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[19944] 【習作】ムカデの代わりの男(ゼロ魔三次創作)
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:56adee96
Date: 2010/09/21 23:46
そういえばSSを書いてみようと思って書きました。
めり夫様んトコの「ラリカ」をさせて頂いております。

そろそろチラシ裏じゃなくてよくね?と思ったので大至急『ゼロ魔板』に移っちゃいました。

てへ☆

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


てわけで、主人公は「ココア」の代わりに「ラリカ」に召喚されたオリ主の話です。
転生前の大人しいラリカさんていう設定です。気をつけて下さい。



※ めり夫様からラリカ使用OK頂いております。



[19944] プロローグ ~ ムカデの代わり ~
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:56adee96
Date: 2010/07/01 00:45
 「ウバシャア!!」

デカいムカデが襲ってきたので、オレは素早く手からビームを出して倒した。
最近デカいムカデが頻繁に襲ってくるので、こうして退治しているのだが、そろそろ根源を絶たねェと、いくらオレでも疲れちまうっちゅ~話。
そんなオレの名は“ジャップル・デュマ“、闇の帝王の側近”アブダビ・ニュードバイ“の細胞から産まれた闇の貴公子だ。
手からビームが出せるうえに、跳躍力も常人の5倍という、もうどうしようもなくパーフェクトな男だ。
あまりにパーフェクトすぎて、鳥肌ものだと友達には言われる。
ムカデの死体を足蹴に、デュマは不適な笑みを浮かべた。

 「やべぇ、今のオレは最強を通り越して最新だぜ?ヒャハ♪」

と、自慢の髪型を整えていると、突然目の前に空間の歪みが生じ、不気味な円陣が現れた。

 「はうあ!!敵かっ!!」

最強を通り越して最新な彼には、突然の出来事など恐れるに足りなかったようだ。
デュマは臆することなく、流れるような動作で円陣へと飛び込んで行った。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




ルイズが平民(サイト)を召喚して笑いを独り占めしている中、灰色髪の薄幸少女は誰にも注目を浴びないまま召喚の儀式を行った。
ただでさえ親しい友人もいないうえに、あの騒動の後では彼女の召喚など気に留める生徒などいるはずもないだろう。
普通の召喚だったとしたら・・・。

 「ぎゃああああああああああ!!!」

魔方陣から飛び出してきた「モノ」を見て、少女の思考が一旦停止した。
・・・人間だ。
でもルイズの召喚した平民とは違って・・・、なんだコイツは?
肌に密着したピンクのタイツに、シャチホコみたいな形をした派手な黄金肩パット、そしてそこから垂れる蛍光グリーンのマント。
恐ろしく悪趣味な服装だが、それ以上に目を引いたのはその髪型だった。
確かに自分の使い魔なんて、ニワトリとかそのへんの人畜無害な動物だと思っていたが、まさかトサカのような髪型の人間を召喚してしまうなんて。
ルイズの召喚した平民に引き続き、またもや平民の召喚で他の生徒も反応に困っているようだ。
というか、この奇妙な格好をした人間をみたら普通反応に困る。

 「・・・、なにアレ?平民かしら?」

 「でも凄い格好してるぜ?」

生徒諸君のそんな感想がチラホラと聞こえ始めた頃、地面に突っ伏していたトサカ男がゆっくりと顔を上げた。
顔は、ルイズの召喚した平民よりも凶悪そうである。

 「あぶねぇあぶねぇ、危うく意識がぶっ飛ぶトコだったぜ・・・。」

トサカをフリフリしながら、そう呟くとゆっくり辺りを見回す。

 「どこだここは?魔界か?魔界なのか!?・・・、ていうかテメェは何者だ!?」

1人で勝手に驚き、トサカ男は一番近くに立っていた少女を指差した。
あまりの出来事に自体が飲み込めていない少女は、そんなトサカ男を何も言えずに見つめることしかできない。

 「あんだテメェ?まさか敵か!!敵なのか!?」

 「て・・・、敵じゃありません!私は、ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティアです!落ち着いて話を聞いてくれませんか?」

危うく勘違いされそうになり、咄嗟に自己紹介をしたラリカだったが、その後の言葉がどうしても浮かんでこない。
もちろん、トサカ男もそんなことで納得するような知的な人間ではないため、すぐに聞き返してくる。

 「テメェの名前なんてどうでもいいんだよ!!このオレをこんな場所に瞬間移動させたのはどこのどいつだって聞いてんだよダボが!!」

そんなこと聞いてなかったと思うが、そういうことらしい。
ここでラリカが正直に自分が召喚したと名乗り出てもいいのだが、確実に誤解を生みそうで何も言えない。

 「チッ!!ラチがあかねェ、全員ぶっ殺してやる!!」

トサカ男の言動は、あまりに突飛すぎて意味が分からなかった。
だが、そんな言動よりもその後彼が行った行動の方が余計に意味不明だったのは確かだ。
右手をラリカの方に向けて手を広げ

 「はぁぁぁ~~~!!」

と大きく叫んだのだ。
もちろん何も起きない。
ラリカが頭にハテナマークを浮かべている間、男も首を傾げながら同じ行動を繰り返していたが、4度目ほどで口を開いた。
 
 「あれ?ビームが出ねぇ・・・。」

 「ミス・メイルスティア!早くその使い魔に契約を!!」

そんな時、先生が声を上げた。
ショックが大きすぎて忘れていたが、そういえばまだ儀式が残っていた。
だが、この凶悪そうな顔&格好の狂った男を前に、どうやって儀式をやったものか・・・。
ルイズの方は、使い魔の意識がハッキリしないうちに終わらせたようなので上手くいってたが・・・、コイツは・・・。
自分の右手を眺めながら首を傾げているトサカ男を見やるラリカ。

 「ビームが出ねえのは頂けねぇが、キサマ等クズ共を始末するのには・・・。」

蛍光グリーンのマントから、ゆっくりと金槌を取り出すトサカ男。
長さは役30cm弱の普通の金槌だが、ニタニタと笑いながら振り回している姿をみると、それなりに凶悪そうに見える。
トサカ男は1度ペロリと金槌を舐めると、ラリカに向かって走り出した。

 「ヒィヤッハァ!!タコ殴りにしてクチャクチャの肉の塊にしてやるぜぇぇ!!」

武器が剣とかではなく、金槌というのがいまいち迫力に欠けるが、明らかな殺意を持って向かってくるトサカ男は恐ろしかった。
ラリカは身の危険を感じ、杖を強く握り締める。

 「水の鞭!!」

彼女の唯一の攻撃呪文は、無防備に向かってくるトサカ男に命中した。

 「ぎゃあああああああああああ!!!」




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



                                     つづく



[19944] 第一話 『接触』
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:56adee96
Date: 2010/07/01 21:00
 「デュマよ、最近デカいムカデが良く現れて町を襲っているのは知っておろうな?」

 「いいえ知りません。」

 「・・・、とにかくワシはそのデカいムカデに困っておる。」

 「ぶっ・・・・・・!!!」

 「?」

 「殺すっ!!陛下を困らせるヤツぁミナゴロシだあああああ!!!」

今まで怖いくらいの無表情で正座していたデュマだったが、急に額に血管を浮き立たせるほど激昂し立ち上がる。
もちろん陛下も彼がそんなに反応するとは思っていなかったらしく、少し驚いているようだ。
さっそくその場を立ち去ろうとするデュマを制し、陛下は続ける。

 「まだ話は終わっておらぬ、落ち着いて聞け。」

 「勘弁なんねぇッスよ!!こうして話してる間にもムカデの野郎が陛下を困らせてるんですぜ?くだらねぇ話はいいから、さっさと出撃させてくれよ!!」

明らかに陛下を敬ってはいない言葉の応酬。
陛下も慣れているらしくデュマの言葉はスルーする。

 「城下町を越えた林の向こうが発生源らしいという報告を受けたが・・・、兵隊共では手に負えんらしい。そこで、ワシの半身であるお前の出番というわけだ。」

 「ムカデごとき、赤子同然よ!!」

そう言って、またもやさっそくその場を離れようとするデュマ。
陛下も流石にもう止めなかったが、最後に一言だけ付け加える。

 「お前はどうも落ち着きが足らん。良いか、くれぐれもムカデ以外のモノに危害を加えるで・・・」

話半分で、「ヒャハッ」と跳び立ってしまったデュマの姿を見つめながら、陛下は大きな溜息を吐く。

 「また暴走しなければ良いが・・・。」



デュマは屋根の上を縦横無尽に跳び回っていた。
常人の約5倍の跳躍力を持つ彼にとって、所狭しと建ち並ぶ城下町の民家の屋根を伝って跳び回ることは容易いのだ。

 「ヒャッハァ!自由だ、オレは自由だァァァああ!!」

しばらく同じ場所を何度も跳び回りながら狂ったように笑い続けていたデュマだったが、ふと立ち止まって脳を働かせることにした。

 (それにしても・・・、なんでオレはヤツには逆らえねぇんだ?
  基本的に傍若無人なオレだが、ヤツの前では従順な兵士になり下がってしまう。
  やはりアレか?オレがヤツの破片から産まれたにすぎないからか!?)

数秒停止していたデュマだったが、一応結論を導き出したので考えるのを止めた。
真顔のまま、右手をゆっくりと手前に向けると手からビームを出す。
デュマの掌から発射された緑のビームは、一直線に突き進み、一軒の民家を破壊した。
煙が立ち込める光景を見つめ、ようやく表情を取り戻す。

 「フゥェヘヘヘ・・・、まあちいせぇことはどうでもいいぜ。オレはたった今、この瞬間から自由だ!!」

ヒャハっと屋根を蹴り、デュマは城下町の先にある林へと姿を消した。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




そういや、結局ヤツに言われた通りムカデを退治してたなオレ・・・。
朦朧としながらそんなことを考えていると、少しずつ意識がハッキリしてきた。
薄目を開けると、なんだかこじんまりした部屋に自分が寝ていることに気づく。
しかもなぜか縄でグルグル巻きに縛られているようで、体が思うように動かない。

 「あ・・・、目が覚めた・・・。」

女の声が聞こえる。
聞き慣れた声だからだろうか、あまり不快ではない。
声のする方向をゆっくり振り返ると、そこには灰色髪の少女が座っていた。
事態を把握し、目を大きく広げて驚くデュマ。

 「あ・・・あの・・・大丈夫ですか?」

小さな、そして怯えた声で尋ねる少女だったが、デュマは聞いていない。

 「なんで・・・なんでアンタがこんなトコに!?」

 「へ?」

 「なんでテメェがオレの前にいるんだぁぁぁぁぁああ!!ひえぇぇぇぇぇぇ!!」

縛られて満足に動かせない身体を上下左右に揺すりながら意味不明な言葉を発するデュマ。

 「自由が、オレの自由がぁぁぁぁあああ!!」

縛られているのが余程悔しいのだろうか。
灰色髪の少女、ラリカはそんなデュマを警戒しながらも口を挟んだ。

 「お・・・落ち着いて下さい。ちゃんと話を聞いてくれたら、縄を解いてもいいですから・・・。」

到底聞いてはくれないだろうと思い発した言葉だったが、意外にも通じたようだ。
彼はパタッと上下左右の動きを止める。

 「すいません、もうしません、ごめんなさい。殺すのだけは勘弁して下さい。」

召喚してから気絶している間以外ずっと叫んでいたトサカ男が、急に大人しくなったのを見て逆に不安を感じたラリカだが、彼がその後しばらくの間、無表情のまま良い子にしているのを確認すると、小さく溜息を吐いた。
右斜めに座っていたが、ゆっくりと彼の正面へ移動する。
もちろん距離はある程度保っているが、先程よりはずっと話しやすい位置である。

 「話を、聞いて欲しいだけなんですが、大丈夫ですか?」

目の前にいるのは一応自分が召喚した使い魔であるし、気絶している間に契約の儀式も済ませた。
使い魔は基本的に主人に従順であると聞いていたが、これまでのトサカ男の行動を見ているとまるで信用できない。
小さく深呼吸し、ラリカは目の前のトサカ男へ話しかける。

 「アナタの名前は?」

 「今更何を仰います、オレの名は”デュマ”にございます。」

 「平民ですか?貴族ですか?」

 「どちらかと言えば魔族にございます。」

 「え・・・?貴族ですか?!」

 「そんなちいせぇ事はどうでもいいんスけど、陛下はなんで尋問してんスか?自分何も悪いことしてねぇッスよ?」
 
 「え・・・、いや、別に疑ってるわけじゃないですけど・・・。」

 「じゃあパパッと縄解いてオレを自由にして下さいよ。ハンパねぇッスよ。」

モゾモゾと動きなら話を終わらせようとするデュマ。
一瞬だけかしこまった態度をしていたが、もう我慢できないようだ。
また暴れだすのではないかと、少し焦りながらラリカは続けた。

 「最後に!最後に1ついいですか?!」

彼女から発せられた最後の言葉、それを聞いてデュマはニヤリと微笑んだ。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

                               つづく



[19944] 第二話 『自由を求めて』
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:56adee96
Date: 2010/07/04 02:21
 (こんばんは、デュマです。
 デュマ、デュマ、デュマって3回言うと悪夢を見れるって聞いたことありませんか?
 そんなわけねぇよ!!ヒャッハ!!
 ってわけで、今オレは廊下を疾走している最中だ。
 まさかヤツ(陛下)がこんな場所までこのオレを探しに来るとは思ってなかった が、特に問題ねぇ!!
 っていうか・・・、陛下って女だったっけか?)

廊下を直角に曲がり、デュマは一直線に外を目指す。

 (にしても陛下の野郎、もったいぶって何を言い出すかと思えば・・・。)

 「不快に思うかもしれませんが、アナタは私の使い魔です。だから・・・、できるだけ大人しくしていて下さい・・・、お願いします。」

 (だとさ!!
 笑う笑う笑う笑う笑う笑うぅ!!!
 お前の肉片から産まれたんだから使い魔みてぇなもんだろうし、大人しくしてろ=森に潜んでろってことだろ?
 意味不明な命令だが、オレは従順に従うぜ。
 なんせヤツから離れれば、このオレは基本的に自由。
 何にでも好きなだけ与えられて、好きなだけ奪える。そんな自由が待ってるわけだ。)

出口が見え、デュマは勢い良く跳び出す。
着地してパッと見上げると、太陽が目に入った。
気絶している間に夜が過ぎて、今は明け方のようだ。
小鳥がチュンチュンうるさい。

 (ここどこだ?そういえば陛下のいた部屋も、いつもの豪華な部屋じゃなかったし・・・。
  まあいいや、とりあえず森を探さねぇと・・・。)

キョロキョロと辺りを見渡して森を探す。
しかし、残念ながらここはまだ学園の敷地内のため塀で外の世界が見えない。
チッ、と舌打ちをしてまた走り出そうとしたところで、大きな籠を持って建物から出てくる男を発見した。
ニヤリと笑みを浮かべ、デュマは足早に男の方へと駆けていく。

 「オイ、小僧!!何やってる?」

 「うおおっ!!」

後方から急に話しかけたため、男は驚いて持っていた籠を地面に落としてしまった。
白い布が籠からこぼれ落ちる。

 「急に話しかける・・・、ってすげぇ格好!!」

振り向いた男は、デュマを見てまた驚きの声を上げた。
ピンクのタイツに蛍光グリーンのマントは、朝日に照らされると余計に眩しい。

 「ほぅ・・・、このオレのパーフェクトなファッションセンスを理解するとは、なかなか見込みのある小僧だ。」

 「あ・・・、いや理解するっていうか・・・。」

 「照れるな小僧。お前の服装も中々独創的でいいじゃねぇか。」

優しい笑みを浮かべて、男の肩を軽く叩いてやる。
男の格好は青のパーカーに、Gパン。デュマの世界ではあまり見かけない、というか見かけることのない格好だった。

 「その小僧って言うのやめてもらえるか?俺には一応、平賀才人って名前があるんだからさ。」

 「貴様の名前などどうでも良いわ!こんな朝っぱらから何やってるのか聞きたい。」

デュマの高圧的な態度に反論しかけたものの、サイトは結局思いとどまって小さく溜息を吐くだけだった。

 「なんでここの住人は、そう人を馬鹿にしたような言い方するんだ・・・、さっきだって俺のご主人様だって女が・・・。」

 「小僧、そうやって愚痴るだけで満足しているようなら貴様はゴミクズ同然よ・・・。」

 「なっ!!」

 「このデュマ、ゴミクズに興味はない。失せろ。」

サイトに興味をなくしたデュマが、そう吐き捨てて場を去ろうとした時、今まで大人しかったサイトが吼えた。

 「待てよ!!なんなんださっきから人のことを犬とかゴミクズとかよ!!お前等そんなに偉いのかよ!!」

 「偉いのか・・・だと? オレは闇の帝王の使い魔”ジャップル・デュマ“だぞ?偉いに決まってるだろうが!!」

小鳥がチュンチュン鳴く、のどかな早朝に睨み合う2人。
「ぶっ殺す」の掛け声と共にデュマがサイトへ殴りかかろうとした瞬間、少女の叫び声が響き渡り、2人は動きを止めた。

 「やめて!!」

2人の目線の先には、灰色髪の少女が肩で息をしながら立っていた。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





(縄を解いてすぐ、扉から跳びだして行ったデュマを追って正解だった。
 まさか、とは思ったがすでに学園内で騒ぎを起こしていた。
 しかもあのゼロのルイズが召喚した平民の使い魔と喧嘩する直前だったなんて・・・。
 ラ・ヴァリエール公爵家の三女である彼女を敵に回せば、極貧貴族のメイルスティア家がどうなることか・・・。
 やはり、このデュマという使い魔はしっかりと監視しておかないと危ない。)

ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティアは、今は大人しく後方で正座しているデュマと、隣で洗濯をしているサイトを見比べる。

 (どう見ても平民の男にしか見えないが、得体の知れない自分の使い魔に比べたら相当マシだ。
 何度か謝ったらすぐに許してくれた上に、なぜか「アンタみたいな、まともな人間もいるんだな。」などと言って笑っていた。
 平民に「まとも」なんて言われる筋合いはないが、ミス・ヴァリエールに変な報告をされては困る。
 私は人と話すのが苦手だし、学園に入ってからまともに他人と話しもしていないため、うまくできるか分からないが、ここは話を合わせて穏便に済ます必要があるだろう。)

適当に話を聞き流してその場を去る予定だったが、質問を受けたり、愚痴を聞いたりしているうちに逃げられなくなり、結局かなりの時間が過ぎてしまった。
ふと後ろを振り返ると、正座していたデュマがいなくなっている。

 「あ、すみませんミスタ・サイト。」

 「ん?ああ、ミスタなんて堅苦しいから普通にサイトでいいよ。」

 「はぁ・・・。お話中申し訳ないんですが、また使い魔のデュマがどこかに行ってしまったようなので・・・。」

 「ああゴメン!つい話しに夢中になっちまったみたいで・・・。」

 「いいんですよ。では、私はデュマを探しに行かなくてはならないのでここで失礼させて頂きますね。」

サイトに一礼すると、ラリカは辺りを見回す。
デュマがどこに行ったのかの不安もあったものの、平民の話を聞き続けるのも苦痛だったため、丁度良いタイミングだ。
自分は異世界から来ただの、トウキョウ、チキュウ、アキバ、など意味の分からない事を語られても困るのだ。(もちろん愛想良く?頷いていたけれど)
と、その場を立ち去ろうとしたところで、サイトに呼び止められた。

 「あ、そういえば君の名前を聞いてなかった!」

愛想笑いを浮かべて振り返る。

 「”ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア”と言います。」

 「ラリカ・・・さん。」

 「ラリカでいいですよサイト。」

 「あ・・・ああ、じゃあラリカ。もし迷惑じゃなかったらだけど・・・、また話し相手になってくれるか?」

少し照れくさそうにそう言うサイトにラリカは微笑んだ。

 「ええ、喜んで。」

できればもう話したくないし、関わりたくないが・・・。
この場はとりあえずこれで。
それにしても、やっぱり他人と話すのは緊張するし疲れる。
デュマを探し出して落ち着いたら、ゆっくりベッドで眠りたい気分だ・・・。

どこに行ったのか検討もつかないデュマを探して、ラリカは走り出した。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

                             つづく



[19944] 第三話 『決意』
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:56adee96
Date: 2010/07/04 03:01
 「ひゃああああああ~~~~っはぁ!!」

ラリカがサイトと話している隙を見てその場を抜け出したデュマは、すでに学園から出て近くの森へと入っていた。
常人の約5倍の跳躍力を持つ彼にとって、短時間で学園から森まで移動するなど容易いことなのだ。

 「トロい!トロい!!トロい!!トロすぎるぜぇぇぇ!!」

一通り笑い、一通り跳ね回った後、デュマは地面に腰を下ろす。
少しひんやりした地面、そして木々の合間から零れる日の光が心地良い。

 (あのまま良い子にしてたら確実に陛下に殺されていた自信が、このデュマにはある!
 にしても、あの小僧は我慢ならねぇ・・・。
 隙を見て後ろからトンカチで頭ぶち割ってやるぜ!! ヒャハ♪)

座ったままニヤニヤしていたデュマだったが、途中で自分のお腹が鳴るのを聞いて我に返った。
そう、デュマはここに来て一度も何も口にしていないのだ。
ラリカに召喚されて、約1日寝てたうえに走り回ったせいもあって、かなり腹が減っていることに気づくデュマ。
本来ならば、陛下の城へ戻って適当に食堂の飯を食えば良いが、今戻って陛下に見つかれば処刑は免れない。
拳を握り締め、デュマは地面を叩く。

 (ちくしょう!!陛下の命令でムカデ退治をしてやったってのに・・・、こんな仕打ちを受けるなんて!!
 オレは、悲劇のヒロインだぜ!!)

しばらく嘆いてはみたものの、なんの解決策にもならないと判断したデュマはゆっくりと立ち上がった。
蛍光グリーンのマントから、金槌を取り出して笑みを浮かべる。

 「ウフェヘヘヘ・・・。パーティーの時間だぜ?」

前方を走り去る野うさぎを見つけ、デュマは小さく呟いた。
金槌をペロリと舐めると、地面を蹴る。





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





数分後、デュマは地面に突っ伏して息を荒げていた。
もちろんウサギは捕まえておらず、彼の空腹は続いている。

 (ちくしょう・・・。この入り組んだ森の中じゃ、身体の小せぇヤツの方が有利だったのを忘れてたぜ・・・。
 ここが闘技場とかなら一瞬で捕まえられたのに!!)

目と鼻の先、草を食べながらピョコピョコと跳んでいるウサギを睨み付けるデュマ。
愛らしいウサギを見ていると、自分があまりにも不甲斐なく、怒りがこみ上げてくる。

 「ちくしょう!!ちくしょおおおおおおおおおおおお!!!」

地面を両手で叩き、目を充血させて叫ぶデュマ。
しばらく嘆いたところで、何かを思いついてスッと立ち上がる。

 「ウヘヘへ・・・、あぶねえあぶねぇ。つい興奮して自分を忘れる所だったぜ・・・。」

今までの興奮はどこえやら、落ち着き払った表情でそう呟くと、彼はウサギの方向へ自分の右手を向けた。

 「この森ごと、バーベキューにしてやるぜぇ!! はぁぁあああ!!!」

目を見開き、閉じていた拳を開いて叫ぶデュマ。
そう、魔界の貴公子・デュマの特殊能力が1つ「手からビーム」である。
緑色のビームがウサギに直撃し爆発、その炎は森を焼き尽くし、世界は闇に飲み込まれる・・・、と思ったが、残念ながらビームは出なかった。

「・・・・・・あれ?ビームが出ねぇ・・・。」

その後、何度か同じように試してみたものの、結局彼の手からビームが出ることはなかった。

「ち・・・ちくしょおおおお!!! ちくしょう!! ちくしょう!! ちくしょおおおお!!!」

先ほどと同じように叫びながら地面を叩くデュマ。
その目はすでに怒りを通り越した悲しみの涙が浮かんでいた。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




「良いかデュマよ・・・、ビームは出そうとして出すものではない・・・。」

白髪の男は、ビームが出せずに嘆いているデュマに向かってそう言った。

「ビームは、お前の心と体が一体となったときに自然に出るものなんじゃよ。」

「げぇ!!マジッスか師匠!!自然に出るって・・・、そんな勝手に出られても困りますよ!!」

「馬鹿者!!それは貴様が未熟だからじゃ!!コツさえ掴めれば自分の意思で出せるわい!!」

「げぇ!!言ってることがコロッコロ変わってますぜ師匠!!」

「貴様は口答えが多すぎる・・・、しかたがないから良い事を教えてやる。」

師匠、と呼ばれた白髪の男はデュマに近寄り、耳元でこう言った。

「お前は闇の帝王の破片から産まれた存在。だから魔力がなくなったら帝王に言って分けてもらえばビームが出るようになる。」

その言葉に驚愕するデュマだったが、結局は「なるほど」と納得する他なかった。
というわけで、まだ産まれて間もない頃のデュマは闇の帝王の元へ魔力を分けてもらいに行くことにした。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





そんな昔の記憶が蘇る。

 (そうだった・・・、そういえば師匠がそんなこと言ってた・・・。
 ビームが出ねぇのは、魔力切れだったって事だな!!)

涙を拭き、デュマは立ち上がる。
 
 (陛下に頼んで魔力をもらおう。
 殺されそうになったら、オレがムカデ退治を頑張ったことを熱弁して許してもらうしかない。
 このまま飢え死にするよりは、怖ぇけどその方法しかねえ!!)

