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[20607] 【初投稿・習作】信ONをネタに書いてみた【VR物】
Name: ノミの心臓◆9b8a3f51 ID:ee8cef68
Date: 2010/07/24 22:24
数多あるVRMMO物が大好きで、自分でも書いてみた。

VR物多いけど1年2年更新ないのも多いですよね。
続き読みたいものが沢山あります。

文章書くのも初めてなので駄文です。
投稿しようとしたら、赤線だらけでした。
駄文なりに完結目指して、ぼちぼちやりたいと思います。
信長の野望オンラインをネタにしてるので、脳内補完してて分かりづらいかもしれません。
よろしくお願いします。



[20607] 序章
Name: ノミの心臓◆9b8a3f51 ID:ee8cef68
Date: 2010/07/24 22:19



――――信長の野心VRオンライン合戦場での一幕――――

街道沿いの小高い丘の陣をめぐって、激しい戦いが始まった。

敵の傾奇者(かぶきもの)が地勢操作で場の火属性を上昇させると同時に陰陽師達の攻撃術『火弾・壱』が降り注いでくる。
このゲームでは遠距離ほど低級の術に適性がある。
味方の陰陽師も迎撃に入っているが人数差で圧倒されている。
合戦が始まってから十幾度目かのの『孔雀明王法』を使う。紫煙の靄が大部分の炎を散らすが、僅かだが着実に『生命力』を削ってくる。
術の一斉射の後に敵の突撃が開始された。
鉄砲隊と陰陽師隊が射程の長いものから順に迎撃に入る
丘にいる分こちらの方が射程が長いし有利ではあるが、相手もさるもので、侍と鍛冶屋を前面に神職は補助を薬師は頭を下げながら回復に専念、前衛が弾や術を打ち払い、時には体に受けつつ、じりじりと前進してくる。

皆の注意が前方に注がれている中、後方で幾人かの叫び声が上がった。
忍者ばかりの別働隊がほぼ崖に近い側面を駆け上がってきのだ。

やや後方に近い所にいた自分は一人の忍者を相手取る。
忍者の動きがこれほどまでに厄介だとは思わなかった。
数値的には自身の1.2倍程の素早さだが、先手先手を取られ、防戦一方だ。
敵が安直に急所を幾度となく狙ってこなかったら数十秒で倒れていただろう。
『一喝』を放つ、レジスト判定・・・どうやら失敗したようだ。
『魅力』はさほどないせいだろう、1秒ほどのディレイがかかる。
首を狙い攻撃する。
クリティカル発生、血しぶきが飛ぶ。
瀕死なのだろう、背中を見せ逃げに入った。
追い討ちをかける。
攻撃術『凍気壱』こちらの術発動の早さに驚いたのだろう驚愕の表情を浮かべている。
こちらの後衛職を数人倒していった忍者達の一人をようやく倒す。


後衛職とはいえ、攻撃技能がない訳ではない、多数で囲み残りの忍者を駆逐していった。
しかし、被害も大きかった。この陣ではもう数少ない薬師が全滅した。『転生』は使用されたが、1時間ほど技能の使用不可及び身体能力が低下する。
『蘇生』が使える者がいなくなった事で踏ん切りを付けたのだろう。
「右陣先鋒撤退に入る。」この陣のリーダー格の侍が号令をかける。
後10分ほど耐え、忍者共の死体が消えるのを待つべきだろうが、欲をかけば撤退の時期を逸する可能性もあった。

敵も特攻した忍者を見捨てるつもりもないのだろう。
混乱した隙をつき、幾人かの敵が陣に取り付き乱戦になりつつあった。
その中に刀を持った巫女装束姿の女性もいた。
このゲームで徐々に有名になりつつあった敵国のエースだった。

この状況下での無理な撤退はさらに犠牲を生むだろう。
NPCを突撃を掛けさせPCが撤退する時間を稼ぐのが最近の定石のようだが、劣勢な国力・軍資金温存の為、この国では、PCから前衛の決死隊を募り、陣守備に有用な後衛職はNPCと共に撤退させる。
合戦の場合、個々の技量も大事だがNPCも含めた人数がより重要だった。
開戦から休憩を挟みつつ3時間ほど、比較的劣勢な人数でよく守った方だろう。
自分はあらかじめ決死隊への参加を希望していた。
どうせ後1時間ほどで今日のログイン時間は終了だった。
――明日は墓場からリスタートか。


怪我人は馬に乗せ先行させ、他は徒での逃走に入る。
敵の遠距離攻撃を打ち払いながらの逃亡戦。
殿の決死隊の面々が叫ぶ、

「そろそろ、いきますか」
「やべwwwいっぱいきたおwwwww」
「うちの軍師様使えないwwwwワロスww」
「ここの撤退で俺の知行領地陥落ww俺涙目ww」
「無双系!?そんなゲームじゃねぇからこれ!」
「これは敗北を意味するのか?否!始まりなのだ!」
「逃げちゃ駄目だ。逃げちゃ駄目だ。逃げちゃ(ry」
アドレナリン全快で頭がやられたらしい。

足を止め、振り返る同時に、準備していた技能を放つ。
『手裏剣乱射』・『大喝』・『大音声』・『乱射乱撃』、相手も心構えがなかったのだろう、大概がレジストに失敗している。
数瞬遅れて、残りの面々が首を取りに掛かった。
一気に乱戦になってしまえば、後衛も手が出しにくい。
お互いに庇い合いながら、距離をとられない様に、取り付いていく。

この国の精鋭だけはあり、こちらの倍する敵を討ち取った所で決死隊全滅と相成りました。






―――とある国境での会話―――

「やっと抜けたぞ。」
「なんとか全滅は免れましたね」
「半分以上がやられたのか」
「抜け道の敵は現状のレベルで狩るのは不可能ですね。殿はほとんど全滅だそうです」
「合戦場の様子は?」
「全ての先鋒が落ちたようです」
「もともと少ない人数をさらに割り裂いたのによく戦った方だ。我々もやるぞ!」
「残り制限時間1時間です。」
「では、敵国城下町に向けて出発する。狙いは『両替商』だ!システム的に殺せなかったら火を付けろ!」
「おおおおおおお!!!!」






以下、公式ホームページの『戦国週報』より

両軍が国境で激突する戦いが4つも発生した先週。
当然領土の変化は大きく、順位もかなり変動している。

先週注目だったのは国力・兵力共に相手国を上回っていたA国とB国の戦い。
下馬評どおり、A国の完勝かと思いきや、B国は進入不可能と思われた山を越え、
A国城下町に攻め入ったようだ。

幸い、少数だったようで、残っていたNPCで撃退したようだが、
門は突破され、両替周辺は徹底的に燃やされたそうだ。
A国GMによると「両替商に預けてある皆様の荷物と貫は無事です。」とのコメントを頂いた。
これはB国にとって誤算だったのではないか。

また、両替商については、現在、後任の育成に取り組んでおります。
しばらくは、他国でのご利用をお願いしますとの事だ。

この事によりA国は、国境より攻め入っていた軍を一時退いたようだ。

各国に驚きを与えた、今後のB国の戦術に要注目だ
今週は合戦が多い。 お正月ではあるが、のんびり出来る情勢とは言えないかもしれない。
これからの年末年始、諸将とも忙しくなると思うが、自国の情勢にも注意を払って欲しい。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
※火弾・壱:陰陽師の攻撃術の一つ。熟練度を上げれば十分実用レベル。射程が長い。
※孔雀明王法:僧の範囲術結界。制限時間が短い。
※転生:後衛職多数が使える怪我状態でのPCの復帰が可能。このゲームでは死ぬと一日のログインが終了する。
※蘇生:リスクなしで復帰可能な術。薬氏の特権。
※生命力:いわゆるHP。ヒットポイント。0になると死亡
※一喝・大喝・手裏剣乱射・乱射乱撃・大音声:基本痺れる術。大小ディレイがかかる。確立低~
※魅力:ステータスの一種。




[20607] はじまり
Name: ノミの心臓◆9b8a3f51 ID:ee8cef68
Date: 2010/07/24 22:24
あの伝説のMMO!信長の野心オンライン50年のときを経て、がバーチャルリアリティになってきて帰ってきた!

いつも通りの朝、いつも通り新聞を広げ朝食をとっていると、テレビからそんな大仰なCMがででーんと流れた。

「信長の野心オンラインか・・・。」

誰もが一度は耳にしたことはあるだろう、KOUEYの名作SLGである。
若い頃、信長の野心オンラインに嵌り、人生設計の大事な部分で躓いた経験があった。
今でも、たまに後悔する事がある。やってなかったらどんな人生だったかと。
今がそんなに悪いわけでもないが、何もかもが普通の人生だったなと晩年思う所がある。
あの時こうしていればとか、年をとる毎に考えてしまう。

「・・お迎えが近いせいかの。」

齢83歳、購買意欲というものが絶えて久しい。
発売日が今日というのも何か運命的に感じられ、胸にふつふつと滾るものが芽生えた。

「久しぶりに、遠出するか・・・」

婆さんにに先立たれ数年、独り言が多くなってきたものだ。

歩いて1時間の駅に着き、昔とは比べ物にならないくらい快適になった電車に乗り隣町のベター電気を目指した。
過疎に悩まされている町を観ながらふと思う。

―――潰れてなけりゃいいがな




 
無事、潰れず残っていたベター電気で商品を見せてもらう。
よくわからない長ったらしい名前の睡眠式VR用の高級筐体だと紹介された。
まず、その大きさに驚く、6畳ぐらいの部屋は余裕で、専有しそうだ。
値札を見ると中古車の軽ぐらいの値段はした。車検的なものまであるらしい。
田舎の家電屋におくぐらいだから売れ行きもいいのだろう。

店員の話によると若干小さめの汎用の物は既に売り切れていて、これが最後のひとつということだった。
信長の野心は睡眠式筐体専用のソフトで、予約なしで今買えるのは運がいいとのこと。

年金暮らしにはきつい出費を強いられたが、まぁ他に買うものもないしと踏ん切りを付ける。
家に取り付ける費用でまた諭吉が飛ぶ。

寝床の隣の仏間においてもらう。婆さん、すまん。
店員に手伝ってもらいユーザー登録を済ます。店員は何か問題があれば呼んでくださいといい帰っていった。
ソフトの説明書を開くとまず、でかでかと注意事項があった。
年齢制限18~65歳。若干の体力が必要なので安全の為ご了承くださいとのこと。
あまり体力には自信はないのだが、飛んでいった諭吉を思えば、今さらやらないという選択肢はなかった。

「ま・・棺桶を買ったと思えばいいかの。」

気持ちが高揚する。十数年ぶりにwktk(死語)しながら筐体に入る。
死ぬかもしれないからか?いやいや。

睡眠式という事だったが、どういうこだろうか、筐体の説明書を中で開いた。

「・・・電源オン。」

スタート、開始、筐体の中でならなんでも音声認識するらしい。
老人に優しい設計でなによりである。
自動でコクピットのような扉が閉まり、前面の3DTVからゲームのオープニングデモが始まった。
音楽は前作のOPの曲ををアレンジした物だったので、それはもう懐かしい気分に浸った。
プロデューザーは 渋過コウ というらしい。

「信長の野心VRオンライン。お買い上げありがとうございます。サーバーの始動は明日午後11時よりということになります。キャラクターの作成及び、操作の習熟はオフラインでも可能です。お客様は現在起床モードでのご利用なさっています。思考操作に若干の支障をきたします。一人称視点モードがご利用いただけません。信長の野心オンラインは睡眠式~(長ったらしい英語)~専用となっております。」

腰まで伸びた黒髪の見目麗らかな巫女服姿の女性が説明してくれた。

「キャラクターの作成及び初期設定は起床モードでも可能です。起床モードでのキャラクターの作成を開始いたしますか?」

手元のコンソールらしい物から、イエスを選択する。

いつの間に撮られたのか、画面に下着姿の自分自身が投影された姿が映し出される。
同年代の爺婆には、若いと言われるがやはり初老の域は過ぎつつある姿だった。
その他、設定すべきキャラクターシートが大きな画面いっぱいに並べられている。

「お手元のコンソール及び思考により操作可能です。容姿の設定には制限があり人間の姿より過度にかけ離れた姿にはなれません。キャラクターシートは格項目を二度選択しますと詳細が分かります。その他疑問がありましたら、お声をおかけ下さい」

容姿の設定を選択すると、アバターが前面に出て、横には細かい設定が表示されている。試しに年齢の項目をいじってみる。若くはなっていくが明らかに若い頃と姿が違う、これは手こずりそうだ。

身長は168体重55kg中背中肉、若くしすぎると、違う自分になってしまうので、60半ばで年齢の設定を終える。
あまりいじるつもりはなかったのだが、髪はもう少しとか、目元の皺がとか、気になってしまう。何度かやり直しつつ、納得のいく60代の頃の自分が出来上がる。多少、美化されダンディズムを漂わす感じになってしまったが・・・その頃のわしを知ってる奴が見ればわしだと分かる程度に収まっていると思う。たぶん。声の年齢も若くしておいた。

ようやく、キャラクターシートの設定に入った。能力値関係の攻略情報を調べておきたかったが。βの情報等、たかが知れてると思い、このまま続けることにした、何よりアバターの設定をもう1度やるのは勘弁して欲しかったからだ。
前作は後から救済措置も多々あったので、気楽にやるべきだろう。

初期職業は僧。紹介文:仏道を極めし者。仏となり味方を治癒し、仏道の術を用いて敵を倒し、兵となり攻防す。
用は万能職であり器用貧乏な職である。前作では七人徒党(パーティ)が基本の戦闘において一番、はずされやすい職であった。

僧の初期能力は
腕力4       木属性4
耐久4       火属性6
器用2       土属性4
速さ3       金属性4
知力4       水属性6
魅力4       

ステータスの説明をすると腕力は攻撃力に 耐久は生命力に 器用さは主に生産能力に 速さは全キャラの基本身体能力が1.00ならばこの場合となる1.03。
この基本身体能力は男性の体操選手並みに設定されている。レベルが上がれば超人並みの動きができるようになる。
知力は主にの攻撃術の威力や気合値の最大値に、魅力は特定技能の攻撃力や、耐久能力に、属性値は特定技能の攻撃力や耐久能力にかかってくる。

このステータス表だけでも僧の器用貧乏っぷりが分かろうってものである
これに、ボーナスポイント17を属性値以外に割り振り、以降、それに応じたステータスが上がっていくということらしい。

初期勢力、今川:勢力ボーナス耐久-1水属性+3

腕力6       木属性4
耐久3       火属性6
器用10       土属性4
速さ6       金属性4
知力8       水属性9
魅力4

なんだか苦労しそうなステータスではあったが、全く何も考えずに作ったわけでもない。
まぁどんなシステムか分からない以上、大はずれかもしれないが、昔の信ONではステータスが全てという訳でもなかったし、救済措置も多々あった。
どうしても戦闘で足を引っ張るようなら、職人にでもなろうと思っていた。

「決定かの・・。」


「キャラクターの名前が入力されていません」

微笑んでいる巫女様の声が心なしか冷たかった。




名前は前作の信長の野望オンラインと同様に設定した。

「名前は 小林 正巳 (こばやしまさみ)と。」

はっきりと覚えていた。大学生という大事な時期に5000時間はやりこんでいたのだから。

「小林正巳様ですね。名前の重複はありません、ご使用可能です。前作のプレイ経験がおありであれば、前作のIDとパスワードをご入力下さい。なければそのまま次へお進み下さい。」

パスワードなんか覚えてるわけがなかった。自動的に入力してるものだったからである・・・。

「前作をプレイしとったら、何か特典でもあるんかの?」

巫女様が微笑みながら説明を始めた。

「はい。ゲーム中、若干の特典があります。それはゲームバランスを崩すほどの物ではございませんのでご安心下さい。」

幾度のアップグレードがあったとはいえ、サービス終了から50年以上経つゲームなのでそういう物言いなのだろう。

「IDは HARAHETTA パスワードはなんじゃったかの・・・。」

巫女様の微笑に、忘れかけていた情熱が蘇りそうだった。

「パスワードを忘れた時の為の合言葉が設定されています。1~~~2~~~3あなたの旧姓は?4~~~5~~~。です。番号と設定された言葉をご入力下さい。」

巫女様が右手を上げながら表示された文言を説明する。

「3の旧姓で 小林」

安易な考えて得したの。

「はい。パスワードは●●●●●●となります。初期の持ち物の中に景品を送らせていただきます。またゲームを進めて行く途中でも特典があります。ささやかなものですので、過度な期待はないようお願いいたします。」

パスワードは学生時代に使っていたノートパソコンのパスワードと同じだった。
セキュリティ意識ゼロの頃とは恐ろしいものである。

「次の項目ではIDとパスワードの設定でしたが、このIDとパスワードは継続されますか?」

「イエス、と。」

「起床モードでの可能な事はここまでとなります。」

「今晩は初回起動時による睡眠モード使用時における注意事項の説明をを行います。規定によりゲーム開始以前に1度は受けていただかなければなりません。睡眠モードでご利用になれます。その後アバターの動作テスト及びゲーム内におけるチュートリアルを行います。現在午後9時です。このまま睡眠モードに以降いたしますか?」

 イエスを選択する。

座席が、介護用のベッドのごとく、自動で寝やすいような姿勢を取らせた
いい香りがすると思ったら、ものの10秒ほどで眠りに就いた。

「では、お休みなさい。良い夢を」

巫女様の心地いい声が聞こえた気がした。





[20607] はじまりはじまり
Name: ノミの心臓◆9b8a3f51 ID:ee8cef68
Date: 2010/07/25 22:23

次の日、朝起きると若干の気だるさが残った。この程度の疲れなら、若い連中は楽なものだろう。

取り説によると午後11時からの午前3時までの4時間の思考を加速させ、ゲーム内での主観時間を2倍に引き延ばす事が出来るのだという。
ログアウトの後、覚醒まで深い睡眠を取らせ、脳の疲れを取り、通常とほとんど変わらぬ起床を実現させるということらしい。
深夜の通販で、これで睡眠時間が半分に!とかいう胡散臭い物をやっていたが、その技術なのかもしれない。


ついつい熱中してしまい、主観時間においての8時間、時間制限目一杯、小学校の体育館程度の空間ででアバターの操作習熟を行っていた。
チュートリアルは1時間程度で終わり、後はいくらでもやってていいとの事だったので、戦闘の際の基本動作に費やした。

戦闘の基本は自動(オート)である。攻撃の意思をもって相手と対峙すれば、体が勝手に攻撃をしてくれる。
攻撃する意思、防御する意思、これらを戦闘中に維持するのが、存外難しかった。
ともすれば、じりじり下がって防御一辺倒の末、逃げてしまうのだ。
ダメージを受けてもせいぜい爪でかぐられた程度だと分かってはいても、刃物は本物の輝きを放っているのだ、恐怖を感じる。
そういった嫌悪をもよおす感情はゲーム内では多少緩和されているらしい。

練習に付き合ってくれたおっさんAIが言うには、コツは初動を少し自分で動かすつもりで考えていれば、大体狙った所を、思考を読み取りやりたいような攻撃してくれる。
防御や回避に関しては、危機回避の本能を信じて、目を瞑らない事だそうだ。熟練してくると自分で動作しているような感覚になり、それ以上は自分の技量次第とのこと。
それは一種の睡眠教育みたいなものなのかもしれない。
ある程度融通が効く様にはしてあるが、細かな機能のオンオフもできるので好きなようにカスタマイズしてくれとの事だ。



朝のうちに、少し体力をつけたほうがいいのかもしれないと思い、久しぶりに出歩いてみた。
老人ばかりの町内、日本の総人口7352万人、日本は緩やかに衰退を続けている。
最近では、豊かな労働環境を求めて!のスローガンの下、夜勤者には通常の5倍以上の給料を払う事が義務化された。
夜勤者とそれ以外とで統計を取ると寿命に10年ほどの差があることが、追い風となった。
今の時代、寿命をかけて高給を貰いたいと思う人も、それなりの人数しかいなかった。
この団体は、大概の事は、ロボットで代用できると、将来夜勤の禁止を求めて活動中である。



昼から、ネットで情報の収集を始めたが、βテストは数日で終了した為、全くといっていいほど情報はなかった。
もっとコアな場所のスレッドも観て回ったが、数十年ネット社会から離れていたブランクは大きく、もはや日本語の体をなしていないネットスラングから、何かを読み取ることなど不可能だった。

 

現在午後9時、11時に装置の起動をセットし、早めにVR装置の中で寝てしまうことにする。
しかしこの中、空調も完璧で普通ののベッドより快適に寝れてしまうの凄い。


ゲームのOPが始まる、睡眠モードでは初めてみる、天から見下ろす形で派手なエフェクトが飛び交っている戦場を飛び回る。最後に戦国武将らしい人物が勢ぞろいして終わった。

IDとパスワードを入力後、ゲームを開始を選択する。

夢の中で段々と意識がはっきりしてくるような感覚だった。。
舗装されてない広場、ビルに囲まれていない高い青空、正面には天守閣、日本風の庭園も見てとれた。
周りは、職によって様々だが基本灰色でボロい装いの、若い男女数百人がキャーキャーと騒いでいた。
髪の色は金銀蒼赤緑黒白なんでもござれだ。和風のゲームということで黒が若干多いだろうか。

