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[2025] ガンダムSEEDcross第2部
Name: 柿の種◆eec182ce
Date: 2010/05/09 08:12
「オーブは他の中立国、赤道連合、リーベン、スメリアと同盟を締結した!!」

 これが、重大発表があると開かれた記者会見で、オーブ元首、ウズミ・ナラ・アスハが発した最初の一言であった。その一言に国中がどよめきが走った。
 しかし、ウズミは威厳ある言葉を続けた。

「オーブが今後も中立を貫くという方針に変更はない。だが、現状のオーブでは連合、もしくはザフトが攻撃を仕掛けてきた時、それに耐え切れるだけ力が無い。この同盟は他国の侵略に対し、備える為のものである。オーブがオーブである為の唯一の道として選ばれたものである。今後、オーブは他国の侵略を受けた時、同盟国の支援を受けられ、また同盟国が侵略を受けた時、支援する立場になる。この同盟はオーブの理念の一つ、“他国の侵略を許さず”を重視したものだ」

 ここで、ウズミは一度息をつく。記者も、国民も、じっと黙って、続く言葉を待つ。そして、ウズミは再び口を開いた。

「このような、重大な出来事を、国民に打ち明ける事も無く、推し進めてしまった事はまことに申し訳なく思う。だが、この同盟が中途半端な状態で連合やザフトに知られてしまう恐れがある為、明らかにする事はできなかった。だが、私はこの得た力をオーブの国民の命と!!誇りと!!権利を!!守る為に使う事を約束する!!」

 その言葉に国中で歓声が起きた。こうして、中立国同盟は国民に明らかになり、世界に知られるようになった。これは、オーブと赤道連合が同盟を結んでから19日目。そして、それは奇しくもザフト最大の作戦スピット・ブレイクが発動された僅か6時間後の事だった。





>>>>オーブ記者会見7時間前

「シホ・ハーネンフース、ただいまより、ジュール隊に所属させていただきます!!よろしくお願いします!!」

 敬礼する黒髪の少女、シホ。彼女は、赤服を着ていた。アスラン達の一期下の世代でアカデミーを優秀な成績で卒業したエリートであった。

「ああ、働きに期待しているぞ」

 それに答えるイザーク。彼は現在、新たに結成されたジュール隊の隊長を務めていた。これは、アスランが特務隊に異動し、部隊を外れた為である。

「まもなく、スピット・ブレイクが発動される。これは、ザフトの命運を駆けた重要な任務だ。新米隊員だからと言って甘えた事は言うなよ」

「はい、必ずやお役に立って見せます!!」

 シホが再び敬礼して答える。彼女はアスランの代りの補充要員として、新しく部隊に編入された唯一の隊員だった。補充要員がたった一人なのは、ザフトでもずば抜けた実力を持つイザーク隊に生半可なパイロットを加えたとしても足手まといにしかならないという評議会の判断であり、それはまた、選ばれた彼女がそれだけ優秀なパイロットであるという証でもあった。

「グゥレイト!! 女の子が入るとやっぱ華があるねえ」

 その時、ディアッカが横から茶化すように言った。それに対し、イザークが睨みつける。

「ディアッカ、新人の前であまりふざけるな。それに、あまり調子に乗っていると、シホに抜かされる事になるぞ」

「大丈夫だよ。なんてったって、俺のバスターも強化してもらったしな」

 それに対し、不敵な笑みを浮かべるディアッカ。バスターには大型バッテリーとその重さを補うブースターが追加され、銃身にも改良がされた事で、機動力がそのままに火力が大幅アップさせられていた。

「ばっちりやってるから、まかしときな。っと、いう訳で、俺とデートしない」

 真面目な表情で答えた後、表情を崩し、いきなりシホにナンパをしかけるディアッカ。それに対し、シホは慌てたように言った。

「だ、駄目です。私はイザーク隊長の事が・・・あっ・・・」

 言ってから顔を赤くするシホ。ヒューっと口笛を吹くディアッカ。それに対し、イザークはあまりわかっていないようだった。


 そして、スピット・ブレイクが発動される。だが、その目的地は前々から言われていたパナマではなく、アラスカ。味方すら騙した裏を欠いた作戦。しかし、この目論見はたった一人の裏切り者の手によって崩されることとなる。
 もっとも、彼に聞けば裏切り者ではないと言うかもしれない。何故なら、彼は最初からザフトの味方などではないのだから……。





「国民に受け入れられてほっとしましたよ」

「ああ、まったくだ」

 アムロとダイキが対話する。同盟が結ばれてから発表まで19日。この間に、すでに中立国各国では、MSの製造が始まっていた。オーブは中立国に対して、M1アストレイの製造データを渡し、同時に完成品の輸出も開始している。中立国同盟は形だけではなく、内情が整いつつあった。ただし、まだ完璧とは言えない。事実、他国に提供するOSは最新のものから見て1世代前のverを使用していた。同盟を結んだとはいえ、その信頼関係はいまだ浅かった。

「モルゲンレーテからの技術提供のおかげで空戦ユニットの開発も何とかめどがつきました。コストの問題で全機に配備とは行きませんけどね・・・」

 開発に困難を極めたM1クロスの飛行ユニットは先にそれを完成させたM1アストレイのフライトユニットの技術を取りいれ、完成に近づいていた。そして、M1アストレイはこれらの成果により再評価され、一時は中断されていた生産が国内でも再開されていた。

「そうか、まあ、それはいいだろう。ところで、あの少年はいまだに家に帰ってないのかね?」

 アムロの話に頷いた後、ダイキが尋ねる。それを聞いてアムロは苦い顔をした。

「ええ、モルゲンレーテでの宿舎で」

 ダイキの言う少年、それはキラの事だった。オーブに帰りついてから既に3週間が経過するにも関わらず、キラは家に帰って両親に会う事もユズハ達友人に会う事もしなかった。
 一度は断ったOSの改良を引き受けてまで、モルゲンレーテの宿舎に寝泊りをしている。そのことについては口止めをされているので、アムロからも話してはおらず、ユズハ達はいまだに彼がオーブに居る事さえ知らなかった。

「一体何があったのだろうな」

「戦場では辛い事はやまほどあります。ましては、彼はコーディネーターですしね」

 アムロ自身NTとして特異な存在として扱われた事がある。恐らくは彼も同じような何かがあるのだろうとアムロは考えていた。

「ふぅ。無理もあるまい、彼はまだ子供だ。しかし、このままと言う訳にはいかないだろうな。どんなに辛い事があろうと、人は生きている限り、何時かは立ち上がらなくてはいかんのだから」

「そうですね。何かきっかけがあればいいんですが……」

 ダイキの言葉にアムロは胸が痛い思いを受けながらそう呟いた。





「ねえねえ、昨日の記者会見見た?」

「おう、見た見た、こっちに移住してきてもさあ、オーブもいつヘリオポリスみたいになるんじゃないかって心配だったけど、元からオーブに居る奴は根拠もなく大丈夫だって安心しきってるしさあ。けど、あんな、味方が出来るなんて頼もしいよな」

「そうだよね」

 ウズミの記者会見の翌日、ミリアリアとトール、カズィが学校への道すがら会話する。3人はオーブ本国に移住した後、こちらの大学に編入して通っていた。

「ねえねえ、ユズハはどう思う?」

 そこで、ミリアリアが隣のユズハに話しかける。彼女も数日前に編入手続きを済ませ同じ大学に通っていた。

「あ、うん、そうだね……」

 ミリアリアに対しユズハの返したのは気の無い返事。自分が何もしていない間に、世界がどんどん動いている。ユズハはその事に漠然とした不安を覚えていた。フレイやサイの乗るアークエンジェルは今も戦い続けている。こうしている間にも、連合はオーブに攻めてくるかもしれない。何かしなくてはいけないのでは無いかという脅迫観念に捕らわれるか、何をしていいのかわからない。ユズハは今、そんな状態だった。

「どうかしたの?」

 ユズハの様子がおかしい事に気付いたミリアリアが心配そうに尋ねる。彼女だけでなく、トールとカズィも同じような表情をしている事に気付いた。

「えっ!? なんでもない、なんでもないよ!!」

 慌てて誤魔化す。その露骨な態度に3人は明らかに疑った顔をする。

「隠し事なんてしないで。よかったら、私達にも打ち明けてよ」

「そうだよ。僕達アークエンジェルじゃあ、一緒に戦ったりした仲間じゃないか。まあ、僕達は直ぐに降りちゃったけど……」

 終盤、尻すぼみになっていうカズィ。しかし、ユズハはその気遣いが嬉しく思い、だからこそ言えなかった。

「ありがと、でも、ほんとに何でもないの」

「そうか? まあ、いいけど、ほんとに辛かったら、言ってくれよ。俺達で頼りになるかはわからないけどさ」

 そうトールが答え、ユズハは“うん”とだけ返した。





「ムウ・ラ・フラガ少佐、ナタル・バジルール中尉、フレイ・アルスター二等兵以外の乗員はこれまでどおり、艦にて待機を命じる」

 これが、アラスカにたどり着いたアークエンジェルクルーに出された指示だった。面食らったフラガが尋ねる。

「では……我々は?」

「この三名には、転属命令が出ている。明朝○八:○○、人事局へ出頭するように―――以上だ」

 あわただしく資料をまとめ、部屋を出て行こうとするサザーランドをナタルが慌てて呼び止めた。

「あの……アルスター二等兵も転属、というのは……?」

 転属の基準がわからず尋ねた彼女に、サザーランドは眉を上げて答えた。

「彼女の志願の理由は聞いているだろう? アルスター家の娘でもある彼女の言葉は、多くの人の胸を打つだろう。その志願動機とともにな。彼女の活躍の場は、前線でなくてもよいのだよ」

 つまり、それはフレイを宣伝灯として使おうという事だった。その言葉にマリューは苦いものが口の中に広がるように感じた。





 部屋の天井を見上げる少年、キラ・ヤマト。彼は何をするでもなく、部屋で寝転んでいた。

「今日で何日だっけ……」

 OSの改良は数日で終わってしまい、それ以来特にやる事もなかった。もともと完成度は高く、部分的には彼でさえ、感嘆する所のあった、M1アストレイのOSは全体的な見直しを含め、極僅かな改良だけでする事はなくなってしまったである。それでも、エリカは感謝し、作業が終わっても宿舎に寝泊りできるよう会社にかけあってくれたが、いつまでもそれに甘える訳にはいかないだろう。

「僕は、どうしたらいいんだろう……」

 部屋に力ない呟きが響き渡るのだった。

                  アラスカ襲撃まで後、42時間


(後書き)

中立国に対する情報です。

(現在同盟を結んでいる中立国)
赤道連合
リーベン(旧沖縄・小笠原諸島)
スメリア

(地理的な関係上いまだ同盟を結んでいない中立国)

スカンジナビア王国
スイス



[2025] ガンダムSEEDcross第2部2話
Name: 柿の種◆eec182ce
Date: 2010/05/09 08:14
「ユズハ、帰りにどこかよってかない?」

「うん、いいわよ」

 学校についたユズハはそう言って、ミリアリア達と別れた。彼女はもともとサイ達とは違うゼミに所属していた為、編入先の学校でも別の教授のもとで学んでいたのである。教室に入り、荷物をしまおうと個用のロッカーを開けると、そこで目に入るものがあった。

「何、これ?」

 ロッカーの中に封筒が一通、置いてあったのだ。そして、表にこう書かれていた。

『ユズハ・クサナギ様へ』

 自分にあてられたものである事は間違いないらしい。そう思い、封筒の端を掴んでもちあげる。何となく、気持ち悪いものを感じながらとりあえず、振って見たり、すかしてみたりして何か変なものが入ってないかを確かめた。

「大丈夫そうな感じだけど・・・・・・」

最後に外側から触ってみて確かめる。それでも、極、普通の紙か何かが入った封筒のようだった。

「う~ん、どうしようかなあ・・・・」

 このまま、捨てるのも気になる。そして、やがて決意してその封筒を開けてみる事にした。すると、中には予想通り、紙が一通たたんであった。そして、ユズハはそれを開いて目を通した。





「面会、俺にか?」

「はい、お断りしますか?」

 一日14時間というオフィスワークを続けるアムロ・クサナギは今、オーブで最も忙しい男の一人である。それを知るだけに、まだ若い新米の部下は言いづらげに尋ねた。それに対し、不快の表情を僅かに浮かべた後、尋ねた。

「それで、相手は誰なんだ?」

 つまらない相手だったら断ろうと思っての問いだったが、返ってきた答えにアムロは驚愕した。

「それが、情報屋ルキーニと・・・・」

「何だと!?」

 突然上げられた大声に部下はびくっとする。アムロは立ち上がって言った。

「ちょっと、場を離れる。後は任せた」

 そう言って、部屋を出て行く。情報屋ルキーニ、彼は地球圏で一番の情報屋と呼ばれる男である。その男が、わざわざ自分を訪ねてきた事に、アムロはニュータイプの感とは別の所で嫌な予感を覚えた。





 キラは、何をするでもなく、街を歩いていた。そして、おもむろに財布を取り出し、中身を確かめる。

「もう、これだけか・・・・・」

OSの改良に対し、宿舎に寝泊りできる許可以外に、キラは幾許かの報酬も受け取っていた。だが、それももはやつきかけている。

「とりあえず、早めに何か食料を買い込んで置かないとな」

 昼間なら、両親は仕事をしているだろうし、ユズハ達は学校に行っているだろうから会う事は無い。そう思って、キラはもっぱら昼に街を歩いて、必要なものを揃えていた。そして、金銭を節約する為に見つけた、安売りのスーパーへ行こうとする。だが、その時、声をなげかけるものがあった。

「あっ、お兄ちゃんだ!!」

「えっ?」

 振り向くと、そこにはキラの方に駆けてくる見覚えのある少女の姿があった。キラは一瞬の思考の後、その少女の事を思い出す。

「あの時の、折り紙をくれた子・・・・」

 それは、アークエンジェルで避難民として乗っていた女の子だった。

「うん、エルのことおぼえててくれたの? 私があげた花、ちゃんともっててくれてる?」 

「あ、うん」

 キラの言葉を聞いて満面の笑みを浮かべる少女。それに思わず、頷いてしまうキラ。だが、本当はもはや手元には無かった。流石に捨てたりはしていないが、部屋に、アークエンジェルの部屋に置いたまま、今はもうどうなっているのかもわからない。

「うわーい」

 それに対し、キラの答えに無邪気に喜ぶ少女、エル。それを見て罪悪感を感じるキラのもとに、エルの母親と見られる女性が近づいてきた。

「こら、エル、勝手に走り出したりしないの。すいません、うちの娘が・・あら、あなた?」

 エルの母はキラに謝ろうとして、その顔を見て驚いた顔をする。

「確か、連合軍の艦に乗っていた……」

「あっ、はい」

「あの時は、どうもありがとうございました。あの、碌にお礼も言いませんで……。その、あなたが軍人の方じゃなくて、民間人なのに戦っているっていう事は噂で聞いていたんですけど、そのコーディネーターだって事も聞いていたので……」

「そう……ですか……」

 コーディネーターだから、その言葉を聞いて落ち込むキラ。それをを見て、エルの母は慌てて言った。

「す、すみません!! でも、あの、その、本国に来てから、私、誤解をしていたんだってわかりまして。コーディネーターの方は確かに優秀な人が多いですけど、私達とそんなに変わらないんですね。お隣の方をコーディネーターの方ですけど、とてもいい方で……あの、そのどうもすいません!」

 言い訳をしながらもエルの母親は本当に申し訳なさそうに何度も頭を下げる。それを見ているとキラは何だか自分が悪い事をした気になってきた。

「い、いえ、気にしないでください」

 そう言って、頭を上げさせる。そして、その後、彼女は更に何度もお礼と謝罪を繰り返した後言った。

「あの、今からお昼ご飯なんですけど、よかったら家に来ていただけませんか? お礼も兼ねたてご馳走させていただきたいんです」

「えっ、でも……」

「お兄ちゃん、きて。ママのごはんおいしーんだよ。」

 エルの母の誘いに戸惑い断ろうとするキラ。しかし、笑顔で服を引っ張ってくるエルの前で断るのも気が引ける。それに、お金の残りが乏しい事もあって、結局、迷った末にキラはその申し出を受けることにした。





「君が、アムロ・クサナギ一佐かね?」

「ああ」

 軍の応接室。アムロはルキーニと向き合って座っていた。まるで、品定めをするように見るルキーニに対し、アムロは不機嫌そうに返す。それを見てルキーニは楽しそうに笑った。

「いや、君に興味があってね。一度、直接会ってみたいと思ってたのだよ」

「一介の軍人である俺にか?」

 にべも無く返したアムロの答えに対し、ルキーニは更に面白そうに笑った後、少しだけ、不機嫌そうな表情になって言う。

「この国の副代表の娘の婿養子で、世界でも有数の発明家、それでいて少なくとも公式ではナチュラルという事になっているにも関わらず凄腕のMSパイロット。何よりもこの私でさえ“17年”より前の足取りが一切掴めない君が“一介の軍人”かね?」

「……お前の調べ方が悪いんだろうさ」

 ルキーニの言葉にアムロは鋭い目つきになる。それに対し、ルキーニは一瞬だけ、眉をひくつかせた後、とぼけるように言った。

「ふむ、私の調べ方が悪いか。ならば、出来の悪い私に、是非とも君の過去を教えてもらえるかね?」

「……悪いがそんな義理は無いな」

 自分の問いかけに対し拒絶の意が返ってきたにもかかわらず、ルキーニは特に気にした様子も見せず、それどころか満足そうに頷いた。

「まあ、そうだろうね。本人に隠す気すら無い秘密を私が探れないなどそんなものは認めないよ」

「そんな事を言いに来たのか?」

 一人納得したようなルキーニを見て不機嫌さをあらわにする。それを見て、ルキーニは忘れる所だったといったような表情をする。

「いや、ちょっとした情報を提供にね」

「情報を提供だと?」

「ああ、ザフトは今、スピットブレイクと呼ばれる奇襲作戦を決行しようとしている。表向きは、パナマに襲撃と言う事になっているがね。本当の狙いはアラスカだ。2日後に襲撃がある。だが、連合もそれを予測しているのだよ。アラスカには地下にサイクロプスが設置してある。この意味がわかるかね?」

「!!まさか、味方を巻き込んで自爆しようと言うのか!?」

「そのとおりだよ。そして、アラスカの防衛には君も一時乗艦していた艦が加えられる筈だ」

 アムロの叫びにルキーニはニヤリとして答える。
 アムロはルキーニの噂以上の情報収集能力と連合の予想を超えた非道、いや、組織としての逸脱ぶり、そしてそんな任務にアークエンジェルが加わえられる事に驚愕していた。だが、それ以上に気になる事があった。

「だが、何故、俺にそんな事を俺に教える?」

「もしかしたら、情に負けて君が動いてくれないかと期待しているのだよ。ここで、開発しているという“特別なMS”機会があるのなら少しでも早く見て見たいと思っていてね」

「!!」

 先程以上の驚愕。だが、その驚きを押し殺して言った。

「例え、お前が言う様に特別なMSがあるとして、それを俺が他国の軍人の為に動かすと思うか?」

「確かに、君はしないだろう。その程度の責任感はある筈だ。だが、君の娘さんはどうかね? 親友を見殺しにするほど、割り切れるかな?」

「貴様!! まさか、ユズハに!!」

 思わず激昂し襟首を掴み、そのまま殴りかかろうとする。だが、それよりも早く、ルキーニは両手をあげて降参のポーズを取って言った。

「いいのかね? ここでは私はあくまで民間人の客人だよ。そんな私を君のような立場ある人間が殴れば問題になるのではないかな?」

「ぐっ」

 その言葉にアムロは拳を止めると、歯を食いしばって堪えた。そして、掴んでいた手を離し、そのまま軽く突き飛ばす。

「さっさと、でていけ!!」

「ふふ、そうさせていこう。それでは、期待しているよ」

 服を軽く払い、不敵な笑みを浮かべながら部屋をでるルキーニ。彼の姿が見えなくなった後、アムロは壁にむかって思いっきり拳を叩き込んだ。

「くそっ!!」

 壁が軽く陥没する。そして、その数十分後、アムロにもう一人の客が現れた。それは、アムロが聞いたのと、同じ情報が書かれた手紙を読んだ彼の娘だった。



[2025] ガンダムSEEDcross第2部3話
Name: 柿の種◆eec182ce
Date: 2010/05/09 03:16
「そんなのはデタラメだ」

 ユズハが受け取った手紙には先程アムロがルキーニより聞かされた話と同内容の事が書かれていた。そして、その手紙の事を話したユズハに対し、アムロはそう切り捨てた。

「単なる悪戯だ。そんな重要な情報が漏れる訳ないだろう。ましてや、どうして、それをお前なんかに知らせる?」

 娘には真実を知らせてはいけない。そう思ってアムロはとぼけてみせた。しかし、ユズハは引き下がらず食い下がってきた。アムロの言ったは確かに筋が通っていたが、それでも不安な気持ちが離れなかったのである。

「それは・・・・・そうかもしれないけど。でも、もし本当だったら・・・・・」

「そんな事はありえない!!」

 そんなユズハをアムロは怒鳴りつける。しかし、その父親の応対に対し、ユズハはむしろ違和感を受けた。焦っている、そんな感じがしたのだ。

「いいから、お前は学校に戻れ!! 俺はまだ、仕事がある!!」

 そう言ってユズハを追いやる。その行動にますます違和感を感じたユズハは出て行く不利をして、近くに隠れることにした。そして、数分後、アムロは部屋から出るとどこかに移動し始めた。





「ここが、ストラージさんのお宅ですか?」

 キラの問いかけに、エルの母、フィオナ・ストラージが頷く。出会った場所から10分程歩き、一軒のアパートの前で彼女は立ち止まった。

「ええ、ここの2階にエルと二人で」

「えっ、旦那さんは?」

 フィオナの言った二人という言葉にキラは思わず問い返す。すると、フィオナは僅かに俯いて言った。

「ヘリオポリスで離れ離れになって、それ以来、見つかってないんです」

「!! す、すいません!!」

「いえ、気にしないでください。こちらこそ、不快な思いをさせちゃって」

 そう言って、頭を下げるフィオナ。そこで、エルが彼女のスカートの裾を引っ張る。

「おかあさーん、おなかすいたー」

「あ、ごめんなさいね。いま、準備するから。狭い所ですけど、ヤマトさんもどうぞ、上がっていってください」

「あ、でも、その・・・・・」

 フィオナの家庭環境を聞いて、お金が無いからとご馳走になろうとしていた自分が情けないかのように思えてきて躊躇うキラ。だが、その時、予想外な人物が現れた。

「お、おばさん、こんにちは」

 通りすがった金髪の少女、彼女がフィオナに声をかけたのだ。

「あっ、ミラちゃん、こんにちは」

フィオナが挨拶を返す。そして少女はしゃがみこんでエルにも挨拶をする。

「エルちゃんもこんにちは」

「こんにちはー!!」

 元気よく答えるエル。そして、そこで、彼女はキラの方に目をやり、驚いた顔をした。

「えっ、キラ君?」

「あっ、ミラさん!?」

キラも驚きを返す。それは数日前、モルゲンレーテで出会った少女だった。二人のやり取りをみてフィオナは少し驚いた顔をする。

「あら、お二人はお知り合いなんですか?」

「えっ、はい、一応・・・・・・」

 先日、少々気まずい別れ方をした為、やや躊躇いがちに答えるミラ。キラも僅かに視線をそらす。

「それは奇遇ですね。ミラちゃんは内のお隣さんなんですよ。ほら、さっき話したお世話になった、コーディネーターの方というのがミラちゃんとそのご家族なんです」

二人を様子を単に慌てたのだと思い、ミラとの関係を紹介するフィオナ。そして、そこで、再びエルが彼女のスカートを引っ張って言った。

「ねえ、おかあさん・・・」

「あっ、ごめんなさいね。あっ、そうだ、ミラちゃんもう昼ご飯、食べたかしら?」

 フィオナはエルに謝ると、ミラの方を向いて問いかけた。

「あ、いえ、まだですけど」

「そう。私達、今からの予定なんだけど、よかったら、あなたも一緒にどう?」

 その答えを聞いてミラを誘う。その誘いに対し、ミラはキラの方を見たりして迷いながら頷いた。

「あ、はい、それではご馳走になります」






「ここ・・・・、お爺ちゃんの部屋?」

 アムロを尾行したユズハは父親が副代表の執務室、つまり、彼女の祖父の部屋へ入っていくのをみた。それを見てドアに耳を当てて、聞き耳を立てた。

「・・・・駄目、聞こえない・・・・」

 しかし、防音設備がしっかりしているらしく、何も聞こえては来ない。その時だった。

『ハロ、ハロ。ユズハ、ドウシタ?』

「えっ!?」

 ハロペットがどこからともなく転がってきたのだ。それを見て慌てるユズハ。

「しぃー!! 静かにして」

 防音設備があるので、別に外からも声は聞こえないのだが、慌ててそう言う。だが、その時、ふと思いついた。

「ねえ、ハロペ、この部屋の中でお父さん達が何を話しているのか聞きたいんだけど、何かいい手ないかな?」

『ムリ。ケドカワリニキイテクルコトナラデキルゾ』

 駄目もとのつもりでの問いかけにハロペットはそう答えた。その言葉に驚きながら頼みこむユズハ。

『ほんと!? お願い!!』

『リョウカイだ』

答えるとコロコロと転がっていくハロペット。そして、ある場所で止まるとビョ-ン、ビョ-ン飛び上がりだした。ユズハが見上げるとそこには通風口の出入り口があった。

『トオ!!』

 そして、勢いをつけて天井まで飛び上がるとそのまま手足をだして張り付き、更に工具を取り出して、その扉を開け、その中に入って行った。

「・・・・ねえ、頼んでおいてなんだけどあなた何でこんな事ができるのかしら? お父さん、一体何を考えて・・・・・」

 そして、その光景を一部始終見送り、残されたユズハはそれを呆れた表情で見送り呟いた。





 ハロが通風孔の中に隠れる中、アムロとダイキは部屋で二人深刻な表情で話し合っていた。

「なるほど、ザフトの奇襲とそれを逆手に取った罠か・・・・・」

 アムロから話を聞いたダイキがそれを反芻する。そして、しばらくの沈黙の後、アムロは口を開いた。

「・・・・お義父さん、この事をザフトやユーラシア連邦に・・・・・・」

 アムロは、この事が自分ひとりの判断には余るとし、まずは義父であるダイキ副代表に話したのだ。しかし、それに対して返ってきた答えは彼にとって芳しいものではなかった。

「一応、他の議員にも話を通してみるが、恐らくは黙殺される事になるだろうな」

「・・・・やはり、そうなりますか・・・」

 ダイキの答えは半ば予想していたものだったので、驚きはしなかったが、失望は隠せない。ダイキは頷き答えた。

「ああ、君ならば予想がついていると思うが、オーブにとってはこのまま放置しておいた方が都合がよいのだよ。確かに、この話をザフトやユーラシア連合に通せば、彼等に恩を売れるかもしれないが、同時に大西洋連邦に対し恨みを買う事になる。それに対し、このまま、放置しておけば、ザフト、連合共に、オーブにとって、敵となりうる可能性の高い両者が損害を負うことになる。議会では返ってくるかどうかもわからない恩を売るよりも敵の確実な消耗が得られる方が選ばれるだろう」

「しかし、上手く行けば、連合自体の解体を狙えるかもしれません。そうなれば、戦争終結に近づける可能性さえも生まれてくるんじゃあ」

 反論を試みるアムロ。だが、ダイキは首を振った。

「上手く行けばな。だが、全ては仮定だ。迂闊に賭けになど乗る訳にはいかん。我々の肩にはオーブ全国民の命がかかっているのだからな」

「くっ」

 歯噛みするアムロ。ダイキは悔しがる彼の肩を叩いて言った。

「お前の気持ちもわかる。あの艦にはユズハの友達も居るようだし、一緒に艦に乗って戦ったお前が見捨てたくないのだろう。だが・・・・」
「・・・ええっ、わかってます。しかし、ユズハには言えないな」

「・・・そうだな」

・・・・
・・・
・・


「何よ・・・これ・・・・・・」

 ハロが録音してきたアムロとユズハの会話、それを聞いてユズハが呆然と呟く。そして、立ち上がり、走り出した。



[2025] ガンダムSEEDcross第2部4話
Name: 柿の種◆eec182ce
Date: 2010/05/09 08:16
「もうすぐできますから、もう少し待ってくださいね」

「あ、いえ、お気遣いなく」

 キラは居間に座って居心地悪そうにしていた。横ではミラがエルと遊んでいる。彼女と時々、視線があうと反射的に逸らしてしまう。

「エルー!! 運ぶの手伝ってくれるかしら?」

「うん!!」

 そこで、フィオナのエルを呼ぶ声が響く。その言葉を聞いてキラも立ちあがった。

「あっ、僕も手伝います」

「あっ、私も」

 作業を手伝う二人。フィオナはお客さんは座っていてくださいと遠慮するが、キラとしてはじっとしている方が居心地が悪かったので、そのまま手伝う。そして、食卓に料理が並んだ。

「お口に合わなかったら、すいませんね」

「いえ、そんなこと……」

 フィオナの言葉にキラが反する。実際、それはとても美味しそうだった。何より、彼にとって久しぶりの手料理である。無意識に表情に笑みが浮かぶ。

「ママ、早く食べようよ!!」

 そこで、またもやエルの催促をする。それを見て、なんとなく気持ちに余裕がでてきたキラは笑みを浮かべる。

「そうね、それじゃあ、どうぞ召し上がってください」

「あ、はい。いただきます」

そして、キラは食事に手をつける。それは、特別豪華でも際立った手法が使われている訳でもなかったが、とても美味しかった。





「お父さんどう言う事!!」

 ハロに録音された会話を聞いたユズハが再びアムロに部屋に飛び込む。それを見て驚くアムロ。しかし、彼女の隣に転がっていたハロを見て、自らの失態に気付く。

「……聞いたのか、俺達の会話を?」

「そうよ!! フレイ達を見捨てるってどう言う事!?」

 詰め寄るユズハ。その言葉にアムロは一瞬だけ、表情を歪め、直ぐにそれを消して言う。

「……聞いていたのならわかるだろう。それがオーブの為だ」

「オーブがよければ、他はどうなっても良いって言うの!!」

「じゃあ、お前はオーブが戦火に巻き込まれてもいいと言うのか?」

「!!」

 アムロの言葉にユズハは言葉に詰まる。そこで、アムロは畳み掛けた。

「オーブさえよければいい。そんな事は俺だって思っていない。だが、俺達は全てを救える訳じゃない。だったら、何を救って、何を諦めるか、決めなければいけないだろう!!」

「けど……!! 他に何か良い手があるかもしれないでしょ!! それなのにオーブの為だって言い訳して!! お父さんの卑怯者!!」

 アムロの言葉に打たれ、しかしそれでもユズハは引き下がらない。

「この馬鹿娘が!!俺だって悔しいんだ!!」

 ユズハの言葉に思わず激昂し、彼女の頬を叩くアムロ。ユズハは一瞬呆然とした後、頬を押さえ、涙を流す。

「わかんない!! わかんないよ!!」

 そして、そのまま部屋を飛び出して行ってしまった。





「ふふふ、そうなんですか」

 笑うフィオナ。最初は気まずかったミラとも食事をしている内に打ち解け、キラは食後の談笑を楽しんでいた。しかし、そこで、時計を見てミラが言った。

「あっ、すいません。私、そろそろ仕事に行かないと」

「あら、こんな時間から?」

 時刻は2時、仕事にでるには遅い時間に、フィオナが驚いた顔をした。

「ええ、今日は夕方から作業があるんです」

「そうなんですか、大変なのね」

 言って立ち上がるミラ。それを見てキラも立ち上がる。

「あっ、それじゃあ、僕もそろそろ」

「ヤマトさんも何か用事があるんですか?」

「いえ、でも、あまり長くお邪魔しても悪いですし」

「えーっ、お兄ちゃん、もっといてよー!!」

 そんなキラの服を掴むエル。フィオナはそんな彼女を宥めた。

「エル、あまり、我儘言っちゃあ、駄目よ。けど、ヤマトさん、用事が無いんでしたら、もう少しゆっくりして言ってください」

「あっ、いえ、今日はもう帰ります」

 キラはフィオナの誘いに対し、心引かれるものがあったが、このままこの居心地のいる空間に居続ければ、甘えてしまいそうになって、それが怖い気がして申し出を断った。

「あの、今日は本当にごちそうさまでした」

 食事を食べ終わり、しばらくの間在宅した後、玄関口で挨拶をするキラ。

「いえ、お粗末様でした。もっと、いいものをご馳走できればよかったんですが」

「そんな事!! 本当においしかったです」

 フィオナの言葉に思わず意気込むキラ。隣に立っていたミラがびっくりする。だが、それほどに彼は食事を美味しく感じたのだ。手料理であった事もさることながら、ここ最近、一人での食事が続き、その前はアークエンジェルとのクルー達との間に溝を感じながら取っていた食事ばかり、それだけに今日の食事は彼にとってどんなご馳走よりも素晴らしかった。

「あら、そう言っていただけるとこちらとしても嬉しいですわ」

 照れたように顔を赤くするフィオナ。キラもあまりに勢いよく言ってしまった事に気付き、顔を赤くする。そしてそのまま挨拶し、彼等はストラージ邸を後にした。


(後書き)
C.E世界のビームサーベルはビームサーベルとぶつからない事を最近しりました(汗)でも、よく考えたら、クロスの武器はビームサーベルではなくビームブレード!! ビームコーティングされてる刀身ならビームサーベル受け止められてもおかしくないですよね?よねっ?



[2025] ガンダムSEEDcross第2部5話
Name: 柿の種◆eec182ce
Date: 2010/05/09 08:22
「あら、あなた、今日は早かったのね」

 最近では、家に返ってくるのは日付が変更するぎりぎり位である事が多かったにも関わらず、夕食前の時間に返ってきたアムロに対し、シズクが驚いた顔をする。そんな彼女にアムロは複雑そうな表情をして尋ねた。

「ん、ああ、たまにはな。それよりユズハはどうしてる?」

「それなんだけど、ユズハが家に戻ってきて以来、部屋に閉じこもってでてこないのよ。あなた、何か知ってるの?」

「実はな……」

 アムロの言葉に何かを読み取ったシズクの問いかけ。アムロは罰のわるそうな表情をして口ごもった後、やがて観念したように答えた。それを黙って聞くシズク。

「そう、そんな事があったの……」

「娘の友人を見殺しにしようとする俺を軽蔑するかい?」

 妻の呟きに対し、アムロが問いかける。シズクは首を振ってそれを否定した。

「そんな事はないわ。けど、ユズハは納得できないでしょうね。あの時の事もあるしね」

「あの時の事か……」

 ユズハは以前、友達を亡くしたことがある。虐めによる自殺、それが原因だった。その時、彼女は強いショックを受け、一時は自閉症にまで陥った。それ以来、彼女はずっとその事を気にやみ、また、彼女の人格形成、年に似合わぬしっかりした一面を育てた原因にもなっている。

「だが、だからと言って……」

「ええ、わかってるわ」

 アムロの言葉に頷く彼女。だが、その眼には言葉とは裏腹な何かが映っていた。

「ちょっと様子を見てくる」

そして、そしてそう言って娘の様子を見るためにアムロが立ち去って行った後、どこかに電話をかけ始めた。





「駄目だ、まるで聞く耳を持ってくれないよ」

 鍵のかかったドアの外から何度も呼びかけるものの、まったく返事が無く、やがて諦めて戻ってきたアムロにシズクが応対する。アムロは溜息をついて、椅子に腰掛けた。

「もう少ししたら、また呼びかけてみる。それまでに少しは冷静になってく話を聞いてくれるといいが」

「そうね。私も後で、もう一度呼びかけてみるわ」

「ああ、頼む」

 そこで、再び、溜息をつくアムロ。そして、一息ついて自分自身でも少し落ち着こうと夕食を取る事にした。そして、それを食べ終わった頃、ユズハの携帯電話が鳴り出す。

「あ、ちょっと、ごめんなさい」

 そう言って、携帯をとり通話するシズク。

「うん、わかったわ。そうね、しばらく後まで。それじゃあ、お願い」

 そして、受話器を切る。アムロは尋ねた。

「誰からだい?」

「ええ、ご近所の方と今度、一緒に出かける予定があったから」

 シズクはそう答えた。そして、その後、二人は何回かユズハを呼び出したが、結局彼女は答える事がなかった。





 深夜、諦めて眠りについたアムロを脇に、シズクは起き上がると、そのまま家の外にでて、車で道を走らせた。そして、古い倉庫にたどり着く。
 その倉庫の鍵を開け中に入る。そしてその倉庫の隅に行くと、そこには地下室への通路があった。
そして、地下に入ってすぐの所に、中年位の一人の男と二十歳未満程度の長い髪を後ろに束ねた少女が立っていた。そして。その二人はシズクに対し恭しく頭を下げる。

「シズク様、お待ちしておりました」

「遅くなって、ごめんなさい、あの子は?」

「いえ、シズクお嬢様、お気に召されず。ユズハ様は奥の部屋に留まらせていただいています」

 男の名は御鞘尚吾(みさやしょうご)。娘の方は御鞘皐月(みさやさつき)二人は親子であり、代々クサナギ家に使える家の出身で、先祖はグレイブヤードに伝わっていた忍者の技を受け継ぐ者達だった。実はユズハは、窓から抜け出し、家を、そしてオーブをでて、連合の罠について伝えようとしていたのだが、娘の性格からその事を予測していた彼女はアムロから事情を聞いた後、彼と連絡を取って監視していてもらったのである。
 そして、シズクの予想通り抜け出したユズハを捕縛し、この倉庫に閉じ込めたのである。

「それでは、案内いたします」

「ええ、よろしくお願いします。それにしても、娘は抵抗しませんでした」

「いやあ、それが盛大に暴れられましてな。それに、末恐ろしい程の腕前でした。娘など逆に組み伏せられてしまいましたよ」

「お恥ずかしい事です……」

 尚吾は笑いながら、皐月は顔を真っ赤に染めて答える。尚吾の本業はクサナギ家の人間のSPである。オーブで、五大氏族の一つという以外に、武門の家柄としても知られるクサナギ家のSPを務めるだけあって、彼の実力は相当なものだった。そして、その彼がそこまで言うユズハの実力もまた、相当なものだと言う事である。

「ここです」

「ありがとう。それで、もう一つ、お願いしておいた件ですけど」

 そして、ユズハを閉じ込めてある部屋の前で立ち止まる。シズクは礼を言うと今までの笑いあう感じから真剣な表情になって尋ねた。

「はい、そちらも進ませています。しかし、いいのですか?」

尚吾も真剣で、そして神妙な表情になって問い返す。シズクは頷いた。

「ええ、これはクサナギ家の人間としても、そして、あの子の母としても失格な考えなのかもしれないけれど、それでも私はあの子の望むようにしてあげたいの」

「そうですか……。わかりました、ならば、私達は従いましょう」

「私も依存はありません。シズク様には幼い頃から面倒を見ていただきましたから」

 皐月は幼い頃、母親を亡くし、それ以来父親が仕事の間、一人残された自分のもとを尋ね可愛がってくれたシズクを第2の母のように慕っていた。その恩ゆえに二人のシズクに対する忠誠は単なる主従関係をも超えていた。

「どうも、ありがとう。本当に感謝するわ」

 二人に礼を言うと、シズクは部屋の中へと入っていた。





「お母さん……」

 シズクの顔を見たユズハは最初申し訳なさそうな顔をした後、母親を睨みつけるようにして言う。

「止めたって、私は聞かないわよ!! ここを抜け出して!」

「ユズハ」

 しかし、シズクの短い、けれど圧倒的な強制力の篭った言葉に押し黙る。そして、彼女は説き伏せるように言った。

「ユズハ、あなたが意識しても、しなくても、あなたはオーブ五大氏族の娘よ。あなたの言葉、行動は強い意味を持つわ。あなたの行動次第でオーブ危険に巻き込む恐れがあるわ」

「……けど!!」

 その言葉に一瞬、押し黙った後、それでもユズハは叫んだ。そんな彼女をじっと見つめた後、やがてシズクは言った。

「……ついていらっしゃい」

「えっ?」

「いいから」

いきなりの母の言葉に混乱を示すユズハ。それに対し、シズクは一言で黙らせた。そして、そのまま黙って彼女についていった彼女はその先にあるものを見て驚いた。

「これ……!?」

「これはお父さんの所有物よ。今、偽装をしているわ」

「偽装?」

 そこにあったのは、一機の大型なMS、それに数人の作業員が何かを取り付けている。

「張りぼてをつけて元の形をわからなくしている。識別信号も変えているから、これを動かしたとしてもそれがオーブのものとはわからないわ。このMSには単独での飛行能力もあるから、このまま飛んでいく事もできる」

「!!それって」

 母の言わんとする事を悟り、驚きと喜色をその表情に浮かべる。しかし、そんな娘をシズクは厳しい目で見た。

「けど、それでも確実とは言えないわ。あなたの正体がばれれば大変な事になるし、それにこのMSにはある重要な技術が積んである。それが知られるだけにでも致命傷よ」

 その厳しい目で見られ、厳しい言葉をかけられ、ユズハは息を飲む。そして、さらに苛烈な言葉が投げかけられた。

「もし、あなたの正体が知られたら、あるいは拘束されてしまったならば、このMSごと自爆する事、それがあなたにこのMSを与える条件」

「!!」

 母から投げかけられたあまりに衝撃的な言葉にユズハは息を飲む。そんな彼女にシズクは厳しく、そして優しく問いかけた。

「それだけの覚悟があるのなら、あなたの好きにしなさい」

「……お願い。このMSを貸して!!」

 そして、ユズハは迷いの後、はっきりとした決意を持って答えた。

「覚悟はあるのね?」

「うん!」

 ユズハの言葉にシズクは無言で彼女を抱きしめる。そして、彼女を放すと言った。

「このMSにはプロペラントタンクを大量に積んで置くわ。ユーラシア大陸の本部に伝えても今からでは伝達が間に合わない。この地下室からそのまま、海底への出入りができるようになっているから、そこから抜けて、そのままアラスカまで行きなさい。そして、必ず返ってらっしゃい。後の事は私がどうにかしておくから」

「ありがとう、お母さん」

 ユズハは涙を滲ませて言う。そして、MSを見上げた。


(後書き)
今回は難産でした。話の筋自体は出来ていたんですが、うまく書けず、正直スランプ状態です。

ユズハの友達が虐めで死んでいるというのは、ユズハがAAに残るのを決めた以前から、考えていた設定です。バルドフェイドとの会話もこの辺の経験則や、この出来事をキッカケに始めた思考などが関わってきています。正直、蛇足設定かとも思い、だすのを躊躇ってきたんですが、どうだったでしょうか?

PS. 日ノ本春也さん、キャラ採用させていただきました。ありがとうございます。作中で表現したキャラは気に入っていただけたでしょうか?



[2025] ガンダムSEEDcross第2部6話
Name: 柿の種
Date: 2005/07/15 02:03
「ユズハ、ユズハ」

「ハロペ!?」

 シズクから譲り受けたMS、仮称として“アンノウン・ゼロ”という名前が付けられたMSの中にはハロペットが乗っていた。驚くユズハ、ハロペはそれを気にせずしゃべる。

「ハロペ、シズクカラタノマレタ。ユズハ、サポート」

 そう言って、ハロペットはMSのコックピットに接続して、機体のデータを出力してくれる。

「操縦方法は、クロスガンダムと少し違うか・・・・。けど、全く違う訳でもないし、目的値に向かいながら何とか慣れるしかないわよね」

最初は操縦データ、そして次に出力されたデータの一を見てユズハは驚いた。

「核融合エンジン!? そんな、まだ世界中どこでも実現してないのに。いきなりMSに積むなんて・・・!?」

 驚くユズハ。そして更に出力される武装面のデータを見てユズハは眉をひそめた。

「ミノフスキー粒子発生装置? Iフィールド? 大気圏内用スモールファンネル? なんなの、これ・・・?」

 そして、その詳細データを見て、そのあまりの奇抜さにますます驚嘆する。

「凄い・・一体、このMSって・・・・・」

 下方で彼女を見上げるシズクの姿を見る。彼女が絶対にこのMSを他の国の人間に渡してはならないと言った理由が改めてわかった気がした。思わず、息を飲む。だが、この力が危険であると共に、今の彼女にとってなにより、ありがたりものであるのも確かだった。

「フレイ、今、行くから」

 そして彼女は海中へ潜って行った。




「嫌!!嫌よ・・・・!!」

 フレイが叫びながらナタルに引きずられていく。アークエンジェルからフラガ、ナタルそしてフレイは転属命令が出されていた。この3人が転属命令を受けた理由、それは彼等が連合にとって“有用”な人材だったからである。
 “作戦”により、アラスカに残った者は全員死亡する事になる。フラガは優秀なパイロット、ナタルは士官学校を極めて秀でた成績で卒業し、報告書からも実戦においても有能であると判断される指揮官、そしてフレイは連合外務次官の娘にして、父親を殺されたのをきっかけに、“世界を守る為”という名目で入隊したプロパガンタとしてもってこいの存在としていずれも無駄死にさせるには惜しい人材、そう判断されたのだ。

「艦長! 私だけ、他の所に行くのなんて嫌!! だったら、サイも一緒に!!」

 依存心の強い彼女にとって、一人引き離される事は耐え難い苦痛だったのである。サイの名を呼ぶのも、彼に対する愛情というより、残されたヘリオポリスからの唯一の知り合いであり、何だかんだで自分を手助けしてくれる相手だという事を彼女が理解していたからだった。

「いい加減にしろ!! これは本部からの命令だ。 軍属ならば従わねばならない!」

 泣き喚く彼女をナタルがしかりつける。マリューも申し訳なさそうに言った。

「・・・・そう言う事になってしまうわね。軍本部からの命令では、私にはどうすることもできないわ・・・。けど、サイ君が希望して、人事局に申し立てて見れば、サイ君も一緒にする事位はできるかもしれないけど・・・・・」

「だったら、お願い!!」

「わかった。頼んでみるよ。お願いします、艦長」

 懇願するフレイとそれを承諾するサイ。だが、それが受け入れられる事は無いだろう。アイドルに生きた恋人など無用。寧ろ、父親のみならず、婚約者までも亡くしたという方がプロパガンタとしての価値は高まるのだから・・・・。

「では、艦長」

 そして、フレイ達を脇に敬礼するナタル。マリューも敬礼を返した。

「・・・・今までありがとう・・・・バジルール中尉」

「いえ・・・」

 ナタルは躊躇うような弱い表情をかいまみせる。マリューも胸が熱くなるのを感じた。人情家のマリューと規律に厳しいナタル。二人は、その考え方の違いから対立する事も多かった。しかし、ナタルの冷静な判断が無ければここまでたどり着けなかっただろうとマリューは認めていた。

「また・・・・・会えるといいわね。戦場ではないどこかで・・・・・」

「終戦ともなれば、可能でしょう」

 マリューの淡い希望にナタルも本心から答えた。対立し、実の所、軍人としては見下す事もあったが、その一方でまたお人好しの上官に対し、戦友としてナタルもまた好意を抱いていた。

「彼女をお願いね」

「はい」

 そして、最後にフレイの事をたくし、二人の別れの挨拶は終わる。ナタルはそのまま、フレイを連れて行き、そこにフラガが残った。

「駄目もとで、人事局に言ってみようかな。転属、取り消してくれって」

「えっ?」

 フラガの突然の言葉にマリューは驚く。そして、フラガは笑っていった。

「艦長みたいな美人と離れるのも惜しいしね」

「・・・・こんな時にナンパですか?」

「まあね、でも、結構本気だよ」

 フラガの軽口に呆れた表情で見るマリュー。しかし、それに対し、真面目な表情で答えるフラガに彼女はほんの少し頬を赤く染めた。

「まあ、無理だろうけどな」

 一度降りた辞令が取り消されるとは流石に思えない。誤魔化しているのか、本音の態度なのか、自嘲気味に言うフラガ。マリューも「そうね」とだけ呟いた。

「それじゃあ、何ていうか、まあ、気をつけてな」

「はい、今まで、ありがとうございました」

 今度はフラガとマリューの二人が別れの挨拶を告げた。そして、それを見ていたサイは目の前のやり取りに覗き見したような気分になって、気まずげな表情をしていた。
 
その後、アークエンジェルはアラスカの守護隊を命じられた。スケープゴート、生贄として・・・・・・・。




「このままじゃ間に合わない!!」

 全速でMSで飛行するユズハ。しかし、本来MSというものは長距離を移動するようにはできていない。長距離を飛行する為に、大量のプロペラントタンクを積み、その重量までも加算され、その速度は航空機に大きく劣り、また、ハワイなどの連合基地は避けたコースを取らなければならない。それでも、計算上は間に合う可能性はあった。しかし、実際は一昼夜飛ばし、まもなく、アラスカが襲撃される時間が訪れる。

「お願い、無事でいて」

 ユズハは祈る。罠が発動する前に間に合えば、少なくともアークエンジェルのクルーを救える望みは残っている。そう思い、ユズハは必死に機体を急がせた。





「総員第一戦闘配備!“アークエンジェル”は防衛任務のため、発進します!」

 “予定された”襲撃。それが警報で伝えられ、マリューは出撃を命じた。敵に落とさせる訳にはいかないと“思っている”アラスカ基地を守る為に。





 アラスカを離れる前に、最後にもう一言、はっきりした言葉を伝えよう。別れの際に述べられなかった言葉を伝えよう、少し間抜けだとも思いながら、伝えずに戦死でもしたらもっと間抜けだと考えたフラガはそう決心した。
 そして、アークエンジェルに向かおうとしたフラガはその途中で警報を聞いた。

「敵襲だと・・・?」

 今すぐ戻らなければ、転属地へ向かう為の輸送船に乗り遅れるかもしれない。だが、フラガは迷わず、アークエンジェルの方へ足を向けた。

「この感じ・・・」

 その時、戦場においては何度も感じた戦慄に似た、不快な感触。それを感じた。

「まさか!?・・・・ラウ・ル・クルーゼか!?」

 だとすると基地に敵の侵入を許した事になる。フラガは静かに拳銃を構えた。そして、その“気配”の方向に向かう。そして、その気配の先にあった部屋。その部屋から出てきた人影。それがこ彼の方を振り向き、拳銃を撃った。

「久しぶりだな、ムゥ・ラ・フラガ・・・・・」

 弾丸を回避したフラガが見た顔。それは銀のマスクに覆われていた。『仮面の男』、ラゥ・ル・クルーゼ。そんな特徴的な容姿の相手はそれ以外に考えられなかった。

「―――せっかく会えたのに残念だが、今は貴様に付き合っている時間がなくてな」

 生身で会うのははじめてだったが、フラガは何故かどこか聞き覚えのある声だと思った。そして、再び拳銃を撃ってくるクルーゼ。フラガが回避している間に、クルーゼは逃亡する。追いかけようかとも思ったが、それよりも彼は気になる事があった。

「奴は一体何をしていたんだ?」

 クルーゼがでてきた部屋に入り、その部屋は管制室であったにも関わらず、誰も、当直も何も死体も含めていない事にフラガの疑惑が強くなる。そして、彼はその部屋にあったコンソールをいじる。そして、彼は知った。この基地に仕掛けられた罠、サイクロプスの自爆の事を。



[2025] ガンダムSEEDcross第2部7話
Name: 柿の種
Date: 2006/02/20 05:27
「サイは結局駄目なの?」

 呟くフレイ。彼女はもうすぐ転属される。その為に地下のドックに待機されていた。しかし、そこのサイの姿は無く、何の連絡も無い。結局転属希望が受け入れられなかったのか、それとも最初から出されてすらいないのか。
考えて、彼女は抜け出そうとした。アークエンジェルに戻ろうと考えたのである。彼女には命令違反という考えすら思い浮かばなかった。親も友人も、周りの人間は常に彼女をもてはやしてくれ、わがままも通った。親友であったユズハはその辺厳しく、彼女に対し、注意する事も多かったが、何だかんだで甘い所のある故に結局最後は最後は我儘を聞いてくれた。だから、今度も泣いて訴えればどうにかなる、そんな風に漠然と彼女は考えていたのである。
だが、そんな彼女の前に現実が立ちふさがった。飛び出そうとした彼女を数人の兵士が取り押さえたのだ。彼等はあらかじめ彼女の気性を伝えられており、逃亡しないよう指示を受けていたのである。

「いやっ!! 離して!!」

「うるさい!! 大人しくしろ!!」

 暴れ、逃れようとするフレイ。そして兵士は彼女の我儘に怒り、彼女の鳩尾を殴りつけて、彼女の気を失わせた。





「この陣容じゃ、対抗し切れませんよ!」

 ノイマンが叫ぶ。出撃したアークエンジェルは窮地に追い詰められていた。それは、わかっていた事である。主力部隊はパナマに振り分けられ、残存していたのは僅かな留守居部隊、アークエンジェルには機動兵器すら搭載されていない。このような状況で、敵の大規模な進行に対して耐えられよう筈もなかった。

「くそ! まんまとやられたモンだぜ! 司令部も!」

 本当にやられたのはザフトとそして残されたものだけで、この状況事態、全て仕組まれたものであることを知らず、吐き捨てるチャンドラ。サイがうろたえた声で聞く。

「主力部隊はパナマなんですか? 戻ってきてくれるんですよね!?」

「こっちが全滅する前に来てくれりゃいいけどね!」

 その言葉にトノムラが叫び返す。それは、現実には僅かな可能性に過ぎず、そして、その僅かな可能性すら最初から残されてはいない・・・・・筈だった。だが、それとは別の希望がこの場所を目指して近づいてきていた。





「た、隊長!! うわーーーーー!!!」

 全体的に押されている連合軍の中でも、特に押されている、いや、寧ろ一方的蹂躙といっていいほどの被害を受けている一角があった。そこを攻撃するのは、僅か5体のMS。ザフト最強の部隊の一つジュール隊だった。

「ふん、雑魚が!!」

 ヘブンが同時にいくつもの機体をロックオンして撃墜する。エネルギーを温存する為、空の悪魔とかし、40機以上の連合の戦車や戦闘機を落としていた。

「へっ、数だけは多いぜ!!」

 強化されたバスターの一撃がこの戦いに初めて投入された連合のMS、ストライクダガーに直撃し、そのまま貫いてその先にあた戦車までも破壊する。

「グゥレイト!! こいつはすげーぜ!!」

 その威力はランチャーパックを装備したストライクのアグニをも大幅に上回っていた。その砲撃を更に繰り返す。

「と、とめ・・・・」

 それを妨害しようとするストライクダガー。それらは、だが、見えない刃と突然空間に現れた刃に切り裂かれた。

「な、なんだ、どこから!?」

 刃は消え、またそれが現れた瞬間にMSが切り裂かれる。ミラージュコロイドで姿を消したブリッツとファントムクロス。見えない脅威に連合はパニックに陥った。

「す、凄い。これが、ジュール隊の強さ・・・」

 驚きながらも非凡な強さでストライクダガーを落とすシホの乗る機体はビーム兵器を搭載した試作型MSシグーディープアームズ。連合はもはや、壊滅に近い状態にあった。






「ここは撤退だ! 基地は放棄される!」

 スカイグラスパーのあるゲートにたどり着いたフラガがその場の全員に叫ぶ。突然の言葉に状況が把握できていない者達を彼は急かした。

「生き残っているやつを集めて、早く脱出するんだ!!」

 それでも、まだ彼等の反応は鈍かったが説明している暇は無い、最後にもう一度だけ叫ぶ、

「最低でも基地から半径10キロ以上離れるんだぞ! いいな!? これは命令だぞ!」

 後は彼等が命令に従ってくれる事を祈るしかない。そして、彼はスカイグラスパーに乗り込み飛び出した。

「・・ヒーローはがらじゃねえってのに!!





