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[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ ( 百九話・百十話更新)
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:a7bee6ac
Date: 2014/04/07 02:34
初めまして、騎士王と言います
初のアルカディアでの投稿に緊張しまくってます
偶に短文になる事もあるかも知れませんが、温かく見守って下さい


この作品は
・タケルちゃんチート…かも
・オリキャラ・オリジナル戦術機
・時々(?)キャラが崩壊、キャラによっては、はっちゃける時や暴走もアリ
・ハーレムルート…になるかもしれない
・時々短文(最低でも五千文字以下)に書く時が有るかもしれません、ご了承を。(作者は回覧数や感想数を稼ぐ為、短文にしてる訳ではありません、御理解お願い致します。)

追記・TEキャラの一部がタケルちゃんの餌食(恋愛原子核的に)になりますので、『○○はユウヤの嫁!!』とか『カップルブレイカーは止めろ!!』と言う方はご遠慮下さい
(追記:2011・3/13)騎士王は『ユウヤ嫌い』ではありませんので御理解下さい。
あと、この手の質問や苦情は言い争いや荒らしの原因になりますので、受けません。
感想掲示板に書き込むのは止めて下さい。


あと、昨日(2010・9/25)感想掲示板で書きましたが、感想掲示板での荒らしや暴言・読者同士のコメントからコメントをする事(但し間違いを指摘するのはOK)はご遠慮下さい。

もし、読者同士のコメントをする際は、普通の掲示板でお願いします。


しかし、誤字等の報告や応援メッセージは全然とてもありがたいので、ドシドシ書き込みお願いします。


などなど…と有りますのでご了承を…嫌いな方は見ない方が良いです
応援のメッセージ受け付けてます…更新の力をオラにわけてくれ…(えっ?)



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ~プロローグ
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:a7bee6ac
Date: 2010/08/27 21:38
1998年・1月-----
仙台・第二帝都城---

「雪か…寒い訳だ。」


白い息を吐きながら、帝都城の渡り廊下を歩く男ーーー帝国斯衛軍大佐・斉御司兼嗣
『五摂家』の一つの現当主で、齢50を超えて尚、未だに戦場を駆ける『武士』の一人

「日本の未来は…一体何処に向かうのだ…」


米国に政権を一時的とは言え、握られ
日本が迷走し、将軍家の存在が『お飾り』とまでされ、今の日本には『幸せな民』は一握りしか居ない現実に嘆く日々ーーー
苦々しく表情を浮かべる斉御司大佐の顔は歯を食いしばりなからも空を見上げる…

「アラ…そなたは…?」
「あ…貴女様は…殿下!?」
声をかけられ、振り向くと、幼いながらも将軍になった『煌武院 悠陽殿下』と、護衛の『月詠 真耶中尉』が歩み寄って来た


「斉御司兼嗣殿ではありませんか…」

「ハッ…殿下に名前を覚えて頂き、至極有り難き幸せで御座います。」


クスクスと笑いながら冗談を言う斉御司大佐
その後、跪いて頭を下げる。


「何をしてたか…聴いて宜しいでしょうか…?」

「ハッ…日本の現状と行く末に頭を悩ませながら、空から降る雪を見ながら考えてました。」


「……スミマセン、私に力が無いばかりに…」


「で、殿下、頭を上げて下さいっ!!」

説明すると悠陽殿下が頭を下げながら謝罪する
それを見て、頭を上げるように説得する真耶中尉。


「……未だに将軍家の威厳は昔のようにありません…


しかし、私には皆さんの力も有って、将軍として力を振るえるのです。」


「勿体無き御言葉…」


悠陽殿下の御言葉を聴き、感動する真耶中尉。

「しかし…あと一手…
あと一手何か『決め手』があれば…!!」

斉御司大佐も、苦痛な表情をしながらも、悩んでいた…。
そして--再び雪降る夜空を見上げると----


「「「-----なっ!!?」」」


突然の目の前に光輝く柱の出現に驚愕する三人。
輝きが徐々に消えていくと、気を失った一人の青年が姿を現れた。


「コレは一体…!?」


余りの出来事に、驚愕を隠せないでいる斉御司大佐。


すると----















「タケル…様…?」

「えっ…?」
「殿下…?」

悠陽殿下の一言に反応する二人だった…。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ~第一話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:a7bee6ac
Date: 2011/05/08 18:58
「う…ん……………ん?」


目を覚ますと、見知らぬ天井が見え、起き上がりながら辺りを見る

「此処は…何処だ…?」

寝ぼけながらも脳をフル回転させるタケル
そして出た結論は---

(…もしかすると『御剣家』の一部屋か…?)

以前、御剣冥夜と御剣悠陽の実家の御剣家に訪ねた時があり、(強制連行だが…)その内の一部屋に似ている記憶があった
(やっぱり、悠陽や冥夜の実家----痛っ!!)
すると、突然の頭痛が襲い、膨大な『記憶』が流れて来る!!


(BETA……横浜基地…?
戦術機…G弾…凄乃皇四型…!?)


徐々に流れて来る『記憶』に少しずつ『理解する』タケル…そして---

(柏木…伊隅大尉…速瀬中尉…涼宮中尉…!!)

そして、尊敬すべき先任達の記憶と悲しき別れの記憶…


(神宮司軍曹…委員長…彩峰…美琴…タマ…)

そして、最も尊敬すべき恩師と苦楽を共にした仲間達の様々な記憶…

(冥夜-----!!
純夏-----!!)


そして、こんな自分の事を最も愛してくれた二人の記憶-----
「ハァ…ハァ…
コレは…もしかして…!!」
今、タケルの脳裏にひとつの『考え』が浮かび上がる

「『帰って来た』…のか…?
『BETAのいる世界』に…?」

『三度目』のループだと答えを見つけるタケル
記憶が『全て』思い出すと同時に涙が溢れてきた

「やった…やったぞ…白銀武…!!」


記憶を思い出したタケルにとって----
『三度目のループ』は…望むべき『願望』だった…

「これで…みんな…みんなを…救える…!!」


納得のいかなかった『一度目と二度目』のループ
一度目は力が無かった----
二度目は覚悟が足りなかった----
だが、今回は違う----!!

「今回こそ…今回こそみんなを救ってみせるっ!!
絶対に…あんな悲劇は二度とゴメンだっ!!!」

右手を拳にし、力強く握り締める。

決意は決まった----
やる事も決まった----
力も覚悟もある----
次する事は----!!

「……まずは情報を集めよう…
ここが『三度目の世界』であるならば、『御剣家』では無い筈…
…という事は----」


記憶を振り絞って出した結論は----

「…帝都…なのか…?」

以前までのループと違い、『白銀家』でのスタートでない事に少し戸惑うタケル。
しかし、このような豪華絢爛な和風な部屋は滅多に有るモノではない
特に『BETAの居る世界』ならば尚更
まず浮かび上がる答えは『帝都城』
帝都城ならば、この作りは納得する
日本を象徴とする帝都城ならば、この豪華絢爛な部屋も当然の事

「…という事は…京都か仙台の帝都城…なのか…?
それとも高位の武家の家なのか…?」


益々わからなくなってきたタケル
混乱しそうだったので、考えを切り替える事にする


(とりあえず…場所は保留にしとこう…
次は…今は何時頃の時代なんだ…?)

普通に考えれば『2001年10月22日』なのだが、今回のループは違う。
目覚める場所が違う為、何か『違う』気がしたタケル。
辺りを見回してみるが、カレンダーは無く、唯一骨董品みたいな古い柱時計があった

(日付は9日…時間は夜中の2時12分か…)

日付は違う
時間帯も違う
年号はわからない
この部屋では情報が全く無い為、難航するタケル
(参ったな~…情報が少な過ぎる)
ボリボリと頭をかきながら寝台から起き上がる事にしたタケル。
すると----!!


「目覚めたようですね…タケル様…」

「悠陽…殿下…?」

知っている『煌武院悠陽殿下』とは少し『幼い感じ』がした為、一瞬戸惑うタケル

「殿下…先に入られては困ります」


「大丈夫ですよ、真耶さん」

すると、悠陽殿下の後ろから真那中尉が現れ、悠陽殿下の前に立ち、タケルを警戒する

(あれは月詠さんの従姉妹の月詠真耶さん…だっけ?)

タケルも数回程度しか合った事が無い為、少し困惑する。

「貴様…白銀武か…?」

「ハイ、オレは白銀武です…。
スミマセンが、今の年号と日付を教えてくれませんか…?」

真耶中尉に質問に正直に答え、タケルも真耶中尉に質問する。

「…今は『1998年1月9日』だ」

「せ、1998年ッ!?」

予想外な年号が出た為戸惑うタケル
「そ、それじゃ、此処は何処ですか!?」

「仙台の第二帝都城の一室だ」

「えっ、ええぇぇえぇぇっ!?」


更なる返答に混乱するタケル

「今度は此方からの質問だ
正直に答えよ」

鋭い眼光を放ちながら、タケルに問いただす


「貴様は何者で何故光と共に現れたのだ?」

「…その時の詳しい状況を教えて下さい…」

タケルの心の中で『やっべー…もしかして大勢の人に見られた…?』と嫌な汗を流しながら真耶中尉の返答を待つ
「数時間前…殿下がその日の作業を終えて、寝室に向かう際、とある渡り廊下で帝国斯衛軍大佐の斉御司兼嗣殿と出逢い、少し話をしてた際、貴様が我等の目の前で光と共に現れたのだ」

「ノゥ…やっちまった…」


目撃者が三人だったのは幸いだが、少なくとも『斉御司大佐』の事は全く知らない人故に焦りが生まれる
「大丈夫ですよ、タケル様…
斉御司大佐には此度の事は内密にと言って起きましたので、他の方には漏れる事はありませんわ」
「ふぃ~…有り難う御座います…殿下…」
少し安心したタケル
そして、真耶中尉の問いに答える

「オレは『この世界』とは違う並列世界から来ました
ただ、以前『BETAのいる世界』に飛ばされた事があり、『二度の結末』を見て『元の世界』に帰りました…」
「違う『並列世界』だと?
詳しく話すのだ」
「良いですけど…眉唾的な話ですよ?」
「それでもだ」
「……わかりました…
これから話す事は…全て『真実』です」
タケルの真っ直ぐな眼を見て『嘘では無い』と悟る悠陽殿下と真耶中尉…
「始まりは…オレん家から始まりました…」
2001年10月22日---
全ての『始まり』は其処から始まった----
『一度目』は何が何だかわからない自分は混乱し、横浜市柊町をうろつき、廃墟とした光景に唖然とした…
幼なじみの家は撃震で破壊され、周りの建物も同じように破壊されていた
辿り着いた場所は『国連軍横浜基地』
その場所は自分の通ってた学校の有った場所だった…
その後、正門前の衛兵に怪しまれ、捕まるが、此処である人物に出逢う。


『国連軍横浜基地副司令・香月夕呼』
皮肉にも、『元の世界』での知ってる人物であり、お互いに切っても切れない『縁』である彼女に出逢い、拾われたのだ

「…あの『魔女』の知り合いとは…」

「確かに先生は他の人にしてみれば『油断出来ない人物』ですが、『中身』を見れば『優しくて頼りがいのある人物』なんですよ
堅い考えと偏見な見方を止めて、よ~く中身を見れば理解出来ますよ
…ただし、それまでにどんな理不尽な『イタズラ』が待ち受けてますけどね…」

「な、何故泣く!?」

夕呼の事を理解してるタケルが真耶中尉に『香月夕呼』の事を説明するが、その最中に『悲しき記憶』が蘇り、るーるー…と涙を流す

…それからタケルに『生きる術』を教える為に『訓練兵』として学ぶ事になった
その際、『元の世界の恩師』である神宮司まりもに出逢い、『207B分隊』に配置される。
そして、其処でかけがえの無い仲間達と出逢う----
榊千鶴
彩峰慧
鎧衣美琴
珠瀬壬姫
そして…『御剣冥夜』

『元の世界』でも仲の良かった友でもあり、『BETAのいる世界』では大切な仲間だった。
「冥夜…様だと…?」
この事に驚愕する真耶中尉だが、冷静に話を聴く悠陽殿下…

それから、悪戦苦闘の毎日が続いた。
みんなの足を引っ張りながらも、『総戦技演習』をクリアし、衛士になるべく戦術機の訓練をしていた。


その際、『元の世界』でのゲームが役に立ち、戦術機の腕前では『天才衛士』と言われるまでに評価された
しかし、様々な事件が起こり出す
群馬・新潟沖に佐渡島のBETAが上陸し、『新潟沖BETA襲撃』が発生
横浜基地を目標とし、突撃するが、なんとか最終防衛線にて阻止する
爆薬満載なHSSTによる『横浜基地強襲』
この時は訓練兵でありながら『極東一のスナイパー』である珠瀬壬姫が『1200mmOTHキャノン』を使い、撃墜に成功
噴火目前の天元山による『災害救出活動』
この時は冥夜と二人で力を合わせ、『第3世代機高等練習機・吹雪』にて御守岩を両断し、マグマの進路を変えて麓の村を救う事に成功する----
だが…しかし…『12月25日』----
オルタネイティヴ4は失速し、オルタネイティヴ5が発動。
選ばれた10万人だけ宇宙の何処かにある惑星に逃げ、地球は残った全人類によるG弾による殲滅作戦が始まった。

「そんな…!?」

「ふっ、ふざけてるっ!!
G弾による殲滅作戦だとっ!?」

「…その後の結果はオレにはわかりません…
途中で死んで『二度目のループ』に行った為、『人類の勝利』か『滅亡』かは知りません…
けど、『対応』をするBETAの事を考えれば…『滅亡』の可能性の方が遥かに高いでしょう…」

タケルの言葉を聞き、絶句する二人だった…

「そして、次に『2度目の世界』です…」

『二度目の世界』はオルタネイティヴ5を避ける為、『未来を変更する』手段を取った
普通ならば絶対に不可能だが、タケルだけは違った
『未来』を唯一知る人物---
だからこそ『未来の変更』が可能になった


幸いな事に『一度目』で鍛えた肉体と知識、そして衛士としての腕前は継承していた為、多少の日にちを早め、少しずつ『未来を変更』していた。

『新潟沖BETA襲撃』も香月夕呼の力を使い、帝国軍をBETAが上陸する付近に配置し、前回より被害の少ない未来に変更した---
HSSTによる『横浜基地強襲事件』も、前もって監視と脅しを入れ、阻止する
天元山の『災害救出活動』も、強引な手段とは言え、民間人の救出に成功する
そして、タケルの機動特性を元に作った新OS・『XM3』を開発
後に『全衛士の半数を救うOS』とまで呼ばれる事になる


…だが…予期せぬ事態が起きた…

帝都でのクーデター事件
煌武院悠陽殿下をも巻き込んでの大事件を始めとして、横浜基地に現れたBETAの『トライアル襲撃事件』
そして、佐渡島を消滅という結果になったが、『佐渡島ハイヴ攻略』に成功する
その3日後にBETA達が陽動などを使い、『横浜基地防衛戦』を発生
そして…息を吹き返したオルタネイティヴ5の危機を回避する為-----
『桜花作戦』を開始する--

「…桜花作戦とは…何だ…?」
緊張感が張り詰める中、質問する真耶中尉…
「桜花作戦の作戦内容は…
『オリジナルハイヴ攻略戦』です…
そして…多大な犠牲がある中…桜花作戦は成功しました…。」

「「------ッ!?」」

人類の念願の夢のひとつである『オリジナルハイヴ攻略』
それが現実になったと知り、衝撃が二人を襲う!!

ーーーしかし…タケルの表情は暗いまま。

『オリジナルハイヴ攻略』を成功したというのに『笑顔』が消えた…

「しかし…桜花作戦で…かけがえの無い仲間達を失いました。
委員長に彩峰に美琴にタマ…
そして----
幼なじみの純夏や…冥夜まで、オレを生かす為に……戦い…二度と逢うことは叶いませんでした…」

「-----ッ!?」

「冥…夜……が……?」

『御剣冥夜の死』を知り、衝撃を受ける二人…


タケルの説明を終えて言葉を失う悠陽殿下と真耶中尉
「…結論を言うと…半信半疑だな…
いきなり佐渡島ハイヴだの…未来だの言われても、貴様の言う通り『眉唾的』な話ばかりだ…」


「それは仕方ない事ですよ
『証拠』を出せと言われても『物』として有る訳でないから出せませんし…」
「そうですわね…」
流石に証明するモノが無く、決定的な実証が出来なかったタケル
「…だが、貴様が嘘を言ってる節は見えなかった…
だから、とりあえず『話を聞いておく程度』にしておく…
…でなければ…私は貴様を『殺して』しまいそうだ…
冥夜様が…死ぬなど…許されるハズが無い!!」


内心怒り心頭の真耶中尉…
やはり『御剣冥夜死亡』の話はかなり揺らいだようだ…


だが…


「月詠中尉、頼みが有ります…」
「…なんだ…?」
「オレをーーーー気が済むまで殴って下さい」
「「なっ!?」」
タケルの突拍子も無い言葉に驚愕してしまう真耶中尉と悠陽殿下
「何故…と聞いて良いか?」
「オレは…自分が許せません…
仲間達を救えずに…逆に守られる身だった自分に…
そしてーーー冥夜の命を……この手で『奪った』自分が許せません…」

「…えっ?」

予想外な返答に唖然とする悠陽殿下
そしてーー!!
「グハッ!!」
「貴様ーーーッ!!!!!」
一気に怒りが爆発した真耶中尉が渾身の一撃をタケルの顔面に叩き込む!!
「貴様が…貴様が…冥夜様を……ッ!!!!!」
タケルの首筋を左手で鷲掴みにし、狂ったようにタケルの顔面を殴り続ける真耶中尉

「や…やめなさいっ!!
止めるのです、真耶さん!!」
「貴様のせいで……貴様のせいで…冥夜様は…!!!」


悠陽殿下の言葉すら届かず、『殺意』を持ってタケルを殴り続ける真耶中尉

「駄目ですっ!!このままではタケル様が……死んでしまいますっ!!」

「殿…下…?」
身体を張って真耶中尉を止める悠陽殿下
その際に正気に戻る真耶中尉…
「良いんだ……止めなくても良いんだ……」
「しかし、このままでは…」
『死んでしまう』---
そう口にする前にタケルに頭を優しく撫でられる悠陽殿下

「オレは許せない---
幾ら『元の世界』に帰り、記憶を失っていても……
こんな自分を『愛してくれた』冥夜を…殺し…その罪を『忘れた事』を……」


「えっ…冥夜様が……貴様を…?」
タケルの言葉を聞き、ピタリと反応する真耶中尉

目の前の男は少なくとも--
自分の利益や保身の為に仲間を裏切る者ではない
むしろ、自分が何でも背負い込むタイプに見えなくも無い
「………白銀武
『冥夜様の死』を詳しく教えろ…」
「ハイ…」

タケルは機密情報(凄乃皇等)の事は伏せながら話す……





桜花作戦時---
遂に『あ号標的』のいる間まで辿り着いたタケル
だが、しかし…『あ号標的』の攻撃により、『決戦兵器(凄乃皇)』の行動を封じ込め、幼なじみの純夏や同じ搭乗者の霞まで『あ号標的』により、気を失っていた

だが、タケル達の瞬間に、『紫の武御雷』に搭乗していた冥夜がタケル達を救い出すものの、『あ号標的』には適わず、触手攻撃により、武御雷ごと、決戦兵器に貼り付けられる
S11の自害も封じられ、冥夜の全身に『あ号標的』の触手攻撃により『乗っ取られてしまう』のだった



「そん…な…」
絶句する真耶中尉
あまりの絶望的状況に言葉すら発する事が出来ない悠陽殿下
「そして…冥夜は……オレに『自分ごと、あ号標的にトドメを刺せ』と言ったんです……」


「ーーーーーッ!!」

なんて残酷な選択を選ばされたのだ
自分を愛してくれた人物を『殺せ』と言われる絶望
自分ならば……どうするのだろう…
真耶中尉は…残酷な選択に判断が出来ないでいた…
「そして……冥夜は言ったんです……
『御剣冥夜は最も愛したソナタの手で……殺して欲しい…のだ』…と…」


ガタリと跪いて戦意喪失になる真耶中尉…
あまりの真実に絶望し…力が抜けてしまう
「冥夜…様…」
「だから……オレは自分を許せないんです……
冥夜を……みんなの『幸せ』を守れず…自分だけ生き残った事に……」
涙をこらえながら、食いしばって語るタケル…
初めてタケルの『苦しみ』を理解する二人…
「…………」
言葉を発する事が出来ない状況になり、無言の時間が経つ……
「……………殿下…
話の続きはまた今度にしましょう…
時間ももう遅い……お休み下さい……」
「ハイ…わかりましたわ…」
苦痛な程空気が重くなる……
それから逃れるように話を中断する三人…
「…白銀武よ…しばらく待っておれ
殿下を寝室まで送って来る」

「ハイ…わかりました」部屋を出て、悠陽殿下を寝室まで送る……



そして……時間がしばらく経ち----
「失礼する…白銀武?」

再び部屋に入る真耶中尉
しかしタケルからは言葉が出てこなかった
「白銀武…気を失っていたか……」
真耶中尉の怒りの猛攻に気を失っていたタケル…
気を失っていたタケルの顔に『塗り薬』を塗り、湿布薬や絆創膏を貼り、治療する
「私は---
この者の『苦しみ』を理解出来なかった…」
先程の出来事に深い反省をする
「この者とて---苦しみながらも戦い続けたのだ…
なのに…私は…怒り任せに暴れるだけ…」
タケルの『覚悟と贖罪』を知った真耶中尉…

ボコボコに腫れ上がるまで殴り続けた自分に深い後悔が真耶中尉の背中にのしかかって来た…


「月詠…さん…?」


腫れの痛みで起き出すタケル、そして---

「ん………」
「!!!?」

優しくタケルの唇に触れ合う真耶中尉の唇
予想外の出来事にタケルも驚愕する


「済まなかった…やり過ぎた…
コレは…私なりの『償い方』だ…だからと言って勘違いするなよ!?
…別に『恋愛感情』で唇を合わせた訳ではないぞっ!!」
顔を真っ赤にしながらも誤魔化す真耶中尉…


「…だから……自分を…許してやれ…」
優しくタケルの頭を抱え込んで慰める
優しく……豊満な胸にタケルの顔を少し埋める
「休むが良い……話は後日またしよう…」
「………ハイ…
スミマセン…でした……」
そのまま再び深い眠りにつくタケル…
今度はゆっくりと眠りにつけれるように…そっと休息を与える真耶中尉だった…



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ第二話①
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:a7bee6ac
Date: 2010/09/13 19:37
1998年・1月9日
「モグモグ……イチチッ…」


目が覚め、すっかり『朝・昼飯兼晩ご飯』になってしまったタケル
傷がチクチク痛みを感じながらも根性で食べる

「すっかり外が暗くなってやがる…
オレ…鈍ってるのかな…」


ちょっと不甲斐ない自分に反省するタケル
身体を鍛え直そうと考えたりする


(けど…1998年って事は…『光州作戦』や佐渡島や横浜にハイヴを建設した年だよな…)

モグモグと食事しながら考えこむタケル

(つー事は、この時はまだオレや純夏は無事に柊町で暮らしてるんだよな…)

この時『まだ生きてる自分や鑑純夏』を心配するが、『何か良い手無いかなぁ~…』と脳をフル回転させる


(…やっぱり『先生』に逢わないと始まらないか…悠陽に頼んでみるか…)


『歴史を変える』には『香月夕呼』という人物が必要だと考えを改めて思う

すると、丁度食事が終わると同時にドアからノックする音が聞こえて来る
「ハイ、どちら様ですか?」

「私だ」

すると真耶中尉が部屋に入って来た
「随分と寝坊助だな、もう晩だぞ?」
「グッ…面目無いです…」

反論が出来ないでいるタケルを見てクスリと笑う真耶中尉

「さて、今夜は殿下と斉御司様と密会をしてもらう
良かったな、白銀
まだ眠っていたら『拳』が飛んでいたかも知れぬぞ?」
「アハハハ…」
冗談には見えなかったタケルは苦笑いをしながら嫌な冷や汗をダラダラと滝のように流す…

「斉御司様には、一通りの話はした
勿論斉御司様は『半信半疑』で聞いてたがな」

「…『半信半疑』って事は『少し』は『信じた』って事ですよね…?」

タケルの問に『ああ、そうだ』と返答が帰って来る

「まず白銀の話の内容だが…
『嘘』にしては、内容が『突拍子過ぎる』
『嘘』をつくならば、もっと上手い『嘘』をつく
次に『妄言』の可能性だが…
『妄言』を言う奴が『俺を殴って下さい』などと言うのも変だしな…
それに『妄言』にしては内容が弱い
それに話の内容も『出来事と結果だけ』で『中身』を喋ってない…
これは『機密情報を隠蔽』を意味する事から『真実味』が有ると私は思う
…ついでに言えば、白銀がスパイや暗殺者の可能性も皆無
もし、白銀がスパイや暗殺者の類いならば…貴様はどうしようも無い程の『莫迦でマヌケな奴』だ…
故にこの案も消える」


「……なんか酷い言われようですね…」

素直に喜べないでいるタケルを見て『良かったな、死罪は免れたぞ?』と冗談を言う真耶中尉

「それに我々の目の前で『光と共に現れる』のだ…普通に考えれば有り得ない出来事だ
『未来から来ました』なんて事を言えば『多少』は信じてしまうぞ?」
「なんか複雑な気持ちですね…」


真耶中尉の説明を聞いて、だんだん落ち込んで来るタケル
「その真意を知る為に今回の密談が有るのだ
お二方に信用して貰うかは白銀次第だ」

「ハイ、わかりました…」

真耶中尉の言葉を聞き、覚悟を決めるタケル
その真っ直ぐなタケルの表情を見て、『フッ…』と笑みを浮かべる真耶中尉…

「さて、話も此処までだ
いい加減、服を着替えるんだ」
「服って……………………まさか…コレデスカ?」


ベットから離れた場所の小さな机の上に『斯衛軍の軍服(黒)』が用意されていた

「他に服が有るか?」

「ソウデスヨネー…」
仕方無しに服を着替えると……

「グハッ……似合わねー…」
鏡を見て素直な感想を言うタケル
「『馬子にも衣装』だな」
「んがっ!?」
真耶中尉の一言にショックを受けるタケル
「ホラ、さっさと行くぞっ!!」
そのままタケルの腕を掴み、悠陽殿下達の居る部屋へと向かって行った…


部屋を出て十数分後…
殿下達が待つ部屋の前に到着するタケル達

「ここだ、失礼無いようにな」

「ハイ」

「では行くぞ…
失礼します殿下、月詠真那中尉只今参りました」

頭を下げながら入室するタケル達
中では、殿下と斉御司大佐が待っていた
「ご苦労様です、真耶さん
ようこそいらっしゃいました、『タケル様』」
「…………?」

なんとなく悠陽殿下のセリフに違和感を感じるタケル

「此方に居る御方が、五摂家の一人である斉御司兼嗣様だ」


「私が斉御司家現当主であり、斯衛軍陸軍大佐の斉御司兼嗣だ
済まないが君の自己紹介をしてくれないかね?」

「ハッ、オレの名は白銀武と申します
歳は18です」

「ウム、元気の良い若者だ」

はっきりと返答するタケルに好印象を感じる斉御司大佐

「あと、此処には居ませんが、『もう一人』お呼びしてます
少々遅れますが直に来るでしょう」

「ハッ、わかりました」
悠陽殿下の会話に返答を返すタケル
すると斉御司大佐からタケルに話しかけて来る

「…ところで、月詠中尉からは話を一通り聞いたが…はっきり言えば突拍子過ぎて困惑してる状態だ…」
「…スミマセンでした」

困惑している斉御司大佐に申し訳無い気分になり、素直に謝るタケル

「あの…質問の前にスミマセンが…こちらからひとつ殿下に質問して宜しいでしょうか…?」


「私にですか?
…勿論宜しいですが…兼嗣殿…宜しいでしょうか…?」

「ハッ、殿下にお任せします」

「有り難う御座います」
殿下と斉御司大佐に深々と頭を下げるタケル

「殿下…何故オレの事を『タケル様』とお呼びになるのでしょうか…?」

「…そうですな、その事に関しては、私も月詠中尉も気になる所です」

「殿下は…過去に白銀に会った事が有るのですか…?」



タケルの質問…
『タケル様』と呼ぶ事に違和感を感じていたタケル達
「オレの事を『タケル様』と呼ぶのは元の世界の殿下…御剣悠陽とメイド長の月詠真那さんと月詠真耶さん
…あとは3バカの巴・戎・神代の三人…
この六名のみがオレの事を『タケル様』と呼んでました
…しかし、二度目の世界では、殿下はオレの事を『白銀』とお呼びになってました
この世界で出逢って間もないオレに『タケル様』と呼ぶのは何故でしょうか…?」

先程の違和感---
悠陽殿下の『タケル様』が気になっていたタケル
何故出逢ったばかりなのに『タケル様』と呼ばれるのか…悠陽殿下に問いただす


「そうですね…わかりました
実はタケル様と出逢ったあの時---
光と一緒に現れたタケル様を見た瞬間---
私の頭の中に見覚えの無い『記憶』が流れて来ました…」


「記憶…ですか…?」

「ハイ…
見覚えの無い公園で『幼い姿の私と冥夜とタケル様』が砂場で遊んでた記憶と…
今ぐらいのタケル様と同じように成長した私が仲の良い関係になりながら、冥夜や御親友達に囲まれてる記憶が流れて来ました…
その際、私が『タケル様』と呼ぶシーンが流れてきて、あの時はつい呟いたのです…」

「記憶の流出…もしかして…」

悠陽殿下の説明を聞き、ある仮説が浮かぶ

(もしかすると…元の世界の悠陽の記憶がループの際流出して、この世界の悠陽に記憶が流れて来たのか…?)

「白銀、何かわかったのか?」

考え込むタケルに真耶中尉が訪ねてくる
「いや、恐らくは『元の世界の御剣悠陽の記憶』が流出して、この世界の殿下に流れて来たんでしょう
原因は…恐らくはオレのループによる事だと思います」


「そうか…
では、殿下のお身体には影響は…?」

「無いでしょう
ただ、莫大な量の記憶が流れて来たのなら、強い頭痛は来ますが、今の内容だけの記憶量ならば、頭痛も無いでしょう
有ってもチクッとする程度です」
「そうか…それを聞いて安心した」
タケルの説明を聞いて一安心する真耶中尉

「なる程…
しかし、何故今でも『タケル様』とお呼びになるのでしょうか、殿下?」
ふと、疑問に思った事を質問する斉御司大佐
するとーーー
「…何故だが、『タケル様』と呼びたい気持ちになりましたので、つい…」

「「「えっ?」」」

「大丈夫です、他の者が居る時は『白銀』と呼びますのでご安心を
それ以外の時は『タケル様』とお呼びますので…」

「「「ええっ!?」」」

悠陽殿下の反応に思わずハモる三人

「で、では斉御司大佐
な、何かご質問が有りませんか?」

「ウ、ウム……では…」
なんとかこのビミョーな空気から出ようと話題を変えるタケル
斉御司大佐も戸惑いながら、タケルに質問をする

「白銀武よ、貴殿は『未来』から来たと聞いたが…
済まないが、何か『納得出来る証明』を提示してくれないかな…?」
「…と、言いますと…?」

「君が『別の世界』から来たという話は信じよう…
現に我等の目の前でいきなり光と共に現れたのだ…その事に関しては信じよう
だが、『未来から来た』というならば、我々が信ずるに値する事を教えて欲しいのだ…」

「信じる事に値する内容か…」


うーん……と腕を組ながら考えるタケル
すると…ふとある事を思い出す

「そういえば…
『光州作戦』って聞いた事ありますか…?」

「聞いた事も何も、今現在『光州作戦』は発動してるぞ?」

「ええっ!?」

斉御司大佐の一言で驚愕するタケル

「大変だっ!!
今すぐ手を打たないと大変な事に…!!」

「どういう事だね…!?」
「実は、この光州作戦は、後に『光州作戦の悲劇』と呼ばれる事になり、結果…『彩峰中将』が死罪となり、後に起きる帝都での『12・5事件』のクーデター事件の引き金にもなるんです!!」

「な…なんだとっ!!」
タケルの語る『歴史』を聞き驚愕する三人



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ第二話②
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:a7bee6ac
Date: 2010/09/13 19:46
「し、白銀…詳しい話をしてくれないかね…?」
「ハッ、何時起きたかは俺はわかりませんが、光州作戦の撤退支援として帝国軍も参加してましたが
脱出を拒む現地住民の避難救助を優先する大東亜連合軍に彩峰中将が協力した為
その隙を突かれた国連軍司令部は陥落し、指揮系統に大混乱が起き、国連軍は甚大な被害を負い、日本政府に猛抗議し、彩峰中将の国際軍事法廷への引き渡しを要求しました
そして内閣総理大臣の『榊是親』殿は『国連に従えば軍部の反発』と『逆らえば、オルタネイティヴ4が失速する』という辛い選択肢に悩み苦しみました…
結果、榊首相は苦汁の選択として、最前線を預かる国家の政情安定を人質にし、国内法による厳重な処罰という案で国連を納得させました」


「なんと…」
「彩峰中将が…そのような事に…」
タケルの衝撃的な『歴史』に驚愕するしかなかった悠陽殿下達

「…これは後に聞いた話ですが…
榊首相が彩峰中将の下に一人で訪ね、日本の未来を説き、土下座をしたそうです
その姿を見て彩峰中将が人身御供を快諾し、後に死罪となりました…」

「榊首相が…それ程苦汁の選択を…」

榊首相と彩峰中将の二人を思ってか、つらそうな表情になってしまう悠陽殿下

「…そして、それが引き金となり、2001年・12月5日にクーデター事件が起きてしまいます…
首謀者達の中には彩峰中将を慕う者達が居て、彩峰中将の死後以来、日本政府に不満を持ち、結果、クーデターは起きて…榊首相を始めとした閣僚達は…『暗殺』されました…」

「「!!!!!」」
「榊…首相が…暗殺…?」
再び衝撃的な歴史を知り、言葉を失う斉御司大佐と真耶中尉
唯一悠陽殿下だけが、声を震わせながら呟く

「そして、このクーデター事件には、裏で『米軍』が動いてるようで、事実クーデター事件時にクーデター側に居た米軍のスパイが帝都に攻撃し、帝都での戦闘が開始しました
その際、殿下は帝都での戦闘を避ける為に帝都城から逃げ、自らを『囮』となりました
これは殿下自らの案で、城内省にも知らせず、殿下と帝国情報省・外務二課の鎧衣左近課長と侍従長一人の三人のみで帝都を離れ、箱根の離城に繋がる秘密の地下鉄道で到着した際
当時訓練兵だった俺達『第207衛士訓練小隊B分隊』が配置され、休憩の際に外に出てたオレが殿下達を発見し、鎧衣課長の提案もあって、オレが搭乗していた第三世代機の『97式戦術歩行高等練習機・吹雪』に複座して貰い、『国連太平洋方面第11軍・横浜基地』へと退却戦が始まりました…」

「なっ…訓練兵だけで殿下の護衛だと…!?」

『殿下の護衛が訓練兵』という事に戸惑う斉御司大佐にタケルが…

「それはちょっと違います、斉御司大佐
俺達訓練兵以外にも、教官一人と、斯衛軍であり、冥夜の護衛である『第19独立小隊』の月詠真那中尉とその部下の巴・戎・神代少尉達も殿下の護衛に入ってます」
「…そうか…真那が居たか…なら安心だ」
従姉妹である真那中尉が悠陽殿下の護衛に廻ったと聞き、安心する真耶中尉
「退却をする際、途中で米軍の『第66戦術機甲大隊』が援軍に来て、我々の援護をしてくれました
彼等は純粋に祖国の命に従い、我々を助けてくれましたが…中に彼等も知らなかったスパイが居た為、戦況は悪化しました…」
「悪化…とは…どの様な…?」
不安をしながらタケルに問うと…

「首謀者である帝国本土防衛軍・帝都守備連隊の『沙霧尚哉大尉』に説得を試みた冥夜は殿下に変装し、沙霧大尉との対話をなさいました…
しかし、あと一歩という所で米軍に潜んでいたスパイが攻撃、結果説得は失敗し、再び退却戦が始まりました」

「なんという事だ…」

「結果、米軍は壊滅的な被害を受け、クーデター軍は撃退し、首謀者である沙霧大尉は月詠真那中尉により、殉職しました…
他のクーデター軍も帝国軍により鎮圧され、事件は終わりました…」

余りの悲劇の連鎖に言葉が出て来ない悠陽殿下達…

「ですから…追加の軍でも命令でも何でも良いです…
彩峰中将に現地民族を救助に向かわなければ…光州作戦の悲劇も…クーデター事件も防げるかもしれないんです…!!」


強い気持ちで殿下達に進言するタケル
その強い気持ちが真実と知り、驚きながらもタケルを注目する斉御司大佐
「この悲劇を回避しないと…オレの大切な仲間が…彩峰と委員長が父親の死や大切な人の死で再び悲しむ姿をオレは見たくないんですっ!!」

「ーーーーーッ!!」

先の話で聞いていた訓練部隊のメンバーに彩峰慧と榊千鶴の名前を思い出す悠陽殿下達


「どうか…どうか…お願いしますっ!!」


悠陽殿下達の前で深々と土下座をするタケル
その姿を見て『嘘』と思う者は居なかった…

『…気持ちはわからんでも無いけど、土下座は止しなさい、白銀
殿下達だって困ってるでしょう?』
「えっ……?」
突然の声に全員が注目する
カツカツと足音をたてながら姿を現す


『その件に関しては私が先手を打ったから安心なさい、白銀
…あと、遅ればせながら失礼致します殿下
国連軍所属・『香月夕呼』…只今参りました』


突然の香月夕呼博士の訪問に驚きを隠せないでいるタケル

「せっ、先生!?
何故此処に……っていうか…先生も『記憶』が有るんですかっ!?」

アワアワと慌てるタケル
知っている『香月夕呼』とは少し若返った姿での再会とタケルの存在を知っていた事に困惑していた

「……アンタも相変わらずね~…
ちゃんと順番に説明するから落ち着きなさい」

「ハイ…」

慌てるタケルを落ち着かせて、順番に説明する香月博士


「私が此処に居る理由は、殿下にお呼びがかかったからよ
何の用なのかはわからなかったけど…アンタを見て納得したわ」

相変わらずの鋭い洞察力で全てを悟る香月博士
『流石は先生だ…』と感心するしかないタケル

「次にアンタの事を何故知っていたか…
そんなの簡単よ…私は『二度目の世界』の香月夕呼だもの
私もアンタと同じように『ループ』したんだからね…
まあ…私の場合は『今回限り』だけどね…」

「ハァアァァァァァッ!!!???」

衝撃的な事実に驚きを隠せないでいるタケル
思わず開いた口を閉じる事すら忘れる程の衝撃だった

「アンタ、『転移装置』を覚えてる?
アンタが元の世界に一時的に帰還して、『並列処理装置の根本理論』の数式を『元の世界の私』から貰いに行ったあの装置よ」

「ハイ…覚えてます」
「なら話を進めるわよ
アナタが『二度目の世界』から立ち去ってから10年後…
ハイヴも残り数が10まで減り、人類に希望が広がってた頃
一度は離れたけど、殿下達の計らいもあって再び横浜基地に着任した私は様々な新開発などをしてたの
そんな時ーーー
2012年・4月28日に横浜基地にテロ事件が合ったの
そして、丁度転移装置のある部屋に居た私は、突然の転移装置の『暴走』に巻き込まれたのよ」

意外な事実を知り、驚きながらも香月博士に質問するタケル

「暴走…ですか…?」

「そっ、暴走
テロリストが、どうやら基地の発電所を爆破したみたいでね、その際に暴走した電力が転移装置に流れて暴走し、『高エネルギー体』が私を襲ったのよ…
流石に死んだと思ったわよ~…
けど、目覚めて見れば、『14歳の頃』にタイムスリップしてた事にしばらくは呆然としてたわ
アンタがループした時の気持ち…今ならわかるわ…」

流石の香月博士も複雑な気持ちになっていた…

「なんでまた転移装置を処分しなかったんですか?」


「…なんとなくだけどね…
アンタにまた『逢えそうな気』がしたのよ…
そんな気持ちもあって10年間残していたら暴走して…
しまいにはループしたこの世界で…今アンタと再会したのよ」

「…ホンット先生とは『腐れ縁』ですね…」

「まったくよ」

皮肉を言うタケルに賛同する香月博士
しかし…ここにひとつの『縁』に再会して喜び合う


「あ…あの……
話についていけないのですが…」

「あっ」

「スミマセン殿下
まあ『白銀と同じ存在』とお考え下さい」

「は、ハァ…」

余りの突然の話について来れなかった悠陽殿下達…


「ーーーーーさて、話を戻しますがーー
香月博士、先程の『手を打った』とはどういう事か説明して貰えませんでしょうか?」
「ハイ、実は光州作戦開始時に私の特殊任務部隊『A-01連隊』に『現地住民の避難救助と護衛』を命じておきました
もし、国連軍司令部の防衛する部隊が救助活動に参加した場合は、
代わりにA-01が国連軍司令部を防衛するようにと言ってありますから、万が一に彩峰中将が救助活動に向かってもカバー出来るように先手を打っておきました」

「さ、流石は先生!!」

香月博士の先手を聞いて安心するタケル

「そうですか…油断は出来ませんが、手を打った事に感謝致しますわ、香月博士」
「いえ、恐縮です殿下」
「彩峰中将は私にとっても『恩師』となる方…
あのような方を失う事は、日本にとっても大きな損失となるでしょう…」
「後は…朗報を待つのみです…」

香月博士の行動に感謝する悠陽殿下
そして謙遜しながら後はA-01連隊の活躍を信じるしかないと無事の帰還を心の中で祈る香月博士

「さて白銀…今までの貴殿の話の真意だが…
私は信ずるモノと判断する事にした」


「あ、ありがとうございますっ!!」


斉御司大佐の決断の結果に感謝するタケル

「まず話を信じる決め手だが…
貴殿は我々しか知らない情報を知っていた事が決め手となった」

「決め手…?」

「ウム、クーデター事件の件の話だが…
貴殿は将軍家及び五摂家やほんの一部の上位の者しか知らない『地下鉄道』の事を知っていた
しかも箱根までのルートまで知っているとなると、疑いようの無い事だ
…次に鎧衣課長の事だ…
彼は情報省というスパイ活動が主な活動故に、その存在を知っているのは一部の人間のみだ
我々や香月博士のような地位の高い者ならば兎も角、貴殿が鎧衣課長の存在を知っていた事も決め手のひとつだ
そして…最後にーー御剣冥夜殿の事ーー
貴殿は御剣冥夜殿がどのような立場の方か…知っておるな?」

「ハイ…冥夜は…殿下の『双子の妹』です…」

「「!!!!」」

機密である『双子の妹』を知っていたタケルに驚く悠陽殿下と真耶中尉

「殿下の『紫』の武御雷を冥夜の為に用意してくれた事…
悠陽殿下と冥夜の容姿と性格があまりにも似ている事…
そして、その推測の結果を殿下本人に問いただした時にーー冥夜が『双子の妹』と告白してくれました…」

「そう…でしたか…」

タケルの話を聞き理解する悠陽殿下達


「その事もあって、私は白銀武が『未来から来た事』を信じる事にする
歴史云々の話はこれから証明される事だ…その事に関しては、その時に証明された場合に信用しよう」


「それだけでも…有り難いです!!」
斉御司大佐からある程度信用された事に感謝するタケル

「では…次にタケル様の身分ですが…
私としては、帝国軍が斯衛軍に属して貰いたいのですが…
兼嗣殿と香月博士の意見はどうでしょうか…?」
次の話題として、『タケルの身分』の事について話し合う事になった
「私は別に帝国軍でも斯衛軍でも国連軍でも構いません
ただ、オルタネイティヴ4が本格的に活動する際には白銀を国連軍に『一時的に配属』してくれると助かります
此方にとっても、白銀はオルタネイティヴ4の『重要人物』でありますからね…彼が居ないと先に進みません
ですが…そうですね…
白銀の更なるレベルアップを考えるのならば、帝都で『最強』の二文字を持っている『紅蓮大将』と『神野大将』に鍛え上げて貰うのも良いかと…」

「ほう…紅蓮大将と神野大将とは…香月博士もなかなかのスパルタだ」

香月博士の提案を聞いて関心する斉御司大佐
不安感タップリのタケルはコッソリと真耶中尉に質問する


(あの…月詠中尉…
紅蓮大将と神野大将とはどんな方で…?)
(私や真那を始め、殿下や冥夜様の『師』である方である
そして、この日本を守る最古参の二人でな…
前将軍の『煌武院雷電』様と三人で『最強』を欲しいままにした生きた武人だ…)
(…月詠中尉はどなたか勝った事ありますか…?)

(有るわけ無かろう!!
あの武人一人だけでも、精鋭を集めた『一個師団』をぶつけても全滅は必至だっ!!)

(んがっ!?)

真耶中尉からの死刑宣告に近い言葉を聞いて、『あっ…オレ…もう此処で逝くのかな…?』と遠い目になるタケル

そんなタケルの気持ちを無視して話は進む

「階級は以前は少尉でしたが、短い期間ですが小隊長も経験してますし
最終的なポジションも『突撃前衛長』ストームバンカード・ワンでした
ですから今回は『中尉』からでも大丈夫かと…」
「ほう…突撃前衛長とは…なかなかの腕前と見た」

その時、斉御司大佐はある案を浮かぶ

「スミマセンが殿下
白銀をシミュレーター訓練で衛士としての腕前を見たいのですが…宜しいですか?」
「名案ですわ、私もタケル様の腕前を見てみたいですわ」
すっかりタケルの機動特性を見せる事になってしまった
「真耶さん、スミマセンが…タケル様の相手になってくれないでしょうか…?」

「ハッ、承知致しました」

「ええっ!?」
一方的に話が進められて、相変わらず選択の権利が無いタケル…
「では早速行きましょう!!」

ズルズルとタケルを引きずりながら、シミュレーター訓練に向かうのだった…



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ第三話①
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:a7bee6ac
Date: 2010/09/19 19:09
「ハァ…なんでまたこんな事になるのかな…」


溜め息を吐きながら、更衣室で斯衛軍の強化装備(黒)を装備するタケル


「…まあ、先生から色々話も聞けたし…良しとするか…」


香月博士から色々な話を教えて貰った

まずは『鑑純夏』の処遇
現在鑑純夏を監視をしながら保護していた香月博士
この世界の白銀武もそうだったが、今日白銀武の姿が消えたと聞いた時は焦ったらしいが、先程『ループした白銀武』に再会して納得したらしい(どうやら『この世界の白銀武』と『ループした白銀武』が同化したのが原因らしい)

鑑純夏については、ループする以前から『人間として生きた状態で00ユニット』として起動出来るかを研究してたらしい
ループしてからも研究を続け、合計20年以上の歳月の結果、『可能』になった
現在、強化装備にも似た装備を00ユニットの適合者が着用する事で『00ユニット』として起動出来るように着々と進んでるらしい
それを教えてくれた時に香月博士が--
『鑑純夏を幸せにしたいんでしょ?
アンタには『二度目の世界』でオルタネイティヴ4の完遂やオリジナルハイヴを攻略してもらったからね…その『ご褒美』よ』
香月博士なりの『優しさ』
それを受けたタケルは香月博士の手を握り、涙を流しながら感謝した

「ホンット…先生には適わないな…」
思い出して、思わず再び泣きそうになったが、堪えるタケル
心の底から香月博士に感謝していた


次に光州作戦に参加したA-01連隊の事

現在、連隊の数はやはり減っている状態だが、少なくとも『二個中隊』は健在してるらしい

まずは、タケルも知っている『ヴァルキリーズ』
現在は8名と少ないが、伊隅大尉を隊長として健在らしい
次に『オーディン隊』
メンバーこそ4名少ないが、実は連隊の中で一番強い中隊だったらしいが、厳しい特殊任務や戦闘で減り続け、結果『二度目の世界』では『明星作戦』のG弾で全員死亡したらしい
メンバーの補強も考えたが、単に人数を揃えるだけでは駄目なため、徐々に減っていく状態だったらしい
だがーー95年、『霞』を貰う際、他の『第三計画』のメンバーを追加したらしい
香月博士の言う事によると---

『アンタ、『紅の姉妹』スカーレット・ツインって聞いた事ある?
実はね、『二度目の世界』で凄腕の衛士の噂が流れててね~…
実は霞と同じ『第三計画』の奴らでね…リーディングしながら邪魔な『敵』を始末する『死神』みたいな事させられてたの…
それで、過去にループした私は、霞の他にこの『紅の姉妹』スカーレット・ツインも引き抜いたのよ
…勿論あの手この手使ってね…
あっ、この子達は光州作戦には参加してないわ
今頃基地で訓練しながらお留守番してるわよ---って白銀…アンタ何震えているのよ?』

『あの手この手』と言っていた時の香月博士の表情を見て思わず恐怖して、部屋の隅っこでガクガクブルブルと震えていたタケル
余りにも素敵な『笑顔』で黒いオーラを放っていたのだ…
タケルじゃなくても、泣きながら逃げる事は間違いない

「…あん時の先生の笑顔…怖がったなぁ…」

ブルブルと震えながら更衣室から出るタケル


「さて…と…頑張りますか…」


カツカツと足音を響かせながらシミュレーターデッキの中に入り、シミュレーター訓練の準備をする



「先生、準備完了です
何時でも良いですよ」

『そう、わかったわ
月詠中尉も準備完了してるし…始めるわよ』


「ハイ!!」
『了解』

タケルと真耶中尉の返答を聞いてからシミュレーター訓練を開始する
「…ステージは…市街地か…
機体は…斯衛軍だけあって瑞鶴か…」


辺りにはビルなどの建物が沢山ある市街地に設定されたステージ
機体も乗った事の無い瑞鶴での搭乗に少しぎこちなさを感じるタケル
(仕方ないか…吹雪や不知火に慣れすぎてるせいもあるな…)

この辺は『慣れるしかない』と気持ちを切り替えるタケル

そして---
離れた場所の真耶中尉は---
「天才衛士…か…
その実力…見せて貰うぞ…白銀!!」
鋭い眼をしながら、冷静にタケルの動きを待つ真耶中尉
すると----
「むっ…来たな…」

前方にタケルの機体を発見
長刀を装備し、待ち構える真耶中尉
「奇妙な動きだな…連続噴射跳躍だと…!?」

姿を現したタケルは、目の前のビルを連続噴射跳躍でビルの屋上に登り、屋上を左右に移動するように噴射跳躍を繰り返す

「何を誘ってる…?」
まるで『撃って来い』と挑発するように噴射跳躍を繰り返しながら接近するタケル

「…良いだろう…
お望み通りに蜂の巣にしてやる」


武器を長刀から突撃砲に変え、挑発するタケルを狙撃する

「来たっ!!」

『待ってました』とばかりに、屋上からの移動を止めて、地上に降りて匍匐飛行で接近するタケル

「フン、それがどうしたっ!!」

地上に降りたタケルを狙撃する真耶中尉
しかし----この時、真耶中尉を始めとして、モニターで眺めてる斉御司大佐と悠陽殿下は驚愕する!!

『『なっ!!?』』

「なん…だと…!?」

狙撃した弾丸を横へ回避し、ビルを蹴り上げて、『倒立反転』しながら突撃砲で反撃するタケル
そのあと、着地と同時にしゃがみながら左右に水平噴射跳躍で移動しながら接近して来る!!

「クッ…なんだこの動きは…!?」

タケルの突撃砲の弾を回避しながら長刀に再び切り替える真耶中尉
タケルの機動に戸惑いながらも斬り込む!!

「喰らうかっ!!」
再び噴射跳躍で攻撃を回避するタケル
再び倒立反転しながら背後から攻撃をする時に
「させるかっ!!」

倒立反撃している最中に斬撃を入れる真耶中尉
普通ならば、これで『勝負あり』だが---

「おっと危ない」
「なーーーーーっ!?」

反転途中からの回避
噴射跳躍で方向転換し、斬撃した長刀の峰部分に手を当てて回避する

回避した後突撃砲で狙撃し、真耶中尉との間合いを少し離し、タケルも長刀に切り替えると同時に再び噴射跳躍でビルを利用した三角飛びをして、真耶中尉に斬り込む!!

「グゥ…!?
なんだ…この動きは…!?」

全てがデタラメ---
自分が見た事も体験した事も無い事を、白銀武は平然としてやっている
本当に同じ機体かと思う程、動きが違う
正に『翼』を得た状態になり、タケルの瑞鶴はアクロバットを繰り返しながら、真耶中尉の瑞鶴を追い込む


「----惑わされるな、真耶」

しかし真耶中尉も黙ってはいない
静かに動きを見ながら…ただ、ジッと長刀を構える…
確かに凄い機動だ…それは認めよう。
だが、攻撃する術は同じ
狙撃さえ、気をつければ、接近戦は我に勝機有り
我が間合いに飛び込めば、一閃の下に斬り裂くのみ


「やべっ…」

タケルも真耶中尉の行動に気づき、警戒する

今、真耶中尉の居る場所は、交差点のかなり広い場所で周りに目立った障害物は無い
それは、タケルの『変態機動(後に夕呼が命名)』が制限され、尚且つ狙撃に関しても、回避し易い場所
皮肉にも、『狙われ易い』広場が『回避し易い』場所に姿を変える
本来ならば、建物の影から狙撃という手もあったが、今回は『XM3の有効性』も見せる意味もある為、却下
大体にして、タケルの性格上その戦闘方法は無い

仕留めるならば、接近戦がアクロバットをしながらの狙撃かのどちらか
しかし、タケルの取った手段は----
「ウオォォォッ!!」

「ほう…接近戦か…良い覚悟だ…」


長刀を装備しながらの接近戦を選んだタケル
真耶中尉もタケルの攻撃に備えて『居合い』の構えをしながら集中する



「ハァァァッ!!」
「フンッ!!」


タケルが攻撃をする直前---
真耶中尉の一閃がタケルの瑞鶴の胴を斬り裂かんと放たれていた

「やべぇっ!!」
咄嗟に回避行動に切り替えるタケル
真耶中尉の一閃の『下』を潜り抜けるように機体を倒して回避するが、その際、タケルの長刀が弾かれて、飛ばされる
「負けるかよっ!!」
「何っ!?」
タケルは長刀を弾かれると同時に、収納していた短刀を取り出して、斬撃を放っていた右腕を斬り込む!!


「チィッ!!」
「うわっ!?」
しかし、右腕を切り落とされる寸前で、強引に蹴りを放ち、タケルを弾いた長刀の方へと蹴り飛ばす



「やるな…今のは危なかったぞ…」

「いたた…あ~あ…背中の担架が壊れたか…」


先程の蹴りでタケル機体の担架が破壊される
それと同時に突撃砲も一緒に失う
タケルに残された武器は、先程弾かれた長刀が運良くそばに有った為回収
短刀は残り一本
先程の短刀は蹴られた際に落としてしまった
(さて…どうする…)

攻撃する手段は接近戦のみしか許されてない



(接近戦か……………待てよ?)
この時、タケルにある『奇策』が浮かんできた

「よぉし…この手で行こうか…」
フッフッフッ…と少し黒くなるタケル
不気味な笑みを浮かべてレバーを倒し、突撃する


「玉砕覚悟か…?」


最早勝負は見えたと判断する真耶中尉は再び居合いの構えをとる



「ウオォォォッ!!」

再び長刀を構えながら突撃するタケル
「…喰らえ!!」

そして、再び放たれる居合いの一閃---!!




「ターーックル!!!」
「はっ…?
うわあぁぁぁっ!!?」
突然の奇襲攻撃
真耶中尉の居合いの一閃を長刀でガードし、その隙を突いて、柔道で言う『双手刈り』をして真耶機を背中から転倒させる!!

「フッフッフッ…長刀を離しましたね…?」

「しっ、しまった!?」

「転倒の際に『受け身』をとりますからね~♪
もう…怖い居合い斬りは出来ませんよ…?」

ズルズルと引きずりながら後退して長刀から離れるタケル
しかも、オープンチャンネルで通信しながら恐怖心を煽る
そして---
「チィィタァァァ……ボム!!!」
「キャアァァァッ!!!!」

何を思ったか、真耶機にプロレス技の『パワーボム』を炸裂させる
その際、真耶機の担架と頭部を破損させる

タケルの案---
それは、『元の世界』でやりこんでいたゲーム…
『銅拳3』を思い出した事
そして、使い手のひとつである『チーターマスクマン』を思い出し、プロレス技で奇襲攻撃しようと考えたのだ

この世界の者ならば…まさか戦術機でプロレス技をしようと思う奴は…彩峰慧以外には居ないだろう…


正に『常識』を打ち破った行動に真耶中尉は虚を突かれ、奇襲攻撃は成功する!!



「さぁ~て…トドメだっ!!」

「やめろ、貴様…うわあぁぁぁっ!!!」


真耶機の背中に回り込んで、腰を抱えるように持ち----
「フィニッシュッ!!!」
「ガハッ!!!」


見事な『バックドロップ』を決めるタケル
頭部は愚か、胸部もかなり潰れる判定を貰い戦闘不能になる真耶機

「…えーと…?」

「………うーん…これは…」

「アッハッハッハッハッ♪
さ…流石は白銀…ね…」
あまりの出来事に困惑する悠陽殿下
なんともビミョーな決着で表現が出来ないで困っている斉御司大佐
お腹を抱えながら爆笑する香月博士

後に真耶中尉が『貴様………私に無様な敗北を…許せんっ!!』とブチ切られ、お仕置きにタケルをマウンドポジションにとり、愛のベア攻撃にフルボッコされるのだった…



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ第三話②
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:a7bee6ac
Date: 2010/08/14 17:08
「真耶さん…其処までにしないと…『白銀』が本当に死んでしまいますよ…?」

「ハァ…ハァ…
ハッ…殿下が望むのであれば…」

流石にこれ以上はマズイと判断した悠陽殿下は真耶中尉を止める
周りに人がいた為『タケル様』ではなく『白銀』と呼び変える
タケルはというと…屍と化していた…
「殿下や斉御司様の目の前で…無様な敗北を見せてしまった…」
「けど、あれは月詠中尉が『悪い』わよ?」
「何…?」
落ち込んでいた真耶中尉に追い討ちをかけるように香月博士が語ってくる
「先程の白銀の奇襲攻撃だけど…あれは別に白銀は悪くはないわよ?
むしろ『油断』していた真耶中尉が悪いわ
だって、戦いはいつ何時何が起きるかはわからないわ…そしてそれは戦術機の戦闘方法も同じ事よ?」

「ぐっ…」

香月博士の言葉に反論出来ない真耶中尉
香月博士の言っている事がわかるからだ

戦術機の戦闘方法が『銃火器類で撃つか』『刀剣類で斬るか』の2つだけではない
場合によっては殴ったり、先程の真耶中尉のように蹴ったりもする
戦術機は人間が出来る行動は全て出来、人間が出来ない事を戦術機は出来るのだ…勿論『投げ技』や『関節技』だって出来る
ただ、『やらないだけ』だ
戦術機は基本、BETAとの戦闘を基本とする
時には人間同士の戦いで、戦術機とも戦う事もある
だが、『素手による打撃』や『投げ技』や『関節技』は確かにBETAには有効ではない
しかし、戦術機にはどうだろう?

人間の兵士だって格闘訓練はする
幾ら銃火器での戦闘が最も有効とはいえ、弾数には制限がある
接近戦に持ち込めば、銃火器も場合によっては邪魔になる事もある
接近戦して投げ技で動きを鈍らせたりする事も出来る
締め技で窒息死や首の骨を折る事も出来る
関節技に持ち込んで折れば、戦力を削ぐ事も出来るし、場合によっては『殺害』しないで『捕獲』する事も出来るのだ
…そして、それは戦術機にも言える事
投げ技で地面に叩き落とす事が出来れば、機体に大きな損傷を与える事も出来る
関節技で手足を折れば戦力を削ぐ事も中で操縦する衛士を捕獲する事も出来るのだ
ただ、実戦でする事は無いだけ
相手は大軍で攻めて来るから実用的では無いからた
「…………」
「今回のアナタの敗因は勝手な思い込みによる『油断』よ
そして、白銀の奇襲攻撃は成功し、アナタを撃破する事に繋がったわ
これが本当の『殺し合い』ならば『捕獲』されてるか………死んでるわよ?」

「クッ…!!」
流石にグウの音も言えない程香月博士に正論を言われてKOされる真耶中尉
『恥ずかしい気持ちは分からんでもないけどね~♪』と呟きながらイイ感じに笑顔になる香月博士である…うん、あくまだ

「月詠中尉…反論はあるかな?」

「…ありません
つい…恥ずかしい場面を殿下と斉御司様に見せて、頭に血が上ってました…」
斉御司大佐の問いに素直に答える真耶中尉…
香月博士に諭されて、血の気がかなり下がったが……既に遅かった
「これは『罰』を与えなければいけませんね
なんせ勝利者の白銀に八つ当たりでボコボコにしてるんだから~♪」
イイ感じに笑顔で『でびるふぇいす』になる香月博士
弱みをヅケヅケと突かれて真耶中尉のライフポイントがゴリゴリと削られていく

そしてーーーー香月博士が下した『罰』はーーー

「月詠真耶中尉、罰として白銀の住居場所を『アナタの家』にしてもらうわ
期間は2001年頃に白銀を国連軍に転属するまでよ?
それまで白銀と『同棲』して貰うわよ~♪」

あくまの宣告を受けてパタリと倒れる真耶中尉
「そ…そんな事…受け入れられるか…」

「香月博士…それは幾ら何でも…」

流石にマズイと感じた悠陽殿下だがーーーーー

「殿下…ちょっとお耳を…」

「ハイ?」

ゴニョゴニョ…と殿下の耳元で呟く香月博士…
次第に悠陽殿下の表情が明るくなり、最終的に笑顔になるほどだ
「真耶さん」

「ハイ…」
「香月博士の提案した罰…私も賛同致しますわ♪」
『バタリ』
「つ、月詠中尉っ!?」
ライフポイントが0になり、バタリと気を失い倒れる真耶中尉…
そんな倒れた真耶中尉を心配してか、心配しながら抱える斉御司大佐

ーーーーちなみに、悠陽殿下が香月博士から聞いた話はーーーー

『殿下…私の目から見ても白銀は『ウブ』な奴でどうしようも無い程の『鈍感』です…
このままでは、殿下の好意も気付く事も無く、尚且つ殿下のアタックからも逃げてしまい無念する事になります…
それを避ける為に月詠中尉と『同棲』させる事で『乙女心』や『好意』に気付き易くなるように『荒治療』をする必要がありますわ…
あとは…殿下が『一夫多妻制』でも法律を改正すれば、月詠中尉とも衝突する事もありませんし…
上手くいけば、妹君の御剣冥夜殿との『姉妹としての生活』も可能になるかも知れません』

ーーーそのあくまの囁きに悠陽殿下は陥落したのであった
(フフフ…恋愛原子核か……面白そうだから、まりもにも参加してもらおうかしら♪)

以前聞いた『恋愛原子核』という言葉を思い出す香月博士…
どうやら、タケルをハーレムにしたいらしい……

「……さて、斉御司大佐、先程の白銀の機動特性はどうでしたか?」

「う、うむ……確かに驚くべき機動特性だ…
あのような機動…思いつく事すらしなかった…」
「そうですか、なによりです
…ところで、もし…あの機動が誰にでも出来るようになったら……どうします?」

「それは戦力も生存率も…………………まさか…」
この時、香月博士の『企み』に気付く斉御司大佐
「そうですわ、斉御司大佐
あれ以上の機動を誰にでも可能にするのがーーーー『XM3』ですわ
『奇跡のOS』とまで呼ばれ、世界中の衛士の死亡率を半分にまで減らし、幾多のハイヴを攻略に貢献した新OS…それがXM3ですわ」
「ーーーーーッ!!!」

話に聞いていたXM3が予想以上の効果になる事を知り、ゴクリと息を呑む斉御司大佐
それが可能ならばーーー
日本の…いや世界中の衛士達の命を救う事になる

そして、日本を侵略せんとするBETAや米軍からも守る事も大幅に可能になったのだ

「殿下…そして斉御司大佐…
帝国軍…そして極東国連軍による共同開発を提案しますわ
それはXM3に限らず、様々な部門に関しての共同開発を意味します」
「「!!!!」」
香月博士の言葉に衝撃が走る悠陽殿下と斉御司大佐

「国連軍の開発したデータは問題の無いモノであれば、そちらに提出します
そして、それらの開発データを見て『純国産製』を飛躍させるのも良し
ですが、代わりにそちらの開発したデータを問題の無いモノで宜しいので提出してください
場合によっては、それらを改良したモノなどや要求して来たモノを製作し、そちらに渡す事もありますのでご了承下さい」

「…………」
腕を組み考え込む斉御司大佐…
確かに美味しい話だ
勿論向こうも『何か』を狙っての事だろうが、それにしても、此方側にすれば良い話になる

ーー今問題になっている『不知火の改良』の問題についても、恐らくは大幅に改善する可能があるだろう
国連軍から寄越してくる開発データを元にして純国産製の底上げに貢献すれば、飛躍的に上がる可能もあるのだ
そうすれば『純国産製の戦術機』も可能になるし、場合によっては頭の固い連中を説得させる事も可能なのかも知れない
…いや、先程の機動特性を見て作られるXM3を創り、見せつければ本当に説得させる事が出来るかもしれない
それ程インパクトのあるモノなのだ…
「…香月博士…貴殿の狙いは何なのだ…?」
香月博士にソレを問いただすとーーーーー
「政治的な事を言うならば…米国の計画を木っ端微塵に粉砕する事
そしてーー個人的の意見を言うならーーーーー」
一旦目を閉じて言葉を止める
そして再び目を開くと同時にーーーー純粋な笑顔で答える
「『ガキ臭い英雄さん』の望みを叶える為に後押しする為ですわ」
クサいセリフを口にしながらも、思わず笑ってしまう香月博士
そして心の中で呟く
(私もーーーーー誰かさんのおかげで甘くなったわね)
そんな事を考えながら少し苦笑してしまう香月博士
(まりもーーー
今度は死なせないわよーーー)
二度と友を死なせない為に心に誓う
そしてーーーーー

「斉御司殿…」
「…仰せのままに…」
全ての決断を悠陽殿下に託す斉御司大佐
斉御司大佐の考えも悠陽殿下と同じようだ
「…香月博士…そなたの提案…お受け致しますわ…」
「ハッ、有り難き幸せで御座います…」


こうして、この日帝国軍と極東国連軍との共同開発計画が始まったのである…



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ第四話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:a7bee6ac
Date: 2010/09/24 19:23
1998年1月12日
京都・帝都ーーーー

「着いたぞ、白銀」
「ハア…予想はしてだけど…すげぇ」


京都・帝都に到着したタケルと真耶
仙台・第二帝都城で職務をしていた悠陽殿下の護衛をしながら京都・帝都城に帰ってきた
その際、護衛の任を解かれ、今日は休日となった二人

そして今、到着した場所は『月詠邸』だった

「これでもか……ってぐらい…無駄にデカいな…」

「失礼な
それに我が月詠家は五摂家に近い程位の高い名家なのだ
その存在を示す意味もあって、このように大きいのだ」

「そっかぁ~…けど、一般人のオレには理解出来ないかも…」


「仕方ない事だ
貴様と頭の固い連中の考えでは、このように違うのだ」


「はうあうあ~…
オレ…ここの生活に慣れる事出来るのかな…」


これからここが『住居』となる為、少し不安気味のタケル
緊張しながら月詠邸の中に入る



「ーーーーお帰りなさいませ、真耶様」


待ち構えていたのは、真耶中尉の帰りを待っていた若い侍従
玄関で我が主に頭を下げて礼をし、真耶中尉の荷物を持つ
「白銀、この者が我が家の侍従の『月島やちる』だ
この家のわからない事があったら、聞くと良い」

「あっ、ハイ
白銀武です、これから御世話になります
オレの事は『白銀』でも『タケル』でも呼び捨てで結構ですよ」

「わかりました、タケルさん
呼び捨ては…ちょっと苦手なので『さん付け』しますね」


お互いに軽い自己紹介をするタケルとやちる


「やちる、白銀の部屋の用意は出来たか?」

「ハイ、ご要望通りに『一番狭い部屋』をご用意致しました」


実は『住居』が決まった際、真耶に『デカくない部屋』を頼んでいたタケル
理由は簡単…
『広過ぎたら落ち着かない』だそうだ




「此方です、タケルさん」

「うわぁ…」


やちるの案内に着いて行くタケルと真耶
すると『タタミ30畳程』の広い部屋に到着する

「…ここ…広いね…」

「これでも一番『小さい部屋』ですよ?
真耶様の部屋なんて『50畳』はありますよ?」

「こ、コラやちるっ!?」

真耶の部屋の大きさを暴露するやちる
思わず慌ててしまう真耶


「ゴホン…白銀、貴様の身分が先程決まったぞ」

「ハイ」


「貴様は明日から『帝国斯衛軍第17大隊』の第1中隊に所属される事になった
階級は中尉、貴様の中隊の隊長は大隊の隊長でもある『九條椿少佐』だ
名前から聞いてわかる通り、九條様は五摂家の一人だ
21歳という若いでありながらも、少佐になった御方だ、失礼の無いようにするのだぞ」


「ハッ!!」


タケルの身分と所属が公開される
それに伴い、注意事項を説明されて、真耶に敬礼するタケル


「そうだ…先程光州作戦の報が入ってな…
現在退却戦に異常は無しだそうだ」


「ありがとうございます」

光州作戦の報告を教えてもらい、少しホッとするタケル


「さてと…これから一休みをしたら街を案内するが、何処に寄りたい?」

「まずは…服が欲しいな…」

現在着ている斯衛軍の軍服以外には、この世界に渡った時の白陵学園の制服しか無い為、衣服が欲しかったタケル


「そうだな…わかった、連れてってやる」

「ありがとうございます」

真耶に服屋に案内してもらう事に感謝する

「ヤレヤレ…私は『赤』の家系だぞ?
その私に『運転手』をさせるのは貴様ぐらいだぞ?」

「アレ、家の運転手って居ないんですか?」

「…一応居るが、既に出てる
それに…私は自分で運転したい性分でな…よほどの事で無い限り、運転手を使わん」

「成る程…」

『あはは~…』と苦笑いしながら複雑な気持ちになるタケル


それから小休止をした後に街へ買い物に向かうタケルと真耶

「ふぅ…結構買ったなぁ…」

服や下着を大量に購入したタケル
『給料入ったら返します』という事で真耶中尉の支払いになった
(うーん…カッコワリィな…今度お礼の品でも買っておくか…)

ちょっとお礼をしようと考えていたタケルだが、後に騒ぎになる事はまだ知らない

「随分と早い買い物だな…
量の割りには一時間以内とは…」

「…俺からしたら、女性が時間かけ過ぎです…
ひとつの買い物に数時間って…良くそんな長い時間かけれますね…?」


『そうか?』と返答する真耶に軽く溜め息を吐くタケル


『アラ、貴女は月詠真耶中尉?』

「えっ……貴女様はッ!?」


すると、背後から声を掛けられ振り向くと、長い黒髪をした綺麗な女性がいた


「これは『九條様』!!!
気がつかなくてスミマセンでしたっ!!」


「良いのよ、今日は休日で暫く振りのプライベートを楽しんでるのだから」


ビシッと敬礼する真耶
タケルも慌てて敬礼するが、その姿を見られてクスクス笑う九條


「君は…確か白銀武中尉ね
私は貴方の上官になる、帝国斯衛軍第17大隊所属の『九條椿少佐』よ
私の中隊に入るとは…ついて無いわね♪」

「ハッ?」


いきなり『運が無い』と言われてポカンとするタケル


「私の中隊の副隊長はね…私の妹に当たる『九條沙耶大尉』が居るの
沙耶は規律に厳しいから大変よ」


「丁度良い機会だ、白銀…その貴様の『馴れ馴れしい』性格を直して貰うと良い」


「酷っ!?」


真耶にいじくられるタケル
その姿を見て再びクスクスと笑う椿


「白銀中尉、貴方の事は聞いてるわ
特殊任務で極東国連軍と帝国軍の共同開発計画に参加してると聞いてます
そして衛士としても優秀で、あの『極東の魔女』とまで呼ばれてる香月夕呼博士に『天才衛士』と呼ばれてるみたいですね」

「め、滅相も御座いませんっ!?」


なんかベタ誉めされてる事に戸惑うタケル
心の中で『先生の仕業だな…』と悟る



「ところで……白銀中尉」


「なっ、なんでしょうか!?」


ジロジロと椿に見られて戸惑うタケル



「貴方…………………
月詠真耶中尉の……『彼氏』?
それとも『婚約者』?」

「「………………………………………………………………………ハイ?」」


椿の質問にフリーズするタケルと真耶
そして、早くに復活するタケル
「ななななななな…………なんですか、イキナリッ!?」

「えっ?
だって、月詠真耶中尉の家に『同棲』してるのでしょう?
『彼氏』とか『婚約者』って噂が我が大隊の中で広まってますよ?」

「だだだ…誰から聞きました?」

復活した真耶が椿に質問するとーーーー


「私は沙耶からだけど…
噂を流したのは誰かは知らないわ」


「…間違い無く先生だ……」


噂を流した人物を断定したタケル
タケルの頭の中では、香月博士がステキな笑みを浮かべながら親指をビシッと立ててる姿を想像する
そして、後に犯人が誰か分かったが、タケルの予想通り香月博士が噂を流した張本人だったりする
「アラ、違うの?」
「違います……ただの居候です」
「残念だなぁ…明日白銀中尉の『お祝い』の為に買い物したのに……」

「ええっ!?」

椿の一言に驚愕するタケルと真耶
『冗談よ冗談♪』と二人をからかう椿

「とりあえず私はこれから買い物の続きがあるからお邪魔するわ
明日から頑張りましょう、白銀中尉」

「ハ、ハイ…」


手を振りながら椿と別れるタケル達…


「月詠中尉…帰りませんか……?」

「……………そうだな…帰ろう」


車に乗って月詠邸に帰る二人…
家に帰ってからも、ずーん…と落ち込んでいた二人だった…


「お帰りなさい…………どうなさいましたか、お二方?」

玄関で二人の帰りを迎えるやちるだが、うなだれてるタケルと真耶の姿を見て『どうしたのかしら?』と首を横に傾げる


「違う意味で疲れた……」

「ああ……そうだな…」

先程の『婚約者事件』でどっと疲れが襲ってきた二人

「白銀…貴様が香月博士の事を言った意味が…今になって……よ~くわかったぞ…」

「そうですか……
けどまだ甘いですよ…
このまま終わらせる先生な訳が無いですから…」

「……………………………そうか…」

ガクリと力が抜ける真耶
その身をもって、香月博士の『イタズラ』の恐ろしさを理解する

「白銀…心の底から尊敬する…
このような事を毎度被害にあっても、香月博士に着いて行ける貴様を凄いと思う…」

「ハハハ…慣れましたから…ハァ…」


深い溜め息を吐くタケル
事情を知らないやちるは『何の事でしょうか…?』と益々困惑する


「月詠中尉、スミマセンが電話を貸して下さい」

「ん…良いが、何処にかけるのだ?」

「自分ちですよ
多分純夏とか親が心配してるだろうし……
先生からも許可は貰ってますから大丈夫ですよ」

「む…そうか、わかった
やちる、電話の場所まで案内してやってくれ」

「わかりました
ささっ、此方ですタケルさん」


やちるに電話機の場所まで案内して貰う


「ありがとうございます、やちるさん」


「はい、それではごゆっくり…」


電話機の場所まで案内すると、真耶の場所まで戻るやちる



「さてと…」


ポチポチと自分の家の番号を押していくタケル…




するとーーー


『…モシモシ………』

「純夏か?」

『タケルちゃん!?
今何処に居るのっ!?』

受話器を取ったのは純夏で、タケルの声を聴いた途端元気が出て来る


「今京都の帝都だ」

『え、ええぇぇぇっ!?
な…なんでまた京都に……?』

「いや、ちょっと厄介事に巻き込まれてな…
その際、斯衛軍の人に助けられたんだ」

『嘘は言ってないぞ…』と心の中で呟くタケル…
けどやはり、純夏に対して罪悪感があった


『もっ、もう大丈夫なの…?』

「大丈夫だ
けど、ちょっと機密事項の事知ってしまったから、そのまま斯衛軍に入隊する事になっちまった」
『ええぇぇぇっ!?
けどタケルちゃんまだ16歳になってないじゃん!?』

「まあな、だから訓練兵として学んでから斯衛軍に入る事になってるんだ
だから、暫くは帰れないんだ」

『そ、そんなぁ…』

帰れない事が知ると、テンションが下がる純夏


「安心しろって…
任務とかで近くへ来たら、寄るからよ」

『…うん、手紙や電話も頂戴ね…』


「わかった、だから元気だせよ、元気無い純夏なんて『純夏らしく無い』ぞ?」


『…うんっ!!』


少し元気を取り戻した純夏にホッとするタケル


「そういえば、オヤジ達は俺が居なくなった事知ってるのか?」


『うん…知ってるよ
おばさんなんて、凄い心配してたよ?』

「そうか…それで、オヤジと母さんは今何処に?」

『今は基地の『帝国陸軍白陵基地』に戻ってるよ?』


「白陵基地に?(オヤジ達…帝国軍だったのか…)」


純夏から重要な情報を得て、少し考えるタケル

「そうか…わかった
オヤジ達にはオレが元気にしてる事言ってくれな」

『うん、わかったよ
…元気でね、タケルちゃん』


「ああ、純夏もな」


受話器を置いて電話を切るタケル
そして、直ぐに電話をかけ直す


『こちら『帝国陸軍白陵基地』ですが…』

「スミマセン、そちらにいる香月博士に連絡をしたいのですが…」

『お名前を教えて下さい』


「帝国斯衛軍の白銀武中尉です」


『わかりました、暫くお待ち下さい』



帝国陸軍白陵基地に居る香月博士に連絡を入れるタケル…
すると、香月博士に電話が繋がる



『モシモシ、何の用?』

「先生、スミマセンが…」

タケルは香月博士に事情を話す…


『成る程…アンタの両親がこの基地に所属してるのね…』

「ハイ…それで先生に話が有るんですけど…」


『何?』


「オヤジ達に『説明』してくれませんか…?」

『…成る程…そういう事ね…』


タケルの言いたい事を悟る香月博士


『確かにこのままでいたら怪しまれるし、アンタに逢っても怪しまれる…
会っても会わなくても何かしらと厄介事になる可能性があるか…』

「ハイ、ですから…オヤジ達には説明して欲しいんです」


『…それは『此方側』に入れるって事よね…?』


「…ハイ」


言葉を重くしながらも返答を返すタケル


『…そうね、今は不安要素を増やしたくは無いわ…
こちらから説明しておくけど…その時はアンタも立ち会いなさい
じゃないと説明が出来ないわ
あと、アンタの戸籍だけど、アンタの生まれた年数と年齢を改竄しておいたわ
勿論、城内省のデータベースも殿下に頼んで、改竄したわ』


「わかりました
ありがとうございます、先生」


礼を言うタケルだが、『その代わり、借り一つよ?』と不安な一言を言う香月博士


「そういえば…先生…まだ変な噂流しましたね…」


『フフフッ…何の事かしらねぇ~♪』


『このあくまめっ!!』と心の中で叫ぶタケル
しかし、そんな心の叫びは届かないまま『ぢゃあねぇ~♪』と通話を切られる


「………先生め」


静かに受話器を置くタケル…

「終わったようだな」

「あ、ありがとうございます」


すると、私服に着替えた真耶が近づいて来た


「これから食事になるから、着替えたら来ると良い」


「わかりました」


先程教えて貰った部屋に移動して、買ったばかりの私服に着替えるタケル


「これからだな…頑張るぞっ!!」


窓から見える夕陽に決意を決めるタケルだった…



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ第五話①
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:a7bee6ac
Date: 2014/02/08 15:20
1998年・1月13日
帝都・シミュレータールーム
椿side

「何だコレは…!?」


目の前に映る光景に驚愕する私
私の自慢の中隊のみんなが、悉く撃墜されていく光景にただ唖然とするしかなかった
相手は一機
しかも今日から配属になったばかりの新人一人にだ

「天才衛士…」
その言葉の意味を示すように、見た事の無い機動を操り、我々の予想を覆す行動ばかりをする事に言葉を失う私

白銀武中尉ーーーー
急遽我が大隊の一員になる事になり、少し驚きはしたものの、正直有り難い事だった


時折部隊の中から帝国軍に転属や一時的に所属し、大陸の戦いで散って帰らずの身となり、私の指揮する大隊の第一中隊は人手がやや不足していた

他の中隊も減ってはいたが、まだ一中隊に一人程度
しかし、私の指揮する第一中隊は三人も失い、正直困っていた
補充要員を頼んでも今の時期は居る筈もなく、補充要員は諦めていた
すると、一昨日突然帝国斯衛軍大将・紅蓮大将直々の報告で補充要員一人が増えるとの事だった
ポジションは突撃前衛、一番欲しいポジションが来た事もあり、正直嬉しかった
噂を聞けば、あの月詠真耶中尉をも撃墜させる程の腕前と聞き、期待してたと同時に、その月詠真耶中尉の『彼氏』とも『婚約者』という噂も聞き、少し驚く


そして昨日、休日で街に出て買い物を楽しんでいると、噂の月詠真耶中尉が男性と一緒に買い物をしていた
男性の方は誰かは直ぐに気づいた
一昨日に書類上の写真で見た男性・白銀武中尉
声をかけて話してみると、斯衛軍には居ないタイプの人物だった
悪く言えば、馴れ馴れしい
良く言えば、周りの人達を惹きつけ易い雰囲気を持つ人物だった
噂の『婚約者』の話をすると、二人して固まり、否定する
どうやらこの噂は違ったらしい
そして今日、白銀武中尉の入隊を歓迎し、同時に『婚約者』ネタでいじくり、楽しい一時になった
あの規律に厳しい義妹の沙耶もその時は楽しそうに笑ってた程だ
ウン、彼は入隊して正解だった
そして、歓迎の意味を込めて、『シミュレーター訓練での歓迎』をしようとの提案があり、採用
白銀武中尉は話を聞き、驚いて落ち込んでいた

内容は簡単…というか、可哀想な内容
『1対9』の対戦だった
流石に可哀想なので、私と沙耶は後方で見学
それでも7名もの相手が居るのだ…イジメみたいなものだと私は思っていた…
だがーーーー現実は違う
目の前の光景は、こちらの部隊が次々と撃破されるシーン
ある者は見た事の無いアクロバットで背後に廻られて、短刀の一突きで機関部を破壊
ある者は予想外な機動に翻弄されて、踏み台にされた後に突撃砲にて撃破される
そしてある者は、イキナリ『踵落とし』を喰らい、頭部を大破され、視界を封じられた所を長刀により撃破される


そして、気づいた時には、9機も居た此方の部隊は、私と沙耶の2機のみとなった



「油断したッ…!!」

そうだ、相手はあの月詠真耶中尉を撃破したと噂されてるのだ
噂が本当ならば、油断ならぬ相手に決まってる


「椿様…」

「沙耶…迎え討つわよ」

残りは我等二人のみ
相手は一機だけだが、我等精鋭の中隊の衛士7人がいとも簡単に撃破する程の兵(つわもの)
気を引き締めて、『敵』を討つ為に武器を構える

「ハァ…椿様…」
「何かしら、沙耶」

すると義妹の沙耶が声をかける
「また悪い『癖』が出ましたよ
顔が笑ってますよ」


「あら…」


悪い『癖』ーーーー
強者を見ると、挑みたくなる癖が出てたようだ

しかし…仕方無い事だ、目の前に未知の強さを持つ者が居るのだ…血が騒ぐなと言う方が無理だ



「済まない、血は抑る事は出来ない」

「わかってますよ」


やれやれ…と苦笑する沙耶
さあーー挑もうではないか


二人して長刀を装備して白銀中尉を迎え討つ


「アルファ2、行くぞっ!!」

「アルファ2、了解!!」

水平噴射跳躍をしながら突撃する私達


さあ…白銀中尉よーー
私を楽しませてくれーーーー!!!

sideend



「ふむぅ…なかなか面白い訓練ですな…紅蓮大将」


「ウム、確かに『天才衛士』に恥じない腕ですな、神野大将」


シミュレータールームのモニターを観戦する帝国斯衛軍の偉大なる武人
『三強』とまで呼ばれる二人がタケル達のシミュレーター訓練を見て関心する


「あの若者…なかなか筋が良い
まだ荒削りだが、独特の機動で九條少佐達を翻弄してるぞ」


「だが、椿様も沙耶殿も我が『無現鬼道流』を教えた愛弟子達
このまま終わる二人ではない」


「カカカッ!!
そうか…それではどちらが勝つか見守ろうぞっ!!」


「ウム」



三人の対戦に期待しながら観戦する紅蓮大将と神野大将だった…




「いくぜっ!!
アアァァァッ!!」


水平噴射跳躍を全力噴射しながら、建物の間を飛び回るタケル
特攻隊のような突撃に戸惑いながらも、椿機と沙耶機で白銀機を迎え討つ。

「このような全力噴射では、我等の剣はかわす事など出来るかっ!!」

「我等が剣…無現鬼道流の剣を受けるがいいっ!!」

お互いの息を合わせながら、放つ長刀
しかも、ワザとに沙耶機の剣閃が僅かに遅れるようにタイミングをズラす。

「「ハアァアァァッ!!」」

2つの剣閃が×字に放たれ、白銀機を捉えるが----

「喰らうかよっ!!!」

機体を捻るように動かし、椿機の剣閃の上に回避し
沙耶機の剣閃を白銀機の長刀で防ぎ、沙耶機を蹴り飛ばす!!

「キャアァァァァッ!!」

「沙耶!?」

蹴り飛ばされた沙耶機に『一瞬』視線を向いてしまう椿
しかし…その『一瞬』が『油断』と判断した時には遅かった。


「オオォォォォッ!!」


「しま…ッ!!」


沙耶機を蹴り飛ばした白銀機は、其処から椿機に向かって噴射跳躍し、椿機の頭部を白銀機の左腕で鷲掴みにし、そばに有る建物に叩きつける。


「ヨシ、今---」
「させるかァァァァッ!!」

椿機に長刀でトドメを刺そうとすると、体勢を立て直した沙耶機が、突撃砲で阻止する。


「危なっ!?
ふぅ…体制立て直すの早いよ…」

沙耶機による突撃砲の攻撃を、寸前で回避に成功するタケル
いつもとは、ちょっと違う戦い方で、相手の意表を突く事に成功する。

1対9と聞かされた当初は『入隊早々イジメ喰らってる?もしかして?』と嘆いたタケルだが、
冷静に考えてみると、『チャンス』だという事に気付く。

1対9という設定に油断している向こうの部隊
現に、隊長機と副隊長機は様子見という『油断』しまくっていると判断したタケルは、最初っから全力で戦闘をする事にした。

結果は大成功
他の機体はタケルの機動について行けず、翻弄され続け、結果『7機撃破』に繋がった。

残るは隊長機達二機のみ、
しかし、そう簡単には撃破は出来ないと考えていたタケルは『奇襲』をかける事にした。

まずは挑発気味な全力噴射での水平噴射跳躍をし、長刀を装備する白銀機
すると、タケルの予想通りに隊長機達は長刀装備をしながら、突撃してきた。

ここまでは想定通り、あとは自分が二人の攻撃を回避する事に専念するだけ。


ドキドキと緊張感を高め、その時を待つタケル
最初の攻撃をギリギリで回避するが、あとから来る沙耶機の回避は不可能と判断し、長刀で沙耶機の攻撃を防ぎ、蹴り飛ばす。

そして、沙耶機を蹴り飛ばしたお蔭で、全力噴射した勢いをある程度殺す事が出来、再び噴射跳躍をして椿機に突撃する。

椿機の頭部を鷲掴みにして、そのまま建物に叩きつけるタケル
そのままトドメを刺そうとしたが、予想以上に早い沙耶機の反撃に戸惑いながらも、回避するタケル。


(けど---
これで、隊長達は困惑しながら戦う事になる)

タケルの考えでは、普通の衛士達ではしない攻撃をする事で、本来するであろう行動を、ある程度『封じる』事に成功するタケル。

椿機と沙耶機の二機は、迂闊に行動をする訳にはいかず、消極的な戦い方になると踏まえたタケルは一気に勝負を決めに行く!!

---だが…
ここで、タケルの計画に『想定外』なる出来事が起きる

「フフッ…やるな…白銀中尉。
だが…このままで終わる私ではないぞっ!!!」

「え゛っ?」

なんと、あれだけの事をされたにも関わらず、積極的に突撃して来る椿機。
流石のタケルも、その行動に驚く。

(予想外だ…
…もしかして、椿隊長って、速瀬中尉や冥夜達みたいなタイプなのかっ!?)

『しまったぁぁ…』と少し後悔するタケル
もし、予想通りに、速瀬中尉・彩峰・冥夜みたいなタイプの人物ならば、逆に火が付き、動きが良くなる為、作戦が半分失敗になってしまった事に嘆くタケル。

(けど…どうやら、沙耶大尉には効いたようだな。)

そして、先程とは少し動きが悪くなった沙耶機には効いた事を悟るタケル。
事実、多少のフェイントを入れると、回避行動をとる沙耶機を見て、少し安心するタケル。

(良かったぁ…沙耶大尉も速瀬中尉みたいなタイプだったらヒヤヒヤしたぜ…)

(クッ…白銀中尉の策にかかったか…不覚!!)

タケルの作戦に気付く沙耶大尉だが、少しでもタケルの行動に不安感を植え付けられた為、未だに本来の戦いが出来ないでいた沙耶大尉。
自分の未熟さに反省しながら、椿機をサポートする


そして、椿機や沙耶機と鍔迫り合いを繰り返す際、タケルは『ある事』に気付く。


(あれ…?
もしかして冥夜と同じ剣術か…?)

多少の違いはあるものの、二人の長刀の扱いに冥夜の剣と被りだす。

(試してみるか…)


そう思ったタケルは、二人を『冥夜が二人いる』と思いながら、長刀で戦い続ける。


(…ヤッパリそうだ…
癖とかは違うけど、殆ど同じだ…
…という事は同じ流派なのか?)

冥夜と同じ無現鬼道流と悟るタケル
そして、冥夜との模擬戦を思い出しながら、椿機や沙耶機を相手に戦う。

(何故だ!?
最早我等の剣を見切ったとでも言うのかっ!?)

自分達の剣が悉く防がれ、回避される事に驚く沙耶だが…

「フフフッ…凄いわ…
まさか此処まで凄いとは…嬉しいわよ、白銀中尉ッ!!」

戦いに酔いしれてる椿
沙耶大尉とは真逆に士気が高まり、益々バトルジャンキーになってしまう。


そして---

「「ハアァアァァッ!!」」

白銀機と椿機がお互いに長刀での必殺の一撃を入れ、擦れ違う

『ブラヴォー1(白銀機)、左腕大破…戦闘続行
アルファ1(椿機)、機関部大破…機能停止』


「クッ…何だと…!?」

勝負は白銀機に軍配が上がる。
椿機の一撃は白銀機の左腕を両断するものの、白銀機は椿機の機関部を両断する。


普通ならば、剣の腕では椿少佐には適わない
だからこそ、タケルは再び『作戦』を考える。

まずは、お互いに必殺の一撃を入れる際、タケルは突撃するスピードを『抑え』ながら、椿機に突撃する

お互いの斬撃が、振り切り、相手の機体を切り裂く直前に、スピードを全開にするタケル。

タイミングが狂った椿機の一撃は、白銀機の左腕を斬り、胴体を切り裂く前に、自分の機体が切り裂かれてしまう結果になったのだ。


「椿様っ!?」

「あと一機のみ---」

椿機がやられた事に戸惑いながらも、白銀機を迎え討つ沙耶機

そして、白銀機も体制を直して突撃しようとしたその時----



「なっ!?」

突然白銀機がバランスを崩す
ガクリと左脚部の膝が曲がってしまう


「なっ、何!?
左脚部の関節部が壊れたっ!?」

突然左脚部の関節部が壊れた為、動きが止まってしまう白銀機


「隙アリッ!!」

「あ゛っ…」


その隙に白銀機に横薙の一閃を入れて、白銀機を撃破する沙耶大尉
そして大破判定を貰ったタケルは、機能停止になり、シミュレーター訓練は終了したのだった…



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ第五話②
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:a7bee6ac
Date: 2010/09/24 12:36
「あちゃー…やっちまった~…」


少し落ち込み、一人反省会をしながら、シミュレーターデッキから降りて来るタケル


『お前…やりやがったなっ!!』

『九條少佐を接近戦で討ち取るなんて…凄いな…』

『教えろっ!!
あの機動の仕方を私に教えてくれっ!!』

「えっ、ええぇぇぇっ!?」


デッキから降りて来たタケルを待っていたのは、先程までタケルがコテンパンに撃破した衛士達だった。

タケルの背中や肩を強く叩きながらも、タケルの強さを認め、仲間として認めてくれた。

(前の世界でのトライアルを思い出すな…)

あの時----
前の世界で自分を認めてくれた先任衛士達を思い出すタケル
この世界でも、先任衛士達に認めてもらい、嬉しい気持ちが溢れていた。

「むぅ…今回の勝負は負けを認めるわ…
けど、次は必ず勝ってみせるわっ!!」


ビシィッ!!…と宣戦布告を椿から受けるタケル
椿の負けず嫌いの姿を見て、『速瀬水月中尉』と重ねてしまう。

(うわぁ…ヤッパリ少佐って、速瀬中尉にそっくりだよ…)

『これから大変だな…』と予感するタケルだが、
その予想が思いっきり的中してしまう事はお約束だったりする。


「ふむ、諸君ご苦労様だ」

「ぐっ、紅蓮大将に…神野大将!?」

モニター室から現れた紅蓮大将と神野大将を見て驚愕する椿達
タケルはポカンと『ええぇ…嫌な予感が…』とダラダラと嫌な汗を流す。


実はタケルは、元の世界で、二人に出逢ってたりする。
冥夜と悠陽の紹介で、師である二人に出逢っていた。


その際、紅蓮が『ハァハァ…冥夜タン…』
神野が『悠陽タン…萌え…』…と怪しい呟きを漏らしながらハァハァしてた記憶があったりする。


しかし、武術に関しては、やはり冥夜と悠陽の師だけあって、チートを超える程強かった。

特に紅蓮は胸元からビームを放ったりする摩訶不思議な必殺技を使い、タケルの度肝を抜いた記憶は新しい。

そんな奇妙な記憶がある為、この世界の二人にイヤな予感がバリバリしていた。


「さて、白銀中尉よ…」

「ハッ、なんでしょうか?」

突如、声をかけてきた紅蓮大将に敬礼するタケル。


「貴殿の戦闘を見せて貰ったが…誠に天晴れだ」

「まぁ、最後の故障についてはヌシの失敗じゃが、
よくぞ椿様を討ち取ってみせた」


「あ、ありがとうございます」

伝説の二人に誉められて、敬礼しながら礼を言うタケル。


「此度の敗因は、無理な機動と…二度の蹴り技じゃな」

「うぐっ!?」


敗因をズバリ言われてしまい、ちょっと傷つく。

「ヌシの操作技術は確かに限りなく高いが、まだまだ荒削りじゃ
もう少し機体にダメージを蓄積せんように戦わんと、戦うたんびに機体を壊しては話にならん」

「あと、あの蹴り技だが…あれが無ければ、もしかすると、沙耶殿にも勝てたかもしれん…
最初の『踵落とし』と、沙耶殿を蹴り飛ばした時…
あれが故障の原因だな」

「踵落としはまだ良いが、全力噴射しながらの水平噴射跳躍からの蹴り…
あれが一番の致命傷じゃよ。」

「ガハッ!!」


紅蓮大将と神野大将のダメ出しの言葉に致命的ダメージ(精神的に)を負うタケル。

「だが、貴殿の意表を突く攻撃や行動は満点をくれてやろう
それは神野大将も同じ意見だ」

「敵の頭部を踏みつけて視界を封じる事…
得意のアクロバットで敵を翻弄する機動…
攻撃手段の視野を広げ、相手の予想を外す手札の多さ…
そして、どんな不利な場面でも諦めずに挑み、
そして、様々な策を実行する度胸…
正に天晴れと言うしかあるまい」


「あ…有り難う御座います!!」


紅蓮大将と神野大将のお褒めの言葉を頂き、感謝するタケル。


「流石は殿下や斉御司大佐に認められる事は有る
此度の新OSの開発の件…期待してるぞ?」

「新OSの開発?」

はてな?と紅蓮大将の言葉に疑問に思う椿
その反応を見て神野大将が説明する

「白銀中尉は、此度帝国軍・極東国連軍による共同開発任務の任があってな、
この最初の開発任務として新OSの開発が進められてる
そして、その新OSの実態が…先程の白銀中尉の機動特性じゃ」


「「ええぇぇぇっ!?」」

神野大将の発言に驚愕する椿達
口をパクパクとする者や呆然と立っている者が出てくる程衝撃が強い話だった。

「誰もが白銀中尉と同じ機動特性が可能となる新OS
そうなれば、戦力の大幅アップは勿論、生存率の底上げ、新しい戦術の可能性まで現れると考えられている
その為、白銀中尉には『テストパイロット』としての任務があるのだ。」

「どうかのぅ…椿様?
もし、椿様が白銀中尉と同じ機動が出来るとなれば…?」

紅蓮大将の説明を聞き、驚き以上に歓喜が現れてくる椿達
神野大将に問われる椿は---笑みを浮かべて答える

「是非とも欲しいですね
それに白銀中尉に負けっぱなしっていうのも、嫌ですしね。」

「だそうだ、良かったな白銀中尉
既に椿様の『お気に入り』になったぞ?」

「んがっ!?」

獲物を狙う眼光を放つ椿と、タケルをいぢくる紅蓮大将の発言を聞いて『ハァ…ヤッパリこうなるのね…』とorzになるタケル。


「あと、最初は白銀中尉だけじゃが、後からお主達にもテストパイロットをしてもらう予定じゃ」

「その時は貴殿等中隊は、白銀中尉と同じく帝国代表として『次世代戦術機の開発部隊』となる事になる」


「「「!!!!」」」


「この話はかなりの機密故に他の者達には喋る事は禁ずる…いいな?」


「「「ハッ!!!」」」


自分達の重要な立場を理解し、紅蓮大将達に返答を返す椿達。


「あと、椿様
時折白銀中尉には開発の任務で国連軍の方に出向く事があります
その際は隊を一時的に抜ける事もあるので御理解頂きたい」


「ハッ、了解致しました!!」

「…そうそう、白銀中尉よ
実は国連軍の香月博士から新OSのデータを送られて来てな…
休憩が終わったら、早速テストパイロットをしてくれたまえ
終わり次第、再び香月博士の下にこのデータの結果を送りたいのだ」

「ハッ、了解しましたっ!!」


早速来た新OSのテストパイロットにウキウキするタケル
そして、その新OSのデータに興味津々の椿達。

休憩後、再びシミュレーターデッキに乗り、新OSのテストパイロットをするタケル
その新OSを装備した白銀機の瑞鶴の機動をモニター室で見て驚愕する椿達と紅蓮大将達
新OSのデータを装備したタケルの機動を見て、人類の未来に『希望』がちょっと見えてきた瞬間だった。



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ第六話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:a7bee6ac
Date: 2014/02/08 15:28
「ハァ…今日1日は色々有り過ぎたわ…」

「まったくです」

疲れ果てた椿と沙耶
自宅である九條邸で今日1日の事を整理するが、様々な『出来事』があって、精神的に疲労がきていた


「白銀武中尉か…
まさか…彼の入隊が『母様』まで関わっていたとは…」

「由佳里様らしいと言えばそれまでですけどね…」


深く溜め息を吐く椿
そんな椿に温かいお茶を差し出す沙耶

ずずず…とお茶を飲みながら今日の事を思い出す


新OSのテストパイロットを終えたタケルは『だいぶ使い易くなってきた』と発言し、椿達中隊が驚愕する


『だいぶ…って事は…まだ『あれ以上』の機動が可能なの…?』

椿が顔を引きつりながら質問すると…

『あんなモンじゃないですよ、新OSの力は』
…とケロッとした発言をするタケルに対し、全員が『コイツ…何処の星の超人?』…などと、タケルに生暖かい目で見ていた



そして、シミュレーター訓練を終えると、神野大将から解散を命じられ、
その後タケル・椿・沙耶には『共同開発の打ち合わせをするから、シャワーを浴びた後に会議室に来るように』と命じられる


しかし---実際に会議室で話を聞くと、『共同開発の打ち合わせ』は嘘で、実際は『重要機密情報』の話だった


回想----




『重要機密情報…?』

『ウム、済まなかったな、嘘をついてしまって
…じゃが、こうでもせんと、怪しまれる故にああ言ったのだ…』


神野大将が説明した後、頭を下げて、タケル達に謝罪する。
勿論タケル達は、慌てて神野大将に頭を上げてもらおうと説得する


『さて、椿様…
此度椿様と沙耶殿には『特殊任務』を与えるのだが…
此度の特殊任務は、九條家現当主の『九條由佳里様』からの推薦故、椿様と沙耶殿が選ばれた』


『母様からの推薦…ですか?』


『ウム…』と頷く紅蓮大将
その事を知り、緊張する椿と沙耶


『此度の特殊任務の内容は…『白銀武中尉の期間限定の共同計画と護衛』です』

『『『は…ハァァァァッ!!?』』』

紅蓮大将から告げられる『特殊任務』の内容に驚愕する椿と沙耶
タケルも流石に大声で驚愕する


『ぐ、紅蓮大将っ!!
一体どういう事ですかっ!!?』

『慌てるな、白銀中尉
今ちゃんと説明する。』

慌てるタケルを落ち着かせる紅蓮大将
椿と沙耶は余りの事に未だに混乱していた

『実は白銀中尉は『オルタネイティヴ計画』の重要人物の一人でな、その事もあって、殿下や香月博士から『護衛』を付けるようにと頼まれてたのだ』


『ええっ!?』
『オルタネイティヴ…計画…!?』

驚愕した椿は思わずタケルと沙耶を見る
いきなりの展開に驚いてるタケルと…顔面蒼白している沙耶だった

『…最初はのぅ…ワシ等も椿様や沙耶殿にこの任務は酷だと言ったのだが…
丁度その場に居た由佳里様が『あの子達にこの任務を任せる』と厳しい表情で申してたのだ…』

『幾らオルタネイティヴ計画の重要人物とはいえ、『五摂家』の者に護衛させるなど大問題だと反対する声もあったのだが…
由佳里様が『五摂家だからといって、『甘えた事』はさせてはいけません
むしろ五摂家として人を導く先導者の一人として、厳しい任務を与えるべきです』…と頑固を貫くのだ…』

困り果てた紅蓮大将と神野大将を見て、『申し訳ありません』と謝罪する椿

『そして同時に時折白銀中尉が行う特殊任務に一緒に参加して貰うのも、任務内容のひとつだ』


『例えば、どのような任務でしょうか?』


説明する紅蓮大将に質問する椿、
すると紅蓮大将はその質問に対して説明する

『まだ詳細な事は知らないが…
例えば、新OSの任務で白陵基地に向かう際は、
白銀中尉の護衛と開発任務を行って貰う事になります。
戦地へ向かう際は、白銀中尉の生還を重視として任務を遂行して貰う事。
他に何かの特殊な任務な場合、護衛をしながら任務遂行を目指す事になります』

『期間は2002年頃、任務終了は…まあ、その時は三人共一時的に国連軍に出向されてる筈じゃから、香月博士から告げられる事になってます』


『こ、国連軍に…一時的に出向…?』

突然の事に精神的にゴリゴリと削られる椿
特に『一時的に国連軍に出向』という言葉に一番戸惑う



(沙耶大尉…?)


先程から何か沙耶から『親近感』があったタケル。

(沙耶大尉の『事情』…?
オルタネイティヴ計画に関係してるのか…?)

先程の事を思い出すタケル。


(さっき紅蓮大将が『オルタネイティヴ計画』って言った時、沙耶大尉の顔色が悪かったな…
それに沙耶大尉の『事情』も関係してるのか…?)


推理するタケルだが、やはり簡単には分からなかった。



(沙耶大尉ってやっぱり『誰か』に似てるんだよな~…
あの容姿…あの雰囲気…)


『何か』が引っかかるタケル
ひとつひとつキーワードを組み込むと----


(容姿…『銀色の髪』…そうかっ!!
『霞』に似てるんだっ!!)


ひとつのキーワードを解くと、解けた紐のように『謎』が解けだす。


(そうだよ、霞に似てるんだっ!!
あの髪の色といい、あの『謎めいた雰囲気』といい…アレ?)


タケルの脳裏にある『仮説』が浮かび上がってくる。

(オルタネイティヴ計画と沙耶大尉の事情…
そして、霞に似ている…まさかな…)


一度頭を振るが、やはり沙耶大尉の反応が気になるタケル。
そして、沙耶大尉もタケルをチラチラと気にしていた


(…気まずい空気だなぁ…
失礼を覚悟して聞いてみるか…)


決意を決めたタケル
罪悪感もあったが、沙耶との関係を解決する為に行動をとる。



『紅蓮大将、ひとつ質問が…』


『なんだ、白銀中尉?』


『---紅蓮大将や神野大将はオルタネイティヴ計画に詳しいのですか…?』

タケルの質問に反応する四人
特に沙耶からは大きな反応があった



『ウム、一応大体の事はな
ワシも神野大将も知っておる』


『そうでしたか、ありがとうございます』


紅蓮大将に質問を終わらせると、今度は沙耶の方を向くタケル。



『スミマセン…大尉
もし…違っていたら謝っておきます。』

『な、なんだ…?』

タケルの対応に戸惑う沙耶…


『大尉は---
『第三計画』の出身ですか…?』

『『『『-----ッ!!!』』』』

この瞬間----
空気が凍りだすっ!!


『な、何故そのような事を…?』


『いや…大尉は、オレの知り合いに似ていたもので…
そして、先程紅蓮大将が『オルタネイティヴ計画』と『沙耶大尉の事情』と口にした際、顔色が悪かったもので…
間違ってるかもしれませんが、大尉が『第三計画』の出身ではないかと思ったのです。』

『し、知り合い…?』


タケルが口にした『知り合い』に反応する沙耶。

『はい、その知り合いも『第三計画』の出身です
以前、オレが『第三計画』の事を知った時に、『彼女』が怯えるように逃げ出した時がありました
彼女にとっても、知られたくは無い事実でしたが、オレにとっては『彼女は彼女』でしたので、必死に探して、説得…というか…話し合いをして、お互いの事を理解しあった事があったんです。』

『…………そうか』

タケルの口にした内容に驚きながらも、少し落ち着きを見せる沙耶


『白銀中尉は…『怖く』はないのか…彼女とやらを…?』


『怖い………考えた事もなかったな…
ウサギみたいな可愛らしい奴だし、彼女の『能力』も慣れっこ…って言うより、内緒話したり同意を求めたりする時にも使ったりするし…正直、今は能力に関しては全然気にしてません
むしろ、ひとつの『長所』として見てますよ。』

『な…なんだと…?』


タケルの返答に驚きを隠せない沙耶
紅蓮大将や神野大将は『大した若者ぢゃ』と関心し、椿に関しては、タケルの話を聞いて、ホッと安心する



『もし違っていたら謝ります
けど、もしそうならば----怖がらないで下さい
オレは…貴女の『味方』です…!!』


『----ッ!!』


タケルの言葉に陥落する沙耶
そして、沙耶の口から告白する。



『そうだ…白銀中尉の察する通り、私は『ESP能力者』だ…
まさか…こうも簡単に見破られるとはな…』

『謎めいた雰囲気とか髪の色も同じでしたからね、
出逢った時から、なんか引っかかっていたんです』


『そうか…』


落ち着き直した沙耶
椿が『良かったわね』と沙耶の下に駆け寄ってくる。
そして、沙耶はタケルの方に顔を向けて、声をかける

『白銀中尉…ひとつ質問したいのだが…いいか?』


『なんでしょうか?』

『実は…今日、貴殿に出逢った時に、用心の為に一度『リーディング』したのだが…
その際、不可解な『記憶』を見たのだが…それに問いたいのだが、良いかな…?』


『げっ!?』

既にリーディングされて記憶を覗かれていたタケル

『ど…どのへんまで覗きましたか…?』


『今より成長している冥夜や殿下が、貴殿を囲むように仲良くしてた所とか…
貴殿が国連軍に所属していて、冥夜と一緒に訓練してた所や、ハイヴのような場所で戦っている場面とかの記憶を見たのだが…不可解過ぎて訳が分からなかったのだ』


『うわぁ………見事に致命的デスネ~…。』


重要な記憶を見られていて、落ち込んでいたタケル。
そばで『す、済まない…』と謝る沙耶


『ほ、他にも見ましたか…?』


『……………済まない』

『グフッ!!』


もう駄目だ…と諦めるタケル



『…スミマセンが、沙耶大尉…
巻き込むカンジになってしまいますけれど…覚悟OKデスカ?』


『ま、巻き込むって…引き返せないの…?』

『無理です…
例えるならば…底無し沼に全身埋まった状態?』

『ええぇぇぇぇっ!?』


不安になって、引き返せないかと訪ねる椿だが、『無理、絶対に逃げられない』と、ズバリとタケルに言われてしまう。


『ええと…ホラ、底無し沼に全身埋まった状態でも助けに行けば----』

『無理、香月夕呼という番人が存在してるから、救出不可能です
それに最近、煌武院悠陽殿下という戦力も増え、万全な防衛になってますよ?』


『ゴメンね…沙耶…力の無い私を許して…』

『椿様っ!?』


救出不可能とわかり、沙耶に詫びる椿


後々、香月博士が『アラアラ、秘密…知ったんだ…ヘェ~…』…と良いカンジにステキでドス黒い笑みで二人を巻き込んだ事は後の話だったりする…



現在----



「はふぅ…内容が濃すぎるわよね…」


「も、申し訳ありません!!」

ペコペコと椿に謝る沙耶
『良いわよ、気にしないで』と謝る沙耶を落ち着かせる


あの後、タケルには沙耶が九條家に引き取られるまでの話を伝える


沙耶は数年前、とあるハイヴ攻略の際、第三計画として、BETAの思考や意思を探る為に、彼女達『ESP発現体』は、戦術機に乗り込み、複座として衛士達に守られながら出撃した


しかし、生還率は僅か6%
そして、沙耶も本来はその6%から漏れた者だった…


しかし、其処に『奇跡』は存在していた
その時、無意識の内にSOSの信号--
自分の居る場所のイメージをプロジェクションを飛ばした所、偶々特殊任務として参加し、帰還の途中だった帝国軍特殊任務部隊の一人である『辻間英治大尉』が沙耶を発見する


衛士は無惨にも死亡していたが、複座だった事もあり、下に座ってた沙耶は無数の傷はあったものの、命には別状は無かった
即座に救出し、帰還して沙耶を治療
そして気づいた沙耶と話をすると---
沙耶の能力を知り、ESP能力者としる辻間大尉


重大な機密性を知った辻間大尉は、沙耶をそのまま日本に連れて行き、帰国
そして、かつての上官だった当時の九條家当主の『九條元泰准将』に相談し、話し合いの結果、九條准将に沙耶を預ける結果になる


そして、九條准将は第三計画の内容を知り、事の重大さと、人間としての大罪を知る


人工的にESP発現体を創り、戦場へと送り出す

狂った科学者達の生み出した大罪に九條准将は怒り、同時に沙耶を哀れんだ


『このような子供が親の愛情も知らず、そして身勝手な科学者達に創られ、自分の意思を無視し、戦場へと送り出される
--これは、人間として許される事ではない
そして、同時に彼女に償わなければならない。』
九條准将は同時の政威大将軍である『煌武院雷電』と、その側近でもあった紅蓮大将と神野大将
そして、当時の五摂家の当主達を集めて緊急会議を行い、説得していた
そして、九條准将は懸命に説得し、その姿を見て感服した煌武院雷電は、九條准将の意見を聞き取り、結果は『九條家の養子として世話をする事』になった


そして、この事は将軍家及び五摂家と紅蓮大将・神野大将の秘密という事になった


『彼女にも、『人としての幸せ』を与えねばならぬ
彼女も---『人間』なのだから』


そして、沙耶は九條家に養子として入る
妻・由佳里や娘・椿も大いに大歓迎し、沙耶を『家族』として迎える



本来は沙耶が椿より一つ年上だったが、養子だった事もあり、歳を一つごまかして『椿の妹』となる


その事に恩義を感じ、九條家に絶対の忠誠を誓う沙耶
『沙耶』という名もこの頃に付けられるのだった…



「それにしても良かったわね、沙耶
白銀中尉が沙耶の事理解してくれて。」


「ハイ…少しまだ戸惑ってますが…安心しました…」

タケルが沙耶をESP能力者と知っても変わらない態度で接してくれる事に嬉しく思う沙耶
つい、思わず笑みが浮かんでいた


「アラアラアラ~♪
沙耶が笑ってる~!!
珍しいわね~、九條家や五摂家の一部の者にしか見せた事の無いのに、沙耶が笑ってる~」


「つ、椿様っ!?」


沙耶をからかう椿
しかし、内心とても嬉しかった事で、つい沙耶をいじくってしまう



「アラアラ…沙耶ちゃん、『恋』でもしたの?」

「うわぁっ!?」

「母様っ!?」

背後から突如現れた九條家現当主・九條由佳里


「沙耶ちゃん、誰に恋したの?
お母さんに教えて頂戴♪」

「由佳里様っ!!」


からかって来る由佳里につい、怒鳴ってしまう沙耶


「『由佳里様』だなんて家では止めなさいって言ってるでしょ?
家では私は貴女の『母』なんだから」


「うっ…か、母様」


照れながら由佳里に『母様』と呼び直すと、『沙耶ちゃ~ん☆』…と沙耶を抱きしめる
…その姿は、九條家現当主とは思えない接し方をする由佳里


「…ところで、誰が沙耶ちゃんをこんなにも可愛らしい笑顔にしたの?」

「白銀武中尉よ、母様」


「椿様!!」


バラす椿に可愛らしくポカポカと叩いてしまう沙耶
そして、今日あった事を大体話す(タケルの記憶は秘密)椿…


「…そっか、少し心配してたけど、安心したわ
白銀中尉に感謝しないといけないわね…」


「…ハイ」


「けど、本当に今日は色々とあり過ぎたわ…
本当に疲れた…」


「ご苦労様…ああ、そうそう
椿・沙耶、明後日の10:00から貴女達は白銀中尉と一緒に白陵基地に向かって貰うわ
任務内容は新OSの開発よ
その際、今回は月詠真耶中尉も同行するから、ちゃんと任務をこなすのよ?」


「「ハッ!!」」


この瞬間だけ、軍人の姿に戻る椿と沙耶。


「さてと…久々に晩御飯でも作りましょうか」

「手伝います」


腕まくりをして『母の味』を振るおうと立ち上がる由佳里
その手伝いをしようと沙耶も立ち上がるが『今回はゆっくりしてなさい』と断る由佳里


台所に向かう最中、とある写真を見る由佳里


「貴方…沙耶があんなにも笑顔を出せるようになったわ…貴方も見てるかしら…?」


愛する夫の『遺影』を見ながら報告する由佳里
少し寂しそうな表情をするが、パンパンと頬を軽く叩いて台所に向かって行った



時同じくして---
帝国陸軍白陵基地---


『白銀影行大尉と白銀楓中尉、入ります』


「開いてるから入んなさい」


ウィィンと自動ドアが開き、『白銀』を名乗る2人が入ってくる
部屋に入ると、香月博士が書類を目を通していた

「博士がお呼びになってると聞いたのですが…?」

「ええ、呼んだわ
要件は一つ、明後日の午後に帝都から五摂家の九條椿少佐と九條沙耶大尉が来るわ
その護衛として、斯衛軍から月詠真耶中尉と…アンタ達の『息子』の白銀武中尉が来るわ」


「タケルがっ!!」


タケルの名前を聞いて反応する母・楓


「ええ、来るわ
表向きは視察って事になってるけど、実際は白銀がメインの共同開発よ
それにしても贅沢よね~
白銀ったら、九條家の2人と五摂家に近い名家1人を『護衛』に付けるんだから驚きよね~♪」


「「え、ええぇぇぇぇっ!?」」


香月博士の爆弾発言に驚愕する白銀夫妻
その姿を見てニヤニヤする香月博士



「まっ、その際に九條家の2人と一緒に白銀の秘密もちゃんと打ち明けるわ…
信じるか信じないかは…アンタ達次第だけどね」


「「…………」」


一応香月博士からタケルの事を聞いていた白銀夫妻

やはり信じらんない事だったが、『一本のビデオテープ』を見て、2人の心が揺らぎだす



『一本のビデオテープ』…それは、偶然、防犯用の監視カメラが、悠陽殿下と真耶と斉御司大佐が渡り廊下でタケルと出逢った場面を写していた…

そして、そのビデオテープを殿下から借り、白銀夫妻を説明する材料に使ったのだ

その際、楓が香月博士に『このビデオテープに映ってるタケルは『本物』のタケルなの…?』と訪ねる
香月博士は『確かに貴女達の息子の白銀武よ
ただ、『別の世界の白銀武』と同化してるから、肉体が18歳まで成長してるけどね』…と聞き、ポカンと唖然としていた

そして、タケルが並列世界を二度も移動し、ループしていた事を聞いて言葉が出て来なかった


しかし、やはり言葉だけでは信用出来ず、自分の目と耳で確認したかった

そんな事もあり、今回のタケルの任務は香月博士が仕掛けた任務でもあったのだ。


(さて、此処まで歴史を変えて…どう変化するかしら
白銀…全てはアンタ次第よ…)


今はそばに居ない『腐れ縁』に問いかける香月博士…
タケルが望む『未来』の為に、白銀夫妻をいじくりながら、着々と計画を進めていた…



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ第七話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:a7bee6ac
Date: 2010/11/17 19:49
1月15日・帝国陸軍白陵基地----


「「お待ちしておりました
ようこそ、白陵基地へ!!」」


ヘリで帝国陸軍白陵基地へやってきたタケル達
表向きは護衛のタケルと真耶が先に出て、椿と沙耶を先導する


そして、出迎えとして白銀夫妻が敬礼しながら待っていた


「ようこそ白陵基地へ
私は帝国陸軍第6中隊所属の白銀影行大尉であります
こちらは副官の白銀楓中尉であります。」


「白銀楓中尉です、よろしくお願いします。」


「えっ…白銀…?」


白銀夫妻の自己紹介を聞いて、思わず後ろにいるタケルを見る椿


「…オレのオヤジと母さんです。」

「まあ、そうでしたか」

タケルの両親と知ると、少し驚く三人
『また先生の仕業かよ…』と香月博士のイタズラに頭を抱えるタケル


「…タケル、話したい事は山ほどあるが…後にしとくぞ」

「わかった、オレもそのつもりだ」

少しジト目で見る父・影行だが、覚悟を決めていたタケルは、真摯な表情で父・影行に答える


「…まさか中尉とはね…
数日で母さんと同じになるとは…」

「しかも斯衛軍だなんて…なんで私達と同じ帝国陸軍に入らなかったの?」


「いや、オレの所属や階級は殿下や斉御司大佐や先生…香月博士が決めた事だから…」


歩きながら会話をする白銀親子
本来はこんな会話は出来ないのだが、椿の御好意により、許可された。


「タケル、アンタ衛士って事は戦術機に乗れるんでしょ?
ポジションは何処よ?」

「突撃前衛だよ
オヤジや母さんは何処なんだ?」


「父さんは迎撃後衛
母さんは強襲掃討だよ
まっ…母さんの場合は突撃前衛並みに突撃してBETAをミンチにするけどな」

「はっ…?」


影行の発言に唖然とするタケル

「普通、そんな事したら隊が崩れるんだが、母さんの場合は逆に合理的でな…
母さんは接近戦以外なら何でもこなせてしまってな…
なんて言うか…強襲掃討でありながら、制圧支援・砲撃支援も一流にこなし、突撃前衛並みに突撃するんだ…
接近戦以外ならば誰にも負けないよ。」


「……なんですか…そのチートっぷりは…?」

母・楓のチートっぷりに唖然とするしかないタケル
楓も顔を真っ赤にしながら『影行さんったら…恥ずかしいじゃない…』と小さな声で呟く



(…白銀中尉の戦術機の才能は此処から来てるのね…)

(親子共々『天才衛士』の血筋…ですね。)


ボソボソと小さな声で本音を語る椿と真耶
しかし、ちゃっかり白銀親子に聞こえたりするのはお約束だ



そして、香月博士の待つシミュレーター室に入ると、まだ幼い姿の社霞と、タケルの見た事の無い少女2人が居た。


「待ってたわよ、白銀~
さっさと強化装備に着替えてXM3のテストをするわよ。」

「えっ…その前に話は…?」


「あのねぇ…白銀…
一応建前は『共同開発の視察』なのよ
九條家のお二方に共同開発の視察をする『フリ』をしてもらわないと、怪しまれるでしょうに…」

「…さいですか…
せめて前もって連絡下さい」

香月博士から国連軍の強化装備を貰い、更衣室に着替えてくるタケル



「…どう?
まだ信じられないかしら…?」


「…まだ戸惑っている最中です
確かに…あれは私達のタケルだ。」


「けど…なんか違和感があるけど…何かしら?」

タケルが去った後に白銀夫妻に声をかける香月博士
影行は香月博士の話が本当だった為、戸惑っている最中
楓は『知っているタケル』とは違う違和感を気にしていた



「多分、それは『別の世界の白銀武』が同化してるせいよ
『この世界の白銀武』とは違うモノを持っているから、そう感じるのよ
例えば…この世界の白銀武は衛士じゃないけど、別の世界から来た白銀武は、ループした事によって、衛士としての経験が豊富になり、一流の衛士になったわ
そんな『アンタ達の知らない白銀武』を知った為、アンタが感じる『違和感』として現れたのよ」

「…なる程…一理あるわね」


香月博士の答えを聞いて納得する楓
そして、それから数分後に強化装備を着たタケルがやってきた


「先生、お待たせしました」


「さて、取りかかるわよ
帝都で取ったデータのバグは取り除いたわ
以前より動きは良くなってる筈だから、思いっきり動きなさい」



「思いっきり…スミマセン、先生…機体は一体…?」


「話には聴いてるから大丈夫よ
今回は不知火に搭乗して貰うから、瑞鶴よりはマシよ
…それに、不知火の方が動かし易いでしょ、アンタは」


香月博士の気遣いに感謝するタケル
冗談半分で『武御雷でも良かったのに…』と呟くが、『まだ完成されてない機体頼んでも無理よ』とキッパリと断れてしまう


「さて、始めるわよ白銀
やるんならド派手な機動を見せつけてやりなさい」


『了解!!』


そして、XM3の開発テストが始まる


「ウオォォォォッ!!」


縦横無尽に飛び回り、仮想敵(アグレッサー)の不知火や吹雪を次々と撃破していく白銀機

空中での倒立反転しながら短刀を装備し、着地と同時に短刀投擲と水平噴射跳躍をし、短刀を回避した仮想敵は接近して来る白銀機の長刀に両断される



「----なんだコレは…!?」

「コレがタケルの機動…
倒立反転しながらの短刀装備し、着地と同時に短刀投擲と水平噴射跳躍を同時にこなすなんて…」

モニター室から見たタケルの機動制御に驚愕する白銀夫妻
そして、2日前の開発テスト時より上回る機動制御を見せつけられて、驚愕と同時に真剣にモニターに食い込むように見る椿達

「フフッ…やっぱりアイツじゃなければXM3は完成しないわ
それに---フフッ…どうやらお気に入りになったようね…」


香月博士の視線の先には、椿達と一緒にタケルの機動を注目する少女2人が居た


「クリスカ・イーニァ、白銀の機動…どうかしら?」

「タケルすごい…どうやったら、あんなうごきできるの!?」

「…悔しいけど…今の私達には、出来ない機動制御です。」


香月博士が第3計画から追加で連れてきた『紅の姉妹』のクリスカ・ビャーチェノワとイーニァ・シェスチナ
イーニァは瞳を輝かせながら、タケルの機動制御の仕方を香月博士に質問し、クリスカは悔しそうにタケルの機動を見つめる


「アンタ達もアイツから機動制御を学ばせる時があるから、それまで待ちなさい。」


「うぅ~…」

(かっ、可愛い…!!)


お預けを喰らったペットのように、拗ねるイーニァ
その姿を見て、楓や椿達が母性本能を動かす


「けど、あれで満足したらダメよ?
白銀の機動制御は、XM3が完成してからこそ発揮出来るの
つまり…『これ以上』の機動制御を持ってるのよ。」


「えっ…?」


全員が驚愕し、言葉を失う
イーニァは違う意味で驚愕し、キラキラと眼を輝かせながらモニターに夢中になる。


「博士…訓練が終わりました…」


「そう、それじゃこのデータの解析とバグの処理を後でするわよ、社」

「…ハイ」

香月博士の言葉に反応し、トレードマークのウサ耳の髪飾りをピョコピョコ動かす霞


「社…楽しみ?」


「……わかりません
けど、期待する自分があるのは確かです…」


「良い思い出が出来ると良いわね」


「ハイ…」


『思い出』という言葉に反応して、笑みを浮かべる霞

モニターに映るタケルを一旦見て、直ぐに香月博士の後ろについて行く



「ふぅ~…スッキリした~」


シミュレーター訓練を終えて、シャワーを浴びて汗を落とすタケル
着替えてシャワー室を出ると、クリスカが待っていた」


「あれ、キミはさっきの…」

「クリスカ・ビャーチェノワだ」

「ああ…俺は白銀武だ、宜しくな」


笑顔で握手を求めるタケル
戸惑いながらも、そっと握手に応えるクリスカ

「…タケルは私達の事を知ってるのだろう…?」

「ん?
もしかして『出身』の事か?」


コクリと頷くクリスカ
『なる程…』と思うタケルに更に質問が飛んでくる


「…怖くないのか、タケルは…?
考えを見透かされ、ヒトとは違う能力(チカラ)を持つ私達に…」

「ハァ…なんでそんな風に後ろ向きに考えるかな~…」

「なっ…にゃにふる!?」
溜め息を吐くタケル
後ろ向きなクリスカに、お仕置きの意味を込めて両側の頬を引っ張る


「ダメだなぁ~…クリスカ
そんな後ろ向きばかりになってはダメなのだよっ!!」


「は…離せっ!!」


引っ張ってた頬をさすりながらジト目で睨むクリスカ

「良いか、ESP発現体だろうと何だろうと、クリスカはクリスカだ
そして俺や先生と同じ『人間』だ
違うか?」


「えっ…?」


本心で語るタケルを見て戸惑うクリスカ

「俺にリーディングしたいなら、すればいい
ただ、他の奴には任務以外では滅多にやらないでくれ
俺は別にお前達を怖がる理由も無いし、そんな事する必要も無い
…まあ、先生みたく笑顔で黒いオーラを放つ事だけは止めてくれ…」

「そっ、そんな事するワケ無いだろう!!」


があっ!!と怒るクリスカを見てクスクス笑うタケル
そして、クリスカの頭に手を乗せて、優しく撫でる

「あっ…!!」


「だから仲良くしような、クリスカ」



優しく頭を撫でられて、頬を赤くするクリスカ
タケルをリーディングするが、『暖かい色』が見えた為、嘘偽りが無い事を知る


「わ…わかった…
宜しく…タケル…」


「宜しくな、クリスカ。」

素直な気持ちで返事を返すクリスカ
その返答に嬉しく思い、クリスカの頭を再び撫でるタケル

そして、香月博士達が居る研究室に入ると----



「随分と遅い御到着ね、白銀
…おやおやぁ…クリスカが随分と懐いてるわね…
流石は白銀、『恋愛原子核』も絶好調に発動してるって訳か…」


「な゛ぁっ!?」


入室して速攻にいじくられるタケル
香月博士の一言で、真耶・沙耶・霞の視線が『<◎><◎>』という風に睨みつけていた


「流石は白銀
女性を惹きつける事に関しては天下無双ね…
殿下には一刻も早く『一夫多妻制』を実現する事を強く言っておくわ
フフッ…ついでに『まりも』も嫁に嫁いでやってよ…アンタの下にね」


「ちょっ…先生…いきなり何を……!!」


「「「白銀(さん)…ちょっと…別の部屋て『お話』しようか(しましょう)…?」」」

「ちょっ…待って下さいっ!!」


タケルの両腕を抱きかかえて拘束する真耶と沙耶
霞も背中から抱きかかえるように拘束し、連行する


「た…た~す~け~てぇ~………!!」


そのまま三人に連行されて、隣の部屋でタケルをボコボコにフルボッコする


「……コワイヨ…コワイヨ…」


その様子を騒音で理解し、トラウマが蘇ってブルブルと部屋の隅で震えている父・影行
震えている影行を「だいじょうぶ?」と頭を撫でてるイーニァを見て、恥ずかしくも悲しくもある楓


「やっぱり白銀が居ると飽きないわねぇ~♪」


タケルをいじくって楽しんでいた香月博士だった…

「タケル…だいじょうぶ?」


「だいじょばない…」

ボロボロのタケルを心配するイーニァ
クリスカも心配してるのだが、また火の粉が降りかかりそう(主にタケルが)なので、近寄れなかった


「アンタ達、ヤキモチするのは良いけど、まだ白銀には用事があるんだから手加減しなさい。」


「むっ…」

「ヤ、ヤキモチ等では…」

「…スミマセン。」

イタズラの根源である香月博士に注意を受ける三人
素直にはなれない真耶と沙耶だが、霞1人だけは素直に謝る。


「まぁ…白銀はそのまま話を聞いてなさい
さて、白銀がボコボコにされて気を失ってる最中に、リーディングとプロジェクションで『白銀の記憶』を見た訳だけど…どうかしら?」


「……………」


香月博士から問われるが、想像を絶する事に言葉が出てこないでいた。

二度のループを繰り返し、様々な試練に巻き込まれたタケルに、慰めの言葉すらかける事が出来なかった。


並列世界を移動し地獄のような結末を迎えた一度目の世界
ループし、10月22日に戻る事が出来、歴史を変更するものの、タケルの大切な人達を失う結果になった二度目の世界

そして、元々住んでた世界で波瀾万丈な生活を楽しんでた、元の世界



その3つの世界の記憶を知り、白銀夫妻や椿達は香月博士の言う事が真実である事が証明され
真耶はタケルの言ってた事が真実と証明されたのだった



「今回白銀の記憶を見せたのは特別よ
今後誰にも見せるつもりは無いわ…例え殿下でもね
それぐらい白銀の存在は重要機密の塊とも言えるの
人類の未来が『希望と地獄』の2つに選択されるぐらいにね…」


ゴクリと息を呑む一同
タケルの重要性を今初めて理解する。


「並列処理装置の根本理論…『奇跡のOS』と呼ばれるXM3…『歴史』という情報…
後は異性だろうが同性だろうが、惹きつけまくる白銀の人徳
最初と最後のヤツは置いといても、これだけの機密を白銀は握ってるのよ?
白銀の重要性がわかったでしょう?」


コクリと無言で頷く一同…
すると、イーニァが挙手する


「ユーコ、さいしょとさいごのは、なんでなの?」


「最初の並列処理装置の根本理論は、今回は私が覚えてるから『元の世界』に取りに行く必要が無くなったからよ
白銀の人徳に関しては、結構莫迦には出来ないモノよ
現に政威大将軍・煌武院悠陽殿下を始め、五摂家の斉御司家と九條家
斯衛軍大将の紅蓮大将に神野大将
そして五摂家に近い武家の月詠家
今現在だけでもこれだけの日本の重要人物達と親しくしてるのよ?
この後には将軍家縁の御剣冥夜を始めに…
内閣総理大臣の娘の榊千鶴
帝国陸軍中将の娘の彩峰慧
国連事務次官の娘の珠瀬壬姫
帝国情報省外務二課課長の娘の鎧衣美琴
これらの豪華メンバーに出逢うのよ?
此処まで来たら、白銀の人徳も莫迦には出来ないわ。」


「タケル…お前…」

「ハハハ…今考えてみると…凄いメンバーと出逢ってるんだな…オレ。」
「凄過ぎるわよ…」


香月博士の話を聞いて驚愕すら通り越して、呆れてしまう白銀夫妻
タケル自身も『オレ…そんな人達に馴れ馴れしく接してるんだな…』と再確認する


「あとね、白銀の人徳に惹かれた人物がこの白陵基地に居るわ」


「へっ?」


「以前、アンタが月詠中尉と対決した時のデータと前回の帝都でのXM3のテストデータを見せたの…
そしたら、ソイツ興奮しちゃってさ~、仕舞いには『日本に帰化しても良い』なんて事まで言ったのよ~♪」


「だ…誰ですか…その人」


タケルに惹かれて白陵基地にやってきた人物が凄く気になるタケル…



「---米国の戦術機開発メーカー『ノースロック社』の技術開発者の『エルヴィン・ロックウェル』
あの『世界一高価な鉄屑』と呼ばれた戦術機・YF-23ブラックウィドウⅡを開発した技術開発者の一人よ」


「「「---ッ!!!」」」


噂に名高いYF-23の名前を聞いて驚愕する椿達と白銀夫妻


「白銀の変態機動見たら興奮しちゃってさ~
急にブツブツ言い出して『彼の機動特性を生かせる機体を創ってみせる!!』って言って、今現在ハンガーでブツブツ言いながら開発に取りかかってるわ」


「開発って…何を…?」

恐る恐る質問するタケル…
すると、香月博士は良いカンジに笑みを浮かべて答える。



「不知火の改良型を今開発してるのよ。
帝国軍の改良とは違うけど…此方の不知火は、アンタの機動特性やXM3を重視した機体に取りかかってるのよ。
後々A-01の主力機として目指しているわ。
そして、その機体のテストパイロットにアンタを予定してるわ。」


「ええぇぇぇぇっ!!?」




突然の爆弾発言に驚愕するタケル。
他の者達すら言葉が出て来ない状態だった…



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ第八話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:a7bee6ac
Date: 2010/10/10 18:41
「よっこいしょ…」


ベッドに腰を降ろすタケル。
香月博士から今後の日程を聞いた事を思い出す。

白陵基地での日程は2日間、
明後日の午後には帝都に帰る予定になってるので、それまでにはXM3をある程度進め、今後タケルの所属する中隊での開発を進める為に、現在香月博士と霞が急ピッチでバグの撤去や修正を急いでる。


「オヤジ達は隊に戻ったし…
ハンガーにでも寄ってみるか…?」


やる事を決めて立ち上がるタケル。
真耶の居る部屋に訪ねに向かう。


「月詠中尉、居ますか?」

「ああ、入って構わんぞ。」

「失礼します。」

ノックをしてから声をかけ、確認をするタケル。
真耶の許可を貰い、中に入る。


「どうした?」

「いや…ちょっとハンガーに寄ってみようかと思って。」

「例の…エルヴィン・ロックウェル…とやらか?」

「ハイ。」

コクリと頷くタケル。
真耶も『フム…そうだな…』と興味を示す。

「わかった、一緒に行こう。
椿様達にも伝えた方が良いだろう。」

「ありがとうございます。」

予定が決まり、部屋を出て椿達の部屋に行き、一緒にハンガーへと向かう。


「エルヴィン・ロックウェルか…どの様な者なのだろうな…」

「先生みたいなマッドな人だったりして…」

「…止めてくれ、白銀…
足が止まってしまうではないか…。」


沙耶がエルヴィン・ロックウェルの人物像を想像してると、タケルの一言で足が止まり、拒否反応を見せる真耶


ハンガーに着き、近くにいた整備兵に、エルヴィン・ロックウェルの居場所を聞きだす。

「其処の整備兵の兄さん、作業中済まないけど、エルヴィン・ロックウェルさんが何処に居るか知らないかな?」


「あ…ハッ、ハイ中尉殿。
エルヴィンさんは奥の設計室で唸ってます。」


「唸ってる?」

「なんでも、不知火の改良型を製作するとかで…
色々考え込んでるみたいですよ?」


「そっか、作業中ありがとう」


タケル達に敬礼して見送る整備兵。

「…なんか、ああも『下から目線』でかしこまれると、ムズムズするな…。」

「何、直ぐに慣れるさ。
白銀とて、いずれは昇進して自分の部下を持つようになるんだ。
その時は貴様が指示を出さねばならんのだ。」

「『形だけ』の小隊長しかやった事が無いから緊張するなぁ~…。」


いずれ上に立つ身になる自分が想像出来ない為か、戸惑うタケル。
真耶や椿達がタケルに色々とアドバイスを教えると、設計室に辿り着く。

「失礼します、エルヴィンさん居ますか?」


「………(ブツブツ)」
設計室に入ると、金髪の中年男性が、ブツブツと椅子に座りながら、考え込んでる。


「…エルヴィンさん…?」

「…うん?
誰だね、君は?
何の用かは知らないが、今私は忙しいのだ。」


「お忙しい所スミマセンでした。
俺は、帝国斯衛軍第17大隊第1中隊の白銀武中尉です。
香月博士からエルヴィンさんの事を聞き、訪ねて来ました。」

「シロガネ…タケル…
おお…オオォォォッ!!
君がっ!!君がシロガネ・タケルかっ!!」


ガバッと立ち上がり、タケルの手を握り締め、握手するエルヴィン


「君がミスター・シロガネか…。
思った以上に若いね。」

「み、みすたぁ~!?
そ、そんな…『白銀』で良いですよ、エルヴィンさん」


「ハッハッハッ!!
謙虚とは、なかなかの好青年ですな、シロガネ中尉」

タケルに出逢い、一気にテンションが上がるエルヴィン。
その後、真耶や椿達の自己紹介をすると、先程の態度を詫びるエルヴィンに驚く真耶達


「いやぁ~、スミマセンでした。
考え事が行き詰まっていて、少し機嫌が悪くなってました。
先程の暴挙をお許し下さい。」

「い、いえ…構いませんわ。
私達がタイミングの悪い時に来ただけですから。」


少し戸惑う椿
先程の機嫌の悪いエルヴィンが一気に良くなっていた。

「それでエルヴィンさん、何に行き詰まっていたのですか…?」

「フム…丁度良いかも知れないですね…。
実は、機体の機動スピードの事で色々悩んでたのですが…
シロガネ中尉に質問ですが…時速800キロを超えるスピードでの、あの機動は可能でしょうか…?」

エルヴィンの問いに対し、タケルは少し考えて答える


「可能…ですね。
但し、勿論訓練しないと駄目ですし、関節部の強化もしないといけないですね。
勿論関節部に蓄積ダメージを溜めないように、俺自身の実力を上げないと駄目ですし、一番の問題として、やはりXM3を完成しない事には駄目ですね。」


「フム…問題は山積みか…」


溜め息をしながら、考え込むエルヴィン。


「今現在、タイプ94には『肩部スラスターユニット』と『ジネラルエレトロニクス・YFE120-GE-100』を装備する予定なのだが…
私としては、君の機動を生かす為にもう一工夫が欲しいのだ。」


「背中に…ダメか。
背中にスラスターユニットを付けたら担架等が装備出来なくなる。」


『一工夫』が出て来なくて悩むエルヴィン


すると、タケルが---

「…脚部に付けたらマズいッスかね~?」


「「「はっ?」」」


「脚…部…?」

タケルの一言に全員が注目し、唖然とする

「脚部の外側の方に小さな噴射口を付けたら…ダメ?」


「無理だろ…
それこそ脚部にダメージが…」

「可能だ…」


「「「はっ?」」」


今度はエルヴィンの一言に唖然とする椿達



「別に今ある脚部を改造して、取り付けなくてもいい…。
付属パーツとして、取り外し可能にすれば、強度の問題の心配は無い…。
小型の噴射口を付ければ推進剤も少なくて済むし、無くなれば軽量化の為、取り外して捨ててもいい…。」


再びブツブツと考えこむエルヴィン。


「そうだ…どうせ付けるのならば、プロテクターの役割としても作ればいい。
軽量に作れば、多少の防御力アップにも繋がるし…
膝まで作れば…推進剤の燃料タンクも…フフフ…」

突然嗤いだすエルヴィンにビクッと怖がるタケル達…そして…。


「『脚部スラスターユニット』を創ってみよう。
まずは実験して試してから実用出来るかを判断すれば良い。
フフフ…流石はシロガネ中尉だ…
予想だにしない発想をするとは、流石は『天才衛士』だ!!」


『ハッハッハッ!!』と絶頂に気分が良いエルヴィン
タケルとしても、『元の世界』のロボットゲームを思い出して発言しただけであって、少し複雑な気分になる


そして、エルヴィンは『これから脚部スラスターユニットの設計図を作るので…』と言い、作業に取りかかった為、退室するタケル達…


「…違う意味で、先生と同じだったよ…」

「そうか…」


先程の予想とは違う意味で当たった事を思い出すタケルと真耶だった…


ハンガーから出て、部屋へ戻る最中、廊下の窓ガラスから夕陽の光が照らされる

「むっ…もうこんな時間か…」


真耶がチラッと腕時計を見ると、既に午後4時を過ぎていた


「おや、まだ訓練してる部隊が居ますね…」

「どうやら訓練兵のようですね。」


「えっ---」


すると、椿と沙耶がグランドで訓練で、ランニングしている訓練部隊がいたのを見つける。
それを聞いた途端、タケルの身体が自然と走りだし、グランドが良く見える窓から覗きだす。


「どうしたのだ、白銀…突然走り…白銀…?」


真耶が見たモノは---
タケルの目尻から『涙』が流れていた。


「どうしたの…白銀中尉…?」


「へへっ…情けねぇや…
このぐらいで…泣くようじゃ…まだまだ若造だな。」



タケルの見つめる先には---

恩師である『神宮司まりも軍曹』
尊敬する先任の『速瀬水月』と『涼宮遙』の訓練兵時代の頃の姿だった…。


「あれは…確か『記憶』にあった…。」


「ハイ…俺をここまで育てて下さった恩師の神宮司まりも軍曹と『伊隅ヴァルキリーズ』の先任だった速瀬中尉と涼宮中尉です…。
そっかぁ…この時代の頃は訓練兵だったのか…。」


涙を拭い、再び尊敬すべし人達を見つめるタケル。


「今度こそ--
必ず守らなきゃなっ!!」

決意を改めて決めるタケル。
オリジナルハイヴの攻略は当たり前。
それ以上にすべき事は『大切な人達を守る事』
それこそが三度目のループの目標なのだ。


「……スミマセンでした…部屋に戻りましょう。」


「…良いの…?
会って話ぐらいは構わないのよ…?」


一方的ではあるが、再び再会した事に感涙するタケルを気を使い、『会ってみないか?』と声をかける椿


「…大丈夫です、九條少佐。
今は…我慢します
でないと…今逢ったら、大泣きしますから。」


「…そうか…では行こう。」


再会を我慢するタケル。
そんな姿を見た真耶は、タケルを気使い、部屋に戻る事にした…。





「あれ、斯衛の人達帰って行くわ…」


「ハァ…ハァ…本当だねぇ…」

ランニングを終えた速瀬と涼宮
休憩しながら、タケルの去る姿を目撃する


「なんかあの男の人、泣いてたような…」

「うん…なんかあったのかな…?」


ちゃっかりと、タケルが涙を流した所を目撃していた二人


「小隊集合っ!!」


「やばっ!!
神宮司軍曹が呼んでる!!」

「急ごう、水月」


召集をかける神宮司軍曹の下に、集まる速瀬達…
その頃にはタケルの姿はもう消えていた…。





「ん…何だ?」


部屋に戻る為、エレベーターに乗る際、周囲に騒ぎが有った



「あら白銀、今まで何処に居たのよ?」


「いや、ハンガーに行って、エルヴィンさんに会ってました。」


「エルヴィンに?
そう、まあ手間が省けたわ。」


「それよりどうしたんですか、この騒ぎ?」


「ついさっきね、この基地内に侵入してた『スパイ』を捕まえた所なのよ。
社達にリーディングして貰った結果、米国のスパイだった事が判明したわ。」


「ええっ!?」


基地内に米軍のスパイが侵入してた事に驚くタケル達


「侵入した人数は捕まえた奴一人のみ
ただ、今回は九條少佐達が来観してるだけあって、重要な場所は警備を強めてるの。」


「なる程…そうでしたか…」


事の事態を察し、理解する椿。
すると、香月博士の表情が『でびるふぇいす』に変わっていた…。



「…先生…この期に及んで、何を企んでます?」

「べっつに~☆
ただ、今回の件もあって、白銀や九條少佐達には『安全』を持って、部屋を『移動』して貰っただけよ~?」



「…ま…ま さ か …」


嫌な予感がバリバリしているタケル
香月博士の話を冷静に、推理した結果-----




「も…もしかして…
『大部屋』に移動…したんですか…?」

「「「はっ!?」」」


「大正解~♪
流石は白銀、良く解ったわね~。」


香月博士の呑気な言葉と同時に、石化になるタケル達
『大部屋』に引っ越されてしまう。



「ああああ…アンタはアホか----!!
こんな時にこんなイタズラしよって!!」


「あのねぇ…表向きはアンタは、九條家の護衛として来てるのよ?
護衛が護衛対象と同じ部屋で何が都合悪いのよ?
お互いに同じ部屋で、寝泊まりしながら護衛すれば、一石二鳥じゃない?」


「いや、だからって…」

香月博士の暴走を止めようと、懸命に対抗するタケル
しかし、タケルの奮闘も虚しく、撃墜されるタケルだった。



「「「「…………」」」」


仕方無しに大部屋に入るタケル達…。
其処には、セミダブルのベッドが『3つ』横に重なるようにくっつけ、番線でぐるぐるに結束し、ベッドのそばにある棚の上にテッシュの箱を設置していた…。


その光景を見たタケルは、口から魂が抜け。
真耶は『またか……』と床にⅢorz…と落ち込み。
椿と沙耶は顔を真っ赤にしてアワアワしていた…。



そして、その夜---


「す~…す~…」


「ウン……」


「………(眠れね--!!)」



結局は四人共、ベッドに寝る事になった。
最初はタケルは『床に寝てます』とか『護衛しながら起きてます』とか言ってたが、『お前も護衛対象だから駄目だ』と却下される。


現在、ベッドの上には真耶・タケル・沙耶・椿の順に寝ている
椿を壁側に寝かせ、タケルを真耶・沙耶の間に寝かせていた



勿論タケルは反論して、『俺が端っこに寝ます』と言うが、
椿が『沙耶の隣に寝る時は気をつけてね、たまに沙耶はそばにあるモノを抱いて寝るから』と発言してしまい、真耶が『私の隣に寝るがいい』と発言する。
勿論沙耶も対抗して『私の隣は…嫌か…?』と発言。
結果、タケルには逃げ場が無くなり、真耶と沙耶の間に寝る事になった。

(フフフ…面白い事になったわ…)


悶えてるタケルを見て、こっそりと笑う椿。
案の定、沙耶はタケルを抱きながら熟睡。
真耶もタケルの頭を抱えながら眠りについていた…


(まさか真耶さんも白銀中尉の事を気になっていたとは…フフフ…
同棲してた効果かしら?)


三人の寝てる姿を見て、笑いながら眠りにつく椿…




そして夜が明け、朝を迎えると----


「……………えっ?」


一番早くに目を覚ます椿。
三人の寝相を見て硬直する。
真耶と沙耶の間に寝ているタケルに異常事態が発生していたのだ。


真耶のシャツが少し脱げ、豊満な胸に顔半分が埋まってる状態になり、そして、沙耶を抱えながら胸を鷲掴み状態のポーズになっていた…


「こ…これは…放置するしかないわねっ!!」

タケルを見捨てる選択をする椿。
今助けては、自分のイタズラと思われてもおかしくはない。
最良の案として、タケル一人が犠牲になるしかないと判断する椿。


「ご、ゴメンね…白銀中尉…」


助けない事に一応謝罪する椿。
勿論後に二人に怒られるタケルは、正座させられながら説教を喰らっていた…



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ第九話①
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:a7bee6ac
Date: 2010/09/26 18:45
1998年・1月16日----

朝早くから、香月博士の研究室に集まるタケル達。
他にも白銀夫妻やクリスカ・イーニァ・霞も集まる


「おはよう、朝っぱらから面白い事やるとは、流石は白銀ね~♪」

「…ぐっ…既に知られたか…」


朝の説教が香月博士にバレて、いぢくられるタケル。


「因みに、現在は誰が本命なの?
鑑?御剣?それとも殿下?」


「「「「----ッ!!!!」」」」


香月博士の言葉にビクンと反応する真耶・沙耶・霞・クリスカ
母・楓は溜め息を吐きながら、『流石は影行さんの子ね…』と苦い思い出を思い出す



「実は…その事に関して、悩みがあるんですよ…。
母さんと先生…相談に乗ってくれませんか?」


「ナニナニ!?
教えなさい、相談に乗ってあげるわっ!!」

「…タケルも恋愛事で悩むようになったか…」


タケルの悩み事に対して、面白半分に聞く香月博士と、『我が子の恋の悩み』を複雑そうに真面目に聞く楓。


「以前言ったように、今の俺は『最初の元の世界』・『一度目・二度目の世界』・『現在の元の世界』の記憶を『全部』思い出してます…。
実は…そのせいで、複雑な問題が有って…恋愛どころではないんです。」

「…というと…?」


「『最初の元の世界』では、純夏と結ばれた『世界』があるんですけど…
違う『並列世界』では、冥夜や委員長達と結ばれてる世界もあるんです…。
そして『一度目のBETAの世界』も同じように…みんなと結ばれた記憶が複数有り…。
仕舞には、『現在の元の世界』でも、みんなの他に、更に悠陽…この世界の殿下や霞や柏木までの結ばれた世界の記憶があるんです…。」



「うわっ!?
なんか凄い事になってるわね…。」

「…難しい問題ね…」


記憶の問題のせいで、恋愛事に支障が出ていたタケル
その話を聞いた香月博士や楓は、難しそうな顔をしながら考える


「この問題解決しないと…みんなにも失礼だし…。
どうすれば良いんでしょ?」


「忘れろ…って訳にもいかないから、大変ね…。」


頭を悩ます楓。
予想以上の問題に困惑する


「そうね…解決案としては『リスタート』しましょう」

「リスタート?」


すると、香月博士が解決案を出す



「流石の私も、こればかしはどうしょうも無いわ。
だから解決案として、『リスタート』する事。
みんなの気持ちを知った上で再出発するのよ。」


「再出発…ですか…」

「そうよ。
勿論、この世界の御剣達はアンタとは出逢ってないから好意は無いわ。
けど、恋愛原子核のアンタなら、間違い無く出逢えば恋するわ。
ならば、今此処でアンタは再びスタートすれば良いの。
結果、みんなの誰かと結ばれるのか。
それとも、みんな以外の誰かと結ばれるのか。
それともヤッパリ、恋愛原子核を大爆発させて、ハーレムの道を歩むのもひとつの道よ。
そして、それを決定するのは…アンタ自身よ。」

「ハーレムって、アンタ…。」


「因みに言うと、ハーレムの道が、今現在確率が限りなく高いわ。」


「んがっ!?」


真面目に相談してた筈が、いつの間にか再びタケルをいぢくられる方向に持ってかれていた


「そういう事だから、あとは頑張りなさい。」


「ハイ……」


びみょーな終わり方をして、悲しくなってくるタケル。


(…もしかして、私も結ばれる事が出来るのか…?)


そんな事を頭の中で考えてた真耶
すると、沙耶・霞・クリスカがコクリと頷く


「えっ!?」


その姿を見て、驚く真耶
ぶっちゃけ、三人にリーディングされてたのである



「さて、本題に入るわよ。
今日の予定として、午前中はXM3のテストをするわ
今回はエース級の衛士が搭乗する旧OSの吹雪が『仮想敵』アグレッサーとして一機出るわ
その一機と1対1で戦って貰うわ」


「了解」


「それが終わって問題無いならば、此処に要る私と社以外のみんなも交えてXM3のテストを進めるわよ。
あっ、そうそう…
その時に『他にも一人追加』する事になるわ」


「……?
了解しました。」


香月博士の言葉に引っかかるタケル達…
その後、タケル達は退室すると同時に受話器を取り出す香月博士



「ああ、私よ…
済まないけど、-----を此処に呼んでくれない?
そう…急ぎの用事よ…」


ガチャリと受話器を本体に置く香月博士。


「フフッ…楽しくなって来たわ…。」

怪しい笑みを浮かべながら、呼び人を待ち続ける香月博士だった…。


それからしばらくして、強化装備を身につけてシミュレータールームに入るタケル

シミュレーターに乗り込み、準備する。


「準備完了しました、先生。」


「わかったわ、向こうも既に完了したわ
それじゃ…始めるわよ」

シミュレーターを起動し、ステージが現れる


ステージは、この柊町を戦場とした市街地。
二度目の世界の市街地跡演習場を思い出し、懐かしく思うタケル。



「さてと…どうやって敵を見つけるかな…」


相手はエース級の衛士
ちょっとした脅しには乗って来る筈は無い。
策を考えながら、静かに隠密行動を開始する。





「…キリが無いな…」


開始してから10分が経過。
しかし、未だに相手の動きを捉える事が出来ないまま、時間が過ぎていく。


「こりゃ…危険覚悟で、空に出て誘き出すしか無いか…?」


危険を承知でそばに有ったビルの屋上に連続噴射跳躍で飛び乗り、其処から飛んで移動する。



『なっ、なんだと…!?』

その行動に驚く仮想敵。
自らを空に飛び立ち、姿を晒す行為に戸惑う。

『狙撃するか…いや、恐らくは、私の位置を知る為の罠…。
仲間の居ない1対1の対戦でするとは…余程の腕前か…余程のバカか…?』


結構酷い事を言う仮想敵。
しかし、この行動に対し、どうするかを悩みだす。


『…誘いに乗るか…?』


確かにこのままではキリが無い。
それならば、見つかる危険を覚悟して狙撃するまでだ。




120mm滑空砲を構え、白銀機である不知火を狙いを定める




『----ファイヤッ!!』


滑空砲を撃ち出す仮想敵。
だが、白銀機は突然アクロバットで回避する!!


『----何っ!?』


「----アブなっ!?」

狙撃された場所を即座に捜索し、仮想敵の吹雪を発見する


「いたっ!!」


『クッ…見つかったか!!』


後退しながら突撃砲で白銀機を攻撃する仮想敵。
白銀機も仮想敵の攻撃を回避しながら突撃砲で反撃する。


『なっ!?
動きの切れ目が無いだと…!?
それに、硬直時間が…少な過ぎるッ!!』


白銀機の動きを見て驚愕する仮想敵。
経験したことの無い動きに翻弄される。
後退しながら左右にと移動しながら、狙撃をするが、白銀機の倒立反転からの三角飛びで回避され、しゃがみながら匍匐飛行で突撃しながら、長刀装備する。



『接近戦だと…良いだろう!!』

仮想敵も長刀に装備し、白銀機に突撃する。



お互いがぶつかり合う瞬間---事態は動いた。

「オオォォォッ!!」


『な、何ィィィッ!!?』


お互いがぶつかり合う瞬間。
白銀機が突然地面スレスレに『スライディング飛行』し、そのまま仮想敵の足下を横切るようにすり抜け、空に飛行しながら仮想敵の背中を斬りつける!!


『なんだと…!?』


背部が損傷を受け、動きを封じられる。
担架に装備した突撃砲が盾になる形のおかげで、大破判定は免れたものの、突撃砲を失い、同時に動きも封じられ、為す術が無い仮想敵。



『ク…ソ…動けッ!!動くんだっ!!』


操縦桿をガチャガチャと動かす仮想敵だが、鈍く動くしかない仮想敵の吹雪は、着地した白銀機に突撃砲で狙撃され、大破判定を貰う



コクピット内が暗くなり、CPから撃墜報告が告げられる


『クッ…なんなんだ…あれは…!?』


先程まで繰り広げられた戦いに困惑する仮想敵


すると、モニターが映りだし、香月博士が現れる

『お疲れ様~。
済まないけど、もう暫く其処で待っててね~♪』

妙に明るい表情をしながら報告する香月博士
『何を企んでるんだ…?』と察する仮想敵。




「ふぅ…すげーよ先生…。
もうあそこまでXM3を完成させるなんて…。」


短時間で現在のXM3の完成度に驚くタケル。
それと同時に気になる事があった。


「さっきの仮想敵…誰だろ?
けど、さっきの吹雪の動き…見た事があるような…」


「お疲れ様、白銀
どうだった、今回のテストは?」


仮想敵の事を考えてると、香月博士や他のみんながやって来る。


「かなり良いカンジでした
これならみんなと一緒に『賢く』しても大丈夫ですよ」


「そう、良かったわ。
それなら、このあとみんなで開発するわよ。」


「ハイ」


やっと先に進む事に嬉しくなるタケル達。
すると、香月博士がニヤニヤと怪しい笑いをしながら、発言する


「さて、今回の『仮想敵』アグレッサーを紹介するわ。
良いわよ~、出て来なさい」


シミュレーターデッキのハッチを開き、仮想敵を紹介する香月博士

そして、現れたのは----!!



「な゛っ!!?」

「「「-----ッ!!」」」


仮想敵の姿を見て驚愕する、タケル・真耶・沙耶・椿



「これが今回の『仮想敵』アグレッサーの『神宮司まりも軍曹』よ。
そしてまりも、そこの強化装備を着てるヤツが斯衛軍の白銀武中尉よ。」

「「…………え゛っ!?」」


お互いに対戦相手を見て驚愕するタケルとまりも…
タケルは恩師との再会に驚き。
まりもは自分を負かした相手が、自分より年下の者と知り、驚く



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ第九話②
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:a7bee6ac
Date: 2010/09/26 18:44
「こ、これは失礼しました、中尉殿。」

「い、いえ、お互い様ですから、そんな畏まらなくても…。」


先程の反応に非があると思い、陳謝するまりもだが。
尊敬する恩師に頭を下げられる事を困惑し、謝る必要は無いと、下手になりながら、タケルもペコペコと謝る。



「さて、まりも。
さっきの『賭け』は私の勝ちね。」


「あのねぇ…夕…香月博士。
『賭け』と言っても、博士の一方的に決めた事じゃないですか。」


「それでも賭けは賭けよ。
安心なさい、そんな『大した事』じゃないから。」


「……怪しいものだわ。」


タケルとの戦いの前に、香月博士の一方的な『賭け』に参加させられるまりも。
その時、タケルの脳裏には『この世界のまりもちゃんも、先生に苦労されてるんだなぁ…』と、深く同情する。


「…それで、私にどんな罰ゲームを与えるのですか…?」

既に諦めて罰ゲームを受け入れるまりも。
近くにいた、タケルや真耶はまりもの事をひたすら『お気の毒に…』と、心の中で合掌する。


そして、香月博士の出す『罰ゲーム』とは----



「今からまりもは、白銀に『まりもちゃん』と呼ばれる事よ。
他の部隊とか居る時の呼び方は、白銀に任せるけど、私達や速瀬達の前では『まりもちゃん』と呼ばれても怒らない事。
…どう?大した事じゃ無いでしょう?」


「「な゛っ!?」」


罰ゲームが『まりもちゃん』と呼ばれる事になってしまい、驚愕するタケルとまりも。
その様子を見て幸せそうな表情をする香月博士を見て、真耶達は『キツいな…それ…』と自分がされてるのを想像する。


「さあ白銀、遠慮無くまりもを『まりもちゃん』と呼びなさい。
呼ばなかったら、無い事を有る事にして、噂バラまくわよ。」


「アンタ…鬼や…。」


最早退路を断たれたタケル。
重い口を開けて呟く。


「す、スミマセン…まりもちゃん…。
先生には逆らえないモノで…。」


「はぅ~…。もう諦めてるから良いです…。」


恩師に『まりもちゃん』と呼ぶ事を詫びるタケルだが、既に諦めてるまりもの発言を聴いて『スミマセン…』と心の中で謝る。



「フフッ…。罰ゲームを見た事だし、本題に入るわ」


面白い場面を見て満足する香月博士。
其処から本題に移り出す。


「今回のまりもとの対戦は、まりもにXM3の性能を体験して貰う為よ。
そして同時にまりもにも、XM3の開発に参加して貰うわ。」


「ちょ、ちょっと待って下さい、博士。
何ですか…そのXM3とは…?」


香月博士は、まりもにXM3の事を詳しく教える。
それを聞いたまりもは、驚愕と同時に期待感を高める。


「そして、まりもがXM3をモノにする事が出来たならば、まりもは速瀬達に…そして、後々の訓練兵にXM3の慣熟訓練の教官になって貰うわ。
それが今回、まりもに『仮想敵』アグレッサーを頼んだ理由よ。」



「な、なる程…。それならば、今回の件は納得出来るわ」


やっと納得の出来る理由を聴いて少し安心するまりも。



「XM3の開発には、国連軍は白銀影行大尉を始めとして、白銀楓中尉・まりも・クリスカとイーニァよ。
帝国軍は、白銀武中尉を始めとして、其方に居る月詠真耶中尉・五摂家の九條椿少佐と九條沙耶大尉。
あとは、九條椿少佐の第1中隊よ。」


「えっ…五摂家の九條…様…?」


香月博士の一言で硬直し、ギギギ…と鈍い動きをしながら椿と沙耶を見るまりも。
そして、椿達が自分達の自己紹介をすると、大爆発するように驚愕し、土下座しながら陳謝する



「ススススス…スミマセンでしたッ!!
ままま…まさか九條様方が居るとは知らなかったとはいえ、数々の無礼を…お許し下さいッ!!」


「い、いえ、頭を上げて下さい、神宮司軍曹。
別に貴女を責めたりはしてません。」


ゴリゴリと、床に頭をこすりつけるまりもを止める椿。
その姿を見てプルプルと笑うのをこらえる香月博士を見て『悪魔だよ、この人…』と心をひとつにして思うタケル達だった…。




「ハァ…疲れたよ…。」

あの後、XM3の開発の為、まずはみんなの慣熟訓練から開始する。
ズッコケる人は居なかったが、やはり跪いたり、よろめいたりするの事を、タケルを除いた全員が体験する事となる。


『この動きをケロッとこなすアイツって、何者?』と全員が思い、香月博士がタケルの機動を『変態機動』と呟くと、全員が同意する。


その後、香月博士の提案で、シミュレーターでの複座で、タケルの変態機動を体験して、慣熟訓練の進行を早めようと提案する。
そして、タケルは香月博士から『全力機動』を許可されてヤル気満々になり、賛同する。


最初の同乗者(犠牲者?)はまりも
タケルの変態機動を、モノにしようと意気込みながら搭乗し、スタートする。



五分後-----



『う゛う゛ぅ…ウプッ!?』


『だ、大丈夫ですか、まりもちゃん…?』



『『『『!!!!!?』』』』

出て来たタケル達を見て驚愕する一同。
その理由は様々だが、一番の理由は、タケルがまりもを『お姫様抱っこ』をしながら出て来た事。
主に真耶・沙耶・霞・クリスカが注目する。


勿論これも香月博士のイタズラだったのだが、流石に親友の様子を見て『ゴメン…まりも…』と心の中で謝る。


しかし、乙女である彼女達の注目は、あくまでも『お姫様抱っこ』である。

気分を悪くし、歩けない状態になり、タケルにお姫様抱っこをしてもらう…。
…そんな可愛らしい考えをする彼女達。
すぐさま次の同乗に挙手する彼女達だが、結果は半分幸せ、半分後悔という結果だった。


因みに霞は、乗れない事に激しく落ち込むと同時に、無様な自分を見せないでホッとする結果になった。



こんな事もあり、全員がグロッキー状態になり、午後の訓練は中止になる。
そして、このタケルの全力機動が、後の訓練兵達に恐れられる『恐怖の全力変態機動』を戦術機適性検査で体験する事はまだ誰も知らない。



『あの…白銀中尉…ですよね?』


「ん…貴女は…?」

すると、タケルの背後から帝国軍の少尉が話しかけて来る。


『私は白銀大尉の部下の金田早紀少尉です。
スミマセンが、白銀大尉はどちらに…?』


「オヤジ達は訓練中に…気分悪くして…今は医務室で休んでるよ。」


『えっ…どうしようかしら…』


影行と楓が体調不良で、医務室で休んでると知ると、困った顔になる金田少尉


『スミマセンが…白銀中尉、白銀大尉の代わりに『面会者』にあって貰えませんか?
今、正門前で待ってるようなんです』


「面会者?
わかりました、オレが代わりに会って伝えておきます。」


「ありがとうございます、中尉」



影行の代わりに、面会者に会う事になったタケル。

そして、正門前に辿り着くと-----



「す、純夏?」


「タ、タケルちゃん!?」
幼なじみの鑑純夏との『再会』をするタケルだった…。



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ第十話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:a7bee6ac
Date: 2010/09/27 23:54
「ハァ~…やっとこ終わったよ…。」


基地内に入る為、身体検査やら、講習を受けたりして、一時間程かかり、疲れる純夏。
心の中でタケルは『オレの時よりは短いから、まだ良い方だ』と呟く。


「それにしても…タケルちゃん…。
背…伸びた?」


純夏の口から、恐れていた事を呟き、内心ビビるタケル。
今、純夏と出逢って恐るべき事は、『この世界のタケル』と『元の世界から来たタケル』の外見的特徴の違い。


この頃14・5才の純夏やこの世界のタケルに比べれば、今のタケルは10センチ程違いが有る。

顔も多少幼さが消えた事により、純夏に怪しまれる危険性があった為、すぐに純夏に会う事が出来なかった。



「そ、そうか?
訓練とかしてるから、多少は背が伸びたかもな~…。」

冷や汗ダラダラと滝のように流すタケルだが、懸命に純夏を誤魔化す事に専念する。


「でも、それ以上に、その服装…タケルちゃんには似合わないよ…。」

「…言うな…純夏…。
それは、オレが一番わかってる事だ…。」


突然の致命的な一言で、グサリと心を抉られる気分のタケル。
純夏もすぐにフォローを入れるが、後の祭りだった。


「そういや、オヤジ達に何の用だったんだ?」


「おじさん達に、タケルちゃんの事聞こうとしたの。
あと、おばさんの頼まれ事を済ませたから、その報告だよ。」


「頼まれ事?」


「電気代やら水道代の支払い。
食料の補充に、掃除洗濯…。
本当なら、タケルちゃんの仕事が殆どなんだからね~!!」


「す、すまねぇ…。」



少し怒ってる純夏にビビるタケル。
いつ、あの恐怖の『どりるみるきぃぱんち』が飛んでくるか、ビクビクしていた。


「あと、香月夕呼博士って人に用事があったんだ。」


「先生に?」


「まだ早いけど、『国連軍に入らない~?』ってお誘いが有ったの。
入れば、時々だけど、タケルちゃんに会える機会が増えるって、言ってたよ?」


(先生…手打つの早いな~…。)


香月博士の早さに少し驚くタケル。
しかし、この事に関しては、タケルにとっても好都合だった。


まずは、BETAが本土上陸した際、この白陵基地にハイヴを建設されるまで、純夏の安全を確保をする必要があった。

それでなければ、先生のせっかくの『人間の状態で00ユニット化』する研究が無駄になる。
そしてタケル自身も、純夏に再びBETAに捕まる事だけは、絶対阻止するべき事だった。



それに、純夏を衛士にするにしても、そう簡単に戦場へは出さないだろうし、出しても必ず何らかの理由を付けて、護衛を付けるだろう。


それ故、今回の国連軍への誘いは都合の良い手段だった。



「そうか、それで純夏はどうするんだ?」


「受けるよ。
けどその前に、基本的な勉強とかしないといけないから、訓練兵になるのは、次の編成の時だって。」


(次の訓練兵の編成って…確か宗像中尉が居たよな…?)


宗像美冴中尉を思い出し、少々不安になるタケル…。
『純夏が宗像中尉のように成長しませんように…』…と切実に願っていた。


「そういえば、タケルちゃん。
おじさん達はどうしたの?
それになんで、タケルちゃんが迎えに来たの?」

「オヤジ達は、訓練で具合悪くして、医務室で休んでたんだよ。
オレは代理として面会者に説明して、機密情報とかじゃなかったら、待って貰うか、オレから伝えておくって言うつもりだったんだよ。
そしたら面会者が純夏だったからビックリしてたんだよ。」


「そっかぁ…おじさん達大丈夫…?」


「ああ、さっき連絡したら、面会ぐらいなら大丈夫だって、言ってたぞ。」


「そっかぁ…良かったぁ…。」


影行達の安否を聞いてホッとする純夏
そして、影行達の待ち合わせ場所として、PXに到着する。



飲み物を飲みながら、談話をしてると、影行と楓・真耶と霞がやって来た。


「遅くなってゴメンね、純夏ちゃん。」


「おじさんとおばさん…大丈夫ですか…?」


「大丈夫よ。
…少しまだ残ってるけどね…。」


遅れて来た事に謝る影行。
具合悪そうな影行達を見て心配する純夏だが、少し強がる楓。
けど、やっぱり気分は悪い。



そして、純夏は楓に用件を伝えて、電気代等のお釣りを返す。
すると、未だに気分の悪い真耶がタケルのそばに着く。


「…大丈夫ですか、月詠さん。」


「少し…な…。
流石に先程は…強がり過ぎた。」


例の『お姫様抱っこ』の件で、真耶は少し強がりながら、タケルの全力変態機動に耐えてたのだか。
『お姫様抱っこ』されるのは嬉しいが、この悪酔いの凄まじさに少し後悔していた。


「…タケルちゃん、その人は?」


乙女センサー(アホ毛)がビンビン反応する純夏。
『コイツは強敵だ!!』と本能で悟る。


「月詠真耶中尉だよ。
オレを『保護してくれた人』であり、現在月詠さんの家に同居…ていうか、居候としてお世話になってるんだ。
…一応言っておくが、同居の件は全て先生の仕業だからな…。」


「え゛え゛ぇぇぇっ!!
どどどど…同居!?」


『同居』という言葉に驚愕する純夏。
『コレは乙女のぴんちだっ!!』と本能で悟り、警報を鳴らす。


「………月詠真耶だ、宜しくな、鑑純夏殿。」

「………宜しくお願いします、月詠さん。」


バチバチと凄まじい火花を散らす純夏と真耶。
恋のバトルに感づいた影行はテーブルの下に避難しながらブルブルと震え、楓もその光景を見て、『昔の私を思い出すわ…』と影行を巡る恋のバトルを思い出していた。


一方、タケルは----



「………(ガクガクブルブル…!!)」


激戦地の特等席に居る為、恐怖をモロに受けていた。



そして、PXの入り口付近では----




「フフフッ…鑑を中に入れて正解ね…!!
それにしても、白銀のヤツ…恋愛原子核が絶好調のようね。」


「…出遅れた」


「むぅ…」


入り口付近で隠れながらタケル達を覗き見していた、香月博士と、椿・沙耶・クリスカ・イーニァだった…。


「コワいよ…コワいよ…」


「タ…タケルちゃん…ゴメンね…。」


「済まない…白銀。」


恐怖の特等席で、ずっと脅えていたタケル。
途中から入ってきた香月博士達の登場のおかげで、解放される。



「ヨシヨシ…」


「な、泣くな…白銀中尉…」

余りの恐怖に、PXの隅っこで、しゃがみながら泣くタケルを、霞・沙耶・クリスカが慰める



しばらくして---
やっとタケルが元気を取り戻して、香月博士と共に来た椿達を純夏に紹介する。



(タケルちゃん…随分と女の人に囲まれてるよぅ…。)


紹介する人全てが女性とあって、流石の純夏も危機感を感じる

すると、香月博士が純夏の考えを察し、純夏の耳元で呟く。


(安心なさい、鑑。
今、殿下が白銀のハーレム…ぢゃなくて、幸せを与える為に動きがあるのよ。)

(ハ、ハーレムゥゥゥッ!?)


『ハーレム』と言う言葉を聞いて戸惑う純夏。
香月博士も面白がって、更にとんでもない爆弾発言を口にする。


(今、法律を改正して、一夫多妻制にする動きがあるのよ…。
そうしたら、みんなで白銀を仲良く好きになれるのよ?)


(仲良くするのは良いけど…なんか複雑だよぅ…。)


(良いぢゃない、一夫一妻制だったら、下手したら鑑が結ばれない可能性があるのよ?
それに比べたら、確実に結ばれる方を選んだ方が得よ?)


(う゛っ…確かに…。)

香月博士の甘言に段々と洗脳されていく純夏。
香月博士も『あと一歩ね』と更に追い討ちをかける。


(さっきの月詠中尉も、白銀の『第一婦人』を狙ってて、さっき鑑に対抗心ぶつけてたのよ~。)

(そっ、そうだったんだ…)


すっかり洗脳完了されてしまい、香月博士の話を信じきってしまう。




「…なんか嫌な予感が…。」


「何故だろう…さっきから、私をチラチラと見てるのは…。」


香月博士がまた何かを吹き込んでる事に不安になるタケルと真耶
この事が知るのは少し先だったりする。


「先生…いい加減純夏に変な事、吹き込まないで下さい。」

「何よ白銀~。
これからが良い所なんだから~。」


「純夏、先生に言われた事で、変な内容は全て記憶から消去しろ。」


「えっ?え゛っ?」

少し混乱する純夏の為に、話題を変える事にする

「純夏クン…キミに特殊任務を授けようではないか。」


「特殊任務~?」


突然タケルの言う事に先程の混乱が吹き飛んでしまう純夏。



「任務は簡単だ…
其処に居る霞・クリスカ・イーニァの『友達』になる事が任務だっ!!!」


グワッとした表情で任務内容を公開するタケル
すると、純夏がポカーンとした表情でタケルを見る。


「友達になる事が任務~?」


「そうだ、三人には友達が少なくてな…ちょっと寂しいのだよ。
其処で、純夏クンの持ち前の明るさで彼女達をハッピーにしたまえっ!!」

ふざけながら純夏に霞達の『友達』になる事を頼むタケル
こうする事で、三人が表情豊かになって、元気になると考え、純夏を選んだ。



すると、純夏は霞をジロジロと見る…



「----可愛いいよぅ~♪」


「…えっ?」

突然霞を抱き締める純夏。
すっかり霞を気に入ったようで、安心する



「霞ちゃんって言うんだ?
こんな可愛い子なら、タケルちゃんの頼みじゃなくても、友達になるよ~☆
むしろ、妹にしたいぐらいだよ。」


「か…可愛い…!?」


純夏の猛烈なアタックに霞が真っ赤になるのを見て、ウンウンと見守る白銀親子


「ええ…と、どっちがクリスカさんで、どっちがイーニァさんかな?」


「わ、私がクリスカ・ビャーチェノワだが…?」


「イーニァはわたしだよ、スミカ」



「そっか、私は鑑純夏って言うんだ。
これから宜しくね♪」


二人の手を掴み、握手をする純夏に戸惑うクリスカ
すると、イーニァの表情が明るくなる。


「あったかいいろ…。
タケルより、あったかいいろが、いっぱい…。
イーニァやクリスカやカスミまで、あったかくなる…。」


純夏に抱きついてくるイーニァを優しく頭を撫でる純夏。
クリスカも一緒に抱き寄せて一緒に頭を撫でる


「なっ…!?」


「私に任せなさい!!
みんな纏めて友達にしちゃうんだから♪」


戸惑うクリスカだが、純夏の好意に嫌な感じは無く、むしろイーニァと同じ気持ちで接している自分に驚いていた。




「--凄いな…彼女は…」


「コレが純夏の一番の取り柄ですよ。」


霞達と同じESP発言体の沙耶も純夏の存在に驚いてしまう。
此処まで母性愛や包容力を持つ人物に始めて出会い、孤独だった霞達の心を解放する純夏の力。
無邪気でこの場の空気すら一変してしまう程の存在感に驚愕する。

そして、それを一番知っているタケルが行った一手は、彼女達の心を開くには、まさに最良の手段だった。


しかし---此処で予想外な出来事が起こってしまう




「スミカもタケルに『おひめさまだっこ』してもらった?」


「お、お姫様抱っこっ!!?」


「ウン、クリスカもイーニァも…みんなだっこされた。
スミカはだっこされた?」


この瞬間---PXの周辺に圧倒的な殺気が充満する!!


「タケルちゃん…。
私が寂しい思いしてる時に、そんな事してたんだぁ…?」


「ちょ…ちょっと待って純夏!?
コレにはちゃんとした理由が…!!」


幽鬼のようにユラユラと歩きながら、紅い眼光を発しながら、歩いて来る純夏を必死で説得するタケルだが、既に遅し。
両拳を顎の下に構えながら、テンプシーロールを描き出す。


「ちょっ…待て---」


「どりるみるきぃ~~~~ぱ~んちッ!!!」


「ぶへらっ!!」


必殺の右を放ち、タケルを天高く飛ばす!!