広場中央のお立ち台に立っている女性が何やら印を結んでいるのが遠めに見て取れた。

「はーい。注目して下さい~。」

若干、間延びした声が拡声器ごしに聞こえた。

「皆様、こんばんは?おやすみなさい?この度は、信長の野心VRオンライン、ご購入ありがとうございます。私、この度、今川家担当のGM(ゲームマスター)となりました。高度AIの 有馬桜(ありまさくら) と申します。以後、宜しくお願い致します。」

2mほどの木製のお立ち台の上に、茜色に豪奢な絞りの花々を、風にそよいでいるように豊かにあしらった着物を着て、髪を結い上げている女性が立っていた。
周りから黄色い歓声が飛ぶ。

「皆様方のいるここは、駿河の土地、駿府城下の中堀になります。ここでは今川家幕僚下の方々が働いております。皆様方の身分は今川家の家臣の最下位もののふとなります。様々な方法で勲功を貯め、身分を上昇させ、義元様以下幕僚方々に献策をし、今川家を発展させ、軍備を整え、天下統一を目指しましょう。及ばずながら合戦の際は私も一兵卒として参戦いたします。今川家が滅ぶと私もお役御免になっちゃいますので・・・」

と黒髪の美女によよよよという風情で言われ、おおおお!!大丈夫だ!頑張ります!とか主に男性陣から歓声が上がる。

「もちろん、出奔し他家に仕えるも、商人として店を構えるも、職人として諸国に名を轟かす事も、諸国を旅する武芸者となるも、観光に勤しむのも各々の自由ですが、出奔すると1年は今川所領の兵に謀反人として追い掛け回されるので注意して下さいね。」

前作に比べても自由度は高くなっているようだった。

「私自身、プレイヤーの皆様のコミュニティに入り何か意見することはございません。身分が上昇する毎に皆様方の献策は今川家にとって重要なものになってきます。献策は出きる限り統一されたほうが大きな影響を外交・内政に与えます。その為、このゲームの花である合戦は半年程度は起こらない物と考えております。その辺りは、皆様方のコミュニティの形成次第という訳です。皆様方の多数の要望があれば、コミュニケーションを取る場を設けるお手伝いもさせていただくかもしれません」

コマンドで現在、城内にいるプレイヤーを検索してみる。総プレイヤー数783名。ゲームの初期出荷が10万ということだから、現在中部、関東しか実装されていない中では弱小勢力であることは間違いない。

「最後に注意事項を言って終わりたいと思います。駿府の城下町はおよそ半径2km、人口およそ1万人のAI搭載のNPCが日々の暮らしを営んでいます。AIはファジィに作ってはありますが、私よりは賢くないので過度なストレスを与えないようお願い致します。また、ご質問がございましたら、まずコマンドよりFAQをご覧の後、コマンド覧よりGMにメール及びボイスチャットでお願い致します。職業毎に初期クエストをご用意致しています。まずは、これをやってみましょう。では岡っ引きに捕まらないよう、よい信onライフを。」


そういうと壇上を降りて、城に向かって走っていった。またそれを数十人の主に男性プレイヤーがぞろぞろと追いかけて行くが内堀の門より先は通してもらえないようだった。

戦国時代に何故、岡っ引きがいるのかとGMにメールで聞こうかとも思ったが、一々突っ込むのも大人気ないと思い、やめておいた。

プレイヤーは思い思いにその場を去っていく。さっそく仲間を募っている人もいる。走って行ってるのはβからの連中だろうか、大概は和風な雰囲気を楽しみながら町に向けて歩いていった。

「ちょっと、そこのお爺ちゃん。」

周りを観察していると、先程から、こちらをじっと見ていた女性から声をかけられた。

「なんじゃ、お嬢ちゃん。」

年の頃は、20代後半だろうか、青黒い髪をショートカットにしている、凛々しい感じの女性だった。
水干をまとっていることから、後衛職だろうか、前作同様生足出しすぎだった。

「お暇してません?よかったら徒党組みませんか?」

「すまんが、今日は一日情報収集に費やそうと思っていてな。」

「あら、ならご一緒に情報集めいたしません?」

「あまり群れるのは好きではなくてな。」

多少、嫌そうな風にはっきりと断る。

「捻た爺だね」

先程までは余所行きの声だったのだろう。低音が耳に心地よい

「美人の申し出を断って、申し訳ないの。」

言うと女性は嬉しそうな顔をし、言った。

「そう。残念ね。では、またの機会を楽しみにしておくわ。私、服部阿修羅(はっとりあしゅら)陰陽師よ。フレンド登録していただけるかしら?」

「初対面でいきなりフレンド登録申請かね。」

「そう。私、中年以上の方が好きでね。お爺さんキャラはレアだから、キープしておきたくてね。」

女性は組んだ片手を頬に当て微笑を浮かべて言った。周りにいくらでもいる美男子をスルーしてる辺り、真性なのかもしれない。
そういうと手際よくフレンド申請を行ってきた。なんとも強引な女性である

「・・小林 正巳。僧じゃ」

そう言いながら、断れない日本人の性か、フレンド申請に了承の返事を返すと、挨拶もそこそこに去っていく。
しかし多少白髪はあるものの、中年といった風体にしてある。

「爺はないじゃろ、、。」

とポツリと漏らしながら、堀の傍の桜の木の下へ腰を下ろす。
しばらく初期クエストや地図を確認しつつ、風景を眺めていると後ろから声をかけられた。

「じゃあ、お友達になったことだし、自己紹介がてらお話でもしましょうか?」

「・・・あん?」

振り返ると、生足出した陰陽師こと、阿修羅が楽しそうに笑っていた。




[20607] はじまり×3
Name: ノミの心臓◆9b8a3f51 ID:ee8cef68
Date: 2010/07/26 21:50

前作でも駿府は常春だったが、ここもそうなのだろうか。春の柔らかな日差しが注ぐ桜の木の下で数十分、雑談に興じた。

「いい景色ねぇ・・」

城の中掘りといえど城下町より多少高い所にある、辺りを見渡すにはいい場所であった。

「まさに戦国時代といった景色だな。桜も好い按配じゃ」

若い男女なら、絵になろう場所ではあった。
―――美女とジジイではな・・。

「そうね・・なんだか色彩が日本と違うような気がするわ。」

「ふむ。空気の透明度が違うのかもしれんな。」
色が純色に近いと言えばいいのだろうか、春の景色ではあるが、夏の雨上がりのような輝きを持っていた。

なんでわしに声を掛けたのかと聞いてみる。

「最初はね・・・、ああ、私こういうバーチャルゲームって結構やっててね。こういうゲームって外装は美男美女の若い人ばかりなのよ。ちょっとレアな感じのお爺ちゃんを見かけたので声をかけてみただけよ。」

「そういうものなのか。まぁ、大多数の人間の願望であろうな。」

――わしは歳を取りすぎたのかもしれんな・・。爺に見られたくないとは思ったが、青春の頃のように若くなりたいという発想がなかった。
自分の外装はいい所、中年から初老未満という風体だと思うのだが、若い人にしたら、60代は爺なのかもしれないと思い至った。


「それにね・・・。なんていうか捻くれ方が家のお爺ちゃんそっくりでね。桜の木の下にいる哀愁漂う姿が哀れに感じられて、また声をかけちゃったって感じね。」

けらけらと笑いながら言ってはいるが、酷い言い草であった。
歳を取り、感受性が鈍っていなかったら泣いていたかもしれない。







「貴方、アバターの年齢だけ上げてった人?」

「さぁ、どうじゃろうな。」

「ふーん、じゃその外装はいじってないって事?」

「・・さてはて。」

あまり爺扱いを受けたくはないので、白髪交じりの髭を弄りながら、惚ける。

「いじってはいるけど、年齢はそのままって事かしら?」

「お主は若作りした口かの?」

「私は、ほとんどいじってないわね。本当よ。」

「まぁ、それが真実と知る術もなし。」

等と、若干不毛な会話が多かったが、人が仲良くなっていく過程等こういう物なのかもしれない。




しばらくして、風景を楽しんでいた人達も、町にくりだし、辺りの人もまばらになって来たところで、自己紹介会はお開きとなった。

「では、まず初期クエストをこなしつつ、手分けして情報収集にかかりましょう。」

半ば強引に徒党を組まされ、今現在は別行動中。
透過性のコマンドウィンドウから古びた地図を開き、町の中を散策中である。

「そういえば、特典とやらは何かなと・・」

アイテム欄を選択すると、


小さな葛篭箱(つづらばこ)×3:ランダムに価値5以上のアイテムが入っている。
引継ぎ知行品:貴方が懐かしむ事が出きる一品を。領地獲得時に自領にてお使い下さい。


所謂、月額無料のアイテム課金ゲーに在りがちな、景品くじという奴だろう。
信onは月額課金なのでこの手のアイテムの入手はクエストか何かだろうか。

腰の袋に手を突っ込み、手の平サイズの葛篭箱取り出す。
こういう物はさっくり空けてしまった方が、はずれを引いても、ショックが少ないのでとさっさと空けてしまう。

越後景虎×5:越後の特産大吟醸酒。価値14 酒類 売値時価
味噌煮込みうどん×10:岡崎の特産品。価値6 食料 売値時価
福豆×1:初期ステータスのうち属性がランダムで+1される。 価値25 食料 取引不可

最後の福豆は陰陽師なら喉から手が出るほど欲しいものだろう。
仮に水属性が上がれば、水属性値だけは今川の陰陽師とためを張れる、レベルが上がれば差が出るだろうが。

ここもさっくり食べてしまう。
結果は見事、水属性は+10となった、――出来すぎじゃな。
以後この初期値に則ってレベルが上がるごとにステータスが上がっていく。
知力も10にして、術主体で行くべきだったかと若干の後悔も沸いた。


『ぴんぽろぼーん。1件のメールが届きました。』

頭の中で声がした。

「開封。」
――で開くんじゃったかな・・・。
正面にウィンドウが開いた。

『阿修羅でーす。地図情報の共有機能があるようでーす。』

メールを開くと同時に地図も開かれる。
ほとんど建物の配置しか書かれていなかった地図に×印が多数書き込まれる、×印を指で指さすと、注釈ノートが浮かび上がり、茶屋、剣術道場等と書かれている。
リアルタイムで共有してるらしい。なんとも押し付けがましい機能である。

思考操作で返信文章を書いていく。

『では、わしは城から北を適当に調べていく。』

北を調べるのは、僧の初期クエストの受諾場所が北にあるからだった。
素っ気ない感じもする、まぁどうでもいいかと軽く返信する。
前作では女性からメールがきたら、1時間は文言を悩み、それから1時間を返信する時期を逸したことで返信すべきかを悩む純真ボーイだったのに成長したものだ。いや、もはや枯れてしまったのだろう。

目に付いた店は片っ端から入り、何の店なのかと声をかけ聞いていき、地図に書き込んでいく、不動産屋まであった。
地図は黄ばんだ和紙に墨で適当に建物らしき四角とが書きなぐられているだけなので、建物の間の路地やらは書かれていない事が多い。
大概は町民の住居らしく、鍵が閉まっており、ドラクエのごとく無許可でタンスを漁る事は出来なかった。
開く扉ないかなぁとガタガタやっていたら、一度不審者扱いを受け、見回りの兵士に職務質問までされた。。

右へ左へしながら方向としては北へ向かっていると、僧侶にとっての重要施設、寺院に到着した。
宗派はなんなのだろうかと、門衛に聞くと、「それは誰も知りません。」とのことだ。

寺前の受付で記帳した後、本堂東の別棟に案内されると、すでに何人かプレイヤーと思しき人達がいた。
10名ほど集まった所で、僧の偉い人。所謂、三官の序列3番目、律師の香織、30代前半と思しき、尼僧の人に、僧とは何たるかの説明を受けた。

「僧は回復、攻撃、補助、防衛と多岐にわたる技能を修得することができ、万能職と呼べる内容にっています。しかし、僧が修得できる技能はどれもクセが強く、同列に位置づけられる他職のそれらと比べると、技能単体としては物足りなかったり、使いにくいものが多いです。
そのため、僧の技能は、単体よりも複数を組み合わせて使う必要があり、満足に戦うためには自身の能力や技能を十分に理解し、臨機応変に装備や技能を組み替えていかなければならず、これが僧の難しさであり、また醍醐味にもなっているという訳です。」


その後、それぞれに技能目録を渡された。勤行、護法、僧兵法、仏の道、密教、芸道、の目録を渡された。
それぞれの名前の目録に2つか3つ技能が書かれている。

「コマンドから技能を選択すると、レベルに応じた数のスロットが表示されます。それに使いたい技能を実装することにより、使いたいと思考すれば、自動で使用が可能です。使えば使うほど、技能の熟練度が上がり、その技能の拡張性が上がります。また、上位互換といえる技能を覚える事もあります。」

律師はお茶に口をつけた。

「これで、一応一通りの説明は終わりましたが、何か質問があれば受け付けます。」

さっそくコマンドをいじくっているのだろう。前方を指先でつついている人、腕を組んで目だけで操作している人、ぼーっと思考操作をしたりする人、様々であるが多少シュールな光景だった。

「この目録では、技能の印の結びや詠唱が書いてありますが、仮に覚えて使用する場合ば実装しなくても使えるでしょうか?」

「良い質問ですね。答えは使えます。マスタートレースシステムを使わなくても使用は可能です。」

「では、マニュアルでの使用を習熟すればMTSの補助を受けるより速く使えるようになったりするのでしょうか?」

「それは、人それぞれだと思います。ご自分でお確かめいただきますよう。ですが、MTSはその名のとおり、達人クラスの技能を写しているシステムの事です。」

「ではスロットに入れるのは多用するものにし、入らないものはマニュアルで使用というのが正しい使い方でしょうか?」

律師は微笑を浮かべるだけで答えなかった。自分で考えろということか。

「護法にあるパッシブ技能は実装しなくては意味ないのかの?またパッシブ技能の熟練度獲得方法はなんであろうか?」

――とこれはわし。

「実装しないと効果がなく、基本的には実装し敵を倒すことにより上昇していきます。」

そう思うと枠が少ないように感じられた。

「技能の使用が制限される場所はありますか?」

「現在の所、ございません。」

「仮に街中で建物や人等に攻撃術を使ったとしたら?」

「大惨事ですね。ですが町民も各自、自衛いたします。」

「具体的にそういったプレイヤーはどうなりますか?」

「自国人の場合は、しばらく牢屋に入っていただきます。他国人の場合は処刑されるでしょう。ですので、街での攻撃術の使用は各種道場及び練兵場での使用をお勧めいたします。」

「では、少し長くなりましたので、まだご質問のある方は後ほどお受けいたします。」

そう言われて、まだ聞きたそうな面々も速く立ち去りたそうな面々も息をついた。

「これにて初期クエストのお一つが終了となります。皆様方には今川家所属の僧として、支度金10貫が支給されます。毎月給金も身分に応じて支給されます。給金の計算は大雑把に今川の総国力割る所属プレイヤーの総数掛ける身分となります。」

要は人数が少ない国ほど給金は高くなるということだろう。
律師は最後まで微笑を絶やさず答えていたが、最後の質問者を若干睨んでいる気がした。

さて次はどうするかと考えながら寺を出る。



『ぴんぼろぼーん。ボイスメールが届きました』

色んなメールがあるもんだと思いながら開封を指示する。

『お爺ちゃん、人にも分かるように地図の注釈書いて下さいね』

何か苛立つ事でもあったのだろうか、優しい声音の中に鬼が垣間みえた。










――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

※マスタートレースシステム(以後、MTS):思考を読み取り、自動で戦闘等を行なってくれるシステム全般の事。



[20607]
Name: ノミの心臓◆9b8a3f51 ID:ee8cef68
Date: 2010/07/31 23:50



町の地図への注釈を書き足しながら、街を練り歩くこと30分。
北西の一角にどうにも入り込めない、100m四方の区画がある。
民家で囲まれているらしく、どうしたものかと考える。
回りの民家を訪ねて回ったが、留守らしく返事もなく、扉も開かなかった。
取り合えず、地図には進入不可と書いておく。
粗方、城の北を走破したが、入れない区画も多々あり、冒険心を刺激される。
――時間帯によって入れたりするんじゃろうか。


その後、様々な道場が密集してある南西部に向かった。。
この辺りは阿修羅が真っ先に地図に注釈を書き足していった所だが、やたらと正確だった。
各道場にそれぞれの武器系目録を貰いに行く。
書かれていた技能は一つだけ、パッシブ技能、○○術手習い。○○には刀剣やら槍やら武器の種類が入る。
所謂、必殺技等はクエストでの入手や、自身で編み出して欲しいとのことだ。
鉄砲は鉄砲の命中率が、懐剣は素早さが、刀は若干の素早さと若干の腕力が、他は割愛するが、それぞれ熟練する毎ステータスが上がっていくことになる。
その系統の装備品とセットでないと効果がないとのこと。
武器の種類は、鉄砲、棍棒(釘バット系)、棒、杖、刀剣類、懐剣、槍、弓である。特に職による装備制限は存在しない。
道場で鉄砲以外の武器の貸し出しがあったので、そこで一通り試してみることにした。



棒術道場の外で藁製のかかし相手に時間を過ごしていると、100m四方はある道場内の一角で何やら人だかりが出来ているのに気づいた。
どうやら模擬戦が始まるようだ。
棍棒を持った鍛冶屋と刀を持った侍の試合。
対人戦というものが、どんなものかと興味をそそられ人だかりの一人となる。

「始め!」

道場のおっさんNPCの立会いの下、試合場所の対人戦闘が許される。

「うおりゃああああああ!!」

「いやああああああああ!!」

剣道の試合のように気勢を発しつつお互いに間合いを計っている。
長くなりそうだなぁと思いつつみていると、動きがあった。
侍が大上段に振り下ろしたのを鍛冶屋が棍棒で受け、返す棍棒で胴を払った。
侍は3mほど吹っ飛ぶ、追い討ちをかけてきた鍛冶屋の棍棒をなんと腕で受け止めた。
片腕がポッキリと吹き飛び、千切れとんだ腕は地面で雪が溶けるように霧散する。
侍は腕を吹き飛ばされつつも、片手で逆手にもった刀で鍛冶屋の首を脇をすり抜けるように切りつけた。
リアルだったら首が飛ぶような入り方だったし、事実、刀も首を抜けたのだが、首は血しぶきの変わりに血が滲んだような状態になっており、頭はちゃんと胴体とくっついていた。
鍛冶屋は振り返り、遠心力でもっていった棍棒で侍の背中に当て、侍は派手に吹っ飛んだ。

「そこまで!勝者神宮寺かえで!」

侍は無くなっていたはずの手を付いて、何事もなかったかのように立ち上がり、両者礼をして終了となった。
周りからぽつぽつと拍手が送られていた。
技能がない対人戦はゲームで言うとブシドーブレードのようなものなのかもしれない。
―――ちょっと古すぎて分からないかもしれないの

1対1の対人戦の鍵は思考の早さだろうか防衛本能の強さだろうかMTSへの親和性だろうか、果ては心の強さか、、。しかしゲームなのだから、そういった物が弱い人でも工夫でやれるような物であるべきだろうとは個人的には思うのだが、さてこのゲームは果たしてそのあたりのバランスをどうとっているのだろうか。

「戦闘ログを表示」
ウィンドウが表示される。

『山下五郎の攻撃・・・神宮寺かえでは受け止めた。
 神宮寺かえでの攻撃・・・山下五郎は3のダメージ。
 棍棒によるノックバック効果上昇発動。
 神宮寺かえでの攻撃・・・山下五郎は13のダメージ。
 山下五郎の会心の一撃・・・神宮寺かえでは28のダメージ。
 神宮寺かえでの攻撃・・・山下五郎は17のダメージ。
 山下五郎は死亡した。                  』

RPGによくありそうなオーソドックスな感じのログだった。基本、首を飛ばされようが心臓を貫かれようがHPが0にならないと死なないらしい。
侍の胴に派手に入った一撃は3しかない、これは初期装備とはいえ鎧の上からだったせいかもしれない。
もしくは打撃系は鎧にすこぶる弱いとかもあったりするのか。
首への一撃は会心の一撃らしい、あれで侍は勝ったと思っただろうが、鍛冶屋は耐久が高いおかげで生き残ったのかもしれない。
最後の鍛冶屋の攻撃も鎧の上からだったと思ったが、背中に補正でもあるのだろうか等と色々考察を巡らせていると、次の戦闘が始まった。


『ぴんぼろぽーん。着信です。』

「受信。」

ぶちっと昔のアナログ回線が繋がったような音がした。

『もしもーし、阿修羅でーす。お爺ちゃん元気ー?』

声が若干電話越しのようにノイズがかって聞こえる。

「さっきまで元気じゃったがな、何かようかいな?」

次の対戦を見学中なので、ぼそぼそと喋っているのだが、ちゃんと声を拾ってくれているようだ。

『んーとね。ちょっと手伝って欲しいクエストがあってね。』

「なんじゃ?面倒くさいのは勘弁じゃ」

『お爺ちゃん、そんなに偏屈だと、友達できないわよー?』

「三つ子の魂100までじゃ、もはや直るはずもない」

『まぁ自覚があるんならいいけど、で内容なんだけど、模擬対人戦を3戦やると好きな初期武器が貰えるらしいのよ』

「ああ、だからやけに道場が混んでおる訳だ。」

周りで見学している人たちも、自分の番を待っているのかもしれない。

『クエスト情報メールに添付して送っておくから、受けたら一緒にやりましょうよ。』

「かまわんが、さっきまで、道場巡っていたんじゃが、どこも混んでおったぞ。」
―――今もいるんじゃがな。

『んーそうね・・・。城の練兵場なんか穴場じゃないかしら、あそこは立ち会ってくれるNPCも沢山いたようだったし。』

「ふむ。今から向かっても・・・そうじゃな、20分はかかりそうじゃ」

クエスト情報が送られてきたのでそれを見ながら答える。両替商前のNPCから受諾可能ということだ。

『私もそれぐらいはかかりそうね、今12時半ばだから、13時ちょうどに練兵場で落ち合いましょう』

ゲームが開始されたのが、ゲーム内時間で午前8時だから、なんだかんだで制限時間半分が過ぎている。

「あい、分かったよ。」
了承の意を示し、通話を終了する。

――さて、両替、両替と・・・。
持っていた武器を返品し、道場を後にした。


両替前のNPCこと、物知り爺に声をかけましたら、
「お主レベル1のひよっこじゃな。・・・ならば誰でもよい模擬戦で三勝せよ、さすれば、大した物ではないが、わしが現役だった頃の武器を一つやろう。不正を行なえばこのクエストは失敗となる。監督がいることを努々忘れるでないぞ。」
とのことで、クエストが開始された。

