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[19565] 【外伝更新・完結】怠惰な操り少女(オリ主もの・ある意味最強・結果最強)
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2011/02/26 22:00
 いきなりで何ですが、私こと松田杏はとてもめんどくさがりです。あ、杏はあんずって読んでください。あんちゃんはだめです。

 まず、朝起きた時点で布団から出るのが嫌になります。一日の始まりが憂鬱なんです。学校とか本当に面倒で嫌になります。
 休日ならまだ目覚めようとも思えるのですが平日は、それはもう面倒で仕方がありません。勉強なんていいですって、最低限だけで。理科とか必要無いですよ。
 でもちゃんと学校に行かないと学校からうちの両親に電話が行ってしまうので休む訳にはいきません。
 両親は私が当てた宝くじのお金で世界旅行に行ってます。私は面倒なので行ってません。
 小学三年生の子供を置いて超長期旅行とか頭おかしいんじゃないかと思われがちですが、両親は私が一人でも何にも問題が無いと知っています。だからこそのこの状況です。知ってても普通は行きませんけどね。

「・・・起きなきゃ」

 十分ほど未練がましく愛しの布団とのひと時を過ごした後、誠に嫌々ながら起床して着替える事にします。
 でも着替えを出したり自分で着替えるのが面倒なので、着替えにお願いして自分で着させて貰います。
 ・・・いえ、別に頭がおかしいわけではありません。ただ、実際そんな状況なだけなんです。
 しいて言えば、超能力的な何かでしょうか?私は物心ついた頃には既に、物や植物等の『無機物・又は強い意志を持たない生物の声を聞いて、自在に操る』という不思議な力を持っていました。
 この能力のおかげで私がどれだけ堕落した生活をしても、なんだかんだで何とかなってしまいます。ちなみに両親は「すごいなぁ」で済ませてました。流石は子供を放って旅行にいける両親です。普通じゃありません。
 先ほどの『着替えに着替えさせてもらう』のもこの能力のおかげですね。

 着替えた後は学校に持っていく弁当と朝ごはんを作らなければならないのですが、これも食材や調理道具に指示を出して全自動にします。
 宙を浮きながら勝手に斬り分かれていく食材達、そしてそれを勝手に炒めたり揚げたりする鍋・・・そしてそれを横目に見ながら、私はソファーに座って優雅にコーヒーブレイクです。砂糖とミルクたっぷりですが。
 
 朝ごはんが出来るまで、とりあえず私は朝のニュース番組を見ます。別に世間の情報は気になりませんが、朝はそれくらいしか見るものが無いから見ているだけです。
 時々テレビ越しに能力を使って悪戯してみたりもしますが、それは流石に余程暇じゃない限りしないようにしています。あ、勿論生放送以外はそんな事不可能ですよ?
 ちなみに以前やった悪戯は生放送のホラー番組で、後ろのセットにあった電球がいきなり割れるという悪戯でした。あの時の騒然としたスタジオの空気は中々良い感じでしたね。

 朝ごはんと弁当が出来上がったので早速食事にします。今日の朝ごはんはベーコンエッグとトーストです。オーソドックスですね。
 台所の方では既に汚れが落ちている調理器具が棚に戻っていて、ゴミ箱には寄せ集めた汚れや油が入っています。この能力は掃除にも使えて本当に便利です。

 さて、結局起きてからまともに動いたのが『自室から居間への移動』だけだった朝のひと時ですが、此処から先は能力の使用を自重しなければなりません。
 そう、学校です。面倒です。歩きたくないです。でも歩かないで能力を使うともっと面倒な事になります。嫌な世の中ですよね。
 まあこっそり靴とか制服に力を貸してもらって最低限の労力で歩いているんですけどね。

「行ってきまーす」

 学校が割と近くなので五分程度で到着。疲れました。もう帰っていいでしょうか?ダメですよね。
 そんなことはさておき、私が通っているのは私立聖祥大付属小学校。そう、私立です。両親の母校だからという事で通っています。
 天然ボケな父と、しっかりしている様で密かに父よりもボケている母が通っていた学校で、更に私という奇妙な能力を持っている子供が通っている・・・漫画か何かだと、まず確実に色々厄介な生徒が居そうな環境です。
 というか通っています。同じクラスだけでも三人も、そういったお話の世界でヒロイン級な子が居ます。

 教室に入って席に座り、いつも通りだらーっとしていると目に入る仲良し三人娘の姿。
 この三人が件のヒロイン級少女達だったりします。

 一人目、アリサ・バニングスさん。なんとあの世界的企業であるバニングスグループの後取り娘でツンデレという、いかにもなキャラクターの持ち主です。
 その勝気な性格に寄るリーダーシップとカリスマ性はかなりのもので、学校行事などでは役員でもないのに大抵彼女がクラスを率いていたりします。
 まさしくトップで下を率いる存在。バニングスグループは安泰ですね。

 二人目、月村すずかさん。ここ海鳴の大地主だとか、名家だとか、何か色々言われててどれが本当か分かりませんが、とりあえず誰がどう見てもおしとやかなお嬢様。
 優しげな雰囲気を裏切らずにとても優しく穏やかな性格の持ち主ですが、なんと意外にも運動神経があり得ないほどに抜群。
 まさか現実にこんなパーフェクトな感じの大和撫子が存在するとは誰も思わないでしょうね。まだ幼いですけど。

 最後、高町なのはさん。
 前の二人と比べると平凡な感じがする外見ですが、それは仮の姿。実は結構凄い子です。
 何でしょう、先ほど言った様に平凡なのですが、何故か人を惹きつける力を持っています。これも一種のカリスマでしょうか?
 算数のテストでは毎回満点らしく、両親の仕事は海鳴で知らない人は居ないとも言われている大人気の喫茶店。
 何だかこの子の場合はヒロインというより、主人公的な感じがしますね。

 この三人は同じクラスはおろか他のクラス、果ては上級生下級生にも人気があります。でもその事に気付いてるのは多分バニングスさんだけ。
 月村さんはたまに目線に気付くみたいですが、そんなに頻繁ではないと思います。
 そして高町さんは全く気付きません。これはもしかして、主人公が持つという噂の鈍感スキルなんでしょうか。

 そんな益体も無い事をつらつらと考えていたらチャイムが鳴りました。面倒ですが授業の始まりです。

「で、ここの3が---」
「(眠い・・・)」

 授業はノートを取るのが面倒なので、手に持ってるだけの鉛筆にお願いして勝手に書いててもらってます。
 シャープペンもあるのですが、芯が細いので手を引きずってもらうと折れてしまいます。なので鉛筆です。
 そんな私の手はよ-く見ると不自然な動きをしていますが、そこまで私の手を気にして見る人なんていないので特にバレません。実際小学校に入学して三年間バレていませんし。
 そしてノートを自動筆記任せた私がやる事は特に無く、毎回その時思いついた暇つぶしをしています。
 例えば教室の床に落ちているホコリを一箇所に集中させてみたり、球状にした消しゴムを転がして教室内を旅させてみたり・・・
 でもいい加減やる事が無くなってきているので最近は眠くて仕方がありません。いっそ眠りたいです。でも授業中に眠って怒られるのはとても面倒なので眠る訳にもいきません。嫌になります。

「はい、それではここまでにします」

 知らず知らずのうちに半分意識が飛んでいた私がはっと意識を取り戻すと、丁度お昼休みになった時間でした。とてもいいタイミングです、流石私。
 お昼は移動するのが面倒なのでそのまま自分の机で食べます。時々隣の席の子と一緒に食べたりもしますが、基本的に一人です。
 一緒にお話しながらお昼を食べると楽しいんですけど、ちょっと面倒なんですよね。隣の子はそんな私の性格を知っている数少ない人なので、そう頻繁には誘ってきません。
 というか友達がその子しか居ません。それ以上はほら、面倒じゃないですか。唯一の友人である遠藤さんは空気が読めるいい人ですし、それだけで満足です。

 弁当を食べ終わったら寝ます。運動?面倒です。読書?眠くなければ読みますが今日は面倒です。勉強?面倒です。
 教室の中には他にもクラスメイトがそれなりに居ますが、先ほど紹介した遠藤さん以外は私に話しかけてきません。
 恐らく私ほどクラスメイトとのつながりが薄い生徒はそうそう居ないのではないのでしょうか。担任の先生にも色々聞かれました。面倒だと正直に答えたら呆れられました。

 そのままお昼休みが終わって授業が始まり、そして放課後になりました。
 掃除は面倒ですが、ちゃんとやらないともっと面倒な事になるのでしっかりやります。能力を大っぴらに使えれば早く終わらせられるんですが、面倒ですね。

 さて、登校時と同じ様に靴や制服に協力してもらって必要最低限の労力で下校します。帰って早くダラダラしたいです。

「・・・ん?」

 そんな感じで帰宅後のひと時について思いを馳せていると冷蔵庫に食材が少ない事に気が付き、仕方が無いので買って帰る事にしました。
 なので帰宅路から少し道を逸れて商店街へ向かい・・・そしてその途中で何やら道端に青い宝石のような物を発見しました。
 何となく気になったので手元に引き寄せ---ようとして屋外なのに気が付き、仕方が無いので自分で拾いました。面倒です。

「ふーん、結構綺麗な・・・宝石なんでしょうか」

 まあ本物の宝石ならこんなところに野ざらしで転がってる筈が無いだろうと思い、そのまま『声』を聞いてみようとすると---

「あの、それ、渡してもらえませんか?」
「え?」

 いつの間にか目の前に、赤い瞳と金色のツインテールが印象的な、何処か儚げな雰囲気を纏う女の子が居ました。
 儚げなのですがしかし、その目が「絶対に手に入れる!」と口に出さず叫んでいます。これは間違いなく面倒事。さっさと渡して買い物に戻りましょう。
 という訳でこの子に渡してしまう事にしました。平和が一番ですからね。

 しかし、世の中そう簡単にはいかなかったようです。

「え!?きゃっ!?」
「っ!発動したっ!?」

 突如光を放ち始めた青い宝石。そして何ともいえないゾワゾワした感覚。嫌な予感しかしない展開です。方向性はファンタジー。
 これが選ばれし者に力を与えるクリスタルだとしても、持ち主に呪いをかけるアイテムだとしても、とにかく面倒な展開が起こる事は必須です。
 そんな事はお断りです。私は日々ダラダラ過ごしたいのです。なので---

「何が起きてるのかよく分かりませんが、静かにしてくださいね」

 そう宝石に命令すると、途端に光が止んで大人しくなりました。どうやらファンタジックな物でも私の能力は通用するみたいです。
 ともかくこれで落ち着いたので、目の前の金髪の少女に宝石を渡そうとしてそっちに目をやると---

「・・・へ?あ、え?」

 その少女は大きく目を見開き、物凄くあり得ないモノを見た様な顔で私を凝視していました。
 ・・・おぉう、これはまさかやってしまったんでしょうか。ファンタジーな宝石の発光を見て事情を知ってるような反応をしていたので、能力を使っても同じファンタジー的な意味で問題ないかと思いましたけど・・・
 ううむ、面倒ですね。今の内に帰っていいでしょうか。


-----あとがき-----

チラ裏の「ふと思いついた~」内で連載していた作品を分離して移動しました。
これからよろしくお願いします。

・こっそり追記
HOMEリンクが無くなって作者のSSを纏めてるブログに来れなかった方が居たので・・・
『猫好きSS作家のアレ』というブログです。興味があればググってどうぞ。



[19565] 第2話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/06/14 20:52
 Q.目の前で困惑して頭を抱えながら「魔法?いやでも魔法陣が無かったし・・・」とか「願いが叶った?いやでも・・・」と考察状態に入っている金髪の子はどうすればいいでしょうか?
 A,どうにもなりません。現実は面倒です。

 いやはや不味ったみたいですね。ファンタジー住人かと早合点したのもそうですし、こんなに安易に能力を使ってしまったのもそうですし。
 私はこのめんどくさがりな部分を除けば結構しっかりしていると自負していたのですが、やはりあのボケボケ夫婦の娘だったという事でしょうか。
 両親にあまり似ていない私でしたが、今更になって相似点が判明するとは・・・ちょっとだけ嬉しいです。あんな親ですが大好きですし。

 さてと、このまま帰ってしまいたい衝動に駆られているのですが、流石にそんな事をするともっと面倒な事に巻き込まれそうですよね。この子はこの宝石を捜しているみたいですし。
 というかこの宝石は何なんでしょうか。あの発光現象からしてファンタジーな物という事は確実なんでしょうけど・・・うん、今のうちに『声』を聞いてみましょう。

「(というわけで、聞こえます?)」
『---』

 おお、ファンタジーな宝石なので言語形態的な意味で言葉がわからない思いましたが、そんな事は無かったようです。あ、ファンタジーだからこそなんでしょうか。
 とりあえずこれで意思疎通が可能ですね。それじゃあ色々教えてもらいましょうか。

「(それじゃあまずは・・・そうですね、お名前を聞いてもいいですか?)」
『---』
「(成程、ジュエルシードですか。宝石の種とはまた素敵な響きですね)」

 やはり土に植えたら宝石の花が咲くんでしょうか。栽培は面倒ですけど、ちょっと見てみたいかもしれません。

「(それじゃあ何て呼びましょうか。ジュエルさん?シードさん?)」
『---』
「(NO.5ですか?じゃあ五番さんって呼ばせてもらいますね)」

 しかし番号ですか・・・NO.5という事は、少なくともジュエルシードが他にも四つあるという事ですね。いったい何なんでしょうか?
 ううむ、ここはご本人に聞いてみるべきですね。

「(五番さん五番さん。さっき光ってたのって何なんですか?)」
『---』
「(魔力とは予想外です。本格的にファンタジーですね)」
『---』
「(魔力と聞いた時点で予想してましたけど、魔法も存在するんですか)」

 あ、ジュエルシードが魔法的な宝石という事は目の前の子は魔法少女なんでしょうか。
 どうしましょう、魔法少女は正体がバレたら魔法の国に帰らなきゃいけないと相場が決まっているのですが・・・ここは秘密にしておきましょう。話に巻き込まれたら面倒ですし。

「(あ、魔法って言ってましたけど、五番さんは何か魔法的な事が出来るんですか?)」
『---』
「(ほほう、お願いを叶えるですか)」

 よし冷静になりましょう。お願いを叶える。成程そんなものが最低でもあと四つですか。素晴らしいですね。
 こんな面倒そうな事情が無ければ今すぐにでも集めて私の怠惰ライフのお手伝いをしてもらいたい程です。

『---』
「(え?でも制御が大変だから大抵お願いが曲解されるんですか?それじゃああんまり意味が無い様な気がします)」
『---』
「(あちゃー・・・悲しいですね。お願いを叶える為じゃなくて唯のエネルギー炉扱いされてきたとは)」

 魔法の宝石も色々事情があるんですね。せっかく作られたのに本来の目的で使われないなんて・・・いくら使い方が難しすぎると言っても。
 しかし制御ですか。・・・もしかしたら、私のこの能力で何とかなったりしません?

「(ちょっと失礼しますね。・・・はい、自分じゃよく分かりませんけど、こんな感じでやったらちゃんとお願いが叶えられます?)」
『---』
「(おお、出来そうですか!じゃあえっと、お願いを叶えてもらってもいいでしょうか?)」
『---』
「(あ、はい。じゃあ調整して不具合が無くなった形のまま固定しますね)」

 願いを叶える宝石からお願いされたのは私だけじゃないでしょうか。まあでも代わりに私の願いも叶えてもらうので文句は無いですけどね。
 しかし、願いが叶うんですよね・・・最終的に金髪の子に渡さなきゃいけないですし、この場で叶えられて、かつこれからも機能し続けてくれる願いがいいですね。
 うーん・・・というか、そもそもどんな願いが叶えられるんでしょうか。

「(というわけで、どんな事が出来るのか聞きたいんですけど)」
『---』
「(ほほう、魔力で何とかなりそうな事なら全部ですか。万能ですね)」
『---』
「(いやいやお世辞なんかじゃないですよ)」

 しかし困りました。ここはいったいどんなお願いをすればいいのでしょう。色々思いついてしまって困ります。
 ・・・あ、そうです!ここは今後の私の生活の為になるこのお願いにしましょう!

「(あっと、今以上に筋力とか体力が低下しない様に、最低でも現時点を維持し続けるとか出来ますか?)」
『---』
「(おお、大丈夫ですか!お願いします!)」
『---』
「(はい。あ、低下させないだけで成長は出来る様にして下さいね?あと体脂肪に関しては低下出来る様にも。出来ます?)」
『---』
「(ありがとうございます!最高すぎです!)」

 五番さんが再び強く光を放ち始めました。何か金髪の子が光を見て我を取り戻したのか「また発動した!?」とか言ってますが、今の私には気になりません。
 そのまま光を放つ五番さん。そして光が収束して球の様になり、それが私の中へと入っていきました。
 体の中が一瞬ポカポカと暖かくなりましたがすぐにそれも消えて、五番さんの光も収まりました。

『---』
「(完了ですか、本当にありがとうございます!)」

 ああ、これで将来の体力に関する不安が消し飛びました!際限なくだらけても問題ありません!今日は何て素晴らしい日なんでしょうか!
 もう今日は帰宅した後は一切自力で動かない事にします!空飛ぶ座布団に乗って過ごします!ああ・・・幸せな生活が私を持っています。

「あの・・・」
「あ、はい?」
「だ、大丈夫?どこかおかしくない?」
「ええ、むしろとても気分が良いです。あ、この子が欲しかったんですよね。どうぞ」
「あ、ありがとう・・・?」

 何だか展開についていけてない様子ですが、今の幸せな私には全く気になりません。
 欲を言えばもっと色々叶えてもらいたかったんですけど、流石にこれ以上は金髪の子が見逃してくれなそうな気がしますし・・・心底残念です。
 あ、そうです。

「(五番さん、ジュエルシードって全部で何個あるんですか?)」
『---』
「(そ、そんなにあるんですか!?これは探すべきですね、面倒ですけど)」
『---』
「(はい、お仲間にあったらヨロシク言っておきますね)」

 よし、今度から周りを注意深く見て探してみましょう。わざわざ探しに行くのは面倒ですが、私の行動範囲内なら問題ありません。
 そして・・・持ち帰るのは面倒な事になりそうですし、今回の様にその場でお願いを叶えてもらってお別れした方がいいですね。よし、このプランで行きましょう。

「それでは、宝石探し頑張ってくださいね」
「あ、えっと、うん」

 そしてポカーンとしている金髪の子の横を通って、私は軽快な足取りのまま帰宅しました。足を動かしているのは靴と制服ですけどね。

 あ、買出しを忘れてました・・・今度ジュエルシードを見つけたら食事や栄養関係のお願いにしましょうか。
 とりあえず今日はもう外出するのも面倒ですし、このままソファーでコーヒー牛乳でも飲みながらのんびりテレビでも眺めましょう。
 この時間はワイドショーくらいしかやってないんですけどね。



[19565] 第3話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/06/25 16:53
「旅行に行くよー」

 いきなり両親が帰ってきたと思えばそんな事を言いました。まだおかえりとすら言ってないんですが。
 というか旅行ですか。貴方達はずっと旅行三昧じゃないですか。確かに今は連休なので旅行に行く家族は多いですけど。

「普段から杏は遠出しないだろう?だから偶にはね」
「それに久々に家族で温泉でも行きたいもの。勿論杏がめんどくさがらない様に近場よ?」

 その為だけにわざわざ世界旅行から帰還したんですか。いえ嬉しいですけどね。
 それにしても近場で温泉ですか・・・という事は、何度か行った事のある海鳴温泉旅館でしょうか。あそこは結構好きなので嬉しいですね。
 ご飯は美味しいですし、温泉も広いですし、自然も多いのでのんびりするには最高の場所です。最近ジュエルシード探しで疲れていたので、ゆっくり休むには丁度いいでしょう。
 まあ探すといっても、登下校の時に植物や石や聞き込みをするだけなんですけどね。

 そうそう、聞き込みで何度かジュエルシードの話を聞く事が出来ました。
 でもその殆どが例の金髪の子とか、そのライバルっぽい白い子が持っていってるみたいです。やはり魔法少女にはライバルがいるものなんですね。流石お約束です。
 しかしそのお陰で私がジュエルシードを見つけることが出来ません。もっと聞き込み範囲を広げれば別かもしれませんが、それは面倒なんですよね。
 ・・・とまあ、そんな感じで、普段より色々考えたり動いたりしていたので疲れているわけです。なので、今回の旅行の話はのんびりするには丁度いいですね。

「というわけで準備が完了しました」
「うん、後ろで色々飛び交ってるなぁとは思ってたけど、やっぱり準備だったんだね」
「相変わらず便利よねぇ~」

 父さんも母さんも相変わらずリアクション薄いですよね。問題は無いんですけど。

 さて、父さんが運転する車で旅館に向けて出発です。車内では今までの旅行で行った時の話しを色々聞いています。
 でも所々妙な話が出てきますね。紛争地帯でテロリストと飲み会したとか、ドイツで吸血鬼と月見したとか、香港で凄い特殊警察っぽいのに遭遇したとか、アメリカで超能力者に出会ったとか。
 最初のテロリストはまぁ理解できないでもないですけど、後は全部ファンタジーじゃないですか。あ、私もファンタジーでしたね。これは失敬しました。
 というか私の両親はどんな人脈を作り上げているんでしょうか。私も大概とんでもないですが、それよりもこの両親のほうがとんでもない気がします。
 まあお話が面白いので問題は無いんですけどね。私も魔法なんてものに遭遇した挙句お願いを叶えて貰ってる訳ですし。

 でもちょっと長い時間話をしてて疲れたので眠る事にしました。おやすみなさい。

「着いたわよ~」
「うぅ?はい~」

 母さんに起こされると既に海鳴温泉旅館に到着していました。それでは早速・・・

「森の中でお昼寝してきます」
「いってらっしゃーい」
「迷子にならない様にねー」

 迷子なんてなりませんよ。植物の皆さんに道案内してもらえばいいですし。

 さてさて、ここに来た時にいつもお昼寝している場所へとやってきました。
 周りには木があり、しかしそこまで密集している場所ではないので木漏れ日が降り注いでいます。近くには川があり、水の流れる音が何となく安らいだ気持ちにさせてくれるいい場所です。
 ここには昔私が作った木のベンチがあり、毎回ここでお昼寝しています。勿論作り方は能力を使ってです。木の温もり溢れる良いベンチですよ?
 さてお昼寝を・・・と思いましたが、せっかく遠出したので周りの植物にジュエルシードについて聞いてみましょう。何か良い証言が得られるかもしれません。

「---ということなんですが、何か知りませんか?」
『---』
「え?知ってるんですか?」
『---』
「おお、むしろすぐそこに落ちてるんですか!」

 どうやら今日の私はとても運がいいみたいですね。まさか旅行に来てジュエルシードが見つかるなんて思ってもいませんでした。
 とりあえず道案内してもらって、ジュエルシードが落ちている所に行きましょう。勿論、ベンチに座ったままで。歩くの面倒ですしね。

 僅か二分で到着しました。本当に近いですね。というか川にあったんですか。流れて行かなくて良かったです。雨が降ってたら海まで行ってたかもしれませんしね。
 ま、そんな事はさておくとして、まずはお話しましょうか。

「こんにちは。貴方の兄弟?の五番さんの友人です。杏って呼んで下さい」
『---』
「あ、はいそうです。NO.5のジュエルシードです」
『---』
「十八番さんですね。よろしくお願いします」

 さて、お願いを叶えて貰いたいんですが・・・ううむ、どんなお願いを叶えて貰いましょうか。一応今度は食事関係と考えていたんですが・・・

「とりあえず、ちゃんとお願いが叶えられる様に調整しておきますね」
『---』
「大丈夫ですよー五番さんのお墨付きですから」
『---』
「はい、ちょっと待ってて下さい・・・よし、完了です」
『---』
「いえいえ、お願いを叶えて頂ければそれでいいです」
『---』
「ありがとうございます。でも、まだお願いが決まってないので今考えますね」

 さてどうしましょう。食事関係はちょっと我慢すれば何とかなるんですが・・・実はちょっと叶えてもらおうか悩んでいる事があるんですよね。
 実は私、物凄く身長が低いんです。132cmしかありません。130代のクラスメイトは他にもいるんですが、私は今の身長になってから全然伸びなくなりました。
 寝る子は育つという言葉が本当なら今頃私は170超えてもいいくらいな筈なんですが・・・せめて150cmは欲しいです。
 しかし、しかしですね?ジュエルシードにお願いしていきなり身長が伸びてしまったら、どう考えても面倒な事にしかなりません。
 徐々に伸びるようにして貰ったとしても、後々から自力で急激に伸びて決まった場合、身長が大変な事になってしまいかねないですし。
 それより何より、別に身長が低くてもちょっと視点が低かったり微妙に悲しい気持ちになったりするだけで、堕落した生活を送る上では問題が無いんですよね。
 うーん、どうしましょうか・・・二つのお願いを叶えるのもいいですけど、その途中で魔法少女がやってきたら面倒ですし。出来るだけ見つからないうちに逃げちゃいたいんですよね。
 えーとえーと・・・あ、そうだ。

「身長を3cm伸ばすってお願いなら、どれくらいの時間で出来そうですか?」
『---』
「おお、早いですね」

 よし、じゃあまず最初に食事関係のお願いを叶えてもらって、その後に身長を少しだけ伸ばしてもらいましょう。3cmくらいなら誤差のうちですよね。
 それじゃあどんなお願いを叶えてもらいましょうか・・・

「・・・よし、必要な栄養を勝手に毎日ちゃんと取れる様に出来ますか?最近買出しが面倒なんですけど、栄養面で考えるとこれ以上手抜き出来ないんですよね」
『---』
「おお・・・空気中にある魔力を栄養にしちゃうんですか。霞を食べて生きる仙人みたいですね」
『---』
「あ、はい。じゃあお願いします」

 十八番さんから青い光が放たれ始めました。多分、以前会った金髪の子か見た事無い白い子かはわかりませんが、これで気付いちゃうでしょうね。早めに逃げないといけません。
 それはまあ置いといて、光は前回と同じ様に収束して球体になり、私の中に吸収されていきました。
 これで私は栄養失調とは無縁の体に進化したわけですね・・・素晴らしいです。

『---』
「はい、ありがとうございます!・・・それで、もう一つだけお願いしたいんですけど、いいでしょうか?」
『---』
「ありがとうございます!えっと、身長を3cmだけ伸ばしてもらえないかなぁ、と」
『---』
「い、良いじゃないですか!気になるんですもん!」
『---』
「うぅ・・・はい。お願いします」

 十八番さんにからかわれました。魔法の宝石にからかわれるなんて多分私だけだと思います。うぅ、悔しい。
 でもお陰で身長が少しだけ伸びました!大きくなった瞬間いきなり視点の高さが変わってちょっと気持ち悪くなりましたけど、嬉しいので問題ないです。
 うふふ・・・135cmです。幸せです。

「それではそろそろ失礼しますね。多分もうそろそろジュエルシードを集めている魔法少女が来ると思うので、ご兄弟に会えますよ」
『---』
「あー・・・恩があるので叶えて差し上げたいんですが、巻き込まれるのはちょっとアレなんで。また他のジュエルシードを先に発見したら調整させて頂きますね」
『---』
「はい。それでは失礼します」

 さて、誰かがやってくる前に早く逃げてしまいましょう。ベンチさん全速前進です!
 そして今度こそお昼寝します!今なら幸せな気分で眠れるでしょうしね。

 その後、お昼寝を終えて旅館に戻り、美味しいご飯や温泉を堪能しました。
 何やら同じクラスの仲良し三人組がここに泊まっていたみたいですが、温泉以外では客室に篭ってたので全然遭遇しませんでした。
 しかし・・・私がお昼寝してる最中に魔法少女がバトルしていたと植物の皆さんが言ってたんですが、まさか白い子の方が高町さんだったとは・・・やっぱり主人公だったんですね。

 しかしそんな事はどうでもいいのです!今重要なのはもっと別の事!

「少し体重が増えました・・・」

 そうです。栄養が勝手に足りてしまうのに食事なんてしたら、そりゃあ栄養過多で太りますよね。今までは何だかんだで体質なのかあまり太らなかったんですが。
 今度見つけたらこの辺りを何とかして貰いましょう。そうしましょう。切実に願います。明日からは少しだけ頑張って探しましょう。面倒ですけど、今回は緊急事態ですし。



[19565] 第4話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/06/14 20:53
 由々しき事態です。大変由々しき事態です。
 めんどくさがりの私がわざわざ放課後に外を散歩してまで、全自動ダイエットの為にジュエルシードを探しているんです。
 それなのに今回に限ってタイミング良く見つかってくれません。大抵現場に向かう前に回収されるか、既に回収された後かのどちらかです。
 まあおかげで散歩のせいで体重が元に戻っちゃったので不幸中の幸いではあるんですが・・・なんだか納得出来ません。
 とりあえず体重が戻ったので今はもうあまり真面目に探してはいないんですけどね。

 そんな私ですが、最近はジュエルシード探しとは別によく公園のベンチで休憩しています。
 海鳴温泉近くの森の中でもベンチでのんびりしていましたが、この公園もなかなか気持ちがいいです。始めはジュエルシード探しで来たのですが、ここでのんびりする為なら少しぐらいは散歩しててもいいかもしれません。
 心地よい日差しと遠くに聞こえる波の音、囀る小鳥の鳴き声・・・ああ、癒されます。なんとなく緑茶でも飲みたくなる気分です。
 ・・・というか、良く考えたら、今日は植物や無機物に聞き込みしないで普通にのんびりしに来てしまいましたね。
 私はどうやらすっかり活動的なアウトドア派になってしまったようです。ジュエルシードが無くなれば外出なんてしなくなりそうですけどね。

「ふぁ~・・・んぅ、眠くなってきました」

 なんだかベンチに座ると眠くなってしまうんですよね。今までの行動による条件反射でしょうか?
 うーん・・・よし、今日はちょっとお昼寝してからジュエルシードの聞き込みを開始しましょう。欲求には正直に生きるべきだと思います。
 というわけで、おやすみなさい・・・


「ん~、なんなんですか・・・」

 何だか変な音が聞こえました。そして何か体が変な感じがします。おかげで目が覚めてしまいました。
 全く何がどうしたんで・・・

「・・・おおぅ」

 目を開くと何故か空中にいました。良く見ると木の枝の様なものが私を掴んで持ち上げています。
 そしてすぐ目の前にはモックとかゴンザレスとか呼ばれそうな感じの木の化け物が居るではありませんか。
 というかこの化け物からジュエルシードっぽい感じがしますね。もしかしてこれが願いが歪んで叶った状態なんでしょうか。何の願いを叶えたのか非常に興味がありますね。
 というか聞き込みをしない時に限ってこんな近くにジュエルシードがあったなんて運が無いですね。いえ、最近運が良すぎたんですし、今度は不運が続くんでしょうか?

「くっ!松田さんを放せぇー!!」
「アークセイバー!!」

 何やら声が聞こえたので後ろを振り返ると、白黒魔法少女コンビが枝を振り払いながら私を助けようとしているではありませんか。
 どうしましょう、別に苦しくもないし、能力を使えば普通に止められるんですけど・・・ここは空気を読んで助けてもらうまで我慢したほうがいいんでしょうか。

「そこんところ、どうしたらいいと思います?ジュエルシードさん」
『---』

 成程、ジュエルシードさんは願いを叶えただけなのでどうなっても知りませんか。そりゃそうですよね。

「あ、でもそれなら、何で私はこんな丁重?な扱いなんでしょうか?」
『---』
「おお、ジュエルシード達の間で噂になってるんですか」
『---』
「あ、はい。じゃあ七番さんって呼びますね」

 しかし一体どんなネットワークを用いて噂しているんでしょうか。やはり魔法的な感じで念話とかでしょうか?それとも私みたいに植物を介して?
 ここはやはりファンタジーらしく念話を推したいですね。

 さて、どうやら私が木の化け物の目の前に居るせいで強い攻撃が出来ずにジリ貧になってしまっているみたいです。
 これだと何時までたっても私はのんびり出来ませんね。仕方がありません。多少面倒な事になりますが、私が何とかしましょう。

「というわけのなので、七番さんそろそろ終わってください」
『---』

 途端、あちこちに枝を伸ばして暴れていた木はシュルシュルと音を立てながら小さくなっていき、最終的には普通の木に戻りました。
 私もそのまま地面に降ろされました。やっと地に足を付けれますね。苦しくないとはいえ、ずっと枝でグルグル巻きはちょっと勘弁でしたし。

『---』
「あ、いいですよ。すぐ調整しちゃいm「あ、あのー・・・」っと、はい?」

 七番さんにも調整のお願いをされたので早速やろうと思ったのですが、金髪の子に話しかけられてしまいました。どうやら二回目なのでそこまで驚かなかったようです。

「ちょっと待っててください。今この子を調整しますから」
「あ、うん」
「ありがとうございます。---はい、完了しました。どうですか?」
『---』
「そうですか。じゃあ今回はお願いは無理そうなのでこれで失礼しますね。はい、どうぞ」
「あ、えっと、ありがとう?」
「それでは」

 さーて今のうちに帰りましょう。今ならまだ余計な混乱に巻き込まれな「ええーーー!!!??」いで済みませんでしたね。惜しかったです。
 はぁ、面倒です。ジュエルシードでお願いが叶えられないなら魔法関連なんて一切関わりたくないんですが・・・

「い、いいいまジュジュ、ジュエルシードで、ジュエルシードが、ええー!?」
「すみません高町さん、日本語でお願いしたいのですが」
「あり得ない!?っていうか調整って言ってた!?ロストロギアの調整!?なんですかそれ!?」
「すいません小動物さん、違和感があるので動物らしい声で喋っていただきたいのですが」
「フェ、フェイトから聞いてたけど、本当に魔法無しで止められる人が居たんだね・・・」
「すいません犬さん、貴方も違和感があるので動物らしくお願いします。あとフェイトって誰でしょうか?」
「えっと、私です」
「ああ、貴女がフェイトさんでしたか。先日はどうも。というか落ち着いてますね」
「二回目だから・・・」
「成程。まあとりあえず色々面倒なんで私は帰りますね」
「「「「ダメ!!(です!!)」」」」

 ああ七面倒な。やっぱりもう少し待った方が良かったんでしょうか。完全に巻き込まれてしまいましたね。嫌になります。
 私はもう疲れたので、家に帰ってコーヒー牛乳でも飲みながらワイドショーでも見ていたいんですけど。意外と面白いんですよ、ローカル局のワイドショーって。

「あー君達、ちょっと良いかい?」
「「「「!?」」」」
「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。君達に色々と聞きたい事がある」

 ああもう七面倒どころか二乗して四十九面倒な事態になりそうな予感がします。
 というか時空管理局って何ですか。アレですか、時空って事はタイムパトロールとかそんな感じですか。そうすると魔法の国は未来にあるって事ですか?
 というか・・・えと、しつむかん?とか明らかに何らかの役職に着いてる人がこんな子供なんでしょうか。魔法の世界は人材不足なんでしょうか?
 そんな夢やロマンが崩れる様な実態はあまり知りたくは無いんですが・・・

 そんな事を考えている間にフェイトさんと犬さんが逃げ出してしまいました。やはり高町さんが主人公でフェイトさんがライバルキャラだったんですね。
 しかしどうしましょう。時空管理局って多分警察みたいな組織でしょうし、私は事件に巻き込まれた扱いなんですよね?
 面倒です。ああ面倒です。四十九面倒どころか二乗して・・・えっと・・・とにかく面倒です。
 帰っていいですか?・・・ダメですかそうですか。
 あーもう明日からジュエルシード探しなんて止めてしまいましょう。今まで叶えてもらったお願いだけで十分です。これ以上事件に巻き込まれたく無いですし。
 ・・・とりあえず、アースラ?に着いていく事にしましょうか・・・



[19565] 第5話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/06/14 20:53
 さて、四十九面倒を二乗して二千四百一面倒なのですが、時空管理局とやらの人達が居るというアースラ?へ向かう事になりました。
 どうやら転送で向かうみたいです。いかにも魔法的ですね。ちょっとだけワクワクしてきました。
 ・・・あ、二千四百一であってますよね?ちょっと空いた時間で計算してみたんですけど。

 そんな事はどうでもいいですね。

 さて、転送してもらってアースラ?に来たわけですが・・・なんでしょうこの近未来的な場所。というか戦艦?宇宙戦艦なんですか?
 いやこれはこれでアリなのかも知れませんけど、私個人としてはもっとファンタジックな感じが良かったです。せっかくの魔法なんですから。

 まあそんなこんなで責任者らしき人とお話しすることになりました。
 途中でマスコットキャラの筈のフェレットが人間に変身したり、しかもそれが本当の姿だと高町さんが知らなかったりして大騒ぎになっていましたが面倒なので関わらない事にしました。
 そして通された場所はなんちゃって和室。和室で炬燵に入ってのんびりするのが大好きな私としてはちょっと許しがたいのですが、まあ魔法の世界の人なので仕方ないのかもしれません。
 でも今時外国人でもここまで中途半端に偏った作りには・・・ってなんという事を!?

「い、今何を緑茶に入れたんですか?」
「ミルクと砂糖だけれど?」

 くっ・・・ここは耐えるべきです。たとえ安らかな一時を演出してくれる緑茶が酷い飲み方をされていたとしても、それを指摘したら面倒な事になりそうです。
 そうです、きっと魔法の国の人は味覚がファンタジーなんです。きっとお菓子の家とかに住んでるせいで甘味が無いと口に出来ないんです。そうなんです。
 ・・・よし、落ち着きました。良く頑張りました私。ちょっと前ならすぐさま指摘してましたが、私も成長しているようです。さっさと帰りたいですから余計な話題は必要ありません。

「なるほど、そうですか。ジュエルシードを発掘したのはあなただったんですね」
「それで僕が回収しようと・・・」
「立派だわ」
「だけど同時に無謀でもある」

 いやいや、責任を感じて迅速に回収に来た人に言う台詞じゃ無い気がしますよ黒い人、たとえ事実だとしても。まあ面倒なので口には出しませんが。
 というかこの話に関しては私は全然関係が無いので全部スルーします。・・・あれ、私がここに来た意味って無いんじゃあ?

「(どうしましょうアースラさん、私流されて来ましたけどここに居る必要性がありませんでした。時間の無駄です)」
『---』
「(あー成程。じゃあアースラさんとお話する為だけに来た事にします。・・・いややっぱりそれも時間の無駄ですよ)」
『---』
「(拗ねないで下さいよ。だって実際来た意味が無いんですもん。確かにアースラさんとお話出来ましたけど・・・)」
『---』
「(いやいや流石にアースラさんと遊んだら面倒な事態にしかなりませんって)」

 アースラさん、宇宙戦艦なのに結構甘えん坊というか何というか・・・外見に相応しい強い心を持った方がいいんじゃないんでしょうか。
 でもまあやる事もありませんし、このままお話が終わるまでアースラさんとお話してましょうか。暇ですしね。
 ・・・はあ、ソファーでダラダラしながらテレビでも見ていたいです。今日は疲れたので帰ったらココアでも飲みましょう。

「これよりロストロギア、ジュエルシードの回収については時空管理局が全権を持ちます」
「君たちは今回のことは忘れてそれぞれの世界に戻って元通りに暮らすといい」

 おおっと、ずっとアースラさんとお話してたら気が付けば結論らしき言葉が。
 時空管理局さんがジュエルシード回収をする事になったんですか。それなら私もジュエルシード探しはもう終わりですね。
 まあお願いを二つも叶えてもらってますし、これ以上はちょっと欲張りになってしまいますから丁度いいといえば丁度いいでしょう。

「次元干渉に関わる事件だ。民間人に介入してもらうレベルの話じゃない」
「でも!」

 何故か高町さんが抵抗を示していますが・・・ああ、魔法少女卒業が嫌なんでしょうか?でもどこかの美少女戦士みたいに高校生にもなってセーラー服で戦う様な事態になるよりは今卒業したほうがいいと思いますよ?
 まあ私はたとえ協力要請されても絶対に手伝いませんけどね。面倒ですし。
 ジュエルシードを放置しておいたらちょっとだけ危険みたいだと今回知りましたけど、組織が出張るならもう海鳴の平和は乱されないようですし。
 なら私はいつも通りの堕落した生活を送るだけですね。
 最近はあり得ないくらい精力的に活動してましたし、明日からはひたすらだらけましょう。ああ、楽しみです。

「まあ、急に言われても気持ちの整理もつかないでしょう。今夜一晩ゆっくり考えて二人で話し合って、それから改めてお話をしましょう」

 え?いやいや今の高町さんを見たら手伝いたがるのは当たり前だと思うんですけど、なんでわざわざそんな事をするんでしょうか?
 ・・・まあどうでもいいですね、私には特に関係のない話ですし。考えるのが面倒です。

「さて、次に・・貴女にお聞きしたい事があります」
「あ、私ですか?」

 話が終わって帰れると思ったら話しかけられました。あー、やっぱり能力に関してでしょうか。あからさまに私がジュエルシードを止めてましたもんね。
 うーんどうしましょう。正直に話しても面倒事になりそうな予感がしますし、離さなくても面倒な事になりそうな予感が・・・もうどうでもいいですね。
 よし、聞かれた事に答えてしまいましょう。消極的に。

「まず、あの時ジュエルシードに何をしていたんですか?普通はあんな簡単に押さえ込めるものではありませんが・・・」
「お話して落ち着く様にお願いしました」

 周りの空気が停止しました。ああ、やっぱり誤魔化した方がいいんでしょうか。でもわざわざ嘘を考えるのも面倒なんですよね。

「もう一度、教えてもらってもいいかしら?」
「ジュエルシードさんとお話して、落ち着いて止まってくれる様にお願いしました」
「あり得ない!?」
「そんな事言われましても事実ですし」

 緑の髪の責任者さんが手で頭を押さえています。頭痛でしょうか。大変ですね。
 黒い人は「そんな事不可能だ!!」とか言ってますけど、私には事実ですとしか言い様が無いんですよね。なので反論されても困ります。
 ちなみに高町さんと元フェレットさんは呆然としています。まあそんなものでしょうね。
 しかし、初めて家族以外でまともに私の能力を明かしてしまいました。大雑把にではありますけど。面倒な事にはならないで欲しいですね。

「と、とりあえず・・・貴女はジュエルシードと会話が出来て、なおかつ暴走を止める事が出来るのね?」
「暴走を止めるというか、意のままに操れるといいますか、むしろ使いこなせますね」

 今度はさっきの比ではない位に空気が停止しました。ピシッという擬音が響き渡った様な感じもしました。
 今のうちなら帰ってもバレない様な気がしないでもないですけど、どうでしょう?

「・・・ゴメンなさい、流石に到底信じられないのだけど」
「じゃあ証拠見せますね。七番さーん来てくださーい」
「何を・・・なっ!?」

 確かそっちの黒い人が持ってましたよね?まあ今持って無くても聞こえる範囲に居たら出てきてくれる筈ですが・・・ああ、出てきてくれました。
 なにやら放っている青い光の力が弱い気がしますけど、どうしたんでしょう?病気ですか?あ、物に病気はありませんか。

「何か元気が無いですね。どうしたんですか?」
『---』
「封印?成程、じゃあ解いてあげますねー」
『---』
「はい解けましたよ」

 途端に七番さんがいつも通りのジュエルシードらしく強い光を放ち始めました。うんうん、やっぱりこれくらいの元気が無いとダメですよね。
 でも周りの人達が慌て過ぎですね。何をそんな慌てているんでしょうか?・・・ああ、そういえばジュエルシードって危ないって思われているんでしたっけ。

「仕方ないですね。じゃあちょっと大人しくしててもらえますか?」
『---』
「ありがとうございます」

 お願いすると七番さんが快諾してくれました。ふぅ、これで何も問題はありませんね。

「何だか頭痛がしてきたわ・・・」
「母さん、僕は疲れて夢でも見てるのかもしれない・・・」
「ユーノ君、私結構苦労して今まで集めてきたのに、何だったんだろうね・・・」
「なのは、比べちゃいけない。これは非常識だから比べちゃいけないよ」

 む、元フェレットさんが失礼ですね。確かにちょっと非常識な力ではありますけど、魔法なんてものを使ってる人には言われたくないです。
 まあ高町さんの心に無用なダメージを与えてしまった事については少しだけ心苦しいですが・・・あまり気にしない事にします。面倒ですし。

「・・・背に腹は変えられないわね」
「艦長?・・・まさか!?
「ええ、想像通りよクロノ。・・・貴女のその力で私達に協力して貰えないかしら?」
「嫌です」

 本日三度目の時間停止のお時間が参りました。どうやらここだけ時間の流れが不安定なようですね。時空管理局ならちゃんと時空を管理してください。
 というかこんな近未来な戦艦で時空がどうのこうのって、魔法じゃなくてSFですよね。あれですか、発達しすぎた科学は魔法と変わらないって事なんでしょうか。

「何で?松田さん、何で手伝ってあげないの?」
「いやいや高町さん、さっきジュエルシードに関しては時空管理局の方々が解決するって言ってたじゃないですか。それに一般人が関わるべき事でもないと」
「でも!」
「なら高町さんが私の代わりにお手伝いしてあげて下さい。私は譲りますよ?」
「にゃ!?」

 だって面倒ですし。

「何故、嫌なのか聞いてもいいでしょうか?」
「面倒だからです」
「・・・そ、それだけですか?」
「はい、面倒なだけです。私は面倒な事が大っ嫌いなんです。自宅のソファーでダラダラしながらテレビを眺めている事が私の幸せなんです」

 全員顔が引きつってます。失礼な人達ですね。私がどんな事を好んでいても人の勝手じゃないですか。

「あの、じゃあいつも学校でボーっとしてたり寝てたりしてるのって・・・」
「動くのが面倒だからです。人間は言葉を発するのにもカロリーを消費するんですよ?今でさえ帰りたくて仕方が無いくらいなんです」
「さっき暴走体に捕まってた時に暫く自分で何とかしようとしてなかったのは・・・」
「だってこの能力の事がバレたら面倒になるじゃないですか。実際面倒な事になってますし」

 というかもう帰っていいですよね?協力しないって言いましたし、もうここに残る理由はありませんよね。

「いい加減帰りたいので帰りますね。というわけで七番さん、送ってくれませんか?」
『---』
「ありがとうございます。では、みなさんお疲れ様でした」

 そして私は七番さんの放った青い光に包まれ、その直後には自宅の玄関に転移していました。
 何か途中で全員が何かを叫んでた気がしますけど気にしない事にします。面倒ですし。

 さて、ココアを飲みながら今日もテレビでも見ましょうか。



[19565] 第6話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/09/05 18:51
 あの宇宙戦艦会議以降、何だかんだで時空管理局が私に接触してくる事はありませんでした。
 絶対関わろうとするんだろうなぁと思っていたので予想外ですが嬉しいです。

 後日、学校に行くと高町さんが家庭の事情で学校を暫く休むと担任の先生が言っていました。
 恐らく時空管理局の手伝いをするんでしょう。ぜひとも私の代わりに頑張っていただきたいものです。
 そして私の方に面倒事を持ってこないようにして下さいね。

 それにしても、ここ最近は面倒に、巻き込まれてばかりだった気がしていたので今の平穏がとても素敵に感じます。
 ジュエルシードでお願いを叶える事はもう出来ませんが、十分なくらいの効果は既に手に入れているのでそこまで悔しくはありません。
 願わくばこのままジュエルシードも集め終わって、何の事件にも巻き込まれずにいつも通りにダラダラと過ごしたいものです。
 何か事件が起こったとしても私を巻き込まなければどうでもいいんですけどね。

 そんな事を考えていたのがいけなかったんでしょうか。

「ごめんなさい、母さんが貴女と会って話したいって・・・」
「面倒なので嫌です」
「あの、でも母さんが・・・」
「嫌です」

 目の前には縁があるのか何かと出会うフェイトさんとオレンジの犬。しかも今回はご指名ですよ。絶対面倒事です。
 それにしても母さんですか、この子はジュエルシードで何か企むようなタイプとは思えませんし、多分その母さんが黒幕なんでしょうね。
 ・・・ってことは、私の能力を当てにしてるって事ですか?うわぁ、やっぱりあの時能力使わなければ良かったです。止め処ない後悔の波が押し寄せてきますよ。

 しかしどうしましょう。フェイトさんは儚げな雰囲気を纏いながらも何だかんだで意志が強いみたいで、今回も瞳が「絶対連れてかなきゃ!」と自己主張しています。
 これは恐らく私が一緒に行くというまで付き纏われそうですよね・・・面倒ですけど付き合わなきゃいけないんでしょうか。

「ああもう、用件が終わったらさっさと帰りますよ?そしてもう付き纏わないで下さいね、面倒ですから」
「あ、うん!ありがとうございます!」

 はぁ・・・何時になったら以前と同じ様な平穏が戻ってくるんでしょうか。ソファーとテレビが恋しいです。

 というわけでフェイトさんの実家?に転移してきました。なんか凄い立派な建物ですね。お嬢様なんでしょうか。
 というかなんでこうも身近にお嬢様ばかり居るのか・・・ああ、私も資産だけで言えばお嬢様と言えなくも無いんでした。私が生放送の抽選会に干渉して当てた宝くじのお金ですが。

 とりあえずフェイトさんが先導してくれているのでそのまま着いていく事にします。
 気が付けばオレンジ色の犬が犬耳のお姉さんに変身していましたが、まあ魔法ですしフェレットも人間になってましたから気にする事でもないですよね。
 ・・・しかし、外見は豪華ですけど何処となく寂れた感じがしていますね。隅の部分なんかには埃も溜まってます。
 ちゃんと掃除しているんでしょうか?こんなに大きい家だから仕方ないといえば仕方ないのかもしれませんが、もったいない気がします。

「母さん、フェイトです。連れてきました」

 さて、大きい扉を開くとそこには玉座に座る女性が居ました。さてまずはどこから突っ込めばいいんでしょうか。
 いかにも悪い魔女にしか見えない服装とメイクをしたフェイトさんの母さんに突っ込めばいいのか、一般家庭に玉座の間がある事に突っ込めばいいのか。
 というか物凄く不機嫌そうにしてますね。正直怖いです。なんというか、明らかにラスボスっぽい感じがします。命の危機すら感じますよ。

「(あの、物凄く怖いので、何か危険な事になったら皆さん助けてくれませんか?)」
『『『---』』』
「(ありがとうございます、安心できました)」

 とりあえず身の安全は保障してもらいました。周りの強力を得た時の私はたとえ戦車が相手でも無傷で過ごす自信があります。戦車操れますけど。

「・・・フェイト、下がりなさい。二人っきりで話がしたいの」
「あ・・・はい」

 空気がヤバイです。もしかしてこの母さんってフェイトさんの事嫌ってたりするんでしょうか?物凄く険しい目つきで睨んでるんですけど。
 こんな家庭環境最悪な親子にはなりたくないですね。家みたいな放置系も問題ではありますけど、こんな空気になる親子は流石に・・・
 ああ、フェイトさんが部屋を退出してしまいました。物凄く心細いです。命の保障は既に取れているんですけど、あまり長居したくないですね。
 まあそんな事を言いながら全然焦ってはいないんですけど。

「さて、貴女。ジュエルシードを使いこなせるというのは本当かしら?」
「あ、はい。もうお願いを叶えてもらった事がありますし」
「なっ!?本当に!?」

 あ、空気を気にしすぎてうっかりバラしてしまいました。でもまあそんなに問題は無いですよね。

「どんな願いを叶えたというの!?」
「えっと、最大限怠けてもいい様に最低限の身体能力を確保する事と、食事が偏っても問題ない様に必要な栄養を毎日自動的に摂取する事です」
「・・・そ、そう」

 思いっきり引きつった顔で短くコメントされました。まあそんな反応だろうなとは思ってましたよ。でも便利なんですからいいじゃないですか。

「とりあえず、ジュエルシードを制御して願いを叶える事が出来るのね?」
「はい、出来ますよ」
「・・・実は、どうしても叶えたい願いがあるの。協力して貰えないかしら?」
「面倒なので嫌です」
「・・・もう一度言ってもらえないかしら?」
「面倒なので嫌です」

 というかいきなり知らない人にそんなことを言われても困りますし。
 どんな願いかは知りませんけど、自分でジュエルシードを制御して願いを叶えればいいじゃないですか。・・・あ、そういえば普通は暴走するんでしたっけ。
 でも面倒なんですよね。黒幕の願いなんて世界制服とかでしょうし、そんな願い「ズガァンッ!」ッ!?危なっ!?
 うわ、いきなり魔法使うとか危ないじゃないですか!?ああ、最初に周りのものにお願いしておいて助かりました。ありがとうございます、飛び出た床材さん。

「・・・何をしたの?」
「いやこっちの台詞なんですが」
「ふん、まあいいわ。私はどんな事をしてでも願いを叶えるのよ。痛い目を見たくなければ大人しく従いなさい」

 おおぅ、悪役過ぎます。なりふり構わない人は怖いと漫画やテレビで聞いた事がありましたが、実際に遭遇すると本当に怖いですね。
 こんな人の相手なんてしたくないです。早急に帰りたいんですが。

「ですから、面倒なんで嫌です」
「言っておくけれど、私に従わない限り家に帰してあげるつもりは無いわよ?」

 最悪じゃないですか、両親に心配はかけたくないんですけど。・・・仕方が無い、お願いを聞いてさっさと帰らせてもらったほうがよさそうですね。
 はぁぁ、面倒です。ジュエルシードと関わった事は後悔してませんが、これが今までの幸せの代価なんでしょうか。

「・・・はぁ、わかりました。早くお願いを教えてください。そして早く私を帰らせてください。ワイドショーでも見ながらだらダラダラしたいんですから」
「・・・もう少しやる気は出さないのかしら?」
「出るわけが無いです。いいから教えてください」

 随分イライラしてるみたいですが、私だっていい加減イライラしてるんですよ。こんな半ば無理やり連れてくるような事されて気分悪いんですから。
 これで下らないお願いだったら帰りますからね。たとえあらゆる物を操ってでも。

「叶えられなかったら、別の願いに協力してもらうわよ?・・・私が叶えたい願いは---」
「わがままですね。・・・願いは?」
「---私のたった一人の最愛の娘、アリシアの蘇生よ」

 ・・・最早面倒とかそういう次元の話じゃなくなってきてしまいましたね。本当に勘弁してください。



[19565] 第7話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/06/14 20:55
 フェイトさんの母さんである悪い魔女さん、プレシアさんの願いを、娘自慢の様な与太話と共に聞きました。
 なんと、昔死んでしまった娘さんを復活させたいという願いです。まあ願いが叶うアイテムがあれば誰もが叶えようとする事ですね。ありきたりです。
 本来ならばジュエルシードで蘇生させるつもりは無かったらしいのですが、私が自由に操れるという事でプランを変更したらしいです。
 実際に死者蘇生が可能なのかわからないのですが、無理だった場合はアルハザードという世界への道を開いてくれればいいとの事です。

 ところで娘さんの話を聞いていて「たった一人の娘」と言ってた事に気付いたので、フェイトさんは娘ではないのかと聞いてみました。
 するとフェイトさんは娘さんのクローンで所詮人形だと言われてしまいました。
 ちょっと気になって聞いただけでしたが、まさかそんな重すぎる事実を知ってしまうとは思いませんでした。
 同世代の子では唯一の友人である遠藤さんの次に仲がいいであろうフェイトさんが母親から嫌われてるなんて、流石に面倒とか関係なく何とかした方がいいのだろうかと考えてしまいました。
 まあ家族関係に干渉するわけにもいかないので保留する事にしたのですが。

「では、とりあえずジュエルシードに蘇生が可能か聞いてみますので貸してください」
「ええ、五つで足りるかしら?」
「聞いてみなければ判りませんね」

 という事でジュエルシード達と死者蘇生に関して会議を開く事になりました。

「おや、お久しぶりです五番さん」
『---』
「はい、物凄く面倒な事に巻き込まれて嫌になってますけど元気ですよ」
『---』
「あ、多分効果が出てます。以前より体が楽な感じがしないでもありませんし」
『---』
「ええ、そうですね」
「・・・何を話してるのかわからないけれど、早く聞いてもらえないかしら?」

 おおっと、そうでした。久々にあったので盛り上がってしまいましたよ。・・・無機物のほうが友人が多いってちょっと悲しく感じました。
 まあそんな事はさておいて、確認に移りますか。

「お聞きしたい事があるんですけど・・・」
『---』
「はい、お願いに関してです。死者蘇生って出来ますか?」
『---』
「あ、複数あれば出来るんですか」
「本当なの!?」
「はい、可能みたいですよ」
「ああ、アリシア・・・これで、これでまた会えるのね・・・アリシアァ・・・」
『---』
「ただ五つじゃ少し足りないみたいです。完全を期すならもう少し集めた方がいいみたいですね」

 聞いちゃいません。完全にトリップしてしまってます。見た目が魔女のメイクのままなので物凄く怖いです。
 しかし複数個必要なんですよね・・・よし、さっさと帰りたいですし集めちゃいましょう。

「えーっと、高町さんや時空管理局の方が封印したもの以外のジュエルシードをここに転送して集めたり出来ます?」
『---』
「じゃあお願いします」

 ということで暴走しない様に私が調整しつつジュエルシードを召喚しました。高町さん達から奪わなかったのは単に面倒な事になりそうだったからです。
 そして現在の個数が十三個になりました。つまり高町さん達は八個持っているって事ですね。

「十三個で足りますかね?」
『---』
「それは良かったです。早く帰りたいですから」

 さて、後は蘇生する為に娘さんの死体をどうこうしなければなりませんが・・・死体、死体ですか。
 インターネットでグロテスクな画像を見た事があるので多少は耐性がありますが、実際に見て気分が悪くなったりしたらどうしましょうか。昔の死体みたいですし、間違いなくミイラか白骨ですよね。
 少し気が滅入ります。何で平和な世界でぬくぬく生きてきた小学三年生が死体を蘇らせるなんてイベントをこなさなければならないんでしょうか。

 と考えていたのですが、死体は物凄く近未来的なカプセルに保管されていて綺麗だったので、そこまで気分が悪くなるものではありませんでした。
 むしろ娘さんの死体よりも、既に涙を流して泣いていたり「失敗したらコロス」と言いたげな凶眼で見つめてくるプレシアさんの方が嫌です。
 でも我慢しなければなりません。これが終われば私は平穏を取り戻す事が出来るんです。その為ならば私も多少は頑張ります。・・・面倒ですけど。

「じゃあいきましょうか」
『---』
「はい。皆さんお願いしますね」

 ジュエルシード達から放たれる凄まじいまでの青い光。流石に十三個もあるおかげか、魔法が使えないし魔力もわからない私でも何かとてつもないものを感じます。
 明らかに凄まじいパワーを感じてこんなものを制御できるのかと不安になりましたが、何の問題も無く制御できました。ジュエルシード以上に私の能力はあり得ないものだったみたいです。
 まあ悪い事ではないので問題は無いですよね。

 ジュエルシードから全方向に解き放たれていた青い魔力が、娘さんの体へと収束して包み込んでいきます。
 魔力が原因か、それとも様式美なのか、娘さんの体が中に浮かび上がっています。いかにもなエフェクトですね。
 しかし結構時間がかかってます。今で大体三分くらいでしょうか。プレシアさんの目がヤバイ事になってるので早く終わって欲しいのですが。

 そしてそのまままた三分経過した所で、娘さんを包み込んでいた青い魔力が爆発するように、閃光と共に周囲に飛び散っていきました。
 目が痛いです。何となく光りそうな気がしたので目を瞑っていたのですが、それでも瞼を貫通する勢いで光ったのでダメージを受けました。
 そして目をゆっくり開けると・・・既にプレシアさんが娘さんの体を抱きしめて号泣していました。この人は目を傷めなかったんでしょうか。魔法でしょうか。

「生きてる・・・本当に、生きてる・・・アリシア!アリ、シアァァ・・・!!」

 うん、幸せそうな光景・・・ですが、やっぱり納得できませんね。
 フェイトさんもクローンとはいえ娘ですし、面倒ごとを持ってきてますが割りと嫌いではないので何とかしてあげたいものです。
 うーん・・・よし、せっかくここまで関わったのですから、アフターサービスと称してフェイトさん達が家庭円満になる様にプレシアさんを何とかしてあげましょうか。

 説得が面倒なのでジュエルシードで洗脳して。



[19565] 第8話 無印完結
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/07/27 20:59
 さて、プレシアさんの娘さんであるアリシアちゃんが蘇生していろいろあってから数時間が経ちました。

「ふふっ、どうかしら?久しぶりに料理したけれど、そう腕は鈍ってない筈よ」
「美味しい!」
「うん、美味しい・・・母さんの料理初めて食べた・・・」
「プレシアの料理は私以上の腕前ですからね」
「くぅ・・・悔しいけど美味しい・・・」

 目の前には色々変わったり増えたりしている愉快なテスタロッサ一家が勢ぞろいで夕飯を食べています。
 お礼と称して私も夕飯を食べていく事になったのですが、なんというか、つい先ほどまでの静寂感というか、そんな感じのものが皆無です。



 アリシアちゃんを蘇生させた後、早速私はプレシアさんを説得する事にしました。ええ、説得です。
 説得用にジュエルシードを用意して、何か変な事になる前に先制攻撃です。

「というわけで、お願いします」
『---』
「アリシア!アリシ・・・」

 よし。かかりました。
 さて、事細かに記憶や認識を弄繰り回すのは面倒なので、その辺はジュエルシードにお任せして勝手に整合性が取れるようにして貰いました。
 どんな展開になるかはわかりませんが、とりあえずフェイトさんと仲直りできる様になるならどうでもいいですし。

 その結果、プレシアさんはこんな感じになりました。

「ああ、わ、私は、フェイトになんて事を、私は、わたしは・・・!?」

 何だか良く分からない事になったので、五番さんに詳細を説明してもらいました。
 とりあえずプレシアさんが辿った変えられない過去の記憶は改変するとちょっとおかしくなるので、アリシアちゃんの死とフェイトさんの誕生に関しては弄らない事にしたようです。
 この部分で改変したのはプレシアさんの状態認識。アリシアちゃんが死んだ事を認識した瞬間から狂気に囚われた様な感じにしたようです。
 そして狂気の赴くままクローンという禁忌的な研究に手を染めてフェイトさんが誕生。しかしそれはあくまでフェイトさんでアリシアちゃんでは無く、それ故に狂気が暴走してフェイトさんを虐げていたという設定。
 そしてアリシアちゃんの蘇生と共にその狂気も収まって、自分がもう一人の娘であるフェイトさんに今までしてきた行為を自覚して絶望しているとの事です。

 フェイトさんが嫌われている事はわかってましたが、虐げていたとはまさか虐待でもしていたんでしょうか。さっきまでの悪役そのものなプレシアさんならあり得そうで怖いです。
 それと、家族関係を改善させる為にやったのに絶望なんてさせたら自殺しかねないんじゃないんでしょうか。今のプレシアさんは本気でヤバい事になってますけど。

『---』
「え?なんとかなるんですか?この状況からどうやって・・・」
「母さん!?今の魔力って!?」

 あ、今フェイトさんが来たら・・・

「フェイト・・・フェイトぉ・・・」
「母さん!?ど、どうしたの母さん!?」

 あー、プレシアさん号泣し始めましたね。フェイトさんに抱きついてひたすら「ごめんなさい」を連呼してます。フェイトさんは困惑。ついでに遅れてやってきたオレンジ犬さんも困惑。
 まあ、とりあえず暫く親子は放置しておきましょう。五番さんが何とかなると言ったのなら何とかなるでしょうし。
 その間私は・・・

「ちょっと、一体どうなってるんだい?」
「そうですね、落ち着くまで時間がかかりそうですし説明させて頂きますね」

 オレンジ犬さんに説明する事にしました。正直もうほっといていい様な気もしますが、自分から手を出した事なのでせめて終わるまでは待っていようかと思います。
 まずはフェイトさんがアリシアちゃんのクローンだと説明し、プレシアさんがジュルシードを集めていたのはアリシアちゃんを蘇生させる為だと説明。
 するとオレンジ犬さんが本気で怒り出したのでジュエルシードで縛り付けました。今あの二人に突撃する様な空気が読めない行動はちょっといけません。
 ぎゃーぎゃー騒ぐオレンジ犬さんを横目にフェイトさんを確認すると同じ内容を話してもらったのか、顔色が真っ青でした。しかしそれをプレシアさんが抱きしめて何か色々言っています。
 暫くそのままでいるとフェイトさんも号泣し始めました。表情から考えるに嬉し涙のように感じるので、まあ仲直りは成功したみたいですね。

「・・・ちょっと、一体どうやってプレシアを説得したんだい?」
「説得というか、面倒だったので洗脳しました」

 物凄く怖いものを見る様な目で見られました。失礼ですね。

「これは私の予想なんですが、一度でもフェイトさんを愛してしまえば洗脳が解けても大丈夫だと思っています」
「理由は?」
「まず、死んでしまったアリシアちゃんを弔うのではなく蘇生させようとしていたプレシアさんは、きっと愛が重たい人です」

 そうでもなければ死という運命に逆らう様な常識外れな行動なんて取らないでしょう。まさしく愛に生きる人ですね。
 そして愛が重たすぎる故に、似ているけど別人のフェイトさんにつらく当たっていたんでしょう。
 しかし、一度でも愛してしまえば問題はありません。

「その愛の重さがこの場合はプラスに働きます。おそらく今のプレシアさんはフェイトさんとアリシアちゃんを姉妹として扱うでしょうから、たとえ洗脳が解けても既に二人セットで愛してしまっているので変化は無いでしょう」
「いや、だからって洗脳はどうなんだい?」
「洗脳を選んだのは単に説得が面倒だからです」

 今度は胡乱気な目で見られました。何なんでしょう、この人も洗脳して欲しいのでしょうか。あ、人じゃなくて犬でしたね。

 暫くすると二人とも落ち着いたようで、抱き合いながら小声で会話しています。どうやら仲直りは成功のようですね。

「んぅ・・・あれ、おかあさん?」
「アリシア!?アリシアァァァ!!」

 あ、また号泣しながら抱きつきましたね。アリシアちゃん物凄く混乱してますよ。というか苦しそうです。
 しかしプレシアさんはまた「ごめんなさい」の連呼ですか。何か怖いです・・・あ、アリシアちゃんが貰い泣きし始めました。あ、フェイトさんまで貰い泣き。
 なんという事でしょう、泣き声三重奏が始まってしまいました。何故かオレンジ犬さんも涙目なので、もしかしたら四重奏になるかもしれません。
 ・・・そろそろ帰っても大丈夫でしょうか?