「「「え゛え゛ぇぇぇっ!!!!?」」」


その光景を始めて見た真耶達。
白銀夫妻は『飛んだわねぇ…』『飛んだなぁ…』と何時ものように眺めていた。
香月博士も、大爆笑しながら転がっていたりする。


後に電離層まで到達し、落下し、無事で帰還するタケルを『やっぱり…超人?』と見たり、
そのタケルを電離層まで飛ばした純夏の事も『…BETAも飛ばせるのでは…?』と思ったりするのだった…。



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ第十一話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:a7bee6ac
Date: 2010/09/28 00:05
1998年・1月17日
京都・帝都城----



「あ゛あ゛~…酷い目に合ったな…。」


「フフッ…お疲れ様、白銀中尉。」


京都・帝都城に戻って来たタケル達。
香月博士から預けられたXM3のデータと、搭載された不知火一機を『おみやげ』として持って帰って来た。


エルヴィンの開発に関しては、『もう少し待ってくれ』との事で、今回は新型機のテストは無かった。



そして今日の午前中に、純夏の国連軍入りは済み、今日から白陵基地での生活が始まる。



元々、この世界の純夏の両親は、父親は衛士として死亡し、また母親は白陵基地の給仕として働いてた為、都合は良かった。


純夏の母親には、香月博士から説得され、少なくとも、今年一杯は衛士としての勉学に励む事になり、来年からは、神宮司軍曹の下で訓練兵になる予定だ。



「まぁ…純夏のそばには霞やクリスカ達が居るから、大丈夫か…。」


「心配ですか?」


「そりゃあ、幼なじみですから。
いっつも一緒にオレが居たからいいけど、今は離れてるから、アイツなりに寂しい思いしている筈ですから。」


「まぁ、ちゃんとわかってるのですね。」


「うーん…わかってる…というか…。
最初の頃のオレがそんな感じでしたからね…。」

「なる程。」


椿達と話しながら、部隊のみんなの待つ部屋に入ると----





『おっかえり~~♪
おっ、コイツが噂の天才衛士様か、椿?』


『コラコラ、『孝志』落ち着かんか…。』


部屋に入ると突然見知らぬ男性に迎えられるタケル。
しかし、どうやら椿達は知っているようだ。



「九條少佐…この方達は…?」



「この方達は、同じ第17大隊の第2中隊の者でして
此方の方が第2中隊の隊長の『斉御司政弘』大尉と、此方の陽気に迎えた方が同じく第2中隊の突撃前衛長の『崇宰孝志』大尉です。
お二人共、私と同じ『五摂家』の出身の者です。」


椿から紹介された、先程の男性2人。
五摂家出身の者と判明し、驚くタケル。



「へぇ~…それにしても、五摂家の方にしては…随分と陽気な方ですね。」


「孝志は崇宰家始まって以来の『問題児』でな…
本来、五摂家の出身としての教養を、悉く抜け出して、一般人のような振る舞いをしてるのだ…ハァ…。」



「いいぢゃん、崇宰家の当主は既に『隼人』兄さんが継いでるんだ。
兄さんだって『好きに生きるがいい』って言ってるんだ、こういう性格でいくさ。」


頭を悩ます政弘と、あくまでも陽気な性格を貫く孝志
そんな2人を見てタケルは『…五摂家も色んな人居るんだな…』と納得する。



「ええと、俺はつい最近入隊した白銀武中尉です。
宜しくお願いします。」

やはり最初は礼儀正しく…と接したタケルだが…


「堅苦しい挨拶は良いよ、タケル
もっとリラックスに行こうぜ?」


「コラ、孝志!!」



「…いいの?」


「OK」


孝志の接し方に安堵して、いつもの『馴れ馴れしい』タケルに戻る。
それを見て真耶と政弘は『問題児が2人になった…ハァ…』と溜め息を吐く。


「いやぁ~…良かったぁ~…。
こう…本来の喋り方が出たら失礼だしな~…って気をつけながらしゃべってたんですよ~。」


「だよなぁ~。
けど、この隊の中やプライベートな時は普段の接し方で良いぜ、タケル」

「ありがとうございます、孝志さん。」


『仲間が出来たぁ~!!』と喜ぶ孝志を見て『ヤレヤレ…仕方ない』と苦笑いをする政弘。
その様子を椿と沙耶はクスクス笑いながら眺めていた。


「斉御司政弘大尉だ、宜しく
プライベートの時は政弘で良いが、頼むから部隊内の時は『斉御司大尉』で呼んでくれ。」


「わかりました、斉御司大尉。」


政弘と握手をするタケル。


「父から白銀中尉の話は聞いている。
『天才衛士』と呼ばれる程の腕前で、先日第1部隊を殆ど一人で撃破したらしいな。
しかも九條少佐まで撃破したと聴いている。」


「嘘ォォッ!?
タケル、椿を倒したのっ!?」


「ハハハ…沙耶大尉には負けましたけどね…。」


椿を撃破したタケルに興味津々の孝志と政弘。
当のタケルは苦笑いをするしかなかった。



「タケル、今度俺と勝負するぞっ!!」


「良いですよ、孝志さん。
けど油断してたら、突撃前衛長の座を奪っちゃいますよ?」


「面白ぇ…いい度胸だ、タケル。
あ゛あ゛っ…!!任務帰りじゃなきゃ、今すぐ挑んでるのにっ!!」


タケルとの勝負をウズウズしてる孝志を見てタケルは『この人も速瀬中尉と同じタイプか…』と悟る


「よぉしっ!!
じゃあ、今日は仕事が終わったら、タケルんちで打ち上げするぞっ!!
椿達も来いよっ!!」


「え゛っ?」


孝志の言葉を聴いて『何故私の家で…?』と心の中で呟く真耶


「あの…オレ、今月詠中尉の家で居候してる身なので…。」


「えっ、そうなのか?
それは確かに、月詠中尉に悪いな…」



(ホッ…)


『家での打ち上げを避けれた…』と安心する真耶だが----


「ヨシ…可愛いお姉さんの居るお店でも探して…」


「ちょっと待って下さい、崇宰様っ!!」


『ソイツは駄目だッ!!』と全力で阻止する真耶
結局は月詠家で『少人数だけならば』という条件で打ち上げされる事になった…


「只今帰った。」


「お帰りなさいませ~…アラアラ~?」


月詠邸に到着するタケル達。
タケル達の帰りを待っていた、やちるが迎えに来ると、数人のお客を見て少し驚く。


「真耶様、お客様ですか~?
電話の一本でも、寄越してくれれば、準備しましたのに~。」


「済まない、やちる。
急な事でな…。」


「お邪魔しま~す♪」


「「「お邪魔します」」」

「ただいま…やちるさん。」


車から買い物袋を持って来る椿達。
タケルだけ買い物袋の量が多いのは、お約束だ。

「アラアラ、タケルさん。
凄い買い物袋の量ですね~…。」


「た…助けてくれると…大変嬉しいです…。」


タケルの持つ買い物袋を少し持ち、一緒に運ぶやちる。
そして、中に入り、居間に荷物を置くと…。




『なんだ、随分と騒がしいな?』


「おや?『真那』ではないか。」


タケル達の居る居間に『月詠真那中尉』がやってきた。


「お久しぶりですね、真那さん。」


「こっ、これは…椿様に沙耶殿…。
そ、それに斉御司政弘様に…崇宰孝志様までっ!?」


「こんちや~す」


「お邪魔してます」


五摂家のメンバーに驚愕し、思わず跪いて、頭を下げる真那。


「な、何故皆様方が、この屋敷に…?」


「…打ち上げをするそうだ。
主にそこの居候のおかげでな。」

「ええっ!?
オレのせいですかっ!?」

いきなり、悪者扱いにされてしまうタケル。
真耶も疲れてる中でのドンチャン騒ぎをされる為、少し不機嫌になる。


「…貴様が噂の白銀武中尉か…
なにやら色々と『変な噂』が流れてるぞ?」


「…もしかして、例の『婚約者』の話ですか…?」


恐る恐ると真那に質問するタケル。
真耶も不安げに話を聞く。


「それも有る。
真耶や椿様を撃破した話も聞いたが、他には『殿下のお気に入り』とか、現在殿下の法の改正案の一つに『一夫多妻制』の原因が貴様に有るとか…
もう既に『嫁候補が多数居る』とか…
あと…その中に真耶が入ってるとか聞いてるぞ…?」



真那の衝撃の発言に撃沈するタケルと真耶
勿論、この噂を流したのは香月博士であり、真実だから、尚タチが悪かった。


タケルと真耶が『またか…』と…深く落ち込み、Ⅲorz状態になる。


「すっげーな…タケル。
まさかハーレムを築く気とは…さすがだぜ。」


「…タケル、一応父から話は聞いてるから、誤解はせんが…お気の毒に。」

「あはは…恋愛原子核のバカヤローーーーッ!!
先生の馬鹿ぁぁぁっ!!」

慰める政弘の言葉すら届かないタケルは、庭から見える夕陽に向かって吠えるのだった…。




そして、既に深夜になり、打ち上げもお開きになり、眠りにつく事になった。
椿達や孝志達も、迎えの車に乗り、各自自分の家に帰る。



「オヤスミな、タケル
明日から頑張ろうな~♪」


「ハイ、孝志さんもお気をつけて」


五摂家の四人の中で、一番シラフに近かった孝志を見送るタケルと真耶・真那。



「たぁけるぅ~…ヒクッ!!
まだまだぁ飲むぞぉぉっ!!」


「…大丈夫ですか、政弘さん?」


そして、五摂家の四人の中で、一番酔っ払っている政弘が、普段とは違う面を見せていた。



「政弘は酒に弱いから、いつもこうなんだよ…。」


「大変ッスね…。」


酔っ払ってる政弘を車の中に押し込んで、出発させる孝志の手際の良さを見て、『大変だなぁ…』と同情する。



「オレも帰るわ、じゃあ、明日な~♪」


「お気をつけて。」



孝志を見送り、五摂家全員の帰りを見送りを終える


「さてと…後片付けをしないと…」


スタスタとタケルが屋敷に入った後、真那が真耶に近寄る。



「…変わった男だな。
馴れ馴れしい奴ではあるが…何処か憎めない所がある。」


「あれが白銀武の持つ魅力…なのかも知れないな。」


去ったタケルの事を話し合う二人
少しだが、真那がタケルの事を興味を持つ


「魅力…か…。
そんな魅力に真耶も惹かれたのか?」


「真那っ!?」


「フフッ…何を慌ててる?
別に良いことではないか。
あの真耶が男に興味を持ったのだ…違う意味で興味が出て来る。」


『フンッ…』と拗ねる真耶を見て、真那はクスクスと笑いながら、タケルに注目する


「さて、私も明日は早い。
今日は偶々、紅蓮大将から休暇を貰い、羽を休める事が出来た。
明日から再び冥夜様の護衛をしなければならないのだ、私は眠るぞ。」


「………フン」


真耶を置いてくように、屋敷に入る真那
その姿を見て真耶は益々機嫌を損ねる。





「さてと…明日は早いから、サッサと寝るかぁ~。」

「そうだな」


「………………………ハイ?」


ガラッと襖を開けて、後は寝るだけのタケル、
布団に入ろうとすると、いつの間にか、隣に浴衣を着て眠る準備をしていた真耶の姿があった…


「…ええっ…と…ナニヲシテマスカ?」


「寝る準備だが?」


「…此方…オレの部屋デスヨネ?」


「そうだが?」


未だに何故真耶が隣に座ってるのかを判断出来ないでいるタケル。


「ここ…オレの寝る布団デスヨネ…?」


「うむ」


「真耶さんは…何処に寝るんですか…?」


「隣だが?」

「………………えっ?」


真耶の返答を聞き、『何のフラグ…これ?』と混乱する。



「さあ、寝るぞ。
明日はお互いに早いのだからな」


「えっ…?」


そのまま電気を消し、タケルを押し倒すように寝かせ、一緒に眠る真耶。
その後、正気に戻ったタケルの質問に対しての返答に、『…私の隣は嫌か…?』とか『噂の責任を取れ』とか言われ、KOされるタケル。
しかも、逃がさないように抱きながら寝てる為、退路を塞がれてしまう。


そして、朝-----





「………うわぁ…」


「…な、なんと…
ここまで進んでたとは…。」


昨夜のお酒が効いてたのか、普段起きる時間を寝過ごすタケルの部屋に来たやちると真那。
しかし、部屋の襖を開くと……浴衣が脱げて、ほぼ裸に近い格好の真耶が、タケルを抱き締めながら眠る姿を見て硬直する…



「やちる…祝言を挙げる準備をしといた方が良いようだ…」

「そうですねぇ…」


後に『婚約者』の噂が真実とされてしまい、大変な目に遭うタケルだった…



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ第十二話①
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:a7bee6ac
Date: 2010/10/04 14:38
1998年・2月5日---
京都・帝都城---




「クッソ~!!
またタケルに負けた~!!」


模擬戦闘での訓練で、椿率いる第1中隊と、政弘率いる第2中隊の対戦をしていた。


タケルに負けて悔しがる孝志を政弘が宥める姿は、最早いつもの光景になっていた。


XM3が完成し、今現在は斯衛軍・帝国軍・白陵基地所属の国連軍の約二割程が搭載されていた。


XM3の存在に歓喜した帝国軍と斯衛軍の衛士達は、自分の機体に搭載されるのを、今かと待ち望んでいた。



そして、XM3の開発が帝国・極東国連軍のもので、斯衛軍の一人の衛士が発案者と情報が流れたおかげで、帝国内部の頭のお堅い連中の考えを少し変えるきっかけにもなった。



そして今、そのXM3を搭載し、タケルが教官となり、教えた第1・2中隊の模擬戦闘をしていた。


結果は第1中隊の勝利。
やはり、XM3の経験の長さと、タケルの変態機動に付き合って、メキメキ腕を上げた結果だった。


第1中隊の皆が言葉を揃えて語る…
『あれ…もはや人間技の領域を超えてるから…』

彼等もやはり、タケルの『恐怖の全力変態機動』の犠牲者であり、何度となく、エチケット袋に御世話になった事か…
そして、歩けない衛士達はタケルにオンブ(お姫様抱っこは沙耶に止められた)して降りる羽目になった。


そして、オンブして降りる際、男性衛士は別に問題は無いが、女性衛士がオンブされた際、顔が赤くなるという現象が発生した為、男性衛士達は悔し涙を流しながら訓練に励んだのは言うまでもない。



そんな事もあり、第1中隊のみんなは、メキメキと成長し、実力を上げていった。



「白銀中尉…
普通、あの一騎打ちの際に、『ジャイアントスイング』をかけるか…?」


「いや…普通に挑んでも面白くないし…。」


「そういう問題!?」


呆れる政弘の質問に、当然のように答えるタケル
そして、ジャイアントスイングをされて敗北した孝志はタケルの返答に驚く



孝志との一騎打ちの際---
タケルが、真耶戦のと同じように、タックルをかまして、孝志機の両脚を掴み、気分良くブンブンと回し、ぶん投げる。



勿論戦術機の方で、自動的に受け身をとり、体勢を立て直すが、中の孝志は目を回していた為、その隙にKOされる。


その行動を見て唖然としてた第2中隊は、その隙を突かれ、致命的な損害を受ける。

第1中隊曰わく---
『いつもの事だし、まだ優しい方だよ?』…だそうだ…。




「いやぁ…もしこれがシミュレーター訓練なら、『もず落とし』を出してたのに…残念。」


「…何…もず落としって…?」


「相手の背中に回り込んで掴み、上空に飛んでから、真下に回転しながら落ちる技」


「「…………」」



タケルの言葉を聞いて言葉を失う政弘と孝志
当の本人は、本当に残念そうにしていた。




この後、整備長にこっぴどく怒られ、スパナをナイフスルーで投げられ、タケルの頭に命中し、大きなタンコブを作り、みんなに笑われる事になる。


「しっかし、オレの時はアレだったけど、政弘の時のタケルの攻撃は凄かったな。」


「ああ…油断して部隊が危機に陥った時、白銀中尉の接近を許すとは…
まだまだ未熟だな…。」

政弘は、タケルのジャイアントスイングで茫然とした際、椿達の強襲を許してしまい、タケルから視線を逸らす。


その隙を突いたタケルは、巧みに障害物に隠れながら、噴射地表面滑走で政弘の背後に回り込み、接近する。


政弘がタケルに気づいた時は既に遅し。
長刀を構えたタケルが、すぐ其処まで接近していたのだ。


政弘も長刀を抜き、タケルの接近戦に備える。
そして、二人の長刀が鍔迫り合いになった瞬間に--勝負は決まっていた。



お互いの長刀がぶつかり合った瞬間---
白銀機の膝蹴りが政弘機の腹部に入り、動きが止まる。


その僅かな隙を突いて、腕部のナイフシースを展開し、短刀を抜き取り、コクピットに一突きし、撃破判定を貰う。



「あの流れるような入力と動作。
膝蹴りの後の素早い短刀抜刀からの一突き。
…まったく…見事と言うしかあるまい…」


グウの音も出ない程の攻撃を喰らい、タケルに『見事』と誉めるしかなかった。



「流石は紅蓮大将や神野大将に鍛えられてるだけはある。
あの方達に中破判定を与えた事の有る者は、白銀中尉以外は誰も居ない。」


「オレ達ですら、せいぜい少破判定が良い所だ。」


「…いや、あの二人は反則以上の存在だから…。」


ヒクヒクと顔が痙攣するタケル。
タケルが紅蓮大将と神野大将に鍛えられてから半月が経つが、あの二人のチートっぷりに、流石のタケルも勝てる気はしなかった。



紅蓮機は基本長刀による攻撃だが、真なる強さは『無手』になった時こそ、発揮するのだ。
タケル以上のインファイトで、正拳・回し蹴り、なんでもござれで、仕舞には、胸部から光線(整備兵の話によると、光線を放つ装置なんて付けて無いらしい…)を放ち、ビルをも破壊する威力だ


神野機も、基本は薙刀の攻撃だが、36mmの弾丸スピードでさえ、薙刀を回転させて弾いて防ぐ


タケル曰わく--
『なんで戦術機で光線放ったり、36mmを防げる回転って…おかしくね?』…と二人に文句を言った所、二人の返答は『気合いぢゃ!!』の一言で済まされたらしい…。




「…オレ…あの二人に勝てる日が来るのかな…?」


「うーん…」


「………」


タケルの一言に返答出来ないでいる孝志と政弘。



「お疲れさん、また面白い戦いをしてるわね~♪」


「せっ、先生に…エルヴィンさん!?」



すると、タケル達の前に、香月博士とエルヴィンが現れる。


「どうしたんですか、先生?」


「私は殿下に用事が有ったのよ。
その用事を終わらせて、今ハンガーに来てアンタに会いに来たって訳。
エルヴィンは、例の不知火の改良機を持って来たのよ。
そして、そのテストパイロットとしてアンタを探してたって訳。」


「そういう事だ、シロガネ中尉。
今回は改良機をキミの機動で『イジメて』くれ
其処から得られるデータを元にして更なる改良をしたいのだ。
キミの機動に耐えられるならば、他の衛士達が使っても充分に耐えられるって事だからね。」


「あっ、ハイ、わかりました。
休憩後に早速テストします。」



「済まないね、頼むよ。」


以前話に有った不知火の改良機のテストパイロットをする事になったタケル。
そんな話を聞いて『タケルすげーな…』と尊敬する孝志と、興味津々の政弘




「あれが不知火の改良機か…」


「見ろよ政弘…
肩部が『肩部スラスターユニット』が着いてるぜ?」


「ウム、あと脚部にもなにやら付いてるぞ。」



梱包していたシートを剥ぎ取られ、注目の的になる不知火・改良機


以前話に有ったように、肩部に『肩部スラスターユニット』を装備し、脚部にも『脚部スラスターユニット』を装備していた



「あれ?随分変わったジャンプユニットですね?」


「ああ、あれは脚部スラスターユニットと同じく、新開発したモノだ。
本来、ジャンプユニットには『ジネラルエレクトロニクス・YFE120-GE-100』を使用する筈だったが、XM3が完成した際に、君の機動特性を見てから、考えを改めて、変更したのだよ。」

変更したジャンプユニットに就いて説明するエルヴィン。



「今回開発したジャンプユニットは、『二連式ジャンプユニット』の『TE180-A-01』と言ってね、扇状にスライドして使用する新しいジャンプユニットなんだ。
主機の上に半分程の長さのジャンプユニットを取り付け、扇状にして使う事により、本来の出力を上回るスピードを出す事に成功した。
勿論戦闘の邪魔にならないように、ちょっと小さくした事により、戦闘の邪魔にもならず、重量の問題もクリアした。
…とは言え、まだ『完成品』ではないのでね、それを兼ねてテストをしたいのだよ。」


『なる程…』と納得するタケル
新たな開発をウキウキする気分で待ち望んでいた。



改良機のテストプレイの準備をし、再びコクピットに搭乗するタケル。
そして、その様子を椿達も一緒に見学する。



『白銀、始めて頂戴。
アンタの機動を見せつけてやりなさい。』


「了解!!」


返答を返した後すぐにカウントが始まり、スタートの合図と共に全力噴射をする。


障害物を使った三角飛びからの倒立反転。
反転中、キャンセルを入れて、着地し、しゃがみながら噴射地表面滑走をする。


「グウ…ッ!!
まだまだァァァッ!!」


しゃがみ噴射地表面滑走から、機体を捻り、低空での反転最中にナイフシースを展開し、抜刀して短刀装備する。
着地と同時に肩部スラスターユニットと二連式ジャンプユニットを全力噴射し、右側に噴射地表面滑走をしながら急旋回する。




「…相変わらずアイツの変態機動はデタラメね…
益々進化してきてるじゃない…。」


呆れながらタケルの機動を見る香月博士
タケルの機動が益々磨きがかかってる為、もはや『凄い』を通り越して、『呆れる』しかなかった。


「まだまだァァァッ!!」


予想だに出来ない機動を繰り出す姿を見て、言葉を失う椿達




「すげぇよタケル…
チクショウ…必ずあの機動をモノにしてやる…!!」


「ブラボー!!
流石はシロガネ中尉だっ!!」


そして、予想以上の機動を見て、目を輝かせる孝志とエルヴィン。


「なかなかの結果ね…
あとは、あの機動を生かせるように、武装を強化するだけね。」


タケルのテストプレイを見て手応えを感じる香月博士。
そして、次の段階に進む事を考える。





「ふぅ~…」


少し疲れた表情を見せるタケル
そばに沙耶や孝志達が集まり、歓喜する所に香月博士が近寄って来る。


「お疲れ様~、貴重なデータをバッチリ取ったわ。」

「あれ、エルヴィンさんは…?」


香月博士のそばにエルヴィンが居なかったので、探すタケル
しかし、香月博士が指を指す方角を見ると---
またブツブツと独り言を呟くエルヴィンの姿があった。



「ふむふむ…やはり関節部の蓄積ダメージが溜まり易いか…。
脚部スラスターユニットや二連式ジャンプユニットのデータもまずまずの結果だ。
このデータを生かして、更なる改良をしなければ…!!」


テストプレイの結果のデータを見て、自分の世界に入り込むエルヴィン
その表情からは、まずまずの結果が出たと読み取れた。


「とりあえず今回はこれで終わり。
エルヴィンはこの後すぐに帰るけど、私は一泊していくわ」


『一泊する』と言った際、タケルにアイコンタクトを送る香月博士。
タケルもその意味を悟り、この後の予定が決まる。



「今日は月詠中尉の家に泊まり込むから、宜しくね、白銀。」


「…お手柔らかにお願いします、先生…」



何気ない会話をするタケルと香月博士だが、この意味を知る者は、椿と沙耶しか居なかった。



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ第十二話②
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:a7bee6ac
Date: 2010/10/04 14:47
月詠邸~


「アラアラ、美味しいじゃない。
白銀、アンタ結構贅沢してるわね~。」


月詠邸で一緒に晩御飯を頂く香月博士。
やちるの手料理が気に入り、パクパクと食が進む。

一緒に同行してた椿や沙耶も、幸せそうな表情で食事をする。



「ご馳走さま~。
本当に美味しかったわ~♪」

「ありがとうございます。」


香月博士に絶賛されて、喜ぶやちる。
その姿を見て、嬉しそうな表情になる真耶。



「先生、そろそろ『大事な話』しませんか?」


「別に良いけど、ちょっと待ちなさい、白銀。
今此処に『二人程お客』が来るから、その時に話すわ。」


「わかりました。」



『大事な話』という言葉に反応する真耶・椿・沙耶の三人。
すると、良いタイミングで、玄関から声が聞こえる。



「ハイハイ、ちょっとお待ち下さい。」


パタパタと玄関に走って行くやちる。
『来たか』と呟く香月博士を見て、『お客』が来た事を悟る。




「真耶様・香月様、お客様が来ました。」


「やちる、済まないが客を上げてくれ。」


「お願いするわ。」


「畏まりました。」



再びお客の下にパタパタと走るやちる
そして、やちるの案内と共に『お客二人』がやって来る。



「夕…香月博士…
随分と探したんですけど…?」


「ゴメンね~、まりも♪
あと、おかえり『伊隅』
無事帰って来て何よりだわ。」


月詠邸にやって来た『お客二人』---
それは、神宮司軍曹と『伊隅みちる大尉』だった。


「帰って来た途端『京都の帝都城に来い』と命じられ、来てみれば…
博士を探してる軍曹に出会い、しばらく探しましたよ…?」


「殿下との大事なお話をしてる間に、人に用事押し付けて、終わらせて戻ってみれば…いつの間にか居なくなってるし…。
ハンガーに居るとエルヴィン殿から聞いて来てみれば、今度は整備長から『伊隅大尉と一緒に、月詠邸に来て頂戴』だもの…
博士の『護衛』として来てる私の立場も考えて行動してくれませんか?」


ガミガミと香月博士に説教をするまりも
しかし、当の香月博士は反省の様子は無かった。

そして、同時にみちるが登場した事で、タケルは『光州作戦』が終了した事を理解する。



「それで伊隅、作戦はどうだった?」


「ハッ、今回の『光州作戦』は成功致しました。
かなりの犠牲者は出ましたが、それでも退却戦としては、大成功
民間人の撤退は無事終わり、任務も成功しました」


「そう、それは良かったわ。
そういえば、今回の光州作戦で『彩峰中将』などの高官達は無事なのかしら?」


「ハッ、その事に関しても、無事生還致しました。
…ただ、彩峰中将に関しては、危うかった所でした」


「というと?」


「彩峰中将の率いる部隊が突如、避難を拒む民間人を救出する為に、本来の持ち場から離れてしまい、危うく国連軍司令部が陥落する危険性がありました。
しかし、前もって待機してたオーディン隊が代わりに入り、我々が到着するまで持ちこたえました。」


「彩峰中将の事は殿下から聴いたわ。
今回の事で、彩峰中将は厳重な処分を受け、准将に降格される事になったらしいわ
降格程度に収まった理由として、避難を拒んだ民間人を救出し、尚且つ多くの大東亜連合軍の将兵達を救った事により、降格に止まったらしいわ」

みちるや香月博士の会話を聴いて、『光州作戦の歴史』を変える事に成功した事を知るタケル達
タケルの心の中で、ホッと安心する。


「…あと、今回の作戦で、オーディン隊と我々の部隊にも被害が出て、四名もの隊員が病院送りになりました…。
死亡者が出なかった事自体は喜ばしい結果でしたが…少なくとも、二人は隊復帰は無理でしょう…。」


「…そう、死ななかっただけでも、まだマシよ。」


少し暗い表情になる香月博士だが、直ぐに表情を戻し、笑顔な表情でみちるの無事の生還を喜ぶ。


「とりあえず、アンタの無事な生還を知って安心したわ。
アンタにはまだまだ働いて貰わないといけないからね。」


「博士の下に着いた時から、こき使われる事は覚悟してますよ。」


冗談交えながら、笑う二人
そして、次の話に進みだす


「伊隅に紹介するわ。
其処に居るヤツ、斯衛軍の白銀武中尉なんだけど、私達の『計画』の重要人物の1人だから、今後アンタとも付き合いがあるから、覚えておきなさい」


「ハッ、私は国連軍所属の伊隅みちる大尉だ。」

「白銀武中尉です。
お互いに先生に苦労する者同士なので、宜しくお願いします。」


「ふっ、そうだな。
お互いに頑張ろう」


お互いに自己紹介する二人
香月博士の『犠牲者』として、ガッチリと握手し、仲間意識を高める。



「ちなみに、白銀に固っ苦しい事はしなくてもいいわ
私がそういうのキライなの知ってるから、馴れ馴れしく接して来るから、伊隅も部隊内の奴等と同じように接すれば良いわ」


「は、はぁ…了解しました。」



少し呆然とするみちる。
良く見ると、タケルと香月博士の接し方を見て『なる程』と理解する。



「ぐは~…今日は疲れた…。」


自分の部屋の真ん中で、ごろんと寝転がり、大の字になる。



みちると『再会』し、感涙しそうになるタケルだったが、涙をこらえて平然と装っていた。



その後、タケルはみちるに『温泉作戦』を教えると、滝のように感涙したみちるは、タケルに人生最大の感謝をした後、香月博士の下に行き、休暇を数日貰う
その後直ぐに電話を借りて、想い人・前島正樹に連絡を取り、秘密のデートを約束する。



その際、『みんなには内緒よ。
もし…バレたら…わかってるわね…?』とか
『必ず休みを取りなさいよ、取らなかったら…フフッ』とか、なにやら死亡フラグが満載な会話が聞こえるが、気にしてはいけないと、自分に言い聞かせるタケル。



そして、遂に香月博士や沙耶に『真耶と一緒に寝てる』事がバレてしまい、血の涙を流しながら悔やむ沙耶と、『やるわねぇ~♪
鑑達が知ったら、どう反応するかしら?』…などと、タケルに死亡フラグを立てようと企む香月博士に、素晴らしい土下座をして、『止めて下さい、まだ死にたくないです。』と説得する(結局は後々にバレる事になる)

そのせいもあって、今夜は沙耶も同伴する事になり、『どちらが先に白銀の子を宿すかしら~?』…などと香月博士が言った為、二人の闘志が燃え上がる。




「オレ…みんなを守る前に生き残れるかな…?」


違う意味で自分の将来を不安に思うタケル。
そんな事を考えると、部屋に香月博士がやって来る。


「だらしない格好で寝てるわね~…」


「誰のせいですか、誰の!!」


「アンタ自身に決まってるじゃない」


「グハッ!?」


KOされるタケル。
『やはり先生には適わないのか…』と呟く。



「真面目な話に移すわよ。
とりあえず、この部屋には誰も近づけないように、まりもと伊隅に『見張り』をさせたわ」


即ち、『まりもとみちる』には、この会話を聴かせない為の処置として、『見張り』という理由を作り上げ、自分達の下に近づけないようにする。


「光州作戦に関しては、さっき話した通りよ。
そして、『彩峰中将』の行動のおかげで、アンタの『未来の話』を信じる事に繋がったわ。」


「そうですか」



「次は『BETA本土上陸』よ
…けど、流石に今回はそう都合の良い方向に未来を変える事は出来ないわ…」


「どういう事ですか!?」


衝撃的な発言に驚愕するタケル。
そして、香月博士の口から驚愕の事実を告げられる。


「流石に今回は分が悪いわ…。
今、日本における戦力で、強襲して来るBETAの『物量』を防ぐ術は無いわ。
例え、日本全ての戦術機にXM3を搭載して戦っても、『勝てる』とは限らない。」



「理由を教えて下さい…」


ゴクリと息を呑みながら、『理由』を問う。


「アンタも知っての通り、XM3があるからと言って、BETAに『勝てる』とは限らないわ…
出来るならば、簡単にハイヴを攻略しまくってるわよ。」


香月博士の返答に賛同するタケル
『BETAを甘く見てはいけない』と知ってるからだ。


「奴等の最大の武器は『物量』よ
今回のBETAの数は、数万・数十万と考えて良いわ。
どんなに急いだって、XM3の搭載率は『良くて八割』が良い所
悔しいけど、時間が足りないわ…」



「そんな…」



絶望的な発言に唖然とするタケル
しかし香月博士の発言はまだ止まらない。


「次に『佐渡島・横浜ハイヴの問題』
…残念だけど、この2つは、変える事は出来ないわ…」

「何故ですか!?」


「勿論さっきの戦力差の問題も有るけど、あまり『未来』を変えると、今後の作戦に支障が出て来る可能性もあるわ。
理由は簡単、『未来』をホイホイと変えたら『何も』起こらないと思う?」

香月博士の問いに対しての沈黙するタケル…
それは『否定』の意味をしていた。


「答えは『NO』
変えたら、変えた分だけ『代用品』を寄越して来るのよ。
現に『一度目の世界の未来』を知ってるアンタは『二度目の世界』で歴史を変えた。
その為『代用品』として『12・5事件』等の未来を呼ぶ結果になったわ…」


「…つまり、迂闊には『未来を変える事』は出来ない…って事ですか?」


「そうよ。
だから『全て』を変えるんじゃなく『一部』を変えるのよ。
変えた分だけ『代用品』を寄越して来るなら、『一部』の方が被害は少なくすむわ
今回の彩峰中将の結果もそう。
『一部未来を変えた結果』、彩峰中将の処分も『死罪』から『降格』に変わったわ」


香月博士の言ってる意味を理解するタケル
すると、香月博士の表情がニヤリと笑みを浮かべる

「今度の『BETA本土上陸』の変更点は『鑑純夏の死守と白銀武の生還』よ。
勿論、その時はアンタは戦場に出て戦う事になるけど、絶対に生還する事。
そして、鑑を守り抜く為にも、アンタは生還し、尚且つ鑑を逃がす『時間稼ぎ』をしなければならないわ」


「なる程…わかりました、先生」


『当面の目標』が出来て、やる気を出すタケル。
絶対に純夏を助けてみせる---!!
そう、自分自身に誓いを刻み込む。



「とりあえず『BETA本土上陸』の件の話終わりよ。
何か聴きたい事や頼み事でもある?」



「はい、あります」


コクリと縦に頷くと、『何かしら?』と質問される。


「まずは、今年の『総戦技演習』の事で…」



「なる程…『涼宮遙』の件ね…。
安心なさい、既にその件に関しては対応済みよ。」

「あ…ありがとうございます!!」


ガバッと再び土下座して礼を言うタケル。


「これで涼宮も速瀬も、早い段階で衛士になれるわ。
けど、それは同時に『明星作戦』にも出撃するって事よ?」


「その時はオレが助けます!!
絶対にあの二人を死なせはしません!!」


強い決意を香月博士に見せ、納得させる。


「ついでに『鳴海孝之』や『平慎二』も救って頂戴。
あの二人も死なせるには惜しい奴等よ。
二人共オーディン隊に入隊する予定だから、オーディン隊ごと救いなさい。」


「了解」


速瀬・涼宮の想い人の『鳴海孝之』や、その親友の『平慎二』をも救う事になったタケル。



『他には無いかしら?』と問われるが、特に無い為、話は終わる




そして、同時刻---




「叔父様っ!!」


帝都にある駅のホームに夜遅く到着する電車から降りる中年男性に15・6程の若い少女が抱きつき、感動の再会をする。


「ご無事で何よりです…叔父様…」


「ハハハッ、『唯依ちゃん』の『花嫁姿』を見るまでは死なんよ。
そして、唯依ちゃんの産んだ赤ちゃんの名前を考える楽しみがあるんだ…
これをやらずに死んでは無念というものだ。」



「おおおっ、叔父様っ!!」

顔を真っ赤にしながら、ポカポカと中年男性を叩く少女・唯依。
こんな日常に帰って来れた事を喜ぶ中年男性・巌谷榮二


「良く無事に帰って来たな、巌谷君」


「こ、これは斉御司大佐!!」



二人の感動な場面に現れた斉御司兼嗣大佐。
突然の来訪に驚きながらも、敬礼する



「良く無事に帰って来た。
今回の功績を持って、明日付けで君を『中佐』に昇進する事が決まった。
是からも、日本の為に貢献してくれ、『巌谷中佐』よ」


「ハッ、有り難き御言葉です!!」


『中佐』に昇進が決まり、より一層気を引き締める巌谷中佐



「明日、大事な話があるから帝都城に来てくれ
話が終われば、そのまま休暇に入ってくれ。
…でないと、私が唯依君に恨まれてしまうからね。」


斉御司大佐の一言にアワアワと慌てる唯依を見て、大笑いをする二人



そして、巌谷中佐の帰還により、タケルとの『出会い』が待っていたのだった…



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ第十三話①
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:a7bee6ac
Date: 2010/11/13 18:27
1998年・2月6日---
京都・帝都城----






「こっ…これは…!?」


「これが新しく開発された、新OS・XM3だ。」


帝都城のとある一室にて、先日帰還して来た巌谷榮二中佐と、五摂家・斉御司家当主・斉御司兼嗣大佐が、部屋を暗くして、モニターを見る。


モニターの内容は、タケル達が開発した新OS・XM3搭載機の瑞鶴の映像。



瑞鶴のテストパイロットをした巌谷中佐には良くわかる。
この瑞鶴は最早別格のモノの動きだと---



考えもした事の無い機動。
鋭く・的確なアクロバットや、予想外な肉弾戦。
戦術機でプロレス技を出すシーンを見た時は、流石に呆然とするしかなかった。


そして、次に見た映像は紅蓮大将と神野大将の搭乗する戦術機・『瑞鶴改・烈火』と『瑞鶴改・疾風』との模擬対戦の映像だった。


紅蓮・神野大将の二人と戦うのは、XM3搭載機の不知火。
そして、それに乗る衛士は、『白銀武』という斯衛中尉だった。




白銀武中尉----
彼がこのXM3の発案者であり、XM3のテストパイロットと聞いて驚く。
そして、このXM3のモデルが、この白銀中尉の機動特性だった。


愛娘より少し上程の年齢でありながら、この卓越した動きには脱帽するしかなかった。
現にこの映像では、紅蓮・神野大将の二人に押されてるとはいえ、二人に中破判定を与え、尚諦めずに戦う。



『喰らえぃっ!!我等が必殺の合体技!!』


『ハァアァァ…!!極殺----』


『するなアホォォーーーー!!』



『『ガハッ!!』』


紅蓮・神野大将の合体技をドロップキックで阻止する白銀中尉
両大将に放つ暴言に対しては『いつもの事だから気にするでない』…と斉御司大佐の苦笑しながらいう一言を聞いて、驚く。



『ヌゥ…また足技を使いよって…駄目ではないか…』


『そりゃコッチのセリフだっ!!
アンタらのその技は封印すれって言われてるだろうがっ!!
以前放ったせいで、演習場が大惨事になったの忘れたのかっ!?』


『ヌゥ…格好いい技なのじゃが…』


本気で悔しがる紅蓮・神野大将を見て、不知火ごと跪いて落ち込む白銀中尉…
まぁ…気持ちは分からんでもないが…


結果、白銀中尉は負けたものの、紅蓮・神野大将の二人に善戦し、もう少しで大破判定までいきそうだった事には感服するしかなかった。



その後、現在改良中の不知火の映像を見て絶句するしかなかった。
国連軍・帝国軍の共同開発という事だけでも、驚愕する事なのに、改良機である不知火の機動を見て絶句する。



先程のXM3搭載機の瑞鶴すら、子供騙しに見えてしまう程壮絶で、魅了されてしまうアクロバット。


あの流れるような動きを見て、つい思ってしまう



もし---これがもっと早く開発されていたら---
大陸で散った英霊達の命も救えたのでは---



悔やむ気持ちを抑えながら、映像を見る



「…どうだったかね、巌谷中佐?」



パチンと電気を着けて、部屋に光を灯す斉御司大佐。
モニターの映像を消して、質問してくる。



「…絶句するしかないですね…。
悔やむとすれば…もっと早くに開発されてればと…そんな気持ちです。」

「…彼等の死は無駄ではない。
彼等の命がけで戦ったからこそ、安心して開発をする事が出来たのだ。」


「そうですね…」


巌谷中佐の気持ちをわかり、英霊達の戦いが無駄ではない事を改めて悟る斉御司大佐。



「…此処で本題に入りたいのだが…」


「何でしょうか、大佐」


鋭い眼光で斉御司大佐を見る巌谷中佐
そして----





「君には、白銀武中尉と共に開発計画に参加して欲しい。
主に今回の不知火改良機を開発して欲しいのだ。
これがもし大成功となれば…改良機は撃震に代わる次期主力戦術機に選ばれる可能性があるのだ
これが完成すれば…救われる命も増える事と…私は信じる」


「-----ッ!!」


次期主力戦術機と聞いて、驚愕以上に心が震え上がる
この機体ならば---日本はBETAと戦えると確信する。



「巌谷中佐---
この任務…着いて貰えるかね?」


「ハッ、我が命を賭してでも、必ず成功させてみせます!!」



やる事は決まった---
この不知火の改良機を必ず完成してみせる---



瑞鶴のテストパイロット時より、心が躍り、震え上がる気持ち
そして、白銀武中尉に興味を持ち、会う事が楽しみにする巌谷中佐。



それを察してか、斉御司大佐は---



「フッ…白銀武中尉に会いたいのならば、斯衛軍第17大隊の下に向かうがいい。
今日は九條椿少佐の下でシミュレーター訓練を行ってる予定だ」


「ハッ、ありがとうございます。」



斉御司大佐に敬礼して、退室する巌谷中佐




「彼ならば…白銀中尉の力になる筈だ…
時間は…刻々と迫っているのだから…」



巌谷中佐が退室した扉を見つめながら、7月に起きる『BETA本土上陸』に不安を感じる斉御司大佐だった。


数時間後・ハンガーでは---


「ぷはぁ~…なんて強さだよ…
旧OSであの強さって…反則じゃね?」



シミュレーター訓練を終え、フラフラしながら椅子に座るタケル
すると、タケルの隣に今日初めて会う巌谷中佐が座る


「見事だ、白銀中尉。
まさか負けるとは思わなかったぞ。」


「それはOSの差ですよ。
もし同じ条件ならば、確実に負けてましたよ」


今回は巌谷中佐がXM3に乗った事が無い為、巌谷中佐のみ旧OS搭載機の瑞鶴で戦っていた。

XM3に乗り慣れて無い巌谷中佐が乗っても、不利になる為、今回は旧OS搭載機で挑んだが、それでもタケル以上の衛士の腕前を披露し、タケルを苦しめていた。


「そういえば、白銀中尉は今回は肉弾戦をしなかったのは何故かね?
奇襲として出せば、私とて引っかかってたかもしれぬぞ?」


今回の戦いはタケルは純粋の戦いしかしなかった事に疑問を感じる巌谷中佐。


「いや、今回は純粋に戦ってみたいと思って…
それに、そういった事は『奇襲』じゃなければ効果は有りませんし、出しても回避されてましたよ。」


「純粋に…とはどういう事かね?」


「簡単に言えば、『男』としての意地…かな…?
真剣勝負に戦ってみたい相手が現れたから…自分の持ってる力を出してみたい…そんな気持ちになったんです
それにあまり奇襲攻撃に頼りたくないですからね。」


『フム…』とタケルの返答に納得する巌谷中佐。
すると、タケルの肩を強く叩き、笑みで返答を返す。


「それは貴様が『男』として少し成長した証拠だ。
確かに奇襲攻撃も重要な攻撃手段だが、『男』ならば、真っ向勝負で戦う事を忘れてはならん。
その気持ちは大切な事だ」

「成長…だと嬉しいな…」


疲れ果てた顔をしながら喜ぶタケル
そんなタケルを見て巌谷中佐は笑みを浮かべる。


(このような柔軟な考えを持つ者が、斯衛軍に居たとは…頼もしい事だ。)


元斯衛軍の出身の巌谷中佐にとって、タケルのような人物は『必要な人物』と考えていた


元々斯衛軍は規律が厳しく、上下関係などがハッキリしていた為か、考え方が『堅物』ばかりがいた事に対し、『柔軟』な者はあまり居なかった。


唯一、崇宰家の御子息である孝志ぐらいが柔軟な考えを持っていたが、『五摂家』という『壁』が有ったため、周りはそれに一部を除いて着いて来れなかった




しかし---
白銀武中尉の存在がそれを打ち砕いたのだ。



孝志以上の柔軟な考えを持ち、五摂家の斑鳩家以外の御子息達と親しく接し、紅蓮・神野大将に暴言まで言う事を許される程の『馴れ馴れしさ』
正に帝国・斯衛軍始まって以来の『問題児』である


接してみてわかった事だが---
彼には『忠誠心』が無い--
上官に対しても--
五摂家に対しても--
恐らくは、殿下に対しても、彼は『忠誠心』が無いのだ。


ただし、代わりに彼には『仲間意識』が非常に高く、上官だろうと、部下であろうと、『家族』のように大切にする傾向がある。
それは、彼の持ち味であり、『魅力』なのかもしれない。



平等に、身分など関係無しに彼は周りの者と接していた。



そのせいもあってか、部隊内の結束力は高く、非常に連携が繋がっていた。


まるで、周りの者達を『巻き込んで』皆が持っていた身分の『壁』を壊していたのだ。



「フフフッ…君は本当に面白い男だな…」


「そっすか?
…じゃなかった、そうですか?」


慌てて言葉を直すタケルを見て、可笑しく笑う巌谷中佐。


「構わん、君が喋りやすい喋り方で良い。
それに、既に紅蓮大将や神野大将に普段の喋り方をしてるのだろう?」


「…いや、あの人達の場合は特別で…
こっちがしっかりしないと…暴走されるから…つい」


「ハッハッハッ!!
だが、そういった接し方をするという事は、紅蓮大将も神野大将も、君に心を許してる証拠だよ
…多分、『我が子』のように感じてるのだろう。」


「うわぁ…あんなオヤジいらねぇ…」


タケルの本音を聞いて爆笑する巌谷中佐
彼もタケルに少し認めてきてた証拠だった。



「ヨシ、今日の仕事が終わったら、家に来なさい。
妹の家だが、何…食事に誘う事ぐらいは問題ない。」


「えっ、悪いですよ…
せっかくの大陸から帰って来たばかりの休日に、俺なんかが行ったら…」


「大丈夫だ、心配する事ではない
…それに、今日来たら、愛娘の唯依ちゃんの手作り料理が食べれるぞ?
今日は私に合わせて休日を取ったから、妹の家に居るのだ。
私が言うのもアレだが…唯依ちゃんの手作り料理は絶品でな…」


すっかり途中から『親バカモード』になってしまった巌谷中佐。
そしてタケルは『アレ…何かのフラグ立てちゃった…?』と嫌な予感がバリバリとしていた



すると、タケル達の前に、ドリンクを飲み歩く椿達が居た所に巌谷中佐がタケルを連れて(拘束とも言う)質問する


「椿様、白銀中尉のこの後の予定はなんですかな?」


「えっ…?
今日は訓練は午前中までですので、午後からは書類整理などの作業のみですが…?」

「書類整理…という事は、午後から抜けても支障は無いのですね?」


「ハイ…1日程度ならば…」


「それは良かった!!」



タケルの肩を再びバンバンと強く叩き、『良かったなぁ~白銀中尉』と喜ぶ巌谷中佐
『アラ…なんか悪い事したかしら…』とタケルに申し訳ない気持ちになる椿


「では、着替えて行こうではないかっ!!」

「ちょ…ちょっと待ったぁぁぁぁぁ…」


そのまま強引に連行されてしまうタケル
椿がタケルに合掌して見捨てた姿を中隊のみんなは、連携プレーを発揮して、見て見ぬフリをしていた。



「…せっかくのチャンスが…」


午後からの書類整理で、タケルとラブラブな空間を企んでた沙耶は、
巌谷中佐のせいで潰れてしまい、Ⅲorzと落ち込んでいた…




[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ第十三話②
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:a7bee6ac
Date: 2014/02/08 15:30
「只今帰ったぞ」


「お帰りなさい、叔父……誰ですか?」


巌谷中佐の声を聞いて、パタパタと玄関まで迎える唯依だが、タケルの存在に唖然とする。



「さあ、遠慮しないで上がりたまえ
…最も、妹の家だが。」

「お…オジャマシマス…」


強制的に連れてこられて、既に諦めモードに入るタケル。
申し訳なさそうに、上がっていく。



「……お茶です」


「……本当にスミマセンでした…」


せっかくの休暇を取って、巌谷中佐とゆっくりしようとした唯依だったが、タケルが来日した為、不機嫌になる。


「せっかくの休暇の邪魔をしてしまって…本当に済みませんでした。」


「……もういいです。」


タケルに悪気が無い事を理解し、タケルを許す唯依だが、違う理由でタケルの印象を悪く見る


(斯衛軍の中尉みたいだけど…軍人『らしくない』わ…)


ペコペコと謝るタケルを見て、『軍人らしき威厳』を感じず、少し不快感を持つ
すると、着替えた巌谷中佐がタケル達の居る居間にやってくる。


「強引に連れて来て済まなかったね、白銀中尉。」

「いっ、いえ…」


「食事の件もそうだが、色々『話』がしたくてね…」


「話?」


「ウム」


興味津々にタケルをマジマジと観察する巌谷中佐
時折鋭い視線を向けるが、怯む事無く、巌谷中佐の顔を見る。


「マジマジと見て済まないね。
色々と興味が有ったので、観察したのだ」


「興味…ですか?」


「ウム。
君は齢18でありながら、あの凄まじい戦術機の機動技術を持ち、尚且つ我々の想像を覆すモノを作り出した。
日本にとって、この上無い『起爆剤』となる存在で、喜ばしい限りだ。」

「オレが…起爆剤…ですか?」


「そうだ。
もし、君が戦場で活躍すれば、君の名は有名になるだろう。
戦術機に改革とも言える新OS・XM3を提案し、全ての衛士達の命を何時間…数日間…と生き延びさせる事の出来るモノを誕生させた。
そして君のあの凄まじい機動技術でBETAを粉砕していけば、噂は広まり、斯衛軍・帝国軍の起爆剤となり、若者達に火が点き、互いに腕を上げていくだろう。」


「そうなりますかね…?」


巌谷中佐の話を聞いてもまだ実感の湧かないタケル。
しかし、巌谷中佐のこの話は、『本心』で語り、そう思っていたのだ。



「その事に関しては、私や斉御司大佐が保証しよう。
斉御司大佐も君の成長を喜んでいたよ」


「斉御司大佐が…」


意外な人物の名を聞いて驚くタケル
しかし、巌谷中佐の話はまだ続く。



「実は、私は君のような存在を待っていたのだよ。」


「お、オレみたいな奴を…?」


「ウム、現在…帝国軍及び斯衛軍は、厳しい上下関係や規律で、思考などが固いのだ。
日本製のパーツはまだ世界から見れば、まだレベルは低い。
外国製のモノを積極に使えば、現に不知火や瑞鶴の問題点も解消されたかもしれないにも関わらず、上の連中は『純国産品』にこだわり、変なプライドを持ったりする
…もし、そんな差別や固い思考などが無くなれば…救われた命が有ったのでは…?
そして、新たな可能性が有ったのでは…そう思う事が良くあるのだ…」


「成る程…」


巌谷中佐の言いたい事を理解するタケル。

現に、不知火の問題を電力消費の少ない米国産パーツを使い、そして跳躍ユニットをジネラルエレクトロニクス製に変え、推進剤タンクと戦術機の巨大化する事で、問題点を解消し、後に『type-04不知火・弐型』が正式に撃震の後を継ぐ、次期主力戦術機に採用されたと以前香月博士が言っていた事を思い出す



「だがキミは、そんな固っくるしい現実を粉砕するかの如く現れた。
キミの柔軟な考え…そして、キミのその接し方に、今帝国や斯衛は変わろとしているのだ。」


「お、オレ?」


呆然とするタケルに首を縦に頷く巌谷中佐。



「全く…キミは軍人らしくない
だが、そのお陰で周りに良い方向に変化していく。」

「ぐ、軍人らしくないって…」


しょぼーん…とするタケルに『私も同意見です』と追い討ちを入れる唯依。
タケルのライフポイントはゴリゴリと削られてた。


「白銀中尉…
キミは上官や殿下に忠誠を持ってないだろ?」


「えっ!?」


流石にこの事に関しては驚愕する唯依。
しかし、意外にもタケルは苦笑いしながら答える。


「ハハハッ…バレました?」


「勿論、ただ、君の場合は『忠誠心』の代わりに『仲間意識』が非常に高く見えたのだが…?」

「ハイ、オレの場合、帝国や斯衛より『国連軍寄り』な人間ですから、どうしても『忠誠心』とかって持ってないんですよ。
けど、一度でも同じ部隊内になれば、大切な仲間ですから、命がけで守りたいんです
オレにとって、同じ部隊内の仲間は、『家族』みたいな大切な存在なんです。」


素直な気持ちで答えるタケルに驚く唯依
巌谷中佐も『ほほぅ…』と唸る。



「キミにとって、『戦う理由』は何かね…?」



「最初は『元の場所に帰る事』でした。
そのうち、仲間達と出会い、『人類の勝利』なんて言ってた時も有りました。」



「それで…今は…?」


再びタケルに問う巌谷中佐。


「----大切な人達を守りたい…。
自分にとって『かけがえのない人達を守り抜く』事が、今オレが見つけた戦う理由です
今のオレにとって、『全人類の命』より『大切な人達の命』の方が大切なんです。」


「----ッ!?」


タケルの戦う理由を聞いて驚愕し、絶句する唯依。
軍人を目指す唯依にとって、『全人類』より『大切な人達の命』を取ったタケルの一言に信じられなかった。


「人一人では全人類を守る事は出来ません…
どんなにオレが凄い衛士だろうと、救える命には限りがあります…。
ですから、『そばに居る大切な人達』を守る事が---より大勢の命を救う事に繋がると信じてます。」


「成る程…」

タケルの答えにそれ以上問わないでいた巌谷中佐。
ただ、そばに居た唯依は納得出来ず、タケルに質問する。


「お話の途中、口を挟んで済みませんが、何故『全人類』より『大切な人達』なのでしようか…?」


その問いに対し、タケルは---



「そうですね…例えば唯依さんが『オリジナルハイヴ』に突入作戦に参加したとします。
作戦は成功、人類に多大なる希望を繋ぐ事が出来たとします。
…しかし、その際に『愛する人』や自分にとって『かけがえのない仲間達』を失ったとしたら…貴女にとって、『納得の出来る結果』になるのでしょうか…?」

「----ッ!!」


タケルの言っていた意味を今、理解した唯依。
そして、その際答えてたタケルの表情を見て悟る巌谷中佐。


「自分は…弱い人間です。
そんな結果は…納得出来ないし、満足出来ないんです。
今、斯衛に入って、かけがえのない人達に出会いました。
そんな人達を失って世界を救っても…オレは----納得出来ないんです。」


「そうか…」


巌谷中佐も、タケルの戦う理由を知り、これ以上は聴くまいと、この話を終わらせる。


そして、時刻は夕方頃に周り、すっかり会話が先程とは違う方向に持ってかれ、賑わうタケル達。


その中でも『恋愛原子核』や殿下や香月博士の暴走話に会話が弾み、爆笑する巌谷中佐。
その話を聞きながら料理を作っていた唯依は呆れていた。


「巌谷中佐…オレ、どうすればマトモな人生を歩めるんでしょう…」


「ハッハッハッ!!良いではないかっ!!
このような愉快な波瀾万丈な人生、なかなか体験出来ないぞ?」

「巌谷中佐…代わって下さい。」


「断る!!
私はまだ死にたくはないからねっ!!」


「んがっ!!」


真面目に相談した筈が、爆笑ネタになってしまい、る~る~…と悲しむタケル。


『お二方、食事の準備が出来ましたよ。』

「おおっ!!!待ってました!!」


「頂きます」



台所から、巌谷中佐の妹が現れ、唯依と一緒に料理を運んでくる


「おっ、美味しい!!」


「だろう?
妹や唯依ちゃんの料理は絶品でな、此処に居る時の楽しみのひとつなのだよ」

「成る程~…それじゃあ、娘さんをお嫁に行かせづらいのでは?」


「し、白銀中尉ッ!?」


タケルの一言に敏感に反応する唯依だが…


「そんな事は無いさ。
確かに、唯依ちゃんの手料理を手放すのは惜しいが…
唯依ちゃんの花嫁衣装を見たり、産んだ赤ちゃんの名前を考えたり
孫から『おじいちゃん♪』と可愛らしい表情で呼ばれる事を待ち望んでるぐらい期待してるのだよッ!!」


「おっ、叔父様ァァァッ!!」

巌谷中佐の発言に涙を流す程、恥ずかしい思いをする唯依
タケルも『この人…根本的にタマパパと同じだ…』と親バカッ振りを悟る。

しかし、タケルと唯依はまだ知らない…
この時既にタマパパと同じく『孫イベント』のフラグを立ててしまった事に…



「ご馳走様でした。
今日は誘って頂きありがとうございます。」


「ウム、また来たまえ。」


食事を終えて、月詠邸に帰る事にしたタケル。
玄関までタケルを見送る巌谷中佐や唯依に別れを告げ、帰っていく。



「…どうかね、唯依ちゃん。
彼の印象は?」

「最初は余り良い印象では有りませんでした…
けど、あの話を聞いた後、少し変わりました」

帰ったタケルの印象を唯依に訪ねると、辛口な返答が返ってきた。



「…先程のオリジナルハイヴの例え…
恐らく、あの話は『実話』なのだろう…」


「えっ…?」


巌谷中佐の言葉にピクリと反応する唯依


「勿論オリジナルハイヴ云々はあくまでも『例え』だろうが…
少なくとも『大切なん人達を失う』という所は…実話なのだろう…
あの時の彼の表情…深い悲しみに満ちていた表情だったよ…」


「…………」


「彼の戦う理由云々に文句は付けない…
だが、これから先、彼を救い『幸せ』に出来る者が現れなければ…彼は救われる事は無いだろう」

「そんな…」


「あのような歳で…過酷な人生を歩んだのだな…彼は…」

今は居ないタケルを思って、複雑な心境になる巌谷中佐…

(私は中尉の心の傷を抉ったのかもしれない---)

唯依もタケルの事を少し知り、先程の自分に反省をする。



(今度、中尉に謝らなければ…)

タケルの存在を少し気になる唯依だった…



「やべ…少し遅くなったな…」


速歩きで帰宅するタケル
空が暗くなり、急いで帰宅する。



「彼処を曲がれば…ぬおっ!?」

『うわっ!?』


交差点を曲がると、突然人とぶつかる



「す、スミマセンでした、急いでたも…の……えっ?」


『此方こそ申し訳有りませ……えっ?』

お互いにぶつかった事に謝罪するが、お互いの姿を見ると、沈黙する


そして、最初に沈黙を破ったのは---



『タケ…ル…?』


少し幼い姿をしていた『御剣冥夜』だった…



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ第十四話①
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:a7bee6ac
Date: 2010/09/09 12:30
「タケ…ル…」


「えっ…」


涙を滲ませながら、タケルの名前を呟く冥夜。
その事に驚き、呆然としてしまう

「す、済まぬ。人違いでし…」


「いや、冥夜…か…?」

「-----ッ!!」


『冥夜』と呟いた瞬間、冥夜の瞳から涙が溢れ出し、タケルに抱きついてくる。


「タケルゥゥッ!!!」

「うわっ、ちょっ…冥夜!?」


「逢いたかったぞ…そなたに、再び…逢いたかったぞ…。」


ワンワンとタケルの胸元で泣く冥夜だが、ニブチンのタケルは、何故突然泣き出したかも解らずに戸惑い、そして周りの人達に『アラアラ…あんな可愛らしい子泣かせて…』と冷たい視線をされてしまう


「め、冥夜、泣き止もうな、
ここ…目立つし…」

「えっ…す、済まぬ。」

やっと気づき、すぐに泣き止む冥夜
そして、タケルは冥夜に『確認』をする。


「冥夜…ひとつ確認する…
オレと最後に会ったのは…『横浜基地』か…?
それとも『桜花作戦』か…?」


「…?
変な事を聞くな…
最後に会ったのは『桜花作戦』ではないか…」


冥夜の返答を聞いて『二度目の冥夜』と理解するタケル。
そして、次に取った行動は----


「冥夜、済まないが月詠邸に来てくれ。
これ以上の話はかなりヤバい話だからな」


「月詠の…?
うっ、うむ、わかった…。」


タケルの言う事を聞き、月詠邸に向かうタケル。



「ただいま~」


「白銀…随分と遅…冥夜様!?」

「久し振りだな、月詠。」


冥夜来訪に驚き、言葉を失う真耶。

「スミマセン、真耶さん。
『緊急事態』発生したので、ちょっと付き合って下さい。
あと、真那さん…居たりします…?」


「真那は任務でしばらくは帰って来ない
それより『緊急事態』とは一体…!?」


「それはオレの部屋で話します。」


「……わかった。
ささっ…冥夜様、上がって下さい。」


「うっ、うむ…失礼する。」


突然の事に戸惑う真耶だが、すぐに冷静に戻り、冥夜を部屋に案内する。



「…待たせたな、やちるには、急な用事で無い限り近づかないように言ってあるから、安心するがいい。」


「ありがとうございます。」


「…ところでタケル。
何故月詠の家に住んでるのだ…?」

「えっ…?」


拗ねた感じに質問する冥夜だが、その様子を見て、異変に気づく真耶。


「冥夜様…何故白銀中尉を御存知なのですか…?」

「白銀…中尉…?
それに何故斯衛の軍服を着てるのだ…?」


「あ゛~…今、纏めて説明するから、ちょっと落ち着け」


混乱する真耶と冥夜を落ち着かせる



「まずは…真耶さん。
実は冥夜は…オレと同じく『ループ』した可能性が有ります」


「な、なんだとっ!?」


タケルの一言に驚愕する真耶。
先程の違和感の理由にやっと気づく。


「先程確認をした所、冥夜は『二度目の世界』からループして来たようです。
…あくまでも推測ですが、冥夜のループの原因のひとつとして、『荷電粒子砲』のエネルギーが原因だと思います」

「…成る程、香月博士と同じような理由か…」


「こ、香月博士だとっ!?
私達の知る博士がこの世界に居るというのかっ!?」


「ああ、先生もこの世界にループしてる」


冥夜のループの原因を予測し、納得する真耶。
自分の知る香月博士まで、この世界に来てる事に驚愕する冥夜。


「次は冥夜の質問
何故俺が月詠邸に住んでるのかっていうと…先生の仕業だ。
因みに中尉や斯衛軍に所属してる理由は、先生や殿下達が話し合った結果…という事だ。」


「成る程…それならば分かる…」


冥夜もタケルが月詠邸に住み込んでる理由を知り、納得する。


そして、タケルは冥夜に自分が三度のループをしてる事を説明し、そして現在香月博士や殿下達と共に『歴史を変更』してる事を説明する


「…そうか…そうだったのか…
今やっとタケルの『特別』の意味を知った…
それに訓練兵時代の数々の怪しい行動は、そういう意味だったのか…」


「まあ…ネタばらししちまうと、そういう事だ。」


「道理で…訓練兵時代の兵科や座学が優秀な理由は『既に衛士だった身』とは…もしや、戦術機の機動特性もそうなのか?」


「半分正解、半分不正解。
俺の機動特性は『元の世界』のゲームで鍛えた物だ。
そこから『一度目の世界』で鍛えた結果がアレさ」


「ムゥ…なんと…」

タケルの説明を聞いて納得する冥夜だが、その瞬間、冥夜の表情が曇りだす。


「…そうか…あの時、神宮司軍曹が亡くなった時…
そういった理由で自分自身を責めてたのか…」

今やっと気づき、あの頃のタケルの苦悩と悲しみの理由がわかった冥夜。

自分の不甲斐なさ、そして自分が『歴史を変えた事』により、恩師である神宮司軍曹を死なせてしまったと、責めてたタケルの悲しみの理由を知る


「済まぬ…タケル…
あの時の…にゃ、にゃにふるっ!?」

謝る冥夜の頬を引っ張るタケル


「んな事冥夜が謝る必要なんて、ねーよ…
けど、二度と『あんな真似』はするな…
もう二度と…お前を…お前達を失う事なんて…耐えられるかよ…!!」


冥夜の頬を引っ張りながら、悲しみに落ちるタケル。
引っ張ってた手も離れ、力無く垂れ下がる。



「もう二度と…お前等を失わせたりするかよ…
もう二度と…この手で、お前の命を…奪わせるな…!!」


「タ…タケル…」


「もう…おまえ等を死なせてたまるかよ…
ゴメン…守れなくてゴメン…」


「----ッ!!」


自分が行った行為に気づき、タケルに詫びる冥夜。
タケルを抱きしめ、涙を流しながら謝罪する。



「…済まねぇ、カッコワリィ所見せちまって。」

「そのような事は無い…」

泣き止むタケルにフォローを入れる冥夜。
冥夜の涙を真耶が拭う。


「ヨシ、気持ちを切り替えて、話を進めよう」

「うむ…そうだな」

涙を拭い、話を進めるタケル

「…まず、この事は先生や殿下達に知らせる必要があるな」


「殿下にこの話を伝えるのは、明日にしよう。
今日は政務などで忙しいから、明日の午前中にでもしよう。
香月博士に関しては、白銀に任せる。」


「わかった、先生については任せてくれ。」


今後の方針を少しづつ決めていくタケル達



「私は何をすれば良いのだ、タケル。」


「…冥夜はしばらくは動けないな…」


「うむ、冥夜様が動いてしまうと、怪しまれてしまう可能性がある。
…少なくとも、冥夜様が戦場に出るのは、明星作戦以降かと…」


「ぬっ…そうか…」


満足に動けない身である事に無念を感じる冥夜だが…



「冥夜様、ご安心を…
極秘では有りますが、冥夜様の身代わりの任の件…
『変更』の方向に動いている所です」


「変更?」


「ああ、殿下の復権と冥夜様の『身代わり及び将軍職の引き継ぎをしない』という条件に解放する動きを進めてるのだ。」

「えっ!?」
「なんだとっ!?」


真耶の一言に衝撃が襲うタケルと冥夜。



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ第十四話②
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:decbdc3f
Date: 2010/09/09 12:28
「つ、月詠、その話一体どういう事なのだ!?」


「ハッ、此度の『光州作戦』で、見事歴史を変更する事に成功し、彩峰中将が生還した為、2001年12月5日に起きる『12・5事件』と呼ばれるクーデター事件が、高い確率で『回避する事』に成功致しました。
…しかし、その事によって、冥夜様の『身代わり』や殿下の復権の出来事も無くなったのです…」


「そっか、あのクーデター事件が有ったからこそ、殿下の復権が出来たとも言えるし、冥夜の『身代わり』が有ったからこそ、冥夜は衛士になれたんだからな…。
それが今回はクーデター事件が無くなるかもしれないって事は、殿下の復権や冥夜の『身代わり』のイベントも無くなるって事になる。」


「その通りだ、白銀。
そして、そのせいで『歴史』が大幅に変更する可能性が有るかもしれない為、対処案として殿下が復権する動きを行っているのだ。
『復権』と冥夜様の『身代わりの任務解除』を実行する事で、少しでも修正をしようと香月博士の提案でもあるのだ」


「成る程…そうだったのか…」


真耶とタケルの説明を聞いて理解する冥夜
そして、話はまだ続きがあった。


「そして、此度の作戦が成功すれば、殿下の復権により、更にクーデター事件は回避出来る可能性が高まり、
そして冥夜様が衛士になる事に問題は無くなり、衛士として戦う事が出来ます。」


「更に言うならば、冥夜が横浜基地に所属した場合、『桜花作戦』時に斯衛軍が随伴する事が出来る事になる
名目上将軍家、もしくは縁者である冥夜を『護衛する』って理由が出来て、みんなの生還率が上がる事にも繋がる。
そうすれば、真那さん達の第19警備小隊やウチらの第17大隊も参加出来る事になる。
そして、その際真那さん達が武御雷を俺達に預けて処罰を受ける事も無くなるって訳だ。」


「おおっ…凄いではないか、タケル!!」


『桜花作戦』時の帝国軍参加する問題も解決され、尚且つ真那達第19警備小隊の処分の問題も解決出来る事を知り、冥夜の表情に驚愕と共に、笑顔が出てくる。


「…けど、だからって簡単に復権とかが出来る訳じゃ無い。
だから『明星作戦以降』って長い期間を言った訳だし…」


「それに冥夜様の問題が解消されても、下手をすれば『縁を切られる』可能性も有るのです…」


「うっ、それはマズいな…」


『縁を切られる』問題に表情が曇る冥夜と真那


「あっ、その問題に関しては大丈夫だ。
つーか、先生…もしかしたら其処まで考えて『イタズラ』したのか…?」

「「ハッ?」」


タケルの一言で呆気に取られてしまう二人。


「ど、どういう事なのだ…タケル…?」


「あ~…実はな…以前、真耶さんとシミュレーター訓練で勝負した事が有ってな、
その際、オレが真耶さんにプロレス技で勝った為、真耶さんキレてオレをフルボッコにした事があったんだよ。」


「プロレス技…お主は彩峰か…?」


タケルの話を聞いて呆れる冥夜だが、真耶は話を聞いて思い出し、ピクピクと眉間に怒りマークが浮かび上がって来る


「その時先生が居てな、『負けたのはアンタの油断のせいよ
従って、逆ギレしたアンタには罰を与えなきゃね♪』って楽しそうに言ったんだよ…
その罰ってのが、オレを『月詠邸に同居させる事』だったんだよ。」


「…成る程、それでか。」


「で、その時殿下や斉御司大佐も居たんだけど…
殿下も罰に反対だったんだけど、先生に『有る事』言われて、形成逆転し、殿下も罰に賛同したんだよ…」


「あ…ある事…?
なんだか嫌な予感がするのだが…」


恐る恐ると、返答を聞いてみると---



「…私と同居させる事で、白銀に『女心』や色々な事を学ばせて、『鈍感』も直してしまおう…と言ったのです」

「そして、その間に法律を改正して『一夫多妻制』にしたら冥夜と仲良く一緒になれますよ~…って誑かしたんだよ。」


「ななな…なんだとぉぉぉぉっ!?」


白銀ハーレム計画を知った冥夜は絶叫し、大混乱する。


「…つまりだ、例え『身代わり』の件で冥夜が縁を切られても…後々にまた縁者になっちまうんだよ。
今考えると…こういう意味でも、この『イタズラ』を計画しやがったんだと思う…
…そして、法律の改正案の方も…殿下や先生が、あの手この手使って絶ッッ対改正するだろう…」

香月博士の用意周到なイタズラに
『先生…アンタすげーよ…Ⅲorz』と落ち込むタケル。
そして、その話を聴いて、冥夜や真耶もⅢorz…と落ち込む。



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ第十四話③
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2010/09/10 02:27
落ち込んでいたタケル達だが、なんとか立ち直るが、ふと時計を見ると、19時を超えていた。

「結構時間がかかったな、
御剣家の人達も心配してるんじゃないのか?」


「う、うむ…まあ、今日は紅蓮大将の下で鍛錬をしてたから、誤魔化す事は可能だが…」


「そっか、オレが家まで送ってやるよ。」


タケルが冥夜を家まで送ると言うと、嬉しくも寂しそうな気持ちになる冥夜。
すると真耶がニコリと笑みを作る。


「ご安心を、冥夜様。
既に御剣家には連絡を入れています故に、今日は『お泊まり』する事が出来ます。」

「ほ、本当か、月詠!?」

「ハイ、本当で御座います。
但し、明日はこちらで朝食を食べた後、直ぐに御剣家に戻ります故に、朝は少し早くなりますので、ご了承を。」


「ウム、月詠…そなたに心から感謝を。」


今夜は泊まる事が出来て嬉しい冥夜。
そんな冥夜を見て、『良かった』と思うタケルと真耶。
すると、廊下からパタパタと走って来る足音が聞こえる。



「真耶様、失礼します。」


「どうした、やちる?
何か急な用か?」


「ハ、ハイ、『お客様』が来まして…
…実は今此処に上がって貰ってるんです…。」


随分とアワアワと落ち着きが無いやちるを見て『余程の人物』と悟る。



「ワシじゃ、真耶。
……って冥夜様が何故此処に!?」

「ぐ、紅蓮大将!?」


やちるの隣に現れたのは、紅蓮大将だった
その事に驚く真耶だが、紅蓮大将も冥夜を見て驚き、慌てる。


「ん…まだ誰か居るんですか?」


タケルがひょいっと立ち上がり、紅蓮大将の視線の先の廊下を覗くと----


「で…殿下っ!?」


「「ええぇぇぇっ!?」」

「ホホホッ…」


苦笑いをしながら、悠陽殿下が部屋に入って来る。
どうやら、やちるの慌ててた理由は、殿下来訪のせいだった。


「な…何故殿下が我が家に…?
それに今日は政務で忙しいのでは?」


「勿論忙しかったですわ。
ですが、急遽『榊是親』殿が体調不良で倒れまして、この後する筈だった会議が中止になってしまったのです…。
それで、今日の職務が終了し、紅蓮大将を呼び出し護衛を頼み、タケル様の下に『用事』で参ったのです。」


「用事って…それだったら、俺から其方に向かったのに…」


「いえいえ、此度の『用事』はプライベートの用事も有りましたので…。
それで此方から参ったのですが…
冥夜が此方に居たとは…驚きましたわ…」


「すっ、済みませぬ!!」


悠陽殿下との鉢合わせに謝罪する冥夜だが、『そなたが悪い訳ではありませんわ』…と冥夜に寄る悠陽殿下。

「此度はお忍びで来たので、この事を知ってるのは、紅蓮大将以外には神野大将と…『鎧衣』だけですわ」


「お忍びって…」


なんとなく嫌な予感がバリバリするタケル
そして、紅蓮大将の顔がニコニコしていた為、予感が的中する事になる


「やちる、済まないが、退室してくれ」


「畏まりました。」


座布団に座り、真面目な表情になる悠陽殿下。
それを見て、すぐさま部屋から退室するやちるを確認すると、話が始まる。



「タケル様、済みませんが、何故冥夜が此処に…?」


「丁度良かった、殿下に話したい事が有りました。」


「タケル様…今は『悠陽』とお呼びになって下さい…
あと、いつものような話し方で構いませんので…」

「そ、それじゃ…
悠陽、話したい事があったんだ。」


「悠陽…悠陽…悠陽…」

タケルに『悠陽』と呼ばれて、自分の世界に入ってしまう悠陽殿下
そんな場面を見てしまった冥夜は複雑そうな気持ちになってしまう。



「……いいかな…話進めても?」


「す、スミマセン、タケル様」


正気を取り戻した所で話を進めるタケル
冥夜もタケルや香月博士と同じループして来た事に悠陽殿下と紅蓮大将は驚く


「そうでしたか…
冥夜…そなたの働き、誇りに思います。
タケル様を支え、結果オリジナルハイヴを攻略に導いたのです
…そなたが亡くなったのは、悲しく思いますが、此度の世界では、より良い運命に変え、尚且つタケル様を悲しませないようにしましょう…。」


「ハッ…承知致します。」


『タケルを悲しませない』という言葉に反応し、誓う冥夜
二度とタケルを悲しませたりはしない----



そう決意を決めた所で、悠陽殿下の話が始まった。


「それでは、お話を始めたいと思います。
此度五摂家の現当主と、煌武院家の前当主である『煌武院雷電』お爺様をお呼びになり、『復権』の事や、冥夜の件の話について、会議致しました。
最初はお爺様やが異議を言いましたが、五摂家の現当主全てが、賛同して下さった為、お爺様を説得する事が出来ました。」


「おおっ!?それじゃあ…」


「ですが、そう簡単にはいきません。
まずは、内閣総理大臣である『榊是親』殿と話し合い
そして、城内省を説得せねばなりません
本来は今日の談話で榊殿を説得する予定でしたが、日頃の激務が原因で、体調不良で倒れたのです。
しかし、容態はそれ程酷くは無く、一週間程休む程度で済みました。」

「そっか…良かった。」


ホッとするタケルと冥夜。
親友であった『榊千鶴』の父親が倒れた為、心配をしてたが、現在の容態を聞き、安心する。


「城内省の方は、今一部で不穏な動きがありまして…
鎧衣の情報によれば、米国に通じてる者が居るようなのです。
ですから、もし日本に悪影響を及ぼす事であるならば、全力で叩き潰す所存であります。
それから城内省とは少し時間はかかりますが、説得するつもりであります。」



悠陽殿下の説明を聞き、納得するタケル達。
予想以上に順調で少し驚いていた



「そして、城内省を説得する事が出来ましたら、冥夜の件は解決します。
ですが、復権の件は、後々皇室に向かい、皇帝陛下に報告し、皇帝陛下の御許可を貰い、そして後に米国が日本から撤退した時に復権は実現となります。
今現在は米国が邪魔故に復権は出来ません…
ですが、タケル様のお話通りならば、米国は今年7月中に『日米安保条約』を一方的に破棄し、在日してる米軍は撤退する筈…
その時こそが、復権するチャンスでも有るのです。」


「成る程…わかった
予想以上に早かったのは驚きだが、これで冥夜の件や12・5事件の事は大丈夫みたいだな」


「ハイ、それ故にこれからもお力を貸して下さいまし」


『勿論だ』と返事を返すタケル
悠陽殿下も喜び、周りのみんなも賛同する。
…すると、突然悠陽殿下の表情が妖しく変化する。


「此処までのお話は『用事』の件です
これからお話する『プライベートな話』をお話致します。」


「…それはわかったが、何故突然オレにくっつくんだ?」


突然タケルの隣に座りだし、ベッタリと腕を組みだす


「最近は激務故にタケル様に会う機会が少なく、寂しい想いをしましたわ…
しかし此度偶然にも冥夜と来訪してます事ですし…今日は此処に『お泊まり』致しますわ」


「なんですとぉぉぉぉっ!!?」


悠陽殿下の爆弾発言に驚愕する一同。
しかし…悠陽殿下のターンはまだ終わってなかった!!


「冥夜…今日はタケル様を挟んで一緒に寝ましょうね。
勿論真耶さんも一緒ですよ。」


「で、殿下!?」

「あ、姉上!?」

うっかり冥夜が『姉上』と呟くと、『姉上…姉上…姉上…』と、涙を滲ませながら、再び自分の世界に入ってしまう。


「紅蓮…後は頼みますよ…」


「ハッ、殿下及び、冥夜様や真耶のお元気な『赤子』を見たい所存で御座います。」

「「な゛っ!?」」


「まぁ…紅蓮たら…(ポッ)」


「オッサン、謀ったなぁぁぁぁっ!!」


暴れるタケルを悠陽殿下・冥夜・真耶が抑えてると、紅蓮大将が部屋の襖を閉めてガチャガチャ物で塞ぎ、逃げ場を塞ぐ
その際、楽しそうなやちるの声が聞こえたりするのは当然の事だったりする。


「ヌゥゥン!!必殺…『宇宙乃壁』(今命名)」


「嘘ぉぉぉっ!?
窓 が 開 か な い っ !?」


そして紅蓮大将がその場で作ったテキトーな必殺技で、窓からの退路が塞がってしまう。
すると、襖の方の小さな隙間から、テッシュの箱が入ってボトリと落ち、『頑張って下さいね~♪』…と陽気なやちるの声が聞こえてくる


「タケル様…」

「タケル…少し幼いかもしれないが…宜しく頼むぞ…」


「いつの間に布団をっ!?」


「さ…白銀…今夜はまだ長い、頑張って貰うぞ。」

「っていつの間に服をっ!?
って二人とも、服を脱いだら駄目ぇぇぇっ!!」



タケルの阻止する言葉など無視し、ジワリジワリと寄って来る冥夜・悠陽。
真耶に拘束されてる為、逃げ場無し
為す術が無いタケルだった…。



因みに翌日の朝、やちるが部屋を訪れて見ると、目をぐるぐるとしながら気を失っていた悠陽達三人と…何故かスッキリしたタケルが横たわっていた…


後に三人は語る…『タケルが獣と化したら逃げ場は無い…』
どうやら、途中から立場が逆転していたみたいだ…



そして、白陵基地では---


『ズゴォォォォォォォン!!!』

突如、白陵基地に現れる閃光と共に鳴り響く轟音。
その場所には、左の拳を天高く突き上げる少女が存在していた…



「フフフ…何故かは知らないけど…
タケルちゃんに今完成させた『ふぁんとむ』を喰らわせたい気持ちだよ…☆」


『チェ、チェリーーーッ!!』


『チェリー(男)が、あの少女のパンチで空に吹っ飛びやがった!!』


『凄い…閃光まで放つなんて…』


乙女の直感で怒り心頭の純夏の拳から、『伝説級の左』が炸裂し、チェリー(男)がタケルの代わりに空高くお星様となった…。



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ第十五話①
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2010/09/10 21:27
1998年・5月9日
京都・崇宰家---


「孝志さん、起きて下さい」

「うーん…椿ぃ…あと五分…」


布団の中で良い感じに眠っている孝志を起こすタケルだが、椿と勘違いされフリーズし、タケルの隣に居た政弘は『怠け者が…喝ッ!!』と孝志の顔面に正拳をプレゼントする。



「…随分な目覚ましだな、政弘…」


「待ち合わせ場所に遅刻するならまだしも、
遅刻どころか気持ち良く布団の中とは…良い身分だな…!!」


「…………………今何時?」


「もう昼過ぎてるッス。」


「嘘ぉぉぉっ!?」


「事実上、二時間の遅刻だぞ。」



呆れた表情で孝志を見るタケルと、怒り心頭の政弘を見て『スミマセンデシタ…』と土下座して謝る孝志。


「昨日椿さんと何か良い事したんですか?」


「なななな…何故椿の名前が出て来るッ!?」


「寝ぼけながら、椿の名を呟きまくれば、誰だって気づくに決まっておろう。」


「ぐはっ!?」


墓穴を掘る孝志に突っ込む気力すら失せた二人。
そのまま孝志を連行して、城下町付近に向かう。



「全く、せっかく合わせた休日が二時間も無駄になったではないか。」


「すまねぇ、お詫びに今日はオレのオゴリだからさ。」


「まったく…」

苦笑いをしながら、孝志を許す二人。
城下町付近の店を散策しながら、買い物をする。


「タケル…珍しい物買うな…」


「ほう…裁縫道具と生地とは…何を作る気だ?」

「いやぁ~…オレ不器用だから、プレゼントとか選ぶの苦手で…
だから、不器用ながらでも、『人形』でも作ろうかと思って…」


「タケルが裁縫!?似合わねぇ…!!」


珍しい事をするタケルに関心する政弘と、驚愕する孝志。
孝志に『似合わねぇ…!!』と言われ『わかっとるわっ!!』と反論するしかなかった。


「良いではないか、お金で買ってプレゼントするより、手間暇かけて作る方が愛情籠もったプレゼントになるのは間違いない。
貰う方も嬉しいと思うぞ?」


「…思い出した。
確か以前、月詠真耶『大尉』に人形プレゼントしただろ。
あれ…もしかすると、手作りか?」


「なんで知ってるんだ、アンタ!?」


驚愕するタケル
以前、真耶が『大尉昇進』のプレゼントとして、『メイド長・真耶人形』をプレゼントした事があった

昇進する一週間程前に、悠陽殿下から話を聞いて、日頃からの恩返しと思い、休日丸々1日を使い、プレゼントする物を探したが、結果は『見つからなかった』のだ



タケルには、プレゼントを選ぶ才能がまっっったく皆無で、選ぼうにしても、ロクな物ではなかった。


唯一、マトモなモノがあったが、値札の金額が所持金よりゼロが一つ多かった為、断念するしか無かった。



万策尽き、最早これまでかと思ってたが---
頑張る者には神は救いの手を差し出した---


閉まっていく店の中で唯一開いていた店『ハローモンキー』
24時間営業の衣料専門店である。


『…何故衣料専門店が24時間営業…?』

びみょー過ぎるツッコミを入れるが、藁を縋る思いで中に入る。


しかし、中にある衣服は一般人向けの服ばかり。
勿論中には真耶に似合う物もあったが、タケルには、そんな見る眼は無かった。


『駄目かぁ…』と諦めかけたその瞬間、目の前には店員が手作りで作ったテディベア人形があった。

そして、人形のある店は、生地・裁縫道具・ボタンなどの様々なアイテムが販売していた衣料店。
そしてその瞬間、タケルに閃きが浮かんで来る!!


『欲しいプレゼントがなければ、作ればいいじゃないか?』


以前、二度目の世界で、純夏にプレゼントした木彫りのサンタウサギを思いだし、『これだぁぁぁぁぁっ!!』と思いつき、大量に衣料と本を買っていくタケル。
その日から、裁縫との戦闘で、全ての指に絆創膏を巻き付ける事になる


作る物は、元の世界のメイド長・月詠真耶をイメージして、『メイド長・真耶人形』を作る事にした。


そして、昇進した日
帝都城のとある部屋で真耶に人形をプレゼントをすると、効果は覿面(てきめん)。
人形とタケルの指の絆創膏の数を見て、好感度がぶっちぎりに上がり、今までに無いぐらいの笑顔で真耶に感謝される事になる。


それ以来、ちょっと学習したタケルは、プレゼントをする際に『手作り人形』というカードを得たのだった。



「…それで、今回は誰にプレゼントするんだ?」


「ん~?
世話になった『幼なじみ』だよ。
今まで、ずっと一緒だっただけに、今回は離れてるからな…
寝坊助なオレを毎日起こしに来て、母さんの居ない日は飯も作ってくれた。
…まあ、今回のは、今までの感謝の意味で…かな?」


照れながら説明するタケルを更に関心する政弘と、『良い奴ぢゃん…』とタケルの評価を上げる孝志。



「そういう孝志さんは、椿さんにどんなプレゼントを渡すんですか?」


「ぐっ…。
それがよ…椿の奴、そういうの無関心って言うか…
欲しい物無いかと聞いても『有りませんわ
貴方と一緒に居られるのが、一番のプレゼントですわ』…て言うんだよ…。
…嬉しいけど、何かこう…プレゼントして喜んでる笑顔がみたいって言うか…」


「大変ッスね~…」


孝志の気持ちを理解し、同情するタケルだが…
タケルの興味の視線は、そのまま政弘に向く。


「な、なんだ…タケル…」


「そういえば、政弘さんって、そういう話有るんですか?」


「無い。
政弘はそういう関連はゼロでな…。
モテるんだけど、タケル以上にウブな奴だから、まだ彼女が居ないんだよ…」


「た、孝志!?」


真っ赤になりながら孝志を叱る政弘だが、タケルに『仲間だ…!!』と認識される。


「政弘さんって、どんな女性が好みッスか?」


「好みか…むぅ…難しいな…」


唸る政弘、うーんうーん…と悩むと…



「強いて言うならば…『静中佐』だな…」


「ああ~…良いね。」

「静中佐って…誰ですか?」


政弘の言葉に納得する孝志だが、タケルに『誰…?』と首を捻られると、孝志が説明する。



「『紅蓮静中佐』、あの紅蓮大将の一人娘であり、無現鬼道流の後継者である人。
べらぼうに美人で、剣の腕も超一流
軍人としても凄腕で知られ、衛士としても紅蓮大将や神野大将の二人に迫る程の超実力者だ
けどプライベートになると、家庭的な人物らしく、『大和撫子』や『良妻賢母』の言葉が当てはまる程の人らしい…
ぶっちゃけ、外見上は100%母親似、中身の超人度は父親似…だな」



「なんつー…チートっ振りな人だ…」

『人間として、この完璧度、どうよ?』と意見を出すタケルだが、孝志と政弘は『紅蓮大将の娘さんだし…』の一言で、全て解決されてしまう。




そんな風にガヤガヤ賑わっていると----




「うしっしっ♪タケルちゃん、み~っけ☆」


建物の物影からタケル達を覗く、純夏・クリスカ・イーニァの三人組が居た…



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ第十五話②
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2010/09/11 23:46
「それにしても、タケルちゃん、珍しく男の人だけで街中歩くだなんて…、悪いモノでも食べたかな?」


「ス、スミカ…、タケルだって、男友達が居てもおかしくは…」


「うーん…タケルちゃんの場合、友達の割合が9:1(女:男)の割合だからな…」


「9割女性!?」


純夏の誤解ある説明で驚愕するクリスカだが…



「タケル~~!!」


「「ええっ!?」」


せっかく、隠れてたものの、イーニァの突撃で無駄になる。


「イーニァ!?」


「タケル、しばらくぶりだね♪」


「…タケル、この娘は…?」


「イーニァ・シェスチナって言って…簡単に説明すると、沙耶さんの姉妹みたいな関係だ」


「「!!?」」


タケルの説明を聞いて驚愕する孝志と政弘
しかし、イーニァの持つ、ほわわんとした雰囲気に和んでしまう。


「へぇ~…そっかぁ~…
こんにちは、イーニァちゃん。
オレは崇宰孝志って言うんだ、孝志って呼んでくれ」


「うん、わかったよ、タカシ
よろしくね♪」


「俺は斉御司政弘、政弘で構わないよ。」


「よろしく、マサヒロ♪」


イーニァに自己紹介する孝志と政弘
イーニァも礼儀正しく挨拶をすると、二人にリーディングをする。


「タカシはやさしい、ポカポカする、おひさまのひかりみたいないろ。
マサヒロは、あたたかいかぜのようないろ。
みんなをまもるように、つつんでくれる。」


「…もしかして…リーディングした?」


「うん♪」


素直に答えるイーニァを見て、叱る気すら失せてしまう政弘。
孝志は『やれやれ…』とイーニァの純真無垢な姿を見て苦笑いをする
そのあと、タケルに『あんまりリーディングしたら駄目だよ?』と注意されると、『ゴメンナサイ、タカシ・マサヒロ。』と謝る姿を見て、『くぅ…怒る事が…出来ん!!』と萌えてしまう。



「ちなみに、イーニァ…
クリスカは何処に…?」

「クリスカとスミカは、あっちにかくれてるよ?」


「…ほう」


イーニァの指差す先には、諦めて姿を見せるクリスカと、クセ毛だけピコピコ動かしながら隠れる純夏がいた。



「フッ…『頭隠して尻隠さず』とは、正にこの事よ…!!」


腰から何故かビニールスリッパを取り出し、くの字に折り曲げて----



「それで隠れたつもりか、純夏ぁぁぁぁっ!!」




「痛ぁぁぁぁっ!!?」

折り曲げたビニールスリッパを投擲し、クリスカの頭上を通過し、見事純夏にヒットする。


「ひ~ど~い~よ~!!
タケルちゃん、私の頭がバカになったら、どーするのさっ!!」


「安心するがいい、純夏。
お前の頭は元々バカで出来ている
これ以上悪くなる事は無い!!」


「ひどいよ~…タケルちゃん、気にしてるのにぃ~…。」


「「…………」」


タケルと純夏のやりとりを見て、孝志と政弘は言葉を失う。
クリスカとイーニァは、最早見慣れた光景故に、落ち着いていた。


「タケル…その二人は?」


「こちらが、イーニァのお姉ちゃんのクリスカ・ビャーチェノワ。
そして、コイツが幼なじみの鑑純夏。」


「クリスカ・ビャーチェノワです。」


「鑑純夏ですっ♪」


普段通りに自己紹介をするクリスカと、元気いっぱいに自己紹介をする純夏。
その後に、再び孝志と政弘が自己紹介をする。


「タケルちゃん、珍しく男の人だけで街中歩いてるけど、どーしたの?」

「誤解を招く事言うなっ!!」

『スパァァァン!!』


「あいた~!!」

孝志や政弘達の前で暴言を言う純夏に、必殺ビニールスリッパ攻撃でお仕置きをする。


「今日は『臨時収入』が入ったから、孝志さんと政弘さんに買い物に付き合って貰ってるんだよ!!
あと、誰がいつ何処で俺が毎日毎日女性を連れまわしてるかっ!!
強いて言うならば、純夏ぐらいだろうが。」


「ハァ…だからタケルちゃんは『鈍感』なんだよ…。
中学の頃、タケルちゃん結構人気あったんだよ?」

「…知らん。
お前が常にそばに居たから、全然知らんかったよ」


本当の事を話すタケル。
『この世界の白銀武』と同化してる為、記憶はあるが、やはりニブチンな為、気づいてない。



「臨時収入って言ってるけど、何の臨時収入なんだ?」


「XM3の発案料ですよ。
先生がXM3のライセンスを取ったから、そのライセンス料から引いて、発案者の俺に振り込んで来たんですよ」


「へえ~…そうなんだ。
ところでタケルちゃん、香月先生から、いくら貰ったの?」


「………これだけ。」



鞄から通帳を取り出して、パラリと開いて見せると…




「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん…………へっ?」

「ゼロがいっぱいあるね、クリスカ」


「…………………目の錯覚かな…?」


イーニァとタケル以外のみんなが目をゴシゴシとこする


「錯覚…じゃないな…?」



「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん…じゅうまん…ひゃくまん…いっせんまん…へっ?」



目をグルグルと回しながら桁を数える純夏
そして---


「三億だよ三億…
しかも、これから増える予定…」


「………どうするんだよ、この額…」


「…だから困ってるんだ…」


突然の漠然な金額を入手し、困惑してるタケル。
使い方に悩んだ所、孝志が提案してくる。



「…まず車一台買わないか?
確かタケル免許取り立てだろ?」


「まぁね、免許無いと色々困るし。」


「だな、軍で様々な車両を扱うからな…」


免許取り立てのタケルに孝志は車を購入する事を決める。
そして、政弘の案内で、車の販売店に向かい、店に入る


店員さんに、スポーツカーを勧められるが、タケルは却下し、パジェロを選ぶ
理由として『先生のような走り屋には、なりたくないから…』らしい…



「へぇ~…タケルちゃん、車の運転旨いんだね~。」



「そりゃ、一応習ったからな。」


「次は何処に行くんだ、タケル?」


「ん~…飯でも食べます?
昼飯、まだ食ってないし…」


「孝志のせいで食べてないのでな、腹を空かせてる状態だ」


「う゛っ!?」


「それじゃゴハンにしよ~♪」


政弘の道案内に従い、運転していく。



「此処で良いだろう」


「…ファミレスとは意外かも。
政弘さんなら、料亭とか案内されるかと思った」

「あのな…俺とて、周りの者に合わせたりする。
まさか、いきなり高級料亭などに連れて行ったら、それこそ鑑殿達が緊張するだろうに…」


「そうだね~…緊張してガチガチするかも…」


ホッと安心する純夏。
車から降りて、店に入ると----




「しっ、白銀、助けて…」


「ういぃ…ゆーこ、なに逃げてるのよ~?」



死屍累々とした中に、香月博士が、お酒で酔っている『狂犬』と化した神宮司軍曹に拘束されて、暴れていた。


そして本能が告げる--
此処に居ては、屍達と同じ運命を辿る事を--!!


そして、香月博士が気を失い、犠牲者の一人となる。


「にっ、逃げろーーーーッ!!」



全員が神速の速さで反転し、退却する!!


「逃~が~さ~な~い~わよ~!!」


しかし、野獣の如く追いかける神宮司軍曹
足の遅いイーニァが狙われる所を孝志がカバーに入る。


「逃げろ、タケル!!
此処はオレが殿を持つ!!」


「クッ…!!済まない!!」


そのまま車の所に向かい、脱出するタケル達


『グハッ!?』


そして、先程のファミレスから、天高く飛ぶ孝志の姿を目撃し、全員が敬礼する。



「…孝志…お前の勇姿は我々の心に刻み込んだぞ…」


「つーか、何故先生と神宮司軍曹が彼処に…?」


「夕呼先生も用事で一緒に来てたんだよ…
神宮司軍曹は護衛で来たんだけど…」


「護衛にやられちゃ、世話がねぇな…」



ウンウンと頷くタケル達…だが…





『ウフフ…し~ろ~が~ね~…♪』



「「「「え゛っ?」」」」


突然何処からもなく、声が聞こえてくる…そして---!!




『みぃ~つけたぁ…☆』

「「「「うわぁぁぁぁっ!!!!!」」」」


突然車の天井から神宮司軍曹の顔が現れ、驚愕する!!


そして、急ブレーキをして、停止すると神宮司軍曹が天井から降りて、タケルを拉致する。


「た、助け---」

「さぁ~、一緒に飲むぞぉ~☆」


そのまま先程のファミレスに連行されるタケル
残された純夏達は、自分の身の安全を重視し、ぶっちゃけ、見捨てる。


ちなみに、孝志は---


「……」


「…………孝志、何の真似をしてるのかしら?」

先程天高く飛ばされた孝志、地上に着地(落下したとも言う…)した際に、偶然椿と沙耶が居た


「神宮司…軍曹…恐るべし…ガクッ…!!」


「た、孝志?孝志!?」


それ以来、お酒を飲んだ神宮司軍曹には、絶対近づくまいと、心から誓う一同だった…



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ第十六話①
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2010/09/14 19:23
1998年・5月11日
京都・帝都城----


とある一室に集まったのは、普段お互いに顔を見合わせる事が出来ないメンバー。


極東国連軍・帝国軍白陵基地・オルタネイティヴ4最高責任者の香月夕呼博士

元・ノースロック社技術者・現極東国連軍・帝国軍白陵基地技術最高責任者のエルヴィン


帝国斯衛軍大将であり、最強の武人・紅蓮醍三郎


帝国陸軍中佐であり、伝説のテストパイロットと呼ばれる、巌谷榮二


そして、そんな中に我等の白銀武がポツリと存在していた。



「…なんでこの中にオレが居るんだ…?」

「アンタも上を目指すならば、こういう重要会議に参加するハメになるわよ?
それに、今回の会議は今現在開発中の戦術機関連の話よ、別にアンタが居ても大丈夫よ。」


「むしろ、居てくれると助かります。
シロガネ中尉のアイデアは、時折予想外な斬新なアイデアを出す、
そういう意味でも、私にとっては助かります。」

香月博士とエルヴィンの発言で『ウムウム…』と頷く紅蓮大将と巌谷中佐を見て、『ええ…』とうなだれるタケル。

そんなタケルを放置して、会議は始まる。



「まず今回の題は、現在開発中の不知火の改良機である『不知火・改』について、お話します。」

エルヴィンが書類を持ち、説明すると、モニターに映る不知火・改・図面が公開される。



「現在開発中の不知火・改は、通常のタイプ94(不知火)とは違い、機動力を重視した機体になっております。
勿論、接近戦・射撃能力に関しても、通常の不知火よりアップしてます。」


肩部・脚部スラスターユニットの説明や、二連式跳躍ユニットの説明をし、不知火・改の機体性能についても説明する。


「タイプ94の問題点であった、設計上余裕の無い問題については、機体自体を少し大きくし、尚且つ巨大な推進剤のタンクを取り付け、
そして、米国製ではありますが、消費電力の少ないパーツを使い、問題点をクリアしました。」


「ほぅ…従来の不知火より2mちょっと大きくなったか…
しかし、二連式跳躍ユニットとやらで、推進剤の消費が激しいのでは…?」


「それについては解決してます。
勿論二連式にするという事は、推進剤の消費が激しい事を意味します。
そこで、主機であるジャンプユニットを少し小さくし、尚且つ推進剤の消費を抑えるパーツを取り付ける事で、従来の跳躍ユニットより出力は有り、二連式にした事による推進剤の消費の問題も解決しました。
最大速度も850キロまで出す事が可能
例えシロガネ中尉が全力機動をしても、問題無い程の稼動時間を約束出来ます。」


「まっ、元々は白銀を乗せるつもりで開発した計画だから、稼動時間の問題をクリアする事は当たり前なんだけどね。
それが、帝国軍の次期主力戦術機にまで話が進むとは…
良かったわね、白銀。
アンタ、また帝国軍に貢献が出来たわよ?」


ニヤニヤする香月博士に心の中で『嘘つけっ!!』と呟くタケル。


タケルは知っている---
以前、香月博士から聞いた話ではあるが、タケルが『二度目の世界』から居なくなってから、撃震に代わる主力戦術機が現れた『タイプ04・不知火・弐型』を---


そして、その不知火・弐型を香月博士の記憶の有る限り再現したのが、この『不知火・改』なのだ

そして、エルヴィンをノースロック社から引き抜いた事により、以前から考えていた不知火改良計画を実行したのだ


勿論、香月博士の性格上、不知火・弐型の複製だけでは満足する訳なく、『超えるモノ』を創ろうと考えてた所、タケルの突然の発言とかにより、機動力に関しては超える事は出来たのだ。



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ第十六話②
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2010/09/14 19:21
「そういえば…『不知火・改』が正式名称なんですか?」

「一応決定はしてないけど、ほぼ決まりよ。
やっぱり不知火は『不知火』で良いのよ」

「なんつ~…適当な理由で…」


香月博士の適当な理由にタケルは呆れながら突っ込みを入れる。
『一応、『飛燕』とか『剣舞』とか『火群』とかあったけど、パッとしないから却下したわ』と事実を追加する香月博士。

「現在、不知火・改は帝国軍だけではなく、斯衛軍の主力戦術機の一つとして考えてます。
現在、開発中の武御雷は素晴らしい性能ですが、整備性を度外視した機体な為、国外での運用は困難な問題と、ケタ違いのコストの高さ故に、年間30機程度という問題で、全ての斯衛軍には渡らないのが現実です。
そこで、そのカバーとして、不知火・改を導入する事で、斯衛軍の戦力の底上げにも繋がると考えてます。
不知火・改のコストは、まだ不知火よりは、高めですが、それでもまだ現実的なコストです。
そしてこれにより、斯衛軍の国外での運用は可能となり、尚且つ整備にも困らないという利点もありますので、わざわざ斯衛軍から帝国軍に転属して、大陸で戦う…という事もしないで済みますので、場合によっては、戦力を維持したまま大陸で戦う事も可能です。」



エルヴィンの説明を聞いて、唸る巌谷中佐。
確かにそうすれば、戦力の分散や慣れない衛士達とのチームプレーの心配は無くなる。

「…確かに良い話だが、もし不知火・改を作るとして、年間どれだけ製作出来るのだ?」


「…確かに、武御雷に比べれば多いですが、一から作るのであれば、年間200機~300機程度ですが、
現存する不知火を改造するならば、一から作るよりは、早く終わります。」


紅蓮大将の質問にエルヴィンは大凡な答えを出し、紅蓮大将を納得させる。


そんな事で、不知火・改の題だけで三時間をも時間を使い、とりあえず不知火・改の会話を終了する



その後、新兵器の電磁投射砲の開発状況を香月博士が公開すると、全員が驚愕し、唖然とする
そして---




「あと---現在、まだ開発は行ってませんが…
新しい戦術機の開発を考えてます」


「新しい…戦術機?」


「ハイ、正確に言うならば、『特別機』です。
今は--白銀専用機の『対ハイヴ突入機』と考えてくれれば良いと思います。」


「えっ!?オレ専用機!?」
突然の発言に全員がどよめきだす。
当のタケルや、同じ所属のエルヴィンすら知らない事だった。


「これは、いずれ来るであろう『オリジナルハイヴ攻略』を目的とした考えで、その際…白銀はハイヴに突入する予定です。」


「「「----ッ!!」」」


『オリジナルハイヴ攻略』の言葉に驚愕するエルヴィン・紅蓮・巌谷の三人
タケルはこの時『オルタネイティヴ4関連』の事だと悟る。


「この計画は、私が進めている、オルタネイティヴ4計画に関わっており、尚且つ白銀はこの計画に深く関わっている者。
そして、その計画の完遂には『オリジナルハイヴ攻略成功』に関わってるのです。
その際、白銀の存在は絶対不可欠であり、その白銀の完全な『全力機動』を操るには…戦術機を新開発をする必要があります。」


「ど、どういう事かね!?
先程の不知火・改はその為に創ったのでは無いのかね?」


香月博士の発言を聞き、巌谷中佐が疑問をぶつける。


すると、香月博士は白銀の隣まで近づき、説明する。



「…実は、不知火・改を開発してる最中に判明した事ですが…
現在、白銀の衛士としての成長は急上昇してます。
これも、紅蓮大将や神野大将を始め、巌谷中佐や五摂家の御子息達のおかげで急上昇してます…異常な程にね…
…このままだど、数年後には、白銀の全力機動に耐えられる戦術機は…無いのかも知れません。」

その言葉を聞き、全員が絶句する。
当のタケルや、発言している香月博士すら、驚いているのだ。


「今は不知火・改や、後々完成する武御雷でも構いませんが…
少なくとも、現在は瑞鶴・撃震の二機はもう白銀の全力機動を出す事は無理でしょう…
出せば…機体が壊れる危険性が高いからです。」

「それって、元々の問題の関節部の蓄積の問題なんですか…?」

「そんな生易しいモノじゃ無いわ。
確かにXM3を搭載し、紅蓮大将や神野大将のおかげで、機体に溜まる蓄積ダメージは減っている。
けど同時に、撃震や瑞鶴では、最早白銀の操縦に追いつけないでいるの…
無理に全力機動を行えば、機体が破損する可能性がある…それ故に、白銀には『特別機』を創る必要が出て来たって訳
しかも…武御雷や不知火・改を『超える機体』をね…」


最早誰一人言葉を発する者は居なくなり、口をパクパクとする。


「現在はまだ取りかかってませんが、今度の機体は、白銀に合った機体、『機動力に特化した機体』を目的として製作したいと思います。
勿論、接近戦闘などの方も忘れてません
…そこで今回、不知火・改が完成し、ロールアウトした際は、『特別機製作』に開発を進めたいと思います。」



香月博士の発言に全員が度肝を抜かれ、とりあえず『特別機』の開発に関しては、保留にするという事で、今回の会議は終了した…



そして、未だ尚、会議室にはタケルと香月博士と紅蓮大将の三人が残っていた。


「いやはや…まさか白銀専用機とは…流石に度肝を抜かれましたな…」


「けど、先程の話は真実。
実は、この事は『前の世界』でも、それらしいデータは有ったの。
その際は、バグだと思ってたけど…今回の世界で、それがハッキリわかりました。
コレを無視すれば、オルタネイティヴ4に影響が出て来るかも知れません…
今の内に、手を打つ事が最善かと思います。」



紅蓮大将と香月博士のやりとりを聞きながら唖然としているタケル…
未だに自分に『特別機』が与えられる予定な事に戸惑いを隠せないでいた。



「あっ、早々、白銀
速瀬達が『総戦技演習』をクリアしたわ。
勿論涼宮に怪我は無し、無事に事を進めたわ。
この調子でいけば、『本土上陸』が終わった後…大体早くても10月ぐらいには『解隊式』を迎えるわ。
そして…次は宗像・鑑と…クリスカ・イーニァにも訓練兵として受けて貰うわ。」


「クリスカとイーニァもですか!?」


涼宮遙の事故を回避した事に安堵するタケルだが、その後の次期訓練兵のメンバーにクリスカ・イーニァが入ってた為、驚く。


香月博士の話によると、『戦術機の訓練は受けてるけど、まだ体力的に問題あるから、一度訓練兵で鍛えた方が良いわ
その方が鑑の『護衛』にもなるし…』…らしい


そして---



「あっ、そうだ。
今度恋愛原子核を大爆発する時は、まりもも参加させなさいよ?
このままだどまりも、誰とも結ばれる事が出来ないから、既成事実作ってまりもを嫁に貰いなさい。」


最後の最後でとんでもない発言にズッコけるタケルと紅蓮大将だった…。



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ第十七話①
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2010/09/20 19:23
1998年・6月30日

帝都・月詠邸---




いつもとは違い、騒がしい月詠邸。
すると、玄関先にてタケル達が居た。



「やちる、後は頼む。
仙台の月詠家の屋敷にて避難していてくれ」


「ハイ、真耶様・タケルさん、ご無事で…」


「やちるさんも気をつけて、オレの車好きに使って良いから、『例の件』頼む」


「ハイ…必ずお渡し致します。」


やちるはタケルの車に乗り、仙台に向けて出発する。



この頃、以前からマークしていた、重慶ハイヴから動きが有り、日本にも警戒態勢が引かれてた。

勿論、この事はタケルや香月博士の話で知っていた為、事前に九州・四国地方を重点的に防衛態勢をし、万が一を考えて、本州にも防衛態勢を引いていた。


そして、京都が陥落する事を知っているタケル達は、やちるや屋敷の使用人達を仙台にある月詠家の別邸に避難する事が決まった。



「さて…屋敷には私達しか残ってないか…」


「一応、食料は確保してますから、当分は大丈夫ですね。」


タケル達は、帝都城を守る為、残る事になった。
その為、BETAが日本上陸するまでは自宅で生活する事が許されていた。



「どうやら、皆避難したようだな。」


「真那…」

「真那中尉!?」

すると、タケル達の前に、真那が近寄って来た。

「白銀、此度は緊急の処置として、私も貴様と同じ、第17大隊に所属が決まった。
そして、真耶は聞いてるとは思うが、斑鳩家当主の所属する第16大隊に所属が決まった。」


「真那中尉がオレの隊に!?」


突然の話に驚くタケル
そしてまだ真那の話は続く。


「白銀、私の此度のポジションは突撃前衛長だ…
つまり、貴様と同じ第1中隊のB小隊だ。」


「ま、マジっすか…?」

「マジ…?また白銀語か…
本当だ、第1中隊の突撃前衛は、貴様ともう一人の少尉だけしか居ないからな。
本当ならば、戦術機の操縦が上の貴様が突撃前衛長になるという話があったが、『白銀中尉には、まだ早い』という声が有ったのだ。」


「そうですね…オレはまだ指揮を取るにはまだ勉強不足ですね。」


「そういう事だ、それ故に私が選ばれたのだ」


納得するタケルだが、真耶は『…私も同じ部隊が良かった…』と小さな声で呟く。



「そうだ…白銀。」


「なんですか?」


真那に呼ばれ、振り向こうとすると、首に腕で締めるように背後に回り込み、小太刀をタケルの首筋に突き付ける。

「冥夜様の貴様への気持ちは、知っている…
もし、冥夜様を泣かせる事が有ったなら---わかるな?」


「ハハハハ…ハイッ!!」

きゅぴーん!!と赤い眼光を放ちながら、死の宣告をする真那。
涙を流しながら、肝に銘じるタケルと、『ヤレヤレ…真那の悪い癖が出たか…』と呆れる真耶。




中に入り、茶を飲む三人、するとチャイムが鳴り響く。


「誰だ?こんな時に?」

「オレが行って来ます。」


バタバタと玄関先まで行くと…


「タケル君、あっそぼ☆」


近所の子供のようなセリフを吐く孝志に、タケルは素晴らしいヘッドスライディングで、ズッコける!!


「あ…あんた…
っていうか、椿さん達や冥夜までっ!?」


「済まない…孝志が言う事を聴かなくてな…」

「あの手この手使われて…いつの間にか私達まで、此処に『泊まり込み』になってしまったの…」

「お、お邪魔します…」

「タケル…済まない…。」


政弘・椿・沙耶・冥夜まで、孝志に巻き込まれてしまった様子。



「あ…アンタ等、自分の家はどうした…?」


「ここと同じように、使用人達は避難させたよ。
今居るのは、自分達と同じように防衛戦に出る連中だけだ。
オレんちの当主の兄貴は、斑鳩家の当主と一緒に基地で寝泊まりするし、椿の家や政弘の家は、当主二人して、帝都城であれこれ忙しい為、帰れない。
冥夜ちゃんの家の御剣家は、現在民を避難させてる為、冥夜ちゃんが余った形になって、オレんちに来て預けられたって訳。
そこで、それならばみんなで月詠さんの家で寝泊まりして、タケルをいぢくろうとした訳だ。」


「アンタだけ帰れ。この元凶が」


非常識な行動をする孝志に、タケルは厳しい突っ込みを入れる。

そして、仕方無く中に入れて、居間に居る二人に説明すると、呆気に取られる真那・真耶
そして、孝志に『お仕置きという名の拷問』を入れる真耶
夜、タケルと同じ部屋で二人っきりで、いやんいやんする計画が潰れ、少しキレ気味になる。


((危なかった…))


ホッとする冥夜と沙耶。
孝志には、心の中で少し感謝をする二人だった。


「しっかし、初めてじゃないかい?
このメンバーが一緒で休暇を取るなんて?」


「仕方無い事だ、我々は家の事を任されて休暇を取る事になったのだ。
使用人達の避難や、大事な家財道具や色々と仙台に運んだのだ。」


「今、家に有るのは、少しばかりの食料と布団のみ。
後はスッカラカ~ンに無くなってるよ。」


タケルの質問に政弘と孝志が答える
最早やる事は無くなり、今日だけ暇人になったようだ。


「そういえば、ギリギリで不知火・改が完成したな!!
今、斯衛や帝国軍じゃ、大人気みたいだぜ?」


「流石に全てには渡らなかったが、我々第17大隊のみ、配置が決まったようだ。」



不知火・改が完成し、早速生産にかかったのが、つい今月の始め。
急ピッチで生産したものの、それでも40機には満たなかった。


しかし幸運な事に、元々第17大隊は不知火・改を開発していた部隊だった為、すぐに部隊分だけ完成した。
最大の理由は、不知火・改のテストパイロットはタケルだけではなく、他にもテストパイロットのメンバーも居た為、その時の機体だけでも12機は有ったのだ。

この提案は、やはり香月博士の案で、万が一の安全策の一つとして、12機は確保していたのだ。



「明日は第17大隊全員で不知火・改でのシミュレーター訓練よ。
機体を出来る限り使いこなすわよ」


「「「「了解」」」」


椿の指示に返答するタケル・真那・孝志・政弘。

(むぅ…その不知火・改、乗ってみたいものだ…。)

ウズウズする冥夜、衛士として不知火・改に興味が湧いていた。



以前、ループの事を公にした後、冥夜の衛士としての実力を知る為、極秘で一度シミュレーター訓練で、久々にタケルとエレメントを組んだ。


最初はなまっていたものの、すぐに本来の実力を発揮出来るようになり、
その後に仮想敵として、紅蓮大将と神野大将が相手にした。



勿論結果は敗北だったが、タケルとエレメントを組んだおかげで、冥夜も神野大将に少破判定を与える事が出来た。


それ以来、戦術機に乗りたくてウズウズしてたのだ。


後々の話だが、冥夜が身代わりの件で解決した後、香月博士の悪戯的な提案で仮想敵役を与えられ、第17大隊のメンバーと対戦させられる事になる。(みんなには勿論内緒で)

タケルはすぐ気付くが、他のメンバーは…
『なんだあのNPC!?
めっちゃ強えぇよ!?』だの
『まるで月詠中尉と戦ってるみたいだ…』とか、謎の仮想敵に困惑し、戸惑う姿をコッソリ楽しんでいる香月博士の姿をタケルは目撃する事になる…



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ第十七話②
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2010/09/16 22:00
1998年・7月1日---
シミュレータールーム---




「ふぅ…」


タオルで汗を拭きながら、降りてくるタケル。
その横で、タケルとエレメントを組んでいた同じ突撃前衛がフラフラと歩いてくる。



「あうぅ~…タケルさん、激し過ぎるよぉ…」


「お疲れ様。
あいよ、ドリンク」


「ありがとうございます~…。」


ペタリと座り込みながらドリンクをゴクゴク飲む

タケルとエレメントを組んでいた、同じ突撃前衛の一人、『五十嵐駿少尉』は、タケルが入隊した時から一緒にエレメントを組んでいた人物だが、
最初は着いて行けず、しばらく落ち込んでいたりする程、気の弱い性格だが、隊一番の頑張り屋で、良く居残りをしながら訓練をし、結果3ヶ月後にやっとタケルの機動に着いて来れるようになった。


今現在、第1中隊の中で一番タケルの動きに着いて来れる人物だが、それ以上に着いて行ける孝志にはまだまだ適わないでいた。


「タケルさん、凄いや~…。
あんな機動、ボクには思いつかないや…」

「駿も頑張って着いて来てるじゃないか…?
孝志さん以外には、なかなか着いて来れないんだぞ?」



少し落ち込む駿を励ますタケル。
事実、着いて来れる駿の腕前にはタケルも認めていた。


「そうだぞ、五十嵐少尉。
白銀中尉の変態機動に着いて来れるだけでも、凄い事だ。
それだけ、そなたの実力が上がった証拠だと思うぞ?」


「つ、月詠中尉!?」

「真那中尉?」


タケル達のそばに真那が寄って、駿を誉める。


「五十嵐少尉の事は以前から知っていた。
『斯衛一の頑張り者』と呼ばれる程有名だからな。
あの紅蓮大将や神野大将ですら、絶賛する程認められてるのだぞ?」


「アワワワッ…そんなぁ…!?」


アワアワする駿を見て、タケルは『築地やたまみたいな奴だな…』と苦笑いしながら思う。


「さて、椿隊長の所に行くぞ」


「ハ、ハイ!!」


休憩をした後、椿の下に集まり、反省会をする。様々な問題点や指摘を言い、次に繋げるように言葉を語る


「…さて、汗を流して着替えた後は、昼食にする。
昼休み後は会議室で隊の陣形の変更などの話をした後、雑務作業を行う事。
以上、解散!!」

椿の解散の号令と共に、各自自由に行動する。
その際、タケルと駿の下に孝志と政弘が寄って来る。



「お二人お疲れさん。」

「孝志さんと政弘さん」


「此度のシミュレーター訓練は、良い結果だった。
五回中三回が全員生還したのだからな。」


今回のシミュレーター訓練は、野戦でのBETA戦の訓練を行っていた
その結果、五回中三回も全員生還という結果が出たのだ。


「油断は禁物ですよ、政弘さん。
実戦はそんなに甘くは無いんですから…」


「うむ…そうだな…
流石はタケルだな、実戦が近づいてるというのに、冷静に…そして現実的に視野を見てる。」


タケルの一言で、己の油断に反省をしながら、タケルの評価を上げる政弘。


『ウム、噂に名高い戦いっ振りであった。
白銀中尉よ、見事だったぞ。』


「えっ…貴方は…」


「いっ、『斑鳩少佐』!?」


「あ、兄貴まで!?」


すると、タケルの前に、『青』の強化服姿の男性二人がやってくる。


「先程のシミュレーター訓練…素晴らしい結果だった。
特に白銀中尉…貴殿の機動技術には、驚愕する事ばかりだった。」


「君が白銀中尉か、弟の孝志からは話を聞いてるよ。」


「は、はあ…」


突然の訪問に驚くタケル。
興味津々にタケルを観察する二人



「自己紹介がまだだったな
私は帝国斯衛軍第16大隊所属の斑鳩伊織少佐である。」


「同じく帝国斯衛軍第16大隊所属の崇宰隼人だ
白銀中尉の発案したXM3…そして、今回開発した改良機不知火・改…誠に素晴らしい物ばかりだ、貴殿には感謝する。」

「い、いえ、そんな事はありません」



「タケルは知らないかもしれないが、斑鳩少佐は第16大隊の大隊長であり、崇宰少佐は副隊長のお方だ。
良く覚えておいた方がいい」


斑鳩少佐と崇宰少佐の自己紹介をされた後、政弘から二人の立場を教わる。



「此度の不知火・改…
今日我等の大隊にも8機程配置され、慣熟訓練を行ったが…
素晴らしいの一言しか、言葉が出て来ない。
…よくぞ、この不知火・改を開発してくれた…感謝する。」


「俺も乗って訓練したが、瑞鶴とは桁違いの性能だよ、コレには流石に驚いたよ。」

「其処まで誉めて下さるとは…みんなで開発した甲斐が有りました。」


二人の不知火・改の評価を絶賛され、タケルは敬礼しながら感謝する。


「…ところで白銀中尉…
君に質問が有るのだが…」


「なんでしょうか?」


突然の斑鳩少佐の質問に少し緊張するが…



「…白銀中尉、君と月詠真耶大尉の『祝言』はいつやるのかな…?
私としては、部下に月詠真耶大尉を持っている故に、お祝いの品の準備をしたいのだが…?」


「……………ハイ?」


突然の発言。
あまりにも突然な発言にフリーズするタケル。
その話を聞いていた駿が顔を真っ赤にしながらアワアワする。


「…斑鳩少佐…?
その話は一体…?」


「うん?知らないのか、斉御司大尉?
今帝都では結構有名な噂なのだか…?」


タケルの代わりに質問する政弘。
政弘の質問に対し、正直に答える

「俺も聞いたぞ、その噂。
出所は女性衛士達らしいが、白銀中尉と月詠真耶大尉は『同棲』していて、毎日お互いの事を理解しあうように接していて、
最早『婚約』まで決めて、夜の契りを頻繁にしている…という話だ。」



「…中身は同じだけど、話自体がややこしくなってるな…」


兄・隼人の話を聞いて、二人に説明する孝志
孝志の説明を聞いて納得しながら、爆笑する二人。



「クククッ…済まなかった、白銀中尉。
どうやら誤解してたようだ…」


「けど、『婚約』って意味では本当みたいだから、結果は同じか。」



二人のトドメの一言でKOされるタケル。
そして、そんなタケル達から離れた場所から、隠れるように、2つのお団子ヘヤーの頭がフルフルと動いていた


(す、既に遅かったか…)


タケル達に知られる前に誤解を解こうとしていたのだが、既に遅し
噂話を話されて、出るに出られないでいる真耶が居た。



「そうだ、お祝いの品は、花嫁衣装にしよう。
和風が良いか?
それとも洋風のが良いのか?」


「いやいや、伊織よ、二人の記念の結婚式の花嫁衣装は、二人が納得出来るように選ばせてあげねば、失礼という物だ。
贈るならば、『新婚旅行』の旅先を我々で用意してあげようではないか」

「なる程…その後は、二人の『愛の結晶』たる赤子の玩具やオムツも用意せねば…」


伊織と隼人の猛攻にタケルは追い込まれ、真耶は影でいやんいやんと様々な妄想で悶えていた。
勿論、伊織と隼人の二人はクスクスと笑いを堪えながら、いぢくっていた。


その後、伊織と隼人の二人は立ち去るが、タケルと真耶の復活には時間がかかった…



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ第十八話①
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2010/09/17 23:06
1998年・7月7日---

北九州沿岸部周辺---

『来たぞッ!!BETAだっ!!
各自陣形を保ちながら防衛せよッ!!』



『『『了解!!』』』


海中から醜い姿を現すBETA。
出た瞬間に帝国軍の一斉射撃が始まり、辺り周辺の海は、夥しくBETAの肉片が浮かび、血が混ざり、澄み切った海が毒々しく広がる。


上陸する要撃級や小型種は、帝国軍の放つ弾幕の餌食となり、残骸の壁が築かれていく。


タケル達が斑鳩少佐達にいぢくられてたその日--
重慶ハイヴに動きがあり、『東進』して来たとの報告が入った。
朝鮮半島を渡り、そのまま海中から日本へと進行し、7日早朝に上陸した。



『隊長、突撃級が現れて来ました!!』


『各自突撃級に備えて、防衛せよッ!!
今こそXM3の力を見せつけてやるんだッ!!』


『『『了解!!』』』



突撃級が海中から現れて全速力で進行する
突進攻撃に備え、ある程度後退してから突撃級を待つ。


『今だッ!!
突撃級の背後に回り込み、攻撃せよッ!!』


『『『了解!!』』』


帝国軍の第弐小隊--
突撃前衛達が突撃級の背後に回り込み、攻撃を開始する。


ある者は突撃砲で葬り、ある者は長刀や短刀で切り裂く


支援砲撃の雨の中、果敢にも、我が故郷・我が祖国を守護せんと奮戦する者達の姿を見て、他の者達も奮い立ち、それに応える。




同時刻・仙台---



『香月博士、北九州沿岸部周辺でBETAとの戦闘が開始されました!!』


「そう…遂に来たわね。」


既に仙台まで避難して来た香月博士。
『前回の世界』より、早めに仙台に避難して来た。


(念には念を入れないとね…。
前回と同じように歴史が進むとは限らないわ…)


『想定外』の事態に備えて、事前に先手を打っていた香月博士。
そして万が一に備え、A-01や白銀夫妻のいる帝国軍第6大隊を出撃させずに、そばに置いていた。


『香月博士、今正門前に博士宛ての『来客』が来てますが…?』


「ハァ?こんな時に来客ですって?」



突然の来客の訪問に唖然とする香月博士。


「誰よ、ソイツ?」


『ええ…と、月詠家侍従の月島やちるという者です。
なんでも白銀中尉からの預かり物を『鑑』という者に渡したいとか…』


「月島やちる…ああ~…思い出したわ。
白銀から鑑に渡し物…?
まあいいわ、今鑑を連れて其方に向かうと伝えておいて頂戴。」


『ハッ!!』


伝令が敬礼して立ち去った後、通信を入れる。


「ああ、私よ。
済まないけど鑑を私の所に連れて来て頂戴。
その際護衛に白銀影行大尉と白銀楓中尉を付けて
あと、私も正門前に向かうから、まりもを護衛に呼んで頂戴」


ガチャリと受話器を置き、通信を切る
そして、純夏・白銀夫妻・まりもが到着すると、説明をしてから正門前に向かう。



「しばらくぶりね。」

「ハイ、しばらくぶりです、香月様
そして鑑様、こちらがタケルさんからの『預かり物』で御座います。」


「タケルちゃんからの…?」


やちるから紙袋を貰い、封を開けると---
『サンタウサギと純夏人形』が入っていた

「えっ…サンタウサギと私の姿した人形…?」


「誕生日プレゼントで御座います。
…本来ならば、タケルさんから渡す予定でしたが…この様な緊急時になりまして、私がタケルさんから預かった物です
不器用ながらも、タケルさんが手造りで作った人形で御座いますよ。」

「タケルちゃんが…!!」

ギュッと強く抱き締めながら感涙する純夏。
まさか、タケルが手造りで人形を作るとは思わず、驚きながらも感動する

「そうだっ!!タケルちゃんはっ!?」


「……京都に残り、帝都防衛戦に参加すると聞いてます。」


「そんな---」


人形を貰い、感動する純夏だが、タケルが戦闘に参加すると聞いた瞬間、表情が曇り、不安感が襲ってくる。


「---信じて待つのよ、純夏ちゃん」


「おばさん…」


「タケルは生きて帰ってくるわ…」


純夏の肩に手を乗せて、説得する楓
そして、純夏の肩に乗せた楓の手が小さく震えてた事を知り、コクリと首を縦に頷く


「……うん、タケルちゃんが帰ってくるの…信じて待つよ…」


「ありがとう…純夏ちゃん…」


『信じる』と語った純夏に抱きつき、感謝する楓
そんな姿を見守る影行と、無言でタケルを信じて待つ香月博士…



(…白銀、死ぬんじゃないわよ…)


京都の方向の空を見て、心の中で呟いていた…





数時間後・京都帝都城----



『北九州沿岸部から侵攻して来たBETAが着々と進行しています!!
北九州沿岸部に防衛に出撃している戦力は、未だに約八割以上が生存しています!!
現在、光線級の確認は無し。
しかし、現在要塞級が50を超える数が上陸しています!!』



「…上陸して数時間経った現在で生存数が八割以上…
もし、XM3が無かったら、ゾッとしたわね…」

北九州沿岸部の状態を聞き、冷静に判断する椿。
現在帝国軍・斯衛軍・極東国連軍に搭載したXM3は、約七・八割程度
そして、主に九州・四国・本州・京都帝都城・白陵基地の五ヶ所にXM3搭載機を配置していた。


その結果、北九州沿岸部の生存数が約八割以上…
『もしも、旧OSのままだったら…』の事を考えると、背筋がゾクリと悪寒が走る。


しかし現在油断は出来ない状況
戦いは始まったばかりだからだ---!!



「…………」


無言で報告を聞くタケル。
今は『その時』が来るまで、静かに身体を休める。


「タケルさん…
タケルさんは怖くはないんですか…?」


少し緊張する駿が、タケルに語ってくる
緊張する駿の姿を見て、話し相手になる。


「そりゃ怖いさ。
…けど、それ以上に大切な人達や仲間達を失う方が怖い…
だから、気合いを入れて戦うのさ。」


「凄いや…タケルさん。」


「駿だって、居るだろ?
そういう人達は…」


「ハイ、一応は…」


『ハハハッ…』と苦笑いをする駿。


「…元々ひ弱な僕を、勘当当然で親が入れたもので…」


「…それはそれで凄い気はするが…」


「…だから、『大事』な人達は居るんですけど、僕を『大事』とする人は、隊以外には居ないんです。
ハハッ…情けない話…ですよね………ってイテテテッ!!?」


しゅ-ん…と暗くなる駿だが、タケルが気合い(暴力という名の)を入れ直す。

「気合い注入だ、感謝しやがれ
あと莫迦な事言うな、隊以外にだって、お前の事大事に思う奴は居るだろうに。
以前真那さん言ってただろ、『紅蓮大将や神野大将が絶賛してた』って。そういう風に評価しくれるって事は大事に思ってくれてると思うぞ?」


落ち込む駿を説得するタケル
そんな優しいタケルを見て、駿は『タケルさぁ~ん…!!』感動する。


(それに親御さんだって…)


タケルは知っている---
以前、沙耶から聞いた話だが、駿の親御さんが、時折帝都城正門前近くでうろついてた所、椿と沙耶に見つかり
話しを聞いた所、駿が大層心配でうろついてたそうだ。



(純夏にちゃんと、プレゼント渡ったかな…)


今一番心配する相手、純夏の心配をするタケル
純夏を守る意味でも--
守り抜かねばならない。


(今度は絶対に---
BETAから守ってやるからな…!!)


掌をギュッと握り締めて、決意を固めるタケルだった…



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第十八話②
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2010/09/18 21:56
1998年・7月10日
四国日本海沿岸部周辺---


『来たぞ、BETAだっ!!』

『本州と結ぶ巨大橋群を爆破するのだっ!!』


『了解!!』


素早い通信を入れて、巨大橋群を中国地方の爆破班に通信を入れて、爆破する。


『…これで此方側のBETA共が本州に向かい、挟撃する危険性は低くなった…
あとは、背水の陣となった我々がBETA共を始末するだけだっ!!』


『『『了解!!』』』



死を覚悟して、背水の陣となる戦場で、力の限り戦う四国防衛線の衛士達。


中国地方から支援砲撃はあるものの、逃げ場は四国から少し離れた場所に待機してる戦艦のみ。
全ての衛士達を救える事は出来ないのを覚悟し、死地へ向かう。


『BETA共に我等日本人の魂を見せつけてやれっ!!』


隊長機の号令と共に総攻撃が始まる。
死を恐れず、抜刀し突撃する者
突撃した仲間達を支える為に強襲や援護射撃をする者
そして、祖国を守り抜く為、特攻し、散って逝く者


今---この四国で地獄のような防衛戦が始まっていた。





同時刻・下関沿岸部周辺---


『済まない…九州は奪われた…』


『奪われた物は奪い返せば良い。
それより、よくあの激戦にこれだけの生存者が居たものだ…』


『ああ…このXM3のおかげだ…』


中国・下関沿岸部周辺では、九州での激戦の中、生き延びた部隊達が中国地方第1防衛線の部隊と合流する。


九州はBETAに制圧されたものの、市民達は既に東へと避難済み。
しかし、九州を防衛していた多くの兵士及び衛士達が散っていった。


下関に生き延びた九州の部隊は、約半数近い部隊が生存する事が出来た。
そして、散って逝った衛士達の殆どが旧OS搭載機の撃震や陽炎であり
XM3搭載機の戦術機は一割強程度の被害だった。


『我々は、このXM3を創った者に感謝せねばならないな…』


『そうか…ならば生き延びろ
その為にも、貴殿達は補給所まで退却し、一時でも身体を休めるんだ。』

『今はBETA共も進行を止めています。
早く補給を完了しつつ、身体を止めて下さい。』

『ありがとう…感謝する。
みんな、聞いたな?
我々は補給所まで退却し、補給や修復をしつつ、この恩を返す為にも、身体を休めるんだ。』


『『『了解!!』』』



補給所まで退却する九州防衛線の衛士達…



『…美冴…生き延びる事が出来たよ…』


退却する部隊の中、ぶら下げていたロケットの中の女性を見て、生還した喜びと、九州を守り抜けれなかった悔しさが混じっていた。



奇しくも、タケル達の知らない所で歴史は変わっていた。
この男性こそが、『二度目の世界』のイスミヴァルキリーズの隊員の『宗像美冴中尉』の想い人である。


『二度目の世界』では、九州防衛の際、怪我を負い内地送還した筈だが、今回はXM3搭載機に搭乗していた為、無事に退却する事が出来た。



『京都は---
あの嵐山の光景は必ず守ってみせるから…見守ってくれ…!!』


パチンとロケットの蓋を閉じ、握り締める。
そして補給所へと向かっていった…



同日・仙台---



「--という事で、お願いしますわ。」


ガチャリと受話器を置く香月博士
フゥ…と溜め息を漏らしながら、椅子に深々と座る。


「これでなんとか出来る限りの手を打った。
あとは…白銀に託すしか無い…か…」



天井を見上げながら、何も考えずに、ただじっと見つめる。
そして視線を元に戻し、何かしようと立ち上がった時--



『『博士ッ!!』』


「何よ、騒がしいわね~…
速瀬・『鳴海』、何の用かしら?」


香月博士の下に、訓練兵の速瀬水月と『鳴海孝之』が入室して来た。


後から涼宮遙と『平慎二』もやって来て、二人退室させようと努力する。


「博士、何故私達は仙台に避難して来たんですか!?」


「俺達だって、戦術機を操縦出来ます。
今は白陵基地に戻って防衛するべきでは!?」


「そんなの決まってるでしょう?
今のアンタ達じゃ、『足手纏い』だからよ。」

「「---ッ!!」」


香月博士のキツい一言に愕然とする水月と孝之
二人の後ろで羽交い締めしながら抑えてる遙と慎二も、その言葉に悔しく思う。


「アンタ達だけが死ぬならまだ良いけども、そのせいで、巻き込まれて死んでいく衛士達の事も考えた事がある?
彼等だって、守りたいモノや生き延びたい望みだって有るのよ?
それをアンタ達のせいで死なせたら、それこそ『無駄死』になるわ。」


「それは……」

「クッ…!!」


「アンタ達の故郷である柊町を守りたい気持ちはわかる。
けど、今のアンタ達に出来る事は何も無いわ。」


ギリリッ…と歯を食いしばり、悔しむ孝之
悔しい思いと己の無力さに涙を滲ませる水月。



「コラァッ!!貴様等何をしてるかっ!!」


其処に鬼軍曹・神宮司軍曹が強化装備を着たまま入室する。


「良いわよ、まりも。
別に気にして無いから、今回の事はお咎め無しよ。
まあ、一応罰として、白銀の全力変態機動を『3セット』して貰うわ。」


「「「「………え゛っ?」」」」


この時、水月達が硬直する。
実は彼女達は、『戦術機適性検査』の時、タケルと面識していた。


その際、水月と遙は『あっ、あの時の斯衛の人!?』と、以前タケルを見かけた時の事を思い出す。
そして、香月博士の提案(イタズラ)で、タケルの全力変態機動を体験する羽目になる。


結果は…………語る事すら可哀想な結果となる。
孝之・慎二達男性陣は悉く全滅。
生ける屍と化したのは当然の事
水月・遙達女性陣も、女のプライドすら打ち砕く全力変態機動に太刀打ち出来ず、ポリバケツの中の酸っぱい臭いお構い無しに吐く。
勿論女性陣全員がタケルにオンブされ、真っ赤に頬が染まった姿を見た男性陣は悔し涙をする事になる



この時から---後に受け継がれる横浜基地新たな『伝統』が誕生した瞬間だった--!!


「………博士、速瀬達を殺す気…?」


「冗談に決まってるじゃない?」



全員がこの時、心をひとつにする
『この人は本気で殺る気だ…』と…


「……随分落ち着いてますね、博士。」


「そんな事無いわよ、さっきまで忙しかったんだから。」


「…けど、こんな事態な割には冷静過ぎるわ…
…何を企んでるの…?」

友人であり、香月博士を一番知るまりもが何やら疑う。


「単に今出来る事を尽くしただけよ。
あとは…BETAの動きに警戒し続けるだけよ」


冷静にまりもに返事を返す。
すると、再び孝之が問いかける。


「九州は…防衛出来ますよね…?」


「残念だけど、無理よ
先程報告が有って、九州がBETAに制圧されたわ。」


「「「!!!!」」」


全員が絶句する。
九州が墜ち、制圧された事に衝撃を受ける



「たった3日で…?」


「むしろ上出来よ、3日間も防衛出来、尚且つ戦力の半数近くが生存出来たんだもの。
そのおかげで、下関付近の防衛線が更に強化が出来たわ
そして、今四国でも戦闘始まってるわ
巨大橋群を爆破して、下関付近の防衛線がBETA共から挟撃される危険性も低くなった…
今は、現地で戦ってる者達を信じるしか無いわ…」


ギィ…と再び深々と椅子に座る香月博士

「ねぇ…博士…
白銀は…どうしてるのかしら…?」


「あら、気になる?
随分と白銀の事心配してるわね~?」


「ゆっ、夕呼ッ!!」


香月博士のイタズラに顔を真っ赤にするまりも。
速瀬達もその姿を見て驚く


「安心なさい、今白銀は京都の帝都防衛線に参加してるから、まだ戦ってないわ
…それにしても、まりもも白銀の虜になるとは…
あれこれ仕込んだ甲斐があったわ~♪」


「わっ、私はただ、白銀程の腕前ならば…と思って聞いただけよっ!!」


アワアワと慌てて言い訳するまりも
彼女もタケルの恋愛原子核に引き寄せられてしまった一人だった。


「まあ、からかうのは此処までにして…
どちらにせよ、現地で戦ってる者達にしろ、白銀にしろ、今は彼等を信じるしか無いわ」

「そうね…」


友人の言葉に賛同するまりも
そして、今はただじっと、タケルの無事を祈るしか出来なかった…



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第十八話③
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2010/09/20 19:31
1998年・7月20日


京都・帝都防衛線付近---




「すげぇな…あんなにも傷だらけで戦ってたのか…」



タケル達の目の前には、九州・四国・中国地方の生き残った戦術機と衛士達がゆっくりと退避する。


現在BETA達は岡山県付近で待機中、どうやら大半のBETAが活動エネルギーが尽きかけて来たようだ。


その隙を突き、四国・出雲側の海から戦艦の砲撃と、京都・大阪の防衛線の支援砲撃車両などのおかげで、大半のBETAを始末する事に成功。


そして四国での地獄のような戦いに勝利し、四国防衛線の衛士達は、約四割近い生存者が出た
これには、名古屋・大阪の防衛線の戦力が支援に向かい、奇跡的とも言える確率で四国を死守する事に成功する。



そして、四国からの横撃と、戦艦や支援車両のおかげで、第一波のBETA群を壊滅する。


だが、その後第二波・第三波のBETA群が上陸、現在は岡山県付近で待機していた。



「岡山県付近のBETA群の総数が約十万か…
けど、高い確率で援軍が来るから、長期戦は確実か…。」


タケルの記憶と香月博士の記憶を辿れば、京都での防衛戦は1ヶ月間に及ぶ戦いの末、陥落する事になる。


しかし、現在タケル達は、XM3と不知火・改という手札(カード)がある
そして、今回は四国・九州・中国地方の生き残りの部隊、合わせて約四割強が防衛してくれる為、戦力的には京都防衛の可能性が高まって来た。



そして、香月博士がただ単に傍観する訳が無い。
必ず何らかの動きは有る。



そう考えていたら、タケルに突如ぶつかって来る者がいた。



「す、スミマセン中尉…。」


「大丈夫か?」


激戦の中、見事に生還した帝国少尉がふらついてタケルにぶつかってしまう



「良く戦った。貴官等の戦いのおかげで、多くの民が救われました。
誇って良いですよ」


「ありがとう…ございます…」


所属は違えども、上官に誉められ、感涙する少尉


そして、仲間達に肩を貸してもらい、医務室に向かう。



「ん…これは…ロケット?」


先程ぶつかった際に少尉が落とした物と判断し、拾うタケル
そして、落ちた際にロケットの蓋が開いてたので、中の写真を覗き、驚愕する。



「これは…宗像中尉…!?
まさか…あの人が宗像中尉の想い人!?」


突然の出逢いに驚くタケル。
そして、先程の少尉の下に向かう。



「少尉、落とし物たが…」


「えっ…ああっ!?
す、スミマセン、ありがとうございます!!」


ロケットを無くして慌ててた所にタケルが届けに来て、ホッと安堵する。


「良かった…」


「済まないと思いますが…拾った際に中の写真を見てしまった。」


「いえ、構いません。
それに蓋の金具がおかしくなってたので、開き易くなってたんです。」


「そうでしたか、申し上げない」


謝罪するタケルに慌てて反応する少尉


そして、用が済んだので退室するタケル
先程の少尉を見てふと思う


「名前聞いとけば良かったな…
そしたら宗像中尉を反撃するネタになったのに…」


『まっ、いっか』と簡単に断念するタケル。
しかし意外にも、このネタが宗像中尉の反撃するネタとなる事を後々体験する。




そして、数時間後----




「各自戦術機にて待機せよ、以上解散!!」


椿の号令と共に解散し、自分の不知火・改へと向かうタケル


「白…いやタケル」


「真耶さんに…沙耶さん?」


不知火・改へ搭乗する際、真耶と沙耶がタケルの下に訪ねて来る。



「恐らく、この数日以内に事は起きるだろう…
だから…必ず生き残るのだぞ。」


「ハイ」


不安そうに告げる真耶を安心させるように、笑顔で答える


「タケルには生き残って貰わねばならぬ。
勿論計画等もそうだが…
我等を『娶って』貰わねばならぬのだからな。」


「め、娶る!?」


「当たり前だ、私や真耶を此処まで変えたのだ…
責任を取って貰うぞ?」


突然の真耶の『娶る発言』により慌てるタケルだが
沙耶の『責任を取れ』との発言で、タケルは陥落する。



そして---



「タケル…」



そっと真耶がタケルに近づき、タケルの頭を絡めるように抱きしめながら、接吻をする
そして、その後に沙耶も同じように接吻をする


「…タケル、私が貴方の背後を守る事を誓うわ…
だから---力の限り、暴れなさい」


「ハイ、ありがとうございます。」



真っ赤な表情の真耶と沙耶
タケルの背後を死守すると沙耶の誓いをタケルは受け止める。



「それでは、私は行く…
沙耶殿…タケルを頼みます。」


「ああ…任せておけ。」

タケルを守る事を誓う沙耶を見て、安心する真耶
そのまま惜しむように立ち去り、自分の部隊の下に向かう。



「さあ…タケル…
必ずこの京都を守りきるわよ…」


「…了解!!」



タケルの返答を聞いて、笑みを浮かべる沙耶
そして、自分の不知火・改の下に向かう




「…負けれない理由が増えたな…」


ポツリと呟きながら、不知火・改に搭乗するタケル。



そして、この時から翌日…
動きはあった…



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第十九話①
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2010/09/21 00:03
1998年・7月21日

京都防衛線---



『これ以上、先へ進ませるかっ!!』


『我等の…日本から立ち去れっ!!』


岡山県付近に居たBETAが再び侵攻し、帝都に迫っていた

そして現在京都防衛線で、生き残った九州・中国・四国の部隊を交えて、激戦を繰り広げていた。


『来るな…来るなァァァァァァァッ!!』


その時、とある部隊の戦術機が、戦車級の群れに捕まり、戦術機の至る所を喰われていく。


---最早、助かる見込みは無い
部隊の仲間達が、その女性衛士の悲鳴を聞きながら助けれずに、歯を食いしばり、口元から血を流す。



そして、戦車級に群れに喰われるかというその時--!!



『------えっ…?』


--奇跡は起きた。



「諦めるなっ!!今助けてやるっ!!」


群がる戦車級を短刀で斬り落とし、そばに居た戦車級達を突撃砲でミンチにする




「大丈夫かっ!!」


『は…ハイ…』


「ヨシッ!!
こちらイグニス10、戦車級から救出する事が出来た。
同じ部隊の者達が彼女を救出しに来てくれっ!!」

『りょ、了解、感謝する。』


被害に遭った女性衛士の部隊の者に通信を入れ、その間は護衛として、女性衛士を守護する。



『し、『白銀』の不知火・改…?』


女性衛士は見とれてしまう。
『白銀』に輝く不知火・改が自分を守護するように戦う姿を--


見た事の無い機動
息を呑む激しい攻撃
瞬く間にBETAを殲滅する姿は、何故か魅了されてしまう。


後に彼女は知る
あの『白銀』の不知火・改に乗る者こそ、今注目されてる白銀武中尉だという事を--



『救出完了した、援護感謝する。』


「了解、では我々は先で戦う!!」


白銀の不知火・改と一緒に『赤』と『黒』の不知火・改が前へと進む。



『あれが…不知火・改…』


不知火・改の性能を見て、ゴクリと息を呑む。
そして、後ろに振り向き、後退する



「イグニス5(真那)・イグニス25(駿)、援護感謝します。」


「当然の事だ、気にするな。」


「そうですよ、逆にお役に立てれて良かったです。」


笑みを浮かべて、返答を返す真那と駿。
タケルはそんな返答に苦笑いをしながらBETA達を殲滅していく


「イグニス1(椿)から大隊各機へ。
我が国に土足で踏み入ったBETA達に裁きを与えてやれっ!!」


「「「了解!!」」」


椿の号令と共に第17大隊の不知火・改達が、噴射地表面滑走で機体を更に前進させた


「イグニス2(沙耶)フォックス1!!
コンテナ、パージ!!」


沙耶の攻撃開始の号令と共に放たれる92式多目的自立誘導システムが、前方にいるBETA群を直撃し、肉片と体液が大量に飛び散る!!


「要塞級の存在位置確定!!
要塞級…60!?」

「なんて量だ…!!」


政弘が要塞級の存在を発見するが、その量に驚愕し、沙耶も唖然とする。


「イグニス10(タケル)からイグニス3(孝志)へ。
大尉--どちらが多く撃破をするか、競いませんか?」


「「「えっ!?」」」


突然のタケルの発言に驚愕する大隊一同
あの大量の要塞級を『狩ろう』と孝志にふっかけて来る。


「面白れぇ…その勝負乗った!!」

「負けたら、戦いが終わったあと、腕立て300でどうです?」

「良いねぇ、スクワット200も追加だっ!!」


彼等の会話に要塞級への恐怖は無い
有るのは、『生』への強い意思と誓い。


--必ず生き残ってみせる

そんな姿を見せる為にタケルは孝志にふっかけ、孝志もタケルの考えを悟り、話に乗る。


「--全く、仕方ない…許可する。
だが、罰ゲームに首に『私は勝負に負けた敗北者です』と書かれたプラカードをぶら下げて、腕立て・スクワットをやって貰うぞっ!!」


「「うわっ、鬼だっ!?」」

椿の罰ゲーム追加に怯えるタケルと孝志
その姿を見て、笑いを誘い、緊張と恐怖を解す。

「突撃前衛達は要塞級を殲滅せよっ!!
罰ゲームは二人だけだから、安心して倒しに行けっ!!
あとの者達は、要塞級の周りにいるBETA共の相手をしてやれ、勿論突撃前衛達の援護も忘れるなっ!!」


「「「了解!!」」」



椿の号令と共に突撃する第弐小隊達
突撃前衛の誇りを掲げて要塞級に向かって行く!!

そして、タケルと孝志の不知火・改を先頭にし、真那・駿・第二・第三中隊の突撃前衛達がついて行く。



「ウオォォォッ!!
お前等如きにやられる訳にはいかねぇんだよっ!!」

「くたばりやがれっ!!」

『白銀』と『青』の不知火・改が舞い、要塞級を切り裂く
触角の攻撃をひらりと回避し、時には両断してから胸部や頭部を切り裂く!!



「倒した要塞級に注意しろ!!
場合によっては体内から光線級が出て来る場合が有るから、慎重に撃破せよっ!!」


真那が各突撃前衛達に指示を出し、光線級への対処をする。


『18…19…20…凄い…!!』


そして、その戦いを見て居た者達が居た--



『あれが噂に聞く、不知火・改…
いや、それにしても、あれは…異常だ…!!』


タケル達から、少し離れていた場所から眺めていた者がいた…
帝国本土防衛軍帝都守備連隊所属・『沙霧尚哉中尉』だった


『白銀』の不知火・改に注目し、異常なるスピードで要塞級を撃破していく事に唖然とする。



『--尚哉、余所見とは関心せんぞ?』

「ス、スミマセン『彩峰准将』!!」



タケルに魅了されてた沙霧に、注意をかける彩峰准将
だが、彩峰准将も沙霧の気持ちを察する。


「--尚哉、確かにお前の気持ちも良く解る。
あれを見て魅了されない方がおかしいが、今は目の前の戦いに集中せよ。」


「了解!!」


彩峰准将の言葉で気持ちを切り替える沙霧
そして目の前の戦いに集中し、BETAを葬る。



(あのような者が、この帝都に居るとは…まだまだ日本も捨てた物では無いな…)


あのような衛士が居るならば、必ずや日本を守る礎となる--
そう思い、笑みを浮かべる彩峰准将


「私は後の若者達の為に、道を築くまで。
BETA共よ…この私を簡単に倒せると思うなよ…!!」


気迫を見せた彩峰准将がBETA共を次々と肉片と変えていく。



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第十九話②
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2010/09/23 09:17
「ヨッシャァァッー!!
オレの勝ちィィィッ!!」

勝利の雄叫びをするタケル
結果は26対19でタケルが勝利した。
敗北して、ずーん…と落ち込む孝志。
そして、勝負の要因は----



「あはは…スミマセン、崇宰大尉…」


「偶然ですので、恨まないで下さい。」

なんと駿と真那の2人が要塞級を合計9体撃破していた為、偶然孝志の邪魔する形で勝負が決まってしまったのだ。


「そういう事で孝志さん…
BETAとの戦いが一区切りついたら、基地で罰ゲームお願いします。」


なんとも爽やかなスマイルで、ある意味死刑宣告するタケルに『見逃してくだせぇ~…』と乞う孝志だが、『駄目よ♪
隊長命令で罰ゲームを受ける事を命じます♪』…と椿にトドメを刺される。



「それよりイグニス2
どうやら、BETAの数がだいぶ減ってるようだけど…?」


「ハイ…今回侵攻して来た数は十万と聴きます。
しかし、現在の数と、今まで撃破した数を数えても、約五万程度…
しかも、今回は光線級の存在が有ったとの報告も有りません。」


嫌な予感がする椿と沙耶…
椿達の会話を聞き、不安になる部隊のみんな。
すると---



「まさか…
イグニス2ッ!!今日戦闘開始してから現在までに岡山~京都の間に震源があったか調べて下さい!!」


「えっ…?了解…」


タケルに言われた通りに震源があったか調べてみる沙耶、すると---




「…あった。
西方から20キロ程先ではあるが、小さな震源を観測してる。」


「いつですか!?」


「40分程前だが…?」


「---ッ!!」



タケルに嫌な予感が一気に襲いかかって来る。


「今現在は!?」

「……小さな震源が徐々に大きくなって来る…えっ!?」


すると、タケル達周辺に徐々に大きな震源が起きる
そしてタケルは叫ぶように通信する。



「ぜっ、全機後退して下さい!!
BETAが『下』からやって来ます!!」


「な、なんだと!?」


タケルの通信と共に反応し、全機が後退する。
すると、先程居た場所辺りから、轟音と共に、土煙の柱が無数に現れる!!

そして、土煙の中からBETA達が出現する!!



(やっぱり『母艦級』かっ!!)


嫌な予感が的中するタケル
『桜花作戦』時に会得した情報の中に、母艦級の存在の情報があった事を思い出す。

00ユニットであった純夏が、情報を収集してた中に、美琴やたまの武御雷のデータも有り、その中の母艦級の情報を得て持ち帰っていたのだ。


地中を移動し、要塞級すら楽に運べる程の巨大なBETA--母艦級


その体内に数万ものBETAを運ぶ事が出来、長距離を移動する事が可能な非戦闘のBETA


幾多の震源の謎のひとつが、この母艦級だという事を、以前に香月博士から聞いていた。


「…イグニス4から、イグニス10…
何故下からBETAが奇襲をする事がわかったのだ…?」


政弘がタケルに質問する。
内心『やべー…』と思ったが、冷静に答える。


「以前、先生から聞いたんです…
『もしかすると、地中を移動してBETA達を運ぶ新種』が居るのかも知れない…と」


「なんだと…」


上手く誤魔化すタケルだが、質問した政弘を始め、部隊全員が驚愕する。


「---ッ!!
イグニス2から大隊各機へっ!!
光線級の存在を確認!!
数は…30!!」


沙耶が光線級の存在を確認すると同時に、光線級のレーザー照射が始まる。


「イグニス1から部隊各機へっ!!
BETAの残骸を利用して、レーザー照射から、身を守れっ!!」


「「「りょ、了解!!」」」


全機BETAの残骸に隠れ、レーザー照射から逃れる。



「クッ…このままでは---」


このままでは、部隊は全滅する
そう判断する椿。


出て行けば、レーザー照射の餌食
しかし、このままで居れば、他のBETA達にやられてしまう
他の部隊達は先程の奇襲で、他のBETA達に足止めされて、援護が遅れてる状態
例え出ても、光線級は他のBETA達に守護されて近づく事すら容易では無い
正に四面楚歌
そんな時に---




「--オレが出ます。
オレが出て、光線級を始末しますから、その後の援護を宜しくお願いします。」


「「「!!!?」」」


「莫迦なッ!!無駄死になるぞっ!!」

「無茶だっ!!」


タケルの一言に驚愕し、孝志と政弘が反論する。

「だからといって、このままで居れば、全滅する事すら、容易に考えられる!!
何もやらない内に『出来ない』と決めつけたら、先には進めないんだっ!!」


「「----ッ!!」」


タケルの痛烈な一言に反論出来ないでいる孝志と政弘
その真剣な眼差しに、隊長の椿が折れる。


「…ふぅ…わかったわ。
イグニス10、行きなさい
そして必ず光線級を撃破し、生還する事を命じます。
---死んだら、貴方を一生怨みますよ…覚悟して下さい。」


最後の一言---
タケルを死地に向かわせる自分の不甲斐なさに歯を食いしばり、自分自身を責める椿。


「---了解。
必ず帰って来ます!!」

「行ってこい、白銀ェェッ!!」


椿の号令と共に、BETAの残骸から飛び出すタケル。
空を舞い、光線級の下へと飛翔する


そして、待ち受けるは、光線級のレーザー照射
何重の光の帯の中を、自動回避モードを切り、手動回避モードに切り替え、レーザーを回避しながら突撃する。

途中、新たに現れた要塞級や要撃級を、突撃砲や滑空砲で最小限で殲滅しながら、光線級のレーザー照射を回避しながら先に進む。


「オオォォォォッ!!
こんな所で…やられる訳にはいかねぇんだよっ!!」

レーザーが止まり、再照射までのインターバルを活用し、一気に全力噴射して近づく!!




「嘘…光線級のレーザー照射を飛行しながら…回避した…」


「ハハハ…すげぇよ…
まったく…なんて奴だっ!!」


『光線級の存在で制空権はBETAに有る』
その考えを覆すタケルの機動に唖然とする駿
唖然としながら笑うしかない孝志。
そして、白銀機がレーザー照射を全て回避した事により、部隊の士気が上がりだす!!


そしてタケルは、光線級のインターバルギリギリに到着し、光線級の殲滅を開始する。


「喰らいやがれぇぇぇっ!!」


突撃砲で光線級達がミンチと化し、殲滅を完了する。
しかし、他の要撃級や戦車級などが白銀機に近寄って来る


「邪魔だぁぁっ!!」


次々と駆逐していく白銀機
BETAの残骸の山を徐々に築き上げていく



---だが無情にも、数の暴力は、そんな抵抗に反して更に増え続ける
白銀機の周りには、様々なBETA達が囲いだす。



「イグニス10を救出するんだっ!!急げっ!!」


光線級が居なくなった為、再び突撃する椿達第17大隊
しかし、それを邪魔するようにBETA達が道を塞ぐ。


「クッ…退けろッ!!」


「この…このっ!!」


真那や駿が懸命に道を作るが、次々と現れるBETAに先が進めないでいた。



「タケルッ!!」


ただ一機、沙耶機だけが白銀機に近づく事が出来ていた。
そして、沙耶の瞳が、蒼から紅に変化する。


沙耶機の通る道全てのBETAが、突如動きを止め、沙耶機に長刀で切り裂かれていく。
しかし、沙耶の表情が苦痛に変わり、苦しみながらも、白銀機に到着する。


「さ、沙耶さん!?」


「言っただろう…そなたの背中は…私が守ると…」


瞳の色が蒼に戻るが、沙耶に疲労感が現れていた。


「大丈夫ですか!?」

「無論だ…早く椿様達の下に戻るぞ…」


息を切らす沙耶を心配するタケルだが、沙耶は強がりながらも、タケルに心配かけまいと強がる。



沙耶機と合流する事で、徐々に椿達に近づくタケル達だが、BETA達の数が更に増え続ける。



「このままじゃ、弾数が尽きちまう…!!」


突撃砲の残り弾数は、あと500発未満
滑空砲は使い切り、長刀の耐久力も半分を切り始めた。




このままでは拙い---
そう危機に直面した時---!!




『白銀ェェッ!!二機共左へ避けろッ!!』



「---えっ!?
イグニス2、左へ回避しますよっ!!」

「りょ、了解!?」


突然の通信に反応するタケル
沙耶も驚きながらも、タケルと共に左へ回避すると---


突如、蒼白い閃光二本が放たれ、BETA達を一掃しだす!!



「これは…!?」


貫通なんて生易しいモノではない
まるで、果物を弾丸で貫くと同じように、BETA達が肉片と化す!!
そして、タケル達の『道』が出来る。

そして、白銀機と沙耶機が椿達と合流し、生還する。



『ふう…なんとか間に合ったな…』


すると、タケル達のモニターに現れる画像を見て驚愕する


「まっ、まりもちゃん!?」


「こっ、コラァ!!
こんな所で『まりもちゃん』と呼ぶなっ!!」


「タケル~、イーニァもきたよ~♪」


「イ、イーニァ!?」


「クリスカにイーニァまで!?」


突如援軍に現れたまりもとクリスカ・イーニァに驚くタケル達。
まりもは顔を赤らめて、ガァーッ!!と怒鳴り、
ハシャぐイーニァを落ち着かせるクリスカが恥ずかしそうに登場する。



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第十九話③
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2010/09/23 09:21
椿達と合流したタケル達は、一端まりも達と合流し、体勢を立て直す。


「じ、神宮司軍曹…その兵器は一体…?」


「白銀中尉、現在の私は『軍曹』では無い
現在の階級は『臨時大尉』だ。
あと、この兵器は、香月博士が開発した新兵器の『120mm電磁投射砲』だ、まだテストの段階ではあるがな…」


「で、電磁投射砲!?
もう作ったのか、あの人は…」


香月博士のデタラメさに唖然とするタケル達…


まりも機やクリスカ&イーニァ機の不知火・改の後ろには、大型トラックの荷台には『外付け大型弾倉』が乗せてあり、給弾ベルトが120mm電磁投射砲に接続し、BETA達に電磁投射砲の威力を示していた



あの強固な突撃級の装甲殻ですら、脆く貫かれ、肉片の塊と化す。
その威力にタケル達は絶句していた。


「すげぇよ…すげぇよ…先生…」


「…実際、私も驚いてるわ…
まさか、これほどの威力とは思わなかったもの…」


流石に電磁投射砲を使用していた、まりも達すら驚愕していた
すると、クリスカから通信が入る

「大尉、また後続のBETAが現れた。」

「了解、これより再び電磁投射砲で駆逐する。
…スミマセンが九條少佐、その間我等を護衛して頂けないでしょうか?」

「わかりました、我々としても助かります。
イグニス1から第17大隊各機へ、これより援軍に参った国連軍と新兵器の護衛に着く。
各中隊の第弐小隊達は、電磁投射砲の範囲外で戦闘せよ。
第参小隊達は、第弐小隊達のサポートに付け
残りの第壱小隊達は国連軍及び新兵器の護衛だ。」


「「「了解!!」」」


「白銀、貴方は補給コンテナで補充した後参加しなさい
沙耶…貴女もよ。」

「「了解」」


各隊に指示を出す椿。
沙耶に指示を出す際、心配そうな表情で見ていた。


「では各機作戦を遂行せよ。
必ずこの京都を守りきるのだ!!」


「「了解!!」」


突撃する各中隊の第弐・第参小隊達
タケルと沙耶は後退し、補給コンテナで補充する。
そして、再びまりも達が電磁投射砲でBETA達を駆逐する!!


「…大丈夫ですか…沙耶さん?」


「大丈夫です、心配かけてスミマセン。」


息を整える沙耶
その疲労感は普通じゃないと悟るタケル。
すると、秘匿回線で、タケルと沙耶に入ってくる


「沙耶…まったく…心配したわよ…?
まさかあの『能力』チカラを使うとは思わなかったわ…」


「あのチカラ…?」


沙耶の一言に質問するタケル。


「沙耶はね、本来の『能力』以外にも『別な能力』があるの。
そのひとつが先程のあれよ」


「…そういえば、先程の沙耶さんの瞳の色が変わってたような…」


「あれはね、沙耶だけが持つ『能力』なの。
そして、先程沙耶が行ったのが『ブレインクラッシュ』…つまり、相手の『脳にダメージ』を与える能力なの
…主に敵の動きを一時的に封じる為の能力なんだけど…
けど、本来はこれは人間に使う能力で、BETAに使う能力じゃないの…
小型種以外に使えば…今の沙耶みたくなるのよ。」


「そうだったんですか…
スミマセン、沙耶さん」

椿から説明を聞き、自分のせいで沙耶が無茶をしたと知り、謝るタケル。


「謝らなくてもいいのだ、タケル
これは私が勝手に行った責任だ。
それに、私にはタケルを守る命もあるのだ、当然の事だ。
…それに、真耶からも託されたしな…この約束を破る訳にもいかない。」

タケルを少しでも心配させまいと、冷静に説明する沙耶
育ての『母』である、現当主・由佳里の命と、友でもある真耶との約束を守る為、遂行したまでと語る。


「…ホンット『愛されてる』わね~、白銀中尉
沙耶がそういう言い方をする時は、『大切な人に心配をかけさせたくない』って時よ?」


「えっ!?」

「椿様ッ!?」

しかし、椿の暴露で真っ赤になるタケルと沙耶
特に沙耶はアワアワと普段見せない慌てようを見せる。


「白銀中尉に命じます。
今日無事に帰還したら、沙耶をとても『可愛がって』あげる事
勿論、それで『赤ちゃん』が出来るなら尚良し。
勿論九條家現当主である母からも許可は得てますからご安心を♪」


「「な゛ぁっ!?」」


「これは隊長命令です。必ず行う事、以上通信終わる」


「椿様、お待ちをッ!!」

とんでもない命令を受け、慌てる沙耶だが、ナイスなタイミングで秘匿回線が切れる椿
そして、真っ赤になった沙耶が『…宜しくお願いします』…とタケルに頭を下げる姿を見て、タケルは最早拒否権が無い事に落ち込んでいた…



「こちらイグニス10からイグニス1へ
イグニス2と共に補給を完了しました。」


「イグニス1からイグニス2・イグニス10へ
現在、北方の防衛線が押され気味な事から、我々の部隊が援護に向かう事になった
イグニス2・イグニス10は北方の防衛線に向かい、その際第1中隊第弐・第参小隊達と合流し、援護せよ!!」


「「了解!!」」


タケルと沙耶が北方の防衛線に向かう事になり、操縦桿を倒して発進する。
途中、第弐小隊と第参小隊と合流し、北方の防衛線に向かう。



「タケルさん、凄かったです!!
光線級のレーザー照射を全部回避するなんて♪」

「いやぁ~…そんな事ないぞぉ~」


「正に変態機動極まり、だな。」


「んがっ!?」


駿に尊敬される目で褒められ、嬉しい気持ちの所を、真那の一言に撃墜される。
そのやり取りを見て、沙耶達第参小隊から笑い声が響く。


『もう少しで、目的地の防衛線に着きます
其処では、帝国本土防衛軍帝都守備連隊が防衛をしています。』

「帝国本土防衛軍帝都守備連隊か…」


通信を聞いて、思い出すタケル
そして、小さな声で呟く。

(沙霧大尉…アンタもこの戦場に居るんだろ…?)


思い出す記憶は『二度目の世界』の『12・5事件』

あのような人間同士の争いをさせまいと、タケルは強く決意する。


(--今はアンタを好きにはなれない。
理由はどうであれ、アンタは委員長のオヤジさんを暗殺し、彩峰を心配させ、泣かした…)


あの時の委員長(榊)や彩峰の悲しみと苦しみを思い出すタケル


(--もし、アンタがあんな事件を起こそうモノならば---
俺がブン殴ってでも阻止してみせる…!!)


いつもより強く操縦桿を握り締め、戦場へと向かうタケル




そして戦場では、BETAの物量に押されてる帝都守備連隊か奮戦していた。


『クッ…なんて数だ…!?』


『今斯衛軍が援軍に来る、それまで持ちこたえるのだっ!!』


『『『了解!!』』』


帝都守備連隊が一丸となり、BETA達をこれ以上侵攻させまいと奮戦する


「立ち去れ、BETAァァッ!!」


一閃、迫り来る要撃級を次々と長刀で葬る沙霧中尉


「中尉、此方側は一掃しました。
今から合流します。」


「済まない、駒木少尉
これ以上侵攻されてはならぬ。
あの美しい京都を…そして帝都には、未だ我等や民を思い、残っている殿下が居るのだ!!」


--そう、現在京都は民の避難が最終段階まで進んでいた。
残るは約一割程度の民間人と…そして、断固として、民より先に避難する事を断り続けていた、煌武院悠陽殿下が残っていたのだ。


悠陽殿下が残ってたのは、他にも理由がある。
勿論民より先に避難する事を断っていた事も事実だが、他の理由として『復権』の時期が刻々と迫っていたのだ


8月未明に米軍の援護を最後に、それからまもなくに米国は一方的に日米安保理を破棄して来るのだ
---そして、その時こそが、悠陽殿下の『復権』する絶好のタイミングであった。


その為、悠陽殿下は戦場である京都から離れずに、ただ、じっとその時を待っていたのだ。



「中尉、再び西方からBETAがっ!!」


「クッ…!!」


駒木少尉からの通信を聞いてデータマップを調べると、大群のBETAのマーカーが赤く染まっていた。




「えっ…?
中尉、BETAのマーカーの南方から、味方のマーカーが北上し、BETAに接近してます。
数は…2小隊分…斯衛軍第17大隊の第1中隊第弐小隊・第参小隊です!!」



「なんだとっ!?
たった2小隊だけでBETAの大群に突撃だと!?」


駒木少尉の報告に驚愕する沙霧中尉
万単位のBETAの大群に2小隊のみで接近する事に驚きを隠せない



しかし--その驚きは、更に続く事になる!!



「えっ…何この数字…?
異常な速度でBETA達が撃破されていく…?」


「な…なんだと…?」


データリンクの情報を見て驚愕する二人
突入すると同時に、加速的にBETA達が撃破されていく。



「これは一体…あっ!!中尉!?」


情報に驚く駒木少尉だったが、その瞬間、沙霧中尉が飛び出す姿を見て追いかける。



本能が告げる---
彼処で戦っているのは、『あの機体』だという事を--



突進攻撃をしてくる突撃級を回避し、背後から突撃砲で葬り、更に前へと近づく。



すると--




「あれは---!!」



白銀に輝く不知火・改が、縦横無尽に空を舞い、光線級のレーザー照射すら回避し、BETA達を駆逐する姿を目撃する…!!



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第二十話①
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2010/09/25 00:11
1998年・8月未明


琵琶湖運河--



『ジョリーロジャース1より各機へ
現在京都では、インペリアルロイヤルガードを中心に京都防衛線にて防衛中だ。
我々は敵側面を強襲、民間人の避難の時間稼ぎを行う。』


『『『ラジャー!!』』』

琵琶湖運河を進軍する戦術機母艦セオドラ・ルーズヴェルトの甲板上に、アメリカ海軍の精鋭部隊・ジョリーロジャース隊が姿を現し、夜がまだ暗い中、出撃する。



『俺達が着くまでにジャップ達生き残ってるのか?』

『なにやら新型の戦術機を開発したらしいわよ?
確か…『タイプ98シラヌイ・カスタム』とか言ったかしら…?』


『へぇ~…使えるのかい、その戦術機?』


『さあ?』と答える女性衛士
それに対し、下品な笑い声で不知火・改を侮辱する男性衛士達。



『呑気な話は其処までだ。
--そろそろ戦場に到着するぞっ!!』


隊長に注意を言われ、笑い声は止まり、『衛士』としての顔になる。


---そして彼等は目撃する。
彼等が侮辱していた日本の衛士達の強さを--
不知火・改の性能を見て、絶句する。



『---これは夢…なのか?』


ポツリと隊長が口を漏らす。
しかし、目の前で繰り広げられてるのは、自分達より遥か上を行く戦術機の技術
見た事の無いアクロバットな機動を行い、目の前のBETA達を殲滅する姿は、ゾクリとする程勇ましく、実用的な戦い方だった。


自分達とは全く異なる戦い方を見て、ジョリーロジャース隊達は唖然とするしかなかった。


『な…なんだよ、この動き…本当にジャップ達の動きなのか?』


『F-4Jですら、あの動き…
我々のF-14D(トムキャット)すら上回ると言うのかっ!?』


先程の侮辱してた時とは違い、その高い戦術機機動を見て、自分達の日本人に対する考えが、木っ端微塵に打ち砕かれる。


そして---




『な、なんだあの戦術機は!?』


『あれはタイプ94…いや違う…』


そこで見たモノは、激戦地で縦横無尽に舞う戦術機
不知火とは違う似た機体を見て、ふと気付く。



『あれがタイプ98…シラヌイ・カスタム…!!』


その一言で全機が沈黙する。
先程使い物になるのかと莫迦にしていた自分達が恥ずかしくなる程高性能で、『自分達の搭乗するF-14Dでは足元に及ばないのでは?』とまで、見てわかる程だった。
その中、白銀に輝く不知火・改を見て、更に驚愕する。



『ウソだろ…ウソだと言ってくれよ…
光線級がレーザー照射をしてるのに関わらす…すべてかわして、大空を飛んでやがる…』


光線級のレーザー照射をすべて回避し、光線級達を殲滅する白銀の不知火・改
開いた口が塞がらずに、唖然としていた。



『馬鹿野郎ッ!!
ボケッとしてないで、戦闘に集中しやがれっ!!』


『『『ラ、ラジャー!!』』』


隊長に怒鳴られ、戦闘に集中するジョリーロジャース隊


(…我々は日本という国を見誤っていた…
日本は弱小国では無い…我等が考えてる以上に技術が進化している!!)


先程まで日本に暴言を言っていた自分達が恥ずかしく思い、同時に日本に対する考えを改めている隊長



(もしかすると…この防衛戦…勝てるかも知れない…)


そして、この日京都防衛線は、最後まで持ちこたえ、京都帝都城を防衛する事に成功する。



しかし、同時にこの数日後、米国は日本から全軍撤退し、日米安保条約を一方的に破棄する事になる。


その最大の理由は--
佐渡島が陥落し、佐渡島ハイヴが建設された事が理由だった。



タケル達が重慶ハイヴから来るBETA達と戦ってた時、鉄原ハイヴから進軍して来たBETA達が佐渡島を落とし、ハイヴを建設したのだ。


重慶ハイヴのBETA群程ではないにしろ、数万規模のBETA群により、佐渡島は善戦虚しく敗北し、撤退するしかなかった



そしてその事から、京都帝都城を一度離れ、仙台の第二帝都に移る事を決定する。


そして、同時に政威大将軍としての『復権』を宣言し、より一丸と結束力を強める事になる。


1998年・8月10日


仙台・第二帝都城---
「…これで先に進む事になりましたね…」


「ハイ、殿下の復権に伴い、御剣の『身代わり』の件も解決しました。
後は、横浜での戦いにどれだけBETA群を削る事が出来るか…これで『明星作戦』の成否に関わります」


謁見の間にて、悠陽殿下を始めとして、紅蓮大将・神野大将・斉御司大佐の他に、香月博士が密談していた。


予定より早く、冥夜の『身代わり』の件は解決し、身分も『御剣』のままだが、事実上『煌武院悠陽の双子の妹』と名乗る事が出来るのだ。
勿論、契約上将軍職にはなる事は出来ないが、衛士として戦う事は出来るのだ。


「しかし…冥夜の件は良いのですが…
明星作戦時に、G弾を撃ち込まれるのは…気分的にも良い感じはしません」

「其方の件に関しては…此方にお任せを…
それより殿下…例の『一夫多妻制』の法案については…?」


「えっ…?
そちらなら、問題無く何時でも改正する事が出来ますわ、
ただ、このような時でしたから、出来なかったのですが…」


「なら、今が丁度良い時期でしょう
直ぐに改正しましょう。」


ウキウキ気分の香月博士だが、何故か複雑そうな顔の悠陽殿下



「どうか致しましたか、殿下?」


「…実は、一夫多妻制に改正する事自体は問題無いのですが…
改正するには『条件』がありまして…」


「条件?」



「改正と同時に誰かを『複数婚』をしないといけないのです。
つまり、タケル様を『婿』として結婚させるならば…私や冥夜はまだ16才を迎えて無い為、『結婚が出来ない』のです。」


「ああ~…そういう事ですか…」


納得する香月博士
悠陽殿下の考えでは、一夫多妻制の初の夫婦としては『自分や冥夜を含めて、タケルと婚儀する事』だったのだが、改正の条件として、誰かを複数婚をさせる事に成ったのだ
しかし、自分や冥夜はまだ結婚が可能になる16才には至っておらず、泣く泣く来年の16才の誕生日辺りを狙おうと考えてたのだ。



そして、出た結論は--

「我慢して下さい、殿下
すべては白銀の為です。」


ガーン!!と衝撃を受ける悠陽殿下
『そんな…』と落ち込む殿下を慰める紅蓮大将


「何故其処までして、一夫多妻制を急がれるのですか…?」

「--実は…」


理由を述べる香月博士
その内容に驚愕し、何故其処まで『白銀ハーレム計画』に力を入れるかを知る。


「…そうでしたか…てっきりワシは香月博士のイタズラかと思ってました…」

「同じ意見じゃ」


「…さすがにへこむわね…」


斉御司大佐と神野大将の一言に、さすがにへこむ香月博士。


「致し方ありません。
タケル様に関わる事でしたら…我慢するしか無いのですね…」

「その代わりに、『許嫁』とか『婚約者』と名乗ってはどうでしょうか?」


「まあ…香月博士ったら…(ポッ)」


「一応、此度の戦いが終わった後辺りにでも改正しましょう。
幸い、結婚可能な者が『二人』がいますし、丁度良いかと」



『でびるふぇいす』になる香月博士
『二人』について心当たりがある紅蓮大将は、二人に対して、同情するしかなかった。



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第二十話②
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2010/09/25 01:15
1998年・10月31日

仙台・第二帝都---


「失礼します。」


「待ったわよ、白銀。」

香月博士が待つ臨時研究所にタケル・真耶・椿・沙耶の四人が入室する。

「アンタも知っての通り、本土侵攻戦が終わったわ…『横浜ハイヴ』が建設される形でね。」


沈黙するタケル達
わかってたとはいえ、『ハイヴ建設阻止』を変えれなかった事に歯を食いしばる真耶・椿・沙耶


「とはいえ、むしろ佐渡島ハイヴ・横浜ハイヴに関しては、絶対必須だったから、少なくとも、佐渡島ハイヴ・横浜ハイヴ建設は阻止出来なかったわ。
勿論、『人として、日本人として』の感情や気持ちはわかる。
けど、その結果オルタネイティヴ5や『BETAによる人類滅亡』なんて未来の危険性もある訳だから、ゴロッと変える訳にもいかないの。」


「ハイ…その事は身を持って知りましたから…。」


『二度目の世界』の事を思い出すタケル
しかし、覚悟を決めた表情で話を聞いていた為『…良い覚悟よ、白銀』と、香月博士に感心される。


「…けど、やはり白陵基地の防衛戦に『参加出来なかった』のは痛かったですね…」


「仕方無いわよ、アンタ等は1ヶ月以上戦い続けたんだもの。
搭乗してた不知火・改だって、この仙台に運び込まれた時点で、もう戦えないぐらいダメージを蓄積してたんだから…
それに、不知火・改は愚か、不知火や陽炎すら、余分な戦術機も無いもの…
それ以前にアンタは今の所、不知火・改じゃないと全力で戦う事も出来ないわ
不知火だって、せいぜい八割程度よ
そんなのに乗せて、アンタを失う訳にはいかないのよ。」


…そう、タケル達第17大隊や第16大隊は愚か、九州・四国・中国の部隊は、関東防衛戦には参加出来なかった。



京都での防衛戦で、1ヶ月以上の防衛を続けた為、機体の蓄積ダメージが深刻な程負っていた。

それでも長野県での戦闘には参加したが、1日防衛したのち、戦闘不可能と判断し、第16大隊と第17大隊は、仙台に退却したのだ。

九州・四国・中国の部隊は、元々京都防衛成功の時点で戦闘不可能だった為、タケル達が長野県に向かう時に東京に退却した。


他の京都・大阪・名古屋等の帝国軍や、岩国・三沢・白陵基地の国連軍は、関東の防衛戦に参加するが、大半以上のBETAを殲滅するものの、防衛は失敗。
生き残った部隊達は東関東の防衛線に着く。
斯衛軍は、仙台で防衛の為、参加はしなかった。

「今回の被害状況は、犠牲者600万人、日本の全人口の5%で済んだわ。
『二度目の世界』に比べれば、六分の一に減ったから、それに比べればまだマシな数字よ。
帝国・斯衛・極東国連軍の犠牲者は、全体の40%を失ったわ
民間人に関しては、避難を拒否した者達や逃げ遅れた者が殆ど
他には、自殺志願者・避難を拒否した者達を説得してた民間人
あと、さっき言った逃げ遅れた民間人っていうのは、大半が中国地方の民間人よ
…さすがに数日間だけじゃ、中国地方の民間人全てを避難させるには足りなかったわ…」


『二度目の世界』に比べて犠牲者が少なくなったとはいえ、600万人もの犠牲者が出た事に悔やむタケル達…



「戦術機などに関しては、撃震は問題無し、ただし不知火・改や不知火・吹雪はまだ生産中でまだ足りない状況
陽炎や瑞鶴に関しては、絶望的
陽炎は生産はしてないし、瑞鶴はおいそれと簡単に作れる物ではない
支援車両や戦車などに関しては問題無し
明星作戦迄には揃えるわ。」


「痛いですね…」


「まったくよ。」


深い溜め息を吐くタケルと香月博士


「あと、御剣の身分だけど…
今回の本土侵攻戦が終わった事で、特例として斯衛軍に所属するわ」


「冥夜様がっ!?」


冥夜の斯衛軍入隊に驚くタケル達
特に真耶は驚愕を隠せないでいた。


「一応、御剣入隊の改竄として、紅蓮大将や神野大将が秘密裏に教育してた事になってるわ
そして、白銀も戦術機の教育に関わってる事にもなってるから、話を合わせておきなさいよ
ちなみに所属は第17大隊第1中隊第弐小隊…つまり、白銀と同じ小隊よ。」


「ハイ、わかりました!!」

嬉しそうに返事を返すタケル
再び一緒に戦える事に喜ぶ。



「…白銀、嬉しい?
『207B小隊』の仲間と再び戦える事に…?」


「勿論一緒に戦える事に喜びはあります。
けど、それ以上に『再び仲間として』歩める事の方が嬉しいですね。」


「フフッ…そうね…
207B小隊の中じゃ、御剣がアンタを良く見てたし、理解してたし、一番支えてたにも見えたわ。
それに、『白銀武』にとって、『鑑純夏と御剣冥夜』は、切っても切れない『縁』だしね。」


「先生との『腐れ縁』も切れませんよ。」

「ま~ね♪
その事に関しては、私も同感だわ。」


「「………」」

クスクスと笑う二人を見て、羨ましく思う真耶と沙耶
その様子を見て、イタズラ心が騒ぎ出す椿は---




「お二方、それまでにしないと、『誰かさん達』が嫉妬しちゃいますよ♪」


「えっ!?」

「「椿様ッ!!」」


「アラアラ、ゴメンナサイね~♪」


驚くタケル
椿に怒鳴る真耶と沙耶
それを見てクスクス笑う香月博士
その様子を見て、椿は笑いながら満足すると…


「そうそう、白銀…コレにサインして。」


「わかりました。
ええ…と…名前と生年月日………ってこれ…………『婚姻届』ってナニ?」


「「「ハッ?」」」


この瞬間、時間が止まる!!



「ええ……と…『複重婚姻届』…?
ナニコレ…?」


「白銀~…喜びなさい。
遂に改正したのよ…『一夫多妻制』の法律が実現したのよっ!!
そして、アンタが、その第一号よっ!!」


「なんですとぉぉぉぉっ!!!」


衝撃の事実に驚愕するタケル
そして、真耶と沙耶がビクンッと反応する。


「ホラ、妻の欄の名前…見て御覧なさい。」


椿に婚姻届を見せると…クスクスと笑い出す。


「妻の欄は未記入だけど…
立会人の欄には、九條由佳里と白銀影行と白銀楓…と書いてるわ。」


「「見せて下さいっ!!」」


シュパッと凄まじいスピードで婚姻届をマジマジと見る真耶と沙耶
タケルは未だに衝撃で石化していた。


「あとは、白銀とアンタ達二人の名前と拇印だけ。
それだけで、アンタ等三人は『夫婦』になれるのよ~
そうすれば、子供をポンポン産んでも問題無し
いつもラブラブな関係になれるわよ~」


正にあくまの囁き
しかし、そんな囁きより、既に妻の欄に名前を記入し、拇印を押す真耶と沙耶を見て爆笑する椿。


そして、石化するタケルを正気に戻し、逃げれないように腰を真耶と沙耶の二人で拘束する。



「「さあ、タケル…名前と拇印を…」」


天使のような微笑みでタケルにペンを持たし、説得する真耶と沙耶



(ハァ…やっと覚悟を決めたか…)

(タケル…お前も同じ道を歩むか…)


隣の部屋で、その様子を見ていた白銀夫妻
タケルがサインをするのを見て、一安心する楓だが、影行は昔の自分と同じ状態になってるタケルを見て、シクシクと涙していた。



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~ 三度目のループ 外伝①ネタボケに走った『もしも』の世界~
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2010/09/25 11:25
※注意・このお話はMUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ のストーリーとは無関係…なのかもしれない。
ネタボケに走ったお話なので、様々な苦情はご遠慮下さい。




1998年・11月1日


仙台・月詠別邸---



『タ~ケ~ル…ちゅわぁぁぁん……!!
けっこんって…何の事かなぁぁ…?』


ドス…ドス…と地面を砕きながら歩み寄ってくる恐怖の大魔王
その恐怖を例えると、BETAすら大群で逃げて、宇宙へと帰る程
暗黒のオーラを放つ恐怖の大魔王・鑑純夏を見て、ガクガクブルブルと震えるタケル
涙を滝のように流し、産まれた小鹿以上に弱々しい程、恐怖で震えていた。



そして、純夏の構えが、ピーカーブスタイルに変わり、ユラユラとステップをしながら、タケルに近づく。



そして---





『どりる………みるきぃーーーーー!!!』


ギュッとタケルの右足を踏みつけ、逃げる事は不可能
そして、タケルの右足を踏みつけた本当の理由は----



「あぶっ!?あぶぶぶぶっ!!?」


---猛攻
『ぱんち』級のラッシュがタケルの全身に右・左と拳を刻んでいき、そして、踏みつけてた右足を放し、力を溜めるように構える。
そして--放たれるのは、最早、伝説すら凌駕する『左』---!!



『じ・えぇぇんどっ!!!』


「ふぇいぶるっ!?」


キラーンと輝く閃光と共に星と化すタケル





ラグランジュ点・巨大宇宙船---



『グハァ!?
な、なんだ、この衝撃は!?』


『大変です!!エンジン部に突如謎の物体が衝突し、メインエンジンが破壊されました!!』


『なんだとっ!?』


『今、火災の消化作業に取り掛かってます!!』


『なんとしても、直ぐに消すんだ!!』


突如、謎の物体(タケルちゃん)が製作中の巨大宇宙船のメインエンジンを貫き、火災発生していた
全力で消化作業を行うが、次々と爆発は発生していく。





とある宇宙空間---

※BETAの言葉を通訳してます


とある宇宙空間の中、謎の宇宙船が飛来していた。


『メデュ男さん、どうしたんだい、こんな所で?』

『ルク助君にヴェナ太郎君じゃないか?
いやね、これから現場に向かう地球を見てたんだよ。』


地球を宇宙船で見ていた要撃級のメデュ男
そのそばに、後輩の光線級のルク助と兵士級のヴェナ太郎が近寄って来る。

『綺麗な星ですね~…
故郷のヴェナ子(妹)にこの光景見せてあげたかったな~…』

『確かに綺麗だなぁ~…』


地球の美しさにウットリするヴェナ太郎とルク助

『俺さ…今までおっ母に迷惑ばかりかけてたからさ…
その恩返しって言うか…罪滅ぼしって言うか…何かしたくて、今回の出張に参加したんだ。』

『偉いじゃないか、ヴェナ太郎君
今頃おっ母さんも喜んでるに違いない。』


ヴェナ太郎の今回の出張の理由を聞き、感動するメデュ男
そばで聞いていたルク助のつぶらな瞳から、感動で涙が溢れていた。



しかし、そんな彼等(?)に悲劇が襲う!!


「めぼっ!?」


突如地球から飛来して来た謎の物体(タケルちゃん)により、宇宙船は爆破
その衝撃で、謎の物体(タケルちゃん)は跳ね返り、地球へと戻るが、その際、宇宙船に乗っていたメデュ男・ルク助・ヴェナ太郎、そして他のBETA達も一緒に地球へと飛ぶ。




ラグランジュ点・巨大宇宙船---



『ふう…なんとか火災を止める事が出来たか…』

『危なかった…キャァァッ!?』


『な、なにぃぃぃっ!?』

突如再び謎の物体(タケルちゃん)が巨大宇宙を貫き、再び宇宙船に被害を与える
しかも今回は飛来してくるBETA達も一緒なものだから、数隻の巨大宇宙船が大破する。



地球・大気圏----



『熱いよっ!!熱いよっ!!
助け---』


『ルク助ェェェェッ!!』


大気圏突入でルク助が灰と化し、燃え尽きる姿を見て、叫ぶヴェナ太郎


『ヴェナ太郎…お前だけでも生き残るんだ…
お前は必ず妹の所に帰るんだ…!!』


『メデュ男さんっ…!!』

後輩であるヴェナ太郎を守るように、己の体を盾にするメデュ男
そして、大気圏を突破した時には--前腕部以外はメデュ男の姿は無かった。


『ルク助…メデュ男さん…!!』


そして、残ったメデュ男の前腕部を盾にして、地上へと落下するが、その際、軌道を変えて、海へと落下する。




一方、タケルちゃんは、無事(?)に落下し、5m程のクレーターの中心で、相も変わらず擦り傷程度で生還する。



そして、千葉県・九十九里浜周辺では----



『此処が…地球…?』


唯一生還したヴェナ太郎が九十九里浜の砂浜に上陸したのだった。






あとがき

スミマセン…朝起きたら、なんとなくこのネタ思いつきました。
面白くなかったら、ゴメンナサイです。m(_ _)m



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第二十一話①
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2010/09/25 22:26
1998年・11月2日

仙台・月詠別邸---



「うーん…」


チュンチュン…と小鳥の鳴き声が響く爽やかな朝に目を覚ますタケル

「おはよう、タケル
もうすぐ朝ご飯だぞ。」

「おはよう、おや?
ずいぶんと寝癖が…」


目を開くと、タケルの両側から、真耶と沙耶が声をかけてくる。


「何だろうね…このパターンは…」


嫌な予感がビシビシすると…


『おはようございま~す♪
タケルちゃん、起こしに来たよ~♪』


「やばっ!!
やっぱり純夏の奴、来やがったか!!
真耶さん、沙耶さん早く起きて---」


ガバッと起き上がるタケル
振り返って真耶と沙耶に声をかけてると---


2人共、寝間着として着ていた浴衣がはだけて、豊満な胸をさらけ出していた


「タケルちゃん、朝だ……よぉ~…」


ガラッと襖を開く純夏。
しかし、豊満な胸をさらけ出している真耶と沙耶
そしてタケルが入れば、純夏のする事はひとつ。


「タ~ケ~ル~ちゅわぁぁぁん……!!」


「まっ…まて、純---」




「タケルちゃんの……バカァァッ!!」



「アルゴスッ!!」


キラーンッ!!と『どりるみるきぃぱんち』で、星になるタケル
真耶も沙耶も冷静に『朝から飛んだな…』『ああ…』と星になったタケルを見つめる。



「おはよう、純夏。
朝から良いパンチを放つな」


「お、おはようございます…
2人共…胸出てるよ…?」

純夏に挨拶する真耶
純夏も挨拶をするが、さらけ出している胸を2人に教えてると…


「ああ…これか…」


「タケルの『寝相』で脱げただけよ。
純夏もそのうち、同じ事されるから、覚えておいた方が良いわよ?」


「ええぇぇぇっ!?
タケルちゃん…なんてスケベな寝相してるんだよ…」

沙耶の話を聞いて、驚く純夏
その際、顔を真っ赤にする。



一昨日---
タケルが香月博士のイタズラによって、真耶・沙耶と籍を入れて夫婦になった話を聞いて、驚愕する純夏。
霞・クリスカ・イーニァは『白銀ハーレム計画』の『真実』を知っている為、驚かないが、一応純夏にフォローを入れる



一応、『香月博士のイタズラ』という説明を受けて、納得はするものの、やはり乙女の怒りは収まらない。


しかし、誕生日プレゼントの手作り人形の件もあり、一応『ふぁんとむ』は止めてあげようと考えていた。

しかし、霞が『……純夏さんは、私やクリスカさんと一緒で『許嫁』扱いらしいですよ…?』と一言を放つと、真っ赤っかになり、『ぱんち』も回避する事になった。



しかし、やはり神様はイタズラ好きらしく、
結局はタケルにレバーブローをお見舞いし、横に100m程吹っ飛び、川にプカプカと土左衛門になっていたタケルを見て許した。


「純夏…頼むから、朝から『どりるみるきぃぱんち』は止めてくれ…」


「じゃあ、『ふぁんとむ』にするね♪」

「尚更だっ!!」


居間に集まり、朝ご飯を食べるタケル達。
白銀夫妻も一緒に住み、賑やかになっていた。


「タケルちゃん、実は来年の1月頃には『訓練学校』に入隊する事になったんだ♪」

「ああ、知ってる。
昨日先生から聞いてるぞ
今の訓練兵が順調良くいってるから、来月の末には卒業する事になってるんだよ。」


「タケルちゃん、良く知ってるね~…」


「当たり前だ、戦術機の訓練に、偶に『教官』として行ってるからな。
今の訓練兵も俺の教え子だよ。」


「ええぇぇぇっ!?
タケルちゃんが教官!?」

タケルが偶に教官をしてた事に驚く純夏。


「そうだ、だから純夏が訓練兵に入隊して、『総戦技演習』をクリアしたら、オレが偶に教官として教える事になる予定だ。」

「うう…なんか目の敵に狙われそうだよ…」


「バ~カ、そんな事するわけ無いだろ
教官は教え子に『平等』に扱わなければならないんだ。
…そんな事より、今の内に覚悟しとけよ…?
まりもちゃんは、教官としては『優秀』だけど、『鬼軍曹』として有名なんだ…
お前がしっかりしないと、周りの連中も連帯責任で一緒に罰を受ける事になるから気をつけろよ?」


「うう…プレッシャーだよ…」


アワアワする純夏だが、そんな事構わずに朝ご飯を食べるタケル


「今の内にランニングぐらいはしとけよ?
体力作りは基本中の基本だぞ?」


「わかったよぉ…」


ウルウルと涙を流す純夏を見て『仕方ねぇな…』と救いの手を差し伸べる


「明日からするんなら、オレも付き合ってやるよ。
だけど、甘くはしないから、覚悟しとけよ」


「あ、ありがとうタケルちゃん!!」


タケルも一緒にランニングに付き合ってくれる事になり、元気を取り戻す純夏
そんな姿を見て『やれやれ…不器用ね。』と微笑む楓


「純夏ちゃんは、今何をしてるんだい?」


「香月先生に言われて『CPの訓練』もしてるんだ。
香月先生の言うには、『衛士になっても、当分はCPして働いて貰うから、今の内に勉強しておきなさい』って、言われてるんだ。
『イリーナ・ピアティフ少尉』ってポーランド人の人に、今教わってるんだよ」


「へぇ…純夏ちゃんがCPか…」


純夏がCPの訓練をしてる事に意外な反応をする影行
だが、タケルは香月博士から話を聞いていたので、驚かないでいた


香月博士曰わく---
『凄乃皇に搭乗するまでは、CPで働いて貰うわ、その方が安全だしね。
それに、CPの技術を持っていれば、凄乃皇や色々な所で役立つ筈よ。』---らしい。



「タケルちゃんは、今日は何するの?」


「午前中はシミュレーター訓練
午後から、訓練兵の教官だよ」


「忙しそうだね~…」


タケルのスケジュールを聞いて『うわぁ…』と驚く純夏
そんな事をしている内にタケルは『ごちそうさま』と朝ご飯を食べ終わる。


「早ッ!!
早いよタケルちゃん!?」


「早飯は衛士としては当たり前だぞ?」


タケルの一言を聞いて周りを見ると、純夏とやちる以外は『ごちそうさま』と朝ご飯を食べ終わる。


「早く食べろよ、支度したら基地に行くぞ」


「わわわっ!?
待ってよ、タケルちゃ~ん!!」


慌てながら朝ご飯をガツガツ食べる純夏


(こんな時がずっと続くと良いですね~…)


クスリと笑いながら、今の生活に満足するやちるだった。



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第二十一話②
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2010/09/26 10:33
タケル達は車で純夏や白銀影行夫妻を基地まで入構し、基地内で別れる。
その際、基地内の廊下をタケル・真耶・沙耶の三人で歩いていると、なにやら騒がしかった。



「随分と騒がしいな…」

「…というより、騒ぎの原因は…私達のようだな?」


「ハハハ…どうせ『一夫多妻制』の件でしょう…ハァ…」


騒ぎの原因---

擦れ違うたんびに、視線を此方に向け、ガヤガヤと騒ぐ事に気付く。
タケルは『一夫多妻制』の件だと予想し、納得する真耶・沙耶だが…



「しかし、おかしいな…」


「どうしました、沙耶さん?」


「一夫多妻制の件ならば、女性は…わかるとして、男性までがタケルに好意的な視線を送るのはおかしい。
寧ろ、タケルに殺意の視線を送るのが当然では?」


「そういえば…」


ふと違和感に気付く沙耶
その内容に『そういえば…』と納得する



「あら、夫婦揃って今来たの?」

「おはようございます、タケルさん、真耶大尉・沙耶大尉。」


「先生に駿…?
珍しい組み合わせっすね。」


すると前方に香月博士と駿がタケル達と出会う。

「別に特別な事じゃないわよ
新婚アツアツの白銀『夫妻』を探してた時に、五十嵐少尉に話しかけてただけよ。」


なるほどと納得するタケル達。
そして、二人にこの騒ぎの事を聞く。


「この騒ぎは一体何なんですか?
『一夫多妻制』の件とは思ってましたけど…?」


「勿論それもあるわ。
けど他にも理由があるのよ」


「大半がタケルさんにありますからね~♪」


「オレ?
何なんだ駿、その理由って?」


タケル達の反応を見て、呆れるように溜め息をする香月博士


「アンタ…あれだけ暴れまわって活躍した癖に…
この騒ぎの大半の理由はね、『本土侵攻戦』の時にアンタが京都防衛線で活躍したのが原因なのよ。」


「今、基地内では有名ですよ?
タケルさんの事『白銀の守護者』って呼び名で呼ばれてるんですよ~?」

「し、白銀の守護者ぁぁ?
先生ぇ…また変な噂流して…」


「今回は私じゃないわよ?
勿論殿下でも紅蓮大将達でも無いわ
この噂を流したのは、京都防衛線に参加してた衛士達が流したのよ。」


騒ぎの理由がタケルに有り、『白銀の守護者』と呼ばれてた事に驚くタケル。
最初はまた香月博士の仕業かと思ったが、真実は現場の衛士達にあった。


「しょうがないですよ~。
光線級のレーザー照射を全て回避しながら、大空を飛ぶ、白銀色の不知火・改
そして要塞級を単騎で挑み、京都防衛戦だけで合計60体以上撃破し、大型種(要塞・要撃・重光線・突撃級)だけでも合計3000体にも届いた凄腕衛士が、タケルさんだと知られたんですから。」


「それで、尊敬の意味を込めて『白銀の守護者』って呼び名が付いた訳よ。」


「たはぁ~…
…なんか凄く恥ずかしい気がしてきた。」


騒ぎの原因を知り、だんだん恥ずかしい気持ちになってきたタケル
男性までがタケルに好意的な視線で見てた理由をわかり、納得する。


「みんなタケルさんに『憧れ』たり、『尊敬』してるんですよ
…そんな事で、最近はタケルさんとエレメントを組んでる事で、ちょっとした自慢出来てるんです♪」


「そして、『英雄、色を好む』って言葉が有るように、『一夫多妻制』の件も加わり、話題になってるって訳よ。」

「……それはアンタのせいでしょうが…」


香月博士の一言で、恥ずかしさが一気に消えて、テンションが落ちるタケル。



そして、香月博士と駿と共に廊下を進み、大きな会議室に入る


「伊隅、『碓氷』、待たせたわね。」


会議室に入ると、椿達第17大隊・斑鳩達第16大隊と国連軍オルタネイティヴ第4計画特殊部隊のA-01が居た。
その中には、紅蓮大将・巌谷中佐も参加していた

「ホラ、白銀達も席に着きなさい
ブリーフィングを始めるわよ。」


「あ、ハイ」


席に着き、タケル達の前方には、香月博士・紅蓮大将・巌谷中佐が立っていた
そして香月博士がタケル達に語ってくる


「今日はこの会議室に集まったのは他でも無いわ。
今回のBETAによる本土侵攻戦で日本は2つのハイヴを建設されてしまったわ。
そして、多くの同朋達を失い、戦う術も半分も奪われる結果になった…
けど、私達は黙って指をくわえて待ってる訳には行かない…
そして、先日私は国連軍司令部に『横浜ハイヴ攻略作戦』を提案したわ。
そして国連軍司令部は即時承認し、大東亜連合・そして帝国軍との大規模反攻作戦を打診したわ
そして、帝国軍の方は政威大将軍・煌武院悠陽殿下の承認を貰い、帝国軍及び斯衛軍の参加が決まったわ。」


香月博士の説明を受けて、会議室にいる全衛士達に衝撃が襲う!!