「不正とは具体的にどういったことかの?」

「わざと勝ち負けを決めてかかることだ」

「それはどうやって判断するんじゃ?」

「監督は長年の経験から限定的に戦意を読むことが可能となっておる。偽証は不可能と知れ。」

後衛職には大分辛いクエストと思われた。
しかし、相手は陰陽師、術による戦いが主体である、接近戦に持ち込んでしまえば、こちらが相当有利なはずだ。
茶屋で買った団子を食いながら城に向かった。


城の中堀の練兵場は割りと空いていた。
広い敷地でちらほら戦っている人達もいるが、道場のように待つほどに混んではいないようだ。

NPCに武器を借りうけ、しばらく、かかし相手に術や武器の練習していると、阿修羅が外堀の橋を歩いて渡ってくるのが見えた。

「三戦じゃなく三勝じゃったな。」

「ああ、ごめんなさいね。実は人づてからの情報を間違って聞いてたみたいでね。私もクエストをさっき受けたばかりなのよ。」

阿修羅は、何故か心底申し訳ないといった風だった。

「負けたほうは、また他の人を当たるしかないようね、まぁ人気のクエストみたいだから、戦う相手はすぐ見つかるでしょ。」

「どちらとも3勝になるまで、やればいいのではないか。」

「ああ、そうね。うん、そうすればいいんだけどね・・・。実力に差があるとどちらかが一方的に負け続ける事もあるじゃない。」

手加減できないんだし、と何やらお茶を濁す風に言った。

「なるほどな。しかし職業的にな、陰陽師に一方的に負けるわけにはいかんじゃろて」

「このゲームで戦うのは初めてだけど、私も負ける気はさらさらないからね。」

NPCから、刀を借り受け、微笑みを浮かべながら、武器の具合を確かめるように数度振っていた。
その姿はやけに様になっていた。



[20607]
Name: ノミの心臓◆9b8a3f51 ID:ee8cef68
Date: 2010/07/31 23:59


「刀を使う陰陽師か・・・ネタなのかの」

刀を腰に差し、どこから調達したのだろうか、赤い水干姿の陰陽師というのは実に様になっていた。

「お爺ちゃんの獲物は?」

「これじゃ。ただの棒切れじゃな」

長さ2m弱の手で握るにはほどよい太さの木の棒だった。
普通だったらこれで刀を受けたりしたら、さっくり斬られるのだが、その辺はゲーム補正がかかっている。
借り物だからか、アイテムのステータスは見れないらしい。

「ふーん、リアルで棒術の達人だったりするの?」

「いや、全くの素人じゃ、刃物を人に使うのは気が引けてな。」

棒術手習いのパッシブ技能の能力は腕力と知力の弱上昇、人気の出る武器ではないだろう。

「へぇ。お優しいことで、、。しっかしこれスッゴイなまくらね。」

阿修羅は怪しい微笑を浮かべて、刀身が70cm程の刀を見つめながら言った。

「竹光なんじゃないか」

「いえ、一応刃はあるみただけどね。」

場内片隅の白線がある場所まで進み出る。

「両者、準備はよいか?」

おっさんNPCが声をかける。

「ええ」

「いつでもよいぞ」

10mほどの距離をおいて対峙する。

「始め!」

刀を持っているとはいえ、術を警戒して早期決着を目指した。
距離を詰め、刀を片手で下段に構えている阿修羅に、渾身の突きを放つ。
紙一重でかわされ、そのままスルスルと歩きながら距離を詰められ、ゆったりとした動作で刀を振り上げ斜めに振り下ろしてきた。
首を狙われていると感じ、咄嗟に棒を引き上げ受けようとする。
すると、切っ先が若干変わり、右の手首を斬られた。
陰陽師ゆえ、たいした攻撃力はないのかもしれない、手はまだ腕に残っていた。

「あら、切れないのね・・。」

戦闘中に言葉をかける余裕すらあるようだ。
そのまま受けようとした棒を間近にいる阿修羅に振り下ろす。
これもまたするりと紙一重でかわされる。
その瞬間今度は本当に首をスッパリと斬られた。
一瞬ゾクリとするが、首はまだ落ちていない、まだ死んでないと思い、横に棒を振り払おうとした。
すると、阿修羅は首を切った返す刀で右の手首を・・・最初に斬った場所を寸分違わず斬りつけてきた。
遠心力で棒が手首ごと飛んでいった。

「今度はちゃんと切れたわね。」

そう言うと、阿修羅はわしの脳天に刀を振り下ろした。


「勝者!服部阿修羅」

そう言われて、阿修羅は脳天から胸の辺りまで切り裂いて止まっていた刀を引き抜いた。
血は付いていないのだが、血のりを払うような仕草をしていた。

半ば呆然としていた。

「お主、MTSを使っておらんのか?」

頭の斬られた部分と首を撫でながら聞いてみる。

「ええ。変な癖ついたら嫌だしね。」

「・・天才剣道少女というわけか?」

「惜しい。天才剣術オバサンね」

「本当は、4、50歳だったりするのかの?」

「・・・天才剣術お姉さんにしとくわ。」

その辺は微妙なお年頃なのか、訂正が入る。

「MTSは全く相手にならないと言う事かな?・・・。」

「そんな事ないわよ。最初の突きだって、現実だと心臓も抜いちゃうような鋭さだったしね。ただ、使ってる人が素人だから、怖くないのよ。」

「達人クラスなのは、見せかけだけか・・」

「んーどうかしらね。攻撃面だけ言えば、思考を複雑化できれば結構脅威かもしれないわ。素人さんの突発的な行動でやられちゃうプロなんてごまんといるでしょ。」

「防御面では?」

「全然駄目ね。思考を読み取って受けるにせよ避けるにせよ。素人の思考じゃ力加減ができてないもの。それをすかされたら終わりだし、それに最小限に避けて次に繋げるのが大事なのよ。家(うち)の流派じゃ。」

「武術家は先読みがある程度、できるとは聞いた事があるが、そういうものか?」

「そそ、それが出来ると一流の武術家ね。それがあるMTSだったらいい勝負できるかもしれないわ。何かかじったことあるの?」

「漫画に描いてあった。」

「お爺ちゃん・・・・」

多少呆れた風だった。

「だから、ちょっと悪いなって思ってるのよ。わざと負けるのが駄目なんて知らなかったからね。」

ヒントを多々貰い、対策を色々考えてみる。
思考でコマンドを呼び出し、技能の実装を多少変更し、システム面でも変更すべきものは何かないかを考える。。

「別にかまわんぞ。面白い経験をさせてもらった。天才剣術おばさんなんぞ、見たこともなかったからな。」

ピキッっと空気が凍った気がした。
偶然だろうか、つむじ風が周りの砂を巻き上げる。

「いや、自分で言っt・・・・・・・。すまなんだ・・。」

にっこりと阿修羅が微笑んだ。

「まぁ、でも諦めてないみたいね。」

「わしはゲーマーなんでな。裏道を探すのが好きなんじゃ」

「あら、私もそういうの分かるわ。普通にやってたんじゃ面白くないものね」

――お前さん自身が規格外じゃしな。

「準備できたぞ。待たせたな。」

何も超人的な動きをする訳ではない。
どういうステ振りをしているかは分からないが、今現在ならばそう差はないはずだった。
悩んだ末、MTSのシステム面は触らないことに決めた。今さらこれなしではどうしようもない。

「始め!」

NPCの号令と共に棒を横に投げ、両手で印を結ぶ。片手でも結べるのだが此方のほうが精度が高く発動も早くなる。
今度は向こうから距離を詰めにくる、歩方に差でもあるのか、あっという間に距離を詰められた。
印を結んだ手を狙っている。特に避ける気もなく。そのまま受ける。
今度は一発でで腕を斬り飛ばされる。しかし問題なく術は発動した。
「罰当たり・壱」
【罰当たり・壱】数度で壊れる結界術である。受けた近接ダメージと同等以上のダメージをそのまま相手に返すという、前衛職泣かせの術だ。
この結界をリスクなしで破るには忍者の技能及び、遠距離物理攻撃で何度か叩けば割れる。
更に、ない腕で片手印を結びつつ、片手で棒を拾う。
術の効果を知っていて、攻めてこないのだろうかと考えていると、

「なんで一撃で腕が斬れたんだと思う?」

戦闘中に暢気なものだった。

「さぁ・・分からんな。会心の一撃でも出たんじゃないか。」

【気合】ゲージと【生命力】を簡易ステータス画面で確認しつつ、返答する。

「んー、ああそうね。ちょっと気合入れて斬ったからね。そういうこともあるかもね。」

その気合とやらは、単に気合なのか、ゲームシステム的な【気合】なのか気になるところだった。

今度はこちらが先手を取る。当たらないことを前提に考えておけばよい。
要は複数の敵を相手にしている心積もりでいれば、思考もばらけてくれる。
2分の力で攻撃を繰り返しす。間合いはこちらが長いのだ無理をせず切っ先が当たるか当たらないかの距離で突きを繰り返す。

相手も、決して超人的な動きをする訳ではない。だが当たらない。

「ちょっとはよくなってるわ。」

と言うと棒を刀で上に払い距離を詰め、前に出していた足に斬りかかってくる。
斬られると同時に結界もパリィンと割れるが、相手も同じ箇所から血が噴出す。それに少し動揺しているように見えた。
――1撃で壊れるか、熟練度0だしなぁ・・

「渇ぁアアアアアアアアアアアアッツ!!!」

僧の技能【一喝】である。叫べば機能する点がお得感はあるが、一々うるさい、人気が出ない事は間違いないだろう。
レジスト判定・・・・失敗したようだ。幾秒かのディレイがかかる。
全力で突きを放つ。
すんでで効果がきれたようだ、手で棒を払われたが、ダメージ判定はあったはずだ。
「紅蓮・壱!!」
そのまま態勢を崩している相手にぶつかりそうな状態で先行入力していた術をない腕より放つ。
いきなり目の前に現れた火の礫はさすがに避けれなかったらしい、刀で庇ってはいるが、初めてまともに当たった。
自分から飛んだのかもしれない、5mほど火の粉を散らしながら吹っ飛び倒れる。

まだ監督NPCが勝者を宣言していない、陰陽師ゆえ、属性値が高いおかげで命を拾ったのだろう。
もうお互い瀕死のはずだ・・お互い後一撃でも喰らえば死ぬだろう。

何故か阿修羅は倒れたままだった。
地面に棒を突き立て、落ちていた石を拾い、思いっきり倒れている阿修羅目掛けて投げつけた。
倒れたままの状態から、刀で石を切り払った。
「性格悪いわよ!?」
――狸寝入りしていたお前さんに言われたくない。恐らく近寄ったらばっさり斬られたのかもしれない。
その隙に距離を詰め、相手の射程外から棒を投げつける。
さすがにこれも切り払われたが同時に投げていた石を腕に喰らっていた。

「勝者!小林正巳!!」

監督の声が響いた。

「石は二つ拾っておくもんじゃな」









――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
※罰当たり:相手に受けた近接ダメージと同等以上のダメージを返す。気合回復効果弱上昇効果。気合消費30%
※紅蓮・壱:僧の基本火属性攻撃術。火の礫を放つ。気合消費50熟練度上昇毎に上がっていく。
※生命力:ヒットポイント的な物
※気合:マジックポイント的な物
※一喝:相手の動きに極短いディレイをかける。気合消費10%。 

気合消費とか適当です。



[20607]
Name: ノミの心臓◆9b8a3f51 ID:ee8cef68
Date: 2010/08/02 19:49

白髪混じりの爺が赤い水干姿が艶やかな美女を棒で打ちのめしている姿は傍からみるとシュールな光景だろうなと感想を抱いた。
「ここは、現実じゃない。ゲームの世界じゃからの。わしにも勝機があった訳だ。」

その後も、勝ったり負けたり負けたり負けたりしながら、36戦目、ついに3勝を果たした。
今は、堀沿いの桜の木の下に腰を下ろして休憩中である。
「まぁ・・過剰な自信だった事は認めるわ、、。でもなんだかやたら疲れたわ・・・。」
そういい、座りこける事実、模擬戦では段々動きが悪くなっていた、顔色も多少悪いように感じる。
ゲーム内で肉体的疲労を感じる事はないはずだった。


「お主、飯は食ったのか?」
もしやと思い聞いてみる。
「ちゃんと、食べて寝たわよ。」
「いや、ゲーム内での話じゃ。」
「ああ、もしかして、お腹が空いたらペナルティとかそういう話かしら。」
前作では腹ペコ状態になると気合値減少、気合がなくなると生命力減少、最後には死んでしまう。
レベルカンスト状態だとお前どんだけ食ってんだよと突っ込みたくなる量を一度に食べる。
今作でも同じシステムを採用している可能性があった。


「ステータスを確認してみるんじゃ。」
「コマンド呼び出し、状態表示、、、なんだか真っ赤ね。」
今は怪我の状態と同じくステータスが減少しているらしい。
何も食べるものを持ってないらしいので、アイテム欄にあった味噌煮込みうどんを具現化させ差し出す。ご丁寧に割り箸まで付いていた。
「ありがとう・・・美味しいわね。これ。どこで売ってるの?」
ずるずると食べながら阿修羅が言う。
「岡崎の特産らしい、流れの商人から手に入れたんじゃ。」
適当にごまかしておいた。
――これは美味い・・・もうやらんぞ。

「ところで、いつから調子が悪かったんじゃ?」
「最初からよ」
その状態で連戦連勝された身になって欲しい。
万全な状態だったら全く勝ち目はなかったという訳だ。
「まぁ、今でも現実の私には程遠い身体能力だけどね。」
「基本身体能力は成人男性の体操選手並と聞いたことがあったんじゃが、間違いじゃったろうか阿修羅さん・・。」
「・・・程遠くはないわね。でもまぁ重しを付けてる感覚はするわね。」
どんな肉体をしているのやら・・・、家は古武術の継承者の家系とのことだ。
「自分が修行してきたものが、どれだけ実践で使えるか、気になってしょうがなかったのよ。」
まぁ実践じゃないんだけど、いい勉強になるわと阿修羅が言う。
ある物は使いたくなるのが人間の性分というものだろう、それ故に武術家は心の鍛錬もする。
「脳天からバッサリはなかなか体験できんじゃろうしな。」
そう、あれは気持ちよかったわ!刀を振る素振りを見せながらとけらけらと笑っている。

お互い味噌煮込みうどんを食い終わり、街を出る為、南門を目指すことになった。
この街は古代中国の町のごとく、城下町はぐるりと城壁で囲まれおり、町を出るためには城壁を越える必要があった。


「でも、手がなくても術が使えるなんて卑怯ね。」
「現実でも手や足がなくなると幻肢痛にかかるだろう、ようはそこにあると思えばいいんじゃよ。ここは思考か脳波かしらんが、それをプレイヤーからの入力にしておるんじゃからな。」
「そうはいっても、ないんだから出来ないと普通の人は思考するでしょうよ。そうじゃないと回復職の立つ瀬がないし、前衛は後衛の術の中断をできないと若干、不利な気がするわ。それに無いほう手はMTSの補助は受けれたの?」
納得できないと言った風に阿修羅が言う。
「受けれんかったな。だからマニュアルで術印は組んでおった。」
「マニュアルって・・・もう覚えてるの?・・・まだ初日よ。大概規格外のお爺ちゃんね」
阿修羅が呆れたように言う。
――お前さんにだけは言われたくないわい。
「それに、最初から避ける気がない時があったわね。MTSはオフにしたような感じでもなかったし。あれはどういうこと?」
「別に、単に避ける気がなかっただけじゃ。MTSは思考を読み取って動作するんじゃからな。」
「刀に斬りつけられてるのよ?・・普通反射的に避けようとか考えるものでしょう?」
「大して痛くもないものを、なんで避けないといかんのじゃ。」
「・・・胆力だけなら武術家並ね。」
――単に歳とって感性が鈍っただけなんじゃろうな。


そうこうするうちに、南門の前の100m四方程度の広場に出た。
この周りには一際大きな建物の両替商屋と長椅子が数十個は並べられ、もくもくと煙を吐き出す茶屋があった。
この辺りだけで百人以上のプレイヤーがいるのではないだろうか。

「薬師様募集!!メールよろー」
「巫女様限定募集!打倒!鼠!」
「なんでも募集@6~~~!!会話ログよりメール下さいー!」
「前衛募集@2~~!!両替3番口前でー」
「薬師様かいなかったら僧で~~~!!」
「薬師様優遇~!次点僧!募集~」
「神職様募集~できたら巫女でー!!」 
「前衛募集~@3~!茶屋32番席にてー」

いたるところで、徒党員募集の大声があがっている。
初日から酷い言われようの僧であった。
このゲームでは死ぬと持ち金半減、経験値減少、一定時間経過で今日はログアウトという凶悪な仕様である。
死亡からノーリスクで復帰するには、基本的に薬師の【蘇生】が必要だ。
僧は【転生】という技能により復帰できるのだが、1時間の怪我状態に陥る。
熟練すると怪我状態の時間も多少は短くなるのだが、この技を使い続けるのは結構大変だったりする。
怪我状態での【転生】では熟練度は上がらないからである。
また、神職も転生と似た技能を得れるのだが、ある条件が必要であり、現状で使える人はいなかった。



「どうするんじゃ、二人で外にでるのか?」
「そうねぇ。まぁちょっと出るくらいなら問題ないでしょ。」
途中で物知り爺にクエスト完了の報告をしに行く。
「よくやった!。ではわしが、現役の頃の武器をやろう選ぶがよい!」
とウィンドウでアイテム一覧が表示され、一つだけ取引可能との文言が表示される。
棍+3とやらの棒武器を選び終了となった。
「あれだけ、苦労してその辺の店で1貫で買える武器+3とな・・・。」
「楽しかったからいいじゃない。それにNPC店は相当割高って話だし。」
阿修羅も同様の作業をしているようだった。
――楽しかったのはお前さんだけじゃい。
茶屋にて、おむすび、水、団子を購入して、門よりの外壁の外に出る。
外に出ると街の騒音はシャットアウトされるようだった。



「ねずみだらけね。」
5m四方に一匹はいるだろうか、体長1mほどの【化け鼠】だらけだった。
特に門前に集中しているようだったが、襲ってはこないようだ。
「静かすぎるな・・嫌な感じがするわい。」
鼠の鳴き声しか聞こえず、どういう訳か、プレイヤーが一人も見当たらない。
「少し出遅れたかしらね。」
「いや、徒党の募集もまだ結構あったはずだ。離れた場所にオイシイ敵でもいるのかもしれんな。」
あれこれ喋っていると、一人の侍と思しき男性が門より出てきた。
侍は自分等の脇を通り抜け、少し街道を進んで行き、鼠を刀で攻撃したようだ。
するとどうだろうか、その鼠を中心に10mほどの範囲にいる鼠が侍を襲っていく。
さらに襲った鼠から10mの範囲の鼠がという風に、次々とリンクする。
最初の1匹を倒した侍は2匹目の突撃を受け、2匹目を振り払っている間に3匹目の爪による攻撃を受け・・・。
最終的に20匹ほどの鼠に埋もれていった。


呆気にとられその様子を見ていた。
「いや、、聞かれたらちゃんと忠告するんですけどね・・。それまでは黙っておくように言われてまして・・。」
突然NPCの門衛その1が気まずそうに喋りだした。
「大変じゃのぅ・・・。」
「面白そうね!」
「本当はもっとばらけてるんですけどね・・。西門の方は問題ないって聞いてますし、」
最初にトレインしまくって門に逃げ込んだ人がいまして・・・と門衛その2。
それ以降、南門から出て鼠を叩く人達はみんな門に逃げ込んでいるか死んでしまったとのことだ。
どっちにしろ、最初からリンクモンスターとは意地が悪い運営だと思う。


「すいませーんっ。蘇生か転生もらえますかー!?」
鼠の山の中から亡霊姿の侍の切ない声が響き渡った。







――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【化け鼠】:するどい爪と牙が攻撃手段。数mの距離を飛び掛ってくる事もある。リンクモンスター





