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[20473] 「とある科学の電磁通行(エレキックロード)」(とある魔術の禁書目録 とある科学の超電磁砲 逆行 改変 再構成 )
Name: ホットケーキ◆60293ed9 ID:10285d3b
Date: 2010/07/21 12:36
初めまして、もしくはお久しぶりです。

これはその他板に投稿している、「とあるifの電磁通行(エレキックロード)」とはまた違ったお話です。

前半では電磁通行なのに、何故か美琴の影が薄いです。

設定が大量に改変されていきます。
後半は科学の方になり、幻想殺しの少年が登場しません。

投稿していたのが掲示板なので、おかしい所は見逃してくれると嬉しいです。






[20473] 1
Name: ホットケーキ◆60293ed9 ID:10285d3b
Date: 2010/07/20 13:52







暗いな......


俺ァ死ンだ、のか......?


そうだ......天井のクソ野郎に撃たれて......


ここは、地獄?


いや、チゲェ。この感触はーーーッ!!













ガバッ!!


「......どォいう、ことだ?」


起きた彼の目に写ったのは、殺風景な自分の部屋だった。



物語は、始まる。

全ての罪が無くなった彼はどうするのか。
彼自身にも、まだ、分からない。















「どォいうことだ!?」


一方通行は部屋の中で叫ぶ。
彼は困惑していた。
確かに、自分は八月三十一日に、打ち止めと言う少女を助けるため、死んだ筈だ。

それがどうして傷一つ無く生きていているのか?

しかも、何故今日の日付が四月一日になっているのか。


「クソ!ワケわかンねェ!」


一方通行は苛立ちを部屋の隅にあったゴミ箱にぶつける。
ゴミ箱は一方通行に蹴られ、粉々に粉砕された。


「チッ、落ち着け、まずは情報を……」


ゴミ箱を破壊した事で少しは落ち着いたのか、一方通行は情報を得るため、玄関へと向かった。















三日後


「やっぱりか……」


夜の街を歩きながら、一方通行は納得した。
三日間、徹底的に情報を探った結果、どうやらタイムスリップというものをしてしまったらしい。
いや、


(あくまで推測だが、時間のベクトルを操作したのか……?)


だが、一方通行はそんなことができるワケないよなと、思考を中断する。
そんなことが出来れば、今頃自分は絶対能力者(レベル6)だ。


「よお、君ちょっと俺たちと遊ばない?」


なにやら下品な声が聞こえ、チラッと一方通行は視線を動かす。

どうやらどこかの女子が不良達に絡まれてるらしい。
自分には関係無いなと思いつつ、歩き出そうとした瞬間、




「ーーーッ」



茶色の髪が目に入った。
不良達は五人いて、囲んでいるため顔は見えてないが、それでも、それが誰かは一方通行には分かった。


「……チッ」


間をタップリ開けて舌打ちし、一方通行は歩き始めた。






「ハァー……」


美琴は壁に寄りかかりながら大きくため息を吐く。

美琴にとって周りの不良達はザコ。
正直言ってハエにたかられているようなものである。
だからこそうざったいのであるが。


(まぁ、適当に能力で追っ払えばいいか)


美琴はそんなことを思考しながら腕を組んで目を閉じる。
不良達が何か言っているが無視。


が、


「あぁ?なんだテメェ?」


ふと、耳に入った不良の苛立った声。
なんだと思いつつ目を開けると、こちらに向かって1人の少年が歩いていた。
白い髪というのは珍しいが、ソレ以外は普通に見える少年は、ゆっくりとこちらに歩いて来る。
まるで、不良達など眼中に入ってないが如くの行動だった。

不良に怒鳴られても、彼はそちらを向きもしない。
ただ真っ直ぐに、美琴の方へやって来る。



その態度が気にいらなかったのか、不良がポケットに手をつっこみながら、彼の前に立つ。
恐らくガンつけするつもりだったのだろう。
だが、


ドンッ!


「はっ?」


彼は弾き飛ばされた。
巨体の不良は変な声をあげる。
何故か、不良の方が体も大きく、彼は対したスピードじゃないのに、だ。

そしてそのまま横に倒れた不良など無視し、ただ歩く。
不良達の顔に冷や汗が伝った。
美琴も直感的に感じる。


……コイツは強い、と


だが美琴は焦らない。
彼女はこの学園都市の第三位なのだから。
不良達はとうとう五メートルまで近づいたのを見て、一人が殴りかかった。

「おらぁ!!」


拳が彼の顔面に吸い込まれー、


グシャ!っと音がした。
しかし、


「ギャァァァァァ!?」


悲鳴をあげたのは殴った方だった。
汚いコンクリートの地面をゴロゴロ手を抑えて転がる。


「おい!?」


「チッ!能力者か!」


不良達は警戒しながら、各々の武器を取り出す。
特殊警棒、スタンガン、ジャックナイフ、そして拳銃。
五人の男は武器を彼に向ける、







が、


トンッ、彼が軽く地面を踏んだ瞬間、ゴバッ!っと彼を中心に地面が砕けた。

破片が散弾のように囲んでいた不良達に命中する。


「グボッ!?」


「がァ!?」


「……」


地面に倒れ伏す男達を見ながら、彼はチラッと美琴の方を見る。
その紅い目を睨みかえす。
だが、それを無視したのか、彼はそのままどこかへと行こうとする。


「はぁ?ちょ、あんた」


「……」


美琴は呼びかけるのだが……


「おーい?聞いてる?」


「……」


勝手に助けたつもりになってどこかに行こうとするその姿に、美琴はついに切れた。


「聞いてんのかあああああああ!?」


完璧に無視して歩いて行く少年の背中に前髪から放たれた雷撃が飛ぶ。

当たっても精々気を失う程度の電撃。



それが背中に当たった瞬間、弾かれた。


「!?」


とっさに美琴は体を横に動かしてかわす。
もといた場所を、反射された電撃が通り過ぎた。

こんな現象は、始めてであり、美琴は目を見開く。


どこかに行こうとしていた彼は、ふと立ち止まり、美琴の方に体を向ける。
周りが暗闇なだけに、少年の白い髪はよく目立った。

美琴は思わずツバを飲み込み、尋ねる。


「アンタ、何者?」


美琴のこの質問に、彼は少し躊躇う素振りを見せた後、言った。



「……一方通行(アクセラレータ)」


ただ一言、この学園都市最強の名を。

ただそれだけ言い、一方通行は去って行った。


これが、この世界での二人の出会いである。







帰り道、一方通行は自分の行動に苛ついていた。
何故、あそこで不良達をボコしたのか。
何故、放っておかなかったのか。


「チッ、今更善人気取りかよクソが」


答えは、すでに出ていた。


ピピピッ、と携帯のノーマルな着信音が聞こえる。
一方通行はズボンのポケットに手をつっこみ、黒い携帯を取り出した。

着信者は、研究所。












彼は、明日があの実験の始まりだったことを思い出した。











後書き
なんか文章繋がってない所は見逃してくれると嬉しいです。





[20473] 2
Name: ホットケーキ◆60293ed9 ID:10285d3b
Date: 2010/07/20 14:14






翌日、

研究所の一室、戦闘が行われること前提のステージに、一方通行はいた。


「これよりーーー」


目の前には暗視ゴーグルを装着し、サブマシンガンを持ったミサカ00001号が無表情で立っている。


一方通行の脳内で視界がフラッシュバックした。
彼は、前にもこれとまったく同じ光景を見たことがある。

無機質な、鋼色のへや。
人形のように告げる、クローンの少女。

その少女を一万三十一回殺し、残りの九千九百六十九を殺そうとした自分はーーー






ガチン!っと彼女の手元にあるサブマシンガンのトリガーが引かれ、銃口から大量の弾丸が飛び出し、一方通行を襲う。

だが、弾丸は彼を傷つけることは出来無い。

弾丸は弾かれる。









周りへと。



この部屋をモニターで見ている研究員達は疑問に思った。
一方通行には反射がある。
何故、わざわざ周りに弾丸を操作するのか。
一方通行なら反射した方が楽だし、攻撃も出来るのに。




研究員達がそう思っている間にも、銃による攻撃は続く。
一方通行に弾かれた弾丸が、床にたまっていく。
百発程打った所で銃は利かないと、ミサカ00001号は判断し、左手を振って雷撃を飛ばす。

その青い雷撃も弾かれた。


「……バリア?」


ソレを見てボソッと呟く。
一方通行はその言葉を無視して、足を一歩踏み出す。







「っ!?」


気がつくと、目の前まで接近されていた。
思わず後ろに飛ぼうとするが、その前に一方通行がミサカ00001号の首を掴む。
その、白く細い腕をミサカ00001号は弾くことも出来ず、触れることすら出来なかった。

彼女に出来るのは、ただ体を動かしてもがくだけ。

一方通行が、その力を使ってトドメをさすまで。






(なンだよ、あっけねェ……)


一方通行は首を右手で掴みながら思った。
目の前の少女は銃を取り落とし、拾うことも出来ずもがいている。


(なァンで俺ァ、ンな無駄なことしてンだァ?)


そう、無駄なこと。
一方通行なら、カンタンに目の前の少女を殺せた。

銃で撃たれたら、それを反射するか、操作して頭をうち抜けばいい。
首を掴んだなら血流操作で心臓を破裂させればいい。
一方通行なら朝飯前だ。
だか、彼はそうしない。
前は、カンタンに、ソレこそ戦闘開始から十秒で殺したこともあったのに。


(なァ、どォいうことなンだ?)


一方通行は心の中で問いかけながら、前を見る。
そこにいたのは、苦しそうな顔をし、一方通行から離れようともがく少女がいた。
苦しさからか目に少し涙を浮かべ、首からは血液の脈泊と、人間としての温かさ、体温が伝わってくる。





(……あァ、そォいうことか)


一方通行は気がついた。
自分が何故、目の前の少女を殺さないのか。
ソレに気がついた彼は、








バキッ!!





自分の顔面を、左手で殴っていた。
その光景を見た全員の思考が停止する。


ーーー自分で、自分を傷つけた?


一方通行はよろけ、そのせいで少女の首を掴んでいた手も離れるが、ミサカ00001号はただ呆然としてへたり込むだけ。


「ク、ハッ」


そして一方通行は、










「アハッ、ギャハッ、ハッ、ハッハッハッハッハッハッハッ!!!」






笑った。
笑う、笑う。
狂ったように笑う。





だが、不思議とその狂気ともとれる行動は、怖く無かった。


ミサカ00001号は後に思う。


あれは、自虐の笑みだったのだと。


ひとしきり笑った後、一方通行は両手をポケットに入れ、背を向け歩き出す。
そしてロックがかかった鋼鉄の扉を蹴り飛ばした。

ドゴォン!と、凄まじい轟音を立てて扉が吹っ飛ぶ。
反対側にめり込んだ扉だった物を流し目で見ながら、一方通行は歩いていった。

取り残された少女は、ただその背中を眺めるだけだった。








ザーッと、外は雨が降り注いでいた。
一方通行にとって対して気にすることでも無い。
反射で雨などはじけるのだから。

雨がアスファルトにぶつかり、パラパラと音を立てる。
街の中では、学校帰りであろう生徒達が傘をさして歩いていた。

一方通行はそれを気にもとめず、ただ歩き続ける。











「なんで傘忘れたんだー!?不幸だーっ!!」




その声が聞こえた瞬間、一方通行はグリン!と首を後ろに向ける。
後ろには、学生カバンを頭上に掲げ、雨の中を走る一人の少年がいた。
その少年は、前方に立ち止まって自分を見ている人物を見て驚愕し、思わず叫ぶ。


「あ、一方通行!?」


この時点でまだ面識のある筈が無い少年は、最強の名前を呼んだ。


一人のヒーローと、一人の大悪党が出会った瞬間だった。


雨は変わらず降り続ける。
まるで神様の涙のように。








ファミレス内のテーブルの一つを挟み、二人の少年が座っていた。
一人は顔から冷や汗を垂らし、ツンツンしている髪の毛を雨で塗らしている。
対して対面に座る少年は少し不機嫌そうな顔をし、サラサラした白い髪を揺らしていた。

ファミレスのガラスに、雨粒がぶつかり、音を立てる。


なんで二人がファミレスに居るかというと、上条の反応を見た一方通行が強引に上条の襟首を掴み、ファミレスに連れ込んだのである。
その引き摺られていた上条の情けなさを見て、一方通行はこんな奴に負けたのかと、ため息を吐いたそうな。







沈黙が、痛い。


「……オイ、お前」


「は、はい!?」


ビクゥ!と、上条はテーブルも揺らしながら答える。
ちなみにテーブルの上にはコーラとアイスコーヒーが置いてある。全く減っていないが。


「テメェ、実験の時乱入しやがった三下だよなァ?」


「ッ!?どうして……?」


上条は先程までの腑抜けた表情から一辺して、あの時のような真剣な表情に変わる。

その表情を見て、へェ、と一方通行は少し賞賛しながらも話を続けた。


「で、テメェも記憶があるってこたァだ。この現象について何か知ってンのか?」


テメェが犯人だったらブチ殺す。そういったオーラを全開にしながら一方通行は尋ねる。




「いや、俺にもサッパリで……俺が記憶があるのは、多分、右手のせいだと思うんだけど……」


「ハァ?」


何言ってンだ?と言おうとして、ふと思い出す。
そういえば自分の反射の膜を破ったのも、右手だった。
何か能力に対する特別な力でもあるのかも知れない。


「一応、土御門にも聞いてみたけど、あの時と違って影響を受けてないの俺だけだったし。いや、お前も、なのか?」


「そォいうこった」


上条の言葉に気になる点があったがそこは無視する。

上条の疑問に答えて、一方通行は外を眺める。
外はいよいよ雨が強くなったのか、遠くの景色が雨のせいで見えなくなっていた。




「なぁ」


その呼びかけが真剣すぎて、思わず一方通行はそちらを向いていた。

上条が真剣な表情で一方通行を見る。
その表情は、実験を止めたあの時と全く同じ表情だった。


「もう実験をやっているのか?」


その目を見て、一方通行は悟った。
コイツは、Yesと答えたら絶対に自分(最強)に挑むと。

ほんの少しだけ、目の前の人間の本質が分かった気がした。




「今日が実験開始の日だよ、クソが」


「ッ!」


上条の瞳に怒りが灯り、立ち上がって怒鳴ろうとして、一方通行の表情が気になった。
何処か悟ったような、諦めたような、バカにするような、そんな表情。


「……お前は、実験をーー」


「してねェよ」


えっ?と上条は口の動きが止まる。
今、目の前の男はなんと言った?


「実験、拒否したっつてンだろォが」


「……えっ?」




今度はちゃんと口に出せた。
一方通行は、妹達を二万体殺してでもレベル6になりたがっていた筈では……?


「……戦ったは戦った。けどよ、どうしても、殺せなかった。人形みてェで、幾らでも替えがきいて、俺に殺されるためだけに生まれた命。そう、思っていた筈なのに……」


一方通行の脳裏に浮かぶのは、肌から伝わる、人としての温かさ。


「あいつ等が、一人の人間として、見えるようになっちまった。そして」


一方通行は一息つき、上条に告げた。










「もう殺したくねェ、過ちを繰り返したくねェ。そォ、思っちまった……」



寂しそうに、窓の外を眺めながら、彼は言った。
外は雨により、全てが霞んで見える。







「……ハッ、笑いたきゃ笑え。今更後悔だぜ?一万三十一人も殺しといて、今更なに言ってンだろォな、俺ァ」


アイスコーヒーのグラスを掴んで、一方通行は自分をバカにしながら言った。

一万近くも殺して今更後悔。
馬鹿げた話だ。
そんなふざけたことがまかり通る訳が無い。

一方通行は、目の前のヒーローが何か言うのを待つ。
なんと言うだろうか?
バカにする?ふざけるなと切れる?何も関心を持たずにただ憎む?
いずれにせよ、一方通行は拒否しない。
なにせ、本当のことなのだから。

一方通行は待つ。
拳一つであの実験を止めたヒーローの言葉を。








「笑わないさ」




その言葉は、一方通行にとって全く予想外で。
思わず一方通行は上条の顔をみていた。

上条は続ける。
何故か、少し微笑んだ表情で。


「お前は確かに御坂妹を傷つけたし、沢山の妹達を殺したかも知れない。だけど、だからといって後悔しちゃいけないなんで決まりは無いだろ?」


上条は続ける。
一方通行に対する思いは、変わっていた。


「罪があるなら償えばいい。悪人はずっと悪人にならなきゃいけないのか?俺はそうは思わない」


すなわち、怒りと警戒から、友好へと。


「だけどもし、お前がまだ自分が悪人であり続けなきゃならないって思ってんならーーー」


あぁ、と一方通行はやっと納得がいった。
どうして自分がこの男にこんなことを言ったのか。
そして、この男の本質に。








「ーーーまずは、その幻想をぶち殺す」




彼は、一方通行が知る誰にも比べれない程の善人だということに。

その一言を聞いて、一方通行は、


「オマエ、バカだろ」


小さな小さな優しい笑顔を顔に浮かべた。







[20473] 3
Name: ホットケーキ◆60293ed9 ID:10285d3b
Date: 2010/07/20 14:16






「魔術、ねェ。まァ信じてもイイけどよォ」


あれから魔術のことや上条の右手について一方通行は聞いていた。
どうやら魔術の線は無いと、上条の親友は断言したそうだ。


「なんか残照が残ってないから、それは無いみたいなんだ」


「そうすっと、科学の方しかねェみたいだが……」


一方通行は自分が立てた仮設を思い浮かべるが、すぐさまかき消す。


「まァいい。時間が戻ってても困ることはねェしよ」


逆に、彼にとっては大きなメリットばかりなのだが……








「じゃァな」


「ああ。って代金払ってくれるの!?」


「一々面倒くせェだろォが」


そう言いながら一方通行はカードをレジの店員に渡す。
上条はその姿に後光がさしているように見えた。


「あ、ありがとう!一方通行様!」


「……」


その姿に、一方通行はハッキリと大きなため息を吐いた。


「ハァ......」


上条、早速上げて落とすという、何処かの鬼畜みたいなことをしていたが、まさにどうでもいいことだ。





雨も上がり、夜空では月が輝く。
死神は、光り輝くへの一歩を、人間として踏み出した。







ピピピッ!


朝、いや昼、昨日のうちに買ったコンビニ弁当を一方通行が寝起きのボャーとした頭で食べていると、机の上に置いていた携帯がなり始めた。
一方通行は箸を動かしながら、左手で携帯を掴み、着信を切った。
理由は簡単。
研究所からだったから。


「たっく、しつこいってンだよなァ。そンなにレベル6を作り出してェのかねェ」


そう呆れたように言いながら、一方通行はもぐもぐと牛肉弁当の肉を頬張る。


あの、一方通行が実験を拒否した日から一週間がたっていた。








「で、だ。なンで俺ァここにいるンですかァ!?」


「まぁまぁ、細かいことは気にしない」


「上やんの友達なら大歓迎やでぇ!」


「にゃー。かみやんはついに男まで落とすようになっちまったのか?」


一方通行は腕を捕まれ、ズルズルと引っ張られていた。
街中をアテもなくブラブラしていると、この三人組、上条、土御門、青髪に出会ってしまったのだ。
そして右手で腕をつかまれ、現在にいたるというわけである。


「第一、何処に行こうとしてンだボケ!後腕いてェから離せェ!」


「ゲームセンターだよ。三人よりも四人の方が楽しいだろ?後逃げんなよ」


上条はそう言って一方通行の腕を離す。
右手が離れて能力が使えるようになるが一方通行は渋々ついて行く。





「そういえば今日は何やるんやー?」


「うーん、シューティングゲームがいいな」


「かみやんが運関係のゲームやっても全滅だしだにゃー」


「それを、言うな……」


土御門の言葉にズーンとうなだれる上条を見て、ふと疑問に思ったことを聞いてみた。


「こいつなンで落ち込んでやがンだ?」


「それはやなー、上やんが不幸すぐていっつもミスるけやでぇー」


青髪曰く、クレーンゲームでは絶対に途中で景品が落ちるらしい。
なんだそりゃと思いつつ、一方通行は三人と隣り合って歩いていた。

暇だったのもあるし、心の奥底ではこういった日常を望んでいたのかもしれない。









「シネェ!ハラワタブチまけろォ!」


「ノリノリだにゃー」


「お前等強すぎだろぉ!?」


「もう達人の域やね」


ゲームセンターにて、一方通行は土御門と一緒にシューティングゲームをLet’sプレイしていた。
それはもはや達人で。
3分の2あたりですでにハイスコアを更新していた。
さすが学園都市での最強の頭脳を持つ少年である。


「おらおらァ!まだパーティは終わってねェぞォゾンビどもォ!」


「なんか、画面のゾンビが可哀想になってくるんだが」


「そこは突っ込んだら負けぜよかみやん」


そういいながらゾンビを正確に撃ち抜く土御門も鬼である。

画面に出て来たゾンビはドンドン倒されていった。


「ヒャッハァー!」








「スゲーな、お前!俺あの台のハイスコア更新始めて見たぜ!」


「ほんまやなー。周りに人だかりが出来とったし」


「ハッ!あンなもン楽勝だっつの!」


帰り道、夕日が街を染めるころ、四人は帰り道を歩いていた。


「あっ、僕こっちやから」


「俺ァこっちだ」


「じゃ、ここでさよならだな」


上条と土御門は寮の部屋へ。
青髪はパン屋の下宿へ。
一方通行も自分の寮の部屋へ。


「じゃあ、またな!」


上条のまたなという言葉が、強く一方通行の耳に響いた。







「悪くは、なかったなァ」


一方通行は歩きながら呟く。
騒がしかったし、うっとおしかったし、疲れたし、だけど、楽しかった。


「けど」


本当に自分みたいなやつが、こんな平和に過ごしていいのだろうか。
そう思うが、


視界に見なれた人物が入ったため、思考は中止された。


「あー!アンタはっ!!」


それは、ある意味一番、一方通行が会いたくない人物だった。


「……なンだよ、お前」


「私の名前は、御坂美琴だ!覚えとけ!」


「いや、なンでだよ」


何故なら、一方通行は彼女に対して一番罪悪感を持っているから。


「超電磁砲(レールガン)」御坂美琴。
学園都市序列第三位。最強の発電能力者。


妹達のオリジナル、お姉様。

彼女は、今、一方通行の目の前に指を突きつけて立っていた。


輝く夕日が街を照らす。
赤い明るいオレンジへと。






さて、突然現れた美琴に一方通行がとった行動、それは、


「……」


無言で立ち去る。
つまりスルー。


「あっ!どこ行こうとしてんのよ!?」


一方通行はスルーして行こうとしたが、ガシッ!と腕を捕まれて止まった。







腕を捕まれて止まった。


(ハァ!?)




一方通行は心の中で驚愕した。
普段、一方通行には反射がある。
反射は全てに適応される筈だ。
それなのに、何故彼女は自分に触り、腕を掴んでいる?


「どーしたのよ?そんな驚いた顔をして」


「ッ!なンでもねェよ!」


顔をいきなり至近距離まで近付けられたため、一方通行は驚きながら慌てて下がる。


「?まぁいいや。アンタ!本当に一方通行なの?」


「……そォだよ。なんか文句でもあンのか?」


ぶっきらぼうに一方通行が言った言葉を聞いて、美琴はじろじろ一方通行を見る。




「アンタが、学園都市最強の……想像したのと大分違うわね」


「どンなの想像してたンだよオマエ……」


ハァ、とため息を吐きながら一方通行は考える。
何故、彼女は自分に関わるのだろうか、と。

彼女はまだ現段階では実験のことを知らない筈だ。

だったら態々絡んでくる理由はー




「私はねぇ、負けっぱなしは嫌なのよ」


訂正。理由とかいうレベルじゃなかった。というかガキだ。

付き合ってられんとばかりに、一方通行は歩き出す。


「だからアンタが第一位だろぉがって、無視すんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


ズン!と美琴が足を地面に叩きつけ、周りに電流が迸る。

一方通行は自分の体に当たった電流を操作し、周りへと散らさせる。
振り返って文句を言おうとした所で、





ビー!ビー!ビー!ビー!


なんか途轍もなく嫌な音が聞こえた。
ギギギと一方通行と超電磁砲は音の発信源に顔を向ける。


そこにいたのは黒い煙を吐き出す警備ロボット(120万円)だった。


「……」


「……」


タラーと、冷や汗を垂らしながら互いに顔を見合わせ、走り出した。



「オマエバカだろォ!?巻き込ンでンじゃねェよ!」


「う、うっさいわね!アンタが悪いのよ!?」


「なンだその無茶な理論はよォ!」


後ろを向かずに二人は怒鳴り合いながら走る走る。
誰だってこんなことで捕まりたくない。

夕日は地平線に沈みかけていた。









「あー、クソ。疲れた……」


夜、結局能力を使って逃げ切った一方通行はベットに、ボフッと倒れこむ。
今日は疲れる日だった。
特に最後の追いかけっこが。


「……クソッ」


一方通行はボソッと呟く。
自分が笑っているのに気がついたからだ。
きっと、時間が戻っていなかったら、こんなことは無かったのだろう。
上条とも、美琴とも、きっと。
こんなバカな日常は無かっただろう。


(……神様ってのがいるンなら)


一方通行の意識は闇に落ちていった。


(今回だけ、感謝、してやる……)







窓の無いビルという建物がある。
その中の密室でいくつものモニターが光っていた。


それを見るのは、ビーカーの中に浮かんだ、逆さまの人間。


その、男にも、女にも、子供にも、老人にも見えるその人間は、モニターを見て、ニヤッと笑った。



時は動き出す。
罪を背負う少年は何を思い、どうするのか。





[20473] 4
Name: ホットケーキ◆60293ed9 ID:10285d3b
Date: 2010/07/20 14:23




朝、当てもなく一方通行はブラブラとしていた。
四月二十日、当然一方通行は学校に行ってない。
まぁ、特別クラスに本来行かなければならないのだが、サボっている。

さて、四月十二日から今日まで彼が何をしていたか。ダイジェストに説明しよう。


「あんた待ちなさい!」ビリビリ!

