キャラ崩壊注意! クロノトリガーの正式なファンの方は避けて通るのが無難です。オリジナルの展開も含まれます。
また本作品はパロメタのネタがあります。ご注意下さい。
夢を見た。
それはそれは酷い夢だった。
どれくらい酷いかというと幼馴染であるルッカの親父さんの頭を指差して
「黒光りしてるー!」
と大声で喚いた時の親父さんの顔を見た時に匹敵するくらいの寝汗をかいていたことから想像できよう。
さて、その夢の内容だが、さっき俺が名前を口に出した、ルッカが関わってくる。
夢の中で俺は磔にされているのだ。
辺りは暗い。右には大量のビンが置いてある棚があり、ビンの中には見たこともない生き物が詰め込まれていた。
左を見ればなにやら複雑そうな機械が多々あり、所々に赤い液体が付着している。
その液体が何かは深く考えないようにした。きっと鉄分が多く含まれているんだろうな、という思考は遥か彼方に葬った。
しばらくそのホラーな空間で磔られていると、暗闇の奥から高笑いが聞こえてくるのだ。
小さな頃は、その声を聞くと元気が出た。最も昔はそんな下品な高笑いなんかせず、いつも大人しそうにクスクスと笑うものだったが。
幼い子供ながらに、その声が悲しそうに響いていれば悲しむ理由を聞き出して、その原因を取り除こうと、その子の笑い声を取り戻そうと躍起になった。
その子が嬉しそうに喋りだすと、俺も嬉しくなって、その日はずっと笑顔になれた。転んでも、母さんのお使いが上手くできなくてやたらめったら怒られても、胸の中が暖かかった。
幼少期の俺にとって、ルッカは俺の全てだった。
しかし、そんな彼女と俺の甘酸っぱい関係はいつしかすっかり変わってしまった。
彼女が悲しそうにしていれば「大丈夫かよ?」と口にはするが心の中でガッツポーズを取るようになり。
彼女が嬉しそうにしていれば脇目も振らず逃げ出したり。
彼女と町の中で出会おうものなら俺は神を呪い、その日一日を後悔と絶望の感情で塗りたくられるのだ。
……話がずれたな。
とにかく、今ではキンキンと耳障りな笑い声を出しながら、ルッカは動けない俺に近づく。
手を伸ばせば届く、という距離まで近づくと、ルッカは急に笑うの止めて、嬉しそうに、本当に嬉しそうにこう呟くのだ。
「実験、しよ?」
「あ、ああああああああぁぁぁああぁぁ!!!」
思い出した瞬間、俺はベッドから飛び起きて、壁に立てかけてある木刀を掴み振り回した。
「殺せ! 殺せよ! おおお俺は実験動物じゃない! 俺にだって男としてのプライド、いや、人間としての矜持があるんだぁぁぁ!!」
いつまで暴れていただろうか?
俺の中では永遠とも思える時間を見えない敵と戦っていたのだが、母さんが俺にフライパンを投げつけて気づいたときには、二分と経っていなかった。
ていうか母さん、息子に鉄の塊をぶつけるのはどうかと思うのだよ。
「だったら毎朝奇声を上げるのは止めて頂戴。いつ我を忘れて私の体を求めてくるか、分かったものじゃないわ」
「マジ、それ親子間で交わされる会話じゃないかんね。どう我を忘れたら四十前のおばさんに飛び掛るんだよ。とうが立ってるなんて問題じゃねえよ」
「今日のびっくりどっきりニュース! あんたの朝飯庭に生えてる雑草ね」
「はっは、それは豪勢だな。食べ放題なのか?」
「デザートは虫の活け作りね。ほら、馬鹿なこと言ってないでさっさと下に下りてきなさい」
「へいへい……ねえ、朝飯抜きってのは冗談かな?」
「ああ、リーネの鐘があんなに気持ちよさそうに歌ってる」
「いつ頃だったっけ? 俺と母さんの間で会話のキャッチボールが不自由になったの」
呟く俺を無視して母さんはスタスタと階段を降りていく。
仕方なく俺は溜息を吐きながら木刀を腰に差して、下に降りる。
台所に向かうと母さんは優雅にモーニングコーヒーを飲んでいた。
机の上にある空き皿と、バターの匂いが立ち込めていることから今日の朝ごはんがトーストだったことを悟る。俺の分が無いことも。
俺の腹がキュウキュウと鳴り出し、自分でも表情がひもじそうになっていくことを自覚する。
そんな俺を見て母さんが眉をひそめて、
「今日は建国千年のお祭りよ、屋台も出てるでしょうし、そこで何か食べてきなさい」
あくまで朝飯は作らない気だな、上等だこの野郎、今度あんたの寝室に大量のバッタを仕込んでやる。
「……分かったよ、じゃあ母さん」
俺は右手を母さんに向けて、掌を開いた。
「……何?」
さっさと用件を言え的な感情が半分。残りは急に何だよ気持ち悪いなこいつ的な感情が半分。そんな表情でした。
「いや……俺、お金ないからさ」
しかし俺は諦めない!
折角の、千年に一度の祭り。
軍資金無しで出かけるなど愚の骨頂!
