだとすぐにでも理解できた。
 これが彼女の持つ必殺魔法『ドラゴンスレイブレイカー』。竜を屠る最強の砲撃魔法。
 
 その砲撃は、コングドラゴンを灼き尽くす。

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 その一瞬で灼き尽くされたコングドラゴンはその塵すらも残さずに死亡する。
 たった1人、現れた1人の少女の魔導師の手によって。

「こ、これが――管理局エース『竜滅姫』、ファナムか!」
 
 彼女こそが管理局のエースの1人『竜滅姫』と呼ばれし少女。
 復讐を誓った少女、ファナム=ギルマンであった。

 その姿はあまりにも凛々しく、だがなによりも重々しく。
 ただただドラゴンを喰らい潰していくのだった。



 

 管理局局内。

「やあやあ、今日も大活躍だったみたいだね。ファナム」
「……」

 ファナムが帰ってきた先にやってきたのは5年前にギルマンの村に訪れてやってきたゾーク・ル・ルシエである。
 だがファナムはそんなゾークに目もくれず無視して先を歩く。

「おいおい、無視しないでくれよ。どうだい? 一緒に食事でも」

 だがゾークはめげずにファナムを誘ってくる。
 だがそれでも無視をする。するとそこに2人の局員がやってきていた。

「あ? こんにちは。ファナムちゃん」
「……高町教導官、ハラオウン執務官」

 現れたのは現在「エース・オブ・エース」として有名な高町なのは教導官、そして「漆黒の雷神」フェイト・T・ハラオウン執務官である。
 因みにファルムと彼女たちは同い年でもある。

 特に高町なのは教導官はこの前の「ミッドチルダ臨海空港大規模火災」の際には圧倒的な砲撃によって、天井をぶち壊したとかで有名である。

「おや、なのは君、フェイト君。君たちもどうだい? 僕とファナム君とで食事に行くんだが、君たちも?」
「いかない」
 
 彼女の口調には「何勝手に決め付けてんだ? ああ?」といったような感情が籠められている。

「はは、そんなに照れなくともいいのに」
「あ、あはは、ちょっと遠慮しときます」
「す、すみません」

 さすがの高町教導官もハラオウン執務官も、ゾークの誘いにはさすがに断るようだ。
 原因はゾークのその舐め回すかのような視線だ。さすがに2人はこの視線には耐えきれない。

「それじゃ」
「あ、ファナムちゃん」

 そうして去っていく。
 なのはは呼びとめようとするが、彼女はその呼び掛けを無視して廊下を進むのだった。
 
 するとファナムの前に2人の局員が現れた。
 彼女にとっては仲間とも思える人物。

「フレイア、トルテ」
「お~お~、変わったね~、ファナム」
「うるさい」

 それは5年前と似たトルテとフレイアがいた。
 彼女らは5年経った今でもあの頃の面影を残している。
 
 トルテは緑色の髪色に気弱そうな眼鏡少年。
 その可愛らしさは女性に間違えられるほどで、幾多もの男性局員を無意識に踏み外させた経験があるほどだ。
 どうしてあれほど嫌がってた管理局に入ってきたのか、未だ謎である。
 ある意味、ファナムとは正反対である。

 そしてフレイアは紅に染まった短髪に、ラフな格好をしている。
 しかも15歳にしては胸の膨らみは無視できないほどに膨れ上がっている。おそらく同年代ならば彼女に勝る大きさの胸の少女はいないだろう。
 勝気そうであり、そして生意気そうな顔が見える。

 だがそんな相変わらずの2人と違い、ファナムは大きく変わった。
 あまりにも変わりすぎた。

 黒い長髪にビー玉のついた安っぽい髪飾り。
 だがその服装はボサボサで、だが彼女の目はあまりにも鋭くなっている。女性が見ればその目はカッコイイと見惚れてしまう人が大勢いるのかもしれないが、フレイアやトルテから見ればその瞳は5年前のあの事件からまだ抜け出せていないというのが理解できる。
 
 彼女はトルテと似ている。
 主にトルテが男性局員の道を踏み外させ、ファナムは女性局員を百合な人に変えてしまう、それはまるで希少技能レアスキルかのように。

 ファナムは未だ【ドラゴン】を憎んでいる。
 ドラゴン使いのゾーク・ル・ルシエに助けられたことはありがたい。そう思っている。
 でもそれと同時になぜもっと早く助けてくれなかったのか、見当違いの憎悪もファナムは彼に抱いているのだ。
 もっと早く来てくれれば、あんなドラゴンなんかにオージンを殺されることはなかった。愛しい彼が死ぬことはなかった。
 そのことがより彼女のドラゴン嫌いを促進させている。

 ただ今は復讐のその時を待っている。そのために剣を、牙を尖らせている。
 殺すはオージンを殺せし竜、【フェンリール・ドラゴン】。
 そのために彼女は魔獣殺しの任務の数多くを自分から志願している。

 魔獣殺しを専門としているためか、ついた渾名は≪竜滅姫≫。

「もう、いくのか。ファナム」
「ああ」
「え、えと、ふぁ、ファナム。こ、今度さ、一族に帰って、た、タッチフット、や、やろうよ」
「この馬鹿!」
「あいてっ!」

 タッチフットは村の皆でよくやった競技。
 そしてオージンが最も活躍したスポーツ、主に作戦面で。
 だから今はまだタッチフットをするつもりはない。しようとすれば、村の幸せだった頃を思い出してしまうから。
 オージンと共にいた時代を。

「今はまだ、そんな気分になれない」
「そ、そっか」
「ご、ごめん」

 だからすることはできない。気を紛らそうとしてくれたトルテには悪いが。
 だからすぐにフレイアはトルテの頭を叩いたのだが。

「それじゃあ、次の任務にいってくる」
「……ああ、頑張ってこいよ。≪竜滅姫≫」
「……ああ。この名は私に相応しい。私の覚悟を、表す」

 そしてまた魔獣狩りへと出かける。
 いつかフェンリール・ドラゴンを狩れるその日を待って。
 そのために他の魔獣で、牙を研ぐ。

 ≪竜滅姫≫ファナム=ギルマン。
 管理局のエースの1人であった。



[19334] 第九話 アルザス
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/19 22:59
 新暦71年
 第六管理世界「アルザス」

 その世界のとある地方ではある爪痕が存在していた。
 それは怒れし守り神の爪痕が。



第九話



 疲れる、歩くのしんどい。
 あれから実に5年もの月日が経った。

 ドラゴンになってからの最初に三日三晩に泣き喚いた。嘆きまくった。
 多分、この世で一番不幸なのは俺なのだろうと思うくらいに泣きまくった。俺よりもっと不幸な奴なんて幾らでもいるのに、そう思えてしまうくらいに。
 でも三日三晩経って、泣き喚いてようやくふっきれた、と思えた。

 こんな姿になってしまってはもうギルマン一族には戻れないし、ファナムにも会えない。いや、会ってしまったら逆に恨まれるだろう。もしかしたら殺されるかもしれない。
 なにせ俺の死体はしっかりと埋葬されている。≪オージン・ギルマン≫の、俺の死体はちゃんとギルマンの墓に埋められているのだから。
 たとえ俺がオージンなのだと言っても誰も信じてくれはしない。
 
 もし俺が二回も『死』を体験していなければ、「死んでもいい。それでもファナムに会いたい! たとえ殺されても本望だ!」と厨二病のごとく会いに行ったのかもしれない。
 
 でも俺はもう2回も『死』を体験した。
 胃にたまっている液体のすべてを吐き出してしまいそうになるくらいに、あまりにも絶望的な『死』を2回も体験してしまった。
 もう『死』を体験したくない。もう『死』にたくない。

 多分俺の能力なら実質的には不死なんだろう。
 でももう、あんなのを味わうくらいなら、死んだ方がマシだ。なんて言えない。
 それにもう一度『死』んだらさすがに完全に死んでしまうだろう。肉体は新しい体になっても、きっと俺という人格は粉々にまで壊れてしまう。
 そういう意味ではきっと俺は『死ぬ』。
 
 だから会いに行きたいって想いと会いたくないっていう感情とが俺の心の中でぶつかり合っている。
 
 なにより管理局に『ファナム』の名が見えた時、ファナムの写真が映っているのが見えた時、俺はどうしようもなく『会いたい』って気持ちが強くなった。
 なにを差し置いても『会いたい』のだと。

 それと同時に『死にたくない』って気持ちが湧き上がって、『会いたい』って気持ちをかき消そうとする。
 それでも『会いたい』って気持ちは無限に湧き上がって、でも『死にたくない』は『会いたい』に比例して増幅して『会いたい』を消そうとする。
 そんな無限ループの葛藤に俺は囚われていた。

 それで今、俺はまだ会いに行けない、そんなチキン野郎なんだ。

 今はまだ遠くで眺めているだけしか俺にはできないでいる。

 ドラゴンになってから最初の一年は、決心しても納得できなかった。
 自分がドラゴンであると、納得できなかった。
 だからこそ時折自分はオージン=ギルマンなんだって想いに囚われて、また泣き喚きそうになって、夢にも魘されるくらいになって。最初の一年はただただ惰性で生きているだけしかできなかった。

 二年目になってようやくこれが現実なのだと受け入れられた。
 現実を受け入れるのに一年も経ってしまったけど、これは仕方のないことなのだろう、きっと。と、自分に言い訳してみる。

 とりあえずドラゴンになって二年目は変身魔法にその全てを注ぎ込む。
 ここ一年は獣のような生活を送っていた。変身魔法を使えても不慣れな俺は完璧な変身魔法なんて使えずにいた。
 人型になるのなんてこの当時は不可能に近かった。
 半年くらい経ってからようやく人型になることはできた。この時、俺は使い魔なんだって偽って人の世界に入ることができる。
 使い魔なんだって偽った理由はまだこの時は完璧な人間に変身することができなかった。
 ところどころ『フェンリール・ドラゴン』の面影が、俺の今の本当の姿の面影が残っていたからだ。

 ドラゴンになって三年目でようやく完全な変身魔法を習得し終えた。
 俺、もともと数学と英語苦手だったからな。完璧な変身魔法を習得するのに時間が掛ったよ。
 その際、どこかの管理世界でゴミ捨て場に捨てられてあった杖型ストレージデバイスを拾った。ある程度マシになった程度だった。
 その後、ある程度仕事して、金をためてから別の新品の杖型ストレージデバイスを買った。さすがにストレージデバイスぐらいしか買えない。

 俺は数学とか英語とかが極端に苦手なため、ほぼまる写し状態である。
 どこかの管理世界の本屋で魔法世界の出版社が出版している雑誌に、高町なのはの魔法式のすべて、だとかフェイト・T・ハラオウンの魔法式のすべて、だとか他にも八神はやての魔法式のすべて、だとかが載ってあった。
 こんなの載せて大丈夫なのか、管理局?
 
 とにかくこういうものから杖型ストレージデバイスにインストールさせてそれをほぼ丸写しで使用している。

 自分専用にあった術式ではないため、本人が使うよりも遥かに効率が悪い。
 多分ディバインバスターなんて高町なのはが魔力10を使って10の威力を出せるのに対し、俺が魔力10を使っても5か6、下手すると4くらいしか引き出せない状態だ。
 だからといって自分用に術式を微妙に変化させるなんて真似が俺にできるわけもなく。俺は魔法を計算するだけの頭なんて持っていない。
 多分、感覚的にも論理的にも俺には魔法に不向きなんだろう。もともと魔導師じゃなかったんだし。

 そうして俺はこの5年を過ごしてきた。
 ただ無為に生きていたのか、でも死にたくない想いが強すぎて、必死に生き延びてきていた。

「しかし、ここ、焼け跡が酷いな」

 まるでなにかが暴れ回った後みたいだ。
 しかもそのなにかは生半可なものなんかじゃなく、一匹で世界を蹂躙できるほど凄まじいなにか。それこそAAランク以上なのは間違いない。もしかするとSランクを行くんじゃないのか?
 そう思えてしまうくらい、圧倒的ななにかが暴れ回った跡のように見える。

 今、俺は人間形態、以前の俺、多分≪オージン=ギルマン≫が15歳までちゃんと生きていられたらと思う、そんな姿になっている。
 まあつまりは黒髪黒目の普通の姿だ。多分印象が薄くてあまり仲が深くない人にはすぐに忘れ去られそうな見た目だ。

 さすがにもう自分は「使い魔だ!」と偽らなくて済みそうである。

「さすがに危なそうだな。別の世界に行くかな」

 第6管理世界、アルザスは竜の世界。
 ならば竜の身である俺も生活できるのではないかと思ったが、こんな爪痕があるんじゃヤバそうだ。
 このままここにいてはこんな怪物に襲われるのかもしれない。
 ここはさっさと別の世界に行くべきである。

 と、いうわけで俺はこの世界の転移空港へと急ぐのだった。
 今はこの厄介そうななにかが暴れた跡のある森から抜け出さなくては。
















 1人と1匹、人と竜。
 ここの近くにはル・ルシエという一族がいる。ゆえにこの組み合わせは珍しいものでもない。
 だがまだ齢幼き少女1人とその相棒である小さな竜だけというのは本当に珍しい。
 だがそれには理由があるのだ。

 彼女はル・ルシエでも有数の召喚師だったのだ。
 その素晴らしさは次期族長とか思えるほどに素晴らしい召喚師。その才能に皆憧れ、次期族長して選ばれるのも時間の問題だった。

 だが彼女はあまりにも優秀【すぎた】。
 ル・ルシエの召喚師としての彼女の優秀さは禍を呼び起こしたのだ。

 ≪大地の守護者ヴォルテール
 アルザス地方に生息する希少古代種≪真竜≫が1体。
 その圧倒的巨大さと二本足で立ちあがることのできる黒竜の頂点。
 大地を震撼させるほどであり、アルザスの民の畏敬の対象となっている。

 彼女はその大地の守護者ヴォルテールの加護を得ている。
 あまりにも強すぎる加護。

 それゆえに覚悟も技術もない幼きル・ルシエの民が扱いこなすなどできるはずもなく、ただただ暴走させたという結果しか出てこなかった。

 ル・ルシエの族長はそのあまりにも強すぎる彼女のことを禍なのだと感じ取った。
 強すぎる力は禍となる。
 
 彼女は幼い。だが村のためを想うのならば心を鬼にして追い出すしかない。
 ゆえにル・ルシエの族長は彼女を追放処分にした。

 【キャロ・ル・ルシエ】とその竜≪フリード≫はもう二度とル・ルシエの大地を踏むことは敵わない。
 彼女はル・ルシエから追い出されたのだった。

 ル・ルシエの民で追放処分を受けたのは、数十年前に危険思想で族長から追放され、管理局に入った男以来だ。

「どうしよう、フリード」
「キュクルー」

 彼女はあまりにも幼すぎた。
 現実は彼女1人、いや竜を含め、子供1人と幼竜1匹とで生きていけるほど現実は甘くなどはない。

「うう、お腹減ったよ」
「キュクルゥ」

 族長や一族の皆から渡された保存食も尽きかけている。
 このまま食料が尽きる前にどうにかして食料を確保しなければならない。

 だがまだ幼い彼女らにはそんなことは酷だ。

 がさっ、そんな音がした。
 キャロとフリードはその音に反応して、身構える。
 現れたのは5人の男だ。しかも全員デバイスを持っている。
 こいつら全員魔導師だ。

「へっへっへ、こりゃあついてるな。餓鬼が1匹だぜ」
「しかも竜までついてんだな。高く売れるんだな」
「でへっへっへ、お楽しみさせてもらおうぜ」
「お前、ロリコンかよ」
「おら、んなこと言ってねぇでとっとと身包み剥いで、縛り上げるぞ。その後は好きにしていいからな」
「でっへっへ、さすが兄貴。分かってる~」

「ひっ!」
「きゅ、クキュ!」

 2人は恐怖してしまう。当たり前だ。まだ2人とも幼いのだから。
 フリードは主人を敵から守ろうとするが相手は全員魔導師だ。その実力差をこの小さな竜を理解している。
 キャロは舐め回されるかのような視線に耐えられない。
 これから自分がなにをされるのか、怖くて怖くて仕方がないのだ。

「そんだらいくんだな、バインド!」
「キャッ!」

 咄嗟にセットアップしようとしたがそれよりも早く盗賊の男がバインドを仕掛ける。
 しかもかなり強力なバインドらしく、身動きがとれない。
 セットアップしていない状態では、このバインドをバインドブレイクで破ることができない。

 フリードの方を見ると、フリードもまたバインドで縛りあげられていた。
 しかもキャロよりも強力なバインドでだ。

「どーなんだな。バインドは得意技なんだな」
「でっへっへっへ、兄貴。やっちまって、いい? いいよな」
「ロリコン、キメェ」

 盗賊の1人は必死にリーダーっぽい盗賊の男に了承を求めようとしている。
 それほどキャロが好みなのか。このままではキャロの貞操が危ない。

 そんなロリコンな盗賊の男に対して、冷静に突っ込みを入れる盗賊がいたりもしたが、そんなことはロリコンな盗賊にとってみれば日常茶飯事。気にすることでもない。

「や、やめて、やめて、やめて」
「そんなこと言われてもやっちゃうのが俺クオリティ」

 キャロはあまりの恐怖に泣き叫ぶ。
 だが盗賊の男にはそんなこと関係ない。問答無用。ただの雌でしかない。
 だから遠慮する必要もなく、逆に涙を流している姿は盗賊の男をより強く興奮させるだけ。逆効果でしかない。

「あ、いや、やだ、やめて、いやだ」

 どれだけ嫌がろうと無駄でしかない。
 そうしてバインドされたまま身動きがとれず、盗賊の男がキャロに手をかけようとした、その時だった。

 翠に輝く弾丸が、男を貫く。

「ぎゃあああああああああああ!!」
「え?」

 それは正確に狙う澄まされた弾丸。
 その一撃で男は気絶してしまう。なにが起きたのかも分からずに。

「たく、まさかこんなシーンに出会うなんて、なんてテンプレ」








「たく、まさかこんなシーンに出会うなんて、なんてテンプレ」

 だが目の前にある光景は現実だ。
 キャロにとっても、そして俺にとっても。テンプレだなんて言ってられない。
 
 確かに死ぬのは怖いけれど、こんな奴らに死を覚悟させられることはない。
 だからこいつら相手に戦うのはぶっちゃけ怖くなんてない。

 さっき撃ったのはアクセルシューター。
 いつの日か立ち読みした雑誌からコピーした、高町なのはの術式をそのままに使用している。
 ぶっちゃけ俺が弄ったら正確に起動しなさそうだから弄らなかった。
 そのせいか本家本元と比べると威力は足りない。

 だから足りない分は魔力で補うしかなく、その魔力量を神域の魔力テンプテーションから展開導入ダウンロードした魔力で補うしかない。
 
 普通ならこれだけのバカ魔力をリンカーコアに吸収して魔法に変換するなんて不可能だ。その前に体がぶっ壊れてお終いだ。
 だが俺には竜技能ドラゴンスキル方式形成フォーミュラー・フォーマティヴがある。
 リンカーコアを通さずに無理やりに魔法の方式を与えることで外側から魔力を魔法を組み替えるスキルだ。
 本来なら魔力濃度が非常に高いところでないとできないところだが、神域から召喚した濃度の濃い魔力を変換しているので強力な魔法になっている。

 事実、バリアジャケットを着た一人の男がアクセルシュータ―で気絶している。

「な、なんなんだ、テメェは!」
「通りすがりの魔導師だ」

 本来ならこういうことには関わりあいになりたくはない。
 俺は正義の味方なんかじゃないんだから。
 もしかしたらこういうのに関わって死んでしまうのかもしれない。俺はそれが怖いし、なにより面倒くさい。
 
 でも目の前にその現場があれば話は別だ。
 それが自分でも勝てそうな相手なら尚更助けようとはする。
 罪悪感に呑まれるのも嫌だし、自己陶酔してみたくもなる。

 なら助けてみようじゃねぇか。

「ち、ちぃ! だが相手は1人。こっちはまだ4人もいるんだ。
 それにあいつは俺たちの中でも一番弱ェ! そいつを倒したくらいで威張ってんじゃねぇぞ!」
「応!」

 という具合にバリアジャケットを本格的に張る。
 よっぽど彼らは自分の魔法に自信があるのだろうか。

「ならこっちもだ。グングニール、セットアップ」

 そうして俺は杖型デバイスをセットアップさせる。
 因みにグングニールと名付けてはみたが、ただの普通の杖型ストレージデバイスだ。
 インテリジェントデバイスのように状況に応じて自動で動いてくれもなく、アームドデバイスのように戦闘用に作られたものでもなく、普通のストレージデバイス。
 でも俺は名前をこのデバイスにつけた。

 グングニールはブレスレットから杖となり、そして杖の大部分の容量を使用しているバリアジャケットとなる。
 バリアジャケットの容量はグングニールの容量の大半を占めている。
 それくらいバリアジャケットには力を注いでいる。

 だから俺のバリアジャケットの防御力については多分Aランクにも負けない。
 なんせデバイスの容量の大半をコイツに注ぎ込んでいるのだから。

「覚悟するんだな! 兄貴はAAランクの魔導師なんだな!」
「しかも俺たちもAランク、B+ランク、Bランクなんだぜ!」

 さっきやられた奴のランクはC-だった模様。

 盗賊の割に凄腕の魔法使いが揃っている。
 ……なんでこいつら、こんなところで盗賊なんてやってるんだよ。
 管理局にでもいけば仕事はあるだろ。いや、まさかなんらかの犯罪で指名手配されてる可能性だってあるか。だから管理局には行けないとか、そういう。

「へっ、見たとこ、お前、Bランク魔導師だな」
「――」

 見ただけで、いや、正確には俺の内在魔力を見るだけで相手の大体のランクが分かる、てことか。
 見た目よりはかなりできる相手ってわけだ。

 そうだ。俺の内在魔力ではいいとこ、Bランクが限界くらい。
 それくらいの魔力しか俺には内在していない。

 これだけではこここにいる奴ら全員を倒すなんてできないし、なによりリーダー風の男を倒すなんてことも不可能だ。
 普通ならだ――

「喰らえ! ダークバスター!」
 
 リーダー放たれた直射魔法バスターが俺に向かって一直線に向かってくる。
 そして他の盗賊たちも一斉にバスターを放つ。
 だから――

「ラウンドシールド」

 俺は神域から魔力を展開導入ダウンロード
 その魔力を方式形成フォーミュラー・フォーマティヴによって直接魔法にする。

 本来ならデバイスを通してやっとできることを、俺は竜技能ドラゴンスキルを使用してできているのだ。

 ゆえにこの魔法はストレージデバイス『グングニール』を通さずとも魔法が発動できる。
 それこそBランクの魔力程度では到底足らないように超頑丈な防御が発生する。

「な!? 俺たちの一斉攻撃を受けて、罅ひとつ入らねぇだと!?」

 当たり前だ。そんなもろく作った覚えはない。
 このラウンドシールドならあのスターライトブレイカーだって防げる自信はある。――多分。

「だからこっちも直射魔法で相手、してやろうか。なぁ、ディバインバスター同時展開」

 俺の周りに魔法陣が発生する。それも複数の。
 そこにはディバインバスターを複数発生させている。

 これは高町なのはからパクったディバインバスターをただ同時に展開させている。ただそれだけだ。
 俺はマルチタスクなんて器用な真似ごとはできない。できても二つくらいまでが限界。それも複雑なことなんてできない。

 だがラウンドシールドを維持したまま、ディバインバスターの複数展開くらいはなんとかできる。
 なんせ同一の魔法を複数展開するだけなのだから。

「これが俺のとっておき、ドラゴンバスターだ!」
 
 ディバインバスターの同時展開、13のバスターが一斉に盗賊たちに襲いかかる。

「うぎゃぁぁぁ!」
「お、おい、大丈夫か!?」

 だがどうやら13のディバインバスター、当たったのは1人だけだったようだ。
 13個も放っておきながらかよ――。いくら命中率を無視して数を揃えた結果とはいってもよ……。

「はっ、どこから魔力捻り出してるか知らねぇがよ、あいつどうやら戦闘は素人だぜ」
「ぷぎゃー、だせー」
「内在魔力はBくらいで、多分カートリッジかなんかでも使ってんだろ。もしくは新機能」
「でもまぁ、それを使いこなせなきゃ、意味ねぇわな」

 なんか残り3人の盗賊がいろいろと言っている。
 戦闘が素人ならなんとかなると思っている、こいつら。

 確かに俺は戦うなんてのが苦手で、多分神域から召喚できる魔力とそれを加工できるスキルがなきゃ、到底戦えないのは明白だ。
 たとえBランクの魔力があっても、俺はもともと平和ボケした日本人で、『死』を恐れているから、接近戦で戦う勇気すらもない。

 だから俺が丸暗記したのはほぼ全てミッド式の術式ばかり。
 ベルカ式は覚えたとしても俺には使いこなせないのは分かりきっている。
 たとえ覚えていても接近戦をすることはできない。俺は戦うのが、『死』に近づくのが怖いからだ。

 だから俺の戦い方はもっぱら神域から召喚できるほぼ無限に近しい魔力とそれを加工できるスキルで遠距離から叩き潰すというやり方しかできない。
 そんなやり方しか、俺にはできない。

 だから――

「ふへへ、もう終わりだ――」
「術式展開、ラウンドシールド2枚展開」

 俺は俺の頭上とあの桃色の髪の女の子とその竜の頭上にラウンドシールドを展開する。
 俺のとっておきのラウンドシールドだ。頭上からの攻撃は大抵防御することができる。

「あ? そんなとこにラウンドシールドなんて張りやがってよ」
「なにがやりたいんだな?」

 神域から魔力を召喚する、その魔力を加工する。
 そして加工された魔力は魔法となってこの世に顕現する。

「これで終いだ」
 
 これで全てを終わらせる。
 俺のとっておきの一つ、この攻撃の前からは誰も逃げられない。
 どんな回避の名人でも、素早く動いて紙一重で避けることがでれだけ上手くても、きっと避けられない。
 
 なぜならそれは俺が使う魔法の中でも命中率だけを極端に高めた、絶対命中といってもいいくらいの大技。
 これを避けられるとしたらきっと即座に転移魔法を使える相手くらいだ。

 だから見せてやる。そんで後悔しろ。俺にとっておきを使わせたことを。

「術式展開――」






Side-theif

 訳が分からねぇ。
 コイツが何がしたいんだ?
 さっきから頭上にラウンドシールドなんて張りやがって。 
 しかもなんらかの魔法でも使っておきながら、魔法がどこには顕現しちゃいねぇ。

 舐めているのか、コイツは?
 さっきにしてもそうだ。コイツは戦闘はズブの素人だ。これだけは断言できる。
 なのに正義の味方みたいにしゃしゃり出てきやがって。
 俺はこういう奴が大嫌いだ。世の中はそんなに甘くねぇってことを教えてやらねぇと。

「はっ、現実って奴を教えてやるぜ。ダークシューターを喰らいなっ」

 コイツのシールドはおそらく大抵の魔法を防げる。
 が、それは一方向にだけ無敵の防御だ。

 ならば誘導性の高いシュータ―系に切り替えて攻撃しまくれば話は別だ。
 コイツで撹乱し、嬲り殺してやる。
 嬲られるのは死んだ方がマシだって思えるくらいの激痛を与えまくるが、まあこれも世の中の現実ってことできっちり勉強してもらおうか。

 そう思って、デバイスを通してダークシュータ―を発動させようとした時だった。

「あれ? 兄貴、あれなんだな?」
「あれ? なんだよ、あ――れ?」

 俺の子分が上を向いて何か言ってやがる。
 上だ? 上にゃなんにもな――

 翠に輝く空が見える。
 ただなにもかもを覆い尽くして、他の一切の存在を認めない。
 対比物なんてなにもなく、遠近感すらもその輝きは奪っている。
 なんで空が翠に輝くんだ、そう思える暇もなく。

「アクセルシュータ―、同時展開、≪崩れ堕ちる天ヘヴンズフォール≫」

 まるで空が堕ちてきたかのように、辺り一面を覆い尽くした――



[19334] 第十話 乖離
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/19 23:00
 圧倒的な魔力、それが空を覆い隠す。
 翠意外の存在を許さぬかのように空を染め上げる。

 ゆえに彼らは誤認してしまった。空が堕ちてきたのだと。



第十話



 これが俺のとっておきの一つ、≪崩れ堕ちる天ヘヴンズフォール≫。

 簡単に説明すればただのアクセルシュータ―の同時展開にすぎない。
 俺は複数の魔法を同時に展開するのは苦手だが、同一の魔法であれば幾らでも展開できるといった特徴を持つ。
 マルチタスクは苦手だが同じことをやるのなら、簡単だということだ。
 
 いうなら右と左とで違う文字を書くのは無理だが、右と左とでただ一直線に線を引くことなら可能といった感じだ。

 ただそれをアクセルシュータ―で、空を覆い隠すほどに上空に展開したというだけの話。
 青空も他の対比物も一切を許さないほどの量のアクセルシュータ―を。

 俺は誘導弾というものが苦手だ。
 ただひとつに魔力を集中させてたった一個の誘導弾ならば有効な攻撃手段になる。
 神域からダウンロードすることでバスター並の誘導弾を一つ作れるからだ。

 だがそれ以上のものになると、二つの以上のシュータ―を自由自在に動かすことは俺にはできない。
 いやはや、なんでなのははあんだけのシュータ―を同時に操れるかな。俺には到底真似できない。

 だから俺は単一の仕事をさせるシュータ―にしたのだ。
 単一の動作なら複数を同時に放つことができる。
 だから俺は上空に展開したアクセルシュータ―に上から下に思い切り突撃するという命令を出した。
 それだけで地上を覆い尽くす大魔法の完成だ。

 まあそうなると無関係のも巻き込まれるから、俺とあの小さな女の子の頭上にはきっちりラウンドシールドをセットしておいたけどね。

 さすがの男たちも、≪崩れ堕ちる天ヘヴンズフォール≫の前では耐えきれなかったか。
 なんせ広さだけでなく、厚さもかなりあったからね。
 避けきれないほど広く、当たってバリアジャケットの一つ一つを確実に抉れるように何重にも重ねているのだから。

 普通はこんな真似できないのだろうが、俺には神技能ゴッドスキル神域の魔力テンプテーション展開導入ダウンロード≫があるため、問題ない。

 さっさとこいつら縛り上げて管理局に渡してこ。
 その前に怯えている女の子とそのパートナーのチビ竜をなんとかしなくちゃ。

 俺は管理局と竜使いというのが嫌いになった。まあ俺がこんな体になった原因でもあるしな。後、神様も。
 つっても管理局ってのは大事だ。
 警察が汚職してるからって警察全てを叩き潰してしまったら、日本は無法の世界になるのと一緒。
 だから管理局を潰そうとはしないし、ぶっちゃけ面倒くさいし、俺にそんな計画が練れるわけもねぇし、できたとしても確実に罪のない人を巻き込む。
 だからアンチなんてしない。

 もし他にも転生者がいたら、アンチ管理局なんて考えている奴もいるだろうな、きっと。

 それに幾ら俺が『ゾーク・ル・ルシエ』という竜使いによって殺されたとはいえ、目の前にいる女の子には何の罪もない。

 だから助けることにした。
 
「あ、あの、ありがとうございます」
「あ、うん。どう致しまして」

 お礼を言われれば素直に受け取る。
 お礼を言われれば気持ちがいいし、相手も納得する。

 というかここで大したことはない、とか言えたらかっこいいのかな? とか思ってみる。

 俺は二回殺されたから、殺される者の気持ちが分かる。
 女の子にとってみればさっきまで自分がされそうになっていたことは殺されるよりも酷いことってよく言われる。
 あれよりも酷い目に会う。俺には想像もつかない。
 それから解放されたのだ。お礼を言いたくて言いたくて仕方ないんだろう。

 もしも俺も、あの時誰か俺を助けてくれたら、俺も全力で感謝していたことだろう。断言できる。

 そういえばあのゾークとかいう竜使い、ファナムから見ればファナムを助けたことになるな。それも命の危機から。
 たとえけしかけたのがあいつ自身とはいえ、ファナムにそんなことは分からない。もしかすると憧れてるのかもしれないし、それが原因で恋に落ちたり――

 ハッ! 俺は何を考えていたんだ!! 
 ああ、やっぱりまだファナムのことを忘れられね~よ~。
 会いて~よ~、でも死にたくね~よ~。
 という感じに葛藤タイムに入ってしまった。まあ自力でなんとかしなくては。

「あ、あの、私、キャロ・ル・ルシエと言います。この子はフリード」
「キュクルー」
「あ、あの助けていただいて、本当にありがとうございました!」
「あ、うん」

 なんて返事返せばいいんだろうか。大したことじゃないよ、て言えばいいのか? ヤバい、俺の前々世のもてない歴が発揮し始めてるかもしれない。
 くそ、もててた前世の経験が上手く活用できない!

 と、いうか『キャロ・ル・ルシエ』と『フリード』?
 どこかで聞いたことがあるような、しかも見たこともあ――

「ああっ!」

 そうだ、そうだ。原作キャラだ。
 確かStS編でヴォルテールとか出してた竜使いだよ。
 というかまだフェイトに保護されてなかったのかよ。とか思ってみる。

 多分まだル・ルシエの一族から追放されたばかりの頃なんだな。
 
 なんでそんな原作タイムに俺がここにいるのかねぇ~。

 まあ気にしなくてもいいか。
 管理局に保護してもらえばいいだろ。

「あ、あの」
「ん? なに?」
「キュク」
「あ、やっぱりフリードもそう思うよね」

 あれ? 何言ってるの、この子たち。
 なにかフラグでも立った? 弟子フラグでも立てたというのか?
 いやいやないな。だって俺、竜なんて使役してねぇし。
 ぶっちゃけバカ魔力を運用して無理やり飽和攻撃で相手をすり潰しただけだし。

「な、なんていうんでしょうか。あ、あなたにいるとなんだか安心できます」
「キュク~」

 ……ああっ! しまった、俺ドラゴンじゃん!!
 竜使いのル・ルシエとしての血が俺をドラゴンだと認識して、彼女になにかを訴えかけるんじゃん、きっと!!
 いくら変身魔法で人間になっているからといって今のこの身はドラゴンであることは間違いない。
 恐るべし、竜使いル・ルシエの血脈。

 しかも俺は獣の王フェンリール・ドラゴンだ。
 魔法も使えず、知恵もなく、ただ暴虐と圧倒的強さのみでAAランクにまで認定されるほどの大魔獣。そして数多の獣を従える獣の王と呼ばれているほどだ。

 なるほど、それは竜をも従えさせられるのか。
 力のみでのし上がってきたフェンリール・ドラゴンは獣や竜からしてみればカリスマ性が高いというわけだ。だからフリードも俺自身の中にある王の器を感じ取っているんだろう。
 王の器っても、獣の王の器だけど。竜なのに、いや人間なのに。

 本来これだけの膂力と脚力のスペックがあれば、ベルカ式を習って格闘戦闘型にするべきなのが正解なのだろう。
 でなければこのフェンリール・ドラゴンとしてのスペックを扱いこなせない。
 他の転生者が俺の身になればそうしていたかもしれない。

 だが俺は戦うのが怖く、『死』ぬのが怖く、『死』に近づくのも怖い。
 しかも俺は戦いに関して言えばズブの素人で、戦闘のセンスだってあまりにも貧弱だ。
 近接戦闘型になっても俺は確実にベルカ式を使いこなせないだろう。

 だから遠距離攻撃型のミッド型魔法陣ばかりを暗記していたのだ。
 遠くからなら安心できる、バスターが飛んできても俺のブレイカー級の魔法をも防げるランドシールドでゆっくりと防御することができる。

 だから安心して戦えるのだ。

 これからどうしようかな、悩むところだ。

「あ、あの」
「ん? どした」

 するとおずおずとキャロが言ってくる。
 フリードも一緒にだ。
 1人と1匹は何を言うつもりなんだろか。

「えっと、その、私を一緒につれていってくれませんか?」

 ホラ、来たよ。
 さっさとここは断って管理局に保護してもらお。そしたらフェイトにでも保護される――

 待て?
 なんでそんなことが分かるんだ?――だって原作だとそうなってるから。
 なんでそうなるって決めつけてるんだ?――ここは『リリカルなのは』の世界だから。

 おかしいだろ。確かに『リリカルなのは』の世界に似ているのかもしれない。
 でもここはあくまでそれに似た現実だ。確実にそうなるわけじゃない。

 ここは現実だ。だから俺は死んだ。あの『死』の痛みは決して夢なんかではない。

 そうだ、ここは現実なんだ。
 それに俺や他の転生者が来たことによるバタフライ効果で、フェイトは保護しにこないのかもしれない。

 このままキャロをつれていったら、フェイトとキャロは会えないだろう。
 そうなったらむざむざキャロの幸せを潰したことになる。
 それでもいいのか――?

 ――でも保護しない可能性だってあるんだろう。
 ――それにお前自身、孤独は嫌だって思ってたじゃないから、心のどこかで。

 俺の心の中のなにかが語りかけてくる。
 ああ、その通りだ。

 フェイトが保護しないのかもしれない、そうよぎってしまった。
 でもそんなことよりも。『これでようやく孤独な人生から抜け出せる』。そう思ってしまった方のが大きい。

 俺は人間の心を持っている。
 でもそれは人間の心だけで、変身魔法で人間になっているだけで、俺の本性は竜だ。それも他の生物を喰らい歩く凶暴な獣の王にして獣の竜、フェンリール・ドラゴンなのだ。
 浅く接するならそれでもいい。
 でも深く接するならば、この正体を晒さなくてはいけない。
  
 それを受け入れてくれる人がいるというのか?
 
 キャロはル・ルシエの民で、竜の友だ。
 竜を使役するような連中とは違って、竜と共に生きる存在だ。

 きっとキャロなら俺を認めてくれる。
 俺は人を殺したことがある。正確には俺を殺したことがあるだ。
 もしかしたら俺が憑依する以前はあいつは他の奴にも人を殺させていたのかもしれない。
 だから一緒に生きてはいけない、と誰かが言うのかもしれない。

 でも俺はこの孤独が嫌いなんだ。
 だから俺は、キャロはフェイトという母親を得る機会を奪ってでも俺は――『一緒にいたい』。

「ん、ああ。いいよ」
「あ、ありがとうございます!」

 パァッ、と顔を輝かせるキャロ。フリードも一緒になって喜んでいる。
 
 もしかしたらただの杞憂なのかもしれない。
 フェイトに保護されて、フェイトと親子になって、管理局になった方が幸せになれるかもしれない。
 でもそれは、俺次第だ。
 もしかしたらフェイトと一緒にいるよりも幸せにできるかもしれない。
 俺の孤独をかき消してくれるなら、そのくらいはしてあげなくては。

 

 こうしてまた原作から物語は乖離していく。



[19334] 第十一話 願わくはこの平穏が続きますよう
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/19 23:00
 現実は時に無情であり、時には奇跡を起こす。
 ああ、なんて現実は矛盾だらけなのだろう。



第十一話



 とある世界、俺はあるトラウマを克服しようとしていた。

「おろろろろろろろろろ」
「キャア、オージンさん! しっかりしてください!」
「クキュー!」

 俺は早速この世界で吐いている途中である。
 いや、やっぱトラウマってヤバいね。

 なんでこうなっているのかというと、フリードの竜魂召喚による実験をしているからである。
 ついでに俺のトラウマ克服を。

 あれから2年の時が経った、新暦73年、今この時である。

「あ、あの、大丈夫なんですか?」
「あ、ああ。最初の方に比べればまだ大丈夫だよ」
「クキュー」

「でもオージンさん、ドラゴンなのにドラゴンが嫌いなんておかしいですよね」
「あ、ああ。昔殺されかけてね」

 実際殺されました。そんで憑依し殺してこの体を得ました。
 なんて言っても信じてくれるはずがないので、殺されかけたことにした。
 ぶっちゃけ管理世界では幽霊だとかそういうオカルト話は信じられていないので、信じてくれるはずもないし、言っても俺にとって嫌なことばかりを思い出させるので一度死んだということは隠している。

 だが俺がドラゴンであるということは話してある。元人間ということも。
 
 詳しいことは話していないが、おそらくキャロは呪いで竜にされてるとでも思っているのだろう。
 まあ確かに呪いといってもいいかもしれない。

 だが俺は実は弱点があったのだ。
 それはキャロがフリードを竜魂召喚した時のことである。

 俺はフリードが真の姿になって、俺はトラウマを思い出し、発狂しかけてしまった。
 
 今まで気付かなかったが俺はドラゴン恐怖症になってしまったのだ。
 まあ俺は目の前で、ドラゴンの大顎に迫られた経験があり、そして殺された経験があるのだから。
 
 だから大型のドラゴンを目にすると俺はその時のことを思い出し、発狂しかけてしまったのだ。
 
 多分、俺自身、変身魔法を使ってない時に鏡を見ると発狂してしまうだろう。
 それくらい酷いのだ。俺は変身魔法を使ってないと鏡を見ることさえできない。

 しかもこのトラウマは相当根強いらしく、フリードの真の姿の場合は吐くだけになるようなっていたが、それ以外のドラゴンは下手すると発狂しかねない。
 特にフェンリール・ドラゴンの姿に似ているドラゴンほど、四本足のドラゴンを見ると恐怖してしまう。
 フリードは四本足ではないが、実質似たようなものだ。
 だから最初の方は苦労した。訓練して今は吐くだけになっているが。

 それにしても俺が今の体になってから、キャロのフリードを見るまで今まで他のドラゴンを見たことがなかったからな。

 だからあの時に自分がドラゴン恐怖症だと分かってホッとした。
 もしも他の時だったらあの時と同じように俺は食われていたかもしれないし。
 だから俺はなるべくドラゴンには関わらないようにした。

 もうアルザスに来ることもないだろう。

 因みに現在キャロはケリュイオンを持っています。
 勿論ブーストデバイスです。ブースト系は召喚師にとって必要ですよね。

「ああ、とにかくまだ俺は竜は駄目らしいわ。
 今日はここまでにしとく。ありがとな、キャロ、フリード」
「は、はい」
「キュクー」

 なんとも明るい笑顔だ。心がほかほかしてくるそんな笑顔だ。

 ――今一瞬、光源氏計画とか頭に過ぎった気がする。
 どこの変態だよ、俺は。俺はロリコンじゃない。

 あ、でもそれだとファナムの時もそうなんじゃないのか?
 いや、でもあの時体は同い年だったし。

 ――今の体は変身魔法でなってるんだぜ。
   キャロと同年代に変身すれば無問題よ。

 誰か追い出せ、この煩悩を!!
 おんあみりたていぜいからうん、煩悩退散!!

 そんな感じのやりとりが頭の中で起こっていた。
 
「それじゃあご飯作ってきますね」
「おー、よろしくなー。キャロー」
「キュクルー」

 因みに炊事は全てキャロに任せてある。
 俺に料理などできるわけがなかろうが!!

 なんせ俺の前世は普通の大学生。
 料理を作ってもらうのなんて母ちゃんに作ってもらい、一人暮らしを始めてから作ったのはチキンラーメン、カップラーメン、冷凍食品。
 しかも主食は外食、もしくは学食ときたもんだ。

 転生してからも俺は母親か、もしくはファナムに作ってもらっていた。

 で、憑依してからは人間への変身魔法を上手くできなかった頃は野生生物を狩って食ってました。
 近づくのが嫌なので魔力弾を遠距離からガンガン撃ってました。
 近づいたら確実に反撃されるもん!! 痛いのやだもん!!
 
 安全地帯からの遠距離からの魔力弾による攻撃で相手の死亡確認してから生で食ってました。
いや、最初の頃は吐いてたけど慣れって怖いよね。

 人間になってからも基本は外食か、狩ったものを焼いてか。
 とにかく料理なんて一切覚えなかった。
 そのため俺には料理なんてできやしない。

 そういやなんでオリ主って料理できる奴多いんだろ?

 ――オリ主は基本完璧だから。

 なんか変な妄想が湧いて出てきた。
 悪かったな、完璧じゃなくて。

 そんなこんなでキャロが必然的に料理ができるようになっていったのだ。
 
 因みに俺の鱗、実は結構貴重で高く売れるので金の心配はしていない。
 金の消費スピードよりも俺の鱗が再び生えてくるのが早いし。

 キャロはまだ料理はできる。という程度の腕だ。
 感嘆するほど、だとか感動するほど、だとかいうレベルの料理はさすがに作れない。
 だが家庭料理っぽさの、懐かしい、そんな味があるのだから毎日食べたくなるのは必然だ。

 そういうわけで俺とフリードは基本的にキャロに料理を作ってもらっている。
 金も十分というわけではないが、それなりにあるしね。

 ぶっちゃけ危ないことはしとりません。

 どっか落ち着けるとこに暮らしたいな~、ぐらいには思ってたりしてます。
 そんなこんなで平穏な暮らしをしております。

「……やっぱ、1人じゃないっていいな」

 人は1人では生きていけない。これは真実だ。

 俺は確かに1人で生きていけるだけの力を持っている。
 でも1人で生きていられるだけの心を持っていない。
 
 だがそれは決して弱いということではない。
 俺がまだまだ普通な人間である証拠なのだから。

 俺はあの頃少しおかしかったんだろう。『孤独』に怯えて、同時に『死』に怯えて。
 もう『孤独』じゃなくなった。

 ファナムと一緒にいたかったけれど。
 でも『孤独』じゃないのって、誰かと一緒にいるのって、素晴らしいことだと、俺はそう思う。

 今の俺は心が晴れやかだ。

 ――あの男をそのままにしていてもいいのか?

 どうだっていい。実感がわかない。
 殺されたことを思い出そうとすると食われた時の痛みと『死』の経験が蘇ってくる。
 だから考えるな。

 法的に奴を裁くなんて真似は俺にはできないし、物理的に復讐しようとすると管理局が邪魔になる。
 それに今の俺に――そんなことをする度胸すらもない。
 
 今の俺は圧倒的な魔力がある。
 でもだからといって威張り腐るな、油断するな、増長するな。

 今の俺はただ単にほぼ無限の魔力を引き出せるだけの、ただの素人だ。

 俺はおそらくスターライトブレイカー級の砲撃でさえ防げるシールド、核すらも凌げるプロテクション、スターライトブレイカ―よりも圧倒的な破壊力のある砲撃、天をも覆い尽くすシュータ―を生み出せる魔力。
 
 でも俺には空戦適正はないし、なによりバリアジャケットなんてグングニールの容量をの大半を注ぎ込んであるが、それでも破れることはできるレベルだ。

 なんせ方式形成フォーミュラー・フォーマティヴがあるからこそこういう真似ができるのだから。
 
 だが方式形成フォーミュラー・フォーマティヴは外側にある魔力を直接魔法に変換する竜技能ドラゴンスキル
 内側から働きかけるタイプに使用することはできない。

 分かりやすくいうならばブースト系魔法やバリアジャケット系、回復魔法には転用できないのだ。
 
 他にも俺は精密な技術が必要とされる魔法は使えない。
 ただ単に圧倒的な魔力で足りない部分を補っているだけなのだから。

 俺の術式はほぼ穴だらけ、ただ単に書いてあった魔術式をそのまま丸写しで使用して、足りないのを神域の魔力テンプテーションから展開導入ダウンロードするだけなのだから。

 だから不意をつかりたりすれば、俺はただの素人で、負ける。
 戦闘すらもできない。

 何よりも俺は、戦うことが怖い。
 だから復讐する気すらも湧かない。
 ゾークを殺したい気持ちだってある、そういった憎しみだってある。
 でもそうやって復讐しようと立ち上がろうとする度に、俺は脳に『食われた経験』が蘇ってくるのだから。
 だから今の俺にそんな勇気はなく。

 それに今更この平穏を崩すのも嫌で。
 今はただこの平穏な中を生きていたい、そう願っているだけである。
 ただそれだけでいい。

 『オージン=ギルマン』の時には叶えられなかった願いを、『オージン』は叶えるだけなのだから。

「できました。オージンさん」
「ん。それじゃあいただこうか」

 そういうわけでいつもの通り、いただきますをすることにした。
 キャロとフリードは知らなかったが、俺の真似をするようになってキャロたちも手と手を合わせていただきますをする。

「「いただいます」」
「キュクルー」

 キャロの料理を食べる。
 ああ、やっぱ美味しい。人が作った手作り料理ってのは美味しいもんだよな。
 手作りの温かさってのが心にしみる。

 2年間も作ってもらっているが、この暖かさってのはどうしようもなくいいものだ。

 やっぱり平穏ってのはいいな、俺は心の底からそう思った。
 キャロとフリード、俺の生活は続いていく。

 願わくはこの平穏がずっと続いていますように。



[19334] 第十二話 ただ魔を滅ぼす騎士
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/19 23:01
「あかん、またや」
「どうしたの? はやて」

 ここは管理局。
 そしてここでは久しぶりに夜天の王は金色の死神と出会っていた。
 
 しかもその夜天の王たる彼女はとある事件に頭を悩ませていた。

「ああ。実はな、最近犯罪魔導師がな、犯罪起こしたとこである魔導師に返り討ちにされてばぁしとんのよ」
「え? それっていいことじゃないの?」

 魔法を、皆のために使っている八神はやてやフェイトにとっては犯罪魔導師は許せてはおけない。
 
 彼らのせいで世界中の皆が苦しめられているのだ。

 だからそういった悪い奴らが勝手にある魔導師にやられているのだ。
 管理局の魔導師でないのは残念だが、それでもそういった人のお陰でそういった犯罪者が捕まってくれるのだ。
 いいことではないか。

「まあそやねんけどな。ただ、この魔導師が返り討ちにした後な、その犯罪魔導師は須らく皆、リンカーコアが抜き取られとるんや」
「ええ!?」

 リンカーコア。
 それは魔導師にとって最も最重要な部分。
 魔法を使うものにおいて絶対必須なものであり、これがなければ魔法を使うことなどできぬ、魔法を使うための器官。
 これがなくなってしまえばどのような存在でさえ魔法を使うことはできない。

 それはつまり犯罪魔導師にとって魔法を使うことはできなくなるのだ。
 それは再犯の心配もないが、管理局の奉仕すらできなくなるということも示している。

「こっちはそのお陰で助かっとんのやけどな。
 ただ上がうるさいんよ」

 魔法主義者の上層部にとってはこんなのは不愉快この上ない。
 倒すだけでいいのに、なぜわざわざリンカーコアを抜き取っていくのか。
 これでは犯罪者を再利用できないではないか。
 と思っている。

 因みに上層部は「どうして犯罪者に立ち直る機会を与えてやらない」といった感じで下の者に言っている。
 まあバレバレなのだが。

「ほんま、どないしょーか」

 こんなものよりもずっと危険な犯罪者だっている。
 確かにこの魔導師も危険といえば危険だが、それでも重要な魔導師でもない。
 今のところ、こういった犯罪者を返り討ちにしている程度なのだし。

「そうだね。もっと危険な犯罪者だっている」

 たとえばフェイトがずっと追っている犯罪者。
 だが上層部はそれを重要と考えていない。ただフェイトが少数、または一人で頑張って捜索している。
 それでもきっと捕まえる。
 そうフェイトは決意していた。




第十二話




 とある管理外世界のとなる田舎。
 そこは管理外世界であり、リンカーコアが生まれる者が少ない世界だ。

 そんな世界で、火の手が上がっていた。

「ぎゃはははははは!!」
「犯っちまえ、殺っちまえ!!」
「ぎゅははははははは!」
「う、うわぁぁぁぁ!!」
「た、たすけてぇぇぇぇ!!」

 そこは地獄。
 そこは現実の世界でありながらも、地獄といわれて信じられるだろう。

 抵抗した者もいた、だがあらゆる抵抗も彼らのバリアジャケットに防がれ、スフィアによって頭を撃ち抜かれた。
 逃げ出した者がいた。全てバインドで捕えられ、男は殺され、女は犯された。
 ぶるぶると震えている者がいた。問答無用で犯られ殺られた。

 ただ無慈悲に、魔導師の手によってやられていく。
 抵抗する術すらもなく、ただただ魔導師たちのいいようにされていくだけ。

「な、なんで、なんでこんなことができるんだ!」
「この悪魔!!」
「う、うえぇぇぇぇぇぇん!!」

 ただ叫ぶ。非難する。それだけしかできない。たったそれだけしかできない。
 抵抗することすらできないのだから。
 ただ泣き叫ぶこと、怒りに任せて怒鳴ることぐらいしかできない。それくらいしかできない。

 だが犯罪魔導師たちはそんな言葉などまるで聞いていない。
 だがその質問の答えをせっかくだから答えようとする。
 無視しようとしていたが、仲間の1人がそれに答えようとするので注目してみる犯罪魔導師たち。

「はあ? んなもん、自業自得に決まっているだろ」

 だが答えた内容はあまりにも――

「お前ら、幸せになりたきゃ魔導師として生まれてくりゃ良かったんだよ。
 なのに非魔導師として生まれやがって。バカだなぁ、お前ら」
「ぎゃははははは、そうだな、そうだよな!」
「ふ、ふざけるなぁ!!」
「あげくに逆切れかよ。逆恨みもそこまで来ると勘違いも甚だしいな~」
「ぎゃははははははは!! その通りだ、その通りだ!」

 魔導師たち全員で爆笑している。
 こんなことは当たり前なのだ、彼らにとってみれば。
 
 だがそんなことが許されるはずがない。
 だがいくらそう言ったところで力で、魔法で無理やり押し通そうとするだけだ。
 非魔導師では魔導師相手に相手になりはしないのだから。

 耐えることができなかった、それでも耐えるしかなかった。
 耐えられない、それでも耐えるしかない。
 ただただ嘆くしかない。ただ蹂躙されるしか、彼らに運命はなく。

 もう嘆く以外になにひとつ、できることがなくなって――

「ディステニー、起動」
『Yes,master』

 金色の輝きを纏いし戦士が現れた。
 そして――

「ディステニー、ギルガメッシュ」
『Yes,form change! Gilgamesh form!!』

 彼女が持っていた斧は分解され、数千もの短剣に分解されていく。
 それはフォームチェンジ。

 数千にも分解された短剣の一本は彼女の手に収まり、そして告げる。

「貫け」
『Go!!』

 彼女が命じると同時に、魔導師たちに突き刺さった。
 それはあらゆるを封じる幾千もの刃、相手に抵抗する暇すらも与えない。

「な、なんだ!? う、うわぁぁぁ!!」

 そのたった一度の命令により襲い掛かった数千もの短剣は二十二人いた魔導師のうち、十六人も戦闘不能状態にした。

 たった一度で、十六人もやられた。
 それは彼らにとってはショックも同然だった。
 残っているのは六人。だがその六人はこの一団にとっては飛び抜けて実力者。
 だからこそあの短剣の雨を耐え抜くことができ――

「デステニー、デバイスチェンジ、シャイニングハート」
『Yes,device change! Mode [ shining heart ]!!』

 そう命じると同時、さっきまで短剣だったものが集まっていき,斧に戻る。
 だが斧はその形を変え、杖へとその姿を変える。
 
 ただ美しく、だが輝く魂がその杖に宿っている。
 今はただ、それを放つだけでいい。

「主、今一度、貴女の杖を握ることをお許しください」

 そして振るう。

「な、舐めるな! 全員でやっちまえ!!」
「お、お――」
「反撃する暇すら与えぬ。ただ灼き尽くせ、ソウルライト、ブレイカー」

 それは魂の輝き、ただその一撃で相手を屈服させる圧倒的なまでの魔力。
 実力差があるなんてものではない。格が違う、桁が違う、次元すら違う。

 ただただ圧倒的までの力の差だ。
 相手が反撃する力すらも奪ってしまう、圧倒的なまでの力の差。
 挑もうとする気すらも削がれてしまう。それほどに圧倒的な力の差が、彼らにはあった。

 これが、これが力の差なのか。
 抵抗する手段すらも奪ってしまうほどまでの、力の差なのか。

「や、やめろ! やめるんだ!
 お、俺たとは、ま、魔導師なんだぞ!
 選ばれしものなんだぞ! な、なのに、なのにどうして魔導師にならなかったこいつらを庇うんだ!
 悪いのは魔導師にならなかったこいつらなのに!」

 だがリーダー格の男はここでもまだ惨めに悪あがきをする。
 なんと惨めなのか。だがこの男は心底心の中から信じている。
 悪いのは魔導師では非魔導師なのだと。
 
 魔法を使えばよかったのに、使わなかった奴が悪いのに、使えないといって。

「こ、こいつらが悪いんだ!
 リンカーコアがない!? 魔法が使えない!? 
 そんな言い訳で魔導師にならなかったこいつらが悪いんだ!? な、な、だからさ――」

 なんという惨めな言い訳なのだろうか。もう既に言い訳にすらなっていない。
 
 最初から期待などしていなかった。
 だがこうも惨めだと、こうも醜いと、期待すらしていなかったことすら生温いとすら感じてしまう。
 もうどうでもいいだろう。その口を開くな、耳が穢れる。

「シャイニングハート、デバイスチェンジ」
『Yeah!!』
「ヘルオアへヴン」
『Yes,device change! Mode [ hell or heaven ]!!』

 そして再び杖型デバイスはその形を変える。輝く魂の意味をもった杖はその役目を終える。
 広範囲の敵に対して有効なバルディッシュ・ギルガメッシュ、反撃する気概すらも奪い殺してしまうシャイニングハート。
 ならばこれより生み出すのはなにか。
 ただ戦斧から数千もの短剣へ、それから杖へ、そして――

 そこにあったのは一冊の本。
 ただただ本がそこに一冊あるだけであった。
 だがそれだけでいい。ただこの一冊があるだけで、それだけでいい。

「ツムジ。貴女に力を借りたくなどありませんでした。
 ですがそうも言ってられません。私は貴女を嫌いでしたが、貴女の騎士と融合魔導器はそうでもありませんでした。
 ですから貴女の融合魔導器、借ります」

 ただ独り言のように呟く。
 そして――

「奪い取れ」
『了解しまよ、リナス。久しぶりだね。そして、行くよ』

 その日、二十二人の魔導師のリンカーコアは残らず全て失くなっていた。





 ただ1人で歩いていた。
 かつて共に歩いた仲間も、かつて喧嘩していた天敵も、そして愛すべき主もない。
 ただなにもない。

「本当に、ここはアルハザードではないのですね。
 そしてミッドチルダ。本当に、ドクターの言っていた通りでした」
 
 ドクターは未来視が使えると言っていた。
 だがあまりにもドクターは胡散臭く、その胡散臭さと言ったらもう一人の天才ドクターと並び立つほどの胡散臭さだった。
 原作がどーの、俺Tueeeeeeじゃねぇぇぇぇ、だのと言っていた。
 全く以て意味が分からなかった。

 そうこうしているうちにドクターは私を、いや私たちを作った。
 
 そしてドクターは言った。
 アルハザードは滅び、そしてベルカが出来上がりまた滅び、そしてミッドチルダと、そして管理局ができる、と常々言っていた。
 そんなこと信じられるわけもなく、ただ今ここにいるといなければ信じられなかった。

「……行きましょう。今隣におらずとも、今は中にいるでしょう。
アルサムよ、部下イルタよ、仲間アーシアよ、好敵手ツムジよ。みなよ。
 そして、ナーハよ」

 今はただ過去の思い出。
 だが彼女の中にいる。たとえ肉体は滅びようと、魂は彼女の中で眠っている。
 
 体の中に眠っている魂から力を借り、その魂から魔導器を作りだした。彼らの愛魔導器デバイスを。

 今はただ、自分の目的を果たすために。

「魔は人を狂わす。だからこそアルハザードもまた滅んだ。
 この世界をアルハザードの二の舞になど、させぬ。必ず、我が手で魔を滅ぼす。
 これこそが我ら、アルハザード騎士団が総意。そうでしょう、主よ、みなよ」

 アルハザードが滅んだのはあまりにも発達しすぎた魔導技術、などではない。
 魔導技術は決して滅ぼすほどのものではなかった。あまりにも圧倒的ではあるが、それをきちんと制御化に置いていた。

 ならばなにが滅ぼしたのか。
 それは魔法に取り憑かれた者、魔法によって狂わされた者。

 魔導の真髄は人を簡単に狂わす。
 だからこそ魔導はあってはならないものなのだ。
 たとえそれが独りよがりのセリフなのだとしても、それが主の願い、騎士団の願い。
 
 ただ一人生き残った自分の使命。
 皆を喰らうことで生き残った自分への、たった一つの償いの使命。

 だからこそ必ず完遂させる。
 己が名に誓って。

「アルハザード第三騎士リナス=サノマウン、必ず、遂行する」

 『リリカルなのはStrikerS最強の魔導師型戦闘機人』、リナス=サノマウン。
 製作者、アルハザード最高の技術者、ジュエル・スカリエッティに並ぶ大天才技術者『オリッシュ=トリッパー』。



[19334] 第十三話 温泉
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/19 23:01
 平和な日々、いつまでも続くことをそう祈って。
 それが続くだけで、それだけでいい。たったそれだけで、自分は救われるのだから。




第十三話




 とある管理世界。
 俺とキャロとフリードはそこで暮らしている。

「あ~、うめ」
「あはは、オージンさん、お茶好きですもんね」

 うむ、特にこうしたまったりした時に飲むお茶ときたら格別だよ。
 なんせ平穏な生活にはとんと縁がなかったからな。

 いや、いっつも平穏だったけどこういった平穏が壊されるのはいつも一瞬だったからな。

 今度はそういった平穏が壊されないように頑張ろう。
 そう決意する俺であった。

「そういえばグングニール、どうするんですか?」
「グングニールねぇ。ぶっちゃけどうもしないよ」

 ぶっちゃけ俺がグングニールを使う理由はバリアジャケットの装着と微妙に使えない回復魔法と、それから変身魔法の精度を上げるため、後はその他の機能を使うためくらいしかない。
 
 攻撃魔法や防御魔法などについては竜技能ドラゴンスキル方式形成フォーミュラー・フォーマティヴ≫によって生み出すのだから。

 だからグングニールはそれほど重要じゃない。
 だからこそバリアジャケットに比重を置いているのだけれど。

 ぶっちゃけ俺の竜の鱗鎧だけでどこまで防御できるか不安だしね。

 まあそれ以前に俺としてはこういったグングニールをセットアップする機会がない方がいいな、とは思う。
 グングニールをセットアップする、ということはバリアジャケットを纏うということ。
 それはつまり戦いをすることということだ。

 俺はなるべくそういった戦いにはあまり参加したくはないのだから。

 ゆっくり過ごすのはいいな、とも思う。

「あ、そろそろ夜ですよ。温泉に行きませんか?」
「温泉か、いいね~」

 この管理世界の山には温泉があるのだ。
 といっても場所があまりにも過酷すぎるため、魔法の使えない人、というか空を飛べない人はその場所に行くことはできない。

 そうなると、あれしかないよな。

「うーん、確かに吐くのは嫌なんだけど、温泉に入れるとなれば話は別か。
 耐えてみせるから、お願いするよ」
「あ、は、はい。それじゃあ行くよ、フリード」
 
 俺は獣竜だから空を飛べない。
 ついでに飛行魔法も使えないため、どうしようもない。

 この体自体が空戦に向いておらず、≪方式形成フォーミュラー・フォーマティヴ≫で飛行魔法を使おうにもバランスがとれないのだ。
 俺のは魔力で足りない部分を補う戦法。
 こういった緻密なコントロールが必要なタイプの魔法は使えないといってもいい。

 だからもう空を飛ぶとなればフリードに頼むしかないのである。
 というわけで頼んますぜ、フリードの旦那。え、旦那じゃなくて嫁。あはは、そういや雌だったよね、フリード。
 ごめんごめん。

 と心の中で言っていたりしたが、なんかフリードが目で訴えてきたのでうっかり口に出しちゃってたのかな? と思ってたりする。

 そしてキャロはデバイスをセットアップする。
 ブーストデバイスのケリュケイオンだ。召喚師デバイスといってもいいほど、召喚師にとってはお約束なデバイスである。

 そしてセットアップしたキャロはフリードに呪文を唱える。
 それはフリードを真の姿に戻す作業。

 ケリュケイオンは発動と同時に魔法陣が瞬く間に現れる。

「蒼穹を走る白き閃光、我が翼となり、天を駆けよ。
 来よ、我が竜フリードリヒ、竜魂召喚!!」

 それは儀式、封ぜられし竜がその真の姿を現すための儀式。
 姿を現すのはあまり強きために封ぜられし者。だがその真の姿を現すことこそが絶対的な証。
 出現させるのは、キャロの真の竜。

羽ばたきの竜王フリードリヒ
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 それは巨大な白竜。
 見慣れた竜。その姿はまさに白き閃光と呼ばれる存在かもしれない。

「あ、吐くことなくなった。やっぱ見慣れてるもんな」

 なんとかフリードリヒに対してだけはトラウマは克服できたようだ。
 確かに怖かったことは怖かった。
 フェンリール・ドラゴンのトラウマは相当根強いものだった。

 だが長い長いトラウマ克服のための訓練は無駄ではなかったようだ。
 ついこの間までは吐く程度に留まり、今に至っては吐くこともなくなったようだ。
 やはり訓練って大事だよね。

「それじゃあ行こうか。な、フリード」
「グオオオオオオオオオオオオオ!」
「はいっ!」

 そんなこんなで温泉へと向かう俺とキャロ、そしてフリードであった。
 フリードはその翼を羽ばたかせ、山へと飛翔する。

 その姿はまさに≪羽ばたきの竜王≫だ。




Side-Caro

 私はオージンさんとフリードと一緒に温泉にやってきました。

 この温泉はあまりにも山奥にあって空から行けばひとっ飛びですが、それ以外からこの温泉に入る方法はないほど険しいところにあります。

 私たちは今、この温泉にゆっくり入ってます。
 はふ~、気持ちいいです。

「キュク~」
「は~、極楽極楽」

 どうやらオージンさんもフリードも気持ちよさそうに入ってます。
 オージンさんはこういった何気ない時間がなによりも好きですからね。

 え、服?
 そんなのお風呂なんですから入らないに決まってるじゃないですか。

 ただあんまり気にされないと、ちょっとムカッと来ちゃう時もあったりしますけど、基本裸の付き合いです。

「そんじゃまあ実でも食べるか」
「キュック~」

 そう言いながら、オージンさんとフリードは実を食べます。
 いや、あれ私には辛い、というよりも人にとっては毒なんですよね。
 オージンさんとフリードにとってはご馳走みたいなんですけど。

 【竜酔酒の実】といって竜にとって酒にも薬にもなる毒の実なんですよね、あれ。
 あくまで毒になるのは人間にとって、ですけど。

「とう、さん」
「ん? どうかしたか、キャロ?」
「え!? い、いえ、なんでもありません」

 う~、やっぱりまだ恥ずかしいよ~。
 でもいつか言えたらいいな、「お父さん」て。

「キュク~」
「いや、フリード。お前はキャロのお母さんじゃないだろ」
「キュ~」
「キャロが望んでるって? ないない。寧ろお前はキャロの娘」

 オージンさんとフリードが何か話している。
 というかお母さんって。
 もしかして、もしかしなくてもそういうこと?

「それってどういうことかな? フリード(怒)」
「キュクー!!」
「うお、黒ッ! どうした、キャロ! 黒い、黒いぞ!」

 そんなこんなで私はフリードに微笑みかけてましたが、なぜか怯えていました。
 因みにオージンさんも慌てていて、しかもフリードと同じように怯えていました。
 乙女に向かってそんなのって酷過ぎると思いませんか?

 まったく失礼ですよね。
 そう思っていますが、それでもフリードはしばらく私に近寄りませんでした。
 逆に私が近づくと怖がって逃げだす始末です。本当にどうしよう。

 しばらくすると戻ってきましたが。
 ああ、よかった。と心の底から思いました。

 いつまでもこんな日々が続くといいな、オージンさんと同じようなことを私は思っていました。
 お父さん。














Side-Shugo

 管理局

 どういうことだ?
 もう既にフェイトがキャロを拾っていてもおかしくない時期だ。
 なのに一向として、フェイトがキャロを拾ったとは聞かない。どういうことだ!?

 ハッ、まさかあの男か。
 あの男さえいなけりゃ今頃プレシアは助けられて、フェイトは俺にメロメロだったのに。
 まあ今でもメロメロだがな!!

 それでもフェイトのメロメロ度はもっと上がっていたはずなのだ。
 くっそ。ジュエルシード事件でも闇の書事件でも邪魔しやがって。なんなんだ、あいつは。世界を救う俺の邪魔ばっかしやがって。

 まあいい。しかしあいつがロリコンだったとは。むかつく奴だぜ!!
 せっかくキャロちゃんも幸せにしてやろうと思ったのに!
 キャロちゃんの幸せを奪いやがって、何様のつもりなんだ、あの男は!!

「キャウッ!」
「おっと、ごめんよ。大丈夫かい?」
「え? あ、しゅ、修吾さん! あ、ありがとうござます」

 ぶつかってきたのはどうやら新人の女の子のようだ。
 でもこんな子、俺は知らねぇな。どうやらモブのようだ。しかも顔も平凡だし。
 まあでも優しくしといて損はねぇな。

「大丈夫かい? 今度からは気をつけるんだよ」

 そう言って俺は彼女の頭を撫でる。
 するとみるみるうちに顔を赤くしていく。

「あ、ありがとうございました///」

 顔を赤くした彼女は逃げ出すように去って行った。
 はあ、なんて純粋な子なんだろうな。俺の撫で撫ではそんなに気持ち良かったのか。
 どんな娘でも幸せになれる権利はあるんだ。俺はいつでも待ってるぜ。まあモブだからメインと比べるとぞんざいになるけど、それでも幸せになれるんだからいいよな。

 おっとそんなことよりも早く行かなくては。
 今日はなのはのとこに行こうかな、それともフェイトか? いや、八神とヴォルケン丼でもいいよな。
 う~ん、悩むところだぜ。

 するととある女の子がやってきた。
 あのクールビューティーは!!

「やあ、ファナムちゃん。久しぶりだね。どうだい? 仕事は」
「順調」

 そこにやってきたのはモブの割には顔が良いクールビューティーなファナムちゃんだ!!
 おお、なんて凛々しいんだ、ファナムちゃんは。
 こりゃあオリ主の俺のために生まれてきた娘だ。サンキュー、神様。

 まだ攻略できてねぇけどすぐに俺の虜になるんだ。気にしねぇ気にしねぇ。

「そう? でも駄目だよ、女の子が危ないことをしちゃあ。
 君の死んだ幼馴染だってそんなことは喜ばないよ。きっと幸せになってほしいんじゃないかな?」

 なんでも死んだ幼馴染の恋人の仇討ちのために管理局に入ったという設定らしい。
 ここは俺の頑張っているところを見せて、彼女が寂しくしているところを俺が優しくして攻略してやろうか。
 それにその幼馴染とやらが死んだの十歳くらいらしいからやってねぇだろうしな。

 グフフ、さあ陥ちろ、陥ちるんだ!!

「……ああ、望んでない」

 おお!! これはイベント来たか!
 今までは「関係ない」だとか「関わるな」だとか無視したりだとか一向に反応を返さなかったというのに。
 これは攻略イベントか!! 来たぜ、攻略イベントゥ!!

「オージンは、私に仇討ちを望む望まない以前に!!
 彼が望んでいたのは、私と彼とが一緒に過ごす、そんな幸せだ!!
 私に仇討ちを望む暇すらもなく、死んだんだ!! 望むわけがないだろ!!
 あの人が、オーちゃんが――関係ない」

 突然堰を切ったかのように叫び出し始めた。あまりの怒涛の勢いに、俺は押されてしまった。
 すると急に冷めたかのように、自分の現状を思い出した。
 そして急に話を遮って去っていく。

 う~ん、こりゃ攻略は難しそうだな。
 だが一旦攻略しちまえば俺に絶対メロメロになっちまうな、これは確定だ。
 待ってろよ!!

 まあ他の人も幸せにしなくちゃならなきゃいけないしな。
 それが俺の使命ってもんだ。

 俺と一緒にいれることが幸せなんだ。必ず攻略して君を幸せにして見せるさ!!

 するとなのはとフェイトがやってきた。

「やあ、なのは、フェイト」
「あ、しゅ、修吾君」
「ひ、久しぶりだね」
「ああ、君たちも久しぶりだね」

 なぜか僕と会うと微妙な顔をして後ずさっている彼女ら。
 まったく、それほど緊張しなくていいじゃないか。
 僕は大丈夫なんだから。あ、でもさすがに緊張しなくてもいい、とは言っても彼女らには酷か。
 全く僕って奴は。

 それにしてもあの男は許せないな!!



[19334] 第十四話 祭りと嘆き
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/19 23:02
 眠っている。
 ここはある民宿。
 今はまだ眠っててもいいから。




第十四話




「あ~、頭痛い~」
「あ、オージンさん。竜酔酒の実を飲み過ぎですよ」

 竜酔酒の実は竜にとって酒のようなものであり、極上の実である。
 竜にとって百薬の長になり、痛み止めにもなるし、最上級のご馳走でもあるらしい。
 ただ人間にとってはあまりにも強すぎて毒になるとのこと、らしい。
 ああ、俺、身も心もやっぱりドラゴンだったんだな、とこのことを知って実感してしまった俺であった。

 俺はこの竜の身体になってからは酒を飲んでもあまり美味しくなかった。
 まあぶっちゃけ酔えない体になってしまったのだ。
 それほどフェンリール・ドラゴンの分解能力が高いということか。

 だからこそ竜酔酒の実はありがたいものだったのだ。

 あれを食べるのは格別で美味しい。

 だからこそついついフリードと一緒に食べてしまうのだから。
 すっかり俺ドラゴンですなぁ、と感じてしまうこの頃である。

 まあ美味しい酒(実)にもありつけたしいいとするか。

「温泉また今度行ってみるか」
「キュク~」
「そうですね」

 満場一致でまた今度行こうと、心に決めた。
 やっぱり温泉は偉大だね、と常日頃から感じますぜ。

 と、いうわけで現在キャロの作った料理を食事中。
 俺、料理できんからな。できてもインスタントものぐらいだし。

「ああ、やっぱいいよなぁ。こういうの」
「ですね」
「キュクー」

 いつもの日々、こういったものが続いてほしいと俺たちは願っている。
 それでいいだろう、そう思う。

 因みにキャロは竜酔酒の実で薬を作っている。
 あれ万能だよな。ご馳走にもなるし、薬にもなるし。

 その割には第6管理世界のアルザスじゃあんまり流行ってないな。
 まあその理由としてはまずその山が険しいため、発見が遅れていて、この世界に竜酔酒の実があることがアルザスに伝えられていないからなのだが。

 アルザスで竜酔酒の実を売ればかなり馬鹿売れすることは間違いないだろうな、売らないけど。
 俺とフリードのものなんだ~!! と叫んでみる。
 ちょっと冗談言ってみた。

「そういえば、それってストレージですよね」
「え? グングニールか。うん、ストレージストレージ」

 俺の愛デバイス、とはあんまりは言えないか。
 まあ俺のデバイス、グングニール。ただの杖型デバイスである。
 名前負けしているけど別にいいか、とも思ったりする。

 ブーストデバイスでもアームドデバイスでもなければ、インテリジェントデバイスでもなく、ユニゾンデバイスでもない。ただのストレージデバイスである。
 
 でもそれがどうしたんだろう?

「わ、私にケリュケイオン買ってもらってなんですけど、オージンさんはストレージでいいんですか?」
「ん? ああ、そういうこと」

 なるほど、自分1人だけ高価なもの買ってもらっておきながら、俺のデバイスのグングニールは安物のストレージデバイスというのが気がひけて仕方ないといったところか。
 
 召喚師にとってのデバイスといえばブーストデバイスだ。
 だから俺はキャロにケリュケイオンを買ってあげたのだが。

「まあぶっちゃけ他のデバイスなんて使いこなせないしな~」

 召喚師でもない俺がブーストデバイスなんて持っていても仕方ない。そのためブーストデバイスは却下。
 インテリジェントデバイスも相性のいいものでないと使いこなせない。俺と相性のいいのはなかったため却下。
 アームドデバイスなんて無理無理。俺、接近戦をすること自体苦手だもん。却下却下。
 ユニゾンデバイス? んなもんねぇよ。あっても融合事故起こしそうだし。

 そんなわけで消去法でストレージデバイスということになったわけだ。
 というかストレージデバイス以外の選択肢がない。

 だから別に俺はストレージデバイスで構わない。

 それに使い道にしても、バリアジャケットを装着することと変身魔法の精度を上げることぐらいにしか使わないしね。
 それをストレージ以外ので使う必要だってないし。

「だからキャロが気にすることはないって」
「そ、そうですか」

 なんとか納得してくれたキャロ。
 もうちょっと甘えてくれてもいいのに。俺はキャロの保護者で、キャロはまだ子供なんだから。
 そう心に思う俺であった。

 すると女将さんがやってきた。

「あんちゃん、嬢ちゃん。起きたかい」
「ええ。おはようございます」

 人の良い女将さんだ。まさにおばちゃんと言った感じで好感が持てる。
 因みに普通のおばちゃんだ。
 さすがに桃子さんやリンディさんみたいな細胞持った人なんてそう滅多にいるわけないし。

 すると外がなんか慌ただしい。

「なんか今日あるんですか?」
「ああ。今日かい? 今日は祭りがあるんだよ。
 そうだ。あんたたちも参加したらどうだい。夜店もあるし、楽しいよ」
「祭り、かぁ」

 祭り。こういった小さな町での祭りか。

 ギルマン一族でもやったな。
 まあギルマン一族での祭りは一族だけでやるので夜店とかはなかったが。
 
 寧ろ前々世の、≪佐藤芳樹≫の頃の記憶にある祭りに近い気がする。

 楽しそうだ。そう俺は思う。

「じゃあキャロ、参加しようか。きっと面白いぞ」
「は、はい!」
「キュクル~」

 そんなわけで今日は祭りに参加して楽しむことにした。
 こういった祭りは参加してなんぼだしね。金も十分あるし楽しむなんて最高だ。
 それにこの世界だとどんな夜店をやっているのかも気になるしね。

 祭りは楽しいものだ。
 今日は目いっぱい楽しもう。
 キャロもフリードもすぐに祭りの雰囲気に流されて楽しめることだろう。

 そうなりゃ俺も楽しめるし。

 祭り参加を決定づける俺たちであった。







 祭りが始まった。
 ぶっちゃけ前々世の地方の祭りと似たようなものです。
 前々世の時の田舎の祭りとあんまり変わらない、といったような感じがあります。
 
 とはいってもさすがに昔のことなので記憶が霞んでいますが。
 さすがに長年生きてくると記憶が霞んでくるってのは本当のことなんですよね~。

「というわけで綿あめを食べております」
「わ、お、美味しいです」
「クキュ」

 他にもたこ焼きとかあった。
 なんであんねん、とか思うがそこは気にしないことにした。
 
 因みに魔法世界特有の食べ物もあったのでそれに手を出してみることにした。

 食べてよかったと思うような当たりもあれば、微妙と思うような外れのものもあった。
 そういうのも含めて祭りって楽しいなと思う。

「こういうのって懐かしいな」

 確かにこの光景は前々世のことを思い浮かばされてくれる。
 
 でもそれと同時に思い出すのは前世の、≪オージン・ギルマン≫の記憶。

 ファナムやクリフ、フレイアやトルテと共にいた頃の記憶。
 祭りを楽しんでいたあの頃の光景。
 ああ、あの頃は本当に楽しかった。そう思える光景だ。

 本当に懐かしい。
 戻りたいと思えるほどに懐かしい。今の生活も好きだけど、あの頃も好きだ。

「そういえばオージンさんが呪いで竜になる前ってどんな生活していたんですか?」
「ん? ああ、ギルマンの頃ね」

 キャロが唐突に聞いてみる。
 俺の独り言を聞いていたからなのだろうか。

 そうだな、久しぶりに話しているみるのもいいかもしれない。
 こういったものは話していると気持ちがいいことかもしれないし、なによりもあの頃を思い出せて懐かしい気分になれる。

 トルテのあの吃驚した顔、フレイアと一緒に悪戯をした日々のこと。
 クリフといつもの喧嘩をした時のこと。
 タッチフットで問答無用魔法なんでもありルールで、無茶苦茶に怪我しまくったけど楽しかったあの頃のこと。

 そしてファナムと過ごした日々のこと。
 
「あれ?」
「お、オージンさん!?」

 涙が流れてくる。
 あれ? ふっきれたと思ったのに、キャロと一緒にいて、孤独じゃなくなったから、きっと。
 それなのに。

 ああ、そうか。まだふっきれてなかっただけなんだ。
 まだあの頃に戻りたいとそう思っているのか。

 ファナムと会いたい、て心で思っているのか。
 馬鹿だな、俺。もう会えないのに。俺は、いや≪オージン・ギルマン≫はもう死んでるんだから。
 俺は≪オージン・ギルマン≫を殺した最悪の竜なのだから。

「大丈夫です」

 すっ、後ろから抱かれた。
 温かい。背中がとってもぽかぽかする。

 それはキャロだった。キャロが俺の背中をその小さな体で包み込んでくれる。
 ああ、なんて優しいんだろう。なんて温かいんだろう。
 俺はそう感じた。

「うん。ありがと」

 まだふっきれてないけど、キャロのお陰でマシになった。

 さっきから流れている涙も止まりかけている。
 あくまでかけているだけで止まったわけじゃない。
 それでも気分は少し晴れやかになった。

 まだふっきれてないけど、それでも温かい気持ちになる。

 ふっきれてないからいつまた泣きたい気持ちになるのか分からない。
 でも今だけは、今だけはこの一瞬だけはふっきることができた。

 キャロのお陰だ。
 お前は俺を救ってくれている。ありがとう。

「さ~て、ビンゴ大会始まるぜ~~!!」

 なんか祭りの司会の人がビンゴ大会を始めるらしい。
 ビンゴ大会なんてものもあるのか。
 本当に地球の祭りっぽいな。なにか、オマージュしているのか。この世界。

「当たらなかったよ」

 因みに俺は当たりませんでした。
 というかフリーポケット以外、最後までひとつも穴が開かないってどういうことだよ!!
 どんだけ運が悪いんだよ、俺!!
 
 因みにフリードはリーチが3つ出ましたが、結局ビンゴになりませんでした。

「あ、当たりました」
「おお、さすがキャロ。ナイス」
「あ、はい」

 だがキャロはなんと3番目に当たった。
 怒涛の運の良さだ。

 なんだろう、この運の差は。
 なにか世界の修正力というやつが働いているとでもいうのか!?
 などと一瞬思ったりもした。

「竜酔酒の種、らしいです。しかも品種改良で簡易で短時間で育つみたいです」
「うおっし! ナイスキャロ!!」
「キュク~~!!」

 俺とフリードはマジでキャロにお礼を言った。
 なんという運の良さ。ああ、仏様、聖王様、この運を与えてくれてありがとうございます。
 ただし神、テメェには礼は言わねぇし、祈りもしねぇよ!!

 しても無駄だって分かってるしな!!

 そんなわけで今日はたっぷりフリードと共に竜酔酒の実を食べて酔いまくったのだった。
 お酒最高!!
 それこそ今日の嘆きを忘れられるくらいに。






 次の日、起きてみたら民宿でフリードとキャロと一緒の布団にいた。
 いつも通りなんだけど、どうしてか昨日の記憶がなかった。

 フリードもないらしい。竜酔酒の実、強すぎたんだな。
 まあ美味かったから飲むのを辞めんけど。

 なんせドラゴンにとって健康のもとにもなるらしいし。
 なんて万能薬なんだろう。俺は心の底から竜酔酒の実をありがたがった。



[19334] 第十五話 激闘Ⅰ
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/19 23:09
 八神はやては疲れていた。
 そしてそれと同じくしてフェイト・T・ハラオウンもまた疲れていた。

「しっかし、休んだらどうなんや? フェイト」
「ううん。今、重要な手掛かりを掴んだから」
「それって、あの科学者か?」
「ううん、違う。でも、それでも私にとって因縁のある相手」
「あいつか。そうか、頑張りや」
「うん」

 ようやくその手掛かりを手に入れたのだ。
 あの違法科学者の捜索の途中で、あの男の情報を手に入れられたのだ。
 ならば今は休んでいる場合ではない。必ず見つけ出し、そして捕まえる。

 その決意が、彼女に分かったのか。だからこれ以上何も言わない。
 今はまだ見守るくらいしか、彼女にはできない。

 そしてフェイトは見つめていた。
 その男を必ず捕まえると、そう決めていた。




第十五話




 とある管理世界。
 俺、キャロ、フリードの3人で外食していた。
 因みに肉料理である。俺、肉好きなんだよね。この体になる以前からも。
 いや、さすがにその時は生肉は無理だったんだけどさ。

 いやっはっは、手作りもいいけど外食もいいよね。
 と、この頃手作りばかりだったらから久しぶりに外食をしてみることにした。
 まったくこれが人間の性というものよ。
 などと自分に言い訳でもしてみた。

「キュクー」
「ごちそうさま」
「はい、ごちそうさま」

 2人して手を合わせてごちそうさまをする。
 こちらではあまりない習慣、というか地球の日本の習慣だが、それでもすることにする。
 
 俺はギルマン一族としての誇りもあるし、それと同時に日本人としての誇りだってある。吹けば飛びそうな誇りでも。
 だからこうしてキャロとフリードと一緒になるようなってからは「いただきます」と「ごちそうさま」を欠かしてはいない。
 というか2人が妙にこれを楽しそうにやっていたので、今更やめるにやめられなくなったというのが真実なのだが。

「それじゃあどうすっかな?」

 ぶっちゃけすることがない状況である。
 働かなくとも生きていける。というか俺の鱗を売ればいいんだし。
 
 ここはゆったりのんびり昼寝でもするのが一番かな。
 あ、でも働かないってニートは嫌だなぁ、さすがに。
 などなど思ってみるが。

「あ、それなら実をとりにいきましょうよ」
「実、かぁ。ああ、俺美味しいもんね」
「えっと、まあ、オージンさんですもんね」

 因みに実と言っているのはこの世界のとある山に生えている実である。
 あの実は実に美味しい。本当に美味しい。

 一度飲めば、まるで酔うかのように気持ちいい。
 あの気持ちよさは二十歳になって酒を飲んだ時以来だ。
 
 フリードもあれはとてもいいものだ、と言わんばかりに喜んでいる。
 うん、あれはいいよな。
 ただキャロは苦笑いしているが。

 因みに実とは【竜酔酒の実】である。
 まあキャロは飲めないから苦笑しても仕方ないか。

「んじゃまあ取りに行こうぜ」
「キュックー!」
「はい、行きましょう」

 そんなわけで早速出発進行、俺もあの竜酔酒の実は楽しみでたまらん。
 フリードも早速涎を垂らしているし。
 まあその気持ちは俺にはよく分かる。というか寧ろ分かりやすすぎるほどに分かる。

 キャロもあの実はドラゴン用の薬になるとのこと。
 つまりなにかの傷を負ったり、また病気になった時のために取っておきたいとのことである。 
 なんせ痛み止めにもなるし、病気を治す薬にもなるし、まさに万能薬だ。
 まあ俺、変身魔法で人間になってるだけで実態はドラゴンだしね。
 人間用の治療なんて受けられないんだよね。たとえ受けても本性はドラゴンなのだから意味がないし。
 ドラゴンに意味がある奴じゃないと、俺には意味がない。

「ほらほら行こうぜ」
「キュクルー」

 そんなわけで急かす俺とフリード。
 そんな急がなくても竜酔酒の実は逃げない、と言おうとしたキャロだが俺たちにはそんなものは関係ない。
 早くあの極上の味を味わいたいのだ。

 因みに現在は竜酔酒の実を持っているが、少しだけでは酔う意味もないため一斉に飲みたいのだ。俺は。

 すっかりドラゴンになってるな、俺。
 まあ今のこの体になってから酒を飲んでもあんまり美味しくないと感じてるし、酔いも回らないからな。竜酔酒の実に傾倒するのは仕方がないことと言えよう。

 そうして俺たちはその山へと向かった。
 


 

 
 ――その途中で見てしまった。
 ある男と、管理局員が争っているその姿を。

 たった1人に対して複数の局員が囲っている姿を。

 ――なによりも圧倒的なその姿を。

 その髪は白いオールバック、その身に纏っているのは紅の外套、その下にあるのは黒尽くめの服装。
 なによりも惹かれるのは鷹のようなその瞳。

 俺はそいつのその姿に、どこかで見た気がした。
 それはいつだったのか、古い記憶にある気がした。

 そして男あとある魔法を出す。
 そしてその紅の外套を纏いし男はとある魔法を生み出す。
 魔法陣は生まれず、だがその手にある魔法はあまりにも、禍々しすぎた。

「!!」

 その手にある魔法は確実に呪いの類。
 見過ごすことなど、ただ通りかかっただけだ。
 こんなのは無視すればいい話だ。

 相手は今までのような相手ではない。
 それでも、咄嗟に――。

「危ない!」

 俺はラウンドシールドを張ってしまった。






Side-とある管理局員

 俺たちはある魔導師を追っていた。
 だがその魔導師はいきなりとして魔法を繰り出してきた。

 だがその魔法は圧倒的で、為す術もなく、皆やられていく。
 その魔法の威力は凄まじく、シールドもプロテクションもバリアジャケットも意味のないかのようで。
 圧倒的なその剣技はただ無骨で、それでも美しく。
 ただただ磨き抜かれた技術なのだと分かるようで。

 だからこそどうしてこんなことをするのか、あまり分からなかった。

 そして思い出した。
 この格好、そしてこの特殊な魔法。
 この男は確か管理局にて指名手配されていた男だ。それも6年前に昔にだ。

 あまりにも凄まじい魔法を繰り広げる。
 その男の名は――

「I am the bone of my sowrd」

 それは呪文、己を暗示させる最高峰の呪文。
 そして男の手には、一本の弓ができあがる。

偽・螺旋剣カラドボルグⅡ

 その手にあるのは一本の剣。
 それを矢へと変化させていく。
 
 あまりにも膨大な呪いをかけられたその矢は、確実に局員たちの命を奪う。
 もう俺でさえ、身動きが取れないほどに、いや、いつ気絶してもおかしくないくらいに。

 局員たちも気絶している。
 その上で尚、この男は俺たちを殺そうとしている気でいる。
 その矢で貫くは俺たちなのだと、そして明確な死が俺たちに襲いかかっていると、感じ取った。

 そして男が弓を引くと同時、矢は俺たちに向かって飛んでいき――

 瞬間、目の前に翠の盾が出現し、それがその矢を防ぎきった。





Side-Ordin

 完全にラウンドシールドで防ぎきった。
 だがあの矢は完全に通常レベルの威力じゃない。
 俺の圧倒的魔力でコーティングしたラウンドシールドだからこそ防げたのだ。
 これひとつ生み出すのにスターライトブレイカーくらいの魔力を必要とするのだから。

 だがそれでもあの威力はヤバい。
 あんなのを咄嗟に生み出せるだなんて、あの紅の外套を纏った男、危険すぎる。
 早く、早く、ここから逃げ出さないと。
 俺の中にあるなにかはそれを警告していた。

 咄嗟に逃げ出さないと――

「ふむ、貴様。なぜ、私の邪魔をするのかね?」
 
 突然、男は語りかけてきてくる。
 いきなり邪魔をしてくる男に対してそう言ったのだ。

 これは警告なのか。いや、でもそれでも――
 ここから逃げ出していいのか? いいに決まっているだろう。
 それ以外の選択肢がどこにある。

 だが目の前のこの男はその選択肢を許さない。

「そ、そんなの、お、お前、殺そうとしていた、じゃないか」
「ふん、やはり偽善者か。
 そも管理局がどれほど民を傷つけているのか分かっているのか?」

 うわ、決めつけられたよ。
 ただ殺されかけた奴を見て、咄嗟にシールドを張っただけだ。
 偽善者といえばそうかもしれないけれど、かけられた本人からすれば非常にありがたいものだ。
 俺の時もそうやって誰かに助けられていたらそれこそ感謝しまくっていただろう。
 まあ実際にそんなことはなく、俺はそのまま死んだのだが。

 管理局だって確かに黒い面はある。
 でもそれは表の面だってあるのだ。
 そしてこの人たちはそういった表の面の人たちなのだろう。

 そういった人たちを攻撃して殺して、でもそれじゃ裏の人たちは消せないはずなのに。

 それでもこの男はそんなことは関係ないとでもいう風に、ただこの人たちを殺そうとした。
 俺は見たくなかっただけだった。人が死ぬシーンを。

 俺はきっとそんなものを見ても耐えられない。
 もしかしたらあっさりと狩りで動物を殺したこともあるが、それでも吐いた。
 だから俺は人が死ぬシーンを見たくないといった理由だけで、咄嗟に守ってしまったのだ。

「管理局によって泣かされた奴が一体何人いると思うのだ!?
 資質のないものをバカにし、人のものを勝手に強奪し、資質がある子供は誘拐し、ろくな訓練も施さず前線に送る! 
 これが害悪でなくてなんだというのだ!!」

 この男は管理局を憎んでいるのだろう。
 だがどうしてなのだろうか?
 この男は確かに管理局に対してあまり良い感情を持っていない。

 だが決して『恨んで』はいない。
 寧ろ彼は自分に『酔っている』。そんな感じがする。

 自分は選ばれし者、だからこそ管理局を潰してやることこそが自分にとっての使命。
 そう考えている節が彼にはあるのだ。

 でもそれを指摘してはいけない。絶対100%怒るだろうから。
 あの男は『危険』なのだと理解しているのだから。

 そうして男が演説している。
 今の内に逃げ出したい。そう感じた俺はキャロに転移魔法を気付かれないように、と指示を出す。

 俺が変身を解いて、フェンリール・ドラゴンになって、キャロとフリードを乗せて全速力で走りだしてもあいつからは逃げ出せないだろう。
 今回は俺の野生の勘がそれを伝えている。

 あの男からは逃げ出せない、そんななにかを持っている。
 そう安易に言ってるかのように、男からそういう空気が漏れ出している。

 そうやって逃げ出そうとした瞬間だった。

「!!」

 男はキャロを見た瞬間、その顔が驚愕に変わった。

「まさか、キャロが、まさか、……くっ、そういう、ことか!」

 そしていきなりとして男は魔法を唱えた。
 いや、魔法ではない。そんな代物などでは決してない。

「貴様、キャロを光源氏計画で手に入れる計画だったのだろう。
 だが俺が来たからには、そんな邪な計画など粉砕してくれる!!
 ここは現実世界だ! お前のような奴がいて良い場所などではない!! 
 このロリコンめが!!
 I am the bone of my sowrd骨子は捻じれ狂う

 突然怒り出したそいつはある呪文を唱える。
 俺はその呪文に聞き覚えがあった。そしてこの世界では聞き覚えがなかった。

 それは当然だ。なんせそれはこの世界の魔法などではないからだ。

 その手に握られているのは一つの矢。
 それは先ほど出された偽・螺旋剣。それを手にし、そして弓に番え、放った。

 一直線に、俺の顔目掛けて襲い掛かってきた。

『アーク=ハルシオン
 希少技能レアスキル:『複製レプリカ
 6年前、ジュエルシード事件、闇の書事件に参加していた次元犯罪者。
 彼の使う魔法は希少技能レアスキルを駆使した戦い方。
 その戦い方はあまりにも圧倒的なため、下級の武装局員では対応できない』



[19334] 第十六話 激闘Ⅱ
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/19 23:08
 かつてその男はジュエルシード事件に参加していた。
 かつてその男は闇の書事件に参加していた。

 管理局に敵対し、数多の管理局員を屠ってきた男。
 そのために数多くの敵を斬ってきた騎士。

 男の名は『アーク・ハルシオン』。
 その彼の希少技能レアスキル複製レプリカである。




第十六話




「ラウンドシールド!!」

 咄嗟に俺はラウンドシールドを張ることにより、偽・螺旋剣カラドボルグⅡによる攻撃を防ぐ。
 確かに強力な矢による一撃だが、俺のラウンドシールドならば十分に防げる程度だ。

 なんせ俺のラウンドシールドは超強力な防御壁。
 あの高町なのはにだって、このラウンドシールドの鉄壁さには負けるつもりはない。

「このロリコンめがっ!」
「知るかぁぁぁ!!」
 
 訳の分らんこと言いやがって。
 そんでもって思い出した。

 この呪文、そしてこの魔法、いや魔術。
 これはかつて俺が、≪佐藤芳樹≫だった頃に見たことのある作品の奥義たる魔術。
 それはたった一つを極めた、凡才の魔術使い、決して理解されることのなかった正義の味方の魔術。

 英霊エミヤの魔術、そしてこの男の姿はまんま英霊エミヤ。

 コイツ、100%転生者か、もしくは転生者の英霊召喚の能力で召喚した英霊エミヤだ!
 どちらにせよ転生者絡みなのは確か!!