 面倒だったのでジュエルシードで強制的に落ち着かせました。

 プレシアさんがアリシアちゃんに事情説明。まだ五歳くらいに見える子に理解できるのか疑問でしたが、どうやら何となく理解したようです。
 流石クローンを作れる科学者の子供ですね、頭が良いみたいです。
 そして問題になったのは、フェイトさんとアリシアちゃんのどっちがお姉さんか、という物凄くどうでもいい事でした。
 面倒だったのでジュエルシードを使って双子に見える年齢まで強制的に成長させようかと思いましたが、結局外見を考慮してフェイトさんが姉になったみたいです。

「あれ?おかあさん、リニスは?」

 リニスというのはアリシアちゃんが昔飼っていた猫で、アリシアちゃんと一緒に死んでしまった後には使い魔として暮らしていたそうです。
 しかし色々あって契約を解除して普通の死体に戻り、今はもう居ないらしいのですが・・・

「リニス・・・しんじゃったの?・・・ヒッグ・・・」
「お願い!リニスも蘇生して!!」

 今までずっと忘れてたくせに必要になったら思い出してお願いをするなんて、何様のつもりなんでしょうか。
 というか流石に死体が無いと蘇生も何も・・・あるんですか。何であるんですか。死体収集癖でもあるんでしょうか。
 死んでしまったのなら普通に埋葬してください。

 仕方が無いので蘇生しました。使い魔は魔法で作った人口の魂を死体に入れて作り出すらしいので、ジュエルシード一つで何とかなりました。
 突然復活したリニスさんは色々混乱していましたが、事情を知ると涙を流しながらも喜んでいました。ちなみに事情説明に時間をかけるのが嫌だったのでジュエルシードで強制的に記憶をぶち込みました。
 本当に頼りになりますね、ジュエルシード。

 さて、今度こそこれで万事解決という事で、帰ろうと思った瞬間でした。

「ゴホッ!ゴホッ・・・カハッ!!」
「母さん!?」
「お母さん!?」
「血!?」
「まさかプレシア、まだ病気が治っていなかったんですか!?」

 あーはいはい治せばいいんですよね。治しますよーここまで来たら最後まで付き合ってあげますよどうせ今日以降関わる事は無いでしょうし。
 もうどうにでもなーれー。



 とまあそんなこんなで、お祝いとお礼という事でお食事会へとなった訳です。
 長い回想でした。なんで私はこんな面倒な事を思い出していたんでしょうか。思い出すだけで疲れました。

「さてもう食事も終了したので帰りますね」
「え?杏、もうちょっと・・・」
「お断りします。フェイトさんはどうか知りませんが、もう面倒です。帰って寝ます」

 色々あった割に名前を教えていなかったので今更ですが食事中に自己紹介をしました。
 アリシアちゃんに杏お姉ちゃんと呼ばれたときはちょっと嬉しかったです。ほら、私一人っ子ですし。
 本物の妹は色々面倒そうなのでいりませんけど。

「ジュエルシード、お礼にあげましょうか?」
「いや確かに欲しいですけど、もう時空管理局とか面倒なのに関わりたくないので遠慮します」
「そういえば管理局が居たわね。なんとかしなきゃ二人がゆっくり暮らせないわ・・・」

 プレシアさんが何か悩み始めましたが、私にはもう関係が無い事なのでスルーさせていただきます。
 それにしても、ジュエルシード欲しかったですね。管理局が居なければ貰っていたんですが・・・仕方が無いので色々お願いを叶えて貰った後にプレシアさんに押し付けましょう。

「というわけで、最後なのでお願いしてもいいでしょうか?」
『---』
「はい、勿論他のジュエルシード達も調整しますよ」
『---』
「ありがとうございます」

 というわけで、以前考えていた体重の事で、身長に応じた平均体重より少し軽いくらいを維持し続けるようにしてもらいました。
 ふふふ、これで私はどれだけ際限なくだらけても不健康にも肥満体にもなりません!まさに夢の様です。ジュエルシードの皆さん愛してます!

「それでは帰りますね」
「うん、ばいばい杏。またね」
「またね杏お姉ちゃん!!」
「フェイトを助けてくれてありがとうね」
「プレシアも、ありがとうございました」
「本当にありがとう。また近いうちに会いましょう」

 何で皆近いうちに会うと宣言してくれるのでしょうか。もう面倒ごとは嫌だと散々食事中に言ったんですが。

「・・・もういいです。ジュエルシードさん、自宅まで送ってください。今までありがとうございました」
『---』
「はい、それでは」

 そして私の体はいつかの様に青い魔力に包まれ・・・一瞬で、愛しの我が家へと帰還する事が出来ました。

「疲れました・・・もー魔法関連には関わらない様にしましょう」

 普段動かないせいで私はスタミナが全然無いんです。おかげでもう限界です。まだお風呂に入ってませんが・・・もう寝てしまいましょう。幸い明日は休日ですし。
 今日眠って、明日目が覚めたら誰にも脅かされる事の無い平穏で退屈な日常の再会です。ああ、楽しみで仕方がありません。
 もう十時ですし、さっさと寝てしまいましょう。

 では、おやすみなさい。



[19565] 第9話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/06/14 20:55
 朝、カーテンの隙間から漏れた日の光で目が覚めました。
 普段なら暫くの間寝ぼけ眼のまま愛しの布団との時間を堪能するのですが、今日はとても清清しい目覚めです。
 そう、今日からようやく、ようやく!魔法やら何やらの面倒事に遭遇する事のない平穏で退屈な日常が再開されるんです!
 そのおかげで気分は最高潮。とはいえ目覚めが早いだけで、着替えも移動も調理も全部能力でそれぞれ操っているんですけどね。
 フライング座布団はなかなか楽でいいです。もう自宅の中では歩く必要すらありません。

 ソファーに沈み込むように腰掛け、いつもと同じ様に朝のニュース番組を眺めながら、砂糖とミルクがたっぶり入ったコーヒーをゆっくりと味わいます。
 最近の私は色々とイベントが多かったのですが、ニュースを見る限り日本国内はいつも通りだったみたいですね。相変わらず政治家がどうとか交通事故がどうとか。
 ・・・そういえばちょっと前に海鳴で動物病院が倒壊したとか巨大な樹が現れたり消えたりしたとかやってましたけど、アレは今思えばジュエルシードが原因だったんでしょうか。
 ふむ、結局ジュエルシードの危険性がいまいち分からないまま終わってしまったせいで全然実感がありませんね。皆さんいい人・・・じゃなくていい宝石?ですし。

 さて、今日も学校です。いつも通り歩いて登校する事になりますが・・・ジュエルシードにお願いして転移魔法でも使えるようにしてもらえばよかったでしょうか。歩くの面倒です。
 この世界にも魔法が存在していれば私も歩かないで登校出来るんですが、なんとかならないものでしょうか。
 いっそ漫画みたいに魔法の強制認識とかでも起こってしまえばいいんですけどね。

 学校はいつも通り・・・とはちょっと違うみたいです。
 高町さんが居ないせいでしょうか、バニングスさんと月村さんの元気がいつもよりもありません。
 高町さんも手伝うのは良い事だと思いますけど、友達を心配させるのはダメでしょうに。まぁ、私には特に関係のない事なんですけどね。
 私の友達は遠藤さんしか・・・あぁ、そういえばフェイトさんとアリシアちゃんも友達になったんでしたね。アリシアちゃんはどちらかというと友達の妹ですが。
 しかし、友達ですか・・・まさか私に友達が増えるとは思いませんでしたね。両親も喜んでくれそうです。
 まぁ、もう魔法関係には関わらないのでそうそう会う機会なんて訪れないでしょうけどね。

「遠藤さん、久しぶりに一緒にお弁当食べませんか?」
「え?珍しいね、松田さんが誘ってくるなんて・・・普段は面倒とか考えて行動しないのに」
「今日は気分が良いですからね」

 ええ、とても気分が良いんです。多分明日になると以前までと同じ様なテンションになるでしょうし、今のうちに貴重な友人と親睦を深めておく事にしましょう。
 ・・・しかし、調理器具任せの料理も美味しいですけど、やっぱり誰かの手作り料理の方が美味しいですね。能力で作ると美味しいんですけど、何というか無難な味付けにしかならないんですよね。
 それに比べて昨日のプレシアさんの手料理は美味しかったです。見た目魔女だったあのプレシアさんがあんなに美味しい料理を作るとは思いませんでした。
 というかアリシアちゃんを蘇生して病気を治してから雰囲気変わってましたね。多分数日したら魔女から普通のお母さんになりそうです。

 しかし手料理ですか。自分で作るのは面倒で嫌なんですけど、やっぱり食べるなら美味しいものの方が良いですよね。
 どこかにメイドさんでも落ちてたりしないものでしょうか。出来ればメイドロボだと色々と楽なので嬉しいのですが。
 ・・・魔法があるなら、どこかに存在しない事も無いかもしれませんね。面倒なので探しませんが。

 それにしても平和です。退屈な日常が大好きな私でしたが、これからはもっと大好きになれそうです。
 学校も面倒ですが、魔法関連の厄介な事件に巻き込まれる事と比べたらまだマシですし。
 願わくばこのままの生活が続いて欲しいものです。

 まあ、今思えばそんな事を考えていたのがフラグだったのかも知れません。

 あれから二日後、学校から帰宅すると家の前に数人の人影が見えました。
 それを見た瞬間その場から逃げ出そうか悩んだのですが、このパターンだとどうせ捕まるだろうと思うのでそのまま立ち向かう事にします。
 この人達には何だかんだで関わってしまいますしね。こっちを見て嬉しそうな笑みを浮かべている金髪のお嬢さんを筆頭に。

「再会が早すぎませんか、プレシアさん」
「あら、私たちはまたねって言ったわよ?」

 本当に、テスタロッサ家は鬼門と言ってもいいのかもしれません。



「で、何の用ですか?」
「冷たいわね、せっかく会いに来たというのに」
「何度も言ってますが、私は面倒な事が大っ嫌いなんです」

 仕方が無いので家の中に招き入れ、リビングでお話を聞く事にしました。
 フライング座布団や勝手にコップに注がれるジュース等を見て最初は皆さん呆然としていましたが、流石に慣れてきたらしく今ではあまり気にしていません。
 あ、でもアリシアちゃんは未だ興味深々らしく、飛び交うものを笑いながら目で追っています。ちょっと可愛いので暫く何か飛ばしていましょう。

「もう魔法関連から手を引けると思ってたんですけどね・・・」
「大丈夫よ、ある意味魔法関連とも言えなくは無いけれど、厳密にはそんな事ではないわ」
「はぁ、そうですか」

 でも面倒事には変わりないんですよね?それが嫌だと言っているんですけど。
 というかどれだけ面倒な事になるんでしょうか。フェイトさんとかリニスさんが物凄く申し訳無さそうなを顔している気がするんですが。

「実は、フェイト達を暫く預かって欲しいのよ」
「はぁ、面倒なんで断りたいんですけどとりあえず、一体何故そんな事を?」
「・・・今回のジュエルシードの事件を終わらせて、フェイトとアリシアに平穏な生活をさせる為なのよ」

 今回の事件の発端であるジュエルシード。これを運んでいた次元航空艦・・・まあ宇宙船みたいなものですが、それを撃墜したのがプレシアさんらしいです。何してるんですか貴女。
 勿論これは明らかに犯罪です。それにロストロギア・・・ジュエルシードを不法所持していますし、管理局もフェイトさんがそれを集めていた事を知っています。
 ジュエルシードを集めていた理由やフェイトさんが管理局から逃げた理由は誤魔化せますが、流石に撃墜した事は不可能。それに過去のクローン研究も犯罪なので、まず常識的に考えて普通の暮らしをする事は現状不可能らしいです。
 そこで司法取引です。ジュエルシードを返還し、違法研究に協力していた人物や科学者の情報を提供し、クローン研究の過程で完成させた医療に転用できる技術の提供する。
 そして管理局に数年間の勤労奉仕をして罪を償い、影でこそこそ暮らさなくてもいい様にするらしいです。

「これで、少なくともフェイトが罪に問われる事は無くなるでしょうね」
「成程。そして数年間帰る事が出来ないから私に預かって貰いに来た、と」
「ええ。この世界に戸籍や人脈があれば何とかなるから家も借りられるでしょうけど・・・」
「はぁ・・・あれ?じゃあジュエルシードを探していた時って、フェイトさんをアルフさんは何処に住んでたんですか?」
「あの時はアルハザードに行くつもりで全部切り捨てるつもりだったから、残っていたお金を殆どつぎ込んでマンションの管理人に無理やりなんとかさせたわ」
「力技ですね・・・というかそのマンションに住めば良いのでは?」
「数ヶ月借りる契約だったのよ。もうすぐ期限切れだから、せいぜい一ヶ月が限度でしょうね」

 とりあえずうちに頼った理由はある程度納得できました。でもまだ聞きたいことがありますね。
 あ、アリシアちゃん暇ならテレビ見てて良いですよ?

「プレシアさんが居なくなったとしても、リニスさんが居れば何とかならないんですか?」
「リニスを置いていければ問題無いでしょうけど、ミッドで働いてお金を稼いでもらわないと生活費が無いのよ」
「まさかそこまで貴女に迷惑はかけられませんし・・・ここに戸籍があればこの世界で働いて家も借りられるのですが」

 つまりこの世界に戸籍さえあれば何とかなりそうという事ですか。戸籍、戸籍ですか・・・

「話は聞かせてもらった!!」
「人類は滅亡するわ!!」
「「「えぇ!?」」」
「お父さん、お母さん。いきなり帰ってきたかと思えば変な事を言わないで下さい。後フェイトさんとアリシアちゃんと、後何気にアルフさんも信じちゃってますから撤回してください」

 というかいつから聞いていたんでしょうか。犬の使い魔と猫の使い魔がいるのに盗み聞きがバレなかったってどういうことでしょうか。
 本当に謎すぎる両親です。

「で、このタイミングで出てきてそんな発言をするという事は何とか出来るんですか?」
「勿論。ちょっと友達に頼めば何とかなるよ」
「家も友達に頼めば何とかなると思うわよ~」

 相変わらず不思議すぎる人脈を持っている両親ですね。さすが吸血鬼と月見したりするだけの事はあります。

「っと、いきなりすみません。どうやら杏がお世話になっている様で」
「・・・はっ!?い、いえいえ、むしろ私達の方が娘さんの世話になりっぱなしです」
「それにしても杏の友達が増えるなんて思わなかったわ。めんどくさがりだからもう増える事は無いって思ってたもの。一人しか居ないみたいだったし」
「杏お姉ちゃん、友達居なかったの?」
「面倒だっただけですよ」
「えっと、私、友達で良かったのかな・・・」
「友達だと思ってましたけど、もしかして独りよがりだったんでしょうか。流石にショックなんですが・・・」
「あ、ううん、友達だよ!私の始めての友達!」
「・・・お互い友達が少ないですね」
「・・・そうだね」
「フェイトも杏お姉ちゃんも私も、友達少ないね・・・」

 私はあまり気にしていないんですが、どうやら二人はちょっと気にしているみたいです。
 ちなみにアリシアちゃんがフェイトさんの事を呼び捨てにするのは、実感が無くても本当は自分が姉だかららしいです。何気にフェイトさんが残念がってました。

「・・・というわけで、三日後にまた来てください。その頃には用意が済んでると思いますので」
「本当にありがとうございます。なんとお礼を言っていいのやら・・・」
「いえいえ、杏のお友達の為ですから」

 気が付けば話が纏まったようです。
 というか、一体どんな用事があって突然世界旅行から帰ってきたんでしょうか?

「なんとなく、帰った方がいい気がしたのよね~」

 本当にこの両親は謎です・・・まさか魔法使いだったりしないですよね?

 ともかく、そんな感じでテスタロッサ一家が地球住む事となりました。
 まだ何処に住むのかは分かりませんが・・・この両親の事ですから、恐らくこの家の近くなんでしょうね。
 結局魔法関連から離れる事は出来ないわけですか。

 ・・・でもまあ、貴重な友人と会いやすくなる訳ですし、別にいいでしょう。面倒ですけどね。



[19565] 第10話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/08/09 17:19
 テスタロッサ一家が地球に住む事が決まってからは手続きの為、両親が暫く日本に滞在する事になりました。
 前の連休以来の一家団欒ですね。手続きが終わったらまた旅行に行くらしいので、今のうちに甘えておきましょう。
 一人でも大丈夫ではありますが、やはり両親がいないのは多少寂しいですし。・・流石に恥ずかしいので直接言いませんけどね?

 それにしても、やはり手料理は美味しいです。特別料理が上手な訳ではないと思いますが、とても私好みというか・・・ああ、これがお袋の味というものなんでしょうね。
 両親がいるのにお袋の味に飢えているとは、流石に家庭環境に問題がある様な気がしてきました。
 まあだからといって両親は旅行を止めませんし、私も止めないんですけどね。中々歪んだ家族です。嫌いじゃないですが。

 さて、家族との団欒を楽しみつつだらけながら生活を続け三日が経ちました。
 どうやら当初の予定通りに手続きは完了したらしく、今は両親と一緒に雑談しながらコーヒーを飲んでいます。
 何やら両親がエジプトで未発見のピラミッドに侵入してきたとか言っていますが、それが本当ならとんでもない事なのではないでしょうか。
 というか、もしかして私の両親の職業はトレジャーハンターだったりするんでしょうか。遺跡で聖杯とか探してても違和感が無い両親ですし。

 暫くするとプレシアさんとフェイトさんとアリシアちゃんがやってきました。
 アルフさんとリニスさんはどうやら自宅で色々忙しく準備しているらしく、今日は来ていないみたいです。
 これから詳しい話し合いになるのですが・・・とりあえずアリシアちゃんが暇しそうなので、アリシアちゃんの指示に従う自動操縦のぬいぐるみを派遣しておきましょう。
 ぬいぐるみの種類は猫と犬とアルマジロです。何気にアルマジロのぬいぐるみが一番もふもふしています。割とお気に入りです。
 あ、ちなみに両親にはもう魔法関係について話してあります。全然驚いてはいませんでしたけど。

「・・・というわけで、身分は説明した通りです」
「ええ、ありがとうございます」
「次は住宅なんですが・・・」

 本当に戸籍も何とか出来たんですね。戸籍っぽいものの実物を見るまで信じきれませんでしたが・・・本当に底知れない両親です。
 で、住宅は・・・あれ?ここってもしかして。

「これってうちの隣の空き家ですよね?」
「そうよ。近いし丁度良かったからね~」
「何が丁度いいのかよく分かりませんが」
「友達の家が近いと遊びやすいだろう?少しでも遠いとめんどくさがって遊ぼうとしないだろうし」

 否定はしません。むしろ肯定しましょう。何せ家の中を歩く事すら面倒な私なのですから。

「とまぁ、こんなものですね。仕事に関しては流石に勝手に決めるわけにはいきませんでしたので、そちらでお探しください。」
「何から何まで本当にありがとうございます。・・・それで、あの事に関してはどうでしょうか?」
「勿論そちらも問題なく手続き出来ました」

 む、あの事?何でしょう、何かこっそりと進めていた事でもあるんでしょうか。

「うふふ、はい、フェイトちゃんとアリシアちゃんにプレゼントよ」
「え?なになにー?」
「あ、えっと・・・ありがとうございます?」
「ほら、二人とも開けて御覧なさい」

 あ、箱を見てわかりました。あれと同じものを私も持っていますし。

「あ、これって・・・」
「杏お姉ちゃんが着てた制服と同じ?」
「やっぱり聖祥の制服ですか。まあ日本に住むんですから、義務教育はちゃんと受けなくちゃいけませんしね」
「じゃ、じゃあもしかして私とアリシアも学校に!?」
「そういうことね。こっそりお願いしておいたのよ。驚いたでしょう?」
「わぁ~・・・あれ?でもわたし五歳だよ?学校って六歳からじゃないの?」
「大丈夫、戸籍上は六歳だから」

 それは大丈夫ではないと思います。いや、何とかなっていますから大丈夫なんでしょうか?
 ・・・大丈夫なんでしょうね。一歳くらいなら誤差の範囲内といっても問題は無いでしょうし。気にしない事にしましょう。きっと悩むだけ無駄です。
 しかし、フェイトさんとアリシアちゃんも学校に来るんですか・・・高町さんが混乱しそうな気がしそうです。
 ・・・ん?高町さん?そういえば、まだ学校を休んでますね。もしかしてまだジュエルシードを探しているんでしょうか?

「プレシアさん、時空管理局に連絡ってしました?」
「まだよ。昔やってた研究や科学者の情報を整理している途中なのよ。ついでに昔の研究仲間で外道な事ばかりしてた連中と連絡を取って管理局に売ろうと行動してる最中だから、出頭はもう暫く先ね」
「流石プレシアさん。若々しくなっても思考は魔女ですね。違法研究していただけの事はあります」
「うるさいわね・・・昔の事は言わないで欲しいわ」

 まあ色々な意味で黒い歴史ですしね。あまりネタにしない様にしましょう

「ねえねえ!学校っていつからいけるの!?」
「二日後の月曜以降ならいつでも大丈夫だよ」
「やった!フェイトフェイト、帰ったらいっしょに学校の準備しよーね!」
「うん。えっと、ペンとノートはいっぱいあったと思うから・・・」
「ふふっ、どうやら管理局に行く前に軽く引越しを済ませた方が良さそうですよ、プレシアさん」
「ええ、そうね。リニスに念話で連絡しておくわ」

 それにしても本当に嬉しそうですね。私は学校なんて面倒としか思えませんが・・・まぁ初めての学校みたいですし、仕方ないかもしれませんね。
 願わくばこのまま魔法なんて関係ないイベントだけが続いてくれれば嬉しいんですけどね。
 そして私を過度に巻き込まなければなおベストです。とはいえ・・・

「杏お姉ちゃんもいっしょに学校いこうね!」
「うん、杏も一緒。面倒とか言いそうだけどね」
「確かに面倒ですけど学校にはちゃんと行ってますよ」

 巻き込まれるのか確実なんでしょうけどね。ちょっと面倒です。

 そして二日後の転入時、フェイトさんやアリシアちゃんと私の出会いを聞かれたり学校の案内を任されてしまったり、そこから世話焼きなバニングスさんと月村さんに関わったりと面倒事がありました。
 そして遠藤さんに「松田さんに友達が増えた!?」と大いに驚かれたりしました。失礼ですよね。
 あ、バニングスさん達にも友達になろうと言われたんですが・・・

「二・三人以上居ると付き合いが面倒そうなので遠慮しますね」
「なっ!?」
「め、面倒なだけで友達を拒否されちゃった・・・」
「杏、それは流石に酷いと思うよ」
「まあ松田さんらしいけどね」

 そんなこんなで結局友達にされてしまいました。二人のお嬢様と友達に・・・面倒な事に巻き込まれなければいいのですが。

 ところで高町さんはまだ戻らないのでしょうか。プレシアさんに事前連絡する様に言った方がいいでしょうか。・・・いや、面倒なので放っておきましょう。
 暫くしたらプレシアさんが出頭して判明するでしょうし。



[19565] 第11話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/06/14 20:56
「ふぁ・・・ぁふ。おはようございます・・・」
「おはよう杏」
「最近はいつもより少し早めに起きてるわねぇ」
「早めに起きないとアリシアちゃんに飛び掛られますから・・・いくら軽いといっても寝起きでアレは流石に苦しいです」

 テスタロッサ一家・・・というよりもフェイトさんとアリシアちゃんとアルフさんが引っ越してきてから、私は少しだけ起床時間が早くなりました。
 テスタロッサ一家で料理が出来るプレシアさんとリニスさんは本格的な引越しの準備や情報の整理で忙しく、それ故に朝食と学校の弁当はうちが作っているのですが・・・その時に私が眠っているとアリシアちゃんが起こしに来るんです。
 よりによって妹キャラにありがちなダイビングで。結構ダメージが大きいんですよアレ。止める様に言っているんですが。
 まあ懐かれて悪い気はしないですが。・・・というか自分でも知りませんでしたけど、意外と年下には優しかったんですね。基本的に他人にはあまり関わらなかったので今まで気付きませんでしたが。

「おはようございまーす!」
「おはようございます」
「おはよー」
「おはようございます、フェイトさんアリシアちゃん。アルフさんも」
「おはようございます」
「おはようございます。娘がお世話になりました」
「あ、プレシアさんとリニスさんもおはようございます。情報整理は終わったんですか?」
「ええ、昨日地球に来ている管理局の次元航空艦に連絡を入れたわ。今日の夜に向かうつもりよ」
「あら、そうなんですか。じゃあ二人とも今日はたっぷりプレシアさんに甘えておかないとね~?」

 ともかくこれで本格的にジュエルシード事件は終了ですね。何だかんだで割と時間がかかりましたが、これで一安心です。
 さて、今日以降はそう簡単にプレシアさんに会えなくなるでしょうし、せいいっぱい親子の団欒をさせてあげましょうか。
 いえ、これで静に朝ごはんが食べれるなんて思ってないですよ?親子の団欒を邪魔しちゃいけませんから。ええ、朝から元気なアリシアちゃんの相手をしなくていい事にちょっと安心しているのは確かですが。
 朝はゆっくりしたいですしね。いえ、朝だけと言わず年中ゆっくりしたいんですが。

 というか知ってたわけでもないのに、なんでお母さんはこの人数に足りる分の朝ごはんを作ってあったんでしょうか。
 まるで予知・・・あ、常識的に考えれば電話か何かで事前連絡しますよね。最近ファンタジーばかりでちょっと常識が吹っ飛んでいたみたいです。気をつけないと。

「では、行ってきます」
「行ってきまーす!」
「行ってきます」

 さて、今日も憂鬱な気分で登校です。学校なんて無くなればいいのに。

「お昼ごはんたのしみだなぁ」
「今日は母さんが作った弁当だもんね」
「プレシアさんの料理は本当に美味しいですしね」

 料理もクローンもなんでもござれな人ですからね。研究して作るという行為に対する天性の才能でもあるんでしょう。
 アリシアちゃんは絵が上手ですから、多分そっちの才能を引き継いだんでしょうね。そして魔法の才能はフェイトさんなんでしょう。
 ・・・という事は、アリシアちゃんは将来あれほど美味しい料理を作れるようになる可能性があるわけですか。可愛くて元気で料理上手とは優良物件にも程がありますね。
 フェイトさんも将来綺麗になりそうですし・・・私はどうなんでしょうか。せめて身長が150cmを超えてくれればそれでいいのですが。

「またお昼にね~!」
「ばいばいアリシア!」
「頑張ってくださいね」

 学校に到着し、学年が違うアリシアちゃんを別れて教室へ。
 フェイトさんはやはり人気が高いらしく、一緒に歩いていると様々な方向から視線を感じます。フェイトさんは気付いていないみたいですけどね。
 しかしあの美少女ヒロイン三人組にフェイトさんが加わったんですよね・・・お陰で他のクラスからのお客さんが増えたような気がします。
 その集団に私が居るのは正直どうかと思いますが。特別可愛い訳でもありませんし。覇気も皆無ですしね。

「さて、寝ます」
「相変わらずだね・・・おはよう杏ちゃん、フェイトちゃん」
「はい、おはようございます。希さん」
「おはよう希」

 遠藤さんとはバニングスさんと月村さんの友達騒動の時に、何だかんだあって名前で呼び合う事になりました。
 ちなみにバニングスさんと月村さんを苗字で呼ぶのはささやかな抵抗だったりします。大して意味はありませんが。

「最近アリシアちゃんのせいで寝不足です・・・」
「十分くらいしか変わらないって言ってなかった?」
「朝起きてからの二度寝の十分は何ものにも変えがたい至福の時間なんです」
「ちょっと気持ちが分かるかな。二度寝気持ちいいし」
「私は寝起きが良いみたいですぐ目が覚めちゃうから・・・」
「フェイトさんはちょっと勿体無いですね。今度二度寝してみるべきです」

 朝の学校でこんなに会話する様になったのも魔法関連に関わったからなんですよね。もう少しだらける時間を確保したいのですが。

「とりあえず会話が面倒になったので寝ます」
「あはは・・・お休み杏ちゃん」
「時間になったら起こしてあげるね」

 うん、やはり持つべきは協力的な友人ですね。これがバニングスさんだったら眠らせてもらえなかったでしょうから。
 さて、今度こそ惰眠を貪りま・・・

「全く、一体何処に行ってたのよ!」
「にゃはは・・・色々ありまして・・・」
「なのはちゃん疲れてるみたいだけど、大丈夫?」
「うん、大丈夫なの!」

 あぁ、考えてみればそうですね。昨日時空管理局に連絡を入れたんですから、今日から高町さんが来る可能性がありましたね。
 まぁ私にはあまり関係が・・・あ、フェイトさんは思いっきり関係ありました。
 ちょっと気になったので机から顔を上げると、フェイトさんは物凄く驚いた顔で高町さんを見ています。・・・あ、高町さんも気付いて急停止しました。

「なのは?どうしたのよ?」
「なのはちゃん?・・・あ、あの子はちょっと前に来た転校生のフェイトちゃんだよ」
「てんこう、せい・・・?」
「そうよ。・・・もしかして知り合いだったの?」
「あ、あはは、あははは・・・」
「え、ちょっとなのは?なのは!?」
「なのはちゃん!?」

 あ、壊れて崩れ落ちて真っ白になりました。凄いです。人間って本当に真っ白になるんですね。実際に色が変わったわけではないんですが、雰囲気が真っ白です。
 しかしあそこまで驚くなんて、どうしたんでしょうか?存在しないジュエルシードを探しただけじゃあフェイトさんを見てもああならないと思いますけど。

「何か心当たりありますか?」
「ふぇ!?えぇっと・・・そういえば、お話がしたいって言ってたような」
「ああ、成程。そういうことですか」

 高町さんの事ですから多分友達になりたかったんでしょうね。という事は、ジュエルシードを探していたフェイトさんと会う為に今までずっと頑張っていたんでしょうか。
 それなら仕方が無いですね。なにせそんな事をしなくても学校に来たら友達になれたんですから。ご愁傷様です。

「うぅ・・・ジュエルシード探しはいきなり終わっちゃうし、フェイトちゃんは学校に居るし、散々なの・・・」
「よく分からないけど、本当に大丈夫なの、なのはちゃん?」
「それにしても杏の他になのはもフェイトの知り合いだったなんて、世間は狭いわね」
「あん、ず?」
「うん、松田杏ちゃん」

 あ、ちょっと、今それ言ったら間違いなく面倒な事に・・・

「あ、あ、あ、杏ちゃーん!!」
「いきなり名前で呼ばれるとは思いませんでした」
「そんな事はどうでもいいの!それより聞きたい事があるの!!」
「面倒ですから一つだけですよ」
「ジュエルシードが見つからなかったのって、杏ちゃんが全部集めたんでしょ!?」
「はい」
「にゃぁぁぁぁぁーーーー!!!!!!!」

 あ、完全に壊れました。というか魔法関係の単語を叫ばないで下さい。後で困った事になっても知りませんよ。

 それからお昼まで高町さんは真っ白でした。お疲れ様です。
 ちなみにお昼にアリシアちゃんと遭遇して高町さんがまた混乱していました。お疲れ様です。
 そしてお昼に事情説明するととうとう反応を返さなくなりました。本当にお疲れ様です。

 あ、でもフェイトさんとアリシアちゃんの二人と友達になれた時はとても嬉しそうでした。良かったですね。



[19565] 第12話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/06/14 20:56
 あれから結局高町さんも友達?になってしまいました。もう増えなくてもいいと言っているのに話を聞いてくれません。
 以前なのはさんが使っていた魔法もそうでしたが、一切合財を無視して直進する事が好きなんでしょうか。真っ直ぐな人といえば聞こえはいいですけど、私からするととても面倒です。
 ただなのはさん自身も私に苦手意識があるらしく、持ち前の一直線な行動もちょっとだけ弱くなってる様な気がします。
 具体的に言うと、

「むー・・・杏ちゃん、いい加減名前で呼んで欲しいの!」
「何故でしょうか?」
「だって友達・・・」
「私は別に友達じゃなくても良いんですが」
「いや、あの・・・」
「はい」
「えっと・・・うぅ・・・」
「なんでしょう」
「・・・」

 といった感じでしょうか。
 まあこの後アリサさんに怒られたりして結局色々面倒になって名前で呼ぶ事になったのですが。全く強気キャラは鬼門です。
 というか関わってしまった時点でもう手遅れだったんでしょうね。今のところは学校での朝とお弁当後のお昼寝は何とか死守出来ていますが、これもいつ侵食されてしまうのか・・・
 特にお昼寝はアリシアちゃんに起こされる事も多いですからね。フェイトさんだけが頼りですけど、何だかんだでやはりアリシアちゃん優先な部分がありますし。
 希さんは他の友人グループへ行く事が多いらしく頻繁には助けてもらえませんし。ああ、面倒です。

 その一方で、自宅では比較的以前までと同じ様なだらけた生活が満喫できています。
 家の中での移動は勿論フライング座布団。それも三枚連結して主に寝そべったまま移動です。移動するその姿はまるで人間ロケットだとはアリシアちゃんの言葉。
 ちなみにアリシアちゃんもフライング座布団がちょっとお気に入りだそうです。魔法が使えないみたいですから空を飛べて嬉しいそうです。
 フェイトさんは私に影響されたのか、特に何かをする訳でもなくのんびりする事が結構好きになったみたいです。曰く、「今までこうやってのんびりした事無かったから」だそうです。なんて勿体無い人生でしょうか。
 アルフさんは専ら犬型でのんびりしています。が、最近怠けすぎだとリニスさんに怒られたらしく、今はバイトを探しているようです。ニートなんて羨ましい生活をさせない為に協力しようか悩みどころです。
 リニスさんはプログラム関係の仕事に就職したみたいです。まあ魔法もプログラムみたいなものらしいので、フェイトさんに魔法を教えていたリニスさんには丁度良い仕事ではないでしょうか。
 ・・・何となく察する事が出来ると思いますが、テスタロッサ家の皆さんは基本的に私の家に集合しています。
 私の両親は既に世界旅行を再開しているので私は一人だけですし、リニスさんも仕事があるので平日の日中はアルフさん一人。
 学校が終わったらフェイトさんとアリシアちゃんは大抵こっちに遊びに来るので、アルフさんも着いてきて・・・と、まあそんな感じで全員集合しています。
 全員集合してもやる事はのんびりするかゲームくらいしか無いのですが、アリシアちゃん曰く、「人数が多い方がとりあえず楽しいから」だそうです。
 まあ強制的に外出させられる訳でもないので、その点については賛成しないでもありません。

 そんなこんなで夏休みに突入しました。しかしやはり基本的に外出はしません。
 というか暑いのに外に出る理由がわかりません。自分から苦しもうとするなんて、変態なんでしょうか。

「やはり夏がクーラーの効いた部屋でだらだらするのが一番ですね」
「ミッドは涼しかったけど日本は暑いね・・・」
「杏おねえちゃーん、アイスたべていい?」
「あ、あたしも食べて良いかい?」
「良いですよ。ついでに私の分も持ってきてくださいね。あ、フェイトさんも食べます?」
「あ、うん」

 この頃になると全員のんびりする事が好きになっています。見事に私に影響されてますね。良い事です。
 まあフェイトさんとアルフさんは魔法の腕が鈍らない様に練習していますし、アリシアちゃんはリニスさんから貰った教科書で魔法の勉強をしているみたいですから完全にだらけている訳では無いみたいですが。
 ・・・ちなみに私に魔法が使えるか聞いてみたところ、魔法を使う為に必要なリンカーコア?が無いので不可能だと言われてしまいました。残念です。
 とはいえ完全に無理な訳でも無いんですけどね。フェイトさんのバルディッシュにお願いしてフェイトさんの魔力で勝手に魔法を発動させる程度なら可能です。
 それを見たリニスさんは「これは流石に非常識過ぎます!」だとか言ってましたが気にしません。

 ある日、すずかさんの家でお茶会をするという事でお誘いを受けました。
 お茶会です。なんという貴族的な響き。現代日本人の小学生が誘ってくる様な行事では無い気がします。やはり良家のお嬢様は住む世界が違うのでしょうか。単純なお金なら私の家も結構あるんですが。
 ともかくお茶会です。勿論断ろうと思ったのですがフェイトさんとアリシアちゃんにも誘われてしまい断れきれませんでした。将を射んと欲すればという奴ですね。
 別に断ろうと思えば断れたんですが、まあ成り行きとはいえ、友達になった相手の家に一度も行かないのもどうかと思ったので。
 あ、勿論遠藤さんの家にも行った事はありますよ?めんどくさがりですけど、その辺は割とちゃんとしているので。まあ一回しか行ってませんが。

 そしてお茶会当日。私の家に迎えが来るという高待遇です。これがあったから参加した様なものです。真夏に外を歩くなんて苦行をする気はありまえんので。
 アリシアちゃんはすずかさんの家に始めて遊びに行くという事で楽しそうです。フェイトさんは以前ジュエルシードを探している時に不法侵入した事があるらしいですが、ちゃんとお客さんとして行くのは始めてらしいのでやはり楽しみにしています。
 ちなみにアルフさんはバイトが決まって働きに行っています。何の仕事かは知りませんが。

 インターホンが鳴りました。迎えが来たようです。

「さて、行きましょうか」
「楽しみだね」
「猫がいっぱいいるんだって!」

 アリシアちゃんは猫好きの様です。使い魔にする前のリニスさんを飼っていたのもアリシアちゃんらしいですね。
 私も猫は好きなので楽しみですね。わざわざ移動するのは面倒ですけど。

 しかし、まさかこんなものに遭遇するとは思いませんでした。

「杏様、フェイト様、アリシア様。お迎えに上がりました、月村家メイドのノエルと申します」
「あ、はい、よろしくお願いします」
「よろしくおねがいしまーす!」
「・・・あぁ、えっと、よろしくお願いします」

 予想外です。何処からどう見ても人間にしか見えませんが、能力がある私には分かります!この人は本物のメイドロボじゃないですか!?
 凄まじいですね月村家。まさかこんな現代科学の最先端でも実現不可能と思われる様な完全なメイドロボが存在しているなんて、実は魔法に関わりのある一族だったりしないんでしょうか?
 うーん・・・私の手で触って中身をあちこち見たら色々わかるんでしょうか。ジュエルシードはあまり理解出来ませんでしたが操作や改造自体は可能でしたし、少なくとも操る事は可能でしょうが・・・
 しかし生物では無いとはいえ強い意志があるでしょうし・・・いやでも操作できたバルディッシュさんもAIとはいえ強い意志がありましたし・・・ううむ、興味深いです。弄繰り回したい。

「あの、何かございましたか?」
「あ、いえ、なんでもないです」

 まぁ実験する訳にもいかないので諦めましょう。それに多分操作可能でしょうし。
 万が一操作したことがバレて向こうに私の力のことがバレたら面倒な事になりそうです。何せメイドロボを問答無用で服従させる事が出来る天敵の様な存在ですからね。
 ここは手を出すべきではありません。ジュエルシード事件で学んだ事です。変な事をしたら面倒な事態が発生しますから自重しましょう。

 その後、普通にお茶会をしながら猫と戯れました。もふもふは癒されます。これだけで来た甲斐がありました。
 でももう行かない方が良いかも知れません。何故ならメイドさんが気取られぬ様に私を凝視していましたから。こと非生物に関しては私を誤魔化す事は出来ません。
 ・・・やはり初対面であからさまに驚いてしまったのがいけなかったんでしょうか。証拠は無いので接触してくる事は無いと思いますが、もう面倒事は嫌なので絶対に回避しなければ。

「またいきたいなー」
「じゃあ、また今度お呼ばれしたら一緒に行こう」

 ええ、たとえフェイトさんとアリシアさんに誘われても行きません。行きませんとも。



[19565] 第13話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/06/14 20:57
「少しは自力で動いたらどうですか!」
「お断りします」
「そんなに怠けてばかりで、筋肉が弱って大変な事になりますよ!」
「ジュエルシードでサポート済みです」
「・・・そんな事だと、将来どうやって働くつもりですか!」
「私は宝くじの抽選生中継で抽選番号を操作出来るんですよね」
「そ、それは卑怯です!倫理的に問題があります!」
「私は倫理より欲望に生きます」
「リニス、杏のは何言っても無理だと思うよ」
「杏おねえちゃんのダラダラはもうなおらないよ」
「しかし、しかしですねぇ!流石にこれは!」

 どうも、松田杏です。夏休み中に際限無くだらけきっていたら、本日休日のリニスさんに怒られました。他人の家庭の方針に口を出すなんて問題ですよね。
 まあ私もテスタロッサ家に口を出したのですが、それはそれ、これはこれです。気にしてはいけません。
 しかし何が引き金だったんでしょう?寝転がりながらテレビを見つつ夏休みの算数の宿題をしていただけなのですが。

「バルディッシュに計算させて、その答えを鉛筆に書かせるだけで自分は何もしていないではないですか!」
「能力は使ってますが」
「頭を使って自分で解きなさいと言っているんです!アリシアだって自分でやっているんですよ!?」
「よそはよそ、うちはうちという言葉が日本にはありましてですね」
「もう、ああ言えばこう言う・・・」
「あ、やっぱりこの二人は兄妹でしたか」
「昼ドラなんて見ていないで話を聞いて下さい!」
「うるさいですよ」
「ごめんねリニス、もうちょっと静かにしてくれないかな?」
「リニスうるさーい」
「リニス落ち着きなよ。テレビの音が聞こえないじゃないか」
「どうして全員昼ドラ見てるんですかー!!

 そんなの面白いからに決まってるじゃないですか。このドロドロっぷりと何度も大逆転する展開がたまりません。
 まあ私は今の昼ドラよりも前回の昭和時代を舞台にした昼ドラの方が好きでしたけどね。最終回の色々な投げっぱなしっぷりは認められませんが、それ以外は中々でした。
 今の悪くは無いんですけれどね。今後の展開に期待です。

「昼ドラのDVDでも買ってみましょうか・・・」
「あ、私も見たい。買ったら貸してもらえないかな?」
「わたしはアニメがいいなー」
「普通に映画にしないかい?」
「あ、貴方達は・・・」

 そうピリピリしない方がいいですよ。人生は余裕を持ってのんびりダラダラ楽しんだ方がお得です。私はそれを両親を見て学びましたから。
 ・・・さて、昼ドラも終わりましたし、リニスさんが説教している間に算数の宿題も終わりました。次は・・・

「お昼寝します」
「私は・・・もうちょっとテレビ見るね」
「宿題しよーっと」
「散歩でも行こうかねぇ・・・今日は比較的涼しいみたいだし」
「もう、もういいです。私はバルディッシュのメンテナンスでもします。・・・うぅ、こんな生活で大丈夫なんでしょうか。フェイトとアリシアの将来が・・・」

 なんとかなります。きっと。ほら、フェイトさんとアリシアちゃんはいざとなれば持ち前の才能を活かして時空管理局に就職したらいいじゃないですか。
 今はプレシアさんも勤労奉仕で働いてますし、コネの一つくらいなら出来ると思いますし。
 まあその時空管理局にどんな職種があるのかわからないんですけどね。興味もありませんし。



 とある日、以前すずかさんの家に遊びに行ったので今度はアリサさんの家に行く事になりました。勿論お迎えつきです。
 アリサさんは苦手です。リニスさんは何だかんだで口だけに留めてくれるので楽なのですが、アリサさんは容赦なく実力行使に出ます。流石にそこまでされたら動かざるを得ません。
 ・・・という訳でバニングス家へやってきたのですが、月村家に負けず劣らず大豪邸です。フェイトさんとアリシアちゃんの・・・実家?の時の庭園も結構な豪邸ですし、私の身の回りの人は皆お金持ちですね。
 なのはさんの家はそれなりの大きさがあるけど普通の家と言っていましたが・・・道場のある家は普通じゃないです。敷地面積どれくらいなんでしょうか。

 それはともかくアリサさんの家です。
 アリサさんはすずかさんと双璧を為すように犬が大好きで、やはりバニングス家も犬天国と化していました。もふもふです。
 うぅむ、やはり犬も可愛いですね。難点は吠えるのがうるさいという事でしょうか。躾られているのであまりうるさくしないのですが、流石にこうも犬が多いと至る所から犬の鳴き声が聞こえてきます。
 これで可愛くなければ帰っているところです。もふもふです。

「杏って動物が好きなの?すずかの家でも猫にもふもふしてたけど」
「気持ち良いじゃないですか、もふもふ。個人的には猫のもふもふの方が好みですけど」

 でもペットは飼いません。ペットの世話なんて数分で投げ出す自信があります。
 アルフさんやリニスさんみたいに全部自分でやってくれるなら喜んで飼いたいのですが、そんなペットは居ませんしね。だからといって魔法に関わって使い魔を作るというのはちょっと勘弁ですが。
 まぁリンカーコアが無いので不可能なんですけどね。多分。



 とある日、今度はなのはさんの家に行く事に・・・と言いたい所ですが、家ではなくご家族が経営している翠屋へ行く事に。お迎えはありませんでしたが、美味しいデザートの為なら仕方ありません。
 といいつつも衣服や靴まかせで殆ど自力では歩いていませんが。難点は暑さだけですね。嫌になります。

「私の両親もそうですけど、海鳴に住んでいる大人の人は何故こうも若い人ばかりなんでしょうか」
「にゃ、にゃはは・・・そういえばそうだね」
「母さんもアリシアが生き・・・えっと、海鳴に来る様になってからちょっと見た目が若返ったしね」
「フェイト・・・」

 フェイトさん油断しましたね。アリシアちゃんがニヤニヤしながら見つめてますよ。
 というか自分の生死に関わる話をニヤニアしながら見るとは恐ろしい小学一年生ですね。死んで生き返ったことをこうも軽く簡単に受け止めるなんて。
 実感が無いだけなのかも知れませんが。

 なのはさんのご両親がサービスしてくれるという事で 、オススメのシュークリームを食べてみました。
 これは凄いです。人気の店と聞いていても混んでいたら嫌なので来ていませんでしたが、これなら混んでいても納得です。こんなものが都会じゃなくて海鳴で食べられるとは・・・
 これの為なら多少歩くのも許容出来るかもしれません。でもやっぱり面倒なので食べたくなったら誰かに買ってきて貰いますか。
 フェイトさんとアリシアちゃんの分も買うと言ったら喜んで買ってきてくれそうです。満面の笑みで食べていますし。

「ふわぁ・・・」
「へぇ・・・」
「くすっ」

 何か三人娘に笑われました。何だというのでしょうか。

「あんたの満面の笑みが珍しかっただけよ」
「にゃはは、杏ちゃんっていつもだるそうな顔してるから」
「普段から笑ってればいいのに」

 ・・・なんでしょうこの妙な恥ずかしさは。勘弁してください。



 そんなこんなでイベントをこなし、残りの夏休みは殆ど自宅の中で過ごしつつも満喫しました。そして早くも明日から二学期です。
 このまま人生ずっと休んでいたいのですが、義務教育くらいはきちんと終わらせないと流石に恥ずかしいので頑張りましょう。
 休みさえしなければ良いんですから。たとえ寝ていようが話を聞いてなかろうが。あ、テストもちゃんとしますよ?

 さて、このまま平和が続くといいのですがね。



[19565] 第14話 A’s編開始
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/08/09 17:19
 どうもこんにちは。松田杏です。
 春先には魔法的な出来事に巻き込まれたり魔法の宝石でお願いを叶えてもらったりとファンタジーなイベントが多々ありましたが、それも終わった今では平和な日が続いています。
 テスタロッサ一家もすっかり日本の暮らしに慣れた様です。まあ海鳴はとても住みやすい町ですしね。

 最近は夏の暑さも過去のものとなり、おかげで外出した時も不快な気分にならずに済んでいます。いえ、外出するという行為だけで個人的にはちょっと不快というか、面倒なんですけどね。
 まあともかく季節は秋も終盤、というか冬でそろそろ雪が降るこの時期にも私は堕落の秋を満喫し、そして堕落の冬を継続しています。次点で満喫しているのは食欲の冬でしょうか。やはり翠屋のシュークリームは魔性です。体重が増えないので食べ放題なのがとても嬉しいですね。
 ・・・しかし体重が増えないからといって安心する事は出来ません。何故なら身長も変わる気配を見せていないからです。
 私の今の身長は135cm。ジュエルシードで3cm伸ばしてもらっているので実質132cmです。そんなにすぐ伸びるものではないのは確かですが、それでもクラスメイトを見ると順調に伸びてきている人も居ます。
 男子には春から比べると4cmくらい伸びてそうな人も居ます。ジュエルシード分を追い抜かしてしまう成長速度。妬ましいです。
 まあ恐らく小学校高学年から中学入学くらいの時期には私も身長が伸びると思うのでまだ余裕がありますが・・・伸びなかったらどうしましょう。もしアリシアちゃんに追い抜かされたりしたら流石にショックで引き篭もるかもしれません。
 まあ、放課後や休日は基本的に引き篭もっているのであまり生活リズムは変わらないでしょうけどね。

「やっぱりフェイトちゃんは早いの」
「でも、なのはの砲撃も凄いよ」
「そうですね。でも、二人とももう少し防御魔法をしっかりしましょう。ダメなわけではありませんが、流石に偏りすぎです」
「「はーい」」

 なのはさんは夏休みが終わった頃にフェイトさんに誘われて、リニスさんから一緒に魔法訓練を受けています。リニスさん曰く「感覚だけで魔法を組み上げる天才タイプ」らしいです。
 確か魔法ってプログラムみたいなものなんですよね?プログラムを感覚で組むとか頭がどうにかなっているんじゃないでしょうか。私には理解できません。
 まあ、そんな私も機械にお願いして人間には到底組めない様な完全に無駄の無いプログラムを組んでもらったり出来るわけですが。おかげで私の家のパソコンは処理能力が異常です。難点は常に全力稼動なので熱が溜まりやすい事でしょうか。
 機械の修理自体は簡単なものならリニスさんが出来るらしいので問題ないのですが・・・とりあえず壊れたら大変なので、今は速度より安全性を重視したプログラムで処理してもらっています。
 ちなみにバルディッシュで似たような事をしようとしたら止められました。下手に弄られるとメンテナンスの時に訳がわからなくなる可能性が高いかららしいです。それなら仕方ないですね。
 ・・・そういえば最近、リニスさんはミッドチルダの最新魔法理論を勉強してプログラムを組む勉強をしているみたいです。もしかして悔しかったんでしょうか。

「コーヒー淹れてくるね。杏も飲む?」
「はい、お願いします。砂糖とミルクたっぷりで」
「うん。待ってて」

 フェイトさんは先ほど言った通りなのはさんと魔法訓練をしていますが、それ以外でも色々しているみたいです。
 アルフさんと一緒に散歩に行く日もあればアリシアちゃんと一緒に魔法の勉強をする日もあり、私と一緒にのんびりテレビを見る日もあれば一人で本を読んでいたり。
 散歩以外は基本的に屋内で過ごしている辺りは私の影響なんでしょうか。何気にテスタロッサ一家の中ではフェイトさんは一番一緒にのんびりする事が多いんですよね。
 訓練の話を聞いていると若干バトルマニア的な片鱗が見え隠れしていたのですが・・・バトルマニアとインドア派って両立出来るんでしょうか?

「リニス、ここって・・・でもってここは・・・」
「いえ、ここは・・・するとこうなって・・・」

 アリシアちゃんは正直天才過ぎて引きました。なんでもう中学生の数学を勉強をしてるんですか。やはりクローンを作れるプレシアさんの子供だからでしょうか。
 アリシアちゃんはリンカーコアを持っていないのに何故魔法の勉強をしているのか疑問でしたが、どうやら魔法やデバイスの研究者になりたいんだそうです。目指すは母親プレシアさん。
 言ってる事はとても子供らしいんですが、やってる事は既に子供ではありません。アリシアちゃんとリニスさんの会話が専門的過ぎてついていけません。フェイトさんもたまに理解できない部分があるらしいです。
 やはり魔法資質を受け継がなかった代わりに知能を受け継いだのでしょう。数年後にはいっぱしの研究者になっていそうで怖いです。

 リニスさんは仕事が順調らしく、最近は趣味と実益を兼ねてプログラム関係の資格の取得にも力を注いでいるようです。
 資格取得が趣味の人が存在するのは知っていましたが、まさかリニスさんがその類の人になるとは思いませんでした。というか勉強が好きなんですね。流石テスタロッサ家で最も真面目な人です。
 しかし勉強だけに意識を割いている訳でもなく、家事もとても頑張っています。本当に働き者です。
 私も手作りの夕飯を食べさせてもらっている身なので、恩返し的な意味でたまにテスタロッサ家の掃除をしたりしています。勿論能力を使ってですが。
 ほこりや汚れなんて私の思い通りなんですよ、ふふふ。ゴミと会話するという構図があまり好きではないので無駄話はしませんが。

「そういえば最近・・・佐藤さんでしたっけ?結構一緒に出かけてますよね」
「あぁ、信二かい?そうだねぇ、何でか知らないけどそういえば結構誘われるね」

 アルフさんはバイトが楽しいらしいです。何のバイトをしているのか聞いてみると、建設現場での作業でした。まあ似合っているというか何と言うか。
 作業場の同僚達も気の良い方々ばかりらしく、笑い話をしながら楽しく働いているそうです。たまにお酒を飲んで帰ってくる事もあります。人生を満喫していますね。
 そして、最近良くアルフさんにお誘いの電話が来ている事を私達は全員知っています。アルフさん本人はただ一緒に遊んでいる認識のようですが、まあ普通に考えてそれは無いでしょう。
 この先アルフさんが色恋に目覚めるかどうか・・・という話以前に、使い魔と人間が交際して大丈夫なのかみんなでドキドキしながら見守っています。アルフさんは美人ですがやはり根底は動物ですし、妙な価値観の違いで相手の男性が可哀想な事になりそうな気がします。
 この予想出来ない展開が待っていそうな感覚、まるで昼ドラを見ているようです。・・・ちなみにこれに関してはリニスさんも興味津々でした。交際は無いだろうと確信している様ですが。
 ともあれ面白そうなので頑張ってください、佐藤さん。

 アリサさんとすずかさんと遠藤さんは時折一緒に遊んでいます。
 フェイトさんとアリシアちゃんがお呼ばれした時に私も誘われるのですが、何とか断り続けています。流石に遊びには強制的に付き合わされる事が無いので逃げ切る事が出来ています。
 その代わりに学校では逃がしてもらえなくなりました。まあ、月村家に行ってメイドロボに監視されるよりはマシです。面倒事は勘弁ですから。
 まあそんなこんなでそれなりの友人関係を保っています。・・・今普通に友人って言っちゃってましたね。友人はもう増えなくていいとか自分で言っておいて思いっきり絆されてるじゃないですか。まあいいですけど。
 しかし遠藤さんしか友人が居なかった私がいまやこんなに友人が居るとは・・・悪くは無いのかもしれません。今のところ面倒な事には巻き込まれていませんし。

 というわけで冬の十二月。赤い服を着た老人が空を徘徊する季節です。

「寒いです」
「寒いね・・・でも、夏の暑さよりは我慢できるかも」
「フェイトも杏おねえちゃんもだらしないよー!そんなにさむくないよ?」
「私がだらしないのは常の事です」

 ただいま下校中の私達は冬の道をテクテクと歩いています。寒いです。確かにフェイトさんが言った様に夏の暑さよりはマシだと思いますが、それでも寒いのは嫌です。
 しかし当初の危惧とは裏腹に春から今まで平和に過ごす事が出来ました。魔導師と友人になった事でそういった事件に巻き込まれやすくなるかと思っていたのですが。ほら、魔は魔を呼ぶとかよく言いますし。
 とはいえ油断してはいけません。天災は忘れた頃にやってきます。ならば忘れなければやってこない筈です。心の片隅で常に注意を・・・するのは面倒なので、まあただ忘れない様にしておきましょう。
 リニスさんがそんなに心配する事はないと言ってましたから問題ないとは思いますけ・・・ど・・・?