そう、ココだ! 今日の祭りが楽しめるものになるか、それとも帰り道で「祭りなんて、結局カップルが公然とイチャイチャするだけのイベントなんだよ」と唾を吐くことになるか、その分岐点!
今日の肝なんだ、今、この瞬間こそが! 肝……!!
「……?あんたにお金がないのと私に何の関係があるの?」
やっべえ……母さんの守備力は三千以上だな……
しかもこれ多分素だな。とぼけてるとかじゃないや。
「ねえ母さん、俺、なんだかんだ悪口とか言っちゃうけど、やっぱり俺は母さんのこと尊敬してるんだよね……」
「何よ急に、どうしたの?」
さりげなくお金をねだるのは不可能、こうなれば三つある奥の手の内の一つ、情に訴えるコマンドだ。
デメリットとしてこっ恥ずかしいセリフを言わなければならないが、その効果はデメリットを補って余りあるものとなる!
「ほら、俺父親いないじゃんか。けどさ……けど俺辛いなんて思ったこと無かったよ、だって俺が寂しいと思ったとき母さんはいつも俺を慰めてくれたよね」
「あんたが何で父親がいないんだよ! お年玉が半分になるじゃんか! とか言いだした次の日にあたしゃパレポリの船で一週間くらい旅行に行ったけどね」
「毎朝俺を起こしてくれたり、布団を干してくれたり、少しは休みたいだろうに、いつもいつも俺のために体に鞭打って働いてくれてる……」
「あんた勝手に起きるじゃない。毎朝あんたの部屋に行くのは放っておくと延々頭のおかしな叫び声を撒き散らすからでしょ。布団だって昔私が間違ってあんたの布団を燃やしてから自分で干してるじゃない」
「……俺が、苛められてる時に助けたりとか……したことありますかね?」
「苛めって……ルッカちゃんにって事? うーん、あんたのケツに爆竹詰められてた時は爆笑したけど……助けたことあったかしら?」
「あんた、何で俺の母親やってんだくそばばああああぁぁぁ!!!」
「あんた、母親にむかってくそばばあって言った?ねえくそばばあって言った? ぶち撒けられてえか糞餓鬼ぃぃぃ!!!」
こうして、第百八十七次トルース大戦が幕を開けた……
「あ、これ絶対顎外れてる。うん、もう戻りそうに無い」
俺と母さんの運命の戦いはあっけなく幕を閉じた。
俺の振り下ろした木刀をスウェイで交わし俺の顎にネリチャギ。
俺は気を失って、気づけば家の前に大の字で寝ていた。
「くっ、まさか奥の手の内二つが破られるとはな……」
ちなみに、奥の手の二つ目は暴力による強奪だ。
結果は見ての通り。
ここまできたならば仕方ない。奥の手の三つ目を使わざるを得ないな……
体についた砂を払い、近くに転がっていた木刀をまた腰に差して、祭りが行われているリーネ広場に目を向ける。
「……諦めよう」
『クロノ奥の手が内の三つ目、妥協
あらゆる人生において最重要スキルともっぱらの噂である』
俺は母さんとの戦いの後遺症で痛む頭を無視して、リーネ広場に足を向けた。
「おお、若者よ! 今日は我が王国の千年祭じゃ! 存分に楽しんでゆかれよ」
「ああ、はい。まあそれなりに……ところで」
「どうした、分からぬ事があるならば、この老いぼれが力になろう」
「無料で何か食べることができるお店ってありますか?」
「おお、若者よ! 今日は我が王国の千年祭じゃ! 存分に楽しんでゆかれよ」
じいさんはまた新たにリーネ広場に入ってきた男に声をかけた。
祭りといえど、人は人に優しくなれるものではないのだろう、俺はこの年にして真理を垣間見たのかもしれない。
「しかし……やたらと賑わってるな、流石は千年に一度のお祭りってわけか」
屋台からは威勢のいい客引きの声、どんな所からも聞こえる楽しそうな笑い声、鼻をくすぐるなんとも良い匂い……
「ああ、あれは焼いた肉にタレを付けてもう一度焼いているのか。お、あれはパイにクリームと果物を挟んでる……んん、あれはジャガイモにバターとバジルを振りかけてサイコロステーキと一緒に売ってるんだな。いやー……腹減った……」
クルルクルルと俺の腹が「補給を要求する! でなければ動かん!」とストライキを起こしておられる。
このままでは楽しい祭りもブルーな気分で過ごさなくてはならない……
俺は意を決してじいさんにもう一度話しかける。
「あの……」
「おお、若者よ! ……ってあんたか、なんじゃい、祭りに来る前に物の売り買いの常識を学んでくるとええぞ」
「いや、そこをなんとか……折角の祭りですし、俺も楽しみたいんですよ……」
そこまで言うと嫌味ったらしいじいさんも哀れに思ったのか、顎に手を着けて何か考え出した。
「そうじゃなあ……おお! 確かココをまっすぐ行った所、ほれ、もろこしを売っている店の前にある……そこでシルバーポイントを金に換えてくれるはずじゃ」
シルバーポイント? 何だそれ。
俺の疑問が分かったのかじいさんは引き続き話し始める。
「シルバーポイントとはこの祭りの中にあるゲームに成功すれば貰えるポイントでな。例えばそこ。四人の男たちがレースをしているじゃろう?」
じいさんの指差した方向を見れば確かになにやらレースらしきものが行われているのが分かる。
……ただ、じいさんは四人の男たちと言ったが、そのメンバーはまず鉄のよろいを装備した城の兵士。
次にお前レースとかする気ないだろと思う全身甲冑のフルアーマー状態の男? 鉄仮面をしているので性別の確認もできない。じいさんは男と言っていたし多分男なんだろう。
三人目は肌が緑色で、所々に黒い斑点がある化け物。こんなもんのどかなトルース町に現れたら大騒ぎだ。今は祭りだからか知らないが、皆その化け物を応援している。人間ってテンションによって馬鹿になるよね。
最後のメンバーは猫です。それ以外に説明できません。こいつに賭ける奴とかいるのか? いたとしたらそいつ頭大丈夫か?