決意を新たに、彼はゆっくりと歩き出した。
ラリカの待つ、学園へ向かって。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

                           つづく



[19944] 第四話 『再開』
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:56adee96
Date: 2010/07/05 20:04
爆発音で目が覚める。

デュマを探して早朝から学園中を歩き回ったこと、ミス・ヴァリエールの使い魔と長く話した精神的疲れもあり、ラリカは授業をサボって部屋で眠っていたのだ。
ぼーっとする頭を軽く振り、ゆっくりと立ち上がる。
顔でも洗うかと、歩き始めたところでラリカは停止した。
窓に、デュマが張り付いていたのだ。
あれだけ探し回ったのに、いったいどこに隠れていたのか。
主人は使い魔の見ている光景を共有することができると聞いていたが、なぜか彼の視覚を共有することはできなかった。
窓に張り付いて何か叫んでいるデュマを部屋に入れてやる。

 「ビームが出ません、助けてください。」

流れるような動きで土下座したデュマが発した言葉に、どう反応して良いか分からず、目をパチクリするラリカ。
そういえば、最初に現れた時もビームがどうとか言っていた気がする。

 「陛下、まさかあの小僧に手を出したことをまだ怒っておいでで?」

反応しないラリカに痺れを切らし、デュマが再び口を開いた。

 「アレは事故です。ヤツが陛下を馬鹿にしたので、このデュマめが懲らしめてやろうとしただけにございます。陛下が御所望とあれば、今すぐにヤツの首を!!」

と、また勝手に行動しようとするデュマを止める。

 「いえ、別に怒ってはいないんですが・・・。喧嘩などの騒ぎを起こさないで欲しいなと・・・。」

 「え?怒ってねぇの?じゃあ早いとこオレに魔力を分けておくれよ!!」

ラリカが怒っていないと分かると、急に態度を変えるデュマ。
ただ、魔力を分けて欲しいという願いの意味がラリカには分からなかった。

 「魔力を分ける・・・ですか?」

 「そうそう、陛下に魔力を分けてもらわねぇとビームが出ねぇんよ!!だから、早くオレに魔力を!!」

期待を込めた目でラリカを見やるデュマだが、そう言われてもどうしようもない。
魔力を相手に分け与えるような魔法は習っていないし、そういう魔法があるというのも聞いたことがない。
日ごろの勉強不足が祟ったのか、それとも彼は自分よりも位の高いメイジなのか・・・。

 「あの・・・、魔法が使いたいけど使えない・・・という理解でいいんでしょうか?」

 「グレイト!!さすが陛下!!」

 「という事は・・・、杖が欲しい・・・とか?」

恐る恐る思い浮かんだ事を聞いてみるラリカ。
だが、「杖」という言葉にデュマは首を傾げる。

 「いや、杖なんてあっても意味ねぇですぜ陛下・・・?アンタの魔力をオレに分けてくれって言ってるだけよ?」

 「あ、いえ、そういった魔法は使えないんですが・・・。」

 「・・・、マジで?」

 「マジです・・・。」

その後しばらく沈黙が続く。
気まずい雰囲気が流れ始めた時、なぜかデュマがクスクスと笑い出した。

 「陛下、まさかこのデュマをからかっておいでで? ていうか実はまだあの小僧のことで怒ってらっしゃるとか?」

 「へ?」

 「ウヘヘへ、陛下も人が悪いや!!アレッスか?ウサギの狩りくらいビームなしでやってみろって事ッスか?」

何を言っているのかさっぱりなラリカは、目をパチクリさせている。
だが、そんなことお構いなしにデュマは続けた。

 「そうやってオレを試そうって魂胆ッスね? ヘヘヘ、逆に燃えてきましたよ!!」

と言って、すくっと立ち上がる。
そしてマントからゆっくりと金槌を取り出した。
それを見て、最初に出会った時の事を思い出してラリカは身構えるが、その必要はなかった。
デュマはその金槌を振り上げることなく机に置いたのだ。

 「でも、コイツじゃあウサギは狩れねぇんスよ・・・。できればもっと大きなエモノが欲しいんスけど、何か頂けませんかねぇ?」

ニタニタ笑いながらそう言うデュマ。
気持ちが悪いというか、かなり怪しいのは間違いない。
魔法が使いたいと言ってきたと思えば、杖はいらないからウサギを狩るために、金槌に変わる武器が欲しいと言い出す。
まったく何がしたいのか分からない自分の使い魔に眉を潜めるラリカ。
答えが見つからず黙っていると、デュマが机の引き出しを勝手に開けた。
そして、

 「な・・・なんじゃこりゃあああ!!!」

目を見開いて叫ぶ彼の目線の先には、狩猟刀があったのだ。
極貧貴族のラリカが、食料調達のために幼い頃から使っていた狩猟刀。
食事が用意される学園では使う必要はなくなったのだが、護身用に机の引き出しに入れておいたものだ。

 「すっげぇ!!チョ~カッコイイ!!痺れる!!」

目を輝かせて叫ぶデュマ。
狩猟刀にそこまで反応する人間を始めて見たと、軽く驚くラリカ。
その時、彼女の頭にふと良い考えが浮かんだ。
 
 「あの・・・、もし宜しかったら差し上げても構いませんよ?」

 「ふええええ!!?」

狂喜乱舞するデュマを見て、ラリカは小さく微笑んだ。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

                    つづく



[19944] 第五話 『旅立ち』
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:56adee96
Date: 2010/07/05 00:08
1. 他人をむやみに襲わない
2. 学園内ではおとなしくしている
3. 呼んだらすぐ来る

狩猟刀を渡す代わりにデュマに守らせた契約は、以上の3つだった。
本当は「部屋から出ない」や、「変な笑い方をしない」なども考えていたが、どうせ守れないと思ったのと、それ以上の約束を条件に加えれば駄々をこねそうだったのでやめた。
彼がその約束を必ず守るという保証はなかったものの、なぜだか大丈夫な気もしていた。
一応使い魔と主人ということで、何か繋がっているのだろうか・・・。
部屋の隅でニタニタしながら狩猟刀を眺めているデュマを見る。
好きになれそうな気はしないが、とりあえず落ち着いたなとラリカは小さく溜息を吐いた。
そんな矢先の事だった・・・。

 「陛下ぁ、ちょっち見てくださいよ?」

気持ちの悪い笑顔で近づいてくるデュマ。
後ろに回している右手には多分狩猟刀が握られているはずだ。
使い魔と主人の関係である以上、急に自分を襲ってくることはないと確信はしているものの、この男の行動は不可解すぎるため油断できない。
「なんですか?」と愛想笑いをしつつ、杖を強く握り締めるラリカ。

 「ばぁぁぁん!!」

頭の悪い叫び声と同時に、デュマは思いがけない行動に出たのだ。
そう、今しがた手に入れた狩猟刀を、あろうことか自分の腹に差し込んだのだ。

 「な・・・何を・・・。」

あまりに不可解な行動に、目を見開いて何も言えないラリカ。

 「ウヘヘ・・・、ビームが出せねぇんじゃつまんねぇから・・・、一回死なせてもらいますよ陛下・・・。」

ガクっと膝とつくデュマ。
不思議なことに血は出ていないが、その背中からは狩猟刀が突き出しており、彼の声も力ないものとなってきている。

 「そしたら・・・、また陛下の肉片で・・・、オレを蘇らせて・・・くだ・・・グヘェ!!」

ガクっと、ラリカの目の前で倒れるデュマ。
まったく理解できずにその場で座りつくすラリカの目の前で、デュマは静かに息を引き取った。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




彼は人間だったのだろうか・・・。
ベッドの上で寝転がりながら、ラリカは考える。
あの後、デュマは狩猟刀だけを残してゆっくりと消えていってしまった。
なぜ彼はあんな行動に出たのかは今でも分からない。
もしかすると彼は自分の苦労を察して自殺したのかな?と、良い方に考えてみたが、結局答えは闇の中である。
なんだか釈然としない気持ちが残ってしまったが、ここで寝ていても仕方がないと判断し、ラリカはゆっくりと立ち上がる。
そろそろ昼食の時間だ。
先生に相談して、今後どうするかを決めよう。
彼女は、床に転がった狩猟刀を引き出しへと戻し、食堂へと向かって行った。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


                     つづく



[19944] 第六話 『空高く』
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:56adee96
Date: 2010/07/05 20:49
デュマは死んだ。
だが、彼は所詮闇の帝王の肉片にすぎない。
そう、彼は何度でも蘇るのだ。

 「ウフフフ・・・、アハハハ!!ヒャァ~ッハッハッハッハッハッハァ!!」

肉片は驚くべきスピードで増殖し、闇の貴公子”ジャップル・デュマ”は復活した。
しかもただの復活ではない、もう1段階パワーアップして復活したのだ。
トサカのような髪は、触れば傷つくような鋭い刃のように。
そして、一番の違いはその身体にあった。
そう、デュマの身体は鳥になったのだ。
顔が人間で体が鳥、例えるならば人面鳥である。

 「ウヘヘ・・・、なんてこった・・・、恐ろしい肉体を手に入れちまったみてぇだぜ!!」

バッと、両翼を広げてみる。
「飛べる」と、彼は確信した。
前回のようにピョンピョンと跳ね回るのではなく、今は大空を自由に飛べるのだ。

 「ビームは出せないままだが、このパワーさえあればオレは無敵だ!!全てがオレに平伏すぞ!!」

 「我が半身ながら、見事なものよ!!」

そんなデュマを嬉しそうに見つめるのは、彼の産みの親”アブダビ・ニュードバイ”、闇の帝王である。

 「貴様の見てきた光景、このワシも拝見させてもらったが・・・実に面白い。」

 「あの灰色髪の小娘、どうやってオレを洗脳したかしらんが、次に会ったらこの”デス・ブレード”で八つ裂きにしてくれる!!」

頭を小刻みに振り、鋭利な刃物と化した髪の毛”デス・ブレード”を揺らすデュマ。
どうやら、死ぬまでの記憶は残っているようだ。

 「確かに、まったく似ておらぬのに、完全にお前はあの小娘をワシだと勘違いしておった・・・。何をやられたか覚えておらんのか!?」

 「儀式がどうとか言ってたぜ? どうせ、オレが寝てる間に何かしやがったんだろ?」

 「ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア・・・、恐るべき魔女よ!!」

 「ああん? 何クルルだって?そんな長ぇ名前の魔女は今の話になんの関係もねぇっしょ?」

眉を潜めるデュマだが、驚いたのは帝王だった。

 「お前、あの小娘の名前・・・覚えてないのか?貴様がヤツに呼び寄せられ、ビームが出なかったばかりに敗北した事あったよな?その時名乗ってたのを忘れたのか?」

 「知らねぇ。っていうかオレが負けるわけがねぇ。」

 「ほぅ・・・、なるほど・・・。」

 「なになに?なんなの?もったいぶらずに教えておくれよ!!」

意味深な帝王の態度を見て興味を示したデュマは、ペタペタと歩いて帝王に近づき、耳を傾ける。
そこで、デュマが気絶していることを良いことに、何かの儀式を行って記憶を改変したに違いないと言う推測を、帝王は語って聞かせた。
とても分かりやすかったので、デュマも納得した。

 「ち・・・ちくしょおおおおお!! ちくしょう!!ちくしょう!!ちくしょう!!」

両翼で地面を叩き、デュマは吼える。
その目からは大粒の涙が溢れている。

 「あの野郎、オレをコケにしやがって!!陛下、陛下と慕うオレを見て、馬鹿にしてたに違いねぇ!!」

キッと帝王をにらみ付け、デュマは続けた。

 「頼む陛下!!オレをあの世界へ!!憎っくきメイルスティアのいる世界へ戻してくれ!!」

 「その意気よ!!行けデュマ!!貴様の全身全霊をもって、メイルスティアを葬るのだ!!」

帝王が勢い良く手を上げると、その頭上に禍々しい空間が現れる。
それを確認し、ニヤリと笑みを浮かべるとデュマは羽ばたいた。

 「オレは闇の貴公子・デュマ!!待っていろメイルスティア!!貴様の髪の毛1本も、この世には残さぬ!!」

ショッキングピンクの羽毛に包まれた身体は宙を舞い、亜空間へと吸い込まれていった。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

                         つづく



[19944] 第七話 『変わり始めた日常』
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:56adee96
Date: 2010/07/11 22:31
食堂に着いたラリカは、いつもの席に腰掛けた。
親しくしている友達もいない彼女は、いつも目立たないテーブルの端に座る。
他人に興味がないため、クラスメイトの顔は知っているものの名前の方は自信がない。
パッと顔と名前が一致するのは「ゼロ」と呼ばれる有名なあの子くらいだろうか。
ワイワイと楽しそうに食事をする生徒達を尻目に、ラリカは黙々とスープをすすっていた。
ほんの半日程度だったが、あの変な使い魔がいた時間は、騒がしくて、忙しくて・・・。
誰かの事を考えて生活したのは、もしかするとあれが始めてだったかもしれないし、人とあんなに話したのは一体いつぶりだったろうか・・・。
そんな事を考えていると、なんだか急に寂しい気持ちになった。
視線をスープから話し、顔を軽く振る。
まったく、私は何を考えているんだ・・・。こんな美味しい食事ができて、暖かい布団で毎日寝られる、それだけで十分ではないか。
この平穏以上に、何を望むというのだ・・・。
小さく溜息をつき、彼女は再びスープへと視線を戻した。

 「あ、ラリカじゃないか?!」

不意に後方から声を掛けられ、驚いて振り返る。

 「あ、ご・・・ごめん。急に声かけちゃって・・・。」

そう言って少しバツの悪そうに笑ったのは、黒髪のあの少年だった。
「ゼロ」のルイズの使い魔の平民。

 「あ・・・。」

小さく声を漏らすラリカに、少年は笑いかける。

 「サイトだよ、まさか忘れちゃったとか?!」

 「あの、お知り合いですか?」

おどけて見せるサイトの横で、同じように黒髪の少女が問いかける。
こっちは、確かこの学園で勤めているメイドの子だったはずだ。何度か見かけたことがある。

 「ああ、ラリカって言って今朝井戸の所で知り合ったんだ。ルイズみたく偉そうじゃないし、オレの話をいろいろ聞いてくれてさ。」

 「そうなんですね。あ、申し訳ございません!!私はシエスタって言います!学園で働いていますので、何かあればいつでも声を掛けてくださいね、ミス・・・。」

 「ラリカでいいですよ。」

学園で働くメイドでも、流石に生徒全員の名前は覚えられないだろう。
特に私のように目立たない生徒の事など、知っていようはずもない。
ラリカは、シエスタに向かって軽く愛想笑いを浮かべた。。

 「貴族の方を呼び捨てになんて!!じゃあ・・・、ラリカさんって呼んでもいいですか?」

異世界から来た?というサイトと違って、この子はここの常識を知っている。
平民と貴族の違いだって理解しているようだ。
まあ、私としては特にどうでもいい話だが・・・。

 「よろしくお願いしますね、シエスタさん。」

もう一度微笑む。
今朝の練習のおかげか、愛想笑いもなかなか自然にできている気がする。

 「おーい、こっちにもデザート早くもってきてくれ!!」

3人で話していると、少し離れた所から誰かが2人を呼ぶ。
「はい、申し訳ございません!」と、私に一礼してそちらへ駆けて行くシエスタ。
その後ろをサイトがついて行った。

 「じゃあ、またなラリカ!!」

去り際のサイトの一言。
そんな後ろ姿を、ラリカは不思議な気持ちで見つめていた。

 「またな・・・か・・・。」

小さく呟き、再び腰掛ける。
知り合いが2人増えた・・・、たったそれだけだけど、なんだか変な感じだ。
透明なスープに映る自分の顔が、なんだか笑っているような気がした。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 「ヒャハハハ!!我ながら恐ろしいパワーだぜぇ!!」

ショッキングピンクの人面鳥、デュマは飛ぶ。
遮るものが何もない上空を、バッサバッサと羽ばたいて。

 「アレか!?あの建物か!!?」

そんな彼の目に飛び込んできたのは、まぎれもなくあのトリステイン魔法学園だった。
少し離れた位置に転送された彼は、頑張ってようやくここまで辿り着いたのだ。
学園の近くの木にとまり、ラリカの部屋をじっと探す。

 「ウヘヘ、どこだメイルスティア!!見つけ次第バラバラにしてやるぜぇ!!」

興奮しながら木の上で頭をブンブン振り回すデュマ。
その迫力?に驚いて、近くの木にとまっていた小鳥たちが一斉に飛び立っていく。
そして、

 「見つけたァ!!あの部屋、あの窓、あの雰囲気!!憎っくきメイルスティアの部屋に違いねぇ!!」

木を揺らし、一直線に飛んでいく。

 「ヒャァ~ッハハハッハッハッハハ!!地獄を見せてやるぜぇ!!」

近づいてくる窓目掛けて、デュマはその鋭い髪の毛”デス・ブレード”をかざした。
復活した闇の貴公子による復讐の始まりである。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

                      つづく



[19944] 第八話 『闇の貴公子と絶望の魔女』
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:56adee96
Date: 2010/07/11 22:28
恐ろしい爆発。
崩れ去る学園寮。
その上空で、ショッキングピンクの人面鳥、デュマが高らかに笑っていた。

 「ヒャア~~~ッハッハッハッハッハッハァ!!壁をぶち破るつもりが、建物全てを破壊しちまったぜぇぇぇ!!怖い、怖いよぉ!!オレ自身が怖いよぉぉぉお!!」

しばらく笑った後、彼は辺りをキョロキョロ見回す。

 「やべぇやべぇ、勢い余ってメイルスティアの野郎も潰れてちゃあ、つまんねぇ・・・。」

何度かクルクルと瓦礫の上を旋回したが、何も見つからない。
フッと微笑み、デュマはそのまま降り立った。

 「あっけねぇ最後だったなメイルスティア・・・、まぁ所詮このデュマにかかればヤツも道端の雑草に過ぎなかったってことか・・・。」

先ほどの大笑いとは違い、今度はどこか寂しげに笑うと、彼は再び翼を広げて飛び立とうとした。
その時だった。

 「ほぅ・・・、誰が雑草だって?」

後方から、聞き慣れたあの声が聞こえてきた。
振り返るデュマの目に飛び込んできた光景、それはまさしくあの女の姿だった。
黄金の玉座に堂々と座り、片肘を立てて不適に微笑む魔女。
最初に出会った時とは比べ物にならないほどの「凄み」が、彼女から発せられている。

 「メ・・・、メイルスティアァァァァ!!!」

大声を上げて睨み付けるデュマ。

 「誰かと思えば・・・、貴様かデュマ。魔界から蘇り、わざわざまた殺されに来たか?」

クスっと笑うメイルスティアに、デュマの表情が更に険しくなる。

 「テメェ!!」

デス・ブレードをかざして勢い良く飛び出そうとする彼の前に、急に人影が現れた。
黒髪に青い特殊な形をした服装、そして手には大きな籠を持っている。

 「あん時ぁ世話になったなぁ・・・、デュマぁ。」

手にしたデカい籠を見せびらかすように揺すり、黒髪の少年・サイトはデュマに笑いかけた。

 「メイルスティア様ぁ、コイツの始末は俺ッチに任せてくださいよぉ。」

鼻につく高い声で言い、ケタケタと笑うサイト。
その目は、死んだ魚のように濁っている。

 「3分だ。」

そんなサイトに一言浴びせ、玉座のメイルスティアは続いてデュマに視線を移す。

 「デュマよ、貴様ごとき小物の相手をしてやるほど、この私も暇ではないわ・・・。我が愚弟・サイトを相手に3分持てば考えてやらんでもない。」

あの早朝の井戸前で、サイトを苛めようとしたことを彼女があれほどまでに怒った理由が分かった。
サイトというこの死んだ魚の目をした籠男は、メイルスティアの弟だったようだ。
デュマが軽く納得したところで、サイトが先に動いた。
手にしたデカい籠をブンブン振り回して、無防備なデュマへ向かってくる。

 「でひょひょひょひょ!!籠で殺してやるずぇ!!籠で!!籠でぇ!!」

防御する間もなく、サイトの振り回す籠がデュマの顔面をとらえる。
カサっと乾いた音、デカい籠とは言え所詮は麻でできた軽いもの、ダメージはゼロに近い。

 「どうだ、痛いか?痛くて死ぬかぁ!!?でひょひょひょひょ!!!」

特殊な笑い方をしながら何度も何度も籠で攻撃してくるサイト。
カサッ、カサッと軽い音がして、なんとなくウザったい。

 「ま・・・まだ死なんのかぁぁぁ!!ハァ、ハァ・・・。」

しばらく繰り返したところで、サイトは息を切らしてしまったようだ。
もちろんデュマは死ぬどころかピンピンしている。
そんな彼を冷めた目で見、デュマは小さく呟いた。

 「サイトよ・・・、愚民にしては良くやった。もう諦めろ。」

クイっと軽くデス・ブレードを振る。
その瞬間、サイトの身体は数十メートル吹き飛ばされた。

 「あひぇああああああ!!」

情けない声で叫び、彼は籠と共に地面に叩きつけられる。
ゴロゴロと土煙を上げ転がるサイト、そして唯一の武器であるデカい籠もその手から離れてしまった。

 「いてぇ、いてぇよお!!ハンパねぇよ!!あんな怪物に勝てるわけがねぇよおおお!!」

涙とヨダレをダラダラと垂らした上に土がこびりついて更に汚らしい顔になりながら、彼は這うようにデュマから離れていく。
その先には、メイルスティアの玉座があった。

 「お助けぇ!!メイルスティア様ぁ、お助けくださいませぇぇぇ!!」

そんなサイトに、メイルスティアは無言で片手を差し伸べる。
助かったとばかりにその手を取ったサイトだったが、その希望に満ちた顔は一瞬で絶望へと変わった。
手を取ったメイルスティアが、彼を上空へと放り投げたのだ。
あの華奢な腕でどうやってサイトを投げ飛ばしたのか、デュマが驚いていると、彼女は手足をバタつかせているサイトに杖を向けた。

 「ひいいいい!!やめ、やめ・・・やめぇぇぇえええ!!えばぁ!!」

瞬間、目にも止まらぬ早さで伸びた杖が、サイトの心臓を貫いた。
目を見開き、しばらく口をパクパクしていたが、彼はそのまま絶命した。
溢れ出る血が、杖を伝って地面へ垂れる。

 「な・・・。」

 「んんん~?どうしたデュマ?」

上空でユサユサとサイトの死体を揺らしながら楽しそうに笑うメイルスティアに、デュマが続ける。
 
 「テメェ!そいつぁ弟じゃなかったのかよ?!」

 「それがどうした?使えない弟をどうしようが、私の勝手だろう?」

クスっと笑い、彼女は軽く杖を振って死体を投げ飛ばすと、いつの間にか元の長さに戻った杖に残った血をペロリと舐める。
そんな姿を見たデュマは、戦慄すると同時にどこか嬉しさを感じていた。

 「面白ぇよメイルスティア。さすが、このオレが唯一敵として認めただけのことはある。」

自分を操った挙句に自殺させ、更に自分の弟をも手にかける非道さ。
そして、あの邪悪な微笑みこそ自分のライバルに相応しい。
デュマは目の前にいるメイルスティアを単なる復讐の相手ではなく、好敵手として認めたのだ。

 「フハハハハ!!デュマよ、貴様はなぜこの私に向かってくる?よもや復讐などという、くだらん理由ではなかろうな?!」

今にも襲い掛かろうとしているデュマを冷静に、そして見下した目で見やると、彼女は続ける。

 「2度目の命、この私の為に使う気はないか?」

 「またテメェの言いなりになれってか?ナメてんじゃねぇぞ?」

 「くだらんぞデュマ!!愚民とは言え、この私の弟であるサイトを葬ったそのパワー、ここで散らすのは惜しいと言っておるのだ。」

 「金も、権力も、圧倒的なパワーの前では無力だと思わんか?」

 「思うよ。」

 「いいか、この学園にはその圧倒的なパワーを秘めた恐るべき秘法が隠されていると聞く。サイトが死んだ今、その秘法を手に入れるためには貴様の強力が必要なのだ。」

 「げぇ!!マジでスゲェ話じゃねェか!!そのパワー、割り勘にしてくれるなら乗るぜ?」

 「Yes I am」

 「Good!!」

こうして、闇の貴公子ジャップル・デュマと、破壊の魔女メイルスティアは手を組んだ。
手にしたものに圧倒的なパワーを与える伝説の秘法を手に入れるために。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





今は昼食の時間、誰もいない静かな部屋で一羽の鳥が横たわっている。
カーテンの閉じられたその部屋には小さな穴が開いており、陽の光がわずかに差し込んでいる。
地面に散らばった壁の破片からするに、鳥は外からこの部屋へ飛び込んで来てしまったのだろうか。


懐かしい床・・・、そういえば洗脳されて自害した時もこの床で眠った覚えがある。
ゆっくりと目を開けるデュマ。
何が起こったのか最初はまったく理解できなかったが、床を伝う自分の血を見て状況を把握した。

なるほど・・・、夢だったか・・・。

勢い余って破壊してしまった学園寮、そしてあのメイルスティアも、全て自分の夢だった事を悟り、彼はゆっくりと瞼を閉じた。
鋭い刃のようだったデス・ブレードが今ではサラサラヘアーに戻っており、デュマの空けた小さな穴から吹く風に揺られる。
闇の貴公子ジャップル・デュマはこうして2度目の命の幕を静かに下ろした。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


                    つづく




[19944] 第九話 『魔剣』
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:56adee96
Date: 2010/07/13 00:06
闇の貴公子は二度死ぬ。
そしてもちろん蘇る。
というわけで、一度目と同じように肉片は大きくなって、デュマが完成した。

 「ヒャッハァ!!」

今回は鳥じゃなくて、人間型。
最初の形に近いものの、マントと肩パットがなくなったシンプルデザインだ。

 「あれ?羽根がねぇ・・・。」

自分の体を見回して残念がるデュマ。
肌に張り付いたタイツのカラーは、ショッキングピンクと蛍光グリーンのブチだ。

 「カラーは最高にCOOLなんだが、飛べねぇのはいただけねぇよ陛下・・・。」

 「文句を言うなデュマよ・・・、何度も簡単に死によって・・・。」

玉座に座るのは帝王ニュードバイ。
片肘をついて、なんだか気だるそうにデュマを見ている。

 「まぁまぁそう言うなって、今回はハンパねぇヤベェ情報をGETして来たんだからよ?」

親指を立てて得意そうに笑みを浮かべるデュマだが、帝王から気だるさを抜くことはできない。
むしろ増した。

 「情報って・・・、ただ壁にぶつかって死んだだけだろう?」

やれやれと首を振る帝王だったが、それを見てもデュマは余裕そうにクスっと笑うだけだ。
よほどその情報とやらに自信を持っているようだ。

 「陛下よぉ、アンタあの女の事をこれっぽっちも理解してねェよ。オレの目を通して見ただけで、分かった気になってるだけなんて、ちゃんちゃら可笑しくて笑っちまうっつ~の。」

わざとらしく大きな溜息を吐き、デュマは続ける。

 「ヤツぁオレが壁に攻撃を仕掛ける寸前、どこからか超音波を使ってココに直接話をしてきやがったんだ。」

自分の頭を指差し、ニヤリと笑う。

 「オレが死んだのは壁に激突したせいじゃなく、多分ヤツの放った超音波にオレの精密な脳細胞がついていけず、破裂したからに違いねえ!!」

力説して勝ち誇るデュマ。
だが、もちろんそんな話を簡単に信じる帝王ではない。
唇を引き攣って「嘘臭ぇ」と連呼する。

 「ヘヘッ、信じる信じねぇはテメェの勝手だがよ・・・、とりあえずもう一回オレをアッチに飛ばしてくんねぇ?」

 「どうせまた、すぐ死ぬんだろ?」

馬鹿にして言う帝王だが、デュマはまったく気にしない。
ヘラヘラと笑いながら帝王に近づき、馴れ馴れしく肩を抱くと、耳元で呟く。

 「いいからゲート作れって。ぜってぇ後悔はさせねぇからよぉ。」

生暖かい吐息を近くで受け、かなり嫌そうな顔をした後、これ以上付き合うのが面倒になった帝王は、デュマを払いのけ立ち上がった。
右手を上げて、上空に大きな亜空間を作り出す。
 
 「コレが最後だぞ。何があるか知らんが、もう一度死んだら終わりだと思え!!」

投げやりにそう言う帝王に向かって親指を立て、ヒャハっと亜空間へ飛び込もうとしたデュマだったが、何かを思い出したように振り返る。

 「そういや、今ならビーム出るの?」

 「残念だが、ビームは出ぬ。だが、パワーアップはしておるぞ?自分の髪を触ってみよ!」

ニヤリと笑みを浮かべる帝王。
言葉に従って自らの髪の毛を触ってみたデュマは、驚きの声を上げた。

 「サ・・・、サッラサラや!!ウサギの毛みたくサッラサラになっとる!!?」

いつものように逆立ったトサカのような髪は、いつものように鋭い刃のようになっていると思わして、実はフサフサな柔らかヘアーに変化していたのだ。
ただ見ただけではまったく気付かない、高度なテクニックである。

 「ウヘヘヘ・・・、コイツァすげぇ!!負ける気がしねぇ・・・。」

自分の髪を何度も撫でながら、垂れそうになるヨダレを啜るデュマ。
どう見てもパワーアップには見えないが、彼はかなり満足しているようだ。

 「更に貴様の跳躍力は前回を遥かに凌ぐ、常人の6倍になっておる!!」

 「げぇぇ!!すげぇ進化してんじゃんオレ!!?」

狂喜乱舞するデュマに、帝王は何かを投げつけた。
それを受け取った彼は、更に目を輝かす事になる。

 「コレは・・・、コイツはまさか・・・。」

彼の手にあるのは、ただのロングソード。
だがその刀身は青く光っており、普通のものよりも格好良く見える。

 「まさかコイツは・・・、普通の剣よりも切れ味や丈夫さは劣るものの、恐ろしいまでの復元機能を備えた伝説の魔剣じゃね?」

 「その通り、それは切れ味と丈夫さは通常の剣の約1/4、だが破壊されても破壊されても何度も同じ形に復元する脅威の魔剣・セシルだ。」

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『魔剣・セシル』
 ・伝説の樵、アンデスサン・ミャク(女)が愛用したとされる魔剣。
  鉄見えるその刀身は、実は特殊な素材で作られており、切れ味、丈夫さ共に通常のロングソードの約1/4倍以下。
  例えるならば普通の刀に見える竹光のようなもの。
  だが、剣としての性能を極限まで落とした代わりに、自動修復機能がついており、折られてしまった場合や、刃こぼれ等で使用不可能になることはない。
  何度切っても、何度折れても復元することから、別名「トカゲのシッポ」と言われている。
  ちなみにセシルとは、アンデスサンの恋人の名前から取ったもの。
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得意そうに言う帝王に、デュマは目を輝かせる。

 「すげぇ!!このサラサラヘアーと、魔剣・セシルがあればオレは無敵だ!!」

 「流石に次も簡単に死なれては困るのでな・・・、感謝するがいい!!」

 「恩にきるぜ陛下!!んじゃ、あばよ!!」

セシルを背中に背負い、デュマは亜空間へと飛び込んでいく。

 (待ってろメイルスティア!!テメェだけに学園に眠る圧倒的なパワーを手に入れさせはしねぇ!!)




