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[20277] 【習作】「だぜ娘奮闘記!」(現実→東方)
Name: クイックル◆bad3b9bc ID:b764bb8a
Date: 2012/04/05 23:35
このSSは東方projectの二次創作です。以下の点にご注意ください。

・作者はSS初心者です。あたたかい目で見守って下さい。
・現実→魔理沙への転生もの。地雷ですね、わかります。
・旧作ネタはおそらく含まれません。
*主人公なのに弱いです。「弾幕はパワーだぜ!」な魔理沙なのに、パワー不足。
・作者の独自解釈、独自設定などが含まれます。(特に戦闘など。原作がSTGのため)
・キャラ崩壊注意!!!
・百合気味です。魔理沙がかわいすぎて生きてるのがつらい……。

・もうぶっちゃけ魔理沙ハーレムです!

・人の数だけ幻想郷! 原作に沿って話を進めますが、あくまでも2次創作です!

・なので、EXルーミア、賢くて強いチルノなどの2次創作ネタが含まれます!

スタート時期は紅魔郷時点から。
あまり深く考えず、さらっと息抜きに読んでください。
よろしくお願いします。

文章を初めて書くので、稚拙な文になると思います。
誤字脱字、変な表現などあれば指摘お願いします!



7月14日 まえがき
     プロローグ
     閑話1
     その1      投稿

7月15日 全体の誤字修正
     閑話2      
     その2      投稿

7月16日 全体の誤字修正
     閑話3      投稿

7月18日 閑話3 誤字修正
     その3      投稿

7月20日 まえがきに注意書き追加
     その1 誤字修正
     その3 修正
     その4      投稿

7月28日 その5      投稿
     その5 誤字修正・修正

8月3日 その6投稿
     まえがきに文章追加
     その5 一部文章修正

8月4日 その6 誤字・表現修正

8月8日 閑話4      投稿

9月5日 回顧話1     投稿

9月6日 閑話4が3になっている所を修正

2012年

4月5日 その7      投稿



[20277] プロローグ 紅霧から
Name: クイックル◆bad3b9bc ID:b764bb8a
Date: 2010/07/16 14:11
「……ついに来たぜ」

魔法の森を覆う紅霧。
日差しを遮ってただでさえ暗い森が一層暗く、不気味に見える。
これが“紅霧異変”の始まりで、わたし『霧雨魔理沙』と『博麗霊夢』が主人公の『東方紅魔郷』の幕開けだ。

わたしは、『本物の霧雨魔理沙』ではない。
いわゆる転生というやつで、当初は「東方で、しかも魔理沙に転生って最強物ktkr」とワクテカしていたのだが、多くの問題にぶつかった。

まず最大の問題が、わたしに『魔理沙』のような才能がなかったこと。
原作でも「努力型の主人公」という設定があったが、それでも『魔理沙』には才能があった。でなければ同じ魔法使いのパチュリーやアリスに勝つことなんてできないし。
で、ないものはしょうがないと『魔理沙』とは違う道を歩もうとしていたら、母親が死んだ。「え?」ってなった。
原作の設定を熟知してるわけではないが、『魔理沙』は魔法の事で両親に勘当され、家出同然に魔法の森に引っ越したのではなかったか?
なのに、おそらく原作にない事が起きた。焦った。なにせ、私の知っている『ゲームとしての東方project』が当てにできない。
どうしてこうなった? 幼かった私は必死に考えた。

私が『魔理沙』と違う行動をしているのが原因だ。これ以外に考えられない。
母さまの事も、私が原因で、私が殺してしまったんだ。
それからの私の行動は早かった。
普段の口調はやめ、『魔理沙』のような男勝りの口調に改めた。『魔理沙』のように白黒の魔女衣装を着るようになった。『魔理沙』のように魔法の勉強をこっそり行い、香霖にそれを手伝わせた。
父親は母を亡くしてからの私の変化に戸惑いを隠せなかったようだが、お店で忙しいこともあり、私に注意が向きながら直接なにか言われることはなかった。
霊夢とは以前から友達なので、その関係からよく弾幕ごっこに付き合ってもらった。
「あんた弱いんだから無理するんじゃないわよ」とは霊夢の言葉。
そして魔法の練習をしている様子を親にばらし、父さまが何か言う前にさっさと家出をし、魔法の森に引っ越した。

しかし、魔力すらも『魔理沙』に及ばないわたしは、魔法の森の奥地にあったボロい家に移り住んで、早々に体調を崩した。
本気で死ぬかと思ったが、原作知識を動員してフラフラの体でアリスの家を探し、無理矢理押し入って看病していただいた。いやあ、アリスには頭が上がらない。
「あなた魔法使い? ……冗談でしょ?」とはアリスの言葉。
その時にアリスから魔法の森で暮らすための空気を浄化する魔法を教わった。
こういう小手先の魔法は得意です。『魔理沙』と全然違うなあって思う。

そしてまた問題。ミニ八卦炉の性能が原作に比べて劣っている。
確かあれは山一つ消し飛ばす威力があるハズなのに、細いレーザーしか出ない。
あれは原作魔理沙の特性を理解しているこーりんが作ったものだから仕方ないのかもしれない。しかしそうなると『魔理沙』の魔法の代名詞であるマスパが……!
というか、出力の問題なのか?
とりあえず保留している。

それと、お金の問題。そこで、薬師のいない今のうちに魔法の薬を売ろうと考えた。
けど、これがまた問題。売れないのだ。まったく。
魔女の恰好をした女の子が売っていて、しかも見た目が悪い液体(効果は良いと思う)を好んで買う奇特な人はいない。
仕方ないので、アリスの人形劇の手伝いや、虹川三姉妹のライブの手伝い、紫のお世話や幽香のお花の世話、文の新聞を作る手伝いなどして日銭を稼いでいる。
原作にない交友関係を築いているが、生きるためには仕方ないと割り切って働く。
幽香にはマスパの打ち方を教えてもらったり(「なんでこんな事もできないのかしら?」幽香)、紫には魔法書をもらったり(「英語がわからない? 自分で調べなさい」紫)と逆に世話になる場面もあったし。
まあ、これだけ頑張っても原作の『魔理沙』には程遠い。
いまだ霊夢に遊ばれている。

まあ、こんな事をしている内に原作が始まってしまった。
しっかりと気合をいれて、入念に準備をすませる。

「よしっ! 気合いれて行くぜっ!」

箒にまたがり、わたしは紅霧の空に飛び込んだのだった。



* * *

いろいろと勘違いし、勘違いされている魔理沙が主役です。



[20277] 閑話1 少し過去の事
Name: クイックル◆bad3b9bc ID:b764bb8a
Date: 2010/07/16 13:50
Side 森近霖之助

魔理沙は、僕がまだ霧雨道具店で見習いだった頃に出会った親父さんの娘だ。
僕にとっては妹みたいな存在で、香霖、香霖、と愛想のない僕によく懐いてくれた。
いつもにこにこと笑っている女の子で、霧雨道具店での看板娘。どんな相手にも優しい良い子だった。
よく奥方と博麗神社に通っていて、危ないと言われても止めない頑固な子で、小さいころから人前で涙を見せない強い子でもあった。
それが、僕の知っている霧雨魔理沙。

奥方が亡くなったのは、魔理沙がまだ今より幼いころだった。
もともと体が強くない方だ。博麗神社へ行く道中で倒れたのだという。
その頃僕は霧雨道具屋から一人立ちし、新しく店を構えたばかりだった。

奥方が無くなってから、魔理沙はしばらく塞ぎこんだ。
霧雨の親父さんは葬儀で忙しく、そんな魔理沙にあまり構ってやることができなかったらしい。
僕も時期的に忙しいことも相まって、いや、そんな言い訳はどうでもいい。
孤独がどんなにつらい事か、わかっている筈なのに。
僕たちは、一人の大事な子どもを深く傷つけた。

それから、気づけば魔理沙は変な格好でいる事が多くなった。
白黒の、いかにも魔女といったエプロンドレスに、大きな黒い帽子。
どう見ても、おとぎ話の魔女の恰好。
女の子らしかった口調も、語尾に「だぜ」を付けるなど、意図してガサツに振る舞っている。
そして……魔法を勉強し始めた。僕が集めていた蒐集品のなかに、グリモワールがあるのを知っていたのか、せがまれてそれを与え、気づけば彼女は箒で空を飛べるまでに成長していた。



魔理沙本人から、家出をしたと聞いた。
霧雨道具屋は魔法の品を扱わない。親父さんが魔法嫌いのためだ。
なので、何か言われる前に出てきた、とのこと。
確かに口論になるだろうが、あの人は魔理沙に家を出ていけとは言わない筈だ。
でも、親子そろって頑固な二人だ。どちらも妥協せず、結局魔理沙は家を出ただろう。
僕は魔理沙に、なぜ魔法を勉強し始めたのか、その時になって初めて問いだした。

「私のせいで変わっちゃうのが、怖いだけだぜ」

奥方が亡くなった事によって、人の死を身近に感じた彼女は、守りたかったんだろう。
人間は弱い。半妖の僕も戦闘能力はない。奥方が亡くなった時、亡くす事の大きさを知った彼女は、亡くすことを恐れた。
幻想郷では、不幸な事故によって命を落とす人が多くいる。理不尽な死が身近にある。
日常が簡単に無くなってしまうものだと知ってしまったから、それを守りたかったんだろう。
だけど、魔理沙はまだ子どもだ。幻想郷は一人で生きていけるほど優しい世界ではない。何かと困ることがあるだろう。
僕は彼女の力になろうと決めた。たった一人の妹のような子だ。この子のために僕がやれることをすべてやるんだ。

まずは、霧雨道具店に行って魔理沙が無事だと報告しようと思う。





* * *

霖之助が魔理沙のお父さんをなんて呼んでたか教えてくれた方々に感謝!



[20277] その1 vs霊夢
Name: クイックル◆bad3b9bc ID:b764bb8a
Date: 2010/07/20 04:11
とりあえず、箒を霧の湖に向けた。
紅魔郷本編では、たしか最初はルーミアと戦うんだっけ。
ルーミア……ゲームではあそこで初対面なんだけど、人里の近くにも出て来るから普通に面識あるんだよなあ。
本編では霧の湖にも行った事ないんだっけ?
私、紅魔館に入ってないけど、普通に門まで行ったことあるぜ。
うーんと、美鈴と咲夜とも一応面識あるし。
……まだ誤差の範囲内だよね?
そんなに原作から離れてないよね?

「あら、魔理沙じゃない」

「あれ? 霊夢?」

霧の湖へ行く道中、霊夢とばったり出会った。

「異変だぜ!」

「見ればわかるわ。まさか、あんた異変解決に向かってるの?」

「もちろん! 霊夢もそうだろ?」

「異変解決は巫女の役目よ。あんたは家で震えてなさい。弱いんだから」

「なにおう! 私だって努力はしてるんだぜ?」

「……知ってるわよ。でもあんたは来ちゃダメ」

「えー! 横暴だぜ」

「いいから! あんまり言う事聞かないんだったら……!」

「へへっ! いつまでも弱いままの私と思うなよ!」

揉め事はスペルカード決闘方で。
まだ幻想郷全体に浸透してないけど、私と霊夢は小さい頃からやってきた。
まあ、一度も勝ったことはないんだけど。
宙空に対峙して距離をとる。
同時に右手を動かし、それぞれのスペルカードを構えた。

「魔符『スターダストレヴァリエ』!」

本家の威力には程遠いだろうが、私の魔力でも作り出せた『魔理沙』のスペル。
私の周囲に魔力が満ち、小さな星型の弾幕が無数に取り巻き四散される。
普通の妖怪なら、このスペル一枚で撃退できる。と思う。多分。
でも霊夢は難なく私の弾幕の隙間を低速で掻い潜り、まっすぐこっちに向かって飛んできた。

「霊符『夢想封印』!」

掲げられたスペルカードから、色とりどりの弾幕が生み出されていく。
一瞬、狙いを済ますように霊夢の周りをぐるりとまわってから、一気に私に殺到してきた。

「いつまでも同じスペルで私に勝てると思うなよ!」

箒を握り直し、殺到する前方の弾幕をキッと睨みつける。



「……ん?」

目が覚めた。

「……あ、負けちゃったのか」

また私の負け、みたいだ。
霊夢はホント、鬼のように強い巫女だ。いや、原作だと鬼以上に強いのか。
私が弱いのもあるけれど、まったく。
辺りをざっと確認すると、私は適当な大きさの木の根元に放置されていたみたいだ。
まだ紅霧が晴れていないことから、異変解決に間に合うと思って安堵した。

「あーあ。…霊夢は心配性だな」

倒れていた私の上に浮かぶ紅白の陰陽玉を見てつぶやく。
これ、博麗の秘宝じゃないっけ?
意識のない私のお守りとはいえ、異変の最中に秘宝を置いて行くなよ。

「って、これ置いて行くのはまずいんじゃないか?」

あの霊夢が負ける姿を想像もできないけど、それでも自分の武装の一つがないと苦戦するだろう。
急いで起き上がり、宙に浮く紅白の陰陽玉を手に取る。
私が手に取ると陰陽玉は力を失ってずっしりと重くなった。
急いだ方がいいだろうか。まだ遠くに行ってなければいいんだけど。

「あなたは食べても良い人類?」

と、後ろから声を掛けられた。

「なんだ、ルーミアじゃないか」

「あれ、マリサ? こんな所で何してるの?」

振り向くと、両手を横に広げたいつもの奇妙なポーズで宙に浮かぶルーミアが。
あの封印のお札を取ると、EX化すると噂の……。
よかった。普通にお札のリボンは付いてる。

「ちょっとこの、紅霧の異変を解決しに行くところだぜ。なあ、博麗の巫女を見なかったか?」

「巫女?」

「すっごい強い人間」

「あー。さっき私のこと弾幕ごっこでボコボコにした人間?」

「たぶんそうだ。どっちに行ったか知らないか?」

「うーん。霧の湖の方だから、多分あっち」

「あっちか。ありがとなルーミア」

なにかお礼できるものはないかとポケットに手を突っ込むと、自作の飴玉が数個でてきた。
砂糖水を煮詰めて丸めた簡単なものなのだが、頭を使う時などに重宝している。

「お礼だ。とっておけ」

「わー。ありがとー」

ルーミアに一個渡し、自分も一つ口に入れる。
ルーミアは口に含んだ途端にガリゴリ齧って食べていた。

「じゃあまたな!」

トレードマークの魔女帽子をかぶり、箒に乗って飛び立つ。

「ちょっと待って」

「ん、どうした? まだ飴欲しいのか?」

浮かび上がったところでルーミアに袖をひかれた。

「私も一緒に行っていい?」

ニコニコと純真そうな笑顔。
この顔だけ見ると、とてもこいつが人食いの妖怪だとは思えないな。

「異変の最中は妖精が騒いでいるから危ないぜ?」

「そーなのかー?」

「怪我するかもしれない」

しかしルーミアは袖を離そうとしなかった。

「マリサも危ないよ?」

「私はお前よりも強いからいいんだよ」

「聞き捨てならないなー」

ルーミアは笑顔だけど、ちょっと引き攣っているように見えた。

「まあ、付いてくるのは構わないぜ。帰りたくなったら勝手に帰れよ」

「うん!」

能天気そうな笑顔でにこーっとルーミアは笑った。
同行を拒否する理由もないので、好きにさせる。
ん? また原作と違う形になってないか?

「どうかしたー?」

……まあいいか。

「なんでもない。さ、行くぜ!」

「おー!」



* * *

原作のルーミアを意識して書いてみました。
違和感あったら書きなおします。
矛盾点などもあれば随時書きなおしていきます。



[20277] 閑話2 ツンデ霊夢
Name: クイックル◆bad3b9bc ID:b764bb8a
Date: 2010/07/16 14:03
Side 博麗霊夢

魔理沙と出会ったのは、まだ私も魔理沙も小さかった頃。
参拝に来ていた魔理沙は、私が一人で神社に暮らしているのを知ると、母親と一緒に神社に通うようになった。
危ないと言っても止めないので、とびっきり強力な護符を押しつけた。

魔理沙の母親が死んだあと、もう魔理沙は来ないのだと思った。少し寂しくなった。
しばらくすると箒に跨り空を飛んで、神社に来るようになった。魔法使いみたいな格好をして、魔法を勉強し始めたと言う。

「これで霊夢と一緒に飛べるぜ!」

と阿呆みたいに喜んでいた。
弾幕を作れるようになったようで、よく弾幕ごっこで遊ぶようになった。魔理沙は弱い。
正直、センスがない。本人に言ったら泣くから言わないけど。

家出をしたなら、ウチに来ればいいのに、魔法の森で一人暮らしを始めた。
よく妖怪の知り合いを作って、そいつらの手伝いをしている。
魔理沙は馬鹿だ。馬鹿だけど、優しい。
弾幕ごっこも強くないし、意外と怖がりだ。
だけど、どんな妖怪にも友好的に接し、気づけば仲良くなっている。

「霊夢の方がすごいぜ」

「そうかしら?」

魔理沙は意外とすごい奴だけど、本人は自覚していない。
なんにでも一生懸命で、見ていて面白いと思う。
霧雨魔理沙は私の友人だ。

* * *

時系列がバラバラですね。
見づらかったら修正します。



[20277] その2 vsチルノ
Name: クイックル◆bad3b9bc ID:b764bb8a
Date: 2010/07/16 14:01
ルーミアを箒の後ろに乗せて、紅霧に包まれた空をビューンと飛ぶ。
『魔理沙』の代名詞であるパワー&スピード。
私には両方備わっていなくて、どちらかと言うとテクニック&ラックだ。
それでも唯一、霊夢よりは少しだけ移動速度が速い。ステータスの星1個分くらい。
結構速いんだぜ? 木端妖怪を振り抜けるくらいには。

「なんか寒いな」

「そーなのか?」

霧の湖の上をしばらく飛んでいると、辺りがだんだん寒くなってきた。
確か次はチルノだったから、その予兆なのかもしれない。
それにしても、道中思ったほど騒いでいる妖精はいなかった。
多分霊夢が殲滅していったからだな。草木一本も残さない気か、あの巫女は。

「マリサ、寒いならくっつこう」

「おっと、大丈夫だ。しっかし、この湖、こんなに大きかったか?」

ルーミアが箒の後ろからギュッと抱き付いてきた。少し暖かくなったが、それ以上に私のことを気遣ってくれたのが嬉しかったりする。かわいい奴め。
湖も中間くらい渡った。原作ならそろそろ出て来る頃だろうけど、全然現れない。

「マリサ、あれ」

「あれは、弾幕か?」

遠目に見えるのは、青いワンピースを着た青い髪の毛の女の子。
妖精にしては強い力を持つ、自称最強の氷精⑨。
チルノだ。私はまだ面識がないので、初対面の相手となる。
大分距離があるので、まだ気付かれていないみたいだ。
何もない場所に向けて弾幕を放っている。なにしてるんだ?

「妖精か。あの様子を見る限り、弾幕ごっこは避けられないぜ」

「……でもあの子、泣いてるよ」

泣いてる? チルノが?
私の目からは小さい青い点にしか見えないが、ルーミアの目にははっきりと表情まで見えているらしい。

「どうしてだ?」

「さあ。でも、落ち込んでるみたい」

泣きながら虚空に向かって弾幕を放っているのか。あいつは。

「とにかく近づくぜ」

「うん!」

さっきよりも少しスピードを上げ、急いでチルノの元へ飛んでいく。
ルーミアは振り落とされないように私にギュッとしがみついた。



「……なによ、あんたたち」

近くに来ると、チルノは乱暴に目をこすってキッと私たちを睨みつけてきた。

「霧雨魔理沙だぜ」

「私はルーミア」

「あ、あたいはチルノ……。って、名前を聞いてるんじゃないわ!」

む。なんだかこのチルノ、⑨っぽくないぞ。

「お前なにしてるんだ?」

「見てわからない? 特訓よ、特訓!」

「特訓?」

「そうよ! あの鬼巫女にぎゃふんと言わせてやるんだから!」

「あー……」

なんとなく察した。
霊夢に弾幕ごっこでボコボコにされたから、落ち込んでたんだな。

「なんで特訓してるのー?」

ルーミアが能天気にチルノに訊ねている。
チルノはちょっと言葉に詰まったようだが、すぐにこっちにかみついてきた。

「あたいが最強だって、あの巫女に認めさせてやるの! 一回勝ったぐらいで良い気になんてさせないんだから!」

「そーなのかー」

チルノの目がウルッと水気を帯び、辺りが一層寒くなってきた。
つまり、霊夢に負けたのが悔しくて特訓してる、と。
うんうん。私も霊夢にはいつも負けてるからな。気持ちはすっごいよくわかるぜ。

「それよりも、なんなのよあんたたちは! あたい今機嫌が悪いんだから、さっさといなくならないと痛い目みせるわよ!」

「まあまあ、落ち着けってチルノ」

「なんであたいの名前を!?」

「自分で名乗ってたよー?」

うーん、機嫌が悪そうでちょっと怖いけど、やっぱ⑨か。安心した。

「つまりあなたもあの巫女に負けたのね。私もさっきボコボコにやられちゃったんだー」

ルーミアが慰めるようにチルノに言う。
よく考えたら、私もボコボコにされたから、ここにいるのは霊夢にやられた集まりか。
ん? じゃあ今のところ霊夢は、
1ボス 魔理沙
2ボス ルーミア
3ボス チルノ
と戦ってるのか。……私が1ボスか。この中じゃ一番強いと思うんだがなあ。

「ふんっ! だったら何よ! バカにしに来たわけ?」

チルノの目がウルウルと潤んで、今にも泣きそうだ。

「そんなんじゃないって。おい、メソメソするなよ」

「してない!」

「でも泣きそうだよ。大丈夫?」

「ち、違うもん! 適当な事言わないでよ!」

言いながら、堪えきれなくなったのか目からポロポロと涙をこぼしている。
私とルーミアは2人して慌てて、チルノはそんな私たちを泣きながら睨み続けている。

「な、泣くなって! 負けてそんなに悔しかったのか?」

「な、泣いてない! それに、あたいは負けたことなんて、一回もながっだんだ!」

……負けたことがない?
いやいや、いくらチルノが妖精の中で一番強くても、妖怪だってウジャウジャいるんだぜ?
チルノはグイッと涙を拭い、私を睨みながら叫ぶ。

「あたいは、最強だ! あの巫女にだって、勝てるんだけど、ちょっと油断しただけなんだ!」

チルノの言う事を信じると、私やルーミアより悔しい思いをしているんだろう。
今まで最強だと信じて疑わなかった自分が揺らいでるんだ。

「と、とりあえず泣きやめ! な?」

「だがら゛、泣゛いてない゛!!」

ルーミアはおどおどして何も喋らないし、チルノはますます泣くし……。
とりあえず、チルノを泣きやませたい。
なにか喜ぶものは……。弾幕ごっこ?
あ、そうだ。良い考えが浮かんだぜ!

「……あーあ、なんだ、残念だなー」

「?」

隣に浮いていたルーミアが、訝しげな顔で私を見て来る。

「この湖には最強の妖精がいるって聞いてたのに、どこにもいないじゃないか」

「!?」

チルノが一層強く睨みつけて来る。
ルーミアが不安そうに私を窺う。私はその視線を受けて、ルーミアに小さく頷いた。
ここは任せろ。

「まあ、妖精のくせに最強なんて、いるわけないかー」

「な、あたいをバカにする気!?」

よしよし、食いついてきた。

「へえ、チルノは最強の妖精を知ってるのか?」

「知ってるも何も、さっきから言ってるじゃない! あたいが最強よ!」

「ははは、何言ってんだ。そんなわけないだろ」

「むー! あんたこそ何言ってんのよ! 話聞いてなかったの?」

「だって、ここには泣き虫の妖精しかいないじゃないか」

「ッ!!」

辺りの空気が一段と冷えた。

「こーんな泣き虫が最強? そんなわけないだろ。なあ、ルーミア」

「え、私? う、うーん。そ、そうだねー」

なんとか私の意図に気づいてくれたルーミアが調子を合わせてくれる。
ごめんな、ルーミア!

「……なによ」

夏だというのに、辺りは随分と冷えてきた。

「なんなら、あんたたちで証明してみる? あたいが最強だってこと」

その目にはさっきまでの弱気な姿はなく、そこにいるのは一人の氷精だった。
氷のような冷たい視線に、殺気にも似たプレッシャー。
自分を最強だと疑わない、強い自信が勝気な瞳からうかがえる。
あれ? なんか、やっぱこいつ普通に強そうじゃないか?

「お、おうよ。見せてほしいな。その最強の妖精ってのを」

「ふんっ! 後悔しても、遅いんだから! 氷符『アイシクルフォール』」

「ただの妖精に負ける私じゃないぜ!」

啖呵を切ると同時、空気を割いて殺到してくる氷の塊を避ける。
箒を下に向け、急降下。さっきまで私の頭があった地点を氷が突き抜ける。
弾幕が速い。というか、こいつやっぱ強いぞ!

「月符『ムーンライトレイ』」

一瞬隙ができた私に向かってくる氷塊を、ルーミアが撃ち落とす。

「っ、サンキュー! ルーミア!」

箒を上下左右、複雑に向け、殺到する氷塊を避け続ける。
誰だよ、正面安置なんて言ったのは!
難易度Lunaticじゃないか!
アイシクルフォールはNormalまでだろ!