……この三人プラス一匹で構成されている。
「……ええと……」
「この四人のうち誰が優勝するか賭けるんじゃよ」
「……まあいいです。突っ込んでたら祭りが終わるんじゃないかってくらい長くなりそうだし」
ここに着いた時には大分治まっていた頭痛がさらに酷くなってきた為、額を押さえる。じいさんはそんな俺を怪訝な目で見つめながらさらに話を続ける。
「じゃが、このレースに参加するのにシルバーポイントが五ポイント必要になる。あんたはシルバーポイントを一ポイントも持ってないんじゃろう?」
「そうですね、来たばかりですし」
「じゃから、お前さんはまず向こうにある飲み比べで勝負するか、ルッカの発明品と勝負して勝つかしてシルバーポイントを貯めることじゃな」
「ルッカの発明品?」
「ああ、なんでも自信作らしい。銃弾でも傷一つつかない! と豪語しておったわ」
「誰がそんなロボコップみたいなもんと勝負するか馬鹿が」
ありがとうございましたとじいさんに礼をして、俺は飲み比べの会場に走り出した。
そこには道の端で吐いたり、あー、あー、といいながら濡れタオルを顔に置いてベンチで寝ている人が大勢いた。
その中で一人の大男が「だらしねえなー! トルース町の連中はよお!」と大声で話していた。
どうやらトルースからではなく、橋を越えた先のパレポリから来た男のようだ。
俺はおっさんの肩に手を置き、
「勝負してくれよ、いいだろ?」
と声をかけた。
「はっ! ガキか。話にならねえな」
「どんな奴からの挑戦も受けるんだろ? そこの張り紙に書いてある」
「……はああ、分かったよ、そこの椅子に座りな」
言われたままに椅子に座る。するとその隣におっさんが座り、椅子の前にある机に缶ビールを十六缶置いた。
その内八缶、つまり半分をおっさんが自分のほうに持っていく。
「いいか? 先に自分の分、八缶の缶ビールを飲んだほうが勝ちだ。良いな?」
「オッケー、飲み比べっていうか、早飲みだな」
「まあな。……さて、用意はいいか? ……ヨーイ、ドン!」
合図とともに俺とおっさんが同時にビールを飲みだす。
アルコールと思うな炭酸と思うなビールと思うな水と思えいやそもそも何かを飲んでいるということすら忘れてただ喉を動かせっっ!!!
「うーい、まずは一杯……って何いっ!」
おっさんが一杯目を飲み干した時、俺はすでに三倍目のビールを飲み始めようとしていた……
「空は青いなあ」
空はいい。こんなにも快晴、そしてこんなにも俺たちに力をくれる。
空が明るいから俺たちは前を向ける。歩き出すことに不安を生み出させない。
「本当に……空は……良い………ううう……」
「お母さーん。なんであのお兄ちゃん泣いてるのー?」
「それはね、自分の力ではままならぬ大きな壁にぶつかってしまったからよ」
「へー、私とお母さんが実は血が繋がってないことと同じくらいままならないのかなー?」
「ユ、ユカちゃん!? 何処でそれを……!!」
なにやら遠くで聞こえる喧騒も、全ては空しい……
「あそこで……あそこでてっかめんランナーがスイートキャットを踏み潰して失格にならなければ……!」
飲み比べに勝った俺は初めて手にしたシルバーポイントをレースの賭けに使ったのだ。
なんでもシルバーポイントを金に換えるためには十ポイント必要らしく、飲み比べで得た五ポイントではどうしようもなかった。
そのためレースの勝敗に文字通り全てを賭けたのだが……
「くそお……やっぱりいざとなれば甲冑を脱ぎ捨てて真の力を発揮するはず! とか馬鹿なこと考えずに普通にほいほいソルジャーにすべきだった!」
ちなみにほいほいソルジャーは色物揃いのレーサーの中で比較的まともそうな城の兵士っぽい格好の男だ。
……こうなれば、最後の手段。
「ルッカの発明品を……叩き壊す!」
レース観戦の時近くにいた人の話ではルッカの発明品に勝てばシルバーポイントが十五ポイント貰えるらしい。
それだけあれば金に換えられる。液体ではなく固体を口に入れられる……!