「おっ!遊ぼうぜ!」

「不幸だー!」「死ねバカ!」

「一方通行、テメェを倒せば俺が最強の(ry」

「待ちなさいって言ってんでしょ!」ザァァァ!

「一方通行様!私めに慈悲を...!」

「これで、一週間は持つぜ!ありがとな一方ってギャー!不幸だー!」

「待ちなさい!」ズドーン!

「一方通行、実験に」ピッ

「一方通行、テメェを(ry」

「雑魚の相手してどうして私と戦わないんだぁー!」バリバリ!

「不幸(ry」

「戦わ(ry」

「実(ry」

「一方(ry」

……


まぁ、まとめると、


「めンどくせェことばっかよォ……」


ちょっと自分だけでなく、まわりもおかしいと自覚しはじめた一方通行だった、まる。






突然だが、一方通行はファミレスに結構通う。
基本的に自分で料理しないからだ。
何もそれは一方通行だけの話では無い。
世の中にごまんとそういう人はいる。


つまり、ファミレスというのは他にも結構人が通う訳で、


「相席お前かよ……」


「こちらとしてもビックリです、とミサカは座った人物を見てビックリ仰天します」


「全然ビックリしてるようには見えねェぞォ……」


一方通行はそう言ってため息を吐く。
目の前の少女は変わらず無表情で、本気で驚いたのか問い詰めたくなる。




「しっかし、お前がファミレスにいるとはよォ。あっ、俺ァこっちのステーキ定食」


「かしこまりました」


一方通行はそう言いながら近くを通りかかった店員にそう告げた。
ミサカはソレを見ながら目の前のスパゲッティーをフォークに絡ませる。


「私もですよ。こちらとしてはエプロンアクセラレータを期待したのですが、とミサカはエプロン姿を想像しながら言います」


「キメェ想像すんな」


ビシッとつっこむ。
最近ツッコミが上手くなってきた一方通行である。

「ちなみに、その想像をしたのは20000号です。ちなみに裸エプロンで、とミサカは変態を思い出しながら述べます」


「……なんだ、そいつバッカじゃねェの?」


「ちなみにいつも一方たんハァハァ、と言っていますとミサカはどういうやつかを説明します」


「決めた、絶対そいつとは会わねェ」


ミサカの報告に、一方通行は断言した。
そんな危ないやつと関わりあいになりたくない。
一体、その個体に何があった?実験自分が止めたせいで何か狂ったか?と思いつつ、コップを手にとる。




「そォいや、実験はどォなったンだ?」


「停止中です、とミサカは簡素に言います」


一方通行が実験を実質、拒否したため、実験は停止している。
そのおかげで、研究員達は妹達の延命処置でてんてこまいなそうだ。
そのため、妹達の管理も大変で、


「外で食事という物をしろと命令があったため、ミサカはここにいます、とミサカは説明を終えます」


「つまり、俺の気が変わるのを待ってるって訳か。たっく、しょうもねェ」


一方通行は呆れ返った。
つまりいつでも実験を再開できるようにしているという訳だ。
一方通行本人が実験をする気が無いというのに。




「……何故、なのですか?」


「あン?」


「何故、実験をしなかったのですか、とミサカは問いかけます」


始めて困惑に近い表情をミサカは浮かべ、尋ねる。
彼女にとっては不思議でたまらないのだろう。
自分の命は模造品で、いくらでも作れる物だ。
なのに何故、彼はそんな模造品のために実験を中止させたのだろう、と。


「……簡単なことだよ」


「……」




一方通行の言葉に、耳をしっかりこらす。











「殺したくなかった。ただ、ソレだけだ」


一瞬、ミサカは完璧に思考が停止した。
ソレだけ?


「まァ、殺したくねェって思うまでの家庭はあンぜェ。だけどなァ、ンなのどォでもいいだろォが」


本当に大事なのは、


「テメェは今生きてる。ソレだけで十分だろォが」






「わか、りません。と、ミサカは、抗議します」


ミサカはポツリポツリと、切れ切れに言う。
俯いたまま、言い放つ。

まるで、分からないことを恐れる弱い人間のように。


「あなたの言っていることは、理解、不能「理解出来なくていい」


少女の言葉を遮り、彼は続ける。


「もう一度言うぜ?生きている。これだけで充分だ」


「本当に、そうなのでしょうか、と、ミサカは確認を、取ります」


その言葉に最強は、


「あァ」


短く返した。







「じゃァな」


「……はい」


すっかり時間が立っていた。
あれほど賑わっていた店内も、今や極一部の人しか居ない。

一方通行は財布から一万円札を取り出し、机の上に置く。


「釣りはテメェが持っとけ。俺ァいらねェからよ」


そう言って席を立ち上がる。
通路を通って外に出ようとした所で、


「っ、あの!」


ガタン!と椅子を揺らして彼女は立ち上がる。
一方通行は其方の方を向いた。


「……また、会えますか?」


「……さァな」


彼はドアを開けた。









ピピピッ!


「あン?」


ちょうど近くの公園を通過していると、携帯が着信を告げた。
鳴り始めた携帯を見て、一方通行は首を傾げる。
ディスプレイには芳川と書かれていた。

芳川は一方通行に関わった研究員達の中でも、比較的人らしい人間だった。
一方通行が個人の名前で登録している珍しい一人である。


ピッ


「もしもし?」


その電話の内容は、










「妹達の強制実験、だと?」


一方通行を闇へと踊らせる。

ガチン!と、銃のトリガーを引く音が、公園内に響き渡った。



彼は、彼女達を救えるのか。
彼は、最強の力を振るう。







[20473] 5
Name: ホットケーキ◆60293ed9 ID:10285d3b
Date: 2010/07/20 14:27


四月二十日。

この日、学園都市第七学区に銃声が轟いた。








「クソが!メンドクセェ!」


ビルとビルの間を飛びながら、一方通行は叫ぶ。
重力と風力を利用した凄まじい速度でビルの壁面に足を付くが、その衝撃のベクトルを拡散させる事で壁に傷一つ入れない。
音速に近い速度で移動しているのだ。下手すると倒壊させかねない。


『頑張ってね』


「オマエ他人事だからって余裕そうだなァオイ!」


『あら、私これでも焦っているつもりなのだけれども』


「どの口が……クッ!」


ビルの壁面を蹴って飛び、一方通行は宙を翔る。
狙いは外したミサイル弾。
態々一方通行はそれに追いついてベクトルを変換。
真上へと向け、向かい側のビルに直撃されるのを防ぐ。


「本ッ当に周りへの被害考えてネェンだなァ!」


『余程レベル6が惜しいのよ。研究員の殆どがね」


「オマエはどうでもいいって思ってるのかよ」


『まぁね』


携帯から聞こえる短い返事に、フンと一方通行は忌々しそうに鼻をならす。


彼は今、大量の「妹達(シスターズ)」から逃げていた。
一般人もいる、第七学区のビルとビルの間を飛びながら。







芳川からの情報、それは新たな実験の内容だった。
最初の実験での一方通行の行動をツリーダイアグラムに入れて計算しなおした場合、出た答えは「強制実験」。
武装した妹達で一方通行を襲わせる。そして一方通行が妹達を全員殺した時に、一方通行はレベル6になる、『らしい』。

だが少しばかりおかしい。
前が一人一人決められた戦場だったのに対し、今回は戦闘回数も、戦闘人数も、戦場もどうでもいいのだ。
明らかに前に比べて「適当」に感じられる。



まるで、どうあっても一方通行に妹達を殺させたいような。



『恐らく、レベル6になるためには精神的な何かが必要なのね。だから』


「殺させたいと。ハン、むかつく、なァ!」


携帯電話を持ってない方の手で、飛んで来た銃弾を真上に弾く。
反射すると打った妹達の誰かが危ないし、真横と真下には何も知らない一般人がいる。だから真上に弾くしかない。


『さてどうするの?このままじゃ貴方の精神も持たないんじゃない?』


「……確かにこのまま戦うのはしンどいな……なンか策でもねェのかァ?」


『そうね……』


暫くカチカチと、キーボードを叩く音が携帯のマイクから聞こえて来る。
それを聞きつつ、一方通行は屋上のフェンスを蹴り、更に上へと飛ぶ。
いきなり音を立てたフェンスに屋上に居た誰かが驚くが気にしている時間は無い。


『……これなら、行けそう』


「どンな作戦だよ」


『研究員達は幾らでも居る』


「あン?」


突然の意味不明の言動に一方通行は首を傾げ、電話の向こうは更に続ける。


『同じように施設も沢山ある。じゃあ、学園都市にとって失いたく無いものは?それこそレベル6に匹敵する程の』


「……ハッ、なァるほどォ。そりゃあイイ!」


答えを出した一方通行はニィと笑みを浮かべ、飛ぶ方向を変えた。











戦闘機という物は高く、そして重要な物だ。
何故か?学園都市があらゆる国、地方で強気に出れるのはこの圧倒的な兵器軍が存在するためだから。

そしてもう一つ重要なのは、情報。その兵器軍、ありとあらゆる技術の情報。






「さすがにこの二つがあったら手ェ出してこねェ、か」


その兵器軍がある倉庫の一つに、一方通行は居た。
手にあるのは黒いメモリーチップ。
メモリーチップに収まった情報は学園都市に存在する技術の一パーセントに過ぎないが、ソレだけでも多大なる力を持っている。


「まァ、先にぶっ壊してもイイけど、その場合開き直られても困るからな」


そのチップを弄びながら、一方通行は呟く。
芳川を通して研究所に脅しを入れた。
後は芳川の立ち回りに期待するだけだ。


「……他人任せか、オレらしくねェ……」


普段の無愛想な顔を苦笑に変える。
変わったが、これは多分人間らしくなったのだろう。
そう一方通行は自分の思考を結論づけ、








「で?ナァンでオマエがここに居るんですかァ?」


倉庫の入り口に呼びかけた。
その誰かは重苦しい兵器に支配された倉庫を、ゆっくりと一方通行に向かって歩く。





額に掛けたゴーグルが鈍い光を放った。


「また会いましたね、とミサカは複雑な心境で貴方に話しかけます」


「こんな状況で会いたくなかったがなァ」


ゆっくりと、一方通行は其方を向く。
そこにはあの無表情で、此方に銃を構える彼女が居た。








00001番目のミサカ。

本来なら殺されていたはずの彼女が、

この世界で一方通行が触れ合った唯一のミサカが、


立っていた。





二十メートル程離れて立つ彼女、ミサカに彼は呆れを見せながら問いかける。


「……どーしてここに居るンですかァ?研究所の奴らは何やってンだよ」


「貴方の脅しは無視されたという訳です、とミサカは研究員達による決定を告げます」


「無視、ねェ。戦争が勃発する危険性すらあるのによ」


実際、一方通行の指摘は正しい。
学園都市の技術は素晴らしい物だ。正義、日常の面でも、悪、非日常の面でも。
少しとはいえ、その情報を上手く流せば世界の国々を混乱に陥れ、戦いが起こせるだろう。

だが、


「ツリーダイアグラムの結果、貴方はそれを実行しないと出ました。と、ミサカは告げます」


「オイオイ、ンなとこまで機械に頼ってンのかよ」


ハァ、と一方通行はあからさまに呆れた。
機械にそんな決定を委ねるなど、もはや機械が人を支配しているような物では無いか。
そんな風に呆れてから、一方通行は、


「ンで?なァンでオマエ一人なンだよ?」


そう、ここが問題。
何故、先程まで大量の妹達で武装し放題で向かって来てたのに、何故一人なのか。


「ツリーダイアグラムの決定です、とミサカは告げます」


「アァ、はいはい。そうですか」


同じ返答に飽き飽きする。


あの実験を、思い出してしまう。


だから、一方通行は。




「オマエ、さっきから同じ語尾なの気がついてっかァ?」


飛んだ。
地面の滑走路に使われる特別製のコンクリートが砕け散り、爆音が撒き散らされる。
それを起こして得た推進力を利用して、彼は彼女との距離を一瞬で詰めた。


「!?」


二十メートル近い距離をいきなり詰められた彼女は後ろにーー


「ちっと痛ェぞォ!」


「ぐっ!」


下がれなかった。
絶妙な威力に調整された拳が顔面に突き刺さり、彼女は呻く。
いつかのように吹き飛びはしないものの、それなりの威力。足が地面から離れ、体が宙に僅に浮き上がる。


「ざァンねェンでした、ってなァ」


地面に背中から落ちたミサカを見下ろしながら、一方通行はニタニタ笑う。
傍に落ちた銃をついでとばかりに遠くに蹴り飛ばした。


「これでお終い。オマエの負けだ」


「……どうやらそのようです、とミサカは背中の痛みをクールに堪えつつ負けを認めます」


「いっつも無表情の癖して何言ってやがンだオマエはよォ……」


額に手を付き、ため息を吐く。
時々意味不明の台詞が出るのも、もしかしたら学習装置が悪いのかも知れない。
学習装置作った奴誰だゴラ、などと考えつつ、彼はミサカの傍に屈んだ。


「まァ取り敢えずだ。オマエを研究所に連れて行く。研究所の連中をもっとハッキリ脅さなきゃならねェし」


オマエの治療も、とは一方通行は言わない。
だがその生まれ故か、それとも別の何かのせいなのか。
彼女は人の本心、一番の思いが分かることが多い。
そして今回も彼の心境が分かり、




「それには及びません、とミサカは貴方の無駄な行為を止めます」


「……なンだと?」


「無駄だと言ったのです、とミサカは再度繰り返し発言します」


倒れたまま無表情で言う彼女の言葉に、ピクッ、と一方通行のこめかみがヒクつく。
当たり前だ。いきなりお前のやっていることは何の意味も無い、みたいなことを言われたら誰だってイラッ、と頭に来る。


「なに言ってンのオマエ?喧嘩売ってンですかァ?」


「喧嘩を売っているのでは無く、」


若干喧嘩越しになりつつある一方通行の言葉を訂正した後、彼女は、












「ミサカの命は残り約三分だからです、とミサカは自分の現状を貴方に伝えます」



そう、言った。
ただ淡々と、まるで明日の天気でも語るかのように。


「……ハッ?オ、マエ、何言ってッ!?」


一方通行は気がつく。
彼女の顔が赤くなってゆくのを。
それは恥ずかしさから来るものなどでは決して無い。


「脳に、チップを埋め込まれまして……と、ミ、サカは、息もたえ、だえに、貴方にせつめ、いします……」


「オイ!無理すンな!クソッ!」


チップ。
その言葉をミサカを見ながら彼は考える。
彼女は脳に、と言った。
心当たりはある。


一方通行のポケットに入っている黒いメモリーチップ。
その中に入っているデータは全て一方通行が研究所のパソコンから詰め込んだ物だ。
それらは手動で行われたため、彼は入っているデータを覚えている。
千に達するデータの一つに、そのチップの情報があった。
小さな、それこそ脳に影響を与えないくらいの小さなチップだが、特定の条件が重なるとそのチップが脳の電気信号をかき乱し、埋め込まれた人間の体を徐々に侵して行く。
内蔵の働きや筋肉の動きに支障をしたして行き、約三分から五分で、



死ぬ。



「ッ……クソがァ!」


ダンッ!と力任せに一方通行は拳を地面に叩きつけた。
ギリギリと、歯を食いしばり、彼は怒りを撒き散らす。


「あのクソ野郎どもがァ……!」


恐らく、これもツリーダイアグラムとやらのお告げなのだろう。
たかがレベル6とか、そんなどうでもいいはずの物を作るためだけに。

怒りを撒き散らし、どこか泣きそうな表情をした一方通行に、


「あ、の……」


ミサカは、声をかけた。
汗を垂らし、まるで風邪にかかった病人のような表情で。


「お、願い、が……と、ミサカ、は……」


「喋ンな……!」


彼女はそれを聞いても止めず、言葉を続ける。




「どう、せなら、貴方に殺され、たいです」


「ッ!?なン、で、だよ ……?」


震える声で、子供のように一方通行は彼女に尋ねる。
その言葉に、彼女はニコッと弱々しく笑って、


「チップごときに、死にたくありませんので、と、ミサカは、理由を告げます」


ハッキリと、一方通行の耳に響く。
一方通行はそれを聞いて、


「……ッ……く、そがァァァァァァァァッ!!」


大きく、叫ぶ。

彼は恨んだ。

彼女をこんな風にした研究員達にも。

交渉を上手くすることが出来なかった芳川も。

研究員達に命じた、学園都市の上層部達も。

クローン達を生み出した遺伝子を提供した超電磁砲の少女も。

自分が死ぬことに疑問を持たない、作られたこの少女達も。

こんな裏の事情を知らず、のんきに生きている学園都市の住民も。

能力なんて物を作り出した学園都市の存在も。

こんな残酷な現実を突きつけて来る、世界も。


そして、何よりも、

目の前に死にそうになっている彼女を救えず、怪物のような力を持っているのに何も出来ない自分を、

あの超電磁砲の少女を不幸にし、沢山のクローンが生まれる原因を作った自分を、

たとえ世界が核に包まれても死なないのに、全ての敵を倒すことが出来るのに、たった一人の女の子さえ救えない自分を、


そんな自分を、心底恨んだ。



そして、そんな彼は、



「……」


叫び声を止め、彼は無言で右手を上げる。
全ての命を殺す、死神の白い腕を。

その恐らく世界最強の殺人兵器を見て、横たわる彼女は目を閉じる。

汗を垂らし、真っ赤なその顔に恐怖は全く無く、ただただ、穏やかだった。


そして、


振り下ろされる。

振り下ろした彼の顔は、負に歪んでいた。









振り下ろされたそれは、














「…ざ…、ンな……











ふっざけンなアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」



ガシッと、ミサカの頭部についているゴーグルを掴んだ。

そしてそれを勢い良くずらし、額を出す。

汗に濡れた茶色の前髪を払い、額に己の白い、死神の手のひらを乗せる。


「な、にを……」


彼女はその行動に、問いかけるが、


「黙れェ!オマエは息荒げて寝てろ!」


怒鳴り返すその言葉には、沢山の思いが篭っていた。


「ざけンな、ふざけンな!死なせねェ、絶対に死なせねェ!」


ーー自分は誰だ?学園都市の最強のレベル5だ。


ーー最強は、たった一人の少女すら救えないのか?



ーーー違う!


「絶対に助ける。助けてみせる……!」


呟く彼の脳裏に浮かぶのは、あの電気を放つ少女の笑顔。
自分が絶対に見れないと思っていた、彼女のイタズラっぽい笑顔。

あの笑顔を、また見れなくするのか?



ーーーそんなことは、絶対にさせない。



彼は、能力を全力で行使した。







やることは一つ。チップの破壊。
だが無理にやるとミサカの脳を壊しかねない。
慎重に、ゆっくりと、機能停止に追い込む。


(くっ……さすがに、キッチィか……!)


ある意味、打ち止めの時の数倍辛い。
彼方は高速で削除していくのだが、此方は削除では無く少しづつ削って行くような感じだ。
少しでも失敗したらゲームオーバーなのは変わりないが。


そしてゲームオーバーは彼女の死を意味する。


ツーと、汗が一方通行の頬を伝って行く。
反射に割いている力など一ミリたりとも無い。


(少しづつ、少しづつ……)


次々と頭に入ってくる電気信号の情報を読み取り少しづつ、ほんの少しづつ、操作していく。
そしてチップのせいで乱れていた脳の電気信号のやり取りを正常化してゆき、チップに負荷をかけてゆく。






「いける……ッ!」


尋常じゃない量の汗を垂らしながらも、一方通行は確信した。口元に勝利の笑みが浮かぶ。
開始から五分たったがミサカは死んでおらず、逆に呼吸の乱れが収まって行った。


「……ハッ、オレァ多分研究員共から見たら相当バカなことやってンだろォなァ」


少し余裕が出来たためか、一方通行は自嘲気味に呟く。
それが耳に届いているのか、横になったミサカの体が少し動いた。


「なンせ単価十八万のクローンを助けるために汗水垂らしてンだ。人形を助けるために大金使うようなもンだ」


目を閉じた状態の彼女が何を考えているか、彼には分からない。
だけど、それでも、彼は言い続ける。




「だけどなァ、単価十八万とか関係ねェ。関係ねェンだよ。オマエは、オレにとって一人の人間なンだよ。周りがどう言おうと、どう見ても、だ。だからオレァ」




ーーーオマエを、助ける。


彼女に、この横たわるバカな彼女に、伝えたいから。


お前も、立派な一人の人間なんだって。









だが、世界は残酷だった。



ギャリギャリ!


「っ!?」


金属と金属が擦れる嫌な音に、一方通行は視線を動かす。
その赤い瞳に映ったのは、金属の箱。
俗に、警備ロボットと呼ばれるもの。それが十個程、倉庫の入り口から此方へと向かってきていた。


(オイオイ待ちやがれ!明らかに普通の警備ロボじゃねェぞ!?)


心の中で彼は焦りながら叫び、ギリギリと砕けそうなくらい奥歯を噛み締めた。
明らかに、此方に向かって来る警備ロボットは武装が普通と違った。
体に収納されていたであろう銃口は二十を超える。移動スピードも遥かに早かった。


(クソ!後少しなンだよ!もうちっと待ちやがれこの鉄塊どもが!)


もう二十メートルぐらいまで近づかれ、一列に並んで止まる。


(間に合わーーっ!)


瞬間、前面についているスコープレンズが煌めいたかと思うと、




ガガガガガガガガッ!!!



嵐のような銃声が響いた。








その時一方通行が見たのは、


自分の手を振り払って、


目の前に立って、


此方を見て笑う、



ミサカ00001号の姿だった。






弾丸が彼女の横を擦り抜ける。
だが命中するものも多く、その直撃時の衝撃でミサカはフラついた。
額からズラされていたゴーグルにも命中し、砕け、吹き飛ぶ。

緑色の部品のカケラを撒き散らしながらゴーグルは宙を舞う。
銃声が止み、ミサカはぐらっと、倒れた。
ゆっくりと、まるで糸が切れたかのように。

ドサッ、と倒れる音と同時に、


ガチャン、と砕け散ったゴーグルが落下した。



「……はっ?オイ……?」


そんな彼女を見て、彼はポツリと呟く。
反射を使えなかった筈の彼は、何故か無事だった。
何故なら、彼女がーーー


「……?」


何か、頬に感触が有った。
一方通行はそれを左手で拭う。
目の前に、左手を持ってきた。


それは赤いナニカだった。

どこかボンヤリと、目の前にうつ伏せに倒れた少女を見る。



彼女と地面の間から、赤い、紅い、“ナニカ”が、一杯出ていた。



自分の元まで届きそうなくらい広がってゆくそれを見て、彼は、










「ウ、













ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」



脳を引き裂き、その中心から出て来る黒いナニカ、といった風な感覚を一方通行は感じ、



「■■■■■■■■■■■!!!!!」



己の魂の底から湧き上がって来る感情に身を任せて、ナニカを振るった。






彼の意識は、そこで暗い暗い、闇に染まった。









[20473] 前半エピローグ
Name: ホットケーキ◆60293ed9 ID:10285d3b
Date: 2010/07/20 14:31








エピローグ






「……っ!?」


目を開けたら、白い天井が目に入った。
ガバッと彼は身を起こす。


「こ、こは……」


体に一定の感覚で走る鈍い痛みを無視し、一方通行は辺りを見渡した。
白い、全てが白い。
天井も壁もベットのシーツも自分の服も、全てが白い。

窓の右側に寄せされた白いカーテンが風によって揺れ動き、衣擦れの音を立てる。


窓から見える空は、とても青かった。


「一体、何がーっ!?」





彼は、思い出した。
何があったのかを、全て。






「……クソ」


ポツリ、と一方通行の口から言葉が漏れる。
そこから、




「クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソガアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」


濁流のように言葉が迸った。
手をベットの布に叩きつけたせいでさしていた点滴が抜けるが、彼にそれを気にするだけの理性など無い。


「なァにが最強だ……なァにがレベル5だ……!」


ブルブルと、怒りの余り震える右手を目の前に持って来る。




(結局、オレの手は誰かを殺す事は出来ても、誰かを助けることはできねェじゃねェか!)




あのヒーローは右手一つで妹達を救ったのに、自分は、最強と呼ばれる力を持つ自分はーーー!!


