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[19953] 新たな未来をつかむため(現実→転生・原作知識あり)※かなりチートあり
Name: ディープ・アイ◆b169de4a ID:a7e4b7e3
Date: 2010/07/01 18:19


前書き的ななにか


 ここ最近このサイト等のMuv-Luvもの読みふけり、よし自分も書いてみようと! と考え勢いで書いて見ました。
 駄文かもしれませんが、楽しんで読んでいただけたら幸いです。

※注意書き※


 この作品は現実世界からの転生物です。
 主人公は原作知識を保有しています。またチート能力を持っています。
またMuv-Luvの他に、フルメタ、スパロボ、ガンダム、マクロス他多数の技術等が含まれます。




*************



プロローグ1


2010年×月×日


「いやー、久しぶりにやったけど、やっぱおもしろいなー、マブラヴ・オルタネイティヴ」
 液晶ディスプレイ上に流れるエンディングを流し観しながら、俺こと深神了は呟く。
「でもやっぱ、オルタ世界でハッピーエンドを向かえてほしかったな」
 物語としてのエンディングはあれでよかったと思う。だがやはり、俺としてはあの狂った世界でのハッピーエンドにしてほしかった。
「まあ、そこらへんはオルタードフェイブルで味わうかな。……でもなー。あ~あ、二次創作みたいに原作に介入できたらなー。……って、んな事できるわけないか。もうこんな時間だし、寝るか」
 そんな子供みたいなことを言いながら、俺はタイトル画面からゲームを終了しようとした。その瞬間――。


 ドドーーーーンッ!!!!!!!

 そんな音が背後でしたかと思うと、背中に一瞬走った激痛とともに、俺は意識を消失した。




『――次のニュースです。本日未明、●●県△△市の住宅に隕石が衝突。同住所在住のフリーター深神了さん(2×)とみられる死体が発見されました。死体は背中を中心に損傷が激しく――』



 こうして俺……深神了の人生はいきなり終了し、新しくそしてバイオレンスでスリリングな来世が強制開始されるのであった。



[19953] プロローグ
Name: ディープ・アイ◆b169de4a ID:a7e4b7e3
Date: 2010/07/01 22:07


目を覚ますと、そこは雪国だった。……って違う。
「ここ……どこ?」
 あの轟音と激痛で意識を失った俺が次に目覚めたとき、そこはさっきまでいた自室ではなく、どこまでも続く『白い世界』だった。
(上も下も真っ白って、なんか幻想的な場所だなー……まるで天界みたいな……)
 とそんなことを考えていると、
「そうここは君の想像通り、天界なんだなー」
「えっ……?」
 後ろから聞こえた声に振り向くと、そこには古代ローマ時代のような一枚布で構成されたきわどい服装に身をつつんだ美少女がいた。
 俺はその美しい姿にも驚いたが、何より彼女の発した言葉が気になった。
「あの……天界って?」
 というか何より『想像通り』って? まさかあの『社霞』みたいに俺の思考を読んだのか?
「うん。そうだよ」
「なっ……!?」
「だって私これでも女神だもん。その程度のことなら簡単だよ」
「簡単って……っていうか女神? ……冗談、だよね?」
「あー、信じてないな。本当のことなんだよ」
「マジ?」
「うん、大マジ」
「それじゃ天界って……いわゆる天国?」
「そう」
「それじゃあ俺って……死んだの?」
「……うん」
「……ちなみに原因は……?」
「…………」
 ……おい。なんでそこで目を逸らす。
「そ、そらしてなんか、な、ないよ?」
 おもいっきり目が泳いでんじゃねえか。それに声も震えてるし。
「あのー……怒らないで聞いてね?」
「内容にもよるが……とにかく話して」
 ……なーんかヤな予感がするな。
「その……私、友達の女神と宇宙でキャッチボールしてたんだよね。小惑星使って」
「うん、それで?」
「それでその……私が投げた小惑星を友達がキャッチできなくて、そのまま地球に落下しちゃって」
「……で?」
「あなたのお家に落下して……」
「それで俺は死んだと?」
「う、うん。その……ごめんね」
 そう彼女はまさしく女神のほほ笑みで謝る。それに俺も笑顔をつくり彼女に近付くと、
「ていやっ!!」
 彼女の額めがけて手刀を振り下ろす。
「あいたー!! 何すんのよ! 怒らないって言ったじゃない!!」
「内容にもよるがと前置きしたが……っていうかお前か! お前が俺を殺したのか!!」
「怒んないでよ、事故じゃんかー」
「事故で隕石落とされてたまるかー!!!!」
 軽く流そうとする性悪女神の発言にブチ切れた俺は、もう一発手刀をくらわせる。
「あいたー!! ぼ、暴力ハンターイ!!」
「なにが『暴力ハンターイ』だ!! 俺の人生を返せ!!」
「そんなことできるなら、あの世なんて必要ないわよ!!」
「うわっ、こいつ開き直りやがった!」
「こっちだって、あんなことになるなんて思わなかったわよ!! キャッチできなかった友達はすぐ逃げるし、死神の人たちには『死ぬ運命じゃなかった人を殺してんじゃない!!』って怒られるし」
「そりゃ当然だ!! っていうか、俺死ぬ運命じゃなかったのかよ!?」
「う、うん。本来なら天寿をまっとうできたって」
「Oh My God……」
 女神の非情な言葉に俺はまさしくorzの形で崩れ落ちるのだった。そんな俺の姿に彼女は慰めるように背中をさすりながら、
「まあ、起こっちゃったことだし、諦めるしかないよー」
 そうのたまいやがった。だが俺にはもうそれに反論する気力もなく……。しかし、一縷の思いをこめて女神にこう尋ねた。
「なんか救済策とか、ないの?」 
「ないことも……ないよ?」
「マジ?」
「うん、大マジ。輪廻転生って知ってる?」
「あ、ああ。ようは前世と来世ってことだよな」
「まあね。つまり君には転生してもらうというわけ」
「転生……生き返ることができるのか?」
「うん。まあ、それにもいろいろ条件があるんだけどねー」
「条件? それって……」
「うん。一つは同じ世界軸の転生の場合、主観時間で百年天界にいないといけないの」
「ひゃ、百年……そ、そんなに待ってられるかよっ!」
 こんな何もない真っ白な世界で百年も待ってたら、頭がおかしくなっちまうよ!
「まあ、簡単に言えば君考えてる通りだよ。そうやって百年かけて前世の自我を分解して来世の体に適した自我に再構成するの」
「なんか、何気に鬼畜な所業だな」
「まあね。でも百年待たなきゃいけないのは、同じ世界軸の場合。それ以外の世界なら、今の自我のまますぐにでも転生できるよ」
「それ以外……? 異世界ってこと?」
「そう。だけどこれにも条件があるんだよね。その条件ってのは対象者が死ぬ直前に思い浮かべた要素をもつ世界っていうこと」
「思い浮かべた……?」
 女神の言葉を反芻する俺の脳裏に、死ぬ直前に見ていたパソコン画面に映し出されたある絵がうかんだ。


 まさか……まさか……!?


「そ、そのまさか。君には『マブラヴ・オルタネイティヴ』の世界に転生してもらうね」
「な、なんですとーー!!!!」
 では何か!? あの化け物――BETA――がうじゃうじゃと沸いて出て来る世界で生きれというのか!?
「というのか、二次元の世界に転生できるのかよ!?」
「二次元って言うけど、君がいた世界軸から離れてるけど、確かに存在してるんだよ? まあ、ルールだから仕方ないよ。ここは犬にでも噛まれたと思って諦めた方が気が楽だよ」
 笑顔を浮かべそんなことをほざく女神。それにイラついた俺は手刀を振りかぶる。その姿に危機を感じた彼女は額を防御して許しを請う。
「ご、ごめんなさい!! なんでもするから、チョッ、チョップだけはやめてー!!」
「なんでもするんだな? じゃあ、なんか特殊能力をくれ!」
 なんか能力無いとあんな地獄で生き残ることなんてできないからな。
「それはできるけど、でもそれにも条件があるよ?」
「またかよ? で条件って?」
「えっと能力にもよるんだけど、その能力に見合った成果を人生が終わるまでその世界の人類に還元しないといけないの。この場合、人類によりよい未来を掴ませることだね」
「つまり、手に入れた能力でBETAを倒して英雄になれってか?」
「まあ、そうだね」
 ……まさかこんな展開になるなんてな。死ぬ直前『原作に介入できないかなー』とか夢みたいなこと考えてたが、それが現実となるとは……。
「その能力に数の制限とかあるのか?」
「基本的にはないよ。ただ還元する分が増えるけどね」
「もうひとつ……マブラヴの世界があるってことは、俺の世界でいう漫画や小説、アニメやゲームの世界もあるのか?」
「うん、そうだよ。君がいた世界軸は他の世界軸に対して上位性があって、君たちが想像した世界が生まれることが多々あるんだよ」
 まあ、全てでは無いけどね。と女神は俺の質問にそう締めくくった。
「……わかった。やってやろーじゃねえか」
 どっちにしろ後には引けない状況なんだ。英雄にでもなんにでもなってやろうじねえか。
 これでも男だ。英雄願望が無いわけじゃねえし、何よりあのエンドは俺の望むものじゃなかったし、きっちり改変してやるよ。
「それで能力はどうするの?」
「まずは……ウィスパードの力を。手に入れられる技術は、ブラック・テクノロジーのほかに、俺が知っているロボットものの技術も」
「わかった。でもウィスパードか……。結構リスクあるよ?」
「だがリターンはすごいもんさ。それとパイロット技能だな。目安としては相良宗介レベルの近接戦闘力とキョウスケ・ナンブレベルの高速戦闘技術及び悪運だな」
 理由としては、あの世界はBETAとの生存戦争を行っているのだ。二人のサバイバル・生存能力はうってつけだ。『生き残ること』そのものがある意味勝利となる。
 あとこれは趣味みたいなもんだ。一回死んだことだし、はっちゃけるとしよう。
「あとFateの衛宮士郎の解析能力とセイバーの直感スキルが欲しいな」
「ふーん。魔術とかはいいの?」
「さすがにあの世界でそんなものがあったらやばいだろ」
「まあね。で、これだけでいいの?」
「あ……あとひとつお願いがあるんだけど、いいか?」
「なに?」
 ちょっと恥ずかしい願いだが、ここは思い切って言ってみた。
「容姿をよくしてほしいんだ」
 俺の顔はかなり男らしい顔をしている。また幼い頃から武道を習っていたためか、かなり武骨な体格をしているのだ。決して自分の姿を卑下しているわけでは無いが、そんな容姿の俺は、アニメなどに描かれる中性的な姿の主人公などに憧れを抱いていた。
「つまり、早乙女アルト的な容姿にして欲しいと?」
 俺の思考を読んだ女神がそう聞いてきた。
「まあ、ぶっちゃけて言えば」
「わかった。それぐらいならお安い御用だよ。それじゃ転生させてもいいかな?」
「ああ、頼む」
「じゃあ、頑張ってね」
女神が激励の言葉を紡いだ瞬間、意識が遠のいて行く。
「あと、サービスで生まれる家いいとこにしといたからー」
 最後になんか女神が言っていたが、それを理解する前に俺の魂は天界から転生先の世界へと飛ばされるのであった。




 そして次に目を覚ましたとき、俺は赤ん坊の姿で見目麗しい女性にだかれていた。




こうして俺の試練満載な新たな人生が始まることとなった。



[19953] 1話
Name: ディープ・アイ◆b169de4a ID:a7e4b7e3
Date: 2010/07/06 14:00

1985年1月3日

 俺がこの『マブラヴ・オルタネイティヴ』の世界に転生してから、三年が過ぎた。生まれてから三年。前世とは違う世界・文化に驚く日々が続いた。
 あ、そういえば俺の自己紹介がまだだったな。
 俺の名前は深神了改め、獅子堂蒼牙(ししどうそうが)だ。よろしく頼む。
 ……何? 厨二くさい名前だって? いいの、俺は気に入ってるんだから。まあ、名前でわかる通り、俺は日本人として生まれた。予想はしていた。英雄にならなきゃいけないんだ。世界を救う計画『オルタネイティヴ4』の中心になる日本帝国に生まれるのは当然なんだろう。
 生年月日は、1981年12月24日。知っている人はお気付きだろう。そう、フルメタル・パニックのヒロイン、千鳥かなめ、テレサ・テスタロッサの誕生日だ。ついでに言えば生まれた時間はグリニッジ標準時間11時50分。
 まさしく『ウィスパード』が誕生した時間内に生まれたのだ。
 ここからも、あの女神との約束が守られているのが窺える。ならば次はこちらの番だろう。交わした約束はきっちり守る。これが前世からの俺の信条だ。

「蒼牙さん。そろそろ出かけますよ」
 とそんな風に思い出にふけっていると、部屋のふすまが開き、着物にコートを羽織った美女が声をかけてきた。
「はい。母様」
 俺はそう返事をすると子ども用のコートを羽織り、トテトテと近付くと、小さな手で彼女の手を握る。
「では、行きましょう」
 そう言って彼女……母様は俺の手を引いて玄関へと向かう。
 この和服の似合う美女こそ俺の母様。名を獅子堂岬(ししどうみさき)という。肩の辺りまでのばした藍色に近い黒髪。ほっそりとした顔立ちに切れ長の瞳。そして薄紅色の唇。まさに大和撫子を体現した美女で、俺の自慢の母親である。そしてそんな母を妻としていた幸運な男が、
「おい岬、早く行かないと始まっちまうぞ!」
 玄関前でこちらに声をかける、空色の瞳が特徴のせっかちな美男子である。名を獅子堂空牙(ししどうくうが)という。
 ……言っておくが、彼はどこぞのライダーみたいに変身はしないぞ? そして当然だが、俺の父親である。
「そんなに急かさないでください、あなた。女には出かける前にしなければいけないことがたくさんあるんですから」
「化粧なんぞ、必要なかろう? 帝国大学の白百合とまで言われたお前には」
「それでもです。まあ、あなたにそう言ってもらえるのはうれしいですけど」
 ……あの、息子の前で惚気るのはやめてもらえませんか? 頬を赤らめる母様とその表情に「相変わらずかわいい奴だ」などと言って微笑む父様を見つめ、俺は心の中でぼやく。
 俺の父親はいつもこうなのだ。毎度毎度、さらりと女心をくすぐる言葉を吐く。これに惚れた弱みなのだろうか? 母様も毎度照れて頬を赤らめる。
 もしかすると、父様はどこぞの白銀さんと同じ恋愛原子核なのかもしれない。と、そんなどうでもいいことが頭をよぎっていると、
「空牙様、岬様、そろそろ出発されませんと宴に遅れてしまいますよ」
 父様の後ろに控えていた、赤の軍服を纏った碧の髪が特徴的な女性が二人に注意した。
「おっと、そうであったな月詠。すまぬ」
「あら、ごめんなさい月詠さん。さ、蒼牙さん、乗りましょう」
「はい」
 女性の言葉に思い出した母様は、俺の手を引き玄関前に止まっていた黒の乗用車に乗り込む。後部座席に母様、俺、父様、そして助手席に女性が座り、出発する。ちなみに運転手は、白の軍服を纏った男性。そして俺たちの乗る車の前後を頑丈な車が挟んでいた。それに乗り込んでいるのは、おそらく白や山吹、黒の制服を纏った軍人たちだろう。
 ……そう、俺たちを守るように付き従っている彼女たちは、あの『斯衛軍』なのだ。
 え、なんで斯衛軍の護衛があるかって? 簡単だ。俺の生家である獅子堂家は斯衛軍において『赤』を纏う、由緒正しき武家であるからだ。
 その歴史はなんと源平争乱のころまで遡るほど。その上、俺の母はあの五摂家の一角『九條家』の次女である。
 こんな家の嫡男だから、俺は士族の間で『青にもっとも近き赤』と呼ばれたりする。そんな風に呼ばれ、恥ずかしかったりもするが、おかげでこの日本に将来重要な役割を持つ人々と出会えた。
「月詠さん、悠陽様はお元気でしたか?」
 その一人、将来の政威大将軍・煌武院悠陽の様子を助手席に座る月詠少佐――名字でわかるだろうが彼女はあの月詠真那の母親だ。名を月詠真琴という――に尋ねる。
「はい。年末にお引きになった風邪も、今は治っております」
「そうですか、よかった」
 まだ悠陽は一才を迎えたばかり。そんな赤ん坊が寒さの厳しい12月に風邪をこじらせたと聞いたときには、一瞬心臓がとまるかと思ったほどだ。
 少佐の話を聞いて安堵していると、父様が大きな手で俺の頭を撫でながら、
「蒼牙、未来の恋人のことがそんなに心配だったか?」
 なんて聞いてきやがった。
「父様、妹を心配するのは兄として当然です」
 血は繋がっていなくとも、俺にとって悠陽は妹なのだ。それに誰が赤ん坊をそんな目で見るかっ!
 父様と同じ空色の瞳で睨み少しふて腐れた感で反論すると、父様は俺の髪――色は母様と同じ藍色に近い黒髪――をくしゃくしゃと乱暴に撫で笑う。
「そうかそうか、それはすまん! だが、そんな考えはずっと持つもつものじゃないぞ? 大人になったら大変だ。まだ赤ん坊といっても悠陽は立派な女性だ。そこは理解しとけよ?」
「なに子どもに男女の接し方を教えてるんですか」
「いくらなんでも蒼牙様には早過ぎると思いますが?」
 父様のよくわからないアドバイスに、すかさず母様と月詠少佐が突っ込む。まあ当然だよな。
「早いか? ほら言うだろう『三つ子の魂百まで』って」
「だからと言って、子どもの情操教育にはよくないのでは?」
 さらに反論する少佐に、父様はニヤリと――少佐に見えるようバックミラーに写るよう――笑みを浮かべると、
「月詠、俺の息子をそんじょそこらの子どもと一緒にしないでくれ。蒼牙はな、この歳にして俺が大学時代に使っていた工学部の参考書を読破したんだぞ! さすがは俺と岬の子どもだ」
 親バカ発言しやがった。これに運転手の軍人は軽く肩を落とし、少佐はあきれ気味のため息をつく。ちなみに母様は俺が褒められた以上に自分の有能さをほめられ「まあ、あなたったら」と照れていた。
「気持ちはわかりますが、空牙様――」
「月詠、うそだと思っているな? だがこれは本当のことだぞ」
「まさか……本当なのですか、岬様?」
「ええ、本当よ。このことに関しては、絶対にうそではないと皇帝陛下と将軍殿下の名にかけて誓えますわ」
 両親の話に絶句する月詠少佐。それもそうだろう。生まれてからまだ三年しか経っていない幼子が大の大人でさえ専門知識が無ければ四苦八苦する分野の参考書を理解しているのだ。驚かないほうがおかしい。
(まあこれもチート能力のおかげなんだけどね)
あまりの衝撃に呆然とする少佐の背中に、俺は心の中で謝る。
 そう、前世で文系だった俺がそんなことができるのも、特殊能力のひとつ『ウィスパード』のおかげである。
 前の記憶があるおかげで、日常レベルの知識は持っていた。そしてそれを出力する技術――会話や文字を書くなど――に必要な力が身についたおかげでウィスパードに覚醒する条件がそろい、今では帝国最高の学力を誇る帝国大学の参考書を読破するほどの頭脳を持つに至っている。
 この能力、結構怖いね。つい先ほどまで知らなかった知識を、本を読んだ瞬間理解し、それが当然のように受け入れるのだ。初めてその感覚を味わったときは悪寒が走ったほどだ。
「月詠、お前知らなかったのか? てっきり真那から聞いてるかと思ったが。あの娘と真耶、時々蒼牙に勉強を教えてもらってるみたいだが」
「いえ、聞いていません。獅子堂家へは剣術の稽古と蒼牙様のお世話で行っているとしか聞いていませんでしたから。……そうですか。通りで最近幼等部での成績が上がっているわけか」
 父様の問いに、首を横に振る少佐は娘の成長に納得していた。
(真那姉さんも真耶姉さんも言ってなかったんだ)
 同じ武家で歳も近い(3才違い)の月詠真那さんと月詠真耶さんとは幼馴染みの関係だ。真那さん、本編の姿からは想像できなかったが、子どものころはかなりわんぱくで、勉強よりも剣術の稽古をするほうを好んでいた(本編での剣さばきとキレたときの好戦的性格はここからきているのかもしれない)。また従姉妹の真耶さんも、真那さんより頭は切れるも似たような性格で、いつも俺は世話という名目で剣の稽古に付き合わされていた。
 生身での格闘戦能力はソースケの能力を利用すればある程度はいけるが、体もできていない状態で、高い剣術技量を持つ二人に勝てるはずも無く……連敗記録を伸ばすことに(おかげでうたれ強さと見切り〈直感スキル〉の技術は上がったが)。
 これに悔しくなった俺は、伸び始めていた学力を披露。あまりの高さに二人は対抗心を持つ前に降参。以後武芸全般を二人から習い、勉強を二人に教えるという関係が出来上がったというわけだ。
 と、そんなことを思い出していると、いつの間にか車は目的地に到着していた。
 その目的地は、ある士族の武家屋敷……というか、小さな城。五摂家の一角、煌武院家の屋敷であった。