正直俺は酒の飲み比べで腹はもう減っていなかった。だが……
「次こそ……次こそレースに買ってみせる!」
レースの魅力、いや、魔力に囚われてしまったのだ。
「ハッハッハッ! いいぜ、ルッカ。テメエの発明品なんぞ俺のクロノ流剣術で粉々にしてやる! アーッハッハッハ! おおっ!?」
酒を飲んですぐに興奮したからだろうか?
いつもならなんら問題は無いのだが、俺は急にふらついてこけそうになってしまった。
たたらを踏んで転倒は免れたのだが、後ろからなにやら必死そうな声が聞こえた。
「ちょちょちょちょ! どいてどいてー!!」
「え?」
振り向くと、金髪のポニーテールの女の子が、俺にダイビングしていた。
「うごえ!?」「きゃあ!」
どういうつもりか知らないが、女の子は膝を前に出し、その膝は俺のみぞおちにクリーンヒットしていた。
「おっ、おっ、おっ、おぼえええぇええ……」
盛大に胃の中のものを吐き出しながら、リーネ広場の鐘が楽しそうに鳴り出した……
星は夢を見る必要は無い
第一話 悔いの残る人生でした
ようやく吐き気もおさまり、辺りを見回すとさっき俺に飛び膝蹴りをくれた女の子は何かを落としたらしく近くの床をキョロキョロと探していた。
急に飛び出した俺も悪いけど、見知らぬ他人に膝いれといてなんにもないとか嘘やん。
思わず殺意の波動に目覚めそうだったが、俺の足元にペンダントが落ちていることに気づいた。
絶対教えてやんねーと思ったが、そのペンダント、妙に輝きが鈍かった。
あんまり良いペンダントじゃないのかな、と思ったが、良く見るとその訳が分かった。
「……臭っ」
俺の嘔吐物が付いているのだ。中々豪快に。
女の子が気づく前に俺はそれを拾いダッシュで水場に向かう。
念入りにペンダントを洗い、ついでに口もゆすぐと走って元の場所まで戻る。
よっぽど大切なものなのか、女の子はまだペンダントを捜していた。
俺はできるだけ自然を装い、笑顔で彼女に話しかけた。
「やあっ! 君が探しているのはこれかい!」
俺の声を聞き、女の子は俺を見る。そして俺が握っているペンダントを見ると満面の笑顔を浮かべた。
「ありがとう! そのペンダント私のよ。古ぼけてるけどとっても大事なものなの。返してくれる?」
「勿論さ、困っている女の子を助けるのは当然だしね! それじゃあこれで!」
「待って!」
ペンダントを渡し、何かに気づかれる前に立ち去ろうとすると女の子は俺の服の袖を掴んできた。
え、バレた? バレてないよね? そうだといってよ顔も覚えてない父さん!
「私お祭り見に来たんだ。ねえ、あなたこの町の人でしょ? 一人じゃ面白くないもん。いっしょに回ろうよ! いいでしょ? ね? ね?」
君文法おかしくない?と言おうとしたが、ひとまずそれは置いといて……
え? 逆ナン? 逆ナンですかこれ?
えええー……嬉しいけどさー、嬉しいけどさぁ……
きっかけが相手の子の持ち物にゲロ吐いたから始まる出会いってどうよ?
何より後ろめたさが尋常じゃないし、ここは申し訳ないけど……
「あれ? なんかペンダントからすっぱい臭いが……」
「行こうか! 俺も一人でつまらないな、と思ってたところさ! 君みたいに可愛い女の子の誘いなら乗らない訳にはいかないね!」
バレちゃ駄目だバレちゃ駄目だバレちゃ駄目だ……!!
そういうと女の子は少し不安そうな顔だったのがまた嬉しそうな顔になり飛び跳ねて喜びを表現した。
「わーい、やったー!」
罪悪感からの了承だったとはいえ、ここまで喜んでくれると、なんだか俺も嬉しい。
ここまで大げさではなかったけれど、ルッカも昔はこんな風に可愛く正直に感情を見せてくれたんだよなー……
少し物思いに耽っていると、女の子の顔が目の前にあり、驚いて一歩後ろに下がってしまった。
「な、何?」
俺が少しかすれた声を出すと、
「私マールって言うの。あなたは?」
笑顔のまま彼女は自己紹介を行う。ここで俺が自己紹介をしない理由がない。お前に名乗る名などない! と一蹴する、という選択肢が出たが意味がないので普通に名乗る。
「クロノだ。よろしくなマール」
自己紹介をしただけなのに、マールはまた嬉しそうに笑って、飛び跳ねた。
なんか知らんが、えらく元気な子だな。
知らず俺の顔もまた笑顔になっていた。
それから、マールは俺を色んなところに連れまわした。
最初は俺に案内させるのかな、と思ったが何かしらの店を通るたびに
「あ! ねえねえクロノあれ何?」
「クロノクロノ! 凄いよあれ! ウネウネ動いてるー!」
「凄い凄い! 皆踊ってるよ、私も踊る! クロノも一緒に踊ろうよ! いいでしょ?」
「行けー! てっかめんランナー! 頑張れー!」
「クレープって言うんだこれ、美味しいよ! クロノ!」
とまあ、はしゃぎにはしゃいでくれて、落ち着く前に俺の手を引っ張って行った。
お金が無いのは男として辛すぎるので、まず最初にルッカの発明品、ゴンザレスをスクラップにして、ゴンザレスの持っているシルバーポイントを根こそぎいただいた。(本来はある程度戦えば降参して、十五ポイントをくれるらしい)
そのシルバーポイントをある程度お金に換えて、二人で祭りを満喫した。