「見えた!!」

 戦場を確認したユズハ。まだ、半分程残っていたプロペラントタンクの一つを捨てて重量を軽くし、更に加速した。





「おっしゃあ、まだ粘ってたな!!」

 飛び出したフラガはアークエンジェルの姿を確認すると通信回線を開く。しかし、ニュートロンジャマーの影響か、通信は一向に繋がらなかった。

「くそっ!!」

腹立ち紛れに通信機を叩く。そして、通信が繋がらないのならばと、強引に着艦する事を決めた。





「少佐、あなた一体何を!?」

 戦艦に対して突っ込んできた機体から降りてきたフラガの姿に驚くマリュー。しかし、彼にしてみればそれどころではなかった。

「そんなことはどうでもいい! それより、すぐに撤退だ!!」

「なっ!?」

 思いがけない事を言われて絶句するマリュー。その表情を見てフラガの中に憤りが渦巻いた。彼女等は信じている、いや疑ってすらいない味方に裏切られているのだから。

「本部の地下にサイクロプスが仕掛けられている。上層部はこのまま全部吹っ飛ばすつもりなんだ!! 基地と少数の味方を犠牲にして、ザフトの奴等をひきつけ、その戦力の大半を奪う!! それがお偉いさん方が書いた筋書きなんだよ!!」

「そんな・・・・」

 その言葉に絶望が走る。同時に信じられないと気持ちが。しかし、フラガは本部が既にもぬけの殻であった事などを伝え、それが真実である事を伝えた。
 そこで、ようやく彼等は自分達が生贄にされた事を認めた。
 そしてマリューはそれを認め、その上で決断した。

「ザフト軍をひきつけるのがこの戦闘の目的だというなら、本艦はその任を既に果たしたとし、現戦闘海域を放棄、離脱します!!」

 その指示に反論するものは誰も居なかった。そして、アークエンジェルは撤退を開始した。



[2025] ガンダムSEEDcross第2部8話
Name: 柿の種
Date: 2005/09/19 01:53
「推力低下!! 艦の維持できません!!」

 ノイマンの悲鳴のような声が上がる。艦橋のみなの顔が恐怖で引きつり、そして、正面の艦橋窓にジンが肉薄した。

「!!」

 絶望、そして、ジンの持つ銃口が向けられる。その場にいる全てのものが絶望に包まれた時だった。

「!?」

 一条の光が天から降り注ぎ、そのジンを貫いたのだ。さきほどまでクルーの視界に広がっていた銃口の機体に、MSの背中が広がった。

「み、味方機なのか!?」

 サイが叫ぶ。彼の目の前で、そのMSは前方に存在していたディン2機打ち貫き、信じられない加速性で、飛び立ち更に1機のジンを切り裂いた。





「す、凄い・・・なんて性能なの・・・」

 アークエンジェルを救った正体不明の機体、アンノウン・ゼロに乗ったユズハ・クサナギはその性能に驚愕していた。高性能のクロスガンダムと比べてさえ桁違いに思えるほどの高性能。実際に戦ってみてその性能は改め

「これが核融合炉を搭載したMSの力・・・・。そうだ、今はそんなことより!!ハロペ!! アークエンジェルにサイクロプスの事をおしえてあげて!!」

「ワカッタゾ」





「あの正体不明機から文章が送信されました!!」

 アンノウン・ゼロから送信されたその文章をノイマンが読み上げていく。その途中、彼は表情を変えていった。

「アラスカ基地の地下には自爆用のサイクロプスがある。これは!?」

「どうしてそれを!?」

 その内容を聞いて驚くマリュー。文章にはさらに続きがあり、ノイマンはそれを読み上げた。

「退避せよ、こちらは支援する。どうしますか、一体!?」

「・・・・今は、信じるしかないわ。このまま退避を!!」

 敵か味方かもあやふやな相手、だが、今は信じるしかないと決断し、マリューが支持する。急速でアラスカ基地から離れていくアークエンジェル。それに対し、ザフトのMSが次々と攻撃を仕掛けてくるが、それは全てアンノウン・ゼロによって落とされていった。





「くっ!!なんだあの機体は!! 」

 アンノウン・ゼロの驚異的な強さを見て叫ぶイザーク。そして、部下に命じた。

「ここはお前達に任せる!! 俺はあの機体を落とす!!」

 そう叫んで突撃するイザーク。へヴンのビームライフルを撃つ。

「この気配!? あの人!?」

 そして、へヴンの姿を見て、それに搭乗するのがイザークだと気付くユズハ。ビームを回避し、直ぐに通信を入れさせた。

「ハロ!!」

「リョウカイ」

 ユズハの意図を察知し、今度はモールス信号ではなく、文章で通信を入れるハロ。イザークは送られてきた文章に一瞬で目を通す。

「『自爆用のサイクロプスがしかけてある』だと!? 戯言を!!」

しかし、それを信じようとせず、イザークはレールガンを発射する。それを更に上空にまって、アンノウン・ゼロは回避する。

「お願い信じて!!」

 ユズハは叫びながら、何度も通信を入れる。文章ではなく、合成音声などを使ったりして、手段を変え、だが、それらをイザークは全て黙殺した。

「うるさい!! 正体も明かさぬ奴が人に信じろなどと!!」

 そして、通信回線を完全に遮断する。そして、照準をあわせ、レールガンとビームライフルを立て続けに発射した。

「くっ!!」

 レールガンの2連撃を回避するアンノウン・ゼロ。しかし、ついで放たれたビームライフルを回避しきれず、それが直撃するかと思われた。だが、しかし、それは粒子の壁。アンノウン・ゼロに搭載されたIフィールドによって阻まれる。

「なんだ、あれは!? 光学兵器を防ぐシールドだというのか!?」

 ならばと接近戦を仕掛けようとするイザーク。だが、アンノウン・ゼロに機動性についていけなかった。

「くそっ、グゥルでは追いきれんか!!」

 そこで、イザークはグゥルを乗り捨て、飛び上がった。飛行時間はともかく、単純な機動性ではへヴン単体の方が優れている。急速に旋回し、一気につめよる。そして、へヴンの振るったビームライフルとアンノウン・ゼロのビームサーベルがぶつかり合った。

「お願い!! こんなところであなたを死なせたくない!!」

 いつかは戦わなければいけないのかもしれない。しかし、命の恩人に対し、せめてこんな非道な方法で死を迎えて欲しくない。そんな悲痛な思いでユズハは叫んだ。そして、その瞬間、イザークの頭の中に直接彼女の声が鳴り響いた。

「!? あの機体のパイロット、クロスガンダムのパイロットか!?」

 へヴンは一端、距離を置き離れた。イザークはアンノウン・ゼロのパイロットがユズハである事に気付く。同時に、ユズハの話が嘘出ない事が何故か彼に感じられた。

「くっ!!」

 迷う。100%信じた訳では無かった。だが、イザークは隊長だ。もしそれが本当ならそれは彼自身の判断によって部下を無駄死にさせてしてしまう事になる。それは彼にとって絶対に容認できない事だった。

「ディアッカ!! ニコル!! シャナ!! 一体後退するぞ!!」

 そして回線をいれ、ジュール隊のメンバーに指示を出した。

「なっ、おい、どう言う事だよ!?」

「何を考えているの!?」

 その指示に対し、他のメンバーが反論の言葉を放つ。戦況が有利な状況でこのような事を言われたのだろう。当然の話である。

「うるさい!! 隊長は俺だ、黙って、指示を聞け!!」

 そんな彼等を怒鳴りつける。それに対し、彼等はぶつくさ言いながらも指示に従い、退避を回避する。それはなんだかんだ言いながら、彼等がイザークを信頼していたからであった。そして、イザークに交戦の意思が無くなった事を確認したユズハは再びアークエンジェルの援護に移る。そして・・・・・爆発が起きた。





「くっ!! ナチュラルはこんな事までするのか!!」

 眼前で繰り広げられた光景を見て、イザークは吐き捨てる。アークエンジェル、ジュール隊は共に危険域の外まで脱出していた。しかし、サイクロプスの爆発により、連合、ザフト問わず、彼等以外のほぼ全ての部隊が壊滅したのである。そして、しばらくその壊滅した跡を見つめていたイザークは機体ごと振り返り、ユズハに通信を入れた。

「この借りは必ず返す」

 それだけ言って、そのまま、これ以上の戦闘は避け、他のメンバーと共に僅かに残された艦に帰艦していく。そして、それを見届けるとユズハもまた、アークエンジェルのメンバーと再会する事もなく、別の方向に向かって飛び立っていった。



[2025] ガンダムSEEDcross第2部9話
Name: 柿の種
Date: 2005/07/15 02:08
 アラスカでの戦い、戦闘が終わり、生き残ったのは連合、ザフト共に極少数だった。特に連合は奇跡的な幸運で難を逃れた数隻のみであった。
 ザフトは全軍撤退し、連合はパナマに移動を始めていた。そんな中、マリュー達アークエンジェルクルーはブリッジに集まり、今後の方針を話し合っていた。

「これからどうしたらいいのかしらね?」

「まあ、軍人としては艦に応急処置を施してパナマまで行くのが正しいんだろうけど」

 マリューの後、フラガが肩をすくめ答える。

「命令なく戦列を離れた当艦は、敵前逃亡艦と言う事になるんでしょうね・・・・」

「色々知っちゃってる事の口封じを兼ねてな」

「原隊に復帰しても、軍法会議かよ・・・・・」

 二人の話を聞いて嫌そうな顔をするチャンドラ。そこで、フラガがおどけた様子で言った。

「っと、まあ、このままパナマへ行っても俺達全員、よくて拘束、わるけりゃ死刑だ。少なくとも本来ここにいる筈ですらない俺と、責任者の艦長はコレだろうな」

 そう言って首をかっきるような仕草を取る。その意味は解雇とは別のもう一つの意味であるのは明らかだった。

「お前らもそんなのは嫌だろう? ここまでやられて馬鹿正直に従うのもアレだしな」

「でも、そうは言ってもどうするんですか?」

 フラガの言葉にマリューが口を挟む。そこで、フラガが表情を引き締め、真面目な顔になる。そして指を3本立てた。

「まっ、俺達に取れる手は3つだな。一つは大西洋連邦以外の連合国を頼るって手だ。今回の作戦、生贄にされたのはどうやらユーラシアの連合が大半らしい。自分達がいつ捨て駒にされるかわからないっていうんじゃ、反抗する国家がでてきてもおかしくない。そういう国家にとって事実を知る俺達は色々と貴重な存在の筈だ。まっ、読み違えちまったら、売り飛ばされるかもしれんがね」

 大西洋連邦の支配力が彼等の想像よりも強ければ、反抗しようという気概を持たないかもしれない、フラガが言ったのはそういう事だった。

「2つ目は?」

 不安感の残る手にノイマンが続きを促す。フラガはそれをなだめるように手を振ると、答えた。

「中立国への亡命だ。ただ、オーブの件もあるからな。受け入れてくれる国家は無いかもしれない。まあ、こいつのメリットは成功率が低い代わりに失敗してもリスクも比較的少ないって事か。交渉を断られたからと言って、それだけでいきなり攻撃を仕掛けたりはしてこないだろうからな。とはいえ、逃げ回り続ければ立場はどんどん悪くなるのはさけられないだろうけどさ」

 二つ目の案を聞いて、皆考え込む。それを見回すフラガ。

「それで、最後の一つは?」

 そして3つ目の案を問うマリューに対し、フラガは渋い顔をする。

「このまま大人しくパナマへ帰る事だ。他の2つの案は不確定だし、それに俺は別に家族もいないからいいが、亡命って事になれば、家族が居る奴は迷惑がかかるかもしれん。まっ、それはこのまま俺達が大人しく軍事裁判にかかったとしても同じかもしれんがね」

 その言葉にマリューがはっとした顔になる。最後に一つフラガは付け加えて言った。

「まあ、これらの案を組み合わせるって手もある。全員で帰るんじゃなく、俺らがやばくなったら、中立国か他の同盟国に助けを求めるって手がね。大西洋連邦もあまり余裕がないだろうからな。いらぬ諍いは避けたいだろう。上手くいけば身の安全位は守れるだろうさ」

「そう・・・・ね」

 フラガの言葉に自分に言い聞かせるように言うマリュー。そして彼女は今後の方針を決断した。

「――――――――ます」





「サバイバル♪サバイバル♪サ、サ、サ、サ、サバイバル♪」

 ユズハは歌っていた。ハイになっている・・・・っと言うか、半分自棄な気分である。
 アラスカをたちオーブに戻ろうとした途中、推進剤が足りなくなってしまった為、ユズハは無人島に着陸したのである。そのまま、帰れる手段もなく、サバイバル生活を営んでいたのである。

「あー、ちょっととりすぎちゃったかな・・・・・」

 両手一杯に果物を抱えていう。彼女がサバイバル生活を始めて既に3日が過ぎていた。アンノウン・ゼロは森に隠し、簡易な家をつくり、魚や果物を取ってこの島で暮らしていたのである。

「それにしても、これからどうしよう・・・。誰か助けに来てくれるとか・・・ないかな?」

 食べ物を食べた後、行儀悪く寝転んで呟く。
 この無人島の座標はハロに記録されていた場所である。推進剤がきれるのは予測された事態らしく、そのいう場合に身を隠すのに適した地形としてデータが記録されていたのである。つまり、シズクはこの無人島の位置を把握していると言う事である。

「もしかして、見捨てられちゃったのかな・・・・」

 これまで考えないようにしていた事。自分のした事を考えれば仕方無いと思うし、その決断を後悔もしていないが、それでも15歳の少女にとって両親に見捨てられたかもしれないという事実は辛かった。

「ハロ、ハロ、ユズハ、ゲンキダセ」

 そこにハロペットが転がってきて彼女を慰める。ユズハは身体を起こし、ハロペを抱きしめた。

「ありがとう、ハロペ・・」
 
そう言って、そのままハロペを抱きかかえ立ち上がる。その時だった。

「!!」

 上空、この島に向かって近づいてくる航空機の姿が目に入ったのだ。

「ど、どうして、こんな島に・・・・」

 言いかけて止める。その理由は自分とMS以外に考えられなかった。ハロペを抱え、そのままアンノウン・ゼロに向かって走る。
 近づいてくる相手が助けならばいい。だが、敵ならば、戦ってでも機体を守らなければならなかった。
そして、アンノウン・ゼロに搭乗すると、カメラだけを作動させ、航空機をじっと注視する。

「このまま通り過ぎるの・・・・?」

 航空機は島に近づいても減速しない。偶然通りすがっただけなのか?そう思った時だった。航空機から何かが飛び降りた。

「あれは!?」

 モニターを拡大する。そしてコックピットの中のパイロットの顔を見て驚いた。

「皐月さん!?」





「ユズハ様、ご無事でしたか!!」

「皐月さん、どうしてここに!?」

 航空機から降りてきた相手はクサナギ家に仕えるSPの家系で幼い頃は姉のようにしたった友人、御鞘皐月だった。

「はい、シズク様からのご連絡をお伝えに来ました」

「・・連絡?」

 皐月の言葉に不安そうに呟くユズハ。皐月は彼女を安心させるように笑顔を浮かべて答えた。

「ご安心ください。ユズハ様の事は連合には、ばれていないようです。ですが、万一の事もありますし、とりあえず、しばらくはこのまま身を隠すようにとの事です」

「そう・・・・」

 その言葉にとりあえずはほっとするユズハ。そして皐月は続けた。

「それで、私は今後、定期的にオーブとこの島とオーブを行き来して伝令兼ユズハ様のお世話を務めさせていただきます」

「えっ!? そ、そんな悪いですよ」

 慌てるユズハ。自分の我儘の結果に皐月を巻き込む訳にはいかないと思った。しかし、彼女は笑顔を崩さず言う。

「いいえ、気にしないでください。それが私の役目ですから。それに、ユズハ様は個人的にも友人だと私は思っていますから。友達の力になるのに理由はいらないでしょ?」

 最後だけはわざと敬語を崩して言う。その言葉にユズハは一瞬、呆気に取られたようになり、そして笑顔を浮かべて答えた。

「うん」

「ユズハ、サツキ、ハロッ、ハロッ」

 そして、その二人の周りをハロペがくるくる回った。



[2025] ガンダムSEEDcross第2部10話
Name: 柿の種
Date: 2005/07/15 02:09
『それで、君達は我が国に亡命したいというのかね?』

「はい」

 男、ユーラシア連合の将校に対し、マリューがはっきりと答える。彼女等は結局ユーラシア連邦を頼る事を選んだ。男は少し考え込んだ後答える。

『その見返りがアークエンジェルとMSの設計データ、及び戦闘データ、そして、必要があればアラスカ基地での“事故”について真相について証言する事か・・・・いいだろう、うけいれよう』

「ありがとうございます」

 マリューがほっと息をつく。そこで、回線が途切れた。





「いいのですか、中将? この行為は大西洋連邦に対し、いらぬ諍いを招く事になりかねませんよ」

 回線が途切れた部屋で、男の秘書的な役割を務めるユーラシア連邦の中尉が、先程マリューと対話した中将に対し意見を申し付ける。それに対し、男は余裕の表情で答えた。

「かまわんよ。文句をつけてくるのなら、“事故”の真相を明かすと脅しつけてやればいい。“基地に搭載されていた燃料爆弾が引火し基地ごと吹き飛んだ”などという戯言を信じているものなど元々少数だろうが、それが単なる推測であるのと、確固たる事実として明かされるというのではまるで違う」

「・・・・なるほど。確かに、事が公けになれば、離反する国家は確実にでてくるでしょうね。如何に戦争が手段を選んでいられないと言っても、今回の行動は流石に常軌を逸している。国家の体面としても黙って従っている訳にはいかなくなるでしょう」

 中将の言葉を聞いて、中尉が考えを述べる。中将はニヤリと笑った。

「まあ、それでももし、まずい事になりそうになれば、あの連中を大西洋連邦に引き渡してやればすむ事だ。MSのデーターだけいただいてな。まあ、そうなるまでは大事な客人だ。丁重に扱ってやれ」

「はっ!!」

 そして、秘書に指示を出す。指示を受けた中尉はそのまま部屋を出て行った。





「おにいちゃーん、はやくー!!」

「ちょ、ちょっと待ってよ。エルちゃん」

 エルやフィオナとの再会以来、キラは数日に一度は彼女達の家を訪れるのが習慣になっていた。そして、今日はフィオナに頼まれ――半分は自主的に言い出し―――買い物に来ていた。

「お菓子買ってえー!」

「だ、駄目だよ。お母さんに怒られちゃうよ」

 エルをあやしつけるキラ。子供のパワーに振りまわされっぱなしのキラ。そして、なんとか買い物を終える。

「どうも、すいません。お使いなんてさせてしまって」

「い、いえ、何度もご馳走になってしまっていますし。これぐらいは・・・・。って、いうか、むしろ迷惑かけちゃってますね・・・」

 買い物を終えて戻ると、フィオナが出迎えてくる。それに対し、恐縮するキラ。

「いいんですよ。エルも喜んでますし」

「うん!!」

 優しい笑みを浮かべるフィオナと子供らしい満面な笑みを浮かべるフィオナ。それを見ているだけでキラは心が温かくなるのを感じた。

「そうだ。今度、ミラさんも呼んでまた4人で食事しましょうか?」

「あ、はい、いいですね」

フィオナの提案にキラは答える。再会の日以来、ミラともたびたびあっており、そんな穏やかな日常が彼に安らぎを与えていた。このままずっとこんな日が続けばいい、そう思う一方で、いつかはこの生活を抜け出さなくてはいけない、いつまでも逃げては居られない、その考えが頭を支配する。

「アークエンジェルのみんなは・・・・」

 誰にも聞こえない小さな声で呟く。アラスカ基地の事はニュースで聞いていた。一時は憎しみを抱いた事もあるが、それが全てではない。今、彼の中では色々な思いが交差しあっていた。

「どうかしましたか?」

 思いつめた所為で暗い表情をしていたらしく、フィオナが心配して彼に声をかける。それに気付き慌てて誤魔化す、キラ。

「あ、いえ、なんでもなんでもないです」

 そして、その日彼は結局何も結論を出す事ができなかった。





 C.E75年 5月25日 パナマ陥落・・・・・・・・・・・
 
 この時より、世界は更なる変動の時を迎える。



[2025] ガンダムSEEDcross第2部11話
Name: 柿の種
Date: 2005/10/25 03:34
「来てくれたのですね、アスラン」

「ラクス、あなたは君は本当にこんな事をする気なのか?」

 誰もいない場所で二人、呼び出されたアスランがラクスからの手紙を見せて本人に問う。それに対し、ラクスは頷いた。

「このままいけば、世界は二つに割れ、お互いに滅ぼしあう事になってしまうかもしれません。それはあなたも望むところではないでしょう?」

「だからと言って、俺は・・・・こんな父上や国を裏切るような事を・・・・・・」

 ラクスの言葉に躊躇うアスラン。手紙に書かれていた文章は国に対し、反逆を起こすの近いものだった。だが、しかし、同時にラクスの言う事、終末戦争を避けたいというのは彼にとって同意できるものでもあり、それ故に彼は葛藤した。

「裏切るのではありません。寧ろ、国を思う為にする行為、私はそう思っています。それに、ザラ議長の暴走を止める、それこそが彼の息子である貴方の役目ではないのですか?」

「・・・・・・」

「先日、オーブが中立国同士の同盟を結びました。私はそれが希望だと思います。しかし、彼等はあくまで傍観者に徹するつもりだと主張しました。私達は何とか彼等に訴えかけて調律者として動いて欲しいと思っています。ただ、計画の途中、どうしても武力が必要になる事もあるでしょう。私はその為の力を貴方に貸して欲しいのです」

「けど、もっと穏便に済ませる方法があるんじゃあ・・・・」

「勿論、それは私もそのつもりです。それはお父様に任せています。しかし、今のところ、状態は芳しくありません。私達は私達で動く必要があると思っています」

 ラクスの説得にアスランの心が揺らぐ。そして彼女は最後の言葉で締めた。

「計画の実行まであまり時間はありません。3日後までに決断をお願いしますね。あなたなら、よい、返事をしてくれると信じています」





「――――――パナマでの戦闘、コーディネーターはいよいよ危険な兵器を持ち出しきました!! しかも、奴等は降伏した兵士達を虐殺したのです!! 我々を見下し、非道を行なう奴等に対し、我々は断固として戦わなければならない!!」

 パナマ陥落。連合には予想外な事だった。アラスカでの“戦略”により、ザフトはその戦力の大半を失っていたからである。しかし、ザフトがグングニ-ルという凶悪な新兵器を投入して来たことにより、目論見は崩れ、それによって低下した士気を向上させる為、連合は大々的な演説が行なわれていた。効果的なプロパガンタを用いて。

「フレイ・アルスター、彼女は連合の外務次官であった、ジョージ・アルスター氏の娘です。彼女のお父上はザフトの攻撃により、それ以来昏睡状態のままになり、彼女はお父上を守り、その仇を取る為に連合軍に志願しました」

 演説を行なう大西洋連邦の大統領に促されてフレイが前に出る。彼女はパイロット・スーツを着、ヘルメットを持っていた。

「私は中立国だったヘリオポリスのコロニーにいたにも関わらず、そこでザフトの襲撃を受けました・・・・・・・」 
 
 ”台本に書かれた台詞”を読み上げる。彼女が実際に体験した事を、連合が正義に、ザフトが悪に見えるように脚色し、そして同情をひき、感動させるように筋立たせたシナリオ。そして、長々とした演説の後、彼女は締めの言葉に入った。 

「・・・・・私はザフトの非道を決して許しては置けません。父を守る為に、そして父と同じように戦争の犠牲者となる人達をこれ以上増やす事の無い様に、私はザフトと戦います!!」

 大衆が喜ぶ美談、それを効果的に演出する為に、彼女は“形だけの前線”パイロットとして任命されていた。
連合の傀儡とされた彼女。過剰ともいえる演技指導を教え込まれる中、最初はあった父の仇を討てるという気持ちも薄れ、今はただ空虚なものが彼女の心の中にあるのみだった。

「ユズハ・・・・サイ・・・・・キラ・・・」

 そして、彼女は呟く。親友の名と、婚約者の名と、何故か憎い筈の相手の名を。それは、今の自分の立場を振り返って孤独に苦しむ彼の気持ちをほんの少し理解できるようになったからだった。





「連合の圧力いよいよ強くなってきたようだな」

 ダイキが口を開く。先日行なわれた演説では、「ワン・アース」地球が一丸となって当たろうという名目の元に中立国に対し、圧力が加えられていた。

「連合国として参戦せぬ場合は敵対国とみなす、っとまで奴等は言ってきている。スイスとスカンジナビア王国にも圧力をかけてくるようになったようだ」

 スイスとスカンジナビア王国は中立国同盟に加盟していない以外の最後の中立国だった。今まで、この2国に対しては連合の圧力も今まで比較的弱かった。それはスイスは永世中立国を宣言する故の信頼度のある銀行がある為、資産家の反発が大きかった事、スカンジナビア王国はザフトの現議長がその国の王族出身であるという裏事情により、戦前ザフトに傾倒する意思が見られた為、下手に干渉しない方が良策と判断された事、それらが理由だったが、いよいよ強引な手段に出てきたらしい。

「奴等同あっても世界を二分したいらしい!」

 忌々しそうに言うウズミ。ダイキは表情を強めた。

「断れば、開戦はやさけられないと言う事か・・・・・」

「特に我が国に対する圧力は強い。マスドライバーはもはや、ザフト占領域を覗けば我が国にしか残されていないからな」

「連合に従う気は無いのだな?」

 確認するように言うダイキの言葉にウズミはやや憤慨するように言う。

「無論だ。オーブの理念、譲る訳にはいかん!!」

 その言葉にダイキは頷いて置く。理念は置いておくとしても今の連合、特に大西洋連合は従うには危険な相手だ。それで勝ったとして、その後はオーブ国内のコーディネーターを虐殺にでる恐れすらある。それほど国家として暴走し、それを止めるものがいないのだ。そして、今のオーブには戦えるだけの力がある。考える過程は違っても結論はまた、ダイキもウズミと同じだった。

 そして、パナマ陥落から丁度20日後、オーブに宣戦が布告された。


(後書き)
キラもユズハもアムロさえ出てこない話。
何か、ラクスが少しまともっぽくなってます。これは、フリーダム強奪という強引な手にでてないおかげで選択肢の幅が広がってる為ですね。ちなみにザラ議長の立場はアラスカの件で一時的に失墜しましたが、その後、パナマでの戦果でなんとか回復している状態です。

PS.編集しようとして間違えて1話からすべてを一旦削除してしまいました。今までの感想が…OTL
皆さんどうもすいません・・・・・。
 それから、設定を少し改変いたします。どうもこの世界では国の数が少ないようなので、中立国同盟の数を6カ国から4カ国に変更しました。ご了承ください。



[2025] 外伝 アムロVSギナ
Name: 柿の種
Date: 2005/07/15 02:13
 オーブの演習場、2体のMSが向き合う。その内の一機、大きな翼のようなものを持つMSゴールドフレーム・天に乗るパイロット、ロンド・ギナ・サハクは歓喜の笑いを漏らす。

「・・・ふふっ、やっと踊ってくれる気になったのだな」

「やりたくはないが、このままだとお前が何をしだすかわからないからな」

 もう一機のMS、エース・隊長機用にカスタムされたM1クロスγに乗るアムロはいやいやと言うように答えた。M1クロスとM1アストレイのパイロットの性能比較実験、結局アムロはそれにパイロットとして参加しなかった。その事に対し、ギナは強い不満を抱き、爆発寸前の爆弾のようなプレッシャーを漂わせるようになったのである。
 このままでは何をしでかすかわからない、そう感じたアムロは仕方なく、彼との対戦を申し入れたのだった。

「ふむ、乗り気ではないようだな。だからと言って手など抜いてくれるなよ」

 アムロの態度にギナは特に不満を示しは示さなかったが、釘を刺すように威圧を込めて言葉を放つ。それに対し、アムロは軽く溜息をついて答えた、
 
「そんな事はしないさ。死にたくはないからな。それに、俺も少しばかり、堪を取り戻しておかなければいけないとは思っていたからな。そう思えばこれはいい機会だよ」

 オーブが戦争に巻き込まれれば再び戦場にでる覚悟をアムロは持っていた。答え、M1クロスγを操作する。その答えに、ギナは満足したように答えた。

「そうか、ならば私はたっぷりと楽しませていただこう」

 そして次の瞬間、ゴールドフレーム・天は飛び出した。右腕に装着されたイージスの腕からビームサーベルが伸びる。

「当たるか!!」

 アムロは機体を後方に飛び上がらせ、それを回避する。そして、そのままビームライフルをゴールドフレーム・天の足元に撃って足場を崩す。

「ぐっ」

 地面に着地するM1クロスγ。着地と同時に飛び出し、今度はこちら側からビームサーベルを振るった。

「速い!?」

 その反応速度に驚愕しながら、その攻撃を回避するギナ。一撃が機体の左腕を掠める。

「流石だ!! やはり貴様となら最高のダンスが踊れる!!」

 ゴールドフレーム・天は先端が銛のような形になった2つの刃、マガノシラホコを射出する。アムロは追撃ように射出したインコムを迎撃に変え、それを打ち落とした。

「ふふっ、次は暗闇の舞いを踊ろうか」

 そして、その間に距離を取ったギナ。そして機体の姿が消えていく。

「ミラージュ・コロイドか!?」

 アムロが叫ぶ。そしてその姿が完全に見えなくなった。どこから攻撃してくるのか、アムロは集中力を研ぎ澄ませる。

「・・・・・・・」

1秒

「・・・・・・・」

2秒

「・・・・・・・」

3秒

「・・・・・・・」

4秒

「・・・・・・・」

5秒・・・・・ピキーン

「そこっ!!」

 アムロが声と共に何も無いように見える空間に向かってビームライフルを発射する。そしてそこで爆発が起きた。その場所に、翼を損傷したゴールドフレーム・天の姿が現れる。

「ふふ・・・これさえも破るか」

 楽しそうに笑うギナ。そして、イージスより移植した右腕を振り上げた。

「これが天最後の切り札だ。この舞いのフィナーレはこれで飾るとしよう」

 腕を振り下ろす。その瞬間、イージスの腕からのビームサーベルが60メートル程の長さにまで伸び、両者の間にあった間合いを埋めた。

「くっ!!」

 あまりにも予想外な攻撃。しかし、それにすら、アムロは反応して見せた。とはいえ、完全には回避しきれず、機体の左腕を切り飛ばされる。

「そこっ!!」

 その状態からビームサーベルを投げ付ける。それは天の頭部を貫いた。





「まさか、あんな機能があるとはな」

 最後の攻撃には流石に肝を冷やし、息をつくアムロ。それとは対象的にギナは笑っていた。

「最高のフィナーレを飾るには少しばかり私の力が足りなかったようだ。だが、今はまだいい。私も天もより完璧になり、次の機会こそ完璧なダンスを踊りきってみよう」

「失敗したか・・・?」

 ギナの嫌なプレッシャーを感じ、ガス抜きにと思ってした行為が逆効果だったかと嫌な気分になるアムロ。
 3機のASTARYの内の一つ、ゴールドフレーム。その機体とパイロットはアムロという存在によって、どう筋道をそれていくのか、それはまだわからない。


(後書き)
 今回の話はお遊びみたいなものなので、時系列的にいつだとかはあまり突っ込まないでください(笑)っと、いうか、ほんとに本編の裏であった話なのかとかそう言う事も気にしないでください(笑)
 ところで、ふと思ったんですが、勝手に連合と手を結んでMSを開発したサハク家って何で責任とらされなかったんですかね?


M1クロスγ
M1クロスの機動性を10%アップさせたカスタム機。空間認識能力が一定以上(それほど高くなくてもいい)あるパイロットには本人の希望有無でインコムが搭載されている。
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[2025] ガンダムSEEDcross第2部12話
Name: 柿の種◆eec182ce
Date: 2010/05/16 19:32
「最後通告だと!?」
 
 ウズミが吠えた。オーブ、行政府、会議室には、すでに首長達が集まり、現代表のホムラを中心に、地球連合軍側から送りつけられて通告文を目にして唖然としていた。ホムラが重苦しい表情で、通告文を読み上げる。

「『一、オーブ連合首長国の現政権の即時退陣。ニ、国軍の武装解除ならびに解体。三、中立国同盟の破棄、――――――――――』」

 首長達のどよめきが作る。それは、明らかに協力を求める要請などではなかった。

「『―――四十八時間以内にこれらの要求の受け入れなき場合、地球連合軍構成国は、オーブ連合首長国をザフト支援国と見なし―――武力をもって排除するものである』・・・」

「まさか、ここまで無茶な要求を突きつけてくるとはな」

 聞き終えたダイキが溜息をつく。この内容は降伏勧告、それも無条件降伏に近い要求であり、宣戦布告であった。中立国にこんなものを突きつけてくるなど常識外れにも程がある。

「この要求のまないのでしょうな?」

「無論だ!! このような条件、例え我が国に理念が無くとも飲める筈が無い!!」

 問いかけたホムラに対し、兄でもあるウズミが声高に叫ぶ。そこで議員の一人が発言した。

「同盟国からの応援は?」

「連合は他の中立国にも同様に近い通告を行なっているようです。最も、時間的猶予に関してはもう少し余裕のあるようですが。まずは、オーブを落とすと言う事なのでしょう。同盟の中心であり、マスドライバーの存在する我が国を・・・・」

 ホムラの説明。そして、それはある事を意味していた。

「つまり、応援は期待できないと言う事か?」

 自国も宣戦布告を受けている以上、他国を援助している暇など無い。そう考えての発言に対し、ホムラは首を振った。ただし、弱弱しく。

「いえ、オーブが落とされれば自分達も危ないと理解しているでしょうし、同盟を結んだ以上責任放棄をする訳にはいかなかったのでしょう。援軍を送ってくれる事は約束してくれました。ただ、その規模までは期待できませんが・・・・」

「自国の兵力はどうなっている?」

 その頼りない発言を聞いて別の議員が発言する。それに対し、五大氏族の一つで軍事をつかさどるサハク家の首長、コトー・サハクが答えた。

「我が国の戦力は既に十分に整っている。多少とはいえ、中立国の援護を受け入れられればよほど大規模な作戦でもしかけてこない限り2度や3度の侵攻では落ちん」

 自信が感じられる言葉にその場に安堵な空気が僅かに流れる。そこでウズミが立ち上がってその場を占める発言した。

「我々は負ける訳にはいかん。オーブの理念はなんとしても守らねばならんのだ。ナチュラルとコーディネーターが共に暮らしていける場所はここにしかないのだからな」

 共存の場所を守る。それこそが理念を追求するウズミの裏にあった理想。そして、国民に対し、避難勧告がだされ、戦争準備が始まった。





「ついに始まるのか……」

 複雑な表情を浮かべる。アムロ――――准将。彼は連合からの実質的宣戦布告を受けた後、ダイキとコトー(間接的にはギナ)の推薦を受けて、准将に昇進していた。戦争経験者が少ないオーブに置いて、この世界では非公式にとはいえ、それを知る彼を上層部に置くことに意義があると彼等は考えたのである。
 もっとも、アムロ自身はそれをかなり重荷に感じてもいたし、そんな立場、性にも合わないと思っていたが。そして、彼は新たに部下になった尚吾に指示をくだした。

「尚吾、お前ユズハの居場所を知ってるんだろう?」

「えっ!?」

 アムロの言葉に動揺する尚吾。アムロはやや不満そうな表情を浮かべて言う。

「お前がシズクと結びついている事は知っているさ。ユズハの居所も知ってるんだろう?それに、あの機体を持ち出したのもお前達じゃないのか?」

「き、気付いていたのですか!?」

「お前達は上手く演技していたつもりだったのかもしれんがな。妻の嘘位見破れんようでは夫婦なんてやってられんさ」

 シズク達はユズハがオーブから消えた後、自分達は何も知らない様、振舞っていた。最初はその演技の上手さに騙されかけたが、その後の状況―――誰も知らないはずのMSが持ち出されていた事などから嘘を見破り、シズクに対し何度も追及し、白状させたのである。

「まったく、しょうがない奴等だな・・・・。それにしても、お前まで手引きに関わるなんて・・・・」

 娘と妻、そしてこの世界に来て以来の旧友でもあった尚吾に対して呆れと怒りを見せる。アムロの言葉に尚吾は手の裏が汗でびっしょりになる。しかし、次の言葉には呆れの中に余裕が混じっていた。

「まあ、通告文にも何も述べられていなかった以上特に問題は起きなかったようだからいいが・・・・」

 この状況で何も言ってこなかった以上、そしてシズク達がユズハの現在の居場所を認識している以上、ユズハの正体がばれている事も拘束されている事もありえない。また、今後ばれたとしても、既に侵略に等しい事をやっている為、後で何を言っても連合の言葉に説得力は生まれ得ない。通告文の内容を聞いた時、彼は心底ほっとしたものである。

「それで、あのユズハ様には・・・・・」

 そこで尚吾がやや躊躇いながら口を開く。アムロは少し黙った後、答えた。

「伝えてやってくれていい。それで、あいつはどうするかは自分で決めさせよう・・・・」

「い、いいのですか?」

 アムロの言葉に驚く尚吾。アムロは少し疲れた表情で言った。

「ああ、あいつが自分で決めたようにさせる事にするよ。あいつはもう子供じゃないんだ。自分の道は出来る限り自分で選ばせるべき・・・・・色々考えて、シズカとも話し合って、そう、思うようにした」

 結果だけ見れば、ユズハの行動は友人を救い、国に危害も及ぼさなかった。それがあくまで結果論にすぎない事もわかっているが、アムロは葛藤の結果娘の“独立”を認める事にしたのである。

「……はい」

 その言葉に同じように娘を持つ身である尚吾が父親として共感し、頷いた。そこで、アムロがポツリと呟いた。

「しかし、寂しいもんなんだな。子供が親離れをしていくのを感じるというのは。ブライトの気持ちがわかった気がするよ……」

「ブライト昔のあなたの上官でしたね。私もわかる気がします」

 その呟きにもう一度尚吾が頷いた。





「オーブが戦争に……」

 避難勧告を聞いたキラはシェルターでは無く、別の場所を目指した。目的地は二箇所。フィオナとエルの家とそして両親達の住む家。居場所だけはアムロから聞いていたのである。
 まずは近いフィオナ達の家を目指す。電話もかけてみたが、混線が激しすぎてまるで通じなかった。

「くそっ、なんなんだ、この混雑は!!」

 もともと人口密度の多いオーブ、避難の混乱で道は人や車完全に埋め尽くされている。100メートル進むのにも四苦八苦する有様だった。

「はあはあ」

 それでも、何とかたどり着く。そして部屋の前についてチャイムを押した。返事がない。ついでドアをノックする。やはり、返事は無かった。

「もう、避難したのか……」

 なら、後は無事に避難が完了する事を信じるしかない。そう考え、ついで、彼は家へ、両親の元へと足を走らせた。


(後書き)
次回、ついにキラ復活!?・・・・の予定です。



[2025] ガンダムSEEDcross第2部13話
Name: 柿の種
Date: 2005/08/19 02:36
「はあ、はあ、はあ・・」

 人ごみの中を駆け抜けたキラは息をつき、ノブに、アムロから教えられた彼の両親が住むという家のノブに手をかける。両親はもうきっと避難しているだろう。そう思ったが、どうしても一度確認しておきたかった。そして、もう一つの考えが頭をよぎる。

――――――もし、両親がこの中にいたら僕はどんな顔をして会えばいいのだろう・・・

 周囲の人間に拒絶に近い態度を示され、改めて湧き上がった、何故両親は自分をコーディネーターにしたのかという思い、それはまだ消えていなかった。
 しばしの躊躇い、しかし、どうせ両親は中にはいないだろうという考えに後押しされ、ノブを回す。そう、“回ったのだ”。

「!!」

 そして、ドアを引いた。そこにあったのは・・・・・・・・・・

「キラ・・?」

 彼の顔を見て驚く両親の姿だった。

「どう・・・して・・・」

 呆然としてキラは呟く。その言葉に驚いていた表情をした彼の父、ハルマは驚いた表情を笑顔に変えて言った。

「母さんがぎりぎりまでお前を待つって言って聞かなくってな。待っていてよかった」

「どう・・・して・・・・?」

 先ほどと同じ呟き。しかし、意味が違う。先ほどの呟きは何故、避難していないのかという疑問。そして、この呟きは“何故自分を待っていてくれたのか?”という疑問。そして、それを読み取ったように彼の母、カリダは言った。

「どうしてか、あなたが帰ってきてくれる気がしたの。だから待ったわ。あなたは私の愛しい息子だから」

「あっ・・・あっ・・・」

 その言葉にキラは言葉に詰まる。両親に対するわだかまりが消えていく。今まで帰ってこなかった事に対する後悔、罪の意識、そして安堵。全てが弾けて、そしてキラは泣いた。今までの人生で最も強く。そんな彼のもとに二人はよりそしてそっと肩を抱いた、彼が泣き止むまで・・・・・。





「凄い渋滞だな・・・・」

 キラの父、ハルマが呟く。両親との再会、そして和解を果たした後、自家用車に乗ってシェルターへの避難を行なったキラは、同じように避難しようとする人達の渋滞につかまってしまっていた。そして、ほとんど動けないまま既に5時間が経過し、辺りは既に暗くなってきていた。

「このままだと朝になっても動けないかもしれない。そうなると走っていった方がいいか・・・・」

 政府の避難勧告から既に8時間が経過していた。早ければ後20時間後には連合軍の襲撃がある。それを踏まえハルマがそう提案する。今、居る位置からシェルターまではかなりの距離があるが、走っていけば時間内にたどり着けないという距離ではなかった。このまま車に乗っていても恐らくは大丈夫だろうが、確実な方を彼等は選択し、そのまま渋滞に飲まれた後、道を外れ車の中で休息を取る事にした。

「明日はきついぞ。今の内に寝て置くんだ」

 車の中で仮眠をとる。しばらくの沈黙の後、助手席で横になっていたキラが運転席の父の方を見て、口を開いた。

「ねえ、どうして僕をコーディネーターにしたの・・・?」

「!!・・・・何故、そんな事を聞くんだ?」

 キラの言葉に眠りかけていたハルマが目を覚まし答える。後部座席にいたカリダは既に完全に眠っていたようでそのまま声を抑え、二人は話した。

「知りたいんだ。父さん達が何を望んで僕をコーディネーターにしたのかを」

 キラの中にその事に対するわだかまり自体は既に無い。それでも聞居て置きたかった。両親は自分に何を望んだのかを。

「・・・・・・・・」

 しばらく沈黙した後、ハルマは口を開き、そして衝撃的な言葉を放つ。

「キラ・・・・お前は私達の本当の息子ではない」

「!?」

 予想外な言葉に今度はキラが動揺する。ハルマはそんな彼の方を向いて少し辛そうな表情を一瞬見せた。

「お前は母さん、カリダの妹であるヴィアの息子なんだ。彼女の夫、つまりお前の本当の父は遺伝子に関連する研究をしていて、ブルーコスモスの過激派に殺され、彼女とお前も狙われていた。それを逃れる為に私達にお前を預けたのだ」

 今までの人生をある意味根底から覆す父の言葉。しかし、彼のキラを見る目は優しかった。

「だが、そんな事は関係ない。血の繋がりがあろうとなかろうと、母さんが言ったようにお前は私達の愛しい息子だ」

「・・・・・うん」

 父の言葉に・・・・・キラは頷いた。その言葉が本当だと感じられたから。ただ、それに対し、どう答えていいかわからず、ただ、端的な言葉を彼はつむいだ。

「ありがとう話してくれて・・・。おやすみ・・・・・」

 それだけ言って、そして二人は眠りに着いた・・・・。


(後書き)
 大幅に改訂しました。



[2025] ガンダムSEEDcross第2部14話
Name: 柿の種
Date: 2005/08/26 23:21
* 前話を大分改訂しました。前の話では繋がらない所があるので、申し訳ありませんが、それしか読んだことの無い方は、一読よろしくお願いします。


「後、少しだ。父さん、母さん、頑張って!!」

 朝になって、三人は車を捨てシェルターに向かって走り出した。途中小休止を何度か挟みながら2時間程走り続けていた。
 コーディネーターであり若いキラはともかくナチュラルの中年である両親は大きく息を切らす。しかし、その甲斐あって、シェルターまで後少しの所にまで来ている。時間にはまだ6時間以上の余裕があった。

「見えた!! あそこだ!!」

 そしてシェルターにたどり着く。そこで、キラは見覚えのある人影を目にする。

「フィオナさん!?」

 数週間前に知り合った女性、その姿を見てキラは足を速め彼女に近づく。そして近づいてみて彼女の姿が走り続けた両親よりも遥かに濃く疲労し、そしてそれ以上に動揺している事に気付いた。

「ヤマトさん!? エルを、エルをみませんでしたか!?」

 そしてキラの姿を見ると彼女は彼の服にしがみつき詰め寄る。その必死さと言葉からキラは何か大変な事が起きたのだと言う事を悟った。

「エルちゃんがどうかしたんですか!?」

「はぐれて、はぐれてしまって・・・・。もしかしてと思って、ここに来てもいなくて、他のシェルターにも連絡を取ってもらって、それでもいなくて・・・・」

 乱れた言葉を言って、そのままフィオナが泣き崩れる。キラはそれを支えた。

「キラ、その人は?」

 そこで、彼に追いついたカリダが尋ねる。キラは簡単に事情を説明した。

「僕がお世話になった人です・・・。彼女の娘さんが居なくなってしまったって・・・・」

「えっ!?」

驚く両親。彼女等に気付き、フィオナが身なりを正そうとして、しかし、立ち上がれなかった。彼女は娘とはぐれてから、ずっと探し回り、その疲労が噴出してしまったのだ。そんな彼女の姿を見て、キラは決断した。

「僕、探してきます。フィオナさんは父さん達と一緒にシェルターで待っていてください。これから、見つかるかもしれません」

 誰か親切な人がエルを見つけたならそのままどこかのシェルターに彼女を連れて行ってくれる可能性もある。その時、すれ違いならないように、少しでも早く安心できるように、そして何より既に限界を超えているフィオナにこれ以上無理をさせないようにと、キラはフィオナにシェルターで待つようにと言った。

「必ず・・・・必ずみつけますから」

 フィオナの肩に手を置き、そして安心させるように言う。自分でも探しに行こうとし、それでも彼女は立てなかった。搾り出すように声を漏らす。

「お願い・・・・お願いあの子を・・・・・」

涙を流す彼女をそっと支え、それから両親の方を見て言った。

「僕は・・・・・」

 両親は自分を心配し、反対するかもしれないとキラは考えた。例え止められたとしてもいくつもりであったが。しかし、両親はそんな彼の気持ちを汲んでくれた。

「わかった。フィオナさんの方は大丈夫だから。キラも気をつけて」

「その子を見つけたら、直ぐに戻ってくるんだぞ」

「・・・・・・うん」

 そして、キラはシェルターとは別方向に向かって走り出した。





「連合軍は直ぐ近海にまで近づいているか・・・・・。こちらの答えを予測しているようだな」

 アムロが呟く。返答の期限にまで、まだ時間があるにも関わらず、連合軍は侵攻を開始していた。オーブの拒絶の答えを聞き次第、攻撃を開始するつもりだと考えられた。

「あるいは圧力をかけるつもりか・・・・。どちらにしてもこちらの答えは決まっている」

 准将の立場として、アムロは部隊の配備や弾薬の補給ルートなど実戦的な戦略面における責任分野を果たしていた。そして、それとは別に切り札の準備を備える。

「こいつのパイロットは結局決まらなかったか。いざとなれば、俺が乗る事も考えなければな・・・・・・」

 新型のMS“ネオクロスガンダム”しかし、当初の目的であった、飛行可能なMSのプロトタイプとして開発されたそれは、その問題が解消してしまった為、現在はプロジェクト事態が縮小され、未完成のままであった。ただ、それはソフト面の話で、それも8割は完成、ハード面は完全に出来上がっている。この状態でもパイロットとして超1流であり、また、設計者として機体を知り尽くしたアムロならば、活用でき、一騎当千とまではいかないにしても投入のタイミング次第では戦局をある程度左右できる程の性能があった。

「そこまでいかないといいがな・・・・・」

 将自ら出撃するなど、元より愚策。それはあくまで最後の手段であった。今は、確実に勝てる手段を構築する事。それが、彼の役割だった。その時、一人の兵士が部屋に飛び込んできた。

「准将!! 大変です!!」

「!? な、なんだ、いきなり・・・・」

 こちらに対する応答も求めず、部屋に入ってきた男に対し、アムロが面食らう。男は自分の行動に気付き、慌てて謝罪をする。

「も、申し訳ありません。非常事態なもので、つい・・」

「ああ、いい。それで、一体どうしたんだ?」

 頭を上げさせるアムロ。そして男は信じられないような言葉を発した。

「連合が領海に急速接近し、攻撃を仕掛けてきました!!」

 それは、彼等が宣告した48時間の猶予が過ぎる4時間前の奇襲を知らせるものだった。


(後書き)
 大分、間が空いてしまってすいません。オマケに短くて・・・・。



[2025] ガンダムSEEDcross第2部15話
Name: 柿の種
Date: 2005/09/20 03:45
「そんな!! どうして!?」

 エルを探して街を駆け回っていたキラは爆撃の音とあがった爆煙に驚愕の声をあげ、慌てて時計を見る。示された時間は伝えられた開戦の時間よりも4時間も早かった。

「どうすれば・・・」

状況が把握できず焦る。しかし、すぐに足をはやめエルの捜索を再開する。彼女を見捨てる事はできなかった。もはや一刻の猶予もなく、少しでもはやく彼女をみつけなければならない。彼の頭にはそれしかなかった。





「くそっ、どうなってるんだ!!」

 アムロが机を叩きつける。オーブ近海に接近していた連合軍はそのまま攻撃を開始してきたのだ。自らが宣告してきた猶予の時間を警告も無しに切り上げ、奇襲をしかけてくるなど掟破りにも程がある。それは連合は戦争における最低限のルールすら既に守ろうとしていないと言う事だった。しかし、その効果は絶大で只でさえ、実戦経験の少ないオーブ軍は完全に浮き足立っている。加えて開戦時には援軍に駆けつけるはずだった同盟国もまだ、到着していない。

「第9部隊と第11部隊を投入しろ!! 陸戦部隊の援護をさせる!!」

 本来は水中部隊であるM2クロスの部隊に陸戦を行なわせる。今は、防御に専念せねばならず、反撃にでる余裕がなかった。しかし、対処にも関わらず、形勢は向上しない。

「何とか形勢を保ってるのはギナの部隊だけか・・・・・。どうする・・・俺が出撃するか? だが・・・・」

 そうすれば、何とか体勢を立て直す時間だけでも稼げるかもしれない。しかし、浮き足立っているのは現場だけではなかった。予想外の事態に上層部にも混乱があふれている。自分の代理にと用意した男もそれは同じでこの状況で自分が離れれば今度はこちらが状況に対処しきれなくなるかもしれない。

「迷っている時間はないが・・・・・」

 状況は刻一刻と悪化している。決断はすみやかにしなければならなかった。しかし、そこで、思わぬ救いの手が差し伸べられた。彼に声がかけられる。

「まずい状況のようだな」

「!!・・・・ミナか!?」

 それはロンド・ギナ・サハクの姉、ロンド・ミナ・サハクだった。オーブ五大氏族の中で軍事関連を扱うサハクの次期当主でもある彼女は不敵な笑みを浮かべる。

「お前の考えはわかっている。ここは私に任せてもらってお前には現場にでてもらっても構わんが、ここは別のカードをきらせてもらう」

「別のカードだと?」

 ミナの言葉に訝しげな表情を浮かべるアムロ。オーブにそんな余力があるなど彼は知らされていない。

「そろそろ来る筈だ」
 
 そこで、その言葉と共に文字通り部屋に飛び込んできた影があった。

「おい、ちょっと話がある!!」

「!?」

 その影を見てアムロは驚く。それは、ウズミの娘、カガリだった。そして、彼女はアムロに掴みかかるように詰めより叫んだ。

「出撃する!! 許可をくれ!!」

「なっ!?」

 カガリの階級はアムロと同じ准将が与えられていた。しかし、今回の戦闘においてアムロは彼女より高いレベルでの指揮権が与えられている。その為、彼女は出撃の許可を彼に求めに来たのである。しかし、問題はそんな事ではなかった。

「馬鹿を言うな!! お前が出撃した所でどうなる!? そもそもお前は指揮官だろう!? お前にはお前でやる事のある筈だ」

「いや、出撃してもらもう」

 叱責しようとするアムロ、だが、それをとりなしたのはミナだった。その行動に対し、サハク姉弟がアスハ家を侮蔑している事を知っているアムロはまず驚き、次に何か企みがあるのではないかと疑り視線をやる。

「そう、疑うな。今は、オーブを守る為にできる手は全てうたなければならない。それだけのことだ」

 その視線の意味を悟り、答えるミナ。そして、その後にニヤリとした笑みを浮かべて言った。

「それに彼女は“私が鍛えておいた”。戦意高揚の意味も込めて、彼女が戦場にでるのにはそれなりの意味があるさ。それに、彼女にはウズミが用意した特別なMSがある。一機で戦局に影響を与える程のものがな」

「なんだと!?」

 アムロが叫ぶ。“ミナがカガリを鍛えた”、“特別なMSの存在”その両方が信じられない話だった。しかし、驚いているのは彼だけではなかった。

「お父様が用意したMS? それはどういうことだ!?」

後半に関しては彼女も初耳だったらしい。ミナが答える。

「ウズミは機密にMSを製造していたのだよ。それも現行のMSを遥かに越える高性能なものをな。このオーブを守る切り札として。倉庫で埃をかぶせて置くには惜しいものだ。しかし、困った事にそのMSはカガリの専用機として造られていて、別のパイロットが使うには調整にかなりの時間がかかる」

「そんなものを造ったというのか!?」

「お父様が・・・・」

 呆気に取られる二人。そんな二人にミナは更に驚きの発言を発した。

「それと、アメノミハシラの防衛部隊を一部呼び寄せ待機させてある。それも投入するがいい」

「なんだと!? 何故、そんな大事な事を黙っていた!!」

 その重要な事実をアムロはまったく聞かされていなかった。新型のMSの事はまだしも、このような重大な事実を責任者の一人である彼が聞かされていないのは言うまでもなく大きな問題であったが、ミナはその事に対し、実際にはまるで悪びれて無い様子で形だけ謝ると、そのまま話をすすめた。

「それは謝罪しよう。しかし、今は争っている場合ではあるまい。それから、その戦力はあくまで少数に過ぎない。戦局を変える為にはカガリも出た方がよかろう」
 
「くっ・・・・」

 ミナの態度にアムロは歯噛みする。そして、それとは別にカガリを出撃させるかどうか未だ決断しかねていた。そんな彼にミナは耳元に寄せ、カガリに聞こえぬよう小声で囁いた。

「彼女が出撃しないのならお前が出撃するしかならないだろう。だが、そうなればここが崩れかねない。彼女とお前、指揮官として残して置かなくてはならないのはどちらだかわかるだろう?」

「・・・・・わかった。出撃を許可する」

 しばし、沈黙しアムロはそう答えた。


(後書き)
 指揮官として動くアムロ、どうだったでしょう?
 後、最近展開が強引すぎるかなとも思うんですが、読んでいて違和感とかありますでしょうか?よろしければ意見お聞かせください。



[2025] ガンダムSEEDcross第2部16話
Name: 柿の種
Date: 2005/09/22 21:30
「は、激しくなってきた!!」

 戦火は既に目に見えるところまで近づいてきていた。キラの心に焦りが浮かぶ。その時彼の耳に入る声があった。

「この声、もしかしてエルちゃん!?」

 一瞬だけ聞こえた声は砲撃の音にかき消されよく聞こえなくなってしまう。直接見て確かめる為に、キラはそちらに向かって走った。すると、そこに人影を見つけた。それはキラより二つか三つ幼い少年だった。そして、その直ぐ側にはエルの姿もあった。少年はその場に留まり瓦礫に触れて何かをしている。

「エルちゃん!! よかった、無事だったんだ」

 エルの姿を確認し、キラはほっと一息つく。しかし、よく見ると、エルは何やら慌てた様子で、そしてキラの姿を見ると叫んだ。

「おにいちゃん、あのおねえちゃんを助けて!!」

 そう言ってエルは指を指す。その先には少年が動かそうとしている瓦礫の下に足を挟まれた10歳位の少女の姿があったのだ。少年はキラにも気付かず指先を血だらけにしながら必死に瓦礫をどかそうとしているが、瓦礫は全く動かない。