「ようこそおいでくださいました。空牙様、岬様、蒼牙様。さ、奥へ。旦那様たちがお待ちです」
 そう言って歓迎してくれるのは、本編で悠陽のそばに仕えていた侍女さん(若っ!?)。彼女の言葉に父様たちはそれぞれ挨拶し、若手の侍女に着ていたコートを渡す。
「蒼牙、コートをお預かりします」
 侍女の言葉に俺も羽織っていたコートを渡し、父様たちの後について奥へと向かった。
「旦那様、獅子堂空牙様方がお着きになられました」
「おお、そうか。通せ」
 侍女さんの言葉に、ふすまのむこうから落ち着いた声音が部屋へ通すよう伝える。
 侍女さんがふすまを開けると、そこは広大な宴会場であった。会場の上手・下手にはずらりと箱膳が並び五十人はゆうに超えるだろう老若男女さまざまな人々が座り、酒を酌み交わし、巷ではなかなか食べることのできない天然物――中国大陸のBETA侵攻により食糧輸入が困難なため――で作られた豪勢な料理に舌鼓を打っていた。
 そして会場の上座に座るのは二人の男女と、女性に抱かれた女の子。
「遅かったな、空牙。先に始めているぞ」
 そのうち男性がこちらを手招きする。その声は先ほど部屋へ入るよう促したものと同じ。彼の名は煌武院光(こうぶいんひかる)。煌武院家現当主で悠陽、そして冥夜の父親である。
「すまんな、光」
 父様は軽く謝罪すると母様と俺を引き連れ上座の前で胡座をかくと、拳を畳につけ頭をさげる。
「煌武院光殿、飛陽殿、悠陽殿。新年、明けましておめでとうございます」
「「明けましておめでとうございます」」
 父様の新年の挨拶にあわせ、俺と母様も正座し頭をさげる。
「ああ。明けましておめでとう、獅子堂空牙殿、岬殿、蒼牙殿。今日は新たな年を祝う宴だ。存分に楽しんでくれ」
 光殿はそう返礼すると父様に盃を渡し、酒を注ぐ。それに父様は一礼するとぐっと煽るように飲んだ。その漢らしい飲みっぷりに、同席していた男衆が「さすが!」と合の手を入れて場が沸く。
 本来なら五摂家が主催する宴では許されないのだが、今日の宴は内々――煌武院光が個人的に懇意にしている人々――を招いたもののため、多少の無礼講も許容されていた。
「お久しぶりですね、岬様。それに蒼牙様」
 光に寄り添うように座っている女性、煌武院飛陽(こうぶいんひよう)が父様の横に控える俺たちに声を掛けた。本編での冥夜と悠陽をたして2で割り、そこに母性を付け加えた容姿の彼女が煌武院光の妻であり、悠陽と冥夜の母親であった。
「お久しぶりです、飛陽様。悠陽様もお元気そうで。風邪を引かれたと聞いたときは、家族全員心配したものです。……特に蒼牙さんが」
「か、母様っ!?」
 俺のことを強調する母様の物言いに、車の中での父様の言葉を思い出してしまい、俺は思わず声を荒げてしまった。さっきは『男女の接し方を教えるのはまだ早い』とか言っておきながらこれだ。
「まあ。ありがとう、蒼牙様。よかったわね、悠陽。可愛らしい王子様に心配してもらえて」
 母様の言葉に飛陽殿は微笑むと、腕に抱いている紫の髪を持つ赤ん坊、悠陽に語りかける。これに悠陽は屈託の無い笑みを浮かべ、俺を紫の瞳で見つめる。
「おーあ、おーあっ!」
 まだまともにしゃべれない悠陽は、俺の名をそうやって呼び、手を伸ばして来る。
「まあ、悠陽ったら。蒼牙様、よろしかったら悠陽を抱いてくださらないかしら?」
「あ、はい。悠陽様。こちらへ」
 飛陽殿のお願いに頷き、悠陽をその手に抱く。まあ、抱くというには3才児の俺と悠陽の体格差があまり無いため、悠陽がコアラみたいに抱き付く感じだが。
「おーあ、おーあ!」
「あっ、悠陽様っ。髪は髪は引っ張っちゃダメですっ!?」
 ……悠陽はなぜか俺の前髪――ずっと伸ばしているので、真ん中で分けても顎の辺りまである――を引っ張るのが好きらしく、ぐいぐいと力任せに引っ張られ、俺は悲鳴を上げてしまう。それに酒に酔った男衆の笑い声や、女性陣の「涙目の蒼牙様、可愛らしいわ」「お持ち帰りしたいわね」など、かなり不穏当な発言が聞こえたりしたのだった。
 その後、俺の髪をおもちゃにした悠陽が前髪を握ったまま眠ってしまったり、父様と光殿が酒の飲み比べをして光殿がぶっ倒れたりしたが、比較的平穏(悠陽が生まれたばかりのときの宴はもっとひどかった)に過ぎた。
 そして日が沈むころ、さらに続く宴に後ろ髪引かれる感があったが、俺たち三人は月詠少佐の運転する車で煌武院邸を離れるのだった。ちなみに来るときに引き連れていた護衛の人達は帰らせた。なぜなら、今から行くとこはあまりおおっぴらに出来ない、ある秘密があるところだからだ。

「あなた、大丈夫ですか?」
「ああ、あれくらいでは潰れん。だが光のやつ、やはり鬱憤がたまっているのだろう」
「そうですね。悠陽様が生まれたときの宴ほどではなかったですが、得意では無いお酒をあんなに飲まれるなんて」
「ああ。だがあれくらいだったら同期のよしみだ、付き合ってやるさ。それより月詠。御剣の家へ頼む」
「御意」
「父様。御剣の家ということは、冥夜に会えるのですか?」
 そこで俺は、父様に問いかける。
 実は俺、このような身分だが冥夜にはなかなか会わせてもらえないのだ。……いや、このような身分のせいかもしれないが。
「ああ、そうだ。あいつも飛陽の血を引いてるから、将来は美人になるだろう。蒼牙、今のうちに手懐けておけよ?」
「もう、あなた……」
「空牙様! 幼い蒼牙様にそのような……、なにより冥夜の秘密を、嫡男とはいえ簡単に教えてはっ!?」
「悠陽と冥夜のことは、あの娘たちが生まれたときに教えている」
「なっ!?」
「月詠さん。私は血は繋がっていなくとも、あの娘たちの兄と自負しています。その二人を守るために必要だとおもい、教えてもらいした」
 俺はつくづく、二人の生い立ちが納得できなかった。確かに双子にまつわる迷信じみた話は、前世の世界にもあった。しかし今は――この世界も含めて――医療技術や文化も変わってきている。それなのにこんな前時代的な風習がまかり通る武家のあり方に俺は苛つくのだ。そしてそれは父様も同じようで、俺が二人の秘密について尋ねると、あっさりと教えてくれて「お前があの娘たちを守れ」と行ってくれたのだ。
「月詠、俺はあのしきたりが嫌いだ。何が『双子は世を分かつ』だ。今の時代、実際に政を行っているのは皇帝陛下でも将軍殿下でもない。帝国議会だ。江戸時代のように、跡目争いで戦争が起こることなどめったに無いわ。それなのに耄碌した老人どもは、カビの生えた習慣を俺たちに押しつける!」
「空牙様……」
「月詠さん、これは五摂家出身でもある私も同じ考えよ。なにより一人の母として、我が子を抱け無いなんてこと、死ぬよりも辛いことよ。飛陽様もどれだけ苦しいことか……」
「俺は悔しい。苦しんでいる友を助けることもできず、鬱憤ばらしに酒に付き合うことしか出来ないことが……このしきたりを受け入れることしか出来ない俺たちが!」
 血を吐くような父様の言葉に、少佐はそれ以上なにも言えず、ただ黙々と運転するのだった。
 その後、車内で言葉を交わすこと無く、帝都(京都)郊外にある御剣邸に到着。
 歓迎する御剣の侍女たちに冥夜のことを尋ねると、冥夜はすでに眠っていた。これに父様は「そばにいてやれ」と言って俺だけを冥夜に会わせ、二人は冥夜の義祖父である御剣雷電と話をしに行ってしまった。
 その際、父様は「夜這いはするなよ?」と冗談を言ったために、母様に耳をつかまれ引っ張られていったが。


「やっぱり、双子だな。悠陽とそっくりな寝顔だ」
 冥夜の部屋に通された俺は、彼女の隣でうつぶせになって顔をのぞいていた。
 ホント、そっくりだよな二人とも。そういや、一卵性の双子は離れていてもお互いのことがわかることがあるって聞いたことがあるな。一種のテレパシーってやつ。霞みたいな存在がいる世界だし、そういったのもあるんだろう。
 それだけ普通の人とは違い深い絆があるのに、互いを他人だと偽らないといけない二人の運命を考えると、ふつふつと言いようのない怒りと悲しみが湧き上がってくる。
(父様も母様も言ってた。……あのしきたりはおかしいと)
 俺とは違い『この世界』のメンタリティを持つ二人が否定しているのだ。
(ぶっ壊してもいいよな? そして二人を幸せにしてやる!)
 冥夜の寝顔に昼の悠陽の姿を重ね、自分の決意を新たにしていると、
「おーあ……」
 寝ていても武人の才能がそうさせるのか、俺がいることを察した冥夜が寝言で名を呼ぶ。そして、
 ギュッ! ギギーッ!!

「っ~~!?」
 冥夜はちょうど手許にあった前髪の一房を握り引っ張った。さすが姉妹。冥夜も悠陽と同じく俺の前髪で遊ぶのが好きなのだ。ちなみに冥夜は右側、悠陽は左側がお気に入り。
(本編とは違うんだ。……二人にあんな別れなんてさせない。冥夜を死なせるなんてさせない……)
 そんなことを考えながら、昼間の宴からくる眠気に負けた俺は、前髪をつかまれたまま、冥夜と二人眠るのであった。



[19953] 2話
Name: ディープ・アイ◆b169de4a ID:a7e4b7e3
Date: 2010/07/09 00:28

1986年4月


「やぁっ! メーーンッ!!」
「くうっ!? だが……小手ーっ!」
「うっ!?」
「小手ありっ! 赤一本!!」

 審判を務める真耶姉さんの声が響き渡る。俺と真那姉さんは開始位置にもどると蹲踞、剣――この場合竹刀――を納め起立、一礼する。

 うー……また負けた。
 籠手をつけていても手を痺れさせる痛みに、俺は眉間を歪める。まったく真那姉さんは手加減というものを知らない。互いに子どもでそちらが女の子とはいえ、3才もそっちが年上なんだぞ?
 心の中でぼやいていると「なんだ、蒼牙? なんぞ言いたいことでもあるのか?」

 俺の不満に気付いた真那姉さんが、からかう様な声音で聞いてきた。……わかってるくせに。

「……もう少し手加減してくれてもいいんじゃないかな? って思っただけだよ」
「蒼牙、私はお前のことを思って、本気を出してるんだ。母様から聞いたが、BETAという化け物は本能の赴くままに襲って来るという。そんな相手に今の言葉が通じると思っているのか?」
「……それはわかるけど」
「違うぞ、蒼牙。真那はな、本気を出さなければお前に勝てなかった。ただそれだけだ」
「なっ!? 真耶っ、何を言う!!」

 そこで真耶姉さんが、狐が人を化かすときの様な笑みを浮かべ、話に割り込んできた。

「どういうこと、真耶姉さん?」
「言った通りさ。蒼牙と真那の間に、今や明確な差が無いということさ」
「うそ……本当なの真耶姉さん?」

 俺が真那姉さんに匹敵するほど強くなっているのか?

「ああ。先ほどの面を狙った一撃、あの踏み込みは今までとは段違いで速かったぞ。ま、私であれば直ぐさま躱せたのが、真那では受け止めるので精一杯だな」
「なっ、あれは元から受け止めるつもりだったのだっ!!」
「まったく……見苦しいぞ真那。最近精進が足りないのではないか? 聞いているぞ。近ごろ化粧などを覚えて、それにうつつを抜かしていると。外見を気にする前に剣の腕を磨いたらどうなんだ?」
「なっ!? なぜそれをお前が!! それと剣の腕は関係ないだろう!! だいたいそういう真耶こそ、最近髪の艶を気にしていると聞いたぞ? 前は『剣を振るうのに髪は邪魔だ』とか言っておったくせに!!」
「なっ!? なぜそれを!? ……ほう、どうやらよほど私と剣をまじえたいらしいな? よかろう勝負してやろうではないか」
「お前こそ! 剣(竹刀)を構えよ!」

 真耶姉さんの軽口から始まった口論は、いつの間にか稽古の名を借りた喧嘩へと発展していた。
 この幼いサムライガールは互いの剣腕のこととなるとすぐに熱くなる。毎度のこととはいえ、困りものだ。その上、今日は自首練習。二人をとめられる大人がいないのだ。(それ以前に最近の二人は、大の大人にも勝利を収めることが多々ある)
 それになんだ、今日の口論は……。女の子だから興味を持つのは当然だが、化粧や髪とは……二人にしては意外だった。

「真那姉さん、真耶姉さん! 喧嘩は止めてよ!」

 とにかく二人の喧嘩を止めよう。そう思い、俺は声を上げるのだが、

「「蒼牙は黙ってろ!!」」

 と異口同音に言い換えされてしまう。それどころか、

「だいたいお前のせいだ、蒼牙!!」
「えっ……?」
「真那の言うとおりだ! だいたいなんだ! お前の……この顔、この髪は!?」

 真耶姉さんに被っていた面をとられ、まとめていた髪も結いを解かれる。伸ばし続け、今や肩下まである藍色の髪が扇状に広がり、道場を抜ける春風に揺れる。

「なんで男のくせにこんな艶のある髪をしているのだ!!」
「ちよっ、引っ張んないでっ……って言うか、そんなこと言われても――」
「顔もそうだ。私が持っている人形よりも綺麗な顔をしおって!!」
「い、いひゃいっ!? うえんなひぇよっ!?」
 真耶姉さんに髪を引っ張られ、真那に頬をつねられる俺。

「「つまり、お前が悪い!!」」

 ビシッ! と俺の鼻先を指差す真那姉さんと真耶姉さん。


 ……ドウシテコウナッタ?