[20607]
Name: ノミの心臓◆9b8a3f51 ID:ee8cef68
Date: 2010/08/07 19:48

時間を確認すると現在15時03分、日はまだまだ高く、海と街道を照らしている。
「転生じゃがかまわんかの?」
「はい、もちろんです。」
わしは両手で印を結び術を行使する。
「ありがとうございます。」
「お爺ちゃん、全部の術印覚えてるの?」
「説明書は読み込むタイプなんでな。」
「呆れるわ……」
「私、若木 新之助(わかき しんのすけ)と言います。このご恩はいずれ…」
若干、時代がかった風に言う。
「かまわんよ」
侍はそう言うと一礼し町中に去っていった。
そういったやり取りをしてる間も、順にやってきた二つの徒党が半ば壊滅状態で門に逃げ込んで行くのが見受けられた。


「なかなか、美青年の上に好青年じゃったな。」
「個性がないっていうのよ。」
「辛口じゃのぉ…。そんなんじゃから行き遅r……ごほん。」
阿修羅の微笑に気おされ言いよどむ。


「さて、いっちょやりますか。」
「お主は大丈夫かもしれんがな。わしは、死んでしまう。」
徒党を組んでいるのだから恐らくわしも同様に襲われるだろう。
「お爺ちゃんなら、なんとなく大丈夫な気がするわ。それに、早くしないとそろそろ他の徒党に倒されちゃいそうだからね。」
先程の二つの徒党も協力し合えば、やれない事はなかった。
何せフル徒党で7人、全部で14人もいたのだ。
死んだ時のデメリットが大きいので安全マージンを多く取っているのかもしれない。


「お主、目録に【炎槌】があるじゃろう。それを…いや【氷槌】の方がよいな。一応、今川の陰陽師であるしな。」
どうせ反対しても阿修羅は強行する気だ、わしは少しでも生存率を上げるべく言った。
【炎槌】【氷槌】共に武器に属性を付与する術だ。
わしは前作とかなり似通ったこのゲームにはそれらの術があると推測した。
「覚えてないわよ。沢山ありすぎて……。」
「付与系だけでも覚えて使ってくれんかの、逃げ場がないぐらい襲ってくるんじゃ、殺しきれんかったら、少なくともわしは死ぬ。」
「まぁいいけど、初めて使うんだから期待しないでね。」


わしの頼みを聞くになったのか、阿修羅は、技能のマニュアル操作が写ったウィンドウ横目に、数分かけて印を結び、術の行使に入る。
「わおっ!できたっ!凄い!」
青黒いオーラを纏ったわしの武器を見て阿修羅は言った。


「この分だと戦闘が始まってからは使えんじゃろうな……自分には使わんのか?」
「また時間かかってお爺ちゃんの付与切れたら面倒だしね。まっ そのうち練習しておきます。」
そういうとさっそく鼠を斬りにかかって行く。
「ちょっと待て、何もこんなド真ん中で、はじめんでも!」
周りの鼠が、一斉に後ろ足で立ち上がり、赤い目を光らせこちらに向き直る、そしてワンテンポおいて走ってくる。
後続も同様に・・・それが延々と続いていた。


「あらら、額抜いても死なないのねぇ…どこか弱点ないかしら。」
阿修羅はどこか楽しそうに、四方八方から飛び掛ってくる鼠をひらりひらりと避けると同時に斬りつけている。
阿修羅が2、3度斬りつければ【化け鼠】は死ぬようだった。


わしの方はそんな器用な真似は出来るはずもなく、突っ込んできた所を叩き落し続ける。
一応、棍+3と【氷槌】のおかげで一撃で殺せている間は安定しそうだ。
複数の敵を相手にするのに棍は意外と優秀だった。
最初に攻撃した物を狙っているのか、大体7:3で阿修羅に多く向かっている気がする。
たまに阿修羅が打ち漏らしたのがこちらに来て、冷やりとする事があった。



闘い始めて数分……
「お爺ちゃん、移動するわよ!」
阿修羅が舌打ちしつつ言った。
「どっちへじゃ!?」
「街のほうへ行くと迷惑だから、街道沿いに行きましょう。お爺ちゃん先行して、走るのに邪魔な奴だけ倒していって!」
「わかった!」
左手に湾を望み、海沿いの街道を阿修羅と3m程の距離を空け縦列となり走りだす。
ほとんど無心に前方の敵だけを突き刺しながら、走っていく。


「お爺ちゃん遅い!」阿修羅が叫ぶ。
足の速さは戦いながらでは若干、鼠の方がが速いようだ、阿修羅に向かって後続の2匹の鼠が飛び掛かっている。
阿修羅はそれをしゃがみこみ鼠の下を抜け、同時に腹を斬りつける。
通り過ぎた鼠の1匹を踏みつけ1匹を上から串刺しにし鼠の頭上を踏み越えて行く。
また、わしが漏らしたり、斜め前方からやってくる敵を相手にしつつ走っている。
「これが限界じゃ!」
わしの方は阿修羅より大分楽なはずだが、攻撃動作のたびに速度が落ちる。


「そろそろ、本格的にまずくなってきたわね…」
わしはちらりと後方を見る、鼠共はほとんど折り重なるほどに膨れ上がっていた。
飲み込まれればひとたまりもなさそうだった。
後方の【化け鼠】はは引っ切り無しに阿修羅に飛び掛っているようだ。


「阿修羅!術を使う。よかったら声を掛けろ!」
わしは前の敵を片手で叩き落としながら、もう片手で印を結びながら叫ぶ。
数百人が同時に戦い続ける事を運営は想定したであろう鼠共を引きつれ、ひたすら走る。
前方からくる鼠もまだ切れそうにない。


「いいわよ!」
阿修羅が横を抜け、前の敵数匹を同時に斬りつけて走った。
振り返ると数十匹の鼠がワラワラと犇きあっていが、ほとんど傷を負っている。

「凍気・壱!」
範囲を最大にし、その代わり威力は最小と思考で設定した術を放とうとした。
【連携術・発動】【凍氷刃】
システム音が頭に響いた。
棍が氷に覆われ倍以上に伸びる、太さも倍ほどになり、棒より先は槍の切っ先のように鋭くなっている。
「そんな設定いらないから!!」
前作にはなかった技能に憤りを感じつつ、咄嗟に5m程の薙刀になったそれを両手で後方にぐるりと振り回す。
「どっせいっ!!」
範囲攻撃武器となった棍…、威力は減少しているのか傷を負った鼠は死んでくれるが、元気な鼠は切り裂かれながらも突っ込んでくる。
だが、この一撃で傷を負い、間近にいた【化け鼠】10数匹を葬った。
「いいぞ、阿修羅交代じゃ。」
阿修羅は前の敵を殺しきりながら走るのに苦労があったのか、傷を負っている。
印を結びながら阿修羅と併走し敵を攻撃する。

「回復・壱!阿修羅へ!」
「お爺ちゃん!楽しいねぇ!」
目を輝かしながら阿修羅が言う。

「お前さんだけじゃ!」
「あはははは!!」
相当、ハイになっているようだ。
「後ろは頼むぞ!」

わしは一発で殺しきれなくなった事により、前方の敵だけを、時には体で受け、時には術を混ぜながら、殺していく。
ネズミの大集団を引き連れ走り続ける。
気合も尽き、そのうち、あの侍のようにネズミに埋もれる事を半ば覚悟しながら走り続ける事、十数分、ようやく前からやってくる【化け鼠】はいなくなった。。


「橋があるぞ!」
「あそこで並んで戦いましょう。」
端の幅は7,8mほど、一度に襲われる数が減るが、その分二重三重にネズミが重なり合い、ひしめきあい突っ込んでくる。
わしがそれを巨大な氷の薙刀で薙ぎ払う、懐にきたものは阿修羅が担当する。
少しでも殲滅速度が遅くなれば、ネズミの洪水に飲み込まれそうだった。
幾度となく術を放ち、幾度となくネズミに取り付かれては阿修羅に助けてもらう。

「もう一生分の鼠を殺した気分じゃ!」
「まだ半分ほどいるみたいよっ!」
「リポップ設定おかしすぎるじゃろ!」
後方の方で再ボップした鼠までも引き寄せているようだ。
「初日なんだから、高く設定してあるんでしょ!」
「ああっ死ぬもう死ぬすぐ死ぬ、リアルに寿命がくる!!」
「ちゃっちゃとその馬鹿でかい武器振り回しなさい!」
「やっておる!アルジャーノンかこいつらはっ!」
「なによそれ?あら、こいつら尻尾が弱点みたいよ。」
「そんな器用に狙えるわけあるかっ!」











【皆様、後1分で信長の野心VRオンライン初日を終了いたします。】
【化け鼠】を1000匹は倒したかもしれない、疲れ果て座り込んでいるとそんなアナウンスが響いた。

「楽しかったわ!いいゲームに巡り合えたわね。お爺ちゃん!」
「そうかい、、わしは寿命が縮んだわい。」
心底そう思った。
「お爺ちゃん、顔が笑ってるわよ。」
「そうかい。」
自分では気づかなかったが、相当にやにやしているようだった。
「それじゃ、また明日ね。」
「そうじゃな。また明日じゃな。」

―――お互いいい笑顔だった。









――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
※炎槌・壱:陰陽の付与術。炎属性付与
※氷槌・壱:陰陽の付与術。水属性付与
※凍氷刃:氷槌と凍気による連携術。



[20607] 8 閑話
Name: ノミの心臓◆9b8a3f51 ID:ee8cef68
Date: 2010/08/05 23:20

長い夢から目が覚める…
「ふぅ…」
ゲーム内より遥かにしわくちゃな自分の手を見る。
――何かをするのに遅すぎるということはない。
使い古された説教台詞だろうか、はたまた心を打つ一言だろうか、言う人、聞く場所、聞いた年代によって様々に聞こえるこの言葉を思う。
自分の場合、遅すぎるから止めなさいと言われることだけは間違いがなかった。
朝食を終え、食器を洗い、居間のソファーに座り、久しぶりに孫の携帯に電話をかける。

「もしもし、わしじゃがな。」
「あっ爺ちゃんー?なーにー?」
間延びした女の子の声が聞こえてくる。
「加奈子のお母さんの弟君は確か古武術をかじったことがあるとか言うておったじゃろ?」
「あー叔父さんねー。何か破門されたって聞いたことがあるよー」
「そいつに弟子入りしたいんじゃが、話通してもらえんかのう?」
「なにいきなりバッカなこと言ってんの爺ちゃん!呆けちゃった!?」
「いや、至って真面目に……。」

遠くで、お母さん爺ちゃんが呆けちゃったかもーって声がする…。
「もしもし、お爺ちゃん」
息子のデキタ嫁が出てきた。加奈子の声に良く似ているが多少低く落ちついた感じがする。加奈子の母、美恵子さんだ。
「はい。」
「呆けちゃったんですか?」
「いえ、恐らくまだ大丈夫かと思われますが、、。何分本人には無自覚な事が多いようでして、、はい。」
「娘が私の弟にお爺ちゃんが弟子入りしたいと言ってると言ってますが、本当ですか?」
「若干、語弊があるようでして、少し古武術とやらを見せて貰いたいなぁと言っただけでありますよ。」
「言ったんですね?」
「はい。いいました。」
「お爺さん、貴方の息子も大概、変な人でしたが…」
過去形である…嫁と娘を残し愚息が事故死してからもう10年の月日が流れた。

「お爺さん、今年で84歳になろうかという人が武術なんてできるわけないでしょう?」
「いや、弟子入りは冗談じゃ。見せてもらうだけでもかまわんのだよ。弟君、道場盛況だって言ってた事があっただろう。その見学がしたいんじゃ。」
「……何年前のこと言ってるんですか、もう潰れましたよ。弟は今は行方知れずなんです。」
身内とはいえ他人の自分には言えなかったのかもしれない。

「ああ、そうか、いや、すまなんだ。悪いことを聞いた。」
「いえ…でも突然、古武術なんてどうしてです?。」
「いや、まぁ、言うのはちと気恥ずかしいじゃがな。」
わしはVRゲームの下りから、古武術の使い手ににコテンパンにされた事を掻い摘んで話した。


「まぁ、VRゲームって昨日始まった信長の野心ですか?私もやってるんですよ」
「ほう、そりゃ奇遇じゃな。」
「ええ。いいストレス解消になるかと思いまして…。なるほど、そういう訳でしたら、型ぐらいなら、私が見せてあげます。」
「み、美恵子さんも武術家だったのですか?」
何故かまた敬語に戻る。

「あら、お爺さんには言ってませんでしたか。弟と同じ師匠に師事してたんですよ。」
「は、初耳です。」
「女と言う事で、皆伝は頂けませんでしたから、あまり自慢できることでもないですし、人には内緒ですよ。なんでしたら、いつか伺いましょうか?」
「いやいや、わ、わしが、歩いて行こうかと思っております。久しぶりに加奈子の顔も見たくなってきたことなので。」
婆さんの仏間に置いてあるVR筐体が見つかれば、正座させられ、説教数時間コースは固そうだ。

「でしたら、市場が閉まる四時以降でしたら、いつでも良いですよ。」
彼女は個人投資家だった。それも凄腕の。
「わかりました。。では、さっそく今日の午後4時に歩いて行こうと思います。」
「はい、お待ちしております。では加奈子に代わりますね。」


「もしもーし。爺ちゃん呆けてないー?。」
「加奈子…いきなりお母さんに言いつけるなんて酷いじゃないか!」
「あははは、いや、ホントびっくりしちゃってねっ。でもお爺ちゃん、本当にお母さん苦手なんだねー。」
「いや、加奈子。お前はお母さんから何も感じないかっ?あのオーラがっ。」
「電話ごしでしょー?、まぁ…多少分かる気もするけど、母親だしね。ゲームもよくするし、普通のおばちゃんだよ。」
「おばっ……お母様といいなさいっ!。」
「ああ、はいはい。」
「うむ、それはそうとな、今日の四時ぐらいにな。そっちに行くからよろしくな。」
「まぁ…4時かぁ……居てもいいけど、お年玉奮発してね?」
「うむ。もちろんじゃ。くれぐれも頼むぞ。」
「はいはい。ちゃんと家に居ますよー。」
それで電話が切れる。


「ふぅ…びびったわい」
未だに、愚息がどうやって、あの美人さんをモノにしたのかが、気になるお爺ちゃんであったが、愚息のどこがよかったのですか?と聞く勇気はさらさらなかった。



昼間はネットで時間を潰し、午後3時に家を出る。
孫の家までは老人の足で1時間はかかる。
町外れの高台を目指して、歩いて行くと、山すそに百段以上はある石段が見えてくる。
石段を手すりを使いながら、なんとか登りきると、武家を思わせるような門構えが見えてきた。
周りは、これが神社の鳥居だったとしても何の違和感もないような古い木々に囲まれている。

通用口の呼び鈴を鳴らす。
「はーい。」
「わしじゃ、開けてくれぃ。」
「速かったねー。どうぞー。」
自動で木製のドアが開くと、立派な門構えの割にはこじんまりとした日本風の平屋が現れた。
その代わりといってはなんだが、純和風の庭は立派なものだった。
周りの大きな木が家の半分ほどを夏の強い日差しから遠ざけている。

「邪魔するぞー。」
「どうぞー。」
加奈子は確か今年で15歳だったか、黒い瞳に茶色に染めた髪をを肩口まで伸ばしている、今時の女子中学生といった感じだ。
贔屓目にみてしまうが、かわいいと評されるべき容姿だと思う。
孫に6畳の二間続きの和室に通される。
奥の一間は仏間だった、親不孝な愚息の写真が飾られている。
孫がお前に似なくてよかったなと語りかけつつ、とり合えず、焼香をあげさせてもらった。


「元気してたー?」
「うむ。ぼちぼちな。」
「おおっ、本当に元気になってんねー。」
「なんじゃ、そんなに今まで元気なかったかの。」
「いやぁ…ばあちゃん死んでから、目に光がなかったよ、爺ちゃん。」
わが孫ながらあけすけに物を言う人間だった。

「そうかい、心配かけたのならすまんの。」
「うん、でも本当元気そうでよかったよ。何かあったの?」
「ちょっとばかり、楽しみを見つけてな。」
「ふーん、何か聞いてもいい?」
「VRゲームじゃ。最近宣伝しとった新しい奴な。」
「あー。信長の野心ね。あれお母さんもやってるよ。一緒にやってるの?」
「いんや、やってるのを聞いたのは今日でな。それで…まぁちょっとばかり教えを請いにな。」
「そうなんだ。お母さんゲーム得意だもんね。」


「お爺ちゃん、いらっしゃい。お元気そうですね。」
襖が開き、加奈子の母親が登場する。彼女は、どこか古風な雰囲気で、背筋に一本筋が通っているような、それでいて楚々とした雰囲気を感じさせるオーラを纏っていた。
――オーラだよな、あれは……
「お邪魔しております。美恵子さんも、あまり変わりないようで。」
今年で42歳のはずだが、どうみても20代後半~30代前半といった容姿だ。
「お爺ちゃん、前から言ってました、同居する件…考えていただけましたか?」
「ああ……すまんがな……婆さんもあそこが好きじゃったしな。それに石段も辛いからの。」
「なんでしたらエレベーターでも作りましょうか?」
「いや、そんなお金は掛けんでよろしい。」
母娘二人が、一生暮らせるほどの蓄えはあると聞いているが、何分不安定な投資業、あまりお金は使わせたくなかった。
しばらく、孫を交えた3人で、お互いの近況を語り合った。



「それで、そろそろ古武術に関して見聞させてもらえんかの?」
「いいですけれど、見るだけですからね、お爺ちゃん。庭で待ってて下さいな。」
そう言うと準備をしてくると言って別室に行った。

縁側で白壁と木々囲まれた静かな広い敷地を見渡す、女性ばかりの家なので、防犯には気を使っているらしく、塀も見た通りの唯の塀でもないと聞いている。
こじんまりとした家との対比がなかなか面白い風景だ、お金を適材適所使っていく美恵子さんの性格を現している風景だと思った。

どこから持ってきたのか孫の加奈子が、試し切りに使うき巻藁をもってきている。
「そんなもん、どこにあったんじゃ?」
「えっ…と……地下室から持ってきた。」
「地下室なんかあるんかい。」
「まぁ…あんまり人を通すような所じゃないしねー。」
加奈子は何か言いにくそうにしていた。

美恵子さんが白装束姿で再登場する。
「古武術…古武道ともいいますが、 要はスポーツになり得ない、剣術・柔術・弓術・鎖鎌術…後その他諸々の武芸十八般の事です。私はその中で一般的な柔術・弓術・剣術・居合い術を修めました。今日は剣術の型をお見せします。」
そういうと真剣を抜き放ち、一つ一つ確かめるようにゆっくりと型稽古を始めた。
昼間にネットで古武術に関してネットで調べてみたが、今ある古武術は大抵門弟を従え、広めようという姿勢を打ち出している。
逆にそういう姿勢でない流派はもう時代に埋もれて行くしかないのかもしれない。
「私の師匠は一子相伝で伝えられてきた名も泣き流派の継承者でした…まぁこの時代までよく伝わったものと当時は関心したものですけどね。」
頑固な所はお爺ちゃんと似てたような気もしますね。と一言。


30分ほど、美恵子さんの型稽古を加奈子と二人、縁側で見学させてもらった。
正直、ゲーム内だけでも真似できるものがあればと思っていたが、一朝一夕にできるものではないとだけ理解できた。
何せ、最後の巻き藁を使った居合い術を見せてもらったが、速すぎて、いつ抜いたのか分からなかった。
「爺ちゃんが、コテンパンにされちゃったその人とお母さんどっちが強いかな?」と加奈子が聞いてきた。
「さぁ…わからんなぁ。ただ、その人にはこっちの攻撃が全く当たらんかったからな、達人といって良いのではないかのう。」
「そのお人は相当な強者のようですね。」美恵子さんが言った。
「連戦連敗でな、年甲斐もなく悔しくての。多少ヒントが得られればと思って無理をお願いしてしまったかもしれん。」
「いいですよ。半ば日課のようなものですし。そうですね……真の強者はあまり自ら仕掛けることをしません。体の正中線をまっすぐに保ちつつ、相手の攻撃を呼び込みます。いわゆる「隙のない構え」で、相手の攻撃を待つのです。」
「ふむ……言われてみれば、ほとんどこちらから仕掛けていたような気がするのう。」
「強者は正中線を保ったまま、相手の攻撃を受け流すことによって、相手の体勢を崩していきます。その意味で、強者にとっての防御は、相手の体勢を崩すという攻撃の開始でもあります。」
「なるほどのう…」
次に模擬戦をすることがあれば、色々と参考になる意見を頂いた。

「お爺ちゃんはどこの国から始められたんです?」
「今川じゃ。なかなか綺麗な所じゃったよ。」
「私は、徳川です。隣国ですね。会おうと思えば会える距離ですけど、どうします?」
「気晴らしは一人こっそりやるもんじゃろ。爺の遊びに付き合って貰わんでもよいよ。」
ゲームがストレス解消らしい美恵子さんに気をつかった。
「別にそういうつもりで言った訳じゃないのですけれど、お爺ちゃんがそういうなら…、容姿はあまり変えてませんから、もし見かけたら声を掛けて下さいね。」
「うむ。楽しみにしておるぞい」
そうは言ったが、隣国と言っても信長の野心VRオンラインのフィールドは一部地域のみとはいえ、日本の実寸大3分の1程ある、見掛ける確率がどれだけあるやら…。
その後も、情報交換がてらゲーム内の話題で話しが弾んだ。



