「退屈だなぁ…」
騒がしい酒場の中、少年は椅子に座り、地面まで足りない脚をブラブラさせながら一人呟いた。
「何か、面白いことでもないかなぁ…」
少年がそう呟くのも無理は無い。十にも満たない子供が酒場の大人連中の中で楽しそうにするほうがよっぽど変である。
「いい加減、帰ろうよ……飽きたよ」
次々と不平不満を口にする。悪いのは自分を放っておいて自分たちだけ楽しむ両親が悪いのだ。
とはいえここに来てまだ三十分も経ってもいないのだが。
「……はぁ」
ため息をつきながら少年は、隣に居る父の顔を見上げた。
少年の父親は眼鏡をかけた男と親しげに話していた。話は盛り上がっており、しばらく終わりそうに無い。
少年は父親から目を逸らし、隣のテーブルへと移動した母へと目をやった。
母親もまた、緑の髪の小柄な女性やポニーテールをした気の強そうな女性と楽しそうに談笑している。
周囲を見渡してみると、誰もが楽しそうな顔をしていて少年一人だけ暇そうな顔をしている。
来なければよかったと少年は思った。
十分後、退屈に耐え切れなくなった少年は、未だ話が終わりそうに無い両親を放っておいて一人酒場の中を歩いていた。
酒場は広く、さすが共和国、最大最古なだけはある。
「うわぁ…」
少年が左に目を向けるとステージがあり、そこでは妙齢の赤い衣装を身に纏った女性が激しく踊り続けていた。
そのステージの最前列で眼帯をつけた筋肉隆々な男が、思いっきり声を上げながらステージ上の女性に手を振って己をアピールしている。
「すごいなぁ…」
少年が右に目を向けると、鉢巻をした男が、きわどい服を着た気の強そうな女性とその女性よりさらにきわどい水着のような服を着た耳の長い女性に腕を引っ張られている姿があった。
周囲の人間は全く止める気配が無く、むしろどちらがその男性の心を射止められるか賭けを始めている。
「これは…」
奥のテーブルではシスターが酔って、隣にいた男を殴り飛ばし友人らしき男性と女性に取り押さえられていた。
殴られた男は泣きそうな顔をしながら必死で許してくれと懇願するが女は、細胞の一欠けらからでも復活できるでしょうがと物騒な事を言っている。
「これは、飽きないなぁ」
少年は嬉しそうに笑った。
あれから少年は、緑色のトカゲ男と赤色のトカゲ男が文化と芸術がどうのこうのと語り合っているのを物珍しそうに眺めてみたり、血のように紅いワインを一人優雅に飲んでいる男を怖いぐらいに絵になるなぁと感心しながら眺めたりとのんびり時間を潰しながら歩いていた。
覇気の無い痩せた店員からジュースを受け取り、さすがにそろそろ両親のもとへ戻ろうかと考え始めたところで、ふいに少年は壁際で一人佇んでいる女性が目に留まった。
いや、女の人じゃない、男の人かも。少年にはその人が男か女か見分けがつかなかった。
少年に分からないのも無理は無かった。
彼はとんがり帽子を深く被っており、傍目にも男か女か区別がつかなかった。
低いというわけではないが長身というほどでもなく、痩せているようにも見えるがひ弱そうな感じもしない。
安そうな旅人用のローブを羽織っていたが、その両手には衣服に不釣合いなほど高価そうな銀色の竪琴を持っていた。
、窓の外を眺める彼の姿はどことなく神秘的に見える。
どこにでも居そうでどこにも居ないような、なんとも不可思議な存在であった。
どれだけの時間が経ったのだろう。
ふっと彼が笑ったような気がした。
その目が自分を見ているような気がした。
否、自分を見ている。
少年は気付く。
窓の外を眺めていた彼の目は、いつの間にかしっかりと少年のほうへと向けられていた。
少年はその目に吸い寄せられるかのように彼の元へと向かっていった。
「君の名前は?」
彼は第一声は少年の名前を聞く事だった。
「僕はジェラール」
少年、ジェラールは答えた。
「そうか、いい名前だね」
彼はジェラールの頭をなでながらそう言った。
「ええと……おじさんの名前はなんて言うの?」
今度は少年の聞く番だった。
男の人か女の人か分からないけど、たぶん男の人だ。間違っていたら謝ろう、と考えながら。
「おじ……まあいいけどね。僕は、詩人だよ。それ以上でもそれ以下でもない」
答えになってないとジェラールは思った。
そして気付く。やっぱり男の人だったと。