「大東亜連合の返答はまだだけど、恐らくは参加する筈よ。
其処で今回の作戦『明星作戦』は此処に居る全ての部隊がハイヴ内突入部隊に決定したわ
そして、他の帝国軍や大東亜連合、そして国連軍が外で制圧を目的で戦うわ。
そして、横浜ハイヴを落とし、攻略に成功したら、そのまま本州奪還を目的とした、大反攻作戦に移るわ。
その際、防衛に成功した、京都・四国を利用して一気に叩くわ!!」


大規模な作戦に開いた口が塞がらないタケル達。
その時、第16大隊の一人が質問する。



『スミマセン、質問…良いでしょうか?』


「良いわよ、何?」


『作戦の内容はわかりました…
けど、ハイヴ突入する際…本当に我々の部隊や第17大隊も参加するのでしょうか…?
我々の第16大隊や椿様達居る第17大隊は、五摂家の方々が居ます。
特に、我々の部隊の伊織様や隼人様は斑鳩家と崇宰家の現当主
第17大隊には、斉御司家と九條家の次期当主の椿様や政弘様、そして隼人様の弟君の孝志様まで居ます…
特に、崇宰家に関しては、隼人様や孝志様のお二人が万が一にも失ってしまっては、五摂家の一角である、崇宰家が事実上無くなってしまいます…
…幾らなんでも、これは拙いのでは…?』


会議室に居る全衛士達が、今の意見に同意する。
すると、香月博士の口から驚きの言葉が出た。



「そうね、けどその問題に関しては、殿下や五摂家の現当主達が集まって話し合った結果、全員賛同した結果なの
だから、今回の話は第16大隊の大隊長と副隊長の伊織様や隼人様は全て知ってる事なのよ。」


『そ、そんな…!?』


「それにね、その問題を解決するには、『全員生還』すれば良い事なのよ。
だから、精鋭中の精鋭の部隊を集めて話したのよ
今回の『本土侵攻戦』の戦いを見て、選ばれた部隊
ウチの国連軍は別としても、少なくとも、第16大隊と第17大隊は、斯衛軍の『最強の一角』の部隊だと、私は確信して言うわ。」


香月博士の言葉に沈黙するしか無い衛士達
そして、香月博士が一旦下がると、紅蓮大将が代わりに説明する。


「とはいえ、今の戦力では作戦に成功する事は出来ない。
それ故に、今作戦『明星作戦』は来年の夏頃を予定してる。
そして、今作戦には、ワシ・紅蓮醍三郎と、帝国陸軍中佐の巌谷榮二中佐も参加する事が決まった。」


『『『なっ!!!』』』


「ワシはハイヴ突入部隊に入り、五摂家の方々を護衛する事になっておる。
そして巌谷中佐は、外での制圧部隊に入り、指揮を執る事になった。」


『紅蓮大将が参加するだって…!?』


『すげぇ…』


武人・紅蓮大将の参加を聞いて、一気に士気が上がる

「それに…ホレ、今噂の『白銀の守護者』で有名な白銀中尉も居る。
これならば、五摂家の方々の護衛には不満はあるまい?」


「おっ、オッサン…」


紅蓮大将の言葉に一斉にタケルに注目する衛士達。
内心『勘弁してくれよ~…』と呟く。



「まあ、そういう事で、今日より、この部屋に居る斯衛軍・国連軍の合同訓練を取り組む。
決戦の日まで、各々の腕を精進せよっ!!」


そして、最後に巌谷中佐が今日のスケジュールを伝え、解散の号令を言い放つ。



「大変な事になったな…」

「ああ、責任重大な任務だ。」

「やるしかない…か…」

タケル・政弘・孝志の三人が揃って、シミュレータールームに向かう…


そして、強化装備に着替え、シミュレーターに搭乗し、訓練を開始すると---
香月博士の顔がニヤニヤと笑っていた…



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第二十一話③
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2010/09/29 15:18
「なっ、何だ!?…このNPC強えぇっ!?」


「まるで、月詠中尉と戦ってるみたいだっ…!!」

シミュレーター訓練で『対人戦闘訓練』が行われていた。
シミュレーター訓練に参加してない者も『何故対人戦闘訓練を?』と頭を傾げていたが、訓練が開始すると、驚愕の表情に変わる。

訓練内容はシミュレーター訓練による対人戦闘訓練
そして、相手はNPCの不知火・改(XM3搭載機)率いる大隊規模の戦い。


開始当初は幾ら不知火・改の大隊とはいえ、精鋭の第17大隊には力不足だった


しかし、第3中隊の方で、被害が広がる事になる。


第3中隊の相手する不知火・改が、次々と撃破していき、部隊の半数を撃破された時点で、孝志機と駿機が相手する。


異例のエレメントとなったが、問題の不知火・改を抑える二人
しかし、決して楽な事ではなかった。



まるでタケルのような機動を描き、孝志機・駿機は翻弄されつつも、当初は『タケルと戦ってるつもり』で挑んでいた
だが、それは間違いと判断する事になる。


鋭く重い一撃、そして疾い剣速、無骨にも地道に積み重ねられた剣術を操る不知火・改に、遂に駿機が撃破される。


「コイツ---NPCなんかじゃねぇ!!
この一機だけ、相当な腕を持った『衛士』が操ってやがる!!」


それに気付く孝志機
そこで孝志の闘志に火か付いた!!


「面白ぇ…本気で相手してやるよっ!!」

担架からもう一本長刀を取り出し、二刀流になる孝志機


「椿やタケル以外に二刀流にさせた奴は居ねぇ…自慢して良いぜっ!!」


翼を広げるような構えをしながら、突撃する孝志機。
それに応えてか、相手の不知火・改も、長刀一本で挑む!!


孝志機の初撃を相手の一閃で弾き、孝志機の二撃目を懐に入って、ショルダーチャージを喰らわし、二撃目を阻止する相手側の不知火・改

しかし、孝志機も体勢を立て直し、すかさず連撃を入れるが、一歩後退したのち、バックジャンプから反転をして回避する。

無論孝志機は前進して追撃するが、相手側の不知火・改は、着地と共に横へと倒立反転しながら回避し、途中有る障害物を蹴り上げ、三角飛びをして、孝志機の背後に回り、一撃を放つ。

しかし、タケルとの戦いで成長している孝志は即座に反応し、その一撃を×字にして防ぐ!!


「…やれやれ、先生も人が悪いな…」


「…という事は…やはりそうか…」


他のNPCの不知火・改を全て撃破し、後は孝志機と戦ってる不知火・改のみ
その為、他の者達は警戒態勢をしきつつも、二人の戦いを見学していた。

本来ならば、訓練故に全機で挑むべきだが、香月博士のイタズラと、孝志の我が儘の為、全員が観戦していた。(勿論香月博士もこの事を咎めないつもり)


そして、タケルは既に誰なのかは見抜いており、それ故に修行の意味で、駿機に挑ませていた

そして真那や椿・沙耶も途中で気付き、そのまま様子見をしていた。



「どういう事だ、白銀中尉?
アレが誰なのか知ってるのか?」


「つーか、オレ以外にも真那さんや椿さん・沙耶さんも気付いてますよ。」


「なる程…やはりか…」

政弘の質問に対して答えるタケル
そして、タケルの返答に椿は確信を持つ。


「政弘様、あの不知火・改の操る剣術は『無現鬼道流』です。
それ故に私や椿様や沙耶殿は気付いて当然なのです。」


「無現鬼道流を習ってるのは、私や沙耶・真那中尉や真耶大尉の他に…あと『二人』だけ
白銀中尉もちょっと習ってるけど、まだ基本のみ。」


「僅かではありますが、見慣れた剣の癖などを見れば、結論は簡単。
…まあ、本人は癖を隠してたおかげで気付くのが遅れましたけどね…」


そんな会話をしてるウチに、孝志機の一閃で、相手の不知火・改を撃破する。
そして、椿が状況を報告して、シミュレーター訓練を終了する。



「お疲れ様~…どうだった?」


「先生…イタズラは止めて下さい。」


良いカンジに笑顔で迎える香月博士に、呆れ顔になるタケル。


「…まさかこういう形で『入隊の歓迎』をするとは思いませんでした…」

「に、入隊!?」


椿の一言に反応する孝志達。
そして、香月博士が『出て来て良いわよ~♪』と呼び出す。



「……香月博士、趣味が悪いですぞ?」


「いいぢゃない、偶にはこういうのも♪」


『ハア…』と呆れ顔で溜め息を吐く衛士
そして、その正体を見て全員が驚愕する。


『『冥夜!?』』


孝志や政弘は驚いて唖然とし、駿や他の隊員までアワアワと慌てて敬礼する。
勿論見学していた他の斯衛達も驚愕し見学するが、伊織や隼人は苦笑していた。


「今日付けで帝国斯衛軍第17大隊に所属する事になりました、御剣冥夜少尉です
今後共、宜しくお願い致します。」

敬礼しながらみんなに自己紹介する冥夜だったが、他の者達は様々な反応をしながら困惑していた…


シミュレーター訓練を終えて、昼飯を食べた後、演習場で速瀬達訓練兵の戦術機の訓練を行っていた


「速瀬!!この程度の機動も出来ないのかっ!!」

「出来ますっ!!次こそ必ずッ!!」


タケルが水月を連れて、戦術機機動の技術を鍛える為にワンツーマンで鍛えていた


タケルの後に、水月が付いて様々なアクロバットを繰り出していく。


「ふえぇぇ…凄すぎるよ…」


「最早水月も白銀中尉の弟子だな…」


二人の訓練を見て、唖然とする遙達
慎二は成長した水月の機動を見て『白銀二号』と決めつける。


この訓練兵の中で一番成長してるのが、やはり水月
未来のヴァルキリーズの突撃前衛長を約束されてるだけあって、メキメキと著しく成長をしていた。


その次に孝之、ポジション的には強襲前衛なので、機動力では水月の次に高い
やはり水月には負けまいと頑張り、著しい成長を遂げている。


慎二も孝之と同じ強襲前衛で、孝之とは違い、機動力では無く、広い視野と状況判断に長けていた。

その為、慎二はまりもに任せ、ビシビシとしごかれていた(狂犬の意味でも)


そして、問題の遙
やはり彼女はCPの才能が長けていた為か、指揮能力に長けていた。
しかし、接近能力には乏しく、機動力も中の上程度。
射撃能力も上の下程


その為、ポジションは制圧支援か砲撃支援のどちらかとタケルとまりもは判断する。



「速瀬、次は恒例の『鬼ごっこ』だ
俺が鬼になるから、10分間全力で逃げ切れっ!!」


「ハイッ!!
絶対に捕まるものかっ!!」


演習場の障害物に逃げ込む水月機
それから10秒後に鬼のタケルが追いかける。



「ホラホラ、どうした?
もう捕まる気か?」


「ぐぬぬっ…何よっ!?この変態機動っぷりはっ!!」


「速瀬…良い度胸だ
上官侮辱罪で、訓練後100mダッシュ10本×3セットな♪
勿論休憩時間は1セット30秒だ。」


「お、鬼ぃぃっ!!」


「当たり前だ、今『鬼』やってるんだからな。」

水月の悲鳴を聞きながら、ジワジワと追い込むタケル
勿論やろうと思えば、すぐに捕まえられるのだが、それでは訓練にならない為、いたぶる事にした。

「ふむ、これはなかなか…よし、今度から私もしよう。」


「「「ええぇっ!?」」」

タケルの訓練方法を見て、自分もやろうと呟くまりも
その一言を聞いて、驚愕し、ブルブルと産まれた小鹿のように震える遙達。
…なんせ、追いかけて来るのは『鬼』でもあり『狂犬』
ある意味恐怖度で言うならば、タケル以上なのだから。



「ホラホラ、まだ6分もあるぞ?
もう捕まる気か?
わざわざハンデに俺が撃震で速瀬は吹雪使ってるんだぞ?
もし、あと一分以内に捕まったら、明日から昼飯3日間奢りだぞ?」


「な゛あっ!!?」


いきなりの昼飯3日間の奢りを賭けて、必死で逃げる速瀬機
しかし結局は捕まり、明日から昼飯3日間を奢らされる事になる…



この後、孝之と代わり、孝之もタケルにしごかれ、水月・孝之と共に体力を使い切る事になる。



「なんだ…これしきのしごきでへばるとは…情けない。」


するとタケルは、鞄から大量の『栄養ドリンク』を出す。


「うげぇっ!!」


「こ、このドリンクは…!!」


「フフフ…この酸味の付いたプリンのような味のドリンクを飲ませてあげようではないか…♪」


ジワジワと二人に近寄るタケル。
水月も孝之も、このドリンクは嫌いで、避けていた程である(因みに遙は大好物)



「速瀬君…これを飲む事を決意するならば、先程の上官侮辱罪も忘れよう…
100mダッシュ10本×3セットをするか…
このドリンク10本一気飲みをするか…
さあ、選びたまえっ!!」


「お、鬼ーーーッ!!」


結局は100mダッシュ10本×3セットを選び、最後には灰になった水月を孝之に『お姫様抱っこ』で運ばせるように命じるタケル。

遙から痛い視線を受けるが、逃げるように退散する。



「やれやれ、少しやり過ぎたか?」


苦笑いをしながら、まりもと共に書類整理をする。
最初は慣れない作業故に苦戦したが、沙耶の教育により、現在は少しは出来るようになった。


「ええ…と…これが明日の戦術機使用許可書で…これが今日の整備の報告書と弾使用報告書…」


「あとは明日の演習場の使用許可書もお願いします。
時間帯は今日と同じ午後からで。」



「は~い…」


せっせと書類と格闘するタケルに、更に追加を出すまりも
あまり得意ではないデスクワークに悪戦苦闘する。


「この調子だと、来年の1月には卒業出来ますね。」


「ええ…けど、あの騒がしい問題児どもが居なくなると思うと、寂しくなりますね…」


水月達が卒業する事で、寂しく思うまりも
その目は、母親のような慈愛に満ちていた。


「安心して下さい。
来年の訓練兵は、更に問題児が入って騒がしくなる予定ですから」


「…もしかして、鑑純夏さんの事かしら…?」


「アイツが居る限り、『静けさ』という言葉は存在しません。
むしろ、速瀬達より騒がしくなる可能性が大?」

「頭が痛いわ…」


先程の寂しさが吹っ飛び、頭を痛めるまりも
それに『アハハ…頑張って下さい』と声をかけるタケルだった。



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第二十二話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2010/09/29 06:55
1998年・『12月16日』


仙台・第二帝都市街地周辺---


「うぅ…寒っ!!」


防寒着を着ながら車から降りるタケル



今日は『12月16日』---
自分の誕生日であり、冥夜・悠陽の誕生日でもある。


タケルは今日休日を貰い、午前中は冥夜と悠陽のプレゼントを買いに来たのだ。


例の如く、『人形』のプレゼントは用意してはいるが、タケル自身『このままじゃ駄目だ』と、やっと気づき、プレゼントを選ぶ為、休日を取ったのだ。

「洋服…も良いけど、今回は止めとこう…
買ったら、純夏辺りが五月蝿く騒ぐからな…」


洋服を買う事を諦めるタケル。
『来年はみんなに買えるように努力しよう…』と決意する。



「出来るならば、二人して仲良く使えるようなプレゼントが良いな…」


店を入って色々と探すが、やはり中々見つからず、困り果てる。



「おや?白銀中尉ではないか…」


「巌谷中佐に…唯依さん?」


すると、タケルの目の前には、巌谷中佐が買い物袋を両手に持ちながら、唯依と一緒に買い物をしていた。


「奇遇だね、こんな所で会うとは。」


「ハイ、今日は休日を貰って買い物をしてたんですよ。」


「買い物…?
何もお持ちでは無いようですが…?」


「探してる最中ですので…」


『ハハハ…』と苦笑いをするタケル
唯依はタケルから事情を聞くと、『なる程…』と納得する。


「難しいね…。
殿下と冥夜様のプレゼントとなると…」


「二人が仲良く使えるようなプレゼントを探してるんです。」


「確かに、それならばお二人にとって、良いプレゼントになりますね」


「ハイ、けど…何をプレゼントをしようかと…悩んでる最中なんです。」

『ふむぅ…』と腕を組み、悩むタケルと巌谷中佐

すると---




「あら叔父様、マフラーが落ちそうですよ?」


「ん…ああ、済まない。」


巌谷中佐の首元に巻いているマフラーが緩んでた為、落ちそうになってた所、唯依が見つけ、巻き直す。


「マフラーか…オレも欲しい…か…な……----ッ!!」


その時、タケルの頭に『ある物』が浮かび上がってくる!!


「唯依さん、ちょっと聞きたいんだけど…」


「何でしょうか…?」



タケルは唯依から『ある物』を何処かで見てないかと質問する。


「それならば…向こうに『東友』というデパートで見かけましたよ?」


「サンキュー!!
ありがとう、『唯依ちゃん』!!」


「唯依ちゃん!?」


タケルから『唯依ちゃん』と呼ばれて、真っ赤になる唯依
その際、赤くなった唯依を見て、巌谷中佐は『ふむ…それも有りか…』と何やら良からぬ考えをする。
当のタケルは『東友』に向かい、全力疾走で走り去っていく…




そして陽が落ち、月詠別邸では、『タケル&悠陽殿下&冥夜様の誕生日パーティー』の準備を着々と進められていた。



本来ならば、悠陽殿下は帝都城などでパーティーが始める予定だったが、今回の本土侵攻戦で、そのような余裕はなかったので、今年は断念していた。


しかし、それを聞いたタケルが、『お忍びでウチで誕生日パーティーしようぜ!!』と発言し、悠陽殿下と冥夜の好感度はキュンキュンと上昇しまくった。



そして、紅蓮大将や他の高官達も、『日頃の激務で頑張ってるのだから、今日ぐらいは羽目を外してもいい』と考え、今回の誕生日パーティーに参加する事が決定された。(というより、勝手にお忍びされて、慌てる羽目になるぐらいならば、公認で行って貰った方がまだマシだから)


今回の誕生日パーティーには、様々な人達が参加をする事になり、大人数のパーティーになった。
その為、パーティーのご馳走を作る為、やちるや他の使用人達は、朝から大忙しだった。


「タケル~、来てやったぞ~☆」


すると、玄関には孝志を始め、政弘・椿・沙耶・駿・第17大隊のみんながやって来た。


「打ち上げは道場でやりますから、庭から入って下さい。」


「わかった、
みんな~、庭の道場に移動するぞ~!!」



何故か孝志が指揮をとり、みんなを案内する。
するとタケルは、冥夜と真那・真耶が居ない事に気付く。



「沙耶さん、冥夜と真那さん・真耶さんは?」


「冥夜様と真那はプレゼントを買う為、別行動を取りました。
時間までには来るそうですよ
あと真耶は殿下や紅蓮大将・あと第16大隊の伊織様や隼人様と一緒に来るそうです。」


『そっか』と納得するタケル
すると、今度は香月博士達がやって来る。



「誕生日おめでとう~♪
来てやったからには感謝しなさいよ~?」


「タケルちゃん、誕生日おめでとう♪」


「…おめでとうございます。」


香月博士・純夏・霞の順にタケルを祝ってくれる。
その後ろでは、クリスカ&イーニァ・まりも・伊隅・白銀影行夫妻・速瀬達率いる訓練兵達までもがやって来た。


「タケル、たんじょうびおめでとう♪」


「お…おめでとう」


「白銀教官、誕生日おめでとうございます。
コレは私達のプレゼントです。」


「あ…ありがとう…みんな…!!」



ジーン…と感動するタケル
クリスカ達はまだしも、日頃厳しくしごいていた訓練兵達からも誕生日プレゼントを貰い、嬉しさが溢れだす。


「ホラホラ、お客様を案内しなさいよ、白銀。」

「ハイハイ、こちらですよ。」


「お邪魔しま~す♪」



香月博士達を連れて、道場まで案内するタケルと沙耶。




それからしばらくした後、冥夜と悠陽殿下達が来て、やっと誕生日パーティーが始まる。



そして何故か、香月博士が酒瓶をマイク代わりに持ちながら、司会役を演じ、武・冥夜・悠陽殿下に、みんなからのプレゼントを渡すイベントになる。


「さて、次は御剣と殿下が、お互いにプレゼントをする番。
さあ~、お互いにプレゼントを交換して下さい♪」

冥夜と悠陽殿下が向かい合って、お互いにプレゼントをする。
そして、最初にプレゼントを開いた冥夜は---



「これは…?」


「それは、私達の母親の『形見』の髪留めで、昔母親が髪を纏める際に使ってた物です。
私も幾つか持っていますので、冥夜にも…と思いまして…」


「---ッ!!
母上が使っていた…髪留め…!!」


「冥夜は生まれてすぐに袂を別れた故に、私達の母上を知りません…
しかし、母上は常に私達二人の身を案じていました…
そして、命果てるその瞬間まで…冥夜…そなたの事も愛し続けておりました。
ですから、その想いが籠もった形見である髪留めを渡そうと思ったのです。」


「姉上…ありがとうございます。」


感涙しながら、プレゼントしてくれた悠陽殿下に感謝する冥夜。

そして次に、悠陽殿下が冥夜から貰ったプレゼントの包みを開けると----


「これは…」


「姉上ほど立派な物では有りませぬが、姉上に似合いそうな『洋服』を選びました。
これでお忍びの際にでも、着てくださればと思いまして…」


「冥夜…」


ジーン…と感動する悠陽殿下
しかも、冥夜が選んだ洋服という事もあり、嬉しさが倍増する。


「さて、姉妹同士のプレゼントの交換も終わった所で…
メインイベントの白銀と殿下・御剣のプレゼント交換よっ!!」


『おおっ!!』とみんなの声が響く中、ノリノリで進行を進める香月博士。
やはりみんなはタケルが送るプレゼントに注目しているようだ。


「まずは、私達からタケル様にプレゼントを贈りますわ…」


「受け取ってくれ、タケル」


「二人共、ありがとう」

二人に感謝しながら、プレゼントの包みを開けると…



「冥夜のは…日本刀?」

「それは『飛燕神楽』という刀でな、私の持つ『皆琉神威』の『影打ち』にあたる物なのだ。
それをタケルにプレゼントしようと思ったのだ。」


「影打ち…?」


「『影打ち』というのは、本来刀を打つ際必ず数本打ちまして、出来上がった物の中から、最も状態の良いのが『真打ち』と申します。
そして、残った物が『影打ち』となるのです。」

「『真打ち』は、本来護身刀として祭り上げられたりする物だが、『影打ち』は一般の者達に市販とかされたりする物なのだ。
しかし、この『飛燕神楽』は、影打ちでありながら、真打ちの皆琉神威とほぼ同じ完成度の出来故に、当時はどちらを真打ちにするか悩む程の物だそうだ。」


「そんなすげー物、貰って良いのか…?」


「無論だ、安心して受け取るが良い。」


「ありがとう…冥夜」


冥夜に深く感謝するタケル
そして、次に悠陽殿下のプレゼントを開くと---



「コレは…指輪?」


「それは煌武院家に伝わる指輪のレプリカでして、それ程の力は有りませぬが、少なくとも帝都城内何処でも移動出来る『程度』の力しか有りません。」

「いや…それだけでも凄いから…」


びみょーな気分でツッコミを入れるタケルだが、やはり自分の為に作ってくれた事に感謝する。



「さて…最後に白銀のプレゼントは…?」


何故かゴクリと緊張感が高まる一同
『なんでそんなに緊張するの?』と心の中でツッコミを入れる。


そして、ゆっくりと紙袋を開くと---



「私達の姿をした…人形?」

皆琉神威を持った『元の世界の服装をした冥夜』と『二度目の世界で『12・5事件』の際、着ていた服装の悠陽殿下』の人形が入っていた。


「これは一体何処で…?」

「ん?俺の手作りだ。」

「「えっ!?」」


『タケルの手作り』と聞いた瞬間、一気に好感度が鰻登りに上昇する冥夜と悠陽殿下。
それを見て、香月博士は『流石は恋愛原子核ね~♪』と呟きながら笑う


「おや…?紙袋の中にまだ入ってますね…?」


ガサガサと紙袋から包みを取り出す二人
すると---





「これは…マフラー?」

「随分と長いようですが…」


包みの中は、長めのマフラーで、冥夜は黒、悠陽は白のカラーのやつをプレゼントする。


「コレはこういう風に使うんだよ。」

「タ、タケル!?」


冥夜のマフラーを取り、冥夜・悠陽殿下の首元に巻いてあげる。


「これで良し。
このマフラーはこういう風に使うんだよ、覚えておけよ?」


「タケル様…これは一体?」


タケルに質問すると---



「『二人がずっと、仲良く一緒にいれますように』って意味で買ったんだよ。
もう離れ離れにならないようにと願を掛けて選んだんだ」


「「----ッ!!」」


タケルの『想い』が二人に通じ、ポロポロと涙を流す
『姉妹』と名乗れなかった日々がもう来ない事を願い、このマフラーを選んだ事を知り、涙する二人


『か、感動して…前が見えぬわっ!!』と紅蓮大将が滝のような涙を流す
そして、他の者達も目尻に涙を溜めていた。


「タケル…本当に…本当に…心から感謝を…」


「ありがとう…ございます…タケル様
このマフラーは、大切に使わせて貰います…」


涙を流しながらタケルに礼を言う冥夜と悠陽殿下だった…



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第二十三話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2011/09/09 18:59
1999年・1月15日




「ゴホン…楽にして良いわよ」

国連軍代表として、香月博士が訓練兵達の前に現れ、マイクに近づき、語り出す。


「卒業おめでとう
今日からアナタ達は訓練兵を卒業し、衛士になる事が決まったわ。」


珍しくお堅い喋り方で、卒業生である速瀬達の前で演説をする。

そして香月博士から少し離れた位置に、タケルとまりも・伊隅・碓氷が、卒業生達を見守る。


今日は速瀬達訓練兵が無事に卒業する日
そして、この後香月博士直属の特殊任務部隊であるA-01に入隊する日でもあった。

その為、今日は帝国軍の施設内にある体育館に集まり、解隊式を行っていた。



「これまでの訓練を生かすのはアンタ達次第。
これから地獄へ向かうアンタ達を助けるのは、仲間達でもあり、これまで訓練兵として、学んで来た事でもあるわ
それを生かすか、無駄にしてくたばるかはアンタ達にかかってるわ。」


香月博士の暴言らしい演説に、内心ハラハラしているまりも
しかし、表情には出していないから、流石だ。


「神宮司まりも軍曹や白銀武中尉の今までの教えを忘れない事
その身体に刻まれた二人の教えを、忘れる事は決して有ってはならないわ。
今まで教わった事を戦場で生かし、誇らしく戦いなさい、以上よ。」


「気をつけェッ!!
香月博士に対し、敬礼ッ!!」


伊隅がマイクの前に立ち、速瀬達に敬礼をさせる。


「引き続き、衛士徽章授与を行う」


「涼宮遙訓練兵」

「ハイッ!!」

「只今を以て、貴官は国連軍衛士になったわ。
おめでとう」

「ありがとうございますッ!!」


香月博士から衛士徽章を授与し、敬礼する


その後、水月・孝之・慎二と続き、他の訓練兵達に授与されていく


そして、衛士徽章授与がおわると、伊隅がマイクの前で語り出す。



「以上を以て、帝国軍白陵基地衛士訓練学校、第207衛士訓練小隊解隊式を終わる。」


そして、まりもが一歩前に歩き、『教官』としての最後の号令を出す


「207衛士訓練小隊、解散!!」



「「「「ありがとうございましたッ!!」」」」



涙を流し、感動の解隊式を迎えた速瀬達

そして、香月博士が退室したあと、タケルとまりもが続くように退室する

「この後新任少尉達は、第2ブリーフィングルームに集合し、今後の配属部隊の通達や軍服の支給方法、事務手続きの説明などが行われる予定だ、以上!!」


「敬礼!!」


遙がみんなに敬礼の号令を出すと、全員が伊隅や碓氷に対し、敬礼する。


そして、敬礼を確認すると、伊隅・碓氷も敬礼し、退室する。



「やった…やったわよっ!!」


「遂に…衛士だね…」


全員が涙を流しながら、感動する遙達。
念願の衛士になり、溢れる涙を止める事が出来ないでいた。


「みんな…外に出ようか…
ブリーフィングルームにも行かないといけないし…」


「そうね、行こう…みんな。」


そして、体育館の外に出ると、タケルとまりもが待っていた。



そしてまりもが少尉となった遙達にお祝いの言葉を贈る。
そして、全員から感謝の言葉を貰う。



そして、タケルの前に遙達が並び、敬礼する。



「少尉昇進おめでとう。
これから少尉達は国連軍衛士として、この日本を守っていく事になる。
…所属は違うが、少尉達とは戦場で共に戦う事もあるだろう…その時は、オレの背中は任せるぞ…!!」


「「「----ッ!!」」」


やっと『衛士』として認めてくれたタケルに対し、心の底から感動する。


やっと『衛士』として認めてくれた---

やっと同じ戦場で戦う事が許される---

そして、いつか---
中尉の背中を追うように戦う事が出来るのだと


そして、彼女達はまだ知らない…
その時は意外にも近い事を---



感動的な解隊式を終えて、タケルとまりもは速瀬達が使っていた教室で、急いで準備を行っていた。


今日は速瀬達の解隊式の日でもあったが、午後から新たに訓練兵となる者達が『入隊式』を迎える日でもあったのだ。


しかも今回の入隊式は『国連軍・帝国軍・斯衛軍との混合』で、選ばれた各四人ずつ計12人が入隊する事になっていた


教官は国連軍代表のまりもが教える事となり、時折特別教官として、斯衛軍からタケルが教える事になった。


しかし、そんな話は全然知らないタケルとまりもは大慌て、そんな事もあり、今現在猛スピードで教科書類や軍服・部屋の準備等の用意していたのだ。



「へにゅうぅ~…終わった…」


「疲れ…たわ…」


背中合わせに座り込むタケルとまりも。
入隊式開始一時間前になんとか用意が完了する。


この事を知ったのは、今日の早朝。
『でびるふぇいす』の香月博士から告げられた事実に、大慌てになるタケルとまりも。


「せっかくの感動的な解隊式をぶち壊しにするとは…流石は先生、油断していた…」


「無理よ…夕呼のイタズラを未然に防止する事なんて…」



「「ハァ…」」


深いため息を吐く二人…

因みに、これがイタズラで疲れてなければ、二人っきりで良い雰囲気になってたかもしれない事に後から気づいた香月博士は、『チッ…私とした事が…失敗したわ…』と愚痴を漏らす事になる。


そして、一時間後---

再び体育館に移動し、入隊する者達全員が集まる。
中には、純夏達や宗像美冴・篁唯依の姿もあった。

そして、入隊式を終えて、教室へと移動する。




「起立ッ!!…敬礼ッ!!」

まりもが最初に手本として敬礼すると、入隊する者達全員が起立し、敬礼する。


「楽にして、着席して良いわよ」



まりもの命に従い、敬礼を解き、着席する。


「初めまして、私は今日から貴様達の教官をする事になった、神宮司まりも軍曹だ
そして、此方に居るお方は、時折貴様達の教官として参加する帝国斯衛軍所属の白銀武中尉殿だ。
基本的に貴様達を教官を勤めるのは私だが、白銀武中尉殿は、教鞭を握って教える事は少ないが、貴様達がもし『総戦技演習』で、見事合格した場合、戦術機の教官を勤める事になる。」


まりもからの説明を終えると、タケルと入れ替わるように、新しい訓練兵達に声をかける。


「初めまして、帝国斯衛軍所属の白銀武中尉だ。
中にはオレを知ってる者も居るが、まず最初に言う事は---」


タケルの言葉にゴクリと息を呑む訓練兵達
純夏達ですら、緊張して、その言葉を待つ。



「----プライベートや休憩時間の時は「白銀」や「タケル」で構わない
授業中や訓練中はそうはいかないが、それ以外は呼び捨てでも構わない。」


カキンッ…と硬直する訓練兵達
まりもは頭を抱え込みながら『やはりか…』と呟き、純夏は『……タケルちゃん…アンタある意味大物だよ…』と少し呆れる。


「一応意味はあるぞ?
幾ら上官相手とはいえ、ガチガチになってては、お互いに分かり合える事は難しい。
ならば、プライベートや休憩時間の時ぐらい、そんな固い考えは捨てて、まずはお互いの事を理解し合う事が大切だ。
理解し合い、仲間との絆を深め、そして全体の連携等を向上させようというのが、理由の一つ」


タケルの説明を聞いて数名の訓練兵が納得するが、まりもや純夏達に限っては、『本当の理由はもっと単純なクセに…』と心の中で呟く。


「2つ目は、至って簡単。
香月博士はそういう形式ばった行動は嫌いなんだ。
固い挨拶や敬礼・軍人っぽい喋り方は、あの人は好きじゃないんだ。
だから今の内に慣れた方がいい。
…ちなみに『私は国連軍じゃないから関係無いわ』…なんて考えをしたら、痛い目に遭うから、今の内にやめた方がいい…マジで…」


タケルの最後のセリフを呟いた時の暗い表情を見て、『ええ~…』とビクビクする訓練兵達。



「最後の理由は2つ目と似た理由だが…
オレ自身、余りそういう形式ばった行動とかは苦手でな、出来ればプライベートや休憩時間の際は、仲間達と同じ接し方の方が嬉しい。」


『『『はあ?』』』

最後の理由に訓練兵達は唖然となる。
まりもや純夏達は『うわっ…本音を語ったよ…』と驚き、宗像に関しては、タケルのイメージを『接し易い人』と気に入る。
この瞬間、タケルが宗像にからかわれる標的になった瞬間だった。



「間違っても、神宮司軍曹には、呼び捨ては禁止だ。
そんな事したら……明日の太陽は拝めない事を約束する。」


「し~ろ~が~ね~中~尉~?」


『きゅぴーん』と紅い眼光を放つまりもを見て、『狂犬』の恐怖の一片を知り、『この人だけは、怒らせては駄目だッ!!』と心に刻み込んだ訓練兵達
勿論タケルは、その殺気を受けてビクビクと震えていた。



「白銀中尉…変わった人だったな…」


『そうだね~…』


教室での説明が終わり、明日から訓練開始となる訓練兵達。
指定された部屋に行き、自分達の荷物を整理し、軍服に着替えた後、PXで全員集合する。


そして、美冴の一言に多数の訓練兵達が頷く。


「まあ、白銀中尉の話は後回しにして、私達の自己紹介をしないか?」


「さんせ~♪」

美冴の提案に賛成する純夏に続き、他の者達も賛同する。



「まずは私から行く、
私は宗像美冴だ、所属は国連軍だが、所属とか関係無しに宜しく頼む。」

自己紹介をしながら敬礼する美冴。
それに続いて純夏が立ち上がる。


「私は鑑純夏、所属は国連軍。
みんな、宜しくお願いします。
因みに私はタケルちゃんの幼なじみです♪」


『『『オオォッ!!』』』

純夏の一言に驚き、注目します訓練兵達
美冴や唯依も『鑑純夏』という人物に好印象に感じる。


「わたしは、イーニァ。
イーニァ・シェスチナです。
よろしくね♪」

「私は国連軍所属のクリスカ・ビャーチェノワだ、宜しく。」


「2人はね、ソビエトから来たんだよ。」


「ホゥ…ソビエトからか…」

「…………」


クリスカ・イーニァの自己紹介をした後に、純夏が付け加える。

そして、クリスカと唯依の2人が、ジッとお互いを見つめる。


そして、次は帝国軍所属に変わる。


「私は帝国軍所属の『伊隅まりか』と言います。
皆さん宜しくお願いします。」


「次はオレだな、オレは帝国軍所属の『前島正樹』だ
これから宜しく頼む。」

まりか・正樹の自己紹介が終わり、他の帝国軍所属の訓練兵達も自己紹介を終える


「では、最後は我々斯衛の番だな。」


自分達の番という事で、起立し、敬礼しながら自己紹介をする。


「帝国斯衛軍所属の篁唯依訓練兵だ。
今後とも、宜しく頼む。」

凛とした姿勢で自己紹介をする唯依
その姿を見て、『綺麗で格好いいなぁ~…』と呟く純夏


(タカムラ・ユイ…か…
何だろう…この気持ちは…?)


唯依に注目するクリスカ。
唯依もクリスカの視線に気づいているが、自然な振る舞いで着席する。



「次は私だね、私は『雨宮佳織』と言います。
これから宜しくお願いします。」


唯依・雨宮が自己紹介を終えると、他の訓練兵達も自己紹介を終える。


「さて、自己紹介を終えた事だけど…」


各自自己紹介を終えた頃に、ひょっこりとタケルがやって来た。

「いたいた、ふぅ~…探した探した…」


「タケルちゃん?どうしたの?」


「お前達を探してたの、
あと純夏、これから真面目な話をするから、『タケルちゃん』と言ったらビニールスリッパの刑な。」


「う、うん…」


全員が真剣な表情で注目すると、タケルの口から告げられる。



「先程決まった事だが、
今回陸軍予備学校の成績や生活面・周りの評価などを調べ、各所属の小隊長を決定した。
勿論、これからオレや神宮司軍曹の目で判断し、変更する可能性はあるが、これから名前を呼ばれる者達は、各所属の小隊長に任命する。」


「「「………」」」


小隊長の任命という責務に、訓練兵達は沈黙する。



「まずは国連軍所属、
小隊長は宗像美冴訓練兵」


「ハイッ!!」


起立し、敬礼して返事を返す美冴。


「今日より貴様は衛士訓練中隊『第207A小隊』の小隊長に任命する。」


「了解しましたッ!!」


「ヨシ、着席して宜しい」

小隊長に任命された美冴
タケルの着席の命を受けて、着席する。



「次、帝国軍所属、前島正樹訓練兵」


「ハッ!!」


「貴様は、衛士訓練中隊『第207B小隊』の小隊長を命じる。」


「ありがとうございますっ!!」


タケルからB小隊の小隊長を命じられた正樹。
敬礼して返事を返すと、タケルから着席の命を受ける。



「最後に…斯衛軍所属、篁唯依訓練兵」


「ハイッ!!」


「貴様に衛士訓練中隊『第207C小隊』の小隊長を命じる。」


「ハッ!!」


タケルからC小隊の小隊長を命じられる唯依
そして着席許可を出したあと、説明を続ける。


「明日の予定は、午前中は体力向上を目的としたランニング等の基本的な訓練を行い、
午後は今までの陸軍予備学校でのおさらいや、重火器などの兵科をする事になっている。
明日はオレは出られないが、神宮司軍曹がみっちりと貴様達を鍛えてくれるから、覚悟しとけ!!」

「「「「ハイッ!!」」」」


「神宮司軍曹は、衛士としても、教官としても優秀な御方だ、
多くの優秀なエース級の衛士達を世に送り出し、その衛士達全てが、例え上官職に着いても、神宮司軍曹には頭が上がらない程、尊敬されし方だ。
そして、同時に『鬼軍曹』とまで呼ばれた方だから、生半可な気持ちで訓練をすれば…鉄拳制裁が待っていると知れッ!!」

「「「りょ、了解!!」」」


訓練兵達に、まりもの偉大さと恐怖を刻み込むタケル
そして---



「んもぅ…最後のは余計よ…」


PXの入り口付近でタケルの話を盗み聴きする形になってしまったまりもがいた…



あとがき



雨宮中尉登場しました(訓練兵時代)

『佳織』という名前は、オリジナルですので、御了承を
(雨宮中尉の名前が記載されてないので、オリジナルの名前を付けました。)



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第二十四話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2010/10/07 19:59
1999年・1月16日


「ハッ…ハッ…ハッ…」

グランドでランニングをする純夏達
皆が息を荒くして走る中、純夏一人だけは息を落ち着かせながら、ランニングをする。


「なん…だと…!?」


「そん…な…莫迦な…!?」


「ふむ…」

自分達より年下の純夏がまだ余裕を残して走る姿を見て、唖然とする美冴と唯依。
そんな純夏の姿を見て、冷静に分析するまりも。


(タケルちゃん…本当にありがとうねっ♪)


タケルと一緒にランニングをする約束をしてから、純夏はタケルの特別訓練を行っていた



最初の二週間は普通にランニングをしていた。
しかし、走る距離は10キロ
『疲れたら歩いても良いけど、止まったらダメだ。』

最初はキツかったが、徐々に慣れはじめ、二週間後には、疲れた際、小走りにはなるものの、歩く姿は見えなくなる

その距離を毎日走り、二週間を過ぎてから、重さ20キロのバックを背負いながらのランニングに変更
これは『完全装備での10キロ行軍対策』として、タケルが考えた案。
なんだかんだ言っても、やはり純夏の事を気にしてたのだ。


コレを2ヶ月間、入隊まで行い、
少なくとも、体力や持続力・脚力・走力の向上を飛躍的に高めていた。
おかげで、純夏はランニング程度に関しては、簡単にはへばらなくなったのだ。


「神宮司教官、グランド20周終了しました。」


「うむ、みんなが終わるまで休憩を取る事を許可する。」


「了解しました。」


みんなが終わるまで、少しでも体力回復に専念する純夏。
脚の腿を良く揉み、次に備えておく。



タケルの助言を着実に守る純夏。
『ランニングの際、出来れば一番か二番辺りを確保する事。
そうすれば、その分休憩時間が長くなり、体力回復がし易くなる』

『ランニング終了後、10キロ行軍があるから、必ずマッサージを少しでもしておく事。』

『オレと一緒にランニングしてた事は内緒にしとく事
でなければ、更にキツい訓練が待っていると思え』

この三つをタケルに強く言われ、実行する純夏。
深呼吸をして息を整え、次に備えておく。


全員が終えると、次はケージにある装備を担いで10キロ行軍になる


「鑑、貴様は特別に『完全装備』で行け
みんなと同じ装備では、再び貴様の独走になるだけだからな。」


「りょ、了解しましたッ!!」


純夏だけ完全装備での行軍となる事に驚く美冴達
純夏も驚いたが、『タケルちゃんの予想通りだ…ありがとう…タケルちゃん…♪』と内心喜ぶ。



だが---神宮司軍曹はそんなには甘くはなかった。


「----ふえっ?」


「喜ぶがいい、鑑
貴様には、完全装備の他に『対物体狙撃銃』アンチ・マテリアル・ライフルも追加してやる。」


「ふえぇぇぇっ!!!?」


予想外の事に驚く純夏。
神宮司軍曹の表情がステキな笑みを浮かべていたのを見て、ブルブルと震える美冴達。


「どうせ白銀中尉に体力をつけて貰ったのだろう?
なら、この程度など楽勝だろう?」


「バッ、バレてる-----ッ!!」


タケルと一緒に特訓してた事がバレてしまい、驚愕する純夏。
ふっふっふっ…と笑いながら『分隊支援火器のダミーも持っていきたそうだな?』…と、ジワジワと寄ってくるまりもから逃げるように、グランドへと逃げ去る純夏。
結局は、完全装備+対物体狙撃銃で10キロ行軍をする事になってしまった…



「おっ、やってるな?」

書類整理をしていたタケルが、偶々廊下の窓から純夏達の訓練が見えていた。


「ん…純夏の奴…完全装備で走らされてやんの……って、あの担いでる銃は…?」

廊下からでは、グランドまで300m程離れていた為、見づらく何なのかはハッキリとわからないが、担いでる銃の形を見て、嫌な予感を膨らませる


「駿…お前、確か目が良いよな…?」


「ハイ、一応両方とも2・0です」


「済まないけど、あの完全装備で走ってる奴が担いでる銃…何かわかる?」


その時、一緒に書類整理をしていた駿に頼み、純夏の担いでる銃を見て貰う。


「あれって…アンチ・マテリアル・ライフルじゃないかな…?
正確にはわからないけど、それぐらいの大きさのライフルを持ってますね…」


「やばっ!?
駿、済まないが、この書類持って先に戻ってくれっ!!」

「あっ!?
た、タケルさん!?」


書類を駿に持たせてから、全速力で走るタケル
凄い勢いで廊下を走り去る。



「ヨ~シ、全員行軍を終了したな?」


「はうぅ…」


全員が10キロ行軍を終了する
純夏も流石にフラフラと疲れ果て、目をぐるぐると回す


すると、タケルが全速力で走って来る姿を見て、全員が驚く。


「し、白銀中尉!?
どうなされました…?」

「じ、神宮司軍曹…
何故…純夏にアンチ・マテリアル・ライフルを持たせたのですかっ!?」


「えっ?
いや…鑑訓練兵は白銀中尉に鍛えられていたみたいなので、鑑訓練兵だけハードルを上げたのですが…」


「駄目ですっ!!
純夏にそんな重量物を持たせて鍛えたらっ!!」


凄い勢いで迫るタケルに驚くまりも
純夏も『タケルちゃ~ん…』とウルウルと目を滲ませる
すると---



「そんな重量物を担がせて鍛えたら、純夏の『パンチ力』が上がるじゃないですかっ!!
そんな事したら、オレや他の訓練兵達が『撲殺』されるじゃないですかっ!!」


「「「ハア!?」」」

「ほえっ…?」


タケルの一言に唖然とする訓練兵達
純夏やまりもすら『へっ…?』と茫然自失となる


「忘れましたか…神宮司軍曹…
純夏の『どりるみるきぃぱんち』や『ふぁんとむ』の破壊力を…」


「へっ……………あ゛あ゛っ!!!」


やっと気づくまりも
『しまったぁぁぁぁ……』と後悔していた。


「純夏はね…パンチ力に関しては、紅蓮大将をも凌駕する程の破壊力を持っています…
以前、純夏がオレにレバーブローを入れた時ですら、オレは100mも吹っ飛ばされ、川で土左衛門になっていた事がありました…
つまり、今のパンチ力を更に向上化してしまったら
……格闘訓練等の時に純夏のパンチを喰らった者は…全て天に召されるかと思われます。」


「…………確かに」


「「「ええぇっ!?」」」

タケルの一言で驚愕し、純夏のパンチ力に恐怖する美冴達
『タケルちゃん…幾らなんでも酷いよ~…』と呟く純夏だが、訓練中に『タケルちゃん』と呟いた為、純夏の頭にビニールスリッパが炸裂する。


「痛あぁっ!?」

「鑑訓練兵、今は訓練中だぞ?
プライベートや休憩時間等の時以外は『白銀中尉』か『教官』と呼ぶように言った筈だが?」


「も、申し訳ありませんでした…」

タケルに怒られてしまい、ウルウルと謝る純夏、タケルの方もまりもとの話を戻す。


「…そういう事で、腕力を上げる事は控えて欲しいですね
腕立ては…仕方ないにしても、他は却下
もし、ハードルをあげたいのであれば、輸送車のタイヤ(ホイール無し)でも背中に担がせておいて下さい。
担がせるタイヤの数は、軍曹に任せます。」


「あっ、なる程
了解しました、明日以降はそうさせて頂きます。」


「そ、そんなぁ…」


明日からの訓練がハードになった事に悲しむ純夏
その事に訓練兵達が純夏に同情をするしかなかった…


「はうぅ…疲れたよぅ~…」


「お疲れ様、鑑さん。」

訓練を終えてシャワーで汗や土等の汚れを落とし、着替える訓練兵達
初日から特別メニューを与えられて、疲れ果ててる純夏の肩や首筋を揉んであげていた唯依。


「篁さん…ありがとうございます~…」

「それにしても、まさか鑑に独走されるとは思わなかったな。」

「タケルちゃんには、『間違い無く足を引っ張る事になるから、体力だけでも上げておけ』って言われて、2ヶ月間タケルちゃんとランニングしてたんです。
まあ…途中で20キロのバッグ背負わされてたけど…」

「厳しいわね、それ…」

「厳しい中にも、思いやりが隠れてるけどね」


純夏のトレーニング方法を聞いて、少しげんなりとするまりか
そんな厳しいトレーニングの中に隠れているタケルなりの『優しさ』を見抜いた佳織


「さて、さっさと教室に向かうとするか、
神宮司軍曹にどやされてはたまらないからな…」

「そだね…」


美冴の進言に従い、さっさと着替えて教室へと向かう女性陣達…



「あれ、あの人誰だろう?」


教室に到着すると、教室の入り口付近でまりもと見知らぬ女性が話ししていた。


「むっ、丁度良い時に来た
篁訓練兵、貴様の机の中に『筆箱』が入ってなかったか?」


「あ、ハイ、一応持ち主が現れるまで、そのまま机の中に入れてました。」

「ホント!?
助かったわ~…
ついウッカリ机の中に入れっぱなしだったみたいで、部屋の中探した探した…」


「速瀬少尉…笑い事では有りませんよ…ハァ…」

「スミマセン、軍曹」


笑って誤魔化す水月だが、少し呆れた風に溜め息を吐くまりも。


そして、唯依が筆箱を取りに行き、水月に筆箱を渡す。
唯依に感謝する水月に敬礼をする唯依だが、『敬礼は要らないわ』と断る。


「それにしても…本当に卒業したんだなぁ…
昨日まで使ってた、この教室を見ると、そう感じますね…」


「そんなモノですよ、少尉殿」


「ううっ…軍曹に『少尉殿』だなんて呼ばれるのは慣れませんね…
いつも『速瀬ッ!!』って怒られてたから、違和感バリバリですよ。」

「それは私もですよ、『少尉殿』?」


悪戯っぽく言うまりもに『はうぅ…』と困惑する水月。
昨日『訓練兵』として、別れを告げたこの教室を見て、ひどく懐かしく感じてしまう感覚を持ってしまう。


「それにしても、まさか解隊式終わって、速攻で白銀中尉に出逢うとは思いませんでしたよ…
しかも、伊隅大尉に『是非とも厳しく鍛えて下さい』…だなんて言うもんだから、早速伊隅大尉に目を付けられましたよ…」


「伊隅大尉…という事は、速瀬少尉は『教導隊』に入ったのですか?」


「えっ!?お姉ちゃんの部隊に!?」

「えっ、『お姉ちゃん』?」

『伊隅大尉』という言葉に反応するまりか
『お姉ちゃん』という言葉に少し驚きながら、まりかを見る水月。


「伊隅…みちる大尉ですよね…?」


「え、ええ…そうよ。」

「ヤッパリ!!
その人、私のお姉ちゃんです。」


「へ、へぇ~…そうなんだ…」


まりかが自分の隊長の妹だという事に驚く水月。
表向きではA-01の隊員達の家族には『教導隊』という事になってる為、話を合わせる水月

まりもも、香月博士からA-01が香月博士直属の『特殊任務部隊』とだけ聞いて、『教導隊』と偽りの部隊の名を明かし、まりか達を誤魔化す。


「ホラホラお前達、早く教室に入って準備をせんか。
それとも…まだ訓練が足りなかったのか?」


「し、失礼致しましたっ!!」


純夏達は逃げるように教室に入って行く
その姿を見て苦笑いをする水月と『ふぅ…』と軽い溜め息を吐くまりもだけが廊下に残った。


(神宮司軍曹…スミマセン、話を合わせて貰っちゃって。)

(構いません、少尉殿
それに一応香月博士からは多少の話は聞いてますので…)

(そうでしたか…
助かりました)

小さな声で会話をするまりもと水月。
そんな水月の姿を見て『相変わらずね…』心の中で呟き、苦笑いをするまりも

「ホラ、早く行った方が良いですよ。
涼宮少尉達が待ってますよ?」


「あ、ハイ。
軍曹…お身体に気をつけて下さい。」


「貴女もね、『速瀬』」

最後に訓練兵の時と同じように『速瀬』と呼んで貰い、嬉しく反応する水月


「神宮司軍曹、私は『神宮司軍曹の子供』として誇りに思います。
これからも神宮司軍曹や白銀中尉に教わった事を忘れずに、誇らしく生きていく事を誓います。」

「----そう。
貴女の活躍を此処から応援してるわ。」


お互いに敬礼しあい、別れる二人


(もう…嬉しい事言ってくれるじゃない…)


教室に入る前に涙を拭い、気持ちを切り替えて、新しい『子供達』の下に向かうまりもだった…



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第二十五話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2010/10/10 17:59
1999年・2月20日

訓練学校内シャワールーム


「疲れたぁ~…」


「情けない声出すな、正樹」


タケルと共に訓練後のシャワーを浴びていた正樹。
他の男性訓練兵達は既に上がり、交代で入っていた。


「正樹もだいぶ成長したな、完全装備の10キロ行軍じゃ、純夏を常に抑えてるじゃないか。」

「白銀さんのおかげですよ。」


現在、完全装備の10キロ行軍では、純夏を抑えて正樹がトップに居る。
要因はやはり男性特有の体力の多さ。
身軽ならば純夏だが、完全装備をすれば、持続力がモノを言い、正樹がトップに出た。


その後に、まりか・唯依の二人がピッタリとマークし、ちょっと離れた場所ではクリスカ・美冴が居る
そして、勿論ビリはイーニァだったりする。



格闘訓練では…圧倒的に純夏が頂点に立ち、並み居る仲間達(主に男性訓練兵達)を粉砕し、何度となく、天に召される寸前までいった。


射撃訓練では、10キロ行軍の汚名を返上するように、イーニァがトップ
接近戦での射撃命中率を95%超えをマークし、遠距離射撃に関しては80%を超えていた。
タケル曰わく、『接近での射撃はイーニァ
遠距離射撃はたま』と賞する程凄まじかった。
因みに、純夏は接近戦での射撃は70%
遠距離射撃は65%と遠距離射撃に関しては最低だったりする。



総合的成績で言うならば、まりかがトップ
『やはり血筋なのか…』とタケルも頷く程だ。



「しっかし、今回は女性陣が層が厚いな…
むしろ男性陣は…頑張れ。」


「フグッ!?」


ズキリと痛い所を疲れてしまう正樹。
男性陣は平均的なので、正樹以外は目立って居ないのだ。


すると、背後から引き戸の開く音が聞こえ、他の『使用者』が現れたと悟り、正樹と一緒に振り向くと----



「あは、あはははは~…
し、失礼しま~す」


「タ、タケルちゃん…あまり…見ないでね…」


「むっ、宗像・雨宮、私は戻るっ!!」


「これも訓練ですよ、唯依」

「諦めて下さい♪」

『ピシッ!!』…と余りの衝撃に硬直するタケルと正樹
何故か男性用のシャワールームに純夏・まりか・イーニァ・クリスカ・唯依・美冴・佳織の計7名の女性陣がバスタオルを巻いて入って来る。


まりか・純夏・クリスカはタケルと正樹が居ると知り、恥ずかしそうに中に入るのを躊躇うが、イーニァが堂々と中に入った為、諦めて中に入る。
唯依はタケルと正樹が居るのを知り、退却しようとするが、美冴と佳織に阻止され、モジモジと恥ずかしそうに奥へと侵入する。



「……此処男性用ダヨネ?」

「ハイ、勿論男性用シャワールームですよ?」

美冴以外は恥ずかしそうに、真っ赤にクネクネと動いてたが、美冴だけは堂々としていた。


「何故此処に来たのか理由を述べて欲しいのだが…?」


「現在、隣の女性用シャワールームは、途中で故障してしまい、仕方なしに此方にやってきたという訳です。」


「なる程…だが、他の男性達が入って来る考えを考慮してるのかね?」


「勿論、男女シャワールーム入り口には『故障中の為、使用禁止』の立て札を立てて起きました。」


「中に俺達が居る事は…?」

「勿論確認済みです。
まあ、鑑達には二人が入ってる事は内緒にしましたが…」


「どうりで…」


頭を抱えるタケル
正樹もまりかのバスタオル姿を見て、理性と本能が戦っていた。


タケルの隣に恥ずかしそうに純夏が入り、正樹の隣にはまりかを配置し、他の者達は、開いてる所でシャワーを浴びる。


「それにしても、白銀は女性達のシャワーシーンを見て、落ち着いてますね。」


「そ、そういえば…」


美冴の質問に戸惑う純夏だが、呆れるようにタケルが答える。


「あのな…前線では、住む部屋は男女関係無しに一緒に生活するんだぞ?
風呂で男女一緒に入ったりする事なんて、日常茶飯事なんだぞ?」

「えっ?
だけど、タケルちゃんは京都に居た時は、真耶さんの家で同居してたぢゃん?」


「オレの場合は、基地内で泊まり込みの時や深夜まで作業をしてた時に、仮眠室で極偶にあったんだよ。
そりゃあ、今でもマジマジと見れば恥ずかしい気持ちは有るけど、訓練兵の強化装備を見たら…意味が良く解るようになるぞ?」


タケルの発言に『『ええぇぇっ…』』と返答する純夏達
流石の美冴も少し恥ずかしそうに不安になる。


「タケルちゃん…訓練兵の強化装備って…どんなの?」


「殆ど『裸』に近い姿になるな…
保護皮膜が半透明でな…
殆ど裸みたいな姿だから、かえって裸を見せるより恥ずかしいらしいぞ?
オレに言わせれば、あれは…制作者の趣味丸出しだと思うぞ?」


タケルの話を聞いて、女性陣達の顔が真っ赤になる。


「さて、正樹…そろそろ上がるか」

「そうですね…」


タケルと正樹は『理性が勝ってる内に退散しよう』…とアイコンタクトで語り、退却の準備をする。


「だ、駄目だよ、タケルちゃん!!
帰る途中に伊隅さんの裸見えちゃうでしょ!!」


「俺は兎も角として、正樹は構わないだろうに…
それに、このままでいたら、風邪引いちまう」


タケルの発言に慌てる正樹と、真っ赤っかになるまりか…
その様子を楽しむかのように、美冴が笑い出す。


「大体にして、見られてマズいんなら、入って来るなよ…
俺達が出た後に入るなり、色々とあっただろ?」


「う゛っ…」


「今回は聴かなかった事にするけど、神宮司軍曹には絶対に言うなよ?
そんな事言ったら、お前の顔面に『鉄拳』入るからな!」


「はぁ~い…」


しゅん…とする純夏を見て、『仕方ねぇな…』と溜め息を吐くタケル。


「純夏・伊隅、今から俺と正樹が目隠しするから、脱衣所まで道案内しろ。
出来れば、背中から押して道案内してくれると助かる。
正樹、腰にバスタオル巻いておけよ。」


「あっ、ハイ」


「えっ…うん、ゴメンね、タケルちゃん…」


タケルの提案で、腰にバスタオルを巻いて、タオルで目隠しをするタケルと正樹
その背中で、バスタオル巻いて、タケルと正樹を押しながら道案内をする純夏とまりか。
その際、自分のわがままでこんな事をするタケルに詫びる純夏


「タケルちゃん、あと50センチ前方で脱衣所の出入り口だよ。」


「わかった、それじゃ…」


脱衣所の引き戸をスライドさせて開こうとすると---!!



「白-----きゃ!?」

「あ゛っ」


すると、突然引き戸が開きだし、まりもとみちるが現れる
そして、引き戸を開こうと手を伸ばしたタケルの手には、母性溢れるまりもの胸を鷲掴みにする。

「ん…?なんだコレは…?
随分柔らかくて大きなモノが…?」


「きゃんっ!?」


「あああああ…」


目隠しをしてる為、何なのかは知らないタケル。
タケルに揉まれたり、撫でられたりして、確認してる為、悶えてるまりも、
その光景に「やべぇ~…」とアワアワしてる純夏と、まりもの後方で、笑い声を抑えながら、腹を抱えて笑ってる香月博士が居た。


「白銀さん、引き戸開きました…わぷっ!?」


「ま、正樹!?」

「おおおお…!?」


目隠しをしてる為、事態に気づいてない正樹はそのまま前進。
その際、みちるの胸元に顔を突っ込む。

まりかも、正樹の後ろに居た為、気付くのが遅くなり、そのまま正樹を押す感じで、姉・みちるの胸元に正樹の顔を突っ込む形になり、その時点でやっと事態に気付く。
そして「お姉ちゃん」と言葉が出ず、『おおおお…』と連呼する。


「なんだコレ…正樹、一旦目隠しを取るぞ。」


「あっ、ハイ」


そして、目隠しを取ると----事態を把握し、石化するタケルと正樹


後方の美冴達からは『南無~…』と合掌されていた。



「し、白銀…人前で胸を鷲掴みにするのは…」


「正樹…此処でそういう事は…」



「「スミマセンでしたっ!!」」



石化が解け、二人同時に素晴らしい土下座をする。
腰にバスタオルを巻いた大の男二人が裸で土下座する姿を見て、爆笑する香月博士。


「さ、流石は白銀と…『弟子二号』の前島ね…
此処まで、笑える事態を作るとは…流石は恋愛原子核ね~♪」

「で、弟子って何ですか…?」


「アンタ、白銀の弟子じゃない?
勿論恋愛原子核の方のね。」


「ぐふっ!?」

「そんな弟子いらん…」

正樹もタケルの『恋愛原子核』の仲間入りをしたと香月博士から言われてしまい、精神的ダメージを受けてしまう。
ちなみに『弟子一号』は鳴海孝之らしい…


「白銀、面白いモノ見せてくれてありがとう。
あと、まりもの胸を散々触りまくった責任は、ちゃんと取りなさいよ~♪」


「…ちなみに、その責任の取り方は…?」


「まりもをアンタの嫁として嫁がせる事よ!!!」


「ゆゆゆ…夕呼ッ!!」


握り拳をしながら『責任』の取り方を説明する香月博士に、思わず名前で呼んでしまうまりも。


「な、何故博士達が此処に…?」


「だって、『こんなの』が男性用シャワールームの入り口前にあったら、怪しむのは当たり前よ~?」


ガタッと、タケル達に看板を見せる香月博士
その看板の『怪し過ぎる内容』に硬直する。


『現在、男性用シャワールームは故障中につき、使用は禁ずる。
例え、怪しい声や音が聞こえても、スルーをする事
勿論覗いたりすると、罰として、無い事を有るようにされて、基地中に噂を広げられてしまうので、覗き・盗撮は禁止。
決して香月博士等に報告は禁ずる、面白い事になるから。』…と看板に貼り紙されていた。




「むむむむ…宗像ァァァッ!!」


「知りません、私じゃありません。」


「嘘つけぇぇぇっ!!」


目を細めて誤魔化す美冴だが、これが悲劇の素となる。


「フフフ…良いだろう…
宗像…貴様には、特別に『特別訓練』を指導してやる。
勿論逃げる事は不可能だから、覚悟すれよ?」


「特別訓練?」


タケルの一言に、些か不安を持つ美冴


「先生…宗像に『強化装備』を与えて下さい。
ちょっと…二人っきりで訓練したいもので…」


「あ、アンタ…まさか…」


タケルが何をするかを悟る香月博士。
流石に美冴に同情する視線を送り、タケルの提案を許可する。


そして、まりももタケルが何をする気なのかを悟り、懐のポケットから、紙と封筒とペンを取り出し、美冴の下に行く


「宗像…貴様にコレをやる。」


「な…何ですか、コレは…」


香月博士とまりもの哀れみな視線を受けて、一気に不安が募る美冴
まりもの目尻には、何故か涙が溜め、美冴に紙と封筒とペンを渡す。



「……………………………………『遺書』だ。
お前が逝った後に、責任を持って、私が届けに行ってやる。
…私はお前の事を何時までも覚えていてやるからな…」


「「「ええぇぇぇぇぇぇっ!!?」」」


まりもから未使用の『遺書』を渡されて、硬直する美冴
『地雷…踏んじゃったわね…』と香月博士の呟きが、全員の耳に届く。



「宗像、一時間後にシミュレータールームに強化装備を着用して来る事。
因みに拒否権は無いし、逃走した場合は、更に酷くなる事を約束する。
勿論、仮病なんて使ったら…ワカルヨネ~?」


「り、了解…」

青筋を浮かべながら、笑顔で死刑宣告をするタケル
逃げ場を失い、諦める美冴
そして一時間後、美冴は地獄を見る事になる。





「そぉぉぉれっ!!
次はトリプルアクセルだっ!!」


「うわぁぁぁぁぁぁっ!!!」



シミュレータールームでは、複座式の管制官が起動していた。
其処では、何時もより激しい動きと絶叫が響いていた。


中には、タケルと美冴が搭乗し、『全力変態機動~お仕置きバージョン』を行われていた。



モニターで戦術機の映像を見る限りでは、『………ええぇ…?』というような光景だが、
操縦席の中では、真っ青な表情をしながら、気持ち悪さ120%で吐きそうな美冴の姿があった


「アナタ達も気をつけなさいよ…?
白銀中尉の全力機動は、熟練者でも、ああなるわよ…」


「ちなみに言うと…
戦術機を見れば『ふざけてる姿』に見えるけど…
アレ、中の衛士にしたら、逝ってもおかしくない程拷問だから…」


二種類のモニターを見ながら説明する香月博士とまりも

戦術機の方は、不知火・改が、バレリーナのように華麗に舞う姿に唖然としていたが、しかし中の美冴は、今すぐにでも天に召されて逝きそうな状態を見て、小鹿のように震えて居る純夏達。


その際、純夏達は
『白銀中尉を怒らせてはいけない』…と同じ考えを持ち、強く決意する。

「よっこいしょ…っと…」

「……う゛ぅ゛っ」


コクピットユニットがイジェクトされ、降りて来るタケルと美冴
今回は酔いが酷い為、オンブではなく、お姫様抱っこで降りて来る。


「ほら宗像、バケツだぞ。」


ポリバケツの蓋を開けると同時に、バケツの中に吐く美冴
その姿を見て、やはりガクガクと震える純夏達。


「ハァ…ハァ…」


「吐き終わったか?」


「な、なんとか…」


かなり吐き出し、少し落ち着いた美冴
タケルもその様子を確認すると、再び美冴をお姫様抱っこで担ぐ。


「白…銀…中尉…
スミマセン…歩けないもので…」


「別に良いさ、気にするな」


「うぅ…タケルちゃんのバカ…」


歩けない美冴をお姫様抱っこで運ぶタケルだが、その姿を見て嫉妬する純夏。



しかし、その嫉妬もすぐに消える事になる




「さて、宗像…『第2ラウンド』逝くぞ♪」


ピシッと、辺りの空気が凍てつく。
嫉妬していた純夏や周りの訓練兵達
そしてお姫様抱っこされている美冴すら表情が固まる。

「い……今…なんと…?」


「ん?聞こえなかったか、声が小さかったようだな、済まない。
『第2ラウンド逝くぞ』と言ったんだ♪」


カツカツと再びコクピットユニットに歩いて行くタケル。
良いカンジに笑顔で応えるタケルを見て、初めて恐怖する美冴


「や…止めて----」

「れっつ…ごー!!」



コクピットユニットに乗り込み、美冴を搭乗させ、自分もシートに座り、ハッチを閉める。



「お…鬼だよ、タケルちゃん…」

先程の嫉妬もキレイサッパリ消え、怒ったタケルの恐ろしさを知り、震える純夏…



「さ~て、この悪路を全力疾走するぞ~♪」


「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」


先程は回転でのお仕置きに続き、つぎは縦の上下運動のお仕置きに変更する。
通常ならば、別にそれはなんともないのだが、
先程の回転の酔いの後に縦の振動で、更に堪えてしまう。
偶に三角飛びしながら倒立反転し、時折倒立反転中、くるくると横に回転したりして、いぢめる。


「あ…う…あう…」


再びお仕置きが終了し、ポリバケツへ直行し、吐く美冴
しかも美冴の体調を見ながらお仕置きをしてるので、尚タチが悪い。


「さて、吐き終わったようだし…次逝くか…」


「------ッ!!!」


首をブンブンと横に振り、拒絶する美冴
しかしタケルはニヤニヤしながら、再びお姫様抱っこをする。


「…わかったでしょ、アンタ達…
日頃優しい白銀が怒ったらどうなるかを…」


「「「ハッ…ハイッ!!」」」


「ちなみに、トラウマとして刻むまでは終わらないわ…
しばらくは宗像は訓練を休む事になるから、あとは頼むわよ?」


「「「了解しましたッ!!」」」


タケルの恐怖にビビる純夏達訓練兵
この後、流石にこれ以上はマズいと判断してお仕置きを終了するタケル
抱えて来た美冴を落ち着かせようとするが、駆け込んで来た純夏達に介抱される。



「宗像さん、これ飲んで…」


「済まない…鑑…」


赤い紙パックのドリンクにストローを刺す純夏。

「す、純夏、そのドリンクは駄目だっ!!」


「そんな事言ってる場合じゃ無いでしょう!!
…さっ、宗像さん…あ~ん…」


「------ッ!!!!!」

純夏から貰うドリンクのストローをくわえ、最後の力でドリンクを飲み込む
---その瞬間、美冴に衝撃が走る!!



(ピクピクピクピク…)

「む、宗像さんッ!?
け、痙攣してるよっ!?」

「あ~あ…トドメ刺しやがった…」


純夏が飲ませたドリンク---
通称・ゲロマズドリンクにて、トドメを刺される美冴…
あまりの不味さに気を失い、痙攣してしまう。


この日の事はトラウマとしてゴリゴリと心に刻み込み、二度と度を超えたイタズラをしないと心に誓う美冴だった…



あとがき


宗像ファンの方々…スミマセンでした。
つい、ネタを浮かんだもので…


偶には、タケルちゃんが宗像をいぢっても…良いよね?



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第二十六話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2011/02/21 20:04
1999年・4月7日


仙台・月詠家別邸----



「……………真耶さん…今、なんと言いました?」


全ての始まりは、この一言から始まった。


この日の晩、月詠家別邸では、珍しく香月博士と霞が来訪し、一晩泊まりに来ていた。


00ユニットの改良の件も順調良く進み、『今日ぐらいは泊まってゆっくりしたいわ』と、一晩限りの羽目を外す事になった。


以前京都で月詠家で食べた食事を思い出し、やちるの料理を目的に泊まる事にしたらしい。


そして、影行夫妻や霞と共に月詠家別邸にやってきた。
勿論手ぶらな筈が無く、片手には『大吟醸・吹雪』が握られていた。


そして、晩御飯前に一杯…という事で、タケル・影行・楓・霞の四人で晩酌していた。(霞は合成オレンジジュース)


そして休日だった真耶が帰って来て、タケルの隣に座り、戸惑いながらもタケルに呟く。



「タケル…実は、赤ちゃんが出来ました…」


この時から10秒程、時が止まる。
後ろから、おつまみを持ってきたやちるも硬直し、時が止まる。



「……………真耶さん…今、なんと言いました?」


一番最初に立ち直ったのはタケル
確認の為、もう一度聞き出す。


「赤ちゃんが出来ました。」


お腹をさすりながら、再び答える真耶
静かにおちょこを置いて、爆発する。



「なんだってぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」


「ほっ、本当に!?」


タケルの叫びと共に動きだす一同
一気に真耶の周りに集まり、質問責めにする


「ハイ……
今日…産婦人科に行き、調べて貰った所…2カ月だそうです。」


「えっ…あっ…うん…そっか…」


戸惑い言葉が出て来ないタケルと報告した真耶の顔は、真っ赤に染まっていた。


「香月博士…済みませんが、此度の作戦…私は外れる事になりますが…」

「いいわ、いいわ♪
妊娠しちゃったんだから、仕方ないわ。
もし責める事ならば、白銀の方を責めるから、安心して休養しなさい。」

「はぁ…ありがとうございます。」


香月博士の意外な対応に驚く真耶。


「一応再検討するけど、第16大隊の真耶大尉の抜けた場所には、紅蓮大将を入れて対処する方法でも良いわ。
ただ、一人欠けたからには一人補充する必要はあるわね…」


「補充要員なんて、居るんですか?」


「一応まりもを考えているわ。
元々教官職の都合を考えて、当初の参加は外したけど、今回ばかりは仕方ないわ。」


「けど、純夏達訓練兵の教官は誰が…?」


タケルの質問に対して、香月博士の答えは----



「A-01の人員を使うわ。
今、衛士として参加出来ない隊員が二人居るの、
まりもが戦場で戦ってる間は、その二人に任せるわ。」


「そうですか…わかりました。」


真耶が抜けた戦力補充要員として、まりもが参加する事が決まった。
そして、大吟醸・吹雪をおちょこにつぎ、お祝いの乾杯を仕切る香月博士

「さて、急遽な事だけど、白銀の赤ちゃんが出来た事に乾杯よ♪」


「「「乾杯~!!」」」


おちょこやコップにお酒をつぎ、乾杯をする一同


それからしばらくして、沙耶が椿を連れて帰宅。
一応真耶からは聞いていた為、話は通っていた。

因みに沙耶はまだ身ごもってはいない事を聴くと、みんなの知らない所で『チッ…流石に二人同時はいかなかったか…』と舌打ちをする香月博士の姿があった。
乾杯をしたのち、お祝いも込めて、晩御飯にする。
すると----



「タケルゥゥッ!!
赤ちゃんが出来たってぇぇぇっ!?」


「広がるの早ッ!!
つーか、まだそれ早いッ!!」

居間の縁側から、孝志が凄まじいスピードで来訪する。
その手には、ガラガラや人形などの玩具や、山程のオムツを抱えて持って来た事に突っ込むタケル。


「タケル…これを使うと良い。」


「政弘さん…アンタまで…」


孝志の後に政弘もやって来たが、その手には孝志程では無いが、赤ちゃん用の服が沢山入った紙袋を寄越してくる。


「白銀、赤子が出来たそうだな?」


「紅蓮大将まで…」


次は紅蓮大将まで来訪する
しかし、今度は日本酒以外は手ぶらで安心するタケルだが…


「短時間ではあるが…
名前を考えてきてやったぞ?
参考にするが良い。」


「多ッ!?」

懐からノート一冊を取り出して、タケルに渡す。
ノートの中身は全てページにビッシリと名前がかかれていた


「タ~ケ~ル~ちゅぁぁん~♪」


「ハッ!!!」


背後から聞こえる馴染みのある声。
明るい声とは裏腹に、何故か『ゴゴゴ…ッ!!!』と殺気を感じる。


そして、ギギギ…と後ろに振り向くと…純夏を筆頭に、冥夜・まりも・クリスカが暗黒のオーラを纏っていた。



『『『『ちょっと……O・HA・NA・SHI・しようか…?』』』』

「ちょっとま----」


『ちょっと待て』と言う前に、タケルを道場まで拉致る四人。
そして、何やら凄まじく暴れている音と共に道場が揺れまくる。
乙女達の嫉妬は怖いとばかりに男性陣達が震える…


「…………あ~…生きてるか、タケル…?」


「…………………かろうじて…」



純夏達が居間で楓に説教をされてる間に、タケルの下には影行と紅蓮大将がやって来る。



「なぁ…親父…」


「なんだ?」


「……オレ、『父親』として、今何をすれば良いのかな?」


初めての『父親』としての質問に対し、影行はあっさりと答える。



「んなモン今まで通りで良いに決まってるだろ?」


「ハイ?」


意外な返答に唖然とするタケル


「まだ2カ月だぞ?
まだ身重にすら成ってない状況の今に、タケルは何をする気なんだ?」


「いや…それがわからないから聞いてるんだけど…」


「なら、真耶ちゃんがお腹を大きくして、身重になる時にしてやれば良い。
今は早産でない限り、父親としてやる事は無い。
真耶ちゃんの体調だけ気にかけてやればいい。」

父親としての助言を貰い、少し落ち着くタケル。


「作戦中に関しては安心するが良い。
常にお産の準備が出来るように手を打っておいてやる。」


「ありがとうございます…紅蓮大将」


「良い、気にするな。」

紅蓮大将に礼を言うタケルだが、『礼は要らん』とばかりに、笑い飛ばす。




「さて…あちらの方は大丈夫ね…」


タケルの様子が心配だったが、影行や紅蓮大将のサポートにより、一安心する。


「おばさ~ん…ごめんなさ~い~…」


「純夏ちゃん、気持ちは分からんでもないけど…
やり過ぎはいけないわよ(怒)」


『流石にやり過ぎ』と判断し、母・楓のお仕置きを受ける純夏・冥夜・クリスカ・まりも

細い角材二本の上に正座させ、膝の上に10キロ程の重りを乗せる
角材の存在で地味~~に痛い為、プルプルと痛みに堪えている四人。


(お義母様…流石に冥夜様は拙いのでは…?)

(あら?いずれ『義母』になるのでしょ?
ならば問題はないわよ。)

強引に問題を解決する楓に唖然とする真耶
『真那が居なくて良かった…』と心の中で呟く。


「真耶さん、少し香月博士に話がありますので、席を外します
純夏ちゃん達を見張って下さいね」


「は…ハイ!!」


紅い眼光を放ち、『ちゃんと見張ってないと、ダメよ~♪
じゃないと…フフフッ…』と威圧をしながらアイコンタクトで語り、去っていく楓

救出不可能と理解し、『…皆さん…済みません』と呟き、『救出は諦めて下さい』と宣告する真耶
真耶の一言にる~る~…と泣く純夏達…



「香月博士…」


「なにかしら?」


「少し…お話が…」


楓の一言を悟り、『わかったわ』と語り、居間から席を外す香月博士



タケルの部屋に入り、二人だけの『話し合い』をする



「これで…良かったの?」


「ええ、良いわ。
流石に今回は予想外だったけど、都合は良かったわ。
少なくとも、あと『四~五人程』身ごもって欲しいわ。」


「ハァ…『白銀ハーレム計画』ね…
なんか…複雑な気持ちね…」


「仕方ないわよ、『白銀の為』なんだから
…まっ、『他の奴の為』でもあるんだけどね…」

「………」


無言でいる楓…
彼女も『白銀ハーレム計画』の内容を知る者故に、協力をしていた。


最初は香月博士お得意のイタズラだと思っていたが、内容はかなり重く、イタズラではないと理解する。


「ねぇ…そういえば気になってたんだけど…
タケルや冥夜ちゃんに香月博士はループした存在よね…?
博士や冥夜ちゃんはループした際、その時代の年齢まで若返ったのに、何故タケルは『18歳時の姿』なのかしら?」


一つの謎---
タケルの姿が『18歳時の姿』でループした件

冥夜・香月博士はループした際、継承はしたものの、その時代の年齢にまで若返ったのに対し、タケルのみ『18歳時の姿』での登場に疑問視する楓

その疑問について、香月博士は---


「一応その問題は大体解決してるわ。
私や御剣の場合は通常の状態だけど、白銀の場合は、ちょっと『特殊な状態』なの」


「特殊な状態?」



「そうね…
今現在居る世界をAとして
『前の世界』をBとするわ…
Bから来た私達は『情報』としてAにループして、Aの白銀・御剣・私と同化したわ。
その際、Bで得た経験や記憶などを継承するの
良い例として、Aの白銀のお腹はプニプニした一般人のお腹だけど、Bの白銀は、まりもに鍛え上げられたおかげで、お腹は筋肉モリモリの6パックになったわ。
で、AにループしたBの白銀の『情報』は、Aの白銀と同化し、Bの白銀の『情報』を継承し、本来プニプニだった、Aの白銀のお腹は、筋肉モリモリ6パックに変化するの
けど、本来の力関係で言えば、Aの方が強く、Bからループしても、本来その時代の姿から劇的に変わる事は無いの
簡単に言えば、子供から大人へ姿を変える事は本来無いの。
そして、私や御剣は正にその例えに入るの」


「…タケルは?」


不安そうに話の続きを聞くと---


「白銀が『18歳時の姿』で現れた問題の件に関しては…推測だけど良い?」


「…良いわ」


「わかったわ…
白銀の今回のケースに関しては、『複数の『白銀』が流れて来て、同化した』と私は考えてるの
Aの白銀にB・C・D・E…と複数の白銀武の情報がループして同化したものと考えられるの
だからAとの力関係に勝り、本来14歳だった白銀が18歳時の姿になったと考えられるの
現にアイツは『最初の元の世界』『一度目の世界』『二度目の世界』『現在の元の世界』の記憶を『全て覚えてる』と言ってるわ。
それは記憶の流出ではなく、『ループした複数の白銀が、Aの白銀と同化した』と考えた方が可能性としてはあり得るわ。
記憶の流出だと、記憶の所々が虫食い状態になるけど、ループして来たんなら、記憶を鮮明に覚えていてもおかしくはないわ。
現に私や御剣も、『前の世界の記憶』は鮮明に覚えてるわ」


「なる程…大体の事はわかったわ…」


香月博士の説明を聞いて一応納得する楓

「けど、タケルの身体には悪影響は無いの?」


「そればかりは私にもわからないわ。
けど、今現時点ではその心配は無いみたいね。
あるんなら、既に起きてるわよ。」


「……なら良いけど…」

少し不安を抱えながらも、香月博士を信用するしかない楓。



「さて、そろそろ部屋に戻るわよ?
あまり席外してたら怪しまれるしね~」


「ハイハイ…」


話し合いを終えて、居間に戻る楓と香月博士…



「おばさ~ん…お願いだから…許してぇぇっ!!」


「はっ?」


足をピクピクと震わせながら、悶えてる純夏達…
すっかり純夏達にお仕置きをしていた事を忘れていた楓
そして純夏達の足は既に限界まで到達していた…



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第二十七話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2010/10/13 19:46
1999年・6月20日---

北海道・苫小牧港


「……遂に来ましたね…
楽しみにしてましたよ。」


「あら、そう?
アンタも良い性格になって来たわね~♪」

「こればかりは…私も白銀に賛同します。
いつものならば、そうでも無いのですが…今回のは、特別に…♪」


フッフッフッ…と不気味な笑みを浮かべながら、船から降りるタケル・香月博士・まりもの三人。
その姿は他の者が見たら、ガクガクブルブルと震えながら逃げてしまう程の黒さだった。


今回北海道に来たのは、純夏達の『総戦技演習』の為、北海道に上陸したのだ



本来ならば、南の孤島でのサバイバル訓練なのだが、まだ横浜ハイヴが有る為、今回は北海道での演習となった。


時期も本来ならば、早いのだが、今回は早めて済ませてしまおうと時期を早めたのだ。


千歳市にある国連軍千歳基地により、千歳基地の敷地内での演習となる。


実は、仙台でも出来たのだが、香月博士が『天然のマグロやカニが食べたいわね…ジンギスカンも捨てがたいわ…♪』…などという理由の元で北海道・千歳基地に変更になった。


北海道では、まだ天然の素材が手に入る為、今から期待する香月博士。
勿論タケルやまりもも期待している。


しかし---タケル達の一番の目的は総戦技演習。
しかも今回はいつもの『ベイルアウト後による脱出訓練』では無いのだ。

今回の変更の原因はタケルの一言。
『今回の演習は違うのしませんか?』と香月博士とまりもの前で呟いたのが始まりだった。


『ベイルアウト後の脱出を目的とした訓練ならば、いつでも出来る。
むしろ、この『演習一回』だけでは無いのだから、違う事に使うべき』との意見だった。


そう…衛士となった後も、『ベイルアウト後の脱出訓練』は時折する事があるのだ。
『横浜基地防衛戦』のように、ベイルアウトした後、脱出をした後も予備の戦術機に搭乗して戦線復帰出来る場合もある。

そういった事は『一回の演習』で完璧に身に付く事では無い。
だから衛士になった後も、時折『ベイルアウト後の脱出訓練』をするのだ。


とはいえ、『未経験』での衛士昇格は拙いと、まりもの意見もあり、今回の演習を『多少変更』する事になったのだ。



今回の演習内容は『対人戦闘時によるベイルアウト後の脱出』
一見、いつものとは同じように見えるが、中身はガラリと違う。



今回は、演習開始時は、全員バラバラにスタートをする事
そして、強化装備も装備した状態での演習という事もあり、同時に強化装備の使用の訓練にもなる。


強化装備を装着する理由は、勿論使用の訓練の意味もあるが、他の理由としては…毒蛇等の対処も含まれている


万が一毒蛇に遭遇した場合、単独行動からスタートをする今回は、命の危険性もある。
万が一毒蛇に顔等に咬まれて毒が身体中に回った場合、即座に救助班が向かえるようにする為だ。

本来ならば、強化装備着用などするべきではないのだが、今回は純夏やクリスカ&イーニァが参加する為、今回のみ万が一に備えての着用をする事になった。



次に今回の演習は『追跡者』が存在する。
追跡者に捕まった時点で失格にはなるが、『演習としての失格』ではない。


演習クリア条件は『脱出ポイントに『一人でも』到着すれば、ミッション成功』になるのだ。
逆に失敗条件は『全員の失格を確認及びエリア外への移動等による反則行為』だ。


一応、今回のエリアは、フェンスに囲まれてはいるが、あくまでも『エリア内での訓練』
エリア外に出れば、演習が容易にクリアし易くなる可能性もあり得るし、エリア外のすぐそばには一般の道路もある場所も有るので、場合によっては、一般人に迷惑がかかる危険性もあるのだ。



そして、『追跡者』の対処として、戦闘も可。
装備として、模擬刀のナイフとペイント弾入りの拳銃一丁
あとは格闘や自然を使った罠等を使い、『追跡者』を撃退する事は許されてるが、勿論『追跡者』もそれに伴った装備で襲って来る。



そして、その『追跡者』は誰かというと----



「揃ったようね。」


「ハッ、A-01全員集合しました。」


香月博士の前に整列するA-01連隊のメンバー達。
ヴァルキリーズ・オーディンの二部隊が全員整列する。


ちなみに、まりもは『明星作戦』に参戦決定した為、香月博士の直属部隊であるA-01連隊の事を聞いている。
成長した我が子達に再会して喜びもしたが、同時に姿の見えない教え子達が亡くなった事を影で悲しみもした。
しかし、やはり伊隅や碓氷達の前では弱い所を見せまいと、強がりながらも、涙を堪える。


けど、タケルにバレてしまい、励まされ、やっぱり好感度が急上昇する。それを知ってか、伊隅達は『邪魔するまい』と影で見守る事にした。



そして、香月博士の一言で『まりもも、いずれはA-01入って貰う予定だから~♪』
この言葉を聞いた伊隅と碓氷はカキンと硬直する
再び『狂犬』を体験する事を想像し、ガタガタブルブル…と震えていた事は内緒だ。



「明日行われる訓練兵達の総戦技演習の『追跡者』をやって貰うわ。
…とはいえ、全員では無いから、余った者達は『私の護衛』をして貰うわ。」


「護衛?
基地内なのにですか?」

水月が疑問を口にすると、伊隅が小さなため息を吐いてから説明する。


「速瀬…香月博士はな、私達に『休暇』を取れと言ってるのだ。
『護衛』はあくまでも名目上の言い訳
日頃訓練の毎日を過ごす私達の事を思い、無理やり全員の『休暇』を取ってくれたのだぞ?」


「あっ…そうだったんですか…」

「感謝しなさいよ~♪
…とはいえ、速瀬は『追跡者』だから、休暇は無いんだけどね~♪」


「ええぇぇ~…」


自分に休暇が無い事を知り、ガックリと落ち込む水月。


「速瀬、『追跡者』には休暇の代わりに『ご褒美』があるから安心なさい」

「ご、ご褒美!?」


落ち込んでたが、『ご褒美』の言葉で、凄まじいスピードで復活する水月

「その前に、『追跡者』になってもらうメンバーの名前を呼ぶから、『ご褒美』の内容は待ちなさい。」


「サー・イエッサーッ!!」


完全復活した水月を見て、『やれやれ…』と苦笑いするタケル・まりも・みちる
そして香月博士の口から『追跡者』のメンバーが明かされる


「速瀬・涼宮・鳴海・平・伊隅
この五人が『追跡者』になってもらうわ
呼ばれて無いメンバーは、此処で休暇を取るわ」

「「「了解!!」」」


「ちなみに…気になる『ご褒美』は…」



ゴクリと息を呑む五人…

「平は…前から欲しかってた車を用意してあげるわ。」


「やったぁっ!!…ってなんで知ってるんですかっ!?
誰にも言ってないのにっ!?」


「フフフッ…それぐらいお見通しよ…」


誰にも言ってなかった欲しい物を知られて、驚く慎二
実は、ループの件で霞にリーディングされた際に知られたりする


「鳴海は…確かバイクが欲しいとか言ってたわね?」


「ええぇぇッ!?
い…良いんですか!?」


「勿論、けど平もそうだけど、最低二人を失格にしないと、ご褒美は無し。
あと全員に言える事だけど、勿論倒されたら、ご褒美どころが、まりものシゴキ一週間をプレゼントするからね~♪」


「「「「「えっ…?」」」」」



『まりものシゴキ一週間』と聞いた瞬間、五人一斉にまりもに注目すると、『フフフッ…楽しみね~…♪』と紅く眼光を光らせる『狂犬』を見て、『絶ッッッ対に倒されるものかッ!!』と心を一つにする。



「速瀬は『鳴海と一緒に一泊二日の温泉旅行』を
そして涼宮も同じく『鳴海と一緒に一泊二日の温泉旅行』をプレゼントするわ
勿論二人同時に獲得すれば、三人一緒に温泉旅行も許可するわ」


「「有り難う御座いますっ!!」」


『鳴海と一緒に一泊二日の温泉旅行』権を用意して貰い、テンションが最高潮まで高まる
特に水月はヤル気満々の獣と化していた。


「伊隅は…そうね、『前島と一緒に二人っきりのデート権』はどうかしら?」


「喜んで頂きますッ!!」

「あと…もし伊隅が前島を失格にしたら…『結婚式の準備』にしてあげるわ。」


「ほ…本当ですかっ!?」

「勿論、ホラ…『婚姻届』も此処に有るわ…」


「有り難う御座いますッ!!」


感激するみちるだが、タケルは見抜いていた…
香月博士が持っていた『婚姻届』は『複重婚姻届』だった事を…
そして、まりもも見抜いていたが、その『複重婚姻届』を狙う獣のように見つめていた為、殺気に気づいた香月博士は、そそくさと懐にしまう。



「『ご褒美』を貰う条件として、最低二人を失格する事
撃破されると、まりもと楽しいシゴキ一週間をプレゼントするわ
ただ…」



「ただ?」



「鑑だけは論外、鑑に撃破されてもペナルティーは無しにしてあげるわ。
彼女…ああ見えても、桁違いのパンチを放つから、アナタ達でも喰らったら………天に召されるかもね…」


遠い目をする香月博士とタケル・まりもを見て、『あれ…もしかして自分達、かなりヤヴァイ状況…?』と悟りだす五人


「けど逆に鑑を接近戦で勝てたら、もう一つ『ご褒美』を追加してあげるわ。
勿論、アナタ達の望むモノを可能な限りは叶えてあげる。」


「ヨッシャーーー!!!
その鑑って奴…私が貰ったわッ!!」


吠える水月
彼女が純夏を倒して願う『ご褒美』は、『孝之と結婚式を挙げる』事だったりする。


「期間は2日間
もし、タイムリミットが残り三時間を切るか…
ゴール地点から約五キロに訓練兵達が近づいたら…まりもを投下するわ」

「「「「「ええぇぇッ!!!?」」」」」


「まりも…アナタがもし、二人以上…もしくは鑑を撃破したら…好きな『ご褒美』をあげるわ。」

「任せて!!」


そう---今回まりもが『楽しみ』にした理由--
前もって香月博士から『追跡者』のメンバーに選ばれ、『ご褒美』を聞いていた為、殺ル気満々だったりする。


既にまりもの中では『狂犬モード』がスタンバイしていて、まだかまだかと、鎖を繋がれている状態だったのだ。


(ハァ~…可哀想に…
訓練兵達…今回は落ちたわね…)


碓氷達は今回の訓練兵達に同情をしていた…


「さぁ~、食った食った♪
今日の晩飯は俺の奢りだ。」


千歳基地に到着して数時間後…
とある部屋に集まると、豪華なご馳走が沢山用意されていた。


「タ…タケルちゃん…これどうしたの…?」


「これ…もしかして…天然物…?」


「おう、天然も天然、高価な海の幸を揃えてやったぞ?」


「うわぁ~…初めて天然のカニ見たよ…」


目の前に広がる天然物の海の幸を見て、驚く純夏達。
部屋に入ってすぐに目に入る光景に戸惑う純夏・まりか
貴重な天然のカニを見て、じゅるりと口の中に唾を溜めてしまう正樹

「白銀中尉…これは一体…?」


「ん?別に変な意味は無いから安心しろ、篁
これは、明日から2日間総戦技演習に入ってる間はロクな物口に出来ないから、今日はウマいモン食わせてやろうって気持ちで用意しただけだよ。
勿論、総戦技演習を頑張って貰おうという気持ちもある。」


「そうでしたか…
大変嬉しいのですが…我々だけ贅沢するのは気が引けます…」



「安心しろ、去年の教え子達にも食わせた事もあるし、
大体にして、先生達も今頃食ってるから安心して食べろ。」


「ですが…」


『流石に自分達が贅沢をするのは…』と申し訳無い気持ちで手をつけれない唯依


「食べないと、今から篁の事を『唯依姫』と呼ぶぞ!!
勿論授業中や訓練中にもなっ!!」


「唯依姫っ!?」


『唯依姫』という呼び名を作られ、困惑する唯依
そして追い討ちをかけるように----

「あと…言っておく…
後ろを見てみろ…」


「はっ…?」


後ろを振り返ると----




「うめぇ~♪
流石は天然物のカニだなぁ~」


「ハイ、イーニァちゃん、あ~ん♪」


「あ~ん♪
モグモグ…おいしい♪
おいしいね、クリスカ。」


「美味しいね、イーニァ。
ハイ、スミカ
ジンギスカンってお肉だよ。」


「ありがとう、クリスカ♪」




「…………」


「…唯依…気持ちはわからんでも無いが…
こういう時は、食べた方が得策だぞ…色んな意味で。」



既に食べている純夏達を見て、ずっこける唯依。
唯依のそばに近づいた美冴が、モグモグと食べながらフォローを入れてる為、勿論説得力は皆無。

そして諦めた唯依は、モグモグとマグロの刺身を食べる




それから一時間後、お腹一杯に食べ、後片付けをした後、各自その場にある椅子に座りながら、タケルの話を聞く。


「みんな、腹一杯食ったか?
飲み物飲みながらでも良いから、話を聞いてくれ。
明日、明朝0830に出発し、総戦技演習の舞台となる演習場に移動する。
今回の演習場の広さは、縦20キロ・横10キロの演習場を使用する。
注意する事は、この演習場は、エリアの端にはフェンスが存在する
そのフェンスを出ると反則とみなし、失格になるから注意する事。
そして、自然の山々を使用するので、毒蛇などには気をつける事
一応今回は強化装備を装着するが、肌が露出する頭部に咬まれれば、勿論毒に感染する
もし、そうなった場合は強化装備に付いてる生命維持装着のデータリンクで、此方に知らされ、救護班が救助に向かう。
勿論その者は失格となるが、今回のクリア条件である『誰か一人でも脱出ルートに到着すれば合格』を条件に満たせば、失格になった者も合格するから、無理だけはしない事。」


「だ、誰か一人でも…ですか…?」


「そうだ、今詳しい説明をするから、質問は後にしろ。」


「ハッ!!」

タケルの話を聞いて、驚く純夏達
そして、タケルの詳しい説明を全て聞き終わり、質問を許された途端、唯依が挙手する。



「白銀中尉、質問の許可をお願いします。」


「あい、篁
質問はなんだ?」


「先程説明して戴いた合格条件ですが、『誰か一人でも脱出ルートに到着』というのは、些か難易度が緩いのでは…?
幾ら『追跡者』が居るとはいえ、難易度が低過ぎます。」

唯依が質問した内容は、先程タケルが説明した合格条件の内容に疑問視する事だった。
勿論、他の者達もその事に引っかかっていた


「フッ…甘いな…
先生がそんな緩い試験を用意すると思ったか?」


「……やはり、何かあるのですね…」


タケルの遠い目をする姿を見て、『やっぱり何かあるんだな…』と理解する訓練兵達



「先程説明した『追跡者』だが…精鋭中の精鋭だ。
しかも、そんな連中に『ご褒美』という餌をぶら下げてるから、普段の実力以上の力を発揮してしまうだろう…」


「精鋭中の精鋭…どれ程の実力なのでしょうか…?」


恐る恐ると質問するまりか…


「ひとりは、大尉クラスの人だ…
そして、新任少尉四名の計五人だが…
新任少尉四名は、俺と神宮司軍曹の教え子だ。
無論、生半可な鍛え方はしてないから覚悟すれよ?」

「「「「ええぇぇッ!?」」」」


「…という事は…以前会った速瀬少尉ですね。」

新任少尉四名が、タケルとまりもの教え子と知り、驚愕する訓練兵達
しかし、唯一美冴だけが不敵な笑みを浮かべる。

「宗像、速瀬少尉は運動神経や判断力・野性的な勘に長けている
実力は勿論お前より上だし、油断禁物だぞ?」


「わかってますよ、白銀中尉。」


(まあ…この人なら、速瀬中尉を手玉に取る事は出来るだろうな…)


相手に水月が居ると知ると、目を光らせる美冴。
以前一度だけ会っただけで、水月を『扱いやすい奴』と悟り、獲物を狩るような雰囲気を漂わせる


「ああいう人は、得意なんですよ。」


「そうか…なら、『狂犬』も宗像に任せようか。」


「狂犬?」


自信満々な宗像に『狂犬』を当てようと口にするタケル



「先程説明には言ってなかったが、もしタイムリミットが残り三時間を切るか、脱出ポイントから5キロ以内に入った場合、『イベント』が発生する。」



「イベントとは…?」


「先程の二つの内一つを満たすと、『狂犬』を投下する。
コレは…香月博士のイタズラでな…そのせいで、お前達の合格する確率が…ググンっと下がった。」


遠い目で語りながら、振り向き、背中を見せるタケル
そんな姿を見て、純夏達は一気に不安が募る


「『狂犬』の名は…神宮司まりも軍曹…
あの人が、お前達の行く道を阻む最大の難関となるだろう…」



「「「ええぇぇぇぇッ!!」」」


「じ、神宮司軍曹!?」

「………………………………………本当に?」


「本当だ、神宮司軍曹を倒す役目は任せたぞ宗像
お前達訓練兵の合格は、全てお前にかかってる!!
ちなみに神宮司軍曹は本気でお前達を狩る気だからなっ!!」


「無理です」


相手がまりもとわかり、白旗をあげる美冴
まりもが自分達を本当で狩りに来ると知り、ビクビクする訓練兵達


「一応言っておくぞ。
純夏やクリスカ・イーニァは知ってるが、『狂犬』になった神宮司軍曹は…ケタ違いに強いぞ…?
あの人を倒せる人は…多分紅蓮大将や神野大将でも無理だ。
だから遭遇したら…………………逃げても無理か…
遭遇しない事を天に祈れ。」


「結局は運任せ…ですか…」


ズーン…と深く落ち込む唯依
他の訓練兵達も『今回の試験…落ちた…』と諦めモードに入ってしまった…



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第二十八話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2010/10/17 15:52
1999年・6月21日ーー

「着いたぞ、純夏
お前で最後だ。」


「うん、ありがとう。」


ヘリで訓練兵達を幾つものスタート地点に配置し、そして最後のスタート地点の上空に一時停止し、ロープを下ろし、強化装備にジャケットを纏った純夏が、ロープで降りる。


純夏が無事地上に到着をしたのを確認して、立ち去るタケル



昨日---
落ち込んでいた訓練兵達に喝を入れ、気持ちを持ち直させた

その後、タケルは訓練兵達に作戦会議をするように指示を出す。



唯依を頭として、美冴・まりかが補佐をしながら、会議を始める。


あれこれと考えを提出をしている姿をタケルは見守り、口出しは一切しなかった。


そして会議の末、まず一つは、『なるべくエレメントで行動する事』


ただ、無理して仲間を探してエレメントを組もうとすると、『追跡者』の餌食になる可能性が高い為、あくまでも脱出ポイントに向かいながら合流するようにする事になった。
エレメントを組む事が無理ならば、慎重に単独で向かう事と話が決まる



そして二つ目は『純夏を重点的に生き残らせる事』


一番問題である『まりもへの対処』を接近戦に関しては、訓練兵最強の純夏をぶつける事
そして、二人が戦ってる隙に、他の者達が脱出ポイントへと向かう事



まず、この作戦を実行するには、追跡者達から純夏を守らなければならない。
故に、なるべく追跡者達を撃破しなければならない。


その為、純夏とエレメントを組む者は、純夏の『盾』に専念しなければならない。
そして万が一、純夏の護衛がやられた場合、すかさず代わりの護衛をつける事に専念しなければならない。


純夏がやられる事は即ち、まりもに全滅させられる事を意味する。
それ程『狂犬』と化したまりもは強いのだ。



『これより、総戦技演習を開始する。
3…2…1…ミッションスタート!!』


タケルからの通信から入り、総戦技演習開始の合図が行われる。
それを確認すると、一斉に通信を開始する



「こちらA20502(純夏)から各隊員応答せよ。
こちらA20502から各隊員応答せよ。
みんな~誰か返事して~?」


『こちらC20502(佳織)からA20502へ。
純夏さん応答して。』


「雨宮さん!!良かったぁ~」


『こちらB20503(まりか)からA20502・C20502どうぞ。』


「伊隅さんも!?やったぁ♪」


純夏の応答にまりか・佳織が返答を返す。
そしてヘッドギアの網膜映像に写る現在位置の周辺に、まりか・佳織のマーキングが表示される。


『鑑さんが丁度私達の間に居るね。
なら、鑑さんの今居る位置から9時方向に100m地点に集合しましょう。』

『「了解」』


佳織の提案に従い、合流地点に向かう純夏・佳織・まりか

罠が無いか確認しながら、慎重に進む


「ゴメンゴメン、私が最後だったね。」

「ううん、全然待たなかったよ。」


「仕方ないよ、佳織さんが一番遠い位置に居たからね。」


まりか・純夏・佳織の順に合流地点に到着する。
そして、純夏を護衛しながら前進し、同時に作戦を立てる。



「まず、鑑さんは私が護衛するから、伊隅さんはもし他の仲間と合流した時、その人とエレメントを組んで。
ただ、偶数人と合流した場合は、仲間達と別れて、そのまま私達と一緒に進みましょう。」


「了解」


佳織が一時的に中心となって、指示を出す。
そして、時折通信を入れるが、応答は無かった。


一方、その頃----




「クリスカ…スミカ…
何処に居るの~…」



純夏達から1キロ程離れた場所に、ひとりぼっちで脱出ポイントに向かうイーニァ


寂しさで少し涙目になるが、泣くのをこらえて、頑張って前進する。


『こちらA20501(美冴)応答せよ』


「ッ!!」


突然の仲間の通信が入り、嬉しさでビクンッと反応する。


「こちらA20504、イーニァだよ、
ミサエ、わたしこっちだよ。」


『おおっ、イーニァか、
…ちょっと待ってよ…ヨシ、今マップにマーキングが更新された。
今からそっちに行くから、ジッとして待っててくれ。』


「うん、ミサエくるまで、まってる」


『良い子だ』


美冴から通信が入り、寂しさから解放されるイーニァ
純夏やクリスカじゃない事にはガッカリしたが、ひとりぼっちよりは良いと判断する。


それから二・三分してから美冴と合流する
仲間と合流した嬉しさで美冴の胸に抱きつく。



「やれやれ…
イーニァ、先を進むぞ。
早く脱出ポイントに到着して、先に進もう。」


「ウンッ!!」


イーニァの頭を撫でながら、説明する美冴
イーニァを説得し、抱きつきを止めさせて、慎重に前進する。




そして更にもう一方では----




「…………」
「…………」


(な…なんなのっ!?この重い空気はっ!?)


クリスカ・唯依と合流する正樹
しかし、何故かお互いに意識しあってか、重苦しい沈黙の空気がのしかかる


「こ、こちらB20501(正樹)応答せよ…」


仲間達へと通信を入れるが、反応無し…
沈黙をごまかそうとしたが、かえって痛い結果となった。


「は、反応無しか…(誰か……助けてくれぇぇ!!)」


悲痛な叫びを心の中で叫ぶ正樹





「ハッ…!!
今、正樹が助けを求めてるような…」


「んな莫迦な話がある訳無いじゃないですか…
っていうか、訓練兵を助けたら駄目ですって!!」

『きゅぴーん♪』と正樹の心の叫びを受信するみちる
『正樹を助けなきゃ…』…と愛情バリバリの雰囲気を見せるみちるに、ツッコミを入れる水月


追跡者であるみちる達は、純夏達訓練兵のスタート地点より、遥か1キロ後方の山の山頂で、出撃する時間を待っていた。


「確か…向こうから正樹の居る感じが…」


「そんな訳…」


「居た!!
8時方向に正樹と他二名が脱出ポイントに進行しているわ。
距離は…約2キロか…」

「「「「嘘ォォォォッ!?」」」」


本当に正樹達を発見し、驚愕する水月達四人
愛の力は偉大である。



「伊隅~、そろそろ出撃の時間よ~?」


「ハッ、
みんな、出撃の準備をするぞっ!!」


香月博士から、出撃の時間が来た報を受け、各自スタート地点に着く



「ちなみに…正樹は私が倒すから…わかってるな?」


「「「「りょ…了解!!」」」」


正樹との結婚がかかってる為、『お前達…邪魔したらコロス…』…と紅い眼光を放ち、水月達を威嚇する。


ビクビクと怯えながら、みちるとは別行動を取る水月・遙・孝之・慎二だった…



「あれ…?あれって小屋…だよね…?」


「本当だ…」


一方、純夏達は、順調良く進行していると、前方に小さな小屋があった。


警戒しながら小屋に入り、罠が無いか確認しながら前進すると、其処には武器が置かれていた。


「ラッキー♪
武器を調達しよう。」


「ナイフやマシンガン、ライフルもあるよ♪」


「…とりあえず、自分に適してる武器だけを持っていきましょう。」


武器を調達出来て喜ぶまりかと純夏
慎重に武器を選び、まりかは FN P90とマガジン2つを
純夏はナイフとベレッタM1951二丁と、ペイント弾の1ケースを
佳織は M14とベレッタM1951・ペイント弾1ケースを調達する。


「あれ、伊隅さんはペイント弾1ケース持ってかないの?」


「うん、そのかわり…
コレを持っていくわ」


「……ピッキングツール?」


まりかは、ピッキングツールのケースをジャケットのポケットに収納する。



「考えてみて?
武器が収納してる小屋になんでピッキングツールなんかを置いてるのかを…
普通に考えたら、おかしいじゃない?
もしかしたら、何かのキーアイテムかもよ?」


「なる程…」


ふむ…と納得する佳織だが---


「香月先生の罠かもしれないよ…?
例えば、何かをピッキングで開けたら、『ドカ~ン!!』って罠にかかって、失格とか…
開けたら、トラップ発動で、部屋から出られなくなったりとか…」


「幾ら香月博士でも、それは…」


「やる!!
これでも生易しい方だよ?」


「……慎重に使った方が良いみたいね…」


純夏の強気な説得を見て、慎重に使う事を決めるまりかと佳織…


しかし、後に純夏の予感が的中する事はまだ誰も知らない…「………」


「………」


「……(何時までこの沈黙は続くんだ…?)」


痛々しいまでに沈黙が続く唯依とクリスカ


決して仲が悪い訳ではない。
むしろ、良い方だ。



訓練中、時折お互いに話しかけたりするが、正樹の見た目では良好。
しかし、自分やまりかみたいに『仲が良い』という訳ではない。


互いに意識しあって、まるで『言葉など要らない』という程信頼しあっていた。


現に今現在、沈黙はしているものの、お互いのアイコンタクトで語り、通じ合っている程『相性』は抜群だった。



だが、問題は其処ではない。
何故かは知らないが、信頼しあっているにも関わらず、プライベート等で彼女達が語り合う姿は見た事が無い。
まるで、お見合いしてるかのように、緊張しあってる感じなのだ。



『友達』として、語り合いたい---
けど、語り合えない---

もどかしい関係をズルズルと引きずってるのだ。


勿論、正樹以外にも純夏・イーニァ・美冴・まりか・佳織も気づいているが、あの手この手を使っても、解決にはいたらなかった。



(やれやれ…どうすれば良い----ッ!?)


突然正樹の口を謎の手が塞ぎ、ゴツンと軽くナイフで『殺される』判定を貰う。
『失格』と判断した正樹は、『死体』を演じ、動かずに追跡者に無音で引きずられる。



(早速失格かよ…情けねぇ…)


頭を抱えられながら、引きずられ、草むらに隠れる。
豊満な胸の感触と、音をたてずに隠密する腕を見て、『凄腕の女性』にやられたと悟る


(……もしかすると、大尉クラスの人か…?)


昨日、白銀中尉から教えて貰った報告では、『新任少尉四名と大尉一名』と聞いていた



『運が無かった』と諦め、隠密が完了した後、顔だけでも見てやろうと、顔を少し動かす。



……けど、豊満な胸が邪魔して見えない。



「コラコラ、『死体』が動いたらダメでしょ?」

「み、みちる!?」


予想外過ぎる人物と知り、戸惑う正樹
自分の彼女である、年上の女性・伊隅みちるだった。



(小さい声で喋りなさい。
彼女達が立ち去ったら、一旦退くわよ?)


(ラ、ラジャー)


未だに抱きかかえられてる為、顔が真っ赤になる正樹


(それにしても駄目ね、正樹
背後の警戒を緩めてるなんて…
まあ、あの二人に原因があるみたいだけど?)


(……わかる?)


(当たり前よ、伊達に大尉はやってないわ。)


正樹が後方の警戒を緩めてた原因を見抜くみちるの眼力に驚く正樹
『流石はみちるだなぁ…』と感心する。



「そろそろ良いわね…
こちらブラヴォー1、B20501を撃退しました。」


『早いわね~、伊隅
もう『三人撃破』とは、流石ね。』


「偶々正樹達を追いかけてたら、他の訓練兵二人を見つけただけですよ。
勿論『ついで』に倒しましたけどね。」


『ご褒美2つゲットとは、流石は愛が成せる業ね~♪』


「勿論です。
これだけは譲れません」

通信で香月博士と談話混じりな会話をするみちるを見てポカンとする正樹

『そういう事で、前島も伊隅と一緒に帰還しなさい。
一応失格したんだから、ラブラブな雰囲気で来たら駄目よ?』


「そんな事、博士の前では出来ません…」


ハァ…と溜め息を吐いて通信を終える正樹
『気にするな、いつもの事よ』とみちるの言葉を聞いて、納得する。




「……?
前島殿…どうした----ッ!?」


後ろの気配が無くなった事に気づいた唯依
後ろを振り向くと、正樹の姿が無い事に気づき、事態を悟る。


「ビャーチェノワ!!
隠れろッ!!」


「なっ!?」


唯依の言葉につられ、即座に樹木に隠れる唯依とクリスカ


「マサキは…?」


「恐らく…追跡者にやられた。」


「ッ!!」


「恐らくは…大尉クラスの追跡者だったんだろう…迂闊だった…!!」


ギリリッ…と歯を食いしばる唯依
己の油断に後悔し、反省をする

「……恐らく…近くには追跡者は居ないようだ…」


「えっ…?」


リーディングで周囲を調べるが、反応が無い為、『近くには居ない』と判断するクリスカ


(迂闊だった…
訓練故にリーディングを控えていたが…油断していた。)


演習訓練だった為、リーディングをしないようにしていたクリスカ
『自身の成長の為』と思い、リーディングを極力控えてたが、逆にそれが裏目に出てしまった。



「ユイ…此処は一旦脱出に専念しよう…
あと、リスクを覚悟して、少し走ったほうが良いかもしれない。」

「そうね…賛同するわ」

クリスカの提案に賛同し、クリスカの合図と共にその場を脱出する。




「……どうやら行ったようだな…」


強化装備の望遠機能で、クリスカと唯依が立ち去ったのを確認して、立ち上がり、失格した正樹と共にその場を立ち去る



「なあ…みちる
さっきの『ご褒美』ってなんだ?」


「えっ?ああ…香月博士が私達追跡者の為のボーナスをくれたのよ。
但し、条件として『最低二人撃破』と『撃破されたら無し&神宮司軍曹のシゴキ一週間』なのよ」

「…それで、みちるのご褒美の内容は…?」


頭を抱えながら、みちるのご褒美の内容を聞くと---



「二人撃破で、『正樹とのデート権』」


「……なる程」


「あと、私が正樹を撃破した場合、『正樹との結婚』よ」


「……………ハイ?」


思考が停止する正樹…
みちるはハッピーな雰囲気を作りながら正樹の腕を組む。


「勿論、すぐに結婚したいけど…お互いの都合もあるし…落ち着いてからにしようかな~…って」

デレながらモジモジするみちるのレアな姿だが、
『ええ……?俺その話シリマセンヨ…?』と汗ダラダラと流す正樹
自分の知らない所で事が進められて、モジモジするレアなみちるの姿を見て萌える所では無かった。


「さて、行きましょう正樹
案内するわ。」


「あ…ああ…わかった」


『最早諦めるしがない』と判断した正樹は、みちるに腕を組まれながら香月博士の下に向かった…



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第二十九話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2010/10/25 21:10
「…孝之、そっちはどうだ?」


「こっちは異常無し、訓練兵の姿は無し。」


孝之と慎二がエレメントを組み、お互いの距離を少し離れ、慎重に周囲を警戒しながら進む。


既にみちるが三人撃破の報を受けるが、意外にも冷静な二人だった。


「慎二…お前、ご褒美狙ってる割には、消極的だな?」


「別にご褒美は狙ってないさ。
あくまでも『ついで』だよ。
今回は孝之に譲るよ。」


「サンキュー、慎二」


意外にも無欲を示した慎二に少し驚く孝之
親友である孝之の為にサポートに回る。



「ツンツンツ~ン♪」


「うん?」


背中をつつかれ、振り向く慎二、すると---



「ボディッ!!」


「グハッ!?」


突如、慎二のボディに激しい衝撃が入り、後方に吹っ飛ぶ!!


「慎二!?」


「今だっ!!」


「ハアァァッ!!」


孝之が慎二の方を意識を向けた瞬間、左右からまりか・佳織がナイフで突撃する!!


「しまっ…!?」


即座に回避行動を取る孝之、すかさず反撃をするが、攻撃を回避された瞬間に孝之の反撃に備えて回避行動をとるまりかと佳織


「このっ!!このっ!!」


「喰らってたまるかよッ!?」


まりかの狙撃を回避し、横に飛び込みながらデザートイーグルで反撃する孝之
しかし、運動神経バツグンのまりかは、孝之の反撃を避け、樹木に隠れながら迎撃する


「慎二、大丈夫かっ!?」

「グオッ!?」


「慎二!!」


慎二を心配して声をかけると、草むらから慎二の身体ごと吹っ飛んで来る!!


「なんてパワーだよ…
強化装備を着てこのダメージなんて…」


両手でガードした為、致命的ダメージは防げた慎二だが、その威力に腕の感覚が麻痺する


「もらったよっ!!」


慎二が吹っ飛んで来た草むらから、猛突進してきた純夏が拳を振り下ろす!!



「させるかぁッ!!」


慎二に襲い掛かる純夏に孝之がナイフで反撃する!!
純夏は飛び込んでる為、孝之の攻撃を回避出来ないでいたが----


「鑑さんッ!!」


「グアッ!?」

横から飛び込んで来た佳織が孝之にタックルを仕掛ける!!


「邪魔するなっ!!」


「キャアッ!?」


刃を潰したナイフで佳織の頭を軽く叩き、失格判定を与える孝之


「雨宮さんに、なにするかァァァァッ!!」


「グハッ!!」


態勢を直す純夏が攻撃対象を孝之に変え、怒りの拳を孝之の胸元に叩きつける!!
吹っ飛んだ孝之は、樹木に叩きつけられ、呼吸が少し乱れる。


「ゼェ…ゼェ…なんて威力だ…」


「トドメッ!!」


立てない孝之に、突撃する純夏だが----

「させるかよっ!!」

「キャアッ!?」


背後から慎二に肩を掴まれ、純夏を押し倒す

「これでお終い……えっ?」


「あう…あうあうあう…」


トドメを刺そうとした慎二だが、突然純夏の瞳が涙で滲み出す
そして、ふと気づけば----
純夏を抑えつけていた手が、純夏の『胸』に慎二の親指が思いっきり触れていた。


「バァカァァァァッ!!」

「へぶっ!?」


「痛ッ!!」


思わず寝た態勢からのアッパーで、慎二の顎にヒットし、再び吹っ飛ぶ慎二
その際、孝之の所に吹っ飛んだ為、重なるような形になる。



「貴ィィィ様ァァァァ…
よくも…よくも私の胸を…!!」


ジャケットの上からとはいえ、胸を触られた事に怒りゲージがMAXになる純夏
『ゴゴゴ…!!』と暗黒のオーラを放ちながら、ジョ○ョのような立ちポーズを取る。


「タケルちゃんにだって…まだ…触らせてないのに………ッ!!」


ズシン…ズシン…と大地を踏み抜くように歩きだし、孝之と慎二の下に近づく。


そして----
両手を握り締め、拳にして、ピーカーブースタイルの構えを取り、テンプシーな動きをしながら、ジワジワと回転のスピードが増していく。



「し、慎二、退けろッ!!
アレはマズイッ!!」


孝之は悟る。
アレは自分の良く知る『モノ』と同じな事を---


自分に好意を抱いてくれている女性・速瀬水月が時折放つ怒りの鉄拳に良く似たモノだと---



「どりる……みるきぃぃぃぃっ!!」



純夏の『右』が凄まじいスピードと威力をのせて-----



「ぱぁぁぁんちッ!!!」


「「ぶろはっ!!!」」


必殺の一撃が今、孝之と慎二をまとめて樹木をブチ抜き、天に飛び、星と化す。


「ううぅ…胸を触られたよぉぉ~…」


「か、鑑さん…泣かないで…」


落ち込む純夏を抱いて慰めるまりか
失格になった佳織も、一緒に純夏を慰めていた…






ちょっと時を戻して---



「博士、只今戻りました。」


「お疲れ様、伊隅
とりあえず伊隅は少し休憩しなさい。」


「ありがとうございます。」


正樹を連れて、みちるがタケル達の下に帰還する。


「スミマセン…白銀中尉…」


「捕まったモンは仕方ない
帰ったらしごいてやるから、覚悟すれよお前達!!」


「「「ハッ!!」」」


失格になった正樹含めた三人がタケルに返答を返しながら敬礼する。




『ドガァァァァン!!!』


「ハッ?」


突然、タケルの前方から轟音と共に、森林から『とある物体』が、凄まじいスピードで空高く飛び、星と化す。


「な、何今の!?」


「なにやら空高くに飛んで行ったようですが…」


「………………………………………ハァ……
誰が犠牲になったんだ…?」



自分達の遥か上空に飛んでいった『物体』に注目する香月博士達
唯一、タケルだけは『何なのか』は気付いていた。


「まりもちゃん…追跡者で誰かロストしてませんか…?」


「ハア?
『撃破』じゃなくて『ロスト』?」


「なんでまた…?」



「………誰かが純夏の『どりるみるきぃぱんち』の餌食になったからですよ…」


『ああ…なる程…』と納得する香月博士とまりも。
そして、タケルに言われた通りに、追跡者を調べると…


「ビンゴ…鳴海少尉と平少尉よ…」


「やっぱり…?」


大体予想していたタケル
その五分後---
無事にタケル達の下に着地(落下)した孝之と慎二


飛ばされた理由を聞いたタケルは、慎二を笑顔で『腕立て伏せ200回×3セット逝ってみようか~(怒)』とお仕置きをする


「ハァ…雨宮さんに悪い事したなぁ…」


「大丈夫だよ、純夏さん
合格すれば、失格者も合格になるんだから。」


「うん…そだね。」


佳織を失い、落ち込む純夏を励ますまりか


現在の時刻、既に夜の7時を回り、野宿の支度を考えていた


「純夏さん、これ以上の進行はあまりお勧めはしないから、もう少しだけ進んだら野宿にしよう。」


「ほえっ?
此処じゃ駄目なの?」


「此処は少し目立つから、もう少し先に行ってからの方がいいね。」


「そっか、ならもう少し先に進もう。」


まりかの案に賛同し、周囲を警戒しながら、もう少しだけ進行をする。


「……この辺なら大丈夫かな…?」


「周りに罠らしきモノも無いし…此処ならとりあえず一安心だね。」


周囲を良く調べ、罠が無いかを確かめる純夏とまりか
罠が無いのを確認し、とりあえず携帯していたレーションを取り出そうと、ベルトキットから取り出す。


「ん…?物音がする…」

「嘘っ!?」


即座に隠れ、物音がする方を警戒する。


すると----



「ん…?誰か居たようだな…?」

茂みの中から美冴とイーニァが現れる。



「宗像さん♪」


「おや?
鑑に伊隅じゃないか。」

「スミカ~~~♪」


美冴とイーニァと知ると、姿を現す純夏とまりか
するとイーニァが元気一杯に純夏の胸に飛び込み、抱きつく。


「イーニァちゃん、大丈夫だった?」


「ウン、ミサエのおかげでだいじょうぶだよ。」

母親のようにイーニァの頭を優しく撫でる純夏
イーニァは満足そうに笑顔で答える。


「一応近くに仲間が居ないか確認の為に通信を入れてみよう。」


「ウン、じゃ…連絡入れるね。
…こちらB20503から各隊員へ応答せよ。」



『こちらC20501(唯依)、無事で何よりだ』

『こちらA20503(クリスカ)、C20501と一緒に居る』

まりかが他の隊員に通信を入れる


「無事で良かった。
今私の他にA小隊三人がそばに居るんだ、
色々と情報が欲しいから、一旦合流しない?」


『なる程、わかった
今マップのマーキングも更新されたから、そちらに向かう。』


「ウンわかった、気をつけてね。」


通信を終えると、純夏達に説明するまりか
そして、唯依達の到着を待つように、周囲を警戒しながら待つ事十分…



「待たせたな、みんな」

「クリスカッ!!」


「イーニァ…無事で良かった…」


唯依・クリスカ組と合流をする純夏達
そして、お互いの情報を交換しあう



「まずは私達から…」


最初に美冴・イーニァ組からの報告では、B20504とC20503が水月にやられたとの報告だった。


夕方頃、イーニァが偶然(リーディングで)発見し、隠れながら望遠機能で覗くと、猛獣の如くに攻める水月に手も足も出ず、失格になったとの事だった。


「まさに獣の如く…だな。
最初に倒した失格者を盾にして突撃
間合いを詰めたら、盾にしてた失格者を投げ、相手の隙を作り上げ、その隙に『拳』で顔面にヒットしてノックアウト。
訓練兵相手とはいえ…まさかの瞬殺だったよ…」


「ぬぅ…流石は白銀中尉や神宮司軍曹に鍛えられた御方…
要注意人物だな…」


美冴の話を聞いて、再び水月の怖さを再確認する唯依
そして、次は純夏・まりか組の話を始める。


佳織が失った事は痛手だったが、追跡者を2人撃破した情報は、嬉しい情報だった。


「流石は鑑殿だな…
追跡者2人を撃破するとは…」


「うぅ…けど…胸触られちゃったよ…」


「……その追跡者2人…逝ったな…」


追跡者2人を『どりるみるきぃぱんち』で撃破した事に感心する唯依だが、美冴は違う意味で『お気の毒に…』と小さな声で呟く。
勿論、どりるみるきぃぱんちに飛ばされた2人にだ。


「最後に私達だが…前島殿がやられた。」

「正樹がっ!?」


「…恐らくは大尉クラスの追跡者だ。
音も立てずに、我々の後ろに居たマサキに近づいて、始末したようだ…」

唯依・クリスカの話を聞いて驚くまりか
美冴はその会話を聞いて、何やら考える。


「なあ、伊隅…
もしかすると、その大尉クラスの人物って…お前の『姉』とやらじゃないのか?」


「お、お姉ちゃんがっ!?」


「ほら、以前速瀬少尉が教室に忘れ物をした時言ってたじゃないか?
『伊隅大尉に…』って…
そして今回の追跡者には速瀬少尉が参加してる…
それはつまり、今回の追跡者は、『教導隊の先任達』だと予測出来るし、恐らくは上官の伊隅大尉も参加してる事も予想出来る。」


「あっ…!!」



追跡者にみちるが参加してる事を見事予想する美冴
そして、その予想は的中する。


「なる程…流石は伊隅殿の姉上だ…
我々に気配を悟られずに隠密をしながら、前島殿を失格者にする腕前…
速瀬少尉とは違う意味で要注意人物だな…」


「…確かにお姉ちゃんが追跡者なら…正樹を狙う事は間違いないと思う…」


みちるも要注意人物と判断する唯依
そして、美冴の説明を聞いて、納得するまりか


「そういえば…先程、此処に向かう最中に、建物を発見したぞ」


「えっ?」


クリスカの一言に全員が注目する。


「それは本当か?」


「間違いない、私も見た。
…ちょっと待ってくれ、地図を取り出す。」


ベルトキットから、地図を取り出す唯依
そして、現在地に印を付け、話に出た建物の場所にも○印を付ける。


「現在地から8時方向におそよ300の距離に、先程話に出た建物がある場所だ。
建物は二階建てで、近くに小さな鉄塔がある為、通信関連の建物だと予測する。」


「唯依、中には入ったのか?」


「いや、まだだ
万が一追跡者が居る事を想定して、中には入らなかった。」


「…確かに、2人だけなら危険だからな」


唯依の説明を聞いた後に、美冴が『中に入ったのか』と質問するが、『中には入らなかった』と答えられる
そして、その答えを聞いた後に美冴の出した判断は---



「ヨシ、今から行かないか?」


「えっ?
今からだと危ないんじゃないの?」


美冴の出した決断、それは『建物に進行する事』だった。
それについて疑問に思い、質問する純夏だが、ニヤリと笑いながら答える。

「勿論
だが、今回は逆にそれを利用する。」


「利用?」


「通常、日が遅くなって、暗くなった時は進行を停止するのが常識だ。
しかも、今回の任務は脱出。
下手に動いて罠にかかる危険がある為、通常は明るくなるまで動かないのが、常識だ。
だからこそ裏をかいて、夜間の内に侵入する」


「それは危険なのでは…?」


美冴の考えに異議を申す唯依
しかし、それについても説明する。


「勿論危険性は否定しない。
だが、相手は三人、要注意人物が2人も居るから油断は出来ないが、逆に建物を使って罠を仕掛けて倒す手も考えられる。
勿論、それをするには、建物を良く調べてからではあるがな」


「逆に建物内で待ち伏せをされていた場合は…?」


「それは無いだろう。
今回の追跡者は、我々がスタートしてから出撃すると白銀中尉が出撃の際に言ってただろう?
そして、寄るかも解らない建物に、1人2人と待ち伏せする事自体有り得ない。
しかも今は夜、昼間に待ち伏せならば解るが、夜に待ち伏せは、むしろ向こうも危険性が高まる事になる。
それならば、外で焚き火等の灯り等を探して夜襲をした方がマシだ。」



美冴の考えを聞いても不安が募る唯依


「あくまでも今回の建物の侵入は調査だけだ。
用を済ませば、すぐに建物から出る。
勿論、罠を仕掛けてからだけどな」


ニヤニヤしながら語る美冴を見て、みんなの頭には『この人…速瀬少尉を狩る気だ…』とよぎる



結局は建物に行く事になった純夏達
先程唯依とクリスカが通った道を通り、建物が見える所から慎重に周囲を警戒し、罠が無いか調べながら、建物に侵入する。

「………」


辺りを警戒しながら先へと進む純夏達。
しかし、唯依は無言で不安感だけが募る。


(…本当に罠が無いのか…?
余りにもあっさりし過ぎてる…)


今回の演習の発案者は白銀中尉と香月博士の2人。
白銀中尉なら、まだ良いが、問題は香月博士
あの人が『普通』などで終わらせるつもりなど有り得ない。



この建物も、何らかの『仕掛け』があると考えた方が間違いない。


「篁さん…やっぱり不安…?」


「か、鑑さん?」


すると、純夏が後ろから近づき、小さな声で語ってくる。


(篁さんが不安なのは、わかるよ。
香月先生が、このままふつーに終わらせる訳ないからね…)


(やっぱりそう思うか…?)


(思うっていうか…思わない方がおかしいよ…
それにクリスカやイーニァちゃんも同じ気持ちだよ。)


純夏の感想も同じで、少し安心する唯依
香月博士の事を良く知る純夏・クリスカ・イーニァも、自分と同じように不安に感じていた事に確信する。



----絶対に何かあると---



(鑑さん…貴女なら、香月博士がどう仕掛けて来ると思う?)


(さっき伊隅さんが見つけたピッキングツール…
あれが絶対に関係してるよ…)


(ピッキングツール?)

(だって、こんな演習に『何で』ピッキングツールなんて有るの?
今回の目的は『脱出ポイントに到着』でしょう?
なのに何故『鍵を開ける必要』があるの?)


(そういえば…!!)


純夏の『疑問』に関してハッと気づく唯依



何故--『脱出ポイントに到着』するのに『鍵を開ける必要』があるのだ?


脱出に必要なキーアイテムなのか?
--いや、脱出訓練中にそんなアイテムを必ず見つけるとは限らない。
この広大な演習場の敷地内にある、小さな小屋など、見つける事など至難の業だ。



そんな事をすれば、脱出訓練どころでは無い
小屋を探す内に追跡者にやられて、失格者になるだけだ。


ならば、何の為にピッキングツールなど、用意をする必要があるのだ?


「罠は無いね…
あとは…この鍵がかかった部屋だけ。」


「罠…?」


様々な推測を考えてた唯依
そんな時に、まりかが『鍵のかかった扉』を見つける。


「鍵がかかってるのか…
諦めるしか無いのか?」


「こんな事もあろうかと…♪」


鍵がかかってて諦める寸前の所で、まりかがピッキングツールを取り出す。


「い、伊隅さん…気をつけてね…」


「……其処まで隠れて、その言い方はスッゴく不安になるんだけど…」


隣の部屋の入り口から顔だけ覗きながら呟く純夏を見て、ビビるまりか
純夏の後ろには、ちゃっかりとクリスカ・イーニァも隠れていたりする。

「み、みんな、用心の為に隠れるぞ。
伊隅殿…後は頼む。」


「私だけっ!?」




純夏を見て、まりか以外の全員が唯依の命令に従い隣の部屋へと避難する。


「怖がらさないでよ~…」


ビビりながらも、巧みにピッキングツールで扉の鍵を開ける。
そして…そ~…っと、扉を開けると同時に、まりかが全速力でダッシュし、隣の部屋へと飛び込む。
その際、壁に頭をぶつけるのはお約束。


「いたたた…どう~…?
罠仕掛けてある~?」


「……今の所…無いな…」


頭をさすりながら、罠が仕掛けてあるかを尋ねると、美冴が慎重に部屋を確認してから、侵入する。


「通信室…のようだが、めぼしい物は…見当たらないな…」



「ねえ、ミサエ
タナにこんなのあるよ?」


すると、イーニァが資料の棚の下側の引き戸の中から、何かを見つける。


「…スタンガン?」


警棒のような形をした、スタンガンを発見するイーニァ


「…確かに、スタンガンならば、強化装備相手でも有効な武器になる。」

「貰っちゃおうよ。
今、一応罠が無いか調べるね。」



資料棚の裏側や下側の引き戸の中を念入りに調べ、異常が無い事を確認する。



(本当に大丈夫なのか…?)



不安を募らせる唯依
緊張がドンドン高まる中---



「伊隅さん、それ取ったら駄目ッ!!」


「えっ?」


純夏が突然止めるが、既に遅し。
既にまりかの手には、スタンガンを取った後だった…



『ヴゥーン…!!ヴゥーン…!!』


「「「----ッ!!?」」」


突然鳴り響く警報
通信室の画面には、『敵侵入』の文字が表示される!!


「全員この建物から脱出するんだっ!!」


「「「りょ、了解!!」」」


全員が一斉に建物から脱出すると----
突然壁にペイント弾が付着する。



「---ッ!!
全員隠れろッ!!追跡者の狙撃だっ!!」


建物から出た瞬間---
「あれは…速瀬少尉!!」


樹木の影から水月が狙撃する所を発見する!!





[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第三十話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2010/10/25 21:01
「出て来なさい、ヒヨッコ共ッ!!」


「『出て来い』と言って出る訳無いでしょう、速瀬少尉?」


「ムッ、その声は宗像って奴ね?」


お互いに隠れながら、狙撃しあう二人


「ホウ、何故私の名前を?」


「アンタ有名よ。
白銀中尉に『特大なお仕置き』を受けたって話
…まあ、広げたのは香月博士だけど…」


「う゛っ…」


トラウマを抉られてしまい、少し精神ダメージを受ける美冴。


(唯依…みんな…)


(なんだ?)


狙撃をしながら、唯依や純夏達に小さな声で語りかける美冴


(みんなは先に行け、此処は私が持つ。)


(しかし…!!)


(今回の件は、私に責任が有る
罠の警戒不足で、みんなを危機に陥れてしまった。)


今回の建物への侵入に強く指示した美冴
その為仲間全員が危機に陥り、激しく後悔するが、『今はそれどころではない』と、冷静に対応する。


(それを言ったら、私だって…!!)


(良いから行けッ!!
今は合格をする事を専念するんだっ!!)


まりかも純夏から散々危険だと言われてたのに関わらず、油断していた自分を責めるが、『今は任務遂行に専念すれ』と美冴に言われる。


(早く行けッ!!)


(---済まない…!!
みんな、宗像を残して脱出ポイントに向かうぞっ!!)

(((----ッ!!)))


苦汁の選択を選ぶ唯依
純夏・クリスカ・イーニァ・まりかに指示を出す。


(宗像…必ず追いかけて来いよ…!!)


(なんなら、私が一番乗りしてやるさ。)


(フッ…言ってろ。)


お互いに他愛の無い会話をする二人
そして、唯依は脱出ポイントに向かって走り出す。



その後を追うようにクリスカ・まりかと追いかけ、最後に純夏・イーニァと立ち去る。




すると、純夏達が建物から離れると、美冴と水月の二人から、銃声が消える

「弾切れでしょ、宗像
最後はお互いに肉弾戦でケリをつけましょう。」

「やれやれ…バレてましたか…」


建物の影や森の茂みから水月と美冴が現れ、対峙する


お互いに刃を潰した模擬用のナイフを構え、ジリジリと間合いを詰める。

「一応『先任』として言うけど…
背中に隠してる『スタンガン』…捨てた方が良いわよ?
それ、電力の無い状態だから。」


「---おやおや、バレてましたか…」


口では平然としていた美冴だが、内心では舌打ちする。
背中に隠していたスタンガンで水月を倒そうとしたが、先程会話の最中に確認すると電力が無い事が発覚した。


ならば、せめてハッタリをかます材料になれば---
そう思い、背中に隠していたのだが、無駄だったようだ。
背中に隠してたスタンガンを捨てて、ナイフを装備して構える




「さて、お喋りもここまでにして、さっさとやられなさい、宗像」


「嫌です、倒されるのは速瀬少尉ですよ。」


「なら決定
アンタはトコトンいたぶって倒してあげるッ!!」


会話を終えて、最初に突撃する水月
腰を低くして構えて待ち構える美冴
ナイフを逆手に持った水月の一撃を美冴の持つナイフで受け、その隙に右回し蹴りを放つ。


狙うは水月の頭部、強化装備で唯一ダメージが通る場所を狙う。



「フッ!!」

「何ッ!?」


だが、水月は回し蹴りを回避は愚か、防御すらしないで美冴の懐に入り込む。

「でぇぇぇいっ!!」


「なっ---ガハッ!!」

そして、そのまま美冴を抱えるように密着して、そのまま強引に地面に叩きつける!!


「貰った!!」


「グッ…!!」


美冴の頭部にナイフを叩きつけようと一撃を放つが、転がり込み、回避するが、その隙に水月のしゃがみ下段蹴りが入り、美冴の背中にヒットする。


「喰らえッ!!」

「---ッ!!」

美冴の顔面目掛けて放つ水月の強烈な拳の一撃
すかさず両腕でガードするが、水月の拳も、純夏程では無いものの、強化装備を纏ってる美冴の身体にダメージが通る。


「なんて人だ…強化装備を着てもダメージが通るとは…ゴリラですか?」

「…なんですて?」


美冴の一言に眉間がピクピクと動く水月
そして、美冴の毒舌攻撃は更に続く。


「そんなに乱暴な性格では、『女らしさ』が欠けて、随分と苦労してるのではないですか?」


「な、なんですって!?」

「これでは意中の男性が居ても、告白が出来ないですし…」


「うぐぅッ!?」


戦闘自体は水月が押してるのだが、精神的ダメージは水月が遥かに負っていた。



「どうしました、速瀬少尉?
先程のキレの良い動きはどうしました?」


「五月蝿いわね、アンタッ!!」


「ふぅ…その上ガサツとは…大変ですね…」


「ぶっ潰すッ!!」


美冴の精神的攻撃(毒舌)により、動きが単調になる水月


そして----



「フンッ!!」


「しまっ---」


「隙アリッ!!」


単調の動きになった水月の攻撃を回避し、しゃがみ回し蹴りを入れる美冴
その攻撃を受けて転倒し、トドメを刺されそうになる水月が---笑っていた。


「--た、とでも言うと思った?」


「えっ?」



突然の一言に驚く美冴
その瞬間、美冴の頭部に衝撃が走る。


「なっ--!?」


美冴の頭部にはペイントが付着し、『失格』判定を貰う

すると、茂みから一人の『追跡者』が現れる



「隙アリは宗像さんだったね♪
敵は『一人』とは限らないんだから。」


「クッ…」


「ナイス支援よ、遙」


美冴を狙撃したのは涼宮遙だった
実は、スタンガンの会話をしていた辺りから茂みに隠れてて、水月には通信で知らせていた。


水月が熱くなっていても、通信でフォローを入れ、少しでも水月に冷静さを残していた功労者であり、
美冴の仕掛けて来るタイミングすら見極め、水月に伝えていたのだ。


「さて、遙
残りの訓練兵を追うわよっ!!」


「うん、任せて水---」


パシュンと遙の頭部にペイントが付着する。


「えっ?」


「何処ッ!?」


撃たれた方角を水月が強化装備の望遠機能で捜索すると---


「…ゴメンね、ミサエ
たすけられなくて…」


美冴の救援に戻って来たイーニァが、水月達の所から300m離れた所から、遙を狙撃したのだ。


「イーニァ…!?」


「よくも遙をっ!!」



予想外のイーニァの狙撃に驚く美冴だが、
猛獣の如く、イーニァを追いかける水月
その様子を見てすぐさま逃げるイーニァ


「ハッ…ハッ…ハッ…
スゴく速いよ…」

「待てぇぇっ!!」


罠の存在を無視して逃げるイーニァ
全速力で逃走するが、後ろから追いかける水月の尋常じゃないスピードに追いつかれ始める。



そして、その距離が30…20…10…と近づく水月
途中イーニァの反撃をされるが、樹木を上手くつかい、全て回避する、
その際距離は伸びるが、直ぐに追いつかれてしまう


そして、イーニァと水月の距離が数センチまで近付いた所で---



「でぇぇぇいっ!!」


「何ッ!?」


突然の奇襲攻撃を受ける水月だが、とっさに回避すると---



「イーニァちゃん、此処は私に任せてっ!!」


「スミカ!!」


イーニァの危機を救ったのは、純夏だった。
純夏の攻撃を回避した水月は、警戒しながら純夏を観察する。


「駄目だよ、イーニァちゃん。
突然居なくなっちゃって…心配したよ?」


「ゴメンね…スミカ…
ミサエたすけようとしたけど…ダメだった。」


「そっか…イーニァちゃんは先に行ってて。
此処は私が抑えておくから。」


純夏の強い眼差しを見て、ホッと安心するイーニァ

「ゴメンね、スミカ…」

本当は一緒に居たいが、足を引っ張ってはいけないと判断し、純夏を残して立ち去る。


「…アンタが鑑純夏ね…逢いたかったわよ…!!」

純夏に遭遇して戦闘モードに切り替える水月
拳を構えながら、ジリジリと近寄る。


「遙の仇を討ちたい所だけど…アンタを倒さないと『マズイ』と本能が告げてるわ。」


水月の本能が告げる---


コイツに背中を見せたら、やられるのは私だ---


背筋に悪寒が走る程、純夏の実力を悟る。


「アンタを倒して『孝之と結婚』するってご褒美を追加するんだからっ!!」


「けっ、結婚!?」


水月の一言にポカンと唖然とする純夏だが、水月本人はヤル気満々だったりする。



「そういう事で倒れなさいッ!!」


「嫌ですッ!!」


『訳のわからない理由で倒されるのは御免』とばかりに、水月の猛攻を捌く純夏

水月の頭の中には『孝之と結婚…孝之と結婚…孝之と…ラヴラヴに結婚…!!』と脳内妄想をしながら、実力以上の力を引き出す水月

『先程の美冴との戦いで、これを行っていれば、あっさり勝ったのでは?』と言われんばかりの強さを見せつける。


「私だって、16歳になったら、タケルちゃんと結婚してやるんだからっ!!」


「な、なんですって!?」

負けじとラヴパワーで対抗する純夏。
『タケルちゃんと結婚する』の一言で驚きを隠せないでいる水月


…もし、第三者がこの光景を見たら『何…この微妙なカオス空間に満ちたバトルは…』と言わんばかりに、マジバトルを繰り出していた。


バトルだけを見れば、白熱とした戦いだが、セリフを聞けば、お互いの萌えバトルを繰り広げている為、ビミョーなカオス空間が漂っていた。



「訓練兵のままじゃ…結婚なんて出来ない…
タケルちゃんと結婚するには…合格するしかないんだからっ!!」


「私だって…孝之と結婚するには…ご褒美で想いをぶつけるしかないんだからっ!!」


お互いに想い人に苦労している様子が見て解る程、本音をぶつけ合っている。
第三者がいれば、間違い無く同情の涙を誘う事間違い無しだった。



水月の野獣のような猛攻に対して、純夏は破壊的パワーを持つ『拳』で対抗する。

まるで大砲でも掠めたかのような空気抵抗が頬を掠め、後ろの細い木に純夏の拳でヘシ折るのを見て、ゾッとする


細い木といっても、男性の腕程の太さがあるのをヘシ折ったのだ、誰だってビビる。


「なんて威力してるのよッ!?
アンタ本当に人間!?」


「失礼なっ!?
これでも、もうすぐ16歳になる乙女だよっ!!」


そんなギャアギャアと騒ぎながらも、純夏はジャブを交えた右ストレートを放ち、回避する水月は回し蹴りを放ち、純夏の脇腹を蹴る!!



「チッ、強化装備してるからダメージは無しか…
明らかに私が不利よね…」


冷静に分析する水月
このままでは、間違い無く自分が負けると悟る。



勝つには---必殺の『アノ技』しかない。



「……やるしかないわね。」


主に孝之に放つ『対孝之用お仕置き最終兵器』である一撃---
『ゼロレンジスナイプ』


拳を強く握り締め、力を溜めながら、腰を低く構える。


「むっ…」


そして純夏も悟る。
あれは自分の持つ必殺の一撃と『同類』であると。



アレに対抗するには、自分の必殺を出さなければ負ける---
そう考え、自分も必殺の構えを取る。


「ぬっ…あれは--!!」


ピーカーブスタイルになった純夏、
左右にユラユラとステップを踏む姿を見て悟る水月


あれが噂の『どりるみるきぃぱんち』---!!



自分にとって、尊敬と畏怖する恩師の一人である白銀中尉を、幾度となく『電離層』まで飛ばす必殺の『右』



その威力は戦術機すら大破するとまで言われてる程だ。



「………」


「………」


ゴクリと息を呑みながら、ジリジリと摺り足をして、徐々にお互いに近寄る。



そして---!!



「どりる……みるきぃ---!!」


「ゼロレンジ……!!」


互いの必殺の右を振りかぶり、全力全壊で放つ一撃--!!


「ぱぁぁんちッ!!」

「スナイプッ!!」


互いの拳がぶつかり合い、その衝撃でお互いに吹っ飛ぶ!!


「うわぁあぁぁっ!?」


「きゃあぁぁぁっ!?」


後ろの樹木にぶつかり、強い衝撃が身体全体に伝わる。


本来『ゼロレンジスナイプ』も『どりるみるきぃぱんち』も、『アッパー系』の一撃
しかし、アッパーにすると、どうしてもストレートより遅れてしまう。

それ故に今回は威力を犠牲にしてスピード重視にして、ストレート系に変えて放ったのだ。


「なんてパンチよ……えっ?」


ふらつきながらも、先に復活するのは水月
そして、水月が見た光景は----



「あう…あうあうあう~…」


強い衝撃で目を回している純夏だった。


「今だッ!!」


「し、しまっ---」


ヨロヨロしながらも、全速力で接近する水月、
純夏が、その事に気づいた頃には---
第二撃目のモーションに入っていた。


「これで終わりよッ!!」


腰を低くして、必殺の右が、下に振りかぶる



「させないわよっ!!」

「何ッ!?」

「えっ?」


予想外の乱入者
間髪入れて水月のゼロレンジスナイプを封じるようにタックルする。


「い…伊隅さん…?」


「今よ、純夏さん!!
『思いっきりぶっ放して』!!」


純夏の危機に現れたのは、なんとまりか。
ゼロレンジスナイプを放つ前に、タックルをして水月を抱いて拘束する。

そして、この時のまりかの一言で、予想外な結末が決まってしまった。



「は、放しなさいよ、この…このっ!!」


「は、早く放ってぇぇっ!!」



「う、うん…わかった。
『本気』でいくよ…」


再びピーカーブスタイルに構える純夏
しかし---
ユラユラとテンプシーな動きを徐々にスピードを速めていく!!



「「はっ?」」


先程逝った孝之や慎二の時とは桁違いに違う動き。
それは--先程の『ぱんち』すら凌駕する意味を示していた---!!



「どりるみるきぃ~~~~~ッ!!」


残像で出来る拳の『壁』
その中心から---螺旋を描く『伝説級の左』が放たれ---



「ふぁんとーーーむッ!!」



輝かしい黄金の閃光が天を貫き、水月が吹っ飛ばされ、星になった。


勿論タックルして拘束していたまりかも、一緒に巻き込んで星となった。


「伊隅さん、やったよ♪
…って…あれ…伊隅さ~ん~!?
何処に行ったの~?」


先程までピヨッていた純夏
治りかけに、まりかの一言の『思いっきりぶっ放して!!』で、『ぱんち』から『ふぁんとむ』に変わってしまったのだ。



…結果として、水月と一緒に仲良く星になったまりか



そして、その着地点は---
仙台の月詠別邸に着地(落下)したと、翌日にタケル達に連絡が入った…



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第三十一話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2010/11/04 18:10
「………今の…何…?」

遠く離れた場所にいる、香月博士とタケル達が、純夏の放った『ふぁんとむ』の閃光を見て呆然とする。


「ああ~…とうとう『ふぁんとむ』使ったか…」

「ふぁんとむ?
ああ~…鑑の必殺技の事ね~」


『純夏の仕業』と解ると、みんなが納得してしまう。


「…という事は…
犠牲者は…速瀬あたりか?」

「ちょっとまって…
…半分あたりよ、白銀
速瀬と伊隅まりかのマーキングがロストしたわ…」


『ふぁんとむ』の犠牲者は水月と予想するタケルだが、香月博士が調べてみると、まりかもロストしてた事がわかり、合掌する。


すると、通信機のそばにある警報ランプがグルグルと回り、ブザーが鳴り響く


「あら、どうやら誰かが脱出ポイントに近づいたようね…」


突然ブザーが鳴り響いた事で、誰かが脱出ポイントから5キロ以内に近づいた事を知る。
そして、無線機を取り通信する香月博士。


「まりも~?
聞こえるかしら~?」


『聞こえるわよ、夕呼』

「今そっちに訓練兵が5キロ以内に近づいたわよ。」


『そう…わかったわ…』


用件を済ませると、香月博士の方から無線を切り、ニヤリと笑みを作るまりも


「さて…やっと出番が来たわね…」


通信機をテントの中に入れ、出撃準備をするまりも
訓練兵や追跡者達とは違い、服装は迷彩服に革のブーツ
腰に模擬用のナイフとペイント弾入りの拳銃を装備する



そして、まりもの手には、演習には全く関係の無いモノが握られていた。
しかし--これこそが訓練兵達を恐怖に陥れるアイテムだった。



「ング…ング…ング…プハァ~…ういぃ…ヒクッ♪」


『カランカラン…』と、地面に転がる三本のガラス瓶のラベルには『大吟醸・武御雷』と書かれていた…



「ウフフフッ♪
さぁ~て、狩りにいくかぁ~♪」



『きゅぴーんッ!!!』と紅く光る眼…
今…恐怖の『狂犬』が野に離された瞬間だった…。


一方---



「…前方に敵影無し…ビャーチェノワの方は…?」


「此方も異常無し…
随分と走ったな…みんなとも、はぐれたようだし…」


「…みんなを信じよう…」



建物で仲間とはぐれてしまった、唯依とクリスカの二人。
全力疾走をして逃走した為、一番脱出ポイントに近い位置に居た。



途中までは、まりかも一緒に居たが、純夏を護衛する為、まりかとは別れた。



「…現在地からすると、恐らくは私達が脱出ポイントに一番近い位置に居るだろう…
そして、先程脱出ポイントから5キロ以内に入った為、神宮司軍曹が動いたと考えた方が良い。」

コクリと唯依の意見に賛同するクリスカ
勿論周囲の警戒を怠らないように周りを常に監視しながら話を聞く。


「私達のするべき事は二通り。
1つは、神宮司軍曹に遭遇しないで脱出ポイントに向かう事。
もう1つは、神宮司軍曹に遭遇した場合、もしくは発見した場合は、戦闘をする事。
1つ目は、熟練の神宮司軍曹相手故に低い可能性だが、遭遇しない事にはこした事は無い。
そのまま脱出ポイントに向かい、合格するまでだ。
2つ目は、後々鑑さんが戦う際に、少しでも優位に立てるようにする事。
なるべく神宮司軍曹の弾数を減らし、出来ればダメージを与えて戦闘に影響が出るようにしておきたい。」


「…出来るのか…私達二人だけで…?
もし『狂犬』になってたら……
私達は全滅必至だぞ?」


「『狂犬』?」


クリスカは唯依に、ファミリーレストランの件を話す…
すると、唯依の顔がピクピクとひきつりだす


「…あの状態になられたら…我等に勝ち目は無い…」


「ちなみに聞くが…
その時神宮司軍曹の相手していた方は誰だ…?」


「確か…タカツカサ・タカシという斯衛の大尉だった筈…」


「た、崇宰様だとっ!?
…なんて恐れ多い…イヤイヤ…なんて強さだ…
孝志様は確か武に長けた御方と聞く…
その方を倒すとは…」


『むう…』と対策を考える唯依…
しかし、幾ら考えても、答えは出てこない。



『フフフフフッ…♪』


「な、何ッ!?」


「何処からだッ!?」


突如聞こえてくる嗤い声
恐怖心を煽りそうな嗤い声で唯依とクリスカの平常心を乱す。



周囲を見渡しても誰も居ない。
しかし、確かに嗤い声は聞こえたのだ


そして---



『篁とビャーチェノワ……みぃぃつけたぁ☆』


「「ひ、ひぃぃぃぃっ!!?」」



上を見ると---
まりもがハ○ター宜しくのように逆さまの状態で、木の枝にぶら下がっていた。
紅く目を光らせ、獲物を狩るような不気味な笑みを浮かべながら、唯依とクリスカを狙っていた。


「撃て----」


「何処を狙ってるのかしら~………ヒクッ♪」


「なっ---!?」


銃を抜き出し、狙いを定める瞬間---
既に木の枝から降り、唯依とクリスカのすぐ後ろに着地するまりも
振り返り、まりもに狙いを定める前に、まりもの後ろ回し蹴りで唯依の拳銃が弾かれ、そのまま唯依を拘束し、『盾』にしてクリスカに突撃する。


「クッ…狙いが定めれない…!!」


「何処を見てるの~?」


「な、何ッ!?」


唯依を盾にされていた為、狙撃出来ない状態になるクリスカ
すぐ近くまで接近されると、すかさず唯依を離し、クリスカの後ろに廻る。


「フンッ!!」


「ガァッ!?」


拳銃を持つ右腕を強引に後ろに回し、関節技を入れ、拳銃を奪い、遠くへと投げ捨てる。


「まだまだ甘いなぁ~…
あそこまで接近されて、銃を使うなど…お前等…まだまだなっとらんわっ!!
…ヒクッ♪」


酔っ払いながらも唯依とクリスカに喝を入れるまりも
酔拳ヨロシクなほど千鳥足でふらついてるにも関わらず、その動きは獣以上の鋭い動きを見せていた。


これが『狂犬』と恐れられている神宮司軍曹の実力---
いろんな意味でも、複雑な気持ちであるが、その強さに絶句する唯依とクリスカ



「それじゃあ~…いくぞっ!!」


獣のようなスピードで二人に迫るまりも
そして、唯依の両肩を掴み、腹に膝蹴りを入れる。


しかし、強化装備を着ている為、ダメージはゼロだが、少し前屈み状態になる。


『カチッ』


「えっ!?」


その時、唯依は『音』が聞こえ、驚く。
するとまりもは、すぐさま唯依から離れて反転し、クリスカの下に走って行く。



「なんて速さだ…!!」


「狙いが甘いわよ~、ビャーチェノワ☆」


左右に動きまわるまりもに、腰からもう一丁の拳銃を取り出し、反撃をするが、獣じみた動きで、ペイント弾を回避される。


すると、クリスカの目の前で、手のひらを突き出してくるまりも
クリスカの視界を一瞬遮って、しゃがんで足払いを入れる!!



「うわぁっ!?」


「隙アリッ!!」


倒れたクリスカの左肩にまりもの右手で押さえつけ、そのまま左拳を振り下ろす


『カチッ』



「えっ!?」


すると、先程と同じ『音』が聞こえ、唖然とするクリスカ
その後直ぐに唯依が援護でまりもに蹴りを放つが、それすらニャン♪と前屈み状態にして回避したのち、二人から離れる。



「フフフ~♪
これでお前等の強化装備の防御力は『下がった』ぞ…♪」


「えっ…?
……………まさかっ!?」


嫌な予感がし、唯依は自分のジャケットのチャックを開けると----
『レスキューパッチ』が押されてて、保護皮膜が『分解液』で弱々しくなっていた!!


「しまったッ!!
保護皮膜が分解液で…!!」


「フフフフフッ…!!
これで肉弾戦が有効になったな…」


『ゴゴゴ…!!』と黒いオーラを放ちながら、ニヤニヤとするまりも
口を三日月のようにして笑ってるものだから、恐怖度はメチャクチャに高い。



「フフフフフッ…♪
お前等二人を倒して…ヒクッ♪
ご褒美の『白銀と一緒に二泊三日の温泉旅行』ゲットなのら~♪
そして…鑑も倒せば…フフフフフッ…!!」


「「ちょっと待てぇぇぇっ!!」」



『私達が衛士になれるかを賭けた試験に、何してるの?』とツッコむ唯依だが、いやんいやん♪とクネクネして萌えてるまりも
クリスカは違う意味でツッコみ、『タケルと一緒に温泉旅行に行かせてたまるものか…!!』と闘志を燃やす。



「そ~ゆ~事で…ワタシの為に、失 格 に な れ ♪」


「「却下するッ!!」」


まりもの暴言に対し、即答で拒否する唯依とクリスカ
すると…『きゅぴーん…!!』と黒いオーラが更に増量する。


「良い覚悟だ…ヒクッ♪
ワタシの幸せを邪魔するヤツは…逝ってしまえ---!!」


本音を暴露しながら猛突撃をするまりも
そして、それに対して、反撃の体制を構える唯依・クリスカ



結果は----



「フフッ…!!
愛は勝つなのら~♪」


強化装備の防御力を失った今、やっぱり瞬殺になってしまい、勝利を得るまりも
唯依は目をグルグルと回し、クリスカは阻止出来ず、悔し涙を流していた…



「ゆ~こ~♪
篁とビャーチェノワを倒したわよ~…アハハ♪」

『…………………………………アンタ、もしかして……酔ってる?』


「ちょび~~~ッとね♪」


『……篁とクリスカ…お気の毒に…』


まりもから通信機が入り、唯依・クリスカの二人を失格にした事を聞く香月博士だが、まりもの軽い口調を聞き、『狂犬モード発動中』と知り、唯依・クリスカに対して深く同情する。



『お願いだから、『仲間を倒す』のは止めてよ…』


「わかってるわよ~…ヒクッ♪」


『……不安だわ。』


未だに健在するみちるの身を心配する香月博士
そのまま通信機を切り、みちるへと通信を繋げる。


「伊隅、そっちの様子はどうかしら?」


『ハッ、現在前方200m地点にシェスチナ訓練兵を博士の命令通り『常時監視』しています。』


「上出来よ、伊隅
引き続きイーニァを監視し、『作戦』を続行しなさい。
但し、イーニァが弱音を吐いて気持ちが諦めてるようだったら…遠慮なく狙撃して構わないわ。」

『了解しました』



「あっ…但し、E-5地点には絶対に近寄らせない事。
今現在まりもが『狂犬』になってるから、アンタごと倒される危険が有るから、威嚇射撃しても構わないから、絶対にまりもとは遭遇は避ける事。」


『りょ…了解しました…絶対に近づきません…』


ガタガタブルブルと震えるみちる
昔、訓練兵だった頃に、『狂犬モード』のまりもにフルボッコされたトラウマを思い出し、涙を流しながらも、『今日は絶対に近寄らない』と強く決意する。



そして、一方純夏は----



「脱出ポイントまで、あと5キロを切ったか…
もう少しで合格だよ…」


1人寂しくも頑張って前進する純夏
脱出ポイントまで5キロを切った為、ワザとに目立つように罠に気をつけながら走る。


当初の作戦通り、自分にまりもとぶつけ、他の者達が脱出ポイントに到着するまで『時間稼ぎ』をし、まりもを抑えておく作戦だった。



勿論、他の追跡者に見つかっては元も子も無いが、純夏の考えでは『少なくとも、私が三人撃破したから、見つかり難い筈』と考え、走る選択肢を選んだ。


現に純夏の選択は良い方向に向かっていた。
追跡者の生き残りであるみちるは、香月博士の命で、イーニァを監視している為、警戒はしてるものの、純夏には眼中は無い。
むしろ、万が一純夏に撃破されては、せっかくのご褒美がパーになる為、避けていた。


他の追跡者は既に撃破されてる為、事実上まりも以外は純夏を狙っている奴は居なかった。



そして、しばらく走り続け、木々が無い広場に出ると----



「鑑…待っていたわよ~…ヒクッ♪」


「……神宮司軍曹…もしかして…酔ってる?」


「ちょび~~~~ッとね♪」


『絶対ちょびッとじゃない!!』と心の中で呟く純夏
その際、失格になった唯依とクリスカを発見する。



「篁さんに…クリスカまで…」


「スミカ…頼む…軍曹を倒してくれ…
じゃないと…タケルが…タケルが『軍曹と二人っきりで二泊三日の温泉旅行』に連れてかれる…」


「……………………………………えっ?」


クリスカのセリフを聞き、ピクリと動きを止める。
その際まりもは『ウフフ…♪楽しみだわぁぁ…♪』と萌えていた。



「タケルちゃんと二人っきりで……温泉旅行?」


『ゴゴゴ…』と嫉妬で暗黒のオーラを放出する純夏
違う意味で殺る気満々になり、ギラリッとまりもを睨みつける!!


「絶~~~~対ッ!!!阻止してやるんだからッ!!
そして、みんなと一緒に合格して、衛士になって…誕生日を迎えたら…先にクリスカと一緒にタケルちゃんと『結婚』してやるんだからッ!!」


「………………………………………………なんだと?」


今度はまりもが純夏のセリフを聞き、嫉妬で暗黒のオーラを放つ。
その際、そばにいた唯依は恐怖でビクビクしていたが、クリスカは『タケルと結婚…タケルと結婚…』と萌えていた。



すると、純夏は纏っていたジャケットを脱ぎ捨て、あろうことか、レスキューパッチを押して分解液を放出し、防御力をダウンさせる。


「…どういうつもりだ、鑑?」


流石に是には驚くまりも。
その行為について質問すると---



「篁さんやクリスカのレスキューパッチが押されてる跡がある…
二人がそんな事するわけ無いから、神宮司軍曹が押したって事だよね…?」


スゥ…と右手の人差し指で唯依達のレスキューパッチを指差す



「なら最初っから自分で押せば、焦る事もないし----覚悟が決めれるもん」



「ほう…」


覚悟を決めた純夏の表情を見て感心するまりも
強化装備に慢心しない姿を見て、少しだけ嬉しい気持ちになる。


「良い心構えだ、鑑…
だが---勝つのは私だ。
ング…ング…ング…ぷは~…ういぃ…♪」


突然、胸元から『大吟醸・武御雷』を取り出し、グイグイと一気飲みをして、エネルギーを補充する。

良いカンジに酔いがまわり、更に凶悪度をアップするまりも



「では---
行くぞ、鑑ッ!!」


「返り討ちにしてやるっ!!」


お互いに両拳を前に構え、突撃する!!



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ~第三十二話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2010/11/07 11:00
「フンッ!!」


最初に攻撃を仕掛けたのは純夏
左ジャブを入れながら、ショートレンジの右フックを入れる。

まりもに対して、大振りな攻撃は危険と判断し、隙の少ない攻撃を重視して、攻撃を仕掛ける。


「なかなかやるなぁ~…
だがまだ甘いッ!!」

「わぁぁぁっ!?」

しかし、まりもは左ジャブを小さなバックステップで回避し、右フックを利用して、背負い投げで純夏を投げ飛ばす!!

「ぎゃふっ!?」

「ハァッ!!」

「うわっ!!」

地面に叩きつけられた純夏に追撃として、拳を叩きこむまりも
純夏も咄嗟に転がって回避し、まりもとの距離を離す。


「逃がすかっ!!」

「来るなッ!!」

「グッ!?」

咄嗟に逃げた純夏を追いかけるが、腹部に純夏の蹴りが入り、後退する。

「…拳の方は、天下一品の威力だが、他はまだまだ未熟だな~…鑑?」

「ぐっ…」

ダメージはあるものの、戦闘には影響は無いまりも
『パンパンッ』と蹴られた腹部の汚れを払い、再び構える。


純夏の格闘技術は光るモノが有る。
だが、まだ現在の技術は未熟に過ぎない。


純夏が今現在重視として鍛えていたのは、やはり一番の武器である拳による戦闘技術
昔から、タケルを相手(サンドバック)にして、拳の威力に関しては、数年もの歳月を掛けて磨いていた。


まりもとタケルの下で無駄の無い戦闘方法を学び、拳の力加減を重視として鍛えてた。
その為、『どりるみるきぃシリーズ』をタケル以外にも放つ事が可能にはなった。(そのたんびに男性陣は電離層へと吹っ飛んでいた。)


---しかし、そのせいもあって、他の格闘技術は普通の訓練兵程度の技術だった。
その為、格闘訓練をする際は、みんなに必ず『ソコ』を突かれて、追い込まれたりする。
…まあ、それでも八割方は純夏の勝ちだが…


だが、今相手にしてるのは、自分達の教官である神宮司まりも軍曹---
実力は高く、並み居る衛士や兵士でも適わない程の実力を持つ人
タケル曰わく『本来ならば、まりもちゃんは大尉か少佐の階級を持っててもおかしくは無い
それ程凄くて優秀な人』…らしい。


「ふふん♪
パンチに気をつければ、どおって事は無い。
他はまだまだ未熟だから、其処を突けば良い…ヒクッ♪」

「ハァ…ハァ…」

まりもに猛攻撃を仕掛ける純夏だが、悉く回避され、捌かれ、カウンターを入れられ、逆にダメージを負う事になる。


戦闘技術では、神宮司軍曹には適わない---
ならば、必殺の一撃で逆転するしか無い。

「---やる気か…
良いだろう…『どりるみるきぃぱんち』を放ってみろ、鑑ッ!!」

「「「----ッ!!?」」」


突然の発言に驚愕する純夏
失格になっていた唯依やクリスカでさえ、驚いていた。


『どりるみるきぃぱんち』を放って来い---
誰一人そのような台詞は吐ける者は居なかった為、戸惑う純夏。
---しかし、まりもの表情は、自信と笑みに満ち溢れいた。



少しだけ腰を下ろし、左半身を前方に向けるように構える。
右腕を背中で隠れるようにし、純夏の『どりるみるきぃぱんち』に備える。

「----ッ!!」

『ドクン…ドクン…』と鼓動が高まり、緊張感がドンドン上がっていく純夏…


絶大な信頼を持つ必殺技『どりるみるきぃぱんち』を放つにも関わらず、今でかつて無い程の緊張が全身に走りまわる。



ジリジリと間合いを詰め、『どりるみるきぃぱんち』の射程距離に入った瞬間---
それは起きた。

「どりるみるきぃ~~~~!!」

全身全霊を込めた一撃。
手を抜く事を許され無い相手に、放つ必殺の一撃。
右の拳が唸りを上げて、抉るように鋭くアッパースイングを描く。

「ぱぁぁぁんちッ!!」

最高のスピードとパワーが乗った一撃が、まりもの顎を狙うように放たれた一撃。


だが---

「…白銀直伝…ッ!!
ビニールスリッパ…カウンタァァッ!!!」

「へっ…ぶへらっ!!!」

快音が辺りに響く程の一撃
純夏の顔面に放たれるのは、『対純夏用お仕置きアイテム・ビニールスリッパ』であった。


『どりるみるきぃぱんち』をクロスカウンターするように、まりもの右腕が交差する。
純夏の『どりるみるきぃぱんち』は、まりもの右頬を掠め、
まりもの放つ『ビニールスリッパ・カウンター』が純夏の顔面に入り、1m程後方に吹っ飛ぶ。

「はうあうあ~~…!!?」

強烈な程に顔面に入ったビニールスリッパの一撃で、ピヨリ状態になる純夏。
----そんな隙を逃すまりもではなかった。

「喰らえ…鑑ッ!!」

「ほえっ…?」

無理やり純夏を屈ませ、その状態から純夏を『逆さま』にするように持ち上げる。


「フンッ!!」


「ぐえっ!!」


そして、その態勢から放つ業は---パワーボム
地面に叩きつけるように放ち、更にダメージを与える!!


「まだまだァァッ!!」


そして、次の業はジャーマン・スープレックス
純夏を持ち上げるように、勢い良く抱え---


「ハァッ!!」

---投げた。
地面に叩きつけずに、そのまま勢い良く純夏を投げた。


そのまま勢い良く投げた為、茂みに突っ込み、ゴツンと樹木に頭部がぶつかる。

「むっ…勢い付け過ぎたか…
茂みでダメージが削減されてしまったようだな…。」

「「………」」


失格者である唯依とクリスカは、言葉を失う。
敵無しだった『どりるみるきぃぱんち』が破れてしまい、尚且つ純夏に多大なダメージを負わせた事に圧倒されていた。


『ビニールスリッパ・カウンター』でピヨリ状態にし、その隙に純夏に大ダメージを与えるまりもの猛攻に、ただ唖然としていた。

「ふぅ…流石に危なかったか…」

掠めた頬を触るまりも。
微かにだが、血が滲み出ていたが、拭き取り、携帯していた四角い絆創膏を貼る。


「神宮司軍曹…もしや---!!」

「気づいたか、篁」

「…既に酔いは覚めてたんですね…」

既にまりもが酔いから覚めてた事を見抜く唯依
少し苦笑いをしながら肯定するまりも。


「私とて、鑑相手は怖いからな…
…以前夕…香月博士に言われた『狂犬』を思い出してな…試してみたのだが…効果は抜群だったようだな…。」

少し複雑そうに話すまりも。
以前、レストランで『狂犬』になった話を聞いて試してみたが、効果抜群だった為、尚更複雑な気持ちになる。

「いつから覚めたのですか…?」

「…正確に言えば、まだ半分酔ってる。
…先程貴様達を倒した時点で、殆ど覚めたが、鑑と戦う前に飲んで酔いを補充したが…
流石にあのパンチを頬を掠め時には酔いが半分覚めたよ。」

クリスカの質問に答えるまりも。
鑑が迫って来るまで、警戒しながら唯依・クリスカと会話をする。

「痛たた…タンコブが出来たよぉ…」

ガサガサと茂みから現れる純夏
頭に出来たタンコブを撫でながら、まりもの前に現れる。

「出て来た事は誉めてやる。
だが…『どりるみるきぃぱんち』を破られた今…何が出来る?」

「うっ…」

図星を言われ、反論出来ないでいる純夏

『どりるみるきぃぱんち』が破れた今、『ふぁんとむ』も破られる危険性がある。


威力やモーションは違うものの、最後に放つ一撃は同じ。
『ふぁんとむ』の場合、左の拳が、螺旋を描きながら放つ業だが、結局は『ストレート系かアッパー系かのどちらか』を放つ事に関しては同じなのだ。


アッパーにしろ、ストレートにしろ、結局は先程の『ビニールスリッパ・カウンター』の餌食になる。
そして、その問題が純夏の脳裏で悩ませていた。

(タケルちゃんのバカバカバカバカバカッ!!
…なんであんな技教えたの…?)


純夏は知らない…
タケルがまりもに教えたのは、『純夏が何か問題を起こしたら、これで殴って下さい。』とビニールスリッパを渡しただけ。
そして、その際実演として、純夏をビニールスリッパで殴ってる姿を見せただけ。
つまり、『使い方と殴り方』しか教えてないのだ。


『ビニールスリッパ・カウンター』は単なるまりもオリジナルの技
つーか、単にビニールスリッパを持ってクロスカウンターしただけなのだ。


(うぅ~…どうすれば…)

悩む純夏。
すると、『とある記憶』を思い出す---



----回想----


『あいた~~~ッ!!』

『バ~~カ、そんな猪突猛進ばっかりしてるから、そうなるんだよ。』


訓練が終わり、月詠家別邸で晩御飯を食べた後、庭でタケルと純夏の二人で格闘訓練をしていた。

先程の結果も、純夏が突撃した所、ヒラリと純夏の攻撃を回避し、背後に回って背中に蹴りを入れられ、吹っ飛ぶ純夏
叫ぶ純夏にいつも通りに罵声を入れるタケル。

『純夏…真面目な話、少しは頭を使って戦う事を覚えろ。
猪突猛進ばっかりしてたら、いつかみんなの足を引っ張るぞ?』

『うぅ~…そんな事言われても…』

『篁や宗像にどやされるぞ?』

純夏の為を思って心配するタケル。
良い例として『榊と彩峰との関係』のような事態を考えて、純夏に忠告を入れる。


(あそこまでは酷くはならんだろうが…
このままだど、部隊内での問題に繋がる可能性もあるからな…今の内に手を打った方が良いだろう。)


先手を打つタケル。
しかし、当の本人は頭から煙を出しながら考えていた。


『ヤレヤレ…仕方無いな…
純夏、口で言うより実戦で教えてやるから、構えろ。』

『えっ…うん…』

タケルに言われて構える純夏
すると、先程の純夏と同じく、両拳を前に構えながら突撃するタケル

(さっきの私と同じぢゃん!!
…なら、返り討ちにしてやるッ!!)


待ち構える純夏
タケルは純夏との距離が縮まり、間合いに入った途端右の拳を突き出す。

(ここだっ!!)


左に回避する純夏
---だが、それこそがタケルの『罠』だった。

『ほえっ…?』

『何処見てるんだ?』

最初に放った右の拳はフェイク
回避行動を取った純夏の足を刈り取るように、しゃがみながら、後ろ回し蹴りで、純夏の足を払い、
バランスを失った純夏は地面に倒れ、仰向けになった所にタケルがマウンドポジションを取り、拳を放つ。


『ッ!?』

『一本。
どうだ、純夏?
こういう風にフェイクなどを入れるのも効果的だぞ?』

コツンと純夏の額に軽く叩くタケル
そのまま立ち上がり、純夏を起こしてから説明する

『単に突進ばかりするんじゃなくて、フェイントなどを入れる事もひとつの手だぞ?』

『……それはわかったけど、タケルちゃん…いつの間にそんなに強くなったの?』

『…紅蓮大将や神野大将に強制的に鍛えられたんだよ…』

純夏の質問に対して答えるタケル
何故かタケルの目尻にはキラリと輝く水滴があった…


-----現在-----

「----ッ!!」


ほんの一瞬の出来事
随分前の記憶を思い出し、閃く純夏
そして、やる事はひとつ---

「……まだ分からんのか、鑑…」

「やってみなきゃ、わからないんだからっ!!」

呆れ顔で答えるまりも
そして、『諦めが悪い』を演じる純夏
両拳を構えながら、ユラユラとテンプシーロールを描く。


「---ッ!!
コレが『ふぁんとむ』か…」

まりもが感じるプレッシャーで『ふぁんとむ』だと悟る。
そして再び腰を引く下ろし、構えながら反撃に備える。

「どりる……みるきぃ----ッ!!」


激しくテンプシーロールを描きながら繰り出す『拳の壁』
その威圧感と恐怖に耐えながら、その『一撃』に備えるまりも


「ふぁんとーーーーーっむ」

放つのは幻の『左』
伝説級の『一撃』に挑むのは、ビニールスリッパによるクロスカウンター

ストレート系の一撃にタイミング良くカウンターを発動するまりも

だからこそ---絶好なタイミングで、純夏の『奇襲』は成功する事になる。

「---なんちって☆」
「はっ?」

「とぉぉぉうっ!!」

突如『ふぁんとむ』をキャンセルし、そのまままりもの胴体にタックルする。
悪戯っぽくペロッと舌を出す純夏の顔を見て唖然とし、カウンターが止まってしまう。

「うわぁぁっ!?」

仰向けに地面に倒れるまりも
しかし、純夏の攻撃はまだ終わってなかった!!


「うんしょ…ウシシシッ…覚悟は良いかなぁ~?」

腹黒い笑みをしながら、まりもの両足をガッチリと抱え、ブンブンと遠心力を付けて『ジャイアントスイング』をかける。

「うわぁぁっ!?」

ぐるぐると回るまりも
目が鳴門のように渦巻き状態になっていた。

「あうあう…とうッ!!」
「ガハッ!!」

自分も気持ち悪くなり、手を離す純夏
すると、偶然にも地面に叩きつける形になり、ダメージを負うまりも


「あうあう…目が回る~…」

「うう…気持ち悪い…うぷっ」

ジャイアントスイングを仕掛けた純夏と、酔ってたせいもあり、ブンブン回されて酸っぱいモノが喉までこみ上げながら、千鳥足をするまりも

「負けない…んだから…」

ふらつきながらも、まりもに近づく純夏
自分の間合いに入ると、踏ん張ろうとして、まりもの足を『偶々』踏み---


「ハァァァッ!!」

「グッ!?」

まりもの脇腹に突き刺さる、純夏のフック
本来ならば、その威力で吹っ飛ぶのだが、まりもの足を踏んでるので、正に『サンドバック状態』になっていた。

「いっっけぇぇぇぇッ!!」

それを知らすにフックの嵐を入れる純夏
2・3発入れると、純夏の足がふらつき、踏んでいた足が離れ、お互いに倒れてしまう。


「ま…負ける…ものか…」

「絶対に…合格するん…だから…ッ!!」

フラフラしながらも、立ち上がろうとする二人
すると--予想外な事態が起きる。

『其処までだ、お前達。』

「「……えっ…?」」

「タケルちゃん…?」

『先生から説明があるから、それまで待て。』

純夏・唯依・クリスカに突如タケルからの通信が来て戦闘を中断する事になる純夏
まりもの方も、携帯していた通信機から、香月博士からの連絡が入り、全員が香月博士の一言に驚愕する。

『まりも、ご苦労様。
残念だけど、それまでよ。』

「ど、どういう事?」

突然の出来事に戸惑うまりも
すると、呆れる感じに答える香月博士


『そんなの決まってるでしょう?
演習が『終了』したのよ。
訓練兵が脱出ポイントに『到着』する形にね。』

「「「----ッ!!?」」」

「な、なんだとっ!!?」

香月博士の一言に全員が驚愕する。

『脱出ポイントに到着したのは、イーニァよ。』

「イ、イーニァが!?」

予想外な人物が脱出ポイントに到着した為、全員が驚く。

『そういう事だから、まりも達は脱出ポイントに集合する事。
通信終わり。』

プツンと通信を着る香月博士
予想外な結末に、しばらく全員が茫然としていた…。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ~第三十三話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2010/11/07 11:26
「ふあぁぁ…慣れてるとはいえ、眠たいモノは眠いわね~…」


現在、日付が6月22日に変わり、深夜零時を回った所だった。

脱出ポイントに全員集まり、重い瞼(まぶた)をこすりながらも、睡魔と戦う。


しかし、当の演習場にいた純夏達やまりも、そして脱出ポイントに到着したイーニァはそれどころではなかった。


「イーニァ…大丈夫か…?
傷は痛くないか…?」

「だいじょうぶだよ、クリスカ
こんなキズへっちゃらだよ。」

顔にかすり傷を沢山付いてるイーニァを、オロオロと心配するクリスカ
傷の数だけ、イーニァも頑張った事を物語っていた。

すると、タケルが純夏達訓練兵の前に立つと、演習の結果を発表する。


「みんな、お疲れ様。
これで今回の総戦技演習は終了したが、今回の結果を発表する。」

ゴクリと息を呑む一同…
タケルの言葉を静かに聞くと、今回の結果が発表される。

「今回の演習は、イーニァの脱出ポイントの到達で、ミッションは成功だ。
生存者も、イーニァ・純夏の二名が残っていた事から、まあまあの結果だ。
---だが、勿論色々な指摘するポイントも多々あった。」

タケルの言葉に、緊張が走る純夏達
様々な失敗を思い浮かべ、ギリリッ…と歯を食いしばる。

「まずは、前島他二名。
先程も言ったが、お前達は周囲への警戒心が足りなかった為に、早期に失格者となった事
そして、前島の失格の件に関しても、篁・クリスカの失態でもある。
幾ら、相手が伊隅大尉だからと言っても、早期からこの結果では、実戦では部隊全滅の危険性も有った事を忘れるなっ!!!」


「「「ハッ!!」」」

悔やむ表情をする唯依達。
特に唯依とクリスカは、自分達の周囲への警戒を足りなかった為、正樹を失った事に繋がった事に悔やんでいた。

「次に宗像と…此処には居ないが、伊隅まりかの二名
途中に有った建物内に仕掛けてあった罠に掛かり、部隊を危険な目に合わせた件。
単に自分だけが罠に掛かるならばまだいい。
しかし、今回は宗像の油断と伊隅まりかの警戒心の欠如の為に部隊全体が罠にかかった事は誉められる事ではない。」


目を閉じながら、己の失敗に後悔する美冴
だが、『今更後悔をしても遅い』と気持ちを切り替えて、反省しつつも今回の失敗を心に刻みつけ、教訓にする。

「あとは…純夏…」

「わ、私!?」

予想外にも純夏の名が告げられ、驚く唯依達。

「今回純夏は、鳴海・平・速瀬の三名を撃破する活躍をした事は、合格点は愚か、勲章モノだ。
それは誉めてやるが…」
純夏を誉めるタケルだが、ピクピクと額に怒りマークを出しながら、ビニールスリッパを力強く握り締め---


「仲間である伊隅まりかを巻き込んで『ふぁんとむ』を撃つとは何事かァァァッ!!」

「あいたぁぁっ!!」

強烈なビニールスリッパの一撃が、純夏の頭部にヒットする。
そして、『ふぁんとむ』の犠牲となったまりかに対して合掌する美冴達

「しかも…今回の演習中…『接近戦のみ』とは何を考えてるッ!!
銃も使わんかいッ!!」

「うわぁぁぁぁっ!?」

そして怒りのビニールスリッパ乱舞で純夏をKOするタケル
ビニールスリッパを操るタケルを見て、『なる程…』と観察するまりも

「……そういう事で、伊隅まりかは、速瀬少尉と共に『どりるみるきぃふぁんとむ』の犠牲となり、現在は仙台の俺んちの庭に落下したと報告があった。」

「仙台っ!?」

「…飛んだな……」

妹のまりかが仙台まで飛ばされたと知り、驚愕するみちる
『ぱんち』を喰らった身である孝之は、『ぱんち』以上である『ふぁんとむ』を喰らった水月に深く同情する。


「………まあ、このように、問題点はあったが、結果は結果。
今回の第1優先順位は『脱出ポイントへの到着』だ。
故に今回の総戦技演習は『合格』とする。」


「「「----ッ!!」」」

訓練兵全員の表情が一気に笑みが浮かび、喜びの歓声が出てくる。

その嬉しさに、美冴やクリスカですら、涙を流しながら歓喜する。

「とはいえ、今回の結果を見ても、お前達はまだまだ未熟だ。
基地に帰ったら、神宮司軍曹と共にみっちりと扱いてやるから覚悟しろッ!!」

「「「「ハッ!!宜しくお願いしますッ!!」」」」

「では、今回の総戦技演習を終了とする、解散!!」

「「「「ありがとうございましたっ!!」」」」


全員が涙しながら、タケルやまりも達に敬礼する。
その後、解散となった後に、タケル・まりも・みちるの三人は、香月博士の下に集まる。

「お疲れ様~♪
やっと次に進めるわね。」

「ハァ…何が『次に進めるわね』ですか…
今回の演習…最初っから『合格させる気』だったクセに…。」

「へっ!?
どういう事、白銀?」

タケルの一言に驚きの表情を見せるまりも
その様子を見てニヤニヤと笑みを作る香月博士

「軍曹…実は私は途中から、香月博士から『任務』を与えられていて…」

「任務…?」

「私も理由は知りませんが…
『イーニァ・シェスチナの100m後方から監視し、脱出ポイントまで監視・誘導する事』という任務内容でした。」

「それって…最初っから演習失格させる気が無かったって事!?」

予想外な事態に驚くまりも。
そんな事を企んだ香月博士に理由を問うタケル達

「博士…理由を教えて下さい。」

「わかったから、そんな顔をしないでよ、まりも」

まりもの怒りマークのついた笑みで迫られた香月博士
流石にヤバいと悟り、理由を話す。


「今回の件は白銀から『演習内容の変更』の意見が出る前から考えてた事なの。
今回の演習で失格にする事が出来ない理由があった為、ちょっと仕組んだのよ。」

「失格に出来ない理由…?」

「白銀はわかると思うけど、今回の訓練兵のメンバーである鑑・クリスカ・イーニァは『特別な存在』なの。
特に鑑に関しては、『計画』に深く関係してる為、今回の演習を落とす訳にはいかないのよ。
ここで演習を落とす事は『計画』の遅れにも繋がるから、どうしても合格させる必要があったの。」

『計画』という言葉にピクリと反応する、まりもとみちる。

「そこで白銀の『演習内容の変更』は色々と都合が良かったの。
従来の演習内容にすると、場合によっては『簡単に演習に合格する』可能性があったの。
その最大の理由は『人数』
従来の倍の人数で挑んだ場合、あっさりと合格する可能性があったの。」

香月博士の言葉に驚きと同時に、気づく反応を見せるタケル達。


「例えば…従来の演習は、演習場内にある施設三ヶ所にある道具を使い、施設を爆破して様々な道程や罠を乗り越えて、脱出ポイントに到着する事が目的だけど
今回の演習で鑑達がそれを行うと、脱出ポイントまでの道程の調査・進行の準備をする『先遣隊』と、施設の爆破及び道具の回収する『別働隊』に別れられて、従来の演習内容が容易に覆される可能性が出て来たの。」

「そっか…先遣隊で脱出ポイントまでのルート上にある罠の解除や、安全な進行ルートの確保をされたら、最短の時間でクリアされる可能性も有るし、
今回みたいに『追跡者』が居る訳じゃないから、従来の演習の難易度が下がるのか…」

「そういう事。
しかも今回はいつもの孤島を使う訳じゃないから、更に難易度は下がるわ。
だから今回、白銀の意見を採用したの。
そして『追跡者』を入れる事で、難易度を上げる設定にしたのよ。」


香月博士の説明を聞いて、一応納得するタケル達。
するとまりもが、とある質問をする。

「博士…一つ思ったんだけど…
人数を多いんなら、2つや3つに部隊を分割にして、別な任務内容を与えながら脱出ポイントに向かった方が良かったのでは?」

まりもの『最もらしい疑問』に対して、『はぁ~…』と深い溜め息を吐く香月博士。

「まりも~…アンタも知ってるでしょ~?
今回の演習は別に鑑達『だけ』が受けてるんじゃ無いのよ?
今回の演習は、先の『本土侵攻』や、この後の『明星作戦』後の戦力補充為に、一人でも多くの衛士を出そうと、多くの訓練兵達が参加してるのよ?
鑑達の他にも、様々な訓練兵達が、この千歳基地や三沢基地・帝国軍の仙台を含む東関東・東北・北海道の基地全てで、この総戦技演習をやっている最中なのよ?
そんな大規模的な演習期間に『部隊を分けながら脱出ポイントに到着する』なんて事出来る訳ないでしょ~?
今この千歳基地だって十近くの訓練兵部隊が総戦技演習をしてるのよ?
そんな状況で、何処にそんな演習場や時間や経費が余ってるのよ~…」

香月博士に反論され、尚且つ追求されてKOされるまりも。
返答する余地が無くなり、沈黙するしか無かった。

「という事で、質問タイムは終わりよ。
ああ~…そうそう…
まりもと伊隅には『特殊任務』が有ったんだ。
ハイ、コレ見て今日の10:00に出発する事
白銀はまりもに同伴して頂戴。
伊隅は…そうねぇ…前島辺りと同伴して頂戴。
任務する場所は、その紙に書いてるから、道に迷わない事
任務内容は…行けはわかるわ。」

怪しさ120%の笑みを見せる香月博士を見て、凄く不安になるタケル達だが、紙に書いてる場所を見てみると、ピクリと反応するまりもとみちる。

「ん…登別の温泉街…?
なんでまた…」

『温泉街に行け』という任務内容に『二度目の世界の箱根の温泉街』を思い出すタケル
その際、『誰かと密会でもするのか…?』と考えるが、まりもとみちるはキラキラと目を輝かせていた。

「任務の期日は3日間よ、
任務が終わったら、各自苫小牧の港から船に乗って仙台に帰って来なさい。」

「「了解しましたっ!!」」

ビシッと笑顔で敬礼するまりもとみちる。
その姿を見て、更に不安が膨れるタケルだった…

6月22日・12時頃---


「香月先生~…タケルちゃんは何処に居るんですか~?」

「前島殿も姿を見ないのですが…?」


夜中までの演習の疲れを取る為、今日は休日になった純夏達
純夏やクリスカ・イーニァはタケルと時間を過ごそうと捜索し、唯依は正樹に演習中の失格の件で謝罪しようと探していたが、何処にも見当たらずに香月博士に聞く。

「二人なら、2時間前にまりもと伊隅と四人で出かけたわよ。」

「四人で…なんかの用事ですか…?」

唯依が香月博士に質問すると----


「まりもと伊隅の追跡者としての『ご褒美』よ。
白銀と前島二人は知らないけど、『二泊三日の温泉旅行』に行ってるのよ。」


「「「「え゛え゛ぇぇぇぇっ!!」」」」


ニヤニヤしながら告白する香月博士
そして『忘れてた…!!』とか『…まさか、今日とは…!!』と悔やむ純夏・クリスカ
タケル達を追いかけようとする純夏とクリスカだが、『何処の温泉に居るのか知ってるの?
北海道は温泉が一杯あるから捜索は無駄よ~♪』と絶望的な言葉を放ちながら喜ぶ香月博士


一方、タケル達は---


「白銀…今日から三日間…宜しくね…(ポッ)」

「……こう来たか…。」

温泉街に到着し、とある旅館で香月博士の計らいで、二部屋を予約されていた
そして、最初は男女に別れて泊まると思ってたタケルと正樹だったが、
みちるに『正樹は私と一緒よ』と言われ、時が止まる二人

その隙にまりもはタケルを拉致り、部屋に入って頬を赤らめながら『宜しくね』と呟く。
そして、この瞬間に香月博士の仕業と悟り、『また先生の仕業かよ…』と落ち込むタケルだった…



その夜---


「………………(コー…ホー…)」

「し、白銀…優しくしてくれると…嬉しいかな~…」


その日の夜、まりもがアタックを仕掛け、えっちぃ事をしていた最中、それは起きた---

当初、まりもの猛攻により、主導権を取られ、結果タケルが先に気を失ってしまう結果になった。

---しかし、異変は其処から起きた。
突如起き上がったタケルは、『獣』のように目を赤く光らせ、無言でまりもに近寄って来る。


「し、白銀…どうしたの…?」


「……………(コー…ホー…)」

まりもの問いに無言で近づくタケル
まりもは知らない---
以前、真耶・冥夜・悠陽殿下の三人がタケルに迫った時、『獣状態のタケル』にKOされた事を。
あの時も三人の猛攻に敗北寸前だったタケルだったが、その後直ぐに『獣』と化し、形勢逆転し三人をKOし、翌朝タケルはツルツルピチピチしていた事を---!!