「誰も、助けれねェのかよォ……!」


















「周りの人の迷惑になりますので中二病は自分の家でして下さい、とミサカはコイツ何やってんの?と思いつつも冷静に言い放ちます」






「……はっ?」


誰かの声に思考が停止し、首をゆっくり動かす。
病室のドアは開け放たれており、そこには“彼女”が立っていた。


普通、ドラマならこういった場合泣きながら抱きつくのだろうが、




「……なァァァァァァァァっ!?」




一方通行は変な叫び声をめいいっぱい上げた。













「で、どういう事だ?」


「それはですね……むっ!このリンゴ中々やりますねと、ミサカは赤い果実を賞賛します」


「オマエ諦めろよ」


ハァ、と彼はため息を吐く。
その言動とため息をスルーし、ミサカ00001号は新しいリンゴへとナイフを向ける。ちなみに三個目。他のはギザキザした形の生ゴミになってしまっている。


あれから幾分か一方通行も落ち着き、冷静にベットの横の椅子に座ってリンゴ相手に悪戦苦闘している彼女を見る。
彼女は白い病院ならではの服を着ており、腕の見える部分は包帯だらけだった。恐らく、服の下も。
頭にはあの砕け散ったゴーグルと同じ型のがかけられている。


「あー……無駄な努力しながらでもいいから、さっさと状況説明しろ」


「無駄とは酷いですね……まずミサカが何故助かったというと」


コトン、と果物ナイフを台の上に置く。
リンゴはボロボロでグチャグチャになっていた。


「あれが麻酔弾だったからですよ、とミサカはあれ結構痛かったなーと思い出しつつ語ります」


「麻酔、弾、だとォ?」


「万が一にでも貴方(レベル5)を失いたく無かったのでしょう、とミサカは研究者達の意図を言います」


「……」


その言葉に納得する。
考えてみればわかることだった。
研究員達にとって一方通行は宝だ。この学園都市二百三十万人の中で唯一レベル6に到達出来る存在。
そんな彼をいくらツリーダイアグラムのお告げとはいえ殺そうとはしないだろう。


「……実験はどうなるンだ?」


「凍結されることになりました」


「……理由は?」


慌てず騒がず、一方通行は理由を尋ねる。
それにリンゴの汁に塗れた手を舐めながらミサカは答えた。


「芳川という研究員による交渉、それと上層部直々の凍結命令が出ましたので、とミサカはリンゴの甘酸っぱさを感じながら答えます」


「きたねェから止めろ」


一応言っておく。聞くとは思わないが。


(上層部直々に、ねェ。一体なに考えてやがンだ……)


一方通行は平静を装いつつ、思考をフル回転させる。
が、


(情報が足りなさすぎンな……クソ)


一体なにが目的なのか、サッパリ分からない。
もうすこし時間と情報が欲しい所だ。




「……私達、妹達は」


そんな沈黙の中、彼女はポツリと語り出す。


「いつか実験が再開された場合のため、調整が施されることになりました、とミサカは芳川という研究員から聞いたことを伝えます」


「……そうか。オマエらクローンだったしなァ」


「はい。……全国に、散らばることになる全ミサカを代表して貴方に言います」


そこで彼女は言葉を切り、






「ありがとうございました」


「……ハッ」


ぺこりと、一礼してくるミサカから彼は視線を外す。
それは俗に言う照れ隠しと呼ばれるものだった。












「ありがとう、ねェ」


「?どうかしたかい?」


「なンでもねェよ」


此方の体調を調べているカエル顔の医者に、彼はぶっきらぼうに返した。
あれから一時間立ち、ミサカも自分の部屋へと戻っていた。


(……ンなこと、言われる立場じゃねェンだけどな……)


結局の所、一方通行は悪人なのだ。
たとえ今この世界で一方通行の罪が無かったとしても、一方通行自身の記憶にはあるのだ。
そしてそれは現実にあったことであり、どう足掻いても消せないものだ。


「うん、問題無いね?多少能力を無理して使ったせいで頭がダルイかも知れないけど一時的なものだからね?」


「……」


無言を返事と受け取ったのか、聴診器を掛け直し医者は立ち上がる。
そして白いドアに手をかけて、


「あぁ、そうそう」


「……なンだよ?」


振り返って医者は言う。


「彼女のことなんだけどね?君の能力のお陰で大事に至らなかったのだから、誇りに思ってくれ」


「……」


まるで心の中を読まれたかのような医者の言動に、一方通行は息が詰まる。
その姿を見て医者はニコッと笑い、ドアを開けた。


「じゃ、くれぐれも無理はしないようにね?」


その言葉とともにドアはゆっくりとスライドして閉まった。


「……何もンだ?あのカエル顔は……」


只者では無い。
普通の人間が持たない何かを感じる。
もしかしたら裏ではそれなりに名が通っている医者なのかも知れない。ミサカの治療がこの病院で行われてるのもある。


「……ヨシカワに聞いてみるか」


あの女性研究員ならもっと詳しい話しを知っているだろうし、自分に教えてくれるだろう。
台の上にある黒い携帯電話をひっ掴み、パカッと開く。










着信 57件
メール 86件







「……」


一方通行は携帯をぱたっと閉じ、目を瞑る。
そして首を回してコキコキ鳴らした。どうやらかなりの時間、寝っぱなしだったようだ。
ちなみに今日の日付けは四月二十三日だ。さっき見た携帯のカレンダーが正しければ。


「……」


いい加減現実逃避するのアレなので、彼は嫌々ながらも携帯を開けた。


「……ナニコレ?」


大量の着信にメール。
しかもだ、


「なんで未登録のが一番多いンだよ……」


そう、着信とメールの実に約八割以上が一方通行の電話帳に登録されていない誰かからだった。
ちなみに一方通行が登録しているのは、

研究員A
研究員B
研究員C
ヨシカワ
三下(上条)
金髪(土御門)
青髪

以上。


「しかも全部同じ奴からだわァ……誰だマジでよォ……」


今までに無い人生初めての出来事に戸惑い、行動出来ない一方通行。なんか身震いがする。
そんな彼に追い打ちをかけるように、



ピピピッ!



その登録していない番号からの電話が来た。


「……」


取り合えずピッ、とボタンを押し、左耳に当てる。
そしてボソッと慎重に尋ねた。


「もしもしィ……?」












『アンタ何してたのよおおおおおおおおおおっ!!!』


ドォンッ!と爆音が響き、携帯のマイクがミシミシと悲鳴をあげる。
爆音が耳に直撃した一方通行は、


「がはっ……?」


余りの声の大きさに意識を吹き飛ばしかけていた。赤い眼の焦点が定まらなくなる。
だがギリギリの所で踏ん張り、意識を保っていた。


『ちょっと!どうしたのよ!返事しなさい!』


「オマエぶちのめすぞ……そしてなンでオレの携帯の番号とアドレスを知っているのか、なるべく簡潔に答えやがれ」


頭に走る頭痛を堪えつつ、一方通行はキャンキャン喚く携帯に向かって言った。
ちなみに携帯は耳に当てず前に持って来ている。


『?あの上条ってのに教えて貰ったんだけど?』


「三下いつか殺す」


犯人が分かった一方通行はゴゴゴッ、と効果音が付きそうな怒りの炎を背中に浮かばせながら、そう呟いたそうな。







その頃、


「ぶるっ……な、なんだ今の殺気は……」


街中を歩いていた幻想殺しの少年は、突然体に走った悪寒に体を震わせていた。











『それって本当なの?』


「こンな事でウソ付く訳ねェだろォが」


一通りの状況を(入院した理由は適当に誤魔化した)説明し終わった一方通行は、携帯を耳に当て直していた。
それを聞いた美琴の声からは信じられないという気持ちが強く滲み出ている。


『だってアンタを入院させるだけの出来事がこの世にあるってのが信じられないもの』


「……はっ、オレも買われたもんだ」


『しょうが無いでしょ?アンタにはそれだけの力があるんだから』


美琴の言っていることは正しい。
彼は、それこそ世界を相手にしても生き残れるだけの力を持っているのだ。
そんな彼が入院するだけの出来事があるのが異常なのだ。

美琴の言葉に一方通行は、



「……女一人助けるのさえ、命懸けの悪党だがな」



そう、ポツリと呟いた。


『えっ?なんか言った?』


「なンでもねェよ……切るぞ」


『わー!待った待った!お見舞いに行くからなんか欲しいものある?』


いい加減会話するのが億劫になって来たので切ろうとしたのだが、質問されたため仕方無く答える。


「肉」


『分かった肉ねってなんじゃそりゃ!?肉って!?病人が肉って!?』


「サヨウナラー」


『ちょ、まっ』


ブツッ!と一方通行は思いっきりボタンを押して通話を切る。
そして素早く電源ボタンを長押し。携帯の電源を切った。


「はァ……全く、メンドクセェ」


そう言いながら彼は四角い窓から外を見る。
そこには雲一つ無い、真っさらな青空が広がっていた。


「……」


青空を見ながら、今更ながら幸福感が舞い降りて来た。
もしかしたら、人生で今一番幸せかも知れない。
何も失わず、得たものは、とてつも無く大きい。









「悪く、ねェかもな……チクショウ……」


彼は、人生で久しぶりに、自然な笑みを浮かべた。










「一方通行、か」


学園都市にいくつもある高層ビルのうちの一つ。
そこに“誰か”は立っていた。しかも淵に、後一歩踏み出せばはるか下にある地上にダイブしてしまいそうな場所に。
その“誰か”は持っていた携帯の画像を見る。


そこにはとある兵器倉庫が爆発するシーンが映っていた。
音声は無く、画像だけ。
爆発の中から出て来たのは、血塗れの少女を抱えた少年。





彼の背からは、黒い黒い、翼が生えていた。





それは翼と言うには余りに神々しすぎ、余りにも残虐さを感じさせていたが。
彼の手元にいる少女の体からは血は一滴たりとも垂れない。
恐らく、彼の能力なのだろう。


「幻想殺しの少年も、欠陥電気の少女達も中々いいが……」


パタン、と軽く携帯を閉じ、“誰か”は前を見る。
前にはある少年と、ある少女が見ている空と同じ空が広がっている。


「超電磁砲に、一方通行か……


















……興味深い」


“誰か”は一歩を踏み出した。
足は空気以外何も無い空間を通過し、



フッ、とまるで何も無かったかのように消えた。
あたかも幽霊の如く。



“誰か”は人間では無い。
そしてその正体を知っている人間さえ、この世に居るのかどうか怪しい。




ただ、一つ。

その“誰か”はこの学園都市の一部の人間にこう呼ばれている。

















『ドラゴン』と。







刻々と、彼と彼女に本来は無かった筈の危機が、迫っていた。












後書き
こっからとある科学の超電磁砲に入っていきつつ、見事にストーリーをブレイクします。
あっ、そうそう。一方通行の性格が若干おかしいのは、時期が悪いためです。
原作みたいに悪に徹していないため、多少柔らかくなっています(丸いとも言う)。




[20473] エピソード集
Name: ホットケーキ◆60293ed9 ID:10285d3b
Date: 2010/07/21 12:38






エピソードONE:四月二十三日








一方通行が小さく笑っていた頃。


パタン、と美琴は携帯を閉じた。
彼女が居るのは寮の自分の部屋。
そこで彼女はほっ、と息をはいた。


「よかった……」


無意識のうちに美琴はそんな言葉を口から出す。
携帯電話を胸に抱えるように持つその姿は、ためていた何かを解放しているかのように感じた。


「……」


自分の持っている携帯をもう一度見て、彼女はにんまりした笑みを浮かべた。



彼女にとって一方通行は今の所、自分の唯一の友達だ。
いや、理解者といってもいい。

同じレベル5で、自分を対当な存在として見てくれる人間。

彼女は友達というものが全くと言っていい程居ない。
レベル5というのもあったし、性格の問題もあっただろう。
リーダーとして輪の中心に居ることは出来ても、輪の中に入ることは出来ない。それが、彼女。


だけど、あの白い髪の少年は違った。
面倒そうに自分の攻撃をあしらいながらも、彼は一度として美琴自身を拒否していない。
受け入れてくれるかまでは分からない、でも、傍に居て騒ぐことぐらいは許してくれる。

そして、彼女自身も傍に居るのが好きだった。


「……はぁ」


そこで美琴はため息を吐いた。
彼にいつも攻撃していたコトを思い出したからだ。
負けっぱなしは嫌だ、などと言っているが本当は違う。

なんだか、本人の前だと素直になれないのだ。
優しさに耐えれないのかも知れない。


だが、一番の理由は。


「……アイツ、私に何もしない……」


そう、何もしない。
受け入れながらも、それにどうこうしようとはしないのだ。

逆に、ゆっくりと優しく自分から離そうとしている感じすらある。
そこに美琴を拒否している感じは無い。あえて言うなら、自分の傍に居させてはならないという、罪の意識の様な何か。


「……よし!」


思考を中断し、美琴は立ち上がる。
向こうが自分をどう取ろうと、美琴にとっては大事な人物なのだ。
そこだけは、例え何があろうと変わりは無いだろう。


コンコン


「……? はーい?」


お見舞いに行くためにバックから財布を取ろうとした彼女の耳に、ノックの音が聞こえた。
美琴はそれに首を傾げつつ、財布をスカートのポケットに入れながらドアへと歩く。


(誰かしら?)


疑問を解決するべく、彼女はガチャッ、とドアを押し開く。
茶色のドアが開かれた先に立っていたのは、一人の少女。

背的に年は一歳下だろうか?
自分と同じ常盤台の制服を着ており、黒と茶色が入り混じったような色の髪をツインテールにしている。
オマケに何が楽しいのかニコニコ顔だ。


「始めまして。今度からルームメイトとしてお世話になります、白井(しらい)黒子(くろこ)ですの」


「……へっ?」


彼女は今日、新たなルームメイト兼相棒(パートナー)と出会う。







そして、彼女は知らない。
白い髪の少年が、自分に対して犯した"罪"を。











ちなみに、


「リンゴですかそォですか。捨てて来やがれ」


「電流直接流すぞオイ」


買ったお見舞い品はリンゴだった。










エピソードTWO:四月三十日









早朝。朝の六時。


「……おや、珍しいですねとミサカは普段は見ない人物に驚きます」


「……目が冴えたンだよ」


朝の学園都市。
少し肌寒いその世界で、一人の少年と少女が居た。
病院近くの石造りの広場。
そこにあるベンチに少年、一方通行は腰掛ける。


「オマエ、こんな朝っぱらからなにやってンだ?」


「少々格闘術の実施訓練を、とミサカは説明しながら拳を突き出し、ます!」


ダンッ!とミサカは足を踏み出し、右の拳を若干斜め上へ突き出す。
もし本当に目の前に敵がいたら、ちょうど顎の辺りだろう。
そこから腕を引き、体を回転。
左肘を突き出し、腹を打つ真似をする。


「……中国拳法か。オマエ、00001号じゃねェな?」


「はい、ミサカは、検体番号、15555号、です!と、ミサカは!」


パンッ、パンッ、と足を地面に叩きつけ体を動かす。
少し奇妙に見える動きだが、その動作の全てに意味がある。
フェイント、一撃の威力を上げるため、体の血の巡りを促進、などなど。

膝蹴り、回転してかかと落とし。


「……なンかそれ、意味あンのかァ?」


「いつか役に立つかもしれません、覚えておいて損は無いでしょう、とミサカは一旦立ち止まります」


フー、と息を吐き、彼女は動きを止める。
そしてテクテクと一方通行に向かって歩いて行く。


「役に立つ、ねェ。まァ、俺には必要ねェか」


「反射がありますしね、とミサカは同意しながら隣に座ります」


「オイ」


隣に断りなく座った少女に呆れる一方通行。
漂って来る少女独特の温かな雰囲気を感じながら、ポケットから何かを取り出す。


「コーヒーですか。胃を壊しますよ、とミサカはカフェイン中毒だから言っても意味無いだろうなーと思いながらも忠告します」


「黙れ。コーヒーが無かったら俺ァ死ぬ」


ブラックな、と付け加えながら彼はプルタブを開けた。
プシュ、と缶の中の空気が反応し音を立てる。


「つーかオマエら、ここの病院にもいンのな。全員世界中に散らばったのかと思ったぜ」


「十七名が病院にてお世話になっています。00001号もですよ、とミサカはミサカ00001号の存在を秘かにアピールします」


「秘かに、ってる時点で秘かじゃねェだろ」


それもそうですね、と軽くミサカは流す。
そんな態度に一方通行は怒らず、コーヒー缶を口に含んだ。
ブラックの甘さなど無い苦さのみが口内に広がる。


「……やはり」


「……?」


突然、何やら今までと違う声音で呟いたので、一方通行は怪訝な目で隣の少女を見る。
少女は若干俯いており、呆れている雰囲気を出していた。




「貴方、意外と……その……ヘタレ?」


「よし、オマエ俺に喧嘩売ってンだな?」


グシャアッ!と空になっていた缶を握り潰し、こめかみをぴくぴくと痙攣させる。
そのどう見ても怒っている一方通行を見て、ミサカはうーんと首を傾げ悩む。


「ヘタレでは無く……なんと言えばよいのでしょうか……とミサカは悩みます」


「返答次第じゃオマエの骨が一本か二本折れるぞ……」


ビキビキと血管を浮かせる彼を無視しつつ、彼女は悩む。
そして「あぁ」と言って手をついた。
口を開く。


「臆病なんですね、とミサカは答えが見つけられて幸せ数値上昇中です」


「オマエの血圧も上昇させて上げましょうかァ?血管壊れるまで」


一方通行の怒りはますます増加したようだ。
その修羅になりかけの彼をミサカは再度無視。
ベンチからよこいしょ、と立ち上がって、










「失うのが、傷つけるのが怖いのですね?」




そう、言った。
ピタッ、と一瞬、一方通行の動きが、呼吸までもが止まる。


「それでいて、手放すのも怖い、と」


「……」


その言葉に、ギリッと一方通行は歯を食い縛る。
言われなくても、わかっていたことだった。



自分は臆病者だ。



罪を犯し、悪党になっても光を捨てられないでいる。
守るために戦いながらも、罪に怯えている。
傷付けることを恐れている。


だけど、彼女達から離れるのも、また怖い。




「……深い理由は聞きません」


タンッ、とミサカは喋りながらステップを踏む。


「ですが、貴方がお姉さまやミサカ達の傍に居たいように、ミサカ達も居たいのです」


ビュッ!と空気を切り裂き、足が空を切る。
その姿を見つめながら、一方通行はミサカの言葉を聞く。


「傷付けるだの、不幸にするだの、細かいことは抜きにして」




ダンッ!!




「傍に居る事は、きっと悪いことでは無いはずです」


最後の一撃を放ち、ミサカはスッと姿勢を正す。


「と、ミサカは型を終え、言葉を言い終わりました」


ぺこりと、お辞儀した。


「……オマエら、本当に学習装置になンか異常でもあったンじゃねェのか?」


「貴方の実験拒否後、急いで作ったからでは無いでしょうか?とミサカは推論を述べます」


皮肉気に放たれた一方通行の言葉に、ミサカは無表情のまま返した。






彼は、どうするのか。
"悪党"の道を進み続ける彼はーーー








ちなみに、


「なんで抜け駆けしてるんですかマジであり得ないんですがとミサミサミサミサミサカはははははは」


「お、落ち着け……!」


病室に帰った途端、00001号に揺さぶられまくったそうな。









エピソードTHREE:六月二日






「はぁ、はぁ……に、逃げられた……」


「お帰りなさいですのー」


夜の七時。
常盤台中学の寮にて一人の少女が息を切らしながら扉を開けた。
その顔は疲労困憊といった所で、フラフラと足取りも頼りない。


「寮監の目を誤魔化すのも大変なのですから、夜遊びもほどほどにして欲しいですの」


そんな少女に呆れたようにベットに腰掛けていたツインテールの少女が声をかける。
その言葉に「うーん」と間延びした返事を茶髪の少女は返した。
気のせいか、パチパチと前髪が放電している感じがする。


「あの野郎……明日会ったらジャーマン決めてやる……」


女子らしくない物騒な言葉を発しながら、彼女はボフン、と自分のベットに倒れこんだ。


「あ、お姉さま」


「……すぅー……」


もう寝ている。
漫画のようなスピードで寝たルームメイト兼先輩に苦笑しながら、ツインテールの少女、白井黒子は毛布をかけてやる。


「少ししたら起こしますのよー」


聞こえてないと分かりつつも、黒子はお姉さまに呼びかける。
返事は安らかな寝息。


「……全く、幸せそうな寝顔ですわ」


確かに、横になってまくらを抱きかかえて眠る彼女は何処か物語の姫を連想させた。


「……で、この幸せな寝顔をさせる殿方は、一体何処の誰なのですの?」


うーんと唸りながら黒子は首を傾げながら悩む。

彼女は気になっていた。
今寝ている少女、御坂美琴がいつも言っている"アイツ"という恐らく男であろう人物のこと。

美琴を、孤独から抜け出させた男。


「……お姉さまが『歯が立たない』とは、一体どんな人物なのやら……」


御坂美琴は超能力者(レベル5)だ。それも第三位。
つまりこの広い学園都市で三番目に強いとも言えるのだ。
そんな彼女が叶わない人間など、第一位か第二位だけだ。


「……まさか、いや……」


黒子は頭を振ってバカな思考をかき消す。




なんにせよ、自分は待つだけなのだし。


「いつか教えてくださいな」


まだ寝ている美琴を見ながら、黒子は微笑んだ。













ちなみに、


「さて、お姉さまの寝顔写真を……ぐふふふふふh「ふぁ~ぁ、ごめん黒子寝ちゃった……」


「あ」


「……」


黒子が持っていたカメラをたたき壊され、気絶するほどの電撃を浴びたのは言うまでも無い。





エピソードFOUR:六月三日










「ブチ殺すぞ三下ァァァァァァァァッ!!」


「ぎゃあすっ!?瓦礫投げんな!幻想殺しは瓦礫には意味無いんだぞぉぉい!?」


「黙れェェ!!オマエはマジでここで殺す!!」


まだまだ明るい午後五時。
コンクリートの欠片が宙を舞うという常識外の現象が学園都市第七学区で起こっていた。
現象を起こしているのは白い髪の少年。
白く細い腕で数十キロはある瓦礫をブンブンと投石してゆく。
その殺人兵器を、ツンツン髪の少年が死ぬ気で躱していた。


「うぉぉぉぉぉぉっ!?死ぬ死ぬこれマジで死ぬぅぅぅぅぅ!?」


「くたばれェ!!」




この人外鬼ごっこは三十分続いたそうな。







「はぁ……死ぬかと思った……」


「そのまま死ね」


鬼ごっこも終わり、賑やかな街中を歩きながら一方通行は隣の上条にそう罵倒する。


「オマエさァ、俺電話で『緊急事態でお前の力が必要なんだ!』とか言われたから来たンですけどォ、合コンの数合わせってなンだ!?ブチ殺すぞォ!?」


「だって土御門が『義妹が居るから勘弁だにゃー』とか言うから!」


「そういう問題じゃねェよ」


ハァ、と深くため息を吐く。

一方通行はこの少年が少し苦手だ。
自分のして来たことを知っている筈なのに、まるで何事もないようにバカやっているこの少年が。



まるで、英雄(ヒーロー)のようで、自分には眩しすぎる。



「……」


「?どうしたんだよ、急に黙って」


「なンでもねェよ、ボケ。次意味不明な理由で呼ンでみろ、血液逆流させて殺す」


「うぉぉぉい!?」


ギョッと飛び上がる上条を見ながら思う。







何故今、「もう呼ぶな」と言わなかったのかと。


それは、一ヶ月ぐらい前、あのクローンの少女から言われた通りーーー




「じゃ、俺こっちだから」


「あァ……」


タッタッタッ、と上条は自分の寮に向かって走る。
その揺れる背中を暫し一方通行は眺め、クルリ、と足を元来た道に向けた。


「で?オマエら何のようですかァ?」


入ったのは、路地裏。
その清掃ロボがいないゴミのある路地裏には、人相の悪い複数の男が居た。


「……」


男達は無言。
だが其々の武器を構え、チラつかせる。
ナイフやら警棒やら拳銃まである。
人数は二十といった所か。


「……ハッ」


一方通行は自嘲気味に笑って、地面を蹴った。






結果的に言うと其れだけで戦闘は終わった。
超高速で一方通行が路地裏を駆けたことにより、起こった暴風が男達を吹き飛ばして壁や地面に打ち付けたのだ。


「……」


「う、ぐっ……」


「あ、あ……」


地面に転がって痛みに呻く男達。どうやら防弾チョッキなどは着てなかったらしい。
それらを無視して、一方通行は歩いてゆく。
バキン!と何か踏んだが無視する。どうせナイフだろう。


前の一方通行なら、ここで見逃すなんてことはしなかった筈だ。
能力を使わなかったとしても、もう襲ってこれないように骨を砕き、血を吐かせるぐらいのことはする。


だが、


「善人気取りか、クソったれ」


路地裏から出て、己の手を見ながら一方通行は呟く。
いくら善人のフリをした所で、己の手についた血は取れないというのに。
白く、反射のお陰でその手はいつも汚れていない。

だが、よく見れば薄らと血がついて、真っ赤に染まっているのだ。

自分の歩いて来た足下が血で濡れていてもおかしくない。

自分は、そういう人間だ。

10031の命を奪い、1の命を救うために善人を気取って戦う、









最悪な、クソッタレの『悪党』だ。






「あー!いたいたいた!いやがったわねこの野郎!!」


「……」


視線を上げると、そこには茶髪の少女が足を踏み鳴らしながら走って来ていた。


彼女は知らない。


一方通行が、どれだけの罪を犯したのか。


だから、笑っていられる。


彼女は知らない。


自分のクローンが大量に作られ、実験をされたなど。


だから、笑っていられる。




だったら、自分は、クソッタレの『悪党』たる自分は、




「命がけで、守るだけだ……」




最強最悪の力で、彼女を守り抜くだけだ。
















ちなみに、


「ちぇいさぁぁぁぁぁぁっ!!」


「がァァァッ!?」


一方通行は駆け寄って来た美琴にジャーマンを喰らったらしい。








[20473] 『真・とある科学の電磁通行(エレキックロード)』
Name: ホットケーキ◆60293ed9 ID:10285d3b
Date: 2010/07/22 11:02







この物語は科学の街で起こる悲劇である。




故に幻想殺しの少年は





登場しない。






この物語は





雷の力を持ち己の不幸な運命と対峙する少女


罪に苦悩しながらも正しい道を歩もうとする少年





悪党(ヒーロー)と雷姫(ヒロイン)の






物語。











あらすじ
八月三十一日、深夜。
学園都市最強の超能力者(レベル5)、一方通行(アクセラレータ)は打ち止め(ラストオーダー)と呼ばれた少女を助けるために死んだ。

だが、彼が目を覚ますとそこは自分の傷一つ無い部屋だった!