途中、猫を探している女の子がいて、マールが「探してあげよう!」と言い出したので嫌々探しているとその猫が俺の顔に飛んできて、無事女の子の元に連れて行ってあげたり、置きっぱなしの他人の弁当を俺が食べようとするとびっくりするくらい冷たい目でマールが見てくるので断念したり、残ったシルバーポイントでレースを見たり、お化け屋敷みたいなテントでワーワー叫んだり興奮したりと、本当に楽しい時間だった。
「あー、楽しかったねクロノ!」
「ああ、こんなにはしゃいだのは久しぶりだよ」
「私も! こんなに楽しかったのは生まれて初めてだよ!」
「ははは、大げさだな、おい」
それでも、随伴した俺としては男冥利に尽きる言葉だったので、なんだか嬉しかった。
……ただ、祭りを回っている途中に一組のカップルが話していた言葉をにマールが興味を持ったのは誤算だった。
「ねえプラス? なんでもルッカの発明品が完成したらしいわよ?」
「本当かいマイナス? それは是非とも見に行かなければ!」
「ええそうね、広場の奥で見られるらしいわよ」
「よーし、いっくぞー!」
「ああん、待ってよプラスー!」
と頭の悪い説明的な会話を聞いたマールが
「私たちも行こう!」
と言い出したのだ。
俺はごめん、盲腸が発狂して異がはしかにかかったんだ……と嘘をついて帰ろうとしたが、マールがほほを膨らまして、目に涙をためて俺の服の袖を掴んで離さなかったので断念した。
ルッカのいる所まで後少し、というところでマールがキャンディ買って行く! と言って店に走っていった。
……これは、逃げるチャンスなんじゃないか?
ここから俺とマールの距離は五メートル。
俺が全力で逃げ出せば元気の塊のマールでも俺に追いつけはしないだろう。
……ごめんマール。
俺、お前の悲しむ顔は見たくないけど、俺が辛い目にあうのはもっと嫌なんだ。
思い立ったが瞬間、俺は力いっぱい祭り会場の入り口に向かって走り出した。
後ろから「ああっ!」というマールの声が聞こえたが、華麗に無視して走り続ける。
何が悲しくて楽しい祭りの日に実験オタクのサディスト元根暗女に会わなければならんのだ。
そう、俺は自由の男、クロノのクは孔雀のク! (意味なんかない)
マールには悪いけどなー、と考えていると、耳のすぐそばでヒュン、と高い音が聞こえて、思わず立ち止まると目の前の床に鉄の矢が突き立っていた。
ぎぎぎ、と音が鳴りそうなくらいゆっくり振り向くと、マールがボーガンを構えて俺を見ていた。
「マアルサン、ソレハナンデスカ?」
思わず機械的な口調になるのは仕方ない。
「私ボーガンが得意で、いつも持ってるんだ。護身用ってやつかな」
笑顔のまま、それでもこめかみに青筋が浮かんでるのは恐怖を二倍にする。マール、倍プッシュだ! みたいな。
つか、護身用にボーガンはおかしい。防衛になってないもん、間違いなくちょっかいかけようとした奴を無力化させる物じゃないもん。悪・即・斬の構えじゃん。
世の中に信じられる奴なんかいないという境地に立たないとそんなもん護身用に持ちませんよ。
「ソ、ソウデスカ、ソレハステキデスネ」
想いとは裏腹なセリフを吐く僕、クロノ。悪い人間じゃないよ、優しくしてね。
「ありがと。……で、クロノは私を置いて何処に行こうとしたのかなぁ……」
ボーガンの側面をトントン叩きながら一歩ずつ近づいてくるマール。右手に見えるかわいらしい柄のキャンディが不似合いで怖いです。
「と……トイレ……もう、限界でしたので……」
「……ふーん」
ドンファンの愛のささやきくらい信じてませんよという顔で見るマール。
……まあそうだよねえ。
結局、俺はマールに襟首を掴まれながらルッカの発明を見るハメになった。
せめて腕を組むとかで拘束してくれよ……
「さあさあ、お時間と勇気のある方はお立会い! これこそ、せいきの大発明! 超次元物資転送マシン一号だ!」
ルッカの親父さん、タバンさんが大きな声でルッカの発明品の説明をしている。
そのルッカの発明だが、青い色の床の上に、傘みたいなものが付いて、その横にゴチャゴチャしたチューブやらレバーがくっついている。そんな機械が二つある、なんとも言いづらいデザインの機械だった。
まあ、あえて一言で表現するなら、非常に胡散臭い。
「早い話がこっちに乗っかると、」
タバンさんが左側の装置を指差す。
「こっちに転送するって夢のような装置だ!」
その後右側の装置を指差し、自慢げな顔をする。
……正直、その説明を聞いても何が言いたいのかさっぱりだった。
「こいつを発明したのが頭脳めいせきさいしょくけんびの、この俺の一人娘ルッカだ!」
頭がいいのは認めるが……才色兼備!? どこがやねん。
まあ、服装は研究大好きな為それ用の服を着ている。それはまあいい。紫がかった髪をショートカットにして、それも勝気そうな顔に良くあっているから文句は言わないし、顔の造詣も……まあ町の奴らから隠れてアイドル扱いされているから良いとしよう。ぶっちゃけ眼鏡は外したほうがいいと思うけど。
……まあ、可愛いのはまあ、良いとしても、性格鬼畜、有限不実行、天上天下唯我独尊女と付け加えなければ納得できない。
「へー……面白そうだね、クロノ!」
うん、一応面白そうだと言っているが、途中までのローテンションを見る限り、マールもイマイチ理解できなかったみたいだ。
「マール、多分想像よりもずっとつまらないものだから、戻ろう。あれだ、なんたらケバブー買ってやるから」
「やだ、何が入ってるか分からないから気持ち悪い」
「オオゥ、タカ派だな」
「クロノ!」
クソッ!マールの説得に手間取って悪魔に見つかるとは!