石段の下まで送ってもらった帰り際、
「お母さん、私も信長やってもいい?」

「学校の勉強頑張るならいいですよ。」

「うん。よし。頑張るから!お爺ちゃんと遊ぶ!」

「…お母さんとしなさい。」

「えええっ嫌だよっ。ゲーム内でもスパルタされちゃうよっ!」

「しませんよ。そんなこと。」

孫と一緒にゲームが出来る日が来ることが多少楽しみになった。



[20607]
Name: ノミの心臓◆9b8a3f51 ID:ee8cef68
Date: 2010/08/05 23:26

「重量オーバーじゃな。」

ゲームが始まると前回終わった時刻と場所から始まった。
隣では阿修羅がのっけから重い、重いとのたうっている。

「お爺ちゃんは、重くないの?」
「わしは、僧だからな、腕力にも多少振ってあるしの、若干オーバーしているが大したことはない。」
アイテム欄を見ると積載最大重量の10%オーバーといった所だった。
「お前さん、そんな状態でよく闘ってたな」
「夢中で闘ってたからね、、レベルも上がってたようだし、楽になった分、素早さ減ってトントンな状態だったからのかしら、気づかなかったわ。」

連戦で疲れてるんだと思ってたし――と続けた。
夕暮れになりつつある街道を城下町へ向かって歩き続ける、両替で荷物を下ろさねばならなかった。

戦利品は両者合わせて、ネズミの皮549個、ネズミの牙234個、ネズミの胆石32個。
アイテム欄には軍事クエスト品と説明書きがあった。
仮に生産でも使うとしたら、その場合はPC売りした方が利益は高いのかもしれない。
レベルは4になっていた。昨今のMMOのマゾさから言ったら早い方ねと阿修羅が言う。
遠くに見える城下町まで、歩いて15分程か、ずいぶん走ったものだと思う。

「ワープしたいものじゃな。」
「そうねぇ。陰陽の術で、そんな術があるかもって噂があるわ。」

前作では陰陽にはダンジョンからの脱出手段としてリレミト・テレポみたいなものがあったような気がした。・・名前は忘れたが。
寝る前に、前作と似通った所があると感じ、参考になるかとネットで調べてみたのだが、
wikiや攻略サイトの類は50年の歳月でネット上からきれいさっぱり消えていた、試しにアーカイブも漁ってみたが、歯抜けだらけで見れたものではなかった。
もしかすると、わし同様の超高齢プレイヤーがいてそんな噂を流しているのかもしれない。
――死を覚悟してのプレイか。

「何、にやにやしてるの?」
「いや、なんでもない。あるとしたら、何を熟練すれば覚えるんじゃろうな。」
「目録でゲットっていうのが一番ありえそうな気がするわ。」
「お主はその方が都合がいいだけじゃろ。」
「そうなのよねぇ…術の熟練度上げなんて面倒な作業よね。」
「そうかい、侍にすりゃよかったのにな。」
「いったでしょ、普通にやってたんじゃ面白くないじゃない。」

城門が近くなってくると、戦っている徒党が多数見て取れた。
せいぜい一度にリンクしているのは【化け鼠】4,5匹程だ、昨日のような状態は解消されたようだった。
もしかしたら、昨日のアレは一斉に低レベルが戦う需要を補う為にリポップ率がやたら高かったせいか、もしくは今川が弱小勢力な上に駿府の城門が二つという珍しい立地のせいで人が分散したせいかもしれない。

「そうそう、未確認の情報じゃがな、模擬戦で100勝ほどすると、監督から何やらいい物が貰えるらしいぞ。」
「ふーん、、お爺ちゃん付き合ってくれるの?」
あまり興味は無さそうな風だった。
「いやじゃ。」
「なんでよっ」
「一人に勝ち続けても、無駄かもしれんからな。なんにせよ、武芸者には割りと嬉しい物だと聞いた。」
「へぇ。武芸者にはねぇ…具体的には何か分からないの?」
何やら、意味ありげな視線をこちらに向けてきた。
「ネットからの情報じゃ、100勝してからのお楽しみということらしい。わしは無理じゃがお主なら、やれるだろうよ。」


本当は愚息のデキタ嫁こと未亡人美恵子さんから聞いたのだった、美恵子さん昨日は一日中道場で遊んでたらしい。
曰く「お爺ちゃんのお友達が真の強者なら簡単だと思いますし、武芸者には結構嬉しいものでしたから、お勧めしますよ。」とのことだ。


「やれるのは間違いないだろうけど、やるなら人が多い、今しかないわね。ほとんど勝ち抜き戦みたいになってて、盛り上がってる道場もあるらしいし。」
阿修羅が自信満々に言った。
道場ではMTFも奥が深い、色々調べている人達と、なにより同レベルでの対人戦が楽しいのだろう、まだ多くの人が未だに入り浸っていた。
しかし、もしレベルが対戦相手に見えたら、低レベル狩りと言われるのは間違いなさそうだ。


そんな事を喋っていると、あっという間に両替前に付いた。
「それじゃあ、私は道場行って、100勝目指してみるけど、お爺ちゃんはどうする?」
その目は一緒に来てくれと言っていた。たぶん。
「寄合所にアイテム納品してから、ぶらぶら観光の続きかの。」
「そう、じゃあ、何か貰えたらメールするわ。ガセだったら覚悟しておいてね。」
と、いつもの阿修羅の微笑をう浮かべ、物騒なこと言って徒党を解消し去っていった。


さて、まずは情報収集からはじめるかな…、ネズミの皮、牙、胆石、一体どんな用途があるのか。
【会話ログ・表示】【検索・ネズミor鼠orねずみ】と思考操作でぽんぽんと打っていく。
ウインドウが開かれ検索がかかる。
このゲームでは普段は耳に入る程度の声でしか周囲の音は聞こえてこないがウィンドウに表示される情報は別だった。
ゆえに序盤は簡易的な情報交換の場として掲示板風に使えるのではないかと思っていたのだが、それはどうやらアタリのようだ。

【12件の該当があります】

【会話ログ】
・大豆味噌:/大声 南門のネズミが酷い事にn(以下略 表示するには~~~)
・若生かぐや:/大声 ネズミ狩は西門からどうz(以下略 表示するには~~)
・ねずみ小僧:/大声  山伏(やまぶし)についての耳寄り情報売ります3貫d(以下略 表示するには~~)
------------------略------------------
・躍らせネズミ:/大声 貴様では俺には勝てなかっ(以下略 表示するには~~)
・火神闇龍哉:/大声 鼠狩徒党募集!女の子歓g(以下略 表示するには~~)
------------------略------------------
・御神楽ともえ:/大声 ネズミの皮って何に使うn(以下略 表示するには~~)
・ねずみ小僧:/周囲 二日目っすねー。南門解消s(以下略 表示するには~~) 


昨日からのログも残っているようだった。
/大声とやらの届く範囲はどの程度であろうか。
取りあえず気になる情報は結構あるのだが、目的のものから表示させる。

【会話ログ】
・御神楽ともえ:/大声 ネズミの皮って何に使うのでしょうか?どなたか教えて下さい
・御神楽ともえ:/大声 あっご親切にありがとうございます。皮は軍事クエと鍛冶屋の一部生産、牙も同様ということですか。
・御神楽ともえ:/大声 えっ あっ 大声でごめんなさい。/耳打ち 火神闇龍哉 あっ 胆石とやらも出るのですね。使い道は分からない…ということですか。
・御神楽ともえ:/大声 それと、徒党はもう入っているので、、ごめんなさい。
-----------------後略------------------


これは確信犯だろうか、、確信犯に違いない。最後まで大声だったしな。
読めない字の人は名前を晒され、若干可愛そうであった。

後は想定外に引っ掛かって、気になる情報があったのでそれを開いてみる。

【会話ログ】
・ねずみ小僧:/大声 山伏についての耳寄り情報売ります。3貫で!耳打ちよろー
・皐月晴霊:/周囲 山伏ってなんでしょう?
・後藤田正臣:/周囲 さぁな。何にしても高すぎだ。
-----------------後略------------------


これだけでは、なんとも言えないなぁと思いメールを打つ。
『こんばんは。突然失礼します。会話ログより山伏の件を拝見したのですが、山伏の詳しい順路を知っておられるということでしょうか?』
送信と、、。
前作と変わってなければ、山伏は山中を歩き回るNPCで見るけると共通野外目録が貰える序盤に必須なミニイベントといったところだった。
熟練度の事を考えれば、お金を払ってでも早めに目録を貰っておいて損はないはずだった。
何よりこの広大なフィールドで山伏が何人いるかは分からないが、人を探すのは相当に大変な事になるはずだ。

返信をただ待つのも時間が無駄だと思い、寄合所に行くことにし、地図を片手に皮と牙を半分ほど両替に預けてから、向かった。
地図には書かれた注釈に書けるだけの軍事クエスト納品一覧と銘を打ち書かれていた。
阿修羅はA型に違いないと今は廃れている迷信を昔の人間らしく考えていた。

西門と南門のちょうど間、道場街への入り口といったところに、兵士の寄合所があった。
中にいくつかある受付で説明は要りますか?ということなので、一応聞いてみることにした。
軍事クエストは様々あるが、納品に部類するものでは軍事クエスト品と説明のあるアイテムを10個ずつ納品する事により、金銭と勲功が貰えるそうだ。
また身分によりクエストは増えていき、簡単なクエストは無くなって行くとこのことだ。

取りあえず、皮を100個と牙50個程を納品する。
皮でワンセット5で牙でワンセット10の勲功が貰え、計勲功値100となったことで、もののふから足軽へと身分が上昇し、次の足軽組頭まで250の勲功が必要となった。
お金は全部で2貫500文とさらに纏めて納品したボーナスで【ネズミ皮の小巾着】を頂いた。
将来はともかく現状では、軍事クエだけでの金策はきついようだ。

【メールを1件受信致しました。】

心地のよいシステム音声がした。
システム音声は細かく合成音声の設定ができたので、前に時間をかけてCV:能登M子風にしておいた。

【開封】

『こんばんは、遅くなりました。メールの質問にお答えします。残念ながら詳しい順路はわかりません。情報を明かしますと、山伏が来る時刻とポイントは分かっていたのですが、βの時とは仕様が変わっているようで、そのポイントには来なかったのです。それで、先ほどから昨日の情報を売った人にも返金しに行ってる所だったんです。』

返信を書こうとしている最中に、もう1件メールを受信したので開いてみると、

『えーと、山伏の事知ってるってことは、βからの人ですよね?今から連れと山伏探しの旅に出るんですが、よかったら、ご一緒にどうでしょうか?』







――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【ネズミ皮の小巾着】:容量15重量軽減2%耐久度6付与魅力+1



[20607] 10
Name: ノミの心臓◆9b8a3f51 ID:ee8cef68
Date: 2010/08/08 09:46

一瞬、阿修羅はどうしようかと考えたが、別にずっと徒党を組むことを取り決めた訳でもないしと思い返信文を練る。
『有難い申し出なのですが、私はβテスターではありません。それでもいいでしょうか?』
少し丁寧がすぎるかもしれないが、礼を失するよりはいいだろうと思い、歩きながら返信を送った。
『もちろんですよ。レベル上げも兼ねての捜索を予定してます、その分、死ぬ危険もあると思いますが…よければどこかで待ち合わせましょう。』
いちいちメールを打つのが面倒になってきたが、ボイスチャットによる電話機能はフレンド登録してないと使えないので、思考操作でメール文をまた打つ。
『はい。そちらの都合のいい場所でいいですよ。遅れましたが、私は僧の小林正巳といいます。外見は…老けているのですぐ分かると思います。』
『では、西門付近の茶屋で…えーっと20番席ぐらいから空いてると思いますのでその辺でお願いします。私は白髪の忍者です。よろしくお願いします。小林さん。』
『了解しました。今から向かいます。10分もかからないと思います。』
と返信を書きながら走り出した。




西門茶屋23番席にて…。
「今川にはβからの続いているコミュニティが一つだけあるんです、えーっと【キノコハウス】と言うんですけど、そこが山伏の情報を100貫だして買うって言うんですよ。」
身長160弱でやや痩せ型、茶色の瞳、白髪、やや童顔の全身黒い忍者装束姿の若者が言った。
「ほう、太っ腹じゃのう、それだけの価値があるとも思えんがな。」
「でも今の所、唯一の初期目録以外の目録情報ですからね、もし目録数に制限があったりしたら、それこそ、100貫以上の価値があるでしょうし、何より探すのが大変なので、その金額のようです。」
「目録がもらえる事は確かなのか?」
「確かです。『ゲーム開始後、わしを見つけることができたら目録をやろう』ってもったいぶって言ってましたから。」


しばらく、そのβ集団について話をしていると、ねずみ小僧のお連れさんがやってきた。
「こんにちは、はじめまして、小林さん。神楽巫女と申します。よろしくお願い致します。」
身長150前後か、黒髪を腰の辺りまで伸ばし、正統派巫女さんといった装いで、女性というよりは女の子といった感じだった。
「ぉ、おおっ(ロリ巫女キタコレ!)こんにちは、小林正巳、僧をやっておる、宜しくの。」
ちょっと胸に込みあげてくるものがあったが、どうにか飲み込むことに成功する。
「メールで言ってた連れです。リアルで家の妹なんです。」
並んで立つと、白と黒の兄妹といった感じでよく映える、どちらも育ちがよさそうなな感じがした。
「ぜひ、お爺ちゃんと、呼んでくれて結構じゃっ!」
何故か突然そんなことを口走っていた。



「100貫は三人で山分けということで、後は各自、情報を売って儲けるも自由って事でいいですか?」
「ああ、かまわん。」
「情報が売れるのは最初だけでしょうから、競争になりそうですね」と巫女さん
「その前にちゃんと見つけんとな。」
「ですよねー。」
無駄話をしつつ、町の外に出ると、相変わらず、ねずみ狩りは盛況のようで、見渡す限り人で溢れていた。

辺りはもう夕暮れ時といった風情だ。
最後にねずみ小僧を党首に徒党を組んだ。
「もうレベル4なんですね、私も昨日から結構頑張ってたんですけど、まだレベル3ですよ。本当にテスターじゃないんですか?」
「うむ。年の功じゃな。」
「はぁ……」


「叩きます。」
そういうと神楽巫女は裾から手持ち和太鼓を取り出しぽんぽんと叩く。
どうみても裾から出るような大きさではなかったが、その辺はゲーム的仕様と言うことか。

【行進曲】

補助技能が多彩な神職が使う術で徒党全員の脚力が上昇効果があった。
神職以外にも…僧にも若干の補助技能はあるようだが、単体技能だったり、効果が限定されていたりで使い勝手が悪く、神職の領分を侵すようなものではなかった。

「β時代の山伏の巡回ポイントは駿府の北西辺りでした。まずはその周辺から捜して行きましょう。付いてきて下さい。」
そういうと颯爽と走り出す、速度は軽く自転車の立ちこぎ程度は出ていた。
10m程の距離をあけて、地図を表示させつつ、後方に湾を右手に雄大な富士山を望みながら走り出す。
あまり近いと立ち止まったとき惨事になりそう感じがした。

野外の地図は日本地図の輪郭と城下町の場所、街道を記しているぐらいで他は何も書かれていなかった。真っ白である、その分、最近のグーグルマップのごとく拡大・縮小、思いのままだ。
自分で書いて行けということか、ちょっとしたペンソフトまで付いてあった。もし完璧な地図情報を作ることができたらそれだけで一財産できそうだ。

信長の野心VRオンラインの広さは公式によると、日本地図実寸大の三分の一程度。
しかし、見える地形はというと日本というには若干かけ離れているように思えた。

「駿河だけでも静岡県の半分のさらに三分の一じゃから結構な広さじゃな。」
しばらく走るだけも飽きてきたので、走りながら徒党間ボイスチャットで話しかける。
「そうですね。およそ1.000.00k㎡ほどですからね、数字にすると大きく感じますが、そんなに無茶な広さじゃないと思いますよ。」
「そうかのぉ…、樹海の方におったらお手上げじゃろう。」
小高い丘の頂上辺りに着き周囲を見渡す、駿河の北西部と湾岸部はわりと起伏も少なくひらけて見えるが北東部はほとんど樹海でおおわれていた。
「あの辺りはほとんど国境ですからね。それに基本国境に行くほどアクティブな敵も増えてどんどん敵も強くなりますから、人が行ける範囲はそこまで広くないと思いますよ。目立つ格好してますしね。」
「ここから少し敵も出ると思いますので、注意してくださいね」巫女さんが風に飛ばされている髪を押さえながら言った。


道中、避けれないアクティブなモンスターもいたが問題なく対処できた。
忍者はある程度的の強さが分かる技能があるらしい、今は自分より強いか弱いかぐらいしか分からないということだ。
「この辺の適正はソロだったら5レベル程度でしょう。」小僧が教えてくれた。
「しかし、【雨蜘蛛】は厄介じゃな、後ろから攻撃しても足が飛んでくる。」
高さは人の半分程度だが、足の長さを含めると人の2倍程度ぐらいはあった。
八本のある足と吐き出す糸を器用に使い攻撃をしかけてくる。
人は大抵、蛇嫌い派か蜘蛛嫌い派かに分かれるらしいが、ここにはご丁寧なことに両方いる。
【青大将】が現れた時の巫女さんの青ざめっぷりは可哀想なほどであった。
嫌悪をもよおす感情はシステム的に抑えれているとはいえ、相当嫌がっていた。
「自分もどっちかっていうと蛇は苦手だったんですがね、慣れてきました。」と小僧がいった。


わしはというと田舎育ちだから、蜘蛛は小さいものなら素手で殺していたし、田んぼでも蛇は良くでる、両方とも苦手ではなかった。
しかし、体調5m、太さ30cm程の蛇はさすがに余り近づきたいものではなかったが。
数がいる場所には近づかず、どうしても避けれない場合は、一匹ずつ、巫女様が弓を射て誘導し、仕留めた。
たまに2、3匹まとめて釣れて、結構危ない目にもあったが、どうにか切り抜けた。
地味な風に聞こえるが、人との戦闘ともまた違った緊迫感がある。何しろ気持ち悪い。


そうこうするうちに、辺りも月明かりがあるとはいえ、大分暗くなってくる。

【光明】

ゆらゆらと人魂のように淡い光が辺りを照らしだした。
「巫女の技能です。敵も寄ってくるかもしれませんが…。」巫女さんが申し訳なさそうに言った。
「ここから、急登になってきますから、足元に気をつけて下さい。」小僧が礼儀正しく言う。
「山の高さは三分の一にはなっておらんようじゃな。」
多少は低くはなっているのかもしれないが、丘というよりはまだまだ山が多かった。
「その分、急峻な山が多くなってます、行軍できる場所を意図的に狭めているのかもしれませんね。」合戦の観点から巫女さんが所見の述べた。
どの山が、何々山だというのは富士山以外、分からなくなってしまった。
もしかすると、完璧に日本の地形を模写している訳ではないのかもしれない、日本とは若干趣が異なる、左右に蛇行して流れる河川と山々をを見て、そう思った。



しばらく敵を倒しつつ走りとおし、標高500m程の山の中腹を過ぎた辺り、かなり大きな岩があった。
周りには木もまばらにはあるが、視界を遮るほどはない。
みると岩の周りには何人かプレイヤーがいるようだった。
「さて、着きました。あの岩が目印だったんですけどね。大体4時間に一度くらいのペースで来てはいたんですが、今は全くこなくなったと聞いています。山伏はここまで来てから折り返し東へ、富士のほうへ向かっていたのですが、少し先から敵が強すぎて進めませんでしたね。」
「どうするんじゃ?しばらく待ってみるのか?」
この辺りで、敵を狩りつつキャンプしている徒党も見受けられた。
「取りあえず、この山の山頂まで行って辺りを見回してみようと思います。頂上付近で少しの間キャンプしつつ、レベル上げを予定してます。」




特に道中イベントもなく頂上付近まで登ってこれた。
だが、頂上までの残り30mは地面の質も異なり、岩山のようだった。こを登るのは、素人にはちょっと恐怖だった。
「忍者ですから、なんとかなります。」
巫女さんと自分は残ることになり、ねずみ小僧はするすると傾斜60度以上はありそうなほとんど崖な岩肌を登っていった。


「怖くないのかのう。ここからでも十分、見晴らしは良いが。」
「兄さんは馬鹿なので高い所が好きなんです。」
「だ、大丈夫か…聞こえておるんじゃ。」
「徒党会話はしてませんから。」
「そ、そうかい、しかし月に富士山に海にと最高な場所じゃな」
「そうですね。隣がお爺さんなのは残念ですけどね…」
「け、結構辛口なんじゃな。」
「お嫌いでしょうか?。」
「……なんと言ったものか。」
大好物です!と答えそうになったがどうにかキャラを守りきった。


巫女さんと二人、楽しく会話をしていたら、
「もしかしたら、いきなり当たりかもしれません。」
頂上まで登りきったのかもしれない、徒党チャットから嬉しそうな小僧の声がした。


それから、しばらくすると…、
『うわあああああああああああああああっ!』
頂上から小僧の叫び声が響いてきた。


「大丈夫か!?」
「兄さん!?」
返事がなかった。戦闘中で徒党会話が上手く使えない可能性もあるが、一般的に連絡を取る手段が使えないのは死んだ状態でしかない。


『やられちゃいましたー!』
頂上ののほうから声がする、幽霊になって叫んでいるのかもしれない。
『不意を付かれましたーっ、ちょっと強そうな敵がいます。見捨てて結構ですのでーっ、小林さん今日はありがとうございましたーっ!』