無言で近づくタケル
何故かは知らんが両手がわきゃわきゃと揉むような動きを見せ、更に恐怖するまりも


「----ッ!!」


「し、白銀…アアァァーーーッ!!!」


『獣化』としたタケルの逆襲が始まる--
そして、翌朝---



「こ…これは…!!」


朝ご飯のお誘いの為、部屋を訪れたみちると正樹。
一応、万が一を考えて、正樹には外で待って貰い、部屋に入ると---


あられもない格好で目を回してるまりもと
やはりツルツルピチピチとしたタケルの寝顔を見て『何があったのッ!!?』と驚愕するみちるだった…



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ~第三十四話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2010/11/14 06:52
1999年・7月1日

仙台・衛士訓練学校内---


「あうあうあ~…
やっぱり恥ずかしいよ~…タケルちゃ~ん…」

「慣れろ…としか言えん。」


総戦技演習が終わってから一週間
今日は戦術機の基本動作の訓練をする予定だった。

2日前---
恐怖の『戦術機適性検査』で地獄を見る事になった純夏達
タケルの『全力変態機動』で全員撃沈、みんな仲良くポリバケツで、酸っぱいモノを吐いていた。


唯一、クリスカ・イーニァ・美冴は今回はパスとなり、もの凄く安堵する。
美冴に関しては、涙を流す程喜んでいた。


「あの~…白銀中尉、何故三人は戦術機適性検査をパスしたんですか?」

佳織が三人がパスした理由をタケルに問うと、『えっ?』と疑問系な表情になる。

「もしかして…神宮司軍曹から聞いてない?」

「ハァ…なんの事かサッパリ…。」

「そっか…わかった。」

理由を知りたい純夏達に説明をするタケル

「宗像に関しては、以前のお仕置きの時に先生が適性値をちゃっかり取ってたんだよ。
だから今回はパス
あと、クリスカやイーニァは…元々戦術機には乗れる…つーか乗ってるから、受ける必要は無い。」

「「「はっ!?」」」

クリスカ・イーニァが戦術機に乗れる事を知り、唖然とする純夏達
イーニァはのほほんと笑っていたが、クリスカはなんとなく気まずそうな表情になっていた。

「以前、クリスカやイーニァ、あと純夏は、とある理由で『特別』な存在だと説明したな?
クリスカやイーニァは、日本の国連軍に属する前は、ソビエトの軍で戦術機の技術を学んでたんだ。
だが、他の訓練に関しては、学ぶ前に先生に引き抜かれた為に、戦術機以外は未熟だったんだ。」

「先に戦術機の技術を学ばせたんですか…?」

「そうみたいだな、まあ…その国の軍によっては、色々順序とか違うからな…」


唯依の疑問を誤魔化すタケル
他の者達もクリスカやイーニァに追求はしなかった。


「この事は先生から許可されてるから、てっきり神宮司軍曹が話してると思ってたんだけど…」

「軍曹も白銀中尉が教えてると思ってたのでは?」

「かもしれないな…」

まりかの予想に同意するタケル
そして、それは半分正確だったりする。

「まあ、戦術機に関しては、クリスカやイーニァはお前達の『先輩』だ。
わからない事があったら、聞いてみるといい。」

「「「ハッ!!」」」

『先輩』という言葉に、少し照れるクリスカ。
イーニァは『わからないことがあったら、おしえてあげるね♪』と先輩気分を楽しんでいる。


そして、戦術機訓練で教習過程Cをクリアし、休憩に入る純夏達
その間にタケルは全員のデータを見て、何処のポジションが向いているか思考する。


「うーむ…どうするかな…」

「あら白銀、どうしたの?」

データを見てウンウン唸っていたら、まりもが入室する。

「まりもちゃん?
もう書類整理終わったんですか!?」

「ええ、あと白銀に頼まれてた書類も終わらせたわ」

「ありがとうございます。
…どうも、アノ手の作業は苦手で…」

「ハァ…一応中尉なんだから、書類整理もこなさないと駄目よ。」

少し呆れ気味に答えるまりも
けど、やっぱり『好きな男性に尽くしちゃうタイプ』なのか、断れきれずに、頼みをこなしてしまう。


『例の温泉旅行』以来、お互いに親睦を深め、まりもに至っては、大いなる前進した結果だったりする(恋愛的に)

予想外なイベント(タケル獣化)以外は至ってフツーに温泉街をデートし、時折みちる・正樹ペアと食事を共にしたりと、日頃の疲れやストレスを発散する事が出来た。

夜は…まあ、いやんいやん的な事をしていたが、結果として、二人の仲がグ~ンと発展した結果になった。


それ以降、お互いの事を『白銀』や『まりもちゃん』と呼ぶ事に抵抗が無くなっていた。(あくまでも二人っきりやプライベート時のみ)

「それで、結果はどうだったの?」

「ほぼポジションは決まりですね。」

まりもにデータを見せ、先程の教習過程Cの映像を見せる。


「やっぱり篁は突撃前衛向きね。
あとは迎撃後衛にも当てても大丈夫ね。」

「雨宮も突撃前衛と迎撃後衛で大丈夫ですね。
後の二人は制圧支援と砲撃支援で決まりですね。」

斯衛班である唯依・佳織は突撃前衛か迎撃後衛
他の二人が制圧支援と砲撃支援にポジションが決まる。

「正樹は制圧支援で決まり。
カメラマンを目指してただけあって、広い視野と判断力が高い結果を出せた。」

「…このような時代でなければ、名のあるカメラマンになれただろうな」

正樹に対して同情するまりも。
自分も昔は『教師』になりたいと憧れていたが、このような時代故に、その夢を叶える事が出来なかった。

そんな自分と正樹が重なるように見えて、少し同情してしまう。

「伊隅は…何処のポジションに付かせても大丈夫かと。
良い意味でポジションを何処に決めるのが悩む程ですよ。」

「流石は伊隅の妹だな。
才能で言うならば、姉以上か…」

まりかの成績が抜群に良く、良い意味でポジション決定に悩んでいたタケルとまりも
そして、他二名も強襲掃討に決定する。


「宗像は突撃前衛・制圧支援・迎撃後衛ですね
けど、最初は突撃前衛で良いかと。」

「そうねぇ…けど、宗像は育てば良い隊長になれると思うわ。」

「同意見ですね。」

美冴を絶賛するまりも。
まりもの指摘するように、美冴は後々ヴァルキリーズの隊長に継いでいた事を香月博士から聞いているタケルは、まりもの人を見抜く力に驚く。


「クリスカやイーニァは…言うまででもない。
突撃前衛か強襲前衛のどちらかだな。」

「ハイ、高い狙撃力を持つイーニァ
高機動戦を得意とするクリスカ
二人が複座式で戦えば、並大抵の衛士では勝つ事は無理かと。」

「博士は凄いのを引き抜いたわね…」

クリスカ・イーニァの衛士としての能力に圧巻する二人。
そして…


「一番の悩みの種の純夏ですが…」


「難しいわね…
タイプ的には突撃前衛なんだけど…」

「長刀を使うのが『苦手』で、短刀が得意とは…なんて中途半端な…ハァ…」


そう---
問題の純夏のポジション
タイプ的には問答無用に突撃前衛なのだが、欠点として、『長刀を扱うのが苦手』ときたもんだから、タケルもまりもも頭を抱えながら悩んでいた。


「純夏の立場を考えると…
有力なポジションは『打撃支援』ラッシュ・ガードかと…。」

「そうね…
けど、ホイホイとオーバーラップして、突撃しそうで怖いわ…」

「あ゛あ゛~…純夏なら有り得る…。」


「……何二人して溜め息してるの…?」

ハァ…と溜め息を一緒に吐く二人
すると、部屋に香月博士が入って来る。
そして、香月博士に理由を話すと、『なる程ね…それは悩むわ』と理解してくれる。


「それより、白銀・まりも
『例のモノ』が届いたわよ。」

「『例のモノ』って…随分早いですね…」

「そりゃあお隣さんだもの。
早いに決まってるわ。
全機新品で寄越してくれたわ。」

「ど~せ、ビニールを破きたいから、新品にしたんでしょ?」


「当たり前じゃない♪」

瞳をキラキラしながら、わしゃわしゃと手を動かす、香月博士。
今か今かとビニールを破く事を楽しみにしていた。


「あと鑑のポジションの件は解決してるから安心なさい。」

「「はっ?」」

突然爆弾発言する香月博士に唖然とする二人。

「そういう事だから、鑑達をハンガーに集めておいてね、じゃあね~♪」

言うだけ言って、清々しい笑顔で部屋を出る香月博士。
笑顔の理由は一つ…
ビニールを思いっ切り破くからだ。

そんな香月博士を見て脱力感が襲い、うなだれる二人だった…


30分後・ハンガーでは----



「見て見てっ!!
あれ、吹雪だよねッ!!」

「あれが私達の機体…」

ハンガーに集まる純夏達訓練兵
ズラリと並ぶ吹雪を見て胸が躍り、瞳を輝かせる。


「……ん?
1…2…3………全部で『8機』しか無いぞ?」

「「「はっ?」」」

美冴の一言で正気に戻る純夏達
数えてみると、確かに『8機』しかない


「多分、私やイーニァは別な機体だから数が合わないのだろう。」

「因みに、何の機体に乗ってるの?」

「………タイプ98・シラヌイ・カスタムの複座式だ…。」

まりかの質問で自分達の機体を教えると、みんなから『い~な~…』と羨ましそうな眼差しで見られてしまい、オロオロするクリスカ
ちなみにイーニァは逆に自慢していた。


「けど、それでも二機分足りないね~…」

「そういえば…」

佳織の一言で、二機分足りない事に気づく


すると、背後から満足そうに、大きめなビニール袋を持った香月博士が現れる。
勿論中身は破ったビニールだ。

「どうしたの、アンタ達?」

「あの…博士
あそこにある機体は、我々の機体ですよね…?」

「そうよ?」

「クリスカとイーニァの機体が、不知火・改で複座式と聞きました…
では、あと二機分は何処に…?」

「ああ~…なる程。」

唯依の質問に納得する香月博士


「ほら、今搬入して来た機体あるでしょう?
あれが『宗像と鑑』の機体よ。」


「ほえっ?
だって、一機分しか搬入してませんよ?」


「当たり前よ、だって、あの機体…『複座式』だもの。」

「「「「ハア!?」」」」

シートでまだ機体の姿が見えない搬入車に注目する純夏達
そして、シートが剥がされて、姿を見せると---


「なっ…!?」

「ウソ…」


機体の姿を見て、クリスカとイーニァが驚愕する。

「特殊偵察任務専用の複座型戦術機
強襲偵察機F-14 AN3『マインドシーカー』よ。
あれに宗像と鑑に搭乗して貰うわ。」

かつて『第3計画』時にESP発現体が衛士と共に搭乗し、BETAの思考リーディングを目的とし、ハイヴ内に突入した機体

クリスカやイーニァ・沙耶『第3計画出身』にとって、『因縁』のある機体だった。

「まあ、このマインドシーカーは、『改良型』でね、少しばかりいぢくってるの。」

「いぢくってる…とは…?」

「複座式を利用して、戦場内でも『CP(コマンドポスト)の役割も出来る衛士を導入』しようと考えてるの。
これは、ハイヴ内突入時、最深部に突入した際、通信が途絶えて、全滅するパターンがよく有る事なの
それを無くす為に、今回この機体を二機買い取って、通信関係を強化し、他にも色々と改良型にしたの。
一応吹雪と同じ程度の機体性能には上げてるから安心なさい。
このマインドシーカー改は、操縦士兼攻撃が宗像が担当し、CPの役割を鑑にして貰うわ。」


「「「はっ?」」」

「鑑さんが…CP…?」

純夏が予想外なポジションに配置された事に唖然とする唯依達

「一応言っておくけど、鑑はCPの教育を受けてるわよ。
去年から教育して来てね、今現在は『まあまあ』の腕前になってるわよ。」

「ま、まあまあ?」


「鑑はね、キーボードを打ち込むスピードはピカイチなんだけど…ミスもそれなりにあるのよ…
他の能力は普通程度。
だから『まあまあ』なの。」

「…大丈夫なのですか?」

不安感が隠せないでいる美冴
香月博士も『大丈夫よ………………………………多分』と、間を思いっ切り空けて、一層不安感を上げる。


(まっ…とりあえず鑑には、このマインドシーカー改で訓練して貰わないと…
いずれは、鑑に『凄乃皇』に搭乗して貰わないと困るしね…。
それに---)


鑑を見ながら、沈黙しながらニヤリと笑う香月博士。


(『アレ』が完成すれば、ある意味凄乃皇より活躍するかもね…。)

「こ、香月博士…私見ながら笑ってるよぉ~…」

「鑑…ご愁傷様だ…」

「純夏さん…可哀想に…」

香月博士の沈黙の笑みが、純夏に対して『良からぬ事』と判断し、純夏に合掌する唯依達。
それを見て、純夏は『助けてよぉ~!!』と泣きながら援護を求めるが、無駄だった。




あとがき
最近更新が遅くなって、スミマセン。
仕事が今時期忙しいので、なかなか更新出来ませんでした。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第三十五話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2010/11/23 14:35
1999年・7月15日

第二帝都・シミュレータールーム


「お疲れ様~
駿、さっきは惜しかったな。」

「うぅ…もう少しだったのに…」


シミュレーター訓練を終えて、流れ落ちる汗をタオルで拭くタケル
一方、しょぼーんと落ち込む駿、最後の最後で撃墜されてしまい、表情を暗くする。


『明星作戦』に備えて、訓練が最終段階に入った。

『明星作戦』では、突入部隊は『反応炉破壊』ではなく、『反応炉確保』をしなければならない。

幾らフェイズ2とはいえ、其処には数万単位のBETAが居る事は間違い無い。
『確保』するという事は、少なくとも、BETA達を全滅する事。
もしくは、BETA達を『退散』させるしかない。


しかし、『退散』は反応炉を破壊した場合のみ
反応炉が健在な限り、BETA達は戦い続ける。


そこで、今回の作戦は反応炉に『ある装置』を取り付けて、強制的に『停止状態』にする事で、BETA達を横浜ハイヴから撤退させ、その隙にハイヴ制圧と残存BETAを殲滅する事にしたのだ。


先程のシミュレーターでは、とりあえず作戦は成功したが、戦力を半分程失う結果になった。

理由は、やはり普通の突入部隊とは違い、装置を運ぶ部隊を護衛しながらの突入な為、通常以外に難易度が上がっていたのだ。

『桜花作戦』時のようなコンテナを2小隊分運ぶ為、その部隊は武器があまり装備してない為、自分を守る時以外は戦闘は出来ない。
その『2小隊分』の戦力不足で、結果苦戦に繋がったのだ。


先程の駿もそれが原因
反応炉近くで、要撃級・戦車級の『偽装横坑』スリーパードリフトで、コンテナ部隊が奇襲にあい、その救出の際にやられたのだ。


(やっぱり桜花作戦とは違い、凄乃皇が無いから、装置を運ぶのが大変だな…)

そう…下手に装置を使えない為、S11の爆発の衝撃波で故障する危険性もある故に、運搬の際は気をつけねばならない。
それ故に突入部隊のスピードは落ちる事になり、それが原因で、BETAとの戦闘も増えるのだ。


(けど…一番の問題は…米軍だよな…
突入してる最中に『G弾』を撃たれたら、俺達全員がオダブツになっちまう。)


----そう、問題は米国のG弾
これ次第では、作戦が台無しにもなり、尚且つ『明星作戦』に参加してる衛士達の命が大勢失う結果になるのだ。

突入してからG弾を撃たれたら、最期。
みんな仲良く蒸発する結果になる。

かといって、G弾を先に撃たれてからでは遅いのだ。


(あとで先生に聞いてみるか…)

「タケルさん…どうしたんですか?」

「ん?
ああ…少し考え事。
気にしないでくれ」

「ハイ…」

心配する駿に謝るタケル。
ドリンクをちゅーちゅー飲みながら歩いていると、キョロキョロしている純夏・美冴・唯依・クリスカ・イーニァ・まりか・佳織の7人が居た。


「…おっかしいな~…
確かこの辺に置いといた記憶があるんだけどなぁ…」

「うーん…見当たらないねぇ~…」

「聞いてみるしか無いな…」


「……何してるんだ、お前達…」

純夏達に声をかけるタケル。
すると純夏のアホ毛がピキーンと反応しながら、『タケルちゃ~~ん』と涙目になりながら、近寄る。

「タケルちゃん…ピンク色のタオル見なかった?」

「コレだろ?
タオルの端っこに名前書いてたから、預かってたぞ。」

「あ~り~が~と~(泣)
これで神宮司軍曹に怒られずに済むよ~…」

涙を流しながら感謝する純夏
物を無くして、まりもにお仕置きを喰らう事を恐れていた。

「……………純夏…
残念だが…このタオルを見つけたのは…………まりもちゃんだ。」

「……………………………………………へっ?」

カキンッと硬直する純夏…そして…


「鑑…貴様…忘れ物をするとは、随分と気が弛んで余裕だな…」

そして、純夏の背後には、ステキな笑みでドスを効かした声で近寄るまりも
そしてプルプルと震える純夏は、涙を滝のように流し、『終わった…終わったよ…』と心の中で呟く。

「軍曹…強化装備を着ているという事は…
先程のシミュレーター訓練に参加してたのですか?」

純夏を救おうと、話題を変える唯依
唯依の質問に対して答えるまりも

「そうだ、近々とある作戦に参加する事になってな
その為、訓練に参加してたのだ。」

「とある作戦ですか…
何故軍曹が…?」

「真耶さんが妊娠したろ?
だから、代わりとして神宮司軍曹が参加する事になったんだ。
以前も言ったが、神宮司軍曹は、衛士としても優秀な人だ。
それこそ大尉や少佐クラスの実力を持つ神宮司軍曹ならば、問題は無いと先生や紅蓮大将達が判断したんだ。」

「ちょ…白銀中尉ッ!?」

ベタ誉めのタケルのセリフに真っ赤になりながら慌てるまりも


「けど、確かに神宮司軍曹の実力は凄いですよ。
前に模擬戦で、月詠中尉と戦った時なんて、互角の勝負をしてたじゃないですか。」

「それに、伊隅大尉や沙耶さんも撃破してるし、やっぱり、優秀な事には違い無いですよ。」

「そ、そんな…」


タケル・駿の二人にベタ誉めされて、照れてるまりも
純夏達から尊敬の眼差しを受けて、そそくさと退散する。
結果、純夏のお仕置きは免れる形になり、『良かったぁ~…』と喜ぶ純夏

「ところで、白銀中尉…
先程の『作戦』とは…?」

美冴が『作戦』の事をタケルに質問すると---
真剣な眼差しで答える。


「そだな…教えても良いって、先生からも言われてるし…大丈夫か。」


そして---純夏達に告白する。


「8月5日---
この日に大規模な作戦が決行される事が決まった。
作戦名は『明星作戦』
作戦内容は---横浜ハイヴ攻略及び本州島奪還
その作戦に俺や神宮司軍曹が参加する事になった。」


「-----えっ?」

タケルの言葉を聞いて、思考が停止し、驚愕する純夏
唯依達も、タケルの一言で言葉を失う。


「タケルちゃん……
その話……本当なの…?」

「こんな嘘ついてどうする…
マジで本当の話だ。」


「----ッ!!」

流石に不安そうな表情を隠せず、暗い顔をする純夏を見てタケルは---


「タケ…イタタタッ!?」

「お前…俺がやられる事を考えただろ~(怒)」

純夏の両側のこめがみに、グリグリと拳を捻り込むタケル
その姿を見て、重苦しい空気が飛んでしまい、ポカーンと唖然とする唯依達。

「痛いよタケルちゃ~ん…」

「当たり前だ、痛いようにしたんだからな。」

「ひ~ど~い~よ~!!」

いつものような雰囲気になり、アハハッと周りから笑い声が出て来る。


「---純夏
俺はそんなに弱い奴か?」

「えっ…タケルちゃん…?」

「確かに俺は、まだまだ未熟者だ。
けど、BETA如きにやられるつもりは無い。」


先程の様子とは違い、真剣な眼差しで、純夏に問うタケル

「俺にはまだやる事が沢山ある。
衛士として、軍人として、そして---白銀武としての『生きる理由』が沢山あるんだ。
それを果たすまでは死ねない---いや、死ぬ事すら許されない。」


そばに居た唯依達すら、ゴクリと息を呑み、タケルの『覚悟』を背負った姿を見る。


「俺のこの手…この背中には…沢山の責任と運命や『命』を背負ってるんだ。
今、ここで死ねば、沢山の人達の命や『幸せ』が簡単に無くなってしまうんだ。
衛士になれば、その命は自分だけの命『だけ』にはならないんだ…」

思い出す記憶と後悔と無念…
大切な人達の命を守る事が出来なかった---
尊敬する人達の幸せや命を守れなかった---
自分を愛してた人達を守れなかった---
そして…愛してた人を、幸せに出来ず、守れなかった---


もう…二度とあのような『未来』を迎えないと誓い、今度こそみんなを守り抜くと誓った。

「軍に入って、色んな出逢いや出来事があった…
戸惑いこそあったけど、『楽しい』と感じた日々だった…」

決意が籠もった眼をしたタケルの姿を見て、魅とれる純夏達---

「だからこそ『死ねない』
だからこそ…『死ぬ事が許されない』んだ…
唯一、死ぬ事が許されるとしたら、それは…目的を果たし、大切な人達の幸せや命を守り抜き…
天寿を全うした時だ。」

タケルの決意の言葉を聞いて、先程までの不安が殆ど無くなる。
むしろ、不安そうな表情をしてはならないと、やせ我慢しながらも、強がる純夏


「まあ、こんな俺の言う事を信じてくれるかは、しらんけど---」

ポンと純夏の頭に優しく手のひらを乗せ---


「---俺が必ずお前を守り抜いてやるよ。」

「----ッ!!?」


ある意味告白にも似たタケルのセリフに真っ赤になり、あうあう…と戸惑う純夏
周りのみんなからは、黄色い声援と『いいなぁ…スミカ…』と、小さく呟くクリスカの声が上がる。


「それにみんなが居るから大丈夫だよ。
俺は一人じゃない、みんなが居るから『強く』なれるんだ。」

ポンポンと優しく純夏の頭を叩くタケル
そのまま『反省会あるから、行くわ』と言って駿と共に立ち去る。


その背中は---
おおきくて---
ひろくて---
すこし、さみしそうな背中だった…


「………初めて見たな…あのような姿の白銀中尉の姿は…」

寂しそうな表情になる美冴
普段なら、笑顔でクールな表情の美冴も、タケルの言葉の『重さ』を感じ、立ち去る後ろ姿を見て、暗い表情になる。

「………」

唯依は、以前タケルが京都で言ってた言葉を思い出す。

『例え---オリジナルハイヴを攻略に成功しても---
大切な人達や愛する人を失えば--意味が無いんですよ、俺は…。』

そしてその後、叔父・巌谷榮二中佐が口にした言葉---

『オリジナルハイヴの話云々は例えだろうが---
『大切な人達を失う』というのは事実なのだろう…』


(白銀中尉は一体…どれだけの悲しみを体験したのだ…)


悲痛な言葉すら失う程、タケルの背中は寂しそうに見えた唯依
そして、以前タケルに感じていた印象も今は無く、現在は『尊敬出来る人・どこか寂しそうな人』と印象を改めていた。

タケルの後ろ姿が見えなくなるまで、全員が見続け、
姿が見えなくなると、沈黙しながら…その場で立っていた。

全員が、様々な想いや考えをしていると…


「アンタ達何やってるの、こんな所で?」


すると、純夏達の前に香月博士が現れる。


「香月先生…」
「実は…」

純夏と唯依が香月博士に訳を話す。
そして、理由を知った香月博士は『なるほどね…』と理解する。

「一応白銀の軍歴は機密になってるから、喋れないけれど…これだけは言えるわ
---アイツは、色んな絶望や悲しみを体験して来たわ。
一度逃げ出した事もあったけど、それでもアイツは『覚悟』を背負って戻って来た。
そして、衛士としては最強クラスかもしれないけど、中身は『臆病』なのよ…」


香月博士の言葉に衝撃を受け、ゴクリと息を呑みながら話の続きを聞く。

「だからアイツは『強く』なろうと全身全霊で頑張ってるの。
普段、ふざけた場面も見せたりするけど、アイツはアイツなりに懸命に『前』に進んでるの。
知ってる?アイツ『明星作戦』が決まってから、周4日ぐらいのペースで、出来る限り夜遅くまで一人でシミュレーター訓練してる事を?」

「「「えっ!?」」」

「アイツだってね、最初っから強い訳じゃないわ。
躓いて転んで、壁や絶望に何度もぶつかり、諦めかけたけど、アイツは諦める事なく、前に進んだわ。
---だからこそアイツは強いのよ
色んなモノを背負って、色んなモノを体験した事で、初めて『強く』なれたのよ…」

香月博士の言葉を聞いて、少しだけ『白銀武』を知る唯依達
純夏もタケルがそのような体験をした事を初めて知り、ギュッと手のひらを握り締める。


「白銀を支えたいなら、強くなりなさい。
衛士としても…軍人としても…人としても強くなりなさい。
それこそがアイツを救う手段だと私は思うわ。
---現に…速瀬は知ってるわね?
アイツも白銀を支えようと…白銀と同じ位置に立てるように…と懸命に前に進んでるわ。」

「速瀬少尉が?」

水月の名前に反応する美冴
その様子を見て、笑みを浮かべながら説明する香月博士

「アイツ、白銀の事を尊敬してるのよ。
衛士として、『超えるべき壁』として何度も挑んでるわ
そしてこの間、白銀に『あるセリフ』を言われて、一層訓練に打ち込む事になったわ。」

「『あるセリフ』とは…?」


「『お前なら、オレを超える事が出来る。
それぐらい、お前は凄い奴なんだから…
---早くオレを超えてくれ。』…だってさ…
それ以来、速瀬の奴やる気満々になって、白銀と同じように、遅くまで訓練に打ち込む事になったわ。」


「そうですか…。」

少し水月を羨ましく思う美冴
自分達は、そんな言葉すら言って貰えない事に悔しく思う唯依

「香月先生…私…強くなりたい。
…ううん、私…絶対に強くなりますっ!!」

強い決意と想いで、先程までの暗い表情を吹っ飛ばす純夏
その強い眼を見て香月博士は---


「良い顔よ、鑑。
フフッ…クリスカ、私の研究室から『アレ』持って来て貰うかしら?」

「まさか---!!!」

「そうよ…研究中の『アレ』よ
今の鑑なら大丈夫よ。」

「…わかりました。」


戸惑いながらも、香月博士に言われた通りに『アレ』とやらを取りに行くクリスカ
そして、しばらくして、クリスカが抱えて持って来たモノは---

「香月先生…『コレ』って何ですか…?」

恐る恐る質問する純夏…すると---


「アンタ専用の『零型特殊強化装備』よ。
コレはまだ開発中の段階だけど、コレが完成すれば…間違い無くアンタは白銀の支えになる事が出来るわ。」

赤い強化装備の『零型特殊強化装備』を受け取る純夏
そしてコレこそが---『00ユニットになる強化装備』だった…



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第三十六話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2010/11/23 19:03
1999年・8月3日

青森県・国連軍三沢基地--


「あちぃ~…
青森県とはいえ、暑いモンは暑いか…」


猛暑日を記録したこの日、タケル達は国連軍・三沢基地に居た。


理由は『8月5日』に『明星作戦』が発動し、タケル達突入部隊は、軌道降下部隊に参加し、ハイヴ内に突入する予定だからだ。

横浜ハイヴは海に近い場所にあるとはいえ、それまでに何万ものBETA達を相手にしなければならない。

その為、危険性はあるものの、軌道降下部隊に参加し、ハイヴ内に突入した方が燃料や弾数を節約出来るからだ。


「だらしないぞ、タケル。
『心頭滅却すれば、火もまた涼し』という諺があろうに…」

「無理だ、冥夜…
暑いモンは暑いのだよ。
…大体にして、アスファルトの反射熱で更に暑いんだから、諺云々どころの話ではない。」

「まあ……気持ちは分からんでもないが…」


タケルと冥夜と沙耶の三人は、現在基地近辺の店で部隊のみんなの水分補給の買い物をしていた。
基地内の売店は既に売り切れ、水道水は暑さでお湯のように生温かくなっていた。(しばらく出せば冷たくなるが、それでも大勢の人で諦めた)
その為、手の空いていたタケルと冥夜が買い物に出掛ける事になり、沙耶が名目上、冥夜の護衛として同行した


「さてと…水分と氷をクーラーボックスに入れてと……うん?」

タケルが荷物をクーラーボックスに入れていると、背中を引っ張られる感触があり、振り向く。



「なん…………なっ!!?」

「どうした、タケ……………えっ!?」


タケルの反応を見て、冥夜も後ろを振り向く
---其処には驚愕する人物が居た。


『……ねぇ…斯衛の衛士…だよね?』

「あ、ああ…そうだ…」

『…お願いが……ある』

「そ、そなたは…?」


タケルと冥夜が良く知る人物
戸惑いながらも、『初対面』のように対応する。

「『彩峰慧』…それが私の名前…」


((彩峰!?))

一度目・二度目と『207B分隊』で共に苦楽を過ごした仲間・彩峰慧が目の前に居た事に驚く。

「願いって何だ…?」

「…私の父さん…彩峰萩閣と、その部下の『沙霧尚哉』を…守って欲しい…。」

「彩峰准将と沙霧中尉を?」


タケルの言葉にコクリと頷く慧

「…今回の『明星作戦』で制圧部隊に父さんと尚哉が参加する事になった…
だから…守って欲しい…」

不安そうにタケルに頼みを請う慧

「なんでオレに頼んだんだ?」

「……作戦が近い今時期、斯衛がこの辺をウロウロするの…おかしい。
…だとしたら、『明星作戦』に参加する衛士と考えた方が…自然。
あとは…勘…?」

「何故其処で疑問系になる?」

「…………………………………………えっ?」

ツッコミを入れるタケルに、更にボケる慧
『やっぱり彩峰だ…』と再確認するタケルと冥夜…

「私達と彩峰准将とは別々の場所で戦う事になる、それでも頼むのか?」

「ウン…頼む…」

子犬のような顔をして頼む慧を見て折れる冥夜
そしてタケルも慧の頼みとあって、応える。


「わかった。
近くに居る前提だけど、もし彩峰准将や沙霧中尉が危なかったら、絶対に助けてやる。」

「……ウン、ありがとう…」

涙を滲ませながらも、タケルに感謝する慧
『…約束だよ』…と慧と指切りして約束するタケル


「…お兄さん、名前は…なんていうの…?」

「斯衛軍所属の白銀武中尉だよ。
『白銀』でも『タケル』でも好きな方で呼んで良いぞ?」

「ウン…じゃ…『白銀』…頼むね…。」


最後に笑顔で立ち去る慧
その姿を消えるまで見ていたタケルと冥夜…


「…負けられぬ理由が増えたな…タケル」

「ああ…」


大切な仲間の想いを胸に刻みつけ、車に乗って基地へと戻るタケル達…



慧side---


「行ったね…」

白銀達の車が立ち去ったのを確認する私…
何故か胸がドキドキと鼓動が高まる。

「…白銀と…御剣…冥夜…」

私は彼等を騙した…
最初から、白銀と御剣の事を知っていた…

---けど、会ったのは初めて。
二人の事は『もう一人の私』に教えて貰った。


……ちょっと違うか…『教えて貰った』ではなく『記憶を受け継いだ』が正しいのか。


2ヶ月前---
深い夢の中、暗い世界の中で漂う私に『もう一人の私』が現れた。


『もう一人の私』は、私より少し成長してた…
…ウン、なかなかの成長…特に胸が…


そして、『もう一人の私』は、私に『記憶』を見せて来た。
その光景は---
とてもたいせつで---
とてもかけがえのないおもいでで---
そして---『彩峰慧』が最も愛してた人だった…


白銀武---
突然現れた不思議なヤツ。
馴れ馴れしく、何かと人懐っこい奴。
そして、私や他の仲間を大切にし、悩み苦しんでる私達を助けようと接してくれる。
…ホントに人が良い人だ……けど、なんとなくだけど…嬉しい気持ちになる。


白銀が作った『ヤキソバパン』…とても美味しそうに食べる私……すごく羨ましい…
私も食べてみたい…。


戦術機適性検査の『伝統』…あれはキツそう…
焼きそばならまだしも……合成竜田揚げ定食の超大盛り……白銀…今度お仕置き…。


色んな『記憶』を見てると…他の人達より、白銀だけに注目してしまう私…
…こんな気持ち…初めて。


『もう一人の私』に、この気持ちが『何か』と質問すると…



『アンタも白銀の事が好きになった…』


………最初は戸惑った。
会った事の無い人を『好きになった』と言われては、戸惑うしかない…


けど、『記憶を受け継いで』から、2ヶ月間---
とても白銀の事を考えてばかりだった…。


そして、『記憶を受け継いで』から、『もう一人の私』から一言---



『白銀を助けて---
そして…『幸せ』にして---』


切実な想い…私に此処までさせるとは…興味出て来た。


そして、今日---
斯衛軍の人が三沢基地に来ていると聞き、会いに行った。


白銀の情報は以前調べてたから、少しわかっていた。
…寧ろ、有名人?
『一夫多妻制』の件で、少し有名になっていた…
ニュースにもなってたしね…


『斯衛軍所属で中尉』という情報はあった。
1ヶ月前に父さんや尚哉が帰って来た時に確認した所、間違いなかった…

息を切らせて走った…
脚が重くなっても、気持ちが前へ…前へ…と走らせてた。


遂に足が止まり、息を整えると---
お店の駐車場に、白銀が居た…


ドキドキした…
一歩一歩近づくたんびに、鼓動が高まる…


そして、白銀のすぐ後ろに立つと声が出ず、プルプルと手を震わせながら、服を引っ張る---

少し…話しが出来た…
その時に、父さんや尚哉の事を頼めた…
勿論、父さん達の件の話は本当のお願い…
けど、それ以上に…白銀に逢いたかった…

「……おかしい…まだドキドキする…。」

既に息は通常に戻ってる…
なのに、胸がすごく苦しい…
けど、嫌じゃない…。


一休みしようと、ベンチに座ると---


『隣…良いかしら?』

「……えっ?」


眼鏡を掛けた、綺麗な女性が、私の隣に座って来た…

『はい、缶コーヒーだけど、どうぞ。』

「…ありがとう」


隣に座った女性は、私に缶コーヒーをくれた…
とても暖かい印象のある人だ…

「私はね、帝国陸軍の白銀楓中尉よ。
実は、貴女にお話があるの…彩峰慧さん。」

「……私に?
父さんの知り合い…?」

「うーん…ちょっと違うわ。
確かに彩峰准将の事は知ってるけど、部下では無いわ。
面と向かって話も数回程度だから、それ程親しくも無いわ。」


「……じゃあ…なんで…?」


帝国陸軍の人と聞いた時は、父さんの知り合いかと思ったけど、違った…
父さんの知り合いじゃないなら、何故私に接して来たのか…
…そして、先程名前を名乗った『白銀』とは---?


「貴女…最近不思議な体験をしてるわね?
体験した事の無い『記憶』を持っているとか…」

「------ッ!!」


--何故知ってるの?
誰にも教えて無いのに、『記憶』の事を--!?


驚いて表情に出たのか、『ゴメンナサイ、驚かせて』と申し訳なさそうに謝ってくる。


「実はね、国連の香月夕呼博士が、貴女を調べてたの
その際に、貴女が『記憶の継承』を持ってるみたいだから、今回私が貴女に会いに来たの。」

香月夕呼---
確かに『記憶』の中に登場する人物
何故あの人が私を調べるの?

「…何故国連の人が帝国軍の貴女に頼むの?」


「私は今、香月博士の下に出向してる身なの
だから今回香月博士の命で、此処に出向いて貴女に会いに来たの。」

なる程…それなら納得…。
…なら、もうひとつ質問する…


「『記憶の継承』って何…?
他にも同じ人居るの…?」


「ええっと…私も詳しく知ってる訳じゃないけど…
『記憶の継承』って言うのは、別の並行世界の自分の記憶が流出して来る事、もしくは『何か』の力が働いて、その記憶を受け継ぐ事を言うらしいわ…」

…なる程…確かに、私の『記憶を受け継いだ』事と同じようだ…

けど---どうやって私が『記憶を受け継いだ』事を知ったの?


それについて質問すると、『ゴメンナサイ、機密だから喋れないわ』と申し訳なさそうに謝ってくる。


「それで本題なんだけど…
貴女…国連軍に入る気無いかしら?」

「…………えっ?」

「勿論陸軍学校に通ってるみたいだから、卒業してからの話だけど…どう?」

女性の申し出に少し考える…
…けど…そんな事をしたら---


「もし、タケルの事を考えてるなら、大丈夫よ。
貴女が国連軍に入隊する頃には、タケルも一時的に国連軍に出向するわ。」

「それ…どういう事…?」


まるで人の心を読んでたように、白銀の名前を出す女性…


「やる事があるの
それは国連軍、香月博士の下でないと出来ない事らしいわ…
だから、タケルは国連軍に出向するの」

白銀がやる事の為に、国連軍に出向する---
ならば…私のやる事はひとつ

「…いいよ…国連軍に入ってあげる…
…けど、条件付き。」

「条件?」

「白銀が…斯衛軍に戻る時…私も一緒に斯衛軍に入れる事…
…それが無理なら、入らない。」

その提案にポカンと唖然としてる女性…
そして…その後にクスクスと笑い出す。


「ゴメンナサイ…フフッ…
どんな条件を出すかと思ったら…やっぱり貴女もタケルの事好きなのね。」

「……………悪い?」

「そんな事は無いわ。
気を悪くしたら、ゴメンナサイ」

…むう…少し酷い…
真剣な事なのに、笑うなんて…
……けど、不思議と憎めない…


「だって、どうするの博士?」

「フフッ…別に良いわよ。
それにしても…一度しか逢ってないのにも関わらず、此処まで彩峰を動かすとは…流石は恋愛原子核ね~♪」

すると、後ろの茂みからニヤニヤしながら現れる香月夕呼博士と…苦笑いしてる男性が現れて来た…


「久し振り…が正しいのかしら?
とりあえず彩峰、貴女の条件は受けてあげる。
けど、それなりの働きをしないと条件に呑めないから、先に言っておくわよ?」

「大丈夫…役に立つ」

「ならいいわ。
とりあえず彩峰、今日はちょっとついて来て貰えるかしら?」

「…何するの?」

「『記憶の継承』を持ってる状態で、戦術機をどこまで操れるか…とか…
今後の打ち合わせとか、そんなモノよ。
二時間ぐらいで終わるから安心なさい。
……場合によっては、白銀に会わせてあげても良いわよ?」

「行く!!」


白銀に会えるなら行く…
そう返答すると、またクスクスと笑う三人…


そして、三人が乗って来てた車に乗り、とある質問をする…


「……そういえば…白銀楓って言ったけど…白銀とはどんな関係?」

「私?
私はタケルの母親よ?
ちなみに、この人は白銀影行って言って、私の夫であり、タケルの父親よ。」

「…………………………………………………えっ?」

嘘……母親には見えなかった…


父親の方は、わからんでもないけど…この女性の方は母親には見えなかった。

最初は白銀の『奥さん』かと思った…。
それぐらい、この女性の外見が若々しいからだ

この事を話すと、車内で爆笑する香月夕呼と父親。
母親の方は、嬉しいやら複雑な気持ちやらで戸惑う姿を見せてた。


こうして、私は三人と一緒に三沢基地に向かって行った。


目標は---白銀の居る場所に辿り着く事。


待ってて…白銀…必ず行くから---


慧side end---



あとがき---
遂に出しました。
2人目の207B分隊のメンバー・彩峰慧の初登場です。

『遅いよ、出すの!!』という意見の皆さん…スミマセンでした。
けど207B分隊のメンバーの登場は慎重に考えてました。


当初、この話は彩峰の他、委員長(榊千鶴)も登場する予定でした。


設定はループキャラ
しかも、冥夜・夕呼とは違い、『二度目の世界の鑑純夏』の力で三度目の世界に飛ばされたという設定
ループした時期も『本土侵攻戦』で避難した頃でした。


けど…『あんまりループキャラ出すの…都合良過ぎじゃね?』と途中で書くのを止めて、考えた末、ボツにしました。


もしかしたら、『記憶の継承』キャラが一人二人程度でるかも知れませんが、ご了承下さい。


騎士王のマブラヴ小説を読んで頂き、ありがとうごさいます。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第三十七話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2010/12/01 18:15
1999年・『8月5日』

青森・三沢基地---


「いよいよね…」


「ハイ…」


打ち上げロケットを眺めるタケルと香月博士

既にタケルは強化装備を着て、出撃準備を終えていた。

後は、予定時刻が来るのを待つのみ。
まだ時間が有った為、香月博士と二人で会話をしていた。


「今回の『明星作戦』の攻略の鍵は、どれだけ早く反応炉に到着して、装置を起動させて反応炉を一時的に停止させるかよ。
勿論アンタや御剣やヴァルキリーズメンバーの死亡は論外、出来るだけ突入部隊を生存させる事が今後の攻略に関わってるわ。」

「わかってます。
こんな所で躓く訳にはいきませんからね。」

「当たり前よ。
いわば、この『明星作戦』は『前哨戦』よ
この後には、まだまだ困難な任務があるんだからね。
こんな所で躓いたら、オリジナルハイヴなんて、夢のまた夢よ」


香月博士から厳しい一言を貰うタケル
すると、以前から気になっていた事を質問する。

「そういえば…『花火』の件はどうなんですか?」

「ああ…その件なら『鎧衣課長』に頼んでるわ。
失敗・成功に関わらずに連絡を入れる予定よ。」

「まったく、こんな時に『花火』とは…困ったものですね…」

「まったくよ。」


突如『花火』の話に持ち込むタケル
香月博士も『花火』の内容について、詳しく説明した後、呆れた顔をしながら溜め息を吐く。


『花火』---
実は『G弾』の隠語であった。


香月博士が以前から鎧衣課長に頼んでいた依頼---
それがG弾だった。

香月博士は『二度目の世界』で、『明星作戦時のG弾の発射位置』を知り、今回鎧衣課長に『G弾発射の阻止』を依頼していた。


そして、鎧衣課長の正否次第で『明星作戦』の運命が決まっていたのだ。

「鎧衣課長…張り切ってませんでした?」

「『男の浪漫』とか言って、ニヤついて出てったわ。」

「ああ……やっぱり?」

タケルの脳裏には『ハッハッハッ♪
どうだい白銀武よ、羨ましいだろ?
コレが男の浪漫というモノだよ。』と呟きながら、背中を見せる鎧衣課長が浮かんでくる。


「タケル、此処に居たのか、探したぞ。」

「スマンスマン、冥夜……………に彩峰?」

「……おはよ。」

後ろから冥夜の声が聞こえ、振り向くと…慧の姿もあった。

昨日、香月博士から慧が『記憶を継承』してる事を聞き、驚愕するタケルと冥夜

香月博士が慧を三沢基地に連れて行った日、様々なテストをした結果、『知識』としては、衛士として問題なしの結果になる。


しかし、やはり戦術機の技術や、兵士としての能力までは継承して無かった。

兵士としての能力は、ループした者とは違い、肉体的継承は無いため、未熟のまま。
戦術機に関しては、現在の純夏達の少し下程度の腕だった事がわかった。

そして、『1998年頃から桜花作戦までの記憶の継承』をしてる事がわかった。


以上の結果に対して、香月博士はイイ感じに妖しい笑みを浮かべていた事は言うまでもない。


「しかし…流石に驚いたぞ…
まさか彩峰まで『記憶の継承』をしていたとは…」

「ゴメン……
喋っていいか…分からなかったから…言えなかった。」

「責めてなどいないぞ、彩峰
私も似たような立場だったからな。」

「ありがと…御剣」

お互いの仲を深める冥夜と慧
その様子を見て嬉しく思うタケル

「…白銀…コレあげる…。」

「ん?御守り?」

「一緒に行けないから…せめてこれだけでも…。」

「…ありがとう、彩峰」

「ん…」


一緒に行けない代わりに、せめて御守りだけでもと、切なそうな表情で御守りを渡す慧
その気持ちに素直に受け取り、優しく慧の頭を撫でるタケル


「さてと…そろそろ…」

「白銀、そろそろ時間だぞ。」

「スミマセン、真那中尉。」


タケルと冥夜の下に真那が出撃準備の時間を知らせに来る。

そして、ハンガーへと向かおうと歩むと---



『タケルちゃ~ん!!』
『白銀中尉!!』

「この声は…」


後ろを振り向くと、純夏達訓練兵が走ってタケル達の下にやってくる。


「遅いわよ、アンタ達。
何処に行ってたのよ~?」

「スミマセン、神宮司教官の下に行き、挨拶をしてました。」

「タケルちゃんが別の場所に居るって言ってたから、探してて…」

「それで遅くなったと?」

「ハイ…スミマセンでした…。」


美冴・純夏の説明を聞いて納得するタケル達。
遅くなった事に深々と頭を下げて謝る唯依

「まあ、ギリギリ間に合ったって事で許してやる。
帰ったら、みっちり扱いてやるから楽しみに待ってろ、いいな?」


「「「「ハイッ!!!」」」」


「白銀武中尉及び、斯衛軍第17大隊に…敬礼ッ!!」


唯依の号令と同時に全員で敬礼して見送る。
タケル・冥夜・真那も純夏達訓練兵に対して敬礼で返す。


「じゃ、行って来る。
---必ずみんなで帰って来る。」


生還する事を約束し、そのままハンガーへと急ぎ足で向かうタケル達…。
戦場へと向かうその後ろ姿を眼(まなこ)に焼き付ける純夏達だった…


30分後…不知火・改コクピット内では---


「ふぅ…コレで接続は完了…っと…。」


不知火・改へ搭乗して、再突入殻の中に入り、戦術機用カーゴに装着したのち、再突入型駆逐艦にドッキングし、打ち上げ台へと向かう。


そして、既に打ち上げ台にセットされていたロケットに再突入型駆逐艦をドッキングさせ、発射準備を完了させる。


後は戦場からの連絡を待つだけ…。
椿からの通信があるまで、眼を閉じ、僅かな休息をとる…



同時刻・元横浜市柊町跡・甲22号『横浜ハイヴ』


『怯むなッ!!我々の国を取り戻すのだっ!!』

『『了解!!』』


東京・埼玉・海岸沿いの三方向からの同時制圧を行う地上部隊

海からの支援砲撃の中、死すら恐れぬ帝国・斯衛軍が横浜ハイヴにめがけ制圧をしていく。


空には対レーザー弾頭の重金属雲が広がり始め、光線級・重光線級のレーザーから衛士達を守りだす。

そして海岸沿いには、海神が制圧を完了し、大東亜連合軍の戦術機甲部隊が横浜の土を踏む。


そして--東京方面からは、巌谷中佐率いる帝国軍戦術機甲部隊と、彩峰准将・沙霧中尉率いる帝国本土防衛軍が奮戦していた--!!


「クッ…なんて数だ…
本当にフェイズ2の戦力なの…!?」

「狼狽えるな、駒木少尉。
戦いは始まったばかりだぞ!!」

「沙霧中尉!!」


最前線で戦う駒木少尉の部隊に、沙霧中尉の部隊が合流し、前線を押し上げていく。


「その通りだ、尚哉。
戦いは始まったばかり、このような所で止まっていては、突入部隊に影響が出てしまう。」

「彩峰准将!!」

沙霧中尉の部隊の後から、彩峰准将の率いる部隊も合流し、更なる前線の制圧スピードがあがる。

すると、少し離れた場所で、不知火・改を操る巌谷中佐達戦術機甲部隊が徐々に制圧を完了していく。


「羨ましい限りですな、彩峰准将。
頼もしい若者達がこれほど居ては、我々年寄り連中の出番は無いのでは?」

「いやはや、巌谷中佐の言う通りですな。
…ですが、まだ我々には、若者達の為に障害を取り除く仕事が残ってます
それ故に『衛士』としての引退は、まだ早いかと。」


激しく襲ってくるBETA達をモノともせずに、談話しながら戦う二人を見て唖然とする駒木少尉

--その『強さ』に圧倒されて、沙霧中尉ですら、魅了されてしまう。



「さて、この辺の制圧を完了した所で…先に行きますぞ、彩峰准将。」


「了解、我々もすぐに制圧を完了して行く。」


「了解、御武運を。」


先に制圧を完了する巌谷中佐
そのまま前進し、横浜ハイヴへと向かう。


「タケル君…地上は我々に任せたまえ…
横浜ハイヴは…頼んだぞ…!!」


突入部隊のタケル達に未来を託す巌谷中佐だった…


『明星作戦』開始一時間後・米国---


『HSST出撃準備完了しました。
目標、日本『NO.22・ヨコハマハイヴ』』

『ヨシ、カウントを開始せよ。』

『ハッ!!
出撃カウント300秒…』


米国のとある場所---
今正にG弾を乗せたHSSTの出撃が刻々と迫っていた。


出撃カウントの開始の命令を出した基地司令の口元が、歪な形でつり上がっていた。

(これでオルタネイティヴ5が世界に証明する事が出来る…
フン、日本のオルタネイティヴ4なんぞに遅れを取る米国ではない。)

基地司令もオルタネイティヴ5推進派だった。
その対立するオルタネイティヴ4を衰退させる為、此度のG弾の投下は失敗は出来ない。


『おい、日本の国連軍にヨコハマにG弾を投下すると連絡だけ入れておけ。
反論なんぞ聞く前に通信を切っておけ。』

『わ…わかりました…』

とんでもない暴言にCPが背筋をゾクリとしながら返答を返す。


何故このような残酷な事が平然と出来るのだ--

日本に通信を入れながら、基地司令に恐れを抱くCP
日本からの返答を聞く前に通信を切り、『ゴメンナサイ…』と小さな声で呟く。


今回の『明星作戦』には米軍は参加していない。
当初は参加しようとしたのだが、日本から拒否された為、今回は出撃はしてない。

最初は『G元素入手』等の目標も有り、拒否命令など無視してヨコハマハイヴに参加しようとしたのだが、
何故か出撃前に日本通信が入り、『拒否命令を出してるのにも関わらず、日本に何の用だ?』とバレてしまい、出撃出来なかったのだ。


軍の上層部は『バレたならば出撃はしまい』と出撃は中止、だが本来の目的の『G弾投下』は極秘に遂行する事になった。

カウントも、あと一分を切り、刻々と発射が迫っていた。


そして---


『HSST出撃10秒前…9…8…7…』


CPがカウントを取ると、基地司令の顔に完全に笑みが浮かんでいた。


(これで私の褒賞が約束されたも当然だ。)


『3…2…1…0!!』

カウントが終わり、二発のG弾を乗せたHSSTが飛び立とうとした同時に---それは起きた。


『えっ---?』

突然前方が光りだし、自分達の居る基地を包み込む


『なっ---!!』

それは本来『あってはならないモノ』
発射したと同時に二発のG弾が---爆発したのだ。

(なっ…何故このような事が----)

基地司令は突然の事に戸惑いながらも、理解する前にG弾により、死滅する


(ああ---これは我々米国の…『贖罪』なのか---)

基地司令が死に絶えたと同時に日本に通信を送ったCPは、G弾の爆発が今回の罰なのだと、考えながら、息絶える。


暗黒のセカイが基地を呑み込み、『生』という存在を否定するように、塵と化す。
此処に存在した基地は……最早無い。



『……どうやら、『花火』は失敗したようですな。』

『……そうですね。』


G弾の爆発場所から離れた場所で、G弾の暴発を確認する二人…
一人は言うまでもなく、帝国情報省・外務二課の鎧衣左近
もう一人は---

「今回は助かりました、『紅蓮中佐』
貴女が居なかったら、今回は失敗したかもしれない。
いやはや、これで香月博士や殿下に顔を合わせる事が出来ます。」


「…何を言う…
殆ど私の出番なんてサポート以外は無かった筈ですが?」


「いやいや、こちらとしても、背中を守って貰えるだけでも光栄というモノ。
おかげで任務が成功する事に繋がった。」


相変わらずの態度で接する鎧衣課長だが、奢る事すら感じない態度で返答を返す『紅蓮静中佐』


「さて、早速香月博士に連絡をしなければ…
紅蓮中佐、護衛頼みます。」


「勿論です。」


こうして、『G弾の暴発』という事で歴史が変更された。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第三十八話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2010/12/06 18:36
出撃準備を完了し、今か今かと待っていたタケル達
その様子を管制室で見守っていた香月博士の下に、ピアティフ少尉が駆け込んで来る

「香月博士、博士宛てに連絡が来てます。」


「…何かしら?」


「『花火』の打ち上げ失敗…
そう伝えてくれとの事です。
…あと、米国の国連軍バンクーバー基地からの報告ですが…
米国のとある場所で大規模な爆発があったとの事です。
恐らく、先程米軍からのG弾と関係があるかと…」

「そっ…ありがとう、ピアティフ
あと戦況はどうかしら?」


「ハッ、現在横浜ハイヴ周辺では地上部隊が徐々に制圧を完了しています。
重金属雲も規定の数値まで届いています。」


「そう…なら今しか無いわね。
ピアティフ、基地司令の下に向かうわよ。」


「ハッ!!」


急ぎ足で基地司令の下に向かう香月博士
そして、その五分後---



『白銀、聞こえる?』

「先生?」

突然秘匿回線でタケルと通信を行う香月博士


『鎧衣課長からの報告よ。
『花火の打ち上げに失敗した』との事よ。
…後は、アンタ達の番よ、白銀』

「任せて下さいっ!!」


香月博士の要件が終わると、秘匿回線が切れて、打ち上げのカウントが始まる。


『さ~て、やっと出撃出来るわ。
遙、頼むわよ。』

『うん、任せて水月。
初めての実戦だけど、水月と『複座』するから大丈夫だよ。』

『香月博士から、わざわざ私達の為に不知火・改の複座型を貰ったからには大活躍するわよ。』

『うん!!』


通信で水月と遙が会話を始める。
その様子を見て、緊張を和らごうとしてる事が分かる。

『けど、大丈夫なのかぁ~?
遙は心配ないけど、水月はなぁ…』

『たしかに、暴走しそうで、見てるこちらがソワソワするよ。』

『孝之ッ!!慎二ッ!!
アンタ達後ろに気をつけなさいよっ!!!』


緊張する二人に孝之と慎二も参加する。
やはり二人も初めての実戦で強い緊張をしていた。


『やれやれ…随分と情けないな、速瀬・鳴海・平。
強がって緊張を誤魔化そうとしてるのがモロバレだぞ。』

「ハァ…大丈夫かしら…
頼むから、初戦で撃墜なんて真似は止めてよ…
まあ、そんな事したら、神宮司教官にトドメ刺されるだろうけど…?」


『『『遠慮しますっ!!』』』


緊張する速瀬達にみちる・碓氷の両隊長からの一言で笑い声が響く。
その際まりもが『もし、横浜ハイヴに到着して八分以内に撃墜したら、『すぺしゃる』させるわよ。』と呟くと、A-01メンバー全員が反応し、ガタガタブルブルと震える事になる。


「駿、緊張してるのか?」

『タケルさん…
ハイ、初めてのハイヴ戦なので…』

緊張する駿に話しかけるタケル
緊張を解こうと、少し会話をする。


『タケルさんは緊張してないんですか?』

「そりゃ、するさ~。
けど、ハイヴ戦とはいえ、まだくたばるには早いからな…必ずみんな一緒で生き残るぞ。」

『タケルさん…』


タケルの強い決意の言葉に緊張が解ける駿
その会話を聞いていた水月達も、先程までの緊張が殆ど無くなる。


『お喋りはそこまでよ。
発射まで残り15秒切ったわ。』

椿の一言で第17大隊全員が沈黙する。
そして---


『日本を解放する前に死ぬ事は、絶対に許さん。
全員生還するわよ!!』


『『『『了解ッ!!』』』』

気合いを入れた声を轟かせる第17大隊の衛士達。
その表情に、最早一片の曇りは無かった。



そして---運命の時間がやって来た---!!




『全員…敬礼ッ!!』


出撃する突入部隊に対して、国連・帝国・斯衛の軍人達が敬礼しながら見送る。
訓練部隊の純夏達や、まだ一般人の慧も敬礼してタケル達の無事を祈る


(白銀…御剣…無事に帰って来て…)

(白銀中尉…ご無事に…)

(タケル…)

慧・唯依・クリスカの三人が心の中でタケルの無事を祈る。


(タケルちゃん…無事に…無事に帰って来てね…)

「純夏さん…」

「鑑…大丈夫だ。
白銀中尉は必ず帰って来る…。」

「伊隅さん…宗像さん…ありがとう…。」


そんな三人とは少し違い、不安ながらもタケルの無事を切実に祈る純夏を見て、そばに居たまりかや美冴が励ます。


高度500km・地球周回低軌道---


「………やっぱり綺麗だな…。」

『うむ…。
この美しき故郷(ほし)を必ず守り抜かねば…。』

『二度目』の地球の姿を見て、再び感動するタケルと冥夜。


『綺麗…』

『そうだね…』

『この美しい星に…オレ達居るんだな…』

『ああ…。
……変な話だけど、衛士やってて、良かった…って、今思ったよ…。』


地球を見て、感動の余り、見とれてしまう水月・遙・孝之・慎二の四人


『椿…政弘…沙耶…
この美しい地球を蝕むBETAを…必ず殲滅するぞ。』

『ええ…勿論よ。』

『孝志…お前の後ろは俺が必ず守ってやる。』

『微力ながら、お力になります。』


そして、地球を見て強い決意を改めて誓う孝志・椿・政弘・沙耶の四人


他にも各自で莫迦みたいな会話で盛り上がる衛士達だが--
其処に『恐怖』に怯えるものは誰一人居なかった。


「イグニス10から、ヴァルキリー5(水月)・ヴァルキリー・マム(遙)・オーディン5(孝之)・オーディン7(慎二)へ。
今回がお前達の初戦だ。
先任の指示に従い、生き残る事を優先せよ。
…勿論、ハイヴ攻略をしながらだぞ?
間違っても、再突入中に光線級にやられて『空飛ぶ棺桶』フライングコフィンになるなよ。
そんな事をしたら、ヴァルキリー0(まりも)の顔に泥を塗る行為だと思えッ!!」


『『『『了解ッ!!』』』』

(もう…白銀ったら…
フフッ…速瀬達も立派な衛士の仲間入りしたわね…。)


教え子達の成長を見て、心の底から喜ぶまりも。血と汗を流し、巣立つ雛鳥を影で見送る親鳥のように、嬉しさと寂しさの両方の感情が湧き上がって来る。

この子達は、私が守らねば---
この子達は、私の大切な『子供達』なんだから---!!


A-01の母親にして、師であるまりもの強い気持ちと決意が現れ、操縦桿を強く握り締める。
--その様子を、『子供達』であるタケルやみちる・碓氷が見逃す訳が無い。
みちるや碓氷は、『子供達の姉』として
タケルは『母親自慢の秘蔵っ子』として、まりもを良く観察していた。


(『母親』の期待に応えねば『子供』として親不孝というモノ…)

(必ず…みんなを…神宮司軍曹を守ってみせる!!)

みちると碓氷の強い決意
誰一人と失わないと心に誓う。



(まりもちゃん…みんなやまりもちゃんを必ず守ってみせます。)

『自慢の秘蔵っ子』として、覚悟と強い決意を見せるタケル
---もう、あんな悲劇を繰り返してたまるものかッ!!


大切な人達の最期の映像が、タケルの脳裏に蘇る。
歯をギリリッと食いしばり、己の無力を呪い、恨む。


だが--今は違う--


あの頃とは違い、覚悟も力もある---
衛士としての実力も上げてきた。
肉体も精神力も以前と比べ物にならない程鍛えた。
そして--自分は一人ではない--


大切な--頼りになる仲間達が居る--
そして…自分の帰りを待つ者達も居るのだ--!!


そう簡単に死ぬ訳にはいかない!!


『諸君、只今よりヨコハマハイヴにめがけて再突入に備えよ。』


国連軌道艦隊司令からの通信が入り、誰もが無言になる。


『第五軌道降下兵団、全機所定通りの再突入を開始せよ!!』

そして--戦いの火蓋は切って落とされた!!


『再突入許可確認、本艦軌道離脱噴射まで300。
姿勢制御開始、アンビカル・コネクタ開放に備えて、戦術機各員は全系統切替状況を確認せよ。』

「イグニス10、全系統切替確認、再突入カーゴの操縦受領準備良し!!」

『接続パージ完了了解、カーゴ制御切替完了。
イグニス10、カーゴ操縦渡します。』

タケル達を背負う駆逐艦との通信をし、カーゴ操縦の権利をタケルが受け継ぐ。


『本艦軌道離脱噴射まで120。
イグニス10…御武運を…!!』

「了解!!
軌道離脱噴射スタンバイ。
何時でも構わない!!」

『軌道離脱噴射スタンバイ。
此方も何時でもOKです!!』

タケルと駿の軌道離脱噴射スタンバイを確認すると、高度120km地点で、駆逐艦との最後のロックボルトを解除する。


「再突入殻分離を確認、カーゴ姿勢安定。」


宇宙を飛行するタケル達。
強い圧力を全身に感じながらも、地球めがけて突入する。


「強化装備対G機能確認、カーゴロケット点火準備宜し。
全系統異常無し…ウオォォォッ!!」


再突入カーゴのロケットが点火され、大気減速を相殺し、横浜ハイヴめがけて大気圏突入する!!


地球めがけて全力噴射する映像を見て、恐怖する衛士達
気を失っても、電気ショックで叩き起こされ、再び恐怖へと戻される


「フン…ッ!!
こんなの…純夏の『どりるみるきぃぱんち』で慣れてるッ!!」

強がりながらも、地球へと全力噴射する恐怖に打ち勝つタケル。
苦笑しながらも、今だけは純夏の『どりるみるきぃぱんち』に感謝する。

「高度四万!!
装甲カプセル開放に備えろッ!!」

『了解ッ!!』


分離したカーゴは、そのまま横浜ハイヴへと全力噴射を続け、カプセルは大減速をしながら地球へと突入する!!


そして---カプセルが分離し、規定高度2000の所で、タケル達の乗る不知火・改が姿を現す!!


「イグニス10からイグニス25へ。
近くにちゃんといるか?」

「イグニス25よりイグニス10、其方の左後方260の場所にいます!!」


「ヨシ、イグニス10了解ッ!!
エアブレーキ展開開始。
絶対に離れるなよ!!」


「了解、任せて下さい!!」

いつも弱気な駿だが、今は違う。
一人前の衛士として、強気な姿勢でタケルのそばを喰らいついていた。

「重金属雲濃度低下…抜けるぞ、駿ッ!!」


重金属雲を突き抜ける先には---
醜い姿を現すモニュメントと--人類の敵・BETA達が姿を現す。


『第17大隊、コールイン!!』

『イグニス2(沙耶)、スタンバイ。』

『イグニス3(孝志)、此処にいるぜ!!』

『イグニス4(政弘)、突入準備良し!!』

『イグニス5(真那)、突入準備完了です。』

次々とコールが告げられる第17大隊のメンバー
全員無事を確認すると、笑みが浮かび上がる。


「イグニス10、暴れる準備は何時でもOKですよ。」

タケルの告げる言葉に笑みを浮かべ、次々とコールが告げられる。


『イグニス25(駿)、突入準備出来てます。』

『イグニス26(冥夜)、何時でも構わぬ。』


冥夜のコールも告げられ、安心するタケル
二度目の突入故に、さほど緊張した様子は無い。

『イグニス1からHQへ。
第五軌道降下兵団第17大隊は全34名が軌道降下を完了。
これよりハイヴに突撃する!!』


そして、第17大隊全34名のコールを確認すると、椿がHQに通信を入れ、突撃開始の報を入れる。

そして、第16大隊・ヴァルキリーズ・オーディンと合流し、目的地であるゲートに向かう!!



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第三十九話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2014/02/08 15:34
「ウオォォォッ!!」


全速力でゲートに向かう突入部隊

先に各部隊の突撃前衛達が道を切り開く為、前に出る。

その最前列には、タケル・駿のエレメントと、ヴァルキリーズの水月&遙と『遠坂明日香中尉』が奮戦していた。


「やるじゃない、速瀬・涼宮
けど『突撃前衛長』の道はまだまだ険しいわよ?」

「まだまだですよ、遠坂中尉。
あと、あんまりゆっくりしてたら置いていきますよ?」

「ほぅ…いい度胸ね…
なら、速瀬達はゲート到着までに、私より弾数を残してなかったら、罰ゲームを受けて貰うわよ。
…そうねぇ…貴女達の罰ゲームは…みんなの目の前で鳴海に『愛の告白』して貰うわよ?」

「ええっ!!?」

「ぐぬぬっ…相変わらず良い性格してますわね…。」

遠坂中尉の罰ゲームの内容に少し怯む水月と遙
すると…


「なら、明日香の罰ゲームはみんなの前で『今までフラれた話』をするのはどう?」

「な゛あ゛っ!!?」

「ナイス支援です、『牧村中尉』!!」

すると、突然同じ突撃前衛の『牧村薫中尉』の発言に驚愕する遠坂中尉


「薫ッ!!
いきなり何言うのよッ!!」

「いや、賭けるからには同等なモノじゃないと不公平でしょ?
だから二人の愛の告白に同等な賭けるモノったら、明日香の失恋話でしょう?」


良い感じに笑顔で答える薫
その腹黒い姿をモニターで見た水月は『この人やっぱり宗像や香月博士と同種ね…』と心の中で呟く

「水月、前方10時方向に要撃級60が迫って来るよ!!」

「任せてッ!!」

装備を長刀に変更して、邪魔な要撃級を悉く斬り伏せる水月機
要撃級の先頭三体の首を切り落とし、後から続く要撃級の攻撃を回避し、低めの倒立反転で要撃級の背後に廻り、後方から次々と切り裂く。
その際、背後から来る要撃級を遙が担架に装備している突撃砲で撃退する。


「ナイス支援よ、遙」

「ありがと、水月
けど油断は禁物だよ。」

「わかってるわ。」


初めての実戦で上手く連携を決めていく水月と遙
その後ろから、明日香と薫が要撃級を撃退した後、水月達と合流する。


「さあ、要撃級を全部倒した事だし、ゲートに向かうわよっ!!」

「えっ!?もう全部倒したんですか!?」

「そりゃあ倒すでしょう…
私達だけじゃないんだから…。」

「…涼宮…オレ達の事忘れてただろ…」

「し、白銀中尉!?」


既に要撃級を殲滅した事に驚く遙
明日香の言葉の後に、タケルが続いて通信に参加する。

実は、水月達が奮戦していた時、タケル達第17大隊の突撃前衛達と第16大隊の崇宰隼人少佐率いる突撃前衛達が、残りの要撃級を撃退していた。

タケルに関しては、いつものように孝志と競い合いながら、要撃級を撃破していたもんだから、結果、瞬殺だった。


「ちぇ~。
今回の勝負は引き分けか~…」

「仕方ないッスよ。
これだけ精鋭の突撃前衛達が居ますからね。
しかも、五摂家まで居る豪華版
二度と無いんじゃないですか?」

「だな。」

談話しながらも戦闘を続けながらゲートへと向かうタケルと孝志
二人を先頭にして、次々と行く道を邪魔するBETAを殲滅する。


タケルは機動力を武器にして、孝志は長刀を二刀流にして最低限の戦闘をしながら前進する。


「----凄い…」

「あれが…白銀中尉の実戦での戦い…」

タケルの戦う姿を見て驚愕する遙と水月
シミュレーター訓練の時とは違い、鋭い動きを見せる。

無論、シミュレーター訓練とはいえ、本気で挑んでいるが、実戦でのタケルの戦いは、シミュレーター訓練時とは比べ物にならない程の強さを見せ付けていた。


「ヴァルキリー0から、ヴァルキリー5・ヴァルキリー・マム
…どうだ、イグニス10の実戦での強さは?」

すると、まりもから通信が入り、タケルの戦闘の感想を水月・遙に質問する。

「凄い……これ以外に言葉が見つかりません…。」

「初めて白銀中尉の実戦を見ましたが…想像以上です。」

二人の言葉を聞いて『そうか…』と呟くまりも


「良いか、実戦とシミュレーター訓練との違い…
それは、『背負うモノ』の違いだ。
所詮、シミュレーター訓練と実戦では、天と地の差がある。
そして、例えシミュレーター訓練で仲間を失っても、実際に死ぬ訳ではない…
だが、実戦は違う。
一度死ねば、そこで終わり、二度と会う事は出来ない。
その為、衛士の背中にのしかかる『重責とプレッシャー』はシミュレーター訓練で体験する事は出来ない。
一つ間違えば、仲間達を失う事に繋がる。」


かつて---
自分も体験した悲劇を語るまりも
教え子に、そのような悲劇をさせまいと説明する。

かつて--自分がまだ新米衛士だった事、大切な仲間達を失った。

まだ少尉だった自分が中隊長に任命され、自分の背中にのしかかる重責とプレッシャーに潰されそうにもなった。

仲間達の支えもあって、潰されずに済んだが
『九-六作戦』では、自分以外の仲間達は全滅し、自分だけが助かった。

その後、仲間達の犠牲をバネにして、大尉まで登りつめ、
教導隊に所属してた自分に、香月博士からの教官の誘いが来て、帝国陸軍から国連軍に転属した。

そんな自分の体験を告白し、教え子であるA-01や冥夜は沈黙する。

「…勿論、他にも色々な要因はある…。
だが、白銀中尉は過去に失った仲間達の意志を背負い、今お前達教え子や他の仲間達を『護る』為、様々な重圧を受けながらも戦ってるのだ…。」


自分と重なるタケルを見て、その気持ちや強い理由を理解してるまりも


「守れなかった仲間達の分まで生き抜いて---
守れなかった仲間達の分まで戦い続け---
守れなかった仲間達の分まで意志を受け継いで---自分にとって、大切なモノを『護る』為に戦ってるのだ。」

「「「----ッ!!」」」

「そんな『理由』を…『決意や覚悟』を持ってるからこそ、白銀中尉は強いのだ。
だからこそ、シミュレーター訓練時なんかと違い、実力以上の強さを出せるのだ。」

まりもの言葉により、タケルの強さを理解するA-01達…

そして、タケルを目標としている水月や孝之の眼差しに変化の兆しが現れてくる。

「臆病でも構わない---
勇敢だと言われなくてもいい。
それでも何十年でも生き抜いて、ひとりでも多くの人を守って欲しい。
そして、最後の最後に人としての強さを見せてくれれば、それで良いのよ」

「神宮司大尉…」


まりもの一言に一瞬、驚きはするが、それがまりもの『決意』と知る
すると、みちるが会話に入って来る


「忘れたのか、速瀬?
我が隊規を言ってみろ。」

「あ…」


みちるの一言に思い出す水月
同時に遙や孝之・慎二も思い出す


「『死力を尽くして任務へあたれ
生ある限り最善を尽くせ
決して犬死にするな』」

「そうだ、それが我々A-01の隊規であり…
神宮司大尉から受け継いだ言葉だ。
この言葉を決して忘れるな、心に深く刻んでおけ。」


「ハッ!!」

表情が変わる水月
そして、遙達にもその言葉が伝わり、心に刻み込む。


すると突然、遙の下に警報が鳴り響く


「えっ…嘘…?
ヴァルキリーマムから突入部隊全機へ!!
目的地であるゲート付近から旅団規模のBETAが出現!!
現在我々にめがけて進行中!!
その数……五千!?」


「「「「!!!?」」」」


その圧倒的な数に驚愕し、一度足を止める突撃前衛部隊


「拙いな…一度本隊と合流する為、速度を落としつつ進行を再開する。
本隊と合流した後、BETAとの戦闘を控えつつゲートへと突入する!!」

「「「了解!!」」」


突撃前衛部隊の隊長である隼人少佐が指示を出し、速度を抑えつつ進行を再開する。


「伊織、なるべく合流するように速度を速めてくれ
このままだと、旅団規模のBETAに巻き込まれる。」

「わかった。
出来る限り速度を速める。
ヴァルキリー1・オーディン1・イグニス1
済まないか、進行速度を上げるぞ!!」


「「「了解!!」」」


本隊の隊長である伊織少佐の指示に従い、速度を上げる各部隊。


突撃前衛部隊と合流した後、進行して来るBETA群を迂回しながらゲートへと向かうが---


「チィ!!
避けきれねぇっ!!」

「突撃級は回避出来たが、要撃級や戦車級の群れがこっちへと向かって来るぞ!!」

可能な限りの速度でBETA群を回避しようと試みるが、どうしても回避しきれないでいた


このままでは戦闘は必至---
各部隊、BETAとの戦闘に備え、武器を構えると---


「各部隊戦闘に---」

『此処は私達に任せてゲートへと迎えッ!!』


「「「えっ!?」」」


突如、タケル達の目の前には、帝国軍の不知火・改が単騎で迎撃する!!

「タケルッ!!早くゲートへと向かいなさい!!」

「か、母さん!?」


単騎で現れた機体--
タケルの母・楓であった。


「タケルの進む道を…邪魔するなっ!!」


タケル達突入部隊を護衛しながらBETAを次々と撃破していく楓
その後すぐに、父・影行達率いる大隊・『銀の戦車』シルバーチャリオッツ隊が参戦する!!


「イグニス10、此処は我々に任せろ。
突入部隊には毛程の傷も付けさせん!!」

「親父…」


「お前達の晴れ舞台の花道は、誰にも汚させん!!」


「済まない…親父…ッ!!」


タケル達突入部隊はそのままゲートへと向かい、
影行達は突入部隊を護衛しながらゲートまで同行する


『無事か、イグニス10』

「アナタ達は…!?」


『此処は我々に任せてくれ、あともう少ししたら、彩峰准将率いる帝都防衛軍が合流するから、此方の心配は無用だ。』


「ありがとうございます…巌谷中佐」


援軍の巌谷中佐率いる帝国軍戦術機甲連隊が参戦し、一気にBETA群を押し上げていく。


「ハアァァァァッ!!」

縦横無尽に現れるBETA相手に怯まず、必殺でBETAを貫く楓の狙撃
必要最低限の攻撃で最大限に生かし、要撃級は頭部に突撃砲二・三発打ち込み、
戦車級は滑空砲や『120mm拡散砲』で殲滅する

遠く離れてる場所に存在する数少ない要塞級も、滑空砲の射程距離ギリギリからの狙撃で仕留めていく!!


タケル程ではないものの、機動力を生かした動きでBETAを翻弄し、BETA達の屍を築いていく。


「やれやれ…この『じゃじゃ馬』の手綱を引くのは本当に苦労するよ。」

「影行さんっ!!
…んもぅ…この歳で『じゃじゃ馬』は無いでしょう?」


「しかし、他に言葉が見つからん。
単騎で旅団規模のBETAを相手にするなんて、母さんと………タケルしか知らん。」

「ちょと待てぃぃっ!!
何時オレが旅団規模のBETAに単騎で突撃した!?」

「『本土侵攻戦』で、光線級退治する際、単騎で挑んだんだろ?
ならするさ。」

「んがっ!?」


父・影行の一言に何も言えないタケル
楓も顔を真っ赤にしながらBETAを撃破していく。


「タケル---
この戦いが終わったら、一緒に酒を飲むぞ」

「酒は苦手なんだけどなぁ…
まあ、親父の頼みなら仕方ないっか。」


他愛もない会話をして、お互いに生き抜く事を約束するタケルと影行
約束を交わした後すぐにタケル達突入部隊はゲートに突入成功する。


「さて…このゲートを絶対に死守するぞ!!
突入部隊の後方は我々が守るのだ!!」


『『「「了解!!」」』』

巌谷中佐の号令に猛々しく答える影行達
迫って来るBETA群を全力で反撃をする。



あとがき---

しばらくぶりです、騎士王です。
今回はいつもよりちょいと少なめです、ご了承ください。m(_ _)m


今回のオリジナルキャラクターのヴァルキリーズメンバー『遠坂明日香中尉』と『牧村薫中尉』の登場です。

二人はみちると同期という設定です。
同じ訓練兵時代を過ごした仲で突撃前衛にポジションしてます。
二人は突撃前衛長ではありません。
ヴァルキリーズは前回の戦闘で(光州作戦で重傷)突撃前衛長を不在、但し小隊長としては代理として薫が小隊長代理をしてる設定です。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第四十話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2010/12/19 18:46
横浜ハイヴ・中階層---


「やっと中階層を超えた所か…」


慎重かつ可能な限りスピードを出しながら前進するタケル達。
訓練の成果もあり、誰一人撃墜者はまだ居なかった。


ハイヴ内に突入してから、数度BETA群と遭遇はしたが、極力戦闘は控えてたのと…



「まったく…最近のBETAは根性が足りんのぅ…」

紅蓮大将によるチート気味な強さにより、BETA群から逃れていた。


紅蓮大将の戦闘方法…
長刀や短刀による攻撃ならまだしも、『拳』により、予想外な事にBETAを撃破していた。


『我が拳を受けてみろぉぉっ!!』と叫びながら放つと、要撃級の頭部は肉片と化し、
突撃級・戦車級等は吹っ飛びまくり、戦車級に至っては、壁に激突し、潰れたトマト的な光景を見せつけられ、タケル達は『何…あのチートな強さ……?』とか『なんで戦術機で肉弾戦して…壊れないの…』などと…遠い眼をしながら見ていた…


本人曰わく『気合いで戦うのぢゃ!!』…だそうだ…
みんなの心はひとつにし、『アンタしか出来ないから…』と心の中で呟く

緊迫した空気はかなり飛んでしまったが、おかげで全機無事に中階層に辿り着いたのだ。


「ヴァルキリー1からヴァルキリー・マム
現在周辺にBETAの反応は無いか?」


「此方ヴァルキリー・マム。
現在周辺にはBETAの反応は無し。
しかし、離れた場所では旅団規模の反応が複数確認してます。
…その内最低ふたつ程は接触は避けれないかと…」

「…そうか」

苦い表情をしながら報告する遙を見て、苦々しくも返答を返すみちる。


ハイヴ内では光線級達は何故かレーザーを放たない傾向がある。
勿論『仲間撃ちをしない為』という理由はあるが、真実は未だに謎だった。


しかしハイヴ内では、光線級に代わり、脅威となる存在が居た。
それは---突撃級だった。


この逃げ場の無い空間に突撃級の大量の突進攻撃は、恐るべき存在。
狭い空間内では絶対に遭遇したくない存在だった。


「しっかし…さっきの突撃級は焦ったな…
良く撃墜者が居なかったのが不思議なぐらいだ。」

「確かに…まさかハイヴ内での突撃級が、あそこまで脅威になるとは…」


先程の戦闘の会話をする孝之と慎二
狭い空間内で突撃級に遭遇していた。

数少ない隙間に着地しながら、飛行して回避するが、時折天井から突撃級や要撃級が降り注いで、タケル達の進行を邪魔していた。


「まだまだね、鳴海・平。
別に『ハイヴ内だから』突撃級が脅威って訳じゃないわ。
元々突撃級はどの戦場でも脅威なのよ
単体ならば恐れる事は無いけど、群れをなしてる時や要撃級・戦車級と一緒に居るだけでも難易度は増してくるわ
突撃級だけの群れだって、何層もの群れが突撃してくれば、回避した際の着地するスペースすらないわ。
光線級を恐れて大空を飛行出来ない今、突撃級の突進こそが、注意すべき点でもあり、脅威となる要素でもあるのよ。」


「学習不足だぞ、二人共。」

「うっ…スミマセン」


部隊長である碓氷から注意を受ける孝之と慎二
その後にみちるにも注意され、謝罪する。


「さて、地上の制圧部隊が少しづつハイヴ内を制圧してきておる頃じゃ。
我々も一刻も早く反応炉に向かおう。」

「「「了解!!」」」


紅蓮大将の言葉を聞き、一層気を引き締めるタケル達。

進行スピードを少し上げながら、下へと進む…



一方・地上では---



「こちらシルバー1からHQへ
ハイヴ周辺の制圧を完了する。」

『HQ了解。
しかし、未だにBETAの出現は現在な為、警戒を怠るな。』


「シルバー1了解。
これから、ハイヴ内の制圧を開始する。」


HQとの通信を終える影行
ハイヴ周辺や数ヶ所のゲート近辺では国連軍・帝国軍・斯衛軍・大東亜連合軍が制圧を完了していた。


そして、少しづつハイヴ内を制圧を進め、下へと向かっていた。


「タケル…!!」


「楓…タケルなら大丈夫だ。」

逸る気持ちを見せる楓を落ち着かせる影行。
しかし、影行自身もタケルを助けたい気持ちを押し殺すように、操縦桿を強く握り締める。


『隊長、前方からBETA群の反応アリ。
数は…二千!!』


「ヨシ、前方から来るBETA群を殲滅し、制圧範囲を広げるぞっ!!」


「「「了解ッ!!」」」


影行率いる『銀の戦車』シルバーチャリオッツ隊がBETA群に突撃する。


「邪魔するなァァァァッ!!」

その先頭に楓が突撃し、次々とBETAを殲滅する。縦横無尽に舞い、BETAの肉片が飛び散り、楓の不知火・改が赤く染まる。


愛する息子を助ける為に、母親である楓は障害となるBETAを一体でも多く駆逐し、前進する。



そして、別のゲートでは---



「これより我々もハイヴ内の制圧に参加する。
皆よ、覚悟して突入するのだっ!!」


「「「了解ッ!!」」」


彩峰准将が率いる帝都防衛軍がハイヴ内に突入を開始する。

「………」

「駒木少尉、そんなに固まる事は無い。
リラックスするのだ…とは言わんが、其処まで緊張すると身動きが出来なくなるぞ?」

「スッ、スミマセン」

「ハッハッハッ♪
仕方ない事だ、初めてのハイヴ戦だからな。
…かく言う私も初めてだがね。」


緊張で固まる駒木少尉を彩峰准将が砕けた口調で緊張を少し解す。
最後のセリフを聞いた駒木少尉は、思わず『……もう…彩峰准将ったら…』と小さな声で呟く。


「恥ずかしがる事は無いぞ、駒木少尉よ
ホレ、沙霧中尉とて緊張しまくってるからな。」


「あ、彩峰准将ッ!!
今は任務中ですよっ!!」

「ハッハッハッ、済まなかった。
しかし、緊張のあまり撃墜されては、慧や駒木少尉が心配をかけてしまうぞ?」


「あ、彩峰准将ッ!?」


沙霧中尉と駒木少尉をからかう彩峰准将
特に顔を真っ赤に染めている駒木少尉を見て楽しんでいた。


実は駒木少尉が沙霧中尉に好意を抱いている事は部隊の誰もが知っていた事実。
唯一当の本人である沙霧中尉だけ、駒木少尉の好意は気づいていなかった。
つまり沙霧中尉は、密かに少し鈍感スキルも持っていた。(タケル程ではないが…)


(まあ…尚哉は、私にとって『息子当然』の存在…
慧か駒木少尉どちらかと結ばれて、幸せになって欲しいものだ…。)

少し親バカの顔をしながら、沙霧中尉の未来を楽しみにしていた彩峰准将

すると、部隊の隊員の一人が『ある会話』をしてくる。


『そういえば『白銀の守護者』も、この戦場に来てるんだよな…』

『ああ、空から再突入して来る中に白銀の不知火・改の姿を見たぜ。』


「…………!!」

沙霧中尉の表情にピクリと動きを見せる
その姿を彩峰准将と駒木少尉は見逃さなかった。

「白銀武中尉か…フム、一度会ってみるか、尚哉?」


「あ、彩峰准将!?」

作戦中でありながらも、沙霧中尉の事を『尚哉』とプライベートの呼び方で呼ぶ彩峰准将に対して驚く沙霧中尉
そしてそれは、駒木少尉を始め、他の隊員達にとっても同じ事だった。


彩峰准将は普段は俗に言う『優しいお父さん』で、子供には甘く、時に厳しく接する普通に見かける父親の姿。
そして、それは部下にも同じように接し、何かと面倒見が良い人で、生活費に困れば食事に誘い、悩み事があれは『父親』として接しながら聞き、アドバイスを出す。


しかし--軍人としての『彩峰萩閣准将』は、規律に厳しく、絶対的に『国と将軍』に忠誠を誓う人であり、何より『民』の為に、日々自身の身を削りながらも『良き日本』を目指し、自身も戦術機の操縦桿を握り続ける

そんな軍人の顔を持つ彩峰准将だからこそ、作戦中に沙霧中尉の事を『尚哉』と呼ぶ事に皆驚いていたのだ。


「ん…どうした?
白銀武中尉に会いたくはないのかね?」

「え…あ、はい…
一度は面識をしてみたいと思ってましたが…」

「なら、会えるように私から手配しておこう。
…確か紅蓮大将の下で剣を習ってると聞いてるから大丈夫だろう。
--だが、その前にこの戦いに生き残る事が前提だがな。」

「-----ッ!!」


その時沙霧中尉は気づく。
この会話は自分の為に---!!


先程の沙霧中尉は、白銀中尉の話題ひとつに動揺し、その事を考えたせいで同時に周囲に対して散漫していた。


それを見抜いた彩峰准将は『ワザと』この会話を持ち出し、先程自分に対して『尚哉』と呼んだのだ。


『尚哉』と呼ぶ事で、一旦白銀中尉から意識を離し、その後に『面会する約束』を取る事で周囲の警戒を散漫しないようにする
そして、恐らくは自分にその事を知らせる事で釘を打つ予防策までしたのだ…


(……やはり彩峰准将には頭が上がらないな…。)

自分の事を思い、即座にこのような対処までする彩峰准将に対して、改めて尊敬し、同時に謝罪する沙霧中尉。
苦笑いをしながら気を引き締める。

「さあ、制圧作業を進めるぞっ!!」


「「「了解ッ!!」」」


彩峰准将率いる帝都防衛軍はハイヴ内を進めていく…



タケル達突入部隊がハイヴ内に突入して一時間が過ぎた頃---
深度が三分の二程下に進めていたタケル達は『ある部屋』に侵入していた。



「ふぅ…やっとここまで侵入したわね…」


「だが、やはり犠牲者は出てしまった…」


現在の場所までに第16大隊のメンバーが二人が撃墜し、一人が死亡した。

原因は装置を運ぶ部隊が奇襲を受けた際に護衛していた第16大隊のメンバーが庇い、撃墜した


不幸中の幸い、撃墜した二名はケガだけで済み、死亡は免れた。


しかし、一人は戦車級に喰われてしまい、助ける事が出来なかった。

そして現在---
とある広い部屋にタケル達突入部隊が侵入する。

「先程とは違い、大きな部屋でBETAが一匹たりとも居ないとは…」

「この静けさが、かえって不気味ですね…」


ゆっくりと警戒しながら進軍するタケル達…
大きな広間でありながらBETAが一匹も居ない事に不安が広がる


そして---


----ケ---ん---


「………えっ?」

突如タケルは進行を止めて、周囲を捜索するが、異常は無い


「どうしました、タケルさん?」

「いや…今声が聞こえたような…」


タ--ち--!!
-ケ--や-!!


「…やっぱり何か聞こえる。」

再び周囲を捜索すると---


タケ--ゃん--!!
-ケルち----!!


「………えっ?」

再び聞こえた声にドクンと鼓動する!!


「そんな……だってアイツは--」


タケル---!!
--ルちゃん!!


「そ…そんなバカな…ッ!!」

「どうしたの、タケル!?」

タケルを心配して声をかける沙耶
突然の事態に戸惑い、全軍が止まる。


---タケルちゃんッ!!
返答してッ、タケルちゃんッ!!


「そんな…だってアイツは先生の所に---!?」

間違える筈がない---
馴染みのある声、自分にとって『半身』ともいえる存在---
そして、偶々マップを目にすると--

「……この場所は…まさか…」


プルプルと操縦桿を握る腕が震えるタケル
そして現在居る場所が何処なのか悟る


そして、ゆっくりと上を見上げると---


「そんなバカな…
そんな事ある訳ないだろ…!?」


其処には無数の『蒼く光る脳髄の柱』が存在していた---!!




同時刻・三沢基地---


「か、鑑さんッ!?」

「しっかりしろ、鑑!!」
三沢基地に居た純夏達訓練兵
突如純夏が倒れた事に驚き、声をかける佳織と美冴


「こっちです!!」

「鑑ッ!!
……どういう事なの!?
詳しく説明しなさいっ!!」


香月博士を連れて来る唯依
倒れた純夏の状況を詳しく説明を求める。


「詳しくも何も…
突然純夏さんが倒れて…」

「さっきまであれほど元気良かったのに…。」

「…どういう事よ、一体…?」

まりか・クリスカが説明するが、原因が解らず、混乱する香月博士
するとピアティフ少尉が慌てて走って来る


「香月博士!!
突入部隊の白銀中尉から秘匿回線を求める通信が入って来ました!!」

「白銀から…?」


「あと伝言ですが…
『蒼く光る柱の間に到着した』との事です。」

「----ッ!!
…なんてタイミングよ…。」

タケルの伝言に驚愕し、純夏の倒れた事に関連する可能性を頭に思い浮かべる。


「まさか……
…詳しく白銀に聞く必要があるわね。
篁、鑑を医療室に運びなさいッ!!」

「り、了解ッ!!」


唯依達訓練兵全員で純夏を医療室まで運び出す。
同時に香月博士も愚痴をこぼしながらも、管制室に走って戻る…



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第四十一話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2011/10/31 23:24
純夏side---


『お~い、起きろ私~!!』

「うーん…此処どこぉ……………へっ?」


突然意識が無くなり、真っ暗になる視界。
次の瞬間、誰かに呼ばれ、目が醒めると……………もう一人の『私』が居た。


「あれ……アレレッ…!?
ななななな…なんで『私』が目の前に居るのっ!?
……しかも、なんでか私より身長と……胸が大きいし…。」

『………目覚めて第一声がその一言は…無いよね…。』

だって、いきなりもう一人の『私』が現れて、私より身長が高くて、胸が大きいなんで……なんか負けた気分…。


『はぁ~…なんか雰囲気ブチ壊しになっちゃったけど…まぁいいっか。』

すると『私』はコホンと一度咳を出してから話を進める。


『始めまして、鑑純夏さん。
…なんか自分に『さん』付けは変な気持ちだけど…
…『私』は『違う並列世界』の『カガミスミカ』です。
この世界の鑑純夏に頼みがあって、貴女に逢いに来たの。』

「私に…頼み?」


私に頼みって何だろう…?
そのまま『スミカ』の話を聞くと---色んな『謎』が解けた。


今、私の世界に居るタケルちゃん---
実は色んな並列世界を渡り歩いて、想像が出来ないぐらい悲劇を体験してた事が解った。


以前、篁さんからタケルちゃんの話で『大切な仲間を失った話』を聞いて疑問に思った。
だって、タケルちゃんが軍人になったのは去年の1月の中頃。
けど、篁さんがタケルちゃんと出会ったのは、去年の2月の始め---
その頃既に中尉だったと聞いて、疑問は大きくなる。
だって、タケルちゃんは私には『今はまだ訓練兵だけどな』と語ったからだ。

最初は例によって、香月先生の仕業だと考えたけど、やはりおかしかった。
だって、僅か1ヶ月で衛士になる事なんてムリだし、例え出来たとしても、そんな素人当然なタケルちゃんが役に立つとは思えなかった。


けど---現実は違った。


去年のタケルちゃんの誕生日の日---
タケルちゃんと同じ部隊の五十嵐少尉の話だと、タケルちゃんが部隊に入隊したのは去年の1月の中頃。
これは以前、タケルちゃんが電話で『訓練兵に入った』と連絡を入れた時と重なる。
つまり、タケルちゃんは私に『嘘』をついた。


最初は少しショックを受けたけど、タケルちゃんが私に『嘘』をついた『理由』を考えた
結果は『私にも話せない事だったから』と考える。
そして、それに香月先生が関わってると考えれば納得する。
だって、タケルちゃん嘘を隠すのヘタだからね。


『嘘』ついた事は良い。
けど、タケルちゃんが『衛士として活躍』するのは、幾らなんでもおかしかった。

去年の7月に起きた『本土侵攻戦』---
タケルちゃんは大活躍をし、『白銀の守護者』なんて呼ばれるぐらい有名人になった。
そして五十嵐少尉の話だと、タケルちゃんは入隊初日から『天才衛士』として、『凄腕』だったと話してた。


これだけは、ど~しょうもないぐらい謎だった。
私とずーっと一緒に居たタケルちゃんが、入隊初日から凄腕衛士だったなんて、信じられなかった。
けど、私が訓練兵に入隊し、宗像さんが『お仕置き変態全力機動』を受けた時に『事実』だと知った。


ずーーーっと、解らなかった謎が、今やっっっと解けた。


今のタケルちゃんは、複数の『違う並列世界のタケルちゃん』と同化して、結果身体も大きくなって、『衛士だったタケルちゃん』が同化した為、『凄腕の天才衛士』になった。
………こうして纏めると、今のタケルちゃんって…………かなり反則だよね……。


けど、タケルちゃんの体験した悲劇は、壮絶で…残酷で…地獄だった。


一般人だったタケルちゃんは、香月先生に拾われて、神宮司軍曹に鍛えられた『教え子』だった。
タケルちゃんが神宮司軍曹を、あれほど尊敬する理由が、少しだけ解った…。
そして、2001年・12月25日---
この日、『オルタネイティヴ5』が発動し、人類は地球を放棄し、10万人だけが、宇宙へと逃げ、残った人類でG弾を使った最終決戦を挑んだ---


その際、タケルちゃんは私じゃない『恋人』を宇宙へ逃がし、『永遠の別れ』を体験する。
そして、それから数年後---タケルちゃんは死んで『二度目の世界』へとループした。


けど、『二度目の世界』は、タケルちゃんにとって、残酷な体験だった。

自分が『歴史』を変えた為に、『大切な人達』が大勢亡くなった。


神宮司軍曹・伊隅大尉・柏木少尉・速瀬中尉・涼宮中尉・榊少尉・珠瀬少尉・彩峰少尉・鎧衣少尉
……そして冥夜に…………私。


タケルちゃんは、みんなを救えなかった事に後悔していた----
タケルちゃんは、冥夜を自分の手で殺めた事を悔やみ、悲しんでた----
タケルちゃんは、『脳髄の姿』だった『人間の鑑純夏』を結果、殺めてしまった事を--
『00ユニット』へと姿を変えた『カガミスミカ』を愛し、結果…守れなかった事を絶望していた---


……今のタケルちゃんがボロボロな状態で戦ってるのを知って、悲しかった……。

大切な人達を守る為に、この世界で命を全うする事を選んだ。
そして、大切な人達を守る為、毎日可能な限り、訓練をして強くなっていた。


「タケルちゃん……」

今、自分がとっても恥ずかしく思う。
私が訓練兵になった理由は『タケルちゃんと一緒に居る為』
けど、タケルちゃんの戦う理由は『大切な人達を守る為』


自分はなんて軽い気持ちでいたのだろう…
あのタケルちゃんが、ボロボロになっても、前へと懸命に進んでるのに……
今、自分がとても情けない気持ちで一杯だった。

あの日---
私がシミュレータールームにタオルを忘れた日…
タケルちゃんが私達に『覚悟や責任』の話をしてくれた日--
タケルちゃんの後ろ姿がとても寂しい姿だったのを覚えてる…。

あの姿を見てから、私は『強くなろう』と決めた。
香月先生に頼んでみると、『零型特殊強化装備』を貰い、始めて真剣に『強くなろう』と訓練をした。

『零型特殊強化装備』を使った感想は凄かった!!
操縦桿を動かさなくても、戦術機が自由自在に操れたんだよっ!!
『歩くイメージ』をすれば歩くし、
『跳ぶイメージ』をすれば、ジャンプユニットを噴射して跳ぶから、スッゴいよ!!


けど…『スミカ』に出会って解ったけど、『零型特殊強化装備』の本来の姿は『00ユニット』という人間の姿をした『機械人間』だった…
そして、『スミカ』は『脳髄の鑑純夏』から『00ユニット』にコピーした姿が『00ユニット・カガミスミカ』だった。

多分…予想だけど、タケルちゃんが香月先生に頼んで、『零型特殊強化装備』を作って貰ったのかもしれない…。
私を『人間の鑑純夏』でいられるように…


そして、スミカは私にお願いをして来た。


『タケルちゃんを助けてあげて---
そして…『幸せ』にしてくださいっ!!』

今までツラい日々を過ごして来たタケルちゃんを『救って欲しい』とお願いしてきた。
そんな事当たり前だよっ!!
鑑純夏にとって、タケルちゃんは大切な人であり、『半身』なのだから。

だから私はスミカに答える。

「任せてッ!!
今まで辛かった事や悲しかった分以上に、すっっっっごく幸せにするんだからっ!!」

『ウン…ありがとう。』

涙を流しながら感謝するスミカ。
……うん、やっぱりスミカは『人間』だよ…。
身体は機械でも、中身(ココロ)や想いは人間だよ。


その後、今回の世界のタケルちゃんの話をすると、スミカはすっっごく複雑そうな顔になる
……気持ちは凄く解るんだけどね。


特に『白銀ハーレム計画』の話を聞くと、スミカは『ふぁんとむ』を放ちそうな程怒っていた。


『……タケルちゃん…
ちょ~~~っと、オシオキしないと駄目みたいだね…。』

「…香月先生のせいでもあるから、『ぱんち』で許してあげて…。」

『フフフ…00ユニットバージョンの『どりるみるきぃふぁんとむ』を喰らわせてあげるからね…☆』


…駄目だ…
タケルちゃん……今回は助ける事は出来ないよ……

戦場で戦ってるタケルちゃんに、謝罪の言葉を心で伝えるしか出来なかった私…


『そうだ、純夏にもう一つ『お願い』があるんだ。』


「お願い?」


スミカの『もう一つのお願い』を聞いて速攻でOKを出す私
言い出しっぺのスミカも、その速さに『はやッ!!』と驚いた程だ。

そして、『もう一つのお願い』を聴いた後、私は『あの場所』に向かい、タケルちゃん達を見つける。
そして、スミカと『一緒』に力いっぱい声をかける。



『「タケルちゃん!!
返事をして、タケルちゃんッ!!」』


そして、タケルちゃんが居る突入部隊が進軍を止めて天井を見る。
蒼白く光る複数の『脳髄の柱』の中央から、『私達』はタケルちゃんの下へと降りて行く…。



純夏side end




『「タケルちゃん!!
返事してよ、タケルちゃん!!」』


「す…純夏…!?」


タケルは今、混乱していた。
見上げる視線の先。
其処には『蒼白く光る脳髄の柱』が有る

別にタケル自身は『其れが此処に有る事』は知っている為、多少驚きはしても、それは当たり前の事。

しかし---
流石に其処から純夏が裸でゆっくりと降りてくれば、話は別問題だ。

「す、純夏!!?
っていうか、何故裸で浮いてるッ!?」

最初は歴史通り、BETAに捕らわれ、脳髄の柱の中にいるのかと『恐怖』したが、即座に『裸の純夏』を見て、安心&混乱が同時にやってきて、只今タケルの頭の中はパニクっていた。


すると、タケルの搭乗する不知火・改に『透き通る』ように侵入して、タケルの下にやってくる。
そして、純夏が侵入したと同時に通信を切るタケル


『タケルちゃん、無事で良かったよぉ~~』

「純夏…何故此処に…?
っていうか何故裸なんだ!!?」

『ほえっ?
……うわぁぁぁぁぁっ!!!!?
ななななな…何で裸になってるの、私っ!!?』

「気付けよっ!!」


裸だった事に気付いてなかった純夏
タケルに言われて気付くと、アワアワと慌てて恥ずかしい場合を隠しながら、座席の後ろに隠れる。


『ううっ……タケルちゃんに思いっきり見られたよぉ…。』

「……………はぁ…。」

溜め息をして呆れ顔になるタケル
それでも純夏が無事な事を知り、少しだけ安心する。


「どうすんだよ、お前。
みんなにモロ見られてたぞ?」

『あわわわ…』

タケルの一言に不安になる純夏だが---


『大丈夫だよ、タケルちゃん。
『私達』の姿は、タケルちゃんにしか見えないから☆』


「へっ?」

『本当っ!?
ハァ~~…良かったよぉ~…。』


『もう一つの純夏の声』が聞こえ、戸惑うタケルと、一安心する純夏


「……何が起きてるんだ、純夏?」


『…落ち着いて聴いてね、タケルちゃん…』


混乱するタケルに詳しく説明する純夏


『今、私は『肉体』から離れて『魂』だけが此処にあるの。
香月先生風に言えば、『精神』って言えば通じるかな?
そんな状態の私に『もう一人のスミカ』が『憑依』してるの。』


「もう一人の純夏…まさか…!?」


『うん、タケルちゃん風に言えば『二度目の世界に居た鑑純夏』だよ。』

「なっ…!?」


流石に驚くタケル
そして、純夏の説明は続く。


『今の私と『スミカ』は『同化』に近い憑依してて、まあ…『二重人格』に近い感じになってるの。
だから、今の私は『鑑純夏の本体』に『00ユニット・カガミスミカが居候』してるような状態なの。』


「は、ハァァァッ!!!?」

あまりの出来事にさっきより混乱するタケル


「…マジっすか………?」

『うん、本当』

「なんてお約束なんだ…」

『タケルちゃんには言われたくないよ…』

余りの出来事に、驚きをブチ抜いて、呆れるしかない二人(三人?)


「まぁ…先生に連絡を入れるか…
純夏が此処に居るって事は、『本体』の方は倒れてるだろうからな。」

『みんなに迷惑かけちゃったな~…』

『御免ね、純夏』


この事を連絡を入れようと通信を入れるタケル
それからしばらく経ってから、秘匿回線で香月博士と通信を始める。


『無事で何よりよ、白銀
やっと『脳髄の間』に到着したみたいね。』

「ところで先生、純夏に異変無かったですか?」

『なっ、なんでアンタが知ってるのよ!?』

突然のタケルの質問に珍しく戸惑う姿を見せる香月博士


「いや…純夏の奴…今此方に居るんですよ…」

「……………………………………………………ハァ?」

「うーんと…『精神だけ』こっちに居るんですよ、
ぶっちゃけると、『純夏のユーレイ』みたいのが、此処に居るんですよ。」

『……………アンタ、頭大丈夫?』

「酷ッ!?」


タケルの一言で唖然とする香月博士
本心で思った事をサラリと口にする。


『タケルちゃん、ちょっとまってて。』

「えっ?
何するんだ、純夏?」


するとスミカは操縦席のパネルに手を据えだす


『香月先生~♪見えますか~?』

『か、鑑!?』

すると、香月博士側のモニターに小さな動画の中にスミカが映る

『今、タケルちゃんの戦術機のコンピューターをちょこっとハッキングして、香月先生『だけ』に見えるようにしたよ。』

『ハ、ハッキングって、どういう事…?』


戸惑う香月博士に詳しく説明をするスミカ
すると、深い溜め息を吐いて呆れ顔になる。


『まったく…呆れるしかないわ…
まさか、『二度目の世界の鑑純夏』までこの世界に来るとは…』

『えへへ…』

『とりあえず…鑑、アンタは『00ユニット』としての能力を持ってるの?』

『うーんと、一応『ある程度』は持ってます。
リーディング・プロジェクション・ハッキングは使えます。
リーディング・プロジェクションは霞ちゃんよりは劣ってる状態ですけど、先生が創った『零型特殊強化装備』を改良してくれれば、完全な力で使えると思います。
ただ、ハッキングだけは、『零型特殊強化装備』無しでは使えません。
今回のハッキングは私が『精神体』だったから出来たけど、『肉体を持った状態』じゃ使えないです。』

『リーディングとプロジェクションに関しては、後々なんとかするつもりだったから安心なさい。
ハッキングについては、『量子伝導脳』を持ってないから仕方ないわ。
大体にして、量子伝導脳自体、この横浜ハイヴの反応炉を手に入れなきゃ完成出来ないもの』


『えっ!?
それじゃあ、零型特殊強化装備は!?』

『そうよ、あれはまだ『未完成』なの
横浜ハイヴを攻略し、反応炉を手に入れなきゃ零型特殊強化装備も完成しないわ。』

『そっかぁ~…なら絶対に反応炉を手に入れなきゃ!!』


香月博士の色々な質問を答えるスミカ
すると、『脳髄の柱』を調査していた部隊が帰還して来た。


「先生、『脳髄の柱』を調査していた部隊が終えて帰って来ました。
これから進軍を再開します。」

『わかったわ。
鑑、帰って来たら色々話があるから、白銀と一緒に無事に帰還しなさい。
それまでは、白銀を出来る限りサポートでもしてあげなさい。』

『『了解♪』』

戦闘中とはいえ、タケルと一緒に居る事が出来、嬉しさをみせる二人の純夏
そして、タケルの膝の上に座り込む。


『『タケルちゃん、いこうっ!!』』

「おう!!」


ペダルを踏み、噴射跳躍をして進軍を再開するタケル達突入部隊
希望を目指して、反応炉がある最深部へと向かうのだった…



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第四十二話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2011/01/02 12:47
『脳髄の間』から三十分後・最深部---


「ウォオォォォォッ!!」

限られた空間内で飛翔し、突撃級・要撃級を撃破していくタケル
『反応炉の間』も近い為、可能な限り殲滅していく。

『タケルちゃん、『反応炉の間』まで、あと600!!
反応炉の周辺にもBETA反応は多数有るよっ!!』


そして、『2人の純夏』のサポートもあり、タケルは戦闘だけに集中出来、いつもより鋭い動きで戦えていた。


『スミカ』がタケルの強化装備にある程度ハッキングし
『スミカ』を通して『純夏』が周辺の戦域情報や分析を行い、タケルをサポートしていた。

その為、強化装備を装備していると同等となり、『純夏』にも映像や戦域情報を確認出来、サポートを可能としていた。


タケル曰わく、『俺以上にチートだな…』らしい…


「純夏ッ!!」

『『何?』』

「…いや、2人共じゃない
ええぃ…!!2人共『純夏』だから、ややこしいなっ!!」

『『しょうがないぢゃんっ!!』』


……欠点といえば、2人共『純夏』な為、呼ぶ時2人共反応してしまう事だった。


「こうなったら…『今の世界の純夏』は『純夏1』
『二度目の世界の純夏』は『純夏2』だっ!!」


『エエッ!!
嫌だよぉ~…そんな呼び方~…』

『なんか『その他大勢A』みたいな呼び方になってるよぉ~…』

「じゃ、『どりるみるきぃ1・2』だ」

『『却下ッ!!』』


グダグダと話をしつつも、戦闘には影響は無かったりする。

「仕方ねぇな、今は『α-1』『α-2』で我慢すれっ!!」

『しょうがないな~…
今はそれで手を打ってあげるよ。』

『次はちゃんとしたコールネームを考えてね。』


仕方無しに今回は『2人の純夏』を『α-1』『α-2』で呼ぶ事になった


「凄いや…
ついて行くのが、やっとだよ…」

「なろぅ…また腕を上げやかって…」


タケルとエレメントを組んでいた駿は驚きながらも、タケルに必死に着いて行き、孝志も闘志を燃やしながらも、タケルと競い合うように戦う。
だが、実際は『二人の純夏』のおかげで戦力アップしただけである。


「タケル、随分と動きがいいな?
まるで制限が無くなったような動きをしているぞ?」

「まあな、理由は基地に帰ってから教えるよ。」

「なる程。
ならば必ず生きて帰るぞッ!!」

「オウッ!!」

(全く…何か隠してるな…?)

冥夜から通信が入り、質問されるが、真実を今話す訳にはいかない為、誤魔化す
だが、冥夜には誤魔化してる事はバレバレだった。


「タケルッ!!反応炉までどっちが早くに到着するか勝負だッ!!」

「望む所ですよ、孝志さん!!」

すると、孝志が部隊の士気を底上げを狙い、タケルに勝負を挑む。
事実、前回の『本土侵攻戦』の時もタケルに勝負を挑み、部隊の士気を上げていた。

「ちょーーっとまったぁっ!!
その勝負、私も希望しますっ!!」

「水月!?」


そしてやはり水月がタケルと孝志の勝負に参戦を申し出る。


「…やはり名乗ったか…」

「ほほぅ…ヴァルキリーズ代表は新人少尉か…」

「…………………ハァ…やはりか…。」


水月が名乗る事を予想していたタケルとみちる
そして水月に興味がある孝志


「タケルの教え子であり、未来のヴァルキリーズの突撃前衛長候補が参戦か…面白くなってきたな…」

「ならば、私も志願します。」

「冥夜もっ!?」
「冥夜様!?」

水月が志願した事により、冥夜の闘志にも火が着いた。
流石に是にはタケルや真那も驚く。
そして---


「ならば、第16大隊代表は俺がいかせて貰うよ。」

「兄貴ッ!?」

予想外にも崇宰当主・隼人まで志願して来た
弟・孝志もこの事には驚きを隠せないでいた


「ハハハッ…なんか贅沢なメンバーになったなぁ…」

「…流石にこれは予想外…
兄貴まで参戦するとは俺も思ってもいなかった…」

苦笑いをするタケルと孝志
そして、タケル・孝志・隼人・冥夜・水月&遙の機体が横一列に並ぶ。


前方には、第2波としてやってくる突撃級の軍勢---
合図も無く、突撃級との距離が300を切った所で、一斉にスタートする!!


白銀・紫・青・水色とカラフルな不知火・改が同時にスタートするが、やはり先頭は機体性能の差でタケルがトップ
そのすぐ後ろに冥夜・孝志が、更に僅か後方には水月&遙と隼人が続いていた。


そして、突撃級と接触すると、水月&遙が上がって来て、冥夜・孝志の二人を抜く


(ヌゥ…!!
流石は速瀬中尉か…
タケルに教わったおかげで、あの頃の速瀬中尉には及ばないが、機動に関しては、向こうが上か…!!)

尊敬すべき突撃前衛長の姿を思い出す冥夜
あの頃の実力には及ばないが、その後ろ姿は、かつて見続けてきた後ろ姿だった。

「流石はタケルの教え子じゃねぇか!!
機動がそっくりだっ!!」

「当たり前ですッ!!
私は白銀中尉の一番弟子ですよ?
これぐらい出来なきゃ、恩師の顔に泥を塗る事に等しいですから…って邪魔よッ!!」


『教え子』として、負けられない水月
水月を支えるように、遙が的確なサポートで支援する。


しかし、徐々に水月&遙の不知火・改の横に冥夜機・孝志機が並び、拮抗していた。

「クッ…流石は現役の突撃前衛長か…
けど何故御剣少尉まで!?」

「油断しましたな、速瀬少尉
タケルに教えを受けたのは貴女だけではないと言う事です。」

「なっ、なんですってッ!?
まさか…御剣少尉もっ!?」


驚愕する水月
だが、真実はちょっと違うのだが、『嘘は言ってないぞ…多分』と心の中で呟く冥夜


冥夜の場合は、『二度目の世界』でタケルの機動特性のデータを参考にして訓練した事や、タケルとエレメントを組み続けた結果、メキメキと冥夜の機動特性も成長し、タケル寄りな機動になったのだ。
それに、一応一緒に訓練し、あれこれ教えて貰った事も多少はあるから、一応嘘はついてない…とちょっと複雑そうに思う冥夜


三人が互いに奮戦していると---
三人の頭上から、『蒼い影』が横切る。


「あ、兄貴ッ!?」

「御苦労様、孝志
兄の為に『道』を三人で作ってくれるとは…感謝する。」

「し、しまったぁぁっ!!」


三人の頭上を倒立反転で超え、三人が奮戦した結果出来た『空間』に着地し、一気に三人を抜いてタケルの背後まで迫る。

「流石は孝志さんのお兄さんですね。
三人を利用して、一気に抜き去るなんて…」


「一応突撃前衛長だからね。
それにこれぐらい出来なければ、戦場では生き残れぬよ。」

「確かに。」


苦笑しながら隼人の言葉に同意するタケル
すると、『反応炉の間』の入口近辺で、津波のような突撃級の突進攻撃が来る!!

「やれやれ…反応炉直前でこの数とは…」

「恐らく別ルートの道から反応炉に通じる道を通ってきたんでしょう。」

前方に映る突撃級の大群にも怯まない態度でいるタケルと隼人
左右に分かれて、各々の道を通る。


「クッ…流石にこの数の隙間を探して進むのは無理か…?」


最初の第一波の突進を倒立反転と噴射地表面滑走で回避したのち、突撃級の頭上を超える高さを保ちながら水平噴射跳躍で抜けようと試みる隼人だが、
突撃級を回避したのち、水平噴射跳躍をした所、要撃級が天井から『落下』し、隼人の進路を邪魔する


一旦滑空砲で着地出来る空間を作り、再び来る突撃級の攻撃を回避すると、背後から要撃級・戦車級の『偽装横坑』スリーパードリフトをされるが、辛うじて要撃級の奇襲を回避する。


「是では単独で先には………な、何ッ!?」


その時、隼人は我が目を疑う。



「それっ!!」

突撃級を回避したのち、隼人と同じように水平噴射跳躍で進行するタケル。
しかし、天井から降ってくる要撃級を撃退しながら着地する際、既に床に降りた要撃級の背中や突撃級の頭上を『足場』として先へと進める。


『足場が無いなら、作ればいい』

その考えは皆同じだったが、タケルに至っては、中身が少し違った。


『BETAを足場にする』なんて考えを思いつく奴は居ないだろう。
『死骸となったBETA』ならまだしも、『生きて動いてるBETA』を足場にしようなんて、危険過ぎて誰も考えない。


だが、タケルにしてみれば、危険はどこに居ても同じ
戦場に安全な場所など無いのなら、『生き残れる可能性』を優先すべきだと考える。


タイミングを間違えれば、『死』に繋がる
しかし、そんなリスクの高いからこそ、『活路』は見えて来る---!!


「イグニス10、反応炉に一番乗りを果たしました。」

「良くやった、イグニス10
先に反応炉周辺のBETAを一掃しろっ!!」

「了解ッ!!」


『反応炉の間』に到着したタケル
その報告を椿に伝えると、反応炉周辺の一掃を命じられる。


「邪魔だ、お前等ッ!!」

反応炉にへばりついてるBETAを突撃砲で撃破していくタケル
反応炉に傷つけないように単発撃ちでBETAを仕留めていく。


「白銀中尉ッ!!今お供しますっ!!」

「タケル、今行くぞッ!!」


すると、少し遅れて冥夜・水月&遙の二機がやってくる
そして、タケルの左右に並び、次々とBETAを撃破していく。


「……良いのか、孝志?
勝負に負けてしまったぞ?」

「いいんだよ、勝負より兄貴の方が大事だからよ。」

そして、反応炉の間入口周辺で、要撃級を掃討していた孝志と隼人
元々隼人はタケル達を守る為に勝負に参加し、ワザと後方に着いていた
一度、孝志達を抜いたのは、単騎のタケルを守る為
しかし、タケルの機動を見て『とりあえず大丈夫だな』と判断し、再び孝志達の護衛に回る
それを途中で見抜いていた孝志は、兄・隼人を守る為に勝負を捨て、隼人と共に入口周辺を死守していた。


「フフ…相変わらずだな、孝志
さて、久しぶりに二人で崇宰家の二刀を披露しようではないか」

「良いねぇ。
崇宰の二刀は日の本と民を守護する剣
しかし、BETAにとっては生を刈り取る死神の一撃…」


「「我等崇宰の剣で散るがいい、BETAよっ!!」」

孝志機と隼人機の二機が二刀流となり、反応炉へと引き返して来る要撃級を斬り刻む!!

お互いの背中を守るように背を向け合い、要撃級の首や前腕部を斬り落とす。


「まったく…相変わらずね、孝志」

「椿!?」


すると、孝志達のそばに、椿率いる第17大隊が到着し、参戦する!!


「イグニス1からイグニス各機へ。
我々は日の本の『篝火』として道を照らす存在
第16大隊や国連軍を安心して反応炉まで辿り着けれるように、『影』となるBETAを殲滅し、道を照らすのだっ!!」


「「「了解ッ!!」」」


「イグニス10とイグニス26(冥夜)は、そのままヴァルキリー5(水月)と共に反応炉にへばりついてるBETAの掃討。
それが終わったら、ヴァルキリーズとオーディン隊が守護する輸送隊を護衛しつつ、反応炉を死守せよ」


「「了解ッ!!」」


椿の指示に従い、各自自分の役目を果たす為、配置に着き、BETAを殲滅する!!

「まったく…次から次へと…邪魔よッ!!」

「ムゥ…!!
是ではキリがない…!!」
しかし、反応炉に繋がる複数ある道からBETA達がウジャウジャと湧いて出て来る事にイライラする水月
流石に三機だけでは殲滅が難しいと判断する冥夜は、苦痛な声を放つ


すると---


「コラァッ!!何弱音を吐いてるかぁっ!!!
貴様、それでも衛士かぁっ!!」


「「ッ!?」」

ビクンと反応する水月と冥夜
その前方には、『猟犬』のように現れ、BETA達を次々と刈り取っていく一機の不知火・改


シンボルカラーと部隊マークを見てヴァルキリーズと判断するが、その強さに圧倒される。


「この程度で弱気になるとは情けないぞ、速瀬!!
貴様帰ったら特別に扱いてやるっ!!」


「神宮司軍…じゃなかった、大尉!?」

水月&遙機と冥夜機を守ったのは、A-01の『母』にして、恩師であるまりも

恩師の喝を聞いて反応する三人
まりもの声を聞いて、気を引き締め直す。


「隊規を忘れたのかっ!!
貴様はそれで死力を尽くして任務にあたってるのかっ!!
その程度で最善を尽くしてるのかっ!!
この程度で犬死になるつもりかぁっ!!」


「「--ッ!!」」


ヴァルキリーズの隊規を思い出す三人
先程までの自分達がそれを反してる事を悟る。


「情けないな、水月
もうへばったか?」

「だ~か~ら~不安だったんだよな~…」

「孝之、慎二!?」


そして孝之と慎二の参戦に水月の闘志に更なる火が灯る!!


「怖いなら、其処でジッと--「ふざけるんじゃないわよ!!
アンタ達こそ、足を引っ張るんじゃないわよっ!!」……ハァ…やっとらしくなったか…。」


更に孝之が挑発するが、水月の闘志が大爆発を起こし、本来の水月『らしさ』を取り戻す。


「なら、サッサと反応炉にへばりついてるBETA達を殲滅して、その証明を見せてくれ
出来なかったら『口だけ』って事になるぞ?」

「孝之、アンタ絶ッッッッ対に泣かすッ!!
覚えて起きなさいよッ!!」

ブツンッ!!と通信を切る水月
その様子を見て、やれやれ…と溜め息を吐く孝之と慎二


「流石は鳴海と平だ。
速瀬の士気を取り戻すとは、関心したぞ。」

「いつもの事ですよ、神宮司大尉」

「訓練兵の頃に嫌って程体験したからね」


孝之と慎二の言葉に『確かに』と苦笑いするまりも
その後直ぐに輸送隊を護衛していたヴァルキリーズ・オーディン隊も合流し、輸送隊が反応炉に装置を設置しだす。


「輸送隊が反応炉に装置を設置し、起動するまで絶対に死守するのだっ!!」


「「「了解ッ!!」」」


そして、最後に合流した第16大隊の大隊長であり、突入部隊の隊長である伊織が、突入部隊全員に指示を出す!!



あとがき---

明けましておめでとうございます、騎士王です。

やっと反応炉に到着しました。
予定では、あと1・2話で明星作戦を終了する予定です。


その後は簡単な設定(オリジナルキャラの設定等…)を書く予定です
…………もしかすると、外伝でヴェナ太郎再び出るかもしれない…



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第四十三話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2011/01/08 23:45
「お前等邪魔なんだよっ!!」

「この日本から…出ていけッ!!」


崇宰の剣を振るい、幾多の屍の山を作る孝之機と隼人機
数百という残骸の中心に『修羅』は存在していた。


「あんまり無茶は駄目よ、孝志…
私達だって、居るのだからあてにして欲しいわ」

「椿…ワリィ…」


少し後方で椿機と沙耶機が戦いながら、孝志機と隼人機に近づく
不安そうな椿の表情を見て、素直に謝る孝志
すると、会話に参加する沙耶がいた。

「孝志様…お気持ちは判りますが、椿様の事もお考えになって下さい。」

「沙耶まで……………ゴメンナサイ、そんな怖い笑顔は止めて下さい。」

………もの凄く不機嫌だった。
笑顔で黒いオーラを放つ沙耶の姿が、モニターに大迫力で映っていた…。

「………………(ガクガクプルプル)」

「あの…言い難いのだが…
沙耶殿…タケルが震えているぞ…。」

「えっ…………タ、タケル!?
いえ、是はタケルにではなくて…!!」


その恐怖の笑みを見てしまったタケルは、器用にも戦術機ごとプルプルガクガクと震えていた事を冥夜が報告。
それを知った沙耶は慌てて黒いオーラを解き、『ち、違うんです、タケルッ!!』…と謝る。


「設置状況はどうだ?」

「反応炉に装置を全て設置する事が出来ました。
現在、反応炉と装置を接続して起動するだけです。」

「そうか…
クレスト1から全ての部隊へ
是より装置を接続する作業に取りかかる。
四つある通路から現れて来るBETAを殲滅し、反応炉及び装置を絶対に死守するのだっ!!」

「「「了解ッ!!」」」


伊織の指示に全員が気迫を込めて返答する。


「オーディン5(孝之)フォックス3!!」

「オーディン7(慎二)フォックス3!!」

「ハアァァァッ!!」


まりもが長刀で要撃級を斬り裂く中、まりもに迫って来る戦車級や突撃級を孝之と慎二が突撃砲や滑空砲で次々と撃破し、援護する。


「やるじゃない、新米共。
いいか、ヴァルキリー0(まりも)は我等の『母親』だ。
その花道を作るのは、我等『子供』の作業だ。
今まで育てて下さった恩義と成果を見せてやれっ!!」

「「「了解ッ!!」」」


そして、まりも・孝之・慎二に碓氷大尉率いるオーディン隊が参戦し、まりもの援護にまわる。

「もう…少し言い過ぎよ、碓氷。
そんなに私を感動で涙を流させたいのかしら?」

「いえ、しかし私は伊隅大尉と同じく最古参の『子供』です。
『子供』が『親』に親孝行をするのは当たり前かと?」

「相変わらず口は上手いわね、碓氷
…けど、『親』として、その気持ちはとても嬉しいわ。」


まりもの隣りに碓氷大尉が並び、共闘する
碓氷の言葉に涙を少し滲ませるが、拭い取り、素直な感想を碓氷に告げる。


「さぁ、後ろで援護をし続けてる『子供達』の為にも、頑張るとしますか。」

「お供します、神宮司大尉」

「俺も行きます」

「連れてって下さいよ、『教官』」



笑みを浮かべながら、先頭に立つまりも
その隣りに碓氷が並び、エレメントを組み、
孝之・慎二、そして他の『子供達』が後に続く


「よし、着いて来い!!
楔参型(アローヘッド・スリー)で反応炉と装置を死守するぞ!!」


「「「了解ッ!!」」」


まりもとオーディン隊が楔参型(アローヘッド・スリー)に陣形に変え、反応炉に迫って来るBETA達を殲滅していく


そして、反応炉で防戦をして10分後---


『反応炉に接続を完了しました!!
後は装置を起動するだけです!!』


「良し!!良くやった。
早速装置を起動して、反応炉を停止させるのだ。」

『了解ッ!!
是より装置を起動します。』


遂に装置を接続する作業を終えて、伊織に連絡する作業班
伊織は早速装置を起動するように指示を出す。


すると、反応炉から放たれていた蒼白い光が弱まり、遂に光が消える。


それと同時にBETA達全ての動きが停止し、反応炉に顔を向ける。


『反応炉、停止しました!!
作戦は成功ですっ!!』


「良くやった!!
是より反応炉周辺にいるBETAの殲滅作業に移る。
我々第16大隊とヴァルキリーズは反応炉を防衛し、第17大隊とオーディン隊は反応炉周辺のBETA殲滅を命ずる!!
イグニス10・イグニス26・ヴァルキリー5は遊撃として、各部隊のサポートをせよっ!!」

「「「了解ッ!!」」」


「紅蓮大将、済ぬがオーディン隊と一緒に殲滅作業に向かって下さぬか?」

「わかりました。この紅蓮、BETAを蹴散らしてみせましょう!!」

「頼む。」

「ハッ!!」


伊織の指示に従い、紅蓮大将がオーディン隊に加わり、反応炉周辺のBETAを殲滅作業に参加する。


「ウオォォォォォォッ!!!
我が無現鬼導流の剣、見るがいいっ!!」


まりもや碓氷大尉の前方に着地し、『鬼神』と化した紅蓮大将が問答無用にBETAを一閃していく!!


突撃級が攻めてくれば、脚を片側斬り落とし、または強固な装甲殻と剥き出しの肉体の繋ぎ目を狙い、両断する。
要撃級には、頭部から身体ごと、文字通り縦に『一刀両断』し、真っ二つにしたり、前腕部を斬り落としたのち、蹴り飛ばして壁に叩きつけたりと『鬼神』のような戦いを見せる。


「これが帝国斯衛軍の『鬼神』の力…!!」

「……絶対に敵には回したくは無いですね…。」

紅蓮大将の後方で戦っていたまりもと碓氷が、素直な気持ちで感想を口にする。

紅蓮大将の参加によって、まりもや碓氷達オーディン隊が戦うBETAの数が『三割』減っていた。


単騎で三割---
あくまでも突撃級・要撃級のみの数だが、それでも今攻めて来てる数を鑑みれば、その『三割』という言葉は脅威だ。


「…わかったでしょう、神宮司大尉
俺が以前『紅蓮大将や神野大将に勝てる日が来るのかなぁ~…』って…
この二人に比べれば、俺なんかまだまだ卵の殻を頭に被った雛(ひよこ)に過ぎません。
今の紅蓮大将と戦えば、間違いなく負けますし、中破判定すら危ういですよ。」

「……今、その言葉の意味を知ったわ…。」


すると、タケルが通信に参加してくる
あのタケルでさえ、今の紅蓮大将には足元程度しか及ばない--
まりもやオーディン隊は紅蓮大将の強さに息を呑むしかなかった。


すると---


「紅蓮大将、勝負ですっ!!」


「「「ハッ?」」」

「水月!?」

水月が突然紅蓮大将に勝負を叩きつけて来た。
その出来事にまりもやオーディン隊のみんなは、頭が真っ白になり、巻き添えを喰らってる遙は水月の暴走(?)に戸惑い、涙を流していた。


「ほほぅ…ワシに勝負を挑むとは…流石は白銀の教え子…
その度胸だけは誉めておこう。」

「私は強くならなくちゃならないんです。
大切なみんなや尊敬する人達を守る為にっ!!
その為には…紅蓮大将、アナタを『踏み台』として乗り越えてみせるッ!!」

水月の爆弾発言に驚愕するまりも達
しかし、当の紅蓮は大笑いをしながら誉め讃えていた。
「ガーハッハッハッハッ!!
その心意気良し!!気にいったわ!!
その素直な気持ちに免じて、お主の勝負受けて立つ!!」

「ありがとうございます!!」

「では、勝負は簡単。
反応炉周辺のBETAが居なくなるまで、突撃級・要撃級の撃破した数で決めるぞ。」

「了解ッ!!」


またもや勝負が始まり、タケルやまりもの頭を抱える事となる。

「ヌウゥゥゥン!!」

「クッ…まだまだよっ!!」

長刀や拳を操り、BETAを粉砕する紅蓮大将に対し、水月はタケル直伝の機動を操り、的確な攻撃を繰り出す。


水月機に迫って来る突撃級の攻撃を噴射地表面滑走で円を描くように回避したのち、背後から長刀で斬り裂き、背後に居る要撃級を背面飛びするような状態で攻撃を回避し、回避中に担架に装備している突撃砲で撃退する。

新人少尉とは思えない活躍をする水月だが、その遥か前方では、紅蓮大将の機体・瑞鶴改・烈火がBETAの屍の道を作り続ける。

「ハッハッハッ!!先程の勢いは何処へ行った?」

「クッ…これから逆転してみせてやるッ!!」

「その意気だ!!」


懸命に戦う水月だが、やはり紅蓮大将には適わず、倍近い差をつけられる結果となるが、水月に悔いは無かった。
同時に紅蓮大将も口にはしないが、水月を評価する。


反応炉を停止して十分後---
反応炉周辺にいたBETAは、反応炉停止と共に退却し、現在は反応炉周辺の守備に徹していた。


その際、影行達『銀の戦車』シルバーチャリオッツ隊が補給部隊を連れて来た為、タケル隊突入部隊は順番に補給をする。

「随分と早かったな、オヤジ」

「最初の内は戦闘はしたんだが、中階層辺りでBETAとの接触が減ってな
順調に進む事が出来たんだ。」

「けど、他のルートで行った部隊達は、かなりのBETA群と接触してたみたいよ?」


父・影行と母・楓と通信をするタケル
影行達も、BETA群との接触があまりなかった為、かなりのスピードで制圧をしながら、進行をしていた。

その際、補給部隊と合流し、急遽補給部隊の護衛として、タケル達の居る最下層まで進行していた。


「地上部隊の方は、大部分のBETA群が退却した為、ハイヴ周辺は僅かな数だけらしい。
今はその残存しているBETAと、佐渡島ハイヴへ退却しているBETA群の殲滅するのと二手に別れて戦闘が行っている。」

「佐渡島ハイヴか…」


影行から現状の情報を聞き、佐渡島ハイヴの言葉に反応するタケル
自然と操縦桿を強く握り、僅かに表情が険しくなる。

(…絶対にみんな生還してみせる…!!)

あの日の悔しさと無念…
決して忘れはしない---!!


『タケルちゃん…
その時は、私も頑張るよッ!!』

『もう…あの時のような事は…絶対にしないよっ!!』

(純夏…ありがとう…。)


そばでタケルを支える二人の純夏
二人の言葉に勇気づけられ、誓いを一層強くする。


「良し、次は我々が補給の番だ。
白銀大尉、あとは頼みます。」

「了解。
さっ、早く補給を済ませるんだ、タケル」

「わかった
イグニス10、これより補給に入ります。」


椿の指示に従い、補給にまわるタケル
そのそばを影行率いるシルバーチャリオッツ隊やオーディン隊が警戒態勢を引きながら、護衛する。


そして補給が終わったのち、他の部隊がやってきて、反応炉の護衛を変わって貰う。


『サイバー1からクレスト1へ。
済みませんが、今中階層辺りで帝都防衛軍がBETAと戦闘をしている情報がありました。
帰還する途中で援軍に回って貰えないでしょうか?』

「クレスト1了解。
これより、我々突入部隊は、帝都防衛軍の援軍にまわる。
全速力で救助に行くぞっ!!」

「「「了解ッ!!」」」


反応炉の護衛部隊に帝都防衛軍の援軍要請依頼を受けて、帰還する途中に救助に向かう事になったタケル達。


「仕方無いか…約束したしな…。」

「ウム、彩峰の頼みだ。
絶対に救出してみせようぞ」


慧との約束を果たす為に、ペダルを全開まで踏み、全速力で出撃するタケルと冥夜


(沙霧…アンタはこんな所でくたばるタマじゃないたろ…
俺達が着くまで、死ぬんじゃねぇぞ…!!)


複雑な気持ちを抑えながら、沙霧の居る帝都防衛軍の元を目指すタケルだった…



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第四十四話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2011/01/31 21:54
中階層--



沙霧side


「クッ…なんて数だ…!!」

ハイヴ内を順調良く制圧を進めていく我々帝都防衛軍
途中、反応炉停止の報を受け、歓喜に包まれた。
勿論自分も作戦成功に喜びで、全身を震わせていた。


初めてのハイヴ戦、そしてハイヴ内への突入と制圧作業。
どれも初めての事で緊張はしていたが、皆のおかげで未だに自分は撃破される事無く、戦う事が出来た。


その要因のひとつでもある、不知火・改とXM3
XM3は『本土侵攻戦』から使っていたが、不知火・改に関しては、これが初めての実戦使用。
この2つが合わさった力は凄まじく、不知火を操っていた頃では考えられない程の戦力差が有った。

不知火・改は不知火に比べて全体的に向上し、特に機動力に関しては、群を抜く程上がっていた。

正にハイヴ攻略に関しては最適とも言える。
従来より早い時間でハイヴ内を進行出来た事が何よりの証拠だ。

そんな機体にXM3が加わった事で、『鬼に金棒』となった不知火・改
これで日本はBETAによる脅威を振り払えるのではと思える程のものだった。


勿論、そんなに現実が甘くはないのは重々承知。
しかし、この機体に搭乗すると、そう思えてしまうのが心情だ。


モニターに映っている駒木少尉も嬉し泣きをし、涙を流す。
今はこの喜びを味わおう…
そう考えていた時、アラームがコクピット内に響きだす。


反応炉が停止した為、BETA達が退却を始めた様子。
最初は一万程度だったが、徐々に増え続け、最終的には七万まで増え続けていた。


そして現在---
仲間が三人程失い、つい先程駒木少尉が撃墜され、戦闘不能になる。

即座に私の機体に駒木少尉を回収する事に成功するが、駒木少尉は撃墜されたショックで頭に血を流した状態で気を失っていた。


即座に私の機体に搭乗した際、四点式ハーネストで駒木少尉に装着させる。
米製なのは気が癪だが、駒木少尉を救出する事に役立った今だけは感謝する。



部隊を退却をしながら、BETA達を殲滅していくが、現在の武装とBETAの残存数を考えると、絶望的な結果が出て来る。
今ある部隊の武装では、精々二・三万が限度。
しかし、BETAの残存数は未だに五万超


『彩峰准将…みんな…後は頼みます…!!』

「まっ、待つのだ!!」


すると、とある衛士が捨て身覚悟で単騎突入する。
右腕を失い、弾数すら尽きた状態で、BETA群に突撃する



すると--
再びコクピット内にアラームが鳴り響く
内容は…自決装着による警報だった。

『日本がBETAから解放される姿をこの目で見る事が出来ないのが心残りですが…後は頼みます。』

「……ッ!!
済まぬ…貴殿の死は無駄にはしない…!!」


己自身の無力さに悔やみ、唇を噛み締めながら英霊と化す衛士の最期を見届ける。
命を賭した閃光は、数多くのBETAを滅する。


「皆よ…我等の命を救ったあの者の命を無駄にするなっ!!
我等はあの者の分まで戦わねばならぬのだっ!!」

「「「了解…ッ!!!」」」

仲間の死を悲しみを背負いながら、生き残ったBETAの殲滅をする我等。


残った数は一万強
逝った仲間の分まで、我等は戦い続けていた。


しかし、現実というのは無情なモノだ---


『彩峰准将ッ!!後ろ--』

「しまっ---」

彩峰准将の背後に現れた数多の要撃級
数は少なくとも、不意打ちには充分な数
突然の偽装横坑で対応に遅れる彩峰准将


「彩峰准将ッ!!」

身体が言葉より速くに動き、彩峰准将の搭乗する不知火・改に体当たりをし庇うが、代わりに自分が要撃級の一撃を喰らう事になる


「グアァッ!!」

「尚哉ッ!?」


救出した彩峰准将は、即座に仲間達が援護に入る。
……ああ…これで慧が悲しまずに済む。


「沙霧中尉…」

「済まぬな…駒木少尉
貴殿を救う事が出来ん…」

「いえ…お供します…沙霧中尉。」


笑みを浮かべる駒木少尉
どうやら覚悟は決まったようだ。


要撃級の一撃を喰らった為、私の機体は操縦不可能
運悪く一撃を受けた場所が背部だった為、ベイルアウトが出来ない状況だった。
仲間達の通信は壊れてしまい、音信不通
あとは黙って死を待つだけだった。


ハーネストで同乗している駒木少尉を抱きしめ、最期を迎えようとしていた時---
胸部のハッチが強引に開かれる


「大丈夫か!?
今救出するから待ってろ!!」


私と駒木少尉の目の前には---
白銀に輝く不知火・改が存在していた--!!


沙霧side end



「大丈夫か!?
今救出するから待ってろ!!」


危うく要撃級にトドメを刺される沙霧達をタケル達第17大隊が救出する

沙霧機に一撃を入れる筈だった要撃級は、冥夜機が前腕部を両断し、真那機によって撃破された。

そしてタケルが撃墜された不知火・改のコクピットのハッチを開くと---
軽傷の沙霧中尉と駒木少尉が搭乗していた。


(沙霧に……誰?
まぁ…なんとか彩峰の約束を守る事が出来たから、良しとするか。)


流石に中身が沙霧中尉が搭乗していた事は驚いたが、なんとか慧との約束を守る事が出来、一安心する
だが---


「……もしかすると、今…いい雰囲気だったか?
もし、そうだったら………済まない事をした…。」

「な゛っ!?」


タケルは沙霧中尉と駒木少尉の姿を見て誤解をする。
…まあ、タケルでなくとも、男女が抱き合ってる姿を見れば、同じ気持ちにもなる。

タケルの一言に驚愕する沙霧中尉、現在思考が停止する。
駒木少尉に関しては、真っ赤に顔を染めていた。

「ラヴラヴな最中悪いけど………こっちに避難してくれない?」


「ラ、ラヴラヴ!?」

「なんだ尚哉…人が心配してるというのに、駒木少尉と良い雰囲気になっていたのか…」

「誤解ですッ!?彩峰准将!?」


タケルと彩峰准将のオープンチャンネルにパニクる沙霧中尉
『ラヴラヴ』という言葉に、駒木少尉の脳内には、沙霧中尉と一緒に幸せ一杯の妄想が広がっていた。


とりあえず沙霧中尉をタケルの機体に回収し、駒木少尉は冥夜機に回収し、BETAを殲滅しながら退却していく。


「済まないけど、暴れるから覚悟してくれよ。」

「無論だ、遠慮など要らん!!」

「言ったな。
後悔するんじゃねぇぞっ!!」

四点式ハーネストを装着したのを確認してから、タケルは『全力機動』を振るう
その動きに驚愕し、今でかつて無い体験を受けている沙霧中尉は、吐き気を根性で抑えながら、耐え続ける。


(こ…これが白銀中尉の戦術機機動…!!
なんて桁違いの動きだ…!!)


全身あらゆる方角から重力が襲ってくる事に驚愕する沙霧中尉
歯を食いしばりながらもタケルの機動を体験し、学ぶ。


(これがあの『本土侵攻戦』で見せた機動…!!
私にこのような機動が出来るのか…!?)


タケルの機動特性を体験し、今の自分に同じような事が出来るのかを考える。


(……悔しいが、無理だな…
これを覚えるには、今までの事を忘れる…いや『壊す』必要がある)


新OS・XM3に切り替えて、ある程度は出来るものの、やはり固い思考と以前のOSで培った戦闘方法が未だに有る為、タケルの機動は無理と判断する。


タケルの機動を習得するには、一度今までの思考や戦闘方法を『壊す』必要があると沙霧中尉は判断する。

『忘れる』ではなく『壊す』
『忘れる』では、身体に染み付いてる故になかなか『忘れる』事は出来ない
だからこそ『壊す』
簡単に出来る事ではないが、一度リセットする事が出来れば、吸収するのが早いと考える


あながち沙霧中尉の考えは間違いではない。
現に何も知らない訓練兵の頃にタケルに叩き込まれた水月・孝之・慎二は新人衛士とは思えない程の結果を残し、即戦力になった。
水月に関しては、紅蓮大将ですら認めた程だ。


故に沙霧中尉は、今までの『固い思考を壊そう』と考える。

(今の考え方では、白銀中尉のような機動は無理だ…
『出来ない』事は無い…
だが、それには長い時間が必要だ。
ならば、考え方を少し変えよう-- )


今初めて沙霧中尉は『固い思考』を壊し
『新しい思考』を得ようと考える。


沙霧中尉は知らない---
これをきっかけに沙霧中尉の『未来』が変わる事を--
そして、その一番のきっかけがタケルの存在だとは、タケル自身すら気づかない…



「ふぅ…やっと地上に戻れたぜ…。」

「うぅ…」


無事、なんとか地上に帰還する事が出来たタケル達。
ハイヴ内から出た際に、輝く太陽の光を懐かしむ。


「大丈夫か、沙霧中尉?」

「ああ…少し酔ってる程度だ。」

「強がるなよ、顔真っ青だぜ。
…けどまあ…俺の機動に潰れなかった奴は初めてたから、それに関しては大したもんだ。」


戦闘中、タケルの機動に辛うじて耐えきった沙霧中尉。
タケル自身、『沙霧中尉なら大丈夫だろ』と勝手に判断し、全力機動をフルに動かしていたが、流石に耐えきるとは思ってなかった為、驚いていた。


「とりあえずこれで彩峰の約束を守れたから、安心した。」

「なに…彩峰だと…?」

タケルの一言にピクリと反応する沙霧中尉


「彩峰慧、彩峰准将の娘さんだよ。
三沢基地周辺の店で会ってな、彩峰准将やアンタに危機が迫ってたら助けてくれって約束したんだよ。」

「そうか…納得した。」

自分や父親を心配していた慧に対し、『心配をかけた』と謝罪する気持ちになる沙霧中尉
同時に、自分や父親を守って貰うようにタケルに頼んだ事に感謝の気持ちで笑みを浮かべる。


「イグニス1からイグニス各機へ。
これより我々突入部隊は横浜港に待機する戦艦まで水平噴射跳躍で向かう。
イグニス10・イグニス26に同乗している帝国防衛軍の衛士は、軽傷を負っている為、艦に到着次第医療班に引き渡して治療して貰う事」


「「了解」」


椿の指示に従い、第17大隊全機が、横浜港で待機する艦目掛けて移動を開始する。


「…この恩は必ず返す。」

「気にすんな。
俺に返すんなら、彩峰准将の娘さんに返しな。」

「…そう…だな…。」

少し苦笑いしながら眠りにつく沙霧中尉
『仕方ねぇな…』と呟きながら、艦へと帰還するタケルだった…


あとがき---


しばらくぶりです、騎士王です。
今日は真那さんの誕生日画像だと楽しみに、朝5:00から確認してたが…


真那さんの誕生日画像がアップされてないだと…?


『そりゃないぜ…』と落ち込んでましたⅢorz


今回はちょい早めに更新
日曜日に更新出来るかは未定です、出来ても以前書いた簡単な設定集です。
それが終わればオリジナルのシナリオを書いてから原作の2001年に突入するかもしれません。


…途中、外伝のヴェナ太郎書くかもしれませんが、石は投げないで下さい(ガクガクブルブル…)



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第四十五話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2011/01/24 07:03
1999年・9月6日


仙台・第二帝都---


「皆様方、お疲れ様です。
よくぞ無事生還してくれました
またこうして逢えた事に嬉しく思います。」


政威大将軍・煌武院悠陽を始めに、紅蓮大将・神野大将・香月博士が謁見の間にてタケル・冥夜の2名を呼び出し、密談をしていた。


そして---


(なななな…なんで私までこの場所に居るのッ!?)

純夏まで、密談に参加していた。
当の本人は、『場違いだよぉ~…』と心の中で呟きながらアワアワする。


「鑑さん、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ?」

「ハイ、ありがとうございます…」


緊張する純夏を落ち着かせるように声をかける悠陽
悠陽の一言で少し落ち着くが、やはりカチコチに固まっていた。


「…それにしても、タケルちゃん…緊張してないの…?」


「オレは先生に鍛えられてるからな…ある程度はなれた。
…あと今は『タケルちゃん』は止めろ。」

「りょ…了解…。」


タケルの様子を見て、つい『タケルちゃん』と口を滑らしてしまうが、タケルがビニールスリッパをちらつかせながら『あとでビニールスリッパの計だ』とアイコンタクトで語り、涙する純夏。


「此度の『明星作戦』は目的の一つである『横浜ハイヴ攻略』を成功させました。
もう一つの『本土奪還作戦』は、未だに続いてますが、このまま行けば佐渡島ハイヴ以外は時間の問題でしょう。」

「そうですね、今佐渡島ハイヴには余剰戦力は余り無いかと思われます。
むこうから攻めて来る事は当分は無いでしょう…
とはいえ、佐渡島ハイヴを攻めるのは無謀です、こちらの戦力を蓄えてから進行しましょう。」

悠陽の言葉の後に香月博士も続き、説明する。
すると、香月博士が話を進める。


「今回の『横浜ハイヴ攻略』をした事で、オルタネイティヴ4は次の段階に進む事が出来ます。
横浜ハイヴに残存するBETAを始末した後、横浜ハイヴの真上に『国連太平洋方面第11軍・横浜基地』を建設を開始致します。」


香月博士の口から遂に『横浜基地』の名前が出て来る。
その時、タケルの身体が僅かに震える。


「あ、あの…先生。
すみませんけど、横浜基地に『1人』入れて欲しいんですけど…」

「ん?誰よ?」

「京塚のオバチャンです。」

「へっ?」


タケルの口から告げられた名前を聞いて、ポカンとする香月博士


「やっぱり、オバチャンの料理が無いと『帰ってきた』気がしませんからね。
…それに、オバチャンの料理の腕が無かったら、ゲロマズの合成食になっちゃいますよ。」


「何を言うかと思えば…
当たり前じゃない、京塚さんが居たからこそ、合成食でも美味しく食べれるのよ?
そんな重要な事忘れる訳ないじゃない。」


正気を取り戻した香月博士
ニヤリと笑みを浮かべながら、少々辛口な言葉を吐く。


「それに、京塚さんは『横浜基地の母』よ?
呼ばない事自体有り得ないわ。
…あと、『狂犬』になったまりもを唯一抑えれる人物よ、万が一の時は頼むわ」

「…やっぱりオバチャンが横浜基地最強ッスか…。」


香月博士の一言に納得するタケル
その話を聞いた純夏は『そんなに凄い人が居たんだ…』と驚愕な表情で呟く。


「横浜基地がある程度出来たら、私達は引っ越すわ。
ただ、直ぐに完成する訳じゃないから、今期の訓練兵は仙台で卒業する事になるわ。
それまでの教官、頼むわよ?」

「任せて下さい。」

(そっかぁ…そしたらまた暫く離れる事になるのか…)


タケルと香月博士の会話を聞いて少し寂しそうな顔になる純夏


すると、その様子を見逃さなかった香月博士はニヤニヤと笑みを浮かべながら語り出す。


「鑑、『結婚』するんなら今のうちよ?
まぁ、訓練兵を卒業してから引っ越すまで半年ぐらいあるから、その頃なら丁度良いタイミングよ?」

「けけけ…結婚!?」

「そうですわね…その頃でしたら、こちらも丁度良いですわ。
どうせなら、皆さん一緒に結婚式をしましょう♪
ね、冥夜?」

「あああ…姉上ッ!?」


香月博士と悠陽の言葉にアワアワする純夏
そして冥夜は『タケルと結婚式…』と悶々と萌えていた。


「……コホン、話を戻しましょう。」


十数分後…やっと話を進める悠陽
タケルが必死に話を戻そうと試みて…現在、真っ白な灰と化した。
勿論元凶である香月博士が色々といぢくった結果である。


「香月博士…此度の『花火』…
どうやって不発にしたのですか…?」

『花火』と言う言葉に全員が反応する。


『花火』とは、勿論『G弾』の隠語
冥夜は勿論、純夏もその隠語の意味を知っていた。


「実は今回鎧衣課長と『紅蓮静中佐』には、とある装置を極秘に『G弾とHSSTのコンピューター部分』に付けて貰いました。
この装置は、HSSTが発進したと同時に、微弱な電波を飛ばし、G弾のコンピューター部分に付けた極薄型の装置が受信すると、『誤作動』するようになってるのです。」

香月博士の白衣のポケットから、薄いシールのような物をみんなに見せる
「G弾は地上から一定距離離れた場所で爆発します。
理由は勿論一番効果的かつ広範囲にダメージを与えれるからです。
今回行ったのは、メインコンピューターを『誤作動』させたのです。」


「そうでしたか…
本来ならば、こちらが『被害者』ですが、犠牲になった者達の命を散らせた事に関しては、心を痛めます…」

「申し訳ありません、殿下
今回の件に関しては、私が全責任を背負います。」


幾ら自業自得とはいえ、その命を奪った事に心を痛める悠陽に対し、頭を深々と下げて謝罪する香月博士。
同時に、その覚悟を見たタケル達はゴクリと息を呑む。

「先生、質問ですけど、先ほど『微弱な電波』って言いましたよね…?
G弾って、そういった対処とかしてないんですか?」


「してるわよ、勿論。
けどこの装置はちょっと特殊でね…
そうね…アンタに分かりやすく言うと、『00ユニットのハッキング能力』って言えば判るでしょ?
コレはそれの『劣化版』よ。」


「えっ…!?」


『00ユニットのハッキング能力』という言葉で思い出すタケル
『二度目の世界』で00ユニットだった純夏が、カードリーダーに手を据えてハッキングした事を。


「勿論、00ユニットのハッキング能力と比べれば天と地の差だけど、今回のコレは『単一の命令に特化させた物』なの
微弱な電波を受信する事で作動し、G弾のメインコンピューターに偽の電気信号を送って、爆破させたの。」

「けど、そういうのって、色々対策されてるんじゃ…」

「そうね、だから今回米軍が使ったG弾のメインコンピューターの一部は『日本製』なの」

「「「はっ?」」」


予想外な言葉に全員が呆気に取られる


「今回の明星作戦が決まってから、鎧衣課長にあれこれ頼んでてね、米軍のG弾の『設計図』や実際の実物を『盗撮』して貰って、メインコンピューターの一部を日本で作ってたのよ。
それを鎧衣課長にすり替えて貰って、G弾に組み立てたのよ。
勿論、この装置がバレないようにシール状に作って、本物と同じ大きさ・同じ文章に印刷して貼り付けたの
日本で作った『偽物』フェイクも、『一応』本来の物と全く同じく作ってるから、怪しむ事は無いわ。
シール状の方も、『零型特殊強化装備』と同じ装置を使ってるから、電波を受信すれば、貼ってるだけで電気信号をメインコンピューターに伝える事が出来るの
色々と対策している米製の中に、対策のしてない日本製を仕込めば、電気信号を伝える事なんて簡単よ。」

「なる程…、けど電波飛ばして大丈夫何ですか?」

「多分証拠は見つかる可能性はあるわ。
けど、電波を見つけてもその瞬間に爆破すれば証拠なんて残らないわ」


『流石は先生だな…』と微妙な表情をするしかなかったタケル

「HSSTの時は、鎧衣課長の他に護衛に紅蓮静中佐を付けて、シール状の装置を貼ったのよ。
…流石に骨は折れたようだけど、おかげで横浜にG弾が落ちる事は無かったわ。」

「2人の懸命な活動のおかげで、命を懸けて戦っていた衛士達の命を救う事が出来ました…。
その事については、感謝しきれない気持ちです。」

「静に殿下からそのような御言葉を貰い、父親として有り難き幸せです。」


影で懸命に活躍した鎧衣課長と紅蓮静中佐に感謝の言葉を送る悠陽
父親として、娘に感謝の言葉を貰い喜ぶ紅蓮大将。


「そして…鑑さん。
突然だった事とはいえ、タケル様を支援した事、見事でした。」

「いえッ、そんな事無いですッ!?」

「最初は白銀の頭がおかしくなったかと思ったわよ。」

「酷ッ!!」


『精神体』で横浜ハイヴでタケルをサポートした事を褒め称える悠陽にアワアワと慌てて謙遜する純夏
一方、当時のタケルを『とうとう頭がおかしくなったか…』と本音を暴露され傷つくタケル


「聞けば、純夏さんの中にもう一人の純夏さんが居るとか…」

「あ、ハイ。
今は戦闘で疲れて眠ってます。」


『スミカ』との会話が出来ずに『お話がしたかったです…残念ですわ…。』と残念がる悠陽
当の『スミカ』は、明星作戦で、タケルをサポートしてた事で、現在は純夏の中で眠りについていた。


「そうでしたか。
それでは純夏さん、私の代わりにもう一人の純夏さんに御礼の言葉を伝えて下さい。
…貴女の能力(ちから)が有った故に、タケル様を始め、様々な衛士達の命が救われました。
これからも、その能力をお借りする時があると思います故に、どうかお願い致す…とお伝え下さい。」

「ハイ、わかりました。
多分私と同じで慌てちゃうだろうけど、悠陽殿下の御言葉を頂いて、嬉しいと思います。」

「ありがとうございます、純夏さん。
…あと、プライベートの時は、タケル様と同じく『悠陽』とお呼び下さい。」

「勿論♪
今回は真面目なお話だから、こんな話し方ですけど、プライベートの時は『友達』だよ♪」

「友達…とても嬉しいですわ…。」


純夏と『友達』と呼ばれる事に、心から喜んでいた悠陽
自分の立場故に『友達』と呼べれる相手が居なかった故に、純夏の接し方に大変感謝していた。
同時に、純夏の持つ『魅力』を見て、少し羨ましく思っていた。

「まったく…途中からタケルの動きが変わったから、どうしたかと思ってたが…そういう訳だったか。」

「エヘヘ…けどまだまだだよ。
霞ちゃんなんて、スッゴいんだからッ!!
霞ちゃんに比べたら、私なんて、まだまだ足元にも及ばないんだから♪」

「ウム…社の実力は『凄乃皇』の時で知ってる。
あの者がサポートに回ってくれるだけで、どれだけ違う事か…」

「そだな、霞の戦況把握や解析はズバ抜けてるからなぁ…
そういう意味じゃ、『風間少尉』より上かもしれないな」

「ほほぅ…あの少女がそこまでの腕を…」


冥夜・純夏・タケルの三人が霞の事を誉める事で、興味を持つ紅蓮大将や神野大将


「そうそう、その風間だけど、来期に入隊予定なんだけど…
来期はアンタの居る帝都城で訓練する事になってるから。
しばらくしたら、アンタは東京に移る事になるけど、その際まりもや来期の訓練兵もアンタと一緒に東京で訓練する予定だから。」

「なんでまた?」

「2001年…アンタが国連軍に一時的に出向した際『207訓練小隊』にアンタと御剣を『訓練兵として入隊』させるからよ。
その為には、白銀をなるべく横浜基地で必要以上に見られたくないの」

「えっ?」


『207訓練小隊に入隊予定』と聞いて、自然と笑みが出て来るタケル
そしてそれは冥夜も同じく笑みが出ていた。


「アンタや御剣はその方が嬉しいでしょ?
榊や珠瀬…鎧衣に彩峰…
A分隊の涼宮茜や柏木・築地・高原・麻倉…
白銀は涼宮・柏木以外は知らないけど、彼女達と再び訓練兵として生活してみない?」

「勿論ですッ!!」

「是非とも、またあの者達と一緒にいられると考えると、大変喜ばしい事です。」


再びあの者達と一緒の部隊に入れる---
心が踊るように期待を膨らませる二人を見て、続きを話す香月博士


「一応言っておくけど、『訓練兵』はあくまでも『仮の姿』だからね。
戦闘が有る時は斯衛軍として戦って貰うわ。」

「「了解!!」」

笑みを浮かべながら敬礼するタケルと冥夜
敬礼する二人を見て苦々しく『敬礼はよしてよ、かたっくるしい…』と答える香月博士


「いい、白銀?
2001年がオルタネイティヴ4の正念場よ。
オルタネイティヴ5を阻止しつつ、全員生存してオリジナルハイヴを攻略するんだからね。」

「勿論です、先生!!」


「期待してるわよ、白銀。」

「ハイッ!!」


拳を握りしめ、『全員生存』という果てしない程の至難に立ち向かうタケルだった…。



あとがき---


更新遅れましてスミマセンでした。

今回は簡単な設定集(人物編①)を書いてましたので、遅れました。


今回の四十五話と一緒に書き、色々確認しながら修正などをしていたら、日曜日の更新を過ぎてしまいました。


設定集の方はちまちまと更新しますので、ご了承を…。



[20989] 設定集(人物編①)
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2011/08/31 07:17
白銀武


所属・帝国斯衛軍第17大隊・第1中隊

ポジション・突撃前衛

階級・中尉

年齢19歳(四十四話現在)


皆さんご存知のタケルちゃん。
三回目のループを体験し、現在『みんな生存』を目指して頑張ってる最中。
今回は恋愛原子核と変態機動が絶好調な為、恋愛や戦術機に関してはチート気味。


タケル・冥夜・夕呼の三人がループを体験するが、タケルのみ特別で、本来14歳の姿にならず『18歳の姿』でスタートする。

夕呼の仮説では『複数の白銀武が、この世界の白銀武に同化した際、力関係が勝ってしまい、『18歳の姿の白銀武』になった』と説明する。


紅蓮大将・神野大将にすっかり気に入られてしまい、『戦術機の操縦の負担を減らす訓練』という名目を作り、はっちゃけられる。
しかし結果的に、ちゃんとタケルちゃんが成長してる為、侮れない。
だが、現在のタケルちゃんの戦術機の成長は異常な程の速さで成長してる為、乗れる戦術機が限られてくる。
その為、現在は紅蓮大将から無限鬼道流を学び、基礎段階を学んでる。
それにより、戦術機の剣術のアップを目論んでる

そして、現在は色々あって既婚者になり、奥さんが真耶・沙耶の二人が居る。(後々増員する予定である)
まだ式は挙げてない。


時折教官職につき、まりもと一緒に訓練兵を鍛え上げる。
卒業生に速瀬水月・涼宮遙・鳴海孝之・平慎二・他6名がいる
現在は純夏・宗像・クリスカ・イーニァ・唯依・雨宮・まりか・正樹・他4名を鍛えてる。

最近、『戦術機適性検査』や『お仕置き』で『全力変態機動』をするのが楽しみだったりする。



鑑純夏

年齢・16歳(四十四話現在)

所属・国連軍・第207訓練部隊A小隊

ポジション・無し(タイプ的には突撃前衛
現在宗像美冴と複座している。
一応CPの役割もやっている)

階級・訓練兵


現在タケルちゃんやまりもにビシビシと鍛えられる。
兵士としての実力は、接近戦に関しては、上位の兵士とて適わない程強い。
パンチ力に関しては、ある意味紅蓮大将以上(どりるみるきぃシリーズが有る為)

純夏のパンチ力は国連一との噂が立つ程
但し、やはり教官であるまりもには、格闘訓練で敗北する事もある。


訓練兵の中では、かなりの人気者。
特に同じ所属のクリスカ・イーニァや訓練兵ではない霞に関しては姉妹と同等な程仲が良い(立場的には純夏・クリスカ・イーニァ・霞の順)

同じ訓練兵部隊の仲間の宗像・まりか・唯依・雨宮とは仲が良く、友達関係になる。

こんな彼女だが、重要度はかなり高く、香月夕呼博士の計画・オルタネイティヴ4に深く関わる程。
現在開発中の『零型特殊強化装備』を着用する事で、鑑純夏は『00ユニット』となる事が出来る。

そして現在、『明星作戦』時に突然倒れてしまう。
原因は『二度目の世界の00ユニット・鑑純夏』と接触した為。
肉体から精神が離れ『精神体』となった状態で『00ユニット・鑑純夏が憑依』する事になる
タケルが横浜ハイヴの中階層近辺で『脳髄の間』に入った時にタケルと共に戦闘に参加する


昔っからタケルちゃんラヴで、常に一緒に居た程タケルを想い続けた。
現在、香月博士の『白銀ハーレム計画』に複雑な思いを持つ
けど『許嫁・婚約者』などと甘い言葉で満足していたりする。
だが、そのおかげもあり、冥夜と出会い、親友関係になる。



御剣冥夜

年齢・16歳(四十四話現在)


所属・帝国斯衛軍第17大隊・第1中隊

ポジション・突撃前衛

階級・少尉


純夏と同じく、タケルちゃんラヴの彼女。
タケル・香月夕呼と同じくループして来た存在。
だが、ループして身体が縮んでしまった為、その点のみ気にしていたりする。


タケルの手で荷電粒子砲を撃たせ、自分の命を奪わせた事自体は恨んでおらず、むしろBETAから解放してくれた事を感謝するが、タケルがその事で深く罪を感じてた事を知ると、タケルに対して深く謝罪すると同時に『二度とタケルを悲しませる事はしない』と誓う。


現在親友であり、姉弟子でもある九條椿少佐率いる帝国斯衛軍第17大隊・第1中隊に入隊する。
タケルとエレメントを組みたかったが、先任である五十嵐駿少尉がタケルとエレメントを組んでた為、現在月詠真那中尉とエレメントを組む。
ちなみに現在、タケルとのエレメントの座を奪う為、虎視眈々と訓練に励む。


本来ならば、姉・煌武院悠陽の『影武者』としての役割を持っていた為、人目に目立つ事は出来ず、尚且つ衛士になれる存在でもなかった

それ以上に政威大将軍の『影』故に、『姉妹』としての生活も許されず、姉として呼ぶ事も許されてなかったのだが、タケルや香月博士を含む様々な人々の協力のおかげで、『姉妹』と接する事や呼ぶ事も許され、衛士として戦う事も出来た。
但し、『御剣冥夜が政威大将軍にならない事』が条件とするが、それ以上に衛士となる事で『姉上を守る事が出来る』『タケルと共に戦える』と考え、条件をのむ


現在今の生活を幸せに感じてるが、それ以上の幸せである『姉上と一緒にタケルと結婚』を顔を真っ赤にしながら目指す。


社霞


年齢・10~12歳(四十四話現在)

所属・国連軍

階級・無し


我等が癒し系少女・霞タン。
ESP発現体であり、00ユニット・鑑純夏を抜かせば、最強のエスパー少女。
リーディングとプロジェクションを操る彼女だが、時折タケルとのツッコミに使う事もしばしば…

純夏・クリスカ・イーニァの三人とは、まるで本当の姉妹のように仲が良い。
末妹に位置する彼女だが、四人の中で一番しっかり者で才女だったりする。


そして彼女も純夏やタケル同様オルタネイティヴ4の重要人物
『鑑純夏の脳髄』が無い今、彼女の重要度は多少下がるが、それでも香月博士の助手を勤める程の天才少女。
そして、彼女の力もあって、XM3も開発されたとも言える。

現在、自分もタケル達と戦えるように、自分なりに鍛えてる
毎日ランニングをして体力強化をしている姿を目撃した男性陣は妹萌えしていたりする。


煌武院悠陽

年齢・16歳


階級・政威大将軍


『はっちゃけ』という言葉は、彼女の為にあると言っても過言ではない……ような気がする程の彼女。


政威大将軍という帝(天皇?)の次に偉い位立つ彼女
日頃は日本の為、民の為に心身削るような激務を僅か16歳の少女がこなす。
そして、その人望は数多く、彼女の為に命を捧げる者も数多く存在する。

勿論敵も多いが、側には常に紅蓮大将や神野大将が護衛をしている。
紅蓮大将と一緒に居る場合は、一緒にはっちゃけてタケルちゃんをいぢくったりするが、神野大将と一緒に居る場合は、逃げ出さないように神野大将の監視の中、シクシクと激務をこなしている


そんな彼女だが、タケルと冥夜を一番想い続ける。
タケルは最愛の人として、冥夜は最愛の妹として
やっぱり、彼女も『一人の少女』なのだ


今作品では、いきなり目の前でタケル登場シーンに出会す(でくわす)。
その際に『(AF世界の)元の世界』と『二度目の世界(AL世界)』の『記憶の流出』を受け、多少の記憶を持つ。


それ以来、タケルラヴリーになり、タケルの為に影で色々と支えている。
(時折はっちゃけて、周りに迷惑をかける事もあるが…)


そして、冥夜が衛士になる事が出来た事や、悠陽を『姉上』と呼べるようにした、一連の出来事の一番の功労者。
やはり姉の妹への想いは強い。


最近は暇な時間の際、タケルとの結婚式の計画を考えてたり、タケルとの子供の名前等を考えてたりする


最近の楽しみは、冥夜と共に過ごせる時間を楽しむ事
タケルからプレゼントされたロングマフラーを使い、一緒の時を過ごす時間が、最近の幸せの一つ。


香月夕呼


年齢・25歳(四十四話現在)

所属・国連軍


マブラヴの裏の主人公と言っても過言でない程の存在。
タケルとの付き合いは、平行世界を渡っても切っても切れない程の腐れ縁。

タケルにとって香月夕呼とは、授業では習えない『大切な事』を教えてくれた人。
『エクストラ』にしろ、『アンリミテッド』にしろ、『オルタネイティヴ』しろ、様々な事を教えて貰い、人間として成長させてくれた『先生』なのだ


現在、『零型特殊強化装備』を開発中
今回『明星作戦』が攻略成功した為、『量子伝導脳』を創る事が出来、完成まで一気に近づいた。

冷酷非情な面を見せる時もあるが、本来は優しく人を思いやる人なのだが、素直になれない人でもある。
多分、マブラヴキャラの中で最強のツンデレ。(ツン:デレ率・9:1)


オルタネイティヴ計画の他にも『白銀ハーレム計画』も同時に進行中。
最初は『いつもの悪戯』と思っていたが、実際は結構真面目な計画だったりする。
計画の内容は一部以外は秘密。
今解る事は、タケル自身に関わる事としかまだ分からない。


あとがき---


今回の設定集(人物編①)は此処までです
また時間があれば更新したいと思います



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第四十六話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2011/01/30 06:07
「ただいま~」

「お帰りなさいませ、タケルさん、沙耶さん」


謁見の間での密談を終えて、月詠邸に帰ってくると、やちるがタケルと沙耶の帰りを玄関で迎えてた。


「良くご無事で…」

「みんなのおかげだよ。
それより、真耶さんは?」

「真耶様なら…」

「此処に居る。
おかえり、タケル・沙耶
無事に帰って来て何よりだ。」


すると、居間の方から真耶がタケルと沙耶を迎えに来る


「真耶、無理はするな。
今が一番大変な時期なのだぞ?」

「そういうな、沙耶
二人の無事を祈りつつ、ただ黙って待つのもなかなか落ち着かないモノなのだぞ?
コレならば、一緒に戦場で戦っていた方が数倍気が楽だぞ。」


苦々しく語る真耶
二人の帰りを待つ時間が苦痛に感じていた


「ホラ真耶さん、身重なんですから、無理して動いたら駄目ですよ。」

「むぅ…」


心配して真耶の手を取り、ゆっくりと居間まで連れて行くタケル
そして居間で一息つき、茶を啜る。


「あ゛あ゛ぁ~…茶が格別に旨く感じる…。」

「だらしないぞ、タケル
まぁ…ハイヴでの激戦を生き抜いたのだ…気持ちだけは解る。」

茶を飲み、タレるタケルに真耶から一言言われる。
しかし、真耶の表情は、無事に帰って来たタケルの姿を見て、つい笑みが出て来る。

そして、真耶には2001年・横浜基地でのタケルの身分を説明する。


「やれやれ…また訓練兵として入るというのに、そんな笑顔でいるとは…
よほどの部隊とみえるな、その『207訓練小隊』とは…」

「あの部隊は特別ですよ。
俺が入った時は、半分の『207B分隊』しか居なかったけど、それでもかけがえのない部隊なんです
あの部隊があったから、オレは強くなれたし、みんなにオレは支えられていたんですよ。」


思い出す記憶
あのハチャメチャした日常--
厳しい訓練や試練に立ち向かった仲間達
そして最期には、自分を守る為、命を散らせた--


だからこそ、次は守りたい--
だからこそ、彼女達と共に歩みたいのだ…。

「「………」」


そんなタケルを見て、真耶と沙耶は心の中で誓う。

愛する人が命を賭して前に進むというのならば、我々もこの命を賭して支えようと---

視線を合わせ、無言で誓う二人
コクリと頷く姿を見て、確認すると---
やちるがパタパタと足音を立てながら、居間にいるタケルの下にやってくる。

「タケルさん、お客様が来ましたが…」

「客?
誰かわかりますか?」

「はい、確か『彩峰萩閣准将』と名乗ってましたが…」

「ハア!?彩峰准将がッ!?」

彩峰准将の名前を聞くと、慌てて玄関へと向かうタケル
其処には--まさしく彩峰准将が居た。


「突然の来訪に失礼する。
私は帝国陸軍帝都防衛軍第一大隊隊長の彩峰萩閣准将だ。
今日は君に話と…部下の沙霧中尉と駒木少尉を救出してくれた御礼に参ったのだ。」

「彩峰准将自ら御礼だなんて…恐れ入ります。
ささっ、上がって下さい。」

「うむ、失礼する。」


居間に案内するタケル
突然の彩峰准将の来訪に少し戸惑いを隠せないでいた。


「お茶です、どうぞ召し上がって下さい。」

「ありがとうございます。
では…」

ズズズッ…と熱い茶を飲む彩峰准将
湯呑みから口を離すと『ウム…やはり熱いお茶は美味い。』と笑顔で答える。


「白銀君、つまらない物だが、お土産を受け取ってくれ」

「あ、ありがとうございます…」

「ハッハッハッ、そう緊張する事ないぞ、白銀君。
今日はプライベートで訪問したのだ、紅蓮大将や神野大将達と同じく接しても良いのだよ?」

「いや…あのオッサン達は別です…」

「ハッハッハッ!!
あの御二方を『オッサン』呼ばわりとは…やはり噂通りの男だ。
なかなか肝が据わってると見る」


会話の中でタケルの中身を見抜く彩峰准将
笑みの中にも鋭い観察眼が光る。


「斯衛軍が始まって以来の問題児。
殿下や五摂家の方々にも馴れ馴れしい態度で接する姿は、斯衛上層部も頭を痛めてるとか。」

「んがっ!?」

「だがしかし、その類い希に見る戦術機の腕前は、五摂家の方々をも超え、紅蓮大将や神野大将にも迫る程の天才衛士とも聞く。
その証拠に、XM3を発案し、白銀の不知火・改を操り、縦横無尽に舞う姿は他の衛士達の士気を上げる程だ。
現に尚哉…沙霧中尉も君の存在を気にしていたぞ?」

「沙霧中尉が?」

「ウム、君の戦術機を見つけるたんびに、かなり意識していたよ。」


沙霧中尉がタケルを意識していたと聞き、驚くタケル

「本来ならば、此処に尚哉も連れてくる予定だったが、今日は帝都病院で1日入院をしているのだ。」

「あれ…?
確か沙霧中尉の怪我は軽いモノだったと…」

「怪我自体はな。
どうやら君の機動にやられて、少し重めの酔いで寝込んでるのだ。」

「うぐっ!?
ス…スミマセンデシタ…」


沙霧中尉を乗せたまま全力機動をした事で、1日入院を余儀無くされた事を知り、『やり過ぎたか…やっべー…』と心で呟くタケルの横で、ヤレヤレ…と少し呆れる沙耶と真耶


「君に聞きたいのだが…君はあの戦い方は、何処で学んだのかな?」

「何処で学んだ…と言っても、オレの場合は我流というか癖というか…」

「ほぅ、我流とは面白いな。
それで、どうやってあんな常識外れの戦いが出来るのかね?」

「まずは、基本的な事はちゃんと普通に学びました。
其処からいろんな人の動きや戦術など見て真似したり、自分で考えて『コレはどうだ?』と試してモノにしたりとかですね。」

「フム…成る程…」


関心してタケルの話を聞く彩峰准将
当のタケルは、内心…というか、背中では冷や汗ダラダラと流しながら『嘘はついてないぞ…嘘は…』と心の中で呟きながら会話を続ける。


「XM3の『コンポ』と『キャンセル』ってあるじゃないですか。」

「ウム、あれは正に革命的とも言える機能だ。
あれが有るおかげで、今までの戦術機では出来ない動きや戦術面が大幅に上がり、戦場での生存率が倍に上がったと言われる。」

「ありがとうございます。
実はあれは、戦術機を操作してる際、『こんな事が出来ればいいなぁ~』とか『ここはキャンセル出来れば助かったのに…』とか考えた際、色々あって知り合った国連軍の香月博士と相談した結果出来たのがXM3なんです。
そこから帝国・斯衛・国連の共同開発が始まったんです。」

「なんと!?
フム…そういうきっかけのおかげで、XM3や不知火・改が誕生したとは…」

タケルの話を聞いて驚きながら関心する彩峰准将
そんな時に真耶が話に入って来る


「彩峰准将、実は不知火・改誕生に関しては…
半分程は、タケルが原因でもあったのですよ。」

「なんとッ!?」


「当時瑞鶴に搭乗していたタケルでしたが、その類い希な機動特性故に、機体が耐えられなかったのです。
その頃唯一乗っても大丈夫だったのが、不知火でしたが、斯衛に所属している故に訓練以外は搭乗して出撃出来なかったのです。
そんな時、香月博士が色々裏で手を出して…『アンタの専用機作ってあげる』と言い出し、米国の戦術機開発メーカー『ノースロック社』の技術開発者であるエルヴィン殿をスカウトして来たのです。」

「はっ?」

「しかも決め手がタケルの機動特性を見て、エルヴィン殿の『開発者魂』に火を着けてしまって…
結果、エルヴィン殿は日本に帰化し、国連軍に所属し、不知火・改が誕生したのです」


真耶の話を聞いてポカンと唖然とする彩峰准将
それから数秒後、身体をプルプルと震わせながら大爆笑する。


「クックックッ…アーハッハッハッハッ!!
なんとッ!!そんな珍妙な秘話が有ったとは…
流石は『白銀の守護者』と呼ばれるだけは有るッ!!
しかも米国の開発者まで虜にしてしまうとは…やはり君は面白い男だ。」

目尻から溢れ出る涙を拭いながら、笑いを必死で堪えようとする彩峰准将
だが、やはり堪えるのは無理なようで、再び爆笑する。
勿論タケルは恥ずかしくて真っ赤っかになる


「結果として、不知火・改は『タケルの専用機』ではなく、『日本の主力機』となったのです。」

「クックックッ…成る程、だから不知火・改は機動力に優れてるのか…
ウム、納得した。
感謝するよ、白銀君
君のおかげで我々にも素晴らしい機体が当たったのだからね。」

「…なんか、すっっごい恥ずかしい…」


ピクピクと悶えるタケルを見て、全員で爆笑する。
そして、話の内容を変えると同時に、彩峰准将の顔が真面目な表情になる。


「白銀君…出撃前日に娘の慧に会ったそうだね?
その際、私達が危機だった際、守って貰えるよう約束したとか…」

「あ、ハイ
突然の事で驚きましたが、娘さんの約束を守る事が出来、安心しました。」

「本当にありがとう。
娘の事もそうだが、あの時、尚哉や駒木少尉の危機を救ってくれた事に関しては、何度感謝の言葉を贈っても足りない程だ。」


タケルの手を握り締め、頭を深々と下げながら感謝の言葉を言う彩峰准将に驚くタケル
同時にその姿を見て、彩峰准将が何故慕われてるかを理解する


階級など関係無い--
こうやって暖かく接するからこそ、『彩峰萩閣』という人物は人望に厚い人なのだと。


その後、たわいもない談話をした後、夕陽が射してきたのを見て、彩峰准将が帰ろうとする。


「では、そろそろ帰らせて貰う。
今日は娘の手料理が待ってるのでね。」

「そうですか…あっ、そうだ!!
彩峰准将、すみませんが、しばらくお帰りになるのをお待ち下さい。」

「ん、どうしたのかね?」

「ちょっとした『お土産』ですよ。
娘さんに渡したら喜びますよ。」


そう言うと、タケルはやちるの居る台所に行き、『あるモノ』を頼む。
そして、それから20分後---


「お待たせ致しました、コレをどうぞお持ち帰って下さい。」

「これは…パンに『ヤキソバ』が挟まってるとは…なんとも珍しい。」

「会った時に、『今度…ヤキソバご馳走期待してる…』って冗談で言われましたからね。
ちょっと工夫してみました。」

「これは慧も喜ぶに違いない。
娘はヤキソバが大好きで大好きで…」

笑顔で『ありがとう』とお礼を言い、ヤキソバパンを持って帰る彩峰准将
ちなみに、ヤキソバパンを慧に渡した所、凄まじいスピードで父・萩閣に迫り、もきゅもきゅと食べ、感想に『今…世界が変わった…!!』と絶賛し、涙を流していた。


「ハアァ~…緊張しまくったぁ~…」

「仕方あるまい、あの殿下でさえ師と呼ぶ御仁だ。
彩峰准将の存在は、帝国にとって、それだけ大きいのだ。」

「すげぇ人だよな~…
あの沙霧中尉が慕う理由がわかったよ。」


彩峰准将の偉大さを少しだけわかったタケル
そして沙霧中尉や他の帝国軍の者達が慕う理由を理解する


「オレ…まだまだちっちゃいな…
…うしっ!!」

「どうしたの、タケル?」

「ちょっと…道場で身体動かして来る
晩飯の頃には上がるよ。」

「フフフッ…わかった。」


彩峰准将の存在に刺激して、道場に向かって身体を動かして来るタケル
その姿を見て、笑みを浮かべる真耶と沙耶


こうして、平穏な1日を過ごすタケル達だった…



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第四十七話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2011/11/01 00:13
1999年・9月16日


仙台・月詠別邸--



「タケル、実は赤ちゃんが出来ました♪」

「…なんですと?」


カチコチと時計の針が鳴り響くのが聞こえる程、月詠邸の居間では静けさが伝わる。

晩飯を食べようと、箸を持ち、茶碗を持とうとする所で停止するタケル
お茶を飲もうとして、湯呑みを口につけた所で停止する真耶
そして、爆弾発言をした沙耶の下に、ニコニコしながらお茶を渡すやちるだけが動く事が出来た。


「…マジで?」

「ハイ♪」

「…誰かに伝えた?」

「いえ、タケルに第一報をと思って、まだ…」

「ヨシ、まだ伝えちゃ駄目です。
オレの身の安全を確保出来るまでッ!!」

「ハァ…」


前回の真耶の時にハチャメチャになり、特にタケルが純夏達によって、酷い目にあっていた為、今回は慎重にしようと考えるタケルだが---


「残念ですが、タケルさん
既に手遅れです☆」

「「「へっ?」」」

「実は既に『皆さん』に伝えちゃいました♪」

「「「はっ?」」」


突如、やちるが爆弾発言を口にする
そして---


「沙耶ちゃぁぁん!!
遂に…遂におめでたになったんですってぇぇっ!?」

「お、お母様ッ!!
は、恥ずかしいから、お止め下さいッ!!」

突如疾風の如く現れた九條家現当主であり、母・九條由佳里
その勢いは、止めようと羽交い締めにしていた椿すら、モノともせずに疾走して来た。

「タケル君、良くやったわ♪
嗚呼…アナタ…遂に沙耶ちゃんが…沙耶ちゃんが…
私は…今とても幸せですわ…」

「お、お母様ッ!?」


故人である夫・九條元泰の遺影を持ちながら、報告をする由佳里
そしてタケルには、何故だが、元泰の遺影が清々しい笑顔で親指を立てて『沙耶を頼むよ、タケル君』…と呟いているように見えた。

だがしかし--
このハチャメチャなイベントは、これが始まりだった---!!


「「タケルゥゥッ!!
また赤ちゃんが出来たってぇぇっ!!」」


「早いから、アンタ達ッ!!」

前回同様、孝志と政弘がオムツだのオモチャだの紙袋に大量に詰め込み、颯爽と現れる。

「白銀ッ!!
赤子の名前を考えてやったぞっ!!」

「ワシは女の子の名前を考えたぞ!!」

「アンタ等もかっ!!」


『とぉーーぅ!!』と雄叫びを放ちがら、月詠邸の屋根から飛び降りて登場する紅蓮大将と神野大将
彼等の両手には、紅蓮大将が男子、神野大将が女子の名前が書かれたノート三冊を見せびらかせていた。

勿論ノートの全てのページにはびっちりと隙間無く書かれ、ノートの表紙には『紅蓮お爺ちゃんより☆』とか『神野お爺ちゃんより、真心を込めて。』とか書いていたのも目の錯覚と信じたい。


「アンタ等気が早過ぎるからっ!!」

タケルが懸命に説得するが、椿以外の来訪者全員が『ええ…そんな事ないって…』と呟く。


「…やちる…どういう事だ?」

「実はお昼頃お買い物の帰りに、沙耶さんが産婦人科から出てきた所を目撃しまして、その際幸せ一杯の笑顔でお腹をさすっていたのを見て、『キタ---(°∀°)---ッ!!』と直感したんです♪
その後、ダッシュで家に帰り、皆様方に電話をしまくって連絡しちゃいました☆」

「み…みんな…?
もしかして…」


ゴクリと息を呑むと----


「白銀ェェェッ!!!でかしたわっ!!」

「やっぱりかぁぁっ!!」

ハーレーに跨った香月博士が、何故かジャンプしながら登場する!!


「何故バイクで登場するんですか!?」

「いや、なんか最近風になりたい気分になってね…
本当は車が良いんだけど、なかなか良いのがなくて…
ちなみに、此処に来る途中、鑑を轢き飛ばして星になったわ。」

「純夏ァァッ!!」


純夏をバイクで跳ね飛ばし星にしたにも関わらす、あっさりとした態度で語る香月博士


「あがぁッ!!」

「純夏ッ!!大丈夫か、純夏ッ!!」

そして空高くから落下して来た純夏が月詠邸の庭に落下して来た
タケルが純夏の下に駆けつける

「ひ…酷いよぉぉ…香月先生ぇぇ…」

「あら、鑑…星になるなんて良い特技を持ってるわね…
ちなみに、次は『避けてね』」

「…『次は気をつけるね』と言って下さい…」

自分の不幸さに涙を流す純夏
相変わらずの香月博士のセリフにタケルがせめてもの一言を言うが、無駄に終わる。

「やれやれ…やはりこうなったか…」

いぢくられるタケルを見て、少し呆れ顔になる真耶
すると---



「----ッ!!」

「真耶様…?
真耶様!?どうなさいました!?」

タケル達がハチャメチャな事をしていると、突如真耶が膝をつき、苦しそうな表情になる。

「イカンッ!!
遂に陣痛が来たかっ!!」

「白銀、真耶を寝室まで運ぶのじゃ!!
ワシ等は今から近くに居る産婆に連絡を入れる。」

「わかりました!!」

「真耶さん、しっかりして!!」


先程のはっちゃけぶりから一変し、遂に真耶の陣痛が始まる。
神野大将があらかじめ用意していた産婆に連絡を取りに行く間、タケルと純夏で真耶を慎重に寝室まで運び、タケルが真耶の手を握り締める


それからしばらくすると、産婆を迎えに行った神野大将がタケル達のいる寝室の襖を開く


「白銀、今産婆を連れて来たぞっ!!」

「スミマセン、神野大将」

「ささ…此方ですぞ…」

産婆を寝室に入れると、二人のオバチャンが入って来る
その時、タケルと香月博士の思考が停止する。

「ここかい、今にも産まれそうな人が居る部屋は?」

「「----ッ!!」」

「ホラホラ、こんなに人がいちゃ、邪魔で出来やしない。」

(京塚のオバチャン!!)