しかも日付は四月一日。
混乱する彼だが、とにかく情報を集めこれが夢などでは無く現実だと知る。
そして、少し彼は前とは変わっていた。

不良達を倒し、自分が前に不幸にした少女、御坂(みさか)美琴(みこと)と出会った。

変わった彼は実験を拒否。帰り道に自分と同じ境遇である、実験を拳一つで止めたヒーロー、上条(かみじょう)当麻(とうま)と知り合った。
それから彼は暫く、今まで感じたことも無かった賑やかな日常を過ごす。

だが世界はそんなに甘く無かった。

実験が再開され、一方通行はそれを阻止するために戦う。
ミサカ00001号をなんとか命がけで救った彼に、ハッピーエンドとでもいうべき終わりが来た。


少年は知らない。

更なる悲劇が襲ってくることを。


七月十六日。

夏の、暑い日から始まる。



この『クソッタレ』な世界の物語が、始まる。












時系列設定

四月一日
・一方通行逆行。上条も恐らくこの時逆行。逆行前の日付は八月三十一日。

四月四日
・一方通行、三日間情報を収集し続けここが過去だと断定する。
・不良達に絡まれていた美琴と遭遇。不良共を倒し、美琴に名乗る。

四月五日
・実験初日。ミサカ00001号と戦闘するが殺さずに帰る。
・帰り道、雨が降り注ぐ中同じように逆行したと思われる上条と遭遇。
・上条と会話。知り合いとなる。

四月十二日
・実験拒否から一週間が経過。
・土御門、青髪ピアスとも友好関係を築く。
・シューティングゲームをする。ベクトル計算を普段からしている影響か、百発百中。
・一方通行。少し、あった筈の罪について悩む。
・美琴と遭遇。ロボット一つぶち壊した。
・アレイスター、何か企んでいる様子。

四月二十日
・騒がしい日常を送っていたが、ファミレスにてミサカ00001号と再開。
・会話の後、一方通行は店を出て公園に向かう。
・芳川から連絡。実験再開の合図。
・まともに戦わずに逃げ、一方通行は情報をとある研究所から手動で引き出した。
・そして戦闘機がかなりの数ある倉庫にてミサカ00001号と戦闘。瞬殺。
・埋め込まれたチップを破壊するため、一方通行能力フル活用。
・現れた警備ロボットに、ミサカが撃ち抜かれる。
・怒りの余り黒翼が出現。倉庫ごと全てを薙ぎ払う。
・ミサカの血を操作して命を繋ぎ止めた(無意識)。
・この場面を映像に撮られる。

四月二十三日
・一方通行、目が覚める。
・ミサカから状況を聞き、医者から胸を張れと言われる。
・携帯を開けると大量の着信とメールが。
・美琴と会話。肉を求める。
・一方通行、暫し光の暖かさに浸っていた。
・美琴、安心の一時。黒子がルームメイトとなる。
・何処かのビルの屋上にて、誰かが喋る。

四月三十日
・ミサカ15555号と一方通行の会話。
・冥土返しの病院で十七名のミサカがお世話になっている(原作より増えているのは二万体いるため)。

六月二日
・一方通行と美琴が追いかけっこ。途中で一方通行が相手するのが面倒になって逃げた様子。
・黒子、カメラ破壊され初めて電撃で気絶する。

六月三日
・一方通行、上条と人外鬼ごっこ。
・その後、不良達を一人で撃破。この時点でかなりの回数襲われている。
・帰り道、美琴に会い、ジャーマン・スープレックスを貰う。







取り合えず状況整理の意味も含めて。
幻想殺し(ヒーロー)が登場しない、悪党(ヒーロー)と雷姫(ヒロイン)の物語。
見てくれると、嬉しいです。




[20473] 1・七月十六日
Name: ホットケーキ◆60293ed9 ID:10285d3b
Date: 2010/07/23 11:36








七月十六日。セミが騒がしく鳴き、太陽の光がジリジリと照らす夏の日。


東京都西部を開発されて作られた『学園都市』と呼ばれる場所がある。

総人口二百三十万人の八割が学生のそこでは、




『超能力』という、科学的な異能の力があった。











『学舎の園』

学園都市の中でも有数のお嬢様学校が五つある、必要な物を必要なだけ詰め込んだ小さな街。
そこに常盤台中学という学校がある。
その学校にて、




ドゴンッ!!!!!




凄まじい轟音が鳴り響いた。
ザパァン、と何か波の音が聞こえる。
学校を震わせる程の轟音の音源は、裏手のプール。
そのプールの青く太陽の光を受けて光る水面は、大きく波打っていた。


まるで、巨大な衝撃でも受けたかのように。


「……ふぅ」


そんな通常ではあり得ない状況のプールサイドに、一人の少女が立っていた。
飛び込むための台の上に立ち、手に持つコインを上に軽く投げて弄ぶ。


『ーーー砲弾初速1030m/sec・連発能力8発/min・着弾分布18.9mm・総合評価5』


空間に、機械の合成音が響いた。


「……こんなもんか」


巻き上げられた細かい水の霧を浴びながら、茶髪の少女は何処が気にいらないのか、少し不機嫌そうに言葉を発した。


目の前のプールの現状は、彼女が起こしたもの。


彼女こそ、この学園都市に置いて七人しか存在しない超能力者(レベル5)の一人、




『超電磁砲(レールガン)』御坂美琴である。











街のアスファルトを踏みしめて、二人の少女が歩いていた。
一人は茶色の髪に銀色の髪留め。もう一人は黒い髪のツインテール。
二人は同じブラウスと灰色のスカートの制服を着ており、名門常盤台中学の生徒だとはっきり分かる。


「それと!治安維持活動はわたくし達風紀委員(ジャッジメント)に任せて欲しいですの」


「って言われてもね。自分でやった方が早いし」


学校も終わり、学舎の園から出た美琴は後輩兼ルームメイトの白井黒子に小言を言われていた。
実は今日朝、美琴は不良達に絡まれたのだが自分でパパッと撃退したのだ。
本来、そういったことは権限を持った特別な者しかしてはいけないのだが……


「学園都市に七人しかいない超能力者(レベル5)でも、一般市民である事に変りは「あ、このクレープ美味しそー」話を逸らさないで欲しいですの!」


が、美琴は説教を無視。クレープ屋の前に立つ。
誰だって説教など聞きたく無い。
さっさと店員にチョコバナナクレープを注文していた。


「黒子は?」


「……わたくしは警邏中ですので」


「ああ、ダイエット?」


「ッ!!」


ズバリ言い当てられ、黒子は顔を真っ赤にして口を弾き結ぶ。
そんな彼女に呆れた表情で、


「別に必要ないんじゃない?」


「その油断が怖いんですのよ」


そう言ってからバッ!と黒子は両手を耳に当てた。プラス、目を瞑り美琴に背を向ける。
理由は勿論クレープという名のダイエットの敵からの誘惑に打ち勝つため。


「さぁ、わたくしが目を瞑っている間にお召し上がり下さいですのっ!」


「むー……」


なんだか居心地の悪さを感じ、美琴は冷や汗を垂らしながらも店員からクレープを受け取った。
そしてピコン!と何か閃く。


「じゃあ」


スッ、と黒子の前にクレープを差し出した。


「これ、一口だけ上げる」


「そ……」


差し出されたクレープを見て固まる黒子。
そして彼女は、






「それはわたくしと間接的な接吻(ベーゼ)をご所望という事ですのね!!」


「……はっ?」


ガシィ!とキラキラした目をしながら両手で自分の手を掴んだ黒子の突然の言葉に、美琴は思考が止まった。というよりベーゼって。
そんな美琴を置いてきぼりにして目をキランキランさせながら、黒子は両手に力を込める。


「ではお姉様からお先にどうぞ!わたくしはその後でじっくりねっぷり堪能させていただきますのっ!」


変態ここに極まり。
クレープを美琴の口に持って行こうと黒子は力を込める。滅茶苦茶込める。
そして漸く美琴の思考も回復し、慌ててクレープを持つ右手に力を込めて押し返す。


「ゲッ!しまったそー来るかっ!?離れろっ!」


「ああー、常盤台のエースがそんなお心の狭い事では~」


全く狭くないのだが、それに気がつかない変態少女。しかもエースは全く関係無い。

引っつかみあいが始まり、黒子から離れようとする美琴に対して黒子は引っ付こうとする。

そんな戯れあい(黒子は真剣に近い)をする二人に、


「あっ!白井さん、御坂さんも」


若干こもり気味の声が掛けられた。
二人は互いの体の一部分を掴んだ状態で固まり、視線を声が聞こえた方に向ける。
そこに立っていたのはマスクを付けた一人の少女。
頭に大量に付けてある花飾りが特徴的だ。
制服も二人が着ているのとは違う。


「あら?初春じゃありませんの」


「おつかれさまですー」


頭を押されている状態での黒子の言葉に、初春という少女はぺこりと一礼しながら喋る。


「うわっ、何ですのその大きなマスク」


「風邪っぴきなんで仕方ないんですよー」


マスクをずらし、初春はため息を吐きながら言った。
確かにマスクは白くて大きく、かなり目立つ。
正直、女子が付けるような物では無い。


「女は顔が命ですのよ」


「…………そうですね」


ちなみに黒子。美琴に顔をぎゅううっと引っ張られ、変な顔になっている。


「えっと、初春(ういはる)飾利(かざり)さんだっけ?黒子と同じ風紀委員の」


「はっ、はい!覚えていてくださったんですね」


ゲシッ、と黒子を突き飛ばし美琴は初春に話しかけた。
その言葉に少し緊張しながら初春は返す。
無理も無い。
何でも無い少女に見える美琴だが、その実は学園都市のレベル5の一人。
緊張もする。


「ホントに辛いなら休んだ方がいいわよ。どうせあと数日で夏休みだし、授業も無いでしょ?」


そう言いながら美琴は初春の前髪を上にやり額を露出させる。
そして、




ピトッ


「うわっ、結構熱あるじゃない」


自分の額と合わせた。
熱を測るための行為なのだが、


「ギリギリギリギリギリ」


ゴオオオオオッと怨念じみた殺気のオーラが近くで見ていた黒子から発せられる。
誰も気がつかないが。


「で、でも風紀委員の方が忙しくて。最近は結構能力者(がくせい)の事件も増えてますし」


「そうなの?」


「ええ、虚空爆破(グラビトン)事件とか、連続発火強盗とか。まぁ色々と」


近くを走って行く少年達を見ながら初春は言う。
少年達は能力で手を光らせて遊んでいるようだ。


「まっ、暑くなってきたし仕方ないかもねー」


平和な光景を眺めながら、美琴は息を吐く。


「抑制出来る装置でもあればいいんだろうけど」


「能力は脳に深く関与してますから、抑制機器なんて危なさそうですのよ」


「わっ」


急に会話に入って来た黒子に、美琴は腕に巻き付かれた。
それにより体制を崩しかけるが、なんとかこらえる。

暑いから引っ付くなと言おうとした所で、


「あれ?白井さん」


初春の疑問の声が美琴の耳に入った。
黒子と一緒に初春の方を見る。
彼女は何処かを指差していた。

指差していたのは銀行。
だが、何処かおかしい。何処がおかしいのか、パッと見わからないが、




「あそこの銀行、何で昼間から防犯シャッター閉めてるんですかね?」




瞬間、シャッターが内側から吹き飛んだ。


ドガァンッ!!と巨大な爆発音が辺りの建物のガラスを揺らし、熱風を撒き散らす。
ガラガラと残骸の落下音が響いた。


「!」


「えっ?えっ?」


美琴と黒子は即座に頭のスイッチを切り替える。
初春はまだ突然の事態についていけていないようだった。


「ヨッシャ!引き上げるぞ急げ!」


「ウス!」


もうもうと立ち込める砂煙の中から男が三人出て来る。
黒の服に、白いハンカチで口元を隠している。
その手には札束が大量に詰まったバックが有った。


十中八苦、銀行強盗である。


「初春は怪我人の有無を確認」


「は、はい!」


「お姉様はそこにいてください」


「えー?」


黒子の指示に不満気な声を上げる美琴だが、黒子はそれを無視して走り出す。


「風紀委員ですの!器物破損及び、強盗の現行犯で拘束します!!」


「!?」


逃げようとしていた強盗達に後ろから黒子は腕章を見せつつ叫ぶ。
その声に強盗達はギョッとして後ろを向き、


「嘘ッ!?何でこんなに早く……んっ?」


「?」


男達は無言で固まった。
それにはてなマークを浮かべる黒子。
が、突然男達は笑い始めた。


「ぎゃはははははっ!どんなヤツが来たかと思えば、風紀委員も人手不足かぁ?」


「むっ!」


確かに黒子は中学一年生でしかも小柄だ。
男達にとってはそこらへんのガキにしか見えない。


「そこをどきなお嬢ちゃん」


ズイ、と一番大柄な男が前に出る。
かなりデカく、体重もそうとうの物に見えた。


「どかないとケガしちゃうぜー!」


ドス、ドス、と地面を震わせながら迫る男に対し、


「……そういう三下の台詞は」


突き出された腕を避け、上着の袖口を引っ掴む。
そして走るために振り上げられていた足を引っ掛けて簡単にコケさせた。


「ッ!?ぐわっ!?」


走る推進力を利用されて投げ飛ばされた男は、段差に頭から突っ込んで悲鳴を上げ気絶。


「死亡フラグですわよ?」


その一連の動きがなんでもないかのようにサッと黒子は髪を払う。
表情から余裕が感じられた。


「なるほど、タダのガキじゃ無いってか。だが俺だってな……」


黒髪の男。恐らくリーダーであろう男が白いハンカチを取り、右手を掲げる。

ボゥ!と赤い炎の塊が突然出現した。


「発火能力者(パイロキネシスト)……」


「喰らいやがれ!」


少し離れた場所に立つ黒子に向かって男は右腕を振るう。
右手の炎が形を変え、まるで火炎放射のように黒子の居た場所を通過した。




黒子の居た場所を通過した。


「な……?ぐおっ!?」


惚けた男の背中に蹴られたかのような衝撃が来た。
男は突然の衝撃に耐え切れず、地面に倒れる。
そこに、突然服と地面を縫い止めるように複数の金属矢が出現した。


「て、空間移動(テレポーター)!?」


自分の近くに突き刺さった矢を見て、能力名を叫ぶ。
それに答えるように能力で移動した黒子が、


「これ以上抵抗を続けるなら次は体内に直接テレポートさせますわよ?」


脅しをかけた。
男は呻き、体の動きを止める。


「……んっ?」


「どけっ!」


そんな黒子の鮮やかな手際を見ていた美琴に最後の男が迫った。
ただ、男は逃げるのに必死なようで美琴をただの邪魔な一般人としてしか見ていない。腕をブンブン振り回す。
美琴も先程黒子に散々言われたので躱すだけにした。

ヒョイ、と体を反らして躱す。


「あーあ、黒子から逃げられる訳が無いのに……」


バックを持って止めてある車へと走る男の背中を見て、美琴は呆れながら声を出した。




が、ふと気がつく。


「んっ?……」


手元の感触がおかしい。クレープの感覚が無い。
そう思い、美琴は視線を下に向けた。


そこで見たのは、クレープが袖無しのサマーセーターにぐっちょりとくっ付いている光景だった。
勿論自分の服の。


「……」


無言のままバチバチと、茶色の前髪から青白い火花が散る。
そしてゆっくりと、電気の散る音が高くなっていった。


「ねぇ、黒子。これ、私が売られた喧嘩だから、手、出していいわよね」


返答は聞いていない。
「あー」と黒子のしまったという雰囲気の声が聞こえるが無視。
美琴はスカートのポケットに右手を突っ込んだ。そしてすぐに何かを掴んで出す。
取り出したのは、銀色の一枚のコイン。
それを親指で上へと高く弾く。

それの下に右手を掲げ、準備万端。右腕の各所で、電流が激しい音を立てながら散る。

彼女はレールガンの照準をしっかり定めようと







「あっ」


して止めた。
宙に舞っていたコインをパシッ、と掴む。


「お、お姉様?」


絶対ぶっぱなすだろうと思っていた黒子は、後ろから恐る恐る問いかけた。
美琴は答えない。
そして何も行動しない。
ただ、男が乗る車が去って行くのを見る。

何故彼女は行動しないのか?

それは、







道路の真ん中に、白い髪の少年が立っているのが見えたから。







(……な、誰だあれ)


車のアクセルを全力で踏みしめながら、男はフロントガラスから見える者に疑問を抱く。


車の走行通路上に、誰かが立っていた。


年は高校生くらい。
白いサラサラした髪を持ち、赤い目が、時折揺れ動く前髪の隙間から見える。
服装は黒一色。
黒い長袖ジャケットに身を包み、黒のジーンズ。
ジャケットは所々が銀色であり、隙間から赤いシャツが見える。
腕や足の所々にオシャレ用の黒いバントが止めてあり、靴は黒いブーツだった。


(……あれ?)


そこで男は違和感に気がつく。


何故、自分はこんなにも考えていれるのかと。


辺りの風景がゆっくりと動いている。
人間は、とある状況になるとこういった風に全てがスローに見えることがある。


それはーー




ゆっくりと、道路の上に立つ誰かは両手を横に伸ばす。
そしてその白い口元が、


ニィ、と赤く裂けた。


真っ赤に裂けた三日月のような口が動く。














ーーーざァンねェン。こっから先は地獄までの一方通行だ。













車が少年に接触した瞬間、下に潰れた。


ゴッ!!!と先程の爆発など相手にもならない巨大な轟音が辺りに轟く。
目を開けないほどの暴風が吹き荒れ、周りでその光景を見た人間は全員目を塞いだ。
車が地面にビキビキとタイヤがパンクしながら全てめり込み、アスファルトが拡散状に一気にひびが入り砕け散る。ガラスも砕け散り、地面へと撒き散らされた。


「運が悪かったなァ?」


その一言が、辺りに響く。
目を塞いでいた人々は恐る恐る目を開け、轟音の元を見た。


そこに立っていたのは、一人の少年。






そこに立っていたのは、一人の、最強。








「な……な……?」


それを遠目に見ていた黒子は声が出なかった。
今まで色んな能力者を見て来たが、こんなに滅茶苦茶な物は見たことが無い。


「あれが、この学園都市最強の超能力者(レベル5)」


そんな黒子の耳に語りかける様に、美琴の声が場に響いた。








「学園都市序列第一位、一方通行(アクセラレータ)」

















「ハッ、たわいもねェなァオイ。まァ銀行強盗なンざこの程度か」


一方通行の言葉がシンッ、と静まり返ったこの場にやけに響いた。
それを彼は感じ取り、ため息を吐く。
無駄に目立ってしまったと。その場のノリで行動するとロクなことが無い。


「一方通行ー!」


「あァ?」


誰かに呼ばれ、其方を見る。
目に写ったのは茶色の髪の少女。


「あー……」


少し悩んだすえに、一方通行は少女の元へとアスファルトの破片を踏み砕きながら歩く。
ここで無視して逃走したら後々面倒なことになるのは明らかだからだ。
というより、前にプロレス技を貰ったので若干トラウマになっている。


「アンタ、かっこつけ過ぎでしょ」


「缶コーヒーダメになったからその仕返しだボケ」


ぶらぶらと腕を振りながら一方通行は美琴に返事を返した。
確かにその手にはポタポタと雫を垂らす缶が握られている。
だが、缶一個の復讐にしては余りにもやり過ぎな行為だ。
そんなやる気なさげに返す一方通行に、腰に手を当てながら彼女はため息を一つ。


「はぁ……アンタって、本当に素直じゃないのね」


「オマエだけには言われたくねェよ、超電磁砲」


「だ、か、ら!私には御坂美琴って名前があんのよ!」


「あーはいはいソーデスカー」


「うぐぐぐぐ……」


いつまでたっても自分の名前を呼ぼうとしない白髪の少年に、ビキビキとこめかみをヒクつかせる美琴。
バッチンバッチンと髪が逆立ちながら電気を放っていた。
怒り爆発寸前である。


「……はっ!?おおおおお姉様!?」


「あン?」


が、そこで邪魔が入った。
美琴の少し後ろに立っていた黒子が復活したようで、慌てて駆け寄り問い詰めて来たのだ。


「ほ、本当にこのモヤシが第一位なのですか!?この、夏なのに長袖長ズボンの頭がクルクルパーだと思われるこの人物が!?明らかに犯罪者一歩手前の悪人顔のこれが、学園都市の最強の能力者!?」


「オーケー、オマエそンなに死にてェンだな?」


滅茶苦茶言われまくった一方通行は、口角をピクピクさせながら黒子に殺気を飛ばす。
だが混乱している黒子にとってはそれどころでは無い。
更に言葉は続く。


「あぁ、なんてことですの!学園都市の第一位ともあろう者が、こんな缶一個ダメにされただけでブチ切れるダメな若者だったとは……」


「コイツ殺す」


「まてまて落ち着け!」


我慢の限界に来たのか、今にも黒子に殴りかかりそうな一方通行を、美琴は慌てて羽交い締めにして止めた。
一方通行が反射を使用しているのに、何故触れられるのかは謎だが今ほど有難いと思ったことは無い。


「離せェェェェッ!!このジャッジメントブチ殺す!ハラワタブチまけてブチ殺してやらァァァァァァァッ!!」


「いや、本当に落ち着きなさい!アンタが言うとシャレになんないから!」


ジタバタと暴れる一方通行を止める美琴。
女子中学生に羽交い締めされて止められる辺り、一方通行の能力無しの身体の弱さがよく分かる。




「あ、あのー……」




そんなこんなカオスな状況に、声をかける勇者が居た。
一方通行、美琴、黒子の三人は動きを止め、バッ!と其方を見る。

そこにいたのは警備員(アンチスキル)への連絡を済ませた初春だった。

彼女は急に三人に見られ、おどおどし始めながらも声をかける。


「えっと、一体何が……後、其方の……ひっ!?」


「あァン?何人の顔見て怯えてンですかァ?」


「アンタが元々怖いのに更に怒りで顔を歪めてるからでしょ!」


美琴大正解。
背中からの美琴の言葉にチッと彼は舌打ち。
その行為に更に初春は怯える。


「あぁ、第一位がこんな不良だったとは……」


「なァ、オマエ大概にしろよ?後オマエは第一位にどンな幻想抱いてやがったンだ」


どうやら怒りは大分冷めたようで。低いテンションでまだ頭を抱える黒子にツッコミを入れる。
そんな一方通行を見て大丈夫と思ったのか、美琴もパッと離れた。


(こ、怖い人なのかな……でもそこまでおかしな人じゃ……あれ、なんでこの夏に長袖長ズボン……?)


初春はぐるぐるとなる思考を纏めようと必死に努力する。
だが思考は中々纏まらず、放棄しようかと思った所で、


「っ!?あれ!」


「?」


「あっ!」


初春が突然何処かを指差したので、釣られて三人も見る。

潰れた車から先程の銀行強盗の男が這い出て、逃走しようとしていた。


「泡吹いてっから気絶しやがったと思ったンだが、チッ。メンドクセェ」


一方通行はまたもや舌打ちをしながら、背を曲げて地面に落ちていた空き缶を拾う。
先程暴れたさい、落としたようだ。


「オマエら、吹き飛びたく無かったらしゃがンどけ」


「はっ?」


黒子の疑問の声を彼は無視。
缶を上へと放り投げる。
そして体を回転させてーーー






メギョッ!!!!!