 いや、転生者だ! 
 召喚された英霊エミヤなら、キャロを見てすぐに俺のことをロリコンだなんて言うはずがない!

 というかいたのかよ!! 藤村修吾以外に転生者だなんて!!

 しかもキャロをつれてるだけでロリコン扱いされたし。
 というかそれだけで転生者認定されたし。いや、転生者認定ってところだけは合ってるけども。

「もういい。死んでおけ。ペドが。
 I am the bone of my sowrd!」

 それは呪文。とある男がたった一つしかなかった才を、唯一与えられたものを極限にまで極めた男の呪文。
 男に才能はなかった。だから努力するしかなかった。

 その努力は才ある者にしてみればなんと無駄なほどの努力だったか。
 だが男はついに極めた。

 そしてこの英霊エミヤ風のこの男はそれを己がものとしている。

「干将・莫耶」

 その手に握られるは白と黒の夫婦剣。
 あの英霊が最もその手に馴染んだ最適の剣。

 そして向かってくるのは、一瞬の流星の如く一撃。
 
「プロテクション!」
 
 なんという速さ、なんという反応速度。
 咄嗟にプロテクションを放った。
 最高峰のプロテクションを。

 このプロテクションならどんな一撃だって耐えられる、そんな思いをかけて――

「ふん、遅いな」

 だがそれでも甘かった。
 プロテクションで防げるのは一瞬のみ。

 だからこそ英霊エミヤ風の男はすぐさまにプロテクションが張り終わった後、攻撃を仕掛けてくる。
 俺とキャロの間に入り込み――速すぎる!!

 そして白と黒の夫婦剣が、襲い掛かる。

 ヤバい、今の俺はグングニールもバリアジャケットも展開していない!!

「パンツァーガイスト!!」
「むっ!?」

 咄嗟に唱えたのはパンツァーガイスト。
 俺はこの魔法を使った。だがこれは本当にやばかったから。

 明確な死を感じ取ったからこそ、この魔法を使ったのだ。

 本来この魔法を知っていても使うことはまずなかった。
 だからあまり暗記していなかったし、咄嗟に思い出せたのは良かった。
 だが送り出した魔力が少なかったのか(それでも普通の魔力消費より遥かに多い)、薄くなってしまい、そのまま干将・莫耶で切り裂かれる。

 だが掠り傷程度で済んだ。
 
 だが一旦英霊エミヤ風の男は距離をとった。

 今しかない!!

「グングニール、セットアップ!」

 俺はグングニールをセットアップする。
 ストレージデバイス、グングニール。杖型デバイスであり、ぶっちゃけ市販のストレージデバイス。
 それほど高価なわけでも特殊ななにかがあるわけでもない、ただのストレージ。

 だがバリアジャケットにかけてる容量は半端なく、さっきの不完全なパンツァーガイストよりかは防御力を発揮してくれるだろう。

「はぁ、はぁ」

 それにしても危なかった。

 俺は本来パンツァーガイストは使わない。
 だがあの時、パンツァーガイストを使わなければ、確実にあのままあの英霊エミヤ風の男の剣戟により、反撃する間すらも与えられずに切り裂かれたはずだ。

 俺は接近戦ができない。
 いや、できないというよりも反応できない。
 その証拠にあの速度に反応できなかったのだから。

 俺は確実に接近戦をあの男に挑めば負ける。
 そんなことが心の底から理解できた。

 パンツァーガイストは本来体中を魔力で覆い、鎧を成す魔法だ。
 ならば俺の魔力を使えば、無敵の鎧を生み出せるのではないか、と思われがちだがそれは違う。
 なぜなら魔力で体を覆うからだ。
 それはつまり神域の魔力テンプテーションから展開導入ダウンロードした魔力をそのまま覆うということ。
 それは一歩コントロールを間違えれば、その魔力に俺自身が押し潰されるということ。
 そして俺自身、そのコントロールが苦手だからこそ、魔力でそれを補っている状態だ。

 今回は上手くいった。
 もしかしたらあのまま失敗して俺が死んでいたのかもしれなかった。

 だがあの時俺は死んでしまう可能性を分かっていながら、それでも使わなければ死ぬということを理解できたから、使った。
 プロテクションではまた接近戦されて終わり。
 パンツァーガイストで一旦覆い、そして相手に距離をとらせる必要があったから。

 今度はもう使わない。
 今の俺には容量を増やしまくったバリアジャケットがある。
 失敗すれば薄い鎧か、それとも魔力で押し潰されての死かのどちらかしかない分の悪い賭けしかできないパンツァーガイストを使う必要はない。
 勝率なんてほぼ0%に近い賭け魔法だなんて。

 なんせ俺はラウンドシールド一つ作り出すのにスターライトブレイカー級かそれ以上の魔力を使うのだから。

 だが相手は速すぎる。
 なによりも反応できない。

 無茶すぎる相手だ。俺の最も苦手とする相手。
 俺の戦い方はぶっちゃけ魔力に頼った戦い方。
 
 相手が何かをする前に押し潰す、そういう戦闘スタイル。
 だが相手は接近戦のプロ。俺が押し潰そうとする前に、斬りかかられてしまう。
 俺の苦手という戦闘タイプの相手。

 しかもこっちにはキャロとフリードがいる。

「だ、大丈夫ですか!? オージンさん!」
「キュックー!」
「ああ、大丈夫、だといいな」

 キャロとフリードが心配してくれる。
 あまりにも咄嗟のことで彼女らも反応できなかったのだ。
 仕方がない。俺も反応できなかった。

 なんせ俺の反応速度はいわゆる一般人と同じ程度なのだから。

 ここで「大丈夫」とかいって安心させたかった。そしてなにより俺自身を納得させたかった。
 でもできない。目の前にいる男に対する恐怖によってできないでいる。
 まだ安心できない。殺される、そうはっきりと感じ取っていた。

 すると英霊エミヤ風の男は語りかける。

「全く以て忌々しい。貴様らは人の心を簡単に弄ぶ、なんと愚かな奴よ」

 言いたいことが分からない。
 人の心を弄ぶ? 俺がいつ弄んだ。
 寧ろ俺が、命を弄ばれた方だっていうのに。

「んなこと、してねぇ」
「ならばそこにいる子供はなんだ。貴様が勝手にその子供を誘惑したのだろう。本来幸せになるべきその子供を」

 そう言ってエミヤ風の男はキャロを指さす。
 本来幸せになるべき子供。

 ああ、本来ならキャロは管理局に保護されて渡り歩き、そしてフェイトに保護されるはずだった。
 本来ならば母親を得るはずだったのに、俺が孤独が嫌という理由から、その本来得るべき母親を奪ってしまった。

 でも――

「わ、私!? 私は、誘惑なんてされてません! 
 私はオージンさんと一緒にいたい、とそう思ったらここにいますし、オージンさんといるから、私は幸せです!」

 ああ、その言葉で救われる。
 
 そうだ。別にそれでいい。俺自身が孤独が嫌でこの子を保護した。本来ならばフェイトが保護するはずのキャロを。
 でも別にいいではないか。俺がこの娘を幸せにしてやればいいだけの話じゃないか。

 傲慢と思いたきゃそう思やいい。
 あの娘は孤独を嫌がっていた、俺も嫌がっていた。
 ならそれでいいだろう。

「愚かな。貴様、ここまで洗脳しているのか。人の心を弄びよって、その罪、万死に値する」
「万死? ハッ、ふざけんなよ」

 洗脳なんじゃしちゃいねぇよ。
 もしあれが洗脳なんだっていうのなら、俺だってキャロに洗脳されていることになるわ。
 
 俺はキャロの心を弄んでなんかいない。
 
 キャロに責められるならまだしも、お前に責められる謂われなんてない。

 俺はちゃんとここで生きていて、キャロもフリードも生きている。それでいいだろう。それが現実ってやつだろう。
 
 なのにそれのどこが、万死だっていうんだ。

「いい加減、夢の世界で遊ぶのはやめたらどうなんだ」
「夢?」

 ああ、まるで夢のような世界だったよ。
 やっと手に入れた平穏、それもあっさりと壊された。まるで悪夢のようだった。
 それでもやっとまた、ついに手に入れた平穏。それは今までのことからすれば夢のような時間だ。
 
 なら壊させてたまるか。現実で生きている以上、この夢のような時間を決して壊させはしない!

「俺はきっちり現実で生きてるね」
「――貴様」

 だがそのセリフはエミヤ風の男からしてみれば気に入らないセリフだったようだ。
 
 なるほど。俺が現実で生きていると生意気を言ったからなのか、エミヤ風の男からは気配が読み取れる。

 そして男は怒鳴り気味に叫ぶ。

「ふざけるな!! 貴様のせいで、どれだけの人が死んだと思っているのだ!? 
 本来貴様がいなければ生きていられた奴だって幸せになれた奴だっているだろう!
 だが貴様が生まれてきたせいで死んだ奴や不幸になって奴だっている!!
 その責任を、貴様はどうするつもりなのだ!!」
「!!」

 ああ、確かに。俺が遠因によるバタフライ効果でそうなった奴もいるだろ。
 でもな――

「知るか。俺が原因? ふざけんな」
「そんなの、言いがかりです!」

 バタフライ効果でそうなったからといってもそれを判断できる材料なんてないし、いちいちそんなことを気にしてられるか。
 いや、それ以前にバタフライ効果は転生者だけじゃなく、全ての人間にいえることなんだから。

 そんなたらればの話をしても意味がないだろうに。
 キャロの言う通り、そんなことは言い掛かりにしかならないことだ。

 俺はここにしっかりと生きているのだから。

「それが貴様の答えか。ハッ、見下げた下種だな」
「どこが下種だ、つんだよ」
「そうです! お父さんは下種なんかじゃ、ありません!」

 これが下種だっていうなら全人類下種だろうが。
 よほどのネガティブな人でもない限り、全員下種になってしまう考え方だろうが、それは。
 
 キャロはそういったネガティブ精神のある人間にはなって欲しくなんてない。

「うぐっ! た、助け――」
「だ、大丈夫ですか!?」
「ほう、まだ意識があったのか」

 動きだしたのは気絶していた管理局員。
 
 まだ死んでいるわけではない。
 だがコイツを放っておくと確実にこいつらを殺すだろう。
 そして気絶しているうちの1人の意識が戻った。ただし、怪我が酷過ぎて身動きがとれないである。

 だがエミヤ風の男は――

「ならばさっき刺し損ねたトドメを刺してやろう。なに、死ぬのは一瞬だ。辛くはないだろう。
 同調開始トレース・オン

 そして英霊エミヤ風の男は呪文を唱える。自己暗示の呪文を。
 魔術は完成される。一つの作品として。

必滅の黄薔薇ゲイ・ボウ

 それはとある槍兵の武器、双槍が一方、黄金の槍。
 それは必滅の魔力を持ち、その槍で貫かれた者は呪いによってその傷は決して癒えないという呪いの槍。
 その長さは1.5メートルほどの槍。

 あれは不味い!!

「ラウンドシールド!」
 
 必滅の黄薔薇でトドメを刺そうとしていたエミヤ風の男。
 目の前でそんなことをされれば、咄嗟にバリアを張るのも仕方がない。

 ラウンドシールドを展開し、その必滅の黄薔薇をその張ったラウンドシールドで防ぐ。

「何のつもりだ。貴様」
「……はぁ、はぁ」

 知るか、んなこと。
 目の前で殺されそうになったんだぞ。咄嗟に防いでも仕方ないじゃないか。

 この隙に逃げればよかった、だとか、殺されそうになっている奴を放っておいてここから離脱すればよかった、なんて考えも出てくる。
 でもそんな急にそんなことを考え付くわけがないじゃないか。

 だって俺は圧倒的な魔力を持っていても、素人なんだから。

 こうすればよかったのに、とか思っていても。そんなものはいつもいつもそれをするタイミングを失った後だ。
 でもそんなことは当たり前のことで。
 いつも戦いのことを頭に思い浮かべている人とは違うんだから。

「なんで、殺そうとするんだよ」
 
 俺には信じられなかった。
 どうしてこの男は人をこんなにあっさり殺せるんだろう。

 お前は転生者だろう、しかも日本人の。
 別に紛争地帯だとかに住んでいる人間でもなければ、前世がストリートチルドレンだったわけでもないんだろ。
 なのにどうして、前世が日本人だったお前が、そんな簡単に人を殺すような真似ができるんだ?
 そう俺は思ってしまう。

 だがエミヤ風の男はそんなことは関係ないとばかりに。

「なにを言っている、この男は、管理局員なんだぞ」
「だから、なんなんだ!!」
 
 管理局員だから殺す? 訳が分からない。
 
 お前は犯罪者ってのは分かった。でもなんで殺すんだ?
 それが理由になると分かっていても、それでもどうして殺すのか理解できなかった。

 俺は甘ちゃんだけど、それでも俺はそれでいいと思っている。
 
「ふん、そんなことを分からんのか。
 管理局は傲慢だ。
 勝手にロストロギアと称し人のものを奪っていき、あまつさえ才能があるのならばたとえそれが子供だろうと局員にし、碌な訓練も施さず戦場に送る。
 傲慢ではないか。こんな組織、害悪にしかならん!! 
 ゆえにこそ、管理局は滅ぼすべき存在なのだよ」

 ああ、確かに俺から見ても管理局は傲慢に見えるよ。
 人のものを奪っていく、子供を局員に仕立て上がる。

 俺から見ても確かに傲慢だ。でも害悪とは違う。

 そんなのは管理局のごく一部に過ぎない。

 そのほとんどの局員は正義のために働いている。
 それを上層部によって歪められているだけだ。

 それに管理局があるからこそ救われている人だっているのだ。
 幾ら警察が汚職ばかりだといって警察がなくなれば無法地帯となる。それと同じ話なのだから。
 管理局で働いている人たちは立派な人が多いのだから。

「だからって、その人たちを殺すのは、違うだろうが」

 この人たちを殺すことがなにになるっていうんだ。
 この人たちだって立派に生きている人間だっていうのに。

 殺すことが必要な時だってあるかもしれない。
 でもこの時は違うだろう、そう考えても。

「ふん、これは必要な犠牲なのだよ。
 管理局は滅ぼすべき存在なのだ。そのために、必要な犠牲だ」
「おかしいだろ! お前は!」

 管理局のやっていることがおかしいというのなら、こんなことをするべきじゃないだろう。
 管理局が子供を前線に送る。それはおかしい犠牲だ。
 
 なのにその犠牲を止めるために別の犠牲を生み出す? こんな犠牲を出しても止められるはずがないだろう。
 なのにどうして――

「九を救うために一を捨てる。それが現実なのだよ。
 十を救おうとすれば十を失うことになる。十を救おうとする理想など所詮は夢物語に過ぎないのだ」

 ふざけんな、そう思いたい。
 十を救おうとして、十を失うことになる?
 だから九を救うために一を切り捨てるべきだ?

 知るか――!!

 俺が救うのは常に一だけだ。
 他の九は他の誰かが救ってろ。
 わざわざ俺がどうして他の九を救わなきゃいけない。

 目の前に死にそうな人がいれば助けるかもしれない。
 キャロやフリードが危ない目に会えば、なんとしても助けようとするだろう。
 遠くで人が死にそうだ、なんて言われても、「へー」としかぐらいしか思えない。

 だから俺が救うのは常に一。
 切り捨てるべきものなんてなにもない。

 だって他の九は、他の誰かが救うべきものなんだから。

「だから貴様も、世界の平和のため、救うべき九のため、犠牲となるがいい!」

 そしてその一の中には俺も入っている。
 救うべき、俺が守るべき一の中に。

 誰が、なるものか。お前のふざけた犠牲の中に、入ってたまるか!

「オージンさん!」
「ディバイン! バスター!!」

 俺は砲撃を展開する。
 砲撃魔法ディバインバスター、それは高町なのはの魔法の一つ。
 固有魔法というわけでもないから俺は覚えやすかった、というより暗記しやすかった魔法の一つだ。

 そして込められる魔力は圧倒的な魔力、構成も甘い、穴だらけ、ただただ丸写ししかだけの魔法式。
 それでも漏れ出す魔力は十分で圧倒的な魔力で補う。

 それゆえに通常のバスターよりも遥か圧倒的な破壊力を伴ったディバインバスターがエミヤ風の男に向かっていく。

「ふん、こんなものを避けられないでいると思っているのか?」

 だがエミヤ風の男はそれをあまりにも素早い反応速度で避けていく。
 
 だが問題ない。俺のバスターは常に直射しかできない。軌道も読みやすく避けられやすい。
 そんなことは丸写ししかできず、応用もできないほどに数学の弱い俺の弱点でもある。分かっていたことだ。
 ましてや相手は英霊エミヤを丸々コピーした転生者。
 寧ろ反応できて当然。

 だから――

「ディバイン、バスター!!」

 俺は複数のディバインバスターを展開する。
 生み出すバスター数は二十六。命中精度は悪いが、これだけ生み出せば、たとえエミヤの能力をコピーしていても。

「なに!?」
「ああ、これが俺の必殺技、ドラゴンバスター、またはドラゴンブレスだ!」

 二十六のバスター、それも一つ一つが高町なのはのディバインバスターを越えた威力。
 たとえ一つでも当たれば気絶するのは目に見えている。

 避けられるものならば、避けてみろ!!

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「キャアッ!」

 バスターの発射音がうるさい。
 なんせ一つ一つが強力な砲撃だ。
 それを二十六も同時に展開し、撃ち放ったのだからその音が激しいのも当然。

 それゆえにキャロもフリードも咄嗟に耳を塞いでしまった。

 これなら当たる!!
 二十六のバスターを、避けられはしな――

破魔の紅薔薇ゲイ・ジャルグ

 その手に生み出すのは、紅の長槍。
 先ほど投影した必滅の黄薔薇ゲイ・ボウと対を為す槍。

 その効力は魔を破る。ゆえにこその破魔の紅薔薇。
 それは自分に向かってきた一つのディバインバスターを、かき消した。
 
 自分に当たる部分だけを選んで、だ。

「ふん、非殺傷設定か」

 俺のとっておきの一つ、ドラゴンバスター、ドラゴンブレスが簡単に破られた。
 二十六のバスター、だがそれを自分に当たるバスターだけを選択してそれを槍で防いだ。それだけで終わった。

 圧倒的だ。
 俺が相手にならないくらい、その差は圧倒的だった。

 俺が唯一勝っている、圧倒的魔力量すらも、相手にならなかった。



[19334] 第十七話 激闘Ⅲ
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/19 23:08
 数々の宝具をその手に生み出す魔術、それこそが投影。
 それを徹底的に極めたのが錬鉄の騎士。

 そして目の前にいるこの男は、その錬鉄の騎士と同じ能力を、持っている。




第十七話
 



 俺のとっておきのドラゴンバスター、二十六のディバインバスターをいとも簡単に防がれた。
 逃げ場がなく、一つ一つが必殺級の破壊力だったというのに。

 俺は素人だ。
 この能力はチートと呼んでもいいだろう。
 もしも俺じゃなくて別の奴がこの能力を持っていたらチートと呼ばれていただろう。

 でも俺は戦闘に関しては素人もいいところだ。
 だからこそこのチート同然のこの力を使いこなせない。

「ふん。非殺傷設定か。ぬるい。ぬるいぞ、貴様」

 ぬるい、てそんなことを言われても。
 俺は構成を弄るような真似はできない。
 というかどこをどう弄れば非殺傷設定になって殺傷設定になるかも分からないのだ。

 だから殺傷設定に切り替えようとすることすらできない。
 無理にしようとすればバランスが崩れるだけだ。

 だからぶっちゃけ丸暗記しているだけなので非殺傷設定にしかできないというのが正解だ。
 まあたとえ切り替えができたところで殺傷設定に切り替えることはないのだろうが。

 だがエミヤ風の男はその非殺傷設定というところだけを見て不機嫌気味になっている。
 なにがそんなに不機嫌というのか。

「その程度の覚悟で、武器を手に取るな。虫唾が走る」

 覚悟――だと!?

「自らの手を穢す覚悟もないくせに、人を殺す覚悟もないくせに、そんなもので戦場に出てくるとは。
 その程度の覚悟で戦いをするな、武器を取るな!!」

 自らの手を穢す覚悟もない、だって。

「非殺傷というふざけたものが人の覚悟を鈍らせる。非殺傷という代物があるからこそ、覚悟を穢れさせる!
 ああ、なんとふざけた玩具だ!!
 そんなものを使って戦おうなどと!」

 ふざ、けるな――

 覚悟なんて、ありわけないだろうが。

「あるわけ、ないだろうが」

 生き抜く覚悟はした。絶対に生きるって覚悟はした。
 死にたくないって覚悟はした。死なないって覚悟もした。

 でも人を殺す覚悟なんてしなかった、自らが死ぬ覚悟なんて真逆のものだ。

 非殺傷設定は確かに人を傷つける危機感を薄れされるものだ。
 そのせいで比較的気軽に使えるようになった。

 ああ、確かにそれは覚悟を鈍らせるもんだ。

 でも、いいだろうが。それで。
 もともと俺は覚悟するつもりなんてなかったんだ。
 
 俺は平穏に行きたい、ただそれだけだったから。
 人を殺す覚悟なんてしたくなかった。そんなことをする必要のある世界に行きたくはなかった。
 ただ、ただ平穏に暮らせる、そんな世界でずっといたかった。

 ――でも世界がそれを許さなかった。

 ――いや、下衆な奴らがそれを許してはくれなかった。

 神による≪天から遣わす転生車輪リンカーネイト・トラック≫の余波によって殺され、そして死んだ。

 第二の人生であるギルマン一族だった頃には、ファナムを奪い取るために俺自身を生贄にして、ゾークはフェンリール・ドラゴンを俺に襲わせて、ただ抵抗することすらさせずに俺は殺され喰われた。

 フェンリール・ドラゴンになって殺さなければ生きられない時もあった。
 あの時は特に気にしなかった。
 ギルマンの一族で狩りには一時参加していたこともあったのだから。

 覚悟していなかった。覚悟なんてできるわけがなかった。
 覚悟するつもりもなかった。覚悟なんてしたくもなかった。

 動物を狩り、それをいただく覚悟だけはあった。それをいただきますで、ただ感謝することで許してもらおうと思った。

 でも人を殺す覚悟だけは俺にはできなかった。
 いや、そもそもからして人を殺す覚悟なんてする必要は俺になかったんだから。
 
 なのにどうしてこんな理不尽に巻き込まれる。
 
 俺の方から首を突っ込んでしまったとはいえ、なんで――

「覚悟する、つもりなんて、ないん、だから」
「そんな、その程度の覚悟で武器をとるのか、きさ――」
「覚悟させてくれるくれない以前に、殺そうとするお前らになにが分かるんだ!!」

 いつもいつも、俺は平穏を望んでいるのに! 
 俺はただ幸せに暮らしたいだけなのに。
 なんでいつもそれを邪魔するんだ? 俺がなにかいけないことをしたのか?

 人を殺す覚悟をするつもりなんて毛頭ない。
 なぜなら人を殺すことを日常にするわけではないからだ。いや、もっと端的にいえば人殺しなんてしたくない。

 でも周りはそんな俺を問答無用に襲ってくる。
 神に殺され、ドラゴンに殺され――

 だから俺は武器を手にとった。
 覚悟なんていない、そんな覚悟のない手だけど、俺には抵抗するだけの力がある。
 だから俺は抵抗するだけの、その程度の力が欲しくて――

「俺が覚悟すんのはいつも! 俺と俺の大切な人を守り救う覚悟だけだ!!」

 俺が常に目を向けるのはたった一。
 他の九のことなんて気にもしない。

 だって他の九は、他の奴らが救い守るべきものなんだから。

 俺が気にかけるのは俺と、俺の大切な人と、余裕があれば目の前に広がる光景くらいだ。

「だから!! 来るな、来るな!
 俺の日常に、お前らなんて、来るな! 
 俺の平穏を、壊すなぁぁあぁぁぁ!!」

 俺は叫び声を張り上がる。
 その叫びは誰にとっての叫びか。

 目の前のエミヤ風の男に言ったわけでは決してなかった。
 その叫びは神に対してか、竜に対してか、それともゾークに対してか。
 それでも暴走ともいうべき、その叫びは。

「天を覆え!! アクセルシュータ―、複数展開!!
 崩れ堕ちる天へヴンズフォール!!」

 その魔法は俺のとっておきの魔法が一つ。
 
 ドラゴンバスターをも越える大魔法の発動。
 
 あらゆる回避すら許さない、破滅の一撃。

 俺とキャロとフリードの上にラウンドシールドを展開させる。
 そのシールドならばこれから発動する魔法攻撃に耐えきれる。

 崩れ落ちる天ヘヴンズフォール、俺のとっておきが一つ。
 空を覆い尽くすアクセルシュータ―。ありとあらゆる対比物すら許さない、空を翠に染め上げるほどのスフィアの数。
 空にあるのは翠のシュータ―のみ。それ以外を見ることすら、許されない。
 それはあまりにも圧倒的で、遠近感すら奪わせる。

「なっ!?」

 さすがのエミヤ風の男はこれに驚いたようだ。
 これで押し潰す。問答無用で押し潰す。抵抗する暇すら与えず押し潰す。

 ただただ物量で押し潰す、絶対的な魔力で押し潰す。
 それ以外にこの魔法の使用方法はなく。

 防御も回避も問答無用で――

「くっ! I am the bone of my sowrd体は剣でできている

 だがエミヤ風の男は呪文を唱える。
 そして作り出すは天空に、天に向かって投影する。

 そこにある7枚の花弁、いや――
熾天覆う七つの円環ロー・アイアス

 それはあらゆる投擲物から身を守るための盾。
 いかなるものを貫く絶対の投擲からその身を守った、絶対防壁の究極の盾。

 投擲物に対して無敵の防御を誇る盾。
 だが――

「関係、ない」

 問答無用で叩き壊す。
 幾重ものシュータ―が問答無用に叩き壊す。
 ひとつひとつは弱くとも、数があまりにも膨大で、だから数で押し潰す。
 それだけでいい。

 本来叩き壊すのに千ものシュータ―が必要なら万のシュータ―を用意しよう。
 もしも億のシュータ―が必要というのなら兆のシュータ―でぶち壊すまでだ。

 自分が奴に勝っているのは神から奪った絶対無比の魔力とそれを加工する竜の能力。
 ただそれだけが奴に勝っている点。

 一枚、二枚、三枚、四枚、五枚、六枚――

 問答無用で叩き壊れていく。
 さあ後、一枚だ! そう思っていた時だ。

熾天覆う七つの円環ロー・アイアス

 再び熾天覆う七つの円環ロー・アイアスが展開される。

 え?

 七枚目を壊したと思ったらまた現れた無敵の盾。
 なんでまだ、それがあるんだ?

「ふん。所詮貴様が持っているのはチートか。だがな、覚悟のない貴様にそれは相応しくない。相応に散れ!
 神にもらった力を見せびらかして優越感に浸っている貴様なぞ、怖くもないわ!!」

 呆然としていた。
 八枚目、九枚目、十枚目、十一枚目、十二枚目、十三枚目、十四ま――
 
 ここで止まってしまった。
 もう、アクセルシュータ―は空にない。
 これ以上はもうない。

 でも――まだ魔力は引き出せる。
 早く展開導入 ダウンロードして、それでまた 崩れ堕ちる天ヘヴンズフォールを使えば――

 俺はこういった予想外のことに弱かった。
 英霊エミヤは自分があの熾天覆う七つの円環ロー・アイアスが張っている時はもう一つ熾天覆う七つの円環ロー・アイアスなんて張れなかった。
 だからてっきりこいつもそうなのだと先入観で思ってしまっていた。

 チートを舐めていた。
 コイツも転生者なんだ。そのチートを舐めていたんだ。
 俺自身、そのチートを持っているのに。その俺自身がそのチートを舐めていたんだ。

 俺は本当に戦いについて素人もいいところだ。
 これで決まった、と思ったところで決まらない。
 予想外のことが起こればパニックが起こってしまう。
 こんなので戦いなんてできるわけがなく、その隙をつかれる――

「干将・莫耶、連続投影。
 疾く死ね」
「え?」

 迫るのは十二の黒白の夫婦剣。
 一気に六セットもの投影を完成させたのか、この男は。

 そして舞うのは黒白、そして俺の周りを舞って――

 俺は咄嗟にプロテクションを張ろうとした、でも――

壊れた幻想ブロークン・ファンタズム

 十二の宝具は同時爆破される。

 本来宝具とは膨大な魔力の圧縮・集積体。それを己の意思で壊すことによって魔力の奔流を引き起こし、同時に大破壊を伴う爆発を発生させる。
 
 その破壊は凄まじく、十二の 壊れた幻想ブロークン・ファンタズムは俺を襲った。




Side-Caro

 何が起こったのか、分からなかった。
 突然あの紅い外套を纏った人が私を見てオージンさんに怒りの顔を見せた。
 私はあんな人知らない。
 
 でも私はあの人が嫌いだ。
 だって私は幸せだもん。オージンさんとフリードと一緒にいる時間が。

 なのにあの人は私のためとか言っておきながらオージンさんを殺そうとする。
 おかしな矛盾だ。私のために、私の幸せを壊そうとするだなんて。

 オージンさんのドラゴンバスターでさえも簡単に避け、しかもたった一つの槍で無効化するだなんて、あまりにも凄すぎる。
 オージンさんのバスターはたった一つでも並のバスターでないのに。

 でもオージンさんにはもう一つのとっておきがある。
 あれがある以上、オージンさんの攻撃を防げる術なんてない。

 無限に天を覆う究極の必殺技。
 でもその必殺技ですら、いとも簡単に無効化されてしまった。
 
 あの紅い外套を纏った人はたった2つの盾を召喚するだけであの数のアクセルシューターを、崩れ堕ちる天 ヘヴンズフォールを受け切ってしまうだなんて。
 私はその光景を見た時、なんてありえないと、そう思ってしまったのだ。

 でも十二個の、黒と白の短剣がオージンさんの周りに舞って、次の瞬間――

 ――その全てが爆発してしまった。

 なんで? どうして? オージンさん、オージンさん、オージンさん、オー――

「おとうさああああああああああああああああああンッッッ!!」
 
 私の悲痛な叫びは、空に木霊した。

「お父さん! お父さん! お父さん! お父さん!」

 必死になって爆発したところへ行こうとする。
 オージンさんならきっと、きっと無事だ。無事のはずなんだ!
 
 でもそう思っても頭ではあの爆発ではもう死んでいると判断してしまう。
 憎い、そんなことを考えるな。

 私のケリュケイオンの回復魔法で直すんだ。
 あの人は回復魔法が苦手だった。
 いつも回復しようとすると過剰回復のせいで逆に体を痛めてしまうくらい、回復魔法が苦手な人だった。
 だから私が必死になって回復魔法を覚えた。その成果をここで見せるんだ!

 オージンさんなら、お父さんなら、きっと大丈夫だから!
 私が必死になって治せば、回復魔法を施せばきっと大丈夫だから!
 だから私はすぐにオージンさんの元へと向かう。

 でも――

「君、向こうは危ないよ。
 さあここから離れるんだ。僕と来るがいい。
 大丈夫、君の心を弄んでいた外道は死んだ。だから――」

 うるさい、うるさい、うるさい!
 早く、早く、早くいかないと!!
 
 でも紅い外套を着た人は私を止める。
 私じゃこの人には敵わない。力の差じゃ簡単に止められる。
 
 それでも、それでも、それでも私はお父さんを――

 そうやって爆発してまだ煙が舞っているところから――声が響く。

「GUOOOOO……」
 
 それは唸り声。
 響くのは獣の息遣い。

 私はこの声を知っている、この息遣いを知っている。
 私も、フリードも、知っている。

「お父さん……」
「キュウ」

 知っている。この声は、この息遣いは。
 だから立ち上がって、お願い、早く、その姿を、見せて。

「お父さぁぁぁぁンッ!!」
「キュクーーーーーー!!」
「GUAAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」
「なっ!?」

 現れたのは一体の獣の竜。
 あらゆるものを粉砕する凶悪なまでの獣の竜。
 全てを憎み、全てを喰らい、ただただ破壊することのみを考える獣の竜。
 
 そんなわけがない。
 ただ生きているだけだ。そのためだけに獣の竜は生きる。そのためだけに破壊を起こす。
 
 でも目の前にいるのはドラゴン。
 最強の、フェンリール・ドラゴンが、姿を顕現する。

「GAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 オージン、その身に食われしはフェンリール・ドラゴン。
 そして自らがそのフェンリールとなり、ドラゴンとなり、ただ敵を喰らいつく。



[19334] 第十八話 激闘Ⅳ
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/19 23:08
 かつて俺を殺したことのある竜。
 それは俺になった。

 なぜなら俺の 希少技能レアスキル罪と罰 ギルティ・アンド・パニッシュメント
 殺した奴の体を奪い取る技だからだ。




第十八話




「GAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 ただただ貪る。貪る。
 殺せ、喰らえ、破壊しろ。

 本能が刺激される。ただそれ以外は考えるな。
 ただ喰らうことのみを考えろ、それ以外考えるな。

 喰らうために殺せ、喰らうために壊せ、ただただ喰らうのみ。
 我は暴食の化身フェンリール・ドラゴン。ゆえに喰らうのみ。

 死の恐怖が今まで眠っていた本能を発揮させる。
 ただただこの恐怖から、この迫ってくる『死』から逃れるためのみに、『本能』がこの身を包みこむ。

 だから殺せ。あの男を殺せ。
 俺を殺そうとするあの男を喰らい殺せ。
 
 俺の腹を満たせ、俺の満足いくまで喰い殺せ。

 そんな本能が俺を覆っていく。
 ああ、いいだろうとも。喰らってやる。

 今のこの身は、【フェンリール・ドラゴン】なのだから。

「グッ、なんなのだ!? このドラゴンは!」
「GUAAAAAAAAAAAAAA!!」

 問答無用で食い散らかしてやる! 
 俺を怒らせたことを後悔させてやる!!
 
 ただただ俺の牙で死んでいけ!

 俺は完全にこの時、暴走していた。







 暴走していた。
 既にオージンのその心はオージンのものではなくなっていた。
 
 ただその身を本能に任せた一体の獣に過ぎない。

 だがその獣の竜は戦いの素人で、人を殺すことに禁忌を感じるただの人間よりも遥かに、ただ殺すことが正義、ただ喰らいことのみが正義。
 そんな獣である以上、戦うことすら本能である竜である以上。

 たとえその実力が衰えたとしても、オージンよりも脅威になるのは間違いなかった。

「GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
「くっ、しま――」

 干将・莫耶など問答無用。
 その鱗はあらゆるものを弾き飛ばす鉄壁の鎧。
 寧ろ干将・莫耶程度ならばその鱗の鎧の前に効きなどしない。

 そしてその身を喰らうことのみを考える。
 目の前の紅い外套を纏いし男を殺し、その腹に収めることのみを考える。
 それだけでいい。ただの獣はそれを考えるだけでいい。

 獣の王にして獣の竜、あくなき全てを喰らい尽く竜、フェンリール・ドラゴンなのだから。

 先ほどの十二個の、六セットの干将・莫耶による壊れた幻想 ブロークン・ファンタズムを耐えきったのはただ単純な話だ。
 
 ただオージンの本性であるフェンリール・ドラゴンの鱗と、そしてグングニールのその容量の大半をバリアジャケットに注ぎ込んだ結果だ。

 大抵のものを弾き飛ばすほど強力な竜鱗の鎧の上に、膨大な情報量の詰まったバリアジャケット。
 たとえ十二個の壊れた幻想 ブロークン・ファンタズム相手だろうとも耐えきれるのは必至だ。

 だからこそ耐えきれた。
 だが本人の心自体が耐えきれなかっただけ。本人が死んでしまうと、自覚してしまっただけ。

 だからこうして本人の理性が眠っている。オージンの理性は奥底に追いやられた。
 あるのはフェンリール・ドラゴンの本能のみ。
 ただ相手を喰らい尽くすだけの本能。

 だが――

「なるほど。それがお前のチートというわけか。
 膨大な魔力と、そしてその体。お前のチートは 竜化魔法ドラゴラムだな」

 だが勝手に勘違いしてしまうエミヤ風の男。
 寧ろその反対だ。
 本性がドラゴンで、今まで人の姿を魔法で保ってきただけだ。

 だがあの一瞬の奇襲は失敗してしまった。
 
 戦いのプロともいうべきこの男は、既に突然に現れたフェンリール・ドラゴンの奇襲ともいうべき一撃は失敗に終わってしまう。
 ここからは冷静にこの男は動けてしまう。

 だからこそこの男は純粋にただ戦い殺すことのみにその身を働かせる。

「だがな、獣如きが、この俺に勝てると思うなよ。
 この身は覚悟を背負って生きているのだからな!」

 そして投影する。
 相手が魔獣だというのなら尚更簡単だ。

 英霊の宝具の中に、魔獣を屠るためのものだなんていくらでもある。
 それ以上に相手はドラゴン。ドラゴンを殺すための武器だなんて幾らでもある。

 だが――

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 フェンリール・ドラゴンはあまりにも速すぎた。
 ただ疾く、ただ強く、ただ堅く、ただただフェンリール・ドラゴンの存在は圧倒たらしめる。

 もともとフェンリール・ドラゴンは魔法を使うタイプの魔獣ではない。
 いや、寧ろ魔法なんて使わない。

 ただこの肉体のみで、ただこの力強さのみで、ただ身体の堅さのみで、ただその脚力の凄まじさのみで。
 ただ疾く動け、ただ力強く破壊し、ただ堅く攻撃を弾き――

 それだけで魔法を使うための魔獣を圧倒し、魔法を使わぬ身にしてAAランク認定にまでされた魔竜。
 
 それも魔法が使えないからという理由だけでAAランクに落とされた程度。
 実際のその強さは、遥か強く。

「GOAAAAAAAAAAAAAAA!!」
「なんて、速さだ!」

 投影する暇すら与えず、ただただ牙で、爪で、その体で、ただただひたすらに砕き、潰し、捻り、抉る。
 ただひたすらに殺すことのみを。

 ころし、ころし、ころし、ころし、ころし、ころし、ころし、 ころし、ころし、ころす。

 ただ、それだけだ。

「な、めるなぁぁ!!」

 だが遂に彼は見つけてしまった。
 投影するチャンスを、ただ弱く構成も甘い投影だとしても、その投影は――

 投影するに最適なものを彼は選んだ。

貪り喰らう、神織りし荒縄 グレイプニール!!」

 それはかつてラグナレクにおいての最強の巨人を縛りあげし荒縄。
 その伝説により、その宝具に込められた神秘はあらゆる魔獣を縛りあげる究極の荒縄。

 そしてフェンリール・ドラゴンは竜であると同時、魔獣でもある。
 
 ラグナレク最強の巨人にして世界を呑み込む巨狼フェンリル、それすらも縛り上げる荒縄だ。
 ならばフェンリール・ドラゴンにとって最悪の縄であるのは明白。
 縛り上げられ、身動きがとれない。

 だが構成が甘かったためか、すぐにでも引きちぎられようとする。
 完全な 貪り喰らう、神織りし荒縄グレイプニールならば、フェンリール・ドラゴンたる身であるオージンが引きちぎれるわけがない。

 だがその一瞬で十分。
 たった一瞬だけしかその身を封じられなくとも、それだけの時間があれば、エミヤ風の男にとっては十分な時間。

 オージンに対して最適な宝具を投影することなど十分に可能。

 そして放たれるは――

栄光と破滅の魔剣 グラム

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッッッッッッッッッッッ!!」

 竜を殺害するための究極の竜滅の剣。
 名を太陽剣グラム。
 その剣は栄光を齎し、同時に破滅を齎す。
 祝福と呪いを同時に呼び寄せる魔剣。

 ただ竜を滅ぼすための究極の剣。
 
 それは簡単に、ドラゴンの肉体を、バターのように容易く――斬った。

「AAAAAAAAAAAAAAAああああああああああああああああああ!!」

 フェンリール・ドラゴンの左腕は、肘から先なんて骨の感触もないくらいあっさりと斬られた。
 まるで鋏で紙を斬るかのようにあっさりと。

 竜を殺すための剣によって、斬られたフェンリール・ドラゴンは、左腕を失った。
 そして――







Side-Ordin

 痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛イッ――――

 なんで痛い、痛い!?
 俺の意識が戻ってきた。フェンリール・ドラゴンの本能が、激痛のせいで吹き飛んで、俺の理性が戻ってきた。
 でも俺が戻ってきた時にはあまりにも痛くて痛くて考えることすらも億劫で。

 なんでこんなことに、なんでこんなことに。
 左腕からどんどん血が流れ出てくる。竜血が流れ出ている。

 竜の血には魔力、神秘が宿っているというけど、それが本当ならどうなるのか?
 
 そんなことを考えている場合ではなく、ああ、痛い痛い痛い痛い。

「お父さん!!」
「キュクーー!」

 キャロとフリードも声が響いてくる。
 それでも痛くて、それが理解できない。誰の声――でも!

 これからなにをするべきなのかは理解できた。
 後はその通りに動けばいいだけ。早くこの激痛から逃れるために!!

「GAあ、あAAアアア嗚呼AAAあアA嗚呼AAAああアアアああAAあ!!」
 
 魔法を唱える。グングニール、頼む、発動してくれ。
 使うは変身魔法、人間への変身。

 そして俺はオージンへと戻る。フェンリール・ドラゴンよりオージンの姿へと。

 その身にあるのは左腕の人間と、切り離された竜の左腕。
 
 そしてその手にあるのは――【竜酔酒の実】。
 俺はそれを口に含み,ガリッと噛み砕いた。

「あ、ああ、ああ、ああ」

 それと同時に痛みが引いていく。
 【竜酔酒の実】は痛み止めにもなる。どうやら本当だったようだ。
 痛みを消滅させると同時、俺はようやく酔いが回ってきたかのような感覚。

 でもこのまま痛みを伴ったままいるわけにはいかなかった。
 なにより俺の精神が耐えきれるわけがなかった。

 血液がどんどんと流れ出ている。
 止血をする時間もない。

 一瞬で勝負を決めるしかない。
 それしか、手段はなく。
 
 一瞬で勝負を決めて、すぐにキャロに回復魔法をかけてもらうしか、『死』を逃れる術はない。
 痛み止めで、魔法を使えるようにして、そして放つ。

「ドラゴン、バスター!」
「ふん、無駄だよ。言うただろう!」

 エミヤ風の男はすぐにでも投影したばかりの 栄光と破滅の魔剣グラムを破棄する。
 そして破棄した魔力を使用して、新たな投影を開始する。

 栄光と破滅を同時に齎す魔剣をかき消し、その手に生み出されるのはあらゆる魔を破る魔術殺しの槍。
 とある槍兵の使っていた双槍が一つ。

破魔の紅薔薇 ゲイ・ジャルグ

 かき消すのは己に当たる魔力の流れのみ。
 それをただ紅き槍にてかき消すのみ。それだけでドラゴンバスターという、三十九のディバインバスターを防ぎ、避ける。

 ああ、なんという強さか。
 なんという戦いの巧さか。
 ああ、敵わない。戦いともなればこの男には決して敵うまい。

 それでも――

 俺はそのドラゴンバスターの合間に、残った右腕でグングニールを大地に捨て、そしてポケットからある小さなものを取りだす。
 そしてドラゴンバスターと同時に、その小さな三つのものを相手に向けて投げつけた。

 それは自由自在に動き、そしてエミヤ風の男に襲い掛かる。

 だがエミヤ風の男がそれに気付かぬわけもなく――

「戯け! このようなものに気付かぬ私と思ったか!」

 そしてそれを、右手に投影したもので切り裂く。

「干将」
 
 その手にあるのは白の陽剣、干将。
 別に夫婦剣だからといって、莫耶と共に投影しなくてはならない、というルールなどはない。
 ゆえに陰剣の莫耶は投影せず、陽剣の干将のみを投影し、投げつけたものを切り裂く。
 
 それはあまりにも簡単に切り裂かれ――

 切り裂いたものは、玩具、トラックの玩具だった。

「≪天から遣わす転生車輪リンカーネイト・トラック

 次の瞬間、問答無用で、魔力の流れもなにも関係なく、予備動作もなく、妨害する暇もなく、ただこの地より消え、そしてエミヤ風の男はその地から消えた。

 そして現れた先は――

「これで終わりだ」

 俺のすぐ目の前、倒れた姿のエミヤ風の男。
 なにが起こったのか理解できず、そして理解する暇も与えず、ただ呑み込ませる。

「スターライト」

 そして俺の右腕にある方式は彼の高町なのはの一撃必殺、究極奥義。
 その魔術式を丸写ししたもの。
 
 そしてそれを神域の魔力 テンプテーションから 展開導入ダウンロードされる膨大な魔力によって構成される。

 もう、防御も回避も反撃も、なにもかもを許さず。

 俺のすぐそばにまで召喚したエミヤ風の男を、問答無用に――――

「ブレイカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッッッ!!」

 翠の一筋の流星が、エミヤ風の男の総べてを呑み込んだ。



[19334] 第十九話 激闘Ⅴ
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/19 23:07
 俺の全力全開。
 本当の一撃、これで全てを終わらせる。

 究極の、流星のごとき一撃。

 スターライトブレイカー
 魔力制御の甘い俺ではその威力は十全に発揮できないが、ありあまるほどの魔力で、逆にオリジナルすらも越える砲撃を、至近距離から放った。

 その一撃はまさに、流星のごとく




第十九話




 さすがにもう無理だろう。
 あの一撃には俺の全てを注ぎ込んだ。注ぎ込めるだけ注ぎ込んだ究極の一撃。

 おそらく衝撃力だけならばこの世全ての魔法に勝る自信はある。
 勿論魔力消費量もこの世全ての魔法に勝る自信はあるのだが。

 それを注ぎ込んだ絶対魔力量の一撃必殺のスターライトブレイカー。
 これを浴びた。
 
 さすがにもう立ち上がれまい。
 倒した。

 疲れた。もういい。休んでも、いいだろう。
 だから俺は尻を地に着けた。

「お父さん!」

 するとキャロとフリードがこっちに向かってきていた。
 ああ、なんというか。安心できる、なぁ。

「だ、大丈夫ですか!? お父さん!」
「無理。頼む」

 かなり、しんどい。
 もうこれ以上は無理。
 
 いくら竜酔酒の実で痛みを消しているとはいえ、先ほどから吹き飛ばされた左腕。
 左の、肘から先がない左手を見て吐きそうになっているし、ダバダバ血が流れ出ている。

 うぇっ、ずっと見てたら気持ち悪くなってきた。

 気絶したいくらいスプラッタな光景だ。

 というか血が流れ過ぎて頭が耄碌してくる。
 なにも考えたくない、真っ白になっていく、考えることを放棄したい。

「と、とにかく応急処置をします!」

 すぐにでもキャロは応急処置をする。
 キャロはこの時ほどオージンがドラゴンでよかったと思っている。
 
 なにせ竜酔酒の実はドラゴンにとって万能薬になる。
 つまり俺にとって万能薬になる。

 これならなんとか応急処置は可能だ。
 最新の技術を使えば左腕が完治できるかもしれない。
 それほど綺麗に斬れている。

 栄光と破滅の魔剣グラムは強力な竜滅の剣だ。
 だがそれゆえにあまりに綺麗な切り口が残っている。
 これなら治しやすいのは確か。

「今から治します。しっかりしてください!」
「後は、頼む」

 今はただ眠っていたいほど、疲れた。
 もう今は眠っているだけでいいな。そう心の底から思える。

 後はもうキャロに任せて俺は眠ろう。

 そう考えて――

「私が、この程度で、負けると、思って、いるのかぁぁぁぁ!!」

 現れたのは、1人の男で。

 ――どうして、立っている?

「あぶ、なか、ったよ。
 だが私には、遥か遠き理想郷アヴァロンがある。
 ゆえに私にただ一度の敗走もないのだよ」

 そんな馬鹿な!?
 常に体内に投影していたとしても、遥か遠き理想郷アヴァロンの効果では決して魔力ダメージによる気絶までは防げない。
 肉体回復であって、魔力回復の効果なんてないはずなのに!!

「耐えきったのだよ。私は。
 この礼装のお陰でな。これはただ一度だけ魔力ダメージによる気絶を防いでくれるのだよ」

 あんなもの、原作で見たことがない。
 つまりこの世界に来てから作ったもの。
 
 あんなのがあるだなんて、倒す方法がない。
 遥か遠き理想郷アヴァロンとあの礼装を組み合されたら、最悪じゃないか。

「そ、そんな。せっかく、せっかく、あの一撃を決めたのに」

 キャロもショックだ。
 当たり前だ。あの必殺技といもいうべき、スターライトブレイカーを耐えきられたのだ。
 常識の範疇外だ。

「最も、これは札なので投影はできんがね」

 知らない。俺の、とっておきが。
 もう撃つ気力すらない。魔力があっても、もう一度相手を気絶させうるだけの魔法攻撃を、コイツ相手にぶつける体力も気力も、もうない。

 それに血が流れ過ぎている。
 考えるだけの力さえ与えてくれない。

 ふざけるな。
 英霊エミヤの投影だけでも反則なのに、礼装を作り出せるだけの知識だなんて大反則もいいところじゃないか。

「私は負けられんのだよ。私は私の理念のために。
 私は覚悟を決めたのだ。私のせいで死んだ者も背負う覚悟を。
 殺す覚悟も、背負う覚悟も決めた。ゆえに私に、負けはないッ!」

 ――それは本気で言っているのか?
 
 ああ、もう口さえ開かない。
 もしも口が開き怒鳴ることさえできたなら、今すぐにでも「ふざけるなっ」とでも怒鳴りたい気分だ。

 『死』を背負う覚悟がある?
 
 お前も転生者だろう。なのにどうしてお前はそう簡単に人の『死』を背負えるというんだ?
 ああ、記憶がないのか。
 だからそんな簡単に言えるんだ。
 人の『死』を背負えると、簡単に言えるんだ。

 死ぬのがどんなに怖いのか分からない癖に!
 死ぬ痛みがどれほど辛いのかも分からない癖に!
 死ぬ前の恐怖がどれほどのものかも分からない癖に!

 そんな偉そうなことを言うな!!

 俺はそう怒鳴りつけたかった。でも口を開くことももうできない。

 人の『死』なんて背負えるものじゃない。
 そんな簡単に背負えるものならば、俺はここまで『死』を恐怖しなかった。
 
 『死』の恐怖を、『死』の激痛を、『死』の辛苦を、知らない癖に、そんな堂々と背負えると喋るな!!

 もし本当に人の『死』が分かっているというのなら、そんな軽々しく『死』を背負えるだなんて言えるはずがない!
 憎い、憎い、本当に、憎い!!

 俺は激情に身を任せてコイツを引きちぎりたいと思った。
 でも体はそんなことを許してくれず、身動きをとることすらできず。

「だから、お前も、死ね」
「や、やめて! やめてぇぇぇぇぇ!!」

 キャロの悲痛な叫びも、無駄に終わるかのように。

 キャロが必死に止めようとする。俺に覆い被さる。
 俺をあの英霊エミヤ風の男から守るために庇ってくれている。

 だがそんなこともあの男には関係などないように、投影して放つ。

 それは呪いの槍。

刺し穿つ死棘の槍ゲイ・ボルグ

 それは突けば必ず当たる究極の呪いの槍。
 それはどんなことをしようとも心臓に当たる、それも確実に。
 それは呪い。

 どれほどの回避力を有していようとも呪いである以上、避けられない。
 それを避ける方法はその運命さえ切り開くほどの幸運でしかありえない。

 ゆえに――

「死ぬがいい。外道めが」

 その槍は問答無用に、俺の心臓を貫いた。

 俺を庇うキャロでさえ無視して。

「え?」





Side-Caro

 どうして? なんで?
 どうしてお父さんに槍が刺さっているの?
 ねぇ、どうして? どうしてお父さんに、槍が刺さっているの?

 ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ。

「お父さん? お父さん?」

 驚くほど静かに、もうその瞳にはなにも映してなくて。
 ただお父さんの反応が欲しくて、でも――

「ねぇ、お父さん。お父さんてば、ねぇ、お父さん」
「キュク、キュク」

 だからフリードと一緒に呼び掛けても、まるで返事がなくて。
 ねぇ、起きてよ。お父さん。起きてってば、お父さん。

 でもまるで返事がなくて。どうしようもないって、頭でははっきりと理解できて――
 
 ――でもどうにかしたいと思っても、もう返事してくれなくて。

 ――どうしてこうなったの?

「もうその外道は死んだ。君の心を弄ぶ外道は。
 さあこちらへ来なさい。君は立派な道を選ぶんだ。
 大丈夫、私が君を導いてあげるから――」

 殺した。コイツが殺した。
 コイツが殺したんだ。コイツが、お父さんを、殺したんだ。

 お父さんを、コイツが出した槍で、お父さんの心臓を突き刺して、殺したんだ。
 だから――

 コイツがいたから、お父さんは、死んだんだ――

 私は心の底からそれが理解できて、ただ感情がまるで消えていくように。

 魔法陣を生み出した。
 それはかつて私が恐怖した、もう使いたくもなかった魔法。
 でも、今だけは私に力を貸してほしい。お願いだから。

 私は涙を流すと同時、呼び寄せる。
 私の、竜を。

「竜騎、召喚」

 四角い魔法陣がキャロのもとに現れる。
 呼び寄せるのは――涙と共に

「ヴォルテェェェェェェェェェル!!」

「ギギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 大地より現れたるのは大地の守護者。
 真なる竜、≪真竜≫たる存在。

 黒き竜の名のもと、あまねく大地よりその力を齎す絶対的存在。

 破壊を齎す絶対竜。
 ゆえにこその守護神、ゆえにこその破壊神。
 
 キャロがル・ルシエより追放されし理由がここに顕現する。

 なにもかもを粉砕する、守護神にして破壊神、≪大地の守護者ヴォルテール≫が姿を現した。

「ギギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッ!!」



[19334] 第二十話 少女の悲痛な叫び
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/19 23:07
 怒りのみで相手を殺せ。
 怒りのみで全てを叩き壊せ。
 
 大地の守護者は守護神にして破壊神なのだから。




第二十話




 遥か遠き理想郷アヴァロン、それは凄まじい回復魔法を誇る。
 
 真名を開放すれば世界から断絶され、あらゆる外界から一切の干渉さえされなくなる。
 それはたとえ過去や未来からだろうと問答無用に遮断する、究極の防御。
 それは時間という代物でさえ遮ってしまう。

 まさに妖精郷。

 まさに理想郷とも言うべき宝具。
 
 そして英霊エミヤ風の男、アーク・ハルシオンはその遥か遠き理想郷アヴァロンを改造している。
 たった一度だけ魔力ダメージによる気絶を無効化し、肉体を時間を巻き戻すかのごとく再生させ、そしてあらゆる呪いという呪いを弾く。

 本来ならば真名解放をしなければそこまでのことはできない。
 真名を開放することでその十全の力を発揮する、理想郷を生み出すべき鞘。

 だがアークは遥か遠き理想郷アヴァロンを、鞘の状態のままでここまでの効果を持つように改造している。
 
 ゆえにこそ彼に呪いは通じない。
 だから――

「まったく、ここまで洗脳されていたのか。哀れな」
「ヴォルテール!!」

「ギギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 暴れるのはたった一体のドラゴン。
 ≪真竜≫とも呼ばれるべき最強のドラゴンが一体、≪大地の守護者ヴォルテール
 
 キャロの怒りに反応して呼び掛けに応じ、顕現された。
 怒りによる呼び起こされた大地の守護者が怒りによって暴れるのは至極当然。

 怒りと共に、アークへと襲い掛かる。

「ならば仕方あるまい。私が時間をかけてでも洗脳を解いてやろう」

 だがアークはそんなことを気にした様子もなく。
 ただ淡々と作業をこなしていくだけ。

 その手に投影を開始する。

 するとアークはなにかを感じ取り、だがその反応もすぐに消えていく。
 
「ふむ、あの男、最後になにか呪いを施したな。まだ続いているが、まあ私には改造した遥か遠き理想郷アヴァロンがある。
 そう気にすることでもないか。
 しかし死んでも尚呪いをかけようとするとは、まさに外道だな」

 呪い。
 そう、罪と罰ギルティ・アンド・パニッシュメントは呪いの希少技能レアスキルだ。
 怨念によって発動し、怨念によって相手の身体を奪う。
 
 だが怨念によって発動するがために呪いとして分類される希少技能レアスキルなのだ。
 ならば呪いを弾くタイプの宝具があれば、オージンの罪と罰ギルティ・アンド・パニッシュメントを受け付けないのもまた当然のこと。
 
 だからアークはオージンの呪いを気にする必要もなかった。
 ならば後はあの真竜をどうにかすればいいだけ。

「なるほど、あれがヴォルテールか。
 ならばいいだろう。私が倒してくれる。
 I am the bone of my sowrd」
 
 唱えるのはたった一つの呪文。
 たったそれだけで相手を圧倒する魔法、否、魔術を展開する。

 それは投影。錬鉄の騎士が徹底的にまで極めた魔術。

 だがアークはそれをただ努力もなく、神の手によって手に入れた。
 
 そして握られるのは太陽剣。
 フェンリール・ドラゴンの姿だったオージンですらも容易く切り裂いた、竜因子を持つ者にとって、ドラゴンにとって、天敵であることは間違いない魔剣。

栄光と破滅の魔剣グラム

 栄光と破滅、祝福と呪い、それらを同時に齎す竜滅の魔剣、太陽剣グラム。

 そして形を変えていく。
 栄光と破滅を同時に齎す魔剣はそのまま先が尖り、柄が長くなり、それは剣ではなく矢と呼ぶに相応しい形となった。

「むっ!」
「ギギャアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 だがヴォルテールはそんな暇すらも与えずに攻撃を仕掛けてくる。
 ただ圧倒的なまでの力で。

 だが錬鉄の騎士を模した男、アーク・ハルシオンはそれをいとも簡単に避けていく。
 ならば、とヴォルテールはエネルギーをためていく。
 この技はあまりにも膨大すぎる奥義。ヴォルテールの必殺奥義だ。

 あまりにも強すぎる、ゆえにこその。

「ふむ。さすがにそれをされては困るな。
 遥か遠き理想郷アヴァロンを真名解放するだけの魔力とてもう足りぬ。
 この一撃でトドメを刺させてもらおう」

 既にアークの魔力は限界に近い。
 当然だ。なにせ遥か遠き理想郷アヴァロンで、全力全開究極スターライトブレイカーによるダメージを回復させたのだから。
 もう既にほとんどの魔力を枯渇していてもおかしくはない。

 それに加えてあの一撃を防ぐには完全遮断宝具の遥か遠き理想郷アヴァロンしかないが、それを真名解放するだけの魔力などもう彼にはない。
 
 ならば先ほど投影したばかりの栄光と破滅の魔剣グラムの矢で一撃で倒すしかない。

「ギギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!」

 大地よりエネルギーを吸収する。
 そして放たれるのは、ヴォルテールの殲滅砲撃魔法、≪大地の咆哮ギオ・エルガ≫。
 ただ滅ぼすのみの、究極の殲滅砲撃魔法。

 ヴォルテールの最大の奥義。
 ただそれだけの、必殺。

 でも――

「遅い」

 ただ矢を弓に番え、放つ方がずっと早く、ヴォルテールを貫いた。

「ギギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 竜因子を持つだけでもダメージは凄まじいのに、竜であるヴォルテールにとってその矢は天敵そのもの。

 あまりのダメージに、還ってしまった。

「そん、な……」

 最後に、怒りを振り絞ってのヴォルテールも、やられてしまった。
 致命傷とはいえないが、戦闘続行は不可能なほどのダメージを。

 もう、アークに勝る手段はない。
 アークをどうこうする手段はない。

 今はもう、オージンが死ぬのを待つしか、なく――

 ――こひゅー、こひゅー

 息が、聞こえる。
 キャロは確かに、その声を聞いた。




Side-Caro

 聞こえた。
 確かに、聞こえた。
 
 槍が突き刺さっていて、でもまだ生きている。

「ふん。そのような死体に縋っていても仕方ないだろう。
 さあ、こちらに来るんだ」

 この人はもう完全に死んだと思っている。
 でもまだ生きている。まだ死んでなんていない。

 ギリギリで心臓に突き刺さらなかったんだ、きっと。
 
 竜の鱗と容量のほとんどをつぎ込んだ堅固なバリアジャケットが、ギリギリのところで槍を逸らしたんだ。

 絶対に当たる槍、でも咄嗟にプロテクションを張って、三重の守りでギリギリで外させた。

 この人に幸運なんてなかったけれども、それでも三重の守りがそれを防いでくれた。
 なによりもあの人は魔力が限界だったために、絶対命中の呪詛が中途半端に投影してしまった。
 だからきっと、外れてくれた。

 そんなことになってるなんて私は知らなかったけど、なにがどうなって生きているのか分からなかったけれど。
 お父さんはまだ生きていてくれる、これだけで、希望になった。

「お父、さん」

 なにをしている。
 まだ、生きているんだ。
 だったら、私は全力で、お父さんを救わなきゃ!!

「クキュー!」
「ええい! 邪魔をするな、このチビ竜め!」

 フリードもあの紅い外套を着ている人の邪魔をする。
 そっか。フリードも治して、てそう言っているんだね。

 だったら私がすることはただ一つ。
 お父さんを治すこと。私の未熟だけど、それでもなにもしないよりかはずっとマシだから!

 だから治って、お父さん!

「フィジカルフィール!」
『physical heal』

 私は全力で、お父さんにフィジカルヒールを施す。
 ケリュケイオンの全力で、私がお父さんを救って見せる。

 だからお願い! お父さん!

「全く無駄だというのが分からないのかね、キャロ。
 仕方あるまい。こうなったら君のために死体を残しておくのも酷だろう。
 いいだろう、火葬式典。コイツで火葬してやるから、退きなさい」

 剣のようなものを作り出す紅い外套の人。
 
 それは黒鍵という武器で、その黒鍵に刻まれているのは火葬式典なのだと、後でどこかで聞いた気がする。

 ただそれが突き刺されば焼けつけるというのは名前から想像できた。
 
 そんなものを浴びたら瀕死のお父さんは死んじゃう!

「死んでも尚害悪な男よ。今はただ黒鍵、火葬式典の前に――」

 しかし男はなにかを感じ取った。
 すると紅い外套を着た人はすぐにでも逃げ去るかのように。

己が栄光の為でなくフォー・サムワンズ・グローリー

 あるものを作り出してその姿が消えていく。
 なんでだか分からないけど、これで見えなくなっていく。

「ふむ、これだけでは物足りんな。やはり次元を渡るか。
 改造投影≪飛翔するサンダルヘルメスのサンダル≫」

 そうして姿を隠したまま、この管理世界から姿を消した。

「フェイト、どうして管理局にいるのだ。だが次会った時には決して加減はせん」

 そのままサンダルが次元の穴を開いていき、紅い外套の人は姿を消した。
 たださっきの腕輪のせいでそのことは全く分からなかったけれど。

 私はそんなことを気にするよりも先に、お父さんを治す方が大事だったから。
 だから私は必死になって治すことにする。

 するとお父さんの変身魔法が解けていく。
 もう力なんてないのに。もう常時発動させてた変身魔法を使うだけの余裕もないんだ。
 
 だから必死になって治さなきゃ。

 ケリュケイオンのフィジカルヒールで必死になって治す。
 竜酔酒の実で、お父さんの体を健康にさせる。

 お父さんの心臓に突き刺さっていた槍もまだあって、でも消えかかっていて――

「管理局執務官フェイト・T・ハラオウンです!
 次元犯罪者アーク・ハルシオン、今すぐに――いない! 逃げられた!」
「ハラオウン執務官! あそこに子供が!」
「え!?」

 突然現れたのは綺麗な金髪の女の人。
 ああ、見たことがある。
 あの人は巷でも有名な管理局執務官フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官、美人執務官だ。

 それとその部下の人が来てくれた。
 どうやらあの紅い外套の人を追ってきていたみたいだ。

 管理局の人が来てくれた。
 もしかしたら、もしかすると!!

「お願いします! お父さんを助けてください! お願いします!!」

 私の治癒魔法じゃここまでが限界だ。
 どれだけ竜酔酒の実を使っても、私が必死になった治癒魔法フィジカルヒールを使っても、ここまでが限界。

 既に消えかかっていた紅い槍はまだ残っていて。
 でもフェイトさんがその槍を見て驚き、それからちょっとしてその槍は完全に空気と同化して消えた。

 どうやらフェイトさんはこの槍のことを知っているみたいだ。

 でも今はそんなことなんてどうでもよくて。

 管理局の最新技術なら助かるかもしれない。
 まだギリギリのところで心臓に突き刺さっていないなら、きっと助けられる。
 
 だから私は必死になって頼み込む。なんとしてでもお父さんを救いたいから。生きていてほしいから。

「だからお願いします! お父さんを、お父さんを、助けてください!」
「キュクー!!」

 フリードも一緒になって頼み込む。
 
 このまま追いかけるべきかどうか悩んでいたフェイトさんでしたけど、意を決したように。

「うん、分かった。私の権限で、きっとこの子を治してあげるから。
 だから泣かないで、ね?」

 お父さんは既にフェンリール・ドラゴンの姿になっている。

 それでも助けてくれる。
 ありがとうございます。ありがとうございます。本当に、本当にありがとうございます。

 助かるかもしれない、それが本当に嬉しくて嬉しくて――

「ありがとう、ございます」

 私はこの時、本当に心の底からこの幸運をありがたく思った。



[19334] 第二十一話 復讐姫
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/19 23:06
 ピッ、ピッ、ピッ、ピッ

 まだ眠っていた。
 起きてこない。どうして、起きてこないのだろう。

 そしてここはどこなんだろう?
 分からなかった。




第二十一話




 暗い、怖い、そんな感情が出てくる。
 これで通算三度目の『死』、でも中途半端な『死』だったからこそ助かった。

「完全な『死』だったら、もうこうして考えることできなかったん、だろうな」

 仮死状態だった。だから助かったんだろう。
 怨念が先走った状態で、エミヤ風の男に襲いかかったけど、それが失敗して。

 多分、仮死状態の死だったから憑依に失敗してしまったんだろう。
 あの時、完全に死ねば怨念による『死』はより強烈になり、たとえ遥か遠き理想郷アヴァロンの完全遮断であろうとも防げないものであっただろう。

 なにせ神でさえも浸食した希少技能レアスキルなのだろう。

 もう死ぬしかない状態で、最新医療技術で助かった。
 そう分かっていても――

 俺の心は完全に壊れていないとしても、中途半端に壊れていて――

 



Side-Caro

「お父さん」
 
 未だお父さんは目を覚まさない。
 お医者さんの説明だと、体は生きているけど、精神はどうなっているのか分からない状態らしい。
 つまり植物人間、いや植物竜状態とのこと。

 いつ目が覚めるのかも分かっていないらしい。
 今日明日に目覚めてもおかしくないし、逆に目覚めるのは十年二十年先になるのかも分からない。もしかしたらずっとこのままでもおかしくないと言っていた。

 どうして、どうしてこうなったんだろう。

「大丈夫? キャロちゃん」
「はい。大丈夫です」

 フェイトさんが心配してくれている。
 でも私は、私のことなんかよりもお父さんのことで頭がいっぱいで。

 フェイトさんの心配もなかなか聞き入れられなかった。

 お父さんの愛用していたグングニールももう壊れていたらしい。
 お父さんの竜の体に踏み潰されて粉々になっていたとのことらしい。

 目覚めてよ、お父さん。お願いだから、お父さぁん。

 とにかく私の竜として、お父さんの治療を行ってもらっていた。

 ああ、お父さん。







Side-Fanam

 私は今日もまた魔獣退治の任務に出ていた。
 当然、相手もまたドラゴンタイプの魔獣。

 ドラゴンが相手なら一晩中でも相手をしてやる。
 すぐにでも挽肉にしてやる。

「ぶるるるるるるる!!」
「ファナムさん、そいつは岩竜ロックドラゴンといって――」
「バルムンク、リディルフォルム」
『Ja! Ridill form!』(了解しました、リディルフォルム)

 私はバルムンクをセットアップする。
 形状は格闘戦用爪型のデバイスだ。

 この形状の特徴としては一点集中による破壊力と、内部にまで浸透させる一撃を放てるという点において、通常形態とアスカロン形態よりも優秀だ。

 斬撃の通常形態、一撃のリディル形態、砲撃のアスカロン形態だ。

「潰れてろ」
「ぶ、ぶらああああああああああああああ!!」

 相手が堅かろうと潰す。捻る。抉る。殺す。
 やることはいつもと変わらない。ただ竜を滅することのみを考えろ。
 
 それが竜滅姫としての、自分の役割だ。

 岩竜が堅かろうと、私のリディルフォルムによる爪の一撃が、相手の岩の鱗を抉っていく。
 相手がどんな防御を施そうが、それを破るためにこのリディルフォルムがあるのだ。
 
 だからいつもの如く捻り潰す。
 それだけで十分。

「バルムンク、通常形態」
『Ja, normal form!!』

 そして私はまたバルムンクの形状を変化させる。
 斬撃主体の通常形態、バルムンクの原点へと。

 ただ殺し誅し戮し、ただ滅ぼすのみ。
 だから早く死ね。

「死ね」
「ぶ――」

 抵抗する暇も与えず、私は岩竜ロックドラゴンの心臓を袈裟切りにした。

「ぶらああああああああああああああああああああああああ!!」
「うるさい」

 ああ、なんて醜い叫び声なのだろう。
 殺したいくらい苛々する。いや、元からか、それは。

 とにかくこれで魔獣退治に任務も済んだ。
 これで岩竜ロックドラゴンの退治という任務も終えたのだ。
 このロックドラゴンの死体は回収班に任せればいい。

 いつまでもこの場所にいると、いやドラゴンの死体を見ると――

 ――目に映らないぐらい粉々にしてやろうという衝動にかられてしまうから。

 だから私は早く立ち去ろうとする。
 それが一番良い。
 いつまでもここにいたらその衝動に、私は堪え切れそうにない。

「私はもう帰る」
「あ、はい。分かりました!」
「あ、転移準備終わりました! どうぞ使ってください、ファナムさん!」
「どうも」

 どうしたわけか、私には女の子の視線ばかりが集まる。
 どうして女の子の視線ばかりが私に集まるのだろう。

 ただ他にもゾークやシューゴとかいうのからもそのような視線が来る。
 いや、彼女らは純粋な気持ちだが、あの2人から感じられるのは気持ち悪い視線だ。
 一緒にしたら彼女たちが可哀想だろう。

 でもどっちにしろ一緒だ。
 私はもう竜を殺すことだけにしか生き甲斐を求められない。
 ただあの竜を滅ぼすことにのみその生を歩んでいるといってもいい。

 今の私は竜滅姫、などという生温いものでなく。

 それに私の身も心も、あの人のものだ。
 誰にもあげない。あの人のものだった証を、決して失くなせなどしない。
  
 だから私は竜を滅ぼす。
 あの人なら私に幸せになって欲しいと思うのかもしれない。
 でも、私はあの人と一緒でなければ幸せになどなれるはずがない。

 幸せになる術すら失った者に、どうやって幸せになれというのか。
 だからもう私には復讐するしか、人生の糧はない。

 そうしてミッドチルダへと転移する。
 そして辿り着いたのは、やはり転移先の第一管理世界ミッドチル――

「!!!!」

 感じた。

 ああ、感じた。

 匂う、聴こえる、感じる。

 ああ、間違えようがない。間違えようがない。

 いる、確実にいる。この世界に、絶対にいる!!

 誰が間違えようものか!! 私はお前のことなど一分一秒たりとも忘れたりなどしなかった!
 お前のことを四六時中考えていた!!
 寝る時も食べる時も風呂にいる時も戦っている時も、片時たりともお前のことを忘れたことなどありはしなかった!!

 ああ、いるのだな! ここにいるのだな、グチャグチャにしてやりたい! 無茶苦茶にしてやりたい!!
 この匂いを私が嗅ぎ間違うはずもなく、この気配を私が間違って感知することだってない!
 同種の生物だってありえない!
 だって匂うもの、感じるもの、あの人の血の匂いが!
 お前のその牙についているその血、ああ、何年経ったのだろう! でも私があの人の匂いを間違うだなんてありえない!
 何年経って劣化しようともそのこびりついた血の匂いを、あの人の血の匂いを、私から逃れられると思うな!

 お前は紛うことなき、あの人の仇!

 ああ、この日を感謝しよう! 聖王様、ありがとうございます! この復讐の機会を与えてくださって!!
 
 さあ、待っていろ! この世界にいることは、分かっているのだから!!
 必ず、必ず見つけ出してやる!! 我が愛しき人私が殺したい竜よ!!





[19334] 第二十二話 ああ、殺し誅し戮したい
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/19 23:06
 長い夢を見ているようだった。

 ああ、私がまだ幸せだったころの夢だ。

 皆と一緒に遊べた、まだ私たちが子供でいられたころの夢。




第二十二話




 私はとても愛していた人がいた。
 私はその人のことがとても大好きで、子供心ながらにその人のお嫁さんになることを望んでいた。
 あの人もそれを望んでいて、恥ずかしかったけれども周りの人も祝福してくれていて。

 だから私はこのギルマン一族の村で、あの人と、オーちゃんと一緒になれると、そう信じ切っていたんだ。

 ああ、何度思い出してもあの時の記憶は、本当に大切だ。

『おっしゃ、タッチフットしようぜ!』
 
 言語学も数学も苦手だったけれど、こういった面白い遊びを思いつくオーちゃん。
 なによりもこういった遊びの悪知恵で、魔法を使えないというハンデを覆して何度も勝ってきた経験のあるオーちゃん。
 
 もしかするとオーちゃんには指揮官の才能があったのかもしれないな。
 私も戦う者になってそれが今更ながらによく分かる。

 でも、でもそんなことよりも――

『ほら、お前のために買ったんだぞ。ありがたく受け取れよ』
『う、うん、ありがとう、オーちゃん』

 ああ、私の宝物。
 オーちゃんが私のために買ってくれた宝物。
 
 ビー玉の髪飾りで、周りの人からはそんな安っぽい髪飾り、て言われてるけれど、私にとってはダイヤモンドよりももっと貴重で大切な髪飾り。
 オーちゃんが私のために、私のためだけにくれた、そんな大切な髪飾り。
 だからこそ貴重で大切なものなんだから。

 ああ、そういえばこんな時もあったんだな。

『だ、大丈夫かよ、ファナム!』
『だ、大丈夫だよ。オーちゃん』
『そ、そんなことより、早く治療しねぇと』

 優しいオーちゃん。だから私はあなたのことが好きなの。
 お互いがお互いを愛するって大事だよね、私はそう思えるの。

 あなたは私にとっての王子様で、誰にも渡したくないくらい大好きで――


 ――でもその全てをあの竜に奪われた

『GAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!』

 愛する人が、死んで、目の前で

 ――ぐしゃっ

 愛する人が目の前で死ぬ。
 それがこんなに辛いだなんて、私は許せない。

 絶対に、絶対に許せない。

 あの時の自分の弱さに、あの人を救えなかった私自身の弱さに、
 
 でもそれ以上に、あの人を、オーちゃんを殺したドラゴンだけはなにがあろうとも許さない。
 だから殺してやる、殺してやる、なにがあろうと絶対に殺してやる!!

 だから私は一瞬の夢から目覚める。
 遂に見つけた。

 いや、遂に、この世界にいるということが分かったのだから。

「必ず、見つけ出して、殺してやる」

 バルムンクはセットアップしない。
 もしここでセットアップなんてすれば確実に管理局の邪魔が入る。

 別に蹴散らしてやってもいいけど、そうなると今度は強い人が邪魔に入る。

 ≪エース・オブ・エース≫≪無敵の男≫≪金色の死神≫≪夜天の王≫
 ああ、とにかくそういった有名どころが私を止めに来るだろう。

 そうなれば大きな邪魔になる。
 私があのドラゴンを殺すのに大いな邪魔になる。

 だからまず見つける。
 その存在をすぐに見つけて、それから嬲り殺しにしてやる。
 生まれてきたことを後悔させるぐらいに、グチャグチャにすり潰してやる。
 
 たった一度で満足できるものか。
 何度でも何度でも殺してやる。

 殺して誅して劉して戮して、滅ぼし尽くしてやる。

 生きていることも辛いと思わせるくらいな目に合わせてやる。

 筋肉を切断し、
 お前の肉体を削ぎ取り、
 貴様の鱗の全てを剥ぎ取り、
 お前の内臓という内臓を生きたまま引きずり出し、
 お前の骨という骨を切断し、
 貴様の牙をもぎ取り、
 貴様の神経の全てを抉りだし、
 お前の眼をお前に見せるように取りだして、
 体中の四肢をゆっくりそして確実に斬り取って、
 それからお前の心臓にこの剣をぶちこんでやる。

 否、それだけでも足りない。ああ、足りない。
 もっともっと残酷に、そうでなければ釣り合いがとれない。

 オーちゃんを、私の愛しい人を殺した罪は、その程度じゃ釣り合いなんてとれるわけがない。

 殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して尽くす。
 殺し、誅し、劉し、葬し、屠し、殲し、滅し、戮し、ああ、それでも尚足りない。

 ああ、待っていろ。
 なにがあろうと私がお前を、≪殺し尽くして≫やるから。

 ――だから待っててね♪














 とある管理局の部屋。

 この部屋にいるのはかの夜天の王として有名な八神はやてのいる部屋だった。
 書類仕事ばっかで疲れている模様である。

「う~、疲れたわ~」
「が、頑張ってください、もう少しですよ」
「そないこと言われても~」

 が、さすがに書類仕事ばっかりでしんどい様子の八神はやて。
 夜天の王もこれだけの書類仕事はキツイというわけか。

 因みにはやてのすぐそばにいるちっこい小人のような妖精のような存在。
 彼女は八神はやてが作り出した融合騎ユニゾンデバイス≪リインフォースⅡ≫である。
 いわゆる今は亡き夜天の書の管制人格≪リインフォース≫の妹のような存在である。
 
 そしてそのリインⅡははやてのことを一生懸命に応援している状態である。

 すると部屋に誰かが入ってきた。

「ん? なんや、フェイトちゃん」
「あ、はやて」

 部屋に入ってきたのは金色の髪と紅の瞳を宿した少女、フェイトである。

「そういや、竜使いの子、拾ったいうてたな。どんな子やったん?」

 はやては今回のことを聞いている。

 なんでもあの複製レプリカ希少技能レアスキルを持っている次元犯罪者アーク・ハルシオンを捕まえにいこうとした際に発見した子供のことだ。
 
 なんでもそのアーク・ハルシオンはキャロの持ち竜を傷つけて、どこかに去って行ったようである。
 しかもその持ち竜のフェンリール・ドラゴンの怪我があまりにも酷くて、治療しなければ本当にやばかったとか。

 しかもそのドラゴン、かなりそのキャロという少女に懐かれている模様。

「そんで? フェイトちゃんはどないしたいん?」
「え?」
「エリオ君ときみたいに保護するんか?」

 フェイト・テスタロッサ・ハラオウンはトラウマ持ちの少女である。
 過去が過去だけに、同じような境遇の人にはなんというか共感しがちなところがあり、だからこそそういった子供たちを救ってあげたいという気持ちになるのだ。

 だからこそクローンで親にも恵まれなかったエリオを保護して引き取ったという話を聞いたことがある。

「う、うん、あの子がそれを望めば、なんだけどね」

 でもそれは難しそうと言っていた。
 なんでもあのドラゴンのことを本当に慕っているみたいで。

「それで――」

 瞬間、音がかき消えるかのような音がした。
 
 なにが起こったのか、分からなかった。

「な、なんや!? 何があったんや!?」
『八神陸上三佐! 大変です! 乱闘が起こりました!』
「ら、乱闘!? ま、魔法でか!? だ、誰と誰がや!」

 突然の轟音と共に響く。
 
 だがそこに八神はやて相手への通信が入る。
 このミッドチルダ内での乱闘が発生したのである。

 すると八神はやてはすぐに検討がついた。
 さっきの轟音はこの乱闘というもので発生したものらしいのだと。

 だがどこでやっているのか。
 どんな魔導師同士で戦っているというのか!?

「はい、場所は第93研究医療所!」
「そこって!」

 第93研究医療所。
 危険生物の治療所であり、巨大生物などの医療のために使われることも多い、そんな研究所である。
 なるべく都市部から離れており、ここならば大規模な魔法を使っても大丈夫と思われるような、そんな施設でもある。
 
 だがミッドチルダでわざわざ巨大生物を治療することもあまりなく、今回そこで治療を施している生物といえばたった1体だけしかない。

 なぜそこで乱闘が起きているのか、分からなかった。

 とにかく誰と誰が戦っているのか、まずそこから判断しなくてはいけない。
 
『は、はい! え、えと、ファナム三等空尉と、そして先ほどこちらで保護したキャロ・ル・ルシエとその彼女の飛竜とです!』
「んなっ!? さ、最悪やん!」
「そ、そういえばファナムちゃん、て――」

 今更のように思い出した。

 確かファナムが管理局に入った理由は大切な恋人をドラゴンに殺されたから、その復讐のために入った。
 そのドラゴンはフェンリール・ドラゴン。
 丁度そのドラゴンの治療に当たっていたところなのだ。

 でもそんな、こんなところで乱闘を起こすほどだなんて思っていなくて――

「あかん! そんなん、彼女に関係あらへんがな!」

 はやては知っている。
 彼女が、ファナム・ギルマンがどこまでフェンリール・ドラゴンに対して恨みを抱いているのか、少しは知っているつもりだ。
 たとえ犯罪者になろうともその竜を殺すことだけは確実にやめない。

 だから同種であるというだけでも罪に等しい。
 それくらい彼女は竜を恨んでいる。それは同時にそれくらいその恋人を愛していたということにも繋がっている。

 本当にヤバい。

「と、止めなきゃ!」
「せ、せやな! ハラオウン執務官、飛行許可出すよって! はよう行き!」
「う、うん!」

 とにかく早く向かわなきゃ。
 轟音が鳴り響く中、ひとっ飛びでその93研究医療所へ向かわないと。

 フェイトはバルディッシュをセットアップし、すぐにその93研究医療所へと向かう。

 そこでは竜使いの竜と、竜滅姫とが戦っていた。
 互いの信念のために、互いの大切なもののために。



[19334] 第二十三話 愛しき人/殺したい憎い者 竜使いの少女vs竜滅姫
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/19 23:06
 愛しき人、憎む者
 
 大好きな人、殺したい相手

 ああ、激突するのは――




第二十三話




 そこでは戦っていた。
 
 竜滅姫ファナムと、竜使いの少女キャロ、そしてその竜フリードリヒ。

「フリード! ブラストレイ!」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 フリードが炎を生み出し、放つ。
 その威力たるや凄まじい。

 だがファナムからしてみれば甘いことこの上なく、なんなく避けていく。

「アスカロンフォルム」
『ja!』

 ファナムもまたバルムンクを砲撃主体のアスカロンフォルムへと変化させる。
 遠距離から狙い撃つつもりか。

「バルムンク、≪レイジ≫」
『Ja! Rage!』

 発生させるのは小型のスフィア。
 近代ベルカ式ゆえ接近戦だけでなく中距離戦もこなせる万能型の戦いを駆使できるのだ。

 本来のフリードの姿に戻ったが、しかしそれでも竜滅姫として名高いファナム相手にはきつすぎる相手というのは間違いない。
 だがそれでも邪魔をするというのならば問答無用に叩き斬る。

「どうして、こんなことをするんですか!!」
「……そこの竜を庇おうとするからだ。もし今ここで退くというのなら、殺しはしない。
 だから退け」

 単純明快な発言。
 ファナムの目的は復讐。
 その相手をようやくとして見つけたのだ。

 だからこそ問答無用で殺す、殺す、殺す。
 それ以外に彼女の選択肢としてはありえない。

 だがそんなことをさせるわけにはいかない。
 このフェンリール・ドラゴンは、オージンは、キャロにとってフリードにとって、とても大切な人なのだから。
 だから殺させるわけにはいかない。
 せっかく、ようやく助かった命、いつ目覚めるかも分からない、そんな命だとしても、可能性があるのだから――

「殺させません。お父さんは、私の大切な人なんです」
「うるさい。ならお前を殺してでも、私はそいつを殺す」

 交渉は決裂。最初から交渉する余裕もなかった。

 実力差は圧倒的。
 いくらフリードリヒが圧倒的な力を有していても、ファナムはそれを越える竜殺しの存在として有名だ。
 ならば相手がフリードリヒといえども、いや、寧ろフリードリヒだからこそ危険だ。

 実力差は明らかである。
 キャロとファナムが戦えばまずキャロが負けることは明らか。
 それくらい実力に差があるのだから。

 それでもキャロは負けられない。
 いや、負けられない理由がそこにあるのだから。

「バルムンク、通常形態」
『ja! Normal form!』

 さすがに砲撃形態では埒が明かない。
 ならば直接剣型のデバイスで叩き斬る。
 それ以外に選択肢はない。ただ奴を殺すか、それとも抵抗する翼をもぎ取るか。

 どちらにせよ制限時間は少ない。
 おそらく誰かがここに向かってきている。

 制限時間内でなければ、あのフェンリール・ドラゴンは殺せない。
 これが一世一代の、きっと大チャンス。

 これを逃せば、もう殺すことはできないかもしれない。

 だから素早くなんとしてでも殺して、仇をとる!

「殺す」
「させません!」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 激突する。
 竜滅姫と竜使いの少女の戦いが、激闘が。
 
 ただ喰らい潰しあう、壮絶なまでの戦いの火ぶたが切って落とされた。

 この戦いの行く末は、一体どうなってしまうのであろうか……?

「殺す、殺す、殺す、殺す!」

 戦いのルールは単純明快。
 制限時間内、誰かが来るまでにファナムがフェンリール・ドラゴンを殺しきるか、キャロがそれまでに持ち堪えられるかの……戦い!

 ヴォルテールは先のアーク戦の怪我で戦いに参加できない。
 
 だからキャロが扱える竜はフリードリヒ1体のみ。
 フリードリヒの牙とファナムの剣とが激突しあう!

「グ、グアアアアアアアア!」
「勝てる、と、思うなよ」

 淡々と言うが、その迫力は凄まじく、フリードもあまりの迫力に恐怖してしまいそうだった。
 その淡々としているセリフのどこにそんな威圧感を含めさせられるのか。
 これが憎悪という感情なのか。憎しみは人をそこまで強制的に変えてしまうのか。

 だがフリードだって負けられない。
 だって負けてしまったら、負けてしまったら――

 だから全力を振り絞る。
 全力を振り絞って――

「我が求めるは、戒める物」
「!!」

 だがそこに詠唱が唱えられる。
 
「捕える者。言の葉に答えよ、錬鉄の縛鎖」

 何の魔法かは分からない。
 だがおそらく詠唱の内容からして明らかに――

「錬鉄召喚――」
「しま――」
「グアアアアアアアアアアアア!!」

 咄嗟にその場から離れようとしたファナムだった。
 だがフリードが無理やり噛み付いてくる。
 これでは無理に離れようとすれば――

 フリードが足止めをしている隙に、キャロの詠唱は完了する。
 キャロより放たれる魔法は――

「アルケミックチェーン!!」

 召喚されるのは鋼鉄の鎖。
 それはバインド系に当たるもの。

 だがバインド系に当たるものといえど、召喚物。
 召喚されし鋼鉄の鎖はファナムを縛りあげる。

「く、そ! だが、こんなもので!」

 だが幾ら鋼鉄の鎖を召喚し、ファナムを縛りあげたとしても彼女はエース級の魔導師。
 この程度で簡単に動きを封じられるほど、彼女は甘くない。
 それでも――

「フリード!!」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 キャロはフリードに魔力を送る。
 そしてフリードはキャロより与えられし魔力で全力の火炎を撃ち放つ。

「ブレストレイ! ファイア!」
「グアアアアアアアアアアアアアア!!」

 撃ち放つの火炎の一撃。
 錬鉄の鎖によって縛り上げられたファナムに、超至近距離からの火炎の一撃。
 
 この一撃が決まれば、いくらエース級の魔導師としても――

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「!!」
「舐めるな! 舐めるな! 舐めるなぁぁぁぁぁァァァァァァァァ!! 
 目の前にいるんだ! 諦めるものか! 殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮すゥゥゥ!!」

 いつものような寡黙なファナムではなく、そこには憎しみに彩られた、復讐姫がいた。
 なればいつものような冷静な彼女などいるはずもなく。
 
 ただ敵を殺すために、ただ憎し者を殺すためだけに、その剣を振るう。

 咄嗟にプロテクションを唱えることにより、攻撃を防いだのだ。
 
 そして力によって同時に錬鉄の鎖を引きちぎった。

 最高の一撃を、この一撃ならば沈められると思った一撃を――いとも簡単に防いだ。
 これがエース級の魔導師。

 ああ、分かる。キャロでは勝てない。キャロとフリードでは勝てない。
 そうハッキリと2人は感じ取った。

 でも勝てなくてもいい。勝てなくて構わない。
 勝利条件はただ1つ、お父さんを守り切ることなのだから!

 だがファナムはそんな思いすらも問答無用に斬り裂こうとする。

「はぁぁぁぁぁ!!」

 ファナムは剣形態のバルムンクに魔力を集める。
 斬撃特化の一撃を放つつもりだ。

 だがキャロもそれに対抗して魔法を咄嗟に使用する。

「我が乞うは、城砦の守り。我が竜フリードリヒに、清銀の盾を!」
『Boost up,defence gain.』

 扱う魔法はブースト系魔法。
 ケリュケイオンより桃色の輝きがフリードリヒに放たれる。
 フリードリヒの防御能力は上昇し、ファナムの斬撃に抵抗する。

「竜滅、一閃!!」

 魔力を剣に込める。
 刀身に魔力を纏わせることで威力を上昇させる斬撃系の基本魔法。
 その破壊力は圧倒的を誇る。

「散って、消えろ」
「ぐ、ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 確かに咄嗟にディフェンスゲインを唱えたのは正解だった。
 それがなければ、この一撃でフリードの命とてすら危なかっただろう。

 だがそこまでだ。
 命が危なかったのを守った程度くらいの効果しかなかった。

 フリードの命を守ることくらいまでしかできなかった。
 ただどうしようもなかった。

 そこでとるべき方法、最善をやったのだ。
 最善の策を施したのだ。最善の選択をしたのだ。
 ただ足りなかった。それだけ――

 ただキャロでは、最善の策を選択し続けても勝てることの相手、それだけだった話。

 常に最高の一手を出し続けても勝てない相手。
 だからこそのエース級。

 フリードリヒはファナムの竜滅一閃の一撃により地面に落とされる。
 あまりの威力にフリードリヒは気絶してしまい、小さな仔竜フリードへと強制的に封印される。

「……もういいだろう。殺して終わる」
「……シューティングレ――」

 キャロが最後の力を振り絞り、魔法を展開する。
 でも――

『Flash move』

 高速で動いたファナムは拳でキャロを殴り、ダメージを与える。
 
 最後の最後まで抵抗しようとしたキャロも遂にはもう限界が出始める。

「あ、う、お、とう、さ――」

 ピッ、ピッ、ピッ、ピッ

 ああ、目の前にいる。
 これがオージンの仇、フェンリール・ドラゴン。
 彼女はようやく復讐する相手を、見つけられたのだ。



Side-Fanam

 ピッ、ピッ、ピッ、ピッ

 ああ、目の前に、目の前にいる。
 フェンリール・ドラゴンが。あの竜を、やっと、やっと見つけられた。
 ああ、覚えている。奴の姿を、奴の総べてを。

 オーちゃんを殺した、このドラゴンの総べてを私は知っている。

 このドラゴンの牙にこびり付いた血。
 たくさんつきすぎて分からないけれど、それでも私には分かる。
 オーちゃんの匂いが、こびりついている。
 
 だからハッキリと分かるんだ。
 コイツがオーちゃんを殺したんだって。このドラゴンがあのオーちゃんを殺した竜なんだって、ハッキリと理解できる。

 仇を目の前にして、憎しみがより増幅する。
 コイツを殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、そう囁いてくる。

 もうバルムンクを振るいたくて仕方ない。
 ああ、殺したい。殺したい。殺したくてたまらないよ、オーちゃん!!