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





食事を終え、席を立とうとしたところで、何か騒ぎが起きている事に気付いた。
その先を見ると、サイトがミスタ・グラモンと言い争いをしている。
平民が貴族相手にあんな事を言って大丈夫だろうか?
少しだけ心配になったものの、周りがうるさくて2人の会話をうまく聞き取ることができない。
このまま席を立つこともできたが、なんとなく気になり聞き耳を立てることにした。

「なに勝手に決闘なんか約束してるのよ!!」

ミスタ・グラモンが席を立った後、駆けつけたミス・ヴァリエールが怒鳴るのが聞こえてきた。
決闘、その言葉に少しだけ目を見開く。

「メイジに平民は絶対に勝てないのよ!?」

そんなミス・ヴァリエールの言葉を無視してサイトはミスタ・グラモンを追って食堂を出て行ってしまった。
何が起こったのかは分からないが、このままではマズい事になる。
そう思い、ラリカが席を立とうとしたところで、厨房へ向かうシエスタと目が合った。

「ラ・・・ラリカさん!!サイトさんが、殺されてしまいます!!」

目を潤ませながらそう叫ぶシエスタ。
平民が貴族に逆らえば、殺されても文句は言えない。
あのサイトという少年が異世界から来たとしても、それは例外ではないのだ。
自分が行って何かできるとは思えないが、このまま無視はできない。

「大丈夫だから。」

と、なんの根拠もない言葉をシエスタにかけ、ラリカは食堂を後にする。
今朝会っただけの知り合い。
ただそれだけなのに・・・、これ以上この学園の数少ない知り合いを失くしたくない。
彼女の心の片隅にはなぜか、あのデュマの姿があった。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


                     つづく



[19944] 第十話 『再々会』
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:56adee96
Date: 2010/07/16 00:59
 「ギーシュが決闘するぞ!相手はルイズの平民だ!!」

噂を聞きつけた生徒達で溢れかえる広場。
その人ごみの中に、ラリカはいた。
誰もが手を振って歓声に答えるギーシュに注目する中、ラリカはその先でバツの悪そうに立っているサイトを見つめていた。
ここまで追ってきたものの、この異様な盛り上がりの中で何をすればいいのか分からず、ただ見ていることしかできない自分が腹立たしかった。

 「さてと、始めようか。」

拳を握って駆け出すサイト。
勝敗は誰の目にも明らかだった。
ギーシュの作り出した青銅のゴーレム『ワルキューレ』の拳を受け、地面に転がるサイト。
止めに入ったルイズの話を聞かずに無謀にも再び立ち向かった彼は、更に一撃を受けて血を吐いた。

 (見てられない・・・。)

知り合いの悲惨な姿を見て、顔を背けるラリカ。
まだフラフラと立ち上がるサイトに、容赦なく攻撃を仕掛けるゴーレム。
このままでは、本当に殺されてしまう!!
何か熱いものが込み上げ、彼女は一歩前に出た。
その時だった。

 「ヒャ~ッハッハッハッハッハァ!!」

聞いた事のある懐かしい笑い声と共に、どこからともなくヤツが目の前に現れたのだ。
そう、自殺した彼女の使い魔が。
膝をつくサイトとギーシュの間に降り立ったのは、あのデュマだった。
あの時とは服装が若干変わってはいるものの、相変わらず趣味の悪い格好をしている。
彼は人ごみに紛れたラリカには気付いていないらしく、ニタニタしながらサイトへ近寄っていく。

 「よ~うサイトォ、こんなに傷ついちゃってかわいそうに。痛かったろう?あぁぁん?」

彼の肩をポンポン軽く叩き、馬鹿にしたように言うデュマ。

 「くっ・・・、お前は確かラリカの・・・。」

 「ヒャハハハ!!ド低脳のテメェでも、流石にこの闇の貴公子・デュマ様の事ぁ忘れてなかったみてぇだな?えぇ?」

ケタケタと笑うデュマを押し退け、サイトはフラフラと立ち上がる。
相当なダメージを負っているため、立つのがやっとの状態だ。
 
 「今は・・・、お前に構ってる暇はない。まだ・・・決闘は終わってっ・・・!!」

そこまで言ったところで、サイトは再び片膝をついてしまった。
そんな苦しそうな彼を見て、デュマの表情は更に明るくなる。
すかさず近寄って話しかけ始めた。

 「しばらく見ねぇうちにたくましくなったじゃねぇの?前に会った時はピヨピヨ鳴くだけのヒヨコだったのによぉ!!」

今度はギャハハと大声で笑うデュマ。

 「なんなのよアンタ!!いきなり現れて・・・、それにギーシュ!決闘は禁止されてるはずよ!!」

声を上げたのはサイトではなく桃色の髪の少女、ルイズだった。
笑っているデュマを、そしてギーシュを睨み付ける。

 「ふむ、僕にも急に現れたそこの悪趣味な服装の男の事は良く分からないんだが・・・、ルイズ、禁止されているのは貴族同士の決闘だよ。貴族と平民の決闘など誰も禁止してはいないさ。」

咥えていた薔薇を持ち直し、ギーシュは冷静に言い放つ。

 「そ・・・そんなこと今までなかったから!!」

 「ルイズ、君はその平民の事が好きなの・・・、って君!!さっきからうるさいぞ!!」

2人のやりとりが行われている間、デュマは笑い続けていたのだ。
狂ったように地面を転げ回り、腹を押さえて大声で笑うデュマに、我慢できなくなったギーシュが口を挟む。

 「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!たまんねぇ!!たまんねぇよぉ!!アヒャヒャヒャ!!」

 「・・・、っと、とにかく!!自分の使い魔がみすみす怪我をするのを黙って見てられるわけないじゃない!!」

 「だ・・・誰が怪我するって・・・?俺はまだ平気だっつの・・・。」

地面に手をつき、ゆっくりと立ち上がるサイト。
そんなサイトに、ルイズが駆け寄ろうとした時、いままで馬鹿笑いをしていたデュマが声を上げた。

 「うるせぇぞカス共!!今オレが、この負け犬を馬鹿にして遊んでんだから静かにしてろよ。なぁサイト、んん?」

 「どけ!!俺はまだ・・・負けてねぇ・・・。」

ギーシュと自分の前に立っていたデュマを、押し退けるサイト。
何度もゴーレムの攻撃を受け、満身創痍のはずにもかかわらず、彼の目は死んでいなかった。
そんな彼の姿を目の当たりにし、ルイズはもちろんデュマも軽く驚いていた。
「サイト・・・。」とルイズが小さく呟くが先か、デュマが一瞬間を置いてまた笑い出す。

 「ウヒャヒャヒャヒャ!!おもしれえよ!たまんねぇよ!!」

そんなデュマを無視し、サイトはゆっくりと、しかし確実にギーシュへと向かっていく。
そして、駆け出そうとした時だった。

 「待てよ、テメェのその殺気立った目、気に入ったぜ。」

振り向くサイトの目には、いつになく真面目な顔をしたデュマがいた。
不思議そうにその顔を見つめるサイト。
そんな中、デュマは背中からゆっくりと剣を引き抜いた。
刀身が怪しく光る魔剣・セシルである。
 
 「貸してやるよ。オレが出張れば数秒であの小僧を粉にできるが・・・、それじゃあテメェの気が治まんねぇだろ?あの小僧が魔法を使うんなら、テメェもコイツを使えよ?」

ニヤリと笑い、セシルをサイトに握らせるデュマ。
その時、彼の左手に刻まれたルーン文字が光り出した。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




青く光る剣が一瞬でゴーレムを粉砕する。
魔剣・セシルの特性は通常の剣の約1/4の強度とその再生能力。
勢い良く青銅のゴーレムに当たった剣は弾けるようにその刃を撒き散らし、その破片が周囲にキラキラと舞い上がる。
崩れ去るゴーレムと宙を舞う青色の破片、そこに佇むサイトの姿はどこか美しかった。

 「なっ!!」

予想外の出来事に、声にならない呻きを上げるギーシュ。
慌てて振る薔薇から、新たなゴーレムが6体出現するが、サイトはまったく動じなかった。

 (体が軽い・・・、いままでのが嘘みたいだ・・・。)

同時に迫る5体のゴーレムを瞬時に切り裂き、飛ぶようにギーシュへと間合いを詰める。
咄嗟に最後の1体を壁代わりにするギーシュだったが、その瞬間に勝負は決まった。
ゴーレムは切り裂かれ、地面に転がる彼を、サイトの剣が捉えたのだ。
ザシュっと耳元で音がし、体を強張らせるギーシュだったが、自分が無事だということに気付き、薄目を開ける。
サイトの握る剣が自分の目の前に刺さっており、その周りにはキラキラと青色の光が舞っている。

 「続けるか?」

完全に戦意を失ったギーシュは首を振り、小さく「参った」と呟いた。
剣を地面から抜くサイトの後方で、今まで良い子にしていたデュマが騒ぎ出す。

 「どうしたサイト?!殺せ!!止めを差せ!!お前の闇をオレに見せろ!!」

嬉しそうな顔で、叫ぶデュマ。
そんな彼に向かって、サイトは持っていた剣を投げ返した。
片手で剣を受け止め、デュマが怪訝そうな顔でサイトを見やる。

 「あんだ?憎くねぇのか?そこの小僧を殺したいんじゃねぇのかサイトォ!?」

 「もう・・・勝負は終わりだ・・・。」

叫ぶデュマに背を向け、ゆっくりと歩き出そうとするサイトだったが、そのまま地面に勢い良く倒れてしまった。
重い疲労感が体を襲う。
サイトへ駆けて行くルイズを見やり、デュマは舌打ちをする。

 「チッ、興ざめだぜ。所詮はただの籠野郎か・・・。」

ペッと唾を吐き、役目を終えたセシルを背中に戻す。
周りからは、「あの平民すげぇ!」「ギーシュが負けたぞ!!」など、2人の決闘を見物していた生徒達の声が聞こえてきた。
全員の視線が倒れたサイトとルイズに向かっている。


興味をなくしたデュマが跳び立とうとした時、後方から聞き覚えのある声が響く。

「待って!!」

ゆっくりと振り向く彼の視線の先、そこにはあの少女の姿があった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


                         つづく



[19944] 第十一話 『うっとり』
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:56adee96
Date: 2010/08/01 23:09
 「よう、メイルスティア!久しぶりじゃねぇの?元気?」

軽く手をあげて挨拶するデュマだったが、ラリカの表情がやけに強張っているのに気付き、眉を潜める。

 「あんだ?なんでキレてんだテメッ・・・!?」

 「良かった・・・、ホントに戻ってきた・・・。」

デュマが言い終わる前に、そう呟いて地面に崩れるように座り込むラリカ。
先ほどまでの強張った表情がすでになく、安堵の笑みが彼女から漏れていた。
その目には少しだけ涙が溜まってるのが分かる。

 「アレ・・・、どうしたんだろ私・・・。」

軽く目を擦るラリカ。
そんな彼女を無言で見つめていたデュマだったが、少し間を置いて話し出す。

 「なんで泣いてんのか分からんが、そんなトコに座ってねぇで、まずは打ち合わせでもしようや?なんのためにオレが戻ってきたか、知らねぇわけでもあるめぇ?」

座り込むラリカに手を差し伸べ、デュマはニヒルに微笑む。

 「・・・、確かビームがどうと・・・。」

立ち上がりながら言いかけたところで、彼女は何かに気付いたようにデュマから視線を外す。
その先には、まだ倒れたサイトに寄り添うルイズの姿があった。
見学をしていた生徒達は、もう興味をなくしたように、ぞろぞろとその場を去っていく。
貴族に勝った平民、ではあるが結局は平民ということだろうか。

 「そういやお前、あの小僧の姉じゃなかったっけ?使えねぇ弟は消しても問題ないとか言ってたが、ヤツは意外に使えると・・?」

言い終える前に、ラリカは2人の下に駆けて行く。

 「チッ、げんきんな野郎だぜ・・・。」

ニヤリと笑い、デュマもゆっくりと歩き出す。



「ああもう!重いのよこの馬鹿!!」

倒れているサイトに罵声を浴びせながらも、頑張って運ぼうとしているルイズ。
その時、サイトの体が急に軽くなった。
宙に浮く彼を不思議そうに眺め、ルイズがゆっくりと後を振り向く。

 「手伝います。ミス・ヴァリエール。」

 「アナタは・・・。」

ルイズの目線の先、そこには灰色の髪をした少女が立っていた。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





爽やかな青空の下、サイトは可愛いウサギを追いかけて走っていた。
どこまでも広がる草原に、ウサギとサイトだけが駆け回っている。
ピョンピョンと跳ねる度にピコピコと上下に動く小さな丸い尻尾が愛くるしい。
サイトに捕まると、ウサギは困ったように鼻をヒクつかせるが、暴れて逃げようとはしなかった。
フワフワな、まるで綿毛のようなウサギを優しく抱き上げるサイト。
柔らかくて暖かい、柔軟剤を使った羽毛布団でも、こうはいかないだろう。
抱き上げられて、プルプルと小刻みに震えるウサギのお腹の辺りにサイトは顔を埋めた。
頬に触れる繊細な毛が、彼に恐ろしいほどの安堵感を与えてくれる。
いつまでもこうしていたい、そう感じたサイトは知らず知らずのうちに呟いていた。

 「ああ・・・しあわせ・・・?」

ゆっくりと目を開けると、そこにはやはりウサギの毛があった。
もう一度目を閉じようとしたものの、なぜか自分がベッドの上に寝ているような感覚があったことと、ウサギを抱き上げているはずの両手が自由なことに気付き意識を戻す。
そして、

 「うおおおああああ!!?」

フワフワな毛の正体に気付いたサイトが大声を上げてベッドから勢い良く落ちる。
その目線の先、ベッドの横にはあのデュマがいた。
ベッドに向かって、あのトサカのような髪を垂らしている。
そう、あのフワフワで柔らかく暖かい毛の正体はデュマの髪の毛だったのだ。

 「あら、起きたのアンタ?」

尻餅をついてデュマを指差すサイトの後方で、ルイズが呟く。
慌てて振り向くサイトの目に、ムスっとした顔で睨み付けてくるルイズが飛び込んできた。

 「ルイズ!って、何なんだ!?なんでアイツが!!」

 「馬鹿ね、アンタが倒れた後、ここへ運ぶのを手伝ってくれたのよ・・・、そいつじゃなくて・・・、彼女がね。」

ルイズの視線の先には、控えめに微笑むラリカの姿があった。

 「良かった、もう大丈夫そうですねサイト。」

 「ラリカ!?って、じゃあ2人で俺の看病をしてくれたのか?」

驚いた後、彼は照れくさそうに笑う。

 「あ・・・、なんか迷惑かけちまって悪かったな・・・。」

そんなサイトに、黙っていたルイズが口を開けた。

 「そうよ!貴族様2人がアンタみたいな使い魔の平民の看病をしてあげてたのよ!?ご主人様に感謝しな・・・!?」

 「アヒャ~ッハッハッハッハッハッハッハ!!!」

ルイズの言葉が終わらないうちに、ヤツが大声で笑い出す。
そう、デュマだ。

 「ウフフフ・・・アヒャヒャヒャヒャヒャ!!!」

不快な馬鹿笑いを続けながら、ベッドに倒れこむ。
バタバタと足を動かしながら腹を押さえて笑い転げるデュマを唖然と見つめる3人だったが、しばらくしてルイズが口を開けた。

 「アンタ、アイツの髪の毛がよっぽど気持ちよかったみたいね。」

その一言で、サイトの表情が変わる。

 「そうだ!!何なんだよあれは!!気持ち悪いな!!」

 「フヘヘヘ・・・、どうだった?このオレのパーフェクトヘアーの気持ち良さはよう!!」

ハァハァと肩で息をしながら、デュマがようやくまともに話し出す。
笑いすぎたせいか、その目には涙が浮かんでいる。

 「な・・・なにを!!」

 「うっとりしてたわよ。」

思い出して軽く笑うルイズにつられて、ラリカも笑っている。
そんな様子に、サイトの顔が恥ずかしさで真っ赤になった。

 「ヒャ~ッハッハッハッハッハッハァ!!オレの髪の毛は宇宙最強だぜぇ!!アヒャッヒャッヒャッヒャッヒャ!!!」

再びバタバタと笑い転げるデュマ。
更に、つられて笑い出すルイズとラリカによって、静かだった部屋が急に騒がしくなったようだ。
そんな中、サイトだけが肩を落として絶望していた。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

つづく



[19944] 第十二話 『使い魔』
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:56adee96
Date: 2010/08/02 22:02
こんばんは、「ダイ・ユマ」です。
そう、デュマデュマ言ってるからオレの事「デュマ」って名前だと勘違いしてるかもしんねぇけど、実の名前は「ジャップル=ダイ・ユマ」なの。
まぁ、めんどくせぇからデュマって言っちゃうんだけどな!! ヒャハ!!

というわけで、デュマは夜中の学園を徘徊していた。

 「ウヘヘヘ!!最強の力はどこに隠れてやがるんだ?」

何度問い詰めても答えてくれないラリカに痺れを切らしたデュマは、彼女が寝た後に部屋を抜け出していたのだ。
まだこの学園の地理を把握しているわけではないため、とりあえず適当に動き回る。

 「ウヒャヒャヒャ!!忍ぶ!!!忍ぶぞ!!」

しばらく歩き回ったところで、デュマの笑い声は止んでしまった。
キョロキョロと辺りを見回した後、力が抜け落ちるように地面にしゃがみこんでしまう。

 「ヤベェよ・・・、探すの飽きちまったよ・・・。」

そう呟き、デュマはそのまま床に横になった。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





 「なんでこんなトコで寝てるのよコイツ・・・。」

 「さあ?」

部屋の前で寝転がっているデュマを発見したルイズがサイトに問いかけるが、サイトも頭にハテナマークだ。

 「アンタ、コイツと仲良いんじゃなかったっけ?」

 「いや、ラリカとは友達だけど・・・、コイツのことは全然・・・。」

 「ふぅん・・・、じゃあラリカに知らせてあげたら?」

 「おう、ってかお前ラリカの事、ラリカって呼ぶんだな。あっちはミス・ヴァリエールとか言ってなかったか?」

 「ん・・・、ルイズって呼んでいいよって言っといたわよ。」

少し恥ずかしそうにそういうと、ルイズはいつものようにサイトに洗濯物を預けて部屋に戻っていった。

 「なんでちょっと照れてるんだアイツ・・・?」

少し首を傾げた後、寝転がるデュマに目線をやる。
ジャップル・デュマ・・・。
確か俺と同じ異世界から召喚された使い魔。
俺のいた世界とは違う世界だろうが、もしかすると唯一自分と同じ境遇の人間なのかもしれない。
できればいろいろと話をしてみたいが、コイツの言動はなぜか上から目線なうえに、一貫性がなく、行動も不可解なことが多すぎる。
ご主人のラリカは良いヤツなのに・・・。
そんなことを考えながら、何気なくデュマを見ていると、肩を軽く叩かれて振り返る。

 「ああ、ラリカ。丁度コイツの事で話に行こうかと思ってたんだ。」

そう言われ、ラリカはそっとデュマの寝顔を見やる。

 「こんなところにいたんですね・・・。起きたら急にいなくなってて心配してたんですよ。」

 「心配・・・か。ラリカはコイツの事、結構気に入ってるみたいだな?」

何気なく聞いたつもりだったが、それを聞いたラリカの顔が一瞬赤くなるのをみて驚く。
こんなピュアな反応を見たのはいつぶりだろうか?とさえ思ってしまう。

 「いえ・・・あの・・・、使い魔ですから・・・。」

 「へぇ・・・、でも羨ましいよコイツが。俺のご主人様なんてまるで俺を奴隷みたく思ってるんじゃないかってさ。」

呆れたように首を振るサイトに、ラリカが続けた。

 「ミス・ヴァリエールもサイトの事は大事にしてると思いますよ。ミスタ・グラモンとの決闘の後、一番必死で看病していたのはミス・ヴァリエールですから。」

少し照れくさかったため、へぇ・・・と軽く受け流し、サイトは話題を変えた。

 「それよりも、このデュマって・・・どういう人間なのかとか・・・、知ってるか?」

そんなサイトの質問に、少し間を置いてラリカは一言答える。

 「いえ・・・、まったく・・・。」

主人であるラリカでさえ、把握できていないこのデュマという男は・・・、何者なのか?
とサイトが戦慄していると、再び部屋のドアが開き、ルイズが顔を出す。
ラリカが来たのに気付いてドアを開けたようだ。

 「あ、おはよう・・・ラリカ・・・。」

なぜか上目遣いでモジモジしながら言うルイズは可愛らしかったが、なぜそんな緊張しているのかと疑問に思いながら、サイトは再びラリカに目線を戻した。

 「おはようございます、ミス・ヴァリエール。」

優しく微笑むラリカだったが、ルイズはなんだか不満そうだ。

 「あの・・・、ルイズでいいって・・・。」

頬を赤らめながら言うルイズに、ラリカは慌てて言い直す。

 「おはようございます、ルイズ。」

そんな彼女に、ルイズの顔が急に明るくなる。
何がなんだかさっぱり分からないサイトを尻目に、半開きだったドアを開けてルイズが笑顔で繰り返す。

 「おはようラリカ!あの・・・、じゃあ・・・一緒に食堂とか・・・、行かない?」

 「誘ってくれてありがとうミス・・・、ルイズ。でもデュマが寝ているので・・・。」

 「あ・・・、そう・・・。」

落ち込むルイズを見て、申し訳なさそうなラリカ。
そんな姿を見ていたサイトが口を挟んだ。

 「あ、じゃあ俺がコイツの面倒見とくから、2人で行ってこいよ。」

瞬間、ルイズの顔が明るくなる。

 「そ・・・、そうよ!!アンタ達は使い魔同士仲良くやってればいいのよ!!だから、あの・・・。」

そこまで言われてはラリカも断れないようで、「ではよろしくお願いします。」と、サイトに残して2人で行ってしまった。
なんだかやけに上機嫌なルイズを見て、サイトも心なしか嬉しかった。
ルイズは、ラリカと仲良くなりたいのかもしれないな・・・、なんて事を考えてニヤニヤしてると、床に寝ていたデュマの目がパッと開く。

 「うおっ!!」

軽く声を出してしまったサイトを、寝たままに状態で睨み付けるデュマ。

 「あんだテメェ・・・、このデュマ様の顔を見てニヤついてんじゃねぇぞコラ?」

 「それは大至急誤解だ。」

冷静に切り替えしたサイトに、それ以上デュマは追及しなかった。
ゆっくり起き上がった後に、服についた埃を軽く払って辺りを見回す。

 「おい小僧、メイルスティアの野郎はどこにいる?部屋か?」

 「え・・・?ああ、ラリカなら今さっきルイズと・・・。」

 「あんだと!!?まさかあの野郎、あの桃毛の小娘と抜け駆けするつもりじゃねぇだろうな!?」

 「は?なんの話か知らないけど、お前が思ってるみたいな変なことはしてないと思うけど・・・。」

更にキョロキョロと辺りを見回し始めるデュマ。
呆れた顔でその姿を見ていたサイトに、再び話しかける。

 「そういや・・・、テメェは弟だったよな?」

 「・・・、はい?」




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





なぜか急に馴れ馴れしくなったデュマと共に、サイトは洗濯場まで来ていた。
ジャブジャブと洗濯をしている彼の後ろで、デュマが腕を組んで立っている。

 「なあ、そんなとこで堂々と立たれてても困るんだけど・・・。暇なら手伝ってくれないかな?」

背中を向けたままデュマに語りかけるサイト。

 「手伝う?何の事だかサッパリ分からんが、早くその意味不明な行動をやめてオレの話を聞け。」

 「・・・。」

少し間を置く。
いろいろと想像してみたが、多分デュマにとって今自分が行っている「洗濯」という行為は「意味不明な行動」らしい。
生活習慣がまったく違うのだろうか・・・。

 「じゃあちょっとあっちで待っててくれるか?」

ここでデュマと口論をしても始まらないと考え、サイトは彼に少し離れた場所で待つように伝えた。

 「チッ、テメェがヤツの弟で情報を持ってなかったらとっくに殺してたぜ・・・。」

などと、また意味の分からない事を口走った後、デュマはその場所へ移動する。
そんな彼を横目で見ながら、サイトは考えを巡らせていた。
もしデュマが自分と同じ境遇ならば、何か情報共有ができないものかと・・・。
そして、一緒に自分達の世界へ帰る方法を探せるようにならないかと・・・。
ギーシュとの一件では、なぜか自分を救ってくれたデュマを心のどこかで信じていたのかもしれない。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

つづく



[19944] 第十三話 『契約』
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:56adee96
Date: 2010/08/02 23:32
 「恐ろしいパワーが学園に隠されていて、世界征服のためにラリカがそれを狙っている・・・だっけ?」

復唱するサイトに、デュマがニヤリと笑った。

 「飲み込みが早ぇじゃねぇの?知っててオレを謀ったのかよ?見かけによらず策士だなテメェはよォ!!ヒャハ♪」

サイトは目の前でベラベラと話すデュマを胡散臭そうな目で見つめる。
洗濯が終わって、ようやくまともに話せると思ったのに、第一声がコレだと先が思いやられる。

 「確かにこのファンタジー世界ならそんな事もあるかもしれないけどさ・・・、ちなみにそれはラリカが自分で言ったのか?」

 「じらしてんじゃねぇよダボが!!今はテメェの質問タイムじゃなくて、このデュマ様の質問タイムだっつ~の。」

バシバシと地面を叩き、デュマは続ける。

 「いいか小僧、オレはお前がメイルスティアの弟だからこうやって丁寧に聞いてやってんだぜ?少しでも妙な行動をしてみろ・・・? バラバラの肉片にしちまうぜ?」

 「は?俺がラリカの弟・・・?」

あまりに話しが突飛すぎるため、まったく理解できていないサイトが口を挟むと、デュマがゆっくりと背中の剣を抜いた。
青く光る魔剣・セシルである。
「うおお!」と軽く叫んで距離を取るサイトを睨みつけ、デュマが続ける。
 
 「もう我慢なんねぇよ・・・、完全にキレちまったよオレ・・・。」

ペロリとセシルを舐めるデュマの目は、完全にイってしまっている。
流石にそれを見てサイトも恐ろしくなったのか、両手を突き出してなんとか制しようとする。

 「ま・・・待て待て!!少し冷静になってくれ!!」

 「冷静・・・?オレは至って・・・冷静だずぇ!!!ヒャッハァ!!」

瞬間、セシルを振りかぶったデュマがサイトへ向かって突進してくる。
声にならない叫び声をあげて、その攻撃を避けるサイト。
地面に転がりながら、「待て!ちょっと待て!!」と叫び続けている。

 「な~に避けてんだ小僧?すぐ楽にしてやるから良い子にしてろよ?」

勢い良く振り下ろしたせいで地面に突き刺さってしまったセシルを抜き取り、またサイトに向かって構えるデュマ。
なにがなんだか分からないサイトも、どうにか立ち上がる。

 「わ・・・分かった!分かったから、ちゃんと話を聞くから剣を収めてくれ!!」

 「大丈夫・・・、テメェの首を刎ねたら、ゆっくりとお話を聞かせてやるよ・・・。ウヘヘヘ・・・。」

ニヤニヤと笑いながら近寄ってくるデュマ。
そんな姿を見ながら、これ以上の説得は無意味と判断したサイトが背を向けて走り出す。

 「ヒャハハハハハ!!そうだ逃げろ!!このオレを楽しませろ!!」

逃げ行くサイトの後姿を見ながら、デュマは大声で笑う。

 「ウヘヘヘ・・・、馬鹿な野郎だぜ・・・。追い詰められたウサギが逃げる先には巣がある・・・。そう、ヤツの逃げる先には必ずオレの捜し求める秘宝があるに違いねぇ!!」

そう叫び、地面を蹴ると宿舎の屋根まで跳び上がる。

 「ヤバイのは誰だ? ヤバイのは・・・オレか!? ヒャ~ッハッハッハッハッハッハッハッハッハァ!!」

走り去るサイトの姿が見えなくなると、デュマは屋根の上で大声で笑い出した。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





