<162>
【第四層・挑戦一回目】
ヒュババババババババババッ!
ダンジョンは上空から落ちるのが習わしなのだろうか。
確かに大陸を俯瞰できるのはありがたいが、ここまで来る人たちは大概空を飛べるはずである。
いちいちこんな高いところから落とす意味が分からない。
ハルマサはそんな益体もないことを考えていた。
見下ろせば、第四層もまた、大きな大きな大陸であった。
しかもまた形が変だ。
第三層は錨のような形だったが、第四層は、大の字に寝転んだ人型である。
ハルマサは、その頭の額へと降りて行っているのだ。
太陽は人型が仰向けに寝転んでいるとするならば、大陸の右手の方角にある。水平線から頭を出したばかりに見えた。
髪や服を風に弄ばれながら落ちること1分ほど。
ようやく降りる場所の細部が見え出した。
降りる場所は都市であった。
中央に太い道路が走った城塞都市である。
この都市を大陸上の位置づけから額都市と呼ぼう。
額都市を貫く太い道路は、大陸の目の間を通って鼻筋へと抜けているようであった。
すなわち、大陸を縦に二分するかのような長い長い道路である。
額都市の城砦の外は荒野となっているがしばらくすると森に覆われている。
一口に森と言っても色々あるが、額都市を囲むのは魔境の類であろう。
トトロの樹サイズの樹木がそこら中に見受けられるのである。
額都市は掃除が行き届いていないのか犯罪都市と言う名が似合いそうな様相で、額都市にもそれを囲む森にも、ポケモンから連想される牧歌的な雰囲気は微塵もなかった。
「うわぁ……」
降り立つ前からテンションを下げつつハルマサは降りていく。
と、そこで気付いた。
ハチエさんが居なかった。
「ハチエさん!?」
背中に背負っていたハチエさんが居ない。
キャシーへは二人同時に指輪をかざした筈なのに!
え、落とした?
そんなはずはない。
く、焦ってはいけない! こんな時こそ冷静に他の人の意見に耳を傾けるんだ。そう、例えば最近声しか聞いていないカロンちゃんとかに――――そうだ! 「伝声」だッ!
ハチエさんに「伝声」だ!
「もしもしハチエさんッ! ハルマサです! 今何処!?」
(届いて……!)
「伝声」は離れた相手に声を届ける特技である。効果時間は相手と自分の精神力に左右される。
天元突破しているハルマサとハチエの精神力ならまさに昼夜問わず喋りたい放題。携帯電話要らずである。
発動して待つこと数瞬、ハチエの声が帰ってきた。
『おおお!? ……あ、伝声か! ハルマサやな!? ウチの声聞こえる!?』
通じたッ! これで安心だ!
「ハチエさん! 聞こえるよ!」
『お、おおー、不思議やなぁ……あ、感心しとる場合ちゃうな。ハルマサ今どこ? 姿消しとるん?』
「え、いや違うよ? ハチエさんこそ何処に居るの?」
『えーと……ウチ、今落ちとるんやけど……』
「僕も今落ちてるんだけど……」
『???』
「あれぇ?」
その時脳裏でサクラさんが提案してきた。
≪マスター。近くにハチエ様の反応はありません。大陸の何処に居るか聞いてみては?≫
「な、なるほど。ハチエさん、えっと大陸のどこらへん?」
『うーんと、どこやろ。大陸って人型してるやろ? 仰向けに寝転んどるとして、右脚の先っぽのへんや』
(なんだって!?)
ハルマサが落ちていっているのは人型の額である。別々な場所に転移してしまったらしい。
この大陸にはスタート地点が複数あるのか!?
ハチエのところまでは簡単に行ける距離ではない。第四層は第三層よりも広いのだ。
ソウルオブキャットを使って全力で飛んでも、半日以上かかるだろう。
空を悠々と飛ばせてくれるかさえ分からない。第二層のようにビームが飛んできたりするかもしれない。
これでは合流するのだって時間がかかる。
(4号さんに頼まれたって言うのに……ッ!)
――――――プツン。
その時、「伝声」がふっつりと途切れた。
「な、何が!?」
疑問にはサクラさんが答えてくれた。
≪地表から強烈なジャミングが発生しています。恐らくテレパシーの類は使用できません≫
「なんだって!?」
そんなのありかよ! 離れ離れにしといて、通信すら断つなんて!
ていうかそれってカロンちゃんにも連絡取れないじゃないか!?
ぬあ――――ッ!
―――――――――空中着地ッ!
ガァン、と空を蹴って高く飛び上がる。
ハチエさんにはジャミングのせいでもう通信は届かないかもしれない。
でも、カロンちゃんには届くはずだ。
これから連絡できないと言っておかないと、嫌われてしまう!