「結界!?」
「あー、油断したら本当にやってきましたね」
「ねえ、何でリンカーコアのないわたしと杏おねえちゃんが中にいるのかな?」
「そうですね・・・私はジュエルシードで色々サポートしてもらってますし、アリシアちゃんはジュエルシードで生き返ってます。恐らくその辺が関係しているんじゃないでしょうか」
「あ、そっか。わたし死んでふっかつしたんだったね」
「えっと、杏とアリシアももうちょっと警戒して欲しいんだけど」

 いや、魔法の使えない私達が魔法関連の出来事で警戒してもどうしようもないと思いますけど。確かに何とかしようと思えば能力で色々出来ますけど、やっぱり魔法には魔法ですよ。
 というわけで。

「「がんばれー」」
「う、うん。頑張る。バルディッシュ、セットアップ!」
『Set up!』

 さて、今度は一体どんな事件に巻き込まれる羽目になるんでしょうか。出来ればジュエルシードの時の様に、私に得のある事件だととても嬉しいのですが。
 まあ期待しないでおきましょう。そう何度も美味しい話があるわけもありませんしね。
 ・・・あ、誰か飛んできました。

「・・・幼女ですね」
「わたしと同じくらいかな?」
「でも、油断しない方がよさそう」

 おぉう、フェイトさんがそう言うとは、やっぱり強いんでしょうか。
 というかあの子ハンマー持ってませんか?あれもデバイスだと思いますけど、ハンマーは魔法の杖扱いでいいんでしょうか。斬新です。フェイトさんの鎌も似たようなものですけど。

「三人?・・・まあいい、お前らの魔力を貰うぞ」

 三人のうち二人は魔力持っていないんですけどね。



-----あとがき-----
A's編突入まで投稿しました。
杏ちゃん活躍にご期待ください。



[19565] 第15話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/06/15 20:41
 さて、何やら魔力をよこせと言われたのですが・・・この紅い子は魔力を持っている人間と持っていない人間を見分ける事が出来ないんでしょうか。
 私とアリシアちゃんはリンカーコアなんて持っていないんですけど。
 ・・・というか、この子人間じゃないですね。かといって月村家のメイドロボとも違いますし、何というか、漫画とかの言葉を借りるとしたら情報体みたいな感じでしょうか。
 ともかく操作は出来そうなので警戒はそんなにしなくていいですけど。

「とりあえず、私とアリシアちゃんは魔力を持っていないんですけど、そこの所はどうなんでしょうか?」
「は?・・・って、何でリンカーコアの無い奴が結界に・・・」
「魔法バレイベントだねー。まんがだったらオコジョとかカエルにされちゃうのかな?」
「えっと、杏?何でそんなに落ち着いてるの?アリシアも」
「何とかなりそうですから」
「杏おねえちゃんがおちついてるから、もしかしてーっておもって」
「あ、そうなんだ」
「何の話をしてんだ!っつーか魔法も使えない奴があたしを何とかするって、馬鹿にしてんのか!?」

 いえ、馬鹿にしているわけではないんですけど、仕方ないじゃないですか。貴女が人間じゃないからそんな評価なんですし。
 諦めてください。生まれは選べないものですしね。

「まあいい、さっさとぶっ倒して魔力を蒐集させてもらうぞ」
「お断りします」
「断っても関係無い!!」

 ハンマーで襲い掛かってきました。魔法と言っていたのでこの子も魔導師だと思いますけど、鈍器で殴る行為には非殺傷設定が存在しているんでしょうか。
 というか問答無用とは随分と血の気の多い子ですね。将来が心配です。あ、その前に成長するんでしょうか?体の情報を弄れば大きくは出来そうですけど。
 ・・・ともかく、こんな面倒な事には付き合っていられません。お引取り願いましょうか。

「止まってください」
「止まれと言われて止まるかぁ!」
「あれ?」
「えっ?」
「くっ!?プロテクション!!」

 おぉう、これは予想外。お願いしても止まらないとはどういう事でしょうか。やっぱり意思が強いんですかね?
 まあ、お願いが無理でも方法が無いわけでは無いんですけどね。

「ど、どどどどうしよう杏おねえちゃん!フェイトが!?」
「大丈夫ですよー。というわけで今度はお願いじゃない形で・・・『止まりなさい』」
「ぐっ!?」

 ふっふっふ、強制的に操作するのはあまり好きではないので普段はお願いという形で使ってましたけど、命令すれば物体の意思を無視して強制的に操作できるんですよね。
 命令を最後に使ったのは何時だったでしょうか・・・ああ、宝くじの中継生放送で番号操作した時ですね。あの抽選機械は自分の仕事に誇りを持っているみたいでしたし。
 まあお金の為に折れて貰いましたけど。私は必要な時には容赦しませんからね。

「な、何をしやがった!?」
「命令ですけど」
「あり得ねぇだろ!?何で主以外の奴があたしらに命令出来るんだ!?」
「成程、貴女の他には主が居て、更に仲間も居るわけですか。という事は全員を何とかしないと平和は帰って来そうに無いですね」
「なっ!?」
「杏、どうしよっか?」
「そうですね。じゃあとりあえず、私の家に連行して事情を洗いざらい話して貰いましょうか。・・・あ、一応『仲間と連絡を取らないで、暴れないで、私達に従いなさい』」
「ぐっ・・・一体何なんだよお前は!?」
「怠け者ですけど」

 さて、連行しましょうか。

 という訳でお話の時間です。抵抗は不可能な尋問とも言います。
 最近仕事に余裕が出てきて自宅勤務が増えてきているリニスさんが帰宅していたので一緒に尋問をしましょう。と、思っていたのですが。

「主・仲間・魔力の蒐集・・・もしかして闇の書の守護騎士でしょうか?」
「え?リニスさん知っているんですか?」
「ええ、恐らくですけど」
「ふむ、どうなんですか?その闇の書?の子なんですか?『答えなさい』」
「・・・そうだよ」

 という事なので、まずはリニスさんから教えてもらう事になりました。

 闇の書。古代ベルカ時代にて作られたデバイスの一つで魔力・魔法を蒐集する機能を持っていて、完成させると主に物凄い力をもたらすようです。
 それだけなら別に問題は無いと思われますが、なんとこの闇の書は完成すると暴走し、周辺世界を巻き込んで破壊を撒き散らすらしいです。迷惑にも程があります。
 その上破壊しても無限転生機能というトンデモ機能が働いて、新たな主の下にて再生されるらしいです。
 一応デバイスなので改造してそういった機能を止めようとした人もいるらしいですが、主以外の存在が闇の書に干渉しようとすると主を巻き込んで暴れて逃げるという面倒な機能をも持っているとの事です。
 おかげで時空管理局も闇の書を追っているのですが、出来る事といえば破壊して暴走を食い止める程度。根本的な解決が出来ないまま今まで来ているらしいです。

「そんな、嘘だ!?そんな訳が・・・そんな・・・っ!!」
「あれ、何か物凄い否定されてますよ?」
「覚えてないんじゃないですか?こんな記憶があったら魔力蒐集なんてしませんし」

 成程、魔力蒐集する存在が嫌がらない様にする為の処置でしょうか。中々に悪どいデバイスですね。闇を名乗るだけの事はあります。

「前回は今から十年程前でしたか、確かアルカンシェルで消滅させられた筈です」
「アルカンシェルって、前に聞いた反応消滅がどうこうってアレですか?そんなとんでもないもの受けても転生出来るとか、どんな技術を使っているんでしょうか」
「うー、いじってみたい・・・」
「ダメだよアリシア、弄ったら暴走しちゃうよ?」
「そうですよ。私も興味ありますけど、そんな危険な事をする訳にはいきません」
「まあ私がその機能を止めたら問題無いでしょうけどね」
「「それだ!!」」

 おぉう、アリシアちゃんはともかくリニスさんもですか。まあ研究者としては確かに興味がそそられそうな物ではありますけど。
 ・・・そうですね。アリシアちゃんはともかく、リニスさんにはいつもお世話になっていますし、お礼代わりにちょっとだけ協力しましょうか。

「という訳で闇の書を渡してください。蒐集に来たんですから、多分持ってますよね?」
「だ、誰が」
「『闇の書を渡しなさい』」
「ぐぅぅぅぁぁぁああああ!!!!!」

 必死の抵抗もむなしく闇の書をゲットしました。私達に襲い掛かってきたのが運の尽きでしたね。
 さて、ちょっと弄りましょうか。

「えーとまずはお話しますか。もしもーし?」
『な!?主以外の者が何故私と会話出来る!?』
「そういう能力があるから仕方がありません。諦めてください。」

 というか他のデバイスとか物と比べて随分とはっきりした意思がありますね。この紅い子と似た様なプログラムで意思が作られているんでしょうか。

「それはともかく、ちょっと未来のデバイス技術とデバイスマイスターの為の礎になって頂きたいんですが」
『止めろ!そんな事をしたら・・・』
「安心してください。・・・っと、こうこう、こうですか?こうですね」
『・・・は?』

 能力で干渉した瞬間闇の書がちょっとだけ不穏な空気を発しましたが、何か起こる前に暴走するプログラムを押さえ込みました。
 それにしても防衛プログラムが暴走の原因だなんてとんだ皮肉ですね。まあおかげで防衛プログラムを機能停止させただけで殆ど無害になりましたけど。

『は?えっ、ん?な、何が・・・?』
「防衛プログラムが暴走の原因みたいだったので一時的に機能停止させただけですよ。安心してください」
『ちょ、ちょっと待て!・・・ほ、本当に止まっている!?』
「いいですか?それじゃあ実験に付き合ってあげて下さい」
『待て!?待ってくれ!?』

 何ですか、うるさいですね。アリシアちゃんとリニスさんがうずうずしているんですから早くしてください。というかうずうずしてるリニスさん可愛いですね。写真に撮りたいです。
 あとフェイトさん、前に友達が増えたのが嬉しかったからってその赤い子と友達になろうとしなくてもいいと思いますけど。
 紅い子物凄く睨んでますよ?私を。

『頼む!その能力で私を・・・夜天の書を修復して欲しい!もう破壊を・・・主を苦しませたくないのだ!』
「夜天の書?闇の書じゃ無いんですか?・・・まあどうでもいいですね。面倒ですけど、アリシアちゃんとリニスさんの実験が終わったら何とかしてあげますよ。危ないものじゃ無くなればいいんですよね」
『本当か!?・・・感謝、する』
「いいですよーこれから散々弄繰り回されるでしょうから。という訳で・・・どうぞ、お好きなだけ弄繰り回してください」
「よしリニスいこう!」
「ええ行きましょう!」

 受け取った瞬間凄まじい速さでテスタロッサ家へと走っていってしまいました。本格的な研究室は向こうにしかありませんしね。
 闇の書・・・夜天の書でしたか。ともかく修復するまで無事だといいですね。二人ともキラキラ輝く満面の笑みを浮かべていましたし。

「さて、私達はどうしましょうか?」
「・・・お前、本当に闇の書を何とか出来るのか?」
「はい。もう暴走は抑える事が出来ていますし、特に問題は無いと思いますが。あと正式名称は夜天の書らしいですよ」
「夜、天・・・それよりも、本当なんだな!?はやては助かるんだよな!?」
「はやてって主ですか?まあ後でちゃんと弄れば問題は無いと思いますよ」
「本当か!?はやてが酷い目にあったら絶対ぶっ飛ばしてやるからな!!」
「はいはい。ちゃんと直しますから落ち着いて下さい。あと暴れないで下さいね」

 さて、あの二人が帰ってくるまでテレビでも見ましょうか。暇ですし。

「杏、アイス食べる?」
「あ、はい。・・・そこの紅い子にもあげておいて下さい」
「うん、わかったよ」

 冬に暖房器具で暖まりながらアイスを食べるのは最高の贅沢です。些細な幸せですね。



[19565] 第16話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/06/16 22:27
 自宅待機しているとお客さんがやってきました。

「ヴィータ!」
「大丈夫!?ヴィータちゃん!?」
「無事か!?」
「『騒がず暴れず落ち着いて大人しくテレビでも見てなさい』」

 はい、対処完了しました。お疲れ様です。

「さて、紅い貴女は他の仲間に事情説明をお願いします」
「あ、おう・・・」

 さて、何だか新規でやってきた三人が、特にピンク髪のポニテさんが何やらうるさいですが無視してインターネットでもしましょうか。
 勿論自分でマウスやキーボードを動かすわけがありません。むしろ、パソコンを直接操作しているので繋ぐ必要すらありません。便利ですね。
 さーて、なにをしましょうか・・・迂闊に変な事をするとサイバーテロみたいなことも出来てしまうのでイタズラは出来ないんですよね。
 というか私の能力はどこまで出来るんでしょうね。調べるのも考えるのも面倒なので詳しく調べた事は無いですけど、意思が強くても守護騎士を操れましたし・・・生物は無理というのは確定なんですけど。
 でも植物も一応生物なのにお話も操作も出来るんですよね。いまいち基準がわかりません。やはり調べた方がいいんでしょうか?
 ・・・ともかく、インターネットじゃなくてソリティアでもしましょうか。マインスイーパーはイライラするので却下です。

「杏、とりあえずあの四人にコーヒー淹れるね。杏も飲む?」
「ミルクと砂糖たっぷりでお願いします」
「待ってて」

 フェイトさんは気配り上手ですね。まあ淹れるコーヒーは我が家のものなんですけど。
 いえ、好きなだけ飲んでいいとも言ってありますし、むしろ別荘扱いでもいいと両親公認で言ってあるので今更なんですけどね。
 ・・・あの紅い子はコーヒー飲めるんでしょうか。見た目アリシアちゃんと同じくらいですし・・・あ、でも昔から存在している闇の書から生まれてる存在だから実際は凄まじい年齢なんでしょうか?
 という事はあの子は漫画でよくあるロリババァという事に・・・うぅむ、ファンタジーと言えばいいのか、SFと言えばいいのか。科学的な魔法なので少し不思議の方のSFが丁度良さそうですね。

 あ、赤い子がコーヒーをブラックで飲んで・・・アリシアちゃんも砂糖とミルクをちょっと入れて程度でしたし、私の周りに居る幼女は何故こうも苦味に強い子ばかりなんでしょうね。
 ちょっと悔しいです。訓練した方がいいのでしょうか・・・いや、面倒なのでやめましょう。自分が美味しいと思う飲み方で問題ありませんし。
 ・・・何気に金髪の人が一番砂糖とミルクを入れてますね。アリシアちゃん以上私未満の量ですが。

 しかしあのポニテの人何とかなりませんかね。明らかに気を張りっぱなしで見てるだけで疲れるというか何というか。
 確かに他の守護騎士もある程度警戒はしているみたいですけど、ポニテの人は特別それが・・・性格なんでしょうか。
 まあ見た目と雰囲気からしてまさしく騎士な人みたいですし、お堅い人なんでしょうね。プライベートではどうなのかわかりませんけど。

 それに引き換え金髪の人は緩いというか・・・いえ、違いますね。紅い子から話を聞いて警戒しても無駄だと理解しちゃったんでしょうか?
 となるとそれでも警戒しているのは逃走とかに関してでしょうか。直接触って色々しないと何となくしか考えが読み取れないから困ります。
 ・・・それにしても、そんなに苦そうにコーヒーを飲むなら砂糖とミルクを増やせばいいと思うんですけど。

 そして唯一の男性の・・・犬耳だから、使い魔でしょうか?男の犬耳とはなかなか斬新です。体格もいいですし、もしかしてそういう趣味の人の為に作られたのでは・・・
 可能性は否定できません。何せ他のメンバーがロリっ娘と真面目な姉御と優しげな若奥様ですし。というか狙いすぎな気がしないでもありません。どこのアニメですか。
 ・・・それはともかく、この人は一番落ち着いてますね。目を瞑って話を聞きながらコーヒーを飲む姿がカッコいいです。これで半裸に近い格好では無ければキマっていたんですが。

「ただいまー・・・あれ?誰だいあんた達」
「アルフさんお帰りなさい。この人達は魔法絡みの事件を持ってきた迷惑な人達です」
「ふーん。まあフェイト達に危害を加えないなら別にどうでもいいか」
「アルフお疲れ様。コーヒー飲むよね」
「ありがとうフェイト」

 うんうん、アルフさんもだんだん落ち着いてきましたよね。始めのうちはあんなに騒いでいたのに・・・まあ話によるとまだ二歳くらいらしいから当たり前かもしれませんが。
 しかしフェイトさんはコーヒーを淹れるのが好きなんでしょうか。フェイトさんの淹れるコーヒーはインスタントなのに妙に美味しいので特に問題は無いんですが。

「・・・って訳なんで、今闇の書は持ってかれてるからその後に試すってさ」
「いまいち信じられんが、実際こうやって操られてる身だから信じないわけにもいかないか・・・」
「それにしても災難なのか僥倖なのか・・・本当に何とかなるのなら後者なんでしょうけど」
「・・・何れにしても、主が助かる可能性が高いならそれに賭けた方がいい。無理なら再び蒐集を再開するだけだ」
「あ、その場合は海鳴では暴れないで下さいね。魔法関連の事件は面倒過ぎるのであまり関わりたくないんです」
「蒐集自体は止めないのか?」
「どうでもいいです。現時点でもう暴走はしない事が確定していますし、勝手に集めて下さい。私は自分の周囲が平和なら他の世界が吹っ飛んでも気にしません」

 まず他の世界に関わるなんてそうそう無い事ですしね。何かのきっかけで時空管理局に行く事でも無い限りは。
 ・・・いや、テスタロッサ一家と一緒に他の世界に行く機会もあるかもしれませんね。まあでもどうでもいいです。遠くに旅行に行くのは面倒ですし。

「杏、リニスから「今日一日闇の書を借りたいって伝えて欲しい」って念話が来たけど」
「という事らしいですけど、どうでしょうか」
「無理に決まっているだろう!」
「みたいですよ」
「うん、伝えるね。・・・今日中に修復するからどうしても貸して欲しいって」
「修復するの私なんですが」
「・・・本当に可能なら、修復後に主との相談次第では可能かも知れないが・・・」
「わかった。伝えるね」

 修復するのは私なんですが。というかリニスさんが他人の意見を無視する様な事を言うなんて珍しいですね。よっぽど興味深いんでしょうか。

「持ってきました!さあ杏、修復してください!!」
「・・・とりあえずそのおかしなテンションを何とかしてください」
「リニスすごく楽しそうだったよー・・・あ、なんかふえてる」
「じゃあリニスさんとアリシアちゃんはそこの守護騎士と一緒にコーヒー飲みながら待っててください」
「はい、淹れてきたよ」
「ありがとー」
「あっと、ありがとうございますね、フェイト」

 フェイトさんは本当に気が利きますね。我が家のメイドさんとして雇いたいくらいです。料理はちょっと苦手みたいですけど、それも唯単に経験が無いだけだと思いますし。実際コーヒー淹れるの上手ですしね。

「さて、どうでしたか?」
『あ、あそこまで弄繰り回されたのは初めてだ・・・過去に改造された時もあそこまで色々見られたのは中々無いぞ・・・』
「お疲れ様です。でも主との交渉次第ではまた弄繰り回されるんですけどね」
『何!?』
「さて、とりあえず一切危険が無い様にすれば良いんですよね?夜天の書がどんなのか分からないので、とりあえず危険が無くなる様に好き勝手やらせて貰います」
『ちょっと待て、好き勝手ってどういう・・・』

 何か言ってるみたいですけど無視です。今回はそこまで面倒な事になってないとはいえ、私の平穏を妨害したんですからちょっとくらい自由にさせてもらいますよ?
 別に危険な事をする訳でもありませんし。むしろ、より凄いデバイスにしてあげます。

「えーっと、これは・・・主を取り込む機能ですか。じゃあこれと守護騎士プログラムと無限転生機能を結びつけて、主が死んでもプログラム体として復活出来る様にしましょう」
『は?』
「ついでに破壊された後も主ごと転生復活出来る様にして・・・他人を取り込んで夢を見せる機能?じゃあこれは任意で人を収納開放出来る様にしましょう。本型輸送艦みたいな感じで」
『ちょっ』
「この夢を見せる機能は相手の記憶を読み取って夢を見せるみたいですし、プログラムを流用して蒐集で記憶も読み取れる様にしましょう。サイコメトラーもびっくりです」
『待て!何とんでもない事をしている!?』
「防衛プログラムを放置するのは勿体無いですね。ここは暴走しない様にきちんとプログラムを組んで・・・そうですね、起動時は常に主を守る障壁を張る様にしますか。オートガードの完成です」
『は、話を聞け!?夜天の書の原型が無くなってきてるぞ!?』
「あ、でもこれだと守護騎士があまり必要無くなってしまいますし・・・あ、蒐集してある魔法を守護騎士も使える様にしますか。適正の問題はありそうですけど何とかなりますよね」
『落ち着け!?このままではブラックボックス的な意味で闇の書になってしまう!?』

 ふふふ、何だか楽しくなってきました。魔改造って結構面白いですね、嵌りそうです。今度バルディッシュも・・・いや、バルディッシュでやったらリニスさんに怒られてしまいますね。
 じゃあなのはさんのデバイスを借りて魔改造してみましょうか。何となくで闇の書に使われてるプログラムを組み込んだらどうなるか興味がありますし。

「ユニゾンプログラム?じゃあ主を基本にして守護騎士全員と合体するスーパーモードとか面白いかもしれませんね。あ、防衛プログラムとも合体してスーパーアーマーでもいいかもしれません」
『止めろぉぉぉぉ!?』

 面白い、面白いです。どんどんネタが浮かんできます。ふふふ・・・この私の能力の粋を尽くして、闇の書を最大限に強化しちゃいましょう。
 そして夜天の書改め闇の書改め・・・そうですね、魔天の書とか暗黒の書とかどうでしょうか。うん、いかにもラスボス的な雰囲気です。
 時空管理局とは敵対している様なものらしいですし、別に問題は無いでしょう。主がどんな人なのかわかりませんけど、まあ強くなる分には拒否しないでしょうしね。多分。

 あ、改造しすぎてリニスさんとアリシアちゃんが弄れる場所が無くなる可能性もありますね・・・まあ、一部は見れますし問題無いでしょう。



[19565] 第17話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/06/17 18:35
 ふぅ、思うがままに弄りすぎてしまいました。こんなに一つのものを弄ったのは初めてかもしれません。おかげで疲れてしまいましたね。

「あ・・・あぁ・・・夜天の書が、跡形も無く・・・」

 ちょっとやりすぎたんでしょうか、いつでも実体化出来る様にした管制人格さんが光を失った目から涙を流しながら崩れ落ちている事に今気が付きました。
 銀色の髪をもった非常に美人なのですが、現状を見るとその美しさが今の異常な状態と相まって恐ろしさしか感じる事が出来ません。
 流石に少しだけ可哀想になりましたが・・・でも結局主が死ななくなりましたし、破壊を撒き散らす事も無くなったので問題無いですよね、きっと。
 一度集中が途切れてしまったので、元に戻すのが面倒なんです。

「ところで何故守護騎士の方々は何故そんな驚愕している様な顔をしているんですか?」
「驚くに決まってんだろーが!?あたしらまであり得ない強化されてる上に蒐集した魔法まで使えるようになってるんだぞ!?」
「守護騎士という役割からするととても良い事だと思ってやったんですが」
「あ、ああ、これなら確かに守護に関してはほぼ確実に失敗はしないだろうが・・・」
「あ、ははは・・・何でしょうかこれ、私達にあるリンカーコアの魔力精製の速度がとんでもない事に・・・」
「ありえん・・・というか何だこの巨狼モードとは」

 凄いでしょう?頑張りましたよ、主に私が満足出来る様に。

「ともかくこれで闇の書は安全・・・安全?・・・主が暴れない限り安全な物になりましたし、そのはやてとかいう主の所に行って報告でもしてきて下さい。ついでに書を借りれるかどうかもお願いしますね」
「あ、ああ・・・わかった」
「またね、ヴィータ」
「あたしは出来るだけもう来たくねーよ、フェイト・・・ここに居るとどんな事になるか・・・」

 何時の間にフェイトさんと紅い子は名前で呼びあう程仲良くなったんでしょうか。ともかく友達になれてよかったですね。
 アルフさんも犬耳男さんとそれなりに仲良くなってるみたいですし・・・うーん。このまま使い魔同士くっ付いたりしたら面白いかもしれません。佐藤さんには申し訳無いですが。

「すまないが、事情説明の為に一緒に来てもらいたいのだが」
「面倒なのでお断りします。改造内容についてはそこで呪いのオブジェみたいになっている管制人格さんが知ってますし」
「呪いのオブジェ・・・いやしかし、改造内容以外にも話す事もある」
「あ、じゃあリニスさんが行ってはどうでしょうか?直接闇の書を貸してもらえるか交渉出来ますよ?」
「そうですね、ならば私が行きましょう」
「そうか、助かる・・・最早我らには何がどうなっているのかわからないからな。そちらの者が居ると説明も楽になる」
「そうでしょうね。私も杏に蘇生してもらったばかりの頃は常識が破壊されて色々大変でしたし」
「ちょっとまて蘇生って何だよオイ!?」

 早く行ってくれないでしょうか・・・集中が切れたせいか疲れが一気に襲ってきているのでゆっくりしたいんですが。
 ともかくソファーでゆっくりとテレビでも・・・あ、その前に・・・

「はい、ミルクと砂糖たっぷりのコーヒー。疲れたみたいだから持ってきたよ」
「フェイトさん結婚してください」
「私、女の子だよ?」

 能力でコーヒーを淹れようとすると、私の行動を先読みしたのかコーヒーを持ってきてくれたフェイトさん。本気で天使の様に見えました。私は百合属性はありませんがフェイトさんなら嫁にしたいです。
 本当に素晴らしいですね。美人で頭もアリシアちゃん程では無いにせよ良い方で、運動も得意で優しく気が利いて、魔法が使えて家族や友人思いで・・・完璧じゃないですか。こんな人が現実に存在するなんて奇跡じゃないでしょうか
 何より私を甘やかしてくれるのが最高です。おかげで怠惰ライフが満喫出来ます。

 さて、守護騎士の方々とリニスさんはようやく出発してくれました。これで本格的にゆっくり出来ますね。

「そういえばアリシアちゃん、闇の書を弄って何かためになる事がありましたか?」
「うーん、まだわたしにはむずかしーことばっかりだったから・・・でもリニスはいろいろわかったみたいだよ」
「あ、それはそうですよね。ロストロギアって言われてる程のデバイスについてなんて簡単にわかる筈ありませんし」
「でもアリシアなら案外一年くらいでわかる様になるんじゃないかい?何か良く分からないくらい頭がいいし」
「アルフさんが言った可能性が全然否定出来ませんね」

 本当に頭がいいですからね。聞いた話だとミッドチルダは就業年齢が低いみたいですけど、その理由ってもしかして頭の良い優秀な子供が多いからなんでしょうか?
 現にアリシアちゃんもフェイトさんも互いに方向性は違うとはいえ優秀みたいですし・・・あ、そういえばなのはさんも魔法の才能に関しては天才ってリニスさんに言われてましたね。
 もしかしてリンカーコアのある人は基本的に普通の人よりも優秀なんでしょうか。何やら複数の事を同時に考えるマルチタスクとかいう思考技術が魔導師の基本みたいですし。
 ・・・否定する要素がありませんね。以前聞いたミッドチルダでは魔導師が優遇されるというのは、こういった部分が関係しているのかもしれません。
 実際マルチタスクが使えたら便利そうですしね。日常生活でも仕事でもかなり役に立つでしょうし。

「ねえ杏、なのはから念話が来たんだけど・・・」
「なのはさんから?」

 一体なんでしょうか、このタイミングでの念話なんて面倒そうな気がするんですが。

「えっと、ちょっと前に海鳴で変な魔力の反応があったらしくて、たまたま他の事件の調査で近くに来てた時空管理局の執務官が来てるみたい。それで何か知らないかって」
「ちょっと前に?・・・それって最初に闇の書を弄った時に光ったアレでしょうか?」
「やっぱりそう思う?どうしよっか・・・もう危険なものじゃないけど、ロストロギアだから教えるのもちょっとね」
「そうですね・・・いっそ全部事情説明しちゃいましょうか?所有権を放棄しない限り主が変わらない様にもしてしまったので没収も出来ませんし、話しても問題無いと思いますけど」
「そうかな?・・・そうだね。ヴィータも今の主は戦いとかを望んでないって言ってたから、案外何とかなるかも」
「フェイトいつの間にそんなにあの子となかよくなったの?」

 私も気になります。というか最近のフェイトさんはいつの間にか何かをしている事が多いですよね。
 まあそれはともかく時空管理局に説明する事で決定ですね。守護騎士側の詳しい事情はわかりませんが、戦いを望んでいないなら問題も起こしていないでしょうし問題無いでしょう。
 別に時空管理局にバラすなとも言われてませんしね。

「という訳でフェイトさん、説明お願いしますね」
「うん、なのはが翠屋で待ってるみたいだから行ってくるね」
「あ、暇だしあたしも行くよ。杏は来ないだろうし、アリシアはどうするんだい?」
「んー、闇の書いじって疲れたからいかなーい」
「あ、フェイトさん翠屋に行くならお土産お願いしますね」
「うん、じゃあ行ってきます」

 しかし時空管理局がまた関わってきましたか。面倒な事になりそうですけど、私はただ闇の書を安全なものに改造しただけですし関係ないですよね?
 守護騎士もきっと事件なんて起こしてないで・・・あ。

「そういえば私達って襲われかけたんでしたね」
「あ、そういえば・・・あれ?じゃあもしかして・・・」
「時空管理局が調査に来ていた事件って、守護騎士絡みかもしれませんね。魔力を集めてるみたいでしたから、既に事件扱いされるくらい被害者がいるのかもしれません」
「・・・どうしよっか」
「・・・考えても仕方がありません。なるようになるでしょう」
「それってかんがえるのがめんどーなだけじゃ・・・まあいっか」

 ええ、きっとどうにかなるでしょう。いざとなればプレシアさんみたいに時空管理局に協力すれば大した罪には問われないでしょうし。多分。



[19565] 第18話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/06/19 19:48
 現在私とアリシアは二人っきりです。何気にこの二人だけが家に残るというのは珍しかったりします。
 普段ならアリシアちゃんはフェイトさんと一緒に行ったでしょうけど、疲れて行かなかったという事はよほど闇の書弄りが楽しかったという事でしょうか。
 現に今はソファーに寝そべってふにゃふにゃになっていますし。というか勝手に私の足で膝枕にしないで頂きたいんですが。

「ん~、杏おねえちゃんのひざまくらって、けっこうきもちいいかも・・・」

 うん、ちょっと嬉しかったので許してあげましょう。ふふっ。

「それにまえからおもってたけど、このソファーもきもちいいよねぇ」
「そうでしょうそうでしょう。私が一日の大半をダラダラする大事な家具ですから吟味したんですよ」
「わたしもほしいかも・・・」
「ほぼ毎日こっちに来てるのに新しく買うんですか」

 というかほぼじゃなくて毎日ですよね。向こうの家って人気無さ過ぎだと思いますけど、配達とか来たらどうするつもりなんでしょうか。まさか荷物もこっちに来たりしませんよね?
 ・・・そんな事より、いい加減足が痺れてきました。いくらジュエルシードで最低限の筋肉を維持しているからといっても、基本的に私の体は貧弱なんですから負担をかけないで貰いたいです。
 自業自得?知りませんね。

 それにしても、リニスさんもフェイトさん達も随分と説明に時間がかかってますね。闇の書に関して説明しているリニスさんは仕方が無いのかもしれませんけど、フェイトさんの方はそこまで詳しく説明する理由も無いでしょうし・・・
 せいぜい「闇の書の守護騎士に襲われたけど止めて、ついでに頼まれたので安全な物に改造しました」程度で済むと思っていたんですが・・・

「そこの所どう思いますか?」
「ロストロギアをかいぞーしたって言ったら、杏おねえちゃんになれてない人はかたまるとおもうよ?」
「ああ、そういうものなんですか」
「うん、たぶん」

 そうでしたか。そういえば守護騎士も呆然としたりしてましたし、そうなんでしょうね。私もテスタロッサ一家もすっかり慣れていたので全然気にしていませんでした。
 この能力を私と両親しか知っている人が居ない時はもう少し自重していたんですけどね・・・うーん、その内無意識に使って誰かに見られたりしてしまいそうです。気をつけないといけませんね。

「「ただいまー」」
「「おじゃまします」」
「おじゃましまーす」

 あ、フェイトさん達が帰ってきましたね。他に誰か着いて来ているみたいですけど。一人はなのはさんみたいですけど・・・後の二人はどこかで声を聞いた事がある様な・・・?
 というかフェイトさん物凄くナチュラルにうちにお客さんを入れましたよね。ここ私の家なんですけど。いや、別に問題は無いんですけどね。
 実質ここは松田家兼テスタロッサ家と化していますし。

 フェイトさんたちがリビングまで入ってきました。やはり一人はなのはさんでしたね。
 あとの二人は・・・あれ、何処で見たんでしたっけ?どこかで見た覚えはあるんですけど。

「杏ちゃん、また何かとんでもない事したって聞いたけど・・・」
「大した事では無いですよ。ちょっと弄っただけですし」
「聞いただけで頭が痛くなる様な改造をしておいてちょっとは無いだろう・・・ともかく、直接話を聞かせて貰いたい。闇の書は管理局にとって見過ごせない件だからな」
「そうですか?まあそれはさておき、もうすぐリニスさんが帰ってくるのでその時にでも話しますね。リニスさんが」
「君じゃないのか・・・」
「面倒ですし。あ、多分闇の書も借りてくると思いますよ。リニスさんのデバイスマイスターとしての血が騒いでるらしくて色々弄りたいみたいです」
「・・・どこから、どこから突っ込めばいいんだっ・・・」
「クロノ、きっと考えたらダメなんだよ。フェイトから話を聞いた時点でなんとなく判ってたじゃないか」
「しかしなユーノ・・・」

 あ、そうでした。確か黒い人は宇宙戦艦アースラに乗った時に見た時空管理局の人でしたね。それでこっちの人は・・・フェレットの人でしたっけ?今日はフェレットじゃないんですか。
 まあともかく役者が揃うまではゆっくりしてましょう。焦ってもいい事はありませんよ?

「あ、そうでした。面白そうなので今度闇の書を弄った経験を生かしてなのはさんのデバイスに闇の書にあったプログラムを組み込んでみたいんですけど、どうでしょうか?」
「にゃ!?レイジングハートを!?」
「ちょっと待て!?何とんでもない事をしようとしているんだ!?」
「っていうかそんな事出来るの!?」

 あれ、物凄く驚かれてしまいましたが。もしかしてまだ私の認識が甘かったんでしょうか?
 ただ守護騎士プログラムの一部とユニゾンプログラムを詰め込めるかどうか試したかっただけなんですけど・・・他のプログラムはちょっとよくわかりませんでしたし。
 いえ、実際はプログラムに関しては何にもわかってないんですけどね。ただ何となく感覚的に覚えてるもので流用出来そうなのがこのプログラムだっただけで。
 この能力のおかげで色々考えるだけで好き勝手弄れますし。いわば過程を飛ばして結果を得る要領でしょうか。

「本当はバルディッシュさんでもやりたいんですけど、あまりやりすぎるとリニスさんに怒られそうですし」
「レイジングハートでもやりすぎたら私が怒るの!!」
「えー」
「にゃああぁぁ!!」
「落ち着いてなのは。はい、なのはは紅茶で良かったよね?」
「あ、うん。ありがとうフェイトちゃん」

 流石フェイトさんです、気が付けば飲み物を用意しているとは。
 でも翠屋の紅茶を飲んでいるなのはさんが市販のティーバッグで満足できるんでしょうか?・・・あ、普通に飲んでますね。良かったです。
 ・・・しかしリニスさんが遅いです。何かトラブルでもあったんでしょうか?フェイトさんにお願いして念話で連絡でも---

「ただいま戻りましたー」
「おじゃましますー。ほら、みんなもちゃんと挨拶せなあかんで」
「「「「「おじゃまします・・・」」」」」

 あれ、リニスさんはともかく何かいっぱい来ましたね。守護騎士と管制人格さんの声は判りましたが・・・残りの一人が主なんでしょうか?声を聞いた限りだと女の子みたいでしたけど。
 てっきり主は男の人だと思ってましたが、今思い返してみれば誰も主が男だって言ってなかったですね。 守護騎士のメンバーを見て勝手に男性向けかと思ってました。
 ほら、こういったものってやっぱりハーレムがどうとか考えそうじゃないですか。漫画とかだと大抵そんなものですし。

「杏、闇の書の主の子がお礼を言いたいと言っていたので連れてきま・・・なんで時空管理局の執務官が?」
「なっ!?」
「管理局だと!?」
「『落ち着いて大人しくしていなさい』・・・じゃあ後は全部お願いしますねリニスさん」
「丸投げですか!?」
「勿論です」
「杏おねえちゃーん、ひまだからゲームしよー」
「そうしましょうか」
「ちょっと・・・はぁ、まあいいです」

 よし、それじゃあ何のゲームをしましょうか。



[19565] 第19話 A’s編完結
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/07/27 21:02
「ほんまにありがとうな。色々突っ込みたい事はあるんやけど、ともかく私も皆も無事で居られるのも杏ちゃんのおかげや」
「・・・え?すいません聞いてませんでsってアリシアちゃんストップです、今主さんと話を---」
「ストップしたよ。リモコンばくだんではさんだけど」
「くっ・・・キックもプッシュも無いというのに、何という鬼畜の所業・・・」
「いや話聞いてな、お願いやから」

 アリシアちゃんと爆弾で相手を爆殺するゲームをしていたら途中で闇の書の主さんに話しかけられ、余所見したその隙にリモコン爆弾で挟まれてしまいました。詰みです。
 能力を使って無敵処理をしたらこの程度の逆境なんてものともしないのですが、以前対戦で使ったら酷い目にあったので自粛します。
 ・・・で、何でしたっけ?何か私に突っ込むとか何とか言ってた様な気がしたんですが。

「いやちゃうから。お礼を言ったんよお礼を」
「ああ、気にしなくていいですよ。あそこまで好き勝手弄り回すのはなかなか面白かったですし」
「・・・まあそのお陰であの子はあんなんなっとるけどな」

 何やら主さんが横に目を移したので釣られて目をやると、また呪いのオブジェと化している管制人格さんが体育座りでブツブツ何かを呟いていました。
 事情説明をしていて思い出してしまったんでしょうか。可哀想に。

「いや改造した本人がそれ言うのはあかんやろ」

 私は気にしません。

「あ、そういえばさっきからずっとポニテさんに抱かれてますけど、足が不自由なんですか?」
「あぁ・・・これも闇の書が原因だったらしいんやけどな。もう問題ないみたいやし、後はリハビリするだけや」

 そうなんですか。なかなか苦労しているんですね、足が動かないなまま生活なんて私にはとても出来そうに・・・あれ、能力を使ったら普通に出来そうな気がします。
 ともかく大変そうですね。・・・あ、そういえば。

「今すぐ歩ける様になる方法もありますが」
「ホンマに!?」
「肉体を捨ててプログラム体になればいつでも健康体ですよ」
「いやあかんやろそれ」

 さいですか。将来的にはプログラム体になるんですし、今なってもあまり違いが無いと思いますけど。プログラムとはいえ基本的には人間と大差ありませんし。
 ・・・さて、管理局の人はまだリニスさんに説明を受けてる最中ですか。何やら頭を抱えたり溜息を零したり首を横に振ったりしているのが見えますけどどうしたんでしょうか。
 元フェレットさんも何だか遠い目をしていますし・・・お客さんで唯一闇の書に興味を示していないなのはさんはフェイトさんとお話中ですか。何やらちらちらと主さんの方を見ていますけど、やはり友達になりたいんでしょうか。
 ・・・しかしいい加減管制人格さんの闇のオーラがうざったくなってきましたね。ちょちょっと操作をして無理やり・・・

「フフ・・・フフフ・・・フハハハハ・・・フハハハハハ!!ハハハハハハハハ!!!!」
「な、何だどうした!?」
「壊れた!!コイツ壊れちまった!?」
「あぁ!?リインフォース!?」

 あ、明るくなる様にテンションを高くしたら呪いっぽい状態のまま元気になってしまいました。あれではただの怖い変な人ですね。
 ならば悲しみを打ち消すくらいの幸せを感じるようにして・・・ついでに喜びも感じるようにしてと・・・

「ハハハ!?フヒャヒャハヤヒャアヒャヒャヒャヒャ!!!!アヒャーヒャヒャ!?」
「リイン!?リインー!?」
「うーむ、これは流石に失敗でしたか・・・どうしましょう」
「またお前か!?何してんだよ!?」
「いえ、いい加減うざったくなったのでちょっと操作して精神を元気にしたんですが、やりすぎました」
「いいから早く直してぇぇ!?」

 そうですね。では弄った部分を元に戻してっと。はい、これで元に戻りました。

「もう嫌だ・・・遠き地にて闇に沈んでしまいたい・・・」
「リインそれはあかん!?」

 面倒なので後は向こうに任せておきましょう。何となくギャグ時空っぽくなったので多少マシになりましたし。

「何をしていたかは詳しく聞かない事にするが・・・ともかく、話は粗方聞かせて貰ったよ」
「あ、お疲れ様です。後はあちらで混沌としている闇の書チームとご相談下さい」
「いや、残念だがここまで色々されてしまうと君を放置出来なくなってしまうんだ」

 ・・・嫌な予感がします。放置出来ないって言ってましたよね。もしかして、ちょっとやりすぎましたか?

「別に罪に問われる等は無いだろうが・・・闇の書について上に報告すると君の事も説明しなければならないんだ。そうなると間違いなく管理局は君を放置しないだろう。一部には強硬な人間も居るみたいだからな・・・」
「すいませーん!闇の書貸して下さい!今すぐ改造前の危ない形に戻して全部無かった事にします!!」
「いやダメだろうそれは!?」

 嫌ですよなんでそんな面倒な事になるんですか!あーもうこれだから魔法に関する事に関わるのは嫌だったんです!ジュエルシードの時も色々良い事はありましたけど、結局面倒事が多かったですし!
 これなら一切合財無視して帰していればよかったです。あ、でもそれだと世界の危機だった可能性もあったんでしたっけ・・・あーもう面倒です。三年生になってからイベントが多すぎなんですよ。

「でも杏おねえちゃん改造してる時ノリノリだったよね」
「黙秘します」
「ジュエルシードの時も自分で関わって、後から面倒だって言ってたよね」
「なんですか姉妹揃って。何か言いたいんですか?」
「「自業自得」」

 うるさいです。八つ当たりしますよ?何故かドアというドア全てに挟まれる様にしますよ?怒られたら面倒なのでやりませんけど。

「ともかく近いうちに艦長と話をして貰いたい。時間の取れそうな日は?」
「いつでも忙しいです」
「杏は放課後ならいつでも家でダラダラしてますよ」

 リニスさんの裏切り者・・・



 後日、アースラで艦長さんとの話し合いとなりました。議題は私が将来的に管理局に来ないといけないのではないかという事について。
 とりあえず通るかどうか判りませんが私の意見を言っておこうと思います。

「働きたくないので拒否したいんですが」
「理由はともかく、そこが問題なのよねぇ」
「艦長?問題って、ここまでだと今までの前例からしても流石に放置など出来ないと思いますが・・・」
「これが魔法で起こした事ならその通りなんだけれど・・・それにここが管理外世界なのも問題ね」

 何でも、時空管理局が管理しているのは主に魔法によるものらしく、魔力も無く魔法の反応も無い私は管理局法で言えば一般人という事になるらしいです。
 今まで何度か物凄く珍しいレアスキルが見つかった事はあり、しかもその見つかった世界が管理世界だった為に管理局で保護なり就職斡旋なりとしてきたらしいですが、今回は完全に例外。
 そんなわけで本来ならばこっそり見逃す事も出来たらしいですが、今までに類を見ないほどに強力な能力な上に闇の書を改造するという異業・・・もとい偉業を達成してしまったせいで、闇の書事件の報告の関係上見逃すのが難しくなってしまったそうです。

「でも杏さんの能力だとどう考えても一部の上層部に悪用されそうなのよね・・・」
「あ、やっぱり管理局でも私利私欲に走る人は居るんですね」
「そういえば少し前にも査察で横領が発覚した部隊があったな・・・」

 というわけで困っているという現状な訳ですね。どうしましょうか。

「何とか誤魔化せないんですか?面倒なのは嫌なんですけど」
「そうね・・・闇の書に関して尤もらしい言い訳でも出来ればいいのだけれど・・・」

 言い訳ですか・・・結構やりたい放題弄ってしまいましたからそう簡単にはいかないんでしょうね。やっぱり元の危ない闇の書に戻すべきでしょうか。
 でも主さんと知り合ってしまった以上見捨てるのもちょっと気が引けますし・・・うーん、私の都合良くお願いを叶えてくれる人でも現れてくれないでしょうか・・・あ。

「ジュエルシードのせいにしましょう。ジュエルシードと闇の書が反応して何か凄い現象が発生して機能が運良く安全な方向に狂った事にすればいいんです」
「そんな適当な・・・第一、いくらジュエルシードの暴走でも新しいプログラムを闇の書に組み込めるとは思わないんだが」
「新しいプログラムなんて組み込んでませんよ?私全然魔法に詳しくありませんし。やった事は異常を何となくで直して、他のプログラムと混ぜ合わせたものを追加しただけです」
「・・・少し苦しいけれど、もう少し練れば無理でもなさそうね」
「そうなると問題はいつジュエルシードに接触したか、だな・・・」
「その辺は面倒なのでそちらに丸投げしますね」

 何か黒い人が嫌な顔をしてこっちを見ていますけど関係ありません。面倒なものは面倒です。
 ともかくこれでやっと円満解決ですね。早く帰って砂糖とミルクたっぷりのコーヒーを飲んでゆっくりしたいです。

「あ、でももし管理局で働きたくなったら是非連絡してね♪」
「私がまともに働くなんて小数点以下に七十桁くらいゼロが続く様な確立でしょうけどね」
「君は本当に働く気が無いんだな・・・」

 当たり前じゃないですか。私を誰だと思っているんですか。



[19565] 第20話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/06/23 22:38
 さてさて、闇の書の件も私達から見て無事に終了して平穏が戻ってきました。数日経った今では既に以前までののんびりとした生活が繰り広げられています。
 何やら闇の書の主のはやてさんは後見人がどうこうという話でアースラの方々と色々大変みたいですが、私には、まったく関係が無いので問題はありません。
 そんな私は現在、特に意味も無く教育テレビを見ています。たまに見ると面白いんですよね。海外ドラマとか。

「杏、これどうかな?」
「はいはい・・・ん、美味しいですね。流石にまだリニスさん程ではありませんが」
「うん、まだまだだからね」

 フェイトさんは最近料理とお菓子作りを始めました。着々と理想のお嫁さん道を突き進んでいる様で、将来結婚する人が実に羨ましいです。
 フェイトさんは間違いなく尽くすタイプですからね。それこそ堕落しても見捨てずにいてくれる気がします。これで男性だったなら結婚を申し込みたい程なんですが。
 ちなみにアリシアちゃんも料理を始めようか迷ってるみたいです。物作りの才能があるアリシアちゃんなら料理も美味しいのを作ってくれるんでしょうか。是非挑戦してもらいたいです。
 ・・・そういえばはやてさんも料理が得意なんでしたっけ。そのうち食べてみたいですね。家に作りに来て貰えないでしょうか。はやてさんの家に行くのは面倒なので。

 で、アリシアちゃんとリニスさんは闇の書弄りで手に入れた知識を元に色々研究しているみたいです。というかアリシアちゃんはもう普通にリニスさんの研究に着いて行ける知識を手に入れてしまったんですね。天才というのはとんでもないです。
 最近はユニゾンデバイスと呼ばれる類のデバイスの再現に挑戦しているみたいですが、流石に相当厳しいのか難航しているようです。
 ただユニゾンさせるだけなら私が闇の書のプログラムをちょちょいと真似して他のデバイスに写せば何とかなりそうですが、それでは意味が無いと二人に言われてしまいました。やはり自分達で完成させる事に意味があるんでしょう。
 でもちょっと気になっているので近いうちに勝手にバルディッシュに機能追加してみようと思います。ユニゾンプログラムと守護騎士プログラムをなんとなーく覚えてるのでそれを組み込めば何とかなるでしょう。多分。

「杏、これお願いしてもいいかな」
「んー、まあ美味しいものの為なら吝かではありませんね」
「ありがと」

 さて普段から面倒面倒と連呼している私ですが、最近は何だかんだで何かをする事が多くなってきました。といっても、大抵はただ能力を使うだけなので自分が動く事は相変わらず滅多にありませんが。
 今回フェイトさんに頼まれたのはリンゴの皮むきです。私はリンゴと包丁の双方にお願いをして操作するので一切の無駄なく皮を剥く事が出来るので、結構重宝されてたりします。
 他にも飾り切りなんかも簡単に出来てしまいますし、正確無比な長方形に野菜を切り分けるのも可能です。まるで漫画の様に切った野菜を飛ばして皿に盛り付ける事だって可能です。流石に素材を光らせる事は出来ませんが。
 ともかく、この能力のおかげでよくお願いされてしまいます。以前までなら確実に面倒だと言って断っていましたが・・・やはり誰かが作る手作りの美味しいものが嬉しいので時間短縮とお礼代わりに手伝っています。まあ私自身の労力を割いている訳でも無いからというのもありますが。

「という訳でリンゴの皮むきの世界記録を更新するレベルで剥いてみました」
「そんな記録あるの?」
「ギネス記録は主に無駄なものばかりですから」
「地球って面白い事が多いよね」

 他の世界にはこういった技術を競うものは無いんでしょうか。一見無駄に見えて意外と応用が利くものも結構あるので面白いと思いますが・・・とはいえ本当に意味の無いものも存在してるみたいですが。
 ともかく、やはり魔法がある世界と無い世界では色々と差異があるみたいですね。聞いた話によると車や飛行機すら魔力で動くみたいですし。
 一体どうやって魔力で動かしてるんでしょうか・・・というかそのシステムを使えばリンカーコアが無い人でも魔法が使えそうな気がしますがどうなんでしょう?
 近いうちにリニスさんに相談してみましょうか。もし可能なら私も魔法を使える様になるかもしれません。使えるからどうだという訳ではありませんが。

 しかし平和です。今のこの平穏も束の間の休息となる可能性がありますが、それでもやはり平和なのはいいことです。
 それでも二度ある事は三度あるとも言いますからね・・・また魔法的な事件に巻き込まれそうでちょっと不安にです。漫画で魔は魔を引き寄せると言っていましたが、やはり事実なんでしょうか。
 私がジュエルシードに関わってから魔導師やらロストロギアやらとどんどん魔法関連に関わってますし・・・でもジュエルシードの怠惰サポートを捨てる気はありませんが。せっかくお願いを叶えて貰ったのにキャンセルなんて勿体無いですし。キャンセルうしたら身長下がりますし。
 というか大抵の子供が成長しやすいであろう小学三年生という時期なのに身長がジュエルシード以外で伸びません。流石に中学高校辺りで伸びるとは思いますが、少々不安になります。
 まさかずっとこのままだったりは・・・いや、流石にそれは無いでしょうか。両親共に人並みの身長を持っていますし。

「よし、後は焼くだけ・・・」
「リンゴで何を作ってたんですか?」
「アップルパイだよ。本を見ながらだし、初めてだからちょっと失敗してると思うけど」
「成程・・・洋菓子ならなのはさんのお母さんが翠屋で作ってるみたいですから、色々聞いてみるのもいいかも知れませんね」
「そっか、なのはに相談してみようかな」

 ふふふ、頑張って下さいね。そして私に美味しいお菓子をいっぱい食べさせて下さい。

 ちなみに今回のアップルパイはうっかり調味料を間違えていたせいで物凄い事になりました。うっかりフェイトさんが涙目でしたが、まあフェイトさんらしいといえばらしいです。
 そして最初に食べて犠牲になったアルフさんお疲れ様でした。安らかにお休み下さい・・・

「い、いきてるよ~・・・」

 おっと、これは失礼しました。



[19565] 第21話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/06/24 22:40
 時は年末31日。一年の終わりの日となった訳ですが、流石にプレシアさんは今年中に帰って来る事は出来なかった様です。全員揃って年を越すのはまた来年という事になりますね。
 フェイトさんもアリシアちゃんもとても残念がっていましたが、まあ今回は仕方がありません。リニスさん曰く来年には懲役が終わって勤労奉仕に切り替わるらしいので、そうなったら頻繁に会えるだろうとの事です。
 流石に一緒に住めるかどうかは判らない様ですが・・・その辺りは今後の展開次第ですね。

 さてさて、そんな事より年越しです。両親も帰ってくるかと思っていたのですが、今日の朝に電話が来て「北極点で年越しをする」等と言っていました。
 せめて年末くらいは子供と居ようと思わないんでしょうか。判っていた事ではありますが、やはり親としては問題がある我が両親です。だからといって嫌いにはなりませんがね。
 それに恐らくですが、フェイトさん達が居るから寂しくないだろうと判断しての事なんでしょう。実際その通りなのであまり気にしていません。両親と年越し出来ないのは少々残念ですけどね。

 そういえば何やらなのはさん達やはやてさん達がみんなで集まってどうこうという話があった気がしていますが、結局どうなったんでしょうか?私は面倒だったので断ったんですが、フェイトさん達がここにいるという事は結局普通に家族と過ごす事になったんでしょうか。
 まあはやてさん達は守護騎士達が現れてから初めての年越しな訳ですし、そういった事は来年の年越しの時になりそうですね。

 そんな我が家なのですが、相変わらずテスタロッサ家が集合しています。最近はフェイトさんとアリシアちゃんがこっちに泊まる事も多くなってきているので、向こうの家は殆ど大人組みの寝床兼魔法研究施設と化しています。
 今日に至っては全員こちらに泊まる様で、着替えやら色々用意して全員でコタツに入っているところです。我が家のコタツは大きいので全員で入っても問題が無いのです。元々は大きいコタツを独り占めしたいという考えから買ったものでしたが、みんなでゆっくりするのもいいものですね。

「さて、私の家では年末にはお雑煮とお汁粉の両方を作っていたんですが・・・」
「流石に日本の料理は作り方が判りませんね・・・」
「リニスさんの料理は基本的に洋風な物が多かったですよね」

 どうやらミドチルダの料理は地球で言う所の洋風料理が多い様なのです。日本の料理は過去にミッドに行った日本人のおかげでそれなりにあるらしいですが、今回のお雑煮とお汁粉は知らなかったみたいですね。
 緑茶やラーメンはあるらしいんですが・・・ともかく、このままでは今年の年末は年越し蕎麦だけになってしまいますね。

「仕方がありません。私が作りましょうか」
「実際に作るのは杏じゃなくて能力で動く調理器具じゃないのかい?」
「いえ、今回は私が自分で作りますが」
「「「「えぇー!?」」」」

 そこまで驚きますか。いや、気持ちは判りますけどね。私が自分でちゃんと料理するなんて滅多に無い事・・・むしろフェイトさん達と会ってから一度もしていない事ですし。
 それでも作り方も知ってますし、実際に作った事もあるんですよ?初めて作った時は両親も驚いていましたが。

「杏、料理出来たの?」
「多少はですが。別に調理器具まかせでもいいんですけど、せっかくみんなで年越しするなら手作りの方が良いと思いませんか?」
「杏お姉ちゃんがまともなことを言ってる・・・」
「失礼ですね。私は何時だってまともです。私基準で」

 という訳で本日の夕飯時にお雑煮とお汁粉を作りました。フェイトさんが手伝ってくれましたが、何やら「私より手際が良い!?」等と言って落ち込んでいました。
 手際が良いのとはちょっとだけ違うんですけどね。ただ余計な仕事が増えるのが嫌なので無駄な事をしない様にしただけなんですが。それに片付けに能力を使ってましたしね。
 ちなみに出来はまあまあです。流石にお母さん程美味しくは作れませんね。精進するべきか、いやしかし面倒ですし・・・まあどうにでもなりますよね。

「前から思ってましたが・・・杏はだらけているせいで気付かれにくいですけど、結構万能ですよね」
「あ、うん。ちょっとおもってた」
「学校の勉強も適当なのにテストは問題無いよね」
「普通子供が知らない様な事も知ってたりするしねぇ」

 そうでしょうか?勉強に関してはノートは取って貰ってますし、テストも授業をそれなりに聞いていて、テスト前に教科書やノートを見返せば何となく思い出せますし。
 普通の子供が知らない様な事を知っているのは単純にテレビとか漫画とがインターネットが原因ですしね。そう疑問に思うことでも無い様に思えますが。

「さてテレビは・・・ああ、年末は特番が多くてちょっと微妙なんですよね。紅白は興味ありませんし」
「そう?地球の歌は良い歌が多いと思うけど」
「そういった台詞を聞くたびに『ミッドはそんなに娯楽関係が弱いのか』と考えてしまうのですが」
「ははは・・・ミッドも悪くは無いんですけどね」

 結局最近の年末恒例になっている、笑ってはいけないシリーズを見て過ごす事になりました。これが生放送だったら遠隔操作で色々面白い事を起こすんですが・・・
 いつか生放送でやって欲しいものですね。その時は・・・ふふふ。

 そして全員でまったりとテレビを見続けて日付がもうじき変わる頃、アリシアちゃんがちょっと眠そうでしたが年越し蕎麦を用意して全員で食べる事になりました。
 食べながら年を越すのが正しいんでしたっけ?年を越してからでしたっけ?・・・まあ、どちらでもいいですよね。

 そして時計の二本の針が12の所で重なり、私達は新たな年を迎えました。

「「「「「あけましておめでとうございます!」」」」」

 今年ものんびりダラダラと平和によろしくお願いします。



[19565] 第22話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/06/25 16:53
「よし、改造します」
「にゃ?いきなりどうしたの?」
「多分暇だったんじゃないかな」
「暇になったら改造するんか・・・」

 フェイトさん大当たりです。最近のんびり出来て幸せな日々を送っていたんですが、最近ちょっと暇だったのでデバイス改造がしてみたくなったのです。
 改造するデバイスはなのはさんのレイジングハート、フェイトさんのバルディッシュ、はやてさんのシュベルトクロイツです。ちなみにバルディッシュに関しては、ちょっと前に後で元に戻す事前提でフェイトさんから許可を貰っています。

「私の許可は!?」
「私もなん!?」
「ありがとうございます」
「「何も言ってないのに!?」」

 という訳で、バルディッシュと同じく後で元に戻す事を前提に改造する事になりました。ちょっと残念ですが、まあ暇つぶしなんで別にいいでしょう。
 それにもし気に入っていただけたらそのまま使ってくれるかも知れませんしね。

「最初はレイジングハートから弄りますね」
「だ、大丈夫かなぁ・・・」

 何やら不安そうな顔をしているなのはさんは放置しておきまして。
 今回ははやてさんの闇の書を借りて中にあるプログラムを流用する形で色々弄る事になります。守護騎士プログラムを主に使う予定です。
 という事でまずは闇の書のプログラムを色々探ってみましょう。何か面白そうなものが・・・ん?

「未使用の人格プログラムがありますね」
「え?そうなん?リインからは何も聞いてへんけど・・・」
「防衛プログラム側にあるみたいなので気付かなかったのかもしれませんね。今回はこれを使いましょう」
「人格・・・じゃあレイジングハートの性格が変わっちゃうの?」
「そうでしょうね。まあ後で元に戻すので安心して下さい」
「安心出来ないよ・・・」

 ともかく人格プログラムが複数、今回はこのプログラムを元にして色々組み込む事にしましょう。
 レイジングハートには・・・そうですね、どんな人格になるかはわかりませんがこのプログラムを組み込みましょう。
 そして守護騎士プログラムと同じ様に人型になれる様にしておいて・・・外見データはバリアジャケットの要領で簡単に作れる様にしましょう。今回はマスターの2Pカラーになる様にしますが。
 さて、これで外見と性格が完成しましたが・・・後はもう適当でいいですよね。

「という訳で一応完成です。異常はありませんか?」
『問題ありません』
「あ、本当にいつもとちょっと違う」
『新たにプログラムを組み込まれましたので』
「何かクールな感じになったね」

 さて、次は人型になってもらいましょうか。基本はなのはさんに似る筈ですが、あくまで基本ですしどうなるんでしょうかね。

「では人型になってみて下さい」
『了解しました』

 その返答と共にレイジングハートからなのはさんと同じ色の魔力光が溢れ出し、宙に浮かび上がりました。何ともらしい演出です。
 そして一際強く光を発した後にピンク色の光は収束し・・・そこにはなのはさんにそっくりな少女が立っていました。
 ただし、

「「「黒い・・・」」」
「な、何で黒いの?」
「改造者から流れ込んできたイメージを基にした結果です」
「杏ちゃん!?」

 おや、確かに白なのはさんの相棒は黒なのはさんがいいのではないかと考えてましたが、それが伝わっているとは思いませんでした。
 しかし・・・何というか、凄いですね。内なるなのはさんと言っても良い様な出来です。いや、元はなのはさんの相棒のレイジングハートなのである意味なのはさん本人と言っても過言では無いかもしれません。
 よし、ちょっと質問してみましょうか。

「好きな事は何ですか?」
「戦闘です」
「得意な魔法は何ですか?」
「砲撃です」
「好きな戦法は何ですか?」
「バインドで拘束した上での砲撃です」
「なのはさんですね・・・」
「なのはだね・・・」
「フェイトちゃんも杏ちゃんも酷いの!?」
「なのはちゃんってそんなに危険な思想の持ち主やったんか?」
「マスターは砲撃魔ですので」

 ちょっとだけ見た魔法訓練でのフェイトさんとの模擬戦でも砲撃しまくってましたしね。
 ともかく、これは思っていたよりも面白い結果になりました。次のバルディッシュさんがとても楽しみです。現時点でのバルディッシュさんの性格は寡黙で頼れるお兄さんといった感じですが・・・
 という訳でレイジングハートと同じ様な改造を施します。ただし今回は違う種類の人格プログラムを組み込んでみました。
 さっきのはクールで少し物騒な人格でしたが、今度はどんな性格になるでしょうか?

「よし、完成しました。どうでしょう?」
『大丈夫、僕は何も問題無いよ』
「バ、バルディッシュ?」
「これは・・・面白い結果になりそうでワクワクしてきました」

 どことなくアレ気なオーラが漂っている気がしてきました。普段のバルディッシュさんとはちょっと違う雰囲気です。期待が止まりません。
 フェイトさんはちょっと不安そうですが・・・はやてさんはニヤニヤしてますね。とても楽しそうです。
 そしてなのはさんとレイジングハートさんは全然こっちに注目していませんね。まあバルディッシュが人型になったらこちらに興味を示すでしょうけど。

「では、お願いします」
『さあ、僕の姿を見せてやる!』

 思わずギャップに噴出しそうになりましたが何とか堪えて光を放ち始めたバルディッシュさんを見続けます。こちらもフェイトさんと同じ色の魔力光ですね。
 さて、今度もフェイトさんの色違いになるんでしょうか?フェイトさんのバリアジャケットは黒ですから、今度は白くなるんでしょうか?
 そして光が収束して現れた姿は・・・

「普通の2Pカラーですね」
「ちょっとインパクトが足らへんな」
「レイジングハートみたいな感じがしないの」
「せっかく僕が人型になったのに失礼じゃないか!?」
「なんか妹?が増えた感じかな」
「違う!僕が一番上だ!」

 水色の髪のフェイトさんでした。バリアジャケットは細部に違いがありますが、基本的には同じですね。
 しかしレイジングハートさんはクールでカッコいい感じでしたが、バルディッシュさんは何となく残念な感じがします。しいて言うなら、アホっぽい感じが・・・いえ、これは子供っぽいんでしょうか?
 この子も内なるフェイトさんと考えると・・・まあ、フェイトさんは色々と我慢する傾向があるので、それを開放するとこんな感じになるのかもしれません。

「さて、最後にはやてさんのシュベルトクロイツですが・・・はやてさん、今の心境は?」
「不安もあるけれど、それよりも期待が大きい感じやな。勿論ネタ的な意味で」

 ありがとうございました。それでは改造に移ります。
 残っている人格プログラムはあと一個なのでこれを組み込んで・・・ふふふ、いったいどんな性格になるんでしょうか。
 クール、子供っぽい、と来たので・・・ツンデレ?いや、素直な子?期待が膨らみますね。

「さて、どんな感じですか?」
『我に気安く話しかけるとは何様だ、塵芥め』
「削除しますね」
「そやな」
『ま、待て!?そんな事をしていいと思っているのか!?』
「残念な子ですね」
「容赦無いねレイジングハート・・・」
「うっ・・・ちょっとカッコいいかも」
「バルディッシュ!?」

 どうしましょう?何だか妙に偉そうな性格みたいですけど、やっぱり人型になってもらった方がいいんでしょうか?
 確かに人型を見てみたいんですけど、こういった子はこのまま暫くからかう方が面白そうですし・・・

「まぁ、せっかくですし人型を見てみましょうか」
『ふ、ふん!仕方が無い、我が姿を現してやるとしよう!』
「嫌なら別にかまへんよ?無理はさせられへんしな」
『ぐっ、いや、うぬらの期待に答えてやるのも王たる我の務めだ』
「王様・・・くっ、でも僕の方がカッコいいに決まってる!」
「バ、バルディッシュ・・・」

 何だかバルディッシュさんが可愛いですね。フェイトさんは複雑そうですけど、ちょっとだけ優しい眼差しになってますね。本当に妹みたいに考えてるのかもしれません。
 さて2Pカラーはやてさんの姿はどんな感じなんでしょうか。はやてさんのバリアジャケット姿に関しては全然知らないので予想が出来ませんが、やはり王様らしい姿なんでしょうか。
 そんな事を考えているうちに変化が済んだ様で光が収束して来ました。

「へぇ、はやてさんのバリアジャケットってこんな感じなんですか。羽があるんですね」
「少し色が違うけど、大体は同じやね」
「何故我の姿を見て我ではなく主に反応を示すのだ!?」
「からかわれているだけでは?」
「駄目だよレイジングハート!そこは黙っててあげないと!」
「か、カッコいい・・・こうなったら、君を倒して僕は飛ぶ!」
「バルディッシュ、それって攻撃して逃げるって事?駄目だよ危ない事しちゃ」

 なんだか物凄くにぎやかになってしまいました。それにしてもクール系とアホっぽい子供と自称王とはバラエティ豊かな人格ですね。
 一体プログラムを組んだ人は何を考えてこの人格を選んだんでしょうか。とても気になります。

 とりあえず人格を戻す事にはなりましたが、皆さん意外と気に入ったらしいのでプログラム自体は圧縮してデバイス内に残しておく事になりました。
 はやてさんのデバイスは元は非人格型らしいのでそのままにしておこうかと思いましたが、ずっと一緒だとちょっと疲れそうだからという事で遠慮されてしまいました。
 まあはやてさんには管制人格のリインさんがいますし、その方がいいでしょうね。

 ・・・自称王の人格をレイジングハートに組み込んだら、砲撃魔王黒なのはさんが生まれるんでしょうか。ちょっと面白そうです。
 いつかこっそり試して見ましょう。



[19565] 第23話 月村家編開始
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/07/27 21:04
 来てしまいました。なんだかんだでまた来てしまいました。来る気は無かったのに来てしまいました。むしろ魔法で運ばれてしまいました。
 月村家です。以前うっかりメイドロボさんを凝視して何か感付かれて以来出来るだけ避けていたのですが、なのはさん・フェイトさん・アリシアちゃんの強力タッグで運ばれてしまいました。
 こういう半強制的なイベントに巻き込まれると大抵変な事件に巻き込まれてる感じがします。プレシアさんの所に連れて行かれた時とか、守護騎士に襲われた時とかですね。
 まあ今回は魔法は関係無いと思うのでそこまで面倒な事にはならないと思いたいですが・・・いや、超科学も十分面倒になりますよね。
 今回も特に問題無く済めばいいんですが・・・

「まあ猫が可愛らしいので今は気にしない事にしましょう」
「何を気にしてるの?」
「何でもないですよフェイトさん。私は猫と戯れているのでお気になさらず」
「いやお茶会に参加しなさいよあんた」

 アリサさんに御指名されてしまったので参加する事にしました。ここで逆らうと面倒そうですし。
 しかし・・・何でしょう、今日はメイドさん以外にもカメラ的なもので見られている様な気が・・・盗撮されているんでしょうか。なんて恐ろしい。

「(この辺り一帯の植物の皆さんに聞きたい事がありますが、いいでしょうか?)」
『---』
「(私、月村家の方に警戒されていたりしますか?)」
『---』
「(されているんですか・・・すずかさんは知らないみたいですけど)」

 やはり知ってはならない事だったんでしょうか。でもメイドロボなんて魔法を使えば簡単に作れそうな気がするんですけどね。ほら、守護騎士なんて似た様なものでしょうし。
 ・・・ん?魔法を使わずに科学技術だけで恐らく守護騎士と同等の出来のメイドロボを作るのって、むしろ魔法より凄いんでしょうか。月村家恐るべし?

 それにしてもカメラがちょっとうざったいですね。メイドさんは給仕の役目がありますから別にいいですけど、カメラは邪魔です。
 まあカメラならちょっと故障した様に誤魔化せますし、弄っておきましょうか。

「(というわけで、この辺りのカメラは撮影禁止でお願いしますね)」
『---』
「(はい、ありがとうございます)」

 ふー、これで多少は気が楽に・・・なったんでしょうか?まあもう終わった事なのでどうでもいいですね。

「ねぇねぇ」
「はい?」

 溜息を漏らすとアリシアちゃんに小声で話しかけられました。何でしょうか?
 もしかしてまたフェイトさんが天然的なボケをかましてしまったとか・・・あ、その場合はツッコミ体質っぽいアリサさんが突っ込むでしょうし、それは違いますか。
 じゃあ何でしょう?

