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[19688] 【ネタ】無双を夢見て(リリカル×禁書 オリ主)
Name: 軟膏◆05248410 ID:f6516e4c
Date: 2010/06/20 16:08



※この話はオリ主が禁書の能力を持ってるだけで、禁書キャラは一人も出て来ません。







 彼は転生者であった。
 そして、彼が転生という摩訶不思議な体験をしたのにも、理由がある。
 今となっては前世と呼んで良い昔のこと、突然無人のトラックが突っ込んで来て、彼はあっさりと死んでしまったのだ。

「ごめん、間違って殺しちゃったからお詫びに転生させてあげるよ。
 ついでに何かすっげぇ能力とかもあげる」

「え、良いんですか? じゃあ禁書目録の一方通行アクセラレータの能力とかでも良いですかね?」

「いいよー」

 と、要約すればこんな事が、彼の身に起きたのである。
 神というものがこんな軽いノリのはずはなく、実際はもっと厳格なものであったのだが、ここでは割愛させていただく。
 彼も半ば冗談で言っていたのだが、神はそれを叶えてくれた。
 要は彼は転生したという事、そして不思議な能力を手に入れたという事を理解してもらえば、それで構わない。

 さて、彼に話を戻そう。
 彼は俗に言うところの、オタクと呼ばれる人種であった。
 熱しやすい気性であり、一度熱中すれば他の物はどうでも良くなってしまうような、そんな人間であった。
 欲しい物を見つければ、何としてでも欲しいと願う性格であった。
 尤も、盗んだり奪ったりといった、法に触れるような事はしていない。
 あくまで常識的な範囲での話だ。
 精々が、オークションで金に糸目を付けず落札したり、コミックマーケットに一週間前から準備をして待ち構える程度だ。
 それが他人の迷惑でないという保証は何処にもないが、正規の手段で手に入れる事が好きであった。
 マジコンなぞ邪道、と言い切り、不正規な手段で手に入れた物では、心底から楽しめないと理解していた。

 そして大半の一般人が抱いているイメージ通りに、アニメや漫画、ライトノベルといった物に彼は嵌まっていた。
 神という存在に出会った時に、一方通行という人物の能力を欲したのもこれが原因だ。
 人とは現実に無いもの、手に入らない物を求めたがるものである。
 空想のものであるならば、よりそれは顕著となるだろう。
 誰もが考えた事があるのではないだろうか?
 ドラえもんを例に考えてみよう。
 朝学校に行く時、会社に遅れそうになった時、どこでもドアが欲しいと。
 失敗した時、やり直したいと思った時、タイムマシンが欲しいと。
 そう願った事は無いだろうか?
 なんて事は無い。彼が一方通行という能力を欲したのは、その延長線上に過ぎない。
 一晩寝て、朝起きたら忘れる程度の、その程度の願望。
 ただ彼は好きだった本を読み終えて、さほどの時間が立たないうちに死に、偶々神と名乗る存在に出会っただけなのだ。







「うっ……ひっく……ぐす……」

 女の子が泣いている。
 長い黒髪をカチューシャで留めた、将来は美人になることを約束されたような少女だ。
 その彼女を背にして、転生して子供の姿となった彼が立っていた。
 女の子が泣いているのは、彼が泣かせた訳では決してない。
 彼女に涙を流させているのは、彼の前に立つ数人の男の子達だった。
 いかにもガキ大将といった風情の少年を中心として、数人の男の子達が取り巻きのように立っている。
 ガキ大将は不機嫌そうに彼を睨んでいる。
 女の子は赤くなった目を擦りながら、ガキ大将に懇願した。

「かえして……かえしてよう、わたしのぬいぐるみ……」

 ガキ大将の手には、子猫のぬいぐるみが握られていた。
 元は綺麗だったはずのふわふわとした白い毛並みは、今や所々が茶色く、小汚くなってしまっている。

「なあ、返してあげろよ。泣いてるじゃないか」

「うっせぇ! おまえにはかんけーないだろが!」

 ガキ大将は肩を怒らせて女の子を指差す。
 女の子はビクッと身体を震わせた。

「そのおんなは、おれたちのなわばりにむだんでしんにゅうしたんだぞ!
 だからこれはぼっしゅーしたんだ!!」

「そんな……わたし、そんなつもりじゃ……」

「ガキの癖に難しい言葉知ってんなぁ……」

 ガキ大将の子供らしい理屈に、彼は呆れた。
 ガキ大将としては言い分もあるのだろう。
 せっかく仲間内で楽しんでいた所を邪魔されたのだ。
 だが女の子としても、甚だ理不尽であろう。
 ただ歩いていただけで、聞いた事もない縄張りに侵入したなどと、言いがかりも良いところである。
 しかし、それが罷り通るのが子供の社会だ。
 先に決めた者が勝ちなのだ。

「ふぅ……ガキの相手も疲れるな……」

「なんだこいつ! えっらそうに!」

 やれやれ、と肩を竦める彼を見て、ガキ大将は激昂した。
 当然であろう。
 いきなり自分達の間に割って入り、生意気な事を言ったのだから。
 それだけで拳を振るうには十分過ぎる理由。
 彼は手に握り締めていた人形の事など忘れ、彼に殴りかかって来た。

(フッ、計画通り!)