「僕も手伝うよ!!」

キラは少年に手を貸し瓦礫を動かそうとする。少年一人では動かせなかった瓦礫も二人なら何とか動かせ、瓦礫は動き少女の上から覗かれた。しかし、その下から現れた光景にキラは思わず目を逸らしそうになってしまう。

「マ、マユ!!」

 少年が恐らくは妹の名を叫んだ。少女の足は血まみれだった。肉は裂け、骨が飛び出し、かろうじて原型をとどめているといった状態である。そのグロテスクさに吐き気すらしそうになるのを何とか押さえ、以前アークエンジェルに所属していた時、形式的に学んだ応急手当の方法を必死に思い出そうとした。

「と、とりあえず、応急手当をしないと」

 そう言って、キラは自分の服を破り、簡易の包帯を作る。それを巻こうと少女に近づくと少年はそれを跳ね除けた。

「マユに触るな!! くそ!! なんで、父さんと母さんが死んじまって、マユまでこんな目にあわなきゃならないんだ!!」

 少年は激しい興奮状態で何も寄せ付けない状態だった。キラは彼を何とか宥め様と努力する。

「!!・・・でも、手当てしないと・・。このままじゃ、血が・・・・・」

「・・・・あんた、その手の知識があるのかよ」

 キラの言葉を聞いて少しだけ興奮が覚めたのか、少年は不機嫌そうな表情で答える。

「一応・・・・」

「・・・・わかった。手当てしてやってくれ・・・・。頼む」

 少年はキラに頭を下げた。キラは頷くと包帯で足の付け根の部分をきつく結ぶ。そのおかげで完全ではないものの出血が止まる。

「後は、一刻も早く医者に見せないと・・・・」

 応急手当はしたが、既に出血が激しすぎて一刻の猶予もなかった。シェルターには万一を供え、簡単な医療施設が備わっているのでそこまで運べばいい。しかし、ここからフィオナ達がいるシェルターは遠すぎた。

「君達が行こうとしていたシェルターはどの辺にあるの?」

 そこで、彼等もどこかのシェルターを目指していた途中にこのような事故に遭遇したのだと思い少年に尋ねる。それに対し示された場所はキラの知る場所よりは近かったが、それでも遠かった。

「くそっ、どうすれば・・・・・・」

 とにかくそこを目指すしかない。そう思って、少年が妹をおぶり、キラがエルをおぶった時、キラは自分達が今、居る場所に見覚えがある事に気付いた。

「ここは・・・・。僕についてきて!! もっと、近い場所に治療を受けられる場所がある」

 ある場所を目指し走り出す。少年も頷いて彼に続いて行った。





「も、もう駄目!!」

 MS第4小隊のパイロット、アサギが悲鳴をあげる。そして、敵MSの銃口が彼女の乗る機体にむけられた。

「アサギ!!」

 仲間のパイロットであるジュリが声をあげ援護しようとするが間に合わない。しかし、絶対絶命の危機を前に、アサギの前で自分を狙っていたMSが爆散し、続きスピーカーを通して声が響いた。

「大丈夫か!!」

「カ、カガリ様!?」

 同じチームのメンバー、マユラが叫ぶ。そして驚く彼女達の前に一機のMSが姿を見せた。その機体は全身金色という派手な装飾で、前線に立ち彼女達を庇う。

「私が時間を稼ぐ。お前達はその間に体勢を立て直せ」

 そしてその機体からカガリの指示が出された。しかし、それに対しマユラ達は絶望の声を返す。

「でも、もう・・・・・」

 奇襲による劣勢、更には小隊長等、何人かのメンバーが戦死し、残った隊員は既に気力を失いかけていたのだ。しかし、そんな彼女等に対しカガリは一括する。

「諦めるな!! 私達はオーブの守りなんだ!! 私達は絶対に負けちゃいけないんだ」

 そう宣言する間にも一体のMSをビームサーベルで切り裂く。その言葉と姿は隊員たちを鼓舞する。

「そ、そうよ。私達は負けられないんだから」

「カガリ様ばっかにいいかっこさせるわけにはいかないしね」

「みんなの敵をうたなくちゃ」

 そして、カガリに続く。精神論だけで勝てるほど戦場は甘くは無いが、パイロットの技量に関して言えば、オーブは連合に劣らなかった。いや、むしろ配備が早かった分、訓練量では上回り、勝っているといえ、形勢さえ整えば、彼女達には十分に戦える力があった。

「くそっ、なんだいきなり!!」

突如乱入した高性能のMSと隊員の立ち直りに連合のパイロットは威圧され、先ほどまでとは逆に今度は連合の形勢が崩れる。そして、他の部隊にも援軍が到着し、オーブ全軍は如々に形勢を立て直し始めた。



[2025] ガンダムSEEDcross第2部17話
Name: 柿の種
Date: 2005/09/01 05:30
「その場所ってのはまだなのかよ!!」

「もう直ぐだよ。あの角を曲がって・・・・・」

 いらだった声の少年、キラはエルを少年は妹を走り、キラの心当たりという場所へと必死に走っていた。

「マユ、しっかりしろよ!!」

 走りながら少年は声をかける。しかし、返事は無い。完全には止まらぬ出血が少年の背を濡らし、それが危機を知らせる。少女の命はもはや風前の灯火だった。

「ここだ、着いた!!」

 その時、目的地にたどり着く。少年はその場所を見て目を丸くした。

「おい、ここって、確か・・・・・・・」

 その場所はオーブに住むものにとっては比較的知られた場所だった。モルゲンレーテ、オーブ最大の大企業である。

「ここなら、シェルターも、治療もできる場所もある。向こうから入れる筈だ」

 そして、ここまで少年を誘導してきたキラはそのまま入り口の一つへ走る。そして、閉じた門の前にたどり着いた。

「入れるのか?」

「うん、ちょっと待って」

 少年の問いにキラはカードキーを取り出しロックを解除する。それを見て少年は驚いたようだった。

「なんで、そんなものを・・?」

「ここで・・・・アルバイトみたいな事してたんだ」

「へー。っと、そんな、事より、早くマユを手当てできる所に」

「うん」

 キラの答えに一瞬感心したような声を漏らした少年は直ぐに危機感を取り戻り急がせる。そのまま、施設を進み地下の非常用シェルターへとたどり着いた。

「入れてください!! 怪我人がいるんです!!」

「・・・・その声、キラ君!?」

 インターホンを押して呼びかける。そして、返ってきた声はキラの聞き覚えがある声だった。

「エリカさんですか? 早く開けてください。小さい女の子なんですけど、危ないんです!!」

「・・・・・・わかったわ。あなたなら信用できるでしょうし」

 一瞬の沈黙の後、ドアが開く。そして、それと同時に少年が中に飛び込んで叫んだ。

「医者を!! 誰か、治療が出来る人を・・・・・」

 その言葉に答え、何人かが近寄ってきた。

「!!・・・・怪我人はこの子だけか?」

 その中で医者らしき人が少女を見た後、問いかける。キラが頷いた。

「わかった。直ぐに医務室に運ぼう」

「マユ!! マユ!!」

別の人間が持ってきた担架に少女を乗せ医務室へと運ぶ。少女は彼女の側について彼女に着いたが、医務室の入り口で叫ぶ。

「お願いします!!妹を助けてやってください!!」

 少年が叫びをあげ、それと同時に医務室の扉が閉められた。





「あ、はい、エルちゃんは無事です」

 キラはシェルターの通信機を切って、エリカに礼を言う。それは各シェルターを繋ぎ連絡が取れるようにするもので、一般人の使用は通常禁止されているが、エリカに頼み込んで、フィオナと連絡をとってもらったのである。エルの無事を知った彼女は通話先で、嬉し泣きをする程だった。

「彼は・・・・」

 そして、キラは少年に目をやる。彼の妹である少女が運ばれて30分、いまだ医務室は開かない。

「あの・・・・・・」

 何と言っていいのかもわからないままキラは少年に声をかける。少年は壁に座り込み、キラの方を見ないままポツリと答えた。

「さっきは・・・・わるかった・・・・。それから、妹を手当てしてくれて、その・・・ありがとう・・・・」

 返ってきたその言葉の意味を一瞬理解できず、それから先ほどの自分に対する態度の事だと気付いたキラは予想外のリアクションに慌てて否定した。

「あ、ううん、気にしないで。僕だって、同じような状況だったら、僕だってきっと・・・・」

「・・・・。あの子、あんたの妹?」

 キラの言葉に少年は沈黙すると、突然話題を変える。しかし、今度は直ぐに指している内容がわかった。

「ううん。エルちゃんは、僕がお世話になった人の娘さんだよ。そういえば・・・・どうして、一緒にいたの?」

「・・・・・迷子になってたのをみつけて一緒に連れてた」

「だったら、僕の方こそ、お礼を言わなくちゃね」

 そう言って“ありがとう”というキラ。しかし、少年は再び沈黙する。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 両者とも口を閉じ、そしてしばらくの時が過ぎた後、少年が再び口を開いた。

「俺、あの子を・・・・・、エルって子を見捨てようとしたんだ」

「えっ・・・・・」

 少年の言葉にキラは驚き、続く声がでない。少年は静かに語り始めた。

「あの子と会う前、父さんと母さんがミサイルの爆発に巻き込まれて・・・・。それで、俺、マユだけでも守らなくっちゃいけないって思って・・・・。あの子を見つけた時、俺、無視して逃げようと思った・・・・・」

「・・・・・・・・」

 少年の独白にキラは何と言っていいのかわからなかった。

「けど、マユが駄目だって・・・・。それで、俺、助けたんだ。なのに、何で、そんなマユがこんな目にあわなくちゃならないんだ!! 父さんや母さんが死ななきゃならなかったんだ!!」

 少年が大声で叫ぶ。周囲が彼を見るが、彼の妹の怪我の事をほとんどのものは知っているので何も言わなかった。少年は叫び続ける。しかし、その内容はどんどん支離滅裂になっていく。恐らくは、少年自身何を言っているのかわからなくなっているのかもしれない。そして、ひとしきり叫んだ後、大人しくなった後、彼は泣き始めた。

「もし、もし、マユまで・・・・・俺、どうすれば・・・」

「きっと、きっと大丈夫だよ。エリカさんの話ではここの医療施設は整ってるって話しだし・・・・」

 キラはそんな彼をなんとか慰めようとする。その時、医務室のドアが開いた。


(後書き)
キラやシンが難しい!! 流れ的に原作と差異はどうしてもでるんで、多少オリジナルは入るのは予定内なんですが、完全に別人になっては駄目でしょうし・・・・。どうでしょう?らしさがでてるでしょうか?



[2025] ガンダムSEEDcross第2部18話
Name: 柿の種
Date: 2005/09/20 03:46
「マユはどうなったんですか!!」

 医務室からでてきた白衣を着た医者に少年が詰め寄る。それに対し、医者が彼の方を見て尋ねた。

「手術はまだ途中です。ですが、命は助かると思います」

「助かると思いますって・・・・。そんな、いい加減な事言うなよ!! そんな事言ってる暇があったら、ちゃんと・・・ちゃんと助けてやってくれよ!!」

 医者の言葉を聞き、先ほどよりも激しく詰め寄る少年。そして、その目には涙があり、彼は泣きながら医者の襟首をつかんで激しく揺すった。

「お、落ち着いて!! こんな事をしたら・・・」

 そんな少年をキラは必死で取り押さえ、引き剥がす。解放された医者は一息つくと、深刻な表情になって言った。

「お気持ちは最もです。ただ、肉親の方に確認を取っておかなければならない事がありまして・・・。ご両親は?」

「いない・・・・・。父さんも母さんも爆発に巻き込まれて・・・・」

 医者の言葉に両親の事を思い出したのか、消沈し俯く少年。その様子にキラは手を緩め、それを見た医者もまた辛そうな表情になった。

「そうですか・・・。それでは、あの子の家族は君一人ですか?」

「うん・・・・。あいつは、たった一人残った家族なんだ。だから、頼むよ、助けてやってくれよ!! さっきの事謝るからさあ!!」

 懇願するシン。しかし、返ってきた言葉は残酷な現実を伝えていた。

「ええ、勿論です。ですが・・・・妹さんは両足を切断しなければなりません」

「えっ・・・・・」

 その言葉に少年が硬直する。目の前の医者が何を言ったのか彼には一瞬理解できなかった。そして、医者は言葉を続けた。

「こう言った事はあらかじめご家族には伝えて置くのが原則ですので・・・・・・」

「足を・・・足を切るって他に何か方法は無いんですか?」

 縋りつくようにいう少年。しかし、医者は首を振って否定した。

「ここの設備では・・・・・・」

 それだけ言って、医者は医務室に戻る。少年は文句を言う気力すら無く、その場にへたり込んだ。

「そんな・・・・マユはまだ8歳なんだぞ・・・。それなのに、足を切るなんて・・・・」

「あ、あの・・・・・」

 そんな少年にキラは慰めの言葉をかけようとして、しかし、言葉がでなかった。その時だった。酷く慌てた様子のエリカが彼の元に駆け寄ってきた。

「キラ君、ちょっと来てくれないかしら!?」

「えっ、でも・・・・・」

 エリカの呼びかけに少年の方を見てキラは戸惑う。しかし、エリカはそれ以上に必死だった。

「お願い!! あなたの力がどうしても必要なの!」

「・・・・わかりました」

 その勢いと、少年の側から逃げ出したい気持ちもどこかにあって、キラは頷き、その場を離れた。





「第5部隊が突破されただと!? 敵は・・・モルゲンレーテを目指しているのか!!」

 司令部でアムロが叫ぶ。カガリとミナが用意した増援により、オーブは形勢を立て直してきていた。しかし、その抵抗に対し、連合は今までと違う動きを実行し、混乱から覚めたばかりのオーブ軍でその情報が司令部にまで伝わるのに僅かな遅れが生じた。そして、その遅れは致命的なものだったのである。

「占拠しようとするには明らかに時期尚早。っと、なると、目的は占拠ではなく、破壊か。こちらの予想外に強い抵抗に、連合は方針を変えたようだな」

 ミナが状況を分析し、口にする。軍で使用する兵器の半分以上を生産しているモルゲンレーテはオーブの生命線と言っていい。モルゲンレーテが破壊されたのならば、例え今回の攻防を凌いだとしてもオーブは近い内にジリ貧状態になり敗北する事になる。それに対し、連合にとってはモルゲンレーテはできれば確保したいものでしかなく、その主目的はあくまでマスドライバー、そして中立同盟の瓦解にあった。

「応援を急いで回せ!!」

「し、しかし!! 周辺の部隊にはとてもそんな猶予は・・・」

「くっ・・・・。モルゲンレーテが落とされれば終わりなんだぞ!!」

 悪態をつく。しかし、手段がなかった。自分が飛び出しても、他の部隊から救援をだすにしてもかなり遅い。つい先ほどの好転が逆転し、オーブは再び絶望的状況に追い込まれようとしていた。





「ここに、連合が!?」

「ええ、攻撃を仕掛けようとしているわ」

 シェルターの隅、人のいない所で、キラはエリカから連合軍がモルゲンレーテに接近している事実を伝えられていた。

「ええ。それで、貴方にここを守ってもらいたいの」

「僕にって・・・・。他にパイロットはいないんですか!?」

「テストパイロットならいるわ。けど、彼等は戦闘にでれるレベルにまでは達してはいない。十分に訓練されたパイロットを残しておく余裕は今のオーブにはないのよ」

 キラの頭にアークエンジェルでの事が過ぎる。頼まれて戦って、結局拒絶されたという過去、しかし、同時に先ほど見たマユの姿、砂漠でバクゥに潰されたレジスタンスのメンバーの姿が頭を過ぎった。自分が戦わなければ、自分も含めこのシェルターに居る全ての人がそうなるかもしれない。そんな、思いが彼を迷わせた。
 
「あなたが、戦う事を、できればMSに関わる事さえしたくないってのはわかってるわ。けど、お願い、一度だけ力を貸してくれないかしら」

 そう言って頭を下げるエリカ。しかし、キラは迷いを払い決断する事ができないでいた。

「だったら、俺が乗る!!」

 突然、後ろから声がし、キラが驚く。そこには、いつの間にか近寄ってきていた少年の姿があった。そして、少年は意気込んで言った。

「マユは俺が守る!! そして、マユの仇を取ってやるんだ!!」

「あ、あなたは?」

 慌てた態度で少年の方を見て尋ねる。少年は自らの名前を名乗り、ある事実を吐露した。

「シン、シン・アスカ。俺はコーディネーターだ。コーディネーターだったら、始めてでも動かせる場合があるって聞いた事がある」

「そ、それは・・・・・動かすだけならできるかもしれないけど・・・」

 シンの言葉に慌てながら答えを返すエリカ。それは、オーブに流れる噂で、実際、コーディネーターの中に初回からMSの操縦ができたパイロットは存在していた。

「なら!!」

「けど、それはあくまで動かせるというレベルなの。戦闘は不可能よ」

しかし、初回から実戦にでれるレベルのものなどはおらず、噂は大げさに伝わったり、どこからか流れた『キラ・ヤマトという特例』に関する情報と混ざったものに過ぎない。
その事実を知るエリカにしてみれば当然、シンを機体に乗せる気など起きなかった。

「でも、このままだったら、どのみち、みんな死んじゃうんだろ!! だったら、何もしないでいたって同じじゃないか!!」

 拒絶の意思を示すエリカにシンが大声で叫ぶ。その不穏当な内容に周囲の目が集まる。

「ちょ、ちょっとアスカ君」

 エリカはシンの口を閉じさせる。この場でもし、事実が明らかになれば、パニックが起きるのは明らかだった。

「隠したってしょうがないだろ!!」

 しかし、シンはそれを跳ね除けようとする。だが、その時、彼の肩を叩きとめるもの居た。

「君には無理だよ」

 それはキラだった。そして、その目には強い意志が存在した。

「実戦は、そんなに甘いもんじゃない・・・。僕は、ちょっと理由があって戦った事があるんだ・・・。だから、今回は僕が戦う」

 そして紡いだのははっきりとした決意の言葉。戦うという意思。どうしてそれを決意したのかはキラ自身にもわからなかった。シンの無謀な行動を見てそれよりは自分が戦うべきと思ったのか、彼の“守る”という言葉に呼応したのか、それとも他の理由か、ただ一つ言えるのは、何度も拒絶した戦場に自分の意思で戻る事を彼が決意した事。

「僕が必ず守るから。だから、君は妹さんの側に居てあげて」

 そう言って、エリカの方を向く。彼女のキラを見る視線には“いいのか?”という疑問が浮かぶ。キラはそれに力強く頷いた。
(後書き)
キラ、復活。ずっと考えてた見せ場の場面なんですが、自分の文才に絶望・・・・・・・・。

PS.多分、ほとんどの人が正体がわかっていたと思う少年。やっと名前がでました(笑)いや、何か、だすタイミングを逃しちゃってまして。

PS2.作品を一部修正しました。具体的に以下の2点が修正点です。

オーブでのコーディネーターの人口は1割弱。ハーフをあわせると1割を超える位です。

カガリが出撃した時、ミナがアメノミハシラから極秘に移行させていたその場所の防衛部隊を一緒に出撃させています。



[2025] ガンダムSEEDcross第2部18話改訂版
Name: 柿の種
Date: 2005/09/21 16:11
「マユはどうなったんですか!!」

 医務室からでてきた白衣を着た医者に少年が詰め寄る。それに対し、医者が彼の方を見て尋ねた。

「手術はまだ途中です。ですが、命は助かると思います」

「助かると思いますって・・・・。そんな、いい加減な事言うなよ!! そんな事言ってる暇があったら、ちゃんと・・・ちゃんと助けてやってくれよ!!」

 医者の言葉を聞き、先ほどよりも激しく詰め寄る少年。そして、その目には涙があり、彼は泣きながら医者の襟首をつかんで激しく揺すった。

「お、落ち着いて!! こんな事をしたら・・・」

 そんな少年をキラは必死で取り押さえ、引き剥がす。解放された医者は一息つくと、深刻な表情になって言った。

「お気持ちは最もです。ただ、肉親の方に確認を取っておかなければならない事がありまして・・・。ご両親は?」

「いない・・・・・。父さんも母さんも爆発に巻き込まれて・・・・」

 医者の言葉に両親の事を思い出したのか、消沈し俯く少年。その様子にキラは手を緩め、それを見た医者もまた辛そうな表情になった。

「そうですか・・・。それでは、あの子の家族は君一人ですか?」

「うん・・・・。あいつは、たった一人残った家族なんだ。だから、頼むよ、助けてやってくれよ!! さっきの事謝るからさあ!!」

 懇願するシン。しかし、返ってきた言葉は残酷な現実を伝えていた。

「ええ、勿論です。ですが・・・・妹さんは両足を切断しなければなりません」

「えっ・・・・・」

 その言葉に少年が硬直する。目の前の医者が何を言ったのか彼には一瞬理解できなかった。そして、医者は言葉を続けた。

「こう言った事はあらかじめご家族には伝えて置くのが原則ですので・・・・・・」

「足を・・・足を切るって他に何か方法は無いんですか?」

 縋りつくようにいう少年。しかし、医者は首を振って否定した。

「ここの設備では・・・・・・」

 それだけ言って、医者は医務室に戻る。少年は文句を言う気力すら無く、その場にへたり込んだ。

「そんな・・・・マユはまだ8歳なんだぞ・・・。それなのに、足を切るなんて・・・・」

「あ、あの・・・・・」

 そんな少年にキラは慰めの言葉をかけようとして、しかし、言葉がでなかった。その時だった。酷く慌てた様子のエリカが彼の元に駆け寄ってきた。

「キラ君、ちょっと来てくれないかしら!?」

「えっ、でも・・・・・」

 エリカの呼びかけに少年の方を見てキラは戸惑う。しかし、エリカはそれ以上に必死だった。

「お願い!! あなたの力がどうしても必要なの!」

「・・・・わかりました」

 シンの事は気になったが、エリカの真剣な表情から事態の深刻さを悟ったキラは頷き、彼女についていった。





「第5部隊が突破されただと!? 敵は・・・モルゲンレーテを目指しているのか!!」

 司令部でアムロが叫ぶ。カガリとミナが用意した増援により、オーブは形勢を立て直してきていた。しかし、その抵抗に対し、連合は今までと違う動きを実行し、混乱から覚めたばかりのオーブ軍でその情報が司令部にまで伝わるのに僅かな遅れが生じた。そして、その遅れは致命的なものだったのである。

「占拠しようとするには明らかに時期尚早。っと、なると、目的は占拠ではなく、破壊か。こちらの予想外に強い抵抗に、連合は方針を変えたようだな」

 ミナが状況を分析し、口にする。軍で使用する兵器の半分以上を生産しているモルゲンレーテはオーブの生命線と言っていい。モルゲンレーテが破壊されたのならば、例え今回の攻防を凌いだとしてもオーブは近い内にジリ貧状態になり敗北する事になる。それに対し、連合にとってはモルゲンレーテはできれば確保したいものでしかなく、その主目的はあくまでマスドライバー、そして中立同盟の瓦解にあった。

「応援を急いで回せ!!」

「し、しかし!! 周辺の部隊にはとてもそんな猶予は・・・」

「くっ・・・・。モルゲンレーテが落とされれば終わりなんだぞ!!」

 悪態をつく。自分が飛び出しても、他の部隊から救援をだすにしてもかなり遅い。絶望的な事態、しかし、この事態にあって、モルゲンレーテでは今、再び立ち上がろうとしているものがいた。





「ここに、連合が!?」

「ええ、攻撃を仕掛けようとしているわ」

 シェルターの隅、人のいない所で、キラはエリカから連合軍がモルゲンレーテに接近している事実を伝えられていた。

「ええ。それで、貴方にここを守ってもらいたいの・・・・・・・あなたが戦いたく無いって事は知ってるけど・・・」

 躊躇いがちに言うエリカ。しかし、それに対し、キラは一瞬だけ間を置いた後、彼女にとって予想外の答えを返した。

「・・・・わかりました。僕がMSに乗って戦います」

 その答えは躊躇いを感じさせない力強い頷き。その反応にエリカは驚き、思わず問い返した。

「本当にいいの?」

「話の途中から、何となくエリカさんがそう頼むって事は予想していました。それで、考えてみたんです。僕が戦わなかったらどうなるんだろうって。そうしたら、また、あの子みたいに怪我をしたり、もっと酷いことになったりする人がでる・・・・・」

 エリカの問いかけに対し、キラは自分自身の思いを語る。キラの頭に思い浮かんだのは、両足を切断する事になってしまった幼い少女のマユ、その兄のシン、そして、自分の心を救ってくれた、エル、フィオナ、ミラ、両親、ヘリオポリスからの友人達。

「だから、僕が戦います。もう、あんなのは嫌だから。それに・・・・・今の僕には守りたい人達がいますから」

「・・・・・・・」

 最後の一言は力強く、決意の言葉として放つ。その決意に対し、エリカは何か言おうとし、そして出たのは感謝の言葉だった。

「・・・・ありがとう。これしか言えないけど、あなたには本当に感謝するわ」

「いえ、自分で決めたことですから」

 そんな彼女にキラは笑顔で答えた。





 キラとエリカはシェルターから非常用の通路を通って格納庫へと移動する。そこにあったのは、キラにとって見慣れた機体だった。

「ストライク・・・・・。けど、色が・・・・」

 X-105、ストライク。ヘリオポリスを脱出した時からキラが乗り続けた機体である。ただ、一つ違う事にその装甲は真っ赤だった。それについてエリカが説明する。
 
「これは正真正銘あなたが乗っていた機体よ。ただ、PS装甲の屈折率を変化させているの。以前よりもエネルギー効率がよく、それでいて装甲強度は10%アップしているわ」
 
「そうなんですか・・・・」

 その説明にキラは感心し、頷く。その一方でその色の変化は自分の心の変化を表しているようにもキラには感じられた。

「連合は既にオーブ国内に侵入してるわ。周りに被害を出さない為にも装備はソードにしてあるけど・・・」

「ええ、それで、いいです」

 周りの拒絶を感じてから、MSに乗って戦うのは本当に苦痛だった。その前からも、戦う事に躊躇いはあった。しかし、今、彼の心に迷いはなかった。

「設定は前と同じになってる・・・・。これなら、いける」

 自らの意思で戦う事を決意した。それは守りたい人達がいるから。それは、忘れていた思い、新たに生まれた思い。その思いを胸に、彼は戦う事を選んだ。

「キラ君、用意はいい?」

「ええ、いつでもいいです」

エリカの言葉に答える。そして、機体の正面にあった入り口が開いた。

「ストライク・・・・・・行きます!!」

 真紅の機体が今、戦場へと立ち上がる。

(後書き)
18話の改訂版です。まだ、はっきり決めてないので改訂前の方もしばらく残して起きますが、おそらくこちらが正式版になると思います。
この場面で書きたかったのは、ずばり「自らの意思で戦う事を決めるキラ」でずっと前から考えていたシーンでした。しかし、前版ではそこにつながる展開がうまく書けず、そこから延々思考した末にできたのが今回の改訂版でしたが、どうだったでしょうか?正直こっちの方も自分では満足しきれないできなんですが、私の文才ではこれが精一杯のようですOTL



[2025] ガンダムSEEDcross第2部19話(改訂版の続き)
Name: 柿の種
Date: 2005/09/22 22:13
「よし、あの建物を徹底的に破壊するぞ」

 オーブ内陸部に進入した5体のストライクダガー、その中に乗る一人、隊長を務める男が少し先に見えるモルゲンレーテを示して、部下達に指示を出す。その時だった。

「隊長、MSが一機でてきました」

 部下の一人が報告し、他の者もほぼ同時に確認する。モルゲンレーテの敷地内から現れた白地に赤い装甲を持ったMSを。

「たった一機か。こちらを舐めているのか、それとも戦力が無いのか。一機にかたづけるぞ」

「しかし、あのMS、他の機体と少し形が違うようですが・・・・・」

 それを見て息巻く隊長。それに対し、部下の一人がどこか違和感を覚えた。カラーリングが似ているので一瞬オーブ主力機のひとつ、M1アストレイに見えたそれが、形状が少し違う事に気づきその隊員はデータを検索し照合する。そして、驚きの声をあげた。

「!?これは、あの機体はX-105、ストライクです!!」

「何だと!?」

 ストライク、その機体の名と戦果は有名で、一般兵達にも知られていた。彼らの間に緊張が走る。しかし、隊長は直ぐにそれを怒鳴り声で跳ね飛ばした。

「ストライクとは所詮は1機だ!! 例え宇宙の化け物が乗っていたとしても負ける事はない!!」

 そう叫び、部下に指示を出す。彼らは連合の中で優秀な兵士で、並のコーディネーターなら1対1でも互角に戦えるだけの実力を持っていた。そして、隊長の指示によって5体のストライクに銃を向けられた。





「負ける訳にはいかない・・・。負ける訳には・・・・」

 5機のストライクダガーと相対するキラ。彼は言葉を繰り返す。彼の後ろにはエルや今だ手術をしている少女、他にもたくさんの人達がおり、その更に後ろには両親や友人達がいる。

「あの人達を守らないと・・・・・だから、僕は」

 そして、彼の乗るストライクに向けて5機のストライクダガーがビームライフルを向けてくる。

「負ける訳にはいかない!!!!!」

頭の中で何かが弾けるイメージ、同時に神経が研ぎ澄まされたかのように感覚が鋭くなる。ストライクダガーの内、一機が放ったビームライフルを回避し、ストライクダガーの懐にもぐりこむ。

「何!?」

 その機体に乗っていたパイロットが驚愕の声を上げる。そして、それが、そのパイロットの最後の言葉になった。次の瞬間、ストライクの対艦刀によって、彼は機体ごと真っ二つに切り裂かれていた。

「ヴァイン!!」

 他の隊員がその切り裂かれた隊員の名を叫ぶ。しかし、その時にはすでにキラとストライクは次の行動を開始していた。

「うあああああ!!!」

 運動性の低いソード形態とは思えぬ動きで機体を動かし、叫びと共に更に一機を切り裂く。その時になって慌てて反応した一人がストライクを後方から撃とうとする。

「死ねええええ!!!」

 しかし、その隊員は引き金を引く事すらできなかった。振るった刃の反動をそのまま生かし、半回転したストライクがそのまま返す刃でマイダス・メッダーを放つ。その一撃が直撃し、3機目のストライクダガーを破壊した。





「ば、馬鹿な・・・・・」

 驚愕の声をあげる隊長。MS乗りである彼には目の前で起こった事の凄さが理解できていた。驚くべきはその強さ、目の前で一瞬にして部下3機がやられたこともであるが、それ以前の問題として、ストライクの動き自体彼にはとても信じられないものだったのである。MSで高速半回転するなど、ナチュラル用のMSはもちろん、コーディネーター用のものでも常識的には絶対にできない事のはずであった。その絶対にできない筈の事を彼の前でキラはやってみせたのだ。

「ば、化け物め・・・・・」

 驚愕の声、しかし、男はその意地で、ここで退いた時の後に受ける処罰への恐れから撤退を選ばなかった。

「同時に来るのか!?」

 残った2機が左右から同時に攻撃を仕掛ける。それは、見事な連携で、どちらかを迎撃すればどちらかに討たれる。しかたなく、後方に移動して攻撃を回避するキラ。

「くっ!!」

「化け物が!!さっさとくたばれ!!!」

 回避した後に、さらに2機の機体は追撃を仕掛けてくる。しかし、初撃は完璧だったその連撃も2撃目は僅かにずれた。その隙を狙い動作の速かった方の機体のビームサーベルの根元を切り裂き、そのままできたスペースにもぐりこむ。そして対艦刀の柄で殴りつけ、刃を振るうスペースができた所で機体を切り裂いた。

「隊長!!!」

 残った一機のパイロットが叫びながら、ビームサーベルを持って飛び掛る。がっ、今度はビームサーベルを持った腕ごと切り裂かれ、コックピットに対艦刀を突きつけれた。

「降参してください。もう、勝負はつきました」

「何だと!? 貴様、隊長達を殺しておいてよくも、そんな事を!!」

 そこで、キラはその機体に向かって通信を入れ、降伏を申し入れる。その言葉に対し、連合兵は激昂し、その言葉はキラにとっても痛いものであった。しかし、キラはそれでも自分の想いを述べた。

「僕にも守りたいモノがあります。それを守る為に僕は戦いました。あなた達も必死で、手加減なんかできなかった。けど、決着はつきました。これ以上は戦う必要は無い筈です」

「くっ・・・・・」

 キラの訴えかけ、その真剣さは連合兵にも感じ取られた。そして、勝負は既についている。キラがその気なら自分の命が無い事は理解できた。しかし、仲間を殺された恨みと屈辱が先に立ち、素直に降伏を受け入れられず葛藤に陥る。

「あなたにだって、家族や大切な人がいる筈だ。こんな所で死んでどうなるんっていうんです!!」

 そんな彼に更なる説得をするキラ。その言葉に連合兵の頭に、残してきた婚約者の顔がよぎる。この戦争が終わり、無事に帰ったら結婚しようと約束した相手が。

「・・・・・わかった。降伏する」

 そして、連合兵は頭を下げた。





「・・・・わかったわ。あなたにも無理を頼んじゃなったしね。彼の事はこちらがどうにかするわ」

「ありがとうございます」

 連合兵が降伏した後、キラはモルゲンレーテに戻り、連合兵を引き渡した。その事に対し、エリカ達は最初渋い顔を示したが最終的には了承を受ける事ができた。

「それから、僕はこのまま他の人を援護しにいきます」

「えっ!?」

 そして、話が纏まった所で飛び出したキラの爆弾発言にエリカが驚きの声をあげる。あまりの事に、彼女は一瞬、場にそぐわない冗談かと疑うがキラの目は真剣そのものであることに気づく。

「オーブを守りたいんです。だから、戦わせてください」

 そして、そう自分の決意を述べる。それに対し、エリカはしばらく黙った後、答えた。

「勝手に行動すれば、問題になるし、かえって邪魔になってしまうかもしれないわ。一度、軍に連絡を取ってもらうからそのまま少し待ってちょうだい」

 そう言って、エリカがその場から立ち去る。キラはストライクに搭乗した状態で彼女をまった。待たされている間、今、現在続く戦闘に失われている人達の事を思いキラの胸に苛立ちが募った。そして、数分後、彼女からの通信が入った。

「許可が取れたわ。あなたはこの近くの部隊、具体的にはこの位置の部隊を援護するように指示をうけたわ」

「わかりました。それじゃあ、直ぐに」

「待って! その前に装備を換装した方がいいわ!!」

 了承の答えを聞いて、直ぐに出ようとするキラをエリカが引き止める。そして、その場に見た事のないストライカーパックが運ばれてきた。

「それは?」

「IWSP、3つのストライカーパックの長所を組み合わせた新型装備よ。パワー不足と操作難易度の高さから今まで使用されてこなかったけど、あなたとその改良したストライクなら扱えるわ」

 キラの疑問にエリカが答える。そして、ISWPパックがストライクに装備された。

「その機体なら遠近両用の戦闘は元より飛行もできるわ」

「わかりました。どうも、ありがとうございます!」

 キラは礼をいい、空に飛び立った。

(後書き)
前半、キラがあまりに強すぎて悪役のようですね・・・・・。後、話がちょっと中途半端なとこで切れててすいません。



[2025] ガンダムSEEDcross第2部20話
Name: 柿の種
Date: 2005/09/23 02:31
「くそっ!! くそっ!! くそっ!!」

 オーブ西海岸を防衛する部隊の隊員が叫ぶ。部隊はモルゲンレーテへの攻撃の為に一点に集中させられた連合軍によって既に壊滅状態となっていた。戦車部隊、砲撃部隊はほぼ全滅し、残るは第5MS小隊の数名のみだった。

「このままでは、オーブが!!」

 しかし、それでも彼らは戦い続けた。戦力差を考えればこれまで持ちこたえた事すら十分過ぎるほどに奮闘したと言えるだろう。それは、国や家族を守ろうとする彼らの思いがその力をひきだしていたからかもしれない。しかし、思いだけでは超えられない限界が訪れていた。

「これまでか・・・・。後はオーブの勝利を祈るしかないな・・・・」

 機体のエネルギーが尽きる。停止した機体の中で彼は覚悟を決めた。しかし、その彼の目の前で連合のMSが爆発する。

「一体何が!?」

 驚愕の声を上げるその男の下に味方回線で通信が入る。

『下がって!! ここは僕がどうにかします!!』

 そして、目の前に一機の機体が奇跡が舞い降りたのだった。





「何だと!?」

 連合の指揮官が叫ぶ。部下から寄せられたその通信は信じられないものだった。

「はい!! たった一機の機体に7機、いえ、たった今、8機目のMSが!!」

「馬鹿な!?」

 信じられない内容に思わず叫ぶ将校。戦場に現れたその機体、キラの乗るストライクはまさに鬼神の如き戦い振りをみせた。2本の実体剣で切り裂き、レールガンで打ち貫く。
 そして、彼が戦場に現れてから15分後、30機余りのストライクダガーが全て破壊された事が伝えられた。





「はあはあはあ・・・・・」

 激しい戦闘を終え、キラが息をつく。その場にあったのはキラのストライクと戦場に残り戦い続けた1
体のM1クロスだった。

「あっ・・・もうエネルギーが」
 
 そこで、PS装甲がダウンし、エネルギーが残り少ない事に気づく。また、機体も無傷という訳ではなく、あちこちに損傷がみられた。

「一度戻らないと・・・・・」

 そう思い、それを伝える為にM1クロスのパイロットに通信を入れた。

「あの、すいません。一旦、モルゲンレーテに戻って、補給を受けてこようと思うんですが、お二人は大丈夫ですか?」

「えっ・・・ああ・・・」

 その通信に対し、目の前でキラの戦いぶりを見せられた隊員は半ば呆然としながら答える。キラが現れ、他の隊員は全て退いたが、比較的戦力を残していた彼は一人残って共に戦ったのだ。とはいえ、実際にはどれほどの事をしたという感触も彼には無かった。キラの強さはあまりに圧倒的で、彼の介入する余地などほとんどなかったのである。

「・・・そうだな。他の部隊を援護するにもこちらの機体ももう限界だ。頼めるならよろしくお願いしたい」

「はい、わかりました」

 隊員は頭を振り払い答えを返す。そして、移動しようとしながら気になっていた事を尋ねた。

「ところで君は声からして随分と若いようだが・・・・」

 突如現れ、援護するとだけ伝えてきた機体。味方の識別信号を出していたことと藁にもすがりたい程追い詰められた状態であった事からそれを受け入れた彼らだったが、とりあえずの戦闘が終わりそのキラの声に対する違和感に気づいたのだった。

「ええ、僕は16ですけど」

「16!?」

 若いとは感じていたがまさか16とは思わず、声をあげる隊員。そして、ある事に思い当たる。

「っと、すると、君はもしかしてコーディネーターか?」

「・・・ええ、そうです」

 隊員の問いかけに対し、キラは正直に答えた。しかし、それに対しての彼のリアクションは予想していたものとは違った。

「本当に凄いんだな、君達は。いや、君はというべきかな」

 隊員はただ、感心したというような様子だった。

「・・・・・あまり、驚いたりしないんですね」

「拒絶されたりでもするとでも思ったか? 確かにそういう奴もいる。だが、この国にいれば、嫌でも会う機会がある相手だ。いちいち気にしてやいられないさ。それに、軍での仲間にも一人いたしな」

「そうなんですか。その人はどんな人なんですか?」

 隊員のその言葉にキラは嬉しそうな表情をし、そしてその知り合いのコーディネーターという人に興味を覚えた。しかし、その返ってきた言葉にショックを受ける。
 
「いい奴だったよ。けど、コーディネーターの中ではできの悪い方だったらしく、俺よりも弱くてな。さっきの戦いで死んじまった」

「!!」

「もしかして戦友を失う戦いはまだしたことがないか? 俺は、前北大西洋の軍隊にいてそこでも戦友を失った。その後、色々と嫌なことがあってこっちに来て、この国が好きになってこの国を守る為に軍に入った」

 自分より弱く、しかし、自分よりも重みのある人生を送ってきた男の言葉をキラは静かに聞いた。

「お前がどういう立場なのかは知らんが覚えておけ。戦い続けるってのは、大切なものを守る為に、別の大切なものを失う覚悟をしなきゃならないって事だってな」

「はい」

 キラは首を振ってうなずいた。そのまま無言でモルゲンレーテへの道をいく。しかし、その時、レーダーに反応するものがあった。

「!! 敵の増援か!?」

 キラが戦闘体勢を取ろうとする。しかし、それを隊員が押しとどめた。

「待て!! お前はモルゲンレーテに行って補給を受けろ!!」

「なっ、そんな無茶です!!」

 驚愕するキラ。隊員の腕前はナチュラルとしてはなかなかのものだったが、複数の敵を相手に勝てるほどではない。ましてや、彼の機体も既に限界である事が傍目からみてもわかった。

「だろうな。けど、どっちにしろ、機体のエネルギーはお互い僅かなんだ。お前が残った所で死ぬのは同じだ。だったら、どっちが生き残るべきか何て考えるまでもないだろう?」

「けど、そんな考え方・・・・」

「言っただろ、戦い続けるってのはそういうことだって。まあ、お前が来る前に援軍を頼んであるから、それがそろそろ来てくれるかもしれん。運がよければ助かるさ」

 そう言って、彼は機体を振り向かせ戦場へ走らせる。追いかけようとし、そして逆方向を向いた。彼の思いを無駄にしてはいけないと思ったから。

(後書き)
設定としてオーブのMSは全部で12の小隊に分かれていて、1小隊当たり10数名で地形適応等により、各部隊に配備されているという設定です。この設定に関し、明らかにおかしいところなどあれば指摘よろしくお願いします。



[2025] ガンダムSEEDcross第2部21話
Name: 柿の種
Date: 2005/09/24 03:34
「心は決まりましたか? アスラン」

「・・・あなたの言いたい事もわかります。確かに最近の父のやり方には目に余るところがあるかもしれません。しかし、俺は父を切り捨てるような事はできればしたくない・・・」

 場所はプラント、ラクスから協力を持ちかけられて数日後、アスランの気持ちはラクスの言う事に傾きながらも最後の一線を踏み出さないでいた。そんな、彼に彼女は笑顔で語りかける。

「ならば、お父上も救えばいいではないですか?」

「そんな事は理想だ!!」

 プラントも地球も、そして父も救う、そんな事ができる筈もない。そう思い、アスランは思わず叫ぶ。しかし、ラクスは自信を持った表情で答えた。

「大丈夫です。あなたには理想を適える力があります。あなたは、“SEEDを持つもの”ですから」

「“SEEDを持つもの”? それは一体・・・・」

ラクスの言った聞きなれない言葉に対し、アスランが問いかける。ラクスは頷き答えた。

「“SEEDを持つもの”、それは未来を作る存在。後天的な進化の可能性を持った存在です。人は遺伝子に支配される所がある。どんなに努力をしようと超えられない壁、それが、ナチュラルとコーディネーター、そして人と人とが争う根源にあるものなのでしょう。しかし、“SEEDを持つもの”はそれを超えられるのです。魚が陸に憧れ、足を生やしたように。蛙が空に憧れ羽を生やしたように、生物の臨む力は進化を促します。人の憧れの力を形にし、遺伝子の一部さえ変質させて才能の限界を伸ばす事ができる存在、それが“SEEDを持つもの”なのです」

「まさか、そんなものが・・・・・」

 ラクスの話を聞き、アスランは呆然とする。あまりに、空想じみた話に彼はそれを信じる事ができなかった。そんな存在が本当にいるのだとしたら、それはまさしくコーディネーターをも超えた“新人類”と呼べる存在と言えるだろう。そして、ラクスは彼もまたその存在だと言っているのだ。

「信じられませんか? しかし、これは本当の事です。人類はやがて全てが“SEEDを持つもの”になり、そうすれば、人と人とが争う事もなくなるでしょう。ですが、今、互いに滅ぼしあってしまえば、その時は永遠にこない。私たちは何としても争いを止めなければならないのです」

「・・・・・・わかりました」

 ラクスの言葉にアスランは頷いた。信じられない言葉であったが、それでも何故かラクスから聞かされるとそれが真実であるかのように感じられたのだ。そして、そのような理想が体現できるというのなら、それこそが自分の役目であるかのように感じられた。

「もし、父が暴走したなら、そして止められなかったのなら、その時は例え力を持ってしてもとめます」

 そして、決意を言葉を述べ、それに内心のみで“それがキラを、親友を討ってしまった俺の償いだ”と付け加えた。彼は未だ、キラの生存を知らなかった。





「まっ、俺にしてはよくやったよな・・・・」

 隊員がポツリと呟きながら前をみる。物陰から奇襲をし、ストライクダガーを一機破壊し、即逃亡。敵をひきつけ時間を稼いだ。しかし、機体の足を破壊され、どこか壊れたのかコックピットも開かない。おそらくは、こちらを確実にしとめるために近づいてきている機体によって自分は止めを刺されるだろう事を隊員は覚悟していた。

「まあ、数分時間稼いだしな。後は増援とあの小僧にまかせりゃいっか」

 そういえばっと、そこで、彼はキラの名前すら聞いてなかった事に気づく。

「聞いときゃよかったかな。まっ、いっか、聞いたらこっちも名乗らにゃいかんしな。ガキに死んだ奴の名前なんか背負わせるのもなんだ」

 そうして、目の前に死が迫った時、彼にとって本日2度目の奇跡が舞い降りた。

「!?」

 目の前のMSが艦隊が、敵戦力が次々と爆発していく。そして、空に舞うものに気づいた。

「なんだありゃ、連合のガンパレルか!?」

 それはガンパレルに似ているが違うものだった。漏斗のような形をしていて、撃っているのは実弾ではなく、ビーム。そして、配線が存在しない。その兵器はまるで生きているかのように動き、連合の兵器を次々と破壊していく。
 そして彼は空の方向にセンサーをやった。そこには、それらを操っていると思われる存在があった。それは白いMS、異世界においてνガンダムと呼ばれた、アンノウン・ゼロの真なる姿だった。

(後書き)
“SEEDを持つもの”の設定かってにつくっちゃいました。何か運命の方でシンが種割れして以降通常時でも明らかに強くなってたりするあたりから思いついた設定です。



[2025] ガンダムSEEDcross第2部22話
Name: 柿の種
Date: 2005/11/14 22:47
「酷い・・・・・」

 破壊されたオーブの街を見てユズハが呟く。幼い頃の記憶にある美しい街並み。それが無残にも破壊された姿を彼女は目撃した」

「っつ!!」

そして、彼女は唇をかみ締め、改めて覚悟を決めた。オーブを守る為に戦う事を。





「急がないと!!」

改良され、完全に飛行可能となったエールパックに換装したストライクに乗ってキラは急ぐ。間に合わない、自分自身でもそれを理解しつつもあの共に戦った兵士のもとに少しでも早く駆けつけるため。

「あれは!?」

 そして、そこでキラは空に舞う白いMS―――νガンダムの姿を目撃する。その圧倒的性能、そして技量を。

「味方・・・なのか?」

 連合兵を攻撃しているし、識別信号もそれを示していた。しかし、敵だとしたら、それは今までで最強の相手である。その事実にキラは息を飲む。

「そ、そうだ、それよりも・・・・・」

 先ほどのオーブ兵を探す。すると後方に撤退しようとしているM1クロスの姿を見つけた。

「無事ですか!?」

『んっ、さっきの小僧か? ああ、何とかな。あいつのおかげで助かった』

回線をあわせ、通信を入れる。それは運良くつながり、そこから先ほどの兵士の声が返ってきた。それにほっとすると共にνガンダムの事を尋ねる。

「よかった・・・。それで、あの機体は何なんですか?」

『さあな。一応、味方の識別信号がでてるが、これはオーブ正規軍のものじゃねえ。まあ、他のところじゃあ、アスハのお姫様が新型機体に乗って出撃したって話だから、あれも何かの秘密兵器あたりなのかもしれないな』

「アスハのお姫様・・?」

 秘密兵器という推論にもいまいちしっくり来なかったが、これ以上は彼も知らないと追及をやめる。代りに別の引っかかった所に対し問いかけた。

『ああ、何か、アスハ元代表の娘が戦場にでてるって話だな。確か・・・・カガリとか言ったか?』

「カガリ!?」
 
 兵士から飛び出したその聞き覚えのある声にキラは思わず声をあげる。その反応に兵士は驚く。

『な、何だ、どうした!?』

「い、いえ、なんでも」
 
 ヘリオポリス、そしてアークエンジェルで一緒だった少女の顔を思い浮かべながら、まさか同一人物ではないだろうと考える。しかし、普通ならいる筈のなさそうな、MSの製造工場に居た事や、スカイグラスパーに乗って戦う彼女=戦場で暴れるお姫様のイメージが微妙に結びつくようなつかないような気がして否定し切れなかった。

「それよりも、戦場で何時までも話してる余裕も無いぞ。あの機体確かに凄いが一機だけじゃ幾らなんでも苦しいだろう。味方って確証がある訳じゃないが、まあ、彼女のおかげで俺もオーブも助かってるからな。手伝ってやってくれないか?」

「あっ、はい、わかりました。えっと・・・・あの、あなたは・・・・」

「とりあえず、一回モルゲンレーテに行って別の機体でも貸してもらえないか頼んでみるさ。上手く行ったら直ぐ戻ってくる。だから、それまで死ぬなよ。まっ、お前より遥かに弱い俺が言える事じゃないがな」

「いえっ、そんな事・・・。じゃあ、行ってきます」

 おどけたように言う兵士にキラは慌てて否定する。そして、互いに再び機体を動かした。キラは戦場へと、兵士はモルゲンレーテへと。





「あの機体、ストライク!? 強い!!」

 独り戦場で戦い続けていたユズハ。そんな時、戦場に一機のMSが加わり、そして連合のMSを破壊し始めた。そして、その操縦技術の高さと、そのMSが見慣れた機体であった事にユズハは二重に驚いた。

「色が違うけど、あれは確かにストライク・・・・誰が乗ってるの?」

 そこでユズハはファンネルを自分の周囲に集中して至近の敵を一掃する。そして、ストライクに向かって通信を入れた。

「貴方は!?」

『えっ、その声ユズハ!?』

「キ、キラ君!?」

 ストライクから返ってきた声はキラだった。予想外の相手にお互いが驚く。そして、同時にその強さに納得した。

「一体どうしてここに・・・・・」

『君こそ・・・・』

 そこで、ストライクダガーがνガンダムに攻撃を仕掛ける。会話を一時中断し、それを回避したユズハはそのまま反撃のビームライフルでその機体を撃ち落した。

「話は後にしよう!!」

『わかった!! まずは、こいつらを・・・・』

「ええ、まずは戦いを終えましょう!!」

 そして両機はそれぞれ反対方向に展開する。次々と落とされていく連合の勢力。そして、そこに更なる戦力が加わった。





「くそっ!! なんだ、こいつらは!! オーブの奴等は化け物か!!」

 驚愕の声を上げる指揮官、その彼の乗る旗艦にユズハ達のいる方向とは別の方向から攻撃が加えられた。

「何だ!? 何が起こった!!」

「オーブの援軍です!!」

 それはモルゲンレーテ防衛の為に他の部隊から寄せられた増援だった。νガンダムとストライクだけでも苦戦していた所にこの増援は致命的であったが、そんな彼等に更なる災厄が訪れた。

「か、艦長!! 本隊より、赤道連合による増援が到着。こちらに対し、攻撃を仕掛けてきたと!!」

「何だと!!」

 思わず大声を張り上げる旗艦の艦長。これは、彼等のみならず、連合軍全体にとって、致命的な事態だった。カガリの登場による戦意高揚などにより体勢を立て直していたオーブ軍は連合に対し、五分に渡り合っていた。そこにきて、大規模な増援。この時点で本隊ではある決断が下された。





「ここまでですね」

「し、しかし、奇襲までかけてここで敗北したとあっては・・・・」

 ブルーコスモス盟主、そして軍需産業の主アズラエルがそう告げる。それに対し反論を述べようとする“本来の”そして“名目上の”指揮官をアズラエルは切り捨てる。

「ええ、私もまさかそこまでしてオーブを落とせない程あなたがたが無能だとは思っていませんでしたよ。しかし、現実に作戦は上手くいかず、これ以上続けても敗北しかないってのは素人の僕にでもわかる」

「くっ!!」

 歯噛みする指揮官。それに対しアズラエルは彼をおちょくるように軽い口調で語る。

「まあ、オーブ軍が予想以上に手強かった事は認めますがね。それに、化け物のような奴も何体かいるようだ。ならば、こちらも化け物を連れて出直すとしましょう」

「ま、まさか、あの例の!?」

 アズラエルの言葉に指揮官は声をあげる。彼にはアズラエルの言葉に心当たりがあった。

「ええっ、ブーステッドマンと、後、あの廃棄品達にも最後に働いてもらおうかと思います」

「そ、そこまでせずとも」

「そこまでしないとあなた達は勝てないから言ってるんでしょう?」

 侮蔑するように指揮官を見下すアズラエル。それを受けて指揮官は悔しそうに俯いた。

「あっ、そうそう・・・・・」

 そこでアズラエルはいいアイディアでも思い浮かんだというようにポンと手を叩く。そして、いやらしい笑みを浮かべて言った。

「あのユーラシアに逃げ込んだ連合の“元エース”、『エンデュミオンの鷹』にも働いてもらいましょうかね」

 そして、連合は撤退し、オーブはまず、第1戦を勝利した。


(後書き)
何か久々に自分では満足できる内容の話が書けました(^_^)
後は読者様の評価がこれと一致してくれるのを祈るばかりです。



[2025] ガンダムSEEDcross第2部23話
Name: 柿の種
Date: 2005/10/01 19:33
パシッ

 アムロがユズハの頬を叩く。そして、複雑な表情をして彼女を見据えて言った。

「まったく、お前はどこまで勝手な事をすれば気が済むんだ」

「けど・・・、私はどうしてもフレイを見捨てられなかった!!」

 アムロに叫び返すユズハ。その娘を見てアムロは溜息をついて言う。

「だが、自分のやった事が一歩間違えればどれだけの悲劇を生んでいたかもしれないって事は理解しているんだろう?」

「それは・・・・。けど、それも全部覚悟、理解して、それでも選んだ事だもの」

 アムロの言葉に一瞬押し黙り、それでもアムロを見返して言うユズハ。シズクからユズハには正体がばれた時は自爆する覚悟を持ってアラスカに行った事は聞いている。その話を聞いた時、アムロはシズクをなじり、初めて彼女に手をあげたりもした。しかし、そんな彼に対し、シズクは言ったのである。


『私やあの子は選んだ事は正しくなかったかもしれない。けど、あなたが選んだ方法だって正しかったとは限らないでしょう?』


 何が正しいのかは誰にもわからない。だから、娘には自分が正しいと思った事をして欲しい、そう彼女は自分の夫に対してそう言ったのだ。自分自身で正しいと思った選択をすること。それは、人が生きていく上で出来なければならない事である。

「そうか・・・。だが、望む、望まないに関わらずお前という存在が与える影響は小さくない。お前の選択が他者を巻き込むことがある。それを忘れるな」

 妻の言葉に対し、アムロはその場で更なる激昂をした。しかし、それから悩みそして受け入れた。妻と娘の行動を。その上で彼は今、娘に対し釘を刺した。自分で道を選ぶのは大切な事だが、行き過ぎればそれは只の我儘になってしまうからである。

「うん、・・・・わかった」

 その父の言葉に今度はユズハも素直に頷く。そして、そこでアムロは娘に対し、最初の選択を与えた。

「それを踏まえた上で聞くが、これからお前はどうする?」

「どうするって?」

「MSに乗って戦うかと言う事だ。今回は緊急時って事で俺の方にどうにかできるが、これからとなるとそういう訳にはいかない。戦い続けるつもりなら軍に入らなければならない」

「それは・・・・」

 アムロの言葉に迷いを示すユズハ。別にユズハは戦う事が好きな訳では無いし、軍に入りたいと思っている訳でもない。アークエンジェルに残ると決めた時もフレイの為だった。しかし、オーブを守る為に、その為に戦いたいという思いもある。迷いの結果、そして彼女は決断し、答えた。

「お願い、私を軍に入れて」

 ユズハの言葉を聞き、アムロは諦めたというように溜息をついて答えた。

「わかった、手続きは俺の方でしておこう。ああ、それから、キラ君も軍に入る事を希望している」

「キラ君が!?」

 ユズハは驚く。戦闘の後、状況がいろいろとごたごたし、結局ユズハはキラと話をする事が出来ずにいた。その為、彼が先の戦闘で何故戦ったのかも彼女は知らなかったが、軍に入ってまで戦い続ける選択をするというのは、彼女の中の彼のイメージからすればかなり意外な事だった。

「ああ、今の前の戦いでは、彼はモルゲンレーテとそこにいる人達を守る為に、臨時で戦ったんだが、今後もオーブの両親や友達を守る為に戦いたいんだそうだ。彼が自分から希望してきたよ」

 アムロの説明に、ユズハはキラもまた、変わったのだという事を感じた。

「一応、今の予定ではお前は彼と一緒に俺の直属の新規部隊に配属される事になると思う」

 そして、そこで話を変え、アムロは軍に入った後のユズハの扱いに対し説明を始めた。それに対し、ユズハが疑問を挟む。

「新規の部隊?」

「お前達の今の実力では並のパイロットではついてこれそうにない。実力差のありすぎるもの同士をくませてもお互い足をひっぱる可能性があるからな。新造された機体のテストを兼ねた特殊部隊という事になっている」

「新造された機体・・・・・。あのνガンダムの事?」

 圧倒的な性能を持った核融合MS、新造された機体はその事かとユズハは予想する。しかし、アムロはそれを否定した。

「いや、お前には別の機体に乗ってもらう事になる。っと、その辺の話はまた、今度にして今日は家に帰ろう。シズクもお前に会いたがってるしな」

「うん、わかった」





 戦闘が終わった後、マユは内陸部の大きな病院へと運ばれていた。そして、そこで、シンはずっと彼女に付き添っていた。

「まだ、目を覚まさないのね・・・。貴方も少し寝た方が・・・」

 マユは手術の後、ずっと意識を取り戻さないでいた。そんな彼女とそれに付き添うシンを心配して看護士の女性が声をかける。しかし、シンは首を振った。

「いえ、いいんです。妹が目を覚ました時、側についていてやりたいんです」

「そう・・・・。それじゃあ、私はもう行くけど」

「はい・・・・」

 看護士が立ち去り、病室は彼と妹の二人だけになる。そして、シンは妹の手を強く握り彼女の名を呼んだ。

「マユ・・・・目をさましてくれよ・・・・」

「おにい・・・ちゃん?」

「マユ・・・? マユ!!」

 その時、今まで反応が無かった彼女がシンの呼び声に対し始めて反応を示した。そして、目を開ける。そして、瞳孔の定まらぬ視線で呟くように言葉を並べた。
 
「お父さんとお母さんが死んじゃって・・・・・女の子に会って・・・大きな瓦礫が落ちてきて・・・・あれからどうなったの?」

「ここは・・・病院だ。戦いは・・・とりあえず終わった」

 そんな彼女にシンはやさしく語りかける。その時になって、始めて彼女の視線に光が戻り、ほっとしたようになった。

「そっか・・・・助かったんだね」

 だが、同時に意識がはっきりした事で彼女は自分の違和感に気付いてしまった。それが何であるかはわからないが何かがおかしい、そんな違和感を確かめようと彼女は体を起こそうとしてバランスを崩してベットから転げ落ちそうになった。

「マユ!!」

 それをシンは慌てて支える。その時、彼女にかけられた布団がずり落ちた。そして、彼女は見てしまった自分の腿から先が何もないのを。

「えっ?」

 彼女は最初何が起こったのか理解できなかったようだった。そして、理解する、自分の足が無くなっている事を。

「何で・・? マユの・・・マユの足が!!」

 狂乱を起こすマユ。そんな彼女をシンは必死で抱きとどめた。彼の腕の中で泣き喚くマユ。

「お兄ちゃん、マユの足が!!足が!!」

 シンは唇から血がでるほどかみ締める。全てが憎かった。両親とマユを奪った連合も、そしてオーブも。オーブが他の国と同盟などを結んだから連合が攻めてきたのだと思えた。

(くそっ!! くそっ!! くそおおおおおおおおおお!!!!!!!!!)