 さあ殺すんだ。奴を殺して、オーちゃんを殺したことを後悔させて――

 殺す、誅す、劉す、戮す

 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す殺す誅す劉す戮す――

「やめ、て……」

 ふと、そんな声が聞こえた。
 ただ一筋の、か細いそんな声が、耳に響く。

 それはあの少女から発せられた言葉。
 さっき私が高速移動と共に殴ったはずなのに、それでも声をまだ出せていた。

 それは純粋な驚きであり。

 一瞬、バルムンクを握る力が緩んでしまった。

「殺さないで……」

 その声は、何を連想させるのか。
 分からない。分からない。

 何を戸惑っている。目の前に、仇がいるんだぞ。
 私の、オーちゃんの仇が。オーちゃんを殺した奴が、目の前にいるんだぞ!!

 戸惑う暇なんてない!
 すぐにでも騒ぎをかけつけた管理局員がここにやってくる!
 
 来るのは多分管理局でも最もスピードの速いと思われる≪金色の死神≫であるフェイト・T・ハラオウンだ。
 こんなことに悩んでいる暇なんてありはしない!
 愚図愚図していたら、このフェンリール・ドラゴンを殺すチャンスなんて、もう二度と巡ってこない!
 だから殺せ! 今すぐ殺せ! すぐにでも殺せ!
 それで復讐は完遂する! オーちゃんの仇を、とれるんだから!

「殺さないで……」
「うるさい」

 囀るな! その耳触りなセリフをやめろ!

「私の、私たちの、大切な、人を」
「うるさいうるさいるさいうるさい!!」
「殺さ、ないで」
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!! 
 私に、関係あるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 そんなことを言うな! 思い出させるな!!
 
 無力だった私を、抵抗する力があったのに抵抗することすらなく殺させた私を!
 やめろ! 昔の私を、殺したいくらい無力だった私を、思い出させるな!

 私は≪ファナム・ギルマン≫、≪竜滅姫≫なんだ!
 だから殺すんだ! 絶対殺すんだ! なにがなんでも殺すんだ!

 だから囀っても無駄だ! どれだけ懇願しても無理だ!
 コイツは、オーちゃんの仇なんだから!!
 
 だから殺してやる! 殺してやる!
 お前がどれだけ願おうが、叫ぼうが、何をしようとも!
 この竜だけは、この竜だけは必ず必ず! 殺してやるから!!

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!
 竜滅、一閃!!」

 ビー玉の髪飾りが輝いた気がする。
 魔力の全てを、この剣に乗せて、全てを破壊する、斬撃となれ!!

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 その日、第93研究医療所にて、大規模な破壊が行われた。
 その破壊の爪痕は強力な斬撃であって――



[19334] 第二十四話 ただいま/おかえり
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/19 23:05
 ただ私は――
 
 ただ俺は――




第二十四話




 暗い怖い、悲しい、何も考えられない。
 ただ暗くて、ただ怖くて、ただ悲しくて、何があるんだろう?

 分からないくらいに、ただ怖くてたまらなくて――

 どうすればいいのかも分からなくて。
 
 怖くて、悲しくて

 そんなことの繰り返しばっかりだ。

 一体ここはどこなんだろう?
 そんな疑問もあるけれども、なにもなくて。

 どうしてこうなったんだろう? 
 怖い、なにも考えたくなんてない。

 『死』『死』『死』『死』『死』『死』『死』
 
 怖くて怖くてたまらない。
 どうしようもなく逃げたい。
 逃げた場所にも『死』がある。ならばもっと逃げなきゃ。
 でも逃げた先に『死』があって。

 もうどうすることもできないくらい、なにも考えたくなんてない。
 
 だったら考えることなんてやめろ。
 なにも考えるな。そうすれば幸せになれる。
 たとえ幸せになれなくても不幸になりはしないから。

 だからなにも考えるな。決して考えてはいけない。
 それが不幸を、『死』への恐怖への唯一の逃げ道だから。




 ――夢を見る。
 
 なんだろう、この夢は。
 悪夢じゃない。『死』ぬ夢ではない。
 
 ああ、なんでだろう。この夢は――怖くない。








 第12管理世界にあるとある民族。
 その民族の名はギルマン一族。

 そこにある家族がいた。

「……」
「なー、親父ー」
「――なんだ」

 そこにいるのは黒髪黒瞳の親子がいた。
 
 子供の名はオージン、そしてもう1人の父親、髭を生やした精悍な男の名はヴォウという名前らしい。
 因みに母親の名前はフルン。

「これからどこ行くんだ?」
「ああ、狩りだ」

 この村では魔導師が狩りにいく風習がある。
 たとえ魔導師でない者が行くとしても、その場合は実力のある魔導師が引率に行くことが決まっている。
 たとえ森に危険な生物がいないとしても念のためである。

 だが――

「でもよ、親父。Eランクだろ。そんなんで大丈夫かよ」

 Eランクの魔導師で狩りなどできるものなのか。

 森の奥深くには危険な生物だってたくさんいる。
 だから魔力量Eランクでは相手にもならないに違いない。
 
 なのにどうして今回の狩りには父親ヴォウ1人だけで行くのか、彼には納得がいかなかった。
 しかし母親のフルンがそれを否定する。

「あら。お父さんはね、とっても強いのよ」
「だからEランクだろ」
「魔力量だけはね。でもお父さんはもっと強いのよ」

 それだとB+らんくの母さんなんてもっと強いじゃないか、と思ったりもしたらしいが、それは言わないことにした。
 とにかく狩りは1人でも大丈夫って思われるぐらい強いってことは分かったかららしい。

 それでも魔力量Eランクで強いと言われても反応に困るらしい。




Side-Ordin

 それでもそれなら母ちゃんの方が強いんじゃないか。
 
 大体Eランクだとどれくらいの強さなんだ?
 リリカルなのはだとAAランクだとかがジャンジャン出てくるからへっぽこにしか聞こえないんだけど。

 まあきっとEランクでも十分なんだな、と自分勝手に覚えておくことにしよう。

「うふふ。勘違いしない方がいいわよ。お父さんは私より強いわよ」
「うっそだー」

 魔力量Eランクがどうやって魔力量B+の母さんに勝てる、て言うんだよ。

 あれか? 雰囲気で勝ったのか?
 
 生まれてきた時は父さん明るい人だな~、とは思ってたけど、普段は寡黙で精悍な男性だし。
 なんというかハードボイルド! って感じがぷんぷんする父親だったね。

 あれ? 
 なんでだろう。こんな光景見たことあるような。
 未来を知ってるような。
 ここが過去? あれ? なんでこう思うんだろ。
 
 原作知識?じゃないよな。
 原作にギルマン一族なんてものは載ってなかったんだし。

 だったらどうして未来が分かるんだろ?
 というかどうしてここが過去なんだって感じるだろう。

 ああ、もうどうでもいいや!
 ファナムに会いにいこ!

「そいじゃ父さん、母さん、ファナムんとこ行ってくんなー!」
「ええ、行ってらっしゃい」
「ああ。それじゃあ俺たちも行くか。ブライアン。セットアップ」

 すると父さんはセットアップする。
 でもお父さんのデバイスのブライアン、返事しねぇよ。

 寡黙とは聞いてたけど、セットアップしても魔法を発動しても何も言わないて。
 アームドデバイスなのに。

 というかお父さん、Eランクなのにそんな上等なアームドデバイスなんてもったいなくないか?
 そう疑問に思う俺である。

 するとお父さんは全身鎧を纏った姿になる。
 いや、いくらなんでもあれでしょ。それ、身動き取りにくいでしょ。
 しかもデバイス、ツルハシ型アームドデバイスだし。
 
 まあ見た目強そうだけどさ。

 まあどっちでもいいか。

「んじゃあ再度行ってくんねー」
「ああ」
「ええ、ファナムちゃんと仲良くしなさいよー」

 言われなくともフラグ構築して逃がしてやんねーよ。
 ファナムは俺の嫁だしな! うん、これ決定!

 あれ? なんで誰だ! 嫁にならないなんていいやがったのは!
 俺とファナムはラブラブなんだぞ!

 あん? ラブラブだからこそ余計ヤバい関係になる?
 どんなヤンデレだよ、それは。

 あれ? なんで俺、こんなメタ発言してんだろ。

 ま、どっちでもいいか。
 ファナム、待ってろよー。ついでにクリフ、トルテ、フレイア。

 こうして俺は遊びに出かけた。



「ファナムー」
「あ、お、オーちゃん」
「おっせーぞ。オージン」
「こ、こんにちは。オーちゃん」
「なんでファナムだけしか呼ばないんだよ」

 いつものメンバーで集まった。
 ああ、懐かしい仲間だ。

 なんで懐かしいって思えるんだろ? 
 だって昨日ぶりなのに。昨日ぶりじゃ懐かしがる理由なんてないはずなのに。
 でもこの感情は懐かしい以外なくて――

 まあどうでもいっか。遊べればそれでいいんだし。

「そんなん、こいつらが夫婦に決まってるからだろ。空気読めよ、KYクリフ
「ついにテメェはまでKYにしやがったな!」

 おー、いっつもは俺がKY呼ばわりしてんのに。
 やるな、フレイア。それでこそお前だ。

 クリフもいつまでもそんなことに拘んなよなー。
 だっからお前いつも弄り甲斐があるんだよ。

「ふ、フレイアちゃん、クリフ君。喧嘩は駄目だよ」
「そ、そそそそそ、そうですよー」
「やっちゃえ、やっちゃえー」
「オーちゃんも煽らないで!」

 いつもの如く喧嘩が始まる。
 まあ今回は俺とクリフの喧嘩でなくて、クリフとフレイアの喧嘩なので、俺はいつものフレイアの立場である煽り役をやってみることにした。

 まあただそうすっと、仲裁しようとしていたファナムに怒られちったけど。
 
 てへっ☆

 ま、ファナムはいくら怒っても可愛いもんだなー。
 全く怖くないし。

 誰だ? ファナムのこと怖いとか言いやがったのは。
 こんなに可愛いのにどこが怖いって言うんだよ。

「まあまあ。ほっじゃなにすんべ」
「タッチフット」
「無理だろ。人数的に考えて」

 もっと人が集まらねーと無理だっつーの。
 
 というかタッチフット、マジ大人気だな。
 でももっと人が少なくてできるもんじゃないと。
 
 なんせ今日は人の集まりが良くないんだし。

「そ、それじゃあ」

 そんな感じで今日も楽しく過ごす。
 ああ、こんな日々がいつまでも続けばいいのに。

「どうしたの? オーちゃん」
「ん? なんでもないよ」

 なんだ? 
 ついさっきから変な感じがずっとする。

 ……どうでもいっか。
 
 楽しもう。皆で。

 みんなで――





「オーちゃん、オーちゃん、オーちゃん!」

 なんだろう。わけがわか――

「オージンさん」
「キュクルー」

 え? なんで? ここに?
 あれ? だってここはギルマンの村――
 なんでキャロが、フリードが-――

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオちゃああああああああああん!!」

 なんで、なんで泣いてるんだよ。ファナム。
 なんで?

 だってさっきまで楽しそうに笑ってただろ。
 なあ、皆で、クリフやフレイアやトルテと一緒に、俺たちと一緒に遊んでいただろ。
 なのに、なんで!?

 見ると、そこには――俺の死体があった、

 どうしてあそこに俺の死体があるんだよ。
 訳が分からんねぇよ。

 なんで、どうして、だって――

「えへへ、いつまでも一緒にいようね、オーちゃん」



 ――ぶつんっ

 なにかが途切れる音がした。

 支離滅裂な記憶だったよ。時系列もバラバラだ。

 でもハッキリと、するべきことが分かった。
 簡単だったんだ。生き返ってから、今までずっと先送りにしてきた。
 なにもかも運命のせいにして、誰かのせいにして。
 でも、そんなこと言う資格は多分俺にはなくて。

「もう、いいのか?」
「ああ。もっぺん生き返ってくるよ」

 正確には生き返るんじゃなくて目覚めるんだけど。
 ほとんど死んでたも同然の状態だったから、こっちの言葉にしてみた。

 そこにいたのは親父と母親だった。
 いや、生きてるんだけどさ。父親も母親も。

 だからきっとこの2人は俺の記憶から生まれた、記憶の中の親父と母さん。

「俺たちは幻の存在だ。でも、それでもお前に声をかけられる。
 お前にとって、無意識にお前の望んでいる言葉をかけられる。
 俺たちはお前の無意識下にある、お前の記憶から生まれた存在だからな」
 
 んなこと言うなよ、親父。
 そしたら親父に説得力なんてなくなるぜ。

「ほら、こっち来なさい、オージン」
「なんだよ、母さん」

 なんか母さんが呼んでる。
 こっちは急いでんだけどなー。
 と思ったら――

「ほら」
「へぶうううううううう!!」

 いきなりぶん殴られた!!
 痛い痛い! なにすんだ、母さん!

「ほら、ぶん殴ってやったわよ。あなた、自分のことばっか考えないで、もっとファナムちゃんのこと考えてやりなさい!
 ほら、とっとく行く! いつまでも泣かせてたら、も一回ぶん殴るわよ!」
 
 おおーい。なんだそりゃ!
 
 なんて言いたいけど、言えない。
 今回は母さんの正論だ。だからぐうの音も出ない。

 だけどこれだけは――

「母さん、親父」
「なに?」
「なんだ?」
「また生き返ったら、今度は現実の母さんと親父に会いに行くからさ。それまで待っててくれよ」

 こんなところで約束してもせうがないろうに。なんて思うかもしれない。
 でもこれはケジメだ。

 ここは夢の中で、記憶の中で、俺の無意識下の中でも、せめてケジメくらいはとっておきたい。

 だからこれだけは言わせてくれ。

「ああ、待っている」
「そんなことよりもファナムちゃんに会いに行く! 私たちに会いに行くのはまた後!」

 ああ、相変わらずだ。
 いや、当たり前だ。ここは俺の無意識下の中なんだ。
 寧ろ変わっていたらおかしすぎるだろ。

 でも案外現実でも変わってないんだろうな、とそんな確信をする。

 だから――

「グングニール、セットアップ」

 ここは夢の中だから、こんなことをしても無駄なのかもしれないけれど――

 それでもこうした方がきっとやる気も出てくる。
 さあ夢の中のグングニール、俺に力を貸してくれ。

「転移、夢から、現実へ! 死から生へ!!」

 答えない。ストレージだから当然。答えたらグングニールじゃなくなる。だからそれでいい。
 今は、転移するだけだから!

 この夢幻の世界から現実の世界へと!!
 『死』の恐怖から、『生』への渇望へと!!

「再憑依転生!!」

 俺は魔法使いらしく魔法名を唱える。
 そんな魔法はなくとも、気分が俺のやる気を、生への渇望を、現実への復帰の渇望を、より強くさせてくれて――













Side-Fanam

 第93研究医療所。
 でも既にそこはもう砕けていて。
 大規模な破壊のせいですっかりと跡かたはなくなっていた。

 ただそこは無人研究所だったため、人的被害はなく。
 他に入院していた大型生物もいないために、生物的被害も他にはなく、そして肝心のフェンリール・ドラゴンは――

「なんで、なんで――」

 傷一つついていなかった。
 いや、傷一つつけられていなかった。

 その斬撃の全ては、ギリギリのところで当たらなかった。

 避けたわけでなく、ただ外してしまった。
 それだけ。
 
 どうしてこんな至近距離で、私の必殺技ともいえる『竜滅一閃』が失敗するんだろう。
 私の魔力の大部分を振り絞って放った一撃必殺ともいえる『竜滅一閃』を外してしまった。

 なんで? どうして?
 外すわけないのに。
 こんな距離で外すわけがあるわけないのに。

 わか、ら、ない? わ、からな、い?

 ぽたっ

 涙が出ている。
 どうしてここで涙なんて、出るの?

 ――ずずんっ

 それは巨大なものが動く音。
 
 それはフェンリール・ドラゴンが起き上がる音だった。
 でも起き上がっても、フェンリール・ドラゴンはなにも雄叫びをあげることもせず、ただ目覚めてから私を目にしてから驚き――
 
 そして彼の周りに魔法陣が展開される。

 目の前に、彼の、オーちゃんの仇がいるのに、どうして私は動けないんだろう。
 今こそバルムンクで彼を殺すべきなのに――

 どうしてかできなかった。
 懐かしいと思ってしまった。彼に近づいた途端、私の目から涙があふれ出てくる。

 ただ近くにいるだけなのに、彼を一目見た時からずっと止まらない。
 あれほど強かった憎悪なのに、あれほどずっと殺したかった人なのに、ずっとずっと殺したくてたまらかったのに――

 貴方の瞳を見てから一瞬で消えてしまった。
 貴方に近づいてから殺そうとする気も失せてしまった。

 どうしてそんな瞳をするの? どうしてそんなに貴方は懐かしいの?

 そんなの簡単じゃないか。
 あまりにも簡単すぎるくらい簡単なのに。

 私が殺したくて殺したくてたまらなかったドラゴンは魔法陣が発生してからどんどん小さくなっていく。
 それは人の形になっていって――

「ただいま。ファナム」

 黒い髪と黒い瞳の、私と同い年くらいの人。
 でも分かるんだ。

 あのドラゴンが変身した姿なのは目の前で見て分かっている。
 だからこの人の本性はドラゴン。
 でもそんなものよりもずっとずっと大切な本質を、私は分かっている。

 どんなに姿かたちが違っても、種族が違うくても、そんな体になっても、分かるよ、分かるよ――

 その優しい瞳を私は知っている、貴方のそんな穏やかでそれでいて楽しい雰囲気は私は大好きで、貴方のその口調は私を幸せにしてくれて――

「オーちゃん、オーちゃん、オーちゃん、オーちゃん! オオーちゃあああんっ!!」

 私はあの時以来の大泣きをした。
 あの時とは違って、その涙の理由はずっと暖かいものだったけれど。

 おかえり、オーちゃん。



[19334] 第二十五話 説明
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/14 08:05
 今はただ喜べばいい。
 ただその再会を喜べばいい。

 久しぶりの再会。
 愛しき人との再会を、喜べばいいのだから。

「管理局員フェイト・T・ハラオウン執務官です!
 ファナム・ギルマン三等空尉! 今すぐ戦闘行為をやめな――え?」
「あ」

 え?
 これどゆこと?




第二十五話




 起きたら目の前にファナムがいました。
 殺されるかもしれないと思ってたけど、俺がオージンだと分かってくれました。
 
 うん、まあそれはよかったんだけど。
 なんで分かったんだろうか?
 
 俺、ドラゴンだよね。
 いや、まあ分かってくれるのは凄い嬉しいしね。

 で、現在はというとだ。

「キャロ、これどういう状況?」
「お父さんこそなんでそこの人と仲がいいんですか?」

 キャロもなんか疑惑の目で見ている。
 うん、なんでこんな目になっているんだろう。
 
 とにかく話を聞いてみると、ああ、俺を殺そうとしていて、キャロがそれを止めようとして。
 そんでキャロとフリードが負けて、フリードは気絶、キャロも気絶といかなくても戦闘不能状態にまで陥ってしまった、と。

 ヤバい、フォローできん。
 いや、したいけんどもさ。

「と、とにかくですね。せ、説明をお願いします! お父さん!」
「あ、うん。そうだよね」

 うん、ここまで来たら説明するっきゃねーんだよね。

 ただ問題としてはフェイト・T・ハラオウン執務官がいるから、どうしようってことになるんですが。
 
「そんなわけででしてね、ちょっとこの3人と1匹とでだけで話させてもらえませんかね?」
「え? え、えっと、それは、その」

 うん、無理だと分かってるけども。
 
 せめて先に説明したいんだけどね。
 それでも管理局に聞かれるとヤバいことこの上ない話なんだよね。

 だって俺の希少技能レアスキル、ぶっちゃけあれを知られると危険なんだよね。

 だってあれ、実質不死身の希少技能レアスキルなんだもん。
 
 実際、後一回でも死ぬと植物人間状態になるとしても――不死身であることに変わりはない。
 そんな能力があると管理局に知られでもすれば、確実に研究所送りにされる。
 裏側から、確実に。

 俺は確かにチート技能を持ってるけど。
 殺されずに眠らされて、それから死なないように実験されればもうどうしようもない状態だ。
 
 俺の能力じゃ不意打ちには対応できない。
 俺のチートだと真正面からの激突には最強だけど、搦め手を使われれば、俺にはどうしようもないのだから。

 だからなるべく管理局には知られたくない。
 原作知識だと、もしかしたら内緒にしてほしいことを内緒にしてくれる人なのかもしれない。
 でもここはアニメの世界なんかじゃない。
 もしかしたらそんな可能性がある、程度のことなんかじゃ話しちゃいけない。

 だからなるべくファナムとキャロとフリードと、そして俺だけの4人で話せる場所じゃないと。
 でも事情聴取でヤバそうなんだよな~。

 それになにがどうなってこの現状になっているかが分からないからどうすればいいのかも分からない。

 だって俺はさっきまで、あのエミヤ風の男の、刺し穿つ死刺の槍ゲイ・ボルグを受けた時の記憶までしかなかったんだから。
 いや、それ以降も夢を見たんだけどね。

 ただ現実の記憶はそこまでしかない、てことだから。

 とにかく、マジどうしよう。
 これからの事情聴取のことを考えると鬱になる俺であった。

「え、えと、オーちゃん。どうしよう」
「どうするんですか? オージンさん」

 俺が聞きたい。
 とりあえずキャロ、ファナムを敵視するのは止めなさい。
 うん、無理だよな~。さっきまで殺されかかってたもん。

 俺の場合は仕方ないとしても、キャロは心情的に理解できないし。
 理解してくれるとしたらきっちりと事情を話さないと。
 
 そのためには管理局員邪魔だしな。
 どうせう。

 あ、昔の癖が出てきた。

「あ、それじゃあ。うん、いいよ」

 うん、無理だよ――

「て、いいんかい!」

 え!? なに、なんで許可でんの!?
 さすがに無理だろうと思ってたよ! 言ってみただけだよ!

 なのに許可降りるって!?

「な、なんで許可出たんスか……」

 ちょっと敬語になってみる。
 いや、ちゃんとした敬語じゃなくて、もっとこう昭和の不真面目な人が使ってそうな敬語だけれども。
 
「あ。監視はするよ。でもあんまり話したくもないことなんでしょ。
 でもちゃんと納得いくまでは説明してもらうから」

 うん、まあ話は聞かないけど姿だけは監視してもらうわけか。
 あ、理想的な感じだ。

 うん、ありがとう。こんな人でありがとうごぜうます。
 
 なんかこの執務官に感謝したい気持ちでいっぱいだった。
 ヤバい、惚れてしまいそうだ。
 いや、俺にはファナムいるから惚れらんけど。

 そういうわけでして事情聴取の前に、4人だけの会話が始まることとなった。

 因みにに俺の秘密をもうぶちかますことにしてみました。
 さすがにそうじゃないとキャロとファナムも納得してくれない気がするしね。

 とはいっても転生者云々神様がどうたらとかまでは話さない。
 眉唾物だし、いやファナムなら信じてくれそうだけども。

 俺自身胡散臭いと思ってるしな、そこらへんは。

 まあ俺に罪と罰ギルティ・アンド・パニッシュメントという希少技能レアスキルがあるということ。
 後、一回でも殺されれば俺自身、精神的に死ぬかもしれないということ。
 俺とファナムが幼馴染で、かつての恋人、いや婚約者であること。
 そして俺がフェンリール・ドラゴンとなってから暫くして一緒に暮らしていたキャロとフリードのこと。
 そんなさまざまなことを話していた。

 ただゾークのことはまだ話していない。
 今のこの状況で話したら、なにもかもを無視して真っ先にゾークを殺しに行くだろう。

 俺だってゾークは憎いし、殺したいほど湧き上がる憎悪だってある。復讐心だってある。
 でも今そんなことをすればファナムの罪状が増えるだけだ。今でさえ、ファナムは罪を犯しているんだから。
 
 殺せばいいってものなんかじゃない。
 殺したいほど憎いけど、それでも殺したら管理局追われるだけだ。
 だから殺す方法でなるわけには、いかないのだから。そして、ファナムにそれをさせてはいけない。

 だから今は言えない。
 もっとファナムが精神的に落ち着いてから、そうじゃないと、話せない。
 
 因みに会話が漏れないよう、ファナムが結界を張ってくれていた。
 俺もファナムに術式を教えてもらってそれを展開することに。
 一応無限に近い魔力でなんとか誤魔化している。

 ただ術式が難解すぎて本というか見本を見ながらじゃないと無理ってどんくらい難しいんだよ、この術式。
 俺じゃ暗記は不可能だわ、この魔法。
 しかも使うのに時間かかるし。

 まあ魔力にあがせて、強力な会話漏れを封じる結界ができたわけだけども。

 その中で会話をしていたのだ。

 ただ会話の途中で――

「この人が、お父さんの婚約者、お父さんを殺そうとした癖に(ぼそっ)」
「いや、それは俺が生きてる、てことを伝えなかったからで」
「お父さん? ねぇ、オーちゃん。いつそんな大きな子供作ったの? 誰と作ったの?」
「ちょ、待て! 無理だろ! 常識的に考えて俺が8歳の時じゃないと作れないだろ! そして8歳じゃ作るの不可能だろ! てか、バルムンク仕舞えー!」
「キュックー」
「あはは、退いてよ! オーちゃん、そいつ殺せない!」
「ファナムさん、手伝います! ブーストアップ! フリード、覚悟なさい!」

 なんか俺がやばかった。
 あれ? なんか怖いよ、なんか怖いよ。

 あんだけ可愛かったファナムとキャロは一体どこにいったんだ。
 
 いつの間にヤンデレに進化したんだろうか。

 とにかく説明がかなりしんどかった。
 かなり疲れた。なんでこんだけ疲れるんだろうか……?
 ああ、全部俺のせいかよ。

「あ、終わった? それじゃ事情聴取しようか」

 あ、そういやこれから事情聴取あるんだった。
 ああ、もうどうでもいっかー。なんて思ってしまう俺であったが、一時の感情に流されて人生台無しにするのも嫌なので気を引き締めることにする。
 とにかくどんなことを話すのかはしっかりと決めてある。

 しんどいけどもなんとかしないと面倒くさいことになることこの上ないので必死に頑張ることにする。

 で、なんでも事情聴取をするのはフェイト・T・ハラオウン執務官と八神はやて三等陸佐とのこと。
 あ、原作キャラが集まるんだ。
 あっれー? 俺の幸運ランク、どんだけ低いんだろうか。

 Fate風に表すと、幸運ランクE……なのか?
 せめてDくらいは欲しいなぁ、などと思ってみる。

 これからのことを思うと憂鬱になってしまうのは仕方がないんじゃなかろーか。

 まあキャロとファナムの和解を成功させただけでも良しとしよう。
 和解させたとはいっても、微妙なんだけどね。

 なんか2人と1匹で黒いオーラを纏って敵視し合ってるし。
 あー、黒いオーラなんて視えない視えないー。などといって黒いオーラを視えてないフリをしてみるのだった。



[19334] 第二十六話 激突! 最強の魔導師vs最強の戦闘機人
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/19 23:03
 オージンがヤンデレに挟まれて四苦八苦しながら、事情聴取している時。

 とある管理世界では犯罪者が蠢いていた。




第二十六話




Side-Shugo

 全くこんな面倒な任務を任せやがって、管理局のやつ。

 まあいいさ。
 なんせ今回は大物の魔導師。
 
 へ、どうせ俺くらいの魔導師でないとどうにもならないだろーな。

 さっさとコイツを片づけていくとするか。

 どうにも遅かったキャロ保護も上手くいった、て情報も入ったし。
 早速孤独で悲しんでいるキャロちゃんを、フェイトと一緒に慰めてやろうかな。

 フェイトが母親で、俺が父親。くくっ、「お父さーん」て慕ってくれるんだろうな。

 おっとそうなるとなのはとはやて、それにヴォルケンたちの嫉妬が怖いぜ。
 まあ皆の愛を受け止めてやるからさ。ははっ。

 おっとそれにファナムちゃんも早めに攻略しとかないとな。
 皆を幸せにするのも辛いぜ。まあそれこそが俺の義務だろうけど。
 
 ぶっちゃけエリオはどーでもいー。

 さてと、さっさと片付けてやるとするかな。

 そうして俺はカリバーンをセットアップしながら、その目的の犯罪魔導師とやらが暴れている場所に向かう。

 Sランク犯罪魔導師フック・バルボッサ。
 魔力変換資質『水』の使い手らしく、数々の犯罪魔導師を手下にしているとか。

 だがたとえどれほど束になろうと主人公の俺に勝てるわけがねぇけどな。

 さあ男なんざとっとと捕まえてとっとと管理局に戻ってやるぜ!

 そう思って、フックとその仲間たちが暴れている場所に現れると――

「や、やめ、やめてく――」
「あなたたちはそうやって止めたことなどないだろう。
 大丈夫。死ぬことはない。ただお前たちを狂わせていたものを取り除くだけだ」

 そう言って、その女の人はある本を出して――

『おっしゃー、行くよー。ごう、だつ!』
「う、うぎゃあああああああ!!」

 すると彼女が取りだしたのは、リンカーコア。
 そしてフックから取り出したリンカーコアを、本の中へと納める。

『うわ、まず。リナスー、とっとと食べなよ』
「ああ、分かっている」

 そしてまた本にしまったリンカーコアを、リナス自信が取りだして、それを自分の体内に入れ込んでいく。
 信じられない光景だった。

 ありゃあ闇の書の蒐集よりも酷い光景に見えるんじゃないか。

 でもあんなフック野郎がどうなったところでなんの問題もありゃしねぇ。

 ただ目の前にいるのが美少女! これが問題だ。

 多分ありゃあ、リンカーコア消失事件の犯人だ!
 まさかその事件の犯人がこんな美少女だなんて。

 こりゃあイベント発生だな。
 そんでもって仲良くなって×××やって、グフフ、こりゃあ久々に張りきってきたぞー。

「管理局員藤村修吾一等空尉だ!
 君にはリンカーコア強奪事件の容疑者としてついてきてもらおう!」

 さ~、どうするかな?
 まあ抵抗するなら抵抗してみなよ。

 そしたら俺に強さを見せつけて~、そんでもって~。

 スーパー魔法攻撃→「キャー、すごーい、惚れるー。子宮がジンジン来ちゃうー」→俺ウハウハ!

 来た! この展開っきゃねー!

「……管理局員か。断る。私はただ返り討ちにしただけだ」
「それでもだ! 断るというなら実力行使しかないな!」

 さあ! 見せてやるぜ!
 俺の魔法を見て惚れな! 









 そこにいるのは2人の魔導師。
 他にも魔導師は”いた”。だがそれは既に過去のものであって。

 リンカーコアのないS級次元犯罪者はもう既に魔導師ではなかった。

 管理局員として名高い藤村修吾。
 彼はまさに管理局のエースとしての存在だ。

 そしておそらくは管理局最強の男としても有名だろう。

 きっと彼に勝る魔導師はいるかどうか、怪しいとも言えるかもしれない。
 どれほど最悪の性格であろうとも、その実力だけは確かといえるのだから。

『うわ、なに、コイツ。なんか気持ち悪い。
 テンプレ、て感じするよねー』
「なに言ってるのか分からない、へヴン。まるでドクターみたい」

 本型デバイスのヘルオアへヴンは融合型デバイス。
 だがまだ小人状態の姿を見せてはおらず、今はただの本型としてその姿を持っている。
 
 ただヘルオアへヴンは彼の本質を見ただけで見破っている。

『えー、ドクターみたいじゃないよー。ドクターはあれじゃん。
 もっと深い人間だよー、私はあんな変人じゃないよー』

 だがリナスのセリフにへヴンは抗議し始める。
 
 因みにヘルオアへヴンには2つの管制人格が存在する。
 そして片方の管制人格がへヴン、通常の管制人格としてそこに存在している。

 だがとにかく目の前にいるのは敵。それが分かっただけでいい。
 敵であり、そして魔導師であるのならば、狩るだけだ。

「行くぞ! カリバーン!」
『Ja!』

 そしてカリバーンで攻撃を放とうとする。
 纏わせるのは、電気!

「雷神剣!!」

 修吾は電気を纏わせた魔力斬を放つ。
 SSSランクの魔導師が魔力変換して纏わせた雷撃の斬撃は並の防御魔法では防ぎきれず、かといって避けることもままならない。
 さあどうす――

「ならば、押し切る」
「なっ!?」
「アーシア、力を貸してください。ディステニー」
『はいはーい。デバイスチェンジ、ディステニー!』

 すると本は突然としてその形を変え、そして戦斧へとその形状を変えていく。
 
 それはフォルムチェンジなどといったような生易しい変形ではなく、寧ろデバイス自体が入れ替わったかのような感じがする。
 そしてそれは正解。

 入れ替わるのは、かつての仲間が使っていた戦斧。
 
 そして雷神剣と立ち向かうのは――

「はぁ!」
「な!」

 雷神剣相手に、斧で立ち向かう。
 どういうわけか、武器がデスティニーになったことに戸惑っている。
 しかもその形はバルディッシュにそっくりである。

「ど、どういてお前がバルディッシュを――」
「答える必要は、ない」

 さすがの修吾も焦っている。
 だがリナスはそんな修吾の焦りという隙を逃しなどしない。
 ただこのまま戦斧にて圧倒するのみ。

 だがさすがの修吾といえど、いつまでも圧倒されるわけにはいかない。 
 すると一旦彼は距離をとり、纏わせる魔力を変化させる。

「チィ! 勝ったら話を聞くとするか! まさかプロジェクトFでフェイトの遺伝子でも組み込まれたのか!?
 いちいち考えても埒が明かない!
 行くぞ、カリバーン、炎神剣!」

 纏いし魔力は全てを焼き尽くす紅蓮の炎。
 
 修吾が持っている希少技能レアスキルとして、魔力変換資質『電気』『炎熱』『氷結』の三つが存在する。
 
 それはつまり相手に対して三つの能力を使い分けて戦うことができるというわけだ。
 
 『電気』によって相手の防御を抜くか、それとも『炎熱』のパワーで焼くか、それとも『氷結』で相手の妨害を施すか。
 そのどれもが修吾の気分次第で使える。

 なんとも厄介な能力なのである。
 だがそんなことはリナスには関係ない。

 なぜならばリナスは『リリカルなのはStrikers最強の魔導師型戦闘機人』略して、リナス・サノマウンなのだから。
 
 たとえ相手がSSSランクだろうと、三つの魔力変換資質を持っていようと。
 そんなものは彼女にはなんの問題などありはしないのだ。

 そして相手が炎熱を以てして向かってくるというのならば――

「我が友アルサムよ。汝の力を借りましょう。
 ディステニー、デバイスチェンジ」

 そして再びバルディッシュの形態もまたその姿を変えていく。
 戦斧の姿より、新たなデバイスの姿へと。

『Yes,device change! Mode [Frostine]』
「フロスティン」

 その手にあるのは冷気を纏いし剣。
 その剣に切り裂けぬものなどありはしない、冷徹なる刃。

 ならば裂くのは当然。
 たとえ相手が炎熱だろうとも、この剣に宿りし冷気が炎熱ごと切り裂くのみ。

 かつてのアルハザード第八騎士アルサムの愛魔導器デバイス≪フロスティン≫。
 それはいかなるものをも切り裂く凍気の刃。

 修吾の炎神剣に対抗するために、彼女が魂よりデバイスを具現化したものはフロスティンという名の剣型デバイスであったのだ。

「ま、まるで、それじゃあレヴァンティンじゃ――」
「凍てつけ、蒼穹一閃」

 それは蒼穹のような輝きを以てして凍気を生み出す剣。
 その斬撃はあらゆるものを凍てつかせる一撃となる!

「ぐ、グアアアアア!!」

 リナスの斬撃による一撃が、修吾の体を凍てつかせ、凍りつかせる。

 だがすぐさまに修吾は魔力変換資質『炎熱』によってその冷気をすぐさまに焼き尽くし、凍結を免れる。

「ま、まさか、コイツ、トリッパーじゃ――!」
「ほう、ドクターを知っているのか。どこで知ったかは知らんが、まあ隠すことでもない。
 別段話すことでもないがな。だが――」

 リナスは戦闘機人だ。
 戦闘機人だからこそ、彼女は作られた存在である。

 ゆえに彼女を作ったのは『オリッシュ・トリッパー』という男。
 リナスを作ったコンセプトは『リリカルなのはStrikers最強の魔導師型戦闘機人』であり、そして実際に作られたのが、リナス・サノマウンなのである。
 
 ゆえにこそたとえ相手がSSSランク魔導師であろうと、リナスには敵うまい。
 そういう風に作られているのだから――

 だが修吾とてただのSSSランクではない、彼は――オリ主なのであり、トリッパー、なのだから。

「ふざけるなぁぁぁ! 喰らえ、トライアングル――」
「だからこそ、潰させてもらおう。
 イルタ。力を貸してもらうぞ。師である私に、その力を貸してくれ」

 魔力を集めようとする矢先に、リナスもまたデバイスの形状を再び変える。
 それはきっと、なにをも破壊する、最強の一撃であって――

「フロスティン、デバイスチェンジ、ヘルツォクエアーデ」
『Yes,device change! Mode [Herzog Erde]』

 全てを凍てつかせる剣はその形を変えていく。
 それは一撃絶壊、何もかもを問答無用に叩き壊していく究極の破壊の権化。

 それは槌、なにもかもを絶対破壊する、大地の公爵。

 そしてその槌より放たれる最強の破壊魔法が、撃たれる!!

「絶対破壊、テラント・エアート・ベーベン!!」
「アースブレイカー!!」

 槌型デバイス・ヘルツォクエアーデの槌はドンドン巨大化していき――

 そして三つの魔力が同時に募っていき――

 ――瞬間、世界より音が消え、その世界では大地震が発生した。



[19334] 第二十七話 ギルマン最強の防人
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/19 23:04
 その男は明らかに酔っていた。
 酒にはでなく、自分自身の正義に――




第二十七話




 その男は自分が正義である、とのたまっていた。
 自分の行動が間違っているなどとはありえないと考えていた。

 なぜならこの世界は魔法至上主義。
 ならば魔法を使えぬ者はクズ以下の存在ではないか。

 だから殺したのだ。なんの問題もない。

 魔力を持たない奴を殺すことで強大な魔法使いを手に入れられるのだ。
 これは立派な正義。立派な犠牲。

 それに魔力を持たない存在の癖に偉大な魔法の才を持つ者の邪魔をするなど、それだけで罪に等しい。
 いや、罪だ。

 だからこそ殺しても仕方がなかったのだ。

 そして――

「ふふふ、管理局に入ったらどうだい?」
「え、えと、わ、私、戦うのはあんまり――」
「そうかい。それじゃあ仕方ないな」

 だから村を滅ぼしてもいいよね。
 ああ、仇を討つためだ。仕方がない。
 さて、適当なドラゴンでも使役して、それからさっとナーガラージャでも殺すかな。

 そうして適当なドラゴンを探すことにした。
 そして弱いけど、それなりの強さのあるドラゴンを探すことにして、見つけたのだ。

「ふふ、このドラゴンか。よし、襲え、ツインヘッドドラゴン」
「うぎおあがああああああああああ!!」

 ツインヘッドドラゴン、双頭の竜。
 その二つの口からはファイアブレスとブリザードブレスの両方を放つ、世にも珍しいドラゴンだ。
 好事家にでも売れるドラゴンだろう。

 そしてゾークはこのドラゴンを使役し、そしてコイツで村を襲わせる。

 ああ、なんて完璧な作戦なのだろう。
 そしてあの村の優秀な魔導師は管理局のものだ。

 村に閉じこもっているのが悪いんだよ。
 その優れた才能は管理局のために使わなきゃ、使ってこその魔導師の才なんだから。
 才能を燻らせるのは、それだけで『悪』なのだから。

 それからツインへっドラゴンを、ナーガに≪竜魂召喚≫を施してナーガラージャにしてから殺す。
 ああ、なんて完璧な作戦なんだろう。
 それだけでもう、十分だと――

「そこまでだ。ゾーク・ル・ルシエ」
「!?」

 ゾークは突然のことに吃驚した。
 咄嗟に後方を振り向くと、そこにいたのは管理局員がいたのだ。

 どうしてここに管理局員が!?
 僕は管理局のために頑張っているのに、どうして!?

 いや、だが彼からは魔力が感じられない。
 それも全くだ。つまり非魔導師だ。

 ああ、ならば心配する必要なんてない。
 非魔導師など、要らない存在なのだから。

「おいおい、なにが、そこまでなんだい?」
「管理局員として警告します。僕の名はクリフ・ギルマン。
 そして貴方を逮捕しに来た者だ。そして証拠も押さえてある」

 するとそこにはしっかりとした証拠が!?

「そういうことだよ。ゾーク・ル・ルシエ、お前、やりすぎちまったな。
 それに俺の親友の仇も、とらせてもらうぜ」

 しかも新しく現れたのは、1人の女管理局員。しかも武装局員だ!
 
 彼女は確かギルマンの村からやってきた魔導師フレイア・ギルマン!

 ど、どうしてここにいるんだ!?
 いや、それ以上に証拠が押さえられている、だって!?

 なんで!? なんで!?

「ま、待て! ぼ、僕は管理局のためにやったんだ!
 なのに! 今更――」
「うるさい。オージンの仇、とらせてもらうために、僕は、管理局に入ったんだからな。
 ゾーク・ル・ルシエ!」

 オージンの仇!?
 ああ、あの、あの餓鬼か!
 
 非魔導師の癖に、優れた魔導師の才を持っていた彼女を誑かせ、危うく管理局の大切な宝を奪おうとしたあの餓鬼か!
 そいつの仇だとぉ!?
 
 ふざけるなよ! あんな奴は死んで当然なんだ!
 非魔導師の癖に、非魔導師の癖に!

 なのにどうして僕が罰を受けなくてはならない!
 どうして、正しいことをしたはずの僕が逮捕されなくてはならない!

 納得がいかない!!

「うお、コイツ! ムカつく! ぶん殴ってやりてぇ!」
「ああ、僕もだ。まあ逮捕状はしっかりあるんだ。
 証拠も押さえて、裁判では言い逃れもできないし、それに死にさえしなければ再起不能にしてもいいっていう許可証まである。
 これを得るために時間はかかったけれど、もう遠慮は無用だ!」

 ふざけるな! ふざけるなぁぁぁぁぁぁ!!

 なにが言い逃れができないだ!
 そっちが屁理屈が言うんじゃない!!

 僕は正しいことをしただけなのに! 正しいことをした奴が逮捕されるのはどうしてだ!?

 ああ、そういうことか! これが現実ってことなのかい!?
 悪いことをした奴は報われ、正しいことをした奴には不幸な目にあうってことかい!?
 そんなことが許されると、許されることなのだと、本気で思っているのか!?

 クリフ・ギルマン! 許せん、許せん! お前は絶対許せん!

 幸い、フレイアの魔導師ランクはA-ランク!
 僕の魔導師ランクはA+だ!

 それにクリフ・ギルマンに至っては非魔導師!
 ここから逃げるなんてことは可能だ!

 見ていろ! ここからすぐに脱出すれば、正義の管理局が助けてくれる! 
 不当な悪で僕を逮捕しようとするお前らなんか捕まるし、僕への逮捕状なんて取り下げてくれるはずだ!

 だから、だから!

「ツインヘッドドラゴン、ナーガラージャ!」

 僕はツインへっドラゴンとナーガラージャを襲わせる!
 ツインへっドラゴンの同時のブレスと、ナーガラージャの水圧のブレスを同時に吐きだし、襲い掛かる。

「ゲッ!」
「危ない!」

 咄嗟にフレイアはクリフを抱きかかえて、『Flash move』で避けた。
 
 よし、この隙に、すぐにナーガラージャで飛んで逃げれば――

「どこへ逃げようというのだ」

 そう思って、ナーガラージャに乗ろうとした矢先に、全身鎧の男がツルハシ型デバイスを持って――

「子を思わぬ親などおらん。子を殺された親の恨み辛みを、舐めるなよ」

 思い切り僕の頭を掴んで地面へと叩きつけた。

「がっはぁっ!?」
「この程度で、終わると思うなよ」

 どごすっ!

「ぶがはぁっ!?」

 痛い、痛い、痛い、痛い、痛い!?
 どうしてだ!? 思い切り殴られた!?

 バリアジャケットを張っているはず!?
 見た感じ、コイツの魔力量はEランク程度だ!?

 なのにどうして!? どうしてコイツの魔力量ランク如きで、僕のA+のバリアジャケットを抜けて攻撃を仕掛けられ――

「考える暇も、痛みを和らげる暇すら、与えんよ」
「げ、は」
「デッドロック――」

 ツルハシで思い切り叩きつけて、そのまま頭を掴んで万力のように、頭が割れるように痛くて、手に持ったまま大岩へと僕の頭を叩きつけて――

「げはっ!? げはぁっ!?」
「これで終わると思ったなら、無理だ」
「つ、づいんべっど、ながらー」

 咄嗟に僕は僕のドラゴンたちに呼びかけた。
 そうだ! 僕たちにはまだドラゴンたちがいる!

 ナーガラージャや、さっき仲間にしたツインヘッドドラゴンの実力ならEランク程度の魔導師じゃ相手にならない!
 なんせ2体とも強力なドラゴ――

 ぐさっ

「ぎおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 ツルハシは後方から襲い掛かってきたナーガラージャの眼を的確に突き刺し、ツインヘッドラゴンにはそのまま目に突き刺したままのナーガラージャを思い切り振りかぶって、激突させた。

 あ、ありえない。ありえない!?
 だってあいつはEランクだ!
 魔力量から感じ取って、いいところがEランク!
 多めに見積もってもDランクもいかないくらいの魔力量しかないんだぞ!?
 なのに、どうし――

 どぐしゃっ

「痛いか。痛いよな。だが我が子はもっと痛かったはずだ。もっと怖かったはずだ。
 殺しはしない。お前にはそれよりもっと怖い目にあってもらうのだからな」
「ひっ、や――」

 何度も何度も、僕のバリアジャケットを突き抜けて、衝撃が襲い掛かってくる。

 ドラゴンに命令を下してもその度に退ける。
 勝ち目がないなんてものじゃない。
 なんなのだ!? この理不尽さは!?

 魔力量が大きいなら、魔法使いとしての才能があるというのなら、全然理解できる!
 でもコイツは魔力量がEくらいしかないのに、どうしてここまで理不尽に強いんだ!?

 びちゃっ、

 遂には殴る音が水っぽくなっていく。
 でもそれなのに、僕はまだ気絶できなくて――

 だ、ず、げ、で、だ、れ、が、お、で、が、い、だ、が、ら――

 ぐさっ、遂に僕の掌にあったブーストデバイスでさえも、ツルハシ型デバイスは叩き割って――

 痛いはずなのに、僕の右腕にツルハシが突き刺さって痛いはずなのに、そんなことも気にならないほどに、痛めつけられていて――

「デッドロック」

 びちゃりっ

 も、ぶ、ご、ろ、じ、で――






 これが唯一の、ヴォウの魔法。
 これだけがきっとヴォウに誇れる魔法。

「発脛」

 どこで知ったかは知らない。どこから伝えられたのかも分からない。
 でもこれがヴォウの使える、Eランクであるヴォウによってのみこれを使うことで、たとえAランクとも渡り合えるための技術。

 ただ衝撃を鎧を無視して体内に伝える技術。
 これを応用して、ゾークを殴ったのだ。
 バリアジャケットでさえ無視して相手に衝撃を伝える、究極の魔導師対策の奥義。

 そしてヴォウ・ギルマンはきっとギルマン一族最強の防人である。
 卓逸なる戦闘技術、バリジャケットでさえ無視できる発脛、おそらく彼は魔力がなかろうとも凄まじい防人となれたことは間違いない。
 なぜなら彼の戦い方は寧ろ魔法をなんら一切使わない戦い方なのだ。
 使うとしたらバリアジャケットとデバイスを武器にすることくらいのもの。

 彼は魔法を覚える以前に、魔導師に勝った経験があった。

 ただのツルハシだけを持って、持ち前に技術だけで魔導師に勝ったことがあるのだ。
 ただその際、ツルハシを質量兵器だと言われてしまったが。

 ツルハシは質量兵器にならんだろ。という突っ込みも無視されてしまった。
 だから魔力があった彼はツルハシ型デバイスを作ったわけだ。

 普通のツルハシよりずっと頑丈だし。

 ゆえに最強、ヴォウ・ギルマンは魔力量がEランクでありながらも、ギルマン一族最強の防人でもあったのだった。





 そうして翌日、管理世界にてゾーク・ル・ルシエは逮捕されたことが伝わった。
 それは勿論、ギルマンの皆にも、そしてオージンたちにも。

 そして同日、大怪我を負った藤村修吾がミッドチルダ病院にて入院したことも伝わったのだった。
 その際、修吾は犯人と思わしき人物に手傷を負わせることに成功した模様。
 そのためにリンカーコアを抜き取られることなく戻ってこられたのだった。

 そのこともまたオージンたちに、そしてなのはたちにも、そしてとあるところにて虐殺行為を行っているアークにもまた伝わったのだった。



[19334] 第二十八話 事情聴取
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/19 23:04
 事情説明。

 とりあえずこれが難関なのであった。




第二十八話




 事情聴取はフェイト・T・ハラオウン執務官と八神はやて三等陸佐が行ってくれることにした。
 うわ~い、なんか凄い顔ぶれだよ~。
 
 まあどうするのかが気になるが。

「てなわけでして、えっと俺はキャロの使い魔なわけなんですよー」
「ほー、ふーん」

 うん、調べられたら一発で終わることなのかもしれん。
 もしかしたら使い魔とか守護獣とかの関係を見破る魔法なんてあったりしたらこんな嘘は一発バレだ!
 でも今はこんな嘘でもついとかないと、世も珍しい喋るドラゴンになってまう!
 
 いや、そんなドラゴンいると思うけど、フェンリール・ドラゴンで喋る個体はいないから無理やり使い魔ってことにしとかないと、解剖される可能性だってある。
 今だってあるが、使い魔ということにしておけばその可能性も大幅に減る。

 だから今は使い魔もしくは守護獣ということで押し通すしかない。

 因みにファナムは俺を殺そうとしていたので、ファナムの守護獣ということにしておいては矛盾が出るので却下。
 だからキャロ、嬉しそうに微笑むな。
 そんでファナム、バルムンク握って黒いオーラ出すな。

 しかもその切っ先をキャロに向けるな。

 早速ヤバいことになってきた。
 本当どうにかしてほしい。

 というか八神さん、信じてねーですね。その顔。
 なんか頷き具合も適当ですし。

 とにかく俺がキャロの使い魔ってことで押し通すっきゃねー!

「まあええわ。それ信じたるよって。そんでええなー」
「あ、はい」

 敵いません。けど、ありがとうございます。
 
 ただコレ、ネタにしてなんか脅されるんだろうか。
 
 ああ、今までの二次創作から見て機動六課に入れ、とかありえそうだけど。
 まあそんなことは気にしない方がええかな。

「どっちにしろ、ファナムちゃんの罪はそんな重いもんでもないしな。
 そちら側が起訴せぇへんのやったら、魔法の無許可使用と、管理局のあんま使われとらんのを破壊しただけやってに。
 多分、減給謹慎、そんでもって施設の弁償ぐらいなもんやな」
「ほっ」

 よかったー。
 そんなに重いことにならなくて済んで。

 ここでファナムが重い罪でも着せられてたらどうしようかと思ったよ。
 まあそうなったらそうなったで俺も頑張って協力するんだけどな。

 ああ、俺は管理局の武装局員にはならんけども。
 だって戦うの怖ぇーじゃん!!

「つーわけで反省文、書きや。ファナムちゃん」
「ん」

 あれ? なんか薄くね?
 
 ファナムの反応が薄い感じがする。
 ファナムってもっと明るい娘だったよな。
 まあ仕方ないか。年月は人を変えるし。
 
 それにいくら変わっても俺を好きって想いだけは変わらないでいてくれたから。
 まあ俺が消えてから、好きって想いがあまりにも強く成長しすぎた気もするんだけど。

「それでこれからどうします?」
「んー、そだなー。ミッドチルダ観光、がいいかなぁー」

 後日知ったことなんだけど、ゾークはなんでも捕まったらしい。
 しかも写真で見たけど相当酷いことになってくれたらしい。

 捕まえてくれたのはクリフやフレイア、それにトルテといったギルマン一族の皆で捕まえてきてくれたんだと。
 俺自身の手で叩きのめしかった気もするけど、代わりにやってくれてすっとした気がする。

 ただこのことはファナムには伝えない。
 伝えなたら今更ながらぶっ殺してに行くだろうと心底分かるから。

 せっかくほぼ無罪状態なのに、殺人犯させてたまるものかぁ! って感じだ。
 ファナムが怖いので、絶対これからも伝えないようにしとこう。

 ギルマン一族に戻るのはファナムの謹慎が解けてからだな。
 それからファナムが有給とって、それで一緒にギルマンに戻るとするか。

 皆が受け入れてくれたら、俺がオージンなのだと受け入れてくれたらまたギルマンに住もう。
 ファナムとキャロとフリードと共に。

「キュククー」
「ねぇ、それどういうことなのかな。そこのチビ竜。殺すよ」
「ねぇ、フリード。私たち仲良しだからさ。そんな嘘はやめよ、ね?」

 怖い怖い怖い怖い怖い!
 ヤバい、なんだこの黒いオーラは!
 
 いや、分かってる! 分かってるんだけど、振り向くのが怖ェェェェェェ!!

 後ろを向くな、後ろを向くな、後ろを向くな!

「えっと、は、はやてちゃん。あれ、ファナムちゃん、だよね?」
「あ、う、うん。変身魔法使っとるわけやないし、ファナムちゃん、やよ?」

 あ、そうなんだ。
 テスタロッサ執務官も八神三等陸佐も、ヤンデレモードのファナム知らないんだ。
 あ、遂に認めちゃったよ。ヤンデレモードって。

 いや、そこまで愛してくれるのは嬉しいったら嬉しいんだけどさ。
 
 本当にどうしようか。
 とりあえずファナム、キャロ、フリード。お前ら仲良くしろよ。

 などと無理なのかもしれない要求を、心の中でそっと呟く俺でした。

 まあ今はただ、平穏に、この時があってくれるといいなぁと、そう切実に思う俺だった。

 うん。
 絶対に平穏になってほしい。
 とりあえず神様に轢き殺されたり、管理局員の竜に食い殺されたり、アンチ管理局に心臓を貫かれかけたり、だとかそういう展開になるのだけは止めてほしい!
 お願いだから俺に平穏をください! 仏様、聖王様!

 あ、聖王ってヴィヴィオか。
 あ、でもこの頃ってヴィヴィオいたっけ? 原作の知識が曖昧なのでよく分からん。

 まあオリヴィエ様に祈っとくか。
 ヴィヴィオに祈ったところで、どうこうできると思わんし。
 どうか俺に平穏をください。願わくば神様ぶち殺してください、オリヴィエ様。

「お。そうや。そんでな、キャロちゃん。オージン君。君ら、管理局に入る気あらへんか?」
「へあ?」

 なんか唐突に聞いてきた気が。

「ああ、無論無理やりやないねん。
 ただそういう選択肢があることを教えとーてな。
 給料高い、て他んとこ就職するよりかはええ仕事場思うねんけど」

 おお! すっげぇ良い人だ!
 無理やり人を入れる人じゃねぇんだな! 勘違いしてたよ、俺!
 
 あー、やっぱりそうだよなー。
 ここは現実であって、原作でも二次創作でもなんでもないんだよな。
 そう再確認した俺であった。

 ただ管理局か。そうだなー。

「一応考えてみます」
「わ、私はお父さんと一緒がいいです」
「そうよね。キャロ。お母さんって呼んでいいのよ」
「誰がお母さんですか、鬱陶しい」

 ねぇ、やめて。また黒いオーラ出すのやめて!
 そう口で言えたらどんなに良かっただろうか。

 とりあえず口で言おうとしても、あまりの2人、いや3人のプレッシャーぶりに俺は口が開かない。
 しかも八神三等陸佐も、テスタロッサ執務官も、どっちも3人のプレッシャーをしっかりと感じ取っていて冷や汗を流している。
 俺みたいに微動だにできないわけではないみたいなのは、さすがに歴戦を繰りぬけてきただけはある。というわけか。

 いや、まあ俺も大抵のことにはプレッシャーで動けなくなる、なんてことにはならないと思うんだろうけどさ。

 だってトラックに轢かれ、竜には恐怖で動けない状態で食われ、せっかく勝ったと思った奴には思い切りとどめを刺され――

「おろろろろろろろろろろろろ」
「うわっ、吐きよった!」
「あ、オーちゃん! 袋、袋」
「お父さん、ちょっと待ってください!」
「キュックー!」

 やばい、俺の癖が出たよ。なんか思い出す度に吐いちまう癖が。
 というか死んだ時の記憶が鮮明に浮かび上がってきて、恐怖心からか胃液が逆流してきて。

 いつまで経ってもこの『死』の記憶はなれない。
 寧ろ『死』の記憶があるからこそ、この記憶はより鮮明に俺に恐怖を訴えてくる。

 ふう、でも俺、本当吐きキャラになってきた気がするんだけど、どうせう。
 
 俺は吐きたくて吐いてるんじゃねーですのに、ちくせう!

 持ってきたのはキャロが先で、ファナムは大変悔しそうにしていた。
 なんの勝負だよ。2人とも。

 しかし管理局員か。考えたこともなかったな。

 俺がオージン・ギルマンだった頃は魔力の素養の欠片もない、ただの一般市民だった。
 だから管理局に入るという選択肢すらなく、ただ一族の中でファナムと一緒に暮らしていくという道を選んだけど。
 
 そして俺がフェンリール・ドラゴンになってもそんなことを考える暇もなかった。
 ただ死にたくなくて死にたくなくて、逃げてきた運命だったから。
 その時にキャロと出会って、少しずつだけど世界に心を開けてきた気がするんだよな。

 俺は、ファナムがいたからこそ頑張れた。
 キャロがいたからこそ今までの生活を耐えられた。
 フリードがいてくれて俺を励ましてくれた。

 俺は3人の感謝すべきなんだろうな。
 ありがとう、3人とも。そう心の中で呟いてみる俺だったりする。

 しかし今ではもう逃げる必要もないわけだし、今の俺には魔力資質があるし。
 なによりも俺には無限の魔力にも等しい神域の魔力テンプテーションがある。
 使いこなせればきっと強力な魔導師になれることは間違いないだろう。

 ぶるりっ!

 うわ、よく考えたら管理局に入ったら戦うことになんじゃん!
 それ怖い! 

 戦うことも傷つけることも傷つけられることも痛いことも怖い、怖いことは嫌だ、と思う俺は日本人気質で。

 ああ、やっぱり俺に管理局員無理なんだろうなー、と感じる俺であった。



[19334] 第二十九話 連れ子と婚約者
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/15 09:22
 今はただ平穏を享受したい。
 それだけでいいのだから。




魔に導かれ師 第二十九話




 今、現在、ファナムは謹慎中。
 なんでも局員専用の宿舎ってのがあるため、そこで謹慎中とのことである。

 そして俺とキャロとフリードは現在そこで泊まっている。

「なー、そろそろ仲良くしたらどーだよー」
「うー……」
「ん」

 どうやら少しは黒オーラも収まってきた模様。
 まああれは一時的なものだった、てことなのかな。
 そう信じさせてくれ。

 まああれだ。
 
 あの時は互いに状況が状況だったため、あんな感じに黒オーラが渦巻いていたんだと思う。

 ファナムはようやく俺に会えたという感情からか、俺に対する独占欲が凄まじいことになってたんだと思う。
 それこそ8歳児のキャロにさえ嫉妬を向けるような愛情に。
 でもそれも少しずつ抑えられてきている。
 
 キャロとフリードもファナムには敵視していた。
 まあそれも当然という他ない。
 だって聞いた話によると物凄い大激闘だったらしいじゃないか。

 キャロ&フリードリヒvsファナム

 結果はファナムの勝利だったけれども、大健闘をした。
 だけどもキャロは俺が殺されかけた、ていう状況がある。

 だからファナムのことを必要以上に警戒して敵視していてもおかしくはない。
 
 ただキャロは少しずつだけどその警戒レベルが落ちてきている。
 これから黒オーラが出ることはないだろう。出てもそんなに大したことはない。

 出ること自体が恐ろしいけども。

 ただまあなかなか仲良くできていない。
 出会いが出会いだからなー。

「はあ、せうがない」

 ただまあ、さ――

「オーちゃん、オーちゃん、オーちゃん」
「お父さん」
「キュクルー」

 この状況は――いや、ぶっちゃけ平穏としていていいなとは思います。

 ファナムが後ろから抱きついて、キャロが胡坐をかいている俺の膝に座ってもたれこんで、フリードが俺の頭で寝ている。

 ぶっちゃけ、これは平穏としていい感じだ。

 俺はファナムのことは好きだし、キャロのことも娘だと思ってるから問題もないし、フリードなんて仲の良い竜仲間だ。

 まあ普通は恥ずかしがるところなんだけど、俺は別に恥ずかしがる必要はない。
 だってこれが俺の望んでいた平穏なんだから。
 まあ恥ずかしいけども嬉し恥ずかしってやつだね。

 そのためには徹底的に新聞やら隠して、極力テレビはつけないようにしとかねーと。
 いつゾークの情報が流れてくるか、問題ありすぎる!

 八神三等陸佐にそこらへんは協力してもらっている。
 ゾークのことをあんまりファナムに知られないように。

 あんなの見たら確実にファナムの憎しみがゾークに向いて監獄にいるはずのゾークを嬲り殺しにするつもりに違いない。

 さすがにそれは八神三等陸佐としても困るので、ファナムのもとにそういった情報が来ないようにしている。
 テレビもつけないようにしないと。
 いつどこでファナムのもとにゾークのニュースが流れるか分からないからな。

 幸いファナムは俺と一緒にいることでだらけきっていて、そういったことに頭はあんまり働かないし。

 あれ? よく考えてみたらそのこと言ったら、八神三等陸佐に俺のことばれんじゃね?
 いや、さすがにないよな。うん、ないない。
 いや、でも俺名前オージンだってばれてるし、ファナムが復讐する原因となったのも俺ことオージンの死だし。
 
 あっるぇー? 俺、選択肢間違えたぁ?

 ちくせう! なんで俺、こんなところで抜けているんだ!?

 ばれてませんように! ばれてませんように!
 せめて感じているけどんなこたありえない、ただの偶然だろ、て思ってますように!

 などと俺は一生懸命オリヴィエ様に祈った。
 別にベルカ人じゃないけど、ギルマンはベルカより派生した民族のため。
 まあぶっちゃけベルカとは関係は薄いんですけど。

 あー、こんなんだから俺弱いんだよなー。

 ほぼ無限の魔力あるっていうのに、俺は活かしきれずに負けたからな。

 多分あの戦い慣れていた偽エミヤの男が俺と同じ能力を持っていたら、確実に世界中オワタ見たいな感じの展開になるだろう。
 それだけ俺の持つ能力は恐ろしく――
 そして俺自身、それだけの能力を持っているのに使いこなせていない。

 ただもうこれ以上、戦うなんてことないような日々が待っているといいな。
 そう俺は心の底からそんな平穏を望んでいる。

 ファナムと暮らして、キャロとフリードもいて、それで皆もいて。
 
 たったそれだけの人生だけでいい。

 たったそれだけの平穏でいいから、お願いします、仏様、聖王オリヴィエ様。
 俺は空に祈った。神以外の存在に祈った。

 ぐ~~~

「お、オーちゃん!? ど、どうしたの!?」
「お父さん、お腹空いたんですか!?」
「キュククルー!」

 うおうっ、一斉に起き出した!
 さっきまで眠っていたのに、こういう時だけ早ェェェ!

「待ってて、私が作るから」
「いえいえ、いつもは私がオージンさんの料理を作っているんですよ。
 ですからファナムさんは休んでいても結構です」
「ここは私の家だよ、キャロちゃん。
 だからお客様のキャロちゃんは休んでいてもいいよ」

 丁寧口調だけども微妙に黒オーラが見える展開に。
 まあ黒オーラといってもバチバチ言ってる雷程度のものか。
 
 普通ならこれもなんとかしたいが、さっきまでの状況と比べるとこのくらいは可愛いものだ。
 放っとくことにしとこうかな。

 久しぶりのファナムの料理もいいし、食べ慣れたキャロの料理でもいいから。
 だってどっちの美味しいからさ。ファナムのは推測だけど、十歳の時点でも十分美味しかったから。

「あ、しまった! 食材この前切らしちゃったんだ!」
「え!? 本当ですか!?」

 あー、まあ1人暮らしだったんだし、そこはせうがないとこがじゃーね。
 とは思うが、ファナムは慌てっぱなしだ。

 はぁ、俺はため息をひとつついてちょっと外に。

「んじゃ、俺が食材買ってくるから」
「そ、それじゃ私もついて――」
「いいって。今のうちの風呂入っとけよ。キャロと一緒に。
 作んのはシチューな。お前の作ったシチュー好きだからさ」
「え、う、うん」

 そう言って、俺は出ていく。
 
 少しずつ2人の仲も改善されていく。
 もともと出会い方が最悪だっただけで、それほど相性が悪いわけじゃないんだ。

 ただ最初出会った時は大切な人を殺した奴への復讐を邪魔する相手と大切な人を殺そうとする相手。
 だからこそ仲も最悪だった。

 でもこうやってくっつける機会を与えれば、きっと仲良くなってくれる。
 俺はそう信じているから、こうしてファナムとキャロとフリードと一緒にいさせられる。

 んじゃ、まあシチューの材料買いに行くか。
 ファナムの作ったシチュー好きだし、俺。






Side-Caro

 えっと、私たちは今お風呂にいます。
 フリードと、それからファナムさんと一緒に入っています。

 な、なんか気まずいです。

 ファナムさんも気まずそうにしてますし。

 な、なにか話題を、なにか話題を!

「ね、ねぇ、キャロちゃん」
「は、はひ!」

 突然話しかけられて吃驚しました!
 え、えと、な、なんでしょうか……?

「お父さんのこと、好き?」
「好きです」
 
 これは即答できます。
 だってお父さんは私の大切な人なんですから。
 
 するとファナムさんは――

「私もオーちゃんのこと、好き。
 ねぇ、キャロちゃん。キャロちゃんの好き、てどういうのなの?」

 私の……好き?
 それってどういう……?

 お父さんとして好きなのか、男の人として好きなのか、てことですか?

 私はそう目で訴えると、ファナムさんもそれが通じたのか、コクンッ、と頷く。

 私が、お父さんを好きなのは……。
 
 最初はただお父さんがドラゴンだったから、人間だったのに安心できるようなそんな暖かさを、お父さんから感じたから。
 竜使いの本能としてお父さんの存在を感じ取っていたから。

 私はル・ルシエの一族の皆から追放されて、弱っていた時にお父さんを見つけて。
 それで私は一緒にいたい、これ以上離れたくない。捨てられたくない。て、そう思ってしまった。
 捨てられたくないって。私はまだ拾われてもいなかったのに。
 そういう矛盾した思いがあって。

 あの時はただ寂しかった。
 誰かと一緒にいたかった。

 でもお父さんと過ごしているうちに、誰かとじゃなくて、お父さんと一緒にいたいと思えるようになった。
 本当のお父さんのように。

 最初は「オージンさん」て言ってたけど、今ではちゃんと「お父さん」て言える。
 寧ろ今じゃ「お父さん」て言った方がしっくりくる気がする。
 おかしいな。あの時までは「オージンさん」て言ってたのに。

 私はオージンさんのことが好きで、お父さんのことが大好きで。

 いつまでも一緒にいたいと思って――

「とら、ない、で――」
「――」
「お父さんを、とら、ないで」

 私は不意に涙が出てしまって、咄嗟にそう言ってしまった。

 そうだ。私がお父さんと一緒にいられたのも、お父さんも誰かが一緒にいてほしかったからなんだ。

 お父さんも孤独が嫌いで、私も孤独が嫌いだったから、だからお互いの孤独を癒すために一緒にいたんだ。

 でも今のお父さんは孤独じゃなくて、ファナムさんがいる。
 だからファナムさんと一緒にいれば、もうお父さんは私を構ってくれることなんて――

 ぎゅっ

 私は暖かいなにかに、包まれた。
 お風呂の中だけれども。

「大丈夫。大丈夫だよ。キャロちゃん。
 私はオーちゃんを取り上げたりしないから。
 私もただオーちゃんといたいだけだから」

 なにか、暖かい。
 ああ、こんな暖かさ、どこかで味わったような気がする。
 それはいつの頃だったのかな? 思い出せないほど昔に、そう感じたことがある。

「それにオーちゃんもそんな人じゃないよ。
 オーちゃんはそんなことをしない人だって知ってるでしょ?」

 ああ、私はファナムさんに、教えられた。
 そうだ。お父さんは、そんなことはしない人だって分かっているのに。
 知ってたはずなのに。
 
 私は馬鹿だ。そんなありえもしないことに脅えて――

 でも気持ちがいい。ファナムさんに抱かれて、どこか夢心地がして、確かに気持ちいいって思えて――

「おかあ、さん」
「ん。キャロちゃん」

 私はそう呟いた。
 そうだ、この暖かさは、きっと私が赤ん坊の頃に、私が思い出せない頃に、感覚的に感じていた、そういう母親の温かさだ。

 私は安心してファナムさんに、お母さんに身を寄せた。




Side-Ordin

 シチューの材料を買って帰った。
 ファナムとキャロ、仲良くしているかなー。
 
 悪化してなきゃいいけど。

「ファナムさん、ファナムさん。ほら、一緒に洗いましょ」
「キャロちゃん。お母さん、て呼んでくれないの?」
「あはは、まだ慣れてないんで」

 ……よかった。
 俺が心配する必要もなく、もうすっかり仲良くなっている。

 もともとそんなに相性が悪いわけじゃないんだ。
 一緒にいれば、きっかけさえあれば簡単に打ち解けられる。

 だから一緒に入るように言ったんだから。
 しかしまだお風呂に入ってるのかー。
 さすが女の人。お風呂に入ってる時間が長いな―、俺はそう思っていた。

「ただいまー」
「あ、オーちゃん! オーちゃんも一緒にお風呂、入ろ」
「ぶふぅ」
「あ、お父さんの背中、流しますから。いつものように」
「え? キャロちゃんと入ってたの?」
「キュックルー」

 そんなこんなで言っているが、別に黒いオーラは感じなかった。
 多分冗談みたいなものなんだろうな。

 でも一緒に風呂に入るということは本気みたいである。

 いや、まあキャロとはいつも一緒に入ってたし、ファナムとなんて昔はしょっちゅう一緒だったけど、それって十歳以前の頃の話だぞ。
 十歳の時も入ってたけどさ。

 落ち着け、大丈夫だ。
 別に疚しいことなんかじゃない。

 ぶっちゃけ俺とファナムは恋人だ。うん、間違いない。
 だから間違い起こそうが、一緒にお風呂入ろうが問題ない。

 いや、まあこの7年でファナムが成長したのは分かってる。
 お風呂に入るってことはこの7年で成長した体を見るのが――

 ここで止まるアホがおるかぁぁぁぁぁぁ!!

 だって相手は幼馴染で、しかも恋人で、昔は婚約者で!(今でも有効だと信じてる)
 よし、幼馴染ポジションナイス! 恋人フラグ立ててて良かった!
 
 などと思っていた俺であった。

 結局一緒に入りました。
 うん、目の保養になりますた。

 一家でほのぼのと入るのはいいな。
 平穏でいられた一家であった。



[19334] 第三十話 歌い手
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/16 14:37
 大切な人がいて、ただそれだけで。
 これは罪の証。

 決して許されざる大罪の証。
 ああ、なんて私は浅ましく醜いのだろうか。

 どうして私はこれほどの大罪を犯してでも、どうして――




第三十話




 そこには大勢の管理局員が死んでいた。
 ある者は裂かれ、ある者は潰され、ある者は抉られ、ある者は塵一つ残さず、ある者は焼かれ、ある者は傷一つもなく。
 さまざまな死因の死体が多くあった。

 それを為したのはたった1人の男。
 白いオールバックの髪に紅の外套を纏いし1人の弓兵。
 アーク・ハルシオン。

「まったくもって管理局は傲慢だな。
 なにがロストロギアを回収するだ」

 この男はまたロストロギアを回収しようとした管理局員を排除した模様。
 
 ロストロギアを勝手に回収することは傲慢であると、そう考えている。
 ゆえに殺した。

 数々の宝具によって、その剣で、その弓で、その槍で、その短剣で、その斧で、その刀で、殺した。

 ただの局員程度ではSSSランクの修吾とも渡り合えるアークに敵うはずもない。
 それにアークの魔術には非殺傷設定などという生温いものなど存在しない。

 ゆえにあっさりと殺されてしまった。
 アークの手によってだ。

 するととあるニュースを彼は聞いた。

「ふむ、藤村修吾入院、だと!?
 ふむ、これは行幸だな。やはり傲慢な奴には天罰が下されて然るべきということか」

 アークは修吾のことを傲慢の男として判断している。
 いや、その判断は間違いじゃないけれども。

 そしてオージンについてはすっかりと殺した気でいる。
 まだ生きている、というニュースは流れていないため、オージンが生きていることを知る術は彼にはない。
 まあ刺し穿つ死刺の槍ゲイ・ボルグを喰らったのだ。
 本来ならば死んでいて当然と思っても仕方ないだろう。
 なぜならあの槍の本来の効果は対人ならば絶対に相手を殺す槍なのだから。

「くく、だがこれではまだ足りぬ。
 ならば私自ら天罰を下してやろう。待っていろ」

 アークはただ殺す。
 己の信じる正義のため、その正義を阻む悪を斬る。
 それこそが彼の正義、そのために剣を抜く。

 こうして彼はこの世界から消える。
 
 ただ、その世界は――

 三日後、次元震に飲み込まれて周辺を巻き込み破滅していった。
 その原因はロストロギアがその力を開放したためである。

 ただその世界の人間は苦しみのあまり死んでいった。1人残らず、すべて――












 とある管理外世界。

 そこではある女性が自らに回復魔法をかけていた。

「はぁ、はぁ、御苦労、アヴァロン」
『It will do very,Rinas』(どう致しまして、リナス)

 それは指輪型デバイス、アヴァロン。 

 治療と防御に特化したデバイスである。
 それを彼女は持っている。

 一撃必殺のシャイニングハート、高速連撃のバルディッシュ・ギルガメッシュ、
 強奪能力のヘルアンドへヴン、凍結剣フロスティン、大地の公爵ヘルツォクエアーデ

 それに加えて治療防御特化アヴァロン

 これほどたくさんのデバイスを彼女は所持している。
 しかしそれら全てはただ一度ずつしか出していない。

 そして数々の魔法を駆使する。
 どうして彼女はこれほどまでに数々のデバイスを駆使することができるのか。

 それは謎ともいうべき部分でもあった。

「はぁ、はぁ。相手の実力を見誤りました。
 いくら最強の戦闘機人をコンセプトに作られたとしても、やはりまだ弱い」

 まさかあそこでヘルツォクエアーデの必殺技、テラント・エアート・ベーベンに対抗するほどの破壊力のある砲撃を撃ってくるとは。
 だがそれでもヘルツォクエアーデの破壊力の方が勝った。
 当然だ。全てを破壊力に注ぎ込んだ、愛弟子の必殺技とでもいうべき技なのだから。

「このような調子では、イルタに偉そうなことなどいえませんね」

 相手を見誤った。
 あそこはヘルツォクエアーデで全てを破壊し尽くす地震を起こす必殺技を撃つべき場面ではなかったのだ。
 もっと別の方法で、いくべきだった。

 終わってから別の方法が思いつく。
 これでは駄目だ。戦っている最中に、咄嗟にその場で、思いつかなければ戦闘者としては半人前だ。

 後でいくら思いついたところで後の祭り。
 後のことには活かせるが、それは当たり前のことだ。

 一流はその場で思いつけるからこそ一流なのだから。

「いくら私が最強の魔導師をコンセプトとして作られたとしても、事実私は第三騎士であるということが最強でない証拠ではないですか」

 彼女は確かに最強の魔導師となるべくして作られた存在だ。

 だがそれでも彼女は最強にはなれなかった。
 もっと他に、彼女より遥かに最強と呼ぶに相応しい人物がいたのだから。

 こんなもので最強と呼ぶだなんておこがましいではないか。

 このような調子では、主にも友にも仲間にも弟子にも顔向けができないではないか。
 当然あの女にも顔向けできない。してしまったらそれこそ腹の底から馬鹿にされることは間違いないのだから。

 私はまだ未熟者だ。
 そう心の底から、リナスは感じ取っている。

 最強をコンセプトとして誕生させられた存在は、未だ最強ではなく。
 未だ遥か高みにいるかつての騎士団のメンバーに追い縋ろうとしていた。

 今はただアヴァロンに回復を任せて。

「メリル、後は頼みました……アヴァロン、後は頼みます」
『Yes. Good night,Rinas』(分かりました。良い夢を、リナス)
「ええ、おやすみ」

 今はただこの身を癒すことのみを考えていればいい。
 
 魔導師を、魔導の全てを、魔導文化を滅ぼすのはそれからだ。
 いつかまた必ず滅ぼす、その時まで。

 だから今はただ、休もう。
 この愛しく綺麗な世界を、なにより美しいこの世界を、魔導という騎士を軽く狂わせる力などに滅ぼさせはしない。
 決してこの世界を、アルハザードの二の舞になどはさせない。

 だから今は休もう。
 この罪の証を背負って、必ず果たすから。

 リナスにとって彼女が持つ全てのデバイスは全て罪の証。
 それらのデバイスは彼女にとって罪を体現したもの。

 ゆえにデバイスを見る度に、その罪の償いを果たさなければならない。

 そんな義務はなくとも、強制力はなくとも、罪の意識に囚われた彼女はその役目を果たす。

 だから今は――












Side-とある管理局員

 私は今現在ロストロギアの捜索任務が終了し終わった。
 と、いうよりもそのロストロギアの話自体がガセだったようだ。

 なんでもなんてことはないただのなんの力もないものを、ロストロギアだと偽って、オークションを開いていたそうだ。
 そこには本物のロストロギアなど何一つなく、しかも小悪党だったので、本物のロストロギアを手に入れることも不可能だったのだろう。

 まあだがそれでも罪は罪だ。
 そういうわけで私は詐欺罪という罪でその犯罪者を捕まえ、そいつらを現地の局員に任せた。

 全く、久しぶりのロストロギア捜索任務だというのにまさかガセだったとはな。
 信頼性も高かったのに残念としかいいようがあるまい。

 いや、残念と思ってはいけないか。
 ロストロギアなどない方がいいに決まっている。
 有益なものならばともかく、周りを巻き込んで害悪を撒き散らすようなロストロギアであれば尚更だ。

 だから今回のことはガセでよかったと思っておくこととしよう。
 そうでなければやってられないというものだ。

 さて、この任務も終了したことだし、そろそろ第一管理世界ミッドチルダにでも戻るとするか。
 本局に帰れば、ガセであったことを報告しなおさなければいけない。
 まあガセであることは既にデバイスを通して報告してあるのだが。

 まったくこれからのことを考えると気が重くて重くて仕方がない。

 すると人だかりができていた。
 なんだ? あれは?

「なんだ? 人だかりができているが、どうしたのだ?」
「ああ、旦那。あれですかい? 流れの歌手ですよ。歌が上手いってんで、聞いてるんでさ」

 歌、か。

 ふむ、人だかりができるほど上手い歌とは。
 なるほど。一見、いや一聴の価値はありそうだな。

 どんなものか聴いてみることにしようか。

 私はその人だかりに近づいてみることにする。
 確かにその人だかりでは1人の声が響いてきた。

 ただその声の主はあまりにも高い。
 確実に成人した男ではないだろう。
 きっと子供か、それとも子供と思えるくらい声の高い女か、そのどちらか。

 そういった人物が声を出して歌っていた。
 それと一緒にギターを奏でる音も。

「銀河を舞う天使のささやき♪」

 確かに上手い。
 聴いたことはない歌だが、その歌自体しっかりできている。
 それにこの歌はなんというかしっくりくる感じがくる。
 どうしてしっくり来るのかは分からないが。

 この歌を作った人は凄腕の作曲家というのは違いないな。

 しかも歌と共に流れる、ギターを奏で生まれるメロディは歌と非常にマッチしていて、一体化しているようだ。
 これは確かに優れている歌手であることは間違いない。

 こんなのが流れでやっていたらまず人だかりができていてもおかしくないくらいの腕前であるのは確か。

 そして更にその歌い手は歌を奏で、ギターを弾く。
 
 しかも聴いている人たちは皆静かに聴いている。
 ガヤガヤとした音も出さず、これだけ人数がいるのにしっかりと聴いている証拠か。

 つまりこれはこの歌手はそれほどの歌い手ということの証だろう。

 そして歌の部分は終わり、残りの部分はギターのみ。
 しっかりとギターを弾き、そして最後まで終わらせる。

 そしてギターを弾き終わると同時に、人だかっていた人たちは皆一斉に拍手し始める。
 
「ず、ズラ!? おお、そんじゃ次はオラの自作の歌――」
「おーい、コイツの自作だってよー。んじゃ散るぞー」
「へーい」
「ちょ! いつもいつもオラの自作の歌の番になると帰るのやめるズラー!」

 だがその歌い手が自作の歌を歌おうとすると皆一斉に散り始めた。
 ああ、つまりこの歌い手は歌うのは上手いのだが、作曲するのはへたっぴなんだな、と瞬時に理解できた。

 さっき大声で言った奴もそれを理解しているから、そう言ったのだろう。

 ただ歌い手自身、自作の歌を聴いてもらいたかったようなのだが。

 ただ人だかりも消え始めたし、人だかりに阻まれてあんまりよく見えなかった歌い手を見てみることにしようか。

「うう、なしてオラはいっつもオラの作った奴だけは聴いてくんねーか、不評なんズラー」

 そしてその歌い手の姿を見てみる。
 すると驚いたことにその歌い手はなんと十にも満たない子供だったのだ。
 
 おそらくは六歳くらいの子供、いくら管理世界の就職年齢が低いとは言ってもこの齢で流れの歌い手をやっているとは驚きだ。

 しかもただの子供ではない。

 髪色は金、瞳の色は翡翠色、帽子を深く被っており切れ目が入っている右目の方しかよく見えない。
 しかも顔には刺青を施している。それも若者がよくやるようなものでなく、民族的な刺青をだ。
 だがなによりも注意を惹くのは彼が車椅子であるというところだ。

 まだ六歳くらいの子供が車椅子に座っていて、尚且つギターを弾きながら流れの歌い手をやっているとは。
 
 本当に注意が向いてしまう子だよ。
 これは管理局員として放っておけない気がする。

 やれやれ、私は別に子供が好きじゃないんだがな。
 寧ろこういうのはハラオウン執務官が嬉々としてやってくれることだろうに、面倒な。

「どうしたんだ、坊主? こんなところで1人だなんて。迷子か?」
「ん? も、もしかして残ってくれたズラか!? そ、そっだら聴いてくれズラ!」

 まずい! 目を輝かせている!
 コイツ、捕まったらずっと聴かせるつもりだ!

 そういうオーラが彼の周りにある。

 これは迂闊に捕まってはいけない。
 管理局としての仕事があるのかもしれないが、部署違いということで諦めてもらうとするか。
 こういうのは無視した方が得策だ。

「わ、デバイスから通信がある! 悪いな、俺はこれから仕事なんだ。
 だから歌なんて聴いてられん。そ、それじゃあな!」
「あっ、ちょ、待つズラー!」

 ふう、撒いた撒いた。

 勿論デバイスからの通信やら仕事やらは真っ赤な嘘だ。
 苦しい言い訳だったが、これからもう会うこともない奴に対してなら十分だろうな。
 
 さっきのはどう考えてもばれるに決まってるが、これから会うことに奴にそんなことを思われても痛くも痒くもないというものだ。

 しかし気になることもあるのも確かだ。

 なにせ咄嗟に去ろうとして、そして俺を引き留めようとした彼の目を見たら――

 深く被っていた帽子のせいで見えなかった左目が見えて――



 ――その色が紅だったような気がするなんて

「あるわけない、あるわけない。見間違いだ、見間違い」

 そうだな。こんなところにいるはずもないしな。

 さっさと管理局本部にでも帰るとしようか。

 ああ、そうだ。あのガキんちょのことをハラオウン執務官にでも伝えようか。
 するとすっ飛んで保護しにいくぞ。
 これで俺が仕事しなかった分も、チャラにしてくれるはずだ。

 それに俺みたいな奴に保護されるよか、ハラオウン執務官みたいな美人にでも保護された方が嬉しかろう。
 まああんなガキんちょに大人の魅力って奴が分かるかどうか疑問なのだが。

 そう思って第一管理世界ミッドチルダに帰ろうとした、その矢先のことだった。

 紅い外套を纏った白いオールバックの男、第一級次元犯罪者アーク・ハルシ――

「傲慢な管理局員め。まだこんなところにいたか。
 疾く死ぬがいい。我が正義の剣によってだ!
 I am the bone of my sowrd」

 奴が使うのは希少技能レアスキル複製レプリカ≫。
 それで作り出すのは、全てロストロギア染みたものばかり。
 
 咄嗟に俺はセットアップしようとしたが――

「≪射殺す百頭ナインライヴズ≫」

 高速の九連撃による弓の攻撃により、俺の体は貫かれ――





 管理局員は死んだ。
 アークの射殺す百頭ナインライヴズによって。

 たった一瞬で、セットアップさせる暇すら与えず。

「ふむ、それでも行くか。第一管理世界、ミッドチルダへ」

 向かう。
 虐殺の弓兵、殺戮の紅騎士、歪んだ正義の味方
 アーク・ハルシオンは藤村修吾という男にトドメを刺すため、向かうは第一管理世界ミッドチルダへと向かう。
 起こすのは虐殺か殺戮か。
 いずれにせよ、まともなことを起こすつもりは、確実にない。



[19334] 第三十一話 襲来
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/16 14:36
 それは決して誰にも悟られることなく、ただ歩く。
 
 目の前にいるのに。この第一管理世界ミッドチルダの街中に堂々といる。

 紅の外套を纏いし白いオールバックの男は、だが――




第三十一話




 己が栄光のためでなくフォー・サムワンズ・グローリー

 黒い靄にて自分の姿を隠す、または他人の変装することのできる能力を持った宝具。
 かつての狂戦士の持っていた宝具でもある。

 それはたとえ魔法のものであろうと、この宝具ならばその姿を隠し通すことのできる代物だ。
 ゆえにこそ彼はこの宝具を使用したのである。

 これを使用していれば、たとえ堂々と歩いていても怪しまれない。

「ふふ、しかし怠慢だな。いくら宝具を使っているからとはいえ、私をこんなに簡単に入れてしまうとは。
 やはり管理局では世界は守れない。
 管理局を滅ぼすことこそが世界を救う第一歩となるのだ」

 宝具を使って身を隠している癖にそんなことを言う。

 だが彼にとってはそんなことはどうだっていいのだ。
 どんなことでさえ、自分の都合の良いように事実をすりかえる。
 そんなことは彼にとってしょっちゅうあること。

 だからわざわざそんなことを言う。

 自分にとって都合のいい正義を信じて、ただ歪んだ正義のみを信じて。
 ただ周囲に害悪を撒き散らすだけの悪なのだから。

「ふむ。さて、どうするかな。病院ごと壊れた幻想ブロークン・ファンタズムで吹き飛ばすべきか。
 ああ、いやこれは必要な犠牲だ。仕方あるまい」

 切嗣だって同じようなことをしていたではないか。
 ならば問題はあるまい。

 ああ、大丈夫だ。罪なき人々よ。
 正義のために散って行ったことは決して忘れはしない。
 九を救うための一となってくれ。
 私は君たちのことを決して忘れはしないから。

「ならばまずは奴がどこに入院しているか、探すべきか」

 あの外道ならばきっとどこかで入院している。
 その病院を探すべきだ。

 さすがに手当たり次第に壊れた幻想ブロークン・ファンタズムをするにもいかないからな。

 待っていろ、今すぐ正義の鉄槌をくだして――

「!!」

 そ、そんな馬鹿な!?
 何故だ!? どうして奴が、どうして奴が生きているんだ!?

 私はいるはずのない、あの男の姿を見てしまった。

 そう、原作キャラのキャロを連れ回すロリペドの外道転生者を。
 しかもピンピンとして生きている。

 そんな馬鹿な!?

 奴は確かに刺し穿つ死刺の槍ゲイ・ボルクで殺したはずだ。
 刺し穿つ死刺の槍ゲイ・ボルクは必殺の宝具。
 対人戦では最もその効果を発揮し、その運命から逃れることは絶対にできない、確実に殺すなら最適の宝具だ。

 だがなぜ奴は生きているのだ!?
 確かに、真名を発動させたというのに!

 まさか奴は刺し穿つ死刺の槍ゲイ・ボルクの因果逆転でさえ覆すほどの幸運を持っているというのか!?

 いや、そういうことか……!!
 おのれ! おのれ、外道がぁぁ!!
 幸運ランクを神にでも頼んで上げていたのか!
 
 なんと浅ましい! 自分の実力で戦わず、神にもらった力と幸運とで戦い抜こうなどと!
 私みたいに努力した結果でなく、奴は才能だけを望んだというのか!

 なんと浅ましく醜い奴だ!
 生きているだけでも汚らわしい!

 刺し穿つ死刺の槍ゲイ・ボルクはもう無理だ。
 何故なら奴は幸運ランクが異常に高い。でなければ説明がつかん!
 それこそセイバー並にな。

 今度こそ確実に殺してやる。
 藤村修吾など後回しだ。

 奴は入院している。いつでも殺せる。
 ならば先にコイツを葬ってから、あの傲慢な転生者も殺してくれる。

 それに奴には今キャロ以外にも美しい女性を侍らせている。
 全くもってけしからん奴だ。

 転生者の癖に、女性を作るなどとは。
 催眠術とかでも神からもらったのか! 
 とにかく奴は放ってはおけん。奴をのさばらせてはこの世の害悪にしかならない!

 そう決意した。

 ゆえにこそ私は、確実に奴を殺す。

 アーク・ハルシオンは確実にあの転生者を殺してみせようではないか。
 我が正義の名にかけて! 私が背負ってきた犠牲に賭けてでも!
























Side-Ordin

 ようやくファナムの謹慎が解けました。
 謹慎が解けたことによって、とにかくギルマンの村に帰省することにしました。

「それじゃあ今までありがとうございます」
「ええよ、別に。ほなな、ファナムちゃん」
「はい、ありがとうございます。八神三等陸佐」

 うわ、マジで別人だ! と思ってしまったのも仕方がないと思う。
 
 プライベートではあんなに甘々なのに、仕事時になるとキッチリしてしまうのはどうしてなんだろう?

 まあ公私の差がハッキリしているということでいいのかな? 

 そういうわけで俺とファナムははやてにお礼を言う。
 因みに名字と階級名で言っている。

 さすがに名前で言うほど親しくなってないし、親しくなる必要だってない。
 まあ原作という知識さえなければ、個人的に親しくなっておきたい人ではあるんだけどね。

 個人的に好きになれる人だからなー。
 アニメとかだとあんまり好きになれんかったけど、現実にいると良い人すぎて仲良くなっておきたいと本気で思えた。

 とにかくキャロとフリードを連れての帰省だからな。
 それに問題は俺が受け入れてもらえるかどうかだな。

 なんせ俺の墓あるし、その上俺の墓には立派に俺の死体が埋まってるし。
 ファナムは本能の部分で理解してくれたんだけど、他の皆は分かってくれるかなー、せめて親父と母さんには分かってほしいなー、と悩み続ける俺であった。

「それじゃあ行きましょ。お父さんとファナムさんの故郷に」
「キュクルー」

 キャロとフリードもギルマンの村に帰りたがって――この言い方はおかしいな。行きたがってるが正解だ。
 俺の場合だと帰るが正しいから、うっかり帰るって言ってしまったよ。

 まあ2人とも俺の、俺たちの一族ギルマンに行きたがっている。
 どんなところなのか、気になっているんだろう。

 まあキャロも一族暮らしだったから、きっと一族の皆での生活は受け入れてもらえるだろう。
 ル・ルシエとギルマンという違いはあるし。
 まあこの2つの違いは、ギルマンの方がずっとおおらかで寛容的である、てところだけどな。
 ギルマンはル・ルシエみたいに閉鎖的な一族じゃないってところだな。

「親父、元気にしてるかなー」
「私も村に帰るの久しぶりだなー、ね、オーちゃん」

 うん、やっぱりどう考えても別人だろ、さっきのファナムは。
 と思ってしまう。

 公私の公の状態のファナムがあまりにも凛々しすぎて、あの時は本当にファナムか!?とでも思ってしまったほどだ。
 逆に公私の私の部分だとあまりにも甘えてくるのだが。それこそ犬のように。

 普段は犬に見えてせうがないのはどうなのだろうか?