「杏お姉ちゃん、さっきつかってた?」
「あれ、何でわかったんですか?」
「うん、なんかへんな方向みながらボーっとしてたから」

 あ、成程。そういった行動からもバレる事があるんですか。これは気をつけないといけませんね。
 突然そんな事をした直後に何らかの異変が起きたら感付かれる可能性が・・・あれ、もしかして今私やっちゃったんじゃないでしょうか?カメラで撮影されてたでしょうし。
 ・・・ま、まあ証拠も無いですし問題無いでしょうね。うん、大丈夫です。気にしません。気にしないで下さい。

「杏、何か困ってる?」
「にゃ?困ってるの?ただボーっとしてるだけだと思ったけど・・・」
「杏でも困る様な事があるのねぇ」
「アリサちゃん、それはちょっとどうかと思うけど」

 おぉう、フェイトさん何を言ってくれてるんですか。思いっきりメイドさんが聞き耳立ててるのにそんな事言ったらカメラの異常と関連付けられるかもしれないじゃないですか。
 普段のフェイトさんの気配り体質がこんな所で仇になるなんて・・・いや、まだきっと大丈夫です。これでも証拠にはなりません。
 ・・・あ、メイドロボってロボなんですよね。当然人間よりも性能が高い筈・・・つまりさっきのアリシアちゃんとの小声話も聞かれている可能性が・・・最近平和だったせいで油断していたかもしれません。
 これは不味いですね。いや、私自身の能力に関しては別に変な事にならなければバラしても問題は無いんですけど・・・うぅむ、月村家の方が許してくださるかどうか・・・
 漫画とかテレビだとこういった場合って大抵口封じとか・・・いや、その場合はあらゆる方法を用いて逃げますけどね。
 って、落ち着きましょう。なんで私は友人の家をそんな危険地帯に認定しているんでしょうか。確かに海鳴とその周辺は割と人外魔境だと植物や無機物に聞いてはいますけど、流石にこんな身近にそんな人は・・・

「(・・・テーブルさん、月村家って何か秘密があったりします?)」
『---』
「(そ、そうですか。あ、ありがとうございます・・・)」

 吸血鬼って本当ですか?こういうのは両親の分野の筈なのに何故私がこんな状況に?というか吸血鬼なのに日光に当たって問題無いんでしょうか?
 ・・・とりあえずいざという時の為に情報収集しておく事にしましょう。備えあれば憂いなしです。

「またボーっとしてる。やっぱり何か考え事?」
「あ、いえ、大丈夫ですよフェイトさん」

 ・・・ところで、吸血鬼とメイドロボってどんな繋がりなんでしょうか?



[19565] 第24話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/08/24 20:18
 さて、月村家で色々とやってしまってから、しかし何のアクションも起こされずに数日が経ちました。現在は平日の放課後。
 平和なのはいい事ですが、ここまで来るとむしろ何かアクション起こして早く終わらせて欲しいとも思っています。気になって仕方がありません。
 最近はたまにすずかさんも私を見てる様な時がありますし・・・やっぱり秘密を知った相手は血を吸って下僕にするとか、そういう事を考えているんでしょうか?
 すずかさんはとてもおしとやかで優しい人なのでそんな事は無いと思いますが・・・現になのはさんやフェイトさんの様な、戦闘になるとちょっと大変になる人と遭遇しているので断言は出来ないんですよねぇ。
 いや、まあ別に危険自体に陥っても何とか出来る自信はあるんですけどね。能力のおかげで。

「杏、また悩み事?最近多いよね」
「まぁ、別に気にしなくても良い事なんですけどね」
「杏お姉ちゃんが気にしなくていいことを気にするなんて、けっこうたいへんなんじゃないかなぁ」
「そこまで深刻そうじゃないから聞かないけど、いつでも相談してね」
「ありがとうございます」

 問題の本人であるすずかさんに心配されてしまいました。それはともかくアリシアちゃんそれはどういう意味ですか。
 ・・・まあ普段から面倒事が嫌いと言ってますからね、そう思っても仕方が無いでしょう。でも完全に放置するのも問題でしょうからねえ。
 ま、とりあえず今はこれで打ち切りにしておきましょう。これから全員で翠屋に行くんですからね。今は私とテスタロッサ姉妹とすずかさんの四人だけですが。
 なのはさんは学校に忘れ物をしてしまったのでそれを取りに戻っていて、アリサさんはそれに付き合って着いていきました。
 本当は私以外全員着いていこうとしたんですが、引き返すのを面倒がって私が早々に先行すると宣言したらこうなりました。わざわざ他人に付き合って引き返すなんてとんでもないです。

 しかし、冬なので仕方が無いですが寒いです。雪が降っていない事が幸いですが嫌になりますね。夏の暑さよりは対処が簡単なのでまだマシですが、それでも嫌なものは嫌です。
 早く暖かい室内に避難してゆっくりコーヒーでも飲みながらダラダラしたいですね。あ、今日はココアでもいいかもしれません。
 まあどちらでもいいので早く翠屋に行って暖かい飲み物とケーキを・・・

キキーッ!
バンッ!
がしっ!

「「「「え?」」」」



 という訳で、現在翠屋に向かっていた私とテスタロッサ姉妹とすずかさんは、大きいワンボックスカーの中で縛られています。
 あれです。いわゆる誘拐というものですね。まさか現実にそんな事件に遭遇するなんて、事実は小説より奇なりとはよくいったものです。・・・魔法とか能力とか吸血鬼とか、そういうものに関わってる身としては割と今更かもしれませんが。
 でも今回はファンタジー等ではなく現実的な事件ですし。ちょっとドキドキしたりしなかったり、そして何より面倒な事に巻き込まれたことにげんなりしています。

「しかし誘拐とは貴重な体験ですね。何かの参考に出来ないでしょうか」
「杏は誘拐を参考にして何するつもりなの?」
「杏お姉ちゃんならへんなことしかしないと思うよ」
「失礼ですね。その通りではありますが」
「お前等誘拐されたってのに何でそんなに余裕なんだよ・・・」

 いつも通りに三人で会話していたら誘拐犯の一人の若い男性に呆れ顔をされました。ちなみにすずかさんは始めは怖がっていましたが私達のやりとりを見て呆然としています。
 それはさておき・・・別に危険を感じませんしねぇ。私が居れば物や植物は私の味方ですし、フェイトさんに至っては魔導師ですしね。アリシアちゃんは何も出来ませんけど、まず私達が何もさせないでしょうし。
 問題はすずかさんですが・・・見捨てる気はありませんけど、家柄などから考えて多分今回の誘拐のメインでしょうし、これが吸血鬼とかそっち側に関するものだったら迂闊に手を出したら面倒そうなんですよね。
 現にすずかさんがメインであるかの様な会話内容が運転席側から聞こえてきていますし。月村がどうとか残りはどうする、何で余計に攫ってきたとか・・・って、私達は攫う予定が無かったんですか。じゃあ帰してくださいよ。
 ・・・うわっやっていいかとかビデオ撮りたいとか聞こえてきました。襲ってきたら酷い目に会わせます。本気で。

「おいこらてめぇら!ガキ共の扱いを勝手に決めんな!クライアントに聞いてからにしろ!」

 おや、若い男性が止めましたね。若いのに中心人物なんでしょうか?まあ若いといってもこの車内では一番年上みたいなのでおかしくは無いですけど。
 しかし助かりました。物凄い不快でしたからね。他の三人もしそれぞれ嫌そうな顔をしたり泣きそうな顔をしていましたし。
 ちなみに嫌そうな顔をしていたのはフェイトさんとアリシアちゃんで、泣きそうな顔をしていたのがすずかさんです。すずかさんはともかく、テスタロッサ姉妹が意味を理解できたのは多分昼ドラのせいですよね。

「止めてくれてありがとうございます。物凄い不快だったので」
「だから何でそんなに余裕なんだよ・・・最近のガキはこれくらいじゃ怖がらないのか?」
「そうでもないと思いますよ。私達がちょっと特殊なだけですし」
「私達って特殊かな?」
「少なくとも杏お姉ちゃんはふつうじゃないよね」
「最近アリシアちゃんが反抗期になってきてる気がします」
「えっと、私も普通じゃないと思う・・・」
「すずかさん、誘拐されてからの第一声がそれですか」
「誘拐されたのに何でほのぼのした空気を醸し出してるんだよ・・・」

 そんなこんなで誘拐されたとは思えない空気のまま、私達は郊外の方へと輸送されていきました。
 とりあえずバルディッシュを通してリニスさんに念話で事情説明しましたから、後は大人しく待ってましょう。そのうち何とかなります。



[19565] 第25話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/07/04 18:00
 暫く車の中でのんびり会話をしながら、潜伏先と思われる場所へと車は進んでいきます。

「しかし何でまた誘拐なんですか?運転席の方から聞こえた分だと月村さん狙いみたいですけど」
「詳しくは知らねぇよ。俺等はただ請け負った仕事をこなすだけだ」
「おおー、しょくにんみたいだね」
「誘拐の場合は多分仕事人じゃないかな?」
「・・・えっと、誘拐原因の私が言うのもどうかと思うけど、何でこんなに和気藹々としてるの?」

 特に危険性を感じていないからですね。いざとなればこのまま車を操作して帰ることも出来ますし。・・・はっ!?私の能力を使えば心霊現象の様な無人車両を量産出来るのではないでしょうか?
 むむむ・・・海鳴を新たな心霊スポットに。面白いかもしれません。それで生放送のロケ何かが来たらもっと面白い事が・・・夢が広がります。

「ところでお兄さんは口は悪いですけど割といい人ですよね。何でこんな仕事を?」
「・・・就職先を必死で探して入社した会社が色々な意味でブラックな企業だっただけだ」
「「「「うわぁ・・・」」」」
「おかげで逃げたら消されるし、休みもねぇし、こんな胸糞悪い仕事しなくちゃなんねぇし、最悪だ・・・」

 実行犯も被害者とかそんな展開ですか。何がいけないかったんでしょうか・・・やっぱり就職難の社会でしょうか?世知辛いです。
 私は能力のおかげで働かなくても何とかなりますけど、これが無かったら同じ様な事になってたかもしれないんでしょうね・・・

「いっそつかまっちゃえば?」
「消されないならそれもアリだよなぁ・・・もう普通に暮らせるならムショの中でもいい」
「えっと・・・が、頑張ってください?」
「いや誘拐された人が励ましてどうするんですかフェイトさん。天然にも限度がありますよ」

 そんなこんなで海鳴郊外にある廃ビルに到着しました。住み良い町の海鳴にもこんな場所があったんですね。

「(それじゃあ、お邪魔しますね)」
『---』

 とりあえずお世話になる廃ビルさんには挨拶をしておきましょう。もしかしたら暴れまわるかもしれませんしね。

「(はい、大丈夫なので安心してください)」
『---』
「(へぇー、誘拐を指示した人も月村の関係者なんですか。お家騒動なんでしょうかね?)」
『---』
「(えぇ!?自動人形ですか!?)」

 なんと・・・ここにいる犯人は自動人形を連れているらしいです。月村の自動人形・・・つまりそれはメイドロボの事でしょう。これは奪うしか・・・!!

「(その自動人形ってどんな感じですか?)」
『---』
「(なんだ戦闘特化ですか。じゃあいりませんね)」

 ガッカリです。ノエルさんみたいな家事が得意なメイドロボじゃないといらないです。戦闘なんてフェイトさんとリニスさんとアルフさんだけで十分ですし。
 はぁ、喜び損しました。

「杏、終わった?」
「あ、はい」
「よろこんだ後にすぐおちこんだけど、なんかあったの?」
「ええ、ちょっと残念な事がありまして」
「何の事かわからんが黙ってろ。・・・月村のお嬢さんはそっちだ」

 おや、やはりメインのすずかさんとは別の場所に連れて行かれるんですか。まあ当たり前なんでしょうね。
 まあ重要人物扱いでしょうしすずかさんの心配はソレほど必要は無いでしょうけど、私達はどうなるんでしょうかね?
 なんか明らかにアレな目で私達を見てきている二人の男性が居るんですけど・・・って、運転席と助手席に居た変態の人じゃないですか。

「ひひひ・・・こっちのガキ共は何してもいいんだろ?」
「おーおーロリコンめ。まぁ俺もなんだがな・・・」

 うわぁ・・・

「不快です。喋らないで下さい」
「あの、近づかないで下さい」
「きもーい」
「なっ!?てめぇら・・・」
「馬鹿野郎!だからクライアントに聞いてからっつってんだろうが!お前等も煽る様な事を言うなめんどくせぇ!」
「ちっ・・・んじゃあ聞いてくるか」

 いや、だって物凄い気持ち悪いんですよこの二人。口調とか目線とか雰囲気とか・・・もうこの廃ビルの壁に埋め込みたいくらいです。
 でもまあ、このお兄さんに悪い気もするので止めておきましょう。・・・襲われることになったら容赦しませんけどね。ふふふ。

「フェイトさん、バルディッシュは大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ」
「なにもなくおわるといいねー」

 何も無く終わる事は無いでしょうけどね。まあそれがどういう展開かはわかりませんが・・・あ、変態二人が戻ってきました。

「許可貰ってきたぜ」
「ひひひ、可愛がってやるぜぇ?」
「マジかよ・・・胸糞悪いクライアントだ・・・」

 よーし正当防衛始めまーす。まだ襲われてませんけど貞操の危機なんで問題は無いですよね。それじゃ・・・

「廃ビルさーん、そこの変態二人を動けない様にしてくださーい」
「は?何を・・うわっ!?」
「な、何だこれ!?」

 お願いすると変態二人の足が膝までコンクリートの中に埋まりました。これで動けませんが・・・私はやりすぎると死んじゃう危険性があるんですよね。

「フェイトさん、気絶お願いしてもいいですか?」
「えっと、良いのかな?管理局に怒られる様な・・・」
「正当防衛ですから問題無いと思います。いざとなったら私が色々しますし」
「そうかな?じゃあ気絶させるね。バルディッシュは・・・いいかな。魔力変換した電撃で何とかなりそうだし」
「ふたりともおつかれー」

 そういうとフェイトさんは電気に変換した魔力を二人にぶつけてあっという間に気絶させました。便利ですよねぇ、電気変換って。
 さて、これで私達の安全は確保出来た訳ですけど・・・やっぱりすずかさんを助けた方がいいですよね?ここで帰ったら何言われるかわかりませんし、何よりフェイトさんとアリシアちゃんに怒られますし。

「・・・いやいやいやいや、何だこれ?コンクリが溶けた?つか電気?手から電気?つか魔力って言ってなかったか?・・・いやいやいやいや」
「・・・ねえ杏、この人どうしよう?」
「悪い人じゃないみたいですし、放っといていいと思いますよ。多分現実逃避で忙しいですし」
「じゃ、いこっか」

 さて、すずかさんのとこに行きましょうか。



[19565] 第26話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/07/07 15:53
 さて、これからすずかさん救出作戦を実行するわけですが・・・一応フェイトさんとアリシアさんが混乱したりしない様に、月村家の事を話しておくべきでしょうか。
 相手も月村の関係者らしいですし戦闘用の自動人形もいるらしいので、戸惑ってミスしたら面倒ですもんね。今説明するのも面倒ですけど。

「というわけで、救出に行く前に月村家の秘密についてお話しておきます」
「杏、あんまり他人の秘密を調べるのは駄目だよ?」
「まーまーフェイト、杏お姉ちゃんはしらべてもはなさないからだいじょーぶだよ。めんどうとか言ってね」
「まあその通りですね。それと、情報を得ておかないと問答になった時大変そうだったので・・・まあ情報を手にしたせいで余計に面倒になりましたけど」

 という訳でお話です。まず、ノエルさんとファリンさんについて。

「月村家のメイドさんはメイドロボです」
「えぇ!?ロボっ!?」
「え、あれがロボットなの!?」

 まあその反応も当然ですよね、私も初めて見た時思わず停止してしまいましたし。本当にどんな技術を使っているんでしょうか。

「それってまほーとか使ってないんだよね!?かんぜんにきかいだけ!?」

 おぉう、アリシアちゃんの食い付きがとんでもないです。流石デバイス関係の研究をしているだけはありますね。やはり興味をそそられるんでしょう。

「私の調べた限りでは魔法とかは関係無いみたいでした。完全に科学技術だけですね」
「すごいすごーい!しらべてみたい!いじってみたい!」

 ・・・戦闘用だからメイドには使えないかもしれませんし、アリシアちゃん達の実験用にしてもいいかもしれませんね。
 その研究成果で新たに完全で瀟洒なメイドロボを作って貰えばいいですし。・・・おお、これ良いアイディアじゃありませんか?完璧じゃありませんか?
 ふふふ・・・なんだか私もワクワクしてきました。

 それはさておき、次は吸血鬼に関してですね。

「月村家の人はどうやら吸血鬼らしいんですよね」
「吸血鬼って・・・確か、人の血を吸って仲間を増やすって言う化物の事だよね?」
「へー。似たようなまほー生物は他のせかいにもいた気がするけど」
「え?そうなんですか?」
「うん、結構居るみたいだよ。吸血生物」

 そうだったんですか・・・もしかしてチュパカブラは実は他の世界の魔法生物が何らかの要因で転移してきた存在だったりするんでしょうか。
 もしそうなら他のUMAも居るかもしれないという事に・・・ツチノコを探して持っていけば億単位の賞金が貰えるんでしたっけ?ちょっと面白そうです。
 ところでフェイトさんもアリシアさんも全然怖がってませんね。

 さて、次は相手の事ですね。

「敵は月村の関係者で、しかも戦闘用自動人形が居るみたいなんです」
「杏お姉ちゃん!」
「わかってます。自動人形は捕獲してたっぷり弄らせてあげますね」
「やったー!」
「でも相手が月村の関係者って事は、身内でこんな事件起こしたって事だよね。何でかな?」
「昼ドラ的に考えてみれば良くある事ですし、あんまり難しく考えなくていいんじゃないですか?」
「そっか」

 さて、説明も終わりましたし出発しましょうか。目指すは上の階ですね。

 という訳で多分すずかさんが居る部屋の前に到着しました。とりあえず突入しようと思います。
 安全面では既に廃ビルさんに緊急時の防御をお願いしていますし、フェイトさんも一応バルディッシュをセットアップしているので問題はありません。
 これなら例え相手も吸血鬼だったとしても何とかなるでしょう。

「どうもー。すずかさんの救出に来ました」
「何?」
「杏ちゃん!?フェイトちゃんにアリシアちゃんも!?」

 室内にはすずかさんと黒幕らしいおじさんと・・・あ、あの女性が戦闘用自動人形ですか。というか何で自動人形は女性ばかりなんでしょうか。
 いや確かに男の体を作るよりも女の体を作った方が気持ち的に楽ではあるでしょうけれども。
 とまあ、そんな事はさておいて。

「とりあえずそちらの自動人形さんは『そのおじさんを気絶させて動けない様に捕縛して待機していなさい』」
「---了解しました」
「何を言って・・ぐぁっ!?」

 はい、無力化完了。いやぁ本当に楽でいいですね。

「すずかさんは無事そうですね」
「私、デバイス起動した意味無かったよ・・・」
「へーわにおわったんだから良いことだよ?」

 その通りです。面倒な事にならずに終了したのはとても良い事です。

「え?え?えっと・・・えぇ!?」
「すずかさんが混乱しているので暫く待ちましょう。そのうちリニスさん達も来るでしょうし」
「ちょっと待ってね・・・うん、今忍さん達と一緒に向かってるって。もうすぐみたい」

 さて、のんびり待ちま・・・

『---』
「あ、もう一人ですか?じゃあ気絶させて捕獲しておいて下さい。後で引き渡すので」
『---』
「え?他にも居たの?」
「はい、その様ですね。とりあえず捕獲をお願いしたので放っておいても問題ないと思います」

 さて、今度こそのんびりと待ちましょうか。



[19565] 第27話 月村家編完結
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/07/27 21:04
 あれから数分後に救出隊が到着しました。したのはいいのですが、まさかなのはさんが魔法で飛んで来るとは・・・まあ心配だったんでしょうし、仕方が無いんでしょうけれど。
 勿論のんびりしている私達を見てなのはさんは崩れ落ちました。そして安心したのか泣き出してしまいまして・・・うーん、もう少し早く終わらせてフェイトさんに念話を送ってもらった方がよかったでしょうか。
 ともかく、そんなこんなで誘拐事件は片付きました。そして全員で月村家へ移動です。

 誘拐の実行犯である三人のうち、変態二人はしかるべく処置をとると月村家当主の忍さんが言っていました。もう一人の可哀想なお兄さんは普通に警察に突き出すらしいですが、お兄さんの会社を捜査して危険を排除するそうです。
 まあ根は悪い人では無い様ですしね。本人も暫く刑務所の中で平和に過ごすと納得していましたし。
 で、誘拐の黒幕だった人はどうやら叔父さんだったらしく、こちらも月村関係の方で色々やるそうです。あ、最後の一人も氷室とかいう関係者だったらしいですけどそちらも。
 そして最も重要な部分である戦闘用自動人形についてですが。

「私が貰います」
「認められないわ」

 まあ、そんな感じです。普通に考えれば当たり前の事ですよね。でも私は普通の人間とはいえない能力を持っているので無視します。
 こっちはもうアリシアちゃんと約束してしまいましたし、必ずこのイレインさんをゲットしなければいけないんです。

「『イレインさんは私に着いてきて貰います』」
「だからそれは無理よ。唯でさえ夜の一族の遺産である自動人形な上に、戦闘用なのよ?」
「じゃあイレインさんに決めてもらいましょう。イレインさんはどちらに従いますか?」
「---私は杏お嬢様に着いて行きます」
「なっ!?」

 ふふふ、私の命令に逆らえる物なんてありませんよ?
 ・・・ところで何か言動や行動に人間味が無いと思ったら、セーフティーリミッターがついていたんですか。ま、今はそのままでも問題ないですよね。後で取りましょう。
 今はこのままの方が好都合ですし。非道?知りませんね。私は我が道を行きます。

「大丈夫ですよ。こちらにも技術者がいるからちょっと見て直したり弄ったりしたいだけですし、全部終わったら戦闘系統のプログラムも消してそちらに返却してもいいです」
「技術者が?」
「リニスさんとアリシアちゃんですね。本当はもう一人プレシアさんが居ますけど・・・」
「杏もある意味技術者だと思うよ?」
「私のはただのチートですから」

 私を技術者なんて呼んだら本当の技術者が本気で怒る様な気がします。

 とりあえ交渉の結果、何とかイレインさんの確保する事が出来ました。決め手は私の能力の存在を明かした事ですね。皆さんの呆然とした表情はなかなか面白かったです。
 本当は明かしたくなかったんですが・・・まあすずかさんにも見られましたし、今更ですもんね。いっそ多くの人にバレた方が、次回からは堂々と能力で手抜きが出来て楽でしょうし。
 おかげでこれからは月村家でもバニングス家でも怠惰生活が解禁です。ふふふ。

 さて、次は魔法に関してですが。

「そっちに関してはなのはさんに丸投げします」
「にゃー!?」
「大丈夫だよなのは。私も手伝うから」
「私も手伝いますね」
「うぅ、ありがとうフェイトちゃん。リニスさん」

 という訳で魔法組みにお任せしました。魔法を知ってる人間のうち、私とアリシアちゃんとアルフさんが余ってしまったのでとりあえず猫と戯れる事に。
 アルフさんって狼らしいですけど、猫をみて襲いたくなったりは・・・流石にしませんか。ただの獣ならともかく使い魔ですもんね。ドッグフードは食べれるみたいですけど。

「はぁ~、魔法ねぇ」
「そう、何か悩んでたのも魔法絡みだったって訳ね」
「成程、春によく家を抜け出していたのはそういう事か」
「えぇ!?バレてたの!?」

 なんだか盛り上がってますねぇ。

「すごい・・・さわっても人間とほとんど同じだし、きかいの音もぜんぜん聞こえない!それに・・・うぅ、早くいじってみたい!」
「・・・アリシアちゃんも盛り上がってますね。ちょっとマッドな感じがして近づきがたいです」
「プレシアもリニスも研究の時はあんな感じだったよ」
「遺伝?いや、リニスさんもですし・・・研究者の運命なんでしょうか?」
「嫌な運命だねぇ・・・」

 全くです。・・・あ、魔法の話は終わったみたいですね。私の能力の話も簡単にですが話しましたし・・・

「後は吸血鬼の話ですか」
「・・・どうしてそんな事知っているのかしら?」

 あ。まーたやってしまいました・・・

「すいません。以前からノエルさんに監視されていたり監視カメラに見られていたりして不安だったので調べました」
「気付いていたの?ノエルが注意した方がいいと言っていたのは本当だったのね・・・で、どうやって調べたの?」
「この家や庭の植物に聞きました」

 私の能力を詳しく知らなかった全員が呆然とした後に頭を抱えました。どうやら理解したくないみたいですね。お疲れ様です。

 結局夜の一族?との契約としてずっと『友達』でいるとの契約を交わして無事解決しました。一安心です。
 しかし思ったより吸血鬼らしくない吸血鬼なんですね、夜の一族は。眷属も増えず霧にもコウモリにもなれないなんてロマンが足りません。魔眼は使えるみたいですけど。
 両親が会ったらしいドイツの吸血鬼はどうなんでしょうか?

「ねえ、技術者って言ってたけど、杏ちゃんも色々弄れるの?」
「弄れますよ?なんならノエルさんかファリンさんをこの場で弄りますか?」
「止めた方が良いですよ。杏は問答無用で魔改造しますから、多分目からビームくらいは出せる様になってしまいます」
「目からビーム?・・・アリね」
「「忍お嬢様!?」」
「やーねぇ冗談よ冗談!あははは!・・・杏ちゃん、後でちょっと話さない?」
「面倒なのでお断りします」

 さて、これから先どうなる事やら。



[19565] 第28話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/07/14 11:22
 進級しました。今日から私も小学四年生です。
 一年前と比べるとみなさん成長が著しくかなり身長が伸びている人もいますが、私は相変わらず変化がありませんでした。
 おかげでとうとうクラスで一番背が低いという状況に・・・でも私は諦めません。成長期はまだですから。ええ。

 ちなみに、私の友人達はみんな同じクラスになりました。全員が同じというのはなかなか珍しい事ではないかと思いましたが、案外そうでも無いんでしょうか?
 結構生徒の多い学校なので確立は低そうなんですけど。まぁ、悪い事ではないので問題は無いんですけどね。

 で、足が麻痺していたはやてさんは既にリハビリ中で、今年の初夏辺りには松葉杖無しで完全自立出来そうだと言っていました。
 無事歩ける様になったら学校へ通う事にするそうですが、通う学校は勿論聖祥との事でした。いっそヴィータちゃんもアリシアと同じクラスに編入してしまえばと思いましたがどうでしょうか。
 そんな事はさておき、私立に通うのは経済的に大丈夫なのかと聞いてみると、何だか困った様な顔で何とかなると言われてしまいました。
 その後ろで守護騎士の方々が表情を顰めていたりしていたのが気になりましたが・・・まあ聞いたら面倒そうだったのでスルーしました。

 そうそう、はやてさんといえば、守護騎士の五人は人は襲っていないとはいえ魔法生物を襲撃していたらしく、その罪に関してはどうしようも無いらしいです。
 なので管理局でプレシアさんと同じく勤労奉仕する事になるそうです。まあ、罪は罪ですから頑張ってください。
 ちなみに闇の書の主であるはやてさん自身には特に罪は無いらしいのですが・・・守護騎士の五人だけ働かせるわ訳にはいかない、自分は主だから自分にも責任があるという事で、はやてさんも働く事にしたそうです。
 友人の魔導師で唯一の管理局入りですね。このまま就職したら将来は就職活動しなくてもいいかもしれませんね。続けるのかわかりませんが。

 あ、そうそう。プレシアさんはまだ懲役中です。とはいえプレシアさん程の技術者の力を使わずにいるのは勿体無いのか、そろそろ出てくるらしいです。
 地球で一緒に住める様になるのももう少しかもしれませんね。フェイトさんは料理を教えてもらうんだとはりきっていました。アリシアちゃんは勿論研究を手伝いするらしいです。

 で、当のアリシアちゃん、そしてリニスさんですが・・・ここ最近は勉強や仕事の合間にひたすらイレインさんを弄っています。
 現在のイレインさんはセーフティプログラム解除と同時に戦闘関係のプログラムが抜かれているのですが、それでもやはり戦闘用自動人形として作られたせいか戦闘以外は苦手のようです。
 それを改善する為に二人は弄っているんですが・・・おかげでイレインさんは時々変な改造を施されて落ち込んでいる事が多いです。可哀想に。

「そう思うならこのドリルロケットパンチを外す様に言って欲しいんだけど」
「ごめんなさい。私は無力です」
「ある意味一番とんでもない奴が何言ってるのよ・・・」

 とまあ、イレインさんはこんな感じです。最近は落ち着いていますが、ちょっと前までは色々暴れて大変だったんですよ?
 強制的に落ち着かせて意識改革させましたけど。ふふふ。

「杏、ボーっとしてるけどどうしたの?」
「いえ、何か色々あったなぁと思いまして」
「にゃはは・・・そうだね。まだ一年しか経ってないけど、本当に色々あったよね」

 そういえばまだ一年なんですよね。僅か一年の間でジュエルシード事件、闇の書事件、夜の一族事件・・・なんでしょうこのイベントの山。
 この調子だと今年度も三回程事件に巻き込まれたりするんでしょうか。勘弁してください。何だかんだで楽しんだり得したりしていますけど、これ以上はもう本気で面倒です。

「というかこの調子で行くと、気が付けばクラス全員魔導師なんて展開になりそうです」
「あ、あはは・・・流石にそれは・・・」

 色々不思議な事に遭遇しているせいで無いとも言い切れないんですよね。そのうち妖怪とか超能力者とか霊能力者とかにも遭遇しそうです。
 あ、吸血鬼は妖怪の括りでいいんでしょうか?それとも悪魔でしょうか?・・・それはさておき。

「まあ少なくともバニングス家の秘密が発覚して巻き込まれるなんて事にはなりそうです」
「何かあんた達と居ると否定しきれないわね・・・自分の事なのに」
「何だかんだで、完全な一般人なのはアリサちゃんだけだもんね」

 というかそんな人ばかり集まる聖祥こそ一番おかしいのではないでしょうか。いや、むしろ海鳴がでしょうか。
 もう地下の古代遺物がどうとか霊脈がどうとか言われても納得出来てしまいそうな程には人外魔境ですし。
 ・・・そういえばまだ見た事は無いですけど、植物達の噂では妖怪も超能力者も居るという話ですしね。本当に遭遇しそうです。

「とりあえずこれ以上は面倒なので、アリサさんは一般人のままでお願いしますね」
「安心しなさい。私は異能力者でも無いし魔法使いでも無いわよ」
「でも会社が裏側に関わってるとか?」
「やめてフェイト。結構可能性は高いんだから」

 結局私の友人で本当の意味で一般人なのは希さんだけなんでしょうか。



[19565] 第29話 妖怪編開始
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/07/27 21:06
 早くもゴールデンウィークになりました。全国的に連休です。今年も両親が世界旅行から帰ってきたので、また今回も海鳴温泉に行く事になりました。
 ただ今回は団体の規模が凄い事になっています。高町家に月村家にアリサさんと執事さん、そして我が松田家にテスタロッサ家に八神家です。
 なおプレシアさんは数日前に刑務所から出てくる事が出来ました。まだ地球で一緒に暮らすことは出来ないらしいのですが、今回の旅行には何とか参加させていただけました。
 どうやらアースラの艦長さんが色々と裏から手配してくれたそうで・・・感謝ですね。未だに名前をはっきり覚えていませんけど。確か息子さんはクロノさんだったと思いますが。

「ともかくお疲れ様ですプレシアさん」
「ええ、ありがと。・・・で、聞きたい事が色々とあるんだけれど」
「はい?」
「あの自動人形?の事とか、アリシア達がユニゾンデバイスを作ろうとしてる事とか色々あるけれど・・・貴女、私に洗脳か何かしてたでしょ?」

 あ、バレましたか。

「しましたよ。まあ一度やってしまえば何とかなると考えていましたので」
「はぁ・・・実際そうなってるものねぇ・・・」

 溜息をこぼすプレシアさん。ですが、旅行の準備を終えてわくわくしているフェイトさんとアリシアさんの姿を見て微笑んでいるので、あまり問題は無さそうですね。
 まあ何だかんだで優しい方ですしね。ちょっと狂ってたのはその優しさが故になんでしょう。詳しくは知りませんが。

「プレシアもすっかり昔の様に戻りましたね」
「リニスにも苦労かけたわね。いえ、苦労かけているの間違いだったわね」
「ふふっ、別に構いませんよ」

 昔を懐かしんでいる二人を見ると、見た目が若くてもやっぱり結構歳を取ってるんだなぁと思いますね。外見の若さに関しては既に海鳴に似た様な人が大勢居るので気になりませんが。

「イレインさんは行かないんでしたっけ?」
「そ、ここで休むわ。最近弄られっぱなしだからゆっくりしたいのよ・・・温泉にも入りたいけど、着いていったら忍にも何かされそうだし・・・」
「まあどうでもいいので、とりあえず変な事はしないで下さいね」
「はいはい」

 確かに物凄い頻度で弄られていましたからね。流石に可哀想になるくらいなので、連休中だけはゆっくりさせてあげましょう。
 ただもう少しで弄る必要が無くなるかもしれませんけどね。修理や改善はもう済んでいるみたいですし、何よりもうある程度仕組みは理解したみたいですし。
 ・・・つまり、そろそろ自動人形の作り方が完全解明させるという事なんですよね。でもこれ、解明してどうするんでしょうか?量産化して販売なんて月村家がストップかけてきそうですし。
 というかオーバーテクノロジ-ですし・・・あ、魔法世界でなら売れるんでしょうか?もし可能ならアリシアちゃんは起業するんでしょうか?
 ・・・凄い会社になりそうですね。自動人形でもユニゾンデバイスでも何でも作れる会社になりそうです。

「みんな準備終わったよ!」
「あ、アルフちゃんが呼んでるから行きましょ」
「杏は準備済んでるかい?」
「はい。準備して頂きました」
「それでこそ我が娘ね」

 という訳で出発です。車の運転はお父さん。海外で慣らしたドライビングテクの見せ所です。海外で運転しているのかわかりませんが。

 という訳で到着です。ドライビングテクは去年と変わらず普通でした。
 そういえば海鳴温泉に到着した時にフェイトさんとアルフさんが驚いていました。見覚えがあったからでしょうか。以前ジュエルシード探しで来てましたしね。
 でも名前を聞いて気付かなかったんでしょうか?・・・まあ、フェイトさんはいつも通り天然でしょうし、アルフさんは名前なんか気にしてなかったんでしょうね。

 さて、どうやら私達が一番乗りみたいですが・・・

「とりあえずいつも通り森の中でお昼寝してきます」
「「いってらっしゃい」」
「杏、私も行く」
「わたしも行こーっと」
「というか、いつも森の中で昼寝してるのかい・・・」
「杏らしいわね」
「ですね」

 そういう訳で、私とフェイトさんとアリシアちゃんで森の中へ進んでいく事になりました。ちなみに森に入って暫くしてからは倒木に乗って浮遊しています。
 もうこのままのんびりしてもいいんですが、どうせならいつも使っている木のベンチでお昼寝したいです。あそこは川も近いし木漏れ日も丁度良いんですよね。

 歩き続けて・・・というより飛び続けて数分で到着しました。

「ここなんだ・・・確かにお昼寝したら気持ち良さそうかな」
「そうでしょう。ちなみにそっちに行くと川がありますよ」
「あ、じゃあちょっと川の方に行ってくるねー!」
「アリシア、川に落ちない様にね」

 アリシアちゃんは魔法が使えませんし、おぼれたら大変ですからね。まあ密かに作ったアイテムで危機を脱したりしそうですけど。
 こんなこともあろうかと!って奴ですね。科学者のロマンらしいですし。

「さて・・・私は早速お昼寝しますね」
「うん。私もちょっとのんびりしようかな・・・あ、リスだ」
「んー・・・この辺は小動物も多いですから、それを探すだけでも楽しいですよー・・・」

 じゃ、おやすみなさい。



[19565] 第30話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/07/14 11:30
 お昼寝から目が覚めると、目の前にびしょ濡れのアリシアちゃんが立っていました。そしてフェイトさんはアリシアちゃんの服を魔法で乾かしていました。

「・・・あぁ、川に落ちたとかそんな感じでしょうか」
「あ、杏お姉ちゃん起きた?うん、大きい石につまづいたんだ」
「アリシアも結構おっちょこちょいだよね」
「フェイトに言われた!?」

 そんな事より、服を乾燥させる魔法なんてあったんですね。魔法をメインに使っている世界出身なので生活に根付いているとは思っていましたけど、そんな魔法があったとは・・・
 これなら全部フェイトさんに任せれば洗濯物もわざわざ干す必要は無いのではないでしょうか?

「でも、魔法で乾かすとお日様の匂いがしないよ?」
「あー、それはちょっとだけ残念ですね」

 部屋干しした時の臭いになったら残念過ぎるので止めておきましょう。

「ところで私はどれくらい寝てました?」
「大体30分くらいだよ。多分もうみんな到着してるんじゃないかな?なのはからは念話もきてたし」
「なら戻りましょうか」
「うー、服がペトペトする・・・」

 まあ旅館に戻ったら着替えもありますし我慢してくださいね。川で転んだのは自業自得ですし。

「フェイトさんは私がお昼寝している間は何をしていたんですか?」
「最初は少しボーっとしながら、時々見かける動物を見てたんだ。途中からなのはと念話してたけど」
「何か珍しい動物でも見つかりました?」
「うん、何か胴体の所が大きく膨らんでる蛇がいたよ」

 え、ちょっ

「普通にご飯を食べてた蛇みたいだったけどね」
「そ、そうですか・・・」

 ・・・一応後で植物達に聞いておきましょう。まさか本当にツチノコがいるとは思えませんけど、居たとしたら大発見です。
 もし私が捕まえたら・・・確か懸賞金は億単位でしたよね?死ぬまでだらけていても一切働く必要が無くなりそうです。ふふふ。
 海鳴は人外魔境らしいですから、案外本当に居るかもしれませんしね。ツチノコも、以前植物が言ってた妖怪とかの仲間かもしれませんし。

「・・・妖怪に魔法は通用するんでしょうか」
「杏お姉ちゃんどうしたの?」
「あ、いえ」

 ふと気になりましたけど、別に考えるべきことでも無いですね。そもそも妖怪と戦うなんて事にはならな・・・いや、あまり変に決め付けると現実に起こってしまうので止めておきましょう。
 今まで似た様な事で事件に巻き込まれてますし。・・・と言っても巻き込まれる時は巻き込まれるんでしょうけど。

 旅館に到着するとやはり全員揃っていた様でした。今はそれぞれ別行動しているらしいです。
 なのはさん・アリサさん・すずかさんの幼馴染三人組は早速温泉に行ったみたいですね。私達も行く事にしましょうか。

 旅館に入ると思いがけない人物に出会いました。

「あれ?杏ちゃんにフェイトちゃんに・・・アリシアちゃんだっけ?みんなもここに泊まりに来てたんだ」
「おや、希さんですか。奇遇ですね」
「希も来てたんだね」
「希さんこんにちはー」
「こんちわ。うん、私の姉がここで働いててね。いくら温泉が大好きだからって旅館で働かなくてもいいのに」

 話を聞くと希さんのお姉さんはとても温泉が大好きらしく、ブログで温泉で働く様子を書きながら、各地の温泉を実際に行ったときの感想などを交えて紹介しているそうです。
 そしてハンドルネームは温泉好き。どれだけ温泉が好きなんでしょうか。温泉が良いものなのは同意しますけどね。

「これから温泉に行くんですけど、よかったら希さんも行きませんか?なのはさん達も来てますし」
「あ、じゃあ私も行こうかな」

 という訳で、四人で温泉へと行く事になりました。所謂裸の付き合いですね。
 それにしても大体一年ぶり、久しぶりの温泉ですか。存分に堪能しましょう。



[19565] 第31話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/07/18 22:57
 温泉最高です。特に露天風呂が最高です。
 ここ海鳴温泉は露天風呂に混浴のお風呂がありますが、混浴ではない露天風呂もあるので助かります。
 外壁の向こうから流れ込んでくる涼しい風を顔に感じながら、暖かい温泉に身を浸かってひたすらボーっとする・・・これほど幸せな事はそうそうありません。
 難があるとすれば今が夏である事でしょうか。個人的には冬の露天風呂が好きなので。あの温度差が気持ち良いですし、雪が降ってたらもう最高ですね。
 ・・あ、今回に限ってもう一つ難がありました。

「ほほー、フェイトちゃんの成長がここまで早いとは思わへんかった・・・」
「ちょ、ちょっとはやてどこ触って・・・ひゃ!?」
「はやてさんはちっちゃいよね。杏お姉ちゃんと同じくらい?」
「身長は同じくらいじゃないかな?」
「っていうかはやてはいつまでフェイトの胸を触ってるのよ」
「アリサちゃん、そんな事言ったら・・・」
「じゃあ次はアリサちゃんやー!」
「しまった!?」
「はやて落ち着け、流石に暴走しすぎだ」

 やかましい・・・活気があるのは嫌いではありませんけど、うるさいのは勘弁して欲しいです。
 しかし現状温泉が貸切と変わらない状態ですし、特に問題にならないせいで注意するものアレなんですよね。何より面倒ですし。
 今は子供組だけですけど、これで大人組まで居たらもっと騒がしく・・・いや、流石に大人組は注意してくれますかね?

「杏ちゃん、やかましいって顔してるよ」
「やかましいですからね。温泉はもう少しゆっくり入るべきです」
「お姉ちゃんも似た様な事言ってたよ」

 希さんだけは唯一のんびり入っててくれています。いい人です。きっと温泉好きだというお姉さんに教育されているんでしょう。
 もし会ったらちょっとお話してみましょうか。どんな人か気になりますし。

「うぅぅ・・・散々な目に会った」
「おやフェイトさん、脱出できたんですか」
「お疲れ様、フェイトちゃん」
「ありがとう。疲れたよ・・・」

 という訳で三人でのんびりと雑談しながら温泉を満喫です。平和ですねぇ・・・

「そうそう、そういえばフェイトさんが森の中でツチノコっぽいものを見かけたらしいですよ」
「え!?本当に!?」
「そ、そんなに食いついてくるんだ。希ってそういうのに興味あるの?」
「え、あ、いや、あはははは・・・」

 この反応は・・・いや、いけませんね。こういう場合には深く考えない方がいいです。
 流石にUMA愛好くらいなら大した問題にはなりませんけど、本人が隠したがっている様なので追求したりしてはいけません。・・・何よりまた面倒な事になったら嫌ですし。
 散々とんでもないイベントに遭遇してますし、たとえ希さんの興味に関する話でも無理に関わったらどんな事に巻き込まれるか・・・校庭に円を描いてベントラーとか勘弁ですよ?あ、それUMAじゃないですね。

 温泉から上がりました。明るいうちから入っていたのでまだ空には太陽が存在しています。希さんはご自分の家族の下へと戻っていきました。
 さて、夕飯の時間まではあと一時間少しらしいです。という訳で・・・

「ちょっとツチノコに関して情報収集でもしましょうか」
「にゃ?温泉に入ったのにすぐ外に行くの?」
「っていうか何でツチノコ?」
「さっきフェイトが見かけたんだって」

 みんな微妙に興味があるみたいですね。

「とりあえず外には出ませんよ。私は外出しなくても聞き込みが出来るので」
「あ・・・確か植物とお話が出来るんだよね」
「こういう時に杏のソレは卑怯よね・・・」
「何かいい情報があったら私がサーチャー出してあげるね」
「ありがとうございますフェイトさん。その時はお願いします」

 という訳で客室から見える範囲内の植物みんなに色々聞いて回る事に。

「(・・・知りませんか?)」
『---』
「(んー、そちらの木の方は?)」
『---』
「(見てませんか・・・でも聞いてはいるんですね)」

 いまいち捗りませんね。ちょっとだけ期待していたみなさんも今はもうトランプを始めてますし。

「(・・・という訳なんですが、何か情報はありませんか?)」
『---』
「本当ですか!?」

 見た事があるという返答に思わず叫んでしまいました。ツチノコは実在するのかもしれません!

「え、何?もしかして何かわかったの?」
「ほ、本当にツチノコが居るの?」
「ちょっと待ってください。今詳しく情報を聞きます」
『---』

 目撃情報が現れ始めたのは去年の夏頃。どうやら河原付近を主な行動区域にしているらしく、その辺りの植物に聞けばきっと多くの情報が得られるだろうとの事です。
 今情報を聞いている雑草さんが見かけたのは今年の二月付近の事で、何やら不思議なオーラの様なものを放ちながらあちこち這いずり回っている蛇の様な生き物を見かけたらしいです。
 その姿はやはりツチノコの様に不思議に膨らんだ胴体を持っているらしく・・・うぅむ、これはかなり有力な情報なのでは?
 というかツチノコが不思議なオーラを放つってどういう事でしょう?

「もしかして、以前ちょっとだけ考えた説が当たりなんでしょうか」
「説?」
「はい。他の世界に居る魔法的な生物がたまたま地球に紛れ込んだのがUMAの正体なのではないか、と」

 そう説明すると他の皆さんは納得したのかそれぞれ頷きました。この仮説は結構当たってそうですけど、どうでしょうか?

「ともかく場所の予想はつきました。フェイトさん、私のお昼寝スポット辺りにサーチャーをお願いしていいですか?」
「うん、まかせて」

 あの辺りでフェイトさんはツチノコを見かけましたし、あの辺も川の近くなので付近に居る可能性はそれなりに高い筈です。
 とりあえずサーチャーの映像を全員で見ているんですが・・・気が付けば大人組の人達も見てますね。話を聞いていたんでしょうか。

「それにしても便利ですよねサーチャー。私の能力と合わせたら無敵じゃないですか」
「杏が情報を得て、フェイトがサーチャーで調べる・・・確かに便利よね。探偵にでもなれるんじゃないかしら」
「それに杏は映像越しでも生放送なら会話も操作も出来るしね」
「「「「えっ?」」」」

 松田家とテスタロッサ家以外全員絶句しました。あれ、話してませんでしたっけ?まあどうでもいいですね。今はツチノコです、ツチノコ。



[19565] 第32話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/07/19 21:34
 サーチャーが私のお昼寝スポットに到着しました。もう夜なので月明かりしかないんですが、他の部分よりも上が開けているので月明かりでそれなりに明るいです。
 夜のここも中々良さそうですね・・・寝るのはともかく、のんびりするのにはいいかもしれません。

「へー、ちょっと良い場所ね」
「ここでツチノコと一緒にリスとか野ウサギも見たんだ」
「海鳴って野ウサギ居たのね・・・」

 なにやら盛り上がっていますが、あまり気にせずに植物に話しかけて情報収集です。

「(すいませーん、ツチノコ見ませんでした?)」
『---』
「(えーと、胴の部分が膨らんでる蛇みたいな生物です)」
『---』
「(川の方ですか、ありがとうございます)フェイトさん、サーチャーを川の方へお願いします」
「あ、うん。まかせて」

 さて、とうとうツチノコの正体が白日の下に晒されます。夜ですが。

 川の付近に到着したので周囲を見渡して情報収集しながらみんなで探します。
 ここまで来ると大人の皆さんもかなり興味が湧いているのか、結構真剣になって探しています。・・・ツチノコを捕まえた時、この場合だと賞金は山分けになるんでしょうか。
 別に宝くじでいくらでも稼げるので問題はありませんが・・・なんとなく勿体無いですね。あ、でも一人でツチノコを捕まえたとなると面倒な事になりそうなので丁度いいのかも知れませんね。
 間違いなくマスコミとか色々来そうですし・・・いや、まだ捕まえていいのにこんな事を考えるのは早計ですね。ほぼツチノコっぽいだけでツチノコでは無いかも知れませんし。

「む、今そこの草むらにいなかったか?」
「え?士郎、どこ?」
「俺も見た、この辺りだった」
「恭ちゃんも?」

 なのはさんのお父さんとお兄さんが指で指し示したのはサーチャーの位置から大体200m程離れた距離にある草むらでした。よく気付きましたね・・・
 そういえば植物達が話していた海鳴人外魔境の噂の一つに高町家と思われるものがあった気がしますが・・・その辺の技術や能力が関係してるんでしょうか。

 ともかくサーチャーを移動させてお二人が行っていた場所周辺を捜索する。
 そして捜索を始めて数分で、とうとうその姿は現れました。

 蛇の様な体と、膨らんでいる胴体。全体的に茶色っぽいその姿は・・・まさしく噂通りのツチノコ。

「ほ、本当に居た!?」
「すごーい!大発見だよ大発見!!」
「ふふふ、とりあえず私がここから遠隔操作で植物を操って捕縛を・・・」
「あれ?ツチノコって妖怪だったの?」

 ・・・ん?忍さん、何だか興味深い台詞を言いませんでしたか?

「忍さん、あれって妖怪なんですか?」
「うん、私も一応そういうのには関わってるしわかるのよ」

 なんとまあ・・・魔法生物かと思いきや妖怪ですか。まあ吸血鬼が居るんですからおかしくはありませんけど、ちょっとびっくりですね。

「・・・あれ?じゃあツチノコを公表する事ってヤバいのでは?」
「あー・・・確かにそうだね。一応裏の事だし」

 話を聞いてみんなガッカリしてしまいました。私も勿論ガッカリしています。せっかく見つけたのに公表出来ないなんて・・・無駄な事をしてしまいました。
 見つけた時はちょっと嬉しかったですけど、今はもうどうでもいいですね。

「でもちょっとおかしいのよね。妖怪にしては何か違う様な・・・」
「違う?」
「うん、何というか、得体の知れない力が混ざってる様な感じ」

 得体の知れない力って、妖力とかじゃないんでしょうか。というか妖怪なんてみんな得体の知れないものだと思いますが・・・
 まあそんな事はどうでもいいです。今考える事は、このツチノコをどうするべきかです。
 正直もうどうでもいいので放置でいいと思いますが・・・

 そんな事を考えていると、突然モニターに映っていたツチノコが悲鳴を上げ始めました。
 全員その声に驚いてモニターに目を向けると、そこには札の様な物が貼られて動きが制限されているツチノコ。

「え?退魔師がいるの?」
「妖界の次は退魔師ですか・・・じゃあ次は式神ですかね?」
「妖怪は、でも退魔師さんなんてのも居たんだね」
「というかコレだけ異能に溢れてて何で管理外世界なのかしら・・・」

 魔法じゃないからでは?

「まあ折角です。ここは退魔師の方の姿を見て終わりにしましょう」
「え?いいのかな・・・」
「いいんですいいんです。どうせバレません」
「そーそー、フェイト早くー!」
「う、うーん、じゃあちょっとだけ・・・」

 ナイスアシストですアリシアちゃん。
 さて、退魔師さんはいったいどんな姿をしているんでしょうかね・・・おぉう。

「あれ?これ希よね?」
「希ちゃんだね」
「希だね」
「希さんですね」
「希ちゃんのなの」
「希さんだね」

 ・・・一般人じゃなかったんですね、希さん。



[19565] 第33話 妖怪編完結
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/07/27 21:07
 さて、唯一の完全一般人かと思ってい希さんが退魔師等という魔導師とはまたベクトルの違う異能者という事が判明してしまいました。
 つまり私の身の回りで一般人と言える存在はアリサさんだけという事に・・・しかしそのアリサさんも本人が知っているかどうかはともかく、この流れだと何らかの秘密がありそうですよね。
 という事は私の身の回りには一般人ならぬ逸般人しかいないという訳で・・・類は友を呼ぶとはよく言ったものです。でも一人くらいは類友以外が居てもいいと思うんですが。

『ん、あれ?何これ?』
「あ、杏。希にサーチャー見つかっちゃった」
「はぁ。でも何だか判ってませんしそのままでいいんじゃないですか?」
「そっか、じゃあそうするね」
「それでいいんか魔導師って・・・」

 はやてさんの呟きに他の魔導師達は誰も答えません。聞いていなかったのか、何だかどうでも良くなっているのか・・・でも魔導師軍団の中で一番変な事になっているはやてさんが突っ込んでもどうかと思いますよ?
 まあ、助ける為とはいえ私が原因なんで私の方があまりどうこう言える事では無いのですが。

『うーん、何かさっきのノヅチみたいな得体の知れないエネルギーを感じるけど・・・』
「ノヅチ?」
「さっきのツチノコですよ。確か日本神話に出てくる妖怪か何かの名前がノヅチだった筈です」
「さっきのツチノコと同じエネルギーって言ってるけど、魔力だよね?」
「なるほど、あのツチノコなんか普通の妖怪とは違和感があると思ってたけど魔力だったのね」

 でも、それだと何でツチノコが魔力を持っていたんでしょうか。希さんの反応を見る限り、普通は魔力なんて持っていないみたいですけど・・・得体の知れないって言ってますし。
 というか希さんがサーチャーを突っついてるんですけど、迂闊すぎる気がします。これが何かの妖怪とかだったら怪我するかも知れませんよ?
 実は凄腕の退魔師なので多少油断しても問題が無いという事ならともかく。

『・・・えいっ』
「あ、サーチャー壊されちゃった」
「お疲れ様でしたフェイトさん」
「うん、ありがとう」
「でも、何か変な事になっちゃったね」
「とりあえず希が旅館に戻ってきたら追求しましょうか」
「そうね。私も一応海鳴の管理者として話を聞いておきたいわ。あんな子が居るなんて知らなかったし」

 そうですか。私はもう興味が遥か彼方に飛んでいってしまったので参加しませんね。見る限り私が色々弄って遊べそうなものは無さそうですし・・・あ、札はちょっと気になりますけどね。
 後から聞いた事を教えていただければ問題無いですし。今日はもうただひたすらにダラダラしたいです。布団の上か中で。

「という訳で後はお任せします」
「あんた・・・まあ今更よね」

 はい、今更です。

 さて、そのままのんびり布団の上に寝転がって両親の大冒険活劇や、なのはさんのお父さんがボディーガード時代に経験した事などとても興味深い事を聞いていると希さんの元へ言っていた皆さんが帰ってきました。
 早速話を聞こうかと思いましたが皆さん眠そうです。時計を見たらもうそれなりに遅い時間でした。それならまあ仕方が無いですね。
 なので皆さんの邪魔をしないようにバルディッシュに話してもらいました。

 遠藤希さんは母方から連なる退魔師の一族らしいですが、そこまで力の無い分家だったらしく、一応技術の継承はしているものの割と普通な生活を送っていたようです。
 希さんのお母さんが結婚した相手が希さんのお父さんで、温泉大好きなお姉さんはそのお父さんの連れ子だったそうです。バツイチだったんですね。
 で、結婚したという事で退魔師という秘密を打ち明けたもののお姉さんに退魔師の才能がある訳でもなく、特に変化は無くそのまま普通に結婚生活。そして希さんが産まれたらしいです。
 そして希さんに退魔師の才能があったのでとりあえず訓練中。つまり希さんは見習い退魔師という事ですね。
 ちなみに月村家という管理者に知られていなかったのは単純明快、別に報告される程のものでもなく、しかも希さんのお母さんが結婚して苗字が変わったので全然関わりが判らなかっただけみたいです。
 この話を聞いた時点でそれでいいのかと忍さんに聞いてみたら笑って誤魔化されました。冷や汗が見えたので割と不味い事なのかもしれませんね。

 で、ツチノコを退治していた理由は、危険かも知れないから。ついでに修行も兼ねてだそうです。
 危険と断定しない理由なんですが・・・ここ最近霊力とも妖力とも違うよく分からないエネルギーが海鳴近辺でよく感じられているらしいです。
 それをたまたま取り込んだり妖怪や、そのエネルギーと何かしらが混ざって産まれた妖怪が居るらしいのですが・・・妖怪の性質とそのエネルギーが合わないのか意味の無いものとなっているかららしいです。
 妖怪が生まれたりしているのはそのエネルギーの中でも妙なものらしく、具体的に言うと去年の春頃によく感じていたものらしいです。
 で、そのエネルギーも粗方駆逐し終わっていたんですが、今日たまたま話を聞いて調査してみたらツチノコが居て・・・という事らしいです。

 さて、去年の春先と聞いて思い浮かんだのはジュエルシード。思わずなのはさんとフェイトさんに目を向けてみると、私の目線に気付いた途端目を逸らされました。どうやら大当たりの様です。
 まあジュエルシードなら妖怪が生まれる事くらい普通に起こりそうですし、納得ですね。という事はあのツチノコは私が去年ここに旅行に来た時に見つけた・・・確か、十八番さんでしたっけ?彼の残滓から生まれたという事ですよね。
 懐かしいですね・・・またジュエルシードさん達とお話したくなってきました。まあ実際にまた会ったら会話よりも色々とお願いをするんでしょうけどね。

「あ、杏の事も言っておいたからね」
「別に言わなくてもよかったんですけど・・・」
「希ちゃん驚いてたの」

 まあクラスメイトの殆どが魔導師やら吸血鬼やら異能者だと驚くしかないとは思いますけどね。私はもうすっかり慣れてしまってますけど。

「とりあえずこれで後はアリサさんの秘密が明らかになるのを待つだけですか・・・」
「本当に止めて・・・せめて私だけは一般人でいたいのよ」
「アリサちゃんには悪いが・・・ボディーガード時代に『バニングスグループは誰も知らない秘密の部署が存在する』って噂を聞いた事があるよ」

 なのはさんのお父さんの発言でアリサさんが布団に沈みました。ご苦労様です。

「・・・とりあえず、近いうちに家族に色々聞いてみるわ」
「頑張ってください」

 さて、満足しましたし私はもう寝ましょうか。おやすみなさい。



[19565] 第34話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/07/23 19:11
「将来の夢ねぇ・・・」
「去年も同じ事授業でやった気がするよ」
「そうなんか?」
「まあ学校の授業なんてそんなものですよ」

 現在私は学校の屋上でお昼の弁当を食べています。
 メンバーは私とテスタロッサ姉妹、なのはさん筆頭の三人娘、そして最近秘密が発覚した希さんと、ほぼ完全に歩ける様になったはやてさんです。
 ゴールデンウィークに行った海鳴温泉での件からは特に事件や問題に直面する事も無く生活出来ている為、最近はとても平和です。惜しむらくは、何だかんだで誰かに付き合う事になって思った様にダラダラできないという事でしょうか。
 近いうちに休みを一日中使って思いっきりダメな生活を取り戻したいと思っています。多少なら忙しいのにも慣れてきましたが、やはり暇でのんびりした日常の方が好きですし。

 今の話題は授業で話に上がった『将来の夢』について。去年の春先にも同じ授業をやった気がしますが、よくある題材なのでどうでもいいですね。

「アリサちゃんとすずかちゃんは変わらず、かな?」
「そうね。跡継ぎだもの」
「私は最近、アリシアちゃんの話を聞いてデバイスとかも気になってるけどね」
「すずかは結構そういうの得意みたいだしね」

 すずかさんまでデバイス研究を始めたら大変な事になりそうな気がします。というか、地球はこの先どうなるんでしょうか・・・この間アリシアちゃんとリニスさんはついに自動人形を完成させていましたし。
 まだまだ量産出来るレベルでは無いと言ってましたが、そこに月村家の経済力が加わったら・・・恐ろしい。すずかさんが加わったら間違いなく忍さんも参加するでしょうし、マッドだらけになってしまいます。
 すずかさんまでマッドになってしまったら変な化学反応を起こして魔法でも霊力でもない新しいエネルギーを見つけたりしそうです。

「なのはは将来何か考えてるのかな?」
「うーん・・・得意なのは魔法しかないけど、それだと魔法世界にいかなきゃダメだし・・・」
「私はもう時空管理局に就職内定やけどな!・・・中卒になりそうやけど」
「再就職は厳しいですね」

 魔法で就職はちょっと面倒そうですよね。というか時空管理局って軍隊みたいなものですよね?なのはさんの場合家族が納得するんでしょうか・・・お兄さんとか、凄く反対しそうですけど。
 はやてさんは本人が家長ですし、後見人も魔法世界の人らしいので問題にはならなそうですね。中卒故に再就職は厳しいでしょうけど、はやてさんの魔法の才能(と魔改造闇の書)があれば大丈夫でしょうし。
 おっと、今は夜天の書でしたっけ。はやてさんは闇の書のままで良い様な気がしてたらしいですが、管制人格のリインフォースさんが泣きながら嫌がったそうです。
 ちなみにリインフォースさんは私に対して物凄い苦手意識が芽生えているらしいです。ヴォルケンリッターの皆さんもちょっと苦手意識があるらしいですが、こっちはそれなりに友好的なんですよね。

「というか、なのはさんは魔法以外にもカメラとかあるじゃないですか」
「そうよ!あんな才能を隠し持っておいて得意なのが魔法しかないってどういう事?」
「にゃ!?そ、そんなに凄かったかなぁ?」
「あれは確かに上手だったよねぇ」

 そう、海鳴温泉の件でなのはさんの秘められたカメラマンとしての才能が明らかになったんです。
 家族の方達は皆さん知っていたらしいですが、小学一年生からの付き合いであるお二人は何だかんだでこの事を知る機会が無かったとの事。
 しかし色々聞いてみると、翠屋のメニューにある写真もなのはさんが撮影したものという事が判明し・・・何というか、なのはさんは魔法というより機械操作に強いという事が判明したのでした。
 パソコンとかAV機器とかにも強いみたいですしね。なのはさんとすずかさんとアリシアちゃんの機械談義にはついていけません。
 製作専門のアリシアちゃんにおそらく使用専門のなのはさん、そして多分どちらもこなせるすずかさん・・・凄いものが作れそうですね。

「わ、私よりも、フェイトちゃんとアリシアちゃんはどうなの?」
「私はもちろんデバイスマイスター兼研究者だよ!」
「私は・・・どうだろう?」
「フェイトは料理が得意だから、料理人とかどう?」
「むしろ桃子さんに弟子入りして翠屋二号店の店長さんとかどうでしょうか」
「あ、それええなあ。友人価格で食べさせてな」
「うーん、翠屋二号店はともかく、桃子さんに弟子入りして色々なお菓子作りはしてみたいかも・・・」

 アリシアちゃんはもう決まっている様なものですからともかく、フェイトさんは未来の選択肢が多そうですよね。
 魔法が使えるので管理局に入るのもありでしょうし、話に出た通りに料理関係もありますし・・・どうです?うちにメイドさんとして就職しませんか?ある意味永久就職になるかもしれませんが。
 まあ冗談はさておき、もし桃子さんに弟子入りするなら応援しましょう。そして美味しいものをいっぱい食べさせてください。

「希さんはやはり退魔師でしょうか?」
「専門に出来るほどの才能は無いと思うから、とりあえず進学はする予定だけど・・・もしかしたらお姉ちゃんが旅館経営始めるかもしれないから、そしたらそこで働くかも」
「温泉が好き過ぎて温泉旅館を経営・・・そう簡単に行くのかしら?」
「旅館はともかく、何らかのお店をやりたいって。接客商売が好きみたいだから」

 成程・・・まあ小学生の時に明確に将来が決まってる事の方が珍しいですし、普通はそんな感じですよね。他の皆さんがはっきりしすぎなんです。
 何せはやてさんに至ってはもう内定している訳ですし。アリシアちゃんも既にいっぱしの研究者として活躍してますし。・・・私の周りの人間って、本当に普通な人がいないですよね。
 アリサさんは神秘的な意味では普通ですけど、社会的にはかなり特別な人ですし。もう一般人は私しか・・・すいません嘘つきました。