 「あの・・・、その・・・、あの時は本当にありがとね。」

隣に座るラリカに言うルイズ。
照れくさそうだが、どこか楽しそうである。

 「いえ、サイトは・・・知り合いですからあれくらいは・・・。」

控えめなラリカに、ルイズが微笑む。

 「アナタは、私の使い魔のことを馬鹿にしないのね・・・。」

そう言われて、はっと気付くラリカ。
そういえば、あまりに普通に接していたせいで忘れていたが、サイトは平民だった。
平民の使い魔を召喚した、ゼロのルイズ。
あのミスタ・グラモンの一件からあまり公に馬鹿にする者もいなくなったが、確かに彼女と彼女の使い魔は特殊だった。
とは言うものの、自分の使い魔もアレでは・・・。

 「それに、私が魔法を使えないことを馬鹿にすることもないし・・・。」

馬鹿にしないのではなく基本的に興味がないのだ、とも言えずラリカは愛想笑いを浮かべる。
他人に興味がなかったのか、他人と接するのが怖かったのか、そんな私がなぜか今はサイトやシエスタ、そして私よりも裕福で高い位の貴族であろうルイズまでと話している。
よくよく考えてみると不思議だった。

 「そういえば、アナタの使い魔も・・・チキュウ?とかいう所から来たのかしら?」

チキュウ・・・、そういえばあの井戸の場所で最初にサイトと話した時にそんなことを聞いた覚えがある。

 「いえ、デュマは・・・、デュマのことはまだ私もあまり良く分からなくて・・・。」

眉を潜めるラリカに、ルイズは取り繕うように続ける。

 「確かに・・・、アイツは私にも理解できないわ・・・。でも、サイトを救ってくれたりして、意外といいヤツなのかも・・・。」

 「私も・・・、そう思いたいです・・・。」

優しく微笑むラリカに、ルイズの顔も緩む。

 「じゃあ、あ・・・あれね!私とラリカは・・・、同じ何だか分からない生物を使い魔にしてる・・・仲間って事ね!!」

少し恥ずかしそうに言うルイズに、少しだけ間を置いてラリカも頷いた。
「知り合い」「友達」「仲間」、そんなものとは無縁だと思っていたが・・・、これも彼が現れたお陰なのかな?と、ふと思う。

その時だった。
扉が勢い良く開かれ、食堂に聞き慣れたあの声が響いたのは。

 「ラ・・・ラリカ!!ルイズ!!助けてくれ!!」

飛び込んで来たのはルイズの使い魔、サイトだった。
肩で息をしながら2人の下へ駆け寄ってくる。

 「な・・・なんなのよアンタ!!貴族様の食事の邪魔をするなんて・・・!!」

 「デュ・・・デュマが!!デュマが急に襲って!!」

驚き、辺りを見回すラリカ。
食堂にいた生徒達の注目が自分達に集まっていることを知り、少し躊躇する。

 「ラリカ、ここは目立つから場所を変えましょう。」

そう言って、食堂を後にするルイズの後を追う2人。
「また何か騒ぎ起こすのかよ」などと、生徒達が口々に言っているのが聞こえる。
だが、そのからかうような話し声も、ガラスをぶち破って入ってきたあの男によって悲鳴に変わった。
青い剣を手にした、闇の貴公子・デュマである。

 「ヒャッハァ!!見つけたぜサイトォ!!」

食堂の出口に差し掛かっていたサイトに叫ぶデュマ。
 
 「デュマ・・・。」

そんな彼を見つめ、小さく呟くラリカだったが、彼女の姿は彼の目には入っていないようだ。
机の上を歩きながら、サイトとルイズへと向かうデュマ。

 「な・・・なんなのよアンタ!!私の使い魔に何しようっての!!」

怯えるサイトの前に立ち、杖を構えるルイズに、デュマがニヤリと笑みを浮かべる。

 「なんにもしやしねぇよ・・・、ただちょっとぶっ殺すだけだずぇ!!ヒャ~ッハッハッハッハッハッハッハ!!」

「なんだよアイツ・・・、完全にイカれてるんじゃないか?」
「怖い・・・。」
などの声が、食堂の端へと避難した生徒達から聞こえてくる。

 「ウフフフ・・・、アヒャヒャヒャヒャ!!!ヒャ~ッハッハッハッハッハッハァ!!ヤバイのは誰だ?ヤバイのは・・・オレかぁ!!?」

更に大声で笑い出すデュマに向かって、1人の少女がゆっくりと歩き出す。
灰色の髪のその少女は手に杖を持ち、彼を睨みつけている。

 「デュマ・・・、これ以上は・・・止めてください。」

 「メ・・・メイルスティアァ!!」

ようやくラリカに気付いたデュマが驚きの声を上げ、後ずさる。

 「テメェがいけねぇんだ!!あの秘宝の場所をオレに教えねぇから!!だからあの小僧を殺して聞き出そうと!!」

明らかにうろたえているデュマを尻目に、ラリカは後ろのルイズに問いかける。

 「ルイズ、確認させてください。1度死んでしまった使い魔との契約は解除されてしまうんですよね?」

 「?・・・、た・・・確かそうだったと・・・。」

なぜそんなことを聞かれたか理解しきれていないルイズだが、一応答える。

 「じゃあ、その後また復活した使い魔との契約は・・・、同じように儀式を行えば戻るのでしょうか?」

 「え・・・?そんな事は・・・、今までに事例がないから・・・。」

答えきれなかったルイズだったが、はじめからそれを予想していたかのようにラリカは一言「ありがとう」と言って、再びデュマに視線を戻した。

 「テ・・・テメェ・・・、まさかまたこのオレを洗脳しようってんじゃねぇだろうな?」

手にしたセシルを構えるデュマに、ラリカは真顔で頷く。
その目は、今までになく鋭い。

 「フ・・・ヘヘヘ・・・、なかなかの威圧じゃねぇかメイルスティア!!だが・・・、生まれ変わったこのデュマ様に、同じ手は二度と通じねぇ!!」

そう叫び、攻撃してくるかと思いきや、デュマはセシルを投げ捨てて手を広げた。
驚くラリカに、笑いながら続けるデュマ。

 「さあ、やってみろ!!テメェの洗脳が上か、このオレのパワーが上か!!今ここで証明してやるぜぇ!!」

言い終わらないうちに、ラリカは走り出していた。
再び、デュマと契約の儀式を行うために。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

つづく



[19944] 第十四話 『精神汚染』
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:56adee96
Date: 2010/08/17 21:01
崩れるように膝を着くラリカ。
そして、少しだけ間を置いてデュマもその場に倒れてしまった。
静まり返る食堂。

「ラ・・・ラリカ!!」

声を発したのはサイトと、ルイズだった。
膝を着いたまま動かないラリカに駆け寄り、声を掛ける2人。

「大丈夫かラリカ?」

「大丈夫?」

頭を押さえながらゆっくりと立ち上がるラリカ。
少しだけ苦しそうに眉を潜めている。

「大・・・丈夫。」

そう呟き、ゆっくりと視線を地面に倒れているデュマへ向けた。
白目を剥いてだらしなく気絶している。
何かを考えるようにその姿を見つめていたラリカだったが、しばらくして興味を失ったように目線を外し、フラフラと歩き出した。

「ラリカ、デュマは・・・いいのか?」

サイトが後ろから声を掛けてくるが、ラリカは軽く手を上げるだけでそのまま食堂から出て行ってしまった。
残されたサイトとルイズが慌てて追いかける中、デュマの体はゆっくりと薄れていった。
今起こった一連の騒動、そしてデュマの消滅を呆然と見ていた生徒達が騒ぎ出したのはそれからだった。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




ラリカはゆっくりと井戸へと向かっていた。
自分に起こった事が理解できないのか、虚ろな瞳でフラフラと歩く。

「ちょっとラリカ、大丈夫なの?」

「どうしたんだよ!!何があったんだよ!!」

後方から2人の声が聞こえるが、今の彼女に構っている暇はなかった。
一刻も早く、確かめたい事があったのだ。
足早に井戸へと到着すると、そのまま食い入るように水面を覗く。
そこに写っているのは、灰色の長い髪に少しキツめの目が特徴的な、見慣れた自分の顔だった。
確かめるように自分の顔を軽く撫で、何かを確信した彼女は小さく笑みを浮かべた。

「なんで無視するんだよ?どうしたんだ?」

そんなラリカの肩を掴み、強引に振り向かせたサイトだったが、彼女の表情を見て言葉を失った。
悲しんでいると思っていた彼女が、笑っていたのだ。

「ど・・・どうしたのラリカ?」

心配そうに顔を見上げるルイズ。

「フフフ・・・、ハハハッ!!ハハハハ!!!」

顔を片手で押さえ笑い出すラリカに、サイトとルイズが驚いている。
ひとしきり笑ったところで、ラリカはゆっくりと口を開いた。

「あら、ピンク髪のルイズちゃんとサイト坊ちゃんじゃない。いつからいたのかしら?」

今まで見たこともないような不気味な笑みを浮かべ、妙なテンションで話しかけてくるラリカ。

「どうしたんだラリッ・・・!?」

近寄ったサイトだったが、腹部に鈍い衝撃を受けて目を見開く。
ラリカの細い腕が引き抜かれると同時に、膝を着くサイト。

「ラ・・・、ラリ・・・カ・・・?」

虚ろな目で見上げるサイトを尻目に、唖然としているルイズへ近寄っていくラリカ。
その顔は笑ったままである。

「ど・・・どうしたのラリカ!?何かへッ・・・!!?」

「ハイッ!ハイィィィィィ!!」

瞬間、間抜けな叫び声とともに右から平手打ちが繰り出され、無防備だったルイズの頬を捉えた。
反動で顔が左で振れるが、流れるような動作で続けられる往復の平手打ちか彼女を張り倒した。
地面に倒れ、頬を押さえるルイズは、自分に何が起こったのか理解できていない様子である。

「なっ、何をっ!!?」

「フフフ・・・ハハハッ!!ヒィャ~ッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハァ!!」

地面に倒れる2人を見下し、ラリカはまた大きく笑い出す。
あの大人しかった彼女からは想像できないような下品な笑い。
そんな彼女を見て、ルイズが声を荒げた。

「アナタ・・・誰なの!?」

ルイズの問いかけに、ラリカは笑いを止める。
そして、ゆっくりと口を開いた。

「オレが誰かって?ククク・・・、オレはメイルスティア様だぜぇ?!」

睨みつけるルイズに顔を近づけてケタケタと笑うラリカは、狂ってしまったようにしか見えない。
それを見ていたサイトが、驚いたように声を上げた。

「まさか・・・お前!?デュ・・・デュマか!!?」

その言葉に、ラリカの表情が一瞬真顔に戻る。
ゆっくりとルイズから目を離し、後方のサイトへ視線を向けた。

「デュマ様だろう?」

未だに膝を着くサイトへと歩み寄るラリカ。

「デュマ様だろうが!!このクズがぁぁ!!!」

同時に繰り出された回し蹴りは、サイトの顔をモロに捉え、地面へ転げさせた。

「ワンコロの分際で、デュマ様を呼び捨てにするとは・・・、身の程をわきまえろ!!」

「サイトッ!!」

とっさに駆け寄り、ラリカを睨みつけるルイズ。
その目には涙が溜まっているのが分かる。

「アンタは・・・、アンタなんかがラリカなわけがない!! ラリカの事は・・・そんなに知らないけど、だけどアンタだけは違う!!」

必死に叫ぶルイズに、それまで怒りを露にしていたラリカの表情がパッと明るくなる。
そして、そのまま地面に倒れると、腹を押さえて大声で笑い出した。
足をバタつかせて下品に笑い続けるラリカ。
そんな中、頭を押さえた状態でサイトが立ち上がった。

「デュマ・・・、お前は・・・デュマなのか・・・。」

「アヒャヒャヒャヒャヒャ!!ヒィエ~ッヘッヘッヘッヘッヘッヘッヘ!!」

サイトの問いかけを無視して笑い続けるラリカ。
その下品極まりない笑い方は、嫌でもあのデュマを連想させた。

「ホントに・・・、ホントにデュマなの!?笑ってないで答えなさいよ!!」

ルイズの叫びが通じたのか、ようやくラリカは笑うのをやめて立ち上がる。
笑いすぎて流れた涙を拭い、肩で息をしながら口を開く。

「ククク・・・、ご名答だよお2人さん。 オレはメイルスティアじゃなく、デュマ様よ。」

「・・・ッ!!じゃあラリカは!!ラリカはどこに行ったの!?」

身を乗り出すルイズを片手で制し、ラリカは続ける。

「まあ、焦るなって。今からこのデュマ様が面白ぇ話を聞かせてやるからよぉ!!」

「クッ・・・。」

2人に睨みつけられる中、ニヤニヤと笑うラリカ。
話を聞かないことには、何がどうなっているのか理解できない2人は黙っているしかなかった。

「メイルスティアの野郎が、このオレを再び洗脳しようとしたことは覚えているよなぁ?」

「・・・。」

「だが、ヤツの想像を遥かに超えるパワーを身につけたオレは洗脳を免れ、更にヤツの精神を奪う事に成功したのだ!!」

「!?」

「フヘヘ・・・、そうよ!!ヤツの精神はこのデュマ様が乗っ取った!!貴様等の前に立っているのはメイルスティアの体をした・・・デュマ様なのだぁ!!」

得意げに話すデュマに、驚きを隠せない2人。
信じたくはないが、目の前のラリカがおかしくなってしまったのは事実。
彼女の話を頭から否定する事はできなかった。

「じ・・・じゃあラリカは!?」

「死んだ。」

「へ?」

「ヤツぁたった今、オレの精神に飲み込まれて・・・死んだ。」

一瞬の静寂。

「ふざけるなぁ!!」

最初に動いたのは、サイトだった。
拳を振り上げてラリカに迫り、一気に振り下ろす。
が、その攻撃は寸でのところで停止してしまう。

「くっ・・・。」

目の前にいるのはラリカ。
精神を乗っ取られたにせよ、その姿はラリカそのものなのだ。
異世界に召喚され、途方に暮れていた自分にできた唯一の友達。
そんな友達を、彼は殴る事などできなかった。
悔しさに顔を歪めるサイトに、ラリカは微笑んだ。

「ありがとうサイト・・・、デュマに乗っ取られたなんで嘘・・・。ちょっとふざけてみただけなの・・・。」

先ほどの憎たらしい笑みとは違い、あの優しい微笑みを向けるラリカ。
そのまま頬の横で停止したサイトの拳を軽く握り、そっと下ろさせた。

「え・・・?ラリ・・・。」

「その甘さが・・・鼻につくんだよ!!」

瞬間、くわっと目が見開かれると同時に繰り出された拳は、気を緩めたサイトのわき腹に深く食い込んだ。
油断し、無防備だったサイトは小さく呻いて前のめりに倒れてしまう。
そんな彼を踏みつけ、ラリカはまた大声で笑い出す。

「笑う笑う笑う笑うぅ!!ヒィヤ~ッハッハッハッハッハッハッハ!!!愛しのラリカが戻ってきたと思ったか小僧!!ヒャハハハハ!!」

背中を丸めて苦しそうに倒れるサイトを何度も踏みつけて狂ったように笑うラリカ、いやジャップル・デュマ。


その時、眩い閃光が辺りを包み込んだかと思うと、巨大な爆発が巻き起こった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


つづく



[19944] 第十五話 『激戦』
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:56adee96
Date: 2010/09/21 23:44
オレの名前はダイ・ユマ。
手からビームは出るし、跳躍力もハンパねぇ。
魔界じゃあ、闇の貴公子と恐れられ、敬われる存在だ。
そんなオレが、そんなオレが・・・なぜにWHY!?
なぜにWHY!?
なぜにほわぁぁぁぁぁぁぁいいい!!


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




ようやく視界が晴れると、ラリカ(脳内デュマ)はゆっくりと立ち上がる。
服が所々破れてはいるものの、あの爆発のわりにダメージは少ない。
少し離れた位置にサイトが倒れているが、ヤツは完全に気を失っているようだ。
キョロキョロと辺りを見渡すと、予想外に離れた位置にルイズがいることに気付いた。
どうやら爆発でここまで飛ばされたらしい。
それを考え、一瞬戦慄するデュマ。
サイトの焦げ具合から察するに、自分が軽傷で済んだのは運が良かったとしか考えられない。

 「フゥへへ・・・、やるじゃない?」

ニヤリと卑屈な笑みを浮かべるデュマとは対照的に、ルイズの顔は険しい。
無言で杖を向け、何か小声で呟いている。
そんな姿を見て、デュマの表情が強張った。

 「ッチ!!あのガキ、またやりやがる気か!?」

瞬間、デュマは回避行動に入った。
素早い反復横跳びである。
右、左と常人離れしたスピードで繰り出される反復横とびは、見事としか言いようがない。
そんなデュマの表情は、もちろん自信に満ち溢れていた。

 「ヒャ~ッハッハッハッハッハッハ!!捕らえられるか!?このオレの華麗な舞いに絶望しろ!!このオレの圧倒的なパワーにぜつっ!!?」

 「ぶふぇ!!?」

言い終わる前に、またもや爆発が起き、彼は吹き飛ばされる。
ぎゃあああ、と叫びながら宙に浮き、グへっと呻いて地面に落ちた。

 「ブヘェ・・・、い・・・いてぇ!!いてぇよおお!!」

ゲホゲホと咳をしながら転げまわるデュマ。
体はラリカだが、その行動からはすでにその面影は見られない。
しばらく転げまわったあと、息を落ち着かせるが、再びルイズを確認して顔を引き攣らせる。
杖が、また向けられているのだ。

 「ッ!!クソがぁぁぁぁ!!」

大きく叫び、今度は踵を返して逃げ出した。
たまに後ろを振り返りながら、グイグイと距離を離していくデュマ。
そんな彼の姿を、冷めた目で見つめるルイズ。

 「はいや~~~!!」

ある程度離れると、デュマは急に前方へ飛び込み前転を行った。
綺麗にキまると、そのままゴロゴロと回り続けながら笑い出す。

 「ヒャハハハハハ!!パーティーだ!!回転パーティーだずぇ!!!」

奇怪な行動を取るデュマだが、ルイズの表情は変わらない。

 「戦慄しろ!!このオレの絶望的なパワーの前に、戦りっ!?」

 「うばはぁ!!」

回転した先に発生した爆発で、デュマは逆方向へゴロゴロと転がり、そのまま地面にベタリと伏した。
一瞬気を失っていたものの、ビクンと跳ねると目を見開く。

 「げへぇ・・・、なんちゅ~パワーだよあの野郎。このデュマ様をコケに!!?」

そこまで呟いたが、ルイズがゆっくりと自分に近づいてきていることを察すると、体勢を整えた。
その目線の先には、やはりルイズの翳す杖がある。
そして、彼女の瞳は感情を失ったかのように冷ややかである。

 「余裕ぶっこきやがって!!もうゆるさねぇ!!」
 
今まで避ける、逃げるを繰り返していたデュマだったが、一転、額に血管を浮き立たせて叫ぶ。

 「ぶっころっ!?」

 「ぎゃあああああ!!!!」

瞬間、またもやデュマは爆発に巻き込まれた。
大きな衝撃を受け、立ち込める煙から抜け出すように転がり、地面に仰向けになるデュマ。
その鼻や口からは血が溢れ出ており、すでにラリカとは言えない状態である。

 「ち・・・ぢくしょおお・・・。ゴミクズの分際で・・・!?」

そう呟き、ゆっくりと起き上がったところでデュマの表情が変わった。
何かを思いついたらしく、その表情には再び卑屈な笑みが戻ってきている。

 「ウヘヘヘ・・・、ちょっと待てよピンク。死んだと思ってたメイルスティアの野郎、まだ生きてるかもしんねぇぜ?」

その言葉で、初めてルイズの表情に変化が起きる。
それを見逃さず、デュマは続けた。

 「お利口さんじゃねぇかピンク?オレは自由に精神をこの肉体から開放できる。だから、テメェが爆発をどんだけ繰り出しても、メイルスティアの体が傷つくだけで、オレは無傷ってことだ。」

鼻血を拭いながら、クスクスと笑うデュマ。

 「メイルスティアの体に限界がきたらオレはすぐに逃げ出すぜ?そしたら・・・、めでたくテメェの爆発で、あの女を殺せるってわけだ!!そして、テメェが殺したいほど憎んでるこのオレは・・・ヒャハハハ!!言わずもがなだよなぁ!!」

ギャハハと汚く笑うデュマに対し、ルイズは杖を下ろすしかなかった。
悔しそうな彼女に、デュマはフラフラと近寄って行く。

 「・・・、どうすれば・・・。」

 「ああぁん?」

 「どうすればラリカを返してくれるの!?」

キッと睨みつけるルイズに、デュマの表情が更に緩む。

 「そうだなぁ・・・。」

ルイズの目の前まで来ると、杖を強引に奪い取り、流れるような動きで彼女の頬を張った。
地面に崩れるルイズに、奪い取った杖を向けるデュマ。

 「テメェが死んだら考えてやるぜぇぇ!! ヒャハハハハハ!!!」

 「ック!!」

 「粉微塵になりやがれクソ野郎!!」

そう叫んで杖を振るうデュマに、ルイズも驚いて目を閉じた。
一瞬の静寂、だがもちろん何も起こらない。
爆発するに違いないと思っていたデュマの頭にクエスチョンマークが浮かぶ。

 「あれ? 爆発しねぇ・・・?」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


つづく



[19944] 第十六話 『本気』
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:56adee96
Date: 2010/12/16 22:45
「あんで爆発しねぇのよピンク?おかしくね?オレって最強じゃねぇの?」

ブンブンと杖を振りながら首を傾げるデュマをルイズは睨みつける。

「貴族じゃないアンタに・・・、魔法が使えるわけないじゃない!!」

「うるせぇよカス。オレが聞きたいのは魔法が使えるか使えねぇかとかじゃあなくて、オレが宇宙最強かどうかってことなんだよ。」

やれやれだぜ、と呆れるデュマ。
ルイズの方は彼女?が言っていることを理解できていないらしく、目をパチクリさせている。

「爆発で綺麗に殺してやろうと思ったのに、もう撲殺しか選択肢ねぇわコレ・・・。」

やれやれだぜ、と顔を振るデュマ。
その余裕に満ち溢れた顔が、驚きの表情に変わったのはその瞬間だった。
背後から急に何者かに羽交い絞めにされたのだ。
デュマが「なばなぁぁ!!?」と叫ぶ前に、ルイズが口を開いた。

「サイト!!」

そう、先ほどまで無様に煙を上げていたあのサイトが復活したのだ。

「離せ!!このカス野郎がぁぁぁぁ!!うびぃやああああああ!!!」

バタバタと暴れるラリカ(脳内デュマ)だが、所詮は17歳の少女の力、サイトにガッチリと固められた状態から抜け出すことなどできない。

「ちくしょう!!腕力が足んねぇ!!不良品だぜこの体はよぉ!!」

目を充血させて目の前のルイズを睨みつける。

「ルイズ逃げろ!コイツは俺がなんとかするから!!」

「でも・・・。」

「いいから早く行け!!」

サイトが叫ぶと、彼女は渋々それに従った。
その後ろ姿が見えなくなると、ようやくデュマが話し出す。

「ウヘヘ、おもしれえよ。たまんねぇよ。」

「?」

「このデュマ様をコケにしやがって・・・、ピンクといいテメエと言い・・・、ぶっち殺してやるずぇ!!うがああああ!!!!」

吼えたはいいものの、力が足らず振りほどけない。

「ッハァ!!・・・、テメェ、このデュマ様を本気にさせる気か!?」

「今の本気だったんじゃないのか?」

「んなわけねェだろボケがぁ!!いいか見てろ?これが・・・コイツがオレの本気だぁぁぁぁぁ!!」

額に血管を浮き立たせて叫ぶデュマ。
プルプルと震えて歯を食いしばるが、もちろんパワーが足らない。

「・・・、もう諦めろ。俺はラリカの体を傷つけたくない。だからさっさとラリカから出てってくれ。」

冷静に言うサイト。
デュマの方は力を込めすぎて疲れてしまったため、反応はない。

「・・・分かったよ。」

しばらくして聞こえてきた言葉に、サイトは耳を疑う。

「え?」

「分かったって言ってんだよ。もうなんかめんどくせェから、こんなゴミカスの体なんて出てってやるっちゅ~の。」

眉を潜めてイヤイヤするデュマ。

「ほ・・・ほんとか!?」

「何回も聞き返すんじゃあねェッスよ。めんどくささを通り越して逆に一生出ていかねェぞコラ?」

更に唇を歪めてイヤイヤするデュマ。

「体から出るには特殊な儀式がいるから離せよ。」

その言葉を信用しきれていないサイトが、考え込む。
彼からはデュマの表情は伺えないのを良いことに、デュマの顔はもちろんニヤけている。

「嘘じゃ・・・ないだろうな・・・?」

小さく呟くサイトだが、その迷いが油断に繋がった。
一瞬力の緩んだサイトの腕からスルリと抜け出し、回転してサイトに向き直ると同時に、勢い良くボディにキツいのを入れた。
目を見開き、小さく呻くサイト。

「はいやあああ!!」

更に追い討ちで、蹲るサイトに蹴りを繰り出す。
爆発のダメージが残っていたためか、堪えきれずに地面に倒れるサイト。
そんな彼を満面の笑みで見下すデュマ。

「ヒャハハハ!!このド低脳が!!返せ返せって言われたら逆に返したくなくなる、そんな気分だよオレは!!」

ペッと唾を吐き、サイトを置いて逃げるように走り出すデュマ。

「ピンクも貴様も必ず殺してやる!!それまでせいぜい怯えてやがれ!!ヒャ~ッハッハッハッハッハッハァ!!!」

そう叫び、デュマはサイトの視界から消えて行った。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

つづく



[19944] 第十七話 『兆し』
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:56adee96
Date: 2010/12/18 00:17
 (この体じゃ、ピンク共を根絶やしにすることなんてできねぇ!!オレ本来の超絶なパウワなバディに戻らねぇとヤベェぜ・・・。)

ラリカのバディにデュマの精神、そんな彼は今全力疾走で学園の食堂を目指していた。
しばらく走り、ようやく扉の前に着くと、膝を押さえて肩で息をする。

 (ハァハァ・・・、なんて燃費の悪い体よ・・・。つくづくイラつく野郎だぜメイルスティア!!)

怒りに任せ、扉を勢い良く開けた。
食事の時間も間もなく終了なのか、先ほどは生徒で賑わっていた食堂も、今はガランとしており、残っている生徒もまばらである。
そんな中、彼はゆっくりと自分の体があるであろう場所へ向かって前進する。

 (フヘヘ・・・、手間ぁかかせやがって。どうすりゃ元に戻るかは知らんが、強く念じればどうにかな・・・!?)