「そんじゃあ、転送ポート行こうぜ」
「うん♪」
「はい」
「キュクルー!」

 向かうは転送ポート。
 行く先は第12管理世界、ギルマン一族の皆がいる近くの空港へと。

 ちゃんとチケットを買って、後は時間になったらそこへ行けばいいだけだ。

「はい。第12管理世界行きですね、かしこまりました」

 受付の人もちゃんと受け取ってくれた。不備もないようだし。
 
 それじゃあ早く第12管理世界へと行くか。
 俺たちの故郷、ギルマン一族の皆が待っている世界へと――

「I am the bone of my sowrd」
「は――?」

 ぐさっ、矢が突き刺さった。
 それはただの矢でなく、まるで剣を無理やり矢にしたような形の、そして俺はその矢を見たことがある。

 痛みも一瞬だけ感じられなかった。
 いや、五感の全てを、その一瞬だけ感じることができなかった。
 きっとなにがあったのかも理解できていなかったのだろう。

「ぶろーく――」
「バルムンク、喰い潰せ」
『Ja,meister!』

 だが咄嗟に動いたのはファナムだった。
 ファナムはバルムンクですぐさまに突き刺さっている剣を、切り裂いた。
 
 深く深く突き刺さるギリギリのところで叩き斬ったのだ。

 もしあのままファナムが叩き斬ってくれなければ、俺はもっと肩に矢が食い込んでいただろう。
 そして――

「ん・ファンタズム!」

 急激な爆発――

「ぷ、プロテクション!」

 そして俺はその矢を知っていたからこそ、なにをするべきか、本能で理解できた。

 防御魔法プロテクション、これしかない。
 俺はファナムとキャロとフリードを包んで、その矢が爆発する前にプロテクションによるバリアで包み込んだ。

 プロテクションの防御能力は明らかに魔力オーバーなくらいに圧倒的な魔力量で紡がれている。
 だからたとえ壊れた幻想ブロークン・ファンタズムであろうとも、俺の防御魔法を崩すのだけは不可能だ。
 問答無用で魔力で紡がれたものを破壊したり無力化したりする宝具でもない限り。

「ちぃ、運の良い奴め!」

 見たことがある。
 この男は――

 俺を殺そうとした男で、あやうく俺は殺されかけた。
 あいつもまた転生者で――

「お前は次元犯罪者アーク・ハルシオンッ!」

 どうやらファナムも知っているようだ。
 しかも管理局員モードになってるからか、真面目な話かなりヤバい奴だってことになる。

 つまりそこまでヤバい犯罪者だってことか。

 いや、当たり前か。
 コイツ、あんまりにも身勝手な理由で管理局に敵対し、あまつさえ管理局員を殺そうとしていたのだ。
 そんなあいつなら殺人を、それも大量に犯していても不思議じゃない。

 ファナムの反応を見る限り、かなりヤバいことは間違いないんだろうな。
 しかもコイツ、同じ転生者である俺を敵視しているし。

 さっきの矢は偽・螺旋剣カラドボルグⅡ
 不意打ちで俺を突き刺し、内部から壊れた幻想ブロークン・ファンタズムで焼き尽くすつもりだったのか。
 
 だが俺にとっては確かに有効すぎる手段だ。

 俺の防御魔法はおそらくスターライトブレイカーでも防げる一級品。
 いや、寧ろ魔力を無駄使いしすぎるから一級品とは言えないが。

 とにかく大抵のものを防ぐ自信ならある。

 でも内分からの攻撃を防げるものなんかじゃなく、俺は内部からの攻撃に対して防御する手段も方法も魔法だってない。
 ただそのまま焼き尽くされるのを待つだけで死んでしまう。

 ぶるっ、考えるだけでも冷や汗が出てきた。

 でも――

「選択肢を間違えたな。ここは、第一管理世界ミッドチルダ、だぜ」

 そうだ、ここは第一管理世界ミッドチルダ。
 たくさんの管理局員がいる世界だ。

 しかもこの世界にはつい先ほどまで八神三等陸佐がいることまで確認されている。

 確実に彼女か、それとも彼女と同等かそれ以上の管理局員がやってくる。
 しかも犯人が、そこらでも有名な次元犯罪者ともなればそれなりの戦力を送り出してくれるはずだ。

 つまり後は――

「そんなことも考えぬ私とでも思ったのか。
 まったくこれだから無能は困る」

 は? 何を言っているんだ?
 こんなところで騒ぎなんて起こせば――

「まさか、まさか――」
「そう、これから君が来る場所は――我が心象心理世界!」

――I am the bone of my sowrd.
Steal is my body. Fire is my blood.

 固有結界。
 ヤバすぎる! でもそんなことが可能なのか!?
 いや、あの神のことだ! できて当然のものを与えてもおかしくない!

「ファナム! あいつの詠唱を止めなきゃ、ヤバい!」
「うん! オーちゃんを殺そうとした、殺す!」
「フリード……行くよ!」
「キュックー!」

 なんか黒いオーラが見える3人。
 いや、でも今この状況下では頼もしく思えるぞ、その黒いオーラは。

 ファナムはバルムンクをセットアップして剣を向け、キャロは魔法を唱える。

 俺もバスターを展開させる!

「ディバインバスター、十九個! 一斉放射!」
「ケリュケイオン!」
『Boost Up Barret Power』
「キュククー!」
「バルムンク、奴を喰らい潰せ、竜滅、一閃!」

 俺の遠距離攻撃と、ファナムの近接必殺攻撃の同時攻撃。

 奴は詠唱に入っている。
 今のうちに叩くべきだ! 詠唱中はなにもできない、なんてことはコイツにはありえないのかもしれない。
 でも完成させられたらどうしようもなくなる!
 だから完成させる前に、どうにしかしない――

「なっ!?」
「え?」
「きゃっ!?」
「きゅく!?」

 いつの間にか、俺たちは鎖に縛られていた。
 い、いつの間に、いや、この鎖は――

「その通りだよ。この鎖は天の鎖エルキドゥだ」

 詠唱途中なのに喋った!?
 まさか詠唱途中でも喋れるのか!!?
 そんなことしたら最初からやり直し、なんてことにはならないのか!?

 それともそんなデメリットもないのか!?

――I have created over a thousand blades.
Unknown to death.
Nor known to life.

「こん、なものぉ! バインド、ブレイク!」

 どうやらファナムは素早くバインドブレイクでこのエルキドゥを外したみたいだ。

 よし、だったら俺も魔力を引き出し――

 いだだだだだだだだだっ、なんだ!? なんだ!?
 いきなり拘束力が上がって、身動きが、とれ、ない!?

 天の鎖エルキドゥだろ、これ。
 確か天の鎖エルキドゥって、ああ、そうか。

 対神宝具、だからか。
 俺はかつて神に転生しかけたことがある。
 失敗に終わったけど、確かに神の一部を魂から奪ってきたのだ。
 そしてその一部が俺の魂の中に刻まれている。

 だから俺は人の身でありながら、神の存在をその身に有している。
 いうなればヘラクレスやギルガメッシュと同じような半神半人みたいな奴と同じような存在なわけだ。

 だからこそそれゆえに、俺にとって天の鎖エルキドゥは絶対拘束につながる究極の鎖になる。

Have withstood pain to create many weapons.

Yet,those hands will never hold anvthing.

「竜滅、一閃!!」

 神性なんて欠片もないファナムなら、天の鎖エルキドゥなどただ頑丈なだけの鎖に過ぎない。
 すぐにでも外すことが可能だ。

 だからこそ突破できた。
 だから後はすぐにでも倒さなければならない。

 俺の言うことを信じて、あの詠唱が完成してはヤバいということを感じ取っているのだろう。
 だからこそバルムンクを向けて、そしてその剣がアークの頭を叩き斬ろうとした瞬間だった――

――So as pray, “ unlimited blade works”!!

 瞬間、俺とエミヤ風の男はこの世界から消え去った。
 ファナムのバルムンクはそのまま空を切って、大地へとその剣を叩きつけるだけという結果に終わってしまったのだった。

「オー、ちゃん?」
「おとう、さん?」
「キュ、ク?」

 突然として消えたオージンに対し、ただただファナムとキャロとフリードは――



[19334] 第三十二話 世界終焉の演奏
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/16 14:57
 固有結界

 それは術者の心象心理を映しだした世界を展開する最も魔法に近い魔術。
 ゆえにその世界の強さはその者の心象心理によって決定づけられる。

 そしてこの世界、ただ空に浮かぶ巨大な回る歯車と、草木も生えぬ生命の一片のなき大地、
 そして世界を包む灼熱の炎が世界を線引いていて――

 そこには無限の剣が存在していた。
 ありとあらゆる剣がそこには存在していた。
 名剣、聖剣、魔剣、霊剣、神剣、妖刀、数々の剣が存在していた。

 ゆえにそこは剣が在りし世界。
 剣のみしか在らない世界。

 なんと寂しい世界なのか。
 こここそが彼の英霊エミヤの映しだした心象心理の世界、名を――

無限の剣製アンリミテッド・ブレード・ワークス




第三十二話 無限の剣製




 俺はこの世界につれてこられた。
 この世界には、英霊エミヤのような男と、そして俺しかいない。

 いや、コイツは俺しかこの世界に呼ばなかったんだ。
 原作にはそんな能力はあったのか!? 
 型月についてはそんなに詳しくない俺にはよく分からん。

 だがコイツは実在として、俺だけをこの世界に呼び寄せやがった!

 ここはあの英霊エミヤの心象心理の世界。
 確実にこいつの、ではない。

 あいつの心象心理世界なら、こんな世界にはならないはずだ。
 確実に『無限の剣製アンリミテッド・ブレード・ワークス』という固有結界にはなりはしない。

 天の鎖エルキドゥは外れている。
 
 よかった、としかいいようがない。
 不幸中の幸いといったところだ。

 神の肉体の一部を魂に刻んでいる今の俺は、半神半人の状態にも等しい。
 天の鎖エルキドゥなど俺の天敵も同然だ。

 だがなによりも厄介なのは、この世界に俺しかいない。

 つもりコイツの能力が誰にも介入されることのない世界を作り出すのならば――

 俺は俺1人でこの殺人鬼と戦わなきゃいけないってことかよ!?

「ふん。我が心象心理を映しだしたこの固有結界が発動した今、
 貴様にはもう逃げ場などありはしない」

 違うだろうが! 絶対お前の心象心理世界なんかじゃない!
 
 そう突っ込んでやりたいができない。
 今の俺にはコイツを怒らせて逆切れさせてはいけなんだ。

 なんせ前回の戦いでは俺の負けで、俺が死にかけた。
 なんせ一発限りの奇襲にてなんとか追い込めた、程度だった。

 でもあいつには一度だけ魔力ダメージによる気絶を無効化する礼装と、遥か遠き理想郷アヴァロンがある。
 つまりたった一発を当てるのも難しいのに、確実に強力なのを二発以上ぶつけなければいけないのだ。

 そんなの無理ゲーすぎるだろうが!

 しかもここはあいつのホームグラウンドで、その上誰かが助けてくれる可能性だってない。
 
 問題はこの世界が一体いつまで展開可能か。
 展開可能時間を越えて生き延びるしか道はない。

 幸い、あいつは俺にとって天の鎖エルキドゥが効果抜群であるということは知られていない。

 否、俺にとって天の鎖エルキドゥだけが天敵ではない。
 貪り喰らう、神織りし荒縄グレイプニールや竜殺し系統の宝具まで俺の天敵なのだ。

 幸い向こう側は俺の竜の姿を、ドラゴラムと判断してくれている。

 だから俺が竜の姿になるまでは、それらの宝具は使わないだろう。
 そう信じたい。
 でなければ俺の生き残る確率が、絶望的になる。

 というか俺にとって相性が最悪なんじゃないのか。
 この英霊エミヤ風の男は。

 魔獣属性、神性有り、竜因子どころか自身自体が竜であること。
 ああ、宝具出の弱点攻撃を狙うには効果的な属性ばかりが存在している。

 こんなのでどうやって生き延びろ、というのだ!?

 ……でも諦めるわけにはいかない。
 俺は死にたくない。次に死んだら、確実に俺は廃人になる。
 
 俺には大切な人がいるんだ。
 だから決して死ぬわけにはいかない。
 なにがなんでも生き延びてやる。どうやってでも、生き残ってやる。

 だから――

「ディバインバスター展開! 四十八のバスターと、八十九のシューター! GO!」

 俺は四十八のバスターと、八十九のシューターを以てして終わらせる。
 これだけ多いと、単調な命令しか下せないのだが、もともと俺は2つ3つのシューターだろうと複雑な行動はさせられないので、一緒のようなものだ。

 それに周りにはなにもない。
 ゆえに巻き込む心配などはない。

 だがこれでは駄目だ。
 前回、これら全てを避けられてしまったんだから。

 だがあいつはそれらの全てを――

「やれ! 剣群よ!」

 全てこの世界にある剣でねじ伏せる。
 絶世の名剣デュランダルが、
 勝利すべき黄金の剣カリバーンが、
 不滅を滅すハルペーが、
 栄光と破滅の魔剣グラムが、
 赤原猟犬フルスティングが、
 破戒すべき全ての苻ルール・ブレイカーが、
 干将・莫耶が、
 物干し竿が、
 稲妻の剣カラドボルグが、
 村正が、
 災いと破滅呼ぶ黄金の剣ダインスレフが、
 
 数々の剣群が、それら全てを打ち消さんとしていた。
 これほど圧倒的な数のバスターとシューターを放ったのに、それら全てを無意味にするかのように、全てを打ち消した。

 そしてエミヤ風の男はさらにあるものを出した。
 それは見えない剣。刀身のない剣。

 ――違う、あれは!

「≪風王鉄槌ストライク・エア≫!!」
 
 俺が咄嗟に気付いた頃には、俺は咄嗟にラウンドシールドを発生させてその攻撃を防いだ。

 だがそんな馬鹿な!?

 どうしてあいつが、風王鉄槌ストライク・エアを使えるというんだ!?
 いや、そもそも風王結界インビジブル・エア自体、宝具は宝具でも武器系統宝具じゃないんだぞ!
 あれはスキル系宝具に近い!

「くくく、どうしてだか分かるか?
 私はね、ある程度のスキルをアイテムに変換することで使用できるのだよ」

 つまり宝具のスキルが宿ったアイテムを複製――ふざけるな、それはもう既に複製だとか投影だとかレベルじゃない!
 完全オリジナルの誕生じゃないか!!

 それを自慢そうに言ってくる。

 冥土の土産とか、そういうつもりなのか、コイツ!?

「まあさすがに十二の試練ゴッド・ハンドだとか、妄想心音ザバーニーヤだとかは宝具にできんかったがね。
 だがそれでも十分だ。お前のような外道を、殺せるのだからな」

 強すぎる。
 なにがって。
 戦い方も巧い、その上能力だって、自分から礼装を作れるはスキル系宝具を道具系宝具に換えれるはだなんて!
 いくらなんでも能力として強すぎる。

 俺とは段違いの強さだ!

 こんなの相手に勝てるわけ、ないじゃないか。

 それだけの事実に、俺は心が折れそうになる。
 俺のとっておきも、2枚同時の熾天覆う七つの円環ロー・アイアスで防ぐ。
 威力重視のバスター連射も、数々の宝具で相殺させる。

 切り札のスターライトブレイカーをようやく、奇襲を使って追いこんで当てた時には、気絶を無効化する礼装と遥か遠き理想郷アヴァロンで回復。

 勝てるとか、勝てないとかの次元を超えた差だ。

 同じチートでも、ここまで差が出るものなのか。
 ここまで実力に差があるものなのか。

 俺はその事実に打ちのめされていた。
 でも、そんなことに気をとられていたから――

「ほら、気を抜くとは――全く以てぬるい奴だ!」
「――しま――」

 グサリッ

 咄嗟にラウンドシールド、プロテクションを複数に展開。
 全方向に防御を放とうとした。

 でも破戒すべき全ての苻ルール・ブレイカーがプロテクションを打ち砕き――
絶世の名剣デュランダルが俺の腹に穴を開け――

 その上で必滅の黄薔薇ゲイ・ボウが俺を貫いた。

「がっは!」

 あり、えない、組み合わせ、だろ!?
 なんて、ことだ!?

 よりにもよって必滅の黄薔薇ゲイ・ボウにやられるだなんて。
 もうこの槍に貫かれた傷は、あいつを倒すか、必滅の黄薔薇ゲイ・ボウを壊すまで消えることは、ない。

 幸い、貫かれたのは心臓ではなく、腹。
 でもそれでもこのまま放っておけば、危ない。
 
「ふん、そんな心配をする余裕など、貴様にあるわけなかろう」

 いや、それ以前に俺の命自体が危ない。
 こんな必滅の黄薔薇ゲイ・ボウにやられた傷などなくても、このままだと殺される。

 嫌だ、嫌だ、嫌だ、死にたく、ない――

 頭が、真っ白になっていく。
 流れ出ていく血が、俺に考えることすら許してはくれない。
 
 まだ、行くな。また、行くな。
 同じ奴に、同じような目にあわされて、それで終わるつもりなのか!?
 
 だからもう――

 死ぬなんて、嫌だ!

「ば、す、たぁ」

 俺のスキルで、バスターを展開させる。
 こんなささやかな抵抗しかできないけれども、俺は諦めたくない。死にたくない。

 ここであいつを倒せば、倒すことできれば、せめてこの世界を壊して、あの必滅の黄薔薇ゲイ・ボウも壊せれば――

 ――助かるかもしれない。

「無駄だよ。お前はここで死ぬ。
 とどめを刺してやろう! 剣群よ、軍を為して、敵を裂け」

 そこには数々の剣があった。
 いや、剣だけではない。

 槍、槌、鎌、矢、斧、短剣、盾、鎧、道具、数々のものが揃っていた。
 どのようなものであろうとここに存在するものは己にとって最強の武器。

 そしてその最強の武器の全てを、たった1人のために注ぎ込もうとする。

 ゆえに『死』は絶対。避けることはできぬ運命。

「これで終わりだ! アンリミテッド――」

 ああ、もう、無理、なのか……。
 死にたく、ない、なぁ。生きたい、よ。

 ファナムの悲しい顔なんて、見たくないし、させたく、ない。
 キャロだって大声で、泣くん、だろうな。そん、なの嫌だ。
 フリードも、悲しむ、んだろ、うな。
 親父や母さんにも、会うって、約束、した、のに、会えないで、終わる、のか。

 走馬灯のように流れてくる数々の記憶。

「ブレード――」

 ああ、死にたく、ないな。
 どうすれ、ば、いい、んだろ。
 
 世界を壊して、必滅の黄薔薇ゲイ・ボウでさえも壊せば、それ以前に、あいつを殺せば――
 ――俺はきっと助かる。

 壊、せ、ば――

「ぜんぶこわれちゃえ」

 ここには、この世界には俺の敵しかいない。
 俺の敵以外は、俺以外に存在しない。
 ここにあるのは全て、あの男の味方、あの男の世界。
 俺を殺そうとするあの男の――

 なら壊れちゃえ、壊れちゃえ、壊れちゃえ、壊れちゃえ――

 ここにはファナムとキャロもフリードも親父も母さんもトルテもフレイアもクリフもギルマンの皆も――

 俺の敵以外に、なにひとつとして存在していない!

「お、われ――」
「む?」

 ふと呟く。
 もう、なにもかも、壊れろ、なにもかも。

「終わりを、奏でろ――」
「なにをする気は知らんが、もう何をしようとも無駄だ!
 ここにある、全ての剣が貴様を襲い、貴様の全てを――」
「世界の、終わりを、奏でろ、我が竜、≪終焉奏でし滅びの竜ヨルムンガルド≫」

 生み起こすのは、終焉の竜。
 ただ竜を形作るのみ。
 本当の生命を作るのではなく、形だけの竜。

 ああ、星となれ。星の数ほどとなりて、空を、覆え。

 灰色の空でさえも覆い尽くす滅びの竜となれ――

「≪世界終焉の演奏エンド・オブ・ワールド≫」

 生み起こすのは、スターライトブレイカー。
 その数、実に六六六。

 六六六の、スターライトブレイカーが、この世界を覆う。

「なっ!?」

 さあ、奏でろ。ヨルムンガルド。
 咆哮を上げろ。ただこの世界を滅ぼせ。

 こんな世界など、滅ぼしてしまえ――

 魔力で生みだした想像上の竜。
 それは誰の目にも見えなかった。きっと俺の幻覚だったのだろう。

 でもそれでもいい。
 俺の幻覚でいいから、六六六の滅びの星光を操る竜の幻想でいいから――

「エンド・オブ・ワールド」

 全ての宝具をかき消し、世界を打ち壊し、次元震でさえも発生させて――

 ――たった一つの世界を滅ぼした。















Side-Ark

 とある管理外世界

「がはっ、がはぁ! ごふ、はぁ、はぁ!」

 な、なんなのだ!? なんなのだ、あれは!?
 なんだ、あの理不尽な力は!?
 
 世界を滅ぼす魔導ではないか!?
 あいつは世界を破壊されられる力を持っているというのか!?

 あああ、なんてふざけた奴だ!
 世界を滅ぼすだけの力を持とうとしているなどと、ふざけているのか!?
 そうか! 奴はいざとなれば世界を人質にでもするつもりなのか!

 あの時、次元震に巻き込まれてなければどうなっていたか危うかった!
 あのまま数々の星光に焼かれて、そのまま全てを我が剣群も為す術なく、気絶無効化の礼装すらも焼き尽くしてしまうかと思った!
 たった一度しか気絶無効化できん礼装ゆえに!

 体中が熱い! なんという熱さで我が体を焼き尽くす!
 遥か遠き理想郷アヴァロンが全力稼働しているというのに回復が全然追い付かん!
 
 こんな、こんなふざけた力があろうものかぁ!
 あんなふざけたチートなどを貰いおって! それだけ楽がしたいのか、あいつはぁぁ!!

 許せん、許せん、許せん! あの外道は、このアーク・ハルシオンが必ず必ず殺――

 とぅぷっ

 何かの音が響いた気がする。
 それは私の、中に、なにかが入っていく音がする。

「アーク・ハルシオン、第一級次元犯罪者。
 魔導に狂わされた者として最も顕著な男だったな。そう思うだろう、へヴン」
『そだねー。でもコイツのリンカーコア、おかしいよ。なんていうか、リンカーコアじゃないみたい。
 似たようなのならあるんだけどさ』

 この声は、一体何者だ……!?

「どちらにせよ、大いなる力に、魔導に狂わされた者。
 ゆえに、抜き取る。リンカーコアを」

 とぅぷりっ

 そうして突然なにかを抜かれたような音が、する!?

「管理局を悪とするのも自由だと思えばいい。でもあなたのやり方は、自分の力に酔った者の考えだ。
 私はお前のような、力に酔った者を嫌う。
 魔導はこうも簡単に人を狂わせるものなのだな」

 なにを、なにを勝手にほざいている!?
 私が力に酔っているだと!? 魔導が私を狂わせているだと!?
 否、断じて否!!
 
 私は自分の正義のため、この世界を救うがため! だからこそ正義の味方となったのだ!
 多くの者を救うがために!!
 
 リンカーコアを抜いただと!?
 馬鹿め! 私にリンカーコアなどありはせん!
 私が使っているのは魔術! リンカーコアなど必要としない魔術なのだ!

 どこの誰が私のリンカーコアを抜いたかは知らんが、すぐにでも遥か遠き理想郷アヴァロンで回復した後、殺して――

ギチ――

 ?

ギチギチ――

 なんだ? この音は?
 
ギチギチギチギチ――

 どこから、響いてくるのだ、この音は?
 まるで体の奥底から響いてくるかのような、そんな感覚が――

ギチギチギチギチギチギチギチギチ――

「グアアアアアアアアアアアアア!!」

 痛い、痛い、裂けるように痛い!? 
 な、なにが起こった!? なにが起こったと、なにが――!!
 
 痛い痛い痛い痛い、誰か、誰か、助けてくれ、誰かぁぁ!!

 よく、見ると、私の右手、から絶世の名剣デュランダルが生えていた。

「ギアアアアアアア!!」

 あああああああああ!?
 痛い、痛いぞ!?
 なんなのだ、この痛みは!?

 体中から剣が、剣が生えてきている!
 いや、剣だけではなく、数々の宝具が私の中から出てくる。
 
 私の体を食い破っていく!?

 何故だ!? 何故、こうなる!?
 私は、私は正義のために、正義のために戦って、戦ったはずなのに!?
 痛い、痛い、痛い、痛い!?
 
 どうして私がこの、ような、このような目に逢わねばならない!?
 私は、正義の、正義の使徒として、ここに、いるのに!?

 痛い痛い痛い痛い痛い
 
 だれ、でも、いい。
 た、助けて、助けて、助けてくれ!!

「た、ず、げてぐれぇぇぇぇ!!」

ギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチ――








Side-Rinas

「これが、魔導に狂わされた者の末路か。哀れな」
 
 私は今この男の、魔導に狂わされた者の末路を見ている。
 その姿は哀れなものだった。

 強大な魔の力は簡単に人を狂わせていく。
 かつての我が故郷アルハザードも同様に滅んで行った。

 もしも魔導という力などなければ、滅びなかったのかもしれないのに。
 
 いや、たとえなかったとしても一緒なのかもしれない。
 この世界で学んでいるうちに魔導などなくとも滅んだ世界などいくらでもあった。

 滅ぼすのは魔導ではなく、力ということか。
 それも強大な力。

 それは魔導も兵器も同じこと。

 魔導を滅ぼすべきなのだと信じていたのに。
 
 でもこの世界は進化しすぎた。
 きっと魔導によって滅ぼすであろう。
 それはきっとアルハザードの二の舞になる。

「だず、いだ、げで、アアアアアア!!」

 見ているだけでも哀れなり。
 だからせめて、最期にこれくらいのことはしてやろう。
 せめて安らかに眠れ。

「第五騎士クロック・ハーヴェイ。力を貸せ」
『OK! デバイスチェンジ! モード[idea]!』

 そこに現れるのは黒い簡易な杖。
 あまりにも簡易すぎるために大したものではないように思われる。
 でもそれでいい。このイデアは――

「久しいな、イデア。お前のお陰で、私はアルハザードを生き残れた。
 仲間を置いてしまって、私1人だけで生き延びてしまった――」

 感謝すべきところなのだろう。

 でも私などは生き延びるべきではなかったのだ。
 私などよりももっと生き延びるべきお方がいたはずなのに。
 私などよりもっと生き述べるべき若い命があったというのに。

 それら全てを捨ててしまって、私は生き延びてしまった。

 感謝すべきなのか、そうでないのか。
 
 でもせめてイデアには感謝をしておこう。
 イデアにはこれからも仕事があるのだから。

 クロック、お前のことは嫌いだった。
 私がお慕い主とあろうことか――いや、今はそんなことはどうだっていいか。

 今はただ、安らかに眠らせてやれば――

「今はただ眠り眠れ、永久に。凍てつけ――」

 これより使う魔法は究極凍結魔法――

 いかなる凍結魔法よりも遥か上級の魔導、それをこのイデアは使える、否、その持ち主であったクロックは使えた。

 だから――

「ヒドゥン」
『Yes.play [hidden]』

 これから使う大魔導の名は、ヒドゥン。
 時間すらも凍結させてしまう究極の凍結魔法。

 時間凍結魔法ヒドゥン、それは一切の過去・未来・現在、あらゆる時間から干渉されることなく、ただ停滞させる。
 
 安らかに眠れ、第一級次元犯罪者アーク・ハルシオン。

 



 こうしてアークはただ時間が止まった姿で、この管理外世界にて存在していた。
 彼はもう二度とその時計の針を進まない。



[19334] 第三十三話 親
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/16 22:05
 熱い、痛い、頭が真っ白で、よくわかんない




第三十三話




 次元震が確認された。
 そしてそれと同時に、次元の狭間より1人の少年が出てきた。
 数々の火傷の跡と、それ以上に体が衰弱している。それに腹と肩には大きな怪我をしている。

 犯人と思われる男はおそらく『アーク・ハルシオン』。
 あの複製レプリカ希少技能レアスキル使いだと思われる。

 おそらく次元震を起こしたのもあの男なのだろう。

 すぐさまに治療をして治すことにすることにした。
 ついこの前まで入院していた(目覚めてすぐ退院)していたのにまた入院生活になるとは。
 つくつぐこの男もついていない。

「というかこん人、ほんまついとらんなぁ。
 あのアーク・ハルシオンに二度襲われとるなんて。
 ああ、でもそれでも二回生き残っとんのか。
 運がええだけなんか、それともただ単純に生き残れるだけの力があるんか」

 オージンは本当に不幸としかいいようがないほどに運に恵まれていない。
 なぜそれほど不幸なのだ、と思われるくらいに、そして自分でも思っているくらい不幸だ。

 だが他にももっと不幸な人だっているかもしれないし、確実にいる、とは思っているが。
 
 そしてあの殺人鬼として名高いアーク・ハルシオン。
 
 彼はかなりの確率で人を殺す。殺しまくる。
 それも意味の分からない理由でだ。

 とりあえず管理局のことを憎んでいる、または良く思っていない、ということだけは確かだ。

 そして彼のその強さは理不尽な能力を持っている武具であると同時に、それらを扱いこなす戦闘の巧さもまた強い。

 理不尽な思考と同時に理不尽な強さを持っている。

 だからこそ厄介で仕方ない。

 フェイトもまたアークを必死に追っているのは仕方がないといえよう。
 なにせ大量殺人犯なのだから。

 だがオージンはそのアークに二度も狙われ、そして二度も生き残った。
 それは彼がそれほどの実力があるという証拠なのか――

 だがどちらにせよ、いつ死んでいてもおかしくないほどの怪我だったのだ。

 前回の怪我と比べればマシなのかもしれないが、しかしそれでも十分致命傷だった。
 腹に穴が開く、な十分致命傷のレベルではないか。

 とにかく素早い治療のお陰で彼の命は助かった。
 それに彼は人間ではなく竜という知識もあったため、竜を治すのにとっておきの場所を選べることができた。

 ただ問題点としては前回ほど治療スピードは早くないというところか。

 なにせ大型生物を治療する場所に最も適している場所は現在ほぼ破棄されている施設にあったからだ。
 第93研究医療所。
 ファナムの竜滅一閃によって破壊された施設が最も適した場所だったのに。

「そういうわけで入院は延びるかもしれんけど、まあ自業自得ってことでな~」
「う~、そんな~」

 ファナムは悲しんでいる。
 はやてとしてはまだ違和感があるが、その違和感にももう慣れた。

 あのキリッとした凛々しいファナムちゃんはどこ行ったんやろ、と嘆いていたが。
まあ公私の公の部分になれば出てくるので今は気にしていない。

 実際はオージンが酷い目にあうので、自業自得ではないのだが、ファナムが悲しんでいるのは自業自得というところだろう。

 ようやくギルマン一族の皆に会えると思ったらコレなのだから。

 暫くは巨大生物専用治療所で、ドラゴンの姿でいなければならないといったところだ。

 なにせ変身魔法で人間になっているだけなので人間用の治療所へと行っても無駄だし、
巨大生物専用のところでは人間になっていては治療できない。といったものだからだ。

 まあ今は気にしないでおこう、ということになった。

「しっかし、まあどないすっかな~?」

 とりあえずはやて三等陸佐は先のことを考えることにした。
 今はそんなことに構っている暇などない。
 
 今もまだ次元世界中で困っている人たちが大勢いるのだから。

 そういうわけで仕事にとりかかる八神颯三等陸佐であった。











Side-Ordin

「オーちゃん、大丈夫だった!?」
「ぐるるー」(うん、大丈夫)

ドラゴン形態になって治療してもらってます俺。
 よくよく考えたら、巨大な狼みたいなドラゴンを心配しているファナム。
 うわ、傍から見たらシュールじゃね? と思ってしまう。

 そしてドラゴン状態になっている俺は声帯の問題で言葉を話せない。
 シュールな光景ではあるんだが、俺は同時に念話を送っているので会話には問題ない。
 
 まあ傍から見ていたらシュールな光景であることに間違いはないのだが。

 とりあえずあの必滅の黄薔薇ゲイ・ボウは、俺の≪世界終焉の演奏エンド・オブ・ワールド≫の衝撃によって破壊されたか、もしくは次元震で破壊されたかのどちらかだろう。
 現に今の俺は治療できているので助かっている。

 もしあれが壊れていなければ、俺はこのまま腹の怪我が治らず死んでいただろう。
 もしくはアークが死んだかのどっちかだろうな。

 次元震が起こったのは俺のせいじゃない!
 あいつが悪いんだ! あいつが俺を殺そうとするから!
 などと死んだかどうかも分からないけど言い訳してみる。

 俺は誰かの死を背負えるほど強いわけじゃないから。

 俺のせいだと言われても、俺はそれを受け入れられないだろう、きっと。

 あんな奴だったから罪悪感も少なくて済んだし、そもそも死んだかどうかも分からないから今のところは大丈夫なんだろう。

 罪悪感なんて感じる必要なんてないのかもしれない。
 けど感じてしまう俺は小心者なのだな、と思う。

「はい、オージンさん。コレ、料理です」
「キュクルー」
「ぐお!」(お、マジで!)

 俺は顔を上げた。
 四足歩行から原則だから、俺はうつ伏せになって寝ている。
 天井を見ながら眠ることができない状態であるのだ。

 そこにキャロが料理を持ってきてくれた。
 
「む。キャロ、言ってくれたら私が作るのに」
「私は竜使いですよ。竜にとってどんな料理が健康にいいか分かってますから」
「キュックルー」

 まあ確かに今のこの体はドラゴンだ。

 ファナムがいくら体にいい料理を作れるとしてもそれはあくまで人間に対して、だ。
 ドラゴンに対して体にいい料理を作れるわけでも、知っているわけでもない。

 だがキャロは竜使いとして、ドラゴンに対する知識を持っている。
 だからフェンリール・ドラゴンである俺にとってはどんな料理がいいのかも知っているのだ。
 だから入院している間の料理はキャロに頼んでおくことにしよう。

 ファナムには悪いが、キャロの方が俺の体にとっていいものを作ってくれるし。

 そう言われてファナムは悔しそうにしているが。

 あれだけ仲が悪かったのに、良かった良かった。
 心の底から2人の仲が良くなかったことを喜んでいた。

「ぐるぁぁー」(しかし皆と会うのは、当分お預けかー)

 俺としてはギルマン一族の皆に会いたかった。
 久しぶりに皆と会って、あいつらならきっと信じてくれると思って、
 そんで皆でタッチフットをして遊びたかった。

 生きていることは嬉しいけども、そういったことができなくなるのは当分先なのだと思うと残念だ。

 そう思っていると――

「オージン」

 ふと、声が聞こえてくる。
 それは懐かしい声で――

「オージン、あんた随分様変わりしたねー」
「ああ。そうだな。だが、たとえそんな姿になっていても――」
「生きててくれて良かったよ」

 なんで? ここに?

 目の前にいたのは母さんと親父だった。
 なんで、ここに母さんと親父がいるんだろうか?

 それは実に、7年ぶりの、ちょっと老けた母さんと親父がいた。

「ぐぁ」

 咄嗟に声を出してしまった。
 言いたい、けども俺は人の言葉を今は話せない。
 念話でしか会話ができない。

 人間にでも変身すればいいと思われるが、それでも治療にはならない。

 それよりもなんでここにいるのか? そういうことを聞こうとする。
 が、それより早く母さんが答えを言う。

「ファナムちゃんから連絡もらっていたのよ。
 アンタが殺されたドラゴンになって生きてるって。
 信じられなかったんだけどね、一目見て、アンタだってピンと来たよ。
 たく、生きてたんなら生きてたで連絡ぐらい入れなさいよ」

 母さんはあの時と同じように喋ってくれて、親父はいつもの如く黙っていて。

 ああ、子供の頃に戻ってきたみたいで、本当に嬉しかった。

 一目見ただけで分かってくれる。
 ファナムの時もそうだったけども、やっぱり嬉しいものだ。

 今は人型になることは無理だけれど、せめて念話だけでも伝えたい。

≪母さん、親父、ただい、ま≫
「アホ、まだただいまじゃないの」
「ああ、ただいまは、一族に戻ってからだ」

 ああ、そうだよな。
 いつもそうだった。
 
 ただこんないつもの会話、嬉しくて嬉しくて、やっぱり親っていうのは偉大なんだな、とそう思える。

 今はただ両親との再会を喜ぼう。

「……やっぱり敵わないな。お義父さんとお義母さんには」
「義ってついてません? ファナムさん」
「ついてるよー」
「キュククー」
「あはは、違うよー。フリードちゃん。
 フリードちゃんの場合は義はつかないんだよー」

 今はただ再会を喜びたい。

「と、いうか俺たち空気じゃね? というかあの空間黒くね?」
「どどどどど、どうしよう。ここここ、怖いよ!」
「落ち着け、落ち着け。大丈夫だ。あの黒いオーラはあの竜に向いている。怖がることはない。
 ないったらないんだ!」

 おい、見えてるぞ、そこの3人組。
 
 再会喜んでのに空気ぶち壊しにしてんじゃねーよ!
 普通に母さんと親父との再会を喜ばせろ。ギャグみたいな展開すな。

「てかマジでドラゴンになってたんだなー。微妙に信じらんね」
「ここここ、怖くない!? なんかあのドラゴン、こここ怖いよ!」
「なんであの人たちは信じられるんだ、ファナム含めて」

 お前ら三人は俺がドラゴンになってること知ってるけど信じてないのかよ。
 いや、まあそれが普通なんだけど。

 母さんと親父は親の本能で分かってくれた、それはありがたいけど。
 ファナムに至っては雌の本能でかぎ分けたとか言ってた。それは怖いよ。

 まあいいや、そこら辺はまあ信じてくれるほかないか。

≪あんがと、ファナム≫
「うん、どう致しまして」

 俺はファナムにお礼を言うのだった。
 俺は久しぶりの両親と、親友たちの再会に喜ぶのだった。
 
 というか俺が生きててドラゴンになってること、知ってるのなお前ら。
 多分帰る時にファナムが伝えてくれたんだろうけど。



[19334] 第三十四話 ギルマン式タッチフット
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/16 22:46
 あれから二カ月経った。
 そして現在ではギルマン一族の皆で遊んでいた。




第三十四話




「へい、パス! おらぁぁ!」
「任せろ! フォーム・ドラゴン!」
「それ、反則だろうぉぉが!!」
「は! 変身魔法解いたら駄目ってルールはないんだぜ!」

 タッチフットやらかしてます。
 というかギルマン一族の皆にも一応理解を示してもらえ、なんとかなりました。

 そして昔一族でタッチフットやってたメンバー集めて遊んでます。

 自重なんぞしねーがなぁぁ!!

「たた、タッチ」
「あ」
「でかくなったらタッチされやすくなんのは当然だな! あっはっは!」

 しまったぁぁぁぁぁぁぁ!!
 ドラゴンになると体がでかくなって、その分タッチされやすくなるなった!
  
 くそ! これは盲点だった!

「ちぃ! こうなったら……ファナム、全力全開で奪い取れぇぇぇ!!」
「うん! 分かったよ、オーちゃん!」
「おおおい! 来たぞ! 最悪の女神が、き、へぶらぁぁぁ!」

 訳のわからん展開になってきた。
 しかしファナムが仲間になってくれてありがたいぜ。

 ファナムの運動能力は既にチーム一だ。
 しかも魔法禁止なんてルールなんざねぇ。

 まあさすがにデバイスは禁止だし、直接攻撃系なんてものは禁止だが。

 さっきのも高速移動を施してタックルして奪ったんだよなぁ。
 
 既にそれはアメフトなんじゃ、て言うかもしれないが、一応タッチフットだ。
 安全性なんぞこれっぽっちもねぇがな!
 というかこのスリルが懐かしいと言えば懐かしい。

 あまりにもカオスすぎて現状がどうなっているのか分からんが。

「畜生! ファナム、強すぎるだろ!」
「というかオージンの野郎! この前まで魔法使えなかった癖に、生意気な!」
「ふはははははははっ、どうだ、羨ましかろう!
 俺はタッチフットでは手を抜かねぇタイプだぞ!」

 大人げなく全力で魔法使ってます。
 ラウンドシールドで防御しながら点数ゲットしました。

 まあすぐに点数を奪い返されましたが。

「甘いな! オージン、お前、魔法を手に入れて頭が緩くなったんじゃないのか?」
「くそ!」

 確かにクリフの言う通りかもしれない。
 今の俺は魔法を使ってごり押しができるようになったから頭を使う必要性がなくなっていた。
 しかもタッチフットをするのなんて久しぶりだ。

 だから作戦を考えるのが昔より弱くなっている。

 それに比べてクリフの出す作戦は優秀だ。

 しかもトルテ、フレイアは向こう側にいる。

 だがこっちにはファナムがいるんだ。
 最終兵器のファナムならば最強でいける!

 しかしいっつも俺、ファナムと一緒のチームだな。
 じゃんけんする際、いつも俺の方向ばっか見てるけども。
 あれ? もしかして俺の手見てから判断してるのか、ファナム。

「あらあら、元気でやってるわねー」
「え、えっと、これが、遊び、ですか?」

 因みにキャロは見学中。
 母さんと一緒に見学している模様。

 ただ俺たちのタッチフットを見て呆然としている様子である。

「ええ、そうよ。一昔前まではしょっちゅうこんな激しいことして遊んでたの」

 ああ、懐かしいな。と感じる。
 
 俺がドラゴンになるまではこういう風にタッチフットで遊んでいた。
 魔法あり、作戦あり、外道ありのなんでもありルール、タッチフットだ。
 気絶者、怪我人がよく出てたなー、としみじみ思う。

 俺たちの世代はそのお陰か、たくましく育っているとのこと。

 俺が生きていることをすぐに受け入れてくれた村の皆。
 いや、すぐには受け入れてもらえなかったけれど、なんとか受け入れてもらえた。
 いや、村の皆に信じてもらえた。

 ここの村の人たちはおおらかで寛容的で、でもしっかりとした優しさと強かさがある。

 だから俺が竜となって生き延びている、ということを信じてもらえたんだろう。
 俺は本当にこの村で生まれて良かった、と心の底から思っている。

「いや、あの激しすぎませんか? それにお父さんのキャラもすごく変わってますし」
「キュクルー」
「童心に帰ってるのよ。オージンは」

 因みに村の皆はキャロのことを好意的に受け入れてもらっている。
 いつの日か、キャロ・ル・ルシエはキャロ・ギルマンになるかもしれないな、と思える。

 というかキャロのこと紹介した日には、

「このロリコンがぁぁっぁぁぁ! ファナムちゃんを放ってぇぇぇ!」
「お前、この子紹介して! なぁなぁ、いいじゃん、歳の差くらい!」

 とかいう親友がいたのでぶっ飛ばしたり――

「遂に子供作りやがった! 皆に報告せな!」
「ファナムとの間に子供生みよったでー、オージンのやつー!!」
「おいおい、オージンの奴、ファナムを無理やり襲って孕ませたんだって!」

 とかいう奴もいたので、一番最後の奴を問答無用でドラゴンモードで潰したり――
 いや、ファナム。そこで顔赤らめない。
 「オーちゃんなら、いいよ」とか言うのやめてぇぇぇぇ!

 嬉しいけど、嬉しいけどさぁぁぁぁぁ!!

「おいおい、誰の子だ? ん? まさかファナムちゃんとは違う子じゃあねぇよなぁ」
「ええ、マジかよ! 村の皆に知らせねば!」
「オージンのやつ、浮気しよったでぇぇぇぇぇ!」
「しかもファナムちゃんに隠れてやってるとか!」

 俺の命の危機が危ないので、問答無用全力全開エンド・オブ・ワールド(超縮小版)で潰してやった。
 はぁ、はぁ、あれは危なかった。
 え? なんでファナム、バルムンク持って黒いオーラを――

 ちょ、ちょっと待て、ファナム!
 いないから! いもしない浮気相手を探しに行くのやめろぉぉぉぉぉ!!

 と、このままでは辻斬りが起きそうだったのを必死に止めて。

 なんなんだぁぁぁぁ、この一族はぁぁぁぁぁ!
 ノリ良すぎだろぉがぁぁぁぁぁ!!

 と、この村がいかにフランクか、ということを再確認した俺だった。

 まああんな暴力あり、魔法あり、作戦あり、外道ありの鬼ルールタッチフットが流行るぐらいだしな~。
 もうこれくらいいいか。
 と、俺はギルマンに帰ってきたことを実感していたのだった。

 そんで皆で久しぶりのタッチフットをやっていたわけなんだが――

「うおおおおおお、喰らえ! 発・脛!」
「ぶべらぁぁぁぁぁ!!」

 うおおお、敵が1人ぶっ飛んだ!
 というかあいつ、魔法使えなったんじゃ!?

「ふはははは、ヴォウさんに必死に教えてもらって覚えたんだぜ! オージン!」
「うおおお、ナイスだ! て、親父、んなの使えんの!?」
「気付いてなかったんかい!」

 などと自分の仲間からツッコミを貰った。
 てか、ええええ!? ここ、魔法世界なのに親父、発脛使えたのかよ!?
 そのことに驚きまくりだよ。

「てか、あそこはタッチでいいだろ! わざわざ発脛使うなよ!」
「甘くなったなぁ、クリフ。このタッチフットのルールを忘れたのか! 
 勝てばいいのだよ、勝てば!」
「その通りだぜ! 覚悟しろ、クリフ!」
「言いだしっぺのお前がルール捻じ曲げてどうすんだぁぁぁ!!」

 よし、親父から発脛使える奴、よくぞ言った!
 
 そしてクリフ、あーあー、何言ってるかよく聞こえんなー?
 
 ルールなど幾らでも変えるものなのだよ。ふふふ。
 というかお前も自分が有利になるのならばいくらでもルールを変える同類の癖によく言えたもんだな。
 まあ俺もこっちが不利になるルールなら文句言う同類だけどな!

「と、いう、か、だれか、こっち心配、しろ」

 という声も響いたが無視された。

「ちぃ! トルテ、やれ!」
「う、うん」

 おお、上に投げやがったな。

「甘く見たな! 今の俺のジャンプ力をがががががががが!」
 
 しまった! これはトルテの魔力変換資質『電気』によってボールに電気を纏わせたコンボ!
 しま――

「ぬははははは! とっらーい!」
「うわぁぁぁぁ、フレイアに入れられた!」

 しまった! あそこは時間を待って、電気が霧散してからキャッチするべきだったぁぁぁ!!

「……カオスすぎます」
「まあそれがこのタッチフットだからねー」
「キュクー」

 あまりにもカオスなタッチフットを見て、茫然としているキャロとフリードであった。
 母さんはこのカオスなタッチフットを久しぶりに見たとかで喜んでいた。

「というか本当にキャラ変わってません? お父さん」

 俺は遊びに手は一切抜かないからな!
 というわけで俺は我を忘れて遊びまくっていたのだった。
 そう、子供の頃のように。

 しかし本当、ギルマンタッチフットはカオスだよな~、と終わった後に感じるのだった。
 まあここのギルマン一族があまりにもおおらかで寛容的すぎるからか。とも再確認する俺であった。

 久しぶりのタッチフットは、うん、楽しい。
 特にこのギルマン一族の皆でやるタッチフットは。
 
 こういったものが楽しいのだと、こういったものが平穏なのだと思えるぐらい――

 本当に楽しい日々だ。俺はそう実感していた。

 その頃、親父はツルハシで獲物を狩っていた。
 というか発脛使って生きたまま捕獲していた。

 ああ、いつも通りだ。
 あの頃の、いつも通りで、帰ってきたのだと、実感した。
 ここは7年前のあの頃と変わらずにいて――



[19334] 第三十五話 家族会議
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/18 00:59
 オージン一家会議

 そう、彼らはすっかりと忘れていた。
 一族の皆で遊びことに耽っていて、会議をすることを忘れていた。
 
 そう、それは――




第三十五話




 えー、オージンです。
 この間、≪オージン・ギルマン≫に復帰することができました。
 うん、やっぱりギルマンの名字は必要だよね。
 
 一族の皆で遊ぶのも大変楽しかった。

 ただまあ皆、それぞれきっちりと仕事をしている。

 狩人として頑張っている人もいれば、防人としてその魔導の腕を誇っている人もいる。
 それに農耕を行って村を手伝っている人もいる。

 それに外に就職した人もいるし、管理局に入った人もいる。

「それじゃあ俺ら、管理局に行くわ。丁度休暇も終わったしな」
「それじゃあな」
「ふふ、二人とも、また」

 などといって3人とも帰った。

 トルテとクリフは管理局の事務局員として入っていて、フレイアは武装局員として入っているらしい。
 ああ、そういえば3人とも管理局に就職していたんだな、と改めて感じていた。

 そして――

「ファナムも管理局員だった」

 管理局は高ランクの魔導師にとっては給料のいい、最高の就職口だ。

 しかもファナムなんてSランクの魔導師ゆえにそれこそかなりの高給取りだ。

 特に魔獣退治を専門としていて、ついた渾名が≪竜滅姫≫。
 うお、ブルっと来た。
 
 あのまま俺がオージンだって理解してくれなかったらかなりヤバかったんだろうな。
 などということを改めて感じていた俺であった。

 それほどファナムの俺に対する想いが強かったということか。

「と、いうわけで第一回オージン一家会議ー」
「ドンドンパフパフー」
 
 よし、ナイスファナム。ノリがいいぜ。
 
 因みにこの会議の参加者は全部で6人、いや、5人と1匹。
 俺、ファナム、キャロ、フリード、母さん、親父の5人と1匹でお送りします。

「で、議題なんだけど、これからどうするか。というものです」

 とりあえず俺が司会になってみる。
 まあ現状を理解しているの、俺くらいだろうし。
 ああ、そういえば母さんと親父も多分理解くらいはしてくれてはいるんだろう、とは思うけどさ。

 とにかく議題が議題だ。
 しっかり真面目に考えないと。

 いや、しかし仕方ないでしょーに。
 とは言い訳させてくれませんか?

 ギルマン一族と皆で遊ぶのがあまりにも懐かしくて、羽目を外しすぎちゃいました。
 そのせいでこのオージン一家会議をすることなく、ただタッチフットで遊びまくったという結果に陥ってしまったのである。

 このままではまずい、ということで早速この会議を開いたのだ。

 それにファナムの休暇もそろそろ切れる頃だ。
 それまでにこれからのことをしっかり考えておかないと。
 そういうわけで開かれたのがこのオージン一家会議なのである。

「でも何を会議するの?」

 これからのこと、と言われてもピンと来ないらしい。

 まあなによりも出す話題としては――

「まあファナムが管理局にこのままいるのか、どうか、だな」

 それに俺自身も管理局、いや八神三等陸佐にスカウトされている身である。
 管理局のこともしっかり考えておきたいところだ。

 まずファナムの目的としての復讐はもうする必要はない。
 なにせとっくの昔にその対象は死んでいて、しかもその体は俺が憑依しているからだ。

 だからもう復讐を目的として、管理局にいる必要などない。

「考えたことなかったな。あの時は頭が復讐でいっぱいだったから」

 そのせいで管理局で無茶苦茶やってたんだな、とは思ってしまう。

 相手がドラゴンと聞けばなによりも優先して真っ先に殺戮しにいく。
 だからこそ≪竜滅姫≫という渾名をつけられた。

 なによりも真っ先に竜を殺す者として――

 ただドラゴンが憎かった。
 だからこそこうして竜滅のための技術を磨いてきていた。

 だがその必要性もなくなった。
 だから管理局にいる必要なんてない。

 でもこれからのことなんて考えていなかったファナム。
 ただ仇を討つ、復讐する、それだけのことしか考えていなかったから。
 
 だからファナムにとってこれからを想像するのは難しいらしい。

 とにかく――

「私はオーちゃんのお嫁さんだから」

 これだけは決定事項らしい。
 いや、まあ俺も嬉しいし、俺としても決定事項だからいいけども。

 まあそれはそれとして――

「このまま管理局を続けるのか、どうなのか。が議題なんだよな。
 俺的にまず管理局に入るのは無理だけどな」

 俺は人を傷つけるのは苦手な部類だし、そもそも戦うのが怖い。
 命に危機が迫ればなんとか戦えるが、しかし自分からそんなに関わりに行くのが怖い。

 いや、さすがに目の前で盗賊行為とか犯罪行為とかやってたら、人の命が危なそうだったら咄嗟に手を出すけどさ。

 そのお陰でキャロを助けることができたし。
 そのせいで俺はあの紅の外套の男、確か名前はアークだったけ? この前教えてもらった。
 そいつに殺されかけたんだけどさ。

 だから武装局員になるのは無理なんだってそう理解している。
 武装局員にはなりたくないなぁ~、と。

 ならばもう事務局員とか、魔法に関係のないものでやれ。と思う方もいらっしゃるでしょう。
 でも駄目なんだよー!!
 
 そもそも俺はマルチタスク無理だし、頭なんてよくねぇぇ!
 確実に平の事務局員がせいぜいだろーなー!

 ならば専業主夫、という手もあるが……。
 無理です、俺には家事なんてなんら一切できません。
 料理無理、掃除無理、洗濯はある程度できる程度。
 うん、こんなんで主夫とか不可能だろ。

 え? ちょっと待って?
 それじゃあつまり俺って――ヒモ?

「ヤバい! それは嫌だ!」

 このままだと俺、ヒモになりかねない!
 それは困る、というか個人的にものすごく嫌だ!

 せめてなにか手に職を持ちたいなぁ、とは思うものだ。

「そんな、私はオーちゃんがいてくれるだけでいいから」

 うん、それ絶対ヒモだよ。
 いろいろと言ってるが、それはヒモが言われるセリフなんだよ~!!

「と、いうよりもオージン、お前はどうやって生活していたのだ?」

 ここで親父からの質問がきた。

 まあ考えれば分かる通り、仕事がないのにどうやって生きてきたのかと尋ねている。
 まあ俺とキャロならサバイバル生活もできるんだろうけど、それはしなかった。
 さすがにベッドの上で寝たいよ。

「ん、ああ。俺の鱗売ってた」

 フェンリール・ドラゴンは凶暴な竜ではあるが、その鱗は貴重なものであるらしい。
 こんなすぐ生えてくるものが貴重とか言われてもピンとこないが。

 そういうわけですぐ生えてくる貴重らしい俺の鱗を売って、それを生活費に回していたのである。

「そうだよ。それに働かなくても私が稼ぐから!」
「ヒモの理論だから」

 ず~ん、と沈んでく。
 ああ、仕事できないってこんだけも気分を憂鬱にさせるものなのか。

 というかファナム、お前は気付いてないかもしれないがそれは俺を傷つける言葉にしかならない。

 せめて家事さえできればよかったんだが、んなこたぁ俺にもできない。

「ギルマンで暮らせばいいのかな~」
「仕事ないぞ」
「ああ、そう」

 ギルマン一族で仕事はもうないらしい。
 こういった小さな村での仕事といったら力仕事か専門職か、それとも魔法職かの3つしかない。
 
 力仕事ならできるかもしれんが、これはいっぱいいるのでそんな要らない。
 専門職なんて小さい頃から修行しないと無理だから却下。

 残るは魔法職なのだが。

「そもそも戦うのが苦手なお前にできるのか?」

 うぐっ!?
 
 ぶっちゃけこの村の魔法職といったら、狩人か防人かのどちらかしかない!

 いや、でも狩りならなんとかできるし、こんな辺鄙なところを襲ってくる奴なんて滅多にいないしな。

 それにいくら戦うのが嫌な俺だって故郷が襲われれば戦いに加わる。
 俺の大切な場所を壊されたくなんてないのだから。

 だからこのギルマンの村で防人として生きていくのもいいかな、とは思う。

「それじゃあ私もギルマンに住もうかな。
 私はオーちゃんといるね」
「そーだなー」

 まず管理局にいるとトラブルに巻き込まれそうな気がする。

 しかしそれがいつだったのか忘れてきちまっている。
 あっと多分2,3,4,5、分からん! いつなのか分からん!
 まあそのくらいの歳に確か事件が起こるんだったよな。

 もう随分昔のことだから記憶が霞んできている。
 すっかりと事件の内容を忘れてきている。

 こんなことならメモしときゃよかったかな……?

 しかし俺としては確実になにかもう一回事件が起きることだけは覚えている。
 そして怖い展開になっていたことを思い出す。

 えっと『魔王』がぶち抜きぶっ壊し超展開、
 死神がホームランバットでかっ飛ばし、
 新人ども、処刑されまくる。

 ……あれ? カオスすぎね?

 そんなことを思ったStrikerS編を思い出している俺であった。

 間違いであってほしいなぁ~、とは思ったりしていた。

「管理局にいるのはちょっと遠慮したいな~」

 俺のスキルのこともあるし、なにより事件は避けたい。

 が、これを正直に言うわけにもいかないので、管理局にはなるべくいたくないと言う。
 管理局にいたらトラブルに巻き込まれそうだし。

 俺としてはギルマンの村で皆とほのぼの平穏に暮らしたい。
 と、そういうことを伝える。

 あれ? これ建前として言ったけども、本音もこれだね。
 実際本音だね、この建前。
 なら本当のことだし別にいいか。

 と、言った建前は実際は本音だった件について。
 まあそれなら良かった良かったという風になっている。

「よし、こうなったらもうギルマンで暮らそうぜ」

 ここでなら俺はヒモになりゃしねぇ!
 
 うん、防人にでもなればいいし……。
 あれ? なれっかな、俺に?

 それにファナムだって嬉しそうだし。

「うん、私もオーちゃんと一緒にいたい♪」
「それが一番ですね」
「キュクルー」

 うし、満場一致で決まった。
 というかコイツら、結局俺に決定権譲りやがったよ。
 寧ろ俺の決定以外受け付けないってか、ハハハ……
 あれ? 冗談じゃなくて、マジだ、コイツら。

「あ、でも一応引き継ぎとかあるしな。
 暫くは辞められないかもしれない。有給休暇ならできるけど」

 曰くかなり休暇をとってないらしい。
 いや、まあ休暇をとっている暇があるのなら、一匹でも多く竜を滅そうとしていたらしい。

 そのせいで人事部泣かせの1人として有名であったのだ。
 この間、長期休暇を願い出た時にはかなり喜ばれていたとのこと。

 まあその長期休暇も今日で終わりとのこと。

 まあそれでもまだ有給は残っているのだが、これ以上休むのは仕事の都合上難しいらしい。
 それにすぐに辞めるのも難しいらしい。

 まあなんせファナムはSランク魔導師の上に、エース級の魔導師でもある。

 そうそう簡単に辞めることができるとは思えない。
 
 辞めるにしてもいろいろと期間というか、そんなものがあるらしい。
 その間もしっかりと仕事をこなさなきゃならないため、すぐに管理局を辞めるわけにもいかないのだ。

 それに向こう側も必死になって引き留めてくるだろう。
 まあそれでもファナムならキッパリと断るのだろうが。

 だがそうなると第二第三のゾークが現れてくるかもしれない。
 そういう恐怖があるのだ。

 まあ俺の場合、今回は魔力があるために前みたいな強行突破なんてことはないだろう。
 でも今の俺は使い魔の竜という身分だし、もしかしたらスカウトに出るなんてことにもなりかねない。
 
 もしかしたらどこぞの誰かが浚いにくるかもしれないし……それはないか。

 ああ、杞憂なことまで考え始めてきた。
 それほどまで追いつめられて、はないんだけど難しい問題であることには違いない。

「それなら話は簡単じゃない。
 しばらくあんた、管理局でファナムちゃんとこでヒモやってな。
 んでそこの生活気にいったらそこでずっと生活、気に入らなかったら辞めてファナムちゃんと来ればいいじゃない」
「なんで母さんが決めんだ。いや、まあそれでいいんだけどさ」

 結局母さんが取り仕切って決めてしまった。
 いや、まあ誰が決めたっていいんだろうけど。結局は俺が判断を下すんだし。

 しかも母さんが決定した内容は概ねそれでいいことだし。

 でもだからってヒモってのはな~、と男のプライドを刺激されてしまう俺であった。

「大丈夫だよ! 私なら一家全員を養えるよ!」
「はい、私も家事ならすっかり大得意なので、家のことは任せてください!」
「キュクルー!」
「嬉しい、嬉しいんだけどさ、複雑だよ」

 という感じで落ち込む俺であった。

 いや、まあお前らのさ、心は嬉しいんだよ。

 ただな。結局ヒモであるという事実からは逃げられない。
 というか仕事も駄目、家事も駄目。あれ? 俺、駄目人間?

 などという感じで嘆く俺だった。

「というか親父、ロキに発脛とやら教えたって聞いたんだけど」

 というよく覚えられたな、ロキ。
 あいつ、確か魔力持ってなかったんだが――

 しかし強くなったもんだな。
 本当強くなったよ。

 魔力を持たなくても強くなれる。
 それをあいつは証明してくれた。

 俺やクリフの憧れに、魔力のない人たちの標となってくれた。

 俺にはそんなのは無理だ。
 魔力がなかったらそんなの諦めてる。というかなかった時代は諦めてた。

 ロキ、お前は本当に強くなったよ。

 ――だからタッチフット中に発脛で俺を攻撃すんの辞めろ。
 何度俺が吐きまくって、試合中にファナムが暴走したと思っているんだ!?

「ああ、あれは酷かった」

 まあ俺もファナムが暴走した時には煽りまくっていたけど。

 タッチフットは人を狂わせる。
 タッチフットの熱気は人を狂わせる魔力を持っている、そんなことを実感させられた。

「ああ、教えてくれと請われれば教えるぞ。
 なんならお前にも教えてやりたい、が」
「え? なに?」
「お前は小さい頃から痛いのが嫌だとか、しんどいのが嫌だとか言ってたではないか。
 お前では訓練に耐えられんと思って、教えるのはやめておいたんだ。
 やる気があるのなら今からでも遅くはないが」
「ああ、無理」

 そもそも俺、接近して戦うタイプじゃないし。
 戦うとしてもそんな小技じゅなくて、ドラゴンの体重で押し潰す程度だし。
 それでも無理なら魔力量で押し潰す戦い方だし。

 まるっきし武術とは正反対の戦い方だ。
 
 武術は最小で最大の効果を、を基本としている。

 だが俺の場合はまるっきり逆。
 最大の魔力で最小の効果を、が基本だ。

 幾ら10を100にするのと1000を100にする。
 使用する力は段違いでも、発揮する効果は一緒だ。
 
 そして俺の場合は丸っきり違う。
 100000の力で5000を発揮する。
 圧倒的な魔力を以てして圧倒的な効果を発揮する。

 そういう戦い方、まるっきりの戦闘能力なんて皆無の戦い方だ。

 だから拒否しておく。
 親父も無理強いするつもりはなかったので、というか諦めていた様子で、それ以上言うことはなかった。

 曰く、やる気のない者に教えても、覚えようとする気がない者に教えてもものにならないらしい。
 覚えよう、と必死になる者だからこそ覚えられるとのこと。

 無理やり覚えさせようというのなら、もっと小さい頃にさせるべきで、この年齢になったら無理やりも無理だったらしい。

 だがそもそもの問題として――

「俺、竜の体なんだけど人間用の武術は使えんの?」

 変身魔法使ってるとは一応俺は竜の肉体なため、そんなので武術は使えるのか、と聞いてみた。
 が、親父は無言で仕事に行ったのだった。

 後で聞いてみたところ、「知らん。そもそも竜に教えたこともない」と言っていた。
 
 なんか微妙に虚しかった。



[19334] 第三十六話 そうだ、弁当を届けよう
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/19 07:01
 自然保護隊とかそういうのがあるらしかった。

 あれ? ここなら俺、入れんじゃね?
 とか思った俺であった。

 ぶっちゃけ狩りに関していえば慣れてます。
 寧ろこっちから蹂躙できるし、俺の雄叫びにビビる生物もたくさんいます。

 今まで定住してなかったら決まった就職を得るというのに慣れていない俺は、ここなら入れそうな気がする。
 と、そう思っていた。
 
 あれ? でも確か事件があったような。




第三十六話




 問題は事件なんだよな~。

 それにあの修吾とかいう転生者がどんな奴なのかも気になる。
 性格がいい奴ならいいんだけど。

 俺はあの転生者のことはあまり知らない、というか会ったことがない。

 とりあえず強いことらしいのだけは分かっている。
 それに管理局最強とも名高いとのことらしいし。

 そういういろいろな面を含めて、こういう事件に巻き込まれるのが嫌なんだが。

「だからといってヒモも嫌だし」

 就職しなくてもぶっちゃけ俺の鱗は売れるし、ファナムだって稼いでくれる。

 だが大の大人が就職しないのも、キャロの教育上悪そうだしな~、とは感じる。
 一日中ゴロゴロしている駄目親父になんてなりたくはねぇ。

 今までそんなことを考える暇もなかった。
 でもそういうことを考えてる暇もできてきたということか。

 武装局員も事務局員も無理だけど、この自然保護隊なら俺にもできそうだ。
 というかフェンリール・ドラゴンは獣の王だから寧ろできる。

 そもそも俺の雄叫び自体、獣にとっては王の雄叫び、または支配者の雄叫びと同じ意味を持つのだから。

 それくらいフェンリール・ドラゴンは獣にとっては王たる存在でもあるのだ。
 竜であると同時に獣王、ゆえにフェンリール・ドラゴンなのだから。

「お父さん、ファナムさんのいる職場にコレ届けてください」
「お? そだなー」

 キャロが作った弁当を届けることにした。

 うん、キャロの作ってくれた弁当は美味しいから、食べたくなるよな。
 その弁当をファナムに届けるために管理局に行くことにする。

 しかしゾークのことを話すべきか話さぬべきか迷ったよ。
 
 管理局に帰れば、確実にゾークのことが耳に入るだろう。
 というか絶対なんか聞いてくるに違いない。局員の誰かが。

 そういったことを言わないように緘口令なんてしけるわけないし、
 しけたところで誰かが言うに決まっている。

 そうなったらファナムが暴走しかけない。

 と、いうわけで、俺や親父という、ファナムの暴走を止められるメンバーで止められるうちに言ってしまおうということになった。

 俺は精神的にきっと止められる。
 それすら無理なら親父が発脛とやらで物理的に眠らせ、止める。

 一応ファナム、施設破壊と魔法無断使用という罪を背負っているのだ。
 罪というほどではないが、その上に殺害という罪が加わってはいけない。

 いや、ファナムに殺人するということをさせてはいけない。

 だから俺も親父も必死になって止めた。

 案の定ファナムはかなり暴走しまくったが、
 俺としては何度も何度も宥め、親父が抑えつけて動けなくして、
 そうすることでファナムの復讐によりゾーク殺害をなんとか免れたのだった。

 しかしゾーク、最後の最後でこういった罠を残しておくだなんて。
 お前のことは憎かったけれども、親父が仇をとってくれた。
 それが嬉しいから、もうあいつのことは忘れよう。
 でないと精神的に辛い。
 
 それに無理にあいつのことを思い出そうとすれば、俺の記憶が蘇る。
 それは俺にとっても辛いものでしかない『死』の記憶。

 だから俺としてはさっさとあいつのことを忘れたい。
 思い出したくないことを、一刻でも早く忘れたいから。

 だから俺はあいつのことを無視する。
 どうしようだってないから。

 なんとか落ち着かせることができたけど、ゾークの姿を見たら必ず暴走するな。
 まあ脱獄でもしない限りはそんなことはきっとないのだろうけども。

 そういうわけでゾークのことはなんとか伝えられたのだった。

 ゾークの話を聞いても、大丈夫? だよな。
 きっと耐えられるよな?
 不安になりながらも、仕方ない。

 それに転生者の存在もある。
 アークみたいな奴ではないといいんだが、まあ管理局に属してしかも役立ってるからそんなに悪い奴ではないのだろう。
 そう信じたい。

 それにファナムはリリカルなのはの世界からすればモブキャラだ。
 
 キャロと連れていればともかくとして、モブキャラと仲の良いモブキャラ程度の認識ぐらいしか持たれないだろう。
 そういったモブキャラなら幾らでもいる。

 まあ現実としてこの世界を捉えている人ならもっと話は簡単だが。

 修吾はこの世界をリリカルなのはとして捉えているのか、現実として捉えているのか。
 ここが最大の問題である。

 まあどっちにせよ、俺にとっては大丈夫だろう。
 キャロのことがばれない限りは。
 そう思っている俺であった。

「しかし管理局か。どうすっかな~」

 俺としては入りたくないのが現状だ。

 なにせこれから大事件が起こる予定だったはずだ。
 ここがもしも原作通りに話が進むというのなら。

 だがその内容が上手く思いだせない。
 やはり昔のことだからか、そうそう思いだせないのだ。

 ミッドチルダにいるのは危険というのは分かっているのだが。

「あれ? そん時にミッドチルダにいなけりゃ安心なのか?」

 というか別に管理局じゃなくても生きていけるだろう。

 最悪どこかに移り住めばいい。

 ギルマンにいてもいいし、一家全員でどこかにいればいい。
 わざわざ管理局で危ない目に会う必要もない。

 問題があるとすれば、Sクラスのファナムを引き留める存在だ。
 俺はBランクの魔導師レベルの魔力しか持っていない。
 
 だが実際の魔導師ランクは微妙だ。
 なんせ俺は戦闘能力は皆無、だが神技能ゴッドスキル神域の魔力テンプテーション≫があるのだ。

 寧ろ正確な魔導師ランクなんて測るのは不可能だ。

 圧倒的な魔力にあまりにも低すぎる戦闘経験。
 強さがあまりにもちぐはぐなのだ。

 だからこそ俺はあまりにも不安定。
 強い時と弱い時とのムラの差があまりに激しいのだ。

 まあだからぶっちゃけAもいかないと思っている。

 そんな俺のせいでファナムを連れていく、ということになったら第二第三のゾークがいつ現れるか分からない。
 それが怖くて怖くて仕方ないのだ。

 だからもうこのまま管理局に入って、StrikerSの事件が起こる頃にどこかに出張任務に出かける、というのがいいのかもしれない、と思う。
 
 確か主人公たちがなんとか六課を設立するのがその時期が始まる目安だったし。
 そうなれば「高町なのは」「フェイト・T・ハラオウン」「八神はやて」、彼女らの動向を見ておけば時期の間違えはしないだろう。

 まあそんなことを考えるより、今はファナムに弁当を届けるのが先だ。

 そう考えて、管理局のファナムのいる職場へと向かうのだった。













Side-とある管理局員

 今日もここでは訓練を行っている。
 というか高町教導官の訓練激しすぎだろ。

 死人(比喩)が今日もたくさん出たぞ。

「いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ」
「桃色の、桃色の光があぁぁぁぁぁぁあ!!」
「デーモンがぁぁ! 悪魔がぁぁ! 魔王がぁぁ!!」

 今日も今日でカオスってるな。
 さすがは高町教導官の訓練だ。
 この訓練を受けていて、半端な奴はすぐにでもこのカオスの仲間入り、もしくはそれすらできず死人(比喩)になるってことか。

 全く以て厳しいぜ。
 
 まあ俺はその訓練に耐え抜けたぜ。
 ふふっ――

「一言も喋る元気もないくせに、その余裕そうな面すんの止めなさい。
 見ていてウザい」

 誰だ!?

 ちょっとぐらいいいじゃないか!

 喋る元気くらいないんだから頭の中でぐらい余裕ぶってもいいだろうに!

 だってあの高町教導官の訓練なんだぞ!
 パニックを起こしてなければ死人(比喩)にもなっていないんだから、喋れないくらいいいじゃないか!!
 お前みたいな体力バカじゃないんだから!

「私だってもう喋るくらいしか、できないわよ」

 そう言っていると俺と同じように動けない同僚(女)がいた。
 ああ、喋るのが精いっぱいでもう動くことすらままならないのかよ。
 と、いうか喋ってないのによく俺の言いたいこと分かるな、エスパーか!?

「アンタが分かりやすすぎるのよ」

 左様で。
 とりあえず今のうちに体力回復させとこう。

 さすがにこれ以上の訓練はないだろうが、あの『魔王』のことだ。
 こんなのは朝飯前で、これから本番、なんてことにもなりかねない。
 
 そんなことになったら訓練生全員でストライキが発生するぞ。
 これは断言してもいい、絶対だ。

 あ~、なんで高町教導官の訓練なんだろ~な~。

 いや、美人なんだから多少のしごきに耐えられるよ?
 でもあの人、そんなメリットを軽く覆すほどキツイ訓練してくるんだもん。
 なんだ? あの人は鬼畜か!?

「あ、それ私もそう思う」

 おい!?
 なんでんなことまで顔で伝わるんだよ!?

 もしかしたらお前、精神解読の希少技能レアスキルでも持ってるんじゃにのか!?

「まさか~、それはないよ~」

 うおおおおおおおおいっ!!
 今! まさに! そこで! 会話しているのはどこのどいつだぁぁぁぁ!!

「は!? まさかこれが私の隠された力!?」

 後日、申請しにいきましたが、実際そんな希少技能レアスキルはなかったため、却下されました。

「はい、それじゃあこれで終わりね。またね」
「は、はい!」
「分かりました! 失礼します!」
「よし! 逃げろぉぉぉぉ! 全員退避! 退避!」
「また訓練しようか、などと言われる前に退避ぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 まだ元気がある奴らは逃げ出してやがる。
 くそぉ、俺まだ動けないのに。

 残っているのは俺や隣でぶっ倒れている同僚(女)、それに俺と同じように動けない人たち。
 または死人(比喩)になっている者たちだけだ。

 後、ぶつぶつ呟いていて使い物になりそうにない奴も残っていたが。

 これは本当に訓練なのか!?
 ここは地獄ではないのか!?

 そう思わせるくらいに、この訓練場の現状は酷かった。
 地獄、と言われても納得できる。

「皆、酷いよ~」
 
 いえ、酷いのはあなたの訓練です、高町教導官。
 とりあえずここで残っている奴で正気をなんとか保ててる奴は全員心の中でそう突っ込んだ。

 もう八神二等陸佐(この前昇進したらしい)とそのユニゾンデバイスのリインさんのユニゾンよりも遥かに融合率の高いユニゾンだったという。

 ああ、俺たちはもう親友だ!

 などと馬鹿なことを思っていたりした。

 きぃ、訓練場にとある女性が現れた。 
 その女性は――

「あ、ファナムちゃん」
「ん」

 おお! あの人は!

「あ! ファナムさん、おはようございます!」

 うお、はえぇぇぇぇぇ!?
 えぇ!? さっきまで動けなかったんじゃなかったのか!?
 
 実は動けたのか!? と疑ってしまうくらいに隣で倒れていた同僚(女)はマッハで現れた女性に近寄って行った。

 ああ、そういえばコイツ、熱烈なファナムさんファンだよなぁ。と思いだした。

 ファナムさんは『竜滅姫』と呼ばれるエース級魔導師。

 その圧倒的な実力を以てして数々の魔獣を撃ち滅ぼしてきたエースなのだ。

 しかもその視線から見せる鋭く凛々しいその姿はまさにクールビューティそのもの!
 女性局員の多くを女性の身でありながら、無自覚に虜にしてきた人でもある。

 だがなにか今日のファナムさんは嬉しそうだ。
 いつもはもっと張りつめた感じなのに。

「あわわー、ファナムさん。今日はいつもと違って嬉しそうですね」
「ん? そうか。それは、そうだろうな」

 おおう! いつもと違う!
 いつもと同じような抑揚のない声だ!
 だがいつもと違う!

 いつもはもっとなにかを憎んでいて怒気を込めたような声を出すというのに、
 今日に限ってはその声にも優しさを含んでいる。

いつものファナムさんと違うのは丸分かりだ!
これはなにがあったというのだ!?

「ファナムさん、かっこいいな~」

 なんか他にも彼女に惚れている女性局員がいる模様。
 マジで人気だよ、ファナムさん。
 どれだけの女性局員を虜にしてきたというのだ。

「それじゃあ今日は訓練、する。
 ハラオウン執務官と」
「え? フェイトちゃん!」
「なのは、今日はファナムと訓練することにしたの」

 な、なんと!?
 金色の死神として名高いあのフェイト・T・ハラオウン執務官も来ている!?
 しかもこの訓練場で、ファナムさんと模擬戦をするだとぉぉぉ!?

 いかん、一刻も早くチケットを売らねば!?
 しまった!? 今の俺はもう動くどころか喋る元気すらない状態!?

 これではファナムさんvsハラオウン執務官の模擬戦のチケットを売ることができないではないかぁぁ!?

「はいはい、並んで並んでー、あの金色の死神と竜滅姫が模擬戦をするぜー!」
「見なきゃ損だぜー」

 ぬおおおおおおおお!?
 もうとっくに誰かがチケットを売ってやがる!?

 まだこの訓練場には俺たちみたいのがたくさんいるってのに!?
 許さん! 今度あいつら闇討ちして稼いだ分を丸々奪ってやる!

 犯罪? 気にするな。
 あれはあぶく銭なんだからな。奴らも大っぴらには言えんはずだ!

「どっちが勝つか、今のところ同率だよー。あ、今さっきハラオウン執務官のが優勢ってのになったよー」
「じゃあ俺、竜滅姫勝つな! なんか機嫌良さそうじゃん!」
「逆だよ、馬鹿! いつもの殺気がない分弱くなったんじゃね? だからハラオウン執務官!」

 賭けまでやってやがるぅぅぅぅ!!
 
 本来ならあれは俺がするはずだったのにぃ!!
 というかこんなにも早く賭けを持ちかけるだなんて、なんて野郎がいやがる!

 そういうわけで竜滅姫vs金色の死神の模擬戦が始まろうとしていた。
 因みにそこにいた全員、ヴィータさんとかいうチビッ子にやられてしまった。

 しかし本当にファナムさんってクールビューティーな感じの女性でカッコイイなぁ~、とこの時は思っていました。
 それがまさか――



[19334] 第三十七話 金色の死神vs竜滅姫
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/18 21:30
 金色の死神vs竜滅姫

 どちらもSランクのエース級魔導師だ。

 エース級、それはあらゆる最善手を討とうとも勝てない存在。
 そう言っていた人がいた。

 最善手を選び続けてようやく勝負になる程度、抵抗できる程度、とも言っていた人もいた。

 とにかくそれだけエース級の魔導師というのは凄い、というのだけは伝わった。
 
 ならばそのエース級がぶつかり合えばどうなるのか。
 エース級魔導師の戦いが始まろうとしていた。




第三十七話




 訓練場にいるのは金色の死神として名高いフェイト・T・ハラオウン。
 その手に持っているのはバルディッシュという名の戦斧型デバイスである。

 それに対峙するのは剣型デバイスのバルムンクを所持しているファナム。
 『竜滅姫』と呼ばれるほどのエース級魔導師だ。

 どちらもS級魔導師だけあって、その実力は凄まじいの一言。
 どちらが勝ってもおかしくないほどに、彼女らの実力は強い、としか言いようがない。

 ハラオウン執務官が勝つに決まってるさ、と言う人もいれば、
 ファナムさんが勝つに決まってます! と叫ぶ人だっている。

 今のところ、その人気の差は互角。
 どちらが勝ってもおかしくないことだけは確かである。

 ゆえにこそフェイト・T・ハラオウンも模擬戦を仕掛けたのだろう。
 大概彼女もバトルマニアなところがあるから。

 因みにシグナムとかいう管理局員がいるらしい。
 フェイト・T・ハラオウンがマニアというのなら、彼女はバトル・ジャンキーだという。
 それくらい有名な人だったりする。

「たく。こんなところで賭け事なんてやってんじゃねーよ」
「あれ? ヴィータちゃん、どうしたの?」
「ん? おお、管理局にあるまじき行動してた奴をぶっ飛ばしてた」

 ほんの遊び程度なら文句は言わないのだが、凄い賭け事に発展していったので早急に止めねば、と思い殴りにいったヴィータ三等空尉であった。

 なのは二等空尉(この前昇進)もヴィータのセリフに苦笑いしかできない。
 その証拠に「にゃはは」としか答えなかった。

 まあ管理局でも賭けというものは発生しうるものなのだ。
 ただその内容があまりにも酷かったのだが。

「というかシグナムいなくてよかったなー」
「あ~、確かに」

 ヴィータのセリフに納得しているなのはがいた。

 まああのバトルジャンキーがこんなところにいればすぐにでも模擬戦をしようとするだろう。
 そうなれば収拾つかないのかもしれない。

 そう考えるといなくてよかった、と思える2人であった。

 そのバトルジャンキーはどこかの任務でバトルをしていた。
 彼女も楽しそうに戦闘できていることから、相手は凄腕の魔導師だったようだった。

 それはそれで本望だと思う。

「バルディッシュ、セットアップ」
「バルムンク、セットアップ」

 互いにセットアップする。

 するとフェイトの手にはバルディッシュという戦斧が。
 そしてファナムの手にはバルムンクという大剣が。

 互いに戦うための武器。
 だからこそそれを手に取った。
 これより始まるのは戦い。模擬とついていようが、戦いなのだから。

「それじゃあ始めるよ。フェイトちゃん、ファナムちゃん」
「いいよ、なのは」
「ん」

 審判を務めるのはなのはがすることになったらしい。
 一応ヴィータも副審を務めるとか。

 この2人が審判をしてくれるのなら間違いはないだろう。

 だから安心して2人は戦いにその身を臨める。

 そして――駆ける。

「はあぁぁぁぁぁ!!」
「はぁ!」

 互いに一撃を接近するためにぶつけあう。

 フェイトはその持ち前のスピードを以てして接近し、ファナムは待ち構えてそれを迎撃する。
 同時にぶつかり合い、その威力は互角。

 ゆえに互いに弾き飛ばされる。

 だがそれ以上に早く、次が展開される。

「プラズマランサー!」
「竜滅一閃」

 フェイトはスフィアを生み出し、雷の槍で総攻撃を仕掛ける。
 が、ファナムもそれに対抗して竜滅一閃によって全てを破壊しようとするが如何せん数が多い。
 これでは捌き切れない。

 だが彼女はすぐに判断して別の手段をとる。

「パンツァーガイスト」
『Ja! Panzergeist』

 鎧でプラズマランサーを弾き、そのまま接近して潰す。
 それだけでいい。

 近代ベルカ式とはいえベルカ式。
 接近戦ではファナムの方が実力としては上だ。

 鎧で弱い遠距離攻撃など無視をして一気に強力な一撃をその剣に込めて放てば、決着は着く。

 だがそうは言ってもフェイトも実力者。

『Sonic move』

 すぐに高速移動魔法を使用することでその場から離れようとする。
 
 ファナムも高速移動を仕掛けたいがこれ以上、雷のスフィアを放置するわけにもいかない。

「なら一個一個潰すまで。リディルフォルム」
『Ja! Mode change , Ridill form!!』

 バルムンクの形態を変更させる。
 アスカロンは砲撃形態、今現状では意味がない。
 通常形態ではこれだけの数のスフィアには対抗できない。

 ならば爪型形態のリディルフォルムをとる。

 爪型形態は確かにリーチも短いという弱点が存在するし、斬撃力がない。
 あるのは一点集中による破壊力と内分を直接揺らせるほどの衝撃を与えられるということ。

 だがもう一つ特徴があるのだ。

 それは――

「討ち殺せ、竜墜一閃!」

 複数の首を持つ竜を同時に葬るかの如く、高速に迎撃をする。
 
 リディルフォルムは通常形態よりも速く迎撃が可能なのだ。
 ただそのリーチの短さゆえにその腕の速さを攻撃に転換するのは難しい。
 だがスフィアの迎撃にとっては有効だ。

 しかしファナムの技の名前、『竜滅一閃』だとか『竜墜一閃』だとか竜関係のものが多いな。
 そう思えてしまうくらい、彼女の技の名前は統一されている気がする。
 しかも微妙に技の名前似てるし。

 だがとにかくこれでフェイトのプラズマランサー全てを撃ち落した。
 やはり強い!
 ファナムも、フェイトも、どちらもだ。
 互いにそれをこの戦いで感じ取っていた。

「強いね、ファナム」
「あなたこそ」

 戦いの刃は再び激突する。

 大剣と戦斧とのぶつかり合いが続く。
 
 フェイトは持ち前のスピードでファナムを撹乱。
 しかしその度にリディルフォルムで以てして、そのスピードに対抗する。
 爪型形態のリディルフォルムならフェイトのスピードにも対抗できるのである。

 するとバルディッシュの形態を鎌形態に変える。

「ハーケンフォーム!」
『Yes,mode change, harken form!』

 金色の魔力が刃を形作り、バルディッシュは鎌となる。
 戦斧より鎌となることでその鋭さ攻撃力は倍増する。

「切り裂け、ハーケンセイバー!」
『Harken Saber!』

 形成された魔力を切り離し、それを撃ち放つ直射系統攻撃魔法。
 切断力に特化された魔力弾といえよう。

 それをファナムに放つ。
 だがファナムはそれを爪型形態のリディルフォルムで迎撃しようとする、が――

「フォルムチェンジ、通常形態!」
『Ja! Normal form!!』
「竜滅、一閃!」
 
 込められた魔力量が凄まじかったのを感知したためか、通常形態に戻してそれを竜滅一閃によって破壊する。

 一撃の破壊力は本来リディルフォルムなのだが、それは相手が物体の時に関して。
 相手が魔力的存在であるのなら破壊よりも切断の方が有効。
ゆえに魔法弾に関していえば、リディルフォルムで迎撃するよりも通常形態のバルムンクで迎撃した方が有効なのだ。

 まあそれも魔法弾の威力が強かった場合に限りけども。

「なら、ハーケンスラッシュ!」

 高速移動しながらの斬撃攻撃。
 だが相手が接近するというのならファナムの方が一枚上手だ。

 ファナムはカートリッジをロードし、魔力を剣に込める。
 もう既に形態は大剣。ならばフォルムチェンジする必要だってない。

 ゆえに斬る!

「竜滅、一閃!」

 ハーケンスラッシュと竜滅一閃のぶつかり合い。
 だが高速移動でスピードが乗っていたためか、通常のハーケンスラッシュよりも破壊力が高い。
 ゆえにこそこの鍔迫り合いが互角となり、互いに吹き飛ばす。

「なかなか、やるね」
「そちら、こそ」

 笑っている。
 戦いを楽しんでいる。

 ファナムのこんな姿を見たことはない。

 今まで戦いは復讐のための道具でしかなかった。
 だが今の彼女は復讐のことをまるで忘れているかのように、純粋に戦いを楽しんでいた。

 これは、苦しいかもしれない。そう判断したフェイトだった。

「はぁ、はぁ……なら、次で決める」
「臨む、とこ――」
「ちょ、ふた「はいはい、ストップストップ! これ以上、禁止ィィィ!」

 と、そこでヴィータが止める。
 大声を張り上げながら、だ。

「え!? な、なんで!?」
「お前ら、さっきの鍔迫り合いでどっちも怪我負ってるじゃねぇか! 
 そんなんでこれ以上、模擬戦させられるかよ!
 ほらほら、さっさと医務室行ってこい!」

 因みになのはも止めようとして叫ぼうとしたが、途中でヴィータに遮られてしょんぼりしている。
 しかも全部言われてしまったよ。
 自分が主審なのに、とか言っていた。

 さっきの竜滅一閃とハーケンスラッシュの鍔迫り合いで、互いに負ったダメージは決して少なくない。

 これ以上戦うのは危ない、と判断したからこその結果だ。
 
 ヴィータは歴戦の戦士だ。
 それくらいのことは分かっている。
 だからこそなのはよりも早く気付けて止められたのだ。

 2人とも不満げな様子ではある。
 まあ2人とも良い調子だったのだから、それも仕方ない。

 が、ヴィータとしてもここは止めたいのである。

 これ以上戦わせればどっちかが大怪我を負ってしまうかもしれない。
 たかが模擬戦でそんなことになるのは避けたいので、問答無用に止めてしまおう、ということにしたのだった。
 副審なんだからそのくらいの権限はある。

 無理ならなのはにでも無理やり止めさせてやる、とでも呟いていた。

 古代ベルカ時代からの騎士であるヴィータは歴戦の戦士であるからゆえに。

 フェイトも文句を言いたそうだし、ファナムだってそうだ。

 そして観客も「もっと見せろー!」「金払ったんだぞー!」とか叫んでいた。

 因みに「あ、あそこに金持ち逃げしようとしてる奴いるぞ!」「とっとと捕まえて金払い戻せー!」とかいう展開になっていた。
 因みにその持ち逃げしようとしていた奴は「げっ、しまった!」とか言っていた。

 まあそいつの自業自得なので助けない。

 今は2人の模擬戦を止めさせる方が先だ。

 そう思って、無理やり辞めさせようとした時だ。

「すみませ~ん、こちらにファナムいますか~。弁当届けにき――」

 誰かがこの訓練場のある施設に入ってきた。
 因みに入口近くにいる。

 どうやら一般人のようだ。
 ヴィータもなのはも知らない人みたいだし、局員の皆も知らないようだし。

 と、思った瞬間だった――

「オーちゃ~~~んっ♪」

 すぐさまに、それこそ音速、フェイトでさえ目にも見えぬ速度で動く物体が存在し、
 その人間はさっき現れた男に、激突、いや抱擁したのだった。

 その人の名は『竜滅姫』として名高いファナム。
 凛々しく男らしく、その姿は女性局員のほとんどを誘惑するほどの美貌の持ち主。

 あまりにもカッコイイ、その人が――

 ものっそい桃色エナジーを出しながら、凡庸な男の人に抱きつきにいった。

 そこにいる全員はその瞬間思ったという。(フェイト、ファナム、その男除く)

『『『『『『『『何が起こったッッ!!??』』』』』』』』

 あまりの展開に、なにが起こったのか理解できていないこの場にいる管理局の皆であった。



[19334] 第三十八話 砂糖吐く魔王
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/19 23:37
 あまりの現状に誰もついていけない。

 何が起こったのか、全く分かっていない。
 いうなれば皆にとって信じられないような光景が目の前に広がっているのだ。
 あまりにも、あまりにも信じられないような、そんな光景が。

 これは夢ではないのか、そう疑う者とていた。

 なにせあまりにも、彼らにとってはありえないような光景だったからだ。

 いうなれば、
 かの『魔王』が超緩い訓練で済ませてくれるような、
 あの『死神』がどう考えても保護が必要そうな子供を保護しないような、
 あの『歩くロストロギア』がおっぱいを見ても飛びつかないような、
 あの『チビッ子』がアイスを見ても動揺もしないような、
 あの『バトルジャンキー』が強者を見ても戦いを挑みをしないような、

 そんなありえないような光景が眼前に広がっていたのだった。




第三十八話




 あまりにも信じられなかった。
 あのなのはや、ヴィータでさえ、この光景に吃驚していた。
 まるで魂が飛んで行ったかのように吃驚していた。

 それくらい吃驚していたのだ。
 
 他の局員の皆さまだってあまりにも信じられない光景だったいゆえに、開いた口が広がらない。
 
 なんせあのクールビューティーがあれだけの桃色空気を出すなんて、信じられるわけがない。

 これは夢か、幻か、デバイスで誰かをぶん殴る音が聞こえた。

「はっ!? 痛い、これは現実か!?」

 などという声も聞こえている。

 殴られたことは気にしないのか、と思う方もいるかもしれないが、そんなことが気にならないくらいに信じられていないのだ。

 あの高町なのはや八神ヴィータでさえ、唖然としてしまっているのだから。

「誰だぁぁ! あんな陳腐な幻覚魔法使ったのは!」
「NO! 誰も幻覚魔法など使っておりません!」
「ならば変身魔法かぁぁぁぁぁ!!」
「それもNOであります、サー!」

 などということも繰り広げられていた。

 というか魔法反応もなし、つまり誰も幻覚魔法も変身魔法も使っていない。
 だがそれでもそんなことは信じられない、とばかりに何度も何度も尋ねている。
 が、返ってくる返事は「なし」といったものだけであった。

 なにが起こっているのか、全く分かっていない。

 とりあえずあの人は誰なのだ!? という思いが一気に伝播していく。

「え、えっとヴィータちゃん。私、真昼間から寝ているのかな?」
「いや、それはねーと思う、思いたい。駄目だ、多分寝てるんだ、あたしら」
「いや、現実だよ。なのは、ヴィータ」

 あの高町なのはや八神ヴィータでさえ、この現実が受け止められずにいる。
 なんせ彼女たちが知っているのはあの凛々しく男らしいファナムなのだ。
 決してあんな桃色空間を生み出している恋する乙女などではない。

 まさしく驚天動地! な心地がしてくる。

 が、唯一この場で事情を知っているフェイトはこれは現実なのだと教えている。
 まさかここまで桃色な空気を出すとは思いもよらなかったが。

「えへへ~、どうしたの~?」
「え? あ、うん。弁当届けに来ただけだけど。
 この人たち、どうして固まってんだ?」

 黒髪黒目の平凡な男の人がそう呟いている。
 なんでこれだけ皆が固まっているのか、分かっていない様子である。

 オージンからすれば凛々しいファナムの方が違和感があり、現在のファナムの方が普通なのだと思っている。
 だからこそ固まっている皆に疑問を抱いているのだ。

 これが認識の差といったところか。

 とりあえずこれでは話が進まないので、なのはが前に出る。
 
 事情の知ってそうなフェイトに聞くべくだったのだが、そんなことにまで頭が回らないため、直接聞くことにした。

「え、えっと高町二等空尉の高町なのはです。え、えっとファナムちゃん。そちらの方は……?」

 ふとした疑問を口にする。
 その疑問はここにいる全員の疑問でもあった。

 するとファナムは頬を赤らめて――信じられない、とばかりに全員が口を大きく開けた――そして嬉しそうに答えた。

「え、えっと、わ、私の夫のオージンです」
「あ、夫のオージンです」
「あ、そうですか。夫の――」

 ぽくぽくぽくぽく

 こんな音が流れた気がした。

 うん、一旦深呼吸しよう、とばかりになのはは深呼吸する。
 そして他の皆も深呼吸する。
 ヴィータもまた深呼吸する。

 フェイトもこれからなにが起こるのか悟ったのか、人差し指で両耳に栓をする。

 それを見たオージンもまた耳に栓をすることにした。
 なんでそんな事態になっているのか理解はできていないが、これから起こることがなんなのかは理解できた。

 なので男、オージンもまた耳に栓をする。
 それに習ってファナムも耳に栓をすることにする。因みに耳に栓をしろ、小声でファナムに伝えていた。

 そして深呼吸が終わって――

『『『『『『『『ええぇぇぇぇぇ~~~~~~~~~~!!』』』』』』』』

 あまりにも信じられないことゆえ、大声で叫んでしまったのだった。
 
 あの時咄嗟に耳に栓をしたフェイト、ファナム、オージンの3人は判断力があったお陰で助かった。

 あのまま耳に栓をしていなければ、今頃耳が痛くて仕方なかっただろうから。












 その後がとても酷かった。
 特に女性局員からの視線が怖かった、と思ったオージンであった。
 それくらい、ファナムは女性局員に好かれていた、ということの証でもある。

 まあ当然男性局員からもこんなそういった視線はあったのだが。

 因みにあそこじゃ暴動が起きそうだったので、別の部屋へと向かうことになったのだ。
 主に一般人であるオージンを、管理局員から守るために。












Side-Nanoha

 え、えっと私、高町なのは(17)二等空尉です。
 ヴィータちゃんと一緒に信じられないものを見ていました。

 ただフェイトちゃんだけは知っていたようです。
 うう、教えてくれてもいいじゃない、フェイトちゃん。

 ただあの桃色空気の凄さだけは知らなかったようで、そこについては驚いていたようです。
 いちゃいちゃしていたのは知っていたようですが。

「あっはっは、ついにばれてもーたーなー。あっはっはっは」
「いや、何笑ってるんスか。八神二等陸佐」

 と、オージン君という人がつっこんでいました。

 因みにはやてちゃんも知っていたようです。
 しかもフェイトちゃんよりより詳しく。

 なんで私には教えてくれなかったんだろう、とそう思うと寂しく思います。

 そう思って尋ねてみると――

「いやなぁ、なのはちゃんも忙しそうやったしな、それに――
 
 ――2人の驚く顔が見てみたかったんや」

「せ、性格悪いよ! はやてちゃん!」

 本当に吃驚したんだから! これ以上ないくらいに吃驚したんだから!