 そんなガキ大将を見て、彼は心の中でほくそ笑んだ。
 彼が神から賜った能力、一方通行という人物が持っていた能力。
 その名を、『ベクトル変換』という。




 この能力を良く知らない人の為に説明しよう。
 彼が前世で読んでいたライトノベルの中に、『とある魔術の禁書目録』というものがあった。
 学園都市と呼ばれる学生たちが大半を占める街を中心とした、超能力と魔術が交差する小説である。
 そして、その中に出て来る一方通行アクセラレータという人物は、学園都市で最強と呼ばれていた。
 彼の持つ『ベクトル変換』は、身体の周りに張り巡らした膜に触れると発動する。
 運動量、熱量、電気量といった、ありとあらゆるベクトルを操る事が出来る能力だ。

 この能力に、彼は魅了された。
 あらゆるものを反射し、230万人も居る学生達の頂点に君臨していた彼の姿に、中二病を擽られた。
 故に、彼は神に頼む願いにこの能力を選んだ。
 パッとしない人生を送っていた彼にとって、無双する事が出来るというのはとても心惹かれたのだ。




 此処まで言えば分かるだろう。
 彼はこの状況に置いて、そのベクトル変換を使用するつもりだった。
 これがどういう事なのか、原作の一方通行を知っている者ならば、呆れる事だろう。
 この能力を使えば、子供が軽く小突いただけで、その子供は腕を折ってしまうのだから。
 よく考えずとも、いかに下種な行いなのかという事が理解出来る。
 子供同士の喧嘩に、バズーカ砲を持ち出すようなものなのだから。

 だがしかし、彼も多少の考えは持っていた。
 彼の持つベクトル変換、それは反射しか出来ない訳ではない。
 受け流す事も、衝撃を散らして無傷で受け止める事も出来るのだ。
 だからそれを使い、ガキ大将をこらしめようと考えていた。
 あわよくば後ろに居る女の子と仲良くなれるかもしれない、という打算も多少はあったが。

 聞けば、この街は海鳴市という名前であり、近くには聖祥大付属小学校という学校があるというではないか。
 前世で見ていた『リリカルなのは』の世界ではないか、という予想を彼がつけるのは容易かった。
 あるいは、その原型となった『とらいあんぐるハート』の世界かもしれない。
 超能力を持っている彼にとっては、どちらでも良かった。

 だから今回のこれは、その予行演習である。
 主人公陣と仲良くなれたら良いな、と考えていた彼だ。
 もし今回の事を何とかすれば、女の子と仲良くなれるかもしれないのだ。
 いずれ来る主人公達との邂逅を夢見ている彼が、ガキ大将を踏み台として利用するつもりだった。
 そんな下心満載で、彼はベクトル変換を使おうとしていた。

 なんて事は無い。
 色恋に目覚める程度にはマセていたが、彼もまたガキだったのである。





 だが、そんな彼の思惑はあっさり砕けてしまった。

「げふぅっ!」

「なんだこいつ! めちゃくちゃよわいぞ!」

 彼が頼みにしていたベクトル変換は発動せず、ガキ大将の拳は彼の頬にめり込む結果となった。
 倒れ込んだ彼を見て、ガキ大将が優越感に顔を歪める。

「な、なん──」

「はをくいしばれよさいじゃく。おれのさいきょうは、ちっとばっかひびくぞぉ!」

「ぐはぁっ……」

 あわれ、ヒーローにのされる怪人の如く、彼はあっさりとやられてしまった。

「つまんね。いこうぜみんな!」

 殴って気が済んだのか、意気揚々と仲間を引き連れ引き揚げて行くガキ大将を、彼は地に伏したまま見上げるだけだった。
 原作の一方通行と奇しくも同じく、右手に殴り飛ばされて彼はダウンする事になるのだった。






 何故能力が発動しないのか?
 これは『とある魔術の禁書目録』を読んだ人ならば、すぐに分かるだろう。
 この話の世界に置いて、超能力とは科学によって人工的に生みだされたもの。
 そして、強い能力を使うためには、それ相応の努力が必要となる。
 そう、超能力を使う為には、『演算』をしなければならないのだ。
 計算では無く、演算である。
 これだけで既に、彼の何が駄目だったのかが分かるだろう。

 そう、彼は頭が悪かった。
 悪いといっても、中二病を拗らせてはいるものの、彼が人並み外れて馬鹿という訳ではない。
 比べる相手が悪かっただけだ。
 スーパーコンピューターと同等の演算能力を持つ一方通行だからこそ、ベクトル変換は使えるのだ。
 学園都市最強の能力は、学園都市最強の頭脳があってこそ生きるのだという事を、彼は失念していた。
 文系である彼に、理系の最高峰の頭脳の結晶であるベクトル変換など使いこなせる筈もなかったのだ。



『ざまぁwww』



 そう言って笑う神の姿が目に浮かぶようだ。

「くそっ……」

 身体は子供とはいえ、中身はそれなりの年齢である。
 幼稚園児に殴られて負けたというのは、かなりの精神的大ダメージであった。
 おまけに能力が使えない理由が、自分の頭の悪さだというのだから救えない。