「兄さん…馬鹿…。」巫女さんは額に手を付き、呆れた風に言った。
「そうは言うてもな…見捨てるわけにもいくまい、上に行ってみるしかあるまいが、今から登るのも時間がかかりそうじゃなぁ…何か案はあるか?」
死んでから強制ログアウトまで10分、時間をかけるわけにはいかなかったし、神職は補助技能が多い、この崖を登る手段もあるかもしれなかった。

「ちょっと待って下さい。」
コマンドを出して技能を確認しているようだった。

『聞こえますかーっ?見捨ててくださいねーっ!』

「使えそうなのは【励ましの唄】と【高速韻】効果はウエイト軽減、体重を数秒間軽くするようです。体重を軽くして、素早さを上げる。…跳びながら登れば…なんとかなるかしら。」
「そうじゃな……ああそういば、巫女は風の攻撃術があったな。あれで追い風作れば楽にならんかの?」
大分薄れた記憶を頼りに使えそうな技能を考えた、体重の軽減具合によっては、上まで吹き飛んでいけないものかと。

「攻撃術ですよ?…んー拡張で威力を最小に……風速を……。どの術も初めて使うので、まぁ…上手く行けば僥倖ですねぇ…」
技能の設定をウィンドウを出して行っているようだ、巫女さんの指が中空をさわさわと彷徨っている。
「そうじゃな…あまり準備もしとられんしな。」
「失敗しても、兄さんがログアウトするだけですから、気楽にいきましょう。お爺さん」
「仲の良い兄妹じゃのう。」

「術はもし途中効果が切れて落ちそうになったら使います。風で吹き飛ばしてさし上げますね。」
「あい、わかった。」
「いきます。これで気合は空になります。上に登ってからの補助はできません。」技能の設定が終わった巫女さんが、裾から琵琶を取り出し言った。

【励ましの唄】【高速韻】

傾斜60度以上、頂上付近は70度はありそうな岩山を二人で駆け上がり始めた。







――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
キノコハウス:β時代から続く今川コミュニティ
雨蜘蛛:蜘蛛。糸と足と牙による攻撃を行なう。間近でみると精神的ダメージを食らう。
青大将:蛇。牙と巻きつき攻撃を行なう。締め付けられるとダメージ以上に精神的ダメージを食らう。
行進曲:野外でのみ脚力を30%上昇させる技能。戦意が確認されると効果が切れる。
光明:夜を照らし出す。熟練度が上がると、死霊系は避けて通る。
※信長の野望VRオンラインの世界は月明かりバッチリでなくてもなんとかなる。雨の日もあるけど。
励ましの唄:要・琵琶。ウェイト軽減、体重を数秒間半分以下にできる。
高速韻:徒党全員の素早さ上昇効果。効果は術者の魅力及び被術者の木属性に比例する






[20607] 11
Name: ノミの心臓◆9b8a3f51 ID:ee8cef68
Date: 2010/08/08 20:30


急な岩肌を登りきると、山頂は幅5m長さ50mほどある峰だった。
一番山頂の高い部分の岩の上で座禅を組んでいる、一人の薄汚い男がいた。
月光の下、わずかに見て取れる姿は、修行僧という風に見える。前作でいう所の薬師の乗衣姿のようだ。
髪はぼさぼさで肩の方まで伸ばしてる、顔の皺が修行の年月を感じさせた。

「偽山伏というのがいたのう……確か」
一人呟きながら、袋より棍を取り出す。
山伏っぽい人物の傍らには、ねずみ小僧の死体と亡霊があった。


「そなたらも、目録を欲しているのか」
喋った、ただの敵モンスターではないようだ。
「そうなんじゃが、そこに倒れておる忍者は、わし等の連れでな時間がないので先に引き取らせてくれんかの。」
「ふん。この小僧の仲間か、あまり期待はできんようだな。」
そういうと持っている傍らに置いてあった槍を掲げ、ギラリと眼を赤く光らせた。
「話が通じるようなんで聞くんじゃが、山伏はどこにおるかしらんかの?」
相手は特に何の反応も示さず、こちらに向かってくる。


「お爺さん、逃げませんか?」
そう言いながらも、巫女さんは隣で向かってきている【偽山伏】を弓で射ている。
「お兄さんを置いて行くわけにはいくまいて。」

【凍気・壱】

わしと巫女さんが放った攻撃を偽山伏は矢の半分ほどを打ち落とし、収縮して打ち放ったつららをを槍で打ち払っている。結構、格上の敵かもしれなかった。

「わしが戦っている間に、小僧君の死体をもって逃げて貰えるか、後で落ち合って転生をかけよう。」
「はい。」

そうこうするうちに距離を詰めてきた…偽山伏の槍を受けるが、重く、武器ごと身体を1mほど飛ばされる。
片手では受けきれそうもない。下手をすると崖下に落とされる可能性もあった。
術を使う事を諦め、敵の攻撃に集中する。
高速韻のお陰で若干こちらの方が肉体的速度は速いようだった。
避ける事に集中し、隙あらば攻撃を仕掛ける。


敵は横を通り抜けようとした巫女さんに、攻撃を仕掛けようとした。
「いかさんっ!」偽山伏が叫ぶ。
「わしが相手じゃぞっと。」
相手の隙を突き、攻撃を当てるが、効いているような風でもない
道幅5m程通り抜けるには若干狭い、それに対して槍の攻撃範囲は広かった。
この地形はなかなか厄介だ、一人でも十分フル徒党相手に戦えるのではないだろうか。
もう5分は経過しており、余り時間はかけられなかった。

「渇っ!!」
【金縛り】【一喝】

巫女さんとは考えが一致したようだ。
このゲームの巫女の技能【金縛り】は一喝同様、ディレイを掛けるものである。

わしの【一括】はレジストされるが、巫女さんの【金縛り】は効いたようだ。
術を放ったと同時に、成否を見ず、駆け出していた巫女さんが敵の後方に位置する事に成功する。
VRゲーム慣れしているのか、なかなか思い切りがよかった。

「お爺さん、後は頼みます。」
そういうと、後ろを気にしつつ戦線を離脱する。
「いかさんからな。」わしは言った。
「ふん。先にお前から葬ってやろう。」
ガチでの戦い、僧ごときが何処までやれるものかと思っていたが、防御のみに集中すれば、どうにか受けて立ち回れた。

「やりおるわ。」
そういと偽山伏は、槍を片手で振り回しつつ、片手で術印を結び始めた。
薬師タイプの本領発揮といった所か…。
まだ、巫女さんはねずみ小僧の死体を担いでいる所だったが、とっとと逃げる事にした。

「神通発雷っ!!!」

背後に雷が走るのを感じながら、岩山を半ば転がりつつ、駆け下りる。
逃げている途中でも、山頂から雷光が飛んできた。
振り返り、棍を盾にしたつもりだったが、そのまま武器を伝い、全身に衝撃が走る。
棍をもった方の腕は、しばく動かなかった。



安全な所まで降り、峰の反対側から降りたであろう巫女さんの元へ、急ぎ向かう。
「どうやら間に合ったようじゃな。」
徒党会話を頼りに落ち合い、小僧に【転生・壱】をかける。
「いやぁ、すいませんでした。有り難うございます。」
「有り難うございました。」
二人揃って頭を下げる。
やはり礼を言われるのが、回復職の醍醐味だと感る。

「あの山伏もどきは、ボスなのでしょうか。」巫女さんが言った。
「山頂から降りてこないようじゃしの、そうかもしれんな。」
「よく無事でしたね。僕なんて数回切り結んだだけで首に一撃貰いましたよ。」

阿修羅と何度もやった模擬戦で、人との戦闘には慣れていたおかげかもしれない。

「巫女さんの補助も効いておったし、防御に徹したからのう。しかし、術の方が強そうじゃったな。」
簡易ステータスを見れば、既に瀕死の状態だった。
【転生】に気合を大分消費する為、自分の回復は後回しにしていた。
巫女さんに【意気昂揚】をかけてもらい、【気合】の回復を待ちつつ【生命力】の回復を行う。

「もう少し、レベルを上げてから挑戦しましょうか?」
怪我状態の身体をストレッチしながら小僧が言った。
「それがいいかもしれませんね。」巫女さんが少し考え返答する
「あいつは、目録をドロップしたりせんかのう?」
「旨みは減りますが、人を集めて、倒しに行ってみましょうか?」


休憩がてら、大木に寄りかかり、食事を取りながら、あの偽山伏をどうするべきか3人で話し合った。
前作の酒を飲むと怪我の治りが早くなるという迷信を思い出し、越後特産大吟醸酒【越後景虎】を一本、皆に振舞ってやった。




【メールを受信いたしました】

【開封。】

話の腰を折ってはと、思考操作で開封を行う。

『阿修羅でーす。100勝終わったわよ。それで今何処?貰ったもの見せたいんだけど、ちょっと相談もあるしさ。』

現在20時を若干過ぎた所、単純に計算すると4時間余りで達成したことになる。
一人4分、…阿修羅の強さにしたら遅いと感じるが連戦できたわけでもないのかもしれない、そう考えると驚異的な速さにも感じる。




「夜の世界も風情がありますね…」
巫女さんが酔った風にぽつりと言う。
月明かりの下で陰影が付いた横顔は幼さに反し、怪しい色気をまとっていた。
左手には富士山が、正面には大きな月と、海に写し出された月が縦長に、ゆらゆらと光を放っているのが遠くに見える。
「そうだね。瑞樹。」
小僧も若干…いやかなり酔っているようだ。



しばらく、黙っていたせいか、兄妹は二人の世界を作っていた。
見た目、美少年美少女の絵になる二人だ。写真を撮りたい。



「…ごほんっ。ちょっと相談なんじゃがな、一人助っ人を呼んでよいかの?それで挑んで駄目なら、レベルを上げるというのは、どうじゃろうか?」
「そうですね。多少レベルを上げても、3人では厳しいかもしれませんね。」巫女さんが言う。
「小林さんのお知り合いですか?」
「そうじゃ、まぁ頼りにはなるから期待しててよいぞ。性格はちょっとアレじゃがな。」
「小林さんのお知り合いなら、そう変な人でもないでしょう。」
知り合って間もないが、小僧には信用してもらっているようだった。



「向こうの都合を聞いてくる。」
そう言い、二人から離れ、阿修羅に連絡を入れる。

「もしもし、お疲れ様じゃ。今いいかの?」
「いいわよ。ご飯中だけど。そうそう、いい物貰ったわよ。見せてあげたいんだけど、今どこかしら?」

「駿府から北西へ10kmほど行った山中で徒党組んでおるのだがな、実は助っ人を頼みたいんじゃが、来れないかの?」
「嫌よ…と言いたいところだけど、今は暇だし、行けなくもないわよ。そこまで手間とらせるんだから、何か面白い事あるんでしょうね?」

「うむ。ボスらしき奴に敗退した。人型じゃからお主も好きそうじゃな。」
「まぁ、よく私の好みがわかるわね。」驚いた風に阿修羅が言う。
「うむ。動物や妖怪より人を斬る方が好きそうじゃ。」
「お爺ちゃん……人の事をなんだと思ってるのかしら…でもまぁ、否定はしないわ。」
否定しないのかよと心の中で突っ込みをいれておいた。
「地図でいうと……」
地図を出すが、真っ白だった。

「ああ…フレンドの居場所は表示できるみたいだから、まぁ、なんとか行ってみるわ。」
「陰陽師にも脚力上昇の術があったかもしれん、確認してみるがいい。」
「ヤケに技能に詳しい所がお爺ちゃんの謎な所ね。」
「…宜しく頼む。」
「貸し一つね。…ああっ、味噌煮込みうどん!あれで手を打ってもいわよ。」
「あと一つしかないんじゃが。」
「一つあるじゃない。」
「ひどいのう…わかったわかった。」

さらば【味噌煮込みうどん】。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
金縛り:相手にディレイをかける。基本射程3m 確立極低 気合消費少 熟練度上昇により確立上昇
意気昂揚:味方単体に気合回復速度上昇効果大。基本効果時間3分 基本射程5m気合消費中 熟練度上昇により効果、射程、効果時間上昇
越後景虎:越後の特産。大吟醸酒 
神通発雷:単体雷術。木属性。

※技能設定はうつろいます。






[20607] 12
Name: ノミの心臓◆9b8a3f51 ID:ee8cef68
Date: 2010/08/10 22:00



「皆さん、はじめまして。陰陽師の阿修羅と言います。よろしくどうぞ~。」
何が良い事でもあったのか、やってきた阿修羅はやけに機嫌が良かった。


「はじめまして、ねずみ小僧と言います。忍者です。よろしくお願いします。」
「はじめまして、神楽巫女と申します。職業は巫女です。よろしくお願いします。」
「はじめました」
それぞれ型どおりに挨拶を終え、若干、寒い沈黙が訪れる中、阿修羅に最初から事情を説明する。


「へぇ、山中を歩き回る山伏が目録をくれるねぇ。テスターの連中は情報を出し惜しみしてるのかしら…初めて聞いたわ。。」
「テスト期間は一週間でしかも2000人足らずでしたからね。今川ではさらに少ないですから…自分もネットの掲示板等はあまり使わないので…。」
βテスターの小僧が居心地が悪そうに言った。
「ああ、別に責めてる訳じゃないのよ。感想よ!感想。」
「今回の目的はもどきじゃがな。リベンジしたいだけじゃが、ついでに何か手がかりでもあればと思ってな。」



「それでは行きましょう。」
阿修羅を迎えに、中腹の大岩の辺りまで下りてきていたので、小僧を先頭に、再び山頂に向かい走り出した。
巫女さんは町まで迎えに行く事を、推奨していたのだが、わしが押しとどめた、面倒じゃったし。


「小林さん、阿修羅さんはどういう人なんです?」
道中、小僧がそんなことを聞いてきた。
阿修羅は後ろの方で、巫女さんと何やら喋りつつ、走っている。
「赤い水干姿の刀を持った生足陰陽師じゃ。」
「いや、そういことじゃなくて…ここに来るのもずいぶん早かったですし、陰陽師なのに刀刺してるんですよ?」
「ふむ…まぁ戦闘を見たほうが早いじゃろう。」
阿修羅の出鱈目さを説明するには、それが最適だった。


そんなこんなで、山頂間近までくる。
「ふーん。この上?」
阿修羅は半分崖の斜面を見ながら言った。

「そうです。敵は術を使いながら、近接攻撃を仕掛けてくる強敵です。」
小僧が忠告する。

「お爺ちゃんと一緒ね。楽しみだわ。」

「あっちの方が大分強いがな。」

「どうかしらねぇ。」

「お爺さん、そんな事できるんですか?」
巫女さんが目を丸くして聞いてくる。

「うむ。一番簡単にやる方法は、術を使う手だけを、MTFの支援を受けぬようカスタマイズしておくことじゃな。敵の攻撃に反応して中断することがない。」

「マニュアルで術印を結ぶのは…難しそうですね」
巫女さんが感想を述べる。

「慣れれば誰でも出来ると思うがな。」

「お爺ちゃんは、戦闘中でも、MTFシステムのカスタマイズを思考操作できるんだって。」
対戦中にそういう話をしたかもしれない、阿修羅が言った。

「なるほど…。思考操作で切り替えが簡単になるなら、便利でしょうね。」
小僧はなにやらコマンドウィンドウを開いて確認しているようだった。

「敵と斬りあってる最中に、そんな細かい所、操作できる脳味噌があれば、使い勝手はいいでしょうね。」
どうも思考操作が苦手らしい阿修羅が言う。

「慣れれば誰でも出きると思うがな。」
わしは同じフレーズを繰り返した。

「人間の頭はそんな簡単じゃないの。コマンドシステムは、そう敏感にできてないしね。お爺ちゃん、脳味噌から怪電波でてるんじゃなの?」
酷い言い草なのは、いつも阿修羅である。まぁ…何か考えるたびに、ウィンドウがぽんぽん開いては面倒だろう。

「ならば、音声操作でやればよかろう。」
案外、妙案ではないかと思い、言った。

「このゲームじゃボイスコマンドも思考操作なのよ、頭をクリアにする為に口にするの、別に音声を認識してるんじゃないわよ。戦闘中に口にしたって、色んなこと考えてるんだもの、そんなシステムの細かい部分まで、認識する精度は高くないと思うわ。」
豊富なVR経験を持っているらしく、阿修羅が懇切丁寧に説明してくれる。よく考えれば、実際には寝てる訳だった。

「うーむ……ならば常に片手だけ切っておけばよいのではないか。」

「片手で戦う癖付けとけば、いけるかもしれないけど…その前にMTF使って戦いながら、片手をマニュアル操作って、よく考えれば、変態な事してるわね。お爺ちゃん」

阿修羅との模擬戦の時は、手がない状態だった為仕方なく、マニュアルでやったのであって、別にずっと、マニュアルでやっている訳でもなかった。
単に避ける必要がないと思考すれば、済むことだ。MTFは動作せず、術もキャンセルされない。
ただ若い連中はそれが難しいらしい、防衛本能に反応するのだろう。死にたくないもんな。


「そうですよね。印を結ぶほうに意識をとられて、MTFの操作が疎かになると思います。」
とこれは巫女さん。


「そう考えると、小林さん凄い事できるんですね。」
わしは、純粋に人を褒めれる小僧のほうが凄いと思う。

「今度、教えを請うてもいいでしょうか?。」
と上目遣いに巫女さんが言う。

「かまわんぞ。やってみれば、案外できるもんじゃぞ。」

「お爺ちゃん、鼻の下、伸びてるわよ。」
何故か阿修羅の声がやけに優しかった。


長くわき道にそれて、雑談していたが、簡単に作戦を練り、上に登る準備を始める。


「私は補助はいらないわ。登れるし、切れたときに隙になるから。」
阿修羅が巫女泣かせな事を言った。。

小僧と阿修羅が先に登り始め、巫女さんとわしが後ろから、術を補助を受けて、登って行く。




「見た目は、強そうね。」

「わしのほうが渋いがな。」

「リベンジに来ましたよ。」

「兄さん、また死なないでね。」

登りきると、また細長い峰の一番奥に、座禅した偽山伏がいた。
「性懲りもなくまたきたか…ふむ今度は4人か。」
そう言うと、偽山伏は裾から何らかの丸薬を二つ取り出し飲み込んだ。

「いかん……もしや強壮丹か…」
咄嗟に戦闘ログを表示させ、敵の行動を確認するが、薬とだけ表示され、どんな種類の物かは確認できなかった。

「何ですかそれは?」小僧が問う。

「いわゆるドーピングじゃな、人数が増えた分だけ強くなるのかもしれんな…撤退するべきかのう…。」

前作では種類よって効果はまちまちだが、この低レベル帯で一番よいものを使えば能力は2~3倍にはなりそうだ。

「さぁ、ゆくぞ。小童ども!」
やけに大きな月の下、山頂での戦闘、第二ラウンドが始まった。




人数が増えたことを警戒してか、初戦のように、偽山伏ははこちらに向かってこず、最初から攻撃術の準備に入っているようだった。
この地形も敵の術に対して有利な条件だ。
巫女さんが弓を射るが、まだまだ距離があるせいか、命中には至らなかった。
こちらも前衛3人で距離を詰めているが、どうも間に合いそうもなかった。

「神通発雷!」

【手裏剣連射】

偽山伏の術と小僧の技能が発動する。
こちらに迫る雷光と手裏剣がぶつかり、激しく閃光を放つ、雷の軌道が変わる。
細かく枝分かれした雷を、前を走っていた小僧とわしが喰らい、吹き飛ばされる。

二人の後ろを走っていた阿修羅は、そのまま一人先行し、偽山伏と相対する。

槍と刀では、どう考えても槍の方が分がありそうに思えるが、隙を見つけは、懐に入り込み斬り付ける。
偽山伏の槍の反撃も、刀で受け、力もうまい事、受け流している。
身体能力の上がっている、偽山伏でも、阿修羅にはかなわぬようだった。

偽山伏は武器での戦いでは勝てないと思ったのか、片手で槍を、阿修羅が近づけないように、大振りに振り回しながら、片手で術印を結ぼうとする。
「そうは問屋が卸さないってね!」
阿修羅が槍を掻い潜り、斬りつける。それに対応するため、偽山伏は印を結ぶ手を使わざるえない。
「お爺ちゃん、これがマトモな反応ってものよ!」
まだまだ、阿修羅は余裕があるようだった。

「凄いですね…」巫女さんが呆然と言う。

わしはというと、後方で小僧と自分に【回復・壱】を使用しながら、隣の巫女さんと共に既に見学モードだった。
小僧はどうにか助太刀しようとしているが、この地形では、二人の戦闘に割ってはいるのも、難しかった。
下手をすると邪魔になりかねない。
巨大な敵だと術を当てようもあるのだが…。
この地形に、この敵キャラ、なんともやり難く作ってあるものだった。

「能力的には圧倒しているはず!…こんな低レベルに!」

いらただしげに叫ぶと、偽山伏は目を瞑って、槍を傍らに捨て、両手で術印を結び始めた。
もしかすると、高度な敵AIキャラクターはMTSを使っているのかもしれない。
最初から目を瞑ってしまえば、回避行動や攻撃行動を取る思考もなくなる。


「喝っ!!」
【一喝】【金縛り】
神楽鈴を鳴らす巫女さんと共に一縷の望みをかける………がレジストされたようだ。
基本これらの術は相手の術動作中に使うのが効果的だ、ディレイがかかれば、また印は最初から結びなおさねばならないからだ。