 その後、侍女が食事の時間だと教えに来るまで、俺は暴走モードとなった某人型決戦兵器のような二人にしこたま扱かれることとなった。


 悠陽と冥夜を幸せにしると新たに決心した日より、一年が過ぎた。その間俺は主に士族が通う幼・小一貫の学院に通いながら、衛士となるため屋敷の横に建てられた道場で幼馴染みの月詠シスターズと一緒にこうやって剣の修練を積んでいた。今ではだいぶ力もついたと思うのだが……真那姉さん真耶姉さんには負けっ放しで、あまり自信が無いんだよな。まあ、真耶姉さんが強くなったって言ってくれてるし、めげずにがんばろう! まずは真那姉さんと真耶姉さんから一本を取るぞ!
 と、俺は道場で大の字に寝転がり決意するのだった。


 その後、真那姉さんと真耶姉さんが帰るのを見送り、侍女が用意してくれた夕食を一人で済ませる。(いつもは両親とともに食べるのだが、今日は二人とも仕事で忙しいらしく帰ってこないとのこと)
 そして就寝時間までの間、いつものように俺は衛士の鎧である戦術機の研究を行う。
 俺の部屋には、この時代としては最高レベルのパソコンが備え付けられている。独自に開発したOSを搭載したこのパソコンは、某窓な95レベルのスペックがある。おかげでだいぶ大きなものとなったが。

 この一年間、現斯衛軍第6大隊大隊長、そしてあの斯衛軍専用戦術機『82式瑞鶴』開発に巌谷栄二大尉、篁悠一大尉とともに開発衛士として関わった我が父、獅子堂空牙中佐のコネをふんだんに使ってF-4J『撃震』、『82式瑞鶴』を徹底的に研究したのだが……。

「……やっぱり、一番の問題はOSか……」

 最終的にそこに行き着くのだ。
 米国が開発したF-4・ファントム、その近接格闘戦を視野にいれた改修を受けたF-4J・撃震。そして撃震の格闘戦闘能力を上昇させ、高機動化させた瑞鶴。確かにF-4から瑞鶴まで戦術機本体の性能向上は行われている。しかしそれらを制御するOSは、仕様変更はされても、抜本的なバージョンアップはされていないのが現状だ。

「だいたいなんだ、一つの動作が終了するまで操縦者の操作を受け付けないって……」

 必ず自軍以上の物量で襲ってくるBETAに対してこれは致命的だ。また一つ一つの動作間に硬直が発生するのも問題だ。

「それに平行動作が出来ないのも問題だな」

例を上げると、現在のOSは跳躍ユニットを短時間噴射による回避行動。それが終了した後、突撃砲の照準、射撃という流れになっている。柔軟性が無いのだ。
 これでは人型である意味が無い。歩兵は先ほど上げた行動全てを、同時に考え、前の行動が終了する前に次の行動に移り攻撃したり、回避中に牽制射撃を行ったりもする。
 普通に考えたら、歩兵の拡大版である戦術機にも同じことが求められるはずだ。

「やはりまずはOSの開発だな……そしてそれにあわせた戦術機の開発か」
 しかし、それを行うには頭脳はどうあれ、たかだか4才児である俺一人では不可能だ。

「父様の力を借りよう」

 俺はそう考えると早速、父様を説得するための資料作りを始めるのだった。


そして、数日後の夜。

「父様、今よろしいでしょうか?」

 俺はこの数日間でまとめたファイルを手に、父様の執務室を訪ねた。

「蒼牙か。かまわんぞ、入れ」
「失礼します」

 執務室に入ると、帰ってきたばかりのため、まだ父様は斯衛軍服のままだった。

「どうしたのだ? 立ち話もなんだ、座れ」
「はい」

 応接室も兼ねた父様の執務室には2つのソファがあり、俺と父様は向かい合わせに座った。

「どうした。また戦術機の資料が欲しくなったか?」
「いえ、相談がありまして」
「相談?」
「はい。その前にこれを読んでください」

 俺はファイルを渡す。

「かなり分厚いな、お前が作ったのか? どれどれ……」

 父様は俺のまとめたファイルに目を通していく。父様は最初軽い表情だったが、読み進めていくにつれて驚愕と困惑で強張っていく。

「……これは、本当にお前がまとめたのか?」
 そう尋ねる声は、父様にしては珍しい硬い声だった。
 それもそうだろ。そこに書かれていたものは、発見・発明されるのには軽く十年は超えるだろう技術の数々。従来型とはまったく違う新概念OS。そして新型戦術機の概念設計図たのだから。

「はい。そうです」

 俺の肯定の言葉に、父様はふーっと深く息を吐くとソファから立ち上がる。

「親の贔屓目を抜きにしてもお前が天才であると思っていたが……まさか、ここまでとはな。蒼牙、下手をすれば世界がひっくり返るようなものを俺に見せた意図は何だ? 何がしたい?」
「……父様、私は物心ついた時より、絶えずある夢を見ます」
「夢とな……」
「はい。日本が……この帝都がBETAに蹂躙されていく夢を」

 そして俺は、夢という嘘を交えながら原作でたどる日本の将来を簡単に語った。

「なんと……そのような」

 俺の話を聞き、苦虫を噛んだような表情でうなる父様。まあ、にわかには信じることは出来ないだろ。

「あくまでも夢でしかありません……でもいつかBETAに悠陽や冥夜が奪われてしまうのではないかと! そう不安に駆られたときです。私の中に今まで知らなかった様々な知識が湧き上がってきたのです。私は考えました。この知識を使えばBETAを打ち倒す手段を生み出せるのではないかと!! 父様、どうか力をお貸しください!」

 俺の説得に父様は背を向け、デスクにおいていたタバコを咥え火をつけ、紫煙を吐き出す。

「蒼牙……少し昔話をしよう。……お前がまだ岬の腹の中にいたとき、俺と岬はある夢を見た」
「夢……ですか」
「ああ。さっきお前が語ったような夢だ。悲惨だったよ。平安の時代から日本の都である帝都が魑魅魍魎の如きBETAに蹂躙され、護るべき民達が喰われていく……悪夢というにも生ぬるい、この世の地獄であった。
 だがな、その夢には続きがあった。ある二人の男が傷つき、血に塗れながらも愛する者達を守るためBETAと戦い続けていた。
 ……そしてその夢が終わる寸前、女の声が聞こえたのだ。『汝が子こそ、この星の英雄、その片割れなり』と」
「えっ……」

 もしかして、その声って……あの女神?

「俺も岬も最初はただの夢だと思っていたが、お前の成長を見ていると、真のことであるかもしれんと思えてきた。そしてそんなときに、お前がこんなものを持ってきた」

 俺の作成したファイルを父様は手に持つ。

「お前の見た夢、俺達の見た夢、信じてみようと思う。そこでだ、蒼牙。改めてお前に問うぞ? お前は何がしたい?」

 父様は振り返り、俺の瞳を鋭い眼光で見つめ、問いかける。それに俺は視線をはずすことなく立ち上がり、

「BETAを打ち倒し、皆が笑って暮らせる世界を取り戻します」

 そう高らかに宣言する。
 その俺の答えに父様は満足げに笑うのだった。


 こうして俺は、BETA打倒への一歩を踏み出すのであった。




[19953] 3話
Name: ディープ・アイ◆b169de4a ID:a7e4b7e3
Date: 2010/07/14 00:07
1986年5月

 父様の協力を得、俺は本格的に動き出した。まずはなによりも実績が必要と考えた俺は、すぐさま開発可能な技術をレポートにまとめ、父様とある家へと向かった。
 その家とは御剣家。なぜかって? 俺も聞いたときには驚いたが、実はこの『オルタ世界』にもあったのだ。あの御剣財閥が!!
 といっても『エクストラ』や『オルタード』のような、いっそ清々しいまでのギャグ仕様な規模ではなく、戦術機生産の雄、富獄や光菱よりも小規模なのだが……。
 とにかく、こんな近いところに味方になりうる企業があるとはありがたいことだ。


「久しぶりですな、空牙殿。して今日はどのような件で?」

 御剣邸の一室である座敷で、父様と俺は御剣家当主にして御剣財閥会長・御剣雷電と面会していた。

「私は付き添いです。実は息子の蒼牙が雷電殿に用がありまして」
「ほう、蒼牙殿が……」

 父様の言葉に雷電殿が鋭い眼光でこちらに視線を送る。

「はい。折り入ってご相談があります」
「相談とな?」
「はい、実は――」
「冥夜タンとの結婚はまだ早いっ!!」
「違うわっ!!」

 雷電爺さんの勘違い甚だしい発言に俺は思わず持っていたファイルを投げ付ける。
 ……まったくこの爺さんは何をいってんのか。もしかしてさっきの鋭い眼光は、俺が『おじい様、冥夜を私にください』と言うと思ってのものだったのか?

「雷電殿、私はまだ4才で、冥夜は今年3才になる幼子です。そんなこと言うわけ無いでしょう!」
「すまぬ、すまぬ。いや前々から言ってみたかったのだよ。儂の子どもは全員男であったのでな。いやしかし、蒼牙殿であれば儂は一向にかまわんのだがな」
「そうですか、雷電殿。では許嫁という形で――」
「父様も話に乗らないでください!!」

 まったくこの父親は……!! 子どもの人生を勝手に決めないでくれ! 冥夜の事情もあるだろうに……。まあ本編での冥夜は一本芯の入った凛々しく美しい女性であったし、今の彼女も十二分に可愛らしく……って、俺は何を考えているんだ!?
 妄想を払うように頭を振ると、丹田に力をこめるように息をはき、背筋を正し父様譲りの空色の瞳で雷電殿を見つめる。

「相談というのは他でもありません。雷電殿、帝国、そしてこの地球(ほし)を救うため御剣財閥の力をどうかお貸しください」
「御剣財閥の力とな……?」
「はい。まずは先ほどお渡し(投げ付けた)資料をお読みください」
「ふむ、これかね。どれどれ……」

 雷電殿は額に刺さっていたファイルを引き抜き、資料に目を通していく。それからの反応は先日の父様と同じだった。俺も先日と同じ説明をし、未来の帝国、そして、義理とはいえ孫娘である冥夜のために力を貸していただけないか、と俺は雷電殿に頭を下げる。
 俺の説得に、雷電殿は目を閉じ腕を組んでしばしの間、黙考する。
 その沈黙は永遠の長さにも感じられ、我慢出来ずに俺が口を開こうとしたそのとき、

「あい、わかった。この御剣雷電、この帝国、そしてこの地球(ほし)のため獅子堂蒼牙殿に協力しようではないか」

 カッと目を見開き、実を震わせるような決意あふれる声で雷電殿は宣言した。

「ありがとうございます!」
「頭を上げてくだされ、蒼牙殿。して儂はどのように動けばよい? あいにく戦術機開発は、傘下の企業が簡単な部品を富獄などに納入しているだけでおるし……」
「いきなり戦術機開発に参加する必要はありません。まずは得意分野で力を蓄えていただきたいのです。御剣財閥の一つに、御剣電工がございましたよね?」
「うむ、主にテレビなどを製造している。販売は官民問わずだ」
「であれば、この技術が使えます」

 そう言って俺は、もう一つ持ってきていた資料のあるページを雷電殿に見せる。

「これは最新型のブラウン管テレビの設計図です。今販売されているテレビとは比べ物にならない性能を有し、低価格を実現しています。その上、こちらのカラー液晶技術を活用すれば、シェアは一気に世界規模へと拡大するでしょう」

 ブラウン管型テレビ、そして液晶ディスプレイ技術。二つの技術は俺……獅子堂蒼牙が生まれる前からすでに存在していた。しかし俺が雷電殿に示した製造技術は前世、液晶どころかプラズマを使ったテレビや、手のひらサイズのワンセグケータイが幅を利かせていた時代の技術だ。最近白黒液晶ディスプレイができたが、BETAの侵攻により研究予算が戦術機開発に分捕られたこの世界とは、まさしく月とスッポン。

「しかし、ブラウン管テレビの方はともかく、新技術であるカラー液晶ディスプレイが売れるものかな?」

 確かに、カラー液晶ディスプレイは、生産ラインの機械をバージョンアップさせれば普及させることの出来るブラウン管テレビと違い、新たな生産ラインを構築しなければならず、多大な先行投資は避けられない。
 この状況で利益を生み出すことができるのか? 雷電殿は幾千もの社員どその家族への責任を持つ御剣財閥会長として、まさしく雷の如き視線で俺をい抜く。

「雷電殿、私は先ほど『世界規模』と言いました。そう、世界です! BETAの撒き散らした戦火に巻き込まれていないアメリカ及び南米。そして不足する地下資源の輸出で利を得る南アフリカやオーストラリア。彼らに売り込み、この帝国に外貨を取り入れるのです!」

 翁の生き様を全て映したような瞳をまっすぐ見つめ、俺はあの歌舞伎十八番、二代目市川團十郎が得意とした『外郎売』。その主人公・八曾我五郎となったような気持ちでまくし立てる。

「確かに米国社が発明した網膜投射技術は優れたものでしょう。しかしそれは、従来の戦闘機と同じく手狭な戦術機の管制ユニットを有効活用するために開発されたもの。今でも不特定多数に対しては従来の画素数のわるいディスプレイで見せています。そこに御剣電工がこれらの新型ディスプレイを発売すれば……」
「娯楽を楽しめる余裕のある裕福な家庭や軍は必ず取り入れると?」
「はい。私はそう確信しています」

 俺の自信に満ち溢れた(実際前世での普及過程を知っているから)言葉に、雷電殿は表情和らげ頷く。

「神童と呼ぶに値する蒼牙殿が断言するならば、この雷電、この技術に賭けようではないか!」
「ありがとうございます」
「良かったな、蒼牙。しかしこの商品を発売させることと、お前の目的であるBETA打倒はどう結び付くのだ? 俺にはせいぜい、御剣財閥が多大な利益と新型ディスプレイを導入した米軍などの諸外国軍とのパイプが出来る。それぐらいしか思いつかないのだが?」

 俺が無事説得を成功させたことに喜ぶも、父様が疑問の声をあげる。その問いに、俺はファイルのあるページを二人に見えるように開き、説明する。

「確かに最初は御剣重工に私の知識を教え戦術機開発に乗り出そうとも考えました。しかし御剣重工には根本的な戦術機開発ノウハウも無いですし、何よりF-4J撃震・82式瑞鶴を生産、開発している各企業との軋轢を考えると……」
「うむ、確かに。御剣財閥が五摂家一角である煌武院家の分家筋とはいえ、企業としての力は富獄、そして光菱財閥などなは勝てぬ」

 俺の考えに雷電殿が苦々しい表情で頷く。

「そこで私は考えました。本体(ハード)で勝てないのであれば、中身(ソフト)で勝負すればいいのではないかと。
 お二人とも、このページをお読みください」
「何々……繊細な映像処理のためには高性能の集積回路が必要不可欠……蒼牙、お前……」
「お気付きになられましたか、父様。そうです、それが私の真の目的です」
「どういうことかな、空牙殿?」
「雷電殿、戦術機は戦車や装甲車、飛行機とはまったく違う兵器です。当然です。戦術機は人型兵器。兵装の種類も突撃砲や長刀、ナイフ……歩兵用兵装を拡大したもの。つまり人と同じ行動が出来なければならないのです。それらをクリアするには、人の脳と同じく戦術機本体を制御するシステムが必須。それも高度で複雑なシステムが」
「つまり、私はその制御システムの基盤となる集積回路。そしてそれを構成する半導体の基礎ノウハウを手に入れたいのです」

 父様の言葉を受け継いで雷電殿に説明した。

「なるほど、確かに今の戦術機はどこか人形染みた動きが目立つな。儂も無現鬼道流を修めておるから、もっと速く動かんのかと不満に思うことが多々ある」
「ええ。私も撃震、瑞鶴と乗っておりますが、もっと速く、もっと意のままに動けないのかと考えます」
「その問題を開発側は機体(ハード)の性能向上でクリアしようとします。確かにそれも必要でしょう。しかし制御システムが未熟であれば十全な力は出し切れない」

 今の戦術機を人間に例えれば、とにかく身体を鍛えて、その筋力でもって戦う戦士だ。しかしそれでは、無限ともいえるような物量で襲いかかるBETAには勝てない。

「だから私がその制御システム――OSを新たに創ります。しかしそれを今の戦術機に搭載するには集積回路(脳)があまりにも未熟……」
「その集積回路(脳)を御剣が作り――」
「そしてそのシステムの優位性を斯衛軍大隊長である俺が証明し軍部に採用させる、と」
「はい。まずはそこから行きましょう」

 こうして俺の新型戦術機開発計画の第一段階が決まるのであった。

 その後、俺は冥夜と少ない時間ながら遊び、御剣の屋敷を後にした。その際、俺と離れることを嫌った冥夜が、俺の前髪――もちろん右側――を掴んで放さないという事態が起きたが、近いうちにまた来るという約束で機嫌を直してもらった。
 その帰りの車の中、父様が思い出したように、

「そうそう、蒼牙。実は八月に千葉の習志野で日米合同の演習が行われることが決まった。その中で米軍の最新鋭機F-15イーグル……奴等が言うには『最強の第二世代型戦術機』だそうだが、そいつと瑞鶴のDCTをすることとなった。どうだ、観に来るか?」

 尋ねてきた。それはあの伝説が出来たイベントではないか!