なんと、産婆の一人に『横浜基地の母』である『京塚志津江』が居た事に驚きを隠せないタケルと香月博士
当の京塚のオバチャンは、産婆仲間のウメさんと一緒にテキパキと準備をする


タケルは、部屋の外で邪魔にならないように座りながら待機し、他の者達は居間で待機していた。

「ホラ…白銀、先は長いんだから、これでも飲んで待ってなさい。」

「ありがとうございます、先生…」


廊下で待機していたタケルの下に、香月博士が自分の分と一緒に茶を持って来る

「けど…まさか京塚さんが現れるとは予想外だったわね…」

「産婆まで出来るとは…流石はオバチャンですね…」


産婆まで出来る京塚のオバチャンに二人して納得する

カチコチと廊下の柱時計のを覗くと、開始から数時間が経っていた…


「タケル…茶のおかわりを持って来たぞ。」

「ありがとう、冥夜」

「御剣、私も貰うわ。」

タケルと香月博士の下に純夏・冥夜・真那・椿・沙耶がやってくる
冥夜は暖かいお茶を、純夏は数人分の毛布を持って来ていた。

「ハイ、タケルちゃん。
香月先生も毛布どうぞ。」

「ありがとう鑑、頂くわ。」

純夏から毛布を貰うが、真耶の事が心配していた為、纏わないタケル
其処に真那が近づき、毛布を広げてタケルにかける。


「もう夜は遅い、纏った方がいい」

「すみません、心配かけて」

「気にするな、従姉妹殿の初の出産だ。
あと、はっちゃけに来た他の面々も、今は疲れて居間で寝てる。」

「ハハハ…まさかこんな事になるとは誰も思ってませんでしたからね…」

はっちゃけに来た様々な人達だったが、お産をしていると知り、現在来客した人達は居間や他の部屋で休んでいた。
流石に悠陽だけはお泊まり出来ない為、紅蓮・神野大将の二人が帝都城まで送って帰った。


「どう、白銀?
『父親』になる心境は?」

「……まだ戸惑ってますよ。
戦場とは違う緊張感がドクンドクンと高まってますよ。」

「そんなモンだと思うわよ。
私だって、もし同じ立場なら、外見は見せなくても、内面ではソワソワしてると思うわ。」

「ハハハッ♪
…けど、オヤジの気持ちが、少しわかった。
オレが生まれた時はこんな感じだったんだな。」

父・影行の気持ちを少し理解するタケル
『父親』という立場に立ち、こんなにも責任と重責を背負う事を初めて体験する。

すると、静かに歩み寄ってくるやちるがタケルに報告する。

「タケルさん、影行さんからお電話ですけど…」

「オヤジから…?」

影行からの電話と知り、数時間ぶりに立ち上がり、移動する。


「モシモシ…」

「タケルか?
今の現状はどうだ?」

「まだやってる…
今までずっと部屋の前で待ってた…」

「そうか…」

未だにお産を続けると知り、タケルの不安を悟る影行

「済まんな、本当ならすぐにでも行きたいんだが、まだ本州奪還作戦の途中だからな…」

「電話して大丈夫なのか?」

「ああ、今ウチの部隊は、京都で防衛で残ってるから、BETAが現れない限り、大丈夫だ。」

「そっか、母さんは無事なのか?」

「ああ、母さんは今か今かと私のそばでソワソワしてるよ。」


影行のそばでタケルと会話をしたくてソワソワする楓
受話器を取り上げたい気分なのだが、影行がタケルに『父親としての会話』をする事を知ってる為、我慢していた。


「オヤジの気持ち…少しわかった気がする…」

「だろ?
出産は決して安全って訳ではない。
下手をすれば、母親や子供のどちらかが死ぬ事もある。
しかし、出産中は父親は無事に終わるように、ただ祈るしか出来ないからな。」


かつて自分が体験した事をタケルに教える影行

「だがな、タケル
父親としての仕事は、出産してからが本番だ。
産まれた子供を成人するまで、様々な問題から親が守らなければならない。
父親は一家の大黒柱であり、一家を守る壁だ。
妻や子供に支えられながら、一家を守る事が父親の使命であり、宿命だ。
そして子供が成人し、幸せな家庭を持った時、『父親としての夢』は叶うんだ。
だから、タケル---
今は胸を張って、誇らしく真耶ちゃんやこれから産まれる子供を迎えてやれば良いんだ。」

「オヤジ…」


「しっかりしろ、白銀武!!」

「…ありがとう…オヤジ…」


激を飛ばしてくれる影行に感謝の言葉を送る
そしてその後、楓に代わり、あれこれと会話をしてからが受話器を切る。

通話を終えて、再び部屋の前で待つタケル
タケルのそばに純夏や冥夜がより、タケルの不安を取り除いてくれる。


そして、それから五分後---



『オギャー!!オギャー!!』

「「「!!!!」」」


「真耶さんッ!!」


赤子の声が高々と響き、全員が反応する
そしてタケルはガバッと起き上がり、部屋の中に入ると---


「待たせたね、元気の良い『男の子』だよ。」

「これが…オレの子…?」

京塚のオバチャンから、産まれたばかりの赤子を渡され、抱きしめる

「ハハハ…すげぇ重いや…
体重とかじゃなく…なんというか…凄く重いや…」

「それか『命の尊さ』ってモンだよ
重くて当たり前だよ。
ホラ、早く母親にも赤ちゃん抱かせてあげな。」

「そうだった…真耶さん…ハイ…」

「ありがとう、タケル」

産まれたての赤子を優しく抱く真耶
今までの苦痛に耐え、体力も大幅に削られても、愛らしい我が子を見ると、力が溢れるように笑みを浮かべる。


「それで、名前はなんて付けるんだい?」

「名前…」


京塚のオバチャンに赤子の名前を何かと聴かれ、考えるタケル
そして、浮かんできた名前は---

「『護』…てのはどうかな…?
『大切なモノを護れるように』…って意味で」

「護…良い名だと思います。」

「それじゃ、今日からお前は白銀護だ。」

赤子の頬をつつきながら名前を『護』と決めるタケルと真耶

それまでの静けさから一変して歓喜の声が高まり、眠っていた者達をも起こし、その中に参加する。

この日---タケルは久し振りに心の底から『笑う』事が出来たのであった…。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第四十八話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2011/02/05 19:26
1999年・10月15日


「……たかいたかい~…」

「キャッキャッ♪」


霞が護を抱いて、『たかいたかい』をして遊ぶ。
護も笑顔で喜び、霞に懐く。


「…可愛いです。」

普段、あまり表情を出さない霞だが、護を前にして、いつも以上に笑顔を見せる。


現在、タケルがまりもと一緒に純夏達訓練兵を教習していた

その際、真耶が護を連れて、父親の働く姿を見せていた。


その時霞が『護を抱いてみたい』と申し出て、真耶は霞に護を渡し、遊んで貰っていた。


「今日の訓練はこれまでだ、解散。」

「「「ありがとうございました!!」」」

すると丁度訓練が終わると、全員が霞や護の下にやってくる。


「霞ちゃん霞ちゃん、私にも護ちゃん抱かせて♪」

「ハイ、どうぞ…」

霞から護を受け取り、優しく抱く純夏
護の可愛さに純夏達訓練兵全員が萌えていた。


「護ちゃん、やっぱり可愛いよぉ~♪」

「ウム、赤子はいつ見ても愛らしい。」

「スミカスミカ~!!
つぎわたしだよっ!!」

「やれやれ…随分と人気者だな。」


護を見てデレデレの純夏
同じく護を見て、素直の感想をする唯依
そして、護を抱きたくてウズウズしているイーニァ
そんな彼女達を見て、笑みを浮かべながら、真耶は我が子の人気を見て『蛙の子は蛙だな…』と心の中で呟く。


「アラアラ、護ちゃんもいらっしゃてましたか。」

「で、殿下!?
全員、整列ッ!!」

「け、敬礼ッ!!」

突然の悠陽の登場に驚きながら、まりもは訓練兵全員に声をかける。
その後すぐに唯依が敬礼の号令を出すが、護を抱いていた純夏は、アワアワしながら敬礼する際、頭にチョップする。


「いたたた…」

「大丈夫ですか、純夏さん…?」

「だ…大丈夫です…。」

「そうですか…それならば安心しました。」


少し笑いながら純夏を心配する悠陽
なんせ、『あの純夏のチョップ』だ…
ぱんちで凄まじい威力だから、チョップも相当な威力だ……と悠陽は想像していたのは内緒だ。


「タケル様…真耶さん…ちょっと此方へ…
少しお話があります。」

悠陽に呼ばれ、少し離れた場所て内密な話をする二人


「タケル様、実は先程決まった話なのですが…
タケル様の所属する斯衛軍第17大隊に『一個中隊を追加する』事が決まりました。」

「一個中隊を追加?何故また突然…?」

悠陽の告げられた言葉に『ほへっ?』と唖然とするタケル

「これは、香月博士等と話し合った結果ですが、此度の訓練兵である篁・雨宮・伊隅・前島の四名をタケル様の居る所へ置こうという話になりました。
現段階で既に正規衛士にも迫ってる実力者であるこの四人を、他の部隊へと散らすのは惜しいという意見がありました
勿論、他の方々も今は検討中ですが、現段階では、タケル様の下で働いて貰おうと決まったのです。」

「けど、まりかと正樹は帝国軍側だけど…?」

「その点はご安心を…
この二名については、私の方で理由を申し上げ、帝国軍側の方々に説得させます。
そういう事で、タケル様には一個中隊を率いて貰いたい為、『大尉に昇格』して貰い、補佐として真耶さんについて貰いたいのです。」


「は、ハァッ!?オレが中隊長!?」

「わ、私がタケルの補佐ですか…?」

「ハイ、真耶さんは丁度産休で休んでた為、その際斑鳩少佐にお願いした所、『月詠大尉のような実力者を手放すのは惜しいが、夫婦仲睦まじくしてもらう為、致し方無いです』…と申してましたよ?」

「なぁっ!?」

悠陽の言葉を聞いて真っ赤にしながら驚く真耶
真耶をからかう伊織のセリフを聞いてタケルは『斑鳩少佐らしいなぁ…』と呟く


「さて、真耶さんをからかうのは、此処までにして…
今回の一個中隊増加には理由がありまして、タケル様が国連軍に一時的に出向した際、予定通り第17大隊も横浜基地で一時的に滞在致します。
しかし、国際的問題や事情で第17大隊が踏み込めない戦場等が出た場合、タケル様や冥夜を助ける事が出来ませぬ…
そんな時の為の保険として、タケル様に一個中隊を率いて国連軍に出向して貰いたいのです。
そうすれば、タケル様率いてる一個中隊が出向している間は、A-01に属して貰う事で問題を解決したのです」

「なる程…前回の『オリジナルハイヴ』の時みたいなケースを考えたのか…
確かにそれならば戦力を大幅に下げる事は避けれる」

「ハイ、香月博士も万が一の事も考え、優秀な者を少しでも手元に置こうと色々と考えていたようです。」


先手を打つ香月博士の考えに脱帽する真耶だが、タケルは『流石は先生だな…』と関心していた。


「そっか…
ところで四人と冥夜と真耶さんはわかったけど、他のメンバーは誰なんだ?」

「ハイ、冥夜の護衛も兼ねて真那さんを付けようと考えてます。
他には、『白』の武家の神代・戎・巴の三家が、来期の訓練兵に入隊予定なので、卒業次第入隊させる予定です。」

「げっ、まさか…あの三バカも鍛えるのか…?」

「三バカ…?
この三家の者達は実に優秀な者達と聞いてますが…?」

「『こっちの世界』ではな。
『元の世界』では、ど~しょうもないぐらいバカな三人でな~…
そんな事もあって、オレがアイツ等に付けた渾名なんだ。」

「そうでしたか…
しかし、流石に三人に失礼な呼び方なので、止めた方が良いですよ、タケル様」

悠陽の注意に素直に『わかったよ』と答えるタケル
しかし、内心『…大丈夫なのか…マジで…』と来期の訓練兵教育に不安になっていた。


「けど、大丈夫なのでしょうか…?
第1中隊の突撃前衛ばかり抜けては戦力が大幅に落ちるのでは…?」

「それについては大丈夫ですわ
真那さんに関しては、今すぐ第1中隊を抜ける訳ではありません。
真那さんがタケル様の部隊に移る時は、先程の三家も一緒に入るので、少なくとも、来年迄は椿さんの居る第1中隊の突撃前衛長を勤めて貰います。
抜けた分は補充しますし、それにタケル様のエレメントを組んでいらっしゃる五十嵐少尉も、メキメキと成長しているようで、いずれは彼に突撃前衛長を勤めて貰おうと考えてます。
その間は、同じ部隊として、真那さんに教育して貰う予定ですが、タケル様もどうかご協力をお願い致しますわ。」

「勿論だ。
駿は俺の弟みたいな奴だからな。
駿の為なら、全力で協力するぜっ!!」


笑顔で了承するタケル
『駿の為なら』と強い絆を見せるタケルに悠陽と真耶は、まるで本当の『兄弟』のように見え、笑みを浮かべる。


「中隊結成する時期は、純夏さん達訓練兵が卒業と同時に行います。
その際、タケル様は部隊長でありながら、突撃前衛長を勤めて貰います。
タケル様のエレメントには冥夜を、真耶さんはタケル様の副官として、本来部隊長が着くポジションである右翼迎撃後衛に着いて貰います。
このポジション設定は、タケル様の持ち味を最大限に生かせる処置であり、また『欠点』である指揮能力をカバーする為、真耶さんを右翼迎撃後衛に着ける事で欠点を補うようにした設定ですわ。」


『なる程…』と納得する真耶だが、タケルは未熟な指揮能力を『欠点』と呼ばれ、グウの音も出ない程落ち込む。
勿論、体育座りをしながら『のの字』を床に書いてだ。


「他のメンバーはまだ決まってませんので、決まり次第、連絡を入れます。」


「ハッ!!」

「………りょうかい。」

「タケル様…そんなに落ち込まないで下さい…。」


未だに復活しないタケルを見て、流石に申し訳なさそうにする悠陽
すると----


「だぁーー☆」

「ぷろッ!?」

すると突然、護が乗った手押しのカートがタケルに激突する。
護は笑顔でキャッキャッと手を叩き笑うが、タケルは後頭部に痛恨の一撃を喰らい、でっっかいタンコブを作る。

「タケルちゃん、大丈夫!?」

「だいじょばない…」

「どうしたのだ、一体…?」

「ウン、護ちゃんがね、突然泣いたから、『オシメかなぁ~?』って思って、カートに乗せた途端、護ちゃん、私の腕蹴ってカートに乗って走ったんだよ。
そしたら、偶々タケルちゃんに激突して、やっと止まったって訳。
…多分だけど…カートに乗る為に泣いたような気がする…」


「まさか…まだ赤子だぞ…?」


カートから降ろし、護を抱きながら純夏の予想に否定する真耶
しかし---



「ウン、けどね真耶さん…
護ちゃん…『タケルちゃんの子供』だよ…?」

「………………………………説得力のある一言だな…。」


『タケルの子』と聞いた途端、複雑な気持ちを持ちながらも、説得力のあり過ぎる言葉に納得するしかなかった真耶
悠陽もその一言に納得し、『…流石はタケル様の子ですわ』と呟く。


「………グスン。」

「…ヨシヨシ…泣かない泣かない…。」

「だいじょうぶ、タケル?」


いぢけるタケルの頭をナデナデする霞と慰めるイーニァ
そんな自分を、より一層悲しい気持ちになるタケル


「コラ、護。
お父上にこのような事をしたら駄目ですよ。」

「だぁ…。」

おいたをした護に厳しく叱る真耶
赤子故に手は上げないが、その険しい表情を見て理解してか、苦々しい表情で答える護
勿論、他の者達も真耶の表情を見てブルブルと震えたのは言うまでもない。

『フフフ…流石はシロガネタケルの息子だ…
将来は父を超える優秀な衛士になる事は間違いない。』

「誰だッ!?」


突如何処からもなく声をかけられ、その場に居る全ての者が驚き、辺りを見渡す。
しかし、周りには人影が見えない…

突然の事で、即座にタケル・真耶・まりもは悠陽を護衛し、真耶は霞に護を預け、腰に帯刀していた小太刀を装備する。


タケルも腰に帯刀していた日本刀・飛燕神楽を持ち、いつでも抜刀出来るように柄を握る。


『安心したまえ、別に誰かを襲う訳ではない。』

「なんだと…?
何処にいやが…………………………………………なんですと?」

ふと気付くタケル
タケルから前方2m程先に、不自然な『大きなダンボール』がポツンと置かれていた。
他の者達はダンボールの存在には気づかず、辺りをキョロキョロと見渡す。


「…まさか」

手に持っていた飛燕神楽を納刀し、ダンボールの前まで移動し、カパッと持ち上げると…


「やぁ、シロガネタケル。
君ならば、私を見つける事が出来ると思ったよ。」

「……なにやってるんッスか…?」


ダンボールの中から『鎧衣左近』が現れた。
その事にタケル以外の全員が時間停止状態になる

「………鎧衣課長…何故ダンボールの中から…?」

復活した真耶が鎧衣課長に何故ダンボールの中に入っていたかを聞くと、『ハッハッハッ☆』と素敵な笑みを持って答える。


「いや、以前シロガネタケルから『伝説のスニーキングアイテム』としてダンボールを教えて貰ってね…
話によれば、某傭兵『蛇』が愛用する隠密性能抜群のアイテムだと聞いた時は、全力で否定したのだが…
いざ、試しにやってみると…いやはや…ダンボールの能力の素晴らしさを知ったよ。」

「試したって…何処で?」

「とある米軍基地で…」

「ぶっつけ本番かいっ!!」

「いやぁ…あの緊張感は今までに無いモノだったよ…
思わず、自分がまだ未熟な頃を思い出したよ。
だが、お陰で作戦は成功したよ。」

「アンタな…」


『明星作戦』の影でダンボールで侵入し、作戦成功に導いていた事に驚愕する一部の者達

(タケル様…これは一体どういう事でしょうか…?)

(いや、以前会った時に冗談で『元の世界』のとある話をした事があるんだけど…
まぢでやるとは…。)

(とある話?)

(いや、とあるゲームで『蛇』の名前を持つ主人公が、サバイバルをする際、ダンボールを使って隠密行動をして侵入するんだけど…まさか本当にやるとは思わなかった…。)

タケルの話を聞いて唖然とする真耶と悠陽…
しかし、実際にやり、実に高い効果的を発揮したダンボールによる隠密性能を使いこなす鎧衣課長に関心と同時に、ビミョーな気持ちで素直に喜べないタケル


「さて、シロガネタケルに話があるのだが…
神宮司軍曹、済まないが私は殿下とシロガネタケルに話があるのだが、御退去願いたいのだが…」

「---ッ!!
わかりました、全員退去するぞ。」


「「「了解!!」」」


機密情報を話すと悟り、訓練兵を連れて退室するまりも
退室する際、悠陽に敬礼をしてから退室する


「私は殿下の護衛として同席したいのだが、宜しいかな、鎧衣課長?」

「ええ、勿論。
此度の話は私個人的な話だから大丈夫だよ。」

「個人的な話?」

予想外な展開に少し驚くタケル達


「ときにシロガネタケルよ。
娘の『美琴』に会ったかね?」

「美琴?
いや、まだですけど…
第一、何処に居るかもわからんし、大体にしてアイツを見つける事自体至難の業ですよ…。」

「そうか、済まないがシロガネタケル…
一度美琴に会って貰えないかね?」

「はいっ?」

鎧衣課長の突然の発言に戸惑うタケル…
こうして、美琴との『再会』が決まったのだった…



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第四十九話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2014/02/08 15:44
1999年・10月19日

仙台・第二帝都城周辺---


「……まさかこうなるとはな…」


斯衛軍の正装を着て待ち合わせ場所にて待つタケル…
これから来る『鎧衣美琴』と逢う為、待っていたのだが…


回想---


『美琴と会ってくれ…とは?』

『うむ、実はな…美琴の様子がおかしいのだ。』

『おかしい…とは?』


鎧衣課長の話を聞いて疑問に思うタケル
悠陽がその話に質問すると---


『今話したように、ここ最近、美琴の様子がおかしくてね…
最初は『ループ関連』かと思い、香月博士に調査を依頼したのだが、美琴の記憶に『桜花作戦』や戦術機・衛士としての記憶等は見つからなかったそうだ。』

『それならば、何故俺に…?』


最初は美琴迄がループしたかと思っていたタケルだが、違うと知ると不安そうに鎧衣課長に質問する

『実は、どうやら美琴はシロガネタケルの事を『知っている』ようなのだよ。』

『えっ!?』

『以前、表情を暗くしながら『タケル…』と呟いていた事が有ってね…
勿論、この世界の『白銀武』と面識がある可能性も無いとは言えないが、もしや…と思ってね…。』


鎧衣課長の言葉を聞いて絶句するタケル
少なくとも、自分自身は美琴と『会った記憶』が無い為、尚更驚愕する。


『一応私とて、美琴の父親だ
子を心配する心は有る故に相談に乗って欲しいのだ。』


真剣な眼差しをする鎧衣課長の表情を見て、その言葉が『真実』と判断する。

『恐らくだが、この問題はシロガネタケル…君しか解決出来ないと思う…
済まないが、引き受けてくれないかね?』

『勿論ですよ、鎧衣課長。
アイツを助ける事は当然ですよ』


『おおっ!!有り難い
流石はシロガネタケルだ。』


鎧衣課長の依頼を引き受けるタケル
その姿を見て笑みを浮かべて喜ぶ鎧衣課長


『いやはや…やはり美琴の『旦那』はシロガネタケル…君しか居ない…
いずれ君から『義父さん』と呼ばれる日を楽しみで仕方ないよ☆』

『な゛ぁっ!?』


『さらばだ、シロガネタケルよッ!!
何時の日か君を『タケル』と呼ぶ日を楽しみに待つとしよう。』


『待てッ!!
つーか、美琴と会う日を教えろっ!!』

『私にも早く孫を拝ませてくれ♪』

『さり気なく爆弾発言するなぁぁぁっ!!』


『ハッハッハッ☆』と颯爽と立ち去る鎧衣課長
美琴と会う日も言わずに立ち去る姿を追いかけるタケルだが、それ以上にドス黒い悠陽と真耶から逃げ出したい気持ちで鎧衣課長を追いかける。
勿論、捕まってお仕置きをされるのはお約束。


現在---


「…結局、日にちが決まったのは、今日の朝とは…
あのオッサン、絶ッッ対ワザとだな…」

溜め息を吐きながら、諦めたような表情になるタケル。


一方、タケルから少し離れた場所では---


(まだ来ぬな…。)

(まだ時間早いからねぇ~…仕方ないよ。)

(…ウンウン)

物陰に隠れて様子を見る冥夜・純夏・慧
タケルから話を聞き、本来ならばタケルと一緒に美琴と会いたかったのだが、冥夜が『万が一鎧衣が我等を『知らない可能性』も有る故に、此度はタケルのみで面会した方が良い。』と言い、全員が納得したのだ。


そんな彼女達のそばに---


(ふむ…美琴はまだ来てないか…。)

父・鎧衣左近までもがコソコソと覗いていた。


(やはり心配ですか?)

(勿論だとも、鑑純夏クン
ただ一人の息子…じゃなかった、娘を心配しないのは、親としてどうかとおもうが?)


(((それ以前に息子って…何故間違えるの!?)))

娘を『息子』と間違えて呼ぶ鎧衣課長に純夏達は『そっちの方が親としてどうよ?』と心の中で呟く。


(ムッ、どうやら来たようだな…)


すると、最初に冥夜が美琴を発見する
少し遠いが、キョロキョロと辺りを見回す姿が見える。


そして、タケルを見つけた途端、走りだし---


「タケルーーーッ!!」

「んなっ!?」

タケルに向かって飛び込み、抱きつく美琴
突然の事に驚くタケルと離れた場所でそれを見て驚愕する冥夜達だった。


美琴side---


「タケルーーーッ!!」

「んなっ!?」


無我夢中でタケルに向かって飛び込み、抱きつくボク
この時をどれだけ望んだ事か---


異変に気づいたのは去年。
身体が小さくなり、タケルやみんなが居ない事に突然孤独感が襲って来た。

最初は住んでいた近辺を調べたけど、みんなの情報は得られなかった。


…それから数カ月間、一人ぼっちになったボクは何時しか元気が無くなった事に気付く
父さんや母さんは仕事で家には滅多に居ない
みんなもいない、そして何より---タケルがいない


そんな暗くなっていたボクだけど、昨日父さんが突然ボクに用事を頼んで来た。


用事の内容は、とある場所に斯衛軍の人が居るから会う事。
用事の内容は会えばわかると言われ、今日行ってみる事にした。


そして---
そこでボク衝撃を受ける。
待ち合わせ場所に時間数分前に到着し、辺りを調べると、斯衛軍の黒の軍服を着ている人を見つける。
そして、その人が顔を上げた瞬間--
ボクはいつの間にか走っていた。


涙が溢れ、流れ落ちる。
涙を止める事が出来ない。


逢いたかった---
一番逢いたかった人物を見つけ、息を切らしながらも走り続ける。


溢れる感情を止める事が出来ない--
けど今だけは、逢えなかった分までぶつけてやろう。


そして---


「タケルーーーッ!!」

「んなっ!?」


大好きな人物・タケルに思いっきり飛び込み、抱きつくボク

ああ---
このマヌケっぽい声--
そして、この暖かい匂い---
間違いない、タケルだ…。


今回は父さんに感謝しよう---
タケルに再会したボクは、心の中で父さんに『ありがとう』と感謝の言葉を告げた…。



美琴side end

「みっ、美琴、少し落ち着けッ!?」

「タケル、久しぶりだねぇ~…
三年振り?うわぁ~…筋肉が出来てるよぉ~…。」

「話を聞けッ!!」

動揺しながらも、興奮する美琴を落ち着かせようとするタケルだが、お馴染みの人の話を聴かない美琴に手を焼く。


「やはりシロガネタケルの事を知っていたか。」

「うおっ!?」

「父さん!?」

すると突然タケルと美琴のそばに現れる鎧衣課長。
どうやら例のダンボールで近づいたようだ…。


「………………何やってるんだ、お前等…」

そして、鎧衣課長の他にダンボールが3つが不自然な形に置かれてるのを発見するタケル
眉間を指で押さえながらも、一つずつカパッと持ち上げると…

「ここここ…これはだなっ!!」

「……鎧衣パパに勧められた。」

「…やっぱり見つかると恥ずかしいよね…」

顔を真っ赤にしながらダンボールから現れる冥夜・慧・純夏の三人
…彼女達も鎧衣課長に強引に進められ、ダンボールの中に入りながら近寄っていた。


「純夏さんに冥夜さんに慧さんまで!?
もう~…父さんったら意地悪いよ~」

「ハッハッハッ☆
最近美琴の様子がおかしくて心配してな、シロガネタケルに美琴を元気つけて貰うように頼んだんだよ。」


「そっかぁ~…ごめんね父さん、心配かけちゃって。」


…セリフとは裏腹に何故か鎧衣親子の周辺が不思議空間っぽい空気になり、ビミョーな気分のタケル達

そこでタケルはとある『違和感』に気付く。


「美琴、お前…純夏達の記憶があるのか…?」

「ほえっ?
そんなの当たり前じゃないか?
じゃなかったら、タケルの事だけ覚えてるなんておかしいじゃないか?」

「「「「…………」」」」

美琴の言葉を聞いて絶句するタケル達
そして、タケルは美琴に次の質問をする。


「なあ、美琴…
最後にオレらと会ったのは何時ぐらいだっけ?」

タケルは確信を得る為に質問をすると---


「ええっとね…確か純夏さんが『どりるみるきぃふぁんとむ』で天高く飛んでって、衛星に引っかかってた所を冥夜さん達に助けて貰った辺りだよ。」

「えっ…?」

ドクン…と緊張が走るタケル
まるで信じられないモノを見るように美琴を見つめる。

「ほほぅ…そんな珍事件を起こしていたとは…」

「わ、私知らないよそんな事!?」

「わ、私も知らぬそ、そのような事は!?」


珍しいモノを見るような視線で見る鎧衣課長
純夏や冥夜は身に覚えが無い事を突然言われ、戸惑う。

「そ…それじゃ…『2001年・12月24日』は何をしてたっけ…?」

(その日は確か---)

(…佐渡島ハイヴに攻略しに向かった前日…。)

タケルの質問を聞き、『佐渡島ハイヴ攻略戦』を思い出す冥夜・純夏・慧
そして、美琴が答えたセリフは---


「ああ、その日は冥夜さんの家で『クリスマスパーティー』をしたよね♪
霞さんを驚かす為にあれこれしながら段取りして、タケルなんて、霞さんの為に月詠さんに頼んで『ジェットソリ』に乗ってサンタを演じたよね?
…流石に飛行中に爆発した時は驚いたけど、霞さんにとって良い思い出になったから結果オーライになったんだよね~♪」

「………えっ?」

「…そのような記憶は…無いぞ…?」

「……ウン。」

予想外の答えに絶句する純夏・冥夜・慧
鎧衣課長も予想外な出来事が起こってる事に気づき、タケルを見ると---
悲痛そうな表情で美琴を見ていた。


「タケル…どうしたの…?
そんなつらそうな顔して…?」

「美琴…お前…『元の世界』の美琴なんだな…?」

「元の…世界…?」


『答え』を口にするタケル
それを聞いてやっと理解する鎧衣課長や純夏達
そして、美琴はその様子を見てただ事ではない事を悟る


「………そっかぁ…だからみんな居なかったんだ…」

タケルが詳しい事情を説明すると、今までの疑問が解消され、納得する美琴

流石に突然の事で最初は疑ったものの、タケルの悲痛そうな顔を見て、それが真実と理解するしかなかった。


「…タケルはいつからここの世界に居たの…?」

「今回は去年の1月頃だよ…」

「今回…?」

「今回で『三度目』なんだよ…」

「三度目……。」


タケルの言葉を聞いて言葉を失う美琴


(三度---
ボクが体験した事を三度も--
いや…そんな程度で済むわけがない…。)

先程見せたタケルの表情---
今までに見た事の無い悲痛の表情
いつも、みんなに見せる様々な表情ではなく、悩み苦しんでるような表情

(そうだ…タケルは今…斯衛軍…つまり軍人…
戦場は勿論、人の死や…殺めた事だってあるかもしれないんだ…。
タケルは優しいから、ボクがこの世界に来た事を悩んでいたんだ…)


この世界は今、リアルに『人類滅亡』が迫っている。

良くあるゲームの設定ではない--
現実に大勢の人間が死に、『人類滅亡』が現実的になっている程、この世界は危機なのだ。


(前に、父さんに戦場に連れて行かれたっけ…)

以前、 父・左近に拉致られて、様々な戦場に連れて行かれた事があった。
いつもならば、隙を見て逃げるのだが、戦場では、いかに『生存出来るか』だった為、左近にしがみつくように一緒に乗り越えた事がある


戦場で兵士が倒れ、爆発等で肉塊が飛び散る中をかいくぐり、弾幕の中を伏せながら匍匐前進をした事もあった。


けど、それ以上に『戦場跡の被災地』は辛い体験だった。


傷だらけの人々--
治療が間に合わず、亡くなった人々---
遺体のそばで泣き崩れる遺族---
嫌でもそれらが目につき、反らしたくなる。


それをタケルは体験し、色々と失ってきたに違いない。


美琴はそれを理解し、先程の悲痛な表情の意味を知る。


そして、美琴はある『結論』に辿り着く。


「父さん…」

「なんだ?」

「ボク…衛士になろうと思ってるんだ…。」

「「「「!!!!」」」」

「ホウ…。」


美琴の決意に驚くタケル達
父・左近は関心するような反応を見せる。


「このまま『一般人』でいれば、タケルに心配をかけると思うんだ。
今のボクの実力は、確かに父さんのおかげで、サバイバル能力とか知識は得意だけど、冥夜さんや慧さんみたいな接近戦に長けてる訳でもないし、壬姫さんみたいな弓に長けてる訳でもない。
そして、千鶴さんみたいに、リーダーシップを取ったり、指揮能力が高い訳でもない。
…だから、タケルやみんなに心配かけないぐらい『強くなりたい』
そして…みんなを守りたいんだ…!!」


「…なる程。」


美琴の決意を聞いて鎧衣課長は---


「その決意は立派だ、美琴
だが、その言葉を実現するのが、どれだけ難しいか理解して言ってるのか?」

「えっ?」

「…例えばシロガネタケル
彼は今回で三度のループを経験しているが、そのどれもが辛く険しい道。
私は彼がループして来た所は見てないが、シロガネタケルがこの仙台の第二帝都城に現れた日、私は殿下の許可を貰い、影で紅蓮大将や神野大将と共に話を聞いていた。
その時は眉唾のような話ばかりだった為、八割程は信じてはいなかったが…『光州作戦』『本土侵攻戦』…この2つが起きた時、シロガネタケルの話していた事が真実だと確信した。
同時に、彼が一度目・二度目に体験した事も真実としり、私はシロガネタケルの事を興味を持ち…高く評価している。」


鎧衣課長がタケルを評価している事に美琴は勿論、タケル自身も驚く。


「一度目は、滅亡の道を体験し、途中で力尽きた。
二度目は、世界に希望を与える事に成功したものの、大切な恩師や仲間達、そして最愛の人まで失う結果になった。」

「---ッ!?」

「それまでに逃げ出した事もあろう。
何度となく絶望を味わった事だろう…
それが、どんなモノなのかは、私は知らない…
だが、それらを乗り越えて前へ進むシロガネタケルを私は評価している」

「鎧衣課長…」

タケルを評価する鎧衣課長
その事に未だ驚きを隠せないタケル


「『みんなの幸せを守りたい』
今…シロガネタケルはそれを目標として戦っている。
だが、それを実現するのは、この世界では気が遠くなる程難しい事。
しかし、それを十分理解して尚、それを目指してるのだ。
…美琴、お前は先程言った『みんなを守る』という目標には『覚悟と想い』が有るのか?」


厳しい視線で美琴に問いただす鎧衣課長
そして美琴の『答え』は---


「…『無い』と思う…。
想いは誰にも負けないぐらい有るつもりだけど、『覚悟』はまだ足りないと思う…」

「ホゥ…」

「けど、『覚悟』は決して簡単に得られるモノじゃないと思うんだ。
ボクも一応父さんに戦場に連れてかれた事も何度かあるし、戦場の被災地で多くの犠牲者とかも見た事もある。
けど、だからって充分に『覚悟』が有るって理由にはならない…」


真摯な眼差しで語る美琴
『戦場に行った事が有る』という事に驚くタケル達だが、娘の言葉を聞き、静かに『答えの意味』を待つ鎧衣課長


「だから学びたいんだ、『覚悟の意味』を…
そして、『みんなを守る』為に強くなりたいんだ、本当の意味で…
そして、みんなやタケルのそばにずっと一緒に居たいんだッ!!」

「…なる程…。
フフッ…これは『元の世界』の私とシロガネタケルに感謝せねばな…。」

『答えの意味』を聞き、笑みを浮かべる鎧衣課長


「シロガネタケルよ、済まないが娘の事を頼みたいのだが…良いかね?」

「ハイ、勿論です。」


タケルの肩に手を乗せて、美琴を託す鎧衣課長
その姿は『父親として』接していた。


「ではシロガネタケル…
コレにサインをしたまえ。」

「あ、はい、わかりました………………………………ってコレ『婚姻届』じゃねーーかッ!!?」


「「「はっ!?」」」

「と、父さんッ!?」


突然複重婚の婚姻届を懐から出し、タケルにサインを入れさせようとする鎧衣課長
先程までの良いカンジの雰囲気をブチ壊し、カオスな不思議空間を展開する。


危うく(?)サインをする所で気づくタケルだが…


「なんだねシロガネタケル?
今確かに私は『娘を頼む』と言っただろう?」

「それは美琴を鍛えてくれって意味…」

「そっちは神宮司軍曹に任せるよ。
それにシロガネタケル…
父親が娘の事で頼むという事は『嫁にやる』という事と同義なのだよ?」

「そっちの意味かぁぁぁっ!!」

「ハッハッハッ☆
早く私に孫を見せてくれ、シロガネタケル
…いや、もうタケルと呼んでも構わないだろ?
なんなら私の事も『義父さん』と呼んでも構わないのだよ?」


爆弾発言を連発する鎧衣課長…そして…


「それに今の日本は一夫多妻制…
嫁が二人から三人に増えても同じじゃないか…
まぁ、タケルの場合はあと十人程居るようだが…」

「ちょっと、サラッと爆弾発言連発する---ッ!?」

「………………………………タケル…?
今の話…どういう意味なのかなぁ……?」


静かに反応する美琴…
だが、それはニコニコと笑顔になりながら、眉間に怒りマークをデカデカと浮かべていた…。

「ちょっと待て美琴…
話を良く---」

「タケル…ちょっと、一緒にオ・ハ・ナ・シ・しよっか…」

ズルズル…とタケルの首根っこを鷲掴みにしながら林へと連れていく美琴…
途中、タケルの絶叫が聞こえるが、純夏達は合掌し、鎧衣課長は笑顔でシカトしていた…




あとがき----


しばらくぶりです、騎士王です。


今回はいつもより長く書きました…偶々だけど…

今回の美琴の件、とても悩みました。

以前、純夏の件で『207Bキャラ全員ループでも良いのでは?』と書き込みが有ったので、『…やって良いの…?』と書き込みました。


最初はループキャラはタケル・冥夜・夕呼のみでしたが、純夏は憑依・慧は記憶継承と追加した時点では、『慧と千鶴は記憶継承、もしくはループキャラ』と設定し、美琴・壬姫は無しにしようと考えてました。


しかし、慧初登場の時、実は最初は千鶴も登場していたのですが、どうしても内容に納得出来ず、慧のみ登場し、千鶴は美琴・壬姫同様に無しに考えてたのです。


しかし、例の書き込みが有った時に考えが変わり、『うーん…ただ普通にループキャラだと面白みが無いな…』と考えた結果、美琴が『オルタードフェイブルの世界から』ループした設定にしました。

美琴なら、サバイバル能力やバルジャーノンで鍛えた腕前が使えると考え、美琴に決定しました。

壬姫・千鶴はまだ未定
無しにするかもしれないし、途中からループキャラに変貌するかもしれませんので、ご了承下さい。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第五十話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2014/02/08 15:46
1999年・10月20日


「本当に…呆れたわね…」

モニターを見ながらポツリと呟く香月博士

現在、シミュレータールームで、美琴の戦術機適性検査を行っていた。


その際、タケルと複座型でプレイし、仮想敵として、クリスカ・イーニァの複座型の不知火・改を当てたのだ。

タケル達も機体は不知火・改
結果はタケル・美琴ペアの勝利で終わったのだが、問題は『そこ』ではなかったのだ。


「いやぁ~…本当にバルジャーノンそっくりだね~♪
タケルの機動も随分変わったような気がするけど、随分と腕を上げたね~。」


これである。
タケルの『変態全力機動』を体験したのにも関わらず、ケロッとしている美琴に唖然としていたのだ。

「そなた…気分は大丈夫なのか…?」

「ほえっ?
確かに『少し』酔ったカンジはするけど…
遊園地のジェットコースターやバルジャーノンとかで慣れてるから全然大丈夫だよ。
G(重力)に関しても、前に父さんに拉致られた際、一瞬の隙をついて逃げて、その際、良く見かける空母に逃げこんで甲板にあった戦闘機が丁度日本に飛ぶ予定だったから乗せて貰って逃げた事も…」


「………相変わらずだな、お前…」


少し酔った程度で済んだ美琴に驚く冥夜
様々な鎧衣家の出来事を語る美琴だが、タケルが呆れながら止める

「タケル…どういう事なの…?」

「タケルみたいなうごきつかってたよ?」

対戦相手のクリスカ・イーニァも流石に驚いていた。
タケルに負けるのはわかる
だが、途中で代わった美琴の機動を見て、驚愕する。

タケル程では無いものの、美琴もタケル同様な機動を操り、クリスカ・イーニァを戸惑わせていた。


当初対戦が始まる前、少しタケルから戦術機の操縦を教わり、以前のタケル同様、戦術機の操縦はすぐに覚え、タケルのようなアクロバットを試し、成功する。
その際美琴がタケルに対戦時の作戦を立てる


最初はタケルが相手を圧倒し、相手を追い込む事で焦りを誘う。

そしてその際、美琴に代わり、相手に操縦兼が変わった事を知らせる


そして美琴の操縦を相手に覚えてもらい、再びタケルに変更
そして相手に『操縦者が変わった時が勝機』と思わせる事で、相手に油断を持たせる。

そして再び美琴に代わった際、相手に油断させたまま、障害物が密集する場所に隠れ、タケルに変更し、撃墜するという至って普通の戦術

そして、この作戦はタケルと美琴がバルジャーノンで組む際に良く使った戦術だったりする。


そして、いざクリスカ達との対戦時、美琴に操縦兼が移った時クリスカは高機動戦闘で美琴に接近し、長刀で横薙一閃を入れる
しかし、美琴も負けじと限界ギリギリまでしゃがみ、噴射地表面滑走をして回避したのち、そのまま180度反転しながら突撃砲で反撃する。


勿論クリスカも美琴の反撃を回避するが、反撃をしようとイーニァが突撃砲を構え、振り向くと、美琴は突撃砲で攻撃しながらジグザグと左右に蛇行しながら、噴射地表面滑走で後退し、途中ある障害物を利用しながらイーニァの突撃砲を回避する。

勿論クリスカが追撃しようと追うが、近づいた際にいつの間にかタケルに操縦権を変えられ、結果、撃墜されるクリスカ達。


結果的にはタケルの攻撃で勝利したが、中身は美琴の作戦勝ちだった


「いやぁ~…バルジャーノンで使ってた作戦が通用して良かったよ~♪」

「久しぶりに使ったな、あのコンビプレイ。」

「ウン♪
けど、さっきの攻撃…危なかった~…
もう一度やれって言われても無理かも…
なんとかギリギリまで腰を下げて、しゃがみダッシュで回避出来たよ…
あのタイミングで急に止まったり後ろとかに回避したら、追撃されてやられてたよ…」


(…本当にリーディング禁止にして良かったよ…
されてたらあっさり負けてた訳だしな…)

今回は美琴の戦術機適性検査を調べる為、今回の対戦はクリスカ・イーニァには『リーディング禁止令』が出ていた


勿論、そんな事されていたら、作戦は失敗するし、美琴に代わった瞬間、タケル達の負けは決定していたも当然なのだ。

幾ら美琴がバルジャーノンで鍛えた腕とはいえ、戦術機の実力はクリスカ・イーニァの二人の方が上


今回はタケルという要因が有った為、勝てたのだ
美琴個人では、二人にはまだ勝てないのだ。


「それにしても鎧衣、凄いじゃない。
白銀の変態機動にそこまで耐えられたのって、アンタだけよ?
他の奴らなんて、地獄を見てるわよ?」

「そんな事ないですよ、香月先生~…
…まあ、確かにタケルの機動には驚いたし、少し酔ったけど…
やっぱりタケルがボクの事気を使ってくれたから耐えられたんだと思う。」

「それでも、そこまで耐えられれば大したモノよ。」


美琴の戦術機適性を誉める香月博士
少しニヤリと笑みを浮かべながら美琴を見る

その視線の先では、美琴の下にクリスカ・イーニァ・冥夜が集まり、タケルに関する談話をしていると、香月博士がタケルに小さな声で呟く

「そうそう、言うの忘れてたけど、今月の末に『解隊式』を予定してるから、用意を頼むわね。」

「……『入隊式』はいつですか?
…まさか、また解隊式と同じですか…?」

「そうしたいのは山々だけど、今回はちょっと忙しいから来年の1月頃にするわ。」

残念そうに口を尖らせる香月博士
『せ~っかく、まりもとの関係を作るチャンスだったのに…』とか呟きながら舌打ちをする。

因みに前回の速瀬達は『本土侵攻戦』が有った為、一年かかったが、今回は本来から見れば少し遅めだが、通常の時期に解隊式をする事が出来た。

「忙しい…とは?」

「アンタとまりもには『テストパイロット』をしてもらわないといけないからね。
その為、教官職は一時ストップよ。」


「テストパイロット…?
今度は何を…?」


「…以前、アンタの『専用機』の話をしたでしょ?
今回は残念だけど『専用機』ではないものの、それまでの繋ぎとして『改良機』を造るつもりよ。」

「改良機ですか」

「そ、元々アンタが率いる部隊の機体として考えてるの
…ちょっとアンタ達、こっちに来なさい。」

ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべながら離れていた冥夜・美琴・クリスカ・イーニァを呼ぶ。


「何でしょうか?」

「アンタ達にも『良いモノ』見せてあげる。
こっちに来なさい♪」

笑みを浮かべながら、招く香月博士を見た冥夜達は、一抹の不安を持ちながら『…次は何を企んでる…?』と諦めにも似た呟きを心の中で語りながら、恐る恐るとついて行く…


第二帝都城・地下施設第40番ハンガー


「たはぁ~…凄く広いや~…。」

地下施設を見て美琴が素直な感想を言うと、他の者達も頷く。


「当たり前じゃない、此処は帝都城なのよ?
京都の帝都城程では無いものの、此処だって日本有数な重要な拠点よ。
それを守護する戦術機や戦車等を収納する場所が狭い訳ないでしょ?」


「そうですけど…これだけ広いとね~…
ねぇ、タケルはこれだけ広い場所見た事ある?」

「一応はな、『横浜基地』の『90番ハンガー』がこれぐらい広がったな…」

「そういえば、そうだったな…」

ハンガーを見て思い出すタケルと冥夜


横浜基地の90番ハンガーでの死闘を---
決死の覚悟を持って、最期まで作業を行っていた涼宮中尉---
そして、自分にヴァルキリーズを託し、みんなを守る為散った速瀬中尉---


「---本当に…色々あったな…」

「…ああ…そうだな…。」


90番ハンガーでの悲劇を思い出し、僅かに表情を暗くするタケルと冥夜
その様子を見て、美琴やクリスカ・イーニァが気づく


「……ゴメン…なんかツライ事思い出させちゃったみたいだね…。」

「気にすんな。
別に美琴が悪い訳じゃね~から。」

「ウム、その通りだぞ鎧衣
そなたが責める必要は無い。」


謝る美琴にフォローを入れるタケルと冥夜
すると香月博士が『パンパンッ!!』と手を叩き、その場を納める。


「ホラホラ、辛気臭い雰囲気はもうやめて、先に進むわよ。」

「スミマセン、先生」


小さく溜め息を吐く香月博士に頭を下げて謝るタケル
その後、香月博士に連れられて先に進むと、シートに包まれた戦術機が納められていた。


「…なんですか、この機体…?」

「フフフッ…
アンタ達が驚く機体よ。
…班長、シートをめくって頂戴。」


香月博士が整備班長に指示を出すと、整備士を集めて一斉にシートを外すと---


「………えっ?」


「これは…『武御雷』!?」


「フフッ…驚いた?
まだ試作機だけど、殿下にお願いして、試作機を二機貰ったのよ。」


シートから現れたのは、本来ならば、まだ表に姿を見せる事の無い機体『type00・武御雷』だった。

まだカラーリングは黒だったが、その存在感は他の機体とは比べ物にならない程だった。


「コレが戦術機…
ホントに『リアルバルジャーノン』だよ…」

「タケミカヅチ…
今まで見て来た機体とは違う雰囲気を持っているカンジがする…」

「ねぇ、ユーコ
タケミカヅチって、どれぐらいスゴイの?」


初めて戦術機を生で見て、プルプルと震えながら感動する美琴
その隣でクリスカが威風堂々とする武御雷を見て感想を述べる。


そして、イーニァが香月博士に質問すると---


「良い質問よ、イーニァ
そうねぇ…性能だけで言えば、世界屈指の性能を持ち、接近戦に関しては『最強の機体』と言われる程よ。
固定兵装として、前腕外側部に00式近接戦闘用短刀を手首側1、肘側2、左右合計6振装備し、前頭部大型センサーマスト・肩部装甲ブロック両端外縁部・前腕外側部外縁・前腰部稼働装甲外縁などの他、マニュピレータ指部先端、足部先端、踵部先端といった全身をスーパーカーボン製ブレードエッジ装甲により鎧ってて、これらにより近接密集戦において圧倒的な攻撃力を誇り、究極の近接戦戦術機とも言える性能を獲得したわ。
けど、生産性や整備性が犠牲となり、整備するのも、高位な技術士を必要とするし、年間三十機しか生産が限界なのよ。」

香月博士が武御雷の説明をすると、その性能の凄さやリスクの大きさに驚くクリスカとイーニァ
美琴関しては、まだ全然理解出来なかったが、『かなり凄い事』とだけはわかったようだ。


「しっかし…知ってたとはいえ、武御雷ってホント斯衛の為に作られた機体だな…。
接近戦バリバリな装備だもんな…。」

「しかし…コレを改良するとなると…
不知火以上に容易では無いのでは?」

「それについては、大丈夫よ。
性能的には、さほど変わらないけど、そのかわりに度外視されてた生産性や整備性を上げる事が出来るわ。
武御雷自体、機動力では負けるけど、他に関しては不知火・改以上だからね、改良型にした際は、生産性や整備性の他に機動力は上げる事は決定ずみ。
他の改良点はこれから考えるわ。」

冥夜の疑問に詳しく説明する香月博士
その説明を聞いて納得すると、タケルが再び質問をする。

「生産性や整備性を上げるなんて…出来るんですか?」

「今、エルヴィンが富嶽重工と遠田技術と共同作業をして、技術力上昇の為、色々と試行錯誤をしてるわ。
実際、そのおかげで試作段階で10%程だけど、上がったみたいよ。」

「すげー…流石はエルヴィンさんだ…」

「エルヴィンも武御雷に絶賛してるから、改良機には不知火・改以上に力を入れるみたいよ。」

エルヴィンの影からの活躍を知り、尊敬の眼差しをするタケル
すると、美琴が『あるモノ』を見つける


「香月先生~。
あの機体は何ですか~?」

「ああ…アレ?
アレは別の事に使う予定なのよ。」

「あれは…もしや…」

「ラプター…いや、少し違う…」

「あれはね、『高価な鉄屑』なんて呼ばれてる『YF-23・ブラックウィドゥ』って機体よ。
性能で言えば、ラプターをも上回る機体よ。」


ブラックウィドゥの登場に驚くタケル達
その表情を見て妖しく笑みを浮かべる香月博士の姿があった…



あとがき---


出ました、YF-23・ブラックウィドゥ。
騎士王的にたけみーと同じぐらい好きな機体です。
…さて、この機体…誰が乗るんだろ…(ニヤッ)

あと、多分美琴の件で『何故一般人が戦闘機に乗れるの?』というツッコミは止めて下さい。
解答としては『鎧衣親子だから…』と答えておきます

現に彼女…タンカーに乗って日本に帰った方ですから…

ちなみに戦闘機に乗った設定は、以前、二回程その空母に拾って貰い、日本に帰った事がある為、顔見知り。
勿論船員も理由を知ってる為、『また父親から逃げたのか…』と苦笑いし、日本に飛び立つ戦闘機についでに乗せて貰った…という設定です。

うむ、苦しい設定のような気はするが(えっ?)美琴なら出来そうだからコワイ…(汗)



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第五十一話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2011/02/28 20:28
1999年・10月31日--


「さてと…用意も出来たし…行きましょう、まりもちゃん。」

「ええ。」

お互いに正装に着替えて向かう先は、『前回』と同じ体育館。
今日は--今まで育ててきた純夏達訓練兵が卒業する日。


「…あれだけ騒がしかった日々が嘘みたい…。
もう…解隊式を迎える日が来るのが早く感じるわ…。」

「そうですね…
色々ハチャメチャな出来事がありましたしね~…
…その分、静かになると、寂しくも感じますしね…」

「そりゃそうよ。
私の教官職の中でも騒がしかった訓練兵達だもの…
騒がしい分だけ、居なくなると寂しくなるものよ。」

「そっか…」


しんみりとするタケルとまりも
この10ヶ月間の様々な出来事をつい昨日のような感覚で思い出す。

訓練初日から目立っていた純夏
こと有る事にその拳で天高く相手を飛ばし、教官であるタケルやまりもですら、その拳に恐怖していた日々--


気に入った相手をからかう事に全力を注いだ美冴
タケルの『変態全力機動~お仕置き編』を喰らい、痛い思いをしたにも関わらず、懲りずに周囲を巻き込む日々--


総戦技演習の時、『ご褒美』という餌をバラまかれ、教官であるまりもすら参加し、危うく全員失格になりそうだった、あの日--


「アレ--?
あんまりマトモな記憶が思い出せないのは何故…?」

「………私もよ…。」


今までの記憶を思い返して見ると、マトモな日が少なく、思い出せない事にビミョーな気持ちになるタケルとまりも

「そ、そういえば、今日は誰が解隊式で演説をするんだろ。」

「…私も知らないわ…
前回は夕呼だったけど、今回は誰かしら…?」


今回の演説をする人物を知らないタケルとまりも
一抹の不安を持ちながら体育館へと向かうと---


「タケル様、神宮司殿、今日は宜しくお願い致しますわ。」


途端に力が抜けて跪くタケルとまりも
体育館の入り口の前には、悠陽と護衛の神野大将が居た事で『先生の仕業だな…』と全てを悟るタケル
まりもに関しては、悠陽の予想外の登場に頭を抱えて『夕呼…此処までしなくても…』と小さな声で呟く。


「で、殿下自ら来て頂きありがとうございます。」

「いえ、今日は解隊式を迎える日。
特に『友達』である純夏さんの部隊となれば、尚更の事。
御祝いの言葉を直接贈りたいと思ってた所に香月博士からのお願いでしたので、丁度良かったですわ。」

「最後の最後までハチャメチャだな…」

香月博士のイタズラに頭を抱えるタケル
そんな様子を見た神野大将は『…大変じゃのぅ…』と同情する。


「ハア…ハア…ちょっと待って貰えないかね、タケル君」


「巌谷中佐!?」

すると、巌谷中佐が息を切らせながら走って来る。


「何時お戻りに!?」

「昨日だよ、タケル君
…いやはや、なんとか間に合って良かった。」

「どうしたのですか、巌谷中佐…?」


『明星作戦』後、本土奪還作戦に参加していた巌谷中佐の登場に驚くタケル達
息を整えて、本題に入る。


「すまないが、タケル君…
今回の解隊式…立会人として、私も参加させてくれないかね?」

「えっ?」

「唯依ちゃんの解隊式…
この目でその凛とした姿を見届けたいのだが…駄目かね?」

親バカっ振り炸裂にズッコけるタケルとまりも
真面目な顔で語るから尚更タチが悪い。
視線を悠陽に合わせ、アイコンタクトで『どうする、これ?』と聞くと--

「私は構いませんわ、タケル様。」

「……なら、帝国軍代表として、立会人になって下さい…。」

「おおっ!有り難い。
感謝するよ、タケル君」

少し呆れながら許可を出すタケル
『…オレもこんな親バカになるのかなぁ…』などと、自分の未来の姿に不安を感じていた。


「殿下、中に入りますので、お足元にお気をつけて下さい。」

「ハイ、わかりましたわ。」

「では……全員、整列ッ!!
政威大将軍・煌武院悠陽殿下の入場である!!」

「「「「えっ!?」」」」
「ぜ、全員敬礼ッ!!」


ガララッ…と体育館の扉を開くと、まりもが大声で訓練兵を整列させ、悠陽殿下の入場を口にする。

勿論、純夏達訓練兵は、まさか自分達の解隊式に悠陽殿下が来るとは思わず、戸惑いながらも整列し、唯依の敬礼の一言で全員敬礼する。


「皆さん、楽にして下さい」

体育館に入る悠陽が踊場に上がり、中央に設置している机に到着すると、敬礼している純夏達に敬礼を解くように命じる。
純夏達は敬礼を解き、
悠陽に視線を向けると演説が始まる。


「此度の解隊式…誠におめでとう御座います。
日頃の学業や訓練に力を入れ、衛士になる事を目指し、この日本や民を守る事を目標として頑張る皆様の努力…それが、今回解隊式に導いた要因だと思います。」


悠陽の演説を聞き、嬉しさの余り身を震わせる唯依や佳織
日頃の努力を悠陽に誉めて貰い、嬉しさで涙を滲ませるまりか
そして、今までの努力で念願の解隊式を迎え、嬉しさを表情に出さないように噛み締めながらも、僅かに目尻に涙を溜める美冴


皆、様々な想いが出て来て、涙を滲ませる者達が数名居た中、離れてその様子を見ていたタケルやまりもが心配そうに見守っていた。


(みんな…嬉しさで涙滲ませてらぁ…)

(今回は許してあげましょう…
今日はみんなにとって喜ばしい日だもの…。)


小さな声で語るタケルとまりも…
表情には出さないが、やはり二人も純夏達の門出に喜んでいた。


そして、演説は終わり、衛士徽章授与を行う為、まりもが純夏達に敬礼を命じる


「気をつけぇっ!!
煌武院悠陽殿下に…敬礼ッ!!」

ザッ…!!と敬礼をキメる純夏達
まりもの訓練兵最後の命令を完璧にこなす。


「…引き続き、衛士徽章授与を行う。」

そして敬礼を解いた後、次に衛士徽章授与を行う為、タケルはマイクの前に立ち、進行を進める。

「宗像美冴訓練兵」

「ハッ!!」

「これにより、そなたは国連軍衛士になりました
おめでとうごさいます。」

「有り難う御座いますッ!!」

「宗像さん…タケル様をからかうのは程々にしてくださいよ?」

「殿下の命令とはいえ、それだけは無理です。」
「まあ…宗像さんったら…♪」


悠陽から徽章を胸に付けて貰った際、悠陽から一言を言われるが、『白銀中尉をからかうのは、最早生き甲斐ですから』と言わんばかりに、笑みを浮かべながら拒否をする。
そんな美冴を見て笑う悠陽だが、当のタケルは豪快にズッコけ、後頭部を強打する。


「鑑純夏訓練兵」

「ハイッ!!」

「これにより、そなたは国連軍衛士になりました
おめでとうごさいます。」

「有り難う御座いますッ!!」

純夏の胸に徽章を付ける悠陽
そして御祝いの言葉を贈ると、新任衛士らしく敬礼しながら感謝の言葉を口にする純夏


「純夏さん…
私にとって、そなたが初めての『友』です…
プライベートでは、『政威大将軍・煌武院悠陽』としてではなく、『1人の女性・悠陽』として接してくれた事や、クリスカさん・イーニァさん・社さんを『親友』として紹介してくれた事…
私にとって、どれもが初めてであり、嬉しい事でした…。」

「い、いえ…そんな事無いですよ~。」

「純夏さん…私にとって、そなたが一番の『親友』です…
心より感謝を…。」


『親友』として接してくれた純夏に心から感謝する悠陽
当の純夏はアワアワしながら戸惑っていた。

「クリスカ・ビャーチェノワ訓練兵」

「ハッ!!」

「これより、そなたは国連軍衛士となりました
おめでとうごさいます。」

「有り難う御座います。」

クリスカも悠陽から徽章を胸に付けて貰うと、一言声をかけられる。

「クリスカさん…恐れてはなりませんよ。」

「は?」

「篁さんと仲良くなりたいのでしょ?」

「「な゛ぁっ!?」」

悠陽に見抜かれてしまい、驚くクリスカ
同時に離れていた唯依も聞こえ、驚愕する。

「そなたと篁さんの現在の関係…
私から見れば一目で分かりましたわ。」

「な…何故ですか…?」

「お互いに強く信頼し、意識しあってるにも関わらず、お互いに素直になれずにいる為、『友達になりましょう』と名乗れないでいる…
そんな感じが伝わって来ましたよ?」

「はうっ!?」

唯依との関係を見破られてしまい、戸惑うクリスカ
唯依もアワアワと慌てる様子を見せているが、ぶっちゃけ、みんな知っていた…つーかバレバレだった…。

「篁さんとの仲の進展…陰ながら、私も応援致しますわ♪」

「あ、ありがとうございます…」

スッゴく恥ずかしくて顔を真っ赤っかにするクリスカ
勿論唯依も真っ赤っかだが、離れていた義父・巌谷中佐は『唯依ちゃん…頑張れ…☆』と萌え的なカンジで親バカっぷりを発揮していた…。


「イーニァ・シェスチナ訓練兵」

「ハイ!!」

「これより、そなたは国連軍衛士となりました
おめでとうごさいます。」

「ありがとうございます♪」


悠陽から徽章を付けて貰うと、自分は何を言われるのかをウキウキしているイーニァ


「イーニァさん、クリスカさんと篁さんの友達の件…頼みますよ。
純夏さんや社さんと一緒に支援してくださいね♪」

「「な゛っ!?」」

「ウン、モチロンだよ♪
クリスカとユイのことはまかせて♪」

「頼もしいですわ☆」


クリスカと唯依の事を託され、ぺたんこな胸にドンッと拳を叩いて任されるイーニァ
勿論クリスカ・唯依の顔はトマトと同じぐらい真っ赤っかになる。


国連軍組が終わり、次は正樹達帝国軍組の番になると---

「前島正樹訓練兵と伊隅まりか訓練兵」

「「ハイ!!」」

「…スミマセンが、そなた達の徽章は暫しお待ち下さい。
『とある理由』がある為、順番を変えます故に、待って貰えないでしょうか?」

「え…あっ、ハイ…
大丈夫です。」

「り、了解しました。」

突然の事に驚き、戸惑う二人
残った二人に徽章を贈り、一言声をかけると、次は斯衛組に変わる。


「篁唯依訓練兵」

「ハッ!!」

「これより、そなたは斯衛軍衛士となりました
おめでとうごさいます。」

「有り難き御言葉です!!」

唯依も悠陽から徽章を頂くと、一言声をかけられる。

「そなたの話はタケル様や神宮司軍曹から良く聞きます。
成績優秀、剣技にも長け、人望も厚いと三拍子揃ってるとか…」

「そっ、そのような事はっ!?」

「裁縫・掃除洗濯・料理も得意、大和撫子のような存在とも聞きます。」

「め…滅相も……無いです…」

悠陽からメッチャ誉められまくり、逆に胃が痛み出す唯依。
ちなみに『大和撫子』の情報源は親バカ・巌谷中佐と斉御司兼嗣大佐だったりする。


「篁さん」

「ハッ、ハイ!!」

「----そなたもタケル様の下に娶りませんか?」

「ハイ…………………………………………………………ハァァァッ!!?」

「「「な゛ぁっ!!?」」」


悠陽の突然の爆弾発言に驚愕する一行
タケルは再びズッコけ、そのコケたタケルの肩にポンと手を乗せて『唯依ちゃんを頼むよ、タケル君☆』と笑顔で娘を託す巌谷中佐
そして、その近くでゴゴゴ…と嫉妬のオーラを放つまりもが『篁…貴様もか…ッ!!』と少し狂犬になりかかってたりする。


「ででで…殿下、突然何を…?」

「いえ、篁さんもタケル様を想う一人と聞き、それならば…と思ったのですが?」

「情報源は一体誰でしょうか!?」

「巌谷中佐と宗像さん・雨宮さん・香月博士…」

「あ~ま~み~や~!!
む~な~か~た~!!
叔~父~様~<◎><◎>」


グリンッと目を光らせて威嚇する唯依
その眼(まなこ)を見て、『ヒッ、ヒイッ!?』と悲鳴をあげて怖がる美冴・佳織・巌谷中佐


そんな唯依をスルーして、次の佳織の前に移動する。


「雨宮佳織訓練兵」

「ハ、ハイッ!!」

「これより、そなたは斯衛軍衛士となります
おめでとうごさいます。」

「有り難う御座います。」

怯えていた佳織だが、悠陽から徽章された為、即座に冷静に戻る。


「雨宮さん」

「ハイ」

「篁さんとタケル様の件…頼みますよ。」

「ハイ♪
…あっ、しまっ…!!」


悠陽の一言で本音がつい出てしまい、再び唯依に睨まれる羽目になる佳織
勿論そんな事スルーする悠陽は残りの二人の徽章を済ませ、一言言葉を交わし、斯衛組は終了する。


そして先程順番を変えられた正樹とまりかの前に立つ悠陽
先程までのはっちゃけは無くなり、真摯な表情で言葉をかける。


「お待たせ致しました、前島正樹訓練兵
そして、伊隅まりか訓練兵」

「「ハッ!!」」

「順番をずらしたのは、深い理由があります。
詳しい話は部隊配属の際、タケル様が伝えます。」

「「了解しました。」」

二人に徽章を胸に付ける悠陽
そして---


「前島正樹訓練兵及び、伊隅まりか訓練兵
そなた達はこれより『斯衛軍衛士』になりました。
おめでとうごさいます。」

「有り難う御座い…………ハイ?」

「斯…衛軍…?」


突然斯衛軍に所属する事になり、言葉を失う正樹とまりか

「突然の事で驚くでしょうが、この件に関しては、香月博士との話の結果、決まった事です。
そして、その理由のひとつとして、そなた達には『重大な任務』を命じる為、今回斯衛軍に所属する事が決まったのです。」

「重大な任務…!!」

悠陽の一言にゴクリと息を呑む正樹とまりか
他の者達も驚きを隠せないでいた。

「突然の所属変更に戸惑うでしょうが、どうか御理解頂けないでしょうか?」

「ハッ、任務となれば致し方ありません。」

「任務お受け致します!!」

ビシッと敬礼を決める正樹とまりか
遠くから少しホッとするタケルがマイクを持ち、解隊式の終了を告げる。

「これで解隊式を終了する。
全員、政威大将軍・煌武院悠陽殿下に…敬礼ッ!!」

「「「「有り難う御座いましたッ!!」」」」


純夏達全員が敬礼をし、退室する悠陽を見送る。

こうして、解隊式は終了する。
そして、この後タケルの口から重大な事を告げられ、再び驚愕するのだった…



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第五十二話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2011/03/17 17:26
「ヨシ、みんな集まったな。」


解隊式を終えて、教室に集まる純夏達
タケルとまりもは黒板の前に立ち、説明を始める。


「これより、皆様方新任少尉殿達の部隊配属の説明を始めたいと思います。」

部隊配属の説明を始めるまりも
既に解隊式を終えた純夏達はまりもより上官になった為、敬語を使う。
勿論純夏達はまりもに敬語を使われ、複雑な気持ちになるが、恩師の言葉を真剣な表情で聞く。


「まずは、国連軍組である宗像少尉・鑑少尉・ビャーチェノワ少尉・シェスチナ少尉の四名は、香月博士直属の特殊任務部隊に所属する事になります。
部隊名は訳あってこの場では言えませんが、宗像少尉は、とある中隊に所属する事になります。
但し、鑑少尉とビャーチェノワ少尉・シェスチナ少尉は香月博士の特殊任務を請け負って貰う為、宗像少尉と同じ所属にはなりますが、部隊には配属されません。
詳しい話は直接香月博士から説明がありますので、御了承下さい。」


「「「「ハッ!!」」」」

まりもの説明を聞き、敬礼をしながら返事を返す美冴・純夏・クリスカ・イーニァ
上官になっても、恩師には頭が上がらないのは皆同じだった。


「次に帝国軍組の配置ですが…
お二人共、帝国軍第7戦術機甲大隊・『銀の戦車隊』シルバー・チャリオッツ隊に所属する事になりました。」

「ちなみにこの部隊、オレの両親が率いてる部隊でな、オヤジが部隊長で母さんが副隊長だ。」

『『えっ?』』


影行の部隊に配属される事になり、驚く二人
タケルの両親の部隊と知り、やや緊張気味になる。

「お二方の実力は正にエース級
特に白銀楓中尉の実力は抜きん出て、狙撃による高機動戦闘に関しては、極東一と言っても過言ではないでしょう。」

まりもの説明を聞き、『流石は白銀中尉の親御さんだな…』と納得してしまう唯依達。


「最後に斯衛軍組ですが、皆様は『白銀大尉』が所属する部隊、斯衛軍第17大隊へ入隊致します。」


「「「「『えっ!?』」」」」

タケルと同じ部隊に所属する事に驚く斯衛軍組


「あの…神宮司軍曹…
白銀『大尉』とは一体…?」

そして、美冴が違う意味で驚き、まりもに質問する。

「白銀大尉はXM3を始め、不知火・改のテストパイロットでの功績・『本土侵攻戦』や『明星作戦』での活躍により、今回の解隊式に合わせて大尉に昇進致しました。」

タケルの功績を聞き、驚愕する唯依達
純夏・クリスカ・イーニァは知っていたが、改めてタケルの功績を聞き、その凄さに驚いていた。

「篁少尉・雨宮少尉・前島少尉・伊隅少尉の四名は、今回新たに作られた中隊に所属する事が決まった。
中隊長はオレで、副隊長が真耶大尉だ。」

「えっ?」

「作られた…中隊?」


タケルの説明を聞いて驚く唯依達四人。
まりもすら、新しく作った中隊の事を知らない為、驚く。

「…何故神宮司軍曹が驚くんですか?」

「いや、私はその話は知らないモノで…」

「また先生の仕業か…」

香月博士のイタズラに頭を抱えるタケル
気持ちを切り替えて、説明をする。


「実は今回第17大隊で部隊拡大を計画があって、まず最初に一個中隊を作る事になったんだ。
そして、近い将来に一時的に国連軍に所属し、様々な特殊任務を行う為、今回中隊を創ったんだ。」

「国連軍に…?」

「ああ、しかも先生直属の特殊任務部隊にだ。」

「「「「「!!?」」」」」


国連軍に一時的に所属し、しかも香月博士の直属部隊に所属する事に驚く唯依・佳織・正樹・まりか

「…白銀大尉…博士の特殊任務部隊に一時的に所属する理由って、もしかして…」

「ハイ、神宮司軍曹が思ってる通りです。
この先、様々な問題がかなり発生します。
しかも、国を絡んだ問題ならば、場合によっては帝国軍・斯衛軍が参加する事が出来ないかもしれません。
しかし、国連軍…しかも先生の直属部隊なら、超合法的な手段で様々な問題もクリア出来るので、本来参加出来ない戦場でも、参加する事が可能になるんです。
ですから悠…殿下と先生が話し合った結果、第17大隊を拡大し、その一部を特殊任務部隊に一時的に所属する事で、少しでも戦力を上げる事が出来るようにしたんです。
こうすれば、いざ戦力が欲しい時にオレの部隊を通して帝国軍・斯衛軍の参加を可能にしたんです。」

「成る程…確かにそれならば国を絡んだ問題もクリア出来る…
それならば『理由』なんて幾らでも作る事が出来る…」


そして『一時的に所属する理由』に気づいたまりもはタケルの説明を聞き、『成る程…』と理解する。

「それに、大尉は殿下の『許嫁』という肩書きもある
『護衛の為』と理由を作って参加する事も出来る…」

「ぐっ…正解だ、宗像…
恐らく、それも利用する事もあって、オレを部隊長にしたんだろ。
じゃなかったら、真耶大尉が部隊長になって、オレが突撃前衛長になってる筈だからな。」

「流石は香月博士…ですか…」

そして美冴がもう一つの理由を言い、正解する。
タケルも苦い表情をしながら『先生だからな…』と諦めてる。

「…という事で、篁少尉・雨宮少尉・前島少尉・伊隅少尉の四名はオレの部隊に所属し、残った二人は九條椿少佐率いてる第17大隊第1中隊に配属される事になった。」

『九條…様の部隊…』

『気を引き締めなきゃ…』

ゴクリと息を呑む二人
五摂家がゴロゴロといる部隊に配属される事に緊張と責任感がのしかかる。


「という事で、配属の説明は終わりだ。
次は所属先の軍服等を配布するから、名前を言われた順に取りに来い。
最初は…宗像少尉」

「ハイッ!!」


部隊配属の説明を終わらせ、配属先の軍服や強化装備を配布する。
最初は美冴から始まり、次々と配り、全員に配布する。

「ふぁあぁ~…
おはよ~みんな~…ふぁ…。」


配布を終えると、突然扉が開き、欠伸をしながら香月博士が入って来る。

勿論みんなの注目の的になり、タケルとまりもは力が抜けて机に頭を『ゴンッ!!』とぶつける。


「何やってるの、白銀・まりも?
二人揃って仲良く机に頭をぶつけるなんて…。」

「先生の登場の仕方に力が抜けて頭をぶつけたんですよ…。」

「真面目に進行してたのに…」

「仕方無いでしょう
こちとら3日振りの熟睡した後なんだから、欠伸ぐらいいいぢゃない。」

少し頬を赤らめながら言い訳をする香月博士
流石に少し恥ずかしかったようだ…

「先生…せっかくだから、新任少尉達に一言言って下さい…。」

「ええぇ~…そんな固っくるしいの面倒くさいからパス。」

「夕…博士ッ!!」

面倒くさそうに祝いの言葉をパスする香月博士
思わず『夕呼ッ!!』と言いそうになるまりもの後ろでは、少しショックを受けて、落ちこむ純夏達の姿があった。

「仕方無いわねぇ~…。
みんな、卒業おめでとう。
まあ、白銀とまりもが鍛えたんだから、卒業出来て当たり前だけど…
…この先、今まで学んできた事をひとつでも無駄にすれば、二人の顔に泥を塗るだけじゃなく、アンタ達や先任達の命も無くなる事をその身に刻み込んでおきなさい。」


先程までとは変わって、鋭い表情で激を飛ばす香月博士
しかし、それは新任少尉達の為を思っての事だった。


「この先、必ずアンタ達の前に様々な困難や試練が待ち構えてる。
けど、決して恐れてはならない
例え逃げ出しても、辛い現実から逃げ出す事は出来ないわ。
迷い・苦しみ・絶望したならば---
周りを良く見てみなさい…。」


様々な気持ちや思いを込めて、表情を笑みに変えて呟く。


「アンタ達は決して『独り』じゃないわ。
助けあえる仲間達がいるわ。
支えてくれる先任達や恩師がいるわ。
そして…常にそばにいてくれる愛する者がいるわ…。
それらがある限り、アンタ達が迷っても、苦しんでも、絶望しても---
必ず助けてくれるわ…。
そして、その恩を忘れずに、いつか…返してあげなさい…そうすれば、どんな困難や試練を乗り越える事が出来るわ。」


「「「「ハイッ!!」」」」

香月博士の言葉に感動し、大きな声で返事を返す純夏達。
まりもも友の言葉に感動し、喜ぶと---


「ハイ、終わり。
さて、昼ご飯でも食べに行こうかしら~♪」

これである。
せっかくの感動の場面がぶち壊しになり、純夏達全員が机に頭を強打する。
まりもも跪いて『せっかく良い雰囲気だったのに…』と落ち込みながら呟き、唯一タケルだけは『やっぱりな…』と予想していた…。


「あっ、そうそう。
来年の1月頃に、私を含めた国連軍は横浜に引っ越すわ。
場所は…白陵基地があった場所よ
帝国軍第7戦術機甲大隊も一緒について来るから忘れないように。」

「「「「!!!!」」」」


「あと、白銀・まりも
アンタ達は同じ時期に殿下と一緒に京都に帰るから、そこで来期の訓練兵を鍛えて頂戴。
勿論篁達斯衛軍も一緒に行くから忘れないように。」

「「「ハッ!!」」」

香月博士の報告に驚きながらも、敬礼する唯依達新任少尉
『だから敬礼はいらないって言ってるでしょう~』と香月博士は苦い表情をしながら呟く。

「先生、以前東京って言ってませんでしたっけ?」

「ええ、言ったわ。
けど、報告によれば京都の帝都は防衛が成功したおかげで、被害は至って軽く済んだみたいだから、首都を移す必要が無くなったの
現在、本土奪還戦は大方奪還に成功して、中国・四国地方と九州の一部まで防衛線を上げてるわ。
その為、京都では斉御司大佐を筆頭とた先遣隊が首都としての機能を復活させる為、全力で復興中よ。」


ちょっと予想外にも京都に帰還出来る事に驚くタケル
まりもや純夏達は、東京に首都が移る話やら、京都の帝都が復興出来るだの突然の話に茫然とするしか無かった。


その後『私、お昼食べに行くから、じゃあね~♪』と立ち去る香月博士を見て、最早力が入らないタケル達
こうして、タケル達の波瀾万丈な1日は終えたのだった…



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第五十三話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2011/03/13 19:17
1999年・11月1日


仙台・第二帝都城・ブリーフィングルーム


「ようこそ、我が第17戦術機甲大隊へ
諸君等の入隊を歓迎するッ!!」

「「「「有り難う御座いますッ!!」」」」


部隊長である椿が新任少尉である唯依・佳織・正樹・まりかに歓迎の言葉を贈る。
唯依達四人は敬礼をしながら返答を返すと、『楽にして構わないわよ。』と椿からの指示に従い、敬礼を解く。


「そして…真耶大尉。
ようこそ、第17戦術機甲大隊へ
貴女の入隊を歓迎致します。」

「有り難う御座います、椿様。」

「『椿様』なんて…部隊内やプライベートでは『椿』で構わないですよ
お互いに親戚同士なんですから。」

「いや…流石にそれは…」

「恨むんなら『旦那様』に言って下さい。
私も彼の『馴れ馴れしさ』が感染したみたいですから♪」

「オレのせいッ!?」


椿の言葉に鋭く反応して突っ込むタケルだが、部隊の仲間達に『ウンウン』と首を縦に振られ、尚且つ『みんな白銀クンの馴れ馴れしさを感染されたよね~♪』など口にされ、ヘコんでしまう。


「あと白銀武大尉…って、其処まで落ち込まなくても…」

「フフフ…い~んだ…どーせオレは…」

すっかりヘコんで体育座りをしながら落ち込むタケル
流石に『………やり過ぎたか…?』と椿を含む部隊のみんなが思っていると---


「---椿様?」

「ご、ごめんなさい沙耶
そんな怖い顔しないでッ!?」


ニコニコ笑顔の沙耶
しかし背後に黒いオーラを放ち、やり過ぎた椿にお仕置きモード突入


「---離せ、真那ッ!!」

「落ち着け、真耶ッ!!
言い過ぎはしたが、其処までする必要は無いだろう!!」


真耶・ブチキレモード突入
小太刀抜刀してお仕置きする前に真那が羽交い締めにして阻止する。
勿論皆さん部屋の隅っこでビクビクガクガクと震えている。


「---良い覚悟だ。
タケル---そなたの仇、私がとってみせるッ!!」

「め、冥夜様駄目ですッ!!」

そして、此処にもタケルラヴラヴ大好きっ娘・である冥夜が皆琉神威を抜刀する寸前で、唯依達が全員で拘束&説得をする

そして、被害者である部隊のみんなが心をひとつにして、心の中で呟く。


(((アンタ達だって、やり過ぎる時あるだろうッ!!)))


時々タケルにお仕置きをする彼女達に反論する一同
…しかし、実際に口に出来る勇者は誰もいなかった…。


「…まあ、冗談はこれぐらいにしときましょう。」

「ウム、そうだな。」

「ええ…」

(((誤魔化したッ!?)))


冷静さを取り戻し、頬を少し赤らめながら、誤魔化す沙耶・冥夜・真耶


勿論他のみんなの心はひとつ
『あれだけの事やっておきながら、誤魔化しやがったよ…』…だった…。
勿論、誰も口にしなかったのはお約束だ。


「…ゴホン。
なんか、恥ずかしい所を見せたわね。」

「いえ…訓練兵時代で馴れてますから…。」

「…………そう……大変だったわね…。」

「……………ハイ」


ワザとに咳をして誤魔化す椿
顔を赤らめながら、『恥ずかしい所を見せてしまった…』と呟くが、唯依やまりかが『訓練兵時代からハチャメチャは日常茶飯事でしたから…』と此方も顔を赤らめながら告白する。
この瞬間、彼女達にちょっとした友情が芽生えたりする。(後に千鶴も参加する事になる。)


「気を取り直して…白銀武大尉。」

「ハッ!!」

「本日より、第17戦術機甲大隊・『第四中隊』の中隊長を命じる!!
副隊長として真耶大尉
部下に御剣少尉・篁少尉・雨宮少尉・前島少尉・伊隅少尉を配属する事になる。
これからの貴殿の活躍を期待する。」

「ハッ!!了解しました!!」

椿に敬礼をしながら『軍人としての姿勢』を教え子達に見せるタケル


「…珍しいわね、白銀大尉?
アナタが軍人としての姿勢を見せるなんて…。」

「そりゃ、今回ぐらい教え子達にちゃんとした所を見せないとマズいっしょ…
一応コイツ等の『教官』でしたから…。」

「それもそうだけど、今更そんな姿を見せても遅いわよ?
…ほら、彼女達だって、珍しい光景を見てビックリしてるわよ?」

「ぐふっ!?」

逆に裏目に出て、『…授業以外に見た事無いから、逆にビックリした…』風に唯依達に見られてしまい、自爆するタケル
ちなみに今回は真耶達も『自業自得だ』と同意をし、暴れなかった。

『コンコン』

「ハイ、どちら様ですか?」

「失礼します、九條少佐」

「失礼します。」

「先生に…まりもちゃん?」


すると、ノックが聞こえ、入室を許可をすると、香月博士とまりもが入って来る。


「どうしました、香月博士?」

「実は九條様に頼み事があって、参りました。」

「頼み…?」

珍しく香月博士の方から椿に頼み事をしに来た事に少し驚く。

「実はまりもを九條様の部隊で預かって欲しいのですが…。」

「神宮司殿を?」

「実はまりもは、今後白銀と一緒にテストパイロットをする為、白銀と行動をする事が多くなります。
そして来年は年越しを済ませたら来期の訓練学校の教官職を白銀と共にやって貰う予定なのです。
ですから、まりもを一時的に椿様の部隊に所属して貰いたいのです。
勿論、何か任務や出撃をしても構いませんので…。」

「そうでしたか…
わかりました、神宮司殿をお預かり致します。」

「有り難う御座います、椿様
既に殿下や紅蓮大将の方には伝えてありますので…」


ちょっと予想外にも、まりもの一時的に所属する事が決まり、驚く一同
特に新任少尉達である唯依達は驚きを隠せないでいた。

「まりも、今から貴女の階級を『臨時大尉』に上げるわ。
教官職の時以外は、貴女の権限は大尉と同じよ。」

「ハッ、了解しました。」

そしてまりもの階級を『臨時大尉』に上げる香月博士
まりもはそれに応えて、敬礼をする。


「神宮司まりも臨時大尉」

「ハッ!!」

「そうね…貴女には白銀大尉の部隊に配属するわ。
数も少ないから、丁度良かったわ。」

「有り難う御座います!!」


タケルの部隊に所属する事になったまりも
内心タケルの部隊に入れて嬉しかったりする。


「では白銀大尉、部隊の編成を決めて下さい。」

「ハッ!!」


そして椿から部隊の編成を命じられ、みんなを集め、部隊の配置を考える。


「うーん…まず、第壱小隊はオレの部隊だから、突撃前衛になるんだけど…
冥夜、オレと一緒にエレメントを組むぞ。」

「無論だ♪
言われなくとも、そのつもりだ。」

念願のタケルとのエレメントを組む事になり、笑みを浮かべる冥夜
離れている場所で真那が『冥夜様…おめでとうございます…。』と小さな声で呟いてたりする。


「第弐小隊が真耶さん
第参小隊がまりもちゃんが小隊長をしてください。」

「わかった。」
「わかったわ。」

そして、第弐・第参小隊の小隊長に真耶・まりもが任命される


「新任少尉達は…うーん…
第弐小隊に篁少尉と雨宮少尉
第参小隊に前島少尉と伊隅少尉だ。」

「「「「了解。」」」」

人員配置を決めるタケル
そして次に新任少尉のポジションを決める。

「次にポジションだが、今回は人員が少ない為、異例の配置をする事になる。」

カキカキとホワイトボードにポジションを書いていく。


第壱小隊
突撃前衛長兼中隊長 白銀武
突撃前衛・御剣冥夜少尉

第弐小隊
小隊長兼副隊長・迎撃後衛 白銀(月詠)真耶大尉
強襲前衛・篁唯依少尉
強襲前衛・雨宮佳織少尉

第参小隊
小隊長・迎撃後衛 神宮司まりも臨時大尉
制圧支援・前島正樹少尉
砲撃支援・伊隅まりか少尉


「…って配置にする。
見てわかるように、今回は人員が少ない為、異例なポジション設定になっている。
本来ならば、突撃前衛組の篁・雨宮を第弐小隊に下がらせる為、こんな配置になった。
二人は強襲前衛になっているが、一応強襲掃討の役割もやって貰うつもりだ。
大変な事だが、頑張ってくれ。」

「「ハッ!!」」

「そして、第参小隊の伊隅だが…
本当なら、強襲掃討をやって貰いたかったのだが、砲撃支援がいなかった為、今回急遽変更した。
何処のポジションにも配置出来る万能型の伊隅だから出来た配置だ、
済まないが…頼む。」


「任せて下さいッ!!」


唯依・佳織・まりかのポジションの説明をするタケル
理由を聞き、納得した後、敬礼して返事を返す


「部隊か出来たばかりだから隊規なんてもんは無いが、ひとつ言える事は…命を粗末にするな。」

命の尊さや失った痛みを良く知るタケルの言葉を理解してる真耶とまりも
唯依達もタケルの『仲間を失った話』を思い出し、真剣に話を聴く。


「さて、辛気くさい雰囲気は止めて、先任達に挨拶して来い
それがお前達の最初の任務だ。」

「「「「ハイ!!」」」」

タケルの話が終わり、第17大隊の先任達に挨拶をして来る唯依達
そんな姿を見ながらタケルのそばに真耶とまりもが近寄って来る。


「どう?初めての隊長としての仕事は?」

「めっちゃ緊張してますよ。
中隊長なんて初めてだから、わからない事ばかりですよ。」

「そういう事は私達や椿様達に相談するがいい。
相談に乗るぞ?」

「ハイ」


流石に初の中隊長の仕事に戸惑っていたタケル
その力になろうと真耶やまりもが声をかける。

「タケルゥッ!!
遂に中隊長になりやがったなっ!!」

「ぷわっ!?孝志さん!?」

「おめでとう、タケル
同じ中隊長として色々と力になるぞ。」

「有り難う御座います、政弘さん」

突然タケルの背後から孝志が抱きつかれ驚く。
孝志も政弘も『友』の昇進に喜び、祝いの言葉を贈る。


「突撃前衛長と中隊長の両方を得るとは…流石に驚いたぞ。」

「突撃前衛長はわかるとしても…流石に中隊長は予想外だったぜ。」

「ハハハッ…それは俺もそうですよ。」

男三人集まり、仲の良い親友のように語り合う。


「ううぅっ…タケルさ~ん…」

「泣くな泣くな。」

そしてタケルが同じ中隊から離れた事に寂しそうにウルウルと涙を流す
憧れのタケルが離れた事は、駿にとってかなりの衝撃だったらしい。


「第1中隊の突撃前衛は任せるぞ、駿
お前ならいずれ突撃前衛長になれる。」

「タケルさん…。」

「お前の成長した姿を見せてくれよ?
仮にもオレとエレメントを組んでたんだ、他の奴らや新任少尉に見せつけてやれ。」

「…ハイッ!!」


涙を拭い、元気良く返事を返す駿
元気が出た所で一安心するタケル


「ヨシッ!!
隊長らしくなってやろうじゃないかっ!!」

気合いを入れて、挨拶に廻る新任少尉達の下に行くタケルだった…。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第五十四話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2011/12/21 06:09
「ウオォォォッ!!」

縦横無尽に舞うタケルの不知火・改
その後ろを冥夜機がついて行き、タケルとの連携攻撃で敵を撃破していく。


新任少尉達の紹介を終えた後、シミュレーター訓練を行い、まずは部隊の連携を確認をする為、孝志・政弘率いる第二中隊と対戦していた。

そして現在、第二中隊は二機撃墜されて残り十機
タケル率いる第四中隊は現在撃墜者無し…だが…


「クッ…!!」

「動きが…速過ぎるッ!!」

第二中隊の動きを見て戸惑う唯依と佳織
先任達との実力の差を見せつけられて、唇を噛み締めながら悔やむ。


(これが戦場を経験した先任達の実力…!!)

(私達とは…比べモノにならないッ!!)


幾ら唯依達の実力が抜きん出ているとはいえ、それは『通常の衛士としての話』

しかし相手は凄腕の衛士達
しかも『本土侵攻戦』や『横浜ハイヴ攻略』に参加し、奇跡的にも誰一人失わずに生き残った実力者達


そして第17大隊は斯衛軍『最強』との噂までされる程
中隊としては、第一中隊に次ぐ攻撃力の高さを誇るのだ。


「焦るなッ!!
良く敵の動きを見極めてから攻撃をするのだッ!!」

「「りょ、了解!!」」


苦戦する唯依と佳織をカバーするように応戦する真耶
激を飛ばしながらも、近寄って来る複数の敵を一機で防戦する。


そして、もう一方は---


「嘘っ!?あれを回避するのっ!?」

「クッ…攻撃が全然あたらねぇ…!!」

唯依達と同じく苦戦する正樹とまりか
訓練兵時代、狙撃の命中率がイーニァに次いで高かったまりかの狙撃が悉く回避される。
相手の敵機は障害物を上手く使い、まりかの狙撃を無効化していた。

そして正樹は、視界の広さを生かして攻撃をするものの、相手の巧みな動きに翻弄されていた。


「落ち着け、お前達ッ!!
実力の差が開いてる事自体、始まる前から分かってる事だ。
ならば、今自分に出来る事をやるのだっ!!」

「「りょ、了解ッ!!」」

恩師・まりもの激が飛び、先程までの戸惑いが消える二人

そして当のまりもは、タケルとは違い、地を這うように噴射地表面滑走等を主に使い、迫り来る敵機を撃破していく。

「…凄い。」

「これが…神宮司大尉の実力…!!」

初めて『教官として』ではなく『衛士として』戦うまりもを見て驚愕する二人
その実力の高さを見て、言葉すら失う。


『流石は神宮司大尉だ…
貴女の相手は私がお相手致します。』

そして、そのまりもに政弘機が接近し、挑む。


「……あれは確か斉御司大尉の機体…。
私が相手するしかないか…」

長刀を抜刀し、政弘機に備えるまりも
政弘機の長刀と数合打ち合い、火花を散らせる。

「クッ…流石に斉御司大尉相手に長刀での接近戦では不利か…」

数合の打ち合いで自分の不利を知るまりも
即座に長刀から突撃砲に装備を切り替え、狙撃しながら接近戦に挑む。

『むっ…流石は神宮司大尉…
自分の不利を即座に悟り、突撃砲での接近戦に切り替えたか…』


そして政弘は武器を切り替えたまりもの切り替えの速さに感服しながらも、突撃砲による攻撃を回避し続ける

まりもが突撃砲に切り替えた事により、流れが変わる。


「ハアァァァッ!!」

『なっ…!?』


小さく倒立反転をして政弘機の長刀による一閃を回避したのち、近くにあった障害物の側面を噴射地表面滑走をするように移動しながら反転し、政弘機の背後に回り込みながら突撃砲による攻撃をする。


『グゥ…ッ!!』

回避行動をとった政弘機だが、ブレードマウントに被弾してしまい、破損する。


『回避しきれなかったか…
しかし、今の機動---』

冷や汗を流す政弘
あと少し回避行動が遅ければ、間違い無く大破判定モノだった


しかし、問題は其処ではない。
今問題すべき事はまりもの機動だった。


『---まるでタケルのような機動だった…。
タイプは違うものの、中身の本質は似ている。』

先程の小さな噴射跳躍からの倒立反転
その最中に障害物の側面を利用しての噴射地表面滑走
そして噴射地表面滑走をしつつ反転し、背後をとって突撃砲からの狙撃

まさしくタケルがやりそうな機動特性に酷似していた。


『そういえば…
神宮司大尉は良く主脚走行や噴射地表面滑走を良く使ったな…』


先の『本土侵攻戦』や『明星作戦』を思い出す政弘
ハイヴ内での戦いで主脚走行や噴射地表面滑走を良く使う
しかし、最近のまりもはそれらを良く使い、結果活躍の場を増やしていた。


『…とはいえ、私とてこの第二中隊の長…
そう簡単に撃ち取れると思うなッ!!』

水平噴射跳躍を全力噴射しながら、長刀を構え、一閃を放つ準備をする


「此処は多目的追加装甲で…いや、駄目だ。」

多目的追加装甲で政弘機の一閃を防ごうとするが、すぐさま考えを改める

(此処で防御する事は容易いが、相手はあの斉御司大尉…裏があるかもしれん。
それに---)

チラリと後方で頑張って足掻く教え子達を見て、表情に笑みが出て来る

「可愛い『子供達』の前でみっともない姿を見せる訳にはいかないのよっ!!」

多目的追加装甲を捨てて、両腕からナイフシースを展開し、短刀二刀装備する。


そして---

「「ハアァァァッ!!!」」


互いの『牙』を放ち、交差する---!!


「あがぁ~…疲れた…」

「ちっくしょ~…負けたぁ~…」


タケルと孝志が情けない声を出しながらベンチに座り込む。


シミュレーター訓練を終えたタケル達
結果は『辛勝』
生き残ったのがタケル・まりも・まりかの三機
唯依・佳織は孝志と真耶が戦っている間に撃破され、正樹はまりもと政弘の二人が決着がつくと同時に撃破された。

タケルとエレメントを組んでいた冥夜は、少し離れた瞬間に孝志の奇襲を受けて撃破
真耶も孝志との一騎打ちの際に撃破された。


『結果』だけを見れば、タケル達第四中隊の勝ち
『中身』を見れば、タケル・冥夜・真耶・まりもの四機しかまともに機能せず、新任少尉四機は、ただ翻弄されてまりか以外は撃破された

政弘と死闘を繰り広げたまりもも、辛うじて勝利したが、左腕を大破判定を貰った。

「…そういえば孝志さん、珍しく奇襲なんてしてましたね…」

「いやね、本当は正面向かって戦いたかったけど、今回は新任少尉達に『教育』する為嫌々やったんだよ。
…まあ、これは政弘が考えたんだけどな。」


はぁ~…と溜め息を漏らす孝志
冥夜と正面から戦えなかった事がよほど残念だった様子がわかる。

「まあ、今回は新任少尉達と先任達の実力の差を見せておく必要があったからな。
タケルや神宮司大尉の教え子だから大丈夫だと思うけど、もし過信した奴が居ればヘシ折ってやんなきゃならないし、居なくても、己の未熟な所を見つけて貰えば、更なる成長を遂げる事が出来るしな。」

今回の訓練の目的---
新任少尉達の成長の為を思って、今回孝志達第二中隊が挑み、実力の差を見せつけたのだった。


「そうですね。
元々今回は負けても仕方ないと考えてたんですけど、予想以上にまりもちゃんが活躍しましたからね~…」

「マジですげーよ、アレ…
一瞬タケルかと思っちまうぐらい、すげー機動するからな…」

「最近メキメキと実力を付けてきてるから、ウカウカ出来ないんですよ…。」

「だな…現に政弘もやられちまったし、確か以前伊隅大尉や月詠中尉にも勝ったしな…」


今回大活躍したまりもの話になるタケルと孝志
グングン急成長中のまりもを見て『やべー…抜かれるかもしれん…』と危機感を持ったりする程だ。


「さてと…篁達は…と…」


ベンチに座った状態でキョロキョロと唯依達を探すタケル

すると離れた場所でずーーん…と落ち込んでいる四人を見つける。


「あらら…やっぱり落ち込んでらぁ…。」

「ホラ、中隊長殿
お仕事頑張ってきな。」

「やれやれ…」


重い腰を上げて唯依達の下に歩んで行くタケル
後ろで孝志が『いってらっしゃ~い☆』と呑気な声で見送る。


「うーす。
な~に暗い顔してやがるんだ?」

「白銀大尉ッ!?
…スミマセンでした、お役に立てなくて…。」


タケルが唯依達に声をかけると、全員一斉に立ち上がり、頭を下げて謝罪する。


「別に良いんだよ。
入隊してすぐに活躍したら、逆に先任達に問題が有るからな。」

「しかし、それでも一機も撃破出来ず、狼狽えてばかりでロクな支援も出来ませんでした…」


「ハァ…また悪い癖が出たな…。」


反省癖を出す唯依に『やれやれ…』と苦い表情をするタケル

「良いか、篁
酷い事を言うが、今回の訓練にお前達の活躍は期待していない。」

「えっ…?」

タケルの言葉に思わず言葉を失う唯依
後ろにいた三人も同じだった。

「今回の訓練は先任達と新任少尉達との実力の差を見せつけ、自分の能力を見直す為の訓練だ。
何処に問題があって、改善すべき点は何か、先任達と比べて何が足りないのか…それ等をお前達に見つけて貰う為、先任達が本気で挑んだんだ。」

「「「「!!!!」」」」


今回の訓練の意味を知り、驚愕する唯依達

「もし、お前達が今回の事を恥じるならば、今回の訓練の事を思い出し、反省点や改善点を見つけろ。
そして、次に備えて訓練に励めッ!!
それが出来てこそ、先任達の期待に応える事が出来ると思えッ!!」


「「「「ハッ!!」」」」

タケルの激を受けて、気持ちを切り替える唯依達
離れた場所で見ていたまりもや真耶が少し安心した表情で唯依達を見守っていた。


「お前達、駿を見習うが良い。
去年、俺とエレメントを組んだ当時は、お前達より実力が無かったが、
毎日居残り訓練をして、努力を積み重ねて、その姿をみんなにも認められ、紅蓮大将や神野大将にまで『斯衛一努力をする者』と賞賛を貰う程頑張り屋さんなんだ。
その結果、今では俺とエレメントを組んでも充分に連携出来るまで成長したし、突撃前衛長に着いても問題無い程実力を付けた奴なんだぞ。」

「…凄い。」

「先の『本土侵攻戦』や『明星作戦』だって大活躍したし、俺や他のみんなも太鼓判を押せる程だ。
駿を見習うように、お前達も努力を積み重ねて強くなるがいい!!」

「「「「ハッ!!」」」」

(タ、タケルさぁ~ん…
はっ、恥ずかしいよぉ~…。)


タケルの説明を聞いて唯依達から尊敬の眼差しをされる駿
タケルのセリフが聞こえてた為、顔を真っ赤にしなから、内心オロオロしながら照れていた。


「ホラお前達、落ち込んでる暇があったら、次に戦う先任達の戦いでも見て学んで来い。」

「「「「ハイッ!!」」」」

次に戦う第1中隊と第三中隊の戦いを駆け足で見に行く唯依達
やっと落ち込んでいた雰囲気も吹っ飛び、タケルは溜め息をしながらも一安心して見送ったのだった…。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第五十五話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2011/03/27 02:43
1999年・11月7日


仙台・第二帝都・周辺市内---


「お待たせしました。」

「これで全員揃ったな。」

少し駆け足でタケルの下に近寄る孝之と慎二
タケルの他には政弘・正樹・駿、そしてタケルの腕の中に護という、珍しく100%男というビミョーにむさ苦しい集まりだった。

今日はタケル・政弘・正樹・駿が休みだったのだが、偶然孝之・慎二も休みだった為、息抜き(主に女性関係)を目的で街に出かけていた。


「護君も一緒ですか?」

「真耶さんは出番だからな。
休日ぐらいやちるさんに楽させないとな。」

「すっかり『お父さん』ですね。」


タケルの腕の中でスヤスヤと可愛らしく眠る護
その姿を見て、萌え空間が発動するタケル達。


「そ~いえば、孝之と正樹
お前達はどうなんだ?」

「なっ、なんですか、イキナリッ!?」

「どう…と言われても…」

「俺が言うのもなんだか、お前達二人はオレと『同類』だからな…
女性関係には…………その大変さが、身に染みる程良く分かる。」

「「フグッ!?」」

恋愛原子核を持つタケルの弟子(?)と称される弟子一号・孝之と弟子二号・正樹
正樹に関してはタケルに匹敵する程好意を持つ女性が居るからタケルとしては、その大変さが良く分かる。


「孝之は速瀬に涼宮
正樹は伊隅四姉妹だからな…」

「ぐはっ!?」

「な、何故それをっ!?」

更にクリーンヒットを受ける孝之
正樹に関しては、『何故知ってるんですかっ!?』と戸惑う程だ。


「白銀大尉…此処に孝之に関して面白い話が……」

「……ホウ?
何かね、平少尉?」

きゅぴーんと目を光らせる慎二
それに乗ってタケルも目を光らせる。


「実は…孝之に好意を持つ女性が新たに現れて……」

「「「「な………なんだってッ!?」」」」

「何故みんなしてッ!?」

孝之に新戦力(女性関係)に驚愕するタケル
正樹・駿・政弘ですら悪ふざけでノリノリでセリフを合わせる。(M○R風に)

「そ、それは一体誰かねッ!?」

「ハッ…同じ部隊の中隊長の…U大尉?」

「「「「U大尉だってッ!?」」」」

「何故イニシャル!?」


相手の名前(イニシャル)を聞いて驚愕するタケル達
正樹はU大尉=碓氷大尉とは知らないが、ついでに驚く。


「そ、それはいつ頃からなのかねっ!?」

「『明星作戦』前辺りから何やら怪しくて、最初は気付きませんでしたが、最近になって表情に出るようになり、発覚致しました。」

「なんと…」

「ちょっと待て慎二ッ!?
それ冗談だよなッ!?」

「…………………………………………真実だ。」

「NOーーーッ!!」


本当の話にショックを受ける孝之
モテる事自体は嬉しいが、修羅場が更に凶暴度アップする為、『ハハハッ…オレ…BETAに殺される前に修羅場で逝っちゃいそうだ……。』と暗い瞳をしながら呟く。


「おや?平に……鳴海じゃないか?」

「あっ、碓氷大尉」


すると孝之の背後から碓氷大尉が現れて更に孝之に追撃する。

「碓氷大尉も休みでしたか。」

「ええ、久し振りに休暇を貰ったわ。
今日はゆったりと買い物を楽しもうと街に来たの。」


碓氷に声をかけるタケル
普段は見る事の出来ない私服姿の碓氷に男性陣が『ホウ…』と見とれる


白いセーターに紺のロングスカート
そして何故か……国連軍使用のフライトジャケットを纏っていた。


「……何故私服にフライトジャケット?」

「実は…お気に入りのジャンバーが……小さくなっちゃって…」


タケルの質問に少し頬を赤らめながら応える碓氷

「えっ?
大尉、全然太ったようには見えませんけど?」

「コラ、平ッ!!
別に太った訳じゃないわッ!!」


素直に答える慎二の顔面に右ストレートを入れる碓氷
『南無~…』とそばで慎二にタケル達が合掌する。


「ただ最近………………………胸が大きくなっちゃって…チャックが閉まらないのよ…」


「ホウ……成る程……」

「だから何故みんなして俺を見るのッ!?」


顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうに答える碓氷
そしてタケル達全員が孝之に視線を向けてニタリと嫌な笑みをする。


「なんなら孝之を荷物持ちに連れて行きます?」

「えっ…?」

「ちょ…慎二ッ!?」


そして慎二の言葉を聞いて、驚きながらも嬉しそうな表情を見せる碓氷
この瞬間、慎二の情報が確定した瞬間だった。


「良いのかしら…?
せっかくの休みなのに……?」

「エサさえ与えてあげれば問題無しッ!!
此方に居てもむさ苦しい男連中しかいませんし、こき使って下さい。」

「そう……なら鳴海を借りて行きます、白銀大尉」

「は、ハイ…
鳴海………………健闘を祈る。」

「見捨てられたッ!?」

「それじゃ行くわよ、鳴海♪」


そのまま孝之の首襟を捕まえて連行する碓氷
碓氷は嬉しそうな笑みを見せながらルンルン気分で孝之と共に人混みの中に消えて行く……


「全員………鳴海少尉に…敬礼ッ!!」

そして、この後孝之の身に起きる修羅場に対し、敬礼をして見送るタケル達。
勿論自分の身が可愛いので、孝之を助ける勇者は誰も居ない…。


因みに後日、コレを知った水月と遙は、孝之を売った慎二をトイレに連れ込んで可愛がった(水月の拳に血痕アリ)らしい……。


「…さてと、勇者が一人立ち去ってしまったが、
正樹…お前はどうなんだ?」

「オレは………相変わらずですよ…。」

「………………そうか…」


苦い表情をしながら答える正樹
瞳に光が無い事から、その壮絶さが容易く想像出来てしまうタケル
なんせ、タケルはそれ以上の修羅場を体験してるからね。


「……最近、みちるのアタックが激しくて……
多分、今年中に結婚させられるかもしれない…。」

「…そういうモンだ…
気がつけば逃げ場が無いし、その時にはもう……回避不可能ナンダヨネ~…。」

「大尉…今ならその気持ち…良く分かります。」

キラリと目から一筋の涙を流すタケル
その気持ちが最近良く分かるようになってしまった正樹
この瞬間、彼等に友情が芽生えたのは言うまでもなかった…


「……まあ、こんな所で立ち話もなんだ……
何処か喫茶店でも寄って行かないか?」

「そうですね…。」

政弘の提案で喫茶店を探すタケル達
すると前方から、見慣れた人物が歩いて来た。


「ん………宗像?
それにその人は確か…」

「なっ…!?
何故白銀大尉と前島がっ!?」

そして美冴の隣に見た事のある男性が美冴と『仲良く』歩いていた。


「確か貴方は『本土侵攻戦』の時に…。」

「あの時はありがとうございます。
おかげ様でロケットを無くさずに済みました。」

「タケルさん、この人は?」

「名前は知らんが、宗像の恋「白銀大尉!?」…という訳だ。
この態度を見れば判るだろう?」

珍しく慌てる美冴
顔を真っ赤っかにしながらも誤魔化そうとする態度を見て『こんな宗像を見るのはレアだ……』と面白がるタケル


「…という事だ。
内緒の方向でいくぞ。」

「クスクス…わかりました。」

「助かります…」

タケルと正樹の判断に感謝する美冴
力が抜けたように頭が下がる。

「ところで名前は…?」

「ハイ、私は帝国陸軍第24戦術機甲大隊に所属する『桐島直人少尉』と言います。
白銀武大尉の噂は、美冴や先任達から色々と聞いてます。」

「……色々…
なんか気になるな…。」

「アハハ…。
勿論色モノみたいな話も有りますけど、殆どが戦場での活躍ですよ。
特に『本土侵攻戦』は目撃者も多いから『白銀の守護者』で有名ですよ。」

「…その呼び名なんとかならないかな~…。
むずカユくて、未だに慣れないんだけど…。」


『白銀の守護者』の呼び名に照れてるタケル
未だに慣れず、恥ずかしかっていたりする。

「ところで大尉…
また珍しく男だけのメンバー引き連れてどうしました?」

「いや…今日は息抜きしようと集まってさ…。」

「成る程、余りにも珍しい光景だったもので」

「がはっ!?」

美冴の鋭いツッコミに精神的ダメージを負うタケル
そのやりとりを始めて見た直人は『…上官にそんな態度とって大丈夫なのか』と戸惑う。


「まあ、大尉の女性関係は大変ですから、息抜きはわかります。」

「誤解を招きそうな一言だな、宗像
……今度一緒に複座す「言い過ぎました、スミマセンでした」…宜しい。」


美冴のイタズラを遠回しに『そんな知らない人が誤解しそうなイタズラするとは…仕方ない…お仕置きするぞ(怒)』的に語るタケルだが、セリフの途中で即座に謝罪の言葉を出す美冴
瞳に光が無い様子からして、かなりのトラウマとして残ったようだ。


それから美冴達も喫茶店に同行し、飲み物を頼む一行

「成る程…だから怯えていたんだ。」

「あの機動は下手したら人を殺せる…本当に……」

「大袈裟だな、宗像……」

「大袈裟ではありませんッ!!」

怯えてた理由をしる直人だが、未だに実感が持てない様子
しかしタケルは『大袈裟』と語ると珍しく美冴が興奮気味に否定する。


「大尉、先程の話に戻りますけど、女性関係にはシッカリしてくださいよ?
鑑やクリスカを泣かせたらタダじゃおきませんからね」

「…それには重々気をつけてるんだけど…」

「タダでさえ、大尉は人気の高い人なんですから…
そこら辺はシッカリしてください。」


同じ訓練部隊だった純夏やクリスカの心配をする美冴
美冴の言葉が痛い程わかるのだが、『恋愛原子核』がそれを許さない為、『どうすればいいの?』と心の中で呟く。


「あと…前島
お前も伊隅大尉やまりかを悲しませるなよ?
お前も白銀大尉と『同類』だからな…」

「ぐふっ!?」

今日二度目の『同類』という言葉に精神的ダメージを負う正樹
結構気にしてたようだ。


「そういえば…速瀬少尉が暴れてましたよ?」

「…何をやらかした?」

話題を変え、水月の話をする美冴
『暴れる』という言葉を聞いて頭を抱えるタケル
『ああ、アレか』と慎二が思い出すように話の内容を語る。



回想----


『うがぁーーーッ!!
なんか腹立つわねぇ…。』

『お、落ち着いて、水月』

暴れ牛のように暴れる水月を戸惑いながらも必死に抑える遙
その様子を見慣れた先任達は『今度は何をやらかした?』と遠くから覗く。


『今度はどうしたんだ?』

『あっ!!
三人共助けてッ!!』

『りょーかい。』

騒ぎを聞いて孝之・慎二・美冴が近づいてくる

遙のヘルプに暴れる水月を慣れたようにおさこむ孝之と慎二
その素早い対応に驚きながらも、美冴も一応おさこむ

『…落ち着いたか?』

『…なんとかね』


興奮状態から落ち着いた水月
孝之が水月に理由を聴くと…


『だって…今年の新任達…白銀大尉や神宮司大尉の下に入ったって言うじゃないッ!!』

『…そういう事か……』

理由を聴き、『成る程…水月らしい…』と納得する孝之達
美冴に関しては、ポカンと唖然とする。


『私だって、出来る事なら育ててくれた二人の下に付きたいわよ。』

『要は羨ましいんですね…』

『そうよッ!!悪い!?』

『いえ、速瀬少尉らしいかと…』


水月の理由を聞いてクスリと笑いながらも納得する美冴
自分の恩師の事を慕う姿を見て、少しだけ嬉しい気持ちになる。

『水月は白銀大尉や神宮司大尉の事尊敬してるからね~
特に白銀大尉に関しては『目標とする人』だから尚更羨ましいんだよ。』

『そ、尊敬!?』

『は、遙!?』

遙の口から予想外な一言に驚く美冴
水月も突然の事にアワアワと慌てる。


『てっきり速瀬少尉は鳴海少尉一筋だと思ってました。』

『宗像!!
誤解を招きそうな一言するんじゃないわよッ!!』

そして美冴にからかわれる水月
ヤレヤレ…と苦笑いをしながら見守る遙達
最早この光景は見慣れてしまったようだ…


『別に白銀大尉にラヴじゃないわよ。
ただ…白銀大尉は私に目標とかを与えてくれた恩師だから、尊敬してるのよ。
私や遙・孝之・慎二はね、『本土侵攻戦』の時に訓練兵だったから戦闘には参加出来なかったわ。
香月博士にだって『足手まとい』って言われた私達の気持ち、解る?』

水月の気持ちを聴き、少し理解する美冴
自分自身も『明星作戦』の時に戦えなかった事に悔やんだ事があったからだ。


『それ以来、私達は訓練以外にも時間が許す限り訓練したわ。
特に私や孝之は遙達に止められるまでがむしゃらに訓練したわ。
…そんな私達を導いてくれたのが、白銀大尉なのよ…。』

焦りと悔しさでがむしゃらに訓練していた水月達
そして、そんな時にタケルに導いて貰えたと語る水月達の表情に笑みが出る。

『呑気な顔で現れて『頑張ってるな、お前達』なんて言われた時は少し腹立てたけど、その後直ぐに真面目な顔して私達に『今日は休め』って言われたわ
勿論反論して私達は訓練を続けようとしたけど、その際に白銀大尉からきっっつい拳骨を貰ったわ。』

『そしてね、白銀大尉はこう言ったのよ。
『自分の体調管理も出来ない奴が強くなれる訳ないだろう。
足下もフラフラ、顔色も少し青くなってる。
そんな状況で訓練に挑んでも、結果を残すどころか、足を引っ張り合うだけだ。』ってね…。』

『その時歯を食いしばって悔やんだよ。
自分はなんて無力なんだろう…ってね。
そんな俺達を見抜いて、白銀大尉が『今からシミュレータ訓練するから、休憩しながら見学してろ。』って言ったんだよ。
最初は腹立てたけど、あの機動特性を見た途端、俺達は見とれて、ついさっきの怒りや苛立ちすら消え去ったよ…。』


水月・遙・孝之がその時の事を思い出し、美冴に説明する。
美冴も話を聞いて『白銀大尉らしい』とクスリと笑みを浮かべる。


『一応戦術機適性検査の時に一度見たけど、あの時とは違って、おふざけ一切無しの機動だったから尚更驚いたわ。
そして、その時から私達にとって白銀大尉は『憧れの衛士』になったのよ。
自分達もああなりたい---
自分達も一緒に戦いたい---
そして---あの背中に追い付いて、あの横で共に戦い、超えたいってね…。』


その時美冴は水月が暴れた理由を理解し、納得する
そして、口には出さないが心の中で『ある答え』に辿り着く。

(…もし速瀬少尉が鳴海少尉に出会ってなかったら…案外速瀬少尉も落ちてたかもしれないな…。)


香月博士から聞いていたタケルの『恋愛原子核』をふと思う美冴
『あながち恋愛原子核というのも嘘ではない』と確信し、からかうネタとして考えていた。


現在----


「---という事があったんですよ。
よっぽど速瀬少尉は白銀大尉と一緒に戦いたかったみたいですよ?」

「むぅ…嬉しいやら恥ずかしいやら…
其処まで慕ってくれると照れてるな…。」


美冴と慎二の話を聞いて照れるタケル
水月に『…今度上手いメシでも奢ってやるか…』などと気分を良くしてる所をみんなに見られ、クスクスと笑われる。


「良かったですね、タケルさん」

「其処まで信頼を得られる事は容易ではない。
大事にするがいい。」

「ハイ」

駿や政弘に言葉を貰うと、『教官の仕事やってて良かった…』と喜ぶタケル
尊敬する人である『速瀬中尉』を思い出しながら、『まさかあの人からそんな言葉を貰うとは…』と心の中で呟き、頭の中の『速瀬中尉』は『なんでアンタが私の教官なのよっ!?』と握り拳をしながら愚痴を言ってる姿を思い描いて苦笑する。


そしてしばらく時間が過ぎ、喫茶店を出た後、美冴・直人の二人と別れ、再び歩き始めるタケル達
すると---


『しーろーがーね~☆
みぃぃつけた♪』

「へっ……………………………………なぬっ!?」


突然声を掛けられ、その方向へ振り向くと……
酒瓶を握って『狂犬・神宮司まりも』が目を赤く光らせていた…!!


彼女の後ろにある飲み屋街の通りは既に廃墟のような雰囲気が漂い、その幾つかの飲み屋の出入り口からは、呻き声と屍と化した犠牲者の体の一部がチラチラと見えていた。


その瞬間、タケル達は悟る……
『死亡フラグかな、コレ…?』
つまり、全員が助かる事を諦めた。


「し~ろ~が~ね~☆
一緒に飲むわよ~…(ニヤッ)」

「「「「こ、こえぇぇぇっ!!!」」」」


口を三日月の形にして嗤いながらジワジワと近寄るまりも
恐怖で怯えるタケル達
後に『BETAなんか目ぢゃね~程の恐怖だった…』と語る。


「ニャア~~☆」

猫のような声を出して飛び込むまりも
回避は容易だが、回避した場合、悲惨な結末があると悟るタケルは駿に護を預けて、涙しながらまりもに捕まる事にした。


しかし---此処にとある奇跡が起きる


『ベシィィィンッ!!』

「ぶぎゃ゛っ゛!!?」


突然タケルの前に立ちはかる偉大なる人物(英雄)
飛び込んできたまりもを、強烈なビンタ一発で吹っ飛ばし、タケルを守る。


『なんだいなんだい、こんな昼間っから酔っ払いとは…
可愛らしい子がこんな事するんじゃない!!』

「あ…貴女は…京塚のオバチャン!!」

「おや、アンタは確か……タケルだったね?
アンタも災難だったねぇ…」


タケル達の前に現れたのは、『横浜の母』とも呼ばれてる人物・京塚志津江だった。
その瞬間、タケル達には京塚のオバチャンが輝いてるように見えた。


「おやおや、護も怖かっただろう?
今オバチャンがあの子をお仕置きしてあげるから、安心しなよ?」

「ダァーダァー♪」


護を優しく撫でてあげると、正樹に買い物籠を預け、歴戦の戦士のように狂犬・まりもに近寄る。

「いたた…
よくも…白銀と一緒にお酒を飲む邪魔をしたわねぇ…」

「フン、昼間っから酔っ払ってるとは良い身分だね。
今キツいのをくれてやるから、目を冷ましな。」

お互いの背中から黒いオーラを放つ
その黒いオーラの中心には狂犬と鬼神のスタ○ドを出現させ、火花を散らしていた。


「ハッ!!」

最初に動いたのはまりも
左右に素早い動きでフェイントを入れながら、オバチャンに突撃する
そして目の前で消えるように腰を落とし、右側にまわりこんで、渾身の右ストレートを入れる


だが---


「甘いねぇ。」

「なっ…ぐえっ!?」

渾身の一撃である右ストレートをオバチャンは軽々と捌き、まりもの首を鷲掴みにする

「お仕置きだよっ!!」

「あぶぶぶぶっ!!」

オバチャンの反撃
強烈な往復ビンタを喰らわし、最後にキツいビンタを入れる
そして、突然オバチャンが正座すると---
まりもを膝の上にうつ伏せるように寝かせる。


「さぁ---覚悟しなっ!!」

「きゃんっ!!?痛い痛いっ!!」

ベシンベシンとお尻を叩くオバチャン
その強烈な平手に涙を流すまりも


そしてそれから30秒後---


「へにゅう……」

「全く…仕方ない子だね…」


涙を流しながら気絶するまりも
勝利を得たオバチャンは溜め息をひとつ吐いてタケルにまりもを渡す。


「タケル、この子を家まで送ってやんな。
そしてきつ~く説教してやるんだよ?」

「助けてくれて有り難う御座います。」

「良いって事さ。
さて、私はこれから帰って洗濯しないといけないから、帰るよ?」

「「「「お気をつけて!!」」」」


オバチャンに感謝しながら見送り、立ち去るオバチャンの背中に向かって敬礼するタケル達


そして、オバチャンから託されたまりもを月詠家にいるやちるに預ける為、一旦戻る
その際、まりもの呻き声に『オバチャン…怖いよ~…』と呟き、これ以降狂犬になっても、オバチャンには逆らう事は無かったとか…。



あとがき----

しばらくぶりです、騎士王です。
今回は珍しく長文になりました。

今回は笑い重視にした話でしたが…どうだったでしょうか?


やっと名前が公開しました、宗像の想い人(恋人?)のオリジナルキャラの桐島直人少尉

オルタでは名前は明かしてませんが、両想いの男性が居るのは知ってましたが、実は本当は想い人=正樹にしたかったのですが、どうやらオルタの宗像の想い人は正樹じゃないのかな~?という事でオリキャラに変更しました。
(桐島直人のイメージキャラは『空の境界』の黒桐幹也をイメージしてます。)


最後に…オバチャンはオルタ最強と思うのは、俺だけなのか?(笑)



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~ 三度目のループ 外伝②予想外にも二話分になってしまった話~
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2011/04/01 10:47
1999年・12月16日---

「………とうとう来たか…。」


ずーん…と落ち込むタケル
今日は12月16日。
タケルの誕生日であり、悠陽・冥夜の誕生日でもある。


そして、今日は更に特別なイベントがあったのだ---!!



「タケル、居るか?」

「ああ、親父達か…。」

落ち込んでる所に影行・駿・孝志・政弘・正樹・孝之・慎二といった男性陣がやって来た。


「まあ、なんだ……
気持ちは分かるが…覚悟を決めろ。
『女性陣達は』楽しみにしてるんだ…お前がそんな調子じゃ、ブチ壊しになるぞ?」

父・影行がタケルに同情しながらも、『覚悟を決めろ』と言ってくる。

「まさか『結婚式』とはな~…
するのはまだ先だと思ってたんだけどな…」


---そう、今日は『結婚式』という重大なイベントがある日
主に女性陣達が念入りに計画していた所に、偶々偶然タケルが知ってしまい、なんとかかろうじて親族や仲間内だけでの結婚式になった。(絶対に超大袈裟な結婚式になるとタケルが悟った為)


---とはいえ、油断してはいけない。
親族・仲間内だけとはいえ、その人数は3桁は軽く超える。
そしてこの結婚式までに様々な協力をしてくれた人達も来ているのだ。


五摂家は勿論な事、五摂家に近い高位な武家達
内閣総理大臣の榊是親などお偉い人達まで来ているのだ。


そしてタケルが最も恐れてるのは---


「結婚式は良いんだけど…
それに乗って、いつも以上にはっちゃけそうなんだよな~…。」


そう…タケルが此処まで落ち込む理由…
今日という一大イベントに自重しない者達がかなりいるから、たまったもんじゃない。


「悠陽・先生・紅蓮のオッサンや神野のオッサン…
巌谷中佐や鎧衣課長…
こんなに揃って何もしないなんて絶対に無いって断言出来る!!」

「うわぁ…改めてみると、すげぇメンバーだな…」


はっちゃけそうなメンバーを口にするタケル
そのメンバーの名前を聞いて、『なんつー豪華メンバーだよ…』と全員が思う。


「その辺は…諦めろ。
だが、先程会ってきたが、純夏ちゃん達凄い笑顔だったぞ?」

「まあ…な…」

影行の言葉を聞き、タケルも嬉しそうに照れる
なんだかんだ言っても、やはり結婚式をする事自体はタケルも嬉しいのだ。


「しっかし、すげぇ人数だよな…
今回の式で…殿下に冥夜・純夏ちゃん・クリスカ・神宮司大尉…
あと既に籍を入れてる沙耶に真耶の…計7人!?
ギネスに載れるんじゃねぇの?」

「んがっ!?」


『今回』結婚式を挙げる人数を再確認し、驚く孝志
そのセリフにある意味ダメージを負うタケル


「そういえば白銀大尉…
今回の結婚式…どうやらみちる達も計画に参加してたって本当ですか?」

「マジだ。
どうやら伊隅大尉や速瀬とかも参加して、早くお前達と結婚式を挙げたいらしい…。」

「ハハハ…やっぱりなぁ~…ハァ…。」


溜め息を吐く孝之と正樹
自分達の想い人達が今回の結婚式の計画に参加し、早く自分達の結婚式を早めようとしていた事を知り、二人して遠い目をする。


「孝志さん…孝志さんは気をつけて下さいね…。」

「俺は椿だけでいいっ!!」

遠い目をしながら孝志に警告するタケル
当の孝志は『っていうか、椿以外に女性関係を作ったら、俺が殺される!!』と呟きながら冷や汗をダラダラと流す。


「ハイ、タケルさん
早く着替えないとダメですよ。」

駿から白いタキシードのスーツを受け渡され、着替えを始める
そして、着替えが終わった後、会場へと向かう。


「ん…あれは…?」


会場へと入る前に、数人の男性を見つける
その中には紅蓮大将も居た。


「おおっ!!
なかなか似合うぞ、タケル。」

「有り難う御座います、紅蓮大将
ところで、其方の方達は…?」

「ウム、実はこの方達は今回の『一夫多妻制』に力を貸してくれた方達でな、今日はその花婿たるタケルを一目見に来てくれたのだよ。」

「初めまして、白銀武大尉
私は内閣総理大臣の『榊是親』という者だ。」

「「「「なっ!!?」」」」

突然の総理大臣登場に慌てて全員で敬礼するタケル達だが、是親が『今日は結婚式というめでたい日、敬礼はいらないよ。』と敬礼を拒否する。


「以前から君には興味があったのだよ。
殿下があれほど想いをよせる人物がどのような者かと…」


タケルに会いに来た理由を告げながら真摯な表情でタケルを観察する是親
そんな鋭い視線に対して、タケルは----
意外にも、普段通りの姿を見せる。


「…なんか、色々と御迷惑をかけて…スミマセンでした。」

「ムッ?
別に君を責める訳ではないから、気にしなくても構わない。
確かに今の日本の人口は大幅に減っている。
その為の対応策として考えても有効な案なのは確かだからな。」

意外な接し方に内心驚く是親
まるで親しい人物と接するような雰囲気を漂わせるタケルに関心を持つ。


(フム…確かに好青年だ…
そして何より肝が据わっている。
内閣総理大臣である私を前にして、この態度を取れるとは…成る程、殿下の言う『馴れ馴れしい』とはこの事か…。)

タケルを分析する是親
『馴れ馴れしい』と判断するが、意外にも高評価をし、笑みを浮かべる。


「聞けば『白銀の守護者』の名で有名な天才衛士らしいではないか。
帝国軍は勿論、あの国連軍の香月博士まで認めさせるとは大したモノだ。」

「有り難う御座います。
けど、今の俺があるのは、今は無き先任達や仲間達のおかげです。
俺一人では何も出来ません。
俺が今出来る事は、戦術機に乗り、民や仲間達や大切な家族を一人でも多く守る事。
それ以外には取り柄はありません。」

「大したモノだ…
其処まで自分を理解し、出来る事を貫く態度を取れる者はなかなか居ないものだ。
…だが、其処まで自分を過小評価をする事は無いと思うぞ。」


タケルの言葉を聞き、更に評価を上げる是親
見た目より『中身』が出来てる人物と判断する


「もし君がその程度の人間ならば、殿下や他の女性達は君に娶って貰おうなどと考えはしまい。
君には人を惹きつける『何か』があるのだろう
そして君の色々な『良い所』に心を打たれ、惹かれたのだろう。
だから今回のような複重婚になっても君に嫁ぎたいと思ったのだと思うぞ?」


「あ、有り難う御座います。」


是親の言葉を聞き、感謝の言葉を言うタケル


「そういえば…君は時折教官職の仕事をしていたね?」

「あ、ハイ
まだ二年程ですが…」


「実は頼みが有るのだが…良いかね?」


すると先程までの『政治家』としての顔が無くなり、『父親』としての顔に変わる是親

「実は二年後の『第207衛士訓練兵』の事なのだが…
私の娘も参加する予定に入ってね…済まないがその時は娘の千鶴の面倒を見てくれないかね?」

「ハ、ハイ、その話ならある程度聞いてますので、元よりそのつもりです。」


娘・千鶴の心配をする是親…
この時、タケルの脳裏にはイヤな予感がした。


「千鶴は私に似て頑固でね…色々と問題を起こすと思うのだが…。
やはり娘が可愛くてね、色々と心配なのだよ。」

(この親父もかーーーッ!!)

親バカの姿を見せる是親を見て『この人もたまパパと同じか…』と判断するタケル…
しかし、是…千鶴パパのターンはまだ終わらない。

「これが私の娘の千鶴でね…私が言うのもアレだが、千鶴はなかなか美少女でな…眼鏡を取った時なんて、可愛いらしくて抱き締めたい程だ♪」


((((うわぁ…典型的な親バカだぁ…))))

懐から手帳サイズのアルバムを取り出し、娘の写真を見せる是親
タケル達はドン引きしながら『ああはなりたくはない…』と心を一つにする。

「か、可愛いらしい娘さんですね。
さぞかし総理に優しいのでは…」

「…それがね、私のせいなのは分かるのだが、最近…千鶴の態度が冷たくてね…言葉を交わしたくても、なかなか想いが伝わらないのだよ…」

「そ、それはお気の毒に…」

「激務故に中々家には帰れず、家族として接する時間が無い為、関係が悪化してるのだよ…。」


しょぼーん…と落ち込む是親
落ち込む親バカを見て『どうしよう…これ…』と真剣に悩むタケル


「そうだっ!!」

「うおっ!?」

「白銀君…済まないが、今度千鶴に会って説得してくれないかね?」

「はっ?」

突然の提案に唖然とするタケル
そして---この瞬間からフラグが成立した!!

「白銀君の説得で『パパはこんなに頑張ってるから嫌っちゃ駄目だよ?』と説得してくれないかね?」

「何故オレ!?」

「いや、何故かは知らないのだが…『君になら千鶴を任せられる』とふと思ってね…」

「その考え、ちょっと良く考え直して!?」

「いや…恐らく君しか居ないだろう…私の本能がそう告げているッ!!」

「本能って何っ!?」

親バカパワー炸裂
結婚式が始まる前からハイレベルなはっちゃけが始まり、タケルを追い詰める。

「ぢゃ、そういう事で、日時は後程伝えるから宜しく頼むよ、白銀君!!」

「ちょっと待ってぇぇっ!!」


スタスタと会場の中へと入る是親
良い笑顔で入る是親を止めようとするが、無駄な行為だった…

ガチャリと扉を開けると、中は教会風な造りの会場に少し驚くタケル


「やっと主役が来たわね。」

「ハハハ…」

タケルが会場に入ると、香月博士を始めとした様々な人達が集まる。

「紹介するわ。
私の姉の香月ミツコよ。
世界中を駆け巡る天才カメラマンよ
今日は姉さんがこの結婚式の写真を撮るわ。」

「始めまして、白銀大尉
妹の夕呼からは君の話は色々と聴いてるわ。
色んな意味でのお気に入りだって?」

「アハハ…主にいぢくられる方に…」


香月博士から姉・ミツコを紹介されるタケル
妹・夕呼同様絶世の美女だが、同時に色んな意味での妖しい雰囲気も漂わせていた。


「ミ、ミツコさん!?」

「あら、正樹じゃない、久し振りね。」

「あら、知り合い?」

「ええ、『私の弟子』の1人よ。
昔、私の下に飛び込んで来て弟子入りしたヤツよ。
ただ、この時世だから軍人として私のそばを離れたけど、少なくとも私は『元弟子』なんて認めないわよ。
いずれ、正樹には私の下に戻って貰ってこき使ってやる予定なんだから。何時でも正樹の帰りを待っているわ。」

「ミツコさん…」

師匠であるミツコの言葉に感動する正樹
そしてミツコが持って来たカメラのひとつを正樹に渡す。


「正樹、アンタ今日は私の助手よ。
ピンボケなんて撮ったらタダじゃおかないわよ。」

「ハイッ!!」

涙を滲ませながらも、久し振りにカメラを持つ正樹
『夢』だったカメラマンに今限定ではあるが、実現する。


「どう?
主役の気分は?」

「色々複雑な気持ちは有りますけど、やっぱり良い意味で緊張してますよ。」

「良い顔よ、アンタ
まっ、今日ぐらいこんな幸せ一杯のイベントを楽しまなきゃ損よ。」

「ハイ」

タケルの笑顔を見て笑みを作る香月博士
そしてタケルの背中をバチンッと叩いて気合い注入をする。

「ホラ、主役のポジションはアソコよ。
アソコに立ったら花嫁達の入場を待ちなさい。」

神父の居る祭壇へと歩むタケル
その途中、様々な人達から祝福の拍手を送られる。


「うわぁ…今日のタケルカッコいいよね~…。」

「ウン…」

タケルが歩んだ中央の道のそばで慧と美琴が見送る。


「…今は無理だけど、次は必ずあの祭壇にタケルと一緒に立ってみせるよ。」

「それは私も同じ…」

「多分、その時は壬姫さんや千鶴さんも一緒だね♪」


小さな声で誓い合う美琴と慧
---次は必ず自分が花嫁衣装を纏って白銀(タケル)と立ってみせる---と…



そして祭壇に到着するタケル。
緊張して心臓がバクバクと鼓動が高くなる。


(やべ…こんなに緊張するとは…
戦場に行く時より緊張してらぁ…)


花嫁達を待つタケル
緊張しつつ、その時を待つ。


そして---


『お待たせ致しました。
花嫁達の入場です。』


司会者の言葉と同時に扉が開かれる
すると---様々な花嫁衣装を纏って登場して来た。


先頭は悠陽と冥夜
その間に、祖父・煌武院雷電が2人と腕を組んで祭壇へと入場する。


冥夜と悠陽の花嫁衣装は色は紫と一緒だが、飾りなどは左右対象の衣装に作られていた。


その後ろには純夏とクリスカ
純夏は黄色・クリスカは銀の花嫁衣装
お供には、純夏は父親が他界してる為、影行が代役を勤め、クリスカは元々両親が居ない為、イーニァが男装してお供をしていた。


そして最後に沙耶・真耶・まりもは蒼・紅・純白の花嫁衣装を纏い入場する
お供には、沙耶は母・由佳里が、真耶は真那が、まりもはいつの間にか着替えた夕呼が、それぞれイーニァと同じく男装してお供につく。


「冥夜さん!!純夏さん!!」

冥夜達が中央の道を歩んでる最中に美琴が声をかける。
足を歩めたまま視線を美琴と慧の方向に向けると---


「次はそのポジション貰うよ!!」

「すぐ追いつく…必ず。」

2人の宣戦布告に冥夜と純夏はニヤリと笑って小さな声で呟く。


『無論だ、何時でも来るが良い。
待っておるぞ。』

『その挑戦、受けたよ☆』

本当に小さな声
しかし、2人には確かに聞こえた。


そして冥夜達の言葉を聞いた後、2人を祝福しながら悶々と闘志を燃やした。


そして祭壇に着いた冥夜達
お供の者達は花嫁と別れて各自の席へと座る。


「うっ…」

流石に緊張する姿を見せ始めるタケル
美しく現れた花嫁達を見て、更に緊張感が高まる。


神父の言葉を聞きながら誓いを立てるタケル達
そして指輪をはめて、誓いのキスをする。


(人前で七人にキスするのはすげー恥ずかしい…)

顔を真っ赤っかにしながら祝福されるタケル達…

そして、花嫁達のブーケを投げるイベントが始まった。


花嫁達の前にはワラワラと女性達が集まる。
しかも殆どが現役の軍人だから、ある意味危険度は高い。


そして、花嫁達がブーケを投げると---


「退きなさいッ!!あのブーケは私のよっ!!」

「ブーケは私が貰うわッ!!」

「へへん♪
作戦勝ちぃ~♪」

「…実力ですよ。」


予想通り、水月・みちるが鬼神のような勢いで敵(邪魔者)を蹴散らし、ブーケをゲットする。
そして最後尾に居た美琴が上手く人混みを利用して踏み台にしてキャッチ成功する。
慧はジャンプ一番でキャッチし、クールに決める。


「はあ…はあ…なんとか取れたぁ~…。」

「やったね、ユイ
クリスカのブーケキャッチしたよ♪」

「う、うむ…」

「済まんな、まりか
こればかりは譲れないよ。」

「ううっ…ブーケ取れなかったぁ…。」


残りの3つのブーケは遙・唯依・美冴に渡る。
まりかはあとちょっとの所で取れそうだったが、美冴にキャッチされてしまい、ウルウル…と泣き崩れる…。


ブーケ投げが終わると会場を移す。
そこでは各テーブルには豪華絢爛な料理やお酒などが用意されていた。


席に座るタケル達
少し落ち着くタケルだが…この後には予想通りなイベントが待っていた。


『新郎新婦達のケーキカットを行います。』

ガチャリと扉を開くと…
大きな…本当に大きなケーキが現れて来た。


「…これ…絶対に先生の仕業だろ…。」


通常、ケーキカットに使われるのは、タワー型のケーキだが、今目の前に有るのは、『ハート型のケーキ』だった。


しかもハートの中央には『恋愛原子核』とチョコレートでデカデカと書かれてる為、タケルの恥ずかしさは更に上がる。


勿論招いたお客達にはバカ受けし、『確かに!!』と同意する声が聞こえ、ヘコむタケル


花嫁達も恥ずかしそうにタケルと一緒にケーキカットをする
しかし悠陽だけは『ホホホ…』と笑ってた所を見ると、共犯者だったようだ。


ケーキカットを終えて着席するタケル達
そしてタケルが最も恐れているイベントが近づいていた…それは…


『次は、来日しているお客様達からのスピーチを行いたいと思います。
最初は、内閣総理大臣の榊是親様です。』


(キターーーーーーッ!!)


タケルが最も恐れていた事
『スピーチ時に必ずはっちゃける』事だった。


スピーチの時に必ず仕掛けて来る
そう予想していたタケル
しかし、相手が相手故に迂闊な事が出来ず、ただ何事も無いように内心で祈る。


「ゴホン…
本日は、誠におめでとうございます。
此度はこの厳しいご時世の中、明るい話題で日本国民も癒やされると思われます。」


メモを見ながらスピーチをする是親
今の所、これといった異常は無い。

何処にでも有るような長々としたスピーチをする是親
そしてスピーチも終盤に入る。


「…という事で今後新郎新婦達の末永い幸せを願うばかりです。」

パタリとメモを折り畳み、ポケットにしまう是親
スピーチが終わったと思い、拍手をしようとすると---


「---追伸。」

突然是親の口から意外な言葉が出てきて全員の手が拍手する前に止まる。

そして---


「白銀君、先程の件…頼む。
君の手腕に私と愛娘の家族関係がかかってるから、説得宜しく頼むね♪」

ゴツン!!とテーブルに強打をするタケル
必ず仕掛けて来るとは思っていたが、まさかスピーチにまで念入りに頼むとは思っていなかった。
花嫁達は唖然とし、観客からは爆笑の声が響いていた。


「…タケル
これは一体…?」


タケルの隣に座っていた冥夜が小さな声で真相を聞く。

「…例によって親子関係が悪いから、説得して解消してくれってさ…
ハハハ…こんな所で言わんでも…」

「タケル…。」


遠い目をするタケルにそっと声をかけて同情する冥夜
他の花嫁達もタケルに深い同情をするしか手は無かった…。


『続きまして、帝国陸軍中佐・巌谷榮二様からのスピーチです。』


「え゛っ!?」

ガバッと正気を取り戻して巌谷中佐の下を見るタケル
すると巌谷中佐は『ゴホン』と一度咳を出してからスピーチを始める。


「御結婚、誠におめでとうございます。
…白銀君、豪華絢爛な花嫁達に嫁いで貰えるとは、羨ましい限りだ。
そこでモノは相談なんだが…………唯依ちゃんもどうかね?」


まさかの初っ端からの先制攻撃
いきなり『ウチの唯依ちゃん、お嫁さんとして貰ってくれない?』と口走り、再びテーブルに頭を強打するタケル


離れた場所で唯依が椅子ごと後ろに倒れ、タケルと同時に後頭部を強打する。
隣に座っていた佳織とまりかが『南無~…』と合掌していたりする。


「孫の名前なら任せてくれ。
…実はもう既に一冊ほど考えているから、安心したまえ。」


更なる追い討ち
タケルと唯依は恥ずかし過ぎるダメージで起き上がる事が出来ないでいる。


「結婚式も任せてくれ。
流石に今回のような豪華な式は無理だが、2人が納得する式を準備してあげる。」


トドメと言わんばかりに続ける巌谷中佐
もはや恥ずかしさで起き上がる事が出来ない様子。


「叔父さんは唯依ちゃんの十二単が見たいな…
しかし…唯依ちゃんのウェディングドレス姿も捨て難い…ッ!!」


握り拳をしながら本気(マジ)で悩む巌谷中佐
余りの恥ずかしさで顔を両手で覆い隠す唯依


大爆笑の中、巌谷中佐のスピーチ(?)が終わる


次に控えてた影行は『自分の時ぐらい…真面目なスピーチをしてあげよう…』と2人に深く同情する。


「フッフッフッ…計画通りね…!!」

そして離れた席でニヤリと妖しい笑みを浮かべる香月博士
やっぱり全てはこの人の仕業(イタズラ)だったりする…。



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~ 三度目のループ 外伝③予想外にも二話分になってしまった話~その2
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2011/04/01 10:58

スピーチ(?)が終わり、次へと進むが
タケルと何故か巻き込まれた唯依の羞恥心はめちゃくちゃ高まり
唯依に関しては帰りたくても『殿下や恩師や同期の仲間や先任の結婚式』故に逃げたくても逃げれなかった。


「…私…帰りたい…」

「……頑張って、唯依」

「篁さん、ファイト…!!」

唯依を支える佳織とまりか
しかし内心では『次は自分の番なのかもしれない…』とビクビク怯えてたりする。


「…タケルちゃん…気持ちは分かるけど、今は耐えるしか無いよ?」

「なら純夏…オレと変「却下ッ!!」…クスン…。」


一番の被害者のタケルはなんとか少し回復し、顔が上がるが、もはやライフ値は0に近い。
純夏に助けを求めるが、セリフを言い切る前に却下され、いぢける。


『続きましては、独身男性達による、新郎に『パイ投げ』を致します。
新郎の白銀武様、前へ移動お願い致します。』

「へっ?」

突然のアナウンスに唖然とするタケル
すると、先程ケーキが現れた扉からカート一杯に載せられたパイが二台用意された。


そして客席からワラワラと独身男性達が立ち上がり、腕捲りをして前に集まりだす。


「何故にッ!?」

「そんなの当たり前じゃない。
独身男性達にとってアンタは『敵』なのよ?
嫉妬心悶々とした気持ちを今晴らさなきゃ何時晴らすのよ?」

「やっぱりアンタの仕業かっ!!」


タケルの首襟を掴んでズルズルと引き摺って前に連れてくる香月博士
『あのまんま座ってたら花嫁達も巻き込まれちゃうわよ?』と告げられると、タケルは諦めるようにドナドナと連れてかれる。


「………先生、これはなんですか?」

「アンタが避けたり逃げたりする予防策よ。
これで縛り付ければ、絶対にパイに当たるでしょ?」

「………………………………………………………鬼や…」


前に貼り付け用にセットされた十字架に楽しそうにタケルをセットする香月博士
ルンルン気分でセットする香月博士の背後では、殺ル気満々の独身男性達がパイを片手にまだかまだかと待ち構えてる。


「…って何故孝志さんまでっ!?」

「いや、こんなイベント滅多に無いだろ?
なら五摂家代表として出なきゃならないだろう?」

「待てぇぇぇぃっ!!」

突然の孝志参戦に驚くタケル
孝志はまるで当然のように腕捲りをしてから、両手にパイ2つを持つ


「けどアンタは椿さんが居るだろうにッ!!」

「タケル…『独身』って意味はな…『結婚、もしくは籍に入ってない』という意味だ。
だから椿と付き合ってても、結婚して籍を入れない限りは、オレも『独身男性』って事になる。」

「絶対楽しんでるだろう!!」

「無論だっ!!」


キュピーン!!と目を光らせて胸を張って言い切る孝志
『もう駄目だ…』と諦めるタケルはるーるーと涙する。


『では…独身男性の皆様、順番に投げて下さい!!』


「とぉりゃあぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ぶへらッ!?」


最初は孝志がパイ二投流で(誤字あらず)タケルの顔面に投げつける。

続いて独身男性達がパイを思いっきり投げつける。
………何故か顔面以外には股間に当たる命中率が高いのは気のせいにしておこう。


「ホラ、正樹
写真を撮りまくりなさいっ!!」

「大尉…スミマセン…。」


カッパを着たミツコと正樹がパイを投げつける独身男性達やパイをぶつけられるタケルを激写する。
勿論ミツコが爽やかな笑みを浮かべて撮ってたのは言うまでも無い。


『さて、オレで最後「私に投げさせて下さい…。」…………どうぞ。』


最後に筋肉マッチョな独身男性が投げようとすると、涙を滲ませている唯依が現れ、思わずパイを渡してしまう。


「……白銀大尉…覚悟して下さい…。」

「ちょっと待てッ!!
お互い被害者ぢゃないかッ!?」

「確かに…
しかし…この責任は、大尉にもあります。」

「何故ッ!?」


涙をウルウルと滲ませながら構える唯依
タケルは一生懸命説得するが、唯依の耳には届かなかった。


「……もう…私……お嫁にはいけないかもしれません…。」

「ちょっと待て!!話し合おうぢゃないか!?」


大きく振りかぶる唯依
そして---

「責任…とって下さいッ!!!」

「んがぁぁっ!!!?」


何処ぞの大リーグ選手の投手の如くジャイロ回転を描きながら投げられたパイは、見事タケルの顔面にヒットし、そのまま十字架に貼り付けられたまま壁まで吹っ飛び、激突する。


『パイをぶつけただけで、壁まで吹っ飛ぶモノなの…?』と独身男性達及び、客席のみんなからツッコミを入れるが、今の悲しんでいる唯依に対して口にする者はいなかった…。


それから15分後…パイまみれになったタケルは着替え、顔面についたパイのクリームを落として再び会場に現れるが、疲れ果てた様子を見て、花嫁達も少し同情する。


そしてその後しばらくは落ち着きを取り戻し、客席のお客様達もホロ酔い程度に酔っていると、香月博士が良くある花婿と花嫁達の出逢い話をする。

勿論悠陽の時みたいな出逢い(ループ)を語る訳にはいかない為、一部脚色している所はある。

しかし…そんな出逢い話の中にもやっぱり笑い話があり、純夏の『どりるみるきぃ』で電離層を到達する話や、まりもの『狂犬』でとんでもない事になったりとか、真耶がタケルとシミュレーター訓練で勝負を決めた技がバックドロップだったり等、花嫁達にとっても恥ずかしい話になり、結果お客様達は大爆笑だったりする。


出逢い話が終わると、香月博士はチラリとタケルと視線を合わせ、ニヤリと笑う。


「…嫌な予感がする。」
「私もそんな気がするわ…
ハァ…もう終盤だというのに…。」


香月博士の怪し過ぎる笑みにタケルとまりもは反応する。
次は一体何が起きるのかと、ビクビクしていると---事態は起きた。


最初は有名な交響楽団などで音楽を演奏していて、内心ホッと一安心するタケル達
すると演奏が終わると----


「続きましては、煌武院雷電様・榊是親様・巌谷榮二様・鎧衣左近様・紅蓮醍三郎様の五人によるお祝いの歌を贈りだいと思います。」

「「「「ハッ?」」」」

突然の事に唖然とするタケル達
勿論会場のお客様達全員が唖然とする。


なんせ超々豪華メンバーだ
前・政威大将軍を始めとして、内閣総理大臣・帝国斯衛軍最強の軍人・伝説のテストパイロットに帝国情報省の凄腕の諜報員

こんなメンバーが先程の演奏者達の前に立ち、マイクを握ると---

「心がゆれ動くたび~
街も人も言葉も~♪」


歌いやがった。
いや、歌は良い。
しかし、シリアスな顔をしながら五人が腕を組み合い、スキップしながらルンルンと踊る姿を見て、流石に会場内にいる全員が時間停止や石化など現実逃避をするしかなかった。


しかし、交響楽団の皆さんも顔を引きつりながらも演奏をする辺り、流石はプロだ。


「悠陽…アレは知ってたのか…?」

「いえ…流石にコレは知りませんでしたわ…。
ただ、お爺様達が『笑顔に送れるように』と香月博士と共に何かしら考えてたようでしたが…。」

「…そうか」


悠陽も知らなかったイベントだった為、驚ぎを隠せないでいた。
タケル以下、他の花嫁達や、客席で座っている唯依や美琴も笑うに笑えず、呆然とするか顔を真っ赤にしながら恥ずかしがるしかなかった…。


そしてこの日から五人に友情が芽生え、後にタマパパや萩閣も参加する事になる…。


「----終わりましたね…。
皆様方、今日はお疲れ様でした。」

「ウム、今日は色々と楽しかった。
唖然とする悠陽や冥夜の顔を見て面白かったぞ。」


結婚式が終わり、今日の主役達が去った後、会場内のとある一室には先程はっちゃけた五人と香月博士が居た。


「今日あのような姿を見せて頂き、感謝致しますわ。」

「何、殿下や戦場で奮戦する若者達の『笑顔』を作る為ならば、喜んで笑い者にもなろう。」

「笑顔で笑い声を出せば、その時だけでも辛い過去を忘れるというもの。
そしてそれで一人でも多く心の傷を癒やす事に貢献出来るのであれば---
私は指を指され、馬鹿にされようとも構わない。」


感謝の言葉を贈る香月博士に対し、プライド等を捨て、若者達の為にと今日の悪戯を決行する雷電達
是親・巌谷中佐の言葉を聞き、再び五人に頭を下げて感謝する香月博士


「もう我々年寄り連中の出来る事は少ない。
ならば、この先光ある若者達の未来を守る為に老骨に鞭を打つ覚悟で我々も戦うつもりだ。」


そして、五人が決意を決めた眼差しで告げる


「香月博士、我々は今後貴殿の『オルタネイティヴ計画』に対し、出来る限りの支援を約束しよう。
煌武院雷電の名に賭けて約束しよう。」

「ありがとうございます。」

「何、此方こそ感謝する。
孫達の幸せそうな笑顔を見せてくれた礼だ。」


笑顔になって感謝する雷電
すると---


「では、雷電様…ひとつお願いが…。」

「なにかね?」

「『結城直之』の行方を捜索して頂きたいのです。
アイツの存在がなければ、白銀の『専用機』が完成する事は、遠い未来になってしまいますでしょう…。」


雷電達に『結城直之』という人物の捜索を依頼する香月博士
…その時、何故か遠い眼差しをして、天井に顔を向けるのだった…。



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~ 三度目のループ 第五十六話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2011/04/10 14:33
1999年・12月26日

仙台・第二帝都・シミュレータールーム


「ふぅ…まりもちゃん、お疲れ様」

「ありがとう『タケル』」


シミュレーター訓練を終えて、一息つけるタケルとまりも


今回のシミュレーター訓練は、例の武御雷の改良型のテストパイロットとしてデータ収集をしていた。


帝国技術開発廠の副長になったばかりの巌谷中佐や開発チームの責任者のエルヴィン
そして香月博士やその助手である霞がそのデータを元に様々な案を出し合っていた。

そしてその決まった案を実行し、タケルとまりもがシミュレーターや実機訓練等でテストプレイをし、その結果を香月博士達が見て、バグや修正するべき所を改善する作業を繰り返していた。


「今日のテストパイロットは終了よ。
私達はこれから今のデータを分析するから、アンタ達は戻っていいわ。」

「わかりました。」

休憩していたタケル達の下に香月博士と霞が来て、今日は終了した事を告げる


「霞…その白衣は先生の真似か?」

「ハイ…貰いました…。」

少し大きめの白衣を着る霞
袖が少し手が隠れる程ぶかぶかで、裾を少し引きずる感じになっている
…逆にそれが可愛いらしくなって、萌えポイントは高かった。


「まだ成長期に入ったばかりなんだから、あんまり無理するなよ?」

「大丈夫です…白銀さんみたく、無理…しませんから」

「んがっ!?」


痛い所を言われるタケル
日頃居残りの訓練の時は霞に手伝って貰う事が多々ある為、結構タケルが無理してる所を霞は見ている。


しかし、そのおかげでタケルの機体は常に調整をする事が出来、今ではタケルの機体である不知火・改は、他の不知火・改に比べてべらぼうに性能が高かった。

勿論、そのたんびにタケルは整備士達から化け物扱いされるが、霞が『皆さん…無理ばかりな注文で…スミマセン』とか『皆さん…ふぁいと…♪』と萌えな姿を見せると、整備士達の苦労や疲労などが癒やされてしまい、むしろ一部の整備士達から『霞タン…萌え…☆』とハァハァ…と怪しい息切れまで聞こえる程だった。

因みに今では、国連軍及び、帝国軍内部まで霞の人気は高くなり、『社 霞タンファンクラブ』などが設立してしまう程だ。(男女比率・4:6と意外にも女性陣の方が人気が高かった。)


「あ、そうそう…白銀…
榊首相から連絡来たわよ?」

「ハァ…」

ニヤニヤと笑みを浮かべながら告げる香月博士
当のタケルは『やっぱり来たか…』と溜め息を吐く
その際にまりもからは同情され、霞には頭を撫でられ『頑張って下さい…』と慰められる。


「…それでいつですか?」

「今日よ。」

「……………………………………………………………………………なんですと?」

「一応言っておくけど、今回は私は無関係だからね。」


突然の発言に一気に疲労感が出て来るタケル
今回は香月博士の悪戯ではないが、榊パパの親バカっ振りに振り回される結果になった。


それから一時間後---
タケルは着替えて愛車に乗り、香月博士から教えて貰った住所に向かう。

車で20分走らせた所に目的地である『榊邸』があった。


「スミマセン、帝国斯衛軍の白銀武大尉です。
榊首相に頼まれ事で来たのですが…」

『ハッ、お話は聞いてます。
ささ…お入り下さい。』

榊邸の守衛の人に門を開けて貰い、中に入るタケル。
車を守衛さんに預け、榊邸の中に入る。


「うーん…少し意外だったかも知れない。」


意外な感想で驚くタケル。
家自体はかなり大きいが、中は意外にも質素
何点かは高級品があったりするが、他は至って普通の一般的な部屋だった。

一般の家庭に良く見られるような家具や食器
使用人はいるが、2~3人程度
とても総理大臣が住んでる家とは思えない程質素だった。


「お待たせしました、白銀大尉」

すると、タケルの前に現れたのは、良く知る人物。


『榊 千鶴』その人だった。


「突然の父のわがままにご迷惑をかけてスミマセンでした。
私もいきなり『白銀大尉という人物が家に訪ねて来る』と聞いたもので…。」

(うわぁ…バリバリ緊張してらぁ…。)


緊張して固くなってる千鶴
幾ら首相の娘とはいえ、今の彼女は訓練高等学校の生徒
彼女からすれば、タケルは『上官』だった為、ガチガチになっていた。


「緊張しなくても良いですよ。
なんならオレの事は『白銀』とも『タケル』とも呼んで良いよ。」

「そ、そんな、呼び捨てなんて失礼な事は…」

「その代わり、オレは君の事を『委員長』と呼ぼう」

「……………………………………………………………………………ハイ?」


突然の事に唖然とする千鶴
先程迄の緊張感が一気に無くなり、その代わりに訪れたビミョーな空気に戸惑っていた。

「何故…委員長…なんですか?」

「いや、オレの昔の知り合いに、君にそっくりな人物いてね…
その時の呼び名が『委員長』だったんだ…」

「………」


流石に言葉を失い、少し混乱する
そして、千鶴が第一声に発した言葉は…


「白銀大尉…アナタ…『馴れ馴れしい』って言われてませんか?」

「ウム、言われてる。」

「……ハァ」


悟る千鶴
このタイプの人間はあれこれ言っても無駄なような気がすると…


「…じゃあ…『白銀』って呼ぶわ。
けど、あくまでも『今は』ですからね。」

「ええ~…?
外で会った時でも呼んで良いぞ?」

「私が困りますッ!!」


タケルの態度に戸惑う千鶴
今までにいないタイプだった為、頭を抱えていた。


「白銀…今日は何の用で来たの…?」

「…言い辛いんだけど、委員長と榊首相の関係…あまり良い状態じゃないんだろ…?
だから、今日はその改善の為に来たんだ。」

「ハァ?
白銀に関係無い事じゃない!?」

タケルが今日来た理由を告げると、千鶴は呆れたように『アナタに関係無い事よ』と告げるが…


「そうなんだけどさ…
人の結婚式の時にさ、ああも念入りに言われたら、しないとマズいっしょ?」

「え゛っ?」

「最初は会場に入る前だからまだ良いよ?
その時は『ウチの千鶴はね、メガネを取ると美少女なんだよ♪』…と自慢話から始まって、『白銀君…君なら千鶴を説得出来ると私の本能が告げているッ!!』…とか、此方の意見無視して話を進めて会場に入って、決定事項にされたり…」

「ええッ!?」

「結婚式が始まって、スピーチの際にね、最後の最後で釘を打って来たんだよ。
『先程の件…頼む。
君の手腕に私と愛娘の家族関係がかかってるから、頼むよ♪』…なんて数百人以上人が居る前ではっちゃけたんだよ?」

「ご、ゴメンナサイッ!?」

「結婚式の終盤では、首相の他に、前・政威大将軍とその他豪華メンバーを加えた五人で、シリアスな顔して腕を組みながら、歌を歌ってるんだよ?
しかもスキップしながら…」

「…………(ピクピク…)」


父のはっちゃけ振りに顔を真っ赤にしながら悶える千鶴…
恥ずかしさと、タケルに対して申し訳ない罪悪感に顔を両手で隠しながら『ゴメンナサイ…本ッッ当にゴメンナサイ…!!』と謝罪する。


「…まあ…そんな訳だから、説得をされる事をお勧めする。
じゃないと…委員長の今後に不安な未来が待っていると約束する
…主に恥ずかしい方向に。」

「…………………………………………………………わかったわ」

タケルの説得(脅迫?)を聞いて陥落する千鶴
…ちなみにこの後、帰ってきた父に激しいスキンシップ(釘バット)を仕掛けたとか…


「さて、落ち着いた所で話をしようか。」

「…ハイ」


諦めるように話をする千鶴
やはり予想通り、父・是親との家族のコミュニケーション不足から、悪化し始めた。


その度に寂しい想いをし、だんだん是親との距離が離れてしまい、それに追い討ちをかけるように母が病で倒れ、亡くなったのだった。


「…あの頃を境に父に反発するようになったわ…。
父が病に侵された母をもう少し気を使っていれば…
仕事なんかよりも、母の看病を見てくれれば…
『首相』という仕事がどれだけ大変で重要な役職なのは分かるけど、それでも『家族』を少しでも優先してくれなかった父の気持ちが分からなくて…
それからよ…私が徴兵免除を蹴って、父の反対を押し切って、訓練高等学校に通い始めたのは…。」

睨むように天井を見つめ、本音を語る千鶴…


「同時に『総理大臣の娘』っていう見方や肩書きにも嫌気をさしたのも、丁度その頃よ。
私は『私』と見て欲しくて、『政治の道ではない別の道』を選んだの…」

「そっか…」


千鶴の気持ちを知るタケル
『前の世界』で父が暗殺された際、本音の一部を告白してくれた事を思い出し、結論を出す。


「…別にさ、『気持ちが分かる』なんて偉そうな事は言えないけど…
もし、使わせて貰うなら、どちらの気持ちも『少し』分かるんだよな…」

「…少し?」

「そ、少しだけな。
オレんちは元々両親が帝国軍の衛士でな、オヤジは部隊長だから、帰りは遅いし、母さんは毎度帰って来れるけど、任務があると、ヘタしたらひと月程両親に会えない事もあった。」

『この世界の白銀武の記憶』を思い出し、語るタケル
一方、千鶴もその話を真剣な眼差しで聞く。


「勿論寂しい想いはしたけど、委員長と違って、俺には幼なじみが居たから寂しさを紛らす事が出来た。
運良く幼なじみの家が隣だったから、おばさんに面倒見てくれた事も度々あった。
だから委員長の気持ちも『少し』分かる。」


成る程、それならば確かに私と『少しだけ』同じだ。
気持ちも『少しだけ理解する』という事に納得する千鶴


「けど、首相の気持ちも『少し』分かるんだ。
さっき結婚式の話もしたけど、それ以前から籍は入れてたし、子供も一人いる。
だからオレ、今『父親』という立場も分かるんだよ。」

「父親の…立場?」

「そ、俺の場合は衛士だから首相みたく激務じゃない。
けど、今俺は中隊長という立場だから、中隊を纏めなきゃいけない。
そして、それは部下の面倒は勿論、1日の部隊の訓練や様々な書類整理。
上司との長々とした会議や色んな任務の遂行…
そして…戦場に出れば誰よりも周囲を見渡し、仲間を守り、『全員生還』出来るように戦い抜く…。
言葉にすれば簡単だが、それを実行するとなると、どれもが困難な事なんだ。」


真剣な眼差しで語るタケルの目を見て、ゴクリと息を呑む千鶴


「部下の面倒だって、手は抜けない。
冗談言ったりする時ぐらいは構わないが、それ以外の時は真剣に接しなければ、信頼も得られないし、何より部下の為にならない。
訓練だって、強くならなければ、大切な仲間達は守る事なんて出来やしない。
書類整理だって三枚や五枚程度じゃない
酷い時は二十枚も三十枚も有るんだ。
時間なんてあっと言う間に過ぎる。」


タケルが大尉となり、自分の日頃の作業を教え、それがどれだけ大変かを千鶴に教える。


「大尉のオレでさえ、こんなに忙しいんだ。
『内閣総理大臣』という役職を持つ首相の激務なんて、想像も出来ないぐらい忙しいんだろう…。
…だからこそ、首相の『板挟み』の気持ちが少しだけわかるんだ。」

「板挟みの気持ち…?」

「ああ、『親』になるとね、『仕事』と『家族』の板挟みになるんだ。
平等なんて、都合の良い事なんて出来る訳がない。」

「何故?」

「コレがまだ平和な時ならば出来たさ。
土木作業や様々な専門職…
時間が来れば作業は終わり、家族の下に帰るだけ。
けど今この世界はBETAや欲深い人間達との戦乱で、殆どの人間が『戦場』が仕事場になる事になる。
衛士には衛士の『戦い』があり、政治家には政治家の『戦い』がある。
そして、その『戦い』に勝つ為には『強く』なければならない。
でなければ…国や民…そして、自分にとって大切なモノを守る事は出来ないんだ。」

今まで体験してきた事を言葉に変えて、タケルなりに伝えようとする。
そしてその言葉を聞き逃さないように千鶴も真摯として聞く。


「勿論家族の事も大切だ。
親である以上、子を心配する事は当たり前だし、将来の事だって真剣に考えてやらなきゃダメだ。
勿論それには夫婦が揃って子供を守らなければならない。
…さて、委員長
君はもし自分がそんな立場になったら…平等なんて、出来るか…?」

「………」

タケルの問いに深く考える千鶴…

(…確かに…家族を優先にすれば、場合によっては仕事に影響が出るわ…
かといって、仕事に優先すれば----)


自分のように『家族』に影響が出る---
そして、それは『上』に行けば行く程、難しくなる---


「…此処まで言えば分かるだろ?
榊首相はな、国の為、民の為に『総理大臣』って役職に居るんだ。
日本やその民達の未来や責任を背負ってる一人でもあるんだ。
国や民を守る為には、全身全霊で『政界』という場所で戦わなければならない。
そして、一つでも多く問題点を解決しなければならない。
けど、榊首相だって親の一人だ
本当は家族の下に毎日帰りたい、家族と接したい。
そんな『板挟み』の状態をずっと苦悩しながらも、表情には出さないように『仮面』を被ってるんだ。
…じゃなきゃ、あの時榊首相が親バカを発揮した時---悲しそうな表情をする訳が無い。」

「えっ…父が…?」

驚く千鶴
タケルはそのまま話を続ける。


「榊首相が胸ポケットから、手帳サイズのアルバムを出して委員長の写真を見せびらかした時---
一瞬だけど、悲しそうな表情をしてたのを覚えてる。
…多分あれは『家族』として接する事が出来なかった事に対する『悲しみと後悔』なのかもしれない…。」


親バカっ振りを発揮して居た榊首相だったが…
写真を見せていた時、一瞬悲しそうな表情を見せていた時の事を娘・千鶴に告げる。

「…どうすれば…良いのよ…?」

「榊首相も頑固で素直じゃないみたいだからな…
『ゴメン』って謝りづらいんだと思う。
だから委員長の方から仕掛けるんだよ。」

「どんな風に…?」

先程迄みたいな強気な態度ではなく、少し困惑しながら答えを聞くと…


「うーん…とりあえず帰ってきたら『お疲れ様』って声をかけて『肩叩き』をしてやれば良いんじゃない?
『解決』にはならんだろうけど、『きっかけ』にはなるだろう?
まずは第一歩目を目指さなきゃ。」

「そ…そうね…。」

少し緊張気味になる千鶴
なんとなく初々しい姿な為、少し笑うタケル


「それじゃ頑張って委員長
あっ、コレ家の電話番号だから、なんか合ったら連絡して。
もし基地に居るようだったら、此処に連絡頂戴。」

「えっ…ありがとう…。」

タケルから家の電話番号と基地の電話番号を書いた紙を受け取る。


「それじゃ今日は帰るわ。
偶に早く帰らないと、また家族の連中に酷い目に合っちまう。」

「何よそれ?」

「ウチにはな…怒らせると生命に関わるぐらいコワい奴が居るんだ。
もし万が一『どりるみるきぃ』を放たれたら…逝ける。」

「逝く!?」

ブルブルと震えるタケルを見て『嘘…じゃないの…?』と戸惑う千鶴
タケルの頭の中には、テンプシーロールを描く純夏を浮かべた事は間違いない。


その後、玄関先まで見送り、タケルが乗った車が見えなくなるまで見送る千鶴


そして、それから数時間後、父・是親が帰宅し、固い表情をしながらも『お…お疲れ様…』と労いの言葉を入れながら肩を抱く千鶴
その事に歓迎する是親は、不器用ながらも『ありがとう』と感謝の言葉を口にする。


そして----


「父さん…
随分と…恥ずかしい事したみたいね…?
しかも結婚式のスピーチに……ねぇ…?」

「ち……千鶴…ッ!?
は、話し合おうぢゃないかッ!?」


殺ル気満々に殺意のオーラを放ちながら、片手には今し方殴って血が付いた釘バットでO・SHI・O・KIという愛情表現をしている千鶴に対し、産まれたての小鹿のように部屋の隅でガタガタブルブルと震えていた…。

「勿論よ、父さん…。
さぁ…タッッップリと時間があるから、O・HA・NA・SHI・しようか…?」

「ちづ…………ムグッ!?」

そのまま是親の頭をアイアンクローを決めながら、ズルズルと是親の部屋まで連れて行く千鶴…


後日、秘書が迎えに来た時には既に是親は猟奇殺人並みにフルボッコされ、床には『ゴメンナサイ』とダイイングメッセージを残していたそうな…。



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~ 三度目のループ 第五十七話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2011/04/17 19:36
2000年・1月1日

仙台・榊家別邸


「…ふう…こんな感じで良いかしら?」


朝早くから、いそいそと朝ご飯の準備をする千鶴

今日は元旦、忙しい父も今日は正月休みで、家に帰って来ていた。


今日は正月な為、朝から忙しい時間だったが、前回の仲直りの件で、自分から改善しようと動いていた。

朝ご飯は勿論正月故に重箱
豪華とは言えないが、それでも汗を流しながらも、味を重視して料理を作っていた。

材料は合成食材。
本来ならば自然食材を食べれるのだが、父・是親が『民は高価故に自然食材を食べれないのに、私が食べる訳にはいかない。』と断言し、余程の時以外は自然食材には手をつけないのだ。

食べる時は、民間のコミュニティーセンターなどで市民と一緒に食べたり、娘・千鶴の誕生日の際に外食で口にする程度しか食べる機会を作らなかった。


因みに、前回のタケルの結婚式の際も、お酒のおつまみ程度にしか口には入れなかった程、徹底していた。


それ故に千鶴は少しでも美味しく食べれるように日々料理の修行をしていた。

そして後の話だが、千鶴が国連軍に所属した際、京塚のオバチャンの下で料理を学び、メキメキ腕を上げる事になる。

「さてと…料理は終わったから…正月らしく着物でも着ようかしら。」


エプロンを抜いで、そのまま自分の部屋に行き、箪笥(たんす)から母の形見である着物を出し、着替える。


それから30分後、父・是親が目を覚まし、欠伸をしながらも、居間のソファーに座り、自分で入れた茶を啜りながら新聞を読み出す。


「明けましておめでとう。」

「ウム、明けましておめでとう。
ホゥ…良く似合ってるぞ、その着物」

「ありがとう」

未だに少しぎこちない榊親子
以前に比べて親子関係が良い方向に向かった為、とりあえず挨拶や会話をする程度には改善した。

(白銀君…やはり君に頼んで正解だった…。
千鶴の着物姿を見られるなんて…新年早々縁起が良いぞぉっ♪)


心の中で親バカっ振りを発揮する是親
もし素直になっていれば、間違いなく握り拳をしながら『千鶴タン…萌え☆』…と呟いていたのかもしれない…。


「ハイ父さん、朝ご飯よ」

「ホホゥ…これは目移りしそうだな。」

二段重ねの重箱の蓋を開けると、一段目は玉子・黒豆・車海老等の定番の正月料理が箱一杯に詰められ、二段目にはちらし寿司と赤飯と2つに分けられ、是親の食欲をそそっていた。


「では、頂きます。」

「ハイ、頂きます。」


礼儀良く『頂きます』と手を合わせてから、食事する。


「父さん、これからどうするの?」

「今日は休みだからノンビリするが、明日は皇帝陛下に新年の挨拶の為、朝から出かける。
とはいえ、明日はそれだけしか用は無いから、すぐ終わるだろう。」

「そう、なら今日は一緒に何かする?」

「そうだな…」


うーん…と腕を組みながら考える是親…すると…。


「そうだ、白銀君の下に行かないか?」

「白銀…大尉の下に?」

「ウム、彼には色々と礼を言わないといけないからね。
確か今日は第二帝都城ではなく、月詠家の別邸でノンビリと年を越すと殿下が言っていたな…。」

「で、殿下もっ!?
流石に正月早々は拙いんじゃ…?」

「そうだな…一応連絡を入れておこう…。
もし都合が悪ければ、今日行くのは諦めておこう。」

「そ、そうね…。」


流石に殿下(悠陽)も居るのなら都合が悪いのではと、告げる千鶴
そして食事が終わった後、是親が電話で確認すると---


「千鶴、構わないそうだ。
…どうやら向こうは早速ドンチャン騒ぎをしてるみたいだぞ?」

「はっ?」

「既に五摂家の人達や部隊の仲間達が集まって、騒いでるようだ。
…受話器越しからも、賑やかな声が聞こえたから間違いないだろう…。」

既にドンチャン騒ぎになっている月詠邸の様子を伝えると、唖然とする千鶴…


少し抵抗はあるが月詠邸に行く事になり、車で移動する事15分…


「明けましておめでとうございます~☆
どちら様ですか~☆」

「「…………」」

流石に驚く榊親子
朝っぱらから酔っ払っているやちるが、ハイテンションで迎えに来た事に驚く。


「やちるさん、酔っ払ってお客さん迎えたら駄目ですよ。」

「あら、タケルさんったら~☆
私は酔ってませんよ~♪」

「………駿、済まないけど、やちるさん連れてって…。」

「ハイ…」


後からタケルと駿が駆け出し、酔ったやちるを駿が連行する。


「ハハハ……
新年早々みっともない所見せてスミマセン。」

「い、いや…それは構わないが…
いつから呑んでるのかね…?」

「確か…………………………除夜の鐘なる前から?」

「ハァッ!?」

「先生…香月博士が昨日から泊まってましてね…
……まあ、そういう事で、昨夜からぶっ通しで…。」


新年早々はっちゃける香月博士に、既に呆れを通り越して諦めモードに入っているタケル

「で、殿下は…?」

「酔い潰れて、まだ寝てます。
まあ、みんなは道場で騒いでますから、居間にどうぞ。」

「う、ウム…」

「お邪魔します…」


少し予想外な事に戸惑う榊親子
そして居間に入ると、マトモな人間が数人居座っていた。


「おおっ!?
これは榊殿…新年明けましておめでとうございます。」

「明けましておめでとうございます。
神野大将も此方にいらっしゃってましたか…」

「ハイ、殿下の護衛に参ったのですが…
この通り、殿下が酔い潰れてしまい、今は正月らしく護衛も兼ねながら息抜きをしておる所です。」

居間の隣の部屋で眠ってる悠陽を見て苦笑いをする神野大将
その様子を見て、是親も同情するように『大変ですなぁ…』と声をかける。


「……明けまして…おめでとう御座います。」

「明けましておめでとう。」

「ハイ…お茶です…」

「うむ、済まない。」


霞が千鶴に挨拶をした後、やちるの代わりに榊親子にお茶を入れて差し出す。


「…随分と賑やかだね…向こうは…」

「今向こうは先生を筆頭として、一部の五摂家の方々や部隊のみんなとドンチャン騒ぎをしてるんですよ。」

「…そうか…随分と凄いメンバーだな…。」

「五摂家の方達は色々と大変ですからねぇ…
今日みたいな日でない限り、こうやって開放的になれないんですよ。」

「確かに…
五摂家は日本を代表する家柄
民に示す存在故に、本来の自分の感情を殺してでも『仮面』を被る日々だからな…
…開放的になる気持ちが分からんでもない。」


本当の自分をさらけ出す事の出来ない五摂家の人間達
その気持ちを理解する是親は『今日ぐらいは良いではないか』と賛同する。


「し~ろ~が~ね~☆
アンタこんな所で何ノンビリしてるのよ~…
…あら、榊首相ではありませんか?」

「香月博士、明けましておめでとうございます。
随分と賑やかですな。」

すると香月博士が酒瓶握り締めながら居間にやってくる。

「明けましておめでとうございます。
今日ぐらいパ~っと楽しまないと、息抜きなんていつ出来るかわかりませんからね。
日頃の疲れを癒やして、タップリと楽しまないと、損ですからね。」

「確かに、今日ぐらいは楽しまないと損だ。
香月博士、そのお酒…一杯頂けないですかな?」

「勿論ですわ。
ささ…コレで一杯…。」

「頂きます」


香月博士から一杯貰う是親
コップについだお酒を一気に飲む。


「豪快ですね。」

「やはり酒は楽しんで飲まないと美味しくはない
私も向こうに参加するとしよう。」

「と、父さん!?」

『今日ぐらいは』と政治家としての顔を止め、『一人の親父』として宴会場へと向かう是親

その姿に驚く千鶴だが、楽しんでる父の姿を久しぶりに見て、止める事が出来なかった。

「あんな父さん…久しぶりに見たわ…。」

「ふぅん…大体何時ぐらいから見なくなったのかしら?」

「多分…総理大臣になってからだと思います…。」

「成る程ね。
まぁ、確かに総理大臣にもなれば、あんな風に『本来の自分』をさらけ出す事なんて出来ないからねぇ。」

「えっ?」


香月博士の言葉に反応する千鶴
その姿を見て、妖しく笑みを浮かべながら説明する。


「内閣総理大臣に限らず、『政治家』って職はね、欲望と争い・現状を突きつけられる問題点等蔓延している中で行う職でね。
上に行けば行く程、甘い誘惑や困難な試練、そして理不尽な上からの圧力をかけられる事なんて、当たり前のように有る世界なの
それに負けた奴は甘い汁を覚えたり、上の圧力に怯え、従ったりする奴が殆ど…
例え、それに打ち勝っても、他の奴にしたら『邪魔者扱い』され、存在を消される事も珍しくないわ。」

「そんな…」


政治家の中身を教えられ、驚きを隠せない千鶴


「けど、それすら打ち勝って、アンタの父親は『内閣総理大臣』というポジションに座る事が出来たの
そして、それには『素顔』を見せない為、常に『仮面』を被る必要があるって訳。
政治家の世界で『素顔』を見せるって事は『弱味』となる可能性があるからね…」

「…それじゃあ、今まで父が私に見せてた姿って…」

「アンタの身を守る為『演じてた』ってのも多少はあるでしょうね。
勿論、良くある仕事の事で苛つきや疲れなどでコミュニケーションを悪化させたり、激務故に仕事に打ち込み過ぎたのも考えられるわ。」

「…………」

「アンタがまだ父親の事を理解出来ない所が有るだろうけど、その殆どの理由がアンタがガキだらよ」

「なっ!?」

突然の発言に言葉を失う千鶴だが、香月博士はそのまま言葉を続ける。


「アンタに親の何を理解してるの?
アンタは親の苦労を理解してるの?
アンタは親の悩みや苦しみを知っているの?
仕事もしてないガキのアンタが、『大人の世界』の事を何を知っているの?
子供としての感情に甘えたい気持ちは分からんでもないけど、少しは『親の気持ち』も理解しなければ、お話ならないわ
そんなの子供のワガママと同じ事よ?」

「………ッ!!」

悔しい思いで下唇を噛みしめる千鶴
反論したくても出来ない自分に嫌気をさす。

「悔しいならアンタも大人になるように目指しなさい。
反論したいなら大人になって学びなさい。
…そして理解したいなら、人として成長しなさい。
それが出来たなら、アンタは父親の気持ちを理解する事が出来るわ。」

「----ッ!?」

最後の台詞を語った瞬間---
あれほど憎たらしい台詞を語った人物の表情から---
今までの苛立ちすら打ち消す程の『優しい表情』を見せる香月博士を見て戸惑いだす。


「そういえば、私の知り合いでね、『ガキくさい英雄』が居てね、『世界を救ってみせる』なんて事言ってた甘っちょろい奴が居たのよ。」

「えっ?」

突然話の内容が変わる香月博士
突然の事に意表をつかれる千鶴だが、それ以上にタケルが驚く姿を見て疑問する。


「ソイツとは利害が一致しててね、協力関係だったの。
意外にも頭が回る奴だったし、仲間からも信頼が厚かったし、戦術機の腕前もズバ抜けていたわ。
『駒』としては便利だったけど、結構甘っちょろい事言う奴だったの。
けど…ある時、恩師がソイツの目の前でBETAに喰い殺されてね…そのショックをきっかけに一度逃げ出したのよ。
…けど、ソイツは戻って来た
表情も少しはマシになったし、それから続く残酷な現実にも立ち向かった行ったわ。
そして、最後にはソイツはとある事をやり遂げて『一人前の顔』になったわ。
大切なモノを沢山失ったけど、ソイツは成長し、本当の意味で一人前になったわ。
まあ、それからはソイツを『駒』としてではなく『仲間』として接する事になったけどね。」


香月博士の語る『ガキくさい英雄の物語』は終わる
そして、それを語った理由は---


「アンタもソイツも同じ事を言えるわ。
アンタは口だけは言えるけど、実際は何も知らないし、何も出来ないわ。
それを実行したり、知るには様々な問題や試練を乗り越えなきゃならないわ。
そしてそれを本当の意味で乗り越えた時こそ---
アンタは『答え』を得る事が出来るわ。」


千鶴を導くように語る香月博士
話が終わり、『よっこいしょ…』と呟き、足をふらつかせながら宴会場へと向かう。


「さて、新年早々辛気臭い話をしたわね。
私はまた飲みに行くから、白銀も後から来なさいよ?」

「ハハハ…りょ~かい。」

酒瓶握り締めながら再び宴会場へと向かう香月博士
取り残された千鶴を見て、声をかける。


「悪いな、委員長
別に先生は委員長を悪く言っている訳じゃないから…」

「わかってるわ…
ただ、あれだけ言われて腹立ててたのに…今はそれすら無くなって逆に戸惑ってるわ…。」

「まあ、それが先生の話術だし、あの人も素直じゃないからね…
一応委員長の事を思って激を飛ばしたんだよ…………………………多分」

「……多分は余計よ。」

タケルの最後の一言を指摘する千鶴
タケルもその事に関して、苦笑いをして誤魔化す。


「……さっきの話の『ガキくさい英雄』…
あれ…オレの事なんだ。」

「えっ!?」


突然先程の話の『真実』を口にするタケル
その事に千鶴は驚愕し、同時に複雑な想いが生まれる。

「…以前『委員長』の呼び名の理由…言ったよな?」

「え、ええ…
確か私にソックリな人物のあだ名だって…。」

「そう、それ。
実はさ…その委員長も、以前居た部隊の仲間の一人でさ…
さっき言ってた『とある事』…機密情報だから詳しくは言えないけど…
……そのとある戦場で……亡くなったんだ。」

「----ッ!?」


予想だにしない事実に驚愕する千鶴
一秒一秒が長く感じてしまう程、空気が重くなるが、タケルの話は続く。


「結局その戦いはオレを含んで二人しか生き残れなかった…
訓練兵からずっと一緒に居た仲間達…そのみんなが、オレなんかを守る為に…その命を散らしてでも守ってくれたんだ…。」

タケルを守ろうとする仲間達の想い…
その壮絶な結末に千鶴は言葉すら出せる状況ではなかった。


「だからさ、もう仲間達を失わせない為にも…
二度と大切なモノを壊さないようにする為にも…
色んな意味でオレは強くなるしかなかったんだ…!!」


そしてその覚悟と想いの強さを見た千鶴は---
心の底からタケルの事を尊敬する。


「最初は『力』が無かった---
二度目は『覚悟』が無かった---
けど、今は『力』や『覚悟』がある
そして…こんなオレを支えてくれる仲間達が居る---
今度こそは…絶対に守ってみせる…そう決意したんだ…。」


タケルの決意の強さに驚き、そして自分と見比べ、どれだけ自分が甘えてたのかを知る


(凄いわ…白銀
それに比べて、私は---)

自分とタケルを比べて、どれだけ今までの自分が小さかったのかを思い知る千鶴
そして---とある決意をする。


「私---衛士になるわ。
そして上を目指して、自分が納得するぐらい成長する事が出来たなら…
私…政治の世界に入ってみるわ。」

決意を決めた表情をする千鶴
隣に座ってたタケルは勿論、その後ろで茶を飲んでいた駿や神野大将も、その強い表情を見て驚き、同時に感心する。

(ほほぅ…良い顔をする…
流石は榊殿の娘じゃ…)

(凄いや…
うん…僕も今以上に頑張らなきゃ!!)

(流石は委員長だな…
こうなった時の委員長は本当に凄いからな…。)

「うっ…何よ…みんなして…
そんな顔してジロジロと私を見て…」

ジロジロと千鶴を見ていると、可愛らしく顔を赤くしながら質問すると…

「いや、素直に感心しただけぢゃ。」

「凄いと思いますよ、僕は。」

「同じく
流石は委員長だ。」

「んもぅ…」

恥ずかしながら視線を逸らす千鶴
もし、父・是親が居たならば『グハァッ!!……千鶴タン……GJ☆』とかなってたかもしれない…。


そしてそれから数時間経った後、月詠家のお抱え運転手に家まで送って貰う榊親子…

しかし、この後…まさかあのような事になろうとは…誰も予想だにしかなった…。



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~ 三度目のループ 第五十八話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2011/04/29 17:56
「うっ、ううん…
何…何なのコレ…?」

月詠家別邸から帰ってきた千鶴
しばらくしてから眠りにつくが、寝苦しさ故に眠りから起き上がる。
息切れをし、頭を抱える程、頭痛が襲う。


「何なの…この『記憶』…?
私は知らない…ううん…違う…」

頭痛の原因---
突如千鶴の頭の中に流れ込んで来る、見知らぬ『記憶』


そして---


「コレは…白銀…?
御剣…に…彩峰…鎧衣…珠瀬…茜…?」


そしてタケルや、未だに逢ってない冥夜達の名前を口にする千鶴


そして---


『行くわよ、彩峰!!』

『『ハアァァアァァッ!!』』


自分と彩峰が共に自決をする瞬間が流れ込み---頭痛が止まる。

「わ……私は一体…ううん…」

頭痛は止むが、突然の事に混乱する…
そして、彼女は---
とんでもない事を口にする。


「えっ…?
ここは…私の部屋…?
いや…確か仙台の…別邸の部屋…?」

記憶が混乱してる為か、今居る場所すら把握する事すら出来なかった千鶴…
そして、しばらく落ち着き、息を整えると---

「私…なんで『生きている』の…?
確か『桜花作戦』で彩峰と死んだ筈じゃ…?」


なんと『二度目の世界の榊千鶴』がループして来た…


「私…どうしたのかしら…
確か彩峰と一緒にS11で自決…した筈なのに…?」


少しずつ記憶を整理する千鶴…
すると、変化が見えて来る。

「…違う…私は戦術機に乗った事なんて無い…
けど…乗った事が有る…。」


少しずつ『この世界の榊千鶴』も戻って来て、徐々に混乱が収まりつつある。

「ううん…違う…
私…『過去』に戻って来た…の…?」

そしてとある『答え』に導く


「……つまり…『過去』に戻って、過去の自分と融合した……?
ハッ、なんて非現実的な妄想かしら…私らしくないわ…」


非現実的な答えに否定するが、それを否定するように表情を変える。
そしてそれは、今否定までした『非現実的な答え』を『現実』と判断する自分が居た為、言葉を失う

「……今は答えが欲しいわ…
例え非現実的な答えでも、情報が欲しいわ…」


やっと冷静に戻った千鶴
自分らしく、冷静な分析をする。

「……とはいえ、前回の記憶とかなり違うわ…。
光州作戦が原因で亡くなる筈の彩峰のお父さんが健在している事…
本土侵攻戦で四国・京都が防衛に成功した事…
明星作戦でG弾が使われなかった事…
何これ…まるで『都合が良いように』歴史が違うじゃない…」


『前回の世界の歴史』と違い、良い方向に向かってる事に疑問視する千鶴
そして記憶の整理を再び続ける事にする


「白銀…まさかこんなに早く出会えるとは思わなかったわ…
…けど…既に既婚……してるのよね…複数と…」

次にタケルの事を思い出す千鶴
最初は『既婚者』だという事にショックを受けるが、『嫁が複数』という現実に、そのショックすら打ち消す程頭痛が襲って来る。
まぁ…嫉妬で手がプルプルと拳に握り締め、是親の時以上にドス黒いオーラを放つ


「…けど…あの白銀がハーレム作る甲斐性なんて無いし…
大方、香月副司令のイタズラか何かでなったのかしら…?」


ほぼ正解に近い答えを出す千鶴
しかし、この時とある疑問が浮かび上がる


「…白銀が斯衛に所属…?
香月副司令との関係は有っても不思議じゃないにしても…何故斯衛軍に所属してるの…?」

色々と浮かび上がる謎…
それに戸惑いながらも、少しずつ整理する。

何故斯衛軍に所属してるのか---
何故現役の大尉が自分達訓練兵の中に入るのか---
すると、とある事を思い出す。


「そういえば白銀…おかしな事を言ってたわね…」

数時間前の事を思い出す…


『以前話したよな…『委員長』ってあだ名の話…』

『その『委員長』…以前居た部隊の仲間でもあるんだ。』

『とある戦場で…自分を守る為…その命を散らしたんだ…』


「……なによこれ…?
まるで『私』の事じゃない…!?」

タケルの言葉を思い出し、身体を震わせる千鶴…
本来ならば知っている筈の無い『未来』をタケルが知っていた事に戸惑いを隠せないでいた。


「どういう事…!?
白銀も私と同じように『記憶』があるの…!?」


そして---もうひとつの答えに導く。


「……香月副司令も…同じ…?」

そう、元はとはいえ、この話のきっかけは香月博士から始まった事
という事は、香月博士も『知っている』という事
すると、先程の謎が次々と導かれ、繋がっていく。


「これだけ歴史が違うのは…白銀と香月博士が私と同じ存在で…『歴史を変えた』から…?
無理よ、そんな事…
けど…そうだとすると…歴史の変化も納得する。」

なんせ先の未来を知っているのだ。
白銀には無理でも、香月副司令ならば、今の時代でも、かなりの権力があるから可能…だと判断する。


政治的な事や開発に関しては香月副司令に任せればいい
白銀は戦場で奮戦して、重要な所を抑えれば、歴史の変更にも繋がる。


例えば『甲21号作戦』
あの時、凄乃皇弐型が謎の原因で機能停止し、結果伊隅みちる大尉と柏木晴子少尉が殉職した。


だが、凄乃皇弐型の機能停止の原因を取り除けるとしたら…?
万が一なったとしても、二人の『死の変更』が可能な方法があるのでは…?


確かにそれならば歴史の変更は可能だ。
『未来』を知ってれば、違う歴史に辿る事も出来よう。


「……頭が痛くなる展開ね…。
けど…確かにこれならば歴史を変更出来る…。」

恩師である神宮司軍曹…
尊敬せし先任である伊隅大尉・速瀬中尉・涼宮中尉…
そして同期であり、共に訓練兵時代を過ごした柏木・彩峰…
そして、自分がA-01に所属した頃には既に亡くなった築地・高原・麻倉…
そして…自分自身…


御剣・珠瀬・鎧衣の三人は知らない…
しかし、白銀の話によれば…自分と同じ運命を辿ったのだろう…


「…なら、やる事はひとつね…」

決意を固め、これからのプランを計画していく。


「そうね…朝電話連絡してから白銀の家に行こう…
運良ければ、香月副司令に会えるかも知れないし…」


ド直球に攻める事にする千鶴
とはいえ、これ以外に方法が無い為、仕方ないとも言える。


「…そうと決まったら…寝ましょう。」


今はまだ日付が変わったばかりの時間帯
今からアレコレとやっても仕方ない。


「……待っててね…白銀…」


想い人の名前を呟きながら、眠りにつく千鶴…


そして---朝になり---


「ん?白銀君ならば、今日は居ないぞ?」

「え゛っ?」


開始数時間で躓く千鶴…
朝の食卓で、父・是親と会話してた際、今日の予定の内容になった。


勿論父との関係も改善したい為、午前中にタケルと会う事を考えていた。

しかし、意外な所でその予定を粉砕させられる。
千鶴にしてみれば、スタートラインで『位置について』の『位置』で転倒したような物だ。


「な…何故?」

「いや、昨日言ったよね?
今日は皇帝陛下の所に行って、新年の挨拶をすると…」

「え、ええ…」

確かに昨日の朝に父が言っていた事を思い出す。

「私が行くという事は、殿下も行くという事だ。
そして殿下の夫になった白銀君も皇帝陛下に新年の挨拶に行くのだ。」

「何故!?」

「今回改正した法案『一夫多妻制』は千鶴も知っているだろう?
アレはね…実は皇帝陛下のお力も有って改正したのだよ。」

「ええっ!?」


意外な事実を知り、驚く千鶴…
しかし、父のターンはまだ続く。


「何故かは…知らんのだが、皇帝陛下も白銀君に興味を示してね…
まあ…あの方の考える事は、未だに分からん。」

「確か…皇帝陛下って『女性』よね…?」

「ああ、女性初めての『皇帝』に着いた御方だ。
しかし…あの御方はなかなかどうして……悪く言えば『じゃじゃ馬』なのだよ。」

父・是親の苦々しい表情に『…そんな人が皇帝なの…?』とツッコム千鶴
苦々しい表情をする是親も、かなり被害に合ってるようだ。


「まあ、そんな訳で今日1日は居ないだろう…。
あの方がそう簡単に済ませる訳無いからな…。」

「そ、そう…」


スタートから盛大な躓きを見せる千鶴
その後、食事を終わらせて、是親の出勤の見送りを済ませると、大きな溜め息を吐く。

「ふぅ…ヤッパリ居なかったか…」


父が出勤してから準備をして向かった先は月詠家別邸
一応電話連絡は入れたのだが、通じず(やちるが忙しかった為、取れなかった)、仕方なく自分の足で月詠家別邸まで訪ねた。


しかし、残念ながら香月博士は朝方基地に帰り、会うことは出来なかった。


「どうしたものかしら…」

続けて躓いていた千鶴
少し落胆しながら歩いていると---とある異変に気付く。


(----ハア…新年早々忙しいわね…)


店の前を歩いていると、店のガラス越しに写る不振な影…
千鶴はそれが『何か』を悟り、警戒心を高める。

(恐らくは父さんの反対組織か、何処かの国の諜報員ね…)

偶然とはいえ、不振な影の正体を悟る千鶴


---以前、小さい頃に誘拐未遂事件があった。
その時は、父の部下のおかげで未遂で済んだ
それ以来、その頃から普段から護衛を付けていた。


しかし、母親が亡くなり、父・是親に反発した際、護衛を外すように啖呵を切り、訓練学校に通う際は寮生活で自分の身を守っていた(千鶴は知らないが、学校の周りや講師に変装した護衛が潜んでいた)


(多分、父さんなら護衛を付けてるんだろうけど…)


現在は親子関係が少しずつ改善されて来てる為、家に居る時は、離れた位置で護衛する条件で護衛を付ける事を許可した千鶴
是親も、娘の生活に支障が無い程度ならばという事で話は纏まる


何かあれば彼等が守ってくれる筈だったが…様子がおかしかった。


(…ヤッパリ様子がおかしいわ
護衛の人達が来ないわ…)

少し不安になり、ポケットに入っていた小さいスイッチを押す。

そのスイッチは、護衛の者達に知らせる発信機で、万が一身に危険が迫ってる時に知らせる為の装置
しかし、その装置を押しても動きが無い。
その異変を感じた千鶴はある『答え』に導く。


(…拙いわね。
発信機を押しても護衛の人達が現れないという事は…
既に『始末』されたという事…!!)


既に自分が孤立した事を悟る千鶴
今は人混みがある程度ある為、向こうも迂闊には出れないが、逆を言えば---
自分が誘拐される危険性が高まるという事だ。


(…何処かでタクシーでも捕まえて、第二帝都城に逃げ込むしか無いわね…)


残った手段は、第二帝都城まで逃げ延びる事。
それが唯一助かる術だと考える。


自然に気付かない振りをしながら歩く千鶴
今の自分では刺客を倒す術は無い。

『前の世界』の身体能力が継承されてる事を知った千鶴だが、あくまでもその能力は少尉程度
仲間だった御剣・彩峰・鎧衣の三人ならば話は別だが、自分の身体能力はそれ程ずば抜けてる訳ではない為、単独による反撃は止めた方がいいと悟る。


緊張感が高まる千鶴…
心拍数を上げながら歩いていると---


「----ッ!?」


途中あった道を曲がると、突然口を塞がれながら拉致られる千鶴

(しまった…油断したわ…!!)


絶体絶命の危機に陥ったと判断する千鶴
しかし、視線を向けると---


「シ~…静かにして、千鶴さん。
ボクは敵じゃないよ。」

(よ…鎧衣…ッ!?)


なんと千鶴を拉致ったのは美琴だった。


「千鶴さん…コッチに来て…」

黙って美琴に着いて行く千鶴
予想だにしない美琴の登場に戸惑いながらも美琴の指示に従う。


「……ふう、なんとか一旦は追っ手を撒いたようだね。」

「…ありがとう、助けてくれて」

「礼を言う事でも無いよ~♪
千鶴さんを助けるのは当然の事だしね~♪」

(あ、相変わらずね…鎧衣…)


美琴の雰囲気に少し圧倒される千鶴
しかし、この時違和感に気付く。


(今、鎧衣…なんて言ったの…?
私の事…『千鶴さん』って呼んだ!?)

そう---
この頃はまだ美琴とは出逢って居ない筈なのに、何故自分を知っているのか?

そして『そんな莫迦な!?』と否定しながらも『ある答え』に辿る。


「…アナタ…鎧衣…よね?」

恐る恐る口にする千鶴
美琴だと知っていても、確認しなければならなかった。

「そうだよ~☆
でもアレ?なんで千鶴さんがボクの事知っているの~?」

「……それはこっちの台詞よ…」

能天気な美琴の態度に頭を抱え込む千鶴
『私の知ってる鎧衣だわ…』と答えに導く。


「それにしても、驚いたよ~…。
道を歩いてたら、建物の間から『血の匂い』がするから調べてみたら、『死体』があるからビックリしたよ~…。
辺りを警戒して調べたら、千鶴さんが居て、更にその後ろに怪しい奴らが8人ぐらい隠れてたから、千鶴さんが危ないって思って助けに来たんだ。」

「さ、流石は鎧衣ね…。
所でさっきの質問だけど…」


相変わらずの美琴のぺースに戸惑う千鶴だが、その後お互いの事を話し合い、結論を出す


「……そっかぁ~…
千鶴さんもループしたんだ…」

「ループ?」

「うん、実はね…」


美琴から詳しい説明を受ける千鶴
信じられない事実に衝撃を受けていた。

「そう…
全く信じられない状況だけど、信じるしかないわね…
ちなみに鎧衣…そのループって、他には誰が居るの?」

「うん、タケルと冥夜さんと香月博士だよ。
慧さんは記憶だけ継承して、純夏さんは『前の世界の純夏さん』と憑依してるんだ。」

「………………………………………………なによそれ…」

余りのデタラメさに更に頭を痛める千鶴…
美琴が能天気に『大丈夫~?千鶴さ~ん?』と声をかける


「ヤッパリ白銀や香月副司令もそうだったんだ…」

「うん…
けど、タケルに関しては今回で三回目なんだって。」

「嘘ッ!?
……そう…だから白銀は『特別』だったのね…」

『前の世界』で言われてた『特別な存在』という言葉を思い出す。


三回---
その数字にどれだけ意味があるのだろう…
自分には分からない苦しみや悲しみを体験したにも関わらず、前に進むタケルを尊敬し---同時に自分の無力さを感じる

「--けど千鶴さん。
今悔やんでも何も出来ないよ。」

「えっ?」

「悔やむんなら、前に進まなきゃ駄目だよ。
ボクも今のままじゃ、足手まといになる…
だから千鶴さん…ボクと一緒に強くなろう…!!」

「---ッ!!」


強い決意の眼差し
自分よりまだ未熟な筈の美琴から強い決意を感じ、その想いの強さを知る。


それに対して自分はどうだ?
自分の白銀に対する想いはその程度か?