缶を蹴り飛ばした。
缶は一瞬で潰れ、平らな金属片になる。
凄まじいスピード、それこそ音速の三倍を超えるスピードで飛んだそれは、一時すると空気との摩擦熱で溶けた。

だが、それによって巻き起こる衝撃波が街の大通りを突き抜けた。

走っていた男の五メートル程上空を通過したが、それの余波が男を襲い、地面に叩きつける。

男は今度こそ、完璧に気絶した。




「まっ、こンなもンだろ」


右足を地面に付け、一方通行は首をコキッ、と鳴らす。
その言葉に周りは反応しない、いや出来ない。
殆どの人間が、余りにもあり得なさすぎる現象に放心していた。


「あ、いたたた……なにが起こったんですか……?」


「だからしゃがンどけっつたろ花」


「えっ!?花ってもしかしなくても私!?なんですかその安直なネーミング!?」


「オマエの名前知らねェンだから仕方ねェだろォが」


「あっ、すみません……私の名前は初春飾利です」


「そうか、花」


「変わってないー!?」


転がったまま初春は上から見下ろす一方通行にツッコんだ。
だが一方通行の顔は「何言ってンだコイツ?」と心底意味が分からないと言う感じ。


「えーと、二人とも?コントならよそでやってくれない?」


「何がコントだってンだよ」


しゃがんでいて立ち上がった美琴に彼は言い返す。
彼女の隣で頭を抑える黒子は意図的に無視。また何かブツブツと言っているが無視。


「……オイ」


「?何よ」









「オマエ服脱げ」






空気が、凍った。
比喩だが、それくらい寒く、痛い空気が流れた。


「……」


パクパクと、口を開いたり閉じたりする初春。脳内では「えっ?この人変態だったの?」という台詞が渦巻く。
黒子は思考が完璧に停止。
白く燃え尽きた。


そして言われた本人は、


「アンタ……何言ってんだゴラァァァァァァァッ!!」


電流を弾けさせた。
前髪から放たれたかなり太めの青白い電流が一方通行に迫る。
一方通行はそれをベクトル変換で上空へと飛ばした。


「何イキナリ切れてンだよ」


「アンタが、ふ、ふふふふふ服脱げとか言うからでしょうがぁ!?」


その叫び声に、あァと一方通行は納得してから言い直した。


「チゲェよ。オマエのそのきたねェセーターだけ脱げって言ってンだよ」


「へっ?あ、うん。別にそれなら……」


「……はっ!!いやいやお待ちくださいお姉様!きっとこんな変態にお姉様のセーターを渡したらとんでもない変態行為をされますわよ!?例えば匂いを嗅ぐとか!自分で着てみるとか!というかわたくしがしたいですわ!クンカクンカしたいですわ!お姉様の温もりを全身でベッタベタになるまで感じたいですわ!」


「変態なのは絶対にオマエだ」


最後の最後で己の欲望をブチまけた黒子は美琴の電流を直接喰らう。
「あbbbbbbbb」と謎の悲鳴を上げながら黒子は地面にぶっ倒れた。


「たっく……はい」


後輩にお仕置きをした美琴はセーターを脱いで一方通行に渡す。
ちなみにサマーセーターの下は半袖のブラウスである。


「えっと、これをどうするんですか….…?」


「……」


初春の言葉に一方通行は無言で返す。
そしてセーターの汚れの部分を目の前に持ってきた。


「うわー、これ落ちないかも……」


横からの初春の言葉は事実だ。
セーターの細かい編目にチョコレートソースとクリームが混ざった物がこびりつき、簡単には取れない。

だが、


「……楽勝だな」


そう言ってから一方通行はセーターを振るった。
パン!と洗濯物を伸ばす時と似たような音が鳴る。
すると、


「え、えぇ!?」


初春は驚きの声を上げる。
何故か今たった一回降っただけでセーターの汚れが全て飛んだのだ。
一方通行の手元にあるセーターには、汚れなどもはや一つたりとも無い。


「ほらよ」


「んっ、ありがと」


下から軽く放り投げられたサマーセーターをつかみ、美琴は素早くブラウスの上から着る。


「あ、あの」


「なンだ、花」


「優しいんですね」


「……ハァ?」


思いがけない言葉に、一方通行は変な声を上げた。優しい?自分が?
そんな彼を置いてきぼりにして、初春は続ける。


「最初はなんでこんな暑い日に長袖長ズボンなんだろう、頭が壊れちゃったのかなって思ったり、顔が怖くて少し引いてたんですけど、本当はすっごく優しい人なんですね!」


「よし、オマエも死にてェンだな?そうなンだろ?」


「いや、その子はちょっと色々正直過ぎるだけだから!」


パキパキと指の骨を鳴らして初春に怒りの波動を浴びせる彼に、美琴はストップの声をかける。
冗談だったのか、一方通行はスッと腕を下ろし、


「ただの気まぐれだ」


そう言った。
だが、


「随分と気まぐれが多いわね。どうせさっきの強盗も体が勝手に動いたんでしょ?」


美琴のいたずらっぽい言葉に、一方通行はフンと不機嫌そうに鼻を鳴らす。
そして、


「じゃァなァ。そこの変態も拾っとけよ」


クルッと背を向けて、彼は歩き出した。
コツコツと、ブーツの音が鳴る。
揺れ動く黒い背中を見ながら、




「なんていうか……不思議な人ですね」


「そうでしょ?」




地面に倒れる後輩(仲間)を放って置いて、二人の少女が意見を統一させていた。











オマケ


「待つじゃん一方通行!始末書書くの手伝うじゃん!」


「あァ!?」


「お前のせいで始末書の量が半端じゃないじゃん!超電磁砲頼むじゃん!」


「えっと、ごめんね?」


ガシィ!!


「なっ、引っ張るなオマエ!始末書なンか書くかメンドクセェェェェッ!!」


結局、始末書の手伝いと反省文を三十枚書かされた一方通行だった。







後書き
七月十六日終了です。
七月十七日はかなり改変されて行くので。



[20473] 2・七月十七日①
Name: ホットケーキ◆60293ed9 ID:10285d3b
Date: 2010/07/26 09:42







七月十七日。
セミがミンミンジージーと煩い中、朝。この物語の主人公である一方通行は、




「スゥー……」




見事なまでに、爆睡していた。
反射によりセミの鳴き声を完全に耳に入れず、そして窓から射し込む太陽の光もシャットアウト。
自動反射万々歳である。


「ンン……」


時がゆっくりと過ぎていった。













「……ふァー……」


ムクリ、と一方通行は自分のベットから起き上がる。
時刻は午後二時。
普通に寝過ぎだが、彼にはそんなこと関係無い。


「……メシ」


寝起きのボーとした頭で彼はフローリングの床に立った。
フラフラとした足取りで目指すは台所。
求めしは、冷蔵庫の中の冷凍食品である。


「……あー」


寝ぼけ眼を擦る一方通行の姿は、とてもでは無いが学園都市最強の能力者には見えなかった。
















「たっく、ウゼェ……」


「あが、がっ……」


「うぷっ……」


約一時間後の三時。
日が照り出す夏の日だというのに、一方通行が居る路地裏は薄暗かった。
二つビルの間のそこには、不良達が倒れている。
いずれもボロボロで、その筋肉質な体の所々に切り傷やら火傷やら出来ていた。


これらは全て、一方通行の手による物だ。


と言っても、一方通行はただ立っていただけだが。
ただ立つだけで、彼にぶち当たった風の刃は同じ道を辿って返り、炎の塊は破裂せずに空気を歪ませながら跳ね返った。


「ち、くしょう……!なんで……!?」


「単純な力で俺と戦おうとすンのが間違えなンだよボケ」


倒れたまま悔しそうに呻く不良の一人に、一方通行は心底バカにしながら言う。
一方通行の裏で有名なキャッチコピーは「核を撃たれても大丈夫」。
何故、単純な力が通じないと分からないのか。


「ンじゃァな」


倒れる不良達から視線を外し、一方通行は太陽の光が照らす表の世界へと歩き出す。
不良達は地面に這いずくばり、意識を何とか保ちながら、その最強の盾に守られた背中を見ることしか出来なかった。
















「……何か引っかかンな……」


ガヤガヤと賑わう昼間の第七学区。
アスファルトを黒のブーツで踏み、視線を宙に漂わせながら一方通行は考える。
思考の内容は勿論先程の襲撃。
だが、肝心の問題は襲撃では無く、その頻度と内容にあった。


「武装と能力のレベルが高すぎンだろォ」


友達と喋りながら歩く学生を横目に見つつ、彼は疑問を呟いた。
その呟きに答える者は勿論おらず、呟きは周囲の音に溶け込むように消える。


一方通行の疑問。
それは襲撃の頻度と内容。


今回、一方通行は前の世界とは違い無能力者(レベル0)に負けていない。
故に、襲撃の回数は大した物では無いはず、いや、全く無くてもおかしくない。
誰が好き好んで核兵器クラスの敵に挑みたがるのか。


次に内容。
まず武器が変わっている。
今までは殆どが釘バットやら金属パイプだったのいうのに、ここ最近は小型銃器が多い。お陰で殺さないようにするのも一苦労だ。

能力者の場合は能力が強い。
確かなことは分からないが(一方通行に挑む能力者は皆それなりに強いため)、全体的にレベルが1〜2は上がっている気がする。



まぁ無論。
一方通行にとって大した問題では無いのだが、




「どうも、キナくせェ……」




一方通行の勘が、何かを告げていた。


無意識に歩いていたからだろうか?
喧騒の中から離れ噴水がある公園に来ていた。
噴水といってもそんな凄い物では無い。
ただ中心から水が出ているだけの水場だ。




ドパァァァンッ!!




「……あァ?」


が、突然水飛沫が上がった。
プールでも無いのにだ。
何処かのガキでも飛び込んだのかと思い、一方通行はチラッと見る。


噴水に居たのは、











「目標無事ゲットよ!!……って、あれ?」




「…………」




水の中に体の半分を浸からせていたのは、茶色の髪に茶色の瞳の少女。
服装は名門常盤台中学の制服。
右袖に風紀委員の腕章が付いているが、それを一方通行は確認出来る程思考の余裕が無かった。

水に浸かっている問題の少女は何とか掴めたバックを左手で掲げ、一方通行を見て固まる。






暫しの沈黙。




「……」


てへっ?と美琴はガチガチになった顔の筋肉で笑う。
言葉は出ない。というより、なんと言うべきか言葉が見つからない。

その笑顔を見て一方通行は無表情で頷く。
そしてポケットから何かを取り出し、




「あっ、すみませン、救急車お願いできますかァ?ええ、なンかこの暑さで頭狂ったみたいで……」


「いや待って待ってぇぇぇぇぇぇぇ!?」


携帯電話で救急車を呼ぼうとした彼に、少女、美琴は全力でストップをかけた。









「つまりィ?風紀委員と勘違いされてェ?このクソ暑い炎天下の中ァ?バックを探してェ?バックが爆弾と思っててェ?死ぬ気で追いかけた結果ァ?水に飛び込むハメになったとォ?……もうちょいマシな言い訳考えろよ」


「だから!事実なんだってば!お願いだから信じてよ!」


「そうですわよ、この変態!」


「体が濡れまくった超電磁砲を見てヌレヌレのグチョグチョとか言った奴に言われたかァねェ」


ハァ、とため息を吐き、一方通行はベンチの背もたれに寄りかかる。

状況は今一方通行が言った通り。
タオルを頭に乗せた美琴に黒子、初春。名前を知らない風紀委員の先輩。
そしてバックを持った少女にその他大勢の子供達。


「あー……」


「ハッ、くだンねェ」


ダラー、と首も曲げて上からの日を遮る木を見る。
一応、彼女の言うことを信じた彼だが今度はその茶番さに呆れた。


「炎天下の中、爆弾だと思って探してた物がバックだったなんて……」


頭をガシガシとタオルでかきながら、美琴はため息を吐く。
どうやらドッと疲れが襲って来たようだ。
そんな怠くなっている美琴に、風紀委員の女性が声をかける。


「まぁ、何の変哲もないただのバックかもしれないけど……」


だが、それを遮る涙声が一つ。


「ご、ごめんなさい……」


「あっ」


バックを首からかけ、大事に持つ少女だった。
涙目での彼女の言葉に、美琴はギョッとなり、冷や汗が垂れる。


「わたしがバック……なくしちゃった、から……」


「だったら」


が、次もまた思わぬ所から声が遮られる。
少女を含む全員が其方を見た。
声を出したのは、何と一方通行だ。子供達は見た目が怖くて近寄っていない。
彼は少し間を開けてから言った。


「…他の言葉があンじゃねェのか?」


「……」


その言葉を聞いて、チラッと少女は後ろに立つ初春を見た。
初春はニコッと微笑む。

少女はそれを見て、口を開く。






「あ、ありがとう。おねえちゃん」


「……」


「カッコよかったぜねーちゃん」


「やるじゃん!」


少女の言葉を聞いて目を丸くする美琴に次々と声がかかった。
そして風紀委員の女性がウィンクをしながら、


「ね?」


「〜〜〜〜っ……ま、いいけどね……」


照れからか、顔を真っ赤にして頭をかく。
そんな彼女と光景を見ていた一方通行は、


「……ハッ」


小さく、笑った。
そして思う。




偶には、こんな茶番だっていい物だと。





























だが、この『クソッタレ』な世界は、何時だって残酷だ。


「……?っ!!!」


「っ!?」


「?どうしまし」


その初春の疑問の声に、一方通行は答えない。
ベンチを一気に蹴り飛ばして前方へと飛ぶ。
子供達の集団を細心の注意を払って飛び越え、着地する。




瞬間、



ドオオオオンッ!!と爆炎が一方通行を包んだ。


「きゃあっ!?」


「っ!?」


「なんですの!?」


爆炎による熱風"だけ"を感じながら、子供達は悲鳴を上げ、残りの四人は警戒する。

爆炎による煙が晴れる前に、黒煙のカーテンの切れ目から敵が見えた。

いずれも私服のため、どの学校かは分からない。
だが学生であることは確かだろう。
三十人近く居て先頭の男の右手からは白い煙が立ち上っていた。


「スキルアウト?いや、それにしては……」


美琴が推論を述べようとするが、それは、




轟ッ!!と吹いた風の轟音でかき消された。
黒煙が全て吹き飛び、学生達と美琴達に余波が押し寄せる。


そして、その中心点には、一人の白髪に赤目の少年。
彼は誰が見ても分かるくらい怒りに表情を染めていた。


「なァ、ふざけンじゃねェぞ?俺やオマエらみてェなクズの戦いに」


一方通行の背中に守られるように、一人の少年がかかんでいた。

一番後方にいた少年だった。

全く、無関係の筈の少年だった。

何処にでも居る筈の、少年だった。









「こンな、ガキどもを巻き込んでいい訳ねェだろォがァァァァァァァァァァァァッ!!!」








ビリビリと、空気が震える程の絶叫。
それにより、男達の半数が恐怖を抱くが、彼には関係無い。




一方通行は目の前の三流以下の『悪党』達をブチ殺すため、地面を蹴った。















その姿は、鬼神。




その姿は、死神。









その姿は、少年。







「!!」


「なっ、がぁっ!?」


「うがっ!?」


「ぎゃっ!?」


彼が腕を振るうと暴風が巻き起こる。
逆巻く破壊の嵐たるそれは、男達を十人程纏めて宙に浮かばす。
十メートル程上空に飛ばされた男達は、慌てて己の能力でどうにかしようとするが、すぐさま上から叩きつけられた風の塊によって大地に叩きつけられた。

轟音が、上がる。

数人は風の鎚を受けても気絶せず、よろよろと体に力を入れて起き上がろうとするが、シュンッ、と空気を切り裂いて飛んで来た土の塊を喰らい、気絶した。


「あがっ……」


「……」


ドサッ、と十人の内の最後の一人が倒れたのを見て、一方通行は赤い双眸を横に動かす。
ギロリと、視線を浴び、二十人の男全員が反射的に一斉攻撃をした。

様々な攻撃。
緑に光る光線もあれば念動力に浮かばされた公園の器具、銃の弾丸まである。
其々の攻撃は独特の効果音によるメロディーを奏で、一方通行へと直撃した。


「……ハッ、オイオイオマエらふざけてンのか?」


だが無駄。
一方通行が右腕を振るうだけで色とりどりの攻撃の束は全て右上空へと吹き飛ぶ。
学園都市最強の第一位のキャッチコピーは、




『核を撃たれても大丈夫』




たかだが炎やら弾丸にやられる程、彼の反射は甘く無い。


「知らねェなら……」


ジャリ、とブーツで地面の砂を踏みしめ、彼は男達へと足を踏み出す。
一歩分近寄って来た最強の能力者を見て、思わず何人かが後ろへと後ずさりする。






「その身に直接刻み込ンでやンよ、学園都市最強の力ってヤツをなァ!!あは、ぎゃは!!」






先程までは普通の公園だったこの場に、再び爆音が響いた。


















「あの子、何者?」


「第一位ですわ」


「第一位!?彼が?」


「えぇ」


風紀委員(黒子など)が子供達を避難させながら会話をするのを視界の隅に捉えつつ、美琴は目の前の圧倒的で一方的な戦闘を見た。
三十メートルは離れているというのに、彼が攻撃する度に衝撃の余波が飛んでくる。


「うわぁぁぁぁぁっ!?なんでなんで!?」


「はっはァ!オラオラどーした豚共ォ!?もうちっとは楽しませやがれよォ!!」


「がぁぁぁぁぁぁっ!?」


一方通行が地面を踏む度、腕を振るう度に男達の能力がかき消され、攻撃をぶつけられて宙を舞う。


(……すごい)


美琴は素直に関心した。
確かにあの力は凄まじい。だがそれ以上に、一方通行の手加減の上手さに関心した。
一方通行は叫びながら一方的な虐殺紛いのことをしているが、決して致命傷を与えていない。
骨を折ったりはしているかも知れないが、死ぬ程の傷は一つとして誰も負っていない。

それだけでは無い。

あれだけの能力者と武装をした男達が居るのに、流れ弾が一つとして無いのだ。
確かに衝撃波は来るが、それは大した物では無い。
炎の塊、弾丸の一つ一つまで、一方通行は全てを操作している。


(…………)


一方通行の戦いながらの周りへの気遣いに、美琴はただただ、関心していた。
















「しゅーりょォー」


「ガッ!?」


最後の男の頭を踏みつけながら、一方通行は言った。
周りには先程まで一方通行を倒そうと息巻いていた男達が服を汚しながら倒れており、殆どが気絶していた。
度重なる能力使用のせいで、すっかりデコボコになってしまった大地に倒れる男達の姿は、戦場を想像させる。


「さァてェ、オマエに聞きたいことがある。答えなかったらどうなるかァ……分かるよなァ?」


「う、ぐぐぐ……!」


男も最後の意地なのか、踏みつけられた状態から起き上がろうとする。
ギリギリと歯を食いしばり、腕を地面に食い込ませて踏ん張る。


だが、いくら力を込めようと、起き上がることは出来ない。
どれだけの力があったとしても、向き(ベクトル)を変えられてしまっては、意味が無い。


「オマエらのボスは誰だ?」


「それを、聞いて、どうする、つもりだ……っ!?」


その男の問いかけを聞いて、一方通行は口を歪ませて笑い、






「決まってンだろォ?こんな大層な挨拶をしてくれたンだ。こっちもちゃンとお返してやンなきゃなァ?」





そう、とても愉快そうに、怒りを含ませながら理由を言った。




ボスの名前と場所を男から聞き終わった一方通行は、軽く足を振るい、男の頭を蹴り飛ばす。
衝撃を頭に的確に喰らった男は呻いた後、ぱたり、と気絶した。


「お返しは三倍返しだぜ、クソッタレが」


駆けつけて来た警備員と風紀委員の増援が男達を捕縛してゆくのを見ながら、彼はそう忌々しそうにそう言った。














後書き
短いですが、キリがいいので。
次回からは本来登場し無い筈のあの人とかアイツとか出ます!





[20473] 3・七月十七日②
Name: ホットケーキ◆60293ed9 ID:10285d3b
Date: 2010/07/27 20:41







夜。
午後七時。
まだ少しだけ明るい夏の夜。

外灯に照らされた少し蒸し暑い道を、一方通行は歩いていた。
歩く度にコツコツとブーツとアスファルトが音を立てる。


「……で?」


規則正しく響いていた足音が止み、立ち止まった一方通行はくるっ、と後ろを向く。


「なンのつもりだオイ」




そこには茶色の髪を持つ、お転婆雷撃姫が居た。




「アンタこそ、スキルアウトのとこに行くつもりなんでしょーが」


「……さァなァ」


「アンタって意外と分かりやすいのよね」


イタズラっぽく微笑みながら彼女は一方通行の横に立つ。
ハァ、と一方通行はため息を吐いてから歩き出す。
止めても無駄だということは身を持って知っている。
それに、レベル5なのだ。そう簡単にやられることも無いだろう。いざとなったら、自分が守ればいい。


「前、子供を人質に取った強盗を半殺しにしてたもんね、アンタ」


「……」


無言で無視し、一方通行は歩く。
余り思い出したくも無いことだからだ。
あの時はカッとなった、などというレベルでは無い。

黒いマスクをした男が少女にナイフを当てているのを見た瞬間、気がついたら男を鷲掴みにしていた。
辺りは巨大な破壊痕があり、男は全治二ヶ月の怪我を負ったらしい。

あんなことは始めてだったと、一方通行は思う。


「なんか子供に思いれでもあるの?それともロリコン?」


「なンにもねェし、ロリコンでもねェよ」


嘘だ。
言葉を吐きながら一方通行は心の中で否定する。
原因は分かっている。



"あの少女"と重なるからだ。



「……」


「ちょ、どうしたのよ、黙り込んで」


「別に」


慌てた美琴に一方通行は返し、ゆっくりと歩き続ける。





あの少女のオリジナルたる少女は、慌ててその後を追った。














第七学区の端の方。
地図で見るなら右端の部分。

そこの路地裏を、一方通行と美琴は歩いていた。
路地裏にしてはかなり広く、横幅が七メートル程もある。

辺りは闇に包まれ、オレンジ色の外灯のみが視界に際立って存在していた。


「……誰も、いない?」


周囲を警戒しながら、美琴は首を傾げる。
その手はスカートのポケットに突っ込まれており、いつでもコインを取り出すことが出来、いつでもレールガンを放つことが可能。


「……ねぇ、本当にここなの?」


「……」


一方通行は改めて周りを見渡す。
そして、フンと不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「歓迎されてンなァ」


「はっ?」


「よく見てみろ」


「……?」


一方通行に言われ、美琴はもう一度辺りを見る。

路地裏のコンクリートの地面、ビルの壁面+灰色のブロック塀、オレンジ色の外灯……


「?」


「まだ気がつかねェのか」


分からないといった美琴の反応に、彼は呆れてから、










「路地裏にしちゃ、余りにも綺麗すぎンだろォが」






瞬間、ガガガガッ!!と連続した炸裂音が響いた。
一方通行はこの効果音をよく知っている。


銃声。


「はっ!」


「へェ……」


二人に向かって放たれた金属の弾丸は何故か壁に直撃。
コンクリートの壁にヒビを入れた。
壁の様々な所に出来た穴の数からして十発程。

それらを全て逸らしたのは、美琴。
弾丸は金属でできていた。
ならば、磁力によってそれを逸らすことは出来る。


「どんなもんよ」


「まァいいンじゃねェの?」


無い胸張る(前本人に言ったらラリアット喰らった)少女にやれやれと賞賛を送る。
が、何かに気がついたのか、彼はすぐさま美琴を引っ張り寄せた。


「キャッ!?」


「油断すンな。銃だけとは限ンねェンだ」


先程まで美琴が居たコンクリの地面に何かが当たる。
跳ね返ってクルクルと宙を舞うそれは何やら尖った木。


「木製の弓矢!?」


「おーおー、対策までバッチリかよ。こりゃまたご丁重だな」


体から漏れでている電磁波の反射波で、美琴は弓矢だと当てた。
一方通行は刃にまで木を使っているそれに呆れ、


「……オイ、オマエ走れ」


「はっ!?ちょっとっていい!?」


一方通行は思いっきり上空へと飛び上がった。
彼を目で追う様に暗い空を見上げて、美琴は愕然とする。



灰色の物体が、大量にビルの屋上から降り注いで来た。



「投石攻撃ぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?理由は分かるけど!!」


叫びながら彼女は前方へとダッシュ。
当たりそうになる石は躱すか、もしくは電撃で破壊する。
近くに盾になりそうな金属系の物体は無いし、砂鉄では集めるのに時間がかかる。

だから、彼女は走る。
レベル5といえど人間。大人の拳よりも大きい石の雨なんかモロに喰らいまくったら死ぬ。


「しかもアイツなんでどっか行ってんのよ!別に立ってても問題無いでしょうが!」


美琴はこの場から何故か離脱した男に叫ぶ。
その叫び声はただ虚しく路地裏に響き、石が地面と接触する豪雨のような轟音にかき消された。













「うがっ!?」


「だっ!?」


ビル内にてドサドサ、と人が倒れる。
彼等は武装無能力集団(スキルアウト)。
しかもそこら辺にいる不良やチンピラでは無い。
能力者を怨み、能力者を倒すためにプロのアスリート顔負けの体作りをして、銃などの武器で装備を固めた者達。

そんな彼等がビルの中に居たのは、能力者を迎え撃つため。
いくら能力者といえど人間。弾丸や弓矢を上空から雨を降らせるように襲わせれば、倒すことは可能だからだ。




だが、それは常識内での話。




常識外の怪物にそんな物は通用、しない。




「これで終わりかァ」


倒れるスキルアウトを見渡し、フゥ、と彼は疲れたとばかりに息を吐く。
実際、肉体的にはともかく精神的に疲れた。
相手の武器の殆どが銃器だったため、そのまま反射してしまえば殺してしまう可能性があった。
なので一つ一つ操作して弾いたのだ。

そんな精密作業を二桁を越す回数行えば、流石に疲れる。


(まっ、これで狙撃の心配はねェ。サッサと超電磁砲を追いかけるか)


電磁波のベクトルも勿論分かるので、一方通行にとって美琴の現在位置を知るのは朝飯前だ。

廃墟ビルの錆付いた窓枠に手をかけ、








ドゴンッ!!


「っ!?」


突然上がった音に、一方通行はバッ!と振りかえる。
ビルの部屋は広大で、一方通行は扉から二十メートルは離れた場所にいた。

頑丈な金属性の扉が、真ん中から折れ曲がって吹き飛んでいる。
気絶していたスキルアウトの一人の上にのしかかるように落ちているが、一方通行は無視。
扉があった筈の場所を見る。


「弱い者イジメか……根性が足りねぇな!!」


そこに居たのは白い特攻服を纏い、赤い太陽を象徴したTシャツを着た男。
頭にハチマキなんぞ巻いた昭和風番長男を見て、


「……ハァ?」


一方通行は久し振りに間抜けな声を出した。





これが、学園都市最強の第一位一方通行と、世界最高最強の『原石』である削板(そぎいた)軍覇(ぐんは)の出会いだった。












一方、


「ぜぇ、ぜぇ……あー、疲れた」


美琴は息を整えていた。
周りにはプスプスと煙を上げる者達が何人か。
路地裏にやはり待ち伏せされていたようで、ワラワラと出て来る出て来る。
それらを全て気絶する程度の電撃で撃退したのだ。


「投石止んでるし……アイツか」


全く、そういうことならそう言いなさいよ、と美琴は半分怒り、半分苦笑という変な感情を出す。
うーんと背伸びし、


「でも、どうしてこんな対策が……」


疑問を唱えた所で、




「超電磁砲、か……」


「……」




のっそりと、路地裏の死角から男が一人出て来た。
背が二メートル以上はあり、腕は血管はち切れんばかりに筋肉が張っている。
ゆっくりと、巨大な音を立てながら歩いて来る男は正にモンスター。学園都市の闇が生み出した怪物とでも言うべき風貌だった。


「……アンタがこいつ等のリーダー?」


「そういう事だ……」


男はまるでコピー用紙を吐き出すかのように、暗く話す。
チラッと美琴は周りに倒れるスキルアウト達を見てから、再度視線を目の前の大男に戻した。


「じゃ、アンタが駒場(こまば)利徳(りとく)って訳ね」


「お前のようなレベル5に名前を知って貰えているとは……光栄だな……」


彼、駒場は拳を握り、


「……ここに来た以上、死は覚悟しているんだろう?」


戦闘開始の合図とばかりに、地面にブーツの靴底を剃らして音を立てた。




(……正気なの、こいつ?)