「すばしっこい人間ね! じゃあ、これはどうかしら? 雹符『ヘイルストーム』」

さっきよりも一層密度の濃い弾幕が展開され、驚愕しっぱなしの見開いた目が渇いてくる。
ちくしょうめ。
夏なのに辺りは冬のような寒さで、さっきから手がかじかんでカードを取り出せない。

「マリサ、降りるね」

ルーミアが箒から飛び降り、弾幕の嵐にその身をさらす。

「ルーミア、なにを」

「闇符『ディマーケイション』」

ルーミアの弾幕が、チルノの弾幕とぶつかりあい相殺していく。
その隙に私は、急いでスペルカードと八卦炉を取り出した。
八卦炉に魔力を送り込み、熱のバリヤーを張って寒さを和らげる。

「まったく、好き勝手しやがるぜ!」

けっこう、油断してた。
チルノ程度には負けないと思ってたから。
けど、その油断がいけないんだ。
私は弱い。霊夢も言ってたじゃないか。私は弱いんだ。
傲慢になってはいけない。私はいつも挑戦する立場の人間なんだ。

「凍符『パーフェクトフリーズ』」

「ルーミア、さがれ!」

「あーれー」

ルーミアの首根っこを掴んで無理矢理引き下げる。気の抜けるような声を残してルーミアは下がってくれた。
眼前に展開された、無数のカラフルな弾幕を避ける。
大丈夫、見える! 速い弾幕だけど、まだ余裕をもって避けられる。

「ぅおっ!!」

突然、世界が凍りつく。
弾幕は急に色を失い、静止した。私はあわてて急な姿勢で止まる。
周囲をぐるりと囲むチルノの弾幕。
やばい、さっきチルノは何のスペルを使ってたっけ? 聞いてなかった。

「良い反応するのね。これは避けられる?」

チルノの声が聞こえる。同時に、制止していた弾幕が蠢き始める。
縦に横に、規則性のない動きは読み取ることが難しい。

「っ、だが、この程度なら!」

霊夢の弾幕に比べれば、ぬるいぜ!

「魔符『スターダストレヴァリエ』!」

私のスペル宣言と同時に、辺りの弾幕を食い破り星型の弾幕が生まれた。

「人間のくせに、スペルカードを使えるのね!」

「お前こそ、妖精のくせに強いじゃないか!」

星型の弾幕が殺到し、チルノはいくつか被弾しながらも平気そうな顔で私の前でスペルカードを取り出した。

「ラストスペルよ!」

「私もこいつで終わりにしてやるぜ!」

互いに牽制の弾幕を放ち、距離を詰める。
先にスペル宣言したのは、チルノだった。

「雪符『ダイアモンドブリザード』」

チルノの背にある6枚の氷の羽が光を放ち、羽の一枚一枚から弾幕が放たれた。
小粒の弾幕が、無数に。それこそ雪の嵐のように舞う。
避けた弾幕が湖に着弾すると、高い水飛沫を上げた。見た目に威力が釣り合ってない!
とんでもない速さで、嵐のように殺到してくる弾幕。
私はその嵐の中を、ただ一点。チルノ目指して突き進む。
身を屈め、箒にしっかりと体全体でしがみつき、右手は八卦炉から離さない。

「これで終わり!」

チルノの背にある6枚の氷の羽が、一層光を放ち更に密度を上げる。

「ああ、終わりだぜ」

まるで壁のような密度で氷の弾幕が迫ってくる。
上下左右、私を囲む空間の何処にも逃げ場はない。

「お前がな! 偽恋符!」

箒から上体を起こす。
手を離し、両手で八卦炉をグイッと眼前に掲げ、弾幕の向こうのチルノを狙い撃つ。
頬の横をギリギリ氷の弾幕が通り抜け、肝を冷やすが私の宣言は終わらない。

「『マスタースパーク』!」

「ッ!」

魔力を八卦炉へ、目一杯送り込む。
八卦炉から目を覆う程の極光が生まれ、放たれた光はチルノと周辺の弾幕すべてを飲み込んで消えた。

「やったか!?」

やってないフラグ。
安堵からか、バカなことを言ってしまった。

「っけほ」

光が止むと、服が少し焦げたチルノが、平気そうに浮いていた。

「うえ、なにアレ。眩しかっただけじゃない」

……やっぱ幽香の言ってた通り、威力ないなー。
近くじゃないと意味ないって言われたから、こんなに近くまで来たのに。

「スペルブレイクだ。私の勝ちだぜ!」

早々に勝利宣言。情けないと思うなよ。一杯一杯なんだ。

「うう。……でも、あたい全然痛くなかったんだけど……」

「負けたのに言い訳は無しだぜ」

「マリサ、無事?」

「おう、ルーミア! 私の勝ちだ。な、チルノ」

「……でも納得いかないわ! もう一回勝負よ!」

「疲れたからもう嫌だ」

「な! なによ!」

とりあえず、チルノの気を晴らせたみたいで良かった。
ていうか、チルノめっちゃ強いじゃんか。負けそうだったぞ。

「むきーっ!!」

「まあ落ちつけよチルノ。今暴れても結果は変わらないぜ?」

むきーって。さるか。
いま再戦すると多分負けるので、これ以上刺激しないように諌める。

「それと、悪かったな。お前、すっごい強いじゃないか」

「え?」

「自分で最強って言ってたのもわかるぜ」

「で、でもあたい負けちゃったし……」

「なんだ、負けたらもう最強になれないのか」

「あたりまえじゃない! 最強は負けないのよ!」

「じゃあ、勝てばいいだろ」

「だから、あたいは特訓して強くなるの!」

「うんうん。これ以上強くなったら大変だな。本当の最強になっちゃうな」

「そうよ! あの鬼巫女だって見返してやるんだから!」

「じゃあ、今負けて良かったじゃないか」

「……なんでよ」

「今以上に強くなるって思えたんだからな。チルノは最強に近づいたんだぜ」

井の中の蛙じゃダメだぜ。
霊夢も強いが、他にも強い奴がいっぱいいるんだ。
私も、チルノ程度って考えてたのを改めないと。

「最強に、近づく?」

「ああ。今は最強じゃないんだろ? なら、最強になればいいんだよ」

言って、近づいてポンポンと頭を撫でてやる。

「負けてすぐ立ち直る強さがあるんだからさ、チルノはきっと最強になれるぜ」

落ち込んでても、強くなるために特訓してたからな。
少なくとも、弾幕ごっこじゃなかったら私以上に強いぜ。
あれ、ルールのおかげで勝ったようなものだから。

「……へへ、じゃあ、まずはマリサを倒さなきゃね!」

うん?

「あたいに勝ったマリサの方が、今はあたいより最強なんだから!」

「おいおい、勘弁してくれよ。私はもう疲れたんだから今度にしてくれ」

チルノはにっこりと童女のような笑みを浮かべ、ぐっと拳を握って私の前に突き出した。

「あたいとマリサは、いわゆるライバルよ! 次は私が勝つんだからね!」

もう落ち込んでる様子はないので、結果は良かったんだけど、なんかライバル認定されてしまった。
私はただ引き攣った笑みを浮かべ、原作通りに進んでない事をこっそり嘆いた。

「じゃあ私はー?」

「ルーミアは友達!」

「わー。妖精の友達ははじめて」

「ただの妖精じゃないわよ。あたいは最強になるんだから!」

まあいいか。
まだ誤差の範囲内だぜ。多分。

* * *

初戦闘描写。すっごい難しい。
マスタースパーク(笑)
形だけの物真似で、威力のないショットガンみたいなものです。
それか口の壊れた水鉄砲ってところです。

次回は閑話。



[20277] 閑話3 さいきょーの妖精
Name: クイックル◆bad3b9bc ID:b764bb8a
Date: 2010/07/18 04:08
Side チルノ

天気のいい日だ。
あたいは冬が一番好きだけど、こういう天気のいい日も大好きだ。
気持ちがふわふわっとして、意味も無く散歩に出かけたくなる。

空は気持ちいい。氷精のあたいは熱いのが苦手だけど、高く飛ぶと風が冷たくて気持ちいい。
気持よく空を飛んでいると、下の方におっきい人間とちっさい人間が歩いているのが見えた。
ちっさい人間は、おっきい人間と手をつなぎながら、もう片方の手で布の袋を大事そうに抱えていた。
おっきい人間は、それをニコニコとしながら見つめている。
うん、なんか良いな! なんかわからないけど、心がポカポカする。
ちっさい人間が楽しそうにおっきい人間に話しかけて、おっきい人間はニコニコ笑いながら頷いている。
ちっさい人間の、ふわふわの蜂蜜みたいな金の髪が、風で楽しげに揺れる。
おっきい人間がその頭にそっと手を置いて撫でる。

「チルノちゃん、何か面白いもの見つけたの?」

親友の大ちゃん(だいようせいなので大ちゃん。だいようせいが何かはしらん!)がニコニコしながら私と同じものを見つける。

「ふふっ。人間の親子だね。人里から離れてるのにこんな所で見るなんて珍しい」

「おやこかー。あいつらたのしそうだなー」

「だって親子だもん。おっきいのが母親で、小さいのが娘っていうんだよ」

「おー。あたいも大ちゃんと一緒にいてたのしいぞー」

「うん。私も楽しいよ!」

「おやこか?」

「私たちは親子じゃないよ、チルノちゃん」

「えー。おやこって、じゃあなんだ?」

「うーん。難しいな。私たちは妖精だから、親も子もないし」

「ふーん」

「やっぱあの人たちみたいに、一緒にいて楽しい事かな?」

「じゃああたい達もおやこか」

「うーん、難しいね」

「うん」

「でも私たちは友達だから、どっちも母親じゃないでしょ?」

「む。そうだね」

「親が、命を掛けてでも子どもを守りたいって思える関係。それが親子、かな」

「ふーん。さいきょーか」

「う、うん。そうだね」

大ちゃんの話は難しいけど、あたいに一生懸命教えてくれる。
うれしいけど、バカなあたいにはよくわからない。少し申しわけない。

「あいつら、どこに行くんだろう?」

「あっちは……神社かな」

「神社?」

「えっとね。なんか、すごく強い人間がいる所だよ」

「へー」

あたいは神社になんか興味なかったから、その話はそれっきりにした。
それにしても、あのおやこの様子を見ていると、あたいも楽しい気分になってきた。

「よーっし! 大ちゃん! 湖まで競争しよう!」

「え、チルノちゃん!?」

「よーいドンッ!」

返事を聞かないで全力で飛ぶ。
大ちゃんが大分後ろの方で、「もー! チルノちゃん待ってよー!」っと叫んでいるのが聞こえたけど、あたいは聞こえないフリしてどんどんスピードを上げた。



あのおやこを見た時から、なんとなく気になって何度かまたその道に行くようになった。

「今日はこないのかな」

木の陰から様子を窺う。

「チルノちゃん。またここに来たの?」

木よりも高い位置から声を掛けられた。

「大ちゃん」

「そんなにあの親子が気になるなら、人里の近くに行ってみたらいいじゃない」

「人里の近くって、どっち?」

「あっち。本当に行くの?」

「うん。なんか気になる」

「そう」

大ちゃんはニコニコしながら私に手を差し出す。

「じゃあ、一緒に行こっか」

「うん!」

あたいは大ちゃんの手を握って空に浮かび上がった。

「あ、あれ。チルノちゃん、あれって前の親子じゃないかな?」

いざ行こうって時になって、あのおやこが遠くに見えた。

「ホントだ!」

「ねえ、なんでチルノちゃんはそんなにあの親子が気になるの?」

「んー?」

なんで、とか、理由を考えたことはなかった。
ただ何となくポカポカするからなんだけど、上手く言葉にして伝えられない。

「えっとね、見てて気持ちいいんだ」

「気持ちいい?」

「うん! 胸がポカポカして、嬉しくなる!」

「そっか。多分それは、和んでるって言うんだよ」

「ふーん。じゃあ、おやこを見ると和んでるするんだ!」

「ふふ、そうだね」

私たちは空を飛んでおやこに見つからないように上の方から、二人の様子をみていた。

「たしかに、チルノちゃんの言う通り和むねー」

「な! 和むするだろ?」

大ちゃんなんて、お花を見てる時みたいに目尻を下げてニコニコしている。
私もきっと似たような表情なんだろう。

「あ、ねえ大ちゃん」

「なあに、チルノちゃん?」

「母親が急に寝たよ?」

ちっさい娘の人間が、おっきい母親の人間に縋りついて何か叫んでいる。

「わっ! 大変、あの人、倒れたんだよ!」

「え?」

急に大ちゃんが慌てて、あたいはビックリしてしまう。

「ど、どうしたの、大ちゃん?」

「チルノちゃん、あの母親、苦しんでるよ! 死んじゃうかも!」

「死んじゃう? 死んじゃうって何?」

「えっと、もうずっと何もできなくなることだよ! お話も、歩くことも、なんもできなくなって、いなくなっちゃうの!」

いなくなる?

「なあんだ、それならまた生まれたらいいじゃない」

「違うの、チルノちゃん。人間は死んだら、もう復活しないの。私たちとは違うんだよ」

「え?」

いまいちピンとこない。
つまり、どういう事なんだろう。
下の方ではちっさい人間が、おっきい人間に縋りついて泣いていた。

「人間はね、死んだら消えちゃうの。もう終わりなの。幽霊になる人間もいるけど、でもそれって元通りにはならないの」

「消えちゃう?」

下のちっさい人間がうるさい。
大ちゃんの言っていることに集中できない。

「私たちとは、違うから」

「あたい達と、違う……」

なんか、ぽっかりと心に穴が開いたみたいだ。
大切にしていた雪うさぎが、春と共に崩れて行くような、そんな感じをおっきくしたような。

「……行こう、チルノちゃん。もう帰ろう」

大ちゃんはなんだか元気がないみたいだ。
下では人間の声がまだ聞こえる。なんて言ってるかわからないけど、叫んでるみたい。

「待って、大ちゃん。あたい達が帰ったら、下の人間はどうなるの?」

「それは……っ!」

大ちゃんは言葉に詰まったように言い淀んだけど、しっかりとあたいに教えてくれた。

「多分、妖怪の餌になっちゃうんじゃないかな。あの女の子、強力な護符持ってるみたいだけど、人間の里からも神社からも遠いもの。囲まれたら逃げられないわ」

「……」

それは、なんか嫌だ。

「ほら、森のあの辺りに妖怪の気配がするもの。ね、早く帰ろう?」

「……」

別に、何か特別な事なんてなかったけど、それでも和むをくれたおやこが、見てるだけでポカポカする、あたいと大ちゃんみたいな仲良しのおやこが、そんな最後なのは、なんか嫌だ。

「大ちゃん、神社の方にいって強い人間連れてきてもらえない?」

「え、チルノちゃん?」

嫌なものは、受け入れたくない。
あたいはわがままだ。わかってるけど、妖精なんだからしょうがない。

「あたいは、あの人間を守るよ」

「な、なんで!?」

「嫌なんだ」

「イヤ?」

「うん。あたい達みたいに仲の良いおやこがさ、あんなふうに呆気なく終わっちゃうのって、なんか嫌なんだ」

「チルノちゃん……」

「お願いしていいかな?」

「……うん! すぐ戻ってくるから、無理しちゃだめだよ!」

言うと、大ちゃんはすぐに神社があるって言ってた方に飛んで行った。
あたいはそれを見届け、小さい人間がまだ気づいていない内に妖怪のいる茂みに向かって飛び降りた。



「す、すごい! チルノちゃん、やっつけちゃったの?」

「いてて、うん」

羽を齧られたり、体中引っかかれたりしたけど、あたいは妖怪を氷漬けにすることができた。
大ちゃんは神社の強い人間を呼んできてすぐにあたいを探していたらしく、はあはあと疲れながらあたいに飛び寄ってきた。

「すごい! 低級妖怪でも、私たち妖精の手には負えないのに! こんな強そうな妖怪やっつけちゃうなんて!」

「大ちゃん、何言ってるのかわかんない」

なにやら興奮気味にあたいの肩を上下に揺すってくる。
あたいは正直すっごい疲れててちょっと気持ち悪い。

「あ、あの人間は無事?」

「うん、人間たちが保護したよ!」

「そっか、よかったー」

ふう、と息を吐いて、そこら辺の木の根元に腰かける。

「それにしても、すごいねチルノちゃん! 博麗の巫女も強いけど、チルノちゃんもすごいよ!」

「うー。あたい、喧嘩とかしたことなかったからよくわかんない」

「え、そうなの?」

「もう夢中で。いくら氷ぶつけても立ち上がるんだもん」

「そっか。怖かったでしょ?」

「んー、あんまり怖くなかった」

「へー。すごいなーチルノちゃんは! あ、でも、博麗の巫女もすごかったんだよ!」

「博麗の巫女?」

「あ、前言ってた神社のすっごい強い人間の事だよ」

「へー。なにがすごかったの?」

「えっとね、着いた時に襲われそうになってた女の子を、あっという間に助け出したの! 何匹も何匹も妖怪がいたんだけど、ほんとに一瞬で倒しちゃった!」

「え?」

襲われそうになってた?

「うん。あ、チルノちゃんが戦ってる最中の事だから仕方ないよ!」

あたい、守ってる気になって必死だったけど、意味なかったの?

「え、じゃあそのハクレイノミコって奴はこいつらを倒して、人間も助けたの?」

「う、うん。でも! 仕方ないよチルノちゃん! 私たち妖精と博麗の巫女は違うんだから!」

大ちゃんが必死にあたいに話しかけてくれるが、あたいはズーンと気分が沈んでいてそれどころじゃない。

「しょうがないの! 博麗の巫女は最強なんだから!」

でも、そんな声だけは鮮明に聞きとれた。

「……最強って、なに?」

「え、えーっと。強くて、負けない存在、かな」

強くて、負けない。
あたいが最強だったら、あの人間を一人で助けることができたんだろうか。

「チルノちゃんは妖精の中ではきっと最強だよ!」

「妖精の中では?」

「うん!」

「じゃあ、ハクレイノミコと比べたら?」

「う! そ、それはもちろん巫女の方が強いよ」

「なんで? あたいは最強なのに?」

「……違うの、チルノちゃん。チルノちゃんは最強だけど、相手が妖精の時だけ最強なの」

「なんで!? じゃあハクレイノミコは!?」

「博麗の巫女は……どんな相手にも負けないよ。だって、幻想郷の最強だもん」

「……ッ!」

イライラが高ぶって、背をかけている木に思いっきり頭をぶつけた。
ガンっと鈍い音がして、もともと少し切れていた頭の怪我が広がった。

「チルノちゃん!」

大ちゃんが慌ててあたいに駆け寄り、あたいの頭をギュッと抱いた。
頭はジクジクと痛むし、イライラはちっとも治まらなかった。

「大ちゃん」

「え、なに?」

「あたい、最強になりたい。幻想郷で一番最強になりたい。そしたら、あの人間も一人で助けられる?」



あたいが泣いたのは、その時が初めてだ。
大ちゃんも悲しそうな顔をしていたけど、あたいをギュッと抱きしめてくれた。
今思えば、大ちゃんには随分と苦労を掛けていた。
「そんなことないよ」って言ってくれるんだろうけど、大ちゃんには感謝しっぱなしだ。

「ふー、寒い寒い。この湖結構ひろいのね」

勉強も教えてくれて、一緒にスペルカードを考えてくれて。
あたいが最強になれるって、信じて応援してくれた。
今日、湖の周辺にやってきた紅白の人間を見つけ、大ちゃんから博麗の巫女だって聞いて、何も考えずに飛び出していった。

「道に迷うのは、妖精の仕業なの」

「あら、じゃああんたを倒せばいいのね?」

今日、あたいは初めて博麗の巫女に挑む。

「言っとくけどあたいは最強よ?」

「起きながら寝言を言えるなんて、大した妖精ね」

* * *

チルノが最強にこだわるワケと、少し強いワケ。
少し賢くて強いチルノって、どうでしょう。

まだスペカ制定前なので、妖怪が弱体化していき焦っている頃です。
この後、霊夢はスペルカード決闘法を発案します。
誰かさんの安全のために。

ひらがな多用で読みづらかったらすみません。



[20277] その3 vs美鈴
Name: クイックル◆bad3b9bc ID:b764bb8a
Date: 2010/07/20 04:20
紅霧異変以前。

「あら、面白い運命があるわね。咲夜、人里でなにか見つけたの?」

「はい?」

赤い月に浮かぶ、真っ赤なシルエット。吸血鬼の棲む館、紅魔館。
半月に照らされたテラスでは、館の主レミリア・スカーレットが優雅にグラスを揺らし、その傍には吸血鬼の館のメイド長、十六夜咲夜が控えている。

「人里で、ですか? そういえば、霧雨魔理沙という人間と出会いました」

「人間。霧雨魔理沙、ね」

吸血鬼は、その名前を口の中で転がすようにつぶやくと、視線を対面に座る友人に向けた。

「何を企んでいるの、レミィ」

七曜の魔女、パチュリー・ノーレッジ。
半開きの眠そうな目を本から離し、胡乱気にレミリアを見つめる。

「別に、大したことじゃあない。ふふ。ただ、上手くいけば今度の異変は、予想以上の成果があるかもしれない」

「異変? 初耳ね。何をやろうっていうの?」

「なに、ちょっと」

レミリアは背に生えた蝙蝠に似た翼を一つ羽ばたかせ、体中からその膨大な魔力の片鱗を噴き出す。

「日差しが鬱陶しいから、幻想郷を、私の霧で包んでやろうと思ってね。協力してくれるだろう?」

「……構わないわ。でも、あんまり騒がしいのは苦手よ」

「騒がしくないと、楽しくないじゃないか」

「レミィらしいわね。で、そのキリサメマリサがその異変にどう関わるの?」

「ふふ、さあ? 運命は常に変わり続ける。今見えた未来も、次に見える未来も、全く違うものかもしれない」

「運命を操る吸血鬼が何を言っているのよ」

「操れる訳じゃないさ。ただちょっと流れを変えるだけだ」

「何が違うって言うのよ。で、どうなるの?」

「せっかちだなあパチェは。カルシウムが足りてないんじゃない?」

「……そうね。じゃあ、目の前の吸血鬼からカルシウムを抜き取る方法でも調べようかしら」

「おっと、怖い怖い。そう怒らなくてもいいじゃないか」

「読みかけの本があるのよ。こっちの都合も無視して突然呼びだすんだもの」

「それはすまないな。パチェにとって読書は何にも替え難い有意義な時間だ。私とお話しするよりも、ずっと。ね?」

「……はあ。悪かったわ。悪かったから、早く話を進めない?」

「くく、いいとも」

レミリアはグラスをクイっと傾け、中の赤い液体を口に流し込む。
傍に控える咲夜は、いつの間にか手にワインボトルを持ち、レミリアのグラスにゆっくりと注いでいく。

「はっきりとは見えてないんだが、パチェに関わっている」

「私?」

「ああ」

グラスに注がれた液体を揺らし、吸血鬼は小さく微笑んだ。

「引きこもりが治るみたいだ。そして、笑顔が増える」

「そう。でも、興味ないわ」

「くく、異変時に彼女を館に招く。そして、その対応はパチェに任せる」

「……私はその人間に何をすればいいの?」

「別に、好きにすればいい」

「殺しても?」

「その時はそういう運命だっただけさ」

「ふぅん。……異変はいつ起こすの?」

「そうだなあ」

レミリアは、半月を見上げ、目を少し細めた。

「次の満月に。真っ赤な月がいいな」

* *

「え、異変解決に行くの?」

「おう。霊夢にばっかり良い恰好はさせないぜ」

「ふーん。あの鬼巫女と知り合いなの?」

「一緒に修行した仲だぜ!」

「えー。でもマリサより巫女の方が全然強いじゃない!」

それは思ってても言うなよ……。

「チルノ、ダメだよ。本当の事でも本人の前で言っちゃかわいそう」

「え、そうなの?」

「もう、お前らは! とにかく! 霊夢はあの赤い屋敷に行ったんだな?」

「あたい見たよ。巫女が門番ごと門をぶっ壊して入っていくの!」

「すごいなー」

「異変の時の霊夢はテンション上がってるからな……。あいつ結構派手なアクション好きだし」

いつの間にかチルノも連れて湖を通過し、私たちは紅魔館の前に到着した。

「わ、すごーい」

「これは……霊夢、やりすぎだぜ」

門の前に隕石でも落ちたのか?
大きく地面がえぐれていて、瓦礫が散乱している。
門柱のあった所が何処かもわからない。

「あ、マリサ。あそこに人が」

ルーミアが指さしたのは、クレーター状に陥没した地面の底にある瓦礫の山。
よく見ると確かに赤い髪の毛が隙間から垂れていた。

「あれは食べてもいい人間?」

「いや、人間じゃないと思うぜ」

「ねー、そんなことより先に行かないの? あたい先に行っちゃうよ」

チルノが急かすけど、この惨状を見る限り霊夢の無敵っぷりは陰陽玉がなくても健在だ。
正直、紅魔館のためにも陰陽玉を届けない方が良い気がする。

「一応、門番が無事か見てくるから待ってくれ」

一応、顔見知りの妖怪だし。
箒を瓦礫の山に向け、そっと降り立つ。
ルーミアは瓦礫に降り立たず、自分で浮いてチルノのいる方に行ってしまった。

「おーい、美鈴。生きてるかー?」

「……」

瓦礫の隙間から垂れさがっている赤い髪に向けて声をかける。
反応はない。
無理もないか。
いくら頑丈な妖怪とはいえ、ここまでやられちゃ立ち上がれないだろうぜ。

「……っぷはぁ! 死ぬかと思ったぁ!!」

「うわああ!!」

瓦礫の山を突き破り、真っ赤な頭が飛びだす。
思わず悲鳴を上げてしまったが、よく見れば美鈴だった。

「いててて、くそうあの巫女めっ」

「お、おい大丈夫か?」

パッと見ると、瓦礫に埋まっていたからか服は埃だらけ。だが大した怪我は無い。
すごい。どんだけ頑丈なんだ。

「あ、マリサさんじゃないですか」

「お、おう。それよりお前大丈夫なのか?」

「いえ、不覚をとりました。得意ではない戦い方とはいえ、あそこまで一方的にやられてしまうとは……!」

「いや、体の心配をね、してるんだぜ?」

「体が頑丈なのがとりえですから! 御心配には及びません!」

門が崩壊するほど攻撃されておいて軽傷って、どんだけ頑丈なんだよ。
妖怪って皆こんなに頑丈なのか? いや、ルーミアはそんなに頑丈に見えないな。
じゃあ美鈴は特別強いのか? というか美鈴ってなんの妖怪だ?