「待ってたわよ! だーれも、このテレポッドの転送にちょうせんしないんだもの」
そりゃあそうだろうさ。昔空を飛ぶ機械とやらで無理やり俺に実験させて、俺の両足が骨折した、なんて前科があればな。
「こうなったらあんたやってくれない?ていうかやれ」
「こ……! このメスぶ」
「面白そう! やってみなよ。私見ててあげる!」
あんまりにも理不尽な言葉に切れかけた俺がルッカに暴言を吐く前に、マールが本当に楽しみだという顔で笑いかける。
……頭の中身は少々残念な危険っ娘だが、こうしてみると確かに可愛いんだよな……
「左のポッドに乗るの」
俺の話を聞く前にルッカは装置の様々なボタンが付いているところに移動していた。
……やるしかないのか。
ゴルゴダの丘に登るような気分で俺はテレポッドだか超次元何とかだかの装置に乗る。
……やばい、泣きそうだ。
「スイッチ、オン!」
空気を読まないタバンさんがなんの躊躇いもなく装置を動かす。それと同時に空気を読む気がないルッカもエネルギーがどうとか言い出す。
「……え?」
ふと気づけば、俺の手が透けていく。
いや、手だけではない。足が、体が。どんどん透けて……いや、無くなっていく!?
「おい! やめ」
俺の声は最後まで口に出せず、俺の意識は消えた。
「「「「おおーッ! グレイト!」」」」
次に意識が戻ったときには、観客たちの歓声が聞こえた。
周りを見ると、どうやら無事、テレポッドは成功したらしい。左の装置の上にいたはずの俺は、右の装置の上に座り込んでいた。
「……良かった、良かったよぉ……」
不覚にも、俺はマジで泣いていた。
車椅子の女の子が友達にいくじなしと言われながらも立ち上がったときくらい泣いた。
生きて帰れたことに対する喜びに震えながら、俺は装置を降りた。
マールの所に戻る途中、ルッカが情けなっ! と言ってきたが小さく死ねっと返しておいた。
「帰ってきたよマール……俺、青ざめた顔してるだろ? ……生きてるんだぜ?」
「面白そうね、私もやる!」
俺の感動のセリフはガン無視して、興奮で少しほほが赤みがかった顔でとんでもないことを言う。
「へ? えええぇえぇ!?」
俺がマールに命とは何か? 人生とは何か? 存在価値とは何か? 漢とは何かをマールに教えようとする前にルッカが馬鹿でかい声を上げた。
と思ったら俺のほうを睨みつけて胸倉を掴んで首を締め出した。
「ちょ、ちょっとクロノ! あんたいつの間に、こんなカワイイ子口説いたのよ! ねえ!何処の子!? 私町の女の子には全員釘刺したはずなのに!」
女の子に釘を刺すなんて、俺の知らないところでバイオレンスなことやってんだなぁと思いながら、俺は今日何度目か分からないが、意識の消失が近づいているのを感じた。
「ね、いいでしょクロノ! ここで待ってて。どこにも行っちゃやだよ!」
俺の生命の危機が見えないのか意図的に無視しているのか、マールは楽しそうに声を上げる。
どこにも行っちゃやだよ! のあたりでルッカの首を絞める力が増す。メディーック! メディーック!