「ジェラールはどうしてここに?子供はここに来てはいけないよ」
諭すように、確認するかのように詩人は言った。
「父さんと母さんが連れてきたんだ。何かよくわからないけどお祝いだって」
それからジェラールは詩人ととりとめのない話をした。
両親の話、友人の話、学校の話、この街の話、殆ど一方的にジェラールが話していた。ときおり愚痴も混ざるが、詩人は嫌そうな顔を見せずむしろ楽しそうにジェラールの話を聞いていた。ジェラールも詩人が楽しそうに話をきいてくれるので、さらに饒舌になってゆくのだった。
「それでね、ローニン先生がおたま先生に十手でなぐられてね、ローニン先生気絶したんだよ。剣術の師範なのに先生すっごく弱いの」
「ははは、ローニン先生も災難だね」
「うん。僕の家も母さんの方が父さんより強いし、どこの家でもそうなのかなぁ」
「きっとそうだよ。ジェラールはお父さんもお母さんも好きかい?」
「もちろん好きだよ。父さん思いっきり遊んでくれるし…ときどき僕を息子と忘れるほど熱中するけど、母さんもおいしい料理作ってくれるし…たまに失敗するけど」
「そっか。親子いつまでも仲良くするんだよ」
「うん。ところで詩人さん…」
ジェラールは詩人の持つ竪琴を指差した。
「聴きたいのかい?」
「うん」
ジェラールと詩人がステージを見てみると、先ほど踊っていた女性の姿はもう見えず、演奏、演劇募集の札が掛けてあった。
「……わかった。いいよ」
「ほんと?」
「うん」
詩人はゆっくりとステージに向かった。
ジェラールは急いでステージの最前列に座り、詩人が壇上に上がるのを待った。
詩人が舞台に上がる。
そして恭しく頭を下げ、厳かに歌い始める。
ここに始まるははるかなる戦いの詩
様々な生物と異世界が交わる不思議な詩
そして運命に導かれた仲間たちの詩
この詩をうたい終えられるよう精霊よ、我に力を与えよ!
いつの間にか酒場の中はしんと静まりかえっていた。
一人たりとも騒ごうとするものはおらず、みなステージに釘付けになっていた。
今は昔、年若きロアーヌ侯ミカエルが小さな帝国の君主の時。
大陸は麻のように乱れ争いは絶えなかった
ジェラールは詩人から目を離すことが出来なかった。
歌い始めてまだわずかであるが、既に物語に引き込まれている自分を感じていた。
この物語はきっと長くなる、ジェラールはそう感じ取った。
嵐の夜、一人の少女が馬を走らせていた。
風と雨と稲光は、少女の体力と気力を容赦なく奪ったが、少女は無理に気を飛ばして馬を走らせる
先に根を上げたのは馬の方であった
馬はその場で歩く事を止め走る気力を失った
全く歩こうとしない馬に業を煮やした少女は、馬を見捨て歩いて行く事に決める
数度、馬の方に振り返ったが、やはり馬は歩こうとせずに少女を見送った。
とぼとぼと一人遠い兄の元へと向かう少女は、草葉から漏れる小さなあかりを見つける
そのあかりは小さな村から漏れた暖かな光であった
少女は村で馬を貸してもらおうと足を進める
嵐の夜、少女は小さな村へと降り立った
そして物語は片田舎の小さな開拓の村、シノンから始まる
あとがき
この作品は、以前投稿させていただいた、SaGa-Make a fresh Start-の加筆修正した作品です。書こう書こうとしていながら投稿してからずいぶんと時間が空いてしまい、申し訳ありませんでした。仕事も少しずつ慣れ、時間も取れるようになったので恥を忍び、改めて一から投稿させていただくことにしました。
改めて説明させていただくならば、この作品、SaGa-Make a fresh Start-はGB版のSaGaⅠとSaGaⅡ、SF版のRomancing SagaⅠ、Ⅱ、Ⅲのクロスオーバーです。筆者はSaGaⅠとRomancing Saga-Minstrel Song-をしたことが無いので流石に書くことが出来ず中途半端な選別になりました。SaGaを知らない読者様にも楽しんでいただける作品に仕上げることが目標です。よろしくおねがいします。あとタイトルは変更させていただきました。
最後に、超・素人er様、マヒマヒ様、感想をいただいておきながら返信が遅れてしまい申し訳ありませんでした。お二人の忠告と応援を心に焼き付け、改めて構想を練り上げて作品を仕上げたいと思います。