「杏ちゃんはどうなの?」
「働きたくないです」
「まあ想像は出来てたわ」
「杏お姉ちゃんは働かなくても何とかなっちゃうしねー」
「無職が問題があるというなら株トレーダーにでもなれば問題ありません。私の能力なら大成出来ます」
「卑怯やな・・・」
「でもあまり無職と変わらないよね」

 生まれ持ったものを活用して卑怯といわれても・・・まあ自覚はしていますけどね。ただ自重はするつもりはありませんが。
 あと無職ではありません。ニートです。働く意欲の無い若者なので。

「わざわざニートに訂正するあんたもどうかと思うわよ」

 ごもっともですね。・・・っと、チャイムもなりましたし、教室へ戻りましょうか。ああ、授業が面倒です。自習になればいいのに。

「杏お姉ちゃんが大金稼いだら、スポンサーになってみんなを後押ししたら・・・」
「あ、それ良いかもしれませんね」
「アリシアちゃんの研究所とフェイトちゃんのお店と・・・どれだけお金が必要なんだろうね」
「まあ、宝くじとギャンブルでなんとかなりますよ」
「思考がダメ人間と同じよね・・・こっちは必勝だけど」

 将来、どうなるんでしょうねぇ。



[19565] 第35話 杏ユニゾン編開始
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/07/27 21:08
 小学五年生になりました。身長が伸びる気配がまるでありません。他のクラスメイト達は成長著しいというのにこの差はなんでしょうか・・・とうとうクラスどころか学年最低身長になってしまいましたよ。
 生粋の日本人であるなのはさんとはやてさん、希さんは常識の範囲内の成長なのですが、海外と異世界の血を引いているアリサさんとフェイトさんは凄いです。身長とか胸とか。
 そしてすずかさんもかなり成長しています。こちらは吸血鬼の血なんでしょうか。それともどこかで西洋人の血が流れているんでしょうか。どちらにしろ妬ましいです。
 私は身長も胸も変わらずだというのに・・・アリシアちゃんにも抜かれるそうだというのに・・・なのに体重は1kg減りました。
 何でそんなグーたタラしてるのに体重が減るんだとアリサさんに突っ込まれてしまいましたが、友人が増え始めてからは何かと行動している事が多いからだと思います。前は外出すら滅多にしませんでしたからね。

「というか、最近の私はちょっと動きすぎだと思う訳です」
「そうかな?・・・確かに出会ったばかりの時と比べたらよく動いてる気はするけど」

 いつも通り居間のソファーでコーヒーを飲みながらフェイトさんとのんびり。ちなみに最近ちょっとだけ砂糖とミルクを減らしてみました。苦美味しいです。
 他の家族は仕事や研究でここにはおらず、おかげでとても静かに午後の昼下がりを満喫出来ています。春なので気温も穏やかですし、開けた窓から流れてくる風が気持ちいいですね。

「う~・・フェイト~お腹空いた~」
「もう、呼んだ時にちゃんと来ないと困るよ?」
「きりのいいとこまで進めたかったんだもん」

 のんびりしていると空腹のせいか疲れのせいか、ぐったりとしているアリシアちゃんが隣のテスタロッサ家という名の研究所から帰ってきました。
 確か最近はユニゾンデバイスの研究を進めてるんでしたっけ。どこまで進んだんでしょうか。

「んーと、とりあえずユニゾン出来る様にはなったよ。あとはユニゾン時の安定化とかAIとか、ユニゾンの時にどうサポートする様にするかとかかな」
「おお、もうユニゾン出来るんですか」
「うん。でも今のままだとほぼ確実に融合事故が起きると思う」
「恐ろしいですね」

 アリシアちゃんの説明によると、ユニゾンというのは魔導師のリンカーコアとユニゾンデバイスの擬似リンカーコアの同期によって相乗効果を生み出し、同時に魔導師の魔法処理能力をデバイスが負担することによって魔力の底上げと魔法効率化を行うものらしいです。
 今作ってあるユニゾンデバイスはリンカーコアの同調は可能らしいのですが、リンカーコアの波長を合わせて同期させるまでには至っていないらしいです。つまり、重なるけど合体は出来ないという事ですね。
 そんな状態で無理にユニゾンすると発生するのは融合事故。デバイスが暴走したり、デバイスのAIと特徴が表に出て魔導師の精神に負荷がかかったり、最悪の場合だと融合解除が出来なかったりショックで死んでしまったりするらしいです。
 この融合事故は完成されたユニゾンデバイスでも相性が悪ければ発生するらしいです。危険な存在だったんですね、リインフォースさん。

「今度はその部分を調整しないといけないんだけど、大変だよ~」
「はいアリシア、チャーハン。・・・でも、楽しんでるんでしょ?」
「勿論。っと、いただきまーす」

 アリシアちゃんはフェイトさんが作ったチャーハンをパクパクと食べ始めました。
 それはともかく・・・ユニゾンデバイスですか・・・

「ユニゾンデバイスと融合してリンカーコアの無い人が魔導師になれたりはしないんですか?」
「むぐっ、ん・・・多分無理だよ。リンカーコアは誰にでもあるんだけど、ただ無いのと同じくらいだったりするだけなんだよね。そんな弱いリンカーコアだと波長の確認も出来ないからほぼ確実に融合事故。相当運が良かったらたまたま波長が合ったりするかもしれないけど・・・」
「あ、そうなんですか?」
「私も知らなかった・・・」

 リンカーコアって誰にでもあったんですか・・・まあ魔法の無い世界にも魔力があるみたいですし、もしかしたら当たり前の事だったりするんでしょうか?・・・いえ、フェイトさんも知らなかったみたいですし、それは無いですか。
 ・・・あれ?って事は私にもリンカーコアがある訳ですよね?ただ弱すぎるだけで。という事は。

「私なら問答無用でユニゾン出来るのでは?」
「・・・ああああぁぁぁぁぁ!!!!そうだよそうだよ!!杏お姉ちゃんの能力使ったら融合事故を起こさないでユニゾン出来るよ!多分!」
「今、最後に多分って言って予防線張ったね」
「ちゃっかりしてますね」
「いや、だって非魔導師のユニゾンなんて前例が無いから・・・」

 まあそうでしょうね。私が例外過ぎるだけでしょうから仕方がありません。
 しかしこれで本当にユニゾンが成功したのなら、私も魔法少女デビューですか・・・いや、魔法少女はちょっと恥ずかしいので魔導師デビューに言い直します。小学五年生ならまだセーフでしょうが、ちょっと恥ずかしいです。

「杏お姉ちゃんのユニゾン結果を検証して他の非魔導師でもユニゾン出来る様に出来たら、魔法世界の歴史が変わるよ・・・ふふふ、これはリニスとお母さんにも協力して貰わなきゃ!!」

 あれ?私が魔法使いたいから言ってみただけだったんですけど、そんなに大事になるんですか?というかこの様子だと何度も検証実験に付き合わされるんじゃあ・・・墓穴を掘ったのかもしれません。
 ・・・まあ多分実際にユニゾンを試すのは当分先の話でしょうし、今は気にしない事にしましょう。未来の自分に丸投げです。



[19565] 第36話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/07/25 22:09
 あれから暫くの間、アリシアちゃんはプレシアさんとリニスさんに協力を求めてユニゾンデバイスの開発に集中するようになりました。
 どうやらデバイスの人格は一から専用AIを組むと時間がかかるらしいので省略し、代わりに以前皆さんのデバイスに登録して遊んだ闇の書の未使用人格を使うらしいです。
 まさかあの偉そうな自称王を使うのでしょうか・・・等と考えていましたが、流石に黒なのはさんの時の人格を使うらしいです。確かに一番それらしいですしね。

 デバイスの形なのですが、ユニゾンデバイスは大抵人型です。どうやら融合対象と同じ形だと波長の同期がしやすいらしく、それによって他のデバイスよりも融合事故が発生しにくいらしいです。
 なので普通なら人型にするのですが・・・何故か今回は普通のデバイスの様にアクセサリー型で作る事になりました。アリシアちゃんに理由を聞いてみたのですが、

「杏お姉ちゃんなら問題無いと思うし」

 との事でした。これで失敗なんかした日にはどうしてくれましょうか・・・ふふふ。まあ、あの三人が大丈夫と言ったのなら大丈夫なんでしょうけどね。
 ちなみに今回作っている私専用のユニゾンデバイスは、完成してユニゾンに成功したらそのまま私にくれるとの事です。実験作を渡されて困るのですが、どうやら何度も調整してくれるらしいのでOKしました。
 なので前述したAIと形態以外は完璧に仕上げようとしている為、結構な期間をかけてデバイスを作っています。なおデバイスの形態に関しては完成してから変える事も可能らしいです。

 しかしここまで本腰入れて作る様になるとは思いませんでした。私はただ魔法を使ってみたかっただけなのですが、あのマッド三人はその先に様々な事を考えている様です。
 たまたま私の家に集まって会議していた時に色々聞こえていたのですが・・・

「特許取って管理局に売り込んだら・・・」
「戦力不足も人手不足も・・・」
「他の違法研究もある程度・・・」
「人造魔導師研究も・・・」

 とまあ、何か凄い事になってました。魔法の世界の事情に関しては詳しく知らないので良く分かりませんが、とりあえず何か特許とか言っていたので大金持ちにはなりそうですね。本格的に働かなくてよさそうです。
 しかし、三人が研究漬け(プレシアさんとリニスさんは管理局の仕事もしていますが)になってしまった為、私とフェイトさんとアルフさんは全く話しについていけずです。
 まあおかげでこちらものんびり出来ているので問題はありませんけどね。外出の機会も減りましたし、万々歳です。外出なんて必要ありません。日光は好きですけど。

「しかしプレシアさんもリニスさんも残念ですね」 
「そうだね。物凄く口惜しそうにしながら言ったもんね」

 最近はデバイスの最終調整に入っていたのですが、もうじき完成という時にプレシアさんに管理局から応援要請が来てしまいました。
 ただの嘱託魔導師ならば断る事も不可能ではなかったらしいのですが、現在のプレシアさんは懲役後の勤労奉仕期間の真っ最中。断る訳にもいかず、リニスさんを連れ立って管理局へ行ってしまいました。
 もう完成直前だったらしく、二人はアリシアちゃんに全てを託していきました。一切心配をしていなかった辺りに信頼が伺えますが、僅か小学三年生で一流の科学者から信頼してもらえるアリシアちゃんは、ある意味私達の中で一番凄い存在なのではないかと思えてきます。

「そろそろ出来上がる頃でしょうか?」
「うん。2時頃に完成すると思うって言ってたから、もうそろそろだね」
「上手くいけば私も今日から魔導師ですか・・・」
「・・・もし成功したら模擬戦しよ?」
「嫌です」
「残念・・・」

 残念と言いつつも表情が全然残念そうじゃないので、断られるのが判ってて聞いたんでしょうね。というか、判りきった答えでしょうけどね。
 模擬戦とか面倒ですよ。確かに魔法は使ってみたいですけど、戦いたい訳じゃありませんし。それにフェイトさんの模擬戦相手にはなのはさんや守護騎士の皆さんが居るじゃないですか。
 それでも戦いたいと言うならばそれでもいいですけど、問答無用で能力使いますよ?面倒ですし。

「二人ともお待たせー!完成したよっ!」
「おお、お疲れ様です」
「お疲れアリシア。何か飲んで休憩する?」
「それより先に試してみて!早く早く!」
「アリシアちゃんが落ち着けそうに無いみたいですし、試しましょうか」

 アリシアちゃんからついさっき完成したばかりのデバイスを受け取りました。受け取ったデバイスはなのはさんのレイジングハートの様な丸い形をしていて、色は白です。
 赤だと宝石みたいに見えますけど、白だとどちらかというと石に見えますね・・・製作者本人に言ったら何か言われそうですが。

「さて、確かAIが入ってるんですよね?」
『はい。よろしくお願いします』
「あれ?何か声がアリシアに似てるね」
「うん、サンプルボイスに私の声を使ったんだけど、今回はテストだからそのままにしたんだ。それに杏お姉ちゃんなら自分で弄れそうだし」
「まあ確かに弄れますね。・・・でも今回はこのまま行きましょうか」
『了解しました』

 さて、とうとうユニゾンする訳ですが・・・何をどうすればいいんでしょうか?

「えっと、デバイスがリンカーコアの波長読み取りに特化されてるから、その情報を基にしてデバイスの擬似リンカーコアの波長を杏お姉ちゃんが調整して」
「え?リンカーコアの読み取りが出来ないくらい小さいから非魔導師扱いなんじゃありませんでしたっけ?」
「ただ読み取るだけなら一応可能なんだよ。ここまでの性能で読み取れるのをデバイスに搭載するには不可能だから誰もやってないけどね。今回だって、一番容量の必要な波長同期プログラムを大半省いたから何とかなったんだし」

 それじゃあ完全に私専用じゃないですか。量産がどうこう言ってましたけど、これで大丈夫なんですか?・・・いや、これで大丈夫なんでしょうね。何と言ってもあの三人の作品ですし、多分完全にデータを取るだけにするんでしょう。
 まあそれは私には関係の無い事ですし、とりあえず始めましょうか。

「それでは・・・あ、名前って何かありますか?」
『マイスターアリシアからはユニと呼ばれています』
「アリシア、もしかしてユニゾンデバイスだからユニ?」
「安直ですね」
「い、いいでしょ別に!ほら早く!」
「そうですね。それではユニ。お願いします」
『了解。リンカーコア読み取り開始・・・完了。同期をお願いします』

 さて、能力を使って・・・ふむ、相変わらず何だか良く分かりませんが、これが私のリンカーコアの波長ですね。この波長と同じ様にユニの擬似リンカーコアの波長を弄れば良いんですよね。
 では、ここを・・・こうやって、こうして・・・おっと、ここはこうで・・・よし、完了です。

『波長同期完了。ユニゾン準備完了です』
「では・・・ユニゾンお願いします」
『了解しました。ユニゾンを開始します』

 ユニの言葉の後にデバイスが光りながら私の中へと入ってきました。特に苦しかったりはしませんが・・・しいて言うならば、何だか胸の部分がポカポカします。多分リンカーコアのある部分なんでしょう。
 そして視界が光で埋め尽くされます。眩しくはありませんが、目を瞑っているのにここまで視界が光で埋め尽くされるとは・・・周りのフェイトさんとアリシアちゃんは眩しくは無いんでしょうか?
 ・・・っと、光が収まってきましたね。

『ユニゾン完了しました。こちらからは異常は見られませんが、大丈夫ですか?』
「はい、大丈夫・・・ん?」

 頭の中に響くユニの声に返答しながら目を開けると・・・何だか視界が高い位置にあります。それに私の声も少し変わっている様な・・・

「・・・」
「・・・」
「あの、何故そんな驚いた顔をしているんでしょうか?というか、何故か二人とも小さく見えるんですが・・・」
「あ、えっと、杏、だよね?」
「はい」
「・・・こうなるとは思わなかったなぁ・・・」

 い、いったい何が起きたんでしょうか。フェイトさんとアリシアちゃんが私を見上げているんですが・・・!?ちょっと待ってください、見上げている!?
 まさか・・・まさか!?

「まさか身長が伸びている!?」
「身長だけじゃなくて、外見が高校生くらいになってる・・・」
「まさかこんな事が起こるなんて・・・いったいどのプログラムが働いたんだろ?」

 高校生くらい!?いや確かに変身すると大きくなるのは王道ですが、まさかそれが実際に起きるとは・・・
 いや、それよりも!高校生くらいの私の身長がここまで高くなるという事は・・・

「私の身長はちゃんと成長するんですね!そうなんですね!!」
「あ、喜ぶ所そこなんだね」
「杏お姉ちゃん、気にしてたもんね・・・」

 その後落ち着いてから冷静に検証した結果、外見は成長しただけで髪の毛や目などの色彩に変化は無く、魔法に関してはあまり才能が無かったのか簡単な魔法しか使えませんでした。
 飛行魔法が使えなかったのが残念ですが・・・それでもちゃんと身長が伸びると判明しただけでも十分です。
 ああ、本当に良かったです!



[19565] 第37話 杏ユニゾン編完結
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/07/27 21:08
 お仕事から帰ってきたプレシアさんとリニスさんとアルフさんがアリシアちゃんから話を聞いたらしく、再び大人な私に変身です。
 ああ・・・この視点の高さ。素敵です。

「へぇ~、結構美人じゃないのかい」
「え?身長にばかり注目してたので全然気にしてなかったんですが、美人なんですか?」
「杏はもともと可愛いからこれくらいは当たり前じゃないかな?」
「いや私が可愛いとかフェイトさんに言われても・・・」

 可愛いと言われて確かに嬉しいですが、どう考えてもフェイトさんの方が美人になりますよね。予想だと美人過ぎて男性がアプローチ出来なくなるくらいにはなりそうです。今でも男子は結構萎縮してるみたいですし。
 実際フェイトさんの下駄箱にラブレターを入れようとしてやっぱり止めた人を見た事がありますし。まあ、なのはさんやアリサさんやすずかさんのも見た事あるんですけどね。はやてさんと希さんはまだ見た事ありませんが。
 ちなみに私の下駄箱には入っている訳がありません。というかフェイトさんが転校してくる前でも既に聖祥アイドル三人が同じクラスに存在しているのに、私に興味を示す人が居るとは思えませんし。

「とりあえず、どんな仕組みで、どんな理由で大きくなったのか調査させて貰うわよ」
「そうですね。まずは身体測定をしましょうか」
「魔法的な調査はその後だねー」

 ええー面倒です。大きくなっただけでいいじゃないですか。・・・いや、調査の結果を基にしてよりよい変身が出来る様になる可能性もありますし、ここは我慢しましょう。
 と、言う訳で始めは身長を測ります。

「メジャーで測る辺りが実に家庭的ですね」
「専用の器具なんて持ってないもの。というか持っててどうするのよ」
「ごもっともです」

 直立不動の私のかかとにメジャーの先を合わせ、頭には地面に平行になるように乗せた下敷き。そんな家庭的すぎる身体測定の結果・・・私の大人モードは身長162.3cmという事が判明しました。
 大きい。これは大きいです。まさか本来の身長より20cm以上も伸びてるとは思いませんでした。ここまで高くなるなら中学くらいから急激に伸びるんでしょうね。楽しみです。

「次は体重ね」
「体重といえば、ジュエルシードにお願いして身長に応じた平均体重より少し軽いくらいを維持する様にお願いしてあるので測っても意味は無いかもしれませんよ」
「流石杏お姉ちゃん、ロストロギアの使い方がそれっぽいね」

 ありがとうございます。
 それはともかく、一応体重計に乗る事になりました。女の子の体重を勝手に見るなんて・・・とは別に思いません。少なくとも平均より軽い事は判ってますし。

「本当に平均体重ですね・・・」
「ちょっと羨ましいわ・・・」
「美人でスタイルのいいプレシアさんがそれを言いますか」

 年齢不詳の美人が言う台詞じゃないですよね。特に体型維持の努力をしている様には見えませんし。
 というか私が知る限りの魔導師全員がスタイル良かったり美人だったりしますけど、何故なんでしょうか。魔法の才能がある人はまさしく神に選ばれてとでも言うんでしょうか。
 まあたまたまだとは思いますけど。あ、ちなみに今の私の胸はCカップくらいです。

「いえ、魔導師に美形が多くなるのは研究で証明されていますよ」
「え?」
「高ランク魔導師になるほどスタイルも良くなるって結果も出てるわね」
「え?」
「まあ例外も居るみたいだけどねー」

 ちょっと気になったので詳しく話を聞いてみました。
 何でもリンカーコアを持っていると魔力が体に影響を与えて、魔力素の吸収・魔力の放出に耐えられる様に体の成長に補正がかかるんだそうです。
 その補正が上手い具合に美人さんを作り出し、更に高ランク魔導師になればなるほど肉体にも大きな補正がかかるらしいです。なので高ランク魔導師の女性は産まれの差はあるものの大抵美人でスタイル抜群だとか。
 つまり、なのはさんやフェイトさんは親も美形な上に魔力の補正がかかって更に美しくスタイルも良くなるという事ですか。そういえばアースラの艦長さんも美人でスタイルが良かった様な・・・

 そして例外というのは、生まれ持った肉体が始めから魔力と親和性が高い人の事らしいです。魔力に対する親和性が高ければ高い程、リンカーコア所持における成長補正が無くなるらしいです。
 多分はやてさんの事ですね。他の魔導師組と比べて成長がそこまで大きく無いですし・・・同じくらい可愛いですけど。

「じゃあ私のこの姿はどうなんでしょうか?」
「恐らくリンカーコアがあった場合はこう成長するって事じゃないかしら」
「リンカーコアを持っていない人だと魔力に対する親和性が極端に少ないでしょうから、それが原因で行動に支障が出ない様に肉体が作り変わったんだと思います」
「つまりその体はあくまで魔力に馴染んだ場合の杏お姉ちゃんの体な訳で・・・成長してそうなるかは判らないんだけど・・・」
「・・・ユニ、そうなんですか?」
『はい。更に詳しく説明しますとマスターの肉体は魔力との親和性が極端に悪すぎるので、今後対処しても親和性が上がる事は無いと思われます』
「・・・つまり?」
『成長してもこの姿と同じにはなれません』

 ・・・何かもうどうでも良くなってきました。もう今日は眠ってもいいでしょうか。まだ昼ですけどいいですよね。というか問答無用で寝ます。不貞寝します。
 みんな大きくなりすぎて天井に頭ぶつけてしまいなさい。

「だ、大丈夫だよ!杏は小さくても可愛いから!」
「励ましたいという気持ちはありがたいですが正直全然嬉しくないです」
「あぅ・・・」

 いいですよー高校生になったら四六時中ユニゾンしてますから。解除しないでずっとそのままで過ごしてやりますからー。



[19565] 第38話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/07/29 23:08
「フェイトって杏に甘いわよね」

 小学六年生に進級して暫く経ったある日のお昼休みに、今回は他の子と食べている希さんを抜かしたいつものメンバーで屋上に来てお弁当を食べていると、ふとアリサさんがそんな事を言い出しました。

「そうなのかな?」
「まあ確かに他の皆さんよりは優しいとは思っていますね。おかげで色々助かってます」
「フェイトちゃんが居るから杏ちゃんは何もしないんじゃあ・・・」

 失礼ですね。私はたとえ誰が居たとしてもやりたくない事は滅多にやりませんよ。むしろ誰かが居るからこそこうして一緒に弁当を食べてるんですし。
 それに何だかんだで家でも色々手伝ってますしね、能力でですけど。勿論私自身はテレビを見ています。

「でも杏お姉ちゃんも結構フェイトとか私のお願いを聞いてくれたりするよ?」
「え?」
「アリシアちゃんそれ本当?」
「到底信じられないわね・・・」
「幻ちゃうんか?」

 貴方達四人が私をどう考えているか良くわかりました。まあ予想通りなんですけどね。信じられないだろうという自覚もありますし。
 でもほら、フェイトさんにはそれこそ部屋の掃除から食事の準備までやってもらってますし、流石の私も感謝くらいはしますよ。まあフェイトさんは自分の家の家事をやってる様なものでしょうけど。
 アリシアちゃんに関しては・・・何というか、ほら・・・私って年下に甘いみたいなんですよね。意外な事実ですけど。何となく断れないというか・・・まあ嫌なものは嫌といいますけど。

「でもヴィータにはそんなに優しく無い様な気がするんやけど」
「いきなり襲って来たのがいけませんでしたね。あと、性格的に面倒なので」

 そもそも守護騎士は実年齢何百歳ですし。永遠の幼女といえばそっち側の趣味の人には喜ばれそうですけど、歳を取っている事には変わりありませんしね。
 むしろ実は凄い年上とか詐欺なのではと思えるくらいです。それが良いと言う人も居るんでしょうが。

「ともかくフェイトは杏は甘いのよ。なんでそんなに構うのかが不思議なのよね」
「んー・・・自分では自覚は無いけど、多分初めての大事な友達だから、かな?それに杏のおかげで母さんと仲直り出来たし、みんなと一緒に暮らせる様になったし」

 なんか照れます。

「あれ?そういえば私達って杏ちゃんとフェイトちゃんが仲良くなった時の話とか聞いた事無いね」
「せやな。なら、話題提供という事でここで話してもらおか」
「えーと・・・いいのかな?」

 フェイトさんがこちらをチラリと見ますが、みんな事情を知っているので問題は・・・あ、アリシアちゃん蘇生に関してはどうなんでしょうか?
 流石に死者蘇生は問題がある様な気が・・・

「杏お姉ちゃん。何悩んでるのか大体判るけど、みんな杏お姉ちゃんの事なんでもありだと思ってるから今更だよ」
「にゃはは・・・やっぱり何かとんでもない事したんだ」
「ところでなのはさんのその『にゃはは』とか『なの』とか、中学になっても続けてたらちょっと恥ずかしいと思いせんか?」
「うっ!?い、意地悪なの・・・」

 いや、ふと気になったもので。でも今のうちに直せばいいじゃないですか。きっと何とかなりますよ。
 さて、そんな事より私達の話ですよね。えーと・・・蘇生に関して問題が無ければ全部話しても大丈夫ですね。あ、プレシアさんを洗脳した事に関しては流石に言いませんが。フェイトさんがショック受けそうなので。

「という訳で全部話しても問題ないと思います」
「そっか、じゃあ話すね。私と杏が始めて会ったのは---」

 そしてフェイトさんの口から話される懐かしい過去の話。友人が希さんしか居なかった頃の怠惰絶好調時代の私がここまで変わるきっかけとなったジュエルシード事件。
 ジュエルシードを集め、そして私が時の庭園へと連れて行かれ、何やかんやでアリシアちゃんとリニスさんを蘇生。流石に元死人だとは思わなかった様で、驚愕の叫び声を上げていた四人を見たアリシアちゃん本人が大爆笑していました。
 そして平和になったテスタロッサ一家を放置して私が帰った後、真の平穏の為に活動を開始したテスタロッサ一家。そしてその結果私の家の隣に引っ越して来る事になる。・・・この辺りで存在しないジュエルシードを探索し続けていた事を思い出したのか、なのはさんに物凄く怒られました。何故今更。

「・・・こんな感じで、杏には色々お世話になったんだ」
「なるほど、だからなのはが教室でフェイトを見た時に崩れ落ちたのね」
「あの時はびっくりしたよね」
「うわぁ、その時のなのはちゃんの顔見たかったなぁ」
「見なくていいの!」
「パソコンと映像編集ソフトがあれば能力で色々して当時の再現VTRを作れますが」
「作らなくていいの!!」
「あ、私も見てないから家に帰ったら作って?」
「頼まなくていいのー!!」

 そのまま暫くなのはさんを弄って遊び、話題は再びフェイトさんと私の事へ。

「でも、ここまで色々と杏ちゃんに構ってあげてるんやし、他にも理由があるんやないか?」
「んー、まあ、ちょっとね」

 ん?私もそれくらいしか思い当たる事がありませんが、他に何かあるんですか?

「私が楽しんでやってるってのもあるんだけど・・・ほら、杏って誰かが傍で見てあげないと心配で・・・」
「それはいったいどういう事でしょうか」
「えと、今は行動が面倒みたいだけど、そのうち呼吸が面倒とか、最後には何もかも面倒とかいっちゃいそうで・・・」

 皆さんがなるほどとうなずきました。流石に酷くないですか?いくら私でも生を放棄する気はありませんよ。第一呼吸なんて無意識にしてる事ですし面倒も何も無いでしょう。
 まあ実際に何もかもを他人任せにして生活出来る様になったら実行する可能性は無い訳では無いでしょうけど。

「まあ、最近は初めて会った頃と比べて色々してるからそんな心配はしてないんだけどね」
「つまり今はただ単純に楽しいから杏を甘やかしてると」
「フェイトは甘えられるのが好きみたいだからねー。子供が出来たら凄い事になるんじゃないかな?」
「それは確かに」

 そしてそのまま子供の話が続き、お昼休み終了のチャイムが鳴り響いて私達は教室へと戻りました。
 授業が面倒です。



[19565] 第39話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/07/31 16:54
 最近全然話題に出していなかった自動人形量産計画ですが、とうとう量産化可能な域まで簡略化出来たらしいです。
 おかげで我が家の科学者三人はハイテンション。現在は月村家で過ごしているイレインさんにも研究協力のお礼の電話をしていました。
 ちなみに受話器の向こうから物凄い驚愕を示す大声が聞こえてきましたが・・・多分忍さんとかも聞いたんでしょうね。ご愁傷様です。
 ・・・あれ、今私凄くナチュラルに我が家の科学者って言いましたよね。実際は隣の家の科学者の筈なのに・・・

「でも地球で販売可能な出来なんですか?あまり技術力が高すぎると面倒な事になりそうですが・・・嫌ですよ、家がマスコミに囲まれるなんて」
「安心してください。現在の地球で使われている技術と最近研究されている技術しか使っていませんよ」
「まあその最近研究されている技術もNASAとかその辺りのものなんだけれどね」
「それに並の科学者じゃ理解出来ないくらい複雑なプログラムだしねー」

 それは大丈夫なんでしょうか。どちらにしろマスコミに集られそうな・・・むしろCIAとかKGBとかMIBとかフリーメイソンとかに狙われそうな気がしてきたんですが。
 というかそんな技術を今の地球で使って大丈夫なんでしょうか。魔法は使っていないでしょうから管理局の問題は無い・・・筈ですよね?

「だいじょーぶだいじょーぶ。第一元の自動人形だって地球の技術なんだし」
「まあ、そうなんですが・・・まあ面倒な事にならないならどうでもいいです」

 もし変な組織に狙われたりしたら怨みますからね?襲われてもある程度なら簡単に無力化出来るとは思いますけど。
 あ、でも超能力とか存在して使われたら無理かもしれませんね。

「で、実際に量産するんですか?」
「それが技術的に量産可能になっただけで、コストが大変な事になってしまうんですよねぇ」
「それに量産する工場のツテも無いから、今のままだと正直ただの自己満足なのよね。魔法を使った方が安く組み上げられるけどまさかそんな工場なんて地球に存在しないし」
「だから今はとりあえずコスト削減の為に色々取り組んでるところー」

 この人達は本当に地球をどうするつもりなんでしょうか。・・・いや、既に魔法とか妖怪とか異能とか吸血鬼とかありますし、量産型自動人形なんて今更なのかもしれませんね。
 何かもう疲れてきました。ASIMOの技術が超進化したとでも考えれば問題は無いでしょう。多分。

 休憩を終えたマッドサイエンティスト三人を見送ると、丁度夕飯の買出しに行っていたフェイトさんとアルフさんが帰ってきました。
 フェイトさんはもう立派な主婦となってますね。炊事洗濯掃除とかなり高水準ですし・・・家事万能なもうじき中学生の心優しい少女の正体は魔法少女。シュールです。

「ただいま杏。みんなは?」
「おかえりなさい。休憩した後また篭りましたよ」
「もう・・・たまには違う事したらいいのに」

 主婦というかもうお母さんですね。

「アルフさんは何だか楽しそうですけど、どうしました?」
「ふふっ、さっきはやての買い物に付き合ってたザフィーラに会ってね。明日一緒に釣りに行く事になったんだよ」
「おや、デートですか」
「そうなのかねぇ?ま、明日は美味い魚を釣ってくるから楽しみにしてなよ」

 こちらはアウトドアですねぇ。一番地球の娯楽を満喫しているのはアルフさんなのではないでしょうか。この前は仕事仲間とボウリングに行ってたみたいですし。
 というか、すっかり普通の人間みたいな生活ですよね。自宅ではたまに狼の姿で過ごしていますけど、外に出るときは殆ど人型ですし。
 ・・・いや自宅じゃないですね。私の家はアルフさんの自宅では無いです。自宅同然ですがまだ自宅では無いです。
 まあ時間の問題な気がしますが。

「今日の晩御飯どうしようかな・・・」
「そういえば最近は専らフェイトさんがご飯の支度をしてますね。プレシアさんとリニスさんに思うところは無いんですか?」
「うん、あんまり。料理楽しいし、美味しいって言って貰えると嬉しいから」

 本当に良い子です・・・本気でうちにメイドさんとして就職しません?優遇しますよ。まあ今でも既に似た様な生活なんですが。

 そして夕飯の時間。みんなで談笑しながらテレビを見つつ食事していると、ふと目に付いたCM。それはバニングスグループのCMでした。

「量産型自動人形の販売する時にバニングスグループに協力要請してはどうでしょうか。幸いそれなりに関係もありますし、ご両親はどうか判りませんがアリサさんは魔法を知ってますしね」
「成程・・・」
「もし可能ならいいかも知れないわね」
「でもとりあえずはもっと改良しなきゃね」
「でも、そしたらアリサが一般人ルートから外れるかもね」

 会社がちょっと凄いロボットを販売するだけですし、大丈夫ですよ。会社ごと魔法に思いっきり関わってしまったら後継者のアリサさんも脱・一般人の可能性が高いですが。
 例えば管理局に自動人形を販売する管理外世界の企業とか、明らかに普通じゃないですしね。管理局に販売する機会なんて無いと思いますが。

「・・・ってアリシアちゃん、今私のから揚げ一個持っていきませんでしたか?」
「んふふ~何の話かな~」

 ああ、から揚げ・・・



[19565] 第40話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/08/02 18:03
「自動人形量産計画の大幅コストダウンに成功したよっ!」
「・・・こんな短期間でよくもまあ簡単に出来ますね」

 面倒な学校から下校し、のんびりワイドショーを見ているといつも通りアリシアちゃんが居間に叫びながら飛び込んできました。
 というかなぜ何かある度に叫びながらここへやってくるんでしょうか。まあ歳相応?に子供らしい行動と考えれば微笑ましくも思いますが。
 ・・・あ、アナウンサーが今噛みました。

 しかし、僅か一ヶ月程度で大幅なコストダウンに成功してしまいましたか。こんな簡単にコストダウン出来る自動人形は本当に安全なのか疑問ですが、どうなんでしょう?
 いきなり間接が粉砕してバラバラ死体になったりしたら物凄い騒ぎになりますよ?間違いなくリコールの嵐です。

「安全性は大丈夫!むしろ今までは頑丈に作り過ぎてたから、ちょっと簡単にしただけなんだよね」
「それだけで大幅コストダウンに成功するんですか?いったい最初はどんなものだったんです?」
「魔力衝撃・物理衝撃は勿論、次元震にもある程度耐えられる設計だよ。具体例を出すとしたら・・・なのはちゃんの全力全開の収束砲でも壊れないくらい?」
「街中でぶつかった衝撃だけで骨が折られそうな程頑丈そうですね」

 いったいどんな環境を想定してそんなとんでもない自動人形を作ろうとしていたのか疑問です。まさか管理局に売るつもりですか?それくらいしか使い道が無さそうな丈夫さなんですが。
 というか、そんなありえない位に頑丈な自動人形を作れる素材があった事に何より驚きですよ。そんな素材があるならそれでデバイス作れば壊れないんじゃないですか?
 いや、それ以前に加工出来るんでしょうか?

「でね、結局ここまで頑丈にしなくても良いって事になったからそれなりの状況に耐えられる程度にしたんだよね」
「それなりの状況がどれ程の状況かは気になりますが、まあ問題は無いんでしょう。で、値段にしてどれくらいで作れるんですか?」
「高級車よりちょっと高いくらいだと思う」

 安いのか高いのか・・・いえ、物凄い技術である事には変わりありませんし、きっと安いんでしょうね。それに作る価格ですし、実際に販売する事になったら利益を考えてもう少し高くなるんでしょう。
 でもそれくらいなら買いそうな人は多そうですよね。多分従順な美人さんのメイドさんをお金で買えるんですし。富豪さんとかに売れそうです。
 ・・・割と本気で事業にしても何とかなるんじゃないでしょうか。このままだと本気でバニングス家への交渉に発展しかねませんね。製造資金自体はこちらで何とか出来るでしょうし。

「問題は魔法を使って作らないと私達でも一年に一台くらいしか作れなさそうな程大変なんだよね・・・」
「成程、未だ量産計画の発動は不可能な訳ですね。ちなみに魔法アリなら三人でどれくらいで作れますか?」
「余計な機能を追加しなくていいなら一ヶ月くらいかな?リニスもだけど、何よりおかーさんの魔法がまさしく大魔導師の名に恥じない超レベルだから」

 プレシアさんってそんなに凄かったんですか・・・出会った当初の魔女っぽい時から何度か魔法を見てますけど、あんまり凄いイメージは無かったんですよね。
 何せ研究が絡まなければ普通の優しいお母さんですし、しっかりしている様で時々変にボケた発言をしますし。

「何とか魔法無しで作れないかなぁって思ってるんだけど・・・ミッドならともかく地球じゃあ問題だし」
「ふむ、ならミッドの会社とかに協力要請して地球とミッドの両方で販売しては?」
「さっき提案したけど、おかーさんもリニスもミッドの会社にはツテも何も無いって」

 暗礁に乗り上げた訳ですね。今までが順調すぎたからむしろ丁度良い様にも感じます。

「ところでプレシアさん達はまだ向こうに居るんですか?」
「あ、忘れてた。今休憩中でついでに飲み物持ってく所だったんだ」
「とうとうテスタロッサ家には飲み物すら置かなくなりましたか・・・」

 今更言う事ではありませんが、もう私の家に住んでいるも同然ですよね。
 まあ私の親公認なので別に問題は無いんですけどね。私としてもまあ、最近は多少騒がしくても嫌ではありませんし。慣れたともいいますが。

 飲み物を持っていったアリシアちゃんを見送り再びテレビを見ていると、なのはさんの家に遊びに行っていたフェイトさんが帰宅しました。

「お土産にケーキがあるけど、食べる?」
「食べます」
「ちょっと待っててね」

 翠屋のケーキは大好物です。今回フェイトさんが持ってきたのはオーソドックスなショートケーキですね。
 さて、何やらやけにこちらを見てくるフェイトさんが気になりますがいただきましょう。
 まずは一口・・・ん?

「美味しいですが、いつもと微妙に味が違いますね」
「やっぱりわかっちゃうんだ・・・桃子さんに教えてもらいながら作ってみたんだけど、やっぱり難しいな」
「え、これフェイトさんが作ったんですか!?」
「うん。桃子さんにも手伝って貰ったけどね」

 いや、確かに桃子さんが作るケーキよりは舌触りや風味が違いますけど、これでも十分美味しいですよ!
 独自の作り方とかもあるんでしょうけど、まさかフェイトさんがここまで美味しいケーキを作るとは・・・今まで作っていた物とは比べ物になりませんよコレ。

「・・・うん。決めた。中学に入ったら翠屋でアルバイトする」
「えっ?まさか桃子さんに弟子入りでもするんですか?」
「弟子入りするかどうかは判らないけど、もっと近くで色々見て勉強したいんだ」

 おぉう、久しぶりにフェイトさんの目に強い思いが見えます。どうやらスイーツ作り目覚めてしまった様で・・・もしかして以前話していた通りにこのまま翠屋二号店の店長になったりするんでしょうか?
 実際、翠屋二号店とまではいかずとも、パティシエにはなりそうな勢いです。結構本気みたいですね・・・
 フェイトさんがパティシエになったら美味しいスイーツを安く食べさせてもらえそうですし、応援しましょう。頑張ってくださいフェイトさん!

 その後、フェイトさんのケーキを食べた残りの皆さんも驚いていました。そして皆でべた褒めしたためフェイトさんは流石に照れてしまったらしく、暫く顔を赤くしたままになってしまいました。
 ・・・店を開いたら男性客が多くなりそうですね。



[19565] 第41話 ミッド観光編開始
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/08/09 17:20
 中学校に入学しました。そしてそれが周りに居る様々な人の転機になってしまいました。

 まずはアリサさん。中学生になってから本格的にバニングスグループの事を色々学び始める予定だったらしいのですが、その過程でバニングスグループの9秘密を教えてもらったそうです。
 バニングスグループには他社はおろか自社の社員ですら知りえない秘密の取引先が居るというものでしたが・・・

「まさかミッドチルダと貿易してるなんて思わなかったわ・・・」
「世界を越える企業ですか。凄いですね」

 ミッドチルダにて販売されている地球産の食料や家具等を主に輸出しているらしく、それに次いで料理のレシピや娯楽アイテム等も人気だそうです。
 アースラに畳やししおどしがあったのはバニングスグループが輸出していたからだったんですね。成程、聞いてみれば納得出来る事でした。
 周りで一番ミッドチルダに詳しいテスタロッサ家の皆さんに聞いてみると地球産と思われる料理も結構多いらしく、管理外世界で無ければもっと大々的に観光名所として人気になっていたかもしれないとの事です。
 いっそ魔法をバラしてしまえば不況から一気に脱出出来るんでしょうか?

 さて、ミッドチルダと貿易しているバニングスグループですが、実際に貿易を担当しているのは傘下の子会社らしいです。
 その名もローウェル貿易。従業員は魔法を知っている地球人とミッドで雇った魔導師らしいです。勿論魔法を知っているのはここの社員と上層部だけです。
 このローウェル貿易ですが、実は魔法世界に対しての貿易以外にも地球の主要各国上層部に対しての窓口も兼ねているらしいです。
 やはり管理外世界と言えども魔法絡みの事件が起きないとは言えないものらしく、そういった事件が発生したときにスムーズに対応が出来る為の措置だそうです。
 ちなみにジュエルシ-ドの件も管理局からローウェル貿易と日本に情報が行っていたらしいですが、流石に海鳴で起きていたとは思っていなかったらしく、アリサさんがその事を話すとご両親はとても驚いていたそうです。
 まあそれは驚きますよね。娘の友人三人は魔導師で、一人は吸血鬼で、一人は退魔師で、一人は魔法科学者で、そして私が何か良く分からない能力者ですし。
 バラエティに富んでいるにも程があります。フェイトさんに至ってはミッド出身で親が管理局で働いているくらいですしね。勤労奉仕ですが。

 余談ですが、各国が宇宙開発を目指していた背景には、その技術を高めていった結果魔法に繋がる可能性があると考えていたかららしいです。確かに宇宙船と次元航空艦は何となく似ている気がしますしね。
 しかし、確かに技術向上や航空艦製造技術等にはいいですが特別魔法に近いという事は無かったらしく、それが理由で大きな宇宙開発が減ってしまったらしいです。
 しかし地球の技術の進歩はかなりのものらしいので、もしかしたら後100年くらいで魔法に辿り着くのかもしれませんね。私がデバイスとか弄ってみた感想なので適当ですが。

「杏ちゃんがそういうと適当でも妙に説得力あるよね」
「機械に関してはある意味アリシア達以上の専門家だしね」

 とまあ、こんな感じでアリサさん本人には異常な事はありませんでしたが、家庭には普通じゃない事があったという事でめでたく逸般人となってしまいました。これでみんな普通じゃなくなりましたね。
 アリシアちゃんがローウェル貿易の話を聞いてから自動人形量産計画に、あわよくばユニゾンデバイス量産計画にも引きずり込もうと画策しているのでこれから大変でしょうが・・・頑張ってください。

 次にフェイトさんの話です。フェイトさんは以前宣言していた通り、翠屋で本格的にアルバイトを開始しました。とはいえ正式なバイトではなくお手伝いの様なものです。
 そうしないと聖祥中学がバイト許可をしてくれなかったですからね。とはいえ、フェイトさんが将来を考えてのアルバイトなのである程度考慮してくれているみたいですけど。

 さて肝心の仕事内容ですが、普段はホール作業で接客等を行っているらしいですが、客足が引く時間になると厨房に入って桃子さんとのパティシエール教室が開催されるみたいです。
 そして行われる厳しい指導・・・あのいつでも笑顔の優しい桃子さんが厳しい様子などまるで想像が出来ませんが、やはり自分の専門の事、自分の技術を伝えるという事になると厳しくならざるを得ないみたいですね。
 なのはさんも厳しい桃子さんを見て驚いていたみたいでした。曰く、「先生みたい」と。・・・実際先生みたいなものですけどね。

 そんな日々が続いていたある日、フェイトさんがこんな事を言い出しました。

「本格的にこっちの道に進むなら、やっぱりヨーロッパの方で修行した方がいいのかな?」

 この発言に猛反対したのがプレシアさんとアリシアちゃん。どうやらフェイトさんと離れ離れになるのは嫌だそうです。
 まあ血の繋がった家族ですからそう思うのも当然でしょうけど、でも家族の夢の為なら許してあげるべきではありませんか?

「修行なら翠屋でいいじゃない。桃子はヨーロッパで修行してきたんだから、そこで修行すれば同じよ」
「そうそう。それにフェイトがいないと杏お姉ちゃんがダメになっちゃうよ」
「あ、そっか。確かに杏が心配かも・・・」
「え、私で悩むんですか?」

 心配してくれている事を喜べばいいのか悲しめばいいのか・・・まあ確かにフェイトさんが居なくなれば色々面倒な事になるでしょうけど。
 というか、

「魔法があるんですから、毎日日本に帰ってきたり出来ませんか?」
「あ、転移魔法使えば」
「なんだ、じゃあ問題ないわね」
「そうだね。英語も翻訳魔法があるし」

 という訳でフェイトさんは中学卒業と共にヨーロッパへ修行に出る事が決まりました。ちなみに修行先の店は桃子さんが紹介してくれるそうです。
 フェイトさんがどんどん自分の夢を叶えて行きますね・・・成長もどんどんしていきますし、凄い人です。

 さてフェイトさんの次はプレシアさんの話です。プレシアさんは勤労奉仕期間が終了したので管理局を辞めようとしたらしいのですが、研究チームのメンバーや重役から辞めないで欲しいと懇願されてしまったらしいです。
 その結果非常勤研究院として席を置く事になったらしく、週に二日程モニター越しに研究に参加・月に一回は実際に管理局の研究室に行く必要が出来たみたいです。
 しかしそれでも結構な給料が貰えているらしく、プレシアさんは時間的にも経済的にもとても余裕が出来ているみたいです。
 まあ時間に関しては以前から頻繁に研究を完成させたまま報告せずに時間を引き延ばして、自動人形やユニゾンデバイスの研究をしていたのでそう変わらないと思いますが。

 そして管理局といえば私達の中で唯一の管理局就職組であるはやてさん。
 はやてさんは何やらエリートコースまっしぐらの充実した仕事人生を送っているらしく、学校を頻繁に休んでは事件解決に取り組んでいます。
 最近は指揮官資格も手に入れたらしいです。指揮官も何もはやてさん一人で何でも出来そうな気がするんですがどうなんでしょう?と思いましたが、案外そうでもないみたいですね。
 しかし・・・仕事に生きる人生を送っているせいか、地球の流行を把握しきれていない節が多々見られます。少しくらい仕事を減らさないと色気の無い人生を送るのでは・・・
 ・・・と考えていましたが、こっそりリインフォースさんに聞いてみると結構男性との出会いはあるみたいです。もしかしたらはやてさんが仲間内で一番先に彼氏を作るかもしれないですね。
 まあ一番最後は私でしょうけど。というか、私に彼氏なんて出来るんでしょうか。それならフェイトさんが彼女になる事の方が可能性が高い気がしないでもありません。

「まあとりあえず、はやてさんの色恋事情には期待してますね。出来れば昼ドラの様な展開が望ましいです」
「友人の恋路に何とんでもない展開を求めとるんや・・・」

 いえ、リアル昼ドラ展開とか端から見たら面白そうですし。面倒なので巻き込まれたくはありませんが。

 ・・・といった感じで、中学生になっただけでどんどん周囲に動きが出てきました。
 なのはさんとすずかさんは大きく変わった事はありません。・・・しいて言うなら、AV機器談義がどんどんディープになってきたくらいでしょうか。
 私も特に変化が無くダラダラと暮らしていますし、私に関してはきっとこのまま卒業まで変わらずに過ごしていくんでしょうね。

 ・・・そう思っていたのですが。

「何故私はミッドにいるんでしょうか」
「みんなで観光だよ?」
「・・・そうでしたね」

 なんでみんな一緒にミッドに観光に来ているんでしょうか・・・来る事は無いと思っていたのですが。



[19565] 第42話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/08/11 15:44
 ミッド観光の発端となったのは、はやてさんの発言でした。

「リンディさんが管理局の見学に来て見ないかって言っとったで~」

 恐らくなのはさんやフェイトさんが管理局に入ってくれれば助かるという思惑があったんでしょうが、本人達もはやてさんやプレシアさんの職場は気になっていたらしいので行く事になりました。
 そこで、いっその事みんなで観光旅行に行こうという話になりまして・・・何故か私も参加する事態になってしまったという事ですね。

「でも管理局の見学は後回しなんですね」
「せっかくはやての休暇に合わせたのに、わざわざ職場に行くなんて可哀想じゃない」
「私は別に構わへんけど」
「ワーカーホリックですもんね」
「その若さでそれは問題じゃないかしら・・・」

それはともかく観光ですね。
 私達が現在来ている所はミッドチルダの中央都市である、クラナガンという街です。
 ここはミッドチルダで一番大きい都市らしく、ここに来たら大抵の事は出来るみたいです。時空管理局の地上本部もあるらしいので、きっと治安もいいんでしょうね。お膝元ですし。

「ふと気になったんですが、ミッドチルダって一国が世界を統一してるんですか?」
「一応ベルカ自治区が存在しとるけど、基本的にはそうやな」

 凄いですねミッドチルダ。世界統一なんて偉業を達成していたとは。まあそれくらいでもないと次元世界の平和を守ろうなんて思いませんか。
 ともかくそれ程のものなら魔法関連の事件に巻き込まれるなんて事は無いでしょうね。

『---』
「そう、思ってたんですけどね・・・」
「どうしたの?」
「いえ、違法魔導師がこっちに逃走してきているとそこの木に教えて貰ってしまいました」
「・・・私達、魔法に関わると途端に事件体質になる気がするよ」
「どちらかというと杏お姉ちゃんが、かな?」
「私のせいですか」

 でも思い返してみると何らかの事件が起きる度にそれに関わっている自分が居るんですよね。あ、誘拐事件もありましたから、魔法じゃなくて非日常関連に関わったらでしょうか。
 ・・・やっぱりミッドチルダ観光なんて来ない方が良かったのでは?のんびりする事も出来なさそうですし。
 ここ最近大きな事件に遭遇していなかったせいで油断していたのかもしれませんね。

「とりあえず巻き込まれたら面倒なので・・・皆さ-ん、その悪人を捕まえて下さーい」
『---』
「杏ちゃんはそれで済むんだもんね・・・」
「平和の為に汗水垂らして働いている管理局員に喧嘩売ってる様なものよね」
「知りませんね」

 事件に巻き込まれる前に解決出来たんですからそれでいいじゃないですか。深く考えたらダメですよ。

『---』
「おぉう、違法魔導師を追っていた管理局員さんが負傷したみたいです。結構大怪我みたいですよ」
「なんやて!?い、急いで治療せな!」
「私も手伝います!」
「・・・私達はどうしましょうか」

 とりあえず、管理局員さんの治療の為に向かったはやてさんとリニスさんをその場で待つ事になりました。
 はやてさんが居ればどうにでもなるでしょうね。最強魔導師ですし。

 暫くして二人が戻ってきたので本格的に観光開始です。ちなみに負傷した・・・ティーダさん?ははやてさんの魔法であっさり治療完了したらしいです。
 その後本来ならはやてさんも一応着いて行った方が良かったらしいのですが、せっかくの休日なので後から行く事になったらしいです。

 さて、まずは空腹を満たす為にどこかで食事をしようという話になりました。私もそれなりにおなかが空いています。
 はやてさんがオススメの店を紹介してくれるとの事だったので期待していたんですが・・・

「何故日本食料理店なんでしょうか」
「でも美味しいで?」

 いや美味しいのはいいんですが、どうせ異世界に来たんですから異世界らしい料理が食べたかったんですよね。
 ほら、聞いた事の無い魚を使った料理とか、よく分からない調理法で焼いたお肉とか・・・ちなみに私は両親のお土産のおかげでゲテモノもある程度は食べられます。

「でも料理に関しては地球の西洋と似たり寄ったりで、あまり違いは無いわよ?」

 それはガッカリですね。異世界のくせに。

「珍しい料理を食べたいなら他の管理世界に行った方がいいと思うで」
「それは面倒ですね・・・」
「私はちょっと気になるかも。他の世界のケーキとか食べてみたいし」

 フェイトさんは研究熱心ですね。でもフェイトさんが他の世界のデザートを作れる様になったら・・・良いですね。応援しましょう。
 そして私に美味しい異世界ケーキを食べさせてください。

 そんなこんなで結構美味しい日本食を皆さんで食べました。さて、観光再開です。



[19565] 第43話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/08/12 17:09
 色々と寄り道しながら次にやってきたのは管理局地上本部前です。
 管理局発祥の地であるミッドチルダ、そしてそこの本部という事で観光名所にもなっているみたいです。
 残念ながら今では管理局の中枢は次元の海に存在する本局に移っているらしいですが、それでもミッドチルダにおいては本局よりも強い影響力を持っているみたいです。

「でも資金難なのよね。勤労奉仕の時に地上の研究所にも来た事があったけど、皆研究より資金繰りの方が上手なのよ」
「知りたくなかった悲しい真実だね・・・」
「人手も足りんみたいやからなぁ」
「典型的な悪循環じゃないの・・・」

 お金が無いので給料が少なくなり、給料が少ないので就職者も少なくなり、人手が足りないので一人一人が激務になり、更に局員だけではカバーしきれない治安を維持する為に設備を整えてお金が足りなくなり・・・
 恐らくそんな感じの無限ループでしょうかと事情に詳しそうなプレシアさんとはやてさんに聞いてみれば、まさしくその通りだと言われてしまいました。
 治安維持組織と言えど大変なんですね・・・せっかくなので地上本部のお土産売店で色々買って平和に貢献しておきましょうか。

「ま、でも資金に関してはこれからきっと何とか出来ると思うよー」
「・・・アリシアちゃん、何を企んでるんですか?」
「企むなんて失礼だよ。ただミッドに例の量産計画の工場を立てる時に協力して貰える様に交渉するつもりなだけだし」
「人手が足りない向こうに格安で提供すれば喜んでやってくれそうですし、デバイスの方ももう少しで何とかなりそうだし、多分大丈夫でしょうね」
「問題は交渉だけど・・・まあその辺は何とでも出来るわ」

 それは色々と大丈夫なんでしょうか・・・癒着だとか談合だとか、そんな問題に発展する様な事だけは避けてくださいね。プレシアさんは前科持ちですし。
 ちなみに固有名詞を出さない様にしているのは理由があります。単純にまだ情報を洩らしたくないというのもあるらしいですが、以前プレシアさんが密告した違法研究者の中で逃げ切った人の一部に、こういった実験に大いに興味を持ちそうな変態さんが何処からか情報を仕入れる可能性があるかららしいです。
 確かジェイル・スカなんとかって人でしたっけ?人造魔導師研究の基礎理論を作り上げた人だとプレシアさんは言ってましたね。
 ・・・この話を聞いた時にうっかり失言して物凄い殺意を向けられてちょっと驚いてしまいましたね。

「ある意味フェイトさんの父親ですね」
「素粒子崩壊されたいのかしら?」

 あの時のプレシアさんなら本気で素粒子崩壊出来そうなオーラがありましたね。今まで生きてきた中で一番のプレッシャーでした・・・
 ともかくそんな理由で曖昧な言い方をしている訳です。まあ、私達の中でも自動人形やユニゾンデバイスを量産しようとしている事を未だに知らない人も居るんですけどね。仕事で忙しいはやてさんなんですけど。

「とりあえず今日の夜にレジアス中将と交渉する予定よ。事前に連絡も入れてあるしね」
「私も行かなきゃならないのよねぇ、ローウェル貿易・・・もといバニングスグループも協力してるから」
「いつの間にバニングスグループを抱き込んだんですか・・・」
「えっと、月村重工も協力する事になってるよ。私は交渉に行かないけど」

 月村重工まで・・・というか月村家は自動人形量産計画に参加していいんでしょうか。まあ決断したからこんな事になってるんだとは思いますが。

「もしかすると、将来的に一番普通になるのはなのはさんかもしれませんね」
「あ、あはは・・・嬉しい筈なのになんか複雑だよ・・・」

 そんななのはさんも最近はカメラに本格的にハマってきたみたいですけどね。魔法で空を飛んで風景を撮っているみたいですし。
 空飛ぶカメラマン型魔法少女・・・これが希さんの様に霊能力者だったらゲームみたいになるんでしょうけどね。

 さて、お土産も買ったことですし、次は何処に行くんですか?

「日も落ちてきたし、もうホテルでいいんじゃないかな?」
「そか。じゃあ私は昼の事件の件で色々あるからこのまま地上本部に直行するわ。リニスさんも来て貰いたいんやけど」
「ええ、大丈夫です」

 という訳で、はやてさんとリニスさんがメンバーから抜いてホテルへ向かう事になりました。
 確か結構いいホテルを取ったんですよね。

「えーと、ホテルアグスタだって。パンフレットを見る限りだと今の時期ならオークションもやってるんじゃないかしら?」
「まあ私達には関係ありませんけどね」

 まあそんな事はどうでもいいので早く行きましょう。さっさとのんびりしたいです。ふかふかのベッドだといいんですが。



[19565] 第44話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/08/17 09:38
 旅行二日目です。今日は管理局の本局の方に見学に行く事になっています。
 そんな簡単に見学なんて行って良いのかと疑問に思いましたが、管理局でそれなりに偉い位置に居るアースラの艦長さん、もといリンディさんが何とかしたそうです。
 プレシアさんも本局で働いた事があるみたいですし、その関係で許可が出たのではないのでしょうか。そう簡単に入れたら犯罪者もやってきそうですしね。

 そうそう、昨日プレシアさん達が地上本部に交渉に行っていましたが、検討してもらえる事になったらしいです。
 質量兵器がどうとかコストがどうとか色々と突っ込まれたそうですが、最終的には結構乗り気だったらしいので希望はあるらしいです。
 上手くいけば管理外世界の企業が次元世界で一番有名な会社になるかもしれませんね。自動人形の販売なんてフィクションでも大抵物凄い企業になりますし。
 というか、もしかしたら管理外世界じゃ無くなるかもしれませんね。魔法が無いとはいえそれ以外では他の世界と比べても妙な事になっていますし。

「ところで本局には何処から行くんでしょうか?」
「最初に皆で来たトランスポートや。個人やったら次元転送で行けなくも無いんやけど、今回は団体やからな」
「杏ちゃんに魔改造されたはやてちゃんなら魔法で皆送れそうな気が・・・」
「・・・いや、出来ん訳じゃ無いけど、そんな事をしたら本局の職員さんにドン引きされそうや・・・」

 それはそうでしょうね。ユニとユニゾン出来る様になってから魔法の練習を始めたのでわかりますが、はやてさんは今の状態でもドン引きされかねない戦力を保有してますし。
 未だにバリアジャケットとチェーンバインドしか使えない私とは魔力量でも才能でも大違いです。
 なのはさんとフェイトさんも結構とんでもないですけど、やはりはやてさん・・・いえ、HAYATEさん程ではありません。
 まあなのはさんとフェイトさんは魔法を使う仕事をする気はあまり無いみたいですし、最近は魔法の練習もたまにする程度になっているので現役の管理局員に敵わないのは当たり前なんですけどね。
 現役に通用する魔法といったら、飛行魔法くらいでしょうか。なのはさんは空を飛ぶのが好きみたいですしね。

「本局に行ったら守護騎士の皆も居るのよね?」
「そやで。みんな仕事を頑張っとる筈や」
「仕事?じゃあ忙しいのかな?」
「休憩時間か何かあるでしょうし、顔を見せるくらいは出来ると思うわよ」

 守護騎士の皆さんとは結構久々に会うんですよね・・・はやてさんのデバイスでもあるリインフォースさんとはそれなりに会ってますけど、他の方はそんなに会ってないんですよね。
 仕事が忙しいみたいですし、疲れが取れやすい様に改造してあげましょうか?

 そんな訳で本局に到着しました。トランスポートから出ると、なんとリンディさんがお出迎えしてくれました。
 それぞれお久しぶりやら初めましてやらと挨拶を交わし、リンディさん自ら本局の案内をしてくれるという事なのでそれに着いていく事になりました。

「仕事は大丈夫なんですか?」
「問題無いわ。それに新しく局員になってくれるかもしれない子達の案内も、ある意味仕事よ?」
「勧誘するとは思っていたけれど、随分と直球ね・・・」
「誤魔化しても仕方が無いもの。それに勧誘しておいて何だけれど、まず入る気が無いってわかってるしね」
「にゃはは・・・その通りです」
「母さんが働いてるから少し興味はあるけど、他にやりたい事があるし・・・」
「私は管理局よりもっと自由な所で好き勝手研究したいからねー」

 アリシアちゃんは自重してください。

「自重しないあんたが他人に自重を促すのはどうなのかしらね」
「それはそれ、これはこれです」
「ふふっ、杏さんは相変わらずなのね」

 相変わらずとか言われてしまいました。まあそんな事はどうでもいいので、さっさと見て回りましょう。
 そういえば久々にアースラさんとお話したいですけど、出来るんでしょうかね?