「さあさあ、ちょう戦するのは何とこんなにカワイらしい娘サンだ! ささ、どーぞこちらへ!」
今まで空気を読んだことなんて一度も無かったタバンさんが張り切った声を上げる。
それを聞いてルッカは一度大きく俺を持ち上げて床に叩きつけた。
「……後で話、聞くから」
ヤク丸さんみたいな声で呟くと、ルッカはさっきと同じように装置の操作盤に向かった。
「エヘヘ、ちょっと行ってくるね」
マールが可愛らしく笑いながら、俺に手を振る。
あ、ルッカ、操作盤の一部壊しやがった。
「だいじょうぶかい? やめるんだったら今のうちだぜ」
俺の中で脳の一部が麻痺しているに五千ガバスなタバンさんは娘の奇行に気づかずマールに話しかける。
「へっちゃらだよ! 全然こわくなんかないもん!」
そういいながらマールは装置の上に乗る。
最近の女の子は勇気があるなあ。
所詮俺なんか草食系男子さ。
「それでは、みなさん! このカワイイ娘サンが見事消えましたら、はくしゅかっさい」
その後は俺のときと同じように二人が装置を作動させる。
その時、マールを見てみると、マールのペンダントが光りだしていた。
「……何だ、あれ」
マールも気づき、ペンダントを触って不思議そうな顔をしていた。
……何故だろう。
俺は、何故かその顔を見ていると……
もう、彼女に会えないんじゃないか、と。
そう思ってしまったのだ。
「えっ!?」
ルッカなのか、タバンさんなのか。
どちらが叫んだのか分からないが、その声が聞こえた瞬間、装置から電気が洩れ始めた!
「うわあ!」
「きゃあ!」
二人は同時に倒れて、それを見て俺は「大丈夫か! ルッカ、タバンさん!」と駆け寄るべきなのだ。
それでも……俺は、いや、観客も含めて俺たちは……
マールの体が消えて、その粒子が黒く、ゆがんだ穴に吸い込まれていくのを、ただただぼーっと見ているだけだった。
……どれほど時間が経っただろう。
数秒か数腑十秒か数分かはたまた数十分か。
今は閉じられた、穴があった場所に視線を注いでいた。
「おい、ルッカ。出て来ねーぞ?」
一番最初にタバンさんが言葉を放った。
「ハ、ハイ! ごらんの通り影も形もありません! こ、これにてオシマイ!」
観客たちを散らせるために、半ば追い払うようにタバンさんは声を上げた。
俺以外の観客は何が起こったのかよく分からないまま広場を出て行った。
俺以外誰もいなくなったのを確認すると、タバンさんは座り込んでいるルッカに話しかけようとする。……でも。
「おいルッ」「おいルッカ!!」
タバンさんの声を遮り、俺は怒鳴りながらルッカの胸倉を掴んだ。
まるで、さっきの焼きまわし。ただキャストが代わっただけ。でも、その内容の重みはまるで違う。当然だ、人が一人消えているのだから。
「マールはどこに行った? どこに消えたんだ! おいルッカ!」
「わ……分からない」
本気で怒っている俺に怯えたような顔を見せるルッカ。
でもそれで遠慮できるほど俺は冷静じゃない。
「ふざけんな、人が一人消えてるんだぞ、分からないで済むか!」
「だって! あの子の消え方はテレポッドの消え方じゃなかった!」
俺に負けじとルッカも声を上げる。
「あの空間の歪み方、……ペンダントが反応していたように見えたけど……もっと、別の何かが……」
「だから、何かって何なんだよぉぉぉ!!」
「分かんないってば! ちょっと黙っててよ!!」
「っ!!」
ああくそ! 頭がおかしくなりそうだ……
ルッカから離れて少しでも頭を冷まそうと深呼吸する。
「……マール」
落ち着くと、マールと遊んだ今日一日を思い出す。
ゴンザレスと戦っているときに一生懸命応援してくれたマール。
猫を探しているときの真剣なマール。
クリームを顔につけながら幸せそうにクレープをほおばるマール。
レースに勝った時の嬉しそうな声を上げるマール。
……消える瞬間、辛そうな顔をしているように見えた、マール。
勿論、体が消えた後で黒い穴に吸い込まれたのだから、表情なんて分かるわけがない。
だけど、それでも……
「最後がそれなんて……あんまりだろ……生まれてきて、一番楽しい日だって言ったじゃねえかよ……」
地面に座り込んで頭を掻き毟る。
どうしようもない無力感。
土の上に突っ伏して何もかも、今日のこと全てを忘れたいという思いに駆られる。
目の端にキラ、と光るものが見えた。それは……ペンダント?