---違う
白銀に対する想いだけは、誰にも負けない----!!


今、再びタケルに対する恋の炎が燃焼し、強い決意を作り出す。


「勿論よ、鎧衣
私は必ず強くなってみせる。
誰よりも---そして白銀を守れるぐらいにッ!!」

「ウンッ!!」


千鶴のタケルを想う強さを感じた美琴は笑顔で返事を返す。
そして、今やることは一つ。


「鎧衣、第二帝都城に向かうわよ。
其処まで逃げ延びれば、私達の勝ちよ。」

「任せて!!
千鶴さんは必ず守ってみせるよっ!!」


互いに握手をして力を合わせる二人
今、彼女達のミッションが始まる…。


あとがき----


しばらくぶりです、騎士王です。

今回も千鶴を中心に話を書いてみました。


本来ならば、今回のお話はループ関連だけの予定でしたが、急遽オリジナルシナリオを追加しました。


次話は今回の続きを予定してます
もしかすると第六十話まで伸びるかも…?


本当ならば、第五十八話は20日辺りに更新予定してました(実は18日頃には第五十八話は完成していた)が、第五十九話も20日頃には八割程出来上がっていたんですが、少々第五十八話を変更する事にした為、急遽20日の更新を止めました。


まあ、読者様も今回の話はループ関連だろうと予想していただろうし、何が+αを追加してやろうと、読者様の予想外のシナリオを追加しました


最近千鶴関連の話ばかりになっていますが、この話が終われば次はお引っ越しの話か新しい訓練兵関連になる予定です



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~ 三度目のループ 第五十九話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2011/05/01 17:42

「大丈夫だよ、千鶴さん。
辺りに怪しい奴らは居ないよ…。」

「分かったわ、鎧衣」


美琴を先頭にして第二帝都城に向かう千鶴
並外れた美琴のサバイバル能力が大活躍し、現在追っ手から逃げ延びていた。

現在、美琴と合流してから一時間
隠密行動な為、通常の徒歩より時間がかかり、先程の場所から三キロしか進んでなかった

第二帝都城までの距離は、あと五キロ
二時間ほどでつけれる距離だった

しかし向こうとて、そう簡単には行かせてくれない。
彼等とてプロだ、自分達が隠れながら第二帝都城に向かってる事は既にバレてるだろう。

そうなると、第二帝都城付近での隠密は難しい事になる。

状況は未だに宜しくはない
だが、今の千鶴には先程までの不安感は無い
その最大の理由は---鎧衣美琴、彼女がいるからだ。


自分と苦楽を過ごした『鎧衣美琴』ではないが、知っている美琴と同じぐらいのサバイバル能力を発揮し、自分を安全なルートを進ませてくれる事に安心感を覚える。


油断はしてはいけない---
その事は百も承知だが、美琴という人物が居るだけで、これほどの安心感を持たせてくれる事に驚いていた。


「ん…あれは…」

「どうしたの、鎧衣?」

すると、美琴があるモノを見つける
そして---千鶴はその光景を見て、身震いする。


「御剣に彩峰…鑑も居る…?」

懐かしい人物
逢いたいと願った仲間達の姿が其処にあった


特に彩峰は自分と一緒に自決までした相手
共に噛み合い、反発しあい、最後にはお互いを理解しあい、『本当の仲間』として分かり合った仲

本当の自分の気持ちをぶつける事が出来たのは、白銀と---彩峰だった。

「知らない人が2人ほどいるけど…誰かしら…?」

「あれは純夏さんの仲間で同期の人達だよ
背の高い方がクリスカ・ビャーチェノワさんで、背の小さい方がイーニァ・シェスチナさんだよ。
2人共純夏さんと一緒にA-01に所属してるんだ。」

「A-01に…!?
私、あの2人知らないわよ?」

「香月先生が2人をソビエトからスカウトしたんだって
…まあ、強引に引っ張ったんだと思うけどね…」

「なる程…」


美琴の言葉を聞いて納得する千鶴
お互いに苦笑いをしながら『あの人らしい…』と気持ちを同じにする。
すると、冥夜達が千鶴達のそばに来た時、美琴が小さな石を冥夜達の足元目掛けて投げる。


「ん…石…?」

「誰だ……あれは鎧衣に……榊!?」

「えっ、榊さんっ!?」


千鶴達の存在を知る冥夜達
建物の間に隠れている事から『ただ事ではない』と直感する冥夜とクリスカ
純夏達に『自然な動きで榊達の下に向かうぞ』と呟き、純夏達も頷く。

そして、周囲を警戒しつつ千鶴達の下にたどり着いた冥夜達


「どうしたのだ、鎧衣?
このような所に隠れて…?」

「実は…」


美琴は詳しい説明を冥夜達に説明する
勿論千鶴がループして来た事も話すと驚きの表情を見せる冥夜達だが、今は千鶴の身の危険を知り、決意を決める。

「成る程…話は分かった。
榊を助ける事に異論は無いぞ。」

「そうだよ、榊さんは私達の仲間だもんっ!!
私が追っ手達をぶっ飛ばしてやるんだからっ!!」
冥夜と純夏の言葉を聞き、感涙しそうになる千鶴
そして慧を見ると---


「私も手を貸す……………一応」

「彩峰…………アンタねぇ…」

相変わらずの返答に先程までの感涙が無くなってしまう


「けど……大切な仲間だから…絶対に守り抜く」

「あ、彩峰…」

突然の言葉に戸惑う千鶴
当の本人の慧も顔を赤くしながらも、素直な気持ちで千鶴を助ける事を決める。


「私やイーニァも力を貸す
スミカが大切なモノは私達にとっても大切なモノだ。」

「うん、わたしもチヅルをたすけてあげる♪」

「あ、ありがとう…二人共…」


初めて会うクリスカとイーニァの助力に感謝する千鶴


「では榊、私達はどうすればいいのだ?」

「これから第二帝都城に向かうわ
あそこに逃げ込めば、追っ手達は手を出せない筈よ。」

「成る程。
……『静殿』、済みませぬが、力を貸して下さい。」

「「「えっ?」」」

突然の冥夜の発言に驚く千鶴達
すると千鶴の後方にスゥ…と姿を見せる1人の女性が現れた。


「承知致しました、冥夜様」

「ムゥ…からかうのは止めて下さい、静殿
私に『様』など無用です。
貴女は私の『兄弟子』なのですから…。」

「フフッ…冗談よ冥夜…」

ちょっと拗ねた顔をする冥夜を見て、クスリと笑みを零す静
そして冥夜以外の全員が静の登場に驚く。


「嘘…全然気配を感じなかった…」

「御剣…この人…は…?」

突然自分の後ろから現れた事に驚く千鶴
美琴でさえ、静の気配を感じる事が出来なかった為、尚更驚愕する。


「この方は紅蓮静中佐と言ってな、あの紅蓮大将の愛娘にして、『無現鬼道流』の正統後継者でもある方なのだ。
今日は月詠が忙しい為、代わりに静殿が私の護衛についてくれてるのだ。」

「帝国斯衛軍第1戦術機甲師団の紅蓮静と申します
因みにループに関する話は私は知ってますので、御安心を」

「えっ?
どういう事でしょうか?」

「詳しい話は後程致します。
今はここから離れて、自分の身を守る事を優先致しましょう。」

「あ、ハイ。」


静の冷静な対応に戸惑う千鶴
凛とした姿で冷静に動く静を見て、千鶴達を一瞬魅了してしまう。
特に美琴は『あんな女性になりたいなぁ~…』と胸を押さえながら、羨ましそうに静を見ていた。

静の自己紹介を終えると、先頭に美琴を、最後尾に静を配置し、千鶴を守るようにして先に進む。

そして、ある程度前に進むと、静が千鶴に質問をする

「…千鶴殿、護衛の者達は…?」

「恐らくは…やられたと思います。
護衛の者達に危険を知らせる発信機を押しましたが、護衛の者達が出て来る気配はありませんでした。」

「そうでしたか…
しかし、何故このような事に…?」


詳しい説明をする千鶴
香月博士に会う為、月詠家別邸に訪ねたが、香月博士は既に帰った後、元よりタケルは居ない事を知っていた為、落胆しながら帰ってる途中に異変を感じたのだった。


その事危機に陥った千鶴だが、美琴に助けて貰い、その際に『ループ』の事を教えて貰う。


「……成る程
しかし、護衛を殺してまでと考えると、元々千鶴殿を誘拐する事を計画していたと考えられます。
むしろ、家に居たままならば、危なかったのかも知れません。」

「そうでしたか…」


静の言葉を聞いて納得する千鶴
意外にも冷静な千鶴を見て驚く静

「…少し驚きました。
随分と冷静なのですね…?」

「小さい頃に経験してますので。
それに私は仮にも『総理の娘』なんです。
それぐらいの覚悟は持ってないと、外になんか出れませんよ。」

「成る程…流石は是親殿の娘だ…気が強い。」


千鶴の言葉を聞いて、納得する静
父親譲りの気の強さと『総理の娘』としての身の覚悟を持つ千鶴に好感を持つ


「----冥夜…少し離れます。」

「ウム、頼みます静殿」

突然ピタリと止まる静
冥夜に少し離れる事を告げると、冥夜もその意味を悟り、返事を返す。

冥夜の返事を聞いてコクリと頷き、静は単独で行動を起こす


「静さんっ!?
何処に…ってアレ……アレレぇぇ…?」

「……もうシズカのすがたがない…。」


純夏とイーニァが追うが、建物の角を曲がると、既に静の姿が無かった事に戸惑う。


「心配するでない、純夏・イーニァ
静殿は恐らくすぐ近くまで近づいている追っ手を倒しておるのであろう。」

「1人じゃ危険よっ!?」

「そ、そうだよっ!!」


冥夜の言葉を聞いて驚き、心配する千鶴や純夏
しかし、冥夜は笑みを持って、答える。


「先程申した事を忘れたのか?
あの人は『紅蓮大将の娘』だぞ?
例え追っ手が10人だろうが100人だろうが、その程度の人数ならば敵ではない。
もし、それこそ静殿を殺めるなら、紅蓮大将や神野大将クラスの者ではなければ不可能だ。」

「……………………ほぇ?」

「同時にあの人は『諜報員』としても優秀でな、諜報活動は勿論、場合によっては『暗殺者』としても長けてるのだ。
文武両道・そして己の手を血で染め続ける『覚悟』をお持ちの方なのだ。
それ故に姉上や榊の御父君の護衛に付かれる程信頼も厚いのだ。」

静の凄さを聞いて絶句する純夏達
思わずポカーンと口を開けて唖然とする程だった。


「更に申すのであれば、静殿は家事なども得意でな…
文句なんぞ見当たらない程凄腕で、料理・洗濯・掃除・裁縫・教育…
『良妻賢母』という言葉はこの人の為にあるようなモノだ。」

「………………………………………………………何…そのチートっぷり…?」

「………だから申したであろう…
あの人は『紅蓮大将の娘』だと…」

「そういう意味か……納得した…。」


静のあまりにもチートっぷりのステータスに呆れと同時に納得してしまう純夏達…


一方、別れた静は---

「……御免」

『---ッ!?』


気配を消しながら千鶴を捜索する追っ手二人
しかし、突然背後から聞き覚えの無い声が聞こえると同時に意識が途絶する。

静が背後から刀で一閃し、二人の追っ手の首を跳ね飛ばす。


「…これで四人目…
一度冥夜の下に戻るとしますか。」

刀を降り、血を払う静
そのまま納刀して、ポケットから真那から預かっていた小型の通信機を取り出す。


『どうしました、静殿』

「真那、緊急事態よ。」

第二帝都城に居る真那と連絡を繋げ、現状を知らせる。

「…という事よ。
今から冥夜に合流して護衛を続行するから、真那は救出部隊を準備して。」

『わかりました。
…くれぐれも私達が着くまで冥夜様を御守り下さい。』

「わかったわ」

通信を切ると小さな溜め息を漏らす静


「…相変わらず冥夜の事しか頭に無いんだから…。
親バカ成らぬ『姉バカ』ね…。」


襲われている千鶴より、主である冥夜を心配する真那の台詞を聞き、呆れ気味の溜め息を漏らす静
『まっ…それが真那だから仕方無いっか…』と苦笑いをしながら、冥夜達の下に向かう。

時は同じ頃、千鶴達は---


「ハァアァァッ!!」

『グハッ!!』


突然の奇襲攻撃に驚く追っ手達
しかしその『驚く』という隙を作ってしまった事で、冥夜の一閃を喰らい、力果てる。


『このアマァ…グァッ!?』

『ど、何処から狙撃が…!?』


仲間を1人やられ、頭に血が登った1人が拳銃を抜こうとすると---
音も無く胸元から血吹雪が舞う。

それを見た1人は内心戸惑いながらも周囲を見渡すと---

「メイヤにはきずつけさせないよ!!」

狙撃された向かい側の建物の三階から、サイレンサーを付けたイーニァの狙撃が冥夜を救う。

狙撃に気づいた追っ手の1人が逃走する。
仲間を置いてきぼりにするが、そんなのはこの世界では当たり前の事。


『なんだと…!?
一体コレはどういう事だ…!?』


突然の襲撃
まさか自分達が狙われる『獲物』として逃げ回るとは思わなかった。


今回の任務は、内閣総理大臣榊是親の娘・榊千鶴の誘拐
今回は様々な情報を元に計画された作戦
現在榊親子の関係が悪化してる事もあって、誘拐する事を決めた依頼主
護衛が薄くなっている今ならば、難易度としても軽い方だ。

だが、油断は禁物
『失敗』は許されない為、送る刺客は誰もが腕の立つ者を集めた。


榊千鶴の護衛達は最初の内に始末しておいた。
都合の良い事に榊千鶴は家から外出し、知人の家を訪ねていた。


本来ならば、榊家を襲撃し、護衛達を始末した後、榊千鶴を誘拐する予定だったが、予想外にも榊千鶴の方から外出したのだ。


こちらにとっては好都合であり、不都合でもあった。
都合の良い意味では、護衛達を始末しやすかったからだ。

建物の間にいる奴など最たる獲物
注意深く近寄り、殺すだけだ。
後は奥の建物の影にでも棄てておけば、発見は遅れる


しかし都合の悪い面では、車で移動してなかった事
車で移動してれば、襲撃して誘拐すればいい事だからだ。


一応バスには乗っていたが、多くの民間人が居た為、手出しが出来なかった。
万が一榊千鶴を傷つけ、『死亡』させてしまっては元も子もない。


そして徒歩の際は『人がある程度居る場所』を歩いていた為、堂々と誘拐する事はなかなか出来ない状況だった。
出来れば目撃者が無い事には越した事は無い
後始末が厄介だからだ。

知人の家を出て帰宅するのを発見し、誘拐を実行する事にした自分達
作戦通り護衛達を始末する事までは順調良くいった。

しかし---予想外にもターゲットである榊千鶴が自分達の存在を知ったようだ。
現に護衛達のポケットからは緊急用の発信機が鳴っていた

だが、予想外にも榊千鶴は気づかないように冷静に歩いていた
走って逃げれば、自分の立場が危うい
いずれ追いつかれ誘拐される自分を想定し、人の居る場所を選び、歩いていた。
その点に関しては、榊千鶴を評価してもいい。


走って逃げ回っても、隠れる場所等無い
しかし榊千鶴は家とは方角の違う方を警戒しながら歩いて行く。


その時我々は悟る。
榊千鶴は第二帝都城に逃げ込むつもりだと…
『大したモノだ』と評価を上げる。

ならば少々強引だが、人目に付く事を前提に誘拐する事を決定する
しかし、それを覆すかの如く、突如榊千鶴の姿が消える。


慌てて探す我々だが、榊千鶴の姿は無い
油断していた…まさかあのような小娘が隠密行動が出来るとは思わなかった。


しばらくすると、仲間の1人から連絡が入る。
どうやら軍人を護衛に付け、隠密行動を取っていた事がわかった。


情報によると、その内の1人が隠密行動に長け、近寄る事が出来ない程の能力の持ち主との事
それを知り、仲間の一部が帝都城付近に配置する事を決定する。


そして、悪夢とも言っても過言では無い出来事が起こる。
榊千鶴が居るであろう付近に待ち伏せする自分だったが、どうやら向こうの護衛達は、我々の想像を超える者達だった。


待ち伏せする自分を含めた四名は、突然の奇襲攻撃を受ける。
自分達が背に向けていた建物からの奇襲
日本刀を持った少女が突如仲間の1人を切り裂く。

仲間を斬られ、逆上する1人が胸元にしまっていた銃を抜こうとすると---
彼の胸元から血吹雪が舞う。


それを見た自分は即座に逃走する
息を切らしながらも全力で逃げ込む。


いつの間にか『狙う側』から『狙われる側』に変わった自分達
激しい緊張感と恐怖に怯える自分を抑え込み、周囲を確認しながら建物の中に隠れる。


「無駄だ、其処に隠れてるのは解っているぞ。」

チラリと除くと、銀色の髪の少女が自分に銃口を向けて構えていた。
冷たい視線---
まるで深海の底のような暗い瞳
あのような少女がとても見せるような瞳とは、信じられなかった。


そんな時---私の脳裏に異常が起きた。


『殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺スコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスころすころすころすころすころすころすころすころすころす殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す』


---殺意に満ちたコトバが頭の中を満たす
いや--満たすなんて生易しい。
脳が爆発しそうなぐらい大量な『自分の死』のイメージが流れてくる。


そして最後に---



『----死ネ』
「----死ね」

脳の中のイメージと同時に少女の口から同じコトバが吐かれる。


「ヒッ、ヒィッ!?」


思わず恐怖により、身体が反応し、結果少女の凶弾を回避する。
いや--『回避』とは正確ではない。
確かに『回避』はしたが、それは『その場での死』であって、実際は彼女の凶弾は自分の右肩に当たる。
もし回避する事が出来なかったら---あの凶弾は…自分の額を撃ち抜いたであろう…


「スミカの大切なモノは私の大切なモノ
それを奪うというならば---死んで償え。」


全速力で彼女とは反対側を走って逃げる。
今までに無い恐怖に我を忘れて逃げる自分


しかし---


「今だッ!!」

「なっ…うわぁあぁっ!?」


突如何かに足を引っ掛けてしまい、転倒する私
すると、先程の少女とは違う背丈の小さい碧色の髪の少女が飛び出し、私の持つ拳銃を蹴飛ばす。


「し、しまった!?」

カラカラと地面を擦りながら自分の手から離れていく銃
碧髪の少女が私の銃を回収すると同時に、新たに違う少女が現れる。


「フン…ッ!!」

「ガァッ!!?」

長身の黒髪の少女
先程の銀髪の少女と同い年ぐらいの少女が突然飛び出し、私の頭部をボールを蹴るように蹴り飛ばす。


「慧さん、その人の背中に乗っかりながら腕をキメてッ!!」

「了解…!!」


そして私の左腕を関節技をかけながら、背中の上に乗っかる黒髪の少女
そして、碧髪の少女が私の両足を幅の狭いガムテープでグルグル巻きにして拘束する。
足を拘束すると、次に両手を背中側に回して拘束する。


「あとは…これでヨシッ!!」

「…殺そうとした私が言うのもアレだが…
それは流石に酷いのでは?」

「ん~?
これぐらいしないとね~☆
只でさえ千鶴さんを誘拐しようとしたんだから、これぐらい『お仕置き』しないとね~☆」

良い笑顔に笑う碧髪の少女
携帯していた私のナイフで服を切り裂き、裸にして歩道にある街灯に拘束する。
先程の銀髪の少女も頬を赤らめていたが、それ以上に私が恥ずかしい。

「フッ……まだまだですね…
コレを忘れてる。」

すると黒髪の少女が黒マジックを取り出し、キュポンと蓋を取る。

そして私の額にキュッキュッと落書きすると…


「『肉』…コレを忘れたらダメ…。
あとついでに…此処にも…」

「け、慧さんっ!?」

「む、むぅ…」

へその下辺りに『小さい』と落書きする黒髪の少女
わざわざ何が小さいのか分かりやすいように、『小さい』の文字の下に『下を向いた矢印』が書かれてしまう…


嗚呼…いっそ死にたい気持ちだ…
何故私は先程の凶弾をかわしたのだろう…?


するとターゲットの榊千鶴と赤い髪の少女が小走りしながらやってくる。

「みんな、大丈夫!?」

「楽勝ですよ…。」

「大丈夫だよ、純夏さん。」


少女達の無事を確認して安堵する榊千鶴達
すると二人して私を見ると…


「なななななな…何よ、コレッ!?」

「お仕置き…」

「はう…はうはうはうはう…」

裸の私を見て、恥ずかしがる榊千鶴と赤髪の少女
すると赤髪の少女が拳を構え、ユラユラと揺れると----


「いゃあぁぁぁっ!!!!!
えっちぃぃぃっ!!!!!」

彼女の『左』が私の顔面に炸裂し、黄金の光に包まれながら、天高く飛ぶ感覚に襲われる。


嗚呼…もしかすると、彼処に見えるのは地球なのか…?


素晴らしいまでに蒼く美しい地球(故郷)に感動しながら、私の意識が途絶えるのだった…。


「…………何、今の一撃…?」

「…………幻の…左…?」

「うわぁぁ…流石は『どりるみるきぃふぁんとむ』だねぇ…
あの人…地球に帰ってこれるかな…?」


初めて見る『どりるみるきぃふぁんとむ』に戸惑う千鶴と慧
久しぶりに『ふぁんとむ』を見て感動す美琴だが…


「……ヨシヨシ…落ち着いて、スミカ…」

(タケルちゃん以外の…初めて見たよぉ…)


追っ手の『ブツ』をモロに見てしまい、顔を真っ赤にして恥ずかしがる純夏を抱きながら慰めるクリスカ…


その後、静と合流した冥夜・イーニァと合流し、再び第二帝都城まで向かうのだった…。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第六十話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2014/02/08 15:48
「冥夜様ッ!!
ご無事でしたかッ!!」

「ウム、心配無い月詠」

第二帝都城に向かう途中、千鶴達の下に救援部隊として第17大隊とヴァルキリーズと遭遇する。
そして千鶴の下に椿とみちるの二人が来て保護する。

「初めまして、帝国斯衛軍第17戦術機甲大隊所属の九條椿少佐です。」

「私は香月博士の直属部隊の伊隅みちる大尉です。
只今より、榊殿を第二帝都城まで護衛致します。」

「ありがとうごさいます。
こんな私なんかの為に…本当にありがとうごさいます。」


深々と頭を下げて感謝する千鶴
特に尊敬するみちるに『再会』し、涙を流す事を我慢する程嬉しかった。

「それではこの装甲車にお乗り下さい。
あと…冥夜、その方達は…?」

「私の友人の彩峰慧と鎧衣美琴と申す者です。
まだ、兵役の経験は有りませぬが、鎧衣に至っては、軍人顔負けのサバイバル能力が有る故に、此処まで榊を無事護衛する事が出来たと言えます。」

(彩峰慧と鎧衣美琴…
そう…彼女達が白銀君の…)


冥夜から慧と美琴を紹介して貰い、彼女達がタケルが最も守りたいとする人物と理解する椿
すると表情に出さないように慧と美琴に声をかける。


「榊殿を此処まで無事護衛して頂き、誠にありがとうございます。
一般人でありながら、追っ手に追われてる榊殿を守ろうとする勇気には心から敬意致します。
しかし、榊殿を護衛していた事で、今は貴女達の命にも危険が有りますので、榊殿と一緒に装甲車にお乗り下さい。」

「は、ハイ」

「了解…」

椿と対面して緊張する美琴と慧
返事と共に敬礼する二人の姿を見て、クスリと笑みをこぼしながら『敬礼はいいですよ』と告げる椿

そして千鶴達を装甲車に乗せ、護衛として運転席には沙耶が乗り、千鶴達の護衛には椿と冥夜・静が同乗していた。

「…さて、此処なら『秘密』を聴かれる心配は無いわ。」

「えっ!?」

「榊さん…貴女…『ループ』してるわね…」

「な、何故それをッ!?」


突然告げられる椿の言葉に驚愕する千鶴

実は椿が千鶴がループしてる事を知ったのは、冥夜・美琴・慧・純夏の四人と同行していた事に『もしや…』と思い、沙耶にリーディングを頼んで調べたのだった。


「一応私も『ループ関連』の情報は知ってるの
まぁ…その知るきっかけが白銀君に有ったんだけどね。」

「し、白銀に!?」

「だって白銀君は私の部下だもの。
一応私は五摂家という身分だから、用心の為に沙耶がリーディングしたの…
そしたら、ループ関連の情報を知り、まあ…ズブズブと泥沼に全身浸かってしまって、香月博士や殿下に捕まって…ハァ…」

「オキノドクニ…」


思わず同情してしまう千鶴達…
運転席に座る沙耶も涙を流していた事はお約束だったりする。

「まぁ…そのおかげで、沙耶はお嫁に貰ったし、白銀君と居るとみんなが笑顔に慣れるから良いんだけどね…。」

「え゛っ!!?」


『タケルの嫁』と聴いて、沙耶をガン見する千鶴
嫉妬一杯の視線にゾクリと鳥肌が立つ沙耶と『……私もタケルの妻になった事は…内緒にした方が良いのだろうか…?』とビクビクしながら脅える冥夜
だが、この数秒後に美琴の口から『冥夜さんも純夏さんやクリスカさんもタケルのお嫁さんになったよねぇ~(怒)』と滑らせてしまい、結局は千鶴からスゴい殺気を込めた視線を向けられる。


「…あの…九條様…
先程のリーディングとは一体…?」


落ち着きを取り戻した千鶴は先程椿が言った言葉に疑問を持ち、質問する。

「詳しい話は機密だから言えないけど…
分かり易く説明すると、『超能力』みたいなものよ。」

「『超能力』…
つまり『読心術』ですか…?」

「そうね。
読心術とはちょっと違うけど、イメージ的には近いわ
沙耶は対象者の記憶や思考を『見る』事が出来るの
記憶の方は白黒テレビみたいな映像を一瞬だけど、見る事が出来るのと、思考を『文字や色』として読む事が出来るの。」

「そ、そんな事が…」

「本当は沙耶にとってもこの能力(チカラ)は忌み嫌うモノだったの。
自分を『人間じゃない』と見られる事を恐れ、私の頼みや私の身を案じる時以外は使わなかったの。
けど---白銀君に沙耶が能力者だと気づかれたけど、彼は言ったの…」

思い出す記憶---
あの時のコトバがどれだけ沙耶が救われたか--

「『オレは貴女の味方です』ってね♪
元々白銀君も沙耶と同じ能力者を知ってたし、リーディングも結構慣れてたし、だからって人を差別する人物でも無いでしょう?
あの時の彼の言葉や態度や接し方にどれだけ沙耶が救われたか…
だから私は決めたの、沙耶を救ってくれた彼に全力で支援するってね。」

大切な家族を救ってくれたタケルに恩義を持つ椿
そして現在沙耶を『幸せ』にしているタケルに対し、感謝していた。


そして千鶴達もタケルの相変わらずの行動に笑みを浮かべて『白銀(タケル)らしい』と考えを一致する


「白銀は馴れ馴れしいから…」

「そうそう、そんなタケルにいつの間にかみんなが惹かれるんだよねぇ~♪」

「ウム、気がつけば必ずタケルがそばに来て支えてくれる。
…今まで、どれだけ救われた事か…」

「本ッ当…色んな意味で『特別な奴』よ…。
だから私達や今此処に居ない鑑や珠瀬や社も白銀の事を『好き』になったのよね。」


素直な気持ちで告白する千鶴
その姿を見て冥夜達は笑顔で同意する。


「話が少し脱線したわね。
そういう訳で貴女がループしたと知ったの
お願いだから、沙耶の秘密…内緒ね。」

「「「「了解!!」」」」

笑顔で敬礼する千鶴達
その姿を見た椿や静は好感を持つ。


『こちらイグニス3(孝志)からイグニス1へ
第二帝都城付近に潜んでいた諜報員を捕縛した。
安心して第二帝都城に帰って来ても大丈夫だぜ。』

「イグニス1了解
…怪我人とかは無いの?」

『モチ☆
俺や弘政や他の連中も怪我一つ無いぜ。』

「そう…安心したわ…」

部隊のみんなに被害が無かった事に安堵する椿
特に孝志が無事だった事にホッと胸を撫で下ろす。


「大変ですね、椿
さぞかし孝志殿の事が心配でしょう。」

「し、静さんっ!?」

「いい加減素直になったらどうです?
孝志殿も貴女の事で色々と悩みながら接してるのですよ?」

「いや…その…」

顔を真っ赤に染める椿
予想外の静の攻撃にアワアワと戸惑っていた。

勿論美琴や慧は興味津々で追撃を試みる。


「あ、ヤッパリ九條少佐と崇宰大尉って恋人同士だったんですね~?」

「はうっ!?」

「そういえば…白銀の結婚式の時に…白銀がそんな事を言ってた。
確か…『アンタには椿さんがいるだろうがっ!!』…ってパイ投げの時に言ってた…。」

「はうぅ…」


モジモジと真っ赤っかになる椿

『……あのさ…そういう話って、通信切ってから話してくれない…?
コッチも…物凄く恥ずかしいんだけど…』

「えっ……あ゛っ!!?」


悶えてた時に、無線機のスイッチをうっかり入れっぱなしで先程の会話が流れてしまい、ちゃっかりと孝志達にも聞こえていた。

『崇宰大尉、お幸せにぃ~♪』

『陰ながらお二人を応援してますよ。』

『結婚式には呼んで下さいね~♪』


更に水月・美冴・純夏の台詞に更に追い討ちをかけられる椿と孝志
ぶっちゃけ、救出部隊全員にモロに聴かれてた。


それから数分後、無事第二帝都城に到着する千鶴達。
装甲車から降りて来ると、一台の車が爆走してくる

「あ、あれ…タケルの車じゃね!?」

「……随分と車がへこんでるね…?」

「こ、こっちに来るわよ!?」


千鶴達の所まで走り、急停止すると---


「千鶴ッ!!大丈夫かっ!?」

「と、父さん!?」

助手席から父・是親が飛び出し、千鶴の安否を確認する。


「わ、私は大丈夫よ…
けど父さん…確か皇帝陛下の所で新年の挨拶しに行ったんじゃないの?」

「ああ、行ったとも。
皇帝陛下の居る謁見の間で白銀君や殿下と一緒に新年の挨拶をしていた途中、『彼』が来てね…」

「『彼』…?」


「いやはや…若さとは過激なモノだね、シロガネタケルよ。」

「仕方ないでしょ…
大体にして榊首相の許可も有ったからやったんですよ。」


車から降りて来るタケルと---
後部座席からは鎧衣課長が降りてきた

「と、父さんっ!?」

「おや、美琴じゃないか?
何故このような所に?」

「いや、千鶴さんが誘拐されそうだったから、助けてたんだけど…」

「ナイスだ美琴!!
…彩峰が居る所を見ると、お前も一緒に助けたのか?」

「ウン…けど最初に榊を助けたのは、鎧衣
私は冥夜や純夏・クリスカ・イーニァと一緒に街を歩いてたら、榊達に遭遇した…。
だから一番の手柄は鎧衣にある…」

「そんなぁ…慧さんったら~…」


慧からベタ誉めの評価を貰い、照れる美琴
『良くやった、美琴』と父・左近から頭を優しく撫でて貰い、笑顔になる。


「そうでしたか…
千鶴を救って頂き、ありがとうございます。」

「ふぇっ!?そんなっ!?」

「頭を上げて下さい、榊首相!?」

「そ、そうですよぉ~…」

純夏達に深々と頭を下げて礼を言う是親
突然の事に純夏・冥夜・美琴が戸惑いだす。


「いえ、私とて一人の父親
子を助けて貰った事に対し、礼を言わねば失礼と言うもの
…とはいえ、私は最近まで、仕事が忙しい事を理由にし、家族を蔑ろにしていた身
家族関係は悪化し、本来ならば、このような台詞は言えぬ立場でした。
…だが、とあるきっかけで、千鶴との関係も少しづつではあるが、改善してきました。」


タケルと出会い、千鶴との関係が少しづつ改善していき、『父親』としての立場を取り戻しつつある是親

「だから、この台詞を言わせて貰いたい…
娘を…千鶴を助けて頂き、ありがとうございます…。」


再び頭を下げて礼を言う是親
その言葉の重みが、この場にいる全員に伝わる。


「その御言葉…しかと聞きました。
ですから、頭を上げて下さい、榊首相」

「そうですよ~♪
それに『仲間』を助ける事は当たり前ですよ~♪」

「そうだか…」


「良いんですよ♪
『友達』を守る事は当たり前なんだから当然の事ですよ☆」

純夏の『友達』宣言に少し唖然とする是親
しかし、純夏の持つ独特の雰囲気を感じ、思わず笑みが零れる。


「友達…か…
所で純夏さん…でしたな?
何時の間に娘と友人関係に…?」

「さっきですよ♪
鎧衣さんの友達なら、私にとっても友達ですよ☆」

(おおっ!?純夏が冷静な対応を取ってる!?)

意外にも冷静な対応をする純夏に対し、一番驚くタケル

『タケルちゃん、私だよ~♪』

(ん…もしかしてスミカか?)

『ウン、『こっちの純夏』だと戸惑うだろから、ちょっと純夏と代わったの。
それに、友達って事に関しては『嘘』はついてないから戸惑う理由は無いしねぇ~♪』


『スミカ』の意外な対応に驚くと同時に納得するタケル
確かにスミカならば、千鶴と『友人・仲間関係』というのは、あながち嘘ではない。


「それよりタケル
その車の惨状…どうしたんだ?」

「ん?ああ…
さっきこっち向かう最中に『首謀者』の乗ってた車を見つけたから、体当たりして川に落として捕まえたんだ。」

「過激だねぇ~…。」

孝志の質問に答えるタケル
少し呆れ気味に呟く純夏にみんなが同意する。


「白銀君には悪い事をした…。
済まないが、車を壊した弁償を私にさせてくれ。」

「良いっスよ、榊首相。
元は俺が強引に仕掛けた事だし、修理代は自分で払いますよ。」

「しかし…」

「なら、今度ご馳走して下さいよ。
別に高価な奴じゃないので構いませんから、それでおあいこにしましょう。」

「む、むぅ…」

タケルの心遣いに戸惑う是親
『何が良いモノか…?』と悩む姿を見て、クスリと笑みを浮かべる千鶴


「さて、榊首相
それとシロガネタケルよ。
…そろそろ、皇居に戻らなければならないかと…。」

「む、そうだな…
しかし、千鶴の護衛は…。」

「ああ…そっかぁ~…
護衛の人達全滅したもんね…」


皇居に戻らなければならないタケルと是親
しかし、千鶴の護衛達が全滅した為、千鶴の身を心配すると…


「御心配は無用ですぞ、榊首相よ。」

「これは紅蓮殿…」

すると紅蓮大将が現れる。


「ワシの娘の静を護衛に付けましょう。
静ならば、必ず千鶴嬢の身の安全を確保出来ます。」

「静殿を…!?」

「勿論皇居に居る殿下から許可は得てます。
もし静が離れる際は、信頼出来るモノを付けます故に御安心を。」

「誠にありがとうございます…
この御恩は必ず返させて貰います。」

深々と頭を下げて感謝する是親
そして紅蓮大将も『頭を上げて下さい、榊殿』と手を差し伸べる。


「さて、静よ」

「ハッ…」

「聞いての通り、そなたに千鶴嬢の護衛任務を受け渡す。
期間は今から千鶴嬢が正式な正規兵になるまで
それまでは千鶴嬢の身の安全を絶対に確保するのだ。」

「了解しました。」

親子関係とはいえ、軍人としての姿を見せる紅蓮親子
凛とした姿で敬礼する姿は、同性である純夏達ですら、頬を赤らめて『ああなりたい』と尊敬の眼差しをする程だった。


「今日はこのまま家に帰宅するのは危険です。
今日は榊殿が帰られるまで我々が保護します故に御安心を
榊殿が帰られた際は…済まぬが白銀、今日はそなたの家に泊めて貰えないだろうか?」

「それは構いませんよ。」

「助かる。
そなたの家ならば、月詠達もおるし、元々月詠家は五摂家に最も近い家柄
故に様々な場合を想定した造りをした設備がある。
護衛するには最適な場所だからな。」

紅蓮大将に頼まれ、今日の榊親子を宿泊する事に賛同するタケル

「一応今日は榊邸は我が部隊の者達で盗聴や危険などが潜んでないか調べておく必要があるからな。
その際は、スミマセンが榊殿にもご同行お願いしたいのですが…」

「わかりました、その時はご一緒致します。」


紅蓮大将と握手しあい、同意する是親

その後、タケルと共に再び皇居に戻る是親
千鶴達はそのまま第二帝都城の中に入っていく。

中に入った後、ヴァルキリーズと第17大隊の者達と別れ、千鶴・静・純夏・美琴・慧・クリスカ・イーニァ・左近の八人は香月博士の下に向かう。

「失礼しま~す♪」

「…相変わらず呑気な返事ね…」

「酷っ!?」

入室の際、純夏らしい返事で入ると、呆れ顔の香月博士の言葉にグサリとちょっと傷つく純夏
そして香月博士が視線を千鶴に向けると、相変わらず妖しい笑みで迎える。


「久し振り…か正しいかしら、榊?」

「どちらの『私』も昨日会ってるから、ちょっと微妙ですね…」

「そっ、けどまさか昨日の今日にアンタがループするとは予想外だったわ。
私の予想じゃ、『近い将来』だったから、流石に驚いたわ。」

「…まるで私がループする事を予測してた言い方ですね…」

「まぁね。
珠瀬も恐らくはループして来る筈よ。
彩峰の『記憶の継承』の件から榊・鎧衣・珠瀬もして来る可能性に入れていたから、その事に関しては想定内よ。」

「なっ…!?」


香月博士の言葉に驚く千鶴
まさか自分達がループして来る事を予測していた事に思わず声を漏らす。

「けど、アンタが昨日今日にループしたり、鑑…まあ、今は姓が変わって『白銀』だけど…
『前の世界のカガミスミカ』が憑依したりする事は流石に可能性の中には入ってなかったから、驚いたわ。」

「ソウデスカ…」

「さ、榊さん……コワイよぉぉ~…」


香月博士の言葉を聴いて、純夏を睨みつける千鶴
余りの迫力に恐怖する純夏
そして千鶴の口から、『フフフッ…ヤッパリ白銀にはO・SHI・O・KI・しなくちゃねぇ~…(怒)』と小さな声で呟く。
勿論その迫力に恐怖し、クリスカとイーニァはガクガクブルブルと震えていた。


「さて、本題に入るわよ。」

香月博士の真剣な言葉に元に戻る千鶴
純夏・クリスカ・イーニァは、千鶴の恐怖から開放され、矢吹○のように『真っ白な灰になったよ…』と部屋の隅っこで椅子に座りながら白くなっていた。


「アンタは今から一年後に『第207衛士訓練兵』として入隊させる予定よ。
その際は其処にいる鎧衣・彩峰
そして今はいないけど珠瀬も入れる予定よ。
あっ、そうそう…白銀や御剣も入る予定だから安心なさい。」

「白銀と冥夜もっ!?」

「ええ、一応身分を隠して入隊させる予定よ。
だからアンタ達は白銀達の身分を秘密にしなさいよ?
一応この事は珠瀬を抜かした207B分隊のメンバーと教官のまりもは知ってるわ
けど、ループ関連の情報は絶対に秘密よ
まりもやヴァルキリーズとかだって知らない機密情報なんだから。」

「りょ…了解…
しかし、何故白銀や冥夜まで訓練兵に入隊する必要があるんですか…?」

「勿論本人達の願いでもあったけど、一応他にも理由があるのよ。
一番の理由は『歴史の変更』
『白銀武と御剣冥夜という人物を第207衛士訓練兵として存在した』という歴史を作っておかないと、後々の『未来』に何が起きるか分からないの
現に前回の世界では、白銀は歴史を変更した際、『12・5事件』や『佐渡島ハイヴ攻略』『横浜基地防衛戦』『桜花作戦』が発生したわ。
結果人類はBETAに対して大反撃をする事が出来たけどその代償として、アイツにとって大切な人達は失っていったわ。
…だからこそ今回はそれすら覆す為にも『歴史を一部だけ変更』してきてるのよ。」


歴史上には無い『歴史の変更』に挑むタケルや香月博士に千鶴は言葉を失う


「アイツ…酷いぐらいにボロボロよ?
大切な人達を守れずに失っていく事に絶望して、自分自身の無力さをどれだけ恨んだか…
今は結婚だの何だので少し心の傷は癒えていってるけど、それでもアイツは未だに心に深い傷を持っているわ。」

「----ッ!?」

「『白銀ハーレム計画』なんてモノも、その理由で作ったひとつの理由よ。
まあ、他の理由もあるんだけど…」

「そうだったんだ…
てっきり、香月先生のいつものイタズラだと思った…」

「勿論それも理由のひとつよ♪」

「……ヤッパリデスカ…。」


『白銀ハーレム計画』の作られた理由のひとつが判明して驚く一同
クリスカとイーニァ以外は『てっきりイタズラで作った計画』と考えていたが、香月博士の言葉を聞いて、呆れ顔になってしまう。


「まあ、冗談はこれぐらいにして…。
今度白銀に会ったら、タップリと怒られなさい。
例の欺瞞情報の件でお仕置きされる筈だから。」

「えっ!?」

「当たり前じゃない。
理由はどうであれ、自分を騙して桜花作戦を続行させてたんだから。
…まあ、桜花作戦の生き残りが白銀と社だけだったか、尚更ね。」

「えっ…白銀と社だけ…?
冥夜や珠瀬・鎧衣・純夏は…?」

「珠瀬と鎧衣は『門級』ゲート級の『脳』を破壊活動の際にやられたわ
一体どういう最期を迎えたかは知らないけど、あの二人はやる事を成し遂げて、己の命と引き換えに『脳』の破壊に成功したわ。」

「珠瀬…鎧衣…」

タマ・美琴の最期を知り、動揺を隠せないでいる千鶴


「御剣は『あ号標的』に触手で拘束された凄乃皇を救出し、S11による玉砕覚悟で単騎で突撃をするも、『あ号標的』の触手に貫かれ凄乃皇に張り付けられたわ
その際に御剣は身体を乗っ取られ、脱出不可能な状態だったわ…
その際、御剣は白銀に『自分ごと荷電粒子砲を撃て』と説得したのよ。」

「なっ---ッ!!」

「結果白銀は嘆き悲しみながら引き金を引き、『あ号標的』を撃破したわ。
けど同時に『御剣冥夜を殺した』事でもあるの
その罪を白銀は未だに引きずってるわ。」

「そ…そんな…」

冥夜の最期を知り、驚愕する千鶴
同時にタケルが未だに背負ってる『冥夜を殺めた罪』背負っている事を知り、頬に一筋の涙を流す。


「鑑は…無理な戦闘をした為、衰弱死したわ。
前回の世界の鑑は身体が弱っていたのは知ってるわよね?
それが原因よ。」


『真実』を隠しながら純夏の最期を伝える香月博士
そして純夏まで亡くなった事を知り、どれだけタケルが悲しんだ事かを想像する千鶴


「だからアイツは今回の世界に全てを賭けてるの。
大切な人を誰も失わない結末の世界にする為---
アイツは全身全霊で戦ってるのよ。
ねぇ…榊…アンタに一つ問うわ」


鋭い眼孔を千鶴に向けて問う香月博士

「アンタは今回、何を目的として戦うの?」

香月博士の問いに対して千鶴は---


「---白銀を救う事を目的として戦います
勿論『命を救う』のは当然として---『心』も救ってみせます。
その為には、みんなの生存は勿論---自分の命も守り抜いてみせます!!」

強い意志---
そしてタケルを想う気持ちの強さを見せつける千鶴


もう『自分が犠牲になっても良い』だなんて思わない---
生き抜いてこそ、本当の意味で守り抜く事が出来るんだ---

「良い答えよ、榊
そのコトバと決意を絶対に貫きなさい、いいわね?」

「ハイッ!!」

力強く返答を返す千鶴
誓いの言葉を心に刻んだのだった…



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第六十一話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2011/08/31 07:37
2000年・1月15日---

第二帝都城・とある一室


「ふぅ…本当に凄い機体ね…不知火・改」

「本当だよねぇ~♪」


シミュレーター訓練を終えて、ドリンクを飲んで休憩する千鶴・美琴・慧の三人

現在、彼女達の戦術機の腕を向上させる為の秘密訓練がされていた。


通常のシミュレータールームとは違い、地下のとある一室に作られた特別なシミュレータールームが作られていた。


このシミュレータールームは、機密性の高い時に使う特別なシミュレータールームで、現に純夏やクリスカ・イーニァなどが使っていた機密情報の高い場所だった。


最近はタケルやまりもが武御雷の改良機のテストパイロットに使ってたりしていたが、今回は彼女達の存在が機密性の高さ故にこの部屋を使用していた。


「ハイ、お疲れ様~☆
榊さん、不知火・改はどうだったかな?」

モニター室から出て来た純夏が、千鶴達の下にやって来る

「凄い…その言葉しか出てこないわ…
性能も武御雷に匹敵するし、機動力に関しては、それすら超えるわ。」


「そうでしょ♪
あっ、ちなみに途中から現れたCPUの不知火・改がいたでしょ?
アレね…実はタケルちゃんと冥夜のデータなの。」

「嘘っ!?
あの途中から現れたCPUって、タケルと冥夜さんのデータなのっ!?」

「…ヤッパリね…なんとなくそんな感じしてたわ…」

「…気づいてたの?」

「勿論よ。
一応私も白銀や御…冥夜と一緒に訓練兵から居たもの。
白銀や冥夜の癖や動きの特長を知ってるから、出て来てすぐに解ったわ。」

「流石は榊さんだねぇ~。
伊達に第207Bの分隊長やヴァルキリーズの中隊長にもなっただけあるね~…」


千鶴に関心する純夏達
護衛に付いていた静も関心するように驚いていた。


「それは凄い。
あの伊隅大尉率いるヴァルキリーズの中隊長に付くとは…」

「ヴァルキリーズの中隊長に関しては、あくまでも緊急の臨時ですよ。
白銀は凄乃皇に搭乗してたからなれなかったし、冥夜が中隊長になってもおかしくはなかったし…
伊隅大尉や速瀬中尉達に比べたら、私なんてまだヒヨッコですよ。」

己の力量を驕らず、未だに中隊長として未熟と口にする千鶴
尊敬するヴァルキリーズの先任達を思い出し、ギュッと拳を握り締める


「それでも千鶴殿がヴァルキリーズの中隊長になった事には変わりはない。
それに緊急の臨時とはいえ、その経験は貴女の良い経験となる。
今はただひたすらに精進有るのみですよ。」

「ありがとうございます、静さん」


静のアドバイスを聞き、少し肩の力を抜く千鶴


「そういえば、タケルも中隊長なんだよね~?」

「…突撃前衛長兼中隊長…」

「なによそれ…無茶苦茶じゃない…」

「けど…事実なんだよね…」


呑気に美琴がタケルも中隊長だという事を口にすると、慧・千鶴・純夏が呆れ顔で様々な感想を呟く。


「しかし、タケルも中隊長として日々成長してます。
最近の作業を見ますと、とても努力をなさってます。
突撃前衛長に関しては、元々その適性値が非常に高かった事は事実ですし
かといって冥夜を突撃前衛長にするには経験が足りないですから、仕方ないかと…」

「ほぇ?
静さん、タケルちゃんの事知ってるんですか?」

「ハイ、勿論知ってます。
タケルがループしたその日からずっと知ってました。
初めてこの世界に来た時も、私は謁見の間で父と一緒に隠れて殿下を護衛してましたし、その時に話も聞きました。
そして、タケルが一人で出歩く際や椿や沙耶と一緒に任務をしていた時も、影で私が護衛に付いてました。」

「へぇ~…そうなんだ…
ところでタケルちゃんはその事知ってるの?」

「ハイ、知ってます
…とはいえ、タケルが知ったのは、無現鬼道流を習い始めた頃ですけどね。」


静が影でタケルの護衛をしていた事に驚く純夏達

「それじゃあ、白銀の護衛が居ないんじゃ…」

「それならば大丈夫ですよ、千鶴殿
普段は部隊のみんながそばに居ますし、もし単独で行動する際は、私の部隊の者に頼んでますのでご安心を。」

「そうでしたか…」

静の説明を聞いてホッとする千鶴達

「但し、タケルが重要な任務の際、命に危険があると考えられる場合のみ、私が護衛にまわりますので、その際は千鶴殿の護衛を一時的に離れますので御了承下さい。
勿論代わりに私の部隊の者や、場合によっては父が護衛につきますのでご安心下さい。」

「わ、わかりました。」

(…紅蓮大将が護衛か…
違う意味で危険な気がする…)


タケルに護衛が付いてる事を聞いて安心する千鶴

しかし、純夏は千鶴に紅蓮大将が護衛に付く可能性がある事に対して、『はっちゃけて色々と大変そうだ…』と不安が募る。

ぶっちゃけ、まさしくその通りだったりする。
後に千鶴は語る…『もう…紅蓮大将が護衛に付く事は…ハアァァァ~…』…だそうだ。


「そういえば純夏さん、タケルはどうしたの?」

「タケルちゃん?
タケルちゃんは今日は忙しいから来れないんだって。」

「ええぇ~!?」

「……何故?」


タケルに会えない事に本気で残念がる美琴
そして何故来れないかを聞くと---


「今日からまた教官職始まるんだって。
今日は『入隊式』だから朝から早くに出てったよ。」

「し、白銀が教官!?」

「あ~…そういえばそんな事やってたねぇ~。」

「しばらくやってなかったから…忘れてた。」


タケルが教官職をやってた事に驚く千鶴
美琴・慧に関しては、しばらくやってなかった為忘れていた。


「なんでも今回のメンバーには風間少尉や、あの真那さんの部下だった神代さん達が居るらしいよ?」

「か、風間少尉が!?」

「ああ~…あの月詠さんの下にいた三人組だよね、確か。」

風間少尉や神代・戎・巴少尉を教官する事に驚く千鶴
美琴も『三人組のメイドさんだよね~♪』と一人で納得するが、他の者達はそんな事知らない為『メイドさん?』と頭を傾げる。


一方、時を同じくタケルは---


「ハァ…全く…先生ときたら…」

「まさか今日が入隊式とは…予定外だったわ…」

ガックリと頭を下げながら荷物を運ぶタケルとまりも

今日は遂にやってきた入隊式だったのだが、例の如く香月博士のイタズラによって、大慌てに用意をする事になる。

「大丈夫ですよ、大尉
一応時間迄には間に合いますし」

「助かったよ、みんな」

「いえ、当然の事です。」


今回は第四中隊のみんなの協力もあり、何とか用意が間に合った。


「突然朝っぱらから電話が来たかと思えば、『今日入隊式だから、早めに来てね~♪』…だもんな…」

「……タケルから話を聞いた時は背筋がゾワッて来たわ…。」

「……ご愁傷様です、大尉」


タケルとまりもに襲いかかって来た突然のイタズラに対して唯依達が深く同情してくる。


「それにしても、なんか懐かしい感じがしますね…。
つい数ヶ月前まで通ってたこの廊下を通ると、訓練兵の頃に戻った感じがしますね。」

「うん、その気持ち良くわかる♪」

「今他のみんなが居ないのが残念だけどね。」

「ウム…全くだ。」

訓練兵時代の事を懐かしく思い出す正樹・まりか・佳織・唯依
純夏や美冴達と共に学び、あの騒がしかった日々を懐かしい廊下を歩きながら笑みを浮かべながら思い出す。

今となっては、良き思い出の一つ
しかし、その思い出は---とてもたいせつで、かけがえのない、かがやかしいものがたりのひとつだった---


「さて着いたぞ、懐かしき我が教室に」

タケルが冗談っぽく口にするが、タケルやまりもも久し振りの教室に笑顔を浮かべていた。


「ん、んん。
ヨシ、入りますよ、まりもちゃん」

「ええ。」

先程の笑みから『教官』としての顔に変わるタケルとまりも
そしてガララッとドアを横に開け、教室にタケルとまりもだけが入室する。


「起立!!
…敬礼っ!!……着席!!」

教官最初の命令を出すまりも
その姿は『鬼軍曹』に相応しい姿へと変わる。


「只今より、衛士訓練学校第207訓練中隊の入隊式を行う。
私は貴様達の教官をする『白銀まりも軍曹』だ。
厳しく鍛えてやるから、覚悟しておけっ!!」

威厳のある言葉と険しい表情に数人程が一瞬怯む。


「そして此方の方が斯衛軍から来て頂いた白銀武大尉だ。
白銀大尉は私と共に貴様達の教官として接するが、普段の授業は私が、戦術機関連に関しては白銀大尉がみっちりと鍛え上げてくれる。
感謝しろよ?白銀大尉は日本でも十指に入る程の衛士だ。
『白銀の守護者』と言えば貴様達とて噂程度には聞いた事もあろう。」

『し、白銀の守護者!?あ、あの人が噂のっ!?』

『は、初めて見た…』


まりもの自己紹介で一気に注目を浴びるタケル
『白銀の守護者』の渾名が一般人にまで噂が広がっていた事に驚くタケル
勿論まりもや教室の外で話を聞いていた真耶達も内心その事に嬉しく思っていた。


「では、白銀大尉
みんなに自己紹介をお願いします。」

「ハイ。
日本帝国斯衛軍第17戦術機甲大隊・第四中隊長を勤める白銀武大尉だ。
貴様達の入隊を心から歓迎する。」


敬礼しながら自己紹介をするタケル
やはりタケルはタケルらしく、柔らかな態度で訓練兵達に接する。


「先程まりも軍曹が言った通り、俺の担当は戦術機関連を教える事になる。
勿論時折他の授業を教える事もあるが、その時は厳しくいくぞ。」

此処までは普通に進むタケル
しかし、まりもや教室の外で待機する真耶達は、この後に起ころう出来事に不安を持っていた。


「あと授業中や訓練中はダメだが、休憩時間やプライベートな時は『白銀』でも『タケル』でも呼んでかまない。
あと、固っくるしい態度も休憩時間やプライベートの時は禁止な
あっ、だけどあくまでもこの部隊内だけな。
他に人が居た場合は一部除いて駄目な。」


やりやがった。
予想通りに『馴れ馴れしく行こうZe☆』と宣言したタケルに唖然とする新生訓練兵達

隣にいたまりもは勿論、教室の外に居た唯依や真耶が頭を抱え込んで『ヤッパリやったか…』と呟く
正樹達に関しては、笑い声を抑えながらも、目尻に涙を溜めながらこらえていた。

「あ、あの…質問宜しいでしょうか?」

「許可する、なんだ?」

タケルの言葉に戸惑い、『神代 巽(たつみ)』が挙手し、質問する。


「何故…と聞いて宜しいでしょうか…?
白銀大尉は私達の上官であり、教官です。
例え休憩時間やプライベートの時とはいえ、何故そのように呼ぶ事を許可するのですか…?」

巽の質問に『ヤッパリか…』と予想していたタケル


「まあ、確かにその通りだ。
まあ、これはオレの個人的な『頼み』でもあるし、これからの事を考えた理由でもあるんだ。」

「理由…とは?」

「まずひとつは…まあ、オレの個人的な理由だが…
オレは固っくるしいのは苦手でな、せめて休憩時間やプライベートの時は、固っくるしいのは無しにして欲しいんだ。」

「「「はっ?」」」

訓練兵全員が唖然とする。
あまりにも予想外な一言にポカンと口を開けて茫然とする。


「次の理由は…香月博士にある。
あの人は更に固っくるしいのが大の苦手でな、もし香月博士を前にして固っくるしい態度を貫いたら…
……まあ、可哀想な結末が待っている。」

「…確かに」

「「「ええっ!?」」」

再び予想外の理由で驚愕する。
前回同様に『国連軍じゃない私達には関係無いのでは…?』と呟こうとすると…


「…今貴様達が考えてる事…博士には通用しないわ。
無事に衛士になりたいのなら、白銀大尉の言うことを聴いた方が賢明よ…。」

「「「ええっ!?」」」

まりもの一言で『白銀大尉の冗談ではない』と理解する訓練兵達


「最後の理由は、お前達と『絆』を深める為だ。
訓練兵と教官という立場では、どうしても『壁』が出来てしまう。
お前達だって、オレが『教官』として接し続けてれば、必ず『壁』を作り、悩みや本音を打ち上げる事が出来ない。
勿論此処は軍隊だ、甘えなどは許される場所ではないが、それでも悩みなどを抱え続け、部隊に影響が出てからでは遅いんだ。」

タケルの言葉を聞き、驚愕しつつ、何処か納得してしまう自分に戸惑う訓練兵達

「ならば、休み時間やプライベートの時ぐらい、固っくるしいのは無しにすればいい。
オレだってお前達の事をもっと知りたいし、理解したい。
そしてお前達が悩み苦しんでる時に、背中を押す程度ぐらい力を貸してやりたいんだ。
その為、お前達との『絆』を深める為、休憩時間やプライベートの時だけでも良いから、固っくるしい態度は止めて欲しいんだ。」

「「「………」」」

流石に今まで出会った厳しい教官達とギャップが違った為、全員が唖然とする
しかし、最後の理由については、確かに納得出来る理由だった為、『成る程』と納得する者もいた。


(ヤッパリ唖然としてるな
三バカの奴等も阿呆ヅラしてらぁ♪)


そして、馴染みのある三人・神代 巽 巴 雪乃 戎 美凪を見て、心の中でニヤニヤするタケル
しかし、なんだかんだ言っても『前の世界』の三人は信頼せし真那の部下だったし、『元の世界』では、マヌケでアホなキャラだったが、何処か憎めない奴等だった故に、再び出会った事に嬉しさを感じる

(そして---風間少尉
お久しぶりです…)

そして『前の世界』ではヴァルキリーズのメンバーであり、部隊の中で潤滑油のような存在だった『風間祷子』に出逢う。
そして心の中でタケルは祷子に対し、『これから宜しくお願いします』と呟く


「さて、これからお前達の教材や軍服などを配布する
名前を呼ばれた者は前に出て、取りに来い。」

「「「ハッ!!」」」

「それじゃ…みんな待たせて済まないな。
荷物を中に入れてくれ」

教室の外で待っていた冥夜達が荷を持って封を開ける。


(あれが冥夜様…)
(綺麗です~☆)
(頑張ってあの方に仕えるに相応しい衛士になってみせる!!)


巽・雪乃・美凪の三人は冥夜を見て魅了され、いずれ仕える事に意欲を燃やし、強い決意を見せる。

「次、風間祷子」

「ハイ」

まりもに呼ばれ、教材や軍服を取りに行く祷子
その向かう途中---


「えっ…きゃあっ!?」

「危ないっ!!」

偶々床板から飛び出ていた釘に躓き、転倒しそうになる祷子だが、そばにいた正樹やまりかがとっさに助け、大事に至らなかった。

「大丈夫?」

「ハイ、おかげ様で…
どうもありがとうございます、少---ッ!!」

助けてくれたまりかや正樹にお礼を言おうとする祷子
顔を上げて二人に礼の言葉を口にすると---硬直する


「ありゃ…床から釘が飛び出てますね、大尉」

「危ないな…正樹、済まないけど、其処の戸棚の中にカナヅチあるから打ち込んでくれ。」

「了解」

祷子から離れ、戸棚からカナヅチを取り出して飛び出ていた釘を打ち込む正樹
そして何故かぽ~っと正樹を追うように視線を追う祷子

「ん?」

そしてその視線に気付くまりか
そして乙女の警報がブンブン鳴り響きだす。

「ゴホン!!
風間訓練兵!!」

「あっ、ハイ、スミマセンでしたっ!!」

ワザとらしく咳を出し、名前を呼ぶまりか
そしてやっと正気に戻った祷子は、頬を赤らめながら教材等を受け取る


「全く…正樹ったら…」

ブツブツと小さな声で呟くまりか
先程の祷子の様子を見て『ライバルが増えたっ!!』と悟る


「大尉、終了しました。
…けどなんで、あんな所から釘なんか飛び出てたんですかね…?」

「まあ…多分アレだ。
去年お前達が使ってた時に出たんだろ?
…主に純夏の『どりるみるきぃ』な時とか…」

「ああ…そうかも知れませんね…。」


釘が飛び出てた原因を予想するタケル
過去に純夏が教室で男子達に『どりるみるきぃぱんち』を出した事が何度かあり、それが原因と考えると、唯依・佳織が納得するように苦笑いする。

その後、全員に教材等を配り終わると、冥夜達は教室から退室する

「さて、次は各所属の小隊長を決める。」

そしてまりもが今回の各所属の小隊長の名前を呼び出す。

「まずは…斯衛軍所属…
神代巽訓練兵!!」

「ハッ!!」

「貴様は只今を持って、『第207訓練中隊・A小隊』の小隊長を命じる。」

「ありがとうございます!!」

斯衛軍所属の方は巽が選ばれる

そして次に帝国軍所属の小隊長が呼ばれ、最後に国連軍所属の小隊長の名前が呼ばれる


「国連軍所属・第207訓練中隊・C小隊の小隊長は---
『ナスターシャ・イヴァノワ』訓練兵!!」

「ハッ!!」

「只今を持って、貴様は第207訓練中隊・C小隊長を命じる。」

「ありがとうございます!!」

(ナスターシャ・イヴァノワか…
ロシア辺りの奴みたいだけど---)


国連軍所属の小隊長に任命されるナスターシャ
タケルはナスターシャの名前を見て、『ロシア系か?』と考えると---

(なんだろ?
なんか訓練兵にしては『不自然』だな…?)

ナスターシャに対して疑念を抱くタケルだった…



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第六十二話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2011/05/24 22:28
「失礼します。」

「あら、白銀じゃない?」


新生訓練兵達の入隊式を終えて、部屋の案内とかをまりもに任せ、タケルは香月博士の下にやってきた


「どうしたの?
特に今は用事は無いんだけど?」

「先生…何か隠してるでしょ?」

「何の事かしら?」

怪しさタップリの笑みを浮かべて『私、何も知りません♪』と、とぼける香月博士に苦い表情で『ヤッパリあるんですね…。』と呟く。


「彼女、『ナスターシャ・イヴァノワ』ですけど…何者ですか?」

「というと?」

「こんなオレでもわかったぐらいです。
恐らくはまりもちゃんも気づいたと思いますけど…
彼女…軍役の経験有りますね?」

「ええ、有るわよ。
っていうか、バリバリソビエト軍の現役の衛士よ。
階級は大尉、所属してる部隊は、カムチャツカ州コリャーク自治管区Ц-04前線補給基地・第3軍第18師団第211戦術機甲部隊『ジャール大隊』よ」

「あっさりと喋りましたね…
っていうか、あの歳で大尉って早いですね…」


意外にも正直に喋った香月博士に驚くが、まだ15歳にも関わらず、大尉に着いてる事にも驚く。


「それで…何故ソ連軍の大尉が国連軍の訓練兵に紛れ込んでるんですか?」

「表向きは日本の技術力等の調査よ
最近BETAの猛攻に耐え、尚且つ、日本に建設された二つある内のひとつ『横浜ハイヴ』を人類初のハイヴ攻略を成功させた日本に注目し、その技術力に攻略の鍵が有ると向こうのお偉方は考えてるのよ。」

「成る程。
それで…本命は?」


香月博士からナスターシャの『表向きの理由』を聞くタケルだが、『本命の理由』が何なのかを香月博士から聞き出すと---


「彼女もね『ループして来た奴』なのよ。」

「…………………………………………………ハイ?」

「しかも私と一緒にね~♪」

「ハアァァッ!?」


突然の爆弾発言に大混乱を起こすタケル
勿論香月博士の表情がニヤニヤしてたのは言うまでもなかった。


「以前、私がループした原因は言ったわよね?
その時にナスターシャもそばに居たのよ。
だから彼女もループしててもおかしくは無いと考えた私は、クリスカ・イーニァ・社を貰った際に彼女を探して、連絡を取る事に成功したの。
そしたら、予想は的中してナスターシャの奴もループしてた事がわかって、その時に『こちら側』の人間としてまわって貰ったのよ。」

「『こちら側』というと…第四計画側にですか?」

「そうよ。
勿論、その条件としてナスターシャの『願い』を叶える事で協力関係になったのよ。
まあ、その条件無しにしたってアイツは私に『借り』があるから、力を貸すだろうし。」

「借り…ですか?」


『お気の毒に…』と頭の中で呟くタケル
すると、香月博士の口から意外な事が告げられる。


「私が2011年まで『前の世界』に居た事は言ったわよね?」

「ハイ」

「2009年・5月12日
その日、米国・露国が滅亡の危機に陥ったわ
甲26号・エヴェンスクハイヴを始めとして、甲25号・ヴェルホヤンスクハイヴ・甲12号・リヨンハイヴからBETAが一斉にアメリカ大陸に攻め込んだのよ。
その数は百万を超えるというBETAの大侵攻に米軍・ソ連軍は勿論、国連軍や日本の帝国軍や大東亜連合軍も参加して戦ったわ。」

「百万ッ!!
多過ぎませんか!?」

「そうでもないのよ。
桜花作戦後もハイヴは成長していてね、一番最近のエヴェンスクハイヴですら数年後にはフェイズ4を超えていたの
人類の大反攻を受けて、逃げ延びた残存BETAが他のハイヴに移動していた為、ある一部のハイヴは30万程のBETAが居ると予測されていたの。」

ひとつのハイヴに30万という言葉に絶句するタケル


「けど、アンタが『前の世界』で戦った『桜花作戦』だって、相当な数よ?
現にアンタ達が『主広場』メインホールに居た時だって、前後合わせて15万以上の大群が攻めてきたでしょう?
その他に地上に居たBETAや、ハイヴ内の残存BETAの数を簡単に予想したって、最悪40~50万はいた可能性もあるんだから。」

「……改めてそう言われると、ゾッとしますね…。」

「だからBETAの最大の武器は『物量』なのよ。」

改めてBETAの最大の脅威である『物量』に頭を悩ませるタケル
そして話は戻って香月博士の話の続きが始まる。

「結果だけでいえば、なんとか人類の勝利で終わったわ。
リヨンハイヴ側のBETAの大半は米軍がG弾二発使って、海に入る前に殲滅する事が出来たけど、約10万程はG弾から逃れ、上陸を許したわ
けど、国連軍や大東亜連合軍等の活躍もあって、なんとか殲滅に成功。
けど、エヴェンスクハイヴ・ヴェルホヤンスクハイヴ側のソビエト軍は、最終的にはなんとか殲滅に成功
しかし結果としては、米国から借りていた自国は滅び、事実上ソビエト軍は解体したわ
生き残った衛士は、帝国軍や国連軍に入り、お偉い官僚達は、我先にと米国や他の国に亡命して逃げ出したわ
勿論、我が祖国の為と残った奴もいるけど、そういう奴は戦死したり、力が無い為、今は他の国で力を蓄えてる奴も居たりしたわ。」


壮絶な戦争だった事を理解するタケル
自身も極僅かな部隊で桜花作戦に参加していた為、その壮絶さが痛い程わかっていた。


「そしてそれはナスターシャも同じ事だったの
偶々その時期、宗像率いるヴァルキリーズが横浜基地に一時的に出向していた時期があってね。
それで横浜基地から出発した宗像達もソビエト軍と共に戦い、結果極僅かな犠牲者で済んで帰国したの
その帰国してる最中、瓦礫に身体を預ける形で気を失っていたナスターシャを宗像達が発見して助けたのよ」


ナスターシャと美冴達ヴァルキリーズとの接点があった事に驚くタケル


「最初は酷かったわよ?
『国に裏切られた』とか『裏切り者のせいでジャール大隊が全滅した』とかで自暴自棄になってたからね…
けど、宗像や風間や涼宮とかの献身的な支えがあって、ナスターシャは復帰する事が出来たわ
そんな事もあって、私や宗像達には恩義を感じてヴァルキリーズに入隊したのよ。
元々宗像達もジャール大隊とは戦場で共に戦った事もあるみたいだし、腕も確かだから入隊には賛成していたわ。」


香月博士に手を貸す理由として『なる程』と納得する

「ナスターシャがヴァルキリーズに入って一年半ぐらいの頃にね、再び横浜基地に一時的に出向してた時期があったの
その時はXM3の改良版の話として、私の下に来てたの
そしてヴァルキリーズはそのテストパイロットとして来たのよ。」

「XM3の改良版ですかっ!?」

「ええ、けどアンタが居なかったから難航したわよ?
元々XM3はアンタの機動特性を元に創ったヤツだから、変に加えたりすると、かえって悪くなる事が多々あったの」

「という事は…」

「そういう事
XM3の改良版は完成する事はなかったわ
勿論、時間があれば出来たかもしれないけど、XM3を最速で改良するには『白銀武』というファクターが必要なのよ。」

結局XM3の改良版が実現する事が出来なかった事に対し、残念がるタケル

「そしてその事でナスターシャは私の下に来て、あれこれ質問していたの。
そしたら例のテロがあって、転移装置が暴走して二人仲良くループしたって訳よ。」

「なる程…」


ナスターシャがループした理由について納得するタケル
しかし一つの疑問が浮上し、香月博士に質問する。


「先生…なんで今回はこんなにループして来た人数がいるんですかね…?」

「それについては未だに謎よ。
けど、一応無限に広がる並列世界だから、例え『全員がループして来た世界』とかが存在しても可笑しくはないの。」

「そう…ですか…」

うーん…と腕を組みながら唸るタケルだが、『唸ったって無駄よ。』とバッサリと断言されてしまう


「ただ、あくまでも予測だけど…
アンタが何度もループをして来たせいもあって、『世界』がある程度認めて『利用』してるのかもしれないわ」

「利用?」

「つまりループして来た者達を『ワクチン』にしてるのよ。
『世界』だって、滅んでいく世界より、救われた方が良いに決まってるわ。
そして前回、アンタがループして来て『世界』にとってプラスになる事をした為考えたかもしれないわ
世界を再構築するより、ある程度被害はあっても、滅亡を止められる『ワクチン』を送り込んだ方が効率的と考え、今回のこの世界でテストケースとして見ているのかもしれないわ。」

「つまり俺達はBETAという『ウイルス』を倒す『ワクチン』ですか…?」

「そうね。
けどあくまでもテストケースだから何度でも出来るって訳ではないわ。
今回失敗すれば、この案は無かった事になるし、成功すれば、ある一定の条件を元にして再び使うかもしれないわ。」


香月博士の予想を聞いて理解するタケル

『今回逃せば、みんなを救う機会はもう無い---』


ある意味残酷な宣言をされるタケルだが、その表情は新たに決意を決めた表情になっていた


「良い顔よ、白銀
やっと『一人前の顔』が出来るようになったわね。」

「そうですか?
先生に言われると嬉しいですね…。」

「それは良かったわ。
御礼はまりもとの赤ちゃんを産んで貰う事でチャラにするわ♪」

「それじゃあ名前も付けて下さいよ。」

「アラ、良いわね?
私と同じように天才になれるような名前にしてあげるわ。」


たわいもない会話になり、お互いが笑顔で笑い合う二人
すると、部屋のドアが開かれる。

「失礼します---って白銀大尉?」

敬礼しながら入室するナスターシャ
タケルも居た事にちょっと驚く。

「丁度良かったわ。
今丁度アンタの話をしていた所よ。」

「私の…話?」

「アンタバレバレだったみたいよ?
白銀にアンタが軍役の経験が有るってバレてるわよ?」

「え゛っ?」

「この調子だと、まりもにバレてるわよ?」

「す、スミマセンっ!!」

タケルやまりもにバレてる事を告げられ、慌てて頭を下げて謝罪するナスターシャ

「まったく…
まあバレたのが白銀やまりもで良かったわ。」

「えっ?どういう事でしょうか…?」

「まりもは別だけど、白銀はね、アンタと同じ『こちら側』の人間なのよ。」

「こちら側…
つまり第四計画側って事ですよね?」

「ええ、そうよ。
重要度で言うならば、私の次に高いわ。
それと同等なのが社よ。」

「嘘…そんな重要度の高い方が何故訓練兵の教官に…?」


タケルの重要度を知り、驚愕するナスターシャ
香月博士も純夏の事だけはまだ公開せずに、タケルの重要度だけ伝える。

「あとついでに言うなら、白銀は私やアンタ以外のループして来た者なの
しかもループに関しては白銀が一番先輩よ?
何せ白銀が記憶してる回数だけでも数回分はあるわ。」

「数回!?」

「しかもアンタも知ってる『前の世界』では、XM3の発案者であり、『桜花作戦』の生き残りの一人でもあるのよ。」

「なっ---ッ!?」


タケルの秘密の一部を知り、驚愕するナスターシャ
そしてすかさずタケルに対し、敬礼する。


「英雄である白銀大尉に対し、『前の世界』から来た者として感謝します。
貴方のおかげで人類はBETAに反撃する事が出来た…。
人類に希望の光を与えた英雄です!!」

「そんな畏まらなくても良いって。
XM3に関しても、先生や霞が居たおかげで創れた訳だし、『桜花作戦』だって、みんなに守られながら生き残ったようなモノだし…」

「それでも貴方に感謝させて下さい…
XM3を世に出してくれた事で世界中の衛士の命が多く救われました…。
そして、あの『桜花作戦』が成功したおかげで、次々とハイヴを攻略する事が出来ました…。
XM3とて、貴方が発案しなければ世に出る事は無かったでしょう。
そして『桜花作戦』とて、貴方の力もあったからこそ、攻略に成功したと思います…
ですから…今は貴方に対して感謝をさせて下さい…。」

「……有り難う。」


敬礼するナスターシャに対し、タケルも敬礼してナスターシャの気持ちに深く感謝する。


「さて、白銀に感謝の言葉を贈った所だけど、話をするわよ?」

「ハイ」

感謝の言葉を贈るナスターシャに対し、香月博士が今後の話を進める。


「『前の世界』で断念しかけたXM3の改良版を進めるわ
XM3の重要なファクターである白銀が居る今なら改良版を創る事は可能
元々白銀の機動特性を元にしたのがXM3なんだから、改良版を創る事だって白銀がいなければ話にならないわ。」

「なっ…!?
…なる程…そういう理由だったんですね…。」


香月博士は話を聞き、今まで改良版が出来なかった理由を理解出来たナスターシャ。

「まあ、白銀は武御雷の改良型の件もあるし、教官としての仕事もあるから、重要な場所や時間が有る時に参加すればいいわ。
白銀が居ない代わりにナスターシャや冥夜やまりもに頼むとするわ」

「えっ…軍曹にもですか…?」

「どうせアンタの事がバレてるんなら、明かした方が良いわ。
一応まりもには『第四計画側の人間で、一時的に私の元で働くソビエト軍の衛士』って事で説明するわ。
これならば怪しまれないし、大体『嘘』はついてないわよ?
訓練兵に入ったのも『第四計画側の人間』を隠す為のカモフラージュって事で言えば、まりもも納得するわ
あと、まりもは教官職以外の時は『臨時大尉』だから気をつけなさいよ?」

「りょ、了解。」


スラスラとまりもを誤魔化す理由を口にする香月博士に『…流石は博士だな…』と諦め気味に関心する


「一応アンタの事はまりも以外に伊隅にも知らせた方が良いわね。
万が一アンタも出撃する際は、ヴァルキリーズに一時的に所属させておくわ。
その際は遊撃として働いて貰えば、ポジションにも問題は無い筈よ。」


「…ヴァルキリーズですか…。
それは嬉しいのですが…。」


出撃する際にヴァルキリーズに一時的に所属すると説明をされると、ナスターシャの表情が僅かに険しくなる。


「ハァ~…アンタねぇ~…
気持ちは分からんでも無いけど、この世界のクリスカやイーニァは『前の世界』と違って『仇』では無いわよ?」

「えっ?」

「わかってます…
わかってますが…そう簡単にはいかないんです…。」


ギリリ…と歯を喰いしばるナスターシャ
握っていた拳も強く握り締め、手のひらから数滴血が落ちる。

「…どういう事ですか、先生…?」

「以前クリスカ達と出逢った頃に話したわよね?
クリスカやイーニァはソビエト側に洗脳されてて、プロジェクションやリーディングを使って、邪魔者を始末する際にクリスカ達を使って始末してたのよ。
その余りの実力故に『紅の姉妹』スカーレット・ツインなんて呼び名が付く程凄腕だったの」

香月博士の口から『前の世界』のクリスカ達の過去を語られる

「その始末された連中の中にジャール大隊も入っていたの。
その時に部隊の仲間をやられ、ナスターシャが崇拝していた指揮官『フィカーツィア・ラトロワ中佐』もやられたのよ。」

「…私や他数名は奇跡的に生き残る事が出来た…。
ラトロワ中佐は『何か』に気づき、そしてアイツ等を使って始末されたんだっ!!」


激しく怒りを表すナスターシャ
忠誠を誓っていた祖国の一部の上官達に裏切られ、母として慕っていたラトロワ中佐を殺され、憎悪を膨らませる。


「まあ、十中八九は『試作99型電磁投射砲』をソ連邦軍が我が物としようとした事にラトロワ中佐が気づいたせいでしょうね。」

「腹クソワリィ奴等だ…」

愚かな欲望で大切な者達を失ったナスターシャの気持ちを理解し、そしてクリスカ達を操った事に怒りを覚えるタケル
しかし、あくまでも怒りを隠し、冷静な態度をとろうとするタケルを見て、ニヤリと笑みを浮かべる香月博士

「大したモノね、白銀
ちゃんと成長してくれて嬉しいわよ。」

「……今ここで怒り狂っても仕方ありません。
…そんな事をしても、失ったモノは戻ってきませんから…。」

「そういう事
それにまだこの世界のラトロワ中佐やジャール大隊がやられると決まった訳じゃないわよ?
今ここで怒り狂う暇があるならば、それに対する対策をすれば良いのよ。
ナスターシャ、アンタはその為に日本に来てジャール大隊やラトロワ中佐の『運命』を変えに来たんでしょ?」

「勿論ですっ!!」

「なら、今はその感情は抑えておきなさい。
今のアンタのやるべき事は『運命』を変える為にも尽くす事よ。」

香月博士の冷静な言葉にグッと下唇を噛み締めるナスターシャ
タケルはポケットに入ってたハンカチを裂き、先程ナスターシャの手のひらの傷に巻きつける


「もしその怒りを抑えられないなら、鬱憤を晴らす事ぐらい手伝ってやる。」

「白銀大尉…」

「先生、例のシミュレータールーム使わせて貰いますよ?」

「良いわ、許可するわ。
手加減無しで叩き潰してやりなさい。」

「了解。」

「ちょ、博士--って、うわぁぁぁっ!?
ななな、何をするっ!?
離してくれ、白銀大尉っ!!」

「では、逝ってきます(笑)」

「うわぁぁぁっ!?やめろぉぉぉぉっ!!」

これからタケルがやる事に気づき、呆れ気味に答える香月博士

するとナスターシャを強引に担ぎ、拉致るタケル
勿論ナスターシャは暴れるが、なずがまま猛ダッシュで連行されていった…。



あとがき~~~

しばらくぶりです、騎士王です。


まさかのターシャのループキャラですが、はっきり言えば……


作者も予定外でした(°□°;)


当初は訓練兵に祷子・三バカの他に『伊隅あきら』を予定してました。


しかし、残念な事にあきらはタケルちゃんと同期という情報を得た(騎士王が念の為、とあるサイトのマブラヴサークルで聞いた)ので、残念無念という事であきら登場は見送りました(ToT)


何か無いかとネタを考えてると、年代的にTEに近かった為、それに絡んだネタと今回の訓練兵のメンバーに絡めようと考えたのです。


そうすれば、ユウヤ達を出せれる機会があるかと考え、決定
しかし、訓練兵に絡めれるキャラを考えると…ターシャしかいなかった。

アルゴス隊のメンバーは却下。
ユウヤ・ヴィンセントはその頃は米国だし、他のメンバーを行かせるにしても、訓練兵には絡めれないと判断(タリサ辺りならイケたかもしれないけど、諜報活動は無理と判断)

暴風隊を行かせても、その後が続かないから却下(ユウヤ達が出せる理由が出来ない)


あと残ったのがジャール大隊、年齢的にターシャなら丁度訓練兵達と合うし、諜報活動も出来るだろう…という事でターシャに決定
しかし、ターシャを使うとなると、どうやって後のラトロワやユウヤ達に繋げるかと考えると…


『ループキャラかぁ…』

皮肉にも、またループキャラを増やしてしまう事になったのです。


もし、ターシャがループキャラ無しとしても、どうやっても後が続かない
繋がってもラトロワ達ジャール大隊のみ。
しかも出番はあっても、日本来日するきっかけが出来ないと判断


なら、タケル達をユーコン基地に行かせる?
否、行かせる理由が無い。
既に不知火弐型は不知火・改として出してる
仮に武御雷の改良機にしても、不知火・改を創ってしまった以上、ユーコン基地に行かせる理由も無く、更に言えば、絶対に反発が出るから却下

99型砲も同じ理由で却下。
つまり、行かせる理由が無い。


そこでループキャラにする事で『ラトロワ中佐やジャール大隊を救う為』という理由で動かし、タケル達と手を組ませる事で、ユウヤ達やラトロワ達などを日本に呼ぶネタが出来ると考えたのです。


ちなみにループキャラはあとはタマのみとします
もしかすると晴子もするかもしれませんが、その二人以外はループキャラは増やさない予定です。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第六十三話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2011/05/29 21:04
「……みんな…大丈夫?」

「勿論…よ…!!」

「当…然…!!」

「まだまだ…イケるよ~…」


例のシミュレータールームでまだ訓練していた千鶴達
最早バテバテだったが、タケルに少しでも逢える時間を作りたいと健気にも頑張る彼女達だが、純夏や静、途中から来た冥夜ですら呆れたような表情で千鶴達を見る。


「……気持ちは分からんでもないが、榊達は明日から学校が始まるのだろ?」

「私は…大丈夫よ…」

「余裕…余裕…」

「…………ゴメン、全然そうには見えないよ…」


榊達を心配する冥夜だったが、榊達は『大丈夫』と言うが、疲れ果てた姿を見て説得力は皆無
思わず純夏が涙しながら『みんな…説得力無いよ…』と呟く


「今日はもう訓練は終了です。
タケルに逢いたいなら、素直に待ってるか逢いに行けば良いではないですか…?」

「「「……………無理」」」

「みんなも素直じゃないねぇ~…」


静が強制的に訓練終了を告げ、タケルに逢いたいなら素直に逢えと告げられるが、やっぱり素直になれない千鶴達は揃って顔を赤らめて却下する。

すると---


「うわぁあぁぁぁっ!!!?」

「到ォォ着ッ!!」

「「「「「「ハイ?」」」」」」


来やがった。
待ち望んだ愛しの人が、何故か見知らぬ人を担いで爆走して来た

是には流石に純夏・冥夜・静もポカンと唖然としていた。


「ん?委員長達、まだ訓練していたのか。
余り無理したら駄目だぜ?」

そして相変わらず鈍感なセリフを吐くタケル
乙女達の健気な気持ちを思いっきりブレイカーする。

「タケルちゃん…本当に少しは乙女心を学ぼうよ…」

「………なぬ?」

純夏の言葉を聞いて『アレ…?オレ地雷踏んじゃった?』と少し感づくが、肝心な所は相も変わらずニブチンだった。


「それ…どうしたの?」

「ん?ああ…
ちょっと色んな複雑な気持ちがあってな…
鬱憤晴らしにシミュレーター訓練で晴らしては貰おうと拉致って来た。
勿論先生の許可付きだ。」

「良く分からぬが、まあ…わかった。
しかしタケル…そろそろその者を降ろさぬと可哀想だぞ?」

「ん?そうだな…。」

冥夜に言われ、担いでたナスターシャを降ろすタケル
しかし、此処まで来るまでに様々な人に見られ、『……ラトロワ中佐…私…お嫁に行けないかも…』などと小さな声で呟くが、勿論鈍感スキルEXのタケルには、まっっっったく聞こえなかったりする。
そして純夏達女性陣から『南無~…』と合掌される。


「それでタケルちゃん、その人は誰?」

「名前はナスターシャ・イヴァノワ
表向きは今期の新任訓練兵、つまりオレの教え子。
けど本当の中身はソ連邦軍の衛士で大尉だったりする。」


タケルの説明を聞いて驚く純夏達
唯一静だけは冷静だったが、戸惑う千鶴は質問する。


「ソビエト軍の…?
それってつまりスパイ…?」

「表向きはな。
けど実はそれも建て前で、本当は先生の協力者であり、『第四計画』側の人間なんだ。」

「つまり…日本にスパイとして訓練兵に入ったのは、香月博士に協力する為のカモフラージュだという事ですか?」

「そういう事。」

『なる程…』と納得する静
ナスターシャに対しての警戒心を解く

「白銀大尉…この者達は…?」

「勿論第四計画側の人間だよ
しかも静さん以外は殆ど『ループ』した奴等だ。」

「な、何だとっ!?」


千鶴や冥夜達の事を知り、驚くナスターシャ

「ちなみにナスターシャ大尉はオレ達と同じ『ループ』した人で、なんと先生と一緒にループしたらしい。
ちなみにナスターシャ大尉は『前の世界』では、ヴァルキリーズのメンバーでもあったんだ。」

「ヴァルキリーズのっ!?」

ナスターシャがループした者であり、『前の世界』ではヴァルキリーズのメンバーだった事に驚愕する純夏達
そんな事もあり、純夏達の警戒心も薄れていく。


「…一年半ぐらいの期間だったが、本当に心地良い部隊だった…。
まるでジャール大隊に居た時のように、皆が『家族』として接する事が出来た…
特に美冴や祷子・茜・あきらには色々と世話になった。」

「あきら?
あきらって誰ですか?」

「『伊隅あきら』大尉
聞いた話だと、ヴァルキリーズの名前にも付いている伊隅みちる大尉の四姉妹の末っ子らしい。」

「伊隅大尉の妹さんっ!?」

「『みちるちゃんのヴァルキリーズに恥じない衛士になるんだ』といつも口癖のように呟いて、突撃前衛長の茜に張り合っていたぞ?」

「茜が突撃前衛長…そう…。」


親友である茜が突撃前衛長までに成長した話を聞いて喜ぶ千鶴
冥夜達も、無事に復帰した美冴や祷子の話を聞いて我が事のように喜ぶ。

「実は静さん以外のみんなも『前の世界』ではヴァルキリーズのメンバーだったんだ。
特に純夏と冥夜・委員長は『桜花作戦』でオレと一緒にオリジナルハイヴ突入部隊に参加してたんだ。」

「なっ…!!
そうか…ならば礼を言わねばならないな。
ありがとう…貴殿等のおかげで『前の世界』は人類に希望が出て来た…。
『前の世界』の未来から来た者として、感謝の言葉を贈らせてくれ…!!」

「そ、そんな勿体無い言葉です。」

「そうですぞ、大尉
ですから頭を上げて下さい。」


冥夜達に感謝の言葉を贈るナスターシャ
敬礼ではなく、頭を下げて本心で感謝を表現していた。
冥夜達も戸惑いながらもナスターシャに頭を上げるように説得する。


「ナスターシャ、向こうの扉が更衣室だから俺は後に着替えるから、先に強化装備に着替えてくれ。
強化装備は一番手前のロッカーにサイズ別にダンボールの中に入っているから、選んでくれ。」

「ハァ…まったく強引だな…」

諦めたナスターシャは『了解』と呟き更衣室に向かう。


「さて、ナスターシャが着替えてる内に話すが…
純夏、済まないけど、ちょっと頼みがある」

「何?」

「実はな…」


タケルはナスターシャの事を説明する
そして過去にクリスカ達によって、自分の部隊が壊滅され、自分にとって母親当然であるラトロワ中佐を失った事に対し、深い憎悪を持つ事を説明した

「…って訳で、クリスカ達と一緒に居る事の多い純夏に頼みたいんだ。」

「成る程ね…だから鬱憤晴らしなんだね?」

「まーな。
出会ったばかりの俺にはそれぐらいしか出来る事は無い。
けど純夏なら、ナスターシャの心の闇を解決出来る力になると思ってな…」

「そ、そうかな…
ううっ…緊張してきたよぅ~…」

「別に緊張する事はねぇよ。
普段の純夏として接すればいいからよ。」

「無論、私達もサポートはするから安心するがいい。」

「そ、それなら大丈夫だけど…」


ちょっと緊張する純夏
だが、冥夜達の言葉やタケルに頭を撫でられながら励まされると、緊張がほぐれる。

するとナスターシャが強化装備に着替えを終えて戻って来る。

「待たせた。
…それで、何の話をしてたんだ?」

「別に?
ただナスターシャの事を話しただけだ。」

「……普通…そういう事は隠さないか?」

「隠して気分悪くするよりはマシだ」


自分が強化装備を着替えてる間に自分の事を話してるだろうと悟っていたナスターシャだが、予想外にも素直に答えるタケルに対し、戸惑う。


そしてタケルが強化装備に着替えに向かうと、純夏達のミッションが始まる

「それで、何を言われた?」

「別に~?
ただ、クリスカ達と仲悪いからサポートしてくれって言われただけだよ?」

ニコニコしてナスターシャに近づく純夏
そんな純夏にちょっと驚くが---この後、彼女にとって予想外な事が起きる

「私、白銀純夏って言うんだ、純夏って呼んでも良いよ♪
宜しくね、ナスターシャさん」

「あ、ああ…宜しく。」

純夏独特の雰囲気に飲まれるナスターシャ
そして--純夏のターンはこれから始まりだった。


「私とお友達になろうよ?」

「友達!?」

「そ、友達」

「し、しかし一応上官だぞっ!?」

「けどナスターシャさんって侵入捜査で国連軍の訓練兵として入ってるんだよね?
なら、私は先輩だし上官だよ♪」

「そ、それはそうだが…」


純夏の怒涛な『友達になろうよ☆』攻撃に対し、頬を少し赤らめながら困惑するナスターシャ
その様子を見てクスクス笑う冥夜達


「ならば私達も友達という事になるな」

「そうだね~♪
純夏さんの友達はボク達にとっても友達だからね~☆」

「……照れるな照れるな。」

「諦めた方が楽よ、ナスターシャさん。」

「はうっ!?」

更に冥夜達の支援攻撃に更なる困惑するナスターシャ
唯一まともそうな静に視線を合わせてヘルプを求めると---


「諦めた方が良い。
私もこちら側だからな」


ニコニコ笑顔でトドメを刺す静の一言にガックリと跪くナスターシャ


そして---純夏の強烈な攻撃がナスターシャを襲う。

「なっ…わぷっ!?」

「可愛いね~♪
ナスターシャさんの髪の毛って、結構綺麗だね♪」

母性の象徴たる純夏の豊満な胸にナスターシャの顔を当てるように抱き締める純夏
その際、ナスターシャの髪の毛を見て誉めると、ナスターシャの顔が赤く染まる。

(この感じ…初めての感覚だな…
ラトロワ中佐…『ママ』とはちょっと違うけど…優しい感じがする…)

優しく抱き締められ、心地良い雰囲気に入るナスターシャ

「って、違う違う違う!?」

「どうしたの、ナスターシャさん?」

純夏の胸から脱出し、雰囲気に飲まれそうになるナスターシャ
首をブンブンと降りながら正気に戻る


「おやおやぁ~?
なんか面白い事やってるみたいだけと…」

「し、白銀大尉!?」

「純夏にまだ甘えたいなら、甘えても良いんだぞ?」

「けけけけ…結構だっ!!」

すると、着替え終わったタケルがナスターシャの背後に近づきながらニタニタとしながら冗談を言う。
勿論ナスターシャはアワアワと慌てる


「さて冗談はここまでにして--やろうか、ナスターシャ?」

「無論だ」


タケルの一言で表情が変わり、既に戦闘モードに切り替わるナスターシャ

そして管制ユニットに乗り込み、シミュレーター訓練が始まる。

(私だって、XM3を使いこなしていたんだ。
差がそれ程あるとは思えない---)


そう思っていたナスターシャ
しかし、それは間違いだと早々に思い知らされる

(なっ…なんだコレはっ!?)

開始早々タケルの機動性を体験して困惑するナスターシャ
縦横無尽に舞う姿を見て言葉すら出す暇がなかった。


(ロックオン機能が…定まらない!?
例え定めれても、攻撃に移る前にロックオンから外れるだと…!?)


困惑しながらも必死にタケルの攻撃を回避し、反撃しようとするナスターシャだが、ロックオンが追いつかなかったり、例えロックオン出来ても、障害物に遮られたり、倒立反転などのアクロバットで死角に移動されてしまい、ロックオン解除をされてしまうのだ。


機体は同じ不知火・改
XM3も搭載されてる
にも関わらず、これほどの差を見せつけらされ、驚愕する。


(油断した…!!
しかし、この機動…どこかで見た記憶が…)

その際、ナスターシャの脳裏に掠める記憶---
タケルとは初めての対戦にも関わらず、ナスターシャは『初めて見た感覚』ではなかった。


そして---思い出す。


「白銀大尉…白銀…
そうかっ!!『プラチナ・コード』かっ!!」


『プラチナ・コード』
元々は『桜花作戦』を攻略した際に得たデータ
後に『ヴァルキリーズ・データ』と呼ばれる中にある、とあるデータに注目された事から始まったとされる。
衛士として理想な機動として公開された謎のデータ
一体誰のデータかは謎のままだったが、その真相を知る者は居ない。


いや--正確にはいた。
横浜基地にいた『魔女』とまで呼ばれた人物


香月夕呼博士---
後に横浜基地の基地司令にまでのし上がる彼女
そして、この『プラチナ・コード』を作って世に出した人物とも影で言われてる。


以前ナスターシャはXM3の改良版と共に問い質した事があった。
その際彼女からの口からは---


『ガキ臭い英雄からよ♪』

これだけしか口にしなかった。
しかし、今のナスターシャなら、その意味を理解する。


(そうだ…白銀大尉は桜花作戦の英雄…!!
あの時の『ガキ臭い英雄』とは、白銀大尉の事だったんだ…!!)


今、この時答えに辿り着く。
しかし、ここに更なる問題があった


(あの頃に体験した『プラチナ・コード』より機動が鋭く速い…!!)


過去に体験した『プラチナ・コード』以上の機動を見せつけるタケル
その事に驚愕しながらも必死に足掻くナスターシャは手も足も出ず---


『ナスターシャ機、機関部被弾・大破』

「……掠らせる事すら出来なかった…」


純夏から敗北宣言を受け、力が抜けるナスターシャ
反撃らしい反撃が出来ず、茫然自失とする。


『どうする?まだやるか?』

「……いや、いい…
今やっても、同じ事の繰り返しだ…。」

『そっか、挑みたい時は声をかけろよ?』

「ああ…」


流石に力の差を見せつけられ、ムキになる事すら失せてしまった。

しかし--この後に聞くとある言葉にナスターシャに火を付ける事になる。


「大丈夫か?」

「ああ…」

訓練用の管制ユニットから降りて来るタケルとナスターシャ

「ハイ、タオル
ナスターシャさんもどうぞ」

「サンキュ、美琴」

「ありがとう…」


美琴から貰ったタオルで汗を拭くナスターシャだが、今だに茫然としていた。
すると作業を終わらせた純夏が走ってよって来る。


「お疲れ様、二人共」

「おう」

「ねぇねぇ、タケルちゃん、ちょっと質問して良い?」

「なんだ?」

不思議そうな顔をしてタケルに質問する純夏
その内容は---


「なんでタケルちゃん、『自分の不知火・改』使わなかったの?」

「「「はっ?」」」

純夏の言葉に反応する美琴と慧
そして茫然としていたナスターシャも同じ反応だった。


「自分の…不知火・改…?」

「あ、ナスターシャさんや彩峰さん達は知らなかったか。
元々タケルちゃんの機動特性の成長が凄いから、普通の不知火・改でも追いつけないの
だからタケルちゃんの不知火・改はね、普通の不知火・改よりハイスペックな機体なの」

「嘘…」

「つまり…あの機動は…白銀の本気の機動じゃない?」

「うん。
普通の不知火・改だと、本来のタケルちゃんの機動は『八割』ぐらいしか出せないんだ。」

「----っ!?」


純夏の言葉に驚愕するナスターシャ・美琴・慧
逆に納得していた冥夜・千鶴・静は冷静な態度で返事をかえした。

「やはりな。
いつものタケルの機動ではなかったから、そうではないかと思ったぞ」

「さっき私達の訓練の時に出た白銀のデータに比べたら、なんとなく遅く感じたからおかしいとは思ったけど…」

「まあ、なんとなく考えはわかりますが…。」


冥夜達の言葉を聞いて、ナスターシャは勢い良くタケルの方に視線を向けると---


「さっき先生が言っただろう、ナスターシャ?
『叩き潰せ』って」


この言葉を聞いて驚愕するナスターシャ
同時にナスターシャに火が灯る。

「それにオレの不知火・改を使って勝っても『機体性能の差』だなんて思われても嫌だからな。
だから今回は同じ機体で挑んだんだよ
それに---」

チラッとナスターシャを見るタケル
すると先程とは違い、射殺すような視線でタケルを睨みつける

「---しろ」

「ん?」

「もう一度だっ!!!
今度は自分の機体を使ってだっ!!!」


爆発したナスターシャ
それを見て驚く純夏達だが、意外にもタケルは笑みを浮かべていた


「良いぜ。
純夏、もう一回頼む」

「えっ?えっ!?」

「次こそ勝ってみせるっ!!」

勢い良く立ち上がり、再び管制ユニットに乗り込むナスターシャ


「ふぅ…貴方も大変ね、タケル
わざわざ『悪役』を演じるなんて」

「えっ?悪役?」


タケルの企みに気づいていた静
未だに混乱する純夏に説明をする

「要はクリスカ達に対する憎悪で溜まった鬱憤を自分に向けたんですよ、タケルは…
ああやって『手加減しましたよ』って見せつければ頭に血が登り、タケルに何度でも挑むのは目に見えてます
それを利用して憎悪に対する鬱憤も晴らす魂胆なのでしょう?」

「けど…それって、かえって溜まる一方じゃ…」

「要は問答無用に完膚無きまでに叩きのめせば良いのです。
反論も鬱憤も微塵にも残らないぐらい叩きのめせば、むしろ逆にスッキリしますよ」

「…さっきみたく茫然自失に?」

静の言葉に対し慧が質問すると、クスリと笑みを浮かべながら答える

「一時的には。
その後はすぐにタケルを標的にしますがね。」

「……要は速瀬少尉みたくなるみたいな?」

「そうですね。
あんな感じになります」

『なる程ねぇ~…』と納得する純夏達
ちなみに---


「クシュンッ!?」

「おや?風邪ですか、速瀬少尉?」

「うーん…おかしいな~…
昨日はちゃんと暖かくして寝たんだけどなぁ~…」

「ならば今夜は鳴海少尉と一緒に寝てみてはどうですか?」

「「な゛っ!?」」


「…そうね、それでいきましょう。」


クシャミをする水月に対し冗談で答える美冴
それを聞いて驚愕する遙と孝之だが、むしろ水月はヤル気満々で採用する。
……何に対してヤル気なのかは言うまでもないが…


『待たせて済まないな。』

「遅いぞっ!!」

タケルも管制ユニットに乗り込み、準備完了する。
ナスターシャに関しては、待たされた事に対し怒鳴る。


だが----

「あ--とう…」

『ん?なんか言ったか?』

「何でもないっ!!」

『うおっ!?
そんなに怒鳴らんでも…』

ナスターシャの小さな声が途切れ途切れしか聞こえず、聞き返すタケルだが、ナスターシャにガアァァッ!!と噛みつかれそうな表情で否定され、ビビる。


そして、お互いの通信が切れると---

「…お前の魂胆なんぞ…ミエミエだ…
………………ありがとう」


不器用ながらもタケルに小さな声で礼を言うナスターシャだった…


あとがき~~~


しばらくぶりです、騎士王です。


今回は『プラチナ・コード』についてです。


『プラチナ・コード』についてですが、名前だけは公開されてるものの、どういったものかは調べても出てきませんでした。

ただ、様々なSSでヴァルキリー・データ(ヴァルキリーズ・データだったかな?)からタケルのデータを取って創ったモノとされてたので、今回はその設定にしました。

もし、ちゃんとした設定がありましたら教えて下さい。
ちゃんと修正したいのでお願いしますm(_ _)m



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第六十四話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2011/06/06 18:57
2000年・1月16日

「…大丈夫ですか、ナスターシャさん?」

「だ、大丈夫だ…」


心配してナスターシャに声をかける祷子
無論、他の者達も心配そうにナスターシャを見るが、『大丈夫だ』とやせ我慢を言う。


(祷子は相変わらず優しいな…
疲れが癒えていく気分だ…)

祷子の優しさに感謝の気持ちで一杯のナスターシャ
『今はその優しさが薬です』と言わんばかりに癒やされてた。


「ホラお前達サッサと席に着かないかっ!!」

そんな時に教官であるまりもが教室に入って来る。
まりもの言葉と同時に蜘蛛の子が散るように自分達の席に着く


「起立--敬礼!!
--着席!!」


クラス代表として祷子が号令を放つ。
教官であるまりもに対し、キチッとした指示を出す祷子に対し、まりもも感心していた。


「今日は初めての授業になるが、初日から厳しく行くから覚悟しろよ。」

鬼軍曹としての表情になるまりも
ゴクリと息を呑む訓練兵達だが---


「今日は午前中は実技
昼からは座学と兵科をする。
今日はタップリと扱いてヤルから楽しみにしとけよ?」

何故か不機嫌なまりも
その八つ当たりを訓練兵に当てるかの如く、初日からバードな内容だった。


(うっ…何故だろう…
軍曹の視線が私に向けているのは…?)

バリバリとまりもから『覚悟は良いかしら(殺)』と言わんばかりに視線を送られるナスターシャ
その理由は---


(貴女のおかげでタケルとの貴重な時間が…!!
昨日は私の番だったんだからねっ!!)

……なんとも情けない理由である
とどのつまり、嫉妬と恨みでナスターシャを射殺さんばかりに睨んでいたのである

(昨日は…私とタケルが愛を育む日だったのにっ!!)


これが訓練兵達の前でなければ血涙を流していただろう…
机の端を掴んでいた右手が『バギリッ!!』と粉砕する程の握力で握り締めるのを見て、祷子以下訓練兵達が恐怖する。


「それでは実技を始めるから、各自着替えてグランドに集合だ。」


「「「りょ、了解!?」」」


恐怖で口元を引きつりながらも敬礼しながら返答を返す祷子達
そして、それから30分後---


「今日は始めにグランド10周を行う
それが終わり、休憩した後はケージに用意した装備を担いで10キロ行軍を行う。いいな?」

「「「了解」」」

まりもの指示通り祷子達訓練兵はグランドを10周を行う


先頭はやはりナスターシャ
現役の衛士なのだから当たり前だが、だからといってブチ抜いで走る訳にもいかない為、二位の巽との距離を見計らって走っていた。

巽の次に雪乃・美凪が続く
……ちなみに祷子はビリから三番目だったりする


「ヨシ、全員完走したな。
五分間休憩した後、ケージの装備を担いで10キロ行軍だ。」


「「「りょ、了解…」」」

みんな体力的にバテ気味の訓練兵達
唯一ナスターシャだけは息を切らすのは小さいが、それを隠す為なるべく頭を下に向けて隠す。


そして休憩を終わらすとケージに向かい、置かれてる装備を装着する


「ナスターシャ、ちょっと待て」

「ハイ…何でしょうか…?」

装着する前にまりもに止められるナスターシャ
すると---


「貴様は完全装備で行け。
どうやら体力を持て余してるようだからな。」

「は?」

突然の完全装備装着の命令
是にはナスターシャは勿論、祷子達も驚いていた。


「ぐ、軍曹…実はナスターシャ訓練兵は体調が…」

「わかってる風間。
一応昨日香月博士から話には聞いている
訳あって公開出来ないが、ナスターシャは『ちょっとした任務』に付いていたのだ。
…とはいえ、それ程大した任務ではないが、まあ…遅くまで時間がかかってたみたいだがな。」

きゅぴーん!!と赤く光るまりもの眼光にビビる祷子達

「しかし、止めようと思えば早くに止めれたそうだ。
つまり、今日の体調不良はナスターシャのせいでもある」


更に怒りゲージが上昇中のまりも
ナスターシャに対し訓練兵全員が『南無…』と手を合わせる。


「それに体調不良の割には先程は一位を取ったし、どうやら体力を温存するように走ってたように見えたのでな…
特別にナスターシャには完全装備で10キロ行軍に逝かせてやる。」

「い、逝く!?」

「あと私からの特別にコレを貴様にやろうではないか。」

「…………ナンデスカコレ…?」


ナスターシャの前に出されたのは、よく薪とかを積んで運ぶのに見られる背負子(しょいこ)だった
しかし通常の背負子に比べて、かなりデカかった。


「うんしょ…うんしょ…
此処で良いですか、まりも軍曹?」

「ありがとうございます、純夏少尉
大変助かります」


すると純夏が自分の身長と同じぐらいのタイヤを転がして来る…

「ナスターシャ、純夏少尉からタイヤを貰って、背負子に載せて走るんだ。」

「無理ですっ!!」

即答だった
まぁ…あのサイズのタイヤなら、30キロはくだらない


「そんなデカいタイヤを背負いながら完全装備で走るなんて無理ですっ!!」

ナスターシャの意見に訓練兵全員が同意する


「そうか?
現に此処に居られる純夏少尉は走ったぞ?」

「「「はっ?」」」

「最終的には完全装備した状態で、このタイヤを2つ背負って走ったぞ?
しかもそれでも1・2を争う順位でだ。」

「「「へっ?」」」


「100mダッシュの時だって、このタイヤ2つ引きずりながら走ってたし…
腕立て伏せの時ですら、完全装備状態でやってたぞ?」

「「「ええぇぇぇっ!!?」」」


純夏の驚くべき能力に驚愕するナスターシャ達
外見から見られない程の体力の持ち主にだという事が判明し、注目の的になる。


(ナスターシャさん)

(な、なんだ純夏?)

タイヤを渡す際に小さな声をかける純夏

(実はね…昨日タケルちゃんが帰りが遅かったから、まりも軍曹怒ってるんだ…)

(な、なんだと!?)

(夫婦の育みを結果的に邪魔しちゃったから…
…ご愁傷様。)

(な、なにぃぃぃっ!?)

何故自分が目を付けられたかを知り、驚愕するナスターシャ
ふと後ろを振り向くと『今日は容赦しないわよ、フフフッ…!!』と赤き眼で語るまりも。

「嫌なら良いんだぞ?
その代わり、後に行う格闘訓練の相手は純夏少尉だぞ?」

「へっ?」

「ちなみに純夏少尉のパンチ力は日本一でな…
どれぐらい凄いかを説明するのは難しいが…」

少しうーん…と考えこむまりも
逆にその唸りが不安を呼ぶ事になったりする。


「そうだな…戦術機に搭乗する際に着用する強化装備が有るのだが…
通常、大の大人が鉄パイプで思い切り殴りつけても強化装備を着用している部分ならばダメージはほぼゼロなのだが…
拳銃…そうだな、デザートイーグルのような威力の高いものならせいぜい悪くても骨折程度のダメージで済む程の防御力を持っているのだが---
純夏少尉のパンチ力はな…通常のパンチ力でも強化装備を着用してる屈強な衛士すら一撃で大ダメージを与える程だ。」

「「「ええぇぇぇっ!!」」」

「更に言うならば…
純夏少尉の必殺技の『どりるみるきぃシリーズ』なら…………………………戦術機破壊…出来る…かな?」

「「「はあぁぁぁぁっ!?」」」

(ううっ…恥ずかしいよぅ~…)


まりもの言葉に驚愕するナスターシャ達
流石に恥ずかしくて縮こまってしまう純夏
しかし、まりもの言ってる事は大袈裟ではないので、仕方無い事だ。


「さて、ナスターシャ
どちらを選ぶかはお前次第だ」

ある意味究極の選択を迫られるナスターシャだが---


「…………純夏少尉と格闘訓練をする方を選びます」

「へっ?」

「…………………………………………………本気か?」

予想外にも純夏と格闘訓練をする方を選ぶナスターシャ
純夏は勿論、言った本人であるまりもですら驚き、戸惑う

「ハイ、本気です。」

「…………………………そうか…」


ナスターシャの言葉を確認するまりもだが、何も知らないナスターシャは真剣な顔で純夏との格闘訓練を望む。


すると、懐から紙と封筒を取り出し、胸ポケットからボールペンと一緒にナスターシャに渡す。


「………ナスターシャ
貴様に……コレをやろう…」

「……………なんですか、コレ…?」


暗い表情のまりもを見て、バリバリと嫌な予感がするナスターシャ
そばに居た祷子達や純夏は、その意味を理解してる為、なんとも言えない程の雰囲気が重くなる。

「『遺書』だ…
私が責任持って届けてやる
そして…貴様の事は忘れはしない。」

「な゛っ!!?」

「訓練初日から殉職とは……
自分で言ってなんだが………………短い人生だったな…。」

「死亡決定されてるっ!!?」

「…残念だよ、ナスターシャさん
せっかく友達になれたのに…」

「す、純夏少尉…?」

「本気…………出さないと駄目なんだよね…?」

本気で告げるまりもを見て、流石に不安になるナスターシャ
そして何故か悲しそうな顔しながら、ギュッと革の手袋を装着する純夏
……ぶっちゃけ、殺ル気満々である。


「ナスターシャ…最期のチャンスだ…
純夏少尉と…………格闘訓練をするか?」

瞳から光が失ったような目で最期のチャンスを通告するまりも
まるで、死刑宣告のような言葉に恐怖度がアップする。


そして----


「………キャンセル…良いですか?」

「良く決断したっ!!」

流石にビビるナスターシャ
キャンセルを口にすると全員から歓声と拍手が響き、涙を滲ませたまりもが喜びながら誉める。


「最良の選択をしたナスターシャには…ホラ」

「………結局はコレですか…」


結局は背負子と完全装備を渡される結果になるナスターシャ
しかし、今回の最良の選択をした事により、重りのタイヤが乗用車タイプの大きさになり、少しだけ軽くなる結果になる。

そして、後日タケルが純夏に『どりるみるきぃぱんち』を喰らう場面を見て、『あの時…キャンセルして良かった…』と心の底から思う事となる。


一方、同時刻---


「とまぁ…こんな所ね。」

「そうですね」

「流石はシロガネ大尉だ…。
今あるXM3も凄いのに、よくもまぁコレ程のアイデアを出せますね。」

「それには私も同意だ。
我々では想像出来ない事を簡単に出すのだからな…」


ハンガーにあるとある一室で、タケル・香月博士の他にエルヴィンや巌谷中佐と揃い、XM3の改良版の話をしていた。


「しかし、この案『解放状態』は、あくまでも短時間限定になりますね。
機体もそうですが、搭乗する衛士にもかなりの負担がかかりますからね。」

「戦術機の『リミッター』を一時的に解除する事で、本来の力を発揮する……
確かにこれならば、光線級のレーザーや突撃級等の奇襲に回避出来る可能性が向上する。
そして攻撃時に、ほんの一瞬だけでも使えば、間違い無く奇襲にもなるし、勝率も上がる。
だが、やはり欠点はリミッターを解除する事による機体への負担増加と衛士の負担増加…
一応緊急時以外は回数制限も付けた方が良いだろうな。」

今回出た案---『解放状態』について様々な長所と短所を口にするエルヴィンと巌谷中佐


『解放状態』---
戦術機に付いてるリミッターを外す事で、本来の性能を発揮出来る案


例えると、リミッターを外した吹雪だと通常状態の不知火と同等の性能が発揮出来る
しかし、リミッターを外すと、戦術機にかかる負担が増加し、下手をすれば戦闘中に機体がもげたり、搭乗している衛士に走馬灯が流れたり…と結構ヤバい欠点がある為短時間限定の機能となった。


すると、巌谷中佐の表情が少し険しい表情に変わり、口にする


「しかし…ひとつ解せない事があります。」

「解せない…とは?」

「確かにこれが実現化すれば素晴らしい力になる。
また、衛士の命も大勢救われる事になる
…しかし、些か余りにも急ピッチ過ぎるような気がするのだが…」

巌谷中佐の言葉にピクリと眉間が反応するタケルと香月博士

時間が無い事を知らない巌谷中佐やエルヴィンにとって、現段階の開発速度は『異常』と言っても過言ではない程だった為、疑問視されていた。


何故其処まで急ピッチで---?
まあ…『歴史』を知らない者だから仕方無い事である。


「また、戦術機の開発についてもそうだ。
勿論、タケル君のデータを見てるから、改良型を創る理由も解る。
しかし、この2・3年の内に2つの戦術機の改良型を創るスピードは尋常ではない…
何か…理由があるのでしょうか?」

「そうですね…勿論理由はあります。
ただ、これは『第四計画』に関わる事ですから、詳しい話は出来ませんが…それでも宜しいですか?」


香月博士の言葉に首を縦に振る巌谷中佐とエルヴィン


「そうですか…ですが、この事は極秘故に他言無用です」

「わかりました」

「実は第四計画は来年が山場でして…
これを失敗すれば…『第五計画』が発動してしまうのです」

「第五計画…それは一体…?」


エルヴィンが第五計画の事を質問すると---


「---世界中から10万人を選出し、地球圏脱出する計画
そして、残った人類とG弾で全てのハイヴに撃ち込む大反撃作戦
簡単に言ってしまえば、人類10万人だけ宇宙に逃げて、ハイヴのある全てにG弾で爆撃してしまおうという計画なの」

「莫迦なッ!!」

ダンッ!!と机を強く叩く巌谷中佐
エルヴィンも香月博士の言葉に唖然としていた。

「故郷である地球を捨て、逃げるだと…!?
G弾での殲滅作戦なんてしたら、この星は死んでしまうではないかっ!?」

「香月博士…その計画を出したのは…」

「米国よ、エルヴィン」

「我が祖国が…なんて愚かな…」


巌谷中佐は怒りで身震いし、エルヴィンは自分の祖国が提出した案と知り、頭を抱えながら嘆く。

「勿論米国全てが第五計画に賛成してる訳ではないわ。
現にエルヴィンが以前居たノースロック社も反第五計画派でね、そんな理由もあってエルヴィンをスカウト出来たのよ。」

「そう…でしたか…」

「兎に角、開発を急ぐ理由は其処にある為、失敗は出来ないの
その為、開発速度を上げてるの
幸いに、去年米軍でG弾を『暴発』させた為、第五計画派は息を小さくなったわ。
そのチャンスを逃す訳にはいかない故に、来年は第四計画の成果を見せなければならないのです。」

「成果を見せるとは…主に何を…?」

冷静さを少し取り戻した巌谷中佐が質問すると…

「そうね…今は余り語る事は出来ないけど…
来年、時期はまだ決定してませんが、『佐渡島ハイヴ』を攻略する予定に入ってます
その時こそが、第四計画の成果を見せる時です。」

「「!!!!?」」

「そして、これが成功し、様々な要因が揃える事が出来たならば---
人類の念願の目標である『オリジナルハイヴ攻略』に繋がる時でもあるのです」

「「なっ!!?」」

『佐渡島ハイヴ攻略』や『オリジナルハイヴ攻略』の言葉が出て来て絶句するエルヴィンと巌谷中佐

「オリジナル…ハイヴ攻略…ですか…!?」

「ええ、そうよ。
つい最近、攻略に成功した『横浜ハイヴ』だけど、今までの常識を覆す情報を得る事に成功したの」

「常識を覆す情報…?」

「そうです。
反応炉を調べた結果、反応炉の役割は司令塔と同時に通信機の役割がある事が判明しました。
そして、今まで考えられていたオリジナルハイヴに存在する『あ号標的』を頂点とした『ピラミッド型』ではなく、『箒型』と判明したのです。
…つまり、BETAと戦闘をすればする程、生き残ったBETAが戦闘の情報を反応炉に伝え、反応炉からあ号標的に伝達され、その対処案をあ号標的から他の反応炉へ伝達し、対処案が効果があると判明した場合、あ号標的は全ての反応炉に伝達し、対処していくのです…
つまり、早々にオリジナルハイヴを攻略しなければ、人類の戦術などが全て対処され、人類が滅亡の道を辿ってしまうのです。」

「な…なんだとッ!!?」

「勿論これら全てが極秘の情報です…
二人を信頼して公開したので、どうか御内密にお願いします。」

「………わかりました。
どうか頭を上げて下さい、香月博士」

覚悟を見せ、頭を下げる香月博士を見て、その意志の強さを知る
是ほどの極秘情報を口にした以上、自分達の立場や香月博士の背負う重責を知り、答えが一つに決まる。


「微力ではありますが、私の全てを賭けて全力を尽くす事を約束します」

「我が祖国である日本を救う為--
そして人類の故郷である地球を救う為、私も力の限り、力を貸します。」

「エルヴィン…巌谷中佐…有り難う御座います。」

決意を決めた二人に感謝の言葉を出す香月博士


「おやおや、丁度良いタイミングに着いたと見えますな、香月博士」

「鎧衣課長…っていうか、何…………その簀巻きは?」

すると鎧衣課長が現れるが、同時に鎧衣課長が担いでる『布団の簀巻き』に注目する。


「香月博士の探し人である『結城直之』を見つけたので、布団で簀巻きにして連れ来たのです。」

「…………相変わらず寝坊助ね…」

布団の端っこから鼻提灯をしながら気持ち良さそうに寝ている『結城直之』を見て、頭を抱えながら溜め息を漏らす香月博士だった…



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第六十五話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2011/06/12 22:43
「ふぁあぁぁ~…☆
ん~…あるぇえぇぇっ?
此処…何処?」

「ハア…ハア…ハア…!!
やっっっっと起きた………この寝坊助がっ!!」


眠りから覚めた結城直之
しかし息をゼーゼーと荒くしながら結城直之を睨みつける香月博士
そして…その手には何処から出したかは謎だが、『巨大な木槌』を杖にしていた…

ぶっちゃけると、この巨大な木槌で何十回と殴りつけ、やっと目が覚めたのだ。
そりゃ、息も荒れる。


「あれぇぇっ!?
夕呼ぢゃん、おひさ~☆」

「おひさ~☆…じゃないっ!!
アンタ今まで何処に姿を隠してたのよっ!!?」


結城の首根っこを鷲掴みにしてガクガクと揺さぶる香月博士
その光景を見て唖然としていたタケル達
鎧衣課長に関しては、良いカンジに笑っていた。

「いやぁ~…流石に今回は骨が折れました。
まさか香月博士の『ご実家』に住み着いてるとは…いやはや、予想外でした。」

「……………………………………………はっ?」

鎧衣課長の言葉に硬直する香月博士
誰だって探し人が自分の実家に住んでれば硬直する。

「い…いつから?」

「ん~…確か夕呼が実家出て少し経ってからかな~?」

「…………(ガクッ)」

「す、すげぇ…あの先生が跪いてる…」


予想外な新事実を知り、ガクッ…と力尽きる。
そんな香月博士を見て驚くタケル。


「あ、アンタは相変わらず非常識な奴ね…」

「非常識…それがオレのモットーですから♪」

疲れ果てた顔の香月博士を見てイキイキしている結城…
同時にタケルは悟る…


(この人…先生と互角以上なぐらい……厄介な人だ…)

同時に自分の身の危険を悟るタケル
悲しい事に、その予想は的中する結果になる。


「けど、一応帝都大とかにも顔出したんだよ?
そしたら面接拒否されたり、既に居なかったりしたから、実家に居れば何時かは会えるだろうと思ってたら、一向に帰って来ないんだもんな~…」

「え゛っ?」

「だから一応夕呼にも責任はあるんだからね?」

予想外にも結城に言い負かされてしまう香月博士
正論なだけあって、反論が出来ないでいた。


「先生…シッカリして下さい。」

「白銀…その気持ちだけで嬉しいわ…」

へこんでいた香月博士を励ますタケル
思わず香月博士も色んな意味で悲しくてウルウルと涙していた。


「それで~?
俺に何の用かな~?」

「アンタに戦術機の開発に参加して欲しいのよ。
アンタは私と同じ『天才』って認めてるんだから、力貸しなさい。」

「うわぁぁ…人に頼むセリフじゃないよね~…それ…」


香月博士の説得(強制?)の仕方に驚く結城
『アンタの場合は良いのよっ!!』と暴言を吐く香月博士の態度を見て、『………相変わらずだね~…』と少し呆れ気味に呟く


「先生…この人は…?」

「コイツは私とまりもの『悪友』の結城直之っていうの
性格はこんな掴み所無い奴だけど、私が認める『天才』でね、特に戦術機開発に関しては私以上に天才よ。」

「先生よりっ!?」

「まぁ…畑違いっていうのあるけど、それでも以前コイツ小さい基地だけど、帝国軍に所属してたのよ?」

「帝国軍に?」

「……思い出したぞ、確か『異端児』の異名を持つ人物が、以前帝国軍に居たと聞いた事がある。」

「『異端児』?」


香月博士が結城の自己紹介をすると、巌谷中佐が何かを思い出す。

「ウム、余りにも奇抜で突拍子も無い発言や行動をし、非常識な開発などが目立っていたのだが、ある日突然辞表を出して姿を消したと以前聞いた事がある。」

「ああ、アレね。
その時の基地司令と開発局の責任者がさ、結構無知無能な奴でさ~
人が頑張って開発した奴を見もしないで『要らん』とか『必要無い』とか『役に立たない』とか言って無視するからさ~…思わず開発した兵器とかで基地襲撃してやったさ、テヘッ☆」

「『テヘッ☆』ぢゃないっ!?」

「大丈夫だって♪
俺がしたって証拠は残さなかったし、別に怪我人や死者出した訳じゃないから♪」

「えっ?
けど、襲撃したって今…」

「ウン、したよ
開発したウイルスを基地に流して、その基地や帝都に基地司令や開発局の黒~い情報を垂れ流してやったの♪
おかげでその基地司令と開発局の責任者も捕まって、今頃牢屋の中だよっ☆」

「エグっ!!」

「クックックッ…俺に楯突こうなんて、百億年早いよ…」

「黒っ!?」


結城の黒さにドン引きするタケル達
唯一香月博士は『……相変わらずね』と呟く。


「今回は私の下に付けるから安心なさい。
アンタには作って欲しいモノがあるのよ。」

「作って欲しいモノ?
…まあ、大方戦術機だろうけど…どんな?」

香月博士の要求に対して首を傾げながら質問する結城


「其処に居るヤツ…白銀ってヤツなんだけど、戦術機の才能がピカイチでね、普通の戦術機じゃ実力を発揮しきれないのよ。
そこで其処に居るエルヴィンと組んで白銀専用の戦術機を創って欲しいのよ。」

「専用機って…随分凄い待遇だね~…
…そんなに凄い実力なの?」

「そうね。
才能って意味では、白銀以上の奴なんて私は知らないわよ?」

「へぇ~…」


香月博士の言葉を聞いてタケルに興味を持ち、ジロジロと観察する。

そして結城の口から出た言葉は----


「ねぇねぇ、夕呼
この人の実機訓練見て良いかな?」

「実機訓練?なんでまた…?」

「いやぁ~☆
ヤッパリ実力を知るには実機が一番でしょ
それに色々データも見たいからさ~」

「シミュレーター訓練のデータじゃダメなの?」

「まぁね。
シミュレーター訓練より実機の方が真実味あるし、何よりシミュレーター訓練はあくまでもシミュレーターだからね。
ヤッパリ正確に知りたいなら実機が一番だしね」

「………成る程、わかったわ。」

すると受話器を取り、連絡を入れる香月博士

「今から実機訓練出来るようにしたわ。
けど、他の実機訓練の予定があるから時間は余り無いわよ?」

「じゅ~ぶんだよ♪有り難う、夕呼」

短時間ではあるが、実機訓練の予定を入れる事になった。

すぐさま移動し、強化装備に着替える事になったタケル


「入るわよ、白銀」

「うおっ!?
まだ着替え中ですよっ!!」

「別に襲う訳じゃないから安心なさい。」

着替え中に更衣室に入室する香月博士
突然の入室に戸惑うタケルだが、香月博士の言葉を聞き、冷静さを戻す。

「今回は全力で行きなさい。
わかってると思うけど、結城の奴…アンタの実力の真偽を知る為に実機訓練にしたのよ?
これが失敗したら、アンタの専用機の話は遠のいてしまうわ。」

「わかってます、先生
俺の実力の全てを見せつけてやります。」

「頼むわよ、白銀」


タケルの専用機の命運がかかってる事を告げる香月博士
その事に十分に理解し、闘志を燃やすタケル


「行くわよ、白銀
この難関を乗り越えて見せなさい。」

「ハイッ!!」


着替えを終えて、更衣室を出る二人
気合いを込めて自分が搭乗する不知火・改に向かう…


「おかえりー♪
白銀君と作戦会議でもしてたのかな~?」

「まぁね、ちょっと喝入れて来ただけよ。」

「……夕呼って、相変わらず学者らしかぬセリフ使うよね…」


結城や巌谷中佐達の下に戻る香月博士
呑気な質問に答えるが、そのセリフを聞いて、『流石に学者として、そのセリフはどうよ?』とツッコミを入れる結城


「それで、『仮想敵役』アグレッサーは誰なの?」

「紅蓮大将よ。」

「「ハッ?」」

「…………本気?」

「勿論よ、アンタに白銀の実力を見せ付けるんだから、生半可な実力の持ち主をアグレッサーなんてしないわよ。」


アグレッサーが紅蓮大将と聞いて唖然とする巌谷中佐とエルヴィン
流石に紅蓮大将が相手と知り、結城も驚愕する。


「紅蓮大将、白銀の為にも全力でお願いします。
白銀の専用機の命運は紅蓮大将にもかかってるので」

『ガハッハッハッ!!任せるが良い!!
白銀相手ならば敵に不足無し
我が力の全てをぶつけてやりましょう!!』

香月博士の言葉に対し、豪快な笑い声で答える紅蓮大将
タケルの為に忙しい時間を割いてまで今回のアグレッサー役として買って出たのだった


『タケルはこの国日本に必要な男
そしてワシにとっても息子当然な奴でもあり、愛弟子の一人だ。
親が子の為に力を貸す事は当たり前な事だ。』


「……へぇ」

紅蓮大将の言葉を聞き、関心を見せる結城
すると同時にタケルが搭乗する不知火・改が現れる


『うおっ!?
アグレッサー役って紅蓮大将!?』

『ガハッハッハッ!!感謝するが良いタケルよ!!
久し振りの戦術機の対戦だが、手は抜かんぞ?』

『当たり前です!!
っていうか、今回こそ勝ってみせるっ!!』

『その意気だ、タケルよ!!』


今回こそ紅蓮大将に勝利すると誓うタケル
そんなタケルの意志の強さに嬉しく高々と笑う紅蓮大将
そして---戦いは始まる!!


「相変わらず堂々と姿を見せてるか…
ホント、素人の目からしたら、遠距離狙撃で仕留めれそうなんだけどなぁ…」

早速紅蓮機を発見するタケル
堂々と姿を晒す紅蓮機を見て、愚痴を零す。


一度、ロックオン無しで遠距離狙撃をした事のあるタケルだが、相変わらずのチート能力で、120mm滑空砲を防いだ事が有ったのだ

距離は800、ステージが市街地跡だった為、隠密の遠距離狙撃を試みたタケルだったが、狙撃した途端、『ぬうぅぅぅんっ!!』と短刀一本で防ぎきったのだ。


勿論、通常そのような事すれば、短刀が折れる可能性が高いのだが、紅蓮大将は刃の角度・狙撃した発砲音の方角・ぶっちゃけ勘等の要因でタケルの狙撃を逸らして、防ぎきりやがったのだ。


勿論タケルは『嘘ォォッ!?何、このチート能力!?』と愚痴り、敗北したのは言うまでもない…


そしてタケルは悟る。
紅蓮大将を倒すには接近戦しかない…と


元々タケルはある程度ならば何でも出来るタイプである。
ただ、タケルの性格と機動特性故に最も得意なのは、やはり接近戦
故に紅蓮大将を倒す可能性が有るとすれば、それは接近戦以外に無い


それ故に---


「ウオォォォッ!!」

堂々と姿を現し、全力で水平噴射跳躍で紅蓮機まで真っ直ぐ突撃する!!


『流石はタケル、その心意気良し。
我が全力を持って相手しよう!!』


紅蓮機の背部から取り出す一本の長刀
紅蓮大将のみしか使えない専用の長刀・『84式特殊接近戦闘長刀』を取り出し、構える。


『84式特殊接近戦闘長刀』---
通常の74式接近戦闘長刀に比べ、三割程長く幅も広く厚い特殊な長刀
耐久性も74式に比べ、倍近い耐久性と切れ味を誇るが、言ってしまえば『太刀・日本刀』の類ではなく『斬馬刀』の類に入る武器だった
勿論、斬馬刀は超重武器故に重量がかなり重く、通常の長刀の倍近い重さ故に、振り回す事も困難な武器なのだ


他の者達は勿論、武芸に長けた衛士や、五摂家の者達ですら使いこなせない程の使い勝手が難しい長刀で、唯一同じチート能力者である神野大将だけは使えたが、『我が武器は薙刀のみ
例えこの長刀を使っても、紅蓮程操れる訳では無い』と言わしめる程使い勝手が悪い武器だった。

それ故にこの武器は紅蓮大将の専用武器であり、紅蓮機の『シンボル』でもあった。

そしてこの武器を使う時は、『戦場』と『認めし者と戦う時』だけ
つまり--それは、紅蓮大将の『全力』を意味する事でもあった。


「いっ……けぇぇぇぇっ!!」

『フンッ!!』


激しく打ち合う剣戟
タケルはスピードと勢いを乗せての一撃
紅蓮機の一撃に対抗する為の唯一の案だが、紅蓮機は何事も無かったかのように払い、間合いを離す。


元々お互いの機体性能は真逆であり、紅蓮機はパワー重視の超接近戦闘タイプ
タケルの機体は、接近戦タイプではあるが、機動力重視のタイプな為、本来正面きっての戦いはタケルは不利であった。

タケルの戦闘は機動力を生かしたアクロバット等の戦闘
相手の死角を攻撃したり、その機動に惑わされた隙をつく攻撃
そして予想外な攻撃方法(飛び蹴りや投げ技)等、従来の戦術機の戦いとはかけ離れた戦闘方法である


確かに、従来の戦闘方法を行う戦術機同士の戦いやBETAには有効な戦いだ

しかし…武を極め、更なる上を目指す武人である紅蓮大将や神野大将程の者ならば、タケルの機動に惑わされる事も少なく、精神を統一し攻撃をする事が出来るのだ。


『そこっ!!』

「危なっ!!?」


タケルの攻撃を回避しつつ、隙をついて反撃する紅蓮
かろうじて回避に成功するタケルたが、その強さに圧巻される。


(相変わらず強えぇよ…!!
此方の動きが全然通用しねぇっ!!
大体にして、動きに無駄が無さ過ぎるっ!!)


着地して再び紅蓮機に吶喊するタケル
紅蓮機にめがけて真っ直ぐと噴射地表面滑走で吶喊する

(紅蓮のオッサンは一対一の戦闘で狙撃は無い
ならば、堂々と正面から勝負するしか勝ち目は無ぇっ!!)

『ホゥ…正面から来るか…
その判断は間違いではないが---』


ニヤリと笑みを浮かべる紅蓮


『ワシに勝つにはまだ早いわっ!!!』

吶喊してくるタケルに合わせ、居合いの一閃を放つ---!!



「ハイ、お疲れ様~
また負けたわね、白銀」

『ぐっ…くっそぉぉ…』

「しかも嬉しい事に、左腕と左脚部まで両断されちゃて…」

『上半身と下半身が真っ二つに離れるよりはマシですよ。』

「そうね、そんな事になったら、アンタ間違い無くKIA判定よ?」

『ソウデスヨネー…』


実機訓練が終了し、搬送車に運搬されるタケルの不知火・改
タケルも不知火・改に搭乗したまま香月博士からチクチクとイタい所をつつかれる。

従来、実機訓練とはいえ、安全性を見て長刀等の刃は潰れてるのだが、紅蓮大将程の実力者となると、刃が潰れてようとも戦術機を真っ二つに両断出来るから物騒である。


「けど、やるじゃない
紅蓮機の頭部を『踵落とし』で破壊して、メインカメラやセンサー類を無効化にしたんだから。」

『悪あがきっすよ。
おかげでその時に左脚部斬られちまったし、相討ち覚悟の突撃も左腕斬られてバランス失ってトドメ刺されましたよ。』

「けどアンタ紅蓮機に部分的とはいえ、初めて大破判定与えたのよ?
しかも最後の突撃だって、一応紅蓮機の左肩部も大破判定までしたじゃない。
いつもなら中破判定止まりだから大健闘よ?」

『ビミョーな気持ちですね…
やっぱり勝ちたかったなぁ……』


通信越しにタケルのへこむ声が伝わる
しかし、香月博士の後ろでは、約三名が驚きを隠せないでいた。


「全く…タケル君には毎度驚かされてばかりだな…」

「グレイト…あのグレン大将に大破判定とは…」

巌谷中佐やエルヴィンも紅蓮大将に大破判定を取った事に驚ぐ。
そして結城は---


「へぇ~…もしかしたら…『アレ』試しても良いかな…♪」


タケルの戦闘を見て、興味を示す結城だった…



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第六十六話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2014/02/08 15:55
「どうかしら、結城?」

「良いね。
初めて見るタイプの衛士だよ。」

タケルの実機訓練を見て、素直な感想を述べる結城
香月博士も一安心し、小さい溜め息を吐く。


「それじゃ……」

「けど、わかんない事があるんだよね~?」

「えっ?」


すると突然疑問系のセリフを吐く結城


「いやいや、別に戦術機を作る作らないって話じゃないよ。
けど今白銀君の戦闘やデータを見て思ったんだけど……なんであんな風に戦術機を創ったの?」

「あんな風にとは……一体何処か不備な所がありましたか?」


結城のセリフに戸惑いながらも、その言葉の意味を訪ねるエルヴィン


「ああ、言い方が悪かったね、ゴメンね。
不知火・改…だったよね?
『コレ』自体は別に問題は無いよ。
むしろ良い機体だ。
けどね、白銀君が乗るには、この造りじゃ問題アリだね。」

「と…言うと…?」

「機体が脆い
戦術機を『普通』に創ってるから、白銀君の機動力に耐えられないんだよ。」

結城の発言に衝撃を受ける一同
タケルやエルヴィン・巌谷中佐は勿論、あの香月博士ですら驚愕する。


「彼の機動は通常の衛士とは比べ物にならないぐらいアクロバットな機動だ
つまりそれは機体の関節部が負担が凄い事を意味する。
けどこの不知火・改は、それを前提とした機体として創られていない
通常の不知火より性能が良くて機動力が長けているだけ。
そんな機体に後から付け足すように強化したしてるのが白銀君の不知火・改
これじゃ、白銀君が衛士としての成長が続いてる限り、戦術機が耐えられる訳がない」

結城の言葉に沈黙が広がる

理解していても、現状としてどうにも出来なかった巌谷中佐
それに足掻くだけ足掻き、現状として改善出来なく苦悩を抱くエルヴィン
解ってはいたが、様々な方面へ忙しかった為、力になれなかった香月博士
そして、自分の為様々な人達に苦労をかけ、罪悪感を抱くタケル


様々な気持ちを持つ一同だったが、容赦なく結城は言い放つ。


「あと…この関節部のパーツだけど…見た事無いパーツだけど…ナニコレ?」

「それは、私が日本の各開発メーカーと共同に開発したパーツで、従来の物に比べて…」

「うん、性能は解る
結構良いパーツだけど、白銀君に使わせるなら、コレは改良の余地あるよ。」

「えっ…?それは一体?」

「例えばこの膝の関節
上下に動く分には合格点だけど、『横に対する耐久力』に対しては些か脆いね。
…こういう風に膝を内側に向けながら膝を曲げた場合、横に対する負荷が掛かるよね?
そういった場合に掛かる負荷が蓄積して、脆くなってる。」

「莫迦なっ!!
ちゃんと実用化する際に様々なパターンを想定したテストを行い、クリアしましたっ!!
問題が有る筈が…」

「テストをした時って、白銀君がテストパイロットしたの?」

「えっ?
いえ…違うテストパイロットですが…?」

「それじゃあ脆くて当たり前だよ。
さっきも言ったけど、通常の衛士が使う分には問題は無いよ?
けど、白銀君が使うには問題アリなの。
もし、コレを白銀君に使わせるんなら、やっぱりテストパイロットは白銀君じゃないと意味は無い
理由は簡単、白銀君の機動に耐えられる戦術機を創るなら、テストパイロットは白銀君でなければならない。
勿論、関節ひとつに対してもそう、新開発のパーツなら尚更だ。
それだけ白銀君の機動特性は『異常』なんだから。」

鋭い眼でエルヴィンを見つめる結城
さっきまでの飄々とした態度から一転し、『開発者』として厳しく接する。


「性能としては劣るけど、耐久性で言うならば撃震や瑞鶴に使った膝関節のパーツを使った方がまだいい
アレはその重量故に耐久性は抜群に良いからね。
戦場で『もしも』の事が起きるよりはまだマシだし、性能が劣った分は他でフォローすれば良い。」

流石に最早反論も出来ず、下唇を噛み締めるエルヴィン
己の不甲斐なさに悔やむが、結城がエルヴィンの手を取り、語る。


「今悔やんでも仕方ないよ。
失敗したと思うなら、これを『財産』にして教訓にすればいい
もし---『リベンジしたい』という気持ちが有るならば、胸を張って前に進むべきだよ。」

「----っ!!」

「リベンジ…する気有るかい?」

「勿論だっ!!!」

「なら良し♪」


新たな決意を決めたエルヴィンの表情を見て、ニコニコと笑顔になる結城

「夕呼~?
そういえば『FX-01』のメモリーチップまだ有る?」

「あるわよ勿論
…何度となく破壊したかったけど、一応無事にあるわよ。」

「………なんか不安な言い方だな~…」

「当たり前じゃない!!
あんなトンチンカンな暗号文入れた『設計図』見てたら鬱憤が溜まる一方よっ!!」

ガァァッ!!と吠える香月博士
よっぽど不可解な暗号文に腹を立ててる模様…


「先生…それって一体どういった暗号文なんですか?」

「………実物を見ればわかるわ。」


タケルの質問に対して答える香月博士
白衣のポケットから一枚のメモリーチップを取り出し、パソコンに差し込み、表示する


「コレよ……」

「どれどれ………………………………………………………ナンデスカ、コレ?」

パソコン画面を見るタケル
その後ろから巌谷中佐やエルヴィンが覗きこむと…………三人してハニワのような顔になる。


画面には可愛い熊の顔や腕の力コブのような絵文字のようなモノが戦術機らしき図の各部分に書かれていた。


「恐らくはパーツの名前なんでしょうけど、その奇っ怪な暗号文のせいで解読出来ないのよ。」

香月博士の額から怒りマークが2つ3つと浮かび上がる。
『天才』としてのプライドを打ち砕かれた事が理由なのか、それとも結城のこの人を舐めくさった性格が理由なのかはわからないが、ひじょ~にブチ切れていた。

それを見た結城は----
アクマのような良いカンジな笑みを浮かべて----


「それ、別に暗号文じゃないよ(笑)
単なる伏・せ・字・みたいなモノだよ☆」

この瞬間---時が止まる。
そして周囲の空気が冷え込む
勿論、香月博士を中心にして---


「この……バカ結城がぁぁぁぁぁっ!!
あの頃費やした時間を返せぇぇっ!!」

「フッ、甘いな。」


一気に爆発して釘バットをブンブンと振り回す香月博士
しかし当の結城は矢○ジョーのように両腕をブラ~ンと垂れ下げながらノーガードで回避する。


「さ・て・と、話を進めようか☆」

「………本ッッ当に良い覚悟してるわね…!!」

全て回避して元気ハツラツな結城に睨みつけながら息をゼーゼーと切らす香月博士
その姿を見て同情の眼差しを贈りながら我が身を守るようにタケル達は二歩三歩と後退する。


「夕呼、このメモリーチップをシミュレーター訓練に使ってくれない?」

「…………はっ?」

「実はこのメモリーチップのとあるデータをインストールしてからシミュレーター訓練に使用すると、『FX-01』の機体データが使えるんだ。」

「な、なんですって!?」

「まあ、まだ機体の外見的な姿は決まってないから、仮の姿として陽炎になってるけど、中身はまるっきり別モノ
従来の戦術機の概念をぶち壊す『モンスター級』の戦術機だよ。」

「……つまり、そのデータを使って、白銀にテストプレイさせる気なのね?」

「正解♪」


メモリーチップに入っている戦術機データ『FX-01』にタケルをテストプレイさせようと提案する結城
その真剣な眼差しを見て『本気』と悟り、少し考える香月博士

そして考えた末の答えは---


「…考えても仕方ないわね。
わかったわ結城、その提案採用するわ」

「なら善は急げだよ。
時間は有限だ、一分一秒も無駄には出来ないよ?」


結城の提案が通り、シミュレータールームに向かう事になったタケル達


「ここよ、結城」

「ほへ?
随分と小さいシミュレータールームだね?」

「当たり前よ、ここは秘密裏に開発とかする際の部屋の一つよ。
ここのセキュリティーレベルは私か私が許可した者以外は入室出来ない所よ。」

「成る程ねぇ…」

香月博士の説明を受けて納得する結城
まるで興味が無いように真っ直ぐ目的地に向かう。


「さてと…このメモリーチップを差し込んで、秘密のコマンドをチョイチョイちょ~い♪っと入れると…」

「パスワード入力?」

「そっ。
俺しか知らないパスワードを打ち込んで…ハイ、完了♪」

「早いですね…」

「ま~ね。
けど、実際のインストールはこれから
少し待ってね。」


嬉しそうに段取りする結城
まるで子供が興味のあるオモチャを手に入れたようにはしゃぎだす。


それからしばらくするとインストールが終了した画面が現れる。


「それじゃ白銀君、管制ユニットに搭乗してね♪」

「あ、ハイ」

「そうそう、ひとつ忠告しておくよ。」

管制ユニットに向かうタケルを呼び止める結城
その時の結城の表情は---イイ感じに笑顔で嫌な予感をバリバリと感じさせていた。


「『スピード』出し過ぎには注意してね♪
ステージはハイヴ内だから、壁に激突して終~了は無しだよ?」

「は、はぁ…?」


嫌な予感がした割には、至ってマトモな忠告だった為、拍子抜けするタケル


しかし後にこの考えに後悔するタケル
彼は『あの』香月夕呼が認めた天才


その認めた天才が『まとも』な筈が無い---


「準備完了、何時でも良いですよ。」

『それじゃ逝くよ~☆』

「逝くっ!?」


結城のボケに突っ込むタケル
そんな事を無視するかのようにシミュレーターがスタートする。


(まずは前方のBETA群を無視するか…)

単騎突入な為、BETAとの戦闘を控えるタケル
まずは水平噴射跳躍でBETA群を突き抜けようと操縦桿を傾けると---事態は起きた。


「なっ---!!?」

タケルに襲いかかる予想外の重圧
何時も以上のGがタケルの全身に襲いかかり、驚愕する


「なっ……なんてGだよっ…これはっ!?」


スピードメーターを見て驚愕するタケル
何時も通りに跳んだつもりが、いつの間にかスピードゲージが既に800キロを超えていた。


「嘘だろっ!?
まだ上がる……850…900…950…ってバカなっ!?」

タケルでさえ体験した事の無い事態に戸惑う。
既に現在のスピードが『音速』に突入した事態に混乱する


なんせ戦術機で『音速』を出してるのだ。
シミュレーターとはいえ、その非常識極まりないスピードに流石のタケルも焦りだす

まだ軌道降下部隊の再突入とかで音速は経験してるとはいえ、まさかの戦術機の機動で音速飛行
一体誰が予想出来る?


そして事態は再び起きる。
前方に『降ってきたBETA』が進路を塞ぎだす。
勿論回避しようとするが---


「グゥゥッ!?何だよ、この反応!!」

急停止を試みたタケルの全身に凄まじいGが襲う。
すぐさま急停止を止め、進路を少し変えて発進すると、凄まじい加速で飛行する

「やべっ!?」

そして進路を変更した為、壁にぶつかりそうになる白銀機
回避しようと操縦桿を倒すと、信じられない程の反応で急旋回する


そしてBETA群を抜き、少し離れた所で一旦停止し、着地する
そして勿論タケルも爆発する。


「なんですかこれはっ!!
洒落にならない程のスピードとGはっ!?」

『だから言ったでしょ。
『スピード出し過ぎには注意してね』って☆』

「最初っから教えて下さいっ!!」

『ええぇぇ~…それじゃ面白くないでしょ?
主に俺が』

「ぶっちゃけやがった!!」

先程の嫌な予感が的中し、何故あの時油断したのだろうかと後悔するタケル

(これだから天才って奴は…!!)

心の中で愚痴るタケル
…しかし、タケル自身も『天才衛士』と呼ばれてる以上、人の事は言えないのである。

『元々は光線級のレーザー照射から少しでも回避出来る考えと、制空権を少しでも取り戻す為に創ったんだけど……
如何せん、扱える衛士が居なくてねぇ~…創りたくても創れなかったんだよ~。』

「当たり前だっ!!!
もう少しスピードを抑えないと衛士が潰れるわっ!!」

『いや、普通の戦術機創るの飽きたし、俺非常識がモットーだから…』

「自重してくださいっ!!」

『自重?ナニソレ?』


ダメだコイツ…と涙を流すタケル
先程香月博士が少し考えた理由が今ハッキリと理解した。


『今回はスピードを抑えないで頑張って欲しいな~♪
抑えたら、こっちから遠隔操作してハイヴ内三往復してやる。』

「鬼畜!!外道!!」

『フハハハハッ!!
俺にとってその言葉は誉め言葉だよ、白銀君!!』

「ドチクショーーーッ!!」


強制的に音速戦闘をさせられるタケル
涙を流しながら奮戦するが、中階層手間で撃沈する


「………生きてるかしら?」

「……もうダメかも…」

「…今回は同情するわ、白銀…
アイツは戦術機開発に関しては天才なんだけど……性格が…」

「先生も苦労してるんですね…」


シミュレーター訓練が終わり、管制ユニットから降りて来ないタケルを心配し、覗きに来る香月博士
辛うじて生きてはいたが、しばらくは動けない程ピクピクと痙攣していた。

そしてタケルと香月博士の間に深く強い絆が出来る………といっても主に結城の被害者同士の意味でだが…


「お疲れ様~」

「この鬼畜がっ!!」

「いやぁ~…其処まで誉めなくても…照れるな♪」

「誉めてない!!」


巌谷中佐に背負られながら結城の下に辿り着くタケル

「まずは結果だけど……良いねぇ…良いよ白銀君!!
此処までFX-01を操作出来るとは…やるね。」

「お願いだからスピードを落と「却下です。」…即答ですか」


結城から高評価を貰うタケルだが、心の底からスピード低下を頼むが即答で却下される


「とはいえ、やっぱり衛士の安全面も考えないといけないから、耐G対策の改善はしておくよ。」

「けど、戦術機で音速跳躍は拙いですよ」

「あのねぇ…今回はデータを取るため長時間の音速跳躍だったけど、普段は普段通りのスピードで良いんだよ?」

「当たり前です
じゃなかったら、こちらが参ります。」

「さっきも言ったけど、あくまでも音速での戦闘は、対レーザーの回避対策と制空権の改善が目的なの
光線級からレーザー照射を受けても即座に地上に退避出来る回避行動の改善と、制空権を少しでも取り戻して戦況を優位に立てれるようにする為の音速跳躍なの。
だから普段は通常通りの戦闘で良いし、他に音速跳躍するにしたって、緊急時の移動手段しか使わないよ。」


結城の説明を受け、『当たり前です』と強く返答を返すタケル


「けど白銀?
アンタがさっき提案した『解放状態』だって似たようなモノよ?」

「へっ?」

「解放状態?ナニソレ?」

香月博士の言葉に反応するタケルと結城
結城に関しては詳しい説明をすると---


「へぇ~…新OS・XM3かぁ…
ねぇ夕呼、そのXM3のデータを見せて。」

「ちょっと待ちなさい………ほら、これよ。」

「どれどれ……フムフム……へぇ~…良いね♪」
XM3のデータを見て、子供のように目をキラキラと輝かせる結城


「ちなみに言うけど、発案者は白銀よ。
それを私や社が開発したのよ。」

「白銀君が発案者!?
やるねぇ~白銀君♪」


流石にタケルが発案者と知り驚く結城
そのせいもあって、益々タケルを気に入る。


「先生、さっきの意味は…?」

「そのまんまよ。
解放状態はリミッター解除する事で戦術機の能力を一定時間最大限まで引き出す案よね?
つまりリミッター解除する事で戦術機のスピードも限界まで上がるって事よ?」

「白銀君にわかるように説明すると
不知火で例えると、最大速度は700キロまで長距離噴射が可能なのは知ってると思うけど、それはあくまでもリミッターを付けた状態のスピードなの。
そこで白銀君に問題です。
もし不知火がリミッター解除した状態でスピードを出したとすると、どれぐらい速度が出ると思う?」


香月博士・結城と二人から説明を受けるタケル
結城の問題に頭を捻りながら考える

「800キロぐらいですか?」

「ブ~、正解は900キロ近くまでは可能だよ。
けど長時間そんなスピードで飛べば、間違い無く空中分解するよ。
もし900キロの速度で長時間跳躍したいなら、撃震クラスの防御力が必要だよ。
勿論白銀君みたいなアクロバット飛行は無しの条件でね。」

「さらに言うならば不知火・改となれば…音速も可能よ。
勿論そんなスピード出せばオダブツだけどね。」

「だから解放状態を使うとすれば、短時間…せいぜい3分~5分が限度です
勿論完全にリミッター解除ではなく、七割~八割程の解除です
それ以上解除したら、1分でも危険です」

質問の答えを明かす結城
その後に香月博士・エルヴィンと続けて説明し、納得するタケル


「そっかぁ~……ってちょっと待って?
さっきやったFX-01は音速出したよね…しかも長時間。」

「うん、やったよ。」

「………なんで長時間耐えれたの?」

「それはね、骨格からバリバリと強化したり、関節部分を強化・改善したからだよ。」

タケルの疑問に答える結城
開発者らしい態度で説明する


「元々音速跳躍をする戦術機と設定してるんだから、まずは骨格の強度を上げる必要がある
詳しい説明をしても白銀君はわからないから少し省くけど、通常の骨格に比べると、数倍の強度と柔軟性を可能にしたんだ。
…といっても、本来は音速での跳躍は10分が限度でね、さっきのシミュレーターは、白銀君のFX-01の操縦データを採取する為に少しいじって長時間跳躍可能にしたんだ。」

「アンタね…」


先程の長時間音速跳躍の種明かしをする結城にタケルは少し呆れ気味になる

「そして関節部分に関しては、通常の膝や肘の関節はコの字型になっててね、曲げると関節部分が開くように創られてるんだけど…
FX-01は特別でね、通常の膝・肘の関節部分にちょっとだけ横にも可動出来るようにしたんだ。
そして関節部分の内側と外側に電磁伸縮炭素帯を付ける事で、筋肉の役目をさせて横に対する負担を減らしたんだ。」


結城の説明を聞き、『成る程…』と納得するエルヴィンと巌谷中佐


「そしてこの案は、他の関節部分にも使えて、これをする事によって、音速跳躍にも短時間限度だけど耐えられるって訳
長時間音速跳躍したいなら、機体をうつ伏せ状態で飛行するしがないね。
これは戦闘機のように抵抗力を減らす事で可能だけど、光線級がいるから長時間音速跳躍は実用的じゃない」

「…つまり、スー○ーマンみたく飛ばないと長時間音速跳躍は無理と…」

「そういう事。
しっかし白銀君…そのネタ古いよ~?」

「うっさい」


ゲラゲラと笑う結城と拗ねるタケル
そんな様子を見て香月博士やエルヴィン達もクスクスと笑みがこぼれる。


「とりあえずFX-01をもう少し改善して、XM3も導入しても大丈夫な機体を創るよ。
その際は白銀君にテストパイロットを頼むから、その時はお願いね。」

「わかりました。」


少し諦め気味に返答を返すタケル
すると結城のそばに香月博士が近づき、小さな声で呟く


(…タイムリミットは来年の12月頃よ。)

(随分と急な注文だねぇ~…)

(…時間が余り無いの)

(…成る程、だから俺を呼んだ訳か…)

香月博士の言葉を聞き、覚悟を決める結城
その表情は--香月夕呼が認める『天才開発者』としての表情だった。


「任しておきな、夕呼
必ず『最強の戦術機』を創ってみせるよ。」

「頼んだわよ…結城」


こうして、結城直之が参入し、タケルの専用機開発が本当の意味でスタートしたのだった…




~~あとがき~~

しばらくぶりです、騎士王です

今回話に出た不知火の最大速度ですが、700キロは本当ですが、リミッター解除した際のスピードは、オリジナル設定ですので、ご了承下さい。


追記・ 名前だけは結婚式イベントの時に出ましたオリキャラ・結城直之登場です
すっかり、あとがきで書く事を忘れてました
混乱した読者様申し訳有りませんm(_ _)m


モバゲーで書いていたマブラヴ小説のオリキャラです。
知っている人は知っているキャラで、モバゲーでは敵側のキャラでしたが、今回は味方です


今後とも、結城の暴走を応援宜しくお願いします(えっ?(笑))



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第六十七話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2011/06/27 18:46
2000年・1月20日

『京都』帝都城---


「うばぁ~~…」

「あい、お疲れ様~♪」

「……お疲れ様です、白銀さん」


シミュレータールームの管制ユニットからフラフラと降り、ベンチで横になるタケル

その様子をクスクスと笑いながら近寄る結城と、タケルを心配して頭をナデナデする霞がいた


結城直之がタケルの専用機開発をスタートした日から翌日、香月博士率いる国連軍メンバーが横浜基地に移り、純夏やクリスカ達と一時離れる事になった。

そしてそれを追うように、タケル達もある程度復興した京都の帝都城に帰還する事になった。


タケル達斯衛達や帝国軍は先に京都に帰還し、あれこれと忙しい日々が続いていた。

悠陽殿下に関しては、タケル達より一週間ずれる事になり、今はまだ仙台に滞在していた


京都に帰還する際、香月博士が結城の助手に霞を付けるという予想外な事に驚くタケルだったが、香月博士曰わく『結城の助手を付けるんだから、並みの奴なんか付けれる訳無いわ。』
つまり、並みの人物では『居ない方がいい』とか『結城の非常識に潰される』とか、そんな理由で渋々霞を助手として付けたらしい…


しかし、霞にしてみれば、タケルと一緒に入れる時間が出来た為、『………結果オーライです』と小さく、そして力強く親指をグッと立てていた。

そして現在、やっと訓練が再開し、早速FX-01のテストパイロットをしていた。


「今回はXM3も導入して、尚且つ耐G対策も向上してみたんだけど…どうかな?」

「……………耐G対策の更なる向上を望みます。」

「やっぱり?
XM3付けたから更にG増えたからねぇ~…」

「………更なる対策が必要ですね」


皮肉にも、XM3を付けた事で、更にGがキツくなり、結果ダウンするタケル


前回の結果を見て、耐G対策を早速取った結城だが、XM3を付けた事により、更なる動きに鋭さが増してしまい、結果予想以上のGがタケルを襲う結果となる。


「うーん……けど、機体の負担は前回より少なくなってるね?
もしかして、負担掛からないように操縦してる?」

「ハイ、一応は…」

「うーん…そっかぁ~…
確かに負担掛からないように操縦する事は当たり前だけど、白銀君に関しては、そんなの無しにして思いっきり戦って欲しいんだよな…」

「けど、そんな事したら、機体が駄目になっちゃいますからね…」

「そうなんだよねぇ~…」


流石の結城も苦い表情で苦悩する
自分とタケルの理想を生かす為に全力で創る結城だが、流石に頭を悩ませていた。


「そういえばエルヴィンさんは?」

「エルヴィンは今は例のYF-23の改良機の開発で忙しいんだ
もうそろそろ最終段階らしいよ?」

「へぇ~…YF-23の改良機ってどんなのですか?」

「知らない。
今日知ったばかりだから詳しくは知らないけど……エルヴィンの意気込み見たら、相当力入れてるみたいだけど……」

「ラプターに負けた雪辱に燃えてるんですよ」

「なる程。」


エルヴィンがYF-23に力を入れてる話を聞き、少し気になるタケル


「なあ、霞
エルヴィンさんが創ってるYF-23の改良機って誰乗るか知ってるか?」

「いえ…
けど、以前博士に聞いたら、怪しく笑って『内緒よ♪』……って言ってました。」

「相変わらずだなぁ…先生」

「だな」

(ごめんなさい…白銀さん
博士に止められてるので、教えられません…)


タケルと結城が考え込む姿を見て、心の中で謝る霞
ちょっと罪悪感みたいな感情が生まれ、『ごめんなさい』と謝るが、タケルに頭を優しく撫でられ『気にするな』と慰められる


「おやぁ~?
タケルに霞ちゃんじゃないか?」

「随分と早い訓練だな?」


すると、第17大隊のみんなが現れ、孝志と弘政がタケル達に声をかける。

「みんなもこれから訓練ですか?」

「ええ、とりあえず各中隊の対抗戦をするつもりよ。
…ところで白銀君、どうしたの、ベンチで横に寝て?」

「例の専用機のテストパイロットをしてたんですが………なかなかキツくて…」

「…………白銀君を其処まで苦しめる戦術機って一体…?」


大隊長の椿がタケルの格好見て質問し、理由を聞くと、複雑そうに呟く。
そして椿を含めた・第17大隊の隊員達は心を一つにする

『白銀大尉(タケル)が此処まで苦戦する戦術機って…問題アリじゃね?』
全員がタケルに同情の眼差しをしながら同時に結城の創るFX-01に疑問視する


当たり前と言えば当たり前である。
戦術機の最低条件として『人間が無事に乗れる機体』である
『天才衛士』や『白銀の守護者』として衛士として優秀なタケルが此処までバテる姿を見せてるのだ。
誰だって疑うのは当たり前である


「って、其処に居るの……結城君!?」

「おおっ~!?
まりもじゃないか~♪
久し振りだね~」


そして結城の姿を見て驚くまりも
懐かしい再会に結城も普段通りの接し方をする

「………タケルが寝てる理由がわかったわ…
結城君…今度は一体どんな非常識な発明をしたの?」

「ん~♪
まりもの質問っとあっちゃー答えない訳にはいかないね。
まあ、秘密って訳でもないから教えてアゲル♪」

久し振りにまりもに会い、機嫌が良い結城


「今回の開発は、自信作であり、白銀君の専用機となる戦術機開発さ
勿論まりもの言う通り非常識な開発でね…
……なんと、音速出せる戦術機を開発してるんだ♪」

「…………………はっ?」

「「「「はぁぁぁぁっ!?」」」」


非常識極まりない言葉を聞き、一瞬気が遠くなるまりも
他のメンバーも驚愕の余り、ハモりながら大声を出す。
同時にタケルがバテる姿の理由が解り、『なんつー非常識な……』と心の中で呟く


「結城君…?
ちょっと……O・HA・NA・SHIしない?」

「何故英語!?
なんか怖いよ、まりも!?」

「い・ち・お・う・私はタケルの『奥さん』なのよ?
そんな危険極まりないセリフ聞いて落ち着けると思う?」


まりもの背後から暗黒のオーラが滲み出て、目が朱く『きゅぴーん』と光る姿を見て、流石の結城もビビる。


「……………………はい?
奥さんって…?」

「夕呼から聞いてないの?
私…結婚したのよ?」

「はいぃぃぃぃっ!?
は、初耳だよっ!?」


まりもから詳しい話を聞き、理解する結城
するとニタニタと笑顔になりながらタケルとまりもに絡んでくる

「いやぁ~…見たかったなぁ~…まりもの花嫁姿
っていうか、見せて今日」

「今日!?」

「当たり前ぢゃん!!
大親友の花嫁姿を見れないなんて、悲しいよ、お兄さんは…
見せないと白銀君に色々といぢめてヤル」

「こ、コラァッ!!」

結城の悪戯を久し振りに受け、少し戸惑うまりも


「けど安心して大丈夫だよ、まりも
こうして白銀君も生きてるし、ちゃんと安全性を考えて設計してるから」

「……それを素直に信じる私だと思う?
昔、結城君の非常識な発明に酷い目にあった私がっ!!」

「良い思い出だよねぇ~♪
俺が開発してテストパイロットを良くしたもんね~♪」

「人の弱みにつけ込んで、強制的にさせてたんじゃないっ!!」


過去の話をしながら吠えるまりも
そばでタケルが『まりもちゃんも、この人の犠牲者なんですね…』と涙を滲ませながら呟く。


「そうだ…!!
ええ…と…そういえば隊長さんのお名前は…?」
「九條椿少佐です、結城殿」

「九條…って事は五摂家の?
それじゃ九條少佐に頼みたいんだけど、訓練内容変更して貰えないかな?」

「えっ?変更?」

突然の内容に驚く椿


「うん、変更
実はね、夕呼から頼まれ事があってね、そのテストをなるべく早くしてデータを送りたいんだ。」

「何故私達が…?」

「ぶっちゃけると、向こうもかなり忙しいからね。
それにこれは国連軍・帝国軍共同の極秘開発らしくてね、急いでデータが欲しいんだってさ。
だから九條少佐には申し訳ないんだけど、変更して貰えないかな?」

「それは構いませんが…一体何を試すんですか?」

「----『電磁投射砲』だって
これが上手く行けば、ハイヴ攻略時には多大な戦果を残す事が出来るらしいよ?」


「「「!!!!!?」」」

『電磁投射砲』の言葉が出てきて驚愕するタケル達

それもその筈である
冥夜や真耶・唯依達を含める新任少尉達以外のメンバーは実際にその破壊力を目撃してるのだから。

特にまりもに関しては『本土侵攻戦』で使ってた事もあり、その破壊力は良く知っていた。


「確かまりもが『本土侵攻戦』の時に使ってたって聞いてるけど?」

「え、ええ…あの時は緊急だったから、テストを含めて使ったけど…」

「とりあえずその時よりはコンパクトにはなったらしいよ?
けど、ヤッパリその弾倉や電力とかの装備も色々あるから、戦術機の装備に色々と制限されるけどね」

「仕方ないわよ。
あの時だって、トラックの荷台に大型弾倉を積んだ状態での使用だもの
それが改善出来ただけでも凄い事よ?」

「そだね。」


以前よりコンパクトになった事に驚くまりも
その技術力に対し、親友である『香月夕呼』という天才の力を再確認させられる。

そして20分後、タケル達の居るシミュレータールームに規制をかけ、関係者以外を立ち入り禁止にする椿

それ等を確認した後、タケルも含めたシミュレーター訓練を始める。


『さてと…準備は良いかな?』

「こちらイグニス1
部隊の準備完了しました。」

『了解、じゃあ始めるよ。』


ステージ選択を決定する結城
敵はBETA、ステージは横浜ハイヴ
今回はハイヴ内突入作戦ではなくモニュメントまでの制圧作戦

前回の『明星作戦』のデータを使った最新の対ハイヴ攻略用のシミュレーションだった。


今回の第17大隊の編成は沙耶を除いた編成で、それ以外に違うのはタケルの戦術機がFX-01で、まりもの機体が武御雷・改良機である事


そしてまりも機とまりか機には香月博士の試作品である電磁投射砲を装備していた


戦術機の背部に弾倉付きバックコンテナを装備する
結果、狙撃しながら移動可能になった為、電磁投射砲を投棄しなくても回避行動が可能になった。


『…それではカウントを取ります…
3…2…1…ミッションスタート』

CP役の霞がカウントを数え、ミッションスタートし、全機発進する。


「イグニス1から各機へ。
第弐中隊が前方に配置し、第壱・第参中隊が後方で支援を行う
その中央に第四中隊を配置し、護衛をしつつ制圧する、良いな?」


「「「了解!!」」」


「あと…イグニス10
貴方はイグニス26(冥夜)と共に遊撃を頼むわ
むしろそうしないと戦力低下になるわ。」

「イグニス10了解!!
ド派手に暴れてやりますよ。」

「勿論イグニス36(まりも)やイグニス40(まりか)の護衛や部隊の指揮も忘れたら駄目よ?」

「わかってますって」


椿の指示に従い、作戦を進める一同
途中タケルを使って緊張を解す会話などをしたりする。

「イグニス10から第四中隊各機へ。
これより俺とイグニス26は遊撃に入るから、その間はイグニス35(真耶)の指示に従い、動け
今回の作戦は制圧作戦だが、同時に電磁投射砲のテストも含まれてるから、イグニス36とイグニス40の護衛を重点的に行え、良いな?」

「「「了解!!」」」

「ヨシッ!!イグニス26行くぞっ!!
第弐中隊に負けるなっ!!」

「了解!!」


第四中隊の中隊長であるタケルも中隊に指示を出し、最後にパートナーである冥夜に気合いの一言を放つ
冥夜もそれに答え、笑みを浮かべながら返答を返す。


「イグニス4(政弘)からイグニス1(椿)へ
前方800にBETA反応アリ
どうやら突撃級が我々を歓迎してくれるらしい。」

「イグニス1了解。
さぁ…みんな、BETAからの手厚い歓迎に対して、此方も相応しく奮ってやれっ!!」

「「「了解!!」」」

全機武器を構え、突進してくる突撃級の群に対し、備える


「イグニス10からイグニス36とイグニス40
盛大にブッ放してやれっ!!
イグニス26は突撃級が瓦解した後、第弐中隊達と共に斬り込むぞ!!」

「「「了解!!」」」


タケルの指示に従い、電磁投射砲の準備をするまりもとまりか
そして電磁投射砲で突撃級が崩れた後を孝志達と一緒に飛び込む準備をする冥夜


そして、前方に配置していた第弐中隊が左右に分かれ、安全圏外に避難した事を確認し----電磁投射砲のトリガーを引く。


「えっ…?」

唖然
それがシミュレーターとはいえ、初めて電磁投射砲を使うまりかの最初の感想だった。


青光に輝く一本の帯状の閃光は、強固で知られてる突撃級の装甲殻ですら簡単に貫き、その後ろに連なる突撃級や他のBETAを文字通りミンチにする。


左右に少し角度を変えれば、他のBETA達も同じように肉片が飛び散り、骸と化す


「すっ…凄い……」

実戦はまだないものの、訓練の成績も上がり、成果が出ているまりか
しかし、それでも今の光景を見ても、どこか信じられないでいた。


「イグニス36からイグニス40へ
電磁投射砲の使用を一旦中止にするぞ。
急いで冷却作業に入れ」

「りょ、了解!!」

我を忘れてたまりかに通信を入れて指示を出すまりも
慌てて電磁投射砲の狙撃を止めて冷却作業に入るまりかを見て、小さな溜め息を漏らす。

「伊隅、我を忘れる気持ちはわかるが、あまり我を忘れてると、いざ何か遭った時に対応出来んぞ。」

「すっ、スミマセン!!」

「あと…お前達もだ、篁・雨宮・前島」

「「すっ、スミマセン!!」」

「あはは…バレました?」


まりかの他に唯依達も唖然していた事に指摘を入れるまりも
唯依と佳織は即座に謝罪の言葉を入れるが、正樹は苦笑いをする


「当たり前だ、真耶大尉とて気づいてるわよ?」

「無論だ。
とはいえ、初めて電磁投射砲を見て驚いたのは私も同じだから、他人事は言えないがな。」

「驚く、という意味では私だって同じですよ。
現に以前使った時より性能が良くなってるし…」

「まあ、創ったのが『あの』香月博士だからな
タダで終わる筈が無い」

「そうなんですよねぇ……ハァ…」


真耶の言葉に深い溜め息を漏らすまりも
友人である香月博士の発明故に毎回驚かされて内心穏やかではなかった。

しかも今回は、それと同等の厄介事を運んでくる友人・結城まで居るのだ………タダで終わる筈が無い。


「行くぞっ!!
第弐中隊の強さを見せつけてやれっ!!」

「タケルッ!!勝負だっ!!!
負けたら、ハンガーで腕立てとスクワット200回の刑だ!!」

「なんなら、中隊の昼飯も追加してあげましょうか?」

「上等ッ!!それで決まりだっ!!」

「……やれやれ、何時ものが来たか。」


突撃級達が瓦解した隙を突いて、突撃をする第弐中隊とタケル・冥夜組

何時ものようにタケルと孝志が勝負をし、他の隊員達の緊張を解し、士気を上げる。
そして、そんな事をしたら---


「私も参戦致しますぞ、孝志殿」

「おっ?冥夜も追加か?
面白くなってきたねぇ♪」


タケルのエレメントである冥夜も名乗る事は容易に考えられた。


そして、BETA達の群れの中に突入した三人の強さは、群を抜いて目立っていた。


「やるじゃねえか、冥夜!!
腕を上げたじゃねえか。」

「無論です。
私とて孝志殿やタケルの背中を追うだけで終わるつもりはありません。」

「良く言った!!
それでこそ、冥夜だ!!」

冥夜と通信をしながら、互いの剣を競い合う孝志
やはり経験の長さと二刀流という理由もあって、孝志が群を抜いていたが、冥夜の成長の速さを見て感心する


そして、タケルは---


「グッ……ウオォォォッ!!」

瞬間的ではあるが、BETAの背後に回り込む時や回避行動の時のみに、音速跳躍を行い、次々と殲滅していく。


「すげぇじゃねえか、タケル
もう音速跳躍をモノにしたかっ!?」

「そんな早くには習得出来ませんよ…
結構音速跳躍ってキツいんすから…」

「…あれか?
耐えられる理由って、純夏ちゃんの『どりるみるきぃ』のおかげだったりする?」

「………大半は…」

「デスヨネ~……」


音速跳躍を出来るのも、純夏の『どりるみるきぃ』のおかげと知り、同情と納得を同時にする孝志

なんせ電離層に到達する威力だ。
落下時は超高速&大気圏突入で地上落下という特典まで着いてる秘技を小さい頃から毎日のように喰らってるし、下手すれば、それすら凌駕する『幻の左』をも喰らってるのだ。
そりゃ音速の重圧にも耐えられる。


「キツいのは……確かだけど……
だからといって…負けられるかよっ!!」


背後から迫って来る要撃級の奇襲も、右に小さく旋回するように噴射地表面滑走で回避しつつ、要撃級の頭を鷲掴みにした状態でゴキンッとネジ折り、そこから倒立反転しつつ回転しながら突撃砲で狙撃し、周囲のBETAを葬る。


「なんつーアクロバットしてるんだよ、タケル」

「いや、とっさにやっただけだから…」

「いや、普通あんな真似とっさでも出来ないから。」

「ウム。私も同じ意見だ」

「え゛え゛っ!?」

「今のだって難度Aだぜ?
背後から攻撃して来る要撃級の周りを噴射地表面滑走で攻撃を回避し、そのままの状態で要撃級の頭部を鷲掴みにしてネジ折って倒立反転
噴射地表面滑走の勢いを生かして回転しながらの突撃砲の狙撃で周囲のBETAを撃破…
普通の奴はそんな秘技みたいな事なかなか出来ないから。」

「グハッ!!」


先程タケルがやったタケルのアクロバットに対し、『普通あんな真似出来ねーから』と駄目出しする孝志と冥夜
勿論ヘコむタケルだが、そんな状態でも訓練に影響無いから凄いモノである


「あい、お疲れ様
ミッション成功おめでとうさん。」

「うばぁ~………」

「……大丈夫ですか、タケルさん…?」

「アハハ…モウダメカモ…」


無事シミュレーター訓練を終えるタケル達
任務も成功し、撃墜者ナシと非常に好成績を叩き出したが…タケルの体力が尽きてきて、『パト○ッシュ…僕…寒いよ…』と呟きそうなぐらい、バテていた。
勿論そんなタケルを心配する駿や嫁達が励ますが……離れた位置で結城が『白銀君、GJだよ♪』と爆笑していた。


「さて、天国に召されそうな白銀君はスルーして置いて…今回の結果を話すよ」

『「酷っ!!」』

「まずは電磁投射砲の事だけど…うん、実用的に使えるね。
但し、冷却装置や砲身をもう少し強度を上げた方が安心だね。」

「『本当にスルーした!?』」


タケルを無視して話を進める結城に戸惑う椿達
結城を良く知るまりもも『嫌な予感が当たったわ…』と涙する。


「続いて個人の結果だけど…崇宰君と冥夜ちゃん」

「た、崇宰君…」
「冥夜ちゃん…」

馴れ馴れしい結城の呼び方に驚く一同
当の孝志や冥夜も少し戸惑い、恥ずかしい様子


「白銀君に似た機動をするし、動きも良い
けど、二人とも長刀でメインで戦ってるせいもあって、腕部の関節部がかなり負担かかってるね。
もう少し突撃砲とかの戦闘を増やして軽減しないと…戦闘中に腕ポッキリ逝くよ~?」

「「う゛っ!!」」

結城にズバリと言われてしまい、反論出来ない孝志と冥夜
離れた位置で『全く…あれほど言ったでしょう』と椿が小さく呟く。


「次にまりも~♪
……っていうか…何、このデータ…
ある意味白銀君や紅蓮大将に近づいてきたんじゃない?」

「へっ?」

「白銀君の言葉を使うなら『チート』って言うんだよね?
電磁投射砲を投棄した後、前島君から突撃砲貰うまで短刀二刀流で要撃級15体・戦車級20体撃破
突撃級に関しては、脚切断で機動力低下か停止を10体って…ナニコレ?」

「はうっ!?」

「けど、主脚走行と匍匐飛行・噴射地表面滑走を使った機動を主にして、白銀君みたいなアクロバットが少ないせいもあって、みんなより推進材が節約になってるから、開発者からすれば高得点。
いよいよ『狂犬』の渾名も衛士として発揮してきたね。」

「コ、コラァ!!」

対してまりもはぶっちぎりに高評価の声を貰うが、その中に皮肉な言葉も入ってる為、プラマイ0になる。
…いや、むしろマイナスか?


そんな結城から各隊員の戦術機の対する問題点を聞き、その場を解散した後に反省会をすると椿から告げられて解散する


「さてと……夕呼元気かなぁ~?」

作業を終えて、横浜基地に居る香月博士に通信を入れる結城
しばらくすると、香月博士に通信が繋がる。

『ハァ~イ?どうしたの、結城?』

「…随分ご機嫌だね…」

機嫌が良い香月博士を見て『また何かしたな…』と悟る結城
その後用件を伝えると---

『それじゃあ、もう二つお願いするわ。
一つは白銀から頼まれたモノ
もう一つは---』

妖しい笑みをしながら衝撃の言葉を発する香月博士


『『新しいハイヴ攻略用のデータ』よ
アンタも驚愕する程のね…』


後に帝都の一部の者達に衝撃を与える一言でもあった…





あとがき~~

しばらくぶりです騎士王です。


今回の補足ですが、今回結城の台詞で『GJ~』とセリフがありましたが、今回のこれは『タケルから(白銀語として)教えてもらった』…という設定です、あしからず。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第六十八話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2011/07/05 18:15
2000年・2月1日


京都・帝都城---


「……何だよ、これ」

横浜基地から帰って来た霞から『例の頼みモノ』を受け取る結城
最初の『タケルに頼まれたモノ』は、まだ理解出来る。


しかし---後者である『最新のハイヴ攻略用のデータ』に問題があった。
流石の結城もコレを見て驚愕し、ゴクリと息を呑む。


「…洒落にならないよ…夕呼…
一体何処からこんなデータを…!?」

画面に映るハイヴ攻略用のデータの名称を見て、震える結城
その名称とは---



『甲1号・カシュガルハイヴ
別名・オリジナルハイヴ』


「オリジナルハイヴのデータだって…!?」


全身に衝撃を受ける結城
そしてその重大性に気づき、霞の方に顔を向ける。


「霞ちゃん…このデータは一体…?」

「…博士は、今回攻略に成功した『横浜ハイヴ』の反応炉に注目し、とある方法で情報を得る事に成功しました。」

「反応炉から?」

「ハイ…」


霞は結城にある程度の機密情報を公開する
その情報を聞き、流石にいつもの飄々とした表情に結城はなれなかった。

「ハァー…なんつー重い話だよ…
オルタネイティヴ4だっけ…?夕呼がその計画の最重要人物なのはわかったけど…やっぱり霞ちゃんもそうなの?」

「ハイ…あと白銀さんもそうです…」

「成る程~…道理で専用機なんてモン用意する訳だ。
確かにそれだけ重要人物なら理解出来る。」

深い溜め息を漏らし、椅子に座る結城
そんな結城に霞が『ゴメンナサイ…』と呟くが『良いって』と霞の頭を撫でる


(違うんです…さっきのオリジナルハイヴの話…
『嘘』なんです…)

先程結城に説明した『反応炉をとある方法で調べて』という話が『嘘』と心の中で呟く霞


(それは…純夏さんの中にいる『スミカさん』から得た情報です…)


実はこのオリジナルハイヴのデータ
純夏に憑依している『スミカ』から得た情報である
つまり、このデータは横浜ハイヴ攻略後から作り始めたデータで、最近完成したばかりのデータだった。


未完成ではあるが、『零型特殊強化装備』を装備した純夏から『スミカ』がデータを送り、作成したのだった。

とはいえ、憑依した『スミカ』では、完全なデータを送る事が出来なかった為、それを補うのに時間がかかったのだ


補うデータは横浜基地に到着した後、速攻で『量子電導脳』を作成し、完成させてリーディングし、データを完成したのである。


『生体反応ゼロ・生物的根拠ゼロ』の非炭素系疑似生体についても、『零型特殊強化装備』とそれを補う装置を使い、鑑純夏を『非炭素系生体』として誤認させたのだ


まぁ、まるっきり全てが『嘘』という訳でもないのだが、霞にしてみれば真実を教えられなかった事に対して罪悪感があったのだ。


「……で?
コレをどうするんだい?」

「博士からは、一部の者に公開の許可を貰ってます…。
白銀さんは勿論ですが、椿さんや孝志さん達にも公開しても大丈夫かと…」

「…成る程…なら第17大隊の実力者と紅蓮大将とか辺りが良いね。
俺は所属して間もないから、人員配置は霞ちゃんと白銀君に任せるよ。」

「…わかりました。
決まり次第、連絡を入れます…。」


ウサミミをヒョコッと動かして部屋を出る霞
結城は、そばにあった合成珈琲を一口飲んでから、再び深い溜め息を吐く。


「全く…一応開発責任者だけど…これは重いよ…夕呼。」

事の重大さを理解してるからこそ、のしかかる重圧。


「成る程…タイムリミットが来年の12月って事は---
その近々にオリジナルハイヴを攻略するつもりなんだな…。」

鋭い眼光をしながら憶測する結城
そして、導かれる結果は----

「腹を……くくるしか無いね…コレは。」

何時になく真剣な表情になる結城
再び合成珈琲を一口飲んで、カタカタとキーボードを打ち込む。


そして、その数時間後---


「…どうやら、みんな集まったようだね?」

結城の前に集まったのは、タケル・霞は勿論。
冥夜・椿・沙耶・孝志・政弘・駿・真那・真耶・まりもの第17大隊のエース級の衛士十人。
他には紅蓮大将・神野大将・悠陽殿下・巌谷中佐・斉御司大佐・エルヴィンまでもが居た。

「…霞ちゃん…何故殿下まで居るの?」

「…紅蓮大将や神野大将にも参加して貰う為、今回は一緒に来て貰いました…。
護衛は斉御司大佐と巌谷中佐に頼んであります。」

「今回は重要な件と聞いております。
私もその話について聞きたく思い、ついて参りました。」

「そ、そうでしたか…」

流石に悠陽殿下まで来るとは予想外だった結城
失礼無いように気をつけながら喋る。


「…今回みんなに来て貰ったのは、夕呼からとんでもないモノが来たから召集して貰ったんだ。」

「香月博士から…?」

「とは言っても…」

「毎回とんでもないモノばかりだからなぁ…。」

結城の言葉を聞いて、『毎回とんでもない事ばかりなんだけどなぁ…』…と呟く真那・まりも・孝志

「けどね、今回はその程度のレベルじゃないんだ。
どれぐらいとんでもないかっていうと…世界レベルの機密情報クラスだよ。
いつもの悪戯とか、前回の電磁投射砲程度のレベルとか、問題にならないぐらいのシャレにならないレベル」

「えっ…?」

真剣な表情をしながら説得する結城を見て、漸く唖然とする椿達
いつもの結城を見てるだけあって、今回の結城の真剣な態度を見て緊張感が五割増しになる。


「夕呼から送られて来た『頼みモノ』は2つ来たんだけど…
一つは白銀君が夕呼に頼んでいたモノ。
これ自体は大した事じゃない。」

「タケル様が香月博士に頼んでいたモノとは?」

「うーん…とね…『通信式管制ユニット』って物でね、要は離れた基地同士に特殊な回線を繋いでシミュレーター訓練をする事を目的とした物なんだ。
例えば、各基地の衛士を対戦させる事で、衛士のレベルの底上げを狙ったり、ハイヴ攻略等の作戦時における大規模なシミュレーター訓練をする事で連携を上げたり…と色々な事に使えるんだって。」

結城の一つ目の情報の公開に驚きの声が上がる。
勿論タケルが発案者な為、タケルに注目が集まる。


「流石はシロガネ大尉…素晴らしいアイデアだ。」

「相変わらず、とんでもない事を思いつくな…」

これにはエルヴィンや政弘も脱帽し、タケルを賞賛する。

「話の続きをするよ。
このぐらいなら、みんなを呼ぶ必要は無いんだけど…問題はもう一つの頼みモノの方なんだ。」

「もう一つの方?」

「そ、もう一つの方
これはとあるシミュレーター訓練用のデータなんだけど…ハッキリ言って、シャレにならない程の内容だよ。」


まりもの疑問に対し、素直に答える結城
そして、遂に公開する。


「送られたシミュレーター訓練用のデータの内容は…
対オリジナルハイヴ攻略用のシミュレーターのデータだよ。」

「「「「!!!!!!」」」」

結城の言葉を聞いて驚愕する一同
唯一タケルだけは、霞から聞いていた為、驚愕の表情は無いものの、その表情は深刻そうな顔だった。


「詳しい話は霞ちゃんから説明するよ。
霞ちゃん、お願い。」

「ハイ…」


結城に頼まれ、みんなの前に立ち、説明を始める。


「今回のこのデータについてですが、コレは『明星作戦』が終了し、横浜ハイヴにBETAが残存してない事を確認してから始まりました…
横浜基地建築より早くに開始し、重点的に進めた結果、とある方法で反応炉から重大な情報を得ました…。」

「とある方法とは…聞いて大丈夫かな?」

「済みません、政弘さん…
『とある方法』については極秘故に公開出来ません…。」

「そうか…いや、わかった。
こちらこそ済まなかった。」


『とある方法』について質問する政弘だったが、『00ユニット』の事を喋る訳にはいかないので、謝りながら断る霞


「…重大な情報のうちの一つが、幾つかのハイヴの全容マップを得られました。
そして…運が良い事に、その一つがオリジナルハイヴのデータでした…。
それを発見した博士は即座にオリジナルハイヴのシミュレーター訓練用のデータを作成し、つい最近完成致しました。」

「どれぐらいの精密なデータなのだ?」

「マップに関しては、これから新しい『横坑』ドリフト等を作らない限り、ほぼ100%再現出来ました。
ただ、オリジナルハイヴに存在するBETAの数や配置に関しては、可能な限り…としか言えません。」

「可能な限り?」


真那の質問に対して答えた霞の内容に疑問を持つ。

「…今わかる大体の数ですが…少なく見ても…BETAの数は『40万以上』はオリジナルハイヴに存在する事がわかりました。」

「なっ…!?」
「40万っ!?」

「ハイ…
しかし、あくまでもこの数は『現時点』の数です…。
勿論今後この数が増える事は間違いないです…。」

「「「………ッ!!」」」

霞の残酷な言葉に痛々しく沈黙する椿達
唯一オリジナルハイヴを体験した事のあるタケルや冥夜は苦々しい表情を浮かべるしかなかった。


「……その為、シミュレーター訓練とはいえ、オリジナルハイヴを体験して貰おうと思い、皆さんに集まって貰いました…。」

「成る程…確かに今から訓練をしておけば、今は無理でも、力を蓄え、準備出来た時に挑む事が出来るわ。」


霞の言葉を聞き、納得する一同
そしてまりもの考えに『成る程』と同意する孝志達…


しかしその時、霞の表情が暗くなり、残酷な言葉を言い放つ。


「まりもさん…残念ですが、そんな悠長な時間はありません…。」

「えっ…どういう事…?」

「先程言った『重大な情報』の中の一つに問題がありまして…時間が無い事がわかりました…。」

「えっ…時間が無い…?」

「ハイ…
皆さんは、BETAの組織図はオリジナルハイヴの『あ号標的』を頂点とした『ピラミッド型』という事を知ってますね…?」

「え、ええ…知ってるわ…」

「実はその組織図は間違いである事がわかりました…。
正確には『あ号標的』を頂点とした『箒型』であって、全ての反応炉が同列の位置にして、その頂点に『あ号標的』である事がわかりました…。
つまり、戦闘で生き残ったBETAが反応炉に戦闘情報を報告すると、真っ直ぐ『あ号標的』に報告して対応策を考えて貰い、『あ号標的』が考えた『対応策』を、他のハイヴで試験的にテストし、有効的な案であれば『あ号標的』は全てのハイヴに報告し『対応』するのです…
そして、その間にかかる時間が…『19日間』です…。」

「「「なっ!!!」」」

「そ、それじゃ…」

「ハイ…戦えば戦う程『対応』され…人類がBETAに滅ぼされる可能性は高くなってしまうのです…。」

「「「………ッ!!」」」


霞の言葉に言葉すら失い、その絶望の意味を知る孝志達


「…ですから…このシミュレーター訓練を受ける事は、『オリジナルハイヴ攻略に参加する』事を意味します…
しかし…皆さんにも、大切な人や家族があります…。
ですから…参加出来ないと思う方は参加しなくてもいいです
良く……考えて決めて下さい…。」


手を震わせながら、二者択一(オルタネイティヴ)を出す霞

こんな選択を迫る自分に対し---
みんなの『幸せ』を奪うかもしれない事に対し----
複雑な感情が湧き上がり、涙をポロポロと流す。

そんな霞に---
優しく抱きしめ、慰めるまりもがいた---


「泣かないで、霞
別に貴女が悪い訳ではないわ。」

「で…でも…」

「私達は『衛士』よ?
戦場で死ぬ可能性なんて当然あるし、勿論『死ぬ事』は怖いわ…」


涙を拭い、霞を慰めながら説明するまりも
誰の目から見ても、この時のまりもは『母親』として見えていた。


「けどね、だからって逃げる訳にはいかないの。
戦わなければ人類に明日は無い
そして、自分にとって大切な人達も守る事は出来ないの
だから、私は自分に言い聞かせ、そして教え子達にこの言葉を教えるの。」


霞の目を見つめ、『あの言葉』を口にするまりも


「『臆病でも構わない---
勇敢だと言われなくてもいい---
それでも、何十年と生き抜いて、ひとりでも多くの人を救って欲しい。
そして、最後の最後で人としての強さを見せてくれれば良い…。』
…この言葉を常に心に刻んで自分に言い聞かせ、そして私の教え子達にもこの言葉を教え、生き残って欲しいの
その為には教え子達に嫌われたって良い
その代わり、教え子達が生き抜いて『幸せ』を守り抜いてくれるんなら、私は悪役になってでも厳しく鍛えるわ
その結果、教え子達の未来に光があるならば『本望』なのよ」


涙を拭い終え、優しく霞の頭を撫でるまりも
そして---その決意を口にする。


「だから私は前に進むわ。
霞…私はオリジナルハイヴ攻略に参加するわよ。
教え子達の未来を守る為に…そして、大切な人達の為に戦うわ。」

「---ッ!!」


まりもの誇らしい姿に驚き、そして見つめる霞
その『強さ』に心を救われる。

「見事ですな、まりも殿。
この老骨な身に再び熱き血を沸かせる御言葉でしたぞ。」

「ガッハッハッ!!全くだっ!!
このような若者が居るからこそ…我々が守らねばならん。」

すると、まりもの言葉に感銘し、賞賛する神野大将と紅蓮大将


「霞殿よ、我々2人に対して戦場を『辞退する』などという言葉は無い。
私と紅蓮はこの日本の『剣』であり『牙』でもある
この年寄りの力が必要ならば何時でも申すが良い、幾らでも力を貸そうではないか、のぅ紅蓮よ?」

「勿論だっ!!
我等はまだまだ現役だ、若い者にはまだ負けんよ!!」

「…そういう事じゃ。
我々2人も参加するぞい。」

「あ…ありかとう…ございます。」

紅蓮大将や神野大将の心強い言葉を貰い、嬉し泣きをする霞


「オレもOKだぜ♪
こんな所で引いちゃ、オレじゃねぇっ!!」

「…という訳だ、私も参加する。
元より引くつもりは無いけどね。」

孝志と政弘の参加を聞き、更に涙を溢れ出す霞
孝志が霞の頭を撫でながら『泣くな泣くな♪』と慰める。


「私も参加するわよ、霞ちゃん。」

「無論私もだ。」

「霞…泣くな。
我等は元より戦う覚悟が出来てる者達だ、遠慮する事はない。」

そして秘密を知る椿・沙耶・真耶も名乗り出て、参加を告げる。

「大丈夫ですよ、霞ちゃん。
もし辞退するぐらいだったら、前回の明星作戦には参加してませんよ。」

「そういう事だ。」

「安心するがいい、霞
我等は必ず生き残ってみせる。」

そして駿・真那が参加を告げ、オリジナルハイヴを体験者である冥夜も名乗り出る。


そして---自然と、みんなの視線はひとりの人物に集まり、名乗り出る事を信じていた。


「ん?オレか?
オレは元々オリジナルハイヴ攻略に参加する事自体は随分前から決まってる事だぜ?
---なら、答えはわかるよな、霞」

「ハイ…
白銀さんが参加しないと…困ります。」

優しく霞の頭を撫でるタケル
みんなの気持ちと決意を知り、涙を拭い、笑顔が戻る。


「つーかタケル…
サラリと問題発言をした訳だが…いつから決まってたんだ?」

「ん?オレが第17大隊に所属する以前からですよ、孝志さん
元々オレは先生や霞と一緒に『計画』に参加してますからね。
その時点で元々オリジナルハイヴを攻略する予定はしてましたけど、まあ…今回の事に関しては予想外でしたけどね。」

「なろぅ…とんでもない秘密持ってやがって…」

「成る程…だから来年国連軍に一時的に所属する話が出てた訳か…。」


タケルの爆弾発言に愚痴る孝志
そして以前から国連軍に一時的に所属する話が出てた事に対し、理解する政弘


「さてと……みんなの覚悟を聞いた所で先に進もうか。」


一部始終を見て、みんなの覚悟を知り、少し笑みを浮かべる結城
まだ少し泣いている霞に変わって話を進める。


「今回のシミュレーター訓練は特別ルールを入れるよ。」

「特別ルール?」

「今回はオリジナルハイヴを知って貰う為、普段なら有り得ない設定で挑んで貰うよ。
今回の設定は、全機不知火・改
長刀及び短刀の『耐久力・切れ味無限』と、突撃砲・滑空砲の『弾無限』と『燃料及び、推進材無限』…というチート設定だ。
勿論撃墜されれば、それまでだけど、その代わり撃墜されても全滅しない限り別視点の映像を見て貰うよ。」

「ず、随分な設定だな…」

「仕方ないでしょ
今回挑むのは中隊規模だし、幾ら紅蓮大将や神野大将が居るといっても、40万のBETA相手じゃ自殺行為だよ?
今回はあくまでもオリジナルハイヴを知って貰う為の特別設定だよ。」


予想外な特別設定に驚く孝志達
しかし、タケルと冥夜にしてみれば、そんな設定をしていても、オリジナルハイヴを攻略する事は無理だと知っている。


完全武装じゃなかったとはいえ、凄乃皇四型と武御雷5機でさえ、ギリギリ攻略したのだ。

様々な奇跡と要因
そしてみんなの想いと犠牲があってオリジナルハイヴを攻略する事が出来たのだ。
たかだか弾無限や推進材無限にした所で成功率が1%も上がらない事は百も承知だった。

それ故にタケルと冥夜は今回の設定に対し『無意味』と判断していた。


「さて、これから準備するから、みんなも準備してよ~」

パンパンと手を叩き、一時的に解散させる結城
そして----


「…………最悪だね。」

数時間後、オリジナルハイヴのシミュレーター訓練を終えたタケル達
素直な感想を呟く結城の言葉が見学していた者達に苦痛な表情を与える。


結果は予測通り惨敗。
『主広間』メインホールの中間地点で全滅する結果になる。


メインホール到達時の生き残りはタケルと冥夜のみ
紅蓮大将や神野大将は、途中で後方からの10万のBETA相手に殿をして撃墜する
椿・孝志・政弘も、途中で奇襲を仕掛けてきた『母艦級』から現れた要塞級等の大群に敗れる


真那・駿も善戦するが、『物量』というBETA最大の武器により撃墜
まりも・真耶も再び来た10万以上のBETA相手にS11で自決し、時間を稼ぐ。


タケルと冥夜は『経験者』故になんとか生き残る事が出来た。
しかし、満身創痍な状態で---あの地獄を再び体験する


「メインホールに到達してみれば……数万単位のBETAが床・壁・天井で待ち受けてるとは…鬼畜もいい所だ。」


結果、タケルと冥夜も『母艦級』の出現により、悪化し、撃墜される。
それと同時に20万近いBETAが後方から来ていた事を知り、タケルと冥夜の冷静さを失わせる結果にも繋がっていた。


「流石はオリジナルハイヴ…か…
新種の『母艦級』
迫って来る『物量攻撃』
そしてあのメインホールで待ち構える大群のBETA
……最悪としか言いようがないね。」


流石の結城もお手上げ状態になる
今回タケルと冥夜がメインホールに到達出来たのも、例の特別設定を生かしてBETAとの戦闘を控えた結果、辿り着いた。


しかし、メインホールはそう簡単には突破出来ない事は良く知っている二人
『門級』の脳を操作して開閉作業をしなければならないし、その後脳を破壊しないと後続のBETAを侵入を許してしまう為、破壊作業もしなければならない。


それをたった二人で作業をする事は不可能
但し、鎧衣美琴が入れば可能だが、残念だが今回は居ない。


「………まあ、今回の目的はオリジナルハイヴを知る事だから、まだ良いけど…このままじゃ駄目だね…」


結城の呟きを聞き、苦痛な表情をする孝志達
歴戦の武人である紅蓮大将や神野大将ですら、表情を曇らせる。


「……大丈夫です。
その対策を今博士が頑張って開発しています…。」

「「「えっ!?」」」

霞の言葉に驚愕の表情を浮かべる孝志達
結城ですら唖然としていた。


「霞ちゃん…それは一体…?」

「博士は元々計画上ハイヴ攻略は必要不可欠だった為、『対ハイヴ攻略用』を開発してました。
そして、それはオリジナルハイヴ攻略を想定した開発です…」


カタカタとキーボードを打ち込む霞
そして、画面に表示された映像を見て、タケルの表情に笑みが戻る。


「……これが人類最強の切り札の『戦略航空機動要塞・凄乃皇』です。
そして、現在横浜基地でこれを『製作中』です。」

映像に表示された凄乃皇を見て、言葉を失いながら、ただ画面に注目する結城達だった…






---あとがき---


しばらくぶりです、騎士王です。


今回は遂に公開されたオリジナルハイヴと凄乃皇の話です。


読者様の中には『なんでイキナリ公開したの?』と思った方も居るでしょう。


オリジナルハイヴについては、『全員生還』するには、1ヶ月前から訓練しても遅いと考え、この時期から公開しました。

一応佐渡島ハイヴも攻略する予定に入ってるのだから、これぐらいの時期じゃないと、来年は忙しい時期になるので、今回公開しました。


凄乃皇はオリジナルハイヴの件とセットだった為、公開しました。
……幾らチートキャラが三人・四人居ても攻略は難しいので、『オリジナルハイヴ攻略+凄乃皇=全員生還が可能になる』……という考えを騎士王は思ってるので、凄乃皇を公開しました。





[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第六十九話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2011/07/10 13:51
「まぁ~ったく…とんでもない1日だったな…。」

「そう言うな、孝志」

驚愕の事実から数時間後。
1日の作業を終えて、タケルの住処である月詠家に集まる一同。


精神的にも疲労を見せながらも、孝志に声を掛ける政弘


「けどよ…流石にこれは言いたくもなるぜ?
オリジナルハイヴのデータやら、BETAの組織図やら、凄乃皇の事やら…
これほどの重要機密情報をいっぺんに公開されたら、深い溜め息のひとつだって吐きたいぜ?」

「確かにそうだが…
それを言ったら、タケルや霞嬢を見てみろ…
ああもドッシリとした態度を取れるのだ…此処で弱音を吐くわけにはいくまい。」

「いや、霞ちゃんはわかるよ?
あの幼いながらも、これだけの重要な事を背負ってる霞ちゃんはすげーと思うよ?
けどよ…」

チラッとタケルへと視線を向ける孝志
政弘もタケルへと視線を向けると……。


「ほ~れほれ護ぅぅ♪
こっちこっち、お父さんはこっちだぞぉぉ☆」

「だぁ~☆」


「………あれだけの事があって、これだけ緊張感ゼロな態度を取れるタケルを見るとな…」

「言うな……」


護と遊ぶタケルを見て、脱力感が一気に襲って来る孝志と政弘
……ちなみに、巌谷中佐や榊パパの親バカが感化されたのでは?と思う方は、気のせいにしてほしい。


「……けど、凄かったな…凄乃皇のデータ」

「ああ…確かにオリジナルハイヴのデータも、驚愕度や絶望感は凄かったが…あれを見て、実現が出来ると思うなら…無理はあるまい…。」

凄乃皇のデータを思い出す孝志と政弘


あの時見た凄乃皇は『凄乃皇四型』のデータで、その超火力の装備と、強固な防御力に圧巻された孝志達


話だけは聞いていた椿や沙耶・真耶ですら、そのデータを見て息を呑む程だった。


「2700mm電磁投射砲2門・120mm電磁投射砲8門・36mmチェーンガン12門・多目的VLSが小型で36基と大型で16基…」

「トドメに荷電粒子砲にラザフォード場…だっけ?
なんつー武装なんだよ…」


凄乃皇の武装に再び唖然とする孝志達


「どうしたんですか、二人とも?」

「…お前の緊張感ゼロの親バカ姿と凄乃皇の話をしてたんだよ。」

「堂々と酷い事言いましたね、孝志さん…」

するとタケルが近寄り、話を聞くと、孝志の言葉を聞いてちょっと傷つく。


「別に緊張感ゼロって訳じゃないですよ。
ただ、家に帰って来て家族と接する時ぐらいは、あんまりそういうのは持たないようにしてるんですよ。」

「成る程、確かに家にまでそのような緊張感を持ってくれば、空気が変わるからな…。
父も時折そういう空気を家に持って来て、話をかけづらい時が度々あった。」

「…大変だね、親は……」


タケルの返答を聞き、納得する政弘
孝志も記憶の中に似た記憶を思い、納得する。


「いやいや、孝志さんアンタも人の事言えませんよ?」

「何故?」

「孝志さんだって、椿さんと『結婚』したら、同じ事するんですから。」

「ブブゥゥゥゥッ!!」

「うわっ、汚ねっ!?」


タケルの一言で飲んでいた茶を霧状に噴き出す孝志
とっさに回避するタケルだが、政弘は回避出来ず『喝ッ!!』と孝志の顔面に拳を入れる。


「な…何突然言いやがる…?」

「いやいや、孝志さん人の事結構いぢくるけど、孝志さんの方は進展どうなんですか?」

「い…いいぢゃねぇか…」


自分と椿との関係を迫られ、顔を赤くしながら話を逸らす孝志


「孝志の事なら案ずるな、タケル
二人共タケルに影響されてか、順調に進展してな…
もうそろそろ結婚話のひとつやふたつ出るやもしれん。」

「ほほぅ…(きゅぴーん♪)」

「ま、政弘ッ!!」


思わぬ所からの奇襲攻撃に戸惑う孝志
タケルも目を光らせ、政弘に近寄る。


「先日、京都に帰ってすぐに二人で思い出の場所を二人っきりで過ごしてな…余りの甘い雰囲気に、流石の俺もそれ以上見る事が出来なかった。」

「何故それをっ!?」

「お前を探してたからに決まってるだろう。
椿は兎も角、お前は仕事を抜け出したから、探してみれば……
あんな甘ったるい雰囲気を見せつけてれば、逆に俺が出づらいわ。」

「は……恥ずかしい…。」

政弘の証言にピクピクと悶える孝志


(う…嘘…
あの時政弘に見られてた…!?)