ある地点に到達したところで、デュマの思考が止まった。

 「げぇぇぇええ!!?オレの体がなくなっとるぅぅぅ!!」

思わず大声を上げるデュマに、食後の団欒を楽しんでいた生徒達の注目が集まる。

 「だ・・・誰だ!?誰が隠したぁぁぁぁぁ!!」

更に叫び、一番近くにいた女生徒に掴みかかる。
目を充血させ、歯を剥き出して威嚇するデュマ。

 「テメェかコラ?」

 「へ?」

あまりに急な展開に、間の抜けた声を出してしまう女生徒。
その態度にムカついたデュマが拳を握り締める。

 「ちょっとメイルスティア!!なんなのアナタ?」

後方から急に注意されたデュマがゆっくりと振り向くと、そこには金色の見事な巻き髪とそばかすを持った女生徒が立っていた。

 「あぁん?」

 「ああんじゃないわよ。さっきも食事の途中に変な使い魔が暴れるし・・・、今度は急に喚き散らして。恥を知りなさい。」

巻き髪の女生徒、モンモランシーが畳み掛けるように言う。
それを聞いてデュマはもう1人の女生徒から手を離し、ニヤリと笑みを浮かべた。
 
 「ヘヘヘ・・・、テメェ・・・、誰に向かって言ってんのか分かってんのか?」

「誰?そこの恥知らずな極貧貴族さんにだけど?」

 「ククク・・・、アヒャヒャヒャ!!!ヒャ~ッハッハッハッハッハッハァ!!」

急に大声で笑い出すデュマにたじろぐモンモランシー。

 「ぶっ殺す!!」

カッと目を見開き、目の前のモンモランシーに襲いかかろうとしたが、突然現れた青銅のゴーレムに阻まれて足を止めざるを得なかった。
無言で佇む青銅のゴーレム『ワルキューレ』。

 「待ちたまえミス・メイルスティア。」

一瞬間を置いて、モンモランシーと同じ金色の巻き髪の男子生徒が現れた。
服にはフリルまでついており、その話し方と同じく優雅な貴族を感じさせる。

 「例えレディでも、僕のモンモランシーに手出しは許さないよ?」

目が合うと、軽くウインクをしてそう言う男子生徒、ギーシュ。
ゆっくりとモンモランシーへ近づき、その肩に手を置く。

 「僕のモンモランシー、怒っている君も素敵だけど、いつもの優しい君の方が僕は好きだな。」

 「だって、この子が・・・。」

 「誰かと思ったらテメェ、アレじゃねえか?サイトのカスにいたぶられてたザコ。」

しばらくボケっと話を聞いていたデュマがようやく口を開くと、ギーシュの顔が思わず引き攣る。

 「テメェらカスに用はねェんだよ!!ここにいた超イカしたヤツはどこに行ったのかって聞いてんだよ!!」

そう叫んでバンバンと地面を叩くデュマ。

 「ミ・・・ミス・メイルスティア・・・。この僕をザコ呼ばわりするのは頂けないが・・・、もしかして君はそこにいた彼を探しているのかい?」

デュマが叩く地面の辺りを指差すギーシュに、デュマの目が光る。
ゴーレムを避けて2人に近寄ると、先ほどとはうってかわって上機嫌で話し出す。

 「え?知ってんのお前?超役に立つじゃん?」
 
 「ちょっ・・・ちょっと近いわよ!!」

ギーシュに接近したデュマを制するモンモランシー。
中身はデュマだが、体はラリカ。はたから見たら女の子に違いない。

「 そんなに知りたいのだったら教えてあげなくもないよ。ちなみに・・・、そんなに必死になって探している理由は何なんだい?」

 「決まってんじゃん。手に入れるためよ!!」

ギーシュの目の前で拳を握り締めるデュマの目はギラついている。
そんな彼女(彼)の言葉に、ギーシュも小さく微笑む。

 「情熱的だねミス・メイルスティア・・・。」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

つづく



[19944] 第十八話 『カリスマ』
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:56adee96
Date: 2010/12/18 12:27
 「誰このブタ。」

ポカンとしているマリコルヌを指差して、こちらもポカンとしながら聞くデュマ。
もちろん連れてきたギーシュもポカンだ。

 「へ?誰って・・・、お昼にあの場所に座っていたのは彼だよ?」

現状把握ができていないマリコルヌが、いたたまれずに作り笑いを浮かべる。

 「こんな子豚ちゃんに用はねェのよギーシュちゃん。ナメてんのかよ?」

笑顔のマリコルヌの頬をペチペチやりながらデュマが困った顔で言う。
いつもならとっくにプッツンしてもおかしくないが、今回のデュマは寛容だった。
なにせ手がかりはギーシュ以外にいないのだから。
まだ事態を飲み込めていないマリコルヌだが、女の子にペチペチされて、まんざら嫌というわけではなさそうだ。

 「オレが欲しいのはさ、もっと奇抜なヤツよ?分かってんの?」

 「奇抜な・・・、という事は普通の男子生徒ではないということだね?」

ふぅむ、と考え込むギーシュ。

 「何のことかさっぱり分からないのだけど、彼女が困っているなら僕も手伝うよ?」

ペチペチだけでなく、今度はムニムニと摘まれたり揉まれたりされはじめてしまった哀れなマリコルヌが言う。
姿はラリカなデュマに触られ続けてご機嫌な様子である。

 「お?子豚ちゃん、お前も手伝ってくれんのか?」

アヒャヒャと笑い、今度は彼の頭を撫で始めるデュマ。

 「食事の時に僕の近くにいた生徒以外の人なら心当たりあるけど?」

まだ考え込んでいるギーシュに、マリコルヌが口を挟んだ。
軽く驚く2人に、「案内するよ」と歩き出すマリコルヌ。

 「鼻の聞く子豚ちゃんだなオイ。」

 「君・・・、馬鹿にしすぎじゃないのかい・・・。」

ニヤニヤしながらマリコルヌの後に続くデュマに、軽く突っ込みをいれてギーシュも歩き出す。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 「本当に心当たりあるんだろうね?」

歩きながら、隣のマリコルヌに話しかけるギーシュ。
デュマはその後ろでなぜかスキップを続けており、話に参加する気はないらしい。

 「もちろんだよ。そんなことより、メイルスティアってあんなに明るかったっけ?暗くて目立たない印象だったけど?」

 「実を言うと僕も少し不思議だったんだよ。でも・・・、まあ恋は女性を変えるっていうじゃないか。」

知ったかぶりの笑みを浮かべ、髪をかきあげるギーシュ。
その言葉に、マリコルヌは軽く驚いた。

 「え・・・、じゃあメイルスティアは恋をしているのかい!?」

 「ん?急に食いついてきたね?ってもしかして君・・・。」

2人がそんな話をしている頃、後ろでスキップしていたデュマは考えを巡らしていた。

(ゴミ共が次々にオレのカリスマに引き寄せられている・・・。この無様なメイルスティアボディでもこれほどのカリスマなら、本来の姿に戻ったら恐ろしいことになりかねねぇぜ!!ヒャッホウ!!)


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 「で・・・、このハゲは何者なんだ?眩しくて顔が確認できねぇよ子豚ちゃん?」

目の前に立つ魔法学院の教師、コルベールの綺麗な額を指差して言い放つデュマ。
今回もコルベールはポカンだし、ギーシュもポカンだ。

 「き・・・君!!先生に対して失礼じゃないか!!」

慌てるギーシュだが、デュマは聞いていない。
眩しさをアピールするような格好でコルベールに近づくと、なんの躊躇もなく続けた。

 「すげぇピカピカだなアンタ・・・。逆に渋いぜ・・・。」

 「え・・・、ああ・・・ありがとうミス・メイルスティア・・・。」

事態をのみこめていないコルベールが、あの時のマリコルヌ同様に作り笑いを浮かべる。
違いは、ペチペチされていないことと、なぜか褒められている点だ。
そんな2人のやりとりとは別に、マリコルヌはどこかホッとした顔でデュマの横顔を眺めていた。

 「先生でもないとは・・・、これじゃまったく分からないよ・・・。」

困った顔で頭を押さえるギーシュ。
それを見て、デュマが顔を歪ませる。

 「マジかよオイ!?ヤベェよ・・・、リアルにヤベェよちくしょう!!なんて使えねぇヤツ等だよ!!」

地面に座り込み、空を仰ぐデュマ。
そんな2人の様子に、ようやくコルベールが口を出す。

 「君達・・・、何があったんだい?困っているなら相談に乗るよ?」

 「やったじゃないかミス・メイルスティア!!先生が強力してくれるなら百人力だよ。」

絶望していたデュマだったが、それを聞いて再び笑みを取り戻した。

 (ヒャハ!!やっぱりオレのカリスマは宇宙最強だずぇ!!)


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


つづく



[19944] 第十九話 『擬態』
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:56adee96
Date: 2010/12/19 21:12
探したい相手の特徴を聞いたものの、「最高にCOOL」「人知を超えたパワー」「スペースカウボーイ」など、まったく役に立たない情報ばかりで、結局コルベールを加えた4人がかりでも見つけることはできなかった。
とりあえず怪しいヤツを発見したら報告するように言伝し、3人と別れたデュマは適当に学院をブラついている。

(このデュマ様のバディが最高にカッコイイからって、誰が隠しやがったんだ?)

そんな事を考えながら廊下を歩いていると、少し離れた場所から聞きなれた声が聞こえて来た。

 「デュマ、見つかった?」

 (ピ・・・ピンクゥァァァ!!?)

口を押さえて咄嗟に物陰に隠れるデュマ。
彼の存在に気付いていないため、ルイズは目の前のサイトと話を続ける。

 「いや、まだだ。そう遠くには行ってないと思うが・・・、どこに隠れたんだ。」
 
 「アンタが任せろって言うから!!ドジ!!」

 「ごめん・・・、でも説教なら後からにしてくれ。まずは早くデュマを探そう。」

 「・・・、そうね。じゃあアンタは外を探してて。私はラリカの部屋に行ってみるから。」

2人がその場を離れて行くと同時に、デュマは物陰からズルリと這い出した。

 (あぶねぇ・・・、完全にアイツ等の存在を忘れてたぜ。)

キョロキョロと辺りを見回し、額に浮き出た汗を拭う。
2人の姿がないことを確認し、デュマは這い出た格好のまま地面を勢い良く殴りつける。

 (ちくしょお!!なんでこの闇の貴公子が、あんなチビ2匹に怯えねばならんのだ!!屈辱、屈辱、くつじょくくつじょくつじょくううううう!!)

目を血走らせてバンバンと地面を叩くデュマだったが、急に誰かに呼ばれた気がしてビクッと振り向く。
そこに立っていたのは、黒髪の少女だった。
他の学生達とは違った服装をしている。

 「・・・、ラリカさん?どうしたんですか?」

黒髪の少女、シエスタはデュマを不思議そうに覗き込んでくる。

 (誰だコイツ?)

 「あ、すみません!もしかして、私のこと覚えてませんか?!」

あわわ、と慌てるシエスタ。
「急に声を掛けてしまい申し訳ございませんでした」と、深々とお辞儀する彼女も見ながら、デュマはニヤリと笑みを浮かべた。

 (メイルスティアの知り合いか!?ウフェヘヘヘ・・・、コイツァ使えそうだぜ!!)

すぐに立ち上がると、呆気にとられるシエスタの手を引いて強引に暗がりへ連れていく。
事態を飲み込めないで驚くシエスタに、デュマは優しく微笑みかけた。

 「すっげェ覚えてるよお前の事。むしろすげぇ好き。」

 「へ?好き・・・ですか・・・?」

更に呆気に取られるシエスタだが、構わず続けるデュマ。

 「ちなみにお前の名前なんだっけ?」

 「えぇぇぇ!!?」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 「ラリカさんっぽく・・・ですか?」

首を傾げるシエスタ。

 「そう、お前の知ってるメイルスティアはこんなじゃねぇだろ?」

両手を開いて自分をアピールするデュマ。
シエスタはそんな姿を見て「はぁ・・・。」と間の抜けた返事をする。

 「だからよ、オレにヤツの話し方とか行動パターンを教えろって言ってんの。」

沈黙が流れる。

 「・・・ラリカさん、どうされたんですか?」

 「・・・記憶喪失ってヤツよ。」

 「へ?」

 「暇つぶしにスキップしてたら踏み外して後頭部から勢い良く落ちたんだ。そしたらメイルスティア本来の記憶をポッカリ持ってかれちまったってヤツ。だからシエスタ、お前の名前も綺麗サッパリ忘れてたって事だ。アンダースタンドゥ?」

とっさのデタラメな嘘だが、シエスタは一応信じたようだった。
「大変ですね、私もスキップには気をつけます」とか何とか言って眉をひそめている。

 「でも、記憶喪失になる寸前の出来事はちゃんと覚えてるんですね・・・?」

 「隅から隅までバッチリ覚えてるぜ。ヤベェだろ?天才だろオレ?」

なぜか自信満々に答えるデュマに、シエスタは「記憶喪失ってそういうものなんですね・・・、何だか複雑です・・・。」と納得してしまった。


 「ふむふむ、なるほど、な~るなる。」

 「あの・・・、ちゃんと聞いてますか?」

 「九分九厘完璧だ。今からやってみるから、何か話せや。」

場所を変えて数十分、デュマは大人しくシエスタのレクチャーを受けていた。
自信満々のデュマに、少しだけ間を置いてシエスタが演技を始めた。

 「あの、ラリカさんはどういった料理がお好きなんですか?」

 「アタシ、スキキライ、ナイ。」

 「・・・。」

してやったり、の顔で反応を待つデュマだが、シエスタは唖然としている。

 「どうした?あまりに完璧すぎて声も出ねぇのかシエスタァ!!ヒャハ♪」

 「なんでカタコトなんですか・・・?」

 「あああぁん?」

というわけで、シエスタによるデュマへのラリカ研修は更にしばらく続いた。
一応今回は命がかかっているため、デュマも真剣のようだ。

そして、

 「・・・、最後に。私の知っているラリカさんはもっとおしとやかで、優しい方でしたから、それだけは気をつけて下さいね。」

まぁ、一回しか話したことないですけど・・・、と小さく加えるシエスタだったが、デュマはそんな小さなことは気にしない。
グッと親指を立てて見せ、満面の笑みを浮かべる。

 「ありがとう。スーパー助かったわシエスタ。」

言って、ニヤリと微笑むデュマに対し、シエスタもニヒルな笑みで応える。

 「でも・・・、やっぱり記憶喪失になってもラリカさんは平民の私と対等に話をしてくださるんですね。何だか嬉しいです。」

まだ仕事の途中だったと、慌ててその場を去るシエスタの背中を見送りながら、デュマは舌舐めずりをした。

 (ウヘヘヘ・・・、後はあの豚共を召集して最後の仕組みだずぇ!!)

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

つづく



[19944] 第二十話 『復帰』
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:56adee96
Date: 2010/12/20 22:20
 「アヒャヒャヒャヒャ!!恩にきるぜ先生。」

コルベールから渡された手のひらサイズの玉に、デュマは舌舐めずりする。

 「一応危険なものだから・・・、気をつけて扱うんだよ?」

心配そうにそう言うコルベールを尻目に、デュマは玉に頬ずりしながらクスクスと笑っている。

 「安心しなよ、悪いようにはしねぇ。」

去っていくラリカ(脳内デュマ)の姿を眺めながら、コルベールは「大丈夫かな・・・。」と心配そうに小さく呟いた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


半日探し続けても見つからないデュマに、サイトもルイズも焦っていた。
デュマの発言から察するに、まだあの体の中にラリカは残っているのではないかと、そんな期待を2人は拭いきれないでいた。
まだ彼女が死んでいないのなら、一刻も早く助け出してあげたい。

 「ルイズ、そっちはどうだった?」

 「全然ダメ・・・、しばらく待ち伏せしてたけど、結局一度も・・・。」

眉をひそませ、顔を振るルイズ。

 「オレもだ。アイツ、まさか学院を抜け出してたりしないよな・・・。」

 「・・・。」

考え込む2人。
焦れば焦るほど時間の流れは早く感じる。
すでに空は茜色に変わっていた。

 「ヒャ~ッハッハッハッハッハァ!!笑う笑う笑う笑う笑う笑うぅぅ!!」

2人が再び手分けしようとした時だった。
ラリカの声に、あの気の狂ったようなセリフ。
声のする方を振り返る2人。
大きく開けた庭に、探し続けたあの男が立っていた。

 「デュマ!!」

同時に声を上げる。

 「ヒャッハァ!!必死だねぇ・・・、オイ?あまりの必死さに、笑いすぎて涙が出るぜぇ!!」

ケタケタと笑うデュマに向かって駆け出す2人。
あと数歩のところで、デュマが手のひらを突き出す。

 「おっと、そこまでだ。今のオレを刺激しねぇ方が身のためだずぇ?」

意味深に笑いを浮かべるデュマに、2人の足が止まる。

 「どうせまだ・・・、でまかせでしょ!!?」

とは言うものの、結局何もできない2人にデュマは続けた。

 「オレぁよう、しばらくこの体で行動してて感じたわけよ・・・。こんな不良品の体じゃ、オレ本来の圧倒的なパウワを微塵も発揮できねぇってよぉ!!」

デュマの足元に見慣れない魔方陣が描かれていることに気付き、ルイズが声を上げる。

 「じゃあもしかして・・・?!」

 「その通り、こんな使えねぇ体、貴様等に返品してやるよ!!ヒィヤッハァ!!」

バッと大げさに手を広げ、聞いた事もない呪文のようなものを唱え出すデュマ。
魔方陣にはまったく変化もないし、デュマの体にもまったく変化はないが、その姿を固唾を呑んで見守るしかない2人。
その時だった。

「アレ、ルイズなにやってるんだい?」

急に物陰からギーシュが話しかけてきた。
あまりに突然のタイミングで、2人の注意がギーシュに向かった瞬間だった。
カッと辺りが明るく光ったと思うと、爆音が鳴り響く。
ギーシュに気を取られて横を向いていた2人の視線が、またデュマへと戻るが、すでに煙が立ち込めているせいでどうなったのかが確認できない。

 「なっ!!何が起きた!?」

 「何なの!?ラリカは・・・ラリカは無事なの!?」

 「わあ・・・、派手にやったねぇ・・・。」

驚く2人と、感心するギーシュ。
1人だけ反応が変だが、気にする余裕はない。
ゆっくりと晴れていく煙の中に、倒れたラリカの姿を見たときルイズとサイトは駆け寄っていた。
大きな爆発だったに関わらず、まったく汚れていないラリカの体。

 「ラリカ?!ラリカ!?」

彼女の体を抱き、呼びかけるルイズ。
サイトもその横で心配そうに見つめている。
そして、ゆっくりと見開かれる灰色髪の少女の瞳。

 「あ・・・れ・・・?どう・・・したの?」

ラリカの声。
あの狂気に満ちた声でなく、静かなラリカの声。
ワッと泣き出すルイズに、サイトの表情も砕ける。
そんな中、ラリカだけは何が起こったのか分からないといった表情で2人を見つめていた。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

つづく



[19944] 第二十一話 『愛』
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:56adee96
Date: 2011/04/23 20:34
それから・・・

いろいろなことがあった・・・。

ゴーレムが出たり、姫様が絡んできたりと・・・

本当にいろいろ・・・、本当にいろいろあった・・・。






















でも・・・・・・


















闇の貴公子『ダイ・ユマ』は














物干し竿に首が刺さって死んだ。




                             つづく



[19944] 第二十一話 『愛』 ~番外編~
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:56adee96
Date: 2011/04/23 20:34

おじいさん
 おじいさん

それで・・・

 それでデュマ様はどうなってしまったの?
なんで急に首が物干し竿に突き刺さって死んでしまったの?
    ねえ おじいさん


まどろみの中、聞こえてきた孫の声に、おじいさんは薄目を開けた。
可愛い孫が自分を揺すっている。

 「おお・・・、孫や・・・。」

 「おじいさん!!良かった、死んだかと思った!!」

 「これこれ、ワシはまだまだ死なんぞ?」

安心したのか、孫はおじいさんから離れて絨毯にお尻をついた。
そして、近くにあったカゴから【ヴェル○ース・オリジ○ル(飴)】を取り出すと、口に放り込む。
そう彼女は、おじいさんの特別な存在なのだ。

 「で、おじいさん。デュマ様が死んだ理由を詳しく教えてよ!!」

 「孫よ・・・、なんと好奇心旺盛な孫だことよ・・・。」

 「ウフフ・・・、おじいさんの孫だもの♪」

そうして、おじいさんは再び闇の貴公子「ダイ・ユマ」が死ぬまでの詳細を語り出した。
ゆっくりと、しかし力強く。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

デュマの最近の流行は「スキップ」だった。
ギーシュとマリコルヌの協力によって、サイト&ルイズを上手く騙す事に成功したデュマは、その喜びを「スキップ」によって表現していたと言っても良い。
ちなみにサイト達を騙した方法は以下の通りだ。

デュマがラリカに体を返すと言う。
半信半疑なルイズ&サイトが注目する所で、ギーシュ登場。
不意に2人に話しかけることで注意をそらす。
マリコルヌの使い魔(ふくろう)が、上空からコルベールから貰った玉(小さな爆発と大きな光を放つように細工されたもの」をデュマと2人の間に落とす。
爆発&大きな閃光に驚く2人。
デュマの演技によってラリカが戻ったと思わせる。
成功。

というわけで、デュマはスキップを繰り返していた。
あの作戦後、しばらくは体調が悪いふりをしていたが、飽きたので外に出たわけだ。

 「あ、ラリカさん!!お体は大丈夫なんですか?」

 「おうシエスタ。見ろ!!オレの華麗なスキップをよぉ!!ヒャッハァ!!」

凄い勢いでシエスタの周りをスキップで回転するデュマに、シエスタは微笑む。
 
 「良かった。サイトさんからいろいろ聞いて心配していたんですよ。」

 「もう余裕だずぇ!!これも全てテメェのおかげよ。」

 「そんな、私は何も・・・。というか、まだ記憶は戻ってないんですね?話し方が前みたいになってます。」

そう言った瞬間、デュマがスキップをやめる。
馬鹿みたいに笑っていたその顔もまともに戻し、口を開く。

 「そんなことないわ。もう大丈夫よシエスタ。」

 「・・・。」

 「じゃあシエスタ。私はもうしばらくスキップさせてもらうから・・・、またね。」

 「はい、サイトさんやミス・ヴァリエールにも早くその元気な姿を見せてあげてくださいね。」

スキップをしながら去っていくデュマに手を振るシエスタ。
そんな彼女を尻目に、デュマのスキップは続く。
そろそろ足も限界に近づいていたが、そんな事よりも今はスキップがしたかったのだ。
シエスタと別れてからのデュマのスキップは凄まじかった。
なによりスピードが。

だが、それが命取りだった・・・。

尋常じゃないスピードのスキップと、その疲れによる注意力の低下。
それは、目の前にある物干し竿の存在を見落とすのに十分な材料だったのだ。

そして・・・。

 「ぐぺぇっ!!」

闇の貴公子「ダイ・ユマ」は、物干し竿に首が突き刺さって死んだ。



[19944] 第二十一話 『愛』 ~追憶編~
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:100f1dff
Date: 2011/05/04 16:15
「どうじゃ孫よ、納得したかえ?」

語り終えたおじいさんは、外の景色から目を離し、再び孫に目線を向けた。
そして驚愕した。
孫は目を瞑り、まるでクラシックの音楽を楽しむが如く、優雅に寝そべっていたのだ。

「ま…孫よ…。」

再びおじいさんが孫を呼ぶと、ようやく彼女は目を開けた。
ゆっくりと、しかし力強く。

「…ああ、おじいさん。」

「闇の貴公子の最後、どうじゃった?」

おじいさんの問いかけに、一呼吸置くと、孫は口を開く。

「ごめんねおじいさん、ヴェルタース・オ○ジナルの味に酔いしれてしまって、おじいさんの話しを微塵も聞いていなかったよ。」

「なにぃ!?」

「へへっ、だからもう一度始めから話しておくれよ。」

自分勝手で最低な孫だと思うかもしれない、だがおじいさんは違っていた。
「流石は我が孫よ…、傍若無人。天は恐ろしい器を世に送り出したか…。」

ククッ、と笑うと、おじいさんは再び闇の貴公子「ダイ・ユマ」が死ぬまでの詳細を語り出した。 ゆっくりと、しかし力強く。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



デュマの最近の流行は「スキップ」だった。 ギーシュとマリコルヌの協力によって、サイト&ルイズを上手く騙す事に成功したデュマは、その喜びを 「スキップ」によって表現していたと言っても良い。 ちなみにサイト達を騙した方法は以下の通りだ。

デュマがラリカに体を返すと言う。 半信半疑なルイズ&サイトが注目する所で、ギーシュ登場。 不意に2人に話しかけることで注意をそらす。 マリコルヌの使い魔(ふくろう)が、上空からコルベールから貰った玉(小さな爆発と大きな光を放つよ うに細工されたもの」をデュマと2人の間に落とす。 爆発&大きな閃光に驚く2人。 デュマの演技によってラリカが戻ったと思わせる。 成功。

というわけで、デュマはスキップを繰り返していた。 あの作戦後、しばらくは体調が悪いふりをしていたが、飽きたので外に出たわけだ。

「あ、ラリカさん!!お体は大丈夫なんですか?」

「おうシエスタ。見ろ!!オレの華麗なスキップをよぉ!!ヒャッハァ!!」

凄い勢いでシエスタの周りをスキップで回転するデュマに、シエスタは微笑む。

「良かった。サイトさんからいろいろ聞いて心配していたんですよ。」

「もう余裕だずぇ!!これも全てテメェのおかげよ。」

「そんな、私は何も・・・。というか、まだ記憶は戻ってないんですね?話し方が前みたいになってま す。」

そう言った瞬間、デュマがスキップをやめる。 馬鹿みたいに笑っていたその顔もまともに戻し、口を開く。

「そんなことないわ。もう大丈夫よシエスタ。」

「・・・。」

「じゃあシエスタ。私はもうしばらくスキップさせてもらうから・・・、またね。」

「はい、サイトさんやミス・ヴァリエールにも早くその元気な姿を見せてあげてくださいね。」

スキップをしながら去っていくデュマに手を振るシエスタ。 そんな彼女を尻目に、デュマのスキップは続く。 そろそろ足も限界に近づいていたが、そんな事よりも今はスキップがしたかったのだ。 シエスタと別れてからのデュマのスキップは凄まじかった。 なによりスピードが。

だが、それが命取りだった・・・。

尋常じゃないスピードのスキップと、その疲れによる注意力の低下。 それは、目の前にある物干し竿の存在を見落とすのに十分な材料だったのだ。

そして・・・。

「ぐぺぇっ!!」

闇の貴公子「ダイ・ユマ」は、物干し竿に首が突き刺さって死んだ。




[19944] 第二十二話 『同化』
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:100f1dff
Date: 2011/05/04 21:56
話の途中、おじいさんは気づいていた。
孫が、またヴェルタース・○リジナルの味に酔いしれて自分の話を聞いていないことに。
だが、彼は止めなかった。
なぜなら、思いはきっと届くと信じていたからだ。
孫が自分にとって特別な存在であるならば、自分も孫にとって特別な存在であると。

話終わると、孫は彼の思いを察するように口を開いた。

「おじいさん…、とっても良かったよ。」

「孫よ…。」

安堵と共に、自然に涙が零れるおじいさん。

「どうじゃ孫よ。闇の貴公子の生きざま、お前の心にどう響いたのか教えておくれ。」

頬を伝う涙を拭いもせず、おじいさんは孫に微笑みかける。

「おじいさ…、いや…!じじい!!」

急に目を見開き、立ち上がる孫。
おじいさんが椅子から転げ落ちそうになったのは、それだけが理由ではなかった。
孫の額に、何か違和感があったのだ。
そう、卵のひび割れのような違和感が。

「ま…孫よ!?どうしたと言うんじゃ?!」

「じじい、テメェのおかげでようやく思い出せたぜ…。」

可愛かった孫の声が、こしゃまっくれた声に変わっていく。
さらに、彼女の額の「ひび」が顔全体に行き渡っていくではないか。

「な…なんじゃあああああ!?」

今度こそ椅子から転げ落ちそうになりながら、叫ぶおじいさん。
そんな彼の目の前で、孫は少しずつ姿を変えていった。
いや、姿を変えるのではなく、まるで卵から産まれるように「孫」という殻を破って新しい何かが誕生したのだ。

「ま…、まごぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「ヒィヤァ~ッハッハッハッハッハァ!!」

逆立ったトサカの様な髪、そして蛍光ピンクのボディスーツ。
そう、闇の貴公子「ダイ・ユマ」である。

「デュマ様ふっかぁぁつ!!」

椅子から転げ落ちたおじいさんを見下し、デュマがニヤリと笑う。

「ま…孫は?ワシの可愛い孫はどこへ行ってしまったんじゃ?」

震えながら聞くおじいさんに、デュマの顔が更に明るくなる。

「ククッ、孫ねぇ…。」

「ま…孫は…!」

「テメェの孫は、オレの養分になって死んだ。」

「なっ!?」

「安心しろ、すぐにテメェも後を追わせてやるぜ。」

ニヤリと微笑むデュマを睨み付け、おじいさんは立ち上がった。
目を充血させ、額に血管を浮き立たせ拳を振り上げる。

「孫のかたきじゃあああああ!!」

おじいさんの魂の叫び、渾身の拳がデュマを襲う。
だが、所詮は老人の攻撃。
デュマは軽くかわすと、おじいさんに足をかけて転ばした。
渾身の拳が空振り、足をかけられた事で勢いよく地面に倒れるおじいさん。