「失礼。ところでマリサさん。今日はどういった御用で?」

「おっと、忘れるところだったぜ。今日はこの館の主に用があってな」

「伺ってもよろしいですか?」

「おう。異変の首謀者を探しているんだが、どこにいるか聞いてみようと思うんだぜ」

「なぜ、紅魔館の主に?」

「そりゃあ、一番怪しいからだろ」

言って、箒に飛び乗り八卦炉を取り出し、スペルカードを取り出す。
グンッと急上昇して上空へ。
原作なら、いつでも戦闘が始まっていいタイミングだ。
美鈴は武術の達人だから、なるべく距離をとっておこう。

「あ、待って下さい!」

「んぉわ!」

上昇中、肩を引っ張られて急停止。
バランスをひどく崩すが、美鈴が後ろから支えてくれた。

「な、なんだよ!?」

箒から落ちそうになってドキドキしていたので、声が裏返ってしまった。

「いえ。ですから、構いませんよ、と」

「へ?」

構いません? どういうことだ?

「すでに主であるレミリア様からの許可は頂いておりますので。マリサさんが館に入るのは何の問題もありませんよ」

「な、なんで!?」

おいおい、おいおいおいおい。

「なぜ、と言われましても。レミリア様から既に聞いていた事なので」

「え!?」

私が来ることがわかっていた?
いや、レミリアは運命を操る程度の能力を持ってるからか。
でも、なんで私は招かれたんだ?
というか。

「納得できるかー!」

これじゃあまた原作から離れて行くじゃないか!

「そうだ! 美鈴、私と弾幕ごっこしよう!」

我ながら名案を思い付いた!

「は?」

「私が勝ったら、館に押し入るぜ! でも私が負けたら、その主に招待されてやる!」

どっちに転んでも、とりあえず館には入れる!
その上、3面ボスと戦ったという事実もできる!

「え、いや。それって変わらないんじゃあ」

「いいんだ! 私がやりたいだけだぜ! いいな!?」

「は、はい!」

よし! 美鈴も納得してくれた!

「もう! マリサったらいつまで待たせるのよ!」

「待ちくたびれたー」

ルーミアとチルノが、私に飛び寄ってきて文句を言う。

「わ、悪いな。ちょっと今、門番と弾幕ごっこしなきゃいけなくて」

「えー! あたいもやる!」

「私も手伝うよ?」

む、困ったな。
多人数で弾幕ごっこってできるのかな。
というか、こいつら連れて紅魔館入らないほうがいいよな。

「あ、お友達ですか?」

「おう。だけど、」

「なるほど。お友達は招待されていないので、押し入ると言ったのですね。ですが、お友達もご一緒で構いませんよ。館に入るのも、弾幕ごっこも」

いやいや、そういう事を言いたいんじゃなくてだな。

「あら? あたいとマリサとルーミアを一緒に相手する気?」

「はい。マリサさんの実力は知っていますし、私、本気になったら強いんですよ?」

「あはは」

「マリサ、頑張ろうね」

もう笑うしかない。

「ま、まてって! これは私と美鈴の決闘だろ! 困るぜ!」

いや、笑ってる場合じゃないって。
とりあえず、美鈴と二人で勝負させてくれ!

「私は構いませんよ。ですが、マリサさんが気になるのなら、こうしませんか?」

美鈴は地面に降り立ち、比較的平らな地面に足で一本線を引いた。

「あなたたちはスペルカードを5回私に撃ち、一回でも私がこのラインを超えて後退したら私の負け。さらに、スペルカードを避けても私の負け」

すごいや美鈴。あっという間に新しいゲームを作りだした。
スペルカードのルールも交えた見事なゲームだ!

「でもそれは弾幕ごっこじゃないだろ!」

弾幕ごっこがしたいんだよ、私は!
原作再現して乗り込みたいんだよ、私は!

「私は頑丈さには自信がありますから、あなたたちのスペルカードを全部受けきってみせます!」

「へえ、面白いじゃない!」

言って、チルノは地面に降り立ち美鈴を見上げた。
なんでノリノリになっちゃうの、チルノは。
ルーミアもその後を続いて降りて行く。
ああ、もう。



考えてみれば、一応これもスペルカードを使った勝負なんだから大丈夫だよね?
なんか今回が一番ギリギリのラインだけど、格ゲーにもなったんだから大丈夫だよね?
美鈴と距離をとり、私とチルノとルーミアは美鈴を見つめた。

「では、いつでもどうぞ」

地面に伸びた線の前に美鈴は構え、油断なくこちらを見つめている。

「最初はあたいが行くわ!」

手をピンと挙げて前にチルノが進み出る。
実は3人中、一番火力が高いのはチルノだ。最初にチルノが行って、敵わなかったらお手上げだ。
しかし、その行く先をルーミアが遮った。

「私から行かせてほしいな」

「ルーミア?」

ルーミアは、既にカードを持ち準備している。

「最強の出番は最後なんだよ?」

にこっと笑って、チルノよりも先に出た。
チルノはしぶしぶ、私の隣に戻ってくる。

「月符『ムーンライトレイ』」

ルーミアの手から闇を裂く2本の光条が生まれ、まっすぐに美鈴に向かう。
その光を追うように小さな弾幕も放たれている。これはかなりの威力を期待できそうだ。
しかし、相手は美鈴。
眼光鋭く、ルーミアのレーザーを睨みつけた。

「はァッッッ!!」

気合と共に吐き出された声は大気を震わせ、距離を取っている私の方にもびりびりと震えが来る。
そして、右手を突き出した。

「えっ!」

光線を、素手で割った!?
そして、弾幕を次々と叩き落としている。
ど、龍球みたいだ!

「あ、ダメみたいだ」

ルーミアも目を丸くして、スペルブレイクした。

「悪いけど、連続で行かせてもらうね」

「あ、ちょっと!」

チルノが文句を言いたげに一歩前に出たが、ルーミアは既にカードを取り出している。

「闇符『ディマーケイション』」

前方に殺到する多段の弾幕。
密度はさっきの比ではなく、一つ一つの威力も早さも段違いだ。
でも、美鈴は動じない。
ただ、強く地面を踏みしめ、両手を軽く広げた。
そして殺到する弾幕。
この数の暴力は、さすがに武術の達人でも捌けないだろう。

「あれ、やっぱダメかー」

「え?」

ルーミアが何か呟いたのと、先頭の弾幕がはじけ飛んだのは同時だった。
美鈴は両手で、弾幕一つ一つを殴りつけ打ち壊している。
その姿は、さながら夜叉のよう。

「いや、ゲーム違うでしょ」

思わず本音をこぼしてしまった。

「スペルブレイク。次は、だれですか?」

もくもくと土煙を上げる地面に、ゆらりと立つ美鈴の影。
ちょっと、とんでもない。

「へえ、あんた強いのね」

「いえ、それほどでも」

チルノが感心したように言い、美鈴は謙遜で返した。
というか、ルーミアも十分強いよね。
弾幕ごっこなら勝てたけど、妖怪退治はできないかも。

「ダメだったー」

「いや、よくやったと思うぜ」

完全に私はお荷物だろ。

「確かにあんた強いわ。でも、あたい最強だから」

「最強、ですか。怖いですね」

迫力のある擬音が聞こえてきそうなくらい、テンションの上がっている2人だけど、私はもう帰りたくなってきた。
パワーは魔理沙の代名詞なのになー。

「あたいをナメてると痛い目みるわよ?」

「ナメていませんよ。ですが、私は負けません」

美鈴め、チルノをナメてるな。
私も最初は舐めていたから、痛い目見そうになったぞ。
その油断、いただくぜ。

「雪符『ダイアモンドブリザード』!」

「っ!?」

妖精とは思えないほど、チルノは強いんだからな。

「はああああ!」

周辺に満ちる冷気と、光る6枚の羽根から射出される雪のような弾幕。
そしてさらにチルノ自身も手から弾幕を放ち、それらは一斉に美鈴を襲った。

「う、おおお!」

腕を十字に組み、足が地面にめり込むほど踏ん張り、美鈴はギリギリで耐える。
耐えるのか!

「っはあ!」

スペルブレイク。

「信じられませんね。ホントに妖精ですか?」

「まさか耐えきるとは思わなかったわ。あんた何者よ」

互いに探るように視線を交わしている。
うーん。3人中、最大火力のチルノが負けちゃったら事実上、負けだぜ。
でもあと2回、攻撃のチャンスはある。

「ようし、もう一度!」

「待て、チルノ!」

「ん、なに?」

チルノがスペルカードを取り出した瞬間、私にある考えがよぎった。
私に必勝の策あり、だぜ。

「次は、私の出番だぜ!!」



「え、それはいいの?」

「ルール上で明確じゃないだろ? なら、いいんだよ」

「なるほど! マリサったら天才ね!」

「それほどでもあるぜ!」

作戦を伝え、待ってもらっていた美鈴に向き直る。

「すまん、待たせたな」

「良いですよ。では、どうぞ」

言って、美鈴は構える。

「その前に聞いておくけど、八卦炉とかの道具は使っていいのか?」

「マリサさんは人間ですからね。いいですよ」

「よし、行くぜ!」

八卦炉に魔力を送り込み、美鈴を狙う。
美鈴は油断なくこちらの動向を見つめ、ただ静かに構えをとる。

「いくぜ! 共符『ムーンライトパーフェクトスターダストレイフリーズレヴァリエ』」

「おー!」

「さいきょー!」

「は!?」

後ろに控える2人が、私と一緒に一斉に弾幕を美鈴へ!

「ちょ、全員でなんて!」

「違うぜ! 私のスペルカードだ!」

叫びながら美鈴は両手を突き出してすべての弾幕を受ける。

「ぐうっ!」

「そして、まだ1回分の攻撃が残ってる!」

「鬼ですか!」

スペルブレイクと同時に、カードを取り出す。

「共符『ダイヤモンドスターダストディマーケイションブリザードレヴァリエ』」

「うわああ!!」



「いやあ、参りました」

美鈴が地面に深くつけた足跡は、ずるずると後退し、線を超えて止まっている。

「自信あったんですけどね、負けてしまうとは」

「ちょっとずるいかと思ったんだけどな」

「いえいえ、間違いなくあなたたちの勝ちですよ。スペルカード5枚で、きっちり私を線の向こうに追い出しましたからね」

服が埃まみれになった美鈴が笑う。それにしても、とんでもなく頑丈だな。
美鈴は本当にいい妖怪だ。正直、私の作戦なんて詭弁もいいところで、文句をつけられたら反論のしようもないのに。
それでも、私たちに気を使ってか、なんにも文句を言わずニコニコと微笑んでいる。

「やったね、マリサ。これで館に入れるの?」

ルーミアが笑いながら聞いてくるが、実は最初から入れたとは言えない。

「やっぱあたい達は最強ね!」

結局、私一人で弾幕ごっこしても勝てそうになかったし、その点では2人に感謝だ。

「ありがとな、2人とも」

ん?
何か忘れているような。

* * *

原作を思い出せ、魔理沙!
とうとう出ましたオリジナルスペカ。
オリジ…ナル……?
実はマスパよりレヴァリエの方が威力が高い魔理沙。
動きの描写ってすごい難しい。
会話する人が多いと、誰が喋っているのか分からなくなりそうです。



[20277] その4 vsパチュリー
Name: クイックル◆bad3b9bc ID:b764bb8a
Date: 2010/07/20 04:28
紅魔館の中には惨状が広がっていた。
それがすべて、たった一人の人間によって行われたとは、だれが信じるだろうか。
楽園の巫女、博麗霊夢は、一通りフロアの妖精メイドを力ずくで沈め、静かになった廊下に浮かんでいた。
その独特の巫女装束の袖から紅白の陰陽玉を取り出す。握る手に僅かに霊力を込め、ぼうっと光らせながら何かを探るように軽く目を閉じる。

「あのバカ。結局着いちゃったのね」

目を開いて、イライラと独り言を呟き、ぐっと陰陽玉を握る。
博麗の秘宝である、この陰陽玉は2つで一つの性能を誇る。
そのため所有者は、片方を持っていれば、もう片方がどこにあるのかある程度わかるのだ。
魔理沙が持つ紅白の陰陽玉の位置を、霊夢は正確に探り、それが館の門の前にある事を知った。

「なんで大人しく帰らなかったのよ……っ」

イライラした声で呟き、陰陽玉を袖にしまう。

「こうなったら、さっさと異変の首謀者をとっちめてやるしかないわね」

まったく、と霊夢はため息をついた。

あんまり心配かけさせるんじゃないわよ。



一通り喜び合った私たちは、微笑ましそうにこっちを見る美鈴を見て恥ずかしくなったので先に進むことにした。

「おほんっ。それじゃあ押し入らせてもらうぜ!」

「ええ、お通り下さい」

箒に跨り、宙に浮いて美鈴の頭上を通過する。
私の後ろをチルノとルーミアは当たり前のようについてくる。

「ここは紅い悪魔の棲む館。どうぞ、お気をつけて」

美鈴の声を後ろに置き去りに、私たちは門の跡地を超えて中庭に侵入した。



「役に立たない門番ね」

「あはは、すみません咲夜さん」

いつの間にいたのか、美鈴の後ろに立つのはメイド服をきっちりと着こなした銀髪の少女。
美鈴は、ちょっと驚いて振り返る。

「お客様に負けて押し入られるなんて、お嬢様にはなんて報告すればいいのかしら」

「えへへ、面目ないです。で、そのお嬢様から巫女の相手を仰せつかった咲夜さんは、こんな所でなにを?」

「巫女の相手はしてるわ。罠と妖精メイドがね」

「あらあら、ダメですよ咲夜さん。お仕事をサボっちゃ」

「あなたに言われたくはないわね」

2人とも、僅かに笑みながらの会話の応酬。
その様から2人は親しい間柄だと窺えた。

「それで、どうしてこんな所に?」

「別に。友人がお客として招かれるっていうから顔を見に来ただけよ。ちょっと遅かったみたいだけど」

「あはは。マリサさんなら今頃玄関ホールにいますよ」

「そう。じゃあ行こうかしら。あ、美鈴。お嬢様から伝言よ」

「なんでしょう?」

「『今日の来客は以上。以降は誰も通すな。それと、門は直しておきなさい』ですって」

「あらら、こんなにボロボロになっても、さらに働かせるんですか? 酷いですね」

「よく言うわね」

言い残すと、咲夜は一瞬で姿を消した。
美鈴はしばらく立ち尽くしていたが、やがて体を伸ばすと長く息を吐いた。

「実際あの巫女は強いですよ、お嬢様。弾幕ごっこじゃなかったら殺されていても文句は言えなかったです」



「霊夢はどこまで行ったのかな」

館の前に着くと、時折館全体が揺れている事がわかる。
中で霊夢が暴れてるんだろう。

「ねえマリサ、中から悲鳴が聞こえるんだけど」

「きっと霊夢が暴れてるんだな」

「ねえマリサ、扉が見当たらないんだけど」

「きっと霊夢が壊したんだろ」

やりすぎだぜ。

「あの鬼巫女ったら、建築物に何か恨みでもあるのかしら?」

門なり扉なり、壊して進むのが当たり前だと思ってるのかもな。
中に入ったら妖精メイドが襲ってくると思ったから慎重に、どこから攻撃されても対応できるように進む。
館の中はひどい有様だった。
至る所に妖精メイドは倒れ、目を回している。
壁は表面が崩れて、階段は崩壊し、照明は至る所で消えていた。
元から窓がない館は、そのせいで更に薄暗く、ヒヤーっとした寒気が立ち上っている。

「この有様の方が、よっぽど悪魔らしいぜ」

本気で暴れてる霊夢って、超怖い。

「悪魔の館にようこそ」

「おわっ!」

突然耳元で声を掛けられ、箒から落ちそうになった。
声の主はクスクスと笑い、落ちそうになった私の手を取って持ち上げてくれた。

「危ないわよ、魔理沙」

「さ、咲夜か。驚かせるなよ」

「え? なにこいつ! いつの間に沸いてきたのよ!」

「わ、ビックリした」

私の後ろにいたルーミアとチルノも驚き、咲夜はその様に満足げに微笑んでいる。
十六夜咲夜。時を止める程度の能力を持つ、悪魔の館のメイド長。
人里で買い物している咲夜と出会ってからは、何度か一緒にお茶する程度の親しい友人だ。

「久しぶりね、魔理沙」

「おう。久しぶりだぜ」

あれ、次のボスって咲夜だったっけ?
咲夜は5ボスじゃなかったか?
どうも、色々と忘れつつあるみたいだ。

「こっちの彼女たちはあなたのお友達かしら?」

「うん、ルーミアだよ」

「あたいはマリサのライバルのチルノ!」

「そう。私はこの館のメイド長、十六夜咲夜。魔理沙がお世話になってるわね。これ、つまらないものだけど」

咲夜が虚空に手を振ると、一瞬でその手にクッキーの詰まったバスケットが現れた。

「うおー! すげー!」

「うわー、おいしそう」

「魔理沙とこれからも仲良くしてね」

バスケットごとチルノに差出し、受け取ったチルノはルーミアと2人で地面に降り立った。

「やめろよ! なんで身内の挨拶みたいな事するんだよ!」

こいつ何しにきたんだ!
あと、本気で恥ずかしいからやめてほしい。
咲夜に掴みかかってエプロンをぐいぐい引っ張るが、咲夜はあらあら、とむしろ嬉しそうに私の頭に手を置いた。

「はいはい、ほら。魔理沙の分もちゃんとあるから」

「そういうことじゃ、モガッ!」

口の中にクッキーを突っ込まれる。

「なにこれ、美味しい!」

「うん、おいしいね」

チルノとルーミアはすっかり餌付けされている。

「あら、ありがとう。魔理沙は、おいしい?」

「もぐもぐ。……おう、うまいぜ」

ホントに何しに来たんだ、こいつ。
そして流石メイド長。お菓子の味も絶品だった。
私と咲夜も廊下に降り立つ。

「お茶でも淹れようかしら?」

「いや、そんなことより! なんだ、私たちの邪魔をしようってか!」

周りの惨状を放っておいて、このままここでティータイムを過ごす気か!?
今は異変の最中だろ!

「ああ、そういえば魔理沙はあの巫女と知り合い?」

「ん、おう。一緒に弾幕ごっこの修業をした仲だぜ」

「そう。あんまり館を壊さないように言ってくれない? 後でお掃除が大変だわ」

「私が言ってやめるとは思えないぜ。それより、霊夢がどこにいるのか分かるのか? ちょっと届け物しなきゃいけないんだが」

「後で会う予定だから、私が預かりましょうか?」

「助かるぜ。じゃなくて!」

危ない、騙される所だったぜ。

「いまは咲夜も異変の首謀者側なんだから、信じられないぜ! 私が自分で届ける!」

いくら友達だからと言って、いまは異変の最中。
わざわざ霊夢をパワーアップさせてくれるとは思えない。

「まあ、私を信じてくれないの?」

「今は普段と状況がちがうぜ」

「残念。でも、私は魔理沙に何かしようって思ってないわよ」

「異変の事も教えてくれなかったのに、よく言うぜ」

おかげで、急に紅霧異変が起こって驚いたっていうのに。

「それはうちのお嬢様に言ってもらわないと」

「じゃあそのお嬢様の所に案内しろよ。直接文句いってやるぜ!」

鼻息荒く、咲夜に詰め寄る。
咲夜はやんわりと肩を押して私を押し返す。

「構わないけど、異変が終わったらね」

「いや、それじゃ遅いだろ!」

この、私の話をまじめに聞いてるのか!?
子どもの癇癪に付きあってるみたいなのをやめろ!

「まあまあ。落ち着いて魔理沙。あなたに今お嬢様の所に行ってもらうと困るのよ」

「困っても行くぜ! 止めても無駄だからな!」

「うーん、どうしましょうか。今から巫女の相手もしなきゃいけないのに」

咲夜は腕を組んで右手をあごに持っていき、困ったように眉を下げた。
そ、そんな顔をされても無駄だぜ!

「そうだ、紅魔館の誇る大図書館に興味はない?」

「へ?」

大図書館、ていうと、パチュリーのいるあの?

「お、おう。本か。興味あるな」

そうだ。紅魔郷本編は門番で美鈴を倒した後は、パチュリーだ。
図書館でパチュリーと弾幕ごっこしないと!

「うん、そうだな。咲夜は忙しいんだもんな。しょうがない、図書館に行くことにするぜ」

「あら、聞きわけがいいのね。ほら、飴玉あげるわ」

「いらないってば!」

子ども扱いってレベルじゃないだろ!
私はチルノやルーミアと同じ扱いか!

「図書館まで案内しましょうか?」

「いや、いい。自分で探すよ。咲夜は霊夢の相手するんだろ?」

ずっと一緒にいると調子崩されっぱなしだぜ。
早々にここを立ち去りたい。

「そう。図書館は地下にあるから、気をつけてね。階段はこの廊下の先よ」

「おう。ほら、行くぞチルノ、ルーミア。いつまでお菓子食べてるんだ」

「ん? もう行くの?」

「おいしかった! ありがとう、咲夜!」

「魔理沙と仲良くね」

「うん!」

「うん」

「だからっ! もうっ!」

保護者かよ!

「私の事なんだと思ってるんだよ!」

「友達だと思ってるわ」

「お、おう」

こいつ、真顔で。
なんかはっきりと言われると恥ずかしい。
……やっぱ、どうせなら陰陽玉も届けてもらおうかな。
いやいや、でも今の咲夜は敵だし、信用ならないだろ。
しかし、咲夜が陰陽玉を渡さないで隠すとか、そんなつまらない事するだろうか。
うーん、するかもしれないし、しないかもいれないし。

「ん? 私の顔になにか付いてる?」

「いや……」

悩むぜ。でも、霊夢に早く届けないと、あっという間にレミリアの所まで行っちゃいそうだしなあ。
ええい、渡してしまおう! 咲夜を信じるぜ!

「咲夜!」

「わ、なに?」

「これ、霊夢に渡してくれないか?」

紅白の陰陽玉を差し出す。

「これを? 今は異変の最中だから、私の事を信用しないんじゃなかったの?」

「いや、よく考えたら咲夜はそんな小さい人間じゃないからな。信用することにしたぜ」

「あら。じゃあ、確かに預かったわ」

調子のいいこと言ってる自覚はあったけど、咲夜はなにも言ってこなかった。

「頼むぜ。霊夢に会ったらすぐ渡してくれよ! 信じてるぜ!」

「そんなに何回も言わなくても大丈夫よ」



「図書館に行く?」

「異変の解決は?」

「先に探索しようぜ」

「ふーん。あたいは構わないけど、あの巫女が解決しちゃうかもしれないよ」

「いや、咲夜がそんな簡単にやられると思えない。まだ時間かかるだろ」

「へー。じゃあ行こうか」

地下への階段を降り、広い廊下を飛ぶ。
地下の廊下はあまり破壊されておらず、ここは霊夢が通っていないんだと思った。

「きっとあのでっかい扉ね」

木製の、大きくて頑丈そうな両開き戸の扉。
その前に降り立ち、ゆっくりと押し開ける。
扉には鍵がかかっていなく、見た目の割に軽く開いた。

「お邪魔するぜ」

そのまま歩いて入っていく。
後ろをルーミアとチルノが続いた。

「わ、すごー! 本がたっくさん!」

「わー」

「さすが大図書館と言われるだけあるな。本棚の森みたいだ」

辺りを見回したが、照明が少なく、薄暗くてよく見えない。
でもパチュリーらしき人影は見当たらなかった。

「うーん、こんなに本が多いと、見たいものを見つけるのも一苦労だぜ」

箒に跨り、奥へと飛ぶ。
チルノとルーミアはちょろちょろと動き回って本棚を調べている。
この薄暗い中で文字は読めないだろ。いや、妖怪だから読めるのか。
しばらく一人で飛んでいると、薄ぼんやりと人影が見えてきた。
図書館にいるって事はパチュリーかな。

「本がたくさんだな。あとでさっくりもらっていくぜ」

なので、そんなことを言って挑発してみた。

「それは困ります! って、あなた誰ですか!?」

声は思ったより幼い感じで、あんまり魔法使いって感じの気配でもない。
なんだ、パチュリーってこんな感じの奴だっけ?

「こんなにたくさん本があるんだから、少しくらいいいだろ?」

「ダメです! 持ち出しは許可しません! 私が怒られてしまいます!」

「この館の主はそんなにケチなのか。じゃあ、こっそり借りていくぜ」

ようやく見えてきた人影は、真っ赤な髪の、私とそう見た目の年が変わらない女の子だった。
頭からはコウモリの羽みたいな飾りが見えていて、背中からも同様の羽が見える。
あれ、パチュリーじゃないぞ。

「だから、ダメですって! そもそも、あなた誰ですか!? この館の人間じゃないですよね!」

「おう。門を押し入って来たお客様だぜ」

「し、侵入者ー!! パチュリー様っ、鼠が入り込みましたよ!」

騒がしいやつだな。
こんなやつ、紅魔郷に出てきたっけ?