「……」

 失意の内に立ち上がった彼は、ガキ大将が投げ捨てて行った子猫のぬいぐるみを目にした。
 無言で拾い上げ、汚れた身体をはたいてみる。
 思いの他、泥汚れは頑固だったようで、その程度では汚れが落ちる事は無かった。

「ね、ねぇ……」

「え……あっ……」

 泥にまみれて、まるで俺みたいだなははは、と自嘲の笑みを浮かべていた彼の前に、女の子が声を掛けて来た。
 何故? と一瞬思った彼だったが、手に持った子猫のぬいぐるみと少女を交互に見比べ、ハッと気が付いた。
 自分はこれを取り返すために殴られたんだった、と。
 殴られる気などさらさらなかったせいか、すぐにその事に結び付かなかったのだ。
 同時に、今更ながら全てを見られていたのだと理解し、かぁっと顔を赤くした。
 乱暴に押し付けるようにして、ぬいぐるみを女の子に渡す。

「あ、あの……ありが──」

「ちくしょおおおおおおっ!!」

 少女がお礼を言おうと口を開いた事にも構わず、最後まで聞く事無く彼は走り去った。
 前世を含めても無かったほどの、あまりの惨めさに耐えられなくなったのだ。






 これが、四歳の頃の事である。








 そして三年後。
 七歳となった彼は、何故か私立の清祥大付属小学校に通っていた。
 転生した先の新しい家庭が、特に裕福でないにも関わらず、だ。
 まるで誘蛾灯に惹かれる虫のようだ、と清祥に通う事を知った彼は思った。
 そこに嬉しさなどはない。
 本来オリ主となった彼ならば、頭脳明晰、運動神経抜群といった誰よりも目立つ事が出来たであろう。
 あるいは、小学生とはいえハーレムを形成する事も出来たかもしれない。
 だが今の彼は、既に以前の彼とは変わり果てていた。

「サイン? コサイン? タンジェント? ……なんだこれ、どこの呪文だ」

 ブツブツと鬱憤を洩らしながら、彼は説明を読む。
 休み時間になっても参考書を読み解きながら問題を解いていく彼に、近寄ろうとする者は居ない。
 否、最初は居たのだ。
 だが彼と話が合う事は無く、彼もまた、話を合わせようとする努力をしなかった。
 そんな訳で彼の周りは、小学生のクラスでありながら驚くほどに静かであった。
 精々が、彼の周りの静けさを利用して、読書に励んでいる生徒が一人二人とちらほら居るだけだ。

 授業中でも態度を変える事は無く、彼は黙々と自主勉強に励んでいた。
 唯一真面目に先生の話を聞くのは、さんすうとりかだけ。他の時間は全て勉強に当てている。
 これには教師も頭を抱えた。
 勉強をしたくない子供はたくさんいる。
 そんな子供たちに授業を真面目に聞いてもらい、楽しく勉強をしてもらおうとする手段は持っていた。
 だが自分から進んで勉強している彼を止めるのは難しい。
 まさか教師が勉強を止めろと言えるはずも無い。
 授業を真面目に聞いていないのか、と彼に問題を解かせてみても、彼はあっさりと答えてしまう。
 確実に授業の内容を理解したうえで、授業の時間を自主勉強に当てているのだ。

 何と嫌な子供であろう。
 教師からすれば、手の掛かる子ほど可愛いというものだ。
 だが見た目からすればマセ過ぎていた彼の存在は、教師にとっては気苦労が絶えなかった。

「ねぇ、皆と遊ぶ気は無いの?」

「時間がもったいないですから」

「そんな事は無いわ。皆と遊ぶのはとても楽しい事なのよ」

「今は勉強しなければならないんです。脳細胞が若いうちに、出来るだけの事をしないと」

「確かに大人よりも子供の方が物覚えは良いけれど……」

「分かっているなら放っておいて下さい。
 外で遊ぶのが好きな人もいれば、中で本を読むのが好きな人だっている」

「じゃあお友達はいないの? 一緒にお勉強したりするような」

「居ません」

「あ、じゃあ私が君の友達になってあげる!
 ちょっと歳が離れてるけど、私と一緒にお勉強しよう?」

「必要ありません」

(この糞餓鬼が……)

 何とも嫌な会話だ。
 これが教師と小学一年生の会話であろうか。
 教師が笑顔の裏に黒い感情を秘めていても、何処吹く風とばかりに話を聞き流している。
 にべもなく断る彼の事など、もう放っておけば良いと、他の教師は言う。
 だがそれでも、担任である教師は諦めはなかった。
 自らのプライドに掛けて、意地でも彼に子供らしい事をさせようと執着していた。

 勉強をする。
 それは学生の本分としては間違ってはいないものの、子供の基準からすれば激しく間違った道を彼は突き進んでいた。







「勉強をしよう」

 それが、彼の出した結論だった。
 ベクトル変換を使うためには、理数系の力が絶対的に必要である。
 能力を使うための計算式は頭に思い浮かぶものの、その計算が彼には出来なかったのだ。
 文系であった彼だが、子供の内から勉強すれば何とかなるかもしれない。
 故に、彼は勉強する事を決意した。