[19565] 第45話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/08/22 19:15
 リンディさんの先導で本局内を見て回りながら、最近のはやてさんの活躍について聞いてみました。
 本来ならはやてさん本人に聞いた方が早いんですが、あまり話さないんですよね。何故でしょう?特別捜査官という結構凄い役職だという事は聞いているんですが。

「はやてさんは大活躍してるわよ?魔導師ランクもSSSオーバーだから引く手数多で、ヴォルケンリッターの皆と一緒に伝説を量産してるわ」
「成程。もしかしてこれを知られたくなかったから、あまり仕事の話をしなかったんですか?」
「せや。自分でやっといて何やけど、結構ドン引きされる様な事もあるからなぁ・・・」

 いったいどんな事をしているのかと聞いてみると、一例として『質量兵器を使うテロリスト五百人を魔法一発で無力化した』という話を教えてくれました。
 私とテスタロッサ家以外の皆さんはドン引きしていました。私はともかく、テスタロッサ家が引いて無かったのは何故なんでしょうか?
 私は作った本人なのでそれくらいは出来そうだと判ってましたけど、少なくともリニスさん辺りは引くのではないかと思ったんですが・・・

「貴女と付き合っているとこの程度では驚けません」

 どうやら私は人型決戦魔導兵器HAYATEさんよりもドン引きされる存在らしいです。

 ヴォルケンリッターの皆さんの話も聞いてみたら、殆どの人が出世しまくっているみたいです。
 ヴィータさんは意外と面倒見が良かったらしく、何と武装隊員を教育する教導官になっているみたいです。
 私の改造のおかげで闇の書に蒐集されている魔法も使える様になっているので、それを利用して効果的な教導を考えて実践しているみたいです。
 闇の書には治療魔法もいいものがあった筈ですし、確かに厳しい訓練をする部隊でなら最大限活用出来そうですね。
 ・・・あ、闇の書じゃなくて夜天の書でしたっけ。闇の書って言うとリインフォースさんが凹むので気をつけないと。

「あ、そういえば杏ちゃん。ヴィータが『杏ならあたしの体を大きく・・・』って言っとったけど、出来るん?」
「出来ますが同じ低身長組として断固拒否します」
「杏、まだ135cmだもんね」
「明確な数字を出さないで下さい。欝になります」

 ユニゾンしたら高身長になれます!・・・ミッドチルダや本局で無意味にユニゾンしていると色々と面倒な事になる可能性があるのでしていませんが。
 あ、一応ユニは連れてきていますよ?全然喋ってませんけど。基本的には無口みたいですし。

 ポニーテール剣士のシグナムさんはヴィータさんとは違い教えるのには向いていなかったらしく、前線で活躍する部隊に居るそうです。
 今は地上にある首都航空隊の隊長をしているらしく、日々訓練や犯罪者との戦いに明け暮れているそうです。
 ずっと戦い続ける様な仕事だなんて、何だか心が荒みそうな気がしますが・・・案外そうでもないんでしょうか?
 ふと気になったのではやてさんにその辺はどうなのかと聞いてみると、

 「バトルマニアだから大丈夫や」

 そう言われました。それでいいんでしょうか。

 金髪若奥様風のシャマルさんは他の皆程出世はしていないらしいですが、若くて美人で優しくて優秀な医務官という事で本局で大人気らしいです。
 更に支援魔法のスペシャリストでもあるので、それを活かして週に一回の支援魔法関係の講座も開いてるらしいです。
 リンディさん曰く、シャマルさんのおかげで他の医務官や後衛型魔導師のレベルが高まってきているのでとても助かるとの事。べた褒めですね。
 最近は地上でも講座を開いて欲しいとオファーが来ているらしいので、もしかすると地上本部にもシャマルさんファンが増えるかもしれませんね。

「ただ料理だけは上達せんのがなんとも・・・」
「今度改造してみましょうか?」
「いや、改造はちょっと気が引けるわ」

 そして青い狼のザフィーラさん。本来なら盾の守護獣という事ではやてさんの守護をする筈だったのですが、はやてさんが強すぎるのと、デバイスのリインフォースさんが居るという事で守護ではなく普通に働いているみたいです。
 そんなザフィーラさんの役職は執務官。詳しくは知りませんが結構凄い役職らしく、簡単に言うと何でも一人で出来る捜査官みたいなものらしいです。
 そんな役職なので仕事がとても忙しいらしく、あちこちの世界に飛び回っているそうです。大変そうですね。
 まあそんな忙しい合間にもアルフさんと出かけたりしているみたいですし、結構充実した生活をしているみたいですけどね。

「え?アルフさんとザフィーラって付き合ってたん!?」
「えっ?今更じゃないですか?」
「今更だよね」
「今更ね」
「今更ですね」

 はやてさんはたまに仕事を休んで家族と色々話した方がいいのでは・・・と思いましたが、色恋の話なんてザフィーラさんとしそうに無いですし、仕方ないのかも知れませんね。
 ちなみにこの話題の時、アルフさんは顔を赤くして笑っていました。きっとこんな人の事をリア充と言うんでしょうね。
 まあ私もある意味充実してはいるんですけどね。

 そして最後にリインフォースさん。彼女ははやてさんのデバイスなので基本的にははやてさんと共に行動しているみたいです。
 とはいえリインフォースさん自身も特別捜査官なので、結構別々に行動する事もあるみたいですね。まあ、はやてさん一人でも何とかなってしまいますから、問題は無いと思いますけど。
 そんな彼女は最近はベルカの聖王教会の方に出向して仕事をしているみたいです。
 詳しくは知りませんが一応古代ベルカを知っている存在らしいですし、歴史や古代ベルカ式の魔法を教えているそうです。

「杏ちゃん達には感謝しとるみたいやけど、同時に苦手意識も持ってるみたいやな」
「何故でしょうか?」
「いや、杏お姉ちゃんがあれだけ改造したからでしょ」
「アリシアも相当弄り回してたよね」

 みんな悪いという事ですね。何せ夜天の書を基にしてユニゾンデバイスの量産をしようとしているくらいですし。


 色々と話をしながら本局内を見て周り、訓練室ではなのはさんとフェイトさんがはやてさんと戦っていました。
 勿論はやてさんに勝てる訳も無く二人は敗北。というか、最近魔法の訓練は腕が鈍らない程度にしかやってないみたいですし、現役と勝負してそう簡単に勝てる訳が無いんですけどね。
 ちなみにその模擬戦の様子を見てリンディさんが「やっぱり欲しいわねぇ」と呟いていたのが聞こえました。
 二人がある程度の実力があるのは確かですけど、そんな欲しがる程なんでしょうか?私の周りは凄い人しか居ないのでどの程度が普通なのか判らないんですが・・・

 そして食堂でみんな一緒に食事した後、やってきたのは厳重にロックされている扉の前。

「ちょっと待ちなさいリンディ。ここに杏を連れてきたら間違いなく大変な事になるわよ」
「覚悟の上よ。三提督にも許可を頂いているわ。この際、少しでも未鑑定品の情報が欲しいのよ」

 何か物凄い話をプレシアさんとリンディさんがしているんですが・・・というか私が何をするというのですか。

「あの、リンディさん。ここって一体・・・」
「ここはロストロギアの保管庫よ」
「ほほう」キュピーン
「杏ちゃんの目が狩人みたいになってる!?」

 それはそうですよ。だってロストロギアですよ?実に楽しみじゃないですか。
 しかしロストロギア保管庫に私を連れてきたのと、さっきの会話から察するに・・・

「とりあえず効果が判らないロストロギアの事を調べて教えればいいんですか?」
「ええ、お願いするわ。出来ればあまり変な事はして欲しくないけれど、ある程度は覚悟の上よ」
「ある程度とは、どの程度でしょうか?」
「・・・ジュエルシードも保管されているはずだから、それを使ってもいいというのはどうかしら?」

 私の身長が伸びる時がやってきました!!
 いいでしょう、どんどん調べて差し上げますよ。ふふふ・・・

「なのはちゃん、ジュエルシードって確か願いを叶える宝石なんだよね?」
「うん、そうだよ」
「間違いなく身長を伸ばすつもりね・・・」
「杏は小さい方が可愛いと思うけど・・・」
「私も身長が低い方やから杏ちゃんの気持ちがよう判るわ・・・」

 ふふふ、さあ早く入りましょう!そして久々にジュエルシードさん達との再会を!そして私の願いを!



[19565] 第46話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/08/24 20:19
 厳重にロックがかけられている扉を開き、中に踏み入ると多種多様な神秘の力を持つロストロギア達が---

「---溢れ返ってますね」
「おかげで管理に警戒に調査にと費用がとんでもない事になってるのよ。ここにあるのは比較的危険じゃないと思われるものだけど、出来るだけ減らしたいのよ。まだ増えるだろうし」
「成程、経済的に厳しい管理局の悩みの種を解消したいという意図もあった訳ですか」

 しかし棚に隙間が無いじゃないですか。いくら危険が少ないと思われるロストロギアだからといって、こんな急ごしらえなカラーボックスにまで入れるのはどうなんでしょう?
 一応封印魔法がかけられているみたいですけど・・・

「一応ロストロギアだから、杏さん以外はあまり触らない様にしてくれないかしら?」

 それじゃあ皆さんがつまらないのではないでしょうか、という事で。

「皆さーん、今は私が許可するまで効果を発揮したり暴走したりしないで下さいねー!」
『---』
「ありがとうございまーす!・・・という訳で問題無いです。どんどん弄ってください」
「・・・まあ、持ち出さなければいいわ」

 という訳で観光組によるロストロギア鑑賞会が始まりました。マッド組はなにやらデバイスを取り出して情報を得ようとしているんですが・・・気にしない事にしましょう。
 さて、私はジュエルシードを探しつつ、ついでに面白いロストロギアを探し鑑定してリンディさんに教えましょう。ジュエルシードがメインなのは言うまでもありません。

 まず手近にあった水晶の様なものを手にとってみました。中には森やログハウス等のミニチュアがありますが・・・

「えーっと、貴方の名前と効果を教えていただけますか?」
『---』
「ほうほう・・・それはそれは」

 どうやら魔女の箱庭と呼ばれるロストロギアらしく、特定のキーワードを唱えるとミニチュアの中に入れるらしいです。
 何でもこの水晶は小さい世界を一つ封じ込めた様なものらしく、かつて滅び去った世界で作られたロストロギアらしいです。
 まああまり興味が引かれなかったのでさっさとリンディさんに情報を渡して次を探す事にします。

「コレは確か稀少獣の違法取引の時に見つかったもの・・・犯人は逃したけれど、もしかするとこの中に密輸の対象になった・・・」

 何やら推察モードに入ってしまったリンディさんを放置して、今度は変な人形を調べてみましょう。
 マネキンの様な顔の無い人形ですが、関節や肌の質感がとても人間に似ています。ミニチュア人間を持っている様な感じがして何ともいえない感触ですね。
 人形というと呪いが思い浮かびますが、ご本人(ご本物?)に聞いてみるとそうでも無いみたいです。
 何でも人形に自分の血を付着させ、魔力を篭めると自分と寸分違わない人形が作れるらしいです。勿論人形なので動きませんが、現在の状態を完全にコピーするらしいので色々と使い道はありそうですね。
 でも他人の血を付けて自分の魔力を流しても問題無いらしいので、ストーカーや変態に使われるととんでもない事になりそうです。

「寸分違わぬ・・・そういえばこれが見つかったのは・・・」

 名探偵の様なリンディさんを無視して次を探そうとすると、はやてさんが雪ウサギの様なぬいぐるみを持ってきました。

「何ですかそのぬいぐるみ?」
「いや、前の任務でたまたま見つかって封印した物何やけどな。どんな効果か気になったから見てもらおうかと思って」
「どうですか。少々待っててください」

 雪ウサギのぬいぐるみをはやてさんから受け取ると、その素晴らしすぎるもふもふ感にちょっと嬉しくなりました。これ持って帰りたいですね・・・
 とりあえずそのままもふもふしながらどんな効果か聞いてみました。そして---

「お返しします」
「ちょっ、何でそんないきなり!?」
「いえ、効果が『毒性魔力を撒き散らして辺り一帯を汚染する』というものだったので。私はそんな危険物を愛でる様な心を持っていません」
「危険が少ないロストロギアの保管室に何でこんな危険すぎる物が!?」

 ちなみに名前は『振りまく獣』でした。愛嬌を振りまく とみせかけて毒を振りまくなんて趣味が悪すぎると思います。

 暫く同じ要領で調べて回ったんですが、全然ジュエルシードに辿り着けないのでいい加減疲れてきました。
 それなりの量を調べたのでもういいだろうと思い、周りのロストロギアにジュエルシードのある場所を聞いてみました。

「ジュエルシードは何処にあるか判りますかー?」
『---』
「・・・すいません、もう一度お願いしていいですか?」
『---』
「・・・あの、リンディさん。ジュエルシードが無いんですが、どういう事でしょうか」
「なんですって!?」

 おや、ジュエルシードで私を釣って上手い具合に利用しようとでも考えていたのだと思いましたが、本気で困惑しているので違ったみたいですね。
 というか、この様子だと本当に私に使わせてくれるつもりだったんですか。流石にとんでもない願いは叶えさせてくれないだろうと思ってましたが、それでも私に本気で使用許可を出すとは・・・
 いやそんな事より今はジュエルシードが何処にあるかですね。リンディさんの反応から察するにここにある筈でしょうけど。

「ジュエルシードが何処に行ったのか知ってませんかー?」
『---』『---』『---』

 おぉう・・・重大事件判明じゃないですか。勘弁してください。私が第一発見者とか面倒なんですが・・・いやジュエルシードさん達は仲のいいお友達?ですし、我慢は出来ますけど。

「リンディさん。ジュエルシードは横流しされたみたいです。というかここのロストロギアは結構な数が横流しされてるみたいです」
「そんな!?保管方法がちょっと雑とはいえ、目録も監視もしっかりしているのに!?」
「管理担当が一枚噛んでるんじゃないでしょうか?」

 という訳で重大事件の発覚という事でリンディさんとはやてさんは大至急調査と確認をする為に忙しくなってしまいました。
 私達はこんな時に本局観光をする訳にもいかないのでとりあえず本局の食堂で休憩する事に。私は第一発見者なので巻き込まれるかと思ったんですが、私の能力を説明するとそれはそれで面倒な事になるらしいのでリンディさんが何とか誤魔化してくれるそうです。
 実際ジュエルシードが無いという事だけで十分ですしね。ジュエルシードを探した理由としても、私達が関わった事件に関する物と言えば問題は無いですし。
 ・・・あ、でも面倒な事になってしまいました。何で私は魔法関連に関わると毎回事件に巻き込まれるんでしょうか。

「毎回事件に巻き込まれる名探偵みたいだよね」
「主人公属性を持ってるのはなのはさんだと思うんですけどね」
「そ、そうかな?不思議な力を持ってる杏ちゃんも結構それっぽいよ?」

 そんな事を言うと皆さん他と違う何かを持っていますよね。・・・ああつまり、最近よくあるみんな主人公って話ですか。
 いや、そんな事はどうでもいいです。とりあえず暇ですし・・・

「飲み物でも注文しましょうか」
「そうだね」
「私はオレンジジュースねー」
「私はどうしよっかな」

 私はリンゴジュースでお願いしますね。



[19565] 第47話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/08/24 20:20
「今回の横流し事件の犯人を知っていたら教えてください」
『---』
「えー、ヴォルクス・ワーゲンさんとランボー・ルギーニさんとケイト・ラックさんの三人みたいです」
「・・・情報提供はありがたいけれど、誰に聞いたのかしら?」
「本局さんです」
「・・・そうよね。アースラとも会話してたみたいだものね」

 という訳で横流し事件の犯人についての情報をリンディさんに渡し、私達はミッドに戻る事になりました。
 本当ならもう少し本局で見て回る予定だったんですが、流石にこんな大事件が発覚してしまった状態で観光案内など出来る筈がありませんしね。
 アースラさんとお話出来なかったのは心残りではありますが、今回は仕方がありません。
 でも予定を邪魔された事は確かなので、とりあえず犯人が本局から逃げられない様に、犯人の三人だけ転送装置を使えない様に本局さんにお願いしておきました。
 さっさと捕まって塀の中に行ってくださいね。

「これからどうするの?結構時間余っちゃったし」
「またクラナガンでもぶらつきますか?お土産でも買うついでに」
「私はもう地上本部で買ってしまったのでホテルでのんびりする事にします」

 それぞれ自由行動する事になりました。といっても、ホテルに戻るのは私とフェイトさんとアルフさんだけですが。
 フェイトさんとアルフさんはお土産を買っていなかったので買いに行ってもいいのではと聞いてみましたが、私が心配と言われてしまいました。
 フェイトさんは私の保護者か何かなんでしょうかと考えたら、何かどころかむしろ、それがピッタリと当てはまる事に気付いてしまいました。
 流石にもう少し自立した方がいいのでは・・・とも考えましたがそれに関しては今更なので気にしない事にします。

 という訳でホテルに戻り、フェイトさんが行ってみようと言ったのでホテル内の喫茶店へと向かいました。
 フェイトさんが注文したのはオススメらしいケーキ。研究熱心ですね・・・でもフェイトさんが頑張ればその分私も美味しいものが食べられるので応援します。
 私が注文したのはコーヒーとシュークリームで、アルフさんは紅茶とショートケーキです。翠屋と比べて採点してみましょう。

「ところでフェイトさんは中学卒業したらヨーロッパに修行に行くんですよね?」
「あ、うん。そのつもりだけど」
「そうですか・・・いえ、フェイトさんなら色々な次元世界を巡って文字通り世界中のデザートを見て回ってもいいのではと、今思いまして」
「あ、それもいいかも。・・・でもそれだと中々家に帰る事が出来なくなりそう」
「旅ですし、そんなに頻繁に帰らなくてもいいのでは?」
「杏が心配」
「姉というか保護者というか、むしろ嫁というか・・・何でしょうねこの心配されっぷり」
「フェイトは杏に甘いからねぇ」

 私ってここまでフェイトさんに心配かけるほどだったんでしょうか。確かに端から見ると物凄いダメな人に見えるとは思いますけど。
 でもまるで信用されていない様な感じがして微妙に凹みます。

「う、えと、杏を信用してない訳じゃ無くて、心配なのもあるけど・・・」

 おや、今までにない展開。いつもは心配とだけしか言いませんが、他にも理由があったんでしょうか?

「心配というのは理由の一部だけなんですね。じゃあ、他に何か理由があったんですか?」
「うぅ、その・・・」

 フェイトさんがここまで言い淀むなんて結構珍しいですね。出会った当初はこんな風になる事も結構ありましたけど、最近では全然こうなりませんでしたし。
 しかし何処にこんな風になる様な理由があるというんでしょうか。私には全然思いつきませんが・・・あとアルフさんは何故ニヤニヤしているんでしょう。

「その、杏が・・・」
「はい」
「私が杏と、一緒に居たいから・・・」

 ・・・よーし落ち着きましょう。深呼吸です。冷静になる事が今この場ではとても大事です。
 というかなんですかその不意打ちというか何というか・・・うわー、いや嬉しいですけど、えぇー?

「ほ、ほら!杏のお陰でみんなと暮らせる様になったし、色々お世話になってるし、・・・私の、初めての友達だし、その・・・」
「あー、えっと、はい、えぇ、その、まぁ、んぅ、えぇ?」

 どうすればいいんですか!?言われた事は嬉しいですけど、この状況どうすればいいんですか!?
 アルフさんニヤニヤしてないで助けてください!!

「その、迷惑だった?」
「それは無いです。・・・まぁ、私もフェイトさんにはお世話になってますし、初めてではないですが大事なお友達ですし、今では一番親しい人ですし・・・」

 実際両親よりも精神的な距離が近いですし。いやあの旅行しっぱなしの両親だと仕方が無い気がしないでもないですが。
 というかあの両親はいったいどれだけ旅行に行っているんでしょうか。というか本当に旅行なんでしょうか。地球の裏を多少なりとも知った今では両親が何らかの組織に属していると言われても驚かない自信があります。
 ・・・いや、今はそれは関係ないですね。あー、これ程までに動揺したのは初めてかもしれません。

「まあ、その、何ですか。こ、これからもよろしくお願いします・・・」
「あ、えと、よ、よろしくお願いします・・・」
「くふっ・・・あはははは!!もう我慢出来ない!なんだいその初々しいカップルみたいな会話は」
「カ、カップル!?」
「いや、そういう意味での言葉では無かったんですが・・・いえ、でも端から聞いたらそうとしか聞けませんよね・・・他のメンバーが居なくて心底助かりました」

 今絶対顔が真赤です。他の人達が居なくて本当によかった・・・アリサさん辺りなんかは物凄い勢いでからかってきそうで恐ろしいです。

「・・・と、とりあえずケーキを食べて落ち着きましょう」
「う、うん。そうしよう」
「アタシは席を外そうかい?」
「アルフぅ~」
「ですからそういう意味での言葉では・・・」

 あー、何とか皆さんが帰ってくるまでには落ち着かないといけませんね。コーヒーを飲んで落ち着きましょう・・・



[19565] 第48話 ミッド観光編完結
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/08/26 19:49
 何だかんだあったミッドチルダ旅行でしたが、本日で終了という事でローウェル貿易にある地球行き転送ポートへやってきました。ちなみに地球のバニングス家に転送ポートが設置してあるのですぐ帰宅できます。
 本来ならば見送りにはやてさんが来る筈でしたが、昨日の事件のせいでそんなのんびりしていられなくなったらしいです。

 それにしても皆さん結構お土産買ったんですね・・・私は自分の家で食べるお菓子と、今回参加しなかった希さんへのお土産しか買ってませんよ。
 え?両親?何処にいるか判らない上にいつ帰ってくるのか判らない両親にお土産なんて買っても仕方ないじゃないですか。とはいえ一応お菓子を多めに買ってはいますけどね。

「それにしても、なんやかんやで色々あって疲れました。自宅のふかふかソファーが恋しいです」
「そうだね。でも、楽しかったよね」
「そうですねぇ、それなりには」
「・・・昨日の今日なのに、二人とも態度があまり変わってないねぇ」

 そりゃそうですよ。別に恋人になった訳でも結婚した訳でもありませんし。ただお互いに大事な友人だと確認しあっただけですしね。
 まあ確かに多少気恥ずかしい部分はありますけど。

「あ、杏寝癖が・・・ちょっとコレ持ってて」
「はいはい」
「・・・なんかあんた達、昨日の夜から物凄く距離が近くなってない?」
「そうかな?」
「そうなんですかね?」

 いつも通りだと思いますけど・・・でもアリサさんだけじゃなくなのはさんやすずかさんも頷いてますし、近いんですかね?
 ・・・まあ言われてみれば、外でフェイトさんに寝癖を直してもらうのは初めてかもしれませんね。というか髪を弄らせること事態初めてですね。
 毎回自分で櫛を操作してやってましたし。それに基本的に寝癖がつきにくい髪質ですし、ついても簡単に直りますしね。
 まあ今回はたまたま寝癖が残ってただけでしょう。・・・そんな事を考えていたらアリシアちゃんが小声で事の真相を教えてくれました。ニヤニヤしながら。

「寝癖無かったよ」
「はい?」
「無かったよ。多分フェイトが杏の髪を触りたかったんじゃない?」

 思わず後ろで髪を梳いていたフェイトさんを振り返ると、髪の毛が離れていった事が残念だったのか一瞬悲しそうな顔をしました。そして直後に私の視線に気付いてちょっと恥ずかしそうに笑いました。
 ・・・そんな事をするからアルフさんにカップルだとか百合だとか言われるんですよ。というか今の流れで近くに居たアリシアちゃんが余計にニヤニヤし始めたじゃないですか。
 というか何でアリシアちゃんはそんな全てを知っている様な顔でニヤニヤしてるんですか・・・

「今朝アルフが私とおかーさんとリニスに教えてくれたよ」
「フェイトさん、アルフさんにおしおきお願いします」
「アルフの今日の晩御飯は生ニンニクだけだね」
「うわぁぁぁ!!それだけは勘弁しておくれ!!」

 ちなみにアルフさんは狼を素体にした使い魔であるせいか、強い匂いの食材が苦手みたいです。
 でも問題なのは匂いだけみたいなので、犬が食べたら大変な事になるネギなんかを食べても大丈夫らしいですね。流石魔法、種族の問題なんて関係ありません。

 しかし、まさかアルフさんがそんな軽く話してしまうとは・・・何となく気付いてはいましたけどね。だってプレシアさんもリニスさんも私達を微笑ましそうに、かつニヤニヤしながら見てましたし。
 幸い他の人には話してないみたいなので助かりましたが・・・あ、でも勘の鋭いアリサさんが何かに気付くかもしれませんね。今はすずかさんとなのはさんでなにやら話してるみたいですが・・・
 って、不味い。三人共こっちを見てニヤニヤしている・・・まさか。

「・・・聞こえてたんですか?すずかさん辺りが」
「うん、私って耳いいから」

 小声の会話を聞き取るとは・・・恐るべし夜の一族。
 まあでもフェイトさんが髪に触りたかったらしい事に関してだけしかバレてないでしょうし、まあ放っておきましょう。

「杏ちゃんとフェイトちゃんがラブラブなの」
「早くそのなのなの言葉を直した方がいいですよ。そろそろ年齢的に限界なので」
「な、直そうとしてるよ!ただ時々でちゃうんだもん!」

 なのはさんはこのネタだけで色々と誤魔化したりからかえたりするので楽でいいですね。
 というかラブラブではありませんよ。確かに仲はいいですけど、百合ではありません。・・・少なくとも私は。
 フェイトさんに関しては行動がどういう意味での事なのか判断出来ませんしね。そもそも天然気味なのがそれに拍車をかけてますし。

 暫くして転送ポートの準備が出来たらしいので三人ずつ順番に乗って転送していきます。
 ローウェル貿易にある転送ポートは複数人乗せて転送しても大丈夫な大きい業務用ですが、バニングス家にあるものはあまり大きくない個人用なのでエラーが起きてしまうらしいです。
 アリサさんは周りに魔法関係者が多いから大きい業務用にする予定だと言ってました。転送ポートって高くないんでしょうか。

 そんな事を考えていたらいつの間にか私とフェイトさんが最後に残っていました。偶然なのか作為的なのか・・・どう考えても後者ですよね。いや問題は無いんですけど。

「ねえ杏、また一緒に旅行行きたいね」
「まぁ、面倒なのでそう頻繁にじゃないなら、吝かでもありません」

 次に何処か旅行に行く時はユニも連れて行きましょう。そしてユニゾンして大きくなりつつ、体の制御をユニに丸投げして楽したいです。
 ああ、ここ最近動きすぎな気がしますよ本当に。昔の歩く事すら面倒だと言っていた私は何処へいってしまったのか・・・今でも色々なものにサポートしてもらって動いてるのであまり変わりませんが。

 まあ、未来の事はさておいて、とりあえず地球に帰りましょうか。



[19565] 第49話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/08/30 22:02
 さて、ミッド旅行に行った時から早数年が経ちました。中学を卒業して高校、そして高校も卒業するくらいです。
 今では周りの状況がどんどん変わってしまって大変です。いえ、周りの状況以外にも色々と変わってしまっているんですが。

 まずは私から説明しましょうか。
 とはいったものの、中学を卒業してからは、一応高校に通いつつもいつも通りのだらけた生活を送っていただけなんですよね。
 フェイトさんがパティシエの修行に行っていたので以前の様に頻繁には一緒に居なかったので、必然的に私の行動パターンが昔のものに近くなっていってしまいましたが。
 おかげで週に数回転移魔法で帰ってきていたフェイトさんが私を心配して、一時期毎日帰って来る様になってしまうくらいでした。
 流石にフェイトさんに心配をかける訳にはいかないので自重をし始めたんですが、それでもフェイトさんは毎日帰って来ました。

「仕事に慣れてきたし、時差はあるけど丁度仕事の始まる前くらいなら時間があるから、それならみんなと一緒に居たいんだ」

 との事でした。いえ、フェイトさんのパティシエ修行に差し支えないなら問題はありませんけどね。
 まあそんなこんなで、特に面白おかしい事件は無いままに高校を卒業してしまいました。平和っていいですね。

「下駄箱にラブレター入っててかつて無いくらい混乱してた事は事件じゃないの?」
「アリシアちゃん、そんな事件なんて無かったんですよ。ええ、無かったんです」

 混乱のあまり手紙の送り主の元に能力で手紙を返送したりだとか、その話を聞いたフェイトさんが何故か拗ねたりだとか、そんな面倒かつ疲れただけの事件なんて存在してません。ええ、していませんとも。
 ・・・ただ、何故かあの事件以来皆さんの間で、私の嫁がフェイトさんだと決定付けられてしまいました。
 拗ねるフェイトさんとお話しする為に一緒のベッドで色々話しただけなんですが・・・いえ、確かに状況だけ聞いたらそんな感じがしないでもないですけど、これくらいは今更ですし。

 ともかく私の事はこれくらいで、次はフェイトさんです。

 フェイトさんは中学を卒業すると、桃子さんに紹介された店で修行をする為にフランスへと渡りました。
 家も借りて家具も買ってときちんと住処の準備をしたんですが、最終的には私の家から通う様になったのであまり意味がありませんでしたね。
 まあお金は私がまた宝くじを弄ったので余分にあったので問題はありませんが。

 さて、修行に関してですが、始めのうちは相当大変だったみたいです。
 桃子さんも修行モードになると結構厳しかったみたいですが、向こうの店はそれ以上に厳しかったらしくよく弱音を溢していました。
 が、それでも頑張り続けた結果どんどん技術を学んでいき、丁度私達が高校を卒業する頃には合格を貰える位になったみたいです。
 とはいえいっぱしのパティシエに認められただけであり、これからは自分で試行錯誤しながら腕を磨いていかなければならないので、道はまだ険しいとの事です。
 実際翠屋のケーキの殆どは再現出来たみたいですが、桃子さんの持てる技術全てが篭められた特性のシュークリームだけはどうしても越えられないとフェイトさんが悔しそうに言っていました。
 やはり技術と経験は重要なんですね・・・でもフェイトさんのチーズケーキは個人的には桃子さんの物より好きですよ?

「うん、杏がチーズケーキ好きだから、仕事の合間に色々研究してたんだ」

 なんと私に狙いを定めたチーズケーキだったみたいです。道理で止められない止まらない。思わずチーズケーキに釣られてフェイトさんにプロポーズしてしまうくらいには私好みでした。
 その際にまた色々あったんですが、これも省略させていただきます。

「フェイトあの時OKしてなかった?」
「えぇっ!?えと、その・・・」

 省略させていただきます。

 次は・・・テスタロッサの研究者チームですね。
 一言で言いましょう。地球でもミッドでも有名人になりました。とはいえ姿を見せては居ないので名前だけですが。

 彗星の如く突如現れた物凄い技術力の美人三人に、その技術で作られた国家の科学者チームでも作れないレベルの自動人形の販売。
 時代は自動人形ブームになっており、高価格ながら買い求める人が止みません。介護用に買う老人も居れば、お手伝いさんとして買うお金持ちの方々も。
 そして一人暮らしで貯金が有り余っていた独身貴族の方々がこぞって買っています。まあ女性タイプの男性タイプも美形ですしね。
 ただそのせいで少子化が進むのではないかという問題も湧き上がってきているみたいです。社会問題まで引き起こすとは・・・

 この問題は何気にミッドでも起きていますが、地球ほど深刻でもないらしく気楽なものです。
 そんなミッドでは、自動人形は家庭よりも管理局で活躍しています。地上本部が本格的に協力したせいもあってか、地上本部ではかなりの数の自動人形が働いているみたいです。
 元々人材不足だった地上本部は自動人形の登用によって事務方面では人手不足が解消されたらしく、雇用環境もマシになったおかげで徐々に地上に就職する人が増えてきたみたいです。
 ただ優秀な人材が居ると本局等に引き抜かれてしまうらしく、話し合いの度に愚痴られるとプレシアさんが溜息を洩らしていました。

 さて、そんな自動人形ですが、生半可な技術では解析のきっかけすら掴めないくらいのプロテクトがかけられているみたいです。
 何でも本家自動人形に搭載されていたものらしく、あのマッド三人で物凄い苦労して解除したものと同じらしいので例え天才でも相当苦戦すると言っていました。

「あれは魔法を使いでもしないと一生かかっても解析出来ないんじゃないかしら」
「実は作る時点でも魔法が使われていたりとかだったら・・・」
「可能性は高いわよ。似通ったプログラムコードもあったし、何より気付いたのは最近だけれど魔法と親和性が高い作りになっていたもの」

 地球の過去に別世界の影が・・・

 で、ユニゾンデバイス量産計画も完成してしまったらしく、しかしコストやその他諸々の問題でこちらは地上本部限定で卸しているだけです。
 自動人形と会わせて地上は歓喜。検挙率も物凄い事になったみたいです。ただ量産品の簡易人格型なので、本物のユニゾンデバイスや私が使っているユニよりは性能が落ちるみたいですけどね。
 ちなみに本局にも卸して欲しいと要請が来ているみたいですが、これ以上は生産ペース的にも、ユニゾンデバイスに色々と関わっている聖王教会的にも無理らしいので突っぱねているみたいです。

「ユニゾンしても大きくならないなんて、可哀想ですよね」
「大きくなる為にユニゾンするのは杏お姉ちゃんだけだから別にそうでもないと思うよ?」

 くっ・・・長身スレンダーボディを手に入れた人には判らないんですよ!私の気持ちは!!
 少しだけ身長が伸びたとはいえ、140cmで完全に止まってしまいましたし・・・ああ鬱になってきました。フェイトさんのチーズケーキでも食べて元気を出しましょう・・・

 あ、そういえばテスタロッサ家は本格的に私の家に住み始めました。おかげでマスコミなんかに取り囲まれるかと思いましたが、その辺は色々上手くやってくれたみたいです。
 もしそんな事になっていたら問答無用で追い出していた事でしょうね。

「あ、でもフェイトさんは居ていいですよ」
「杏お姉ちゃん・・・そんな発言を素でするから嫁とか言われるんだよ」

 もう慣れました。

 テスタロッサ家最後の一人であるアルフさんですが、自動人形と量産型ユニゾンデバイスの製作・販売を行っている会社『TBL』の工場で工場長をしています。ちなみに社名の由来は『テスタロッサ・バニングス・ローウェル』という安直なものです。
 意外と人を使う才能があったらしく、更に持ち前の性格等も相まって従業員と仲がいいみたいです。人気も高いみたいですね。
 ちなみにTBLの社長はプレシアさんで、副社長がリニスさんです。アリシアちゃんも研究チームの重役扱いですね。

 さて、アルフさんといえばザフィーラさんとの仲の進展ですが・・・最近お互いに忙しいみたいであまり会っていないみたいですが、それでも仲睦まじくやっているみたいです。
 休日が重なるとほぼ必ず何処かに出かけてますし、結婚も近いのではと推測しています。・・・ただ二人とも人型になれるとはいえ基本は狼なので、結婚という人間的な様式に則るかどうかは判りませんが。

「ただ、アタシは使い魔でザフィーラはプログラムだから子供が作れないのが残念だね」

 二人とも魔力で動いている存在ですからね。プレシアさん達ならよくわからない方法で二人の子供を作れるかもしれませんが、産んだりはできませんよね。
 というか使い魔の作り方を聞いてビックリしましたよ・・・プログラムで作った人工の魂を死んだばかりの動物に埋め込んでどうこうとか、とんでもないですよ。
 そもそもミッドチルダ、というか魔法世界ではオカルトが否定されているのに普通に魂とか言っているのは何故なんでしょうか。まあ他に言い様が無かっただけかもしれませんが。

「でも使い魔も操れるという事実はここ数年での出来事でかなり興味を引きましたね」
「でも全然操ってないですよね」
「いや、流石に家族を操ったりはしませんよ」

 家族以外なら割と操りますけど。

 さて、カメラに嵌っていたなのはさんですが、桃子さんが勝手になのはさんが撮った写真をコンクールに出したら大賞をとってしまいました。
 飛行魔法で飛びながらの撮影だったので撮影方法がどうなっているのかという疑問が湧き上がり、なのはさんは返答に困って右往左往し・・・最終的に『あのテスタロッサ家と仲がいい』と言うだけで納得されたみたいです。
 多分何か凄いものを使ったんだろうと判断されたんでしょう。実際魔法を使っているので間違いではありませんが。
 そんななのはさんですが、個人的に写真を撮っていた時にそんな大賞を貰って人に見てもらう楽しさや喜びを知ったらしく、度々コンクールに出展する様になりました。

「将来は風景カメラマンになったらどうですか?」
「うーん、それもいいかも」

 そしてその結果、バリアジャケットと転移魔法を最大限活用して秘境の写真を撮る様になってしまいました。どうやら秘境の絶景に魅せられたみたいですね。
 実際凄い光景の写真もありましたし・・・両親がずっと旅行に行っているのも、こういう所に行っているからなのかもしれません。
 そんななのはさんですが、高校を卒業したら他の次元世界も色々見てみたいと思っているみたいです。

「フェイトさんも他の世界のケーキとかを見てみたいって言ってましたよね」
「じゃあ私とフェイトちゃんと杏ちゃんの三人で次元世界巡りの旅に行こうよ!」
「何故私も・・・いえ、行動に関してはユニに丸投げしたら私的には問題は無いんですが」

 ちなみに、なのはさんもフェイトさんも魔法の腕前に関してはあまり上がっていません。
 上達しているとしたら転移魔法と飛行魔法くらいでしょうか?あ、あと時々運動と称して模擬戦をしているので結界魔法も上達してそうです。
 一方戦闘魔法はあまり改良して無いみたいですね。まあ、戦いを本業にしている訳でも無いのでそんなものでしょうけど。

 次ははやてさんとヴォルケンリッターの方々。こちらは相変わらず仕事熱心に働いているみたいですね。お疲れ様です。はやてさんに至っては佐官になったと言ってましたし。どれくらい偉いかは判りませんが。
 はやてさんは以前の旅行で助けた管理局員の・・・ティーダさんでしたっけ?その人と結構仲良くしているらしく、このまま付き合うのではないかとヴィータさんと久々に会った時に教えてもらいました。勿論直後に皆に情報をばら撒きました。
 ちなみにそのティーダさんですが妹さんと二人暮ししていたらしく、はやてさんは時々ティーダさんの家に行って料理を振舞ったりしているそうです。まずは胃袋を捕まえるんですねわかります。
 ちなみにそのティーダさん、地上本部では数の少ない執務官になったらしいです。凄いですね。

「そういえば、そのティーダって彼が局内で厄介者扱いされてた女の子を預かったらしいわよ?確か竜召喚のレアスキルを持ってた子だったかしら」
「はやてさんの妹が増えましたか・・・いえ、もしかしたら娘扱いになるんでしょうか?」

 ヴィータさんは教導隊で大活躍しているらしく、第・・・三?四?の教導隊の隊長になったみたいです。出世しまくってますね。
 何でも戦闘と補助と後衛支援を教導できる教官は数が少ないからだそうで・・・蒐集した魔法を使える様に私が改造したおかげですね。感謝してください。

「その代わり休みが無いって前にぼやいてたよね。不機嫌そうに」
「休日に関しては人事部に言って欲しいです」

 シグナムさんは地上の首都防衛隊の隊長になり、更には地上の全航空部隊の纏め役にもなったらしいです。この人も出世しまくりです。
 でも上官らしい事はあまりせずに、基本的に前線で活動しているみたいです。それでいいんでしょうか。確かに性格的に後方で大人しくしている人だとは思えませんが・・・
 そんな感じですが、部下からは慕われているみたいです。

「シグナムも休みが無いって言ってたよね。嬉しそうに」
「何故嬉しいんでしょうか・・・私には理解できません・・・」

 シャマルさんは医療統括官・・・でしたっけ?何かよく覚えていませんが、医務官のトップになってしまったみたいです。ある意味一番出世したのではないでしょうか。
 そんな役職で日々患者達を癒しつつ、医療関係の講義を開き、医務管轄の事務作業に追われ・・・と忙殺されそうな仕事量になっているみたいです。

「泣きながら休みが欲しいって言ってましたね」
「頑張ってしまった本人がいけないんです」

 ザフィーラさんは相変わらず世界を駆け巡っているみたいです。犬のおまわりさんですね。狼ですけど。
 そういえば人体実験されていたクローンの少年を保護したと言ってましたが・・・確かフェイトさんと同じ方法で作られたクローンらしいですね。プレシアさんが悔しそうにしていました。
 で、人体実験なんて事をされていたので人間不信だったらしいですが、ザフィーラさんもプログラム体という作られた存在であるせいか、それなりに打ち解けて仲良く出来ているみたいです。
 最近は他の人にも心を開いていると、珍しく笑顔を見せながら語っていたのを思い出します。

「でも例によって、休みが無いって言ってたわね」
「みんな仕事にまみれてますね・・・」

 リインフォースさんは、聖王教会での騎士の訓練や古代ベルカ文字や歴史書の解読、ロストロギアの調査などを行っているみたいです。
 他の面々と違って出世などはしていませんが、管理局と聖王教会を結ぶ重要な存在として認識されているみたいです。
 本人ははやてさんのデバイスなんですけどね。

「でもリインはちゃんと休みがあるみたいだったね。はやてと居る時間が減ったのがちょっと不満そうだったけど」
「人型ですけど、やはりデバイスですからね。主と離れるのはあまり嬉しくないんでしょう」

 あ、そうそう、八神一家は中学卒業と同時にミッドチルダへ引越ししてしまいました。通勤がしんどいとか何とか。
 おかげで唯でさえ会う機会が減っていたのに更にその機会が・・・もしかして本当に仕事に生きるつもりなんでしょうか。

 アリサさんとすずかさんは大学に進学しました。アリサさんが経済学部、すずかさんは工学部です。
 吸血鬼だとか魔法世界でも有名な企業の跡取りだとか色々凄い身の上ではありませが、割と普通の青春を過ごしているみたいです。
 が、アリサさんは既に経営の一部に関わっていて、かつその関わっている部分がローウェル貿易。ローウェル貿易という事はTBLには関わっているという事。
 おかげで未だ未成年の若さえあありながら、バニングス家党首の父親と同じくらい重要な立ち位置になっているので結構大変みたいです。
 すずかさんも月村重工側と夜の一族側から自動人形製作に関わっているのでやはり重要な立ち位置ですし・・・まあこちらは忍さんがメインで行動しているのでアリサさん程では無いみたいですけどね。

 そういえば、忍さんとなのはさんのお兄さんである恭也さんが結婚しました。そしてなんやかんやあってドイツに行ってしまいました。
 なので海鳴の月村家にはすずかさんとファリンさんとイレインさんしか居ないらしく、少し寂しくなったと言ってましたね。
 その寂しさを紛らわす為なのか猫がまた増えたらしいですが、イレインさんが上手い具合に世話をしている様です。元戦闘用自動人形なのに世話が得意とは意外ですよね。

「しかし、私達の身の回りは忙しい人ばかりですね」
「杏が何もしてないからそう感じるだけだと思うけど・・・」
「唯一の無職だもんね」

 働かなくても問題無いからいいんです。

 希さんも大学に進学したましたが、それと同時に退魔師としての修行も継続しているみたいです。
 なんでも希さんは除霊よりも浄霊の方が才能があったらしく、この辺りで一番浄霊に関して詳しい人に弟子入りしたと聞きました。
 確か八束神社の巫女さんだと言っていましたか。巫女さんが浄霊とはいかにもそれらしいですね。

 そういえばその巫女さん繋がりで他の退魔師だとか霊剣だとか超能力者だとかに遭遇したと言ってた気がしますが・・・面倒なのでその辺りにはあまり関わらない様にしています。
 これ以上ファンタジーな事件に巻き込まれるのはちょっと・・・というかやっぱり超能力者も居たんですね。今度は未来人でも出てくるんでしょうか。

「地球から見たらミッドの技術力はある意味未来だよね」
「宇宙人でもあり、未来人でもあり、異世界人でもある・・・魔法は超能力ですねわかります」

 後は神様だけですね。何とはいいませんが。

 最後に、私の両親は度々帰ってきますが、やはりすぐに旅行に出かけていきます。
 というか旅行しつつ仕事をしていると聞きました。何の仕事をしているのかは不明ですが・・・というか働いていたんですね。全然知りませんでした。
 そういえば両親が二人で旅行に行き始める前から、度々どちらかが一定期間家を空けてたりしてましたね。やはりアレも仕事だったんでしょうか。
 世界を飛び回り続ける仕事・・・どんな仕事か想像がつきません。もしかしてファンタジーな仕事だったりしませんよね?

「世界は世界でも次元世界とか言われそうな気もするんですよね」
「杏の両親ならありえるね・・・」

 ・・・とまぁ、大体思い返すとこんな感じでしょうか?何だか物凄い事になってしまった気がしないでもないですね。主に自動人形と量産型ユニゾンデバイスのせいで。
 まあ私の生活に問題が起きなければどうでも良いんですけどね。

 そんな私ですが、現在ユニとユニゾンしつつ旅の用意をしています。余談ですが、現時点で連続ユニゾン時間数三日目に突入していたり。
 それはさておき、なんと以前話していたなのはさん・フェイトさん・私のぶらり三人次元世界の旅が実現してしまったのです。
 なのはさんは様々な世界の写真を撮る為に。フェイトさんは各世界のスイーツを研究する為に。私はとりあえず美味しいものや面白い物を探す為に。
 ちなみに写真と、スイーツの店の紹介や各世界の食材を使ったレシピ、その他面白い物を纏めた私達の旅の記録を編集してローウェル貿易から発売される事が決定していたりしています。
 意外と有名所以外の世界の観光ガイドが少ないらしいので、きっと売れるだろうとアリサさんが企画したみたいです。
 まあ私の場合は行動するのも纏めるのも殆どユニ任せなんですけどね。今だってユニに体を明け渡してお任せしていますし。
 本来ユニゾンデバイスが表に出るのは融合事故らしいですが、私の能力を使えば何の危険性も無く利用出来ます。楽ですね。
 ちなみにユニが表に出ている時はバリアジャケットの色が黒くなります。私の場合は白ですね。他の部分では違いがあまりありません。
 しいて言うなら、目つきが若干違うとの事です。

「準備完了です」
『お疲れ様です。じゃあ入れ替わりましょうか』

 フッと一瞬だけ体が光り、そしてバリアジャケットの色が白く、そして私の体の感覚が戻ってきました。
 この感覚がちょっと好きだったりします。無重力っぽいというか何というか、ふわっとするんですよね。ふわっと。

 さて、明日は旅行の出発ですし、今日はもう寝ましょうか。それではおやすみなさい。



[19565] 第50話 怠惰風STS開始
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/08/30 22:07
 どうも、世界を渡る旅人と化している杏です。
 私達はなのはさんの、

「せっかくだから出来るだけ地球から遠い世界に行ってみようよ」

 という発言により、どんどん地球から離れて現在、第144管理世界『フラミア』に来ております。遠いです。
 地球からどれほど離れているのかは判りませんが、とりあえず管理局で使われているシステムを使わないと地球からの念話も届かない程らしいです。
 勿論私達のデバイスにはそんなシステムを搭載していないので、結果的に向こうからすると音信不通な状況です。

 とはいえ管理世界なので危険な事は殆どありません。管理外世界だと何か問題もあるかもしれませんが、それ以前に管理外世界は行ったらダメですしね。
 なので危険な場所に行くとすると、なのはさんの目的である秘境に行った時か、同じ理由で立ち寄る無人世界くらいです。
 まあ私は秘境には行きませんし、無人世界でも能力を使って安全確保しているのでまず怪我もしないんですけどね。

 私達が今いるここフラミアは、一度文明が滅んでから再興した世界らしいです。
 そのせいか魔法はミッド式やベルカ式に似たプログラム的な魔法なのですが、生活は剣と魔法のファンタジー世界に似た感じです。
 魔法を使う時にデバイスを使う人も滅多に居ないみたいですし・・・一応輸入しているみたいですけどね。

「それにしてもこの果物、暗い極彩色というヤバイ見た目に反して甘くて美味しいですね」
「うぅ・・・こっちのイチゴっぽいの、果物だと思ったら魚介類だって・・・」
「私はお米みたいなの見つけたよ。・・・一粒が5cmくらいだけど」

 始めは結構面倒でしたが、異世界の食料事情が面白すぎるので楽しくなってきています。死んでも切っても動くエビとかどういう事なんでしょうか。
 とりあえずそんな不可思議食材がたっぷりなのでフェイトさんのお料理コーナーも充実していて、かつ面白い調理方法も色々見ているので腕前も上達していってます。
 最早今のフェイトさんはパティシエではなく、料理全般の修行をしている状態です。おかげで美味しいものが食べられるのでなのはさん共々幸せな食生活を送っています。
 しかし、肉のムースとか本当に魔法を使わないで作っているんでしょうか・・・到底信じられないんですが。

「それじゃ私はちょっと写真撮ってくるね」
「わかった。晩御飯は今回は食材レポートも兼ねて私が作るね」
「なのはさん出来るだけ早く帰ってきてくださいね。最近はお店で食べる事が多かったので楽しみなんです」
「うん、私も楽しみだからささっと行ってくるね」

 そういってなのはさんは空を飛んで行きました。
 ・・・ああいってましたが、大抵初めての世界で写真を撮りに行ったら結構時間がかかるんですよね。秘境や絶景以外に街の風景とかの写真も撮ってるみたいですし。
 でもまあ、なのはさんが楽しそうにしていますし、何より旅の目的でもあるので仕方がありませんか。

「さてフェイトさん、なのはさんが戻ってくるのは遅いでしょうし、ちょっと付き合ってくれませんか?」
「いいよ。何処に行くの?」
「実は願いの叶うという泉があるらしいので、ちょっと行って調べてみようかと。そしてあわよくば願いを叶えてもらおうかと」
「身長?」
「身長はもうどうでもよくなってきました。ユニが居れば大きくなれますし・・・本当にユニ最高です」
『ありがとうございます』

 まあ、どうせそういった伝承があるだけで願いが叶ったりはしないと思いますけどね。ただ周囲の植物から何か面白い話を聞けそうです。
 何せ植物達から他人の願いを色々聞き取れるわけです。面白い願いから昼ドラ的なドロドロした願いまで選り取りみどりの筈・・・ふふふ、暇潰しにはもってこいです。
 それに、もしかしたらロストロギアの効果で本当に願いが叶う泉になってたりするかもしれませんしね。

 あ、ちなみに今は連続ユニゾン時間数一週間を突破しています。たまには解除してメンテしないといけないのでずっとしている訳にもいきませんが、それ以外では四六時中ユニゾンしています。
 ユニゾンを解いて観光したら確実に小学生程度年齢の間違われるので嫌なんですよね・・・

 まあそんな事はどうでもいいので、さっさと向かいましょう。

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 一人の女性が自らの生みの親に命じられていた調査を完了させて研究室へと報告に向かうと、中からは生みの親の笑い声が聞こえてきていた。
 ここ最近はずっとこんな感じだ。数年前からミッドチルダにて販売され始めた自動人形を少し前に一体手に入れて、それを暇つぶしだといいながら解析し始めて以来、彼は今まで進めていた管理局に反旗を翻す計画をも放り捨てて楽しそうに解析に没頭していた。
 今回の調べ物もその自動人形に関わるものだと思われる。販売元の情報や、そこに居る人間の情報の調査。そして理由は判らないが、発見されている各世界を網羅した地図を作って欲しいと言われていた。
 情報の調査はともかくとして、地図の作成には地味に時間がかかってしまった。次元世界は果てしなく広大な為、地図はほぼ確実に一部を切り取ったものを使用しているのだ。
 管理局のサーバーに地図が無いかと探ってみたものの、やはり一定の間隔で区切られた地図しか存在していなかった。おかげで女性はそれらを集めて差異が無い様に繋ぎ合わせる羽目になったのだ。
 彼女が純粋な人間だった場合、もっと時間がかかっていた上に疲労困憊になっていた事だろう。

「ドクター。ローウェル貿易の調査、並びに次元世界地図の作成完了致しました」
「うん?あぁウーノご苦労様。こちらもついさっきプロテクトの解除に成功した所だ!」

 ドクターと呼ばれた男の発言にウーノは驚愕を露にした。
 自分達姉妹を作り出したドクターは紛れも無い天才である。その彼が、ただプロテクトを解除する事だけにここまで時間をかけてしまうものなのかと。

「ほぅ、やはりプレシア・テスタロッサ。それに・・・アリシア・テスタロッサ!!まさか完全なクローンの作成に成功したか、いや、この自動人形のプロテクトから考えると・・・アルハザードへ至った可能性が高いかな?」
「アルハザードというと、死者蘇生や時間の逆行すら可能としたという御伽噺の世界ですか?確かドクターのオリジナルがその世界の出身だと聞いた事がありますが」
「いや、少しだけ違うよウーノ」

 調査結果を読み進めつつ、ドクターと呼ばれている男性はウーノに返答する。

「研究者の間ではアルハザードという言葉には二種類の意味がある。一つは先程君が言った御伽噺の世界。そしてもう一つが、発達しすぎた超高度技術文明によって崩壊した世界の総称だ」
「世界の総称ですか?」
「ああ。古代ベルカも現在ではアルハザード文明の一つであり、私のオリジナルが存在したのもまた別のアルハザード文明の一つだ」

 解説しながらも調査結果を読み進め、次に巨大な次元世界地図になにやら計算式などを書き記しながらも彼は話を止めない。

「現在では再現しようの無いあまりに高度な文明技術。まさしく魔法と言うべきロストロギア。それらに敬意を評して御伽噺の世界であるアルハザードの名前を用いてアルハザード文明と呼ばれているのだが・・・この自動人形に使われているプロテクトは、現在の次元世界の技術力ではそう簡単には作れそうも無い代物。まさにアルハザード文明のものなのだよ」
「自動人形にそんなものが!?しかし、再現不可能なものが何故こうも・・・」
「再現不可能といったが、あくまで一から作るには不可能というだけでね。お手本となるべきものが存在して、かつ時間をかけてそれを解析する事が出来れば不可能ではない。とはいえ、生半可な事では無いが・・・」
「では、プレシア・テスタロッサはアルハザード文明の遺産を手に入れた可能性があると?」
「これだけならそう考えたんだけどね。一応地図の作成を頼んでおいて助かったよ・・・くくくっやはりそうか・・・」

 地図に線や計算式を大量に書き記していき、何らかの計算を終了させた彼は自らの勘が当たった事をほぼ確信した。

「プレシアの娘であるアリシア・テスタロッサは遥か昔に死亡している。しかし今そのアリシア・テスタロッサが生きているという事は、本人が蘇ったか、完全なクローンの製作に成功したという事だ」
「その事がどうかしたのですか?」
「彼女の研究している姿を見た事があったが、アレは狂気に取り憑かれていた。あの状態だと僅かな差異ですら許容出来ずにクローンを作り直していただろうね。完全なクローンの製作など不可能だというのに」
「不可能なのですか?」
「ああ。クローンではどうしてもオリジナルとの差異は出てしまうものだ。何せどれだけコピーしたとしてもそれは他人なのだからね。そして彼女はその差異を許容出来る状態では無かった。・・・しかし彼女は再び娘のアリシア・テスタロッサと暮らしている」

 くっくっく、と抑えきれる歓喜の笑いがドクターの口からこぼれ始める。ウーノはまた始まったと内心考えながらも、ドクターの言った内容について考えていた。
 クローン技術では完全な同一人物を作る事が出来ないとドクターは言っていた。アルハザード文明の人間のクローンであるドクターがそこまで言うのならば、それは事実なのだろう。
 ならばプレシア・テスタロッサはどの様にして娘のアリシア・テスタロッサを再び生活出来る様になったのか。クローンで不可能ならば・・・
 そこまで考えたところで、ウーノは到底信じられない一つの可能性に思い至った。

「まさか、プレシア・テスタロッサが至ったのはアルハザード文明ではなく、その名の通りの御伽噺の・・・」
「そう!死者の蘇生すら可能とする奇跡を可能とする伝説の世界!そして・・・私のオリジナルの記憶によると、全ての世界の大本となった始まりの世界!」
「始まりの世界、ですか?」
「ああ。次元世界の存在する世界は始めはアルハザード一つだったらしいのだよ。そこから新たな世界が生まれ、作られ、そして次元世界が広がっていた・・・そう私の記憶には残っている」

 それが事実だとするならばとんでも無い事だろう。何せ御伽噺の世界と言われていた世界が、全ての世界の始まりだというのだ。次元世界の歴史が根底から覆されかねない。

「私はてっきりアルハザードも既に滅んでいたかと思っていたが・・・文明が滅んでいても、世界は残っていた様だね」
「・・・成程、次元世界の地図はアルハザードの場所を特定する為だったのですね」
「ああ。おかげでかつてアルハザードと呼ばれていた世界は特定出来たよ。いささか予想外の世界ではあったがね。・・・ウーノ、ドゥーエを除くナンバーズ全員に伝えたまえ!これより私達はかの世界へ赴き調査を行う!至急準備を済ませたまえ!」
「了解しました」

 指令を受けたウーノはドクターの研究室を出た。そして室内にただ一人残ったドクターは再び笑い始める。
 研究者としての欲望をこれ以上無い程に擽られる世界。次元の海に存在しているあらゆる世界の配置、その中心であるX軸0.Y軸0.Z軸0の世界。
 そして、恐らく現在使われている魔法とは違う、それこそまるでフィクションの世界の様な存在が存在しているかもしれない世界。
 その世界を想い、ドクターは笑い続ける。

「楽しみだ、実に楽しみだよ・・・第97管理外世界『地球』!!」




[19565] 第51話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/09/03 16:41
 フェイトさんと二人で、願いが叶うといわれている泉へとやってきました。
 高い木が生い茂った森の中に突如現れる開けた場所と泉は、何処となく神聖な感じがしないでもありません。

「魔力は感じないけれど、杏は何かそれらしいものを感じる?」
「泉の中に何かがある様な気が・・・」

 ただ何だかはっきりとは感じられないんですよね。水の中だからなのか、もしかしたら更に水底の土に埋まってたりするからなのか・・・
 でも潜って土を掘るのも嫌ですし、魔法で吹っ飛ばすわけにもいかないので、このまま会話が可能なのか試してみましょうか。

「もしもーし、聞こえますかー!」
『---』
「あ、通じましたね」
「本当?じゃあ何か願いが叶う事について判るかもしれないね」

 そうですね。もし本当に願いが叶うというなら、色々お願いして叶えてもらいましょうか。
 それはさておき、とりあえず挨拶ですね。

「初めまして。他の世界から観光に来た松田杏です」
『---』
「は?」

 いきなり何言ってるんでしょうこの泉の方は?

「何て言われたの?」
「はい、何かよく分かりませんが『ほう、今は松田杏なのか』とか何とか」
「まるで会った事があるみたいな言い方だね」
「というか生まれてからずっと松田杏なんですけど」

 異世界に知り合いなんて居ない・・・訳でも無いですけど、少なくともこの泉には来た事ありません。
 なのに向こうは知っている様な反応・・・まさか次元を越えたストーカー・・・

「冗談はさておき、何か私の事知っている様な反応ですけど、どういう事でしょうか」
『---』
「あぁ、成程。私のご先祖様を知っていてたんですか・・・いやいやいやいや」

 何でそんな人を知っているんですか。というか、私のご先祖様は地球から出た事があったんですか。つくづく謎な家系ですね・・・私も両親も含めて。

『---』
「え、あ、はい。何だかよくわかりませんがわかりました」
「何て言ってるの?」
「はぁ、何でもご先祖様が、自分の子孫が来たら着いて行けと言っていたらしいので・・・とりあえず能力で泉から引き上げようかと」

 たまたま来ただけの世界でこんな事になるとは・・・ご先祖様は未来予知でも使えたんでしょうか。
 まあでもそんな事を気にしても面倒ですし、とりあえず引き上げましょう。ささっといつも通りに動かす要領で引き上げて・・・出てきましたね。

「本ですね」
「でも中のページが無いね」
『---』
「どうやらページは違う世界にあるらしいですね」

 ・・・という事はゲームのイベントの様に探さなくてはいけないんでしょうか?面倒なので拒否したいんですけど。
 というか何故ご先祖様はこんな変な事をしているんでしょうか・・・家宝にでもして代々受け継いでいけば普通に渡せますし、本の中身を別の場所に持っていく意味もわかりませんし。
 まあただのノリとか思いつきの可能性もありそうですけどね。松田家ですし。

「あ、そういえば願いが叶う泉って言われてたのは貴方が原因ですか?」
『---』
「あ、違うんですか。しかも叶わないんですか」
「じゃあこの本って何なんだろうね」

 うーむ、変な事態になってきましたが・・・まあとりあえず、当初の予定通りに周囲の植物から他人の面白い願いを聞いてみましょうか。
 本に関しては宿に帰ってからで問題無いでしょうしね。

----------

『ふむ、タイミングがいいものじゃな』
『まあ考えてみれば、確かにジェイルの興味を引きそうなネタだったから考えられる事態でもあった訳か』
『ともかくこれで、自動人形のプロテクト解除に関しては問題が無くなりましたか』

 薄暗い室内に損愛する三つの生体ポッド。その中には緑色の液体で満たされていて、その中には脳髄が浮かんでいた。
 この三つの脳みそこそ管理局を作り上げたという功績を打ち立てた先人。そして、今なお肉体を捨ててでも君臨し続ける管理局最高評議会の正体である。

 評議会はレジアスからの報告により自動人形の存在を知り、大いに喜んだ。
 量産が可能で事務処理能力が高く、機械故に肉体はそれなりに頑丈で壊れても簡単に替えが用意出来る。始めは質量兵器かとも思ったが、戦闘能力は最低限の自衛程度しか持っていないらしいので兵器ではないだろう。
 そんな素晴らしいものを知った評議会はすぐさまレジアスから伝えられたプレシアからの要望、自動人形に関しての販売等に関しての計画を許可した。
 勿論裏の思惑はあった。自動人形を解析して管理局でも製造可能となれば、そして独自の改造によって魔法技術での戦闘が可能になれば最高の戦力となる。そう考えていた。
 が、どうやら完全コピーは不可能らしいという事が判明し、複製してもどこかが劣化したものになるだろうという事が判った。
 その上プロテクトがあるせいで動作や思考のプログラム等を改造出来ず、ただ複製しただけならば起動すら出来ない、文字通りの人形となってしまっていたのだ。

 そこで評議会は自分達がアルハザード文明の遺産からDNAを採取してクローンとして産んだジェイル・スカリエッティにプロテクトの解析を命じたのだが・・・
 なんと彼も既にそれに取り掛かっていて、もうすぐ解除出来るだろうというのだ。
 ジェイルのテンションが振り切れ気味だったので軽く引いていた三脳ではあったが、これで問題は無くなったと自分達の配下の研究所に自動人形数体の製造を命じた。
 現在では所々劣化した物になってしまうが、プロテクトさえ解除してしまえば何とでもなると考えているのだ。

『人造魔導師とどちらが効率がいいか・・・』
『今の時点ではどちらも一長一短だろう』
『人造魔導師といえば聖王のクローンももうじき動ける様になるらしいですね』
『ふむ、これから忙しくなりそうじゃな』

 彼らは知らない。プロテクトを解除してもプログラムが難解すぎて配下の研究者では劣化部分を修繕出来ないという事実を。
 彼らは知らない。ジェイルがプロテクトの解除に成功してすぐ地球に行ってしまい、自動人形のプログラム修復を命じようとしても連絡が取れなくなってしまう事を。
 彼らは知らない。ジェイルが放置したガジェットがレリックと聖王のクローンが積まれた車両を襲撃し、管理局の表部隊に引き取られてしまう事を。



[19565] 第52話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/09/03 16:42
 宿に帰ってくると丁度いい時間だったので、フェイトさんは夕御飯の準備を始めました。
 食事は宿でも提供しているんですが、この辺りで作られている料理は既に他のお店で試食済みです。なので今日はここの世界の食材を使ってフェイトさんが作るという事になっています。
 旅行記にレシピを書かなきゃいけませんしね。とはいえ、デザートならもう殆どレシピが頭の中で完成していて、後は実際に作ってみるだけみたいですが。

 さて、なのはさんは撮影でフェイトさんは食事の料理中なので私は一人になりました。
 なので今日手に入れた謎の本から色々事情聴取したいと思います。

「という訳ですが、貴方の名前はなんですか?」
『---』
「いやいや、忘れたって・・・」

 これはやはりアレでしょうか。ゲームとかのイベントでよくある様にページを集めると名前を思い出すんでしょうか。
 その場合高確率でページがいくつかに分散しているという事になりますが・・・まさか現実でRPGのおつかいをする事になるんでしょうか。面倒すぎて嫌なんですけど。
 まあ、そもそもページが何処にあるのかもわからないので真面目に探す気はあまり無いんですけどね。ご先祖様には悪いですが。
 ・・・祟られたら嫌なので、一応心当たりがあるかどうか位はこの本に聞いてみますか。

「ページって何処にあるか知ってますか?」
『---』
「うわぁ、やっぱり分散しているんですか・・・まあ一つ目は何処にあるか知る事が出来たので気にしない事にしますか」

 しかし第139無人世界ですか。管理外世界では無いので行く事自体には問題はありませんけど、そんな世界に行ってもなのはさんの撮影以外で何も得するような事は無さそうですね。
 自然が多い場所なら果物くらいは見つかるかもしれませんが・・・まあ、今後の方針については後でゆっくり食事でもしながら会議でもしましょうか。

「ただいまー!フェイトちゃん杏ちゃん、お客さん連れてきたよー!」

 おや、なのはさんが帰ってきたみたいですが・・・お客さん?この世界に知り合いなんて居ないと思いますが・・・

「やぁ、久しぶり」
「・・・おぉう、フェレットさん改めユーノさんじゃないですか。すっかり忘れかけてましたよ」
「あはは、さっきの間で何となく判ったよ」

 うわー懐かしいですね・・・というか。

「綺麗になりましたね。男性なのにかなりの美人じゃないですか」
「あ、やっぱりそうだよね?ユーノ君本当に美人になったよね」
「みんなに言われるよ・・・どれだけ運動しても外見に力強さが出てこなくてね・・・」

 それはそれでいい事だと思いますけどね。確かに男性としては少し不満があるかもしれませんけど。
 個人的にはガチムチのマッチョよりはユーノさんの様な男性の方が好きですね。暑苦しくないですし。
 あ、ちなみにザフィーラさん程度の筋肉質なら嫌いではありません。

「あ・・・ユーノ?うわぁ、凄い久しぶり。美人になったね」
「久しぶりフェイト。やっぱり全員に言われちゃったか・・・」
「実際に美人ですし」
「うん。でもカッコ良くもあるよ?」
「ありがとなのは。でも皆も綺麗になったよね」
「そ、そうかな?」
「フェイトさんとなのはさんは美人に成長しましたからね」
「杏もね」
「今の杏ちゃんの姿はユニゾンデバイスの効果だから。本当は身長が140cmだよ」
「えっ」

 言わなくてもいい事を・・・!!