「おいおい、図書館では静かに、だぜ」

「あ、申しわけありま……って、あなたに注意されたくないです!」

「おう、それはすまなかったな。飴でも舐めるか?」

「いえ、勤務中ですので。じゃなくて!」

「なんだ、おいしいのに。咲夜の手作りだぜ?」

「え、メイド長の!? そんな、なにが入ってるかわからないものを!」

「失礼な奴だな。咲夜のお菓子はおいしいぜ」

「毎日吸血鬼のお嬢様に料理を作ってる方なんですよ? まともなもの、作るとは思えませんって」

咲夜って、館の中でどう思われてるんだろう。

「さっきから騒がしいわ。小悪魔、ちょっと静かにできないの?」

「あ、パチュリー様! 申し訳ありません!」

奥からゆっくりと飛んできのは、紫色の長い髪の、ZUN帽をかぶった、やっぱり見た目の年齢はそう変わらないように見える少女。
間違いない、こいつがパチュリーだ。

「それで、なんであなたは鼠と楽しく談笑しているのかしら?」

「ネズミじゃないぜ。霧雨魔理沙だ!」

「そう、あなたが。でも確か、お客様として招かれていなかったかしら?」

「さあな。記憶違いじゃないか?」

「そう。そうかもしれないわね。お客様用のやり方は気に入らないのかしら?」

「温かい紅茶とおいしいクッキーなら大歓迎だが、生憎私は異変の解決に来ててな。それが終わった後なら招かれてやってもいいぜ」

「そう。じゃあ、侵入者用のお招きをするわ。小悪魔、この鼠をさっさと追い出しなさい」

「わかりました。ふふ、でもこの人魔法使いっぽいですよ。貴重な材料になるんじゃないですか?」

「そうね。じゃあ、心臓と骨と内臓は置いて行ってもらおうかしら」

「おいおい、穏やかじゃないぜ」

さっきからからかっていた小悪魔も雰囲気を一変させる。

「勝負はスペルカードルールでいいよな。そっちは何枚スペルを使うんだ?」

「……15枚かしら」

「は? 随分多くないか?」

「全力で叩き潰すわ」

「さすがにやり過ぎだぜ」

私なんて2種類しか使えるスペルカードないのに。
チルノが4種、ルーミアが3種で合計9種類。
三人がかりでも数では負けている。

「別にいいじゃない、やってやるわ」

「チルノ?」

いつの間にか、近くにきていた。
ルーミアもいる。

「あたいが5枚、ルーミアが5枚、マリサが5枚、それぞれ対処すればいいだけよ。仮に、全部を使えるならだけど」

「……また鼠が増えたわ」

そうか。そういえばパチュリーは喘息持ちで、全部のスペルを唱えられないんだっけ。
なら、15枚っていうのはブラフって考えた方がいいな。

「そうだな! こっちには最強のチルノがいるしな」

「あったり前よ!」

「私も頑張るー」

チルノ自身はパチュリーが喘息持ちだと知らないから、素で5枚ずつ対処する気だったのか、ブラフを見抜いていたのか分からないが、すごいぜ、チルノ。

「その氷精、妖精にしては随分力が強いみたいね。異常だわ」

「おう、霧の湖で最強の氷精だ! 弾幕ごっこでは私が勝ったけど、めちゃくちゃ強いぜ!」

「……いいわ、その氷精も珍しいからサンプルにして保存しときましょう」

「できるかな?」

いくらパチュリーが凄い魔法使いでも、私たちはそんなに弱くない。
チルノはなんか原作よりずっと強いし、下手するとパチュリーより強いかも。

「いくぜ!」

箒をぐっと強く握り、八卦炉とスペルカードを取り出す。
狙うのはパチュリー。

「パチュリー様のスペル宣言まで、ここから先は通しません!」

小悪魔はぐっと力強く拳を握り、キリッとこっちを見つめて来る。
手に大玉の魔力を作り出して、それを多数撃ち出してきた。

「あたいがアタッカーするから、ルーミアはディフェンス! マリサは撹乱!」

チルノは本当に⑨なのか? 的確に指示を飛ばして一人で小悪魔の方に飛んでいく。
ルーミアのディフェンスって、遠回しに私を守れってこと?

「了解したよっ」

自分のスペルカードを取り出してニコニコ能天気そうに笑うルーミア。
さり気なく私の近くに飛んできた。

「あんまり暴れると埃が舞うから、さっさとやっちゃうわね」

パチュリーはどこからか取りだした本を開き、パラパラと項をめくり半目で私を睨みつけて来る。

「雹符『ヘイルストーム』」

「う、わあ!」

チルノのスペル宣言は速かった。
無数の氷塊が小悪魔を襲う。
さすがにパチュリーも驚いたのか、一瞬目を大きく開いてチルノを見た。

「隙ありだぜ!」

その隙に私は弾幕をパチュリーめがけて放ち、ルーミアもそれに追従する。

「土符『レイジィトリリトン』」

しかしパチュリーは慌てず自分のスペルで私たちの弾幕を打ち消し、さらにそれはチルノのスペルと相殺し、小悪魔の方のカバーまで。

「す、すいませんパチュリー様!」

「気を抜く暇は与えないぜ! 魔符『スターダストレヴァリエ』」

「月符『ムーンライトレイ』」

息をつかせずスペル宣言。

「鬱陶しいわね。土&金符『エメラルドメガリス』」

私とルーミアのスペルはパチュリーのスペルに食い破られ、さらに余力のある弾幕が襲ってきた。

「夜符『ナイトバード』」

ルーミアも特に慌てずスペルで打ち消し、パチュリーは僅かに舌打ちした。

「雪符『ダイアモンドブリザード』」

チルノの宣言と同時、部屋を冷気が包み、雪のような弾幕が降り注ぐ。

「火符っ……ごほっ!」

パチュリーがむせ、弾幕はそのまま殺到していく。
よしっ! と私が心の中でガッツポーズした時、小悪魔がパチュリーに体当たりするようにして、その身を盾に守る。

「うっ、ぐぅ!」

「っ! 小悪魔っ」

パチュリーは弾幕の外に出たが、小悪魔はもろに雪の弾幕をかぶり、地面に落ちて行った。
心配だが、今は弾幕ごっこの最中。気にかけるのは後にする。

「終わりね! 凍符『パーフェクトフリーズ』」

「闇符『ディマーケイション』」

「魔符『スターダストレヴァリエ』」

チルノがそのままたたみ掛けるように宣言し、ルーミアと私も続けて放つ。

「……火&土符『ラーヴァクロムレク』、木&火符『フォレストブレイズ』」

まさかの2枚同時宣言っ!

「うおわ!」

その威力は私たちの弾幕を食い破り、さらに勢いは弱まらず殺到してくる。
慌てて避けるが、あまりに濃い弾幕でルーミアやチルノが見えない。

「っ! マリサ!」

チラリと弾幕の隙間からチルノが見えた。
チルノはなぜか慌ててこちらに飛んでくる。

「一人一人、確実にいくわ」

間後ろから、パチュリーの声が聞こえた。

「えっ!」

その手に極大の魔力を集め、それは暴力的な光として解き放たれた。

「日符『ロイヤルフレア』」

ダメだ、避けられない!

「っ! 偽恋符『マスタースパーク』!」

咄嗟に八卦炉を掲げ、スペルを放つ。
でも威力が段違い過ぎる。拮抗は一瞬で、全く威力の減衰しない魔力が迫ってきた。

「っマリサ!」

光に飲み込まれる直前、真横から押されて射線上から逃れる。
咄嗟の事で反応できず、箒から落ちそうになりながらそっちを見ると、光に飲み込まれ、小悪魔と同様に落ちて行く姿が。
あれは、ルーミア!?

「とりあえず一匹目」

「このっ!」

チルノが激昂してスペルを取り出すが、パチュリーはそれよりも早く宣言を終えた。

「火符『アグニシャイン』」

「っ、うわあ!」

現れたのは巨大な火球。氷精のチルノの弱点。

「溶けないでね。サンプルにしたいから」

無慈悲に放たれたスペルは、チルノを飲み込んで落ちて行った。

「さて、あとはあなた一人ね」

肩で息を整え、少し顔色が悪くなっているが、まだ余力のありそうなパチュリー。
やっぱり、本物の魔法使いは強い……!

「へへへっ。さすが、やるなあ」

「なにが面白いのよ」

一転して状況は不利になり、あっという間に2人落とされた。

「いや、やっぱ魔法使いは強いなあって思っただけだぜ」

「……そう。あなたも魔法使いの端くれじゃない」

「おう。でもさ、全然強くないんだよ」

「そうね」

「でも、弾幕ごっこはこれでも得意なんだぜ?」

「あんな威力のない弾幕しか撃てない癖に、何を言ってるの」

「弾幕ごっこは、力のない人間でも、強力な妖怪に勝てるように生み出されたお遊びだ」

「そうね。でも実際に勝てるのかしら。今から、私に」

「おう! なんたって私は魔法使いだからな!」

「そう。夢見がちな、魔法使い未満ね」

2人、牽制の弾幕を放ちながらの会話の応酬。
実際はパチュリーが一方的に撃ち、私は避け続けるだけなんだが。
偶に放つ弾幕も全然効果ないし。

「すばしっこいだけかしら?」

「さて、どうかな」

こっちは小さい頃から霊夢の鬼弾幕を避けていたんだ。
こんな通常弾では絶対に落ちない自信があるぜ。

「もう終わりにしましょうか」

「なんだ、降参してくれるのか」

「そんなわけないでしょ。あなたの負けって形で終わりよ。火水木金土符『賢者の石』」

パチュリーから、5種類の魔力が放たれ、それぞれが鉱石の形を作っていく。
おいおい、まだこんなに魔力残ってるのかよ。

「ラストスペルよ」

「威力も最大級だな」

「石の一つ一つが山を崩せる威力を持ってるわ」

「それは怖い!」

それぞれから放たれた弾幕を掻い潜る。
速く、連携した動きをするので徐々に退路が無くなっていく。

「ちくしょ、魔符『スターダストレヴァリエ』」

星型の弾幕が賢者の石の弾幕に殺到し、相殺して逃げ道を作ろうとするが無駄だった。

「んな、マジかよ!」

「無駄よ。威力が違い過ぎるわ」

星の弾幕は逆に食い破られ、徐々に私の退路を塞いでいく。

「さっさと落ちなさい」

「っくそ!」

ダメか、いや、まだだ!

「そぉい!」

「……よく抜け出せたわね。でもまだ終わりじゃないわ」

目一杯屈んで、僅かな隙間を通り抜ける。
帽子や服が僅かに破れるが、体のどこにも被弾しなかった。
パチュリーの言葉通り、鉱石からはまだ魔力が噴き出し次々と弾幕を放ってくる。

「っくそ」

今度こそ、もうだめか!

「っく、けほっ、けほっ!」

突然のスペルブレイク。
何が起きたのか、理解するのに数瞬かかった。

「けほっ、ごほっごほっ!」

「お、おい大丈夫かよ!?」

パチュリーが苦しそうに体を丸め、何度も何度も咳をしている。
だんだん苦しそうになってきて、心配して飛び寄った。

「げほっ、げほっ、ごほごほごほっ!」

「おい、大丈夫か。なあ、とりあえず降りるぞ」

苦しそうに咳き込むパチュリーを捕まえ、ゆっくりと地面に降り立つ。
激しい弾幕戦があったのに、図書館は一切傷ついていなくて、今まで何もなかったかのように静かだった。
響くのは、苦しそうなパチュリーの咳だけだ。

「おおおい、薬とかあるんだろ! 持ってきてやるから、場所おしえろよ!」

パチュリーは苦しそうに口元を抑えて咳き込んでいる。私も動転して、冷静じゃない。
パチュリーが自分の服のポケットを漁ろうと手を伸ばしているが、口元を抑えていて上手くいかないようだ。

「このポケットにあるんだな! 失礼するぜ!」

パチュリーのポケットを漁り、吸入補助具を取り出す。
急いでパチュリーの口元に持ていくと、両手でそれを抑える。最初は苦しそうだったが、ゆっくりと深呼吸をはじめた。
数回吸って、落ち着いたのか咳は止まった。

「よ、よかった……。死ぬんじゃないかと思ったぜ」

私とパチュリーは二人して顔を青くさせながら、安心して地面に座り込んだ。

「……喘息、持ちだからって、バカにしないでよ」

「へ?」

咳き込み過ぎて涙が出たのか、濡れた目でパチュリーにじろっと睨まれた。
私はなんとも間抜けな声を出して、思わずジロジロとパチュリーを見てしまう。

「……なによ」

「いや、なんて?」

「……魔法使いなのに、喘息のせいで魔法の詠唱もままならないなんて、バカにされそうなものじゃない」

「なに言ってんだ。私なんて、そもそも魔力が少ないから魔法もあんまりできないぜ」

「あなたと一緒にしないで。私は純粋な、種族としての魔法使い。人間の魔法使いのあなたとは、立っている場所が違うわ」

「じゃあ、なおさら私がお前に何か言う事はできないな。ひとつ言っておくと、弾幕ごっこは私の勝ちだぜ」

「……そうね」

「あれ、反論してくると思ったんだけど」

「なんで?」

「だって、偶然だったからな。次にもう一回やれって言われても勝てると思えないぜ」

「……また発作で私が負けるかもしれないじゃない」

「今回は偶々だろ。それに、どっちにしろチルノとルーミアがいないと勝てないし」

「……そうね。確かにそうだわ」

「いや、でも私一人でも勝てるようになるぜ? 次、とは言わないけど、いずれな!」

「……無理じゃない?」

「無理って言うなよ! これでも努力してるんだぜ」

「努力? たとえば、どんなことをしてるの?」

「えっと。霊夢と弾幕ごっことか、アルバイト……とか」

「……甘く見られたものね」

「いや、結構ハードなんだぜ?」

「魔法使いを甘く見ないで。まずは知識を貯めなさい。実践する前に頭に入れるのは基本でしょう」

「い、いやいや、本も読んでるぜ! でも、魔道書って貴重だろ? だから高いし、そんな簡単に借りられると思えないし」

「……碌に知識もないのに。こんな奴に私は負けたのね」

「いやいやいや、だから、チルノとルーミアがいないと勝てなかったって!」

「でも最後は一対一じゃない」

「そうだけどさ! その前に色々とあったし、決着も微妙だったろ?」

「過程はどうでもいいの。私は負けたんだから。でも、それがあなた相手だったというだけでなんかムシャクシャするのよね」

「そ、そりゃ、こんな半端者にって思ったらムシャクシャもするよな……」

「……あなたの態度が気に食わないのよ」

「へ?」

「過程はどうあれ、勝ったんだから堂々としなさい! 次は負けるとか、聞きたくないわ」

「い、いや、でもさ」

「努力してるんでしょ?」

「お、おう」

「じゃあ、なんで自信を持って勝てるって言わないのよ」

パチュリーはなんか、思ってたよりも熱血だった。

「わかったわ。じゃあ、私があなたを鍛えてあげる」

「……え?」

なにがわかったって?

「どこに出しても文句を言えないような、魔法使いにしてあげる」

「えっと、でもお前は本読む方が好きだろ? 別に、私一人にそんなに構わなくても」

「本を読みながらでも、あなた程度を鍛えるのは簡単よ」

「さいですか」

申し出は嬉しいんだけど、良いんだろうか。
パチュリーは3度の飯より読書が好きって、そういう奴じゃないのか?

「私の名前はパチュリー・ノーレッジ。精霊魔法を得意とする魔法使いよ」

ああ、そういえば自己紹介もまだしてもらってなかったなあ。
私が一方的に名乗っただけだった。

「よろしくな、パチュリー」

お互いに笑い合う。
そうだ、今度アリスも連れてきてやろうか。
同じ魔法使い同士、気が合うかもしれない。
そして魔法少女3人で集会だ! サバトだ!

「……そうだわ。マリサ、私の事は先生と呼びなさい」

「え?」

「私の弟子になるんだから、先生としてちゃんと敬うのよ」

「……えぇ?」



「パチュリー様ったら、なんだか嬉しそう」

「そーなのか?」

「あの紫の魔法使い、なんで急に怒ったの?」

「うーん。実は弾幕ごっこ、初めてだったんですよ」

「え、あんなにスペルカードあったのに?」

「パチュリー様は本を読むのが速くて、しかも一回で暗記してしまうので読み切ったら暇になってしまうんです。その暇な時間に少しずつ作っていたら、結構な種類になっちゃったんですよ」

「へえー。それで、初めての弾幕ごっこで負けちゃって悔しいのか」

「そうですね。あと、同じ魔法使いさんに負けたっていうのも原因じゃないでしょうか」

「ふーん」



「魔理沙が近づいてきてる? いえ、速すぎる。なにかしら」

「あー、お掃除が進まない。お嬢様に怒られるじゃない!」

霊夢が紅白の陰陽玉を持ち、魔理沙の位置を探ると、その反応はすぐそばから返ってきた。

「なによあんた。メイド?」

「そうよ、この館のメイド長。十六夜咲夜と申しますわ」

「そう。それよりあんたに聞きたい事があるのよ」

「なに? お嬢様の居場所なら教えないわよ」

「違う。魔理沙に持たせた陰陽玉を、なんであんたが持ってんの?」

「ああ、これの事」

咲夜が手を軽く開いて霊夢に向けると、その手にはいつの間にか陰陽玉が乗っかっていた。

「これ、あなたのでしょう? 返すわ」

「……それは魔理沙が持っているはずの物だわ。なんであんたが持ってるの?」

「さあ、なんでかしら? ご想像にお任せしますわ」

「まさか、魔理沙になんかしたの?」

「ふふふ」

「……魔理沙に手ぇ出したんなら、殺すわよ」

「できるものならやってみなさい。でも残念ながら、あなたはここで引き返す。お嬢様に会う事もできない。それこそ、時間を止めてでも。時間を操る事が出来るから」

* * *

相性の問題で、最初っからチルノに勝ち目はない。
引きこもって、自分は強者だと思ってたのに、外から来た弱者に負けたでござる。
パッチェさんかわいいよパッチェさん。
後日修正する可能性ありますが、大筋の流れは変わりません。



[20277] その5 vsフランドール
Name: クイックル◆bad3b9bc ID:b764bb8a
Date: 2010/08/03 11:05
勝負は呆気なく終わりを告げた。
咲夜は地に落ち、霊夢は両隣りに浮かせた紅白の陰陽玉から出る弾幕を止める。
辺りは一層酷い有様で、廊下は崩れて階下が覗け、あたりに銀のナイフが突き刺さっている。

「答えなさい。魔理沙になんかしたの?」

「……強いのね。さすが博麗の巫女」

「さっさと答えないと本気で殺すわよ」

霊夢の眼光は鋭く、その威圧感は吸血鬼に仕える咲夜にさえ恐怖を与えるものだった。
ひとつ、ため息を吐く。

「別に、何もしてないわ」

「じゃあなんで陰陽玉をもってるのよ」

「魔理沙から預かっていただけ。霊夢に届けてくれって」

「……」

霊夢はジッと咲夜を睨みつけた。
嘘は言っていない。勘だが、そう思う。

「……そう。もういいわ」

だから霊夢は臨戦態勢を解き、咲夜を見逃すことにした。

「さあ、その異変の首謀者の所に案内しなさい」

「……もう動けないわよ。喋るのも億劫なんだから」

「容赦しなかったからね」

霊夢は陰陽玉の調子を整えるように撫でると、もう興味はないとばかりに咲夜に背を向けて飛び立っていった。

「まったく、恐ろしい巫女だわ。でも、お嬢様なら、あるいは」

怪我と疲労から、咲夜はゆっくりと目を閉じた。
ああ、起きたらお掃除しなきゃ。館の補修も大変だわ。

「あのメイド」

掠ったナイフで袖を切られ、陰陽玉を仕舞えず浮かせたままにしている霊夢は呟いた。

「結構、強いじゃない」



「ぱ、パチュリー先生……。やっぱ呼び方はどうでもいいんじゃあ」

「……あなたは私の弟子なんだから、なにがおかしいの?」

大図書館の、大きなテーブル。
いつまでも床に座っている訳にもいかないので、パチュリーに案内されて席につく。
落ちた3人を探しに行こうかと思ったら、3人とも無事だと言われて大人しく座っている。
パチュリーはこくこくと頷き、手に持つ本をパタンと閉じた。
おかしいなあ。

「マリサー」

「パチュリー様、お待たせしました」

「大丈夫だった?」

本棚の影からチルノ、ルーミア、小悪魔が現れる。
3人とも特に怪我はなく、元気な様子。
落ちて行った時は随分心配したが、やっぱり人間とは強度が違うみたいだ。

「悪かったわね。弾幕ごっことはいえ、ちょっと痛かったんじゃないかしら」

「弾幕ごっこなんだから当たり前よ!」

「平気だよ。それで、あなたは?」

ルーミアがいつもの両手を広げたポーズで聞く。

「私はこの図書館の主、パチュリー・ノーレッジ。そっちのは小悪魔」

「よろしくパチュリー。私はルーミア」

「あたいはチルノ!」

「ええ、よろしく。小悪魔、紅茶を用意しなさい」

「はい! じゃあ、チルノさんとルーミアさんはこっちの席に」

「おっと、ありがたいがそんなにゆっくりしてる暇はないんだ」

まだ異変の解決は済んでない。
霊夢が向かっているので、何の問題もない事はわかっているんだけどな。
私は座っていたフワフワの椅子から立ち上がり、立て掛けていた箒を手に取った。

「……あなたの仲間はそう思ってないみたいよ」

「わー、ちょっと疲れてたんだよね」

「あたいもちょっと熱くって。少し涼みたい」

2人とも、けっこう疲れてる。
今まで付いて来てくれただけでも感謝すべきだ。
これ以上つき合ってもらうのも悪い。
ここで2人とは別れて、私一人で行こう。

「チルノとルーミアは休んでていいぜ。私1人でいく」

「えー、マリサも休もう?」

「あなた一人で行って何ができるのよ。道中の妖精に落とされるわよ?」

「む、マリサが行くならあたいも行くよ!」

「紅茶の用意、もうできているんですが……」

皆で喋るなよ、誰が何を言ったのか聞きとれないだろ。
パチュリーが言ったのが悪口なのは、何となく雰囲気でわかるけども。

「おいおい、一応言っておくが、この中で一番弾幕ごっこが強いのは私だぜ? なんで反対されなきゃならんのだ」

「……偶然とか言ってたくせに」

パチュリーが何か言ったが、聞こえないフリをする。
今は都合の悪い事は聞き流す。

「ふふふふふ。楽しそうね! ねえ、あなたが一番強いの?」

突然、後ろから知らない声が聞こえた。
振り返ると、変な翼が目に入る。
宝石のような、カラフルな鉱石をぶら下げた、歪な翼。

「フランっ!」

パチュリーが焦って本を手に取り、小悪魔はあっと口を覆って、両手で持っていたティーセットを割ってしまう。
私も、思わぬ相手との遭遇に心の中で悲鳴をあげた。

「おう、この中の全員に勝ったんだからな」

それでも、声は震えずに出せたと思う。むしろ不敵に、魔理沙っぽい雰囲気を意識して出せた。
横目で窺うと、チルノとルーミアも無言で身構えている。

「そっか。じゃあさ、次は私とやろうよ。弾幕ごっこ」

勘弁してほしいなぁ。
いつかやる事とはいえ、早すぎやしないか。
覚悟も準備も、全然できてない。
しかし、フランは何ボスだっけ? 覚えてない。紅霧異変では戦わなかったような気がする。
確かあれは、後日譚みたいな感じだった。
パチュリーが本を手に取り、私とそいつの間に割って入った。

「どきなさい。あなたに用はないわ」

「あなた、一体どうやってここに?」

「さあ? 上で暴れてる誰かさんのおかげかな」

「……恨むわよレミィ」

2人は互いに見つめ合いながら、穏やかではない雰囲気で会話の応酬を繰り広げている。
私は少し、異常事態で慌てている頭の中を整理しようと必死にぐるぐると考えを巡らせる。
ちっとも考えは浮かばないし、むしろ余計な焦りばかりが募る。

「マリサ。ここから離れて、この異変の主と博麗の巫女を呼んできて」

そんな私とは違い、パチュリーは冷静だった。
私は難しく考えるのをやめ、とりあえず指示に従う事にした。箒に乗って浮かぶ。

「小悪魔は、門番を呼んできて。チルノとルーミアはフランを抑えるのを手伝って」

「は、はい!」

チルノとルーミアは無言で頷く。妖怪としての本能なのか、余計な事を喋る余裕もないのか。
小悪魔は返事と同時にすっ飛んで行った。
私もその後に続き飛ぶ。

「マリサさん! こっちです!」

「おう!」

小悪魔に追従して図書館の扉を目指し飛ぶ。

「あなたはダメだよ、ここからいなくなったら。私と遊ぶんだから」

が、真後ろからフランドールの囁くような声が聞こえて思わず振り返ってしまう。
目に映るのは、先端に歪んだハート型のモチーフの付いた、曲がった杖を振りかぶるフランドールの姿。
冷や汗が背筋を伝い、悲鳴が喉まで出かかる。

「あら、私たちじゃ不満かしら? 土符『レイジィトリリトン』」

しかしその姿は真横に掻き消えた。
咄嗟に視線を横に、姿を追うと、轟音と共にフランは本棚に埋まった。
その体を押しつぶすように巨大な土塊が覆っている。

「本が傷ついちゃうわ。……マリサ、早く行きなさい」

「お、おう」

なにあのパチュリー超かっこいい。

「……逃がさないって!」

盛大に土煙を巻き上げ、両手で杖を持ちながら飛びあがってくる。

「凍符『パーフェクトフリーズ』」

「夜符『ナイトバード』」

しかしチルノとルーミアの弾幕がその行く手を遮った。

「っ、もう! 邪魔しないで!」

フランは手に持つ杖で一つ一つ叩き潰しながらこちらに迫ってくるが、時間は十分にできた。今のうちに小悪魔を追い、図書館を飛びだす。

「逃がさない!」

「いいえ、逃がすわ」

パチュリーの声が聞こえるのと同時に、扉が背後で音を立てて閉まる。パチュリーの魔法だろうか。

「こっちが出口です!」

「おう!」

考えるのは後にして、今は急いで上に向かう事にする。



「あーあ、行っちゃった」

「残念ね。扉はもう閉め切ってしまったわ」

「ふーん。妖精と妖怪と魔法使い、3人か。うん、すぐに倒して追うからいいわ」

「できるのかな? あたい達、ちょっと強いわよ」



1階につくと、小悪魔は門の方に飛んで行った。
門番の美鈴を呼んでくるのだそうだ。私は小悪魔から教えられた道を飛んで階段のある大ホールまで飛んでいく。
あたりは随分静かだ。



おかしい。
パチュリーが感じたのは僅かな違和感だった。
フランドールから感じる狂気が、いつもよりずっと少ない。

「パチュリー、なんであの妖怪は弾幕を撃ってこない?」

ルーミアがフランに向けて弾幕を撃ちながら、こちらに近づき尋ねる。
その目は先ほどまでと違い、冷静な光を湛えていた。
こいつ、マリサの前では猫被ってたわね。
パチュリーは気づかないが、ルーミアの髪のお札リボンは僅かに解けている。
こちらから撃つ弾幕すべてを叩き落としているフランドール。
感じる魔力はこの場の誰よりも強い。なのに、被弾箇所をできるだけ少なくし、力を温存するように戦っている様子だ。

「……やっぱりおかしいわよね」

急いで追うなら、力を温存するような相手ではないはずだ。再生力も不死と言えるくらい高いのに、なぜいつものように捨て身で戦ってこない?