 ヴィータちゃんも吃驚して一瞬魂の抜けた人形のようになっていたくらいなんだよ!

 そう怒ってみるも、はやてちゃんは「あっはっは」と笑うばかりで聞き流していました。
 うう、やっぱりはやてちゃんには敵わないよぅ~。

 と、口での実力差に圧倒されてしまいました。

「というか結婚したの!? おめでとう!」
「うん。まだ正式にしたわけじゃないんだけど、もう実質そう」
「あー、うん。だよなー」

 なんでも届け出は出していないらしいし、結婚式もまだしてないみたい。
 
 ただなんだろう。
 あまりにも桃色の空気が凄すぎて息ができないくらいに苦しい。
 
 それくらいファナムちゃんから出る空気は私にとって重苦しく感じる。

 なんだろう、この気持ち?

「彼氏でも作ったらええんとちゃう? ユーノ君とかどや? それとも修吾君は?」
「え、そ、それは――」
「後者は冗談やけどなー、前者はどや?」

 とりあえずはやてちゃんの言ってることは聞き流そう。
 
 言ってることの意味が本当に分からないし。
 修吾君はちょっと遠慮したいし、ユーノ君とはお友達なんだよ。

「あかん、この子ほんま駄目やわ。こりゃなんとかせな」

 と、言っていた。
 どういう意味なのか聞きたかったけれども、あまりにも真剣だったから聞きにくい。

 とりあえずこういうモードに入ったはやてちゃんには近づかない方がいいかも、と思って放置することにしました。

 うう、そんなこと言うならフェイトちゃんもそうなのに!
 と、ばかりに八つ当たり気味に叫んでみた。

「そやなぁ。フェイトちゃんもええ話聞かへんな~」

 と、矛先は今度はフェイトちゃんに向かって行きました。
 ごめんね、フェイトちゃん。今度なにか奢るから。

 と、フェイトちゃんも顔を赤らめてタジタジになっていたのでした。

 あのまま私が標的になっていたら危険だったよ、とばかりに危険を回避した私、高町なのはでした。

「というか、マジ信じらんねーよ」

 ヴィータちゃんも目の前で見ていて信じられなかったよう。
 うん、その気持ちは私にもすっごく分かる。

 だってあのファナムちゃんが、

「はい、あーん」
「いや、それお前の弁当」
「だいじょぶ。私はオーちゃんからあーんしてくれればお腹いっぱいだから」

 こんなにも甘々だなんて――砂糖を吐いてしまう!

「あかん、さっき馬鹿にしてゴメン。
 さすがの私でもこれはキツイ」

 さっきまで私をバカにしていたはやてちゃんだったけど、
 2人のあまりの甘々っぷりにさすがのはやてちゃんもお腹いっぱいのようです。

 しかも砂糖を吐いちゃってます。

 うん、私もさすがに信じられないくらいだよ。

「さすがにこの甘いのは無理や! 彼氏のおらん私には無理やぁぁぁぁ!!」

 と、はやてちゃんはすぐにでも逃げ出すのでした。
 砂糖を吐きながら。
 すぐに戻ってきたけど。

「なんで誰も追ってくれへんのー?」
「いや、はやて。そんな分かり切ったこといわねーでも」

 ヴィータちゃんもつっこむ。
 いくら主とはいえ、突っ込むところはちゃんと突っ込む。
 まさに騎士の鑑だよ。

 まあアイスで買収されるような騎士なんだけど。

 はやてちゃん、時たまこういったことをするから信じられてないんだよね。
 新人さんやはやてちゃんのことをあんまり知らない人なら別なのかもしれないのだけど。

 狼少年は信じられない、てこと。
 はやてちゃんは狼でも少年でもないけど。

 ただ同じ狼少年(青年)のザフィーらさんは信じられるんだけどな~、と思ってみる。

 でも分かるよ、さすがに。
 あの2人の空気はあまりにもふわふわの桃色すぎて、
 彼氏のいない私たちには辛いってことが。

 ただヴィータちゃんとフェイトちゃんは平気そうだったけど。
 なんでそんなに平気なの、2人とも。

 ヴィータちゃんは信じられないだけでこの空気にだけは平気のようだ。
 フェイトちゃんに至ってはこの空気をものともしていない。

 ああ、そっか。
 フェイトちゃん、純粋だからか~。と納得してしまう私。
 
 うん、理論としておかしいかもしれないけど、そう納得するしかない。

 そういうわけで無理やり納得する私でありました。

 でも私もはやてちゃんも砂糖を吐いてしまって仕方ない。
 うう、糖分が足りないよ~! 口が甘いよ~!













Side-Shugo

 ここはミッドチルダ病院。
 そこには多くの女の子たちが来ていた。
 それも修吾に惚れている女の子たちが。

 一応なのはたちも見舞いに来たのだが一回だけだったのだ。
 ファナムちゃんに至っては一度も見舞いになど来ていない。

「ふふっ、全く恥ずかしがり屋さんめ」

 そんなに俺に会うのが恥ずかしいのか。
 まあそれも仕方がない。女の子だものな。

 まあもっとフラグを立てて、すぐにでも、グフフ。
 もう17にまでなったんだ。

 StrikeS始まるまでは待っておこうと思ったんだが、ふふ、やはり最初はなのはとするかな。
 それが一番だろうな、王道だし。

 いやいや、それとも。

「お、おい! 聞いたか! ファナム三等空尉、結婚したんだって!」
「ま、マジかよ! あのクールビューティーの『竜滅姫』がだって!」
「マジだって、マジよ!」

 な!? なんだと!?
 俺の攻略キャラのファナムちゃん、が、だと!?
 
 ありえん、ありえん、ありえん!?
 
 あの娘は俺の攻略キャラのはずだ!?
 だから手を出されるはずなんてあるわけがない!?

 だったらこの現状はなんなんだ!? 何が起こっていると言うんだ!?

 信じられん!

 ……そうか。分かったぞ。これはイベントなんだな。

 俺のファナムちゃんへの愛を示す。
 多分、いや絶対ファナムちゃんは悪い男に騙されているんだ!

 それを俺が助けだすことによって一気に俺とファナムちゃんの愛情は深まる!
 おお、完璧だ!!

 ふふふっ、待ってろよ、ファナムちゃん!!








 因みにその頃、オージンは管理局で女性管理局員相手にビクビクしていたという。

 あまりにも怖すぎるがゆえに。

 しかも「こんな平凡な人がファナムお姉様の旦那様!?」「信じられない!」という言葉の暴力のせいで精神がボロボロ状態になっていた。



[19334] 第三十九話 修吾vsオージン
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/20 12:44
 愛する人といる。
 それだけが幸せ。
 ああ、なんて幸せ。

 それだけでいい。それだけこそが私の幸せなのだから。

 


第三十九話




 俺は管理局でも有名になってしまった。
 というかファナムが有名すぎたために、俺も有名となってしまった。

 特にファナムのギャップが酷いのだ。

 信じられないことに、いつもは絶対零度な如きクールビューティーだというのだ。
 それが俺の前だと、いつも子犬のようにもしも尻尾があればぶんぶん振って俺に甘えてくるのだ。

 有名なファナムがそんなことをすれば、必然的に俺もまた有名になってしまうのも確かだ。

 あ、失敗した。と思った時にはもう遅い。

 マジでどうしよう。と、考えたのだった。

「だはははははは! お前、有名になってんぜ!」
「うっせーよー。こっちだってんな有名になりたくなんてなかったんだよー」
「ふん。自業自得だよ」

 そして現在俺はクリフとフレイアと共に飲み屋にいる。

 まさかこいつらと飲みに行くなんて状況になるとは思わなかった。
 俺がフェンリール・ドラゴンになってしまってからはそんなことはすっかり諦めていた、というか思いもよらなかった。

 しかし友達と酒を飲む、っていうのはいいもんだよなー。

「しかしファナムトルテは連れて来なくてよかったのか?」
「あー、トルテは酒駄目なんだよなー。軟弱な奴め」

 あー、確かにトルテは駄目そう。そんなイメージがある。
 そしてイメージ通り、トルテは酒が駄目らしい。うん、ぴったりだ。

 因みに俺は竜酔酒の実を食べている。
 まあ普通の酒ではフェンリール・ドラゴンである俺は酔えないのだ。
 あまりにも体が巨体すぎるから、アルコール分解能力も非常に高くて酔えやしない。

 だから人間にとっては毒にしかならない、ドラゴンにとっては極上の酒になる竜酔酒の実を食べているというわけだ。

「おいおい、お前飲めよー」
「はっ、俺が今更こんな度のひっくいので酔えるかよ」

 ぶっちゃけこの竜酔酒の実か、それともものすごいそれこそ火を噴けるくらいアルコール度の高い酒でもないと酔えやしない。

 するとクリフがもう一度聞いてきた。

「もう一度聞くが、ファナムは?」
「あー、あいつか。酔わせたら面倒になる」

 とりあえず分かりやすく言うとヤンデレモード全開になる。
 そう答えたら、2人とも沈黙した。

 ああ、2人とも、ファナムがヤンデレになった時のことを考えたらと思うと怖いらしい。

 因みに飲んだら全部ヤンデレになるわけでもない。
 子犬のようにいつもよりずっと甘えてきたり、強請ってきたりもする。

 まあそこら辺はランダムだ。

 まあヤンデレモードに突入したくないのであまり酒を飲ませたくはないのだが。

「それによー、もしヤンデレモードになったら確実にお前、狙われるぞ」
「俺とお前はんな関係じゃねーってのに」
「問答無用だから気ぃつけろよー」

 本当、あのまま辻斬りになりそうで怖かった。
 あの日から俺はファナムに酒を飲ませるのだけは止めさせよう!と誓ったのだった。
 
 因みに俺、クリフ、フレイア、全員17歳。
 まあ地球だと犯罪になるが、まあそこは気にしねぇ。
 
 前々世でも普通にその頃には俺飲んでたし。

 ミッドチルダだとどうなるんだろ? と、今更ミッドチルダの飲酒に対しての法律を知らないことに気付いた俺だった。
 まあフレイアとクリフが飲んでんだし大丈夫だろ。
 こいつらが不良役人という考え方もあるが。

「ま、ごっそさん」

 まあ俺は大丈夫か。
 因みに竜酔酒の実は毒なので、他の人に食わせたら犯罪になる。
 俺は毒ではなく薬にも極上の酒にもなるので大丈夫だが。

 しかし闇討ちされそうで怖――

「覚悟―――!!」
「死ねぇぇぇ!!」
「うのわぁぁぁ!!」

 いきなり刃物で刺されそうになった! 危ねぇ!
 咄嗟に俺は避けた、避けまくった。
 
 当たっても俺の竜鱗で防いだが。
 うおおお、マジで怖かった。

 とりあえずドラゴンモードの体重で踏み潰して抑えたのだった。

 その後管理局に引き渡したが、管理局員だったらしく「むしゃくしゃしてやった」「嫉妬嫉妬ぉぉぉ!」などと言っていた。
 まあ俺への嫉妬ということがよく分かった。

 まあデバイスではなく刃物を向けてきたのはなんでだろうか。
 デバイスの方が強いのに。

 良心ではないだろうし。
 というか非殺傷だからデバイスの方が安全だし、威力の方が強いというのに。

 そんなことを思う俺であった。

 その後、そいつらはファナムの手によって粛清されたという。
 なんかものすごく震えていた。

「へっ、今なら高町教導官の訓練だって耐えられる」
「あんなのは児戯としか思えねぇ」

 と、後に語っていた。
 まあ今はきっちり監禁しているが。

 まあ後々に管理局のために精一杯働いたという。
 主に恐怖の感情によって。

 なにをしたんだ、ファナム。すげぇ気になるぞ。






 え? ここ、どこ?
 えっと、確か昨日酒飲んで、んで家に戻って。
 それから目が覚めたらファナムと一緒に眠ってて。

 あれ? そういやキャロの顔が赤くなっていたような……教育に悪くね?
 そう思った俺だった。

「……オーちゃん。結婚式どうする?」
「あ、そーかー。そうだよな。てか、普通はギルマンでやるんだけど」

 あの村じゃ結婚式もあんまり派手にやんないからなー。
 まあそれが民族風ってことなんだろうけど。

 ファナムとしては民族の皆からの祝福も得たい。
 けれどもミッドチルダに来て、白い純白のウェディングドレスにも憧れが生まれてきたみたいだ。

 それで悩んでいるのだとか。

「そっだなー。俺としては俺はギルマンの一員だからなー。
 ギルマン式でやってみたいんだが」

 とはいえウェディングドレスのファナムも捨てがたい。
 だからといって民族の儀式にも参加したい。

 俺は7年間もの間、ギルマンには帰って来られなかったのだから。

 それに民族衣装を着たファナム、可愛いだろ~な~、とそう思う。

「それならどっちもやったらいいんじゃないんですか?」
「キュクルー」

 と、そこにキャロの助け舟がやってきた。
 いいアイデアで、それがいいかも、と思ってしまった。

 ファナムもキャロの案に賛成なようだ。
 
「きゅっくっくー」
「駄目! オーちゃんは私の! 私の死後でも渡さないー!」
「……思ったらなんでナチュラルに会話できてんだ?」
「さ、さあ? 本能じゃないんですか?」

 キャロも少しずつ大人になってきている。
 体もそうだけど心も少しずつ。

 とりあえずしっかりしてきている、というのがそうこうことか。

 ファナムが出てきて、俺への依存が少しずつだけど薄れてきている。
 いいことだけどちょっと悲しいな~とは思う。
 けれど家族の絆は決して切れない。
 それだけはきちんと実感している。

 しかしどうしてファナムはフリードと自然に会話できるんだ。

 キャロは竜使いだし、俺に至ってはもう既に竜言語はマスターしきっているから何話しているのかは分かっているのだが。
 
 どうしてファナムは分かるんだ!?

 と、そう思えるくらい自然な会話だった。

 ただし俺と関係のない話の場合は全く分からないそうだが。

 凄いな、その耳!! と素直に驚いてしまった。

 そう思って、またファナムが弁当を忘れたので届けてこようと管理局に行けば――

「決闘です!!
 あなたがお姉様に相応しいかどうか、その実力、見せてもらいます!
 そしてあなたがもしもお姉様に相応しくないと分かれば、潔く別れて――」
「ふふ、それはなにかな?
 私とオーちゃんの仲を引き裂こうとしているのかな? 
 私と、オーちゃんの、仲を、引き、裂こうと、している、のかな?」
「お、お姉様~~~~~~~!!」

 決闘を挑まれた瞬間、ファナムがその娘を引きずって連れていったのだった。
 しかもファナムは黒いオーラを纏いながら。

 後日、彼女は高町教導官の訓練にも見事耐えきったのだった。
 なんでも「あの時の恐怖と比べればこんなもの、屁の河童ですわ!」とコメントしていたそうである。
 
 そのせいかこれ以降、俺に対して文句を言う人や決闘を申し込む人が減ってきていた。
 減ってきているせいでゼロなわけではないが、そのことごとくをファナムが黙らせてきたのだ。

 うわぁ、それはそれで問題な気もする。
 と、感じてしまう俺であった。

 まあファナムのお陰で平穏を保てているんだ。
 そこはありがたく思っておくとしよう。
 
 その原因がファナムだとしても、俺はファナムを手放したくないんだから。
 
 ファナムが俺を依存しているように、俺もきっとファナムを依存しているんだろう。
 いや、ファナムだけでなくキャロもフリードにも。

 孤独を味わったからこそ家族の大切さが分かる。

 だから俺はファナムを手放したくないし、キャロだって幸せにしてあげたい。
 そう思っている。

 それはきっと、いいことなのだ、とそう思える。
 そう、思えたからこそ幸せなのだと、感じられる。

 そう思っていた直後のことだった。

「ここにオージン・ギルマンはいるか!」

 銀髪に金と銀のオッドアイの男がいた。
 それもその顔はあまりにも綺麗で、男であろうと見惚れてしまい、女であるならその美貌を誰もが好きになってしまう。
 それくらいの美形の男が現れた。

 しかもその手にあるのはカリバーンと呼ばれる古代ベルカ式ユニゾンアームドデバイス。

 俺はこの男のことを知っている。
 直接会ったわけではないし、新聞とかで知っている程度だ。
 だが俺は確実に断言できる。

 コイツは俺と同じ、転生者だ、ということが。
 だって転生者と断ずるにはあまりにも材料ありまくりだもん、この男。

 だから嫌な予感しかしなかった。
 というかなんでこの男が俺の名前を名指しするんだ。

 転生者であることがばれたのか!?
 それとも原作と違ってキャロを保護しているのがフェイトでなく、俺というかが分かったのか!?

 とにかくどうしてお前がここにいる!?
 管理局最強の魔導師≪藤村修吾≫!!

「え、えっとあの人です」

 あっさり教えるなよ!? そこの管理局員!

 いや、まあ別にすぐにばれるんだろうけどさ。
 ちょっとくらい時間稼がせてくれてもいいじゃねぇか!
 と、俺は心の中で悪態をついてみる。

「ほう。君がオージン・ギルマンか。
 ああ、君に伝えたいことがある。これ以上、ファナムちゃんに付き纏うのは止めろ」

 付き纏ってません。
 寧ろ俺が付き纏われてます。嬉しいので受け入れてますが。

 え? なに? 
 なんでファナムのこと気にかけてんの?

 だってファナムなんて『リリカルなのは』の世界から見ればモブなんだぞ。
 それとも現実としてファナムのことが好きなのか。
 まあそっちの場合、俺は絶対にファナムのことを譲りはしない。
 ファナムは俺の嫁なんだから。

 付き纏うな、と言われてカチンときた。

 いくらコイツが転生者だからといって、関わりたくないと言っても。
 ファナムのことだけは絶対に譲れない。

「やだね。ファナムは俺の嫁なんだ。ほら、どこに誰だか知らんが帰った帰った」

 無論知っている。
 お前が管理局最強の男だということも、そしてお前が転生者であるということも。
 
 最も転生者云々は俺の憶測にしかすぎたいが、十中八九断定してもいいだろう。

 だがそれでも俺は知らないふりをして、とっとと帰ってもらうことにする。
 今の俺は怒っているのかもしれない。

「ほう。ファナムちゃんを騙すのもいい加減にしたまえ。
 分かっているんだぞ。君は変身魔法を使って――」
 
 そう、告げようとした瞬間だった。

 ファナムはバルムンクを修吾に向ける。
 咄嗟に修吾も反応してカリバーンでそれを受ける。

「な、なにをするんだい!?」
「私とオーちゃんの仲を引き裂くな」

 ファナムの瞳にあるのは怒気。
 その怒気はまさしく負の感情。

 俺はファナムにこんな怒気までさせるくらいに愛されていた。
 それはとても嬉しいことだ。

「ファナムちゃん! 目を覚ますんだ! 
 君はそいつに騙されているだけなんだから!」
「うるさい、うるさい」

 でも、コイツには反吐が出る。
 俺とファナムの仲を、引き裂こうとするなよ。

 俺はコイツが嫌いだ。それだけは断言できるぐらいだ。

 だから――

「ファナム、もうこいつ放っとこ」
「ま、待て。逃げるのか。オージン・ギルマン。決闘だ!」

 決闘を、投げかけてきた。
 それは模擬戦の誘い。

 ああ、それはいいのかもしれない。
 俺はお前にムカついている。

 だからスターライトブレイカーを何十発かぶつければ黙ってくれるだろう。

 もしかしたらそんなのをなんとかできるほどの理不尽な特殊能力だって持ってるのかもしれない。

 そのムカついた苛立ちをコイツに全てぶつけられる。
 それはなんて甘美な響きなのだろう。

 でも俺は――

「やだよ。なんで俺がわざわざ最強と戦わなきゃならないんだ」

 負けても悔しいし、勝ったら勝ったで面倒くさいことになる。
 なにせコイツはSSSランクの≪管理局最強の魔導師≫なのだから。

 俺は痛いのが嫌だ。だから戦わない。
 そして俺がもしコイツに勝ってしまえば、どうなるのだろう。
 ともかく自由な暮らしはできないことだけは断言できるだろう。

 負けたら負けたで悔しいに決まっている。

 だから俺はわざわざ受けない。
 受けることなんてしない。

 そうすればあいつが管理局員である限り、あっちから手出しはできない。
 してきたらあっちは管理局員ではなく犯罪者だ。

 最も理解してくれるかどうかは分からないのだが。

 修吾がいろいろと文句を言ってくるが、俺はファナムと一緒に帰るのだった。
 あの男が言っていることは無視して。

 さすがのあの男も馬鹿ではなかったのか、俺を襲ってくることはなかったという。

 たとえこの行動を後になって後悔したとしても、今は決して後悔はしていない。



[19334] 第四十話 自然保護隊
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/20 12:44
 物語は進んでいく。
 ストーリーは続いていく。
 そして現実もまた先へと続く道となる。

 ああ、だからこそ、だからこそ――




第四十話




Side-Shugo

 くそっ、くそっ、なんなんだ! あいつは!
 せっかく俺が眼をつけたファナムちゃんを急に、急に! 許せねぇ!!

 いや、攻略可能キャラじゃなかっただけだったのか……?
 けっ、所詮はモブキャラってところかよ!
 ああ、もう。モブキャラの癖に美人だなんて生意気だ!

 モブキャラはモブキャラらしく個性がない顔になっておけよ。
 でないと紛らわしいんだよ!

 しかしあの男の邪魔さえ入らんなきゃ、今頃あの子は俺のものだったのに。
 全くムカつく奴だぜ。

 しかし俺が幸せにしてやるつもりだったのに。
 あんな奴にあの子が幸せにできるものか! 見たところ、Bランク相応の魔力しか持ってなかったし。
 それなのにSSSランクの俺にあんな態度とりやがって。

ムカつく!!

 仕方ない。
 ここは地道に王道原作キャラの攻略でもするか。

 ふふ、やっぱり最初に手を出すのはなのはだな。
 んで次にフェイト。その体を堪能してやるぜ。
 それから八神家丼だな。ふふ、待っていろよ、ククク。

 それからどうやって機動六課に所属するかな。
 まあはやての招集もあるだろうし、そんなことを気にする必要もねぇか。

 ただ問題なのはフェイトがキャロを保護してないってことだな。
 確か保護したという報告を聞いたはずなのに、フェイトが保護してないだなんて。
 何が起こったってんだ? まさかバタフライ効果なのか?

 まあいない奴のことを言ってても仕方ねぇか。
 素直なロリもいいが、ヴィータみたいな強気なロリで我慢するとするか。

 ふふふ、待っていろよ。皆。
 俺が幸せにしてやるからな。

 俺はカリバーンを輝かせていた。
 ああ、俺の全てを輝かせているようだ。

















 俺たちは一応自然保護隊で働くこととなっていた。
 
 よく考えてみればファナムは一応前科犯だ。
 いくら俺やキャロが許しても、それでも施設破壊の問題だけは俺たちにはどうしようもできない。

 だってあれは管理局のものなのだから。

 今は軽い罪で許されている。
 減給だとか謹慎だとか、そういったものでだ。

 でも管理局は結構平気で小さな子供を才能があるだけで戦力扱いし、碌な訓練も施さず前線に送る。
 これだけは間違いない。

 ここだけは間違っていない。
 だからといってアークの言っていることに賛同は全くできないが。

 原作を知る限りでも、フェイトだって結構大変なことをやらかしている。
 まあそれも管理局の奉仕で許されているのだが。

 逆を言えば、ファナムは管理局に貢献しているSランク魔導師の管理局員だったから許されたと言っても過言ではない。
 
 なのにここで止めてしまえば、そのことを盾になにかやらかしてくるかもしれない。
 
 そういったことが容易に思いつけてしまうから怖い。

 それに止めようとすれば、管理局の一部、暗部が必ず俺を狙ってくるだろう。
 なんせ俺は計測上Bランクの魔導師、またはBランクの魔力を持っているドラゴンなのだから。

 だからその程度の存在がSランクの魔導師を持っていく、などすれば容赦なく襲い掛かってくる。
 たとえ全体が悪くなくとも、そういった暗い部分があることだけは知っている。
 主に3脳とか。

 だからこそ気軽に辞められないんだが。

 まあだからといってヒモになるのも嫌だしなぁ、てことで。

「えーと、現在自然保護隊にいます」

 でもなにこの状況?

「ぐるる~」
「がるる~」

 すっげぇ懐かれてます。
 
 最初の方は凄いビビっていた。
 逃げ出そうとしていた奴もいた。だが逃げ出そうとしていた奴もいたが、結局逃げ出さなかった。
 これはあまりの恐怖に逃げ出したいが、逃げたらもっと怖い目に会う!とでも思っていたのだろう。

 野生の生物がそんなことを考え付いたのかどうかは知らないが。

 ただ俺は竜語を話せるのと同時に獣語も話せるので説得することにしたのだ。

 フェンリール・ドラゴンは竜であると同時に獣王でもある。
 獣の因子も持っているだけに獣語さえも語ることが可能なのである。

 おそらくはドラゴンと大型獣との間にできた子供が自然界に定着して、そのまま生態系に組み込まれたのだろう。
 そう思えるくらい、ドラゴンと獣としての能力を両立させている。

 だからこそこうして会話ができているのだ。

 だが俺は獣王たる存在で、だからこそ一方的な重圧を放てる。

 だって今の俺はフェンリール・ドラゴン、獣王なのだから。

 獣王、とはいってもフェンリール・ドラゴンは王道によって獣王となったわけではない。
 寧ろその逆。

 覇道によってその道を切り開いてきた暴虐王だ。
 まあ獣の世界ではそれが正しい。
 暴虐によって相手を蹂躙し、相手を屈服させる。
 フェンリール・ドラゴンは獣の世界の法則に従って獣王となった。

 勿論、フェンリール・ドラゴンは王になるつもりで暴虐を繰り広げてきたのではない。
 
 ただ喰らうために暴虐を繰り広げてきた。
 ただ喰らうための行動が、いつの間にか獣王と呼ばれる存在の種族になっていただけだ。

 俺には本能によってこの個体のことがよく分かる。
 フェンリール・ドラゴンという種族のことが全く以てよく分かる。

 ただこの獣王竜は食欲に忠実で、ただ食べるためだけにその身が存在している。
 喰らうことのみにその欲を充満させている。
 常に獣王竜は飢えているのだ。

 だからこそ暴虐の限りを尽くして他生物を喰らう、喰らい尽くす。
 あまりにも圧倒的な暴力によって、あまりにも絶望的な肉体的差で。
 逃げることも許さず、立ち向かうことすら愚かと思えるような。
 それほどに圧倒的な差の暴虐を以てして獲物を喰らう。

 ゆえにこそフェンリール・ドラゴン、獣王の名を冠せし竜となったのだ。

 だからこそ俺はここまで脅えられているだけで。
 それでも逃げようとしないのは、逃げられないのは、脚が竦んでいるからだろう。
 それくらいの力の差が、生物的としての根源的差が存在しているのだから。

 まあそれも俺が説得していたらいつの間にか懐かれていた。

「キュックー!」
「オージンさん、離れてください! そいつら、潰します!」
「て、待て待て待てェェェェ!」

 いつの間にか、キャロとフリードが戦闘態勢を取っていた。

 と、いうか待て!

 こいつらは保護対象なんだぞ!
 なのに攻撃するとかやっちゃいけないことだろうに!

 うお、キャロ、ケリュケイオンを構えるな! 
 フリード、そうやってブラストフレアを放とうとするんじゃない!!

 しかし本当に危なかった。
 俺が止めてなきゃ本当に。

「しっかしあんたら、成果凄いねぇ。
 これならすぐに一番になれるよ」

 などと自然保護隊の先輩に言われる。
 まあそもそもが俺たちにこの仕事は向いているだろうしな。

「ファナムさん以外でお父さんをとる奴なんて、ぶつぶつ」
「キュックルー!」

 なんか黒いオーラが出てきた気がする。
 最近はあんまり出て来なかったのに。
 まあ頭を撫でてやるとそういった空気も薄れてくるからいいんだけど。
 
 まあ獣たちが懐いてくるのは大抵が雌だ。
 というか俺のことを雄として認識して懐いてくるんだよな。あいつら。

 まあ獣というのは人間と違って強さというものがもてる。
 だから強ければ強いほどもてるといっても、獣の世界では過言ではない。

 獣王竜フェンリール・ドラゴンはあまりにも圧倒的な暴虐の限りを尽くすドラゴン。
 
 だからこそ本来は脅えられて然るべき存在。

 だが俺には理性が存在する。
 『俺』という意思が存在している。
 だからこそむやみやたらと襲い掛かることなんてしないし、攻撃なんて加えやしない。

 最初の方は脅えていた獣たちだったが、俺にそんな気がないと分かってからか一転して俺に懐いてくる。

 フェンリール・ドラゴンという極上の雄なのだ。
 自分たちに危険がないと分かれば、その血を自分の子孫に残したくなるんだろう。
 獣たちの本能がそれを促している。

 いや、俺にはファナムがいるから絶対浮気なんぞしないが。
 ファナムがヤンデレ、てのもあるが、それ以上に俺がファナムを愛してるからなぁ。

 まずファナム以外にありえない、て。
 と、俺は心の中で惚気たり。

 因みに俺はこっそりと――

「オーちゃぁぁぁぁん!」
「ふぁ、ファナム!」
「おー。名物のバカップルが来た来た」

 凄い勢いで俺に飛びついて抱きついてくるファナム。 
 受け止めた俺はかなり痛かったと思う。
 まあフェンリール・ドラゴンなのでそこまで痛くはないが。

 因みに自然保護隊の皆は微笑ましい笑みを浮かべている。
 ここにいる人たちはおおらかな人が大半だ。
 というかそんな人たちだからこそ、こういった自然保護隊に入っているのだ。

 もっと出世願望が強いとかカッコイイのがいいとか、そういう人なら武装局員にでもなってるだろうし。
 
 だから俺はここの人たちと仲良くできているのだ。
 嫉妬とかで襲ってくる人たちはこの自然保護隊にはいない。
 
 田舎から来た人が多く、田舎の幼馴染と仲の良い人が多いらしい。

「あー、おだだづも帰るべかなー、そろそろ田舎っぺに」
「んだんだ。久しぶりにまゆと会いでーしなー」

 どこの方言だ、という人もいる。
 というか方言すぎて聞きとれない言語の人もいるし。
 相変わらず言語関係が疎い俺であった。

 竜語とか獣語なら得意なのに。
 まあんなもん使っている人はいないけれども。(獣や竜は使うが)

 まあすっかりと俺とファナムの仲は有名になっているのだ。
 時折嫉妬団とかいうのが襲い掛かってくるが、その度にファナムが粛清して、そいつらは高町教導官のしごきに耐えられるようになってきている。

 高町教導官も最近は教導しがいのある人が増えてきて喜んでいるようだ。
 ただそのためか教導のレベルがアップして、普通の訓練生は更に音を上げ始めたとか。
 トラウマになっている人たちも多い。

 訓練に耐えられる人が増えてくるのと同時に、トラウマになっている人たちも多く出ている。

 さすが原作で新人たちを公開処刑した魔王だ。
 確か原作でそんなシーンがあった気がする。
 今では霞んできている原作知識を頼りに、そう思った。
 もしかしたら間違っているかもしれないが。

 まあどっちにしても高町教導官がトラウマを作っていることは間違いない。
 どれだけ怖いんだ。あの人は。などと思ったりもした。

 思ったら原作のStrikerSの事件ていつ頃始まるんだったけ?
 後3年くらい後だったかな?
 大人になってからの話しって聞いていたからな~。

 新暦74年の春のことだった。

 因みにキャロのことはあの男にはばれていない。
 原作キャラであるキャロのことがばれれば、どんなことが起こるか分からない。

 もしかしたらアークみたいに変な理屈でも並べられてしまうかもしれない。

 そうなると非常に危険な気がするが。
 
 これ以上、俺に不幸が降りかからないでくれよ。と内心で思う俺であった。

 まあなんせこれまでがこれまでだし。
 神の転生トラックの巻き添えを喰らって、
 更にその上、幼馴染の婚約者の目の前で竜に食われ、
 しかも同じ転生者である男に殺されかける。

 うん、どんだけ不幸なんだよ。俺は。
 なんだ、運命が悪いのか!?
 世界はいつだってこんなはずじゃなかったことばかりなのか!!
 そう大声を張り上げて言いたい気分だった。

 でもそんなことはない。
 今の俺にはファナムとキャロとフリードがいる。
 だから今の俺は幸せなんだ。

 こんな幸せがいつまでも続くといいな。
 そう思える一幕だった。







  
 
 







 






 とある管理外世界。
 そこではある魔導師と魔導師が戦っていた。
 
 管理外世界だというのに、戦っていた。
 そこは魔法の認知されない世界。

 だからこそ人避けの結界を張ることで、魔法関係者以外はその地を入ることすら許されない。
 そういった土地。

 だからこそ安心して戦える。
 邪魔する者などいないのだから。

 それはどちらにとっての安心なのかは、分からないが。

 オレンジ色のジャンパーを着た金髪の少年。
 彼は次元犯罪者『スパイラル・ラーメン』。
 ある特殊な希少技能レアスキルを持っている。

「くっそ! お前、なんなんだってばよ!
 俺の邪魔をしやがって!」

 そこにいるのはたくさんの女たち。
 倒れ伏しているのは皆、女。
 
 死んでいるわけではない。だがその瞳に映っている者は皆虚ろだ。
 それだけでなにがあったのかが分かる。
 ただ生きる希望すらもない。そんな状態だった。

「くそっ! こうなったらお前もやってやるってばよ!
 見てみたら結構良い女なんだってば!」

 ただ彼の目には欲望だけしか映っていない。
 ただ目の前にいる魔導師を、欲望の捌け口にしようと思っているのだ。

 だが彼女はなんの反応もない。
 ただただ、目の前にいる男に対して冷静に対処するだけだ。
 心の内にどれだけの激情があろうとも。

「喰らうがいいってば! 希少技能レアスキル!!
 影分身シャドウドール!!」

 これこそがスパイラル・ラーメンの持つ希少技能レアスキル影分身シャドウドール≫。

 影からその影の情報を読み取り、本物そっくりの自分の分身を生み出す。
 ただその欠点は自分の影しか情報を読み取ることができないが、それでも十分。

 影から生みだされし者の強さは本物と瓜二つ。
 たとえその分身を作っても弱くなどならない。

 いうならもう1人の本物を生みだすようなもの。
 1人生みだそうが、10人生み出そうが、1人1人の強さは本物と変わらない。

 そしてスパイラルは影分身によって10人を生み出した。
 影から生み出されし影人形の数は10。

 そして1体1体が本物のスパイラルと同等の強さを持つ。
 単純計算でいえば、彼の強さは11倍になったようなものだ。
 そしてスパイラルの魔導師ランクは推定A+ランク。
 A+ランクが11人。
 これはなかなかに厄介なことといえる。

 目の前にいる女性は大丈夫なのだろうか……!?

「ディステニー」
『Yes.mode[destiny]!』

 彼女の名はリナス・サノマウン。
 その手にあるのは戦斧型デバイス・ディステニー。
 『運命』の名を冠せし戦斧型デバイスだった。

 2人の魔導師が、激突する。



[19334] 第四十一話 奪取
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/20 14:09
 2人の魔導師が激突する。

 片方はオレンジ色のジャンパーを着た魔導師。
 希少技能レアスキルである≪影分身シャドウドール≫を持つ魔導師。
 その希少技能レアスキルによって10体の影から生み起こした分身を作り出して対峙している。

 そしてもう片方の女性。
 その手に握られているのはバルディッシュに似た戦斧型デバイス。
 その名はディステニー。

 そう、彼女こそアルハザード時代の戦闘機人『リナス・サノマウン』である。




第四十一話




 2人の魔導師がその手に武器を持つ。
 その手にあるのは互いにデバイス。
 つまり戦い合う者同士。

 ならば激突するのもまた必至。

「行くってばよ! 螺旋!」

 スパイラルはクナイ型デバイス螺旋を起動させる。
 非人格型アームドデバイスだ。

 そしてリナスもまたディステニーで攻撃を仕掛ける。

 だが――

「この俺の一斉攻撃を避けられるかってばよ! ファイア!」
「ブリザード!」
「ウィンド!」
「グラビディ!」
「サンダー!」
「ロック!」
「シャインジャベリン!」
「アイアンラッシュ!」
「ウォーター!」
「プラントウェーブ!」

 十属性の別々の攻撃を仕掛けてくる。
 それぞれ簡易な魔法ではあるが、それでも十属性を同時に使いこなすなんて。
 本来は属性が反発しあって発動なんてできない。

 だが影は本来別々の存在に、分身となって発動しているのだ。

 だからこそこの組み合わせは凶悪。

 別々の属性による攻撃が襲い掛かってくるのだから。

 だがリナスは慌てない。
 こんな同時攻撃に対する対処法など、彼女は心得ているから。

 ただその対処法に従って、相手をするのみ。

「ディステニー、ギルガメッシュ」
『Yes,form change! Gilgamesh form!!』

 そう、ディステニーには戦斧型形態以外にももう一つの形態が存在する。
 その形態こそがディステニーにとって真の効果を発揮する形態。
 
 それこそがディステニー・ギルガメッシュフォーム。

 その形態は、数千の短剣。
 それらの全てが、リナスの支配下にあった。

 そして数千あるうちの、ある特定の短剣に魔力を送り込み、短剣に魔力刃を発生させる。
 そして魔力刃を発生させた短剣によって、その全てを相殺させる。

 多方向から来る攻撃ならば、ギルガメッシュで対処するのが最も的確な対処法なのだ。

 多方向から来る攻撃には多方向から放てる攻撃。
 対処法として最善を討った。
 リナスは冷静に、討ったのだ。

 なんという的確な選択か。
 この実力は一体どれほどの魔導師ランクを有しているというのか。
 その真実の実力は未だ誰にも分かっていない。

「くっそ! こうなったら! こうなったら!」
「うおおおおおお!」

 再びまた全員による攻撃が始まる。
 数々の攻撃を、多方向から更に多方向。
 誘導弾、砲撃、直射魔法、接近攻撃。

 だがそれら全てをディステニー・ギルガメッシュによって対処する。

 近づく者にはギルガメッシュが突き刺さり、
 誘導弾の全てを短剣で相殺し、
 直射魔法や砲撃に至ってはスピードを以てして避けている。

 全く相手になっていない。

 スパイラル・ラーメンが圧倒的に実力的に、リナスより弱いのだ。

 A+11人、リナスはそれらを相手にしても全く負けていなかった。

 いつの間にか、「てばよ」口調もなくなってしまっていた。

 幾ら10人もの分身を生み出せるとしても、所詮はA+11人。
 1人が相手ではなく、集団が相手だと思えば対処は可能なのだ。
 これが実力差。

 スパイラル・ラーメンではリナス・サノマウンには勝てない。

「く、糞糞糞ッ!」

 実力差が大きすぎる。
 それは今更ながらスパイラル・ラーメンは感じ取ってしまった。
 こんなものでは勝てない。勝てるわけがない。

 だがそれでもスパイラルにはとっておきがあった。

「こうなったら合体魔法! 喰らえ!!」
「スー!」
「パー!」
「合体!」
「魔法!」
「攻撃!」
「風輪!」
「大玉!」
「螺旋!」
「丸砲!!!!!!!!!」
「喰らえぇぇぇぇ!!」

 10人による最強砲撃、同時に回転する風属性の螺旋に回転する砲撃を撃ち放つ。
 それはスパイラル・ラーメンにとってのとっておきの大技。
 これならばいかなる防御だろうと打ち崩せる。そう信じて。

 魔力のほとんど全てをこの砲撃に注ぎ込んだ、文字通り彼らの必殺技だ。

 あらゆるものを切り裂く究極の必殺技。
 これならばさすがのディステニー・ギルガメッシュで防御しようがない、究極の砲撃魔法ともいうべき攻撃魔法。

 ゆえにこそ確信していた。
 この砲撃が敗れるはずがない、と。
 自分たちのとっておきの必殺魔法なのだから。

 だがそれすらもあっさりと破られる。

 リナスの手には指輪があり、その指輪から発せられる魔力が防御魔法を生み出し、砲撃を防いでいた。

 そう、彼女の持つデバイスの一つ、アヴァロン。

「障壁」

 障壁と呼ばれる魔法によって、砲撃を完全に防いでいたのだ。
 あの砲撃魔法でさえ完全に防御できるというのか……!?

 あまりの事実にスパイラル・ラーメンたちは愕然としていた。

「鋼の、軛」

 それと同時に範囲型の拘束魔法が、愕然としていたスパイラル・ラーメンたちを捕まえていた。
 対象に軛を突き刺すという荒業な拘束魔法によって。
 それはあまりにも痛い、激痛だったために――

「あああああああああああああああああああああ!!」

 11人いるスパイラル・ラーメンのうち、10人が消失する。
 否、影に戻っていく。

 分身だからこそ、あまりの痛みに耐えきれず影に戻ってしまったのだ。

 つまりこれでスパイラル・ラーメンはただ1人で――

「アヴァロン、シャイニングハートに」
『Yes! Device change,mode[shining heart]!!』

 指輪型デバイスアヴァロンはその形態を変化させる。
 その姿はまさに杖。
 まるでレイジングハートのような、その姿。

 だが細部が所々違う。
 そしてその名もまた大きく違う。

 不屈の魂、ではない。
 ただただ輝く。眩いばかりに輝く一筋の光。
 そんな光を表しているかのような、そんな心。
 
 ああ、まさにこの名前は、貴女にぴったりです。

 デバイスの名は『シャイニングハート』。

 あらゆるものを畏怖させる絶対砲撃魔導を使えるデバイスの一つ。

 そして恐怖する。
 鋼の軛にその身を捕えられながら、それでも一生懸命に抵抗しようとする。

「や、やめろ! 助けてk――」
「ソウルライト、ブレイカ」

 だがその懇願ですら、問答無用に焼き尽くす。
 あらゆるものを畏怖させ恐怖させ、その絶対的な恐怖によってアルハザードを守ってきた騎士の、最大の奥義を。

 スパイラル・ラーメンはこの一瞬により、一生消えぬトラウマが生まれてしまった。

「ヘルオアへヴン」
『Yes,device change! Mode[hell or heaven]!』

 そしてシャイニングハートは本型デバイスとなる。
 本型融合騎、ヘルオアへヴン。
 魔導書型デバイスだ。

 そしてリナスはヘルオアへヴンを泡を吹いて気絶しているスパイラルに寄せる。

「へヴン。コイツのリンカーコアを」
『はいはい。分かってますよっと。あれ? 結構美味しいかも。
 おお、リナス! コイツの希少技能レアスキル、結構使えるよ!」

 あっさりと、あっさりとリンカーコアを引き抜く。
 あまりにもあっさりとだ。

 希少技能レアスキル影分身シャドウドール≫、その効果はへヴンもまた認めるほど。
 そしてリナスもまたへヴンの言葉に頷く。

「ああ。これなら」

 彼女はどこを見ているのか、何を見ているのか。
 それはかつての日々なのか。

 そして彼女は呟く。

「後10年はかかるかと思っていたが、このスキルを使えば、
 おそらくは後1年か、2年。それくらいで計画の実施は可能だ」

 計画、それはなにを表しているのだろうか。
 
 リナスはこの希少技能レアスキルを使うことで何をしようとしているのか。
 それは誰にも分からない。
 だがおぞましい、なにかをしていることだけは確か。間違いないだろう。

 ただ計画を実行するのは1年か2年にまで短縮された。
 後10年はかかるものが、一気に短縮されてしまったのだ。
 それがなにを意味するのかは分からない。しかしこの男が負けたことは、この男の能力を得たことはそれだけの価値がある。
 それだけは分かったのだ。

 計画を実施すべきか、しないべきか、彼女は迷っている。

「……もし、計画を実施するよりも、管理局が正しく魔導を扱えているのなら問題はない」
「リナス……」

 リナスは魔導のことをあまりよく思っていない。
 自分自身もその恩恵を持っていながらも、いや持っているからこそ、その破滅の道を知っているのだ。
 
 その破滅の道がなにを表しているのかも。
 魔導を放っておけばどんなことが起こるのかも、分かっているからこそ。

「だが」

 だからこそ彼女は魔導を導かなくてはならない。
 それが自分に課せられた使命なのだと。

 たとえ自分勝手と煽られようとも構わない。
 このままこのミッドチルダ含め、この次元世界を、かつての故郷アルハザードのようにするわけにはいかないのだから。

「管理局もまた、魔導に狂わされているのなら、確実に計画を実行する」

 それは本型デバイスから出てきた小さな妖精もまた頷いていた。
 妖精のような少女、彼女はヘルオアへヴンの管制人格の1体、へヴン。
 ユニゾンデバイスとして実体化してこの場に現れたのだ。

 そして彼女もまた頷いたということは、へヴンもまたその案に賛成なのである。

 かつてのアルハザードを、今のアルハザードのようにするのはもう二度と嫌なのだから。
 
 大切な人を奪った魔導が嫌なのだから。

 そしてその計画の名を呟く。
 そう、その計画こそが――

「『魔導堕しメルトダウン』を」

 ――魔導堕しメルトダウン



[19334] 第四十二話 とある二等陸佐の悩み
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/20 17:58
 新暦75年のこと。
 とある日のこと。

 八神はやては悩んでいるのだった。




第四十二話




 機動六課、というものを設立しようとは思っている。

 既に隊長陣の構成は決まっている。
 高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、ヴィータ、シグナム。
 それにロングアーチにはシャマルがおるし、自分の傍にはザフィーラがいてる。
 後見人にはリンディさんやクロノ君、ほんでカリムがおる。
 
 どっからどう見ても完全な身内で固めたチームや。
 こんなもんで設立してもええように思われることなんぞ決してあらへん。
 なによりもメンバーがメンバーや。

 せやけどもカリムの預言者の著書プロフェーティン・シュリフテンによって出された預言。
 それは無視にするにしてはあんまりにも大きすぎる。

 やからカリムに頼んでこのチームを設立してもらうよう頼んだ。

 信用できるメンバーが少ないよってに、身内で固めるのは仕方あらへん。
 信用できるメンバーで尚且つ実力がそれなりにあるメンバー、でというこやけどな。

 どう考えても、こんなんで他からはええ返事なんて貰えるはずがあらへんやん。
 せやけどもこれで推し進めなあかん。

 こんなんちょっと考えればおかしいのは当たり前の組織やけども。
 
 確実にこの『機動六課』は設立させたい。
 預言者の著書プロフェーティン・シュリフテンによる預言をなんとしても覆したい。

 せやからこの多少おかしくても強引に進めたいんや。

 詳しいことは2人には話しとらんけども、なのはちゃんやフェイトちゃんの承諾はちゃんと得た。

 後はあの海千山千の爺共をどう潜り抜けるかや。
 三提督やカリム、クロノ君やリンディさんが後見人であっても、あの爺共を潜り抜けるんは難しい。
 これはいっちょう苦労しそうやな。

 私はどう海千山千の爺共を潜り抜けるかを思案しとった。

 せやけどももっと大変なことがある。

 隊長陣に優秀なんを集め過ぎて、古参の、役に立ちそうな局員を集められへん。

 元来機動六課、迅速に動かさなあかんチームの場合、経験が豊富なんを集める必要がある。
 
 そやけども隊長陣に強力なんを集め過ぎた。
 それこそリミッターで抑えつけなあかんくらい強い人らを。
 いくら信用できる人でも、リミッターはつけなあかんくらい。

 そやけども、納得できへん隊っちゅーことは、古参の経験豊富な局員を、あいつらが渡してくれるはずがあらへん。
 
 つまり海千山千の爺共の息がかかっとらん局員。
 つまりは新人くらいしか、手に入れることができへんのや。

 まあ幸い、なのはちゃんとヴィータは教導官の資格をもっとる。
 新人を集めて訓練して使えるようにする、ちゅー計画はそないに夢物語やないちゅーこっちゃ。

 問題はどんな新人を手に入れるかや。

 理想的なんはランクが高すぎず低すぎず、尚且つ伸び代のある新人や。
 まあそういった人材は2人とも見つけられたし、ええか。
 なのはちゃんもあの2人やったら訓練しがいがありそうとか言うそうやし。

 ……ただやりすぎとれへんかなぁ。
 この頃、なのはちゃんの訓練がきつすぎる、て直訴しにくる局員もおるくらいやし。
 まあなのはちゃんの訓練に耐えられる局員が増えてきたから、訓練も厳しとーだけやと思うんやけど。

 新人たちがなのはちゃんの訓練耐えられるかなぁ……?
 そこらへんが心配になる私やった。

 問題はフェイトちゃんが隊長を務めるライトニング隊のことや。
 1人は決まっとる。

 フェイトちゃんもすっごく心配しおったけども、なんとか説得させて入れることには成功させたわ。
 ただフェイトちゃん、親バカも大概にせなあかんで。
 と、突っ込みたかったけれども突っ込めんかったわ。
 恐るべし、フェイトちゃん!

 と、なると最後の問題はもう1人のライトニング隊メンバーちゅーことや。
 誰かおらへんかな? 

 候補はおるけどもな。
 
 キャロちゃんや。

 ただキャロちゃんの場合はお父さんにベタベタやさかい、離れてくれるか問題やし。
 オージン君呼んだら呼んだでファナムちゃんに殺されそうやし、
 これ以上Sランクを呼ぶのはほぼ無理やしで、

 うん、無理やろな、とは思う私やった。

 ちったー親離れせなあかんよー、と叫びたい私やった。

 まあ無理やろうけども。

 なんせフェイトちゃんに子離れせな、とか言うのと同じくらい難しいことやかいな。
 なんでうちの周りには子煩悩な母親や、父親大好きな子供がおるん!?

 ほんま、ライトニング隊の最後の1人、どないしょ。と思う。

 4人目の新人、強すぎず弱すぎず、伸び代のある新人、かぁ。
 キャロちゃんが一番の適任なんやけどな。
 ポジション的に考えてフルバックが欲しいところやしな。

 4人目をどないするか、私は必死になって考えてた。
 
 まあ他にも問題があるからなぁ。
 海千山千の爺共をどう相手にするか、ちゅー問題がなぁ。

 それに最大の難敵のレジアス中将。
 糞爺とは違って、レジアス中将は立派やねんけど、その立派さのせいで分が悪いしな。
 
 しかも私嫌われとるし。

 まあそこはしゃーない。
 
 いくら立派な中将が相手やからといって、私も手を抜かれへん。
 カリムの預言が当たったらヤバいことにやるんや。
 それだけはなんとしても阻止せな。

 そのためには多少無茶で無謀やろうとも、この『機動六課』だけは設立させる。
 なんとしも、預言は止めたるわ!

 そう決意する私やった。

 この決意は誰にも破られることは、ないで!

「ただなぁ。うん、修吾君がな~」

 修吾君が機動六課に誘えって言ってくるねん。
 いやまあ戦力としては申し分ないねん、戦力としては。

 ただ信用できるかどうか、で言ったら信用もなぁ。できるこたできんねけど。
 
 腹芸なんて無理そうやしな、修吾君は。
 
 ただ修吾君が来るとなると、新人たちにも悪い影響与えそうやし。
 勿論隊長陣にも悪い影響与えそうや。

 そもそもからしてSSSランクの修吾君なんて入れるわけにもいかへんやん。
 リミッターつけても入れること無理やん。

 大体修吾君入れられるんやったら、
 ファナムちゃんをリミッター入りで誘って、オージン君とキャロちゃんを引き入れようとするわ!
 
 まあオージン君が来るかどうかは知らへんねんけどな。

 ほんま、こっちのこともどないしょ。
 海千山千の爺共と違って、こっちもやりにくいったらありゃせんわ。


















 第一管理世界ミッドチルダ
 管理局の総本山のある地。

 そのミッドチルダのとある道端。

 必死になって歌っている少年がいた。
 およそ八歳くらいの少年。

 その姿はあまりにも奇妙だった。

 ギターを弾いている少年、それだけなら就職年齢の低いミッドチルダでは珍しいことではない。
 いや、ギターを弾いて流れているのは珍しいことではあるのだが。

 なんせここはあまりにも人が多いのだから。
 そして就職年齢の低い子供の大半は魔導師的に優れている子供が多い。
 だから就職年齢の低い子供は魔法関係の職についているのだ。

 逆に魔法に関係のない仕事は基本的に就職年齢が高い、これが普通なのだ。

 だからギターを使って音楽を鳴らすような、それも流離の、なんて珍しいことこの上ない。
 それも子供であれば尚更だ。

 しかも子供の容姿が更に奇妙さを継ぐ。

 まず車椅子に乗っている。
 ここからしてどうしてこんな車椅子に乗っている子供が流浪の旅に出ているのかが分からない。
 もっと然るべきところにいるべきなのだ。

 しかも顔には刺青が彫ってある。
 それも最近の若者が面白がってつけたり、ヤクザが箔をつけるためにするような刺青などではない。

 まるで呪術を扱う者が彫るような、呪術のため、民族のため、歴史を感じさせるような、そんな刺青が彫ってあったのだ。
 まるでまじないの意味を込められた刺青かのような。

 まるでどこかの蛮族か民族かが入れたかのような、そんな刺青を顔に掘っているのだから。

 そして右目にあるのは翠色の瞳。
 左目は深く被っている帽子のせいで見えない。
 右目が見えるのは、深く被っている帽子に右目の部分だけちょうど切れ目が入っているからだ。

 髪色は金色、それも綺麗な金色だ。
 
 そういうせいか、容姿も悪くない。
 ショタコンなお姉様が見たらお持ち帰りしたくなるくらいかもしれない。

 車椅子、深く被った帽子、民族風の刺青、八歳くらいの子供、ギター。

 うん、確かにどこからどう見てもおかしいところだらけだ。
 
 だがまあそんなことは気にしない。

 ただ少年は歌っている、唄っている。
 ただ好きな歌を、ただ奏でている。

 奏でると同時に唄っている。
 それだけでいいのだ。

 彼にとってそれが幸せ。
 それで生きていければいい。

 どうやら彼の持っていたバケツの中にはお金がたまっている。
 結構人気があるようだ。

「そんだらまぁ、次は自作行くズラ!」

 と、そういうと、「ズラ」とかいう口調が出てきた。
 これは方言なのだろうか、そう思ってしまうくらいの言葉だ。
 あまりにも訛っている。

 まあここミッドチルダはいろんな世界から人が来ている。
 ちょっとくらい変な訛りがある程度では気にしないだろう。

 少年はギターを鳴らす。
 それはただ好きな歌を奏でるだけ、それでいいのだから。

「帰ろ、帰ろ、家に帰~ろ~、
 僕たちの住む町へ~、
 家族の待つ家へ~と」

 ただ奏でる。
 ただ唄う。

 それが皆に伝わってくれるのなら、それはなんて良いことなのだろう。
 なんて嬉しいことなんだろう。なんて幸せなことなんだろう。

 ただそれだけでいい。

 だから奏で唄う。
 それだけが、きっと望みだったから。

「私の~大好きな家族の~、待つ家へ~、
 帰ろ、帰ろ、家へ帰ろう~」

 そして唄い終わる。
 ギターもそれから少しして終了する。

 そして観客たちからバケツの中にたくさんのお金が投げ込まれた。
 どうやら大成功のようだ。

「良かったズラ~。
 うう、自作がこんだけヒットしたのはこれが初めてズラよ~」

 というか何度も何度も自作で挑戦していたけども悉く失敗していたらしい。

 ただ今回のはかなり好評だったらしい。
 それが彼にとってはかなりの幸せなことだったんだろう。

「やったズラ。やったズラ」

 彼にとって歌を認められることは非常に嬉しいことだ。
 彼にとって歌というものは大切なものなのだから。
 泣くほどに嬉しかったのだ。

 ただ彼は嬉しそうに、そして次を歌う。
 もう一度、この前作った自作の歌を――

 ただそれは不評に終わったらしく、項垂れていた。
 その涙の理由は嬉しいのではなく悲しいからなのだが。

 この涙の理由を変えられるのか!?



[19334] 第四十三話 プレゼント (もう一度修正)
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/22 00:55
 デバイスをどうしよう、と思い考える俺だった。




第四十三話




 そういえば今までデバイスを使って来なかったな。
 今までバリアジャケットを張る必要なかったからか(仕事中はドラゴンフォームが多く)、
 デバイスを必要としていなかったからな。

 だから俺としてはデバイスを新調したいものだ。

 俺が長年共に戦ってきたストレージデバイス、グングニールは既にエミヤ風の転生者ことアークとの戦いの時に壊れている。
 まあ俺がドラゴンになった衝撃で踏んづけてしまい、壊れてしまったからなのだが。

 だから俺としてはドラゴンの体重にも耐えられるような頑丈なデバイスが欲しいな、とは思っている。

 だが俺の給料ではそんなものはとてもとても。

「なら私が買うよ」

 あ、そうだった。
 ファナム、Sランク魔導師だから給料高いんだった。

 嫁にたかる夫。
 あれ? なんだか涙が出てくるよ。

 給料の差があまりにも大きいことに嘆く俺だった。

 魔導師ランクの差こそが地位の差、つまりは給料の差か!
 そう思える三等陸士の俺だった。

 実は俺三等陸士、つまりは一番の下っ端だったりしたわけではある。
 因みにキャロも三等陸士。
 
 まあ娘のキャロと同僚でもある俺であった。

 まあそんな下っ端だからこそそんな大した給料なんて出るわけがない。
 オージン一家の家計を支えているのはまさにファナムだった。
 そしてオージン一家の家事を支えているのはキャロ。

 ……俺、情けな!!

 俺もさ、俺もさ、一生懸命頑張って仕事はしてるんだよ!
 俺の一吼えですぐにでも集まって保護しやすくはなるんだよ!
 だから俺にとってここは天職といってもいいくらい、やりやすい仕事なのだ。

 ただそれでもファナムと比べると情けないことに違いはないわけで。
 本当にどうするんだろうか? 俺。

 ともかくデバイスは持っていた方がいいだろうとは思う。

 なにかあった時のための備えに。

 俺は膨大な魔力を持っている。
 だがそれをデバイスに注入して使う戦い方はできない。

 なぜなら俺の召喚する魔力量はあまりにも膨大すぎて、微妙な出力調整ができないから。
俺にしてはちょっとと感じてもその差はあまりにも絶望的なまでに巨大すぎるのだから。
 
 なにせスターライトブレイカーを666発作り出してもまだまだ余裕があるのだ。
 ジュエルシードが21個集まったところで、それ以上の魔力を引き出すことなど朝飯前と思えるくらい膨大なのだから。

 だからデバイスに魔力を注いで戦えば、すぐにでも壊れる。
 だからデバイスに頼った攻撃方法はできないといってもいい。

 だからラウンドシールドの防御魔法、アクセルシュータ―などの攻撃魔法は基本的に方式形成フォーミュラー・フォーマティヴ頼りだ。

 だから俺がデバイスを使う魔法となれば、基本的に自分に対する魔法、または魔力オーバーさせてはいけないような魔法のようなものだ。

 簡単にいえばバリアジャケット。
 バリアジャケットに注ぐ魔力が大きすぎると、魔力に耐えきれなくなって自分自身の体自体が押し潰される。
 たとえフェンリール・ドラゴンの体という圧倒的な肉体を持っていても、神域の魔力テンプテーションには耐えられない。
 
 だからこそバリアジャケットを張る時はデバイス頼りなのだ。
 デバイスなくても普通の魔導師ならできるのだが、俺の魔力制御の低さを見縊らないでくれ。
 んなことできるか。

 他にも変身魔法の精度を上げたりなど。
 これはデバイスなしでもできるが、まあ精度を上げたい場合はデバイスを使わないと。
 まあデバイスなしに慣れたので、今ではデバイスがなくともすっかりちゃんとした変身魔法ができるのだが。

 回復魔法も拙いが、デバイスでやらないと不可能だ。

 なぜなら方式形成フォーミュラー・フォーマティヴで回復魔法をしようとすれば、過剰回復で逆にダメージを与えてしまう結果になってしまう。
 どこの世界の過剰回復魔法マホイミだ。

 だからこそデバイスは必要になる時が来るのかもしれない。
 できればそんな時はやってきてほしくはないのだが。
 俺の不幸レベルを考えると備えておかないと危険かもしれない。

 だから俺はデバイスをなんとかしようと思ったのだ。
 ただどんなのを作るべきかは決めてないが。

 とりあえず接近戦は勘弁したいので、アームドはなしの方向にしとこう。
 インテリジェントも俺に会うのがないだろうし、

 やっぱグングニールと同じストレージがいいかな、と思う。

「だったらドラゴンモードでも使えるデバイスにしようよ」
「ドラゴンモードで?」

 まあ確かに竜形態でもデバイスが使えるようになれば、
 強固な竜鱗に加えて、バリアジャケットという鉄壁が出来上がるわけだが。
 
 あ、でも俺のラウンドシールドに比べるといささか脆いか。
 なんせバカ魔力で組み上げたシールドだし。

 しかしフェンリール・ドラゴン、強いなぁ。
 まあ魔法無しでAAランクにまで上り詰めるくらい強いんだし。

 フェンリール・ドラゴンの弱点といったら洗脳系魔法くらいだろうな。
 理性と知恵がないから驚くほどに洗脳系魔法がかかる。
 まあ俺の場合、理性と知恵があるからかかりにくいから、その弱点は消えたが。
 代わりに恐怖心があるから弱くなってる気もする。

 しかし竜形態でも使えるデバイスか。

 うん、まず杖は無理だな。
 フェンリール・ドラゴンは四足歩行だから手に持つことができない。

 つまり武器系や杖系などの手に持つタイプのデバイスは駄目だということだ。
 だったらどんな形態のデバイスにしようか、悩んでいると。

「あのね、オーちゃん」
「実はなんですけど……」
「キュクルー」

 どんなデバイスにしようか悩んでいる時だった。

 ふと3人が俺を見ている。
 ? なんだろうか?
 なにか言いたそうなんでけど。

「えっとね、いろいろ言っちゃったんだけど」
「実はですね、もう既に用意してあるんです」
「キュック」
「……え?」

 用意してある?
 この会話の流れで出てくるものといったら、やはり『アレ』しかないだろう。

 しかしタイミングがいいな、と思ってしまうのは仕方がないことなんだろうか。

「こ、これが、私とファナムさんと相談して作った」
「オーちゃん専用のデバイス」
 
 そうやって差し出されたのは手甲型デバイス。
 手を守ると同時に殴るのにも適してデバイス。

 自分から殴りにいくつもりはないが、それでも防御用のデバイスといってもいい。

 おお、しかもドラゴンモードでも使えるように設定してあるのだとか。

 俺は2人のプレゼントに喜んだ。

「あ、ありがとう。ファナム、キャロ、フリード」
「えへへ。オーちゃ~ん」
「は、はい.お父さん」
「キュック~」

 俺は3人とも褒めてやる。
 ファナムもキャロも顔を赤くして、
 しかし嬉しそうに笑っている。

 ああ、俺も嬉しいよ。
 今日はなんて良い日なんだろう。

 これだけ良いことになるだなんて、この体になった時は思いもよらなかっただろう。
 でも今は幸せだ。
 それだけで、十分なのだから。

「そうです。それが手甲型デバイス、名前を『ラグナレク』」
「て、おい。それは八神二等陸佐の必殺技名じゃないか」
「え!? そうだったんですか!?」
「知らなかった」

 おいおいおいおい!
 有名だろ! 高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、八神はやての三人娘は!!

 そのお得意の必殺技である「ラグナロク」は強すぎるだろうに!!

 あ、そうか。
 あの2人と違って、八神二等陸佐はもっと他にも強力な魔法なんてたくさんある。
 そもそも前線に滅多にいかないのだ。特に偉くなってからは。

 それにそもそもラグナロクを使うような機会に、彼女は滅多に陥らない。

 だから高町なのはといえばSLB、といったくらい有名ではない。
 ならば知らないのも当然かもしれない。
 それほど有名ではないのかもしれないから。

 でもまあいいか。

「ラグナレク、か。まあ俺にはぴったりかもな」

 俺のこの身はフェンリール・ドラゴン。
 一度オージンは死んだ。
 だがそれでもまだ生きている。
 ならば生き延びてやる。
 ファナムとキャロと一緒に。

 たとえ世界が滅びようとも、世界に終焉が来ようとも。

 この手甲型デバイス『ラグナレク』と共に。











 その頃、部隊編成で悩んでいた八神二等陸佐殿。

 私は頭を抱えて悩んでいた。

「はやて。どうしたんだ?」
「いやなー、ライトニング隊の最後の1人が決まらんのよ」
「ライトニング隊、て。主にフェイトかシグナムが面倒見る奴か。
 ……あのシグナムが面倒見れる奴か~」

 そこら辺が悩みどころや。
 ヴィータもよう分かっとるみたいやな。

 あの『戦闘狂シグナム』が面倒見れる奴や。

 エリオ君の場合やと、フェイトちゃんが守ってくれるから大丈夫なんや。
 でもフェイトちゃんの守りがないと、シグナムが教導とはいえん教導でしごきまくるやろな。
 『自分にはこんなことしかできません』とか言って。

 基本的に教導はなのはちゃんかヴィータに任せるつもりなんやけど。
 それでもやっぱライトニング隊に任せることやって多い。
 特にコンビネーションでは自分とこの隊長陣と組む訓練やってあるからな。

「あたしの教え子から何人か引き抜いてこようか?」

 うん、まあそれもええ考えやねんけども。

「大丈夫なんか? デフォではぁはぁいっとる奴はいらんで」
「いや、そんな気色悪い教え子は引き抜かねーよ、はやて」

 いやいやでも。
 私が知っとるヴィータの教え子ゆうたら小さい子を見てはぁはぁ言っとる奴くらいしか思い浮かばんねんけど。
 ヴィータの容姿に惹かれて、弟子にしてください! とか言っとる奴しか見かけへんねんけど。

「あたしの教え子全部がそんなんじゃねーよ。
 いることにもいるが、8割方まともだ」
「それ2割はまともやないのんおるん認めとるやん」

 普通そこは最大でも1割やろ。
 2割て。
 
 自分でも2割おるて認めるほどに多いんかい。

 そう突っ込んだけれども、ヴィータは口笛を吹いて逃げおった。
 まあ今はそこに突っ込む必要はあらへんな。

「あー、でもさすがに隊長がシグナムかフェイトになるからな。
 スターズ分隊にするんなら問題ないけど、ライトニング分隊にするメンバーにするには弱いか」

 そや。
 今、問題としとるのはライトニング分隊の空席1つや。

 ヴィータの教え子から引き抜くにしても、まずヴィータの言うことやったら聞いてくれるかもしれへん。
 けどもフェイトちゃんやシグナムと連携するのは難しいかもしれん。

 なるべく癖のない新人の頃から育てたいんよな。

「せやなー。ただ決まらんのもあれや」

 新人3人の中に古参1人てのもええかもしれんねけど。
 なるべく新人4人で固めてみたい。

 それにいくら教え子やからって今ではどこかの部隊の配下や。
 ヴィータには悪いんやけど信用できるかどうかも分からん。

 あの気色悪い奴やったら裏切る気はないんやろうけど、新人たちの悪影響になりそうやからあかんわ。
 修吾君と同じ理由で、ヴィータの教え子のはぁはぁ言っとった奴は却下。

 するとそこにフェイトちゃんが入ってきよった。

「あれ? どうしたの。はやて」
「お、フェイトじゃねーか。仕事はどうしたんだ?」
「うん。ジェイル・スカリエッティを捜査していたんだけど今回も外れ。
 代わりにリンカーコアのなくなった次元犯罪者スパイラル・ラーメンを見つけて捕縛したの」
「リンカーコアないて、あれか? 例の」
「そう。あのリンカーコア連続奪略の」

 最近リンカーコアのなくなったという事件が多い。
 
 そんでその犠牲者は次元犯罪者やとか、後は汚職をしとった管理局員が多い。
 基本的悪事をしとる魔導師がやられてリンカーコアを抜かれる。

 あの修吾君でさえ退けられることから推定SSSランクであることは間違いないはずや。

 それくらいの実力者、ちゅーことは分かっとる。

 とにかくそれを本部へ送るための準備に、一度本部へと戻ってきたんやろ。

 そのついでに私に会いに来たゆーところか。

 未だにアーク・ハルシオンも見つからんし、頭の痛いこっちゃ。
 まあ最近ではその殺戮魔導師も見かけへんゆーしな。
 今頃どないなっとんのやろ。

 そう思う私やった。

「それでなにに悩んでいたの、はやて」

 するとフェイトちゃんは私に尋ねてきた。
 まあ私もこれだけ悩んでいるんや。そりゃ分かりやすいことやろう。

 フェイトちゃんもなんで頭を抱えているのか、尋ねたいんやろ。

「そやね。フェイトちゃんの部下になる枠が1個空いとるんよ。
 そんでそこに誰入れるかや。
 フェイトちゃんが保護した魔導師ん中でええ人おらへん?」

 フェイトちゃんは基本的子供を保護して回っとる。
 特に人造魔導師とか、そういう普通やない子供をや。

 私もこういうのはあんまり好きやないんやけどな。
 それでも新人が欲しい。

「あれ? 言ってなかった?
 私、この前新しく保護した子がいる、て言ったけど」
「いや、それ聞いたから。魔導師で、尚且つ管理局に入っとる子や」

 まあおらへんからこない悩んどるんやけど。

「あれ? 私、その子が管理局で私と一緒に働きたい、て言って。魔導師ランクもBランクだから、空いてる枠に入れられる。
 本当なら入れたくないんだけど、その子があまりにも強情だったから、はやてに相談してみる、て――
 ああ、はやてに言っておくの忘れてた!」

 ずごんっ!

 古典的なボケに私はつい古典的なリアクションをとってもうた。

 さすがフェイトちゃんや。
 天然ボケのお姫様やー。て言いたくなってきた。

 なんて可愛い子なんやろ。

 どうやらどうしても機動六課に入りたいて言うとる子が、フェイトちゃんが保護しとる子供の中におるゆうことらしい。
 しかも魔導師ランクもBランク。
 しかもちゃんと訓練されているらしい、て。
 しかも伸び代がまだまだある、というまさかしく理想的な子やんか。

 まあもっと詳しいこと調べなあかんけれど、実質この子に決定したいほど理想的な新人や。

 これで空枠問題はなくなったな。
 いや、まだ安心したらあかんねんけど。

「安心したから疲れたわ。疲れ癒すために堪忍なー」
「え? ちょ、や、やめて! はやて! 助けて、ヴィータ!」
「ちょ、はやてぇ! この間、セクハラで訴えられただろぉ!
 これ以上罪を重ねんなー!」
「大丈夫やー! フェイトちゃんやったら訴えへん!」
「大丈夫じゃねー!」

 しっかりとフェイトちゃんの胸を堪能したけれど、無理やりヴィータに引き剥がされた。
 うう、もっと揉みたかったのに。

 ヴィータのあほー。 
 ヴィータは私の騎士やろー。

「はやての騎士だからこそ、主が間違った時はしっかり止めるんだよ」

 そんなん詭弁やー。
 こういう時こそ私を手伝ってくれてもええのに。

 アイス作ってやるからもう一度揉ませてくれるの手伝ってくれへん?

「悪い、フェイト。あたしじゃあはやては止めらんねー。
 せめてお前の逃げ道を失くすことぐらいしか!」
「買収されたら駄目だよ、ヴィータ! や、止めて、はやてぇぇぇ!」

 その後なのはちゃんに見つかってキッチリ怒られました。
 いやはやなのはちゃんのOHANASHIほんま怖いわー。
 まあそのOHANASHIの最中にでもなのはちゃんの胸揉んでやったけどな!

 揉んだらまた最強のSLBでやられてもーたんやけどな。
 きっちりと反省はしとるけども後悔はしとらへんで!

「それを反省してねーと言う」

 因みにヴィータもOHANASHIされたらしい。
 まあ不機嫌やけど、約束通りアイス作ったればすぐに機嫌直るやろ。

 とにかく確認してみたけど問題もなく、ライトニング隊最後の枠に入れる新人としては理想的な子やったから安心できたわ。
 
 これでなんとか機動六課、設立できるな。

 後はティアナちゃんとスバルちゃんの出来具合やな。
 十中八九なのはちゃんの眼鏡に適うやろうけども。

 今日でなんとか不安事の一つを解消できた私やった。




[19334] 第四十四話 ヨモギ
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/22 00:56
 私はいつの間にかこの世界にいた。
 どうしてこの世界にいたのか知らなかった。

 ただ私は、人間として扱われてなかった。




第四十四話




 私はどうしてここにいるのだろうか。
 どちらにせよ私は実験体として扱われていた。
 人間扱いなんてされていない。

 ついさっきまで私は普通の女の子だったのに。
 普通の女の子として生きていたのに、どうしてこんなことになんったんだろう。

 とりあえず覚えていることは――あれ?

 曖昧な記憶があった。
 どこか感じの悪そうな白い髭の、ダンブルドアみたいなお爺さんと、白い羽をつけたまるで天使のような人が言い争っている、そんな記憶を。
 どうしてそんな記憶があるのだろうか。分からない。
 でも天使の女の人はまるで逆らえないかのように、文句を言っていたが引き下がってしまった。
 その顔は悔しさのせいで、その美しい美貌が醜悪になってしまうくらい。

 それから私の記憶はなくなって、
 そしてこのカプセルの中にいた。
 
 どこかの実験体のように緑色の液体の中に入れられて……。

 あれ? 思ったらこの緑色の液体、てなんていうんだろ?
 分からないや。
 と、こんな状況なのにふとそんなことを思ってしまう私。

 私って危機感ないのかな~?

 ああ、ただこの状況が夢だとしか思えないのが正解か。
 どうしてこうなっているのかさっぱり分からないし。

 白衣の人も私を見て、あれやこれやと言ってるし。
 まあこの人、私を見て――て、私裸じゃん!

 そりゃそうだよね! 
 こんな緑色の液体がたっぷりつまった、息できるけど、ケースの中にいるんだもん。
 そりゃ服なんて当たり前に着ないよね!
 
 ものすごく恥ずかしいんだけど!!

 と、私は赤面しながら思ったりしたが、
 白衣の科学者たちは全く気にもしてない。

 と、そう思っていると。

「な、なにぃ! 管理局員が来るだと!」
「バカな!? 管理局はどうしたというんだ!?」
「バカか! 俺たちは切り捨てられたんだよ! とっとと逃げるぞ!」

 なにやら焦ってる様子の科学者たち。
 てんやわんやですぐにでも逃げ出す準備をする。
 また、準備をせずにすぐにでも逃げ出そうとする科学者たちもいた。

 するとドアが開き、そこから1人の男が倒れてきた。
 それと同時にある女性が――て!!

「管理局員です! あなたたちは違法研究の罪があります! 
 逃がしません!」

 あれ、『リリカルなのは』のフェイトじゃん!!
 しかもStrikerSの、大人編のフェイトじゃん!!

 と、ここに来てようやく私が『リリカルなのは』の世界にトリップしてきたことが分かった。

 そして私自身、人造魔導師であることも分かった。
 というかこの状況下じゃ私は人造魔導師以外の選択肢ないだろ。

 しかしそうなるとクローン魔導師なのか、それとも戦闘機人なのか。
 どっちなのかが気になるなぁ、とは思う。

 戦闘機人という可能性もあるし、普通のクローン魔導師という可能性だってある。
 というかこういうのって普通はトリッパー特権の能力とかないのかな??

 そういうのあるといいなー。と思う私でした。

 だってこのリリカル世界でStrikerS編でしょ。
 コレ、3脳とかジェイル・スカリエッティとかそういうヤバいフラグ立ちまくってるのに。
 なにかトリッパー特権能力でもないと凌ぎきれないよ!
(あった方がよりフラグが立つことに気付いていない)

 それにリリカル世界に来たなら魔法だって使いたいしね。
 まあそれは大丈夫か。
 なにせこういった実験体に憑依、てことはなにかしら魔法は使えることは決定的だよ。
 使えなくてもなんらかの希少技能レアスキルを得ていることは間違いなし!

 そんな風に安心する私でした。

 まあこれからどうしよう。
 リリカル世界に来たしな~。
 それにちょうど来てくれたのはあの保護することで有名なフェイトだ。

 それにリリカルに来たんなら、やっぱり『エリオ』君だよね~。
 はう~、お持ち帰りしたよ~。

 ハッ、別に私はショタコンじゃないよ! 本当だよ!

 まあそのためにはフェイトに保護されなくっちゃ!

 結果的に私はフェイト、いやフェイトさんに保護されることになった。
 因みに私はこの人造魔導師の体に憑依したことで、8~12歳くらいの子供にまで年齢が低下してしまったみたいだ。
 まあエリオ君と会えるから問題ないしね。
 それにこの体ならショタコンじゃないしね、私!

 ああ、エリオ君に会えるとなると興奮してきた~。
 はぁはぁはぁ

 と、なると目下のライバルはキャロちゃんだね。
 強敵、だね。
 あ、でもエリオ君には乳揉みフラグがあったよね。
 あれをキャロちゃんじゃなく、私にしてもらって、それから責任とって、とか言えば。
 よし、完璧だぁぁぁ!!

 と、自分勝手な想像をしていた私でした。

 あ、因みに容姿は小さい頃のフェイトにそっくりだったみたい。
 それなのに魔力変換資質『電気』は受け継がれてないようなんだけど。

 他にもいろんなものがつまってるっぽい。
 しかも私専用のデバイスもあったし。

 私の名前は『伊庭蓬』。
 だから私は私自身の名前をつけることにする。
 名前をつけられる時は私が自分から立候補してつけた。

 私はこれから『伊庭蓬』ではなく、『ヨモギ』として生きる。
 ヨモギ・T・ハラオウンとして。
 フェイトさんから受け継いだ名前と、私の前世から受け継いだ名前を、両方継いでいくことに。

 後で分かったことなんだけど、この世界だとキャロちゃんは保護されてないらしい。
 
 うっしゃぁぁ! ライバル減ったぁぁ!!

 というわけでやる気が出まくる私ことヨモギでした。
 うふふ、待っててね、エリオきゅん。

 ふと振り返って、思い出してみると自分で自分のことが気持ち悪いと思いました。
 まあエリオ君の可愛さが悪いんだ! 私を惑わせるエリオ君の可愛さが!
 そして断じて私はショタコンではない!

 だって私と同い年だもん!!

 ……いや、そりゃあ前世では二十歳は越えてましたけれども。
 それは関係ないでしょう、そうでしょう。
 だからショタコンじゃないもん。
 
 ……誰に説明してんだろ、私。

 まあどっちにしても頑張らなくちゃ。
 ふふふ、待っててね。エリオきゅん♪





















Side-Ordin

 キャロは、ファザコンが酷いようなので、どうにか同年代の友達を作ってあげたい。

「そうだね。いつまでもお父さんにくっついてちゃ駄目だよ」
「ファナムさんはお父さんにべったりの癖に」
「私は嫁だからいいもん」

 なんか久しぶりに喧嘩に発展しそうな空気だ。
 だけどそれほど酷い空気というわけではないので、安心だ。

 まあ時折、自然保護の時に出てくる雌獣に対しての黒オーラが激しいけれども。
 あの時の2人って怖いんだよな~。

 でもいつまでも1人ってわけにもいかない。
 同年代の友達を作ってあげたいのも事実だ。

 このまま俺やファナムにばかりべったりくっついているのも教育に悪い。
 友達のいない子になってしまう。
 
 俺にばかり懐くのは嬉しいが、それでもちゃんと友達は作って欲しい。
 俺はそう思う。

 父親がいる、母親がいる、家族がいる、それは幸せなことだ。
 だからキャロにとっても俺がいて、ファナムがいて、フリードがいて、
 だからきっと幸せなんだろう。

 でももっと幸せになってもいいんじゃないのか?

 確かに父親がいて、母親がいて、家族がいる。
 たったそれだけでも幸せなんだと俺は思う。
 
 でもそれだけじゃあ物足りないのだとも、俺は思う。

 ギルマン一族の皆で遊んだこと。
 他愛のないことだったけれども、今では立派な大切な大切な思い出だ。
 キャロにもそういった思い出を作ってもらいたい。

 一緒に友達と遊び回った経験は決して悪いものにはならないのだから。
 それはきっとキャロのためになってくれるだろうから。

 だからファザコンは少し抑え気味にして、友達を持ってもらいたかった。
 それが俺が思っていることだ。

 そう、同年代の友達を作ってもらいたかった。

「私はお父さんがいるから」
「キュクルー」
「いや、だからそれじゃ駄目だって」

 このままだと駄目なんじゃないのか?
 
 このまま親離れできなくなるんじゃ……!?

 いや、まだこのくらいの歳ならこんなもんなんだろうな。
 ただファザコンの気が強いだけで、普通の子供だ。
 
 原作だと確かキャロはロストロギア対策部隊に入ることになっていたはずだ。
 まあつまりはメインキャラとして入っているはずだった。

 でも、たとえ世界の修正力が相手だろうと、そんなことはさせない。

 キャロには幸せな人生を歩いてもらいたい。
 危険な仕事になんてついてもらいたくはない。
 だから今はまだ慕ってくれるだけでも嬉しい。

 家族と一緒にいられる。
 それがどれだけ嬉しいことか、俺は知っているから。

 だから俺は守る。
 この手に抱いた、俺たちの娘を。

 たとえなにがあろうとも。

「オーちゃ~ん、できたよ」
「あ、じゃあ食べるか」
「はい♪」

 今日の食事当番はファナムである。
 
 基本的に食事当番、というよりかは家事をする役目はキャロが背負う。
 だがそれだと負担もあるので、たまにファナムが食事当番を替わるのだ。
 まあファナムとしても手作り料理を俺に振る舞いたいのだろう。

 ただ俺は料理も掃除もできないから、指を咥えて待っているしかないという状況に。

 ああ、なんで俺って家事スキルないんだろうか。
 普通、こういうのって家事スキルが高いものなんじゃないのか?
 とかそういう考えも持ってみる。

 しかも家事できない割にそこまで高給取りでもないし。

 本当に自分が情けなくて仕方なくなってくる。

 でもやっぱり家族の団欒が一番だな。
 俺はそう感じている。
 キャロもファナムも、そう思ってくれている。
 フリードも心からそう思っているんだろう。

 ああ、幸せだ。
 
 これでキャロに同年代の友達ができてくれればな~。

 このまま俺にばっかりくっついてたら、嫁に行けなくなるやもしれん。
 将来可愛くなるだろうに勿体ない。

 まあでもキャロが男に困ることはないだろうな。
 と、心の中で親バカなことを考えていた。



[19334] 第四十五話 復活
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/23 01:10
 最近は自然保護隊の仕事も捗ってる気もする。

 八神二等陸佐からキャロのことについて勧誘された。
 まあやんわり断ったけれども。

 さすがに八神二等陸佐も諦めたのか、引き下がってくれたみたいだ。
 その後にどうやら新人を見つけたみたいなんだけど。

 やっぱり駄目でもともと、程度でしかなかったので簡単に断ることができた。
 俺としてはキャロには危険なことはしてもらいたくないからな。

 しかしこれがもしも傲慢な管理局員だったらどうなっていたんだろうか。
 無理やり入れるんだろうなあ~。
 まあその場合は俺とファナムとで、なんとしても潰すが。

 それと比べると八神二等陸佐は本当にええ人や。

 誰だ。外道狸だとか言ってたのは!!




第四十五話




 キャロにも同年代の子供の友達が必要と感じます今日この頃。

 どうするべきかな? と悩んでいました。

 と、そこにハラオウン執務官から連絡がありました。

「なんすか? ハラオウン執務官」
「えっと、フェイトで、名前でいいよ。オージン」

 うん、フレンドリーだなぁ。
 まあ向こうがそれでいいなら、俺もフレンドリーに話すけれども。
 
 どうも敬語ってのはあんまり得意ではないんだよな。
 まあ名前でいいってことは敬語ではなくてもいいってことだよな。
 ならそっちの方がありがたい。

 しかし何の用なんだろうか、フェイト。
 ……ヤバい。思ったより恥ずかしいのでフェイトさんに変更したい。

 フレンドリーな方がいいとか思ったけれど、思ったよりはそんなことなかった展開。

「は、はぁ。それで何の用なんでしょうか。フェイトさん」

 そんなわけで早速フェイトでなく、フェイトさんと呼ぶことにする。

 このことについていくらか問答があったけれど、割愛することにする。

「えっとね。うちの子供たちと、ちょっと仲良くなってくれないかな、てそう思ってるの」
「うちの、ていうと、フェイトさんが保護してる子供たちですか」
「う、うん。そう」

 フェイト・T・ハラオウン
 『金色の死神』『雷神』とさまざまな呼び名で呼ばれている管理局の執務官。
 エース級魔導師という管理局の切り札の1つでもある。

 だけどもそんな仰々しい名前をつけられている彼女にも他にある特徴を抱えていた。
 なにやら事情のある子供を引き取っているのだ。
 というかそういった噂が流れているし、その噂も大半が事実なのだから。

 だからなにか事情がありそうな子供を発見した時は孤児院につれてくか、フェイト・T・テスタロッサのところへつれていけ、というのが管理局の暗黙のルールになってるほど。
 と、聞いたことがある。
 まあそれが事実かどうかは知らないのだが。

 まあそれくらいに、フェイト・T・テスタロッサは未婚でありながら養子を引き取っている女性、ということで有名なのだ。

 その養子を、俺の養子キャロと会わせたい、とそういうことなのだろう。

 まあ原作でもフェイトは確か子供を引き取っていたんだよな。
 エリオとキャロとを。

 因みに心の中でフェイトさんのことをフェイトと呼べてるのはあれだ。
 原作と現実の違い、て奴だ。

 原作のフェイトの場合だとフェイトって呼び捨てるけれど、
 現実にいるフェイトさんはフェイトって呼び捨てるのが恥ずかしい。
 少しずつ直していきたいとは思うんだけどな。

「エリオとヨモギ、て言うんだ。
 ちょっとある事情があるから、普通に友達ができにくくて……」
「はぁ、そうですか」

 エリオが来た。
 えっと、まさかこれ修正力とかになってるのか。
 そう思えるくらい、なんだけど。

 いや、まあそこはどうでもいいか。

 それよりももう1人の方、ヨモギ、てのは初めて聞いた。
 ちょっとした事情てうのは大体想像できる。
 きっと人造魔導師だったんだろう。

 まあ原作知識があるから、ちょっとした違いでも気付けるってことだ。

 問題はヨモギ……どう考えてもこの世界風の名前じゃないな。
 まあ地球から来た魔導師もいるからおかしい、てわけじゃなけれど。

 ……まさかトリッパー?

 いやいや、最近嫌なトリッパーに出会ってばかりで(修吾とかアークとか)、
 いくらなんでもトリッパーに敏感になりすぎだぞ、俺。

 そうなんでもかんでもトリッパーに結びつけるな。

 でもなんかトリッパーって感じがするんだけど。
 これは俺の考えすぎなのか……?