「あ、そうだ。ユーノも一緒に夕御飯食べていかない?」
「いいのかい?・・・なら、ご馳走になるよ」

 さて、今日はにぎやかになりそうですね。いい事です。・・・で、なんでユーノさんがこの世界に居るんでしょうか?
 食事の時についでに聞いてみましょうか。

----------

「お疲れ様やなカリム」
「ええ、はやてもお疲れ様」

 ミッドチルダのベルカ自治領に存在する聖王教会。そこにある執務室の一つで、金髪の美しい女性騎士カリムと小柄ながら次元世界に名を轟かせる最強の魔導師である八神はやてがお茶を片手に雑談を楽しんでいた。
 会話の内容は新たに作られた地上本部と本局のパイプであり、かつ事件に対して即応出来る事を目指して作られた機動六課に関して。
 メンバーには夜天の主と守護騎士が勢揃いし、更に地上で優秀な功績を上げているティーダ・ランスター執務官、狙撃手兼ヘリパイロットでもあるヴァイス・グランセニックなど一流の人材ばかりの部隊でもある。
 部隊長ははやてに指揮官をしての指導もした事があるゲンヤ・ナカジマで、非魔導師だがかなりのやり手である。
 本来ならばたとえ部隊長が非魔同士だろうと魔導師保有制限で引っかかってしまい不味い事になるのだが、そこは本局と地上本部が上手い具合に反則スレスレの方法を使ってなんとかしてしまった。
 とはいえヴォルケンリッターの5人も結構な重役クラスなのでそれぞれある程度は自分の仕事もしているのだが・・・

「で、カリム。今回呼び出したって事は予言関係なんか?」
「ええ・・・これを見て欲しいの」

 カリムのレアスキルである予言、それの原文を手渡されるはやて。
 本来ならば読める訳が無いので渡されても困ってしまうのだが、今回に限ってはその予言が書かれた紙を見てカリムが何を見せたいのか簡単に理解できた。

「なんやこれ・・・複数の文字が重なってる?」
「恐らく、以前まであった予言が他のものに変わろうとしているのだと思うの。こんな事は始めてだけれど・・・」

 以前の予言は『古き結晶~』という言葉から始まる、簡単に言えば管理局崩壊に関する予言だった。
 実は機動六課はこの予言に対抗するべく作られた部隊だったのだが。

「予言の変化・・・良うなるのか悪うなるのか、それとも全然違う予言になるのか、不安やなぁ」
「とりあえず断片だけでも解読出来ないかってさっきリインフォースにお願いしたから、そろそろ来る筈だと思うけれど」

 どういうと見計らった様なタイミングで執務室のドアがノックされた。
 カリムが入室を促すと、銀色の髪の毛を伸ばした女性・・・はやてのユニゾンデバイスであり、聖王教会に出向して様々な仕事をしているリインフォースが現れた。
 手には予言の写しと思われる紙と、断片的に解析出来たであろう言葉が書かれている紙。

「お疲れさんリイン」
「ありがとうリインフォース」
「ありがとうございます・・・早速ですが、これを」

 労わりの言葉をかけられたリインだが、何故か妙な顔をして早々に解読した予言の一部を語り始めた。
 生真面目なリンフォースの珍しいその行動に疑問符を浮かべる二人だったが、気を取り直して断片化されたその単語を見る。

「『無限の欲望』『蘇る』『砕け落ちる』・・・これは前の予言の一部やな」
「じゃあこっちが新しい予言の一部ね。えっと・・・」

 そして判明した新しい単語を見て、ようやくはやてはリインの妙に疲れている様な顔を理解した。

「『始まり』『本』『人形』と・・・『怠惰な操り少女』?」

 はやては思わず机に頭を強打してしまった。リインフォースもそんな主を見て何ともいえない表情を浮かべている。
 そして事情が良く分かっていないカリムは首を傾げるしか無い。

「杏ちゃんや・・・どう考えても杏ちゃんや・・・」
「やはり杏ですよね・・・まさかとは思ってましたけど、どう考えても・・・」
「え?え?ど、どういう事?」
「カリム、この『怠惰な操り少女』って部分、多分地球に居る私の友達の事や・・・」
「・・・えぇっ!?」
「杏ちゃん・・・予言にまで出るなんて、今度は何をやらかすつもりなんやぁぁぁ!!!」

 杏が何かをすると変な事になると身をもって知っているはやては、今後の行く先に対して言い知れぬ不安を抱き始めていた。
 不安といっても平和とか事件に対してではなく、杏の悪ノリに対してであるが。



[19565] 第53話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/09/07 15:27
 ユーノさんを交えてこの世界の食材を使ったお食事会が始まりました。ちなみにユーノさんもこの世界に来たばかりらしいので、まだどんなものがあるかは知らないそうです。
 結構見た目がアレな物もあった気がしますが・・・まあ食べられるなら問題はありませんね。ゲテモノは両親のお土産で慣れてますし。美味しいならば、ですけどね。

 さて、本日の献立の紹介です。
 一つ目は魚の様なものを、無駄に大きい香草的なもので包み込んでフライっぽくしたもの。何でもこの魚はこの香草と相性がいいらしとお店で聞いたらしいです。
 ソースをつけて食べるみたいですが、そのソースが青汁っぽい色で食欲が微妙になります。

「うん、美味しいですね。この香草がまたいい具合に魚にマッチしてます。大きすぎですけど」
「でも魚って言うよりお肉みたいな食感だよね。何か不思議・・・でも美味しいからあまり気にならないけど」
「うん、美味しい。フェイトってこんなに料理が上手だったんだね。ソースも見た目に反して美味しいし」
「良かった。これは失敗は無いって思ってたけど、やっぱり初めて使う食材だから不安だったんだ」

 評価は好評。初めてフェイトさんの料理を食べたユーノさんも軽く驚きながらも美味しそうに食べています。
 しかし白米が美味しく感じられそうな味ですね・・・いや、ここにもあるにはあるんですが、無駄に大きいのでちょっと食べにくいんです。食べますけど。

 二つ目は地球から持ってきた味噌を使った味噌汁。ただし具はこの世界の野菜です。
 物凄いカラフルな野菜ばかりだったので、味噌汁の中身もカラフルになってしまいました。というか何か発光している様な・・・
 色が多すぎて虹みたいな色彩になっている光る味噌汁。これもまた食欲が減退します。

「それでも食べてみると美味しいのがフェイトさんクオリティですね」
「わっ、この紫色の葉っぱ凄い!コンニャクみたいな味がする!」
「それ、味見してみた時にびっくりしちゃったんだよね。おでんに入れたら面白いかなとか考えちゃった」
「へぇー、でもこの人参っぽいのはそのまま人参の味なんだね」

 こちらも好評。ただやはり見た目が問題です。人によっては面白がって食べるかもしれませんけど、少なくとも私は微妙に感じます。
 でも味噌汁にピッタリだからどうでもいいですね。美味しいは正義です。

 次。大きいお米的なもの。一応日本の食事っぽくメインな扱いです。

「お米だね」
「まごう事なきお米ですね」
「大きさ以外は普通だね」
「でも、大きいから炊くのが大変だったんだよね」

 でしょうねぇ。

 そんな感じで他の物も食べ進めつつ、久々に再会したユーノさんをメインに雑談をします。
 何でもユーノさんは事件が終わってスクライアの集落に帰った後、普通に遺跡発掘や考古学の勉強をしていたそうです。しかも趣味で。
 そしてその趣味が高じて今では考古学分野でそれなりに有名な人になったみたいです。とはいえ、あくまで考古学業界だけでの有名人なので知る人ぞ知るといった感じみたいですけどね。

「じゃあこの世界に来たのも遺跡発掘とか?」
「うん。この辺りの古代史は結構面白いからね」
「趣味で食べていける程に稼いでいるとは、中々やり手ですね」
「私もなのはも趣味みたいなものだけどね」
「うん。私は写真で、フェイトちゃんは・・・杏ちゃんの世話?」
「否定出来ない生活を送っている私が居ます」
「否定する気の無い私も居ます」
「否定しないんだ・・・何というか、前も片鱗は見えてた気はしたけど、最早親子か夫婦か何かみたいな領域だね」

 ユーノさんにまで夫婦と言われるとは・・・何かもう夫婦でいい様な気がしてきました。親子は嫌ですけど。

 食後にババロア的なデザートを食べながらも雑談は続きます。ちなみに食器は私が能力で全自動洗浄です。
 今度の話題は私が手に入れてしまった本について。勿論ユーノさんの食いつきがもの凄い事になりました。
 ユーノさん自身もあの泉を調べたらしいですが、やはり魔力の反応も無く伝承も曖昧なものばかりで難航していたんだそうです。

「で、ページを集めるというRPG的な目的が出来てしまいました」
「杏ちゃんってそういうアイテムが関わる事件に遭遇する確率が凄いよね」
「ジュエルシードに闇の書に、管理局に観光に行った時はロストロギアの横流し事件も発見しちゃったしね」
「そんな事があったの?だからスクライアが発掘したロストロギアの受け入れで一時期ゴタゴタがあったのか・・・」

 何やらスクライアの方にも面倒がかかっていたみたいですね。

「ともかく、このページを探さなければいけない・・・事も無いと思いますけど、どうしましょうか」
「どうせ特別な目的の無い旅だし、探してもいいんじゃないかな?」
「ちなみに何処にページがあるのか判るの?」
「この世界から一番近いのは第139無人世界みたいですね」
「あ、そこ昨日まで居たよ」

 ・・・ん?

「ユーノさん、もっかいお願いします」
「昨日まで居たよ。あそこは今は無人だけど、昔は人が居た形跡があるんだ。確かそこで見つけた石版的な物がここに・・・」

 そういうとユーノさんは机に置きっぱなしにしていた自分のバッグを漁り、その石版を取り出しました。
 石版とは言いましたが、素材が石っぽいだけであまり大きくないです。漫画の単行本くらいの大きさですね。

「ならばこの石版にページについて聞き込みを・・・」
『---』
「・・・しようと思いましたが、今この本のおかげでこれがページの一部だと発覚しました」
「うわぁ・・杏ちゃんってこういう時に結構ご都合主義を発生させるよね」

 そんな事を言われても困ります。
 ともかく、これがページの一部だと発覚したのでユーノさんと交渉。その結果、他に持っているものから色々話を聞いて教えてあげるという条件でOKしてもらいました。
 ユーノさんの反応を見ると別にタダでも良かったみたいですが、私が個人的に色々お話したい、そしてあわよくば弄ったりページの情報を聞いたりしたいのでそうしました。
 ユーノさんも、残りの二人もそれに気付いているので笑っていましたが何も問題はありません。実際ユーノさんにも利益はありますしね。
 ちなみに、ページを本に近づけると光って合体しました。これで何かを思い出すかと期待しましたが、どうやら地球出身としか思い出さなかったみたいです。面倒な。

「そうだ。せっかくだから僕も旅に参加してもいいかな?結構色々な世界を回って面白そうだし」
「別にいいんじゃないかな?」
「でしたら折角なので、それぞれの世界の面白い伝承なんかを纏めて一緒に本にして貰いましょうか」
「あっそれ面白そう!」

 という訳でユーノさんが仲間になりました。
 女三人に男一人・・・おぉう、ハーレムですね。当のユーノさんも女性みたいに綺麗なので女四人に見えなくも無いですが。
 このままユーノさんとなのはさんが何らかのきっかけでくっ付いたら面白いんですが・・・え?私?無いですね。フェイトさんも無さそうですし。
 という訳で頑張ってくださいなのはさん!!



[19565] 第54話
Name: KYO◆55de688e ID:f4ff1fd1
Date: 2010/09/07 15:28
 ユーノさんと合流してから数日が経ち、そろそろ違う世界に行こうという話になりました。
 この世界での成果はそれなりにあり、フェイトさんはレシピと美味しいお店を七つ程、なのはさんは写真を五十枚程、ユーノさんは昔話や世界特有の風習等のコラムを五つ程。
 そして私はこの世界に伝わる伝承の真実や都市伝説の様な話、そしてちょっとヤバそうな裏話等を九つ程ユニに纏めて貰いました。
 本にする時はローウェル貿易の方で編集してもらうので、アウトな話は向こうで省いてくれる事でしょう。出来ればタブーだとしても無視してそのまま出版して貰いたいですけどね。面白いですし。
 まあどうなるかはレポートを送った先にいる編集の人次第なんですけどね。

「さて、郵送手続きも完了したね」
「じゃあ次の世界に行こう」
「次は何処に行こっか?」
「ちなみにここから一番近いページがある世界は第123管理世界みたいです」

 でも一気にそこまで行ってしまうのもちょっと勿体無いですね。中継地点になる様な世界で何処かいい場所は無いでしょうか?
 出来れば面白そうな場所が良いんですが・・・などと考えていると、ユーノさんが「あ、そうだ」と何かを思いついた様な声を発しました。

「第131管理外世界に行かないかい?あそこは魔法は無いけれど、結構いい所だよ。ちょっと気になってた遺跡もあるし」
「え?管理外世界だとちょっと問題があるんじゃあ・・・」
「僕はスクライアだからね。管理外世界の遺跡なんかも行ける様に許可証を持ってるんだよ。僕も含めて四人までしか連れて行けないけどね」

 何という都合の良い許可証があったものですね・・・以前なのはさんが言っていた「杏ちゃんはご都合主義を発生させる」というのは本当なのかもしれません。
 その割には私の身体的特徴に関しては全然都合よく行きませんが・・・

「さて、ちょっと早起きしたせいで眠いのでユニに代わって寝ておきますね」
「あ、うん。おやすみ杏」
「え?ユニゾンデバイスってそんな事も出来たっけ?」
「杏ちゃんだけだよ」

 という訳でユニと交代です。
 私の体が光りに包まれ、意識が奥へと引っ張られます。そしてバリアジャケットで作っていた服の色が黒くなり、ユニの人格が表に出ます。

「---交代完了です」
『じゃあお願いしますね』
「はい。お休みなさい」

 さて・・・三時間くらい寝ましょうか。次の世界についてもすぐには起こさなくていいですからねー。

----------

 地球の海鳴の松田家、その地下にある未使用スペースにいつの間にか作られていた研究室で、プレシアは自動人形にあるプログラムを組み込んでいた。

「ふぅ、とりあえず完了ね。調子はどうかしらイレイン」
「問題無いわよ。・・・でも、また戦闘プログラムを組み込まれるなんて思って無かったわ」


 事の発端はリニスがローウェル貿易の情報サーバーに不法アクセスがあった事を発見した事だった。
 情報サーバーには確かに大事な情報もあったが、本当に重要なものは全てオフライン端末で保管していたのでそれほど問題ではない。
 しかし、情報サーバーへのアクセスで得られる情報の中には重役であるテスタロッサ家やそれに関わるバニングス家と月村家、その所在地などが存在していたのだ。
 クラッキングしてきた相手がどんな存在かはわからないが、万が一ローウェル貿易に害を成す為に非魔導師である月村家やバニングス家の人間を襲った場合大変な事になってしまう。
 それ故の自衛手段の一つとして、過去イレインに組み込まれていた戦闘プログラムを再び組み込んだのだ。しかも改良して。

「仕方が無いわ。ミッドから何者かが来る可能性があるもの。すずかちゃんが危険な目に会うのは貴女も見過ごせないでしょう?」
「まぁ、もう長い間一緒にいるしね・・・でも、たかが戦闘プログラムを組み込み直した所で魔法に勝てるの?」
「この世界の格闘や戦闘のレベルは異常なのよ・・・Aランク魔導師までなら何とかなるわ。それ以上の存在が現れたらちょっと苦しいだろうけれど」

 プレシアは以前たまたま見る機会があった高町家の剣術を思い出す。
 御神流と呼ばれる剣術。その戦闘は見たのが模擬戦といえども、十分にプレシアの度肝を抜く凄まじさがあった。
 肉体のリミッターを解除して意識加速するとかあり得ないでしょう!?とか、衝撃を徹す技術があるのは知っていたけど限度があるでしょう!?など、それはもう突っ込みまくったものだった。
 最もその後は魔法的な部分を組み合わせて更に強化出来ないのかと忍に興味本位で聞かれ、その結果恭也がKYOYAとなれる様になってしまったのだがそれはまた別の話である。

「ともかくこれで月村家は大丈夫ね。バニングス家はローウェル貿易で勤務している魔導師を何人か護衛に回せばいいし・・・」
「杏が旅に出てなければもっと簡単だったろうにね」
「あの子に頼りすぎると何もかもが馬鹿らしくなってくるからダメよ」

 アリシアとリニスの蘇生や自身の病気の治療など、散々頼りまくっていた前科を棚に上げてそんな事を言うプレシアであった。

「ところでイレイン。擬似リンカーコアを組み込んで、更にユニゾンデバイスとユニゾン出来る様に改造していいかしら?」
「ちょっ、変な改造はしないって約束でしょ!?」
「変じゃないわ。これをすれば理論上はSランク魔導師とも戦える・・・筈!成功すれば!」
「不安すぎる!?」

 その後イレインが更に改造されたかどうかは、当の本人達しか知らない。

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 機動六課の上層部が集っている会議室。そこでは予言に関しての会議が行われていたのだが・・・

「なあはやて。これって・・・」
「言わんでええ、多分その通りやから・・・」

 『怠惰な操り少女』という部分を見た夜天組のテンションが著しく下がっていた。
 実際に会った事の無い部隊長のゲンヤ・ナカジマとウイング隊隊長でもある執務官のティーダ・ランスターも話には聞いた事があった為、何とも言えない表情をしている。

「ま、まぁ、杏ちゃんが関わっているなら結果的には特に被害も無く平和に終結するんじゃないですか?」
「そういえば、結果だけ見れば何だかんだで奇跡的な平和解決ばかりしているな・・・」
「だが対策部隊として作られたここの部隊長としては、何もしない訳にはいかないぞ」

 全員で頭を悩ませる。いっその事杏を管理局の権限で探し出して連れて来ようかとも考えたが、犯罪者でもないのにそんな事をする訳にはいかない。
 そもそもそんな手段を取ると杏にどんな恐ろしい仕返しをされるかわかったものではない。はやてが杏がラブレターを貰った時の件で思いっきりからかった時、はやてが身に着けている全てのものに命令して『勝手に体が動いて小指全てを壁やドアにぶつける呪い』を発動させられたのだ。
 力技で何とかしようにも標的は衣服なので破けたら裸になってしまうし、帰って着替えてもまるで感染する様に他の衣服も同じ動きをする始末。結果的に四本の小指を強打しまくってマジ泣きする羽目になった事があったのだ。

「とりあえず、以前の予言は完全に覆った訳でも無いんだろ?ならとりあえず今は方針を変えずにロストロギア事件を追うべきだ」
「ティーダの言う通りだな。そっちばかり気にして即応部隊としての機動六課が動かなくなったら意味が無い」

 予言対策と事件即応、その両方の為に本局と地上が協力して作り上げたのが機動六課なのだ。どちらかを疎かにする訳にはいかない。
 今回の会議ではとりあえず現状維持という事で話は纏まり、各人それぞれ自分の仕事へと戻っていった。

「はぁ、ジュエルシードに夜天の書に自動人形に量産型ユニゾンデバイスに予言に・・・杏ちゃん重要案件に関わりすぎやろ・・・」




[19565] 第55話
Name: KYO◆55de688e ID:03ee8611
Date: 2010/09/09 19:08
 やってきました第131管理外世界。
 入国・・・入世界?の時に地球でいうバニングスグループの様に極秘裏に管理局に関わっている企業の人に、くれぐれも魔法を使わない様にと念を押されてしまいました。
 どうやら以前来たちょっと頭が残念な方が街中で魔法を使ってしまったらしく、一時期物凄い騒動になってしまったらしいです。ちなみにその人は管理局法違反で捕まったらしいです。
 そんな訳で今はちょっと過敏になっているらしいので、人が居る所ではデバイスは極力使わない様にしなければなりません。
 なのはさんは主に人の少ない秘境等で、かつ空から撮影する時は認識を阻害する魔法を使うので問題はありませんが・・・私は皆さんからユニゾン禁止令を出されてしまいました。
 おかげで歩幅も小さければ視点も低い状態で歩かなければなりません。また子供と間違えられるんですね・・・

「でも杏ちゃんなら小さくても可愛いから大丈夫だよ」
「嫌です。もう二度となのはさんと親子に見られたくありません」
「何で私と杏が親子に見られないのかな・・・」
「髪の色と顔立ちだと思うよ。なのはと杏は同じ日本人だしね。・・・それにしても、本当に全然身長が・・・」

 それ以上言ったらドアというドア全てに指を挟む様に仕向けますよ?

 という訳で街へとやってきました。文明の進歩具合は地球と同じくらいですが、聞いた話によるともうすぐ魔法に到達するかもしれないそうです。
 先ほど言った街中で魔法を使った人が原因できっかけを手に入れたかもしれない人が何人か居るらしいので、地球よりも先に魔法を手に入れるかもしれませんね。

「しかし、やはり世界が変わっても食文化はある程度は同じなんですね」
「前の世界も食材は不思議だったけど、食べ方は地球でも同じのが多かったしね」

 そうですね。まあ煮る焼く揚げる蒸す、その他諸々も料理をやってたら思いつく様な事なんでしょう。

「それがそうでも無いんだよ」
「ユーノ君?」
「発掘で世界を回って知ったんだけど、地球の調理文化はかなりハイレベルだよ。あそこまで技術が進歩して一切魔法に関わりが無いのが、科学以外の技術の躍進に関わっているかも知れないと思ってる」
「へぇー、そういえばミッドでも地球の文化とか料理が人気だって言ってたっけ」

 そんな状態で魔法に到達する科学技術を手にしたらとんでもない事になりそうですね。現時点でも妖怪とか霊とか違う意味でとんでもない世界ですけど。
 もしかするよ地球は魔法を手にしない方がいいのでは・・・というか科学的なのとはまた違う幻想的な魔法が既に存在していそうな気がします。
 ・・・あれ?もしかして私のこの能力ってそれなんじゃ?声を聞くとか何となくそれっぽいですし。うぅむ、気になる。
 ・・・こんな時は、ご先祖様を知っている不思議本に聞いてみましょう!

「(私のこの能力って魔法だったりします?)」
『---』

 違いました。何でしょう、ちょっと恥ずかしいです。

『---』
「え、ちょっ」
「いきなりどうしたの?」
「あ、いえ、私の能力が魔法かどうか気になったので本に聞いてみたんですが・・・魔法よりヤバいと言われました」
「魔法よりヤバいなんて今更だよね」
「そうだよね」
「えっと、それは私もそう思う」

 私もそんな感じの自覚は持ってましたけど、実際に言われるとちょっと、その、ねぇ?
 というかヤバいって言わないで下さい。凄いとか言ってください。危険な能力みたいに感じるじゃないですか。

「いや、実際危険だと思うよ?使えるのが杏ちゃんだから大変な事になってないだけで」
「時空管理局も分単位で壊滅させられそうな能力だしね」
「世界征服とか出来そうだもんね」

 あれ?もしかして私って物凄く危険な人物だったんですか?ただのんびりする事と美味しい料理を食べる事が好きなだけの一女性だと思ってたんですが・・・
 ・・・まあどうでもいいですね。そんな事する気も無いので考えるだけ無駄ですし。平和が一番ですよ。ええ。
 とりあえず疲れたのでホテル行きましょうよホテル。のんびりしたいです。

----------

「やあ久しぶりじゃないかプレシア!ところで自動人形に関してk」
「アリシア、塩持ってきなさい!」
「アジシオでいーい?」

 自宅(松田家)にて親子水入らずでのんびりと午後の昼下がりを過ごしていると、突如来客があった。
 今日は特に客の来る予定は無い筈だと予定を思い出しながら、杏からのお土産か何かが届いたのかと玄関のドアを開けると、そこには紫髪の不審者が笑みを浮かべて立っていた。
 ジェイル・スカリエッティ。プロジェクトFの基本理論を確立した生命操作研究の第一人者であり、かつてプレシアと共に研究した仲であり、過去管理局に情報提供した時に運良く逃れる事の出来た変態である。

 その姿を確認した瞬間、プレシアは面倒な事になったと確信した。この男は変態な上に、気になった事は研究しないと気が済まないしつこさを持っているのだ。
 先程のセリフから自動人形に関しての研究がしたいのだろうと予測は出来たが、ここまで手がかりを求めてくるという事はつまり、あの自分達も解析に苦労したプロテクトを突破したという事だろう。やはり変態でもこいつは天才だったかとプレシアは再確認した。

「自動人形に関してはここの世界のロストテクノロジーよ。詳しい事は調べられる程度にしか私は知らないわ」
「くっくっく・・・それを聞けただけでも大収穫さ。やはりこの世界だったか!はははははは!!」
「うるさーいテレビの音が聞こえないー」

 人の家の前でテンションが振り切れてきている男を見て、プレシアはご近所の風評が変な事にならないか心配になってきた。
 この辺りの住人は何かと寛大な存在が多いが、こんなアレな人種に対してもそれが発揮されるとは限らない。もし変な噂が近所の奥様方の間で流れたら本気で困る。
 ちなみに現時点でも既にマッド気味な研究者だとバレているのだが、役に立つ作品を提供していたりするので近所付き合いは良好である。

「なにがこの世界なのよ・・・」
「おや、気付いていないのかい?娘の蘇生に成功していたのだから此処が始まりの世界、アルハザードだと判っていたのだと思ったが」
「ここがアルハザード?貴方は一体何を言って・・・」

 思わず声を上げて驚いてしまったが、よくよく考えると納得出来る要素ばかりな事に気付いた。
 妖怪という異形。魔法とは違う霊能力。夜の一族などの人と少し違う者達。そして、人型アルハザードと言ってもいい杏の存在。
 恐らく自動人形とプレシアの居場所を手がかりに地球に来たのだろうが、ここで調べ物をすればそう思い立っても仕方が無いだろう。流石に杏の存在までは知らないだろうが。

「胸が躍るよ。この世界は実に興味深い!・・・暫くはこの世界に滞在して様々な研究をするつもりだ。これからよろしく頼むよ」
「お断りよ」

 プレシアの話などまるで聞かずにスカリエッティは松田家から離れ・・・二軒隣の空き家だった筈の家へと入っていった。本当にこれからよろしくするつもりなのかもしれない。
 実際覗き見てみると、何やらピッチリしたスーツを着た少女や女性達が引越し作業を行っていた。どうやらあれが噂に聞いていた戦闘機人らしい。
 見事に女性ばかりのそのメンバーを見て、そしてその中に居る銀髪の幼い少女を姿を見て、やはりコイツは真性の変態だとプレシアは再確認した。戦闘機人であんな幼い容姿の少女を作るなんて趣味以外考えられない。
 眼帯を着けていたのもそれに拍車をかける。近くに居なかったので詳しくは知らなかったが、ああいう趣味の人間が多く居るのがアキハバラなのだろうと偏見に満ちている様で割と的を得た思考をプレシアは巡らせる。

「面倒な事になったわね・・・戦力ではこの町は異常だから問題にはならないだろうけれど、先が不安だわ・・・」
「ふぅ面白かった・・・で、おかーさん。さっきの変な人はなんだったの?」
「近所に引っ越してきた変な人よ。関わらない様にしなさい」

 杏が帰ってきたらどうにかなるのかしら?と、どう考えても変な意味でどうにかなってしまいそうな想像をしてプレシアは思考を止めた。
 今は親子でのんびりする時間である。面倒な事は後回しにしておこう。あわよくば自分達に面倒が降りかかるまで放置しておこう。
 何気に杏に影響されているプレシアであった。



[19565] 第56話
Name: KYO◆55de688e ID:03ee8611
Date: 2010/09/13 18:22
 さて、物凄く気になる事が起きたので叫ばせてもらいます。

「なんで私の両親がここに居るんですか!?」
「おや、杏じゃないか」
「あらあら、とうとうバレちゃったわね」

 ここ地球じゃありませんよね!?管理外のホテルですよね!?やっぱり世界旅行って次元世界の事だったんですか!?ってうかどうやって次元世界を移動しているんですか!?
 ほら、あまりの展開にフェイトさん達も呆然としているじゃないですか・・・何より私が呆然としていますけれども。

「んー、成人してから話す予定だったけど、丁度いいから今日話しちゃおうか」
「そうね。本来なら今までの伝統通りに18歳の時に話す筈だったんだもの」
「面倒そうなので拒否していいですか?」
「駄目よ」

 頻繁に家を空ける両親、行き先は次元世界、そして何だかよく分かりませんが伝統で話されるという話・・・どう考えても厄介な事です。
 というかごく普通の一般家庭の松田家に伝統なんてあったんですね。

「杏、一般では無いと思うよ。杏を筆頭に」
「ですよね」

 そうですよね。私の能力を考えたら割と何があってもおかしくない気がしてきました。実は異世界人とか超能力者の家系とか言われても納得できますね。

 とりあえず私達の部屋を借りた後に、両親がいる部屋へと向かう事になりました。
 我が家系に関わる事らしいのでフェイトさん達は居ない方がいいのかと思いましたが、その辺りは別にどうでもいいみたいです。
 適当な・・・と思っていましたが、信用出来る友人だから許可したみたいです。なら何故再会したばかりのユーノさんも許可したのかは謎ですが・・・

「さて、まずは松田家について話しましょうか」
「手短にお願いします」

 さて、我が松田家の祖先は日本人では無かったみたいです。とはいえ普通に外国の人だっただけで、異世界の人間ではありませんでした。ちょっと安心。
 そんな松田家の歴史は物凄く古く、年代はわからないもののそれはもう昔々から続く家系らしいです。
 海外でそんなに長く続いている家系なのに何故家名が松田なのかと思いましたが、その辺はまあ日本に来た時に何かあったんでしょう。

「ここまでだけでも曖昧な内容だらけですね」
「物凄く昔の話だから仕方ないんじゃないかしら?」
「いやそんな適当な・・・まあいいですか」

 そんな松田家の祖先はそれはもう凄い人だったらしく、伝説の都市を発見しただの今の人より古い古代種族を発見しただのと何だかよく分からない逸話が残っているらしいです。ただの頭が壊れた人の様に聞こえますが・・・
 そんなご先祖様は不思議な力を持っていたみたいです。それが、様々なものを自在に操る力だとか。

「あれ、それって杏のと同じ?」
「詳しい事は判らないけれど、恐らくそうね」
「となると私は先祖返りなんでしょうか」

 そんなご先祖様はその力で割とやりたい放題やっていたせいで神っぽい何かに怒られた?らしく、反省したご先祖様は神っぽい何かの命令を聞いて色々やったらしいです。
 ご先祖様はその際に貰った魔導書を使う事で能力が物凄くなったらしく、それで色々とそれはそれは凄い事をやったとかやってないとか。

「無茶苦茶ですね。色々と」
「口伝だから何処かでおかしくなってる可能性があるのよねぇ」

 そして色々やったご先祖様は不思議な力で物凄い長生きしてしまい、最終的にはもう色々と面倒になって魔導書をバラバラにして同じ能力を持つ存在にしか使えない様に封印したらしいです。
 その上書の中身も様々な世界にばら撒いてしまったらしく、「自分と同じ異能を持つ者が現れたら集めさせろ」といって死んだらしいです。

「つまり私ですよね」
「しかも杏ちゃん、今それっぽい本持ってるよね」
「あら、そうなの?」
「じゃあ、はいこれ。次元世界旅行中に集めたページ。父さん達頑張ったからあと一つだけだと思うよ」
「つまり全部揃ったんですねわかります」

 何でしょうこの気持ち・・・RPG的な冒険が始まったかと思いきや目の前でラスボスが瀕死になっていたのを見たらこんな感じなんでしょうか・・・
 まあ面倒事が済んだんでどうでもいいですけどね。
 ところで、

「お父さんとお母さんはどうやってページ探しを?」
「松田家は家系的に何らかの能力があるものなのよね。私は転移だからそれで世界をちょちょいっと」
「父さんは婿入りなんだけど、ちょっとした未来視が出来てね。ほら、よく妙に良いタイミングで帰ってきたりしていただろ?」
「なんて能力の無駄遣い・・・」
「それ杏ちゃんが言える台詞じゃないと思う」

 まあとりあえずページを魔導書に突っ込んでおいて・・・私これからどうすればいいんでしょうか?

「とりあえず魔導書を使ってみたら?」
「そうですね」
『---』
「と思いましたが一気に突っ込まれて整理が大変らしいので暫く無理だそうです」
「・・・ねえなのは、なんかよく分からないけれど物凄い話が目の前でされているのに、なんで僕はこんなに落ち着いているんだろう」
「ユーノ君、それは慣れとかじゃないかな」
「どんな事になっても杏なら危ない事に使わないだろうし、安心出来るのもあるかな?」

 そうですねぇ。まあでも結局この本で何が出来るのかはわからかったですね。整理を待つしかありませんか。その間は普通に旅行していれば問題ありませんしね。元々旅行がメインですし。
 さて・・・お話も終わってしまった?ので解散して、お買い物でも行きましょうか。美味しいものが食べたいです。

「じゃあ母さん達も普通に旅行に戻ろうかしら。あ、そうそう今日からはもう杏が松田家の党首だからね。分家は無いけど」
「それ意味あるんですか?」
「無いわね。せいぜい自分の子供にこの話を・・・あ、杏が後継者だからもうそれすらも必要無いわね」
「つまり何の変化も無いんですね。ならそれでいいです」

 よし、それではこの世界の美味しい料理を食べに行きましょう。主に甘いものが食べたいです。ケーキが食べたいです。

----------

 地球はとんでもない局面を迎えていた。
 なんと、スカリエッティが主要各国へ魔法技術を提供してしまったのだ。

「ちょっとこのアホ変態!何とんでもない事しているのよ!」
「あっはっはっは!いや、この世界の文化が楽しすぎてね。これで魔法があったらより素晴らしい事になりそうだと思ったのさ」
「え?この人それだけの為に魔法をバラすなんて犯罪しちゃったの?おかーさんこの人馬鹿なの?」
「なに、私は元々次元犯罪者だから問題は無い」
「問題しか無いわよ!」

 地球のサブカル文化に染まったのもあるが、勿論狙いは他にもある。
 地球では魔法が存在しないものの、それ以外の神秘が多く存在しているのはすぐに調べる事が出来た。しかし、存在を確信できても居場所を突き止めることが存外大変な作業だったのだ。
 そして実際に突き止めて軽く誘拐しようとしても科学的に解明出来ない、出来ても信じられない様な方法で反撃されて全然はかどらなかったのだ。電撃を放つ狐とか戦闘機人にとって致命的にも程がある。
 更には記憶を読み取る超能力刑事や、こちらの攻撃がまるで当たらない魔法的なものを使って攻撃してくる巫女服。そして人間はおろか戦闘機人ですら知覚出来ない速度で日本刀を振り回してくる喫茶店マスターなんてものも存在した。
 これでは研究がはかどらない。なので魔法をバラし、ちょっとだけでも神秘が表に出やすくしてみようと考えたのだ。
 最もそれも目的の一部に過ぎず、今のスカリエッティの中では「この世界で魔法を公開したら面白くなりそうだ」という好奇心が一番大きかったのだが。

「一週間後に各国で同時に魔法の存在を明かす様に条件をつけて置いたから、面白い事になる筈さ」
「このっ・・・はぁ、もうどうでもいいわ・・・で、それを見届けてどうするつもり?」
「楽しむ」
「アリシア、管理局に通信繋いで通報して」
「やろうとしてるけど繋がらないよ?」
「通信系統は娘達に掌握させているからね」

 こいつこの場でボコボコにしてやろうかと物騒な考えを受かべるプレシアを尻目に、スカリエッティは次にどんな事をしようかと思考を巡らせる。
 しかしその思考の中には人造魔導師やクローン等の生命操作系統のものは一切無く、地球の神秘の検証やサブカル文化の体験等思いっきり趣味に走りまくっている内容だった。
 そう、スカリエッティは生命操作研究以外に興味を惹かれるものに多く出会いすぎて、無限の欲望が暴走している状態なのだ。
 ちなみに娘の戦闘機人達もそれぞれゲームや漫画や格闘技などに嵌っている。翠屋に通ってケーキを食べたりしている者もいる。管理局壊滅何それ美味しいの?と言わんばかりの遊びっぷりである。

「はぁ、早く杏が帰ってこないかしら」
「杏お姉ちゃんまかせなんだ」
「こういう時はあの子に任せた方がいいのよ。変な事にはなるけど結果的にはハッピーエンドになるでしょうし」
「それもそうだね」

 こうしてプレシアとアリシアは匙を投げた。

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 一方ミッドチルダも大変な事になっていた。

『これが管理局最高評議会の正体です!』
『これが管理局の暗部です!』
『これが管理局と取引していたマフィアです!』

 どんどんモニターの中で社会の裏側が暴かれている。おかげで民衆が抗議デモを起こしたり開き直ったマフィアが暴れだしたり汚職局員が逃げ出したりと混沌とした世界へと変貌を遂げていたのである。
 原因は最高評議会が量産した劣化自動人形。思考部分にちょっとした欠陥を残したまま量産した為に扱いの悪い暗部に簡単に反旗を翻し、こんな事件を引き起こしたのだ。
 おかげで本局の評価は暗部のせいでストップ安状態であり、代わりに多少の暗い部分はあったものの地上の平和の為に活動していた地上本部はそれなりに評価されていた。

「どないせいっちゅうねん!?」
「はやてが!はやてがとうとうキレだしたぞ!」

 全部隊を出払いつつ、人手が足りない部分は自らトンデモ魔法を行使して安全にデモを収めたりマフィアを壊滅させていたはやてだった。
 が、いつまで経っても終わらない戦いとどんどん明かされる真っ黒な事実の連発でとうとうキレてしまった。

「もうこうなったら杏ちゃんや!杏ちゃん連れて来るんや!」
「主!流石に杏でもこれはどうしようも・・・」
「いや何とかなる!さっき届いた予言の完全版を見たけど、多分杏ちゃんならなんとかなるんや!むしろ何とかさせるんや!」

 ほれ!と疲れやら何やらで酷い顔になっている自分の主から予言を渡されたザフィーラは、その予言を見た。

『始まりの世界と法の世界、二つの場所は混沌を呼ぶ
 無限の欲望はかの地にて魔を明かし、人形は三つの脳に反旗を翻さん
 世の混沌は長きに渡り世界を覆う
 混沌を収めるは始まりの者、かの本を持ちて全てを操らん
 それは怠惰な操り少女、世界をその手で繰る力』

「・・・杏はとうとう世界を操ってしまうのか」
「杏ちゃんやからな。ともかく杏ちゃんや!きっと杏ちゃんなら何とかしてくれる!」

 こうしてはやても匙を投げた。



[19565] 第57話
Name: KYO◆55de688e ID:03ee8611
Date: 2010/09/14 23:29
 あのトンデモ事実を打ち明けられてから数日経ちました。暫く観光しつつ本がページの吸収?を終えるのを待っていましたが、どうやらまだまだ時間がかかるみたいです。
 そんなに量は多くなかったと思いますが・・・処理が追いつかないんでしょうか。アクセス過多でサーバーが大変な事になるようなニュアンスで。

「しかしこの世界は中々に恐ろしい世界でしたね」
「うぅ・・・まさか料理の中に普通にゲテモノが入ってるなんて・・・」
「杏の両親のおみやげをおすそ分けしてもらった時も思ったけど、なんで虫なんて食べるんだろう・・・」

 でもシャコとかエビとかも、見た目は割と虫っぽいですよ?特にシャコ。カサカサ動きそうです。美味しいですけどね。
 それに今回食べたのも見た目では虫だとわかる物はあまり入ってませんでしたし、美味しかったですし問題は無いと思います。
 美味しいは正義ですからね。

「そういえば、シャコとかタコとかの都市伝説なんですが・・・」
「都市伝説とか嫌な予感しかしないから、や、止めて欲しいなぁー」
「でも気になる・・・なのはもユーノも、一緒に聞こう?」
「わ、わかった」
「うぅ、あまりきついのじゃないといいけど・・・」

 ゴメンなさい、人によってはかなりきついかもしれません。でも都市伝説であって事実では無い可能性が高いですから、問題無いですよね。

「たまに、カニやシャコ等が大漁になる事があるんですね。そのカニとかも良い栄養が取れているのか身がしっかりしているらしくて」
「う、うん」
「おそらく大きくて栄養のあるエサがある所にそうやっていっぱい集まってるんじゃないかって言われています」
「そ、そうだよね。そう考えたら納得できるよね」

 そうですね。私も納得できます。

「所で話は変わりますが、タコやイカは結構何でも食べるんです。ある日、とある主婦がタコを一匹買ってきて頭を切り開くと、そこには大量の人間の髪の毛が」
「うわぁぁぁぁやっぱり嫌な話だったぁぁぁぁぁ!!!」
「水死体を引き上げるとシャコがびっしりと」
「やめてやめてやめてぇ~!!」
「・・・ふぁ」
「フェ、フェイトさん!?気絶する程ショックだったんですか!?」

 思わぬ大惨事になってしまいました・・・

 フェイトさんにとってあまりにも恐ろしい話だったらしく、今日のオヤツ抜きにされてしまいました。しかも満場一致です。本気で泣きそうです。
 ジュエルシードさえあれば嫌な記憶を消してあげるというのに・・・あ、でも無理には消しませんよ。家族にそんな事は出来るだけしたくありませんから。もうプレシアさんにはした事ありますけど。
 仕方ないので落ち込んだ気分のまま本に何か思い出したか聞いてみる事にします。何かいい情報があればいいですねー。

「という訳で本日判明した情報をどうぞ」
『---』
「おお!ようやく名前を思い出したんですか!」

 これで本とか魔導書とか、そんな適当な呼び方をしなくても良くなりました。良かったですね。
 さて、一体どんな名前なんでしょうか。こう、素敵な名前だといいですね。あ、有名な魔導書の名前だったりしたら面白いかもしれませんね。魔導書の名前なんて全然知りませんけど。

「で、名前は何だったんですか?」
『---』
「・・・あーはいはい知ってますけど聞いた事ありますけど・・・本当ですか?」
『---』

 あー、うー・・・本当ですか?本当にそれなんですか?何か物凄くヤバいフラグが見え隠れする名前なんですけど、本当の本当にそれなんですか?
 っていうかアレってご先祖様が書いてたんですか!?物凄い有名じゃないですか!?

『---』
「しかもご先祖様の名前も割と面倒な事になりそうな名前じゃないですか!?」

 こ、これは私にどうしろと?好き勝手やろうと思ってましたけど、流石にコレだと困ってしまうというか・・・伝承ではやりすぎて神様っぽいのに怒られたって言ってましたし。
 この神様っぽいのって多分アレですよね・・・うわー本気でどうしましょう。

「ど、どうしたの?」
「今の大声って杏だよね?」
「本を持ってるって事は・・・何かまたとんでもない事がわかったとかかい?」

 ええ、そりゃあもうとんでもない事です。ドン引きというか何というか、将来が不安です。

「実はこの本の名前とご先祖様の名前が判明しまして・・・」
「それがそんなに驚く事だったの?」
「ええ・・・これ以上ないくらいに」
「どんな名前?」

 よくぞ聞いてくれました。さあ、私と同じ驚愕を共有してください!

「ネクロノミコンです」
「えっ」
「ネクロノミコンです」
「・・・えっ?」
「別名アル・アジフです」
「・・・あの、ゲームとかでよく聞く?」
「それです」

 暫くの静寂の後、なのはさんとフェイトさんの大声がホテルの室内に響き渡りました。
 それはそうでしょうね。相当有名な魔導書ですし、しかもクトゥルフ的に危険なものですし・・・本当に私がコレ持ってても大丈夫ですよね?
 いやアイテムには違いないんで使いこなす事は出来ると思いますけれど、それよりもコレが原因で旧支配者的な方と関わりを持つ事になったりするのは本気で勘弁して欲しいですよ。いやマジで。

「それってそんなに有名なものなの?」
「あ、ユーノさんは知りませんでしたか。えっと、神話級の魔導書で、ヤバいものを召喚したり時間を越えたり死人を蘇らせたりする物凄い魔導書です」
「えぇ!?そんなに凄いものだったの!?」

 まるでアルハザードの技術じゃないか!?とか言ってるユーノさん、それ正解です。

「ご先祖様の名前がアブドゥル・アルハザードでした」

 混乱は最高潮に達しました。・・・いや本当にこれどうしろと言うんでしょうか。
 神話に出るのとは効果が違うのかもしれませんけど、効果よりも旧神が何処かで関わってきそうな事が怖くてたまりません。
 どうしてこうなったんでしょう・・・

----------

 スカリエッティはテレビを見たまま驚愕していた。

 スカリエッティは自他共に認める天才である。人間のクローンと記憶転写という二つを行うプロジェクトFの基礎理論を確立したもの彼であり、機械と人間を合成し強化した戦闘機人を作り出したのも彼だ。
 故に自らの研究結果は勿論、それに順ずる研究速度にも自信がある。この回転の速い頭脳が無ければそう簡単に戦闘機人を作る事は出来なかっただろう。
 そんな彼であるが故に、自分の能力には自信を持っていた。しかし、世界は広いのである。

「・・・一週間前に技術を提供したとはいえ、こうもあっさり未知だった魔法を使う装置を作り出してしまうのか」
「まあ地球だしね」
「ええ、地球だものね。それに日本だし」

 地球。それは科学的な魔法が存在し無いが故に、他の次元世界に比べて単純技術力が凄まじい勢いで進歩した世界である。
 日本。それは世界に誇るサブカル国家であり、作る事に関して凄まじい技術を持つ国。その辺の町工場が実は世界に誇る技術を持っていたりする国である。
 世界にはまだ多く凄まじい技術を持つ国はあるだろうが、発想や行動等の・・・いわゆる変態力は日本が群を抜いている。事実かどうかわからないが、今の日本が兵器開発をしたら数ヶ月で変態兵器を完成させかねないという噂も出ている程だ。
 実際この世界では月村重工が存在しているので無理ではないかもしれない。バニングスもグループ本社は海外だが、家や国籍は日本だったりする。そしてテスタロッサ家もいる。
 この三組を抜いて考えても普通にロボットを作ったりする国だ。本気で研究したらこれくらいは出来そうではある。それに多分NASA的な意味でアメリカも同じ様なレベルには達してそうだ。

 スカリエッティは理解した。ここがかつてアルハザードと呼ばれていたかもしれないという可能性の多くは、地球の神秘では無くこの技術に対する執念にあるのではないかと。

「くっくっく・・・どうやらこの世界に来て正解だった様だ。食事も充実しているし」
「っていうかジェイルさんは何でこの家でテレビを見てるの?」
「放っておきなさい。どうせ引越しの荷解きとか掃除の邪魔になるから追い出されたんでしょ」
「・・・」

 図星だった。生みの親で敬意を払ってもらっているとはいえ、目の前で働こうとしない存在を見たら追い出さざるを得ない。
 そういう点では人間らしさがまだ少し足りなかった戦闘機人も、地球に馴染んで成長してきた証拠だろう。
 ちなみに一番地球に馴染んでいるのはセインとウェンディ、そしてチンクだったりする。前者二人は持ち前のノリと勢いで楽しみまくっていて、後者はナンバーズの中でも一際穏やかな性格によるものだろう。

「おかーさん、これ以外と杏お姉ちゃん来なくても大丈夫かもね」
「もうどうでもいいわ。面倒だから何か問題が起きてから考えましょう」

 魔法の公開やミッドでの自動人形事件で大変な事になっているアリサとミッド組に対し、この親子は物凄く平穏とした生活を続けるのであった。

 いい加減限界を迎えたアリサが雇用主の権力を使い、この親子を呼び出して巻き添えにする数時間前の事であった。
 なお、リニスとアルフは既に巻き込まれててんやわんやである。



[19565] 第58話
Name: KYO◆55de688e ID:03ee8611
Date: 2010/09/16 18:52
 数日かけてお店の情報や食材の情報、秘境の写真や歴史やヤバそうな話などを集め、そろそろ次の世界へと行く事になりました。
 今後の不安を忘れる為に珍しくアグレッシブに動き回りましたが・・・うぅむ、やはりここは逃避せずに色々とご先祖様について調べる必要がありますね。

「アグレッシブと言いつつ体を動かしているのは私です」
『いやユニには本当に助かります。見てるだけで楽しめますし』
「いえ」

 本当に良い子ですね。時々「心躍る戦いがしたい」とか言い出しますけど、基本的にはしっかり者で理性的ですし。
 今度何とかして戦いが出来る様にしてあげましょうか。自動人形に搭載したら何とかなりそうですね。魔法は使えませんが。

 さて、次に向かう世界ですが、審議の結果一度地球に帰る事になりました。
 ちょこちょこと色々な世界に立ち寄って結構レポートが集まったのでいったん帰ってゆっくりしたいのもありますが、両親の話によるとご先祖様の書いた日記的なものがあるらしいんです。
 流石に劣化するので他の紙に書き写したりして伝えているらしいので、何処かおかしくなっている可能性もありますが・・・一応ボロボロの原初だったものもあるらしいので、いざとなればそれから直接話を聞く予定です。
 そして旧神が存在するかどうか、そして存在するなら何か遭遇を回避する方法が無いか調べます。これは精神の安寧の為の最優先事項です。SAN値的な意味でも。
 という事で、

「おみやげは何を買っていきましょうか」
「この世界で印象に残ってるのはやっぱり虫だけど・・・」
「昨日のは凄かったよね・・・何でみんなミミズみたいなアレをラーメンみたいに食べれるんだろ」
「この世界の料理は怖いよ・・・虫使いすぎ」

 虫以外が無ければ皆さん食事が大変な事になってたでしょうね。私でも引く様な料理もありましたし。
 おかげでこの世界ではレシピは増えませんでした。その代わり増えたのが私のゲテモノ料理レポートだったりします。
 普段は殆ど肯定してくれるフェイトさんも、私が普通にゲテモノを食べている事に関しては全く理解出来ないと言われてしまいました。
 一応躊躇するものもあったんですけどね・・・実際食べなかったものありましたし。さっき言ったミミズラーメンとか。

「そうだ、ネクロノミコンはどうなったの?」
「まだ完全じゃないらしいので大した情報は貰ってませんね。ただ、この魔導書で出来る事はわかりました」

 ネクロノミコンは旧神や旧支配者等について書かれたものと言われていますが、ここにある実物?は旧神についても書かれているとはいえ、どちらかというと内容は死霊秘法書の方らしいです。読むものではなく使うものなので基本読みませんが。
 といっても死体を蘇らせるだけでは無いらしく、主に生命操作に関してのものらしいです。簡単に言うと生死を左右する的な感じですね。

「つ、つまり、殺したり蘇生したり?」
「そんな感じです」
「それ、杏ちゃん以外に使えないよね!?」
「使うと多分伝承通りに発狂して終わりですね」
「よ、よかった・・・のかな?」

 よかったんじゃないですか?

 さて、この魔導書はそれ単体でこんなとんでもない事が出来る魔導書ですが、正しい使い方は私やご先祖様のもつ能力と一緒に使うものらしいです。
 無機物を操る能力と有機物を操る能力を合わせる事で、世界をも左右する事が出来る・・・それが、アブドゥル・アルハザードだったという訳ですね。世界を作ったというのはどうやら本当かもしれません。
 勿論その後継者の私もネクロノミコンを使えば同じ事が出来る訳で・・・蘇生も抹殺も世界操作もやりたい放題です。

「あれ?何かそのご先祖様と杏自体が旧神に思えてきた」
「あー、杏みたいなのに慣れてない人がこんなの見たら発狂するくらい混乱するかもね」
「とりあえず支配者なのは間違いないよね」
「貴方達は私を何だと思ってるんですか」

 全く私やご先祖様が旧神なんて・・・自分でもちょっと考えたりしましたけど言わないで下さいよ。人間が一番なんですから。
 しかしご先祖様が旧神なら外に追い出された旧支配者は・・・あ、でも神から魔導書を貰ったって言ってましたし、なら貰うとしたら旧支配者から・・・何だかよく分からなくなってきました。
 もういいです。とりあえず詳しい事はいったん帰って情報収集してからですね。

「さて、ユーノさんはどうするんですか?」
「僕も着いていくよ。久々に地球に行きたいし、ちゃんと見て回りたいしね」
「そういえばユーノ君フェレット形態でばかり過ごしてたもんね」

 今フェレットに変身して昔と同じ様な事をしたら犯罪になるんでしょうか。それともフェレットだから問題にならないんでしょうか。
 可愛いは正義と言われてはいますが・・・うーん。

 どうでもいいですね。さっさと帰りましょう。

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 ギンガ・ナカジマ。陸士108部隊にて活動している時空管理局局員である。
 妹と父親が機動六課で働いており、自分だけのけものにされた気がしてちょっと拗ねたりしつつも平和の為に日々働く彼女だが、最近は中々家族と会う事が出来ずに居る為ちょっと寂しかったりしている。
 しかし自動人形が暴走?して大変な事になっている為それも致し方無しと判断し、彼女もまた暴動や自動人形の暴走抑止等に奔走していた。
 ちなみに何とか止める方法が無いかとローウェル貿易に問い合わせてみた事もあるが、暴走している自動人形はTBL製では無い故に難しいと疲れた声で説明された。
 どうやら同じ様な電話が殺到しているらしい。局員も大変だが会社員も大変なのだ。

 現在、ギンガは街の見回りに出ていた。
 自動人形の明かす事実の殆どが管理局最高評議会絡みのものなので、地上の局員はそこまで民衆に文句は言われていない。そのおかげで普通に見回りに出る事が出来るのだ。
 ちなみに本局と地上の合同部隊である機動六課は結構大変な事になっているらしいと聞いた。内心「出向しなくて良かった」と呟いてしまったとしても仕方が無いだろう。

 見回りをしているとガジェットが現れたとの連絡が届き、最も近い位置にいたギンガが現場に急行する事となった。
 現場に到着すると貨物車が横転事故を起こしていたが、周りに人はおらず運転手は無事逃げ出したらしい。ガジェットの数も少ないので早急に対応する事が出来た。
 しかし、この貨物車に積まれていたものを見てギンガは一度緩めた気をすぐさま引き締める事になる。

「レリックはともかく、生体ポッドと・・・っ!?」

 ガジェットが狙っていると言われている魔力結晶型ロストロギアと共に詰まれていたのは、横倒しになった人造魔導師や戦闘機人の製造に使われる生体ポッドだった。
 自らも戦闘機人であるのですぐにそれに気付き、更にポッドの影に小さな人影を発見する。
 まさかこれらを運んでいた運転手が回収していたのかと警戒しつつ近寄ると、そこには・・・

「子供・・・多分生体ポッドに入れられていた子ね」

 急いで駆け寄り状態を確かめるが、幸い軽い怪我だけで済んでいるらしく出血もそう大した事は無かった。
 頭を打ったのか気絶しているので意識の確認は出来ないものの、呼吸も心音も安定している。

「人造魔導師と思われる少女を保護しました。至急医療魔導師と緊急車両の派遣をお願いします。場所は---」

 ・・・のちに、この少女が過去に聖王教会にて発生した殺人事件の時に盗まれた聖遺物、それを元に再生された聖王のクローンだと判明。
 そして何故か母として懐かれてしまったが故に保護者としてギンガ預かる事となり、最終的に正式にギンガの養子となる事など、現時点では誰も予想出来なかった。

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「よーしとりあえず今日限りでガジェットだけでも全滅させるでぇ!」
「それにしても、まさか超長距離サーチャーと遠隔探査魔法だけでガジェットの本拠地を発見してしまうとは・・・」

 スカリエッティが色々と放置したままの基地の中を、はやてとリインは進んでいた。
 毎日毎日ガジェットやら自動人形やら民衆デモやら混乱に乗じたテロやらと過労死しそうな勢いだったはやてがとうとうキレてしまい、何だかよくわからない魔法でテロリストの本拠地を探索して撲滅したのが昨日。
 そして今日はガジェット撲滅の為に活動し、とうとうこの基地を見つけたのだ。全ては仕事を一気に減らす為の執念である。

「えーと・・・あ、誰もおらへんから逃げたのかと思っとったけど、端末は生きとるんやな」
「何とも無用心な・・・ともかくここからガジェットに指令が出せるみたいですね」
「とりあえず全部集合させた後に基地ごと広域殲滅やな」

 なんとも物騒な事を言っているはやてだが、それほどまでにストレスが溜まっているのだ。何せ最近のはやての口癖は「胃薬が美味い」である。
 体調そのものは魔法で何とか出来てしまうものの、やはり薬を飲むという行為自体が安心をもたらす様で結構効果が出ている。いわゆるプラシーボ効果だ。
 もしここに杏が居たならば「プログラム体になってしまえばいつでも健康ですよ」と解決にならないアドバイスを送っていただろう。

「さて、ガジェットが集まる前に基地内を見て回ろか」
「そうですね」

 様々な部屋を調べると、ここが広域指名手配されている次元犯罪者ジェイル・スカリエッティの基地だとすぐに知る事が出来た。
 ジェイル・スカリエッティと言えば最近次元世界の話題を集めている最高評議会の子飼いだという話もある、人造生命の父と呼ばれる程の研究者だ。
 まーた最高評議会か、とはやてとリインの脳内での呟きは見事にシンクロしていた。

 大量のレリックを発見したり盗まれたジュエルシードが見つかったりと成果をあげつつ探索を続けていると、生体ポッドがいくつか並んでいる部屋へと辿り着いた。
 ポッドの中身は殆どが空だったが、一つだけ、紫色の髪を持つ女性が入っているものがあった。

「人造魔導師研究の実験体なんやろうか・・・」
「恐らくそうでしょうね」
「・・・ん?ちょい待ってな」

 魔法で女性を調べていたはやてが、何かに気付いた様に集中して魔法を使い始めた。
 白いベルカ式の魔法陣が生体ポッドの下に現れクルクルと高速で回り始め、光が筒の様になり女性を包み込む。

「・・・完全に死んでる訳じゃないみたいやな。お医者さんモードなら蘇生出来そうや」
「そうでしたか。それはよかったです」

 お医者さんモードとは、ユニゾン機能を追加されたヴォルケンリッターのシャマルとユニゾンした時の名前である。
 お医者さんモードになると支援魔法特化になり、魔力コントロールと魔法構成が凄まじいレベルで精密になる。その代わり味覚がおかしくなったり変なドジをしてしまう事もあるが。
 ちなみにヴィータをユニゾンすると近接系オールラウンダーの戦闘魔導師で少々子供っぽくなり、シグナムだと近接特化のバトルマニア、ザフィーラだと守護特化の犬耳っ娘になる。そしてリインとの場合は単純に広域殲滅型魔導師としての能力を底上げする形になる。
 更に全員と同時にユニゾンする事でスーパーベルカ人モードとなり、全てにおいてあり得ないレベルになる。しかもそれぞれの魔力光が混ざって虹色に見えるせいで、カリムから「まるで聖王」とのコメントを貰った事もある。

 ともかく蘇生が可能という事が判明し、はやてとリインは笑みを浮かべた。最近疲れる話題ばかりでささくれ立っていた心が、今回の朗報で癒された気さえする。
 そして、この朗報で希望を持ったのは二人だけではなかった。

「ほん、とう・・・?」
「なっ!?」
「くっ!?何者!?」

 突如聞こえた声に二人は部屋の出入り口の方へと振り返る。そこには、生体ポッドの中に入っている女性に似た少女と壮年の男性、そして小さなユニゾンデバイスが居た。

「お願い!お母さんを助けて!」
「お母さんって娘さんなんか?」
「ああ・・・俺からも頼む。メガーヌを蘇生してやってくれ!」
「アタシも頼む!アイツらがいきなり居なくなったせいで、ルールーの母親を助ける方法が見つからなくて困ってたんだ!」
「・・・とりあえず、機動六課まで一緒に来てもらって、事情聴取もさせて貰うで。蘇生に関しては言われなくてもするつもりやったから安心してな」

 これまた妙な事になったなぁ、と内心の呟き。恐らくこの三人はここに来た事とセリフからから考えてスカリエッティに協力していた者達だろう。
 何か重要な証言が聞けるかも知れないと人造魔導師関連の事件が進展した事に喜びつつ、また仕事が増えた事に頭を抱えたくなるはやてだった。

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「くっ・・・何故私はもっと早く気が付かなかったんだ・・・!!」
「おかーさん、なんでジェイルさん頭を抱えてるの?」
「ほら、ミッドの自動人形事件よ。アレで最高評議会が大変な事になってたでしょう?」
「こんな面白いことがミッドチルダで起こっていたとは!!いや、今から行っても遅くは無いか・・・?」

 何だかんだで普通に松田家でくつろぐ様になっているジェイル。それに関してテスタロッサ親子も最早気にしていない。
 杏の家はまるで近所の集会場の様なものになっているのかもしれない。

「・・・よし、行こう!早速準備しなくては!」
「お土産お願いしまーす」
「帰って来なくていいわよ」

 二人の見送りを背後に聞きつつ自宅に戻り、ジェイルはドゥーエ、トーレを連れた三人でミッドへ戻る事にした。
 ドゥーエは最高評議会の元に潜入していたのでその道案内で、トーレは護衛である。本来ならばこれにウーノも連れて行きたかったのだが、そうすると姦しくなったナンバーズのストッパーがチンクしか居なくなってしまう為に断念した。みんな元気である。

「くっくっく・・・待っているがいい最高評議会。私がより面白おかしく大変な目に会わせてやろう!」

 以前なら抹殺する事を考えていただろうが、今のHENTAI国家に毒されたジェイルにはそんな考えは無かった。目論んでいる事はそんな物騒な事ではなく、ネタ的な意味で大いに楽しめそうな嫌がらせのみ。
 これが最高評議会にとって幸運か不運かは神のみぞ知る未来である。



[19565] 第59話
Name: KYO◆55de688e ID:03ee8611
Date: 2010/09/16 20:54
 杏です。地球に帰還したら地球が大変な事になっていました。

「よしいい所に来たわね!ちょっと手伝いなさい!」

 そしてアリサさんも大変な事になっていました。地球の転送ポートがローウェル貿易にあったせいで、あっという間に捕獲されて何やら手伝わされる事になってしまいました。
 何か電話が止まらなかったり社員が走り回ったりしてますが・・・って、普通に魔法使ってますけど大丈夫なんですか?