「くそ、微積難しい。確率も難しい。こんなんで本当に大丈夫なのか?」

 愚痴を零すものの、頭の中の知識はそれが必要と言っている。
 だがしかし、普通の高校生レベルの問題など、能力を使うために必要なレベルの一割にも満たない。
 とても可哀想な事だ。

「ほら、高町さんとか、バニングスさんとか頭の良い子もいっぱい居るのよ。お友達になる気は無い?」

「え? なのは? もうどうでも良いですそんなの。
 この間中庭で取っ組み合ってるの見ましたけど、良く見たら俺の好みじゃなかったし」

「あうう……」

 ガキ大将に負けた時から、彼は勉強を続けて来た。
 最早意地と言っても良いくらいに、能力を使えるようになるために没頭して来た。
 そんな彼にとって、今やなのはなど、ただのクラスメイトであるだけの、どうでも良い存在になっていた。
 テストだけは真面目に受けているから頭脳明晰だが、他の事はからっきしだった。
 引き篭もって勉強しているから身体は弱いままだし、会話能力が上昇する事もない。
 ハーレムなど夢のまた夢だろう。

 だがもう、そんな事はどうでも良くなっていた。
 この世界の危機も、主人公達と仲良くする事も、自分が目立つ事さえもどうでも良くなった。
 ただ、ベクトル変換を使うために。
 ただ、彼が自己満足をするために。

「畜生……」

 愚痴を零しながら、今日も彼は勉強するのだった。






 いつの日か、無双する事を夢見て。








「ねえ、そんなに勉強して、いったい何になりたいの?」

「大した事じゃありません」

「え、なに?」

「本当に、大した事じゃないんです。俺は──」

 教師のこの問い掛けに、彼は珍しくペンを置いて語った。
 子供らしい、無邪気な笑顔で。






「俺は、ヒーローになりたいんですよ」










あとがき
息抜きに書いてみた。
一方通行の能力を貰っても、頭が悪いからこうなるんじゃないかなぁって思う。
まあオリ主が真面目に勉強するはずないだろ、とも思うけど。



[19688] 一年生──1
Name: 軟膏◆05248410 ID:f6516e4c
Date: 2010/07/10 22:24





 とある少女Aの証言

 え、鈴科?
 あたしに聞かれても、あいつの事なんて何も知りませんよ。
 でも……そうですね。
 あいつの事をどう思ってるのか? って聞かれると、やっぱりこれしかないですね。

 ガリ勉。

 好きでもないのに勉強してるって感じがします。
 だっていつも、つまらなそうに問題解いてるじゃないですか。
 勉強が好きならそんな顔するはずないし、先生の話もちゃんと聞くはずでしょ?
 でもあいつはそうじゃない。
 他人の話が耳に入らないくらいに他に何もないから、勉強にしがみついてるんじゃない?
 テストで良い点取って、あたしたちを見下したいんでしょ。
 確かに今はあいつが一番かもしれないけど、そんなのすぐに他の誰かに抜かれるに決まってるのに。
 それにガリ勉って言葉通りに、あたしたちより軽いでしょって位に、見た目ガリガリに痩せ細ってるもの。
 男の子がそれって、どうなの?

 つまんない奴よね。






 一年生──1






 彼は、なぜ能力を使用出来ないのか。
 それを考えたとき、必ず当たる壁というものがある。
 まぁ壁と言っても、そんな大層な物ではない。
 ただの言い訳だ。

 第一の問題、開発の有無。

 『禁書目録』の世界において、能力とはその大半が人工的に作り出された物。
 彼の知る現実とは異なっていようと、科学的に実証されている以上、彼が能力を使えないというのはおかしな話だ。
 演算能力が足りないと言っても、それで彼が使えないはずがない。
 百万人を超える能力者達、彼らは全てが学生である。
 そんな学生の彼らが、全員が全員、最初から数字に強かっただろうか?
 全員がコンピューターのような正確な演算を必要とする環境にあっただろうか?
 答えは否である。
 突発的に生まれる原石ではない、人工的に生み出されるモノである以上、そこには必ず過程が存在する。
 そしてその過程こそが、“開発”と呼ばれる作業の存在。

 薬物の投与。催眠術。そして電極を使用した脳への刺激。

 そんな人間をモルモットとして扱うのと同等の行為の末に、彼らは演算能力を手にし、超能力を手にする。
 それは一方通行とて例外ではない。
 故に、そんな開発を受けていないために演算能力を手に入れる術がなく、彼は無様に地を舐める事となったのだ。


 第二の問題、神の真偽。 

 彼は神の能力によって、超能力を付加され、この世界へと転生する事と相成った訳だ。
 だが少し待って欲しい。
 彼をこの世界へと送り込んだ存在。
 彼の存在は、果たして本当に神であろうか?
 そもそも、彼が目の前に現れた神という存在を信じたのは、神がそう名乗ったからだ。
 だがそれが本当である保証などどこにもない。
 彼を殺し、能力を与えると甘い言葉を囁いた存在。

 そんなものを、神と呼んで良いのか?

 あるいは、悪魔と呼ばれる存在であったのではないか?