目の前で拳を振りかぶる駒場を見て、美琴は心中で呆れた。
それと同時に疑問も持つ。

今まで、美琴への対策は完璧と言えた。
磁力で操作出来ない飛び道具による攻撃。
美琴の攻撃範囲外からの攻撃の嵐は確かに効果的だった。


だが何故今更、接近戦など挑むのか。


自分の電撃は、銃などとは比べ物にならないくらい早いと言うのに。


(いや、気にすることは無いわね。取り敢えず電撃を浴びせて……)


能力を行使しようとした











瞬間、美琴に"何か"が干渉した。


(なっ!?なにこれ……!?)


始めて味わう感覚に、美琴は思考が混乱した。
一体何なのか、これは。
そう、例えるならまるで雑音に囲まれたのような、暴走を誘発するかのようなーーー


(ーーーっ!)


だがその思考は止められる。
気がつくと、目の前に拳が迫っていた。
彼女は思いっきり右横に飛び、体を投げ出すようにして躱す。


「ぐっ!」


「反応がいいな……それも能力か……」


壁に体を思いっきりぶつけ、息が詰まる。
体の力が抜けて壁によりかかるように地面に腰を付く美琴に、駒場は容赦なく追撃した。


「くっ!」


ブオッ!とまるで車が通り過ぎたかのような豪風の余波を感じ、美琴はかがんだ状態のまま横に飛んだ。
鉄を仕込んだ巨大なブーツが彼女の居た場所を通過し、壁にぶち当たる。
コンクリートの壁は、凄まじい破砕音を立てながら破壊された。


(こいつ、なんか駆動鎧(パワードスーツ)の類いでも着てんの!?でも、これは……!?)


駒場の人間を超えた機動能力に美琴は目を見開くが、その前に自分に今干渉している何かの方が気になった。

転がりつつ地面に手をついて起き上がり、電撃を放とうとする。


(ーーーっ!)


だが、何故か能力が上手く使えない。
何時もなら銃の引き金を引かれるよりも早く、電撃を放つことが出来るのに、狙いを定めるのも難しい。
気を抜くと、すぐにでも暴発してしまいそうだ。


「能力が使えないことが、不思議か……?」


「っ!?」


ジャキッ!とマガジンが銃身に二本突き刺さった奇形の銃を向けられ、美琴は息を飲む。
反射的に今ためていた電流を飛ばした。
駒場との距離は約十メートル。

ガァンッ!と銃から放たれた弾丸と電流がぶつかった。


すると、青い電気に包まれた弾丸が何故か炸裂する。


「きゃっ!?」


近くで爆発の余波を受け、美琴は思わず視界を腕で覆う。
別に目が見えなくても、彼女は電磁波によるレーダーがある。
そのレーダーでさえ、今は乱れているが。


「……AIMジャマーと言う物だ」


「AIMジャマー……?」


「対能力者用の演算機器だ。AIM拡散力場を乱反射することにより、能力の暴走を誘発させる……」


腕を除けると、そこには銃の照準を此方へと合わせながら淡々と喋る駒場。
彼は右手の銃を彼女に向け、説明を続ける。


「本来、少年院などで使われ莫大な電力を消費するのだが……お前のような化け物と戦うのだ。そんなことは言っていられない……」


実は駒場は言ってはいないが、更にこれには弱点がある。
普通、AIMジャマーは幾つも置くことににより広範囲と出力をカバーするのだが、今回は一つ。
つまり半径約五十メートルのエリアが限界で、しかも中心から離れれば離れる程効力は小さくなる。

もう一つ。
彼等が使っているのは古い旧式タイプ。よって長い時間稼動するとオーバーヒートしてしまう。
更に設置場所から動かせないという弱点も。


だが、それらを知らない美琴にとっては、まるで地図も持たずに外国に放り込まれたような気分だ。


「くっ……」


「そう不服そうな顔をするな……」


思わず呻いた美琴を見て、駒場は小さく苦笑し、





「此方は無能力者(レベル0)なんだ。この位の準備(ハンデ)があっても良いだろう……?」


















美琴が危機的状況に陥っている頃。
二百メートル以上離れた廃墟ビルの部屋にて、


「お前、弱い者イジメなんかして楽しいのか!?そんなことをしているからマスコミに好き勝手言われるんだぞ!?悔しくないのか!?」


「…………」


白い髪の少年、一方通行は目の前の不思議な男にどう反応すればいいか迷っていた。


(コイツはなンだァ?仲間、って訳は無さそうだ。何か倒れた奴踏みながらコッチに来たし。ってこたァ一般人か?いや、一般人は一般人でも……)


「オイ!聞いてんのかオイ!」


(バカだ。今まで見て来た奴の中で一番のバカだコイツ……)


頭痛がして来たため額を一方通行は抑える。
今まで色んなことがあったが、もしかすると今一番一方通行がキツイ状況かもしれない。
バカの扱いが分からない的な意味で。


取り合えず、


「お前細っこいなぁ、ちゃんとメシ喰ってんのビブルチッ!?」


思いっきり蹴り飛ばした。
一方通行に蹴られた彼はコンクリートの床から足を浮かせて吹き飛び、ドゴッ!と向かい側の壁に激突。


「……余計な時間喰っちまった」


フゥ、と息を吐いて一方通行は背を向け、再度窓枠に手をかける。




「ふんがー!!」


「……」


が、大きな叫び声に、シラーとした目で其方を見る。
そこでは何故か、特撮で見るような赤黄青色のカラフルな爆煙とともに立ち上がる男が居た。
ちなみに室内のため煙が凄いことになっている。


「イキナリ不意打ちとは……本当に根性がなってねぇみたいだな!!」


「今、普通に気絶するだけの威力はあったンだけどォ……?」


なんなのコイツ。マジでなんなのコイツ。
一方通行の思考はそんな感じで埋め尽くされる。


「ふっ……この学園都市第七位、ナンバーセブンこと削板軍覇はその程度では倒れん!」


その疑問に答えるように、男は腕を組んでドバーン!と擬音が付きそうなくらい堂々と名乗った。
名前と順位を聞いた一方通行は目を細める。


「……オマエが、第七位だァ……?」


「うむ、その通り……ってまてまて!なんだその嘘つきを見る目は!窓枠に足をかけるな勝手に行こうとするな!」


チッ、と一方通行は舌打ち。
窓枠から足を下ろし、削板を見る。
削板はホッ、と息を付き、言葉(説教?)を続ける。


「お前なぁ……人が名乗ったら自分も名乗るって礼儀を母ちゃんから習わなかったのか!?そんなんじゃ今の厳しい世の中生きていけねぇぞ!」


「……一方通行」


なんかもう脳内ツッコミを入れるのも、言い返すのも面倒になった彼は名前を名乗る。




名前を聞いた瞬間、削板の表情が変わった。




真剣なビリビリとした闘気を感じさせる表情。


「……お前が第一位か。なるほど、こりゃちとマジメにやらなきゃマズイか」


「へェ……面白ェ」


そんな削板を見て、一方通行はニィと笑って体を彼に向ける。
誤解を解くつもりはこの時完璧に消えた。
どの道、スキルアウト達を殲滅するのに削板は邪魔だ。ならばここで気絶して貰っておく。


「……すごいパーンチ!」


お互いの距離は離れているというのに、削板は何故かその場で正拳突きをした。
一方通行がその意味がわからない行為に首を傾げる前に、




突如、『説明出来ない何か』が一方通行を襲った。




「ガァッ!?」


一方通行は吹き飛ぶ。
まるで見えない壁にでもぶち当たったかの様に宙を舞い、壁を破壊して吹き飛び続ける。
ボンッ!と壁を貫通した一方通行は向かいのビルの壁に直撃。
更にそれをも破壊し、部屋へと飛び込む。


「がっ、はっ……」


コンクリートしか無い床を転がり、なんとか彼は起き上がる。
周りには先程一方通行が気絶させたスキルアウト達が倒れていた。


(なンだ今のは……!?反射がきかねェだと……!?)


一方通行の反射はただ力の向きを変換する計算式で成り立っている訳では無い。

物理法則の一つ一つを知っていて、初めて成り立つのだ。
光の法則、圧力の法則、物体移動の法則、それらが無いと攻撃を反射することなどは出来ない。







つまり、既存の物理法則で無い攻撃は、防げない。


(ありゃなンだ!?念動力!?いや違う!もっと別の何か……)


「むっ、意外と脆いのか?」


「チッ……」


思考を中断され、苛立った舌打ちをする。
壁に開いた穴から入って来た削板を見て考える。


(さっきのは喰らったらアウトだ。どういう能力なのかは知らねェが)


ーーーぶっ飛ばしてしまえばいい。


「っ!?」


削板は驚く。
一歩を踏み出す、または下がろうとした彼の胸元を誰かが掴んだ。

一方通行が、ベクトルを操作して超高速で飛び出し、削板のふところに潜り込んだのだ。
無論、速さだけでは無く光のベクトルを操作することで視認も難しくしていた。


「吹っ飛び……やがれェェェェェェェェ!!」


「ぐおっ!?」


そのまま一方通行は彼を押し出す。
重力のベクトルを操作。一気に叩き付けた。
叩き付けられた削板は空を裂き、吹き飛ぶ。
若干斜め下に吹き飛んだ彼はビルの三階部分に直撃した。
コンクリートが砕ける、凄まじい音が鳴る。


「……多分死ンでねェだろ」


パラパラと、下方でコンクリートの破片が立てる音を聞きながら一方通行は呟く。
頑丈ぽかったし、大丈夫だろう。


「……あァ?」


そして、美琴を探そうとした一方通行の目に、何かが映った。
が、深く考える前に、


「うぉぉおおおおおおっ!!」


「ウゼェ!コイツマジでウゼェ!」


ビルの壁面をどんな原理でか走って来る削板を見て、一方通行はそう叫んだ。
















「はぁ、はぁ……」


灰色の壁に両脇を挟まれた裏路地の場所にて、二人は居た。


(ま、ずっ……)


「中々やるな……だが……」


片膝を付きながら、ジリジリと距離を詰めてくる駒場を美琴は忌々しそうに見る。
彼女が相当疲れているのに対し、駒場は大して疲れた素振りも見せない。

状況は美琴の劣勢だった。
能力の殆どが使えない美琴は、今や普通の中学二年生。
戦闘経験豊富な歴戦の戦士相手に、よく持っているほうだった。


(能力を使うのに……これだけ疲れるなんて……!)


「この状況でそれだけ能力が使えるとは……やはりレベル5は伊達では無いということか」


だが、と駒場は自分の銃、演算銃器(スマートウェポン)を彼女へと向ける。


「そろそろ終わりにしよう」


「っ!」


その一言と同時に、人の気配が大量に感じられた。
美琴はチラッと後ろを見る。
そこにはスキルアウトと思われる男が十人程。
駒場の後ろにも、辺りの壁の上にも。


「……酷いもんね」


数の暴力に、思わず美琴はそう呟いた。


「最後に一つ聞きたい」


「……」


美琴は無言で待つ。
駒場はゆっくりと、言った。








「何故俺達(スキルアウト)を襲いに来た?何もお前達にはしてい無い筈なんだがな……」


「……はっ?」


ビキッ!と美琴のこめかみがひくつく。
今、この大男はなんと言った?


「何も、ですって……?」


バチバチ、と何故か美琴の髪から青い電気が散る。
そして、その効果音はどんどん増大して行く。


「公園で、小さな子供まで巻き込んで、何もしていない?」


「……!?」


何やらマズイ雰囲気を感じ取り、駒場は銃の引き金を引く。
弾丸は真っ直ぐに美琴に迫りーーー


バチィ!と半分も進まない内に電撃で掻き消された。


「な、に?」


「ざけんな……」


「くっ……」


「撃てぇ!」


周りにいた男達が、各々の武器を使う前に、












「ふざけてんじゃ……ないわよォォオオオオオオオオオオオッ!!」





文字には表せない程の轟音が鳴り、落雷が、起こった。

美琴の、レベル5の全力の落雷はかなり離れた所に着弾。
誰にも当たらなかった。
だが、その衝撃波と電流により辺り一体が停電となる。





それは、AIMジャマーの停止を意味する。


「……」


余りの出来事に、周りのスキルアウトは皆放心。
中には轟音と衝撃波で気絶した者もいた。

美琴だけが、しっかりと意識を保つ。
彼女は息を荒げながらも、口を開いた。


「はぁ、はぁ……ふざけんな、アンタ等の性で子供達がどれだけ危ない目にあったか……」




その瞬間、




ドゴォオオオオオオオオオンッ!!!


爆音が響き、美琴と駒場の間に当たる右横の壁が吹き飛んだ。
美琴を含むその場にいた人間は、目に破片が入らないように腕で庇う。
灰色の煙がもくもくと上がり、それを引き裂く様に一人、出て来た。








「こーンばンわァ」




出て来たのは、一人の最強。
まるで死神のように、彼は挨拶する。
それを聞いた瞬間、スキルアウト達の背中にゾクッ!と悪寒が走った。本能的に、危機を感じ取ったのだ。
破片が、パラパラと音を立てる。


「遅いわよ!」


「ワリィワリィ。ちょっとバカに……いやバグキャラに絡まれてなァ」


ニヤニヤと、笑いながら美琴の文句を受け止める。
何時ものその態度に、美琴は呆れてため息を吐いた。


二人は余裕の表情だが、逆にスキルアウトは顔を青ざめさせている。
AIMジャマーという対能力者用の最大の武器が無くなり、レベル5が二人となった今、彼等に勝ち目は一片たりとも無い。


「よォ、オマエが駒場って奴かァ?」


「……あぁ」


駒場の少し間を開けての返答に、一方通行は満足そうに頷く。


「そうかそうかァ。なら聞くがよォ」


一旦、切ってから、


「オマエ等、情報をどっから手に入れた?俺達が来るってのが分かってたンだろォ?」


「……」


対する駒場は、無言。
暫し、沈黙が場を支配する。
美琴も、スキルアウト達も、黙っていた。
やがて、駒場はゆっくりと口を開く。


「……二ヶ月前の事だ、レベル5を倒せば賞金が与えられるという噂が、密かに回り始めたのは……」


「はっ、はぁぁっ!?何それ!?そんな噂、聞いた事無いわよ!」


「当たり前だ。伝言ゲームのように、不良達の間でしか回っていない……」


美琴の驚愕の叫びにも、駒場はただ淡々と告げる。


「三日前だ……その噂の主謀者と名乗る者が現れたのは」


「……で?ソイツが俺達が来るって言ったと」


「その通りだ。警戒して置いて、損は無いからな……」


「三日、前?」


ポツリと、美琴は食い違っている部分を呟く。
一方通行達が襲われたのは今日なのに、何故か三日前にはここに来ると言われていた?


「……はっ、やっぱりか」


一方通行は忌々しそうにガシガシと頭をかく。




















「嵌められたな」


そう、呟いた瞬間、


ガチャガチャ!と金属同士が触れ合う音が、その場に居た全員の耳に入る。
音源は、黒い鋼の機動鎧。
それが何体、いや何人も居た。一体どこにこれだけの数が居たのか。

スキルアウトの包囲網を更に覆うように、黒い金属兵による包囲網がしかれた。
周りを見ると、ビルの隙間からさえ黒い駆動鎧が見える。


「な、なんだこいつ等!?」


「アンチスキルじゃねぇ!?」


「に、逃げろぉ!」


「ダメだ!囲まれてやがる!」


スキルアウトの怒声と悲鳴が上がるが、駆動鎧はただ立ち続ける。


「……これは」


「どう見ても正規の部隊じゃねェだろ。上から見た装甲車もデザインが違ったしなァ」


あーあ、と一方通行は言った。
スキルアウトは逃げ惑い、見た事も無い黒い駆動鎧を着た者達は、銃を構え、囲み続ける。


「なんなの、あいつ等!?」


「俺が知るかボケ。……まっ、予想は付くが」


尋ねて来た美琴を一方通行は軽くあしらう。
美琴はその態度に怒りの炎を灯しかけるが、今はそんな状況じゃないと思い直した。



悲鳴が響く中、駆動鎧の部隊は銃の引き金に手をかける。
その顔はヘルメットに覆われており、何を考えているのかさっぱり分からない。


そして、逃げ惑うスキルアウト達へと銃を向け、











「……ゴミクズ共が俺の勘に触ってんじゃねェよ」


吹き飛んだ。
まるで強風に煽られた木の葉のように。
宙を舞う駆動鎧達は空中で態勢を立て直そうとするが、


「死なねェよォ、頑張れ」


横から飛んで来た風と瓦礫のハンマーを喰らい、ゴミのように飛んだ。
メキメキと破砕音がいくつも鳴り、地面へと落ちて起き上がらなくなる。


「手ェこンだマネしてくれンじゃねェか。能力者達を集めて俺等に襲わせたのもオマエ等だろ?」


「……」


駆動鎧達は、無言。
包囲網の一角が崩れたというのに、半分以上がスキルアウトに銃口を向けたままだ。
それに一方通行は舌打ちし、腕を再度振ろうとして、






「すごいパーンチ!!」


地面を蹴って上に飛んだ。
先程一方通行が居た場所を含む箇所に、何かが吹きすさぶ。
その何かに、駆動鎧達は次々と吹き飛んで行った。
……何人かスキルアウトも巻き込んでいるが。


「根性あんじゃねぇか!見直したぜ、第一位」


「オマエって本当にバカなンだなオイ」


トンッ、とひび割れた地面に着地し、目の前のバカな男たる削板に一方通行はまたもや呆れる。
つい先程、何回も起き上がって来るから面倒臭くなって一キロ程ノーバウンドでかっ飛ばした筈なのだが、何故復活しているのか。


(深く考えねェほうがイイな……)


一方通行は無理矢理思考を終わらせる。
削板は神妙な顔で、


「手を貸すぞ、第一位。暗部の奴らはムカつくしな」


「やっぱコイツ等暗部か。暗部がスキルアウト、もしくはレベル5を殺そうとするたァ、どんな理由なンだか……」


何故削板が暗部について知っているのか、一方通行は聞かない。
誰にだって、知られたくない過去の一つや二つぐらいある。 


「……」


「……」


二人は視線を上に上げる。
廃墟ビルの屋上にもどうやら駆動鎧は居るらしい。長いライフルの銃口が見えた。


二人は一瞬だけ視線を合わせ、動く。


削板は足を揃えて上へとジャンプ。
膝を曲げ、少し体を丸くした。

一方通行は右足を浮かして回転。
一気に脚のスピードを能力で加速。


ジャンプした削板の両足が、一方通行の右足の上に乗った。





そして、解き放たれる。





キュボッ!!と、空気の壁を貫く程の凄まじい速度で削板は飛んだ。
削板の身体能力、一方通行のベクトル操作が合わさった結果、とんでもない速度が生まれたのだ。

下手なミサイルよりも早い削板は、


「らぁぁぁぁぁっ!!」


屋上斜め下部分に直撃。
壁をぶち壊し、屋上にアッパーカットをしながら機動鎧達を吹き飛ばす。
その際、ビルの一部が壊れ、等身大の瓦礫がいくつか降り注いだ。


「オラァ!!」


それらを全て一方通行が蹴り飛ばす。
蹴られた瓦礫はまるで砲弾のように飛び、次々と機動鎧達に命中してゆく。
ドゴン!メギョ!バガッ!などなど、凄まじい轟音を上げていた。


屋上では削板が暴れ、地上では一方通行が暴れる。

たが、取りこぼしも勿論出る。
スキルアウトの逃げ道を塞ぐように現れ、銃を構えるが、




「私を忘れてんじゃないわよ」




轟音を立て、オレンジ色の閃光が走った。
膨大な、空気が焼け付くかのような熱量と暴風が機動鎧達を薙ぎ払う。
それらは美琴の右手から放たれていた。

レールガン。彼女の通り名でもある攻撃。
音速の三倍を超えるコインが、次々と正確に放たれる。






レベル5が三人。
機動鎧達に、勝ち目は無かった。
















「終わったな!」


「オイ、誰もツッコミ入れンなよ?入れた奴ブチ殺すからな……」


もう空が少しづつ白くなり始めた頃、決着はついた。路地裏に外灯の光以外も当たり出す。
山のように積まれた機動鎧の上に立つ削板を全員無視。
一方通行の言葉も有ったし、ツッコンだら負けだと思ったからだ。
ビルの破片なども撤去されたが、所々破壊の爪跡が残っている。


「結局、コイツ等何が目的なのかは吐かねェ、か。まっ、知らねェだけなンだろォが」


「えーと、つまり私達は誤解で戦ったってこと?」


「そうなるな……」


若干縮こまった駒場の言葉に、美琴はガー!と鬼神の如く叫ぶ。


「なんなのよもぉー!こっちは死にかけたっていうのにー!」


「うるせェ」


一方通行のツッコミを無視し、ギャーギャー騒ぐ美琴。
それを見てため息を吐いてから、一方通行は駒場に話しかけた。


「オイ、コイツ等の処理頼ンだぞ。好きにすりゃいい」


「あぁ……」


周りのスキルアウトに指令を出す駒場を見て、一方通行は考える。
今回、どうやらあの能力者の集団とスキルアウトは無関係だったようだ。考えてみれば、スキルアウトの殆どが無能力者なのだから当然のこと。
なのに何故、スキルアウトを利用したのか?

だとしたら、やはり……




「うぅ……眠たい……」


「あァ!?オマっ、寄りかかってくンな!!」


先程までの元気は何処へ行ったのか。
グテー、とだらしなく背中に寄りかかって来た美琴を慌てて能力で支える。
彼女は目がもう半分は閉じていて、今にも寝てしまいそうだった。


「むにゃむにゃ……お休み……」


「オマエ舐めてるンですかァ!?って、マジで寝てやがる……」


穏やかな寝息を立てる電撃姫を、一方通行は呆れつつ背負う。起こしたら起こしたでまた面倒臭くなりそうだからだ。
ベクトル操作で落ちる心配は絶対に無いが、いざという時のためしっかりとかるう。


「たっく、メンドクセェ……じゃァな」


そう言って歩き出そうとした彼に、


「……待て」


大男が声をかけた。
一方通行はあン?と顔だけを駒場に向ける。
駒場は、ゆっくりと尋ねた。


「何故俺達(スキルアウト)を助けた……?」


彼の疑問は最もだ。
一方通行に、スキルアウト達を助ける義理など一つも無かった筈。
彼は、答える。


「……あるバカなヒーローと、このバカな女のせいだよ」


彼は顔を前に戻し、戦場だった路地裏を後にした。
















帰り道、アスファルトを踏む一方通行の脳内に浮かぶのは、一人のヒーローが言った言葉。


前に、尋ねた時に、言った言葉。





『誰かを助けるのに、理由は入らない』




「……善人丸出しのセリフなンざ、俺には言う権利ねェよ」


自嘲気味に、彼はそう呟く。


「……」


黙って、視線を上に上げる。
空は、清々しい程白かった。


「すぅー……」


「……たっく、呑気に寝やがって……」


背中に彼女の体温を感じながら、彼は彼女を寮に送り届けるべく歩き出した。




空は、青と白が混じっており、一つの芸術品のように綺麗だった。














オマケ







常盤台女子寮の玄関にて。




「あァァァァァっ!!何故お姉さまが貴方のような歩く猥褻物の背中にぃぃぃぃぃぃぃっ!?貴方下ろすですの!今すぐお姉さまを下ろしてくださいまし!!あぁ!お姉さまの極上の絹のような肌が汚らわれて……大丈夫ですわお姉さま。黒子が責任を持って体全体を使ってお姉さまの肌を隅々まで清めて差し上げますの!柔らかい茶色の髪の毛も一本一本毛根から毛先まで洗って光を弾く完璧な髪を取り戻し[以下三十行に渡るので自主規制]」


(ヤバイ、超電磁砲任せれねェ……!)