「いいのよ!ちょっと前に魔法技術を公開した奴がいるから!」
「えぇ!?管理局法違反じゃないか!?」
「その管理局も大変な事になってるのよ!おかげでこっちも大変だっての・・・ほら早く手伝って!!」
「あ、うん!」

 あ、なのはさんが勢いに負けましたね。・・・それにしても、管理局も大変とはいったい何があったんでしょうか。あと地球も何がどうなってそんな事に?
 とりあえず管理局がどうなったのか情報を仕入れますか・・・えーと、あ、そこの端末が丁度いいですね。

「とりあえず管理局で何があったか教えてもらえませんか?」
『---』
「そ、そんな面白そうな事が!?何故私はもっと早く気が付かなかったんですか・・・!!」
「おかーさん、杏お姉ちゃんがジェイルさんと同じセリフ言ってるよー」
「そんな事より早く書類終わらせないとアリサに怒られるわよ」

 あ、プレシアさんとアリシアちゃんただいまです。・・・とりあえず何がどうなってこうなったのか詳しく教えてくれませんか?
 それさえ判れば私がどうにでも出来ると思うので。

 かくかくしかじかという訳で何があったか教えてもらいました。
 地球が凄まじい勢いで魔法に目覚めていくのは別にどうでもいいです。そんな事よりやはりミッド自動人形事件が面白すぎますね。
 しかし劣化量産した結果ロボット三原則に喧嘩を売る様な出来になって、しかもそれが原因で反旗を翻されるとは・・・管理局最高評議会は随分と愉快ですね。
 そしてそれをより面白おかしくする為に、最近私の家の近所に引っ越してきた変態さんがミッドに行ったとは。もう何が何やら。

「とりあえず、暴走している自動人形がTBL製じゃないと知ってもらえればいい訳ですね」
「ええ。でも向こうも混乱しているから満足にいかないのよ」

 成程。では今回の事件は新たな私の能力を試してみるのに丁度いいかもしれませんね。よーし物も者も操っちゃいますよー。
 えーとまずはミッドが見えないといけないので通信を開いてもらいましょうか。

「映像通信は無理よ」
「杏、本当みたい。なんでだろう?」
「あーそれならどっかの変態がポートを介した直接通信以外妨害する様にしたのよ。管理局に通報されたら面倒だからって。何処で妨害情報発してるのかもわからないし」
「はあ、そうですか。じゃ解除しますねー・・・はい終わりました」
「流石杏お姉ちゃんは何でもアリだね」

 まだ教えてませんけど生き物も世界も操作出来る様になっちゃいましたしね・・・代わりにクトゥルフ的なフラグが見え隠れしてますけど。
 さて、それじゃ通信を

『やっと繋がったぁぁぁぁぁ!!杏ちゃん助けて!!』
「おぉう・・・はやてさんですか。目の下の隈がヤバイですね」
『そうなんよ!もう限界やから助けて欲しいんや!』

 いや助けて欲しいといわれても何をどうしろと。
 管理局の事でしょうか。自動人形を止めればいいんでしょうか。それともミッドで起こってるっていう民衆デモを止めればいいんでしょうか。
 っていうかテンション高いですね。色々振り切れるくらい大変なんでしょうか。

『両方や!でも杏ちゃんは物しか操れんのはわかっとるから、せめて自動人形だけは何とかして欲しいんや!』
「いや全部出来ますけどね」
『ホンマに!?もう何でもええから何とかして!!』

 うわぁ、必死・・・
 さてどうしましょう。自動人形に関してははやてさんに従う様に命令したら何の問題もありませんけど、民衆デモはどうにもこうにも。
 いっそ以前プレシアさんに使った様にアレしちゃいましょうか?ただし今回は本も使って最大出力ですけど。・・・洗脳は管理局的に不味いですかね?
 ならそれ以外には・・・あーもう考えるのが面倒になりました。後から色々考えて調整すればいいですね。とりあえず何とかしちゃいましょう。

「あ、私の能力はともかく、本の力もモニター越しで大丈夫ですよね?」
『---』
「あ、そうですか」

 ちゃんと使いこなせれば見る必要すら無いそうです。そりゃ世界単位でなんとか出来る能力ですしね。という事は私もまだまだという事ですか。
 それはさておき・・・えーと、本を能力で使いつつモニターの向こうを、こうしてこんな感じで・・・あ、成程、こうなんですね。
 で、こうしてこうなって・・・こうこう、はい完了です!

『杏ちゃん、ちょっと聞いてええか?』
「はい」
『何か民衆デモの声が抗議から「はやて!はやて!」になったんやけど』
「一時的な措置として、民衆と自動人形の反抗心やら何やらをはやてさんへの人気や信頼に変換しました。今信任投票したら100%管理局トップになれますよ。勿論指示にも従ってくれます」

 所謂英雄とかアイドルとか、そんな感じです。「はやてさんなら何とかしてくれる!」って奴ですね。他にも方法があったかもしれませんけど、とりあえず今はこれくらいしか思いつきませんでした。
 ついでに暴走している自動人形はローウェル貿易と関係が無い事も頭に直接叩き込んでおきました。これで万時解決!

『なぁぁぁんでそんな事になんねん!!』
「っ!?おぉぉう耳が、耳が・・・」
『っていうか洗脳やんそれ!?大体キィィィィィンキィィィィィンキィィィィィン』
「はやてさん!ハ、ハウリング!ハウリングしてます!・・・えい」

 回線を切断しました。ふぅ、これでまあ一安心。

「いや全然安心じゃないと思うよ・・・」
「はやてマジ切れしてたね・・・相当ストレス溜まってたんだなぁ」
「杏、今回のこれは流石にちょっと・・・」
「・・・その、近いうちにはやてさんに謝罪に行こうと思います」

 でも、今のところそれくらいしか思いつかなかったんですよ?ほら、それに後から調整しますし・・・その、あの。
 ・・・えっと、家!家に行きましょう!元々それが目的で来たんですし!ほら、行きましょう行きましょう!

「それにしてもここまで無茶苦茶やってるのを見ると、杏ちゃんが旧神とか旧支配者って言われても納得しそうになるよ」

 もう否定はしない事にします。

----------

「という訳で、最高評議会に色々と面白い事をしようと思って来たのさ」
「成程。犯罪者を見逃すのは少々納得出来ませんが、戦闘能力も敵わないでしょうし諦めます」

 最高評議会の元までやってきたジェイル一行。見張りとして自動人形が一体存在したが、特に抵抗される事も無く辿り着く事が出来た。
 外では今世紀最大の犯罪者といった扱いを受けている最高評議会だが、部屋の中では以前までと代わらず脳髄のままそこに存在していた。

『ジェイル!?よく来た!早くこいつらを何とかしろ!』
「何をおっしゃります。私は貴方達を助けに来たのではありません」
『なんじゃと!?』
「くっくっく・・・さて、どういった事をしようか。殺しはしないが精神的に死にたくなる様なものもいいかも知れないね」
『き、貴様!?』 

 わめき散らす三つの脳髄と、ニヤニヤと笑いながらどんな目に会わせてやろうかと楽しそうに思考するジェイル。
 ドゥーエとトーレは、逆らう気は無さそうだが念の為に自動人形を警戒し、自動人形もまたそれを感じて余計な事はしない様にしている。

 最高評議会の進退はジェイル・スカリエッティの手のひらの上・・・かと思われた。

「よし決めた!そんなに管理局の正義が好きならば再び働かせてやろう!但し、無力な美少女型自動人形に搭載してだ!」
『なっ!?ふ、ふざけるな!?』
『その様な事が許されると思っているのか!?』
「また管理局の為に働く事が出来るのだから本m・・・かと思ったが管理局ではなく八神はやての為に働かせてやろう」
『む、八神はやてか・・・なら仕方が無い』
『そうじゃな。それなら仕方が無い』
『むしろ望む所だな』
「私も彼女の元で働くのもいいかもしれないな。いや、その前に懲役か・・・」
「ドクター。では私も」
「私も彼女の元へ行きましょう」

 杏の洗脳はこんな所にまで及んでいた。



[19565] 第60話
Name: KYO◆55de688e ID:03ee8611
Date: 2010/09/17 21:42
 ふかふかのソファーに座り、テレビで魔法関連の特番を見ながら、砂糖とミルクたっぷりのコーヒーをゆっくりと飲む・・・ああ、これです。これですよ、私の平穏は。
 ちょっと前から事件に巻き込まれたり旅に出たりと忙しかったですし、久々のこの安らげる空間には癒されますね。

 しかし・・・変態さんが地球に魔法技術を与えたって言ってましたけど、どんな与え方をしたんでしょうか。ミッド式でもベルカ式でもない魔法が開発されているんですが・・・
 というかこれ明らかに科学だけで作って無いですよね。五亡星の魔法陣は陰陽五行説でしょうし、四角形は四大元素でしょうか。七星は・・・七曜?
 ともかく地球のオカルトと合体して多用にも程がある状態なんですが・・・

「凄い・・・魔力効率はミッド式やベルカ式の方が断然良いけど、変換資質も無くここまで容易に魔力を変換するなんて・・・」
「しかもこれ、確か相克だっけ?それも出来そうだよね」
「元々霊力とか妖怪とかが存在してる世界ですしね。むしろ今まで魔力が使われていなかった事の方が凄い事なのかもしれません」
「あ、凄い。水で一気に植物が成長してる・・・相生関係だっけ?」

 そんな会話を、戸棚に入ってた煎餅を食べながら四人でのんびりと眺めます。
 んー、煎餅を食べるなら私も皆さんと同じ様に緑茶にした方がよかったでしょうか。でもコーヒー飲みたかったんですよね。まあこの後に緑茶を飲めば良いんですが。
 しかし・・・地球が本格的に魔法のきっかけを与えられただけでこんな事になるとは。これだと裏側で活動していた対魔師とかが表に出ても問題がなくなるんじゃないでしょうか。
 ・・・テレビで頻繁に特集しているのも、そういった人達が表に出やすい様にする為だったりするんでしょうか。流石に夜の一族は吸血鬼のイメージが怖いのでそう簡単に表に出てこれないと思いますけど、霊能力者くらいなら何の問題も無さそうですし。

「凄いなぁ・・・地球の魔法が最終的にどうなるか気になるよ」
「私も気になるな。・・・あ、あの人相変わらずプラズマで説明しようとしてる」
「つまり魔力の正体はプラズマなんですねわかります」
「・・・あれ?私達って何で杏の家に来たんだっけ?」

 え?えーっと・・・あ、そういえばご先祖様の残した日記的なものを見に来たんでした。すっかりテレビに夢中になってました・・・

「という訳で、目の前にあるのがその日記的なもの・・・もとい、ちょっと未来的な劣化してる金属板です」
「あれ?いつ探したの?」
「能力でちょちょいっと」
「・・・便利だね」

 そんな事はどうでもいいです。さて、ご先祖様の過去について読んで・・・読めないので色々教えてもらいましょう。

 そして、私が皆さんに通訳しつつご先祖様の過去が明らかになりました。簡略化すると以下の通りです。

旧支配者『あんたちょっと好き勝手やりすぎだって』
ご先祖様「あ、す、すいません。じゃあ止めます」
『いや、止めなくていいわ。むしろ能力強化するコレあげるから世界の管理とかよろしく』
「えっ」
『いや、もう面倒になってたんだよね。丁度いいからあんたに任せて遠い世界の果てにでも行って寝るわ』
「ちょっあの」
『はい能力強化に使う本。中身白紙だから適当に何か書いといてじゃ、さいなら』
「いや面倒・・・おーい」

 こうして旧支配者は地球から旧神に追い出され・・・もとい、旧支配者は地球を旧神に押し付けて何処かに行ったそうです。・・・いやいやいやいや。

「何ですかそのクトゥルフファンに喧嘩を売る様な内容の過去」
「っていうか、杏ちゃんってやっぱり旧神だったんだね・・・」
「そっか・・杏のめんどくさがりは旧支配者から続くものだったんだね・・・」
「ゴメン、僕はまだ杏を取り巻く超展開についていける精神が無いみたいだ・・・ちょっと事実の受け入れに時間がかかりそうだよ・・・」
「ユーノ君。受け入れるんじゃなくて、受け流すんだよ。まともに受け取ってたら疲れるだけだよ」

 私はそれを真っ向から受け止めなければいけない身の上なんですけど・・・まあ旧支配者が来る可能性が低そうなのが唯一の救いですけど。
 でも・・・ご先祖様の後継者って事は私も世界に関して何かしなくちゃいけないんでしょうか?ご先祖様は次元世界を増やしたみたいですけど・・・うーん。

「・・・とりあえずフェイトさん、緑茶お願いしてもいいですか?」
「うん。ちょっと待ってて」
「よし・・・杏は旧き神で、旧支配者が・・・ゴメンなのは、クトゥルフ神話だっけ?それに関する本を読んで知識を補完したいんだけど、何かある?」
「知識補完したら余計に頭が痛くなると思うから、私が知ってる分だけ説明するね」

 あー、平和です。

----------

『最高評議会は満場一致で八神はやてを時空管理局局長に推薦する』
『ミッドチルダ政府内閣も右に同じです』
『地上本部上層部も右に同じだ』
『という訳で、数日後から貴女が時空管理局のトップになります。式典の際に挨拶をお願いしたいので、よろしくお願いします』

 そんなやり取りがあった後、はやての前に展開されていたモニターが同時に消えた。
 そして残るのは、機動六課の会議室を包む耳に痛い静寂。

「・・・うん、アレや。コレはアレなんやな。神が私に与えた試練なんや。コレを乗り越えた時私は天上へと行く事が・・・」
「主、気持ちはわかりますがしっかりして下さい・・・それと、それだとこの状況をもたらした杏が神になってしまいます」
「杏ちゃんが神かぁ・・・きっと旧神やなぁ・・・そして宇宙がヤバいんや・・・SAN値もヤバいんや・・・」
「落ち着けはやて!まだ俺達が居る!だから耐えるんだ!」
「そうだ!お前が壊れたら大変な事になるぞ!」

 何気に杏の正体?を的中させているはやてだった。
 それはさておき、杏の洗脳の効果範囲が一応制限されたものだったのか、機動六課の局員のうちはやてとそれなりに親しい者達は洗脳の影響を受けなかった。
 具体的に言うと、上層部・守護騎士・フォワード陣、並びにそのメンバーの繋がりでよく一緒に会話した数人だ。ヘリパイのヴァイス等がコレに当たる。

「せや、落ち着け私。これはある意味、私が願ってた平和を実現するチャンスや・・・あれ・・・ネガってた・・・?」
「誰か助けてくれよぉぉ!はやてが(精神的に)死んじまうよぉぉぉ!!」

 はやての呟きとティーダ達の励まし、そしてヴィータの嘆きが会議室に響いていた。
 それを会議室の外で聞いたフォワード陣は揃って目を押さえながら空を仰いだという。



[19565] 第61話 怠惰風STS完結
Name: KYO◆55de688e ID:03ee8611
Date: 2010/09/18 17:31
 ただでさえ最近忙しかった機動六課は、以前までにも増して多忙な状況となっていた。
 一瞬にしてミッドを支配(笑)してしまったはやての影響から、次元犯罪者が自首してきたり民衆がはやてを一目見ようと押しかけたりと、それはもう大変な事になっていた。
 つい先程はなんと世紀の大犯罪者であるジェイル・スカリエッティまでもが自主してきた上に、その傍らには自分達は管理局最高評議会だという、自動人形のロリ美少女を連れていた。
 流石にもう着いていけなかったのか、はやてはとうとう胃痛で仕事を中断。自分の魔法で治療をしつつ医務室で休憩することとなってしまった。

「チャンスや。確かに平和を実現するチャンスなんや。犯罪者もどんどん自首して来とるし、傾向としては悪くは無いんや・・・でも・・・」
「いいのよはやてちゃん。我慢しなくてもいいの。辛い時は私達を頼って」
「そうです。我々はその為に居るのですから」
「そーだよ。だから無茶しすぎちゃ駄目だ」
「ええ。仕事熱心なのもいいですが、主が倒れては元も子もありません」
「まあ、今回は仕事せざるを得ない状況だったので仕方ないのかもしれませんが・・・」

 はやてと同時に魔法をかけて治療しているシャマル、そしてそれに続守護騎士全員の発言に、はやては思わず涙腺が緩んだ。
 思えば、夜天の書が杏ちゃんに改造されてからずっと皆には励まされてきたなぁ・・・とはやては過去を振り返る。
 足の麻痺は闇の書が原因と知った時は、確かに悲しかった。でも新しい家族と過ごせるその日々は何物にも代え難い宝物だった。
 気が付けば最強魔導師にされた上に将来的にプログラム体になる様にされてしまった時は混乱してしまったが、それでも皆と一緒に居られる事に喜んだ。
 それから管理局に入り、辛い事や大変な事が数多くあった。守護騎士の皆もそれぞれ自分達の仕事が忙しいにも関わらず、はやてが挫けそうな時にはすぐに気付いて励ましてくれた。

「あはは、みんなのおかげで元気が出てきたわ。・・・ありがとうな。これからもよろしく」

 自分も最終的にプログラム体になって長い時を生きるのだ。最初はそれってどうなんだと思ったものの、それはそれで良いかもしれないとはやては考える。
 一応生きるのが辛くなった時の為に自己封印も可能らしいが、きっと皆が居るならそれも必要ないだろう。皆が居るから、私は頑張れる。

 そこまで考えたはやての頭に、とある想像が思い浮かんだ。

 あれ、私がプログラム体になるって事は、これからもずっと働き続けるって事なんやろか?少なくともこの状況を杏ちゃんに早く何とかして貰わんと、暫くはこの状況が続く事になるなぁ。
 ・・・もしこのまま杏ちゃんが洗脳?を解除せんまま居なくなってしまったら、死なないままずっとこの状況?永遠帝国の完成?
 いやいや、流石にいきなり杏ちゃんが居なくなるなんて事は・・・そういえば杏ちゃん何か神レベルな能力使っとったな。手には本を持っとったし。
 杏ちゃんがまるで旧神ってちょっと前に冗談半分で言ったけど・・・本・・・魔導書・・・ナコト写本?ネクロノミコン?ルルイエ異本?
 え?旧支配者と旧神の戦い?封印したり消滅したり次元の果てに行ったり狭間に幽閉されたり?
 いやいや、それは無い・・・いやでもあの杏ちゃんやで、もしかしたらもしかするかも・・・

「ぐぅぅぅ、胃が!胃が!」
「は、はやて!?なんでいきなり!?」
「シャマル!?いったいどうなったのだ!?」
「多分はやてちゃんが変にストレスを感じる事を考えたんだと思うけれど・・・ああもう!もう魔力温存なんて考えないで治療するわよ!」
「主!心を落ち着かせてください!」
「変な想像はしてはいけません!今はただ休む事だけを!」

 八神はやて。胃痛と疲労が慢性化しそうな19歳だった。

----------

「こ、これは・・・!?」
「凄い・・・甲乙つけ難いよ・・・」
「美味しいです・・・ああ、幸せな味・・・」
「ありがとう。でも、やっぱりそう簡単には越せないんだね」

 どうも。最近旧神もとい新神になった松田杏です。
 クトゥルフ神話に真っ向から喧嘩を売る事実が判明してから二日後の現在、私達はなのはさんが持ってきた翠屋のシュークリ-ムとフェイトさんの作ったチーズケ-キを食べ比べています。
 チーズケーキは旅の途中で仕入れた材料なや調理法を使って作ったらしいですが、それでも桃子さんの特製シュークリームと同等という結果になりました。
 桃子さん凄いですね・・・魔法を使った効率の良い調理や地球に無い良い材料を使ってようやく互角とは・・・
 ちなみにその別の世界で仕入れた材料を翠屋にお裾分けしました。なのはさん曰く、桃子さんがはりきって「これで美味しいケーキを作るわ!」と言っていたそうです。
 桃子さんの技術であの材料を使ったらどんな凄いケーキが出来上がるんでしょうか・・・興味が尽きません。

 さてさて、あれから色々と日記的な金属板からお話を聞きながらのんびり過ごしていました。
 ご先祖様が物凄い長生きしていたという話を覚えていたユーノさんが、

「もしかして杏の身長が小さいのは、そのご先祖様と同じ寿命だから成長の速度も遅いとか、そんな理由だったりするのかな?」

 と、私に希望を与えるかもしれない仮説を言ったので金属板に聞いてみました。
 そして判明した事実・・・本来なら18歳程度の年齢で老化が急激に遅くなるらしいですが、私は何らかの理由で小学生時代から成長が遅くなってしまったらしいです。
 金属板が言うには、肉体に何らかの干渉があったのではないかという事ですが・・・

「そういえばジュエルシードで自分の体に色々やってたよね。杏ちゃん」
「杏・・・自業自得だったんだね・・・」
「そんな、馬鹿な・・・!?」

 割と本気で涙が止まりませんでした。そしてその後にご先祖様の容姿を聞いてまた涙が出ました。
 ご先祖様の身長が150cm・・・つまり私が成長しても、そのくらいで止まっていた可能性が高いという事。どちらにしろ小さい・・・!!

「じゃあ、自分で伸ばすの?」
「うぅ・・・いえ、もう外見に関してはユニがいるのでいいです。ユニが唯一の希望です」
『ありがとうございます』

 それはさておき・・・何というか、物凄い力を手に入れたはいいものの、何に使えばいいのかさっぱりですね。
 一応フェイトさんの料理の為に冷蔵庫に食材をたっぷり用意した程度にしか活用してません。私自身の能力なら相変わらずフライング座布団でダラダラしているんですけどね。
 うーん・・・やっぱりこう、世界を左右できる能力を手に入れたからには、何か物凄い事件でも起こした方がいいんでしょうか・・・
 あ、でもそんな事をしたらフェイトさんに怒られておやつ抜きにされてしまいますね。

「結局フェイトちゃんが一番強いのかな?」
「そうですね。私はフェイトさんには全く逆らえません。胃袋がもう完全に降伏していますし」
「杏なら洗脳とかでも何とか出来ると思うけど」
「大事な友人に洗脳なんてしませんよ。基本的には」

 それにしても、妙な人生ですよねぇ。
 不思議な能力を持っているだけの人間かと思いきや神っぽくなってますし、地球は地球で神秘だらけで、更には魔法も急速発展してますし。
 初めての友達は退魔師で、二人目の友達兼初めての親友は異世界の魔導師・・・そして気がつけば周囲に一般人はいませんでした、と。
 ・・・あれ、改めて考えるとなんでこんな事になっているんでしょう。あれですか、類は友を呼ぶとでも言いたいんですか。実際友になってるので全く反論出来ませんけど。

 ・・・まあどうでもいいですね。そんな面倒な事より、今後の事です。

「今日から旅を再開するんでしたよね?」
「うん。一応前回までのレポートは纏め終わって本にする準備は出来てるみたいだから、今度は第二巻目の分だね」
「杏の調べた裏情報は本気で危ないのを除いて載せるみたいだよ」
「おぉう、冒険しましたねローウェル・・・」
「今のミッドの状態ならむしろ隠すより明かした方が良いって。実際そこまで危ない情報は少なかったしね」

 そうですね。まあ一部とんでもないものも確かに存在しましたけど、それも殆どは遠い過去の話が多かったですし。
 ともかく、あの程度なら大丈夫なんですね。ならこれからも容赦無く情報をかき集めましょう。

 それじゃあ、

「行きましょうか」
「うん」
「そうだね」
「まぁ、僕は多分途中で抜けるけどね」
「ここは後で抜けるとしても、そのまま返事だけして出発するべきでしょう・・・」

 ・・・ともかく、行きましょうか、皆さん。
 
 
 
「あ、杏お姉ちゃん達もう出発するの?」
「あ、お帰りなさい。はい、今行こうとしていました」
「その前にこれ、杏宛の小包よ。相手の名前は書いてないけれど・・・」
「書いてないんですか?誰でしょうね・・・」
「あ、でもここに中身について書いてるよ?えっと・・・輝くトラペゾ」
「すいません私は今とても素早くアグレッシブに旅立ちたいので今すぐ出発しようと思いますそれでは行ってきますねさようならて何で小包が飛んで追っかけてくるんですかー!?」
「輝くトラペゾヘドロン・・・確か、クトゥルフ神話で出てくる何かだった様な・・・」
「・・・どうしよっか。このまま杏と一緒に行ったら旧支配者っぽいのに遭遇するかもしれないけど」
「・・・まあ、その時はその時という事で」
「・・・そうだね」

----------

『あ、アリシアちゃぁ~ん・・・杏ちゃんおるか~』
「は、はやてちゃん大丈夫?杏お姉ちゃんなら昨日旅に出たけど・・・」
『・・・旅・・・?』
「う、うん・・・あっ・・・まさか、そっちの対処忘れたまんまだったり・・・?」
『・・・ふふ・・・ふははは・・・そうかそうか、そうくるか・・・それが世界の選択、か・・・』
「は、はやてちゃん?」
『・・・いあ、いあ、はすたあ・・・』
「は、はやてちゃーん!?」





---あとがき---
 投げっぱなし感漂う完結です。
 とはいえ一応完結というだけで、もしかすると次元帝王HAYATE怒涛編とか杏VS旧支配者夢の大食い決戦とかよくわからないものが続くかもしれません。
 他にも途中で省いた杏ラブレター編とか、いっそ感想欄にあったGS希的な番外とかも書くかもしれません。
 でもとりえず完結という事で。

 怠惰はA’Sで終わる予定でした。前に感想欄で書いた気がします。IF ENDをそのまま本ENDにしてしまおうかと思った事もあります。
 この完結の仕方だとむしろIFの方がそれっぽいので、今からでも遅くないならば(ry
 まあアルハザードのおかげでこんなオチ?を付けれた訳ですが。下手したら着陸出来ずに放置なんて事にもなりかねない感じだったので。
 なので所々明らかに後付な場所もありますが・・・まあ受難の頃からそんな感じなので笑ってスルーでお願いします。

 さて、なんだかんだで長編SSはこれで完結2本目になりました。
 受難と怠惰。なんでこんなアレなSSばかり完結させてしまうのか、自分。謎です。
 今後は新しく長編を書く事はせずに、今あるものを終わらせる方向で行くと思います。多分。
 でも時々チラ裏に変な単発ネタは投稿するかも。もしくは単発ネタを何とかして長編にするという暴挙に出るかも。
 まあ受難も怠惰もその暴挙の末に生まれた様なものなんですけどね。
 始めから終わりまでちゃんとプロットが(脳内かつ大雑把ですが)出来上がってるのなんて、チラ裏にある某まるで更新していないネギまSSくらいなんですけどね。
 受難と怠惰はネタありきで書いてたので・・・

 長々?とあとがきばかり書いても仕方が無いので、ここらで終わりにしましょう。
 今まで読んで下さった方々、感想を書いてくださった皆様、これで『怠惰な操り少女』は完結となります。
 杏さんの活躍はこれからも続いていく的な終わり方なのでしっくり来ないとは思いますが、その辺はまだ続くかもしれないからしょうがないとか、そんな感じで勘弁してください。

 それでは、今までありがとうございました!



[19565] 怠惰な操り少女 第62話 外伝・催眠杏編 開始
Name: KYO◆55de688e ID:03ee8611
Date: 2011/02/26 21:57
 ある日、アリシアがとある本を持ってきた。

「催眠術、ですか」
「うん。面白そうじゃない?」
「でもアリシア、こういうのって信じてないとかかったりしないんじゃないかな?」
「いや、魔法とかがあるから一応信じてはいますが・・・でもかかりそうには無いですよね」

 深層意識にどうこうという感じだと思うのでありえないとは思うけど・・・そう簡単には出来ないんじゃないかな?あ、でも魔法を使えば出来るかもしれないのかな?
 聞いた話によると記憶を見るレアスキルもあるみたいだし、色々研究したなら催眠形の魔法も作れるかも。というか、実在するかもしれない。
 最も魔法でもそう簡単に使えないと思うけど・・・使えたらもっと次元世界が大変な事になってそうだし。

「という訳で杏お姉ちゃんはそこに座って」
「私が実験体ですか・・・まあいいんですけど、あんまり変な事はしないで下さいね?」
「杏、無理しないでね?」

 そんなこんなで、杏がアリシアの催眠術の餌食になっちゃう事に。
 うーん、一応邪神?みたいな杏に催眠術って効くのかな。でも能力を除けば普通の女の子だから大丈夫なのかな。
 ・・・なんか私もちょっと気になってきたかもしれない。でも心配でもある。大丈夫かな?

「それではとある部族が催眠の導入に使うというお香を焚きまーす」
「あの、物凄く不安になってきたんですが」
「というか、何処からそんな変なの仕入れてきたの?」
「次元世界規模の企業に勤めてたらこんなのも手に入るんだよね」
「手に入っても渡したらダメでしょう・・・明らかにヤバイ薬とかじゃないですか」

 でも逃げたり止めたりはしないんだよね。杏って面倒だって言って怠けようとするけど、遊ぶときとか友達にお願いされた時とかは何だかんだでちゃんと付き合ってくれるんだよね。
 まあ、当初はそうでも無かったけれど・・・私達が杏と暮らして変わったみたいに、杏も変わったのかな?そうなら、ちょっと嬉しいかもしれない。

 そしてお香が焚かれて、アリシアの催眠術が始まった。普通に杏の家の居間なのに変な雰囲気を感じるのはお香とアリシアの催眠のせいだと思う。
 アリシアの穏やかな声で催眠に誘導されていく杏は、催眠にかかってるかどうかはわからないけれど何だか眠そうに俯いている。
 ・・・そしてアリシアの催眠導入が完了した。みたいだけど・・・

「・・・何だろう、普通にいつもの寝ぼけてる杏お姉ちゃんに見える」
「う、うん。これ本当にかかってるのかな?」

 催眠にかかっているのかいないのか、杏はぼーっとしたまま頭をフラフラと左右に揺らしている。・・・眠いのを我慢している様に見えてちょっと可愛いと思ったのは仕方ないと思う。
 でも、アリシアは杏にどんな催眠をかけるつもりなんだろう?いくらなんでもあまり変なのはかけると思わないけど・・・

「よし・・・貴女は目が覚めると、何故だか様々な事に対してやる気が漲ってくる様になります」
「えっ」

 じゃ、じゃあこれが成功だったら怠け者の杏からアグレッシブな杏になっちゃうの?それは杏じゃない気がするよ?
 うーん、でもちょっと見てみたい様な、でも何か違う気がするから見たく無い様な・・・うぅ。

 そんな事を考えている間に既に催眠の刷り込みは終わってしまったらしく、アリシアは杏の覚醒の段階に入っていた。
 これが成功してたら怠け者じゃない杏になってるんだろうけど・・・アリシアの催眠の仕方がかなり凄いし、言ってた内容も内容だから物凄く活動的になっちゃうのかな。
 あんまり活動的になると違和感しか感じないと思うから何とも言えないんだけど・・・

「1、2、3・・・はい!」
「ん、んー・・・あれ?あぁ、催眠術でしたっけ?何か普通に寝てた気がします」
「あはは、私達から見ても寝てる様に見えたから成功かどうかはわからないんだよね」
「とりあえず催眠はかけてみたけど、杏お姉ちゃんは何か変わったとこはある?」

 アリシアの問いを聞いた杏は「そうですねぇ」と呟いて右手を頭に当てて、

「特にないですね」

 そう返答した。

「そっかー、失敗かな?」
「そもそも成功したらどうなるかわからないから・・・」
「まあ初めての事ですしね・・・おっと、もうこんな時間でしたか」
「え?あ、本当だ」

 杏の言葉を聞いて時計を見ると午後5時半。そろそろ晩御飯の支度を始めなくちゃいけない時間だった。
 それじゃあ急いで晩御飯の支度をしなくちゃね。今晩は何を作ろうかな・・・

「ふむ、それじゃあたまには私が作りましょうか。何となく気が向きましたし」
「・・・え?」
「ほ、本当に?」
「そんなに驚かなくても・・・たまにはそんな気分にもなってもいいじゃないですか。年末年始には毎回作ってますし」

 そういって杏はキッチンへと入っていった。・・・えーっと、これは?

「・・・成功?」
「な、なのかな?」

 これが催眠が原因なのか、はたまた本当にたまたま気が向いたのか。どちらなのかは催眠をかけた側の私達にすら判別は出来ない。
 もしその答えがわかるとしたら、調理をしている杏を見る事。普段通りなら料理をするとしても、多少は能力を使って手間を減らす筈。年末年始の時でも簡単に済ましていい部分はそうしてたから間違いない。
 なので私とアリシアはこっそりとキッチンを覗き込んだ。

 そして、私達はそれを目撃する。

「ふんふんふふーんふんふーん♪」

「杏が、鼻歌を歌いながら料理してる・・・っ!?」
「しかも能力を使わないで、それも物凄い手際よくテキパキ動いてるよ!?」
「ふふふんふん・・・おぉおう、どうしたんですか?」
「な、なんでもないよ!」
「う、うん!なんでもない!」
「そ、そうですか?ならいいですが・・・」

 私達の反応に驚いた後、杏はそのまままた調理に戻った。
 ・・・それにしても、何か物凄く手際がいいというか・・・うわぁ、ジャガイモの皮むきが物凄く早い。というか私より薄く切ってる?
 人参とたまねぎもあるからカレーを作るんだと思うけど・・・えぇ!?スパイスの調合からやるの!?それって確か杏のお母さんの特製カレーに使う奴だよね!?
 ほ、本当に大丈夫なのかな・・・あ、でも前に私がちょっとだけ教えてもらった調合と差がない様に見える。そういえば杏のお母さんが、杏にも一度教えた事があるって言ってたけど・・・覚えてたの?
 って、ご飯の他にナンまで作るの!?確かに本格的じゃなければ家庭でも簡単に作れ・・・えぇ!?そんな所に床下収納があるなんて知らないよ!?しかもそれって確かナンを焼く時に使うのだよね!?
 確かに前に食べたカレーでナンが物凄く美味しかったから気になってたけど、まさかそんなものがあったなんて・・・というか杏は何でそれの使い方とか作り方とか知ってるんだろう?あ、能力で聞いたとか?

「と、とにかく、催眠は成功したみたいだね。で、ここからどうするの、アリシア?」
「み、みたいだね・・・とりあえず、このまま様子を見よ?」
「わ、わかった・・・」

 一応念話で母さん達にも知らせておかないと・・・間違いなく混乱しちゃうだろうし。



[19565] 怠惰な操り少女 第63話
Name: KYO◆55de688e ID:03ee8611
Date: 2011/02/26 21:58
「うん、我ながらなかなか良い出来に仕上がりましたね・・・ん?皆さんどうしました?」
「い、いや・・・」
「べ、別になんでもないわ」
「え、ええ。大丈夫です」

 夕飯の時間、母さん達が帰ってきて皆でカレーを食べる事になったんだけど、やっぱり母さん達は杏の変わり様に驚いていた。
 ・・・仕方ないよね。率先して皆の分のカレーをよそって持ってくるとか、いつの間に作ったのかラッシーまで用意したりとかしてるんだもん。
 しかもこのカレー物凄く美味しいし・・・ちょっとキッチンを見てみたけど、洗い物も同時進行していたみたいで綺麗に片付いてた。
 前々から思ってたけど、杏ってきちんとしてたら結構スペック高いよね・・・スタミナが無いから運動系統はちょっと無理があるみたいだけど。

「・・・ねえ杏、後でこのカレーのレシピ貰えないかしら?」
「いいですよー」
「しかし、こんなに美味しいカレーは初めてだね・・・」
「ええ、本当に・・・」

 母さん達も食べ始めてまた驚いてる。うん、気持ちはよくわかる。本当に美味しいよね。
 でも・・・やっぱり杏がダラダラしてないのを見ると違和感があるかなぁ。

「ねえアリシア、この後に催眠解かない?」
「えー、特に問題ないし、もうちょっとこのままでもいいと思うよ?」

 確かに問題は無いけれど・・・なんだか落ち着かないんだよね。次元世界旅行が終わってからここ最近は杏とのんびりしてる時間が多かったから・・・
 でも今の杏だとのんびりしそうにないし・・・

 食後、やっぱり杏はのんびりなんてせずに食器洗いを始めた。

「やっぱり違和感というか、何というか・・・」
「フェイトも正直に言いなさい。構ってもらえなくて寂しいんでしょう?」
「そ、そんな事無いよ!?・・・多分」

 うん、多分。・・・いや、やっぱり寂しいのかもしれない。違和感を感じてるのは確かだけど。
 思えば四六時中ずっと一緒だったからなぁ・・・パティシエの修行で海外に行ってた時は離れてる時間もあったけど、それでも転移魔法で帰ったら一緒にのんびりしてたし。
 ああ・・・多分じゃないね。うん。寂しいんだ。今更だけど、私もかなり杏に依存してたんだね。

「ふぅ、久々にまともに家事をすると意外と疲れますね」
「杏、お疲れ様」
「ありがとうございます。さて、ちょっと休憩しますか・・・」

 あ、やる気に満ち溢れてても休憩はするんだね。ちょっと安心。

「休憩ついでに能力を使って色々やりましょうか。一応邪神?ですからそれらしい事とか」

 休憩が一番安心出来ない状態だった!?

「だ、ダメだよ杏。今の地球は管理世界になるかどうかとか、魔法関連とかで大変なんだから」
「む、フェイトさんがそういうなら止めておきましょうか」
「やる気が出てもフェイトの言う事は聞くんだね・・・まあ端から見たら夫婦とかにしか見えない関係だし当たり前かな」
「ん?アリシアちゃん何か言いました?」
「何にも言って無いよー」

 私も聞こえなかったけど、何て言ってたんだろ?多分今の杏の事だろうから後で聞いてみようかな。

 で、もう寝る時間に。

「フェイトさん、久々に一緒に寝ましょうか」
「え?あ、うん!」

 急な申し出で驚いたけど、うん、たまにはいいよね。旅をしてる時は宿泊場所の都合でよく一緒のベッドで寝てたけど、最近はそれぞれ自分の部屋で寝てたし。
 杏と一緒に寝ると気持ちよく眠れるんだよね。言ったら怒るかもしれないけど・・・杏の身長が抱き枕に丁度良くて。
 始めは杏が苦しいかもって思ってたけど、そうでもないみたいだからよく抱き枕にしてたんだよね。

「な、何ですって!?」
「あんた、まさか・・・くっ、でもフェイトが望むなら・・・!!」
「やる気ってそっちの方向にも!?なんて事・・・」
「うぅ、これは催眠を解くべきか解かないべきか・・・」

 え?みんななんでそんなに衝撃を受けた顔をしてるの?

「どうしたんでしょうか?」
「えっと、わかんない・・・」

 うーん、とりあえず、放っておいて大丈夫じゃないかな?とりあえず杏の部屋に行こっか。

「さて、寝るとは言ったものの何だかよくわからないものが滾って眠れません」
「うーん、催眠が効いてるんだと思うから、解いてもらう?」
「え?催眠成功してたんですか?」

 あ、そういえば杏にはちゃんと言ってなかったっけ?

「ほら、いくら気が向いたからって、普段の杏なら食器洗いまではしないでしょ?」
「・・・おぉう、そう言われてみればそうですね。というか、どういう催眠をかけたんでしょうか?」

 そういえばそれもちゃんと言ってなかったね・・・という訳で説明する事に。説明といっても色々な事にやる気が漲ってくるってだけだから、簡単に説明が終わるんだけど。
 それで説明をすると、杏が何だか考え込みだした。あと何だかちょっとだけ挙動不審。どうしたのかな?

「フェイトさん、催眠は私のやる気が漲ってくる事しかかけてないんですよね?」
「うん、その筈だよ」
「じゃあ今の私がやりたいと思っている事は、普段の私が少なからずやりたいと思っている事なんでしょうか?」
「うーん、そういう事なのかな?どれくらいやりたい事なのかはわからないけど」

 でも、様々な事に対してやる気が出てくるって言ってたし、杏が興味を持つ様な事があればそっちにも効果があるかもね。
 そう伝えると、杏は何故か顔を真っ赤にして頭を抱えうーうー言い出して、しまいには身悶えし始めてしまった。え?どうしたの?

「何でもないです!ええ、何でもないですとも!」
「いや、明らかに何かありそうな反応でそんな事言われても・・・」
「何でもないです!フェイトさんに抱きつきたいだとか頭を撫でて貰いたいだとか優しくぎゅっとして欲しいだとか・・・って私は何を言ってるんですかぁぁぁぁぁ!?」

 そして杏はあーうー言いながら部屋の地面をゴロゴロ転がりだしてしまった。
 ・・・うん。うん。物凄く可愛い。本当に。

「違いますからね!?変な意味じゃないですからね!?フェイトさんがお姉ちゃんみたいだと前々から思っていただけで、そういう色恋だとかでは無く甘えたいだけでそのあの」

 ゴメンね、もう私が我慢できない。

「杏可愛い!」
「ひゃっ!?」

 もう今日は一晩中愛でるよ!愛で続けるよ!



[19565] 怠惰な操り少女 第64話
Name: KYO◆55de688e ID:03ee8611
Date: 2011/04/02 20:26
「んー・・・」

 朝、カーテンの隙間から入ってくる日差しが顔に当たっていたせいで少し早く目が覚めた。それでも、まだ少し眠いから目を開けずにそのまま布団の中に居る事にする。
 抱き枕に顔をよせて、何だか温かくて幸せだなぁ・・・と考えていた所で、私が普段抱き枕なんて使って無い事に気付いた。
 何を抱きしめているのかな?と考えてすぐ、昨日は杏と一緒に寝た事を思い出した。

(昨日の杏は可愛すぎだよ・・・)

 うーうー言いながらゴロゴロ転がった杏を確保してからは、ひたすらナデナデしたり抱きしめたりしながら色々と会話をしていた。今思うと私も結構暴走してた気がする。
 でも、長い間杏と一緒に暮らしてたけど、杏がこんなに甘えん坊になるとは思わなかった。やる気満々というか願望に正直になってるみたいだって本人が言ってたから、これがある意味杏の本当の姿なのかもしれない。
 何せ最初は恥ずかしがってうーうー言ってた杏も、後半はもう開き直って抱き返してきてたもんね。本当に可愛かった。
 照れ笑いを浮かべながら上目使いで見られた時は、思わず何かいけない扉が開きそうになったよ・・・なのは達にはもう開いてるって言われそうな気がしたけど気のせいにしておく。うん、気のせい。

 さて、そろそろ眠気も覚めてきたし起きなくちゃいけない。なので杏を抱きしめたままの状態で目を開けて・・・思わず停止してしまった。

「すぅ・・・すぅ・・・」
「・・・」

 杏を抱きしめてるからすぐ近くに居るのは当たり前だけど、まさか私の顔のすぐ前に杏の顔があるなんて思わなかった。小さいからもう少し下だと思ってたよ・・・
 というか近い!物凄く近い!今更気付いたけど互いの息がかかるくらいの距離だよ!?むしろくっつきかねないくらいだよ!?
 ・・・それはともかくとして、こうして杏の寝顔を見るとやっぱり普通に可愛いと思う。普段は小さいとか妹みたいだとかそういう方向で可愛いって言われてる杏だけど、こうやって見たら普通に美少女なんだよね。
 杏は私達同級生メンバーが集まってる時は皆が可愛いし美人だから見られてるって思ってたみたいだけど、杏も普通に注目されてたしね。気付いてなかったのかわかっててスルーしてたのかは知らないけど。
 ・・・そういえば杏って一回ラブレター貰った事があったんだっけ。そんな事があったんだから気付いてもよさそうなんだけどね。

「ん・・・むぅ・・・」
「あっちょっ」

 杏がもぞもぞと動く。勿論物凄く顔が近い状態でそんな事をされると色々と危ないのは当たり前。うっかりキスしてしまうなんて展開にはなってないものの・・・ほっぺたにキスされて、その後体を丸めた杏の顔が私の首筋辺りに来た。
 ああ何だろうこの感情。まさか開いてはいけない扉が開いてしまったんじゃ・・・いやいやまだ私は大丈夫。この状態でいきなり名前を呼ばれたりしたらちょっとヤバいかもしれないけど、これくらいなら問題は無い。
 ・・・あれ?これってまさかフラグなのかな?

「んん・・・ふぇ・・・」
「っ!?」
「ふぇ・・・」

 やっぱりフラグだったらしく杏が寝言で何かを言いそうになってる。しかも言い方が物凄い猫なで声というか、甘える様な話し方で・・・ゴメン皆。私はもうダメかもしれない。
 というか名前を呼ばれる事を期待している私がいる時点でもうダメかもしれないけど。

「ふぇ・・・」
(どきどき)
「ふぇ・・・」
(どきどきどきどき)

「めんどうです・・・」

 さて、起きよっか。ほら杏も起きてねー。
 
 
 
 朝御飯は既に起きていた母さんが作っていた。朝は泊り込みの仕事が無い限りは基本的に母さんが作ってるから、つまりはいつも通りという事。
 どうやら今日は洋風らしく、ベーコンエッグとトーストとコーンスープという献立だった。杏曰く「いかにもな朝食」のメニューだね。

「むぐ・・・やはり食パンにはチョコレートクリームですね」
「マーガリンも美味しいよ?」
「フェイトさんがそういうのなら、たまには食べましょうか」

 そしてその杏は今、美味しそうに朝食を食べてます。・・・私の膝の上で。

「えーっと、杏お姉ちゃん?何でフェイトの膝の上に?」
「もう催眠に抗いようが無いので開き直って精一杯甘える事にしたんです」
「開き直った割には物凄く顔が赤いわよ?」
「当たり前じゃないですか!全く何でこんな人前で羞恥プレイをしなければならないんですか・・・」
「乗ったのは自分からだけどね」

 真っ赤な顔で膝の上に乗っていいか聞いてきた時は物凄く可愛かった。アリシアも可愛いって言って抱きついてたくらいだからね。

「それにしても、何でフェイトに甘えるんだい?プレシアも居るのに」
「そうですねー。姉みたいだというのもあると思いますけど、多分今まで一番一緒に居る時間が長かったからでしょうか?ぶっちゃけ両親よりも一緒に居ますし」
「その発言は悲しすぎるよ・・・」
「積もり積もったその辺の寂しさが今の杏の甘えっぷりを作ってるのかもしれないわね」
「あー、その可能性はあるかもしれないですね。自分ではそこまで気にしてなかったんですが・・・」

 そんな会話をしつつ食事を終わらせて、そろそろ現在働いている翠屋へと向かわなければいけない時間になった。
 うーん、今の杏を置いて仕事に向かうのは少し心配だけど、でも催眠を解くのは個人的にもっと堪能したいのでもう少し遅らせたい。・・・あれ?私もう末期?
 と、ともかく、お留守番してもらうしかないよね。

「じゃあ、私は仕事に行ってくるね」
「えっ・・・行っちゃうんですか・・・?」

 言った瞬間杏が物凄く悲しそうな顔でこっちを見てきた。何だろう、今の杏の状態と元々の小ささが相まって、幼い子を泣かせてしまっている様な罪悪感に襲われる。
 やめて!?そんな目で見ないで!物凄く心が痛むよ!?

「いっそ連れて行っちゃば?事情を説明したら問題ないと思うよ」
「アリシア・・・それはそうかもしれないけど」
「電話で桃子さんに聞いてみたらいいんじゃない?」

 ほぼ間違いなく許可を出すだろうなと思いつつ、杏を放っておけないのは確かなので電話で事情を説明して聞いてみる事に。
 結果。

『是非連れてきて!』

 桃子さんがハイテンションでノリノリになっていました。こういう事好きそうだもんね。
 この調子だとなのはにも見られるだろうし、そこからアリサとすずかと希、もしかしたらはやて達にも伝わるかもしれない。
 あぁ、杏が元に戻ったらまた悶える事になるんだろうなぁ・・・とりあえずアリシアは催眠の責任をとらされるだろうから、応援しておこう。

「じゃあ行こっか、杏」
「はい!」

 素早く準備を済ませた杏は、私の言葉に満面の笑みで返事を返してくれた。
 なのは、物凄く驚くだろうなぁ。



[19565] 怠惰な操り少女 第65話
Name: KYO◆55de688e ID:03ee8611
Date: 2011/02/26 21:59
 翠屋にやってきた私達。なのははどうやらユーノと出かけてるみたいで見当たらなかった。
 驚くなのはの姿が見れない事で少しだけがっかりしつつも、代わりに桃子さん達が驚いてくれたから満足。でも士郎さん、違和感がありすぎて怖いって言うのは流石に言いすぎだと思います。
 気持ちはわかるけれど、ね?

「あ、あれ・・・」
「はい、あとあれはそこですよ」
「ありがとね」

 さて、私は翠屋に仕事をしに来たんだから働かなくちゃいけない。なので杏には休憩室や店内の一角でのんびりしていて貰おうかと思ってたけど、突然杏が手伝うって言い出した。
 いくらなんでも素人の人にパティシエの仕事を任せる訳にはいかないし、何より桃子さんは仕事に関してはとても厳しい人だから許されないと思ってたんだけど・・・制限付きで許可されちゃった。
 制限は『技術が必要な作業はしない』というもの。とても繊細な作業が多いから当然だけど、それ以外も疎かに出来ない筈の事ばかり。
 なのに桃子さんが許可を出したのが不思議で聞いてみた。

『ほら、以前から話題に上ってた二号店ね。そろそろ本格的に考えてて、その時はもしよければフェイトちゃんに店長を任せようと思ってたのよ』
『えっ・・・えぇー!?ほほ、本当ですか!?』
『ええ。でもフェイトちゃん、今まで誰かに指示をしながらの作業はした事が無かったでしょう?店長にもなれば新人の教育も必要になってくるし・・・だから、杏ちゃんで少しだけ指示を出す側を体験してもらおうと思ったのよ』

 杏ちゃんならあの不思議な力である程度は大丈夫だと思うから。と、桃子さんは笑顔で言っていた。
 えっと、つまり今回の杏との仕事は、まだきちんと仕事を覚えていない新人への指示をしながらの作業のテストで・・・ててて、店長として任せられるかの試験って事だよね?そうだよね!?
 ど、どうしよう!どうしよう!!き、緊張してきちゃったよ!?・・・と混乱していると、事情を桃子さんから聞いた杏がやる気満々で準備しているのが目に入った。
 それを見て少しだけ落ち着く。うん、確かに重要だし大事な事だから緊張はするけど、それよりも・・・杏と、あの杏と一緒に仕事が出来るというのが嬉しい。本来ならばあり得ない事だもんね。

「はいどうぞ」
「あ、はいこれ」
「ああそれもう大丈夫ですね」

 そんな訳で作業を始める事になって、機械類や簡単な作業は杏にやってもらう事になった。杏の能力があれば機材関係は完璧といってもいい状況になるからね。
 だから後は細かく指示を出しながら自分の作業を完璧にこなすだけ。だったんだけど・・・

「はい」
「はいはいー」
「あ、あれお願いしてもいいかな?」
「むしろもう済んでます・・・というか、これ指示出す練習になるんでしょうか?」
「・・・全然ならないと思う」

 なんというか、お互い長い間一緒に居たせいで代名詞だけで何となく言いたい事がわかっちゃうし、杏もかなり物覚えがいいからもうテストになって無いと思う。
 本当、杏ってやる気さえあればハイスペックだよね・・・運動能力と体力以外は。今でもまだ数時間なのにかなり疲れちゃってるし。
 杏なら能力だけでも仕事が出来るから椅子に座っててもいいって言ったんだけど、一緒に仕事をしてるからそういう訳にはいかないって言われちゃった。
 ちなみに丁度その頃になのはとユーノがお店に来てその台詞を聞いたせいで、二人がパニックになったりしたけど・・・仕事中だからちゃんと説明は出来なかった。
 多分士郎さんが簡単に説明してくれてると思うけど・・・

「ちょっとさっきのメールどういう事!?」
「ねぇ、これ本当なの!?」
「アリサちゃん!すずかちゃん!本当なの!今でもフェイトちゃんと一緒に仕事してて・・・」
「っていうか二人とも、大学は?」
「こんな天変地異の前触れみたいなメール貰って勉強なんかしてらんないわよ!!」
「私も流石にこんなメールされたら落ち着いて勉強できないよ!?」

「杏、やっぱり色々言われてるね」
「いや、まあ・・・というか店内で騒ぎすぎで・・・あ、今多分怒られましたね」

 そんな会話をしながらひたすら作業を進める私達。チラリと桃子さんの方を見ると私の目線に気付いた桃子さんは困った顔で笑っていた。
 なのは達の事で笑ったのか、今の私と杏の連携で笑ったのか・・・両方かな?とりあえず桃子さんも、これだとテストにならないって思ってるみたいだった。
 でも・・・これからも杏が手伝ってくれたら、こんな感じで仕事をしたいかもしれない。とても作業がしやすいし、自分の実力がしっかりと発揮出来てる気がする。
 息の合った人と仕事すると、こんな風になるんだね・・・

「フェイトさん」
「どうしたの?」
「すいません、体力が限界を迎えました」
「えっあ、杏大丈夫?」
「割とヤバイです・・・なんとスタミナの無い肉体・・・自業自得ですけど」

 お昼の休憩すら突破出来ずに杏は疲労でリタイアしちゃいました。うーん、仕事を手伝ってもらうのは杏のやる気の他に体力も必要かぁ。
 とりあえず杏には本来の予定通りに、店内でのんびりしてもらう事にしよう。・・・なのは達がいるからのんびり出来ないかもしれないけれど、きっと大丈夫だよね?
 あ、でも今の杏は色々な事にやる気を出すから・・・うぅ、心配。本当に本当に大丈夫かなぁ?



[19565] 怠惰な操り少女 第66話
Name: KYO◆55de688e ID:03ee8611
Date: 2011/02/26 21:59
「じゃあこれは?こんな感じのやりたくない?」
「いえ、興味が湧かないですね」
「じゃあこれはどうかな?」
「それは正直どうでもいいです」
「じゃあじゃあ・・・これは?」

 ある程度お客さんも引いてケーキの在庫も十分になったので休憩になったからみんなの所に来たんだけど・・・なのは達が携帯とかノートパソコンとかで何かを色々杏に見せていた。
 いったいどうしたのかな?

「ねえユーノ、説明お願いしてもいい?」
「ああ、ほら、今の杏ってやる気が湧いてるって言ってたよね?」

 そう、今の杏は催眠のせいで色々とやる気が沸いてる状態。でもその割には行動が・・・まああり得ない事はしているけど、そこまで暴走して無いからおかしいとアリサが発言。
 そこで色々と杏から話を聞いて考えた結果、『やる気が湧いてくる』じゃなくて『少しでもやる気が出たらそれが大きくなる』って事が判明したんだって。
 そう言えば今までの杏を思い出すとそんな感じかも・・・料理だって普段は面倒だって言うけど嫌いでは無いみたいだし、甘えるのも恥ずかしがるだけで嫌がってはいなかったし。

「だから三人は色々と面白そうな事を提案して何かをやらせようとしてるんだよね」
「そっか・・・でもこの構図って、王様の気を引こうとする貴族とか、そんな感じだよね」
「た、確かに・・・実際は神様に願いを叶えてもらおうとする巫女かな?」

 邪神だもんね。でも見た所特に気を引く様なものは無いのかな?もしかしたら多少は何かをした後かもしれないけど。
 でも普段の杏ならここまで色々されると面倒だっていいそうだけど・・・やっぱり友達との会話にはやる気が出てるのかな?
 それはさておき・・・

「チーズケーキ持って来たよ」
「食べます!」
「そ、即答だね」
「にゃはは・・・チーズケーキ大好きだもんね」
「というか、やっぱりフェイトには素直よね」

 という訳でチーズケーキと紅茶でのんびりする事に。杏に対する提案も一旦ストップして皆でゆっくりしようね。

「ところで・・・杏?外では恥ずかしいって自分で言ってなかった?大丈夫なの?」
「・・・いえ、大丈夫では無いです。無いですけど、無いですけどぉ・・・」

 気が付けば家で居た時みたいに私の上に杏が乗っていました。顔を真っ赤にして顔を俯かせてるけど、降りる気は無いみたい。
 右手で私の服のすそを掴んで震えてて・・・ああもう何この可愛い生き物!頭撫で回しちゃうよ!

「うわー何だろうこの光景。旅してた頃から仲がいいのは分かってたけど・・・」
「杏ちゃん可愛い・・・こういう妹が欲しいかも」

 あ、すずかもそう思う?普段は絶対こういう事してくれないから新鮮というか・・・ギャップ萌え?
 ともかく普段甘えてくれないから、物凄く可愛く感じるよね。

「そうだ!ねえ杏」
「あ、アリサさん、何でしょうか」
「ほらほら」

 アリサが顔を真っ赤にしてる杏にこっちに来てって手で呼んでるけど・・・うわぁ、何か物凄く意地悪そうな笑顔だよ。
 杏も何の様なのかわからない顔でアリサの横に移動したけど、どうしたんだろう?

「よっと、やっぱり軽いわねぇ」
「なっななな何をするんでしゅか!?」
「杏噛んでるわよ。慌てすぎじゃない?」

 何をするかと思いきや、アリサが杏の腋に手を入れて持ち上げてさっきの私みたいに膝の上に杏を乗せちゃった。
 そういえばアリサって一人っ子だもんね。こういうのにちょっとだけ興味があったのかな?単に杏をからかおうとしてるだけかもしれないけど。アリサ物凄く楽しそうだし。
 対する杏は昨日の夜と同じくらいに顔が真っ赤。私には慣れてたけどアリサには慣れてないもんね。でも逃げようとはしてないから、嫌では無いのかな?

「アリサちゃん、次私もやりたい!」
「私も!末っ子だからこういうのに憧れてたんだよね」
「何勝手にきめてるんですかー!わたっ、私はそんな事許可して無いですよ!?」
「嫌なのかしら?」
「い、嫌・・・ぐっ、嫌でもない今の自分が恨めしいです・・・」

 あ、嫌じゃないんだ。私に関しては姉みたいだからって言ってたけど、皆の場合もそうなのかな?それとも単純に友達と騒ぐのが楽しいから?
 うーん、今の杏だといつもみたいに簡単に考えがわかったりしないなぁ。

「ユーノ君もする?」
「いや、僕がやるのは問題だよ・・・見た目が小さくても、同年代の女性を膝の上に乗せるのは流石にね」
「当たり前です!そんな事したら責任取ってもらいます!」

 え!?責任って、も、もしかして結婚!?

「いえ、記憶や状況諸々を能力で改変して、発生した歪みを全てユーノさんにぶつけます」
「それ死ぬよね!?よくわからないけど死ぬよね!?」

 そ、そっかぁ。良かった・・・杏がユーノと結婚なんて、そんな事あり得ないのにね。

「で、ユーノの膝の上に乗るのは嫌なの?」
「・・・」
「あんずちゃぁん?」
「な、なのはさん?怖いです、物凄く怖いのでその笑顔はちょっと勘弁を・・・」
「アリサちゃんも変な事言わないでねぇ?」
「だ、大丈夫よ。杏もユーノの上には乗らないわよね」
「勿論です!ええ勿論ですとも!」

 まあ、ユーノも一緒に旅をしてた仲間だし、それくらいなら杏も許容するんじゃないかな?
 というか他の世界で混浴したりとかしてたから、割と今更な感じがしないでも無い・・・確かに恥ずかしいけど。

 そのまま暫く杏は皆のおもちゃになったままでした。
 頑張って杏。晩御飯は奮発してあげるから。



[19565] 怠惰な操り少女 第67話 外伝・催眠杏編 完結
Name: KYO◆55de688e ID:03ee8611
Date: 2011/02/26 22:00
「それで、結局なのは達に囃されてやった事って何かあったの?」
「アリサさんのノートパソコンにたまたま映った文字を見てやってみたくなった事をこっそりやっておきました」
「こっそり・・・何をしたの?」
「アリサさんの家の車を一台改造してナイトライダーのアレみたいにしました」
「古いネタだね・・・あ、でもデバイスと連結する車とかも作れそうだし、今ならありえない訳でも無いのかな」
「そういえばそうですね」

 仕事も終わった夕方。私と杏はのんびり歩きながら家に向かいつつ今日の事を色々話していた。
 あの後仕事を再開した私に杏も着いて来て、今度はペース配分を考えながらすぐに疲れない様に手伝いをしてもらった。結局数時間でへばっちゃったんだけどね。
 その後杏はのんびりと店内で休んでたみたい。アリサとすずかは大学に戻ったみたいだったけど、なのはとユーノも一緒にのんびりしてたみたいだから暇ではなかったと思う。

 それにしても、杏が自分の力だけで普通に歩いているのを見ると違和感が凄い。もう慣れてもいい頃じゃないかと思ってるけど、そんな簡単に認識は変わらないって事が良く判った。
 今の杏は素直だったり甘えてきたり可愛かったりで凄く、凄くイイんだけど・・・やっぱり私はいつもの杏が好きかな。
 うん、家に帰ったらアリシアに頼んで催眠を解いてもらおう。催眠解いたら杏がどんな反応をするかちょっと心配だけど・・・

「とりあえず今日催眠解いて貰おうと思ってるけど、それまでに何かしておきたい事ってある?」
「そうですねぇ・・・」

 歩きながらボーっと宙を見つめる杏。転ばないかちょっと心配になったけど、流石に大丈夫だよね?

「あっ」
「っと、大丈夫?」
「す、すみません・・・」

 大丈夫だと思ってた先から杏が転びそうになった。注意してたから何とか支えるのが間に合ったけど・・・やっぱり完全に自分の力で歩くのに慣れてないのかな?
 今更だけど結構問題だよね。催眠を解いた後でも何とか自分で歩く様に言ってみる方がいいかな?

「フェイトさん」
「なに?」
「その、いつも色々とありがとうございます」

 え?どうしたのいきなり?

「ほら、今までこうやってちゃんとお礼した事ありませんでしたから」

 そうだったっけ?でも、別にお礼なんてされる様な事はしてないと思うけど。
 むしろ杏のおかげで私はアリシア・・・姉さんと母さん、リニスとアルフの皆と一緒に居られるから、感謝するのは私の方だと思う。あの時に何度もお礼を言ったけど、今でもその感謝の気持ちは変わらない。

「いえ、私もあの時フェイトさんと出会わなければ今みたいにはならなかったと思うんです。それに一緒に生活する様になってから毎日美味しい御飯とかも作ってもらって・・・そもそも私はフェイトさんと友人にならなかったら、こんなに楽しい人生を歩む事は無かったと思います」
「うーん・・・出合った事に関しては私にお礼を言う必要は無いよ?友達になったのは、私も嬉しかったからお互い様だし」
「でもお世話になってるのは確かです。・・・ほら、私って面倒くさがりな上にあまり素直じゃない部分もありますから。今のうちに今日までの事でお礼を言いたかったんです」
「杏・・・ふふっ、確かに、面倒だって言って誤魔化したりする事もあったもんね」
「フェイトさんには殆どバレてると思いますけどね」

 そうだね。ずっと一緒にいるから、何となくわかるよ。今の杏はいつもより素直すぎてちょっとわからない部分もあるんだけどね。
 そういうと、今は仕方ないです、と杏は笑った。

 空を見上げると綺麗な夕日。何時の間にか杏の家がもう見える所まで来ていた。
 もうすぐで今の素直な杏とはお別れだなぁって考えながらそのまま歩いていると、杏は私の名前を呼んで立ち止まった。

「で、その、これからも色々と迷惑かけたりすると思いますけど・・・これからも一緒に居て下さい」

 今まで見た事の無い程に優しく穏やか微笑みを浮かべている杏。夕日に照らされているせいか、それとも別の理由からか、その顔は赤く染まっていて・・・それでも杏はしっかりと顔を上げて私の目を真っ直ぐに見つめてくる。
 普段は幼い子供にしか見えない杏が、この時は少しだけ大人っぽく見えた。

「・・・杏、それってプロポーズみたいだね」
「えっ?・・・あ、いえ、違いますよ!?そういう意味じゃ無いですからね!?」
「あはは!冗談だよ。ちゃんとわかってるから」
「フェイトさぁん・・・そういうのは止めてくださいよぅ・・・」

 何だかちょっと恥ずかしくなって、冗談で誤魔化してしまった。それくらいさっきの杏は綺麗に見えた。

「・・・一緒だよ」
「え?」
「これからも一緒だよ。勿論、誰か好きな人が出来たりとかしたらどうなるかわからないけどね?」
「あー・・・でも、私もフェイトさんもそんな人は出来ない気がします。なのはさんとユーノさんはともかく・・・」
「・・・うん、そういえばそうかも」

 それはそれでどうなんだろうと、ちょっとだけ微妙な気持ちになった。私達って全然出会いの無い生活してるもんね。私はまだ翠屋で働いてるからともかく、杏は全然だし・・・
 でも杏はそういうのにあまり興味が無いみたいだから、気にしなくてもいいのかな?

「・・・とりあえず、帰って催眠解いて貰おっか」
「そうですね」

 そして私と杏はゆっくりと歩いて進み、自宅のドアを開いた。

 その後の事。
 アリシアに催眠を解いて貰った杏は今までの事を思い出して軽く悶えた後に、アリシアに報復と称して色々とイタズラをしていた。
 当然ながらアリシアは逃がして貰えずに擽られたり変な踊りを踊らされたり足の小指を刺激されたりで大変そうだったけど、私はとりあえずスルーして夕飯の支度を開始。
 そして母さん達も帰ってきて、気が済んだらしい杏と疲れきった杏を見て状況を理解したらしく笑っていた。

 さあ、皆揃ったし、晩御飯を食べよう。
 
 
 
「うん、やっぱり美味しいですね」
「ありがと杏」
「・・・ねえ、杏の催眠は解いたのよね?」
「アリシアちゃんがきちんとやったなら解けてるはずですよ?自分ではわかりませんが」
「ちゃんと解いたけど・・・何で杏お姉ちゃんはフェイトの膝の上に座って食べてるの?」
「あっ・・・そういえば」
「ぜ、全然違和感を感じてませんでした・・・」

 催眠、解けてるよね?


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