 彼は声に出さず、ただ心の中で叫びをあげた。



[2025] ガンダムSEEDcross第2部24話
Name: 柿の種
Date: 2005/10/04 00:54
「これより、君達は正式にオーブ軍の一員となる。これは階級章だ。当然であるが絶対に無くさないように」

 軍に入隊を希望したその次の日、ユズハとキラは正式に入隊の手続きを終え、オーブ軍ニ尉となった。オーブではMSのパイロットで指揮官クラス以外は基本的に准尉、または三尉待遇となる。しかし、彼等の場合新型のテストパイロットと言う事、また、連合での戦闘経験、技量、その他を考慮にいれて通常よりも一段高い階級が与えられていた。

「お前にはこの機体に乗ってもらう」

 そして、ユズハは自分の乗機となる新型MSを父親であり、今日からは上官ともなるアムロより見せられた。

「これは・・・・・・」

 目の前にある機体、それはνガンダムにもその前に彼女の乗機だったクロスガンダムとも似ていた。

「ネオクロスガンダム、核融合エンジンを搭載した量産タイプを前提とした先行試作機となるMSだ。基本的な装備はνガンダムと変わらないが、クロスガンダムの直列の後継機として、ビームサーベルではなく、ビームブレードが装備されている」

 νガンダム、そこで、ふとユズハは思い出す。あの機体はアムロの私物だと、シズクはそう言った個人で所有するにしてはあまりに強大なそれに彼女は疑問を挟む。

「ねえ、お父さん、νガンダムって一体何なの? どうして、あんなMSが・・・・」

「クサナギニ尉」

 しかし、アムロはその問いを厳しい口調で遮断する。そしてキツイ視線でユズハを見て説教する。

「ここでは、親子ではなく、上司と部下として当たれ。軍に入った以上、甘えは許されない。公私混同は組織にとってもっとも避けなければならないことだ」

「ご、ごめ・・・い、いえ、すいませんでした」

 慌てて頭を下げるユズハ。彼女はアムロの言葉に軽いショックを受け、そして自分の甘さを理解した。その隣で、キラは何か言いたそうにして黙る。反省する彼女を、アムロはそのままにらみつけたまま続けた。

「それで、さっきの質問だが、あれは軍にも許可をとってあるもので、俺にとってプライベートな内容に当たる。したがって、上官と部下が話すことではない」

「は、はい・・・・・」

 その答えに頷くユズハ。頭ではわかっていてもやはりこういう他人のようなやり取りを父親からされるのはまだ16歳になったばかりの彼女にとっては多少堪えるものがあったが、それを隠して毅然とした態度を取ろうとする。その姿を見てアムロは僅かに相好を崩して付け加えるように言った。

「だから、それについては家族としての時間である時に教えることにしよう」

「えっ・・・」

 ポツリと言ったその言葉にユズハは嬉しそうにする。それを見てキラが彼女に耳打ちをした。

「よかったね」

「うん」

 囁き会う二人を見て、その内容を察しアムロが顔を少し赤くする。そして咳払いをして言った。

「それで、ヤマトニ尉の機体だが・・・。君が以前乗っていたストライクをベースに新型の装備を試してもらうことになる」

「新型の装備って言うと・・・・この前使ったIWSPパックって奴ですか?」

「ああ、それもあるが他にライトニングパックと言う新装備があるそうだ。それと従来のストライカーパックもすすめるらしい」

「どうしてそんなに色々と・・?」

 答えを聞いて新たに浮かんだ疑問について問いかける。アムロは頷き答えた。

「現在、ストライカーパックを装備できる量産タイプのMSの開発が計画されている。その為に、出来る限り多くのデータが欲しいらしい」

「量産タイプ・・・・」

 その言葉をキラは複雑そうに呟く。戦う事は覚悟したが、そういう話を聞くと戦争はまだまだ続くのだと感じてしまいどうしても暗い気分になるのは避けられなかった。

「君は自分のやるべき事、出来る事をやればいい」

 そんなキラに対し、アムロはその気持ちを読んだかのようにそう言った。その言葉にキラは驚くが納得しきれないようで反論しようとする。

「でも、僕も戦う以外に何かしなくちゃって・・・・」

「自惚れるな!・・・君の気持ちはわかるし、何かをその思いは大切だ。だが、それは、政治家や上の立場に居るものの役目だ」

 それに対し、アムロは最初、声を荒げ、その後は声を和らげて言う。そしてキラとユズハ達の肩を叩いた。

「今のお前達がやるべきなのは、お前達の手で守れる人達を守る事。そして、平和が訪れた時、それを守っていく事だ。俺達、大人は今をどうにかする為に生きているんだからな」

「・・・・はい」

「・・・・うん」

 アムロの言葉に頷く二人。実の所二人ともアムロの言葉に納得しきった訳ではなかったが、それでも『平和が訪れた時、それを守っていく事』というのには、確かにそれが自分達のやるべき事に感じられた。
 っと、その時だった、行き成りドアを開いてその場に立ち入ってくる存在があったのである。

「おいっ、いつまで待たせるんだ!!」

 その、乱入者の姿を見て、ユズハとキラの二人は驚き、アムロは溜息をつく。

「カガリ!?」

 キラがその相手を見て思わず叫ぶ。乱入者はカガリ・ユラ・アスハ、ユズハやキラとAAで同行し、その小隊はオーブの元代表、ウズミ・ユラ・アスハの嫡子だった少女だ。
 事情を知らない二人は答えを見てアムロの方を見る。アムロは疲れた顔で説明を始めた。

「それはな・・・・・・・・・・」

 そして、アムロはカガリがウズミの娘である事や、オーブに戻ってきた経緯、そして彼女が軍の准将であることなどを説明した。

「カガリって・・・お姫様だった」

 驚くキラ。それを見て不機嫌そうになるカガリ。

「何だお前その意外そうな顔は!! 似合わないって言うのか!?」

「えっ、いや、そうじゃなくて、ほら、普通そういう人が戦闘機に乗って戦ったりしないし・・・・」

 問い詰められて慌てて言い訳するキラ。それを聞いてまだ不満だと言ったようなカガリがユズハを指差す。

「それをいったらコイツだって同じだろう。何だ、お前、クサナギ家の人間だって聞いてないぞ」

「えっ、いや、それは別に隠してた訳じゃなくて・・・。それにそれを言ったらあなただって同じでしょ!?」

 突然話を振られて慌てるユズハ。しかし、それ以上に混乱してるのはキラだった。自分の知らない情報の氾濫に、しかし、彼の優秀な頭脳は状況を整理する。

「えっ、クサナギ家の娘って・・・。もしかして!?」

 クサナギ家はオーブでは割と多い苗字であるが、同時に五大氏族の一つを指す姓でもあり、ユズハとアムロの苗字だ。話の流れを考えればそれの指す所は一つである。

「ああっ、そういえばキラ君は知らなかったんだったな。ユズハは現オーブ副代表、ダイキ・クサナギの孫娘って事になる。ちなみに俺は婿養子なもんで、あまり立場は強くないがな」

 アムロから聞かされた話に既に答えに気付いていたとはいえ、あまりの事に呆然とするキラ。

「えっと、キラ君」

「あ、うん・・・」

 その呆然としているキラにユズハが声をかける。それで再起動するキラ。しかし、彼女の立場を聞かされ、一瞬対応に困ってしまう。

「そう、気にしなくていい。偉いのは義父やウズミ氏であって、俺達はあくまで一般人でしかないんだからな。まあ、軍の階級に関してはさっきも言ったように公私の区別はつけてもらうが」

 そんなキラにアムロがフォローを入れる。キラはその言葉でほっとし、そこでユズハが自分の方を見て少し寂しそうな顔をしているのに気付いた。

「ごめん、あの、その・・・・」

「ううん、気にしないで」

 謝るキラ、笑顔を浮かべようとするユズハ。そこで、再びカガリが叫んだ。

「だから、私を無視するなって言ってるだろうが!!」

「あ、ごめん」

「ごめんなさい」

 今度はカガリに対し慌てて謝るキラとユズハ。カガリは不機嫌な表情のまま、アムロが説明を再開する。

「彼女にはこの部隊の隊長を務めてもらうことになる。まあ、基本的な指示は上層部がだすし、3人だけの部隊なので実際には方針の決定や手続きを務めてもらう位の役割だが・・・」

 カガリの扱い、これに関しては上層部でも意見が割れた。前回の戦い、彼女を戦場に出した事による戦意高揚の効果は予想以上に高く、また現場レベルでの活躍、リーダーシップの発揮具合も事の他高かった。小隊長を亡くしていたMS部隊を上手く、纏め、自身も個人としては驚異的な活躍を見せたのである。
しかし、同時に彼女を後方の指揮メンバーに入れた時の足の引っ張り具合も予想以上だった。とにかく、感情のままに叫び、階級も高いので手に負えない。それらを踏まえ、彼女には前線にたってもらうという意見で上層部の大筋はまとまったものの、同時に彼女が戦場で死亡した場合の戦意の低下、准将という扱いづらさが問題視されもした。
そこで、彼女に対し、命令権を持つアムロの直属部隊であり、他に破格の戦闘力を持つ2人が存在する13部隊への配属が一番問題が起こる可能性が低いとして選ばれたのである。

「そう言う事だ。よろしくな」

「は、はい。よろしくお願いします」

 アムロの説明が終わった後、起源を直したカガリが前にでて宣言する。それに対してキラが見よう見真似で敬礼を返した。

「おい、なんだ、それは!」

 しかし、それを見て、カガリが再び不機嫌になる。そして、叫んだ。

「私はそういうのあまり好きじゃないぞ!! 別に敬礼とかはいらない!!」

「えっ、でも、さっきアムロが軍の階級とかに関してはしっかりするようにって・・・・」

「かまわん!! 私がいいと言ってるからいいんだ!!」

 キラの言葉をあっさり切り捨てるカガリ。どうしていいかわからず助けを求めるようにアムロの方をみると、彼は本日何度目かの溜息をついて言った。

「まあ、公の場でなければ部隊内では好きにしてくれてかまわないよ・・・・」

「あっ、はい」

「何で、アムロの言う事は聞いて私の言う事は信じないんだ!! 階級だって同じ准将なんだぞ!!」

 そのやり取りにますます不機嫌になるカガリ。しかし、キラにして見れば、この場でのやり取りも含めあらゆる意味で大人であると感じられるアムロの言う事の方がカガリと比べて信じられるのは無理の無い事であろう。

「後の事はカガリに任せてある。俺はやる事があるんで、これでな」

 そこで、アムロはそのまま疲れた表情で立ち去った。そして、オーブMS第13隊、その最初の活動が開始されるのだった。

(後書き)
前回快調だった分、今回は難産でした。
しかし、今回ユズハが空気ですね(笑)



[2025] ガンダムSEEDcross第2部25話
Name: 柿の種
Date: 2005/10/07 22:23
「このネオクロスガンダム凄いよ!! 流石νガンダムのお姉さん(ホントハイモウト、モシクハムスメ)!!」

「何それ?」

「ハロペ、ハロペ」

 搭乗したネオクロスガンダムの中にサポートロボットとして備え付けられていたハロペットが謎の台詞を叫ぶ。しかも、何故か饒舌で(片言の副音声付きで)。その事に首を傾げるユズハ。

「それで、どうですか、機体の調子は?」

 アムロが立ち去った後、ユズハ達は、クロスタイプとG(アストレイ)タイプとのメンバーに別れてそれぞれの製作スタッフの下データ取りをしていた。製作スタッフの質問にユズハは少し考えて答えた。

「少し、違和感があるような気がします・・・・」

 ネオクロスの性能はクロスガンダムと比べれば十分過ぎるほどに満足できるものであったが、ほんの少しだけ違和感のようなものを覚えるのだ。それはνガンダムに乗った時はまるで自分が機体と一体となったような感じがあったが、この機体にはそれが感じられない事だった。

「まだ、機体になれてないせいもあるかもしれませんが、少し調整してみますね」

 そう言って、スタッフは調整を加える。しかし、結局νガンダムの時に得られた感覚は得る事ができなかった。





ズキューン、ズキューン

 新型のストライクの装備、ラントニングパック。ランチャーパックを遠距離用装備とするなら、それは超遠距離装備と呼べるものだった。大気圏内で150キロメートル、宇宙空間なら10000キロメートル先の標的まで狙えるその装備の性能をキラは期待通りに引き出す。

「ありがとう。そこまででいいわ」

 その結果に満足し、そこで、エリカがテスト終了の合図を出す。そして、次の指示を出した。

「それじゃあ、今度は装備を新型のソードパックに換装してもらって、実践的なデータが欲しいから模擬戦をしてもらえるかしら? カガリ様、彼の相手をよろしくお願いできますか?」

「やっと私の出番だな!!」

 エリカの言葉に今まで待機状態だった意気揚々と頷く。キラもその言葉に従い、ストライクの装備が換装された。

「ところで、新型って前とどこが違うんですか?」

「それほど大きな違いでは無いわ。威力を保持したまま少し軽量化してあるぐらいよ。最もその少しに私達は苦労し、色々とメリットを産む訳だけど」

「そうですね」

 そして、暁に乗るカガリと向き合う。暁は飛行能力を有しているがそれは使用しないルールを取り決め、そして開始の合図がなされた。





「だあー、何なんだお前は、私だってミナに虐めかと思うほど鍛えられたんだぞ!!」

「いや、そんな事言われても・・・・」

 叫ぶカガリとそれを困った顔で応対するキラ。模擬戦の結果はキラの圧勝だった。開始から42秒でカガリは敗北を喫したのである。最も“SEED”を発動させていなかったとはいえ、本気のキラ相手に30秒以上ももったのは普通なら十分すぎるほどの検討なのだが。

「キラ君、これじゃあ、データ収集にならないわ。もう少し、手加減してもらえないかしら」

「は、はい、わかりました」

 エリカにも注意される。しかし、その言葉にカガリはますます怒り狂う。

「手加減されても、それはそれでむかつく!!」

「そう言われましても・・・・・。それでは、ユズハさんを呼んで相手をしてもらいましょうか」

 そんなカガリに対し、困った表情をしたエリカはユズハを呼ぶことを考えた。彼女のならばキラ相手でも十分相手になる実力があると。そして、高レベルでのせめぎ合いでこそ、欠点や長所が見えてきて真に貴重なデータの収集場所なのである。

「そうですね。彼女なら、いい勝負になると思います」

 それにキラも賛同しようとする。しかし、またも、カガリが不平を述べた。

「それじゃあ、私はまたやる事無しか!!」

「い、いえ、カガリ様にも後で暁のデータ収集に協力してもらいますし」

「それまで、待てん!! キラの前に私がユズハと勝負する!!」

「え、ええー!!」

 カガリの言葉にキラが思わず声をあげる。正直、ユズハとカガリでは勝負になるとは思えず、その結果、ますます不機嫌になった彼女の姿が彼の頭に思い浮かんだのだ。

「なんだ、その不満そうな顔は!!」

「い、いや、不満っていうか、むしろ不安・・・・・・」

「何だと!! まあいい、部下の実力を知っておくのも隊長の役目だとにかく私はやる!!」

 思わず本音を漏らしたキラに対し、カガリは強引に話を押し通し、そしてネオクロスのテストを一通り終えたユズハと模擬戦をする事にした。





「だああーー!!!!」

 MSから降りたカガリが叫ぶ。ユズハとの模擬戦、結局彼女は敗北した。しかも、先ほどのキラ戦よりも短く32秒で。

「それじゃあ、今度はキラ君とユズハさんでお願い」

 そして、そんなカガリをさらりとスルーするエリカ。付き合いもそれなりに長くなっている彼女は扱いを覚えてきているらしい。

「い、いいんですか?」

「ええ、今は時間は無いわ。連合だって、次、いつに攻めてくるかどうかもわからないしね」

 問い返すキラに平然と答えるエリカ。そして、ユズハとキラ二人がMSに乗り向き合う。

「凄いプレッシャー・・・・」

「ユズハと勝負・・・・・」

 二人の間に先ほどカガリと戦った時とは違う緊張が走る。そして、試合が開始された。

ギィィィン

 先に飛び出したのはユズハのネオクロスガンダム。振るったビームブレードをキラはシュベルトゲベールで受け止める。

「どんどんいく!!」

 そして、ネオクロスガンダムは更に追撃を仕掛ける。それを裁き続けるキラ。しかし、装備として軽量のものを装備する上に、全体的な性能がそもそもストライクを凌駕するネオクロスガンダム、そのスピードに押され、キラは徐々に追い詰められていく。

「くっ、強い・!! これが、ユズハの強さ!!」

 驚愕するキラ。そして、頭の中でイメージを生み出す。種のようなものがはじけるイメージを。

「うおおおおおぉぉぉぉ!!!!!」

 ストライクの動きが極限まで洗練され、いままで受け止めるだけだったビームブレードを回避する。そして、カウンターで必殺の一撃を放った。

「見える!!」

 しかし、その鋭く完璧なまでのカウンターをユズハのネオクロスガンダムもまるで、それを見えていたのかのようにしゃがみこんで回避する。いや、実際にユズハには見えていたのだ。ストライクが実際にシュベルトゲベールを振る直前にその刃が振るわれるイメージが。

「今!!」

 そして、そこでネオクロスガンダムは頭部だけを上に向けて、備え付けられたバルカンがストライクの腕めがけて発射された。その攻撃は、PS装甲によって阻まれるが、伝えられた衝撃によってストライクの手からシュベルトゲベールが零れ落ちる。

「しまった!!」

 唯一の武器を失ったストライクにキラが声を上げ、そこでユズハがネオクロスガンダムを立ち上がらせながら下から掬い上げるように斬撃を振るった。

「もらった!!」

「くっ!!」
 
 それを何とか回避するストライク。それに、更なる追撃を加えようとするユズハ。しかし、そこで制止の声が入った。

「そこまで、停止して!!」

 エリカが試合を中断させる。シュベルトゲベールを失った以上、これ以上模擬戦を続ける意味は無い。むしろ、機体に損傷でも生まれれば手間である。

「なかなか、いいデータがとれたわ。今日はこの位にしておきましょう。あまり、あなた達を酷使して、いざと言う時に動けないなんて事になったら私達も困るしね」

 そして、その後、カガリが暁での訓練とデータ取りを済ませ、その日の第13MS小隊の任務は終了した。
(後書き)
何か、内容にまとまりがなくて、すいません。



[2025] ガンダムSEEDcross第2部26話
Name: 柿の種
Date: 2005/10/21 02:52
 ユズハが軍に入隊した日、本来ならそんな余裕など無いにも関わらずアムロは家に帰宅していた。新兵器の開発に、戦死者に代わっての補充を行なった後の部隊の再編成、技術部と作戦部の両方に置いて責任ある立場の彼がやるべき事は山ずみだった。それでも、今日は無理を押して家に戻ってきたのである。父親として、やるべき事を果たす為に。その事を彼は妻に切り出す。

「シズク、今日、俺の出自の事を話そうと思う」

「!!・・・・そう、あの娘驚くでしょうね」

 夫の言葉に驚くシズク。アムロの出自、彼が異世界から来た存在である事を彼女は知っていた。それどころか、彼女こそアムロがこの世界に来て最初に出会った相手であり、世話をした人物でもあったのである。

「それよりも信じてもらえるかどうかが疑問だがな」

「そうね。私だって、未だに信じられなくなる時がある話だもの。けど、あの娘と貴方の間ならばきっと信じあえるんでしょうね。NT・・・って言ったかしら? あの娘もそうなんでしょ?」

 シズクの指摘にアムロは驚愕する。『どうしてわかったのか?』と問いかけるアムロに対し、彼女は軽く笑って答えた。

「特に理由はないわ。なんとなくよ」

「はは、まいったな。君こそ、本当のNTじゃないのか?」

「さあ、それはどうかしら?」

 笑って言う妻に対し呆れた表情をするアムロ。実の所、これは今回に限った事ではなく、彼の愛するべき妻は自分以上の勘のよさを出会って以来多々見せていたのである。

「まあ、とにかく、話してみるさ。一応確認しておくが、特に反対はしないだろう?」

「ええ、大丈夫よ」

 軽く息をついた後、気を取り直したように話を戻し確認を取る。その言葉にシズクは素直に頷き、そして、一家は食事の時間を迎えた。




 
「ユズハ、軍ではどう? 大変じゃない?」

「うん、大丈夫。って、まだ一日目だけどね」

 食卓の場、クサナギ家ではダイキを除く家族3人が揃い食事を取る。シズクの娘を心配する言葉に彼女は笑顔で答えた。
 ちなみにダイキは仕事である。アムロ以上に責任ある立場にある彼は流石に抜ける事ができなかった。また家族と顔をあわせ辛かったというのもある。彼はユズハを心配し、彼女のオーブ軍入隊に対し、強く反対し、結局はユズハ自身を含む皆の説得で押し切られて納得したものの、未だに苛立ちを完全には解消しきれずにいたのだった。

「ところでお父さん・・・・・・、今なら話してくれる?」

「ああ、昼に話した事、νガンダムの事だな?」

 そして、しばらく家族の団欒を過ごした後、ユズハがやや固い口調で尋ねる。その言葉に対しアムロが問い返し、それにユズハが頷いた。

「それに関しては、まず順を追って話さなくてはいけない事がある。俺の昔、この国に来る前の事だ」

「お父さんの昔?」

 アムロの言葉に訝しがるユズハ。彼女はアムロの出自に関しては他国の出身で、そしてこの国でシズクと出会い結婚したというように聞いていた。なので、彼女の頭の中ではそれがνガンダムという特異にMSと結びつかない。

「それと・・・・ちょっと資料を持ってくる。少し待っていてくれ」

 そして、そこでアムロはそう言って席を立ち部屋を出る。数分後、彼は携帯型のパソコンを持ってくるとそれを開き話を再開した。

「あの、MSは・・・・・・俺が若い時に乗っていたものだ」

「若い時?」

 アムロの答えにユズハはさらに首を傾げる。
MSはそもそもがまだできて2年程の新しい兵器である。MSの原型となったもの、ジョージ・グレンが作業用に開発したパワード・スーツやその進化系などと呼べるものは今、起こっている戦争の前にも存在していたが、その精度は現在存在する兵器としてのMSとはまるで違う。
ましてや、νガンダムは現行存在する如何なるMSよりも高性能であり、そんなものが父親の若い頃に存在しよう筈もなかった。
そう、常識的な範囲でものを言うならば・・・・・・・・。

「お前の疑問に思う事はわかる。まずはこれを見てくれ」

 そして、パソコンの画面にあるデータを映し出す。そこに映っているのはジンのデータだった。データを覗き込むユズハと逆に視線をそらすシズク。機密というのは例え家族に対してでも秘密であり、彼女もその辺は弁えての行動である。

「理解できるか?」

「うん・・・なんとか」

 そして、ユズハに対し問いかける。ユズハは一折にデータを見回した後、頷いた。彼女の知識でも大体の構造を理解する事位はできた。

「そして、これが、νガンダムだ」

「えっ!?」

 そして、見せられたデータを見て思わず声を上げる。ジンと比較して、そのデータから明らかになるのは、νガンダムがどれほど異端な存在かと言う事だった。高度な技術が使われているとかそういうレベルではなく、明らかに“根本的に異なる技術”がきちんと理論だてた形で用いられているのだ。

「俺は、この世界とは別の世界から来た。νガンダムはその世界から持ち込んだものだ」

「えっ・・・・」

 示されたものに未だ整理がつかず答えを出せずにいたユズハに更に投げけられた言葉は更にありえない話で彼女を混乱させた。そんな彼女を置いてアムロは話を続ける。

「異世界、あるいは平行世界とでも呼ばれる場所、そこから俺は来た」

「えっと、お父さん、私をからかってる?」

 おもわずそう問いかける。常識から考えればあまりに荒唐無稽な話でとても信じられなかった。先にデータを示されていなかったら、あるいはアムロが真剣な表情でいなければ、怒り出してさえいたかもしれない。しかし、示された事実が全否定する事を拒んだ。

「そう思うのも無理は無いだろうな。実際、俺だって経験するまではこんな事がありえるなんて夢にも思っていなかったからな。だからもう一つ根拠をだそう。お前は戦いの途中などで、何か特殊な感覚のようなものを感じているのではないか?」

「!!」

 今度こそ、ユズハの表情に驚愕が浮かぶ。心当たりがあり、そしてそれが特異なものである事には彼女は既に気付いていた。確かめた事はない、しかし、それが恐らくは他のパイロットに無い感覚、それが自分にあることを。

「それはNT能力と俺のもといた世界では呼ばれていたものだ。この世界には、少なくとも今はそんな力を持っているものがいると聞いた事はない。それも、俺がこの世界の出身で無いことの証拠の一つになるだろう」

「・・・・・・・」

 ユズハは呆然として考え込む。根本的に異なる技術、特殊な力、確かにそれは話を信じる根拠になる。しかし、考えようと思えば、少なくとも異世界から来たなどという話よりは信憑性のありそうな話も思いつくだろう。彼女は考え、答えを得る為に更なる問いかけをする。

「本当の話なの?」

「ああ」

「他に何か証拠は?」

「残念だが、これ以上は無いな。後は、信じてもらうしかない」

「・・・・・・わかった、その話を信じる」

 迷った末に、ユズハはその話を信じる事に決めた。信じるか、信じないか、示された根拠を素にして、最後に背中を押したのは父と、そして隣で自分達を見守っている母に対する信頼の思いだった。

「そうか」

「それで、聞きたいことがまだあるんだけどいい?」

「ああ、かまわない」

娘の信じるという言葉にアムロは少し嬉しそうな表情を浮かべる。そして、ユズハの次なる応答に答える準備をした。

「お父さんの話だと、νガンダムはお父さんの世界の造られたものとして、ネオクロスガンダムはどっちの世界で造られたの?」

「この世界だ。あの機体はクロスガンダムをベースにνガンダムに使われている技術を組み込んで造られている。それが、どうかしたのか?」

「うん、何ていうか、νガンダムに比べてネオクロスガンダムの方がしっくり来ない所があって、その辺に技術的な違いが何か関わっているんじゃないかと思って・・・」

 そして、ユズハの言葉にアムロは納得の意を見せた。それに関し、彼には心辺りがあったのである。

「ネオクロスにはνに採用されているあるパーツが搭載されていない。お前の感じている事は、恐らくはそれが原因だと思う」

「だ、だったら、それをネオクロスガンダムにも搭載してもらう事ってできない!?」

 父親からあっさり答えが返ってきた事に驚きながら思わず意気込むユズハ。しかし、アムロは首を振った。

「いや、その回路はネオクロスにはあえて積まなかったんだ」

「ど、どうして!?」

 自分の答えに納得行かない様子のユズハに対し、アムロは表情を少し固くしていった。

「そのパーツはNT能力を強化する事ができる。しかし、強すぎる力は危険なものでもある。実際、俺の世界でもあまりに強すぎたその能力故に心を壊してしまったものが居る」

「!!」

 父親の話にユズハは思わずぞっとする。心を壊す、その話に自分自身の力に彼女は思わず恐怖した。

「お前は強い心を持っている。だが、油断をすれば自分の能力に、そして他者の思念に飲み込まれる。この事を心に留めて置くんだ」

「う、うん、わかった」

 父親の言葉に半ば反射的に頷くユズハ。そしてそこで、今まで黙っていたシズクが言葉を発した。

「さっ、話も終わった事だし、食事を再開しましょう」

「うん、そうね」

「ああ、たくさん食べさせてもらうよ」

 そして、その次の日が訪れた。


(後書き)
今回はかなり苦労しました。家庭の中でのアムロ、上手くかけていたでしょうか?よろしければご意見よろしくお願いします。
あ、後、キングさん、感想の欄の所にも書いておきましたが希望されていた件了解ですんで、頑張ってください。

(雑記)
最近ゲームやアニメを色々見て思った事:プロってすげえなあ。
いや、ほんとに凄いですね。見るだけで感性が刺激されます。面白い作品というだけなら二次創作の作家の方にも素晴らしい方がたくさんいますが、凄いって感じさせられてしまうのはやっぱプロの人は凄いと思いました。



[2025] ガンダムSEEDcross第2部27話
Name: 柿の種
Date: 2005/10/25 01:58
 過去の話が交わされた翌日、アムロとユズハは早朝、車に乗って軍の施設へと向かっていた。そして、その途中で、助手席に座っていたユズハがアムロに対し思い出したように問いかける。

「そういえばお父さん、昨日ききそびれちゃったんだけど、NTって一体どういうものなの?」

 NTはアムロが元いた世界に存在したものである事を彼女は昨日聞かされた。その時は、異世界から来たという事実の方が衝撃的すぎてついききそびれてしまった事であったが、自分自身の感覚に多少なりとも戸惑いを覚えていたユズハにとって、それもまた聞いておきたい事だったのである。
 その問いかけに対し、アムロは少し考えるような仕草を見せながら考えをまとめると、話始める。

「NTは人類の革新と呼ばれていた」

「人類の革新?」

 父親の口から飛び出した場違いとも思える言葉にユズハは訝しげな顔をする。アムロは運転中の為、前を向いたまま頷いた。

「そうだ、宇宙空間に適応し知覚力を拡大させた人間と呼ばれ、それが人類の未来を導くなどとも言われたりもしたよ」

「そんな凄いものなの?」

 アムロの説明に驚きと少しの興奮を見せるユズハ、しかし、対照的にアムロは歪んだ表情を見せる。

「だが、実際はそんな対したものじゃない。普通の人に比べ少しばかり勘が鋭いだけの人間に過ぎない。人類の未来を導くどころか実際は戦争の道具として扱われた」

「道具・・・・」

 ユズハの興奮が一瞬で冷める。そして同時にある推測が頭に浮かんだ。

「それって、もしかして、お父さんも・・・・」

「ああ、戦いに駆り立てられ、それが終わればその力を恐れられ軟禁されたよ」

「・・・・・・・・」

 自分の予想通り、いや、予想以上の言葉に絶句する。そんな娘に対し、アムロは静かにしかし強い口調で語りかけた。

「強すぎる力はそれだけで恐れられる。それは、人の業なのかもしれない。ナチュラルとコーディネーターの争いの根幹にもそういったものがある。だが、それを乗り越えなければ人類の革新、本当の意味での平和など永遠にこないだろう」

「・・・・・・・・・」

 父の言葉に答える言葉が思い浮かばず、ユズハは黙り込む。しばらくの沈黙後、アムロは一言だけ付け加えた。

「だが、俺は人類にはいつかそれを乗り越える力があると信じている」

「・・・・うん」

 頷くユズハ。その言葉はいってしまえば、単なる願望にすぎなかったし、楽観論と切り捨ててしまう事もできるような話だ。実際にはそれはとてつもなく難しい事であろうし、不可能に近いかもしれない。それでも、彼女はその可能性は信じたかったし、そして、自分にできる事があるのなら何かしたいと思った。

「私にも何ができるんだろう・・・」

 戦争が終わったなら、その為の道を歩もう。彼女はその時、そう決意した。そして、その為にも、この戦いを生き抜くことを改めて心に誓った。
 そして、更に車をしばらく走らせた後、二人は軍の施設にたどり着いた。





「まずい事になるかもしれん」

 その言葉を呟いたのは、前・プラント連合最高評議会議長シーゲル・クラインだった。彼はこの戦争におけるプラントの穏健派代表であったが、好戦ムードが高まり、主戦派だったパトリック・ザラにその地位を奪われ発言権を失った。その後、地位回復を目指し、アラスカでのパトリックの失策時にはその点を追求し、和平への方向転換を目指したもの追いきれず、その後、パトリックがパナマへの襲撃を強行し、成功した事で既にその地位を回復されてしまっていたのである。

「議長は、ナチュラルを全て滅ぼそうというのでしょうか?」

「あれが完成すれば、そうなるかもしれん。いや、あれを使えばナチュラルどころか地球そのものが滅びてしまう」

 地球が滅びれば、コーディネーターもまた滅びると言うのに、シーゲルはそう呟き、自分達の愚かさを実感せざるを得なかった。
 出生率の低下はもちろんの事、プラントの抱える問題は多い。人類が宇宙空間にでて、生活し始めるようになり、まだまだ歴史は浅く、地球の物資に頼らねばプラントは自らの生活を維持しきれなくなるのだ――――学者の中には計算上、問題はないと主張すものもいるが、それはシーゲルに言わせればほんの少しでも計算が狂えば破綻する机上のものでしかなかった。

「力を使いますか?」

「できればそれは避けたい。しかし、いざとなれば最後の手段として用いなければならなくなるだろう」

 シーゲルとしてはあくまで議論による和平への道を目指すが、それがならなかった時のため、内部革命を起こせる軍事力を彼は極秘に集めていた。例え裏切り者とののしられようと、ナチュラルと地球、そしてコーディネーターを守る事こそが自らの指名だと彼は信じていたのである。

「アスランには予定通りジャスティスが受領されるようです」

「うむ」

 そして、その為に、シーゲルは娘のラクスとその婚約者のアスランを彼は引き込んだ。娘のカリスマとアスランの現評議長の息子という立場、そして最新鋭のMSジャスティスのパイロットの第一候補であるという彼は強力なカードになる。二人をある意味利用する事に罪悪感はあったが、それ以上の義務感を彼は持ち、そしてその責はできる限り自分が負う事を彼は覚悟していた。

「今はやるべきことをやろう。未来を祈りながらな」

「はい、私も平和の歌を歌います」

 そして、彼らは平和を望む。しかし、世界の流れは未だその願いとは逆らう方向へと進んでいた。


(後書き)
今回は短くてすいません。



[2025] ガンダムSEEDcross第2部28話
Name: 柿の種
Date: 2006/01/28 15:28
「オーブ軍として戦うのはこれが初めてね」

「うん」

 オーブと連合の第1戦から2週間、オーブは再び連合の侵攻にあっていた。それを守る為に、ユズハ達、第13MS部隊も出撃する。
 そして、彼等は今までに無い重圧を感じていた。組織として行動する、自分達の行動にさまざまな責任を負う。実戦を何度も経験してきた彼女等だったが、それとは別の緊張感を彼等は感じ、その不安が声に混じっていた。

「おい、そんな不安そうな声を出すな!! 今回の戦闘にはお前達と違って、戦い自体初めての奴も大勢いるんだからな!! 私達がフォローしてやらなければならないんだぞ!!」

 前の戦闘で、オーブにも少なからず戦死者はでている。そして、それを補う為に、前回の時点では予備戦力であった兵士達が数多く今回の戦闘では配備されているのだった。それを知るカガリが不甲斐ない彼女らを怒鳴りつけ、そして、その言葉とそれに続く言葉に二人は、はっとなった。

「私達の肩にはオーブの国民がかかっているんだ。しっかりしてくれ!」

「!!あっ・・・うん」

「ごめんなさい」

 自分達が戦う理由を思い出し、緊張を乗り越える。そして戦闘が開始された。





「やはり、彼らは厄介ですね」

 アズラエルが旗艦から戦況を眺め呟く。今回は連合も奇襲という訳にもいかず、最初からオーブは同盟国の支援を受けられていた。しかし、連合の方も前回と違い、ストライクダガー以外にストライカーパックを装備できる105ダガーなど高級量産機を少数とはいえ投入してきている。にもかかわらず、彼らにとって戦況はよくない。それは、前回の戦いでは、途中から参戦きたユズハやキラ、を中心とし数名のエースが異常ともいえる程の活躍を見せているからだった。

「見慣れぬ機体がありますな」

「ええ、代わりに前回、途中で乱入してきた機体が無いようですが。パイロットは同じなのか別なのか、どっちにしろ面倒な事です」

 その艦に乗る高官とアズラエルがネオクロスガンダムを見て呟く。そして彼は指示を出した。

「やれやれ、やはりださないといけないようですね。前もって言っておいた指示通りにお願いします。あっ、ただし“鳥さん”は、まだ、待機させておいてください。彼は“奥の手”として取っておく事にしましょう」

 ニヤリと笑うアズラエル。そして、薬物によって、その能力を限界以上にまで引き出された強化人間、“ブーステッドマン”、戦闘用に遺伝子調整され、更にナチュラルに対する絶対服従を植え付けられた戦闘用コーディネーター“ソキウス”、連合に属する数少ないコーディネーターであったが、ナチュラル用MSの完成によって用済みになった“煌めく凶星『J』”の二つ名を持つジャン・キャリー、これらの“切り札”がまとめて戦場に投入された。





「えっ、うわああああああああ!!!」

オーブ軍の兵士の一人が悲鳴をあげ、その次の瞬間、彼が乗る機体が爆散する。そして、キラはその味方を落とした機体に目を向けた。

「あの、MS他の機体と違う!?」

 それを為したのはブーステッドマン2人がクロトとオルガが搭乗するレイダーとその背中に乗って飛ぶカラミティ。機体の性能は基より、その明らかに他とレベルの違う動きにキラは目を見張る。そして、そこに更に一機のMSが現れる。その機体から撃たれた銃撃にフライトユニットを装着した1機のM1が落とされ、更に一機のM1が対面状態になる。

「くっ、こぬぅおおおおおおおおお」

 そのM1は一合、合わせた後、ブーステッドマン最後の一人であるシャニの乗るフォビドゥンに機体を切り裂かれる。その状況を見て、目の前で味方3機が一気に落とされた――殺されたカガリが怒りに震えながら指示を出した。

「キラ!! ユズハ!! お前達はあの3機を抑えろ!! 私は引き続き部隊を援護する!!」

 新たに襲来した敵は並みのパイロットでは相手にならない。そう判断し、彼女は二人に指示を出し、そして自分は引き続きストライクダガーや105ダガーの相手を引き受ける事にした。
 これが、少し前の彼女なら、怒りに任せ、キラ達と共に、新型3機に挑み仲間の仇を取ろうとしていただろう。しかし、ミナの“教育”やユズハ達との模擬戦を通し、彼女も多少なりとも成長し、自分の能力を弁えていたのである。
 ここで自分まで抜けてしまえば戦力が低下し、今、援護している部隊の形勢が逆転してしまう可能性がある、そしてブーステッドマンクラスのパイロット、ユズハ達が全力で戦わなくてはならないであろうレベルの敵を相手にするには今の自分の技量では逆に足手纏いになる可能性があるという程度の事を理解し、判断できる程度には軍人としての能力を彼女は身に付けていたのだ。
 もっとも、本来彼女が得るべきは軍人としてではなく、ウズミの後継者として、政治家としての能力なのだが、まあ、“我慢”を覚えただけマシとも言えるかもしれない。





「ほう、この相手は・・・・・」

 第12部隊、ギナ直属の親衛部隊ともいえるその部隊は交戦中、新たに乱入した4機のロングダガーと戦闘を開始していた。
 そして、ギナはその12機を戦いながら観察し、興味深げにみる。

「どうやら敵はロクトの同類らしいな」

 彼は確信を込めた推測を持つ。ロクト・ヴァーギル、第12部隊でギナに次ぐ実力である彼はコーディネーターでありながら何故か同胞ではなく、ナチュラルに対してのみ一切の攻撃をできないという特性を持っていた。その事を疑問に持ったギナが彼の素性を調査した所、記憶喪失であった所をオーブ在住のヴァーギル夫妻に引き取られた彼が、実は脱走した連合の戦闘用コーディネーターである事が明らかになったのである。
 そして、今、彼らが交戦するロングダガーはその中で一機全身を白く塗り替えてあるものを除いて、他の機体には一切の攻撃を仕掛けずにギナの搭乗するゴールドフレーム・天のみを狙ってきている。指揮官を集中して狙おうにしても、他の機体を撃墜できるチャンスにすらその行動を取らない彼らは明らかに不自然だった。

「ロクト、貴様は私を援護しろ。あのロングダガーに乗るのは白い機体を除いて戦闘用コーディネーターだ」

 ロクトに指示をだす。ロクトの素性を知ったギナは彼が実戦で使えるよう彼に対し“催眠療法”を施した。それにより、ロクトはナチュラルでも攻撃できるようになっている。しかし、遺伝子の呪縛は完全には抜け出せず、相手がナチュラルである時、または不明の時は、無意識に手加減をしてしまうのだ。その呪縛を解く為、ギナはソキウス達の素性を明かした。

「!?・・・・はい。しかし、その前に降伏勧告を出してもよいでしょうか?」

 ソキウスは連合がコーディネーターを使う事に驚きを表しながらも彼の指示に了承する。そして、一つ彼に申し出をした。彼以外がこんな甘い事をいえば、ギナは間違いなく激昂しただろう。しかし、ロクトの場合はこの儀式を経る事によって、一切の甘さの無い完全なる兵士へとシフトする。その事を知る故にギナは怒る事もなく了承しました。

「かまわん。だが、今回の場合はできれば生け捕りにしろ。あの機体とパイロット、両方に興味がある」
 
「はい、了解しました」

 戦いながらの通信を切ると、ロクトは通信回線を連合への周波数に変え降伏を、戦いを辞める事を申し出る。それは、当然の如く、跳ね除けられたが、意外な所で反応があった。

「君達は・・・・・・・・」

 白いロングダガーのパイロット、ジャンが何かを言いかけて、言い淀む。そして、一定時間たっても、返答が得られなかった為、ロクトが本格的な攻撃を開始する。これによって、この場での戦闘は激化した。

(後書き)
ちょっと話しに色々、詰め込みすぎて、それを整理するのに苦労している状態です。それから、切り裂きエドなどはこの時点ではまだ二つ名が無い事に気づき、出すのをやめました。期待していた方、申し訳ない。もう少ししたら出る予定ですので。



[2025] ガンダムSEEDcross第2部29話
Name: 柿の種
Date: 2006/01/28 15:31
「くっ、攻撃が効かない!!」

 フォビドゥンと戦うキラが焦りの言葉を漏らす。ストライクIWSPにとって、フォビドゥンは最悪に相性の悪い相手だった。PS装甲を改良したTPS装甲により実体弾は無効化され、エネルギー偏向装甲「ゲシュマイディッヒ・パンツァー」によって遠距離からのビームは捻じ曲げてしまう。IWSPにはその装甲を破るのに有効な武器が存在しなかった。

「どうすれば・・・?」

 逃げ惑いながら、他に視線をやる。キラ達が抜けた後、オーブの部隊は少しずつ押され始めていた。ユズハも2機の新型相手に苦戦している。助けも、あるいは他の武器に換装しなおす時間もありそうにない。

「自分でどうにかするしかない。これで!!」

 背部のレールガン2門、肩部の単装ビーム砲2門、さらにシールドの機関砲とビームブーメラン、これらの武器を全て同時に発射する。一度にこれだけの攻撃を食らえば如何にフォビドゥンといえど防御を貫かれ撃墜されていただろう。しかし、その攻撃はあっさりと回避されてしまう。

「くっ」

 歯噛みするキラ。一度に複数の武器を使用しようとすれば、機体制御の限界からどうしても単調な攻撃になってしまうのだ。

「どうすれば・・・・」

 完全に手が無くなり一瞬、弱気な声が漏れる。せめてビームサーベルや対艦刀があれば・・・・、そう考えるが、IWSPにはPS装甲に通用する接近武器が存在しない。

「けど、諦める訳にはいかないんだ!!」
 
 しかしその弱気を吹き飛ばしてチャンスを待つ為に、キラは戦いを続けた。





 キラがフォビドゥン相手に苦戦を強いられている頃、ユズハもまたレイダーの背中から地上に降りたとカラミティと空を舞うレイダー、地上の敵と空中の敵の両方を単機で相手取り苦戦を強いられていた。

「どうする、ファンネルを使う?」

 ユズハが自問する。ファンネルを使用するにはその空間のミノフスキー粒子が一定濃度でなければならない。それは、ネオクロスガンダムから散布することもできるが、保有量に限界があるので、使用時間、使用領域供に限られてしまう。また、ミノフスキー粒子は電波障害を引き起こすのでこの場で使えば周囲の味方機体を含む全機のレーダーを使用不能にしてしまうのだ。

「死ねよ!!!」

そこでカラミティの一撃を回避し、反撃のビームライフルを撃つ。その一撃は狙いを僅かに外れ、カラミティの足元に突き刺さり、パイロットのオルガは怒りの声をあげた。

「くっ! てめえ」

そして、怒りと共に攻撃を仕掛けようとするオルガ。ユズハもまた、追撃を仕掛けようとする。しかし、そこにレイダーが突撃を仕掛けてきた。

「死んじゃえよおおお!!!」

「消えろおおおおお!!!」

 カラミティとレイダーが攻撃を仕掛けたのは同時だった。ネオクロスガンダムはそれを上昇してかわす。そして、ネオクロスガンダムを挟んで対角線上にあった2機の攻撃は互いの機体に降り注いだのだ。

「うおっ!?」

「てめえ!!」

 互いに怒りの声を上げるオルガとクロト。その攻撃は僅かであるが、互いの機体が傷つけた。そして、その光景を見て、ユズハは驚いた表情をした。

「この二人、連携が取れてない?」

 落ち着いて観察していたらば、すぐに気づいていただろう事に彼女はその時、初めて気づき、推測した。そして、ユズハはその推測を確かめる為に、回避に専念する。

「くそっ、ムカツクよお前!!」

 怒り狂ったクロトの攻撃。ついで、オルガの。交わし続け、そしてユズハは確信した。二人は連携などまるで考えず、お互い好き勝手戦っていることに。

「なら、こっちは・・・・・・・・・・」

 そして、そこで、ユズハは友軍に対し、ミノフスキー粒子の散布を通達、同時に散布を開始する。そして、続けてキラに通信をつないだ。

「聞こえる、キラ君?」

『あ、うん、何、一体?』

「作戦があるの」

 交戦中に入れられた通信に驚いた顔をするキラ。そして、ユズハは彼に対し、自分が考えた作戦を伝えた。

『わかった、やってみる!』

 キラはそれを承知した。そして、その直後戦場に混乱がおきた。

「な、何だ、レーダーが効かない!?」

「何だよ、これ!!」

 突如起きた電波状態の急激な悪化。それに連合兵が混乱を示す。レーダー類が使用できなくなったのはオーブ軍も同じだったが、あらかじめそれが起こるものが知っていたものと知らぬものその差は大きかった。連続して連合のMSが落とされる。そして、ファンネルを使用するのに、十分なミノフスキー濃度が充満した。

「ファンネル!!」

 ネオクロスガンダムから8機のファンネルが射出され、そして、それがフォビドゥンとレイダーを取り囲んだ。

「こいつが例の兵器かよ!」

「当たらないよーー」

 8機のファンネルから撃たれるビーム砲、それをレイダーとフォビドゥンは回避する。
 前回の戦闘から、ファンネルの存在については既に連合に知られていた。しかし、それ故に彼らには油断もまた存在したのである。

「ぬぅあっ?」

「邪魔するな!!」

 レイダーとフォビドゥン、2機は衝突しかけ、慌てて回避した。いつの間にかその2機は接触しそうになる程近づいていた、いや、近づけられたのである。レーダーが効かない状況で彼らはユズハに誘導されたのだ。

「いまだ!!」

 そこにストライクIWSPの全段射撃が放たれた。攻撃が直撃し2機の動きが止まる。そして、動きが止まったところにファンネルのビームが浴びせかけられ、2機は爆散した。
(後がき)
ブーステッドマン3人のそれぞれの特徴をちょっと忘れてしまったんですが、よく覚えてるという方がいれば、よかったら教えていただけないでしょうか?