 だとすれば、彼が能力を使えないのも分かる気がする。
 能力を与えると喜ばせておいて、絶望を味わわせる。
 『禁書目録』の世界に送れば良いものを、関係のない世界に送り込んで可能性を潰す。
 そういった事をしておいて、嗤っているのではないか。
 何も誇れる所など持っていない、少なくとも自称神が目を付けるべき長所を持ち得ない彼を選ぶ事など、それ位しかない。
 神が本当に間違えて彼を殺して、反省してお詫びとして能力を与えて転生させた。
 それより彼が足掻く様を見て、酒のつまみにでもしていると考えた方が、余程納得がいくというものだ。

 だが、彼の存在が神か悪魔かなど、彼には判別などつかなかった。
 そもそも、歴史上は悪魔よりも神の方が、その名の下に多くの人を殺しているのだ。
 そう考えれば、彼をこの世界に送り込んだのが神というのは、正しい事なのだろう。

 結局、どちらが、あるいはその両方が原因なのか、という事はさして問題ではない。
 長々と語った所で、彼が能力を使えるようになる事は無いのだから。
 最初に言ったとおり、これはただの言い訳なのだ。

「とどのつまり、俺が不甲斐無いのが駄目なんだよな」

「え? どうかしたの?」

「何でもないですよ、先生」

「むぅ……」

 独り言に問い返して来た教師に対して、彼は手を振って何でもないと言った。
 しかし教師は彼の言葉に納得がいかなかったのか、う~んと首を傾げる。

「でもさ、鈴科君」

「なんですか、もう。勉強させて下さいよ」

 鈴科と呼ばれた彼は、迷惑そうに溜め息を吐いて、教師の顔を見上げた。
 幼い彼の身体は、見上げなければ大人である彼女と顔を合わせる事が出来ない。

「君が何に悩んだりしているのか分からないけど、困った事があったら相談してくれていいんだよ?」

「それは……俺の父がこの学校の理事長と懇意にしてるからですかね?」

「違うよ。ってか、今初めて知ったよそんな事。その程度で贔屓とかするつもりないけどね、私は」

「そうですか」

「勉強したいって言うなら私も教えるよ。これでも先生やってるんだし」

「同情ですか?」

「違うったら! もう、何でそんなネガティブな考え方するかな……」

「ポジティブに考え過ぎて痛い目を見た事がありますからね」

 そう言った彼の心には、三年前のあの出来事が去来していた。
 もっと冷静に考えていれば、あんな不様な姿を晒す事は無かっただろう。
 初めて使うのは誰かの前で目立つ時だ、と変なプライドなど持たなければ良かったのに。
 お陰で大恥を掻く事になった。

 まぁ、傍から見れば、こう言った事は良くある事ではないだろうか。
 事情を聞いた大人も、微笑ましい目で見て来るレベルの、大した出来事ではない。
 事実、彼自身、ガキ大将に復讐したいなどとは思っていない。
 あの時殴られたのは、あくまで切っ掛けだ。
 今彼がこうなっているのは、他ならぬ彼自身の問題なのだから。

「ポジティブ良いじゃん。ネガティブになってる今の君よりは好きになれそうだよ」

「教師がそんな事言って良いんですか?」

「君にそんなの取り繕っても無駄っぽいからね、素で話すよ」

「嫌いで良いですから、そっとしておいて欲しいんですけどね、俺は。
 先生のエゴに付き合わされたくないし」

「エゴでもなんでも、私は子供がバカみたいに笑ってるのが好きなの。
 それなのに、何? 君は全然笑わないし、その上眉間に皺寄せちゃってさ。
 似合ってないんだよ、このぉっ」

「いてっ」

 彼の顔に手を伸ばした教師に、ビシッとデコピンされて、彼は額を押さえて教師を見上げる。

「ほら、そんな顔も出来るんじゃんか。涙目になってるのはこう、そそられる物があるね」

「……変態」

「ちょっとしたジョークじゃん。
 ……ねえ、鈴科君。私は大人で、君は子供だ。
 頼り無くても、ちょっとは信じてくれても良いんじゃない?」

 そう言った教師にジッと見つめられ、彼ははぁ、と溜め息を吐いた。

「……まあ良いですよ。どうせ今だけですしね」

「あ、言っとくけど、来年も君の担任は私だからね」

「は?」

「君みたいな問題児、他の人には任せられないしねぇ。
 君が意地でも笑わないってんなら、六年間ずっと一緒だって覚悟した方が良いよ?」

 彼は無言で天を仰ぎ、嘆息した。
 灰色の天井と、乳白色の蛍光灯の光しか、そこには見えなかったが。




あとがき

まさかこんなに感想が来るとは思っていませんでした。
続きを望まれる方が多かったので、書いてみました。
他にも書いているものがあるので偶にしか更新出来ないと思いますが、ゆっくり書いていこうと思います。

この話は、神様から能力もらったけど、使う機会がほとんど無い話になりそうです。
名も無き教師とのんびり会話して、彼が更生出来るかどうかといった感じ。
もし能力が使えるようになったらバトル物になるかもしれませんが。

あ、それと名前は鈴科になりました。
名前の元ネタは禁書読んだ事があれば分かると思います。
下の名前はまだ未定。



[19688] 一年生──2
Name: 軟膏◆05248410 ID:f6516e4c
Date: 2010/07/20 00:17




 現世にて、鈴科という名で呼ばれるようになった彼。
 最初の頃、彼は勉強をしようとは思っていなかった。
 何故か?
 それは最早言うまでもないだろう、自称神によって授けられた能力があったからだ。
 だが今持って彼はその能力を使いこなせているとは言い難く、それ故に勉強するという結論に至ったのだが。
 正確には彼が与えられた能力は、ベクトル変換だけではない。
 ではここで、彼が授けられた能力を改めて説明しよう。
 彼が望んだ、一方通行との違いを含めて。