黒子に背中の少女を預けるのはマズイと誰でも分かる。
結局、一方通行は寮の前で美琴を起こすことになったそうな。










後書き
美琴の戦闘描写が少ないのは正直逃げ惑うだけの美琴を書きたく無かったから。
いや、なんか、駒場さんがマズイことになりそうだったし……
一方通行と削板の共闘は一度やってみたかった。
駆動鎧をやられやくにするのかなり難しい。
喋らないし、墜落音とか人間ぽくないし。

後最後のセリフはFFやった人は分かるかも。
9好きです、大好きです。
エンディングはマジ泣きした。


PS最後に一言。変態状態の黒子書くのマジ楽しい。





[20473] 4・七月十八日
Name: ホットケーキ◆60293ed9 ID:10285d3b
Date: 2010/08/03 21:45





「……無駄に眩しいな、オイ」


七月十八日。
学園都市にある学校の殆どが今日から生徒待望の夏休みに入る日。
一方通行は太陽の光に目を細めながら歩く。

太陽の熱は感じないとはいえ、目に入る眩しい光は少しばかり鬱陶しい。

コツコツと、周りの注目の的になりつつ(長袖長ズボン白髪赤目なため)、彼は歩く。
当ては無い。ただぶらぶらしてあわよくば昨日の能力者でも見つかればといった所。




余りの眩しさに、そろそろ目に入る光も反射で調整しようかと考えた所で、


「あ……赤い目のお兄ちゃん」


「……あン?」


彼に声がかかった。
一方通行は歩くのを止め、音源の後ろ……下を見た。


そこにはなんだか見覚えがある少女がもじもじしながら立っていた。
若干金色に近い茶髪を小さくツインテールにしている。
白い襟のシャツを着て赤いスカートを履いていて、花模様が一つある赤いバックを肩にかけて……


「……あァ、オマエ昨日のガキか」


一方通行は思い出す。
確か昨日、美琴にバックを見つけてもらった少女だった筈だ。
色々あって忘れていたが。

小さな少女は口をもごもごさせながらも、必死に言葉を紡ぐ。


「あのね……セブンスミストってお店、知らない?」


「セブンスミストだァ?」


「うん。オシャレな人はそこに行くって……」


「なンで俺に聞くンだよ……そこら辺の風紀委員なり警備員なりに聞きゃいいだろォが」


呆れながら彼はそう言った。
実際、見た目超不審者の一方通行だ。顔も超悪人顏。
どこからどう見ても不良全開の彼に尋ねるなど、訳がわからない。

そんな風に子供の思考回路に頭を悩ます彼の目を上目遣いで見ながら少女は、






「だって……目が優しかったから」


『ってミサカはミサカはーーー!』


(ーーーー)





重なった。
一方通行の視界がブレ、過去の映像と現在の映像が重なる。
あの、青い毛布がはためくのが見えるくらい、鮮明に重なった。
彼は顔を不機嫌そうに歪める。


「……チッ」


「あっ……」


クルッと、自分から背を向けた一方通行を見て少女は落ち込み、下を見るが、


「……どォせ言葉で言ってもわかンねェだろォが。さっさと付いて来い」


「……!うん!」


少女は顔をパァァッ!と、太陽の様に輝かせ、とてとてと一方通行の隣に立つ。
そして手を彼の手に伸ばすが、避けられる。


「あう……」


「……服掴め」


「うん!」


またもや落ち込んだ少女を見てられなかったのか、彼は服を掴む様に言う。
少女はその言葉通りに、しっかりと一方通行の赤いシャツの裾を握った。


(……メンドクセェ)


心中で彼はそう呟きながらも、セブンスミストに向かって歩き出す。




歩くスピードは隣を歩く少女を気遣ったのか、比較的ゆっくりだった。












「オラ、着いたぞ」


「ありがとう、お兄ちゃん!」


目の前ではしゃぐ少女を見ながら、一方通行はハァ、と疲れからのため息を吐いた。
ここに来るまで約三十分かかった訳だが、途中警備員に三回程事情徴収を受けたのだ。
その度に、『あなたは不審者です』って言われている様な物だから、ビキビキとこめかみが音を立てた。

なんとか、というより少女が「お兄ちゃんに付いて行く!」と言って服から手をはなさなかったのですぐに解放して貰えたが。


「なァンで俺はンなことやってンでしょうねェ……」


ハァ、と更にもう一度ため息を吐いてから一方通行は歩き出す。
どの道、この少女をここで一人にするわけにはいかないだろう。
路地裏への入り口がこの辺りにはかなりあるのだ。
迷い込んでしまった場合、どうなるか予想も付かない。


(……だからァ、別に俺はンなこと気にする必要ねェだろォが。クソ……)


善人気取りする自分に昨日と同じように苛立ちつつ、彼は足を踏み出した。











「俺ァここに居っからとっと行って来い」


「分かった!」


店内にて、少女は一方通行の言葉に元気よく返しとてとてと走る。
可愛らしいワンピースなどが置いてあるコーナーに向かう彼女を見ながら、一方通行は自動販売機が無いかと目を動かした。


(コーヒーでも飲まなきゃやってられねェ……)


本格的にカフェイン中毒になっている彼を心配する者は居ない。
いや、いることにはいるが、今ここには居ない












筈だったのだが、


「……あン?」


プシュ、と缶コーヒーのプルタブを開けた一方通行の赤い瞳に怪しい人物が映る。
いや、怪しいというのは見た目ではなく動きだ。
何やら服を持って警戒しながらコソコソと歩いている。


「……」


その少女を見て怪訝そうな表情を浮かべた彼は、ゆっくりと、コーヒーを飲みながら其方へと歩いて行く。

彼に気が付かない彼女は可愛らしい花柄のパジャマをハンガーにかけたまま持ち、


「それっ!」


ガバッ!と擬音が付きそうなくらい、勢いよく壁に埋め込まれている鏡の前に立った。


「あっ、やっぱりサイズもピッタ……リ……」


で、茶髪の少女が見る鏡に映ったのはパジャマを体に当てる自分と、


その自分を後方から不審者を見る目で此方を見る一方通行の姿だった。


「……なにしてンだ超電磁砲?」


「〜〜〜〜〜っ!?!?!?」


声にならない絶叫を上げながら一方通行に体を向け、美琴は慌てて顔を真っ赤にしながらパジャマを後ろに隠す。
隠しても鏡に映って隠れてないというのは気づいてない。


「アッ、アアアンタ!?なんでこんなとこに居んのよ!?」


「いちゃ悪ィンですかァ?」


今だけはねぇぇぇぇぇ!!と美琴は絶叫。但し心の中で。
うぐぐ、と言い返せずに口ごもる。
対して一方通行は何だコイツと思いながら、先程の叫びのせいで此方へと向かって来る人影を見る。

女子中学性が二人。
制服に見覚えは無いが、学園都市の中学校なのは間違い無い。
一人は一昨日も昨日も見た、花飾りを頭部に大量に付けた風紀委員の少女。
もう一人はかなり長めの黒髪で、背が隣の初春よりも高く、初春と同じ制服を着ていた。


「御坂さんどうし……?」


その一方通行が名前を知らない少女は美琴の前に立つ一方通行を見て、少しばかり顔を強張らせる。
一方通行の外見はどこからどう見ても『不良』もしくは『不審者』の言葉がピッタリな姿に顔だ。
普通の女子中学生に過ぎない彼女が恐怖するのも無理は無い。

だが、もう一人は一方通行を知っている。


「あれ?一方通行さんじゃないですか」


「オマエか、花」


「だから、花って言わないで下さい!」


初春は相変わらずのあだ名に抗議するが、一方通行はどこ吹く風だ。


「えっと……初春、知り合いの人なの?」


「あっ、佐天さん!実はですね」


ハッ!と気が付き隣の友人に話しかける初春の言葉で、少女の名前が佐天だと知る一方通行。
のんびりした思考を展開させる彼を置いて、状況は流れて行く。


「この人が、学園都市最強のレベル5、第一位、一方通行(アクセラレータ)さんなんです!」


「…………はっ?」


親友が笑顔で言った言葉に、佐天は思考がストップ。
だがそれも一瞬のことで、思考が回復すると矢継ばやに言葉を吐き出し始めた。


「えっ、ちょ……うぇぇぇぇぇぇぇ!?ここここの人が、学園都市のトップゥ!?」


「そうよ。私よりも順位が上の、巫山戯た化け物よ」


「凄かったんですよ!車を潰したり、空き缶蹴るだけで台風起こしたり!」


「台風じゃねェ」


初春の言葉に、一方通行は呆れながらもツッコミを入れた。
あの時出したのは、台風では無くて衝撃波の弾丸である。


「あ、あの!私佐天(さてん)涙子(るいこ)って言います!握手させて貰ってもいいですか!?」


「あン……?ってもう掴ンでンじゃねェか……」


ガシィ!と自分の右手を両手で力強く握られ、彼はため息を吐く。
内心反射を解くのが間に合ってホッとしていたが。
左手に緊急避難させた缶を揺らしながら、一方通行は考える。
この場から離脱するにはどうしたらいいか。
正直、年下の女子三人に囲まれ続けるのは、精神的に辛い。


「って、そういやアンタ本当になんでこんなとこに居んのよ?ブランド物しか買ってなさそうなアンタが」


「うるせェ。金があり過ぎンのもうぜェンだよ」


「ブ、ブランド?この服が、ですか……?」


何故かショックを受けている初春を無視。イラッと来るが無視。


「俺はガキの付き添いだよ」


「?ガキ?」


「おにーちゃーん」


一方通行の口から出た単語に、美琴は首を傾げる。
そんな彼女の疑問の言葉に答えるように、少女の声が耳に入った。
四人は音源を見る。

先程、一方通行に連れられていた少女が満面の笑みを浮かべながら此方へと走って来ていた。
手には可愛らしいワンピースが握られている。


「このおようふく……あ、トキワダイのおねーちゃん」


「あれ?昨日のカバンの子……」


見覚えある少女の出現に、美琴はまたもや別の疑問で首を傾げた。


「アンタ妹いたの?それともロリコン?」


「どっちでもねェよバカ」


「バッ……」


一方通行の暴言に、一般中学生でしか無い初春と佐天は呆気に取られる。
ピキィ!と美琴のこめかみもピクピクひくつくが、


「ちょうどいい。オイ、このガキ頼ンだぞ」


「はっ?」


一方通行はそう言って、出入り口へと歩き出す。
彼としては少女の安全が確保出来ればここに居る理由は無いのだ。
レベル5に風紀委員。
余程のことが無い限り少女に危険は及ばないだろう。


「……うっ」


「……」


が、どうやら彼は己自身が吐き気がする程甘いようで。
うるうるとした瞳で背中を見て来る少女を視界の隅に捉え、ガシガシとあいた手で頭をかく。


「……外にいる」


その一言を聞いて少女の顔に笑みが戻るのを感じつつ、彼は外へ出るべく出入り口へと歩きだした。










「たっく……」


「……」


出口に向かう一方通行は大量にいる客の誰かとすれ違う。
彼は其方を見ない。




ただ、ぬいぐるみを持っているのは深く印象に残った。











セブンスミストの男性用のトイレにて。


個室に一人の少年が入っていた。

彼はようをたすために入っているのでは無いようだった。

茶髪の少年は淵なしメガネをかけており、耳にワイヤレス式のイヤホンを付けている。

彼は何故かゴム性の黒い手袋を付けており、その手には一つのぬいぐるみと、




金属性のスプーンが握られていた。




「……」


無言のまま、彼はニヤッと笑う。


彼の傍に置かれたバックには、大量のスプーンが入っていた。










「へー、じゃあアイツに連れてきて貰ったんだ」


「うん!」


「見た目によらず、優しい人なんですね」


「人は見た目で判断しちゃダメですよ佐天さん。……私も人の事言えませんけど」


一方通行が居なくなった後、少女を含む四人は女性用の服コーナーを歩きながら喋る。
話題は先程の彼、一方通行について。


「お兄ちゃんがね、昨日守ってくれたの。かっこよかったー。まるでヒーローみたい」


「ヒーローねぇ。……やばっ、凄く似合わない」


「でも、第一位がヒーローってなんかかっこよくないですか?」


美琴は顔を苦虫でも噛み潰したかのように歪める。
一方通行をフォローするように佐天は言うが、ソレでも美琴の表情は変わらない。

美琴にとって一方通行とはヒーローとか、そんな人物では無いのだ。
もっと近い、隣に居る、そう、親友のようなーーー

そんな美琴の思考を断ち切る声が。


「おねーちゃん。私おトイレいってくるー」


「へっ?あっ、うん。一人で大丈夫?」


「大丈夫ー」


そう返すと、少女は三人に背を向け走り出した。
体が上下に動く度にスカートの布がヒラヒラと揺れる。


「微笑ましいですね」


「そうねー……」


初春の言葉に、笑顔で美琴は同意した。
何時の時代も、ああいった子供を見たら和むものだ。


チャラ~♪


突然音楽が鳴り始めた。
どうやら携帯の着信音のようだ。


「あっ、すみません」


携帯の持ち主たる初春は、二人にあらかじめ断ってから携帯を取り出す。
ピンクと白の、二つ折りタイプの携帯だ。

パカッと開き、耳に当てる。


「はいもしも」


『初春ッ!!今どこに居るんですの!?』


携帯の音声マイクから出た巨大な大声が空気を揺らす。
怒っているであろう自分の仕事での先輩の声に、わたわたと初春は慌て始めた。
彼女は実はサボっているからだ。


「しっ、白井さん!?えっと、現在警邏中でありまして決してサボっている訳では……」


ゴニョゴニョと、どんどん声が小さくなっていく。
そんなどうごまかそうか慌てている初春の耳に、再度黒子の大声が響いた。


『例の虚空爆破(グラビトン)事件の続報ですの!』


「えっ!?」


その一言に、初春の表情も一気に緊迫した物になった。
近くで様子を見ている美琴と佐天は初春の様子にハテナマークを頭に浮かべていた。
更に二人の会話は続く。


『衛星が重力子の爆発的加速を観測しましてよ』


「か、観測地点は!?」


『今、近くの風紀委員達を急行させていますの。貴方も速やかに現場へ向かいなさい!』


「ですから、観測地点っ……!」


叫ぶように尋ねた初春の言葉に、携帯の向こうは答えた。











『第七学区の洋服店"セブンスミスト"ですの!』




初春の後ろの壁に設置されているプレートが、蛍光灯の光によって明るく照らされている。
そのプレートには、『Seventh mist』と書かれていた。


「ラッキーです!私今ちょうどそこにいますっ!!」


『何ですって!?初は……!』


「御坂さん!」


ここで初春はミスを犯した。
自分が事件の現場に居るという幸運があったため、早く動こうと黒子の言葉を最後まで聞かなかったのだ。

そのミスが、後から大変なことになる。






「何ですって!?この店が標的!?」


「そうみたいです。すみませんが避難誘導に協力してもらえますか?」


「わかったわ!」


「佐天さんも早く避難を!」


「う、うん。初春も気をつけてよ」


状況説明後、初春のお願いに美琴は頷き走り出した。
佐天も初春を心配しつつ、出口へと走る。
初春も間髪入れずに足を動かし、走り出す。



店員に風紀委員である初春が協力を要請し、店内に避難するよう放送が流れる。
放送を聞いた客、主に学生達は出口へと殺到した。
美琴などの一部の人間が避難を誘導し、混乱を最小に抑える。


十分後には、店内は無人となりガラーンという効果音が聞こえてきそうな程寂しくなっていた。


「よしっ、取り敢えずこれで全員避難出来たわよね……」


無人の店内を見て、美琴はそう呟く。
今や店内に居るのは美琴と初春だけ、である筈だ。


『初春ッ!!初春聞きなさい!!』


初春の右手にある携帯からは、まだ通信を切ってなかったせいで黒子の叫び声が鳴っている。
ここで、彼女は漸く耳に携帯を当てた。


「今全員避難したか確認を……」


『今すぐそこを離れなさい!!』


確認しようとしていた初春への言葉は、初春自身への危険を示していた。


『過去八件の事件全てで風紀委員が負傷していますのっ!!犯人の、真の狙いは』


黒子の叫び声が、携帯を通して放たれる。








『観測地点周辺にいる風紀委員!!!』


「……えっ?」


彼女の制服の右袖には腕章が付けられている。
盾をモチーフにした、守るという意思を込めた、腕章。




ソレ故に、よく目立つ。




『今回のターゲットはあなたですのよ初春っ!!』


「おねーちゃーん」


放心していた初春に、パタパタと足音を立てながらトイレに行った少女が近付いた。
どうやら避難していなかったようだ。


「メガネかけたおにーちゃんがおねーちゃんに渡してって」


携帯を耳から離し、彼女は少女を見た。
少女の両手には、カエルを魔改造したかのような趣味の悪い人形が握られていた。

それを少し離れた場所で見ていた美琴は、


(あの人形……なんか)






ーーー嫌な予感がー




今更だが、連続虚空爆破事件について。

アルミを基点にして、重力子の数では無く速度を急激に増加させて、それを一気に周囲に撒き散らす。


ようは『アルミを爆弾に変える』能力。

『量子変速(シンクロトロン)』


そして、犯行方法はゴミ箱の中のアルミ缶を爆破したり、ぬいぐるみの中にスプーンを隠して破裂させたりする。






ぬいぐるみの中にスプーンを隠して破裂させたり








"ぬいぐるみ"




ブンッ!と少女の持つぬいぐるみが"縮んだ"。
その異常な現象に気がついた初春は咄嗟に少女の手から人形を奪い取り、投げる。
そして少女を抱きしめ、ぬいぐるみに対して背を向けた。


「逃げて下さい!!あれが爆弾ですっ!!」


「っ!?」


美琴が初春の叫びにギョッ、とし、ぬいぐるみを見る。
投げられたせいで床に当たり、はねながら飛んでいく人形は、メキメキと中心に向かって潰れて行っていた。

美琴は反射的にコインを取り出し、レールガンを放って吹き飛ばそうとする。




だが、


ポロッと、スカートの右ポケットからコインが落ちてしまった。


(マズった!!)


冷や汗を流す美琴の耳に、まるで死刑宣告の様にコインが床と当たる金属音が入る。

ぬいぐるみは、もはや形が無く、周囲の空気まで巻き込んでいた。


(間に合ーーーー






ドォォオオオオオンッ!!!!!




巨大な爆発が、全てを薙ぎ払った。









彼は人の居ない店内を歩いていた。

理由は単純明快。知り合いが避難して来なかったためだ。

だから面倒だと言いつつ、彼は心配だからか、探しに店内へと戻った。


そこで、彼が見たのは、


異常な現象を起こしているぬいぐるみ、


抱きかかえられる少女、


抱きしめる風紀委員の少女、


コインを取り落とし、絶望の表情を浮かべる少女、





彼は、床を思いっきり蹴った。










「ーーーあ、れ……?」


初春は驚きの声を漏らす。
予想した痛みが、爆風が、来ない。
目をゆっくりと開ける。
まず最初に写ったのは、目を開いたまま自分の後方を見つめる少女。
そして、少し離れて立ち、目を見開いている美琴。
茶色の瞳は、腕の中の少女と同じように、自分の後方を見ている。


ゆっくりと、初春は首を後ろへと動かす。

穏やかな風が吹き、黒煙が舞う、その空間に、








白い髪の少年が、立っていた。













セブンスミストの近くの路地裏。
突然の大爆発のせいで野次馬が集まる音を聞きながら、一人の少年が気味の悪い笑みを浮かべた。


「ククク……いいぞ、今度こそ逝っただろう……」


やがて興奮を抑えきれなくなったのか、彼は大声を発し始める。


「スゴイッ!スバラシイぞ僕の力!!徐々に強い力を使いこなせるようになってきたッ!!」


両手を掲げ、精神異常者の様に彼は叫び続ける。


「もうすぐだ!あと少し数をこなせば、無能な風紀委員もアイツラもみんなまとめて……」




だから気がつかない。






背後に迫る死神に。






トンッ


「吹き飛ばッ…!?」


聞こえたのは、そんな軽い音。
だが何故か少年は宙を舞い、コンクリートの地面をバウンドしながらゴミ箱の集団へと激突。


「ゲフッ!?一体、何が……?」


体に付いた生ゴミをぬぐい、彼はなんとか地面に手を付いて起き上がる。
顔を上げて、彼が見たのは、











「始めましてェー、爆弾魔さァン?」




ゾッ!と爆弾魔の体に悪寒が走る。
それほど、目の前の少年が放つ雰囲気は恐ろし過ぎた。

白い髪に、赤い目。






学園都市最強の能力者、一方通行が立っていた。






「さァてェ?この落とし前どう付けてくれっかなァ?生体電気を操作される体験でもしてみっかァ?人生のイイ経験になるンじゃねェのォ?」


「ヒッ……!」


爆弾魔はもう隠蔽など考えなかった。
肩にかけていたバックからスプーンを取り出し能力を発動ーーー




ボッ!!




の前に、左手に持ったスプーンの先端が消し飛んだ。

白い煙を上げるスプーンを、爆弾魔は見る。

後ろに、おそらくスプーンの上部をもぎ取ったであろう物質が落ちていた。

少しひしゃげてしまっているそれは、一枚のコイン。


「ざァンねェン」


コインを弾いた右手を口元に当て、一方通行は愉快そうに笑う。


誰しもが感じる程の殺気を込めながら。


「ガッ!?」


「ハイ、終了ォ」


頭を踏みつけ、一方通行は能力を行使。
起き上がろうとする力のベクトルを操作し、地面へと縫い付ける。


「ンで?後は警備員が来るまで骨でも折っとくかァ?」


「……いつも、こうだ……」


「あァ?」


踏みつけている男の言葉に、一方通行は反応した。
男は、何かを吐き出すように叫び始めた。


「何をやっても僕は地面に、ねじ伏せられる……!殺してやるッ!!お前みたいなのが悪いんだよ!!」


「ハッ」


一方通行は鼻で笑った。
全く持ってその通りだからだ。
自分みたいなのが居るから世の中はいつも平和じゃないのだ。






ここで、爆弾魔は言葉を止めておけば、彼の逆輪に触れることは無かったのだ。






「風紀委員だってッ……力のあるヤツなんてのはみんなそうなんだろうが!!」




このセリフを聞いた瞬間、一方通行の中で"何か"が切れた。

ゆっくりと、気味が悪いくらいゆっくりと彼は足を退ける。
足を頭から退けられ、男は起き上がろうとするが、




ガシィ!!と白い左手に学生服の襟首を掴まれ、持ち上げられた。


「グェッ!?」


「ざけてンじゃねェ……ふざけンじゃねェぞ……」


一方通行は知っている。


力があるのに、自分とは違う、最高の善人(バカ)達を。


「力を関係無い他人に向けてるヤツが……」


風紀委員というだけなのに、レベル4クラスの爆弾から幼い少女の盾になる少女。


「力に依存しているだけの心の弱いオマエが……」


空間移動という珍しい力を持っているのに、それを街の平和を守るために使う少女。


「弱虫で逃げるだけで、他人を傷つけるだけのオマエが……」


第三位という地位に居るのに、人間として歪まず、光の世界に居る少女。

目の前にどんな辛い運命が待っていても、進み続けるであろう少女。


そして、


「オマエみたいな、オレみたいな野郎がッ!!アイツ等をバカにしていい筈がねェだろォがァァああああああああああああッ!!!」


叫び声とともに、彼の右手が力強く握り込まれる。
いつかのヒーローの様に。






そして、彼は知っている。

知り合いを助けるためだけに、右手一本で自分という最強(悪党)に挑んできた最弱(英雄)を。






爆弾魔が気絶する前に見た最後の光景は、誰に怒っているのか分からない、一方通行の不思議な表情と、


自分に迫る、白い拳だった。








「ハァ、ハァ……」


叫び過ぎたのか、一方通行は息を荒げる。
そんな彼の目の前には、爆弾魔が仰向けになって倒れていた。
どう見ても気絶している。


「っ……」


彼は、殴った右手を見る。


何故か、血が見えた気がした。




「やっぱり、俺に右手は似合わねェな……」




あのヒーローと、彼の拳は、余りにも違い過ぎた。


そんな彼を見る人物、少女が居たことを、彼は明日、知る。









後書き
やべっ、美琴ヒロイン要素弱っ!

これから盛り返してゆく予定です。
色々リアルが忙しいですが、頑張ります。




[20473] 5・七月十九日①
Name: ホットケーキ◆60293ed9 ID:eb369440
Date: 2010/08/19 13:55











「……?ここは……?」


黒い空間。
彼が居る空間はそうとしか表現出来なかった。
ただただ、黒い空間。
地面も壁も無い、意味の分からない空間。


そんな空間に、一方通行は立っていた。


「……?」


誰かの気配を感じ、彼は後ろに視線を向ける。


そこには、緑色の暗視ゴーグルを付けた茶髪の少女が立っていた。




全身から、血を滴らせながら。




「なっ……!?」


「何を驚いているのですか?とミサカは貴方の意味不明の行動に疑問を持ちます」


喋る間にも彼女からは血が流れ続け、黒い空間の地面に水溜りを作って行く。
赤い赤い、水溜りを。


「貴方が、ミサカ達を殺したのでしょう?」


「あ、ぐっ……」


思わず、一方通行は後ろに一歩下がる。
コツッ、と下げた足の踵に何かが当たった。
彼は振りかえる。




そこに倒れているのは、目を見開いたまま死んでいる、ミサカ。


「う、あ……」


一人だけでは無い。
空間を埋め尽くすかのように、沢山のミサカ達が倒れていた。


共通点はただ一つ。


全員、死んでいるということだ。


腕がもがれているのもある。
足がもがれているのもある。
眼球が飛び出したのもある。
頭がグチャグチャになっているのもある。
骨が一本残らず折られているのもある。
全身から血を噴出させているのもある。


死体死体死体死体死体。
同じ人間の、死体。


「……ハァッ……ハッ……!?」


気がつくと、周り全てが死体だった。


ミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカ


呪いの言葉が、死体から放たれ続ける。


「あ、ああ……」


「苦しんで、苦しんで」


「傷ついて、傷ついて」


「っ!?」


声の調子が違う。
一方通行は、足を血で塗らしながらも其方を見る。


そこに立っていたのは、青い毛布を身に纏う少女と、コインを右手に握る超電磁砲の少女。

この地獄の空間に浮くほどに、二人は笑顔。
だが、その口から放たれるのは、




「「死んでくれる?」」


この世の全ての憎しみを込めたような、呪いの言葉。


「ァ……ァァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!」


一方通行は、絶叫。
だが、呪いの言葉達は止まらない。




死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
独善者偽善者化け物死神殺す首を切って死になよ無駄自己満足かウゼェ今更死ね殺してやる許さない絶対殺したなミサカを内臓を破裂動くな溺れ死ねミサカは殺すミサカはミサカはミサカミサカミサカミサカ








ミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカは―――








『貴方を、絶対に、許さない』











「あああああああああああああああああああッ!!!」


叫びながら、一方通行は飛び起きた。
毛布を吹き飛ばし、彼は体を勢いよく起こす。


「あっ、ああああ……?」


息を乱しながらも、彼は周囲を見渡す。
質素な、何も無い空間。
あるのはベットと服を積むタンスだけ。
自分の、何時もの部屋だ。


「夢、かよ……」


息を大きく吐き、一方通行は呆れる。
その表情は未だに青ざめており、冷や汗が頬を伝っていた。


「……」


自分に対し、恨み言の一つでも言おうとして声が出ないことに気がつく。
叫び過ぎたせいで、喉がカラカラになっていた。

無言のまま彼は立ち上がり、リビングを通過して台所へと向かう。
足取りは重かった。


「……」


プシュ、と缶を開け一気に煽る。
喉をブラックコーヒーが通過してゆく感覚は、なんとも甘美な物だった。


「……クソ」


コーヒーを飲み干してから、彼は漸く一言、ポツリと小さく呟いた。




今の時間は朝の五時。
もう、寝るのは精神的にも肉体的にも難しいだろう。

一方通行は、缶をグシャッと握りつぶした。


表情は、暗い。















「……」


常盤台中学。
窓際の自分の席で、彼女、御坂美琴は外を眺めていた。
現在、クラスで授業は行われておらず、通知表を渡されるのを待っている状態だ。
先生も居ないため、生徒達は席を立って友達と会話している者ばかりだ。


「……」


美琴は何処までも青く、それでいて太陽の光が輝いている空を見る。
彼女の脳裏に浮かぶのは、昨日の光景。




『オマエみたいな、オレみたいな野郎がッ!!アイツ等をバカにしていい筈がねェだろォがァァああああああああああああッ!!!』




「……アイツ」


ずっとずっと、美琴は気になっていることがある。
彼の、自分に対する異常な態度。
彼は優しい。それは勿論、人を助けるという意味でだ。
目についた不幸な人間を、彼は全て助けている。
そして、彼は人と接するのが苦手、というか素直になれない。
そのため、人の好意に弱い。




だけど、彼が、一方通行が自分に向けるものは、違う。




善の心、優しさから来る物では無い。


それがなんなのか、美琴には分からない。


ただ―――




「御坂様?」


「ひゃわっ!?な、ななななに?」


ビクゥッ!と突然声をかけられ美琴は飛び上がる。
慌てて声のした方を見ると、クラスメイトの一人、お嬢様風の少女が自分並にオロオロしながら立っていた。


「いえ、あの、何か元気が無いように見えたので……」


「そ、そう?ありがと」


「っ!はい!」


多少どもりながらも美琴が御礼の言葉を述べると、声をかけた少女は顔と瞳を輝かせ、遠巻きに見ていた友人達へと駆け寄って行った。


(やったやった!御坂様に御礼を言われた!)