PS.臨場感のある戦闘シーンがいつも以上に書けない・・・・・・



[2025] ガンダムSEEDcross第2部30話
Name: 柿の種
Date: 2006/01/28 15:36
「ぐっ、あいつら!!」
 
 ブーステッドマンの内二人がやられた事で、アズラエルは苛立ちを露わにする。そして、今回の“建前上の責任者”に向かって指示を出す。

「あの男を出してください」

 口調を丁寧だか、その言葉には強い怒張と苛立ちが篭っている。その指示に対し、責任者の男は反論を述べた。

「しかし、今だしても通信は愚かレーダーまで使えませんが」

「かまいませんよ。悠長にしていたら、最後の一人までやられてしまうかもしれない。そうなってからでは手遅れだ」

 『いいから、さっさとしろ』言外にそうニュアンスを込めたかのような言葉に、責任者の男は仕方なく、部下に指示を出した。そして、今回の作戦における最後の切り札。“連合の元エースパイロット”が搭乗するレイダーが出撃された。





「同型機!?」

 新たに戦場に投入されたレイダーを見てキラが叫ぶ。
 レイダーとフォビドゥンを落とした二人は残ったカラミティに攻撃を仕掛けようとしていた。しかし、その時に、後方からの増援にそれを阻まれる。

「あっちの方なら!!」

 フォビドゥンのようにバリアー系の装備をしていなければ大丈夫。そう考え攻撃を仕掛けるキラ。しかし、レイダーは彼の予測を超える反応を見せた。

「さっきのよりも速い!?」
 
 驚きの声をあげるキラ。回避し、次の瞬間には反撃を仕掛けてくる。キラの方もそれを回避するが、そのレイダー反応速度は先ほどまでユズハが相手にしていたレイダー以上に見えた。

「死んじゃえよ!!!」

「危ない!!」

 そこに更にカラミティの追撃。ユズハのネオクロスが盾を持って、それを庇う。そして、そこで、今度はそのネオクロスの方にレイダーは攻撃の照準を合わせた。

「させない!!」

 キラがそれを妨害する。実験を振るい、切りつけようとした。それを再び高機動で回避するレイダー。そして、そこに更に再びカラミティの攻撃が入る。

「くっ」

「まずい」

 先ほど、連携で相手を撃破したユズハとキラだったが、今度は逆に相手の連携に追い詰められていた。実際にはそれは。、カラミティのデタラメな戦術にレイダーのパイロットが合わせているだけだったが、それだけでユズハとキラのコンビネーションを上回っていたのだ。

「このパイロットは・・・・・!!」

 戦いながらユズハはおぼろげに気付いた。レイダーのパイロットは反応速度が速い訳ではない。いや、普通のパイロットよりは速いのだが、先ほどまで戦っていた相手に比べれば劣る。ただ、こちらの動きを先読みし行動に入るタイミングが早い為、速く動けるのだ。そして、それ以外にもとにかく、ひとつひとつの行動が自分達より遥かに上手い。
 ”経験”、天才と呼べる二人が唯一足りないそれを目の前の相手は持っていた。

「いい加減落ちてもらうぜ。しかし、あの機体と戦おう事になろうとはな・・・・・・」

 レイダーのコックピットの中、パイロットはストライクを見て呟き、そして引き金を弾く。レイダーから、放たれたビームはストライクをかすめ、装備の一部を使用不能にする。

「やられるわけには・・・・いかない!!」

 そこで、キラは種割れを発動させ、レイダーに向かって一気に近接する。急によくなったその動きに、レイダーの反応は一瞬遅れた。

「うわあああああ!!!」

「この動き!?・・・・くそっ、間に合うか!!」

 パイロットの叫びと共に実剣を振るおうとするストライクと回避行動を取ろうとするレイダー。そしてストライクの一撃はレイダーの羽を掠める。致命傷にはならなかったものの機体はバランスを崩す。

「いまだ!!」

 とどめの一撃を仕掛けようとするキラ。しかし、その時だった。ミノフスキー粒子が拡散がかろうじて通信が可能になったその空間で、レイダーからストライクに通信が飛び込む。そして、その通信の声は彼がよく知るものだった。

「待て坊主!! 俺だ、ムウ・ラ・フラガだ!!」

「ムウさん!?」

 かってのアークエンジェルでの仲間、“エンデュミオンの鷹”ムウ・ラ・フラガ、彼こそがキラ達が敵対するレイダーのパイロットだった・・・・・・。
 

(後書き)
更新に大分、間が空いてしまったので、短いですけど、とりあえず・・・・・・。
続きはなるべく早く、後、今度は長くしたいと思います。



[2025] ガンダムSEEDcross第2部31話
Name: 柿の種
Date: 2006/01/29 13:32
「ムウさん!! どうして連合に!?」

 一瞬の硬直の後、フラガは攻撃を再開した。キラは攻撃を回避しながら叫ぶ。

「坊主こそ、生きて、しかもオーブに所属しているなんて思わなかったぜ」

 はぐらかすように言うフラガにキラはそれを無視して叫び続けた。

「裏切られたんでしょ!? それなのに何故、まだ連合に居続けるんですか!!」

 オーブに戻ってからキラはユズハから色々と話を聞いていた。トール達が無事にオーブで暮らしている事や、そしてAAが連合に裏切りを受けたことを。それだけに、フラガが連合に居続ける事がキラには理解できなかった。

「知ってたのか。まあ、こっちにも色々と複雑な事情があってな。今は、ラミアス少佐の命がかかってるんだ。悪いが勝てせてもらうぜ」

「マリューさんが!?」

 その言葉にキラは驚きの声をあげる。その間にもレイダーの攻撃は降り注いた。キラは反撃せず、回避し続ける。

「ムウさん、やめてください!!」

「言っただろう。俺は負ける訳にはいかないってな」

 そこで、突然、レイダーが距離を置いた。その行動の意味が読めず混乱を感じたその次の瞬間キラはその意味を知る事になる。

「うわあああああああ」

ユズハのネオクロスガンダムを狙っていたカラミティの一撃がユズハが回避した事によって、ストライクに直激したのだ。それに、気付き、ユズハが慌てて、ストライクに近づこうとした。

「キラ君!!」

「甘い!!」

 しかし、それが隙を生んだ。その隙を逃さず放たれたレイダーの攻撃が直撃する。

「きゃあ!!」

 悲鳴をあげながらも機体操作を行う。そして、レイダーとカラミティの更なる攻撃を回避し、キラに通信を入れた。

「キラ君、大丈夫!?」

「う、うん。それよりも、ユズハ、あの機体に乗ってるのはムウさんなんだ!!」

「えっ!?」

 キラの言葉に驚くユズハ。そして、信じられないと言って叫んだ。

「だって、ムウさんは連合に裏切られて!?」

「僕だってそう言ったんだ!! けど、マリューさんが人質にとられてるって!!」

「マリューさんまで!?」

 その動揺、焦りから二人はどうしていいのかもわからず、そのまま回避を続ける。しかし、少しずつ、追い詰められていった。フラガのみならず、カラミティのパイロットオルガまでが連携を取り始めたのである。

「へー、こうすれば楽に落とせるって事か」

 ブーステッドマンの中では冷静なカラミティのパイロットはフラガの巧みな動きを見ている内に連携の有用性を学習し、拙いながらも敵を効率的に落とす戦術を使用し始めていた。

「しまっ!?」

 そして、回避しきれなかった攻撃にネオクロスが機体バランスを崩し、静止する。そこにカラミティの125mm2連装高エネルギー長射程ビーム砲の狙いが定められる。

「うっ、うがっ、うあああああ!!?」

 しかし、その時、オルガが急に苦しみだす。機体の異常な動きを見てフラガがその異常に気付いた。

「ちっ、時間切れか!!」

 ブーステッドマンは一定時間ごとに薬を飲用しなければ禁断症状がわかる。その場合、彼を連れて撤退、不可能なら機体ごと“破壊”する事を命令付けられていたフラガはレイダーを地上に近づけると、カラミティを背に乗せ、そのまま艦へと戻ろうとする。

「待ってください、ムゥさん!!」

 キラはそれを呼び止めようとする。しかし、かえってきた答えはレイダーの銃弾。そして、その姿は連合の艦へと消えた。

「ムウさん・・・・・・・・・」

 呟くキラ。そんな彼にユズハが声をかける。

「ムウさん達の事は気になるけど、カガリ達はまだ戦ってるわ。行きましょう」

「・・・・うん」





「私はここで終わりのようだな」

 ジャン・キャリーはそう呟いた。今、彼の機体はゴールドフーレム・天にそのエネルギーの全てを奪われた上で刃を突きつけられていた。周囲の味方は既にほとんどが全滅し、精鋭だったソキウスの乗るロングダガーは2機が破壊され、1機は時期と同じようにエネルギーを吸い尽くされた上で捕獲されている。

「どの道、私は理想に破れた身だ・・・・・」

 ナチュラルとコーディネーターの共存、その理想を求め、連合で戦い続けたが、その理想は適わなかった。ならば、ここで死んでも同じそう思いながら彼は一つの疑問を覚える。

「何故、ひとおもいに殺さないのだ?」
 
 ゴールドフレーム・天は刃を突きつけたままジャンの乗るロングダガーを貫こうとしない。代りに彼の機体に通信が入った。

「私の部下になる気はないか?」

「?」

 通信から流れた意外な言葉にジャンは一瞬、意味が理解できなくなる。そして、そんな彼にギナは語った。

「お前のような優秀なものを殺すのは惜しい。オーブに従うのならば、命は助けよう」

「・・・・オーブにいれば、私の理想は適うだろうか?」

 迷った末にそう答えるジャン。そして、ギナに対し自らの理想を語った。それに対し、ギナはあえて直接的な明言を避ける言葉を返した。

「オーブの政策は知っていよう?」

「・・・・・・・・」

 ジャンは黙り考え込む。確かにオーブの考え方は彼の理想と近い所がある。しかし、同じではない。けれど、ここで死ぬよりはできる事が多くあるかもしれない。そして、彼は決断した。

「わかった。降伏しよう」

「歓迎しよう」

 その答えにギナは満足し、笑みを浮かべた。





「くっ、赤道連合の援護があるとはいえ、こんな小国に!!」

 責めあぐねている事に連合の艦の艦長がいらただしげに叫ぶ。その時、突然艦が大きく揺れた。

「な、何だ、どうした!?」

「水中からの攻撃です!!」

 その事態を部下に問う。そして、却ってきた答えに、彼は怒り叫んだ。

「何故、気付かなかった!!」

「それが、水中ソナーの表示が不安定でして」

「なんだと!?」

 水中用に調整されソナーに対するかく乱装置が装備されたM2クロスによる奇襲・伏兵戦術、それがここにきて発動されたのである。それにより、オーブ近海に接近していた艦隊は次々と攻撃を受け、そして沈みはじめていた。

「な、何とかしろ!!」

「何とかと言われましても!」

 連合には今だ量産体制に入ったMSが存在しない。敵が見えない上に水中戦力がないのでは手も足もでなかった。更に、近海の戦力が壊滅した事で、既にオーブに上陸していた連合の地上部隊は味方戦力と分断され、囲まれ、次々と撃ち落されていく。
 

「何という事だ」

 味方の損害を目にしながら彼は呆然と呟く。そして、オーブに対し、連合は2度目の敗走を開始した。



[2025] ガンダムSEEDcross第2部閑話
Name: 柿の種
Date: 2005/12/09 02:39
 オーブが2度目の防衛を果たしてから2週間の時が過ぎ、この間にも世界は大きく動いていた。中立を保っていた最後の国家であるスイスとスカンジナビア王国とも同盟を結び、中立同盟はその勢力を更に拡大、連合は3度目のオーブ侵攻を計画していたが、この事態に方向転換をし、ザフト占領域であるビクトリア侵攻を計画する。
そして、更なる変化を呼び起こす事態として、南アメリカ地域が極秘に中立国同盟への編入を求めてきたのである。南アメリカは開戦直後に武力によって、大西洋連合に併合された地域で、それ故に独立を願い、中立国同盟の力を求めてきたのだった。





「こればかりは受け入れる事はできん!!」

 南アメリカの編入に対する検討に対し、ウズミはそれを強く反対する。その最たる理由は現在、南アメリカ地域が大西洋連合の一部に数えられているからであった。その南アメリカ地域を中立国同盟に招き入れる事はオーブの理念の一つ、“他国を侵略せず”に抵触し、連合に対し、より本格的な敵対関係をつくりかねない。
 説得の末、中立国同盟の結成に関しては譲歩した彼も今度ばかりは認められないの一点張りだった。

「私も、ウズミに賛成だ。ここで、南アメリカを受け入れれば余計な火種までも取り込む事になるだろう」

 そして、ウズミの発言にダイキも同意する。中立国同盟を提唱した彼であるが、それは身を守る為の最低限の力として彼は考えている。現在、連合の占領域にある地域までも取り込むのは過剰な戦力を得る事だと彼は考えていた。それに、ウズミ程ではないが、彼も本来はオーブの理念に対し、強く信奉している人間なのだ。ただ、彼の場合はそれよりも優先すべき事がある事を強く意識している為、それに対する柔軟性を持ち合わせてもいた。

「今更、火種も何もないだろう。既に我々は2度の攻撃をうけているのだぞ? 南アメリカが加われば、それはこちらの戦力の増強と共に連合の戦力を削る事ができる。受け入れるべきだと思うがね」

 そんな二人に対し、真っ向から反対したのがサハク家当主、コトー・サハクだった。サハク家はオーブで軍部を担い、そしてそれ故か野心の強いものが多い。特に、彼の義息であるロンド・ギナ・サハクに関してはオーブを世界のトップにのし上げる、言い換えれば世界征服、自らが覇王になる事を望む程の野心を抱いていた。故に、彼等はこの機会をそのチャンスと捉えている。

「オーブにはまだ余力がある。しかし、2度の戦闘で、兵器はまだしも人材に不足が見られるのは事実だ。同盟を結んでから、国民の意識が高まり、志願兵も増えたが彼等がものになるのはまだ先、オーブの安全を確保するには戦力の増強こそ、最良の道だ」

 野心を隠し畳かけるコトー。とはいえ、彼の言う事は嘘では無い。確かに、このまま消耗戦になれば、オーブが不利な状況に追いかまれる事は予想されうる事実だった。それ故に意見は割れた。しかし、最終的にはウズミ、ダイキというオーブの中で1、2位の最高権力者である彼等が押す拒否の方向で話は進み、また、他同盟国もその意見を示す国家が多かった為、南米の中立国同盟への編入はとりあえず、見送られる事となった。





 他に個人レベルではキラ達に1日だけ休暇が与えられ、ヘリオポリスの友人等や、フィオナやエル、ミラ達と再会を果たしたりと言う事があり、彼等は一時の平和を楽しもうとしていた。

 そして、ビクトリア侵攻作戦の中に、彼等のかっての友人であり、仲間であった、赤い髪の少女の姿が存在した。


(後書き)
今回はかなり短く、文章の多くも箇条書きなので閑話としました。

(愚痴)
ダイキ以下、五大氏族の主張が頭の中のイメージどおりにかけない・・・・。ちなみにダイキはイメージでは体つきのしっかりした50代後半といったところです。



[2025] Re:ガンダムSEEDcross第2部閑話2
Name: 柿の種
Date: 2005/12/19 17:54
*今回はお知らせをする為、非常に短いですが、続きをアップする事にしました。


「もういや!!」

 戦場に少女の叫びが響き渡る。しかし、それを聞くものは誰もいない。あるいは、耳に聞こえているものはいるのかもしれないが、それに耳を貸すものはいない。
少女の名はフレイ・アルスター。彼女は決して前線にでない。彼女の立場はあくまでプロパガンタだからだ。しかし、それでも、対外的には肉親の為に戦う戦士であり、実際に参加する訳ではなくても戦場にはおもむかなくてはならない。軍人としては厚遇であったが、それでもそれは彼女にとっては過酷な環境だった。

「どうして、どうしてこんな事になっちゃたの・・・・」

 加えて彼女は孤独だった。ここには、ユズハもサイも、知り合いだったものは誰もおらず、新しく彼女の側によってくるものは下心のあるものばかりだった。
今の自分の状況が自分自身が招いたものである事がわかっていない訳ではなかった。それでも、全て自分が悪いと思えるほど割り切れる訳でもないし、他人と比べて自分がマシだと思う事もできない。抱いていた罪悪感も辛さの前に流れ、何故、自分がこんな目に、そんな気持ちでフレイは一杯だった。

「こんなまずいもの!!」

 軍用のレーションを投げ捨てる。けど、彼女にはそれを咎めるものさえ居ない。そして、捨てたからと言って新しいもの、ましてやより良いものが与えられるなどと言う事は如何
に彼女とて無い。

「こんなものを、こんなものをコーディネーターが造るから!!」

 彼女の目に真紅のストライクダガーが目に入る。これを造ったのは連合だが、彼女が指示すのはMS全て。連合各国では彼女はより輝いたプロパガンタであるために、英雄、新たなるエースとしてまつり上げられていた。しかし、無論の事、実際はそんなものではない。彼女にできるのは精々が歩かせる事で、戦闘など一度も参加していないのだ。国で流れているのは、別の同色・同型機に乗る別のパイロットの映像。
 ここでは、無能で妬ましい厄介者であり、国では造られた虚像としての英雄像が一人歩きする。もはや、彼女には行く所などどこにもありはしなかった。

「ユズハ、サイ・・・キラでもいい。誰か助けてよ」

 弱い彼女の心は憎んだ少年にすら助けを求める。
 そして、そんな彼女を他所に連合軍はビクトリアの奪回に成功した。


(後書き)
プロット段階ではここで、フレイが真のSEED能力者して種割れする予定でした。けど、あまりにご都合すぎるキャラかなとも思いやめました。

(連絡)
現在SEEDcrossに関しては少しスランプ状態に陥っています。
このまま無理に続けても駄作にしかならないと思い、一時、休載させていただきます。決して連載をやめる訳ではありませんし、ネタが思いつけば直ぐにでも再開するかもしれません。
また、この機会に今までの話の中でおかしいところがあれば、修正しておきたいとも思うので、何かありましたらどんな事でもご指摘いただければありがたいです。
作品を楽しみにしていただいている方には申し訳無いと思いますが、なるべく早期の再開をめざしますので、ご了承の方よろしくお願いします。



[2025] ガンダムSEEDcross第2部32話
Name: 柿の種◆eec182ce
Date: 2010/05/26 22:45
「くっ、何と言う事だ!!」

 プラントにパトリック・ザラの叫びが響き渡る。彼はつい先日、政敵であったシーゲル・クラインを排除し、ほぼ完全に議会の権力を掌握していた。そして、穏健派の動きを封じ、ナチュラル全滅に向けて動き出そうとした直後、その穏健派の一部が内部クーデターを画策していた事が発覚したのである。

「まさか、アスランが・・・・」

 そしてその内部クーデターのメンバーの中には彼の息子であるアスランが混じっていた。クライン派を中心としたそのクーデターメンバーは議会の権限を握ろうとしていたが失敗、一部が射殺された後、残りのメンバーはプラント外部に逃亡した。それ自体も問題であったが、その時にNJC搭載型のMSであるジャスティスとそれ専用戦艦であるエターナルが奪われたのが問題を更に深刻化されている。

「もし、奴等が連合に投降すれば・・・・・」

 NJCが連合の手に渡れば、プラントの命運にも関わる。その前に彼はなんとしてでも彼等をとめる手をうつ事にした。

「ジュール隊に連絡を!!」

 そして、パトリックは現在、プラントの最強部隊であるジュール隊にもう一つのNJC搭載機フリーダムを与え、彼等の捕獲を命じた。





「赤道連合に援軍を?」

「ああ、うちの部隊からもユズハかキラのどちらかをおくる事になった」

 アムロが第13MS小隊に伝達する。オーブが2度目の襲撃を受けてから1ヶ月、連合はその攻撃目標をオーブから赤道連合へと変更していた。これはスカンジナビア王国やスイスが加わった事で、中立国同盟が単にオーブを落としただけでは切り崩せない存在になってきた事が影響している。それ故に地理的に侵攻しやすい赤道連合へとまずは攻撃目標を変えてきたのである。

「連合の攻撃はかなり激しくなってきているようなので我が国からも援軍を送る事が決定した。その部隊の中に、13部隊から、一人含める事になっている」

「なんで、わざわざ一人だけ送るんだ? 確かにキラやユズハは強いけど、一人位加えてもそんなに意味はないだろう。寧ろ連携とかとれなくて、下手すりゃ戦力が低下するんじゃないか?」

 アムロの言葉に対し疑問を覚えたカガリが珍しく適切な指摘をする。それに対し、アムロは表情を歪め答えた。

「赤道連合からの希望だ。如何に強力な戦力とはいえ、わざわざそれをい希望していたのは、恐らくは単に戦力として以上の意味があるのだろう」

「意味? なんですか、それは?」

 その言葉にキラやユズハも不思議そうな顔をする。アムロは沈黙し、そして重い口を開いた。

「これはあくまでも推測に過ぎないが、赤道連合の目的は恐らくは恐らくストライクやネオクロスガンダムの強さの秘密を探る事にあるのではないかと考えられる。そして、その最悪の場合、機体やパイロットの捕獲を考えてくる可能性もありえないとは言い切れないな」

「まさか、だって味方なんでしょう・・・・・・」

 アムロの言葉を聞いてキラは強いショックを受けた。それはユズハやカガリも同じである。実戦を経験してきたとはいえ、精神的に彼等はまだまだ子供だった。

「そこまでしてくる可能性は低い。しかし残念ながら同盟国とはいえ赤道連合は完全な味方とは言い難い。言い方は悪いが、俺達は互いに利用しあう立場という事だということだ。特に、赤道連合にしてみれば欲しいのはオーブの技術だからな。それを手に入れられれば最悪同盟を解消されてもいいと考えているかもしれない」

「「「・・・・・・・・」」」

 絶句するユズハ達。そんな彼女にアムロが言い聞かせるように言う。

「お前達の年では納得できない事もあるだろうが、国家・・・・・いや、大人の付き合いというのはそういうものだと言う事を理解しておけ。個人レベルならともかく、組織レベルの付き合いは利害中心で結びついている」

「そんな付き合いしかできないっていうのか!! そんな風だから争いがなくならないんじゃないのか!!」

 しかし、そこでカガリが耐え切れなかったように爆発して叫んだ。その言葉に対してはアムロも簡単には流さす、少し悲痛な顔をした。

「そうだな。だが、それが現実でもある。ナチュラル、コーディネーター関係なく、人類は幼すぎる」

 声を荒げるカガリにそうアムロは憂いた目でそう答えた。それをみてカガリが消沈する。

「だが、俺はお前達にそんなものとは違う世界の一歩を踏み出してもらいたいと思っている。人がわかりあうのは難しいが不可能ではない。俺は、一度その奇跡を見たことがあるからな」

 そこで励ますようにアムロはそう告げた。その言葉に救われたようにキラ達の表情が少し緩む。しかし、まだ解決しなければならない事があった。

「それで、どちらかを送るかだが……」

 その言葉で再び、少年達の表情が曇る。先程までの話を聞いた後では同盟国の救援とはいえ、そこに向かうのは躊躇いが感じられた。

「私が……」

「僕がいきます」

 しばらくの沈黙の後、ユズハが立候補しようとしてキラがそれを制した。以外にも彼にはフェミニストな所がある。それは、ヘリオポリスで初対面のカガリにシェルターを譲った所からも見られた。それ故に危険な所には自分が向かうべきだと思ったのだ。

「ヤマトニ尉、いいのか?」

「はい」
 
「……わかった。今回の件には君を派遣する」

 アムロは少し迷った後それを受理する。彼としてもできれば娘をこれ以上過酷な場所に送りたくない気持ちはあったのだ。とはいえ、もしユズハのみが立候補していれば、彼はユズハをいかせていただろうが。

「了解しました。あの、それで指揮官の人は誰になるのでしょうか?」

 アムロが階位で呼んだ事で、キラもそれに合わせた口調で答えると質問をする。
その疑問に対し、彼は内心でアムロがそれを務める事を期待していた。自らの意思で立候補したとはいえ不安が無い訳ではない。しかし彼が側にいるのなら、戦闘も聞かされたような陰謀が事実だったとしても何とかなるような気がしたのだ。

「ロンド・ギナ・サハクという男だ。指揮官としての能力は信頼できる。それに、先程話したような企みに対しては俺よりも適した男だな。奴がいればそれ程心配する事はない。勿論、警戒を怠っていい訳ではないがな」

「そうですか」

 期待していた答えではなかった事に多少の失望をしながらも、アムロがその相手を褒めているようなので大丈夫だろうとキラは考える事にした。そしてその翌日、キラは赤道連合へと派遣された。


(後書き)
久しぶりに更新です。休養した分、今回は自分的には割りと納得したものが書けました。まあ、あくまで自分的にはですけどね。



[2025] ガンダムSEEDcross第2部33話
Name: 柿の種
Date: 2006/01/31 21:01
「くっ、あの馬鹿何を考えているんだ!!」

 かっての戦友がプラントを裏切り脱走したという話を聞かされ、苛立ちを見せるイザーク。そんな彼に最近では彼の秘書的な事もつとめる部下のシホがおそるおそる訪ねた。

「あの、それで、フリーダムとへヴンはどうしますか?」

「機体か・・・・」

 クライン派を捕獲に対し、ジャスティスに対抗する為に、ジュール隊にはフリーダムが与えられると共に、へヴンが核エンジン搭載タイプへと改良を施されていた。元々、フリーダムのプロトタイプであり、規格をほぼ同じとするへヴンの核エンジンへの換装は問題なかったが、もともとが旧式なだけに総合性能ではどうしてもフリーダムに劣る。とはいえ乗りなれた機体という事もあるので、どちらを使うか、そしてもう一機に誰を乗せるのかについてはイザークの判断に任せられていた。

「俺はそのままへヴンを使う。フリーダムはニコルかディアッカかシャナか希望する奴を乗せることにしよう」

「希望する者ですか・・・・・? もし、複数が希望したら・・・・」

「その時は模擬戦でもやらせて一番強い奴を乗せればいい」

「わ、わかりました」

 機体に愛着を持つタイプであるイザークは性能に劣るヘヴンに乗り続ける事を選んだ。そうして、余ったフリーダムはジュール隊の準エースである3人の誰かを乗せる事に決めた。しかし、その選出の際のアバウトさにシホは表情に汗をたらす。

「それからデュエルの修理が終わったそうですがどうしますか?」

 そして、気を取り直し次の質問をした。大気圏突入の際に破損したデュエルであったが、全損には至っていなかったので、回収され修理されていたのだ。優先順位にとして比較的下だったので後回しにされていたのだが、それが終わり希望するなら部隊への変換が許可されていた。

「デュエルが? こっちによこしてもらえるのか? なら、一応もらっておいて予備にしとけ」

「はい。そうしておきます」

 少し驚いた顔をするイザーク。デュエルは彼にとってあるいみ始めて乗った特機であり、愛着もあった。それに部隊には機体が破損した時の予備のMSがジンの一機も無かった事もあり、そう答えておく。シホはそれに承知し、そしてこの場の彼等の話は終わった。





(見られてる・・・・・・)
 
 赤道連合に向かう軍艦の食堂の中でキラは自分に集まる視線に居心地の悪さを感じていた。それは、ここに限ったことでなく、軍艦の中では常にそうだった。違うのは与えられた自室の中位だ。二尉という階級が与えられているキラは個室が与えられていて、他の場所での居心地の悪さにできる限り部屋に閉じこもっている位だ。とはいえ、食事の時間はそうはいかない。

(僕がコーディネーターだから・・・・って訳じゃないみたいだけど)

 オーブ本国に移り住んでから自分と同じようにコーディネーターである相手とは何人もあったが彼等が特に注目されるような様子は見られなかった。本国ではヘリオポリスとは違い、コーディネーターがハーフも含め、人口の1割近くをも占める。差別的な感情を持っている人もいない訳ではなかったが、いちいち気にしていたらキリがないので、大多数の人々は極、平然と彼等を受け入れているのだ。しかし、だとすると彼は今、自分が注目を集めている理由がわからなかった。

「よう、久しぶりだな」

「えっ?」

 考え込むキラ。その時、彼に声をかけるものがいた。その声の方を見るとそこにいたのは26,7の男。しかし、キラにはその男に見覚えがなかった。

「あの、すいません。どなたでしたっけ?」

 失礼だとは思ったが、いくら顔を眺めてもどうしても思い出せず仕方なく尋ねる。すると尋ねられた方の男は一瞬驚いた顔をした後、悪戯でも思いついたような表情を浮かべ言った。

「おいおい、忘れちまったのか。薄情な奴だな」

「す、すいません」

 責められたと思い小さくなって謝るキラ。それを見て、男はちょっと罰の悪そうな顔をする。

「悪い、ちょっとからかっちまったな。まあ、お前が覚えてないのは無理が無いさ。直接顔をあわせるのはこれが初めてだからな。けど、俺の声に聞き覚えはないか?」

「声・・・ですか?」

 言われてみれば、キラは彼の声をどこかで聞いたような気がした。しかし、あと少しの所まででかかっているのだが、思い出せない。それを見て男は一つ助言をした。

「じゃあ、ヒントをだしてやる。俺とお前はオーブが連合に最初の侵攻を受けた時に出会った」

「あの時に・・・?あっ!!」

 そこで、キラはその男が誰であったのかに気付いた。そして、満面の笑みを浮かべる。

「無事だったんですね!!」

「ああ、悪運強く生き延びたよ」

 彼はキラと一緒に戦い、そして機体のエネルギーの切れたキラを庇いって一人で戦場に残った兵士だった。死んだと諦めていただけに、彼の生存にキラは喜ぶ。

「よかった。あの時は本当にありがとうございました」

「本当に感謝してるのか? その割りに命の恩人の顔は忘れていたみたいだがな?」

「あ、それは・・・・・」

 礼を言うキラに対し、男はからかうように言う。言われて口ごもるキラを見て男はからからと笑った。

「はは、冗談だ。そう、何度も騙されるなよ。そういえば、あの時は名前も名乗ってなかったかな。俺は『カイ・クリストファー』、階級は三尉だ」

「あ、僕は・・・・」

「知ってる。キラ・ヤマトニ尉だろ?」

「えっ、どうして・・・・」

 名前を名乗ろうとして先に言われて驚くキラ。それに対し、カイは説明をしてくれた。

「その調子じゃあ、お前なんで自分が注目を集めてるかもわかっていないだろう?」

「あっ、はい。どうしてなんですか?」

「お前は有名人なんだよ、軍内部ではな。オーブのエースとして、それからアイドル二人と同じ部隊に所属している羨ましい男としてな」

「アイドル・・・ですか?」

 エースと言うのはまだ理解できなくもなかった。自分の実力が他のコーディネーターやナチュラルの並エースと比べてすら秀でていると言う事はキラも理解している。赤道連合も注目しているという話しはアムロからも聞いた。しかし。もう一つの単語が指示す所の方は何を示すのかがよく理解できなかった。

「応、カガリ・ユラ・アスハとユズハ・クサナギ、オーブの五大氏族にしてエース、おまけに器量よしの女の子。こんなのが戦場に立って、注目を集めない訳がないだろうが? 特にカガリ嬢の方は国民と共に戦う国家元首の娘として、まるでジャンヌ・ダルクみたいな感じで大々的なプロパガンタとしてもちあげられてる。おかげで士気は向上、志願兵も増えてるって話だ。まっ、そういう奴等の中には使い物になんないのも結構多いらしいけどな」

「そんな事に・・・・・・・」

 知らなかった真実に驚くキラ。今まで、カガリやユズハの立場にすらあまり注意を払っていなかったので、カイの話は本当に予想外だった。

「そんで、お前はそのついでとして有名な訳だ」

「僕はついでですか・・・・・」

 これ以上注目を集めたい訳ではなかったが、そういう風に言われると少しばかし落ち込む。そんなキラをなぐさめるようにカイが背中を叩いた。

「まっ、気にすんな。お前のエースとしての技量はそれとは別に評価されてるんだしよ。だからこそ、その年で二尉って訳だ。おっと、そういえば、俺より階級上な訳だから敬語使わんとまずいか?」

「あっ、別にそれは気にしないでください。キラでいいです。僕の方もカイさんでいいですか?」

「おう、勿論OKだ。んじゃ、これからよろしくな、キラ」

「はい、こちらこそ」

 そして、その後、キラはカイと一緒に食事を取り友人と過ごすような楽しい時間をすごしたのだった。


(後書き)
志保がニコルを呼ぶとしたら先輩という呼び方でいいでしょうかね?それとも呼び捨ての方がらしい?
それにしても最近ユズハの影が薄いかも(汗)



[2025] ガンダムSEEDcross第2部34話
Name: 柿の種
Date: 2006/01/31 21:00
「これからどうするんだ、ラクス?」

「それは・・・・・・・・」

 プラントから脱走した戦艦であるエターナルの中でアスランの問いかけに対し、ラクスが押し黙る。
 当初のラクス、そしてシーゲルの予定ではプラントの政権を推し進め、中立国同盟やジャンク屋ギルドを仲介役として連合との講和を推し進める予定だった。しかし、その思惑に反し、国内は好戦派中心へと移行、シーゲルは失脚し、二次策であった内部クーデターを推し進める事を彼女等は選んだ。けれど、その計画が漏洩。最終策として計画されていた外部への脱出を慣行したのである。

「しばらくは身を隠しながら、ジャンク屋ギルドを仲介して中立国同盟に動いてもらいます。彼等にこの戦争の調停者を務めてもらい、私達もそれに協力する。そして、この戦争を終結にむけてすすませようと思います」

「彼等が動いてくれなければ」

「きっと、動いてくれると信じています。場合によっては直接交渉に伺いましょう。もし、それでも駄目なら、私達だけでも動いて、この戦いを仲裁しなければなりません」

「私達だけって・・・・」

 ラクスの言葉にアスランが呆然とした声を漏らす。現在シーゲル派の戦力はエターナルと同じく、プラントから奪取した戦艦の合わせて二隻と、数十体のMSそれだけである。人材に関しても、アークエンジェルとの戦闘後、戦力の衰退期を狙われ、宇宙へと撤退し、シーゲル派陣営に加わったバルドフェイドを中心とする部隊を覗けば残りは烏合の衆。とても連合とプラントの間にたって戦える戦力ではない。

「無謀な事はわかっています。それでも、私達はやらなくてはいけないのです。この宇宙に平和をもたらし、人類の未来の為に」

 ショックの抜けないアスランにラクスがそうきっぱりと宣言する。その言葉の強さにアスランは覚悟を決める事にした。どの道もはや退く事はできないのだ。ならばラクスを信じてこのまま彼女についていこう、そして自分の力でできる事をに出来る事を成し遂げ、この世界に平和を呼び戻そうと。





「もうそろそろ着くみたいだな」

「赤道連合の方は戦況はどうなんですか?」

 休憩室でくつろぎながら、キラがカイに質問する。それに対し、カイは呆れた顔をした。

「おいおい、お前の方が階級では上なんだから、そう言った情報が入ってくる筈だろ」

「あ、いえ、でも、僕、聞いてなくて」

「まあいい。俺の聞いたとこだとそんなに悪くは無いらしいな。スカンジナビア王国と今までにオーブが送った増援もあるし、連合も結構疲弊してるしな」

「そうなんですか」

 罰の悪そうな表情をするキラにカイが自分の知る限りの情報を説明した。

「まっ、これからはもっと自分の立場をもっと上手く活用しとけ。とはいえ、下手に知りすぎると辛くなるかも知れんけどな。兵士は言われた事だけただ聞いてる方が楽だしよ」

「・・・・・・」

 キラは言われた事を考える。カイはそれほど深刻な話をしたつもりはなかったのだろう。それは、口調からも伺える。しかし、キラにとってはそうではなかった。何かをすべき、そう考えている彼にとってはただ戦うだけではなく、もっと色々な事を知るべきなのかもしれない、そう思えたのだった。

「さてと、もう少し立ったら集合だろ。一度部屋に戻って準備を済ませておいた方がいいぜ」

「あっ、はい」

 そこでカイが立ち上がる。キラもそれに続き、そしてお互い部屋に戻った。





「お前がキラ・ヤマトか?」

「えっ、はい、あなたは?」

 部屋に戻る途中、キラは黒い服を着た長身の男に話しかけられた。いや、キラにはその相手が男かどうかキラにはわからなかった。中性的な容姿で女と言われればそう見えなくもない。

「上官の顔位覚えておくのだな。私が、ロンド・ギナ・サハクだ」

「えっ、あなたが!」

 男の名乗った名前にキラが驚く。それはアムロから聞いた今回の作戦の最高司令官の名前だった。そしてギナは興味深そうにキラに聞く。

「お前の噂は聞いている。今回の作戦では期待してるぞ」

「あ、はい。えーと、期待に答えて見せます」

 彼の頭の中に思い浮かんだ軍人ぽい受け応えをしておく。彼は軍人としての正式な教育を受けていないので、知り合い以外の上官にどう接していいのか良くわからない。ただ、軍人が上下関係に厳しいというイメージはあったので、それなりの対応をしておかなければまずいという考えはあった。

「ああ、その力たっぷりと見せてもらおう。スーパーコーディネーターの力をな」

「スーパーコーディネーター? なんですか、それは・・・?」

「君のような超人はただのコーディネーターという言葉では括れまい。それではな」

 ギナの言った聞きなれない言葉にキラが尋ねる。しかし、ギナはわかるようなわからないような曖昧な言葉を返し、そのまま立ち去っていったしまった。

「なんだったんだろう。一体」

 後には狐につままれたような気分にキラ、一人が残された。





「キラ君、大丈夫かなあ・・・・」

「おい、ユズハ、そろそろだぞ」

「あ、うん」

 オーブ軍基地でキラの身を案ずるユズハ。彼女にカガリが声をかけた。赤道連合に向かわなかった軍人にも当然、仕事はある。訓練、それが彼等の常時の仕事である。今日、行なわれているのは、試作機が完成したM2アストレイのテストを兼ねた模擬戦だった。
 機体の準備をする二人―――相手の機体の性能に合わせてユズハの機体はM1クロス。そして準備を進める二人に対し、既に機体に搭乗していたM2アストレイのパイロットが通信を開いた。

『オーブ軍に入ったばかりの私にこんな大役を任せてもらってもいいのかね?』

「ギナの推薦だ。それに君程に優秀なパイロットはオーブにはあまりいないのでね」

『そうか。少なくとも私の腕を信頼してもらっているのだな。わかった、私はそれに全力で答え、信用も勝ち取れるようにしよう』

 M2アストレイのテストパイロットを務めるのはつい、先日、連合からオーブに移った元連合エース、ジャン・キャリーだった。前回の戦いで捕獲された3人のソキウスはギナの第12MS部隊に編入されたが、彼等と違い理性のある彼は裏切りの可能性を考慮され、オーブに残されていたのである。そして、彼の問いに答えたのはギナの姉であるロンド・ミナ・サハクだった。

「それじゃあ、準備はいいかしら?」

 ジャンとミナが話しているうちに、ユズハとカガリが準備を終える。そして、ソードアストレイパックを装備したM2-アストレイとM1-クロスに搭乗したユズハの模擬戦が始まった。





「いい性能だな。M1-クロスの性能を凌駕している。ところで、エリカ、例の機体はどうなっている?」

 模擬戦を観戦しながら、ミナがエリカに尋ねる。エリカは表情に少し難色を示しながら答えた。

「現在、M2-アストレイの製造を優先していますので、完成度は6割という所ですが・・・・・後、一月もあれば、実用レベルには」

「そうか。期待してるぞ。私の“アマツ”の完成をな」

 そう言って、ミナは唇の端を浮かばせた。


(後書き)
ユズハの影薄い(汗)けど、こっからもっと薄くなるかも。しばらくはキラとアスラン&ラクスを中心に話を描写していく予定です。



[2025] ガンダムSEEDcross第2部35話
Name: 柿の種
Date: 2006/02/04 00:49
 赤道連合の軍港にたどり着いたオーブ軍はそのまま艦を残し、MSと戦車、輸送車を使い、赤道連合の基地に移動を行なっていた。キラもその隊列の中にストライクで加わり、移動する。しかし、その機体は何故か頭部をせわしなく動かしている。

「どうした、坊主きょろきょろしやがって」

「あっ、その、こういうのは慣れていないもので、つい・・・・・」

 その様子を見て、今回の作戦でMSの部隊長を務める熟練の兵士長ボビーがキラに通信を入れてきた。彼とはキラもカイを通じ、出撃前に話し、それなりに打ち解けている。

「あー、そういえば、お前は軍事訓練を受けていないんだってな」

「す、すいません」

「なあに、気にすんな。訓練なんて受けてなくてもお前さんは俺達の誰よりつええんだ。まっ、増長され過ぎても困るし、学ぶべき事はいっぱいあるだろうが、もっと自信をもってもいいと思うぜ」

「は、はい」

 ボビーの豪快さに少し気圧されながらも、その気使いをキラは心地よく思う。そうして、彼等は進軍を続けた。





「それで、お前達の誰かに新型の核エンジン搭載機に乗ってもらう事になった。希望するものはいるか?」

「俺は要らないよ。俺にはバスターがあるからな」

「私にも必要ない。ニコルが乗るといい」

ディアッカ、シャナ、ニコルを集め、一通りの説明をした後、イザークが彼等の意見を聞く。それに対し、ディアッカとシャナは棄権した。そして、ニコルはそれを素直に受ける。

「じゃあ、僕が使わせてもらいますね」

 その表情はまるで新しいおもちゃをもらった子供のように嬉しそうだった。それを見て、イザークもやるべき事が一つ終わったと満足して、彼等を解散させ、その場を後にする。

「さてと、後はアスラン達だな・・・・・・・・・」

 しかし、肝心の問題はこれからであった。呟くと、彼はシホの場所へと急いだ。そして、彼女の待機場所に入り尋ねる。

「アスラン達の居場所は何をつかめたか?」

「いえ、まだ、何も・・・・・。軍の諜報部からも何も情報が入ってきていませんし・・・・。」

「そうか、それにしてもあいつは、それにラクス様達は一体何を考えているのだ!!」

 答えを聞いていらただしげにするイザーク。それに対し、シホが頭を下げた。

「すいません・・・私にもそれは」

「すまん、お前を責めている訳じゃない」

「あっ、いえ、気にしないでください」

 少々、八つ当たりのようだったと気付き、イザークが謝罪する。その態度に彼に好意と敬意をもつシホは慌て、顔を少し赤くする。そして、そこで彼女は話しを逸らそうとして、ある事を思い出した

「あっ、今、ふと思い出しのですが、もしかしたらラクス様達の手がかりを掴めるかもしれない所があります」

「何、本当か!?」

「はい。情報屋でルキーニという男なのですが、ザフトには所属していませんが、コーディネーターです」

 シホの言葉に喜色を示したイザークだったが、答えを聞いて直ぐに顔を顰める。

「情報屋だと? そんな怪しい奴等が当てになるのか?」

「はい、裏の世界では最も優秀な相手と言われていますし。今のラクス様のように影に潜伏なされた立場なら軍の諜報部よりもかえって見つけ出しやすいかも」

「なるほど、裏の世界の事はその世界にいるものに聞いた方がいいと言う事か・・・・・・よし、駄目もとで当たってみろ」

「はい、わかりました」

 イザークの言葉にシホが答える。そして彼等の乗る艦は情報屋ルキーニへと行き先を向けた。





 マレー半島中息にある赤道連合の基地にたどり着いたオーブ軍はそこで、ギナが代表となり、赤道連合軍高官と話し合いをしていた。しかし、そのギナの表情には僅かに不快感が浮かんでいる。

「侵攻作戦? 私達の同盟はあくまで専守防衛を基本としたものの筈だが?」

「原則的にはでしょう? それに、完全な島国であるオーブ国と違い、我が国の国土の一部は連合と接地しています。積極的自衛権に出なければ守りきれないのですよ」

「なるほど、それでもこれは原則に反しているのは確かだ。貸しにさせてもらうぞ」

 この要請を断る事はできない。赤道連合の話は筋が通っており、マレー半島が落とされる事は、赤道連合のみならず、中立同盟全体になって大打撃になる。一応同盟のルールにも抵触する事でもあるので、ギナとはいえ正式な承認は彼よりも上に話を通してからになるが、ほぼ間違いなく通るであろう事は予想された。ならば、ギナとしてはなるべく恩を売っておく事しかできない。

「作戦の詳細に関しては1時間後に、それまでに、上の方に話を遠しておこう」

「よろしくお願いします」

 席をたつギナ。それに対し、赤道連合の高官は慇懃無礼に頭をさげた。





「ふむ、勿論、私なら彼等の居場所を知っているよ」

「なんだと!! ならば、教えろ!!」

 イザークからクライン派の居場所を聞かれたルキーニは勿体ぶったようにそう答えた。それを聞いてイザークは身を乗り出すが、ルキーニは涼しい顔をして言う。

「こちらとしてもこれが仕事なのでね。情報を出せと言われて簡単に出す訳にはいかない」

「金ならば払う」

 即答するが、ルキーニはそれに対し首を横に振って拒否した。

「残念だが、この情報は金では変えられない程の価値があるのだよ。まあ、どうしてもというのなら・・・・・・・」

「な、何!?」

 提示された金額に度肝を抜かれる。それはプラントの国家予算の3%近い金額であった。当然、イザーク一人の権限でどうにかできるかできる金額では無いし、上の方に承認を求めても当然降りる金額ではない。

「法外すぎるぞ!?」

「そうかね? 君達が探している“もの”の重要性を考えればその位は妥当だと思うが?」

「!!」

 ギクリとするイザーク。彼の頭に思い浮かぶのはNJCの事である。それがもし他国に手に入れられてしまえば、ザフトの受ける被害は計り知れない。クライン派を追うのは無論、危険な反逆者を捕まえるというのもあるが、それと同じかそれ以上に、その一派に加わるアスランがNJC搭載機であるジャスティスを持ち出したというのが大きかった。そして、ルキーニはその反応を見てニヤリとする。

「まあ、とはいえ流石にそれだけの金額は動かせんだろう。そこで、金の代りに提供して欲しいものがある。彼等と戦闘になった場合、その時の交戦時のデータを包み欠かさず提供してもらいたいのだよ」

「交戦データだと? そんなものをどうする?」

「それは言えんよ。この情報にも価値がある。知りたければまた、別の対価をもらわなくてはね」

「ちっ、わかった。その代わりちゃんとした情報をよこせよ!!」

「勿論だとも。私は、この銀河で最高の情報屋だよ」

 そうして、イザークは取引を飲み、ラクスの居所を掴んだのだった。


(後書き)
今回、ジュール隊とラクス達との交戦を書く予定でしたが、話しの流れ的に少しおかしいとおもい先延ばしにする事にしました。期待していてくださった方すいません。もう少し、お待ちください。
PS.32話のアムロ会話部をかなり修正しました。


(キャラ紹介)
ボビー・ウィルソン 39歳
 階級は二尉。元ユーラシア出身の軍人で戦車兵を務めていた。難病を抱えた妻と二人の子供がおり、NJCによる大災害の際、妻の病状の悪化を避けるため、被害の少なかったオーブへと移住する。



[2025] ガンダムSEEDcross第2部36話
Name: 柿の種
Date: 2006/02/06 23:38
 ルキーニより教えられたポイント。そこで、ジュール隊は小惑星群に隠れたエターナルとイザーク達の乗るヴェリサリスと同型艦を発見する。その周囲はNJの影響も強く、小惑星群の影にもなっているので情報がなければ簡単には発見できなかったであろう。

「まずは、通信を入れろ。降伏を申し入れる」
 
 発見の連絡を受けたイザークは通信士にそう伝えた。そして、ヴェリサリスからエターナルに通信が送られた。





 一方、通信が送られた方のエターナルはヴェリサリスの接近に発見される前より気付いており、艦橋に主要メンバー達が集まっていた。

「見つかってしまいましたね」

「ヴェリサリスから本艦に降伏勧告が来ていますが」

 ラクスが呟く。通信士からの連絡に対し、シーゲルが答えた。

「今更戻る訳にはいかないだろう。争いはできれば避けたいが、交戦も覚悟しなくてはなるまい。ただし、相手の撃墜ではなく、あくまで逃亡を主眼としてな」

「わかりました」

 通信士がそう応じる。そこで、アスランが一歩前にでて発言した。

「あの敵は恐らくジュール隊です。並みのパイロットを出しても無駄な死者を増やすだけですし、逃亡も難しくなると思います。ここは、こちらも少数精鋭で俺とバルドフェイド副長、それにゲイツのパイロットだけで応戦した方がいいと思います」

「ふむ、彼の言う事はもっともだね」

 そして、意見にバルドフェイドが同意する。エターナルの艦長は彼の副官であったダコスタが務め、彼は名目上副長の立場についていた。それは、彼がクライン派に属する数少ないエースパイロットだからである。

「そうか。私は戦術に関しては専門外だ。君達の判断に任せる」

 戦場のプロであるアスランとバルドフェイドにシーゲルは大人しく同意する。

「それじゃあ、シーゲル殿の許可が下りたところでここは任せたダコスタ君」

「はい、お任せください」

「アンディ、がんばってね」

 部下と恋人に見送られバルドフェイドが格納庫に走る。それに続こうとしたアスランにラクスが一声かけた。

「アスラン、気をつけてください」

「ああ、君も」

 一体、何が“君も”なのかはわからない答えだったが、ともかく声援に答え、アスランも格納庫に移動する。そして、エターナルからジャスティスと、黄色にカラーリングされたゲイツを隊長機にした3機のゲイツが出撃した。





「あの機体は新型のゲイツ。あんなものまで奪っていたのか」

「機体を出してきたと言う事はやっぱやる気って事か」

 現れた機体も見てイザークがいらただしげに言う。そしてディアッカが彼にしては珍しく本気の怒りを表情に浮かべ吐き捨てた。

「そうだろうな。こちらもでるぞ」

 相手が抵抗してくる状況は予測して備えていたので、イザーク達も直ぐに出撃をする。そして、宇宙空間でお互いの機体が向き合った。

「今から最終勧告を行なう。それで駄目なら戦闘を開始する」

 そう部隊のものに前置きした後、イザークはジャスティスに通信をつなぎ、アスランもそれに答えた。

「アスラン、貴様何故ザフトを裏切った!?」

「裏切った訳じゃない。だが、俺は今のザフトの、父上のやり方は間違っていると考えたんだ!! お前だってわかっている筈だ。ナチュラルが全て滅ぼすべき存在かどうかを!?」

 およそ降伏勧告とは思えないイザークの叫びにアスランが叫び返す。その言葉にイザークの中に思い浮かぶのはユズハオーブで出会ったトール達。彼等と会って話しをし、確かに彼の中でナチュラルに対する考え方は変った。しかし、だからといって彼にはアスランの行動を認める訳にはいかなかった。

「確かに、ナチュラルを全て滅ぼそうとういうのは間違っているのかもしれん!! だが、アラスカでの事は知っているだろう!? 奴等は本気で俺達コーディネーターを滅ぼそうとしますます形振り構わなくなってきている。こちらも交戦しなければ一方的に滅ぼされるだけだ!!」

「だからと言って、このまま争い続ければお互いが滅びるだけだ!!」

「じゃあ、貴様等のやり方で何かが変るというのか!!」

「それは・・・・・・それでも俺はラクスを信じ、この争いを止めてみせる!!」

「・・・・・・もはや、説得は無駄のようだな。ならば、俺は貴様等を力づくで連れ帰る!! ニコル、お前は俺をサポートしろ!! 他の者は残りの敵を排除!! ただし、エターナルはできるかぎり落とさず航行不能にしろ!!」

 指示をだし、同時にビームライフルを発射する。それが開戦の合図だった。シャナやディアッカもそれについで行動を開始し、バルドフェイド達が応戦する。

「接近戦にもちこませるなよ!!」

「ヘヴンに・・・あれがフリーダムか!!」

 イザークがニコルに指示を出しながらジャスティスの接近を阻む。プライドの高いイザークがアスランに対し2対1の戦いを仕掛けたのは機体の不利を理解していたからだった。同じ核エンジン搭載型とはいえ旧型であるヘヴンの方が基本性能でも下回っているが、それにもましてジャスティス相手に1対1の戦いを仕掛けるのは相性が悪い。汎用型であるヘヴンやフリーダムに対し、ジャスティスは強襲突撃用の機体として少数の敵にこそその進化を発揮する。

「くっ、なんて機動力だ!!」

「当たらない!?」

 ヘヴンとフリーダム、その複数ある砲門の全てを駆使して2機は射撃をしかけるが、ジャスティスはその全てを回避し続けた。しかし、得意の接近戦を仕掛ける事まではできず、反撃の射撃はイザーク達も回避する。

「くそっ」

その叫びは誰のものか。3機の戦いは開始早々膠着状態へと入っていった。一方、シャナ達の方は個々の技量の平均値では上回るものの、バルドフェイドの指揮による巧みな連携の前に翻弄され、総合的には互角の戦いを繰り広げていた。

「くそっ、うざったい!!」

 イザークがいらついた声をあげる。一機に狙いをつけようとすると、他の敵に狙われ、攻撃を中断しなくてはならなくなる。そんな事が既に3度連続していた。

「おいシャナ、もっとちゃんと押さえておいてくれよ」

「そうしたいのは山々だけど、こっちはシホのカバーまでしなくちゃならなくてね」

「す、すみません」

 バルドフェイドのチームは3人の中で最も力量が劣り、機体の性能的にも下回るシホに他よりも集中的に攻撃を仕掛けていた。その狙われる彼女をシャナがフォローする。その為、敵を抑えておく事ができなかった。

「くっ」

 そうこう言っているうちに放たれた射撃をバスターが回避する。ゲイツはビームライフルを装備しているのでPS装甲も役には立たない。更に追撃が来る前にミサイルポッドで牽制する。

(このまま連携を組まれていては機体バランスの悪いこっちが不利。なんとか、あいつを引き離せれば・・・・・)

 それを横目で見ながらシャナが考える。このまま混戦になれば、シホだけでなく、砲撃型にのるディアッカも不利になる。その前に何とかしなければ敗北は免れない状況だった。そして彼女はこの状況を打開する為に、指揮官であるバルドフェイドに狙いを定め動いた。
ミラージュコロイドで機体の姿を消し、一気に接近する。

「そこ!!」

 ビームナギナタでコックピットを貫こうとする。しかし、姿を消しているという油断が攻撃を単調にしすぎてしまったのか、バルドフェイドのゲイツはその攻撃を回避する。

「残念だったね。悪いが落とさせてもらうよ」

 そのままカウンター体勢でビームサーベルをファントムクロスに振り下ろす。今だ機体の姿は隠されたままで、恐らくはおおよその位置を狙っただけのその攻撃は偶然にもピンポイントでコックピットを切り裂こうとしていた。

「私は、こんな所で死ねないのよ!!」

 迫るビームサーベルにシャナの頭の中で種が割れるイメージが思い浮かぶ。彼女にとってそれは父を殺した時に初めて発動し、それ以来生命の危機を、そして敵対者への憎しみを感じた時に起こる事象だ。全身の感覚が鋭敏になり、普段では到底ありえない反応速度をみせる。

「私は死なない!! あなたが死になさい!!」

 コックピットを直撃する筈の一撃は機体を掠めただけに変り、急激な旋回運動を行なったファントムクロスは再びその正面にゲイツを捕らえた。

「!!」

 攻撃は直撃はしなかったものの、接触によりミラージュコロイドが一部払われ、そこに確かに敵がいることがバルドフェイドには見えた。一旦、安全域にまで退避し体勢を立て直そうとするが、シャナの乗るファントムクロスはそれよりも早く動き、そしてゲイツの頭部を貫いた。


(後書き)
ジュール隊VSシーゲル派(何かいい呼び名ないでしょうか?)のバトル前半です。次回は後半に続きます。
ところで、ミラージュコロイドって反則ですよねえ。ほんとに使い方が上手い奴が使ったらNT以外勝てませんって(笑)



[2025] ガンダムSEEDcross第2部37話
Name: 柿の種
Date: 2006/02/07 00:39
 シャナが仕掛けたのとほぼ同じタイミングでイザークもまた動きにでていた。

「ちっ、このままじゃ拉致があかん!! ニコル、俺は接近を仕掛ける。援護を頼む!!」

 硬直状態に痺れをきらしたイザークがそれまでの遠距離戦をやめ接近戦を仕掛ける。ジャスティスが接近に強いとはいえ、それは1対1での話しである。援護を受けてならば性能の劣るヘヴンにも勝ち目はあった。

「死ね!! 裏切り者が!!」

「イザーク・・・・!!」

 イザークは興奮し殺気のこもった一撃を放つ。ヘヴンのビームサーベルをジャスティスが左手のビームサーベルで受け止める。そしてジャスティスはそのまま、機体を回すようにして重心をずらし、右腕のビームサーベルでヘヴンを切り返そうとする。

「させるか!!」
 
 しかし、それよりも一瞬早くヘヴンは後方に飛ぶ。更に至近距離からビームライフルを発射した。

「くっ」

 けれど、アスランはその一撃を回避する。互いに見せるハイレベルな動き。しかし、ジャスティスがかわしたその先に、フリーダムの砲撃が放たれていた。

「アスラン!!」

「しまっ」

 その一撃は回避しきれず、ジャスティスが弾き飛ばされる。装甲の一部が破損、そしてイザークが追撃に迫った。

「とどめだ!!」

「俺は・・・・・やられる訳にはいかないんだ!!」

 機体を素早く立て直し、左手のビームサーベルで受け止める。そしてそこで、頭部を貫かれるゲイツの姿がモニターに映った。

「バルドフェイドさん!!」

 その瞬間、彼の頭の中で種が割れるイメージが思い浮かんだ。そして、その次の瞬間、アスランの反応速度が急激にあがる。

「なにぃぃ!!」

 今までとの速度差にイザークは対応できず、ジャスティスのビームサーベルによってヘヴンの首から右腕にかけて切り落とされた。





「イザーク!!」

 アスランの反応速度が急に上がり、イザークがやられたことにニコルが叫びをあげる。一瞬、呆然自失としかけるが、シャナ達の方に移動するジャスティスの姿を見て慌てて正気に戻り追いかける。

「何!?」

 バルドフェイドにとどめをさそうとしていたシャナはジャスティスの接近に気付くと、既に戦闘能力を失ったゲイツを放り、迎撃体制へと入った。SEED能力者同士の激突、しかし、機体の性能差は如何ともしがたかった。

「くっ」

 2度、3度の激突。ファントムクロスのビームナギナタはジャスティスの左右の腕から繰り出されるビームサーベルを弾いたが4撃目、ファントムクロスの右腕が切り落とされる。

「しまっ・・・・」

 驚きの悲鳴をあげる間にさらに残された左腕も、本来が奇襲戦術用であるファントムクロスには軽量化を重視し、本体には武装は装着されていない。腕を失ったファントムクロスはこれで完全に無力化された。

「この、アスランが!! てめえ、化け物かよ!!」

「よくもイザーク隊長を!!」

 ジャスティスに狙いを定め、ディアッカとシホが射撃する。そして、同時にジャスティスの追加装甲であるファトゥム00に装備された“フォルティスビーム砲”が放たれた。

「くっ」

「きゃあ」

 バスターとシグーディープアームズの攻撃は回避され、それに対し、バスターはライフルをシグーディープアームズは下半身を丸ごと吹き飛ばされた。

「そんな、何てことだ・・・・・」

 ニコルが絶望の声をあげる。残されたのは彼のフリーダムのみで他の機体はほとんどの戦闘力を奪われていた。

「こうなったら・・・・・・」

 ニコルは覚悟を決める。自分に勝ち目が無いことは彼にもわかっていた。今のアスランとジャスティスはまさに鬼神の如き強さである。性能では同等の機体に乗るとはいえ、今のアスランと更にゲイツ2機を彼一人で倒すなど無理な話だった。しかし、彼にも誇りがある。刺し違えてでもジャスティスをここで落とそうとする。

「アスラン、あなたは危険だ」

 特攻をかけようとするニコル。しかし、そこで制止が入る。アスランから通信がはいったのだ。

「待て、ニコル。俺達はこれ以上、戦う気はない。見逃してくれるなら、俺達はこのままここから立ち去る」

「何を・・・・あなたは何を言ってるんですか!!」

 その台詞はアスランとしてはかっての仲間に対する思いやりのつもりだったが、そのニコルの方は普段温厚な彼にありえないほどに激昂した。仲間を全滅させておいて、自分達を裏切っておいて何をいうのかと。しかし、そこで別の通信が入る。