偽山伏は、背後に回った小僧に小太刀で背中から心臓を串刺しにされ、阿修羅に頭を刀で唐竹割りにされつつも、術を発動させる。

「喰らえっ!電曜!!」

偽山伏が青白い雷光に包まれる。
それから一拍おいて、四人分の…4つの雷球が放たれた。
目が眩み、小僧と、阿修羅はどうなったかはわからなかった。

目を見開くと、間近に雷球が二つ、わしと巫女さん目掛けて飛んできていた。
ああ、今日はこれで終わりか、明日はレベル上げでもするかと半ば諦めていると、


【妖獣召喚・白】


巫女さんは、袋から、鈍い光を放つ宝石を取り出し、放り投げると、空中で砕けた宝石から、白虎のような虎が現れた。

「行きなさい!」

虎は命を聞き、こちらに向かってくる二つの雷球に向かって飛び掛った。

「白虎は金気、雷は木属。金は木に剋(か)つ…はずですが…レベルも熟練度も足りないようです。」

虎は両手で、しばらく二つの雷球を抱え込んでいたが、雷球が消えると同時に、虎の血がシャワーのように辺りに飛散した。
信長で採用されている、属性の相克という奴に救われたわけだ。
3すくみならぬ、5すくみだったか…詳しくは覚えていなかった。


「すまん、助かったぞ。瑞樹ちゃん」

「お爺さん……後でお話があります。」

わしの冗談ににっこりと、笑顔で答えてくれたが、声が笑っていないようだった。





術によって巻き上げられた、土煙が去ると、片腕を失い、地に伏している小僧と、山伏に槍で串刺しにされている阿修羅の姿があった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
一喝:ディレイ技能。確立極低。基本射程8m。 射程外だと効果なし。割合気合消費25%。裏設定、敵に近いほど、確立上昇。
金縛り:ディレイ技能。要・神楽鈴。確立極低。基本射程10m。気合消費少。
手裏剣連射:忍者の技能。手裏剣消費。基本射程10m。気合消費少。金属製ならぬ金属性。
雷曜:敵の全体術。気合消費大。木属性
妖獣召喚・白:巫女の技能。めのう消費。白虎の眷属を召喚する。気合消費中。召喚している間、気合弱継続消費。

※また行間空け出しました、コロコロ変わってごめんなさい。



[20607] 13
Name: ノミの心臓◆9b8a3f51 ID:ee8cef68
Date: 2010/08/20 22:22

わしは阿修羅の状態を見て、【転生】の印を結びつつ、駆け出した。
【転生・壱】の効果範囲は術者から5m以内だった、薬師の【蘇生】は対象に触れていないといけない為、数少ない【転生】の利点である。


「高速韻!!」
巫女さん技能を受け、体に淡い緑色のオーラを纏い、さらに加速する。


強敵を倒した事で気を抜いていたのか、偽山伏はこちらが迫っているのに、気づくのが遅れたようだ。
「やらせん!」
こちらの意図を悟った偽山伏は、槍で串刺し状態の阿修羅を両手で振り回し、遠心力で槍から抜くように崖に放り投げた。


【転生・壱】
間一髪、術の発動が間に合う。

「ナイスお爺ちゃん!でもおっそいのよおおおおおおっ!」

空中で目を覚ましした、阿修羅が叫びながら崖下に落ちていった。
【生命力】も大して回復してないはずだ、落下ダメージがあるとすると、また死んだかもしれない。

「無駄じゃったかのう…」

なけなしの【気合】を無駄にしてしまったような気もした。

そのまま血だらけの山伏と接近戦に入った。
このゲームの対人戦は、急所に入った時はダメージ係数が跳ね上がる。
例えボスであろうとも人型…少なくとも瀕死に近いはずだ。
ここは、無理をしてでもダメージを与えにかかるべきだろう。

【気合韻】
巫女さんが気合回復上昇効果の術をかけてくれた。
「生きておるか、小僧。」
倒れている小僧に声をかける。
「はい。しかし、満身創痍といった風ですね。」

どのように術を受けたのか、片腕を失っている小僧と共に偽山伏と対峙する。小僧を回復する【気合】も残っていなかった。

「活身!」

偽山伏は短呪だっただろうか、戦っている最中に。ほとんど一瞬で印を結び術を唱えられてしまった。
【活身】は徐々に【生命力】を回復する術である、気合消費が少なく短い印で発動可能、効果は微々たるものだ。
前作では、長時間の戦闘を強いられる【生命力】の多いボスに使われると厄介な術だった。

小僧と二人で幾度かダメージを与えることに成功してはいるが、もともとレベル差があるのか、倒れてくれない。


急所に当てるつもりで降り下ろした棍が、偽山伏の槍で受け止められる。
そのまま鍔迫り合いに移行する、その間に小僧が脇から小太刀でもって、刺しにかかる。
偽山伏は片手を袋に手を突っ込んだかと思うと、何やら粉薬を振りまいた。
相手の懐に潜り込みに行っていた小僧は、それをもろに被る。
すると粉末が小僧の接触すると同時に激しく燃え上がった。

「うああっ!すいません。また死にました…。」小僧が倒れながら言った。

「火炎丹か…」

前作、薬師の主要生産物の一つ、陰陽師の火炎系の術と同等の効果があるアイテムだ。

「火炎粉だ、四人相手では禁止されておったのだが…そうそう死んでやるわけにはいかん。」

○○粉は攻撃術系の効果がある生産物の中で一番低位の物だ
最近の高度AIは自立的に思考し行動する、リアルでも高価なものだと政治にまで意見を出していた。
禁止行動に反する行動が取れるAIというのは、なかなか珍しいものではあったが。

「まぁ…そう言わず、死んで下さいな」

巫女さんが倒れこんだ小僧の背後から、ほぼ零距離で矢を放つ。

「まだまだ…この程度じゃ死ねんようだなっ!」
矢をまともに額に受け偽山伏は仰け反りながらも、不敵に喋る。

持続回復効果がダメージ量を上回っている為か、なかなか倒れてくれない。
あれで殺しきれないとなると、現状のレベルと武器で倒すのは無理かもしれなかった。

「うおああああああああっ!!」

偽山伏は叫びながら、槍を横から振り払ってきた。

『バキッ!』

こんな時に…こんな時だからか、棍は受けた所から真っ二つに折れた。
そういえば、受け取ってから全く修理に出していなかった。鼠狩りで大分使い込んでいた、恐らくは耐久値が0になったのだろう。
そのまま肩に斬りつけられ、後方に5mほど吹き飛ばされる。

立ち上がっている間も、偽山伏は巫女さんにも斬りかかっている。
弓ではもはやどうしようもない距離だ。
そのまま、為されるがまま、幾度か斬りつけられ、巫女さんは倒れ伏した。

「どうにもならないですね…。お爺さん、後はよろしくお願いします。」




そんなこと言われても、無手ではどうすることもできんなぁと半ば諦めかけていると、

「大ピンチね。」

太刀を持った、生足陰陽師こと、服部阿修羅が隣に立っていた。
偽山伏はその姿をみると、一足飛びに距離をとる。

「お主、よく生きておったな。」

「なくなくカタナプラスサンを犠牲にしたわよ。」
刀を人名のような抑揚で阿修羅が言う。

「そうか、よくわからんが、その武器は強そうじゃな。」
メールで言っていた見せたいものとは、この事か…阿修羅は全長2m弱ほどの太刀を肩に担いでいた。

「当たればね…私、太刀って使ったことないから、何せ日本じゃもう博物館にしかないからね。」

「怪我状態じゃが振れるかの。」

「振るだけなら、たぶんいけそうよ。…でも、ここに登ってくるのも、精一杯な身体能力になってるわ。」

「まともには戦えんか。」

「だから、お爺ちゃんには、なんとかあいつに一発入れれる様に、足止めをお願いしたいわね。」

「なかなか、難しい事を言ってくれるのう。」

偽山伏はこちらを警戒しているか、【気合】と【生命力】の自動回復を待っているのか、話をしている最中には攻撃を仕掛けてこなかった。

武器のない現状をどうにかしなければならない。
MTFの支援を受け、唯、無為に術を行使する思考を行なうのではなく、行使後の術イメージを具体的に思考する。
普段と結ぶ印も若干違う気がした。

「凍気・壱」

真っ二つになった武器ごと,凍らせ一本の鋭い氷の薙刀を作る。
参考にしたのは連携術の【凍氷刃】…あれよりは大分短かったが。

「さて、足止めと言われてもな。」

「器用なことをする!」

偽山伏と氷の刃で切り結ぶ、変節的な術の使用だが、行使には耐えるようだ。

「よくも、笑う余裕がある!」偽山伏がいらただしげに言う。

どうやら、自分は笑っているらしかった。
徒党は半ば壊滅状態…自分も一発でも急所に食らえば、耐久からして即死だというのに。

「面白いのう…若返るわ!」

「お爺ちゃん、気味が悪いわよ。」阿修羅が後ろから、笑いながら冷やかす。

こんなに気分が高揚するのは久しぶりだ。気持ちが氷の刃に乗るように思えた。

「老いぼれが、まだ実力を隠していたか!」

「よく喋るAIじゃな!」

自分がいきなり強くなるわけがない、恐らくは相手のほうが、後ろの阿修羅を警戒して、攻めきれずにいるのだ。
幾度目かの武器同士の激突、狙っていた瞬間がやってきた。

偽山伏が突いてきた槍を跳ね上げる、その瞬間、凍りの刃が砕ける、よく使う術だとはいえ、特に集中して鍛えているわけでもない。
短くなった氷の刃は槍の邪魔を受けることなく、そのまま相手の懐に潜り込み、折れた先でそのまま両の手を狙い、斬りつける。

「こんなバカな…」

斬り付けられた偽山伏の両の手は、霜が張り付くように凍り付いた。

「100点をあげるわ。お爺ちゃん。」

いつの間にか接近していた阿修羅が偽山伏の頭上から太刀を振り下ろした。

「ふん。200点満点でとか言いそうじゃな。」

偽山伏の断末魔が山頂に響いた。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

気合韻:巫女の技能。自身から範囲内に気合回復上昇効果。効果低。気合消費中。 
活身:薬師の技能。生命力を徐々に回復する。気合消費少。発動時間極少







[20607] 14
Name: ノミの心臓◆28d860a0 ID:ee8cef68
Date: 2010/08/26 21:38



「自分自身に継続ダメージがあったようじゃな。」
偽山伏との戦いに決着を付けた直後、術の変則的な行使がたたり、わしは幽霊になっていた。

「あはははは!…最後に締まらなかったわねぇ…お爺ちゃん。」
阿修羅はひとしきり爆笑した後、言った。

「…お主も、死んだじゃろうが。」

「あの雷球、ギリギリで避けようとしたら、ホーミングしてきたのよ…」
直径1m近い球が時速2、30kmほどのスピードで飛んできたのだ、あの間近で避けれるほうがおかしいとは思うが…。

「回避不可の術もあるのかもしれんな。」
もしくは、NPCにありがちなインチキ技能かもしれない。

「素の属性値が高いから、死んではなかったんだけどねぇ…痺れてる間にぐっさりと刺されちゃったわ。」

「でも、素晴らしい…楽しい戦いでしたね。」幽霊姿の巫女さんが言った。
「そうですよ。興奮しました。」これまた幽霊姿の小僧が言った。

結局、3人死亡、生き残っている阿修羅も怪我状態という散々な状況で戦闘は終わった。

「ほらっ、お爺ちゃんの不注意のせいで生き返れなかったんだから、謝っときなさいよ。」

「わかっとるわい!」

「帰り時間を考えたら、もう終わりそうな時刻ですから、ちょうどよかった気もします。」小僧がフォローしてくれた。

「いや、それでも経験値と金が減ったしの。すまんかったな。」

次のレベルまでの10%と道中稼いできたお金の半分が失われた。
転生を掛けていれば、熟練度に応じて経験値の数%は戻ってくるし、お金は消滅しない限り減じない。

「レベルが低い時は、雀の涙程度の減少ですよ。気にすることはないですよ。」巫女さんもフォローしてくれた。

「小林さん大活躍だったじゃないですか、最後は仕方ないです。」

「小僧こそ、術を受けてよく無事じゃったな。巫女さんも、白虎を召喚する機転見事でしたぞ。」

「咄嗟に手裏剣を投げたおかげですね。腕だけで済んだのは運がよかったからです。」
あの近距離で、雷球に技能を行使するねずみ小僧も、実際大したものだ。

「あの術は、使うごとに【めのう】を消費してしまいますから…行使には勇気がいりました。」

「まぁ…確か、宝石商で5貫ぐらいだったかしら?」と阿修羅が言う。

「そうです。一応、お守りにと買っておいたのですが、役に立ってよかったです。」
にっこりと巫女さんは微笑まれた。
「あ、あとで、お支払いします。」
何故か無言の圧力を感じ、そう言っていた。助けられた訳だし、払う義務もあるだろう。

「いえ、いいんですよ。また兄さんにたかりますから、気にしない下さい。」

「ええ…本当にいいんですよ。懐には余裕がありますからね。」
苦笑いしながら、小僧が言った。
βからの経験を生かし、色々と小金を稼いでいるのかもしれない。

「そうか…すまんの。そういえば何かアイテムは出たか?」

「ああ、ちょっとまってね。コマンド表示……」

阿修羅の手が自身前方の空中をさわさわと触っていく。

「えっと、神通霊力目録断片・壱。何かしらね。」

「目録断片ということですから、目録に関係する何かでしょうか…。」巫女さんが言った。
「確かにそれっぽいね。」小僧も同意する。

「複数枚集めたら目録になりそうな名前じゃな。しかし、偽山伏は薬師じゃったし、薬師用かもしれんな。」

前作では、神通力は薬師の目録の一つだったはずだ。その上位目録かと思われた。

「ふーん。いらないわねぇ…。」

「あの、僕は、ちょっとつてがあるので売って貰っても、いいですか?」

「お金はいいわ。協力して倒したんだし、必要な人が貰って。」

「ありがとうございます。」

「他には何もないのか?」

「何もないわね。お爺ちゃんも、倒した時は生きてたんだし、何かあるかもよ。」

「そうじゃな。まぁ生きておらんと確認もできんようじゃし、明日の楽しみじゃな。」

敵からのドロップ品は徒党内でランダムに配るように小僧が設定していた。

「あっと、もう時間のようです。では一足先に失礼します。今日は楽しかったです。ありがとうございました。」

小僧は慌しく言うと、返事を返すまもなく消えていった。

「じゃあ私もそろそろですね。皆さんお休みなさい。」

それぞれに挨拶を済まし、小僧の消失からあまり間をおかず、巫女さんも消えていった。

……

「ところで、お爺ちゃん、なんで巫女ちゃんには敬語なのよ。」

「孫ぐらいの歳に見えるしの。なんともやり難いんじゃ。」
本当は巫女さんからは、美恵子さんとはまた別種のサドオーラを感じ、思わず敬語になってしまうのだった。

「私には、そうそうに悪態ついてたような気がしたけどね…。」

「お前さんは見た目どおりじゃしな。」

「それはどういう意味かしらねぇ…。」

【後1分で貴方は消滅いたします】
不穏な空気になりつつあった中、システム音声が頭の中で鳴った。

「おおっ!あと1分じゃそうな。今日は楽しかったの。」

「死んだら、次の日はお寺の墓場からスタートですっけ?」

「うむ。説明書じゃとそうじゃな。」

「じゃあ、私もその辺りでログアウトしておくわ。今日も楽しかったわね。お爺ちゃん。成仏してね。」

「うむ、夜の山頂で成仏するのも、また風流じゃな。心残りもないわ。じゃあ、また明日じゃ。」
そう言って夜の駿河湾を見渡した。

「また明日ね。お休みなさい。」

【後十秒で貴方は消滅いたします。】

…なんとも、気まずい間があった。

「何時消えッ
【貴方は成仏しました。消滅いたします。】

システム音声が告げると同時に、身体が一瞬淡い光に包まれ、視界が暗転する。

視界が開けるとそこは…、
いつもの仏間の筐体内ではなく、チュートリアルでおっさんAIと修練した場所だった。
どうやら、まだアバターの状態のようだ。

「こんにちは。小林正巳様。貴方は特定用件を満たしたことにより、潜在能力を獲得いたしました。」
今川のGMこと、有馬桜が部屋の中央にぽつんと置かれた座布団に、昨日の華やかな和服とは違い、訪問着用にみえる上品な和服を着て正座していた。

前作、潜在能力は、レベル製の信長の野心オンラインにおいて、唯一ステータス振りにも似た要素を持っていた。
経験値とは別のレートのポイントを貯めて、プレイヤーはそれを自由に割り振り、初期ステータスとは別に、様々な能力値を上げるというシステムだ。
一つのステータスに特化させるとそれだけ多くのポイントが必要になるので、自分は平均的に各種項目に振っていた。昔も今も器用貧乏な訳だ。
初期ステータス振りがレベルに掛かる乗算なら、潜在能力はそれに足す要素だった。

「お前さん、いつもここにおるんか?」
桜子に手で促され、対面の座布団にあぐらを組んで座りながら、また始まって幾ばくもない時のGMは多忙だろうと思い聞いてみた。

「はい。今川所属プレイヤーが死亡いたしますと、原則、私がお相手させて頂きます。フィールドにいる私は一人と限定されておりますが、こういう場所では、平行処理させていただいております。」

とすると、無所属は一人で遊ばされているのだろうかと思っていると、
「無所属には、各国GMとは別の担当の者がおります。ではご説明させていただきますが、よろしいですか?」

無言で頷いた。

「今作の信ONでは、潜在能力は各キャラクターを特徴付ける、隠し要素の一つになっております。それは複数の特定の条件を満たすことにより獲得可能です。大概はメリットとデメリットが同時に付くようになっておりますので、新たに付加されたステータス欄よりご確認下さい。」

言われて、さっそく思考操作によりコマンドを表示させ【状態】を選択、二重になっていたステータスの枠を指でつつく。

『潜在能力・先天:【超古参プレイヤー】:あなたは前作データを一部引き継いでいる。
     
      変異:【あなたの皮膚には霜が付いている。】効果:冷気耐性を強化する。能力値、水属性が上昇し火属性が低下する。
     
      称号:【思考操作熟練者】:技能にアレンジを加えたものに贈られる称号                     』
        

「質問してもよいのかの?」

「はい。本来、私は死亡したプレイヤーに助言等を贈る役割でここにいますので、ご遠慮なく。」

「ほう。例えばどんな助言をするんじゃ?」興味本位に聞いてみた。

「そうですねぇ…、例えば戦闘が苦手な人には、操作の助言をします。ここでは模擬戦もできますからね。何度も同じ相手に負けているような人なら、もしかすると敵の特徴を教えてあげる事もあるかもしれません。」

「ふむふむ。ここは格ゲーのトレーニングルームみたいなもんか…。仮に金がない奴には金策を教えてくれたりするのか?」
チュートリアルでお世話になった、出口も窓もないのに、明るく広い道場を改めて見渡しそう思った。

「そういうこともあるかもしれませんね。」

「ただのクレイマーみたいな奴がいたらどうするんじゃ?」

「そういった方に対する対応も学んでおります。特に贔屓するような事はございません。」
そんなことをしていては、人間のGMでは処理能力を余裕でオーバーするだろう、高度AIならではのサービスという訳だ。

「大変じゃな…それで質問なんじゃが、称号とやらはどんな意味があるんじゃ?」

「ほとんどの称号は、ステータスに影響を与えるような事はございません。特定のクエスト等の受注条件に必要な事もございますが、ほとんどはただの飾りと思っておいてかまいません。」

「この潜在能力を消すことはできるかの?」

「詳細はお答えしかねますが、可能です。」

「この潜在能力の獲得用件は?」

「お答えしかねます。」

「死亡することが必須条件かの?」

「お答えしかねます。」

教えてはくれなかったが、ある程度推測はできる。
今川所属ボーナスで水属性が高いことが前提条件とあるとして、自身の凍気で死亡した事か、それとも前に雷で打たれたのも関係あるのかもしれない。

「潜在能力はレアなのかの?今はどのくらいの人数が獲得しておる?」

「んー…まぁいいですか…。現在、今川では小林様で3人目ですね。他の勢力については、関知しえません。レアリティについては、それぞれでしょうか。」

「条件を満たせば、誰でも獲得できるものと思っていてよいのか?」

「基本的にはそうです。ですが、仮に条件を知っていても、そう簡単には得られないようになっております。早期に得られたのは、大変、運がよかったと思われます。」

「なるほどのう…そうじゃな、あとは…」

そのほか、気になった事を片っ端から質問していたら、制限時間がきたらしく、この日は終了となる。












「茶菓子は出んのか?」

「出ません。」

「お前さんスリーサイズは?」

「早くログアウトしやがれ。」

「むむむ…Dとみたが、どうじゃ?」

「死ね、クソ爺。」




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
めのう:アイテム・宝石・取引可。※町の宝石商で売っている5貫。
神通霊力目録紙片・壱:アイテム・取引可。※薬師神通力目録の上位互換、壱~伍集めると目録になる。特化目録詳細後述。




[20607] 15 閑話
Name: ノミの心臓◆9b8a3f51 ID:ee8cef68
Date: 2010/08/29 00:49
信ONを始めてから、この装置の中で目が覚めるのは三度目だ、目覚めの気だるさにも大分慣れてきた。
正直オフラインのくだりは、すっ飛ばしたい気持ちもあるのだが、昨日、孫の加奈子と買い物をする約束をしていた。
身支度を済ませ、面倒な事は午前中に済ませてしまおうと外出した。