「カーロンちゃ―――――――――ん!」
【ぅぐぅ……眠いのじゃ………誰じゃ? じいか?】
「いえ、ジイではなくハルマサです! カロンちゃん、しばらく連絡できないけど嫌いにならないでねぇ――――――――――!」
もう限界だった。
地面へと引っ張る力が発生しており、ミシミシと体を軋ませている。
第三層でもあった現象だ。しかし、あの時より何倍も強い。
「話せなくても、僕たちの心はいつも一つッ! カロンちゃん大好きだ―――――――――ッ!」
【は、ハルマサか? 何が……】
――――――プツン。
「伝声」が切れる。
ふっ、とハルマサは笑った。
もはや、彼に怖いものなど何もなかった。
彼は言いたいことを全て言ったのだ。
(我が人生に…………一片の悔いなしッ!!!!!)
―――――――キュドォッ!
直後、ハルマサは街の石畳へと突き刺さった。
――――――ズン。
それと同じ頃、ハチエも地面へと降り立っていた。
足を置いた石がクモの巣状にひび割れる。
さすがにハルマサと同じように墜落したりはしなかったが、炎の羽で精一杯勢いを抑えたというのに着地した脚にかかる負担は相当のものである。
というか、立っているだけでもしんどい。
これは……。
≪ハチエさん、大丈夫ですか?≫
AIのカエデさんが声をかけてくる。
ハチエにつける敬称が何時の間にか様付けからさん付けへと変わっていたが、そっちのほうがフレンドリーでいいとハチエは思った。
「どうなっとるかわかるカエデさん? 体が重いんやけど……うぎぎ」
体全体が地面へとひきつけられている。腕を上げる動作でさえ半歩遅れるのだ。
加えて、お腹の中、すなわち内蔵への負担がきつかった。
激しく動いたらまた血を吐いてしまうだろう。
≪恐らく……重力が大きくなっているのだと思います。ハチエさんの体にかかる負荷から見ますと、数百倍や数千倍の規模ではないでしょう。少なく見積もって20万倍です≫
20万倍って言えば、体重100グラムのパロちゃんが、20トンになる倍率である。体重50キロの人ならば一万トン。
Z戦士が成すすべもなく潰れてしまいそうな重力である。
ハチエの体重はレベルアップによる筋密度骨密度増大などでとても口には出来ない重さになっているが、とにかく重いのだった。
(これは……ハルマサと合流するんも大変そうやな……)
先ほど「伝声」が唐突に途切れた時、微かにノイズが聞こえたのだ。恐らくジャミングだろうとカエデが言っていた。つまり、連絡をとる手段がなくなったのだ。
ハチエが顔をゆがめていると、どこからか聞き覚えのある声がする。
『しんどうそうだなハチエ。私は降りた方がいいか?』
見れば、右肩に身長6センチの小さな骸骨が居た。
ハルマサの所有する元人間今巨大骸骨、現在キーホールダーサイズの骸骨、通称パロちゃんである。
「なんでコッチにおるんやパロちゃん」
『それはだな』
骸骨は遠い目をして答えた。目は無いが。
『ハチエの方が良い匂いがすると思って引っ付いていたところ、こっちに釣られて転移してしまったようなんだ』
「へ、へぇ……ていうかなんでパロちゃん平気なん?」
この小さな骸骨は意外と柔らかいのだ。
確か『鳥の軟骨くらいだ!』と自分で言っていた。
体重が100グラムから20トンになってしまったら即座に潰れそうなものである。
『? 何がだ?』
しかし、パロちゃんは何も感じて居ないようだ。
(―――――ッ! まさか)
この階層はポケモンがテーマだと閻魔様が言っていたらしい。
ということは――――――
「何が何でも、ポケモンで戦わせようってコトなんか……?」
魔物への重力増加は免除されている可能性があるのだった。きっとポケモンも魔物だろうから。
その時、偶然だろうが、目の前にビックリ箱が出現する。
箱の蓋を勢い良く押し開いて登場した人形が叫んだ。
『ようこそ第四層へいらっしゃいマシタッ! これより、あなたに贈呈されるポケモンが決定シマスッ! お心の準備はよろしいでショウカッ!』
準備もクソも、唐突過ぎるやろ、とハチエは思った。
同じ頃、ハルマサもハチエと同じ重力増加に苦しんでいたが、彼の場合はもっと深刻だった。
―――――ミシミシミシ………ッ!
(し、死ぬゥ………)
≪マスター! 耐久力が物凄い勢いで、あ、すでに瀕死です!≫
(ま、まずい……! これは非常にまずい……!)
ハチエが苦しく感じる重力は、彼にとっては致死量であった。
何せ、ハルマサの耐久力や筋力はハチエの10分の一以下。
立つ事すらハルマサには無理であった。
というか自重で足の骨が逝った。超痛い。
ついでに言えば、落下の衝撃で耐久力が半端無く削られて、今にも死にそうだ。
「身体制御」の衝撃吸収は、ほとんど役に立たなかった。
(マズイマズイまずいよこれ! ここで死んだら、ステータスが下がってしまうし!)
ステータスが下がれば、この地で活動することはさらに困難になるだろう。
ハルマサが歯軋りしている周りでは、彼を遠巻きに見ている人々が居る。
この街の町人だろうか。彼らは重力を克服しているのか……!?
(いや、違う……! それだと彼らのレベルが低すぎる! きっと僕にだけ……プレイヤーにだけかかっているんだ!)