「ぐぅ…っ!」

「ヒャハハハハハ!トロい!トロい!トロいぜぇ!!」

畳み掛けるように言うと、デュマは苦痛に悶えるおじいさんの頭を掴んだ。

「このまま、テメェを吸収するのは簡単だ。だが、オレはそうしねぇ。」

「なにをする気じゃあああああ!」

「このデュマ様の最後を知るテメェの博識な脳味噌は使える。」

「孫のいない世界など興味はないわぁ!後生じゃから一思いに殺してくれぇ!!」

「ダメだ。」

「ひぃぇええええええ!!」

叫び声と同時にデュマの腕が光り、ゆっくりとおじいさんは取り込まれてしまった。

「ヒャハハハハハ!どうだじじい!このデュマと同化した気分は!?」

一人になったデュマが、誰もいない部屋で語りかける。
自らの右手に。

そこには、おじいさんの顔があった。
そう、デュマのパワーによって、おじいさんは彼の右手と同化したのだ。
高笑いするデュマの手のひらで、おじいさんが目を開ける。

「気持ちいい…、気持ちいいですぞデュマ様ぁ!!」

「ヒャーッハッハッハァ!!じじい、貴様の知識、今後はこのデュマの右手として役立てるが良いわ!!」

「御意。」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


つづく



[19944] 第二十三話『ムカデの代わりの男』
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:56adee96
Date: 2011/09/04 00:17
じじいと同化したデュマは、まさに縦横無尽だった。
だが、やはり手からビームを出すことができなかったため、自ら命を絶つ決意をするのだった。

 「やべぇ、もう死ぬしかねえよガチで。」

死んだ魚のような目でそう言うと、デュマは傍らにあった剣(魔剣セシル)を首元に宛がう。

 「な・・・、何を言っておりますデュマ様!!ビームが出なくとも、アナタ様は最強ですじゃ!!」

右手に取り込まれた『じじい』が必死に叫んだため、剣を止めるデュマ。

 「んなことぁ百も承知よ。でもよ、やっぱドカーンって派手にやりてぇじゃん?」

 「で、ですが!今度死んでしまったら再復活できないかもしれないのですぞ!?もし運よく復活しても、ビームは出ないかも!!」

 「バカかてめぇは?やってみねぇと分かんねぇだろ?なんだか今回はいけそうな気がすんだよね。」

剣を両手でしっかりと掴み、切っ先を喉元に当て、目を閉じるデュマ。

 「お待ち下さい!!デュマ様!!なにとぞ!!なにとぞぉぉぉ!!」

 「うるせぇよ。ぶっ殺すぞコラ?」

『じじい』の必死の制止を無視し、一気に貫こうとした瞬間、異変は起きた。
デュマの目の前に、あの空間の歪みが発生したのだ。
あの日、デカいムカデを退治している最中に発生した空間の歪みが。

 「あぁぁん?」

手を止めるデュマ。
驚いた表情で、その歪みを見つめる。

 「いかがなされました!?」

 「ヒャハ!!おもしれえ!!おもしれぇよ!!」

剣を収め、笑い出すデュマに『じじい』は呆然としている。

 「メイルスティアぁぁ!!今行くぜぇぇ!!」

そう叫ぶと、デュマは勢い良く地面を蹴り上げ、歪みの中へと吸い込まれていった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


全長5メートルはある、巨大ムカデ。
どっからどう見ても敵モンスターだろ?とツッコミを入れたくなるような使い魔だ。
前回の私はマジ泣きしながら嫌々契約したが、今回は2回目ということもあって、すんなりいける気がする。
そんな安易な考えのもと、使い魔召喚の儀式を行った。

 「ヒィ~ヤッハァ!!闇の貴公子・デュマ参上!!」

 「!?」

目を見張る。
まだ物語りは始まっていないのに、私の計画は始まっていないのに・・・。
なぜここで、私の知っている『物語』が変わってしまうのだ!?

 「ヒャハハハ!!懐かしい、懐かしいぞ!!この風景、この感覚!!」

目の前に現れた得体の知れない人間?が笑いながら何かを話している最中、後方でルイズの爆発が聞こえた。

 「わぁ、うちのクラスで使い魔に平民を呼び出したヤツが2人て。」

 「ゼロのルイズならまだしも・・・。」

少し離れた位置で、ルイズは『物語』どうように先生や生徒と言い合いをしているが、私は何も口に出せなかった。
というか・・・、この人間?は何者なんだろうか・・・?

 「ようメイルスティア。ぶっ殺しちまったと思ってたが、まだピンピンしてんじゃん?」

ニタニタと笑いながら、全身タイツのトサカ髪の男が近寄ってくる。
なんだか私の事を知っているようだが、こっちは皆目検討もつかない状態なため、受け答えできない。

 「ミス・メイルスティア!アナタも早く儀式を続けて下さい!」

コルベール先生の声が聞こえる。
そうだ、今はとりあえず『物語』を進めるしかない。

 「我が名はラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ。」

習った通りにラリカはトサカ男の額に杖を向ける。

 「ウフェヘヘヘ、洗脳の儀式か? いいぜ、今回はテメェの精神を乗っ取る事ぁしねぇ。オレの闇のパワーで洗脳を跳ね除けてやるずぇ!!」

儀式は成功し、トサカ男の額にルーンが刻まれた。
これで、この男はあの巨大ムカデの変わりに私の命令に従うようになるはず・・・だった。

 「効かねぇ!!洗脳も、貴様の魔術も、このデュマ様には効かねえ!!」

ルーンは間違いなく刻まれているはずなのに、好き勝手話し出すトサカ男。
主人は使い魔と意思疎通が図れるはずなのに、彼の意思がまったく読めない。
『物語』の主人公である平賀才人とルイズならともかく、私のような脇役の使い魔がこんな特殊であっていいのだろうか?
目の前で笑っているトサカ男をぼんやりと見つめるラリカ。

 「じゃあみんな教室に戻るぞ。」

今は考えても仕方がない。
意思疎通はできないが、言葉を話す人間には違いない。
後でゆっくりと話を聞けばいい・・・、『物語』はまだ始まったばかり。
脇役の私の使い魔がムカデではなく、代わりの男だったとしても・・・、そこまで影響はないだろう・・・。
ラリカはまだ独り言を言っているトサカ男を置いて、他の生徒と共にその場を後にした。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 「んだ?メイルスティアの野郎、何も言わねぇで行っちまったぜ。」

 「デュマ様、あの小娘とアナタ様の関係を聞いても?」

 「あぁ?話すのめんどくせぇよ・・・。長ぇうえに複雑だし。」

 「げぇ、お願いしますじゃ。ワシだけ蚊帳の外は嫌ですじゃぁぁ!!」

 「うるせぇよ。ぶっ殺すぞ?」

と、デュマと『じじい』が話していると、その目にサイトとルイズが飛び込んできた。
何か言い争いをしているようだ。
何か叫んだと思ったら、ルイズがサイトをぶん殴って黙らせた。

 「うひょ!ハンパねぇなあの女!!」

からかうような声を上げて喜んでいると、ルイズがデュマを睨みつける。

 「なによ!?」

 「あぁん?」

 「ていうか・・・、何者?」

他のクラスメイトはもう教室に戻ったはずだった。
いるとしたらクラスメイトの召喚した使い魔だけのはずが、見たこともない男がルイズの目の前にいた。

 「ルイズ、だっけか?テメェもしかしてオレの事を覚えてねぇとか言うんじゃあねぇだろうな?」

 「何を・・・言ってるの?」

眉をひそませるルイズ。
構わず続けるデュマ。

 「ヒャハ!!そりゃ好都合。テメェの爆発攻撃はハンパねェからなぁ?もしかすっと、この世界で最強なんじゃねェの?」

 「え?何それ?私がいつも魔法失敗して爆発させちゃってるのをバカにしてるの?」

 「バカに?おもしれぇ冗談じゃねぇかルイズ!!オレはお前のその力を高く評価する!!その力とオレが組めば最強だ!!」

男は大真面目で、とても嘘を言っているようには見えない。
理解できない部分も多いが、これまで自分の魔法が褒められたことなどなかったため、少し嬉しかった。

 「な・・・なによ。そんな事言って・・・、ほんとは皆みたいに私を無能だとか思ってるんでしょ?ていうか誰よアンタ?」

 「オレは闇の貴公子・デュマ。テメェと仲良しのメイルスティアの・・・、旧友ってヤツ?」

過去を思い出してクスクスと笑うデュマ。
その右手の『じじい』は、初めて聞いたとばかりに目を輝かせている。

 「メイルスティア・・・って確か・・・。」

 「ウヘヘヘ・・・、今度その爆発魔法のやり方を教えてくれよ?ビームが出ねぇから、その魔法がすげぇ欲しい。」

ニヤリと笑みを浮かべると、デュマは勢い良く地面を蹴った。
通常の人間の約5倍の跳躍力を持つ彼の姿は、一瞬でルイズの視界から消えてしまった。
何が起こったのか把握しきれず、しばらくポカンとしていたルイズだったが、近くに倒れているサイトを思い出すと、駆け寄って行った。

 「デュマ・・・。」

気絶しているサイトを横目に、ルイズは自称・闇の貴公子の名前を小さく呟いた。



つづく



[19944] 第二十四話『謀略』
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:56adee96
Date: 2011/09/05 21:27
ラリカの部屋でくつろぎながら、デュマは今後の身の振り方を『じじい』と相談していた。

 「やっぱアレか?あのルイズの精神を乗っ取っちゃうのが早い?」

 「デュマ様、ワシには話がまったく見えませぬ・・・。あのルイズとかいう小娘のバディなど、乗っ取る価値もないかと・・・。」

 「じじい、テメェは相手を外見でしか判断できぬ愚か者か?ヤツの内面を覗いてみろ!!恐ろしい獣が隠れておるわ!!」

 「はうぁぁ!!この『じじい』、内面を見るのを忘れておりましたぁぁ!!」

そんなやりとりをしているのは、丁度正午あたりの時間帯。
学園の生徒であるラリカは部屋に戻ってきていない時間である。
窓ガラスが強引に割られているところから、デュマが勝手に入ったことは間違いない。
ベッドに寝転がりながら、デュマは続ける。

 「でもよ、確かにあの小娘のバディで行動するのは気が進まねえよな。オレが欲しいのはあのパワーだけよ・・・。」

 「うふぇへへ、デュマ様。この『じじい』に良い考えがございますじゃ!!」

 「ほう・・・、申してみよ。」

 「ワシを取り込んだ時同様に、ヤツもデュマ様の一部にしてしまってはいかがですじゃ?」

『じじい』の言葉に、一瞬驚いた表情を見せるデュマ。
そして、ニヤリと微笑んだ。

 「初めて、貴様を右手に取り込んで良かったと感じたぞ!!ヒャハ!!」

 「ははぁ!!ありがたき幸せ!!」

ひとしきり笑い転げた後、真顔に戻るデュマ。

 「となると、メイルスティアの存在は邪魔だな・・・。早めにぶっ殺しておかないと、後から面倒になりそうだぜ。」

デュマの脳味噌に、あの時の記憶が蘇る。
メイルスティアの精神を乗っ取った後に、ルイズに襲われた記憶だ。
あの2人が仲良しならば、ルイズを取り込んだ後必ずメイルスティアの復讐が始まるに違いない。
『洗脳』の能力は克服したが、ヤツが他にどんな危険な能力を持っているのか定かでないため、下手な行動はできない。

 「デュマ様、確か以前にあのメイルスティアという小娘の肉体を乗っ取ったとおっしゃっておりましたが?」

 「そうよ、乗っ取った事があのルイズにバレたため、恐ろしい攻撃を受けた。あの恐怖は、あの屈辱は忘れん!!」

あの時の記憶が鮮明に蘇り、あまりの怒りに握り閉めた拳から血が吹き出る。

 「うふぇへへへ・・・、デュマ様。この『じじい』に良い考えがございますじゃ!!」

 「調子いいじゃねぇか?言ってみろ。」

 「今度はバレないように乗っ取れば良いかと。」

 「!!!?」

先程よりも更に驚いた表情を見せるデュマ。

 「『じじい』テメェは天才か!?」

 「ははぁ!!」

 「ヒャハハハ!!運が向いてきやがったぜ!!メイルスティアの肉体を乗っ取り、そのまま油断したルイズを取り込んでくれるわぁ!!」

今はデュマ以外誰もいない寮で、デュマの笑い声だけが高らかに響いていた。





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




私の目標は「バッドエンド回避」と「なるべく幸せな人生」。
使い魔が前回と違うというイレギュラーはあったが、そんなものは小さなズレ。
私のような『物語』と関係のない小物の使い魔など、はなからどうでも良かったに違いないのだ。

ラリカは、あの見慣れない使い魔の事を考えながら自分の部屋の前に立っていた。
「ロック」を解除し、ゆっくりと扉を開けると、予想していなかった光景が目に飛び込んできた。
あのトサカ男が、ベッドに寝転んでいるのだ。
しかも、窓ガラスはバラバラに砕け散っており、一応綺麗に掃除されていた自分の部屋が酷い状況になっている。

 「な・・・な・・・。」

あまりの驚きに声にならない声で呻いていると、トサカ男がゆっくりと立ち上がった。

 「ようメイルスティア、遅かったな。」

ニヤリと笑みを浮かべるトサカ男。
なぜだか知らないが、鳥肌が立つ。

 「ア・・・アナタは私の使い魔・・・よね?」

 「フヘヘヘ、そうだずぇ?オレぁお前の使い魔よ。」

そう言いながらゆっくりと距離を詰めてくるトサカ男。
自分の使い魔だというのに、コイツが何を考えているのかまったく分からない。
まだムカデの方が扱いやすかったのではないか?

 「そう怖がるなよ?大丈夫、怖くないから、顔をよ~く見せてごらん?ご主人様ぁ!!」

甘ったるいニュアンスでそう言うと、トサカ男は一気にその顔を近づけてきた。
そして。

 「んぐぅ!!」

ラリカは唇を奪われた。
『コントラクト・サーヴァント』の時とは違う、何か恐ろしい感覚がラリカを包み込む。

口に含んだ氷がゆっくりと溶けていく感じ。
自分が自分であるという感覚が消えていく感じ。
薄れていく意識の中で、ラリカは悟っていた。


小さなズレなんかじゃなかったことを・・・。
「バッドエンド回避」「なるべく幸せな人生」、それは夢のまた夢だったことを・・・。
次は、もしかしたら次に生まれ変わるときは・・・。





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





部屋には、ラリカしかいなかった。
トサカの使い魔の姿は忽然と消えていた。

 「フフフ・・・、アハハハ!!ヒャ~ハッハッハッハッハッハッハァ!!」

高らかに笑い声を上げるラリカの右腕には、奇妙な顔があった。
老人を思わせるその顔は、ラリカの笑い声に合わせて目を見開く。

 「おおお!!デュマ様!!新しい体を手に入れましたか!!」

 「ヒャハハハハ!!なじむ!!この感覚!!実にいいぞ!!」

両手を見つめ、笑い続けるラリカ。
いや、そこにいるのは『ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア』ではなく、その肉体を乗っ取った『闇の貴公子・デュマ』であった。





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


つづく



[19944] 最終話 『闇の貴公子よ永遠なれ』
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:56adee96
Date: 2011/11/22 00:19
その後、デュマはラリカとしてルイズ達を深く関わることになる。
最初は隙をついてルイズを取り込むためだった。
ルイズの警戒心を解くために、彼は嘘で塗り固めた"ラリカ"を装った。
できるだけ優しく接し、時には彼女をバカにする他の生徒を襲うこともあった。
そうやって、偽りの友情ごっこをしているうちに、彼の心の中に1つの感情が芽生えたのだった。


そう・・・








 『肉しみ』だ。




 「ひえぇぇぇぇぇ!!肉い!!肉いよぉぉぉぉぉお!!肉が食べてぇよぉぉぉ!!」

彼は無性に肉が食べたくなったのだ。
牛でも豚でも鳥でもなんでもいい、ただ肉が食べたい。

 「イラつく、イラつく、イラつく、イラつくぅ!!肉が食いたくて、イライラするずぇ!!!」

地面に突っ伏し、バタバタと駄々をこねるデュマ。
ここが、学園だったら別に問題はなかった。
だがここは・・・

 「ラリカ!!何してるの!!早く逃げて!!」


そう、ここは戦場なのだ。
あの土くれのフーケとの戦い。
巨大なゴーレムとの戦闘真っ最中。

だが、ルイズの叫ぶ声は、肉しみに支配されたデュマの耳には届かなかった。
地面をのたうち回るデュマ。


そして、



闇の貴公子『ダイ・ユマ』は、ゴーレムに踏まれて






















死んだ。












---------------------------ムカデの代わりの男
                     Episode1 闇の貴公子















                

                   完



[19944] Episode2 『ムカデの代わりの代わりの男』
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:7f42f223
Date: 2012/02/04 10:10
私はラリカ。
極貧貴族のメイルスティア家の長女。
幼いころ両親に売られかけたこともあるし、隣の寮まで食べ物を恵んでもらいに行ったことまである。
こんな私が貴族だなんて、なんだか場違いな気がして恥ずかしい。
魔法学園に入れられて、もう1年経つがこの暗い性格のせいか、親しい友達はいない。
肝心の魔法の成績も、下から数えた方が早い。
いつも部屋にいるんだから、もっと勉強したら?と、誰かに言われたこともあるが、これでも一生懸命やっていると言いたい。
私は、いや私の家系は才能がないのだ・・・。

せっかくの虚無の曜日だが、なんの予定もない私は昼頃までベッドで寝ていたが、さすがにこのままじっとしているのはダメだと判断し、学園の中庭へ出る。
周りには友達と、恋人と楽しく休日を謳歌する生徒たちがいる。
気晴らしにと出て来たはいいが、こんなことならやはり部屋にいた方がよかった・・・。

ラリカは、適当な日陰を探すとそこに座り込んだ。
雲1つない空を見上げてため息をつく。

明日はサモン・サーヴァントの日。
これから一生付き合うことになる使い魔が決まるわけだ。
ネコみたいに可愛い動物がいいな。
もしくは、人型で私の友達になってくれるような・・・。


サモン・サーヴァント。
ゼロのルイズが平民を召喚したのとほぼ同時。
それ故に、ラリカの召喚は目立たなかった。
同じイレギュラーでも、扱いがここまで違うのか、というほどだ。
そう、彼女もまた平民を召喚したのだ。


「・・・え?」


思わず漏れる声。
そこには、上半身が異様に発達した筋肉ぎゅうぎゅうのお人形さんのような男が立っていた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


オレは無能な兄とは違う。
ヤツは己が能力に傲り、その力だけでのしあがっていった。
自身に従わない者を容赦なく焼き殺すその姿に、いつからか闇の貴公子と呼ばれるようになった兄に、オレは心底イラついていた。
我が父、アブダビからヤツの消滅を聞かされた時は耳を疑ったが、所詮そこまでの器だったのだろう。
聞けば、異世界に召喚されたうえに、ビームを出せなくなって死んだとのこと。
やはり、天性の能力に傲った者の末路はなんともあっけない。

闇の貴公子・デュマの弟、デューオがニヤリと笑みを浮かべる。

「これで、このオレが・・・最強だ!!」

3メートル近くある巨大な身長に、膨れあがった筋肉。
胸筋と腕の筋肉が発達しすぎたせいで、すでに『きょうつけ』ができないほどだ。
もちろん筋肉に埋まって首が見えない。

「オレは天性の能力に傲り、努力しなかった兄貴とは違う!極限まで鍛えたこの肉体で全てを恐怖で支配する!!フハハハハハハ!!」

高笑いするデューオに、兵士の一人が駆け寄ってくる。

「デ・・・デューオ様!敵の軍勢がせまっっ!!ぷげぇっ!?」

兵士は最後まで話し切る前に、デューオの拳に押し潰されて死んだ。
地面にめり込んだ状態で絶命する兵士を軽く見やるデューオ。

「おっと、うっかり殺してしまった。」

やれやれと、首を振ろうとしたが、肩の筋肉が邪魔で動かすことができなかった。
デューオは、殺してしまった兵士の言い残した言葉を思いだし、ゆっくりと体を動かした。
敵の軍勢が迫ってきている。

闇の帝王が息子、闇の貴公子デュマの死を知った隣国が攻めてきているのだ。
その討伐のために、デューオは今この地に来ている。

 「この討伐で、オレの圧倒的なパワーを示さねばならん。」

彼の立つ崖からは、ゆっくりと敵軍が近づいてきているのが見える。

 「デューオ様!情報によれば敵軍は10000、対して我が軍はわずか200です!」

後方で別の部下の報告が聞こえる。

 「ほう。それで?」

 「はっ!このままぶつかるのは無謀かと!」

そう進言した部下は、次の瞬間地面にめり込んで死んだ。

 「ん~?聞こえんなぁ?」

拳に着いた血を拭い、自身の目の前に並ぶ部下たちを見回すデューオ。

 「さて貴様ら、他に何か言いたいことはあるか?」

目の前で二人殺されているのだ、この期に及んで言葉を発せられる者などいない。

 「くくく・・・、なんとも勇猛な部下たちよ!!」

笑いながら、ゆっくりと隊列へと近づくデューオ。
部下達の顔が更に引き締まるのが分かる。

 「敵軍は我等の50倍。この圧倒的に不利な状況で、勝てると思うか?」
間髪入れずに返事をする部下たちに、デューオの顔がさらに明るくなる。

 「フハハハハ!良いぞ貴様ら!それでこそ、このデューオの部下よ!!」

ひとしきり笑った後、デューオは最前列の部下の肩に手を乗せる。

そして・・・

 「ぎゃぁああああ!!」

悲鳴を上げる兵士の一人に、隊がざわつく。
そう、デューオが兵士の肩を握り潰したのである。

 「デュ・・・デューオ様なにをっ!!」

肩を押さえて崩れる兵士に、デューオは満面の笑みを浮かべた。

 「このデューオの伝説はここから始まる!!勇敢な部下と共に1万の兵に勝った英雄達ではなく、1万の兵をたった1人で滅ぼした英雄としてだ!!」

言い終えるか先か、肩を負傷した兵士をひねり潰すデューオ。

「この戦場で生き残っていいのは、このオレ、唯一デューオのみだ。貴様らはここで死んでくれ。」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

積まれた死体の山。
最後の兵士がデューオの巨大な拳に握られている。

「デューオ様・・・やめっ!?」

プチッという音がして、兵士はあっけなく潰れてしまった。
デューオの体は兵士達の血で真っ赤に染まっている。

「フハハハハ!!これで準備は整ったぁ!!」

拳の肉片を投げ捨て、彼はゆっくりと体を反転させた。
切り立った崖の下、1万の兵が土煙を上げて迫ってきている。

「兄よ!我が愚かな兄、デュマよ!!このデューオの伝説をあの世で見物するがよい!!」

そう叫び、デューオは崖から飛んだ。
崖の下に着地した時、自らの伝説が幕を開けると確信して。


しかし・・・、彼が1万の兵と合間見えることはなかった。
着地の瞬間、空気の歪みに飲み込まれてしまったのだ。
そう、あのデュマが何度も遭遇した、異世界へ通じる扉に・・・。



『ムカデの代わりの男』Episode2
~闇の貴公子の弟・デューオ~


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


つづく



[19944] 第1話「奇跡の少女」
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:e6804342
Date: 2012/02/06 22:02
頭がフラフラする。
急に現れた空間の歪みから解放されたと思ったらなんだか見慣れない光景が飛び込んできた。
人々の悲鳴と飛び散る血と肉。

なにここ?戦場?
なんか悪い夢でも見てるの?

平賀才人はまだぼんやりとした頭でその光景を見つめていた。

昨日あんな映画見なけりゃよかった。
「人喰い鬼と魔法少女」。

美少女魔術師がセクシーに、そして可憐に戦うファンタジーホラー!
という広告に騙されて見たわけだが・・・。

中世の魔法学校に突然現れた人喰い鬼・ウェンディゴ。
生徒たちは様々な魔法で応戦するも、ウェンディゴに次々と殺されていく酷いストーリーだ。
主人公も美少女というよりは、他に比べてマシくらいのビジュアル。
ウェンディゴから逃げて復讐のために山に篭って修行しはじめてからは、もう勇敢なアマゾネスの戦士みたくなってた。
結局最終的には魔法を使わずに、斧で戦ってたし・・・。

それよりも目を引いたのは虐殺シーンのリアルなこと。
飛び散る肉片なんか、まさにこの通りだ。

サイトがぼぅっとしていると、目の前にいたピンク色の髪の少女が駆け寄ってきた。

「ちょっと!なにぼさっとしてるのよ!?早く逃げないと!!」

そうそう、こんな美少女を想像してたんだよ。
さすが俺の夢、あんなクソ映画よりよっぽどキャスティングが良い。

うんうん、と一人で頷くサイトだったが、少女に手を引かれてようやくその場から離れることにした。

「なんなのアレ!?なんであんな・・・。」

混乱の中庭から抜け、建物の影に隠れた少女がブツブツと呟いている。
こんなリアルな夢は初めてだ。
ここは主役としてカッコイイ台詞を言って惚れさせるシーンだな。

 「大丈夫、俺がなんとかするよ。君を悲しませる存在を、俺は許さない!」

震える少女の手を握り、サイトは笑みを浮かべた。
上目遣いで見つめ返してくる少女は本当に可愛いかった。
最高の夢だ・・・。
このあと、あのウェンディゴを華麗に倒して、この少女と・・・ウヘヘ。
内心でニヤケながら、サイトは平然を装って少女から手を離す。

 「ダメよ!勝てっこないわ!!あなた平民でしょ!?」

 「俺の名前はサイト、平賀才人。必ず戻ってくるから、君はここで待っててくれ!」

ここでイケメンスマイル。
自分の夢なんだから、別にカッコつけなくてもこの少女は俺にメロメロなんだが、一度やってみたかった。
止めようとする少女を尻目に、サイトは中庭へ走り出す。
ムフフな展開の前に、まずは華麗な動きであの怪物を倒しに行くか!
ゲームやアニメでイメトレし続けた俺に死角はないぜ!!