 まあ別にいいか。
 俺としてもキャロには同年代の友達は作って欲しいし。

 エリオとかなら大丈夫だろう。
 ……原作知識がちゃんと機能していればの話だけど。

 あれ? 一気に不安になってきた。

 まあどうせ俺も一緒に立ち会うから大丈夫だよな。

「分かりました。まあ時間がある時にでも」
「うん。ありがとう、オージン」

 そういうわけで時間が空いてる時にでもキャロを、フェイトさんの子供たちに会わせることにした。
 ちゃんと友達になってくれればいいけどな。
 そんな期待を胸に抱きながら。

 今日もまた自然保護隊の仕事を頑張る。

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」

 雄叫び、それをするだけで獣たちは近寄ってくる。

 まあ普通はもっと脅えて近寄らないのだが、
 最近ではしっかりと学習しているのか、雄叫びを上げるだけで近寄ってくる。

 しっかりと森の王者だ。

 まあそのお陰で保護しやすくなっているのだが。

 キャロも竜使いというだけあって、野生の動物の扱いは手慣れている。
 だから俺とキャロのコンビで、あっさりと保護動物たちの保護に成功するのだった。

やっぱりこういうの、ていいよなぁ。

 機動六課には入れさせないようにしとこう。
 あそこに入ったら入ったらで危なそうなことになるしな。

 今はただ、幸せに暮らしたい。
 たったそれだけを夢見ているのだから。

 だから平穏に暮らさせてください、仏様、聖王オリヴィエ様。
 と、俺は祈っていた。
 効力があるのかどうかは知らんが。
 効力があるといいなー。

 そんな他愛のないのことを思っていたりした。

 そんな最中にでも保護は続いていく。
 
 密漁者を見つけたけど、アクセルシュータ―で潰しておいた。
 シールドやバリアジャケット? んなもん、シューターで押し潰せばいいだろ。

 と、普通の魔導師には不可能なことをやって終わらせる。
 いや、高町教導官ならできるかもしれんが。

 あの管理局の白い悪魔ならば。

 そんなことを思った俺だった。















 とある管理外世界。

 そこはある一角だけ、まるで時間が止まったかのような、そんな空間があった。

 そこはある魔法によって時間が凍結された世界。
 時間のみを凍結されてしまった世界。

 この時間の凍結を行うことができる魔導師はこの時代にはもうたった1人しかいない。
 それだけの大魔法、失われし秘術。

 そしてある男がそこで止まっていた。
 まるで時間が凍結しているかのように、なんら一切の動きがない。

 当たり前だ。
 時間が動かないのだから。

 そして妙なオブジェのようなものがあった。

 苦しんでいて、尚且つ体中に剣が突き刺さっている男がいた。
 いや、突き刺さってるとは、正確ではない。

 寧ろ剣が体内から食い破って出てきているのだ。

 次元犯罪者アーク・ハルシオン。
 大量殺戮者として有名な、有名な、傲慢な正義を気取る、正義の味方だ。

 ああ、正義の味方ではない。
 だがこの男は自分は正義の味方なのだと信じて疑っていない。

 たとえどれだけこの身が汚れようとも、この身は必ず正義である。と、そう信じ切っている。

 だからこそこれだけ傲慢になれる。

 その結果がこれ。

 自分の力に食い破られ、自分自身の力ですらコントロールすることもできず――

 そのまま死にそうだったのを、時間ごと凍結させられることで助かった。
 それが真実助かったのかどうかも分からない。

 だがそれが凍結させられているのは時間。
 決して動き出すことはない。

 普通に凍っているものならば、ただ単に熱すれば溶ける。
 もしかしたら生き返るなんてこともありうるかもしれない。

 だが凍結させられているのは時間だ。
 時間を熱することはできない。時間に干渉することなんてできない。
 ただこの魔法を使った者が時間に干渉して凍らせるなんて真似ができるから、時間を凍結させられるのだ。

 だからどれだけ熱しようとも動きだすことはない。
 凍結した時間を溶かすには時間に干渉するしかないのだから。

 だが時間への干渉など、不可能に近い。
 いや、寧ろ不可能といっていいだろう。

 だからこの男は永遠に動くことはない。
 決して、どれほどの力を使おうとも、動き出すことはありえない――


 そこに1人の男が現れる。
 
 だがその男の全てが謎だった。
 姿の全てが、まるで謎に包まれているかのように認識できない。
 
 それはまさに謎としか、いいようがない。

「ふぅん。なかなかに使えそうな奴じゃないか。
 こんなところで封印されてるなんて勿体ない。
 もっともっと暴れてくれよ。そうでないと面白くもない」

 謎の男はそのオブジェに手を当てる。
 もう二度と動き出すことのないオブジェに。

 時間に干渉なんて、そんなことができるわけがない。
 だからこそこの時間凍結は、完全凍結よりも遥かに干渉できない存在。
 もう二度と動き出すことなどありえなかった――はずなのに。

「僕は支配する。その剣を、その時を。
 支配しろ。≪支配王ロード・オブ・ルーラー≫」

 時は再び動き出す。
 剣も動き出すと同時に暴れ回り、アークの体を刻みつける。
 だがそれもすぐさまに収まった。

 だがアークの意識はすっかりとなくなっている。
 あまりの激痛のせいで意識を保つこともできなかったのか。

 だがそんなことはどうだっていい。

 もっとこの世界を、面白い物語に作り変えてくれるのならば。

「さて、この物語はどう動きだすのか。実に楽しみだよ。クスクス」

 そうして彼は去っていく。
 アフターケアなんてしない。
 封印を解いただけでも感謝しろ。

 いや、感謝しなくてもいい。
 ただこの世界をもっと面白く語れ。

「とりあえずStrikerSが終わるまでは見守っておこうか。
 さすがにStrikerSが終わってしまえば大した事件は始まらないだろうしね。 
 それじゃあ面白くない。だからそれまでの語りは君に任せたよ」

 勝手なことを言う。

 そしてアークは気絶しているためか、そんなことは耳に聞こえていない。
 それでも――

「でも、勝手に怖がって引き篭っても面白くないな。
 仕方ない。剣に食い破られる記憶は少々支配しておくか」

 それらも全てこの世界を面白く語らせるため。
 StrikerSは面白かったけれども、同じように進行させるんじゃつまらない。
 もっとふざけたキャストを増やして面白おかしく編集してやろう。

 そんな二次創作は僕は関わらない。
 ただ他の転生者たちがこの二次創作を面白おかしく編集してくれる。

 そしてStrikerSが終われば、とびっきりの一次創作を語ってやろう。

「ああ、僕の一次創作。どれほどのものか、非常に楽しみだ」

 この世界は現実ではなく、夢物語の世界。
 それでいいじゃないか。

 今はただ君たちの二次創作に期待する。
 だからそれらが終わってから、とびっきりの一次創作で開幕しよう。

「嗚呼、面白きことは正義なり、てね」

 さあこのまま原作と同じ展開になることだけは避けてくれよ。
 それじゃあ二次創作としては陳腐じゃないか。
 いや、それもそれで面白いかもしれないけども。

 こうして去っていく。

 アークに自分という存在がいることも告げずに。
 ただ面白い世の中を生み出してくれればいいのだから。

 こうして再び、アーク・ハルシオンは復活する。
 不死鳥のごとくに――



[19334] 第四十六話 出会い
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/23 07:45
 今日はキャロが友達、となるかもしれない人と会う日。
 
 俺としてはキャロには同年代の友達を作って欲しいと思っている。

 だからこそフェイトさんの申し出を受けた。

 そして今日がそのフェイトさんの養子と、キャロを合わせる日なのだ。




第四十六話




 にしても本当に大丈夫だよな?
 今更になって心配し始める俺。

 まあでもあのフェイトさんの養子だし……。
 いや、あの人、どこかぽわぽわしたところあるから油断できん。

 そこがいいとか言ってたフェイトさんファンクラブの人もいるし。
 
 因みに俺でも見かけるくらいなので、かなり浸透しているのだろう。
 ただフェイトさんは全く気付いていないが。

 なんでこれだけ浸透してるのに気付かないんだ!?
 そう疑問に思わせるくらいの天然なお人だしな、あの人。

 駄目だ。
 今から心配になってきた。

 だからといって今からドタキャンは駄目だろう、常識的に考えて。
 それにこれはキャロのためになるかもしれないし、
 なにより俺の考えすぎという意味の方が強いのだから。

 因みにファナムは出張中らしい。

 出張する前に――

「すぐさまにぶち殺して帰ってくるから待っててね!」

 とかいいながら行った。
 うん、絶対予定よりも早く帰るだろうなぁ、とそう常々から思う。

 ファナム、いくらなんでもそれは――と思ってしまう。

 とりあえず怖かった。
 うん、いつもの笑顔なのに言ってることがあまりにも物騒すぎて本当に怖かった。

 因みにその世界では竜酔酒の実がたくさん生えているから、
 俺がお使いも頼んだこともあるためか、
 喜んで頑張って出張に行った。

 本来ならファナムは出張しないんだけど、今回は特別のようだ。
 まあ俺からの頼み事だし。

 あれ、本当美味しいんだよな~。
 普通の酒じゃ酔えないので、竜酔酒の実でもないと、俺は酔いたい時に酔えないのだ。
 
 だって前々世だと俺酒好きだったのに、今じゃただの酒じゃ全く酔えないのだから。
 酔えないからあまり美味しいとも感じられないし。

「それじゃあ、キャロ」
「は、はい。分かりました、お父さん」

 とりあえずキャロの緊張を和らげておくか。
 友達なんてものがいなかったからなのか、そういったものには緊張してしまう。
 なんというか、初めて会った頃を思い出す。
 そして暮らし始めてきた頃を。

 とりあえずキャロと仲良くしてくれるといいなぁ~。

 そう思っていた時だった。
 
「あ、オージン君。それにキャロちゃん」
「あ、フェイトさん。こんにちは。そちらが」

 2人の方を見た。

 片方は赤い髪の少年、エリオ・モンディアル。
 ああ、一目見ただけで分かった。
 薄くなってきている原作知識だけれども、こういった主要キャラのことは覚えているんだな。と思う。

 まあ一目見て分かるのが、会うのがエリオだと分かっているからだ。
 だからこそ一目見て分かる。

 そしてフェイトさんの連れてきた2人目。
 確か機動六課のライトニング枠に入る予定の子供らしい。

 フェイトさんが一番最近に保護した子供だとか。

 見た目は――うん。
 どこからどう見ても、無印、As時代のフェイトです。

 いや、ただし長い髪の毛をくくってお団子にしているけれども。

「は、初めまして! きゃ、キャロ・ル・ルシエ・ギルマンです!
 よ、よろしくお願いします!」
「あ、。はい。エリオ・モンディアルです。よろしくお願いします」
「え、あ、はい! よ、ヨモギ・テスタロッサ・ハラオウンです。
 よ、よろしくお願いします」

 なんか向こうも俺を見て吃驚していた。
 いや、まあ確定なのかもしれないけれど、それだけじゃあまだ確信するには至らない。
 
 まあ向こうはちゃんと仲良くしているし、
 なによりもあのフェイトさんが認めたんだから。
 まあ大丈夫か、そう思うことにした。

 因みにキャロは現在ギルマンの名を名乗っている。
 まあ俺の娘だし、それは当然のことである。

 仲良くなってくれるといいな。
 そう思う俺だった。






Side-Yomogi

 私はエリオきゅんと仲良くなれた。
 うん、やっぱりこの体は良いよね。
 エリオ君と仲良くなりやすい。

 ただまあ乳揉みイベントは発生しなかったよ。
 うー、ちくしょー。これを利用して既成事実作ろうと思ってたのにー。

 まあそんなことしなくても、少しずつってのも、キャッ(照れ)

 でもそれと同時に、私には惹かれるものがあった。

 それは『魔法』。
 だって魔法だよ、魔法!
 私が憑依する前は、そんなもの夢物語でありえないものだったんだから!
 だから私はこの世界に憑依してきた時、エリオきゅんのこともそうだったけれど、
 でもそれと同時に魔法のことも期待していた。

 もとよりこの身はテンプレっぽい展開なんだから。

 だから魔法を使えることに期待していた。

 そして見事この体は高スペックの魔法を駆使してくれている。

 私はそういったファンタジックなことができることに、本当に感動していた。
 私が『私』でないことなんてどうでもいいと思えるくらいに。

 それくらいに魔法というものを使えることに感動したんだ。

 現実ではありえない、そんな夢物語でしかない、そんな力。
 でもこの世界じゃそれを簡単に扱える。
 
 こんなにも簡単に、それでいて本当に使える。

 それはなんて楽しいことなんだろう、そう思える。

 この世界であれば、そんな大したことがない魔法であっても、
 私にとってはとてもとても大切な、まるで夢の中にでもいるかのような、そんな感覚がする。

 なんていい世界なんだろう。
 こんなにも簡単に魔法が使えて、
 これだけ美しい力で、こんなにも楽しいものが簡単に使えるなんて。

 私はこの世界に憑依してきた良かった。
 そう思えるくらいの感動ものだったのだ。

 まあ何度も使えているうちにその感動も薄れてくるんだけど。

 私自身、この世界の人間の中でもスペックは高いみたい。

 さしずめ人造魔導師の成功体の1体だったみたい。
 魔法の才能があるらしく、10年もすればSランクにも届くかもしれない、と言われてるくらいだ。
 
 まあフェイトさんの容姿を受け継いでいるといえば受け継いでいる。
 けれども受け継いでいるのは容姿だけで、魔力変換資質とかは受け継いでないみたい。

 とりあえず幼い頃のフェイトさんに似ているので、多分プロジェクトFで作られたんだろう。
 その割には魔力変換資質『電気』を受け継いでないのだけど。

 とりあえずこの世界のことについて調べてみた。
 主に調べることは、この世界と原作との違いだ。

 調べてみると違いがドンドンと出てくる。

 藤村修吾とアーク・ハルシオン、というのがPT事件、闇の書事件で関わってきている。
 藤村修吾は味方として、アーク・ハルシオンという次元犯罪者は敵として、だ。
 
 まあお互いがお互いを敵視してぶつかりあって、互いに妨害しあったために流れとしては原作と変わらなかったっぽい。

 この2人、どう考えてもトリッパーです。ありがとうございました。

 うん。だからといってどうこうするつもりもないんだけどね☆

 他にもいろいろと調べてみると、いろんなことが分かる。

 キャロには父親と母親がいて、そちらに保護されている。
 だからフェイトさんはキャロを引き取っていない、とか。
 ラーメン一族から次元犯罪者が出た、とか。
 リンカーコアを抜き取る魔導師がいる、とか。
 「俺が主人公だー!」とか言って旅に出た人がいる、とか。
 なのはさんの実家のケーキが美味しい、とか。
 フェイトさんが仕事中以外ではボケボケだとか。
 仕事時とプライベート時で全然違う人がいる、寧ろあれは二重人格だ、とか。

 そういった重要なものからありふれたどうでもいいものまで、さまざまな情報が手に入っていく。

 うん、本当いろんな情報が入ってくるよ。

 でも私はもう気にしないことにする。
 だから私はこれから魔法の訓練をしよう!
 
 そう思っていた時だった。

「あ、ヨモギ。これからさ、会わせたい人がいるの」
「会わせたい人?」
「そう。キャロちゃん、て言ってね」

 私は基本的に人見知りしてます。
 というかそういう風に見えます。

 まあ私は大人なんですけど、この体が子供のせいか、
 1人でいようとすると人見知りするんですよ。

 エリオきゅんがいれば、凄い勢いで近づきますけどね!

 エリオきゅんと仲良くするためにすっごい努力しました。
 その努力のお陰なのか、今では仲良しです。

 よし、慌てるな。
 焦ったエリオきゅんも可愛い。
 泣いているエリオきゅんも可愛い。
 でもそれは私が許せない!!

 だからエリオきゅんには大人の余裕で導いてあげるの。
 くふふ、とこんな邪なこと考えちゃ駄目だ。

 それにしてもキャロですか。
 それにそのキャロを保護した、キャロの父親というのもいますし。
 どんな人なんでしょうか、気になりますね。

 そういうわけで私はフェイトさんとエリオ君と一緒に、キャロと、キャロを保護しているキャロの父親に会いに行くことになった。
 
 まあ乳揉みイベントは発生させない!
 発生させるのなら、私の胸で! そして責任をとって!

 そういう妄想しちゃいました。
 うう、自重しないと自重しないと。

 そしてその人らと出会うことになった日のこと。
そして見た先にいたのは――2人。

 キャロと一緒にいたのは、あまりにも普通な感じの人だった。
 感じられる魔力量だってBランク程度しかない。

 ただ黒髪黒目ってことは分かる。
 日本人っぽい特徴だけど、そんな特徴を持っている人はこの次元世界にいくらでもいるし、
 日本人がこの世界に来ていたとしても不思議じゃない。

 ただそういった人がキャロを保護していたとなると――

 ――もしかしたらトリッパーなのかもしれない。

 そう私は思ってしまった。



[19334] 第四十七話 タッチ
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/24 20:32
 この人はトリッパーなのかもしれない。
 勿論そう断定するのは駄目なのかもしれない。

 でもどう考えても……。
 ペドフィリアじゃないよね……?




第四十七話




 目の前の人がペドフィリアか、そうでないかをすっごく悩みました。

 いや、そんな人ならさすがにフェイトさんも会わせようとしないだろうし、
 必死になってキャロを保護しようとはするに違いありません。

 なら安心なんでしょうね、きっと。

 そう思いましょう。

 もしもペドフィリアなら、私が危ないッ……!!

「え、えと、あの……?」
「あ、す、すみません!」

 とりあえず挨拶をすることにした。
 え? もうした。
 こういうのって何度もするのが大事なんですよ。……多分。

 そういうわけで私はキャロちゃんと出会った。

 むむぅ。なんて可愛らしい。
 原作を見ていて思っていたけど、現実で見るとこんなに可愛らしいなんて……!
 でも今の私だって可愛らしいんですけどね☆
 だってフェイトさんの小さい頃の姿ですもん。

 今の私は小さな頃のフェイトさんにソックリです。
 ただし髪はお団子にしてありますけれど。
 うん。可愛らしい。自賛ですけどね。

 でもそれでもキャロちゃんは可愛い。
 やっぱり私みたいに精神までは腐ってないからか、より可愛さが引き立っている気がする。
 
 桃色の髪の毛に可愛らしい肉体、
 しかもそのお顔、やばい! 女の私でもはちきれそうだ!
 これはエリオきゅんでもヤバいんじゃ!?

 というかロリコンとかレズの人、
 今までバカにしていたけれどゴメンなさい。
 今なら分かる気がするッ!

 でもエリオきゅんが一番なんだけどねッ♪

 そんな風に惚気てました。
 いや、でもエリオ君とそんな関係になってないから、惚気じゃないか。
 
 早く惚気られる仲になりたいな~。

 そんなことを考えております。

 むー、とにかく喋る機会を窺っておかないとね。
 もしこの人が悪人だったのなら、のために。

 しかし私よりも持っている魔力量は低いな、この人。
 私はそう思った。

「そ、それで、なにを話しましょうか……?」
「そ、そうだね」

 あ、しまった!
 何を話すのか、考えてない!!

 エリオ君もキャロちゃんも何を話すべきなのか分かっていない。
 いや、私だってなにを話すべきなのかも分かってないのだけれど。

「そ、それじゃあ、え、えと、あの」
「そ、その、あの」
「ど、どど、どうしよ」

 私もエリオ君もキャロちゃんもどうすべきなのか分からなくてパニックになっている。
 精神的に私のが年上でもこういう経験がないのよ、私!
 だって私の友達といったら、こういう初々しい子なんていなかったんだもの!
 なんていうか腐ってる子が多かったんだもの!

 だからどうすればいいのか分からないよ!

 そう思っていた時だった。
 キャロちゃんがこけた。

「きゃっ」
「うわっ!」
「げっ!」

 まあこけたといってもそんな大したものじゃなかった。
 すぐに立ち直れるくらい、だから誰の助けも要らないくらいだったけれど――

『sonic move』

 エリオ君、ストラーダ。
 こんなところで本気なんて出さなくてもいいのに。

 というか、なんか結果が見えたような気がして――

「だ、大丈夫です、うわっとと!」

 ぷにっ、とエリオ君がなにか触ったような音がして――

 あれ? 
 これってまさか世界の修正力。
 私のならいくらでも触らせてあげるのに。
 というか触らせて既成事実作ろうと思っていたのに。

 なんでこうなるのぉーーーーーーーーーーー!!







Side-Caro

「うわ、ご、ごめん!」
「え、いや、そんな」

 いきなり胸を触られてしまいました。
 いきなりだったので吃驚してしまいます。

 ですけれどこの人が必死になって私を救おうとしてくれたのだけは分かります。
 というかそうでないと、ヴォルテールでも呼びだして、ギオ・エルガでも撃ってしまいそうでした。

 いや、まあ別に助けがいるほどじゃなかったんですが。
 この人は私のためを思って、勘違いでしたけれど救おうとしてくれました。
 結果がこれですが。

「すんません、フェイトさん」
「ふぇ、は、はい!」

 するとお父さんの声が聞こえてくる。
 
 ヨモギちゃんとフェイトさんはなにやらぽけーっとしているみたいだった。
 まああんなことが目の前で怒れば、それは仕方ないよね。

 するとお父さんがフェイトさんに話しかけてくる。

「模擬戦してもいいですか。模擬戦」
「え!? ちょ、ちょっと待って!」
「していいですよね」

 あ、なんか怒ってくれてる。
 そしてこの流れからすると私のために怒ってくれてる。
 そのことがなんだか嬉しくて、胸を触られたことは気にしなくなっていた。

 胸を触られるのは恥ずかしいけれど、
 それでもお父さんが私のことを心配してくれるのが嬉しくて。

 いや、まあお父さんはいつも私のことを心配してくれるけど、
 こんなに露骨にはっきりと心配してくれている。
 それがとても嬉しくて、
 
 だから触られたことは気にしないようになっていた。

 まあ後日思い出す度に、顔が赤くなったりするんだけど。






Side-Ordin

うん。これが世界の修正力って奴なのか。
 そのことを実感させられてしまった。

 いや、まあここはそんなことは起こらないだろうと思っていた。

 キャロだってそんな何もないところでこけるほど鈍くさくなどはない。
 でもよくよく見ると、どうしてあんなところに突起物があるのか、よく分からないけれどあった。
 もしかして世界がこうなるようにしているのか。
 そうだと嫌だなぁ、と思う。

 が、なによりも優先される感情は――

 ――なに、人の娘に手出してんじゃ、ごるぁぁ!!だ。

 いや、ぶっちゃけ付き合う程度なら構わない。
 キャロはそんなにバカじゃないから、変な人にほいほいついていったりもしないし、変な人に引っかかるわけもない。
 だからそこらへんは安心できる。

 でも胸を触られたのだ。
 しかも付き合ってるわけでもなく、初対面で。
 いや、初対面であかろうが胸を触るのはいけないことだが。

 合意の上でならいいだろう。
 いや、この歳で合意の上でやってもらうのもそれはそれで問題だが。
 
 でもコイツ、どさくさに紛れて触りやがった!
 いくら偶然とはいえ、こういうのは躾といた方がいいよね。

 親バカになってきていることを実感しながらも、
 こういったことは普通の親でもするだろうから――

「模擬戦してもいいですよね」
「え、あう、えーと」

 フェイトさんに聞いてみた。
 因みにフェイトさんは模擬戦したいという気持ちは分かるのだが、
 しかし偶然だったことと、自分の養子であるエリオのことだからなのか、
 渋っている。

 だからといってそのまんまになんかさせるわけねーがよ。

 とりあえず躾けてやる。
 俺の圧倒的魔力量で躾けてやる。

 俺は後先考えずに、フェイトさんに模擬戦の許可を貰おうとしていた。

 因みに肝心のエリオ君は震えていた。
 俺の迫力に圧倒されていたらしい。
 まあ俺、獣王だし。それくらいの威圧感を出すくらいは朝飯前のものよ。

 よくもうちの娘に手出してくれたな、あぁん!?

 そんなわけでフェイトさんから模擬戦の許可をごり押しで手に入れて、問答無用に大量スフィアでトラウマになるくらい恐怖を刻みつけました。

 その際、フェイトさんとヨモギという少女の反応は。

「さ、さすがに、エリオが悪かったかな~、と」
「わ、私なら触られてもよかったんですけども……でもエリオ君のが悪いと思ったし」

 女の子の気持ちがよく分かるのか、やんわり止めるようには言ったけど、それほど強くは言わないのだった。
 
 とりあえずエンド・オブ・ワールド、は使うのは無理だとしても、
 せめてヘヴンズフォールをぶちかましてやろうかな、と思ったりした。
 まあさすがに使わなかったが。

 と、いう妄想をしたが、自重しろ。俺。
 さすがにこれはまずいだろ!

 だが! せめて! ぶん殴るくらいはさせてほしいわぁぁぁ!!
 せめて、せめて拳骨の一発ぐらいはぁぁぁぁ!!

 俺はそう心の中で思った。



[19334] 第四十八話 ニュースで見る六課
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/24 22:52
 ヘヴンズフォールやエンド・オブ・ワールド!
 をかましたいほどに怒っていたが、さすがに自重した。
 
 せめて拳骨くらいは許してほしい、と心の中で思っていたのだった。
 
 一瞬我を忘れて、模擬戦の許可とりにいこうとも思ってしまったし。
 



第四十八話




 エリオとキャロとヨモギの3人は仲良くなっていた。
 俺としてはエリオに対して怒りたかったが、なんとか頭の中で我慢した。
 代わりにフェイトさんに躾を頼んでおいたが。

 俺だとやりすぎる気がするから、自重することにする。
 フェイトさんだと緩すぎる気もするが――

 まあやりすぎるよりかはマシだと思う。

 まあそれでも打ち解けることはできたみたいだ。

 仲良くなっている。
 ただ時たま、エリオが顔を赤くして、ヨモギが怖い顔になっていたりするが。

 キャロにも同年代の友達ができそうだ。
 ……まあ大丈夫だよな。うん、ファザコンだし、キャロ。

 危険なことには巻き込まれないだろう、きっと。
 
 因みにヨモギがトリッパーかどうかの確認はしなかった。
 まあ確認したからといってどうというわけじゃないし。

 それにキャロとちゃんと楽しくやってくれている。
 キャロとは良い友達になってくれるだろう。

 だからどうなのかを聞くのは止めた。






 それから少し経って、
 『機動六課』というものが設立されたのだった。

 部隊長に八神はやて、
 分隊長に高町なのは、フェイト・T・ハラオウン
 副隊長にはヴィータ、シグナム、
 といった豪華メンバーだ。

 どう考えても絶対このメンバー、豪華すぎるだろ!と俺は心の中で思った。

 これは残りのメンバーが新人になってもしょうがないと思えるくらいだ。

 原作見ていた時はなんにも感じなかったが、
 実際やっているところを見ると、どうなっているんだろうか?と思えるくらいだ。

 いや、本当どうやったんだろ。
 まさかマジックでも使ったのか!?(魔法使ってもこうはならないだろ)

 ああ、駄目だ。
 自問自答ですぐに返される。

 まあそこらへんはあれだ。考えないようにしよう。

 そういった策謀が得意な人なんだと思っておこう。

 俺も策謀使うタイプだけどさ(主にタッチフットで)
 でもこの体になってからはクリフにも負けてきてるし(タッチフットで)
 力押しで行くことも多くなったしよ(タッチフry

 新人たちは4人中3人は原作通り、1人は違った。
 まあその1人は俺と一緒に自然保護隊で頑張っているが。

 スバル、ティアナ、エリオ、そしてヨモギの4人。
 この4人が機動六課の新人、とのことらしい。

 最近ファナムはなのはたちと仲良くしている。

 まあ俺もファナム繋がり、キャロ繋がりで仲良くしてはいる。

 フェイトさんに子供たちのことで相談にくるし。
 その度にファナムのオーラが黒くなるけれども、
 キャロの話をすることもあるし。

 因みに高町教導官や八神二等陸佐は来ない。
 なんでも俺とファナムの空気には耐えられない、だってさ。
 フェイトさんはなんのことか分からなかったらしいが。
 
 本当、この人純粋だな。
 心の底からそう思った。

「はい。できましたよ。
 今日のご飯はお鍋です」
「わー、ぱちぱちー」

 因みに飯係は相変わらず基本的にキャロに任せている。
 ファナムもたまにやっている。
 そして俺はできない。

 大して稼いでない癖に、料理もできんとは……。
 うん、悲しいよね。

 こんな生活ができるのもファナムのお陰なんだな~、としみじみ思う。
 そして自分が情けなくも思う。

 まあでも幸せに暮らせているから大丈夫か、
 そう思えるから安心だ。

 ファナムがいて、キャロがいて、フリードがいて、皆がいて、
 それが俺の幸せなのだから。

「キュクキュク」
「ほらほら、フリードも慌てて食べない食べない」
「あはは」

 フリードは慌てて食べてて舌が火傷しそうになっていた。
 キャロがフリードの舌を冷やしている。

 こんなほのぼのとした光景がいつまでも続くといいな、
 そう俺は心から思う。
 いつまでもずっと――

「ふふ」

 しかしファナムがなんか笑ってる。
 
 あ、駄目だ。
 なんか嫌な予感がする。
 
 いや、まあ嬉しい嫌な予感だけどさぁ。

「オーちゃん。あのね、あのね」

 翌日、腰が痛かった。
 と、いうことは伝えておこう。

 というかドラゴンの腰を砕くって、それはどうなんだよ。

 ファナム、相変わらず凄いな~と心で思う。








 それから暫くしてのことだった。
 
 最近ガジェットとかいうのが出てくる事件が多くなってくる。

 あれ? ガジェット、なんだっけ、それ?
 確かに原作にいたような気はするんだが、思い出せん。

 と言う具合にそろそろ原作知識が役立たなくなってきた頃である。
 
 まあさすがに19年以上も昔のことを覚えていられるわけがない。
 ぶっちゃけノートにこれからの展開を書き写していたわけでもないのだから。

 だから基本的にこれからどうなってなにが起こるのか、なんてことはハッキリ言って思い出せない。
 
 こんなので大丈夫なのかなぁ……?
 ハッピーエンドだった気はするけれども。
 後、それからガクガクブルブルするような展開だった気がする。
 主に敵側が。

 ご愁傷様、と言いたくなるような展開だった気もするけど。
 
 やっぱりあんまりよく覚えていないな。
 
 こんなのじゃもう知識を利用して役には立てないだろう。
 まあ役に立つ立たない以前に、関わるつもりもないが。
 だって怖いじゃん。

 基本的にチキンな俺だった。

 因みにニュースをふと見ていたら、
 列車事件を見事に解決したとか。
 ガジェットⅢ型とか出てきて、しかも列車事件でしっかりと止めることに成功。
 レリックとかいうロストロギアも回収できたらしい。

 ……こんなのあったけな~。
 もう既に原作知識が曖昧だ。
 まあ別にいいか。

 あろうがなかろうが、ぶっちゃけ変わらないし。

 今日もまたキャロとフリードと一緒に自然保護の仕事に出かける。

「それじゃあ行ってくるわ。ファナム」
「いってらっしゃい。オーちゃん」

 今日も可愛いな、ファナムは。
 ファナムの笑顔は俺にとっての活力になる。

 うん、寒かったな。ごめん、忘れてくれ。
 でもそれくらい好きだってことなんだから。

 さて今日も自然保護隊の仕事を頑張りますかー。

 獣王竜の雄叫びで今日もまた保護の仕事を頑張るのだった。
 キャロとフリードも頑張っていた。



[19334] 第四十九話 やってくるのは
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/28 18:21
 私ことヨモギ・テスタロッサ・ハラオウン。
 突然このリリカルな世界に転生、というか憑依してきましたトリッパーです。

 いやぁ、というか憑依してきたタイミングが最高でした。
 憑依するのが早すぎたら実験と称してどんなことされるのかが分からない。

 とにかくすぐにフェイトさんに保護されまして、テスタロッサ・ハラオウンの名前を貰いました。
 多分、フェイトさんに似ていることも原因なんでしょうね。

 そういうわけで私はフェイトさんに頼みまくって、機動六課に入れてもらうのでした。
 ふふふ、私結構実力ありますらしいですし。
 この調子で頑張りましょー!!




第四十九話




 列車事件も上手にできましたし。
 
 私はなんと4人の中で飛行魔法が唯一使えるのです。
 いや、まあ飛行魔法まだ使い慣れてないんですけども、このアドバンテージは大きいです!

 それでもまだ危なっかしいからか、
 フェイトさんには空士としてでなく陸士として登録されてます。
 まあ飛行戦闘できませんから仕方ないですよね。――まだ。

「それじゃあ今日も頑張ろう。エンゼル」
『Yes,master』

 そういって私は羽のレプリカに呼び掛けた。
 羽のレプリカはアクセサリーにしている。

 この子こそ、私専用のインテリジェントデバイス『エンゼル』。
 因みに羽のレプリカは待機状態である。

 セットアップすると、羽のレプリカから羽のついた杖の状態に変化します。
 能力性もあってフルバックにいますよ、私は。

 私は回復魔法、拘束魔法、防御魔法、補助魔法とかそういうのが得意らしかった。
 本来は他にもバトル性能が高い能力を高めていたかったらしかったんだけど、
 そういった補助能力の上昇も求めていたらしい。

 その結果生まれたのがシャマルさんみたいな補助系統の得意なタイプの魔導師。
 
 その能力上、フルバックが向いているらしかった。
 エリオ君、ティアナさん、スバルさん、というメンバーが揃っているため、フルバックという人材が欲しかったみたい。
 私はそれに見事に合致していた。

 私専用に作られているだけあって、エンゼルの効率は最高といってもいいほどだった。

 まあシャーリーさんがある程度調整もしてくれたんだけど。

 でもそれにしても――

「ぜは、ぜは……し、しんどすぎます~」
「だ、だよね~」

 ですよねー。
 あまりにもしんどすぎる。
 あのスバルさんでも音を上げるんですから、相当なものです。

 うう、なのはさんの訓練がキツイってのは知ってましたけど、
 随分甘く見ていました~。

 それでも頑張ってみたいと思います。
 だってエリオきゅんといられるもん。

 ちっこいもん、可愛いもん、だから我慢できない!!
 我慢するけども……。

 するとホテル護衛任務が言い渡されるのでした。

 おお、原作のイベントですね!!

 さあ、私もしっかり頑張りますか!!
 ふふふ、しっかりホテルを守りきってみせますとも!

 私はライトニング分隊で頑張ることとした。



















 自然保護地区

 俺とキャロの仕事はここである。
 ここで保護されるべき動物たちを保護している。
 因みにこの世界にはドラゴンはいない。

 というかドラゴンがいたら駄目なので、ドラゴンのいない保護地区を任せてもらっているのだ。
 竜召喚師のキャロの父親なのに、とか言われるけど。

 それでもあの事件以来、ドラゴン、それも大型ドラゴンを目にするのは駄目になったのだ。

 フリードリヒならばともかく、それ以外のドラゴンは。

 俺はあの日、死んだ。
 フェンリール・ドラゴンの牙によって、動くことすらままならず死んだ。
 どうしようもないくらいに死んでしまった。
 立ち向かう暇も、逃げる暇もなく、
 ただ脅えたまま死んでしまった。ファナムの目の前で。

 だから俺はドラゴンに恐怖する。
 なによりも大型のドラゴンに恐怖する。
 目の前で牙が襲ってくるその瞬間を思い出してしまい――

 ぞくっ

 寒気がする。

 それもこれもあの時のことを思い出していたからだな。

「お父さん。順調ですね」
「ん? そうだな~」

 俺はこの仕事が気に入っている。
 それに俺の能力からしてもこの仕事は天職といってもいい。

 ああ、なんていい職場にありつけたんだ。
 まあ給料低いけども、ファナムの給料と比べるのが間違っているか。
 普通に稼ぐよりも給料はいいんだし。

 武装局員の方が給料良いのは仕方がない、てものだ。
 でないと割に合わないだろう。

 そうやって仕事をやっていると、だ。

「あ、お父さん。
 なにか拾いました」
「ええぇ~? なんだ。密漁者が入ってきて落としたもんか?」

 キャロが持ってきたものはなにか入っているケースだ。
 なんでこんなものがここにあるんだ? という思いがある。

 考えられる限りは、密漁者が入ってきて落としたものか。
 バカバカしい考えだが今のところこれぐらいしか考えられない。
 他の人ならもっと別の考えが浮かぶだろうが、俺にはこの程度の頭しかない。

 やっぱり考えるのは苦手だな、そう思えてしまう。

「とりあえず上司に届けておくのが無難かな」
「そうですね」
「キュックー」

 このケース、なにが入っているんだろう、と思う。

 一応確認していた方がいいかな。
 なにか危険物とかが入っていたら、すぐに手放すか、それともすぐに渡しに行くとか。

 そういったことを判断するためにも見といた方がいいだろう。

「それに気になりますものね」
「キュクキュク」

 うん、ぶっちゃけその通りである。

 こういったものの中身が気になるのは常に好奇心。
 そして好奇心を持っているからこそ気になる。

 どんなものかなぁ~、とそう思ってケースを開けてみようか。
 
 あ、でもその前に上司に連絡でもつけて、開けた方がいいのか、
 聞いてみようか。

「というわけなんですが、どうします?」

 因みにキャロが念話で聞いてくれる。
 あ、俺より念話するの早かった。
 俺より判断力早いという証拠か。

 するとキャロはうんうん頷き、

「一応中身を確認してくれ、だと言ってます。
 中身を確認しないことには判断しようがない、と」
「そうだな」

 キャロも上司から判断を貰ったみたいだ。
 よし、これで気兼ねなくケースの中身を見ることができる。

 一体なんだってこんなところに、こんなケースがあるんだ。

 密漁者のものなのか?
 それだとなんでこんなところに?

 そんなさまざまな疑問を一挙に解決できる。

 よく『百聞は一見に如かず』というが、まさにそれだ。

 そう思って、ケースを開けようとした瞬間だった。

『ぴ、が――』

 なんかいた。

「……」(ごしごし)

 よーく目をこすってみる。
 
 キャロもそんな様子の俺を見て、気付いたのか後ろを向いてみる。

 するとそこにいたのは――

『ぴ、が――』
「が、ガジェット!」

 やっぱりかぁぁぁぁーーーーーーーーーー!!

「というかなんでこんなところにガジェットが!」

 訳が分からん!
 巷で有名になってきているガジェット。
 
 なんでもアンチ・マギリング・フィールドやらなんやら、そういった類のものを使用しているらしい。
 あれ? アンチ・マギリング・フィールド、聞いたことあるようなないような。

「ま、まさか! これ、レリックなんじゃ!」
「え? キャロ、レリック?」
「ええ!? 聞いてないんですか!?」

 いや、知らないよ。
 というかなんでキャロが知ってるのさ。

 それなりに有名なロストロギアらしい。
 うん、なんだってそんなものがここに。

『ぴがぁぁぁぁ!』
「うわ、というか早速襲い掛かってきやがった!」

 さすがに漫画みたく、話し終わるまで待ってくれるはずもなかった。
 
 なんというか平べったい、妙に細長い丸っこい機械が襲い掛かってきた。
 種類としてはガジェットⅠ型とか呼ばれるものらしい。
 後で聞いた話であるが。

「ど、どうしましょう!」
「とりあえず逃げるぞ!」
「は、はい!」

 とにかく咄嗟に俺はフェンリルモードになる。
 これならキャロとフリードを乗せて全力で走れる。

 なによりあいつらが近くに来てから、変身魔法の精度も下がってきている。
 まさかこれがAMFということか。

 少し近づくだけでこれだ。
 もっと近づけば、俺は変身魔法を維持できなくなるだろう。
 
 だが今は好都合だ。
 変身魔法を使えなくとも、俺はフェンリール・ドラゴンの身体がある。
 
 この状態は変身している状態ではなく、寧ろ変身してない状態。
 だからAMFの効果を受けない。

 とにかく逃げよう。
 あんなのと戦うだなんてゴメンだ、と思っていたら――

「キュックー!」
「ぐあ?」≪どうした、フリード?≫

 なにかフリードが騒いでいる。
 とりあえずキャロにも聞かせるため、念話でフリードに問うてみることにした。
 なにを騒いでいるのだろうか? と。

 と思っていた時だった。

「ああ! お父さん、今、そのガジェットに!」
「ぐぁ?」≪え?≫
「囲まれてます!」
「……ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」≪んだとぉぉぉぉぉぉ!?≫

 早速、そのガジェットとかいうのに囲まれた。

 しかも後方から追ってきているは、前からもやってきているは。

 なんでこんなところにガジェットがたくさんやって来てるんだよぉぉ!?
 俺はそう突っ込みたかった。

 突っ込んだとしても、フェンリール・ドラゴンの遠吠えにしかならないのだが。

 というか自然保護の仕事していたのにこの状況はなんなんだぁぁ!?

 そう俺は吼えていた。



[19334] 第五十話 ガジェットvsフェンリール・ドラゴン
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/28 15:31
 急に襲ってきたガジェット。
 
 とりあえずなんでだぁぁぁぁ!!




第五十話




 急にガジェットが襲い掛かってきた。
 なんでもレリックとかいうのを狙って襲い掛かってくるらしい。
 
「ぐあぁぁぁぁ!!」≪んなもん、持ってないよ!≫
「えっと、多分、このケースがそうなんじゃないかと」

 ああ、そういうこと。
 そのケースの中身がレリックとかいうロストロギアと。
 渡せば帰ってくれるかな~、と思ってしまう。

 というかなんだ、その物騒な代物は。
 なんでそんなものが自然保護区域にあるんだ!?

 まあでもここなら人なんて滅多に来ないだろうけども、
 それでも管理局員にでも見つかれば言い訳なんてできない地域でもあるというのに。

 なんでわざわざこんなところに、レリックなんてものがあるんだよ。

 俺はそう突っ込みたかった。

 が、そんなこともできないだろう。

 だってこいつら、襲う気満々だもん。
 ガジェットⅠ型ばかりとはいえ、数が多いし、なによりAMFを展開している。
 下手な魔法なんて効かない。

 それに囲まれているために、ガジェット達のAMFにどうして巻き込まれてしまう。
 こんなのじゃ弱弱しい魔法なんて使用できない。

「ど、どうします!?」
「ぐるるるるるるる」≪囲まれてるからな、どうするべきか≫
「キュクー」

 現在作戦会議。
 といってもそんなのを開いているほど、相手も優しくない。
 
 とりあえず念話で会話をする。
 そもそもからして今の俺は声帯の問題上、人の言葉を発せない。
 だからさっきから獣の言語で喋っているのだ。
 いや、というか竜の言語だけど。

 まあ別にキャロもフリードも竜言語理解できるから、念話しなくてもいいのだけど。
 
 問題はどうすべきか、だ。

 ガジェットⅠ型に囲まれている。
 これは大丈夫なのか……?

『が、ぴーー!』

 すると囲んでいたうちの1体が襲い掛かってくる。

 早速触手を伸ばして襲い掛かってくる!
 機械の職種だけれども。

「しゅ、シューティングレイ!」
『shooting ray』

 早速キャロがシューティングレイを放つ。
 だがそのシューティングレイは虚しくAMFの前にかき消されるのみ。

 だが俺には――

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 爪を以てして潰す!!

 触手を完全無視して、圧倒的力量で叩き壊す。
 よし、この程度の相手ならばなんとかなる!

 そもそもからしてスペックからして俺の方が勝っている。

 フェンリール・ドラゴンの強さならあっという間に片づけられる。
 だがそれよりも、まずは魔力弾で潰すのが一番だ。
 遠距離から一気に潰す。

 囲まれているからそれほど遠距離から打てなくても――!!

「GAAA!」

 俺は早速魔力を召喚。
 そしてその魔力を加工することで、アクセルシュータ―を作り上げる。

 勿論、AMFの範囲内なので分解される。
 だがそんなものは関係ない。

 俺は収縮率も圧縮率も、他の魔導師に比べると圧倒的に低い。
 というか魔力制御自体が苦手だ。
 計算とかが苦手な弊害がこんなところで来るとは。

 だがそれなら圧倒的魔力を注ぎ込めばいい。
 分解されるというなら分解され尽くす前に、その全てを圧倒する。

 今の俺ならそれが可能だ。

 穴だらけのバケツに水をいっぱい入れる方法など簡単だ。
 そんなもの、池の中にでも沈めてしまえばいい。

 そうすればたとえ穴だらけのバケツだろうと、バケツの中は水でいっぱいだ。

 どこかの伝説でもあっただろう。
 毎年1000人殺すから、毎年1500人誕生させればいい、とかほざいていた伝説の神が。
 それと同じことをすればいいだけの話だ。

 だからAMFなどものともせず、俺のアクセルシューターがガジェットを壊していく。

 よし、この調子なら大丈夫だろう。

 今の俺ならば倒せる。倒せる。
 そう自己暗示しろ。だから怖くなんてない、怖くなんてない。

 とりあえず前方のガジェットを中心に潰していく。
 アクセルシューターで簡単に壊れていくガジェットたち。

 そして俺はキャロに念話を始める。

≪キャロ、速度強化を頼む!≫
「はい!」

 一気に駆け抜ける!!

「我が乞うは、疾風の翼。獣王の竜に、駆け抜ける力を!」
『boost up, acceleration』

 キャロが唱えるのは速度を強化させるための魔法。
 そのために丸い方陣を生み起こす。

 俺自身の機動力が上昇したのを感じられる。

 これなら――

≪キャロ、フリード、しっかり掴まってろ! 駆け抜ける!!≫
「はい!」
「キュ!」

 いくら俺がこいつらを叩き壊せるくらい強いといっても、
 それでも限界があるし、なにより俺の精神力がどこまで保つか。

 全部壊してもいいのだけれど、俺のこのハイテンションがどこまで続くかも心配なのだ。

 ならば前方のガジェットを中心的に壊してこの包囲網を機能させなくなる。

 それから一気にダッシュするまでだ。

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 機械相手に威嚇の雄叫びが効くとは思えんが、それでも全力で吼える。
 これはすっかりとフェンリール・ドラゴンとしての本能か。

 俺の全力のダッシュで、ガジェットたちを抜けていく。
 そう思った時だった。

 巨大な丸っこいロボットと、大量の飛行型ロボットが存在していた。

 ……

「GAA!?」≪数多ッ!≫

 あまりの数の多さにさすがの俺も吃驚してしまう。

 というかあの丸っこい巨大ロボットはガジェットⅢ型、
 そして飛行型ロボットはガジェットⅡ型じゃないか。

 しかも後方にはたくさんのガジェットⅠ型がいる。

「また囲まれちゃいましたね」

 うん、まただよ。
 せっかくあの包囲網突破してきたのに、また包囲されるだなんて。

 というかそうまでしてこのレリックとやらが欲しいのかよ。

 一体どういうものなんだ。
 あれ? どっか記憶で引っかかっている。
 どこだったんだっけ? このレリックとか。
 
 とにかく今は思い出せないが、すごくヤバいものだということは分かる。

 でなけりゃこんだけのガジェットたちが俺たちを襲いかかってくるわけがない。

 こうなったらいっそ崩れ堕ちる天ヘヴンズフォールで一掃するか?

 いや、駄目だ。
 確かに崩れ堕ちる天ヘヴンズフォールを使えば、このガジェットどもを一掃できるかもしれない。

 だがあまりにも無差別すぎる。
  
 そもそも自然保護しにきた奴が自然を破壊してどうするんだ!?

 だからこの選択肢は最後の手段だ。

 だから今は力で叩き壊す!

「GAAAAAAAAAA!!」
「お父さん!」
『ぴ、がーー!!』

 俺の力で圧倒する。
 とりあえず複数個展開したアクセルシュータ―で潰していき、
 俺の大爪で叩き壊していく。
 因みにラグナレクに魔力は送っていない。
 送ったところですぐにAMFで分解されるのがオチに決まってる。

 だったらいっそのこと魔力を送らない方がいい。

 バリアジャケットとかすっかりと分解されているが、なんとかなるだろう。

 しかしこいつら、数が多い!
 実際こいつら大したことない。
 いや、俺の肉体的スペックが強いだけかもしれんが。

 そもそも俺にAMFなんて代物は通用しない。
 もともとフェンリール・ドラゴンの身体的能力を持っている上に、
 神域の魔力テンプテーションという反則的魔力を持っている。
 
 ならばAMF如きなど俺の相手ではない。

 よし、だから大丈夫だ。
 怖くない、怖くない、もっと自信を持て。
 こいつらは俺に勝てない!!

『ぴぴ!』
「GA!」
「きゃっ!」

 と、今度は上空から飛行型ガジェットが襲い掛かってくる。
 質量兵器を発射しながら攻撃してくるのだ。

 まずい!? このままだと背中に乗せているキャロとフリードが危ない!

「GAA!」≪プロテクション!≫

 魔力を過剰に送りこみ、絶対防壁を生み出す。
 あまりの魔力量ゆえにさすがのAMFも分解しきれない。
 そして分解しきてれていない部分だけでも、ガジェットⅡ型の質量兵器攻撃を防いでいる。

 よし、この調子ならなんとかなる。

≪大丈夫か、キャロ!≫
「う、うん。大丈夫、お父さん。
 でも私たちにできることってない?」
「キュックー」
≪できること、か。
 基本的に俺だけでなんとかできるからな。
 ならフリードのブラストレイであいつらの数を減らしてくれ≫
「はい! フリード、ブラストレイ!」
「キュク!」

 とりあえずフリードのブラストレイでガジェットⅠ型を壊していく。

 今はなんとかなる。
 だがこの調子をいつまで維持できるか、だ。
 俺の体力精神力底をついたら駄目だ。

 だがなによりも厄介なのはガジェットⅠ型でもⅢ型でもない。
 ガジェットⅡ型だ。

 Ⅰ型なら対処はできる。
 Ⅲ型も装甲が厚いが、俺の身体的能力と過剰魔力による押し潰しが有効なのはさっき試してできている。
 それに数も少ないからそれなりに対応できる。

 だがガジェットⅡ型は飛行型なのだ。
 つまり空にいる。

 この身はフェンリール・ドラゴン。
 そしてフェンリール・ドラゴンに空を羽ばたく手段はない。
 
 そして基本的に上空からの攻撃に俺は弱い、というか地上生物の弱点としての上空なのだ。

 周りにいるⅠ型Ⅲ型に気をつけながら、上空にいるⅡ型にも気をつけなければならない。
 それは精神的にも疲れることだ。
 
 だからといって放っておいたら、いつまたあんな質量兵器による攻撃が待ってるか。
 そんなのは俺は勿論、キャロやフリードにも危険を及ぼす。

 くそ、せめて、あの『飛行機』みたいのさえ、なければ――

 ――『飛行機』?

「お父さん……?」
「キュク?」

 順調に、キャロとフリードがガジェットⅠ型Ⅱ型を落としている最中に、
 俺はあることが頭に過ぎった。

 いや、まさか、でも――

「ぐるぅぅぅ、GAAAA!」

 とりあえず目の前にやってきたガジェットⅢ型を俺の爪と牙で叩き壊し、
 だがそれでも尚動く。
 
 あまりにも怖かったので至近距離ディバインバスターで後方にいるガジェットⅠ型4体ごとかき消した。

 だけどまさか、可能なのか?
 いや、できる。できるはずだ。

 それに可能性の問題だ。
 たとえできなくても問題なんてありはしない。

 飛行魔法の使えない俺が、ガジェットⅡ型に対抗するためにどうすればいいのか。

 俺のアクセルシューターがガジェットⅠ型を壊し、
 ディバインバスターでガジェットⅢ型をかき消していく。

 怖い怖い怖い怖い
 俺なら大丈夫、恐くない、怖くない、怖くない
 こいつらは弱いから大丈夫、俺なら強いから大丈夫

 そう俺は頭の中で言い聞かせていく。
 いつまでこのハイテンションが続くか。
 この緊張テンションが切れる前になんとかしなければいけない。

 だから頼む、成功してくれ!

「GI、GAAAAAAAAAAAAA!!」

 雄叫びをあげる。
 頼む、成功してくれ!!

『ぴ、が、ぎ、が?』
『ぴが? がぴ、ぴ――』
『PIIIIIIIIII』

 その瞬間だった。
 
 ガジェットⅡ型同士が空中でぶつかり合い、
 そしていつの間にか空中衝突によって互いに互いが破壊していく。

 ――成功した

 ただのアクセルシューターなら2体倒すのに2ついる。
 だがこれなら――

 これは成功といってもいい。
 数えるくらいだけどガジェットⅡ型を制御できた。

 大雑把な制御ぐらいしかできないけれども、
 それでもその大雑把なコントロールで十分だ。
 
 ぶつかり合うくらいならばその程度で十分。

 そして俺の元にガジェットⅡ型の残骸召喚される。
 ガジェットⅠ型、Ⅲ型の上に。

 ガジェットⅢ型はともかく、
 ガジェットⅠ型はガジェットⅡ型の残骸に押し潰されて破壊されていく。

 これで近くにいるガジェットⅠ型も壊せて一石二鳥だ。

 そう、俺が使ったのは――

天から遣わす転生車輪リンカーネイト・トラック
 神技能ゴッドスキル
 召喚魔法の一つ。
 自分の近くにあるトラック、または『乗り物』を自由自在に動かし、それで轢いた物または存在を問答無用に自分のもとに召喚する。
 轢き殺した場合、魂だけを自分のもとに召喚する。別名≪転生トラック≫
 使い慣れると遥か遠くにあるトラックでさえ動かせる。

 そう、てっきり俺は『トラック』だけだと思っていた。
 神様が使うのは『トラック』だけなのだと。
 
 でも違う。
 なにも『トラック』だけというわけではない。

 俺は神技能ゴッドスキル状態識別アイデンフィケイション≫で確認した。

 天から遣わす転生車輪リンカーネイト・トラックは別に『トラック』だけでなく、『乗り物』でさえ可能。

 思えばなにもよく考えればダンプカーで轢いて転生していた小説を見たことがあるではないか。
 あれもトラックである、という人だっているかもしれないが。

 それに飛行機事故で転生なんてこともある。
 いや、あれ轢いてないじゃんか。ていうツッコミもあるだろうけど。

 だからなにも『トラック』限定というわけじゃない。
 『乗り物』でさえあればいいのだから。

 そして俺はガジェットⅡ型を乗り物なのだと認識することができた。
 Ⅰ型Ⅲ型はさすがに無理だが、飛行機みたいなⅡ型は自己暗示で無理やり『乗り物』だと認識することができたのだ。

 まあもしかすると自己暗示すればギリギリⅢ型も乗り物とすることができるかもしれない。
 Ⅰ型はさすがに無理だが。

 これで上空のガジェットⅡ型群は減った。

 だが今の俺は飛行魔法は使えない。
 この体じゃ、ガジェットⅡ型に乗って飛ぶということもできないし。

「お、お父さん……?
 なにか急にガジェットたちが自滅を始めちゃったんですが」
「キュックー」

 て、しもたぁぁぁぁぁ!!
 キャロとフリードに天から遣わす転生車輪リンカーネイト・トラックのことを話しておくのを忘れていた。
 てっきりトラックだけしか動かせないと思っていたから使う必要もなく、
 こんなのがあったな、とかあんま覚えておらず話していなかったのだ!

「いえ、リンカーネイト・トラックのことは知ってますけど」

 あ、そういや話してた。
 すっかりキャロに話していたの忘れてた。
 ああ、きっとファナムに再会していなかった時期に話していたのだろう。

 そういえばキャロの前で使っていた気がする。

 玩具のトラックを召喚魔法に使うため、というやり方で、アークを目の前に召喚し、発動していたのを。

 俺はすっかりと忘れていた。

 だがキャロはあの時の俺の説明では、
 ガジェットⅡ型同士が自滅しあったのが分からなかったのだろう。

 というか≪天から遣わす転生車輪リンカーネイト・トラック≫にこんな使い方があったのか、と今からでも驚くばかりだし。

 だがとにかく――

 乗ってく?

 あれ? 
 そういえば、なにか思い出したような。

 そういえば、乗っていたな。
 ――シールドに。

≪そうか! キャロ、今からジャンプを何度もする。
 ブラストレイはもういいからしっかり掴まってろ!≫
「は、はい!」

 アクセルシューターで周りのガジェットを一掃していく。
 勿論これで全て倒せたわけではない。
 だが数秒程度の時間稼ぎは可能だ。

 今はそのたった数秒程度の時間稼ぎで十分だ。

≪開け! 天への道!!≫

 そういって俺は膨大な魔力を展開導入ダウンロードする。
 あまりにも圧倒的な魔力。

 それで俺はラウンドシールドを、100個以上も展開する。

 それは天へと続く階段のように、多くのラウンドシールドを生み出して。
 それはまるで階段のように、道のように続く、ラウンドシールドの群れだった。

「GAAAAAAAAAAA!!」≪しっかりと掴まってろ!!≫
「はい!」
「キュク!」

 そして俺はジャンプする。
 そのラウンドシールドを飛び跳ねて、その場から離脱していく。
 
 さすがにこの状況で追うことができるのはガジェットⅡ型のみ。
 だがそのガジェットⅡ型も天から遣わす転生車輪リンカーネイト・トラックの同士討ちによってその大半が消えている。
 これでは追いかけようにも追いかけようがない。

 こうして俺はガジェットたちがたくさんある戦線から離脱することができた。
 ケースの中に入ったレリックと共に。



[19334] 第五十一話 機動六課ライトニング隊出動
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/28 18:20
 ガジェット軍勢から逃げ切れた俺たち。
 
 だがその手にあるのはレリック。
 あのガジェットが俺たちを追いかけていたのは、このレリックを追いかけていたからだろう。
 
 そしてケースの中を開けてみる。
 するとその中には――


 ――予想通り、【レリック】があった。




第五十一話




 なしてこんなとこにレリックがあるんじゃーい!!

 というツッコミがしたいが、自重する。

「で、どうすんすか」
「そうだな~。こういうのは、どいつに任せた方がえがったかな?」

 一応、俺たちの上司であるナード一等陸尉。
 この自然保護隊のリーダーをしているお人だ。
 自然保護のエキスパートである。

 とりあえず見つけてしまったこのレリックとかいうロストロギア。
 どうするべきなのかを考えなくてはいけない。

「ちょち、本部に問い合わせてみんべ」

 この人もなまってるな~。
 まあここにいるのはそういった出世欲とかそういうのがない人が基本的に多いからな。
 左遷された人や、こういった仕事に就きたいと思っている人もいることにはいるが。

 とりあえずナード一等陸尉、ナード隊長は本部に問い合わせてみることにした。

 このレリック、どうするべきなんだろ。

「あー、うんうん、あー、なるほどだで。あー」

 なんか話している。
 しかし「あー」だとか「うんうん」だとかばっかりで話の内容が掴めない。

 とりあえずどういう扱いになるかのかが凄い気になる。

 とりあえず厄介なことにならないといいな。

「あ、そだ。そだ。ガジェット共はどうだったや?」
「は、いまだこちらに接近している模様です。
 大体Ⅰ型Ⅲ型が接近してます」
「て、まだ諦めてなかったのか!」

 これはヤバい気がするぞ。

 一旦撒いた気がするのに、まだガジェットⅠ型Ⅲ型が追いかけてくるだなんて。
 どれだけ執念が強いんだ、そのガジェット共は。
 いや、ロボットだから執念とかないんだろうけども。

 このままだと厄介にしかならんぞ。

 Ⅱ型は俺の天から遣わす転生車輪リンカーネイト・トラックのの同士討ちのお陰で大半を削れた。

 だが天から遣わす転生車輪リンカーネイト・トラックには弱点がある。
 それは俺がその力を使いこなせていないということだ。

 ガジェットⅡ型を乗っ取るのには時間がかかった。
 トラックならば簡単に、それこそ巨大なものでも動かせるというのに。

 おそらくガジェットⅡ型にはプログラムがセットされているためだろう。
 そのせいか、効果が薄かったのだ。

 多分、特殊な条件下でしか動けない『乗り物』の場合、天から遣わす転生車輪リンカーネイト・トラックの効果を受け付けないだろう。
 俺がもっとこの技能スキルを使いこなせれば話は別だが。

「で、どうすんすか」
「んー、そだね。今のとこ、俺たちが出向くか。
 とはいっても機動六課とかいうのが来るまでの繋ぎだがね」
「ああ、それは助かります」

 このままだと厄介なことになりかねない。というのは分かっているらしい。

 それをなんとかするためには、このガジェットを留めておく必要がある。

 それをやる役というのが隊長たち含めた実力者だ。
 いくら自然保護隊だからといってガジェットが相手ならなんとかできるメンバーが揃っている。
 が、だからといってそこまで無理に戦う必要とてない。

 ガジェット専用、というかレリック専用の部隊が存在するからだ。

 ナード隊長たちがするのはその専用の部隊が到着するまでの繋ぎ。
 それもすぐ到着するだろうから、それまで耐えてればいいのだ。
 危険ではあるのだが、それほど危険ではない任務だろう。

「とりあえずお前らはそのレリックとかいうのを保管してろ。頼んだぞ」
「て、俺が保管するんすか!?」
「ったり前だろが。俺たちが前線を維持すんだから、それを守るのは俺たち以外で強いの、
 お前が適任に決まってるだろが」

 有無を言わさぬように、そう命じられてしまった。
 
 結局は俺とキャロ、フリードによってレリックを守ることになった。
 とはいってもガジェットを相手に引きつけておくのは隊長たちがやってくれるらしいけど。

「ていうか大丈夫なんですか? ナード隊長」
「がっはっはっは。なになに。
 この俺を誰だと思っている」

 というわけで早速ガジェットを退治しに行きました。
 とはいっても機動六課というのが来るまでの繋ぎではあるが。

 というかナード隊長、「この俺を誰だと思っている」とか言われても、
 俺、ナード隊長が戦ってる姿見たことないから実力が丸っきり分かりません。

 しかも魔導師ランクなんて聞いてなかったし。
 まあ多分魔導師ランク、高いんだろうけども。

「とりあえずどうしましょうか。お父さん」
「キュクー」

 するとキャロとフリードが尋ねてくる。
 俺としても、このままじっとしているのが一番だと思う。

 というわけでそれを口にした。

「そうだな。まあ機動六課とかいうのが来るの待つか」
「機動六課、というあのフェイトさんたちの」
「そうそ……あれ?」

 どっかで聞いたことあるような、と思っていたら思い出した。
 
 そうだ。
 あのフェイトさんたちがいる部隊だ。

 というかまさかこのレリックとかいうロストロギア。
 StrikerSに出てくる重要ロストロギアなのか……?
 というかそんなんなんでもないと、さすがに一部隊作り上げてまで探しに来ないわな。

 なにか重要な機能を持ったロストロギア。
 あっるぇー? いつの間に原作に関わっちまったんだろう?

 いや、待て待て。まだ原作に関わったとは決まってない。

 すっかりとStrikerSの内容を忘れてしまっているが、
 それでもこのレリックとやらが原作と関係のあるものだとは限ってない。

 だから大丈夫だ、大丈夫。
 そう俺は自己暗示をかける。

 あ、でもそんなものをわざわざ主人公たちが追いかけるわけもない。
 と、いうか、まさか本当に――

 どごぉぉんっ、と大きな音が鳴った。

「て、音うるさ!」

 というかこんな音うるさいことやっていていいのか!?
 と、俺は思う。

 これだけ大きな音を出す魔法を出して戦ってるということは、それだけで周りの自然を壊しかねないんじゃ。
 自然保護の部隊がそんなことやらかしたら。

「あー、大丈夫だべよ。隊長の使う魔法は音うるさーけど、自然にダメージは与えんかんの」
「え? あんだけ音出しといてマジすか」
「本当だーよ」

 本当にそうなのか。
 だがあの隊長ならあり得そうな気がする。

 音が派手というだけで周りにはそれほどダメージを与えていないらしい。

 しかも音が派手だから周りにいる獣たちもそこから逃げ出そうとか考えるらしい。
 音が派手なのはそういったことも考えているからだとか。

 はぁ、さすが隊長。
 俺の過剰魔力で叩きつぶすやり方とは違う。
 ちゃんと自然のことを考えているんだな~、と感心してしまう。

 とりあえずその機動六課とやらが来るのを待ってよう、と思っていた。













 とある転送装置を利用して、オージンたちのいる世界へと転移してきた者たちがいる。
 それこそがレリック専門として作られた部隊、機動六課である。

 ライトニング分隊でやってきていた。

 因みにスターズ分隊は別のところで発生したレリック反応のところに向かっている。
 でもあのホテルでのミスショットのことがあったから大丈夫かな? とか思ったりもするけど。

 つまり今ここにいるのはフェイト、シグナム、エリオ、ヨモギの4人だけだ。
 
「ここがそのレリックが見つかった世界だよ。
 ガジェットⅠ型Ⅲ型が進出しているから気をつけるように」
「はい!」
「分かりました!」

 ライトニング分隊によって向かうのは。

「すみません。機動六課です!」
「おお、ありがたい! 後は頼んますぜ!」
「はい!」

 ガジェットⅠ型Ⅲ型により、攻撃が繰り広げられていた。

 だがそのほとんどは既にこの自然保護隊のメンバーで駆逐しているようだ。
 シューターで倒したり、正確無比な射撃も繰り広げている。

 武装局員にでもなればすぐにでも出世できるというのに、
 どうしてこんなところにいるのか。と、いう疑問もある。

 が、彼らはそういった出世とかにも無欲なのだろう。
 それに自然の方が好きそう、だということか。

「それでは後は任せてください。行くよ、エリオ、ヨモギ」
「はい!」
「任せてください!」
「それでは行くぞ。セットアップ!」

 それぞれがセットアップする。

 フェイトがバルディッシュをセットアップし、バリアジャケットを纏う。
 シグナムも同じように剣のアクセサリーを剣型アームドデバイスのレヴァンティンにその姿形を変化させる。

 それに対応して、エリオとヨモギもセットアップする。

「ストラーダ、セットアップ!」
「エンゼル、セットアップ!」

 エリオは待機状態である腕時計をセットアップ状態にする。
 その姿は槍。何者を貫く槍と化す。
 これこそ槍型デバイス・ストラーダである。

 それに対応して、ヨモギもセットアップする。
 羽のレプリカ、という待機状態から杖の状態と為す。
 だがその杖はたくさんの羽がつけられている。
 まるで儀式にでも使うかのような、そんな神秘的な羽の杖だ。
 髪をポニーのお団子にしている小さいフェイト、ヨモギはそれを手にしている。
 神秘的な光景である。

 こうして残りのガジェットⅠ型Ⅲ型を片づけていく作業が始まった。




Side-Yomogi

「それじゃあ行くよ!」
「はい!」

 と、いうがもう既にシグナム副隊長が戦いに出てます。
 剣を振り上げて片っ端からⅢ型を潰しています。
 Ⅰ型には見向きもせずに、厄介そうなⅢ型を全滅させる勢いで潰しています。

「はぁぁ! 紫電一閃!」

 火炎を纏った紫電一閃によって、ガジェットⅢ型を叩き壊していた。
 うわ、シグナム副隊長凄いです。

 ただ疑問なんですが、なんで炎を纏う炎剣攻撃なのに紫電一閃なのでしょうか?
 名前からして普通は電機系攻撃だと私は思うんですが。
 炎は雷でもなければ紫色でもありませんし。

 テレビを見ていて、私はそう思っていました。

 いや、まあ名前の由来、調べれば出てくるんでしょうけど。

 とと、今はそんなことを考えている場合ではありませんね。
 早くなんとかしなければ。

「エリオ君、強化魔法かけるから!」
「うん!」

 とりあえずエリオきゅんに強化魔法かけるとしますか。
 私、こういった支援魔法に特化しているらしいですし。

 ならばこそ役立てるのは今!

「ガブリエール!」
『Gabriel』

 強化魔法ガブリエール。
 機動力、破壊力、防御力、なんでも強化できる魔法。
 
 そして今回は機動力だけを上げてみた。
 防御力と破壊力は今回上げなくても良さそうだし。

「はぁぁぁぁぁ!!」

 そしてエリオきゅんも持ち前のスピードで、ガジェットⅠ型をドンドン壊していく。
 Ⅲ型はシグナム副隊長に任せるとして、私もⅠ型を壊していかなきゃ。

 といってもAMFがあるからそれなりの対応になるんだけど。

 私は射撃魔法じゃ、すぐにAMFでかき消されてしまう。
 だったらどうすればいいのか。

 それは重ねること。
 魔力弾に魔力コーティングするというやり方。
 ティアナさんがやっていた方法をやるしかな、ということです。

「と、いうわけでウリエルシューター、魔力コーティング!」

 私はウリエルシューターに魔力コーティングを施す。
 これで魔力結合を分解するAMFによる効果は、上層の魔力コーティングだけになる。

 後は上手く狙えば――

「はっ!」

 どずぅぅ、と音が鳴る。
 
 どうやらガジェットⅠ型を上手く壊せたみたいだ。
 
 だがそれより早く、エリオ君のストラーダがⅠ型を順調に壊していき、
 シグナム副隊長の紫電一閃でガジェットⅢ型を壊しく。

 フェイトさんも持ち前のスピードで片付けていく。

 やっぱり皆さん凄いです。

 原作の実力者は他の局員とは桁違いですね。
 まあ私もオリ主という桁違いの実力の持ち主なんですが。

 どうやらもうすぐこの仕事も終わり――

「紫電一閃!」
「ハーケンセイバー!」

 シグナム副隊長の紫電一閃と、フェイトさんのハーケンセイバーにて、同時にⅢ型を破壊することで終了する。

 本当に凄い。
 私たちなんかよりずっと桁外れの強さです。

 これがSランクオーバー、ニアSランクの実力者たちですか。
 私もいつかあんなところに立ってみたいな、と思います。

 こうしてこの世界で起こったレリック事件、というかガジェット襲撃事件は終わりました。

「さあ、後はレリックを回収しにいくよ。
 レリックを拾った人からも話を聞かないと」
「そうですね」

 こうして私たちはレリックを拾った人のところへ行きます。

 ガジェット全機撃墜したことを確認したため、安心していけます。
 今日もしっかりと仕事することができました。



[19334] 第五十二話 理不尽な到着
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/28 18:23
 私はラファエルという回復魔法を使って皆さんを癒していました。

 ガジェットとの戦いで怪我をした人もいるので。
 とはいっても軽傷な人ばかりで、大怪我した人なんて誰もいませんが。

 そして私たちはそのレリックとかを回収するために向かいます。

 フェイトさん、シグナム副隊長、そしてエリオ君と共に。




第五十二話




 えっと、ここがそのレリックを拾った人、て!

「きゃ、キャロちゃん!」
「ど、どうしてここに!」
「え、えへへ。ヨモギちゃん、エリオ君」

 なんとそこにいたのは私の親友のキャロちゃんでした!
 というかどうしてここに!
 
 いや、ここは自然保護区域ですから自然保護隊の隊員がいることは不思議じゃないんですが。
 しかしそんな彼女がまさかレリックを拾っているとは。
 まさか世界の修正力が無理やりにでも彼女を物語に関わらせようとしているんでしょうか?

「お、オージンさん。あなたが拾ったんですか!?」
「は、はぁ、まあそうです」

 そしてそのキャロちゃんの義父であるオージン・ギルマン。
 どうやら彼がレリックを拾った人らしい。

 そのせいか、ガジェットにも追い回されていたとか。

 しかしこの人が、ですか。
 まさか自分から探しに行ったんじゃ……?
 この人ならありえる気がしますからね。

「と、とりあえずですね。事情をお聞きしたいのですが」
「は、はぁ」

 そういうわけで第一管理世界ミッドチルダへと行くことになる。
 どういったことなのか詳しい情報を聞きたいからである。

 こうしてキャロちゃんとその義父のオージンさんは、私たちと一緒に機動六課へと向かうことになったのでした。
 一体どうなるのでしょう?














 機動六課本部

 八神はやては悩んでいた。

「というかまたあの人か~」

 一時アークに二度も襲われ、殺されかけた人。

 一度目はほぼ瀕死だった状態だったし、二度目もまた同じように瀕死だった。

 まあ今回は瀕死ではなかったし、対象もガジェットだった。
 あの殺人鬼と比べると遥かにマシの方だろう。

 とにかくそのオージンがレリックを拾った、という報告が届いたのだ。

 どれだけ不運なのだ、と思ってしまったも仕方のないことだろう。

「しっかしまあ不運なやっちゃな~」
「あはははは」

 さすがのなのはも苦笑いしかできない。
 否定もできない、という状態だ。

 それくらいオージン・ギルマンという人は不運に思えてしまうのか。

「オーちゃん! オーちゃぁん!」
「……なぁ」
「なに? はやてちゃん」
「なしてオージン君来る前に、ファナムちゃん来とんの?」
「さ、さぁ?」

 そう、そこが謎である。
 どうしてここにファナムが来ているのか。
 
 普通オージンが呼ばれた、という理由だけで来るのか。
 
 なんでファナムが先にここに来ているのか、永遠の謎だったりする。

 まあファナムだから、といえば納得できるかもしれないが。
 だってファナムは理不尽なことをたまに起こすし。

「オーちゃんは!? オーちゃんは、どこ!?」
「や、まだ来とらんで」
「だって、オーちゃんにここに来るって!」
「やからまだ来とらんだけやってー!」

 とりあえずこの人をなんとか宥めないと、と思う。
 
 まだ黒オーラは薄いが、このままオージンが早く来なかったから黒オーラが増すかもしれない。
 それは非常にヤバい。
 なにがヤバいかって、精神的にヤバいとしか言い様がないくらいヤバくなることは明白だ。

 八神はやては早くオージンが来ることを祈った。

 するとファナムの動きが一瞬止まり、そして何かを感じ取った。

「この匂いは! オーちゃんの匂い! オーちゃぁぁぁぁん!」

 すぐさまに八神はやてを離し、ファナムはすぐさま駆けていった。
 それはまさに流星のように。疾風のように。迅雷のように。

 まさに災害のようだ、とはこのことだ。

「にしてもほんま、嗅覚ええな」
「あ、あははははは」

 あまりの嗅覚の良さに、さすがの八神はやても高町なのはも呆然としている。
 
 ファナムの嗅覚は凄まじいくらいに素晴らしい。
 というかオージンが来たということを嗅覚だけで捉えるとは。

 ――彼女は人間か!?

 という思いが彼女らの中にはあった。

 というかどうやって機動六課内に入ったんだろう。
 機動六課の警備、どないしたんやろ? とか思っていたりした。
 
 まあ彼女の理不尽ならばそんなの関係なく突破したのだろうけど。

 因みに侵入者報告はなかったという。
 うん、永遠の謎だ。

 まあ気にしていたら身が保たないので気にしない方がいいだろう。
 そういう結論を出した2人だった。













Side-Ordin

 俺は現在、機動六課に出頭中である。
 とりあえずレリックを拾った時のことを詳しく聞きたいのだとか。

「それにしても、凄い偶然だね。キャロちゃん」
「うん、そうだね。ヨモギちゃん」

 因みにキャロはヨモギという少女と話している。
 エリオも会話に加わりたいが、なかなか加われずにいる。

 本当にすごい偶然だよな~。
 まあこのレリックというのはフェイト執務官に預けたから大丈夫か。

 とりあえずはあの時の状況を話せばいいだろう。
 
 話す、とはいってもそれほど大したことは話せないのだが。
 だってレリックを拾った時なんてそんな大した内容じゃないのだし。
 本当に偶然としかいいようがないのだから。

 だから俺としても、そう大したことは話せないのである。

 そう思っていた時だった。

「オーちゃああああん!」
「へぶぅ!」

 いきなりファナムが現れ、てなんでファナムがいるんだ!?

「ど、どうしてファナムさんがここに!?」
「オーちゃんが、オーちゃんが、襲われたって聞いて、
 オーちゃん、大丈夫!?」
「だ、大丈夫だから!? というかなんで俺より早くここに着いてんの!?」

 うわぁい、ファナムのあまりにも早いご到着。
 というかなんでファナムが俺より早く機動六課についているんだ。

 一体いつ情報を聞いて、しかも俺より早く機動六課へと来ることができたんだ?

 俺でもファナムの理不尽さを理解することができない。
 いや、理解できないからこそ理不尽なのか。
 それでしか納得できない。

 とりあえず俺は宥めることにする。
 このまま放っておいたら暴走しかねない。
 
 フェイトさんもさすがにファナムがあまりにも早く到着していて唖然としていた。
 キャロも苦笑していたし。

「あはは、さすがファナムさん」

 うん、すっかりキャロもファナムのことを理解している。
 ファナムは俺に関することなら常識という壁すら突破してしまうだろう。

 ……これだけ愛されてるってことはそれだけでも幸せなのだけども。

 ファナムにそれだけ愛されるってのは俺にとって本当の幸せなのだ。

 俺の境遇を不幸だと言う人もいるのかもしれない。
 でも俺は、ファナムと、キャロと、フリードと、彼女らと過ごす時間こそが、
 平穏こそが俺にとっての幸福なのだから。

 だから俺は幸福なのだ。
 この家族がいるだけで、それだけで幸福。





Side-Yomogi

 な、なんなんですか!?
 この人たち、甘すぎます!
 ていうか人前でいちゃつかないでくださーい!

 あ、でもなんとなく黒オーラ発信しているような気が。

「あ、あのこ、この人、どなたなんですか?」
「あ、この人はね、キャロちゃんのお義母さんなんだよ」
「え!? そうなんですか!?」

 私も、そしてエリオ君からも驚きの声が上がる。
 
 私の疑問に答えたのはフェイトさんだ。

 キャロちゃんもちゃんと肯定しているし。
 
 しかりキャロちゃんのお母さんか。
 ということは、この人がキャロちゃんのお父さんの――

 て、そんなことは見ていれば分かるか。
 目の前でイチャイチャしているんだし、弁解のしようもないのだし。

 ああー、でも幸せそうだなー。
 エリオきゅんといつかこんな甘甘な生活を送ってみたいなー。
 えへへー、きっとエリオきゅんの可愛いんだろーなー。

「え、えっとヨモギちゃん?」
「はうっ!? な、なに!?」
「えと、ファナムさんみたいなオーラ出てましたよ」
「え、えっとどういうこと?」

 詳しく聞いてみると、キャロのお母さん。
 名前はファナムさんといういうらしいのだけど、まだお母さんと言うには呼び慣れていないことは「ファナムさん」と名前で言っていることからも分かる。

 そして話を聞いてみると、
 その「ファナムさん」というのは時々妄想オーラを出すらしい。
 ヤバい!? 私の同類……なわけないか。

 私はエリオきゅんが好き好きだけど、
 私はこんな平凡そうな人はあんまねー。
 上条当麻みたいなのでも衛宮士郎なのでもない、そのどちらでもない平凡そうな。
 ギャルゲ系人気の平凡そうな人じゃないんですよね。
 そういうタイプの平凡じゃなく、本当の平凡っぽい人。

 特別個性がないわけでも、特別個性があるわけでもない。
 そんな感じのモブな感じがする。

 正直私の好みに合わん。

 私の好みはエリオきゅん♪
 
 ……はっ!

 だから私はショタコンじゃないんだよ!
 ショタコンじゃないったら違う!
 だって今の私はエリオきゅんと同い年だもん!
 クローンだってこと考えれば私の方が年し――エリオきゅんもそういやクローンだ!

 どっちにしても見た目同い年だからショタコンにならないんだよ!!(力説)

 ……誰に力説しているんだろう、私。

「あの、2人とも。そんなところにいたらお話にならないので行きませんか?」

 いったぁぁぁぁぁーーー!!
 フェイトさん、凄い! あの桃色空間に突っ込んで行けた!!

 ……というかよく見るとフェイトさん、あの桃色空間認識してない!

 ということはフェイトさん、あの桃色空間のことが分からないというのか!
 なんて眩しいんだろう、フェイトさん。
 私の穢れた心に眩しく映ってしまうよー。

「あ、はい。え、えとそれじゃあファナム。
 これから事情聴取とかそんなのあるからさ。な」
「うん。私もついてく」

 それでも甘かった。なんという甘さ。
 さすがのエリオきゅんもあの2人の甘さに顔を赤くしている。

 あれ? 今、攻めればもしかして――

 キャロちゃんはどうやらあんな2人は見慣れているらしく、
 フェイトさんに至っては私やエリオ君でさえ認識しているあの空間を、認識できていないでいる。
 凄い純粋です、フェイトさん。
 
 私はフェイトさんの純粋すぎる心に涙しました。



[19334] 第五十三話 十の召喚魔法陣
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/29 00:12
 えー、現在事情聴取に来とります。

 うん、因みにファナムも一緒だ。
 なんで俺より早く着いたかは聞くな。
 それは俺にも分からんことだから。

 うん、ファナムって時々俺にも理解できないくらい凄いことやらかすかななぁ。
 そう実感してしまう俺だった。




第五十三話




 と、いうわけで俺とキャロは八神部隊長に話をすることにした。

 とはいってもある程度の事情を話すだけだ。
 そのまんま話せばいいだけの話だ。

 とはいっても俺の神域の魔力テンプテーションだとかは教えない。
 んなことしたら俺の魔力を利用されて、なにされるか分からん。

 たとえ八神隊長にそんなつもりはなくとも、それは本部に伝えないといけない情報だ。
 そうなるとそれを見た誰かが俺を狙ってくる可能性だってあるのだから。

 神域の魔力テンプテーションはあまりにもバカげた魔力量を誇る。
 なにせジュエルシード21個全て共鳴したとしても、神域の魔力テンプテーションはその魔力を優に超える。
 ただ魔力量だけで全てを越えるのだから。
 ただ魔力だけで次元震すらも起こしてしまえるくらい圧倒的なのだから。

だからこそこのことを伝えることだけはしてはいけないのだ。
 
 まあだからこそ八神隊長には神域の魔力テンプテーションのことは伝えない。
 きっとそれが一番良いだろう。

 ただ――

「ごめん、あかんわ。ちょっちな。
 オージン君、ファナムちゃん退室させてくれん?」
「あー」

 ファナムが俺にくっついているので、
 八神隊長も砂糖を吐きすぎて気持ち悪くなってしまったようだ。

 大丈夫なのか? と、心配するが。
 というか俺が心配するべきじゃないんだろうけども、心配してしまうのは仕方ないだろう。

 因みに高町教導官はすっかりと退室していた。
 ファナムの甘えっぷりを見るのを回避するためか。

「くぬぅ~、なのはちゃん。ずるい! ずるいわぁぁぁぁ!!」

 八神隊長はその立場上ここから逃げ出すことができずにいた。
 いや、本当すみません。

「どうしたの? はやて」
「あかん! フェイトちゃんの瞳が綺麗すぎる!
 なんで耐えられるんや、あんたはぁぁぁぁ!!」

 因みにフェイトさんは全く以て、分かっていないようである。

 いや、原因である俺が言うのもなんだけどさぁ。
 
 八神隊長はあまりにもフェイトさんが純粋すぎるがために、このままでは発狂しかねない状態になっていた。

 あ、駄目だ。
 これ、なんとかしないと。

 でもファナムを説得するのか~。
 失敗すればヤンデレモード突入という怖い事態になりかねないし、
 だがガジェット襲撃のことを聞けば、今は俺にひっついて甘えてくれるけども、暴走しかねない。

 うん、ここはなんとかファナムを説得するべきだろうね。
 俺はそう納得した。

 八神隊長が発狂する前になんとかしないと。

 と、いうわけでファナムを説得することにする。
 ただし説得にはかなりの時間をかけてしまったが。

 というかこれはもう不可能じゃないのか? とも思えるくらいの時間をかけてしまったのだが。
 まあそのお陰でキャロと一緒に少しの間だけ退室させることができたのだった。

 後はまあ普通に話せばいいだろう。
 それほど時間のかかるような事情聴取でもないだろうし。

 まあこれからちゃんと話し合いますか。















 とある研究室、というかデバイスルーム。

 『白い悪魔』『魔王』と呼ばれているような人物はある場所から逃げ出し、
 ここまでやってきていた。

 すると眼鏡をかけた女性がいた。
 彼女はシャーリーという人物で、この機動六課ロングアーチに欠かせない人材だ。
 因みにマッドデバイスマイスターでもあったりする。

「あ。なのはさん、どうしたんですか?」
「ふ~、あれは無理だよ。私には無理だよ」

 高町なのは(19)、もてるのだが未だ彼氏なし。

 とりあえず彼氏彼女のいない人にとってあの空間はとてつもなく辛いのだ。
 この前の教訓を生かして彼女はあの空間から逃げ出したのである。

 あの空間が平気なものは彼氏彼女がいるものか、そもそもそういうものをまだ理解できてない子供くらいなものだ。
 因みにフェイト・T・ハラオウンも子供の部類に入る。
 体や頭脳は大人でも、そういった部分はまだ子供なのである。

「あ、あのなのはさんがここまで脅えるだなんて!?
 一体どんな人なの!?」

 そしてシャーリーはシャーリーで勘違いを起こしていた。
 ただ単にあの空間が嫌で逃げ出してきただけなのに。
 それを恐怖している、とかそんなものと勘違いしている。

 そんなものでは全然なかったりする。

 まあでもシャーリーもあの空間にいれば辛いと思うだろう。
 それは間違いない。

「それよりも、どうかな?」
「あ、はい」

 だが今はそんなことよりも前に気をつけなきゃいけないことがある。

 この前のホテル・アグスタでの事件。

 ティアナは無理をして、スバルを撃ちそうになった。
 そこはヴィータ副隊長がギリギリのところで弾いて、2人を叱ったのだが。

 あんな無茶はさせないようにしなければいけない。

 そしてもう1つ、教導する身としては気にかかることがある。

 それは【ライトニング隊】のフォワードメンバーの1人、ヨモギ・テスタロッサ・ハラオウン。
 彼女のことだ。

 シャーリーが、ヨモギのデバイス『エンゼル』になにかを見つけたらしい。
 それを調べている最中だったのだ。

 だがそのなにかは今のところは害になるものではない。
 寧ろ隠された機能、とでもいうべきか。
 
 それを調べていたのだ。
 そしてなのははその結果はどうなのか? を聞いていた。

「ええ、見つかりました。未知の魔法陣ですが、10個の召喚魔法陣。
 それが発見されました」

 召喚魔法陣。
 羽杖型デバイス『エンゼル』に刻まれた未知の10の召喚魔法陣。
 それは一体何の召喚魔法なのか? それを問いたいのだが。

「ただ生物型ではありません。無機物型。
 今、分かっているのはこれだけです。
 そして本人もそのような機能があることに気付いていません。
 そしてこの魔法陣も、彼女の魔力、そしてまだ内容の分からない希少技能レアスキルに反応すると思われます」
「そう」

 害がない、ということまでしか分からなかった未知のブラックボックス。
 
 だがシャーリーは優秀だ。
 彼女でなければここまでは漕ぎ着けることはできなかっただろう。

 マッドデバイスマイスターとまで言われている彼女ではあるが、いや寧ろマッドだからこそ彼女は優秀なのだ。
 
 一歩前進、それだけでも随分と進んだものだ。

 しかし未知の召喚魔法陣、それも十もの召喚魔法陣。
 その全てが生物を喚ぶタイプの召喚陣ではなく、無機物を喚ぶタイプの召喚陣。
 そしてそのことを、ヨモギ本人も知らないでいる。

「ただ発動条件までは分からないんです」
「そうだね。だったら今は余計なことを教えない方がいいかもしれない」

 今で上手くいっているのだ。
 もしここでそんな召喚魔法陣がある、なんてことを伝えたらそのことばかりを練習するかもしれない。
 本来の訓練をかまけて。

 しかもその召喚魔法陣は必要なものかどうかも分かっていないし、
 だからといって習得できるかどうかも分からないようなもの。

 だったら今はなにも知らさない方がいいだろう。
 もっと彼女自身が成長してから、そっちの方がいいと、高町なのはは考えた。

「さて、それじゃあ皆の訓練を考えようか」

 高町なのはは早速訓練のことを考える。

 ティアナ、スバル、エリオ、ヨモギ。
 彼女らを無事戦場から帰ってくることができるように。

 それが教導官としての役目、彼女らの上司としての役目だから。

 だから今は彼女たちのことをしっかり考えよう。
 教導官として、決して妥協は許されない。

 妥協しない結果、後日彼女らは悲鳴を上げることになるのだが。

















Side-Ordin

「と、これが今回の事の顛末です」
「さよかー。しっかしまあオージン君、アンタも不幸やねー」
「ええ、まあ、なんでこんなことなってんでしょう」

 なんで俺、これだけ不幸に巻き込まれてるんだ?
 巻き込まれ型なのか? 俺は? そんなん嫌すぎる。

 さすがに八神隊長も不憫に思ったのか、慰めてくれる。

 うう、今はその慰めが凄い嬉しい。

 事の顛末を話すことができたけど、特に疑われることもなく。
 うん、いい結果だ。

 これで事情聴取を終えるのだった。

「せやせや、オージン君」
「なんですか? 八神隊長」
「あんなー。ちょっとだけ見学せん? まあどうせその見学も無駄に終わるんやろけども」
「それでもエリオとヨモギと、キャロちゃんをちょっとだけ一緒にいさせてくれてもいいかな?」

 八神隊長からの提案。
 しかしこれは実質フェイトさんからの提案である。

 八神隊長はこの見学が無駄になると知っているけども、一応駄目でもともと、という風に見学を誘ったらしい。

 可能性は確かに0ではないが、しかし天文学率的数字だ。俺やキャロが六課に入るような確率は。
 ほぼありえないと言ってもいい。

 だがそれを承知で、八神隊長は見学を申し出ている。
 それはきっとフェイトさんのためでもあるのだろう。

 フェイトさんからしてみれば、エリオとヨモギは滅多に休暇もない身。訓練ばかりの生活なのだ。
 親友のキャロとも滅多に会えない。
 だがここで会えたのだ。

 だからほんの少しだけでも一緒にいさせてあげたい、という思いがあるのだろう。

 まあそんな理由なら俺としても全然OKなのだが。
 俺としてもキャロをあの2人と一緒にいさせたい、という思いもあるし。
 ただし六課入りはさせんがな!

「ま、どっちにせよ無理やろけどな。
 仮にオージン君入るゆーても、その嫁がおるよって」
「ああ、確かにそうすね」

 まあ仮に俺が天文学率的数字の可能性でキャロと一緒に六課に入ったとしても、まず不可能だろう。
 だってファナムいるし。

 ファナムなら俺と一緒にいる、とかでも言って来るだろう。
 
 しかし部隊魔力制限というものがあって、今でもギリギリなのに、Sランクのファナムを入れるなんて不可能だ。
 しかし入れないとなったら、暴走しかねない。

 八神隊長もさすがにそれは勘弁願いたいのだろう。
 俺としても勘弁願いたい。

 とりあえずファナムとキャロとフリードに会おう。
 抑えていててくれるかなぁ~、キャロ。

「おーい」
「オーちゃん!」

 うん。もうすっかり慣れました。 
 一瞬「へぶぅ!」言いかけたけど、我慢した。

 大丈夫だ。
 今の俺は竜。だからこんなダメージなんて屁でもなし!

「つ、疲れました」
「キュクー」
「ご、ご苦労さん」

 さすがにファナムを抑えるのは2人でもきつかったか。
 いや、キャロとフリードだからこの程度だったんだろう。
 他の奴だったら抑えられるかどうか、疑問だらけである。

「あ、そうだ。今日泊まることになったらしいから、
 キャロ。お前は友達と遊んでいていいぞ」
「え!? 本当ですか!」
「じゃあじゃあ、キャロ。タッチフットでも教えたら」

 おお、ファナムも良いこと言うな。
 うん、やっぱり遊びといったらタッチフットだよな。

「て、やりません! そんな危険なもの!」

 だがキャロから返された反応はこんなんだった。

 あっるぇー?
 なんでこんな反応返すかな?

 タッチフット、てそんな危険のない遊びなのに。(キャロはギルマン式と思ってます)
 楽しいのに、なによりも安全なのに。(ギルマン式は安全性など皆無です)

「大丈夫だよ。魔法あり、策略あり、外道ありだから」
「いや、それはギルマン式だから」

 ギルマン式タッチフットは普通のタッチフットとは違う。
 某アイシールドなんぞなんのその、あの栗田峨王ドンにも匹敵する戦いを繰り広げるであろう。
 それくら恐ろしい戦いなのだ。
 
 そんなのは普通教えない。

 あ、でも懐かしいな。
 たまにはギルマン式タッチフットやってみたいな~。

「やりませんよ!」

 いや、キャロはやっちゃいけないと思う。
 てか、普通のタッチフットをやればいいのに。(キャロはギルマン式を普通のタッチフットと勘違いしてます)

 まあとにかくキャロはエリオとヨモギのところへと向かったのだった。
 
 しかしキャロもツッコミ上手くなったもんだよな。
 そう思う俺であった。



[19334] 第五十四話 剣の騎士vs竜滅姫
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/30 08:05
 というわけで早速挨拶することになった。
 今日泊まるとはいっても、ここの隊員に挨拶だけはしとおこう、という話になったのだ。

 いや、まあ俺もそれがいいと思うんだが。

 そういうわけで訓練していたフォワードメンバーがいるところへと行くことになった。




第五十四話




 そこにいるのは4人の新人たち。

 オレンジ色の髪をした勝気そうな少女。
 少年っぽい感じがする元気そうな青い髪の少女。
 紅い髪の少年エリオ。
 そして小さい頃のフェイトさんがポニーのお団子している少女ヨモギ。

 ここに機動六課のフォワード陣が全員揃ったのだった。

「それじゃあ皆、紹介するね。
 この人たちが今回のレリック事件の第一発見者のオージン君とキャロちゃん。
 そしてこの2人の家族のファナムちゃん」
「あ、オージン・ギルマン三等陸士です。よろしく」
「キャロ・ギルマン三等陸士です。よろしくお願いします」
「ファナム・ギルマン二等空尉、よろしく」

 高町教導官が俺たちのことを紹介してくれる。
 フォワード陣も俺たちを見ているようだ。
 特にエリオとヨモギはキャロの方を見ている。まあ友達だしね。

 そして15歳くらいの少女の2人組は俺とファナムの方、
 いや、オレンジ色の髪の勝気そうな少女はファナムの方を見ている。

 まあファナムは二等空尉だ。
 俺たちより階級が高いから仕方ないよな。

 因みにファナムは無愛想な挨拶だった。
 なんでも公的にもこっちがデフォらしい。
 意識しているつもりはないとのことだが。

「スバル・ナカジマ二等陸士です」
「ティアナ・ランスター二等陸士です」
「エリオ・モンディアル三等陸士です」
「ヨモギ・テスタロッサ・ハラオウン三等陸士です」
「「「「よろしくお願いします」」」」

 ……俺より階級上だよ!!

 そうだったぁぁ!!
 スバルとティアナ、ごちゃごちゃ言ってるけど俺より階級上なんだったぁ!
 
 いや、ちゃんと管理局の陸士訓練校に通っているからそりゃ仕方ないんだけどね。

 俺はまだド新人なんだし、しかも陸士訓練校にも士官校にも通ってないから仕方ないんだけどね。
 そういや新人よりかは階級下なんだったぁ~。
 つまり立場下なの忘れてたよー。

 ふはははははー。
 
 とりあえず気にしない!
 向こうもそんなん気にしないタイプだと思うから!
 
 それに今更だよね。フェイトさんのこと、フェイトさんとか言ってるし。
 親同士での会話もあるし!

 するとある2人が現れる。

「よう、ファナム。久しぶりだな」
「ヴィータ」

 するとそこには小さな子供がいた。
 こ、これが管理局でも有名な子供教導――

「お前、なにか失礼なこと考えなかったか?」
「イ、 イエ、滅相モゴザイマセン」

 なんて勘が良いんだ。この人は。

 するとファナムからもオーラが――
 て、ヤバい!

「ヴィータ、オーちゃんを虐めないで」
「ちょ、ちょ、待て! ファナム」

 とりあえずファナムを宥めることにする。
 
 ふぅ、なんとかファナムを宥めることに成功した。
 
 ヴィータ三等空尉も冷や汗をかいていた。

「いや、本当信じらんねー。
 あたしは無愛想なあいつしか知らないからな」
「にゃははは、やっぱそうだよね」

 ああ、俺としても公的なファナムには違和感があります。
 それと同じように向こう側も私的なファナムには違和感があるのだろう。

 まあ見慣れないものほど違和感のあるものはない、ということか。

 だからこそ高町教導官もヴィータ三等空尉も違和感があるのだろう。

「しっかし今日はシグナム来てなくてよかったなぁ。お前。
 もしかしたら戦いを挑まれてたかもしれんぞ」
「それはないと思うなぁ~。寧ろファナムちゃんに仕掛けてくると思うよ」
「どんな戦闘狂バトルジャンキーですか、その人は」

 いや、まあ少しは原作覚えてるから分かるんだけどさ。

 しかしあの人、どれだけ無差別に戦いを挑んでいるんだ?
 2人の反応からそう思ってしまう。

 因みにフォワード陣も苦笑いしていた。
 とりあえず苦笑いしているところからか、否定できない、ということなのだろう。

 それだけでどういう人なのか分かってしまった。
 いや、まあ原作という知識アドバンテージがあるからこそなんだけど。

「ほう。ならファナム二等空尉、模擬戦しようではないか」
「そうそう。シグナムならそんなことでも言って――」

 ふと聞こえた声にヴィータ三等空尉もそういった反応を返す。
 しかしその声はあまりにも似すぎていて――

 ――否、似すぎているのではない。
 寧ろそのものと言ってもよかった。
 だって本人なのだし。

「し、シグナム!? な、なんでここに!?」
「あれ? 今日帰ってくるって言ってたよ」
「知ってたのか、フェイト!?」
「うん」

 ヴィータ三等空尉は焦っていた。
 いや、ぶっちゃけ別に焦ることはないと思うのだが。

 ああ、あれか。
 シグナム二等空尉の模擬戦の誘いをどうにかしようとは思っていたのか。

 そういった努力をしているのだろう。

 後から聞いた話によると、
 シグナム二等空尉のところ構わず戦いを挑んだりするのを防いだり、
 八神部隊長のセクハラを止めるのに必死になったりと、
 結構大忙しの身らしい。

 その忙しいの理由が身内にあったりするのが、いろいろアレなのだが。

 因みにアイスでも奢ってしまえば、すぐにでも買収できるという噂もあるらしい。
 大抵のことはそれでOKなのだとか。八神部隊長もそういった手を使っているとか。

 因みにこんな時でもフェイトさんはのほほんとしていた。
 本当に仕事時とプライベート時との差が激しい人だな。
 まあそれはファナムにも言えることなのだが。

 ある意味似てないか、この2人。
 そう思ってしまった俺だった。

「なに。テスタロッサとも模擬戦したのだろう。
 ならば問題あるまい。テスタロッサとも引き分ける実力。
 見てみたい。いや、戦ってみたい」
「……分かりました。挑戦を受けましょう」

 おお、言った。
 ファナムもファナムでバトルジャンキーなところがある。
 俺に迷惑がかかるならば、ぶっちゃけしないが。

 だけども俺と関係のないことなら模擬戦くらい受けるのかもしれない。

 竜滅姫として有名なファナムは、挑戦を受ける。
 ただ己が実力を磨くために。

 まあだからこそこの前、フェイトさんとの模擬戦を受けたのだろう。
 訓練にもなるだろうし。

 シグナム二等空尉クラスとの戦いは彼女のためになるのだろう。
 それだけは理解できる。
 だからファナムもこの模擬戦を受けたのだろう。

「そっか。なら頑張れよ」
「うん」

 とりあえず俺はファナムを応援しとく。
 危ないことはしてほしくないが、それでも彼女はこういった任務を今までたくさんやってきたのだ。
 きっと大丈夫だろう。

 それにファナムが戦っているところ、あんま見たことないからなー。
 実力差がある相手くらい。
 拮抗している戦いを見たことがない。

 因みにファナムは俺に良いところ見せようとして頑張っていたらしかった。
 いや、それはここからでも分かるが。

「あー、しゃーねー。そんかしこれ以上は危ない、てあたしが判断したら即止めるようにな。
 これ絶対な!」
「ああ、分かっている」
「了解」

 ヴィータ三等空尉も良い人だなー。

 というわけでヴィータ三等空尉がこの模擬戦の審判をすることになった。
 
 しかもなにやらぞろぞろ人が集まってきている。
 あれ? もしかして、もしかしなくてもこれ名物?

「恒例のシグナム副隊長の模擬戦だぜ」
「しっかし懲りない人ですね、あの人も」
「よし。どっちが勝つか、賭けようぜ。俺、シグナム副隊長」
「あの人、竜滅姫で有名なファナム二等空尉じゃないか。じゃあ俺、ファナム二等空尉」
「俺は引き分けて、ヴィータ副隊長が止めるにする」

 賭け事を堂々とやっている。
 まあその程度ならば、と無視しているところもあるな。

 そんなんでいいのか。管理局。

 しかもシグナム二等空尉の模擬戦はぶっちゃけ恒例の名物になっているらしい。
 どれだけ模擬戦挑んでいるんだ。あの人は。

 俺とキャロはファナムを応援することにした。

「ファナム頑張れよー」
「うん♪」

 満面の笑みで答えた。
 いや、空気にあってねぇぇぇ!!

 と、そういう空気を振りまいていた、直後――!!