「アスラン、それは本当か?」

「イザーク!?」

 それはイザークだった。その反応にニコルのみならず、ジュール隊、全てのものが驚きの声をあげる。

「ああ、俺達は無駄な争いも無闇に人を殺す気もない。俺達を追ってきたりしなければ、これ以上お前達と戦う理由はないんだ!!」

「そうか、なら退却させてもらうことにする。だが、覚悟しとけ。俺達はまたお前達を追うからな」

 アスランに確認を取るとイザークは即座に撤退命令をだした。思わずそれに抗議しようとする。しかしそこで唇をかみ締め、そこから血を流しているイザークの姿がモニターに映っているのに気付く。

「いいから、引くぞ!!」

 イザークは部隊の隊長として、隊員達の為に自らを押し殺した事にニコルは気付く。
 そして、ジュール隊は飛び去っていくエターナルを見送ったのだった。



[2025] ガンダムSEEDcross第2部38話
Name: 柿の種
Date: 2007/01/02 11:12
「キラ、緊張してんのか?」

「え、ええ。こういうのって初めてですし・・・・」

 カイの言葉に頷くキラ。彼は現在、オーブと赤道連合が合同で行なう作戦行動に参加していた。赤道連合と東アジア共和国の国境付近にある連合の基地を落とす為の作戦、この作戦は結局オーブ本国の承認がおり、キラはオーブ軍の一員としてこの作戦に加えられていた。

「俺も経験は無いな。ただ、一つ言えるのは“俺達の方が危険”だって事だ」

「は、はい」

 脅すように言われた言葉にキラが息を飲んで気を引き締める。今回の作戦は片方の部隊が敵の注意をひきつけ、その間にもう一つの部隊が敵の基地を落とすという、所謂、陽動作戦という形が取られていた。そして、キラとカイ、それに兵士長のボビーなどはいずれも敵をひきつける方に編成されていた。これに関し、カイやボビーはともかく、キラがこちらの方の部隊に編入されたのには明確な理由がある。陽動部隊の役割とはつまりは囮だ。少しでも注意を引く事にその意味がある。キラの乗るストライクは過去の驚異的戦果から戦場では有名であり、兵士の間では知らないものがほとんど居ない存在となっていた。

「そういえば、おまえ、赤道連合の奴等と何か揉め事おこしたんだってな」

「あ、それは・・・・」

 会話が途切れた所でふと思い出したように言うカイの言葉。それに対し、キラが説明を始めた。それは、アムロが邪推したものと一致する、キラが呼ばれた理由のもう一つの側面に関わる事だった。





―――――数時間前

「君がストライクのパイロットかね?」

「えっ、はい、そうですけど」

 軍の施設の中で休息をとりながら待機していたキラは突然自分が話しかけられた事に驚き、そして話しかけられた男の方を振り向いた途端、彼は既視感を覚え、思わず不快感を顔に出しそうになるのを何とか押さえた。

「ふむ、こんな子供が。オーブには多いと聞くがやはり君はコーディーターなのかね?」

「そうですけど・・・・」

 その問いかけでキラはますます不快感を強める。目の前の男は明らかに彼を見下し、そして忌避していた。同時に男が何かを探ろうとしているのにもキラは気付いた。それは、先程の既視感が今、目の前にいる男の態度とアルテミスで軍の高官が見せたものとに似ている事に気付いたからである。

「っと、すると、君の乗る機体やあの“白の天使”の凄まじい強さも君達コーディネーターが乗っているからなのか? 我々ナチュラルでは扱いきれないのかね?」

「それは・・・・・その、機密ですから」

 男の追及に対し、アムロの言葉を思い出し、キラは答えられないと返事をする。しかし、男は引き下がらなかった。

「我々は同盟を結んでいるのだ。その位はかまわんだろう」

「けど、僕はあなたがどういう人かも聞いていないんですけど・・・」

 キラの反論に、男は不意をつかれたというように驚いた顔をした。そして、表面的には申し訳ないというような表情をつくり、笑い飛ばす。

「いやいや、これはすまなかった。私はこの基地の責任者で赤道連合の准将を務めているライアス・アルバッハというものだ。次の作戦では君の活躍にも是非とも期待している」

「あ、僕の名前はキラ・ヤマト、階級はニ尉です」

「ほお、ニ尉、その若さでその階級という事はやはり、ストライクの性能は君の実力による所が大きいという所かね?」

「そ、それは・・・・・」

 キラが男の身分を尋ねたのは話を逸らし、何とか逃れられないかと考えたからだったから、結局話しが戻ってしまい押し黙る。本当の事を答えるのはまずいと思うが、かといって、嘘を教えるのもそれはそれでまずい。進退窮まる状況、しかしそこで彼を救うものが現れた。

「ライアス准将、そのようなご質問は責任者であるギナ一佐を通し、よろしくお願いします」

「なんだね。君は、私は今、彼と話しているのだ」

 キラの気弱そうな態度にこのまま押し切れると考えていたライアスは邪魔が入った事に苛立った声をあげる。そこに現れ、キラに助け舟を出したのは、前回の連合とオーブとの戦闘の後、ギナの部隊に加わったソキウス・ファイブだった。彼はこのような事態を予測したギナにキラの護衛として付けられ、先程までも様子を見守っていたのである。

「先程、キラ様もおっしゃられたようにその事はオーブの機密に位置することです。キラニ尉にはそれを話す権限が与えられておりません。例え、同盟国の人間であれど、それを聞きだそうとする事は違反にあたります」

「くっ、わかった。ギナ一佐の方から聞くことにしよう」

 キラと違い、目の前の相手は簡単に説き伏せられない相手だと判断したライアスは舌打ちをしてその場を立ち去る。彼等の姿が見えなくなった後、キラはファイブの方を向いて礼を言った。

「ありがとう。助かったよ」

「いえ、気にしないでください。それが、私に与えられた役割ですから。それに、キラ様はコーディネーターですが、その存在はナチュラルにとっても非常に益となる存在だと私達は判断しています。ですから、もし、私の力が必要なようでしたら、いつでも頼ってくださって結構です」

「え、えと、ともかくありがとうね。うん、何か、あったら、お願いするよ。その代わり、僕の力が役立つ事があったら力を貸すから」

 ソキウス達がナチュラルの為につくられた存在だという事を知らないキラはファイブが何を言っているのかよくわからなかったが、とりあえずもう一度お礼を言い好意を素直に受け止める事にした。

「ありがとうございます。そのような時が来ましたら力をお借りする事にします。それでは私はこれで」

「うん。それじゃあね」

 軽く別れの挨拶を交わすと二人は反対方向へと歩いて言った。そして、先程のファイブの言葉を思い出し、キラは呟く。

「いい人なんだとおもうけど、ちょっと変な人だったな・・・・って、わ!?」

 もう一度その姿を見ておこうとし、後ろを振り向くと、壁に半分身を隠しながらこちらをじっと見るファイブの姿があったのである。その姿を見て、キラはどう対処すべきが一瞬まよったが思い切って尋ねて見る事にする。

「な、何か用?」

「別に気にしないでください。私は役目を果たしているだけですので」

「そ、そう・・・」

 その答えに、キラはファイブが変な人だという認識を確信に強めたのだった。


(後書き)
キラとユズハの二つ名を出しました。けど、センスないですね(汗)特にユズハの「白い天使」は自分でもそりゃないだろって突っ込みたくなります。
ちなみにオーブで他に二つ名がある人はこんな感じです。
ギナ「オーブの軍神」
ミナ「オーブの影の軍神」
カガリ「黄金の戦姫」

ところで、ふと思ったんですが兵士長って言い方って現在の軍隊ではおかしいですかね?一体どういう呼び方が適切なのか知っている方がいれば教えてください。
後、アムロが話している所の文をまたさらに修正しましたので、できれば確認を・・・・。



[2025] ガンダムSEEDcross第2部39話
Name: 柿の種
Date: 2006/02/20 17:48
「オーブ軍各位に通達する。まもなく、作戦領域に侵入する。一旦、停止し、装備の最終確認を行なった後、侵攻を再開し攻撃を開始する。各員の活躍、大いに期待しているぞ」

 ロンド・ギナ・サハクからオーブ軍の部隊に、同じように赤道連合の将校が連絡を通達し、部隊が一時侵攻を停止する。陽動を務める侵攻部隊はオーブのMS20機、赤道連合のMS30機、他、戦車隊、戦闘機を多数、搭載した陸上戦艦2隻を含む大隊である。このままルートを進めば、後、数キロ進んだ所で敵に発見される可能性が高い。

「ほー、あれが噂の新型か」

「ストライカーパックの量産型を装備した機体・・・・・」
  
 装備を整備する中で、他と形状の違う4機を見て声をカイが声をあげ、キラが呟きを洩らした。その機体はソキウス三人とロクトが搭乗し、今回の遠征にあたって特別に配備された試作タイプのM2アストレイである。4機は砲戦用のランチャーアストレイパックを装備している。

「オーブに戻ったら、俺らにもあの機体配備されるのかねえ」

 カイはM2アストレイをものほしそうな目で見る。特機乗り=エースの構造ができあがり、またその進歩速度が速いこの世界に置いて、少しでも性能のいい機体に乗る事はパイロットにとって最大のステータスでもあり、自らの生存率をあげるものでもあった。

「試作機の開発が終わって、もう少ししたら量産体制に入るってエリカさんが言ってましたから、きっとカイさんの部隊にもまわされると思います」

「そういえば、おまえら第13部隊は新装備のテストも仕事の内だっけな」

 その羨望を感じ、自分がストライクに乗っている事を少し申し訳なく思いながら、キラは知っている事を教えた。それを聞いてカイが少し喜色を浮かべる。

「なら、今回の戦いで活躍して、新型を手に入れてやるか」

「はい、頑張ってください」

 やる気を見せるカイにキラが声援を送った。そして、その30分後、部隊は再度の侵攻を開始した。





「来たみたいだな」

 予定通り、敵に発見され、混合軍にむかってストライクダガーの部隊が進軍してくるのが確認された。その部隊を見たカイが呟く。その声には強い緊張が混じっていた。どれだけ戦闘を経験しても、それに完全に慣れないし、もし、慣れてしまえばその者は恐らくは死ぬ。それが戦場の厳しさだった。それは、例えアムロのような超一流の実力者であっても変わりはしない。

「相手との距離が1500メートル以下になるまでひきつけよ。それまで前線部隊は待機。射撃部隊を中心に攻撃をしかけるようにする」

 ギナからの指示。それに答えるように、遠距離用の武器を装備したランチャーM2アストレイなど超距離射撃を持つ機体が中心となって攻撃をしかける。今回の作戦では、キラのストライクも数少ない長距離対応機としてライトニングパックを装備していた。

「どうやら、相手には超距離射撃用の機体は無いみたいだな」

 連合にも射撃用の機体として105ダガーのランチャーパックやバスターダガーがあるが、それらは高級量産機であり、連合の中では地位の低い東アジア共和国までには回ってこないようであった。こちら側の攻撃にほとんど一方的に被害を受けている。

「これで、少しでも減ってくれれば楽なんだけどな」

 連合軍の展開した兵力はMSの数こそこちらとほぼ同数であったが、戦車部隊や戦闘機部隊はこちらの2倍近く存在する。それは作戦が成功していると言う事でもあったが、陽動を務める彼等にすればそれだけ命懸けの戦いを強いられる事になる。

「弾切れか!!」

 キラは射程と威力の代りに弾数の制限されたライトニングパックを解除し、機体の換装を行なう為、一旦後方に移動、それと同時に、連合軍がビームライフルの射程に入った。互いの交戦が開始された。

「下賎なものが幾ら束になろうと私と天には適わんよ」

 ゴールドフレーム・天が最前線に立って、ストライクダガーを次々と片付けていく。それを見て攻撃が機体に集中する。しかし、その後方に控えた2機のランチャーM2アストレイが彼の援護を務める。ソキウスの乗るそれらの機体はコックピットを狙ってくる事はないが、戦闘力を奪われ、並の機体では近づくことさえできなかった。

「戦線に復帰します!!」

 そして、そこで更に換装を終えたストライクIWSPと2機のエールM2アストレイが前線に復帰する。

「当たれええ!!!!」

「攻撃開始」

 一瞬にして2体のMSが破壊。数の差を覆し、戦況はオーブ・赤道連合混成軍に大いに傾いていた。

「つまらんな。いっそ、このまま攻め込んでしまうか」

 ほとんど被害を出さないまま敵部隊の1割強を壊滅させる。その圧倒的な攻勢に、ギナは作戦を変更し、陽動ではなく、このまま連合の部隊を全滅させ基地まで侵攻を進めることを考え始める。しかしそこで、前線にでる彼の代わりに部隊全体の指揮を務める彼の副官から彼に緊急通信が入った。

「どうした。何の用だ」

「大変です!! 基地への攻撃部隊が全滅!! さらに、こちらに南東方角から敵の増援部隊が近づいて来ています」

 その内容に流石にギナの顔色が変る。その予想外の自体に対し副官に問いただす。

「何だと!? どういうことだ!! 増援部隊の規模と詳しい状況を報告しろ」

「攻撃部隊は連合のMS部隊による奇襲を受けました。状況からして待ち伏せられていたと思われます」

「待ち伏せだと・・・!?」

 攻撃部隊はかなり大回りのルートを取り、赤道連合のみから選出した少数精鋭の部隊で構成されている。発見される可能性はかなり低く、仮に発見されたとしてもそれからでは待ち伏せを用意している時間的猶予はない筈である。つまり、敵は予めこちらの行動を読んでいた事になる。その状況に、ギナの頭の中である推論が浮かび、そして次の報告で彼はそれを確信づけた。

「敵の増援は・・・・・・MSだけでおよそ100、他に戦車が200程と陸上戦艦3隻です」

 副官は一瞬言い及びそして報告した。絶望的な数、そしてありえない筈の数だった。

「裏切り者が居たと言う事か!!」

 歯軋りをする。攻撃部隊を襲撃した分と合わせ、とても東南アジア共和国だけで用意できる兵力ではない。赤道連合を攻撃する為に兵力を集めていたとしてもあまりに急激する増強。こちらの陽動作戦が暴かれ、秘密裏に異常なまでの増強が進められていた事を考えと、曖昧ではなく、確定的にこちらの作戦を連合は知っていた事になる。それは赤道連合内に連合のスパイがもぐりこんでいたか、あるいは情報を売ったものがいると言う事だった。

「この私を・・・・・・・・!!!」

 敵はこちらを挟み込むように攻めてきている。退路は無く撤退すら難しい。

「このロンド・ギナ・サハクを舐めるよ・・・!!」

 自らが罠にはめられた事にギナは激しい怒りと屈辱を表情に浮かべた。


(後書き)
最近、毎回のように主役が変っていますが、こういうのってどうでしょうか?
やっぱり、できる限りキラやユズハに固定した方がいいですかね?



[2025] ガンダムSEEDcross第2部40話改訂版
Name: 柿の種
Date: 2006/02/20 17:50
「オーブ全軍に通達する。作戦変更だ。このまま前線を突破し、基地を攻め落とす」
 
状況を理解したギナは即座に判断を下し、命令を通達した。オーブ・赤道連合の混成軍としてはこのまま挟み撃ちに合うのが最悪の状況である。それを避けるためにこの状況で取れる手段は二つ。増援部隊が来る前に前方の部隊を打ち破り、そのまま連合の基地を落とすか、あるいは後方に撤退し増援部隊を突き抜けて赤道連合の基地にまで退却するかである。
 前者の問題は短時間で敵を打ち破れるか、また、連合の基地まで攻め入ったとしてもそこにどれだけの勢力が待機しているかがわからない点であり、後者の問題は増援部隊を回避し、基地までたどり着けるかどうか、またできたとしてもそのまま攻め込まれた場合、その基地の勢力で持ちこたえられるかという点である。
 はっきり言ってどちらも分の非常に悪い賭けであるが、現状生き残るにはそのどちらかしか選べる道は無く、ギナは前者を選んだ。

「貴様、一体何を勝手な事を!! 急いで基地まで退却するぞ!!」

 しかし、それに対し、反論するものがいた。赤道連合の方の部隊を纏める司令官の方である。この作戦はあくまでオーブと赤道連合の混成部隊であり、それぞれの国を纏める指揮官が個別に存在していたのだ。けれど、ギナはその反論を鼻で笑う。

「そうしたいならそうするがいい。我々はこのまま勝手にやらせてもらうことにしよう」

「貴様・・・!!」

 その言葉に赤道連合の司令官は絶句する。この場で戦力を分散する事は最大の愚考である。どちらの策を取るにしても状況を打開するには戦力を一丸として一気に敵部隊を突破する必要があるのだ。

「迷っている暇はあるまい。全軍、進撃せよ!!」

 そして、その間に、ギナは一気に攻めさせる。その指示に従い、オーブ軍は進軍をする。それを見て男は諦めそれに続くより他無かった。

「くっ、この事、後でしっかりと問題とさせてもらうぞ!!」

「ふっ、生き残ったなら幾らでもそうするがいい」

 負け惜しみの台詞を吐く男をギナは軽くあしらった。





「一体、どうなってるんですか!?」

「知らねえよ!!」

 突然の命令変更にキラは動揺し、カイに尋ねるがあっさりと切り捨てられる。そして、再び入った通信がその疑問を解消してくれる。しかし、それで喜びを感じる事はなかった。

「現在、連合の援軍が迂回して後方から接近してきている。元々の奇襲部隊の方は全滅した。俺達が生き残るにはこのまま連合の基地を攻め落とす以外にない。速やかに敵を排除せよ!」

「そ、そんな。敵の援軍に、味方の全滅・・・・・」

「くそっ、なんてこった!!」

 自分達の状況の絶望さを知り、二人のいや、部隊全員の動揺が大きくなる。しかし、そこで、部隊長のボビーがそんな彼等を叱咤。

「戦いの最中ぼけっとしてるんじゃねえ!!死にたくない奴は、精々気張りやがれ!!」

 その言葉に兵士達はすぐさま正気を取り戻し、そして無茶とも思える攻め方をする。その攻撃に、敵の破壊されている速度も上がったが、同時に味方の被害も増えていった。

「そんな、味方が・・・・・・」

 味方が撃墜されるのはキラも当然、オーブでの2戦で経験されている。しかし、それが次々と起こるのを見せられる事は彼に強いショックを与えた。そんな彼をカイが怒鳴りつける。

「さぼってるんじゃない!! 味方を死なせたくなければ動け!!」

 その言葉にキラは自分のやるべき事に気付く。そう、自分は守りたいものを守る為に、戦う事を選んだのだと言う事を。そして、彼は意識を集中させ、この時、初めて自らの意思で“SEED”を発動させた。





「ほお、これがスーパーコーディネーターの力と言う事か」

 戦いを続けながらギナはある機体の戦う姿を見て感嘆の声をあげた。キラの乗るストライクの動きはまさに“凄まじい”の一言だった。敵を切り裂き、次の瞬間には討ちぬき、回避し、ミサイルを飛ばす。その苛烈な戦い方はその機体色と相まってまさに燃え盛る炎を連想させ、彼に付けられたふたつ名“オーブの紅き炎”に相応しいものであった。
作戦を変更してから僅か10分の間にキラは単独で10機以上のMS、そしてその倍の戦車と戦闘機を落としてしまっている。このキラの猛攻に連合は戦力の30%を失い、全滅状態にあった。

「くそっ、化け物め!!」

「隊長!!これ以上戦線を維持できません!!」

 この事態に連合は撤退を開始した。そして、彼等に対し、ギナは追撃命令を仕掛ける。

「逃がすな。我々はこのままできる限りの敵を殲滅しながら進軍し、一気に連合基地を落とす」

 退避する敵を後ろから撃ち落とし、そのままできる限り迅速に移動を開始する。現在、オーブ・赤道連合の残存戦力はMS43機、戦車・戦闘機部隊合わせ82機、陸上戦艦2隻である。対して、敵の戦力はその2倍半。これはまともに戦うならばキラやその他のエースの能力を考えても、覆せる数ではなかった。生き残る為には増援部隊に追いつかれる前に敵基地を占拠しなければならない。

「このまま、一気に・・・・!!」

 部隊の中、キラは焦る気持ちを抑えつつ機体を動かした。そして、そのまま連合の基地にたどり着いた彼等は一気に基地に攻め込む。幸運な事に基地はかなりの無防備な状態だった。前方に出した部隊がまさかこれほど短時間で落とされるとは思っていなかった連合は作戦にほぼ全ての戦力を投入してしまい、基地に余剰勢力はほとんど残していなかったのである。

「体勢を立て直される前に崩せ!!」
 
撤退した敵の部隊が戦力を立て直す前に強襲する。そしてこの攻撃で、残存勢力の更に2割。全体から見れば3割の戦力を喪失しながらも、制圧に成功。しかし、気を抜く暇も無く、彼等は連合の増援部隊が基地奪回の行動を取るのに備え、兵力を展開しなければならなかった。


(後書き)
今回、短くてすいません。後、軍事に対する知識の浅さが最近もろでてしまって、詳しい方にはお見苦しい文章かと思います。申し訳ありません。

次回で赤道編は終わり、次は部隊をオーブに戻し、ユズハ・アムロを中心にしていく予定です。その後は少しXアストレイ編を書こうと思っています。原作とは状況がかなり違うので、流れもかなり変ってくる予定です。



[2025] ガンダムSEEDcross第2部41話
Name: 柿の種◆eec182ce
Date: 2010/05/15 06:33
「我々はこの基地を占拠した、しかし現状の戦力ではこれ以上の交戦に勝ち目はなく、また味方の援軍も期待できない。そこで部隊の半数を残し、残りの半数は退避する。基地に残った者達は囮となって敵をひきつけたのち、味方を逃す為できる限りの敵を巻き添えにし、基地を自爆させよ」

「え?・・・・えっ!?」

 集められた兵士の中でキラは2度驚きの声をあげる。一度目は作戦の意図がわからず、2度目はその意味を聞かされての信じられなさに。そして、その指示が嘘でも、自分の聞き間違いでもない事を理解すると彼は思わず叫んだ。

「そんな!! 味方を自爆させるなんて!! 一体何を考えているんですか!?」

 その訴えは命令に対し逆らう事であり、上官に対する反逆と取られたとしてもおかしくなかった。しかし、叫ばれたギナは怒る事もなく平静に問い返す。

「ではどうする? 敵の基地を奪ったとはいえ、その構造すらよく理解できていないまま疲弊した状態で5倍の戦力を相手にする等というのはいくらなんでも不可能だ。お前のような規格外の力があってもな。我々に残された手段は二つ。このまま戦い文字通りの全滅を逃がすか、半数が生贄となって残りの命を救うか。どちらかを選ぶとなれば考えるまでもあるまい」

「それは……」

 自らの言葉に対し返ってきた冷静な反論にキラは言葉を失った。他に手段が無い以上、文字通りの全滅よりは一部の犠牲と引き換えに残りを救う方策は正しいものとは言わないまでも仕方が無い事ではあるのだ。理屈では彼もそれが理解できる。

「でも……!!」

 しかし感情がどうしてもその考え方を拒否しようとする。そして、何か手段はないかと考える。けれど、一人の活躍程度では到底跳ね返せないこの戦力差に対し、妙案などそうそう思いつく訳もなかった。

「そ、そうだ、それだとせっかく、手に入れた基地を失う事に・・・・」

 代わりに話を逸らして考えさせ直そうと思いついた事を口にだした。しかし、その期待はあっさりと外れる事になる。

「問題はない。重要なのは連合が赤道連合に攻める拠点を無くす事なのだ。基地を占拠すれば、その維持に人員を割かねばならない事を考えれば寧ろつぶしてしまった方がいい位なのだよ」

「そ、そんな……」

 一縷の望みが断ち切られ絶望を感じる。それでも諦め切れず、再び発言しようとした時、隣にいた男が手をあげた。

「私が基地への残留部隊に志願します」

「なっ、何を!?」

 男の発言にキラは驚愕する。基地に残る事、それはほぼ確実な死を意味するのである。
にも関わらず男は自らそれを志願したのだ。そして、更に続くように数名のものが残留を志願した。

「どうしてそんな、自分から死ぬような事をみんな……」

 彼等の行動をキラは理解できなかった。そんな彼に対し、ボビーが彼の肩を叩いて言った。

「こいつらは皆、守りたいものがあるんだ。国や家族、大切なもんをな。けど、みんながみんなお前さんみたいにつぇぇ訳じゃねえし、今回みたいにどうにもならない状況だってある。それでも守りたいもんがあるなら、力が足りねえっていうんなら、自分の命を指しださにゃいかん場合もある。そういうことさ」

「そんな……」

「それが戦争って奴だ。お前さんも戦い続けるのなら、その厳しさを覚悟しとくんだな」

 そして彼もまた残留部隊へと志願した。彼はキラの前に出、そのまま離れようとしてふと何かを思いついたように足を止めると、振り向きキラに向かってあるものを投げた。

「うわっ。とと」

 突然、ものをなげられて驚きながらも反射的にそれを受ける。見るとそれは小さな宝石のついた指輪だった。

「そいつは妻の形見だ。悪いが俺の娘に届けてやってくれ」

 それが何なのか問う前にボビーがそう答える。それを聞いてキラは制止の言葉をなげかけようとするが途中で言葉はさえぎられた。

「娘さんがいるんですか?それなら……!!」

「娘はもう結婚してる。相手の奴はいい男で、俺が居なくても何も心配はいらねえし、できることもねえ。娘の花嫁姿も見たし、心残りといえば孫の顔を見てない事位だ。誰かがやらなきゃならないってなら、心残りが少ない奴がやるべきだろうよ」

 それだけ言ってボビーは離れていった。キラは追いかけようとしてカイにとめられる。そして更に志願者が続いた。それを見ながらキラはカイに問いかける。

「カイさんはどうするんですか?」

「ん、俺はまあ、選ばれちまったら仕方がないと思って諦めるしかないが、自分から残るつもりはないな」

 返って来た答えにキラは少しだけ安堵した。そして最終的に全体の4割弱が志願し、それ以上強制的にメンバー選出される事もなく残留部隊は志願者のみで作戦は実行される事になった。






 接近してきた連合軍に対し、基地の前面に残留部隊の8割が展開される。その最前線に立つのはゴールドフレーム・天に乗るファイブソキウスとストライクIWSPにのるサーティンであった。この2機はもともと囮部隊の象徴とされる程に目立つ機体であり、部隊にその姿がなければ明らかに怪しまれる。その為、これらの機体を操れるソキウスが本来のパイロットである二人の影武者となり、代わりにキラとギナはM2アストレイに乗り既に基地を退避していた。

「本隊が生き延びられるよう精々気ばらねえとな」

ボビーが意気込みを口に出して言う。そうして彼らは味方の為に死がほぼ確定した戦いへと挑んだ。そして両軍の距離が一定にまで縮まった時、連合軍の砲撃が開始される。
 
「敵をひきつけろ!!」

 それに対し、オーブ・赤道連合の部隊は盾を持ったMSの部隊を前面に出し、防御に専念した。そうして攻めあぐねた敵の基地への接近を誘致する。また、仮に敵が警戒し、接近を仕掛けて来ずともそれはそれで問題にはならない。時間さえ稼げれば基地だけ爆破して残った兵士達は投降し捕虜になるという道も選べる。しかし、そんな僅かに残った彼らの生き残る道を断ち切るかのように連合は基地へ向かい接近を再開した。

「ちっ、俺達の命運もここまでって訳か!!」

「もとより、覚悟していたことです」

 ボビーのボヤキに対し、回線を通じて常人よりもすぐれた聴力を持ってそれを聞き取ったファイブソキウスが答える。その言葉に兵士は溜息を小さくついた後、正面を再び向いて答え返した。

「ああ、こうなったら少しでも多く敵を巻き添えにしてやる!!」

「はい。ナチュラルを死に追いやるのは躊躇いがありますが、味方を守る為にはしかたありません」

 自棄になったように叫ぶボビーと感情の無い口調で答えるソキウス。
 ソキウスは服従遺伝子によってナチュラルを殺せないが、その後の再洗脳によって、上官の命令と味方部隊のメンバーを守る事をより優先命令とするよう“調整されて”いた。それにより、現在でも直接的にナチュラルを殺す事はできないものの、後者の為なら現在行われているような作戦も実行できる。
しかし、彼らが今、戦い続けていられるのには彼らにほんの少しだけ残った感情が仲間を守ろうとする意思を生み出し、これを後押ししていた事も影響していた。そして、ボビーはソキウスの機械的な口調の中に混じるその意思を感じ取ることができた。

「ああ、奴等は絶対に死なせねえ。俺の代わりに国や家族を守ってもらわなくちゃならねえからな。そうでなきゃ、死んでもしにきれるかよ!!」

 にやりとした笑みをうかべる。そして彼らは奮闘した。味方の逃亡の時間を稼ぐ為、少しでも多くの敵を基地に退き付ける為。数の差からすれば信じられない程の健闘をみせる。しかし、その奮闘も長くは続かなかった。味方は次々と被弾し、そして決定的な時が訪れた。

「申し訳ありません。私はここまでのようです」

 部隊の柱であったサーティンソキウスの乗るゴールドフレーム・天が爆散する。ナチュラルを直接殺せない彼はコックピットを狙わない攻撃を仕掛ける事で敵を激破し、戦線を維持してきていたが、そのような無茶な戦法と数の差の前に限界を迎え敗れたのだった。そしてそれにより戦線が崩れ、連合軍が基地に向けての進軍ペースが加速する。

「くっ」

 その急激な攻めの前、もう一つの柱であったファイブソキウスの乗るストライクもまた破壊された。流れは完全に止められなくなり次々に討ち取られるオーブ・赤道軍の機体、総崩れの状態になり、そして最後のカードが切られた。

「!?」

 その時、起こった事を連合の兵士の多くは何が起こったかを理解する事ができなかっただろう。基地に保管されたミサイルや火薬。これら全てに信管が接続されていて、そしてそれが一斉に作動させられた。連続して起こる爆発と閃光、それらがやんだ時、残留部隊の生存者を含む全てと基地に近接していた連合軍の7割を巻き込んで基地は跡形もなく地上から姿を消した。
 こうして、最終的には両軍が投入された戦力の8割を失うことになったこの激戦は終結したのだった。


(後書き)
味方と共にゴールドフレーム・天とストライク消失。さて、キラはこの先何に乗せましょうか。

PS.今更ながらカイの名前がカイ・シデンと同じであった事に気付きました(汗)



[2025] ガンダムSEEDcross第2部42話
Name: 柿の種
Date: 2006/04/24 00:37
「いい話が一つと悪い話が二つある。どちらから聞きたい?」

 そう切り出してきたミナに対し、アムロは表情を歪め、いやそうな声で答えた。

「随分と古い切り出し方だな」

「ふっ、そうだな。それでどちらから聞く?」

「いい話の方から聞かせてもらう」

 やや皮肉気に言い放ったアムロに対し、さらりと答えるミナ。そして、切り替えされた方のアムロも気にせず続きを促した。そして、彼女の口より赤道連合で起きた出来事が伝えられる。

「連合の基地の制圧に成功した。正確には維持しきれずに破壊する結果になったがな。そして、悪い話の一つはこれに付随する」

「・・・予想以上に被害がでたということか?」

 話の先を読んだ言葉にミナが頷く。

「そのとおりだ。どうやら赤道連合内に連合への内通者がいたらしい。こちらの作戦が相手に知られ、大規模な敵援軍に遭遇した。最終的に勝利はしたもののこちら側の戦力の8割が失われている。その分、敵に与えた被害も大きいがな」

「・・・・・キラやギナはどうなった?」

「その二人は無事だ。ただし、乗機と身代わりとなったソキウス二人の命は失われたがな」

「そうか・・・・二人は無事か」

 知り合い、そして軍にとっても重要な意味を持つ二人の安否に対し問い、その答えを聞いてさまざまな感情の織り交じった複雑な声を漏らす。答えを確認した後、二人の間には沈黙が落ちた。

「それで、悪い話の二つ目っていうのは?」

 しばらくして沈黙を破ったのはアムロだった。できれば一つ目の話よりは軽いものであって欲しい、そう願いながらも問いかけるがその希望はあっさり破られる。

「連合が3度目のオーブ襲撃を実行しようとしている。それも既に進行が始まっているようだ」

「こちらの戦力が低下している間にということか」

「そういう事だろう。赤道連合へ送った部隊が戻ってくる前に奴らは勝負をつけるつもりだ」

「辛い戦いなるな・・・・」

「予想していた事だ。こちらとしても備えが無い訳ではない。それに、今度の戦いでは貴様も戦場に出てもらうつもりだからな」

「なんだと!?」

 ミナの予想外な指示にアムロは驚きの声をあげ、強い視線を送る。しかし、ミナは静かな笑みを浮かべ続けた。

「無論、同等の立場である貴様に命令を下す権利は私にはない。しかし、貴様とてその事は考えなかった訳ではなかろう?」

「・・・・・・・」

 ミナの試すような言葉にアムロは押し黙る。
前回の戦いの後、低下した戦力を補う為に、オーブは傭兵を集めるなどして失った戦力を補うための行動をしていた。しかし、連合と真っ向から事を争うなどというリスクの高い依頼を引き受けるものなど傭兵とはいえそうはいない。結果最低限の数こそ揃ったものの、そのほとんどが信用も信頼もおけず、戦況次第では逃げ出すことさえありえる。そういう状況にオーブ軍はあった。しかし、それを防止する有効な手段が存在する。

「次の戦いに勝利する為には開戦開始から最後まで戦況を常に有利に進める必要がある。その状況で手元にあるエースのカードを置いておく愚を犯すことはあるまい。貴様の部下もそろそろ戦いに慣れて使えるようになってきたしな」

傭兵の逃亡を防ぐ一番の手は戦況を不利に追い込ませない事である。勝ち馬に乗っているのにわざわざそれを降りようとするもの、その状況ですら逃げ出そうとするようなものは傭兵などしたりはしない。アムロもそれはまた理解し、だからこそ自らが戦いに出ることも事実、彼の頭の中にはあった。

「・・・・わかった。指揮は任せる」

「ロンド・ミナ・サハクの名において引き受けよう」

そして、彼はしばし迷った後、決断し頷く。その言葉に対し、ミナは自信の笑みを浮かべ答えた。





 オーブ各地で部隊が配備される。本来ならギナが指揮を務める第12MS部隊の所にはMSに乗る傭兵が配備されていた。そのほとんどは開戦当初から使われ、比較的軍以外の人間にも手に入れやすいジンであったが、中にはまだ希少な筈の連合のストライクダガーやオーブより貸し出されたM1アストレイ・M1クロスも含まれていた。そして、その中に一機目立つ機体が存在する。

「劾、いよいよだな」

 その目立つ機体―――M1アストレイに似ているが色が青い他いくつもの差異、改良点―が見られる――ブルーフレーム・セカンドのパイロット、最高の傭兵部隊サーペントテールの実質的リーダー的存在であり、最強の傭兵と名高い群雲劾に対し、同じ部隊に所属し、彼の隣にあるジンに搭乗するイライジャがやや緊張した声で話しかける。

「別に気負う事はない。俺たちはいつもどおり依頼をこなすだけだ」

 しかし、それに対し、劾はにべもなく返した。どんな依頼だろうと、戦いの規模になど関係なく彼にとってはやるべき仕事という事に変わりはない。とはいえ、口にはださなかったが、今回に限ってみれば、彼にしてもまったく思うところが無い訳ではなかった。
まず、彼にはオーブに借りがある。機体の改修をオーブ内の企業モルゲンレーテに依頼した際、依頼内容は改修だけだったにも関わらず、その事前に起こったアクシデントによって起きた破損した機体の修理までも彼は受けた。修理を行ったエリカ等はそれを貸しだとは思っていないが劾は借りだと考えている。
次に劾は過去にこの国に多少の関わりがある。彼の乗るブルーフレームも元々はオーブ製であるし、その縁でOSの開発やパイロットの育成といった事も行っている。彼は義理や人情といったものを重んじる人間ではなかったが、かといってそれらと無縁であるという程でもなかった。故に、この戦いでは単なる仕事意識以外に勝利したいという意識もあった。

「俺達は俺達のやるべきことをやればいい。そうすれば結果はついてくる」

 だからと言って彼は決して無理はしない。自らの役目から逸脱した事もしない。しかし、自分のやるべき仕事に徹し、そして完璧に務める。それが劾という男だった。

「・・・ああ、そうだな」

 そして、イライジャの方もそれを知るから、彼の事を薄情だとか冷たいなどとは思ったりしない。強く頷き、彼もまた傭兵としての仕事に徹する事に意識を集中した。





「まったく、あいつらは諦めるって事を知らないのか!!」

 カガリが連合に対し不平不満を漏らす。それを聞いて、ユズハも内心では同じような想いを抱きながらなだめようとする。

「カガリ、ちょっと落ち着きなよ」

「これが落ち着いていられるか!! 戦いが起こる度に傷つく奴がでるんだぞ!!」

 その叫びにユズハははっとさせられた。戦いの度に犠牲者がでるそれは当然の事だ。戦場で戦う敵・味方の兵士は勿論の事、どれだけ避難を徹底しても民間人の死亡者は0とはいかない。それは、ユズハも頭では理解している筈の事だったが、何度も戦場にでて戦いを繰り返すうちに、常に死者の意思を感じ取っているにも関わらず、自分がいつの間にかその辺の感覚が麻痺しつつあることに彼女は気づかされた。

「そうね・・・。早く終わって欲しいわよね、こんなこと」

「ああ。ほんとうにな・・・」

 ユズハは自らを恥じ、同時にそう言った初心を忘れずにいられるカガリを見直す。するとそこに二人の人物が入ってきた。

「準備はできているか?」

「あ、お父さ・・・・・クサナギ准将」

 その内の一人はアムロだった。ユズハは普段の呼び方をしそうになり、慌ててそれを言い直す。彼は次の戦闘にパイロットとして彼女達の部隊に加わる事になっていて、それは彼女達も既に伝えられている。また、隊長としての役割も次の戦闘に限りカガリから移されていた。これらの事情から彼がここにいるのは不思議ではない。しかし、そこにもう一人見慣れない男がいる事に二人の目が向いた。それに気づき、アムロは男を紹介する。

「彼はジャン・キャリー特務曹長だ。元連合の兵士でとりあえず、次の作戦のみの臨時隊員としてこの部隊に加えられる事になった」

「よろしく頼みます」

 紹介されジャンが頭を下げる。階級は下とはいえ自分よりもずっと年上の男に頭を下げられ、ユズハは何か気まずい気分を覚えるが、それとは対称的にカガリは敵意と疑いの視線を向けて叫んだ。

「元連合の兵士って、そんな奴本当に信頼できるのか!?」

 その態度に対し、アムロやジャンはある程度予想できた事だったのか、それを平然と受け止める。そしてまずアムロの方が諭すように言った後、ジャンが弁明の言葉を述べる。

「しばらく様子を見たが、彼は信用できると判断した。もし、その判断が間違っていたら俺が責任をもって対処する」

「私が信用できないのは当然だ。しかし、私はコーディネーターとナチュラルが共存できる世界を作るため、そして犠牲者を一人でも減らす為、そんな理想を持って連合にいた。連合ではその理想を果たせなかったがオーブならばそれができるかもしれないと信じている。だから私はオーブの為に全力を尽くす事を約束する」

 二人の真摯な言葉にカガリは気圧されながらも、完全には疑いを捨てきれずにいた。すると、そこでユズハが口を開き、二人を援護した。

「元連合の兵士って事なら私やキラ君も同じよ。カガリは私達の事も信用できない?」

「そ、そんな事はない!! お前達の事はちゃんと信じてる。だが、この男とお前達は同じじゃないだろう」

「うん、けど、私はこの人も信じても大丈夫だと思うわ」

 理屈ではなく、直感でユズハはジャンの先ほどの言葉が彼の本心だと感じ取っていた。その言葉にカガリはため息をついて頷いた。

「・・・はあ。わかった、わかった。私、一人反対してたら、まるで悪者みたいじゃないか。とりあえず、信頼する事にする。けど、妙なそぶりを見せたりしたら!!」

「その時は撃ってもらってもかまわない」

 威嚇するようにいうカガリに対し、ジャンはそう宣言した。



[2025] ガンダムSEEDcross第2部43話
Name: 柿の種
Date: 2006/04/30 03:15
 オーブが連合からの3度目の進撃を確認するそのほんの数時間前、ジュール隊の戦艦、ヴェリサリスで一つの騒動が起きていた。

「一体どういうことだ!!」

「そ、その、ですから、評議会からの指示で私達はラクス様・・・いえ、クライン一味の討伐の任務から外れ本国の防衛にまわるようにとの事です・・・・・」

 激しく怒りを込めて叫ぶイザークに対し、彼の部下が恐縮しながら彼に伝えたばかりの指令を復唱する。それを聞いて、自分が聞いた事が間違いでなかった事を知り、イザークは強く床を蹴って叫んだ。

「馬鹿な!! 評議会は何を考えているんだ」

「仕方ないでしょう。僕達はあれほどの失態を犯してしまったのですから」

「何だと!!」

 怒りおさまらぬと言ったようにイザークは周りに対し無闇に威圧を撒き散らす。多くのものはそのプレッシャーに声も挟めずにいたが唯一人、二コルが静止の声を挟んだ。その言葉にその場にいたものの視線が集まった。特に激情していたイザークは殺意に近い感情すら込めて彼を睨む。

「前回僕たちはNJCキャンセラー搭載機2機を含む特機を与えられていながら実質アスラン一人にやられてしまった訳です。評議会が僕達に任せられないと思っても仕方ないでしょう」

「くっ・・・・・」

 イザークが歯噛みする。自分達が敗北を、それも完敗に近い形でしたのは誤魔化しようもない事実だった。しかし、理屈では理解しながらも彼の感情は治まらない。

「だからといって・・・・・・このままやられっぱなしでいろと言うのか!! お前は悔しくないというのか!?」

「悔しく無い訳ないでしょう!!」

 しかし、それに対しニコルは誰もが予想外な反応を返した。日頃温厚な彼がイザークの怒りをも上回らん程の怒りを見せたのである。

「僕だってプライドが無い訳じゃない!! いくらアスランが相手とはいえ、あんな風に負けて・・・・・。それに・・・・・・あれは、ジャスティスは父さんがつくった機体なんですよ!!」

「・・・・・すまん」

 彼が怒った理由、ジャスティスは彼の父親がプラントの平和の為につくった機体なのである。例えアスランやラクスにどのような思惑があろうともそれを持ち出してとった今の彼等の行動はニコルにとっては許せないものだったのである。それを知っていて、そしてその気持ちを理解したからこそ、イザークは素直に頭を下げた。

「・・・・・いえ、僕も少しかっとなってしまって言い過ぎました。ともかく、今は耐えましょう。クライン達の討伐は誰か別のものに任される筈です。その人物までもが失敗したなら、僕達にもリベンジのチャンスはまわってくるかもしれません」

「そいつがアスラン達を倒しちまったらどうするんだよ?」

 イザークの謝罪に落ち着きを取り戻したニコルが皆に向けて説得するように言う。しかしそれを聞いて今まで黙っていたディアッカが口を挟んだ。それはその場にいた何人かを代弁する言葉でもあった。ニコルはしばらく沈黙した後、重い口調で答える。

「・・・・・・・その時は、プラントを害する可能性のある問題が一つ片付いた事を素直に喜びましょう。僕達の名誉回復は別の所ですればいい筈です」

「そうだな。プラントを守る事こそ俺達の役目だ」

 その言葉に迷いの無い表情で同意を示すイザーク。彼は自分の優先すべきものを思い出し決意していた。そして、その決意は皆に伝わり。今度は誰も異存を挟むものはいなかった。その日、ジュール隊は強い決意を固めるのだった。





「なかなか上手くはいきませんね・・・・・」

 ラクスはエターナルのブリッジで思い悩んでいた。中立国同盟に連合とZAFTの橋渡しを願う、この目算は連合と同盟との争いが激化した事で当初と比べても困難なものとなっていたのである。その為、彼女等の計画は難航状態にあった。

「そう焦るな。我々の成そうとする事はもともと簡単な事ではない」

「はい。けど、こうしている間にも無駄な血が流されている事を思いますと・・・・」

 そんな彼女に父親であるシーゲルが慰めの言葉をかける。しかし、彼女の気持ちは晴れなかった。そこで、再びシーゲルが口を開く。

「確かにその通りだ。だが、我々にも成果がなかった訳ではないだろう」

「・・・・・ええ。そうですわね」

 その言葉に彼女は少し明るさを取り戻す。シーゲルの言葉の示す通り、ZAFTを出ていこう彼女達も何も成せていなかった訳ではなかった。目立った成果は二つ。一つはマルキオ同志を通して結びついたジャンク屋同盟と、彼を通さずとも接触可能な程のパイプを構築
できた事。もう一つは頼もしい協力者を得る事ができたことである。

「ああ、いずれ機会はくる。俺の予想では連合と中立国同盟の抗争はそろそろ終わる。その後ならあんたの計画を実行に移すチャンスも回ってくるだろう」

 そのカイト・マディガンがラクスに声をかけた。彼は傭兵であり、知名度はそれ程ではないが、MSでの戦闘力最強の傭兵と言われる群雲劾に匹敵すると、一部で噂される程の実力者だった。実際、一度模擬戦をした際、SEED能力を発動させはしなかったとはいえ、ジャスティスに乗ったアスランをジンハイマニューバで後一歩の所まで追い詰める程の奮戦を見せている。ある機会に出会った後、彼はシーゲル派に専属の形で雇われていた。

「それまでに敵体する相手があれば俺に任せて置けばいい。例え、あのデコ野郎が相手でも二度と負ける気はないからな」

 デコ野郎とはアスランの言葉である。一度模擬戦で敗れて以来、彼はアスランに対し、敵意を持っており再戦を考えている。それに備えて彼はへヴンと同じくフリーダム・ジャスティスの試験機としてゲイツを改良されたG09/G10ゲイツを手に入れてもいた。

「ええ、期待していますわ」

 そんなカイトにラクスは笑顔で答える。さまざまの思惑の交わるなか、世界は未だ混乱の中にあった





世界の混乱の中止の一つオーブ。そこではいま交戦が繰り広げられていた。形勢はオーブが不利な区域と有利な区域が半数ずつ。精神的に追い詰められた連合の猛攻に対し、十分な戦力を配備できなかった区域はじりじりと後退を迫られていた。
それに対し、戦局を有利に進める部隊はいずれもエースが配備されている部隊で彼等は自らが高い戦果を上げながら時に新兵をフォローする事で敵の侵攻を押し返していた。


 そしてそんな中、現状、互角に戦いを繰り広げる部隊もあった。傭兵部隊である。部隊の半数は崩れながらも、真の傭兵とも言うべきプロフェッショナルなメンバーが奮戦する。そしてその中でも最優の兵、群雲劾は既に3機の連合のMSを破壊し、今また一機をビームライフルで貫く。

「むっ」

 その彼の前にそばにいた傭兵の搭乗する2体のジンを瞬く間に切り裂いて、一機の機体が立ちふさがった。紅いカラミティに似た機体。それは連合の新型でカラミティの後継機であるソードカラミティであり、そしてその機体のパイロットは最近になって頭角を現し始めた連合のエースパイロット、エドワード・ハレルソン、通称“切り裂きエド”だった。

「この相手、手ごわいな」

両機は向き合い、そしてお互いが目の前で見せた実力に警戒しあう。けれど、それは一瞬。戦場でいつまでも立ち止まっている事は死を意味し、エドの方が先に動く。

「行くぜ!!」

 エドの乗るソードカラミティは接近戦に特化した機体であった。当然、彼は劾の乗るブルーフレームに対し距離をつめて戦おうと接近を試みる。しかし、劾の方もそれを見抜きビームライフルで牽制する。

「そうはさせん」

「ちっ」

 瞬時に行動を接近から回避に切り替えるエド。ビームをかわし、しかし、回避したその先に更に追撃が迫る。

「なっ、うおっ!!」

 その追撃も何とか回避する。だが、劾は攻撃を緩めず、更にビームライフルの引き金を弾いた。

「くそっ、なんて的確に撃ってきやがるんだ!!」

 連続した追撃に舌打ちしながらもエドはビームを回避し続ける。すると何度か回避する内に攻撃が単調化しエドは攻撃のタイミングつかみつつあった。

(よし、次の攻撃を回避した瞬間に一気に詰めてやるぜ・・・・・)

そして攻撃を回避し、即座に接近をしかけ・・・・・・それと全く同じタイミングで劾のブルーフレームが接近した。

「なっ!!」

「討たせてもらおう」

 振るわれるアーマーシュナイダーの一撃。単調な攻撃は罠だった。予想外の不意をついたその一撃は間違いなく必殺のタイミングだった。しかし、その時ソードカラミティの後方からビームが走る。

「むっ」

 その攻撃に気づいた劾はビームコーティングしたアーマーシュナイダーを盾にしてそれを弾く。しかし、その行動が今度はエドにとっての必殺のタイミングを作ってしまった。防御の為に停止したブルーフレームにソードカラミティのビームサーベルが振り下ろされようとする。

「劾!!」

 だが、幸運の女神は劾を見放してはいなかった。その時、偶然にも2機が争う戦場の近くで戦っていた、イライジャが劾の危機に気づき攻撃を仕掛けたんだ。イライジャの乗るジンのマシンガンではTP装甲を持つソードカラミティを破壊する事はできなかったが、その動きは阻害される。そして、その間に劾はブルーフレームを後退させ距離を置いた。2機の間に再び間合いが開いた。

「苦戦してるようね」

「劾、大丈夫か」

 ソードカラミティを助けた機体はバスターダガー。エドの元教官で“乱れ桜”の二つ名を持つレナ・イメリアの乗る機体であった。彼女はエドに通信を入れ、同じタイミングでイライジャも劾に通信する。

「助かりましたよ。教官」

「問題ない」

劾とエドは互いの味方に短い通信を入れ、そして2対2へと形を変えて戦いは再開された。


(後書き)
えー、カイトファンかつ、アンチラクスの方には不快かもしれませんが、よんでの通りラクスを彼女の陣営に加えました。現状ではどう考えても戦力不足である以上、彼女等もなんらかの動きを見せるでしょうし、大きな目的を持った彼女に着く事は自分の生きる目的を探しているカイトにとっても魅力的なんじゃないかと思いまして。まあ、自分を代わりの無い絶対的存在として必要としてくれる相手を求めてるカイトがこのまま彼女とずっと一緒にいるかどうかは今後の展開次第ですけどね(笑)

PS.へヴンの開発時期を考えるとG09/G10ゲイツが存在してるのはもしかしたらおかしいかもしれませんが、勘弁してください。他に、乗り手の定まらないジャスティスともある程度釣り合う機体が思いつかなかったので。

PS2.ちょっと書く順番を間違えて時間軸の流れが変になってしまいました。申し訳ありません。



[2025] ガンダムSEEDcross第2部44話
Name: 柿の種
Date: 2006/05/07 23:34
「また、厄介なモノが増えましたねえ」

 戦場で次々と連合のMSを落としていくネオクロスガンダムとνガンダムの姿を見てアズラエルが呆れたようにつぶやく。今まで連合を苦しめてきた最難敵の一つであるネオクロスガンダム、それと同程度かそれ以上の戦果をあげるνガンダムが同時に戦場を暴れまわっているにも関わらず、彼の声には余裕があった。
 それは、νガンダム自体は一度目の戦闘で確認されており、寧ろ前回の戦いで2機が同時に出撃してこなかった事こそ疑問。想定の範囲内の出来事であったからである。そして、連合はその想定に対する手段を用意してきていた。

「やはり、アレらを引っ張ってきたのは正解でしたね。あれだけの戦力があればいくら奴等が化け物でもどうしようもないでしょう」

 そして、自信を持ってその切り札を投入する。エンディミオンの鷹、ムゥ・ラ・フラガ、そしてブーステッドマンのオルガ、前回の戦いでもユズハ達と戦った二人と共に10機の機体が出撃された。





「フラガさんの乗っていた機体と同じ・・・。でも、形が少し違う?」

 ユズハ派明らかに彼等の方に向かってくる10機の同型機を確認した。それは前回戦ったフラガやクロトが搭乗していたレイダーによく似ていたが少しだけ形状が違う。そして、更によく見るとそれに加えてフラガの乗るレイダーとレイダーによく乗る機体の内の一機の背に乗るカラミティの姿が見える。

「量産型、制式機だろうな」

 それを見て判断を下すアムロ。10機のレイダーに似た機体―――レイダー制式機と、レイダー、カラミティが空を飛ぶ2機の周りを取り囲もうとする。

「先に動くぞ!!」

「うん!!」

 しかし、アムロ達の方も当然、囲まれるまで黙って待っている訳ではない、包囲されるのから逃れ、逆に敵を各個撃破しようとする。しかし、予想よりも反応のよい攻撃が迫る。

「ちぃっ!!」

 アムロはそれを防ぎ、反撃でビームライフルを放つ。しかし、レイダー制式はそれを回避し、そこに更に別の機体からの攻撃がせまる。

「くっ、動きがいい!!」

 上方に移動し、その攻撃を回避する。苦戦するアムロにユズハが援護しようとするが、彼女の方にもビームが三条連続で放たれる。

「速い。それにこの気配は・・・・・・・」

 絶え間なく撃たれるビームを回避しながら、ユズハとアムロは相手の特異なプレッシャーを感じ取っていった。それは、前回戦った、クロト、シャニ、オルガのそれに酷似しており、そしてアムロの方にはそれとは別に覚えがあった。

「このプレッシャー。強化人間に近いな。何らかの薬物強化がされているのか?」

 薬物投与による能力向上、同時にそれによる不安定な精神状態、特に初期の強化人間から感じ取れたものと今、レイダー制式機から感じるものは似ている所があった。そして事実、全てのレイダー制式機には薬物強化によって能力向上されたブーステッドマンが搭乗していたのである。

「それほど連携が取れているという訳ではないが。それにも関わらず、これだけ連続して攻撃できるという事はそれだけ各個の能力が優れているということか」

 アムロがその考えに思い至る間にも攻撃は降り注いでいた。普通、密集しすぎると同士撃ちを恐れ、思うように飛び道具は使えなくなる。しかし、敵は一切の容赦もなく攻撃を続け、同士討ちも起きていない。それは、それだけ各個の瞬間的な判断能力と反射が優れているという事の証明だった。
そしてそうなると、なまじ連携が取れていない不規則な攻撃なだけに反撃や回避のタイミングが取りづらくなっていた。何撃かは攻撃がかすめ、装甲が削り取られている。

「やめてください!! フラガさん!!」

 特にユズハの方は敵の中に自分の顔見知りがいるという心理的な重圧もあり、一層追い詰められ、アムロがそれをカバーする。ジリ貧状態の中、アムロはミノフスキー粒子を周囲に散布した。





「あいつら苦戦してるじゃないか!!」

 レイダーに囲まれたユズハとアムロの姿を確認し、カガリが援護に向かおうとする。しかし、それを制止する者があった。

「やめておいた方がいい。映像と戦闘データでしか知らないが、彼等の実力は私や君よりも遥かに上だ。ここで下手に助けに入っても足手纏いになるだけだろう」

 ロングダガーに乗るジャンだった。彼女はジャンの言葉に激昂し叫ぶ。

「じゃあ、お前はあいつらを見捨てろって言うのか!!」

「そうは言ってはいない。しかし、私のMSに飛行能力は無いし、君一人が行った所でどうにもならない事は事実だろう。それに、ここで君が抜けては今度はこちらの戦線が維持できなくなる」

「うっ」

 その指摘にカガリは言葉につまる。彼女達は現在、第8MS部隊に援軍として加わり戦闘を行っていた。第8MS部隊は前回の戦闘で最も多く戦死者のでたMS部隊で数だけ揃え補ったパイロットの多くはMSパイロットとしては新米が多く、中にはまったくの新兵すらいる。今は第一陣を退け、戦闘が中断しているが、ここで、経験豊富、かつオーブの姫君してその場にいるだけで戦意高揚のもととなるカガリが離れれば戦闘が再開した後、部隊はあっという間に崩れてしまうだろう。