 一年生──2






 彼が与えられた『ベクトル変換』、その使いようは多岐に渡る。
 元ネタとなった『禁書目録』の一方通行は、攻撃を反射させるのみならず、風のベクトルを操りプラズマを形成したりもした。
 相手に触れれば血流を逆流させる事も、生体電気を操り電気信号を狂わせる事も可能だった。
 そして、彼もまた、それを行おうとすれば理論上は出来ない訳ではない。
 ……途方もない時間が掛かるが。
 もし彼が敵の攻撃を反射するなら、時間でも止めて演算するしかない。
 常に値の変動するベクトルを操作するには、彼の頭脳では間に合わないのだ。

 唯一足りない演算能力以外は、全てが揃っていた。
 ベクトル変換の能力。
 能力を発動するための知識。
 そして演算のための公式を組み立てるための『目』。
 それらを、彼は特別に与えられた。
 当然だろう。
 ベクトル変換の能力のみを貰っても、発動する方法を知らなければ使う事は出来ないのだから。

 脳にインストールされた知識を引きだし、目によって演算式を組み立て、ベクトル変換を発動する。
 それが彼の所有する能力の使い方だ。
 全てがベクトル変換に通じるための能力だが、それ単体でもこれらの能力は使える。

 脳にしまわれている物理学や生物の知識は、この世界の誰よりも豊富だろう。
 数学や物理、生物といったジャンルに限った話ではあるが、難関大学の入試でさえ、満点を取る自信があった。
 彼はまだその知識の全てを見た訳では無いが、おそらく未だ発見されていない法則すら詰め込まれているだろう。
 そしてこの膨大な知識は頭にインストールされていて、彼はその知識を忘れる事が無い。
 ある意味、ベクトル変換よりも羨ましがられる物だ。
 細かい理屈は彼自身理解していないが、既にそういうものだと諦観していた。

 そして二つ目、演算式を組み立てる為の『目』。
 これは目と言う言葉を使ったが、実際に彼の眼球に仕掛けが施されている訳ではない。
 魔眼といった中二病的なアイテムではなく、一種の超感覚と言って良い。
 これもまた、能力を使うための補助として与えられたものだ。

 例え話をしよう。
 指先に水を一滴垂らしたとする。
 そうした時、本物の一方通行であれば、その水を反射して弾く事が出来る。
 ではその時、いったいどんな力が働いているだろうか?
 どんな演算をすれば、水を反射出来るだろうか?
 例えば重力や抗力。
 或いは水の表面張力や分子間力。
 はたまた水の温度や重量さえも考慮に入れて、演算しなければならないだろう。

 彼の『目』は、それらの働きを感知する。
 これによって、半ば自動的にベストな公式を引き出す事が出来る。
 或いは一方通行も、開発によって似たような能力を持っていたのかもしれない。
 でなければ、目に見えないような能力すらも反射出来るとは言い難いからだ。

 長くなったが、これが彼が現在持っている能力である。
 演算能力がないためにベクトル変換は使用できないが、残りの二つを使って勉強に励んでいる状態だ。
 これだけ揃っているなら演算能力も付けて欲しかった、と彼は愚痴を零すが、既に後の祭りである。
 自称神は転生時に手は出しても、その後関わるという事はしないそうだから。

 ちなみに、ここまで来ると最早別物であるが、彼は自身の能力をベクトル変換だと頑なに言い張っていたりする。
 尤も、友人も居ない、家族にも秘密にしている――話した所で子供の妄想だとしか思われない―─彼に、言い張る相手など皆無なのだが。






 放課後、誰も居なくなった教室の中、鈴科とその担任である先生が向かい合って座っていた。
 先生の手には一枚の紙切れが握られている。
 彼女はその紙に書かれた内容をじっくりと、眉を顰めながら読んでいた。

 気難しそうにしている先生とは対照的に、鈴科はクルクルと器用にペンを回していた。
 回り続けるペンを一瞥する事もなく、彼は目を閉じ、空いた手で目と目の間を揉み解す。
 鈴科の眉間には、小学生らしからぬ皺が刻まれていた。

 やがて、何度目か分からない見直しを終えた先生は、感心したように、ほう、と息を吐いた。

「でも鈴科君、君ってやっぱり凄いよ。
 試しにやらせてみたけど、まさか本当に六年生までの問題が解けるなんて」

「もっと上の問題でも大丈夫ですけど」

 先生が手に持った紙をひらひらと揺らしながら、鈴科に見せつける。
 そこには百問近い問題がびっしりと書き込まれていた。
 そして鈴科の書いた解答もまた、解答欄に空白を作る事無く埋められていた。

「しかも満点だし……」

「一問目に『1+1=』って書いてあるのを見た時は、舐めてるのかと思いましたけど」

「君まだ一年生だし、そんな問題が出るのは当たり前でしょ。
 六年生の問題だって、解けるとは思ってなかったんだよ?
 計算だけが得意ならと思って、文章問題多くしてわざと読めないようにしたのに解いちゃうしさ……」