「そんじゃあ始めるぞ。始めッ!」

 ヴィータ三等空尉が合図を出すと同時、
 
 ファナムの纏っていた空気が桃色から鉄血色へと変化する。
 
 それは全てを狩り取る竜滅の瞳。
 戦いの申し子といってもいい、そんな空気をファナムは纏う。

 それと同時にシグナム二等空尉も似たような空気を纏う。
 戦うための空気を。

 両者とも、戦闘のオーラを醸し出していた。

「紫電――」
「竜滅――」

 互いにセットアップするのも一瞬。

 シグナム二等空尉は魔剣レヴァンティンに炎を送り込み、
 ファナムもまた魔剣バルムンクに己が魔力を注ぎ込む。

 互いに互いが、お互いの技を、ぶつけ合う。

「「一閃ッ!!」」

 紫電一閃と竜滅一閃。
 両者とも互角の破壊力を伴った一撃は、互いに退け合った。

 だがそれだけでは終わらない。

 そんなことはどちらとも百も承知だ。

 だがどちらとも再び、同じ技を繰り出しあう。

「竜滅一閃!」
「紫電一閃!」

 一瞬、竜滅一閃の発動の方が早かった。
 だがそれを凌駕する威力でぶつけ合い、結果は同じこと。

 互いに弾き合う。

 そして――

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 剣と剣との純粋な剣術対決となった。

 シグナム二等空尉の剣はまさに流麗な動き。
 無駄なく動き、敵を圧する。

 だがそれに比べてファナムの剣は愚鈍といってもいい。
 ただ一撃一撃に込める威力、といってもいい。

 おそらくは魔獣対策のための威力重視の戦い方を、彼女は取っていた。
 だからこそ人相手の戦いはシグナム二等空尉よりかは慣れていないのだろう。

 普通の相手ならそんなことは気にならないが、しかしシグナム二等空尉相手にはそれは致命的といってもいい。
 接近戦じゃ、ファナムに勝ち目はない。

 そう気付いたファナムはすぐさまにでも距離をとる。

「距離をとったか。ならばレヴァンティン、シュランゲフォルム」
「バルムンク、リディルフォルム」

 だが幾多もの戦闘をこなしてきたシグナム二等空尉はあっさりと判断を下す。
 レヴァンティンの形態を連結刃に変換し、中距離攻撃を放つ。

 まさにそれは流れる蛇のような動き。
 まるで鞭のように撓る刃の動き。

 だがそれに対応するのもファナムが優れいている証拠。
 ファナムはすぐさまに接近戦クロスレンジ用の形態リディルフォルム。
 つまり爪型形態に変更する。

 だがそれは間違った選択ではない。

 動きの素早いシュランゲフォルムに対抗するために手段。
 シュランゲフォルムの攻撃を迎撃するための形態。

「竜墜一閃」

 高速迎撃。
 それこそが竜墜一閃の正体。

 あのフェイトさんのプラズマランサーを何度も何度も撃墜させた防御用の技。

 ならばシュランゲフォルムなど簡単に迎撃してくれる。

「すげぇ」

 これがファナムの戦いか。
 俺はファナムの戦いというものをそんな見たことがない。

 だからファナムが強い、というのは分かっていても、どれだけ強いのかが分からない。

 だが魅せられる。
 これは本当にあのファナムなのだろうか。そう思えるくらいに魅せられる。

 圧倒的な戦い。
 圧倒的な姿。

 俺にはどうあっても真似することなんてできない、そんなレベルでの戦い。

 俺はこの戦いを凝視して見ていた。
 戦いは怖い、でもこの2人の戦いはまるでそんな戦いではなく、剣舞のようにでも見えてしまう。
 そんな戦い。
 
 これこそがエース同士の戦い。
 俺には到底真似できない。

 そう思っていると、ふとある声が聞こえる。
 それは本当に空気になっていきそうな、そんな小さく呟いた声だったが――

「これが天才同士の、エース同士の戦い。
 私の周りは、本当に才能ある人ばっかりだ」

 フェンリール・ドラゴンたる俺の聴覚には届いてしまう。
 それは一体、どんな声だったか。

 因みに戦いの結果は2人とも互角で、結局ヴィータ三等空尉が止めたのだった。

 賭けの結果はヴィータ三等空尉が止める、にした人の勝利なのであった。
 まあつまりは引き分けだった。

 俺はファナムを褒めて、ファナムはふやけた顔をしていた。



[19334] 第五十五話 凡人と才能
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/30 08:04
 俺は魔力の欠片もない凡人だった。
 最初から凡人だったならきっと諦めもついただろう。
 魔導師なんてなろうとも思わなかっただろう。
 ただそれだけ。

 でも俺は凡人ではなくなった。
 チート性能を持った人間、いうなれば天才とでも言うべき人物にでもなったのだろう。

 俺の希少技能レアスキル神域の魔力テンプテーション≫はそれだけ凄まじい。

 俺は無才で、そして天才だ。
 だから凡人の気持ちなんて分かるわけがない。

 凡人としている時は最初から諦め、
 才能を得ても俺は恐怖心が先立ち、有効に使うこともできず、
 
 そんな俺は努力する凡才とはまるで違う、まるで弱い。

 だから俺にはどんな言葉をかけるべきかも分からない。
 だからかけるべき言葉なんて、俺にはなかった。




第五十五話




 1人、ある隊舎の外、ある少女は訓練をしていた。
 誰よりもずっと長く長く、まるで自分を虐めているかのような、そんな無茶な訓練だ。

 自分のことを全く労わっていない、そんな訓練をしている。

 彼女の名はティアナ・ランスター。
 フォワード隊のセンターがードのティアナである。

 一体いつ頃からこれだけの訓練をしているのだろうか。
 彼女には誰よりも強い劣等感コンプレックスがある。

 だから彼女は必死になっているのだ。
 自らの劣等感コンプレックスに押し潰されてしまわないように。

 だから必死になって頑張っている。
 それは多分無茶なんだと言われるような内容であっても。
 本人はそれに気付かない。たとえ気付いても止める気にはならないだろう。

 それくらい彼女の劣等感コンプレックスは深いのだから。

「はぁぁぁ!」

 クロスミラージュを振るう、撃つ。
 そしてスフィアを輝かせる。

 そんな単純なことの繰り返し。
 だがそれでもそれは確実に成果が上がるだろう。
 
 だがそのような単純なことの繰り返しでも成果が上がるのと同時、確実に疲れはたまる。

 その疲れは決して容認できるものではない。
 彼女にとってその疲れは任務に邪魔なものとなる。

 だが彼女はそれに気付かない。
 気付かぬままに訓練を続ける。

 だからこそ彼女は余計に危ういのだ。

 そうやって銃を振るっていると――

「それだけやっていると体に負担がかかるよ」
「!!」





Side-Tiana

 突然声をかけられて吃驚してしまう。

 草陰から現れたのは男の人。
 ああ、知っている。

 この人は管理局が誇る最強のエースの1人、≪管理局最強の魔導師≫の名を持っている魔導師。
 藤村修吾一等空尉。

 誰よりも才能に恵まれている人。

 私はこの人の才能に嫉妬してしまう。
 どうしてこの人にはこれだけ才能があるのに、
 私には才能がないのだろう。

 そう嫉妬してしまうくらいに。

「それだけ必死になるのは分かるけども、
 自分の身体は大事にしなきゃ」

 この人は私を心配してくれる。
 でも、それでも――

「それでも私は頑張らなきゃいけないんです」

 それくらい頑張らなきゃ、才能のある人たちには追い付かない。

 必死になって頑張らないと、
 才能がないからこそ、努力しなければいけない。
 無茶と思えるような訓練でもしなきゃいけない。

 そうでないと凡人である私は才能のある人たちに追いつくどころか、置いていかれる!

 だから私は藤村一等空尉の忠告を無視して訓練に戻る。
 それくらいしないと私は皆に置いていかれるから。

 スバル、エリオ、ヨモギ。
 彼女らは才能の塊、とはいいすぎかもしれないが、私よりずっと才能がある。
 だから私が置いていかれないようにするには、私が足手まといにならないようにするためには、
 多少無茶と思えるようなことでもしなくちゃいけない。

 だから私は必死になって訓練する。
 忠告を無視するように。

「大丈夫。僕は君の気持が分かるから。
 でも必死になって練習するのもいいけど、休養することも大事なんだよ」

 分かる? 私の気持ちが?

 そんなの分かるわけがないじゃないか。
 ふざけるな、私はそう言いたい気分になってきた。

 だから私はこの人を無視するように訓練を続ける。
 たとえ私が凡人なのだとしても、ランスターの弾丸は何者をも貫ける。
 それを私が証明するために。

 私はティアナ・ランスター。
 最後のランスターの弾丸だ!

「それに君は自分のことを凡人だ、なんていうけど、君には立派な才能があるじゃないか」

 あなたがそれを言うのか? 私はそう思った。
 あなたほど才能に恵まれているのに、私に才能がある、と本当に思うのですか?
 ならばそれはどんな冗談なのだろう。
 私はそう思う。

 だから無視して修練を続ける。
 ただ基礎的な動きを繰り返すだけだ。

 さすがの修吾さんも私の説得を諦めたのか、去っていく。

「くそっ。さすがにまだ攻略は早いか。
 こうなったら模擬戦で傷ついた心を、ぶつぶつ」

 なにかを呟いていたが、小さな呟きだったため、私には届かなかった。

 そんなことよりも私は必死になって訓練をする。
 私の、ランスターの弾丸は何者をも貫けることを証明するために。

 


Side-Ordin

 俺は1人で散歩していた。
 因みにファナムはもうとっくに眠っている。
 さすがに今日の模擬戦で疲れたようだ。

 キャロはヨモギの部屋に泊まりに行っているらしい。
 友達同士一緒の布団で眠るそうだ。

 俺もこのままファナムと一緒に眠ろうかと思ったが、すっかり目が冴えてしまった。

 だから俺1人で散歩することにしたのだった。
 隊舎の外の散歩、かぁ。

 なんかさっき銀髪色の人を見かけた気がするけども、
 まあこちらから見かけた程度なので気にしなくてもいいだろう。

 あちらも俺に気付いてないし、俺もあちらが誰だったかなんて分からないから。

 ちょっと歩いて、それから眠気を誘おう、と思っていた。

 するとある森の中で光が見えた。
 多数の光、一体なんなのだろう。
 少し好奇心を覚えてそちらの方へと歩いていく。

 するとそこでは1人の少女が訓練をしていた。

 そう、彼女の名はティアナ・ランスター。
 今日の挨拶にでも出ていた新人。
 エリオやキャロたちと同じフォワードのメンバーだ。 

 どうしてこんなところでただ1人、訓練をしているのか。
 
 知っている。
 彼女は自らが凡才であることを嘆き、周りは自分を越える才能のある人ばかり。
 エリートたちの中にいて、自分だけ唯一凡人である。
 そう感じていることを。

 そういうことだけは覚えていた。
 そういった知識はまだ残っていたのだ。

 ああ、確かに彼女は高町教導官から見れば凡人なのかもしれない。
 それは彼女がそう思っていなくとも、他の人からはそう思えるくらいの差がある。

 だが彼女とて才能はある。
 かつての俺、十歳までの≪オージン・ギルマン≫としての俺ならば、
 彼女のことを才能のある人と思って羨んでいただろう。

 でもそんなことは彼女にとって慰めにもならない。
 いくら説得したところで、彼女自身が納得しない限りは無意味なことだ。

 そして偶然にも見かけてしまった。
 それは多分無茶な訓練なのだろう。
 そして止めた方がいい、とも思える。

 それでも俺には止められない。止めることができない。

 なぜならば俺には止めた方がいいのか、悪いのか、それもハッキリと分からないからだ。
 俺的には今まで知識から止めた方がいい、というのだけは覚えている。
 だからといってこの現実の世界にいるティアナにとって止めた方がいいのか、悪いのか、までは分からないのだ。

 なによりも俺にはティアナを説得する術なんてない。

 俺には才能などなく、だからすぐに諦めた。
 ただ普通に過ごすだけの生活を選んだ。それだけ。
 だから才能がないからといって必死に頑張る奴の気持ちを俺は知らない。

 そして俺は一度死んで、そしてこの力を得た。
 だが俺はこの力を有効活用するつもりもなく、戦うにしても才能に頼りっぱなしの戦い方。
 ああ、俺には真実気持ちを理解することができない。

 だからどう説得すればいいのかも分からない。

 なによりこんな気持ちの奴に説得されたところで不愉快に思うだけだろう。
 だからこそ俺は――

 俺はこっそりとその場から抜け出す。

 多分俺じゃどうしようもできない。
 俺はファナムとキャロだけで精いっぱいだし、
 なにをすればいいのかも分からない。

 そういったことは高町教導官やヴィータ三等空尉、
 彼女たちの仕事だ。

 俺にはどうしようもできないし、
 俺に人を導くだけの能力とてない。



[19334] 第五十六話 背中はただ狭く弱く
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/06/30 21:18
 そうやって帰ろうとした時だった。

 ぽきっ

 なにかを踏んでしまった。
 それは古典的なことに木の枝であって。

「誰ですか!」

 見つかってしまった。

 いや、見つかったからといってなんでもないのだが。




第五十六話




 去ろうと思っていたのに。

 邪魔しちゃ悪いと思ったのに。

 だからといってこのまま去っていったら去って行ったで銃で撃たれてしまう気がする。
 そんなのはゴメンだ。

 いや、後から考えればそんなことするはずもないだろうが。

 とりあえず銃を持っていたからこそこういう考えが浮かぶ。
 もし銃型デバイスじゃなかったらこういう考えは多分浮かばなかっただろう。

 だからとっとと出ることにした。

 するとティアナは俺を見て、

「あ、あなたはオージン三等陸士」
「あ、うん」

 俺の方が年上なんだけども、
 それでも俺の方が彼女よりも階級が下の、オージン・ギルマン。

 俺がティアナ・ランスター、彼女の前に現れる。

「いや、悪い。訓練の邪魔しちゃって」
「い、いえ。そんなことはないですが」

 俺としては止めたいのだけども、俺には説得するだけの言葉もなく。

 だからこそ去ろうとしていたのだろうけども――

 仕方ない。
 ここはゆっくりと見ることにするか。

「……あの」
「ん?」

 すると彼女からなにか言葉が放たれる。

 なにを疑問に思ったのだろうか。

「止めないのですか?」

 それはティアナから放たれた言葉。
 
 どうやら彼女は他の人からも止めるように言われてきているらしかった。
 だが彼女はそれでも尚訓練し続けていたのだ。

 ただただ自分の才能のなさを努力で埋めるためだけに。
 
 だがその訓練があまりにも無茶と思われるために、見る人から止められてきたらしい。
 とはいってもまだ2人だけだが。

「……まあ止めたい、とは思うくらい無茶なことやらかしてように見えるよ、俺には。
 でも俺には説得できない、と思うからね」
「そうですか」

 俺にはきっと彼女を説得することなんてできないだろう。

 何故なら俺は彼女のことを理解することができないのだから。

 凡人だからといって諦めない、その心に、俺はまるで正反対のように思える。

 俺はリンカーコアもない頃は努力もせず、ただ村の中で生きていた。
 多分もっと強さに渇望的だったら、親父から発脛だとかを教えられていただろう。
 だが俺はこの世界で普通に生きることを選んだ。
 
 もし俺がリンカーコアを持って生まれてきていたらどうだったんだろうか?
 もしかしたら魔力があると思ってオリ主展開の主人公にでもなろうとしていたんだろうか。
 いや、さすがにそれはないか。
 『死』の恐怖があったのだから。

 だから才能といってもいいほどの能力を手に入れた俺は、
 それでも尚として『死』の恐怖のために戦うことを拒んだ。

 だからこんなものは宝の持ち腐れなんだろう。
 ティアナからすれば、なんと羨ましいことなんだろう、なんて理不尽なんだろう、とでも言われるのではないか。
 そう思えてしまくらいの才能。

 だから俺にはティアナの気持ちは理解できない。
 たとえ理解した気がしたとしても、そんなものは勘違いに過ぎない。

「ま、だからやめとけ、とは一応言っとく。
 言っても聞かないんだろうけど」

 それに俺がそう思うだけで、本当にここでやめるのが彼女のためになるのか、そういうのも怪しいくらいだ。

 俺はあまり彼女のことは知らない。
 どうしてそれだけ自分のことを追い詰めているのか、詳細までは思い出せない。

 努力すること、それがどうなるのかも分からない。

「……そうですか」
「……それじゃあ」

 なんて言葉をかけるべきなのかが俺には分からない。

 どうすれば最善の道なのかも知らない。

 意固地になっている彼女を説得する方法だって分からないし、
 なによりその説得が正解なのかも分からない。

 ただ必死に頑張っている姿には、感銘を受けた。

 本当は干渉せずに無言で立ち去るつもりだったのだけれども、
 それでも少し話してしまったのだった。

 これが悪影響に繋がらなければいいのだけど、
 俺はそう思う。

 俺は誰かを背負えるほど、背中が大きいわけでも、強いわけでもない。

 俺が背負えるのは俺の大切な人たち。
 ファナム、キャロ、フリードたちだ。

 それくらいが定員くらいなものだ。
 もしかしたらこれからその定員が増えるかもしれない。
 それでもそう簡単には増えないだろう。

 俺はまだ見ず知らずの人を背負えるほど背中が広いわけでも、
 知り合いだからといってそんな簡単に背負えるほど背中が強いわけでもないのだから。

 俺はファナムがいる部屋へと戻っていく。
 そこには嬉しそうに俺の名前を呟きながら眠っている、俺の愛しい人がいた。

 俺が背負えるのはたった数人だけ。
 でもだからこそ、そのたった数人を決して下さない。溢さない。

 俺はたった数人しか背負わないから、背中に背負った全てを溢さない、捨てない。

 俺はこの幸せを守っていくだけだ。
 それだけこそが、俺の全てなのだから。

 俺はその場から去っていった。

 そして彼女が無茶な訓練をしてから数日が経った。
 彼女と共に訓練する人の姿が、そこにあった。

















Side-Shugo

 とある部隊長室。
 俺こそ藤村修吾はそこにいる。
 
 勿論はやてへの挨拶のためさ。

「て、えぇぇ!? 
 な、なしてここにおんの!? 修吾君」
「やぁ、はやて。久しぶりだね。
 魔力制限とかいうのがあるから君へのところへは行けなかったけれども、
 それでも休みをとってきたんだ。
 だって君たちが心配だったからさ」

 ふふふ、決まった。
 
 さすがのはやても俺の行動には呆然とするしかないだろう。
 俺への恋心が彼女をより熱く興奮させるに違いない。

 ああ、なんてモテモテなんだろうか、俺。

 しかし全く部隊魔力制限とかいうのを考えた奴は誰なんだよ。
 そんなものがない方がいいに決まっているのに。

 そんなのがあるから、駄目なんだよ。全く。

 せっかく俺が機動六課に入ろうとしたのに、邪魔なルールだぜ。

 だが休みをとってまで会いに来たんだ。
 彼女たちからすれば天にも昇るような気持ちだろう。
 
 さすがのはやても俺の行動に呆けてしまっているみたいだ。

 全く罪な男だぜ、俺って奴は。

「そういえば聞いたんだけど、ライトニング枠が決まった、て聞いたけども。
 一体誰なんだい?」

 そう。ここが問題だ。

 聞いた話では結局キャロではなかったという。
 キャロが保護されないだなんて。

 全くアークの野郎、俺の計画を邪魔しやがって。
 キャロの幸せを奪いやがって。全くなんて奴だ。
 
 誰も人の幸せを奪う権利はないっていうのに、だ。

 だが代わりに保護したその子、俺が幸せにしてやる。
 ふふふ、待ってろよ。

 なんでもプロジェクトFの研究体の1人で、
 見た目は幼い頃のフェイトそっくりだと聞く。

 ふふ、幸せのし甲斐がある娘じゃないか。

 そんな娘は俺が幸せにしてやらないとな。

「ちょ、あ、あかんて。そんなん!
 今はまだデリケートやねん。せやから――」
「ふふ、そんなに嫉妬しなくても大丈夫だよ。
 僕は皆のものなんだから」

 はやても慌てている。
 なるほど、なるほど。可愛いじゃないか。

 そのフェイト似の女の子、ライトニング枠に入ってきた子。
 どんな娘なんだろう。気になるなぁ、ふふふ。

 だが噂に聞くと、その娘はエリオにお熱だとか。
 全く以て不愉快な奴だ。原作でもキャロと仲良くしやがって。

 お前が女の子たちから俺という幸せを奪う権利なんてないというのに。

 なにかをやらかしたら、とっちめてやる。
 いや、だがエリオの父親になるかもしれないんだ。
 仲良くしといた方がいいかもしれないな。

 どうせその娘もエリオのことなんてすぐに忘れて、俺という幸せを得られるさ。

「あかん、ほんまどないしょ」

 はやてが項垂れていた。

 ああ、それくらい僕のことが心配なのかい。

 それほどやきもち妬きだとは知らなかったよ。
 本当に可愛いね、はやては。

「それほどやきもち妬きだとは知らなかったよ。
 本当に可愛いね、はやては」

 ああ、しまった。

 思ったことをそのまま口に出してしまった。

 まあいいか。その言葉にはさすがのはやても顔を赤くするだろう。
 そんな顔も可愛いと思うから。

 と、思ったがさすがに部隊を束ねているだけあって、
 そんな姿を見せられないとでも思ったのか。
 すぐさま冷静な顔になる。

「あーとなぁ。今はちょいな――」

 とりあえず必死になって会わせまいとしているはやての姿は、
 僕には可愛く見えた。

 なんて健気な娘なんだろう、
 素直にそう思えてしまうくらいに。

 ふふ、待ってろよ。



Side-Hayate

 あかん。
 なんでこないなことになったんや~。
 
 断りたい、断りたいんやー。
 
 でも断ってもどうせ会いに行くんやろなー。
 それやったら監視下で会わせた方がええんやろなー。

 そう思えてまう。
 とりあえずティアナ、スバル、ヨモギ。
 彼女らには気をつけてもらいたい思うわ。

 この人、顔だけはええから騙される人も多いし。

 ほんま、どないしよ。

 そう思う私やった。

 しっかしオージン君たち大丈夫やろか。
 ファナムちゃんも狙われとったし、もしかするとキャロちゃんも狙われるかもしれん。
 
 あかん、本当にどないしよ。

 そういったことで悩む私やった。

「あ、そや。あんな」

 とりあえずは引き留めとこうかな。
 引き留めることに意味があるんかは知らんけども、
 これ以上厄介なことは起こしてくれへんとええなぁ。










Side-Yomogi

 今日も模擬戦をすることになった。
 よーし、頑張るぞー。

「あ、因みにオージン君、ファナムちゃん、キャロちゃんも見学するからね」

 あ、そうなんですか。

「キャロちゃん。頑張るからね、見ててね」
「うん。頑張ってね、ヨモギちゃん、エリオ君」

 ふふ、可愛い♪
 ああ、駄目だ。私にはエリオ君がいるのに~~!

 駄目だ。私、ロリレズの気もあるかもしれない。
 いや、まあ冗談だけど……多分。

「それじゃあまずはスターズから始めようか。
 エリオとヨモギはファナムちゃんたちと一緒に見学ね」
「はい!」
「はい!」

 そういうわけで私たちは見学することになったのでした。

 スターズ分隊の訓練。
 訓練をするのは高町なのは教導官。

 高町教導官vsスターズ分隊の模擬戦が始まろうとする。



[19334] 第五十七話 記憶
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/07/02 18:15
 訓練が始まろうとしていた。
 
 スターズ分隊と高町なのはによる模擬戦。
 その結果はいかなるものとなるのかは――?




第五十七話




 オージン、ファナム、キャロはヨモギたちと一緒にビル群で見学することとなった。
 因みにヴィータ副隊長も一緒だったりする。
 フェイト・T・ハラオウンもまた来ていた。
 ただし遅れてきたのか、息切れしているが。

「ちょっと遅かったか。スターズも私が代わりにしたかったのに」
「確かにな。なのはの奴、ここんとこ詰め込みすぎだかんな」

 ヴィータもフェイトもまたなのはのことを心配していた。

 彼女はあまりにも新人たちに時間を割きすぎて、疲れを癒す暇もない。
 このままでは危ないのではないだろうか、とも思ってしまうぐらいにだ。

 だが疲れをため込むことがどれだけ大変なことか分かっているのか、
 そういった加減はちゃんとしているだろう。

 してなかったらぶっ飛ばしてでも無理やり休ませるだけだし、
 などとヴィータは言っていた。
 物騒かもしれないが、それは彼女のためなのだし。

「そろそろ始まるみたいですね」

 そして始まる。

 スバルとティアナ、2人によるコンビネーションによる攻撃。
 
 だが高町なのははその攻撃の全てを迎撃または回避、また防御している。
 これがエース級の実力。
 新人がたった2人で敵うような相手ではない。

 リミッターをしていても、彼女の実力は未だ、ティアナたちにとって底知れない。
 それほどの実力の差が存在していた。

 たとえリミッターをしていようとも、やはり彼女らはエース。
 魔力量の大きさだけで、エースを張れるわけではないのだ。

 的確な状況の判断もまた、彼女らの強さの秘密。

 ゆえにこそ強い。

 だが動きが変わる。

「お、クロスシフトだな」

 ヴィータは彼女らのことをよく分かっている。
 だからこそティアナたちが『クロスシフト』を使おうとしているのが分かるのだ。

 しかしオージンはというと――

「駄目だ、よく分からん」
「だ、大丈夫だよ。オーちゃん」
「私にもよく分かりませんし」

 オージンはぶっちゃけ素人も同然だ。

 ぶっちゃけフェンリール・ドラゴンのフィジカルスペックと圧倒的魔力量とで今まで戦ってきた。
 なによりも戦うことを嫌うため、戦いから逃げてきた人間でもある。

 だから戦いのことなんてさっぱり分からなかった。

 分かることといえば、高町なのはが圧倒的に強い、ということぐらい。
 しかも手加減していても尚、スターズとはあまりにも差が開けている。

 開けてないと教導することもできないだろうが。

 オージンにとってなにがどうなっているのかが分からない。
 戦闘のことなんて素人も同然である。

 なによりも彼はマルチタスクというものが苦手。
 というかマルチタスクの才能があまりにもないのだ。

 だからこそ状況を上手く把握するということも苦手。
 身体的・魔力的には誰よりも戦いに向いているが、しかし精神的にも実力的にも戦いには不向き。
 
 強さと弱さのバランスがグチャグチャなのだ。

 彼は明らかに弱く、そして明らかに強い。
 誰よりも強いのに、誰よりも弱い。
 だからオージンの強さは決して固定されたものでなく、ムラが大きいもの。

 そのムラの差は弱い奴に負けることもあれば、強い奴に勝利することもある。
 これこそがオージンの最大の弱点ともいえよう。

 そしてティアナが、十数のスフィアを展開セット。
 そして撃ち放つ。

「クロスファイアー、シュートッ!」

 ティアナのクロスミラージュから撃たれるのは十数の魔力弾。
 それはそのままなのはへ向かっていく。

 しかしヴィータは違和感をすぐさまに感じ取った。

「なんか技の切れがねぇな」

 新人たちの教導をやっているヴィータにとって、その程度の差はすぐにでも分かる。

 いつものティアナと比べて技の切れが悪い。
 
 フェイトはコントロールが良いとは思うけどと、とでも言っても、
 それでもやはり技の切れが違和感あるくらいにないのだ。

 これはどういうことだ? とでも思うかのように首を傾げる。

 だが十数にも撃たれた魔力スフィア。
 それを高町なのはは飛行魔法で回避する。

 が、誘導弾であるのか、その全てが彼女に向かって襲い掛かってくる。

 そこにウィングロードが現れる。
 そこから来るのは一人の人間。

 そう、スターズ分隊フォワード隊スターズ分隊の1人、スバル・ナカジマだ。

 すると高町なのはは驚く。

「フェイクじゃない、本物!?」

 やってきたのはティアナの魔法による幻影のスバルではなく、正真正銘本物のスバルだ。

 もしかしたらなのはでさえ欺けるほどのスバルを作り出したのかもしれないが、
 しかしこんな短期間でそれほどの魔法スキルが上がるとも思えない。

 だからなのははこのスバルを信じ難いが、しかし本物であると断定した。

 そしてそれは確かだった――

「うおおおおおおお、りゃあああああああああ!!」

 本物であると分かっていれば対処は容易い。

 スバルの拳が迫ってくるが、冷静に防御魔法ラウンドシールドで防ぐ。
 そのシールドの硬度はとても固く、逆にスバルが弾かれてしまう。

 弾かれたスバルはそのままウィングロードからも弾かれる。

「こら、スバル。駄目だよ、そんな危ない軌道」

 だがすぐにスバルは自分が敷いた道の上に乗る。
 さっきまで張っていたのがまだ残っており、その道の上で走る。

「すみません! でもちゃんと防ぎますから!」

 なのははあまりにも危ない軌道であったため、叱る。
 が、しかしスバルはちゃんと防ぐと言った。つまりそれだけ防ぐことに自信があるのか。

 だが自信があったとしても、キッチリとラウンドシールドで防がれ弾かれていたではないか。
 それでは理由にはならない。

 するとなのははあることに気付く。

(ティアナは?)

 さっきからスバルが動き回っているが、ティアナの姿が見えない。
 これは訓練だからどこかにいるはずだ。

 だがそのティアナはどこにいるのか探して――見つけた。

 それはビル群の屋上に立つ少女の姿。
 その手にはクロスミラージュが握られており――砲撃の準備をしていた。

「おおおおおおおおおおおおおおおおあああああああ!!」

 それと同時にスバルもまた高速でウィングロードを駆け抜ける。
 拳、リボルバーナックルは回転しながら、なのはに攻撃に向かう。
 回転とローラーによる高速移動とで、この拳による破壊力は凄まじく跳ね上がる。
 この一撃をまともに受ければ、まず大ダメージは間違いない。

 だがなのははその程度では慌てない。

 ティアナよりもまず接近してくるスバルを目標に、弾幕を張る。
 だがスバルの弾幕を全て潜り抜けて、拳の一撃を振るう。

「でりゃあああああああああああ!!」

 スバルの拳の一撃がぶつかる。
 が、その直前でなのははシールドを発生。

 なのはのラウンドシールドと、スバルのマッハキャリバーによる破壊の拳による激突が始まった。
 
 今度は弾かれもせず、だからといってシールドを破ることもできない。
 防御力と攻撃力が拮抗し合っている状態にあった。

 だが――

 ビル群の屋上にいたティアナがぶれて姿を消した。

「幻影!?」

 見学していた人たちも驚いていた。

 砲撃魔法の準備をしていたティアナ。
 だが実はそのティアナは全くの偽物。
 魔法によって生み出された幻影。

 すっかりと騙されてしまった。
 やはり距離が離れていたのと、それからあの幻影を生み出すのにどれくらいの労力を割いたのか。
 それくらいあの幻影は完成度が高かったのだ。

(なら本物は!?)

 ビル群の屋上で砲撃魔法を放とうとしていたティアナは幻影による偽物。
 つまり本物は別のところにいるはずだ。

 さっきまでは完全に騙されていた。
 千載一遇のチャンスを、どこで――

 彼女はウィングロードを伝っていた。
 ローラーもなく、走ることでしか移動できない。
 だからスバルと比べると動きが遅くなってしまうのも仕方がないだろう。

 だが既に彼女は背後をとっていた。
 高町なのはの背後を。

 ティアナの銃型デバイス・クロスミラージュに魔力を送る。
 それは魔力で作り出された刃。
 その刃によって相手を切り裂く、バリアを裂くために特化されているよう、構成を組んである。

「一撃必殺!」

 これが正真正銘本当のチャンス!
 
 背後をとっている。
 しかも前方からはスバルの全力の打ち込み。
 バリアを切り裂く刃で決める。
 
 ティアナはなのはの背後の上空から、クロスミラージュの刃を振り下ろす。
 このダガー形態でバリアを切り裂き、フィールドを突き抜ける。

 これがティアナの策。

 スバルの打ち込みとティアナの斬撃。
 この両方が同時に撃ち放たれた。

「レイジングハート、モードリリース」
『All right.』

 一瞬、空気が冷える。
 瞬間的に、周囲の空気が切り替わる。
 
 それは先ほどのような熱い空間ではなく、
 ただただ全てを凍てつかせる、ただ全てを威圧する空間へと、変貌する。

 そして――

「あ……」
「え……?」

 あまりにも信じられなかった。
 スバルも、ティアナも、どちらも硬直している。

 それくらい、目の前の光景が信じられなかった。

「おかしいな。どうしっちゃたのかな? 2人とも」

 それは圧倒的な光景だった。

「頑張っているのは分かるけど、模擬戦は喧嘩じゃないんだよ」

 その声はあまりにも、あまりにも威圧的すぎて。
 だからこそ震えるしかなく。

 いつものような優しい声でなく、ただただ威圧し畏怖させるような、そんな声。

 聞くだけで震えさせる。
 まさに【畏怖】。

 なのはは素手で受け止めていた。
 その両方を――

 ティアナのクロスミラージュも、
 スバルのリボルバーナックルも、
 
 そのどちらも、レイジングハートを使わずして、
 素手で受け止めていたのだ。

「練習の時だけ言うこと聞いて、本番の時にこんな無茶するんなら――練習する意味ないじゃない」

 ただ聞くだけで恐怖してしまう。

 それはまさに、『魔王』に相応しく。

「ちゃんとさ、練習通りやろうよ」

 クロスミラージュを掴んだ手から血が流れ出ている。
 でもそんなことは関係ないとばかりに――

 ティアナは震えていた。
 それは傷つけたことからか、それともその声に圧倒されたからなのか――

「ねえ」
「あ、あの……」
「私の言ってること、私の訓練、そんなに間違っている?」

 それは問いかけ。ただ問いかけ。
 それでも、2人には、どうしようもなくて――

 だからティアナはダガーモードを解き、
 そして銃型へと戻して距離を取り、そしてなのはに銃を向ける。

「私は……私は……!
 誰も傷つけたくないから、失くしたくないから! だから……!!」

 クロスミラージュに魔力を込める。

 それは叫び。彼女の叫び。
 ただただ強い叫び。

 それは彼女の本音が隠されていて、
 だからこそこの一撃に全てを賭けようとして――

「強くなりたいんです!!」

 それが彼女の本音。
 強くなりたい。ただ、それだけ。

 だからこそ無茶をしてまで訓練を続けた。
 凡人である自分には無茶をすることぐらいでしか、その差は埋められないから。
 
 才能のない自分は、こうすることぐらいでしか強くなれないと思っているから。

 だから――

「少し、頭を冷やそうか」

 それは冷ややかな声。
 でもあまりにも威圧感があって、
 聞く者全てに恐怖心を与える。

 ただ優しい声のように思えて、それでもやはり彼女は『魔王』であり、

 なのはの周りに魔法陣が現れる。
 人差し指をティアナに向け、周りにはスフィアが形成される。
 それはたった数個のスフィアだけれども――

「クロスファイア」
「うああああああ、ファントムブレイ――」
「シュート」

 正しく彼女を撃ち抜いた。
 ティアナよりもずっと速く疾く、ただ純粋に疾く撃ち抜いた。

 反撃することすらも許さないかのように、簡単に、そして圧倒的に。

「ティア!」

 スバルはあまりにもその威力に、
 ティアナは無事なのだろうかと心配になり、叫ぶ。
 
 だが次の瞬間、自分がバインドに縛られていることに気付く。
 一体いつの間に縛られたのか、そんなのも理解できぬままに。

「じっとして。よく見てなさい」
「え?」

 そして瞳に映るのは――

 再びスフィアを形成して、撃ち抜こうとするなのはの姿だった。

 スフィアの威力は凄まじいものだった。
 そして次に放たれるスフィアもまた、魔王の名に相応しい一撃なのだろう。
 どうしようもないくらいに、ただ恐怖に彩られる一撃を。

 スフィアは回転し、一つに集っていく。
 
 ティアナを見る。
 そこにいたのは戦う気力すらも削ぎ取られた、
 ただ虚ろな瞳の、少女でしかなかった。

 戦意すらもなくなった彼女であるが、
 それでも尚磔にされ、そしてなのはの攻撃魔法の対象となる。

 そして――











Side-Ordin

 ティアナがただ無残に撃ち抜かれる姿。
 もう戦意すらもその一撃で奪い取られかのような、ただ意識があるのかどうかすらも疑わしい虚ろな瞳。
 
 だが高町教導官の指には魔力が集まり、そしてスフィアを形成する。
 また撃つつもりだ。
 それが理解できた――

 待て、思い出すな。
 思い出すな。

 忘れろ、忘れろ、忘れるんだ!

 俺は、あんなのを、見たくない!
 だから忘れろ。忘れるんだ!!

 それは記憶。ただ捨てられない記憶。
 忘れたくとも、忘れられない記憶。
 その記憶が――鮮明に浮かび上がる。

 そこは地獄だった。
 生きている人もいたが、虫の息という人が多く、

 それでいて今の俺は両足を瓦礫に潰されていて――

 動くこともできず、ただ落ちてくる瓦礫を眺めるだけ。

 死にたくない、と嘆き叫んでいても。
 『死にたくない』と心の奥底で吼えていても――

 現実は無情に、簡単に俺の頭を潰して――
 
 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!

 いいしれようもない『死』を俺に与え、

 目の前にドラゴンがいた。
 ただ俺を喰らおうとするドラゴンがいた。

 俺は腰が抜けていて、動けなかった。
 動かなくちゃ死ぬのに。だから動け、動け、と命令を下した。
 でも腰を抜かした俺の脚は、そんな命令を受け付けてくれるはずもなくて。

 俺は祈った。
 俺は転生者だから、ご都合主義でもなんでもいいから、助けてくれ、そう祈った。
 なんとかしろ! そう叫びたくなるくらいに、

 でもやっぱり現実は無情に――

 動けない俺は、ただただ喰われる運命を覆すこともできなくて――

 俺は咀嚼された。
 上半身と下半身を真っ二つにするように、噛みちぎられて――
 
 そしてまた『死』んだ。

 二度もの『死』の記憶が呼び起こされる。
 それは圧倒的な恐怖。

 これまでのなによりも怖くて怖くてたまらなくて――
 
 ――廃人にでもなってしまいそうな、そんな恐怖がおもいだされて――

 俺は胃からなにかがこみ上げてくるのを感じ、口から胃液を吐きながら、

「あああああああああああああああああ!!」

 ラウンドシールドを生み起こした。

 高町なのはの魔力弾と、俺のラウンドシールドはぶつかりあい、
 だがラウンドシールドには罅ひとつ入ることもなく、悠然としてそこにあり、

 しかしその場所にティアナはおらず、
 ファナムがティアナを抱えてその場から離脱していた。

 そうして俺はまた――

「げはっ」

 胃液を吐きだす。
 今朝食べたものを、ビルの屋上で吐きだした。

 体中からエネルギーの全てを吐きだしてしまうかのように、
 吐き出した後は気分が最悪で、なによりも体がだるかった。

 ああ、俺はなんて怖がりなんだろう。

 俺はまだ、『死』から抜け出せていない。
 未だ『死』に囚われたままだった。



[19334] 第五十八話 傷つき倒れ
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/07/02 22:03
 私は守れなかった。
 守ることのできる力を持っていたのに、魔法の力があったのに。

 ただ恐怖心に駆られて動けなかった。

 ただ腰が抜けて動けなかった。
 私はこのことを一生後悔する。
 たとえオーちゃんが生きていたと分かっても、生きていてくれたとしても、
 それでも尚、オーちゃんを殺されてしまったことに後悔する。

 私は許せなかった。
 あのドラゴンが、あの牙が、あの爪が、あの瞳が、
 なにからなにまでが許せなかった。
 その全てを八つ裂きにしたいと、そう願っていた。

 でもそれ以上に自分が許せなかった。
 守れるだけの力があったのに、目の前で殺されようとしたのに、
 怖くて動けなかった自分が、なによりもずっと許せなかった。

 どうして目の前にいるのに、助けなかったのだ。
 助けられなかったのだ?

 あの時、ドラゴンを殺せば、私の愛しい人は殺されずに済んだのに。

 全力を以て叩き壊せば、幸せは守れたのに。

 それでも私は動くことできなくて、
 だから私はこのことをずっとずっと後悔している。
 今度こそ後悔しないように、私は――
 
 だから動いてしまった。

 あの光景は、あの頃の光景をそのまま再生させたかのような、
 巻き戻しにあったかのような、そんな光景。

 あの青い娘が私で、オレンジ色の娘がオーちゃん。
 私はなによりもなにも考えずに、一瞬にして向こうへと駆けた。

 そして私は彼女を抱えて、砲撃の範囲外へと逃れた。

 そしてその向こう側では、
 ビルの屋上からここまでの遠距離で、ラウンドシールドを張っている姿のオーちゃんもいた。

 それはなにかに脅えるように震えている、そんな姿のオーちゃんが。




第五十八話




 ティアナは虚ろな視線のまま、そのままその光景を目に記した後、
 あまりのダメージだったのか眠るかのように気絶してしまった。

 それほど、なのはのあのクロスファイアシュートが強烈だったのだろう。
 もしあのまま再び小型といえど砲撃にも等しいあの攻撃を受ければどうなっていただろう。

 非殺傷設定だし、彼女自身こういった手加減は上手いだろう。
 それでも心の傷までは免れないのではないのか?
 そう思えるくらいの恐怖があの砲撃には感じられた。

 そして――

「どうして邪魔をするのかな?
 ファナムちゃん、オージン君」

 高町なのはの瞳は2人を捉えていた。

 ティアナを抱えて離脱したファナムと、
 そしてビルの屋上から防御魔法のラウンドシールドを張ったオージンの、
 この2人を。その瞳で捉えていた。

 だが――

「げはっ」

 オージンは胃液を吐きだしたまま、
 その場で膝をついてしまった。

 止まらない。
 体中から、食べたものを吐きだそうとしている。
 体はまるで受け付けようとしていないかのように、
 恐怖が体を支配して、その全てを吐きだそうとしている。

 ああ、胃液と共に記憶は吐き出せたらよかったのに。
 それでも魂に刻みこまれた記憶は、決してなくなることはない。
 
 消えることなどなく、ただ奥底へ奥底へ隠しておくしかない。
 でもオージンは無理やりその隠し場を暴かれ、その記憶がフラッシュバックして。

 だからどうしようもないくらいに恐怖感を覚えてしまうかのように。

「オーちゃん!!」

 すぐさまにファナムはオージンの元へと行く。

 それでもオージンは胃液をまだ吐き出す。
 一度吐き出しただけではまるで足りないとでもいうように、
 魂に刻みこまれた記憶は無理やりにでもオージンの精神を蝕み浸食していき、
 蝕まれた精神は同時に肉体にすら異常を与える。





Side-Ordin

 寒い、熱い、寒い、熱い。

 俺はガタガタに震えていた。
 なによりも怖くて怖くてたまらなくて、
 体中の体液の全てを吐きださんとばかりに胃から喉へと送り込まれる。

 俺はそれを吐きだした。
 それでも尚足りなくて。

 怖くて怖くて怖くてたまらなくて。
 どうしようもないくらいに怖くて。

 そしてなによりも、息が辛かった。

「ぜは、ぜは、ぜは、ごふっ」

 新しい空気が欲しいとでもいうかのように大きく呼吸する。
 体は新しい空気を取り入れたがっている。

 それでも体は受け付けてくれなかった。
 新しい空気を取り込もうと、何度も何度も呼吸をしているのに、
 せき込んでいるいるというのに、

 それでも体は新しい空気を受け入れてくれない。

 矛盾する体の行動。
 何よりも俺の体は、呼吸できなくて辛かった。

 『死』への恐怖、吐き出される胃液、震える体、熱いか寒いかも分からない肌、呼吸すらままならない。
 怖くて怖くて――

「大丈夫だから。大丈夫だから、オーちゃん」
「お父さん。しっかりしてください。私たちがついてます」

 暖かい。

 ファナムとキャロに抱かれて、
 俺はようやく安心するかのように、眠ることができた。

 暖かくて、それでいて安心できる。
 そんな空間にいることができて。

 俺はまるで赤ん坊にように、眠ってしまった。

 ああ、安心できる。
 だから俺は眠れた。

 本当に家族っていうのは、安心できるもんだなぁ。
 俺はそうこの時よく実感することができて。

 そのまま意識が眠りへと落ちていく。

















Side-Fanam

 オーちゃん、オーちゃん!
 私はオーちゃんを抱いて、そのままオーちゃんはそのまま眠った。
 
 それは安心したかのように。

 オーちゃんは胃液を吐きだしてそのまま眠ってしまったためか、
 とりあえず医務室にて様子を見ることになっていた。

「……オーちゃんは大丈夫なんですか?」
「ええ、大丈夫よ。今は。
 ただPTSDの症状に近かったわ。あの子」

 オーちゃんの様子を見てくれるのは、
 管理局の医師であるシャマル先生。

 この人に任せれば大抵のことは大丈夫と言われているほど、腕の良い人でもある。

 だから私はシャマル先生の安全保証によって安心する。

 でもそれだけじゃなかった。
 オーちゃんのあの症状は、PTSD、
 つまりトラウマに近い症状である。 
 またはそのままトラウマの症状である、とシャマル先生から告げられた。

 ――そして私は知っている。

 オーちゃんにそんなトラウマがあるなんて知らなかったけれど――

 ――それでもトラウマになっていたとしてもおかしくなかった。
 ううん、普通ならトラウマになってしまっても仕方ないものだった。

 私だってあの光景を幻視してしまった。
 だったら直接食べられてしまったオーちゃんも、同じように幻視してしまったんじゃないのだろうか。
 それは仕方ないんじゃないのか。
 そう思えるかのように。

「はい。知ってます」

 キャロも知っている。
 
 私もキャロもフリードも、分かりやすいぐらいに想像できる。推測できる。
 トラウマの正体を。

 オーちゃんは一度『死』んだ。
 たとえ生き返ったとしても、『死』んだことには変わりないんだ。
 だったらトラウマになってしまったとしても仕方ない。

 私はそのことを忘れていた。
 オーちゃんがトラウマになっている可能性を忘れていた。

 オーちゃんが苦しんでいたのに、私は気付くこともできなかったんだ!

 私はなんて愚かなんだろう。
 オーちゃんは心根が優しくて、かっこよくて、それでもちょっと怖がりなオーちゃん。
 そんなオーちゃんが『死』んだら、トラウマになって当然じゃないか。
 なのにどうして私はそんなことも思いつかなかったんだろう。

 本当に私は愚かだ。

「そう。しっかり看病してね。
 こういうものは家族が傍にいるだけで大きく違うものなんだから」

 こういったトラブルは、大切な人、または家族がいるだけで違う。

 症状は重いが、命に関わることではないのだ。
 問題はそのトラウマを本人が乗り越えられるか、乗り越えられないか。
 たったそれだけだ。

 こういったトラウマは、
 トラウマの原因がその家族または大切な人でもない限りは傍にいた方がいい。

 ただそれだけで、
 たとえ本人が眠っていたとしても、
 近くに家族や大切な人がいるという安心感を与えることができる。

 だから私はオーちゃんに着く。
 
 オーちゃん、オーちゃん、
 私は何度も呼びかける。

 キャロも一緒に。

 オーちゃん。















Side-Shugo

 まったくはやての奴。
 そんなに俺のことが心配なのか。

 まったく甘えん坊め。

 だが俺にも女の子を、ティアナを幸せにしてやるという義務があるからな。

 はやてには悪いが、模擬戦にはいかせてもらうぜ。

 しかし後れちまったな。時間は大丈夫だろうか。
 いや、大丈夫に決まっている。

 だって俺がいなけりゃ重要イベントなんて出て来ないに決まってるし、
 必ず重要イベントに間に合うに決まってるさ。

 なんたって俺は主人公なんだからな。

 そう思ってやってきてみると――

「オーちゃん!」
「とりあえず医務室に運ぶね!」

 そこには、あの男がいて。
 
 ティアナは既に気絶していて――

 待て!?
 ということはまさかティアナフラグが潰れたのか!?

 しかもあの男。
 あの男はファナムちゃんを奪った男じゃないか。
 どうして、あいつが――!?

 そういうことかぁ!?
 あの男、ファナムちゃんだけでなく、ティアナも奪おうとするつもりなのか!?
 なんて浅ましい奴なんだ! なんて醜い奴なんだ!

 人の幸せを奪ってでも自分の欲望を満足させたいのか!?
 なんて見下げた奴なんだ、あの男は!?

まさか!? まさかの男、トリッパーなんじゃ……!?
 するとそこにいたのは、キャロ!?

「お父さん!」

 しかもキャロはあの男のことを、お父さんを呼んでいる……!?

 そういうことか。

 もう既にキャロは攻略済みだって、そう言いたいのか。

 ふざけるなよ。
 俺が主人公なんだ。
 なのにどうしてお前が出しゃばる。

 ここは『俺』の世界なんだぞ!!
 お前なんかが勝手に出しゃばるんじゃない!!

 どうしても出しゃばるっていうんなら、
 俺がお前のそのふざけた幻想思いあがりをぶっ壊す!!



[19334] 第五十九話 いまだ未熟ゆえに
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/07/02 23:05
 はぁ、なんちゅーか、厄介なことになったわ。

 しかしなのはちゃんもやりすぎとちゃうやろか?
 
 いや、な。
 ティアナも無茶なことやったな、とはうちも思うんよ。
 ただなのはちゃんも過剰に反応すしぎ、とそう思えるんよ。

 それくらいなのはちゃんの砲撃魔法は強力やっちゅーことにもなるんやろけどな。

 


第五十九話




 とりあえずは映像見してもろた。

 いや、うちは修吾君、止めるんでいっぱいいっぱいやったからな。
 まあそれも無駄に終わった、とは思うんやけど。

 いや、無駄やなかったんかな?
 もしここに修吾君来おったらアレやん。
 きっともっと複雑で訳分からん、厄介な状態になっとったやもしれんし。

 そう考えると私がやったことはグッジョブやないかい。
 誰か私を褒めれー。

 って、現実逃避しとったらあかん!!
 しっかり気ぃもつんや!!

「だからってセクハラに向かうなぁぁぁ!!」
「はっ、しもた! いつもの癖や!」

 ちぃ、ヴィータ!
 後、もうちょいで揉めとったのに、邪魔すんやなぁ!!

「させねぇよ! というか、今度訴えられたら六課解散もありうるんだよ!
 さすがにこんな理由で解散は嫌だぞ、あたしはぁぁ!」
「それでもええんや! 揉めれば本望なんや!」
「ちったー、目ぇ覚ませ、セクハラ主ィィ!!」

 因みに乳揉もうとした娘には逃げられてもーた。
 
 はぁ、やっばいわー、これ。
 現実逃避が祟って、体がおっぱいを求めとる。

 精神の安寧を得るためにおっぱいを揉め、と叫んどる。
 
 それもこれもこの厄介事のせいなんや!!

「んなんで許されると思ったら大間違いだぞ。自ら厄介事増やしてんじゃねーぞ」

 うわーん、ヴィータが怖いぃぃ。

 なんでこんな子に育ってもーたんやろ。
 うちが小さかった頃はもっと私に従順で可愛い子やったのに。

 ……うん、私のせいか。
 あっはっはっは。

 と、まあ冗談はここまでにして。

「いや、冗談で済ませようとするなよ。
 まあ今回は仕方ないとして」

 普通やったらここで「冗談で済ませんなぁぁ!」とかお怒りになってくるところなんやけども、
 ヴィータも空気読んだんか、
 しっかりと話を合わせようとしてくれよる。

 とりあえずは映像を見とる限りやと、や――

「明らかにこのラウンドシールドがおかしいというこっちゃ」

 私はそう告げる。
 今からこの議論を始めることとするか。
 夜天メンバーの皆で。






 それはラウンドシールド。
 防御に徹した魔法。

 高町なのはの手加減した砲撃とはいえ完璧に防ぎきっている。

 いや、完璧に防ぎきっているというのはおかしい。
 
 それはまるで紙のような鉄壁だったのだ。
 見てみる限り、まるで紙のような、そんな鉄壁。
 だが厚さがあまりにも大きすぎた。

 密度は濃くなかった。ただ魔力量だけが圧倒的だった。

 それであの攻撃を防いだのだ。

 どう考えてもBランク程度の魔力でできることなどではない。

 つまりは魔力量を偽装していた、ということになるのかもしれないが。

「それはないわ。寧ろBランクが通常体なのよ。リミッターもなかったし」

 オージンは決して魔力量を偽っていたわけではない。

 偽っていたとしても、シャマルが調べているのだ。
 偽っていたとしたらロストロギアクラスの隠蔽能力を持っていたなにかでなければ不可能といってもいい。

 だがオージンにはそんなものはなかった。
 いくら調べてもなかったのだ。

 ならばなにかロストロギア、もしくはカートリッジで瞬間的に魔力量を増やしたのか。

 それもない。
 そもそもロストロギアなんてものなんて持っていなかった。
 
 カートリッジだとしてもあの魔力量の上がり方はおかしすぎる。
 明らかに段違いなのだ。

 カートリッジでこんなことが可能だというのならば、よほど危険なものでない限り、すぐに流行るはずだ。
 そもそもからしてカートリッジロードの跡も見られなかった。

 つまりそもそもからしてカートリッジという可能性も減った。
 
 魔力量がおかしい。
 そう思えてしまえるくらいに。

「まあこっちはええねん。いや、よくはないんやけど。
 んなことしたら確実に上に取りこまれるやろからなー」

 はやてとしては知っているのだ。

 厄介事に巻き込まれたくない、とかいうあの人たちの心を。

 もしこのことを上に知られれば確実に上層部に狙われるかもしれない。
 管理局とて一枚岩ではないのだから。

 もしかしたらどこぞの性質の悪い管理局員に、
 適当な罪でもでっち上げられるかもしれない。
 上層部なら冗談でもなんでもなく、可能になるかもしれない、そんな手段。

 反吐が出るほどの手段といってもいい。

「それと、容体の方はどうなんや?」
「大丈夫だったわ。いえ、本当に大丈夫かは分からないけれど、身体の方は大丈夫よ。
 ただ精神に受けたダメージがどれほどで、どれくらい回復できるかも分からないから」

 まあとりあえずは大丈夫ということでいいだろう。
 そもそもからしてトラウマ関係は精神科とかの仕事だ。

 ズブの素人、というわけではないが、それでも専門家に任せた方がいいのかもしれない。

 それとも精神的な意味で癒すことのできる、オージンの家族か、
 それくらいしかないだろう。

 今はそちらの方は置いておくとしよう。
 なにか思いつくわけでもないのだから。

 今はそっちよりも、だ。

「なのはちゃんとティアナ、2人の様子はどないなん?」
「ティアナはまだ眠っているわ。さすがに体にダメージが残らないようにしているけど。
 でも大丈夫よ、はやてちゃん」
「なのはならちょっと考えてる。あんな無茶なことやらかしたことに監督不届きで悩んでんだ」

 シャマルとヴィータがそれぞれ答える。

 シャマルはオージンと一緒に、気絶しているティアナも診ていたのだ。
 まあそりゃ機動六課付きの医療局員なのだからそれも当然なのだろうけれども。

 ティアナにはそれほどダメージはない。
 というよりも全くと言ってくらいに、ティアナにはダメージが残っていないのだ。

 それだけ高町なのはの非殺傷設定スフィア攻撃は優秀だったということ。
 相手の体にはダメージを与えず、しかしそれでいて確実に相手の内面を削り取る、
 まさに『魔王』に相応しい所業ではないか。

 まあ今はどうでもいいが。

 そして高町なのはは悩んでいた。

 ティアナがあんな無茶をしたのは自分のせいだ、とか言って自分を責めている。
 ちゃんと監督をしていれば、あんな無茶なことはさせなかったのに、とか言っていた。

 あれはなのはのせいではない、そう言いたい。
 が、しかし言っていることも確かだといってもいい。

 それにはやてからしてみれば「やりすぎちゃうんかな~」と思えるレベルだったらしい。
 まあ見た限り、かなり凄い一撃なのだったし。

「いえ、ああいうのは一度叩き潰されないと分かりません」
「いや、シグナムはシグナムで熱血やね」

 まあそういうところもあるのかもしれない。

 そもそも八神はやては教導についてはそれほど詳しくないのだ。
 まあそれほどシグナムも教導については詳しくない。
 と、いうよりもはやて以下だと思ってもらっても構わないかもしれない。

 だからこの状況では正しい選択なのかも分からない。

 ここで一番教導のことを知っているのは教導官の資格を持っているヴィータだけだ。

 というか実際ヴィータは三等空尉ではあるが、
 新人を鍛えるためにここにいるのだ。
 いや、任務もあるのだが主な仕事はなのはと同じ教導なのだから。

「ほんまにどないっすかなー?」
「まあ、これからしっかりと教導していくしかねーよ。
 今回のはさすがにあたしにとってもあたしらにとっても堪えたかんな」

 これからきっちりと目的を言ってやるべきだった。
 ヴィータとしてはそこを悔やんでいる。なのはもだ。

 教導する者として大きな失敗をしてしまったのだ。

「そこはあたしも、なのはも、まだ未熟だった、てところだな。
 教導の資格があるとはいっても、まだ未熟な教導官だ」

 教導する者としてその道を歩んだ。

 だけど資格を得たからといって、すぐにそんな立派な教導官になれるというわけでもない。
 そんなことを思い知らされたヴィータだったのだ。

 それは高町なのはとて同じことであろう。

 だからこそ悔やんでいる。
 そして今度こそ、決して道を誤らせないように。

 それが教導官としての、教え導く者としての義務であるのだから。



















Side-Ordin

 とりあえず目が覚めた。

 目が覚めたらファナムとキャロが抱きついて来てくれた。
 フリードは俺の周りを飛び回っている。

 ああ、なんて嬉しいことなんだろう。
 俺は素直に喜ぶことができる。

 とりあえず俺は――

「知らない天井だ」

 とかは言わなかった。
 いや、テンプレだけどさ。
 言っときゃ良かったのかもしれないけれども、このネタ知ってる奴いねぇよ。

 いたとしても逆に狙われるんじゃね?
 とか思ったから、さすがに自重した。

 いや、それ以前に起き上がったばかりの頃はそんな余裕もなかった。

 だってさっきまで体調コンディション最悪だったのだし。
 そんな余裕などあるわけがない。
 あったらそれはそれで驚嘆だろう。

 因みに他の人からも心配された。
 フェイトさんからも、それからエリオ君からも、それから他の人からも。

 ただこの場にいない人もいたけれども。

 多分、ティアナのところで看病しているのか、
 今回のことで悩んでいるのか、
 今回のことで話し合っているのか、
 
 とりあえずはそういったところだろう。

 というか今回のことは予想外だった。
 
 いや、予想は可能だった。ただ俺はその可能性を考えようとしなかっただけだったんだろう。

 俺のトラウマ、想像以上に酷いらしい。
 まさかここまで酷いだなんて、自分でも思えなかったくらいだ。

 まるで呪いのレベルにまで昇華されたかのような、そんなトラウマ。
 自分自身でも、俺のトラウマがここまで酷いだなんて想像もできなかった。

 今までせめて吐くくらいの、その程度のトラウマでしかなかった。
 いや、それでも十分酷いのだが。

 それでも気絶するほどじゃなかったのに。

 やめろ、思い出すな。

 俺は必死に自分の記憶を思い出さないようにする。
 俺はとことん弱い。そう実感させられるような、そんな出来事だった。

「オーちゃん」
「お父さん」
「キュクルー」
「ん、ああ。心配かけてごめんな。俺はもう大丈夫だから」

 本当はまだ大丈夫じゃない。
 俺のトラウマは本当に酷い、ということが分かったくらいだ。

 この先、もしかしたらトラウマが何度でも起こるのかもしれない。

 あんな光景をいくらでも見るのかもしれない。
 だからまだ大丈夫なんかじゃないんだ。

 でもそうなのだとしても、俺は――

 ……あれ?

 そういや、よく考えてみれば、俺思っきし邪魔しちゃったんじゃね?
 いくらトラウマだからとはいえ、邪魔しちゃったことには変わりない。

 俺からすればあれはやりすぎだったんじゃないのか、そう思ってしまう。
 でもそれは俺の主観であって、それが正しいのかどうかなんて分からない。

 もしかしたらあそこまで痛みつけることによって、
 体にあれがどれほど危険だったかを刻みつけるつもりだったのかもしれない。

 どちらにせよ、俺が行動が正しかった、なんて言えるわけもない。
 
 俺は高町教導官の邪魔をしてしまった、ということでもある。

 ヤバいことしちまったんじゃぁ……!?
 冷や汗だらだらと流れてくるよ。

 とにかくどうしよう!?
 俺は非常に焦りまくっていたのだった。



[19334] 第六十話 トリッパー同士
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/07/03 11:06
 いきなり目の前で起こった光景。
 
 あのなのはさんの攻撃を、翠に輝くシールドが全てを受け止めきった。
 あの破壊力を凌駕する防御力。

 どうしてこの人がそんなのを出せるのか分からなかった。
 いや、もしかしたら――

 私の疑念が確信に変わっていく――
 
 そう思って見ていたら――

「げはっ」

 ゲロを吐いて倒れるキャロちゃんのお父さん、オージンさんがいた。

 え? 
 なんでいきなりゲロ吐いてんの?

 予想外のことが起こり過ぎて、訳が分からなくなりそうです。




第六十話




 とりあえずはキャロちゃんのお父さんは起きたみたい。
 それは良かった。

「キャロのお父さんが起きたみたいだよ」
「うん、無事そうでよかったね、エリオ君」
「うん」

 私はエリオ君とこのことを話していた。
 でもまあ「良かったね」と言う相手はいるのだけれども。

 でも今はキャロのお父さんとの団欒をさせてあげるべきだ。
 そう私は思ったから、ここから離れている。

 でも後でキャロちゃんと話そう。




 というわけであれから暫く経ったのでした。

 キャロちゃんともちゃんと話せてますし。

「とりあえず無事でよかったね」
「うん」

 キャロちゃんは心底そう思っている様子です。
 それほどキャロちゃんはその人のことを大切だと思っているのですね。

 本当の父親ではないけれども、
 それでもやっぱり本物の父親と同じようにそう思っている。
 いや、それ以上なのかもしれない。

 キャロにとってオージンさんはそれくらい大切な人なのだと。
 そう感じさせられる。

 それくらい大切な人なのだと、そう思わせてくれる人なのだと。

「でも、どうしてあんな……」
「うん、ちょっとね」

 どうやらキャロちゃんはキャロちゃんのお父さんであるオージンさんがトラウマを引き起こす原因のことは分かっているみたい。

 あれを見て、トラウマを引き起こす。

 一体どんなことがあったんだろう。
 そこが気になってしまって仕方ない。

 それでもちょっと気になることがある。
 それをどうにかしない限りは、どうしようもない。

 だから私はちょっと話し合ってみたいことがある。

「あの、キャロちゃんのお父さん。ちょっと話したいことがあるんですが」
「……ヨモギちゃん」

 私はトリッパーで、
 そしてもしかするとこの人もトリッパーなのかもしれない。

 その疑いは確信に近いものになった瞬間で、このトラウマ騒ぎだった。

 だから今のうちに確証を得ておく。
 そうでもしない限りはきっと気になって仕方がない。

 だから私は、私とオージンさんとで話し合うための場を設けるために、オージンさんのもとへと向かった。













Side-Ordin

 なんか呼びだされてしまった。
 あれ? 俺、なんかしたっけ? とかとぼけるつもりはない。

 いや、だって心当たりありすぎるんだもの。

 訓練の邪魔してしまったとか、そんな感じの心当たりが。

 だがしかし呼びだしたのは八神部隊長でも高町教導官でもなかった。
 ましてやフェイトさんでもなくて。

 俺を呼び出したのは、ヨモギだった。

 フェイトさんが保護した子供。
 そして俺にとってすればトリッパーの疑いのある娘。

 いや、だからといってなんだ。とか言うつもりはないのだろうが。

 もしもこの子がトリッパーだというのならば、
 ならば俺ももしかしたら危ないのかもしれない。
 
 俺のことをトリッパー、転生者なのだと勘づいているのかもしれない。
 だから俺のことをはっきりさせたくて、話し合いを持ちかけてきたのだろう。

 もしここで断る、なんて真似なんてしてみたら……やる意味もないんだろうけども。

 そういうわけで話し合うことにする。

 ここには俺とヨモギの2人だけ。
 もしヨモギが俺の想像通り、転生者か憑依者、トリッパーだったのならば――

「単刀直入に聞きます。
 あなたはトリッパーですか?」
「ぶばっ!」

 単刀直入すぎる!!
 いくらなんでも直接すぎないか、その訊き方は!?

 俺はそう思ってしまったのであるが。

 だけどまあここは思い切った方がいいのかもしれない。
 だからヨモギちゃんも、いやヨモギもそう判断したんだろう。

 俺は意を決して答える。

「ああ、トリッパー。転生者だよ」
「やっぱり」

 俺も断言して答える。
 だけど転生者、とも言っていたけれども実際は憑依者といってもいい。

 だってこの体はフェンリール・ドラゴン。
 無理やり憑依して奪った体なのだから。

 ≪オージン・ギルマン≫としては転生者だけれども、
 このフェンリール・ドラゴンの身体を持ったオージンは憑依者だ。

 ヨモギもどうやら俺に対してトリッパーだという確信はあったようだ。
 そしてその確信を確認するために、直接訊き出した、とそういうことか。

 そしてそういうことを聞く、ヨモギもほぼ10割でトリッパーということになる。

 俺も同じことを聞き返してみたが、
 やはり「私もトリッパーです」と答え返してきた。

 うん、そして思った。
 
 よかった、まともな転生者に出会えて。

 今まで会ってきたのはアレだ。

 修吾にアーク。

 特にアークは酷かった上に怖かった。
 いつ殺されるのではないかとビクビクしていたくらいだ。

 あのふざけた偽エミヤ、あの男は本当に狂っているというか、
 あまりにもふざけている、と心から思える。

 うん、あいつらと比べたらすっごいまともな転生者に出会えた。
 それは嬉しいと思えるものだ。

「それで訊きたいんです。あなたはどうしてここにいるんですか?
 私はいきなりこの体に憑依してました。
 その前の記憶は自分の部屋で寝ているところ、です」
「……俺はなぁ……げぶっ」
「え!?」

 いきなりゲロを吐いてしまった。
 やべ、さっきまでの影響でゲロ吐きやすくなってる。

 昔はフリードリヒ見ただけでゲロ吐いてたからなぁ~。

 因みにヨモギはというと俺がゲロ吐くのを見て、慌てている。
 そりゃそうだよな。それが普通の反応だな。

「わ、悪い。ちょっと思い出したくないのを思い出した。
 とりあえず転生トラックの巻き添え食らった。以上」
「転生トラック、て。あの転生トラックですか? 二次創作で見られる」
「あ、うん。その転生トラック」

 転生といったらトラック。
 トラックといったら転生。
 そんなことが当たり前になるくらいの定番、≪天から遣わす転生車輪リンカーネイト・トラック

 それくらい転生トラックは転生ものの二次創作ではよく見られるものである。

 そして俺はその巻き添えを喰らって、そして今ここにいる。
 分かりやすく説明すればそれが全てだ。

 もっと正確にいえば、巻き添えで殺され、怨念によって神の肉体を奪おうとするも失敗してしまい、
 
 神は体の一部を切り離すことによって俺を退けた。
 だがその際に一回分の転生能力を手に入れた俺は無意識に転生していた。
 そして≪オージン・ギルマン≫として生まれた。

 本当に簡単な説明だ。
 だがこのことはヨモギには言ってないけれども。

 とりあえずは今まで不幸な目にはあってきたというわけだ。
 まあ今はすっかりと幸せなんだけれども。

 ファナムという嫁がいて、キャロという子供がいて、フリードという家族がいる。
 うん、なんて幸福なんだろう。
 その幸福をずっとずっと守っていきたい。保っていたい。

 それが俺の本音。

 そう、それだけで――

「やっぱりそうかよ。お前、トリッパーだったのかよ。
 ふざけるなよ。お前もアークと同類じゃねぇかよ」
「!!」
「藤村……修吾!」

 俺とヨモギの話し合い。
 その場に現れたのは1人の男。

 男の名は≪藤村 修吾≫
 管理局最強の名をその身に持ちし、最強の魔導師。
 その強さはまさに一騎当千ともいうべき、管理局の切り札たる存在。

 そして彼こそが神に選ばれし存在、トリッパー。

 この≪リリカルなのは≫の世界に転生してきた転生者なのだ。

 ゆえにこの世界にいる。

 そして俺とヨモギとが、転生者トリッパーであるということが、
 藤村修吾にばれてしまった。
 
 それがどんな事態を呼び起こすのか分からない。
 でも、それでも厄介なことしかなさそうなのは、ハッキリと分かり切っていた。

 そして俺は、アークと同列に扱われた。



[19334] 第六十一話 教え導く者 教え抱える者
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/07/04 01:00
 なに、この人!?

 私は目の前にいる男を見て、素直にそう思ってしまった。

 銀髪の髪の毛に、金と銀のオッドアイ。
 しかも管理局最強のSSSランクだというのだから驚きの存在。
 しかもなのは隊長と同じ第97管理外世界の住人。
 
 ≪藤村 修吾≫

 私はこの男の正体に、ほぼ確信がある。

 この男は――トリッパーである。

 そしてこの男は自分でもトリッパーなのだと、そう確信させることを言っていた。

 とりあえず思ったけれども――

 ――すっげぇキモイ。




第六十一話




 アーク、というのは知っている。
 フェイトさんが追っている次元犯罪者のこと。

 しかも見た目がどこからどう見ても、Fateの英霊エミヤシロウ。
 どう考えても転生者だといわんばかりに主張している男だったのだ。

 そしてこの目の前の転生者はオージンさんのことをアークと同じだ、とか言っている。
 いや、あんな殺人鬼と一緒にされたらたまらないよ。

「……そうだよ。転生者、だよ。それが――」
「ふざけるなよ! 俺の邪魔ばかりしやがって!」

 なにか勝手なことを言う。

 この人、本当に本当に――

「ヨモギちゃん、だったかい。君も転生者だったのか。
 だけど大丈夫だよ。この僕がいる限りは――」

 私に笑いかけてくる。
 これほど美しい顔つきだったのなら、大抵の女の人なら落ちるかもしれない。
 外見だけで決めるような女なら尚更といってもいいのかもしれない。

 この人は転生者である私を気にかけてくれる――
 
 ――んなわきゃない。

 その目は確実に私を狙っている。
 まるで攻略対象を見ているかのような目。

 それは本当に――

「キモイ。黙れ。近づくな」

 ぶっちゃけ気持ち悪いんだよ!!
 私に色目を使っていいのは、可愛らしい男の子か、女の子!
 それ絶対!

「お前みたいなキモイのが私に触らないで」

 私は眼鏡をくいっと上げるように言う。

 あ、今の私眼鏡してないんだった。
 そーいやー、前世でもこういったことは慣れてたなー。
 まあ全員ナンパ目的の社会のゴミ屑に言ったものなのですが、
 コイツからも似たようなの感じるし。

 だから別にいいかなー、と思えてしまう。

 だって本当にこの男、気持ち悪いんだもん。
 だから私はこの男が差し伸べてきた手を振り払った。

 というかそうでもしないとこの男は堪えない気がするし。

「……貴様ァ! そういうことか! 
 お前、洗脳系の能力でも神に貰ったんだな!
 でないと説明がつかん! そうか、つまりファナムちゃんもキャロも、その力で!」
「うわ、なに、その妄想? 厨二病が許されるのは中二までよね~」

 とりあえずバカにしておいた。
 こういう奴はひっじょーにムカつくんですけどー。
 
 なに、その目は?
 世界は自分のものとでも言ってるつもり?

 うわ。それはそれで無茶苦茶ムカつくんですけど。

 一応キャロちゃんと話し合っていて、しかもそれなりの付き合いがある。
 けれどもオージンさんはどこから見ても普通の人だった。
 
 トリッパーらしきところがあったけれども、疑念に留まらせた。
 それはこの人が悪い人ではないということが感じ取れたから。

 でもこの人、つーかこの男は全然違う。
 なんかキモイ。

 フェイトさんが近づかないように、と注意されたのはこれだったからか。

 あの天然フェイトさんでさえそう思わせるくらいの男。
 なんという男だろうか。
 私は素直にそう思う。

 ただし逆ベクトルになんだけどね。
 それはそれで凄い人、ということに変わりはないんだけど。

「……あっるぇー? お前、意外に毒舌なのな」
「まあいつもは猫かぶってるからね。
 それからキャロちゃんのお父さん、『あっるぇー?』とか言ってもキモイだけだよ」

 あ、のの字書いてる。

 『あっるぇー?』とかは女の子が使ってこそ可愛い!!
 
 あの人はぶっちゃけ普通の男の人!!
 んな言葉使ったとしても可愛くなんて全くないんだから!!

 私はそう力説するのだが、オージンさんは落ち込んでしまったようだ。
 まあそれも仕方のないことですよねー。

「ちくせう……」

 それもそれで気持ち悪いですよ。
 とか言っていると更に落ち込んでいくオージンさんなのでした。

 更に沈んでいく。
 あ、ちょっと毒舌しすぎたかなぁー、と素直に思ってしまう。

 だが――

「おい! この俺を無視するな! 俺は主人公なんだぞ!」
「うざ」

 うざってぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
 え!? 何、コイツ!?
 本当にうざいよ。マジもんでウザいよ。

 駄目だ。コイツ。
 本当にウザすぎてどう対処したらいいのか、分からない。

 ぶっちゃけ魔法でも使ってぶっ飛ばしたい、そう思う。

 でも今の私はウリエルシューターとかミカエルバスターとかそういう攻撃魔法しか使えない。
 ガブリエールで身体能力上昇、ラッファエルで身体を癒す。
 うん、駄目だ。

 私は転生者だけど、チート能力なんて持ってないし、あったとしても目覚めていない。

 でもこの男はSSSランクの魔導師。
 戦いになったら絶対に勝てない。

 問題はオージンさんの方だけど、
 あのなのはさんの砲撃を防ぎきるほどの防御魔法を作り出せる。
 この人なら勝てるのかもしれないけれど。

 というかそんなこと実際にやったらこっちが犯罪者になる。
 だからまああっちから手を出してくるのを待つしかないよね。
 それだったら正当防衛になるし。

 あ、それでも相手はSSSランク。
 絶対勝てないよー。

 しかし本当にウザいよね、この人は。

「……本当にウザい」
「ですよね。オージンさん」

 どうやらオージンさんも同意見のようだ。
 まあこの人のことをウザくないと思える人がいたら、この人の本性を全然知ってない人なんだろうな。

 噂では凄く良い人らしいし。

 ただし彼のことをよく知っている人の間ではあんまり良い感情を持たれているわけではないのだけれども。

 とりあえずどうしようか、そう思った。

 そう思っていた時だった。
 
 突如としてアラート音が鳴り響くのは――

 

















Side-Hayate

「とりあえずなあなあで済ませへん?」
「駄目に決まってるだろーが。新人どもが真似したらどうするんだよ」

 うー、ヴィータ、厳しいわー。
 せっかく信頼できる身内だけで構成した部隊やのに。
 その特権も使わんと、両方処罰する方向で行くことになった。

 ティアナの無謀な作戦、なのはの過剰攻撃。

 最初の一発は教導のうちともいえるけども、あの二撃目はさすがに過剰攻撃ともいえる。
 いくら非殺傷とはいえトラウマになりかねなんもんやった。

 あの攻撃を受けたことのあるヴィータは素直にそう思える。
 おそらくここにフェイトちゃんがここにおったら、ヴィータと同じくそう思えるやろう。
 
「ぶー、うちらもなあなあで許されたんやでー」
「あー。それは素直にありがたいと思うけどよ」

 うちは夜天の王で、
 シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラは夜天の守護騎士。

 過去に大罪をたっくさん犯しとった。
 凍結刑にされとってもおかしくはないくらいにや。

 それでも許されたんは、管理局に奉仕する形ということで罪は軽減されたっちゅーこっちゃ。
 そのお陰で皆ともおれる。

 まあそれもこれもなんやけど――

「あいつらのためだ。
 ここでなあなあで済ませたらあいつらのためにもならねーよ」
「いや。主はやての――」
「教導のこと分かってねぇシグナムが口出すな」

 まあ教導に関して言うのなら、
 シグナムよりずっとヴィータがそう言っとる。

 ま、そやろな。
 冗談で言ってみたんやけども――

「ま、そやろなぁ。しゃあないか」

 うちは最初からなあなあで済ませるつもりはあらへんかったけれども。

 ちゅーか冗談のつもりやったんやけどなー。
 んなことしたら2人のためにもならへん。

 ヴィータはそこんところ、よく分かってくれよる。

 しっかしオージン君らにはどないすべきかなー。
 一応訓練の邪魔やねんけども、あれ一応発作みたいなもんやったし。
 第一見学の許可出したこっちもこっちなんやし――

 アラートが鳴り響く。

「シグナム、ヴィータ!」

 すぐさまにシグナムとヴィータが準備をする。
 こんな時のための機動六課や!!

「さっさと行くで! 腰の重い奴らとは違う、尻の軽ぅい機動六課の出番や!」

 そう言い切る。

 ……しかし待てども待てどもなんのツッコミもけぇへん!

 あかん!!
 渾身のボケがスルーされてしもうた!

 シグナムは何にも気付かずにいってもーたけども、
 ヴィータは白い目をしながら行ってもーた!!

 あかん!!
 ヴィータ、いつの間にそないに成長したんやー!!

 と、まあ悪ふざけはここまでにしてさっさとどんなもんか見なな。
 そう思うて、私は早速ロングアーチのもとへと急ぐんやった。

















そこにはヘリが今にも飛び立たんとばかりに、そのプロペラを回転させていた。
 おそらくは今すぐにでも飛び立てるのだろう。
 既に準備は万端、といったところだ。

 そしてそこにはなのは、フェイト、ヴィータ、シグナムといった副隊長陣。
 そして新人のティアナ、スバル、エリオ、ヨモギのフォワード陣たちが揃っている。

 ただし乗りこもうとしているのはなのは、フェイト、ヴィータの3人だけだ。

 なんでも今回の任務ではガジェットⅡ型がたくさん出てきているらしい。
 それもなにもない海の上で。つまり機動六課の戦力を量りに来ているのが見え見えだ。

 だが場所は海上。
 つまり陸の上ではないのだ。

 当然陸士であるフォワード陣は戦えない。

 スバルはウィングロードがあれば戦えるかもしれないが、ずっとなんて不可能だ。
 ヨモギも飛行魔法は使えるが、飛行しながら戦うなんて器用な真似はいまだできないでいる。
 どういうわけか、飛んでいると戦闘に支障が出るのだ。

 だからこそヨモギは陸士でいるのだ。
 
 ともかくそういうわけで、空尉であるなのは、フェイト、ヴィータの3人が出動することになったのだ。

 シグナムは新人たちの纏め上げる者として残っている。
 もしかしたらこの騒ぎが陽動かもしれない可能性があるために。

 因みにヨモギはというと――

(う~ん、大丈夫かな。キャロちゃん。狙われなきゃいいけど)

 ヨモギとしてはキャロがとても心配なのだ。
 あの変態転生者に狙われていると知ったら気分が悪い。

 しかも自分も狙われているのだ。
 本当に気持ち悪くて仕方ない。

 なんでもあのアラートの時、修吾は本局から呼び出されたらしい。
 無視したかったらしいが、しかしそんなこともできないので帰っていってしまったらしい。

 だけどもしかするとそれが演技だとして――

(さすがにありえないよね)

 といったことなどをヨモギは考えていた。
 さすがにそんなことはありえない、とばかりに。

 因みにオージン、ファナム、キャロは部屋で待機している。
 というかオージンとファナムは謹慎中だ。

 一応は訓練の邪魔をしてしまったのも同じようなものなのだから。
 因みにあそこで反省文を書いてもらっていた。

 ついでにオージンはミッド語での会話は可能だったが、書くのが苦手だったため、
 ファナムに頼みこんでいるという、カッコ悪いという事態に陥っていたが。

 それほど頭がよくなかったオージンであった。
 頭の良さそうにも見えないが、しかしオージンは理数ではないため、魔導に向いていない。
 が、それと同時に語学にも見えていなかったオージンであった。
 
 オージン曰く、英語と数学が一番苦手なんだよー、と嘆いていたとか。
 得意なのは国語・古文・漢文・世界史・日本史、だとか。
 特に国語系が一番得意といっていた。

 よし、とりあえず頑張って皆さんと待機しとこう。
 特に何もなかった気がするし。

 ヨモギはそう思っていた。そう思っていたんだけれども――

「ああ、そうだ。ティアナ、今日は待機から外れておこうか」
「え!?」
「え!」
「「えぇ!?」」

 その言葉に最初に、ティアナは固まってしまった。
 
 ティアナが固まるのと同じくして、
 スバルもエリオも、そしてヨモギもまた驚いていた。

 それはティアナが待機から外されたこと。
 多分それはきっと今日のが原因と思われる。

「ああ、そうだな。今日はそうした方がいい」

 体調も魔力もどっちも最悪の状態といってもいいかもしれない。
 それ以上になのはの砲撃を喰らって精神状態がどうなのかも分からないのだ。

 無理して戦線に加えるのはまずい、とも思う。

「……それは、言うことを聞かない奴は使えない、ってことですか」

 するとか細い声が聞こえてきた。
 その声はあまりにも細くて、しかしそれでも――

 しかしその声はあまりにも、あまりにも――

 高町なのははティアナの発言に、少し雰囲気を暗くする。

「ティアナ、自分で言ってて分からない。当たり前のことだよ、それ」

 戦場で言うことを聞かない者がいる。
 それだけで隊には大きな被害を及ぼしかねないのだ。

 ティアナの言っていることはあまりにも頓珍漢すぎることでもあるのだから。

 言うことを聞かない兵がいるだけで、隊は混乱する。
 その混乱は隊を危険に晒すだけに過ぎないのだから。

 だがそれでも尚ティアナは反論する。
 ここで肯定してしまえば、それだけでなにかが終わってしまうかのような、そんな気迫で。

「現場での命令や指示ではちゃんと聞いてます!
 教導だってちゃんとさぼらずやってます!
 それ以外のことの努力も教えられた通りじゃないと駄目なんですか?」

 それは疑問。

 それは自分を正当化するための言葉なのかもしれない。
 ただ、ただ、自分の言葉をキッチリと言い放つ。
 それが正しいことなのか、どうなのかも分からないが。

 しかしティアナはここで頑張らないといけない、そういう思いに囚われすぎている。

「私は、なのはさんみたいにエリートじゃないし、
 スバルやエリオ、ヨモギみたいな才能なんてない。
 少しくらい無茶したって死ぬ気でやらなきゃ、強くなんてなれないじゃないですか!!」

 それは少女の叫び。
 ただ彼女の劣等感コンプレックスを刺激していくだけにしかすぎない。

 周りがあまりにも凄すぎた。
 それが彼女にとっての不幸だった。

 ティアナ自身、それほどの才能なんてない。
 あるとすれば自分自身向上するだけの、努力する才能くらいのものだ。

 でもそれでも尚、周りが凄すぎたのだ。
 それは彼女の自尊心を傷つけていき、彼女の劣等感コンプレックスはより大きくなっていく。
 そんな結果になってしまう。

 スバルには才能がある。おそらくきっと強くなれるだけの才能が。
 潜在能力が優れている。それ以外にも秘密があり、それがおそらく彼女の潜在能力の秘密なのかもしれない。

 エリオやヨモギだってわずか10歳にしてあの実力。
 その潜在能力は他の隊員と比べ物にならないのは明白だ。

 ただその中にいて、唯一ティアナのみが凡人。
 それは変えられない事実でもあった。

 強くなりたい、そうティアナは心の底から思っていた。

 だからこそあんな暴挙に出たのである。
 そうでもしないと強くなれないから、そう思って――

 しかしそれは――

「ふんっ」

 いきなりシグナムがティアナをぶん殴る。
 そしてティアナは――その一撃で倒れてしまう。

 手加減した一撃、 
 しかしティアナにはしっかりと堪えたようである。

「シグナム!」
「シグナムさん!」

 周りの人もいきなりのことで吃驚する。
 だがそれでも尚冷静な人もいた。

 そしてシグナムは――

「加減はした。駄々をこねるだけの馬鹿はなまじ付き合ってやるからつけあがる」

 シグナムのその一言は、あまりにも容赦のない一言だった。

 しかしそれはしっかりとした事実でもあって。

 結局はそのまま向かうことになる。
 
 だがなのはとしては――

「ティアナ! 思いつめているみたいだけど、戻ってきたらゆっくり話そ」
「おい! 今は任務に行くのが先だろ! そんな気持ちで行ったらすぐに死ぬぞ!
 今はきっちり切り替えろ!」

 なのはとしてはティアナのことが心配で仕方ない。
 あんな言い方をされてしまったら、さすがのティアナでも――

 そう思ってしまうのは仕方ないのかもしれない。

 しかしヴィータは無理やりとしてなのはをヘリコプターに乗せる。

 今は任務優先だ。といったところだ。

 だからこそティアナのことは切り替えるべきだ。
 ティアナのことを考えるのは、この任務を終えてから考えるべきだ。
 そんな曖昧な気持ちのまま、現場に向かえば手痛いしっぺ返しを喰らうことになるかもしれないのだから。

≪シャーリー、後は頼んだぞ。
 あたしはこっちに集中したいから、新人どものことは任せてほしいんだ。
 オペレートはリインに頼んで、頼むな≫

 教導する者として、歯がゆいかもしれない。
 それでも今はしっかりと任務の方に集中したい、そう考えている。

 そうしないと手痛いしっぺ返しを喰らうことになるかもしれない。
 大体そんなことになるのは、しっかりと身を以て知っているから。

 だからこそ懸念事項は任せておきたい。
 でないとそっちが心配になりそうで、少しでもその心配を和らげることで。

 ヘリコプターは既に空に飛び立った。 
 今はもうここは空の上だ。

「なのは、新人どもはシャーリーに任せた。だから今は切り替えるんだ。
 ティアナのことだってあたしらがいつまでもおんぶにだっこじゃ駄目だろ。
 あたしらは教え導く者、教導官であって、教え抱える者、教抱官なんかじゃねぇんだから」

 だから今は任務に集中してもらいたい。

 今は戦いに出ることを、ガジェットⅡ型を優先する。
 
 ティアナの事を考えるのは、この任務をキッチリ終えてからだ。
 そうヴィータは言っていた。

(シャーリーに任せたら、勝手になのはの過去喋るだろうけど、
 そうしないと納得しなさそうにねーしな)

 そうヴィータは思っていたりしたが。



[19334] 第六十二話 復讐する者
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/07/04 08:06
 高町なのはとティアナ。
 2人の溝は深く大きくなっていく。

 だけれどもそこにシャーリーが登場。
 シャーリーがなのはの過去を話す。

 それはあまりにも悲惨な過去だった。

 わずか9歳で戦場に突入、体に負担のかかる砲撃魔法の使用。
 そして遂には撃墜され、もう二度と空を舞うのも無理ではないのか、と思われるほどの大怪我を負ってしまった。
 あのまま死んでしまったとしてもおかしくないほどの大怪我を。
 
 だからなのはは新人たちに、後輩たちに同じような目に会わせたくないと、そう考えている。
 それはきっととても嫌なことなのだから。

 だから必死になって鍛える。
 
 そう、シャーリーと、そしてシグナムは伝えた。




第六十二話




 俺はファナムとキャロと一緒に過ごしていた。
 いや、俺自身2人と一緒にいたかったのかもしれない。

 だって俺はなんていうか、怖かった。

 たったそれだけ。

 修吾とかいうのに目をつけられたのは拙かった、とそう思えるのだけれども。

 まあ今はそんなことを気にしても仕方がない。 
 だって管理局勤めだもの。そんな無茶なことはやらかさないだろう。

 ……やらかさないと、いいなぁ。

 そう本気で思ってしまう俺であった。

 ただファナムとキャロとフリードと、一緒にいられるだけでいい。
 なにか特別なものなんていらない。
 ただ普通に普通の平穏だけでいい。たったそれだけでいいのだから。

 特別な力なんていらないから、だから普通の平穏が欲しい。
 
 ファナムと、キャロと、フリードと、
 彼女らと一緒にいられるだけの平穏が欲しい。

 俺は切実にそう願った。

 それにきっと、なによりも怖かったのだ。

 俺はただ殺されるのが怖かった。
 ただ抵抗する術も暇もなにもなく、ただただ『死』を無理やり運んでくるのが。
 殺されるのが怖かったから。

 ああ、非殺傷じゃないか。だから殺されるなんて心配ないじゃないか。
 そんなことはありえないじゃないか。

 そう思っていても、ずっと殺された光景が思い浮かんでしまう。
 時たま吐き気が催されるけども、それでもなんとか耐えれる状態にまでは戻って来ていた。

 俺のトラウマはだんだんと強くなっていく。

「オーちゃん、オーちゃんは私が守る、から」
「おとう、さん」

 2人は眠っている。
 俺を抱きながら、だけれども。

 特にファナムの方はなんというか俺を抱いて安心していて、それでいて不安な様子だった。

 俺の自惚れでなければいいんだが、多分ファナムのトラウマがあるんだろう。
 目の前で俺が殺されたことに。

 だからこそ復讐にその全てを捧げて、
 ただ竜を恨み憎み尽くして、
 だからこそドラゴンを殺し誅し戮し尽くすための力を手に入れた。

 だからこそ、トラウマになった。
 守れなかった自分に対しての、トラウマ。

 多分そんなところ。
 俺の自惚れでなければいいけれども――

「ありがとな。ファナム」

 俺は眠っているファナムを撫でる。
 するとファナムは安心したように、不安が薄れていく。

 きっと幸せな夢にでもなったんだろう。
 そう思うと気が晴れていく。

 するとファナムが起き上がる。

「オーちゃん。ん、大丈夫?」
「ん? ああ。ファナムとキャロがいてくれるからな」

 これは俺の本心。
 ただ愛すことができる人がいて、愛してくれる人がいる。
 それだけで俺は幸福になれる。

 きっと幸せっていうのはこういうことなんだろうな、と少々ばかり臭いことを言う。

 まあそれでも構わないんだけどれども。

「オーちゃん」
「ファナム」

 キャロもフリードも眠っている。
 すぅすぅ、という寝音が、この静かな部屋に響く。

 目の前にいるのはファナムの顔。
 きっと誰より美しい、俺にはそう思える、ファナムがいた。

 ファナムが少しずつ顔を近づけて――

「ちょーなー、話あるんやけ――」
「あ」
「オーちゃん」

 誰か入ってきた。
 
 あ、そういやあれ、八神部隊長だ。

 というか、ノックしろよ! とか思った。
 このまま空気が崩れた気がしたんだけれども、ファナムにはそんなこと関係なく――

 そのまま俺に顔を近づけるのだった。

 て! さすがに恥ずかしいんだけど、ファナムーーー!!

「ご、ごめんなー! ていうか無理やぁぁぁぁん!
 私も彼氏欲しいぃぃぃぃぃ!!」

 んなこと言って去りやがったよ、あの人はぁぁぁぁ!!

 というか、ファナム。
 お前、もうちょっと羞恥心を、て――あ、やべ。気持ちいい。

 あー、駄目だ。
 雰囲気に流される。

 ファナム、こういった雰囲気を無理やり作ってちくせうー。

 あ、この喋り方気持ち悪いんだった。
 口に出さないようにしとこう。








Side-Hayate

 とりあえず部屋に入ったらな、男と女のキスシーンに出会ったねん。

 いやね、普通はね。そんなん見たらパパラッチやー、みたいな感じにすんのが私なんやけど。
 あのままいたら桃色空間に押し潰される、思うて逃げてきたんや。

 あかんわー。
 恋人欲しいわー、絶賛募集中やー。あ、そんかし修吾君はゴメンな。

「いや、ノックしねーで入ったはやてが悪いだろ、そりゃ。つーかしろよ、ノック」
「ごっめーん、忘れてもーたー」
「それで済まない時があるんだけども」

 うー、最近ヴィータが怖いぃぃ。
 なんつーかうちらの、というより夜天のストッパー役になってきとる。

 はっはっは、もうヴィータがリーダーやった方がええんちゃう、思うくらいにや。

 あかん、マジでそう思えてきとるから仕方ないで。
 私が小さい頃はなんかこう、見た目相応な気がしたんやけど。

 あ、でも今でもアイスには釣られるお子ちゃまなんやけどな。

 シグナム、ぶっちゃけニート侍な気がするし。

「主はやて。そのようなことはありません。私がヴォルケンリッターのリーダーです」
「なら仕事しろよ。仕事。まさか模擬戦申し込むことがお前の仕事じゃねーだろな」
「うぐぅ!」
「あかん! ヴィータの毒舌ツッコミレベルが上がってきよる!
 私の可愛いヴィータはどこいったんやー!!」

 そんなこんなで盛り上がっとった八神家やった。
 つってもシャマルは医務室で忙しいし、ザフィーラに至ってはお座敷犬になっとって一言も喋らんかったけれども。
 と、いうかもうただの大型犬としてみなされてないで、ザフィーラ。
 
 なんか喋らな、ザフィーラ。

 そう思うた私は悪ないと思う。












Side-Fanam

 キャー、オーちゃんとキスしちゃったー!
 いつもしてるけども、いつもしてるけども!

 なんか途中で邪魔入った気もするけど、
 あんまりよく分からなかったから別に気にしてない。

 そう思っていると――高町教導官とティアナ・ランスター二等陸士がいた。
 多分、話しあっているのだろう。

 しかも茂みにはシャーリー陸曹に、他のフォワード陣もいるし。
 まあ隠れている、ていうのは分かるんだけれども。

 多分、和解できているんだろう。
 
 でもまあ一応近づいていく。
 あの子もきっと多分――

「こんにちは」
「あ、ファナムちゃん」
「ファナム二等空尉」

 高町教導官とティアナ・ランスター二等陸士が、私の名前を呼ぶ。

 私も有名になったものだ。
 私が管理局にいるのは唯一つ、復讐せんがために。
 でもその復讐するも無駄だった。

 それでもきっとこの力は無駄にはならない。無駄にはさせない。

 復讐することはなくなったとしても、
 それでもオーちゃんを守れるだけの力はある。
 
 このバルムンクで、今度こそオーちゃんを守り抜く。

「高町教導官。先ほどは訓練の邪魔をしてしまい、すみませんでした」
「あ、あはは。いいよ。私もあれはやりすぎだったと思うし」
「いえ。あれは私が無茶なことをやらかしたせいですし」
「そんなことないよ。あの二撃目はいけなかった、てヴィータちゃんに怒られちゃったし。
 近々処罰を下されるって」

 互いに互いが謝りあう。
 きっとそれは不毛なことなのかもしれないけれど、
 それでも尚しっかりと意思は持っている、のかもしれない。

「……高町教導官」
「なに?」
「……これは、私の勝手な言い分ですが、私怨を以て動く局員など、多くいます」
「……」
「そういった人たちは、安全性など度外視して力を求めます。
 嘗ての私のように」

 そう、私もティアナ・ランスター二等空尉のように力を求めた。
 竜に対して絶対的な力を手に入れられるよう。
 なにがあろうとも、ドラゴンを殺害し得る力を。

 だから私自身の安全性など無視したような訓練を積んできた。
 
 たとえ私の身が砕けようとも、あのドラゴンだけはどうあってでも殺し尽くす。
 そういう意思を以て、そういった怨恨でもってして。

 だからこそ理解できる。
 力を求める者の気持ちを。

 私は、オーちゃんが生きていたから良かった。
 けれども他の人がそうじゃないってことも。

「だから、そのことも、考えてあげて、ください」
「……うん、そうだね」

 トラウマのことも話した。

 と、いうよりもオーちゃんは少し吐きそうになったけれども、
 根性でカバーして吐かなかった。

 たださすがに憑依した、てことは話さなかったけれども。

 なんというか殺されかけた、何度も。
 それがトラウマになっている、ということになっている。

 なんでもアークというのに二回も殺され――

 絶対殺す誅す戮す、オーちゃんを二回も殺しかけて、ぶっ殺す。
 ふふふふふふふ、は!