「フラン、何を考えているの?」

「ふふふ、どうかした?」

「……」

それに、この余裕。
魔理沙と弾幕ごっこをしたいと言って、それが叶わなかったら大暴れするような性格のハズが、なぜこんなに落ち着いていられる?
パチュリーは考える。

「うん。そろそろいいかもね。もう十分だと思うし」

フランがそう言って空中で止まると、チルノの弾幕がすべて被弾する。
舞った冷気の煙が引き、無傷でその姿を現す。

「……なにを企んでいるの?」

「特別だよ? 特別に教えてあげるね?」

教えたくてたまらない、という様子のフラン。
その手にはスペルカードが1枚。

「禁忌『フォーオブアカインド』」

その影がズルリと3つに分断されると、それぞれからフランドールが姿を現した。

「……っ!」

パチュリーは、フランのそのスペルを初めて見た。
そして、その余裕のワケを理解した。

「まさか!」

「遅かったね! 禁忌『レーヴァテイン』」

フランの杖に炎が灯り、長く伸びたそれは図書館の扉を破壊して瓦礫で埋めた。

「これで誰も出られない。私は本体じゃないから、時間がたてば消えるけど」

完全にしてやられた。
パチュリーは、まさかフランが策を練って挑んでくるとは考えてもいなかった。
その油断が、魔理沙を今危険にさらしている。
パチュリーは苛立ち、ギリッと唇を強く噛んだ。



階段ホールを上がり、2階へ。
上の方から、轟音と、館を揺らす程の衝撃が響いている。

「霊夢、派手にやってるから場所がわかりやすくて良いぜ」

もっと上に行くのか、音は最上階か屋上付近から聞こえると思う。

「ちょっとそこ行くお嬢さん、そんなに急いでどこに行くの?」

2階の階段ホールの影から、なんでもないようにフランドールがひょいっと姿を現した。

「うおわ!」

「あはは!! 驚いた?」

驚いて思わず箒から落ちたが、低かったのと背中から落ちたので、そんなに痛くなかった。
それよりも、なんでここにフランが?

「おいおい、パチュリー達はどうしたんだ?」

「ふふふ、どうしたと思う?」

にやにやと笑いながら、地面にあぐらをかいて座る私を見下ろすフラン。
どうしたって、いくら強くてもこんな短時間でここに来るのは不可能だろ。
なら、分身か? なんか、そういうスペル持ってたよなこいつ。

「驚いたな、吸血鬼は分身もできるのか」

「え! すごい、なんでわかったの!? パチュリーも騙せたのに!」

えらく驚かれた。

「あなたは人間よね?」

「おう、人間を見るのは初めてか?」

「咲夜以外の人間を見るのは初めてよ。いつもはお茶やケーキの形で出て来るから」

「引きこもりなのか」

「違うわ。お外に出してもらえないの」

「どうして?」

「危険なんですって」

「へえ。何が危険なんだ?」

「私、『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』を持ってるんだ。私自身でも制御できない、強力な能力」

「そいつは危険だな」

「でも、閉じ込めるなんて酷いと思わない?」

ぷうっと頬を膨らませて怒る様子はとても可愛らしいが、油断ならない。
フランドールに関しては、テーマ曲がかっこよくて、『魔理沙』の友達で、狂気の妹だっていう印象はある。
でも、深く知ってるわけじゃない。
だからその境遇を、どうもよく理解できなかった。

「私にはよくわからないぜ」

だから、正直に話す事にした。

「なにが?」

「なんでも壊せるって、どんな気持ちだ?」

解らない事は尋ねる事にする。

「どんな気持ちって、別にどうも思わないわ」

「壊すのが自然だからか?」

「そうね。生まれてからずっとそうだったもの」

それは、なんか悲しい答えだった。

「たとえば、今お前が私を壊したとする」

「ええ」

「もうこうして話す事はずっとできなくなるし、いつか忘れるな」

「そうね」

「それって、悲しくないのか?」

「悲しい? なんで?」

「……私は悲しいと思うし、寂しいと思う」

「死ぬのが嫌だから?」

「違う。お前と友達になれないからだ」

フランドールは驚いたように目をぱちぱちと数度瞬かせた。
『魔理沙』は確か、フランドールの唯一の友達だったはずだ。
いま私が死ぬと、フランに友達ができなくなってしまう。

「友達?」

「うん。実は私、お前と友達になりたいんだ」

恥ずかしい事言ってる気がするなあ。

「お前が悲しいって思ってくれないのが悲しいから、私が友達になって教えてやるんだ」

「なにをいってるの?」

怪訝な顔をされた。
すごく恥ずかしくなる。けど、諦めない。

「お前が力を制御する方法を一緒に考えたいから、友達になりたいんだ」

「……」

「お前が閉じ込められてた時間を忘れるくらい、楽しい思いをさせたいから、友達になりたいんだ」

「……なら、弾幕ごっこにつきあって。勝ったら友達になってあげる」

「望むところだ、と言いたいが、それじゃだめだ」

勝てそうにないから、ってわけじゃないぞ。

「友達になるのに条件なんていらないだろ。お前がどう思ってるかが重要なんだよ。私と友達になんかなりたくないのか?」

「友達なんかいらないわ。しかも、人間の友達なんて。お姉さまが言ってた。人間は愚かで力も弱く、すぐに死ぬ脆い生き物だって」

「私は人間だけど、魔法使いだぜ?」

「同じよ。もう、いいわ。とにかくあなたは弾幕ごっこが強いんでしょ? 弾幕ごっこ以外に、あなたに興味なんてない」

「悲しいねえ」

うーん、紅魔郷では異変中は戦ってないんだよなー。まだ紅霧異変の最中だし。なんとか避けたい。

「弾幕ごっこが嫌なら、弾幕ごっこのルールで殺し合いでもいいわ」

私にとっては余計悪い。

「殺し合いは嫌だ」

「あは、禁忌『クランベリートラップ』!」

聞いちゃいない!
箒にも乗ってないのに、フランはスペルカードで弾幕を放ってきた。慌てて立ち上がる。
う、うわ! 箒は!? 何処だ!?
慌てて辺りを見回すが、落ちた時に結構離れてしまったみたいで、走っても取りにいけそうにない。

「……!」

ピンチ。

「どうしたの!? 避けないの!? 死んじゃうよ!? あははは!!」

とにかく地面を転がり、弾幕をできるだけ避ける。八卦炉にありったけ魔力を注ぎ込みバリアをはっておく。
肉体強化の魔法を使えたらいいんだけど、まだ知らない。

「って、無理だろ!」

もちろん避けきれるはずはない。
バリアに次々と弾幕がぶつかり、あっという間にバリアはガラスのようにはじけ飛んだ。

「っ……うぁ!」

体をできるだけ縮め、腕で庇う。衝撃を殺すために後ろに下がる。
両腕に焼けつくような痛みを感じ、衝撃が体中を駆け巡って一瞬意識が遠くなる。

「……いったぁ」

地面を転がり、うつぶせで止まる。
生きてる。奇跡だ!
体中痛いが、まだ全然動ける。
あ、帽子がどっかに飛んでった。

「ほらほら! 被弾しちゃった! 痛い? ねえ?」

悪魔の妹超怖い。
箒のところまで飛ばされたので、掴んでそれを杖に立ち上がる。

「次も生きてられるかな? 禁忌『カゴメカゴメ』」

容赦ない!
箒で飛びあがり、弾幕に備える。
いや、備えるだけじゃだめだ!
八卦炉を構える。

「偽恋符『マスタースパーク』」

強い光が辺りを包む。

「なにそれ! よわっちい弾幕ね!」

その光を突き抜けて迫るフランの弾幕。
いや、これでいいんだ。
その弾幕を抜けて、光を突き抜けてまだ目が眩んでいるフランの方へ。

「あ!」

完全に不意を突かれたのか、驚いた表情で私を見て固まるフラン。

「私は!」

大声で、後ろの弾幕が壁を破壊する音に負けないように。

「友達と殺し合いはしない!」

振り下ろされたフランの杖を、八卦炉で受け止める。

「なに言ってるの? 友達じゃないわよ!」

「お前がそう思ってなくても、私は勝手にそう思ってる!」

腕力はフランの方が圧倒的に強いので、こうして拮抗しているというのは、フランが私を撃つ気はないと言っているようなもの。
少し、話を聞いてくれるみたいだ。

「さっきから何なのあなた!」

「お前ホントは寂しいだけなんだろ! 知ってるんだぞ!」

互いに至近距離で叫び合う。

「外に出たいって言ってたのはなんでだよ! 寂しいんだろ!」

「違う! 寂しくなんてない! そんなものは知らない!」

「知らないフリするな! 外で友達が欲しかったんだろ!」

「いらない!」

「話し相手がほしいんだろ!」

「違う! なんなのよ! 妄想で変な事言わないで!」

「たしかに妄想かもしれないけど! じゃあなんでさっき私を殺さなかった!」

「殺そうとしたじゃない!」

「嘘だ! 最初の一回で私を殺せたはずだ!」

「……っ! 一回で終わったらつまらないじゃない!」

「今も私を殺せるのに、こうして話してる!!」

「っ!」

フランが杖を私に押しこんでくる。
八卦炉を持つ私の手がぶるぶると震える。
しばらく2人、無言でにらみ合う。
そろそろ腕が限界だし、フランに睨まれて実はすごく怖いので涙目になっていたが、フランもなぜか涙目だった。
涙目の少女が2人、空中でにらみ合う。すごいシュールだと思った。

「っもう!」

フランが杖を引き、私は前のめりに倒れかけて、何とか姿勢を戻す。

「……そりゃあ、寂しかったわよ」

「……ほらみろ」

フランはちょっと涙声で、ぐすっと鼻をすする。
私は疲れ切っていて、息を整えている。

「だから、言ったんだ。友達になろうぜ」

「……でも、みんな私を怖がったり閉じ込めたり」

「その皆の中に、私はいないだろ。そりゃ、怖がってたけどさ」

「やっぱ怖いんじゃないぃ……」

「だから友達になろうって言ってるんだよ」

「怖いのに?」

「怖いけど、怖くないぜ。信じてる」

フランはやっぱり驚いたような顔で、目を瞬かせている。

「信じてる?」

「おう。友達だろ? 友達だから信じるんだ」

「ふふ、さっきから意味不明よ」

クスクスと口元に手をあてて笑う。
ずっと一杯一杯だから、そりゃ意味不明だろうよ。
考える前に喋ってるからな。

「さあ、自分でも何を言ってるのか分かんないぜ。でも、言い忘れてた事があった」

「なに?」

「私の名前。霧雨魔理沙だ。よろしくな」

「マリサ? マリサ……。わ、私はフランドール・スカーレット」

「そうか、フランって呼んでいいか?」

「う、うん。いいいいいよ?」

「なんだお前、急にどうしたんだ?」

見ると、顔を紅潮させて左手でスカートの端を、右手で帽子をギュッと握っている。
その体は小刻みに震えており、見ているこっちにも緊張が伝わってきそうなほどだ。

「べべべべべ、別に? なん、なんでも、ないわよ?」

「声、裏返ってるぞ」

「うりゃがえってにゃ、なんか、ないわよ?」

「噛んだな」

うー、っとうなりながら両手で帽子を目深にかぶっている。
なんだこいつ。
すっごい可愛い。

「緊張するなって。自然にしようぜ」

「し、自然、よ?」

「喧嘩もした仲だろ?」

「あ、そうだ。マリサ、怪我は大丈夫? ごめんね……」

一転してしょんぼりとした表情。

「いいんだよ、大した怪我はないし」

ホントに大した怪我はなかった。
軽く痣がついたのと、腕を切って血が出たくらいで、やけど一つない。
瓦礫で腕を切ったのが一番の怪我って、どれだけ手加減して弾幕を撃ってくれてたのか。
それよりも、箒の方がやばい。
結構ボロボロで、折れそう。

「でも、血が出てる……」

フランがそっと私の腕に触れる。
壊れ物を扱うように、優しい手つきだった。

「く、くすぐったいぜ」

身をよじって避けようとするが、意外とギュッと握っていて離してくれなかった。
フランが、傷口にそっと顔を近づける。

「ごめんね、マリサ……」

「ちょ、フラン……!」

そっと、その舌が傷口に触れる。
ちょ、ちょっとまて吸血鬼! 吸われる!

「ん……!」

と思ったが、牙を突き立てられる事はなく、子犬のようにペロペロと傷口を舐めてくるだけだった。

「……くすぐったいぜ」

「マリサの血、おいしい……」

幼い外見の癖に、やけに色っぽい恍惚とした表情で、呟かれる。
そういえば、帽子どこ飛んでったんだろう。
関係のない事を思いながら、私はフランにされるがままになるのだった。



図書館にて、遠見の水晶越しに様子を見たパチュリーが見たのは、犬のように魔理沙の傷口を舐めるフランと、くすぐったそうに身をよじる魔理沙の姿だった。
急に分身体が消えたので、何があったのかと慌てて様子を見た結果、パチュリーは多大な疲労感に襲われた。

「どう? マリサ大丈夫だった?」

チルノが魔理沙の様子を聞きながらパチュリーの水晶を覗く。
そしてパチュリーと同じような表情をして、隣の椅子にドカッと腰を下ろした。

「心配させておいてこれだよ!」

「……なにが起こったのかしら」

もとより魔理沙を心配していなかったルーミアは、瓦礫の山を一人で崩しながらその様子を見て、魔理沙らしいと苦笑する。

「どうせまた変な友人を作ってるんだろうな。魔理沙らしい」

その頭のお札のリボンはほとんど解けかけていた。

* * *

何度も何度も書き直し、やっと完成できました。
フラマリ! フラマリ!
このSSのスタンスは、基本的にほのぼのです。
原作の世界観のため何度か戦闘はありますが、シリアスにはならないと思います。
ガチバトルは霊夢の役目なんで、魔理沙視点ではこういう感じに話が進んでいきます。
今後もつきあって頂けたら嬉しいです。

‐チラ裏‐
創作掲示板でこの作品の紹介を見つけましたb
すごい嬉しかったです!
名前は出しませんが、この場を借りて紹介者の方にお礼申し上げます!
この書き込みが余計な事でしたらすぐに消します。



[20277] その6 vsレミリア
Name: クイックル◆bad3b9bc ID:b764bb8a
Date: 2010/08/04 05:57
紅霧は晴れず、時間は進む。
霧で満月が真っ赤に映えて一層夜の不気味な雰囲気を醸し出している。

「なにかしら、とても嫌な感じがする……」

博麗の巫女がテラスから外の月を見上げて感じたものは、この異変の事ではない。

「魔理沙……?」

遠くで悲鳴が聞こえた気がした。
実際には何も聞こえないのだが、霊夢には聞こえた。
それは親しい友人のもので、今一番頭を悩ませている事でもある。
この悪魔の館に乗り込んでいるのが霊夢一人なら、霊夢はこのように焦ることはなかった。
しかし陰陽玉による追跡と、直前のメイド長の証言。
魔理沙はまだ来ないだろうが、かなり近くまで来ている事は確かだろう。

「さっさと出てきなさいよ、異変の主」

「あら、せっかちな人間ね」

テラスから見える月にかかる、蝙蝠に似た翼をもつ異形。
間違いなくこれまでとは一線を画す存在感。
最強の吸血鬼、レミリア・スカーレットの姿がそこにあった。

「迷惑なのよ、あんたが」

「短絡ね。理由がわからないわ」

「あなたをぶちのめしてこの紅霧を止める。そしたらあいつも大人しく帰るからね」

「あら、博麗の巫女もあの霧雨魔理沙って魔法使いにご執心?」

「……なんで魔理沙の名前を知ってるのよ」

「さあ? なんでかしら」

クスクスと口元に手を当てて笑うその姿は、見た目の幼さと相まって愛らしい。
しかし霊夢がその姿から感じたのは、少しのおぞましさと多量の不快感だった。

「あんた、魔理沙のストーカー?」

「な、なんでそうなるのよ!」

ガクッとレミリアが脱力したようにテラスの上に落ち、霊夢はそれを冷たい目で眺めた。

「あの子、変に人気あるから」

「ちがうっ! 私の能力で知ったのよ! 私の『運命を操る程度の能力』で、咲夜越しに覗いた事があるだけよ!」

「へー、そう」

「し、信じてないわね! 殺すわよ!」

平易な声で、ちっとも信じていなさそうな様子の霊夢に、レミリアは両手を振り上げて吠えた。
その様にさっきまでの威厳はなく、見た目の幼い女の子が必死に強がっているようにしか見えない。

「できるのかしら? 蝙蝠の妖怪?」

しかし、博麗の巫女は容赦しない。
そのレミリアの様子を見ても臨戦態勢を解くことはなく、その手にお札を取り出して構えた。

「違う! 私は偉大な吸血鬼ヴラドの末裔、レミリア・スカーレット!」

対してレミリアも威厳を取り戻そうと躍起になり、その手に魔力を集めだす。

「そう。興味ないわ」

「っ! もう! 可愛げのない人間ね!」

紅霧異変の終わりを告げる、最後の戦いはこうして幕を開けた。



「マリサ?」

「うーん、微妙に発音が違うんだよな。魔理沙、だ」

「魔理沙!」

「そうそう!」

幻想郷の言語って不思議だ。
明らかに異国から来た紅魔勢が、普通に日本語喋ってるんだから。
多分、博麗大結界に言語の共通化魔法でもかけられているのか、共通の言語っていう概念が幻想入りしているのか。
はっきりした事は霊夢でもわからないと思うから、私にもわからない。
言語が共通でも、ある程度の差異が生まれる。
だからパチュリー達は、私の名前を呼ぶ時ちょっと変だ。
今はフランが私の呼び方をマスターするために、繰り返し練習している。

「魔理沙、魔理沙、魔理沙!」

「うん、もう完璧だなフランは」

「えへへ。魔理沙、魔理沙、魔理沙!」

「もういいって」

嬉しそうに私の名前を何度も呼び、くるくると私の周りを飛ぶフラン。
羽の石がきらきらしてて綺麗。

「魔理沙の髪ってふわふわ!」

「だああ! 髪をぐしゃぐしゃするな!」

「魔理沙、暖かい!」

「わ、箒に乗ってる時に抱きつくなって!」

「魔理沙、魔理沙、魔理沙!」

「もうっ! 落ち着けフラン!」

さっきからベタベタと私にくっ付き、終始笑顔のフラン。
今までの孤独の反動だろうか。
そう思うと、言葉では拒否しつつあまり強く拒めない。
だからもっとフランはギューっと抱きついてきて、ますます私は箒の上でアワアワする。

「そろそろ離してくれないか?」

「なんで!?」

「ちょっと行きたい所があるんだよ」

予想外のトラブルに見舞われたが、まだ異変の最中だ。
上からは未だに、霊夢が暴れている破壊音が響いている。

「私も! 私も外行きたい!」

「おい、人の話はちゃんと聞くもんだぜ」

「でもお姉さまが許してくれないだろうなぁ」

うーん、と額に手をあてて悩むフラン。
極度の興奮状態の為か、こちらの言っていることの半分しか聞いてくれない。

「あのな、私はこの館の主に用事があるんだよ」

「お姉さまに? どうして?」

「そのお姉さまが異変を起こしてるから、懲らしめてやるのさ」

「へー」

フランはなにやらコクコクと頷き、にっこり笑って言った。

「うん! お姉さまを倒しちゃえば、私も外にいけるもんね! さすが魔理沙!」

どうやら、やっぱり話を聞いていないみたいだ。

「そうと決まれば急いで行こう!」

「あのなあフラン、ちょっとまっ……!」

がしっと腕を掴まれ、急発進。思わず悲鳴を上げそうになる。
ちょっ! 速い!!
あっという間に階段を飛び上り、次の階段ホールへ。
天狗程ではないが、私なんかよりずっと速く飛べるフランに引っ張られ、軽く意識が遠のいた。

「ちょっ、まっ!」

「あ! 外から行った方が速いよね! 壁壊しちゃおっか! キュッとしてドカーン!」

「う、うわあああ!」

壁が崩壊し、外を見れば紅い霧に包まれた大きな満月を背に戦う影2つ。
おそらく霊夢とレミリアだろう。

「う、うわ!」

「え、なに?」

壁の崩壊で飛んできた破片が、箒にぶつかってバランスを崩す。
思わずフランにしがみついて、支えてもらいながら体勢を立て直そうとする。
でも箒に魔力を込めても浮かべなくて、ついに地面に降り立ってしまった。
箒を見てみると、飛んできた瓦礫によって先端が割れていたようだ。
中ほどに亀裂も入っていて、むしろ今までよく飛べていたなという様子。

「ほ、箒壊れた……」

「え! ご、ごめんね魔理沙……」

「い、いや! でも、どうしよう……」

長年使っていた相棒だったので、思い入れもあるのだが、フランの悲しそうな顔を見ると何も言えない。
原作魔理沙は箒がなくても飛べるようだったが、私は箒がないと飛べないし。
本当に、箒を使った飛び方しか知らないのだ。
だから、飛びながら戦う弾幕ごっこに参加する事はもうできない。
家に帰ればスペアの箒があるけど、今から取りに戻ったら終わってしまう。
どうしよう……。

「そ、そうか。魔理沙は箒ないと飛べないんだね」

「う、うん。どうしよう、霊夢のとこまでいけないよ」

思わず弱気になってしまい、視界がじわっと滲んだ。
せっかくここまで来れたのに。チルノやルーミアの協力も、このままでは無駄に終わってしまう。

「……!」

フランは私の顔を見た途端にのけ反って、壁の方を向いて深呼吸しはじめた。
突然泣きそうになってる私をみて、動揺したんだろうか。

「か、かわいい……! この感じは何……?」

壁を向いてぶつぶつと何か呟いているフラン。
妖怪でもない私には何も聞きとれないけど、小刻みに震えていた。
罪の意識を感じているのだろうか。
しかし、もうあの箒は寿命だったんだろう。今までよく堪えてくれた。
そっと、割れた箒の欠片を手に取り、ポケットに入れる。
きちんと弔ってやるからな。

「魔理沙! 良いこと考えた!」

「ん?」

振り向くと、フランドールが頬を染めて興奮した様子で詰め寄って来る。

「私が魔理沙を連れてくよ!」



「天罰『スターオブダビデ』!」

「よっ、と!」

当たらない! ええい、博麗の巫女は化け物か!
さっきからこちらの弾幕は巫女に掠るだけで、少しも被弾する気配を見せなかった。
テラスから始まった弾幕ごっこは、気づけば館の中庭に移っていた。

「よっ、はっ!」

「っく!」

それに対して巫女の撃つ弾幕は、しつこく私を追尾してきて何発も何発も喰らわせてくる。
一撃一撃の威力は大したことないがないけど、少しずつダメージが蓄積されてかなり痛い。
スペルカードを使ったのに、やっぱり巫女には当たらない。

「っく、なんて出鱈目な回避!」

「あんたも、結構出鱈目な弾幕じゃない」

「一発も当たってないのに、よく言う!」

博麗の巫女の能力は何なのか、予想もつかないが、私の『運命を操る程度の能力』に全く干渉されない。
運命を手繰り寄せようと集中する時間を与えられないし、最初の会話中に軽く探ったが、まるで雲をつかむようにふわふわとしており困難だった。
すべてから宙に浮いている、まるで無重力のような感じ。

「っぐ!」

巫女の針が私の翼を貫き、ふらついた所に無数の弾幕。
弾幕ごっこの経験が、全く違う。私よりもずっと経験を積んでいるのだろう、戦い方がとても上手い。
一旦蝙蝠になって避け、また違う場所に現れる。

「さすが異変の主ね。今までで一番強いじゃない」

「っち……!」

まるで赤子の手を捻るような、一方的な戦いじゃないか!
吸血鬼としてのプライドが、酷く傷つけられた。
これが博麗の巫女か。

「本当に人間? 化け物よりも化け物染みた強さね」

「化け物に褒められても嬉しくないわね」

会話をする気があまりないのか、早々に話を切り上げて再度弾幕を放ってくる巫女。
その姿からは、全く消耗している様子が見られない。
館に着く前だけでも随分と戦っているだろうに。
そして館に着いてからは、美鈴、咲夜、紅魔館中の妖精メイドと罠の全てを相手にしているのに。

「冥符『紅色の冥界』!」

正直、博麗の巫女をナメていた。
異変解決の請負人だとか、妖怪と人間の調停者だとか、そういった話が付きまとう『幻想郷最強の人間』という巫女。
ちょっと試すだけのつもりが、こんなに追いつめられるなんて。

「ほっ、よっと」

やはり避けられる。当たらない。

「これは、遊んでる場合じゃないわね……!」

「負けた時の言い訳? 残念ね、吸血鬼」

「ふんっ。良いだろう、ここからは本気だ」

「最初から本気でかかってきなさいよ、面倒くさいわね」

「……こんなに月も紅いから」

一度巫女から視線を外し、中天にかかる月を見上げる。
そして巫女を睨みつけ、体中の魔力を活性化させた。

「本気で殺すわよ」

「……こんなに月も紅いのに」

巫女も手に持つ札を握りしめ、霊力を高める。

「楽しい夜になりそうね」

私はニィっと、久々に心からの笑みを浮かべた。

「永い夜になりそうね」

巫女のその顔は無表情で、私からは何も伺い知れない。

「あ、お姉さまだ!」

突然館の方から聞こえてきた大きな声。
その邪気のない声により、私たちの戦意は霧散した。

「な、フラン!」

あ、あれ!? なんであの子外に出てるの!?
パチェは!? パチェの封印は!?