生徒を数人握り、高らかに吠える怪物にサイトは颯爽と向かって行った。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


ようやく中庭から聞こえる悲鳴が止んだ頃、ルイズはゆっくりと立ち上がった。
先生があのバケモノを倒してくれたのか、それとも城から兵士が来て?
いや、まさかあの平民が?
恐る恐る中庭へ歩を進めるルイズ。

なんの予兆もなく始まったあの悪夢のような出来事。
人があっけなく殺されていく情景を初めて目にした。
だが、もう大丈夫。
もう悲鳴も聞こえない。
誰かが、誰かがあのバケモノを・・・。

中庭に到達した時、ルイズはその光景を目にし、その場に崩れ落ちた。
まさに惨状。
あんなに平和だった魔法学校の中庭が、地獄のようだった。
そして、現状は何も変わっていなかった。

人間と、使い魔の死体の山に、あのバケモノは立っていたのだ。
ただ、今はルイズを背にした状態で停止しているようだ。
気付かれないようにあの平民の男の子を探すルイズ。
まず目に入ったのは、下半身を綺麗に削り取られて絶命したコルベール先生の姿だった。
何か魔法を唱えようとしたのか、杖を振りかざした格好で停止している。
そして、その横にはギーシュの顔が転がっていた。

 「うっぷっ!!」

込み上げてきた嘔吐物を必死で堪えるルイズ。
これ以上この場所にいられないと判断したルイズが、後ずさった時、ふいに誰かに呼ばれた気がして振り返った。

 「!?」

血にまみれた草むらから顔を出していたのは、キュルケだった。
いつも自分を馬鹿にする大嫌いな彼女だが、今は嬉しかった。
なぜだか涙が出てくるのを止められなかった。
しかし・・・。

 「う・・・ああぁぁぁ!!」

声にならない声を上げて、その場に崩れ落ちるルイズ。
そう、キュルケは草むらから顔だけ出して彼女を呼んでいたのではなく、顔だけになって草むらに乗っていたのである。
風にゆられて、ゴロリと転がるキュルケの生首に、ルイズの精神は崩壊寸前だった。
あの子の存在に気づくまでは。

 「こっち。」

消えてしまいそうなちいさな声。
その先には、見慣れた顔があった。
キュルケにいつもくっついていたあの小さな青い少女、タバサである。
這うようにタバサへ近づいていくルイズ。
そこは、ちょうど窪みになっており、二人小さな体を隠すには丁度良かった。

 「タバサ・・・、良かった・・・。」

タバサに抱きついて泣くルイズ。
無言のタバサの視線の先には、あの怪物がいる。

 「先生は?オールドオスマン先生は何をやってるの!?」

しばらく泣いた後、ルイズがふと疑問を投げ掛ける。
こんな大惨事が起きているのだ、この学校の長であるオールドオスマンが何もしないなんてあり得ない。
まさか自分だけ逃げたなんてことは・・・。

 「死んだ。」

 「へっ?」

無言でバケモノの足の下を指差すタバサ。
なにやら白と赤の混ざりあったような長い毛が生えているように見えた。
多分、あのバケモノの足の下にはオールドオスマンが埋まっているのだろう。
そう、最後の砦であるオールドオスマンですらあのカイブツに勝てなかったのである。

 「あぁぁああぁ。」

ガタガタと震えるルイズ。
もうダメだった。
ここから早く逃げ出さないといけない。
逃げないと殺される。
荒くなる息、自分の心臓の音が激しく聞こえる。
カイブツに背を向けて、逃げ出そうとした時だった。
タバサの小さな手がルイズの手首を握る。

 「!?」

 「アレ・・・。」

埋まったオールドオスマンからゆっくりと指を動かしていくタバサ。
カイブツの背の先、いやカイブツの目の前。
そこには、灰色の髪の少女が立っていた。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

つづく



[19944] ムカデの代わりの男 最・終・章
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:56adee96
Date: 2012/06/02 22:41
はじめに・・・

 ・デューオは飽きたのでやめます


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       『ムカデの代わりの男 ~最・終・章~』

トリステイン学院のある大陸から離れた位置にある孤島「ウエンディゴ」。
無人島として、ごく一部の人間しか知らないその孤島には大きな祠があった。
誰が何のために、そしていつからあったのか・・・。

ウサギさん「クンクン、おいしそうなニンジンのスメル(匂い)がするウサ!!」

小鳥さん「チュンチュン!!ウサギさん!!そっちに行ってはダメですよ!」

ウサギさん「なぜにWHY?」

小鳥さん「その先には祠があるの・・・。森の掟でそこに近づいてはいけないといわれてるはずだよ?」

ウサギさん「僕はアウトローなのウサ!!そんな古い掟なんかに縛られたりしないウサ!!」

小鳥さん「ああ!!待ってウサギさんたら!!」

小鳥の静止も聞かず、ウサギはニンジンのスメル(匂い)のする方へピョンピョンと跳ねて行く。

ウサギさん「ヘヘッ!祠がなんだってんだい!!僕は僕の道を行くんだウサ!」

小石を跳び越え、小枝をわけて、ウサギは祠へひた走る。
その先に何があるとも知らずに・・・。

ウサギさん「おっ、急に開けた場所についたぞ?もしかして・・・ここが祠?」

鼻をヒクつかせ、ウサギはゆっくりと視線を前方へ向ける。
もちろんその大きな耳も一緒に立てて。

ウサギさん「うほっ!!すっげぇや!!これが・・・ほk!!? ギャピッ!」

初めて見るその景色に目を輝かせたウサギだったが、それが彼の見た最後の光景となってしまった。
薄れる意識の中、自分の腹部に刺さった木の棒を見やるウサギ。
痛いというよりも熱い。
だが、その焼けるような熱さも体から流れる赤い液体とともに失せていく。

ウサギさん(アレ・・・。なんだか・・・急に・・・眠くなって・・・)

ウサギの命がなくなる間際、反対側の草むらから人間の少女が姿を現した。
灰色の長い髪に、軽く釣り上がった細い目。
決して美人とは言えないが、醜くもない・・・いわゆる普通の顔。

 「ふう・・・。無人島だから獲物はたくさんいるけど、私じゃまだウサギくらいが精いっぱいね・・・。」

灰色髪の少女は、絶命したウサギの耳を掴み上げると背負った袋に詰め込む。

 「それにしても・・・、この祠は何なのかしら・・・。」

振り返る少女の前方。
そこには異様な形をした祠があった。
大きさは高さ約5メートル、幅は10メートルといったところか。

 「何度かここには来てるけど・・・、こんなの見たこと・・・?」

祠を見渡していると、そこに何か文字が書いてあることに気付く。

 ~ スンイウフ ニココ ヲ マユ イダ シウコキノミヤ ~

 「何かの暗号かしら・・・。」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

つづく




[19944] ムカデの代わりの男 最・最・終・章
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:56adee96
Date: 2012/06/07 23:33
少女は得体の知れない祠へゆっくりと歩を進める。

 「ここは、昔から無人島のはずだけど・・・。」

そう呟き、そっと祠に触れる少女。
その時だった。

 「ォォォォォン」

祠の奥深くから、呻くような声が微かに聞こえたのだ。
とっさにその場から飛び退く少女だが、声は止まない。

 「ォォォォン!!ォォォォォォォォォオン!!」

声は瞬く間に辺りを包み込み、爽やかだった自然の風景を異様なものに変えてしまう。
不安と焦りを促すような世界に。

 「ッ!?」

少女はたまらず矢先を祠へ向けた。

 (オーク鬼?それとも・・・!!?)

祠に亀裂が入ったかと思うと、その隙間からズルリと何かが這い出してくる。
これは・・・、人間?
いや、コイツは・・・・・・!?







 グッドマン人形だったぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!







 『ハーイ! アイム、チャッキー!!  ハイディホー!!!』




                     THE PERFECT HAPPY END

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これまで応援して下さいました皆様、ありがとうございました!
これにてラリカとデュマ、そしてその他大勢の物語はお終いです。
これから少女に何があったのか?結局デュマ様は死んでしまったのか?
それは皆様の想像にお任せ致します。

一時は面倒になってしまい、更新がSTOPしてしまったこともありましたが、
この「ムカデの代わりの男」を書き始めた当初から思い描いてきたエンディング
に上手く繋げることができて大変満足しています。
それもこれも皆様の応援があったからこそと思っております。

めり夫様の本家「幸福な結末をもとめて」もようやく更新され、うれしい限りで
ございます。
最後に、主役ばりに頑張ってくれたデュマ様の決め台詞で〆たいと思います。



 『ハーイ! アイム、デュマ!! ハーイディーホー!!!』


さよなら、さよなら、さよなら







[19944] 【再開】 ムカデの代わりの男 -Revenge-
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:56adee96
Date: 2015/01/22 21:46
マチェーテ・キルズの続編でマチェーテが宇宙に行くらしいので、デュマ様も復活させることにしました。
「幸福な・・・」は完全停止中っぽいので、デュマ様の復活で新しい風が吹けばと、そんな気持ちで一杯です。

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ムカデの代わりの男 -revenge-


ラリカの前に突如現れたグッドマン人形。
よく見れば確かに不気味な人形であるものの、こんな祠に祀られるほどのものとは思えない。

「・・・何で人形が?」

ラリカはそう呟き、目の前のグッドマン人形に手を伸ばす。
その時だった。
グッドマン人形の首が、なんの前触れもなく回転を始めたのだ。

「っつ!?」

伸ばした手を、とっさに背にある矢へと移す。

「あばばばばばば!!」

首の回転だけでなく、グッドマン人形から奇声が発せられる。
男とも女ともとれない奇怪な声に、ラリカの背筋が凍りつく。
射るべきか、射らざるべきか。
彼女は自然と弓を構えていた。

「ウヘヘヘ・・・。弓を引く手が震えてるずぇ?」

首の回転を止めたグッドマン人形から、奇声ではなく明確な言葉が発せられたことに驚くラリカ。
更にグッドマン人形は続ける。

「ちゃ~んと狙えよ?一発で仕留めねぇと大変な事になるずぇ!?」

グッドマン人形は話終えるか終わらないかで遂に足を動かした。
ひゃはっ、という叫び声と共にラリカへ一直線に飛びかかる。

「いっ、いやっ!!」

ガシッ!!

乾いた音とともに、グッドマン人形は勢いよく後方へ吹き飛ばされる。

「ぎぃやあぁぁぁぁああ!!」

矢が丁度脳天に突き刺さった形で数メートル飛ばされるグッドマン人形。
ラリカはその姿を見ながら、地面に膝をつく。
恐怖と安堵の込み上げる中、考えを巡らせる。
この人形はなんなのか?何がしたいのか?
ドサッとグッドマン人形は地面に落ちる。

「・・・。」

沈黙。
奇怪なグッドマン人形は、ラリカの疑問に答えることなく絶命したかに見えた。

「おぉ~ん。おぉ~ん。」

沈黙は一時的。
そう、グッドマン人形からすすり泣くような、それでいて妙に恐ろしい呻き声が発せられ始めたのだ。

「っ!!何なの!?」

膝をついたまま、毅然と弓を構えるラリカ。
その彼女の目は、更に奇怪な現象を見つめていた。
倒れたグッドマン人形の頭から、どす黒い煙が立ち込め始めたのだ。
黒い煙は拡散せず、ゆっくりと人の形を作っていく。
そして・・・


故)ウサギさん 談

ええ、目を疑ったかどうか聞かれたら、そらもう疑ったと言いますよ。
もうこの話をするのは何回目かすらも覚えてないんですけどね?
いまだに信じられないですよ。
あっ、信じられないウサよ。
ちょっと今のカットでお願いしまウサね。
語尾に「ウサ」って付けとかないと格好つかないウサからさ・・・。

ウサギさんはそう言うと、目の前にある人参を一口だけカジる。
そして軽く咳き込んだ後、続けた。

戦慄って言うんですかね?ボクもウサギ界では結構長めに生きた方だから、何度か味わったことはあるんですが、あんなのは初めてウサよ。
全身の毛が45°くらい逆立つヤツ。
島の野良猫にばったり遭遇してしまった時だって、「5°」くらいしか逆立たなかったウサよ?
それだけ尋常じゃあなかったウサ・・・。

そこまで言って、ウサギさんはその時のことを思い出すように、鼻をヒクヒクさせた。

唐突ですけど、闇の帝王の話知ってます?
こことは違う次元の話なんウサけどね、ヤバい世界があるらしいんウサ。

ウサギさんの口から語られるのは、人から人へと伝えられる古い物語。
記されることなく、ただ言葉のみによって語り継がれた物語。
要約すると、この世界とは違う次元に平和な世界があったけど闇の帝王が出てきてヤバいことになったというような話。
その闇の帝王っていうのが、もう「ヤベェ」としか言えないくらいしかヤバいヤツだったけど、そいつには息子がいたらしく、その息子に手を焼いて、息子を別次元に封印したみたい。それが、もしかしたらここかも?みたいなヤツ。
ちなみにその息子は闇の帝王よりもヤバいらしい。

ふぅと一息吐くと、ウサギさんはようやく続きを語り始めた。

そうなんですよ。
その闇の帝王の息子が復活したんウサよ・・・。

「どこから?」

ええ、あのグッドマン人形ですわ・・・。

「なぜ闇の帝王の息子だと分かったの?」

だって自分で言ってましたもん。
闇の帝王の息子「デュマ」様復活って。


                    つづく



[19944] 【再開】ムカデの代わりの男 -Revenge-  2話
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:56adee96
Date: 2015/01/24 01:37

 「ヒィ~ヤッハァ!!」

黒い煙は人の形を成し、目の前の男を作り出した。
ショッキングピンクの全身タイツに、トサカのような髪型。
そう、闇の帝王の息子「デュマ」である。

彼は、驚くラリカを尻目に歓喜の雄たけびをあげながら、付近を跳びまわる。
いや、跳ぶだけでなく転がる。
跳び、転げ、そして笑い続ける。

 「ウヒャヒャヒャヒャ!!自由!じゆぅぅぅうどぅあぁぁ!!ヒャ~ッハァ!!」

 「あ、あなたは・・・。」

煙から誕生した奇怪な男に対し、ラリカは震える声で問いかけた。
矢尻は向けたまま。

 「あぁあん?」

ラリカに背を向けていたデュマは、不機嫌そうな声でゆっくりと振り返る。
彼女を見据えるその目は、まさに「死んだ魚の目」である。

 「あ・・・あなたは・・・何なんですか?」

 「・・・。」

ラリカの問いかけに、デュマの口角がゆっくりと上がった。
そして、まるで水面の水鳥がごとき優雅な動きで彼女に向かって歩を進めてきた。
矢を握る手に力がこもる。

 「ち・・・近寄らないでください!!」

得体の知れない「何か」に対し、必死でひり出した声は恐怖で震えていた。

 「ウへへへ・・・。怖がらなくていいんよ?んんん~~。」

死んだ魚の目をしたのまま、デュマは更に歩を進めてくる。
距離にしてわずか数メートルまで近付いた時だった。

 「いやっ!!」

耐え切れず、矢はデュマへと放たれた。



--------小鳥さん 談

 インポッシブルですわ・・・。
 アタシもこの島じゃあかなりの古参ですけど、あんなの見たことないですわ。

枝にとまるかとまらないかの擦れ擦れの位置でホバリングをしながら、小鳥さんは続けた。

 ほら、見てよコレ。
 アタシの必殺技「低空ホバリング」。
 絶妙な速さで羽を動かすことで、遠目からみたらまるで枝にとまっているように見えるわけ。
 でも実際には浮いてる。
 これ見たら大体のヤツは腰抜かすわけよ・・・。
 こんなことできるアタシがよ?

 アタシが間髪入れずに「インポッシボー!」って叫んで側頭したわけよ。

話しながらホバリングは、さすがにキツかったようで、小鳥さんはそのまま枝にとまった。

 距離にしたら2メートルくらいかしら?
 あっ、アタシで例えると胡桃2個分くらい?
 え?分かんないって?
 とりあえず「スーパー近い」ってことよ。

 そこから矢を放たれたら普通どうなると思うかしら?

 「DEAD」よね?

 脳天直撃でTHE ENDってパティーンでしょ?

チチチと笑い、小鳥さんは続ける。

 刺さって死にました。なんて話をアタシがするとでも思って?
 そんなわけないじゃない・・・。
 アタシが「インヌ ポッスィ ボンソー」って叫ぶくらいの事が起こったわけよ。

 そう・・・。
 
 「デュマ」様は・・・。



 「ポメラニアン」になったのよ。

                             つづく



[19944] 【再開】ムカデの代わりの男 -Revenge- 3話
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:56adee96
Date: 2015/02/04 23:32



ポメラニアン

言わずと知れた猛獣。
敵であろうとなかろうと、近づく者には容赦なく吠え、あわよくば喉元を狙う。
だが本当の恐ろしさは、その凶暴な性格ではない。
ヤツが分泌する「ポメラニン」と呼ばれる酵素である。
「ポメラニン」は相手の脳に働きかけ、自分に対しての恐怖心を緩和させる。
人によってはその効果は絶大であり、ポメラニアンを抱き上げて、連れて帰りたくなる症状にみまわられるはどだ。
人間の膝よりも小さく、フワフワな毛に覆われた愛らしい見た目と「ポメラニン」により、相手の警戒心をほぼ皆無したうえで、鋭い牙によって息の根を止める。
古い文書には、こう記されている。

「ポメ会ポメ可見死覚悟。ポメ会ポメ不見牙殺。ポメ不会幸福」

ポメに会い、ポメを見たら死を覚悟せよ。
ポメに会い、ポメを見なければその牙によって殺される。
ポメに会わないことこそ幸福である。


-------------------------------------


「キャウンッ!!」

弓を放つ瞬間、ラリカは目を閉じていたため、その声に違和感を覚えた。
先程の男であれば「ぎゃああ!」が想定できる叫び声だが、聞こえたのは弱々しい小動物のような声。
ゆっくりと目を開くと、そこには予想だにしない光景があった。
矢が刺さって倒れているのは、あの男ではなく仔犬なのだ。
ラリカはとっさに倒れる仔犬のに駆け寄った。

「ク・・・クゥゥン・・・。」

ヒクヒクと体を痙攣させ、駆け寄るラリカを見つめる仔犬。

「うそ・・・何で仔犬が?」

状況が飲み込めない彼女は、仔犬の傍らにしゃがむ。
左肩に矢が刺さっており、そこから流れたであろう血がフワフワな長い毛を赤く染めている。
先程の仕留めたウサギよりは大きいが、矢を受けたこの仔犬はもう助からないだろう。
状況は飲み込めないが、仔犬の最後を悟り、ラリカはそっと刺さった矢を抜こうと手を差しのべる。
その時だった。
虚ろだった仔犬の目が見開き、ラリカを睨み付けたのだ。

「いてぇ・・・。いてぇよおお!!」

愛らしい姿からは想像もできないような声で呻く子犬。
その声はまさに先ほどの男である。
サッと手を引き、ラリカは子犬から距離を置く。

 「うふえへへへ・・・。いてぇじゃねぇかよぉ!!」

ふらふらと立ち上がり、子犬はラリカを睨み付ける。
その目は愛くるしい子犬のキラキラした目ではなく、先ほどの男同様に「死んだ魚の目」をしている。
見つめれば永遠の闇に堕ちてしまいそうなそんな目を・・・。

 「いてぇ!いてぇよおぉぉぉぉぉぉ!!!」

ポメラニアン(デュマ)は、そう叫ぶと凄い勢いでゴロゴロと転がる。
矢の刺さった左肩からは、ブシュッ、ブシュッと血が噴き出る。
その様子は痛々しいが、デュマの叫び声によって緩和されている。

 「なっ・・・、なにを・・・。」

それを見つめるラリカの表情が恐怖で歪む。

 「ヒイィィィィヤァァァァァアア!!!」

左右に転げまわり血を吹き出すため、みるみるうちに辺りは血で染まっていく。
もう狂っているようにしか見えない。
もちろんポメラニアンをポメラニアンたらしめているフワフワの長い毛も真っ赤に染まっている。

 「なんなの!?なんなの!!」

耐え切れなくなったラリカが叫ぶと、ピタリと動きを止めるデュマ。
ゆっくりと四本の脚で立ち上がると、目の前のラリカに焦点を合わせる。

そして、ラリカの目を見据え、ポメラニアン(デュマ)は歌い出した。


-------挿入歌----------
 
     「Iするがゆえに・・・」

  オレの瞳は宇宙
  アナタの瞳は太陽

  大きさが違う
  大きさが違う
  瞬く間に、スケールが違う

  LaLaLa
  LaLaLa

  Somebody Help Me 
  オレを助けろ
  明日までには助けろ

  今飛び立つ オレ

   --間奏--

  オレのパワーはマンハッタン
  アナタのパワーはハムスター

  大きさが違う
  もう比べようがない
  なんたって単位が違う

  LaLaLa
  LaLaLa

  This is an umbrella(傘)
  オレを助けろ
  そろそろ助けろ

  今羽ばたく オレ

-------挿入歌----------


狂気に満ちたこれまでの笑い声とは違い、優しい歌声。
あまりに唐突なことに、ラリカは声を出せないでいる。
歌い終わったデュマは目を閉じて余韻に浸っている。

 「・・・どうだ?」

 「!?」

 「即席で奏でたこのデュマ様の歌はどうだと聞いている・・・。」

目を閉じたまま、ラリカに語りかけるデュマ。

 「え・・・えと・・・。」

 「・・・。」

歌声は優しかったが、歌詞の意味が分からないため何と言っていいのか分からず、困惑するラリカ。
それもそのはず。
人形から急に発生した煙、その煙から誕生した人間が、更に急に仔犬へ変身。
自らの放った矢を受け、血を吹き出しながら転がった後、歌ったのだ。
もうどうしようもない。

 「どうした女?このデュマ様に遠慮しているのか?」

目を閉じているものの、いつ爆発するとも知れない緊張感がそこにはあった。
このまま感想を言わずにいたら、恐らく目の前の仔犬は怒り出す。
そんな直感が彼女にはあった。

 「えっと・・・、凄く声が綺麗で・・・。」

 「・・・ふむふむ。・・・で?」

欲しがるデュマ。

 「歌詞も・・・すごく独創的で・・・。」

 「ほう・・・・、それで?」

もっと欲しがるデュマ。

 「よ・・・よかったと思います!!」

どうにかヒリ出した感想。
精一杯の回答に、デュマの動きが止まった。
閉じた目をゆっくりと開き、また魚の腐ったような目をラリカに向ける。

 「そうか・・・。オレの心の叫びが、お前の心に響いたか・・・。」

口角を上げ、デュマはニヤリと笑みを浮かべた。

 「よし、じゃあ歌ってみろ。」

 「え?」

 「さっきの歌だよ・・・。もちろん暗記・・・したよな?」

 「!!?」

                              つづく



[19944] 【再開】ムカデの代わりの男 -Revenge- 4話
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:56adee96
Date: 2015/02/08 00:01
「ゲハァ!!」

ラリカが曖昧な記憶を必死に紐解き、あの意味不明な歌を唱おうとした時だった。
目の前で静かに目を閉じていたポメラニアン(デュマ)が急に苦しみだした。
口から結構な量の血を吐いて、息を荒げている。

「ハァハァ・・・。す・・・少し血を流しすぎちまったみてぇだぜ。」

言わずもがな。
ほんのちょっと前まで、矢が刺さった肩から血が流れているのにゴロゴロしてたし。

「やべぇ・・・、貧血やべぇわ・・・。」

ポメラニアンは虚ろな目で呟くと、その場にうずくまった。
頭を垂れ、小刻みにフルフルと震えている。
血を流しすぎると寒くなると言うが、それだろうか。

「あ・・・あの?」

心配になり声をかけるラリカだったが、予想は外れた。
そう、ポメラニアンは笑っていたのだ。

「クックックッ・・・。」

「ヒャ~ッハッハッハァ!!」

笑う度に、肩からドクドクと血が流れるのが見てとれる。
目をバチクリさせるラリカに、ポメラニアンは目を向けた。

「あと3回・・・。」

「え?」

「このデュマ様は、あと3回"変身"できる!」

「!?」

驚愕の事実。
目の前のポメラニアンは、まだ3回も変身できると言うのだ。
グッドマン人形から人間、そして仔犬に変わっただけでも驚きなのに、まだ変わるのだ。
どう変わるのか興味あるが、そんなことよりラリカは早くこの場を去りたかった。
もう目の前の奇怪な生き物に関わりたくないのだ。
早く船を止めた場所に行き、家に帰りたい。

「さぁ、お望み通り見せてやろう!!」

ポメラニアンが目を見開く。

「このデュマ様の第2の変身を!!」

                  つづく



[19944] 【再開】ムカデの代わりの男 -Revenge- 5話
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:56adee96
Date: 2015/02/10 21:15

"キャトルミューティレーションされた牛"になったデュマ様は、すでに瀕死だった。


グッドマン人形 → 人 → 仔犬 → キャトルミューティレーションされた牛である。
虚ろな目で目の前のラリカを見据えるデュマは、かすれた声で話し出す。

「み・・・見るがいい。これが・・・我が第3の変身よ・・・。」

矢の刺さった仔犬の時のほうが、まだ元気そうだった。
これは明らかに失敗である。

「血・・・血が足りねぇ・・・」

呻くデュマを後目に、ラリカは一歩づつ距離を空けはじめる。

「あ、あの・・・。私用事があるのでこれで・・・。」

仔犬の時は逃げたら追って来そうだったが、この牛ならその心配はなさそうだ。
尻尾を動かす力も残ってない。
離れた位置でデュマが何か訴えているようだが、もうラリカには聞こえない。
茂みに入り、視界からデュマが消えたところでラリカは走り出した。
早くこの島から脱出しなくてはいけない。
流石にあの状態の牛に止めを刺すことは気が引けたが、あの男はあと2回ほど変身できるはずである。
うかうかしている暇はなかった。
これ以上、こんな奇怪な島、いやあの奇怪な生き物のいる島に留まることはできない。

ガッ!!

必死で走っていたために、地面の突起に気づかなかった。
勢い良く地面に倒れ混んでしまうラリカ。
幸運にも下は雑草に覆われていたため、怪我はしなかったものの、倒れこんだ衝撃で一瞬息が止まる。

「・・・うぅ。」

よろよろと立ち上がり、足を引っ掻けてしまった場所に目をやる。

「ッ!?」

目を疑った。
ありえないはずのモノがそこにいたのだ。

「血が足りねぇよぉぉ!」

相変わらずか細い声で呻いているものの、ラリカにとってソレは恐怖だった。
あの場所からは確かに離れたはずだった。
ここに、ヤツがいるわけがない。
あまりの衝撃に、その場にへたり込むラリカ。

「な・・・なんで!?」

「血が・・・。」

「血が足りねぇよぉ!!」

そう、そこにいたのは紛れもなく"キャトルミューティレーションされた牛"だった。

------------

「ハァハァ・・・。」

急に現れた"キャトルミューティレーションされた牛"から、離れること数分。
ラリカは浜辺へ向かってひたすら走っていた。
立ち止まらずに行くと、ようやく見慣れた浜辺が見えてきた。
このまま船に・・・。
安堵し、足を止めた時だった。

「・・・りねぇ」

「!?」

「血が足りねぇ・・・。」

間近で聞こえるあの声。
信じたくない。
信じたくないが・・・。
ラリカは声のする方、そう自分の足元を恐る恐る見やった。

「うああぁぁあ!!」

叫び声を上げ、ラリカは地面にへたり込む。
そう、彼女の足元にいたのは・・・。


"キャトルミューティレーションされた牛"


「血が足りねぇよぉ!!」

相変わらず生気のない声で繰り返してはいるが、それが恐怖である。
確かに逃げたはずだった。
離れるとき、確かに遠くにいたはずだった。
それなのに、なぜここに動けないはずの"キャトルミューティレーションされた牛"がいるのか。

「う・・・ぁああ。」

声にならない呻き声を上げ、へたり込んだまま後退るラリカ。

「血が・・・血がたりねぇよ!」

船まであとほんの少しなのに、恐怖で体が前に進まない。

「なんで・・・、なんでアナタがここに・・・。」

ようやく言葉を発したラリカに、"キャトルミューティレーションされた牛"が呻き声を止めた。
そして、ゆっくりと語り出した。
あの忌まわしい出来事を。



---------------

ある日、一匹のモグラがいた。
モグラの名前は"スウィート・ダディ"。
モグラの中では良くある名前らしい。
スウィート・ダディ(略してSD)は、ふとした事から"海"という存在を知ることになった。
SDの縄張りは海岸沿いだったらしい。
それからSDの夢は"海"に行くことになった。
"海"がどんなモノなのかは仲の良い小鳥①が教えてくれた。
"海"の味は好敵手の小鳥②が教えてくれた。
だが、どれだけ話を聞こうと自らが体験しなくては満足できない。
SDの好奇心は高まる一方だった。
月日は経ち、立派な大人に成長したSDはついに決断する。
"海"に行く!と。
反対する仲間兄弟を押しきり、SDはひたすら掘り進む。
そう、SDは知っていたのだ。
自分の命があと僅かであること、そしてここで決断しなければ、恋い焦がれた"海"を感じることができないことを。
そこからSDの冒険は始まった。
縄張りの外は、もう興奮の連続だった。
出会ったことのない餌や触れたことのない土。
"海"に行ければそれで良かったSDの心は、いつの間にか"海"までの道のりを楽しむようになったのだ。
そう、結果ではなく過程を。

だが・・・

SDは決定的な間違いを犯していた。
まっすぐに"海"に進んでいたはずが、実は逆に進んでいたのだ。
気づいた時には、もう遅かった。
引き返すにはもう、SDに残された時間は足りなかったのだ。
SDはそこで決断した。
これ以上、生き恥を晒すわけにはいかない。
死すならば戦いの中で !!
SDが挑んだのは動物でも虫でもない。
真上に広がる死の空間(地面)、その先にある邪光。
そう、"太陽"である。
地中で勢いをつけ、その巨大な前足で"太陽"に向かって飛び出したのだ。

そして・・・


SD、いやスウィート・ダディは干からびて死んだ。



          つづく



【知恵袋】
キャトルミューティレーションとは
アメリカにて、家畜の不可解な死亡報告が多発。
レーザーを使ったような鋭利な切断面があったり、血液が全て抜き取られているなどの異常性の他、
この前後に未確認飛行物体の目撃報告が複数あることもあり、人間ではなく、
宇宙人の仕業ではないかと騒がれたもの。
ググるとちょっと気持ち悪いので気を付けたほうが良いよ♪



[19944] 【再開】ムカデの代わりの男 -Revenge- Final
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:56adee96
Date: 2015/02/17 23:34

 「前回までのあらすじ」

デュマはキャトルミューティレーションされた牛に変わり、ラリカに襲い掛かった。
ラリカの必至の抵抗むなしく、彼女の右手は食いちぎられてしまう。
なんとか魔力で血を抑えたものの、この手では弓を放つことはできない。
そこで、ラリカはついに禁断の呪文を唱えるのだった。


--------------------


 「ふぅ~い!!これでもうアンタなんかこわくないわ!!」

ラリカが卑屈な笑みを浮かべてデュマ(牛)に向き直った。
その表情は先ほどまでの弱々しい子羊とは違い、自身に満ち溢れた大人の女性そのものだった。

 「な!!なんだその右手は!!?」

デュマの目線の先、そう彼女の右手は・・・

      で、でたーーーー!! チェーンソーやぁぁぁぁ!!