夏の日差し照りつける中、夏休み真っ最中の孫と駅で待ち合わせる。
人もまばらな電車に乗り隣町まで揺られた。

「爺ちゃん、安いのでいいからね。」

「いや、一番いいものを買おう。お金はお母さんから貰っておるからな。」

「だからさ、差額ちょうだい。」
気を使っているのかとも思っていたのだが、単にガメツイだけだった。

「駄目じゃ。お母さんに領収書渡さんといかんからな。」

「そういう所ちゃんとしてるよねぇ…がっくし。」

そうこうするうちに、いつもの、隣町駅前のベター電気に到着した。
VRの筐体とソフトを購入し、登録者を加奈子とする手続きをとる。
VRゲームは原則、未成年は禁止だったが、店員もろくに確認も取らず18歳と書類に書いていた。
あまり景気がよくないし、売れればなんでもよいのだろう。昔から日本のその辺の規則や法律がゆるいのは今も変わらないようだ。
加奈子の家に設置してもらうように手続きを取り、この日の目的は達せられた。
「家が辺鄙な所にあるんでな、車の乗り入れができんから、そのつもりで運んでってくれ。」
加奈子の家の前の石段を筐体を持って、設置に向かう店員を不憫に思い助言をしておいた。



「で、どこから、始めるから決めたのか?」
筐体の設置は業者任せなので、駅前のレストランで昼食を済まし、今は手ぶらで加奈子と帰っている道中だ。
まだまだ足腰に不自由はないとはいえ、若いものに付いて歩けるほどでもない、加奈子が足を合わせてくれているのだろう。

「んー、考えたらさ、お母さんも本音じゃ、ゲーム内まで娘と一緒にいたいと思ってないと思うのよ」
加奈子は母親に徳川にしなさいと言われているらしい。

「…どうじゃろうなぁ。人それぞれだと思うが。」適当にはぐらかしながら答えた。
未成年禁止のゲームを、別に何とも思わず許可を出す母親もどうかと思ったが、加奈子も母親から護身術を学んでいると聞く、ゲームが何か悪影響を与えるほど心は弱くないだろう。
わしはといえば、加奈子がもう少し若かったら反対してたかもしれないが、美恵子さんが許可を出したものにノーと言えるはずもなかった。

「お爺ちゃんの今川にしようかと思ったんだけど、所属ボーナスが微妙すぎるし。」

「何にせよ。美恵子さんに心配させすぎんようにな。」

「その辺のバランスだよね。反抗しすぎて、物理的にゲーム取り上げられるとアレだしなぁ。」

「所属ボーナスを理由にすれば、言い訳にはなるわな。」

「帰ってもからも調べるてみるけど、織田が有力かな。今のところは。」

「そうかい、織田も確かで属性値が上がったような気がしたが…」
織田の所属ボーナスは腕力+1魅力+1火属性+1だった。

「大概どこも少しは上がっちゃうみたいだし、上がらないところは徳川から遠いし。」

「隣国なら、許してくれそうという訳じゃな。」

「会おうと思えば会える距離って言うのがミソよね。近いことに安心して、あんまり会わなさげだし~。」

今まで同じ町内にいるのに盆と正月と息子の命日ぐらいしか顔を合わせなかった自分に、何か遠まわしに言われたような気がした。

「職は何にするんじゃ?」

「まだハッキリと決めてないけど前衛職かなぁ。お爺ちゃん僧なんだっけ。お母さんは巫女らしいけど、笑っちゃうくらい似合わないよねぇ?。」

「清楚で、清らか、ぴったしなイメージじゃがな。」

「………お爺ちゃんってお母さんのどこ見てんの?」加奈子は目を丸くして言った。

ゲーム内では名前を知っていれば連絡は取れるので、取り合えずゲーム内の名前だけ教えておいた。
「ふーん。字面だけ違うんだ。」まぁ便りがなければ楽しくやっていると思っておこう。
「爺ちゃん、今日はありがとうね。お母さん最近、日中は離れられないみたいでさ。」
「いんや、いつでも言ってくれれば付き合うぞ。」
最近は、また政治が混乱している市場も荒れ模様のようだった。
その後、加奈子と別れ、晩飯を買い込み帰宅した。


特にすることもないので、ネットで情報収集を始めることにした。
某巨大掲示板等やwikiを見ていくと、チラホラ技能について書かれ始めていた。
その中で僧の掲示板を見つけたので見ていくことにする。
分からないネットスラングは検索して日本語に翻訳していった。

それが以下のものだ。

僧スレ 壱之巻
1 名前:探求する素浪人さん
試しに立ててみた。

2 名前:探求する素浪人さん


3 名前:探求する素浪人さん


4 名前:探求する素浪人さん
取り合えず、寺でもらえる目録と技能まとめてみた

目録        :技能一覧   熟練度?
勤行(ごんぎょう):一喝
          :合掌
          :材料採集之い 
仏の道      :回復・壱
          :転生・壱
密教       :紅蓮・壱
          :凍気・壱
護法       :練気乃法
          ;解呪・壱
僧兵法      :罰当たり・壱
          :成仏撃
芸道       :手芸之い


5 名前:探求する素浪人さん
万能職らしく回復に攻撃術に攻撃技能と一応なんでもそろってんね。

6 名前:探求する素浪人さん
必須なものがないけどな。

7 名前:探求する素浪人さん
ないな。範囲回復がないな。薬師は範囲治療あるのにな。

8 名前:探求する素浪人さん
蘇生もないしな。薬師より硬いのが取り柄だな。前衛しようにも、前衛はみんなある【存命術】がないのは怖いな。

9 名前:探求する素浪人さん
術も属性二つだけってどうなのよ。両方に耐性ある奴いたら詰むな。

10 名前:探求する素浪人さん
そんなフレイザードみたいな敵いるかよ。

11 名前:探求する素浪人さん
両方育てていったらメドローア覚えるかもしれんな。

12 名前:探求する素浪人さん
ググったら一世紀前の漫画じゃねぇか、んなネタわかんねぇよ。

13 名前:探求する素浪人さん
まだ一世紀経ってない件。

14 名前:探求する素浪人さん
10年前に実写化リメイクされたじゃん。

15 名前:探求する素浪人さん
どっちにしろ昔すぎてわからんです。

16 名前:探求する素浪人さん
お前何歳だよ。ゲームの年齢制限守れよ。

17 名前:探求する素浪人さん
今でも著作権切れて、色んな出版社が続編だしまくってんじゃん。分かんないのはネタだろ。

18 名前:探求する素浪人さん
ポップの娘が主人公の奴が正史だよな。

19 名前:探求する素浪人さん
あれは実はポップ自身だったっていう……俺的に黒歴史。昔の財産食いつぶしすぎだろ出版社は。

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その後、信ONの話がないまま200レスまで続いた。
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221 名前:探求する素浪人さん
二日目終了乙。初日からずっと鼠に噛まれながら、ひたすら回復・壱を鍛えてみた結果
回復・弐:一人の【生命力】を回復する・身体欠損部を被回復者が持っていれば修復される・気合消費中・射程3m・熟練度により射程範囲・回復力上昇
射程範囲が短くなった。気合消費が増えた。回復量は鍛えた回復・壱とあまり変わらず、使い勝手が悪くなった。

222 名前:探求する素浪人さん
人柱乙。範囲回復は覚えなかったか。使い勝手悪くなっても拡張機能で対応すりゃいいだろ

223 名前:探求する素浪人さん
腕が欠損するたびに【町医者】にかかる労力から解放されたじゃん。

224 名前:探求する素浪人さん
そんな設定あったんだ。欠損したことなかったので、知らなかった。
髪の毛、斬られても治してくれんの?

225 名前:探求する素浪人さん
滅多にないじゃん。意味ねぇ。俺は【回復・壱】を使い続けるわ。

226 名前:探求する素浪人さん
こうして、また一人使えない僧が誕生したのであった。

227 名前:探求する素浪人さん
別に鍛えなかったからといって不都合ないし、欠損したときだけ【回復・弐】使えばいいだろ。

228 名前:221
言い忘れてたが、【回復・弐】にすると【回復・壱】使えなくなるから

229 名前:探求する素浪人さん
えっマジで?強制的に?

230 名前:探求する素浪人さん
公式に書いてあっただろ。単純に上位互換の物は下位に上書きだって

231 名前:221
いつの間にか回復・弐にしますか?って技能欄から選べたよ。拡張効果とかも詳しくみれたから、それで判断した。

232 名前:探求する素浪人さん
術のカスタマイズで気合消費量下げれば、効果も射程も下がる、その分熟練度上げてカバーしなさいっ訳ですね。

233 名前:探求する素浪人さん
拡張機能にも限界あるしさぁ。【回復・壱】の利点も大きいだろぉ。特に射程の広さとか命綱だと思うんだがなぁ。

234 名前:探求する素浪人さん
そうすると【回復・参】を覚えない。予想すると、効果は欠損部分がなくても修復できるだなきっと。その後範囲回復だろ…きっと。

235 名前:探求する素浪人さん
技能スロット枠がカスタマイズした回復だけで埋まりそうな件。

236 名前:探求する素浪人さん
俺は攻撃もしたいんでコストパフォーマンス重視するわ。徒党に薬師いるしな。

237 名前:探求する素浪人さん
熟練度上げとか作業だよなぁ…なんでこんな古いシステム採用したんだろ。

238 名前:探求する素浪人さん
徒党組んで、ちょっと強い敵と戦った方が熟練度の上がり方も速いみたいだよ。
MMOはどんなシステムでも序盤は作業だよ。作業しながら楽しく会話するのがMMOだよ。主に女の子と。

239 名前:探求する素浪人さん
マジで?誰か詳しく検証してくれ。

240 名前:探求する素浪人さん
自分でしろks

241 名前:探求する素浪人さん
自分以外女の子のハーレム徒党作ったら、超険悪な雰囲気の狩りになったお

242 名前:探求する素浪人さん
そっちの検証じゃねぇから。
VRになってから、MMOはネカマが絶賛増大中らしいから、俺は見た目に囚われず、普通に楽しむ事にしてる。

243 名前:探求する素浪人さん
中身男の美女とかご褒美だろ

244 名前:探求する素浪人さん
お前一人だけレベル高すぎだ。

245 名前:探求する素浪人さん
僧は戦国時代から変態が多いらしいからな

246 名前:探求する素浪人さん
俺は拡張で射程0mにして、いつも接触しながら回復してるんだ。

247 名前:探求する素浪人さん
変態多すぎ

248 名前:探求する素浪人さん
別に回復効果上がるんだからいいだろ

249 名前:探求する素浪人さん
戦ってる最中に接触してくる僧なんて邪魔すぎる。

250 名前:探求する素浪人さん
美少女だったら歓迎する。

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その後も変態が多数紛れ込んだことから、スレはカオスな状態になってしまった。。
時間の有り余る爺ならではに、他のスレッドも一応有用そうなものは見て回った。
まだ潜在能力に関するスレッドは立てられていないようだ。
弱点も抱えるようなものだし、あまり吹聴する人もいないのかもしれない。

夢中になって調べていると、いつの間にか夕刻を過ぎていた。
背筋を伸ばし立ち上がり、一人、飯の準備をし、全自動風呂のスイッチを押す。
飯を食い風呂に入り、また筐体の中で寝るのだった。









ちなみにレス番243はわしだった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
範囲治療・壱:薬師技能。【生命力】を回復する。自身から範囲5m以内にいる徒党メンバーを回復する。アイテム【水】を消費する。気合消費中。熟練度により射程範囲、効果上昇
存命術・入門:パッシブ技能。急所に受けたクリティカルをまれに無効にする。生命力低下に比例して防御力上昇小


【町医者】:欠損部を有料で直してくれるNPC。城下町に滞在。



[20607] 16
Name: ノミの心臓◆9b8a3f51 ID:ee8cef68
Date: 2010/09/01 23:40

1日目は午前8時スタート、二日目は午後4時スタート、現在三日目ゲーム内時刻、深夜午前0時、駿府城下町寺の一角は見渡す限り墓だった。
そんな暗闇の中、数十人の人影と幾つかの灯火があった、これだけの人数が昨晩は死んで成仏なさったわけだ。その灯火の一つが近づいてきた。

「お爺さん?」

「おおっ!?巫女さんか、こんばんは。」

技能【光明】の明かりを手でかざしながら、巫女さんが声をかけてきた。

「こんばんは。今日は少し暗いですね。月が雲に隠れているようです。」
巫女さんは墓場ということもあってか、声量を落としているようだ。

「墓場から這い出るにはぴったりな雰囲気じゃな。雨でも降りそうじゃ。」

「私達はさしずめゾンビですか。」

ゾロゾロとお寺の出口に向かって歩いていくゾンビ集団、ほとんどが徒党丸ごと全滅のようで、反省会のような会話が聞こえてくる。
その集団にまぎれ進んでいくと、白髪忍者のねずみ小僧君が寺の門によすがって待っていた。

「こんばんは。小林さん、いい夜ですね。」

「こんばんは。小僧君。」

いよいよ雨が降り出してきた、大多数のゾンビ達はあまり気にせず、そのまま門を出て走り去っていく。
わし達はなんとなく、門下の石段に座り込んだ。

「他の地域で山伏が発見されたそうです。キノコハウスも情報を得て、急ぐ必要がないと判断したようです。賞金を取り下げました。当初の予定が狂ってしまった訳ですが…どうしましょうか?」

「あまり賞金には期待はしてなかったが、存外に早く見つかったものじゃな。」

「見つかったのは上杉、越後ですね。上杉はプレイヤーの纏まりがいいみたいで、βテスターが音頭を取り、ローラー作戦で山伏を探し出したようです。」

「越後か、日本海側…間反対じゃな。ちと足を伸ばすには遠いかもしれんな。」
現実で直線距離で300km近く、ここでは100kmになるか、間には武田の国の領地、長野県と山梨県こと、信濃と甲斐があった。
計算上、疲れ知らずのこのゲームで真っ直ぐ走り続ければ4時間ほどで到着する訳だが、長野は果てしなく山だった。

「目録の詳細も書かれてました、野外活動その壱。書かれている技能は二つ。飛脚・序 効果は街道上でのみ脚力上昇です。パッシブ技能のようです。」

「各国で行商するのに便利そうじゃ。」

「でも、お金はかかりますが、街道の移動手段として馬もありますからね。もう一つは料理作成、鼠の肝とか料理できるみたいですよ。」

「あまり美味そうではないの。」

「食料を現地調達できるのが強みですかね。そういう訳でそんなに急いで取る必要もないということが分かりました。」

「ふむ。近場で山伏が見つかるのを待つのも手かの。」

…しとしとと降り続く雨の中、眼前の長屋と遠くの駿府城を見ながら、しばらく沈黙が続いた。

「えっと…阿修羅さんと連絡とっていただけますか?」

「おおっ そうじゃったな。風景に見とれておったわ。」

確か目録の断片の受け渡しをするんだったなと思い出し、阿修羅にその旨のメールを送った。
しばらくすると、返事があり、お互いの場所をフレンド機能と併せ地図で確認をし、西門の茶屋で待ち合わせる事にした。
小僧たちにもそう伝え、小雨の中3人で走り出した。

「まだ来ておらんようだの。」
雨のせいか、茶屋の風景も一遍し、野ざらしにされていた椅子には赤い大きな傘が何百と差されていた。

「タオルでもあればいいのですけれど…」
巫女さんが長い黒髪につけた水滴を払いながら言った。
「すぐ乾くようになってるよ。」
兄妹では小僧だけがβ経験者という事で色々と詳しかった。

茶屋の団子を食べながら、しばらく雑談に兄妹と雑談に興じる。
大体1時間に一度は腹が減っているような感じがし、食事後2時間するとステータスの減少が始まる。休憩を挟めるようにする運営のはからいなのかもしれない。

「ごめんなさい、待たせたわね。」

しばらくして、阿修羅と合流し、挨拶もそこそこに、小僧がわしに話した内容と同様の会話が始まった。

「積極的に探す理由もなくなったわけねぇ。今日はレベル上げにでも転向する?」

「このまま解散しても良いがな。」
色んな人間と組むのもMMOの一つの楽しみ方だろう。

「捻てるわねぇ。ストレスなくパーティ組めるっていうのは案外珍しいのよ。私を大切にした方がいいわよ。お爺ちゃん。そうそう断片だったわね。」

お前さんの図太さなら、誰でもストレスなくパーティ組めそうじゃがな。等とわしは言わなかった。


断片で思い出し、小僧と阿修羅が受け渡し操作をしている間、自分にも何か偽山伏のドロップ品が入っていればと思い、アイテムウィンドウを開くと、アイテム欄の一番下に何やら、見慣れぬものがあった。

『地図絵巻物其の百弐十七』

それを選択し、腰の袋から、その巻物を取り出す、アイテムは具現化すると他の人にもそのアイテムの詳細を注視することでウィンドウで見る事が可能となる。

「お爺さんそれはなんですか?」巫女さんが覗いてくる。

「わからん、偽山伏からのドロップ品のようじゃ。」

「地図絵巻物ですか…効果とか何も書かれてませんね」

「使ってみるかの、地図なら共有すればよいしな。」

特に遠慮することなく、使用してみた。すると駿河の…街道以外は真っ白な地域マップが開かれ、駿府城から北東、富士樹海の真っ只中だろう場所に×印が書かれ注釈用のペーパーも付いていた。
注釈を見てみると、富士地下洞穴:推奨レベル20以上・フル徒党以上複数徒党推奨と書かれていた。
フレンド登録しなければ、地図情報の受け渡しはできないらしく、小僧と巫女さんにフレンド登録依頼を出し、了解をもらった。

「ダンジョンの情報のようね。次の目的が決まったわね。」

「推奨レベル20と書いてあるじゃろうが。」
自分達のレベルは昨日1ずつ上がり、阿修羅とわしが5、小僧と巫女さんが4だった。

「ご丁寧に街道沿いからのルートまで書かれてます。」

「面白そうですね。」

「人に荒らされる前に行くべきよ。昨今のゲームじゃダンジョンといえばお宝がつき物だしね。」

「推奨レベルを満たすことが、近道かもしれんぞ。急がば回れじゃ。」

「長期間遠征することになるなら、武具の修理ができる鍛冶屋は必須でしょう。」巫女さんが言った。

「恐らく偽山伏を倒せるぐらいの徒党を想定しているでしょうから、今の僕達では力不足かもしれません。」
小僧が言った。確かに倒せたのは運がよかったというほかない。仮にあんなのがうじゃうじゃしているような場所だったら経験値を減らしに行くようなものだ。

「人を集めるか、レベルを上げるかするべきじゃろうな。」

「安易に人を集めて情報を漏らすのは止めましょうね。」お宝に目がくらんでいる阿修羅が言う。

「では、こういうのはどうでしょう。ここで一度、徒党を解散して、それぞれレベル上げをしてる過程で、信用できる人を私と兄さんで一人、阿修羅様でお一人、お爺さんでお一人作ってから富士地下洞穴に向かうのは。」
「レベル20にしようと思えば、ひたすら時間をレベル上げに費やしても最低2週間はかかると思われます。段々と上がりにくくなっていくでしょうし。」
βからの経験でなんとなく分かるのだろう、小僧が巫女さんの提案に補足するように言った。

「長いわね…一週間にしましょう。時間をかければ、他の徒党に先を越されるかもしれないわ。別に推奨なんだから、それ以下でもかまわないでしょう?」
阿修羅の言葉にその辺が妥協案と思え、みな頷いた。

「先々のことになるが、徒党の職が偏ったらどうするんじゃ?」

「その辺は連絡を密にしていきましょう。複数信用できる人を用意しておいて、後で誘う人を決めるとか。」
小僧の交友関係が広いからこその発言のようだった。

「わしゃ信用できる人を一人作るのも難しいの。」

「誰もお爺ちゃんには期待してないわよ。人数も臨機応変にね」
その後も細々とした事を小僧と阿修羅がほとんど二人で決めていった。

「こんなところかしらね。何か忘れていることあるかしら?」

「再び集まったときの徒党のリーダーは誰にしますか?」
昨日党首だった小僧が言った。

「また小僧君でいいじゃろ。」

「しかし、この中では一番若輩者ですし…あまり大勢を纏める自信がありません。お爺さんどうですか?」

「見た目どおりの歳でもあるまいに…。わしゃ嫌じゃ。阿修羅はどうじゃ?」
小僧と巫女さんは高く見積もっても高校生といった容姿だ。

「別にかまわないけど、私がリーダーになると暴走するけどいいかしら?」

「…ここは、巫女さんでいいんじゃないか、別に気負う事もないと思うがな。」

「私ですか…兄を差し置いて、でしゃばるなんて…。」

「いいと思うよ。うん、向いてると思うし。」
その後しばらく、誰が党首になるかで話し合いが行われた。

「では、次から私が党首ということになりましたので、そのつもりでよろしくお願いします。」
結局、巫女さんが折れる形で党首になったが、その台詞に何やら不安になった。






「それじゃあ、またの。」
「ちゃんと、お友達作ってくるのよ。お爺ちゃん。」
「うっさいわい。」
「では、また一週間後に。」
「またです。」
わしは軽く片手を上げて、阿修羅は何もせず、兄妹は丁寧にお辞儀をしてそれぞれ別れた。





茶屋では太らないことをいいことに、4人で団子100個以上…半分以上は女性陣が食べていたが、割り勘だった。


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