「あ、ま、魔理沙!?」

横から聞こえてきた声に巫女の方を窺い見れば、私の方からは見えないが、フランの後ろを見て酷くうろたえている。
こいつ、こんなに人間らしい表情できたのか。
そのフランの後ろに何があるのか、だんだん近づいてくるフランに注視してみると見えてきた。

「……あ!」

フランの背に背負われている、小柄な影。
フランと同じ、いや僅かにくすんだブロンドの髪。
白いドレスシャツに、黒いエプロンスカートを身に付けた、西洋の魔女のような姿。
血色があまり良くなくて白い清らかな肌に、閉じられた瞳の長い睫毛。
まだ幼い少女のような容姿をしていて、身長もフランとそう変わらないように見える。
今までに通ってきた激戦を物語るように、その姿は埃まみれだった。
……なぜだろう、心がドキッと高鳴った。

「……あれが霧雨魔理沙か」

努めて冷静に声を出す。
咲夜の運命を通して見た存在。
実際にこの目で見るのは初めてだが、普通の人間とはやはり違うみたいだ。
なぜだろう、ずっと見ていたいような、気恥かしいような。
500年生きてきて、私がこんな風に影響される人間は初めてだ。
ドキドキと胸がうるさい。

「って、それよりなんで外に出てるのよフラーン!!」

「そこの巫女が暴れてる時に、少し扉が歪んで開いたの」

暴れすぎ! 地下まで衝撃が抜けていたのか。

「あんた、魔理沙に何したのっ!」

その巫女はフランの後ろの霧雨魔理沙の様子を窺いながら、先ほどよりも一層力を高めている。
大気が揺れ、ごごごご、と音を立てている錯覚が見えた。
サ―っと背筋が冷える。正体不明の悪寒が駆け廻り、原因不明の汗が噴き出た。
あ、あれ? この感覚はなに? まさか、恐怖?
私が、吸血鬼のレミリア・スカーレットが、人間に!?

「お、おぉ……。その声は、霊夢か?」

と、その時目を瞑っていた霧雨魔理沙が目を開けた。
顔色が悪い。フランにギュッとしがみ付いてる様子から、高いところが怖いのかもしれない。
……かわいい。
あれ、いま私は何を思った!?

「魔理沙! 無事!」

「……ああ、なんともないぜ」

巫女が焦りながら声をかけ、霧雨魔理沙が震えながら答える。
さっきから霧雨魔理沙の声を聞くだけで、私の心臓がドキドキとうるさい。
なんなんだ、これは。変な魔法でも掛けられたのだろうか。

「どうしてそうなってんの?」

「あ、あのな……。箒が壊れてな……」

「私が魔理沙の箒代わりに飛んでるの!」

「ああ。……箒以外で飛ぶなんて初めてだし、フランがスピード出し過ぎてて……具合が悪くなったんだ」

「ええ!? ごめんね魔理沙!」

「い、いや気にしないでくれ。慣れてない私が悪い」

「仮にも魔法使いが、その様でどうするの」

「うう、言い返すことができないぜ……!」

「違うよ、魔理沙は悪くない! 私がはしゃいだだけだもん!」

「うるさい、あんたには言ってない!」

「れ、霊夢。落ち着いてくれ……」

「むう、アンタって名前じゃないよ? 私はフランドール・スカーレット!」

驚いた。フランから狂気が感じられない。
フランは情緒が不安定で、その能力の危険性から幽閉していたのに。
何度もあの地下の部屋でフランと会話したが、こんなにハッキリとした受け答えは一回もできなかったのに。
フランに一体、何が起こったのか。
パチェだけでなく、フランにも良い影響があるとは。
様々な期待と希望感から、思わず目が潤む。

「スカーレットって、異変の首謀者と同じ家名じゃない」

「うん。お姉さまが異変を起こしたんだけどね、魔理沙が異変を解決したいって言うから一緒に戦うの!」

え!?
驚いて思わずフランを見る。
フランはニコニコと笑いながら、片手で背の霧雨魔理沙を支え、もう片方の手で変わった形の杖をびゅんびゅん振り回している。
あれれ、なんだか雲行きが怪しい。

「だから、一緒に戦おうよ!」

「はあ。……わかったわよ」

巫女はフランに危険性がないと判断したのか、一つため息をつくとフランに向けていた警戒を再び私に向けた。
フランはにっこりと笑うと、大きく頷いて私に向かい合う。

「魔理沙。異変終わったら話があるわ」

「うーん、あの、霊夢?」

「お姉さま、覚悟して」

え、ええ!?
気づけば周りは敵だらけ。私は同じ吸血鬼の妹と、恐ろしい人間の巫女を同時に相手にしなくてはいけなくなった。
……これは無理よ!
とんでもなく絶望的な戦いが、幕を開けようとしていた。

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

そして、その私を救ったのが霧雨魔理沙だった。



いやいや! ダメだって!
この2人なら間違いなくレミリアを倒せるだろうけど、私が来た意味なくなっちゃうじゃん!
何のために来たって、そりゃレミリアと弾幕ごっこして、できれば勝つことなんだけど!

「2人とも、一旦落ち着いてくれ!」

「なによ」

「どうしたの?」

私の出番なくなっちゃうから!
なんて言えるわけもなく、声をかけたは良いが、何も言えなくなってしまう。

「……なんなの?」

霊夢が怪訝そうに私を見て、フランも振り返りながら首を傾げた。

「えっと……だ、ダメだ!」

「なにが?」

「魔理沙、どうしたの?

「とにかく、2人ともダメだ!」

「だから、なにがダメなの?」

「どうしたのよ魔理沙」

「そ……そいつには手を出させないぜ!」

「……は?」

「……え?」

「……っ!」

三者三様、様々なリアクションがあった。
言った本人の自分が一番混乱しているけど。

「ちょっと、何言ってるのよ魔理沙!」

まず食ってかかってきたのは霊夢。
目がつり上がっており、はっきりと怒りの表情。

「そうだよ、さっきと言ってる事違うよ!」

次にフラン。
こっちは眉を下げたかなり困惑の表情。

「え……?」

そしてレミリア。
なぜが頬を赤く染めて、指を絡めて胸の前に組んでいる。
目は恐怖からか潤んでいて、その姿から吸血鬼の威厳は感じられない。

「えーっと、その……」

ぐるぐると頭の中で言い訳を考える。

「どういうことなの魔理沙!」

「どうしたの魔理沙?」

ぐるぐるぐるぐる。

「魔理沙!」

「魔理沙」

う、うわーん!

「う、うるさい! もうしらない!」

言って、フランの背からポンっと飛び降りる。
あ。

「あ」

「え?」

「ん?」

「まっ、魔理沙!」

上から、私、レミリア、フラン、霊夢。
きょとんとした顔のフランに、目を見開いて固まっている霊夢。
そして私は飛べないんだった。落ちる。

「ぎゃわああ!」

咄嗟にフランが手を伸ばすが、僅かに間に合わない。
後ろ向きのフランの手が、私のいない空間を必死に掴む。

「ま、魔理沙!?」

「バカ! なにしてんのよ!」

振り返ったフランが、こっちに飛んでくる。
既に霊夢も飛んで来ていて、私に手を伸ばす。
私も手を伸ばして掴もうとするけど、振り返ったフランと霊夢が空中でぶつかってしまう。

「あいた!」

「ちょっ!」

ヒューッと、重力に引かれて2人から離れていく。
お、落ちる!!
私は一体何をしているんだ!?
箒がなくて飛べないからフランの背に乗っていたのに、いつも飛んでいて感覚がマヒしていたのか?
空を飛べるようになって、特別になった気がしていたけど、やっぱり私はただの人間で、箒がなければ飛ぶこともできない。
本物の『霧雨魔理沙』なら、こんな風に落ちる事なんてないだろうし、あの2人を説得する事もできるんだろうか。
所詮は偽物の私が、必死になって模倣しても、なんにもできなかった。

「っ!」

「わっぷ!」

と、背に軽い衝撃があり、ゆるりと減速してまた宙に浮く。
何かと思って目を開ければ、真っ赤な瞳と目が合った。

「……」

「……」

互いに無言。
レミリアが私の首と膝の後ろに手を入れて持ち上げている状態で、顔がとても近く向き合っている。

「あ、ありがとう……」

直前までの行動と思考が思い返されて、すっごい恥ずかしい!
穴があったら入りたい!
こんな状態ではままならないので、せめて顔を両手で覆う。
うう、顔が熱いぜ……。
チラッと指の隙間からレミリアを伺えば、ジッとこちらを見ながら頬を赤く染めていた。

「……」

「……」

なんとなく、互いに無言になってしまう。

「魔理沙! 無事?」

「お姉さまずるい! 離れて!!」

私から姿は見えないが、霊夢とフランの声が聞こえてきた。

「お、おう……。なあ、なんで助けてくれたんだ?」

問いかけると、レミリアはボーっと熱にうかれたような表情で口を開いた。

「……私はレミリア・スカーレット。好きに呼んでいいわよ」

「あ、ああ。レミリア? 私は」

「知ってるわ、霧雨魔理沙でしょう? 魔理沙って呼ぶわね」

なんだろう。レミリアの目がとっても怖い。

「ねえ魔理沙」

「う、うん?」

「私のモノにならない?」

なにをいってるんだこのきゅうけつき。
首にまわされた腕に力を入れられて、どんどんと顔が近づく。
私には何がなんだかわからず、なにも考えられない。
頭が真っ白で、レミリアの顔が近づいてくるのをボーっと見ているしかできなかった。

「離れろこのエロ妖怪!」

「ごっふっ!!」

レミリアの頭が、霊夢にボールみたいに蹴られて私の視界から消えた。
私は気づけば霊夢に抱きかかえられている。はるか下の地面で、ブワッと土煙が舞ったのが見えた。
う、うわぁ……。

「魔理沙、大丈夫!? お姉さまに変な事されてない!?」

フランも飛び寄ってきて、私の顔をぺたぺたと片手で触る。
安心したようにほっと息をついているけど、反対側の手に握られた杖が、尋常でない魔力で炎を纏っている。

「あ、あははは」

レミリアは大丈夫だろうか。

「ごめんね、ちょっとお姉さまに話してくるから、後でね」

にっこりと笑顔で言うけれど、その笑顔とは裏腹に、さっきまで感じられなかった禍々しい魔力。
下の方では、浮かんできたレミリアが顔を青ざめてその姿に背を向けた。

「どこに行くのお姉さま! 禁弾『カタディオプトリック』!」

「ちょっ、待ってフラン!」

「あはは! 禁忌『レーヴァテイン』」

「ちょ! 落ち着いて! あれは本能的な行動で……!」

「絶対に逃がさナイ! 禁弾『スターボウブレイク』」

「きょ、狂気が! 狂気が戻ってる!?」

「秘弾『そして誰もいなくなるか?』」

「ふ、フラーン!」

恐ろしい姉妹対決だった。いや、妹による一方的な虐殺だった。
私自身は霊夢にしがみ付いている安心感からか、全く恐怖を感じなかったけれど。
結局、原作を最悪の形にしてしまったのではないだろうか。
大筋の流れは変わっていないハズだけど、これが後にどう影響してくるのか。

「……まあ、いいか」

今は考えたくない。
霊夢に抱かれながら、霊夢の鼓動と体温を感じて安心してくる。
疲れがどっと溢れて来た。瞼が重い。
霊夢がちょっと厳しい顔で、私に問いかけてくる。

「魔理沙……。なんで異変解決なんてしようと思ったのよ」

「んー?」

頭がぼーっとしてくる。
眠たい。
霊夢にもっとしがみつく。

「そりゃあ、心配だったからな」

原作通りじゃない私が影響を与えていて、変化しちゃったんじゃないかと思って。

「心配?」

「うん。霊夢が怪我したらいやだし」

異変の解決で、怪我をすることはあるだろうけど。
『霧雨魔理沙』が違う事で、余計な怪我を負う可能性だってあったわけで。

「紅霧で人里の人が倒れるのも嫌だし」

実際に紅霧を見て、考えてたよりずっと規模が大きいと思った。
原作では紅霧の影響は、具合が悪くなる程度で済んだハズだ。
まだ人里の様子を見ていないので、どうなったのかはわからないけど。

「……あと、この異変を起こした人を見たかった」

レミリアが犯人じゃない可能性っていうのも、考えられたからな。

「それで、仲良くなりたかったんだぜ」

「なにと?」

「レミリアたちと」

幻想郷のパワーバランスの一角を担う、っていうのと、月に行くロケットの事あるし。
あと、好きだからな、紅魔勢。

「会って、話して、仲良くなって、宴会して」

それで異変は終了ってのが流れ。それが変わっちゃうのが怖い。

「私も、この幻想郷の一人なんだって、実感したかったんだ」

たとえ偽物でも、幻想郷に魔理沙はいるんだ。それを示したかった。

「バカね、あんたは。……本当に」

「あー……眠たくてあんまり考えられないぜ」

「寝ちゃいなさい。よくここまで来れたわね。すごいわ」

「えへへ、だって私は霊夢のライバルだからな」

ふふ、っと笑ってくれた気がした。

「そうね、まったく。敵わないわ」

そのまま私は目を瞑り、まどろみに意識を落として行った。
起きたらきっと筋肉痛だ。

* * *

恋色魔法使いの本領発揮。
このあと、EX(後日談的なもの)がありますが、とりあえず紅魔郷編、終わりです。
マイナーですが、実はレミマリが大好きです。
広がれレミマリの輪!



[20277] 閑話4 かりすまは投げ捨てるモノ
Name: クイックル◆bad3b9bc ID:b764bb8a
Date: 2010/09/06 10:28
私の紅霧で幻想郷を覆う異変は、巫女と魔理沙の活躍で終息した。
窓が少なく、殆どがカーテンで閉め切られている紅魔館では分かり辛いが、幻想郷に夏らしい陽気が戻ってきたのだ。
異変を解決した一人である魔理沙はまだ目覚めておらず、今は咲夜が用意した一番上等な客室で巫女と一緒にいる。
フランが気の済むまで私に弾幕を撃ちこんだ後、ボロボロになっている私に咲夜がそれを伝えた。

「見ていたなら助けなさいよ……っ!」

「仲良く遊んでいるように見えましたわ」

とにかくすぐにその部屋に向かったのだけど、鬼巫女と鬼畜妹が私を阻んで辿りつけなかった。

「あんたの能力で魔理沙の運命を操られたら、たまったもんじゃないわ」

とは鬼巫女の言葉。
私の能力はそんなに危険なものではないと説明しても、その場にいた咲夜もパチェも弁護してくれない。
私は完全に締め出され、巫女とフランは寝ている魔理沙の部屋の中。
寂しい。
という事で、私は異変解決後のボロボロの体で一睡もせずに図書館でパチェとお茶会を開いている。
パチェは迷惑そうだったが、泣きそうになってる私を見てため息をつき、一緒にいてくれた。
やはり持つべきものは親友だと思う。
咲夜はいつの間にか完全に復活していて、門番は元気に館の補修を行っている。
魔理沙が連れてきた妖精は門番の手伝いをしていて、もう一人の妖怪は気づけばいなくなっていた。
私は疲れてくたくただったけど、興奮状態で全然眠くならない。
咲夜に淹れてもらった紅茶を飲み、ふうっと息を吐く。
はあ、昨日から魔理沙の事が頭から離れない。
魔理沙を思うと、胸のドキドキが収まらない。
私らしくないが、どうやら魔理沙に性質の悪い魔法をかけられたようだ。
パチェでも解除できない、強力な魔法を。

「はあ……」

「お嬢様、どうしました?」

咲夜が浮かない顔をしている私を心配そうに窺う。
私はそれになんでもないと手を振り、肘をついた手に顎を乗せた。 

「……ふふ」

フランにボコボコにされた後、眠っている魔理沙を見て随分心配したが、寝ているだけと言われてがっくりと力が抜けたのを思い出す。
疲れていたのか、魔理沙は随分安らかに眠っていた。
あの巫女の腕の中でなく、私の腕の中で眠ってくれれば、文句はないのに。
というか、あと数秒、巫女の蹴りが遅ければ……。

「レミィ、ニヤニヤしてて気持ち悪いわ」

「へっ!?」

親友の声で、はっとする。
むむ、気持ち悪いとは酷い言われようだ。キリッと顔を引き締める。 

「ごほんっ。そうだパチェ、異変の最中に魔理沙と会ったんだろう? どうだった?」

異変前にパチェに魔理沙の相手を任せたはずだ。
詳しい内容まではわからないが、愉快な事になるという予感はあった。

「どうって、そうねえ」

ふむ、とあごに手をあてて少し考える仕草。
私は羽をパタパタと動かしてパチェが口を開くのを待つ。

「弾幕ごっこをして、私が負けて」

驚いた。パチェと弾幕ごっこをした事はないが、相当な実力者だと思っていたのに。
パチェが負けたという事は、魔理沙は結構強いんだろうか。
人は見かけによらないものだなあ。
それとも、パチェが弱いのか?
今度確かめてみよう。

「色々あって、あの子の先生になったわ」

「色々!? その過程を聞きたいんだけど」

「……別に良いじゃない。それだけしかなかったわ」

パチェが少し照れている。
その表情、何かあったわね。

「ふうん。パチェが先生か」

パチェならうちの知識人として、立派に役目を果たすだろうし。
というか、もしかしてそれって、魔理沙が定期的にうちに来るって事かしら?

「よくやった親友!!」

「ちょ、急に叫ばないでよ」

おっと、失礼。
しかし、すっかりやられてしまっているなあ。
ただの人間の小娘に、ここまでやられてしまうとは。
陳腐な言葉だが、一目惚れだ。
一目見た時から、というやつ。
それに霧雨魔理沙という人間は、知れば知るほど魅力的だ。
なんというか、いろいろ困る。
あの異変の最中の、謎の言動。
その時の魔理沙も、とても可愛かった。



どうしてこの人間は私を庇っているのだろう。
異変の解決に来た、とフランが言っていたのに。

「そ……そいつには手を出させないぜ!」

「……は?」

「……え?」

不意打ちの言葉に、心臓が飛び跳ねる。
まずは頭が真っ白になって、言葉を理解するのに数秒かかった。
フランと巫女は、ワケがわからないと互いに顔を見合わせた。

「ちょっと、何言ってるのよ魔理沙!」

「そうだよ、さっきと言ってる事違うよ!」

「え……?」

そしてその言葉を理解すると、カーッと顔が熱くなった。
私らしくないが、恥ずかしさからもじもじと指を絡めて、魔理沙の方を窺って見る。

「えーっと、その……」

魔理沙は微妙な表情で、額に汗を浮かべて必死に何か考えていた。
咄嗟に言ってしまった、という印象。
咄嗟に、私を庇ってくれた。

「どういうことなの魔理沙!」

「どうしたの魔理沙?」

「魔理沙!」

「魔理沙」

巫女とフランが両側から吠えて、魔理沙は目を回していた。
私が原因なんだし、何か声を掛けるべきだろうか。
少し近づくと、巫女とフランにギラっとした目で睨みつけられた。
フランはともかく、巫女はその目つき、人間をやめてると思う。

「う、うるさい! もうしらない!」

私を睨んでいたから、2人は魔理沙がフランの背から飛び降りた事に、咄嗟に反応できなかった。

「え?」

理解しがたい行動に、目を丸くする。
しかし私の行動は早かった。
考えるよりも先に、魔理沙の元へ向かう。
しかし、距離がある。私よりも先に巫女やフランが助けるだろうと思う。

「ん?」

フランが背の重みの無くなった事に気付き、咄嗟に後ろに手を伸ばす。
が、すでに魔理沙はいなく、もっと下に落ちている。

「まっ、魔理沙!」

巫女は、魔理沙が浮けないと気づくのに少し遅れた。

「ぎゃわああ!」

魔理沙の色気のない悲鳴があがった。

「ま、魔理沙!?」

「バカ! なにしてんのよ!」

咄嗟に振り返ったフランが飛び出して捕まえようとするが、同時に飛んでいた巫女とぶつかる。

「あいた!」

「ちょっ!」

互いに結構な勢いでぶつかったためか、大きくはじき飛ぶ。
距離が離れていたのが幸いしてか、2人とぶつかることなく私は魔理沙の傍に飛び寄れた。
すぐに掴もうとしてハタと気づく。
人間は壊れやすい。あの巫女はどうか知らないが、この華奢な少女は私が掴んでしまうと折れてしまいそうだ。
現に、巫女とフランが互いにぶつかって地面に落ちても、巫女は怪我ひとつ負った様子がないし。
掴むのはいけない。抱きとめるしかない。
一瞬の思考の後、魔理沙の下側に回って体を受け止め、速度を徐々に緩めて負担を軽減。
ホッと息をつき、改めて魔理沙を見る。
ギュッと目を瞑り涙を滲ませて、僅かに震えていた。
ぐはっ!

「っ!」

その目がゆっくりと開かれて、少し焦点をぼんやりとさせながら私と目が合った。

「……」

「……」

互いに無言。
心臓がとてもうるさく、なにか喋れる状態ではなかったというのもある。
少し落ち着くと、この体勢に気がついた。
いわゆるお姫様だっこ、横抱き。
私が魔理沙を抱えている。顔がとても近い。
思わず、悪魔なのに、教会で白いドレスに包まれた魔理沙と結婚式をあげている私を幻視した。
魔理沙……、幸せにするからね。
何を言っているんだ私は。頭が茹だっているのか。

「あ、ありがとう……」

直前までの妄想の返事かと思い、また心臓が跳ねる。
いや、落ち着け!
違うから!
妄想と現実の区別はつくから!
結婚式はこの紅魔館でするから!
そういう事でもないから!?
なんとか頭をクリア。ふうふうと荒い息を押し殺し、外面は何でもないように取り繕う。
なんでもないように魔理沙を見れば、顔を両手で覆っていた。
僅かに見える顔が真っ赤に染まっていて、なにか恥ずかしがっている様子だ。
ああ。急に飛び降りて浮かぶ事も出来ず、助けられて恥ずかしいのか。
私も、なにかフォローしないと。
よくわからない行動を急に取りたくなる時もあるよね、うん。
チラッと指の隙間から魔理沙の瞳と目があった。
潤んでいて、弱々しい、小動物のようなかわいっうわああああああ!
頭がオーバーヒート。
完全にやられた。

「魔理沙! 無事?」

「お姉さまずるい! 離れて!!」

もう外部の声なんて何にも聞こえない。
ただ幸せな気分だった。

「お、おう……。なあ、なんで助けてくれたんだ?」

魔理沙が私に声をかける事で、再起動をはたす。

「……私はレミリア・スカーレット。好きに呼んでいいわよ」

大丈夫、私は冷静。

「あ、ああ。レミリア? 私は」

魔理沙がその口で私の名前を呼ぶ。
それだけで更に幸福感が胸を満たす。

「知ってるわ、霧雨魔理沙でしょう? 魔理沙って呼ぶわね」

妖怪は人間を食べるもの。
なにもおかしくない。

「ねえ魔理沙」

冷静だから、声も震えない。

「う、うん?」

「私のモノにならない?」

そう、吸血鬼の花嫁に。
性別? 関係ないわ。
唇を落とすため、ゆっくりと顔を近づける。
魔理沙は固まっていて、少し血の気が引いているように見えた。
大丈夫、怖くない怖くない。
私がずっと守ってあげるから。

「離れろこのエロ妖怪!」

側頭部に衝撃。

「ごっふっ!!」

吸血鬼の体は頑丈だと思っていたけれど、そんなことはなかった!
一瞬意識が飛び、地面とキスをしてやっと本当に冷静になる。
あたりは土煙が舞って、地面は私が落ちた跡が凹んでいた。
なにあの巫女こわい。

「げほっ、げほっ! く、あとちょっとだったのに!」

悔しさが滲むが、同時に感謝もする。
無理矢理は私の趣味じゃない。
その点だけは、私の暴走を止めた巫女に感謝してもいい、かもしれない。
羽を広げ、土煙を抜けて上空へ。
そして、そこで恐ろしいモノを見た。

「ごめんね、ちょっとお姉さまに話してくるから、後でね」

魔理沙を抱きしめる巫女と、魔理沙に話しかける愛しい妹。
妹の目は既に殺意を超えた何かを感じさせ、その手には凶器が握られている。
常に持ち歩いているあの変な杖に、目で見えるほどの魔力を纏って極大の炎を噴き出している。
遠目で見ただけで、フランの怒りが伝わってくるようだ。
私がそこから背を向けて逃げ出したのは、言うまでもない。



「お嬢様、お部屋に戻られますか?」

はっと目を覚ます。
どうやら少し眠っていたらしい。
思ったよりも疲れているみたいだ。
こんな朝に起きている事も珍しいから、体がだるい。
目の前いる友人も、心なしかいつもより眠そうな目をしていた。

「ああ、そうね。もう休もうかな」

「私も昨日は遅くまで起きてたから、すこし眠りたいわ」

まだ魔理沙も目を覚まさないだろうし。
今から上に行くのも面倒だし、近くのパチェの部屋で寝よう。

「ふぁぁ。ねえパチェ、一緒に寝ない? 上まで戻るのも面倒だわ」

「はあ、なに言ってんのよ」

「えー、お願いよぅ

「……もう、好きにして」

「そうね。好きにするわ!」

やっぱり、持つべきものは親友ね。
魔理沙が目覚めたら咲夜が起こしてくれるだろう。
それまでは眠ることにしよう。
……ああ、それと、魔理沙に熱中症に注意してって言わないと。

* * *

レミリア視点でのあのシーン。
すこし短いですごめんなさい。
そしてキャラ崩壊注意。遅い。

次も閑話で、それが終わったらEXです!
今週中に2つとも投稿したいです……!