「マールが消える瞬間に落としたのか」
近づいて拾おうとすると、ルッカが俺の腕を掴んでいた。
邪魔された上に、まだルッカのせいでマールが消えたんだという悪意が残っているので、反射的に睨みつけてしまった。
……睨みつけようとした。
「……ルッカ」
「クロノォ……」
ルッカは、顔をぐしゃぐしゃにして泣いていたのだ。
ルッカは、正直控えめに言っても優しい人間じゃない。
見知らぬ女の子が消えても別にそれほど心を痛めはしない。
そう、自分の発明が原因でなければ。
「わ、私、またやっちゃったのかな? あ、あの子、おか、お母さんみたいに、私が、私が殺しちゃったのかなぁ……」
……ああ、なんて馬鹿だ、俺は。
知っていたはずだろうクロノ。
ルッカが発明ばかりしている理由。
まだまだ子供である時分から科学に全てを捧げた理由。
……彼女に母親がいない理由。
詳しい話を知っているわけじゃない。
知っているのは原因と結果。
単純な話だ。
ルッカが、発明を、科学を知らない頃のルッカが、自宅の機械を誤作動させた。
そして……その結果、ルッカの母さんは死んだ。
その日からルッカは発明に青春をかけた。科学に命を捧げた。
でもそれは決して機械が好きだからじゃない。
彼女は、世界で一番科学を嫌っている。
だからこそ誰よりも科学を知りたがる。機械に触れたがる。
そうしていれば、もう機械で誰かを傷つけることは無いから、機械に触れていれば、彼女は彼女の罪を忘れないから。
──そうだ、だから俺は誓った。約束した。
だけれど、彼女が科学に没頭するには一つの障害があった。いわゆる、実験というものが出来なかったのだ。
自分自身は実験の結果を見なければならないから実験対象にはできない。かといって彼女の作るのは人間を対象にしたもの。
でも、彼女は自分の作った機械の実験で誰かを傷つけることはできない。どれだけ安全で、理論的には怪我の仕様が無くても、誰かに実験させるということが、自分で誰かに機械を触れさせるということができなかったのだ。トラウマが原因であると理解していても、分かっていても同じこと。
けれど、俺は例外。
俺のみがルッカのモルモット足りえる。
理由はなんのことはない。
俺が立候補したのだ。その時のセリフは……覚えているが、言いたくない。恥ずかしいどころではない。
でもその時誓った想いはいつでも言える。
俺は、ルッカを悲しませない。
「……約束は、守らないとな」
「……え? あ……」
ルッカの手を離させて、俺はテレポッドに近づく。その際にとても悲しそうな声をルッカが出すが、そこは我慢してもらう。だって、もうルッカが悲しむ理由はなくなるのだから。
「このペンダントが怪しいんだよな、ルッカ!」
テレポッドの上に立ち、俺は俯いているルッカに声をかける。
弾かれたように顔を上げたルッカは「え?」とビックリしていた。
「俺はさ、馬鹿だからマールが消えた理由は分かんねー。でもよ、ルッカがこのペンダントが理由でマールが消えたってんならさ、俺もこのペンダントを持ってれば……」
「そうか! 嬢ちゃんの後を追えるって訳か!」
いやあ、そこは俺に言い切らせてほしかったかな。
まあ、今まで口を挟まなかった分、タバンさんにしては空気を読んだほうか。
「クロノ……」
「大丈夫だルッカ。お前の発明品で誰も傷ついたりしねえ、マールは絶対俺が連れて帰る。だから、心配すんなよ」
「……あ」
もう一筋、ルッカの頬に涙が流れる。
「……っ! 分かった! あんたもしっかりね、私がいない間にマールとイチャイチャしてたら、頭に風穴開けてやるわよ!」
「え? マジで?」
「マジよ!」
はあ……まあ、これでこそルッカだよな。
「ルッカ! 準備は良いか!」
「ああ、ちょっと待って! ……ありがとね、クロノ」
「え?」
「スイッチオン!」
聞き返すも、タバンさんが装置を動かし始めて、続きは聞けなかった。
「エネルギーじゅうてん開始!」
二人は出力を限界まで上げていき……
マールが消えたときと同じように、装置から電気が飛び出してきた。
「ビンゴ! うまくいきそうよ!」
マールを吸い込んだ穴が現れ、体が分解した俺を吸い込んでいく。
完全に意識が途切れる前に、ルッカが何か叫んでいた。
「私も原因を究明したら後を追うわ! たのんだわよ、クロノ!」
……ああ、頼りにしてる。
それは言葉にはならず、目の前が完全に黒一色となった。
「さあて、クロノの奴上手くやるかね?」
クロノが消えて、父さんは心配そうな声を出した。
なんだかんだで、父さんはクロノを気に入ってるからね、心配するのも無理ないか……
「うちの婿候補なんだ、なんかあったら困るしなぁ……」
「おべっふ!」
口の中にある唾液という唾液が体外に放出。残弾ありません!
「むむむむ、婿って誰の!? 誰がどうしてアイツはコイツの世紀末!?」
「いやいや、うちの婿って言ってお前のじゃなけりゃあ俺の婿ってことになるぜ? いいのかよ」
「駄目、絶対許さない」
一瞬おかしくなったかなと思うくらい茹った頭は一瞬で冷め、私は父さんに改造済みのエアガンの銃口を向けていた。
「じょ、冗談だよ。怖いなあ……ああ、そういえば、さっきの女の子。心配だなあー」
あからさま過ぎる話題のそらし方だったが、一々突っ込んでまた冷やかされるのはごめんだったので乗っかっておくことにする。にしても、婿って、婿って……
「あの子…気のせいかもしれないけど、何処かで見た気がするのよね。町の中で、って訳じゃなくて」
何処だっただろう、町じゃないとするなら、もしかして……
「そうだよな、町の子がクロノをデートに誘うわけ無いよな。町の子にはルッカがクロノは私のだから、ちょっかい出さないで! って言い回ってるもんな」
「あきゃーーー!!!」
私の思考は父さんの発言で遠く向こうに飛んでいった。
いやいや、なんで父さんがそのこと知ってるのよ!?
「……ええと、すいません。知り合いでしたっけ?」
リーネ広場から消えた俺は、何故か見知らぬ山奥で、見知らぬ背は小さいが顔は老けてるとっつぁんぼーやに絡まれていた。
……ルッカ、もしかして失敗した? 毎度のことだけどさ。