文字通りコーヒーブレイクでなんとか落ち着きを戻したノエル。
というかさっきの興奮っぷりはビビったよ。
コーヒーが冷めるという説得でギリギリ理性を保っているみたいだ。
安心しながら一口コーヒーを含む。
む、このコーヒーかなり美味しいんじゃなかろうか。
普段はコーヒーなんて眠気覚まし位にしか飲まない様な俺の舌でも分かる。
バーチャルの世界とはいえなかなかやるもんだ。
コーヒーを見つめながらそんなことを考えているとウィンドウが開いた。
このコーヒー、アイテムなんだ。
喫茶店『Peaceful Time』オリジナルコーヒー
説明『喫茶店 Peaceful Timeのオリジナルブレンドコーヒー。重厚な味わいと爽やかな後味で人気の一杯。風抵抗+10、睡眠抵抗Lv1』
ちゃんと効果まであるのか。
でもこれどうやって戦闘する場所まで持って行くんだ?
テイクアウトとかあるのかな。
コーヒーを味わっているとすでに飲み干してしまったノエルがソワソワし始めた。
暴走する前に話を聞いておくか。
「大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だとも!万全の体調だよ!!」
うーむ、あまり大丈夫ではなさそうだな。
「えーっとさっきのは一体?」
「いやすまん。すこしばかり興奮してしまった。ところで先程のクラスの話なんだが」
この人どんだけマタタビ人間に喰いつくんだ。
「そんなに猫が好きなんですか?」
「いや別にそれほどでは」
「好きじゃないんですか?」
「好きじゃないわけじゃないというか」
「好きなんですね?」
「…スキデス」
やっと白状したか。
「違うんだ、聞いてくれ!私は確かに猫が好きだ。だが好きのレベルで言うと一般的な猫好きレベルだと思うんだ」
先程の醜態を見るに一般に収まる気が全くしないな。
あれが普通なら俺は猫嫌いに属してしまう。
「だが私は猫に好かれないのだ。いいや本当の事を言うと嫌われるといったほうが正しい。だからせめてもとアバターを猫系にしたんだ。それだけで私は満足だった。だが君は猫に好かれるクラスがあるといった!これに興奮しないで何に興奮しろというのだ!そうだろうイツカ君、私はなにか間違ったことを言っているかね!」
ぐっ、自分のセリフでボルテージを上げおった。
俺の襟をつかみ前後に激しく揺さぶる。
また一気にトップまでギアが入ってしまったな。
「ちょっ落ち着いて」
「落ち着けだと?十二分に私は冷静だよ!過去これほどまでに落ち着いたことなどないってくらいだよ!」
駄目だ、この人話し通じない。
どうにかせねば。
あ、そうだ。
「オープンステータスウィンドウ」
俺とノエルさんの顔の間にウィンドウが出現する。
近すぎて見難いがなんとかクラスを変更した。
すると先程まであんなに興奮していたノエルさんが少しずつおとなしくなってきた。
「だからぁわたしはぁれいせいなんですよぉ。なのでぇくらすのぉじょうほうをねぇ」
うーむ、マタタビ人間ってやばくないか?
プレイヤーにここまで効果でるって色々と問題がありそうな気がする。
後で公式にメールしといたほうがいいかもしれないな。
不具合かもしれないし。
「空いたカップをお下げしてよろしいですか?」
興奮状態が収まったと見てウェイトレスさんが食器を下げにきた。
あれ、このウェイトレスさんもライカンスロープだ。
「すいません、ちょっといいですか?」
「はいなんでしょう?」
「この辺なにか匂うというか香るというかそんな感じしません?」
「そうですね、甘い香りがしますね。少し香りがきつい気もしますけど不快な匂いではないですね」
「えーっと匂いを嗅いでもなんともないんですか?」
「ええ、別にコレといって」
「そうですか、ありがとうございます」
「いえ」
ふむ、ウェイトレスさんには特にそこまで効果はないようだ。
とするとこの目の前で机にのの字を書きながらなにかつぶやいている人は一体…
NPCとPCでは効果が違うのだろうか。
それともこの人が効果ですぎなのだろうか。
どちらかと言うと後者が望ましいな。
取り敢えず落ち着いただろうからマタタビ人間を解除しよう。
「なぜわたしはねこたちにきらわれるんだぁ。なにがわるぃ…ん?」
どうやら効果が切れたようだ。
「大丈夫ですか?」
「…」
「あのー?」
「つまり話を総括するとだなそのクラスの情報を是非とも教えてもらいたいということだ」
この人無理矢理話しを修正しおった。
今までの事はなかったことにするつもりだろうか。
「まぁそこまで猫が好きって言うなら教えてあげますよ。俺も猫好きですし」
「ぜひ頼む」
ノエルにペット捜索の依頼の話をざっと話した。
「ふむ、つまりは依頼の成功報酬だったのかな?」
「んー多分そうなのかなぁ?スキルみたいに取得状況がでてるわけじゃないんで合ってるかどうか分からないですけどね」
「その依頼がまた出るのをまつか…しかしそれがユニーククエストだった場合…」
完全に自分の世界に入ってらっしゃる。
情報交換も終わったしそろそろお暇するかな。
「じゃあそろそろ俺は」
「待った!PTの件の返事をもらっていない」
そういえばそんな話しだったな。
完全に忘れてた。
「なんで俺なんです?別に俺そんなに強くないですよ?たぶん」
戦闘経験が0なので強いとか弱いとかそういうレベルではないかもしれない。
「全然かまわない。声をかけたのはほとんど偶然みたいなもんだしな。自分で言うのも何だが私は結構強いと思う。魔法使いという職なので詠唱する時間を稼いで貰えればよいのだよ」
うーむ、つまりは壁役が欲しいというわけか。
「それに君といれば猫系のモンスターが出てきたらもしかしたらなでることができるかもしれないし…」
「え?何かいいました?」
「いっいや別に何も?」
「うーん、でも全然知らない人とPT組むってのもなぁ」
「ネットゲームじゃそんなに珍しいことでもないと思うがな。そうだ、それならば一度PTを組んで狩りをしてみないか?それで相性がよければ一緒にランクアップクエストに挑戦する」
「そうですね、じゃあ一度狩りに行ってみますか。どうせ狩りするんですからギルドで依頼も受けておきましょう」
喫茶店を後にしギルドへと戻る。
掲示板に貼り出されている依頼を確認する。
「うーん、どれがいいですかね。強くない初心者向けの依頼がいいんですが」
「猫系…猫系…猫系…」
「あっあのーノエル聞いてる?」
ノエルは完全にあてにならないな。
2,3枚依頼書を手に取り見比べていると突然ノエルが声をあげた。
「あった!これだ、これ」
依頼書を俺の方に見せつける。
えーっとなになに?