「観られるというのであれば、行きたいですが。私のような子どもが行っていいのですか?」
「ああ。米国の奴等F-15をどうあっても帝国に売りたいらしくてな。合同演習自体もBETA戦争の戦意高揚を目的に一般公開しては、と議会に掛け合っているらしい。今の議会は小泉中心の親米派が牛耳ってるからな、通るだろう」
「ならば、行きます。今の私の目標はF-15を超える機体を創ることですから」

 父様の提案に、俺は是非と頷くのだった。




 まさかこの出来事で、おとぎばなしの王子であった『彼』と聖女であった『彼女』と出会うことになるとは、俺はそのとき思いもしなかった。



**********************

後書き


えー、この作品を読んで頂いている皆様、ディープ・アイですm(_ _)m

様々な感想、意見ありがとうございます。
大変執筆活動の力となっておりますので、よろしければ今後も書き込んで頂けると筆(キーボードタッチか?)のスピードも上がります。
ただ、私のネット環境がケータイ端末しかないという現状がありまして、ただ今は

パソコンで作成→ケータイのメモに写し→たまったら投稿

という流れでして……。
短文に対しての意見にはなかなか応えられない現状があります。そこはご容赦ください。


また気になった感想についての答えをここに書かせて頂きたいと思います。


糸巻きトカゲさん


確かに∧ドライバを搭載出来ればそれも可能なんですが……実は不可能だということが、原作の最新刊(7/13現在)で説明されています。
まあ、その搭載可能兵器のカテゴリーに入る戦術機には積めるですが。


蒼蛇さん


∧ドライバの適性にについてですが。
これは正確には明言されていません。

まあコダールとアル(アーバレスト・レーヴァーテイン)との戦闘力の差などから考えてのことでしょうが、正確にはあれは量産機とワンオフ機の差です。
(だから同じワンオフ機で強力なレナードのASには勝てなかったですが)
正確にはウィスパードはTAROSの扱い長け、それこそ未来予測・時空への干渉が出来るってことなんですがね。

あとAIの補助が必要にもなります。
じゃないとオペレーターがドライバを発動させた瞬間に感電死します。



あ、お二人ともすみませんm(_ _)m
アドバイスもらったのに反論しちゃって、ただフルメタは私にとってバイブルでして……m(_ _)m

それではまた、次の更新でお会いしたいと思います。



[19953] 3.5話
Name: ディープ・アイ◆b169de4a ID:a7e4b7e3
Date: 2010/07/17 15:18

 いつからだろうか、ぼくが『オレ』になったのは……? 言葉を理解できるようになってきたときだったかな。
 あれを思い出したとき……いや『オレ』から受け取ったときは、大変だったな。あの時の苦しみ、悲しみ、あの娘の「またね」っていうときの泣き顔……そういったの全部が頭ん中にあふれ出てきて、泣きじゃくったんだっけ。ちょうどそばにはあいつがいて……思わず抱きついたんだよな……あの時はマジで恥ずかしかった。

 でもいいよな、お互いまだ自分で歩けるようになり始めた時だったし。

 そういえば、最近夢を見るのだ。オレが『オレ』としてあいつや生真面目な委員長、一匹狼な女の子。猫みたいな少女、『オレ』の家に突然押しかけてきた双子のお嬢様たち……そして飛び級制度で転校してきた銀髪の少女。
 彼女らと起こす、普通には絶対に起きないような、でもとんでもなく楽しい日々の夢。

 きっとそれは夢じゃないんだろう。『オレたち』と『彼女たち』が掴み取った平和(にちじょう)なんだろう。


 だけど……その平和を掴み取れたとしても『オレたち』の心の中にあったのだろう。『あのとき、ああしていれば』『あのとき、気付いてさえいれば』という想いが……。たとえそれが、譲れない想いを託し、散って逝った人たちの誇りを傷つけるものであると判っていても……。

だからそういった全ての『想い』を『オレたち』は『オレ』に託したのだろう。

 世界を救えなくてもいい。ただ、導いてくれた先達を、ともに戦う戦友の背中を、そして『全ての世界』でオレの隣にいて、いっつもバカみたいにほほ笑んでる『あいつ』を守ってくれ、と。

 だったら、やってやろうじゃねえか! 『オレたち』にとっては過去でも、オレにとっては未来なんだ。過去は変えられなくても、未来を変えちゃダメなんてことは無いよな!

「すみか、オレ絶対に“えいし”になるんだ!」

 だからオレは、あいつの誕生日の夜。珍しく晴れた夜空、光り輝く天の川、そして星の川を挟んで輝くベガ(織姫)とアルタイル(彦星)を見つめ、隣にいるあいつに宣言した。

「えいし……? えいしってロボットにのって、べーたとたたかうひと?」
「ロボットじゃなくて、せんじゅつきだよ。ああ、それですみかや、みんなをまもるんだ!」
「ほんと、たけるちゃん? じゃあわたしも“えいし”になってたけるちゃんをまもる!」
「すみかはいいんだよ!」
「やだ! たけるちゃんといっしょがいいの!! それにわたしのほうがオネエサンなんだよ」

 まったくこいつは。どこの世界だろうが一緒なんだな。ま、それはオレも同じか。でも「いっしょがいい」か……。
 ああ、そうだよ。オレも純夏、お前とずっと一緒にいたい。あいつ等なんかに渡してたまるもんか……壊されてたまるか!
 唇とアホ毛を尖らせ睨む純夏を見つめ、改めて決意していると

「おーい、武。そろそろ帰るぞ。母さんたちが純夏ちゃんの誕生日を祝う料理を作って待ってるんだから。ほら純夏ちゃんも」

 少し離れたところで見守っていた父さんが帰るよう声をかけた。無理を言って連れてきてもらった手前、素直に従う。
 純夏と手を繋ぎ(子どもだし、いいよな?)父さんと三人で丘へと行く道を戻り、帝国軍横浜白稜基地の正門付近に出る。
 門の前には当直の衛兵二人が機銃を携え立っていた。そのうちの一人が父さんに声をかける。

「あ、お帰りですか?」

 丘に登るときに「どちらへ?」と声をかけた壮年の衛兵だった。

「ええ、もう小さな子たちには遅い時間になってきましたから。それに妻たちが久しぶりに天然物で料理を作って待ってますから」
「へー天然物ですか? 何かのお祝いで?」
「ええ。この娘、お隣りさんの娘さんなんですが、今日が誕生日でして」
「そうなんですか、お嬢ちゃんいくつになったんだい?」

 もう一人の若手の衛兵が、しゃがんで純夏に尋ねる。

「さんさいになったんだよ!」

 その問いかけに純夏は満面の笑みで、オレと手を繋いでいない方の手で指を三本伸ばして答える。

「三才か、おめでとうお嬢ちゃん」
「うん、ありがとう、へーたいさん! あ、そうだへーたいさん!」
「うん、どうしたんだい?」
「“えいし”ってどうやったらなれるの?」

 純夏の、その無邪気な質問に一瞬、若手の衛兵の顔が強張る。おそらく彼は衛兵適性で落ちて衛兵をしているのだろう。

「衛士はね、誰にだってなれるものじゃないんだ。ただ、なりたいって気持ちを持ち続けたらお嬢ちゃんでもなれるかもしれない。まずは友達といっぱい遊んで元気な体を作ることだね」

 答えを躊躇する若手に代わって、壮年の衛兵が純夏の質問にそう答えた。

「うん、わかった! ……あ、でもわたしせんじゅつきってどんなロボットかしらないや。たけるちゃんは、しってる?」
「えっ……て、テレビではなんかいか、みたことあるけど……」

 ……やべぇ、一瞬乗って戦ったことがあるって言いそうになった。

「お、坊主も衛士を目指してるのか!」
「そうだよ。たけるちゃんがえいしになるっていったから、わたしもなるんだ!」
「そうなのかい、お嬢ちゃん。もしかしてお嬢ちゃんは坊主のことが好きなのかい?」
「うん! たけるちゃんのことダイスキだよ! だから、ずっといっしょにいるんだ! ねっ、たけるちゃん!!」
「う……うん」

 ……は、恥ずかしい。純夏は単純な意味でいったんだろうが、オレにはこいつと結ばれた記憶があるから、それが脳裏に甦って顔が赤くなってしまう。

「お。坊主のやつ、いっちょ前に照れやがって」
「息子は、ちょっと大人びたところがありますから」

 オレの恥ずかしがる姿に、周りの大人たちがそう言って笑う。

「と、父さん。はやく帰らないと母さんたちがしんぱいするよ!」
「あ、そうだな。それでは失礼します」
「ええ。あっ、そうだ。お嬢ちゃん、坊主。戦術機を知りたいなら千葉に行ってみるといいよ。来月千葉の習志野基地の基地祭で、日米の戦術機同士の演習……試合みたいなものがあるんだ。斯衛軍も来るって聞いてるから連れて行ってもらうといいよ」

 帰り際、壮年の衛兵がそんなことを教えてくれた。


「基地祭か……ニュースで言ってた日米合同演習の一環のやつか」

 坂を下りたあたりで、父さんがぽつりと呟く。オレもそのニュースは知っている。たしか米軍は第二世代型戦術機……陽炎の原型機F-15を持ってくるっていってたな。

「おじさん、おじさん! わたし、そのキチサイにいきたーい!!」
「父さん、オレも行ってみたい」

 記憶では戦術機はいやというほどしっているが、それはあくまでも記憶。やっぱり生で見れるのであれば、それにこしたことはない。
 オレと純夏のお願いに、父さんは「うーん」と少しうなってから

「そうだな。八月なら休みも取れるし、千葉なら日帰りでいけるか。じゃあ、行ってみようか。……でも斯衛軍か……」
「どうしたの、父さん?」

 「やったー!」と無邪気に喜ぶ純夏に笑顔を向けながらも、どこか、微妙な表情で父さんは斯衛軍の名を口に出す。それに気になったオレは尋ねるが、

「いや、なんでもないよ。それより、はやく帰らないと母さんにどやされてしまうな。さ、二人とも行こう」

 首を振ってオレたちを連れて家に帰るのだった。



 これが、あの人との出会いとなるキッカケとなるとは、このときのオレには知る由もなかった。




[19953] 4話
Name: ディープ・アイ◆b169de4a ID:a7e4b7e3
Date: 2010/07/25 22:58
1986年8月18日

千葉県習志野基地演習場

 瓦礫に埋もれた街を二組四体の巨人たちが縦横無尽に舞う。その舞踏を披露する二組は正反対の戦い(リズム)を見せていた。
 細身の体に灰色のドレスを纏った巨人……鷲の名を冠するF-15Cは両腕に持った突撃砲を巧みに操り、苛烈な銃撃(ジャブ)を相手に与える。
 F-15Cのエレメントのその動きは、光線級に奪われて久しい大空を悠々と舞い飛び、獲物を狙うイーグルそのもの。

 それに対し、武骨な体に派手な山吹と白の狩衣を纏う巨人……82式瑞鶴は逃げ惑う小鳥のように小刻みに動き、瓦礫や腕に持った追加装甲(盾)で相棒や我が身を守っていた。その上、射撃も相手とは雲泥の差で、けん制にもなっていない散発的なものだった。唯一の救いは駆動系や跳躍ユニットに損傷を受けていないことか。


 日米合同公開軍事演習、その目玉である巨人たち……人型兵器・戦術機の異機種間戦闘訓練(DACT)は俺たち日本人にとって絶望的な光景を晒していた。
 確かに、F-15Cは第二世代型戦術機という、ワンランク上のポテンシャルを持つ機体だ。だがそれでも、日本側は斯衛軍なのだ。日本の現人神である皇帝陛下、その名代を務める政威大将軍殿下を守る……すなわち日本を守護する斯衛軍の機体が逃げ回っているのだ。これで斯衛軍が負けるようなことになれば、下手をすれば自害する人間まで出かねない。
 実際、斯衛軍専用機である82式瑞鶴を開発したエンジニアたちは、この状況に「こんなはずじゃ……」と頭を抱えているらしい。

 だがここ、特別観客席であり戦闘指示室を兼ねるCP室に詰める人間たちは、絶望とは正反対の表情をしていた。
 特に我が父であり、斯衛軍第6大隊大隊長を任されている獅子道空牙などは、まさしく無知な獲物を前にして、どう美味しく食べてやろうかと考える獅子の如きどう猛な表情をしていた。

 しかしそんなことよりも俺は、隣で一緒に模擬戦を観戦する子どもたちのことを気にしていた。
 一人は山吹色の着物に身を包んだ、幼いながらも凛々しい顔立ちの少女。名を篁唯依という。そう、あのマブラヴ・オルタネイティヴの外伝、トータル・イクリプスのヒロインである。まあ、彼女がいること自体は別におかしくない。何故なら今戦っている山吹の瑞鶴に彼女の父である篁悠一(たかむらゆういち)が搭乗しまているのだから。その上、白の瑞鶴には、その父の親友であり、俺の知る史実では『伝説の衛士』として名を残す巌谷栄二が搭乗しているのだ。彼女も俺と同じように、今後の教育も兼ねて父親らの勇姿を見に来ているのだ。
 だが、その隣の二人はあまりにもイレギュラーだった。そう、あまりにも……。
 ちらりと視線を隣に動かせば、そこには茶色に近い髪の少年と、朱に近い赤髪で頭頂部からは一房の癖毛……いわゆるアホ毛が伸びている少女。
 そう『彼ら』だ。あの白銀武と鑑純夏だ。その二人が今俺たちの隣でこの戦いを共に観戦しているのだ。気にしない方がおかしいだろ?
 え、何故いるかって? その理由はこの模擬戦が始まる一時間前に遡る。

 一時間前……。

 日米合同公開軍事演習とともに、その演習場に併設されている千葉習志野基地では、地域住民やその他来場者への慰労・親睦をかねた基地祭が行われ、多くの人々で賑わっていた。帝国軍基地の祭りとはいえ、今回は日米合同公開軍事演習がメイン。そのため帝国軍人のほかにも、日本に駐留するアメリカ軍人も参加し、帝国側は焼きそばやかき氷、アメリカ側は、日本ではまだ珍しいハンバーガーやホットドックの出店を出していた。しかも、今ではなかなか食べることの出来ない天然物を材料に使っているためか、売り上げはうなぎ登りどころか、鯉の滝登りレベルで伸びていた。
 そして静かながら、出店が並ぶ場所以上に盛り上がりを見せる区画があった。
 それは基地祭会場の外れにある、いくつものテント(運動会などで立てられるやつ)が並ぶ区画である。そこには大型のテレビがいくつも置かれ、何百ものパイプ椅子が並んでおり、多くの人々がまだかまだかといった様子でテレビ画面を見つめていた。画面にはこの基地から約3Kmはなれた廃墟を模した戦術機演習場を映し出しており、これから約一時間後に公開演習の目玉、斯衛軍瑞鶴VS米軍最新鋭機・F-15Cの模擬戦がその演習場で行われる。今や人類の守護神ともいえる戦術機同士の模擬戦だ。いやがおうにも盛り上がるというものだ。今テント内にいる人々の静かさは、まさしく嵐の前の静けさといったところか。

 それらを眺めながら、俺は父様と護衛の月詠少佐とともに、斯衛軍が間借りしている戦術機格納庫へと向かった。
 その格納庫には、それぞれ山吹と白にカラーリングされた武骨な巨人……斯衛軍専用戦術機『82式瑞鶴』がいまかいまかと出陣を待ち望んでいるように、俺には見えた。
 その足元で、瑞鶴と同じカラーリングの衛士強化装備を着込んだ二人の衛士が、何故か言い合いをしていた。

「おーい。悠一、栄二、どうした?」

 父様も気にしていたのか、言い合いをしていた衛士たちに声をかける。その声に、名を呼ばれた二人の衛士、周りで成り行きを見守っていた整備兵たちが振り返り、父様と月詠少佐に敬礼する。
 さっきまで言い合いをしていたとは思えない息のあった敬礼に、父様はやれやれ、といった感じで、月詠少佐はピシッと返礼する。

「獅子堂中佐、どうしてこちらに?」

 いかにも武人のような肩肘張った口調で、狼のような鋭い瞳をもつ山吹の衛士が父様に尋ねる。それに父様は軽くため息をつく。

「どうしても何もないだろう? お前たちの激励に来たというのに。だいたいなんだ悠一、その口調は。俺の前でそんな堅っ苦しい話し方はしなくていいといってるだろ」
「いえ、しかし……今は任務中ですし、他の者たちもいます」
「それが言い訳になるのかな? ここにいる整備兵たちは皆、瑞鶴開発からの仲だし、第一任務中といいながら、ずいぶん可愛らしいレディを連れ込んでいるようだが、篁悠一大尉?」

 山吹の衛士……篁悠一の言に、父様はニヤニヤと口をゆがめて反論材料をつぶしていく。確かに彼の足元に一人の少女が少し不安げな表情ですがりついていた。おそらく先ほどまでの父らの口論でストレスを受けたのだろう。

「こ、これは……」
「ふぅ、諦めろ篁大尉。空牙様にそんなことを説いたところで暖簾に腕押しだ。この方は締めるところではきちんと締めるが、緩めるところはとことん緩めるからな。それで、何を言い合っていたのだ、巌谷大尉?」

 ずいぶん実感のこもった苦笑いで月詠少佐は篁大尉にそう諭すと、もう一人の白を纏う衛士……巌谷栄二大尉に問う。

「いやぁ、なんというかですね……米軍(あちら)の衛士の術中に見事にはまった、と言いますか……」

 少佐の問いに巌を削ったような、男らしい武骨な顔をゆがめ苦笑する。

「奴らめ、何が『狩り』だ……我ら斯衛を嘗めおって」

 巌谷大尉の言葉に思い出したのか、篁大尉が拳をギュッと握り、おそらく米軍が借りている格納庫のある方を睨みつける。普段とは違う父の姿に少女……篁唯依の表情は強張り、瞳には涙がたまっていく。「大体の事情はよくわかった……。だがここは怒りを抑えろ、悠一。そんなに怖い顔をしていると、唯依ちゃんに嫌われちゃうぞ?」

 半分冗談めかした父様の言葉に、篁大尉は娘の様子にやっと気付き、すまなそうに彼女の頭をなでる。

「すまない、唯依。怖い思いをさせてしまって……」

 父の謝罪に少し表情を和らげる唯依。しかしそれでも笑顔とまではいかなかった。

「ふぅ……蒼牙、唯依ちゃんとハンガー内を見て回ってきなさい。ここにいても落ち着かないだろうし。お前も戦術機を見たいだろ? 俺は二人に話があるから」
「わかりました。それじゃ、行こうか唯依ちゃん?」
「……はい」