[20277] 回顧話1 マスパができるまで(依頼編)
Name: クイックル◆bad3b9bc ID:b764bb8a
Date: 2010/09/05 09:18
今年の夏の幻想郷は、例年よりも暑い。
特にここ最近はずっと暑い日が続いていた。
雨もしばらく降っていなく、日照りで農作物が枯れ、人里の方では何人も熱中症で倒れた。
人間よりも丈夫な妖怪すら元気がないので、静かな様子が今年の夏の異常な暑さを物語っている。
元気なのは妖精くらいだが、妖精たちは自然の発露なので、花が枯れている地域ではその妖精さえ元気がない。
しかしここ太陽の畑では、今年も満開のひまわりたちが一杯に日差しを受けて輝いていた。

「ふう、あっついわねぇ」

夏の間、畑を管理する風見幽香もさすがにこの暑さに参っている様だ。見た目には全くわからないが。
日傘を肩で支え、手に下げた桶の水を柄杓ですくって植物たちに少しずつ水をあたえる。
この広大な畑一杯の植物に、彼女は毎日1人で水を与えていた。
もう何日も休まずに、ずっと水を汲んできては撒いている。
朝水をまいた場所も、昼には乾いているけれど。
焼け石に水、という諺を体現しているような働きぶりだが、この畑は枯れる事がない。
風見幽香のような強力な妖怪が近くにいて世話を焼いているというだけで、植物たちは僅かに妖気を受けてエネルギーとし、なんとかその姿を保っているのだ。
しかし、今のままではいずれ枯れてしまうだろう。

「こうあっついと、さすがの私でも参ってくるわ。日差しが強すぎて、花たちも枯れそうになるし」

言葉とは裏腹に、その額に汗一つ掻かず、むしろ涼しげな様子で畑の中を進んでいる。
桶の水が無くなり、柄杓を桶に突っ込んで片手に下げる。
ふう、と一息ついて、日傘越しに広がる青空と太陽を見上げた。

「雨、降らないかしらね」

ここ二週間ほど、雨は降っていなかった。
人里でも対策を練っているが、井戸水が枯れるなど水不足に陥っている地域も多くあるようだ。
しかしそれは幽香にとってそれはどうでもいい事で、彼女の関心は人間よりも植物に向けられている。
彼女の献身的な水やりでこのひまわり畑は維持されているし、彼女自身が独自に掘り当てた水脈はまだ枯れることはないだろう。
いや、水やり自体は大した効果をあげていないが、それでも彼女のおかげでひまわり達は生き長らえていた。

「あら?」

幽香がその音を聞いたのは、恨みがましく太陽を見上げたその一瞬の時だった。
畑に誰かが、風を切って近づいてくる音。
空を飛んでいるのか、なかなか速い。
彼女自身の飛行速度が遅い為か、一定以上の速度ならみんな速いと感じるだろうが。

「なにかしら」

この幻想郷で彼女自身に近づいてくる者など、人妖含めてそうはいない。
人里で出回っている幻想郷縁起という書物によって、彼女は一応の平穏と、人々からの恐れを集めているからだ。
もちろん実力も伴なっていて、さらに本人も弱いものいぢめが好きという性分のため、妖怪も人間もこの時期の太陽の畑に踏み入ってくる事は、ほぼ無い。
しかしなぜか、今この畑に近づいて来る存在がいる。

「いやねえ。ひまわり荒らしかしら?」

極稀にだが、力試しだとか、妖怪退治だとかで彼女に挑む人妖がいる。
しかし博麗の巫女である霊夢以外の人間など取るに足らないし、八雲紫などの強大な妖怪はそもそも彼女にちょっかいをかけない。
木端妖怪や貧弱な人間など、文字通り彼女は相手にしないし、突っかかって来た時に適当に相手をすると、相手は勝手に恐れて逃げ出す。
昔はそういった輩を殺していたが、八雲紫がうるさいので、戦いに来た雑魚は殺さない事にした。
ただ、二度と刃向かう事のないようにいぢめて適当に逃がし、しばらくはまた平穏な日々を過ごす。
戦いは好きだが、あくまでも強者との戦いが好きで、弱いもの苛めは好きだが、あまり弱いものをいぢめているのもつまらない。
彼女はそんな妖怪で、とりあえず友好的ではないが、とくに危険というわけではなかった。
日傘をくるりと回し、こちらから近づくためにふわりと浮かびあがる。
手に下げた桶をそのまま持っているのは、追い払うついでに水を入れてくるからだ。

「なんにせよ、早くお引き取り願わないと。まだ水をもらっていない花がかわいそうだものね」

彼女は妖怪。
長く生きて強力な力を得て、周囲に恐れられている、幻想郷でも上位の存在。
そんな彼女が動く理由は単純。
すべての花は彼女の庇護下にあるため、許可なく摘み取る愚か者に罰を与える。
具体的には、一つの命には一つの命の制裁を。
今この時期に、太陽の畑でひまわりを摘み取るような真似をする人妖はいない。
彼女が四季のフラワーマスターと呼ばれるのは、彼女が何よりも花の味方だからだ。



魔法の森、深部で八卦炉を掲げ、魔力をありったけ注いで術を発動させる。
八卦炉の中心から弱々しく細い光が生まれ、すーっと延びて勝手に消えた。
まずいなぁ、研究に行き詰った。
香霖からもらった八卦炉の性能は、私のポンコツっぷりを考えると身に余る贈り物だ。
うん。どうしてもマスパが撃てない。
ひんやりとした空気の満ちる森の中。
太陽の容赦ない日差しは木々の茂った葉が受け止めているので、今年の猛暑も関係なくこの森は過ごしやすい。
まあ、湿気は凄いから、過ごしやすいと感じるには慣れが必要だけど。

「おっかしいなー……」

私が魔法を勉強してから、ずっと考えていた理論。
もちろん、魔理沙の代名詞であるマスタースパークのものだ。
理論的には間違えてない、はず。
アリスだって専門ではないと言いながら、一応目を通してくれて太鼓判を押してくれた。
その際に言われた「でも魔理沙の魔力じゃ……」という言葉を無視して、こっそり練習しているのに。

「やっぱ、専門家に聞くしかないか」

この場合の専門家は、アリスみたいな魔法使いではない。
そう。元祖といわれる、あの妖怪に聞くのが一番手っ取り早いと思う。
風見幽香。
私が魔理沙になってから呼んだ幻想郷縁起によると、この時期はやっぱり太陽の畑にいるはずだ。
でも、太陽の畑周辺には行くなって霊夢に言われてるしなぁ。

「いや、このまま行き詰って立ち止まるのはもっとダメだ」

ずっとこんな森の中で研究してても、アリスのように頭の良くない私ではいつまで経ってもできない。
なら、少しでも動きまわって、足りない力を補わないと。
そろそろ紅魔郷が始まってもおかしくないし、その時にマスパを撃てないと、魔理沙としてどうかと思うし。
よし、行くか。太陽の畑。霊夢には黙って。

「よしっ!」

そういえば、今年の夏はすっごく暑い。地域によっては井戸が枯れて、水不足になっている所もあるらしい。
比べて、魔法の森はひんやり涼しいので、妖怪に絶好の避暑地となっている。
だから私の家にも今、何人か知り合いの妖怪が来ている。
そいつらに一応声をかけてから出かけないと。
私の家で涼んでいるはずなので、一度家に戻ってから出発だ。
そうだ、人里に氷水を届けないと。
あと、霊夢の家に行ってご飯を食べてから行っても遅くないよな。
立てかけていた箒を手に取り、足元の水桶を持つ。
少し歩いた先にある氷室として使っている洞窟で、アリスが切り分けてくれた氷を水桶に入れる。
これは私の家の分だから、あまり多くなくていい。
洞窟を出てから歩いて、5分もしないうちに私のボロい家が見えてきた。
傾いた看板には、『霧雨魔法店』の文字。

「おーい、戻ったぞー」

「あ、お帰り魔理沙ー」

「おかえりー」

テーブルに突っ伏すようにしているミスティアとルーミアを横目に、桶に入れて氷室からとってきた氷をキッチンに置く。

「あれ、リグルは?」

「魔理沙の様子見て来るって言ってたけど、会わなかった?」

「ふうん」

まあ、あいつなら別にほっといても大丈夫だろ。
少し原作と違ってかなり強いし。
氷をルーミアに砕かせて、半分を床下の収納に、半分を水瓶に入れる。
水瓶には溶けかけの細かい氷と、今入れた大きな氷がプカプカ浮いていた。
保温保冷の魔法をかけて、蓋を閉める。
こういう小手先の魔法はすっかり得意になった。空気を綺麗にする魔法とか。
アリスが念入りに教えてくれたからか、原作と違う私が魔理沙だからなのか。
攻撃性のある魔法はちっともできない癖に、どんどん小手先の魔法を習得していってしまう。
まずいよなぁ。今までは便利だから特に考えてなかったけど、なんだよ保温保冷の魔法って。
だから、今回のマスパ習得は結構本気だったりする。

「ちょっと出かけるぜ」

「えー、遊ばないの?」

「マリサもゆっくりしようよー」

「また今度な。適当な時間に帰れよ?」

ここ最近はずっとこいつらがいるけど、夕方前にはきちんと帰るし、ただダラダラしているだけで邪魔にもならない。
だから特に私も何も言わないし、いつの間にか、居て当たり前みたいな顔をされている。
だからか、随分懐かれたような気がする。
でも兄弟が増えたみたいで楽しいし、1人暮らしの寂しさを感じなくなったから嬉しい。

「むー、わかった。じゃあルーミア、弾幕ごっこでもやる?」

「うん!」

「家の中ではダメだぞ? あと、アリスに迷惑かけるなよ?」

そういえば、ミスチー、ルーミア、リグル、これにチルノが加わればバカルテットだな。
ん、でもリグルは違うのかな?



高く飛んで、人目につかないように人里に入る。
大きな水瓶を箒にぶら下げているので、落とさないように慎重に進む。
しばらく進んで大きな通りに来ると、今年の猛暑の影響が見て取れた。
飲食系の店は水不足のためかどこも閉まっていて、歩いている人たちもみんな番傘をさしたり、手ぬぐいを頭に巻くなどして暑さに耐えている。
それでもこの人里は一番大きいだけあって、まだ人通りが途絶えることはないようだ。
箒に跨って浮かびながら、目的の家を探す。
探すといっても、大きい屋敷なのですごい目立つのだが。あ、ほらあった。
屋敷の塀を飛び越え、広い中庭からそうっと入り、箒にぶら下げていた水瓶を地面に降ろす。
箒にぶら下げているので重さを感じないが、とても大きな水瓶だ。
水瓶いっぱいに水と氷が入っているので、重量も凄い。
私の箒がただの箒なら、ぶら下げただけで折れてしまうだろう。
さすが香霖堂製の箒は格が違った。

「おーい、阿求! あきゅー!」

「はいはい、あんまり叫ばないでください魔理沙さん。余計暑くなるんで」

すぐに襖が開かれて、見知った顔がひょっこり覗く。
九代目阿礼乙女で稗田家当主、稗田阿求。
私とそう変わらない、むしろ私よりも小さなその子が、この屋敷の当主だ。
いつものように不機嫌そうな半眼でこちらを見ているけど、朝が弱いからこういう表情なだけで別に機嫌が悪いわけではない。
小さい頃から体が弱く、屋敷の外にあまり出歩かない引きこもりの少女。
私は縁側で靴を脱ぎすて、勝手に阿求の書斎に入ってその対面に用意されていた座布団に腰を下ろした。

「ごめんごめん。今日はちょっと少なめだけど、氷持ってきたから。また慧音先生に連絡してもらえないか?」

「慧音さんの方に直接行きなさいと、何度言えばわかるのですか。毎日持って来てくれるのは助かりますけど」

「だって、面識のない相手にいきなり水瓶渡されても困るだろ」

寺子屋に通ってたのは2カ月だけだ。それに、もう随分経った。
魔法の勉強を始めてすぐ、寺子屋に通わなくなったから。
いくら慧音先生でも、もう私を覚えていないと思う。

「それに、この暑さで阿求が倒れてないか心配だし」

「心配は無用です」

平気そうに強がっているけど、使用人の人から何度か暑さで倒れたと聞いている。
普段なら、もっと涼しい屋敷の奥の方の書斎に居るのだけど、最近は縁側近くの書斎にいるためだとか。

「いや、まあ何回も聞いてるけど。でも別に、ただ阿求に会いたいから来てるだけだし」

「……そういう言動で、今まで何人の人妖を誑かしてきたの?」

「え、なに言ってんだ?」

キッと睨まれ、首をすくめる。
阿求はひとつため息をつくと睨むのをやめてくれた。

「はぁ……。まったく。慧音さんの方には後で使用人の方に連絡を頼みます」

「おう。いっつも悪いな」

「いえ、むしろ少量とはいえ、感謝します。人里を代表して」

「おい、私が水を持ってきてるって内緒だぜ? 怪しい人間が持ってきた水なんて信用できないし」

「はいはい。そうだ、西瓜が冷えていますけど、ひとつどうです?」

「あー、今日は遠慮しておくぜ」

阿求の誘いを断って、座布団から腰を上げる。
これから太陽の畑に行くから、ここでゆっくりしてたら日が暮れてしまう。

「そうですか」

とちょっと残念そうな阿求。
悪いなぁと思うけど、毎日勝手に家に上がりこんで、いつもお菓子を頂いているので今回くらいは遠慮する。
誘ってくれるのは嬉しいんだけどな。

「悪いな。また明日来るから。あ、水瓶はまた広場に置いといてくれ。夜に回収するから」

「……明日は慧音さんの方に行けばいいでしょう?」

別れ際のその表情はいつも寂しそうで、心がズキっとする。
余計なお世話だってわかってはいるんだけど、やっぱり心配になる。
外見だって私より小さいのに、当主として稗田家を支えている阿求。
体も弱いし、少食だし、結構頑固だから無理するし。
だから、心配で。
頻繁に何度も、阿求の顔を見に来てしまう。
最近は水不足という事で、里の様子が心配なのも事実。
でも、それを口実に毎日阿求に会いに来ている。
私は酷いやつだ。

「へへ、明日は西瓜いただくぜ」

「もうなくなっているかもしれませんよ」

「そしたら、別の何かを頂くぜ」

「まったく。家に何もなかったら来なくなるんですか?」

「いやそれはないな、阿求が居るし。じゃあまた明日な!」

部屋の縁側から中庭に降り、箒に跨る。
体が弱くて、引きこもりがちで同年代の友達がいない。
寂しいよ、それは。
阿求を妹みたいに可愛がっている私からすれば、寂しいし心配だ。
後ろから阿求のため息が聞こえたけど、知らんぷりして飛び上った。
どうせまた明日も来るんだから。



「はぁ……」

彼女は、わかっているんでしょうか。
彼女が来てくれるのを、私がどれだけ心待ちにしているのか。
彼女の困った顔が可愛くて、何度も見たいから憎まれ口を叩いている事を。
彼女は朝のうちに来るので、頑張って早起きして、彼女を迎える。
使用人の方は、そんな私を微笑ましそうに見ていた。
一度、まだ私が眠っている内に来て、帰ってしまった事があるので、こっちとしては朝起きるのも必死なのだ。
彼女は優しいから、私が何を言っても毎日来てくれる。その事に、どれだけ安心している事か。
私の憎まれ口で、彼女が来なくなったらと想像するだけでどれだけ悲しいか。彼女は知っているんだろうか。
私が自ら対面に座布団を用意して、彼女との他愛もない話に興じるのがどれだけ好きか。
少しでも喜んでもらいたくて、少しでも長く居てほしくて、お菓子を用意して彼女の取り留めのない話を聞くのが、どれだけ楽しいか。
彼女の、また明日な、という言葉に、私がどれだけ嬉しく思っているのか。
どれだけ、救われているのか。

「失礼します。上白沢です」

「……慧音さんですか。どうぞ」

襖が開かれ、すっと入ってくる長身の女性。
上白沢慧音。寺子屋で教師を受け持つ半人半獣の里の守り人。
開かれっぱなしの縁側の襖を見て、ああ、と一人頷き、呟くように慧音さんは言葉をこぼした。

「今日も来てくれたのですね、彼女は」

優しげな表情で、まるで彼女自身を前にしているかのように。
元自分の教え子の、姿は見えない優しさを見て、慧音さんは誇らしそうに微笑んでいる。
慧音さんは彼女の事を鮮明に覚えているし、片時も忘れたことはないという。
どんな生徒も忘れないし、いくら時が経っても、慧音さんにとっては自分の教え子だ。
彼女は慧音さんの事をあまり知らないから、もう自分の事なんか忘れてるだろうって言うけれど。

「はい。また、運んでもらえますか?」

「ええ、後で広場の方に持っていきます。ところで、稗田の当主殿」

「なんでしょうか」

「彼女は……魔理沙は元気でしたか?」

魔理沙さんが私の家に訪れるようになってから、毎日聞く言葉。

「はい。彼女は元気でしたよ」

その問いに対する答えも、いつもと変わらないものだった。
底抜けに明るい、彼女の笑顔を思い出す。

「そうですか。いえ、元気ならいいんです。では、私はこれで」

「はい」

慧音さんが部屋を出て、しばらく経つと中庭に姿を現し、彼女が持ってきた水瓶の傍に立つ。
大人が4人がかりでも持てないような大きな水瓶で、ちょっとしたお風呂みたいな大きさだ。
慧音さんは二つずつ縛ってある水瓶の、間の縄を掴んで軽々と持ち上げて背負う。

「では、また」

慧音さんが去って、屋敷は再び静寂に包まれた。
また明日も、彼女は来てくれるだろうか。
来てくれたら、嬉しいな。



人里に水を運んだあと博麗神社に行くと、いつものように霊夢が縁側でお茶を啜っていた。

「おはよう魔理沙」

「よう、霊夢」

箒を傍に立てかけ、霊夢の隣に。
何も言ってないのに、既に湯呑が用意されていた。

「あれ、お茶……」

「ああ、そろそろ来るんじゃないかと思って、先に淹れておいたわ」

さすが巫女さん。
私が来る時間を予測しているなんて。
異変の時以外は勘が働かないって言ってたのに、こういう何でもない時も結構すごい奴だよな。

「ふう、ふう。はい」

「おう。サンキュー」

湯呑を受け取り、中を覗きこむと茶柱が立っていた。
おお、縁起がいい。

「霊夢、見てくれ、茶柱だぜ!」

「あら、よかったわね」

興味がなさそうにしながら、霊夢は空を見上げてお茶を飲み、ほうっと息をついていた。
今日のこれからを思うと、こういう縁起物が何となく嬉しい。

「あれ、でもこの湯呑、霊夢のじゃないか?」

「っえ、ああ、間違えてそっち渡しちゃったのね! でも良いじゃない別に! 変わらないわよ!」

まあ、いいか。
霊夢が気にしないんなら、別に気にすることないし。
少し一服して、靴を脱いで、縁側から家の中に入る。
霊夢の横を通り過ぎ、中途半端に近代化されている台所に向かう。
霊夢の家には、少し前に香霖から譲ってもらった電子ジャーがある。
電気で動くのでなく、霊力や魔力で動くように改造されているけど。
米はそれで炊くんだけど、冷蔵庫はなく、ガスも無い。
それでも随分便利だろうけど。

「今日は夕方来れないから、一人で食っててくれ」

「え、どうして?」

「ちょっと用事で、遠くに出かけるからな」

薪を入れ、魔法の炎で火を入れる。
鍋に水をいれて火にかけておく。

「出かけるって、どこ行くのよ?」

「えーっと、妖怪の山の方にな」

「また仕事?」

「おう。あれ、お味噌が少なくなってるじゃないか」

「あら、嫌ね」

「明日買ってくるぜ」

魔法を使って手早くご飯を作りながら、霊夢と会話する。
こういう簡単で便利な魔法ばっかり覚えるから、いつの間にか文に「一家に1人は欲しい魔法使い」なんて記事にされた事を思い出す。

「たまにはお肉が食べたいわ」

「贅沢言うなよ。高いんだぜ?」

霊夢の神社にお賽銭が入ることはないし、私が稼いだお金も研究とかですぐ無くなるから食事は質素だ。
たまに霊夢が妖怪退治の仕事を請けた時だけ、少し贅沢するけど。

「でも魔理沙のご飯は美味しいから、大好きよ」

「明日は霊夢の番な」

どちらも和食しか作れないけど、何となく味が2人とも違う。
私は霊夢のご飯が好きで、霊夢は私のご飯が好きだって言う。
多分、どちらも心の底では相手に食事当番を押し付けて楽したいから、そう言ってるんだけど。

「……ここに住めばいいじゃない」

「え、なんか言ったか?」

「……別に」

「夜の分も作ってあるから、ちゃんと自分であっためて食べろよ?」

「うん」

しばらく黙々とご飯を作り、ようやくできたので縁側の霊夢を呼ぶ。
ご飯とお味噌汁をよそい、焼いた魚と漬物を卓袱台に並べる。
お茶は霊夢が淹れてくれるから、他の事は私がやる。

「いただきます」

「はい、いただきます」

随分昔から、ずっと慣れ親しんできた食事風景。
これから異変が次々に起こって、宴会とかも増えてきて、こうして2人でご飯を食べる機会とかも減ってくるんだろうなぁ。
楽しみでもあり、少し寂しくもある。
腹ごしらえが済んだら、さっさと太陽の畑に向かうとしよう。



太陽の畑。
四季のフラワーマスター、風見幽香が夏の間滞在する、人も妖怪も寄り付かない花の聖域だ。
向かってる間に色々と考えたが、素直に教えてもらえるとは思えない。
けど、特に名案が浮かぶ訳でもない。
無い頭を絞っていてもしょうがないから、とにかく行動に出ることにした。

「おっ」

遠目に、黄色い絨毯が見えた。
見渡す限り一杯に広がる、一面のひまわり畑。
雨が降っていないからか、少し元気がなさそうだけど。他の地域のように、枯れている様子はない。
やっぱり幽香が居るからか、あたりには他の人妖の気配がない。
そのひまわり畑と私の中間あたりに浮かぶ人影。
遠目には見えないが、少し近づくとそれが風見幽香だと確認できた。

「あら、お客かしら? こんな辺境まで御苦労ねえ」

妖気なんか身に纏わず、物腰も柔らかに。
ふわふわと浮かびながらこちらに来る女性は、一見友好的に見えた。
けれど、雰囲気から伝わってくる、去れという圧力。
四季のフラワーマスターの、その圧倒的な存在感に全身から冷や汗が溢れた。

「よう。ちょっと聞きたい事があるんだが」

けれど、私は魔理沙だから。
冷や汗が流れるけれど、どんな強力な妖怪にも、神にだって、絶対に怯んだり逃げたりしない。
それに、ここには自分から来るって決めたんだ。
逃げたくなるのはわかっていた事だし、覚悟もきめてきたんだ。
こんな威圧感なんて、この先何度も受けることになるんだ。
だから、ここで逃げるわけにはいかないんだ。
震えそうになる体をしゃんとのばして、恐れが声に出ないように意識する。

「そう? 私はお花の水やりが忙しいの。できれば帰ってくれません?」

にこりと笑うその様は可憐。
しかし妖気や殺気などではない、滲みでる不穏な気配。
強者のみが身に纏う、独特の気配というか。
言葉で伝えるのは難しいけれど、威嚇や戦闘などする気配はないのに、こちらが勝手に怯んでしまう雰囲気を、風見幽香は持っている。
心中で、慣れない恐怖にすくみ上がる。

「へえ、そうなのか」

この猛暑のなか、彼女自身は気温を感じているのかいないのか、汗一つ流していなかった。
その手に枯れない花を持ち、二コリと可憐な花を持つ、人間友好度最悪の妖怪。

「ええ。素直に帰れば一撃で許してあげるけど、戦おうっていうんなら、困っちゃうわね」

うーん、と口元に人差し指をあてて悩むような仕草。

「見たところ、あんまり栄養にならなそうだけど」

と前置きしてから、彼女はニヤリと嗜虐的な笑みを浮かべた。

「この日照りでひまわりが参っているの。少しでも良いから栄養になってもらうわ」

やっぱり来るんじゃなかった。
こいつ、すっごい怖いって。
寒くもないのに、歯がカタカタ鳴りそうになる。
グッと奥歯を噛んで、それに耐える。

「別にあんたの水やりを邪魔しに来たんじゃないぜ。あんたの用事が終わるまで待つから、少し話を聞いてもらえないか?」

「あら、信用されると思う?」

「……そうだな。じゃあ、花の水やりを手伝うっていうのは?」

「ふうん。素直に帰るつもりはないの?」

ブワッと、その存在感が膨れ上がる。
僅かに妖気が含まれているのは、本格的に私を排除しようとしているからか。

「ちょ、ちょっと待てって!」

「生憎、あんまりゆっくりしてる暇はないの」

時間がない?
って!

「うおわぁ!」

目の前に、閉じられた日傘を突きつけられる。
予備動作なんてなくて、全く関知できなかった。

「帰りなさい。ね?」

言葉使いはあくまで優しい。
それなのに、冷汗は止まらない。本能の警鐘が、鳴りやまない。
ゴクリと生唾を飲み込む。

「……っ!」

「ふふふ、それとも、いぢめて欲しいのかしら?」

栄養になるつもりはない!
今は退くべきだ!
本能の警鐘。
膝は震えそうになり、目には涙が浮かんできた。

「そ、それでもっ」

「あら?」

でも、私は、魔理沙は、こんな所で素直に退くような、そんな人じゃない。
しつこいくらい食い下がって、何度もぶつかって怪我をしても、懲りずに食い下がって。
そして、どれくらい時間をかけても、颯爽と目的を完遂するような、そんな人だから!

「む、むりやり、にでも、手伝うぜ……っ!」

怖いけど、震えそうになる膝に、力を入れた。
涙で視界がぼやけるけど、力強く睨みつけた。
喉がひくついて声を出し辛いけど、精一杯声をあげた。

「ふうん。人間の癖に、強がりだけで、この私から逃げないのね」

「な、なめるなよぅ……!」

けど私の強がりなんて、すぐ見透かされて。
余裕そうな笑みを浮かべている幽香の前には、やっぱり意味なんてないんだろう。
でも、それでも私はここを離れようとは思わなかった。
殺されるかもしれないけど、無傷でここを出て行くつもりなんてない。

「いいわよ」

無理を承知でここに来たんだ。
アリスみたいに頭が良くなくて、霊夢みたいに強くないから。
私にできることなんて、こうして直接赴いて、力を借してもらいたいって伝えるだけだ。

「……え?」

ってあれ?