依頼:モンスターの討伐
依頼主:ルクソール地方領主
依頼内容:コムオンボ大荒野の主アロンダイト タイガーの討伐
報酬:500000Gold
ランク指定:B
ギルドポイント:5
ビシッ
「痛い、何をするんだ」
「こんな依頼返してらっしゃい!」
「なんでだ、素晴らしい依頼じゃないか」
「ノエルの頭の中は猫しかないのか?そもそもランク指定Bって受けられないじゃないか」
「ハッ!しまった」
「だから早く返してらっしゃい」
ノエルは残念そうな表情で掲示板に依頼書を戻す。
あの人猫好きすぎだろ。
また変な依頼持ってくる前に決めてしまおう。
よし、これでいいや。
依頼:素材採集
依頼主:料理屋店長 グレイシス
依頼内容:タイニー ボアの肉を納品
報酬:1000+α
ランク指定:なし
ギルドポイント:5
「ちょうどいい依頼があったから受付通してくるねー」
未だに猫猫言いながら掲示板を見ているノエルを置いて受付に向かう。
依頼の受注を済ませ入り口で佇んでいるノエルの元へ向かう。
「受注してきたよ。このまま向かおうかと思ってるけど準備とか時間は大丈夫?」
「平気だ。君とギルドであったときクエストを受けようと思っていたから準備は終わっている」
俺も前回の依頼でまったく消耗していないから特に問題はない。
強いて言えば矢を一本消費したぐらいか?
「俺も準備できているからこのまま行こうか」
2人で連れ立って歩く。
「依頼主との待ち合わせは何処だ?」
「えーっと南区の料理屋Old Windだって」
依頼書の地図を見ながら南区を歩いていると飲食店が並んでいる一角に目的の店はあった。
ドアを開けて入ると中は喧騒に包まれていた。
ノエルとどうしたらいいのだろうかと立ち尽くしていると店員さんに声をかけられた。
「お客様は2名様ですか?」
「客じゃなくて冒険者ギルドの依頼で来たんですけど」
「あ、冒険者さんでしたか。少々お待ちを」
店員さんは厨房の方に歩いていった。
当たりを見回すとNPCだけでなくPCも結構食事をしていた。
この盛況っぷりからすると美味しいんだろうな。
今度食べにこよう。
「すいません、お父さんちょっと今手が離せないようなので私がお話させてもらいますね」
「はい、わかりました」
「依頼内容なのですがタイニーボアの肉を取ってきて下さい。数は最低10個はお願いします。10個を超えた分については5個ごとに250ゴールド報酬とは別にお支払いします。明日の仕込みに必要なので朝までには持ってきてくださいね。何か質問はありますか?」
「タイニーボアって何処にいるんです?」
「そうですね、南門から出て南西に進むとあるリカベトスの丘にいるはずです」
「わかりました、じゃあ行ってきますね」
「はい、よろしくお願いします」
店員さんと別れお店を後にする。
歩きながら横を見るとノエルが楽しそうな表情をしていた。
「何か面白いことでもあった?」
「いや楽でいいなと思っていただけだ」
「左様ですか」
「PTで狩りするのも初めてだから楽しみだな」
俺は戦闘すらまだまともにしたことがないですけどねと心のなかで思った。
南門を抜けて南西の方角を見ると広大な草原が広がっていた。
うーむ、少しワクワクしてきた。
今度こそまともに戦闘したいな!
スキル&アイテム変更なし
所持金1000Gold
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あとがき
なんというか猫一色
そろそろイツカにも戦闘させてあげたい
感想返し
>>雪林檎さん
猫だけじゃなくて猛獣すら手懐けられるなんて夢のまた夢ですね
ウンピョウとか撫で回したい!
魔法については今後どうなることやら
>>はきさん
おそらくノエルさんが酔いやすい体質なんでしょう
バグかもしれませんが
基本的にライカンスロープへの効果は好感度に+補正がランダムでかかる程度だと思います
>>通行人Dさん
ノエルはご想像通りの人物でした
猫に焦がれるあまり自身も猫化してるのかもw
武器購入の為に地味に依頼を受けてたりしたんですよ
肉体労働系ばっかりを!
>>妄想EXさん
まっしぐらなPCでした
一応オープンβなのでおそらくその辺のシステムも設定不足なのでしょう
実際に存在したら色々と問題起こりそうですね
>>でろでろさん
このMMOの肝は多彩なクエストなので世界のすべてがクエストフラグ!
そんなゲームあったら何時までも楽しめちゃいますよね
ライカンスロープのイメージはクロノクロスのヤマネコくらいかな?
ただキャラメイク次第で人間に近づけたり獣に近づけたりできるとしておこう
感想・誤字報告ありがとうございます