 俺は唯依の手を握り、格納庫に並ぶ二体の82式瑞鶴と、もともとこの習志野基地所属なのだろうF-4J撃震を見て回る。

「やっぱり、元が同じでも全然違う機体だよな。撃震と瑞鶴……」

 並び立つ撃震と瑞鶴を見上げ、俺は呟く。どちらも武骨な印象だが、撃震を重装歩兵だとすれば、瑞鶴は鎧武者といったところか。どちらもF-4ファントムを原型機とするが、撃震は長刀を使った格闘戦を可能とするための改良を。瑞鶴はそれを上回る格闘戦能力及び欧州戦線の情報を元に軽量化、稼働時間を犠牲にしながらも主機出力のアップ。その上独自の対光線級レーダーを装備し、整備性を無視した限界性能ぎりぎりのチューンをしている。
 はっきり言って、もはやF-4とは別の機体といってかまわない。だが……。

「米軍にとっては、あくまでもF-4の改修機……最新鋭機であるF-15Cの敵ではない、ってお父さんたちは言われたのかな。唯依ちゃん?」

 振り返り、いまだに沈んだ表情の唯依に尋ねる。俺の問いに彼女はうつむく様な感じで小さく頷く。

「……アメリカの軍人さんたち、父上やおじ様に『狩りを楽しむ』って言ってた。鶴じゃ鷲には勝てないって。……笑ってた……父上やみんなががんばって造った瑞鶴を……」

 呟くその声は震え、それでも込み上げて来る思いを押し込めようと、ギュッと山吹の着物を握る。しかし、ぬばたまの髪に隠れた瞳からは一筋の涙が流れ、頬を伝う。

「唯依ちゃん、瑞鶴の名の意味って知ってる?」

 俺はその涙が零れ落ちる前にぬぐい、唯依に微笑みかける。俺の問いに彼女は艶のある黒髪を横に揺らす。

「瑞は良いことが起こる前兆のこと。そして鶴は長寿を表す鳥。ほらよく言うでしょ『鶴は千年亀は万年』って」
「う、うん」
「つまり、この日本に長き幸せを……長き平和をもたらす鳥ってこと。決してただの鷲に負けるはずないよ」
「……本当? 本当に父上たちは勝てるの? でも父上とおじ様、けんかしてたよ。大丈夫なの?」

 俺の言葉に顔を上げるも、先ほどの二人の言い合いを思い出し、彼女の表情に不安の色が出る。

「大丈夫。そのために父様が来たんだから」

 父様がこのハンガーに足を運んだ理由は、俺に戦術機を見せたり二人への激励もあったが、最大の理由はこの模擬戦に勝つための策を二人に授けること。
 ついでに言えば、二人が意見を対立させることも予想していた。ここに来る途中、父様は二人を『喧嘩するほど仲がいいを地でいってる』と称していたし。
 今ごろは二人も冷静になって父様の策を聞いていることだろう。

「だから、絶対に二人は勝つよ」

 俺は自信たっぷりの表情で唯依に宣言する。

「うん、蒼牙くんの言うとおりだね!」

 俺の言葉を信じてくれたようで、唯依ははにかみ笑顔で頷くのだった。

「じゃあ、そろそろみんなのところに戻ろう――ッ!」
「どうしたの、蒼牙くん?」

 踵を返した俺が不意に立ち止まったことに、不審に思った唯依が尋ねる。俺は彼女に振り返ると人差し指を立て「しっ」と静かにするよう指示し、その手をとって撃震の足元に隠れる。現状を把握できない唯依は目を白黒させ、説明を求めるように俺を見る。

(……誰かいる)

 俺はほとんど呼吸のような声で、一言彼女に告げる。

「っ!?」

 俺の言葉に驚きの声を上げようとする唯依。それをどうにか口を手で塞ぐことで阻止する。苦しそうに身動ぎする彼女に再度、静かにと人差し指を口元で立てることで意思を伝え手を放す。
 唯依は俺の指示通りに静かになるも、どこか非難めいた視線でこちらを睨む。俺より1才上とはいえ、正直その睨み顔は、可愛らしく見えるのであまり怖くない。あの月詠従姉妹(シスターズ)の睨みになれたためだろうか? いや、今はそれどころではないか。

(……気付かなかった)

 唯依が反省の色がみえる声音で小さく呟く。幼いながらも彼女は武芸者。他人が気付けた気配に気付かなかったことを悔いているのだろう。

(気にすることないよ。ほとんどの人が気付けてない)

 慰めるように呟く。それに俺にはチート能力があるし、とは心の中でだけ呟いておく。正直俺が気付けたのもあの女神にもらった『直感スキル』のおかげだといっていい。月詠シスターズとの稽古のおかげで日々レベルの上がる直感スキル(基本的にチート能力はあくまでも才能であって、経験をつまないと100%の力がでないようだ)の応用により、他人よりも気配を読むことに長けている。そのおかげで気付くことが出来たのだ。
 目を細め、五感を集中。この気配は……子ども? おそらく俺たちとそうかわらない年頃だろう。

(あ、声が聞こえます)

 聴覚に集中していた唯依が気配がある方から声が聞こえることを伝えてくれた。

(ん……この声……)

 舌っ足らずなひそひそ声がこちらに漏れ聞こえた。

「――ちゃん、勝手に入ったらだめだよ。見つかっちゃったら怒られちゃうよっ」

 漏れ聞こえた声は、あまりにも意外すぎるものだった。本来なら聞くはずのない声。

(っ!? まさか!?)
(どうしたの?)

 意外すぎる展開に思わず心の内を口に出していたらしく、怪訝な口調で唯依が尋ねてきた。だが今の俺に答える余裕はなかった。撃震の足元から侵入者たちを覗く。予想通りそこには、朱に近い赤髪、頭頂部から一房ぴょこぴょこと動く癖毛、いわゆるアホ毛の生えた少女の姿が見える。そして横には……。

「静かにしろよ、すみか。みつかっちゃうだろ?」

 少女に注意する茶色に近い黒髪の少年の姿がそこにはあった。

(なんで……ここに?)

 俺は呆然と二人を見つめる。
 なんで、どうして……。そんな言葉が脳裏を駆け巡る。
『この世界』にいることは当然理解できる。『ここ』は彼らの世界なのだから。むしろイレギュラーは『俺』。そしてこの基地にいることも、なんとなくだが理解できる。この基地祭は日米合同公開軍事演習に併せて行われている。そのため全国ニュースでも告知されている。
『物語』を見る限り『彼』はいたって普通の少年で、子どものころはヒーローものに憧れを持っていた。だから家から近い千葉で現代のヒーロー・帝国軍が誇る兵器、戦術機が見られる機会を逃さず、親にせがんで身に来たのだろう。そして少女は当然のごとくそれについてきた……。
 だが、なぜハンガー(ここ)にいる? 今現在の『彼』はただの子ども。基地祭で気がゆるんでいるとはいえ、警備が厳重なハンガーに忍び込めたのだ!?
 そこまで考えたとき、俺の耳にそれ以上にない衝撃的な言葉が飛び込んで来る。

「これが瑞鶴か……この機体も格好いいけど、やっぱり『武御雷』の方が――」
「武御雷だってっ!?」

 本来であれば、この時代では俺以外に知るはずのない名を耳にし、思わず大声を上げ飛び出した。

「えっ!?」

 俺の声に驚き振り返る少年と少女。その顔はまさしく俺の知る人物。
 ……白銀武と鑑純夏であった。


 その後、俺の大声に駆け付けた月詠少佐により、二人の侵入が発覚。子どもとはいえ関係者以外立ち入り禁止のハンガーに侵入したことに、少佐は目じりをつり上げ説教の口火を切ろうとするも、父様の制止によって不鉢に終わった。
 そして父様が二人の名前とハンガーに入った理由を聞いたところ『将来衛士になりたく、その鎧たる戦術機を見たい』だったので、保護者に連絡を入れることを条件に、父様の独断によりこのメンバーでの観戦と相成ったのだった。
 ちなみに保護者にその旨を連絡(スピーカーでの放送)する際、何故か父様は『白銀』と自身の家名である『獅子堂』を強調させていた。


(……にしても『武御雷』か……)

 一時間前の邂逅を思い出し、俺は心の中でつぶやく。
 武御雷……日本神話にて神殺しの神、炎神・焔之迦具土神(ほのかぐづちのかみ)の血から生まれた雷神の名である。しかし俺にとってはまた別の意味を持つ名であった。
 斯衛軍専用戦術機・零式武御雷……西暦2000年に斯衛軍が導入する近接格闘戦最強の第三世代型戦術機。この時代に存在し得ない戦術機の名。それを知るのは未来を知る者のみ……。

(……武は、未来を知っている……?)

 彼は最低でも一回はループ(この場合タイムトラベルも一緒に)している可能性が高い。

(一度、探りを入れてみるか?)

 とりあえずの方針を決め、俺は思考を模擬戦へと戻す。CP室のテレビ画面ではいまだにイーグルと瑞鶴がおいかけっこをしていた。そこでちらりと隣を見ると唯依が拳をぎゅっと硬く握り締め、不安げな瞳で画面を見つめていた。

「大丈夫だよ、唯依ちゃん。お父さんたちは絶対に勝つよ」
「でも……」

 硬く握る拳にそっと手を置き、俺は言う。が見た目不利な状況に唯依は信じることができないようだ。そこでさらに言葉をかさねようとしたそのとき、

「蒼牙くんの言うとおりだよ。斯衛は負けない」

 画面を真っ直ぐ見つめ、白銀武が確信に満ちた声音でそう言い切った。

「えっ……」
「ほんとうなの、たけるちゃん? ずいかくさんたち、イッパイうたれてるよ?」
「でも弾は全部盾や障害物に当たってる。それにあの動き、瑞鶴の動きじゃない。そうでしょ、おじさん」

 アホ毛を?の形に純夏に武はそう答え、余裕の表情を浮かべる父様に問いかける。彼の問いに父様はニヤリと笑い首肯する。

「よくわかったな、武くん。そうあれは瑞鶴の動きじゃない」

 そう父様の言うとおり。模擬戦場を駆ける瑞鶴の動きは、本来のものではない。大地を震わせ、相手の攻撃に耐え忍ぶ姿。それは原型となった撃震そのもの。
 彼の機体の本質を知る者達は嘆いているはずだ。瑞鶴はあんなに鈍く無いと。

「こちらバード0。バード1、バード2、敵にバレる前に子どもたちにバレてしまったぞ?」
『こちらバード2、それは申し訳ない。彼らを喜ばそうとがんばって演技してたんだが』
『バード1、面目ない。しかし、子どもが気付くような猿芝居に気付かない敵もどうかと思うが』
「バード1、2。こっちには聡い子が二人もいるからな。……よし戦闘開始から6分30秒が過ぎた。油断という名の安酒に酔ったルーキーどもに水をぶっかけてやれ! ミッションスタート!!」
『『了解!!』』

 腕時計をちらりと見、父様はバード1と2――1が篁大尉で2が巌谷大尉――にそう指示を出す。
 その瞬間、先ほどまで追い詰められていた二機の瑞鶴の動きが変わった。いや、変わったのではない。本気を出したのだ。
 山吹と白の瑞鶴は主機出力をMaxに上昇させ、追加装甲をパージ。鶴が舞い飛ぶが如く跳躍ユニットを噴かせ一気にイーグルへと肉薄。
 このいきなりの変化にイーグルドライバーたちは混乱。どうにか突撃砲を瑞鶴に向けるも、先ほどまでとはまったく違う洗練された機動に、パイロットの目もFCSもついていけず弾丸は空を切るだけ。
 雷鳴の如き速さで己の間合いに飛び込んだ二機は、背中から74式近接戦闘長刀を抜刀。山吹はそのまま振り降ろし唐竹割り、白は胴を薙ぎ斬る。
 一瞬の静寂の後、模擬戦終了がオープンチャンネルで告げれ、模擬戦を観ていた人々が歓声を上げた。

「7分40秒か……『死の8分』を超えられなかったなイーグルドライバー……こちらバード0、バード1、バード2、ミッションコンプリート。よくやった。ハンガーへ戻ってよし」
『バード1、了解』
『バード2、了解』
「とまあ、こういうことだ」

 勝利を勝ち取った二人に帰還指示を出した父様は、後ろにいた俺たちに振り返りニッと、どこか子どもっぽい笑みでそう言った。

「……すごい、すごいすごいすごいよっ!!」

 一瞬で着いた勝負にぽかんとしていた純夏は、父様の言葉に我に返りすごいを連発して驚きを表現する。

「これが君のお父さんたちと瑞鶴の本当の力さ、唯依ちゃん」
「すごい……でもどうして? さっきまでは追い詰められていたのに……」

 父親の勝利に喜ぶも、唯依は前半の劣勢が印象深いために困惑する。

「簡単さ、あれはワザとそうしていた。相手に瑞鶴があくまでもF-4の改修機でしかないと印象付けるための。そうでしょ、父様?」

 唯依にそう説明して、俺は父様に問いかける。それに父様は笑顔で首肯した。

「ああ、そうやって油断させ衛士の目とFCS(火器管制システム)を欺いたのさ。そして油断しきったところで一気に勝負をつける。まあ、油断大敵、能ある鷹は爪を隠す、さ。あ、瑞鶴は鷹じゃなくて鶴か」

 そう冗談を言って父様は笑うのだった。


 ハンガーに向かうと、そこにはイーグルを操縦していた米軍パイロットが来ていて、模擬戦前に挑発したことを謝罪していた。篁大尉もそれに応じ相手の射撃能力を称え、握手。最後に互いの所持品を交換し、別れるのだった。
 その後、父様たち三人は簡単な反省会をすると、俺たちは唯依を含めた篁大尉たち三人と別れ、武と純夏を連れて基地の応接室に向かう。そこには二人の保護者がいるという。

「こちらです、空牙様。それと……」

 応接室の前で待っていた月詠少佐は神妙な面持ちで父様に言うと、何かを耳打ちする。

「やはりか……わかった。それじゃ、二人とも中に入ろうか。それに蒼牙、お前も」
「「はい」」
「あ、はい」

 どこか気の張った父様の表情に軽い疑問を覚えつつ俺たちは応接室へと入った。
 中には、二人の男女が応接室のソファに座っていたが、武と純夏の姿を見て立ち上がる。

「武、純夏ちゃん」
「こらっ、武! 私たちから離れないようにってあれだけ言っておいたのに、純夏ちゃん連れて勝手に抜け出して!! お母さんどれだけ心配したと思ってるの!!」
「痛っ!? ご、ごめん母さん」

 男性――本編の武より幾分か歳を重ねた感じの容姿――は二人の元気な姿にほっと息をつき、女性……武の母親は目じりをつり上げ武に問答無用で拳骨をくらわせる。彼女の言い分が正しいため素直に謝る武。しかし納得できない武の母はさらなる説教のため口を開こうとするが、

「ほーお、自分の息子とはいえ、よくそんな口が利けたもんだな。つばさ?」

 父様の皮肉たっぷりのの言葉に止められる。って、つばさ? 武の母親の名前? というか、どうして父様が知ってるの?

「親戚連中にちょっと反対されたぐらいで、味方になろうとがんばっていた実の兄に何も言わずに男と駆け落ちして……あげく子どもが生まれたにもかかわらず、何の連絡もしなかったお前がよくいえたもんだ」
「……兄様」

 父様のしらじらしいまでの棒読み台詞に武の母親……白銀つばさ、旧姓獅子堂つばさは何年かぶりにその呼び方を使うのだった。

 これが俺、獅子堂蒼牙と白銀武、鑑純夏との出会いであった。


 ――っていうか、どういうこと!? 誰か説明してくれーー!?!?





[19953] 4.5話(前編)
Name: ディープ・アイ◆b169de4a ID:a7e4b7e3
Date: 2010/07/30 23:32
 あの衝撃の展開から混乱した思考が回復したとき、何故か俺は白銀ファミリーと食卓を囲んでいた。それもあの『EX』、『AF』で描かれた白銀家ダイニングで。

 ……一体何がどうなってんだ?

 訳がわからずも、俺は手に持ったスプーンでカレーを食べる。向かい側の武もどこか緊張した面持ちでカレーを食していた。ときどき視線を横に座る母と、俺の隣でがつがつとカレーを食らう父様の間を行ったり来たりしていた。
 父様は数分でカレーを食い終わると、口に米粒をつけたまま皿を突き出す。

「つばさ、おかわり」

 目の前に突き出された皿を一瞥し、武の母にして我が父の実の妹――つまり俺の叔母である白銀つばさはため息をつく。その斜め横……上座で武の父、白銀影行が苦笑していた。

「まったく……五摂家に次ぐ力を持つ獅子堂家当主が、一般家庭の食卓に勝手に入り込んでなにエンゲル係数増大させてんのよ」

 ……まったくそのとおり。父様、それで5回目のおかわりですよ?

「ふんっ。後で天然物の食材を送ってやるよ。……しかし、お前が作ったメシをおかわりすることになるとは。昔では考えられんな」
「ええ。同棲を始めた時の彼女が作った料理の味といったら、それこそゲロ――っ!?」

 父様の言葉に、影行さんは神妙な顔で頷き同棲時代の彼女の料理について語ろうとするが――。

 ヒュッン! ……ガッー……ンッ!!