「意地が悪いですね、先生……」

「これで天狗の鼻が折れると思ったんだけどなぁ……」

 先生は頭を抱えて、鈴科に解かせた問題をもう一度見直す。
 そこには赤い丸がずらりと並んでいて、バツは一つもない。
 不真面目な鈴科を容認する事は出来ないが、実力は認めざるを得ない。
 そういう感情が、彼女の顔にはありありと出ていた。

「どうして一回流し見ただけで問題解けるかなぁ……。
 こんなに問題量があると、私でもちょっと手間取るんだけど」

「問題読んだら公式が頭に浮かぶんですよね、俺」

「何それズルイ! 私は小学生の頃すっごく苦労したのに!」

「俺に言われても……」

「ねぇいったいどんな勉強してんの、お姉さんに教えなさいよ」

「(うざ……)先生って、キャラが安定しない人ですよね……」

「感情表現が豊かなだけだよ!」

「物は言いようですね。……家ではインド式計算とかやってるんで、それが原因じゃないですか?」

 うんざりしたように鈴科が言った。
 まさか神様に能力を貰ったから解けるんです、なんて言えるはずもない。
 そんな事を言えば、即座に頭を疑われるのがオチだ。
 尤も、別に能力など無くても、前世で一度勉強しているので、小学生レベルで躓く事は流石に無い。
 計算速度に関しては、インド式計算方法を並行して練習している。
 本物には遠く及ばないだろうが、数桁の掛け算程度なら数秒で解けるようにと勉強していた。
 地道な勉強のお陰だ、と鈴科が言うと、なるほど、と先生は頷いた。

「やっぱり裏技なんて無いよね」

「教師が裏技に期待しちゃ駄目でしょうに……。
 確かに俺には他人よりアドバンテージがありますけど、それも勉強しなきゃ意味が無いんですよ」

 彼の持つ能力ならば、勉強などしなくてもテストで点を取る事は可能だ。
 知識はあるし、式は『目』が組み立ててくれる。
 だがしかし、最後に計算するのは彼自身だ。
 そこで細かなケアレスミスをする事も、十分にあり得る。
 正しいか間違っているかを理解するには、やはり勉強しなければならないのだ。

「……ちょっと聞いて言い?」

「何ですか?」

「君が頭良いのは分かったけど、何でバニングスさんから目の敵にされてるのかが分かんないんだよね」

 先生が口に出したその名に、鈴科も聞き覚えがあった。
 アリサ・バニングス、原作キャラの一人であり、主人公である高町なのはの親友。
 彼の知識では頭が良く、気の強い性格で、良くも悪くもまっすぐな少女という印象だった。
 将来的には大成するだろうが、今は頭の良いだけのただの少女だ。
 中身は二十歳を過ぎている鈴科と比べると、詰めが甘いという面が否めない。
 そのせいか、彼女は鈴科に次いで二位の成績だ。
 しかし、それを殊更気にするほど、アリサ・バニングスという少女は器が小さくは無い。

「君、何かやった? バニングスさんのスカート捲ったりとか」

「してませんよ!」

 鈴科が、彼にしては珍しく語気を荒げて否定した。
 流石に、してもいない犯行を疑われるのは気分が悪い。

「だよねぇ。ごめん」

 先生も分かっていたのか、素直に謝罪した。
 元より彼がそんな事をするとは思っていなかったのだろう。
 スカート捲りに執着するような事は無かった。

「そもそも、俺とバニングスの間に接点なんて殆どありませんよ」

「君友達居ないもんね」

「放っといて下さい」

 先生が首を傾げているのは、そこだ。
 鈴科とアリサの間に、繋がりなど殆ど無い。
 それこそ学力で一位が鈴科で、二位がアリサと並んでいる程度でしかない。
 ならばアリサが、彼を気にする事も無いはずなのだ。

「じゃあいったい何が原因なんだろう? 殆ど無いってことは、ちょっとはあるんでしょ?」

「ありますけど……その少しの接点だって、一度向こうから話しかけられた程度です」

「それだ! その時に何かあったんだ」

「何かって言われても……」

 鈴科はアリサに話しかけられた時の事を思い出す。
 あれは確か、なのはとアリサが喧嘩をした末に友人となるイベント、その翌日の出来事だったはずだ。

「……鼻で笑われて、友達自慢されただけでした」

「は? 何それ」

「俺の方が聞きたいですよ、全く。最近の子供は何考えてるのか」

「……君も子供でしょうが。小学生の癖に、何子供とコミュニケーション取れない大人みたいな顔してるのよ」

「……俺にも色々ありまして……」

 物憂げに溜め息を吐く鈴科の横顔は、子供とは思えない大人びた顔をしていた。
 人生に疲れた大人のように、缶コーヒーでも啜ってるのが似合いの表情だった。
 痩せこけた頬が、更にやつれた印象を見る者に与える。