ハルマサが確信すると同時に頭上でボゥン、と音がする。
『ようこそ第四層へ! これからあなたに……と、その前に、あなたはこのフィールドで活動するのが難しいご様子デスネ! そんなあなたに耳よりな情報がございマス!』
(ビックリ箱か……! 情報って……? あああああ、イタイイタイ、心臓が痛い! 何でもいいから助けて!)
『取引の情報でございマス! あなたがお持ちの神金貨10000枚と引き換えに、あなたへの重力付加を解除して差し上げマショウ! ただし、この取引に応じたプレイヤーは、この階層に居るあいだは、一般人程度に身体能力魔力などを制限させていただきマス! どうデショウ、応じていただけますでショウカ!』
(一万……!? いや、仕方ない! ここはイエスだ!)
しかし、彼は重要なことに気付いた。
答えようとしても口が開かない。頷くことも出来ない。
「ぬぅううぐぐぐうううううう!」
『悩む気持ちも分かりマスガ、ここはどうかご英断ヲ!』
(悩んでるわけないだろぉおおおおおおおおお!?)
この時、ハルマサの脳みそがキラリと光る。
(そうだ! ここは「剛力術」でッ!)
「剛力術」スキルの効果は筋力3倍。
3倍となった筋力で、この重力で押し付けられている口を開けば良いのだ!
しかしそれを実行に移す前に、サクラさんが悲しそうな声音で言う。
≪マスター。耐久力が0になりました………≫
残念。現実は非情である。
直後ハルマサは閻魔様の元へ召された。
<つづく>
ハルマサ ……Level down!
レベル: 30 → 29 Lvdown Bonus :-1,342,177,280
満腹度: 3,257,617,785 → 1,139,995,912
耐久力: 5,333,151,376 → 2,394,168,900
持久力: 3,301,318,004 → 1,174,956,088
魔力 : 90,694,079,418 → 53,609,193,919
筋力 : 3,821,472,819 → 1,485,083,047
敏捷 : 4,180,198,528 → 1,700,731,091 ……☆2,551,096,637
器用さ: 115,168,109,691 → 76,882,525,923
精神力: 3,053,668,954 → 1,025,818,484
経験値: 7,352,933,375 → 2,684,354,558 残り:2,684,354,560
スキル名
拳闘術Lv25 : 245,167,382 → 196,133,906
蹴脚術Lv11 : 22,985 → 18,388 ……Level down!
両手剣術Lv18: 1,678,995 → 1,343,196
槌術Lv18 : 2,876,331 → 2,301,065 ……Level down!
棒術Lv26 : 681,928,301 → 545,542,641 ……Level down!
盾術Lv11 : 23,819 → 19,055 ……Level down!
解体術Lv22 : 33,920,188 → 27,136,150
舞踏術Lv24 : 182,011,901 → 145,609,521 ……Level down!
身体制御Lv25: 228,932,656 → 183,146,125
暗殺術Lv12 : 32,794 → 26,236
消息術Lv24 : 120,973,227 → 96,778,582
突撃術Lv25 : 220,408,015 → 176,326,412
撹乱術Lv25 : 402,137,890 → 321,710,312 ……Level down!
空中着地Lv25: 242,601,820 → 194,081,456
撤退術Lv26 : 472,309,291 → 377,847,433
金剛術Lv28 : 1,872,693,004 → 1,498,154,403
防御術Lv26 : 591,820,123 → 473,456,098
剛力術Lv22 : 31,602,983 → 25,282,386
神降ろしLv22: 40,728,921 → 32,583,137
炎操作Lv23 : 57,829,001 → 46,263,201
水操作Lv31 : 24,389,037,281 → 19,511,229,825 ……Level down!
雷操作Lv32 : 44,233,415,792 → 35,386,732,634 ……Level down!
風操作Lv26 : 503,381,270 → 402,705,016
土操作Lv23 : 102,819,099 → 82,255,279 ……Level down!
魔力放出Lv32: 48,291,032,843 → 38,632,826,274 ……Level down!
魔力圧縮Lv32: 39,728,391,033 → 31,782,712,826
戦術思考Lv25: 333,392,812 → 266,714,250
回避眼Lv25 : 348,192,825 → 278,554,260 ……Level down!
観察眼Lv29 : 3,829,182,773 → 3,063,346,218
鷹の目Lv26 : 689,273,922 → 551,419,138 ……Level down!
聞き耳Lv12 : 40,018 → 32,014
的中術Lv24 : 107,083,912 → 85,667,130
空間把握Lv32: 29,380,192,382 → 23,504,153,906
心眼Lv27 : 1,298,372,809 → 1,038,698,247
調理術Lv14 : 82 → 83,142 ……Level up!
水泳術Lv23 : 71,283,628 → 57,026,902
概念食いLv22: 38,902,774 → 31,122,219
PイーターLv32: 37,290,918,273 → 29,832,734,618
狙撃術Lv23 : 53,448,019 → 42,758,415
運搬術Lv25 : 228,289,080 → 182,631,264