「そ、そんな事言って、おまえ、やっぱ本当は連合のスパイなんじゃないのか!! 現に、さっきから連合の奴等をかばうような事をしてるじゃないか!!」

 カガリにもその理屈はできた。しかし、それを認めず反論する。最も、それは単に彼女が捻くれた所があるというだけでなく、実際に彼女の本心でもあった。ジャンは敵を殺さない。MSの手や足を狙うなどして、敵のコックピットを外し、時には壊れたMSの前に立ち、パイロットが脱出するまで攻撃にさらされないようにすらしている。最初は偶然かとも思ったが、今やそれがわざとだとカガリは、はっきりと確信していた。

「・・・・・・・」

 その指摘に対し、ジャンは一瞬押し黙り、そして重い口を開く。

「・・・・・・確かに私は連合の兵士を殺さないようにしている。だが、それは私が連合の味方をしているからでなく、この戦争による被害者を少しでも少なくしていたいと思っているからだ。その信念を持って、私は不殺主義を貫いている」

「不殺って・・・そんなこと出来る訳ないだろう!!」

 ジャンの言葉にカガリは驚き呆れ、それが嘘だと疑うという事すら忘れ突っ込んだ。そして、それに対しジャンは否定しなかった。

「確かに、無謀な行いなのかもしれん。甘い偽善と言われた事もある。逃がした敵が味方を殺すとも、中途半端に破壊した機体が逆にパイロットを苦しませて死なす事になるともな。それでも、私はこの信念を曲げる気はない。それが、死んだ両親が残した望みだからな」

「・・・・・・お前の両親、死んだのか?」

「ああ、S2インフルエンザでな。特に母は悲惨だった。S2インフルエンザはコーディネーターにはかからない病気だったことから生物兵器によるテロ活動が疑われたからな。母はナチュラルだったがコーディネーターの息子を持っていた事で疎まれまともな治療も受けられなかった」

「なら・・・・・ナチュラルが憎いんじゃないのか?」

 ジャンの話を聞いてカガリはそう疑問を覚える。そのストレートさにジャンは薄く笑い、その表情のまま答える。

「母はそれでも人を恨まないで欲しいと言った。そして、私はナチュラルにもコーディネーターにも友がいる。私は両者が誤解無く、共に暮らしていける世界を築いていきたい。その為に少しでも力を尽くしたい。私はそれを目指すためにオーブに加わったのだ」

 ジャンが答え、そこで連合の第2派が接近する。それに対し、カガリは無言で前方にでた。

「何をしてる。私について来い」

 そして出た後で、ジャンに指示を出す。それを聞いて彼は問いかけた。

「私の事を信じてもらえるのかな?」

「お前が本当に信用できるかはまだわからないが、とりあえずはここはお前の言うことを聞いてやる。確かに、ユズハやアムロは化け物みたいな奴等だからあいつらだけも何とかするだろう。だから、私達の役割はここを守る事だ。その為に、お前にも全力で働いてもらう。その代わり、私もお前の理想にできる限り協力してやる。あまり、余裕は無いから期待されすぎても困るがな」

「感謝する」

 その時、ジャンは初めて、まだ未熟ながらもカガリに対し指導者としての威厳のようなものを感じた。そして、それに彼は希望を持つ。彼が今いる国、オーブには有能な指導者も、それを継ぐべき後身も揃っている。そして、ナチュラルとコーディネーターが共存する世界でも数少ない国だ。この国ならば、自分の理想が本当に適うかもしれないと。

「もし、それが適うのならば、私は例え捨石になったとしても構うまい」

 そう、決意を持って、彼はカガリに続いた。


(後書き)
ジャンに関し、オリジナルエピソードを加えて見ました。代わりにアムロ達の出番が減ってしまいましたが、それは次回という事で。



[2025] ガンダムSEEDcross第2部45話
Name: 柿の種◆eec182ce
Date: 2010/05/09 03:24
「レーダーが使えなくなったか、例の奴だな」

 ネオクロスガンダムからミノフスキー粒子が散布され、その周囲の機体のレーダーが妨害される。しかし、フラガはそれを確認しても冷静だった。
前回のオーブ侵攻の際、ネオクロスガンダムにそのような装置が搭載されているのは確認されている。当然、そのような状況に置いて対策が練られていない筈もなく、ブーステッドマン等とフラガにはレーダー装置禁止下での訓練が課せられてきていた。

「さてと、あの兵器は出してくるかね?」

 そうして、フラガはネオクロスとνの2機の動向を観察する。その2機に搭載されている兵器、ファンネル。彼はその兵器を自分が得意とするガンパレルやクロスガンダムに搭載されていたインコムと同種の兵器と予想し、こちらに対しても対策を立てられている。
この種の兵器の利点は大きく分けて二つ、“手数が増えること”と“一人で同時に他方向からの攻撃を可能とすること”である。これらは戦場において絶大なアドバンテージとなる。
 しかし、その一方で欠点も存在する。それは一度に複数の機器を操作する為、集中力の拡散を招く事だ。一度に一つだけのものを操作するのと、同時に複数のものを操るのとでは当然、複数のものを操る時の方が一つ一つのものに対する精度は低下してしまう。これは優秀なパイロットでも避けられず、ましてや未熟なものや空間認識能力の低いものでは処理が追い切れず逆に戦力を低下させてしまう。
 その為、手数が増える事で複数の敵を相手にする時にこそ有利に見えるこれらの兵器は実際は一対一や味方の十分な支援を受けられる状況でこそ真価を発揮できる武器であり、強敵を複数相手どらなければならない時には寧ろ自らに隙を作ってしまう事になるのだ。

「さて、どうする、クサナギ二佐?」

 フラガやニヤリとした笑みを浮かべ、アムロのνにむけてエネルギー砲を発射する。フラガはいまだネオクロスのパイロットがユズハだとは知らないが、機体の動きや、その実力から今回νに乗るパイロットはアムロだと予想していた。そして、その時点で少なくともνがファンネルを使ってくる事はないと予想する。アムロ程の熟練のパイロットならば、自らが使う機体に対する欠点を知らない筈はないと彼は考えていた。そして、相手が使ってこないならば、自分達はそのまま追い詰めるだけである。

「悪いが、こっちにも譲れないものがあるんでな」

 フラガは完全にアムロを殺す気で、緩めずに攻撃を続ける。しかし、ある異変に気づいた。

「何だ、レーダーが完全に効かなくなったぞ?」

 ほぼ役立たずではあったが、今までは一応反応を示していたレーダーが完全に映らなくなる。その事で戦闘に問題が起こる訳ではなかったが、彼は言い知れぬ嫌な予感を覚えた。

「ちっ、一体何が起こってるんだ」

 その予感に自然、声が荒くなる。
 そして、その彼の目の前で、ありえないと予想した事が起きた。νガンダムがファンネルを発射する。それを見て、ブーステッドマンの乗るレイダー達は一斉にνを狙った。一度に八方向から放たれるビーム。例え、ファンネルの操作中で無くても回避できないと思えるような攻撃、しかしそれはνの周りに現れた三角錐の光の壁によって遮断された。





「ユズハ」

「うん!」

 ファンネルによって展開されたIフィールドを解除し、アムロはユズハの名を呼ぶ。ユズハはそれに頷き、それだけで通じ合ったように2機が同時に動いた。
 敵のロックを外す為、νは最高加速で移動し同時に一機のレイダーに抜けて3機のファンネルを向けた。それは巧妙に相手の逃げ場を奪い、そしてそれを回避した瞬間にネオクロスのビームライフルが機体を貫く。

「来る!!」

「そこ!!」

 破壊されたのとは別のレイダーがνに銃を向ける。先ほどの教訓を生かしてか実弾の機関銃を向けるがそれよりも妨害が入る。一機を撃ち落した後、狙いを素早く変えたネオクロスのビームライフル。レイダーはそれを回避するが、先ほどとは逆に回避した先に放たれたファンネルが機体を撃ち落した。

「あの、嘘つきやろうがー!!!!!」

 ブーステッドマンの一人が叫びと共に火器を乱射する。2機はそれを回避し、そして全く同じタイミングで反撃を仕掛ける。

「「見える!!」」

 二条のビームが同時に直撃。その次の瞬間には彼等が居た後を敵の撃ったビームが通りすぎる。2機はまるで、それが一つの存在であるかのように動いていた。NT同士ではある種の共感能力を持つが、親子であるユズハとアムロの間ではそれが今、より強く結びついた状態で発動していた。
 二人はお互いの思考を読み取り、完璧な連携を取る。アムロがファンネルで拡散して、ユズハが止めを刺す。あるいは、逆にユズハが敵の隙を作り、アムロが楽に落とせる状況を作る。アムロがファンネルに集中している時にはユズハは完全に防御に回り、そうして次々にレイダーを落として行った。





「くそっ!! 一体どうなっているんだ!?」

 フラガの誤算はνガンダムのIフィールドを知らなかった事、そしてユズハとアムロが自分とクルーゼの間にあるような共感を持っていた事を知らなかった事だった。彼にとっては煩わしいその能力も味方同士の間で結ばれるなら恐ろしいものになる。皮肉にも、彼は知らずしてその脅威を見せられた。

「しかし、ここでひくって訳にいかないか」

 既に6機のレイダーが落とされていた。自分達の側もファンネルを2機撃ち落してはいるが、ネオクロスとνは共に軽微な損傷のみ。形勢は完全に入れ替わった状況である。普通なら、撤退か、あるいは援軍を希望したいところであったが、そのどちらもフラガには望めなかった。

 
 アークエンジェルクルーがユーラシア連邦に逃げ延びた後、当然の如く、大西洋連邦はアラスカでの真相を知り、厄介な証言者となり得る彼等の引渡しを求めてきた。それに対し、当初、ユーラシア連邦はそれに拒絶の姿勢を見せた。しかし、それはあくめで無条件で応じる気がないというだけの話でしかなかったのである。
大西洋連邦を嫌いながらも現時点での完全なら決別を得策としなかったユーラシア連邦は結局、クルーの引渡しと引き換えに、大西洋連邦側からMSの技術とアークエンジェルを委譲されるという形で和解をしたのだ。
 こうして大西洋連邦に引き戻された彼等であったが、予想外な事に脱走での罪を問われたりする事はなかった。これは、状況の流れの不自然さを隠す為に、『アラスカでの戦闘で損傷したアークエンジェルとクルーをユーラシア連邦が一時的に保護した』という形で公式に処理された為である。
 しかし、自らの罪を隠す為のこの処理によって大西洋連邦は彼等を合法的に始末する為の大義名分を失ってしまった。ここで彼等を無理に処刑すれば、“疑惑”を深める事になる、そう考えた大西洋連邦は他のクルーをその気になればいつでも始末できる手元に置き、フラガを危険な戦場へと送りだす事を選んだ。そこで戦果をあげてくれればよし、戦死してくれれば計画のデータを直接目撃した最も厄介な証言者を合法的に始末できる、戦果をあげた上で死んでくれればこれ以上無い。大西洋連邦はそう考えた。つまり、フラガにはここで退く場所などないのである。

「せめて、一機、どっちか落とすしかないか」

 戦果を残し、役立つ事をアピールする。それ以外に、自分が、そしてアークエンジェルのクルーが・・・・・彼の愛する女であるマリューが生き延びる方法はなかった。
 そうして、彼はネオクロスに狙いを定め、突撃をしかけた。





「フラガさん!?」

 自分に向けて真っ直ぐに接近してくるレイダー。制式ではないそれは明らかにフラガの機体だった。しかし、速度が尋常ではない。それは近づくというよりも体当たりを仕掛けてくるような速度である。そして、何よりも。

「死ぬ気なの!?」

 積極的ではないが死すら覚悟した意思、それが伝わってくる。2機の両方からミノフスキー粒子を散布した事でもはや、通信はつながらない。そもそも、フラガは最初から通信を受けていない。つまり、説得は不可能だということである。

「っつ・・・・」

 迷い。生半可な覚悟では勝てない。止められない。そして、負ければ自分は死ぬ、オーブも滅びるかもしれない。けれど、本気で戦う、手加減せずに戦う、それはフラガを殺すと言う事である。

「・・・・しまっ!!」

 一瞬の葛藤、その間に接近したレイダーの機関銃が降り注ぐ。PS装甲がそれを防ぐが衝撃は殺せず、機体が揺れる。そして、後、少しでぶつかるという所にまで近づいたレイダーは機体を人型に変形させ、その勢いで完成を殺した。

「これでぇぇぇぇ!!!」

 PS装甲をも破壊する速度と強度を持った、破砕球ミョニエルがコックピットに向けて放たれる。それが直撃すれば、ユズハはコックピットごと押しつぶされて死ぬ。



 爆音が鳴り響いた。ミョニェルはネオクロスに届かなかった。νガンダムのハイパーバズーカーに貫かれ、破壊され、爆風が巻き起こる。その爆風に吹き飛ばされそうになりながら、レイダーは短距離プラズマ砲を向けた。

「!!」

 それを見てユズハは反射的にビームブレードを抜いて上昇した。プラズマ砲がネオクロスの足を吹き飛ばし、そしてビームブレードがレイダーを真っ二つに切り裂く。そして、レイダーは爆散死、その瞬間、彼女はフラガの死の思念をはっきりと感じ取った。


(後書き)
次回でオーブ・連合の攻防戦は終わる予定です。



[2025] ガンダムSEEDcross第2部46話
Name: 柿の種
Date: 2006/06/25 11:39
「ユズハ!!」

 アムロの叫び、そして爆音が重なる。フラガの死の思念を感じ取ってしまったユズハは一瞬自失してしまった。そして、その一瞬は戦場では致命的な隙だった。

「死ね!!」

 動きを止めたネオクロスガンダムに数機が銃口を向ける。しかし、それらが火を噴くよりも早く三角錐の光が機体を包み込む。

「くっ」

 それはアムロがファンネルを展開し張ったバリアーだった。ネオクロスガンダムとνガンダムはファンネルを補助システムとしてIフィールドを展開できるように設計されているが、それらのシステムには互換性があり、νガンダムのファンネルを使い、ネオクロスガンダムのIフィールドを起動させる事が可能となっていた。しかし、ユズハをかばった代わりにνガンダムに隙が生まれた。

「くっ」

 狙いがνガンダムに移り、ビーム砲の連撃を受ける。必死に回避行動をとるが、その内、一撃が直撃し、νガンダムの左腕が爆散した。

「ちぃっ!!」

「!!」

 その姿を見てユズハが正気を取り戻す。それを確認して、アムロはファンネルを解除すると同時に周囲に向けて牽制を仕掛けた。敵を落とす事よりも、動きを封じる事を優先し、時間を稼ぐ。そして、その間にユズハとの意思疎通を行う。

「大丈夫だ。それよりも、ユズハ、お前の方こそ戦えるな?」

「う、うん・・・・大丈夫よ」

「そうか。なら、いくぞ」
 
 アムロの問いかけにユズハは気丈に答える。しかし、決してショックが消えた訳ではない。戦い続ける事を選んだのは彼女がそれだけ責任感の強い性格をしているからだ。アムロはそれを理解しながら、彼女を下げようとはしなかった。

「今は彼の事は忘れるんだ」

 そして、出来る訳がないとわかりつつ、それだけ言葉をかける。例え戦争中であっても、実戦を経験してきた戦士であっても、知り合いの死というのは重い。それは、アムロもまた、リョウやララア、ケーラの時に経験してきた事だ。しかし、現状でユズハを下げる訳にはいかない。彼女は貴重な戦力なのだ。如何に、アムロとて片腕が損傷した機体でこの数は相手にできない。そして、二人とも下がってしまえば、ブーステッドマンののるレイダーが自由になり味方に多大な被害がでる。将校として、如何に娘の為とはいえ、そのような愚行を犯す訳にはいかなかった。
 
「くっ、ファンネル!!」

 焦燥を抱えながら動きに精細を欠くユズハが苦し紛れにファンネルを展開する。ところが、そのファンネルの動きが異常に鈍く、その攻撃は狙いを定めた機体にあっさりと回避されてしまった。

「ミノフスキー粒子の濃度が下がってきている。ファンネルの使用はやめておくんだ」

 そこでアムロが警告する。νガンダムとネオクロスガンダムから放出されたミノフスキー粒子は時間がたてば拡散されてしまい、濃度が下がる。そうなれば、意志の伝達物質が無くなり、ファンネルの反応速度は低下してしまうのだ。また、ミノフスキー粒子が無くなれば当然、レーダーも回復し、アムロ達のアドバンテージは失われと言う事だった。





「全く、オーブってのはどうなってるんだか」

 劾の駆るブルーフレームと対峙しながらエドは呆れ半分、感嘆半分の息を漏らす。正確には劾は傭兵な為、オーブの人間ではないが、それを知らないエドはオーブの人材のレベルの高さに驚嘆していた。そして同時に思う。

「これで、中立国同盟が南米を受け入れてくれてりゃね。俺もこんな不本意な戦いをせずにすんだんだが」

 エドは連合のオーブ侵攻に対して複雑な気持ちを抱いていた。正義感を気取るわけではない。過去に南米が北大西洋連合によって武力で無理やり併合された経緯から同じような立場に立たされている現中立国に共感を覚えていた。そして、それと同時に彼は中立国同盟が南米の同盟編入を拒否した事を知っていた。その事について怒りは無い。それが自分達により益の多い虫のいい話である事を理解できていたからだ。ただ、微かな失望は抱いており、そして事実を知る母国の要人の多くは逆恨みを抱いてはいるが。

「まっ、仕方ないわな」
 
 南米の独立はいずれ、自分達の手で成し遂げる。その為に、ここは何としても生き延びなければならない。その決意を持って彼は機体を駆り続けた。





「くっ、まずいな」

 ネオクロスガンダムをフォローしながら、アムロはνガンダムの右手のビームライフル一丁で奮戦を続けていた。機体の片腕を失った後で更に1機を撃ち落しながらも、νとネオクロスも細かい損傷を受け、残った3機のレイダーを前に彼等は追い詰められつつあった。

「しまっ!!」

 そして、ついに致命的な一撃を喰らってしまう。νガンダムの残った右腕にレイダーの一撃が直撃し、両腕とも破損状態になる。頭部のバルカンを除き、攻撃手段を失ったνに

「お父さん!!」

 そこでユズハがビームライフルを撃ち、νガンダムの右腕を破壊したレイダーを撃ち落とす。だが、同時に別の機体から背部から撃ち貫かれる。

「きゃあ!!」

コックピットへの直撃は避けたもののその真上を貫かれ、機体が火花を起こす。ユズハは悲鳴をあげ、それでも、今度は機体は静止させる事はせず、回避行動を取る。とはいえ、機体はいつ爆散してもおかしくない状態だった。

「くっ、仕方ない。撤退するぞ」

「け、けど・・・・・」

「これ以上の交戦は不可能だ。一度引いて機体を乗り換えるしかない!」

 撤退する事を躊躇するユズハにアムロが有無を言わせず従わせた。2機は敵に背中を向け、撤退を開始する。当然、敵は撃墜しようと仕掛けてくるが、それをなんとか逃れ2機は基地に姿を消した。





 アムロとユズハが撤退した、彼等の交戦域周辺では急激に被害が広がっていた。ただでさえ、劣勢だったのである。残りは僅か2機とはいえ、ブーステッドマンの乗るMSは並みのパイロットではまるで相手にならず、戦線に穴が開けばあっという間に崩壊する。僅か5分の間に20機のMSが落とされていた。そして、そこで更なる悲劇が起きる。

「これ以上オーブの兵士を落とされてたまるか!!」

 侵攻を防ぐ為に、カガリとジャンが立ち塞がる。彼女等の機体と実力なら、空を飛べないロングダガーが援護に回りカガリのアカツキが2機を迎えうつ形とする事で互角に戦う事も可能だったろう。しかし、カガリは味方を多く落とされた事で少しばかり冷静さを失っていた。

「突っ込みすぎだ。もう少し下がれ!!」

「うるさい」

 ジャンの静止も聞かず、突撃をしかける。その無茶な突撃は、レイダーの片翼を貫かせた。しかし、そこで機体は直ぐに落ちず、何とアカツキに体当たりを仕掛けた。

「なっ!?」

 激突した機体は激しい爆発を起こした。アカツキはPS装甲を持った中でも高い防御力を持つ機体であったので、一撃で堕ちたりはしなかった。機体がバランスを崩し、無防備になったところをもう一機が狙いを定める。

「いかん!!」

 絶対絶命の危機、それを救う為にジャンはブースターを全開にしてロングダガーを飛び上がらせ、彼女の盾になった。先程、アムロがユズハにしたように。しかし、一つ違ったのは、そこでジャンが命を散らせた事。

「彼女を・・・・・ここで死なせる訳には・・・」

 それが彼の最後の言葉だった。ロングダガーが爆発し、そして、その光景を見た瞬間、カガリの脳内で種が割れるイメージがはじけた。
(後書き)
久々の更新です。ここ最近、忙しくてちっともSSを書く暇がありませんでした(涙)とりあえずに今年中にこのサイトのSEEDcrossと希望のエターナル、他所で書いてる霊光波動拳横島を完結させて、罪人とbelieveを更新したいなあ・・・・・・。(1日1作のペースで更新できた頃、調子に乗って連載をやりすぎたOTL)



[2025] ガンダムSEEDcross第2部46話
Name: 柿の種
Date: 2006/08/15 15:19
「どうして・・・・・」

 どうして、ジャンは死んだ?
 それは自分をかばったから。

 どうして、ジャンは志や指すべきものがあったのに命を捨てた?
 それは、自分に、そしてオーブに期待していたからだ。

「私は・・・・・」

 私はどうすればいい?
 どうすれば、ジャンの死に答えられる?

 それは、彼の理想を引き継ぐ事。
 その為にオーブを守る事。

「何を・・・・・」

 その為に必要なのは何か?

 発言力。弁論。資金。人脈。そして今、必要なのは・・・・・・・・・・味方を守る力。

「私は・・・・・オーブを守る!!」

 この戦いで、そして、その後の歴史に置いて、黄金の獅子と称される少女の目覚めだった。





「くそっ!! どうなってるんだ!!」

 アズラエルが吼える。厄介な敵を一時退却させたとは虎の子のブーステッドマン部隊が全滅させられ、しかも、前情報では機体性能の所為で多少厄介な程度との筈だったオーブの子女が乗るMSが突如、動きを変え、既に10体以上の連合MSが落とされている。しかもその姿に他のオーブ軍兵士まで奮起し、形勢は互角にまで押し戻されていた。

「この状態であいつらが戻ってきたら」

 一時撤退させた、特機にのる一騎当千のエース、ユズハとアムロ。この状況で彼女等が加われば一気に攻め落とすのはますます困難となる。そして、時間をかければ、赤道連合にいる部隊や他同盟国の援軍も加わるだろう。

「どいつもこいつも役立たずめ。こうなったら・・・・あれを使うぞ」

「理事!! それは!!」

 我慢の限界を超えたアズラエルは最後の切り札を切ろうとする。それは、一度はふたをされたパンドラの箱。それを今また、彼は開こうとしていた。その判断に対し、艦隊を指揮する提督はそれを押しとどめようとする。しかし、アズラエルはその男をどなりつけ、更には殴り飛ばした。

「うるさい!! もう、他に手段がないだろうが!! 嫌だというならすぐさま他の手でオーブを落として見せろ!!」

「・・・・わかりました」

 男はしかたなく頷く。自分の無力をかみ締めながら、そして指示を出した。封印を解かれたパンドラの箱、核ミサイルの使用を。





「直ぐに使える機体は何がある!?」

「は、はい。M1アストレイにM1クロス、M2クロス、それとインコムが装備されたM1クロスγがあります。フライトユニットは未装備ですが、直ぐにでもつけられます!!」

 基地に戻ったアムロが叫ぶ。整備班はデータを確認し、読み上げていった。

「後は、一機ですがM2アストレイが動かせます。ただし、使用できるアストレイパックはライトニングアストレイパックだけですが・・・・・」

「よし、なら、M1クロスγを・・・・」

「待って、お父さん!!」

 使用可能な機体を全て確認した後、選ぼうとしたアムロに対し、ユズハが静止の声を投げた。そして、一瞬躊躇った後、言った。

「乗る機体は・・・・・M2アストレイにして・・・」

「何故だ?」

 その発言にアムロは疑問を発する。操作系の鳴れたクロスタイプではなく、M2アストレイ、しかも、使い勝手の難しいライトニングパックしかないそれを進める理由は普通に考えればない。それを何故か進める娘に対しわからないと言った表情を浮かべた。

「そ、それは・・・・・」

 問い返されて言葉に詰まるユズハ。今は非常事態であり、娘であろうと甘やかしている暇は無かった。アムロは少し怒気を強める。

「理由がないなら引き止めるな。お前も早く準備しろ」

「ま、待って!!は、はっきりとした理由はわからないの。ただ、嫌な予感がするの。それで、ライトニングパックの力が必要になるような気がする。もしかしたら、お父さんの言っていたニュータイプの直感っていう奴かもしれない・・・」

「・・・・・・」

 アムロはユズハのいう嫌な予感を感じとることはできなかった。ただ、娘の言葉が嘘や偽りではないのは感じ取れる。確かに、彼女はそんな予感を覚えている。単なる思い過ごし、あるいは、本当に感じ取っているのか、考えた末にアムロは整備班に向かっていった。


「お、お父さん!!」

「任務中は階級で呼ぶんだ!!」

 自分の言葉を聞き入れてくれなかった父に対し、ユズハは叫ぶ。そして、それに対して帰ってきた言葉に彼女は絶望しかけた。しかし、それに続く言葉に彼女は驚かされた。

「それから、クサナギ二尉はM2アストレイに乗せる。ライトニングパックを装備しておいてくれ」

「おと・・・クサナギ准将!?」

 父の意図が読めず、戸惑うユズハ。そんな彼女にアムロは言った。

「不確かな情報で俺の機体を変更する訳にはいかない。しかし、お前には機体選択の自由を与える。ライトニングパックが必要だと思うなら、自分で使え」

「で、でも・・・・・」

 フラガを殺した時の感覚が彼女の中に蘇る。甘えを言える状況ではない事はわかっている。アムロの娘、そしてダイキの孫である事を言い訳にして特別待遇を受けるのが許される事でない事も。しかし、再び戦場に戻る決意と覚悟が直ぐには持てそうになかった。

「クサナギ二尉」

 そこで投げかけられるアムロの鋭い声。ユズハの体がビクリと揺れる。

「今、ここでオーブが落ちたら、多くの国民が死ぬ。そうなれば、それこそフラガ大尉を撃った事が無駄になるんだぞ」

「!!」

 その言葉にはっとさせられる。今、この時にも味方が死んでいるのだ。そして、内陸部まで敵がせめいれば民間人にも多くの被害者がでる。彼女はそんな当たり前の事実を忘れていた。いや、フラガを撃ったショックから逃れる為に、辛い現実の全てから眼をそらし、耳を塞いでいたのだ。

「わ、わかりました!! クサナギ二尉、M2アストレイに搭乗させていただきます」

 完全に切り替えられた訳ではないが、それでも敬礼を返し、M2アストレイに搭乗した。





「これが、アストレイタイプのシステム」

 同じMSという事で多少の共通点が全く無い訳ではないが、クロスタイプとアストレイタイプでのその開発過程からして大きく違いがあり、そのシステムはほとんど別物という程に違う。普通の感覚からすれば、クロスタイプのMSを愛用するパイロットがアストレイタイプに乗るなど正気の沙汰ではない。ユズハはマニュアルを読み、その違いを一つ一つ確認していった。

『いけるか? クサナギ二尉』

 そこで、アムロから通信が入る。その問いかけにユズハはすぐさま答えた。

「5分、いえ、2分ください。その間、クサナギ准将は先に出撃していただけませんでしょうか?」

『わかった。2分だな』

 ユズハの要請に頷き、フライトユニットを装備したM1クロスγが出撃した。


(後書き)
就職活動がやっと終わり、連載再開です。辛かったー。まあ、まだ卒論とちょっと足りてない単位があるんで夏休み過ぎたらまた不定期になるかもしれませんが(汗)終わるのがいつになるかわかりませんが、完結できるよう頑張りますのでできれば応援よろしくお願いします。



[2025] ガンダムSEEDcross第2部47話
Name: 柿の種
Date: 2006/08/15 19:07
「くそっ・・・・」

 潜在能力を開花させた事により快進撃を続けていたカガリ。しかし、急激に強い力に目覚めた彼女は、進撃にばかり気を取られてしまい気がつけば敵に囲まれていた。

「私は、こんなところで死ぬ訳にはいかないんだ!!」

 周りの味方は全て撃破されてしまい残るは敵ばかり。必死に回避を続けるが、被弾箇所が増えていく。それでも彼女は吼える。しかし、撃墜数を敵の増援が上回り、限界が迫ってくる

「しまっ!!」

 アカツキの右足が撃ち貫かれる。機体の動きが止まったその瞬間に、別の敵機の銃口が向けられた。

「もう少し、節度というものを覚えるんだな」

 その時、アカツキを狙った機体が爆散しアムロから通信が入る。カガリがモニターに目を移すとM1クロスα、その後方から第2部隊のM1クロス十数体がやってくる。

「わ、悪かったな」

 感謝しながらも自分の失態を素直に認めるのが悔しくてわめくように言うカガリ。アムロはそれに特に気にした様子も見せず第2部隊の隊長に指示を出した。

「敵の護衛とカガリ准将の護衛を。その間にこちらが安全圏まで移動させる」

「了解しました」

 第2部隊隊長、ミーナ・ステュグラード一尉がその命令を受け、各機に指示をだす。その指示に答え、第2部隊は球状の壁に展開し、敵機を近づけさせないように戦闘を開始した。

「一度、退くぞ。その機体では戦えないだろう」

「だったら、私だけでいい!! お前はあいつらを助けてやれよ!!」

 そしてアカツキ機に引っ付いて、機体を誘導させようとする。それに抵抗しようとするカガリ。しかし、アムロはそれを許さなかった。

「その機体では一機で動いたら撃墜されるだけだ!! お前の死が士気にどれだけ影響するか考えろ!!」

「くっ、でもあいつらが!!」

 それでも抵抗するカガリ。先程、もう誰も死なせないと誓ったばかりの彼女にとって、この場に味方を残していくのはどうしても躊躇われた。

「あいつらもこちらの撤退を確認次第、後退する。第2部隊はオーブの中でも精鋭だ。簡単にやられたりはしない。寧ろ、俺達がこの場に留まり続ける程被害は大きくなる」

 そう説得し、強引に彼女の期待を引っ張っていくアムロ。無論、全機が無事という訳にはいかないだろう。確実に被害はでる。しかし、例え第2部隊の全滅と引き換えであってもここでカガリを死なせる訳には行かなかった。人の上に立つものの命と、そしてそれだけのものと引き換えの責任というのはそれ程に重いのである。

「くっ」

 決めたつもりの覚悟。その重みを改めてカガリは知る。そして、間違えたその判断でまた味方を死なせてしまった。

「・・・・・・わかった」

 カガリはうな垂れ、アムロの手を離れると自らの機体で撤退を開始する。そして、ある程度の位置で味方と合流するとアムロは再び戦場へと舞い戻った。





「操作は覚えた。後は実際に動かすだけ」

 マニュアルは大部分把握した。しかし、操作系を覚えた程度で自由に動かせるのならば苦労はない。この状態で行き成り実戦にでるのはかなりの賭けである。

「基本動作はそれほど難しくないか、けど・・・・」

 OSによって操作が簡略化されている事もあって、予め考えて動作する限りに置いては大半、問題はなかった。しかし、実践の中で全ての動作をいちいち考えて動かすものはいない。体で覚えた反射的な動作ができるかどうかはかなり怪しい。砲撃手に徹するならばそういった動きは最小ですむがその装備にも問題がある。

「ライトニングストライカーパック・・・・」

 ライトニングストライカーパックの装備。これはMSの兵器の中でもかなり繊細なものであり、慣れたものでも扱いが難しい。しかも、実験データも足りないのでOSの方も本体に比べれば未熟でマニュアル操作の部分が多かった。

「けど、これを使わないと」

 嫌な予感はますます強くなっている。そして、それに対処できる装備はこれだけだと自らの感は伝えていた。そして、その悪寒の源、途轍もなく強い悪意を内包した艦を見つけ出す。ユズハは緊張する手を抑え、その艦に向けて銃砲を構えた。





「なっ、まさか!?」

 戦艦から発射されたミサイル。それを見てアムロは驚愕する。それはあらゆる意味でここにありえないものだった。使える筈がなく、そして使えたとしてもまたもな思考形態では使うと思えないもの。人類が生み出した究極の破壊の力の一つ、核ミサイル。

「ユズハはこれを予感していたのか」

 今、いる位置、そして装備では迎撃できない。そして、その時、光の帯が戦場を貫いた。





「外れた!?」

 緊張の為か、不慣れの為か、ミサイルが発射されると同時に撃った撃墜の為の一撃は当たる事はなかった。即座に次弾を準備する。

「早く次を撃たないと!!」

 ミサイルのほぼ正面に照準を合わせ、引き金を引こうとする。しかし、そこで気づく。初撃ならばともかく、この位置で核ミサイルを爆発させれば味方を大量に巻き込んでしまう。

「・・・」

 唇をかみ締める。引き金を引くのを辞める事も外す事も、躊躇う事さえ許されない。何もしなければ数秒後にはミサイルは本土に到達し、民間人に大量の被害がでる。無論、数の上でも今爆発させるよりも多くの被害が。

「っつ!!」

 声に成らない悲鳴と共に引き金を引こうとしたその瞬間、唐突に頭の中に浮かんだイメージに従い、ユズハは僅かに照準をずらした。





 ライトニングM2アストレイから放たれた光の帯がミサイルを貫く。しかし、ミサイルは爆発しない。

「くそっ!!」

 アムロが悔しさを吐き捨てる。そして、成すすべもなく、ミサイルは本土に直撃する。しかし、爆発しなかった。






「おい、一体どういうことだ!!」

 爆発しないミサイルを見てアズラエルが叫ぶ。怒鳴りつけられた男は困惑しながら答えた。

「恐らくは不発という事かと・・・・」

「だったら、次をさっさと撃てよ!!」

 そして、2発目が発射される。しかしそのミサイルは再び撃ち貫かれた後、爆発せずに終わる。もはや単なる不発では済まされなかった。

「馬鹿な。NJCだけを破壊してるというのか・・・・」

 それを見て、兵士の一人が信じられないとでも言うかのように声を漏らす。その男の推測どおり、ユズハの射撃はNJCのある部分だけを正確に狙って撃っていた。NJCがなければ、核分裂を抑制するNJの効果によってミサイルは爆発しない。状況から導き出される答えにアズラエルが顔を青くした。

「奴等にこっちの情報が漏れてるってのいうのか!?」

 NJCだけを撃ちぬくにはそれを実行できる驚異的な技量を射撃主が持っている事は勿論であるが、その位置を正確に認識していなくてはならない。つまり、自分達が入手したNJCに関する知識をオーブも入手しているというのが最も可能性の高い答えだった。

「くっそおおおおおおお!!!!!!」

 アズラエルが吼える。連合は今回の戦闘に置いて、核ミサイルは全部で4発しか用意していない。その内2発が既に撃墜された。しかし、NJCをオーブが入手しているならば、相手も核ミサイルを生産してないとは考えられず、それが何発かはわからなかった。

「撤退ですな」

 艦長がそう進言する。切り札が破られ、逆に相手が同じ切り札を用意しているかもしれず、こちらは対抗手段を持たない。この状況では流石にアズラエルといえどこの意見を退ける事はできなかった。

 こうして、連合とオーブの3度目の戦闘は終結し、後日和平会談が設けられた。



[2025] ガンダムSEEDcross第2部48話
Name: 柿の種
Date: 2006/09/21 23:52
 連合と中立国同盟の戦争は終わった。しかし、オーブは新たな戦いに挑まなければならなかった。戦場は議事堂、相手は予算問題という厄介な相手である。

「これは、国の立て直しが大変だな」

「ええ、全くです」

 戦闘によって破壊された施設の修復、軍備の再編成、戦災被害者の援助。今年度の国家予算その総額支出が例年の2倍を超えるのは間違いなかった。その事実に首長以下、オーブの首脳陣達は頭を抱える。

「人的被害が少なかったのが幸いといえば幸いだが・・・・・」

「そうは言っても軍関係者には相応の被害がでた。和平を結んだとはいえ、安心できる状況とはとてもいえん。新たな兵も揃えなければならんし、戦死者の補償もしなくてはならん。人材を育てるのには時間も金もかかりすぎる」

「せめて、十分な賠償金さえ取れていればな・・・貿易黒字の増加を計算に入れても今年の予算は大幅な赤字になりそうだな。国債も考慮に入れねばならんか」

 連合との和平は連合側が賠償金を支払うという形で成立したが、その額は中立国同盟側の請求した2割弱であった。交渉に当たり、まず最初に大目の額を要求するのは基本であり、ある程度の値切りは計算の範囲内である。しかし、これでは期待した額の3分の1にも満たなかった。
こうまで値切られてしまった理由は、前回の戦闘の最後、連合が核兵器を用いてきた事に原因がある。
連合は自らが市街地に向かって核兵器を向けた事を完全に棚に上げ、逆に脅迫の姿勢を見せてきたのだ。すなわち、この条件を飲まなければ、次はより多くの核を向けるのも辞さないと。そして、その事実に中立国達は恐怖した。今の連合の狂気は誰もが知る所であり、民意もそれに犯されつつあるのだ。もともと連合国の参加国はZAFTのNJCによって深刻な被害を受けた国が多い。その為、ZAFTやそれに味方する国家のみならず、中立国すら敵視する過激派すら必ずしも少数でなく、世論が敵対しないのである。
結局、中立国側が折れる形になり、賠償金を値切られた上、その支払いをザフトとの戦争が終結した後分割で支払うという条件までつけられてしまったのである。

「全ての問題を同時に解決するのはどう考えても不可能です。まずは、優先順位を決めなくては」

「ならばやはり軍事面を優先すべきだろう。今の、連合なら和平を結んでおきながら、態勢しだいで再び攻撃を仕掛けてくるような厚顔無恥な行いもやりかねん。それにZAFTも連合との戦いであれだけの力を見せた我が国を狙ってこないとは言いかねまい」

 コトー・サハクがそう首長する。それに対し、当然の如く反対意見が起きた。

「しかし、それでは国民に対する援助が十分にできないではありませんか。我が国の戦争は終結したのです。ここは国民の生活を優先すべきでは!?」

「それで、国が焼かれては意味があるまい。補償は賠償金が入るようになってから行なえばいいだろう。連合とZAFTとの交戦もどちらが勝つにしてもこれ以上の長期化はあるまい」

「だが、短期とはいえ、国民に苦しい生活を強いる事になる。我が国の戦争は終わったのだ。にもかかわらず、我慢を続けさせれば、国民の不満を貯める事になるぞ」

 意見が割れ議論は白熱する。本来なら鶴の一声にもなるウズミは特に意見を発さず、次点の発言力を持ったダイキ、ホムラも中立の姿勢を取ったため、なかなか結論はでなかった。しかし、この討論は意外な、そして最悪に近い形で決着を迎える事になる。





「ふう……」

 クルーゼが自室で一人酒を飲む。彼は特別飲酒を好むという訳ではないが、今日は特に飲みたい気分だと強い酒を多めにグラスに注いで傾ける。

「死んだか。ムゥ・ラ・フラガ。飼い殺されて鷹は最後は羽が落ちたようだな……」

 呟く彼の言葉と仮面に隠された顔はどこか寂しそうだった。そして、再びグラスを傾けると。気分を切り替えたように彼の表情から寂寥が消え去り、同時に深刻さが浮かぶ。

「まあ、あの男の事などもはやどうでもいい。それよりもまさか連合が負けるとはな」

 侮蔑するように、同時に焦るようにクルーゼは言葉を漏らした。
 連合にNJCの情報を漏らしたのは彼の手によるものであった。中立国同盟が出来て以来、負けが混んでいる連合に対し、パワーバランスを取る為に予定よりも早くNJCの情報を漏らしたはいいが、それにも関わらず敗北し、ついには中立国同盟と和平。結局は戦力の浪費と切り札の存在をザフトに知られるだけとなってしまっていった。

「このままではザフトの一人勝ちか・・・・」

 今の連合の戦力でジェネシスを有したザフトの方が圧倒的に有利である。上手く連合が暴走してくれたとしても、最終的に相打ち、彼の望む人類滅亡という結果に持ち込むのは難しいだろう。

「これも奴等の所為か」

 忌々しそうに言って笑う。中立国同盟、全てはその存在から狂った。しかし、今更、その存在を否定した所で何も始まらない。だから彼はその状況を逆に利用する事にする

「こうなったら、彼等にも動いてもらう事にしよう」

 そう言ってクルーゼは怪しい笑みを浮かべた。そして情報屋の一人と連絡をつけ、ある情報を流した。





「戦争が終わったんですか!?」

 キラがオーブに帰還し第13部隊のメンバーが久々に集まる。そこでアムロから隊員達に連合との和平が成立した事が伝えられる。
 それを聞いたキラが驚きの言葉を上げる。そして、表情が変わる。しかし、それは歓喜を呼び起こすものではなかった。

「もう少し早く終わっていれば、あの人達は・・・・・・・」

 彼の頭に思い浮かぶのは赤道連合での戦いで犠牲になった兵士達の顔。戦争が終わっていれば彼等は死なずにすんだそんな想いが彼の中に渦巻く。そんな彼の肩をアムロが叩く。

「赤道連合での被害の事は俺も伝え聞いている。だが、あの戦闘があればこそこの戦争は終結できたんだ。正直、こういう言い方は好きじゃないが、彼等の死は無駄じゃなかった」

 赤道連合にて連合の基地を破壊できた事も、この戦争を勝利で終われた要因の一つである事は間違いなかった。

「彼等と、そしてお前達が戦争を終わらせたんだ」

 最後の言葉はキラだけでなく、ユズハやカガリに対しても向けた言葉だった。フラガやジャンの事で彼女達もまた傷を抱え苦しんでいた。それは、最終的には自分自身の力で立ち直るしか無い事だ。だから、アムロはせめてその重みを軽くする為の言葉を言ったのだ。

「・・・・・・・はい」

 アムロの言葉にキラが頷く。それを見てアムロは頷くと別の指示をだす。

「今日はこれで解散だ。ゆっくり休んでおけ。これからの事もよく考えておくといい」

「これからの事?」

 言葉に疑問を持ったユズハが尋ねる。それを受けてアムロが答えた。

「軍に残るか否かだ。戦争は終わったんだ。もう、これ以上お前達が軍に残る必要もないだろう」

 その言葉にカガリを除く二人ははっとさせられる。元々軍に所属を持っていた彼女と違い、ユズハとキラはあくまで戦争が起こってから国を守る為にオーブ軍に入ったのである。連合とZAFTの戦争は続いている以上、まだまだ安心できる状況にはないが、それでも直接的な戦争が終わった以上軍に留まり続ける積極的な理由は二人にはなかった。
 
「直ぐに決める必要はないが、よく考えておくんだ」

 軍は二人を手放したがらないだろうが、アムロとダイキの権力、加えてユズハ自身の立場やキラの軍人として以外の適正・能力を加味すれば、除隊申請の許可を得る事はそう難しい事ではない。しかし、それはあくまで二人にその意思があればの話だった。二人が軍に残ろうとすれば、軍は何としてもひきとめようとし、二人の脱隊は難しくなる。

「俺としては軍に残るのはあまり勧めないがな」

 前回の反省も含め、強制はしない。それでも出来れば二人には別の道を選んで欲しい。そう考えてアムロは自分の考えを伝える。
 いまだ迷いが消えない事もあってその言葉を真剣に受け止める二人。

 しかし、彼女達がどのような決断を下すにしろ、それは延期される事になるのだった。


(後書き)
 少し短いですが、今回はキリがいいのでここで終わります。



[2025] ガンダムSEEDcross第2部49話
Name: 柿の種
Date: 2006/09/18 21:25
「それ、本当なの?」

「ええ、クサナギ准将がユズハさんとキラ君に退役を進めたそうよ」

「そう。無理も無いかもね。私だって自分の立場なら子供が戦場で戦う事をよく思ったりしないわ。まして、あの二人は正直言って色々と規格外だしね」

 同僚の言葉に同情を示すようにエリカが答える。彼女も1児の母である。親として子供を案じる気持ちはよくわかる。非常時、そして彼女等の力が必要だったとはいえ、娘とその友人とを部下として扱い戦わせる事は苦渋の決断だったろうし、戦争が終わったのなら直ぐにでも軍から離したいという気持ちは理解できた。何せ軍からすれば二人はあまりに魅力的な力の持ち主である。例えユズハが副代表の孫であったとしても手放したくないというのが本音だろう。タイミングを逃せばこのままずるずると行かせられてしまう恐れがある事を理解しているからこそ、アムロは早めに手をうったのだろうと推測した。

「けど、そうなるとこの機体、無駄になっちゃうわねえ」

 開発中の新型。量産型のM2アストレイと同時進行で開発がなされていた特機。新兵器のデータ取りも含め開発されたテストタイプの機体を見上げ、エリカは溜息をつく。親としては共感を持っていたが、技術者としては想いは軍と同じだった。二人、特にキラを何とか手元において置きたいと彼女は思う。キラはソフト系の技術者としても、Gやアストレイタイプのテストパイロットとしても優秀であるし、この機体もキラの能力についていけなくなりつつあったストライクに変わる彼の乗機として開発されていたものだった。

「軍から退役した彼を改めてモルゲンレーテにスカウトできないかしら?」

「そうね。いいかもしれないわ。上層部に持ちかけてみましょうよ」

 そう同僚に持ちかける。言われた同僚の方も乗り気になって、その場にいた何名かも同意した。そして、そこで再び新型の事が話題にあがる。

「こいつをお蔵入りにするのはやっぱ惜しいしな。うちでこいつの性能をフルに発揮できるのってそのキラって奴しかいないんだろ?」

「ええ、ギナ様や彼の部隊の人、あるいはクサナギ准将位なら乗りこなせるようになるかもしれないけど、100%の性能を引き出せるのは彼だけでしょうね」

 同僚の質問にエリカが答える。その新型、開発ナンバー、MBF-X301“ブレイブ”。クロスタイプの研究チームとアストレイタイプの研究チームが合同で開発した初の機体であり、オーブを守る勇者になるようにとの想いが込められ、数々の新技術を搭載された機体であった。
ビーム兵器を弾くのではなく、反射する新素材“ヤタノカガミ”を盾の装甲に採用し、従来の対艦刀と同等の出力を保持しながら、片手持ちで扱えるよう、軽量・小型化した新型対艦刀“クサナギノツルギ”、そしてネオクロスガンダム同様、ミノフスキー式核融合炉とミノフスキー粒子を利用した大型荷電粒子砲、“ヤサカノマガタマ”とを搭載しており、オーブの基となった国、「日本」に伝わる三種の神器の名を持った新装備をした、総合的にはネオクロスガンダムに比肩する性能を持った新型機である。ただ、新型兵器を多く搭載しすぎた為、その調整に予想以上に手間取り、結局連合との終戦に間に合わなくなってしまった訳だが。

「戦争は終わって予算も削られるかもしれないけど、いざと言う時の為、これは完成させておかないとね」

 半分本音、半分は技術者として自らの製作物を途中で放り投げたくないという気持ちからエリカがそう呟く。その気持ちはその場にいた技術者全員が同じであり、内心の部分も含めて頷くのだった。





「んっ、なんだこりゃ?」

 その頃オーブの情報部は、彼等当てに送られてきた不審なデータに困惑していた。それは間違いなく、オーブ軍が使用されている暗号コードが施されている。問題なのは匿名な上巧妙に操作して発信先がわからなくしてある事だった。
オーブ軍しか知らない筈の暗号をかけられたデータがオーブ軍以外から送られてくる筈もない。何せそれは中立国同盟間で使用されているコードですらないのである。しかし、それならば匿名である事はおかしい。名義を明かすかそれにも暗号コードをかければよいのである。

「どうしますか?」

 受け取った軍人は判断に迷い上官に指示を仰ぐ。

「そうだな」

 指示を仰がれた上官の方も迷う。もし、こちらの暗号を解析した他国によるウィルス等による攻撃だとしたら、下手に暗号を解除するのはまずい。しかし、重要情報の可能性もあるので下手に破棄する訳にもいかない。
 また、悪戯や攻撃ならそれはそれで軍の秘密コードがばれているという事で早急に対策を討つ必要があった。

「暗号解析を行え。ただし、一時的に付属機器との接続やネットワークを全て遮断した状態でな」

 それらの必要性から迷った末に最悪の場合でも被害を最小限に抑えられる状態にして解読を命じる。その結果、解凍は問題なく終了する。その後でウィルスチェックや機器に異常は見られないかを確認するが特に反応は見られない。

「それじゃあ、開いてみるか」

 時限式の新型ウィルスや他のトラップの可能性もあるので接続を外したままファイルを開く。そして、そのデータ内容を見た者達は驚愕した。

「これは……」

 呆然とするその内容、内部にも記名はなく、やはり味方より送られたものとは考えづらいがその内容に比べれば些細な事であった。
 データを閲覧した将校はすぐさまそれを最重要機密扱いにし、部下にも機密厳守を命ずる。そのデータは将校の更に上官、軍のトップと政府に報告された。
 
そこに記されていたデータ。それは先の戦闘で連合が使用してきた兵器核兵器を開放する「NJC」とそしてそれをも上回る悪魔の兵器「ジェネシス」その詳細データだったのである。





「馬鹿な!! 一体、どの国がこんな兵器を!!」

「ZAFTに決まっているだろう!! 如何に今の連合が暴走状態に近いとはいえ、こんなものは地球に住むものが作るものではない!!」

 ジェネシスの情報が伝わり、オーブ政府はすぐさま緊急会議が開いた。会議は白熱し、それ以上に混乱していた。やっと戦争が終わって一息ついたかと思った所に重大な危険性が伝えられたのである。それは無理もない事であった。

「何かの間違いや悪戯ではないのか?」

 氏族の一人が希望を込めてそう尋ねるがすぐさま否定される。

「そんな事がある訳なかろう!! 我が国の技術部に解析させた所、送られてきたデータ通りに作れば間違いなく兵器として機能するという結果がでたと書いてあるだろう!! しかも、地球の生物の半数が死滅するというふざけた予測結果付きでな」

「ブルー・コスモスの連中はコーディネーターを宇宙人等と蔑視していたが、宇宙に住む者達に限っていえば、あながち間違いとも言えないのかもしれんな」

 差別意識を持たず、穏健派の代表格であるダイキまでも痛烈な言葉を漏らす。それほどにこの兵器は地球そのものを軽視したものだった。

「問題はそれを知り、我が国がどういった態度を示すかだが」

 そして、そこでウズミが口を開く。オーブの理念からいえば、ここでZAFTに干渉する事はその理念に反している。また、専守防衛を基本とする中立国同盟の理念からもだ。
とはいえ、万が一ジェネシスが地球に向けられるような事があればそうとばかりも言っていられない。そして、それから動いていては間に合わない。
更に、問題を複雑にする点がもう一つあった。

「そもそも、これをZAFTが本当に建造しようとしているのかその証拠がない」

 その問題について一人が主張する。状況的に怪しいのは確かにZAFTだ。技術力、資本力、支配地域、それら全てを総合し、現状でこれを作れるのはZAFTか、後は精精ジャンク屋ギルド位しかいない。しかし、ジャンク屋ギルドにこのようなものを作る理由はなく、やはり圧倒的に怪しいのはZAFTだ。しかし、証拠はない。仮にZAFTが設計したものだとしても、こちらの手元にある情報はその設計図のみであり、実際にはそれを建造していない可能性もある。建造していたとしても、それをどのように使うのかという問題もある。抑止力として使用するなら、あるいは月基地等のみを目標として使うつもりならば、ここでオーブが干渉するのは侵略、または内政干渉に当たる行為となってしまうのである。結局の所戦争を仕掛けるのはおろか、会談を行うにすら足らない情報しか手元にないのだ。

「そんな悠長な事を言っていられる場合か!!」

 とはいえ、ものがものだけに楽観的な姿勢はとれない。慎重派と過激派が対立し、そして話し合いの結果、まずは事実確認。その為に、アメノミハシラに大規模な軍事移動を行い、そこでいざという時の防衛線の備えと調査を行う事が決まる。その事に本国の防御が薄くなる事、ZAFTに警戒心・敵対心を抱かせてしまう事を危惧する声もあったが、最終的にはその方針が通る事になったのだった。


(後書き)
仮名のつもりだった中立国同盟をここまで引っ張ってきてしまいましたが、何かもっといい名前はないでしょうか? 正式名称を募集します。いいアイディアがある人が居ればどうぞよろしくお願いします。



[2025] 現状態勢力図(49話時点)
Name: 柿の種◆eec182ce
Date: 2010/05/15 06:31
筋道を分けすぎた事とオリキャラ・ASTRAYキャラを出しすぎて状況が複雑になってきたので現状態を提示しておくことにしました。(正直、私自身ですら混乱していたりしますので(汗))なお、これらはパイロットと機体に限定してあります。それ以外についてはまた後日の予定で。

*????はまだ登場していないキャラ・機体です。オリキャラか原作キャラは秘密

<オーブ>
(生存者)
ユズハ[ネオクロスガンダム]
アムロ[νガンダム]
キラ[機体無し]
カガリ[アカツキ]
ギナ[機体無し]
ミナ[ミナ専用天(ベースはロングダガー)]
バリー[M1アストレイ]
ミラ[M1アストレイ]
皐月[M2クロス]
カイ[M1クロス]
ロクト[M2アストレイ]
アサギ[M1アストレイ]
ジュリ[M1アストレイ]
マユラ[M1アストレイ]

(死亡者)
ジャン
ファイブ・ソキウス
サーティン・ソキウス
スリー・ソキウス
ボビー

<連合>
(生存者)
フレイ[レッドストライクダガー(PS装甲装備)]
ナタル[ドミニオン]
ジェーン[ディープフォビドゥン]
モーガン[105ダガー(ガンパレル他)]
レナ[バスターダガー他]
エドワード[ソードカラミティ]
????