「……」

「……先生?」

「……ん? ああ、いや、何でもないよ。
 まあ何も起きて無いなら、今は見守るしかないか。
 バニングスさんがいったいどんな考えを持ってるのかも気になるし」

「バニングスに、何か変わった所でもあったんですか?」

「ううん。あるとしたら、以前よりも授業を真面目に聞いてるくらいかな。
 ……そういえば、以前の彼女は、授業中もどこか上の空だった事が多かったかな。
 つまんなそうに窓の外を見てて、勉強に身が入って無い感じ。
 真面目に聞いてくれない君と一緒だね。君ほどじゃないけど」

「ふぅん、なるほど……」

 頷いたものの、鈴科には違いなど分からなかった。
 そもそも彼は、授業などより自主勉強を優先していた。
 アリサに割く意識の余裕など無く、以前の彼女が授業中どうだったかなど知る由もない。
 授業を真面目に聞いていないという点では、彼女との共通点があるだろう。
 しかし、今は真面目に聞いているという話だから、最早共通点とも呼べない繋がりだ。

「バニングスさんを見てて思ったけど、あの子は裏表が無いね。
 気は短いけど、その分まっすぐで、陰湿な事は出来そうに無いタイプだ」

「よくは知りませんけど、それだけは同意出来ます」

 先生の見立ては、彼の知る記憶の中のアリサ・バニングスと同じだった。
 これが現実である以上、全く同じ通りではないだろう。
 現に、彼女は鈴科という、本来この世界に居るはずの無い存在を認識している。
 それだけで、原作とは既に違いが出ているはずだ。

 姿も三次元なのだから、原作と同じ顔つきをしている訳ではない。
 全くの別人とは言わないが、やはり二次元で見るキャラと三次元では、受ける印象も異なるものだ。
 アニメならば、外国人という設定であっても皆同じ肌の色をしていたが、現実では違う。
 現実に見てみると、アニメでは分からなかった白色人種特有の肌の白さや、鼻の高さなどが目立っていた。
 自分達と異なる姿をしているアリサがクラスに馴染めなかった、という話も目の前で見ると得心が行ったものだ。

 だが鈴科は、積極的に彼女に干渉していない。
 過去に原作とは異なる出来事が彼女に起きたのならともかく、そうでないならば性格的には大幅に違う事もないだろう。
 この点では、人を見る目の無い自分よりは、教師をしている先生の目の方が信用出来る、と鈴科は判断した。

「でも今は何とも無くても、この状態が続いて、もしイジメとかにつながったりすると、私も困るしねぇ。
 彼女自身がそういう事するとは思わないけど、周りが触発される事もあるかもしれないし」

「そうなると俺も面倒臭くなりそうですね」

「でしょう? 孤立してる君は、そういったターゲットになり易いと思う。
 だから私の苦労を理解して、君も仲良くしてくれると嬉しいんだけどな」

「仕事でしょう? 頑張って下さいね」

「……そう。あくまで積極的に協力する気は無いって事ね」

 鈴科の態度に、先生は呆れたようにふぅ、と溜め息を吐いた。

「溜め息を吐くと皺が増えますよ」

「え、何それ? 溜め息を吐いたら幸せが逃げるんじゃないの!?」

「失礼、噛みました」

「違う、わざとでしょ」

「噛みまみた」

「わざとじゃないっ!?」

「神は居た」

「何でそういうところばっかりロマンチスト!? 似合わないよ君にそれは!」

「ちっ」

「今の何処に舌打ちする要素が!? 君の言い方に悪意を感じるんだけど……」

「神は居るんですぅ」

「何も拗ねなくても……ほら、良い子良い子」

「俺に触れるな!」

 頭を撫でようとした先生の手を、鈴科が素早く叩き落とした。
 だが先生は痛みに顔を歪めるでもなく、寧ろ微笑ましそうに彼を見つめた。

「そういう所は子供っぽいんだね、君は」

「撫でられるのは好きじゃないんですよ。もうそんな年じゃないんで」

 転生とは、言わば『強くてニューゲーム』状態だ。
 そのせいか例え褒められても今更という感じが強く、昔ほど素直に喜べなくなってしまった。
 これもまた、転生の弊害といえば弊害なのだろう。

 先生は鈴科のそんな態度を、ひねくれた子供の強がりだと思ったのだろう。
 子供が「俺はもう子供じゃない、大人だ!」と言うようなものだ。
 中身の年齢的にはその通りなのだが、彼女がそれを知るはずもない。

「そんな年じゃないって……君幾つよ?」

「前世含めて二十四歳です。先生より年上ですね」

「何が年上よ、二十四なら私と同じじゃない」

 ……どうやら、年齢不詳であった先生の年齢を、ピンポイントで当ててしまったらしい。

「へえ、先生は二十四歳なんですか」

「え? ……ああああっ! 違う、今の無し! 私まだ十七歳だから!」

「言い訳にしても苦しいですよ、それは」

 この慌てようからすると、よほど年齢を知られるのが嫌だったようだ。
 ……なんにせよ、前世だなんだとカミングアウトしたのに、気にされなかったのは少々寂しい感じがした。

「……子供相手に年をサバ読む大人って……」

 彼は天を仰ぎ、嘆息した。
 やはり灰色の天井と、乳白色の蛍光灯の光しか、そこには見えなかったが。






あとがき

偶に居る、ありえないサバの読み方をする人、それが先生です。
私の通っていた小学校にも居ました。


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