リスペクトして止まない、アッシュ(死霊のはら○たⅡ)の最強スタイル "片手チェーンソー"。

ついにラリカはその力を手に入れたのだ。


 「どう?イカスでしょ?」

 「ウヘヘヘ・・・、なかなかどうして。テメェを甘く見ていたようだぜ!!」

ギュウイィィィンと、チェーンソーの刃を回転させるラリカ。

 「太陽が沈む前に・・・、アンタを地獄へ送ってあげるわ!」

 「ヒャッハァ!!」

こうして、デュマ VS ラリカ の死闘が切って落とされた。

 1.キャトルミューティレーション済みなので血が足りなく、満足に動けないデュマ
 2.片手がチェーンソーのラリカが素早く背後に回り込み一閃
 3.デュマの首が転げ落ちる

 「ぎゃああああああああ!!!」

血は抜けてるので噴き出ない。
そのままゴロリと転がるデュマの首。

 「そおおおおおい!!」

続けて首を蹴り飛ばすラリカ。

 「あばばばばばばっ!!」

首だけになっても生きているデュマ様だが、やはりこのままでは不利。

 「ま・・・待て!!こんな状態のオレを倒しても・・・ッブフェ!!」

 「そおおおおい!!」

話している最中にかかわらず、ラリカの蹴りは続く。

 「あうぅぅう・・・。まっ・・・ブヘェ!!」

 「そおおい!!」

こうしてラリカの一方的な攻撃が続き、ついにデュマは叫び声すらあげられなくなってしまった。
砂まみれの生首を見下すラリカ。

 「もう終わり?まったく物足りないわね?」

 「い・・・言っただろ・・・?オレはあと2回変身を残してる・・・・。」

息も絶え絶えに続けるデュマ。

 「最終形態になりさえすれば、お前を満足させられるぜ・・・?」

 「へぇ・・・。」

 「な?ちょっと時間くれよ?最終形態になるにはちょっと呪文を唱える必要あっからよ?」

媚びるような口調でそう言うデュマに、ラリカは笑みを浮かべた。

 「ウヘヘヘ・・・、YESってことで・・・いいんだな?」

目が輝くデュマ。

 「いいわ・・・。確かにこれじゃあイジメだものね・・・。」

先ほどまでとはうって変わって天使のような笑みを浮かべるラリカ。
それを確認し、デュマもニヤリと笑う。

 「よぉし・・・ちょっと待ってろ?今から呪m・・・ッバペェ!!」

一瞬だった。
デュマがペロリと舌を出した瞬間を見逃さず、ラリカの足がデュマを踏みつけたのだ。
舌は上下の歯によって食いちぎられ、ほとんどなくなっていた血をまき散らす。

 「ばああああああああ!!!」

 「あははははは!!残念!! これでもう呪文は唱えられないわねぇ!!」

苦しむデュマを見下し、ラリカは高らかに笑う。
そして・・・・。

 「これで・・・お終いよっ!!」

片手のチェーンソーが唸り、デュマの首はそこから更に4等分された。
闇の帝王の息子「ジャップル・ダイ=ユマ」は、低級貴族の娘「ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア」によって、

この世から完全に消滅したのである。


                   - SPACE COWBOY HAPPY END -



[19944] おわりに・・・
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:56adee96
Date: 2015/02/17 23:44

 最後は、どうにかラリカにデュマを倒して欲しくてハジケちゃいました。

 ちょっとだけ再開した夢の時間もこれで本当に終わりです。

 闇の帝王「アブダビ・ニュードバイ」の肉片から生まれた闇の貴公子「ジャップル・ダイ=ユマ(デュマ)」の活躍はいかがでしたでしょうか。

 トサカ髪の人間の姿から、いろいろ変身しました。

  1.人間型
  2.人面鳥
  3.人間型
  4.人間型(ヴェルタースオリ○ナルの孫)
  5.人間型(じじい吸収)
  6.ラリカ(精神乗っ取り)
  7.グッドマン人形
  8.人間型
  9.ポメラニアン
 10.キャトルミューティレーションされた牛

あと2回変身できますが、どんな姿になるかは想像にお任せします。

最後の最後に、ラリカという大人気キャラを使わせて頂いた「めり夫」様。
本当にありがとうございました。

この作品を読んで「ラリカ」を誤解することがないように、ここに記しておきます。


 ※この作品に登場する"ラリカ"は同姓同名の別人です


                            おわり




[19944] ムカデの代わりの男 ~dark side moon~
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:3a62c85a
Date: 2017/07/16 23:02
厄災の日から約5年の月日が流れていた。
そう、闇の帝王の肉片から生まれた男が、異界の魔女に惨殺されたあの日から5年も経ったのだ。
当時やんちゃ坊主だったガブリエルこと野うさぎのゼネスも丁度この日に死んだ。
厄災の話をする前に、まずはゼネスのことを語った方が良いだろう。


-----野うさぎ「ゼネス」の冒険-----

彼は8匹兄弟の5男として産まれた。
よくある物語では長男やら末っ子がフィーチャーされるが、彼は5男である。
そう、彼は意図せず産まれながらの異端児だったのだ。
そんなこともあり物心ついたころにはグレていた。

 「何で俺たちウサギを数えるとき「匹」じゃあなく、「羽」なんだよ!!鳥じゃねぇんだよナメんなっ!!」

こう言って後ろ足をタンタンッと鳴らすのが日課だったりした。

 ※ちなみに産まれたとき両親は「ゲイブリエル」と命名したのだが、呼びにくかったのかいつの間にか「ガブリエル」になったのは内緒である。

そんな彼が1歳になった頃、事件が起きた。
島の反対側にある悪魔の祠から邪気が出始めているようだと、長老うさぎが言い出したのだ。
もう9歳越えていていつ死んでもおかしくない状態だった長老の言うことなど、大人たちは取り合わなかったが、ガブリエルだけは違った。

 「俺たちが鳥じゃあねぇってことを世に知らしめるチャンスじゃねぇか!!祠なんて怖くねぇぜ!!」

両親や兄弟が止めるのを振り切ってガブリエルは家を飛び出した。
丁度反抗期だったのと、息子が家出したことが近所に知られてしまうと両親の世間体が悪くなってしまうのではという、一欠片の優しさから彼はこの日から自分を「ゼネス」と名乗るようになった。
ゼネスはその旅路でいろいろな経験をした。
仲間になったのは同じウサギの「ケヴィン=マッカートニーJr.」と、魚の「ドモン」、最後に紅一点である野ネズミの「ジャネット」である。


-----黒ウサギ「ケヴィン」との出会い-----

ケヴィンと出会ったのは旅立ちの日だった。
家を飛び出したゼネスは右に1回、左に2回曲がったところで派手に転んだ。
いや、転んだのではなく転ばされたのだ。
痛ててっ、と起き上がったゼネスの目に飛び込んできたのは得意気に足を突き出した黒毛ウサギの姿だった。
歳はゼネスと同じくらいか、少し上だろうか。

 「てめぇ、何しやがるっ!!殺されても知らねえぜっ!!」

 「へへっ、独りでハシャイでんじゃねぇよゼネス!!」

 「はっ?!お前はマッカートニーさん家の3男、ケヴィン!!」

 「おおっと、その呼び方は好きじゃねぇな。マッカートニー家の唯一の黒毛、ケヴィン様と覚えてくれや。」

片耳を立てて得意そうに言うケヴィン。
だが、すかさずゼネスは続ける。

 「そんなこたどうでもいいぜ!!ケヴィン、てめぇなんで俺を転ばしたんだ!!」

 「じーさんの言うことを信じてるのはお前だけじゃねぇんだぜ?」

ニヤリと笑うと、ケヴィンは自慢げに自身を指差した。(親指で)

 「この黒毛のケヴィンも、信じているんだぜぇ!!」

こうして2羽は祠を目指す旅に出たのだった。

ちなみに黒毛の保護色だったケヴィンは、それにかまかけて油断していたところを狐に食われて死んだ。


-----秀才な川魚「ドモン」との出会い-----

まだケヴィンが死ぬ前の話。
ケヴィンと2羽で水辺の草を食んでいると、どこからともなく声が聞こえてきた。

「HEY!そこのウサちゃんたちっ!!聞こえるかい!?」

妙にくぐもった声に、2羽は毛を逆立てて警戒する。

「ケヴィン気を付けろ?!祠から来た魔のモノかもしれねぇ!」

「へへっ!この黒毛のケヴィンを狙うたぁふてぇやろうだぜぇ!!」

背中を付け合わせ周囲を見張る2羽だが、どこにも気配がない。
聞こえるのは川のせせらぎだけである。

 「その反応からして聞こえてるんだね?うさぎ語は習いたてだから自信なくてさ!」

声と同時に今度はちゃぷちゃぷと水を荒立てる音が混じった。

「川だケヴィンっ!警戒しろ!!」

小川に駆け寄った2羽の目にとんでもないものが飛び込んできた。

「な、、、んだと、、、」

なんと、そこには川魚が2羽を見上げていたのだ。
しかも明らかにうさぎ語を話している。

 「オレッチだよ!ちゃんと聞こえてんだな?!」

 「うそだろ、、、川魚が俺たちの言葉を話してやがるぜ!!」

 「ガブリエル!こいつぁ夢か何かか!?」

 「あっ、俺のことはゼネスって呼んでよ。」

ぴょんぴょん跳び跳ねて驚く2羽を尻目に、川魚は話し出した。

「オレッチの名前はドモンっつーんだ。君たちと仲良くなりたくて言葉を学んだんだ。」

水の中で話していること、またドモン自身も「うさぎ語」に慣れていないこともあり、一部聞き取れなかったものの要約するとこんな内容であった。
ドモンは川魚の中ではすごく頭が良く、そのせいで同じ魚から虐められていた。
虐めに耐え兼ねたドモンは自殺しようと水面に顔を出した。
その時に見つけた小動物(ウサギ)に衝撃を覚え、「こんな可愛らしい動物となら仲良くなれる」と考え、頑張ってうさぎ語を覚えたとのことだ。
祠についても知っているらしく、仲間に入れてくれるなら道案内してくれるそうだ。

 「チッ!俺は反対だぜケヴィン!あんな魚類と一緒に旅なんてできねぇぜ!!」

 「まあ待てよガブリエル、俺たちにゃ道案内が必要だろ?」

 「あっ、ゼネスって呼んでよ。」

「さあ、こっちだウサちゃんたちっ!!オレッチに着いてこいよ!!」

2羽の会話を聞いてか聞かずか、ドモンは川を泳ぎ始める。

「祠まで川が続いてると思うかケヴィン?」

「さぁな、とにかくドモンのヤツに着いていこうじゃねぇか。」

こうして2羽と1匹の魚という奇妙な旅の一行が結成されたのだ。

ちなみに案の定小川が祠まで続いていなかったためドモンとは途中でお別れした。
ケヴィンが食われる1日前の出来事だった。


-----紅一点!おてんばネズミ「ジャネット」との出会い-----

 「あらアナタ、そんなに急いでどこに向かってるのかしら?」

ドモンと別れ、ケヴィンが食われ、独りぼっちになったゼネスの耳に甲高い声が聞こえてきた。
片方の耳だけそちらに向けるだけで、無視を決め込むゼネス。

 「ちょ待ちなって!そんな生き急いでも良いことないわよ!?」

しつこく語りかけてくる相手に深くため息をつき、ゼネスは足を止める。

 「ハァハァ、、、。ようやく止まったわね!!ってアラ?可愛いウサちゃんじゃない?」

「うさぎナメんなよ?どこにいやがる?!姿をみせろよ!?」

ゼネスが声を荒げると、足元の枯れ草からネズミが一匹顔を出した。

 「レディに向かって怖い声ださないでよ。私はジャネットっていうの。あなたは?」

 「チッ!俺に構うんじゃあねぇよ!!死にてぇのか?!」

2本の前歯を見せつけ、後ろ足で立ち上がり威嚇するゼネスだったが、ジャネットはケタケタと笑うだけだった。

 「草食動物の前歯なんて見せられたって怖くないわよっ。」

そう言うと彼女はゼネスのように前歯を剥き出し、後ろ足で立ち上がってみせた。

「ちなみに私は「雑食」よっ!!」

ジャネットは食物連鎖のヒエラルキーをゼネスに説明し、最底辺の「草」の次が草食動物であり、その上に肉食動物がいること、そして雑食こそがそれを上回る存在であると言い聞かせた。
最初は半信半疑だったゼネスだったが、図を使って根気よく説明されたことでようやく理解した。

 「というわけで、草食動物の一人旅は危険よ!」

 「チッ!そこまで言われちゃあ仕方がねぇ、勝手に着いてきな!!」

こうして、ウサギとネズミの奇妙な旅が始まった。

ただ、数分進んだところでゼネスはジャネットの気配が消えていることに気づいた。
そう、うさぎとネズミでは歩幅が違いすぎたためか、いつの間にかはぐれてしまったのだ。

 「ジャネット!?ジャネェェェット!!」

ゼネスは何度か彼女を呼んだが、返事がないのでそこを後にした。


-----野うさぎ「ゼネス」の冒険-----

1羽と2匹との出会い、そして別れによってゼネスは心身ともに割と成長した。
自身が「ウサギ」であることについても誇りに思うようになり、語尾に「~ウサ」と着けるようにもなった。

「俺は独りでもやれるっ!!むしろ、いまの俺は最高におもしろカッコいいウサっ!!」

これは彼の口癖である。
耳をピンと立てて、後ろ足で立ち上がって高らかに叫ぶ声は割と遠くまで届いていたと言う。
そして、、、

「ぎゃぴぃっ!!」

異端のうさぎ、ガブリエルことゼネスは巨大な弓矢に以抜かれて死んだ。
祠まであと数十メートルの距離だったと、唯一の目撃者である小鳥のピーコが語っている。
ちなみにピーコ自身も2年前に猫に食われたため、今となっては現実かどうか定かではない。
そして、そのゼネスを襲った弓矢こそ、厄災の元凶である魔女のものである。
弓に以抜かれたゼネスは薄れる意識の中で魔女を見た。
灰色の髪に真っ赤な瞳、そしてゼネスの20倍はあろうかという巨体。
いつものゼネスなら最後の力を振り絞って罵声を浴びせることもできただろうが、今回だけは恐怖で何も言えなかった。

 「あれ?俺の耳って高速で動かせば飛べるんじゃね?やべぇ、みんなに教えねぇと、、、あっ!?うさぎが「匹」じゃなくて「羽」って数えられる理由ってこれ、、、か、、、」

と、現実逃避したところで意識を失った。
まだ1歳3ヶ月の短い命だったが、他のうさぎと比べて濃い人生だったのは間違いないだろう。

厄災の魔女はゼネス殺害後、祠から蘇った闇の帝王の肉片から産まれた男を屠り、そのまま島の動物たちを一通り拐っていったという。
そして、当時作られた慰霊碑にはこう記されている。


「ムカデの代わりの男 再復活まで、あと3話。」


                       to be continued



[19944] 【復活】ムカデの代わりの男 -1-
Name: あぶだび◆3d7473a9 ID:278ddd89
Date: 2024/08/27 21:06
「えっ・・・」

一生を共にする存在なのだから、強くなくても有能でなくても良いからせめて可愛らしい使い魔が欲しかった。
目の前に現れた使い魔を見て、ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティアは落胆の色を浮かべる。
牛。
ガリガリで弱り切った牛が、今にも死にそうな顔でこちらを見つめている。
「かわいそう」「私この使い魔で良かった」「嘘でしょ?」と他の生徒から哀れみの言葉を浴びせられる。
餌を与えて大切に育てれば、普通の牛として実家の農業や荷運びなどに使えるかもしれない。
いや、使えてもらわないと困る。
そんなことを考えていると、先生から早く契約するようにと促された。
我に返り、牛に近づくラリカの耳にか細い声が聞こえてきた。

「マ様・・・復活・・・。デュマ様・・・活・・・。」

それが牛から発せられているのに気付いたのは契約するために顔を近づけた時だった。
あまりにか細い声のため、ここまで近づかなくては気付けなかった。
人語をしゃべる牛。
もしかするとこの使い魔は特殊な存在なのかもしれない。
ラリカは意を決して「話す牛」と契約を果たした。
ギーシュの召喚儀式に伴う地響きの中で、誰にも注目されずひっそりと。
その後はルイズによる恒例の爆発と平民召喚というイベントを経てサモンサーヴァントの授業は幕を閉じた。
各々好き勝手に使い魔と共にその場を去っていく中で、ラリカは改めて自分の使い魔を観察してみる。
どう見ても自力で動ける状態ではない牛。
とりあえず自室まで運ぶしかないかと小さくため息をつく。

「運ぶの手伝ってあげようか?」

そんな声が聞こえ、誰かが自分を憐んでくれたのかと期待を込めて振り返ったラリカだったが、それは自分に対して向けられた言葉ではないと分かり落胆する。
いつものようにキュルケがルイズをからかっているのだ。

「こんなの自分で運べるわよっ!!」

「浮遊魔法も使えないのに?」

強がるルイズに追い討ちをかける。
何人かその場に残っているが、誰もがこの「ゼロのルイズ」を嘲っているだけあり、見ていて気分の良いものではない。
本来なら関わらないようにその場を去るのが正解だろうが、少し自暴自棄になっていたのか、考えるより先に口が出てしまった。

「私、手伝いますよ。」

言うと同時にルイズの使い魔に浮遊魔法をかけるラリカ。
キュルケたちが自分に視線を移したのを感じるが、今はそんなことはどうでも良かった。
「えっ」と拍子抜けたような声を漏らすルイズ。
ラリカはあえてその場の誰にも焦点を合わせずに続ける。

「私手伝いますので、皆さんは大丈夫ですよ。」

「なに急に」「なんで怒ってるの?」「えっ誰?」と、バツの悪そうに去っていく面々。
あまりに感情がこもっていなかったからそう聞こえたのかもしれない。
我ながら今の台詞はいじめっ子達の興を削ぐには完璧なものだったと褒めてやりたい気分だ。
残されたルイズは状況を飲み込めていないのかキョトンとした顔でこちらを見ている。

「ここは手伝いますので、後で私の使い魔を運ぶのを手伝ってもらえますか?」

これで断られたら格好がつかないと、とっさに交換条件を口にするラリカ。
冷静を装っているものの内心は気が気でない。
ルイズを直視することはできず、ラリカはそのまま視線を牛に向ける。

「うし、、、」

一言発した後、ようやく状況を飲み込んだルイズは言葉を続けた。

「こっ・・・交換条件ってことね!分かったわ!!手伝ってあげる!」

1年の頃からろくに魔法ができず、クラスメイトから馬鹿にされてきた彼女が感情を上手く表現できないのは知っていた。
貧乏貴族であり、クラスの中では常に空気のラリカは内心自分が標的になっていないことを安堵しつつも、どこか遠くで自身もルイズを馬鹿にしていたと気づく。
それと同時に罪悪感に心を締め付けられるのを感じた。

「ありがとうございます。牛は後で運ぶので、まずは貴方の使い魔を部屋まで運びましょう。」

彼女を直視できないラリカは少し早口で答え、寮の方へ足を進めた。
「分かったわ」と、後ろからついてくるルイズ。
我ながら何とそっけない態度だろうと思うが、恥ずかしさから気の利いた言葉が続いてこない。

「貴方は確かミス・・・。」

「メイルスティアです。」

「えっ、あっごめんなさい!初めて話すから私・・・。」

「いいんです。私クラスでは空気みたいな立ち位置ですから。」

言って悲しくなるが、これが現実である。
ルイズはゼロと呼ばれてからかわれているものの、魔法が使えないという個性はクラスで目立っているし、そもそもが恵まれた容姿をした名門ヴァリエール家の三女なのだ。
特徴のない田舎の貧乏貴族の自分とは生きる世界が違う。

「そんなことっ!ごめんなさい・・・。」

強がっているが素直で良い子だと、ラリカの表情が少し緩む。

「でもね、その・・・ミス・メイルスティア?」

「はい。」

「本当は私どうしようか困っていたの・・・。だから。」

それまで後ろを歩いていたルイズが、急に歩を早めてラリカの目の前でお辞儀をする。
その目には少し涙が滲んでいるように見えた。

「私の使い魔ですが。」

感謝の言葉を言われるのは違うと思った。
咄嗟にルイズの言葉を遮る。

「なぜか弱り切った牛なんです。」

「牛・・・。」

「はい。しかも体のところどころに穴が空いていて・・・。」

「えっ、穴?」

「最後に、ずっと何か呟き続けているんです。復活、復活と。」

「えっ、なにそれ怖い。」

話は逸らすことができが、少し引かれてしまってる気がする。
自分でも話していて悲しくなってきた。

「貴方の使い魔を笑う人たちもいますが、もっと残念な使い魔もいるという話です。その一人が私なんですが。」

「・・・。」

少しの沈黙の後、ルイズは慌てて口を開く。

「げ・・・元気になれば牛だって役に立つわよっ!背中に乗って移動だってできるしっ!!」

「フフッ、そうですね。」

そんな話をしているとルイズの部屋に到着した。
ベッドに寝かせようとすると、床で良いと言われ部屋の隅に置く。

「ここに来るまでずっと悩んでたけど、この平民を使い魔にする。貴方と話したおかげで少し頭を整理できたわ。」

小さく笑うルイズに微笑み返すと、その窓から見える広場に横たわった牛が視界に入った。
目を離している間に逃げてしまわないか心配、というより逃げてしまったら先生に掛け合ってもう一度召喚の儀式をさせてもらおうと思っていたのだが、アテが外れたようだ。
思った通りあの場所から一歩も動いていない。

「次は貴方の使い魔ね。私浮遊魔法得意じゃないのだけど、何を手伝えばいいかしら?」

「大きい牛なので、運ぶ際の指示や扉の開け閉めなどをお願いしたいです。」

少し不安そうだったルイズの顔が和らいだ。
彼女が魔法を成功させたのは見たことがないため、物理的な手伝いをお願いしたのだが、気を悪くされずに済んで良かった。
いつものルイズなら「バカにしないで」と反発されそうなものだが、今は機嫌が良いのだろうか。
なんてことない会話をしながら牛の元へ向かう。
ふと気づいたが、他の生徒とこんなに会話をしたのは入学して以来かもしれない。
これを機にお近づきになんてことが頭をよぎったが、自分と目の前で笑っている彼女では身分が違いすぎると思い直す。
この使い魔運びが終わったら、またただのクラスメイトの1人に戻るのだ。
外に通じる扉から漏れる光が何となく哀しく見えた。



--------
「マ様・・・復活。」

部屋の隅に運び込んだ牛をしばらく観察し、干し草なども与えてみたが、結局ボソボソと言葉を繰り返すだけで意思疎通はできていなかった。
最初は得体が知れず少し怖かったものの、今となってはただの置き物と変わらない。
とはいえ、これからの授業で使い魔を連れて行かないわけにはいかないため何とかする必要がある。

「なにか他のことを話しなさい。」

使い魔は主人の言うことを聞く契約。
これまでは命令ではなく、質問を繰り返していただけだったことに気づき、ダメ元で主人として命令してみる。
どうせ変わらないだろうと思っていたが、反応が違った。

「み・・・ず。」

急な受け答えにラリカは目を丸くする。

「えっ?」

「み・・・みず・・・。」

弱り切った牛、干からびた牛は水を求めていたのだ。
とっさに花瓶から花を取り出し、底にある水を牛の口に近づける。
ペチャペチャと音を立てて水を飲む牛。
先ほど干し草を与えた時は見向きもしなかった理由はこれだったと納得する。
すぐに水がなくなってしまったが、牛はまだ水を欲しがっている。

「少し待ってて。」

どうしようもないと諦めかけていただけに、この変化は嬉しい。
中庭にある噴水から水を運んで来ようと部屋を飛び出した時だった。
横から軽く衝撃を受けて地面に倒れてしまう。
手にしていた花瓶も手から離れ割れてしまった。

「っつ・・・。」

何に当たったのかと半目を開けるラリカ。

「ごっごめん!!大丈夫か!?」

手を差し伸べてきたのは、ルイズの使い魔だった。
周りを見渡してみるが、そこに主人であるルイズがいない。

「・・・、こちらこそごめんなさ・・・」

怪訝に思いながらも手を掴もうとしたところで、階段からルイズの声が聞こえてきた。

「見つけたっ!!」

「うわぁ!!ごめん!あとでちゃんと説明するからっ!!」

使い魔はそう慌てて言うと、逃げるように立ち去る。
ポカンとするラリカのもとにルイズが駆け寄ってきた。

「ミス・メイルスティア!ごめんなさい私の使い魔が!!乱暴されたの?怪我はない!?」

大変な騒ぎ様だが、勢いよく転んでお尻が少し痛む程度である。

「花瓶割られたの!?あの平民っ!!」

怒り心頭のルイズ。
ラリカが立ち上がるのを待たず、「必ず弁償する」と言い残して走り去って行った。
シンと静まり返った廊下に1人残されたラリカは、小さくため息をつくと花瓶を拾い集めて部屋に戻ることにした。
たしか部屋にコップがあったはずだ。

「えっ!?誰!?」

戻った部屋に蠢く影。
牛ではない。
牛がいた場所に何かがいる。
咄嗟に杖を構えるラリカ。

「フッ、フヘヘヘッ!!」

聞き覚えのある声。
掠れた弱々しい声ではないが、明らかにあの牛の声。

「ヒャ〜ッハッハッハッハァ!!デュマ様ふっか〜つっ!!」

逆立ったモヒカンヘアーにこしゃまっくれた顔、そしてピンク色のタイツを全身に着込んだ変態が高らかに笑い声を上げている。
痩せこけた牛だったものが、人間の姿に変わっていたのだ。

「なんという幸運っ!奇跡っ!!このデュマ、これほどの感動を覚えたのは久しぶりよっ!!」

杖を構えるラリカに目線を移すと、高笑いをやめてゆっくりと片膝を曲げ、頭を垂れる。

「我が主人メイルスティア様。闇の貴公子・デュマ、御身の前に平伏し奉る。」

先ほどまで下品に笑っていたとは思えないほど丁寧な態度で、デュマという男はラリカに忠誠を誓った。
使い魔が人間に変身したという事実はなんとか受け止めたものの、予想外の態度と目に入ってくる情報量の多さにラリカの脳内キャパは完全にオーバー。
何か発するというよりも、乾いた笑いが口から溢れるだけだった。
窓の外から先ほどの平民使い魔の叫び声が聞こえる。


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