 うー、私、いつの間にかこんな感じに暗黒面に落ちかけているよ。
 でもいいかな。オーちゃんと一緒にいられるんだし。

 こうして私は高町教導官やティアナ・ランスター二等陸士と話し終わって、今日という日は終わっていく。













 
 



 とある管理外世界にある暗黒街。

 とある者が刀を持ち、そして振り回していた。
 いや、振り回すというにはやはりなんというか違いすぎる。

 ただ男が何人か、惨殺されていた。

「たはは、本当に知らないんですね。あたなたち」
「し、知らねぇ! 知らねぇんだよ!」
「くっそぉ! 俺たちは解放軍なんだ! 管理局から皆を救うんだよ!」
「なのに邪魔すんなぁぁぁ!!」
「……どうでもいいんですよ。まあ関係ないと分かっただけよしとしますか」

 そこにいるのは小さな少年。
 まだ12歳くらいではないのだろうか、10歳から12歳くらいの少年。
 しかしまだ小さな小さな少年は、しかしそれでも大の大人たちを相手に圧倒していた。

 こいつらの名は解放軍。
 管理局を敵としており、管理局からの解放を目的とする組織である。

 そしてそのためなら無辜の民ですら平気で犠牲にする。
 それは平和のための必要な犠牲である、と称して。

 だがそんなものはすぐさまに崩された。
 たった1人の少年によって。
 刀を持つ少年によって。

「いやはっはっは。正義だなんだの称して無関係の人をぶっ殺しまくるのに虫唾が湧いただけですよ。
 たははは、なんなら今すぐここで殺してあげますよ」
「糞! 糞ぉ! なんなんだ、テメェはぁぁ!!」
「たははは。もういいです。むかつきましたから九割殺しにでもして管理局にでも届けますか。
 一応あなたたち、広域次元犯罪者ですし」
「くそ! 魔導師でもない貴様が、俺らを相手にできるとでも!」
「できるからこそ、あなたがたは血の海にいるんでしょ?」

 そう。事実だった。

 魔導師でもない存在。
 だがその力はあまりにも絶大にして強大だった。
 
 そしてこの少年はこういった男が大嫌いだった。
 本当に、本当に、心底大嫌いだった。

 似ているから、本当に似ているから。
 だから殺したくなって、殺したくなって――
 
 それでも尚――

「だからもう」

 ただの一瞬にして倒す。
 このままダラダラ続けていたらいつ殺意が湧くか、分からないから。
 だから一瞬にして九割殺しにする。
 本当に虫の息といってもいい。
 
 この状態のこいつらを簀巻きにでもして、管理局のある場所にでも放りこむ。
 それだけで十分だから。

「たははは。なにか分かりましたか?」
「いや。やはりなにも分からなかった」

 すると少年の近くにある者が現れる。
 それは人ではなかった。
 
 純白の毛色をした狼。狼型の使い魔である。

 だがこの少年のではない。
 少年は魔導師ではなく、ならばこの純白の狼の使い魔は誰の使い魔なのか。
 それが全く分かっていない。

「たははは。やっぱりそう見つからないものですね」
「……もう、止めにしないか?」

 すると狼がなにかを口にする。
 すると少年は突然動きが止まったかのようになる。

 それはなにを示しているのか――?

「なにを、ですか?」
「復讐、だよ。そんなことをしても、あいつは喜ばんぞ!
 あいつはお前に幸せに生きてほしい! そう願っているに決ま――」
「あの人はそんなこと考えてませんよ」

 それはただ重い言葉。
 少年の目から冷たい視線しか生まない。

「あの人は本当に身勝手で自分勝手で、命の恩人でもなけりゃ尊敬もしてませんし、
 でも、それでも」
「憎しみは、憎しみしか呼ばないんだぞ! あいつはんなことは望んでなんて――」
「分かり切ってますよ。それでもいいんです。私はあいつを殺せれば。
 憎しみや恨みで動いてなにが悪いんですか? 怨恨で戦ってもいいじゃないか。
 たとえそれが私の自己満足だとしても、私はそれで十分に満足ですよ」

 狼は何度もこの少年を説得した。
 だがその説得の全ても無駄に終わってしまう。

 この少年はただ意固地に、ただ辛い人生を自ら歩む。
 忘れて、ただ幸せな人生を送って欲しい、ただそれだけなのに。

 少年はただ迫害されてきた。ただもう自殺しようか、そう思えるくらいに。
 拾われた時もただ憎んでいた。信じられなかった。
 ただ孤独と怨恨と不信が続く。

 でもそれでも拾った男は少年に構い続けた。
 それは何度でも何度でも――

 ああ、陳腐な展開だけれども、少年は少しずつ心を開けた。
 陳腐な展開だけれども、少年は拾った男を好きになった。

 だから拾った男は父親になった。少年にとって。
 嬉しかった。
 その時、父親になってくれた男が使役していた使い魔がこの狼だった。

 幸せな生活が続くと思っていた。
 でも、そんな生活も続かなかった。

 目の前で、殺された。
 殺した奴は次元犯罪者だった。

 それ以来からだった。
 陳腐な展開だけれども、復讐を誓った。必ず殺すことを誓った。
 ただただ殺して殺して殺してやる、とそう誓った。

 それ以来からだ。
 少年は次元犯罪者を嫌いになった。
 非魔導師の身でありながらも尚、魔導師を圧倒するだけの実力を身に付けた。

 特に正義だなんだの言って何の関係のない人を襲う奴を。

 必ず見つけ出し、殺してやる。
 それが少年の決意だったのだから。

「……糞。くそ――」
「分かっているんでしょう。あなたじゃ私を止められないことくらい。
 止められるとしたらあの人の幽霊くらいでしょうか。いや、それでもきっと無理でしょうね」

 自己満足なのだと分かっているかもしれない。
 それでも尚憎くて憎くてたまらない。
 殺し尽くしたいくらいに、殺意が芽生える。

 ああ、憎しみで戦うことは悪いことなのか?
 ああ、ならば間違っていたとしてもいいじゃないか。
 止められないのだから。

 憎しみを以て戦うことのどこが悪い?
 
 ただ少年はそう思うようになっていった。
 今ではすっかりと、戦うことに喜びを、傷つけることに喜びを覚えてしまったのかもしれない。
 このままではあの男と、父親を殺した男と同類になってしまう。
 そう分かっていながらも、少年は止められなかった。
 憎しみはより加速していくだけだった。

 狼は止めようとしたけれども、無駄だった。

「ほら、行くよ。
 必ず見つけて、殺してやる。
 お父さんのこの名刀≪吉備団子≫で。
 だから待ってろよ、【アーク・ハルシオン】」

 父親が持っていたのはロストロギアとも思えるような刀だったのかもしれない。
 その刀の名は名刀≪吉備団子≫。
 切れ味は最高級クラスの業物。

 そして少年の父親を殺したのは白のオールバックに紅の外套を纏いし男。
 ああ、その男が心底憎くてたまらない。

 【アーク・ハルシオン】
 それが仇の名前。

 殺したくて殺したくて仕方のない男。

 父親を殺した理由は、「トリッパーだから」だの「正義のため」だの「覚悟を背負うゆえ」だのなんだの意味の分からない理由で殺された。
 ああ、だからこそ殺してやる。
 
 ただ後悔して死ね。

 少年の復讐の旅は続いていく。
 狼の名は≪イヌ≫。
 かつて少年の父親の使い魔だった。

 名刀≪吉備団子≫を持ち、≪イヌ≫を連れ、ただ旅は続いていく。
 彼の名は≪キジ≫。
 【アーク・ハルシオン】を殺す者。

 殺し誅し戮す者が再び現れる。



[19334] 第六十三話 街中での出来事
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/07/05 15:11
 とりあえずは高町なのは教導官もティアナ・ランスター二等陸士も、 
 どちらも処罰を受けた模様。

 物語はこれよりどう加速していくか……?




第六十三話




 今日は訓練は休み。
 だからこそ街で遊ぶという選択肢もある。

 そしてティアナ・ランスター、スバル・ナカジマ。
 エリオ・モンディアル、ヨモギ・T・ハラオウン。
 彼女らもまた街へと遊びに出かけるのであった。

 因みにヨモギはというと――

(キャー! エリオきゅんとのデートv デートv)

 てな感じで浮かれていた。

「じゃあ頑張ろうね、エリオ君」
「う、うん」

 因みにヨモギがあまりにも積極的すぎるために、エリオは顔を赤くさせていた。
 かなり照れている模様である。

 まあヨモギからすれば念願のエリオとのデートなのだから、 
 いつも以上に積極的になってしまうのは仕方ないのかもしれないが。

 まあそんなこんなで浮かれていたヨモギであった。

 すっかりとあの事件の傷跡は薄くなっている。

 だがなのはやヴィータ、そしてティアナや皆の心の内にはあるのだろう。
 あの事件のことを胸に秘めて、そしてそれらを糧に更に成長していくのだから。

 だからこその――

 












Side-Ordin

 とりあえず反省文をやって、それからちょっとした謹慎。
 それだけで終わった。

 うん、それだけで終わって良かった~、と心の内で思う俺だった。

 因みにここはミッドチルダのあるアパートの部屋。
 つまりファナムが借りている部屋で、ここで俺とファナムとキャロは住んでいる。

 因みに今日は、俺とキャロの仕事は休みである。
 自然保護隊の任務は休みだ。

 まあそれほど忙しくないからこその自然保護隊なのかもしれない。
 武装局員やエリートたちみたいに忙しくはないのである。

 しかしファナムは忙しそうだな。
 そう思ってしまう俺であった。

 とりあえず今日はキャロと一緒に街で遊ぶことにしたのだった。
 キャロも一応は遊びたい盛りなのだろうし。

 そう思っていると、
 
 ミッドの街中で歌が聴こえてくる。
 その歌はなんというか、懐かしさを与えてくれるような、そんな歌が。

 だから道行く人もどうやら聞き入っているみたいだ。

 勿論、俺もキャロも聞き入っている。
 それくらい上手い歌だ。

 しかしはて?
 この歌、どっかで聞いたことのあるような。
 ま、歌くらいどっかで聞くか。

「スーダララー、グータララー」

 なんというか懐かしい、そんな感じのする。
 家にでも帰りたくなるような、そんな歌。

 そんな歌を奏で歌っているのは1人の少年だった。

 キャロよりも2歳くらい年下そうな、そんな小さい子供。
 顔に刺青、帽子に深く被り、翡翠の瞳、ギターを持って歌を奏で、
 そしてなによりも車椅子に乗っていた。

 それだけで目立つというものだ。

 だがそんな容姿などよりも、ずっと歌に聞き惚れる。

 彼の姿の物珍しさに集まってくる人もいるのかもしれない。

 だがそんなことよりも、
 そんなことは忘れてすぐに歌に聞き入ってしまう。

 彼の歌はそれほどに上手かった。

 でもそれは魔性の歌などではなくて、
 ただ人の手によって為されてきた歌。
 努力によってここまで組み上げてきた、そんな歌。

 才能もあっただろう。それでも魔性、鬼才というレベルではなく、せいぜいが天才レベルくらいか、それのちょっと下くらい。
 ならば足りない分は努力で補ってきた。

 そんな感じなものが、彼の歌からは感じ取れる。

 そして歌が変わる。

「私の~大好きな家族の~、待つ家へ~、
 帰ろ、帰ろ、家へ帰ろう~」

 それはとても家に帰りたくなる。
 そんな歌だった。

 さっきのと比べるとより一層帰りたくなる。
 そういった雰囲気を、ただ平穏を感じさせてくれる、そういった歌だ。

 俺はこういった歌が好きだ。

 なんというか、平穏を感じさせてくれる。
 
 ああ、俺は今平穏にいるんだ。
 そう思わせてくれる。
 だからこういった歌は、俺は好きなんだ。

 どうやらキャロも聞き入っているみたいだ。

「どうもご清聴ありがとうござましたズラ~」

 おー、ぱちぱち。
 といった風な拍手がそこかしこから聞こえてくる。

 つまりはそれだけ歌に聞き入っている人が多い、ということ。

 俺もキャロも聞き入っていた。
 
 これだけいいものを聞かせてもらったのだ。
 なにも出さない、ていうのは無粋だろう?
 俺はそう思った。

 と、いうわけで俺はお金を出した。
 と、いっても小金だけれども。
 日本円に換算すると100円くらいだ。

 誰だ! 今、ケチとか言った奴!
 いいじゃん! このぐらいで!

 あれ? 俺、誰と喧嘩してんだ?

「良い歌だったよなー。なぁ、キャロ」
「はい、そうですね」
「キュックー!」

 キャロもフリードも、俺と同じく聞き入ってたみたいだ。
 それくらい上手かった、ということなのだろう。

 ああ、ファナムにも聞かせたかったな、と俺はこの時心底思った。

 今度ファナムと来た時にいてくれればいいかな?

 いや、それは難しいかな。
 見たところ流れの歌い手、といった風で、
 こういったストリート音楽で生計を立ててるような感じの子供だったし。

 本当にいい感じの歌だったな、心からそう思えてしまうから。

 本当になんというか、平穏だな、と思う。

「ほら、アイスクリーム」
「はい。ありがとうございます」

 キャロはアイスクリームにぱくつく。
 うん、可愛いな、やっぱり。

 最近、親バカになってきているな~、と思っている俺でした。
 
 因みにフリードにも買ってある。
 一段アイスクリームだけれども、美味しそうに食べている。

 俺はと言うと二段アイスクリーム。
 やっぱいいよね~。アイスクリームは美味いわー。
 なんつーか久しぶりに食べたな、アイスクリームなんて。
 
 実に19年か20年ぶりくらいかな……?
 まあ前々世くらいしか食べてなかった気がするわ。

 とりあえず平穏な生活が続いている。
 ずっとこの平穏が続いているといいな、そう思えるくらいに。

 人で街は賑い、鳥は飛んで鳴き、雲は浮かび流れ、
 空でヘリは飛び、人工の木々だけれども自然はある。
 
 ああ、なんて平穏なのだろうか。
 そう思えてしまう。

 そう思えて仕方ないくらいに――

 ずずんっ

 それは揺れ。
 ほんの小さな揺れだったけれども、震動が伝わる。

 どこかで小さな地震が起こったのかな、くらいにしか思わなかった。

「なんだろ? 地震?」
「多分そうだと思います」
 
 俺もキャロも同じ意見だった。

 これは地震だと思っていた。いや、地震っちゃ地震なんだけれども。
 それでも天然の地震なのだと思っていた。

 ただ珍しいな、とは思ったけれども、そこまで不審がるものでもなくて――

 ヘリが飛んでいた地域に、
 
 なにか、気配を感じる。
 高エネルギーのようなものが感じられるくらいの存在感を、感じてしまう。

 それはフェンリール・ドラゴンゆえの感触。

 フェンリール・ドラゴンは人間と比べて遥かに感覚が優れている。
 視覚も、聴覚も、嗅覚も、そして肌で感じる強さみたいなものですらも。

 だから感じ取ることができた。

 そのエネルギーが、
 ヘリに向かっているのを!

 て、アレは!?
 機動六課のヘリじゃないか!!
 なんでそんなものが、しかもどう見ても凄いエネルギーの砲撃、 
 魔法ではないなにかが向かって行ってるのが見えた。

 俺は咄嗟に唱える。

 トラウマが発症したわけでもなく、
 ただ咄嗟に魔法を発動してしまう。
 防御魔法を――

「ラウンドシールド!!」

 俺は膨大な魔力を駆使することで遠距離にシールドを展開する。
 それは超防壁。

 ラウンドシールドは魔法を防ぐに向いた魔法。
 とはいってもあのエネルギーは正確には魔法ではない。

 だが俺の魔力量は桁外れ。
 たとえ魔力のほとんどが、その魔力量に還元されないとしても問答無用で防ぎきる。

「それにしてもなにがあったんだ……?」

 突然の砲撃反応に、俺は吃驚してしまった。
 キャロもフリードもまた、吃驚していた。

「なにが、あったんでしょう……?」
「分かんね」

 一体何が起きているのか、俺にも分からなかった。

 というかなんで機動六課のヘリが来ていて、そのヘリに砲撃が浴びせられるのかも。
 
 とりあえずは厄介な事態が起きているということだけは分かった。













 とある機動六課で。

「オージン・ギルマン三等陸士、私らを救っていただいてありがとうございました!」
「あ、はい」
「さすがオーちゃん」

 因みに表彰を貰っていた。
 
 なんでもあの攻撃を喰らっていたら、ヘリに乗っていた人たちが危なかったとか。
 そのことについて俺は八神部隊長から表彰を貰っていた。

 いやー、ぶっちゃけ咄嗟にやっちまったんだよなー。
 まあ仕方ないといえば仕方ないか。
 
 それにあのままだったらヘリは墜落していた。
 ヘリに乗っていた人もただでは済まなかっただろう。

 だからあれは正しい判断だったことには違いない。

 因みに機動六課ではヴィヴィオとかいう、金髪オッドアイの子を預かることになったそうである。

 まあ6,7歳くらいだったらしいけれども、
 キャロの友達になってくれると嬉しいな、程度に思っていたけれども。
 
 因みにその人の保護者は高町教導官になったとか。
 
 ……あれ? そういやこういう展開原作にあったような。
 そんなことを思っていた俺であった。

 まあ俺もキャロという保護者を持っているので、アドバイスできたらいいな、とも思っていた。
 いや、既にフェイトさんという先輩いるから、フェイトさんからアドバイス聞けばいいか。
  
 それでもアドバイスは多い方がいいと思うので、一応訊かれたらアドバイスつもりである。

 そんな感じだった。



[19334] 第六十四話 ある施設よりなくなりしもの
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/07/05 20:49
 母親というものが欲しくて。
 親がいるということはそれだけで嬉しい。
 いや、家族がいるだけで嬉しい。

 それはきっと人として当たり前のこと。

 家族や親、それは愛があるからこそ。
 愛があるから人はきっと生きていける。
 でも愛は時として反転し、憎悪ともなる。

 愛からあるからこそ、
 オージンは生きていける、
 ファナムは憎悪を糧にして生きてき、今を幸福で過ごせる、
 キャロはただオージンといるだけで幸せで、
 キジはただ殺したくてたまらなくて、

 そしてヴィヴィオという少女もまた、親の愛を欲していた。

 


第六十四話




 ヴィヴィオはなのはをママとする。
 なのはもまたヴィヴィオを自分の娘のように扱う。

 とはいってもそれも保護している家庭が出てくれば終わりだろう。
 ただなのはに非常に懐いているヴィヴィオがそれを納得するかどうかが不安なのだが。

「多分受け入れないと思うよね」
「そうだよね。エリオ君」

 そしてここではエリオとヨモギの2人が食事をしながら喋っていた。
 
 高町なのははいつかは離れないといけない、とそう思っている。
 しかしヴィヴィオからすればずっと一緒にいたい。ずっとママでいて欲しい、と思っていることだろう。

 というかなのはから離れようとする姿がまるで思い浮かばない。

 それくらい懐かれているというわけでもあるのだけれども。

 とりあえずは仲の良い2人を微笑ましく思っていたりするのだけれども。












Side-Hayate

 私はあることで悩んでいた。
 
 それはなのはちゃんが保護した児童。
 普通の子ではないことは確かなんや。

 おそらくは人造魔導師。
 なんらかの実験に使われるために作られた、そういった魔導師や。

 そやけどもそれだけやったら、ここまで悩むことはあらへん。

 問題は金髪に紅玉と翡翠のオッドアイ、ちゅーこっちゃ。
 
 もしかすると物凄い大事の実験によって作られた子なんやないろか。
 いや、そういったことはまず間違いないで。
 
 もしも魔力光もまた、似通った条件をもっとったら、
 おそらくはこの子は――

 いや、今はそんなことを考えへん方がええやろ。
 私はそない思うた。

 今はそっちよりかは、レジアス中将の査察が来るんをなんとかせなあかん、ということや。

 尊敬できる人でもあるけれども、
 それでも私かて負けるわけにはいかんのや。

 レジアス中将には胡散臭いゆーことでも、私は私のやるべきことをせなあかんねん。

 とりあえずはや、どないすべきかやねんけどな。














Side-Ordin

「あの、助けていただいてありがとうございました」

 俺は高町教導官に何度もお礼を言われていた。
 
 いや、それ自体は嬉しいことである。
 
 どこぞの正義の味方じゃないので、
 お礼は要らない、とか言うつもりはない。

 お礼を言われるのは気持ちいいものなのだ。
 たとえそんな気がないとしてもだ。

 だから俺はそれを受け入れておく。

 マジで心当たりない時はさすがに受け入れないと思うのだけれども。
 心当たりある時、というか覚えのあるお礼は基本的に受け入れるのが俺のスタンスである。

 謝礼の言葉であれ、なにかであれ、だ。
 まあさすがに常識外れななにかを渡される場合は拒否るが。

 まあここではそういうものを渡すことはないので、基本的受け入れるのである。

 うん、衛宮士郎とかと比べるとあんま立派じゃないな。
 いや、あんな風に他人を優先させるとか俺には不可能なんだけれども。

 あれも咄嗟の行動だったけれども、
 それでも助かった人がいて良かった、と思うのは本心なのかもしれない。

 だって俺もあの時、咄嗟でもよかったから誰か助けに来てくれれば――

 いや、そんなIFの話はやめておこう。

 助かったから助かった。
 それでいいと俺は思うから。
 だから多分それだけでいい。

「ありがとうございましたー」

 そして金髪オッドアイの少女もまたお礼を言ってくる。

 名前はヴィヴィオという。
 そういやどっかで見覚えあるなー、とは思っている。
 いや、まあ多分原作の重要キャラなんだろうな、とは思っているが。

 まあここは現実なのだ。
 そんなことを考えていても仕方がないだろう。
 
 それによく詳細も思い出せないし。
 どんな感じで重要だったのかも、最近は『リリカルなのは』の記憶が薄れてきているから、すっかりと忘れ去っているのかもしれない。

 いや、だってさすがに19年か20年も昔のことを思い出す、なんて結構難しいものだと思う。
 せいぜいが概要くらいで詳細までは詳しくなかったりする。
 忘れきっているところなんて多々あるし。

 そういうわけで気にしないようにしとこう。
 いろいろ考えて思い出せるわけでもないし。

 どんな感じのものなんてすっかりと思い出せないのだから。

 しかしなんというか、本当に懐いてるな、とは思うけれども。

 しっかし棒読みだな、と思うけれど。
 まあこのくらいの歳の子供ならそれも仕方がないだろう。
 なんせ実感なんてありはしないのだから。
 寧ろ心をこめられる方が、俺としては驚きなのかもしれない。

 目の前で救ったならばともかく、俺は遠距離からシールドを展開しただけだ。
 子供に実感を持たせるなんて不可能に近い。

「しっかし可愛い子ですね。な、キャロ」
「はい。私キャロと言います。よろしくね」

 キャロは今まで一番年下だったのだと思う。
 だからヴィヴィオという人の年下の子が出てきてくれて嬉しい気もするのだ。

 といってもフリードがいるから姉の気分は味わえている気もするが、
 フリードもフリードでキャロに育ててもらっているくせに自分が年上ではないかと主張しているらしいが。
 いや、お前のが年下だから。

 だからこうやってキャロと仲良くしてやってほしい子が増えるのはいいな。とも思う。

「え、あなた、ロリだったりするんですか?」
「違ェよ!」

 いきなり失礼なことをぶっちゃけられた。
 うぉぉい! すげぇ勘違いだろうが!

 ヨモギ、毒舌属性を遺憾なく発揮してやがる。
 どうやら隊でも結構毒舌を少しずつ解禁しているとの噂とか。

 その割に、エリオとかの前だとものっそぶりっこぶっているらしいが。

 一瞬、ファナムのオーラが黒くなった気がするので、危なかった気がする。
 うん、ファナム怖い。
 
 する気なんて更々ないけれども、浮気できねぇ、ということを再確認された。
 いや、する気なんてこれっぽちたりともないけれども。














 とある施設。
 あるところにある施設。

 そしてそこに1人の少女が来ていた。
 しかし――

「……どういうことだ? ドクターの作品がなくなっている……?
 ち。魔導堕しメルトダウンに使うつもりだった機兵はなくなっていたか。
 さすがにドクターの作品で1000年程度でなくなっているはずもない。
 と、いうことは発見されたが、それともあの事件の時から移動されているか?」

 リナス・サノマウン。
 彼女はある施設に来ていた。
 この施設はあまりにも隠された施設。

 そして彼女はあることを起こすために必要なものを探そうとしていた。

「ベル・ムーンの、マリオネットの効力は半減してしまうが、仕方ない。
 それに、魔導堕しメルトダウンを起こすにはおそらく今年、もしくは来年……か」

 必要なものがまだたまっていない。
 それをためるために、後もうちょっとかかる。
 螺旋があるために効率が上がっているが、それでも今年かそれとも来年くらいか。
 そのくらいに≪魔導堕しメルトダウン≫を起こすために必要なエネルギーはたまっているだろう。

 リナスはそれまでのための戦力を探していた。

 だがその当てもどうやら外れてしまったようである。

 マリオネットというデバイスの効果が半減してしまった、というところだ。
 その効力はいかほどのものなのであろうか。
 それはいまだ本人か、それともアルハザードの人間でもなければ予想もつかないだろう。

「だが、まさかアレもなくなっていたとは。
 一体誰が奪ったんだ……? 史上最強の質量兵器を。
 いかなる魔導ですらも弾き飛ばす究極の不壊蹂躙兵器を」

 さすがに当てはあったというのに、その当てがなくなっていた。

 だが彼女からしてみればそこまで気落ちするものでもない。

 何故ならばあった方が有利、というだけで、
 なかったとしてもそれほど気に病むことではない。
 
 計画に支障はない。
 寧ろあったらいいな、くらいのものだ。
 
 それにたとえマリオネットであろうとも、あの究極の質量兵器を動かすかどうかも怪しいものだ。
 もしかしたらマリオネットでも扱いこなせないかもしれない。

 だが最強の質量兵器と大量の機兵。
 これらがなくなったことは痛手になるのは間違いない。
 計画の練り直しをする、ということはなかったが。

 寧ろあったとしても計画を早めることも遅めることもない。
 だから希望的観測程度にすぎなかった、というだけのことである。

「≪6 6 6ナンバー・オブ・ザ・ビースト≫」

 リナスはあるものを起動させる。
 それもまた、彼女のデバイスの一つ。 
 そのデバイスは不可視のデバイス。
 ゆえに見ることはできない。

 だがそのデバイスにはある効力が存在する。

 それを以てあることを為そうとする。
 だがそれはなにを為そうとしているというのか……?

「管理局を調べよ。そして今年で見極める。
 この世界に、魔導を残すかどうかを」

 リナスは見極める。
 魔導は存在していいものではない。
 魔導という存在は人を狂わせる。大いなる力は人間を狂わせる。
 だからこそあってはならないものなのだ。

 だからこそ≪魔導堕しメルトダウン≫を起こさせる。
 
 だが彼女は猶予期間を、この次元世界に与えた。
 たとえそれが傲慢なのだとしても、それでも――

 もしこの猶予期間に、魔導の力を正しく扱えるというのならば、≪魔導堕しメルトダウン≫は止めよう。
 だがこの猶予期間で、人は魔導によって狂う、と判断したのであれば――

 問答無用で決行する。

 それゆえに、この時間はちょうどいいと思った。

 彼女は第六騎士のデバイスを起動する。
 そのデバイスを以てして調べることにする。
 それは果たして正しいか、否か。

 彼女の裁断が、始まろうとする。


















 とある研究所。
 どこにあるかも分からぬ、ただ多くの犠牲がある研究施設。

 どこぞの秘密基地みたいな感じの施設である。

 すると紅い髪で、後ろを短く括った少女があるものを見ていた。

「ほぇ~、なんあんスか? これ」

 彼女はあるものを指さしていた。
 それは彼女にとって見覚えのないもの。

 だがどこかで見たことがあるな、と思えるようなものではあるが。

「もしかして新型ガジェットッスか?」
「ああ、それか」

 するとそれに答えるのは銀髪に右目を眼帯で隠している小さな子供のような少女。

 どう見ても紅い髪の方が年上なのに、
 だが銀髪眼帯の少女の方が年上な雰囲気を出している。

 つまりは見た目ほど子供ではない、ということの表れである。

「新型じゃないさ。それはアルハザード時代にあった機兵、とドクターは言っていた。
 優れた能力値を誇る兵器とも言ってたが、まあ性能としてはガジェットⅣ型とあまり変わらんよ。
 ただこっちは完全に人型な分だけ細かいこともできるとか」

 銀髪眼帯の少女は、紅の髪の少女の質問に答える。
 
 彼女の言っているドクターの作ったものではないらしい、ということだけは分かったらしい。
 
 ただガジェットⅣ型と呼ばれるタイプのガジェットとは性能が変わらない、とのことらしい。
 つまりはそれほど高性能、というわけではないのだ。

 ただⅣ型とよりはずっと人型に近い、そんな機兵ではあるのだが。

 しかしロボットを人型にすることに意味があるのか、とも思っている銀髪眼帯の少女もいたが。

「なあなあ、向こうで面白いの見つけたぞ」
「あ、セイン姉。なんなんスか?」

 すると地中から水色の髪色の少女が現れる。
 完全に、まるで水の中から現れたかのように床下から現れたのだ。

 ここの床が特別というわけではない。
 ただこの少女の方が特別、といったところである。

 すると銀髪眼帯の少女には心当たりでもあったのだろうか、
 そのことを口にしてみた。

「ああ。多分、あれだな。この機兵を見つけたところと同じ場所にあったものだな。
 なんでも凄いものらしいぞ」
「へ~、でもただ巨大で丸いだけなのに脚が二本ついただけにしか見えないけど」
「うわ、ぶかっこそ」
「確かに不格好ではある。が、しかしその蹂躙性はゆりかごにも匹敵するし、防御力に至ってはゆりかごを越えるらしいぞ。
 因みに止める方法はリモコン以外ないらしい」
「えぇ? だったらそれ使えばいいじゃないスか」
「ただし遠距離攻撃を一切持ってないからな。逃げられたらそれほど役には立たんぞ」

 ゆりかご、それは彼女らにとっての作戦の重要キーワード。
 そしてそれに匹敵するほどの破壊兵器。
 それは一体何を示すのであろうか。

 ただ地獄の幕開けが、また一歩、少しずつ進んでいく。



[19334] 第六十五話 お腰につけたきび団子
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/07/06 08:17
 あるものを見ていた。
 
 彼は根っからの研究者。
 あまりにも恐ろしいまでの研究者。

 そして彼はあるものを見ていた。




第六十五話




「素晴らしい! おそらくウィルスが入っていたろう部分には既に病原菌が死滅しているが、
 しかしこのボディはあまりにも素晴らしいじゃないか!」

 金色の瞳に紫色の髪。
 彼は広域次元犯罪者ジェイル・スカリエッティ。

 数々の違法研究を行ってきた重犯罪者。
 
 プロジェクトFの基礎、戦闘機人プロジェクト、
 数々の理論を展開づけてきた、まさに科学者の頂点に立つ男といっても過言ではない。

 それほどまでに彼は凄まじい知能を所持しているのだ。

 だが彼はあるものを見ていた。

 巨大なロボット、それはまさに彼にとって凄まじいもの。

「ああ、私と同じアルハザードの天才、Dr.トリッパー。
 彼の作品はムラが大きいが、しかし私の作品に匹敵し、また越えるものも多い。
 まさに天才としかいいようがないではないか」

 Dr.トリッパー。
 オリッシュ・トリッパー。
 アルハザードの大科学者。

 ジェイル・スカリエッティと並び立つほどの大天才ともいうべき人物。

 まさにもう一人の天才といってもいいくらいの、それくらい素晴らしい研究者。
 
 とはいっても今ではアルハザード時代の記憶は彼にはない。
 だからDr.トリッパーがどのような人物だったか、どんなものを作っていたのか、
 その全容を知ることはない。

 だがこの作品がDr.トリッパーが作っていたもの、だということは分かる。
 だってこの巨大ロボットがあった施設に彼の名前があったし。

 だがまあどうでもいいことだろう、そんなことは。
 ジェイル・スカリエッティにとって大事なのは興味が湧くか、ないか、だ。

 なにか凄まじい防御シールドを張っていたのを見たことがあるが、
 あれは純粋に膨大な魔力を以てして作り上げた未熟なシールドだ。

 まあ魔力量だけでいうのならば凄まじい、の一言であるが、
 しかし彼はあまり興味がなかった。

 なぜならあんなのは膨大な魔力量さえあれば簡単に使えるものなのだ。
 
 ジェイル・スカリエッティにとってすれば、
 そんな単純なものに興味など湧こうはずもない。

 まあ邪魔にはなるだろうから、一応調べておきはするが。

「ああ、しかししかし、全く以て素晴らしいぞ!
 ゆりかごにも匹敵するぞ、≪20世紀少年トゥエンティセンチュリーボーイズ≫」

 Dr.トリッパーの作りあげた傑作のひとつ、≪20世紀少年トゥエンティセンチュリーボーイズ
 ただ無骨に、ただ歩くだけしかできない。
 ウィルスを吐きだす機能も持っているが、しかし今では中に入っているウィルスも既に死滅している。
 ならば役立たずのロボット、などでは決してない。

 この巨大ロボットを動かす、または止める方法はただのただのひとつ。
 このロボットを操作するリモコンをどうにかするか、直接中に入り込むしか、方法はない。

 だがこのロボットはあまりにも強力な魔甲ラバーで覆われている。
 決して壊れない、という信念のもとにつくられた。

 どのような魔法攻撃も物理攻撃も、その防御力の名の下に防ぐ。
 それほどの防御力を持ち、そしてその足はどのような状況下だろうと歩き続ける。

 落とし穴に嵌まろうが、海に落ちようが、空から落っこちようが、
 決して壊れることなく歩き続ける、決して止められない無敵の進行を可能にする。

 たとえ核だろうと、スターライトブレイカーだろうと弾き飛ばす。
 それがこの≪20世紀少年トゥエンティセンチュリーボーイズ≫の圧倒的なまでの防御力なのだから。
 
 あまりの防御力に、このロボットを止める方法など、ありはしない。
 ゆえにこその無敵の巨大ロボット。あまりにも強すぎる、魔導でさえも物理でさえも物ともせずに進行し続ける。
 その歩みを止められる者は何人足りともいない。

 たとえ完全起動したゆりかごであろうとも、だ。

 ゆえに彼の興味はまるでこの巨大ロボットに向いている。
 たとえそれが丸く巨大な胴体に脚が二本ついたような不格好なロボットであろうとも、だ。

「うわぁ、ドクター、ハイって奴ッスね」
「だな」

 そんな感じで納得して見ていた人たちもいたが。

 正直ハイになっているドクターの近くにはいたくないようだ。

 なんていうか狂気的な雰囲気に押し潰されそうで怖い。
 だって研究する時のドクターといったら物凄い勢いで狂気を振りまくのだから。

 それくらい研究命、ということでもあるのだが。

 それに話を聞いていてもまるで分からない、ということもあるのである。
 まあそれは知能が足りてないだけなのであるのだが。

 そういうわけで、Dr.ジェイル・スカリエッティがこんな状態の時は、
 さっさと避難するのが得策である、学んでいる2人はここから離れるのであった。

 因みにうっとりとしている女性もいたが。

 一番大人そうなのに、一番うっとりしているよ、この女性は。

 というわけでそそくさとその場から去るナンバーズであった。



















 管理世界にあるとある団子屋。
 そこで彼は団子を食べていた。

「なぁ、俺に団子はくれないのか?」
「たははは、犬には毒でしょう」
「いや、俺使い魔なんだが」
「私魔力資質なんてありませんから、あなたの使い魔じゃないんですが。裏技使い魔」
「うぐっ」

 イヌとキジはそこでほのぼのと団子を食べていた。
 因みに団子は主食です、と言わんばかりに食べていた。

 彼はあまりにも美味しそうに食べている。

 因みにキジは自分の分の団子しか買っていない。
 イヌには見事なまでに団子を与えていなかった。

 するとだ――

「おおい! また来たぜぇ! 
 おらおら、テメェら、さっさと金目のもん、よこしなぁ!」

 そこにある男たちが現れた。
 その手にあるのは杖型デバイス、しかもバリアジャケットを纏っている。
 感じられる魔力量からして、かなりの魔力を持っていることが窺える。

 とはいっても、キジに魔力資質などないので、魔力なんて感じられないが。

「おい、あれは!」
「一体なんなんですか? あれは」

 キジは興味無さそうに団子を頬張りながら見ている。
 なんていうか本当に興味がない。

 そんなことよりも団子の方に集中している。

「ぼ、坊やたち! と、とっととお逃げ!
 あいつらは広域次元犯罪者≪ドルン・アーミー≫とその一味だよ。
 あまりにも強すぎて、この世界にいる管理局員じゃ歯が立たないんだよ」

 因みにその管理局員は別に殺してはいない。
 寧ろ魔法攻撃によって痛めつけられるだけで済んでいる。
 なにせ局員を殺してしまったら厄介だからだ。と、いう理由だけで。

 だから非殺傷設定にして散々痛めつけてから強姦・強盗が当たり前。
 
 しかもここは辺境の管理世界であるがゆえに、高レベルの魔導師なんてやってこない。
 だからこそ弱小の、強くてもDランクがせいぜいの局員しか来られなかった。

 管理局は毎年人手不足だ。
 だからこそ十分な人材を、必要な世界に送ることができない。

 ああ、だからこそこうして極悪魔導師が蔓延る世界になってしまっているのだから。

「いえいえ、私はこうして団子でも食べてますので」
「どうするんだ?」
「そうですねぇ。ああいう悪党は大嫌いなんですよね。たははは。
 まあ私もそう言えた身ではないわけですし。
 ドルン・アーミーといえばAA魔導師犯罪者じゃないですか。
 それに広域ですし。もしかしたら知ってるかもしれませんから、訊いてみます」

 そう言って、最後の団子を食べ終わった後、彼は刀を持って前へと出ていく。

「ああ! 危ないよ! 魔導師でもないのに、行ったら危ないよ!」
「たははは、大丈夫ですよ。私、それなりに強いんで」

 団子屋の女将はキジのあまりにも無謀な行動に吃驚してしまい、
 だがそれ以上にあのままでは殺されてしまう、という思いで止めようとする。

 だが前には来れない。
 なぜなら自分も巻き込まれてしまう、という思いもあるから。

 だからこそ前へと行くことができないのだ。

 非魔導師では魔導師に勝つことはできない。
 これは常識にして絶対の法則。当たり前の絶対。
 
 太陽は東から昇る、世界は地動説、1+1=2、
 それくらいにして常識にして絶対にして覆すことのできない真実。

 ゆえにこその無謀。

「なんだ! 坊主、テメェも金目のもの、出しやがれ!」
「たはははは、嫌です。それよりもあなたがた、アーク・ハルシオン知ってますか?」
「んだ? いきなり訳分かんねぇこと言ってんじゃねぇよ!
 そんな有名人知ってるがな、場所なんてこれっぽちたりとも知らねぇ!」
「そうですか。なら用済みですねぇ」

 あまりにものほほんとした雰囲気のまま。
 
 だがそののほほんとした雰囲気が、逆に彼を怒らせてしまう。
 彼は犯罪者であり、そして短気でもあるゆえに。

「テメェ! ぶっ殺してやる! 喰らいやがれ! 魔力刃――」

 ずばっ

 一瞬の斬撃、
 
 だがその一撃はドルンのものではなく、
 
「たははは。用済み、と言ったでしょ?」

 たった一撃のもとに切り裂いたのは、ドルンの腕。
 それを放ったのはキジ。手に持つのは名刀≪吉備団子≫。

 何の抵抗もなかったかのように、ドルンの左腕を、切断した。

「う、うあああああああああああああ!!」

 どばどばと流れ出る血。
 そして少年の、キジの顔には返り血がついている。
 返り血がついたまま笑っていた。

 その姿は逆に恐怖を呼び起こすかのように。

「こ、殺せ! この男を殺せェェ!」
「お、お頭! よくもお頭を!」
「喰らえェェ!」

 キジの吉備団子による一閃は簡単にドルンのバリアジャケットごと腕を切断した。
 あまりにも凄い切れ味であった。まるでなにもなかったかのように、あまりにもあっさりと。

 すると子分たちによる魔法による一斉攻撃が始まる。

 大量のスフィアが、一斉に襲い掛かってくる。
 だがキジはその全てを――

「とろいですねぇ。たははは」

 その全てを避けきってしまった。
 避けきれない部分は吉備団子で切り裂いた。

 本来魔法は刀なんてもので切れるはずがないのに、切り裂いた。

 だがそれ以上に恐ろしいのは、少年の技術。
 キジはその全てを簡単に避けてしまったのだ。
 魔法を使うまでもなく、そしてその一瞬で子分たちに接近して――

「たははは」

 ――笑いながら切り裂いた。

「ぎゃあああああああああああああ!!」
「い、いでぇぇぇぇ!!」

 たった一瞬。
 一瞬にして接近して、一瞬のうちに切り裂いた。
 そこは既に血の海となっていて。

 ああ、なんて単純に、なんて圧倒的に。
 非魔導師が魔導師を圧倒している。

 恐ろしい。純粋なまでに恐ろしい。
 
 なにが恐ろしいのか。
 笑いながら斬っている、というところだ。
 彼は純粋に凄かった、素晴らしかった。
 だがそれ以上に、彼は切り裂くことに喜びを感じている。

 それもただの喜びではない。
 ただ壊れた壊れた人形のように、笑わないとやっていけないかのように。

「どうしたんですか? 皆さん。
 ほらほら、笑いましょ。笑うと幸せな気分になれるって、あの人は、モモ様は言ってましたよ。
 だから笑いましょーよ。でないと痛くて辛くて、壊れてしまいますよ?」

 彼は笑いを呼び掛ける。
 
 子分たちは皆あまりの激痛に叫んでいる。泣き叫んでいる。
 だがその痛みは一向に晴れない。

 なによりも脅えている。
 怖いのだ。本能的に、この男が怖いと感じている。

「相変わらず鬼畜だな」
「うるさいですね、イヌ。隠れて見ているだけですのに」
「ううっ! お、俺はもともと戦闘用だけどなぁ、魔力が足りないんだよ!」
「魔力なんてあろうがなかろうが関係ないでしょうに」

 イヌはキジのことを鬼畜と思っている。
 それくらいキジは恐ろしい。ただ容赦のない、そんな少年である。

 すると、だ――

「う、わぁぁぁぁぁ!」
「ゲッ、危ねぇ!」

 するとドルンがある魔法を使う。
 それは物質操作魔法。

 数々の瓦礫を操作する魔法。
 この魔法はAMFでもどうこうできない、そんな魔法だ。

 なぜならば魔法の効力は動かすだけ。
 実際の破壊力は慣性の法則によって動いている瓦礫。
 これならば、と思い、ドルンはこの魔法を使った。
 
 不意をついた一撃。
 この一撃で仕留める、左腕がなくなって痛い思いをしながらも、
 それでも彼はまだ戦闘不能になってなどいなかった。

 問答無用で殺す! これで押し潰す!
 そして瓦礫が彼目掛けて襲い、もう避けられない! そう思った時――

「燕、返し――」

 その全てを、一瞬にして四散させる。

 まるでバターのように、あっさりと軽く、それ以上に同時に切り裂いた。

 三つの方向から、その全てを切り裂いたのだ。
 それはまさに同時。

 ほぼ同時など生温い、真実同時といってもいい。
 それくらいなまでに切り裂いた。

「たははは、モモ様に言われた通り、努力してみればできるものですね」
「な、な、な――」
「(それができるくらい修練したのは、やっぱり恨みからか)」

 彼にはリンカーコアなんてなかった。
 だから魔法なんて一切使えなかった。

 それでも復讐のためには力が必要だった。
 相手を殺せるだけの力を。だから彼は欲した。

 ただ剣に、彼の父親から勝手に貰った名刀≪吉備団子≫を振り続けた。
 ただ愚直に、ただ振り続けた。

 その結果が、コレである。
 才能のなかった少年に、同時に三方向から切り裂く奥義を身に着けさせた。

 かつて彼の父親はそんな技がある、と言っていた。
 だから彼はそれを試した。できるはずのないものだけれども、それでも彼は習得した。
 努力に努力を重ねて、習得した。

 ただ殺しのためにその全てを捧げて――

 ゆえに彼は鬼となった。
 復讐のために、刀に自分の全てを捧げた鬼と。
 鬼を殺すための刀なのに、その鬼殺しの刀に自分の全てを捧げて鬼となった。
 なんて皮肉なのだろう。

 なんて悲劇か。

「ば、馬鹿な!? な、何故物質まで切れる――」
「ああ、どうやら魔力殺しとかそんなんと勘違いしてしまったみたいですねぇ」

 彼はなぜこの男がそんな風にわめいているのかピンと来た。
 思い至ったことはおそらくは正解であろうことも、だ。

 バリアジャケットも無視して切り裂く、魔力弾も少しだけど消した。
 これらの情報から、ドルンは名刀≪吉備団子≫の効果を、魔力殺し、もしくは魔法殺しと判断したようである。

 ああ、彼は賢いのかもしれない。
 たったあれだけでそれだけの判断を下せるだなんて。

 だが間違い。
 その答えはあまりにも早計すぎた。
 判断を下すのが早すぎた。

 だが――

「まあ教えるつもりもないんで早速気絶してくださいね。
 まあ左腕斬っても動くんですから、念には念を押して、と――」
「や、やめ――」
「たははは、まあよいお眠りを」
 
 ずばばっ

 プロテクション、ラウンドシールド、バリアジャケット
 ありとあらゆる限りの防御魔法を唱えた。
 何重にも防御魔法を敷いた。

 だがその全てを、まるで無視するかのように、スゥ、と右腕、両脚を切断する。

「あ、ああああああああああああああああああああああ!!」

 あまりの激痛。

 だが彼にとっては心地よい、そんなメロディ。
 
 ああ、彼は真実壊れている。
 心の底より壊れている。

 あまりにも辛い出来事があったために、
 それら全てを忘れるかのように、
 ただ父親の教えを守って笑う。

 笑えば幸せな気分になれる、だから笑え、そう言われた。
 だから笑う。幸せな気分になれるように常に笑う。
 だから彼の顔から笑みは消えない。

 たとえそれが激痛の叫びのメロディが響いたとしても――

(……もう、無理なのか。俺じゃあ、コイツを止められない)

 イヌはキジを止めたがっている。
 これ以上、キジに辛い道を歩ませたくなどない。

 暗い道にその身を置いてほしくなくて、明るい道を歩んでほしい。
 彼の元マスターだった男であり、キジの父親代わりだった男の願いでもあるからだろうからだ。

 でもイヌでは、もう彼を説得できないまでに、キジは狂っていた。

 殺すための刀を得て、殺すための技術も得て――

「しっかし言うの遅いですよ。戦えない癖にサポートもできないんですか? 駄犬」
「うぉい!」
「しかも匂いも嗅げない、と。全く駄犬ですねぇ」
「俺は狼だ! というか、どこの世界にいるのかも分からないのに、嗅げるわけないだろうが!」

 因みにイヌという名前ではあるが、彼は犬などではなく、狼の使い魔なのである。
 
 因みにこれは彼なりのコミュニケーションであったりする。
 イヌからしてみればなんて酷いコミュニケーションなんだ、と思ってしまうかもしれないのだが。

「たははは、まあさっさと治してやってくださいね。
 一応犯罪者になるのも面倒なんですよ」
「ちっ。ああ、俺もお前を犯罪者にさせるつもりは、ない」

 いくら狂っていても、そこらへんはキッチリとしている。
 ただ復讐するためだけに一直線に進んでいる。

 ああ、なんという憎悪なのか。
ただ冷静に、だが激情にかられ、そして喜悦のままに人を切り裂く。
狂い狂った彼の人生。
もう彼の心は狂気のみしかなくて。

その身は既に≪狂戦士バーサーカー

彼を止められよう者などいない。
止められるとすれば、今は亡き人のみ。

そしてイヌは治癒魔法を始める。
ドルンとその部下たちを、せめて死なせない程度にする治癒を。

そして感じる。
なによりも、ただ恐怖の視線を。
その対象はドルンなどではなく、そのドルンたちを倒してこの町を救ったはずの、キジに向けてだった。

だが彼は慣れている。
この程度のことなど、全く気にしない。
そんなことを気にする程度の神経など、とうの昔に切れている。

「しかし、その吉備団子、凄い効力だな」
「ええ、そうですね。吉備団子の持つ固有能力、≪抗力無視≫」

 ≪抗力無視≫、それが名刀≪吉備団子≫の持っている能力。
 ただの刀ではありえなかった。
 特殊な能力が籠められた、究極の妖刀なのだから。

 ただ慣性の法則に従って相手を切り裂く。
 ただただ外部のなにものにも左右されずに、切り裂く。
 吉備団子は外部の力を受け付けない。問答無用にその全てを切り裂く能力を持つ。

 なによりもあらゆるものの抗力を0にする。
 どのようなものの抗力ですらも0にして、切り裂く。
 だからこそこれほどアッサリと切り裂くことができるのだ。

 ゆえにそれは防御魔法であろうが、どのような物理防御であろうが、
 斬ることのできない物質であろうが、次元の穴であろうが、次元の壁であろうが、
 その刀の前では斬られるのみ。

 それが吉備団子の効果。
 ありとあらゆるものを切り裂く名刀。
 止めることもなにもできない、究極の切れ味を誇る刀なのだから。

 キジとイヌは去っていく。
 その世界から、ただ誰の目にも触れないように。
 
 ただ恐怖の対象でしか自分は去っていく。
 それが宿命かのように。
 
 分かっている。
 復讐の道は修羅の道。
 修羅の道は決して普通の人には理解することはできない。

 なによりも彼は狂人。
 決して普通の人には理解することのできない、そんな人物なのだから。

 それを理解しているから。
 だからこそこの世界から去るのである。

 ただ目標を見つけるために。
 そいつを殺すために、自らの人生を全て懸けた。

 ならば足踏みなどしてはいられない。
 復讐のために、アーク・ハルシオンを彼は探す。
 
 その男が出てきた世界を回りながら――

 そしてその様子を見ていた少女がいた。

 そして彼女は本を取り出しながら、
 その本はデバイスだった。そして――

「ヘルオアへヴン、取り出せ」
「はいはーい。しっかしあの子、リンカーコア持ってなかったね。
 なのに倒しちゃうなんて、おっそろしい子」
「……まさか、そんな奴がいるとは思わなかった。そういった奴がたくさんいれば、こんなこともせずに済んだのかもしれないがな」

 彼女は驚いていた。
 魔法を使わずに魔導師を倒す人間がいたことを。

 しかしそんなものは結局少数でしかない。
 
 見ている限り、魔導はやはり人を狂わせていく。
 まともに使っている人以上に、魔導を悪用している人の方が多い。

 そして今日もまた、リンカーコアを摘出する。
 この魔導師たちから。

 この調子ならば、きっと集まる。
 魔導堕しメルトダウンに必要なリンカーコアが。



[19334] 第六十六話 百合?
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/07/07 00:43
 ヴィヴィオは高町なのはに懐いていた。
 凄い勢いで懐いていた。

 しかしオージンとヨモギとしては安心できないでいた。

 あの男が現れるのではないか、と――




第六十六話




 実際にはそんなことはなかったぜ、みたいな展開ではあった。
 
 なんでも海は忙しい。
 そして海所属の修吾も忙しいとのことらしい。

 この前休み取ったので、なかなか休みは取れないでいるそうだ。

 と、いうかマジで来なくていいよ、とか思っていたトリッパー2人であった。

 いや、だってあの男が来たら普通にややこしくなるだろうし。

「なのはママー」
「どうしたの? ヴィヴィオ」

 今ではすっかりと親子となっているなのはとヴィヴィオ。
 本当に仲が良かった。

 因みにフェイトもママになっているが。

 しかしこうしてみてみると――

「ミッドって、同姓婚認められたっけ?」
「男!? まさかヴァイス!? それともザフィーラ!?
 あわわわ、とりあえずぶっ殺――」
「待て待て待てェェェェェ!」

 嫌だよ! 
 どこをどう解釈したら、そんな風に解釈できるファナム!

 とりあえずセットアップしたバルムンクを待機状態に戻せェェ!

 そしてその勘違いをやめろ!
 男とだなんて、俺自体が寒気がするから!!

 そんなこんなの説得で、やっと納得してもらえた。
 その際に、同じ部屋にいた連中は去って行った。
 物凄い怨念エネルギーを込められた目を向けて。

 というか寧ろあれは嫉妬の目だとは思うが。

 納得させるために甘々空間にするのは仕方ないと俺は思うわけだが。
 んなこと言っても、嫉妬の目を向けた奴らは納得してくれないし。
 まあ俺にファナムがいなかったら、俺もそうすると思うから、仕方ないっちゃ仕方ないわけだが。

「で、どう思う?」
「いや、まあ私から見ても結婚してるんじゃね? と思うんですけれど」
「あ、あはははは」
「そうですよね」
「ん」
「キュクー」

 上から俺、ヨモギ、エリオ、キャロ、ファナム、フリード。
 物凄い納得しているね、君たちは。

 どこからどう見ても、高町なのはとフェイト・T・ハラオウン、結婚しているんじゃないのか、とそう思ってしまっても仕方ないと思える。
 
 それくらい仲がいいのだ、この2人は。

 母親が2人いる。しかも現役で。
 うん、なんとなくキツイものがある気がするのだが。

 もしかしたらこのまま百合婚なんてこともありえるのではないか、と噂していた。

「そうですよね! 私もそう思います!」
「いや、なんであんた、興奮してるのよ。スバル」
「え? そう?」

 因みにスバルとティアナも会話に加わってきた。
 
 なんとなくフォワード陣とも世間話ができるくらいには仲良くなってきている。

 なんでこうも関わっているんだろうな、とは思うものの。

「百合、なんじゃないんですか? あの2人」
「否定できないけれども、まさかフェイトさんが――」
「寧ろ男の人なんて駄目なんじゃ」
「だよねー。百合だと私は思うよー」

 フォワード陣で、こそこそと話している。

 すると――

「おい、おめぇら。そのくらいにしといた方がいいぞ」

 あれ? と聞こえてきた方向に向いてみる。
 そこにいるのは永遠の幼女、とも言われている教導官。
 因みに一部の局員にはものすごい人気の教導官でもある。
 しごいてもらいたい、とおもっくそ公言されてそのハンマーでぶっ飛ばしたこともある、という噂もある。
 実はその噂、目撃者がいっぱいいるため、事実の可能性が非常に高いが。

 そしてもう1人――

 黒いオーラを放ちながら、にっこりとこちらに笑いかけている修羅がいた。

 フォワード陣は物凄い勢いで固まった。

「それじゃあちょっと早いけれど訓練しようか。
 大丈夫だよ。この前みたなへまはしないから」

 ものすごいオーラを放っている。とにかく怖い、怖すぎる。
 こんなオーラに耐えられる人がいるというのか。

 高町なのはは笑いながらも、修羅のオーラを醸し出していた。
 まさしく彼女は修羅といってもいい。
 
「え!? ちょ――」
「いやあああああああ!!」
「それじゃ」
「頑張ってね」
「じゃ」
「キュク」
「ご愁傷様。なのは、やりすぎんなよ」

 フォワード陣がつれていかれる。

 スバル、ティアナ、エリオ、ヨモギは助けを求めつつも、
 あまりにも怖すぎて関わり合いになろうとする人がいなかった。
 
 ヴィータ三等空尉も同じように合掌しながら見送っていた。
 
 因みに俺、キャロ、ファナム、フリードはその場から逃げ出していた。
 見捨てた、ともいう。
 4人から凄い恨みがましい目で見られていたけれども、あー、あー、見えない聞こえない感じなーい。

「この薄情ものー! ○○○ー、×××ー、△△△ー」

 因みに暴言を放ったヨモギは、後日ファナムからのしごきを受けたという。

 俺に向かって「ごめんなさい」と本気で土下座していた。

 一体何をしたんだ、ファナム。 
 俺は本気でそう思った。
 とりあえずファナムには逆らわないでおこう。
 
 可哀想だな、とこの時ほど本気で思ったことはない。

 因みにヴィヴィオとフェイトさんはというと――

「なのは、あんまりやりすぎないでね」
「ママー、頑張れー」

 フェイトさんは子供たちが心配で、
 ヴィヴィオは逆になのはママを煽っている様子だった。

 いや、あんまり煽るなよ、と言いたいが、子供相手だったので自重する。

 模擬戦見てると、またゲロ吐きそうな展開になるとはまあ思えないが、
 しかし普通に見てるだけでもゲロ吐きそうなことになるかもしれないので見ないことにした。

 いや、だって訓練の邪魔したらいけないと思うし。

 因みに模擬戦が終わった後は凄い勢いでへとへとになっていた4人がいた。
 かなりしんどくて辛い思いをしていたっぽい。

 俺からはご愁傷様、としかいうことがない。
 
 いや、これ以上なにを言えと。

 そして――

「はやてぇぇぇぇぇ!! だから止めろってー!」
「嫌やー! 後生やー、堪忍してやー! こっちは、こっちは辛いねーん!
 ストレスマッハでたまっとるんやー! 発散ぐらいさせてなー! 修吾君のアホー!」
「させてたまるかぁぁぁ!」

 いつものごとく、八神部隊長とヴィータ三等空尉のよる戦いが始まっていた。
 今回セクハラ対象に選ばれたんは誰なんだろう、と思っているけれども。

 因みに「ヴィータ副隊長、頑張って!」という心の声がこの時聞こえた気がする。
 何気に人気のヴィータ三等空尉だと、俺は思った。

「シグナム、お前も止めろぉぉ!」
「む。いや、私はこれからファナムかフェイトに模擬戦を頼みに――」
「んなもんどっちでもいいから!」

 因みに言うと声だけです。
 声だけが届いているので、実際どうなっているのかは俺にも見えん。

「シグナム! 主命令や! ヴィータを止めてや!」
「な、わ、わかり――」
「分からんでいい! ザフィーラ、バインドで止めろ!」
「う、うむ!」
「な、なにをする! ザフィーラ!」
「ちょ、ザフィーラ! 主に向かってなにすんねん!」
「い、いや。すみません、主。しかし――」
「主が間違ったならそれを止めるのも騎士の務めなんだよ!」

 と、そんな感じのコントにしか思えないような展開が聞こえる。
 どれだけ大きい声出しているんだろう、とも思うが一応黙っておくことにする。

 因みに日常茶飯事だったりする。
 
 因みに医務室の方に行ってみると、ぽつーんとのの字を書いていたシャマルさんを見かけた。
 あ、出番なかったの、気にしてるんだ。
















Side-Hayate

 うー、今日もまた揉めれへんだ。
 まー、今日のところはシグナムのんで我慢しとこ。

「あ、主はやて! や、やめていただきたいのですが――」
「セクハラに協力しようとした罰だ。大人しくはやてのストレス発散に付き合え」
「いや、私はそんなことは知らなかった――」
「問答無用やー!」

 んー、やっぱりシグナムのんはええ乳やなー。

 こんなにでっかいのにやらかい。
 はわー、ええ、守護騎士やわー、シグナムはー。

 私はこの時ほどそう思ったことはないで。

「いや、思うなよ」

 いやいや、ツッコミいれんといてな。
 なんで私の心の内やのにツッコミ入れられるんや?
 
 はっ、まさかこれは心の内のがつい言葉にもれてしもうた展開!?
 まさかそうなんか!?

 なんちゅーテンプレを私はしてもうたんやー!

 そんなこんなでヴィータはフォワード陣の訓練のために行き、
 シグナムは模擬戦を挑むために向かった。

 模擬戦ほんまに好きやなー、と私は思うた。
 でも事務仕事やってほしいんやけど。

 因みにフェイトちゃんは仕事があって出かけるので断り、
 ファナムちゃんはオージン君とラブラブしたいために断り、
 でやることなくなっとったらしい。

 こうなったらと思うて、オージン君に模擬戦申し込もうとした時に――

「んなに暇なら事務仕事しろよ。仕事余ってるんだからな。なぁ、シャマル」
「ええ、そうね。だからこっち来なさい」
「え。私はこれからオージンに模擬戦を――」
「嫌です」
「ちょ!? いきなりそれは――」
「ほれ、さっさと来い」
「来ましょうね。シグナム」
「ちょ、待てェェェェ!!」

 うわぁ、と思ってしもうたな。
 まあ見なかったことにしとこう。

 一応シグナム、あれやったちゅーこっちゃで。
 うん、そうしとこうか。その方が精神的にええわ。

 しっかしどうするかな。
 この預言。

 カリムの希少技能レアスキル預言者の著書プロフェーティン・シュリフテン
 予言の効果を持つ、希少技能レアスキル
 それに得られた予言。

 これがもしも解釈違い、なんやったら別にええんや。
 そやけどももしこの預言が当たってもーたら、非常に厄介なことになるんは間違いないで。
 
 それだけはハッキリと言えることや。

 とりあえずは予言の内容を、私は見直す。



旧い結晶と無限の欲望が集い交わる地

死せる王の下、聖地より彼の翼が蘇る

死者達は踊り、中つ大地の法の塔は虚しく焼け落ち

それを先駆けに数多の海を守る法の船は砕け落ちる



 そしてそれに追加された分。
 この分はまだ解読されとらん。
 なんせ今年に追加された分やからな。

 ゆっくり慎重に、解釈間違えのせんようにせなあかん。

 とりあえずどないしよか。
 私はそんなことを考えとった。

 この分にはなにが書かれてあるんや?

 新しく出た予言の分。
 それを解読できる日はいつになるのか?
 それはまだ私にはまったく分からへん。

 とりあえずこのストレス、どないしよかー。

 と、性懲りもなく考える私やった。



[19334] 第六十七話 歌い手とママ
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/07/10 00:07
 親と子のスキンシップというものはとても大切だ。

 子供は親に構ってもらえることがとても大好きなのだ。
 
 まあ例外もあるが、しかし小さければ小さいほどその傾向が強い。
 だから構ってもらえないと逆に不安になってしまうものなのである。

 だが『不屈のエース』でもある高町なのははエース級魔導師。
 ハッキリ言ってとんでもなく忙しい身である。

 だからこそ親として、子供と過ごす時間はなかなか取れないものなのである。

 そんなある日のこと――

「なのはちゃん、命令出すわ。
 とりあえずヴィヴィオと一緒に街にでも出かけぇ」

 思いがけない命令が、八神はやてから高町なのはに出された。




第六十七話




「えっと? もう一回言ってくれないかな?」
「命令でなー、ヴィヴィオと休み満喫しーやー、てことや」

 なのはは一瞬なんと言われたのか分からなかった。
 だからもう一度訊き返すことにしたが、しかしはやてからは先ほどよりも軽い口調で言われた。

 いや、いきなりそんなことを言われてもどうしたらいいのか、分からないのだけれども。

 冷静になってみよう、そう思ったなのは。

「どういうことなのかな? はやてちゃん」
「いやー、休み全然とっとらんやん、なのはちゃん。
 そやから私からのプレゼント、てことで」

 そんなことを言われてもどうしたらいいのか、分からない。
 それに皆が頑張っているのに、自分1人だけ休むだなんてそんなことできるわけなんてない。

 そう思って、なのははすぐにでも断ろうとした。

 が、それは遮られてしまう。

「働き過ぎなんだよ、なのはワーカーホリック
 この前の二の舞になんてさせてたまるか」
「あれ? 今さっき、私の名前になにかルビ振らなかった?」

 なのはと書いてワーカーホリックと読む。

 なのは=ワーカーホリックと言ってもいい。
 それくらい高町なのは教導官は仕事をしすぎているのだ。

 昔みたいな展開にはなってほしくない。
 そんなヴィータの想いからか、なのはの休日を作り出したのだ。

 まあそれくらい仕事熱心である、ということにもなるのだが、
 しかしそれでもなのはの場合はやりすぎなのだ。

 だからこそこうしてわざわざ上の方から無理やり休みを作ってあげないといけなくなるくらい。

 この頃の訓練密度はあまりにも濃い。
 このままでは無理をきたしてしまう可能性もあるため、
 この際子供のヴィヴィオがいることを利用して、このような休みを無理やり取らさせるつもりだったのだ。

 なんというワーカーホリックか。
 恐るべし、ワーカーホリック。

 まあフェイトもワーカーホリックだけれども。
 
 ヴィータとしては、ワーカーホリックもいい加減にしろ、とツッコミを入れたいくらいであった。

「そないに嫌がることでもあらへんやん。
 それにヴィヴィオも一緒に遊んでもらいたい年頃やろ。
 せやったらキッチリ遊んできーや」
「あ、うん……そうだね」

 いろいろと丸めこまれてしまった。
 が、しかしヴィヴィオと一緒にいる時間というものが大切である、ということも彼女は分かっていたのだ。

 人との繋がりは時間ではない。
 だけれどもやはりできるだけ長い時間一緒にいた方がいいのもまた現実なのだ。

 だからこそなのははヴィヴィオと一緒にいた方がいいとも思っている。

 だってフェイトからも、オージンからもいろいろアドバイスを貰っている身であるから。

 やっぱりこういったアドバイスできる繋がりがあるというのはいいものなのだな、とも思う高町なのはであった。

 因みにフェイト、なのは、オージンの3人で親御同盟を作ってらしたりする。
 まあそれぞれ子供がいるのだから仕方ないっちゃないのだが。

 なのはとヴィヴィオ、フェイトとエリオとヨモギ、オージンとキャロ。
 うむ、まさしく親子がいる3人なのであった。

「あ。でも新人たちの訓練とか、
 それから緊急時の時のために備えておく必要があるんじゃ!?」
「教導は私がやるよ。それがあたしの役目だしな」
「緊急時の時は私がちゃんと伝えるから、そんなん気にせんでええよ。
 まあそん時は休みは返上してもらうけども」

 と、まあしっかりとなのはがどう反論するかも分かっているらしかった。

 そういうわけで、なのはは、
 ヴィータとはやての好意を受けて休みを貰うこととなった。

 仮とはいえ娘のヴィヴィオと一緒に街まで出かけることとなったのであった。

 このことを娘のヴィヴィオに伝えた時、
 ヴィヴィオはとても大はしゃぎで喜んでいた。

 ママと一緒にいられて遊べる、それも一日中。
 子供にとってそれがどれくらい嬉しいことかは明白だ。

 だからこそこういったことをするのは、ヴィヴィオとなのはにとって大切なことであるのだった。

















 というわけで街へと出かけるなのはとヴィヴィオだった。
 因みにヴィヴィオが保護されたのと同じ街である。

 まあ六課から一番近い街がこの町なのだから仕方ないといえば仕方ないのだが。

「なのはママ、ほら、行こ行こ!」
「ほらほら、はしゃがないの、ヴィヴィオ」

 傍から見れば、あまり似てない2人。
 しかしこの2人は似てないとはいえ、しかし傍かれ見れば親子のようだ。

 因みになのはは変装している。
 いや、だって変装しないと、高町なのはの顔はとても有名なのだから。
 もしも顔を出して歩いていたらファンが殺到してしまうだろう。
 
 そうなればヴィヴィオとのスキンシップをとるどころじゃないだろうし、
 なによりも疲れが癒えないだろう。
 
 だからなのははわざわざ変装してきて出てきているのだ。

「それじゃあどこに行こうか」

 ヴィヴィオといろんなところを回っていく。

 なのはも久しぶりの休みを、娘と初めて過ごすために、
 だがそれでも嬉しそうだった。

 ヴィヴィオもまた母親と一緒にいられて、遊べることがとても嬉しい。
 こういったことをするのはとても楽しくて好きなのだ、ヴィヴィオは。

 本当に楽しい。
 こういったことがいつまでも続けばいいのに、そう思えるくらいに。

「はい、ヴィヴィオ。アイスクリーム」
「わぁ~い」

 ヴィヴィオはなのはからアイスクリームを買ってもらった。
 因みに2段アイスである。

 ヴィヴィオはアイスをペロペロと舐めている。
 因みにソーダ味とバニラ味の2段アイスクリームだったりする。

 やはり子供はアイスが好きということだ。
 いや、寧ろアイスは全年齢に好まれるのだが。
 オージンもアイス好きだし。

 それから彼女らのいる場所はクラナガン中央公園である。

 親子やカップルなど様々な人がその公園にはいた。

 さて、これからどうしようか? と、なのはが考えていた時、

 ギターを持った車椅子の少年が、車椅子を回しながら、クラナガン中央公園へと入って来ていた。
 背中にはギターを背負っている。
 
 そしてあるところで立ち止まって、
 それからギターを鳴らし始まる。

 どうやら歌を歌い始めるつもりのようである。

 なのはもヴィヴィオも、それが気になり始めたようである、

「なのはママ、あれなに?」
「え、えっと、多分ストリートミュージシャン?
 いや、でも子供だから違うだろうけど、でも車椅子だし」

 なのはからして見れば結構不可解な状況であった。
 だって車椅子をしている8歳くらいの子供が、ギターを弾き始めているのだ。

 なにをしているのか、あまりよく分かっていなかった。

 分かることはこれから歌を歌う、ということくらいのものだ。

 ただその子供がどれくらい歌が上手いのかは知らないが。

 そしてギターを弾き、そして歌を歌う。
 その歌は――

 音を奏でる。
 その歌は、なのははどこかで聞いた気がするけれども、
 しかし聞いたこともないような歌だった。

 だがその歌は素晴らしかった。
 なんというか、そのリズムが熱く、
 公園に来ていた親子やカップル、野次馬が集まっていき、
 そして熱狂していく。

 それほど彼の歌は素晴らしいのだ。

 感動のあまり、遂にはお金を投げ出す者もいるほどだ。
 
 まだまだ子供だというのに、歌が上手いな、と思える。
 これだと歌で生きていけるのではないか、と思えるくらいだ。

 熱く思える歌を熱唱している。
 それは心を打ち震えさせる、そんな感覚がするような歌だ。
 熱狂している者だっているかもしれない。

 熱狂するかのような、そんな歌を。
 車椅子の少年はギターを弾く。

 そして終わる。
 歌が終わると同時に、そしてそれと同時に大きな拍手が起こる。
 
 そして次の歌を奏でようとする。
 どうやらその子供は人気者らしい。
 
 それにしても奇抜な格好だな、と思う。

 その格好はどこかの民族風な格好だ。
 違うけれども、その姿は9歳くらいの時のユーノを思わせるような、
 そんな民族的衣装をしていた。 
 
 いや、スクライア一族の格好とは違うけれども、しかし似ている部分はある。

 なによりも顔に刺青があるのだ。
 それもまじないを連想させるような、そんな刺青が。

 しかも車椅子という痛々しい格好。
 おそらく脚に障害を持っているのだろう、ピクリとも動かない様子だ。

 民族的帽子に切れ目が入っているだけで、そこから片目が見える程度。
 その帽子はまるでヴィヴィオの右目のような綺麗な瞳をしていた。

 そして次の歌を歌う。

 さっきまでの歌と一転変わって少し寂しげな歌を歌い始める。
 ただこの歌もどこかで聞いたことがあるような、となのはは少し悩んでいた。

 なんでこれだけどこかで聞いたことのあるような歌なんだろう、と思ってしまう。
 自分の思い違いじゃないのか、そう思ってしまうなのはであった。

 ただヴィヴィオは楽しそうに、車椅子の子供が歌っている歌を素直に聞いていたが。
 こういった歌が分かるのだろうか。

 そして歌い終わる。
 また拍手が起こる。

 別の歌を歌う。
 数々の歌を、子供は披露していた。

 その度に野次馬は増えていく。
 もうこの群衆から抜けるのも難しいのではないのか、と思うくらいに。

「なのはママ、凄いね」
「うん、そうだね」

 ヴィヴィオはかなり喜んでいる模様。
 そんな様子のヴィヴィオを見て、なのはもまた微笑んでいた。

 ああ、やっぱりいいな。とも思っていて――

「そんじゃあ次ズラ!」

 なのははなんだか方言だね、とか思っていたりしていた。
 随分と訛った喋り方をしている。

 そこら辺も特徴的なところがあるように思われる。

 まあしかし言葉が訛っているのと、歌とは関係ないのだし、大丈夫だろう。
 事実、子供は素晴らしい演奏力を持っているのだから。

「ゆらゆら揺れれ~、
 ゆらゆら揺れれ~、
 ゆらゆらゆ~れ、揺れれ~れ~」

 ほのぼのとした歌を奏でる。
 ただ流れゆく流水のような、そんなほのぼのとした、自然の一部のような、そんな歌。

 ただ聞いているだけでほのぼのとするような、
 そんな歌を、車椅子の少年を弾いて奏で唄っている。

 ああ、なんて気持ちのいい歌なのだろう。

 そしてその歌もまた弾き終わり、そして彼の十八番を歌う。

 彼はあまり作曲が得意ではない。
 そんな彼が自信を持って最高作といえるような歌を、奏でる。

「帰ろ、帰ろ、家に帰~ろ~、
 僕たちの住む街へ~、
 家族の待つ家へ~と」

 伝わって欲しい。
 それが彼にとって、大切なこと。

 彼は心底音楽を愛していた。
 ただ歌を歌いたかった、それだけ。
 ギターを弾いて奏でたかった、たったそれだけ。

 車椅子に頼らなければならない体だったとしても、
 音楽する上では、ギターを弾く上では、歌う上ではなんの支障もない。
 だから彼は気にすることなんてなかった。

 奏で唄う。
 たったそれだけが彼の望みなのだから。

 歌い終わると同時に、観客たちも拍手し終わる。

「ありがとござましたズラ~。次の演奏は、じゃじゃん! ズラ」

 にっこりとした笑顔でそう言う。
 彼は心の底から嬉しいのだ。

 自分の歌が認められていることが。
 今までは誰かが作った歌ばかりを演奏していた。それだけしか受けていなかった。

 だけれども自分が作曲した歌も少しずつだけれども受け入れられている。
 
 それは彼にとって最上の喜び。
 歌い手としては最高の喜び。

 ああ、なんて幸せなのだろう、と歌い手の子供はそう思っていた。

 そう思っていた時だった。

 ずどんっ、そんな音が響いた。

「な、なにっ!?」

 いきなりの爆音。
 凄まじい音を鳴り響かせている。

「見つけたぞぉ! 高町なのはぁぁ、お前がいなけりゃ、お前がいなけりゃぁぁぁ!」
「な、なに!?」

 爆音と共にやってきたのは、1人の魔導師だった。

「あ、あなたは次元犯罪者バレル!」

 なのははその魔導師に見覚えがあった。
 
 それは3年前のこと。
 彼女は武装局員としてある犯罪者を追っていた。
 と、いうよりも犯罪組織を叩くための作戦に参加していたのだ。

 その作戦によって、なのははその圧倒的な魔導師としての力を見せつけて圧倒していた。
 その際にバレルという次元犯罪者も、SLBで組織ごとぶっ飛ばしたのだ。

 だがなぜここにバレルがいるのか、彼女にはそれが分からなかった。

 するとある通信が入る。

『なのはちゃん、大変や! 次元犯罪者バレルが脱獄したて!
 多分、なのはちゃんのこと狙っと――』
「もう遅いよ。はやてちゃん。とっくに来ている」

 どうやらつい先ほど脱獄したばかり、らしいということだ。

 脱獄してすぐに襲い掛かってきたのか。
 準備する間も与えないように、計画的に練られた犯行だ。

 刑務所の中でもちゃんと実行できるよう、しっかりと計画を練っていたみたいである。

 ただなのはに復讐するがために、
 SLBを受けた苦しみは想像以上であるがために。

 だからこそバレルはなのはに復讐することを決めたのだ。

「ぎゃはははは、死んでしまえ!」
「甘いよ。セットアップ」

 だがバレルは計算違いをしていた。

 なのはの実力を、なのはは即座にセットアップする。

 戦いに慣れたなのははただ冷静にセットアップする。
 レイジングハートを――

「レイジングハート」
『All right』

 ただ即座に、冷静に。
 バレルの予想よりも速くに。

「なっ!? ば、馬鹿なっ!
 く、糞ぉ! メガロシューター!」

 たくさんのスフィアを発生させる。
 バレルお得意の弾幕による攻撃、だが――

「アクセルシュータ―」

 レイジングハートよりアクセルシューターを展開する。

 それはバレルが得意とする弾幕を圧倒する弾幕。
 弾幕は高町なのはもまた得意とするところなのだ。

 ただ得意という程度では、なのはの弾幕に勝るはずがない。

「なのはママ、すごーい」

 因みにヴィヴィオはしっかりとプロテクションとかで守られたりする。
 ヴィヴィオはなのはの凄さを直接見て凄さを感じ取っていた。

「く、糞が! だがなぁ、これを使えば、話は別だ! 
 ハイパーカートリッジィィィィィィィィ!!」
「え!?」

 訳が分からなかった。
 いきなりおかしなことでもしでかしてきた。

 ただのカートリッジをロードする。
 だがそれだけで≪不屈のエース≫≪エース・オブ・エース≫である高町なのはに敵うはずもない。
 だから再び、アクセルシューターの飽和攻撃で敵を戦闘不能にする。
 それだけでいい。そう思っていたというのに――

「がああああああああああああああああああああAAAAAAAA!!」
「えっ!?」

 なのははあまりの事態に吃驚してしまう。

 それは驚きの事態。
 明らかに魔力量が跳ね上がり過ぎている。

 ただのカートリッジではここまで跳ね上がるなんてありえない。

 それに見てみれば、
 バレルの肉体が魔力量に押し潰されてボロボロになっていくではないか。

 まるで暴走、だが魔力が集って行く。

「AAAAAAAAAAA!! メガイロジュータAAAAAAAA!」
 
 暴走したかのような膨大な魔力量が溢れ出てくる。

 明らかに、バレルが保有できる魔力量を越えている。
 身体が、あまりの魔力量に耐えきれなくなってきている。

 もう彼の命はないも同然になってきている。

 だがなによりも恐ろしいのは、
 彼自身の生み出したシューターの一つ一つの込められた魔力が尋常じゃなかった。
 明らかに異常なスフィアの前に、どうすれば――

「スーシェン、セットアップ」
『OK,boss!』

 声が響く。
 それはなんの声か――

「金より生じ、火を克せ、
 北方示す夜の印、縛れ水の縄、≪金生水之縄≫」

 バインドが発生する。
 そこらにある金属より水が発生し、
 その水がバインドとなって、そのシューターの全てを縛り上げる。

 金属が多ければ多いほど、この水の縄の効力は高まる。
 ただ現在は昼であるためにその効力は半減しているが。

 発生していたのは星型の魔法陣。
 そして星型の頂点にそれぞれ丸い円が発生し、それらが線を引く。
 そして魔法陣は五角形の魔法陣と為していた。

 いきなりなにかをやらかしてくれた。
 分からない。

 だがそれでもシューターの勢いが弱まったのは確か――

「木より生じ、金を克せ、
 南方示す昼の印、射抜け火の矢、≪木生火之矢≫」

 そして炎属性のスフィアがシューターを貫く。
 水のバインドと、火のスフィアの両方によってシューターの威力が弱まる。

 しかもここはクラナガン中央公園であるがゆえに木があり、
 そして現在の時刻は昼であるがゆえに火属性の力は100%を発揮する。

「邪魔を、ずるなAAAAAAAA!!」
「今ズラ!」
「う、うん! アクセルシューター!」

 残念ながら、水のバインドと火のスフィア、
 この両方だけでも強化されたメガロシューターを相殺することは敵わなかった。

 だが弱らせることができ、だからこそなのはのアクセルシューターでその全てを相殺させることに成功したのだ。
 
 もしあのまま弱体化してなかったら、
 あのシューターは辺り一面を焼け野原にしていたのかもしれない。

 おそらくは相殺しきれなかったのかもしれない。

「糞ぉ! 貴様、この俺の――」
「オラがせっかく気持ちよく歌ってたのに、邪魔すんでねぇズラ!」

 歌おうとした時に邪魔された。
 たったそれだけだが、しかし彼にとってそれが大切なことなのだ。
 
 それに――

「オラのギターに焦げ跡ついたズラぁぁぁ!!」

 さっきの爆撃により、ギターに焦げ跡がついてしまったのだ。
 それがなによりも許せなかったのだ。

「これで終わらせてやるズラ! 
 木より生じ、金を克せ、
 南方示す昼の印、切り裂け火の剣、≪木生火之剣≫」

 木が周りにたくさんあればあるほど、その力は増す。
 そしてここは公園、人工の木ではあるが、しかし木之エネルギーを受けた火の剣はより一層燃え上がる。
 そして時刻は昼。火属性が最も燃え上がる時間帯。

 デバイスの力を受けて発生する五角形の魔法陣。
 青く赤く黄色く白く黒く虹色に、そして赤く輝いて――

「スーシェン、ソニックムーヴ!」
『All right. Sonic move!』

 ソニックムーブが発動する。

 ただ疾く移動する、それは神速の如き速さ。
 そしてバレルの隙をついて、その刃は振り下ろされる。

 ただ一瞬の交差の合間に十六もの刃を切り刻む。
 そしてたった一瞬、そしてその一瞬が終われば、即座にその勢いを利用したまま距離を取る。

 ただ一瞬の出来事にしか見えなかった。

「があああああああああAAAAAAA!」
「今ズラ!」
「ディバイン、バスタァァァァァァァ!」
「や、め、ろおおおおおおおおおおおおおお!!」

 合図をしたわけではなかった。
 
 ただ怒りのあまりに攻撃しただけのこと。

 だがそれ以上に放っておいてはいけない、と少年は判断した。
 だからこそ手伝った。本来なら手伝いなんて要らないのかもしれないのだけれども。

 しかしその一瞬で十六もの刃による一撃で、バレルの動きが止まる。
 ためていたディバインバスターによる一撃で、纏った魔力ごと一気にノックダウンさせる。
 
 こうしてバレルは魔力ダメージによって気絶するのであった。

「はぁ、はぁ。ご協力感謝するね」
 
 もし自分だけだったならば恐らく大きな被害が出ていただろう。
 子供が咄嗟にあれほどのダメージを与えなければ、バレルは周りを巻き込んで攻撃して、
 そしてたくさんの人を泣き悲しませる。

 だからこそなのはは感謝している。

 そして彼の姿を見てみる。
 
 子供が使っていたデバイス、車椅子型デバイス『スーシェン』。
 通常形態でも待機状態でも車椅子型のデバイス。随分珍しいデバイスだ。

 なにより五角形の星型の魔法陣。
 ミッド式か近代ベルカ式が主流であるこの世の中で、そういった魔法陣は本当に珍しい。

 民族的衣装からか、どこかの古い一族に伝わる魔法陣なのだろうか。
 そう思ってしまう。

 車椅子のソニックムーブによる一撃。
 まさに神速。しかも飛行魔法の速度も素早かった。
 もしかするとフェイト・T・ハラオウン級のスピードではなかっただろうか。
 そう思えるくらい、速かった。

 そして見てみると、どうやらさっきので、民族的帽子が飛んで行ってしまった。

「わー、凄かったね。なのはママ、おにいちゃん」
「いやいや、どう致しましてズ――え?」
「――え?」

 お互いに顔を見合わせると、2人とも驚きの顔をしていた。

 子供の顔がよく見てとれるようになっていた。
 刺青をしているし、少し男っぽい。
 だが髪色はヴィヴィオと同じ髪色、
 しかも瞳もヴィヴィオと同じくオッドアイ、
 右目が翡翠であり、そして左目が紅玉のオッドアイ。
 なによりもヴィヴィオに顔立ちが似ていた。

 あまりにも似ている。まるで兄妹かのように、本当に似ていた。

「ヴィヴィオ、そっくり」
「た、高町なのは、ヴぃ、ヴィヴィオ!? な、なんでここにいるズラぁぁぁぁ!?」

 子供の声が跳ね上がったのだった。



[19334] 第六十八話 ザイオン
Name: ゐを◆0c67e403 ID:83ff74d9
Date: 2010/07/07 21:32
 陰陽五行。
 木は火を起こし、火は土に還し、土は金と成り、金は水を浮き出し、水は木を育む。
 木は土を弱らせ、土は水を奪い、水は火を消し、火は金を溶かし、金は木を殺す。

 五行の名のもとに、全ては回っている。

 すべてはすべてに関係する。




第六十八話




 現在、8歳くらいの子供は機動六課に来ていた。

「うおー、すっげーズラーな」

 なんか目をキラキラ輝かせてみている。
 歳相応の子供のようだ。

 車椅子のハンドリムを回しながら、
 彼は六課内を見回していく。

 因みにヴィヴィオのことをどうして知っていたのか、
 なのはは子供に問いかけたのだが、

「あれ? なんでオラ知ってるんだろ?」

 みたいな感じで誤魔化されてしまった。
 
 その後、歌を歌いまくって、ヴィヴィオに懐かれまくった車椅子の子供は、

「もっと聴きたいズラか?」
「うん」

 という感じで非常に喜んでいた。

 いや、だって音楽家にとって歌を聴きたい、というのは凄い褒め言葉なのだから。

 そろそろ帰らなければならない時間帯になると、
 ヴィヴィオが――

「なら一緒に帰ろうよ」

 と、言っていた。
 非常に満面の笑みで言っているので、断ったら泣きだしそうな雰囲気がぷんぷんしている。
 
 なのはとしてはどうしよう、どうしよう、と思っていたりもする。

『あー、別にええで。連れてきても』
「軽いよ、はやてちゃん!」

 ものすごく軽い感じでOKを出されてしまったのだった。
 さすがにこの軽さは如何なものだろうか、と思ってしまう。

 因みに自己紹介はしている。
 彼の名前は――

「オラの名前はザイオンっていうズラ。
 この車椅子はデバイスのスーシェンて言うズラ。よろしくズラよ」
『Yeah』

 と、ザイオンという名の少年と、
 車椅子型デバイススーシェンとの出会いであった。











Side-Hayate

 それにしてもまぁた金髪に、翡翠と紅玉のオッドアイかいな。
 なんでこないにバーゲンセール並に出てくるかなぁ? 思うてしまうわ。

 そんでもバレルが使っとった『ハイパーカートリッジ』ちゅーもん。
 明らかに危険すぎる。

 込められとる魔力量が大きすぎて、使用者の肉体をボロボロにまで蝕んで、しまいには破壊してしまう代物や。
 命を引き替えに絶大的な力を得る、そんなものや。

 現にバレルは亡くなった。
 自分の魔力量に押し潰されて――
 
 なのはちゃんのディバインバスターはちゃんと非殺傷やった。
 しかも魔力ダメージでの気絶で、肉体にはなんの損傷もあらへんだ。

 純粋に『ハイパーカートリッジ』ちゅーもんの副作用で死んだんや。

 そやけども一体誰がこんなもんを作り出したんや?
 こんな危険なものを。

 私はそれを考えよったけれども――

 あかん。いくら考えてもあかんわ。
 ここはやっぱ専門家に任せた方がええな、私はそう判断した。

 こないなもん、あったらあかん。
 使うとしても、人に使ってええもんやない。

「どこのアホが作ったんやろな」

 従来のカートリッジにより遥かに優れている。
 だが優れすぎているためにそれは不良品の類となる。

 だって使ったら死んでしまうカートリッジだなんて、
 たとえその効力が素晴らしくても誰も使えへんやろう。

 本当、どこのドアホで外道な奴が作ったんか、
 それともただの失敗作を活用でもしたんか。

 どっちにしてもその効力を知っときながら、
 バレルになんも知らせんと渡した外道がおるはずや。
 
 せやけどもいくら考えてもさっぱりや。
 
 やっぱこういうのは専門家に任せて、
 私らは私らの専門のレリックと予言のことについて考えんとあかんな。

 それにもうすぐ公開陳述会もあるんやし。
 しっかり気張らんと。

 せやないと――
 ――誓うたんや。あの雪の日に。
 私の全てを。

 予言の可能性は、その公開陳述会が怪しい、とそない判断されとる。

 長年、カリムの予言を研究してきた人たちが出した内容や。
 そない大外れになることはない、と私は思うで。

 そやからおおよそ9割、ここが怪しいとそない決めたんや。
 
 私とカリムと、そしてその予言研究チームの皆で。

 絶対に予言の成就なんてさせへんで。
 必ず、や。

 しっかしそのヴィヴィオにそっくり、というわけではなく、
 ちょっと似ている程度の子供。

 ぶっちゃけそれほど顔は似とらへん。
 せいぜいが兄妹レベルの似ている程度や。
 それも髪色と瞳の色とで、余計そう思えるくらい、そんな程度のもん。

 ヴィヴィオはハッキリ女の子やし、そのザイオン君も男の子、て分かるくらいや。
 今はやりの男の娘なんてもんでもなかった。

 せやけども彼は車椅子型のデバイスに乗っとった。
 車椅子、ああ、私にも因縁のあるもんや。
 小さな頃にはお世話になっとった代物やな。

 今ではもうさよならしてもうとるけれども、
 あんな格好の子供を見ると、昔の私を思い出す。

 昔の私も脚が動かんかった。
 闇の書の呪いにかかってもうたんか、
 リンカーコアが浸食されとって、そのせいか脚に電気信号がまったく伝わらん、という結果になってもうた。

 まあそれを闇の書の闇を倒したことで、
 そして私の、夜天の王女が、私のために、自らその命を絶ったために――

 せやから、うちは誓うたんや。
 必ず、必ずや!









 機動六課

 そこでは1人の少年が歌っていた。
 因みにヴィヴィオはその歌を聴いていた。

「すーだららー、ぐーたららー」
「きゃー」

 因みに某作品の歌を歌っていた。
 皆大好きスーダラ節である。

 ヴィヴィオはすっかりとザイオンに懐いていた。
 まあなのはとフェイトにより懐いてはいるが。

 ギターを弾いて歌っている。
 車椅子に乗っているけれども、彼は全然暗くなんてなかった。
 寧ろ逆に明るい。

「うわー、上手だね。あの子」
「うん、そうね。ただ――」
「なんでここにいるんでしょうね?」

 ご飯を食べながら、雑談しているフォワード陣女子メンバーで話している。

 スバルは純粋に歌が上手いことを褒め、
 ティアナとヨモギはどうしてここ六課にいるのかが不可解に思ったのだった。
 
 なんといえばいいのだろうか。

 どうしてわざわざ六課にいるのか、ちょっと疑問に思ってしまったようで。

「いやー、宿取るの忘れてたズラから、
 泊めてもらえることになってありがたいズラ」

 まあ最大の理由としてはヴィヴィオが懐いているからだろう。

 なのはやフェイト並に懐いているわけではないが、
 しかしそれでもおおいに懐いているため、離れようとすると大泣きしてしまう。

 だから引き留めざるを得ないのだ。
 いや、ヴィヴィオを納得させれば話は別なのだから。
 絶対に引き留めないといけない、というわけではないのだが。

「んじゃあ次何歌って欲しいズラか~?」
「しっかし独特な訛りね~」
「一体どこ出身なんだろうね」

 この「ズラ」訛りはティアナやスバルにとっても聞き覚えがない。
 まあそれくらい、珍しい部類の訛りということになる。

 どこ出身なのか、よく分からない、といったところだ。

 しかしヨモギはというと――

(どう考えてもトリッパーじゃん)

 と、確信していた。

 ただ問題としては彼がどのようなタイプのトリッパーなのか、
 そこをまず判断しないとヤバいと思われる。

 つまりは修吾みたいなトリッパーなのか、
 またはオージンのようなトリッパーなのか、
 そのどちらかを判断せねばならない。

 できれば修吾みたいなタイプの転生者でないことを祈ろう。

 と思って、ヨモギは接触してみたのだが。

「んー、ここがちょっと甘いズラな。
 ここはもっと高く、あ、ここは低くした方がいいズラな」

 音楽一直線にやっていた。
 あ、駄目だ。コイツ、音楽オタク、みたいな奴だ。

 物凄い音楽好きだと分かって、とりあえず介入するつもりはないらしい。

 ただ――

「キャロ? ヨモギ? それがどうしたズラ?」
「あ、うん、どうでもいいや」

 なのは、ヴィヴィオのことは知っていたらしい。
 けれどもキャロとヨモギが入れ替わっていることに何の疑問も持たなかった。

 あまりにも自然すぎたために、一瞬本当にトリッパーなのか? と、思ってしまうくらいに。

 ヨモギもその返事を聞いて、思った。

(トリッパーによるバタフライ効果、または原作知識あんまり持ってない転生者)

 と、いうことを判断づけたのだった。

 なのは、ヴィヴィオのことは知ってた割に、
 キャロのこととかはあんまり知らなかったらしい。

 まあつまりはその程度の原作知識しか持っていない、ということである。

 そういうわけでヨモギは警戒するのを止めたのだった。

 ザイオンに非常に懐いているヴィヴィオであった。

「そんじゃ、ヴィヴィオ。
 オラの作曲した歌を歌ってやるズラ。オラのとっておきズラよ」

 歌うのは、ただ一曲。
 だけれどもヴィヴィオはこの歌が好きだった。

「帰ろ、帰ろ、家に帰~ろ~、
 僕たちの住む街へ~、
 家族の待つ家へ~と」

 それはただ平穏を歌う歌。
 ただのんぼりと、のほほんとした歌。

 懐かしさを思い出させてくれるかのような、そんな歌。
 ヴィヴィオはこの曲が好きだった。
 なぜかは分からないが。

 公開陳述会まで、残り僅か――


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