 彼の顔のすぐ側を銀色の物体が閃光の如き速さで通り抜け、後ろの壁に突き刺さる。よく見ると、それは一本のフォークであった。
 一般家庭ではありえない現象に驚き、フォークが飛んできた方に視線を送るとそこには、実にイイ笑顔のつばささんがいた。父様のおかわりをつぐのにおたまを持つはずの右手には、何故かフォークが握られていた……。

「あなた、子どもたちの前で下品な言葉を使っちゃだめですよ?」
「は、はい……」

 妻の氷の微笑に、影行さんはダラダラと冷や汗を流し頷く。

(あのさ……いつもあんな感じなの……?)
(うん。でもいつもよりか軽いよ。いつもだったらあのフォーク、刺さってるから)
(うそっ……)
(本当だよ。ただなんでか知らないんだけど、すぐ傷が治るんだよな……)

 白銀夫妻のこのありえないやり取りに、思わずひそひそ声で武に尋ねていると

「武、蒼牙くん。お話してないで、はやくご飯を食べなさい」
「「はっ、はい」」

 あのスバラシイ笑顔で注意され、俺たち二人は震える声で頷くと黙ってカレーを食べるのだった。


 その後、無事食事をすませた俺と武は何故か、二人でお風呂に入ることになった。えっ、俺らみたいな幼児は大人と一緒に入らないかって? 普通はそうなんだけどな。まあ、俺は今年で5才になるし大人の記憶があるのだが、武はまだ2才……。つばささん(さすがにあの光景を見て『おばさん』とは呼べない)の話では自力で歩けるようになってから一人で入るようになったそうだ。最初は心配だったそうかだが、危なげなくお風呂に入っていたから、今ではたまにしか一緒に入っていないらしい。

(冥夜や悠陽の成長速度と比較しても明らかに早い……ということはやはり――)
「なあ、蒼牙くん。いまさらなんだけど、オレたちの関係って従兄弟ってことでいいんだよね?」

 ずっと伸ばしている長髪を手入れしながら、武の『状態』について考えていると、あの☆が子どもを演じるときに出すような高めの声でそう尋ねれられる。

「そうだよ。父様と武くんのお母さんは兄妹。旧姓は獅子堂つばさ。獅子堂家の長女」
「へー。獅子堂家って武家なんだよね。おじさん、赤の軍服着てたし。でもなんで隠してたんだろ? それに駆け落ちって……」
「つばささんから何も聞いてないの?」

 ってきり千葉から横浜に帰ってくるまでに聞いていたと思ったが……。

「うん、何も」
「そっか。じゃあ私が説明してあげる。といっても私も父様に聞いただけなんだけど」

 そう言って俺は髪についたシャンプーの泡を落とし、浴槽に浸かっている武と向き合い、自分たちの親の関係を説明する。
 まず、獅子堂家の家族構成について。
 獅子堂空牙と獅子堂つばさの両親は、実はすでに死亡している。母――俺たちにとって祖母――はつばささんを産んですぐに。そして獅子堂家前当主である獅子堂狼牙(ろうが)は当時大学進学が決まったばかりの父様に家督を譲って、その半年後に。

「父様はあとで知ったらしいけど、お祖父さまはガンだったって。それも末期の」
「そうだったんだ……」
「それからが大変だったらしいよ。家督を継いだとはいっても父様はまだ大学生。つばささんも中学三年生。そんな二人だけじゃ獅子堂家を纏めあげることなんて出来ない」

 伊達に源平争乱から続く武家ではない。公家や各時代の有力武家――源氏は当然、北条・足利・織田、現五摂家となった四大大名に将軍家――それどころか、合間合間で皇族の血を取り込んでいるのだ。単純な格では将軍と同格。

「えっ……マジ?」
「うん、マジ」

 おっ、出たぞ『白銀語』が。これはいい物証になるな。

「話を続けるね。そんな家だから、当然分家や親戚は多大な数にのぼる。それも公家や武家の流れを汲む家が」

 そんな一族を弱冠19歳の当主が纏めあげるなど、不可能といっていい。前世でもそうだが、日本の政の中心は『伏魔殿』と喩えられるほど。
 そんな魑魅魍魎の如き老獪な分家当主たちから、何度も余計な干渉があったそうだ。
 そんなときだ。当時、帝国大学工学部の一年――つまり父様の後輩になる――影行さんと高校生のつばささんが出逢ったのは。

「二人は出逢ってすぐに恋仲になったらしいよ」
「うわ……父さん」

 話を聞きうなだれる武。まあ、気持ちはわかる。

「しかし二人の関係に、親戚たちは猛反発」

 影行さんは一般人。名家である獅子堂家令嬢が嫁ぐべきではない、と大義名分を掲げて反対。本音は、あわよくば獅子堂直系の血を手に入れて、利益を手に入れるつもりだったらしい。

「父様は認めてたけど、親戚がそんな状態だったから。それで当時許嫁だった母様の家――九條家の力を借りて時間をかけて分家・親戚連中を黙らせたんだけど……」
「……母さん、気短いもんな」
「そう。我慢出来なくて、影行さんと駆け落ち。行方をくらましたというわけ」
「そらゃ、おじさんも怒るよ。勝手に駆け落ちして行方不明になって……心配してたらいつの間にか子どもがいるんだもんな」
「いや。父様、つばささんの行方つかんでたよ」
「えっ!?」
「伊達に獅子堂家当主じゃないよ。独自の情報網を持ってるし、何より二人は婚姻届や君の出生届を役所に提出してる。ちょっと調べればすぐわかるって。父様は今までなんにも連絡をよこさなかったことに怒ってるだけさ」
「……それじゃ駆け落ちした意味ないじゃん」

 両親の間抜けぶりに武はため息を漏らす。

「意味はあったさ。君という既成事実ができたんだから。君が生まれたことを知った父様は城内省のデータベースにすぐさま登録、白銀家を獅子堂家の外戚として認めた。これで最後まで抵抗していた連中も黙ったそうだよ」

 城内省は政府の戸籍簿とは別に皇族・公家・士族の戸籍情報を管理している。俺の話を聞き、武は思い出したように、

「あのとき月詠中尉が言ってた城内省のデータってこのことだったのか……」

 独り言を呟く。本人は心の中で呟いているんだろうが……。

(ビンゴ。彼は『シロガネタケル』か、その因果情報を受け取っている……!)

 俺は確信し、何気ない声音でこう聞いた。

「そういえば武くん、因果量子論って知ってる?」
「えっ……」

 俺の言葉に武の表情が凍り付く。それに俺は畳み掛ける。

「知ってるはずだよね。だって今君に起こってることだもん。これで何回目なのかな?」

 俺は少女にも間違われるような、中性的な顔でニヤリとキツネが人を化かすときの様な笑みを浮かべ問いかける。

「オルタネイティヴ5が発動してしまった? それとも……あ号標的を倒した?」
「な、なんでそれを……」

 お湯に浸かっているはずなのに、武の声は震えていた。

「なんでって? 簡単さ。私は……いや俺は知っているからさ『シロガネタケル』が経験した10月22日から始まるあの『物語』を」






後書きのようなもの


4.5話なのに前後編にしてしまった……。
後編早めに更新出来るようがんばりますm(_ _)m



[19953] 4.5話(後編)
Name: ディープ・アイ◆b169de4a ID:a7e4b7e3
Date: 2010/07/31 21:51
 風呂から上がった俺たち二人は寝間着に着替えると、武のあの二階部屋へと向かった。父様の話では今日はここに泊まるという。ちなみにそれを聞いたつばささんの「どこで寝るつもりよ?」というあきれ気味の問いに、父様は笑って「寝袋を持ってきたからどこでも寝られる」と答えるのだった。
 それで俺は子ども同士ということで、すでに一人で二階の部屋を使っている武と一緒に寝るようにつばささんが手配してくれた、というわけだ。

「純夏ちゃん、もう寝てるかな?」

 窓から真っ暗な隣の部屋を覗き、俺はあえて楽しそうに呟く。

「あの部屋は、純夏が小学校に上がってから使うようになる。今はまだおばさんと一緒に寝てるよ」

 風呂場での出来事で開き直ったのか、武が不貞腐れた声音で答える。ただその中にはありありとした警戒心を含んでいた。

「そんなに警戒しなくていいよ。俺は別に君へ危害をくわえるつもりはないから」
「…………」

 そう簡単には信用してもらえないか。まあ、それぐらい警戒心が強い方がこちらも信用出来るからな。

「……わかった。それじゃ、誠意をみせるとしよう。気にならないか? 『君』が去った後の『あの世界』について。たとえば……戦友である涼宮茜、宗像美冴、風間祷子についてとか?」
「えっ……」

 三人の名前に武の表情が変わる。その期待と不安が綯い交ぜになったような顔色に、俺は微笑んで

「安心して。三人ともきちんと生きてるから。それどころか三人とも衛士として活躍してる。涼宮茜、風間祷子は中尉、宗像美冴は大尉として富士教導団ウルド、スクルド中隊に所属している。そして彼女らは2003年4月、甲20号目標・鉄源ハイヴ攻略作戦に参加。この作戦により人類側は鉄源ハイヴを陥落させた」
「なっ……ハイヴを陥落……?」
「そう、陥落。作戦は成功したんだ。それも君が考案したXM3と、君たち元207B分隊がオリジナルハイヴを攻略し、鑑純夏が命を賭して手に入れたハイヴマップ……通称『ヴァルキリー・データ』のおかげでね」
「……本当なのか? 本当に……?」
「ああ。本当さ」

 ぼう然とした声で尋ねる武に俺はそう頷く。その言葉を理解した彼は

「……かった……よかった……あいつらの死は、無駄じゃなかった。あいつの死は……無駄じゃなかったんだ……よかった……よかったよっ……!」

 かみ締めるように呟き、涙するのだった。


「さて、こちらは誠意をみせた。だから君も俺を信用して話してほしい。君は今、どういう『状態』なんだ?」

 ひとしきり涙を流して落ち着いたところで、俺は武に問いかけた。武は涙を拭い、俺をまっすぐ見つめ話し始める。

「……ループじゃない。受け取ったんだ『オレタチ』から……。あの二つの体験の記憶を」
「つまり君は、因果情報を受け取ったこの世界の白銀武なんだね。そしてその情報はオルタネイティヴ5が発動した世界と、オルタネイティヴ4が成功し桜花作戦であ号標的……上位存在を倒して因果導体から白銀武の情報を……。やっぱり思ったとおりだ」

 予想の一つが当たった事に俺は口元をほころばせる。それに武が頭に疑問符を浮かべる。

「でもどうして、俺が未来の記憶を持ってるって気付いたんだ?」
「どうしてって……今日の出来事を思い出せばすぐにわかるよ。君は普通では絶対に知りえない情報をあの格納庫で口走ってるんだから」

 この疑問に俺はあきれた声音で答える。もしかして気付いていないのか?

「絶対に知りえない……? うーん……あっ。もしかして『武御雷』?」
「そう。君は瑞鶴の前でその名を口にした。まだこの世に存在しない斯衛軍専用代三世代型戦術機『武御雷』の名を。それでピンときたのさ。君があの『シロガネタケル』ではないかとね。で、結果は概ね予想通り」
「それで……。でもどうして蒼牙くんは、オレのループや因果導体のことを?」

 武は納得するも、どうしてそのことを知ってるのか、という根本がわからず、俺に問う。

「蒼牙でいいよ。お風呂場でも言ったとおり、俺は知ってるからさ。俺はどうやら様々な世界、人物の因果情報を受け取る資質を持っているらしくてね。君のことも物語を追うように追体験したのさ」

 別にうそは言っていない。実際俺は白銀武を主人公とした『物語』をゲームという形で体験したのだから。

「その人間、世界の印象に残る情報が入ってくるみたいでね。だから全てを知っているわけじゃない。そして俺にはもう一つ能力がある。情報を受け取ったある世界ではその能力者のことを『ウィスパード』と呼んでいた」
「ウィスパード……?」
「ささやき……本来なら知り得ない知識を取得し、それを理解する能力。この力のおかげで俺は、君の先生であった香月夕呼氏と同等かそれ以上の天才というわけ」
「……マジ?」
「ああ、大マジ」

 ポカンと口をあけて聞き返す武に、俺は父様譲りのニヤリとした笑みで頷く。

「さて、俺はあの未来に正直納得できていない。家の関係もあって、悠陽、冥夜とも親交があってね。妹のような存在である彼女たちが悲しむ姿……そしてあの死を認めるつもりはない」

 その言葉にビクリと肩を震わす武。おそらく彼の脳裏にはあの時の光景が浮かんでいるのだろう。

「別に君を責めてるわけじゃない。あの時はああするしかなかった。だけどそれはあくまでも『あの時』なんだ」
「えっ……?」
「俺たちは互いに未来を知っている。でもそれは変えられないものじゃない。君はどうする? このまま、運命を受け入れるか?」
「オレは……オレタチはおもい上がってた。未来を知っていれば世界を救えると……でも一人で出来ることなんてたかが知れてた。それでも……!!」

 俺の空色の瞳をまっすぐ見据え、彼はあの言葉を紡ぐ。

「『死力を尽くして任務にあたれ! 生あるかぎり最善を尽くせ! 決して犬死にするな!』――どんな世界でもオレは、オレタチはA-01伊隅ヴァルキリーズの隊員だ! 今度こそ守る! 先達の願いを。あいつらの想いを。――純夏を!」

 その宣誓に俺は大きく頷き、右手を武に差し出す。

「ああ、守ろう。俺たちの大切なものは、あんなデザインのくそ悪い作業機械どもにくれてやるほど安っぽいものじゃない。……なっ、相棒?」
「……ああっ!」

 武は大きく頷き、俺の手を強く握るのだった。
 ここに、世界の命運を変える可能性を持った最強のエレメントが誕生した。

 翌日。俺と父様は周辺で護衛に当たってくれていた月詠少佐ら警護部隊と合流、白銀宅を辞し帝都への帰路についた。
 白銀家を出る際、父様が何かのメモを武に渡していた。気になって聞いてみたが、父様は「秘密だ」といって教えてくれなかった。まあ、父様も武のことを気に入っていたから彼の力になるものだろうと思い、それ以上は聞かなかった。

 そしてその帰りの車の中で俺は父様にこう宣言した。

「動きます。父様、手を貸していただけますか?」

 父様の答えは

「応よ!」

 という、力強い声であった。




[19953] 5話(前編)
Name: ディープ・アイ◆b169de4a ID:a7e4b7e3
Date: 2010/08/02 14:49
1986年8月31日

帝都近郊・斯衛軍専用演習場

 舞うは漆黒、煌めく閃光。
 市街戦用の模擬戦場を六機の瑞鶴と一機の撃震が駆け抜け、剣戟を交わす。その瞬間、一機、白の瑞鶴が撃墜判定を受け機能を停止する。
 これに模擬戦を見守る人々が驚愕と困惑の声をあげる。

 それも当然。先日あの最強の戦術機と謳われたF-15Cを撃破した斯衛軍専用戦術機がその原型機である撃震にあっさりと負けたのだ。それも近接戦で。たとえ撃震の衛士が第6大隊大隊長・獅子堂空牙中佐であっても。だいいち今墜ちたのは第7大隊のエース、沖田宗一中尉。その操縦技能、近接格闘戦能力は決して低くはない。
 なによりギャラリーを困惑の渦に巻き込んだのは、撃震の動きであった。

 沖田中尉の駆る瑞鶴と撃震が近接戦に移行したとき、撃震の動きが変わったのだ。突撃してきた撃震が背部武装担架から74式近接戦闘長刀を抜刀、上段からそのまま下へと振り降ろした。これに白の瑞鶴は左腕部に装備した追加装甲で防御しようと掲げた。その瞬間異変がおきた。
 なんと撃震は振り降ろした長刀を直前で止め、右足を斜め前に出すと同時に瑞鶴の胴を斬り裂いたのだ。

 戦術機は本来、一度入力したコマンドはそれが終了するまで衛士の操作を受け付けない。それなのに一度振り降ろした長刀を途中で止め、即座に相手に対応した。その臨機応変さは異常であった。

『フレイム1より各機、あれをただの撃震と思うな! 武士としてはいささか心苦しいが、数で押しつぶせ!!』
『『『『了解!』』』』

 撃震の異常さに即座に気付いた赤の瑞鶴を駆るフレイム1――紅蓮醍三郎大佐が指示を出す。これに山吹と白にカラーリングされた強襲前衛装備の瑞鶴二機が先行。その両翼を打撃支援装備の白い瑞鶴二機が突撃してくる撃震の側面に展開。

『こちらフレイム2。クロスファイヤで仕留める! 各機、FCS同調……ファイヤ!!』

 フレイム2――篁悠一の号令に、瑞鶴の持つ突撃砲が一斉に36mm模擬弾頭をはき出す。後退したころでダメージは免れないこの十字砲火に、しかし撃震は

『手応がないっ!? ――上だ!!』
『なっ!?』

 フレイム3――巌谷栄二が逃げられないはずの射撃に手応がないことにいぶかしみ、すぐさま索敵。すると瑞鶴の頭部カメラが真上に飛び上がって回避する撃震の姿を捉える。その姿に驚きの声を上げたのはフレイム5、神代鈴音少尉。
 彼女が驚くのも無理はない。空という場所は戦術機……いや対BETA戦を行う兵器全てにとって鬼門、地獄の入口である。光線級が奪った空へと回避する。対戦術機戦とはいえ、あまりに常識はずれの行動だった。

『中佐!? 我々を嘗めているのですかっ!!』

 フレイム6、巴雪華少尉がオープンチャンネルで叫び、空中にいる撃震に突撃砲の銃口を向け発砲する。が

『別に嘗めちゃいねぇさ。だが……』

 普通であれば回避不能のその攻撃を、撃震は左右の跳躍ユニットを別々に向け一瞬点火。同時に両腕部を動かし、なんとバレルロールで36mmを回避。

『うそっ!?』

 確実に当たると思われた自身の攻撃が、アクロバティックな動きで回避されたことに驚き、巴少尉は一瞬頭が真っ白になる。

『こいつのアピールにはこれぐらいしないとなっ!!』

 そこを見逃す空牙ではない。水平噴射で巴機の頭上を飛び越えると抜刀と同時に急降下、後ろに着地する。その際、跳躍ユニットで逆噴射を行い着地の衝撃を逃がす。

『背中ががら空きだっ!!』
『きゃっ!?』

 そして振り向きざまに、巴機の背中へ長刀を十字に走らせ撃墜。それどころか軽く体当たりをして瑞鶴を前――他三機の射線軸上に出して盾にすると、すぐさま後退。ビルの陰へと隠れる。

『ちっ、やってくれる! フレイム3、近接格闘戦用意! フレイム5は援護を!!』
『フレイム3了解!』
『フレイム5了解!』

 数の利を活かせず各個撃破される現状に舌打ちしながらも、そう指示を出すと篁大尉は突撃砲を破棄して背中の長刀を抜刀。巌谷大尉駆る瑞鶴とともに撃震の隠れたビル群ふと突入。その後方を突撃砲を構えた神代機が追従する。
 突入したビル群の間で、撃震は長刀を正眼に構えていた。

『来いっ!』
『行くぞ、栄二!』
『応っ!』

 空牙の挑発に、篁大尉は相棒へ声を上げ乗機に八双の構えをとらせると、撃震へと突撃。エレメントを組む巌谷大尉はその後ろを走る。
 このビル群の間は戦術機が二機並ぶほどの幅はない。そして後ろは20mもないところで行き止まり。つまり

(刀で受けるか――)
(――上に跳ぶ!)