そして部屋の隣では、タケル達と合流しようとしてた椿が顔を真っ赤にしながら悶えていた


(ど…どこまで見られてたの…?)


隣の部屋で息を殺しながら盗み聞きをする椿…


「それで、何処まで見たんですか?」

「椿が孝志の腕を組みながら寄り添い、何か孝志が呟くと、椿の顔が真っ赤になってたような…」

「ほうほう!?」

「…それで、どうなったんですか…?」

「おわっ!?
か、霞…何時の間に…!?」

政弘の話を聞き、強く興味を持つタケル
すると何時の間にか霞がタケルの隣に座って、政弘に質問する。


「流石にそんな甘ったるい雰囲気だったのでな、その場は退散したよ。
…しかし、その後の展開がどうなったかは容易に想像が出来る。」

「孝志さん……キス…したんですか……?」

「それ以上聞かないでくれ、霞ちゃん…」


霞の質問に答えられない孝志
……しかし、そんな態度を見せてれば、答えてるのと同じな訳で…


「……そういえば…その日、椿さんに用事あって九條の家に電話入れたんだけど…結局その日は連絡来なかったな…」

「……そうですか…
白銀さん、情報提供……ありがとうございます。」

「フム…成る程…という事は…答えはひとつ…。
タケル、そろそろ祝言の準備をした方が良いようだ。」

「ですね。」


トドメの一撃をタケルに入れられてしまい、HPがゼロになる孝志
隣の部屋でも椿が両手で顔を隠し、ピクピクと倒れていた。


「ごちそうさまでした。」

「…ごちそうさまでした。」


その後、みんなで晩御飯を食べる事になり、賑やかな食卓となる。
そして、タケルと霞が今食事を食べ終わり、全員が食事を終える事になる。


「タケルもすっかり父親らしくなったな。
護の食事の世話しながら自分のメシとか食べてたら大変だろ?」

「まあ慣れましたよ。
護の世話をまるっきり真耶さんに任せっ放しってのも駄目ですし、やちるさんだって忙しいですからね。
これぐらいやらないと、父親として失格ッスよ。」

「うわぁ…流石タケルさんだ……」


護に食事の世話をしていた為、食べ終わるのが遅くなったタケル
真耶は食事の片付け等があった為、孝志達より少し早めに切り上げていた。

そんな父親らしい姿のタケルを見て、駿が尊敬の眼差しをする。


「そういえば沙耶の妊娠も随分経つな。
もう少しで6ヶ月か?」

「ハイ、調べた時で1ヶ月でしたから、もう少しで6ヵ月になります。」

「もうそんなに経つか。
ところでタケル、名前の候補は決まったのか?」

「まだですよ…
あれこれ考えてますけど、まだ決まってません。」

「そっか…
……そういえばタケル
紅蓮大将や神野大将がくれた名前リストのノートはどうした?」

「ありますよ?
……意外とマトモな名前だったりするからビックリしますよ?」

沙耶のお腹の中に居る子供の話になり、名前の話題になるタケル達
すると孝志が以前紅蓮大将と神野大将が持ってきた名前リスト(計六冊)を孝志達の前に出し、覗いてみると……


「………………………まともな名前だ…」

「いや、幾ら紅蓮大将等とはいえ、赤子の名前をふざけて考えはしまい?」

「いや、普段はっちゃけてるイメージあるからさ…つい…。」

「…その意見には同意するわ、孝志」


予想以上にも良い名前が書かれており、驚く孝志達
政弘がフォローを入れるが、椿ですら同意してしまう辺り、日頃の行いのせいである。


「そういえばさっきは孝志さんをいぢくりましたけど、政弘さんはどうなんですか?」

「全く進展はナシだ。
…まあ、最近仕事が忙しがったり、孝志やタケルとつるんでだりしていたからな…そのせいもあってか、余り恋愛事の考えが出てこんのだ。」

「その考えは斉御司家次期当主としてマズい発言では…?」


政弘の恋愛話に持ち込むタケルだが、見事に政弘に一刀両断されてしまう程恋愛話が無く、思わずまりもからツッコミを入れられる。


「タケル~…誰か良い人居ないか?
ここまで来ると、独身を貫きそうで、流石に不安になるんだが…」

「確か…好みが静さんですよね…」

「確かにそうだが、ああも高嶺の花な方であれば、俺とて躊躇いもする。」

「確かに静殿は良妻賢母で大和撫子を足したような方ですからな…
気持ちはわかると思います。」

「……あの人も色んな意味で完璧超人だからな…」


候補として静の名前が上がるが、余りのチートキャラな為、政弘も躊躇いを見せる。
孝志・タケル・冥夜が静の私生活のチートさに納得してしまう


だが意外にも、来年国連軍に一時的に出向した際、意中の女性を見つける結果になるとは誰も予想だにしなかった。


そして、その次の日---

「今日の授業は此処までだ。」

「起立…礼!!」


今日の訓練兵への教官職を終えて、祷子が指示を出し、タケルとまりもに礼をする。


「白銀大尉、スミマセンが…ちょっと聞きたい事が…」

「なんだ、風間?」


教室から退室しようとするタケルとまりもだが、祷子が突然タケルを呼び止める。


「あの…その、以前入隊式の時に居た男性少尉殿の事で、質問が…」

顔を赤らめて正樹の事を質問する祷子
その様子を見て、『ああ…なる程…』と納得するまりも
タケルも自分の事でない為、意外と理解する。

「正樹の事か?」

「あ、ハイ、そうです。」

「前島少尉がどうかしたのか?」

(前島…正樹…うん、覚えましたわ。)


わかってはいるのだが、一応『知らないフリ』を演じて聞いてみるまりも
祷子も正樹の名前をゲットし、心の中に忘れないように正樹の名前を呟く。


「その……前島少尉は…今…何をしてるのでしょうか…?」

「いや、何をって言われても…
確か今は書類整理等の雑務をやってる筈だけど…。」


『本当の質問の内容』を恥ずかしくて聞けず、なんともマヌケな質問をしてしまう祷子
タケルも、その質問に少し唖然としながらも、答える。


「風間…恥ずかしい気持ちはわからんでもないが、ハッキリ答えた方が良いぞ?」

「すっ、スミマセン!!」
呆れ顔をしながら、注意するまりも
慌てて謝る祷子を見て、苦笑いをするしかなかった。


「一応言っておくが……前島少尉は『彼女持ち』だぞ?」

「!!!」

「しかも、今の日本は『一夫多妻制』だから、その彼女を含めた四姉妹が揃って前島少尉を好意を抱いて激しいアプローチを繰り広げている激戦地だぞ?
お前はそんな過酷な戦いに、その身を投じる事が出来るのか?」

「そ、それは…」


流石にたじろぐ祷子
まりもも、祷子にしろ、みちるやまりかにしろ、『教え子』だから応援したいのだが、流石にこの状況に救いの手を差し出す事が出来ないで悩んでいた。

だが---


「諦めたら駄目だよ、祷子」

「私達が支援してあげるから、奪い取るつもりで挑みなって♪」

「同じ仲間じゃないですかぁ~♪」

「か…神代さん…巴さん…戎さん…!!」


巽・雪乃・美凪の助力に感動して涙を滲ませる祷子
タケルやまりもも三人の行動に感心し、笑みを浮かべる。


「私も助力するぞ、祷子」

「ナスターシャさん…!!」


そして一番仲が良いナスターシャの援護も得て、感涙する祷子


仲間達の支援を得て、『祷子…頑張れ…!!』と自分に勇気を持たせるように呟く。

そんな純情な祷子の姿を見て、癒やされるタケルとまりも


「けど風間…頑張るのは良い事だけど…………相手は手強いぞ?」

「大丈夫です…白銀大尉。
皆さんの心強い支えがあるんです。
強敵である彼女や他の姉妹さん達にも負けませんっ!!」


仲間達の支援もあってか、力強く宣戦布告をする祷子だが----


「いや…確かに伊隅大尉達も手強い事は間違いないんだけど………
それ以上に手強い敵は…正樹自身なんだ…。」

「「「「へっ?」」」」

「……それは一体…?」

タケルの言葉に不安な表情を見せる祷子
一方タケルは…なんともいえないビミョーな表情で苦笑いを見せる。


「オレも人の事は言えないんだが、正樹はな………重度の鈍感持ちだ。」

「ハッ?」

「正樹と伊隅大尉率いる四姉妹はな…『幼なじみ』の関係なんだが…
その鈍感故に、長年四姉妹達が送っていたアプローチのサインにも気づかない程の鈍感の持ち主なんだ…」

「つ、つまり…」

「今、風間が正樹に対する好意は勿論、四姉妹の内の長女・四女の好意ですら気づいてない…と思う。
……下手したら…三女も怪しい……」

「な………ッ!!」


正樹の鈍感の凄さに衝撃を受ける祷子
事実故に『………まあ…なんだ…頑張れ』と祷子の肩にポンっと手を乗っけながら同情するタケル
鈍感の大変さを良く知るまりもも、涙を流しながら『本当に…本当に大変だぞ…』と経験者は語る。


「今から作戦会議を行う。」


タケルとまりもが去った後、教室に居残り、祷子の為に作戦会議を行うナスターシャ達
仲間達の暖かい友情に感動する祷子だが、これからの厳しい戦い(恋愛)に備え、気を引き締める。


「前島少尉に祷子の想いを伝える事が最重要課題となる。
---問題は、『どうやって伝えるか?』だ。
勿論、現在一番の注意人物である伊隅みちる大尉
次に伊隅まりか少尉
長女の伊隅やよい・四女の伊隅あきらはまだ好感度がまだ判明出来ないので、保留にする。」


今作戦のリーダーであるナスターシャがライバルである伊隅四姉妹の名前を挙げる。

「ハイ、質問です!!」

「何かな、巽?」

「何故ナスターシャさんが伊隅大尉達の名前を知ってるの?」

「……先程、白銀大尉からコッソリ聞いた。」

「何時の間に…!!」

「抜け目が無いですわぁ~。」


巽の質問に内心ビビりながらテキトーに誤魔化すナスターシャ
だが、巽達には全然怪しまれる事無く済んだ辺り、ビミョーな気持ちになったりする。


「今現在『彼女』の位置にいる伊隅大尉だが、『同じ部隊』に居る伊隅少尉も油断ならない存在であり、現在祷子の告白に障害になる相手だ。
まあ、個々の実力は劣るが、数では勝ってる。
伊隅少尉に関しては私達でなんとか抑える、良いな?」

「「「了解!!」」」

「一番の問題は…前島少尉本人だ。
白銀大尉の話を信じるならば、相当な鈍感の持ち主。
まず、生半可なアプローチでは逆効果
此処はストレートに『好きです!!』…と告白する方法しかあるまい。」

「………ッ!!」


ナスターシャの提案に激しく動揺する祷子
ドキドキと高鳴る鼓動を抑えようと胸に手を添える。


「勿論、今私が言った以外の案があるなら言ってくれ。」


「ハイ、ちょっと質問ですぅ~」

「美凪、なんだ?」

「今思ったんですけど、入隊式以降に祷子さんは前島少尉と面識は有るんですか?」

「いえ……残念ながら…」

「なら、いきなり『好きですっ!!』って告白するのはマズいのではぁ~?
もう少し慎重に接する時間を作って、それから告白した方が良いと思うんですけどぉ…。」

「………なる程、一理あるな。」


美凪の疑問と別な案を聞いて『確かに…』と納得する一同
リーダーのナスターシャも美凪の意見に納得しつつ、別な意見を訪ねる。

「他に疑問や質問や案は無いか?」

「うーん……ヤッパリ定番らしく、前島少尉の趣味とかを聞いてみてから行動してみるってのはどうかな?
それから告白するのも遅くないと思うんだけど。」

「確かに…。
だが、一体誰からその情報を得るか…だな。」

「白銀大尉は?
白銀大尉なら男同士での会話とかもしてそうだけど…?」

「………多分駄目だろう。
白銀大尉は今回の件には中立な立場だ。
どちら側の味方にはならないから、情報提供は期待しない方が良い。」

「そっかぁ~…なら、誰から…?」


雪乃の提案には納得するが、聞き出す相手がタケルでは、恐らくは無理と判断するナスターシャの言葉を聞いて『むぅ~…』と難しそうな顔になる雪乃


「そうだっ!!
ナスターシャさん、時々香月博士と会話したりする?」

「うん?
まあ……時折博士から連絡があるが……………止めた方が良いぞ?」

「何故?」

「確かに博士なら、前島少尉の趣味等の情報を知っていてもおかしくはないが……
それには多大なリスクと混乱を招く結果になるから、オススメはしない。」

「………………………そっかぁ……なら止めた方が良いね。」


香月博士から聞き出す案を出す巽だが、ナスターシャの言葉を聞いて『ヤッパリやめておこう……』と提案を却下する。
彼女達も香月博士のイタズラの被害に遭うタケルやまりもを見てる為、全員一致する。


「…困ったな。」

何か良い方法が無いかと悩むと---


「………ターシャさん…探しました。」

「霞………あっ---」


するとナスターシャ達の居る教室に霞が訪ねて来たのだった……。



---あとがき---


あっっっっついッ!!
…………しばらくぶりです、騎士王です。


今回は前回の話の続きを最初だけ入れ、本題は【恋愛話】の話になりました。


一応次話も続きの話の予定ですので、孝志・祷子関連で行くと思います(多少の変更の可能性アリ)


しばらくぶりの祷子さんのイベントなので、慎重に考えねば…(-.-;)



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第七十話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2011/07/17 14:00
霞に連れられ、とある部屋に入るナスターシャ。
その際入り口付近で待っていた斉御司大佐も一緒に入室する


其処は通信設備のある部屋で、部屋の入り口付近では斉御司大佐が他の者を近寄らせない為に数名護衛を付ける。

そして、その通信相手は---


『しばらくぶりだな、イヴァノワ大尉。
少し…痩せたか?』

「ははは…此処の訓練兵の訓練は…予想外にもハードです…。」

『そ、そうか…。
まあ…身体には気を付けるんだぞ…?』


まりものシゴキで少し痩せるナスターシャ
余りのハードな訓練故に、ナスターシャも瞳を暗くして『……あれは正規兵の訓練以上にキツいです…。』と小さな声を呟くが、ちゃっかりと向こう側に聞こえていたりする。


「『ラトロワ中佐』もお元気で何よりです。
ジャール隊のみんなは元気ですか?」

『元気過ぎて困るぐらいだよ。
まあ…やはりイヴァノワ大尉が居ない事で、時折寂しがってるぞ?』

「アハハッ♪」


溺愛する『フィカーツィア・ラトロワ中佐』と通信越しで、他愛もない会話をするナスターシャ
その表情は、日本に来て一番の笑顔だった。


『さて、世間話はこれぐらいにして、本題に入ろう。』

「ハッ!」

ラトロワ中佐の『軍人としての表情』を見せた後、ナスターシャも凛とした表情に変え、本題に入る。


「本題に入る前に…こちらの方は、帝国斯衛軍大佐の斉御司兼嗣大佐です
そして、こちらの少女は、国連軍所属で香月夕呼博士の助手の社霞です。」

「初めまして、フィカーツィア中佐
私は斉御司兼嗣大佐と申します。
此度は極秘の通信故に私が立会人という形で御同席致します。
その辺は済みませぬが、御理解頂きたい。」

『了解致しました。
…ところで、其方の少女は…?』

「…私は、今回お話する新OS等のデータを説明しますので、その詳しい説明等を致します。」

「こう見えても霞は『天才少女』でして、この年で香月博士の右腕的な存在でもあるんです。」

『ホウ…それは凄いな。』

霞を見て感心するラトロワ
何より、信頼する部下の評価な為、その実力は確かと理解する。


「紹介も終わった所で…本題に入ります、中佐」

ナスターシャの言葉に反応し、その一言も漏らさぬように鋭い視線をしながら聞くラトロワ


「今回日本に来て、早速『新OS・XM3』を体験致しました。
その性能は……予想以上の物で、今までの旧式のOSを二度と使いたくなくなる程の物でした。」

『ホウ…それで?』

「主に『キャンセル』と『コンボ』が導入され、今まで出来なかった機動を可能にしたOSです。
まぁ…言葉より見た方が早いですね。
霞、お願い。」

「ハイ…」


カタカタとキーボードを打ち込む霞
すると、ラトロワ側のモニターに不知火や撃震の戦闘映像が流れる。


『こ…これは…!?』

「…この映像は、先の戦いである『明星作戦』の映像です。
これを見てわかると思いますが、今までの戦術機には出来なかった機動を可能にしました…。
結果、この新OS・XM3を導入し、『本土侵攻戦』『明星作戦』の結果、『衛士の戦死者を半数に減じた奇跡のOS』と呼ばれるまでになりました…。」

『半数…だと…!?』

「ハイ…。
そのおかげもあって、甲22号『横浜ハイヴ』を攻略に成功し、人類初のハイヴ攻略に成功する、ひとつの要因になりました…。」

『…成る程。』


霞の説明を聞き、驚愕しながらも、XM3の性能を理解するラトロワ


その後、様々な話を説明し、ラトロワの驚きの表情を見て、ナスターシャは『役に立てた』と、少し満足する。


それからしばらく、技術面な話をし、終えた後にナスターシャは『例の件』について質問する。


『フム…これで今回の話は終わりか?』

「あ、ハイ。
ただ……スミマセンけど、ラトロワ中佐に少し質問が…。」

『何だ?』

「プライベートの話なんですが……
『恋愛関係』の事で相談…したいんですけど、良いですか?」

『何?恋愛関係の話だと!?』


ナスターシャの口から予想外の言葉が出て来てポカンと呆然とした顔になるラトロワ

「いやいや!!私自身ではありませんっ!!
訓練兵仲間の一人ですっ!!」

『なんだ、残念だな……
ターシャの惚れた男性とやらにどんな奴か期待したのだが…。』


慌てて訂正するナスターシャを見て、小さく笑うラトロワ
思わずプライベートで使う『ターシャ』という愛称を使い、先程までの『軍人としての顔』から『母親』へと変化する。


『それで、その相談事とは?』

「実は…」


詳しく説明をするナスターシャ
その話を聞き、顔を引きつりながら、最後に小さな溜め息を吐くラトロワを見て、『アレ…なんかマズい事聞いたかな…?』と冷や汗ダラダラと流す。


『結論を言う……
ハッキリ言って、気が遠くなる程の根気と、相手の首に縄付けて引きづるぐらい強引にいかないと、その手の相手は自分に振り向く事は愚か、好意に気付く事は無いと考えた方が良い。』

「そ、そこまで……ですか?」

『無論だ。
鈍感相手にアピールなんぞ無駄と思え。
やるなら相手を押し倒すぐらいやらなければ、振り向かないと思って間違いない。』

腕を組みながら視線をズラすラトロワ
……実は亡くなった旦那も鈍感野郎だったりする。


「……鈍感相手に好意を伝えるなら、チャンスを逃さず強引に攻めるべきです。」

『「えっ?」』


すると突如霞も参戦し、意表を突かれる。


「白銀さんは前島少尉以上に鈍感です……。
その白銀さんに好意を伝える方法として、私は『お姫様抱っこ』をして貰ったりしてます…。」

「おおおお…お姫様抱っこ!?」

『成る程…確かに有効な手段だ。』


霞がタケルに好意を伝える方法として『お姫様抱っこ』をして貰ってる事を話すと、顔を真っ赤にするナスターシャと、『成る程…』と納得するラトロワ


「純夏さんは白銀さんと一緒に温泉に入って、気持ちを伝えたそうです。
それで白銀さんは純夏さんの好意に気付いたと聞いてます…。」

「ななななっ!?
す…純夏が…そんな事をっ!?」

『………やるな。』

「ちなみにこの『温泉作戦』は、他の鈍感相手にも有効で、現に伊隅大尉が前島少尉に好意を伝え、恋人関係になったのも、この『温泉作戦』のおかげです。」

「嘘っ!?」

『成る程…実証済みか…。
確かにかなり有効な手段だな。』


『温泉作戦』の効果を知り、戸惑うナスターシャ
…彼女にはまだ早かったかもしれない。


「ゴホンッ!!
あ~…済まないが、そろそろ通信を切って構わないかな?
…気持ちとしてはわかるのだが…極秘の通信故今回はこれぐらいにして貰うと助かる。」

「あ゛っ」

「…スミマセン」

『フフッ…残念だな。』


女性同士のトークに待ったをかける斉御司大佐

すっかり極秘の通信という事を忘れていたナスターシャと霞だが、ラトロワ辺りは斉御司大佐の反応を見ていて楽しんでいたりする。


『それでは…ターシャ…身体には気をつけるんだぞ?』

「ハイ!
ラトロワ中佐もお身体を気をつけて下さい。」

『ああ、わかった。
では、通信を終了する。』


最後にお互いの健康を心配し、敬礼しながら通信を終える。


その後、斉御司大佐に頭を下げてから解散し、再び祷子達の下に駆け寄る。


「只今帰った……………………………って、どうしたの……この重苦しい空気…?」

部屋に入ると、ずーーーん…と空気の重さに驚くナスターシャ


「いや、実はね……」



回想~~~


ナスターシャと別れ、祷子達はPXへと移動する。
すると、PXに正樹を発見する事になる。

『祷子祷子っ!!
前島少尉を見つけたよっ!!』

『えっ!?』

『あっ、本当だぁ…
ヨシッ!!祷子、前島少尉と少しお話しようか♪』
『ええっ!?』

『今回は祷子の事を覚えて貰うのと、前島少尉の情報を集める事にしよう。
好意云々は次回にしてさ。』

『な…成る程。』


巽の提案に納得し、前島少尉と接する事にした祷子達

カウンターで食事を貰い、速攻で正樹達の下に向かう。


その時、正樹の他、駿と真那が同席していた。


『相席宜しいでしょうか?』

『無論だ、構わないぞ。』

『ありがとうございます』

雪乃が真那に同席を願うと、真那の方も同席を許可を出す。


『アレ?確か君達はタケルさんの…』

『ハイ、白銀大尉からご教授してもらってる訓練兵です。』


そして駿も祷子達を見て思い出し、『ああ~…あの時の…』と反応を見せる正樹を見て、ホッとしながら駿の質問に答える祷子


『あの…前島少尉…
あの時は…どうもありがとうございます。』

『うん?
…………もしかして、あの時転びそうになった時に助けた事?』

『ハイ、そうです。
あの時は御礼を満足に言えなかったので…』

『別に気にしなくても良いよ。
………確か……風間…祷子訓練兵だっけ?』

『----ッ!!
ハ…ハイ、名前を覚えて貰い光栄ですっ!!』


正樹に名前を覚えていた事に感激し、涙を流す事をグッと堪える祷子

巽達も机の下で小さくガッツポーズや親指を立てて喜んでいた。

そして美凪が正樹達に質問をしてみる

『皆さんは、休日とかは何をされてるのですかぁ~?』


『剣の稽古だな。
無論、買い物とかもするが、大抵は道場で鍛錬をしている。』

『僕は小説とか読んでるかな~?
あとは休日が合えば、タケルさんや孝志さん達と一緒にいるかな?』

『俺も五十嵐少尉と似たモンかな?
あとは、時々趣味の写真を撮ってたりしてるかな?』

(趣味は写真撮影…と…)


正樹の趣味を聞き、脳内にメモる祷子達
すると祷子を支援するように雪乃も続く。


『写真撮影ですか?』

『ああ、元々カメラマンが夢だったからね。
訓練学校に入る前は、香月博士のお姉さんにあたる天才カメラマンの香月ミツコさんの下に弟子入りしてたからね。
短い期間だったけど、充実した時間だったよ。』

『そうでしたか…』

『こんな時代じゃなければ、世界中飛び回って写真を撮りたかったよ。』

(夢はカメラマンかぁ~…)


正樹の夢を知り、成る程……と頷く一同。


その後、たわいのない会話をする祷子達

---すると、突如駿と真那が立ち上がり、トレイを持ち立ち去ろうとする。


『あっ、下がりますか?』

『前島少尉はそのままいて構わない。
私と五十嵐少尉は用が有って下がる。』

『ご…ごゆっくり~…』

正樹も立ち去ろうとするが、真那に止められ、残る事になる。
祷子達は『やったぁ…☆』と心の中で呟く。



しかし---この二人の立ち去る『意味』は別な所にあった---


駿と真那が去って一分後…それは起きた。


『正樹、隣に座るわよ?』

『あっ!?ズルいっ!!』

『まりかに……って、みちる?』

『『『『え゛っ?』』』』


突如正樹の前にみちるとまりかが現れたのだ。


そう……先程の駿と真那の行動は、みちる達と視線が合い、アイコンタクトをしてたのだ。


勿論、タケルの件でアイコンタクトしなくても、みちる達を見た瞬間、駿と真那は立ち去る事を決めていたのだが。


因みにアイコンタクトの会話の内容は---


(正樹の隣…譲れ)

(は……ハイィィィィッ!!)


主に正樹の隣に座ってた駿とみちるのアイコンタクトだが、そのアイコンタクトの会話を理解し、真那も立ち去る事になったのだ。


後に駿は語る……。
『伊隅大尉の背後に……鬼が見えた…。』


乙女心は複雑である。


『何時来たんだ?
って…いうか…何故帝都に?』

『香月博士の使いよ。
二・三日滞在する事になったわ。』

『へぇ~…そっか~…』

みちるが居る理由を聞き、納得する正樹だが、祷子達にすれば『まさかこんな所で出ぐわすとは……』と嫌な汗がダラダラと流れる。

『…この子達は?』

『白銀大尉やまりも大尉の今の教え子達だよ。』

『へぇ………この子達が…』

この瞬間---
空気が一気に冷え込み、重苦しい重圧感になった---



そして、現在-----


「………って事があって……。」

「終始、伊隅大尉の威圧感で……睨まれた蛙状態?」

「一番被害を喰らった祷子さんは……ああちゃってぇ~…」

「………なる程。」


巽・雪乃・美凪の説明を聞いて、頭を抱えるナスターシャ

ベッドの上で体育座りで涙ぐんで落ち込む祷子のそばに寄り、慰める。


「祷子…しっかりして。」

「ナ…ナスターシャさん……」

「話は聞いたよ。
ゴメンね、助けてあげれなくて…。」


祷子の頭を抱きしめて、頭を優しく撫でるナスターシャ

自分がラトロワ中佐にしてもらったように、今度は自分が祷子を慰める。


「祷子は私が守ってあげるよ。
勿論みんなも一緒にね。」

「で…ですが、伊隅大尉は…」

「大丈夫っ!!
私が祷子の盾になってあげるから。」

「ナ…ナスターシャさん…」


ナスターシャの言葉に目尻に涙を溜め、感激の涙を流す祷子

離れた場所で『エエ人や…』と涙を拭う巽達。
ナスターシャの厚い友情に感動したらしい。


「ヨシッ!!
これから伊隅大尉に挑戦状を叩きつけに行くよっ!!」

「「「はっ?」」」

「どういう事ですか……?」


突然のナスターシャのセリフに驚愕する祷子達。
恐る恐る質問すると……


「このまま舐められたままじゃ、伊隅大尉達に挑む所か、前島少尉に近寄る事すら出来ないよ?
---なら、堂々と喧嘩売らなきゃ駄目だよ。」

強い気持ちで祷子を説得するナスターシャ
みちるに脅える祷子だが---


「恋は戦いだよ?
戦ってぶつからなきゃ、意中の人はゲット出来ないよ!!」

「恋は戦い…」

「純愛な恋愛もアリだけど、今祷子がやる恋愛は『殴り合い』もアリな恋愛だよっ!!」

「殴り合い!?」

「そ、殴り合い
それぐらいの覚悟が出来なきゃ、伊隅大尉達と戦えないよ?」


中々ハードな説得をするナスターシャに戸惑う祷子だが、目がぐるぐると渦巻き状態になり、あと一押しで洗脳完了になりそうだ。

「前島少尉と一緒にデートしたくないの?」

「し…したいです。」

「前島少尉に抱き締められながら『好きだよ…祷子…』って言われたくないの!?」

「い、言われたいです…!!」

「前島少尉と一緒にチャペルで愛を誓い合って、結婚したくないのっ!?」

「したいですっ!!」


洗脳完了---
先程までの落ち込んでた姿は無く、恋愛という炎を燃やす祷子になっていた。


「ヨシッ!!その意気よ祷子。
みんな、祷子の為に死ぬ覚悟は出来てるか?」


「「「サー・イエッサー!!」」」

「ヨシ、これから伊隅大尉を拉致るわよっ!!
前島少尉の前じゃ祷子が緊張しちゃうから、拉致ってから挑戦状贈るわよっ!!」

「「「オーッ!!」」」


こうして、ナスターシャ達の暴走が始まった。


「ん…何だアレ…?」

「ナスターシャ達…?」

ハンガー入り口前にある休憩所で戦術機の話をしていたタケル達第17大隊の面々
みちるも香月博士の用件でタケル達と一緒に居た。
すると、タケルとまりもが『ドドドドッ…!!!』と突撃級ばりに爆走して来るナスターシャ達を目撃する。

いや、それどころか、タケル達の所めがけてオー○のように赤い目をしながら突進して来る!!


「居たぞっ!!
伊隅大尉を拉致せよっ!!」

「「「オーッ!!」」」

「な、なんだとっ!?
って……うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


正に疾風怒涛の如くの突撃&退却
流石のみちるも突然の事に驚愕し、なすがまま拉致られる。


「な、なんだアレは……?」

「ふぁいとです……」


突然の事で唖然とするタケル達
唯一事情を知ってる霞は小さな声で応援する。


「ヨシッ!!此処まで来れば大丈夫だ!!」

「……一体何なのよ?」

みちるの拉致に成功したナスターシャ達
当のみちるは目撃者多数の視線に顔を真っ赤にしながらナスターシャを睨むが、風をいなす柳の如くスルーする。


「さっきはよくも祷子をイジメたようですね?
大尉ともあろう方が訓練兵相手に威圧かけるなんて大人げ無いのでは?」

「あれぐらいで脅えるようじゃ、相手にならんと思うが?」

「仲間から聞いた話ですが…
周りの人達や前島少尉すら脅えさせる程の威圧はどうかと思いますか…?」

「う、煩いわね…」

流石に『あれはやり過ぎた』と思うみちる
あの後、正樹の脅えようを見て『失敗したわ…』と反省していた。


「だから、仕切り直しに祷子が大尉に挑戦状を叩きつけに来たんですよ。」

「……だからって、アレは無いでしょ…」

「これで先程の件はチャラですよ。」


(す…凄い…あの伊隅大尉と堂々と戦ってるよ…)

(凄いですぅ…)


ナスターシャと祷子の後ろでナスターシャの奮戦する姿に感動する巽達
…まあ…ナスターシャも本来は同じ大尉だからこそ言えるのだが、それは祷子達は知らない。


「なる程…」

ジロリと祷子を見るみちる
以前、まりかから聞いていた為、要注意していた。

そして、視線を外して深々と溜め息を吐く。


「ハァ…全く、正樹の奴ったら…。
恋愛原子核って奴もかなり厄介だな…。」

「恋愛原子核?」

「香月博士曰わく『原子核に吸い寄せられる電子のように、対象者のまわりには大体異性がおり、しかも何故か大抵が好意的である』らしいわ…
分かり易く言えば……白銀を見ればわかるわ。」

「あ……なる程。」


恋愛原子核の意味を知り、納得するナスターシャ達
タケルを例題として出すと、その意味を理解してしまう。


「それで…?」

「わ、私…前島少尉の事が好きです…。
今はまだ伊隅大尉には適わないかもしれませんが…負けるつもりはありませんっ!!」


再び祷子を鋭い視線で見るみちる
PXの時とは違い、威圧は無いものの、恋愛という意味で敵視する。

そしてそんな視線に負けじと勇気を出し、堂々と挑戦状を叩きつける祷子


そんな勇気を出した祷子にみちるは笑みを浮かべ、同時に複雑な感情で苦笑いに変わる


「言っておくが、一番は譲るつもりは無い。
それは姉や妹達とて同じ事だ。
それに---正樹は半端じゃない程鈍感だ。
白銀程じゃないにしろ、あの鈍感には私だって、どれだけ苦労したか……」

「それについてはご安心を。
今は出来ませんが、一応策は有ります。」

「「「「エエッ!!?」」」」

「…ほう、それは『何か』と聞いて良いかな?」

みちるの警告の後に必勝の策がある事を告げるナスターシャ
その言葉に祷子達から驚愕の声と、みちるの興味深々の声が挙がる。


「伊隅大尉もやった『温泉作戦』みたいなインパクトのある策ですよ♪」

「な゛ぁ゛っ!!?」

「「「「温泉作戦!?」」」」

「『温泉作戦』は、対象者と一緒に温泉に入って告白する策ですよね…伊・隅・大・尉~?」

「「「「え゛っ?」」」」

「ななな…何故それをっ!?」

「さあ?秘密です。
伊隅大尉もその話を聞いて実行したんですよねぇ~?」


形勢逆転し、追撃するナスターシャ
正樹を口説いた秘策がバレて真っ赤っかになるみちる


「まあ、今その策は使えません。
まだ知り合ったばかりの祷子がそんな事したら、逆に前島少尉から避けられますからね。」

「あ……当たり前よっ!!
あれは私みたいに長い付き合いがあってこその策よ。」

「---だから違う案で攻めるつもりです。
『温泉作戦』に比べれば、好感度の上昇は低いですけど、これならば今の祷子でも出来る策です。」

「な…なによ……その策って…」

「秘密です。
邪魔されたら困りますからね~♪」


アワアワと慌てるみちるを見て、楽しみながらいぢくるナスターシャ


巽達やみちるは語る---
『あの笑みは香月博士にソックリだった…』と…

悪玉・香月菌に感染されたか?


「フ…フンッ!!
どうせハッタリでしょ。」

「いやぁ~……戦術機適性検査…楽しみだなぁ~(ボゾッ)」

「な、何っ!?
戦術機適性検査だとっ!?」

「えっ?何の事ですか~(笑)」


最早今回の対決はナスターシャに軍配が上がった。
小さい声で呟いたナスターシャの言葉に敏感に反応し、質問するみちるだが、ナスターシャは『知りませ~ん♪』的な態度で祷子達と共に早々に立ち去る。


(戦術機適性検査は確か白銀大尉の『全力変態機動に複座する』事って香月博士から聞いてる…
なら、これを使ってフラフラになった祷子を前島少尉に『お姫様抱っこやオンブ』して貰えば幾ら鈍感言えど…フフッ♪)

後々体験するであろう『恐怖の戦術機適性検査』を利用する事を考えていたナスターシャ


勿論祷子達はその意味を知ってる訳もなく、ただナスターシャの笑みを不思議そうに覗いていたのであった……。



あとがき----


騎士王です、今回はヤヴァかった……
危うく今日更新出来ない所だった。


二・三日リアルで仕事がきつかったので、ネタが後半出来てなかった。


昨日の晩から妄想フル活動し、なんとか今日更新出来ました。


まあ…おかげで孝志&椿の話が出来なかった…
近い内に載せねば…(-.-;)


今回はラトロワさん初登場&祷子のお話でした
因みにラトロワさんの旦那さんが鈍感な設定はオリジナルなので、万が一旦那さんの資料が有りましたら御報告下さい。

修正の必要があればします。




[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第七十一話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2011/07/26 08:36
2000年・2月26日

京都・帝都城下町---

「あっ、居た居たっ♪
おーい、タ~ケ~ル~☆」


帝都城のとある街中で、タケル・冥夜・霞を待つ美琴・慧・千鶴が居た。


タケル達を見つけると、美琴が手をブンブンと振りながらタケルの名前を大きな声で叫ぶ。

「美琴、落ち着けって。
…あんな大声で叫ばれたら、こっぱずかしいって…。」

「だって、タケル達にしばらくぶりに会うんだもん♪
楽しみにしてたんだから許してよ~♪」


ウキウキしていて興奮気味の美琴に『やれやれ…』と苦笑するタケルと冥夜
美琴と一緒に居た千鶴や慧もちょっと恥ずかしがったりする。


「---そっかぁ~…
訓練高等学校も京都に移ったのか~…」

「ええ、帝都の城下町周辺も被害自体は少なく済んだから、京都に移る事になったの。」

「……元々訓練高等学校は横浜だったけど、一度BETAに占領されてボロボロ…
仙台はビチビチだったから、京都や東京とかに分ける事になった…。」

「ボク達の場合は香月先生や悠陽さんの力で京都に移る事になったんだ。
まあ、慧さんや千鶴さんの場合は、親の都合もあるから、丁度良かったんだけどね。」


三人が通う訓練高等学校が仙台から京都へ移る事になり、こうしてまたタケルや冥夜達と会う事が出来るようになった。


勿論、美琴が言った通り、香月博士や悠陽殿下の力も有り、三人を京都に移した。


彩峰准将や榊首相の場合は、軍事的理由や政治的理由も有り、京都に来る事が以前から決まっていた。

彩峰准将の場合は、元々部隊が帝国本土防衛軍な為、殿下を始め、帝都を守護する為に京都に来る事は決まっていた事

そして榊首相は、首都が京都のままな為、官邸が京都に戻る事になった。
そして帝都復興を始め、まずは京都周辺の都道府県を中心にし、BETAに被害を受けた地域の復興活動の拠点という意味で榊首相自らも住まいを京都に移したのだった。


「純夏さん達に会えないのは残念だなぁ~…」

「仕方ない、純夏やクリスカ達は横浜基地に居るからな。
そう簡単には来れないさ。」


純夏達は横浜基地に移った為、再会出来ずに残念がる美琴。


「そう…残念ね。
所で白銀と冥夜と社は今は何をしてるの?」

「私は特に、訓練の毎日だ。」

「…私は主に結城さんと一緒に開発を進めてます…。」

「俺はまりもちゃんと一緒に教官職が殆どだな。」

「……知ってはいるけど、未だに白銀が教官をしてる事に驚いてしまうわ…。」

「…その気持ち、わかる。」

「うっせ」


未だにタケルが教官職についてる事に半信半疑な千鶴と慧
慧も同乗したのでツッコミを入れるタケルの姿を見て笑い声が響く。


それから少し移動するタケル達
途中喉を潤す為、売店で飲み物を買い、近くの公園のベンチでゴクゴクと飲む。


「ふぅ…本当は店で飲食出来れば良いんだが…」

「仕方あるまい。
復興して間もないから、そのような店はまだ片手で数える程しか無いからな。」

「だな。
まあ、昼飯は以前通ってた店が再開したから、其処で食べるぞ。」

「やったぁ~♪
タケルのおごりだぁ~☆」

「…ヤキソバ激しく希望…!!」


「オイッ!?
…たく…仕方ねぇ…………んん?」


美琴と慧の一言で、昼飯を強制的に奢らせる事になり、ツッコミを入れるタケル
すると…『珍しい光景』を目撃し、注目する。


「どうした、タケル?
おかしな声を出して。」
「……あれって…駿と真那さんだよな…?」

「何…?
…確かにアレは月詠だな…。」

「…なんか妙にぎこちないようね…?」


タケルが目撃したのは、駿と真那の二人。
お互いに私服姿で少しぎこちなく歩いていた。

冥夜・千鶴の目から見ても、やはり何故かぎこちない姿に写り、より一層目立っていた。


「…もしかして、デート?」

「何っ!?
そのような事月詠から聴いておらぬぞっ!?」

「…静さんは聞いてますか?」

「いえ、初耳です。」


慧の一言に驚く冥夜
そして、タケルも初耳だった為、千鶴を影から護衛していた静に訪ねると、スゥ…と姿を現せながら質問に答える。


「……そういえば…
真那さん…ショタコンだったような…気が…」

「そうなのか?」

「確かな。
以前言った『最初の元の世界』の頃の記憶なんだけど…
確かその頃男だった『尊人』が、真那さんにエラく気に入られてたんだよな…。」

「確かに真那は子供好きな所が有るのは知ってますが…」


そしてタケルが『最初の元の世界』の頃の真那を思い出し、『尊人』の事を良く気に入っていた事を思い出す。
そして静の一言で、ある意味確定する。


そして、当の本人達は---


「…………えっと……真那さん、他に行きたい所ってありますか?」

「………うむ、そうだな…。
では……」


お互いに顔を真っ赤にしながら、モジモジと沈黙する二人。
駿が真那に行きたい所をリクエストすると、真那もそれに応え、行き先を決める。


「……どうする白銀…?
尾行する?」

「うーん…そっとしておこうか…。
これが孝志さんとかなら、尾行するんだけど…駿はちょっと可哀相かな?」

「そうね、そっとしておきましょう。」


慧に『尾行する?』とウキウキしながら聞かれるが、可愛い弟分の駿のデートな為、今回はそっとしておこうと決める。


それからしばらく経ち、静も交えながら、休日を楽しむタケル達
すると…再び珍しい人物達と遭遇する。


「あら、貴女は彩峰准将の…」

「………駒木少尉と………尚哉?」

「むっ?」


背後から声をかけられ、振り向くと、駒木少尉と………大量の荷物持ちをしている沙霧がいた。


「……ナンスカ…その大量の荷物は…?」

「白銀大尉も居たか…
このような姿は、余り見せたくは無いのだが…」

「駄目ですよ、沙霧『大尉』
れっきとした『罰ゲーム』なんですから。」


駒木少尉の言葉を聞いて『うぬぬ…』と苦い表情を浮かべる沙霧大尉


「大尉に昇格したんですか?」

「ウム、先の『明星作戦』での功績で、つい先日大尉に昇格したのだ。
駒木少尉も近々中尉に昇格する予定が決まってる」

「お二人共おめでとうございます。」

「…おめでとう、尚哉」

沙霧の大尉昇格と駒木少尉の中尉昇格予定を聞き、祝うタケル達。


「ところで先程の『罰ゲーム』とは…?」

「沙霧大尉たら、息抜きすら忘れる程仕事をするから、みんなで提案して、トランプでババ抜きで息抜きさせようと考えたの。
勿論沙霧大尉は断ったけど、其処は彩峰准将からの御言葉ひとつで撃沈させて、ババ抜きをやらせて息抜きをしてもらったの。」

駒木少尉が困った表情で説明して貰い、納得するタケル
そんな注目もあって、沙霧大尉は恥ずかしさ余って頭を抱える


「……そっか。
だから尚哉は荷物持ちさせられてるんだ…。」

「つ~事は…負けたんですね…。」

「……昔から、こういう遊びは苦手でな…
良く慧にコテンパンにやられたよ。」

「尚哉はすぐに顔に出るから…。」

「ハイ、今回の敗因も顔に出てバレバレでした。」


クスクスと笑みを浮かべる駒木少尉
駒木少尉自身、沙霧大尉と2人っきりでの買い物だった為、デート気分で楽しんでいたりする。


そして駒木少尉すら知らない事だが、実は今回のババ抜きの計画は彩峰准将であり、沙霧大尉の健康面や駒木少尉との進展の為に部下達と計画してた事だったりする。

……勿論、沙霧大尉に対して、彩峰パパの親バカっぷりを発揮していたのは言うまでもない。


「ところで何を買ったんですか?」

「大した物ではありません。
仲間達の下着類やちょっとした食品の買い出しですよ。
軍の配布関係は今難しいので、自分達である程度は揃えてるんですが…」

「流石に帝都に移ったばかりで暇が無くてな…
今回私達2人が買い出しに来たのだ。」

「そうでしたか。」

「仕方ないっか。
京都も復興してまもないからな。」

未だに軍の配布関係が充分に機能せずにいた事に理解するタケルと冥夜
復興して間もない帝都故に流通関係が未だに復活してない為、どうしても東北や東関東側からの物質だけでは充分にはならなかった。


「そういう白銀大尉は慧達と一緒に何処へ?」

「単に京都を散策してるだけッスよ。
まあ…おかげで昼飯奢る羽目になりましたけどね。」

「フフフ。仕方ないですよ、白銀大尉。」


沙霧の質問に対して少し苦笑いに答えるタケルだが、笑みを浮かべながら『頑張ってください』と駒木少尉に言われてしまう。


「まあ、あとはこの『四人』は来年度の訓練兵が決まってますから、その事に対してのアドバイスとかもしながらですよ。」

「なる程、そういえば白銀大尉は時折教官職もしてましたね。」

「ええ、最初は戸惑いましたけど、今はなんとかやってます。」

「しかし…まだ2月というのに…もう来年度の訓練兵ですか?」


来年度の訓練兵について疑問に思う沙霧だが、それについて説明する。


「実は、来年度は政治的な関係もあって、実際には去年辺りから決まってたんです。」

「去年から!?
それに政治的理由とは…?」

「本来は秘密…なんですけど…まあ、いずれバレますから、今は内密にお願いします。」

タケルの言葉にコクリと頷く沙霧と駒木少尉


「実は……………
悠陽も来年受けるんですよ…」

「「「「はっ?」」」」

タケルの爆弾発言に唖然とする沙霧・駒木少尉・千鶴・冥夜
慧と美琴に関しては『へぇ~…』で終わってしまう辺り、大したものだ。


「殿下も…訓練兵の教育を…?」

「ええ、一応時折神野大将や彩峰准将とかから教育の一環で教えを受けてますが、本格的の教育は行ってないので、時間は限定されますが、受ける事になったんです。
そしてこれは悠陽の願っての事でもあるんです。」

「なんと…」

「大変でしたよ…。
こう…悠陽のワガママを聞くのは…
まあ…そんな事もあって、彩峰准将の娘さんや榊首相の娘さんなどである面々たるメンバーを去年から決めてたんですよ…」

「な、なる程…理解した。
そして…大変だな…白銀大尉」

「フフフ…モウナレマシタヨ…。」


瞳を暗くするタケルを見て、同情の眼差しをする沙霧達


「ですから此処にいる彩峰・榊・鎧衣・『社』も入るんですよ」

「社さんもっ!?」

「へぇ~…霞さんも入るんだぁ~♪」

「…宜しくお願いします」


霞の207小隊参加に驚く千鶴達
霞も笑顔で頭を下げて『…宜しくお願いします』と呟く。


「訓練っと言っても、あくまでも時間が合う時のみです
流石に総戦技演習は受けませんけど、主に座学・兵科・戦術機訓練などを可能な限り受けて貰う予定です。
一応悠陽の護衛として、冥夜も訓練兵として入ります。
その際は『御剣』として名乗りますから、怪しまれる事はないですよ。
俺やまりもちゃんも居ますし、斯衛から真那さん・真耶さん・静さんも影から護衛に入りますから、悠陽の安全面は大丈夫ですよ。」

「なる程…それならば安心だ。」


悠陽の安全面を知り、納得する沙霧
突然の爆弾発言に驚いたが、とりあえず一安心し、軽い溜め息を吐く。


「…白銀…ちょっと」

「なんだ彩峰?」

「アレ…」

「んん?」


突然慧がタケルを呼び、反対側の建物に指を指す。


すると---


「……孝志さんと椿さん?」

「どうやら、あのお店から出て来たようだね~♪」

呉服屋から出て来た椿と孝志の二人

この瞬間、タケル・美琴・慧の視線が重なり、ニヤリと笑みを浮かべる。


「---さて、彩峰君・鎧衣君
君達に問おう。」

急に二人に背中を見せ、ニヤリと口元を上げるタケル


「君達は、『アレ』を見て、何をするかね?」

「尾行でありますっ♪」

「…コッソリ近づいて告白のシーンを目撃するであります。」


「「「ええっ!?」」」


突然のタケル達の態度に驚き、尚且つ慧と美琴のトンデモナイ発言に驚愕の声を上げる冥夜達


「---宜しい。
では…君達に秘密任務を与えようではないか。」

すると何処から出したかは知らないが、少し大きめな『ダンボール』が出てきた。


「この伝説のスニーキングアイテムであるダンボールを使って、あの二人に近づくのだ。」

「了解♪」
「了解…」

「「何故ダンボール!?」」


鎧衣課長や伝説の傭兵愛用のスニーキングアイテム・ダンボールを渡され、怪しい笑みを浮かべながら敬礼する慧と美琴

勿論ダンボールの事を知らない沙霧や駒木少尉の二人からすれば、『何故尾行にダンボール!?』とツッコミ満載な疑問だった。


「そして…このビデオカメラも持っていき、決定的瞬間を撮すのだっ!!」

「「了解!!」」

「さぁ!!行くのだっ!!」

タケルからビデオカメラを受け取る慧
そしてしゃがんでダンボールを被る二人は、ビデオカメラを回してながらスタスタと孝志達に接近する。


「ん…?」

「どうしたの、孝志?」

「いや…なんかみょーな気配がしたような…」


背後に振り向く孝志
その視線の先には、数名の民間人と、店の看板・ゴミ箱
………そして、少し大きめなダンボールがあっただけだった。

「気のせいか…?」

「行きましょう、孝志
流石に知ってる人達に見つかったら恥ずかしいわ。」

「そうだな、タケルに見つかったら、今までの仕返しとして絡まれるな。」

警戒心を解き、再び歩みだす二人
そして、ある程度離れると、再びダンボールを被りながら尾行する慧と美琴


「………何故バレんのだ…?」


眉間をピクピクと動かしながら、『何故あんな怪しいモノがバレない』と本気で疑う沙霧だったが、そんな事を無視して追跡を始めるタケル達。
意外にも駒木少尉も興味津々でノリノリだ。


「なあ…椿」

「何かしら?」


歩きながら何気なしに声をかける孝志
椿も何かと訪ねると---


「---結婚……しねぇか…?」

「えっ----!?」


((キタァァァッ!!))


孝志からの突然のプロポーズに唖然とする椿
そして、突然訪れたプロポーズに期待を膨らませた美琴と慧が、ビデオカメラを回しながら喜ぶ。


「と、突然こんな所で言うなんて…」

「済まねぇ。
けど、どうしても言いたくてな…」

「………バカ。」


顔を真っ赤にしながら涙を流す椿
喜びの余り、ついつい本音ではない言葉が出てしまう


そして---


「私を娶るという事は、崇宰から九條に名前を変える事になるんですよ?
それでも「んなの当たり前だろ?椿を貰えるなら、名前ぐらい変えてやらぁ」……バカ。」


孝志の答えに喜びを表す椿
既に大粒の涙をポロポロと流し、答えを返す。


「---ハイ、このような私で良ければ。」

「ありがとう…椿!!」


プロポーズを受けて、婚姻を決める椿の言葉に喜び、抱き締める孝志


そして----


「フハハハハッ!!
み~た~ぞ~♪ラブラブですねぇ、お二人さん☆」

「ブブゥゥゥッ!!」

「し、白銀君!?」


出やがった。
今までの仕返しとばかりにタケルがガバッと現れやがった。


「いやぁ~…まさかプロポーズするとは予想外だったけど、良い場面に出くわして良かった良かった☆」

「た、タケル…何時からいた…?」

プルプルとタケルに質問する孝志
椿は普段見せない程アワアワと慌てまくっていた。


「孝志さん達が呉服屋から出て来た辺りからですが?」

「な、何ィィィッ!?」


重要な場面の殆ど最初っから見られ、驚愕する孝志と椿


「お…お願い…白銀君…。
この事は…しばらくは秘密に…」

「残念ですが、椿さん…
その願いは叶えられません」

「「えっ!?」」


タケルの一言に驚愕する椿と孝志
そして---


「……済まぬ、椿殿…」

「お…お幸せに~…」

「お二人共、おめでとうございます…。」

「崇宰様、九條様、ご婚約おめでとう御座います。」

「……………スミマセン。」


建物の影から現れた冥夜達の姿を見て石化する椿

だが---これで終わりではない。


「孝志ィィィッ!!
椿にプロポーズしたとは本当かっ!?」

「早ッ!?」


ジープで爆走して来る政弘の登場の早さに驚く孝志

「孝志、遂に椿にプロポーズしたか。」

「おめでとう、孝志君
椿君共々幸せにな♪」

「隼人兄さんと伊織さんまで!?」


政弘が運転して来たジープから、孝志の兄・隼人と斑鳩伊織少佐まで現れる。


「っていうか、何故三人共プロポーズ知ってるの!?
今さっきよ、したの!?」

「それならば…」

「ウム、タケルから連絡受けてな…。」

「先生から貰った小型通信機で、政弘さん達に連絡してる最中に、プロポーズしたモンだから、そのまま伝えちゃったりする。」

「ノオォォォォッ!!」


タケルの素早い連絡にムンクのように悶える孝志
しかし、そんな孝志の悶えに応えてか、新たな刺客がやって来る。


「椿ちゃあぁぁぁぁん☆
遂に…遂に孝志君と結婚するんですってねぇぇぇっ♪」

「お、お母様、落ち着いてっ!!」

「かかかか…母様ッ!?
そ、それに沙耶まで!?」

椿の母・由佳里と沙耶の登場に石化していた椿も驚愕する。


「タケル、いつの間に由佳里さんまで?」

「いや…由佳里さんには、まだ伝えてないんだけど…?」

「「はっ?」」


予想外にも、由佳里と沙耶の件はタケルすら知らなかった事で、更なる戸惑いを見せる。


「か、母様、一体誰から…?」

「そりゃあ、あれだけデカい声で叫んでれば聞こえるわよ?」

「はっ?」

「実は……偶々近くで買い物をしてまして…
その帰り際に政弘の声が聞こえて…。」


どうやら先程の政弘の登場時の声が聞こえ、偶々近くに居た母・由佳里に知られてしまったようだ。


「しかし残念ねぇ…
孝志君のプロポーズのシーンを見逃すなんて…」

「ご安心下さい、由佳里さん
実はこんな事もあろうかと---」


プロポーズの瞬間を見れなかった事に残念がる由佳里だったが、突如タケルがパチンと指を弾くと---


「おめでとうございます☆」

「プロポーズの瞬間…バッチリ撮った…♪」

「何ィィィッ!?」


突如ダンボールから美琴と慧が現れて驚愕する孝志
そして慧はプロポーズの瞬間を収めた動画を由佳里や政弘達に見せる。


勿論動画を見た由佳里達からは、黄色い声が響き、椿と孝志は色々といぢくられる結果になる。


「タ、タケル…何の恨みがあって…」

HPほぼ0な状態でタケルに質問すると---


「結婚式の時のパイ…痛かったなぁ…。」

「グハァァッ!?」


結婚式の時のパイ投げの恨みを晴らされる結果になる孝志
そして椿は---


「し、白銀君…私は何も…「入隊時の歓迎の1対9の模擬戦…」…うっ!?
アレは…「あと…白陵基地に来て一泊した時…見捨てましたよね…」はうっ!?」

椿ですら忘れていた事を掘り起こされ、反論の余地が無い椿
そして二人して、真っ白く燃え尽きてしまい、この日は再起不能となる



そして後日だが、この結婚話が広まってしまい、しばらくは恥ずかしい目に合う二人だった…。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第七十二話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2011/08/02 22:58
2000年・4月6日


京都・帝都城----


「これで今日の訓練は終了する。解散!!」

椿の号令で今日の訓練を終了する事になる第17大隊


「ふぅ~…着替える前に一息つくか…」

「私も休憩に入るわ。」

「私もだ。」


訓練で疲れ、小休止をするタケル・まりも・冥夜
シミュレータールームのそばにある休憩所で一息つけようと向かうと…


「タケル達も小休止か?」

「孝志さん達もっすか?」

「ああ、シャワーを浴びる前に、一息つきたくてな。」


先に小休止を取っていた孝志と政弘が自販機から合成珈琲を買って飲んでいた。


「あれ?椿さんは?」

「今真那と一緒にシミュレーターのデータを取りに行ってるよ。」

「へぇ~…そばに居なくて良いんですか、『旦那様』」

「うっせ。
まだ籍しか入れてねぇよ。
…つーか、先に籍入れてから結婚式挙げるのは、お前と同じだろ。」

「まぁね」


例のプロポーズから、数日後に籍を入れた孝志

『崇宰』から『九條』に変わり、今は既に椿の家で暮らしていた。


本来ならば、すぐにでも式を挙げたかったのだが、今の京都で挙げるにはまだ復興してなく、とりあえず先に『婿養子』として、籍を入れる事になった。


仙台や東京等で結婚式を挙げる案もあったのだが、『生まれ育った、この京都で挙げたい』という理由と『京都を元気づけさせる為にも』という理由もあり、とりあえず籍だけは入れて、椿と夫婦になったのだ。


勿論『五摂家』という家柄の問題があるから反対した者達も居たのだが、予想外にも、『五摂家』の現当主を含めた人間達は、『別にいいではないか』という全員一致の答えを出し、問題をアッサリクリアした。


最大の理由は、前・政威大将軍である、煌武院雷電の力である


五摂家最大の権力者であり、前・政威大将軍という肩書きの持ち主の雷電が真っ先に賛成した事が原因だ。


無論、昔の雷電ならば、反対したのだが、タケルや周りの人間達の影響もあり、雷電の考え方が変わっていったのだ。


そのおかげもあり、孝志達の件は通り、籍を入れる事が出来た。


ちなみに、今回の影の功労者は、実はタケルだったりする


タケルは密かに雷電と会い、今回の先に籍を入れる事に説得していた。

当初は雷電も、先に籍を入れる事には賛成だったものの、素直に『ハイ』と言えない事情もあり、悩んでいた。


そんな時、タケルがある策に出る。


『お願いします、どうか許可を下ろして下さい。』

『ウム…しかし『許可してくれたら、義爺さんが悠陽と冥夜の最初の赤ちゃんの名前決めて良いから(悠陽と冥夜の許可アリ)』任せるがよいっ!!!
必ず!!絶対に!!!説得してみせるぞぉぉぉぉぉっ!!!!』


----こうして、雷電の努力により(?)孝志達の件の問題は解決したのだった。


「あら、孝志達まだ居たの?」

「まーな、ちょっと小休止だよ。」

「そう、なら丁度良かったわ。」

「「「??」」」


シミュレータールームから、椿と真那がタケル達の下に来る。

すると『丁度良かった』と呟き、その理由を告げる。


「実は今連絡があって、殿下が呼んでるそうなの。」

「悠陽が?」

「ええ。ただ、今すぐではなく一時間後によ。
集合場所は第60番ハンガーに部隊全員が集合よ。」

「全員?しかも第60番ハンガーって確か…」

「ハイ、確かエルヴィンさんが今開発に使ってるハンガーな筈…」


集合場所に頭を傾げるタケル達。
予想外な場所な為、誰一人理由が思いつかなかった。


「そういう訳だから、早めにシャワーを浴びて準備した方が良いわよ?」

「わかった。
それじゃ、さっさと汗流すかぁ~。」


孝志の一言で小休止を終えるタケル達

そして一時間後---



「あれ?
お前達、なんでこんな所に居るんだ?」

「あ、白銀大尉、お疲れ様です。」


シャワーを浴び、汗を流し、着替えた後、集合場所に到着すると、何故かナスターシャ達が第60番ハンガーに居た。


「実は、一時間前に連絡があって、殿下が直々にお話があると…」

「お前達もか!?」

「…一体…どういう事かしら…?」


祷子の言葉を聞き、戸惑うタケルとまりも

教え子まで集合をかけて、一体何を話すのか少々不安になる。


「お待たせ致しました、皆様。」

「…ッ!!
全員…敬礼ッ!!」


すると悠陽登場に気づき、椿の号令と共に敬礼するタケル達
無論、ナスターシャ達訓練兵も椿の号令で敬礼をする。

そして、悠陽の後ろには、護衛の紅蓮大将・神野大将と、エルヴィン・結城の四名が待機していた。

「お忙しい所、集まって頂き、誠にありがとうございます。
今回の集合は訳あって一部の者達のみの公開となります。
ただ、この情報が漏れましても、責める事は無いので、ご安心下さい。」

悠陽の説明を聞き、機密性の低い話と理解するタケル達
ナスターシャ達も、少し安心し、気が楽になる。


「此度呼び出した理由は幾つかありまして、椿さん率いる第17大隊と、タケル様とまりもさんの教え子である訓練兵達を集合をかけました。」

「その理由とは?」

「ハイ、まずは…エルヴィンさん、お願いします。」

「ハイ、お任せ下さい。」


悠陽の説明を聞き、椿が質問をすると、悠陽の後ろで待機していたエルヴィンが前に出て説明をする。


「まずは…遂に…遂に完成したよ…シロガネ大尉…!!」

「か、完成!?」

「ウム、我が祖国では、理不尽な理由で表舞台に立つ事が出来なかった『我が子』が…遂に…遂に…!!」

「---って、まさかッ!!」


嬉しさ一杯で涙を流しながら説明するエルヴィン
そして、その意味を理解し、驚愕するタケル


「ああ、そうとも!!
『YF-23・ブラックウィドウ』の改良機が完成したのだよっ!!」

「「「「----ッ!!」」」」


エルヴィンの言葉に全員が驚愕する
あの『高価な鉄屑』と呼ばれた幻の戦術機・ブラックウィドウが改良機として完成し、この帝都あると知り、驚きを隠せないでいた。


「あの日---エドワーズ基地の屋外駐機ガントリーで無惨な姿で曝されていた我が子を見て、一体どれだけ悔やみ、悔し涙を流したか…。
…しかし!!再び表舞台に立つチャンスが現れた時は、どれだけ歓喜し、以前以上に我が子を創る事が出来た…。」


辛い過去を思い出し、一時苦痛な表情を浮かべるエルヴィン
しかし、すぐさま歓喜の表情に変わり、タケルの下へ歩み、手を握り締め、感謝する。


「ありがとう…シロガネ大尉…。
君という人物に出逢えなかったら、今の私や我が子も無かった…。
本当に…ありがとう…。」

「い、いえ、エルヴィンさん呼んだの先生ですし…」

「勿論コウヅキ博士のおかげでもあるが…やはりキミの存在が大きい。」

「えっ…オレ?」


予想外の言葉に戸惑うタケル…


「あの時---コウヅキ博士から送られてきた、シロガネ大尉の戦術機映像を見せて貰ったあの日--
あの映像を見て、私に『光』を与え、活力を与えてくれた
例え、それがコウヅキ博士の引き抜きの策とわかってても、キミという人物に惹かれ、日本に来た事は間違いない事実。
そして、キミから様々な案を出され、新開発をし、そして我が子…YF-23まで改良機として表舞台に出すきっかけを作ってくれたのだ…
今ハッキリ言えるよ…キミを求めて日本に来た事は間違いではなかったと…!!」

「エルヴィンさん…」


エルヴィンの話を聞き、嬉しさで少し照れるタケル
そして、そんなタケルを見て『おおっ…!!』とみんなの声が響く。


「エルヴィンさん、そろそろ自慢の『我が子』の御披露目をしてくれませんか?」

「おおっ…!!スミマセンでした、殿下。
では…みんな、頼む!!」

悠陽の一言で我を取り戻すエルヴィン
そして、整備兵のみんなに声をかけ、その姿を現す。


「こ…これがYF-23・ブラックウィドウの改良機…!?」

「正式には『YF-23J改・天狼』が正式名称だ。
そして、この機体に搭乗するのは----」


現れた機体・『YF-23J改・天狼』
淡い蒼のカラーを纏いながら現れ、言葉を失い魅了される
そして、そんな機体の搭乗する者の前に---エルヴィンは告げる。


「シロガネ・マリモ
貴女がこの子を『専用機』として使って下さい。
貴女の期待以上に応えれるように創った機体です。
存分に暴れて下さい。」
「「「「えっ!!?」」」」

「え…ええぇぇぇぇぇぇっ!!?
わわわわ…私がっ!?」


天狼の搭乗者として告げられたのは、なんとまりも
予想外な事に周りはおろか、本人ですら戸惑い、ハンガー中に声が響く。

「いいいい…一体どういう事ですかっ!!?」

「実は、以前からマリモの衛士としての成長の速さに、私は勿論、イワヤ中佐やコウヅキ博士すら驚いてました。
余りの成長に、実力では第17大隊のトップ3(タケル・孝志・椿)を脅かす程に成長してました。
そして、その成長の速さは、シロガネ大尉程では無いものの、いずれは機体の問題にブチ当たると考え、今回のYF-23の改良機開発が始まったのです。」

「…なる程、確かに最近のまりもちゃんの成長って、びっくりする程だったよな…」

「ああ、確かに。
『明星作戦』の時、一番そう思える程スゲェ活躍だったからな…」

「私も最近負け越してますし…これは確かに揺るがない事実ですね…」

「はうっ!?」


タケル・孝志・椿のベタ誉めの評価を貰い、真っ赤に照れるまりも
ちょっと離れた場所で、教え子達が尊敬な眼差しで見てたりする。

「天狼の性能は、従来のYF-23を上回る事に成功しました。
但し『専用機』故に、コストは高く、生産性に関しては度外視してますので、大量生産化は現段階では無理です。
但し、整備性に関しては、武御雷よりは良いので、その点に関しては、まだマシでしょう。」


エルヴィンの説明を聞き、『ほほぅ…』『なる程…』と呟く声が漏れてくる。


「性能は文句なしの出来前に仕上がりました。
現段階では、武御雷はおろか、シロガネ大尉の不知火・改ですら凌駕する性能です。
現時点では、『日本最強の機体』と言っても過言ではありません。」

「そそ、そんな機体を私に…!?」

「ハイ、この機体は『貴女に合わせた機体』です。
マリモ大尉の最大の武器でもある『地上戦』に特化した機体に仕上げてます。
主脚走行を主とする『走破性』
如何なる変則的アクロバットにも充分耐えられる『柔軟性と耐久性』
そしてラプターや武御雷をも上回る『接近戦闘や機動砲撃戦闘』
それらを合わせた機体がYF-23J改・天狼です。」

「す…凄い…」


エルヴィンの説明を聞き、さすがのまりもも天狼の性能に唖然とする。


「勿論、元々のウリの一つである『ステルス機能』も健在。
これ自体の性能は上がってませんが、元々ラプターのステルスより上回ってるので、ご安心を。」

「ご安心をって…其処まで凄い機体を…私が…?」

さすがのまりもも、予想外な展開に頭を抱え、軽く目眩を起こす。
すかさずタケルとそばにいたまりかが支え、他の者達は複雑な気持ちで合掌する。


「あとで調整とかするから、まりも…逃げないでねー♪」

「結城君の鬼ぃぃっ!!」

そして目をキラキラさせながら、まりもをいぢくる結城
涙目になりがら、いきなりのしかかるプレッシャーに『タケルゥゥ…』と珍しく弱気な姿を見せる。


「マリモ大尉が嬉し泣きしてる所ですが…
次に進みたいと思います。」

「嬉し泣きじゃないっ!!」

「ハッハッハッ☆照れない照れない♪
さて---」


天狼が完成し、はっちゃけるエルヴィン
泣きながら否定するまりもをいぢくりながら華麗にスルーし、話を進める辺り、香月博士や結城辺りに感化されたと見える。


「2月に正式配備された武御雷の改良機『type00改 武御雷・羽鷲』が完成致しました。」

「「「!!!!?」」」

「もう改良機ですかっ!?」

武御雷が正式配備されたばかりに、もう改良機が完成された事に驚愕する椿達


「ハイ。
元々武御雷の試作機の時点で数機殿下から頂き、改良機を開発したのが始まりでした。
元々の武御雷の性能に不知火・改のような機動性を足し、尚且つ整備性・生産性を向上化させたのが、羽鷲の性能です。
通常の武御雷との違いは『純日本製と新・日本製』の違いです。」

「新・日本製?」

「ハイ。
『純日本製』は、あくまでも日本の技術のみの事。
しかし、『新・日本製』は、『純日本製』のこだわりを捨て、他国の技術などを学び、其処から独自に創り出した事を言います。
今まで日本の技術は『純日本製』という鎖国的な考えがあった為、技術の向上が乏しかったのです。
本来ならば、米・英・露・独などの国の技術を学び、其処から新たな日本製を創る事に頑として拒否してたのです。」

「そこでエルヴィンさんが、富嶽重工・河崎重工・光菱重工・遠田技研と幾度となく話し合い、結果四社共互いに手を取り合ったのです。
武御雷自体は富嶽重工と遠田技研の開発ですが、羽鷲に関しては四社結集した開発でもあるのです。」

羽鷲の開発までの険しい道程を説明するエルヴィンと悠陽
自分達の知らない所で様々な開発を進めていた事に絶句する一同


「武御雷・羽鷲は特別な機体故に数に限りが有ります
それ故に武御雷の開発はそのまま続け、別々に開発したのです。」

「特別な機体?」

「ハイ、羽鷲は『対ハイヴ攻略』に特化した機体で、性能自体が飛び抜けてます。
元々武御雷自体が高い性能だったので、其処に不知火・改のような機動性を加えてしまえば、操れる衛士が限定されてしまうのです。」

「それは…つまり---」

「---ハイ、椿さんの予想通り
羽鷲は第17大隊に配備する予定です。」

「「「!!!!」」」

「そして、羽鷲は第四中隊…つまりシロガネ大尉の部隊を初めに配備する予定です」

「なっ!?」

「嘘…!?」


悠陽とエルヴィンの説明を聞き、驚愕の連続を体験する椿達
そして、まさか先任達を置いて、新任である自分達に羽鷲が当たる事に驚愕する唯依達。


「無論、是には理由が有ります。」

「理由…とは何でしょうか…殿下?」


流石に戸惑う唯依だが、悠陽の言葉を聞き、質問する。


「来年度の話ですが…
タケル様を始め、第17大隊は横浜基地に一時的に出向致します。
そして第四中隊に関しては、一時的に国連軍の香月博士の直属部隊に属します。
コレは、香月博士の進める計画にタケル様が深く関わってる為、一時的に香月博士の直属部隊に属する事になります。」

「「「「なっ!!!?」」」」

「そしてその計画とは、詳しい話は重要機密情報故にこの場では語れませんが、日本は勿論、『世界』の命運すら関わる計画…とだけ申しときます。」

「「「「---ッ!!!」」」」

「それ故に第四中隊には優先的に、まりもさんを除いた他の方は全員武御雷・羽鷲に搭乗して貰います。」


悠陽の口から語られる重要な話に、唯依達新任は勿論、この事を知らない第17大隊のメンバーも絶句するしかなかった。


「あの…殿下に質問です…。」

「何でしょうか、前島少尉?」


すると、絶句するメンバーの中から唯一早くに復帰した正樹が質問をする。


「横浜基地に一時的に出向する事はわかりました。
しかし、何故香月博士の直属部隊に属するのが、我々第四中隊だけなのでしょうか?」

「ハイ、勿論それには理由が有ります。
本来ならば、香月博士の直属部隊に属する事無くても良いのですが、計画を進める時にどうしても国柄の問題が発生してしまいます。
そして第17大隊は我が日本が誇るべき斯衛軍に属する部隊…
つまり、場合によっては、国の問題で出撃出来ない戦場が発生する事があるのです。」

「「「!!!」」」

「その為の処置として、タケル様の第四中隊を香月博士の直属部隊に一時的に属する事にしたのです。
こうすれば、万が一国の問題が出ても参加出来ますし、タケル様や冥夜が参加するという事は『護衛』という理由を付けて本来出撃する事が出来ない戦場でも出撃出来る『名目』が出来るのです。」

悠陽の言葉を聞き、『おおっ!!!』と歓声が出てくる


「タケル様や冥夜は『政威大将軍の夫と妹』という名目が有ります。
もし、護衛を拒否し、万が一タケル様や冥夜に何かあった場合、その責任を追求されるのは拒否した国に有ります。
そうなれば国際問題に発展しますから、否応無しに『護衛』を許可するしか無いのです。」

「な、成る程…」

「その為に香月博士の直属部隊に属するのです。」

「納得しました。
御説明ありがとうございます!!」


悠陽の説明を聞き、納得する正樹
そして同時に他の者達にも納得のいく理由だった。


「あの…スミマセン殿下。
ご質問が有ります。」

「貴女は…確か…」

「白銀大尉達に御教授受けさせて貰ってるナスターシャ・イヴァノワ訓練兵です!!」

「そうでした、ナスターシャさんでしたね。
純夏さんやタケル様から聴いております。」

「こ、光栄で御座います!!」


すると今度はナスターシャが悠陽に質問をする。

「それで、ナスターシャさんのご質問は一体何でしょうか?」

「ハイ、今まで聞いたお話は大変驚く内容ばかりでしたが、私達訓練兵にはまだ関わらない内容です。
殿下とこうしてお話出来る事自体大変な名誉ですが…
…一体我々訓練兵が此処に居る理由は何でしょうか…?」

ナスターシャの疑問にタケル達全員が同じように思っていた。

「ハイ、その事については結城さんから説明が有ります。
結城さん、お願いします。」

「ハイ、任せて下さい。」

ナスターシャの疑問についての返答が結城が答える。
結城登場に些か不安を持つタケル達だが、意外にもマトモな答えだった。

「実は新しい練習機に君達が搭乗する事が決まったんだ。」

「「「はっ?」」」

「新しい…練習機ですか…?」

予想外な言葉に唖然するナスターシャ達


「うん。
実はね、前回の訓練兵卒業した新任達が、不知火・改に搭乗した際、色々と問題があったんだ。」

「問題…ですか…?」

「そっ。
不知火・改は、そのスペックは勿論、機動性は更に通常の不知火を超えてるからね。
そのせいもあって、不知火・改を扱うのに時間かかかったと声が出て来たんだ。」

結城の説明を聞き『成る程』と納得するタケル達

「前回の白銀君の教え子達は、なんつーか…シゴキ?拷問?みたいな鍛え方したおかげで、問題は起きなかったみたいだけど…
流石に日本中の訓練兵にそんな事したら…間違い無く潰れる。」

「「「え゛っ?」」」

「大変だよ~…白銀君やまりものシゴキは…
俺も結構イタズラキツい事するけど…
あれは………………………一種のイジメ?
そんな感想が出て来る程キツい。」

「「失礼なっ!!!」」

結城の言葉を聞いて、嫌な汗がダラダラと流れてくるナスターシャ達
当のタケルとまりもは、顔を真っ赤にして否定はするが、そのそばで去年まで教えを受けていた唯依達が『アレは……………………キツいってモンじゃなかった…。』と涙しながら心の中で呟く。


「特に戦術機適性検査…大変だよ~…
なんせ白銀君の『変態機動に複座する事』だからねぇ~…
ちなみに白銀君のO・SHI・O・KI・は『白銀君の全力変態機動~お仕置き編』だからねぇ…
アレは現役の凄腕衛士すら…殺レルヨ?」


結城の言葉を聴いたナスターシャ達は一気にガタガタブルブルと震えだす。
同時に唯依達もトラウマを思い出したかのように、『コワイヨコワイヨ…』と涙しながら震えていた。

「タケル…お前…訓練兵にそれは…酷くね?」

「孝志さんっ!?」

「多分…今の俺でも…トラウマになるかもしれん…」

「政弘さんまでっ!?」

「篁少尉…大変だったな…」

「真那さんまでっ!?」

仲間達から批判されてしまい、追い込まれるタケル
……といっても、それが理由でシゴキを止めるタケルとまりもではないので、第17大隊の隊員全員がナスターシャ達に合掌する。


「そんな理由で、新しい練習機を創る事になったんだ。
まあ、新しい練習機って言っても、吹雪同様に不知火・改を訓練に必要の無い程度に削り落とすだけだから、そんなに時間はかからないから、その時はテストパイロットを兼ねて搭乗してもらうよ。」

「「「はっ、ハイ!!」」」


返答を返し、ビシッと敬礼するナスターシャ達だが、残念なからタケルとまりものシゴキは逃れられないので、『可哀相に…』と心の中で同情する結城


そして、ひと通り説明が終わり、全員が『終わり』だと思った矢先、悠陽が口を開く。
この事には、護衛の紅蓮大将・神野大将を始め、結城・エルヴィンですら知らない事の為驚く。


「この事は別に機密情報ではないのでご安心して聞いて下さい。」

「な、なんでしょうか…?」

みょーに緊張感が張り詰めた空気になり、ゴクリと息をのみながら無言で待つと…


「実は---この度、私に『初めての赤子』を身ごもる事が出来ました☆」

「「「はっ?」」」

「タケル様…遂に私にもタケル様の『赤子』が宿りましたわ♪」

「なんですとぉぉぉぉっ!!?」


最後の最後でとんでもない爆弾発言をする悠陽
そして---



「イィィッヤッホォォォッ♪
悠陽タンに…赤子が…
遂に初曾孫ゲットしたぞぉぉぉっ!!」

先に悠陽から赤子の報告を受けていた雷電が、子供のようにハシャぐ姿があった…


そして、その手には…既に考えていた『曾孫の名前リスト』のノートが五冊程握られていた…。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第七十三話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2011/12/21 06:43
2000年・4月7日

京都・帝都城シミュレータールーム


「…なあ…タケル」

「…なんですか、孝志さん。」

「あれ…鬼畜だよな…」

「……………鬼畜ですねぇ。」


同情の念を抱きながら、南無~…と合掌するタケルと孝志


今日は横浜のA-01のヴァルキリーズ・オーディン隊が帝都城に来て、タケル達第17大隊とシミュレーターでの模擬戦をしていた。


現在はヴァルキリーズ対第四中隊
しかし、今回はタケルは『不参加』だった。


勿論、ヴァルキリーズや第四中隊の面々は困惑と苛立ち等を見せたが---


『…………戦ってみれば、よーーくわかりますよ…。』

なんか、哀れみタップリの表情で告げるタケル
その姿を見た面々は『あれ…?なんかフラグ立った…?』と不安感バリバリ感じまくる。


そして---



『牧村機、動力部大破
機能停止。』

『ウソォォッ!?
今、何があったの!?』

撃破される牧村機
撃破された牧村中尉も一体何が起きたのか分からず混乱する。


『大尉っ!?コレは一体…!?』

『分からん…。
だがしかし、『これ』が白銀が言っていた意味なのだろう…!!』

戸惑う美冴の声に冷静な態度で答えるみちる。
だがしかし、内心みちるも焦りで『謎の敵』に困惑していた。


現在ヴァルキリーズは12名隊員が居る
その内、水月と遙は複座をしている為、戦術機の数は11機


今回の対戦も『11対7』という変則的な対戦
しかもタケル抜きという条件付き。


誰もが、数の差でヴァルキリーズ優勢と考えるだろう。
だがしかし--現状は違った。


『遠坂機、機関部大破。
機能停止。』

『な…何なのよ、一体…!?』


そしてまた一機撃墜される。
そして、ヴァルキリーズの残りは---三機。


『し、白銀ッ!!
コレは一体どういう事だっ!!?』

流石のみちるも限界が来て、タケルを呼び出す。


「ご愁傷様です、伊隅大尉…。」

『縁起でもない事言うなっ!!』


素直な感想を言うタケルに怒鳴るみちる。
タケルの後ろで碓氷大尉が『南無~…』と合掌する姿を見て、『碓氷、貴様覚えてろよっ!!』と吠える。


「ええと…ですね…
実は…今ヴァルキリーズの相手しているのは…………『一機』だけなんです。」

『なんだとっ!?』

「他の機体は………開始地点から動いてません。」

『な、なにぃぃぃっ!?』

更なる驚愕の事実。
ヴァルキリーズを追い込んでいる謎は『一機のみ』の仕業と知り、驚愕するみちる


ちなみに第四中隊の他のメンバーは---


『……ねぇ、真耶大尉…』

『なんだ?』

『……私達って……………要らない存在?』

『………言うな。』


開始地点から一歩も動いていない第四中隊のメンバー

まりかが真耶と通信をやりとりし、『私達…要らない子?』とビミョーな気持ちで通信をする。


そして---


『ウフフ~☆
全く…この程度でやられるなんて……OSHIOKIかしら☆』

『『『『!!!!!?』』』』

わかってしまった。
不吉過ぎるこのセリフを聞いてしまったみちる・水月・遙・美冴


見覚えが有るってもんじゃない。
有る種トラウマをゴリゴリと刻み込んだ人物だ…間違いであって欲しいと願う四人。


『さぁて、伊隅・速瀬・涼宮・宗像…
私をガッカリさせないでね?』

『『『『ヤッパリィィィッ!!』』』』


ユラユラと現れた一機の戦術機…
つい先日、一部公開したばかりの機体・YF-23J改・天狼
……そして搭乗者は、我等が『狂犬』白銀まりもだった。


しかも機嫌が良い為か、天狼からルンルン気分で鼻歌を歌うまりもの声がオープンチャンネルで聞こえ、みちる達からすれば、その鼻歌も鎮魂歌に聞こえてしまうぐらい、絶望感タップリだった。


『速瀬・涼宮・宗像…
良く此処まで育ってくれたわね…
私は嬉しいわ♪』

『ここここ…光栄ですっ!!』

『全て白銀大尉とまりも大尉のおかげですっ!!』

『み…右に同じく…!!』

ビクビクしながら敬礼しながら感謝の言葉を贈る水月・遙・美冴
本来ならば喜ばしい事だが、今はそれどころではなかった。


『伊隅、貴女や碓氷は私の教え子として最古参になったわ。
この子達を良く此処まで成長させてくれて感謝するわ。
『親』としても嬉しい限りよ。』

『こここ…、光栄の極みですっ!!』


みちるでさえ、今のまりもに恐怖して、戦術機ごと震えていた。


別に怒りで黒いオーラを出してる訳でも無いのだが、その纏う雰囲気にビビりまくっている。


『何で貴女達の前に現れたかわかる?』

『『『『いえ、わかりません!!』』』』

『ンフフ~☆
しょうがないわね~♪』

まりもの問いに即答で『わからない』と否定する四人
だが、そんな答えが返って来ても上機嫌なまりもは---ある意味、みちる達にとって『死の宣告』に等しい言葉を告げる。


『貴女達が『強い』からよ。
…だから……天狼のE・MO・NO・になって☆』

『『『『いやぁぁぁぁぁーーーッ!!』』』』


本音をぶっちゃけやがった。
みちる達を『獲物になって☆』と告げる言葉は、正に死刑宣告。
きゅぴーんっ!!と怪しく光る天狼の朱い眼光に絶叫するみちる達


後に整備兵達は告げる……
『天狼のメインカメラって……確か蒼いよな…?』

どうやら搭乗者から、影響をかなり受けたようだ…。


「タケル、天狼の性能ってどうなんだ?
昨日ある程度は聞いたけど、大ざっぱな感じだったからな。」

「えっと…確か天狼は、『地上戦』を目的とした機体で、オレみたくアクロバットを重視した戦いとは違い、地上での接近戦を重視した性能です。
ぶっちゃけると、突撃前衛・強襲前衛・迎撃後衛向きな機体なんです。」

「けど、確かYF-23って機動砲撃戦も高いんだろ?」

「ハイ、だからあらゆる意味で接近戦に強いんです。
…そんな理由もあって、まりもちゃんにはピッタリな機体でもあるんです。」

「成る程…鬼畜の秘密・その1だな。」


タケルの説明を聞いて納得する孝志
孝志の呟きを聞いた他のメンバー達も、顔を青ざめながら頷く。


「そして、不知火・改とは違って、肩部はスラスターユニットが付いてません。
代わりに新開発中のサブウェポンシステム『リヴァイヴ・ボックス』を装着してます。」

「『リヴァイヴ・ボックス』?
なんだそれは?」


タケルの口から出て来た新開発中の『リヴァイヴ・ボックス』に質問する碓氷大尉


「『リヴァイヴ・ボックス』は、簡単に言えば、『肩部型多目的装甲』で、その目的によって中身のサブウェポンを変更出来る装甲です。
例えば、肩部に小型ガトリングガンが内装されてたり、レーダーや通信関連等の装備だったり、その時の戦いに適した兵装に簡単に付け替える事が出来る装甲なんです。
そして、今天狼に装着してる装甲は---」


視線をまりも達が戦うモニターに向けると---


『クッ!!』

『甘いわよ、宗像☆』

『なっ!?』


3対1で天狼を包囲しながら戦うみちる達
しかし、追い込まれてるのは、包囲しているみちる達だった。

苦戦している中、美冴機が天狼の前方から、長刀で横一閃を入れるが---

その攻撃を回避するように、背後にのけぞる形で回避する

そして---天狼の両側の肩部前面が開き---
不吉な物体が姿を現す。

『喰らいなさいっ!!』

『な、なにぃぃぃっ!?』

放たれた細く幾多の光の帯
その正体は『小型ミサイル』
その攻撃を受けた美冴機は爆殺されてしまう。


『む、宗像機…大破
機能停止。』


CPをしていたピアティフ中尉も、口元を引きつりながら美冴機撃墜を報告する。


「……なあ、タケル…。」

「………なんですか?」

「何時からミサイルが接近戦として使われる事になったんだ?」

「さぁ……?
ちなみに、あの装備…小型のミサイルコンテナでして…
今装備してるミサイルは、キャニスター弾(散弾)でして、通常120mmに使われるキャニスター弾より大型なので、要撃級クラスにも効果的な兵装なんですけど…
普通…空中で炸裂させるんですけど…」

「直接ぶち込んだな…」

「ハイ……まあ、キャニスター弾だから、接近で使用しても、自機には被害はないんだけど……」

「あれは…無いよな…。」

「………………………………ハイ。」


複雑な思いで孝志の一言に同意するタケル
内心美冴に同情しながら合掌していた。


『むむ、宗像少尉がやられちゃったよっ!?』

『おおお、落ち着いて、遙!?
まだ負けた訳じゃないわ。』

『…水月………………勝てる…?』

『………………………………………………ゴメンね…遥…。』


美冴がやられた事で、『次の獲物は私達!?』と悟る二人。
慌てる遙だが、水月の言葉を聞き『勝てるの?』と瞳を暗くして言い放つと、『無理』と素直に答え、遙に謝る水月


『それじゃ…大尉…
お先に失礼します。』

『コラッ!?諦めるなッ!!
っていうか、私を1人にするなっ!!』


諦めの境地に立った水月
遙もそれに賛同し、天狼に突っ込む。

さっさと玉砕に突っ込んだ水月達を引き止めるみちるだが、本音は1人でいる事が怖くて止めたりする。


『ウオォオォッ!!』

『良い覚悟よ、速瀬…
けど---』


着剣して突撃する速瀬機だが、それに対応して、腰に納刀していた『短刀』を二本抜刀し、逆手に持つ。


『まだ甘いわよ?』

『な、何!?あの剣?
長刀の『半分ぐらいの長さ』じゃない!?』

『危ない、水月!!』

『ななな…なんなのよっ!!この攻撃!?』


流れるような剣戟に慌てて防御する速瀬機
水月が対応出来ない所を遙が遠隔操作で背中のガンマウントを操作して、装着していた突撃砲で天狼との間合いを放す。


「タケル、あの剣は?」

「あれは『試作00式特殊近接戦闘短刀』でして、通常の65式や武御雷の00式とは違って、『通常の短刀より長く、長刀の半分の長さ』が特徴で、長さも…そうだな…
分かり易く言うとカタールみたいな剣と思えば良いですよ。」

「随分と短い長刀だな?」

「ハイ、だから『特殊近接戦闘短刀』なんです。
通常の長刀と違って、リーチは短くなりましたが、その代わりに使い易さと、剣の厚みを少し増やしたおかげで、切れ味等の耐久力も上がりましたよ。」


タケルの説明を聞いて、『…欲しいな』と呟く孝志
二刀流の使い手として少し興味を持つ。


「ああいう風に逆手に持てば戦術的にも幅は広がりますし、接近戦が得意な人にしたら、使い易い武器だと思いますよ?」

「…だからさっきから、奇襲攻撃が上手くいってたのか…」

「まりもちゃんの場合…ステルス機能も有りますからね…
更に鬼畜度は上がりますよ。」

「成る程…」


後に全員が呟く事になる。


『あの人にステルス機能付ける事自体鬼畜だろっ!?』

ステルス機能を付けた事により、更に『狂犬』として磨きを上げてしまう結果になったと皆は呟く…。

『こんのぉぉぉっ!!』

『そんな攻撃じゃ、当たらないわよ、速瀬。
お仕置きとして…これでも喰らいなさい☆』

『『----へっ?』』

すると、天狼の背中から右肩へ、スナイパーライフルのような長い砲身が現れ、なにやら青白い光を銃口で輝き---


『ファイヤッ!!』

『『なっ---!?』』


蒼い閃光が放たれ、速瀬機の機関部を貫く!!


「……アレ…電磁投射砲…だよな?」

「ですねぇ…
あれは流石にオレも知らないです。」

「…香月博士と結城開発部長は何を考えてるんだ…?」

「さぁ…?」

流石に今回の電磁投射砲については、タケルも知らない装備だった為、唖然としていた。
勿論、こんな腹黒い事をする人物は、心当たりが有りまくるので、被害者の水月と遙に南無南無…と合掌する。

そして、タケルの心の中では『アレ…ガンキ○ノンですか?』と呟いたとか…


『フフフッ…♪
あ・と・は・伊隅だけね?』

『あああ……っ!!』


ガシャン…ガシャン…と、死のカウントダウンのように聞こえる天狼の足音に、ビクビクと生まれたての小鹿のように震えるみちる。


撃破されたヴァルキリーズメンバーも、モニター越しでその恐怖に震えていた。


『やっぱり伊隅が残ったわね…
私は嬉しいわ☆』

『あああ…有り難う御座いますっ!!』

『本当に嬉しいわ…
私のエモ…教え子として誇らしいわよ?』
『今エモノと言おうとしましたねっ!?』

『………………………………………………………気のせいよ?』

『間が長いっ!?』


本音がポロリと言ってしまうまりもに激しく動揺するみちる
その後の間の長さに更に恐怖度は上がる。


『伊隅…貴女の腕がどれだけ上がったか…見定めてアゲル♪』

『それは良いんですが………
その短刀で恐怖度煽るのはやめて下さいっ!!』


マトモな言葉が出たかと思えば、シャリンシャリン…と短刀の刃と刃を擦って鳴らす仕草を見せて、恐怖度を格段と上げる。


『伊隅…私から言える事はひとつ…
私 の 為 に 逝 っ て ☆』

『いやぁぁぁぁっ!!!?』


まりもの死刑宣告を告げられ、恐怖をさらけ出すみちる。

……誰だって、あんなセリフ吐かれれば、脅える。


『ンフフ~☆
タケルと温泉旅行に…2人っきり…☆』

『それが原因っ!?』


どうやら今日のまりもの上機嫌は、例の如く『誰かさん』の仕業だった…

『ちょっと…みちる助けてくる。』

『……前島大尉…
まぁ……気をつけてな…』

本来ならば、訓練とはいえ、敵を助ける行為は『緊急時以外』は認められないのだが…
みんな、その事に責める者は居なく、そっと正樹の勇気ある行動に敬礼する。


『ウフフ…これでトドメ…何?』

『えっ?』


伊隅機を追い込む天狼だが、味方機である前島機からの妨害を受け、難を逃れる伊隅機

『みちるっ!!
オレが大尉を引きつけるから、その間に倒せっ!!』

『正樹…貴方…』


正樹の勇気ある行動に心を打たれ、好感度がキュンキュン急上昇するみちる

「ああ~…伊隅大尉?」

『な、なんだ白銀…?』

突然のタケルの通信に戸惑うみちるだが---


「まりもちゃん倒したら、豪華な『結婚式』用意しま『絶対だぞっ!!白銀っ!!』…頑張って下さい。」


タケルの一言でどん底まで下がってた士気が、限界値突破する程上昇するみちる
…愛の力は偉大だ…。


『面白くなったわね…
来なさい、伊隅!!』

『勝ってみせるっ!!』


先程の一方的な戦いとは一変し、嘘のように激しいバトルを繰り広げていた。

若干、正樹はテンションは下がるが、みちるのサポートをしながら、激戦に参加していた。



そして---


「……………結局はドローですかい…。」

「「はうぅぅ…。」」


シミュレーター訓練を終える両チーム達
結果は第四中隊の勝利だったが、乙女の戦いはドローだった。


優勢はやはり天狼だったが、自己犠牲覚悟の突撃で天狼を拘束する前島機の不知火・改
そして長刀でトドメを刺しに向かう伊隅機だったが、『リヴァイヴ・ボックス』のキャニスター弾で反撃するまりも


結果、天狼を貫く結果にはなったが、超接近からのキャニスター弾だった為、お互いに撃破される。


拘束していた前島機も二機分の爆発を受け、結果大破判定を貰い、戦闘不可能になる。
結果、乙女の戦いは引き分けになった。


「トホホ~…温泉旅行が~…」

「ハイハイ、今度都合の良い時に行きましょうね。」

「ほ、本当っ!?」

「本当本当。
但し、みんな一緒ですよ?」

「うん、それでも良いわっ!!」


パァ~…☆っと落ち込んでいた雰囲気から一転、タケルの一言で復活するまりも


「ハイハイ、伊隅大尉も元気出して。
ドローですから結婚式は無理ですが、『新婚旅行』ぐらいなら用意してあげますから。」

「ほっ、本当っ!?」

「本当ですって。
あくまでも国内限定ですよ?」

「それで充分よっ!!」


みちるも現金な事に復活する事になる。
みちるの後ろに居たまりかも『新婚旅行…正樹と新婚旅行…☆』と呟くが、仲間達は華麗にスルーする。


「しばらくはっちゃけなかったから油断していた…。」


今回の黒幕の所業に果てしなくヘコむタケルだった…。



あとがき---


しばらくぶりです、騎士王です。


今回の新開発中の電磁投射砲ですが…ガンキャ○ンです。


通常時は長刀と同じように銃口を真下に向けてしまってますが、使用時は270度反転し、ガン○ャノンモードになります。


背中にはバックコンテナ(弾倉)が装備されて、その横に砲身が専用のガンマウントで繋がってる状態です。





[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第七十四話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2014/02/08 16:08
2000年・4月9日

京都・月詠邸---


「ただいま~。」

「お帰りなさい、タケルさん」

今日の仕事を終え、我が家に戻ってくるタケル
主の帰りを玄関まで迎えに来るやちるが、トテトテと走って来る。


「あら、お客様ですか?って…
アラアラ、クリスカさんにイーニァさん、純夏さん、お帰りなさい☆」


「ただいま~☆」

「ただいま☆」

「…ただいま。」


元気良く返事を返す純夏とイーニァ
そして照れながら返事を返すクリスカに『はうっ!?』と萌ダメージを受けるやちる


「やっっっっっと来れたよぉぉ~…」

「ヨシヨシ、泣かない泣かない♪」

特殊な位置に居る純夏達は、簡単に来れない為、電話連絡はしていたものの、やはり『タケルちゃん成分』に飢えていた純夏。
そんな純夏を姉のように慰めるやちるは、純夏の頭を優しく撫でて慰める。


「ホラホラさっさと上がりなさい。
私はお腹を空かせてるのよ?」


そして唯我独尊な彼女・香月博士も護衛のみちる・水月・遙・美冴と共にやって来る。


「では、上がって下さい。
やちるさん、スミマセンが、みんなの分もお願いします。」

「わかりました♪
では、お先に失礼致します。」

「とびっきりの美味しい料理期待してるわ~☆」

「任せて下さい♪」


香月博士の注文に笑顔で答えるやちる
そのまま再びトテトテと小走りで台所という名の『戦場』に向かっていった。


「ただいま。」

「お帰りなさい、タケル。
あら、夕呼じゃない。」

「しばらくね、まりも」


居間に向かうと、嫁達の冥夜・まりも・沙耶・真耶が居た。

まりもは、テーブルを布巾(ふきん)で拭き掃除を、冥夜は護の面倒を、真耶は身重の沙耶の面倒をみていた。


「まりも、聞いたわよ?
伊隅達をボッコボコにイジメたんだって?」

「イジメぢゃないわよっ!?」


早速香月博士のいぢりが始まる
まりもも否定しつつ、顔を真っ赤にしていた。


「けど……流石にアレは私でも予定外だったわ…。
……………流石にアレを見たら、私でも伊隅達に『悪い事をした』と反省したもの…。」

先日のシミュレーター訓練での映像を帝都城のモニターで見た香月博士
嫌な汗をダラダラと流しながら『……アレ…?ナニコレ?』と予想外過ぎる映像を見て、チラッと伊隅達を視線をずらすと、ヴァルキリーズ全員が部屋の隅っこで、体育座りをしながらトラウマをゴリゴリと思い出してヘコんでいた。

流石の香月博士も、みちる達に『ゴメン……貴女達…』と小さな声で謝罪していた。


「お腹大きくなりましたね、沙耶さん。」

「ええ、あと1~2ヶ月に出産予定よ。」

「良いなぁ~…私も欲しいなぁ~…
『悠陽さん』も身ごもったって聞いたし…。」


純夏の言葉にピクピクと反応を見せる冥夜・まりも・クリスカの三人
やはり彼女達も早くタケルの子を宿したいようだ。


「そういえば先生、霞は?」

「今結城の所で仕事してるわよ。
今忙しいから、少し遅れてから来るわよ。」

「そうでしたか。」

「FX-01も進行してるみたいよ?
そのせいで遅れるみたいよ?」

「そっか、あとで霞にナデナデしないとな~…」


自分の専用機の為に頑張ってる霞に感謝してるタケル

ちなみにタケルは知らないが----


「----早く白銀さんから、ナデナデしてもらいます…!!」

「か、霞ちゃん…すげぇよ…!!」


静かに、そして激しく燃える(萌え?)霞
タケルからのナデナデをやって貰うために、凄まじい速さのタイピングを見せつけ、そばにいた結城すら驚愕していた。



「ん~☆
ヤッパリ貴女の料理は美味しいわね~♪」

「あはっ☆
ありがとうございます。」

やちるの手料理を食べて絶賛する香月博士

「これだけ美味しい料理作れるなら、一流の料理人になれるんじゃない?」

「いえいえ、其処までは…♪」

「けど、本当に美味しいわ。
これだけ美味しい料理なんて、京塚さん以外無いわね。」

「京塚さん?」

「ホラ、真耶さんの出産の時に来た産婆さんの一人だよ。」

「ああ~!!あの方ですか~!?」


横浜の母・京塚志津江の存在を思い出すやちる
そしてその料理の腕を絶賛する香月博士に続き、ウンウンと頷くみちる達。


「なる程~…。
今度お会いしてみたいものですね…。」

「何時でも来て良いわよ。
横浜基地じゃ、私は副司令だから、それぐらいの権限は簡単に出せるわよ?」

「では、今度お暇な時にお願いします♪」

京塚のオバチャンとの再会を楽しみにするやちる。
だが----


「「………………」」


タケルとまりもだけが、香月博士を見つめながら沈黙する。


「どうしたの、白銀にまりも?」

「……いや、随分と先生『機嫌が悪い』なぁ~…と思って。」

「!?」

「そうね…私も同じ意見よ。
なんていうか…誤魔化しながら作り笑いしてる…感じがするわ…。」

「………まりもならまだしも、まさか白銀まで見抜くとは…私もまだまだね。」


深い溜め息を吐き出し、本音を語る香月博士。


「実はね、『XM3』の関係で、ソビエト軍との契約が上手くいったの
その事自体は良い事なんだけど…連中、気に食わない契約条件を出してきたのよ。」

「気に食わない事?」

「ええ、当初はソビエト軍に『XM3』を売る代わりに、代金として『Su-37M2チェルミナートルを一個大隊分』か『Su-47ビェールクトを一個小隊分』かのどちらかで交渉してあげるって言ったの。」

「ブブゥゥゥッ!!」

「うわっ!?汚いわね、白銀!?」


香月博士の爆弾発言を聞き、口に含んでいた茶を華麗に吹き出すタケル

他の者達も、絶句し、時が止まる。


「あああ…アンタは阿呆かっ!?
第2・5世代機36機分か第3世代機4機分のどちらか寄越せって、アンタ…無茶苦茶な注文でしょう!!」

「そ、そうよっ!!
そんな無茶な注文頼めば、ソビエト軍側だって渋るに決まってるじゃないっ!!」

「そんなに怒鳴らなくても良いぢゃないっ!!
私だって本気で言った訳じゃないわよっ!!」

「「………………本当に……?」」

「………………………………………半分は本気だったわよっ!!」

「「ハァ~…。」」


香月博士の無茶っぷりに頭を痛めるタケルとまりも


「私も当初は、せいぜいチェルミナートルを二個中隊分貰えれば御の字と考えてたのよ。
それをわざとに一個大隊分ってふっかけて、二個中隊分まで値切らせる予定だったのよ。
…まあ、半分の気持ちで一個大隊分貰えればラッキーって思ってたけど…」

「先生…無茶言わんで下さい。」

「うっさいわね~…
そしたらソビエト軍の連中ったら、『まずはその性能を確かめる為に我が軍の部隊を其方に寄越すので、ソレ次第で決めます』って言うのよ。
まあ、其処までは予測していたから、良いんだけど、その後が問題なのよ。」


表情を険しくする香月博士
本気で苛ついていた事がはっきり解るぐらい表情に出ていた。


「寄越す部隊名は第3軍第18師団第211戦術機甲部隊『ジャール大隊』
白銀…この意味わかる?」

「えっ…確かジャール大隊って…ナスターシャの…?」

「そうよ。
そしてジャール大隊の使う戦術機
そしてジャール大隊の部隊の人数は…?」

「…………ちょっと待って下さいよ、先生……
まさか連中…」


香月博士の言葉に反応して、タケルの表情も険しくなる
そして--タケルが考えを肯定するかのように、香月博士の頭が縦に振る。


「---そうよ、白銀
連中…ジャール大隊を『売る』つもりよ。」

「「「!!!?」」」

「…理由…聞いて良いですか?」


険しい表情で香月博士に質問するタケル

「元々ソビエト軍ってのはね、ロシア人を最優先した所でね。
それ以外の異民族は『使い捨て程度』にしか考えて無いのよ。」

「「「なっ!?」」」

「けど結果として、ソビエト軍の前線は崩壊寸前
それに対する対応策が『家族としての絆』だったの。
上層部の連中は、異民族の誕生したての赤子を民族ごとに教育施設に収容し、其処で収容した子供達を『教育』と言う名の『兵隊』を創っていたって訳。
そして子供達が成長すれば『家族愛』が芽生え、同じ民族の仲間達との絆を強め、『家族を守る為に』という感情を利用して屈強な継戦精神を根付かせる事で立て直したの。」

「「「………っ!!」」」
「けど、やっぱり上層部は、ロシア人以外の民族は『便利な使い捨て』としか考えてないの」


ソビエト軍の非情な事実にギリリッと歯を食いしばるタケル
冥夜や真耶でさえ、眼を鋭くしながらも、怒りを面に出す事に耐えていた。


「ジャール大隊はロシア人以外の民族で出来てる部隊
唯一ロシア人であるラトロワ中佐だけど、色々な困難に打ち勝って部隊の隊員達から『母親』と認められる程の人物
他の衛士達もなかなかの腕前
部隊の人数もフルでは無いにしろ、二個中隊以上は居る。
そして機体もチェルミナートル
そして私が条件に出したのも『チェルミナートル一個大隊分』
………全く…口に出すだけでもイラつくわ。」


段々とイラつく香月博士
ガブッと強引に茶を一気に飲み、『お茶おかわりっ!!』と大声で注文する。

「連中はね、ジャール大隊を売って、そして日本を『格下』として見下してるのよ。
勿論ロシア人の全てがそんな下品な連中とは言わないけど、此方を舐めきってるのよ。
これが頭に来ない訳無いぢゃない!!」

本気でキレてる香月博士を『お、落ち着いて下さいっ!?』と抑える遙とみちる。

しかし----予想外にも、この場に相応しくない声が響く。


「フフフッ♪落ち着きなさいよ、夕呼」

「………何よ、まりも
随分と機嫌が良いわね。」


意外にも、笑い声の主はまりも
その突然の笑い声に全員が驚く。


「だってそうじゃない。
あの夕呼が、こんなにも感情を表に出すなんて珍しいわ。」

「な゛っ!?」


まりもの一言に先程までの怒気は失せ、一気に顔が真っ赤になる香月博士


「夕呼の性格上、そういった感情は隠すじゃない?
本当は誰よりも優しくて、頑張った子にはそれに見合う報酬がなければ納得しない。
けど、素直じゃないから、何時もそんな感情を隠してるわ。
けど---今回の件は、まだ会った事の無いジャール大隊の事で腹を立てて、つい感情を現した。
勿論舐められたって事で腹を立てたのも事実だけど、それすら感情を殺してるのがいつもの夕呼よ?
しかも立場上、そういった感情は隠さないといけないけど、今回の夕呼の場合、やっと少しは丸くなって『素直』になってくれたって証拠じゃない?
立場上としては複雑だけど、『親友』としてなら---嬉しい事よ?」

「ま、まりもっ!?」


親友として一番香月博士を見て来たまりもの一言に、何時もは見せない表情を見せ、真っ赤っかになりながらも、ガァァァッ!!と吠える香月博士
無論、まりもの方が優勢な為、いつもとは違い余裕の表情を見せる。


「………けど先生…?」

「なによ……白銀……」

香月博士に声をかけるタケル
ジト目でハアハア…と息切れしながら睨む香月博士


「---これって…チャンスですよね…?」

「……そうね。
色々策を考えてだけど、まさか向こうからやって来るんだからね…都合が良いわね。」


元よりジャール大隊を引き入れる考えを持っていたタケルと香月博士
不本意の形とはいえ、まさかの展開にチャンスを掴む。


「こうなった以上、『アレ』を早急に完成させるわよ。
だから今回はヴァルキリーズを帝都城に連れて来たんだからね。」

「ハイ、勿論です先生
一刻も早く完成させますよ。」


不敵な笑みを浮かべる香月博士とタケル
その意味を知らないまりも達は気になり、質問する。


「ねぇ…夕呼…『アレ』って何…?」

「そうね…まりもにも手伝って貰うつもりだから、丁度良いわね。」


少し考えてから、まりも達にも公開する事にした香月博士。


「実はね、『XM3』を世に広げる事を決めたの。
けど、それには色々と問題をクリアしなければならないの
例えば、今回はソビエトだけど、あまり日本とは良い関係ではないわ。
そんな所に『XM3』を渡すって事は、『それに対する対応策』が必要って事なの。」


香月博士の説明に納得するまりも達
そして---


「かといって『XM3』に何かしら仕込んでおく訳にもいかないわ。
万が一、それが悪影響を及ぼした場合、国との関係が悪化する恐れが有る。
だから---今回ソビエト軍の連中に『XM3』を渡す前に『ヴァージョンアップしたXM3』を創る事にしたのよ。」

「「「「!!!!?」」」」


「ヴァージョンアップしたXM3の名前は…『XM3-EXTRA』
パワーアップしたXM3を製作する事にしたのよ。」

「XM3-EXTRA…ですって…!?」


遂に公開された新型OS・XM3-EXTRA
その事実に今まで知らなかったまりも達はおろか、みちる達すら驚愕する。


「もう…新型OSですか…!?」

「ええ、そうよ伊隅。
今回のXM3-EXTRAは、従来の『コンボ』と『キャンセル』を強化し、更には『ディレイ(遅延)』を追加したわ。」

「『ディレイ』…ですか…?
それは一体…?」

「そうね、分かり易く例えると、戦術機の操作に『パンチボタン(P)』と『キックボタン(K)』があるとするわ。
戦術機を操作する際、『P・P・P・K』と間隔を入れて入力すると、『右パンチ・右パンチ・右パンチ・右キック』になるとするわ
しかし、間隔を無くして『PPPK』と連続して入力する事で『右ジャブ・左ジャブ・右ストレート・左後ろ回し蹴り』というコマンドになるわ。
そしてそれが従来の『コンボ』なの。」

「なる程。」


香月博士の説明を理解するまりも達


「けど『ディレイ』は『PP‥P‥K』と途中で入力を遅延する事で『右ジャブ・左ジャブ・右アッパー・左回し蹴り』と変化するの。
これは、最初の説明に出した『P・P・P・K』の時の間隔より短い間隔で…そうね、『気持ち遅らす感じ』に連続入力する事で、『コンボ』とは違う動きを可能にしたのよ。」

「そ、それじゃ…」

「そうよ。
これが完成すれば、戦術機は『賢く』なって、動きは更に選択肢が増えるって事
だから従来白銀しか出来なかった『変態機動』も可能な限り、貴女達とかでも出来るようになるのよ。」

更なる進化したXM3の性能を聞き、歓声が溢れて来る。

しかし---まだ香月博士の説明は終わってなかった。


「喜ぶのはまだ早いわよ、アンタ達。
XM3-EXTRAの真骨頂はこれからなんだから。」

「「「「えっ!?」」」」

「まだ…あるの…!?」

「ええ、むしろコッチが大本命よ。
『ディレイ』に続いて新たに入れたのは『解放状態』
このXM3-EXTRAの『切り札』とも言える機能よ。」

「『解放状態』…!?」

「そうよ、まりも。
『解放状態』はね、従来戦術機にかかってる『リミッター』を5~6割解放して、従来以上の能力を発揮する事が出来る能力なの。
例えると、撃震で『解放状態』を使うと、瑞鶴や陽炎以上の能力を発揮する事が可能なの。
因みに能力の向上って意味は、戦術機のスピードやパワーが上がるって意味よ。
但し、制限時間があって、連続使用時間は5分
それ以上は強制的に『解放状態』は解除され、再びリミッターがかかり、再び使えるまでに5分必要な仕組みなの。
元々は対光線級に対する離脱用の機能で考えたんだけど、一時的な解放をすれば、奇襲攻撃などの戦術も出来るし、対戦術機戦ならば十二分にも効果が期待出来るわ」

「けど、それだと機体の方に負担がかかるんじゃないの?」

「勿論それについての補強もするけど、XM3-EXTRAの方で、万が一機体に異常が発覚した場合、『解放状態』を強制解除し、修復するまで使用不可能にするわ
だから安心して使えるから大丈夫よ。」

香月博士の『解放状態』の説明に唖然とするまりも達
タダでさえ、先程の『ディレイ』で驚いていたのにも関わらず、更に『解放状態』などという機能まで追加し、驚きを通り過ぎて唖然とするしかなかった。


「ちなみに…このディレイや解放状態なんだけど…
発案者は白銀よ♪」

「「「「ハアァァァァッ!?」」」」

『ふぁ…オギャアァァッ!!』

「あ…済まぬ護っ!?」


大声で驚愕するまりも達
しかし、そんな大声に驚いた護が大泣きしだす。
慌てて冥夜があやすが、なかなか収まらず、結局はタケルが代わって泣き止む事になる。


「アンタ達五月蝿いわよ。
一応赤子が居るんだから、驚くのは良いけど、静かに驚きなさい。」

「「「「………スミマセン」」」」

「元々XM3は白銀の発案で作られた物よ?
だから別に白銀が新しい機能を考えたって、別におかしい事ではないわよ?」

「そ…そうでした…」

「ス…スミマセンでした…白銀大尉」

すっかりXM3の発案者という立場を忘れていたまりも達
水月が小さくなりながらも謝罪の言葉を入れる。


「今回私達が京都に居る理由だって、一番の理由は白銀が居るからよ。
元々XM3は白銀の機動特性を元にした物だから、ヴァージョンアップするって事は白銀の存在が絶対不可欠って事なのよ。」

「では、横浜基地に呼んだ方が早かったのでは…?」

「今は無理よ。
白銀の専用機の件もあるし、他にも軍事的な理由もあるから、今年一杯は帝都を離れる事は出来ないわ。
まあ…余程な重要な時や出撃の時は別だけどね。」

そういうと、少し考えてから、タケルに告げる。


「白銀---まだ決定事項ではないけど…
もしかすると今年中に『欧州』に飛んで貰うかもしれないから。」

香月博士の口から出た言葉に、流石のタケルも驚きを隠せなかった…。


あとがき----


しばらくぶりです、騎士王です。


今回はちょっと謝罪を…

前回、『何故みちる達が天狼を知ってたか?』の件ですが…
途中ですっかり忘れてしまい、今回書けませんでした、スミマセン。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第七十五話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2011/08/23 06:55

「ふぅ…やれやれ…
まさか欧州…とはねぇ…。」


突然の夕呼の一言に驚き、溜め息を吐くタケル


現在は自分の部屋に戻り、先程の話を思い出す。

詳しく聞けば、欧州にあるドーバー基地に向かい、XM3の教官として向かう事らしい。


期間は1~2週間程
一応予定としては第17大隊ごと欧州へと向かう予定


これが欧州へ向かう『表向き』の理由
『本来の理由』は別にある。


先程香月博士がタケルと内密な話があり、発覚する。


『実際はね、欧州がBETAに攻められる時に向かうわ。
欧州がBETAに攻められ、危機に瀕した時に颯爽と現れる日本の守護者達…
XM3や日本を宣伝するには丁度良いし、『借り』が出来るじゃない?』


----後にタケルは語る(心の中で)。


『アンタ…鬼や…』


フフフッ…と笑う香月博士を見て、素直にそう思ったタケルだった…。


「タケルさん、霞さんや他のお客様達が来ましたよ?」

「あ、ハイ、今行きます。」


すると部屋にやちるが来て、霞達が来た事を報告する。
そしてタケルも、立ち上がり、居間へと向かう。


「お疲れ様~。
霞~…今日も頑張ったなぁ~☆」

「ハイ、頑張りました…。」


居間に入ると、霞の他に結城・唯依・正樹・真那が新たに加わっていた。
そして、霞の頭を優しくナデナテしていると---


「タケル、久し振りね。」

「母さん!?」

「俺も居るぞ?」

「親父もっ!?」

すると久々に影行と楓の姿もあった。


「丁度霞ちゃん達と遭遇してな、一緒に来たという事さ。」

「そっかぁ~…」

「母さんったら、護に会いたくて、今日という日をウズウズしてたぞ?」

「か、影行さんっ!!」


影行のチクりに真っ赤になりながらアワアワする楓
周りのみんなも笑い声が響き、終えるとタケルは唯依と正樹の前に座る。


「済まんな、急に呼び出して。」

「いえ、今日はこれといった用事は無いので。」

「俺も同じです。」


実は、正樹と唯依は元々今日月詠家に寄るようにと、タケルからの指示があった。
その際、丁度霞と結城が月詠家に向かう事を知り、護衛も兼ねて来たのだ。


「実はな、これは先生や悠陽は勿論、椿さんや真耶さん・まりもちゃんと話し合って決めた事なんだが…。
---明日付けで、お前達二人は『中尉へ昇進』する事が決まった。」

「なっ---!?」

「ち、中尉にっ!?」


突然の昇進に戸惑う唯依と正樹


「お、お言葉ですが、私達はまだ衛士となって一年と経ってない若輩者ですっ!!
冥夜様が昇進という事ならばわかりますが、何故私達二人が昇進なのですか!?」

唯依が戸惑いながらも、タケルに疑問をぶつける。
正樹も唯依の言葉に同意する。


「勿論冥夜も明日から中尉に昇進する事になってる。
お前達の昇進はな、実は理由があっての事だ。」

「理由…ですか…?」

「ああ、そうだ正樹。
お前達もわかってる事だが、ウチの中隊は、正規の人数に満たない部隊だ。
だが、『質』としては、何処にも負けないぐらいのメンバーが揃ってる。」


タケルの言葉に同意する唯依と正樹
自分達新任少尉四人は抜いたとしても、その実力はエース級以上の先任達。

確かに『数』では劣るが、『質』では何処にも負けない事は自分達が嫌って程身に刻まれた事だ。


「今回の訓練兵が卒業すれば、数人は確実に入る事になる。
そうなれば、正規の人数に届くだろう…。
---だが、『来年』の事を考えれば、今の状態じゃダメなんだ。」

「来年…ですか?」

「そうだ。
一応言っておくが、第四中隊は、まだまだ人数が増える予定だ。
今は『中隊』だが、来年には『大隊規模』に増えるかもしれない…という事だ。」

「「!!?」」


タケルの言葉を聞き、驚く二人


「それに普通に考えたって、第17大隊はあくまでも『大隊』なんだ。
なのに『四個中隊』もある事自体、異例中の異例なんだ。」

そしてタケルに言われ、ハッと気づく。


「第17大隊が『連隊』になるかは、まだ未定だ。
もしかすると第四中隊は別部隊になるかもしれない。
それは今はまだわからない。
だが…間違いなく増員する事だけは絶対だ。」


まだ決定していない事だが、増員する事は間違いと宣言するタケル


「そして良く考えてみろ。
まりもちゃんは、本来は『国連軍所属』だ。
理由あって今は斯衛に居るが、万が一なんかの理由が出来れば、まりもちゃんは国連軍に復帰する事にもなるんだぞ?」

「あ…!!」

「そういった理由も有るから、今回話し合った結果、お前達の昇進が決まったんだ。
---だからって浮かれるなよ?
今のお前達は『形だけの中尉』という事を忘れるな。
来年のその時の為に、今は中尉としての仕事を必死に学ぶんだ。」


今やっと知る二人
今回の昇進は重大な『任務』であるという事に---


「来年から中尉になるなんて意見は聞かんぞ。
もし、来年から中尉になったとしても---
ヒヨコの中尉殿が部下達を護りきる事が出来ると思うか?
もしかすると、お前達が小隊長になり、部隊を仕切る可能性だってあるんだぞ?
---その時、お前達は部下達の『命』を守れるのか?」

「そ、それは…」


出来る、と言葉に出す事が出来ない唯依と正樹
例え、数十年という経験の持つ紅蓮大将達ですら、部下を失う事はあるのだ。
ヒヨコ成り立ての衛士である自分達では、下手をすれば、部下達全員の命を失う可能性だってある。


「明日から中尉になるのは、お前達が『経験』を得て貰う為の早期昇進なんだ。
今から中尉としての仕事を経験すれば、来年から中尉になるよりは全然違うと思うが?」

「た、確かにそうですが…」

「不安なのはわかる。
けど、1%の可能性でも多く、仲間の命を救えるならば実行するべきだ。
それは必ず無駄にはならないし、お前達にとっても良い経験になる。」


不安な気持ちを持つ唯依と正樹
そんな二人に説得をするタケルの言葉が不安を少しずつ取り除かれる。


「お前達にも以前言ったが、来年ウチの第四中隊は国連軍に一時的に属する事が決まってる。
その際、訓練兵が卒業して新任少尉になれば、お前達は先任としての責任を負わなければならない。
ならば、今の内経験を積んで来年の新任少尉達を導く先任になれ。
お前達なら出来ると信じて選んだんだ。」

「先任として…導く存在…」


一言呟く唯依
そして正樹と共に周りの先任達を見る。


『私達にこの先任達のように導けるのだろうか---?』


自分達にとって、尊敬する先任達と自分達を見比べ、不安に思う二人


だが---


「大丈夫だって、オレなんかにも大尉やってけてるんだ。
お前達なら出来る。」

「白銀大尉…」


チラリと一瞬水月を見て呟く言葉
『二度目の世界』で、あの桜並木の墓標の前で『速瀬中尉』の言葉を思い出し、その言葉をそのまま使い、二人に伝える。

(速瀬中尉…今ならあの時の中尉の気持ち…少しわかります。)


緊急とはいえ、少尉でありながら小隊長と突撃前衛長という重責を背負った自分の緊張を和らげるのに使った言葉
改めてその意味と気持ちを少しだけ理解する。


(やっぱり貴女は凄い人です…。
あの時の言葉を伝えただけで、二人の雰囲気が変わった。)


事実、二人の雰囲気が変わり、表情から戸惑いが殆ど消える。
改めて尊敬せし先任達の存在の凄さを思い知るタケル

心の中で、タケルは『ありがとうございます…中尉。』と感謝の言葉を贈る。


「白銀大尉…俺…やります。」

「私もです、白銀大尉」

「うっし。
なら…篁唯依少尉、及び前島正樹少尉。
明日付けで貴官等は中尉へと昇格する事を命ずる!!」

「「ハッ!!了解致しました。」」


再度二人に中尉昇進を告げるタケル
そして迷いの無い表情で受理する唯依と正樹
そんな二人を見て、内心ホッと一安心する。

「さて、篁達の昇進話が終わった所だけど…
実はね、速瀬と涼宮の二人も今日付けで中尉に昇進したのよ。」

「本当ッスか!?」

「ええ、本当よ。
まあ、この二人に関しては実戦は一度だけだけど、ハイヴ攻略って実績があるからね。
あとは色々努力した結果、昇進に繋がったって訳」

「へぇ~…そっかぁ…」

水月と遙の昇進話に笑顔になるタケル
その表情を見てか、真っ赤になりながら照れる二人を見て『ちょっと新鮮だな』と思ったりする。


「私達の他にも孝之や慎二も中尉に昇進したんですよ♪」

「成る程、今度なんかご褒美でもしてやるか。」

「ヤッタァァッ♪
白銀大尉からご褒美よ、遙♪」

「お、落ち着いて水月~。」


タケルの『ご褒美』という言葉に反応してハシャぐ水月
そんな水月を落ち着かせようと恥ずかしがりながら実行する遙
そんな二人を見て、みちるやまりもが『やれやれ…仕方ないな…』と少し苦笑する。


「ハイハイ、落ち着け速瀬
今度四人まとめてご褒美してやるよ。
勿論、お前達もご褒美してやるからな、篁、正樹」

「あ、ありがとうございますっ!!」

「えへへ…スミマセン白銀大尉」


ハシャぐ水月を落ち着かせるタケル
ついつい嬉しくて、照れながら謝罪する水月と、思わぬ幸運に唯依と正樹も驚く。


「ところで…正樹…」

「なんですか、白銀大尉?」

「お前…何時になったら『式』挙げるんだ?」

「「ブブゥッ!!」」

「ウワッ!?汚っ!?」


タケルの一言で茶を吹く正樹とみちる
タケル以外は颯爽と回避した為、被害はタケルのみになった。


「い、イキナリ何を言うんだ白銀っ!?」

「いや、だって…正樹だって明日から中尉だしぃ~…
そろそろ正樹もいい加減にしないと……………………俺みたくナルゾ?」

「白銀大尉のその手の話は、冗談じゃないから、尚更怖いですよ…。」


正樹の事を思い、『いい加減結婚すれ』と説得するタケル
慌てて反論するみちるだが、内心『私だって早く結婚したいわよっ!!』と呟く

そして当の正樹はタケルの一言(実談)にビビり、『オレも婚姻届を持って迫られるのかな…?』と不安げに感じていた。


「正樹…お前の為を思って言ってるからな?
あんまり決断を遅くすると…………………嫁候補が増えるぞ?」

「え゛え゛ぇぇっ!!?」

「だだ…駄目だっ!!!」


更にタケルの信憑性の高い一言(経験談)により、更に怯える二人
タケルの目尻に溜まる液体を見て、更にその危険度(?)を語るには充分だった。


「孝之も大丈夫かなぁ~…
アイツもオレや正樹と同種だし…」

「ししし、白銀大尉!?」

「これ以上駄目ですぅぅっ!!」


今度は孝之に話を振り、ビビる水月&遙
その様子を見て、香月博士の親指がグッと立てていた。


「霞…孝之の情報入ってないか?」

「…現在、速瀬中尉・涼宮中尉・碓氷大尉が候補として知られてますが、とある情報によれば…Aさんも参入するとか…」

「何っ!?A…だと…!?」

「Aって誰っ!?
誰なの、社、Aって誰ぇぇぇっ!?」


タケルと霞の会話を聞き、Aという人物に怯える水月と遙


「霞…ちなみにその情報源は…?」

「………………………鎧衣課長です。」

「あのオッサンは……
けど、一気に信憑性は高まったな。」

「はうぅぅっ!?
だ、誰ですか、そのAって人は!?」

「「誰って………」」


遙の一言に反応して凝視するタケル&霞
その暗い瞳×2で凝視される遙は更に怯える結果になる。


「な、何故私を見るんですか…?」

「……………知らない方が幸せな時って…あるんですよ?」

「や、社さんっ!?」

「大変だな…涼宮中尉…」

「白銀大尉ぃぃっ!?」

「どどど…どうすれば…?」


怯える二人に更にトドメを刺すタケルと霞
そんな場面に---この人が黙ってる訳が無い。


「速瀬…涼宮…
貴女達に『コレ』をあげるわ。」

「コレは一体…………………これはっ!!!」


思わずリアルな顔つきになる水月
何かと思い、香月博士が渡した『紙切れ』を見ると---


「えっ…………………『復重婚姻届』…?」

「「「はっ!?」」」

「コレでサッサと『結婚』しちゃいなさい。
ホラ、妻の欄の方に名前を記入して…後は拇印だけでOKよ。」

「遙っ!!記入するわよ!!」

「えっ、あ、うん。」

サラサラと素早く記入する水月と遙
拇印も済ませ、準備OK
そして---


(い、嫌な予感が…。)

「残念だが…正樹、逃がすわけにはいかん。」

「む、宗像っ!?」

「済まんな、前島少尉。
友のまりかの為にも、覚悟をしてくれ。」

「た、篁っ!?」


逃走しようとした正樹を美冴と唯依が拘束し---!!!


「レバッ☆」

「グハァッ!?」

「今だよ、伊隅大尉!!
サイン早く書いて!!」

「済まない、純夏(やっと…やっと正樹と夫婦に…☆)」


拘束された正樹の腹部に純夏のボディブローが炸裂し、グロッキーになった隙に、颯爽と婚姻届に記入するみちる

乙女達の連携プレーの犠牲者となった正樹に、第三者として見ていたタケル達は南無~…と合掌する。


そして時間が経ち、みんなが月詠家に泊まり込み、寝る段取りをしている時---


「タケル…」

「ん、どうしたクリスカ?」

「ちょっと…相談がある。」

クリスカが表情を暗くして、タケルの下に尋ねる。

そして場所を道場へと移すと、話が始まる。


「実は…あのナスターシャというソビエトの衛士についての相談なんだか…」

「あ゛あ゛~…ヤッパリ揉め事になったか?」


コクリと頷くクリスカを見て『ヤッパリかぁ…』と溜め息を吐くタケル


「リーディング…したのか?」

「うん……本当はやりたくはなかったけど、何故揉め事になったのか知りたくて…。」

「気にするな…とは言えないが、けどそれはお前達が悪い訳じゃないだろ?」

「けど…あの者にしたら…私達は『仇』だ。
大切な人の命を奪った『怨敵』になる。」


自分達とナスターシャの問題に、不安を持つクリスカ

違う並行世界とはいえ---
洗脳されていたとはいえ---


自分達は彼女の大切な人の命を奪った『怨敵』な事には間違いない。

無論、今の自分達は、そのような事はするつもりは無いが、彼女にとっては、自分達は『敵』なのだ。


「……今のナスターシャはな…確かにクリスカ達を恨んでいるけど、同時に戸惑っている状態なんだ。」

「戸惑う…?」

「確かにナスターシャにとって、クリスカとイーニァは『怨敵』だ。
例え洗脳されていたと知っていても、ラトロワ中佐の命を奪った『仇』には間違いない。
けど---この世界は違う。
この世界のラトロワ中佐は生きてるし、ジャール大隊だって健在だ。
そしてクリスカ達は洗脳もされてないし、今はソビエト軍ではなく、国連軍だ。
つまり、この世界のクリスカ達を恨む事は『筋違い』になるんだ。」


タケルの隣に座り、説明を聞くクリスカ
ナスターシャの現在の状況を知り、複雑そうな顔になる。

「今のナスターシャは迷ってるんだよ。
この世界のクリスカ達は『仇』じゃないと解ってるんだけど、『前の世界』でラトロワ中佐の命を奪ったのもクリスカ達。
つまり、『仇であって、仇じゃない』という矛盾した状態に悩み続けるんだよ。
多分、お前達に睨みつけたり、罵倒しても、その後には『なんで私はあんな事を…』って後悔して悩み続けてると思うぞ?」

「そんな…」


今のナスターシャの状態を知り、尚更罪悪感を感じるクリスカ
そして、ふとした疑問を感じる。


「……何故タケルはそれがわかるんだ?」

「ん~…まあ…俺も同じ状態な感情になってるからな~…」

「えっ?」

「ほら…『12・5事件』の件でな…」

「あっ…!!」


『12・5事件』---

『二度目の世界』で起きた日本のクーデター事件。


日本の未来の為に立ち上がった帝国軍の決起部隊が起こした事件
内閣総理大臣・榊是親を含んだ官僚を暗殺事件を始めにし、決起部隊がクーデターを発動する。


首謀者は帝国軍本土防衛軍・沙霧尚哉大尉

結果は沙霧尚哉大尉の討ち死と同時に降伏し、鎮圧はされるが、クーデター軍の起こした結果により、政威大将軍の威厳は復活し、復権する


「あの事件のせいで、仲間達が悲しみ、涙を流し、不幸になった。
どんな理由であろうとも、その事に関しては俺は許さない。
けど---この世界は違う。
『二度目の世界の沙霧』と『この世界の沙霧』は同じであって全く違う存在だ。
だからこの世界の沙霧を恨む事は筋違いだけど、だからって簡単には納得は出来ないんだ。
まっ、それが人間の心情なんだろうけどな。」

「タケル…」


落ち着いて語るタケル
だが、その拳は力強く握り締め、冷静を保っていた。

それを見てクリスカは、小さく『ゴメンなさい…』と呟きながら、タケルに寄り添う。


「だからナスターシャの事も信じて待ってやれ。
これだけはアイツの問題だからな。」

「うん…わかった…」


タケルの言葉を信じ、少しだけ表情を明るくするクリスカ


「はぁ~…仕方ないなぁ…
今日は許してあげるか。」

「ウン☆
…ありがとうね、タケル♪」


そして影でコッソリと出歯亀をしていた純夏とイーニァがコソコソと退散していった。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第七十六話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2011/08/30 04:14
2000年・5月9日

京都・帝都城第一滑走路----


「此処が日本か…」


輸送機から降りる女性…ジャール大隊大隊長・ラトロワ中佐が一番最初に日本の大地を踏む。
そして、その後を次々とジャール大隊の隊員達が輸送機から降り、ラトロワ中佐の後に続く。


「ジャール大隊に…敬礼ッ!!」


そして出迎えに来ていたタケルを始めとして、純夏・霞・正樹・唯依・そしてナスターシャがジャール大隊を歓迎する。

本来ならば、純夏はヴァルキリーズと共に横浜に帰る予定だったが、今回は霞からCPの訓練やナスターシャの面倒で滞在期間を伸ばしていた。


「出迎え、御苦労。そして…」

視線をナスターシャへ向け---


「元気そうだな、ターシャ。
通信では顔を合わせていたが、こうして実際に会うのは久し振りだな。」

「ハイ、ラトロワ中佐やみんなと久し振りに会えて嬉しいです。」


この時だけ、ナスターシャはジャール大隊の一員として接する。
表情も久し振りの再会に笑顔が溢れていた。


「ターシャ!!元気だったか?」

「うわっ♪久し振りだね、ターシャ」

「コラ、キーラ、トーニャ。
みんなまで…痛っ!?」


仲間達から手厚い歓迎を受けるナスターシャ
多少痛い目に合うが、ナスターシャの笑顔に変化は無い。


「部下が失礼した。
なんせ、久し振りの再会だから許して欲しい。」

「別に構いませんよ。
ウチらも部隊内ならば砕けた態度で接してますから。」

「タケルちゃんの場合は別だけどね。
タケルちゃんは上官でも馴れ馴れしいし…痛たぁっ!?」

「一言多いぞ、純夏」


一言余計に喋った純夏に『対純夏用決戦兵器・ビニールスリッパ』でお仕置きするタケル
そんな様子を見て、ラトロワを含んだジャール大隊から爆笑の声が響く。


「今は任務中だぞ、純夏
『タケルちゃん』は厳禁って言っただろうに…」

「う~…そっちだって『純夏』って言ったぢゃん…」

「上官だからその程度は許されるんだ、覚えておけ。」


「う~…りょうかい…」

涙目になりながら『建て前では』了解する純夏
…まあ、内心は『卑怯だよ…タケルちゃん…』と呟いていた。


「そちらも随分楽しい事をするのだな。」

「この程度は一週間前の朝飯前です。
普段はっちゃける時は、みんなして暴走してるから、困ってます…。」

「そ、そうか…」

「まあ、自分も偶に暴走するから人の事は言えませんけどね。」


先程のやりとりが序の口程度と知り、『軍隊として、どうよ?』とジャール大隊の皆さんから内心思われる事になる。


「遅れましたが、俺は帝国斯衛軍第17大隊所属、第四中隊長の白銀武大尉です。
今回のXM3の教官を担当してますので、宜しくお願いします。」

「私はこのジャール大隊を指揮するフィカーツィア・ラトロワ中佐だ。
貴官がシロガネ・タケルか。ターシャから色々と聞いているよ。」

「色々…なんか嫌な予感がするんですが…」

「フフッ、勿論そっちの意味も聞いているよ。
ハーレムを築くとは、中々やるではないか。」

「ぐはっ!?」


早速ラトロワ中佐から先制攻撃を受けるタケル
ジャール大隊の隊員達からも『ハーレムやるなんて、やるぢゃん♪』『すげー。女殺しだよ…』『リアルでやってる奴、初めて見たよ…』等々、激しい追い討ちを喰らう事になる。


「勿論、戦術機の腕も聞いているよ。
『白銀の守護者』と呼ばれ、ターシャですらコテンパンにする程らしいな?」

「その呼び名は大袈裟ですよ…
守護者って意味なら、日本にはチートをブチ抜いてる人が『三人』居ますからね…。」

「チート?
それはどういう意味だ?」

「チートって意味は…簡単に言えば『ズル・反則的』って意味ですけど…
この三人に関しては、存在そのものが反則的なんですよ…」


タケルの脳裏には紅蓮大将や神野大将が浮かび上がる
そして最近、雷電も加わりタケルの悩み事が増えてしまう。


「…例えると?」

「戦術機で例えれば…
36mmを薙刀で全部弾き落とすとか…
一機で一個師団撃破出来るとか…
短刀一本で120mmの狙撃弾くとか…
本人達に何故出来るんだと聞けば…『気合い』とか『根性』とか『努力』とかで済ます人達です。」

「……………………………………勿論…冗談…だよな?」

「勿論………………実話です。
今度対戦してみればよ~~~~くわかりますよ?」

「あははは……ラトロワ中佐…
そのお話………本当に実話です…。」


「………なんだと?」


信じたくない話だったが、ナスターシャの言葉も加わり、事実と知るラトロワ
その際のタケルやナスターシャの暗い表情を見て、『…………ええぇっ…?』とジャール大隊の皆さんに不安感を与える。


その後、帝都城内を案内し、ジャール大隊の寄宿する部屋を案内した後、とある部屋に案内する


「ここで今後の説明等をしますので、しばらくお待ち下さい。」

「わかった。」


タケルからの説明を受けてから五分後に、部屋の扉からノックが響き、入室して来る。


「タケル、待たせたな。」

「いえ、先程来たばかりですよ、神野大将……って!?」

部屋に入って来たのは神野大将
タケルもジャール大隊には神野大将が説明等をすると聞いていたが---
予想外にも、他にも『来客』が来ていた事に驚いていた。


「失礼致します。
ジャール大隊の皆様、初めまして。
私はこの国の政威大将軍の煌武院悠陽と申します。」

「----ッ!!
総員、煌武院悠陽殿下に対して敬礼ッ!!」


突然の悠陽の登場に驚愕しながらも敬礼の命を放つラトロワ
ジャール大隊の隊員達も戸惑いながらも敬礼する。
勿論、タケル達もジャール大隊の前なので敬礼する。


「突然の来訪で申し訳ありません。
しかし、遥々海を越えてソビエトから来たジャール大隊の皆様に挨拶をと思い、来た所存です。」

「いえ、殿下直々に来て頂き光栄であります。」

「ありがとうございます。
では、神野…ジャール大隊の皆様方に御説明を…。」

「ハッ、殿下」


悠陽からの命を受け、神野大将が一歩前に出て、ジャール大隊に説明等をする。


説明の内容は極簡単な物で、侵入禁止領域(謁見の間等)の説明やこれからの任務等の説明、その他の作業やプライベート等の説明を受ける。


説明を受けてる最中、ラトロワの思考の中は別の事を考えていた。


(まさか国のトップが出て来るとは…予想外だったな。
しかし…中々の人物だな…まだターシャと変わらない歳でありながら、強かで肝も据わってる。
…これは見た目で判断すれば、痛い目に遭うぞ。)


冷静に悠陽を分析するラトロワ
見た目とは違い、相当なやり手と判断する。


(こうして我々の前に現れるという事は『襲われても絶対無事でいられる』という自信の現れなのか…?
という事は、この大将の二人やシロガネ大尉の実力を信頼しているという事か…)


堂々と現れる悠陽のに対して、護衛として現れた紅蓮大将や神野大将、そしてそばに居るタケルの実力を相当な物と判断する。

しかし、実際はタケルの武人としての腕前はまだまだなので、タケルに関しては過大評価だったりする。

そしてラトロワは知らないが、部屋の外には真那と真耶が
そして天井裏では静と暗部数名が悠陽を護衛していた。

「…と、以上を守って貰えれば、この帝都城の外に出ても構わないので、街に出る際は、必ず事前に連絡を入れる事。
以上で説明を終わらせて貰う。」


説明を終えて、一歩下がり悠陽の護衛に戻る神野大将
そして再び悠陽が口を開き、軽い説明をする。


「今日は長旅の疲れを癒やして貰い、明日からの任務に励んで下さい。
あと、何か御質問等ありますか?」

「では一つ良いでしょうか、殿下?」

「なんでしょうか?」


するとラトロワが挙手し、悠陽に質問をする。


「質問というより、お願いなのですが、日本の戦術機の訓練等を見てみたいのですが…宜しいでしょうか?」

「勿論構いません。
紅蓮、今戦術機の訓練をしている部隊は何処ですか?」


戦術機の訓練の見学を許可する悠陽
紅蓮大将に何処の部隊が訓練をしているか質問をすると、些か表情を苦くして思考する。

「フム、勿論様々な部隊が行ってますが…となると…。」


やはり精鋭の部隊…と考える紅蓮大将
今回のXM3の件を鑑みれば、下手な部隊を見せる訳にはいかない。


「そうだ。
そういえばタケルよ、そなたの部隊がこの後訓練だったな?」

「あ、ハイ。
第17大隊は午後イチからシミュレーター訓練が予定に入ってますけど…。」

「ならばその時が良かろ。
時にタケルよ、今日は教官職は?」

「入ってないですけど、まりもちゃんは今教官職に入ってますよ?」

「うむぅ…そうか…まりも殿が…。
済まないがタケル、まりも殿を午後から呼んでくれないか?」

「それは良いですけど…訓練兵達の授業はどうするんですか?」

「むぅ…」


第17大隊を選ぶ紅蓮だが、今まりもが教官に入ってる為、外れてる事を告げるタケル
今時期半日自習にするのはマズいと考え、唸る紅蓮だが----


「ならば午後からの授業を今回は特別に『シミュレーター訓練の見学』という名目を作りましょう。
勿論突然変わった理由も素直に言って説明すれば、訓練兵達やまりも大尉も納得いくでしょう。」


悠陽の提案に『おおっ!?』と声が響く。
紅蓮達は納得の意味での声で、ジャール大隊の隊員達は予想外の展開に驚く声が出る。


「ラトロワ中佐、済みませんが見学に訓練兵も加えて宜しいでしょうか?」

「勿論構いません。
此方こそ自分の用件を叶えて貰い、感謝しております。」

「いえ、これぐらいは構いませんわ。」


笑顔に笑う悠陽とラトロワ
しかし、その笑みの裏側には、お互いに軍事的な戦いがあった。


sideラトロワ---


(やはり見た目とは違い、中々のクセ者だな。
XM3の有効性をアピールする為とはいえ、此処までするとは…
敵には回したくはないタイプだ。)

悠陽の取った行動に再評価するラトロワ

(ターシャの情報だと、殿下は民はおろか、軍人であれ、その命を大事とする人物であり、
自分との命と民一人の命を選択肢されれば、間違い無く民の命を選ぶ人物と聞く。)

通常ならば指導者として、あるまじき選択
だが、その姿を見る民や軍人達からすれば、正に煌々しく写るだろう。

民の為に命を賭け、救おうとする姿。
このような事を実行出来る国のトップが他に居るのだろうか?


(『本土防衛戦』の時も民を先に退避させ、自分はこの京都で最後まで残り、
退避した時も、防衛戦に参加していた衛士達と一緒に退避したと聞く。
……まだ成人にも届かない少女でありながら、その覚悟…
我が祖国の上の連中にも見習ってほしいものだ。)


悠陽殿下の評価を再び上げる
自分の祖国の上の連中と比べ、『見習ってほしいものだ』と内心で呟く。


(今だってそうだ。
万が一我が隊が『煌武院悠陽暗殺』の命を受けていれば、シミュレーター訓練なんぞ、暗殺には持って来いなシチュエーションだ。
モニターに集中している隙に部隊全員で狙撃すれば、殿下とてタダでは済まない。
無論、話通りの人物ならば、訓練兵を『壁』にする事も無いだろう…。)

見学に悠陽殿下も来ると予測する。
その堂々とした悠陽の態度に流石に圧巻する。


(まあ、殿下の事は今はいい。
今は任務内容であるXM3を見せて貰おう。)

任務内容であるXM3に思考を変える。


(そういえば…このシロガネ・タケル大尉と言ったな…。
ターシャが絶賛する腕前…楽しみにしよう。)


チラリとシロガネ・タケルに視線を向け、笑みを浮かべる。


さて---極東の英雄殿の実力を拝見しよう---。


sideend


(なる程…話通りの人ですね…。)

ラトロワと同じく、悠陽もラトロワを観察していた。


(時々感じる鋭い視線…
向こうも私を観察しているのでしょうね。)


時折感じるラトロワの視線に『観察されていた』事に気づく。

(まあ…私が堂々と出て来た事は予想外でしょうけど、此処は堂々と接する姿を見せつけてやらねばなりませんね。)


今回悠陽がジャール大隊の前に現れたのは理由があった。

今回悠陽が登場した理由は、悠陽自身が『お飾りではない』とソビエトに知らしめる為だった。


近年まで、政威大将軍という職が『お飾り』として見られて、日本は『弱小国』と見られていた。

しかし、悠陽の代で『お飾り』という不名誉を撤回し、復権した事を世界に知らせたとはいえ、その中身をまだ舐めて見ている者達も、まだ多い事も事実だ。


『名ばかりの小娘』というイメージを撤回する為にも、まず悠陽が取った行動は、今回のジャール大隊との接近だった。

ジャール大隊と接すれば、必ずソビエトの上の連中に自分の事を伝える筈。
他人の噂話より自分の身内(軍の人間)の話の方が、まだ信憑性が高くなる。


無論、自分の身に危険は出て来るが、その覚悟を持てねば政威大将軍という職には着く事は出来ない。

つまり、悠陽は自分の身を危険に晒しつつ、自分が『お飾りではない』という事を伝える『メッセージ』であった。


(向こうも私の情報を得てるでしょう…。
ならば----その情報を『利用』させて貰いましょう。)


悠陽もラトロワをチラリと見てから、笑みを浮かべる悠陽
そして---悠陽の側には霞が居た。


(ナスターシャさんの言うような人物であれば、私の暗殺…などという事はまず無いでしょう。
まぁ、霞さんのリーディングを頼んでおりますから、其方の考えを読む事が出来ます。)


そして万が一の事を考え、悠陽は霞にリーディングを依頼していた。

もし、悪影響を与える事態が起きる可能性があれば伝えて欲しいと霞に依頼したのだった。


(さて、とりあえずは第一段階は成功という事で…タケル様の勇姿を楽しみにしましょう☆)


思考を変え、ちょっといつもの悠陽に戻る。
やはり、愛しの旦那様の活躍は見たい様子。
その辺は歳相応の『女の子』だった。


その際、ラトロワ中佐と視線が合い、お互いに笑みを浮かべる。


だが----


「ナスターシャ…これは一体どういう事だ!?」

「コッチが聞きたいぐらいですっ!!」

『コワイヨ…コワイヨ…』


悠陽とラトロワの側から離れた(逃げ出した)タケル達
二人の静かなバトルにガクガクブルブルと震えていた

二人が視線を合わせて笑みを浮かべる際、激しい火花が散り、その間に居たジャール大隊の一部のメンバーや紅蓮が犠牲となり、プスプス…と灰になっていた…。


「初めてみたよ…視線の火花って、人をも焦がすんだね…」

「莫迦野郎…俺はいつもお前達の火花で焦がされてるわっ!!」

タケルの背後に隠れる純夏が、初めて視線の火花で焦がされてるシーンを目撃する。
だが、タケルにしてみればいつものお約束みたいなイベント(お仕置き?)な為、その恐ろしさを充分に知っていた。


「ターシャ…助け…ガクッ!!」

「キーラ!!しっかりしてっ!?」

キーラがナスターシャに助けを求めるが、セリフを言い切る前に力尽きる。

この日を境に、二人がバトルをしている時は、その間には入らないと心に誓うタケル達だった…。




あとがき---


また日曜日に更新出来なかった…orz


しばらくぶりです、騎士王です。


今回は遂にジャール大隊の登場を話です。

本当はシミュレーター訓練まで書きたかったんですが、無理だった…orz

本当は日曜日に更新出来そうだったんですが、一部変更した為、更新が遅れました。


さて、hobby Japanの最新号を見ましたが…ヘタレ王…活躍してましたね。


けど、ショックな事に色々修正部分が出来てしまい、ちょっとヘコんでます


今回の修正ですが、訓練兵じの時の『○○○衛士訓練~』を『207衛士訓練~』に修正します。


孝之の居た部隊の『デリング中隊』の件ですが、今回は碓氷の部隊に入れた為、変更は無しにします。(碓氷はデリング中隊では無かった筈…)


けど、孝之と慎二のポジションが強襲前衛で良かった…(^_^;)


七十四話の誤字等の修正と一緒に後で修正しますので、お待ち下さいm(_ _)m



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第七十七話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2011/12/21 07:03
「こ…これは…ッ!?」


驚愕。
その言葉だけ、強く表現出来る言葉だった。


回想---


あの後、タケルはシミュレータールームに向かい、訓練の段取りをする。

椿に今回の事を伝え、部隊全員に伝えるよう頼む。
それと同時にナスターシャも、教室へ戻り、まりもや祷子達に今回の事を伝える。
勿論、まりもの深い溜め息が漏れた事は言うまでもなかった。


そして午後1時---
シミュレータールームには、第17大隊・ジャール大隊・207衛士訓練兵達が集合していた。

今回の訓練内容は『対人戦闘』つまり戦術機同士の戦いだった。


そして今回は特別に完成したばかりの『通信式管制ユニット』を使い、横浜基地にいるA‐01との対戦だった。


そしてA‐01側の部隊はヴァルキリーズ・オーディン隊の他に、影行・楓の居るシルバーチャリオッツ隊から2中隊を加えた混成部隊だった。


ステージは横浜基地の市街地跡演習場。
ステージはアウェーだが、タケルと冥夜にとって『懐かしいステージ』だった。


第17大隊のCPは修行中の純夏
A‐01側のCPはピアティフ中尉
(ちなみにピアティフがタケルの姿を見た途端、頬が僅かに赤くなる。
それを見た純夏は無言でタケルにレバーブローを放ち、一時はタケルが出撃不可能になる所だった。)


そして、訓練が開始すると、其処は想像を絶する戦いだった。


まずはA‐01側の先陣は、ヴァルキリーズの『新・突撃前衛長』の速瀬水月と『ヴァルキリー・マム』の涼宮遙が搭乗する不知火・改と、オーディン隊の新・突撃前衛であり、『元ヴァルキリーズの突撃前衛長』の『甲斐真実大尉』が、異例のW突撃前衛長のエレメントを組んできた。


元々甲斐大尉は、ヴァルキリーズの突撃前衛長だったが、『光州作戦』で重傷を負い、一時戦場から引いていた。

しかし、彼女の不屈の精神で今年の1月に復帰し、リハビリを兼ねた訓練を地道に積んで来てた。

そしてXM3にも慣れ、以前以上の腕前になった所で、香月博士との話の結果、ヴァルキリーズからオーディン隊に移転したのだ。


水月を突撃前衛長に推薦したのも彼女
みちるは碓氷と同じく、最古参である甲斐大尉に突撃前衛長としてヴァルキリーズに復帰して欲しかったのだが、代わりに『水月を突撃前衛長として指導してやる』と言い、スパルタ指導で水月を鍛えていたのだ。


結果、水月は突撃前衛長として認められ、正式に決まった……のだが、水月からは『まりも大尉が狂犬なら、甲斐大尉は『番犬』よっ!!!』と…恐れられていた。


ちなみに彼女、まりも信者で、『狂犬二世』とも呼ばれた程スパルタな訓練をする人物だったりする。
勿論その原因はまりもな為、まりもをどれだけ崇拝してるかわかる。


『ヴァルキリー2、無様な姿を晒して撃墜したら、また鍛え直してやるから覚悟しろっ!!』

『オーディン2こそ、白銀大尉にあっさり撃墜されないで下さいよ?』

『相変わらず口だけは一人前だな。
ヨシ、もし無様に撃墜されたらグランド100周だっ!!』

『そちらこそ、私より早くに白銀大尉に撃墜されたら、『恥ずかしい思い出話』をして貰いますよ?』

『ヌゥ…良いだろう。』


緊張感の無い話で盛り上がる二人
だが---


『バカモンッ!!』

『ぷろっ!?』


突如水月機にドロップキックを放つタケルの武御雷・羽鷲

『勝手にオレを賭事に参加させるなっ!!』

『何故それをっ!?』

『んなモン、オープンチャンネル開いて、ギャアギャア騒げば聞こえるわっ!!』

『あっ…そうだった。』

うっかりオープンチャンネルを開いてた事を忘れてた水月
元々囮役だった為、自分達の存在を知らせる為に開いていたのだが、ついつい…盛り上がってしまい、忘れていた


『っていうか、狙うならアッチですよ、白銀大尉!!』

『んなモン知るかぁぁっ!!』

『グハッ!?』


タケルの怒りのラリアートを喰らう水月機
同乗している遙が『私悪くないのにぃ~』と涙を流すが、運が悪かったという事で一蓮托生で犠牲者となる。


「……なんだかなぁ~…」

つい、ポロリと本音を漏らす巽
いつもは尊敬する教官なんだが、今のやりとりを見ると、ビミョーそうな表情でモニターを見る事になる。


『まあ、都合が良い。
元々白銀大尉を誘き出す囮だ。
ヴァルキリー2を無様に倒してくれれば尚良しだ。』

『な゛ぁ゛っ!?』

『アンタら仲間だよね…?』


早速仲間割れ(?)を起こす甲斐大尉と水月
なんともビミョーな気持ちで戦闘開始する。


まず甲斐機が最初に白銀機に長刀で突撃し、白銀機の長刀と打ち合うと、一旦間合いを離し、再び斬り込む。

それと同時に、水月機も白銀機に長刀で斬り込む。


『うおっ!?
流石に突撃前衛長二人はキツいか!?』

『まだまだァァッ!!』

怒涛の水月機の攻撃を捌く白銀機
水月機の背後から甲斐機が突撃砲で援護する。


(随分と苦戦しているな…?
所詮は白銀大尉もこの程度か?)


初めて対戦する甲斐大尉の感想
いくら突撃前衛長が二人がかりとはいえ、此方が優位に立っている。

(ん…『優位』だと…?)


その時、甲斐大尉は『違和感』を感じる。


何故優位なのだ---?

私と速瀬の二人でかかってるからか?


二人がかり…………………エレメント………!!


『まさか----ッ!!』

『とある事』に気づく甲斐大尉
そして---


『ハアァァァッ!!』

『チィッ!!』

甲斐機の背後から奇襲攻撃をする『冥夜機』
そして次々と現れて来る『突撃前衛達』


『コイツはオレが貰ったァァッ!!』

『クゥッ!?』

『僕だって!!』

『なんなのよ、これはっ!?』


形勢逆転。
先程まで『二対一』が『二対五』になってしまったのだ。


現れたのは、冥夜・真那・駿・孝志の四機。
そう---最初のタケルの単騎突入は『囮』だった。


実は第17大隊も、狙われるのはタケルと予想し、あえてタケルを『囮役』として単騎突入させたのだ。


そして釣れる相手は水月とそのエレメント
そう考えて待っていたのだが、例のオープンチャンネルの会話で登場の仕方がド派手になってしまったのだ。


(迂闊だった…
先程の速瀬の突っ込みで肝心な事を見失うとは…!!)


最低限エレメントを組んで行動する事が基本だが、単騎で行動する時は『何かしらの理由』が無ければ単騎での行動は有り得ない事。

なのに白銀機は単騎で自分達に挑んで来たという事は----
何かしらの『策』が有るという事---!!


そして先程の白銀機とは違い、動きが違う。


『グウゥゥッ!!』

『オオォォォッ!!』


水月機から離れた白銀機が甲斐機に突撃する。


(先程の動きとは全く違う!?
やられた…先程の動きは『時間稼ぎ』かっ!!)


先程までの動きが『時間稼ぎ』と気づく甲斐大尉

この『策』を成立させる為に、ワザと動きを抑えていたと知る。


(しかし、腑に落ちない。
何故私達を倒す為に、これだけの突撃前衛達が来るのだ?)


そして新たに現れた疑問。
自分達を倒すならば、白銀大尉のエレメントである冥夜中尉だけいれば良い。
それでも不安ならば、あと一機追加すれば充分だ。


(他にも企みが有る…?)


現状を考えれば、囮役とはいえ、自分達を失えば充分痛い損害になる。

ならば、当然援護は来る---!!!


『まさかっ!?』

『おや?もしかしてバレました?』


ニヤリと笑みを浮かべるタケル
『策』は1つだけでは無かった---


『ヴァルキリー2とオーディン2を早く助けるんだ!!』

『了解!!』


水月機と甲斐機の救出に向かうオーディン隊
そして同伴として、楓率いる中隊もいた。

『しかし…まさか向こうも白銀大尉を囮役にするとは…』

『見事に作戦がカブったわね。』

『全くです。』

苦笑する碓氷と楓
まさか向こう側も突撃前衛長を囮役にするとは予想外だった。


『此方は突撃前衛長二人に対して、向こう側は突撃前衛長三人とそのエレメント…
長時間は持たな『オーディン8・9、動力部大破、機能停止。』---何っ!?』

『いつの間『シルバー10・12、機関部大破、機能停止。』--なんですって!?』


突然の仲間の撃墜の報告に戸惑い、足を止める。

『敵の反応は無かったぞ!?』

『ど、どういう事だっ!?』

全機が停止し、全方位を警戒する。


『オーディン5(孝之)からオーディン1へ…
大尉………もしかして『アレ』ぢゃね?』

『『アレ』とはなんだ!?』

『いや、つい最近にも………ヴァルキリーズで同じ事あった……よね?』

すると鳴海機から今の状況を以前ヴァルキリーズも体験したと報告する。
………その際、孝之の表情が真っ青になって、不知火・改ごとブルブルガタガタ…と震えていた。

『……やっぱりそう思うか、孝之?』

『……他に何かあるんなら、教えてくれ。』

『………ゴメン、無いわ…。』

同じくオーディン7である慎二も敵の正体を把握し………恐怖で不知火・改ごとガタガタブルブルと震えていた。


『…………白旗…上げたい気持ちなんですけど…。』

漸く碓氷も敵の正体に気づく。
勿論碓氷機の不知火・改も恐怖で震えている。

『誰なの、オーディン1!?』

楓が敵の正体を尋ねると---

『敵の正体は…………………まりも大尉が乗る天狼一機です。』

『はっ!?』


敵の正体を楓に報告する碓氷
涙を流しながら『狂犬』の恐怖をジワジワと味わっていた。


『だから、あの人にステルス機能付けたら駄目だってっ!!』

『ス、ステルスだとっ!?』

『元がYF‐23ですからねぇ…』

『ハハハ…水月達ガウラヤマシイヤ………』


恐怖のあまり、怯える孝之と壊れかかる慎二
まりもの乗る機体にステルス機能が付いてると知り、背筋に悪寒がはしる楓


そして---


『ウフフッ…♪
楽しませてね、碓氷☆』

『『『キタ-----ッ!!』』』


恐怖の根元・まりもが操る天狼がきゅぴーん☆と赤く眼光を光らせながら現れた。


『ウ…ウォオォォッ!!』

『あっ、コラ、シルバー28突っ込んだら駄目っ!!』

シルバー28が天狼に無謀にも突っ込む。
………ちなみにシルバー28は昨年のまりもとタケルの教え子で、まりもの恐怖は身に染みている為の暴走だったりする。


『甘~いわよっ♪』

『な゛っ!?』


突撃砲を乱射しながら接近するシルバー28
しかし天狼はひらりひらりと余裕綽々に回避し、シルバー28との距離が200程縮むと、倒立反転で他の弾を回避する


『クソォォ…なっ!?』

『フフフッ♪』

だか、シルバー28とて負けじと一旦バックステップで後退し、倒立反転中の天狼に狙撃するが、
あろうことか倒立反転中にキャンセルして、横にあった廃ビルを蹴飛ばし、同時に全力の噴射跳躍で一気にシルバー28の懐に入り、特殊近接戦短刀で機関部を一刺しする。


『まだまだよっ!!』

『『『へっ?』』』

シルバー28を撃破すると同時に、ガチャンと天狼の右肩部の『リヴァイヴ・ボックス』が開き、姿を現したのは---前回大好評(?)だったキャニスター弾のミサイルコンテナだった。


『イグニス11(まりも)フォックス3!!』

『逃げろぉぉぉっ!!』


放たれる狂気の閃光。
拡散するミサイルは炸裂し、戦術機に致命的損傷を与え、次々と撃破する。
孝之や慎二あたりは涙流しながら回避する


但し---此処に『例外』が有るとは、まりもすら気づかなかった。


『ウォオォォッ!!!』

『え…ええぇぇぇっ!?』

ただ一機、一歩も後退せずに次々とミサイルを『撃墜』していく不知火・改が存在した


四丁ある内の二丁の突撃砲には、キャニスター弾を装備していた120mm滑空砲があり、炸裂する前のミサイルを撃ち抜き、仲間達の被害を最小限に防いでいた。

そして同時に、ガンマウントに装着されている突撃砲で、自身を襲うであろうミサイルを可能な限り撃ち落とし、回避を含め、ひたすら『前進』あるのみだった。


その機体の搭乗者の名は、白銀楓大尉
あの『天才衛士』・白銀武の母であった。


流石にこの非常識には、まりもも驚愕し、一旦後退して間合いを広げる。

だが---


『あら、良いのかしら?
私相手に間合いを広げて?』

『---しまっ!!』


後退した事を『悪手』と悟るまりも。
すぐに間合いを詰めようとするが、遅かった。


『---ッ!!』

天狼に激しい振動が襲う。
先程ミサイルを放った右肩部のリヴァイヴ・ボックスが、突如破壊される。

『イグニス11、右肩部中破!!』


『なっ…なんて狙撃だ…!?』

危険を察知し、即座に回避行動を取った天狼
スピードに関しては、現時点で日本最強の速さを持つ天狼の回避速度に追いつき、右肩部を中破したのだ。


『あら、良く回避したわね。』

挑発するようにオープンチャンネルで会話する楓

『良い動きよ、まりもさん。
あのまま回避しなければ---機関部を貫いてたわよ。』

『----ッ!!』

楓の一言にゾクリと背筋に悪寒が走るまりも
相手は『あのタケルの母』なのだ。
子が『天才衛士』ならば、親とて『天才』だとしても、おかしくは無いのだ。


『……親子揃ってチートってヤツですか…?』

『私からしたら、タケルのは予想外よ。
けど---親としてまだまだ負けられないわ。』

苦笑いをしながら楓に接近戦を挑むまりも
その挑戦にあえて答え、砲撃による接近戦をする楓

その壮絶な戦いにただ唖然としている碓氷達。


『オーディン1!!
此処は私に任せて、私の部隊連れて先に行きなさいっ!!』

『---ッ!!了解!!
オーディン1から各機へ、シルバー2(楓)を置いて全機先に進むぞっ!!』

『『『りょ、了解!!』』』


楓の一言で目を覚ます碓氷
そして碓氷の号令と共に再び進軍する。


『あら、狙わないの?』

『貴女を前にして狙う事なんて出来ませんよ…。』

『良い判断よ。
しかし…まさか此処まで作戦が『カブる』とはねぇ…。』

『カブる?』


楓の言葉にピクリと反応するまりも
すると---


『ええ、貴女達が突撃前衛長を囮にして貴女が救出部隊を奇襲攻撃する作戦…
そのまんま此方の作戦と『同じ』なのよ。』

『え、ええぇぇぇっ!?
それじゃ…!!』

『そうよ、今頃影行さん達の部隊が其方の部隊に奇襲してる頃よ♪』


驚愕の事実に絶句するまりも


『そしてもうひとつ…』

『もうひとつ…?』


『母親や子供がチートならば---
父親がチートでもおかしくは無いわよ♪』

『え、ええぇぇぇっ!!?』


一方、同時刻----


『ヌゥゥッ!!』

『流石だね、真耶ちゃん。
オレの奇襲を防げるとは大したモノだ。』


A‐01側の救出部隊に備え、伏兵として隠密していた真耶・真那の部隊が、突如影行の部隊に奇襲攻撃を受け、被害を出していた。


『よもや奇襲攻撃を受けるとは…』

『隠密・奇襲・伏兵は得意科目でね。
『銀の狼達』シルバー・ウルブスなんて呼び名も付いた程だよ。』

『『銀の狼達』シルバー・ウルブス…
確か、対人戦に優れた部隊と聞き覚えがあります。
まさか義父上の部隊とは…』

『まあ、その呼び名は元々の由来は『前の部隊名』なんだけどね。
まさか未だに呼ばれるとは、その頃は思わなかったよ。』


苦笑する影行だが、その言葉に疑問を感じる真那達
激しい戦いを繰り広げながらも、会話を続ける。

『…以前の…部隊名…?』

『そっ。この『銀の戦車』シルバー・チャリオッツはね、以前いた『銀の狼達』シルバー・ウルブスのメンバーで作った部隊でね。
今じゃ、その生き残りはオレを含めた5人しか居ないんだけどね。』

『何処に居たか聞いて宜しいですか?』


真耶の問いに対し、苦笑いをしながら答える。


『皇帝陛下直属守護部隊だよ。』

『『なっ---ッ!?』』

影行の言葉に絶句する二人
そして、その一瞬の隙を見逃す影行ではなかった---!!

『隙アリだよ。』

『しまっ…グウゥゥッ!!』

一瞬の隙を突かれた真那機の左肘部に短刀を突き刺す影行
そのせいもあり、真那機の武御雷・羽鷲の左腕の機能を奪われる。

『中尉から離れろっ!!』

『おっと、危ない。』

篁機と雨宮機が援護で長刀での攻撃を仕掛けるが、軽々としゃがんで回避し、再び短刀を装備と同時に短距離跳躍、篁機と雨宮機の機関部に一突きする。


『駄目だよ、篁君と雨宮君…だったね?
救出する際そんな風に長刀で攻撃したら、こんな風にやられるよ?』

『莫迦な…!?』

『嘘…?』

一瞬で撃破され、悪夢のような感覚を覚える唯依と佳織

その後すぐに前島機とまりか機が突撃砲で攻撃する。


『おっと、流石にコレは無理だね。』


前島機とまりか機の狙撃を逆噴射制動をして回避、その後即座に廃ビルに隠れる。


『オレは楓やタケルみたいに正面から突撃なんて真似出来ないからね。
自分の得意科目でやらせて貰うよ。』

『何を言いますか…皇帝陛下の直属部隊と言えば、歴戦の猛者達が揃う部隊と聞いております。
その部隊出身であれば、我等程度など正面からでも戦える筈です。』

『それは過大評価だよ、真那中尉。
オレはその中の下っ端風情だから、大した実力は無いよ。』

『御謙遜を…。』

廃ビルに隠れる影行機を攻撃する真那機
片腕を失いながらも、自分も廃ビルに隠れながら狙撃戦で応戦する。


『何故、名誉ある皇帝陛下の直属部隊を離れ、帝国軍に移ったのですか?』

『まあ…その…色々あってね。
ちょっとした『きっかけ』で部隊を離れる事になったんだ。』

真耶の問いに対して、何故か顔を赤らめる影行
流石の真耶や真那も、その影行の表情に『?』と頭を傾げる。


『まぁ、そのおかげでタケルが生まれる事になったから、今となっては良い選択をしたと言えるよ。』

『--ッ!?
そうでしたか…。』


そして直属部隊を離れた事で、タケルが誕生した事に繋がっていたと語る影行
その表情に偽りは無いと悟り、真耶は笑みを浮かべる。


『まあ、そんな事もあ--『チェストォォォッ!!』もげっ!?』


イイ話をしてる最中に、上空からタケル機の『踵落とし』が綺麗に入り、影行機の頭部が破壊される。


『コラ、タケル!!
人がイイ話してる最中に攻撃するとは何事かっ!!』

『莫迦野郎!!訓練してる最中にだべって隙だらけなヤツが悪いだろっ!!』

『人がせっかく『昔の思い出ヒストリー・タケル誕生編』を語ってた時に!!』

『何恥ずかしい事をしてるの!?』


セリフと裏腹に、激しい戦闘を繰り広げている白銀親子。
頭部を破壊されてメインカメラなどを破損したものの、サブカメラやセンサーを頼りにして戦う影行機
頭部を失っても激しい攻撃を仕掛ける影行機に対して、一番の武器である機動特性を生かし、アクロバットで翻弄しながら影行機を追い詰めるタケル機。
………せっかくの燃えるバトルが台無しである。


現在----


「どうですか、ラトロワ中佐?」

「殿下…いえ、驚くばかりで言葉を失ってました。」


タケル達のシミュレーター訓練を終え、深い溜め息を吐くラトロワ
その際悠陽が近寄り、質問すると、素直な感想を告げる。


「まぁ……所々の会話などは置いといて…XM3の実用性や性能の高さは驚くしかありません。
確かにあれほどの動きを可能とするならば、『奇跡のOS』というのも頷けます。」

「おわかり頂き幸いですわ。」


はっちゃけた部分を置いといて、XM3の性能の感想を告げるラトロワ
流石に戸惑いの表情は未だに隠せられなかった。


「そして衛士達の腕も驚きました。
…我々は日本を過小評価していたようです。」


そして日本の衛士のレベルにも驚き、考えを改める。


「幾らXM3が優秀でも、操る衛士が未熟なら意味は無い、宝の持ち腐れだ。
しかし、シロガネ・タケルを始めとして、他の衛士達の実力は高い。
まだ未熟な衛士ですら、正規の衛士以上の実力を持っている。」

「御理解して頂き、誠にありがとうございます。」


衛士としてのレベルの高さも理解し、素直に告げるラトロワ
他のジャール大隊の連中をチラリと覗くと、絶句したまま固まっていた。


「如何なさいますか、ラトロワ中佐?
XM3を付けてみますか?」

「ハイ、是非とも宜しくお願い致します。」

悠陽の問いに頭を下げて交渉を成立するラトロワ

悠陽も内心ホッとして、タケル達を迎えるのであった…。



あとがき-----


しばらくぶりです、騎士王です



今回は新キャラの『甲斐真実』が出ました。


そして気づいた人がいると思いますが楓の階級が大尉になりました。(影行も少佐に昇格)


甲斐の設定は次回しますのでお待ち下さいm(_ _)m



追伸・今回のシミュレーター訓練…あのまま細かく書いたら五話ぐらいかかりそうだった…orz



[20989] オリキャラ設定集①
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:7df15b6d
Date: 2011/09/11 22:26
溜まってきたので、簡単にオリキャラの設定集を作りました。



九條椿

階級・少佐

所属・帝国斯衛軍第17戦術機甲大隊

年齢・24歳 (第七十七話時点)


五摂家の一角である九條家の次期当主であり、タケルの所属する第17大隊の大隊長


性格はおしとやかで優しく、大和撫子のような性格だが、実は勝負事には負けず嫌いで、ちょっとバトルジャンキー入ってたりする。
タケル曰わく、『速瀬中尉と同じタイプ』だそうだ。


タケルに出会ってから色々と変化があって、当初は戸惑ったが、すぐに慣れてしまう辺り、結構強かなのかもしれない。


タケルが部隊に入ってからは、部隊の中身がガラリと変わり、良い方向に向かった事や、義妹の沙耶の件で『白銀君が入って正解だった』と語る。

タケルの秘密を知ってからは、色々と大変な目に遭うが、それと同時に重大な任務にも着く事もあり苦労は絶えないが、日本の未来がかかってる為弱音は吐かない……のだが、香月博士や悠陽殿下のイタズラには、流石に諦めモードに入ってしまう。


だが、そんな苦労を乗り越えて、恋人であった同じ五摂家の崇宰孝志と籍を入れ、幸せ一杯の夫婦生活を楽しむ。


崇宰(九條)孝志


階級・大尉

所属・帝国斯衛軍第17戦術機甲大隊

年齢・24歳


第17大隊の第弐中隊の突撃前衛長を勤める崇宰家の次男
長刀での接近戦を好み、崇宰家の流派特有の二刀流を得意とする。

普段は長刀一本で戦うが、認めた相手や重要な場面では二刀流で戦う事を己の中で決めている。


性格はかなり軽い方で、幼い頃からそういった教育を抜け出してきた。
崇宰家は、兄・隼人が継ぐ為、崇宰家の名前に泥を塗らない程度にフリーダムに育つ。

その為、武家等の特有の固い考えや態度は無く、タケルに限りなく近い性格の持ち主
結構イタズラ好き。


タケルと出会って以来、伸び伸びとフリーダムな態度を出す事が出来、タケルに感謝する。
以降、タケルとは親友になり、大親友でもある斉御司政弘と三人で絡む事が多くなる。


良く訓練の時や実戦の時にタケルに勝負を挑むが、コレは部隊の士気を上げる為だったりする。
事実、実戦で士気が落ち掛けてる時にタケルと勝負し、部隊を引っ張る姿を見せて勇気づける場面は多々ある。

勿論勝負を楽しむ事も含まれており、最近は冥夜や駿・水月の参加にウキウキしてたりする。


そして恋人だった九條椿と結ばれ、夫婦として九條家に籍を入れる
椿が九條家を継ぐ為、孝志は婿養子として九條家に籍を入れる事が条件だったが、愛する人と結ばれる為ならば、一族の名前をも変える事を躊躇わなかった。
ちなみにプロポーズは孝志から告げた。

最近悩みの種として、巌谷中佐や榊首相の親バカっ振りを見て、タケルと共に『オレ等もあんな親バカになるのかな…?』と自分の将来に不安を持ってたりする。


斉御司政弘


階級・大尉

年齢・24歳

所属・帝国斯衛軍第17戦術機甲大隊


第17大隊の第弐中隊の中隊長で、孝志と共に第弐中隊を引っ張る。

孝志とは小さい頃からの大親友で、孝志のブレーキ役として常にそばに居た。


性格は生真面目で少し固い考えの持ち主
いわゆる生徒会長系な人物。
孝志の影響もあって、少しは性格が柔らかくなったが、タケルの登場で尚更影響を及ぼす。


タケルの事は出会った時から気に入り、孝志と共に親友関係になり、良く休日は三人で絡む事が多い。


斉御司家の次期当主として日々自身を磨くが、生真面目な性格の為か、恋愛事には恵まれず、出逢いが無い事が父・兼継の不安だったりする。
本当はモテるのだが、当の本人が恋愛事に少し鈍い。
だが、タケル・孝之・正樹のような鈍感ではない。



九條(白銀)沙耶


年齢・25歳

階級・大尉

所属・帝国斯衛軍第17戦術機甲大隊


性格はテキパキと何でもこなす才女タイプ
物事に対しては厳しい人物だったが、タケルに出逢い、惚れてしまってからは、少し性格が柔らかくなる。

だが、根は優しい女性なので、みんなからの信頼や好感度は高い。
ちなみに真耶と同じでメガネ美人


九條家の次女ではあるが、本当は椿よりはひとつ年上。
だが、九條家のしきたり(長男もしくは長女が次期当主を継ぐ)関係もあり、沙耶は次女としての立場を得る。


オルタネイティヴ第三計画の出身で、ESP発現体であるが、かつて帝国軍特殊任務部隊の一人である辻間英治大尉に拾われ、事の重大さに気づいた辻間大尉は、元上官だった当時九條家当主だった九條元泰准将(現在故人)に説明すると、元泰は怒りと同時に沙耶に対する謝罪と己の信念で沙耶を養子として貰い受ける。

この件から沙耶は九條家に絶対的忠義を誓い、貫く。


現在はタケルと結婚し、妻となり白銀姓を貰う。
義母である楓の教育は厳しいが、幸せ一杯な生活を送ってる。


現在は(第七十七話時点)妊娠で身重な為、軍人としての作業は出来ないが、本来は椿率いる第17大隊の副隊長を勤める。


五十嵐駿


階級・中尉

年齢・18歳

所属・帝国斯衛軍第17戦術機甲大隊


性格は優しく気弱ではわわ・あわわなキャラ
けど、人一倍努力家であり、誰より努力をする。(タケルちゃんより)

周囲の反応は高く、みんなから認められている。
あの紅蓮や神野ですら認める程で、帝都では『斯衛一頑張る人物』と呼ばれる。


タケル入隊時~第四中隊に移るまでのエレメントの相棒で、最初は全然タケルについていけず、ヘコむ毎日だったが、駿の持ち味である努力を発揮し、可能な限り毎日自主訓練した結果、現在は(七十七話時点)突撃前衛長クラスまで成長する程だ。


現在はタケルの機動にもついていけるが、タケルが第四中隊に移った為、現在は第一中隊の突撃前衛長である真那とエレメントを組む。


冥夜入隊時、タケルのエレメントの相棒の件で『冥夜か駿か?』と椿や沙耶を悩ましていたが、努力と成長の速さと将来性を見て駿が勝利した。(その後、冥夜からライバル視されていた。)


プライベートでは、時折タケルや孝志・政弘の三人と絡む時があるが、現在(第七十七話時点)では真那と恋人関係になり、デートしたりする。


タケルにとっても、駿は可愛い弟分で、戦闘でも頼りにしている。
それ故に駿の幸せを陰ながら見守っている。



月島やちる


年齢・22歳

所属・月詠家侍従長


性格はトコトン明るく、結構イタズラ好きなお茶目な性格の持ち主
しかし、仕事時はプロとして完璧にこなす若き侍従長。


真耶や真那から絶大に信頼を得て、月詠家の全てを仕切る侍従長に抜擢される

家事は完璧
掃除・洗濯・料理・裁縫全てこなし、料理に関しては夕呼ですら認める程の腕前
最近、夕呼から京塚のオバチャンの料理の腕前を聞き、是非とも会いたいと楽しみにしている。


だが、彼女も歯止めを外すとはっちゃげる事があり、何度となくタケルを獲物にして楽しんでいたりする。



白銀影行


年齢・40歳

階級・少佐

所属・帝国軍第7戦術機甲大隊『銀の戦車』シルバー・チャリオッツ隊


原作では名前だけ公表されている人物
名前以外は全てオリジナル


性格は温厚で、落ち着きのある人物
そして元祖・恋愛原子核の持ち主で、タケルにも遺伝させた張本人(笑)


帝国軍第7戦術機甲大隊の大隊長で、最近(第七十七話)に妻・楓と共に昇格する。


戦闘時はタケルや楓みたいなタイプではなく、冷静沈着に相手を確実に仕留める『隠密タイプ』

奇襲・隠密・伏兵等を得意とし、その実力はかなりの物。
影行率いる中隊は、以前影行が所属していた部隊『皇帝陛下直属部隊』の部隊名である『銀の狼達』シルバー・ウルブスの名前が渾名される程。


プライベートでは真面目な父親を演じており、タケルからも頼りにされている。


若い頃はタケルと同じく、女性からモテモテだったが、影行本人は鈍感な為、気づかない
勿論、タケルの鈍感は父親の遺伝(笑)


楓を含んだ乙女のバトルに巻き込まれ、現在でもトラウマとして残っている。


現在は孫の護を抱きかかえる事が楽しみのひとつで、将来は『護やタケルと一緒に酒でも飲みたい』と夢を持つ


白銀楓


年齢・37歳

階級・大尉

所属・帝国軍第7戦術機甲大隊


性格は温厚だが、教育にはキツめ

ただ、タケルや純夏には甘い為、ちょっと親バカ要素が入ってたりする。
最近霞を見て、母性をウズウズさせられる。
楓もメガネ美人系


家事は完璧
トコトンやり込む性格でもあるので、手を抜く事は絶対にしない。
結婚当初は何も出来なかったお嬢様だったが、影行を愛する想いで地道な努力で家事は完璧にこなせるようになった。


また、楓も影行の恋愛原子核の犠牲者で(笑)影行を巡る恋のバトルに勝利する
当時は相当な苦労はしたようだが…現在も影行がモテる為、苦労は絶えない。


ちなみに一夫多妻制になった為、『かつての恋のライバル達がまた襲来するのでは?』と不安感を持ってたりする。


軍人としての楓もみんなから信頼されて、わからない事など有ったら真っ先に楓に訪ねる程。

戦術機の腕前もべらぼうに強く、楓が大隊の最強の衛士に君臨している。
けど、隠密タイプの影行には苦手な為、ちょっと負け越してる。

…とはいえ、夫婦揃ってチートなので、他の隠密タイプが楓に襲っても、カモがネギを背負ってグツグツ煮立った鍋に入って『カモ~ン☆』と言ってるようなモノなので、返り討ちに遭うだけである。


ポジションは強襲掃討………なのだが、銃撃戦を条件とするならば、突撃前衛だろうと、砲撃支援だろうと出来てしまう人。
縦横無尽に飛び回り、BETAを駆逐する姿は正に楓無双
故に影行からは『じゃじゃ馬』と良く言われてしまう程
多分影行以外は扱えない。


雨宮佳織


年齢・17歳

階級・少尉

所属・帝国斯衛軍第17戦術機甲大隊


半分オリキャラの雨宮
名前だけは原作で出てる(漫画では姿アリ)


純夏や唯依・美冴と同期で、訓練兵時代は共に頑張って来た人物
主に唯依のサポートをしているが、時折お茶目なイタズラをする事もしばしば…。

反省癖の唯依をビシバシとフォローする役でもあり、その姿はまるで唯依のお母さん役みたいな立場に見られたりする。


戦術機の腕前はかなりの物。
唯依・正樹・まりかの三人より、冷静に周囲を見る事が出来、どんな場面でも対応出来る。

現在は真耶の下で日々鍛錬をこなし、先任達に追いつけるように努力している。



碓氷和美


年齢・22歳

階級・大尉

所属・国連太平洋方面第11軍横浜基地所属A-01部隊・第四中隊『オーディン隊』


『暁遙かなり』でMP7で登場した碓氷大尉

っていうか、名前はオリジナル設定だけど、今公開って…(^_^;)



A‐01部隊の生き残りの部隊のひとつ。
伊隅みちる大尉とは同期で、最古参のメンバーの一人。
同じ部隊の仲間である『甲斐真実大尉』も同期で、三人共同じ訓練兵の部隊だった為、仲が良い。

性格は優しく、結構頼りがいがあるお姉さんタイプ。
ちょっとボーイッシュ系が入ってる。

残念な事に料理は少し苦手な為、暇な時はPXで練習している。


戦術機の腕前はみちる・真実と同等で、特に接近戦を好む。
これは訓練兵時代、まりもの地獄のシゴキで鍛えられた結果の産物
特に最上級のシゴキ『すぺしゃる』は誰一人として達成した者は居ないのだが、真実・和美・みちるの順で達成寸前で力尽きたらしい…


部隊からは信頼は高く、孝之や慎二からも頼りにされる程人望は厚い


現在、孝之の恋愛原子核の餌食になり、孝之に好意を持つ。
つーか惚れた。


水月や遙と影で恋のバトルを繰り広げるが、その際孝之や慎二が犠牲となる。


因みに現在、プライベートの服のサイズが合わなくなり、困っている。
(単に胸が成長&洗濯失敗により服が縮む)


甲斐真実


年齢・22歳

階級・大尉


所属・国連太平洋方面第11軍横浜基地所属のA-01部隊・第四中隊『オーディン隊』


碓氷大尉率いる中隊『オーディン隊』の突撃前衛長
以前はヴァルキリーズの突撃前衛長だったが、光州作戦時に重傷を負う。

だが、様々な努力もあって復帰するが、その頃夕呼の命令でオーディン隊に移る。


そして水月を自分の後釜に相応しいように、メキメキ鍛える。
その際、水月に『まりも大尉が『狂犬』なら、甲斐大尉は『番犬』よっ!!』…などと言われる。
だが、当の本人は『まりも大尉と同じ……ウフフッ☆』と逆に気に入ってたりする。


見た目はインテリ系お姉さんタイプに見えるのだが、本来の真実の性格は弱気でオロオロするタイプ。
だがまりもに調教(?)された結果、強気な性格で厳しい人物に見られるほどになる。


自分を生まれ変わらせたまりもに、絶対的忠誠心を見せ、まりも信者になる。



今回は此処まで。
まだ出してないオリキャラは次回出します。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第七十八話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:f7c46016
Date: 2011/09/20 20:33
2000年・5月10日


「今日は『戦術機適性検査』を行う。」


「『「『「ハイ?」』」』」


タケルの口から告げられる爆弾発言
突然の発言に祷子達訓練兵が、声を揃って唖然とする。


今日教室に集まると、黒板に『0830にシミュレータールームに全員集合』と書かれ、何かと頭を傾げながらシミュレータールームに集まる。


すると、頭を抱えたまりもと、深い溜め息を漏らすタケルと正樹を見て、『私達…………何に巻き込まれたの…?』と全員が思う。


「………あの……質問…良いですか?」

「………宜しい、なんだナスターシャ?」

「………何故突然『戦術機適性検査』をするのでしょうか?
まだ私達『総戦技演習』を行って無いのですが…?」


全員が思う疑問。
未だに『総戦技演習』を行ってない自分達が何故突然『戦術機適性検査』をするのかと。


「あともうひとつ…。
………その『戦術機適性検査』をするのに何故ラトロワ中佐達『ジャール大隊』の方々も居るのでしょうか?」

「それは私達も聞きたいのだが、シロガネ大尉?
確か我々は『XM3の慣熟訓練』と聞いて来たのだが…?」


そしてラトロワ達ジャール大隊も、強化装備を装備してシミュレータールームに集まっていた。


「………実はですね……これ…全て先生…香月博士の仕業です。
オレ達も今日初めてこの事を聞きました。」


「「「はっ?」」」

「…正確に言いますと、ジャール大隊の慣熟訓練は聞いてました。
それで当初は私が訓練兵の授業を受け持ち、タケルがジャール大隊の慣熟訓練に教官として配置する予定でした…。
しかし今日の朝早くから香月博士から連絡ありまして…『今日訓練兵、戦術機適性検査やって頂戴。
あとジャール大隊の慣熟訓練も纏めてやって頂戴☆』…などという事を朝の五時から電話を寄越したので、急遽変更になりまして……………スミマセン。」


タケルとまりもの疲れ切った姿を見て、『そ、そうか………お気の毒に…』と告げるラトロワ
全員がタケルとまりもに同情の眼差しを向けていた。


「戦術機適性検査に関しては、去年から総戦技演習の内容を色々とテストしてたんだ。
それで今年は総戦技演習の内容が、『戦術機での退却戦』
設定は『敗戦後の退却戦』をイメージした訓練で、目的地までに退却するのが目的。
今回は『対人戦』としての設定だから『追跡者』も居る予定だ。
退却時に戦術機をやられ、操縦不可能となった場合はベイルアウトも可能にしてるから、戦術機を撃破されて失格…という訳ではない。」


タケルの説明を聞いて唖然とする祷子達
ラトロワは『一理ある。』と考え、一応納得する。


「一応言うが、訓練兵だからって戦場に出ないとは限らない。
場合によっては出る事もあるし、突如遭遇する事だってある。
そういった場合を想定した訓練だから気を引き締めろよっ!!」

「「「りょ、了解ッ!!」」」


タケルの説明を聞き、喝を入れられる祷子達
それに戸惑いながらも、返答をしながら敬礼する。


「…という訳で、誠にスミマセンが……」

「仕方あるまい…。
コウヅキ博士の命令となれば、我々もきくしかない。」


ハァ…と溜め息を吐くラトロワ
流石に怒るに怒れず、むしろ同情してしまう始末だから困惑する。


(けど、むしろチャンスか。
前島中尉も居る事だし、祷子のポイントを上げるには丁度良かったわ。)

そして偶々正樹が居た事で祷子の好感度アップを狙うナスターシャ
ちなみに正樹は急遽の事だった為、タケル達の手伝いを命じられていた為、偶々絶好なタイミングで居た。



------と、呑気に考えていた時もあった。

そして気を取り直して、先ずは訓練兵の戦術機適性検査から始める。
そしてまず最初の『洗礼』は----


「はうぅ…」

「こ、コレは流石に……」


訓練兵の最初の『洗礼』
あのスケスケで裸同然の訓練兵用の強化装備を着用し、顔が真っ赤に染まる。

部隊一胸がデカい祷子は胸を隠しながら顔を赤らめ、流石のナスターシャも堂々としてはいたものの、ヤッパリ恥ずかしい為、顔を赤らめる。

「し、白銀大尉!!」

「コレは香月博士の悪戯ですかっ!?」

「は、恥ずかしいですぅ~…」

そして巽達三バカも顔を赤らめて質問する。


「残念だけど……コレは真面目な事に訓練兵の強化装備だ。
勿論先生や悠陽の悪戯じゃない。
…………………まあ、製作者の趣味だと俺は思うがな。」

「「「趣味!?」」」


タケルの一言にショックを受ける巽達
この時、祷子達訓練兵全員(女性陣)が製作者に殺意を抱いた。


「さて、最初は……ナスターシャ。」

「ハッ!!」

「お前達には『伝統』を受けて貰う。
コレは歴代の第207衛士訓練学校の『伝統』でな、コレを受けてみんな衛士になるんだ。
厳しい『伝統』だが、覚悟はいいな?」

「ハッ、勿論ですっ!!」

タケルの説明を聞き、敬礼するナスターシャ
その姿を見て、ラトロワ達ジャール大隊も誇らしげに見守る。


しかし---この時、タケルとまりもの笑みが黒かった事は……正樹ただ一人しか気づかなかった。


「この伝統は、俺と複座する事になる。
最初は戦術機の基本動作等を体感してもらい、それからXM3の動きを体感して貰う、いいな?」

「了解っ!!」

タケルと複座する事はナスターシャも聞いていた事
そして『ハード』だと聞いていた為、覚悟は出来ていた。


だが----その考えは甘かったと、その身で証明される事になった。



「そぉーら☆
倒立反転中からキャンセル入れて、横に短距離跳躍!!
そして廃ビルを足場にして、三角飛び三連しながら途中で急降下し、着地と同時に横に噴射地表面滑走しながら障害物を小さく旋回して、水平噴射跳躍を全力噴射しながら障害物を回避!!」


「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」


鬼畜。
そのセリフがピッタリな程、タケルは活き活きと変態機動を炸裂する。


祷子達訓練兵は勿論、ラトロワ達ジャール大隊も絶句し、ナスターシャの惨事をただ見つめる。


まりもはニコニコ笑顔で楽しみ、経験者である正樹は、モニターのナスターシャを見ながら『南無~…』と合掌する。


「吐きそうか?
そばにあるエチケット袋を使えよ?」

「つ~か~え~る~かぁぁぁぁっ!!」


一応情けで、ナスターシャの操縦桿のそばにはエチケット袋が用意されてるが、使える状態ではなかった。


「ホラ、しっかりしろナスターシャ。」

「………………ウプッ」

戦術機の適性検査を終了するナスターシャ
最早自分では動けない程酔ってしまい、タケルに運ばれて真っ直ぐ伝統のポリバケツへと進み……吐く。

それを見て真っ青になる祷子達
そりゃそうだ、次は自分の番かもしれないのだ。

『現在のナスターシャの姿は未来の自分の姿』
そう理解した祷子達は、ガタガタブルブルと震えていた。


そしてジャール大隊の皆さんも、自分の部隊のナンバー2が、あのような姿になる所を見れば、流石に怯える。
ラトロワも流石にナスターシャに心底同情する。

そしラトロワを含んだジャール大隊は『私(俺)…ソビエト軍で良かった…。』と内心安堵する。


だが---神様はやはりイタズラ好きだ。


「あっ、ちなみジャール大隊の皆さんも、最初はコレをしますから。」

「「「「な…なんだってぇぇぇぇっ!!?」」」」

「恨むなら先生にお願いします。
まあ、確かにコレやった方が早く覚えますしね。」


正に死刑宣告。
今、ナスターシャが体験した変態機動を自分等も体験せよと聞き、石化等現実逃避するジャール大隊
流石のラトロワさんも汗をダラダラと流してますよ?