(現状態不明)
アークエンジェル組(機体はユーラシア連合に譲渡)

(死亡者)
フラガ
オルガ
シャニ
クロト

<ZAFT>
(生存者)
クルーゼ[ゲイツ]
イザーク[ヘヴン]
ニコル[フリーダム]
ディアッカ[バスター]
シホ[デュエル]
シャナ[????]
????
(死亡者)
ミゲル

<クライン派>
(生存者)
アスラン[ジャスティス]
カイト[複数機体所有]
バルドフェイド[ゲイツ]

<ジャンク屋>
(生存者)
ロウ[レッドフレーム]

<傭兵>
(生存者)
劾[ブルーフレームセカンド]
イライジャ[イライジャ専用ジン]

*書いてないけど実は第3回のオーブVS連合戦ではジェーンを中心とする連合のフォビドゥン部隊VS皐月を含んだ第9・11MS部隊(M2クロス部隊)なんてのがありました。んで、何で書いてなかったというと・・・書き忘れました(汗)ちなみに結果はというと最初奇襲を仕掛けたオーブの方が優勢でしたが、その後エースであるジェーンを中心とした激しい反撃を受け、結果は痛み分け(ややオーブの方が被害が多い)と言ったところです。ちなみに劾とエドも引き分けに終わりました。

*48話のクルーゼの独白にも結構重要?な場面を抜かしてしまっていたので加筆しました。色々と拙い事で申し訳ありません。



[2025] ガンダムSEEDcrossASTRAY
Name: 柿の種
Date: 2006/10/01 16:18
*この番外の時間軸はオーブと連合の2回目の戦いが終わったあたりからキラが赤道連合へ行ったあたりまでの時間軸になります。


「お前、その機体――――ガンダムだな?」

「ガンダム?」

 目の前に立ち塞がった機体。そのパイロットに対しロウが問い返す。オーブの新型がそのような名前だったような、そんな事を考えているとパイロットは更に質問をしてくる。銃口を向けた状態で。

「ならば、知っているかガンダムに乗るコーディネーター、アスラン・ザラを」

「アスラン?」

 その名前には完全に聞き覚えがなかった。反応が無いロウを見て銃口が下げられる。

「ジャンク屋如きがザフトの赤服を知っている訳もないか。邪魔したな、ジャンク屋!」

 そう言って立ち去るかと思われた機体は突然反転し、攻撃をしかけた。

「そうそう、この機体を見られたからには――――このままという訳にはいかんな」

「うわあ!!」

 銃弾が降り注ぐ。とっさにガーベラストレートで受け止めるが、連続するビーム弾丸に刃が折れる。

「ガンダムは俺の『ハイペリオン』一機だけあればいい」

 そうして立ち去る機体“ハイペリオン”。後にはボロボロになったレッドフレームだけが残されていた。





「ロウ!!」

「すまん、心配させちまったな」

 リ・ホームに回収され、半壊した機体からロウが這い出してくる。額からは血を流し、疲労したような表情をして床に座り込んだ。そしてそのまま心配して駆け寄ってきたキサトに向かって安心させるように手を振る。

「これは酷くやられましたね」

「ああ。ガーベラ・ストレートも折れちまった。けど、こいつがなけりゃあ、間違いなく死んでたな」

 リーアムの言葉に立ち下がり、折れたガーベラ・ストレートに手で触れる。そして小声で呟いた。

「今までありがとよ。お前には何度も救われたぜ」

 愛おしいものにでも触れるように剣をなでる。剣というのは折れてしまえば直せない。溶かして作り直す事はできるが、折れた部分だけくっつけても重心は滅茶苦茶になるし、再び折れやすくなる。つまり、道具を生き物のように捕らえる彼からしてみれば、ガーベラ・ストレートは彼を守って”死んだ“と言えた。

「レッドフレームの方も、大幅な修理が必要ね」

 ロウの横でレッドフレームに視線をやっていたプロフェッサーが口を開く。その言葉にロウが顔をあげ、神妙さに少しの興奮が混じった表情で答えた。

「ああ。せっかくだからこの前、手に入れた金属を使って大幅に改修してみようかと思うんだ」

 ロウが振り向いて答える。彼らはつい先日、海底で硬度の割りに軽いレアメタルを手に入れていた。実はこの金属はZAFTが開発した新素材だったのだが、早速それを使っての改修プランが既に彼の頭の中では走り始めていた。

「新しいガーベラ・ストレートもこいつでつくるか」

 折れたガーベラ・ストレートの代わりとなる2代目。その材料もレアメタルと決める。そして実際にそれをつくる為に、以前、ガーベラ・ストレートを作ったグレイブ・ヤードに彼らは船を向けた。





「アスラン・ザラは見つかったのか?」

「いや」

「まったく役立たずが。一刻も早く奴の乗る機体を手に入れんか!!」

 ロウを撃ったパイロット、カナード・パルスに対し不平を述べる男、それはアルテミスの傘の責任者を務める連合のガルシア少将だった。カナードはユーラシア連邦に拾われたスーパーコーディネーター、“キラ・ヒビキ”が生み出される過程で産み出され、失敗作の烙印を押された男だった。
 彼の役目はアスラン・ザラの乗る機体“ジャスティス”を捕獲する事である。クライン親子がパトリック・ザラの息子を仲間に引き込み、最新鋭のMSと戦艦を奪ってプラントを逃走したというのは隠しても隠し切れない事態であり、高性能なMSの開発を計画するユーラシア連邦にとって大規模な組織に所属しないその機体は取りやすい大物として映っていたのである。

「わかっている!! お前に言われなくとも奴は俺の手でしとめて見せる」

 失敗作と呼ばれたカナードは成功作と呼ばれたキラ・ヤマトに勝つ事で自らの価値を証明しようとしていた。しかし、キラはMIAに認定された。その事を知った時のショックを彼は今でも覚えている。目標を失ってしまったショック、そして自らが目標としていた存在、“スーパーコーディネーターという偶像”がその程度の、自分以外に撃たれる程度のものだったというショック。それは一時、彼を完全に無気力にした。しかし、キラを落とした男の名を聞いた時、彼の中に新たなる目標が生まれた。

(キラ・ヤマトを倒したというアスラン・ザラ、まずは奴を倒す。そして次は他のエースだ。連合もZAFTもオーブも関係ない。全て倒し、俺の最強を証明してみせる)

「では次の作戦行動だが」

「情報だけよこせばいい!! どう動けばいいかは俺自身で決める」

 カナードはそう言ってガルシアの言葉をさえぎり、彼の手から情報パネルをガルシアから奪い取って部屋を出る。

「まったく、コーディネーターという奴は」

 その背中を見送り溜息をつくガルシア。しかし、その表情に不適な笑みを浮かべて言った。

「まあいい。利用価値がある間は自由にさせておいてやるさ」





「爺さん、あんたに教えてもらった事は忘れないぜ」

 ブレイブ・ヤードの最後の住人、その老人はロウと共に“2本”の剣を完成させた事で満足したかのように力尽き、息を引き取った。その墓を作り、ブレイブ・ヤードをでる。

「さてと、後はレッドフレームの改修だな」

 新しいガーベラ・ストレートを手に入れ、次はレッドフレームの改修に取り掛かろうとする。しかし、そこで待ったがかかった。

「残念だけど、その前に仕事よ。レッドフレームが壊れる前に引き受けた依頼、期日が迫ってるから」

「えー、レッドフレームがないのにー!? 何かあったらどうするのよー!!」

 プロフェッサーの言葉にキサトが不安そうな声をあげる。彼らは最近、トラブルに巻き込まれる事が多いのでただでさえ心配性の彼女は手元に戦力が無い事を不安に思う。

「大丈夫ですよ。オーブでもらったM1アストレイと作業用のジンがありますから」

 そこでリーアムが安心させるように言う。イージスと交換に手に入れたM1アストレイ、他にいくつかのパーツももらった事もあって、彼らのもとに新品状態で残っていた。

「あっ、そっか」

 その言葉にほっとするキサト。安心した所で依頼主の所に向かう彼らだったが、その道中でロウが疑問を挟む。

「そういや仕事っていうのは何なんだ?」

「さあ? 重要な仕事って事しか聞いてないわ。場所はギルドの船、マルキオ導師の代理人が乗っているらしいわ」

「へえ、マルキオ導師のねえ」

「諸君、緊急通信だ!!」

 その時だった。ファースト・コーディネーター、ジョージ・グレンの立体映像が現れる。彼は大脳だけで生きており、リ・ホームのコンピュータと直結している存在だった。そして、彼は緊急事態を告げる。

「仕事で接触する予定だったギルドの船が何者かに襲われている!!」

「今、話していた船か!?」

 それを聞いて急いで移動するリ・ホーム。そして彼らが目にしたのは動力部と護衛のMSだけが破壊されたギルドの船の姿だった。ロウとリーアムはMSに乗り、船の中に入る。そして、彼はそこで首の無い新型のMSを発見するのだった。


(後書き)
番外です。本編はどうしたと言われそうですが、ユーラシアを中心に今後の展開に関わってきますので、ご容赦ください。原作と同じ部分はさらっと、ただしASTRAYを知らない人にもわかってもらえるよう書いていきたいと思います。



[2025] ガンダムSEEDcrossASTRAY2話
Name: 柿の種
Date: 2006/10/01 00:12
「なんてこった。まさか劾がな」

 ロウが驚いたというような声を出す。
 新型のMSの傍に倒れていた少年。彼から話しを聞く事で、ギルドの船を襲ったがサーペントテールであることと、新型のMS、ドレッドノートの頭を奪い去ったのが彼らであること。そして少年、プレア・レヴェリーがマルキお導師の代理人である事を知ったロウ達は破壊された船の修理もかねて、一旦B15ステーションに立ち寄っていた。

「さてと、問題はだ。マルキオのおっさんの仕事、そいつを続けるかだな」

「あの奪われたパーツはとても大事なものです。なんとしてでも取り返したいのです」

 そして、ステーションに船の乗組員を降ろしたロウは改めてプレアに問う。この仕事を続けるのかどうか。それに対し、彼は肯定の答えを返した。

「俺たちもあのMSをちゃんとマルキオ導師に届けるのが仕事だった訳だし」

 プレアの答えを聞いてロウは頭をかく。彼らもプロである。引き受けた仕事を途中で放り出す訳にはいかない。しかし、サーペントテールがパーツを奪ったとすれば、それは用意ならざる相手である。

「劾だって話せばわかる筈だ 探し出して会ってみるか」

 ロウが考えを口にする。そこでリーアムが意見を口にした。

「では、その前にレッドフレームの改修をすませておきませんか? ギルドを通してサーペントテールに連絡を取っていますがまだ応答はありませんし、この仕事を続けるのなら最悪の場合も考えておかなくてはなりませんしね」

 リーアムの言うことはつまり劾と戦闘するという事だ。いままでにもロウと劾は互いの立場から何度も交戦している。その結果はいずれもロウの負けだったが。

「ああ、そうだな。いつまでもあいつをボロにしとわく訳にもいかねえし。っと、その前に聞いておくか。プレア、ドレッドノートの頭には何が隠されているんだ?」

 MSの頭だけを盗むなど普通は考えられない。そこには何か理由が隠されている筈である。その問いかけにプレアは深刻な顔つきになって答えた。

「…はい、みなさんならドレッドノートのシステムを見てもらえば分かる筈です。必ず見つけて取り戻さなくてはいけません」





「プレア!! 何なんだ、これは!?」

 言われた通り、ドレッドノートを調べてみたロウが叫ぶ。ドレッドノートにはZAFTによるニュートロンジャマー散布以降姿を消した核分裂エンジンが搭載されていたのだ。

「ドレッドノートの頭部にはNJC、ニュートロンジャマーを無力化する装置が積まれているんです」

「NJC……それがあれば地球のエネルギー問題は一気に解決しますね」

「けど、ひとつ間違えれば核ミサイルが復活して地球は今以上の混乱状態になるぜ」

「そんな!! 大変じゃない」

「サーペントテールがドレッドノートの頭部を奪ったのにもその辺に理由があるのかもしれませんね」

 NJCの事を知って話し合うロウ達。プレアが深刻な表情を浮かべる。ただ、その表情は深刻なだけでなく、衰弱が浮かんでいた。

「はい、とても大変なものです。だから、一刻も早く取り戻さないと・・・」

 そこまで言ってふらついたように倒れる彼をロウが支える。彼から感じる希薄な生命力とでも言うべきものにロウは違和感を覚えた。

「すいません…僕には時間ないんです」

「時間、どういうことだ?」

「いえ、なんでもありません……。それより、この事実を知っても仕事は続けてもらえるでしょうか?」

 プレアは体を起こし、詳細を知ったロウ達に改めて確認をする。何せ事は場合によっては世界の命運に関わる仕事である。怖気づいてもおかしくない。しかし、彼らに途中で仕事を投げ出すつもりなど無く、返ってきたのは肯定の意思である。

「ああ、勿論だ。とは言っても、劾達と連絡がつくまでは何もできないしな。その前にこっちの改修を済ませちまうか」

 そう言ってレッドフレームに目をやった。まとめておいた強化プランにを加えて、ZAFTの新型であるドレッドノートを見た事によって沸いたアイディアと意欲を加えた改修案が彼の頭の中ではできあがりつつある。

「けど、材料はどうします。M1のパーツを流用すれば足りますが、作業の途中でサーペントテールと連絡がついたら困る事になりますよ」

 交渉が上手くいけばいいが、場合によっては力づくでパーツを奪い返す事になる可能性がある。そうである以上、手元にMSが無いのは問題であった。しかしリーアムの懸念に対し、ロウは軽く返す。

「そうだな。まっ、けど、なんとかなるだろう。どっちみち、M1じゃ劾に勝ち目なんかないだろうしな」

 ロウと劾は過去に何度か対決した事があるが、ロウが勝った事は一度も無い。ましてや、愛機が手元に無い状態では勝負にすらならないだろう。そう言って割り切って、っというか彼の性分的な気楽さでもって答える。そして、先ほどふらついたプレアを部屋で休ませ、レッドフレームをステーション内の施設に運び込み、その改修を開始した。





「こんな所で時間切れだと!!」

 カナードが怒りを放つ。アスラン達を捜索していた彼はその途中で遭遇した劾達と交戦状態に入り、全方位にバリア、アルミューレ・リュミエールを展開し、彼らを追い詰めるものの彼らの撤退とエネルギー切れが重なり、結局逃がしてしまったのである。

『カナード特務兵!! 応答願います』

「何だ!!」

 そこで通信が入る。気がたっていた事もあり、荒い声で答えるカナード。しかし、通信を入れた女性は気にした様子も見せず連絡を続けた。
 
『緊急事態です。ただちに現状任務を停止し、101A2・3ポイントにてオルテュギアと合流してください』

「こちらはアスラン・ザラのガンダムを捜索中だぞ」

『司令の最優先命令です。こちらもガンダムに関する事項です』

「ちっ、了解だ!!オルテュギアへ向かう」

 自分の目的を阻害された事に苛立ちつつ、仕方なく承諾するカナード。そして、指定されたポイントへ移動する。そして、そこで核エンジンを搭載したMS、つまりドレッドノートを奪えという任務を受けるのだった。





「あー、連絡が入っちまったか」

 レッドフレームの改修中にギルドを通し、サーペントテールからの連絡が入る。ポイントを指定し、接触を希望してきたのだ。

「しゃあない。まっ、とりあえずは話し合いだ。続きは後でいいだろ」

 レッドフレームの改修状況は現在50%程度であるが、ここからの先の作業はリ・ホーム内でも可能である。作業を中断し、ステーションの施設を後にし、約束のポイントへと彼らは向かうのだった。



[2025] ガンダムSEEDcrossASTRAY3話
Name: 柿の種
Date: 2006/10/08 00:41
「っと、言う訳で任務について今は何もお話できません」

「なんだよ。じゃあ、何の為に来たんだよ」

 サーペントテールの使いとしてきたのは、メンバーの最年少……っと、いうか正式メンバーという訳ではなく、正式メンバーのロレッタ・アジャーの娘である6歳の風花・アジャーだった。既に知己であるロウ達はそれほど気にしなかったが初対面であったプレアは子供が来た事に驚く。
 しかし、彼女の話を聞いた後ではそんな事など気にしていられなくなった。何せ、NJCを返せないというどころか何も話せないというのだから。

「ごめんなさい、今は―――――でも……時が来れば……」

 追及に対し、彼女はそう口をつむいだ。結局、それ以上の追及は避けられ、とりあえず状況が変化するまでの間、風花はリ・ホームに滞在する事が決まった。






「これは、レッドフレームですか?」

 する事が無くなってしまった為、レッドフレームの改修を再開する事になったロウ達についてきた風花はその姿を見て驚いたようだった。

「ああ、この前変な奴に襲われて壊れちまってな。せっかくだから改修する事にしたんだ」

 そう言って完成予想図のデータを見せる。彼女はそれを気に入ったようだった。

「かっこいいですね」

「それだけじゃねえぜ。こいつには新しい秘密兵器があるんだ」
 
 子供がおもちゃを誰かに自慢したいかのようにロウはその秘密兵器を話して聞かせる。その話を関心そうに聞く風花。そして話し終えた後、ロウは再び改修に取り掛かった。そして、その後しばらく作業を進めた時だった。リーアムが作業室に飛び込んできて声を上げる。

「大変です。この艦にむかってか武装していると思われる集団、識別信号からしてザフトが近づいて来ています」

「ザフトが?」

 通常、正規軍がジャンク屋と直接接触を持つ事などほとんどない。嫌が応にも警戒が高まる状況だった。

「念の為、防戦の準備をしておいた方がいいでしょう」

「って、言ってもな。レッドフレームの改修はまだ終わってないし、M1はばらしちまったからな。使えるMSはドレッドノートとジンだけか」

 ドレッドノートは奪われた頭部パーツの代わりにシグーの頭をつけてバッテリー式で動くようにしてあるが、ジンは作業用で武装は僅かしか備えていない。

「いざって時は、俺がドレッドノートで出るしかないか」

「いえ、その時は僕が乗ります。この機体は僕でないと真の力がひきだせないのです」

 ロウの言葉にプレアがそう反論する。その真剣な目つきを見てロウはプレアに任せる事にした。

「わかった。その時は頼むぜ。まっ、まだ戦いになるとは限らないしな」

 そして楽観的な意見を述べた。しかし、その希望は適わず接近してきたザフトは警告すらせずに攻撃を仕掛けてきたのである。






 4機のジン・ハイマニューバと隊長であるミハイル・コースト、通称「ドクター」の乗る高機動ジンがリ・ホームを取り囲む。
 それを迎撃する為に出撃したプレアの乗るドレッドノートを見た隊員の一人が叫ぶ。
 
「あの機体、頭部が違うがドレッドノートだ!! ジャンク屋め、やはり機体は奴等の手にあったのか!!」

「機体はなるべく無傷で回収する。コックピットだけを狙え!!」

 ミハイルが部下に指示を出し、その指示に答え2機のジンがプレアに向かって接近する。

「いきます!!」

 それに対し、プレアはビームライフルを放ち一機を狙う。しかしあっさりと回避され、もう一機が反撃のマシンガンを撃ってくる。

「うわっ」

 何とか盾で防ぐが、その間に回避した方の機体が重斬刀を持って、コックピットに向かって飛び込んでくる。

「うわあああ!!!」

 それに対し、慌ててPS装甲を起動させるプレア。近接したジンが重斬刀を振り下ろすよりもほんの少し早く装甲が展開され、刃を防ぐ。しかし、その衝撃でドレッドノートもまた弾きとばされた。






「まずいですね」

「ああ、あいつらかなりの腕だ」
 
 艦内から戦いを見守るロウ達。プレアの腕は悪くなかったが、相手の実力は明らかにそれを上回っていた。今はPS装甲の防御力で何とかしのいでいるものの、バッテリーが後付けのドレッドノートはエネルギー量が少ない。そして、PS装甲が解除されてしまえば結果は火を見るよりも明らかである。

「私がジンででます。時間を稼ぎますからその間にロウはレッドフレームを動ける状態にしてください」

「わかった」
 
 レッドフレームの改修はまだ不完全だが、少しの調整でとりあえず戦える所までは来ていた。無論、テストも無しの稼動は危険ではあるのだが、そんな事を言っていられる場合ではない。リーアムが出撃し、その間に急ピッチで作業を進める。
 しかし、そこで更なる敵が戦場に現れるのだった。






「ザフトが襲うジャンク屋の艦か、どうやらここに核搭載のMSがあるらしいな」

 戦場に現れた第3の勢力、それはハイペリオンに搭乗するカナード・パルスだった。彼は不意打ちでジンを一機破壊し、その敵意をザフト、プレア達の両者にみせる。

「まったく、極秘任務の最中にこんな奴に出くわすとは……。連合のMSか? まずは貴様から処理してやる!!」

「処理だと? お前達がこの俺をか?」

 ミハイルはプレア達よりもカナードの方を強敵と判断し、ハイペリオンに狙いを定める。そして、部下達にも命じ集中的な攻撃を開始した。

「ジンにしては動きがいいな。―――だが、ただ数を揃えればいいと思っているのか馬鹿め!!」

 その攻撃を回避しながら、カナードは味方に合図を送る。その合図に答え、6機のメビウスが彼の母艦から出撃される。

「組織戦というものを教えてやる!!」
 
 そこでカナードはアルミューレ・リュミエールを全方位展開した。レッドフレームの整備をしながら“八”を通してその様子を確認していたロウがその意図に気づく。

「プレア!! リーアム!! リ・ホームのシールドの後ろに下がれ!!」

 警告を発し、彼等がそれに答えた直後だった、カナードは全方位に向かってビームマシンガンを乱射し始めた。その攻撃を回避しきれず、ジンが次々に被弾していく。そして、その攻撃がやんだ所でメビウスが攻撃を仕掛け、損傷したジンにとどめを刺していった。

「生き残りは私だけか…何が精鋭部隊だ。使えん奴らめ!!」

 その攻撃にミハイル一人、何とか生き延び、そのまま戦線を離脱する。これによってその場に残された勢力はロウ達とカナード達だけに変化していた。






『さて、次はお前達の番だ。どうする大人しく降伏して、核動力のMSを引き渡すか? そうすればお前達に用はない。命は助けてやる』

 ザフトの全滅を確認したカナードからリ・ホームに向けて通信が送られてきた。

「さて、どうしようかね」

「こちらにNJCが無い以上、相手の要求に応じる事は不可能です。それに例えこの場にあって引き渡したとしてもおそらく彼等が私達を無事に解放するという事は無いと思います」

「そんなあ……」

 ドクターの言葉に風花が答える。それを聞いて情けない声を出すキサト。それに対し、風花は毅然とした姿勢を貫いたまま提案した。

「この場でとれる対応は二つです。相手に従うようにして艦内に引き入れた上でチャンスを狙うか。あるいはレッドフレームの出撃できるまで何とか時間を稼ぐか。彼の新兵器ならあの機体の障壁を破れるかもしれません」

「敵を内部に引き入れるってのは分が悪そうだね。まっ、どっちにしてもそれは同じだろうけど。ここはロウの悪運に賭けてみようかね」

 その提案に対し、プロフェッサーは後者を選ぶ。その意見にジョージも賛同し、キサトも半泣き状態ながら同意するのだった。






『そういう訳だから、何とか少しがんばってもらえるかい?』

「わかりました。何とかやってみせます」

「なるべくロウには急いでもらってくださいね」

 艦内の決定がプレア達に伝えられ、プレアは一旦停止させていたPS装甲を再起動させる。

「ふん、愚かな奴等だ。おい、PS装甲には実弾は通用せん。お前達はあちらのジンを狙え」

 ドレッドノートの色が変わるのも見たカナードはそれを敵対の意思と判断し、メビウスをジンに向かわせ、自分はドレッドノートに向かって攻撃を仕掛ける。

「ここは何としてでも!!」

 プレアは自分からは攻撃を仕掛けず、回避に専念する事で時間を稼ぐ。リーアムの方も6機のメビウス相手に何とか互角に近い戦いを繰り広げていた。

「いつまでも逃げ回っていられると思うな!!」

 そのプレアの行動にカナードは激昂し、スピードをあげた。その機動にプレアは追い詰められていく。

「死ね!!」

「くっ!! プリスティス!!」

 そして、カナードがついにプレアを捉える。しかし、その時、ドレッドノートの腰部分につけられていたワイヤーのようなパーツが伸び、その先端につけられた発射口からビームが発せられた。

「ちっ、こんな武器を積んでいたのか」

 意表をつかれたのか、カナードは照準を外す。しかし驚いたのは一度のみ。2度は通じぬと切断しようとした時、プレアのもとに通信から声が響いた。

『悪い、待たせたな』

 そして、レッドフレーム・セカンドがリ・ホームから現れたのである。



[2025] ガンダムSEEDcrossASTRAY4話
Name: 柿の種
Date: 2006/11/04 20:50
「赤いガンダム……あの時のジャンク屋か生きていたとはな」

 レッドフレーム・セカンドの姿を見て僅かに驚くカナード。しかし、彼の余裕は変わらなかった。

「先程までの奴等の動き、時間を稼ぐように思えたが、なるほど、救援を待っていたという訳か。しかし、ムダ骨だったな!!」

 前回容易に下した相手、そう考えロウを侮るカナード。ビームサブマシンガンを向け、発射する。しかし、レッドフレーム・セカンドはかわしてみせる。

「へへっ、そいつは前回見せてもらったからな」

「ちっ、生意気な!!」

 自らの攻撃をかわされた事に怒り、カナードは追撃する。回避し続けるロウ。そして、弾丸が尽きる。リロードしなおそうとするカナードに対し、ロウは予想外な行動にでた。

「うりゃあ!!」
 
 ハイペリオンに向かって真っ直ぐ突っ込んだのだ。一瞬、不意をつかれるが、リロードが終わったカナードは銃口を再び向けた。

「馬鹿が!!」

 一気に全段発射。しかし、レッドフレーム・セカンドはガーベラ・ストレートを盾にしてそれを突っ切った。

「何!?」

 今度こそ驚愕するカナード。レッドフレーム・セカンドは装甲の一部と関節をレアメタルによって強化されている。その部分の防御力はビーム兵器に関してはPS装甲以上の強度があり、直撃しなければビームサブマシンガンの攻撃にも耐えられる。

「くそっ!!」

 そこで再び弾丸が尽きる。カナードが再度のリロードをするよりも早くレッドフレーム・セカンドは剣の届く範囲にまで近接した。接近戦の武装がほとんどないハイペリオンに対し、接近戦主体のレッドフレーム・セカンド、攻防が逆転し、一方的に攻撃を仕掛けるロウ。カナードは何とかそれをかわし続けた。そしてロウが再び一撃を放つ。
 
「この俺を舐めるな!!」

「うおっ!!」

 大振りになりすぎた一撃。その隙をついて、ハイペリオンはレッドフレーム・セカンドを蹴り飛ばす。そして、そこでカナードは再びアルミューレ・リュミエールを全面展開した。

「ジャンク屋如きにこれを使わねばならないとはな」

 忌々しそうな表情を浮かべながら弾丸をリロードするカナード。それに対し、ロウは即座に反転し、リ・ホームに向けて全速で移動した。

「逃がすか!!」

 ビーム・サブマシンガンの引き金を引くカナード。ロウはリ・ホームを盾にするようにその裏側に回りそれをかわす。

「そんな程度で逃れられると思うな!!」

 それを見てハイペリオン肩に備え付けられた大出力のビームキャノンを放とうとするカナード。ビーム・サブマシンガン位ならともかく、そんなものを喰らえば戦艦とて一溜まりもない。
 しかし、その一撃が放たれるよりも早くロウが飛び出した。巨大な剣を構えて。

「何だあれは!?」
 
 それは全長140メートルを超える巨大なガーベラ・ストレート。リ・ホームから排出されたその武器を構えたレッドフレーム・セカンドに対し、あまりに非常識なその武器にカナードは困惑の表情を見せる。

「そんなもので、ハイペリオンの一撃をどうにかできると思うな!!!」

 そして、ビームキャノンが放たれる。それに対し、140ガーベラ・ストレートが振るわれ、そしてビームを弾き飛ばした。

「そんな馬鹿な!?」

 更にレッドフレーム・セカンドは剣の振られた慣性を利用して一気に加速し、ハイペリオンに迫る。それに対し、その防御力と引き換えに機動力を失ったハイペリオンは逃げる事ができなかった。

「うおおおおおおお!!!!」

 そして140ガーベラ・ストレートが振られる。その一撃がアルミューレ・リュミエールに直撃した。

「馬鹿な!? こんな手段で無敵のアルミューレ・リュミエールが破られるというのか!?」

 圧倒的な質量の前に流石の防壁も突き破られ、そしてハイペリオンに刃が迫る。

「ちぃぃ!!!」

 それに対し、カナードは咄嗟にアルミューレ・リュミエールを解除し、上方に逃れる。しかし、流石に完全には回避できず、下半身がまるごと切り裂かれるハイペリオン。

「うおっ、すげえ!!」

 その回避に驚くロウ。だが、驚いている場合ではなかった。嫌な亀裂音と警告音がし、関節部が破損する。

「やべっ、レアメタルでも無茶があったか」

 全長140メートルの刃、そんなものを振り回せば当然の如く腕部には強い負担がかかる。レッドフレーム・セカンドの関節はレアメタルによって強化されていたが、二振り目には耐えられなかったのだ。脚部を失ったハイペリオンと腕部の破損したレッドフレーム・セカンド。相手の状態に気づいたカナードは怒りに燃え、戦闘続行を選ぼうとする。

「この俺に屈辱を味合わせてくれたな!!」

 レッドフレーム・セカンドに対し、またもや銃口を向ける。もはやロウには逃げる事しかできない。しかし、そこで救援に駆けつけるものがあった。

「ロウさん!!」

 プレアのドレッドノート。それがロウを庇い、両機の間に現れた。リーアムの方はメビウスに備え、戦艦の方に注意を払っている。そしてプレアからロウに対し通信が寄せられた。

「大丈夫ですか!?」

「ああ、サンキュ助かったぜ」

「後は僕に任せて、艦に戻ってください」

「わかった。後は頼む」

 どのみち既に戦う手段が無い事もあるが、プレアの声に自信があふれている事に気づき、ロウは彼に任せる事にしてリ・ホームに引き換える。そして、プレアとカナード1対1の形になる。

「ロウさん、見せてもらいました。あなたの戦い」

 絶対的な強い相手に立ち向かい、そして結果を残したロウの戦いは勇気を与えていた。そして、カナードに向かって挑む。

「雑魚が、調子に乗るな!!」

 ジンにすら苦戦したプレアの戦いぶりを一部見ていたカナードは自らの機体が損傷している事で、相手がこちらを侮っている、そう考え、彼は一気に突っ込んでいく。

「行け!!プリスティス」

「そんな攻撃効くか!!」

 ドレッドノートの腰の部分から放たれるワイヤ付きのビーム砲。ハイペリオンのビームサブマシンガンに取り付けられたビームナイフがその配線を切り裂くが、にも関わらず、銃砲はそのままコントロールされる。

「何!?」

「ドレッドノート!!」

 そして放たれる一撃、肩を打ち貫かれ損傷を受ける。

「これで!!」

 そしてとどめとばかりに放たれる一撃。頭部のメインカメラを破壊され、ハイペリオンは活動を停止するのだった。



[2025] 50話
Name: 柿の種◆eec182ce ID:32959b89
Date: 2010/05/09 03:13
「本当にすまない」

 アムロはユズハとキラ、二人に向けて頭を下げる。ジェネシスの存在が明らかになったことで、ユズハとキラの除隊が認められなくなったのだ。これから戦争がまだ続くことになるかもしれない状況で軍の最大戦力である二人を手放す訳にはいかなかった。自ら除隊を進めたにもかかわらず、それを覆すことになってしまった結果に、アムロは心底申し訳なさを感じていた。

「いえ、仕方ないことですから。それに、僕はどの道まだ答えをだせていませんでした。だから、この戦争が本当の意味で終わるためにはオーブで頑張って、それから答えを出したいと思います」

 キラはそう答える。そしてユズハもそれとほぼ同じ答えを返した。

「わかった。ありがとう」

 アムロは頭を下げて礼を言う。そして表情を変えた。二人に感謝はしている、罪悪感も感じている。しかし上官としてそれを引きずる訳にはいかなった。これからアムロは二人に“命令”を下さなくてはいけないのだ。その変化を二人も察知し、気を引き締め直し、姿勢を正す。

「それではこれから先の方針を告げる。二人にはアメノミハシラに行ってもらうことになる」

「アメノミハシラ……」

「ああ、そこで待機し、ZAFTの動向を探ることになる。お前達にも告げたようにZAFTは核を超える大量破壊兵器を保有している可能性がある。現在裏付けを取っている最中だが、これが事実で万一それが使用されるようなことがあった場合、連合だけでなくオーブも確実に巻き込まれる。いや、地球全土が滅びる。そう言った代物だ」

 除隊できなくなったことを説明された時にその理由としてZAFTが大量破壊兵器を持っている可能性が高まったためと説明を受けていたが、改めて聞かされた予想以上に深刻な話に二人は息を飲む。

「そこで最悪の場合にそなえ、ZAFTを止められるようアメノミハシラで待機。期限は情報が間違いであることが判明、もしくはZAFTがその兵器を放棄するまでだ。それとこの任務にはオーブ本国の守りを薄くする訳にもいかないため、俺とカガリは同行できない。向こうではギナとミナの指示にしたがってくれ」

「あの、ミナと言うのは?」

 赤道連合で戦った時に共闘しているのでギナについては知っていたが、ミナについては初耳のキラが問いかける。

「ミナというのはギナの双子の姉だ。いや妹という話もあるが、本当のところはどうなのかは実は俺もしらないんだが。まあ、とにかくそういう間柄で、五大氏族の一つサハク家の次期党首にあたる人間だ」

「あの人そんなに偉い人だったんだ」

 その説明を聞いて驚くキラ。そしてアムロはもう一つ、ある重要な要件を切りだす。

「それから二人には渡しておくものがある。ついて来てくれ」

「あっ、はい」

 言われるままにアムロについていく二人。そしてアムロは格納庫の奥へと進んでいく。そして何ヵ所もセキュリティゲートを通りぬけ、最後の扉を開く。そしてその扉をくぐった先にあったものにキラは目を見開いた。そこにあったのは今まで彼が見た事の無いMSだった。

「こ、これって」

「ヤマト二尉、君の新しい機体。ブレイブガンダムだ」

「ブレイブガンダム……」

 キラが見上げたその機体はストライクと同色、同系統の形状をしていたが、全体的に一回り厚みをましており、重厚感をかんじさせる。その重厚感はその名の通り勇者の如き風格を機体に与えていた。

「この機体はオーブの新技術の各種を盛り込んでいて、ネオクロスガンダム同様に核融合炉が搭載されている。それと、装甲の一部に新素材が用いられているのが特徴だ」

「新素材……ですか?」

「ああ、ガンダリゥム合金と言ってな。無重力下でしか精製できず、アメノミハシラで試験的に造ったものだ。物理的な攻撃に対してはPS装甲に劣るが、その分ビームやレーザーに対する強度は上回っている。ネオクロスと違って、この機体にはIフィールドが無い分、それらに対する耐久力が低いのでこの素材を採用した。コックピット部分だけはPS装甲との複合装甲にしてあるが、それ以外の部分についてはこの素材で固めてある。また、この素材は比重が軽いのが特徴で、見た目でわかると思うがストライクよりも厚く装甲をつくってあるが、総重量では下回っている。総合的な性能ではネオクロスガンダムを凌ぐと言ってもいい」

聞けば聞くほどに凄い性能に、キラはその機体を自分が預かることに僅かながらもプレッシャーを感じる。アムロはそれに気付きながら、あえて更なるプレッシャーがかかるような言葉を投げかけた。

「この機体はオーブの守りとなるよう祈りが込められて造られた機体だ。それでも、ヤマト二尉。今の君ならこの機体を生かし切ってくれると信じている」

「は、はい」

 アムロの言葉に思わず勢いよく答えるキラ。それを見てアムロは頷く。そして今度はユズハの方に向いた。

「それとユズハ二尉。お前にも渡しておくものがある」

 そう言ってブレイブガンダムの前に置かれた大き目のトランクを手に取るとそのまま彼女に手渡す。そのトランクは金属製でかなりの重量があり、頑丈そうな鍵が取り付けられていた。

「あの、これは?」

「これは以前、お前が初めてネオクロスガンダムに乗った時、違和感を感じた原因となったものだ」

「!! それじゃあ」

「ああ、この中に入っているパーツをつければネオクロスガンダムの性能は更にあがる。これを使うかどうかはお前の判断に任せる。整備マニュアルが中に入れてあるから必要と判断すればアメノミハシラの整備員に渡して取りつけてもらうといい」

 その言葉にユズハは息を飲む。嘗て教えられていた。NTの力を強化し、それ故に心を壊してしまう危険性のあるものがνガンダムには積まれていると。そして今、そのパーツが彼女の手元にある。

「これが、ここから離れられない俺がしてやれる最後のことだ。お前達が無事に戻って来てくれることを祈っている」

「「はい」」

 こうして二人に新たなる力が託された。そして、2週間後、戦艦『クサナギ』に乗って、二人を含むオーブの戦士達はアメノミハシラへと向かうのだった。






「調査の結果はどうだ?」

「はい、物資や人の流れを追ったところ、直接の建造物こそ確認できなかったもののやはり間違いないとのことです」

「そうか」

 部下からの報告にミナは溜息をつく。ジェネシスの存在の事実確認。その結果、ZAFTがジェネシスを建造していることは確証に近い域になっていた。100%の確証にならないのは、ミラージュ・コロイドに覆われて建造物の全容が見えないからだが、建造時には当然、その部分はコロイドで覆われていない。その見える部分の断片的な形状とデータの比較からしてほぼ間違いない。少なくとも極秘で何らかの巨大建造物が造られているのは確かだった。

「それで、“天”と“イカヅチ”の方はどうなっている?」

「はい。“天”は既に実働可能です。“イカヅチ”は後2月程かかるかと」

「ジェネシスと思われる巨大建造物の完成予測は?」

「同じく2ヶ月程です」

 その報告を聞いてミナは厳しい視線になって指示する。

「イカヅチの完成を急げ。ウズミは恐らくZAFTに対し先んじて攻めることを承諾しないだろう。ジェネシスが完成してしまった場合、あれは唯一の対抗手段だとなる」

「はっ!!」

 ミナの言葉に部下は敬礼し立ち去る。そして部下を見送ると窓をみる。そこにはアメノミハシラに近づくクサナギの姿が見えるのだった。


(後書き)
続きを待っていると言ってくださる方がいたので、凄く久しぶりに続きを投稿します。



[2025] 51話
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/05/16 19:33
「よく来たな、歓迎しよう」

「えっ、サハク大佐?」

 ユズハとキラが戦艦を降りたその昇降口で三人の人物が彼らを待ち構えるように立っていた。長身の人物とその脇に立つ二人。その中心に立つ姿を見て、キラはギナを思い出す。しかし、その横に立ったユズハは彼、いや彼女の胸が膨らんでいたのに気付いた。

「あの、あなたがロンド・ミナ・サハク准将ですか?」

「ああ、ここではお前達は私の指揮下に入ることになる。働き期待しているぞ」

 ユズハの言葉に頷き、そして彼女の姿を舐めるように見るミナ。その視線に気持ち悪さを感じ尋ねる。

「あっ、あの、何か」

「いや、すまんな。立場上、お前の父親や母親、そして祖父とはよく接しているのでな」

 五大氏族の中でもクサナギ家とサハク家は共に軍事に対する貢献が強い家である。故にお互いの家の付き合いは浅く無い。また、アムロに関してはギナもミナも強い関心を持っている。それを考えればその娘であるユズハとミナが初対面であることの方が寧ろ奇妙なことであったかもしれないが、クサナギ家の家督についてはシズクの兄であるホクト・クサナギが継ぐことがほぼ決まっていたため、政治的な分野に関して継承者から遠い彼女はあまり関わってこなかったのである。

「お前はクサナギ家を継ぐのか」

「えっ、いえ、多分、ユウキさんが継ぐんじゃないかと」

 故にミナの質問は彼女にとって予想外なものだった。彼女の出した名前、ユウキ・クサナギはユズハの従兄でホクトの息子である。ホクトがクサナギ家を継げば、順当に行って、その更に次の後継者は彼になる。
しかし、当たり前の筈のその答えにミナは失望した様子を見せた。

「ユウキか。あのような凡夫に国を任せるのか? 自らが民を率いてみようとは思わぬか?」

「凡夫ってユウキさんって頭いいし、運動もできますよ」

 ユウキ・クサナギはナチュラルであったが、コーディネーターの混じるオーブの中に置いても勉強でもスポーツでも上位の結果を残している秀才である。しかし、ミナはそれを嘲笑うかのように言う。

「凡夫だよ、奴は。たしかに愚図ではないだろう。だが、人の上に立つ器では無い。力の弱いものでも生きる価値はあろう。だが、力の弱いものが上に立つというのは罪悪というものだ」
 
「そんなこと……」

「まあ、考えて置くのだな。この先のこと、戦争をどう終わらせるか、そして戦争が終わった後、どうすべきなのか、お前はそれを考えられる立場にいるのだからな」

「……」

「ここまで移動で疲れただろう。今日は、体を休めておけ」

 反論しようとしたユズハの言葉を遮り一方的に語ってミナは去っていく。そしてその場に残った二人のソキウスが彼女達に近づく。

「部屋に案内いたします。ユズハ様とキラ様の部屋は少し離れておりますので、ユズハ様は私が、キラ様はシックスソキウスが案内いたします」

「あっ、はい」

 釈然としない気持ちをもちながら、目の前の彼らに当たる訳にもいかず、ユズハは大人しく頷くとキラと別れ、フォーソキウスについていく。

「……」

無言のまま歩く二人。そこでフォーソキウスが口を開く。

「ユズハ様、よろしければ部屋へ向かう前にこのアメノミハシラの内部案内をいたしましょうか?」

 抑揚の無い口調だったが、その言葉は何故か自分を気遣っているようにユズハには感じられた。その気遣いをできれば断わりたくないと思ったし、今後のことを考えれば、内部を知っておけるのはありがたいことであるのでその申し出を受けることにする。

「お願いします」

「わかりました。それでは案内いたします」

 アメノミハシラは軍事宇宙ステーションであるが、その全てが軍事に関連すべきものではない。それ自体が人々の生活空間として機能する街でもあるのだ。そのため、数は少ないが店なども存在する。しかし、彼女等が最初に向かったのはそう言った場所ではなかった。

「ここが整備施設です」

「あの青いMSは?」

 MSのパイロットである彼女にとって生命線も言える整備施設。まずはそこを見たいという彼女の希望に答え、向かった先にデザインはM1アストレイと同じだが色が異なりM1アストレイで赤い部分が青くなっているMSが並んでいた。

「あれはM1Aアストレイです。宇宙空間に特化したMSで、重力下では使用できませんが、宇宙空間ではM1アストレイの30%増しの性能を発揮します。ユズハ様達の乗って来たクサナギに搭載されていたM2アストレイも現在、M2Aアストレイへの改良が行われています」

「へえ。あっ、私のネオクロス」

 そこで彼女は愛機であるネオクロスガンダムの姿を確認する。彼女と一緒にクサナギで運び込まれてきていたが、何時の間にか移動させられていたようだ。そして、何やら整備を受けているように見える。それについて尋ねると答えが返ってくる。

「現在メンテナンスチェックとフィンファンネルへの換装を行っています」

 ネオクロスガンダムには2種類のファンネルが追加装備として用意されている。重量を極限まで抑え、密度の軽い機体を注入することで大気圏内でも浮遊し使用できるようにしたスモールファンネルと大気圏内では使えないが、サイズを大型化して威力をあげ、応用としてバリアーを張ることなども可能とするフィンファンネル。そして宇宙空間では総合するとフィンファンネルの方が高性能になっている。

「よろしくお願いしますね」

 それを聞いたユズハはネオクロスガンダムを扱う整備班のメンバーに対し、挨拶をして回った。そして一通りそれを終え、奥に進もうとするが、そこでソキウスから制止がかけられる。

「申し訳ありませんが、ここより先は重要機密により関係者以外侵入禁止になっています」

「えっ、あっ、はい。わかりました」

 その言葉にユズハは驚きながら頷いた。核融合炉が搭載されていることもあり、ネオクロスガンダムはオーブの最高機密の一つの筈である。それよりも更に先にあるということはつまり、それ以上の価値のものがこの先にはあるということだ。

(一体この先には何があるんだろう?)

 疑問を覚えながら、彼女は来た道を引き返すのだった。






ユズハがフォーソキウスに連れられアミノミハシラ内をシックスソキウスについて歩いたキラ。部屋に向かう途中で彼は口を開き、尋ねた。

「あの、君達って、その赤道連合と一緒に戦った時の……」

「キラ様が気になっているのはファイブソキウスとサーティンソキウスのことでしょうか?」

 口ごもるキラに対し、彼の言いたいであろうことを予測したフォーソキウスが口を開いた。

「あっ、うん。君達と彼ってやっぱり……」

「ええ、同じ遺伝子を持つものです」

「そ、そうなんだ。ごめん。君達の兄弟を死なせてしまって」

 申し訳なさそうに言うキラ。しかし、その言葉に普段無表情なソキウスの顔に僅かに驚きが浮かぶ。

「兄弟ですか。そのような言われ方をしたのは初めてです。それとファイブソキウスとサーティンソキウスの死についてはキラ様が気になさることではありません。彼らは自ら選択し、それを選びました」

「でも!!」

「つきました」

 ソキウスの言葉に反論しようとするキラ。しかし、そこで部屋に辿りついてしまう。

「あっ」

「それでは失礼します」

 キラはソキウスを引きとめようとするが、それよりも早く立ち去って行ってしまう。仕方無しに部屋に入るとやることも無いので荷物の部屋を始める。そして30分程部屋の整理を続けた時だった。ドアをノックする音が聞こえる。

「あれ? 誰だろう?」

 アミノミハシラに知り合いなど数える程しかいない。尋ねてきた人間が誰か予想しながらドアを開けるとそこには予想外な人物がいた。

「あっ、ミラ」

「久しぶりね。キラ君、折角同僚になったのに、それ依頼あなた全然会いに来てくれないんだもん。そっちは特殊部隊だからこっちからは気軽に会いにいけないしさ。あっと、今はキラ二尉って呼ばなければいけないかしら?」

「いや、キラでいいよ。それにしても君もこっちに来ていたんだね」

 オーブに来て初めてできたコーディネーターの友人でオーブ軍人、三尉のミラの姿がそこにはあった。

「フィオナさんやエルちゃんも会いたがっていたわよ」

「ごめん、色々と忙しくって。けど、二人にはこっちに来る前、挨拶に行ったよ」

「あっ、そうなの?」

 アミノミハシラに行く前に出立を伝えるため、フィオナやエにキラは会いに行っていた。その時、エルには折り紙を無くしてしまったことがばれてしまい、怒られてしまったが、その後で代わりに新しい折り紙をもらっている。

『今度はなくなさないでね』

 そう言われながら笑顔で新しい折り紙を渡された時のことを思い出して思わず顔が緩む。そして出立前に会いに行ったのは彼女達だけでは無い。覚悟を決め、トール達共再会を果たしていた。その時、オーブ本国へ来てからもずっとあわずに居たことを本気で怒られ、しかし自分をずっと心配していたと伝えてもらった彼らの気持ちが何より彼には嬉しかった。そしてアミノミハシラに行くと伝えた時には引き止めてくれた。けれど、それは引きとめにならず、寧ろ彼を後押ししたと言っていい。彼らの、友人のためにも戦おう改めてキラにそう決意したのだから。

「キラ君、何か嬉しそうだね」

「えっ、そうかな? そんなことないけど」

 トール達と再会した時のことを思い出しているキラにミラがそう突っ込む。口に出して言うのは流石に恥ずかしいのでごまかすキラ。

「ま、いいや。それより良かったら一緒にこれからアミノミハシラ内を見て回らないかな? こっちに配属されたのって部隊の中では私だけで他に知り合い居ないのよ。一人でまわるのは寂しいしさ」

 それに対しミラは追究をせず、代わりにキラを誘う。部屋の整理の事があると頭に思い浮かぶが、それはできると思い、なによりキラも一応男だ。ミラはコーディネーターだけあって見た目はかわいいし、性格も明るく気さくな女の子なので、その誘いを無理に断ろうとは思わなかった。

「わかった。付き合うよ」

「よし、じゃあ、行こうか」

 こうして、二人はアメノミハシラ内の散策を始めるのだった。


(後書き)
今回名前が出てきたユウキ・クサナギというキャラですが、実は前にも紹介していますが
SEEDcrossDestinyの主人公として考えていたキャラです。無印編の主人公のユズハが天才肌のキャラなので、運命編主人公は天才に追いつけない凡才にしようと考えていました。

※フィオナやエル、トール達については作者自身がすっかり忘れていたことです。なので物凄いさっくり片づけてしまいましたが、いずれ番外編とかで補完したいなあと思っています。



[2025] 52話
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/05/30 17:24
 ユズハとキラがアメノミハシラ内を散策している頃、ミナは予想外の来訪者を受けていた。そのあまりに意外な人物に彼女にしては珍しいことに表情に驚きが浮かんでいる。

「まさか、ザフトの歌姫がこのアメノミハシラを訪れるとはな」

「どういたしますか?」

「さて……」

 シックスソキウスの言葉にミナは考え込む。ラクスが何故彼女の下を訪れたのか、その理由はかなりの興味を惹かれる所であったが、ラクスは現在国家反逆者としてザフトに指名手配されている立場である。下手にアメノミハシラに招き入れ、開戦の材料にされても面白くない。しかしラクスが尋ねて来た理由次第、そして彼女が持っている情報次第では有益が得られるかも知れない。
 メリットとデメリットを比べ、そしてミナは結論をだした。

「会談を受け入れると伝えろ。ただし、アミノミハシラには入れん。モニター越しでならという条件付きでな」

 ラクスに味方したと思われるのはまずいが、同盟国でもなんでも無い以上、その存在をザフトに伝える必然性がある訳でも無い。全くのノーリスクがとは言わないがないが、艦やラクスをアミノミハシラ内に入れさえしなければリスクを最小限ですむ。
そして、シックスソキウスはその条件をラクスの乗るエターナルに伝達すると承諾の返事の意が戻り、ラクスとミナ、両者がモニター越しの会談が実現するのだった。






「まずは会談に応じていただいたことお礼申し上げます。しかし、何故直接の面談に応じていただけなかったのでしょうか?」

 会談の第一声で放たれたラクスの言葉にミナは彼女が自分の立場を理解していなのかと呆れ、会談に応じたのは失敗だったかと後悔しそうになる。しかし、今更後悔したところで意味は無いと気を取り直す。

「今のオーブの現状をご理解していただきたい。こうしてあなたと話している事自体、こちらにとってはリスクを含んでいるのですよ」

「それは勿論理解しております。しかし、重大のお話でしたので、このような形でなく、直接会ってお話をしたかったのですが」

 その回答に状況が全く見えていない訳では無いと知り、ミナは少し安心をする。だからと言って、改めて直接会って話す気など無論ミナには無い。

「それはそちらの都合だ。残念ながらこちらとしてはこれ以上譲歩するつもりはない」

 ラクスの要望をきっぱりと断るミナにラクスは表情こそは変えないもののどこか失望したように見えた。その態度にミナは少し苛立ちを覚えるが、黙って彼女の次の言葉を待つ。そして数秒の沈黙の後、彼女は口を開き、衝撃的な言葉を放った。

「わかりました。それでは、今回こうしてお話させていただいた意味を。私達が何を求めるのかをお話します。端的に申し上げれば私達は戦争を止めるために、貴方方にオーブにその仲裁をお願いしたいと思っています」

「何……だと?」
 
 その言葉にミナは再び彼女の正気を疑った。戦争を終了させるため、仲裁を中立国に依頼する。これ自体はそれほど特別な事では無い。しかし、ラクスは国家代表でもそれに準ずる立場でも無い。彼女はあくまでプラントの元議長の娘でしかなく公的には何の権力も持たない筈の立場、ましてや今は国家から反逆者として扱われている立場である。そもそも現在の状況で和平が成立するという発想自体がミナにはまず、信じられないことであった。しかし、それを語るラクスの目は真剣そのもので狂っているようにも見えない。

(この女……)

 だからこそミナは彼女を警戒した。ラクスは正常なまま狂っている、もしくは狂ったふりをしている。そしてそうでありながら国家から最新鋭の戦艦を奪える程の信奉者を、カリスマを有している。それは恐ろしいことだった。狂っていると言うのは常識と比較しての価値観だ、しかし逸脱した人間は時に常識の方をひっくり返す。歴史に残る革命家のように、地動説を唱えたガリレオのように。
そして彼女がそう言った人物と同類であるという可能性に比べれば遥かにマシであるが、狂ったふりをしているのであれば、理想を超えた夢想にしか聞こえない言葉が表面的なポーズでしかないのなら、彼女は腹に一物も二物も抱えた策略家という事になる。いずれにしてもミナにとってもオーブにとっても彼女は大きな危険を孕んだ存在だった。

(さて、どうするかな……)

 申し出を拒絶するのは簡単だったが、彼女を野に放てばいずれ予想もつかない災いをもたらしてくるかもしれない。それに比べれば手元に置いて監視して置く方がまだ安心かもしれないとも考える。しかし、現状で和平が成立する可能性はゼロに等しく、彼女の申し出は到底受けられるものではない。

(いや、まてよ)

 しかしそこでミナは気づく。和平を成立させず、ただ仲裁役を引き受けるだけならば不可能ではないことに。また、成立の困難さを考慮に入れなければ彼女の要求通り仲裁を行うことには益がある。仲裁者の立場を得ればそれだけプラントの深部にもぐりこみ易くなる。立場を利用してジェネシスについて探りを入れることも可能だろう。しかし、それには一つクリアーしなくてはならない条件があった。

「私一人の一存で決めることはできん。しかし、検討するよう本国に伝えておこう。ただし、こちらからも条件がある」

「条件とは?」

「君達からでは無くプラント全体として依頼の形にしてもらうこと。それが最低条件だ」

 こちらから仲裁役を申し出たところで、プラントはそれを受け入れないのだろう。それどころか下手をすれば内政干渉と受け取られ、プラントから敵視される恐れすらある。故に公式に何の権力も持たないラクスの要請ではなく、プラントからの要請を得ること、これは必須条件だった。

「それは……難しいですね」

「だろうな。しかし、国内の意見すらまとめられんようでは和平など夢のまた、夢だぞ。平和を望むのならそれ位やってみせるのだな」

 表情を歪めるラクスに対し、ミナが平然と告げる。こちらのだした条件に対し、ラクスがどう動くか、ミナは期待半分警戒半分の気持ちである。
万一、ここで逆切れに近い態度を見せるのなら、ラクスは理想家でも夢想家でも無く、ただの子供であると判断するつもりだった。いや、正確にはただのとは言えない。力を持った子供だ。そして力を持った子供程危険で厄介なものは無い。故にその時は後でどんなリスクを負おうが彼女を始末する覚悟を決めていた。
 そして、彼女がミナの出した条件を承諾するなら、その後の彼女の行動と結果で彼女という人物の器と性情をある程度見極めることになる。相手に対する適切な対処が掴めないこと程怖いことは無い。まずは、相手を見極めることが何より重要なのだ。

「わかりました。やってみせますわ」

「そうか」

 ミナの問いに対しラクスは少しだけ考えた後、自信を持った表情で、いや自信を持ったように見えて本心がまるで見えない、それが真実なのか偽りなのかミナにも読めない表情で答えた。その表情と態度に彼女は少しの寒気を覚えた。そしてラクスはアメノミハシラを立ち去るのだった。






「どうするんだ、ラクス?」

「プラントへ行こうと思います」

 アメノミハシラを離れ2時間後、ラクスは部屋にアスランと二人で居た。そしてそこでラクスはアスランの問いに答えていた。しかし、彼女の答えにアスランは難しい顔をする。

「確かに、それ以外に中立国を動かす方法は無いだろう。しかし、父が聞き入れてくれるかどうか……」

「まずは、話してみます。それで駄目ならあまりやりたくはありませんが力を使います」

「力って、まさかプラントを攻撃するつもりか!?」

 ラクスの答えにアスランは最悪の想像をし、声を荒げる。しかし、ラクスは首を振って否定した。

「いいえ、無論そんなつもりはありません。攻撃するのはザフトの新兵器です」

「新兵器?」

「私も詳細までは知りません。しかし、父が言っていました。あなたのお父様は地球を丸ごと滅ぼすような兵器を使おうとしていると。そのようなもの、例えどうような理由があろうと使わせる訳にはまいりません。ですから、交渉に応じていただけないようでしたら、その時はその新兵器を破壊致します」

「なるほど、切り札が無くなればもしかすると父も和平に応じてくれるかもしれないな」

 父と争わずにすむかもしれないという希望にアスランの声に喜びが混じる。だが、そこで突然、エターナルが激しく揺れる。そして艦橋より部屋に通信が入った。

『ラクス様、艦が機動兵器に襲撃を受けました!!』

「襲撃だと!? 一体誰が!? それに何故、接近に気付かなかったんだ。まさか、ミラージュ・コロイドか!?」
 
 オペレータの口から通信を通し飛び込んできたその内容にアスランが思わず叫び返す。そしてそれにオペレータが更に詳しい状況を報告する。

「襲撃してきた機体の形式は不明、未確認機、しかし発進信号はZAFTです!! それとミラージュ・コロイドではありません!! 常識を超えた速度でレーダーの策的範囲外からあっと言う間にこちらに攻撃を仕掛けられる範囲に接近してきました!!」

「なんだと!?」

 その答えにアスランは驚愕する。ニュートロンジャマーの影響でレーダーの制度が著しく落ちているとはいえ、それはあまりに常識外れな報告だった。一瞬、呆然としかけ、しかし、そこで彼を呼ぶラクスの声に彼は正気を取り戻す。

「アスラン」

「ああ、わかってる」

 今、彼がやるべきことはただ一つ、ジャスティスで襲撃者を退けることのみ。ラクスに向かって頷くと彼は部屋を飛び出すのだった。


(後書き)
ラクスは難しいです。場面によって言動がまるで違いますし、内面描写がまるで無いキャラなんで、原作見ても何を考えているのか、どこまで計算して動いているのかがまったくわからないですよね。私なりに想像して書いてみるつもりですが、違和感ありましたらご容赦を。


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