 二人はそう読み、時間差攻撃を仕掛けることを考えた。
 篁大尉の刀を受け止めるなら、巌谷大尉が飛び越えて後ろに回り込めばいい。剣技において二人は互角といっていい。背部武装担架にマウントした突撃砲を使う暇はないはずだ。
 空に跳ぶならば、空中で斬り伏せればいい。どっちを選んでも撃震に勝ち目はない。
 だが……。

『いい手だ。だがお二人さん……こういう戦法もあるんだぜっ!』

 空牙は吼えると、右足を踏み出し、長刀を右肩部装甲で担いで篁大尉の袈裟斬りを受け止め、同時に空いた左手で武装担架にマウントしていた突撃砲をとり、篁機の胸部に三点バースト。

『悠一っ!! くっ!?』

 そして飛び出していた巌谷機へ斉射。瞬く間に斯衛軍屈指のエレメントを墜とす。

『大尉っ!! なっ!?』
『オラッ!!』

 後ろで驚く神代機に撃震は山吹の瑞鶴を盾に突撃。そのまま瑞鶴同士をぶつけると、跳躍ユニットを噴かして左右のビルを足場に三点跳び、突撃砲の残弾全てを瑞鶴にたたき込む。

『……あとは、あなただけだ。フレイム1』

 撃震の着地した大通りには仁王立ちした赤の瑞鶴がいた。

『よもや……撃震一体に五体もの瑞鶴がやられるとはな……空牙殿、お主どのようなカラクリを使ってあのような動きを?』
『あとでお教えしますよ……今はただ』

 突撃砲を破棄し、撃震は左足を前に右肩で長刀を担ぐような構えをとる。

『ふっ……そうであるな』

 赤の瑞鶴も右足を前にし、いつでも背中に装備した長刀を抜刀できるように構えをとる。

『無現鬼道流、紅蓮醍三郎――』
『四聖流、獅子堂空牙――』
『いざ――』
『尋常に――』
『『勝負っ!!』』

 烈破の咆哮とともに、黒と赤の巨人が必殺の剣を交わす――っ!!



「あー疲れた……」

 半分生気の抜けたような声を漏らし、父様はハンガーの地べたで大の字に寝転がる。

「お疲れ様です、空牙様」

 その姿に苦微笑を浮かべ、月詠少佐が父様にタオルを渡す。

「シミュレーターでは何度か体験しましたが……やはり凄まじいですね。たった一体の撃震で斯衛の誇る瑞鶴……それもいずれも手練の操る六機を撃破するとは」
「さすがにこの結果は偶然だ。最初から動きを知られてたら、ここまでは行かなかったさ。それに撃震(こいつ)には弱点がある。長期戦に持ち込まれたら、負けてたさ……」
「ほう弱点とな? ぜひ教えてほしいものだな。それにあの戦術機の常識を外れた動きについても」

 振り向くとそこには、某スーパーロボット風の特徴的な髪型をした偉丈夫――紅蓮大佐がいた。その後ろには、今回特別チームを組んだ面々も。
 その六人全員の表情は一致していた『あの動きは一体なんだ?』と。

「それについては……息子に聞いてください、大佐」
「何っ?」

 父様の答えに大佐は訝しげな表情で俺を見る。

「どういうことだ、空牙? なんで蒼牙くんに――」
「あの動きを可能にしたシステムを開発したのが蒼牙だからさ。俺はそれを使って戦ったにすぎん」
「なっ……」

 疑問の声を上げる巌谷大尉に、父様は疲れきった声で答え、周囲を唖然とさせる。

「それに今、俺まともに動けないんでな。月詠、すまないが岬を呼んできてくれないか?」
「了解しました。しかし……そのお姿を岬様が見られましたら怒りますね。また無茶をして、と」
「いつものことだから慣れてるよ」

 そう言葉を交わし、月詠少佐は母様を呼びにハンガーから離れる。母様も先ほどの模擬戦を観ていたはずだから、今ごろ医務室で準備をしているはずだ。
 あ、言い忘れたけど、母様は帝都大学医学部及び城内省の医者なのだ。今日は父様が無茶をするとふんで一緒についてきたのだ。

「それじゃ、行きましょうか。皆さん」

 父様は大丈夫だろうと考え、俺は六人に声をかけると撃震のところへ足を向ける。

「い、行くとはどちらへ?」

 一連の状況に思考が追いついていない沖田中尉が俺の背中にそう声をかける。俺は振り返り、ニヤリと笑ってこう答えた。

「撃震のところですよ。知りたいんでしょ? あなたたちを打ち倒した撃震の秘密を?」



後書き的な何か


ちょっといきなりすぎる展開かな?(戦闘描写をいい加減書きたかったので……すみませんm(_ _)m)

詳しい説明は後半でします。

あと今月からリアルが忙しくなります。
ですので短い話で更新回数を増やすか、長い話を時間を書けて投稿するかになると思います。


どちらか希望がありましたら感想板へお願いしますm(_ _)m



[19953] 5話(後編)
Name: ディープ・アイ◆b169de4a ID:a7e4b7e3
Date: 2010/08/05 00:44

 白銀武との出会いから、俺は本格的に動き出した。
 まずやったことは、御剣財閥傘下の一つ、御剣電工の特別顧問に就任することだった。これは、御剣雷電殿との会合で渡した最新型のブラウン管テレビ・カラー液晶テレビ技術のおかげですんなりと就任できた。そしてもう一つの傘下企業、御剣重工の特別技術主任に就任した。この際、あらかじめレポートにまとめていた新型複合装甲材に関する技術を渡したのでこれまたすんなりといった。
 ただ雷電殿にはこれらの役職についたことや、技術を提供したこと極秘にするよう確約してもらった。だってフルメタ世界みたいに各国のエージェントに狙われたくないからね。
 そうして俺は、御剣電工、御剣重工に技術提供、CPUやメモリの半導体、装甲・フレームの材質の研究開発を進めると同時に、戦術機用新型OSの開発に取り掛かった。


 そして、出来たのが――。

「――《EXE》です」

 父様が操っていた撃震の胸部前に架かったキャッとウォークをトテトテと歩きながら、俺は皆に自分が開発したOSが目の前の撃震に搭載されているを説明する。

「《EXE》……そのOSは今までの戦術機OSとどう違うんだ、蒼牙くん?」
「内容を説明する前に、まずはこちらを見てください」

 やはり開発衛士としての性か、好奇心あふれる瞳で巌谷大尉が尋ねてくる。それに俺は実物を見てもらった方が早いだろうと思い、皆を撃震の胸部ブロックへと案内する。

「なっ……これは」

 開きっ放しのコックピットハッチから管制ユニットを覗き込んだ篁大尉が目を見開く。

「えっ……着座シートだけしかない?」
「なんなの、このむき出しの機械は?」

 同じく覗き込んだ神代少尉と巴少尉が困惑の声を上げる。
 まあ、驚くのも当然だろう。目の前にある管制ユニットは通常のものとはあまりに違うのだから。
 通常管制ユニットは、ハーディマン系統の強化外骨格を変形させた着座シートを中心としている。しかしこの管制ユニットにはそれがないのだ。あるのはむき出しのコードや基盤、電子機械類……。明らかに無理やり詰め込んだといった感じのコックピットであった。

「こんな中で獅子堂中佐はあんな動きを?」

 ありえないといった表情で沖田中尉が呟く。まともな感性ならそう思うだろう。着座シートにしても、機械類を詰め込むために溶接しているだけ。たとえ強化装備を装着していても、過大なGに身体を蝕まれる。

「確かにこんな管制ユニットであんな戦いをすれば、動きたくはなくなるな」

 戦闘後の父様の姿を思い出し、紅蓮大佐が苦笑する。あ、この人でもそう思うんだ。ホント自分の父親の非常識さに気づかされる。あれらのモーションパターンも一週間で作ったんだから。ま、それを要求したのが俺なんだが。

「これが《EXE》?」
「はい。先ほどOSと言いましたが、正しくはこの管制ユニットに搭載した機械類を含めて《EXE》と言います」

 巌谷大尉の確認の問いに俺はそう頷く。

「でも、なんでわざわざ強化外骨格を外してこんなに機械を詰め込んでるの?」

 訳が解らないと首を捻る神代少尉。その疑問に答えたのは、難しい顔で管制ユニットを見つめる篁大尉だった。
「これだけの演算装置を積まなければ、満足に動かないからだろう」

 さすがは開発衛士経験者。よくわかってらっしゃる。

「篁大尉の言う通りです。既存の管制ユニットのOSを《EXE》に書き換えたところで、動かすことさえままらないでしょう。この管制ユニットも今回の演習のためだけに組み上げた急造品です」

 実際、モーションパターン構築やバグ取りに使ったシミュレーターは、同サイズの演算装置を接続してたから、これでも少ない方なんだよな。

「そんな。既存の管制ユニットで起動出来ないなんて、欠陥品もいいところじゃないか」

 俺の説明に沖田中尉が否定的な意見を口に出す。それに巌谷大尉が反論する。

「だが性能はすごいぞ。撃震であんな動きが出来るなんて。蒼牙くん、《EXE》について詳しく説明してくれないか。どうしてあんな機動が?」
「わかりました。まずこのOSにはいくつか特徴があります。一つは入力したコマンドを終了前に打ち消す『キャンセル』。これは父様が最初に沖田中尉を撃墜するときに使っています」
「あれか……」

 そのときを思い出し、沖田中尉は苦々しい顔をする。

「もう一つは、先行入力と並列処理。今の戦術機は移動・照準・攻撃等、これらのコマンドを随時一つずつ入力しないといけません。しかし《EXE》の場合、それらを先行して、もしくは同時に入力・起動を行うことが可能になります。これらは巴少尉や篁大尉達との戦いのときに父様は多用していました」
「どおりで、あんなアクロバティックな動きや素早い反応が出来たわけだ」

 巌谷大尉が納得した感で頷く。

「そして最後が、特定の連続コマンドを一回の入力で行う、チェーン・アーツ。これは紅蓮大佐との戦いで四聖流、朱雀・炎爪乱舞(えんそうらんぶ)を繰り出すのに使いました」
「うむ。やはりあれは、四聖流の型の一つであったか。まさかあのような連撃を戦術機で繰り出すことが可能とは。なんとも空牙殿向きの機能だな」

 父様との一騎打ちを思い出し、紅蓮大佐が感心した声音で笑う。確かにこのチェーン・アーツは父様、というか我が獅子堂家に伝わる古流武術にマッチした機能だ。四聖流というこの武術はとにかく連続技が多い。これをたった一回のコマンド入力で済ませることが出来るのは四聖流を修める衛士向きだ。

 あと、気付いてる思うが、これら《EXE》の機能は、白銀武が考案したXM3とほぼ同じだ。俺はそれにさらに並列思考処理(マルチタスク)の付加やコンボの簡略化を行ったに過ぎない(コンボのコマンド入力方式はテ○○ズ方式と考えてもらっていい)。

「またこれらの機能をストレスなく使うための補助インターフェイス……簡単に言えば、人工知能をOSと連動して搭載しています。この人工知能はOS・FCS・間接思考システムなどソフト面全てを統括しています」
「なっ、人工知能だとっ……?」

 人工知能の話に篁大尉が驚きの声を上げる。まあ、そうだろな。ただでさえ高性能OSを見せつけられて、さらにAIときたもんだ。

「といってもそれほど高度なものじゃありません。今はあくまでもOSの補助ソフトでしかありません。まあ、最終的には擬似人格を持たせ、戦闘中の各種補助、戦術アドバイスなどが行えるようにしたいと考えています」
「……OSどころか人工知能まで。まだ5才にもなっていない君が創ったとは思えなよ」

 俺の話に信じられないといった感じで巌谷大尉が苦笑する。

「それで蒼牙くん……こんな話をわしらに話して何がしたいのだ?」

 おそらくここにいる全員が思っていることを、紅蓮大佐が代表して聞いてきた。まあ、それは知りたいだろうな。今話したことははっきり言って今までの戦術機開発史の中で、革命的な話だ。最高級の軍事機密といっていい。

「それをお話する前に《EXE》の欠点を説明しておきましょう」

 だが俺は本題に入る前に絶対に知っていてもらわないといけない事を説明する。

「一つは先ほども説明した、既存の管制ユニットでは使用できないこと。そしてもう一つが……整備班長、よろしいですかー?」

 と、そこで俺はキャットウォークから下で作業している整備班長に声をかける。

「なんだ! 坊主!!」
「撃震の間接系、どんな感じですか?」

 俺の問いに、班長は眉間を歪め首を横に振った。

「ダメだ! 全交換しないと無理だな! 基礎フレームにもガタがきてるとこもある。オーバーホールしないとまともに走れねえぞ!」
「教えていただきありがとうございます! ……という事です」
「オーバーホールって……私たちの攻撃まともに当たってないのに、どうして?」
「あの戦闘機動に撃震が耐えられなかったんだ。空牙の言っていたことはこのことだったのか」

 疑問の声を上げる神代少尉に、篁大尉が合点がいった様子で答える。

「そうです。《EXE》の要求する機動に戦術機本体が追従できていないんです。つまり《EXE》には撃震に代わる戦術機(からだ)が必要なんです」
「まさか君は、新型戦術機を開発するつもりなのか……?」

 俺の言葉の意味に気付いた巌谷大尉がかすれた声で尋ねる。それに俺は首肯する。

「はい。今《EXE》に対応した新型戦術機開発に関する計画書をまとめているところです。これを来月行われる耀光計画の会議で、当計画役員でもある父様に提案してもらいます。しかしこの計画にはある問題点があります。それは――」
「――なっ、それは……」

 俺の上げた問題点を聞き、篁大尉と巌谷大尉が渋い顔をする。

「耀光計画は元々国枠主義者の意向が多分に入った計画だからな、これはかなり難しいぞ?」
「ああ……それに今まで戦術機開発に関わっていない御剣財閥を加えるのも、光菱や富獄の開発陣はあまりいい顔をしない」
「だからこそ、皆さん協力が必要なんです。瑞鶴開発で光菱・富獄等の企業が信頼を寄せる篁大尉と巌谷大尉。そして斯衛軍第1大隊大隊長である紅蓮大佐の斯衛・帝国軍への影響力。第7大隊のエース、警護小隊隊員の横の繋り……これらを使って私の計画が通るように根回しをしていただけないでしょうか?」
「……どうする、雪華?」
「鈴音。どうするって言われても私たちじゃ決められないよ」

 女性二人は困った表情で紅蓮大佐に目をやる。他三人も紅蓮大佐に視線を送る。どうやらここは彼に任せるつもりらしい。

「……蒼牙殿、御主は一体何を望む?」

 俺の話を聞き、丸太のような腕を組み、目を瞑ってしばし黙考していた紅蓮大佐が目を見開き俺を見つめ、静かなしかし強烈な威圧感のこもった声音でそう問いてきた。
 それに俺は空色の瞳で彼の瞳を見つめ返し、こう答える。

「人類の未来。そして私の大切な人たちが明日に怯えることなく笑って過ごせる日々をBETAから守るために」
「ふっ……ふははははっ!! よかろう! この紅蓮醍三郎。蒼牙殿の願い、聞き入れようではないか! 皆もそれでよいか?」

 俺の想いが届いたのか、巨体を揺らして笑った紅蓮大佐は俺の願いに是と答え、それに五人も頷く。

「ありがとうございます。それで今回の演習と申し出を受けていただいたお礼といってはなんですが――」

 俺は六人に頭を下げて礼を言うと、懐からディスクを取り出す。

「これを皆さんにお渡ししておきます」
「これは?」
「これは既存OSをブラッシュアップしてキャンセル機能を付加させたOSで《H-OS》といいます《EXE》ほど高性能ではありませんが、既存の管制ユニットでも十分に起動出来、駆動系・間接系への負荷も低いはずです」
「これを私たちにくれるの?」
「いいの? これっていわゆる企業秘密じゃ……?」
「はい。また皆さんが所属する部隊の瑞鶴にインストールしてもらってかまいません。あと根回しの際の材料としても。そのときは『御剣電工謹製』であることを明言しておいてください」
「まったく……抜け目がないね、蒼牙くんは」
「ああ……さすがは空牙の息子だ」

 俺のちゃっかりした発言に皆が笑うのだった。


そして9月。耀光計画会議にて、俺が作成した第3世代概念実証及び2.5世代型戦術機開発計画『疾風迅雷計画』の実施が承認され、御剣財閥の計画参加と研究目的での米国製戦術機F-15Cイーグル12機の購入が決定したのだった。





[19953] 6話(1)
Name: ディープ・アイ◆b169de4a ID:a7e4b7e3
Date: 2010/08/09 01:59


 第3世代型概念実証及び2.5世代型新型戦術機開発計画『疾風迅雷計画』。

 これが俺が考えた停滞する第3世代型戦術機開発計画『耀光計画』、91年より始まる大陸派兵、そして98年に起こるBETA本土侵攻への対抗策である。
 第3世代型戦術機の概念実証を行うと共に、原作の2001年時にも現役として前線に立たされた撃震……その後継機として耀光計画の本丸・不知火完全配備までの繋ぎとなる2.5世代機を開発することで、大陸派兵から光州作戦までの人的消耗を抑え、98年の本土防衛戦を有利に進める……また、この計画機である2.5世代機へ俺の知識・技術であるブラック・テクノロジーを導入することで不知火の能力底上げを促す。それがこの計画の目的である。

 ただ、まあ……。

「父様、会議の場で何か言いました?」
「なにって……俺はただ『この計画を通せば、必ずイーグルを超える機体を造ってみせます』と言ったまでだが?」

 コンピューターで半分埋まった自室に響いた俺のあきれ気味の問いに、父様はそう答えた。

「……本当ですか? じゃあどうやったらこんな仕様要求書ができあがるんです!?」

 父様の言葉に信用できず、俺は先ほどまで読んでいた軍からの仕様要求書を突き出す。その書類にはこう書いてあった。

1:要求される機体性能は総合力でF-15イーグルを上回ること。
2:第3世代の概念実証機であること。
3:新概念OS《EXE》対応機であること。
4:アビオニクスの強化。
5:82式瑞鶴以上の格闘戦能力及び近接密集戦闘能力の付加。
6:機動性及び攻撃能力の強化(攻撃においてはA-10の8割強が望ましい)。
7:優れた生産性及び整備性(製作技術及び部品は全て国産であること)。

 1~4はまだいい。だが5~7はなんだ。斯衛軍専用戦術機以上の格闘戦闘能力に、第3世代の後期生産機に採用される近接密集戦闘能力を付加し、なおかつまったく運用環境の違うA-10・サンダーボルトIIの8割強の攻撃能力に、2.5世代機と名乗るに見合う機動性を確保し、そして何より安く造れて整備も簡単な戦術機を造れだと……?