(やるわね!)


(くー、羨ましい!私行けばよかったぁ!)


そんな会話が行われているとも知らずに、美琴は空を見る。


(……何隠してるのよ、バカ……)


なんだかんだ言いながらも、彼女も彼が心配なのだ。






彼が、何をしたか知らない故に。













「……チッ」


「ひっ!?」


「……」


舌打ちした瞬間、恐怖に身を縮こませたウェイトレスの女性を横目にチラッと見て、視線を再び反対側へと戻す。
ファミレスの巨大な窓ガラスに夜の街の風景と自分のアルビノ系の顔が薄く見えた。

時刻は現在八時二十分。
外の風景からも分かる通り、もう既に日は沈んでいる。
結局あれから一睡も出来なかった彼は家の冷蔵庫に缶コーヒー以外何も無いことを知り、不機嫌になりながらも移動。
ファミレスにて料理を待っている。


「……」


一方通行は極力目を閉じないでいた。
目を閉じると、朝見た夢の光景が延々と再生されるからだ。
再生されるのは、大量のミサカの死体に、二人の少女の姿。


そして、その二人の少女も、死ぬ姿。


「……ハッ」


彼の顔に浮かぶのは、自虐の笑み。
学園都市最強の能力者、核兵器を喰らっても死なないと評判の自分が、たった一つの悪夢に、






ここまで、怯えている。





「なンとも、まァ……」


馬鹿げた話だ。
最強とは所詮こんな物なのか。
一つの悪夢に怯え、一人の少女を守ることすら命がけの人間。


もし、もし最強でなくて『絶対』だったとしたら、そんな無様な姿を晒さないのだろうか?


(……それはねェか)


人間という生物の種としての限界を、一方通行は垣間見ている。


――神ならぬ身にして天上の意思に辿り着きし者――


学園都市が掲げる、最大の目的。
一方通行は無理だと思う。
計算とか、理論とか、そんなことでは無く、人間という物の限界を知っているからこそ、無理だと思う。




今なら分かる。
この世に『絶対』など、存在しない。




「……なンせ」


一方通行は背中をソファーに預け、言う。




「レベル0がレベル5に勝っちまうような、いい加減な世界だ」




カランコロン


「……」


フゥ、と息を吐き彼は机の上にある水と氷が入ったグラスに手を伸ばす。
白い指がガラスのグラスに触れるか触れないかといった所で、フッ、と影が差す。


「あァ?」


「ちょろっとー。ここの席借りるわよ」


影はとある少女の物。
そして、彼は少女を見なくても誰かが分かる。
周囲に感じる電磁波のベクトルが、彼女を御坂美琴だと語っていた。


「オマエ……なンでここにいンだ?」


「色々あんのよ、色々」


顔をしかめる"フリ"をしながら、一方通行は勝手に前に座った美琴に視線を向ける。
彼女の顔を見た瞬間、脳裏がチリチリする感覚が走る指先が震えかけるが無理矢理能力で押さえ込む。


「じゃ、黒子。打ち合わせ通りに」


「えっと……本当にやるのですか?」


「勿論!」


「……?」


何やら不安気な表情を浮かべながらの黒子の言葉に、一方通行は疑問をますます深くする。
一体何をしようというのか。
一方通行は少々、先行きが不安になった。












「幻想御手(レベルアッパー)ねェ」


「それでお姉さまが協力して下さると……」


クルクルと、先ほど黒子が頼んだパフェとともに届いたアイスコーヒーのストローを動かしつつ、一方通行は呆れたように呟いた。

目の前の女子中学生変態風紀委員からの話をまとめると、どうやら昨日自分が殴り飛ばしたあのメガネ爆弾魔はレベル2判定だったらしい。
書庫(バンク)からのデータなので、まず間違いはないだろう。


だが、一方通行が防いだあの爆発は、明らかにレベル4級だった。


そこに、あの佐天という少女からの話で、先程呟いた幻想御手と呼ばれるアイテムの噂を聞いたらしい。
ネット上の噂だけで詳しい情報は全く無く、学園都市の七不思議とどっこいどっこいといった所。
普通はそんな噂など真に受けないが、どうやらレベルが食い違うということがここ最近立て続けに起こっているそうだ。


つまり、そういうレベルを簡単に上げる物が存在するなら、一連の事柄に説明はつく。


「……」


無言のまま、彼は考える。
確かに心当たりはあった。
最近襲ってくる能力者のレベルが高いのも、それなら頷ける。


「で?囮捜査ってかァ?無理だろ」


「悔しいですが同意しますわ……」


席の端に座る二人は重心をずらして身を乗り出しつつ、ある一点を見る。
そこには、


「あん?幻想御手について知りたいだぁ?」


「うん!ネットでお兄さん達の書き込みを見て」


『できたら私にも教えて欲しいなーって』


三人のバリバリ不良です、といった風貌の男に猫を被って話かける美琴の姿があった。
ちなみに最後の声は黒子が持っている通信機からの音である。
通信機を使わなくても会話を聞き取れることが判明したため、彼女は美琴の方を見つつゆっくりと通信機をポケットに仕舞った。

どうやらネットに実名で書きこんでいた不良が大量に居るらしく、その内の何人かの居場所を特定したらしい。


それで、美琴が協力したいと言ったため、現在のように聞き出そうとしている。


「……」


「……」


(冷や汗垂れてやがる……)


だが一方通行と黒子は不安で不安で仕方がない。
美琴の性格をよく、もうとびっきりに知っているためだ。


で、


「ダメだダメだ。“子供(ガキ)”はねんねの時間だぜ」


ピクゥッ!

男のだるそうな言葉を聞いた美琴の体が一瞬、震えた。
それを見た瞬間、二人はほぼ同時に言う。


「終わったな」


「終わりましたですの……」


一方通行は心底呆れながら、黒子は冷や汗をドバドバ垂らしながらだ。
美琴の性格上、ここでブチ切れて不良の丸焼きを作って終了だろう。
ミッション失敗だ。








だが、予想外のことというのはやはり起きるもので。


「え~?私そんなに子供じゃないよぉ♡」


「「ブーッ!?」」


吹いた。二人とも盛大に吹いた。霧吹きのシャワーのように、口の中の空気を噴き出す。
一方通行の無敵と名高いベクトル操作もこんな現象にはまるで役に立たない。
ゲホッ、と肺の中で詰まった空気の流れに苦しみつつ、二人は再度美琴の方を見た。


「だよなぁ?オレはアンタ好みだぜ」


「ホントにー♡」


「うっ……ガァァアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!?」


「ちょっ、気持ちは分かりますがもう少し静かにしてくださいまし!」


ハートマークが付きそうな(実際付いている)美琴のキャピキャピした言動に耐え切れなくなり、一方通行は叫びながら頭部をテーブルに打ちつけた。反射は切ってある。
叫ぶ一方通行を止める黒子。叫び声がかなり大きく、美琴達の方まで聞こえてばれかねない。

その間にも状況は進んでいたようで。


「金額しだいで教えてやるよ」


「あっ、あぁぁぁっ!?ちょ、成功してますわ!?」


「ッ……あン?マジかよ……」


正気に戻った彼は少し離れた場所で展開される光景に小さく驚く。
そこでは美琴が財布から札を取り出す所だった。
どうやら本当に穏便に事をすませたらしい。驚愕である。


「……」


そんな光景を見て、一方通行は内心思う。


――――あァ、やっぱ俺とアイツはチゲェンだな…………


「……ン?」


ふと、一方通行の視界の隅に何かが入った。
一方通行は視線を僅かに動かし、それを見る。
それはトイレから出てくる不良達だった。
服装も一人一人ばらばら。体格もばらばら。ただ不良というのは風貌や眼つきで分かる。
全員男で、人数は六人。
彼らは喋りながら美琴達が居るテーブルへと向かう。
どうやら美琴が話しかけていた不良達のグループらしい。
それを横目に見て大して関心を持たないまま、一方通行はコーヒーのグラスを持とうとして




「あっ、オイ!こいつ超電磁砲だぞ!!」


「なに!マジか!?」




瞬間、一方通行の姿が『消えた』。

その現象に、目の前に座っていた黒子は目を見開く。
普段自分も空間転移の力で消えたり現れたりしているが、それとは違う。


ただ、高速で動いただけという事実に、黒子は目を見開く。


(なっ…………!?)


黒子の心が驚愕に染まっている間に、


「ぐえっ!?」


「どうもォ、こンばンはァ」


彼は、不良の一人に拳を容赦無く叩き込んでいた。
鳩尾にモロに突き刺さり、不良の八十キロはありそうな体が浮く。
一方通行は腕を引き、不良の体を地面に墜落させた。
ファミレスの床に墜落した男はうめきながら床に指を這わせる。


「ア、アンタ……?」


「場所変えるか」


美琴の声にも耳を傾けず、一方通行は不良達を見て言う。
まるで、この世のすべての憎しみを叩き込んだかのような声音で。

ただの不良にすぎない彼らに、それを拒否することなど到底無理だった。











後書き
長くなったのでここで切りました。
次回は短いかもしれません。
ちなみに、今更なんですが自分が今回書きたいと思ったのは、

『英雄(ヒーロー)にも悪党(ヒーロー)にもなりきれない一方通行』

なんですよ。
光と闇の狭間を行ったり来たりして、大事な物を見失ってしまっている少年、ですかね。
だから最初らへんはワザと上条さん(英雄)に近付けています。
つまり後半は……?今回の一方通行の不思議な言動や行動も関わっています。

批判も感想も応援も全て一言一句逃さず読ませていただいています。
ありがとうございます。





[20473] 6・七月十九日②
Name: ホットケーキ◆60293ed9 ID:eb369440
Date: 2010/08/24 08:51






「さて、後はオマエだけだ……オマエに聞くがかまわねェな?」


「ヒッ……!?」


「……どちらが悪者か分かりませんわね」


「……まぁ確かに」


先程のファミレスからそれほど離れていない、路地裏の空間。
清掃ロボが(大きさの問題で)集められないゴミであるビール瓶の箱やら空の瓶がそこらに転がっている空間で、腰を抜かして地面に座っている男の前に一方通行は立っていた。
美琴と黒子はその後、路地裏の出口を塞ぐような形で立っている。

男は先程の不良達の一人だ。
他の男達は最初一方通行が言った通り気絶して、路地裏の地面に瓶と一緒に転がっている。
ガラスの破片などは清掃ロボによって片付けられているため、泡を吹いている不良達が怪我を負う心配は無い。


「なァに、簡単な質問だ。オマエは何も考えずに答えりゃいい」


ビリビリと、その道の者だけが分かる殺気を言葉と同時に発しながら、一方通行は不良の男に話しかけ続ける。
男はまたもや息を飲み、後に下がろうとするが体が震えて下がれない。


「オマエ等は何でこいつが超電磁砲だと一発で分かった?コイツはそれなりに有名だが、顔まで知っていて」


「……?」


後に立つ美琴は一方通行の言動の調子に眉をひそめる。
極少数だが、美琴のことを知る不良は居る。


そんな大したことじゃないことを尋ねている一方通行の声は、刺々しい。




「なンで、襲おうとした」




「「ッ!?」」


驚愕。
美琴と黒子はバッ!と勢いよく一方通行の横顔を見る。
一方通行の横顔は心底愉快そうな顔をしているものの、誰がどう見ても好意的なものでは無い。

彼がファミレスで突然動いた理由。
それは彼が不良達の声から『感じた』ためだ。
何を感じたかと言われると、一方通行にもよく分からない。
ただ、不良達が美琴に対して敵意を持ち、襲おうとした……それが、感覚的に分かったのだ。


「ほォら?さっさと答えろよ」


一方通行が地面にビキリ、と音を立てながら足元にヒビを入れると、男はせきを切ったように喋り始めた。


「お、俺達はただ儲け話を聞いただけなんだ!」


「……儲け話?」


黒子が首をかしげながら反復した言葉に、男は壊れた人形の様に首を上下にガクガク振ってから言葉を続ける。


「ふ、不良達の間で幻想御手と一緒に儲け話が出回ってて……レベル5を倒しゃ、たんまり金が貰えるって……」


「あっ……!それって……」


美琴は知っている。
とあるスキルアウトのリーダーが同じことを言っていたのを。


「……なるほど……で、一番有名で不良仲間をぶっ倒している超電磁砲に狙いを付けたって訳だ」


一方通行も一応納得したのか愉快そうな表情からいつもの冷静な無表情に近い顔になる。
だが、その脳内では疑問が渦巻いていた。


(スキルアウトには幻想御手を渡さなかった……?スキルアウトの性質のためか?それとももっと別の何か……第一、レベル5をどうこうして何をしようと……まさか、“上”が関わってやがンのか…?)


彼の学園都市最強の頭脳が答えを導き出そうと働く。
数々の情報を整理し、そこからパターン別に分け、更に選別してゆく。
しかし、そんな彼の思考は、


「あっ……でも……」


「あン?」


一方通行は現実へと意識を戻し、そちらを見る。
男がしまった、といった風に口に手を当てていた。


「なンだ?」


「い、いや、その……」


「言え」


有無を言わさぬ彼の言葉に、男はおそるおそる言葉を紡ぐ。











「れ、超電磁砲を殺した奴は、とんでもない額の金が渡してもらえるって……つい最近そんな噂が―――」












一方通行は、無意識のうちの己にかした『枷』がある。

それは、自分の能力でだれも殺さないということ。

たとえどんな状況だろうと人の命を守りとおし、

たとえ相手がどんな悪人だろうと殺さない。


この枷は、あの英雄(ヒーロー)にあこがれた彼が、無意識のうちにヒーローになりたいがためにできたもの。


一方通行は誰よりもヒーローに憧れており、なりたいと思っている。

何故か?理由は沢山ある。

普通の人間には到底理解できないような、とんでもない過去からの理由。




だが、今一方通行は、


「オマエ……今なンつッた……?」


「ガッ!?」


その枷をたたき壊していた。

不良の首をつかみ、壁に押し当てる。
この時点でよかったのは、一方通行の足元に瓶やら不良の頭部やらが無かったこと。
なにせ彼が不良の元に踏み込み、壁に押し当てるまでのステップを踏んだコンクリートの地面が、完全に亀裂が入り壊れているからだ。
メキメキと、今更ながらコンクリートが悲鳴を上げる。
たたきつけられた男は肺の空気を強制的に排出され、さらには首つり状態のためバタバタもがき始めた。


それは、一方通行のベクトル操作の前では余りにも脆弱すぎる努力だ。


「その噂はどこからのネタだ?ネットか?それとも噂で口伝えか?友人とのメールか?ネットだったら今すぐアドレスを言え、口伝えならその噂を喋っていた奴の所に案内しろ、メールなら今すぐソイツをここに連れてこい。どうした?早く答えろよさっさと答えろって言ってンだろオマエのその汚ねェ口は一体なンのためにあンだ口を動かせよ死に物狂いでさもねェと本当に死ぬぞ?」


「ウブッ……がァッ……ッ!」


当然、宙釣りでしかも首を絞められているのに、答えれる訳がない。
だが、一方通行はそんな簡単なことに気がつかない。
いや、気が付くほどの余裕がない。
故に、表情の白い肌は更に青白くなっており、冷や汗であろう雫が肌を垂れてゆく。

まだ質問をしてから二秒しか経っていないというのに、彼は待てないのかあいていた左手の拳を握りこみ、振るう。


ズゴンッッ!!!!!と、一方通行の左手は易々とビルの壁面を貫いた。一気に肘まで埋まる。
ちょうど、男の頭部スレスレを通過するように。


「……ッ!?……ッッ……!?」


男は悲鳴を上げたいが、声が出ない。
更に体を揺らし、もがいても一方通行の右手はびくともしない。
一方通行が、今の彼にしては意外な程ゆっくりと壁の穴から腕を引き抜いた所で、


「ッ!」


漸く、目の前の状況に思考が追いついた黒子が動いた。
スカートをめくり、太ももに装着したバント挟んでいる金属矢を引き抜きながら地面を蹴る。
二人の間の距離は約三歩~五歩分。
一瞬で詰められる距離だ。


「フッ!」


黒子は矢を持たない右手を伸ばし、不良を掴む彼の右手を押す。


が、


「―――ッ!?」


次の瞬間、黒子は一気に反対側へと飛んだ。
無論、彼女が飛ぼうとして飛んだのでは無い。
押し出すベクトルを真逆にされたのだ。
腕の関節が、痛む。


「ッ……!すみませんですの!」


地面に落ちた直後受け身を取りながら、黒子は左手の矢へ能力を行使。
黒子の能力を受けた金属矢は音も無く消え、十一次元の空間を飛んで一方通行へと襲いかかる。
一方通行の精神状態がどうなっているのかわからない以上、優先すべきは不良の男の命だ。
だから黒子は謝りながら矢を飛ばす。


しかし、肩に突き刺さる形で現れる筈なのに、金属矢は音も無く突然はじかれながら現れ、黒子の思考を困惑で埋め尽くす。


「なっ……?」


思わず、黒子は動きを止める。
今まで、この彼女の転移攻撃を直接防いだ者は居なかった。
だからこそ、彼女はここで動きを止めてしまった。


「ッ!しまっ―――!」


気が付いた時にはもう遅い。
彼、一方通行はまたもや左手を振り上げていた。


今度は、確実に男にたたきつけるつもりだ。














そして、拳が、振るわれる。























振るわれた、その拳は、


「落ち着きなさい!!」


ガシィ!!と、一人の少女に掴まれていた。




絶対的な最強の盾(反射)があるのにだ。




振り上げた状態で止められた一方通行は、そちらへゆっくりと首を動かす。
その紅き瞳に映りしは、茶色の髪にときおり電気をを散らす少女。




彼が変化する原因でもある御坂美琴が、彼の腕を止めていた。







「……あァ?」


一方通行は数秒経ってから漸く美琴が己の腕を握っているという状況を把握した。
そして、握られているという状況を分かっておきながら、彼はそれでもお構いなしに腕を振るう。

しかし、


「……?」


腕が、動かない。
掴まれているのは手首。美琴は女子中学生。掴んでいる力もそんなに大したものでは無い筈だ。
なのに、動かない。
地球の自転エネルギーすら付与することが出来る最強の腕が、動かない。


(なンでだ)


一方通行は考える。
どうして自分の拳が、こんな一人の少女に止められているのかと。
彼女の顔を見る。
そこには困惑と一方通行を心配する感情が入り混じったような表情がある。


(俺は何をやっている)


彼は考える。
自分は今何をしている?
拳を振りかぶっている。何故?
不良を殺すため。何故?
不良が―――――――――


「……ッ!」


そこまで考えて、彼は美琴の手を思いっきり振り払って後ろへと勢いよく下がった。
右手が不良の首から離され、不良はズルズルと壁に背中を擦りつけながら地面に落ちる。
落ちた不良はどうやら胸が動いていることから生きてはいるらしい。
ただし、気絶しているようで首がダラン、と下を向いているが。


「……ッ」


「あっ、ちょ!」


それらの惨状を見て、一方通行は駈け出した。
路地裏の出口を一気に通り抜け、夜の大通りへと飛び出す。


「~~~~~ッ」


恐らく逃げたのであろう彼の背中を見ながら、美琴はチラッチラッと倒れている不良達を交互に見る。
追いかけたいのだが不良達を放置して行っていいものかと、美琴の中で思考がグルグル渦巻くが、


「お姉さま行って下さいまし!ここは黒子がなんとかしておきますので!」


「ッ!ごめん!」


気絶している不良に駆け寄る黒子の言葉を聞いて、美琴は黒子に背を向け地面を蹴って一気に路地裏を飛び出した。

















「ハァ、ハァッ……ッ!」


一方通行は走っていた。
能力を使わずに自力で、だ。
思えば何故走っているのか一方通行自身にも分からない。
ただ、走りたかった。

あの場に居たら、自分がとんでもない事をしていまいそうで。

その『とんでもない事』がなんなのかさえ分からないまま、彼は走る。


「ハァッ……ハァ…………」


気が付けば、鉄橋まで来ていた。
この鉄橋はかなり大きく、ファミレスの窓からも小さく見えていた気がする。
波が当たって弾ける音が一方通行の耳に入り、彼は肩で息をしながら手すりへと歩く。

鈍い色の鋼の手すりを掴んで前を見ると、そこには巨大な川が広がっていた。
夜景も視界の両端に入り、風力発電のプロペラがゆっくり回転している光景が見えた。


「…………」


そのプロペラを見て何を思い出したのか。
彼は、手すりを掴む力を強める。


「……ねぇ」


「……」


そんな彼に、声をかける人物が一人。
彼は其方を向かない、向く必要が無い。
例え能力が無くても、声を聞き分けることが出来なくても、こんな時間こんな所に居る自分に話しかける人物などハッキリ分かる。

誰か分かっているからこそ、彼は無言を貫き、彼女は言葉を続ける。


「アンタさ、昨日爆弾魔に説教食らわせてたわよね」


ドックン!!

派手な音をたてて、心臓が跳ねる。
思わず胸辺りをきつく左手で掴んだ。
そこで彼はようやく、先程の不良への脅しのせいで服がズタボロになっていることに気が付いた。

彼の内心に気が付いているのか、気が付いていないのか、彼女は静かに続ける。


「その時俺みたいな奴がって言ってたけどさ……アンタは、自分で自分のことどう思ってるの?」


止めろ。

心中で彼はそう呟く。

だが、彼女にそれが伝わる訳も無く。


「私は、さ。アンタのことよく考えたら知らないのよね……だから」


(止めろ)


「アンタがどうして―――――」


(止めろ)


言葉は、紡がれる。



























「私に犯罪者の様な顔を向けるのかが分からない」








(――――――――)


『軸』が、ぶれた。

彼の根本たる何かが激しく揺さぶられた。
彼という存在を構成する何かが揺さぶられた。
そして、その余波は行動として出る。


「オイ。“御坂美琴”」


「ッ!?」


彼女が気が付いた時には、彼はすでに至近距離へと接近していた。
重力を感じさせない、軽い着地音が響く。
始めて彼が自分の名前を呼んだことに驚くが、そんなことおかまいなしに彼は言葉を続ける。


「なァ、頼むぜ。あンまり俺を困らせねェでくれ」


トン、と彼の手が彼女の左胸辺りを押す。
彼女は息を飲んだ。いきなり胸を触られるとは思わなかったからだ。
だがそれは、女性の胸を触るというものでは無く寧ろ―――――












「じゃねェと、俺はオマエを殺しちまいそうだ」




彼の心の闇が言うのだ。
彼女を殺してしまえば楽になれるぞと。
罪をいちいち考える必要もなくなると。
光と闇の境界で悩む必要もなくなると。


手に付いた血(罪)は取れないのだから、オマエはヒーローなどにはなれないのだから、闇に染まってしまえと。


彼女が彼の心に踏みこむ度に、彼の心はストレスによって其方へと傾きつつある。


「俺がちょっと触るだけで死ンじまう程人間ってのは脆い。だからよ、














俺に、オマエを殺させないでくれ」


だが、彼はそうしない。
ドンッ!と一際強く彼女を押し、自分から離れさせる。

よろめく彼女から視線を外し、彼は踵を返して歩いてゆく。

光の当たらない、夜の闇へと。








「……本当になんなのよ……」


訳も分からず、聞きたいことも分からなかった彼女は、どこかへと歩いてゆく彼の背中を見ながら、


「……ばか」


小さく、呟いた。






夜の街を風が駆け、それによってクルクルと風力発電のプロペラは回っていた。











後書き
最後らへん意味不明だな、と思った人はすみません。
でも、自分的には下手に長く書くよりも、こっちの方がいいと思ったので。

次回は知っている人は知っている、あの人の登場です。
……たぶん。
上条さんのことについては作品の最後で言おうと思っています。
ただ、先に言っておくと、上条(ヒーロー)はこの物語に登場しません。



チラ裏にて息抜きに書いている作品も見ていただけると嬉しいです。





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