「水やり、手伝わせてあげるわ」

「……ホントに?」

なんで?

「あなたから言ったのよ。嫌なのかしら?」

「い、いや! 手伝うぜ!」

とりあえず、一歩前進、か?
え、でもなんでだ?
いや、理由なんてどうでもいい。
今はいい。

「あ、ありがとう!」

どうせ聞いても答えてくれないだろうし、考えてもわからない。
今はただ一生懸命、幽香を手伝って、早く水やりを済ませる事。
それが終わってからマスタースパークを教えてもらえばいい。
教えてくれるかわからないけど、その時にまた考えよう。



まだ信用されてないだろうけど、今は2人でひまわり畑の上を、幽香の先導で飛んでいた。

「あのさ、日照りが続いているのに、水はどこから調達しているんだ?」

さっきから幽香の手に持つ小さな桶と、中に入った柄杓が気になる。
まさか、あれで?
いやいや、まさかなぁ。
それこそ一日中やっても終わらないぜ。

「少し畑から離れた所に、井戸を作ってあるわ」

「い、井戸を?」

自分で作ったんだろうか。
なんか、想像しづらいなぁ。

「そ。ここら辺で一番大きな水脈じゃないかしら。そこから水を汲んでるわ」

やっぱ自分で掘ったんだろうな。
なんか幽香のイメージちょっと変わるな。
っていうか、やっぱりその桶と柄杓で水やりかよ!

「な、なあ」

「なにかしら?」

「まさか、その桶と柄杓でやってるなんて言わないよな」

「……他にどうやるのかしら?」

信じられない。
どれだけ広いと思っているんだ、このひまわり畑。
最初に水をあげた所はすぐに乾くじゃないか。

「妖怪って、随分気が長いんだな」

「まあ、短命の人間と比べたら、そうなんじゃない?」

「ここ最近、ずっと水やりをしてるって言ってたよな。ちゃんと休みながらだよな?」

「妖怪は寝なくてもいいのよ、人間と違ってね」

こいつ、何日も休まずに水を与え続けていたのか。
ちょっと自慢げに言ってるけど、呆れてしまった。
普通の妖怪ですら、暑さで参ってるのに、ひまわりを優先して、自分は何日も休まずに。
その癖少しも疲れた様子がないのは、さすが風見幽香といったところか。
でも、ちょっと威圧感が凄くて、妖怪の中でもトップクラスに力が強くても。
この風見幽香という妖怪は、ちょっと頭が悪いんだと思う。
いや、悪いっていうか、考えてない。天然って言った方が近い感じか。

「その小さい桶じゃダメだって。いつかこの畑も枯れちゃうぜ。いいか、ちょっと考えを言わせてもらうぜ」

信用されてないと思うから、私の考えを聞いてもらえるかわからないけど。

「もっと大きい桶を用意するんだ。なんなら、私が持ってきてもいい」

香霖堂に行けばあるだろうし、なかったら作ればいい。
そもそもそんな小さい桶を使って何往復もする事ないんだ。

「それで、底に穴を開けて畑の上を飛びまわれば、こうして柄杓で水をかける必要なんてないだろ」

「ふうん。でも、それだと最初はうまくいっても、奥の方に水をあげられないわ」

おお、ちゃんと聞いてくれた。
ちょっと得意になって話を続ける。

「おいおい。私はただの人間じゃないぜ?」

「そうかしら。ちょっと魔力のある、普通の人間にしか見えないけど」

「その通り、私は普通の魔法使い。霧雨魔理沙だ」

「魔法使い?」

「得意な魔法は、地味なものばっかりなんだけどな。でも、役に立つ魔法だ」

水漏れを防ぐ魔法とか、結構使うんだぜ。
雨漏りしてる屋根とかに。

「桶に魔法をかけるから、お前はそれを力ずくで破ればいいだけだ。できるだろ?」

「……へえ。なるほどね」

幽香も、一応納得しているみたいだ。
不可能な事ではないし、たぶん、このペースで続けるのにもいい加減うんざりしてる筈。
だから、ただの気まぐれでも良い。
気まぐれで私の考えを受け入れてくれたら、私はそれを実行するだけだ。

「じゃあ、大きい桶持ってくるぜ!」

「待ちなさい、その必要はないわ」

急いで香霖堂に向かおうとしたのに、幽香が呼び止めてきた。
このまま逃げると思ったのだろうか。
それとも、やっぱり私の話なんて信用できなかったんだろうか。
恐る恐る振り向く。

「あなた、私を何だと思っているのかしら」

「え?」

問いの意味がわからない。
風見幽香だろ?
四季のフラワーマスター。

「まあ見てなさい。大きな桶があればいいのね」

言って、ひまわり畑の上空から少し離れた地面に降り立つ幽香。
私もその後を追って地面に降りるが、辺りにはなにもない。
一体何をしようとしているのか、見当もつかない。

「そうね。これで良いかしら」

軽くつま先で地面を掘って、ポケットに手を入れている。
取り出したのは、青々とした緑の葉っぱ。
それを浅く掘った地面に埋めると、軽く手をかざす。

「私の能力は、植物を操る程度のもの」

葉っぱを埋めた地面が、不自然に隆起する。
土を掻き分けて姿を見せているのは、さっき埋めた葉。
ただし、形と大きさが全く違う。

「これくらいの事はできて当然」

完全に姿を現した葉は、勝手にくねくねと動いて組み合わさり、あっという間に大きな葉の桶が姿を現した。
……すごい。
幻想郷縁起には、この能力は幽香にとって大した価値のないものだって書いてあったけど、そんなことはない。
葉っぱ1枚あれば何でも作れるんじゃないか?

「す、すごい……」

驚きで声を出せないでいた私が見ている間に、幽香はさっさと同じ桶をさらに5つ創り出していた。
最初に出来上がった一つを持ち上げてみると、木でできた桶よりもずっと軽い。
幽香の妖気によるものなのか、見た目よりずっと頑丈だ。

「これで桶はできたわね。じゃあ、早く始めましょう」

やっぱり、こいつは凄い妖怪だ。
マスパを習う前に、個人的にはその植物を操る方法を教えてほしいくらい。
あれ、でもじゃあ、幽香はなんで木の桶と柄杓でずっと水やりしてたんだろう。
もっと大きい桶がないからだと思ってたけど、作れるじゃんか。
……やっぱり、何も考えてないんだろうな。



水やりは順調に進み、日が落ちる少し前になんとか地面全体を潤すことが出来た。

「ふうん、あっという間に終わったわね」

「ああ……。ちょっと疲れたぜ」

太陽の畑の中、地面が盛り上がって丘になっている所で夕日が沈む様子を見ながら、幽香は日傘をくるりとまわした。
半日以上飛んでいたので、魔力も底を尽きかけたし、クタクタに疲れた。
それでも幽香にとっては劇的な速度で水やりが終わったようで、素直に驚かれた。

「ふう。さすがに、少し疲れたわ」

「そう、か。少しか」

今まで休みなしでずーっと水やりをしていて、それでやっと少し疲れるって。
やっぱり、妖怪の中でも規格外の存在なんだな。
何も考えてないんだろうけど。

「一応、ひまわり達に代わってお礼は言っておくわね」

「別にいいよ。むしろお前が感謝されてる立場だろ」

1人でずーっと枯れない様に水をあげていたんだから。
ひまわりにとっては、幽香は聖母みたいな存在じゃないか。

「私はお前に用があったから手伝っただけだぜ。だから、感謝されても困る」

「ああ、そういえばそうね。話だけは聞いてあげるわ」

夕日を見ていた幽香が、こちらに顔を向ける。
ハッとするような美貌、知り合いの人妖はみんな美人ばかりだ。
地面に降ろしていた腰を上げ、幽香に向かい合う。
こうして向かい合ってみると、結構身長差があることに気づく。
普段は飛んでばかりいるので、そういう事は気にしないんだけど。
幽香を、キッと見上げる。

「教えてほしいことがあるんだ」

「何かしら。自慢じゃないけど、花の知識以外になにか教えられるものは少ないわよ。それに、素直に教えるかしら」

幽香がクスクスと笑いながら聞いてくる。
思っていたより友好的な態度に面食らいながら、私は口を開きかけ、閉じた。
いや、マスタースパーク教えてって言っても、幽香には何の事かわかんないよね?

「言いづらい事? それとも、妖怪退治に来たとか?」

今までずっと手伝ってたのに、まだ信用されてないのか。
それとも、単純に私をいぢめたいのか。
どっちか判断できないけど、後者は勘弁してほしい。

「えーっと、スペルカードルールって知ってるか?」

「知らない」

「えーっとな」

だから、あたりさわりのない部分から話を進めて行く。
そんなに興味はなさそうだったが、一応聞いてくれた。

「それで、強い妖怪に、強力な技をな、教えてもらいたいんだよ!」

うん、我ながら、即興で作った理由にしては、なかなか立派じゃないだろうか。

「へえ」

でも、反応は淡泊。
がっくりと肩を落とす私を見て、ニヤニヤと笑っている。

「お願いします! 一個でいいから!」

「だーめ」

「なんで!?」

「嫌だからよ」

ニヤニヤと笑みを浮かべながら、こちらの頼みを断る幽香。
はあ、やっぱりこうなるよな。
素直に教えてくれるとは思わなかったし、むしろ今こうして話せるだけで大した進歩だと思う。

「はあ。でも、どうしてもお前に教えてほしい事があったんだよなぁ」

「残念ね」

「お願い! お願いします!」

もう一度、頼み込む。
何度も何度も頼む。
何度も断られて、いい加減涙目になってきたけど、その様子を幽香は楽しそうに見ているだけで、首を縦に振ることはない。
日はとっくに沈んで、月が中天にかかる頃。
いい加減諦めて、今日は帰ろうかと思った時。
ざぁっと風が吹いた。帽子が飛びそうになって、慌てて頭を抑えて顔をあげると、幽香はひまわりの方を見ていた。
私もつられて、ひまわりを見る。
僅かに濡れたひまわりが風に揺れ、一斉に頭を垂れている。
視界一杯のひまわりが、一斉に。
その様子は幻想的でもあり、そんなに強くない風の中で、その体勢を維持するひまわり達は不気味でもあった。

「……わかったわ」

「え?」

幽香が、口を開く。

「いいわよ。とびっきり強力な技、教えてあげる」

「え、なんで?」

さっきまで、嫌だからとか面倒だからとか言って教える気も無かったのに。
一体どうして。

「どうでもいいじゃない。嫌なの?」

「い、いや。よろしくお願いするぜ!」

そうだ。今は理由なんてどうでもいい。
幽香の気が変わらないうちに、慌てて頭を下げた。

「明日もひまわりの水やりに来なさい。終わったら教えてあげるから」

まさか、一日で約束を取り付けられるとは思わなかった。
マスパ完成の道が、一気に近づく。

「やった……っ」

小さくガッツポーズ。
幽香は相変わらずひまわり畑に視線を向けていて、私の方を見ていない。
風が止み、ひまわりの方を見ると、日中となんら変わらずにまっすぐ凛とした姿勢で立っていた。

「明日も来るから、よろしく頼むぜ」

ひまわりの方にも頭を下げ、スカートの埃を払って箒を掴む。

「じゃあ、また明日な!」

幽香から返事はなかったけれど、なんとなく雰囲気を察して私は飛び立った。
明日からの特訓に、思いを馳せて。


* * *


何度か推敲してますけど、なんだか不安。
依頼編と書いてますけど、単発です。

AQNを出せて満足。
AQN可愛いよAQN。

魔理沙と霊夢は、もう結婚しちゃえよと。
異変や妖怪退治以外の霊夢はけっこうヘタレイムなイメージです。
そして稼ぎのない霊夢の世話をすることになんの疑問も抱いていない。
もう結婚しちゃえよと。
霊夢はお茶を淹れる時、茶柱が立った方を魔理沙に渡してます。

そして、みんな大好きゆうかりん。
Sっ気の強い彼女ですけど、他キャラとの絡みが少ないですよね。
電波、ゴホンッ。天然っぽくて可愛らしいし、どっちかって言うと強者との戦いの方が好きそう。



[20277] その7 目が覚めて
Name: クイックル◆bad3b9bc ID:4f34d1fb
Date: 2012/04/05 23:34
ふっと意識が浮きあがり、自然に目を開けた先には真っ赤な天井。
部屋の中には明かりが灯っていて、ぼんやりとした視界にゆらゆらと影を写していた。
どこだろう、ここは。
どうやらベッドで横になっていたようだ。久しく触らなかったふわふわな布団の柔らかさ。
意識がまだぼんやりとしている。
起き上がろうと体に力を入れて、突然走った痛みに身をよじった。
体を起き上がらせることなんてできなくて、実際はピクリと動いただけだったのだけど。

「っ……!」

っあー、おかげで意識がはっきりとした。
体中が痛いのは、魔力不足と筋肉痛によるものだろう。
しかしあんなに動いて魔力を酷使したのに、思ってたよりも大分楽だ。
両腕に巻かれた包帯は、フランと戦ったときの傷を包んでいる。
そして、この場所を思い出す。紅魔館だ。
私が霊夢の後を追って、バカみたいに無様な真似をして、恥ずかしい事を言って気絶したんだった。
とりあえず紅魔郷、おわったのか?

「……魔理沙?」

すぐそばで声が聞こえた。
見ると、霊夢が少し離れた椅子に座ってこちらを見ていた。
手に何か本を持っていて、いつもより若干心配そうな表情でこちらを見ている。

「……おー」

気絶する前に言った事が頭をよぎる。
ちょっと気まずくて頬をかく。

「おはよう」

霊夢はそんな私の様子にほっと息をつき、柔らかく微笑みながら挨拶をした。

「おう」

私は寝転がったまま応えた。

「ずっと、居たのか?」

「ええ。魔理沙が目を覚まさないから、ちょっと心配した」

「霊夢、疲れてるだろ? 私の事は気にせず休んでくれよ」

「あなたの方が疲れてる癖に。でも、そうね。ちょっと休もうかしら」

言って霊夢は椅子から立ち上がると、こっちに近づいてきた。

「ん? どうしたんだ?」

「どうって、ちょっと眠るのよ」

「どこで?」

「そこで」

「そこって?」

「魔理沙の横」

「……」

ええ? このベッドって2人用なのか?
まあ、1人用にしては広いもんな。
とりあえず身をよじってスペースを作る。いててて。

「……」

「……」

「ん、どうした?」

「いい。やっぱ別に疲れてないし」

「え、さっき寝るって……」

「言ってない」

「ああ、うん……」

どうしたんだ霊夢。
ちょっと顔を赤くして、数度息を整えてから私の眠るベッドに腰を下ろした。

「ちょっとからかっただけなのに……」

「え?」

霊夢が何か言ったが、その声は小さすぎて私には聞こえなかった。
フルフルと首を振り、何でもないと言うと私の頭をポンポンと撫でる。

「大丈夫よ。さっき交代するまでそこのソファで寝てたもの」

首を動かして見ると、真っ赤なソファで毛布に包まれて寝息をたてるフランの姿があった。

「っていうか、この屋敷窓がないからわからないけど、もうお昼なのよね」

「えっ。どうりでお腹減ったと……」

霊夢が安心したように、呆れたように見てくる。

「思ったより元気そうね。まだ疲れてる?」

「いや、寝てたからもうすっかり元気だ。筋肉痛がつらいだけだな」

「そう。異変の主が呼んでたから、行こうと思うんだけど」

「おう、私も行くぜ!」

そういえば、あのときのレミリアはどうしたんだろう。
なんか様子が変だったけど。





紅魔館の近くにある森の中で、特に日差しを遮る暗い森の奥で私はふーっと息を吐いた。
博麗の巫女が近くにいるのでは迂闊に手を出せない。
また厄介なことになると思い、屋敷を出てきた。
しかし、今度は吸血鬼か。
あの花の妖怪といい、天狗といい、なぜ強力な妖怪ほどあの子に友好的になるんだか。
まあ私もあまり変わらないか。

「懐かしい気配を感じると思ったら、あなただったのね、宵闇の妖怪」

突然何もない空間に裂け目が生まれると、そこから旧い友人が顔を出した。

「ああ、そういえばこの状態で会うのは久しぶりだな。妖怪の賢者」

目を細めて見つめてくるのに対し、軽く肩をすくめて敵意がないことをアピールした。
幻想郷ができた時にケンカして、それ以来会っていないから、あまり良い感情をもたれていないだろう。

「まあ、あの時の事は置いておきましょうか。それで、今更なんで封印を解いたのかしら」

「ふふん。偶然だ」

大体、リボンにして縛ってたらいつか勝手に解けるだろ。
別に解こうと思って解いたわけじゃなく、本当にただの偶然だ。

「今は別に戦争をしたいとか思っているわけではないよ。お前の言うことは正しかった」

「あら、ずいぶん殊勝なことを言うのね」

「そりゃあ500年以上封印されていたら、考えも変わるってものさ」

「……思えばその間、よくその封印リボンが解けなかったものよね」

私もわざわざ封印を解こうと思わなかったからな。
突然ぐ~っとお腹がなる。
びっくりする位大きな音だったので、聞こえてしまったかもしれない。
ちょっと恥ずかしい。

「久々に自由になると、お腹が減るな」

なんでもないように会話を続けてみる。

「まあ止めはしないけど。でも幻想郷のルールは守ってもらいますわ」

「ああ、大丈夫だ。良い獲物を見つけたんでね」

「あら、あなたの眼鏡に適う人間なんてまだいたのね」

「長いこと生きてきたが、見たことないくらい最高の人間よ」

あの子の顔を思い浮かべる。
あの子の白い肌を、金色の髪を、屈託のない笑顔を、困ったように頭をかく姿を。

「霧雨魔理沙。私の飢えを満たすのは彼女しかいないね」





「お嬢様、紅茶が入りましたわ」

パチェの寝室で眠ること数時間、いつの間にかやってきた咲夜に起こされて着替え、応接室で魔理沙と巫女を待つ。
少しの緊張感が心地よい。

「ありがとう咲夜」

ぺこりと一礼して後ろに下がる。瀟洒だ。

「あなた氷精なのに紅茶も飲めるの?」

「あたいに紅茶の熱さは関係ないわね。直接火あぶりにされないと融けないわ」

本当は私一人で会いたかったんだけど、何も言わずに勝手に入ってきている親友と氷精。
魔理沙が連れてきたもう一人の妖怪はやっぱりいない。

「では、私は魔理沙と博麗の巫女と、妹様を呼んで来ますわ」

言って、咲夜は姿を消した。
あー、はやく来ないかなー。

「ねえ、氷精。チルノだったかしら。魔理沙とは付き合い長いの?」

「ん? いや、昨日会ったばっかりだけど、魔理沙はあたいのライバルよ」

よくよく変な人外に好かれる子だ。
熱い紅茶を涼しい顔で飲む氷精とか初めて見たわ。
あの妖怪もなにか変だったし、私の妹のフランは言うまでもない。
私も紅茶を一口。うん、咲夜の紅茶はいつでもおいしい。

「そんなことより、レミリアって言ったわよね。魔理沙のこと好きなの?」

「っ! ごほっごほっ!」

むせた。

「あら、レミィったら同姓相手に興奮するのね。性的に」

「まてパチェ! その言い方だと私が変態みたいじゃないか!」

「でもいきなり襲ったんでしょ? 妹様が怒ってたわよ」

「うっ……! たしかに襲ったのは本当だ!」

あのときの魔理沙を思い出して顔がカーッと熱くなる。
やわらかい肢体、甘いにおい、おびえた表情!

「へえ」

パチェが冷めた目で私を見ている。

「確かにあの時は理性が切れちゃっていきなり迫ったけど……」

あれは私が悪い。たしかにそうだが、そんな不純な言葉で表されたくないわよ!

(ガチャッ)

「だけど、性的とかじゃなくて! 私は魔理沙が好きなんだよ! 純粋に、愛しているんだ!」

「え?」

「は?」

私が叫ぶ直前、扉の開く音。
後ろから聞こえた博麗の巫女の声。
パチェの無表情ながら驚いたようにあがった眉毛。
これらの状況を察するに、私はとんでもないことをしてしまったのかもしれない。
ばっと後ろを振り返る。
扉を開けたまま固まるフランと博麗霊夢。
そこに魔理沙の姿はなかった。

「よ、よかった~……」

あ、危ないところだったわ。
不本意に魔理沙に告白するところだった。

「あら、残念。魔理沙はまだなのね」

「パチェ!?」

どうやら親友にはめられたらしい。
博麗の巫女が、ハァっと大きなため息をついて額に手をあてた。

「あの子は本当に、人たらしというか人外たらしというか……」

「お姉さまが魔理沙と結婚したら、魔理沙もお姉さまになるの? うーん、でも……」

「……とりあえず、こっちに来て座ってくれないかしら。2人とも」





筋肉痛でつらいって言っても、空を飛べるんだから関係ないぜ!
と、思っていたんだけど、箒が壊れてるんだった。
それに気付いたのは、咲夜が呼びに来たとき。

「しょうがない。おぶってあげるわ」

「いえ、お客様にそんな事させるわけにはいきませんわ。ここは私がおぶって行きます」

「魔理沙! 今度はちゃんとスピードとか調整するから、私がおぶっていくね!」

と、優しい3人が申し出てくれて、じゃあ仕方ないと咲夜に抱きかかえられながら応接間へ。
その道中に咲夜から、美鈴が私の筋肉痛を治せるかもしれないと聞いて霊夢とフランには先に応接室へ行ってもらったのがついさっき。
次にまばたきした時には、もう外にいた。

「おお」

時間を止めるってすごい便利だよな。
っていうかそんな相手にどうやって勝ったんだろう霊夢。

「あれ、魔理沙さんに咲夜さん。どうしたんですか、その体制?」

美鈴は門を作り直している最中だった。
妖精たちに指示を出している姿は門番をしている時よりもなんだか様になっている。

「魔理沙の箒が壊れててね」

ニコニコしながら咲夜。
おんぶで良いって言ってるのに、お姫様抱っこするものだからその表情がよく見える。
同年代の霊夢と比べても私は背が小さいほうだから、咲夜の腕にすっぽりと収まってしまうのがなんだか切ない。

「おはよう美鈴。そういうわけだから、仕方なくなんだぜ」

「魔理沙ならいつでも抱っこしてあげるわよ」

「仕方なくなんだぜ!」

「なるほど、仕方なくですね」

美鈴が微笑みながら、優しい目で見てくる。
背中がむずがゆくなってきた。

「ところで何の用ですか? チルノちゃんならさっき応接室に向かいましたよ」

顎に指を当てながら美鈴。
そういえばチルノとルーミアはあの後どうしたんだろう。
まあフランが思っていたよりも友好的だったから怪我はしてないと思うけど。

「なあ美鈴。咲夜から聞いたんだけど、筋肉痛を治せるって本当か?」

「まあ、それくらいでしたら」

「おお! じゃあお願いしてもいいか? 忙しいなら後でいいけど」

「いえ、お客様を待たせるわけにはいきません。そんなに時間もかからないので、いま治しちゃいますね」

そんなに簡単なんだろうか。
魔法で同じ事をやろうとしたら、筋肉痛に耐えるほうが楽なんだけど。
咲夜が私を下ろすと、美鈴が私の前で両手を広げた。

「じゃあ失礼しますねー」

そう言って、美鈴が私に抱きついてきた。

「わっぷ」

あ、圧倒的ボリューム!?

「じっとしててくださいね。すぐ終わりますから」

楽しそうな声が頭の上から聞こえる。
どういうことかわからないが、体がぽかぽかと温まってきた。
これが美鈴の使う能力なんだろうか。弾幕に色を付けるだけじゃなかったんだな。
気を使う程度の能力って、考えてみたら応用力が高そうだな。
ポンポンと軽く頭をなでられる。
それがなんだか心地よくなって目を閉じた。

「はい、終わりですよ」

ゆっくり目を開く。
気がつけば、体の痛みが消えていた。
本当にあっという間だ。

「お、おおー。すげーぜ美鈴……」

いろいろな意味で。
まだ頭をなでられている。
美鈴といい咲夜といい、どうしてこう、人を子ども扱いするのだろう。

「お嬢様が待ってるわ。行きましょう魔理沙」

咲夜に声をかけられて、ようやく美鈴は手を離した。
魔理沙になって気付いたことだけど、魔理沙は頭を撫でられるのが好きみたいだ。
とても心地よくて、頬が勝手に緩んでしまう。
まあ、何が言いたいかというと、だから撫でられるのを名残惜しく思うのは仕方ないんだぜ。

「そんな残念そうな表情しないでくださいよ」

「なっ! してないぜ!」

美鈴はくすくすと笑いながら、いつの間にか外されていた帽子を被らせてくれた。
くそー。自覚はしてたけどそんなに残念そうだったか?

「ありがとうな、美鈴」

「どういたしまして。このぐらいの事でしたらいつでもどうぞ」

「ねえ美鈴。抱きしめる必要ってあったのかしら?」

「いやだなあ咲夜さん。こうした方が早く治せるんですよ」

美鈴と咲夜はニコニコと、こっちを見ながら機嫌が良さそうに笑っている。
二人の視線が温かくて恥ずかしいから、帽子を目深にかぶりなおした。



* * *

お久しぶりです。
色々な事がありまして、しばらく更新をすることが出来ない状況にありました。
コメントの返信も全部は出来ませんが、全てに目を通しています。本当に感謝しています。
これからもしばらく亀のような更新スピードになると思いますが、「だぜ娘」は書き続けたいと思います。

今回は短いですね。
久々に書いたので、最初よりもずっとぎこちない感じがします。
確認はしていますが、誤字脱字ありましたら教えてください。
その他指摘もお願いします。時間を見つけて書き直します。

待っていてくれた皆様、こんなに遅れてしまって本当に申し訳ないです。
読んでくれた皆様、ありがとうございます。

魔理沙かわいいよ魔理沙!

一応次回、EXルミャーか宴会。前後編かもしれません。
それが終わったら妖々夢?


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