「だいたいなんですか、これは? 『なお、御剣電工謹製の新概念OS《EXE》への対応を前提とするため、基本設計及び基礎モーションパターン構築は、獅子堂中佐及び御剣財閥を中心に特別開発班を編成、作業に当たられたし』とは……。
 つまり耀光計画委員会の方々は『テメエが言い出した事なんだから、自分で造れ。いいのが出来たら買ってやるよ。ただしこの無茶な要求を満せたらの話だがな』と言いたいんですか」
「まあ、そう言う事だろうな。あと蒼牙、あまり汚い言葉は使うなよ? 心までその方々みたいに汚れて腐っちまうから」

 自分のことは棚に上げて、父様は俺の言葉遣いを注意する。

「……本当のところ、どうなんです? 本当に何も言ってないんですか?」
「それはないぞ蒼牙。打ち合わせ通り《EXE》と《H-OS》、それに新素材系の資料を渡して説明したさ。それと瑞鶴との演習映像を見せて。まあ、薬が強すぎたんだろ。あいつら狐に化かされたみたいな顔で資料や映像を見てたからな」

 その話の意味を理解し、先ほどまで頭に昇っていた血がさっと引く。俺は額に手をあて自分の行いに反省した。

(ミスった……調子づいて力を見せつけすぎた……)

 そらゃそうだよな。数えで5才の子どもが、自分たち大人よりも高度な技術を立証・開発したんだ。それを無条件で信じろという方が無理がある。どうやら、子どもに戻ったのは身体だけじゃないようだ。心まで子どもに戻ってしまっては……。

「……申し訳ありません、私の失態です。それなのに父様にあたってしまって」
「別にいいさ。お前のその頭脳は本物なんだから。委員会の奴等も少なくともそれは認めている。現に《H-OS》の導入は決定している。思惑としては、見極めたいんだろ。それにこう考えればいい。何の制限もなく開発に打ち込めると」
「しかし……F-15にしても12機全機、御剣財閥が購入することになりましたし。負担が……」
「子どもがお金の心配なんかしなくていい。お前はお前の出来ることをしろ。資金やら人手は俺たちが用意してやる。それに御剣財閥だけじゃない。岬や光と相談して、九條や煌武院もスポンサーとしてついてもらえることになった。お前は変に考えずに、とにかく突き進め。いいな」

 そう言って父様は俺の頭をくしゃくしゃと撫でる。乱暴ながら、その感触はとても心地いいものだった。

「……わかりました。それでは遠慮なく戦術機開発に打ち込み、皆がアッと驚く機体を造ってごらんにいれます!」

 父様の言葉に背中を押された俺は、背筋を伸ばしそう敬礼するのだった。


 その日から俺は慌しく動きだした。
 はじめに行ったのは、父様や御剣財閥のコネを使って帝都大学出身者を中心に工学関係のエンジニアをかき集め、疾風迅雷計画特別チームを編成。そのメンバーの中には、武の父でもある白銀影行さんも、御剣重工の提携会社、篠原製作所からの出向という形で参加してくれた。

 特別チームを編成し終えるとほぼ同時に、帝国軍の仲介を経て米国から御剣財閥にF-15Cイーグルが納品。届くとすぐさま管制ユニットを《EXE》対応に改造した。その際御剣電工で開発した新型CPUやメモリなど半導体部品を組み込み、初期の大型装置の2/3に抑えることに成功する。
 またそのとき聞いたのだが、俺が技術提供をした新型テレビが爆発的に大ヒットしているらしい。それにカラー液晶テレビ・ディスプレイも戦火を免れている米国や南米で売れているそうだ。予想通りとはいえこれはうれしいことだった。御剣財閥にはF-15C購入資金を負担してもらっている。少しは利益に貢献しないと雷電殿、それに冥夜にあわせる顔がない。

 このうれしい話題に勇気をもらった俺は、《EXE》とイーグルのマッチングに力を入れる。が、ここで問題が発生した。イーグルの駆動系……カーボニック・アクチュエーターが《EXE》の要求する3次元機動に耐えられないことが判明。リミッターをかけても、骨太の撃震の1/2の時間ほど……。これにはつい

「これだから近接戦を軽視する米国はっ」

 と毒づいてしまった。
 まあ、この問題は予想範囲内だ。とりあえずカーボニック・アクチュエーターを撃震のものに換装。自重が減った分、駆動系にかかる負担が減り、リミッターをかけてとはいえ、どうにかF-15での《EXE》実証テストにもっていけるようになった。
 そして父様や篁大尉、巌谷大尉から推薦してもらったテストパイロットたちに各種テストをしてもらい《EXE》へのモーションパターンの蓄積と、どんな機動を行えば機体にどれだけの負担がかかるか、などのデータ収集を日夜行っていった。





[19953] 6話(2)
Name: ディープ◆b169de4a ID:627ed2d7
Date: 2010/12/08 21:54
 1986年の冬は俺にとって『試練の冬』であった。

 一次改修を施したF-15Cの実機演習が始まり、俺は御剣重工戦術機開発工場の研究室に文字通り缶詰となった。

 俺は毎日整備チームから上がってくるイーグルの実働データを開発部門のエンジニアたちと分析、各パーツに必要なスペックを洗い直し、製造部門に設計図を送る。そして新たなパーツやユニットが届くとイーグルに組み込みテスト……そしてまたデータの分析……。同時に定期的に御剣電工から届く最新の電子パーツを使い、《EXE》対応の小型演算装置の開発。そしてこれらの作業を何度として繰り返し、俺は計画初期に描いた設計図とイーグル改――開発チームは暫定として『陽炎』と名づけた――のすり合わせをやっていった。

 主任を務めている俺は当然休む暇が無く、かといって剣の修練も休むわけも行かず、この5ヶ月まともに悠陽と冥夜に会うことができなかった。だがそのおかげで俺は一つの成果を実らせることに成功する。


1987年の2月3日、節分の日。
まだ日も上がらない午前6時。俺は厚手のスタッフジャンパーに身を包み凍えるハンガーにやってきていた。いや俺だけではない。

「あっ、主任! 主任もやっぱり来ましたかっ!!」

 俺に気づいたメガネと出っ歯が特徴の若手整備士、千葉繁夫(ちばしげお)が少々甲高い声で呼びかけてきた。ちなみに彼は俺にとって恩人のような存在だ。彼のおかげで子どもである俺が開発チームの大人たちに認めてもらうきっかけを作ってくれたのだから。まあ、その話は別の機会にするとしよう。

「ええ。やはり気になりますからね。そういう皆こそ、そうなんでしょう?」

 俺の言葉にハンガーにいる人間たちは俺以上に子どもっぽい笑顔を浮かべ頷く。
 ハンガーには計画に現場レベルで関わる者たちが勢ぞろいしていた。百名近くはいるだろう。設計・整備二部門のエンジニア、OSの各種プログラムを開発しているプログラマ、そしてテストパイロット達……。
 これだけの人間たちが一堂に会するのは、計画開会式以来だろう。

 えっ? なんでこんな早くに大勢の人間が集まってるかって?
 思い出してもらいたい。オルタ本編でも似たようなイベントがあったはずだ。そう、あれは武たちが総戦技演習をパスしてすぐのこと。つまり……。

「来たっ! 来たぞー!!」
 ハンガーと外を結ぶ巨大な門扉の方でそんな大声が響いた。これを合図にハンガーに集まった人間たちはあわただしく動き始める。

「野郎共っ! 担架係留、初期点検の準備にかかれっ!!」

 サングラスの似合う壮年の整備班長が号令をかけ、各種工具の準備に入る整備チーム。

「よしっみんな! 管制ユニットの初期設定準備をっ!! 整備班の初期点検と平行して行う!! 開発衛士の皆さんも準備お願いします」
「了解しました!」

 プログラムチームリーダーの影行さんが同じくチームメンバーとテストパイロットたちに指示をとばす。

「やっとですね。主任」

 その光景を共に見ていた設計部門の一人が呟く。

「ああ。でもこれはまだ始まりだよ」

 俺は彼に返答し、開いた門扉から進入する3台のトレーラー……戦術機用担架車両を見つめる。そこには計画開始から約5ヶ月の俺たちの成果が積み込まれていた。
 3台の担架車両は整備班が用意したハンガー備え付けの担架に係留されていく。係留を確認した整備班とプログラムチームはすぐさまキャットウォークなどを伝い作業を開始する。
 もうお気づきだと思うが、担架車両によってハンガーに運びこまれたのは戦術機である。
 だが、ただの戦術機ではない。運び込まれた3機は横に居並ぶF-15C改『陽炎』とはまったく違うフォルムを持つ機体。

 1機は陽炎に近い頭部を持ち、第二世代型の特徴であるスマートな体躯と大型の肩部装甲を持った機体。その隣の1機は撃震に似た無骨な頭部と第一世代型のような重装甲、F-4系以上に大型化した下腿部が特徴の機体。そして最後の1機は前の2機の特徴を併せ持った機体であった。

 それぞれ名を『TSF-Type-P01隼』、『TSF-Type-P02雷獣』、『TSF-Type-P03鵺』という。

 この3機はF-15C改『陽炎』の改修・実働データと前々から俺が描いていた設計図を元に組み上げた『疾風迅雷計画』のテストベット機である。
 この3機には共通の特徴がある。一つ目は頭部、胸部に取り付けられた2種口径の機関銃。頭部12.7mm機銃。胸部可動式20mm機関砲をそれぞれ二門装備している。

 二つ目はSJフレームという共通フレームを使用していることだ。このフレームはブラックテクノロジーを応用した剛性、軽量に優れた新素材を使用。そしてBETA戦・対戦術機戦において損耗率の高い腕部・脚部などをユニット化し整備性も向上している。また電磁伸縮炭素帯(カーボニック・アクチュエーター)もアームスレイブの電磁筋技術を応用した最新型を使用し、主脚歩行の速度上昇及び消耗率の低下を促している。

 三つ目は、高出力・低燃費の新型主機。F-15Cの主機と比べて出力が1.5倍、燃費が-20%となっている。その上この新型主機は重武装型の雷獣にあわせて製作しているおかげで、軽量・高機動型の隼は必然的に高出力機となった。

 そして最後は当然、全機が新機軸OS《EXE》対応機ということだ。3機と平行して開発したフォース・コア式の高速小型CPU、大容量HDDやメモリを組み込んだ新型コンピュータユニットを搭載し、なおかつコンピュータインターフェイスとして音声コミュニケーションが可能なAIがプログラミングされている。
 本来はもう少し初期的なAIを組む予定であったのだが、あまりにも想定外で運命的な出会いにより、5ヶ月という短期間で正式採用型に迫るAIを組み上げることに成功したのだった。
 まあ、その『想定外で運命的な出会い』は後で話すとしよう。今は戦術機だ。

 次は3機それぞれについて説明しよう。まずは軽量・高機動型戦術機『隼』だ。
 この機体はまさしく第2世代型戦術機『F-15イーグル』や史実において初の国産戦術機である『不知火』等と同じく、機動性を重視した機体だ。他2機にも採用しているブラックテクノロジー応用の新型軽量複合装甲に身を包み、スマートな体躯と高出力主機や新型跳躍ユニットを使って戦場を縦横無尽に駆けることが可能だ。またこの機体は肩部に特徴を持っている。それは可動式の『翼』である。側面装甲・小型盾も兼ねたこの翼と《EXE》の高速演算能力により『隼』はイーグル以上の機動性を獲得している。そして肩部にはそれだけじゃなく、内蔵式の2連装マルチランチャーがあり、攻撃力も上がっている。

 次に説明するのは重装甲・重武装戦術機……いや準攻撃機といっていいだろう『雷獣』だ。
 この機体は『準攻撃機』と言い直したように、F-4やF-15よりむしろA-10を参考にした機体だ。装甲は『隼』と同じく新型軽量複合装甲を使用しているが、防御力を上げるため二層構造で機体を鎧っている。そして肩部には『隼』と同じく内蔵式2連装マルチランチャー、肩部側面には可動翼に代わり5連装短距離ミサイルランチャーを搭載。これにより重量を増した『雷獣』は当然機動性が落ちたが、それを補うため腰部跳躍ユニットのほかに脚部に3連装小型マルチランチャー付小型跳躍ユニットを増設。計4つの跳躍ユニットにより、どうにか撃震と同等の速度を出すことに成功した。
 また重量級である『雷獣』専用に、57mm速射砲を手持ち武装として試製した。さすがに短銃身には出来なかったため、正式採用されたとしても分隊支援火器となるだろう。

 これら、上記2機が『疾風迅雷計画』の本丸に当たる試作機だ。
 えっ? じゃあ、3機目はって? ああ、最後に『鵺』のことを説明しよう。

 3機目の試作機『鵺』は追加装備用実験機だ。基本は『隼』だが、脚部は『雷獣』のものを使用。また管制ユニット周りを中心に着脱式リアクティブアーマーを装着。『隼』よりも重量は上だが、『雷獣』よりも軽く脚部3連装小型マルチランチャー付小型跳躍ユニットもあり、軽快に機体を動かすことが可能だ。また他にも試作している追加武装を取り付け実験し、最終的には『隼級・強襲型』用の武装に完熟させる予定だ。ここらあたりは共通フレームを使用している強みといえるだろう。
 と、そこまで脳内で考えていると、

「主任! 機体初期点検及び管制ユニットの初期設定終了しました!」

 という報告が入った。

「わかった。それじゃあ、皆を一度集めてくれないかな?」

 俺はそう指示を出すと、3機の並ぶ担架前に皆を集め、自分はちょうど皆と3機の間に止まっている担架車両のヘリに上がった。
 隣にはそれぞれ整備班、プログラムチームのチーフが並んでいる。俺は二人にかるく目配せすると子どもらしい中性的な声を張り上げる。

「皆、朝早くから機体の初期点検や管制ユニットの初期設定、お疲れ様! そして『隼』、『雷獣』、『鵺』が出来上がってくるまでのこの5ヶ月間も! 皆が居なければ、この短期間でこれほどの成果を出すなんて絶対に出来なかった!! 本当に……ありがとうございます!!」

 俺は素直な気持ちを言葉に乗せ、感謝の礼をする。これに集まった皆は『頭を上げてください、主任』や『子どもに頭を下げさせるなんて、大人として恥ずかしいですよ』、『我々は与えられた仕事をやったまでですよ』などの言葉が返ってきた。

「皆……。でももう一度言うよ。本当にありがとう。だけど、これで疾風迅雷計画は終わったわけじゃない……。これからが本当の始まりなんだ!! 皆、完成機『疾風』と『迅雷』が正式採用されるかどうかは、これからの働きにかかっている。がんばろう!!」

 俺のこの言葉に整備班の集まる一角から「うおおおー!!」という雄たけびが上がる。千葉さんの声だった。

「主任の言うとおりだ!! 皆、絶対に完成させるぞ!! 出来なきゃ技術屋の名が廃るってもんだっ!!」
「シゲの言うとおりだ。整備班の野郎どもで少しでも気を抜く奴がいてみろ? 鴨川で寒中水泳させるからなっ!!」
 千葉さんの言葉にさらに整備班長がそう脅しを入れる。さらに影行さんも、

「プログラムチームも気合を入れてやるよ! 陽炎の実働データがあるとはいえ、『ウイング』たちはまだヨチヨチ歩きの赤ちゃんだ。すこしでも手を抜いたら、一生キーボードを叩けないと思ってください!!」

 いつも温厚な影行さんらしくない体育会系の発破だった。ちなみに『ウイング』とは『隼』に搭載されているAIのコードネームだ。やはりプログラマーにとってAIは別格の存在なのだろう。

「よしっ! 設計部門も他の部門に負けないようにがんばろう!!」

 俺の掛け声に皆の『オオーッ!!』という叫びがハンガーに響き渡る。
 外ではちょうど日が昇り始めていた。その陽光が俺たちの門出を祝っているようだとは、俺の願望だろうか?


 そうして『隼』、『雷獣』、『鵺』の実働実験が始まるのだった。


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