「ちなみに…タケルの変態機動は熟練者なら…耐えられますが…
『全力変態機動』は熟練者でもああなりますので。」

「「「へっ?」」」

まりもの一言に全員が唖然とする
そりゃそうだ、ナスターシャを苦しめた機動が『手加減されたモノ』と知れば、誰だってそう思う。


「全力…だと?
もしや、先程のは全力ではなかった?」

「勿論ですよ。
訓練兵に全力でやったら…………あの世の階段への直行便?」

「正樹、言い過ぎだ。」

ラトロワの問いに答える正樹
それに否定するタケルだが、去年美冴がお仕置きで『全力変態機動~お仕置き編』を喰らい、トラウマ化したのを目の前で見た正樹からすれば、言い過ぎではないと断言する。

そして1時間後----


「これで全員受けたな?」

「「「「……………………」」」」

「フム、もう一度受け「「「止めて下さい!!」」」……なら返事だけでも返せ。」


タケルの問いに、力尽きて無言になる祷子達
無言だった為、脅しを入れるタケル


「仕方ない。
ホラ、ベンチで横になって休め。
体調の悪い奴は正樹に医務室にでも連れて行って貰え。」

「「「「風間(祷子)訓練兵を……お願いします……。」」」」

「……お前達って奴は……!!」


タケルの一言に反応し、力尽きても祷子への応援は忘れないナスターシャ達。
その強い絆にポロリと感動の涙を流すタケルとまりも。


「それじゃ、風間訓練兵を医務室に連れて行きます。」

「走るなよ?
走ったら揺れて………自分にも被害喰らうからな。」

「待って……下さい、前島中尉…。」


祷子をオンブで連れて行こうとする正樹
すると、ナスターシャが力の限りを出して、正樹を止める。


「なるべくオンブ…より…『お姫様抱っこ』でお願いします……
じゃないと……吐く危険性が…ありますので。」

「そっか、ありがとうイヴァノワ訓練兵。」


適当な理由を付けて、正樹に祷子を『お姫様抱っこ』させるナスターシャ。
作戦は成功し、祷子をお姫様抱っこしながら退室する正樹。


「みっしょん…こんぷりーと…ぐふっ!?」

「ナスターシャ…お前って奴は……!!」


好感度上昇イベントを成功させ、力尽きるナスターシャ。
祷子への友情の絆を見せつけたナスターシャに全員が賞賛を贈る。


「さて……訓練兵の適性検査も終わった事ですし…
そろそろ逝きますか、ラトロワ中佐。」

「逝く!?」


タケルの一言に驚くラトロワ
流石にあれだけのモノを見れば怖がる。


「まずジャール大隊は、この慣熟訓練を受けて貰い、その後実際に操縦してもらいますけど、その際注意が一つ。
XM3は操縦の遊びが全く無いので、下手すれば動いた瞬間豪快に転倒する恐れがありますので、ご注意下さい。
何か質問ありますか?」

「ハイ、質問です。」

「何でしょうか、キーラ大尉?」

「あの…この慣熟訓練を受ける・受けないでの差はどれくらいでしょうか?」


タケルの真面目な説明を真剣に聞くジャール大隊
タケルから『質問は?』と訪ねると、キーラが怯えたように質問する。


「まず時間短縮はします。
まず受けないでXM3を訓練した場合、個人差はありますが、数週間程かかります
早ければ一週間程で慣れますが、完全に使いこなすとなると、数週間はかかります。
しかし、先程訓練兵にやった『アレ』をすれば、早ければ2~3日で慣れ、使いこなす迄には遅くても二週間程で使いこなしてます。
要はアレです、『今の内にキツいのを体験しておけば、慣れるのも早くなる』です。」

「つまり…約半分の時間短縮になるという事ですか…」

「ハイ、『アレ』を体験させる事で、実機訓練した際、自分にとっての『境界線』がわかりますし、一度体験してから訓練させてしまえば、『アレ以上』では無い限り、G等にも耐えられますから、すんなりとクリアしていきますよ。」

「今までの成功例は?」

「うーん…そうですね……
一昨年の訓練兵で、『アレ』を体験した後、三人(水月・孝之・慎二)が正味1日でXM3に慣れて、使いこなせるようになったのが…5日ぐらいかな…?
また、違う所属の実戦部隊の場合、俺の指導無しで慣れるのに、早くて3~5日、使いこなすのに三週間かかったと言われてます。
これは、訓練兵達はまだ戦術機に搭乗して浅かった為、すんなり受け入れる事が出来たのが要因です。
勿論、俺の機動を体験した事でXM3の動きを慣れる事を早めたのも一つです。
また、実戦部隊の方は旧OSを長年使っていた為、その違いに戸惑ったり等で時間がかかった事が理由に挙げられてます。」

「つまり、旧OSに慣れてる私達はこのままだと、時間がかかる可能性があると…そういう事だな?」

「ハイ、そうです。」


タケルの説明を聞いて、ガックリと落ち込むキーラ
『仕方あるまい。』と覚悟(諦め?)を決めるラトロワの姿を見て、他の隊員達も覚悟を決める。


「それじゃ、早速…君…逝こうか。」

「オレッ!?
っていうか、ちょっと……シロガネ大尉、手を引っ張らないで……って何笑ってるんですか!?」

「キノセイダヨ~♪」

「嘘だぁぁぁぁっ!!」


ドナドナ…と拉致られるキーラ
助け舟は無く、孤立無援のキーラはそのままタケルに連れさられる…。


10分後-----


「オオォォエェェッ☆」

見事に撃沈。
先程訓練兵達が使ってたポリバケツに吐くキーラ

タケルからタオルを受け取り、口元を拭くと、『もう一丁逝っとく?』とタケルから死刑宣告を告げられると、無言のまま力尽きる。


そして---



「大丈夫…ですか?」

「…………無論だ。」

最後にラトロワが挑み、足元をふらつかせるが、『隊長としての意地』を見せ、唯一ポリバケツのお世話にはならなかった。
死屍累々と床に横たわっているジャール大隊の隊員達やナスターシャ達訓練兵から、尊敬の眼差しを受ける。


「これで今日の訓練は終わりです。
今日はゆっくり休んで下さい。」

「その……つもりだ。」

フラフラと退室する一同
すると---


「スミマセン、後は頼みます。」

「全く…無茶は駄目よ?」


後ろからタケルとまりもの話声が聞こえ、振り向くラトロワ
するとタケルは再び管制ユニットに乗り込む。


「……なんだと?
まだやる気なのか…?」

「ああ、あれは毎度の事ですよ。」

「毎度の事?」

「自主訓練です。
ああやって、可能な限りはシミュレーター訓練をするんです。
仲間を一人でも多く助けれるように…って。」

ナスターシャから『タケルの自主訓練』と聞き驚くラトロワだが、それ以上に仲間の為に己を鍛えてると聞き、再び驚く。


「以前…大切な仲間を失ったそうです。
だから、今の仲間を守る為に……教え子達を守る為に……大切な人達を守る為に頑張って鍛えてるんです。」

「そう…か…。」


『大切な人達を守る為』と聞き、反応するラトロワ


「私も負けてられないな…。」

「ハイ。
けど…今日はゆっくり休んで下さい。」

「勿論だ。
今訓練しても、無様な姿を見せるだけだ。」


新たな決意を抱き、ナスターシャと共に退室するラトロワだった……。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第七十九話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:e7d55dd6
Date: 2011/09/30 18:31
2000年・5月15日---


「ふう…終わったぁぁ…。」

「お疲れ様、タケル。」

書類整理を終えるタケル
冥夜から合成緑茶を貰い、ズズズ…と飲む。


「いつになっても、この書類整理は慣れないな…。」

「仕方あるまい、私とて得意な方ではないが、己の仕事故にやるしかあるまい。」

「だなぁ…はふぅ…。」


へにゅう…とタレるタケル。
そんな姿を見て苦笑いをする冥夜だが、『ちょっと可愛らしい』と内心思ってたりする。


「失礼する。」

「ラトロワ中佐?」


すると、なにやら複雑そうな表情をしながら、ラトロワが入室する。


「シロガネ大尉、質問がある。」

「なんでしょうか?」


なにやら怒りなどの感情が、見え隠れするラトロワを見て、気を引き締める。


「今先程、祖国と通信をしていたのだが、なにやらキナ臭い感じがした。
何か心当たりが無いか?」

「心当たり…まあ一応ありますけど、詳しく説明してくれませんか?」

「ああ、良いだろう。
知っての通り、我々ジャール大隊の任務はXM3の性能の調査と祖国へ持ち帰る事が任務だ。
此度我々がXM3を体験し、その性能を絶賛し祖国に報告したまでは良い。
だが上の連中の会話等を聞くと『何時送れるのか?』と聞き返してくるのだ。
通常ならば、『何時帰って来れるのか?』が正しい。
だが、最初は言い間違いかと確認したが、上層部の返答は『何時送れるのか?』だ
……これは一体どういう事なのだ?」

「………はぁ………ヤッパリか…。」


ラトロワの説明を聞き、『予想通りの答え』で溜め息を漏らすタケル。
その際、表情に怒りが浮かぶ。


「ヤッパリとは、どういう事だ?」

「………もしや…以前香月博士が愚痴を漏らしてた件の事なのか?」

「ああ、そうだ。」

「………愚痴だと?」


ふと思い出した冥夜の一言に反応するラトロワ
タケルは怒りを抑えて説明をする。


「以前、ソビエトにXM3を売る話が決まった辺りに、家で先生が話をしたんですよ。
その内容はXM3を売るから、その代金として『su‐37M2を一個大隊分』か『su‐47を一個小隊分』のどちらかと交換だと先生が交渉したんですよ。」

「………………………なんだと?」

「俺も聞いた時は、ビックリして茶を吹きましたよ。」


香月博士の交渉内容に眉間をピクピクするラトロワ


「確かにとんでもない交渉内容ですけど、XM3の性能や、今後のソビエト軍の戦力アップや生存率上昇を考えれば、確かにそれぐらいの価値はあります。
それはラトロワ中佐も理解は出来ると思いますが…。」

「無論だ。
確かに今後の事を考えれば、躊躇いはするが納得は出来る。」

「まあ、聞いた当時は俺も『ぼったくり過ぎるだろっ!!』って思いましたしね。」

「それが普通の反応だ。」


ハァ……と溜め息を漏らし、『ダンッ!!』と机を強く殴りつけるラトロワ
そして『答え』に辿り着く。


「………つまりアレか?
祖国の上層部は、愚かな事に我々ジャール大隊を『売った』のか……。」

「多分それで合ってると思います。
その事で先生もだいぶ荒れてましたよ、『連中、仲間を売るなんて馬鹿じゃないのっ!?』ってね。」

「コウヅキ博士が…?」


静かに怒りを露わにするラトロワだったが、タケルの一言に反応する。


「先生って結構はっちゃけて、悪戯大好きな所があるし、『立場上の顔』としても手段を選ばない冷徹な所もありますけど、
中身は本当は優しいんだけど素直に慣れない不器用な人なんですよ。」


タケルが知る『香月夕呼』を語る。
ラトロワは、その言葉を聞き、怒りが飛ぶ程驚く。


「あの人は頑張ってる分だけの報酬がなければ納得出来ない人なんです。
だからジャール大隊の事は名前でしか知らないけど、祖国の為に命を賭けて戦ってるにも関わらず、この扱い方に納得出来ないって愚痴を漏らしてたんですよ。
無論この世界、非情な手段を下す事が当然のようにあるのは理解してるけど、あの人は本当に優しい人だから、家に来た時に感情爆発して愚痴を漏らしたんですよ。」


香月博士の気持ちを知り、少し戸惑うラトロワ


「幾ら向こうが悪いとはいえ、きっかけは自分に有るって、責任感じてるみたいですよ?」

「…………そうか。」


まだ僅かに怒りはあるが、タケルの話と香月博士の気持ちを知り、落ち着かせる。


「それで、この後はどうするのだ?
まさか、このままで済ますコウヅキ博士ではあるまい?」

「勿論です。
ソビエトの上層部に後悔させる段取りをしてる所ですよ。」

「それを聞いて安心した。」


未だ消えぬ怒りをグツグツと煮え立たせるラトロワとタケル
余りの黒い笑みに冥夜が二歩三歩と後退する。


「もし、我々ジャール大隊を『売る』事が決定した場合は私も上層部に後悔させてやろう。」

「力を貸しますよ、ラトロワ中佐」

『なら、決定ね。』

「「「ハッ?」」」


突然の声に驚くタケル達。
すると部屋の入り口に香月博士とナスターシャが居た。


「先生!?
何時来たんですか?」

「ついさっきよ。
けど…どうやら話は済んだようね。
まあ、説明する手間が省けたから簡単に説明するわよ?」

部屋に入室し、扉の鍵を閉めてから説明する。


「ついさっき横浜基地から連絡あってね、ソビエト側の返答があったんだけど…まあ、予想通り腹立つ答えが返って来たわ。」

「成る程。
それで……何するんですか?」

「別にぃ~☆
そのままXM3を売りつけてやるわ。」

「「「ハッ?」」」


予想外な答えに唖然とするラトロワ・冥夜・ナスターシャ
すると、タケルの顔が苦笑いに変化する。


「先生…随分とタチの悪い事を……」

「流石は白銀ね。
随分と賢くなったじゃない。」

「先生に揉まれましたからね…。」

「ど、どういう事なのだ、タケル!?」

ニヤニヤと腹黒く笑う香月博士の考えを理解するタケル
未だにわからないでいる冥夜がタケルに質問する。

「つまり先生は『真っ白な新品のXM3』を送るつもりなんだよ。
XM3は経験を積んで初めて最大限に能力を発揮するOSだ。
けど、新品のXM3を送るって事は、蓄積データが0だから1から鍛え直さなければならないって事だ。
そしてそれには長い時間が必要、場合によっては実戦の経験も積まないと最大限に発揮出来ないって訳だ。」

「ジャール大隊に搭載されてるXM3は既に実戦経験や長い訓練時間を積み重ねたOSよ。
だからジャール大隊が搭乗した時は最大限に発揮できたけど、新品のXM3はレベル1の状態だから最大限に発揮は出来ない。
…と言っても、旧OSに比べたら天と地の差だから、此方には責任を言われる事は無い。」


タケルと香月博士の説明を聞き、『成る程』と納得するラトロワ達


「そして、XM3を早期に慣熟するにも『指導者』が居なければならない。
本来、ジャール大隊が帰還して他の部隊に指導すれば、早くにXM3を使いこなす事が出来たけど、肝心なジャール大隊は『売った』為指導者が居ない状態になる。
つまり、慣熟するには時間がかかるし、ジャール大隊を売った事に後悔するって訳。」

「どれだけ実機訓練で戦術機壊すか楽しみですね~♪」

「うわっ、腹黒っ!?」


香月博士とタケルの言葉を聞いてナスターシャが思わず本音を口にする。



「まあ、どの道ソビエト側がその事で文句言うならば、此方にも言い分があるから、返り討ちにしてやるわよ。」

「例えば?」

「元々私は『su‐37M2を一個大隊分』か『su‐47を一個小隊分』と言ったのよ。
その約束を一方的に破ったのはアッチなんだから、文句は言わせないわよ?」


クックックッ…と『でびるふぇいす』を見せる香月博士だが、流石のタケルもその表情を見て、2~3歩後退する。


「…という事は、私達ジャール大隊は国連軍に所属するのだな。」

「いいえ、違うわ。」

「違う?」

「ええ、一応国連軍には入れる予定だけど、現段階は『帝国軍』に所属する予定よ。」

「「「帝国軍っ!?」」」

ジャール大隊の新たな所属が帝国軍と予想され、驚愕する。


「今回の件の連絡が入ったばかりだからまだ決まってないけど、多分帝国軍に入隊になるでしょうね。
本音で言えば、白銀の所属する斯衛軍の第17大隊に入れて『連隊編成』の件をケリつけるのが理想的だったんだけど、こればかりはこの国の上層部と話し合いになるわ。
国連軍については、しばらくは入れない。
もし、国連軍の上層部を動かされたら、流石にお手上げだからね。
けど、まあ…それでも早くて半年…遅くても一年ぐらいで解消出来る問題だから、これ自体は問題無いわ。」

「…つまり国連軍に入るには、ソビエト側がXM3を使いこなせるようになってから…ですか?」

「そういう事。」


帝国軍に所属する理由を聞いて、『成る程』と納得するタケル達

すると、タケルのそばにあった電話機が鳴りだす。


「モシモシ、此方第『タケル様ッ!!』~~ッ!?」


受話器を取り、話しかけると、悠陽の声が大音量で響く。


「ゆ、悠陽!?」

『タケル様、ジャール大隊の件のお話、聞かせて貰いました。
…ジャール大隊へのこのような扱い…心底から怒りをこみ上げる気持ちです…。』

「あ、ああ…俺も今ラトロワ中佐から聞いた所だ…。」

『ラトロワ中佐が今そちらに?』

「ああ、今回の件で質問しに来たんだ。
大体にして、ラトロワ中佐にすら、今回の件伝えてなかったようだ。」

『…なんですって…!!』

受話器越しから悠陽の怒りが伝わり、ビクビクするタケル
離れてる位置にいるラトロワや香月博士達にすら、その声と怒りが伝わる程だ。


『…決めましたわ、タケル様…。』

「な、なにがだ…?」

『私…いえ、我々日本はジャール大隊を受け入れ、そして理不尽な外敵から護ります。』

「ああ…勿論だ。
今先生も来て、その事を話してたんだ。」

『そうでしたか…流石は香月博士。
ならば、話は早いです。』

「ゆ、悠陽?」

『タケル様、申し訳ありませんが、ジャール大隊を集めてくれませんか?
今回の件のお話、私直々に致します。
そして皆さんを受け入れ、護る事を宣言致します。』

「わかった。」


タケルにジャール大隊を召集する事を頼み、通話を切る悠陽
その怒りが充分伝わったタケルは疲れたような表情でラトロワに話しかける。


「…………聞こえましたか?」

「………ああ…。」

「相当キレてましたね…悠陽…。
それにしても…」

「何だ?」


ラトロワをジロジロと見るタケル


「悠陽と何かありました?
随分とジャール大隊の事気にかけてましたけど…?」

「特に無い。
ただ…初日にお互いに観察しあったぐらいだ。」

「…成る程…。
なんか『親しい人物を侮辱された』ような怒り方でしたよ…?」

「多分、殿下はラトロワ中佐の事気に入ったのよ。
だから今回の件でキレてるのよ。」


今回の悠陽の怒りの件について冷静に分析する香月博士
当のラトロワはちょっと驚くが、内心嬉しい気持ちがあった。


「さて、さっさとジャール大隊を召集するわよ。
あんまり時間かけてたら、殿下ブチキレるわよ?」

「それだけは勘弁してください。」


香月博士の脅し(?)に怯え、早速取りかかるタケル達。
そして、それから30分後----


「急に皆様方に集まって頂き、誠にありがとうございます。」


ジャール大隊を召集し、悠陽自らが感謝の言葉と共に説明をはじめる。

流石に突然の殿下の召集という事もあり、ジャール大隊の隊員達に不安な空気が漂う。


「此度集まって頂いたのは、先程ソビエト側の上層部から連絡が入り、XM3を導入する事を決定したと報告がありました。
これだけならば、喜ばしい報告です。
しかし、あろう事にソビエト側の上層部はXM3の導入の代金として、ジャール大隊を戦術機ごと日本に『売る』という返答でした。」

「「「「ええっ!!!?」」」」

「当初は、XM3との交換条件として、『su‐37M2を一個大隊分』か『su‐47を一個小隊分』という交渉でした。
香月博士もそれらを改良し、日本を守護する戦術機として交渉したのですが、今日先程ソビエト側がXM3を導入する事を決定したと同時に、ジャール大隊を日本に売り渡す事…と報告がありました。」

『嘘…』

『そんな…祖国に帰れないの…?』


悠陽の説明を聞き、悲しみと怒り等が混ざり合うジャール大隊の隊員達。
しかし---そんな感情を吹き飛ばすかのように、凛とした態度で再び説明をする悠陽


「そこで私、政威大将軍・煌武院悠陽が宣言致します。
これよりジャール大隊は、日本が受け入れ、様々な外敵から護る事を宣言致します。
そして…時間はかかるでしょうが、そなた達を祖国に帰れるようにしてみせます!!」

「「「「!!!!?」」」」

「煌武院悠陽の名に賭けて…誓います。
ですから、その怒りと悲しみを抑えて下さい。」

「「「「えっ!!?」」」」


自分達を守る為に日本に受け入れる事を宣言する悠陽
そしてジャール大隊の隊員達が持つ感情を抑えようと、悠陽自らが頭を下げ、全員が驚愕する。


『で、殿下!?』

『面をお上げ下さいっ!!
畏れながら、我々等に頭を下げる必要など…』

慌てるジャール大隊の隊員達。
自分達の為に頭を下げる悠陽に頭を上げるように説得する。


『何故…其処まで我々を…?』

『私達は素行の悪い餓鬼です。
ラトロワ中佐のような方ならばまだしも、我々など…』

『まして我々は殿下やこの日本から…恩を着せる事など一つもしていません。
なのに…何故此処までの事を…?』


突然の事に隊員達が戸惑いながら質問すると----


「…軍人とて、『民』の一人です。
例え異国の者であろうとも、それを護る事は当然の事…。
例え、政威大将軍という職に着いて居なくても、困り、苦しんでいる者を助ける事は『人』として当然の事です。
…無論、全ての人間がそうとは言えないのが悲しい現実ですが、それでも私・煌武院悠陽という一人の人間は、アナタ達を救いたいと思う一人の人間なのです。」

「「「----ッ!?」」」

「此処でアナタ達を見捨てる事は出来ません。
このような事で諦め、見捨てるようでは、民を護る事など到底無理という物。
例え、多くの者が反対しようとも、私は徹底的に戦います。
それでアナタ達を救えるならば本望です。」

『で……殿下…!!』


悠陽の本心を知り、涙を滲ませるジャール大隊の隊員達。
そして隊員の一人の手を包み込むように両手で握る悠陽が笑顔で答える。

「希望を…諦めては駄目ですよ?」

『ハッ…ありがとう……ございます…殿下…ッ!!』

その優しさに触れ、我慢出来ずに涙流す隊員達
ラトロワ中佐やナスターシャを含めたジャール大隊全員が敬礼し、この瞬間から悠陽に忠誠を誓う。


「ウム…見事な采配だぞ、悠陽よ。」

「お、おじい様!?」


すると、突然の雷電登場に驚く悠陽
雷電と共に護衛の神野大将も一緒に入室する。


「おじい様、どうして此処に…?」

「いや、先程随分と感立っていた悠陽を見かけてな…
理由を聞いて、後を追ってみた…という事だ。」

「見事ですぞ、殿下。
この神野…殿下の成長を嬉しゅう御座います。」

「そこで…だ。
此度の件、我々も力を貸そう。
それに…他にも力を貸してくれる方が居るのだ、任せるが良い。」

突然の来訪と支援に驚く悠陽
そして雷電の言葉に疑問を抱く。

「えっ…『他にも』とは一体…?」


前・政威大将軍である雷電以外の支援者の存在
そして、雷電ですら『貸してくれる方』と言わせる事に戸惑うと---


『私ですよ、悠陽さん。』

「あ…貴女様はッ!!」

突如現れた1人の老婆。
しかし悠陽を始めとして、ジャール大隊を除いた全員がその存在に驚愕する。
そして同時に跪き、頭を下げるタケルや悠陽達を見て、戸惑いながらも、ジャール大隊全員も跪く。


(シ、シロガネ大尉…あの御方は一体…?)

(あの方は、日本の頂点に立つ御方…
『日本帝国皇帝』の『天乃宮珠代様』です…!!)

(なんだとっ!?)


突如の皇帝陛下登場に絶句するタケル達だった…。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第八十話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:fd33fbfd
Date: 2011/10/04 06:19
「天乃宮様…?
今日は一体、どのような事で…?」

「いえ、別に特別な事ではありません。
お忍びで雷電の下に会いに来ただけですよ。」

「お忍び…ですか?」

「ええ、雷電や紅蓮・神野は昔からの知人です。
たまには一緒に茶会でもしようと忍んだのです。」


悠陽の質問に答える、日本皇帝・天乃宮珠代
雷電等と茶会しようとお忍びで来たようだが……三人の表情が何故かげっそりしていた。


「……珠代様はな、昔っっっっから、こうやってお忍びしてな…
我々三人を困らせてるのだよ。」

「若い頃から仕えてきたんじゃが…『超』が付く程『じゃじゃ馬』でな…我々三人の苦労の八割はこの方が原因なのじゃ。」

「勝手に飛び出して、バイクや装甲車を操縦して暴走するし…
強化装備勝手に持ち出して、撃震を操縦してハシャギまわるわ…
しまいには、HSSTを危うく操縦しそうになるわで…ワシ等の胃にどれだけ穴が出来、精神科に通わされたか…。」

「ちなみに…この苦労は……現在進行中ぢゃ。」

雷電達の苦労話を聞き、全員が同情する。
『皇帝として、このはっちゃけよう…まずくね?』と心の中で全員が呟く。

三人が悠陽のはっちゃけに耐えられるのも、ぶっちゃけこの人のせいである。


「まあ、とりあえず話題を戻しましょう。」


ホホホ…と笑顔で誤魔化しながら話題を変える珠代。


「話は聞きました。
此度は大変な目にあいましたね。」

「いえ、恐れ入ります。」

珠代からの慰めの言葉を貰い、頭を下げるラトロワ。
しかし珠代は跪くラトロワの前で正座する。


「へ、陛下!?」

「気になさる事ではありません。
人と話す際は、同じ視線の高さで話す事にしてるのです。」

「ですが…」

「良いのですよ☆」


珠代の行動に絶句するラトロワ
雷電達も「やはりやりよった…」と頭を悩ます。


「此度の件、私も力をお貸し致します。
紅蓮、すみませんが五摂家現当主を全て集めなさい。
彼等にも協力して貰いましょう。」

「ハッ!!」


すぐさま紅蓮は退室し、五摂家現当主達に連絡を入れる。


そして30分後ーーー


「皆さん、忙しい中集まって頂き、感謝致します。」

「いえ、此方こそ陛下に謁見出来、至極幸せで御座います。」

「アラアラ、嬉しい事言ってくれますね、兼嗣さん。
なら、今度一緒に戦術『お断り致します。』アラ、イケずですねぇ…。」

口を尖らせて拗ねる珠代。
兼嗣も彼女の犠牲者故に拒否反応が即座に出てくる。


「珠代様、相変わらずお元気ですね。」

「勿論ですよ、由佳里さん。
元気は最強ですよ☆
それより由佳里さん、まだ若いんだから再婚しないのですか?」

「私は元泰さん一筋ですので、お断り致しますわ。」

「むぅ、残念ですね…
お見合いならば、私が用意してあげようとしたのに……500人程。」

「……多すぎです。」


ちょっと残念がる珠代
しかしお見合いの相手を500人は多すぎる為、流石の由佳里も冷や汗を流す。


「まあ、世間話は此処までにして…。
皆さんに頼みがあります。」

「頼み…ですか?」

いささか不安感が漂う兼嗣達だったが、話を聞くと真面目な話だった為、内心ホッとする。


「……用件はわかりました。
しかし、このままだと反対派の反応が気になりますね。」

「一夫多婦制の件等で色々と頭の固い連中が五月蝿いですからねぇ…」

「確かに陛下や殿下の一言があれば即座に出来るでしょう。
ですが、同時に良からぬ誤解等を受けられる可能性もありますので、他にも案を用意する必要があります。」

「我々だけではなく、名のある者や政界等の協力者が必要になりますね。」

兼嗣・由佳里・隼人の進言を聞いて『フム…どうしたモノか…。』と考えると…

「陛下、それならば白銀武大尉に任せて大丈夫かと。」

「タケル君が?」


すると、香月博士の進言を聞き、珠代の頭にクエスチョンマークを浮かべる。

「白銀武大尉の人間関係には、かなりの名のある人物と関係を持っています。
現に五摂家は勿論、内閣総理大臣の榊是親殿や『伝説のテストパイロット』で知られてる巌谷榮二中佐等と関係を持っています。
それ等の人脈を活用すれば、良い結果が出てくると思います。」

「成る程!
確かにそれほどの名高い方達との人脈があるのなら、大丈夫ですね。
タケル君、その任を受けてくれますか?」

「勿論です。
オレが役立てる事が出来るなら、力をお貸しします。」

「流石タケル君ですね☆」


タケルの人脈を活用する事に決まった……のだが、違う疑問点が浮かんでくる。


「陛下…ずいぶんと白銀大尉と親しいのですね…?」

「正月に謁見してたのは聞いてましたが…」

「ああ、それですか?」


タケルにずいぶんと親しく接していた珠代に疑問を持ち、質問する兼嗣と由佳里
するとーーー



「そりゃ親しくなりますよ。
私の可愛らしい『孫』なんですから☆」

「「「「はっ?」」」」


この瞬間ーーー
珠代からの一言に全員が硬直する。


唯一タケル・悠陽・雷電だけは頭を抱えこんでいた。


「「「「はぁぁぁぁぁぁっ!!!?」」」」

「どどど…どういう事よ、白銀!?」

「説明するから落ち着いて下さいっ!!」

「これが落ち着いていられるかぁぁぁっ!!」


吼える香月博士。
ガァァァァッ!!と吼えながら暴れる香月博士を羽交い締めにしながら鎮圧するタケル


「以前、正月に謁見したのはさっき言いましたよね?」

「ええ。」

「その際会った瞬間に『ばあちゃん?』って呟いたっけ、飛び付いて来たんですよ。」

「あの時は嬉しくて涙を滲ませましたよ…
初めて対面した孫から『ばあちゃん』って言われて…感涙モノでしたわ。
思わず飛び付いてしまいましたよ。」

顔を真っ赤に染めながら出会いのシーンを説明する珠代
実際には、タケルが祖母の顔を見て、ウッカリ呟いた結果だったりする。


「親父が以前『皇帝陛下直属部隊』に所属してたのは知ってますね?」

「ええ、以前シミュレーター訓練での会話を聞いたわ。
確か『とある理由』で部隊を離れて帝国軍に移ったのよね?」

「ハイ、実はその話なんですけど……
実は親父、母さんと『駆け落ち』したんですよ。」

「駆け落ち?なんでまた……ってまさかっ!?」

「ハイ、先生の想像通りです。
実は母さん…『皇帝陛下の娘』なんです。
まあ、駆け落ちしちゃったから、縁は切れてますけどね…。」


流石に全員が唖然とするしかなかった。
その代わり、珠代が語りだす。


「影行君は、私のお気に入りの一人でしてね。
良く私が飛び出した際は、彼が良く見つけて連れ戻す役だったんですよ。」

「影行殿が離れた際は、我々三人がどれだけ嘆いたか…
彼が居た期間は、我等に安心感を与えてくれたのだ…その損失は大きい…。」

「親父……苦労したんだなぁ…。」


思い出話をしてウフフ…とエピソードを語る珠代だが、影行の損失に雷電・紅蓮・神野の三人が嘆きだす。


「影行君って昔から女性にモテましてね~、楓も必死に奮闘した結果、影行君をゲットしたんですよ。」

「ちなみに…決め手は?」

「既成事実作って『責任取ってよね?』と婚姻届に記入☆
いやぁ~…あの時の楓の手際の良さは見事でした…。」

「親父もかよ…」

悠陽の質問に答える珠代だが、タケルは自分の父親も自分と同じような理由で結婚したと聞き、跪づく。


ちなみにラトロワや香月博士達女性陣は『成る程…。』と頷いていた。


「結果的には結ばれはしましたが、家柄の問題もあり、そう簡単に結婚は認められませんでした。
私個人としては賛成でしたけど、その頃は頭の固い連中が多かった為、どうしたものかと悩んでいたら、影行君ったら私に『楓と一緒に駆け落ちする事をお許し下さい。』と土下座してまで楓を貰いに来たのよ。
あの時は驚いたけど、同時に嬉しくも思いました。
私の娘の為に、身分や家柄・立場を捨てたのです。
楓もあの時は感涙して、影行君と一緒に土下座して駆け落ちしたの
そして楓は天乃宮家とは縁を切る事にはなりましたけど、親子としての絆や血までは切ったつもりはありません。」


珠代の言葉を聞いて、親子としての絆の強さを知り、少し羨ましそうになるナスターシャとジャール大隊の隊員達。


「その際に雷電だけに教え、影行君の配属場所や身分を与えるように頼んだの。
それで影行君は帝国軍に配属されたんだけど…まさか楓まで帝国軍に入ったと聞いた時は驚いたわ。
まあ、ジッとする子じゃないから、影行君の部隊に入ったんでしょうけど。」

「今や部隊のエース級衛士になってますよ。」

「アラ、当たり前よタケル君
影行君と一緒に戦場に出るんなら、それぐらいにならなきゃ足引っ張るだけよ?
それに私の娘よ?
その程度の困難を乗り越えられなきゃ私の娘は名乗れ無いのよ?」

「随分とハードですね…」


影行の過去の話を聞き、ちょっと誇らしげに喜ぶタケル


「タケル君が生まれたと聞いた時は会いたくて飛び出したわ。
けど、生憎雷電達や影行君に阻止されて会う事は出来ず、写真だけで我慢したわ…」

「あの時は大変だったぞ…
いままでに無いはっちゃけようだったから、阻止出来た事自体奇跡だった…」

「…もしかしてアレか?
用意周到に様々な囮を使って飛び出したアレか?」

「…ああ…撃震を自動操縦にして囮にし、歩兵部隊に変装して飛び出した件だ…。」

「「「「そんな事したのっ!?」」」」

「幸い、偶々遭遇した影行殿のおかげで、阻止する事が出来たのぢゃ…。」

「親父すげぇよ…。」


タケルに会う為だけに、凄まじいはっちゃける珠代の過去話を聞き『日本…大丈夫…なのか?』と不安感タップリに襲われるタケル達。


「それから幾年経ち、例の一夫多婦制の件で『白銀武』という名前を聞いてタケル君の事だとピンと来ました。
一応雷電に確認を取らしてみれば、『間違いない』と知り、即刻でアノ手ソノ手…など様々な手段を使いました。」

「……なんか不安な言葉が出てきたんですけど…」

「まあ、そういう事で悠陽さんに一夫多婦制を認める代わりに、タケル君を一度会わせるように仕向けたのです。
けど、私も忙しい身ですから、今年の正月に会う事になった…という事です。
ウキウキして大晦日の夜は眠れませんでしたよ?
しまいには、会った瞬間にタケル君に『ばあちゃん?』と言われた瞬間嬉しさ爆発しちゃって、その日も眠れませんでしたよ。」

(うわぁ……遠足前の子供かよ…)


ウフフ…☆と笑みを浮かべる珠代を見て、タケルは『遠足前の子供』と見る。
だが内心では、自分に会うためにそこまでしてくれる事には嬉しさがあった。


「……という事は、いずれは白銀大尉も皇帝に?」

「それは現時点ではあり得ませんね。」


ナスターシャがポツリと呟くと、即答で珠代が否定する。


「先程も言いましたが、楓とは縁を切りました。
つまり現時点ではタケル君は『天乃宮家とは縁が切れてる状態』ですから、皇帝になる事はありません。
それに跡継ぎとして、楓の姉の『千恵』がいますので、千恵が亡くなり、跡継ぎがいない状態でなければタケル君や楓が跡継ぎ候補として選ばれる事はありません。」

「つ~か、オレ自身なるつもりは無い。
今の暮らしで十分だ。」

「嫁は増える一方だけどね。」

「グハァッ!?」


タケルの跡継ぎの話は否定するタケルと珠代
タケル自身は今の生活で充分と語るが、香月博士の鋭いツッコミを喰らい、ダメージを負う。

勿論みんな爆笑する。


「さて、話が大分逸れましたが、とりあえず正式な配属は後程決めます。
それまでは悠陽さんが責任持って預かって貰います。
良いですね、悠陽さん。」

「勿論です、珠代様。」

とりあえずジャール大隊の件は一時的に悠陽が預かる事に決まる。


そして、ホッと一安心したのは、小さな溜め息を漏らすとーーー


「香月博士、此処に居ました…………へっ?」

「あら、影行君じゃない。
久し振りですねぇ~。」


香月博士を探していた影行が入室すると、義母・珠代の姿を見て時が止まる。


「アナタ、香月博士が見つかっ……………母様?」

「楓……久し振りですねぇ…。」

先程の影行との対応とは違い、黒いオーラを放つ珠代
母の姿を見て、ビクビクする楓の姿を見ながら、安全地帯まで避難するタケル達。


「楓……何故タケル君を会わせてくれなかったのかしら…?
私、とてもとても寂しい思いをしたんですよ…?」

「いえ、その…タケルが立派に成長してからと思いまして…。」

「十数年も経ってもですか?」

「いや、ちょっとタケルもまだ未熟者でしたので…」

「子供が未熟なのは当たり前です…。
……私はそんな言い訳聞きたいのではありませんッッ!!
駆け落ちしてから一度たりとも会いに来ないとはどういう事ですかっ!!
影行君だって、数度は会って下さってるにも関わらず、貴女って子は…!!」


吼えた。
怒り大爆発した珠代が楓に説教をする。
楓も正座してガミガミと叱られる姿は、何時もの厳しい母の姿はこれっぽっちも無かった。

そして、楓の襟首を掴み、平手状態の右手を高々とあげ、力を溜める。


「すぷらっしゅ~……」

「母様ッ!!それだけは---」

怯える楓
母・珠代の必殺技が炸裂する事を悟り説得するが………無駄である。


「ふぁんとむ~~~ッ!!」

「アブ、アブブブッ!!」

凄まじい速さの往復ビンタ
一秒間20連発はしてそうな速さで、楓の頬を叩く。

「セイッ!!」

「グハァッ!!」

最後に顔面に強烈なコークスクリュー・ビンタ(張り手?)が炸裂し、気を失いながら吹っ飛ぶ。

勿論それを見た皆さんは恐怖でガクガクブルブルと震えてます。


後にジャール大隊の隊員達は語る……
『日本の母に逆らってはいけない…。』

そう…心に刻みつけたのだった…。


あとがき-----


しばらくぶりです、騎士王です。

ケータイが一時止まってたので、プリペイトケータイを購入し、書いた話をパソコンにメールしてコピーする作業・・・めんどっ!!


今回はオリキャラの珠代登場の話です。
タケルの祖母であり、皇帝陛下という設定・・・
以前謁見したシーンを書いた時から出す事を決めていました。


紅蓮達ですら恐れる珠代のはっちゃけ
孫イベントの際は活躍(?)してもらいましょう。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第八十一話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:fd33fbfd
Date: 2011/11/01 00:44
2000年・5月16日


「巌谷中佐の家に行くのは初めてだなぁ…。」

「以前来たおば様の家とそう変わりませんよ。」


唯依の案内で巌谷中佐の家に向かうタケル

今回はジャール大隊の件で巌谷中佐を訪ねる事になった。

今日は巌谷中佐が休みな為、タケル自身が訪ねる形になった。


「済まない、タカムラ中尉。
忙しい中道案内をさせてしまって。」

「いえ、構いませんラトロワ中佐。
私も今日はそれほど忙しくは無いので、遅れは取り戻せます。」


そして今回はラトロワも同行していた。
やはり自分の部隊の問題な為、隊長である自分も出るべきだと考え、休日を潰して同行したのだ。


「此処です。」

「へぇ~…良い家だなぁ…。」

「ほぅ…これが日本式のマイホームか…。」


武家屋敷風な家に到着するタケル達。
ラトロワも日本の武家屋敷を初めて見て感心する。


「只今帰りました。」

「むっ?随分と早いな唯依ちゃん……と白銀大尉じゃないか!?」

「お休みな所スミマセン。」

「いやいや、構わないよ。
ところで…そちらの女性は…?」

「初めまして、イワヤ中佐
ジャール大隊大隊長・フィカーツィア・ラトロワ中佐です。」

「ジャール大隊……確かXM3の件で、ソビエト軍から訪れた隊の名前がそれだと記憶してたが…。」

「はい、そうです。
実は巌谷中佐に相談したい事がありまして、今日尋ねたんです。」


「……成る程。
まあ、こんな所で話もなんだ、遠慮無く上がるが良い。」

「失礼します。」


巌谷中佐に上がるように言われ、家に入るタケル達。
ちなみにラトロワは家に入る際、靴を脱いで上がる姿を見てちょっと驚く。

「まあ、何も無いが入りなさい。」

「失礼しま………あれ?」

「おや、白銀君じゃないか」

「あ、彩峰准将!?」


今に入室すると、大きなテーブルで茶を飲んでいた彩峰准将が居た。


「な、何故彩峰准将が!?」


流石の唯依もまさか彩峰准将が居るとは知らず、慌て巌谷中佐に訪ねる。

「いや、彩峰准将も今日は休みでな、たまには私の家に遊びに来ないかと誘ったのだよ。」

「家に居ても暇だからね。
そんな時に巌谷中佐からお誘いが来たから来たのだよ。」


ワッハッハッ…と豪快に笑う巌谷中佐と彩峰准将
呆気に取られてるタケルや唯依を見て笑い声が溢れてた。


「さて白銀君、用件を聞こうか。」

「はい、あと彩峰准将もこの話に参加して頂いてくれませんか?」

「ウム、わかった。」


タケルは二人に詳しい話を説明する。
その話を聞くにつれ、表情がやや険しく変わっていく。
唯依に至っては怒りの表情を浮かべるが、そこは感情を抑え、話を聞いていた。


「そうでしたか…
ラトロワ中佐もこのような事になり、お怒りを察します。」

「全く…ソビエト軍の上層部は一体何を考えてるのだ…。
民や下の者達の支えがあってこそ、国や軍があるというのに…愚かな…。」

「そんな事があり、お二方にお力を借りようと相談したのです。」


ゴクリと息を呑みながら説得をするタケル
すると二人から笑みが浮かび、答えを述べる。


「成る程。
勿論私に出来る限りならば力を貸すよ。」

「私もだよ、白銀君
困ってる者がいれば、助けるのは当たり前だ。
それが例え他所の国の者であろうと関係無い事だ。」

「あ…ありがとうございます。」


深々と頭を下げるタケルとラトロワ
タケルに関しては、何度も頭を下げていると、『ゴンッ!!』とテーブルの角に頭を強打し、もがく姿を見られ、周りから笑い声が響く。


「話は変わるが、タケル君。」

「なんでしょうか…?」

いつの間にかプライベートの呼び方になる巌谷中佐
少し嫌な予感をするタケルだが、一応落ち着いて質問すると…。


「唯依ちゃんとは何処まで進んだかね?
私としては、孫の顔が見たくてウズウズしてるのだが…。」


やりやがった。
先程までのシリアスモードは何処かへ行き、はっちゃけモードに突入する巌谷中佐


タケルは再び豪快にテーブルに頭を強打し、唯依は豪快にずっこける。
ちなみにラトロワは唖然とし、彩峰准将は興味津々に『ほぅ…』と呟いてたりする。


「おおおお…叔父様ッッ!!」

「ハッハッハッ☆
唯依ちゃん、恥ずかしがる事は無いんだよ。
今巷の噂話では、唯依ちゃんがタケル君と仲が良く、近い将来の嫁候補と噂されてるのだよ?」

「「へっ?」」

「勿論情報源は香月博士や殿下・雨宮少尉ではないぞ?
情報源は色んな人達の噂話だぞ。」

「嘘…」


跪づく唯依。
自分の知らぬ所で、とんでもない噂話が広がっていた事を知り、へこむ。

ぶっちゃけ、後戻り不可能……なのかもしれない。


「それに唯依ちゃん、最近タケル君のそばに居る事が多いだろう?
勿論中尉としての作業を覚える為等という事は知ってはいるが……。
第三者の視点から見ると『恋人みたいな雰囲気』に見えるのだが…。」

「それは叔父様の勘違いですっ!!」

「だか、噂になるという事は、私以外の者達にも、そう見える…という事だぞ?」

「うっ!?」


今回は分が悪い為、旗色が悪い唯依
反論するが、巌谷中佐の言葉を聞き、言い返せないでいた。


「そういえば白銀君
ウチの慧と仲が良いようだか…何処まで進んだかね?」


しかも、今回は彩峰准将も参戦。
タケルの精神的ライフポイントはゴリゴリと削られている。


「ほぅ、彩峰准将の娘さんもですか…」

「ハイ、最近は白銀君や榊さんの所の娘さんと仲が良いみたいで、
榊さんの娘さんとは、なにやらライバル関係みたいで、競い合ってるみたいです。」

「ほぅ、榊首相の娘さんと…。」


なにやら、いつの間にか娘の話になり、ヤバい雰囲気に突入する。


「ハッハッハッ☆
これは榊首相が来た時に聞かねばなりませんな。」

「「「ハイ?」」」


この瞬間、タケル・唯依・ラトロワの時間が停止する。


「お、叔父様…?
榊首相が来たら…とは…?」


最初に復活した唯依が巌谷中佐に質問するとーーー


「唯依ちゃんには言ってないが、もうそろそろしたら榊首相も家に来る予定なのだよ。」

「「ええっ!?」」

「元々今日はウチで『娘の話』とかをする予定でな、ちょっとした自慢話や、結婚する際は花嫁衣装は何が良いとか…孫は何人欲しいとか色々話す予定なのだよ。」

「そんな事の為に総理呼んだのっ!?」


親バカ集合に唖然とするタケル達
特にタケルは嫌な予感がバリバリしてる為、立ち上がり、立ち去ろうとする。


「巌谷中佐、今日はそろそろ帰りますっ!!」

「待ちたまえ、白銀君」

「帰るにはまだ早い。
榊首相も来るのだ…ゆっくりするが良い。」

「離して下さいっ!!
今帰らないと、良くない未来が訪れるんですっ!!」


立ち去ろうとするタケルを拘束する巌谷中佐と彩峰准将
こんな時だけ、歴戦の戦士としての力を発揮させる辺り、かなりの親バカだと分かる。


「それにタケル君。
榊首相が来れば、先程の話を説明して力を借りる事も出来るだろう?」

「う゛っ!!」

「榊首相の力があれば、かなり有利になると思うのだが…。」

「痛い所を…」


ジャール大隊の件の説得を言質にされ、痛い所を突かれるタケル

ちろっとラトロワを覗くとーーー


(……………スマナイ。
ジャール大隊の為に耐えてくれ。)

「グハァッ!!」


申し訳なさそうにアイコンタクトで『ゴメン、耐えて。』と送るラトロワ
その瞬間にタケルが陥落する。


「御免下さい、巌谷榮二殿は居ますか?」

「おおっ!!来たな。」


玄関から是親の声が聞こえ、迎えに向かう巌谷中佐


「遅くなりました、彩峰准将………おや?
白銀君ではないか。」

「…………コンニチワ。」


燃え尽きたタケル
もはや逃げる事叶わないと知り、諦める。


「いやぁ~丁度良かった。
実は白銀君に会わせたい人が居るんだよ。」

「へっ?」

予想外の言葉に反応するタケル


そしてーーーどうやら神様は今日はイタズラをしたい気分だったらしい。


「『珠瀬』殿、この若者が先程話に出た白銀武大尉です。」

「ほほぅ、中々の好青年ですな。」

(タ…タマパパ来たぁぁぁぁぁっ!!)


あろう事か、是親は最強の親バカである『珠瀬玄丞斎』を連れて来ていた。


「この人は、国連事務次官の珠瀬玄丞斎殿だ。」

「おおっ!!あの珠瀬殿ですか。
お噂は耳にしております。」

「ワッハッハッ!!
私など巌谷中佐や彩峰准将には叶いませんよ。」

(な、何…このメンバーは…!?)

(日本の総理大臣に国連事務次官だと…!?)

流石にこの豪華メンバーに戸惑う唯依とラトロワ
しかし、タケルはこのメンバーを見て『……終わった。』と項垂れる


「フム…」

「…………」


ジロジロとタケルを観察する玄丞斎
嫌な予感をバリバリ感じながら、硬直するとーーー


「フム、確かに…彼ならば…」

「た、珠瀬事務次官殿…?」


何かを決断した玄丞斎
そしてタケルの肩に手を乗せてーーー


「白銀君……ウチのタマをお嫁さんに貰ってくれないかね?」


予感的中。
突然とんでもない爆弾発言をすると、タケルの・唯依・ラトロワの時間が停止する。


「タマは可愛い子でな~☆
私のマイ・プリティエンジェルなんだよ~☆
ホラ、これが私の愛娘の『珠瀬壬姫』といってな、もう~愛らしくて愛らしくて…私の自慢な娘なのだよっ!!」


ケタが違う。
親バカのレベルが先程の三人(是親・榮二・萩閣)とは桁違いだった。

愛娘の壬姫を見せる為にノートパソコンを取りだし、開くと壁画がタマのアップ画像から始まり、ファイルだけでも1GB分も画像が納められていた。
正にキング・オブ・親バカに相応しかった。


「ハッハッハッ☆
この可愛いらしい笑顔を見ると、疲れなど感じる事が無いのだ。
タマの幸せそうな笑顔があれば、あと30年は戦えるよ。」

「流石ですな、珠瀬殿…。
私も見習わねば…。」


親バカっぷりを関心する是親
『自分もやってみようかなぁ~』と思い、後日真似をするが、偶々千鶴に見つかり、速攻で釘バットで破壊される事になる。


「……あの…真面目な話をして…宜しいでしょうか?」

「うん、何かね?」


力を振り絞り、説明するタケル
最初は何かと頭を傾げていたが、その重大さに気付き表情を変える。


「フム…成る程…。
確かにこれは難しい問題ですね…」

「確かに。
我々に力を借りようとする理由はわかります。」

フム……と顎髭を弄りながら色々と考える玄丞斎
そして結論はーーー


「何処まで出来るかわからないが、やってみよう白銀君」

「私も色々と策を考えましょう。
一応帝国にも知人は居ます。
そのツテを使い、説得してみるよ白銀君」


「あ…ありがとうございますっ!!」


是親と玄丞斎の答えを聞き、喜ぶタケル達


その後、みっちり親バカっぷりな話題に戻り、3時間親バカトークに付き合わされたタケル達
巌谷中佐の家から出た時は既に真っ白な灰状態になっていた。


「…………オレ……あんな親にはなりたくないな…。」

「……それが良い。」

「………スミマセンでした。」


げっそりと精神的に疲れ果てた三人。
ちょっとフラフラとしながら基地ヘと戻っていく…。


『おやぁ~?
相変わらずモテるね~
外人さんに大和撫子っぽい女性二人を連れて歩いてるなんて…流石だね。』


そしてタケル達から少し離れた場所から笑みを浮かべる一人の女性。


『白銀みーっけ☆
珠瀬さんに報告しなきゃ。』


『柏木晴子』
予想外の彼女の登場にまだタケル達は気づいていない…。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第八十二話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:fd33fbfd
Date: 2011/10/11 06:38
「ただいま~。」

「あ、おかえりなさい柏木さん」

「珠瀬さんにビックニュースだよ☆」

「ビックニュース?」


街から帰ってきた晴子
寮の相部屋の住人である『珠瀬壬姫』がその帰りを迎える。


「実はさっき街中でね、白銀見かけたんだ。」

「タ、タケルさんをっ!?」

「うん、多分仕事中だったと思うな。
軍服着た女の人二人連れて歩いてたけど、間違いないと思う。
あと白銀、すこーしカッコ良くなっていたよ。」

「タケルさんがカッコ良く……ふにゃあ~☆」


にやけた顔で『カッコ良くなったタケル』を想像するタマ
最初は『女性二人を連れて歩いてた』という言葉を聞いて『ラ・ライバルですかっ!?』とビビったが、『カッコ良くなったタケル』という言葉を聞いた瞬間、先程の不安は吹っ飛び、ニヤニヤと妄想をしていた。


「けど、白銀ったら斯衛の黒の軍服着てたな。」

「えっ、斯衛軍のですか?」

「そうなんだよねぇ~…
『この世界』の白銀は斯衛軍なのかな…?
それともーーー」

「それともっ!?」

「ーーーー私達と同じで『ループ』してる白銀なのかもしれない…。」


予想外な事にも、晴子の口からループ関連の言葉が出てくる。
そしてタマも知ってるかのような反応を見せる。

「『違う世界』の社さんが言ってたヤツ…ですよね。」

「ウン。
…しっかし、白銀が凄い理由が良くわかったよ…。
一般人だった白銀がループなんてモノのおかげで、本来居るべき世界から突然絶望的な世界に放り投げられて尚、戦おうと前へ進もうとする白銀は本当に凄いよ…。」

「ウン、私達ですら、『平和な世界』に一時的だったけど、生活して『自分達の世界』との違いにビックリしたもんね…。」


『元の世界』に一時的に飛ばされてた会話をする二人。
そして其処で霞からタケルの秘密を教えて貰う。


それは二人に衝撃的な事だったが、同時に『白銀武の物語』を聞き、涙を流す。


そしてーーー

『お願いします…。
もし、白銀さんがまたループしていたら……助けて下さい…。』


涙を大粒にしてポロポロと流し、二人にタケルを助けて貰うように頼む霞
その姿に心を動かされ、『勿論だよ。』と引き受ける。


「白銀も罪な男だよね~。
大勢の女性から好意を寄せてるんだから。」

「あの~…柏木さんはどうなんですか?」

「ん?私?」


からかうようにモテモテのタケルの話題を出すと、タマの口からとんでもない爆弾発言が放たれる。
しかし、以外にも晴子の反応はのほほんとしていた。


「うーん、確かに白銀の事は好意は持ってるよ。
『好き』って感情だと思うけど…珠瀬さんみたいに『愛』ではないと思う。
まあ、ぶっちゃけちゃえば、恋愛事は未体験だから、良くわかんないんだよね~☆」

「そ、そうなんですか…。」

晴子の持ち前の軽さの返答に『そ、そんな軽い返答で良いの…?』と内心思うタマ


「安心しなよ、珠瀬さん。
少なくとも、私に『愛情感情』が芽生えるまでは珠瀬さんを応援するし
大体この世界の日本って一夫多婦制だから大丈夫だよ~☆」

「そ、そういえば…。」

この世界の日本が一夫多婦制だという事を思い出すタマ
策士・晴子のイタズラのペースにハマり、『しまったぁぁ…。』とへこむ。


「もうこんな時間か…
珠瀬さん、食堂に行って晩御飯食べようか。」

「ハイ。」


丁度晩御飯頃の時間帯になり、部屋から出て食堂へと向かう二人。


『あれぇ~?
あれは壬姫さんと晴子さん?』


食堂へと向かう途中、偶々二人を見つける美琴
ちょっとしたイタズラ心で尾行を実行する。
流石は父・左近直伝のスニーキング
親子揃って段ボール使用し、尾行する。

『タケルさん……斯…軍………してるのは驚き……た。』

『私……っくり…よ。』

「あれ、この会話って……。」


そこで美琴は二人の異変に気付く。
そして更に近寄り、会話を確認する。


「はぁ~…私もタケルさんに逢いたいなぁ~…。
カッコ良くなったタケルさん…はふぅ…☆」

「コラコラ、こんな所でデレデレとニヤけた顔したら、教官に怒られるよ。」

「ハッ!!
すみません、つい…タケルさんの顔を思いだしちゃて…」

「こりゃ重症だね。」


タマのタケルへの愛情っぷりに苦笑いする晴子
タマは晴子の一言に対して笑って誤魔化す。

その様子を後ろで聞く美琴はーーー


「……ちょっと…仕掛けてみようかな?」

そう決心した後、即座に行動に移る。
勿論段ボールを被った状態で…。


「はあ~お腹一杯です。」

「今日は中華丼が有ってラッキーだったな。」


食堂から出てきた二人
晴子は好物の中華丼を食べれた事に満足そうな顔をする。


「この後どうします」

「うーん…とりあえず予習でもしよーーー」


この後の予定の話題に返答してる最中に出来事は起きた。
突如足元に何か引っ掛かり倒れる二人。
だかその瞬間、二人の顔を布のような物で巻かれ、腕で抱えるようにそのまま引き摺られてしまう。

そして誰も居ない一室に連れてかれると、解放され、顔に巻かれてた布を取って貰う。


「なななな…なんですかイキナリ…………って……!?」

「イタタ…何なのもう…………えっ?」

「ゴメンねぇ~☆
イキナリこんな事してビックリしたよね。」


解放された二人が見たものは…
二人が良く知る人物、鎧衣美琴だった。


「よよよ…むぐっ!?」

「な、何するのかな一体?(駄目だよ、珠瀬さん。)」


突然の美琴登場に慌て名前を呼びそうになったタマだが、晴子が口を抑え、冷静に対応する。


「あれ?おかしいなぁ~…。
確か千鶴さんと慧さんを狙った筈なんだけどなぁ~…?」

「「!!?」」

「うーん…………間違えちゃった。
ゴメンねぇ~☆」


千鶴と慧の名前を聞いて驚愕する二人
勿論その様子を美琴は見逃さなかった。


「せっかくタケルや香月博士に頼まれたイタズラ仕掛けたのに…失敗しちゃった。」


(いい…今、何て言ったのっ!?)

(榊さんや彩峰さんは分かるとしても…白銀と香月博士まで知ってる!?)

美琴の爆弾発言に戸惑う二人
そしてーーー


「ねぇ、ちょっと質問して良いかな?」

「な、何…?」

美琴の質問に対して恐る恐る答える晴子…


「『ループ』って何か知ってる?」

「「!!!!」」


流石の晴子も、この一言に驚愕する。
そして、その様子を見て美琴はーーー


「へぇ~…『ループ』の意味知ってる所を見ると…何処の世界から来たの?」

笑顔で質問する美琴だが、二人からすれば心臓を鷲掴みにされるぐらいの緊張感が襲って来る。


「はぁ~…やっぱりかぁ~…。
壬姫さんは予想してたけど、まさか晴子さんまでループするとはビックリしたよ~。」

「「へっ?」」


この瞬間、一気に空気が軽くなり、先程の緊張感が無くなる。


「ど…どういう事…?」

「駄目だよ、二人共~。
これぐらいのハッタリに引っ掛かったら、拉致られた時に簡単に誘導尋問されるよ?」

「ま…まさか…。」

「そうだよ、二人から情報を聞き出す為に『誘導尋問』したんだよ。」

「「ええっ!?」」


この瞬間、美琴に誘導尋問をされた事に気付く。

「ま…まさか…鎧衣さんも…?」

「ループして来たのっ!?」

「うん、そうだよ~☆」

やっっと美琴の真意が伝わり、緊張感がへなへなと無くなっていく。


「千鶴さん、慧さん、もう入って良いよ~。」

「「えっ?」」

「………はぁ。」

「おひさ…?」


美琴から呼ばれると、入り口のドアが開き、千鶴と慧が入って来る。

実は先程二人を倒した際、布をかぶして拉致したのは千鶴と慧であり、二人を部屋に連れた際に逃亡防止に部屋の外で待機していたのだ。


「久し振り……で良いのやら、ちょっと戸惑うわね。」

「そだね…『久し振り』かもしれないし、二人はもしかすると『数日ぶり』かもしれないし…。」

「あ、私達は『暫くぶり』かなぁ~?」

「うん…『暫くぶり』だね…。」


落ち着きを取り戻した晴子とタマ
そして美琴から今回の事情を喋り、今回の作戦を実行したと説明され、納得する。

「……それで、二人は何処の世界から来たの?」

「私達は『二度目の世界』から来ました…って言えばわかりますか?」

「---ッ!?
え、ええ…『桜花作戦』のあった世界でしょう?
私もその世界から来たのよ。」

「本当ですかっ!?」


二人が『二度目の世界』から来たと知り、驚く千鶴
そして自分も『二度目の世界』から来たと告げると晴子とタマは驚く。


「鎧衣は『元の世界』から来て、『二度目の世界』の鎧衣の記憶を継承したの
彩峰はこの世界の彩峰なんだけど、鎧衣と同じく『二度目の世界』の彩峰から記憶の継承したの。」

「ほぇ~…記憶の継承ですか…。」

「あと……香月博士や御剣も『二度目の世界』からループして来た…
鑑も『二度目の世界のカガミスミカ』が憑依…したみたい。」

「ふぇぇ…香月博士までループしちゃったんだ…。」


流石に驚きを隠せずにいる晴子
タマに至っては……硬直していた。


「それじゃ、今日見かけた白銀って----」

「そうよ、私達の良く知る白銀よ。
つまり、白銀も数回ループして来た存在なの。」

千鶴の一言で決定的になる晴子とタマ
そして----


「実はさ……私達、この世界に移る前に『元の世界』に行ってたんだ。」

晴子の一言で驚愕する千鶴達だった…。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第八十三話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:fd33fbfd
Date: 2011/10/17 05:53
回想――――


『あれっ?ここは…?』

目覚めると、懐かしい光景を目にする私
けど、幾つかの見慣れないモノはあるが、ここはかつてあった『自分の部屋』


『ねーちゃん、いい加減起きろよっ!!
学校遅刻するぞ。』

『学校…?って太一!?』

すると部屋に我が弟・太一が呆れ顔で私を起こしに来る。


『これは…一体…?』


私は佐渡島で要塞級の触角に貫かれた。
多分、溶解液か爆発で死んだ…と思うんだけど…。


『……なんともない…あれぇ~…?』


頭を傾げながら起きだし洋服タンスを開けると―――


『これ……訓練兵の頃の制服!?
って…あれ、これ…。』

肩に付いてるエンブレムが『伊隅ヴァルキリーズ』のエンブレムではなく『白陵大付属柊学園』と書かれたエンブレムが貼られていた。


『………とりあえず着てみるか。』


先程太一も『学校』という言葉を使っていた。
多分コレを着ても大丈夫だろう。


『晴子~迎えに来たよ~!!』


(この声は…茜?)

朝ご飯を食べ終わると、玄関辺りから茜の声が聞こえる。
鞄を持って、玄関に向かうと、茜と『築地多恵』がいた。


『おそいよ~。
いつもなら外で待ってるのにどうしたの?』

『ごめんごめん。
ちょっと寝坊しちゃってさ。』

『珍しいね~。
柏木さん、いつも早起きなのに。』

『アハハッ☆
そりゃ~私だって偶には寝坊するよ~。』

『もう~。
晴子はバスケ部だからハードなのはわかるけど、余り無茶しちゃ駄目だよ?』

『りょ~かい♪(バスケ部……私が…?)』


茜の言葉に疑問を抱きながら、三人で一緒に『学校』に向かう事にする。

勿論、『学校』の場所などわからない為、茜や多恵について行く形で向かう。

(けど---
これは一体どういう事なの…?)


『本土防衛戦』でBETAに横浜を侵略され、『明星作戦』では米国に『G弾』を二発使われ、この光景を奪われ二度と見られない筈の故郷が、今此処にある。


自分自身、幾度か家の有った場所を訪れ、哀愁感を味わった筈なのに---


(参ったね…ワケわかんないや…。
とりあえず、怪しまれないように『演技』するしかないっか…。)

なんせ、普段当然やる事やわかる事が『わからない』のだ。
例えば、『学校』に行っても、『教室は何処か?』とか……『使ってる机は何処か?』とか……問題は山積みだ。


(あれ……このルートは……。)

見覚えのある道を歩んでる事に気づく。
この先は『横浜基地』があるルート
……なんとなくだけど、制服を見た時から、行き場はわかってたのかもしれない。


そして到着すると、案の定だった。
しかし、其処は『横浜基地』ではなく『白陵大付属柊学園』だった。

いつも正門に居た守衛も居ない。
基地の屋上にあったアンテナも無い。
建物自体、全然違っていた。

本当に…此処は『学校』なんだ……



『さて、此処で晴子とはお別れだね。』

『うん、それじゃ。』


茜や多恵と別れて教室まで辿り着く。
下駄箱では幸運な事に名札があった為大丈夫だったが、教室はわからないから『教室まで案内して下さい、涼宮様☆』…なんて冗談混じりで案内して貰った。
まあ……茜には呆れた顔されたけどね。


『おはよー♪』

『アラ、おはよう柏木さん。』


教室に入ると、榊が居たから、挨拶をする。
すると、教室の中の造りが訓練兵の頃の教室と同じ為か、なんとなく席がわかった。


(多分…此処だ。)


訓練兵時代、この席で様々な事を学んだ。
机を調べると、確かに私の席で合っていた。

(中身は…体操服か…なんか懐かしいかも。)


かつて通ってた訓練学校で着た事のある体操服
今もこれを着るとなると…ちょっと恥ずかしいかもしれない。
まあ…訓練兵時代の強化装備よりはマシか…。


しばらくすると、見慣れたみんなが集まって来る。

彩峰…珠瀬…鎧衣…御剣…そして白銀
その後ろには、社と白銀の幼なじみの鑑純夏さんが……って…!?

『で、殿下!?』

小さな声だが、思わず漏らしてしまう。
しかし…目の前には、あの政威大将軍・煌武院悠陽殿下が居るのだ。

しかし、良く会話を聞いてみると、殿下を『御剣悠陽』と呼んでいる…どういう事?


益々混乱してきた……


(アレ…?
珠瀬さん…どうしたのかな…?)

ふと気づくと、珠瀬さんの様子がおかしい。
ちょっと影があるような…?

(あとで聞いてみよっか。)


大切な仲間だから、やはり無視は出来ない。
あとで相談に乗ってあげよう。


結論----ワケわかんない。

今日1日学校で過ごしてみたが、ワケがわかんない。

いや、勉強内容とかはわかる。
わかるけど---何故だろう…自分自身…『余所者』の感じがする。

恐らくは、この不可思議な現象のせいだと思うが…やはり色々と違い過ぎる。


(---私は…この世界を知らない…。)


まるで違う世界に来たような感覚。
自分の知ってる世界とは、似て非なる世界。
そして、何より----


(BETAが…存在しない?)

まるで夢のような現実。
人類の敵であるBETAが存在しない。
少なくとも今日調べた限りでは居ない事がわかった。


歴史の教科書を見ても、私が学んだ事とは違う事が書かれいた。
それどころか、BETAの事がひとつも載っていない。

つまり、BETAが存在しないという事は、ユーラシア大陸にはハイヴは存在しないし、BETAがいないという事は、戦術機も無いという事だ。

歴史が---違い過ぎる。


『参ったね…こりゃ…。』

ふぅ…と溜め息を漏らす。
未知なる現象に頭を悩ましてしまう。


『…これが天国でしたってオチなら、いらないんだけどな~…。』

天国---確かに私の居た世界に比べれば天国だ。
しかし、どんなに酷くなっても、やはり生まれ育った場所の方が良いに決まってる。


けど---

『…これが天国なら……ヤッパリ私……死んだんだよね…。』


『死んだ』という事は---
『二度と自分が居た世界』には帰れないという事---!!


少し寂しさで涙を流してしまう私。
帰れないと思ってしまうと、つい流してしまう。


『あの…柏木さん…。』

『---ッ!?
あ、あれ、社じゃない。
どうしたのかな~?』


すると、社が後ろから声をかけて来る。
慌てて涙を制服の袖でゴシゴシ拭いてから笑顔で振り向く。


『……泣いてたんですか…?』

『アハハッ☆
ちょっと目にゴミ入っちちゃってさ~
ゴシゴシ擦ってたら、ちょっと涙出ちゃったんだよ。』

『無理…しないで下さい…。』


優しく制服を掴む社
ハンカチを取り出して『これで拭いて下さい…。』と言ってくれる。
うーん…白銀が以前『霞は癒やし系』って言った意味、良くわかるよ…。


『はい、ありがとね社』

『いいえ、どう致しまして『柏木少尉』』


ドクン----!!

今……なんて言ったの…?

柏木……少尉……!?


『な、なんの事かな~?』

動揺しながら誤魔化してみる私
しかし、社は私の顔をジッと見て告げる。


『この世界の柏木さんは、私の事を『社さん』って呼びます…。
柏木さんが私を『社』と呼ぶのは…『BETAが存在する世界』です…。』

『----ッ!?』

『そして、この世界の柏木さんなら…『柏木少尉』なんて言っても『なんでありましょうか☆』ってトボケてくれます。』

『なっ…!?』


激しい動揺を見せてしまう私…
今まで色々な事があったから、聞き慣れてる呼び方につい動揺を見せてしまう。


『………向こうに…公園あります…。
そこで話をしましょう…。』

『………わかったよ。』

社の後をついて行く私…
それにしても、ついやっちゃったな~…。
まさか名前の呼び方とは……失敗したなぁ…。


『ハイ…どうぞ…。』

『ありがとう。』

社からジュースを貰い、一口飲んでみる…。
美味しい……
ご飯食べてる時も思ったけど、この世界の食事とか色々美味しいよね…。

『ねぇ…社…』

『スミマセン…ちょっと待って下さい…。
もう1人…来ますので…。』

『えっ…もう1人…?』

誰だろう。
色々考えてみてもわからない。

すると、遠くから見覚えのある姿がこちらに向かって走って来る。


『……………珠瀬さん?』

『ハァ…ハァ…アレ…?
柏木さん…?』


息を切らしながら私の名前を呼ぶ珠瀬さん…。

私を見て驚いているようだけど…?


『これで揃いましたね……。
それではお二方の疑問について説明します。』

『えっ?』

『私達の…疑問?』

『ハイ…お二方の疑問は『同じ』ですから…。』

『『ええっ!!?』』


社の一言に驚き、私は珠瀬さんの方を見て驚く。

『珠瀬さんも…『BETAの居る世界』から来たの…?』

『ハイ…柏木さんもですか…?』


コクリと珠瀬さんの質問を肯定する。
そっかぁ…朝珠瀬さんの様子がおかしかったのも、私と同じ理由だったんだ…。


『お二人共、同じ世界から来たようです…。
確認の為に質問しますが…柏木さんは『甲21号作戦』が最期で、珠瀬さんが『桜花作戦』が最期で宜しいですね?』

『な、なんで…その事をっ!?』

『……私もお二人と同じ世界から来た『社霞』だからです…。』

『『ええっ!?』』


や、社まで私達と同じ世界から来ただなんて…流石に驚いたよ…。


とりあえず冷静になり、社に質問する事にする。
一番最初に聞きたい事はーーー


『ねぇ…社…。
私達って…『死んだ』のかな…?
やっぱり、元の世界には帰れないの…?』

『……ハイ、スミマセン…。』

社の表情が暗くなり、今にでも泣きそうな表情になる。


『お二人共…元の世界では『KIA(戦死判定)』とされてます。
柏木さんは、伊隅大尉が作業していた『凄乃皇弐型』を護衛していた際、要塞級の触角の一撃で気を失い、溶解液により死亡致しました…。
珠瀬さんは、『門級』の脳の破壊作業中に突撃級の群に潰され、死亡致しました…。』

『そっかぁ…やっぱりかぁ~…。』


流石に自分が死亡したと聞き、暗くなる私
私や珠瀬さんの家族の元には『訃報』が伝わってる筈だから、帰る場所が無い……って訳か…。

勿論、基地にも帰れない。
つまり、例え元の世界に帰れても、意味が無いのだ…。


珠瀬さんも跪づいて泣き崩れそうになってる…。
無理は無いよ……私も…限界…かな…。


私が涙を流すと、珠瀬さんも釣られて涙を流しちゃった…ゴメンね…。


めい一杯涙を流して、社に慰められる私と珠瀬さん…。
本当に…癒されるな…社には…
白銀の言ってた意味が良くわかったよ…。


そして泣き止んだ私達に社はこう呟いた---


『失った…時間を…未来を取り戻したくは無いですか…?』

『えっ…?』

『元の世界には戻ってやり直す事は出来ませんが…『限りなく似た世界』でなら…やり直す事は可能です…。』

『それ、本当にっ!!』

『ハイ…限り無く低い可能性ですが…出来ます。
お二人なら…出来る筈です。』


社の言葉に驚愕しつつも、私と珠瀬さんは『希望』が見えてきた…。


『………社…それ、どうやるの…?』

すっかり冷静さを取り戻し、社に質問する。
珠瀬さんも私と同じ想いで社の返答を待つ。


『普通ならば不可能ですが…ループして来たお二人ならば…可能です。』

『その方法はっ!?』


珠瀬さんが珍しく強気で質問する。


『…自分のいた元の世界と…お二人が良く知る白銀さんを強くイメージして『逢いたい』と強く思ってくれれば…可能性は見えて来ます…。』

『し、白銀をっ!?』

元の世界をイメージするのは…わかるとしても……何故白銀を?
あらら…珠瀬さんったら、茹で蛸みたいに顔を真っ赤っかにしてるよ…。

『白銀さんもループを幾度となく経験して来た人です…。』

『『ええぇっ!!?』』

白銀が…私達と同じ体験を…?
流石に予想外だよ…。


『これは……白銀さんの体験した『物語』
とてもちいさくて---
とてもおおきくて---
とてもたいせつな物語です…。』

私達の知る『白銀武の物語』を語る社…
それを私達は息を飲んで聞いていた…。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第八十四話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:fd33fbfd
Date: 2011/10/23 05:46
回想の続き―――


『白銀さんは、このBETAの居ない世界から飛ばされて、『BETAの居る世界』にループしました…。
勿論、白銀さんは軍隊経験等無く、『一般人』でした…。
この意味…わかりますよね…。』

『うん…この世界の人達にしたら、私達のいた世界は『地獄』だよ…。』

『そうです…ですが白銀さんは香月博士と出会い、拾われる事になります。
そして、珠瀬さん達がいた『207B分隊』に入隊する事になりました…。』

社の話を真剣に聞く私達…。
一般人だった白銀が207B分隊に入隊したは良いが、みんなの足を引っ張る存在だったらしい…。
ちょっと意外だったけど、仕方ないか…この頃の白銀は一般人だったんだから…。


なんとか、総戦技演習も辛うじてクリアして合格を得た207B分隊
しかし、その後が白銀の本領発揮だったらしい。

『白銀さんは、元の世界で『バルジャーノン』というゲームを得意としてました…。
そしてそれは、私達の知るシミュレーター用の管制ユニットによる戦術機のシミュレーター訓練と殆ど同じで、それを良く遊んでた結果、衛士としての才能を開花させる事になりました。』

『それじゃ、白銀の機動特性って…!!』

『ハイ、この世界で遊んでいた『娯楽』から得た物です。
ちょっと言い方を変えれば、白銀さんはこの世界で『結果的に』戦術機のシミュレーター訓練を『数年間』鍛えた……とも言えるのです。』

『とは~…。』

『まさか…娯楽から生まれた才能とはね…。』


流石にこれは予想外過ぎる。
誰だってあの才能を娯楽で得た物とは思わないよ…


『更に言うならば…
XM3の『コンボやキャンセル・先行入力』は、この世界のゲームから持ってきた産物なんです。
そして、この世界の人間で、こういったゲームが得意な人ならば、誰でも出来る機能でした。
それを白銀さんは香月博士に話した結果XM3が誕生したのです。』


『ええぇっ!!』

『嘘…XM3も娯楽から生まれた物なの…?』


予想外過ぎる発言が連発して、呆然とする私達
けど、そのXM3も完成したのは、私達の世界に来てから創られたらしい。
そういう意味では私達の世界は運が良かったのかもしれない。


そしてその後、様々な事件が発生したらしい。
中でも『HSST襲撃事件』は驚いた。
なんせ、その事件を防いだのが、まだ訓練兵の珠瀬さんだったからだ。


超音速で飛来する爆薬ビチビチ積まれたHSSTを『試作1200mmOTHキャノン』というマッハ5を超える弾速を誇る超弩級な水平砲で撃ち落としたらしい…凄過ぎだよ…。

当の珠瀬さんは―――


『わわわ…私…そんなとんでもない事したんですかーーーッ!!』

『ハイ、白銀さん曰く『その瞬間タマが『極東一のスナイパー』が決定的になった瞬間』…だったそうです。』

『……そうだね、珠瀬さんの狙撃って半端じゃないからなぁ~…。
伊隅大尉達も『珠瀬の長距離射撃を回避する事は至難の業』だって言ってたもの。』

『はうぅぅ~~~っ!!』

また顔が真っ赤っかになる珠瀬さん…
けど、本当の事だから諦めて貰おう。


その後も事件は起きたらしいけど……最後には絶望的な事件が起きた。


それが『オルタネイティヴ5の発動』らしい。


オルタネイティヴ5…
人類10万人を選別して、宇宙に逃げる作戦。
そして、地球に残された人類は最終決戦を起こす

そしてその方法が……G弾の大量爆撃による殲滅。
少なくとも白銀は2005年頃までは生存してたらしい
しかし、BETAは生存してたらしく、白銀は…戦死したらしい。


そこで白銀の『一度目の世界』は終わった。
けど、『物語』はまだやっと半分。
そしてここからが『物語の本番』


『白銀さんは、再びループして『二度目の世界』に来ました。
そしてその『二度目の世界』こそが、私達の知る住んでいた世界です…。』

再びBETAの居る世界にループした白銀は、再び横浜基地に訪れた。
しかし、前回と違って『一度目の世界』で鍛えた肉体や記憶を継承し、何より『未来の歴史』や『半導体150億個を手のひらサイズ』という情報のジョーカーまであった。
そしてそれを知った香月博士は白銀と協力関係となったらしい。

けど、予想通り香月博士の方が何枚も上手だったらしいけどね


あとは私達が良く知る歴史を辿る
そしてそれこそが『歴史の変更』した結果らしい。


一度目の世界に起きた事件を回避する事で、『オルタネイティヴ5』を弱体化する事に成功したらしい。
けど…その後が問題だった。


歴史を変更した為、それに匹敵する事件が起きた。
それが…『12・5事件』…クーデター事件だった…。

そして、その後『トライアル事件』が起こり……神宮司軍曹が亡くなった。


白銀は自分を責め続けた。
自分が歴史を変えてしまった結果、恩師を死なせてしまったと…。


その悲しみと重圧の結果、一度は逃げてしまった白銀…けど、そこに待ち受けていたのは…更なる地獄だった。

自分が逃げて元の世界に逃げた結果、元の世界の『神宮司先生』が殺され、白銀に想いをよせる人達からは…記憶や想い等が失う結果になった。

そして…更には鑑も重傷を負う結果になった。
そして、それが自分自身に原因があると知る事になる。


けど、元の世界の『香月先生』に喝を入れられ、再び戦う決意を取り戻す白銀
そして、元の世界で起きた事象を解決するには、ループした原因を探りだし、解決する事にあると教えられる。


そして『覚悟』を持った白銀は、再び私達が居た世界に戻る
そして、その覚悟を見せた結果、香月博士から本当の意味で『仲間』として迎えられた。


『……白銀さんを軽蔑しますか…?』

『…出来ないよ、そんな事…。
私達には想像出来ないぐらい、苦しんだんだもの…。』

『私も珠瀬さんと同意見。
白銀は自分が歴史を変えた結果、神宮司軍曹を死なせたと責任を感じて責め続けたんだもの…
その苦悩や重圧は、私達がわかる事なんて出来ないよ…。』

『ハイ…白銀さんはとても優しい人です…。
自分の目の前で殺され、守れなかった事やその結末を導いてしまった責任で苦しみました…。
けど、帰ってきた白銀さんは、覚悟を背負い、前に進みました…。』

『凄いよね…白銀…』

『ハイ…。』


その後は私も良く知る歴史を辿る事になる。
白銀は珠瀬さん達より遅めに『伊隅ヴァルキリーズ』に入隊する事になる。

そして……


『この後……大きな事件が立て続きに来ます。
そして、最初に来たのが---』

『……甲21号作戦…だね…?』

『ハイ……
結果をいえば、『一応攻略は成功』しました…
『佐渡島の消滅』という結果で…。』

『佐渡島の消滅!?
それ、どういう事!?』


流石に予想外な結末に驚く私
らしくない事に興奮してしまい、質問してしまう。

『柏木さんが亡くなった後…伊隅大尉は自分の退路を絶たれた事を知り、ある決断をしました…。
それは…自分ごと凄乃皇弐型を爆破させる事でした。』

『―――ッ!!!』

『そして結果、G弾20発分の爆発で佐渡島を消滅しました…
けど、それは日本を救う結果につながりました。』

『ど、どういう事…?』

『…実はね…柏木さんが亡くなった後、BETAが南下してね…本土に向かってた事がわかったの…。』

『ええぇっ!?』

『けど、伊隅大尉が凄乃皇弐型を爆破したおかげで、本土上陸は阻止する結果になったの。
そして、後に甲21号作戦に参加していた月詠中尉達第19警備小隊がね…伊隅大尉の事を『救国の英雄』って呼んでくれたの…。』

『そう…なんだ…。』


伊隅大尉が亡くなった事に強くショックを受ける事になる。

『自分を…責めないで下さい。』

『ん…ありがとう…社』

ヤバいな…ちょっとだけど…白銀の気持ちがわかった気がする…。

あの時、私がやられなければ、伊隅大尉は―――
そんな強い気持ちが襲って来る。


『そして、その後に待ち受けていたのは、12月29日深夜に起きた事件『横浜基地防衛戦』です。
佐渡島から難を逃れた4万を越えるBETA群が横浜基地を襲撃しました。』

『な…なんだってっ!?』

僅か一週間以内に横浜基地が襲撃されてた事を知り、驚愕する。

『12・5事件』『甲21号作戦』と立て続けに続いた為、帝国軍は帝都の防衛に精一杯だったらしく、横浜基地の自軍の戦力のみで戦う事になった。

伊隅ヴァルキリーズは速瀬中尉が受け継ぐ事になり、速瀬中尉のポジションを白銀が受け継ぐ事になった。

そして、BETAを迎え撃つ横浜基地だが、予想外な事態が起きた。

BETAが初めて『陽動戦術』を使ったのだ。
そして、その結果…横浜基地内に侵入を許してしまう。

そして、その結果―――


速瀬中尉と涼宮中尉の死亡―――
そして、宗像中尉・風間少尉と…茜が重傷を負う結果になった。
ただ、茜はまだ宗像中尉や風間少尉に比べればまだ軽い方で、すぐに意識を取り戻したらしい。

茜が無事だったのは嬉しいけど、速瀬中尉と涼宮中尉の死亡は強いショックを受けた。


『そして…横浜基地防衛戦のすぐ後に、とある作戦名が発令されました。
そして、それこそが…人類が全てを賭けた一大決戦でした…。』

『それは一体…?』


横浜基地が襲撃された後にすぐに起きた事件
そして―――その時、珠瀬さんの口から告げられた。

『『桜花作戦』…。
作戦内容は…オリジナルハイヴ攻略
そして…その作戦で私が死んだんだよ…。』

『オ…オリジナルハイヴ攻略っ!!』

『ハイ…そしてオリジナルハイヴに突入する決戦部隊は……生き残った伊隅ヴァルキリーズである、榊さん・御剣さん・彩峰さん・珠瀬さん・鎧衣さん・白銀さん・純夏さんに…そして私です。
そして、色々な事が起こり、オリジナルハイヴにはこの8人のみで挑む事になりました。』

『は……8人だけっ!!?』

コクリと頷く社と珠瀬さん…
たった8人だけで挑むなんて、自殺行為だよ…。

理由を問うと、どうやら突入前にBETAが『対応』した為、AL弾頭を撃ち落とさなかった為、地上部隊は全滅
重金属雲が不完全な為、軌道降下部隊も光線級に撃ち落とされ全滅。
生き残ったのは、『凄乃皇四型』と五機の武御雷に搭乗していた白銀達だけだった。

そんな絶望的状況に白銀達は挑み、なんとオリジナルハイヴを攻略に成功した。


けど――その代償は大きかった。


オリジナルハイヴの生存者は……白銀と社の二人だけ。
他のメンバーは…白銀を助けようと想いを貫いた結果、死亡した。


けど、その想いを貫いたおかげで、白銀や社は生き残り、オリジナルハイヴを攻略する事に繋がった。


そして、その後は人類に希望の光を与え、『白銀武の物語』は幕を閉じた。


話が終わると、私達三人は涙を流していた。


『そんな壮絶な事を体験してたんだね…白銀は…。
本当に…凄いよ…。』

『ハイ……
その後は、この世界に戻り、記憶等を失った状態で安息……いえ、波瀾万丈な日々を過ごしてます。』

確かにね~。
安息…とは言えないぐらいハチャメチャな1日だったし、波瀾万丈で合ってる。

けど、白銀はもう戦う事は無い―――そう思った矢先、社の表情が曇る。

『けど…恐らくですが…白銀さんの物語は…終わって無いと思います。
…いえ…再び『再開した』と言った方が正しいのかもしれません。』

『『ええぇっ!!』』


そんな…白銀の戦いは終わったんじゃないの?


『恐らく…白銀さんは納得しなかったんだと思います。
例え世界を救えても、共に笑いあえる皆さんが居ない事に…。
そして、その結末が『最良の未来』とは認めたく無いんだと思います…。』

『し、白銀がまたループしたって証拠は有るの?』


そう訪ねると―――
社は私達を見つめる


『証拠…とは言いきれませんが…柏木さんや珠瀬さんがループした事が関連してるのかもしれません…。
原因はわかりませんが、多分『みんなを救いたい』という気持ちで白銀さんはループし、そして白銀さんに想いを寄せてた珠瀬さんもループされた原因に繋がったと思われますが…
柏木さんの場合は…ちょっとわかりませんが、もしかすると、『何か強い想い』が偶々白銀さんのループに引っ張られる結果になったんだと思われます。
白銀さんは『因果導体』だった経緯がありますし…その可能性は捨てれません。』


すると、社は私と珠瀬さんの手を掴むと―――
震えながら、私達に頭を下げる。


『お願い致します…白銀さんを…助けてあげて下さい。
多分…今回は私は直接助ける事は出来ません…
白銀さんは…良く無茶をします…そして今…自分自身を責め続ける筈です…ですから…』

大粒な涙を流しながら、私達に頼む社―――
その姿を…私達は心を射たれてしまう。


『白銀さんを…助けて下さい…。』

万感の想いを込めて、私達に託す社だった…。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第八十五話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:fd33fbfd
Date: 2011/10/31 23:16
現在―――


「……って事があったんだ。」

「…はぁ……まさか『元の世界』に行ってたとはねぇ…。」

「……流石に予想外。」

「って割には、ビミョーな反応だね…。」


晴子の話を聞き、ため息を吐く千鶴
しかし、相変わらず彩峰のビミョーな無表情に空気がブレイカーされる。

「その後、香月先生と悠陽さんに協力して貰って、ループする事に成功したんです。」

「良く出来たわね。
それに、どうやって二人を信用させたの?」

「それは社さんの能力で信用して貰いました。」

「能力…ああ、リーディングやプロジェクションね?」

「そう、それで『社さん』がリーディングとかを使って証明したの。
それで香月先生や御剣さんに協力して貰って、『転移装置』を作って貰ったの。
まぁ……一か八かの賭けだったけどね。」


タマや晴子の説明を聞いて納得する千鶴達

しかし、晴子の軽い雰囲気にちょっと呆れ気味になってしまう。


(まあ…『アレ』は喋ってないけど、教える訳にはいかないしね…。)

(ゴメンなさい、みんな…
これは絶対に教えられないんだ…。)


実は先程二人は『とある話』だけ省いていた。
しかし、それは重大な秘密故に語る事が出来なかった。

その秘密とは―――


(『純夏さんの秘密』だけは話せないんです…ゴメンナサイ。)


『純夏の秘密』―――
それは『00ユニット』の事だった―――


実は先程の説明では、純夏の事は『桜花作戦』の時に参加・そして死亡した事しか語らなかった。

しかし、実際は霞から全てを聞いていたが、霞から『香月博士や白銀さんや私以外には喋らないで下さい。』と念入りに口止めされていた。(とはいえ、A‐01が00ユニット素体候補の部隊という秘密は二人は知らない。)


そして、これを知ってる事で『BETAの居る世界』で香月博士にループした事を信用してもらい、香月博士の計画に参加して貰う為の『手札の一つ』として教えて貰っていた。

「ねぇ、実は香月博士や白銀に会って事情を説明したいんだけど…会えるかな?」

「白銀は会えるけど、香月博士は、今横浜基地に…「香月先生なら、今帝都に居るよ?」…鎧衣、それ本当?」

香月博士とタケルに会えないか頼む晴子
最初は香月博士は居ないと言う所だったが、美琴の発言で両者に会えるとわかる。


「本当だよ。
昨日から香月博士が帝都城に来てるって、タケルから聞いてたから間違いないよ。」

「そう、なら確かね。
けど――」

「……ちなみに、何故白銀に会ったの?」

「えっ?」


自分一人だけタケルに会いに行った事に嫉妬する千鶴と慧。
笑顔で美琴を捕獲して、黒いオーラをバリバリ放つ。

「何故……私達も誘ってくれなかったのかしら…。」

「……一人で会いに行くの…ズルい。」

「ちちち…違うよぉ~!!
ちゃんと用事があったんだよぉ~!!」

「「へぇ~…何の用事?(かしら?)」」

「かか…霞さんに呼ばれたんだってば~!!」

「社に?」


霞に呼ばれてた事を説明する美琴
嫉妬のドス黒いオーラは鎮まり、美琴の話を聞く千鶴と慧。

ちなみに……タマは二人のドス黒いオーラにビビり、ガクガクブルブルと部屋の隅っこで震えていた。


「実は霞から『テストパイロット』を頼まれたんだ。
…と言っても、タケルの代わりなんだけどねぇ~…。」

「テストパイロット?
なんで鎧衣に頼んだの?」

「うん、実は霞さんの話によると、皇帝陛下がお忍びで帝都城に来てたらしいんだ。」

「こ、皇帝陛下がっ!?」

「うん、それでタケルが自分の部隊の所に案内とかしてて、手が離せない状態だったんだって。
そして、本当はタケルの代わりに第17大隊のメンバーに頼もうとしたらしいんだけど…。」

「……皇帝陛下が居たから、無理だったと…。」

「うん、そうなんだ。」

美琴の説明を聞いて納得する千鶴達
美琴も千鶴と慧が納得してくれた為、ホッと安心する。


「…ところで、何のテストパイロットをしたの…?」

「うーん……まぁ、みんななら教えても大丈夫か。
どっちみち、近々みんなにもテストパイロットを頼む予定だったみたいだし。」

「私達にも?」

「うん!!
けど、他の人達には内緒だよ?
まだ一部の人以外には公開してない新開発だからね。」

「わかったわ。」

美琴の忠告に同意する千鶴達。
そして少し小さな声で千鶴達に教える。


(実はね…今、XM3の改良版を開発してるんだ。)

((((ええっ!!?))))

(エ…XM3の…改良版ですってっ!!?)

流石に予想外な内容に驚きを隠せない千鶴達。
美琴はその驚く姿を見て『エヘヘ…☆』と喜ぶ。

(うん、従来のXM3の機能を向上させて、尚且つ新機能を追加したのが新開発中の『XM3‐EXTRA』なんだ。)


美琴が詳しく説明すると、千鶴達の顔が唖然とする表情になり、そのテストパイロットをしてたという事もあり、自慢するように語る。


「ズルい……何故鎧衣だけ?」

「ボクの場合、元の世界からループして来たから、ディレイ(遅延)の入力とか良く知ってるからね。
いやぁ~…良くタケルと『銅拳』やったなぁ~…☆」

「『銅拳』って、あの格闘ゲームの?」

「うん、晴子さんもやったの?」

「いや、私や珠瀬さんは『バルジャーノン』だけしかやらなかったな~…。」


元の世界で格闘ゲームをしていた為、選ばれた事を明かす美琴。
その事に羨ましそうに見つめる千鶴達を他に、美琴と晴子が『バルジャーノン』の話題に盛り上がる。


「ゴホン、とりあえず白銀に会いましょう。
静さん、居ますか?」

「此処に。」

「うわあぁぁっ!?
だっ、誰ですかぁーーっ!?」

「落ち着いて、珠瀬
この人は私の護衛に付いてくれてる静さんよ。」

「初めまして。
紅蓮静と申します。」

「静さんは斯衛軍第1師団所属の中佐なの。
以前、私の護衛が全滅した際に助けてくれた一人でね、それ以来から私を護衛してくれてるの。」

「ふぇえぇ…忍者かと思った…。」


突然の静登場に驚くタマと晴子
他の三人は最早慣れてしまったが、タマの一言を聞いて『静さんだから…』と内心納得していた。

「スミマセンが、白銀と香月博士に連絡をお願いしたいのですが…。」

「わかりました。
では、父上に連絡をしましょう。」


すると、スッ…と消える静
その姿を見て『やっぱり忍者…だよ…』と呟くタマ

それから10分後。
再び静が現れ、『今から月詠邸に参りましょう。』と連絡を受け、寮から出る6人…


そして――――


「久し振りねぇ、二人共。
元気な姿を見れて嬉しいわ。」

「お久しぶりです、香月博士。」

「お久しぶりです。」


月詠邸に向かうと、丁度良く香月博士が居間で茶を飲んで居た。
護衛として影行と楓も同伴していた。


「随分早かったですね。」

「そりゃ早いわよ。
だって、私が連絡を受けた時には既に此処に居たもの。
ここの食事は美味しいからねぇ~、京都来たからには、ここの食事を食べない訳にはいかないのよ。」

「アラアラ嬉しい事言ってくれますねぇ~☆
ご褒美にようかんあげちゃいましょう~。」

やちるの手料理目的に月詠邸に訪れていた香月博士
自分の料理を誉められて、秘蔵のようかんを差し出すやちる
実に嬉しそうだ。


「白銀は今帝都城から来るから、ちょっと待ってなさい。」

「わかりました。」

タケルはまだ不在だった為、暫く待つ事になる。
そして10分後――――


「ただいまっ!!
って―――うおっ!!」

タケル・真耶・冥夜が月詠邸に帰って来る
同伴として、霞も来る

玄関から慌て走って来るタケルだが、居間に入ると同時に丁度凹み部分に足をつまづき、豪快にコケる。
勿論おっきいちゃぶ台の角に頭部強打はお約束。

「流石は…白銀ね…。
こんなお約束的な登場をするなんて…やるわね…。
もう…ダメ…アーハッハッハッ♪」

「………別に狙った訳じゃありません。」


腹を抱えながら、タケルに向かって親指をグッと立てる香月博士
爆笑するのを堪えてるが…やはり我慢出来ず、爆笑する。


「白銀、久し振り~♪」

「タケルさん…。」

「二人共…久し振りだな。」


いつも通りに接する晴子
タマは久し振りの再会に涙を滲ませながら喜ぶ。
そんな二人の姿を見て、笑顔で迎えるタケル。

それからタケルの部屋へ移り、本題に入る。

「さて、感動の再会をした所で、話をするわよ。」

「ハイ」


晴子は今までの経緯を説明する。
流石に元の世界に一時期居た事には驚くタケルと香月博士だが、元の世界にいる霞も『二度目の世界』からループしていて、幸せそうに生活していた事を知り、喜ぶタケル

そして、その霞から様々な秘密を聞き、妖しく笑みを浮かべる香月博士
勿論、みんなの居る前で00ユニットの秘密を喋る訳にもいかない為、それだけは喋らないでいた。


「なかなか面白い話ね。
けど私もループしてたから良いけど、そうじゃなかったら、どうやって説得したの?」

「えーと…ひとつはここでは明かせない秘密なので、言えません。」

「なんでよ?」

「社さんから『香月博士とタケルさんと自分以外には喋らないで欲しい』って言われました…。」

「……成る程、なら仕方ないわね。
それじゃ『喋れる秘密』とやらを教えてくれないかしら?」


晴子とタマの説明でかなりの機密情報と理解し何より、聞く事をやめる香月博士
その代わりに明かせる『手札』を出せと問い質すと―――


「これです。」

「鞄?何入ってるの?」

晴子が出したのは、少し大きめなバック。
中身は、パソコン・外付けハードディスク・メモリーチップ数枚と…ゲームガイが二台が入ってた。


「うおっ!?
ゲームガイじゃないかっ!!
いやぁ~…懐かしいなぁ~♪」

「向こうの社が『白銀さんの気分転換に』って渡されたんだよ。
勿論中身は白銀が大好きそうなソフトを、数枚持って来たよ。」

「こっ、これは『銅拳5』!!
こっちはバルジャーノンの最新版ぢゃねぇかっ!?
これは新発売間近だった『タクニカル王がっ!?』に『ハイパー炉没斗タクティスX』じゃねぇかっ!?」

「社と悠陽さん…こっちでいう殿下が選んでくれたソフトだよ。」

「そうか~♪大切にするよ。」

(向こうの私…ないすふぁいんぷれいです…。)


タケルの好みそうなソフトを用意してくれた事に感謝し、側にいた霞の頭をナデナデする。
自分ではないが、元の世界の自分のおかげで、タケルから頭をナデナデしてもらい、元の世界の自分に感謝する。


「そっちのパソコンとハードディスクは、元の世界の社がループした際に一緒に持ってきたデータが入ってるそうです。
後は元の世界の香月先生が『最新の因果率量子論の根本的理論』も入れてくれたそうです。」

「なんですって!?」

晴子の言葉に驚き、開いてみると、確かに『因果率量子論の根本的理論』が入っていた。
そしてそのページを一旦閉じて、他のデータを調べると…


「あら、これ…佐渡島ハイヴから桜花作戦までの戦闘データじゃない。
……そういえば、前にデータのコピーが紛失したって一時期騒いでた時があったわね…。
成る程…あの頃に社はループしたのね…。」


ふと前の世界の出来事を思い出す香月博士
霞からの贈り物に笑みを浮かべ、『やるじゃない。』と小さな声で呟く。

「成る程、確かにこれならば交渉材料にはなる…
けど、信用して貰うにはまだ足りないわよ?」

「後は社にリーディングして証明して貰うしかありませんね~。」

「全く…そんな事じゃ、以前の白銀みたく利用されるわよ?」

「うっ…精進致します。」


まだ甘い晴子に警告を入れる香月博士
流石の晴子も苦い表情を浮かべながら、その言葉を受け止める。


「まあ、確かにこのデータがあれば、今後の作戦に対策が出来るわ。
アンタ達の参入で戦力アップにした訳だし、榊達同様の扱いにするわ。」

「ありがとうございますっ!!」

「柏木、アンタはもしかすると場合によっては、鎧衣と一緒で任務に付いて貰う事があるかもしれないから、そのつもりでいて。」

「了解しました。」

「アンタは家柄とかは普通の家系だから色々と使い勝手が良いわ。
場合によっては即戦場に連れていけれるしね。」

あれこれと晴子を使う気満々の香月博士
『うわあぁぁ…なんかこき使われそう…。』と嫌な予感をバリバリしていた。

「さて、私はもう良いわ。
白銀…遠慮なくヤっちゃいなさい♪」

「イエッサー」

「「ハイ?」」


すると何故かタケルから嫌な笑みを浮かべ、晴子とタマに近寄る。
そして何故か冥夜も晴子の背後に移動し、ポンと晴子の肩に乗せる手の握力が徐々に強くなる。

「み、御剣…肩がちょっと痛いかな~?」

「気のせいだ、それより柏木…
私に『余裕が足りない』とか言っておいて、逝くのはどういった理由か聞きたいのだが…?」

「あはは…あっ、あれは…その…。」

「なに、今宵は充分に時間はある。
じっくりと説明をしてもらおうか…?」


『二度目の世界』で晴子に『余裕が無い』と言われた事を問う冥夜
だが、そのセリフを言ってからKIAになってしまったもんだから、ひじょーに言いづらい晴子だが…冥夜の黒いオーラがユラユラと放ってるものだから、更に恐怖度は上がる。


「タァァマァァァ…!!」

「痛っ…!!
いたいれふぅ、たへるさぁ~ふ(痛いですぅ、タケルさぁ~ん。)」

「俺がどれだけ悲しんだか…わかってるのかっ!!」

「ごご…ごへんなふぁ~ふぃ(ごご…ごめんなさぁ~い)」


桜花作戦での悲しみを告げるタケル
タマも自分の死で悲しませた事を知り、謝るが……
タケルに頬を両側から引っ張られてる状態な為、うまく謝る事が出来ないでいた。


「あと、今日はタマパパに親バカストロベリートークにひじょーに疲れる結果になったんだ…
その鬱憤…晴らさせて貰うぞ。」

「パ…パパァァッ!!」


父・玄丞斎のせいで、お仕置きのレベルがアップしてしまうタマ
後に玄丞斎に会ったタマが『パパの…バカァァッ!!』…と言われてしまい、玄丞斎はショックの余り発作を起こし、1週間程緊急入院する結果になる…。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第八十六話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:fd33fbfd
Date: 2011/11/09 15:04
2000年・5月25日―――


「うわあぁぁ…これが武御雷・羽鷲かぁ…。」

「あと、この不知火・改も凄いです…。」


今日初めて帝都城に入るタマと晴子
今日は鈍った戦術機の腕を取り戻すべく、訪れていた。

本来ならば、タケル達と再会した日にでも、したかったのだが、訓練学校の方で重要なテスト(座学・実技)があった為、日にちをずらしていた。


「ヤッホー☆
白銀君、相も変わらず女の子にモテモテだねぇ~♪」

「誤解を招く一言はやめて下さい、結城さん。」

するとのほほんと、爆弾発言を放ちながら登場する結城
勿論、乙女達の鋭い視線(晴子以外)をタケルに向けるが、勿論タケル自身、おっきい汗をダラダラと流しながらスルーする。

「その子達が夕呼の『特殊任務を受けた子達』なのかい?
確か、様々な特別な任務を受ける為に育て上げてるとか…。」

「ハイ、そうです。
先生から聞いてるとはおもいますけど、内密でお願いします。」

『わかってるよ~♪』と呑気な声で返す結城
実は千鶴達は夕呼の特殊任務を受ける存在として、タケルから育成をされていると聞いていた。


「やぁ~~っと、吹雪の改良機が出来たよ…。
ふぁあぁぁ…やっと眠れるよ…。」

「完成しましたかっ!?」

「まーね、まあ元々の吹雪をちょっといぢくるだけだからね。
不知火・改等の対策を考慮した改良機だから、機動性能は格段と上がったよ。」

「ちなみに機体名は?」

「00式戦術歩行戦闘機『吹雪・改』
まあ…そのまんまなんだけど、変な名前に決めるよりは妥当だからねぇ。」


新たな改良機・『吹雪・改』の機体名を聞き、『まんまですねぇ…』と呟くタケルと結城。
ちょっとビミョーな気持ちにはなるが、新たな機体に期待がこみ上がる。

「ちなみに吹雪・改は何処に?」

「今は20番ハンガーにあるよ。
見てみるかい?」

「是非とも。」

「ぢゃ、付いて来て~☆」


結城の案内に付いて行くタケル達
そして20番ハンガーに辿り着くと…新たに生まれ変わった吹雪・改が納められていた。


「ふえぇ…これが吹雪・改…。」

「見た感じは不知火・改に似てるけど…」

「そりゃ当たり前だよ。
元々吹雪は不知火の量産試験機として生産された機体だからね。
ならば、不知火・改をモデルとして、吹雪・改を造れてもおかしくはないんだよ?」


威風堂々と姿を見せる吹雪・改に圧巻される美琴
機体が不知火・改に似ていた為、素直な感想を漏らす晴子だが、その理由を説明する結城の言葉を聞いて『あ、そっかぁ~。』と納得する。


「不知火・改に装備されている肩部スラスターユニットと二連式跳躍ユニットを搭載。
これが無きゃ意味無いからね。
性能は不知火・改には劣るけど、不知火には勝ってるから充分実戦で戦える。
そして訓練機だから安全性を重視した為性能が劣る分、稼働時間・生産性・整備性のアップに成功。
そういう意味じゃ、訓練機でありながら即戦力になる為、不知火・改とのツートップで活躍も期待出来る機体でもあるんだ。」

結城の説明を関心しながら聞くタケル達
すると、結城がニコニコしながらタケルに近寄る。


「白銀君、これでいつでも訓練兵達に『総戦技演習』出来るよ。」

「え、ええ…」

「今回の総戦技演習は随分と訓練兵達にイジメかけるよね~☆
『戦術機による退却戦』だなんて…流石は夕呼だよ♪」

「「「「「「ハイッ?」」」」」」

結城の口から今期の総戦技演習の作戦内容が告げられると、タケルを除いた女性陣6人から、唖然とした声があがる。


「あ、あの…それは一体…?」

「詳しい話は知らないけど、なんか今回の総戦技演習は戦術機を使った演習だって聞いているよ?
『退却戦を想定した訓練』で、仮想敵部隊に追われた状態でありながら、ゴール地点まで退却する事が目的らしいよ。
一応ベイルアウトを想定した退却も考えてるから、即死亡判定に繋がるような攻撃を受けない限りは失格にはならないみたいだよ。
合格条件も『一人でも脱出に成功する事』で、失格の条件は全滅みたいだし、中々面白い設定だよね~♪」

「一人でも脱出成功すれば合格って…随分緩い設定ですね…
何があるんですか…?」

結城から今回の総戦技演習の内容を教えてもらい、流石に『怪しい』と疑う冥夜達。
まあ……タケルはなんとなくわかっていた為、苦笑いをしていた。


「……今回はどんな『イベント』があるんですか?」

「イベント?それは本当に知らないよ。
ちなみに前回の総戦技演習のイベントはなんだったの?」

「………狂犬になったまりもちゃん投入……です。
まあ……狂犬に関しては、先生も予想外でしたけど…。」

「…………鬼畜ぢゃね?
つーか良く前回の訓練兵…合格したね…?」


狂犬になったまりもの恐怖を良く知る結城
前回のイベントがそれと知ると、全身を小さくガタガタブルブルと震わせていた。
やっぱり彼も犠牲者である。


「結城~ぃ?
いたいた……って、アンタ達も居たの?」

「先生?」

「夕呼ぢゃん、どうしたん?」


すると、香月博士が結城を訪ねに来る。
その際、そばには純夏と霞・ナスターシャが同行していた。
その際、純夏とタマが久し振りの再会に喜び、抱き合う。

「珠瀬さん、久し振り……で良いんだよね?」

「私の場合は『暫くぶり』ですけど、また会えて嬉しいです。」

「うんっ♪
私もまた会えて嬉しいよ☆」

再会を歓喜する二人をそばで見守る香月博士が『まったく…まっ、仕方ないか…。』と苦笑いをしながら見守る。

そして気持ちを切り替えて、結城に要件を話す。


「ホラ、結城
例の頼まれたモノよ。」

「ありがとさん☆
いやぁ~…これでFX‐01の問題が解決するよ~♪」


香月博士から書類を受けとると、喜ぶように感謝する結城

「先生、それは?」


「重力制御装置の設計図よ。
FX‐01の問題点だった『操縦者にかかるGの付加の削減』
従来の強化装備のフィールドバックシステムだけじゃ、音速機動のGの負加をこれ以上削減するのは時間がかかると判断したの。
そこで凄乃皇に使ってる重力制御装置を戦術機に搭載出来るサイズまで縮小化したの。
勿論、性能は格段と下がるけど、音速に耐えるだけならば充分過ぎるモノよ。」

「はあぁ~…♪
これでやっっっと先に進めるよ…☆」

嬉しそうに書類を頬づりする結城
苦笑いをしながら視線をずらすと、吹雪・改の存在に気付く。


「そう、それは良かったわ………って、もしかして吹雪・改完成したの?」

「さっきね~☆
これで総戦技演習に使えるよ。」

「そう。
なら、『明日』にでも総戦技演習をするとしましょう。」

「「「……………………………ハイ?」」」


さりげなく呟く香月博士の爆弾発言に、唖然とするタケル達
流石の結城も突然の爆弾発言についていけなかった。


「ん~……夕呼…。
ちょっと嬉しさで聞き間違えたようだから聞き直すけど……。
総戦技演習……いつやるって?」

「明日よ。」

「………はっ?」


再確認してみるが、やはり同じ返答が返ってくる結果になる。
深呼吸を一度してから、ニコニコしながら香月博士に近寄る結城


「夕呼…駄目だよ。
無理し過ぎでおかしくなっちゃったみたいだね…。
ホラ、其所に仮眠室が有るから、少し寝た方が良いよ。」

「別に寝不足でも体調不良でも…」

「駄目ですよ、博士
忙しいのはわかりますけど、無茶は駄目ですよ?」

「ナスターシャ、私は別に…」


ナスターシャも笑顔で香月博士を仮眠室まで連行する。
似たような事を幾度となく餌食になったタケルは哀れそうに、見捨てるように見送る。


「先生…そういう無茶ばっかりするから、そういう目に遭うんですよ…。」

「いいぢゃない、別にっ!!
明日だろうと、明後日だろうと同じ事よ。」


タケルの正論とも言える一言に、口を尖らせながら拗ねる香月博士
…その側で被害者になるナスターシャが頭を抱えてこんでいた。


結果、『せめて三日は待て』と説得され、仕方無しに折れる香月博士。


「夕呼~…幾ら完成したからと言ったって、訓練兵達に慣熟させなきゃ意味無いでしょーに。
不慣れな戦術機で訓練兵達が合格出来る程優しい内容じゃないでしょーが。」

「そりゃ…そうだけど…。」

「それにこれから準備するにしたって、時間がかかるんだよ?
休み無しで『やれ』って命令したら、流石に俺も黙ってはいないよ~…。」

黒い結城を見て、『ヤバい』と悟る香月博士
そう…彼も香月博士がある意味恐れるはっちゃけ野郎だと思い出す。


「………おばさんにチクろうかな~…。」

「―――ッ!!
わかったわよっ!!だから…母さんにだけは…。」

「すげぇ…先生があんなに怯える姿……初めて見た…。」


結城が『おばさんにチクるよ?』と呟くと、今までに無いぐらい怯え、霞の背後に隠れる香月博士
その恐怖度は、狂犬になったまりもの比ではなかった…。


「先生…?」

「な…なによ…。」

未だ母親の恐怖が抜けきらないでいる香月博士に質問をするタケル


「ちなみに『仮想敵』って誰やるんですか?
…流石にA‐01とかウチの第17大隊とかだったら、ナスターシャ以外は相手になんないんですけど…。」

そう―――
今回の総戦技演習合格の鍵は仮想敵役にあった。

訓練兵達の成長はみるみると成長している為、問題は無い。
しかし、問題は仮想敵部隊のメンバーによっては一方的になってしまう為、仮想敵は慎重に選ぶ必要があった。


そして、香月博士が明かしたメンバーは――――


「それならば、とっくに決まってるわ。」

「誰ですか?」

「そこにいるメンバーよ。」

「……………………ハイ?」


香月博士が指差す先には……冥夜達が居た。


「冥夜・榊・彩峰・鎧衣・珠瀬・柏木の6人…
このメンバーが今回の仮想敵役のメンバーよ。」

「「「「「ハアァァァァッ!?」」」」」


明かされたメンバーに驚愕する一同
唯一結城だけはわからない為、『?』と不思議そうな表情を見せる。


「まあ、冥夜は現役バリバリの衛士だけど、榊・珠瀬・柏木は久しく実戦してないし、鎧衣・彩峰に関してはまた実戦経験は無いわ。
そういう意味でもこの子達の『訓練』になるから丁度良いわよ。」

「けど先生…?
それにしたって、訓練兵達の方がかなり不利っスよ?
それに委員長や彩峰やタマはマズイですよ…。」

「安心なさい。
榊・彩峰・珠瀬の親御さん達には既に連絡は入れてるわよ。
『来年の為に3日程特別教育致しますので、お借り致します。』って言って許可貰ったわよ。」

「早っ!!
随分と早い段取りですね…。」

「まあ、日時はまだ伝えて無いから、これからするんだけどね。
メンバーの人選だって、A‐01とか使うよりはまだマシよ。
それに格上の相手ぶつけるなんて当たり前じゃない。
格下の奴らぶつけて合格したって何の意味も無いわよ。」

「そりゃ…そうですけど…。」


香月博士の説明を聞き、納得する部分がある為、反論が出来ないでいた。

「なら、せめてシミュレーター訓練ぐらいさせてください。
少なくとも、柏木とタマは戦術機を久しく操ってないんですから。」

「別にそれぐらいは良いわよ。
むしろやって欲しいぐらいだから大歓迎よ。」


なんとかタマ・晴子の訓練の許可を得たタケル
すると―――やはり只では終わらせるつもりは無いらしい。


「なら、ステージはこちらが設定して良いかしら?
その代わり、社と純夏・ナスターシャも一緒に参加させて良いからさ。」

「随分と羽振りが良い――――って、ま さ か ……!?」


嫌な予感がバリバリするタケル
香月博士が用意するステージが何処か理解してしまい、『アンタって人は…。』と呟きながらへこむ。


「結城さん…今度是非ともチクって下さい。」

「……白銀君…その一言で何処のステージかわかったよ…。
あと、夕呼………リハビリにそのステージって……鬼畜ぢゃね?」

「うっ、五月蝿いわねっ!
こっちだって、ちゃんと理由が有るのよっ!」


タケルと結城に白い目で見られしまい、ちょっと動揺しながらも反論する香月博士だが…
勿論、冥夜達は被害者になる為、怯えながら問う。


「タケル…その…博士の言うステージとは…何処なのだ?」

「………………甲1号。」

「博士っ!!
どういう理由か説明して下さい!!」


ステージがオリジナルハイヴと知り、流石にちょっとキレ気味に質問するナスターシャ
他のメンバーは………真っ白になってますが、何か?


「説明するから、落ち着きなさい、ナスターシャ。
……実はね、凄乃皇のシミュレーター用のデータが完成したから、そのテストプレイとしてオリジナルハイヴを選んだのよ。
仮にも『対ハイヴ用』に創られてるんだから、それなりのデータが無いと実戦に出せないでしょう?」

「だからって、このメンバーじゃ…「このメンバーだからやるのよ。」……ハイ?」


説明を聞き、一応は理解したが、流石にオリジナルハイヴはやり過ぎと思い、結城が反論するが、香月博士の意味アリの言葉に『何故?』と疑問に思う。


「とりあえずやればわかるわよ。
ホラ、アンタ達も用意なさい。」

ちょっと強引に終らせる香月博士
未だに理由がわからない結城やナスターシャ


そして準備が整い、シミュレーター訓練を開始する。

機体は、凄乃皇に純夏と霞
武御雷・羽鷲にはタケル・冥夜
不知火・改には千鶴・慧・美琴・タマ・晴子・ナスターシャが搭乗していた。


初めは、慣れてない機体という事もあり、最初はぎこちない動きを見せるタマと晴子だが、次第に慣れ始め、問題無い程度にまで動きを良くする。

『何よ…これ…?』

『冗談…じゃないんだよね…?』


だが、しかし―――
初めてオリジナルハイヴを体験するナスターシャと晴子にとって、『未知の地獄』であった。


万単位のBETA群相手に戸惑う晴子とナスターシャ。
万単位のBETAと戦う事はあっても、此処はBETAどもの本拠地。
ましてハイヴ内攻略なんぞ未体験な為、其処は未知の世界だった。


『彩峰、落ち着いて。
無闇に突出したらヤられるわよ!!
鎧衣も無駄弾は控えて、落ち着いて確実に仕留めて。
まだ始まったばかりなんだから、冷静に戦って。』

『了解…ッ!!』

『了…了解!!』


記憶の継承はしてるとはいえ、実戦経験の無い慧と美琴だが、それをカバーするように千鶴が入って指示を出す。


『ナスターシャさん、援護は私と柏木さんがしますから、安心して前線で戦って下さい。』

『了解!!(これが…壬姫の狙撃…!?
針の穴を通すような正確な一撃…
これで少尉だとは、悪い冗談じゃない…!!)』

(とは~…相変わらずズゴイ正確さだよ…『極東一のスナイパー』ってのも、納得出来るよ…)


タマの正確無比な狙撃に驚愕するナスターシャ
前の世界では少尉だったとは思えない程の正確な一撃に息を呑む

晴子も暫くぶりにタマの狙撃を見て、『極東一のスナイパー』の呼び名に納得してしまう。


『純夏、余り時間をかけたらこちらが不利になっちまう。
電磁投射砲で蹴散らしちまえっ!!』

『りょ~かいっ!!
みんな、当たらないように気をつけてねっ!!』

『任せるがよいっ!!
心置無く放つがよいっ!!』

『いっっくよ~~!!
……発射ぁぁっ!!』


タケルの指示に従い、120mm・2700mm電磁投射砲を放つ純夏
幾多の青光の帯が輝き、万単位のBETA群が、肉片を飛び散らしながら死滅していく。

その破壊力に唖然とする冥夜達
いや、タケルですら、その破壊力に言葉を失う。


(すげぇ…ははっ…マジですげぇよ…。
これが凄乃皇の本来の力かよっ!!)


その破壊力に思わず笑顔を浮かべるタケル
そして直ぐに気を引き締め直し、再び指示を出す。

『これより前方600に二手に別れる分岐点がある。
残存するBETAを倒しつつ右側の通路を渡り、なるべくBETAとの戦闘を避けるように行動する。
万が一にも母艦級の奇襲があるかもしれない、一瞬たりとも油断するなよっ!!』

『『『『了解!!』』』』

タケルの指示に従い、残存していたBETAを殲滅し、二手に別れる分岐点を右側に進み出す。


―――――――――――――――――――――――――――――――――

「ご…ゴメンね……みんな…。」

「気を落とさないで、純夏。」

「あれは…みんなが予想外だったもの……未然に察知しろと言う方が無理に近いわ。」


シミュレーター訓練が終了したんだ、へこむ純夏
一応今回の任務の『門級の内部に凄乃皇到達』に成功はするが……実は『大広間』で母艦級の奇襲を受けてしまい、凄乃皇に多大なダメージを負う結果となった。


大広間に到達した時点では、凄乃皇の他にはタケル・冥夜の武御雷・羽鷲と、千鶴・ナスターシャの不知火・改のみが生存していた。

これは、『桜花作戦』の経験者という事もあり、タケル・冥夜・千鶴は生還出来ていた。
また、ナスターシャも前の世界での激戦の経験やタケル・冥夜と共に前線で戦ってた事もあり、生還出来ていた。

勿論、凄乃皇の『ラザフォード場』のおかげもあり、タケル達は生存出来ていた。


しかし、タマや晴子は暫く戦場から離れていたせいもあり、途中で撃墜される。
慧や美琴も撃墜されるが、上手くベイルアウトで脱出した事もあり、生存だけはした(後に凄乃皇に無事に送った。)


そして大広間にてタケル・冥夜・千鶴・ナスターシャは門級の開閉作業に入り、順調良く先程していた。

しかし問題が発生した。
前回の世界で香月博士の作戦を実施してBETAを一掃したまでは良かったのだが、タケル達が離れて開閉作業を行ってる最中に母艦級が奇襲を仕掛けてきたのだ。


通常の奇襲ならば対応出来たのだが、流石に凄乃皇の『真下』からの奇襲には対応出来なかったのだ。


なんとか前進する事で直撃は避けたものの、後方のバウ(脚部)が破損し、飛行・ラザフォード場には影響はなかったものの、36mmチェーンガンや120mm電磁投射砲は破損してしまい、後方に対する攻撃手段が無くなってしまったのだ。


結果、救助に向かったタケル達だが、冥夜・ナスターシャを失いつつも、辛うじて救出に成功し、任務を成功させる。


「泣くな、今回は別に純夏だけの責任じゃねーよ。
責任って意味なら、全員にあるんだからよ。」

「ふぇっ?全員?」


予想外なタケルの返答に驚く純夏
その説明をタケル達が返答する。


「そうだ。
確かに今回の凄乃皇の損害は純夏にも責任はある。
けど、それを言ったら同乗していた霞にもあるし、開閉作業に集中し過ぎたオレ達にもある。」

「そうだよ、純夏さん。
ボク達だって途中で撃墜されちゃったんだから、その責任はあるんだよ?」

「…私達が撃墜されなければ、凄乃皇に護衛に着く事が出来た…。」

「それに純夏は何度も私達をラザフォード場で守ってくれたでしょう?
つまり、守られた回数だけ私達はまだ未熟なんだよ。」

タケル・美琴・慧・ナスターシャの説明を聞き、冥夜達も今回の反省点を思い浮かべ、悔やむ表情を浮かべる。


「こんな所で悔やむ時間があるなら、実戦で悔やまないように訓練をしろっ!!
そこで訓練した分だけ実戦に影響するるんだ。」

「うんっ!!」


タケルから気合いを入れられて、先程まで落ち込んでいた純夏だが、今は気合いを入れ直していつもの純夏に戻る。
そして冥夜達も今回の失態を教訓にし、次は必ず生還すると心に誓う。


「まったく…熱血してるわねぇ~♪」


その様子を遠くから見る香月博士
ニヤニヤしながらタケル達を見ていると……何故か表情が重い結城が近寄る。


「夕呼……これは一体どういう事なんだい?」

「どういう事って…何が?」

「とぼけても無駄だよ。
今回のシミュレーター訓練……あきらかにおかし過ぎるよ。」


鋭い視線で香月博士に問う結城
香月博士も冷静に結城と向き合う。


「確かに今回の任務成功の要因は凄乃皇だよ。
これについては絶賛するし、これを造らせた夕呼は凄いと思うよ?
……けど、問題はそこじゃない…
問題は……彼女達にある…!!」

強い疑問を香月博士に問う結城
視線を千鶴達に向ける。

「白銀君や冥夜ちゃんはわかるよ?
あの二人は現役の衛士でエース級以上の実力者だし、ハイヴ攻略も経験がある。
純夏ちゃんも実戦経験はまだだけど、衛士の一人だし、訓練を受けてるからわかる。
ナスターシャちゃんも今は訓練兵って肩書きだけど、元ソビエト軍の大尉であり衛士だ、熟練の実力者なのは聞いてる。
けど…あの…榊・彩峰・鎧衣・珠瀬・柏木…って言ったっけ?
彼女達はあらかさまにおかしいよ。
なんで『衛士じゃない彼女達』があれ程の実力を持ってるの?」


鋭い結城の質問に対し、一瞬だけ眉をぴくりと動かす。


「まあ…あの彩峰・鎧衣って子達はまだ百歩譲れる。
二人の実力は…そだね…『凄腕の訓練兵~新任少尉』ぐらいと、僕は見るけど、確かに数ヶ月間シミュレーター訓練を受けていれば、それぐらいの実力になれるだろう。
けど、榊・珠瀬・柏木の三人はおかし過ぎる。
戦術機の操作・戦場における冷静さと判断力。
まるで『戦場を経験している衛士』のような動きをしていた…。
これについては説明して貰えるかい?」


(………ハァ。
やっぱりアンタには見破られたか…。)


結城に問いただされる香月博士
心の中で溜め息を漏らし、結城に告げる。


「済まないんだけど……その件については話せないわ。
勿論理由があっての事だけど…。」


いつものように無表情で語る香月博士だが、その様子を見た結城が深い溜め息を吐きながら、諦めたような表情になる。


「まったく…そんな顔したら下がるしか無いじゃないか…。」

「へっ?」

「今、泣きそうな顔してたよ。」


突然の結城の発言に唖然とする香月博士
別に涙を滲ませてた訳でも悲しい顔をしていた訳でもなく、ただ無表情な顔
それを『泣きそうな顔』と言われ、呆然とする。


「夕呼は良く隠し事をする際、良く無表情な顔になって隠したり誤魔化したりするけどね、今の顔は僕やまりもぐらいしかわからないぐらいの表情が出てたよ。
なんていうか…僕やまりもに話す事が出来ず、泣きそうななのを堪えてるような感じ…?
そんな顔を僅かに出てたよ?」

「べ、別に泣きそうになんてなってないわよっ!!」

「夕呼は僕達三人の中で一番優しいからね。
普段は態度には出さないクセに、影ではまりも以上に相手を気遣い、自分にムチ打ってでも全力で助けようとする。
白銀君の言葉を使うなら『ツンデレ』って奴だよね、夕呼は。」

「なっ…!?」


自分を良く知る結城に『まりも以上に優しい』と言われ、動揺をしながら僅かに頬を赤らめる。


「白銀君なんて、最たる例ぢゃん。
彼と何があったかは知らないけど、随分と気にかけてるよね?
まるで僕やまりもみたいにね。」

「べ、別に良いじゃない…。」

「ホント、随分と丸くなったよ、夕呼は。」


照れ隠しをする夕呼を見て、苦笑しながらからかう結城
同時に、質問に対し諦めた。


「夕呼、今回の件は貸しひとつで勘弁してあげるよ。
けど、いつかは話して貰うからね。」

「……ゴメン」


今回の疑問に対しての件は『貸しひとつ』という事で黙秘する事にする結城
その心遣いに僅かに素直な気持ちを現す香月博士だった…。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第八十七話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:fd33fbfd
Date: 2011/11/13 20:43
2000年・5月28日――――


「実は……明日から総戦技演習に入る事が決まった。」

「「「「「はっ?」」」」」


タケルの一言で教室にいる訓練兵及び、教官でもあるまりもすら唖然とした声があがる。


例の香月博士の爆弾発言から3日後―――
準備がギリギリ間に合った事から、総戦技演習を始める事になった。


今回は発表したタケルですら、数十分前まで知らなかった事実。
コソッと霞を通して知った為、深い溜め息を吐きつつ今発表したのだった。

一応タケルとナスターシャは例の爆弾発言の件を知っていた為、『そろそろかなぁ~…?』と予想はしていたが、実際に直前に告げられると、やはりへこむモノがある。


「あの…その話…私…聞いてないんですけど…。」

「俺も数十分前まで知らなかった事実です。
まあ…そろそろかなぁ~…と思いましたけどね。」

「どういう事ですか…?」

まりもがタケルに近寄り、質問(尋問?)する。
ビビりながら、まりもを落ち着かせようとする。

「実は…数日前に吹雪・改が完成しましたよね?」

「ええ。」

「その完成した日に先生が『明日総戦技演習やるわよ』と爆弾発言したんですよ。」

「…………夕呼ったら…。」


例の爆弾発言を告白すると、さっきまでの迫力が萎えまくって、へこむまりも。
その後、タケル・ナスターシャ・結城が説得して期日を伸ばした事を知り、全員が三人に感謝する。


「さて、気を取り戻して、総戦技演習の説明をする。
今回の総戦技演習の内容は『戦術機による退却戦』だ
これは以前説明したと思うが、簡単にいえばゴール地点まで一人でも逃げ切れば合格だ
勿論、戦術機を失っても、ベイルアウトも可能であれば、強化装備及び、機械化歩兵装甲によるゴールも認める。
但し、お前達を追跡する仮想敵部隊は、お前達以上の実力者達だ。
人数で勝ってても、けして油断はするな。」

「「「「ハイッ!!」」」」

「説明は終わりだが、質問はあるか?」

「ハイ」

「って…まりもちゃん?」

「私…今回の総戦技演習の事……ぜんっぜん聞いてないので…。」

「お、怒らないで下さいよ…。」


今回の総戦技演習の説明を終えるが、質問を受け付けると、まりもが不機嫌そうに挙手する。


「今回の総戦技演習のルールとかはわかったわ。
けど、今回の仮想敵部隊って何処なの?」

「………不機嫌なのはわかりますけど、そういうのは訓練兵の前でする事ではないのでは…?」

「いいのっ!!
もし、文句あるんなら、酔っ払いながら博士の元に問いただしてくるわ。」

「…………お願いですから、それだけはやめて下さい。
すごくとても切実にお願いします。」


『狂犬になって夕呼の所に殴り込むわよ?』と脅迫され、陥落するタケル
それが実現すれば『横浜基地に明日はない』と考え、折れてしまう。


「仮想敵は6人
その内の一人は冥夜です。」

「め、冥夜がっ!!」

「「「め、冥夜様がっ!?」」」


流石に冥夜参戦と聞き、驚愕するまりも
未来の主と敵対すると聞き、巽・雪乃・美凪の三人も驚愕する。

「まりもちゃんは特に知ってるけど、冥夜は第17大隊の第四中隊に所属している現役衛士だ
オレと一緒にエレメントを組んでいて、実力はエース級以上
はっきりいえば、お前達の敵う相手じゃない。
だから、冥夜と遭遇した場合は、距離を取りつつ、防戦しながら退却しろ。」

「め、冥夜様が敵役なんて…」

「ひ、酷すぎですぅ~…!!」

「わ、私達…攻撃出来ないよぉ~…。」

(…………だめだこりゃ……。)


冥夜の実力を知り、ドン引きする訓練兵達
特に三バカは『冥夜様に攻撃出来ない』…などと言って、タケルの頭を痛める。

「冥夜の他の五人は、実は香月博士の下にいる奴らでな…。
とある理由で明かせないが、オレや冥夜が極秘に育てた奴等だ。」

「博士の…?
私にも言えない機密?」

「ん~…まぁまりもちゃんは、いずれ知る事だから…
じゃ、まりもちゃんだけ教えます。」


タケルはまりもに耳打ちしながら小さな声で喋る。
勿論、その姿を見て物凄く気になる祷子達だが、無視する。


(来年…悠陽が訓練兵と一緒に参加する事は知ってますよね?)

「え、ええ…その話は知ってるわ…。」

(その際の護衛として、来年の訓練兵の中にも護衛を入れる事になったんですよ…。
勿論、オレや冥夜も入りますし、警備小隊として数名護衛しますけど、万が一を考えて、今のうちに数名だけ育ててたんです)

「ええっ!?」

(勿論、極秘に進めてた事ですので、たまにしか教えてませんけど、少なくとも戦術機の実力は新任少尉ぐらいから少し上ぐらいの実力です。
A‐01とかぶつけるよりはまだマシかと思います。)

「まあ…それぐらいの実力なら、問題は無いわね…。」

((((いっ、一体何の話をしてるのっ!?))))


タケルとまりもが堂々と内緒話をしている為、凄く気になる祷子達訓練兵
まりもの言葉がモロに聞こえる為、尚更気になってしまう。


「あの、質問良いでしょうか。」

「なんだ、ナスターシャ?」

「今回の演習の場所はどのような場所でしょうか?
あと、仮想敵部隊の機体が公開可能でしたら、教えて頂きたいです。」


次にナスターシャが演習場所や仮想敵部隊の機体の質問をする。


「今回は箱根の塔ヶ島離城~厚木基地までのルートで演習を行う。
機体性能上、時間のハンデとしてお前達が出撃した一時間後に仮想敵が出撃する予定だ。
お前達訓練兵の機体は吹雪・改だか、仮想敵は不知火・改
但し、冥夜だけは武御雷・羽鷲に搭乗する予定だ。
これを聞いてわかると思うが、機体性能でもお前達は負けている。
そんな不利な状況下を乗り越え、合格してみせろっ!!」

「ハッ、ありがとうございますっ!!」


演習場所と仮想敵部隊の戦術機の情報を公開して貰い、感謝の言葉を告げるナスターシャ
この瞬間、ナスターシャの脳裏にはとある作戦が浮かび上がっていた。


「みんな、集まって。
明日の演習の作戦会議をするわよ。」


タケルとまりもが退室した後、ナスターシャはみんなを呼び集め、演習に備えての作戦会議を開く。


「今回の演習は圧倒的に不利。
機体性能もそうだけど、一人とはいえ、現役衛士が参加してる。
しかも、あの白銀大尉のエレメントを組んでるエース級の衛士が武御雷・羽鷲に搭乗している。
普通に考えれば、合格なんて、できっこないぐらい不利な設定だよ。」


ナスターシャの説明を聞き、暗い表情を浮かべながら頷く祷子達。


「―――けど、逆に言うと、その武御雷・羽鷲を抑える事が出来れば勝機はある。
私に考えがあるんだけど、聞いてくれない?」


全員がナスターシャの作戦内容をまじまじと聞く。

「まず、部隊を前衛・後衛と2つに分けるわ。
前衛は巽・美凪・雪乃の3人
後衛は残った私達9人
これは、後衛が仮想敵部隊を抑えてる隙に前衛がゴール地点である厚木基地に脱出する作戦」

「ちょっ、ちょっと待ってよっ!!」

「私達だって戦えるよ!!」

「異議アリですぅ~!!」

ナスターシャの作戦内容を聞き、異議を唱える3人
それを落ち着かせながら説明をする。


「ちょっと落ち着いて。
三人を前衛に廻したのは考えがあっての事だよ。」

「「「考え?」」」

「うん。
三人はこの訓練兵の部隊で一番連携が上手くて戦術機の操作も高い。
仮想敵部隊が後衛を突破した場合の事を考えると、他のメンバーだと厚木基地に到着する前に撃墜される可能性が高い。
けど、三人ならば仮想敵部隊が追撃して来ても生き残れる可能性が唯一あるんだ。」

「それを言ったら、ナスターシャだってそうじゃない!!」

「ナスターシャは、私達の中で一番戦術機を操ってるし。」

「今すぐ衛士になれるぐらいの実力ですぅ~。」

(いや……一応衛士なんだけどね……。)


美凪の発言に心の中で突っ込むナスターシャ
…とはいえ、そんな事言える訳ないので、抑える。


「私は祷子と一緒に武御雷・羽鷲を抑えなきゃならないの。
私が戦術機の操作が一番って言うならば、仮想敵最強の武御雷・羽鷲にぶつけるのは当然だよね?」

「「「うっ!!」」」


「流石に私一人は無理だから祷子とエレメントを組めば、抑える事も可能なの。
例え他の不知火・改が突破したとしても、三人なら逃げ切れる可能性があるんだよ。」

「ううっ…。」


正論な説明な為、反論が出来ない三人


(けど…油断は出来ない…。
不知火・改の中で一番注意しないといけないのは…千鶴だね…。)


幾度か一緒にシミュレーター訓練をした事があるナスターシャ
その中でも千鶴の実力は認める程。

前回のシミュレーター訓練でも、最終的には千鶴は生き残れていた。

例えそれが『偶々』であろうとも、あのオリジナルハイヴを生き残ったのだ。
それだけの実力だと証明している。


(実際、千鶴の能力を考えると、中尉クラスと考えて間違いない。
茜の話でも『千鶴は伊隅大尉と似ている』って確か言ってたっけ?)

親しかった友・涼宮茜の言葉を思い出し、千鶴への警戒レベルを上げるナスターシャ

千鶴と冥夜をどう抑えるかで、今回の演習の成否は決まる。


(けど―――何故冥夜の機体が武御雷・羽鷲なの?
明らかにイジメってもんじゃないわよ。)


ただひとつ、解せない謎があった。
それが冥夜機である武御雷・羽鷲だ。

冥夜機の武御雷・羽鷲は『紫』
つまり将軍家仕様のハイスペックな機体
その気になれば、冥夜機一機で訓練兵組を全滅させる事は容易い。


それをわかってて出すからには『何か』があるに違いない。
恐らくは香月博士辺りが関与してるに違いない。

そう―――考えてたナスターシャだが……まさかその予想を裏切る事になろうとは、この時は思わなかった……。


「いらっしゃ~い♪
おや、まりもも一緒かい?」

「結城君に色々聞きたいもので。」

「…………喋るから、その笑顔で暗黒なオーラ放つのやめて…。」


結城のいるハンガーの休憩所にタケルとまりもが訪れる。
元々タケルは結城に用事があった為、来たのだが、まりもは今回の総戦技演習の事を結城は知っていると予想し、居ない香月博士に代わって問い質しに来たのだ。


「結城君には色々と聞きたいけど、これだけは教えて。
――――なんで冥夜の機体が武御雷・羽鷲なの?
いくらなんでもやり過ぎよっ!!」

まりもも冥夜の機体について質問してくる。
余りにも訓練兵達には不利な条件
例えナスターシャが大尉クラスの実力を持っていても、武御雷・羽鷲に乗った冥夜を倒すのは難しいと考えたまりもは、この真意を問い質す。


「その事に関しては、実は裏があってね。
以前、純夏ちゃん達が訓練兵だった時に『まりも投入』ってイベントがあったように、今回もイベントを用意してるんだ。」

「こ、この他にまだっ!?」

「まあ、『コレ』を見ればわかるよ。」

「こ…これは……!?」


結城の手元にあったパソコンのモニターには、まりもが驚愕する程のモノがあった。


「ま、まさか…これは…!?」

「そう――――
コレの為に、武御雷・羽鷲を投入したのさ。」


その映像に絶句するまりもを見て、妖しく笑う結城だった…。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第八十八話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:fd33fbfd
Date: 2011/11/21 21:44

2000年・5月29日


「全員集まったようだな。」

いよいよ来た総戦技演習に緊張しながらも、タケルやまりもの前で整列しながら敬礼するナスターシャ達。


全員が『あの』訓練兵用の強化装備を纏い、すっかり羞恥心が麻痺してきた。(祷子に限り、正樹に見られると全力疾走で逃げる。)


「今日はお前達の未来がかかってる総戦技演習だ。
今まで学んできた事を此処で全て出して合格してみせろ!!」

「「「「ハッ!!」」」」

タケルの言葉に反応して、訓練兵全員が気合いの入った返答をする。

そして、そんな様子を離れた位置で隠れながら見ている者達がいた―――


「うわぁ~…本当に白銀が教官してるよ…。」

「壬姫も受けてみたいです…。」


こっそりと隠れながら様子を見ていた冥夜達。
初めてタケルが教官をしている所を見て驚く晴子と、本音をポツリと漏らす壬姫に皆が心の中で賛同していた。


「私達も初めて見たけど、結構教官らしくやってるじゃない。」

「……けど、まだ未熟だって自分で言ってた。」

「そりゃ、軍曹に比べればまだ未熟だろうけど、それでも充分凄いわよ。」

「……まぁね。」

タケルの教官としての姿を尊敬する千鶴
慧もその事には笑顔で賛同する。


「因みに言うならば、前期では純夏や宗像中尉もタケルの教え子になっている。」

「ウソッ!?」

「ふぇ~…今回の風間少尉だけでも凄いのに…。」

「神代・戎・巴の三人も今回の教え子に入ってる。」

「……密かに白銀って結構責任重いんじゃない?」

冥夜の説明を聞き、更に驚く晴子と壬姫
そしてタケルの教官としての責任という名の重責を背負ってる事に気付く。
そりゃそうだ、教えて結果的に『前の世界の宗像達』より劣っていたら、むしろヤバいのだ。
最低限同等ぐらいまで成長させなければ話にならないのだから、タケルの責任は重いのだ。


「……けどさ~…今回の総戦技演習の『イベント』って何なのかなぁ~?
前回は軍曹の途中参加って聞いてるけど…。」

「……今回も軍曹参加?」

「いや待て、それは流石に無いだろう。
もし、そうならば…搭乗する機体は…天狼だぞ?」

「天狼って?」

「まりも殿の専用機であり、武御雷・羽鷲以上の機体だ。
YF‐23の改良機で、現在日本で最強の戦術機だ。」

「……なら、軍曹の途中参加の案は消えたね。」

まりも投入の可能性を潰す冥夜達
同時に香月博士の起こす『イベント』に南無……と合掌する。


―――――――――――――――――――――――――――――――――

「さて…そろそろ時間だな。」

腕時計の時刻を見て、マイクを持つタケル
既に吹雪・改の中で待機していたナスターシャ達は今か今かと操縦桿を強く握り締める。

(これで合格すれば、皆が衛士になれる。
特に祷子には恩返しがやっと出来る。)

かつて、自分が復讐心や仲間達を失った喪失感や孤独感で、なにも出来なかった時に、救いの手を差し出してきたのがヴァルキリーズだった。
特に祷子には、母性溢れる優しさで接して貰い、何度となく孤独な自分を救って貰った。

そんな事もあり、祷子には幸せになって欲しいと思い、正樹との恋を成就させようと応援をする。


(祷子…必ず衛士にしてあげるからね…。)

一度祷子の方に顔を向け、誓うナスターシャ
そして同時に新たに出会った仲間達を見る。


(巽…美凪・雪乃…そしてみんな…。)

苦楽を共にし、お互いに分かち合った仲間達。
任務の為とはいえ、訓練兵に偽装しながらの生活は、ナスターシャにとって、かけがえの無い日々だった。


(みんな…ありがとう。
みんなと共に過ごす事が出来て、本当に良かった。)


みんなに感謝しつつ、表情を変え、この時だけは衛士の姿に戻る。
ナスターシャにとっての秘密のミッションが発令される。
それは、『総戦技演習を合格する事』
みんなへの恩返しを決意したナスターシャは再び操縦桿を強く握り締める。


『3…2…1…任務開始!!』


まりもの任務開始の発令と共に全機出撃するナスターシャ達。
作戦通りに『楔弐型』に似た隊形を取り、巽・美凪・雪乃の三機が前線に配置し、・最後尾にナスターシャ・祷子の配置させ、右翼・左翼・中央に2・2・3と他の者達を配置していた


本来ならば、祷子を中央に配置するのだが、今回はナスターシャとエレメントを組み、冥夜機である武御雷・羽鷲を抑える為に今回の配置になった。

右翼・左翼・中央の者達は千鶴達を抑えるのが役目、その間に前線の三機が脱出をする作戦だった。


『全機、噴射跳躍で距離を稼げっ!!
機体性能が劣ってる以上、少しでも距離を離しておくんだっ!!』

『『『了解!!』』』


ナスターシャの指示に従い、距離を稼ごうと全力噴射をする訓練兵達。

――――――――――――――――――――――

「へぇ…移動隊形の『縦型』じゃなくて『楔弐型』に近い隊形か…。」

「まりも~、これどういう意味なの?」

ナスターシャ達の隊形を見て、意外そうな反応を見せるタケル
そういった事は良くわからない結城はまりもに質問する。


「うーん…普通移動する際は『縦型』なんだけど、今回の隊形は『楔弐型』に似た隊形。
普通、『楔弐型』は『楔壱型』に比べて突破力より側面防御を重視した隊形なんだけど、距離を稼ぐだけならば『縦型』で充分だし、何かあっても直ぐに隊形を変更出来る隊形なんだけど…」

「後方から仮想敵部隊が来る事知ってるのに、なんで前方に対しての突破力重視の隊形なの?」

「そこが問題なのよねぇ…?」

まりもの説明を聞き、理解する結城
しかし何故突破力重視の隊形にしたのかに疑問を持ち、まりもと共に頭を傾げる。


「白銀君、わかる?」

「うーん…今回仮想敵部隊の情報をある程度教えてるから、この隊形にしたんだと思うけど…
もしかすると、この隊形って後方からの追撃部隊に対しての隊形なのかもしれないなぁ…。」

「でしょうね。
けど、それならば何故神代達三人を前線に配置したのかしら?
普通、後方に対しての隊形を組むのなら、中央に神代達が配置されなきゃおかしいわよ?」

「なら、他にも理由があるんだろうね~。」

「理由……ねぇ。」


冷静に考えるタケルとまりも
そしてひとつの答えに導かれる。


「そっか…この隊形は今回の演習に合格する為の隊形か。」

「どういう事?」

「つまり、前衛以外は追撃部隊を抑えてる間に前衛部隊は脱出する為の隊形なんだよ。
特に連携が上手い神代達三人ならば、万が一仮想敵部隊が追撃してきても、他の者達を配置させるより神代達の方が生存率が有ると考えて神代達を前衛に配置したんだ。」

「成る程ねぇ…考えたねぇ~。」


納得する結城
しかし同時に怪しい笑みを浮かべていた。

「けど、それで本当に良かったのかな?
今回の『イベント』は僕が出すんだけど…
その作戦が吉と出るか凶と出るか…楽しみだねぇ~♪」


怪しい笑みを浮かべる結城とは対称的に、タケルとまりもはナスターシャ達に同情するのだった…。


それから暫くし、仮想敵部隊の出撃時間がやってきた。
タケルは再びマイクを取り、仮想敵部隊である冥夜達に連絡を取る。

『みんな、そろそろ時間だ。』

『了解、いつでも良いわよ。』

今回の仮想敵部隊の隊長である千鶴がタケルの通信に返答を返す。

本来ならば冥夜が隊長に任命される予定だったが、千鶴を除いた全員が『榊が隊長』と推薦したのである。

タケルも当初はそうしようとしたのだが、経験を積み、現在唯一の現役衛士である冥夜がした方が良いのかもしれないと考え、当初は隊長を冥夜にしたのだが、みんなの要望もあり、結局は千鶴が隊長になったのだ。


『全く…現役衛士を差し置いて、私が隊長だなんてね…。』

『フフ…ならば隊長らしく隊長機でも用意するべきだったかな?』

『やめてよ。
まだまだヒヨッコな自分には不釣り合いよ。』


自分が隊長である事に溜め息を吐く千鶴
そんな時に珍しく冥夜が冗談を言うと、『やめてよ。』と苦々しい表情で拒否をする。


『やっぱり私達の隊長は榊さんですよ~☆』

『だよね~♪
ボクもそう思うよ。』

『………どっちでも良い?』

『彩峰……アンタってひとはねぇ~…。』


壬姫と美琴の言葉を聞いて少し照れる千鶴だが、相変わらず慧の一言にブチ壊されてしまい、ジト目で睨む。


『ホラホラ、始まる前からケンカするなよ。
いいか、今回委員長達のコールは『A207』(仮想敵207部隊)だ。
隊長である委員長はA20701だ』

『A20701了解』

『ならば私はA20702だな。』

『ボクはA20703だね~♪』

『……ならA20704は貰い。』

『壬姫はA20705ですね♪』

『なら、余った私はA20706だね。』

『やれやれ…。』


コールナンバーを馴染みのあるナンバーを選ぶ冥夜達
晴子だけ余ったナンバーを貰い、全員のコールナンバーが決まる


『それじゃ、カウントするぞ。』

そんなやり取りを見て、苦笑いしながらカウントを唱えるタケル
そして――――


『2…1…ミッションスタート!!』


タケルの開始の合図と共に噴射跳躍をする千鶴達
全力噴射で開いた差を縮めようと飛び立つ。


『A20701から各機へ。
隊形を『縦型』にし、敵との距離が500になったら『槌壱型』に隊形を組むわよ。』

『『『『『了解ッ!!』』』』』


千鶴の指示に従い、縦型隊形を組みながら追撃する。

その追撃者達の姿は、熟練の衛士達のような動きを見せていた。


「……嘘…
これが訓練兵ですら無い者達の動きだというの…?」


その様子を見たまりもが絶句する。

冥夜はわかる。
だが、その他の者達は衛士はおろか、訓練兵ですらないと聞いていたからだ。

タケルからは『中には中尉クラスもいる』と聞いていたが、やはり実際に見るまでは何処か信じられなかった。

(一~二機はまだ少尉クラスって所ね。
けど、他の機体は良い動きをしているわ。)


少し驚きながらも、冷静に分析するまりも
戦術機の動きを見て、評価するが、まさか六人中四人が『違う並列世界の自分』が育てた衛士とは予想は出来まい。

(連携に関しては良いわね。
上手く連携が取れて隊形にムラが無いわ。
この様子だと…直ぐに追い付くわね。)


冥夜達の動きを見て、訓練兵達との実力の差を理解し、追いつかれるのも時間の問題と考える。


(この演習……合格する鍵は……ナスターシャね。
彼女がどう動くかで全てが決まるわ)


唯一の衛士であるナスターシャが訓練兵達の合格の鍵を握ってると考えるまりも
あまりにも厳しい条件に流石に不安になる。


「まりもちゃん、スミマセンけど、あとは頼みます。」

「……貴方も気をつけてね。」


すると、タケルが苦笑いしながらまりもに後を任せる。
我が夫の身を案じ、言葉をかけるまりも


「じゃ…行ってくる。」

まりもに背を向けて立ち去るタケルだった……。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第八十九話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:fd33fbfd
Date: 2011/11/28 22:41

「20701から各機へ、遂にアグレッサーが追跡を始めたようだ。
全機作戦通りに行くぞ!!」

「「「「了解ッ!!」」」」


ナスターシャの指示に従い、返答をする祷子達
モニターに移るレーダーには、仮想敵部隊のマーキングが追加され、一層緊張感が走る。


(う~…作戦の為とはいえ、私達三人が外れるのは不本意だよ…。)

(未だ訓練兵の身とはいえ、斯衛の私達が仲間達に背を向けて逃げるなんて…)

(いくらなんでも納得出来ないですぅ~…。)


そして今回合格の為に前線に配置された巽達三人。
やはり気持ちとしては、仲間達と共に戦い、合格したい故に、今回の自分達の役割に不満を持つ。


勿論指示を出したナスターシャも三人の気持ちを理解してるのだが、どうしても他に代わりが居ない為、三人には頭を下げてまで説得したのだ。

勿論巽達三人も、信頼するナスターシャが頭を下げてまで頼んだのだ。
その気持ちを無下に出来る訳もなく、不満ではあるが今回の役割についたのだ。

(けど、ナスターシャのいう通り、作戦を進めないと合格出来ない現状だし…)

(私達以外にあげられるのは、ナスターシャだけ…
祷子はこういったのは苦手だし…他のメンバーは多分無理)

(やっぱり私達しかいませんわぁ~…。)

しかし、冷静に考えると、自分達以外はナスターシャしか居ない為、諦めるしかなかった。
――――――――――――――――――――――

「やっぱり機体性能の差が出たか…。
このままだと、海老名PA跡に到着する前に接触する…。」


接近する仮想敵部隊との接触ポイントを計算するが、どうしても海老名PA跡に到着する前に接触してしまう事がわかった。

本音では、海老名PA跡で戦闘をしたかったのだが、それが望めそうに無い事がわかると、考えを改める。


(ならば、出来るだけ抑えるしかない。
早期に冥夜機を撃墜して千鶴達を撃墜するしかない)

自分が活躍するしかないと考えるナスターシャ
つまり、『本気』を出すと決意する


(相手はタケルじゃない。
冥夜は強敵だけど、勝てない相手じゃない。)

幾度か対戦した事がある。
タケルには全敗だが、冥夜には今のところ六割勝利している。



(それに―――
此処で祷子に恩返し出来なきゃ顔向けが出来ない
何より――誇り高いジャール大隊の名に泥を塗る行為だっ。)


火が付いたナスターシャ
熟練の衛士としての表情に変わる。


そして―――


(ナスターシャさん…普段は見せない顔になってますわ…)

一緒にエレメントを組む事になった祷子
モニターには、いつもとは違う表情を見せるナスターシャを見て、驚く。

(いつも皆さんや私の為に頑張ってくださるナスターシャさんに、恥じないように戦わないと…。)

いつも自分の為に支えてくれてるナスターシャの為に頑張ろうとする祷子
自然と緊張で握る操縦桿が強くなっていく。

(いけませんわ……
こんな所で緊張していては…。)

緊張して手のひらが汗ばんでいる事に気づき、一呼吸だけ深呼吸をする。


(私の役割はナスターシャさんの援護――――
そして可能な限り、皆さんの支援をする事―――)


自分の役割を再確認します、緊張感を少しずつ無くし、冷静さを取り戻す。
完全には緊張感を取り払えないが、それでも力むよりはマシだ。


(今は主役じゃなくても良い―――
今は――やるべき事を為すだけだ。)

瞳を鋭くし、決意を決める。


そして、時は過ぎ――――運命の時間が始まった。


「20701から各機へ!!
仮想敵部隊との距離が1000迄に近づいた。
全機兵器使用許可ッ!!」

遂に冥夜達仮想敵部隊が、ナスターシャ達の部隊に接近して来る。

(予想以上に早く追いつかれたっ!!
……流石は冥夜達という事か…!!)


予想より早く追いつかれた事に驚愕するナスターシャ
予想では海老名PA跡手間と考えてたが、実際は遥か手間。
旧小田原厚木道路の小田原西IC~海老名PA跡の中間地点程過ぎた所で追いつかれたのだ。


「A20702から01へ…
目標に追いついたのだが…なんなのだ、あの隊形は?」

「楔弐型に似てるけど違うわね…。
恐らく私達に備えたオリジナルの隊形よ。」


ナスターシャ達訓練兵を発見する冥夜達
ナスターシャ達の隊形を見て不思議に思う冥夜だが、千鶴が自分達対策に考えられた隊形と察し、それに『成る程』と納得する冥夜達


「相手がどう来ようと、私達は私達らしくやるだけよ。
A20701から05へ。
挨拶代わりに一撃お見舞いしてあげて。」

「05了解♪」


相手がどう来ようと冷静に対処する千鶴
むしろ、挑戦状を叩きつけるように壬姫に先制攻撃を命じる。


――――――――――――――――――――――

「20701から各機へ!!
作戦通りに前衛の三機はそのまま脱出を優先に行動
後衛は前衛を逃がす為に防衛戦に入る
みんな、必ず合格するよっ!!」

「「「「了解ッ!!」」」」


ナスターシャの号令と共に気合い一杯の返答を返す訓練兵達
それと同時に後衛部隊が反転し、防衛戦に入る
その瞬間――――


『うわぁぁっ!??』

「なっ、08!?」


反転と同時に突然の攻撃を受ける訓練兵達
いきなりの事に驚愕するナスターシャ達


『20708、機関部大破。
戦闘不能…。(なんて狙撃なの…まさかあんな遠距離を一撃で命中させるなんて…。)』

冷静に撃墜報告を入れるまりもだが、壬姫の狙撃に驚愕する。


――――――――――――――――――――――

「05、一機撃破しました♪」

「流石よ、珠瀬。」

一撃で撃破した壬姫
その実力を知ってるとはいえ、その狙撃力に改めて驚きながら賛辞する。

「珠瀬さんに負けてられないね。
じゃ、私も…☆」


負けじと晴子もいつも通りな笑みの表情を浮かべながら、ターゲットをロックオンをする。


――――――――――――――――――――――

『っと、そう簡単に喰らう……何っ!?』

「09っ!!」

晴子の狙撃を喰らう09
晴子の狙撃した弾数は三発。
最初の二発は咄嗟に回避した09だか、それは陽動。
知らずに誘われた09は三発目に被弾する事になる。


(やはりそう簡単にはいかないか。
……しかし、壬姫と晴子の狙撃力は本当に厄介だね。)

二人の狙撃力を知るナスターシャも、そう簡単に行くとは考えてはいなかったものの、その脅威に驚愕する。


(だけど―――――
接近出来れば話は別!!)

そう―――
二人の最大の弱点である『接近戦』に持ち込めば勝機は有る。

ナスターシャは跳躍ユニットを全力噴射し、水平噴射跳躍で冥夜達に単機突入する


「20701、フォックス3!!」

水平噴射跳躍をしながら突撃砲二丁を装備し、珠瀬機や柏木機を狙撃する。

「うわっ!?危なっ!」

「はわっ!?」

危なげに回避する壬姫と晴子
バックステップで後退し、支援突撃砲で反撃するものの、ナスターシャの鋭い回避機動で外れてしまう。

「A20703、フォックス…って危なっ!」

「な、何っ!?」


接近してくるナスターシャを美琴と千鶴が迎え撃とうと前に出ると、突然の狙撃に驚き、左右に回避する。

その狙撃した者は――――


「――外してしまいましたか。」

「ナイス援護だよ、祷子。」


祷子が支援突撃砲で美琴・千鶴を狙撃します、ナスターシャを援護していた。


「20702、フォックス2!!」

風間機が支援突撃砲で冥夜達仮想敵部隊を攻撃し、隊形を崩そうとする。
それを見てナスターシャや他のメンバーも滑空砲等で射撃し、隊形を崩す事に成功する。


「今だっ!!」

「むっ、もしやナスターシャか?」


隊形を崩すと同時にナスターシャが冥夜に仕掛ける。
相手がナスターシャと理解すると、口元が少し上がり、笑みを浮かべる。

「良いだろう…。
そなたの勝負…受けたっ!!」

ナスターシャとの対決を楽しみにしていた冥夜は、長剣を装備して得意の接近戦に持ち込む。


(やっぱり冥夜は長剣による接近戦を仕掛けて来たか…。
なら私は…。)


ナスターシャは試作00式特殊近接戦闘短刀と突撃砲を装備し、冥夜と接近戦に挑む。


「フンッ!!」

「喰らう……かぁぁぁっ!!」


冥夜機の上段からの斬撃を特殊近接戦闘短刀で捌くように軌道をズラす。
地面に刺さった長剣を、踏んで抜けないようにしようとするナスターシャだが、それを予知した冥夜は、即座に長剣を抜き、そのまま右からの横薙ぎを入れる。


「ハアァァァッ!!」

「まだまだァァァッ!!」


一閃する横薙ぎを辛うじて特殊近接戦闘短刀で防ぐナスターシャ
ほぼ同時に突撃砲で射撃するナスターシャだが、一撃を放つと同時に離脱をしていた冥夜機の左脇をかするように弾が通過する。


「…やるではないか。」

機体には異常が無い事を確認する冥夜
一旦間合いを離すが、頬を流れる冷や汗を拭い、笑みを浮かべる。


完全に入ったと思っていた一撃が、ギリギリの所で特殊短刀に防がれ、更に突撃砲で反撃までしてきたのだ。


(そうでなければ、面白くはない。
負け越してる戦績を覆させて貰うぞっ!!)


笑みを浮かべながら、ナスターシャとの戦いに『歓喜』する冥夜
更に闘志を燃やし、再び突進する。

だが―――――


「させませんっ!!」

「なんだとっ!?」

ナスターシャに突進した冥夜だが、それを遮るように祷子の援護射撃が阻止する。


(この機体の動き…何処かで見た記憶が…)


回避した冥夜だが、その動きに見覚えがあった。

(そうか…風間少尉かっ!!
ならばこの機体の動きにも見覚えがあるはずだ。)


狙撃した相手が祷子と気づき、納得する。
だか、それと同時に難色な表情を浮かべる事になる。


(不味いな…。
機体性能の差では勝ってても、ナスターシャと風間少尉の二人相手となれば、こちらが不利だ…。)

冷静に分析する冥夜
自分が知ってる『風間少尉』程の実力は無いとはいえ、その実力は油断出来ない
しかもナスターシャとエレメントを組んでるとくれば、その難易度は更に上がる。

すると――――


「こちらA20701から02へ
―――二機任せて良いかしら?」


千鶴からの突然の発言に驚く冥夜
しかし、すぐさま笑みを浮かべて返答をする。


「無論だ、此処は私が持つ。
その代わり、逃走した三機を倒してくれ。」

「了解よ。
A20701から各機へ。
02を囮にし、私達は逃走した三機を追うわよ。


「………他の敵は?」

「放っておくわ。
勿論、邪魔するようなら容赦なく叩き潰しても良いわよ。」

「了解…後ろは任せて。」

冥夜機をナスターシャ・祷子が狙ってると知った千鶴は、冥夜機を囮にし、他の五人は巽達を追跡する事を決定する。

冥夜も『任せるがよい』と告げ、笑みを浮かべる。

また、暴れ足りない慧だったが、千鶴の説得により、納得する。(とはいえ、追ってくる訓練兵達を倒す気満々だったりする。)


「ナスターシャさんっ!!」

「わかってる!!
けど、予定通りだよっ!!」


千鶴達が自分達を無視して前衛の巽達を追い始めた事に気づく祷子
しかし、ナスターシャは想定内の事だった為、目の前の冥夜機に集中する。


だが、それと同時刻、とある場所では―――――

『白銀君、準備はどうだい?』

「いつでもオッケーですよ。」


とある場所にある倉庫では――
結城が通信でタケルに確認をとる。
タケルも『準備オッケー』と告げていた。


『さあ―――
彼女達を驚かしてあげようか。』

『全く…悪趣味ですよ。』


あくまの笑みを浮かべる結城をモニター越しに見て、素直な感想を口にするタケル


『作戦内容はさっき話したから省くよ。
それじゃ、出撃しようか♪』

『やれやれ…本っ当悪趣味だなぁ…。』


倉庫の中から鈍い機械音が響き、姿を見せる謎の物体


暗闇から現れる『ソレ』は見た事の無い戦術機だった。
やや、不知火に似た姿、しかし、あの結城が用意した機体だ…只の戦術機な訳がない。


『それじゃ…試験機・FX‐01『神威』の実機試験開始!!』


遂に姿を現したタケル専用機の試験機・FX‐01『神威』が今…出撃した。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第九十話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:fd33fbfd
Date: 2011/12/21 07:33
「おかしいわね…?
逃走した三機が見つからないわ…?」

「確かこの辺なんだけどなぁ~?」


巽達を追跡してきた千鶴・晴子・壬姫の三機
美琴・慧の二機は追ってくる訓練兵相手に殿をしている為離れていた。


「機体性能の差があるから、離される事は無い筈なんですけど…。」

「……どちらにしろ、慎重に進めましょう。」


姿を消した巽達。
その為、千鶴達は慎重に進める。


――――――――――――――――――――――

「……………」

「落ち着け…大丈夫だ…。」

「ハァ…ハァ…。」


緊張感高まる三人。
操縦桿を握る手を震わせながら、その時を待つ。


そして――――


「今だっ!!全機起動!!」

「「了解ッ!!」」


息を殺して潜んでいた巽達が一斉に動き出す。

そして三人の前方には―――
不意を突かれた千鶴達の背後姿だった!!


「なっ!?」

「しまったっ!?」


背後から現れた巽達。
高速道路の側にある障害物の陰等に隠れていたのだ。


「着剣、突貫せよっ!!」
「「了解ッ!!」」


長刀を装備し、三機同時に突撃する巽達
千鶴達も突然の奇襲攻撃で反応を遅らせてしまう。

「喰らえッ!!」

「クッ!!」

「逃がすかっ!?」


突然の奇襲攻撃を辛くも回避する榊機
珠瀬機・柏木機も回避に成功するが、こちらもギリギリだった。


「離されなさいよっ!!」

「簡単に…喰らうもんかっ!!」


咄嗟に突撃砲で反撃する榊機
しかし、神代機も意地を見せて回避し、突進する。


「そこっ!!」

「クッ!!
ま…まだまだぁぁぁっ!!」

晴子の巧みな狙撃により左肩部のスラスターユニットが破壊される巴機
しかし、それに怯む事なく柏木機に突撃し、斬り込む。
左に回避する柏木機だが――

「――って、やばっ!?」

「柏木さん!?」

回避した左側には珠瀬機が同じように回避してきたのだ。
珠瀬機の相手は戎機
同じように接近戦で追い込み、柏木機と珠瀬機を衝突させようと連携を取っていたのだ。


「参ったわね…」

「榊さん!?」

「あらら…見事に追い込まれたね…。」


珠瀬機・柏木機の側に榊機まで追い込まれる結果になる。
その連携の練度に表情を険しくする。


元より、巽達は三体一身となる連携プレーに長けていた。
その練度はナスターシャは勿論、教官であるまりもやタケルですら驚愕するものだった。

お互いの行動をわかりあってる
そう感じてしまう程に自然に、そしてそう簡単には崩れない連携にはあの紅蓮・神野両大将ですら絶賛する程だった。

故に、訓練兵を卒業した際は冥夜の護衛に着く事も納得出来る事であった。


「訓練兵でこの実力って、悪い冗談だよ…。」

「どうしましょ~…。」


まさかの絶体絶命に焦る晴子と壬姫

しかし、千鶴だけは冷静さを保っていた。


「大丈夫よ、二人共
こういう時はね……こうやるのよっ!!」


千鶴が取った行動は―――仲間である晴子達ですら予想外な行動だった。

――――――――――――――――――――――

「なんだとっ!?」


突然舞い上がる土煙。
榊機が突然地面目掛けて全ての突撃砲で撃ち込み、土煙を作り出す。


「逃げる気かっ!?」

「そうはさせないですぅ!!」

巴機・戎機が即座に突撃砲で射つが、手応えが無い。

それどころか、巽達の機体の足元に滑空砲で更に土煙を作り出す。


「一旦下がるぞ、無闇に攻撃をしては、同士討ちの危険性がある!!」

「「了解!!」」


土煙から離れ、三機共合流する
だが――それこそが千鶴の狙いだった。


――――――――――――――――――――――

「今よっ!!射てっ!!」

千鶴の号令と共に発射される突撃砲による弾幕。
それに気づく巽達だが、近寄る事を許されず、ただ回避のみが許される行動だった。


確かに接近戦には彼女達は弱い。
だが、間合いを離れれば立場は逆転し、彼女達の土俵になる。

視野が広く、冷静に狙撃出来る晴子
如何なる場面でも最善の可能性を作り出せる千鶴
何より遠距離射撃に関しては、極東一である壬姫がいるのだ。
反撃の選択を早々与える訳がなかった。


「まさか榊があんな手を使うなんて、驚いたよ。」

「まあ……誰かさん達の影響よ。」

「アハハッ♪
タケルさんと彩峰さんですね。」


千鶴の予想外の行動に素直な感想を述べる晴子
流石に恥ずかしかった千鶴は『タケルや慧の影響』と誤魔化す。


「お喋りはここまでよ。
この三機を倒して彩峰達と合流するわよ。」


照れを誤魔化すように、指示を出す千鶴
すると―――


「…その必要は無い……。
もう終わったから。」

「みんな、お待たせ~♪」

「彩峰さん!鎧衣さん!」


すると、彩峰機と鎧衣機が榊機達と合流する。


「随分と早かったわね?」

「みんなや白銀に比べたら、全然余裕…。」

「慧さん…流石にタケルと比べるのはどうかと思うよ…。」


日頃、タケル・冥夜・ナスターシャのような実力者達と対戦していた慧達にすれば、幾らタケルやまりもの教え子とはいえ、負ける要因はなかった。


「冥夜は?」

「まだ戦ってる…。
けど信頼してるから、コッチに来た。」

「…まるで私達は信頼無い言い方ね…?」

「………………………………………………えっ?」

「ハァ………もう良いわ…。」


千鶴のジト目を受ける慧だが、相変わらずの天然でスルーする慧の態度を見て、溜め息を漏らし、諦める千鶴


「それじゃ、さっさと倒して冥夜を助けに向かうわよ!!」


「「「了解ッ!!」」」


――――――――――――――――――――――

「……どうしましょ~。」

「参ったね…流石にこれは逃げるしかないね…。」


千鶴達に援軍が来てしまい、圧倒的不利な状況に陥る巽達。


元々機体性能の差で追いつかれる事がわかってた巽達
故にナスターシャから万が一の対策のひとつとして『奇襲攻撃』の案を貰っていた。


どうしても厚木基地まで逃げ切れないと判断した巽達は、奇襲攻撃の作戦を案を取り、障害物等に隠れ、奇襲攻撃を行ったのだった。


「……よし、突撃するフリして退却するよ。
ベイルアウトしてでも逃げ切るからね。」

「「了解ッ!!」」


再び着剣し、構える巽達。
緊張感が高まる中―――

「突撃ッ!!」


巽の号令と共に突撃する――ハズだった。


「―――ッ!!?」

「な、なにっ!?」

「緊急…事態発生…?」

突如鳴り響く緊急事態発生のアラーム
ナスターシャ達訓練兵や冥夜達仮想敵部隊の機体内にもアラームが鳴り響く。


『緊急事態発生!!緊急事態発生!!
これは訓練ではない、本当の『実戦』だっ!!』

すると突然ピアティフ中尉がモニターに現れ、突然発生した緊急事態を説明する。


『只今、所属不明とされる『部隊』の戦術機が熱海・須走・大磯から現れた!!
確認された敵の数は一個連隊程。
これにより現時点より総戦技演習は中止し、実戦へと入る。』

「そんな…!?」

ピアティフの言葉を聞き、ショックを受ける祷子

自分達の将来が決まる総戦技演習を突然現れた謎の敵のせいで、中止なったのだ
更にいきなり『人殺し』の実戦を迫られ、戸惑い、不安感が高まる。


『現在、そちらに白銀大尉が護衛に向かってる最中だ。
そして別行動として、先程まりも大尉も出撃したばかりだ。
そこで今より訓練兵及び、仮想敵部隊に作戦を伝える。』


ピアティフが作戦指示を訓練兵及び仮想敵部隊であるナスターシャ達や冥夜達に伝える。


『現在、厚木基地から補給部隊が海老名PA跡に向かって出撃したばかりだ。
そこで訓練兵及び仮想敵部隊は、海老名PA跡に移動し、武器を交換及び燃料等の補給を行う事。
同時に海老名PA跡には補給部隊と一緒に帝国斯衛軍第17斯衛大隊第四中隊が向かう。
そこで訓練兵及び仮想敵部隊は第四中隊と合流し、厚木基地の防衛に参加するのだ。』


「「「「なっ!!?」」」」

ピアティフの指示に驚愕する冥夜達とナスターシャ達

「く、訓練兵達も戦闘に参加させるのっ!?」

「訓練兵達は厚木基地まで退却し、避難させないのかっ!?」

『…本心で言えば訓練兵達は退却するべきなのはわかっている。
だが今の厚木基地は、先の本土防衛戦や明星作戦の戦いで戦力が乏しく、自力の防衛は難しいのだ。
故に酷な命令だが、訓練兵達にも戦闘に参加する事が決まったのだ。』


「そんな…。」


ピアティフの言葉に驚愕する千鶴と冥夜
訓練兵の参加の理由を聞き、悲痛な表情を浮かべる壬姫
チラリとモニター画面の訓練兵達の表情を見ると、不安と恐怖で怖がる訓練兵達の表情が映っていた。

『そこで仮想敵部隊は、訓練兵達を護衛しつつ海老名PA跡まで移動する事。
途中、白銀大尉が合流する筈だから、その際は白銀大尉の指示に従い戦闘に備えよ。』

「A20701了解。」

「20701了解。」

緊張が走る中、各隊長である千鶴・ナスターシャは冷静に返答を返す。

『尚、今回は非常時な為、仮想敵部隊の情報を一部公開を許可する。
訓練兵達は仮想敵部隊の情報は機密情報な為、他言は禁ずる。』

「「「了解。」」」


ピアティフの指示と同時に、千鶴達の姿がナスターシャ達に公開される。

『A20701、今より貴殿は臨時中尉に任命する。
同時にA20703からA20706は臨時少尉に任命する。』

「了解。
これより目的地まで移動する。」

『了解、無事に生還する事を祈っているわ。』


ピアティフとの通信が終わり、千鶴が訓練兵達に通信を送る。


「私が仮想敵部隊の隊長を勤める榊千鶴臨時中尉よ。
今より訓練兵及び仮想敵部隊は海老名PA跡まで全速力で移動するわよ。
撃墜された訓練兵も早く合流し、防衛にまわるわよ。」

「「りょ、了解!!」」


戸惑いながらも、臨時中尉になった千鶴の指示に従い、全機海老名PA跡まで移動する。

――――――――――――――――――――――


「…という事だ。
私が最後尾で護衛をする。
訓練兵達は海老名PA跡まで全力で退却する事を優先するがよい。」

「「「了解!!」」」


「20701は先頭を任せる、よいな?」

「20701了解。」


「ウム、では退くぞ!!」

一番最後尾の位置にいた冥夜・ナスターシャ・祷子・08・09の五人
冥夜の指示に従い、海老名PA跡まで退却を開始する。


途中、慧・美琴が撃破した訓練兵達と合流し、再び行動を再開すると――――


「えっ…?20702から各機へ。
現在我々の後方から、正体不明機が『一機』が近づいて来ます!!」

「なんだとっ!?」


途中、祷子が正体不明機を発見し、一気に緊張が走る。

「正体不明機だと…?
もしや、どこぞの軍の新開発された機体か?」

「わからない…けど何故たった一機なの…?」


突然現れた謎の正体不明機に警戒する冥夜達
しかも単機のみという謎の行動故に緊張が走る


すると―――


『みんな、無事かっ!?』

「その声は…」

「タケルッ!?」

「「「えっ!?」」」


謎の正体不明機の正体は、なんとタケルの搭乗する機体だった。


「タケル…その機体は一体…?」

「ああ、これか?
まだ試作機だけど、オレの専用機の『FX‐01・神威』だ。」

「「「専用機ッ!!?」」」

タケル専用機と聞き、驚愕する祷子達
一応冥夜とナスターシャは専用機の話は知っていた為、多少驚く程度ですむ。


「驚かしたようだな、すまなかった。
まあ、最近試作機が出来たばかりだからまだ登録は完全じゃないみたいなんだ。」

「ふぅ…。
流石に驚いたぞ…。」

「ワリィ。
ほら冥夜、長刀一本貸してやる。」

「すまぬ、タケル」


タケルから長刀を借りる冥夜
元々持っていた模擬刀はタケルに渡し、ブレードマウントにしまう。

すると、タケルに秘匿回線のコールが鳴り、開くと冥夜とナスターシャと通信が繋がる。


「さて、タケル…
今回の事を『詳しく』教えて貰うぞ?」

「どうせ博士の案か何かでしょう?
正直に言いなさい。」


――それはそれは素晴らしい程の微笑ましい笑顔の二人
勿論、彼女達の背後にはドス黒いナニカがユラユラと揺れていたりする。

「……いやね、最初はさ、訓練兵と仮想敵部隊が戦ってる最中に、俺が『第三の敵』としてナスターシャ達や冥夜達と戦う予定だったんだ。
だから冥夜の機体だけ武御雷・羽鷲だったんだ。」

「…成る程。
それは納得した…しかしこれは一体どういう事なのだ?」

「実は昨日、鎧衣課長からの緊急の報告があってな…
総戦技演習を狙って、訓練兵達の機体に搭載されてるXM3のデータを奪おうとする動きがあるって情報を得たんだ。
それで急遽変更して、そのまま総戦技演習を実行して、敵を殲滅すると同時に訓練兵達に『死の恐怖』を経験してもらい、乗り越えてもらうのが今回の目的。
…本当は神威のテストプレイと委員長達のリハビリの予定だったんだよなぁ…。」


タケルから真実を教えて貰い、二人から溜め息が漏れる。


「タケル……神威は確か音速機動が出来る機体だぞ…。
訓練兵相手にソレはイジメではないのか?」

「知らん。
今回は結城さんの仕業だからな…。
断ると先生並みに怖い目に合うから、拒否権という選択は最初から無いんだよ。」


『やり過ぎだろっ!?』と冥夜とナスターシャの意見にタケルの返答で『ハァ……』と遠い目で溜め息を漏らすナスターシャ

「……それじゃ、厚木基地の戦力云々の話は嘘?」

「いや、ソレは本当だ。
ただ、今回はジャール大隊・第17大隊が出撃している。」

「A‐01は?」

「今回は横浜基地の防衛にまわるそうだ。
今襲撃されると、かなり影響受けるようだからな。」

「そっか…」


厚木基地の戦力の件は真実で、A‐01が出撃しない代わりにジャール大隊が出撃する事を知り、納得するナスターシャ

ただ、ヴァルキリーズとは一緒に戦いたかった気持ちがあった為、少し残念そうな返答を返す。


「とにかく、今はみんなと合流する事を優先するぞ。」

「「了解。」」


秘匿回線を切り、みんなとの合流地点である海老名PA跡に向かうタケル達だった…。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第九十一話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:fd33fbfd
Date: 2011/12/30 12:53
「――これで全機揃ったな。」


目的地である海老名PA跡まで辿り着いたタケル達。
千鶴達や巽達も先に辿り着き、先に補給と武器交換等を済ませていた。


『現在、熱海・須走方面で戦闘が開始されました。
熱海では第17大隊が、須走ではジャール大隊が防衛に配置されてます。』

CPのピアティフ中尉が現在の状況を説明する。
それを真剣な眼差しで聞くタケル達
緊張感でガチガチになる訓練兵達を見て、タケルが声をかける。

「落ち着け、お前達。
緊張するのはわかるが、ガチガチなり過ぎだ。」

「し、白銀大尉…」

「正規な衛士でもないお前達が戦場に立つのは遺憾だが、現実そういった現状になってしまったんだ…覚悟を決めろ。」


教官であるタケルから厳しい言葉を貰い、沈黙する祷子達…

「――けど、心配するな。
お前達はオレが必ず守ってみせる。
大切な『教え子』だからな。」

「白銀大尉…」


守ってやる―――
その言葉が訓練兵達の心に響き――
何故か僅かに安心感をもたらす事になる。


「タケル、『オレが』ではなく『オレ達が』の間違いではないのか?」

「全く…私達を忘れては困ります。」

「アハハ…スマン。」


先程のタケルのセリフを修正するかのように、冥夜と真耶が進言する
しかし、その表情は共に戦う者として、信頼の笑みをしていた。


「訓練兵達よ、突然の実戦に戸惑い、恐怖するのはわかる。
だが―――その感情は決して無くしてはいけない感情だ、恥じる事は無い。」


初めての実戦にガチガチになる祷子達に真耶が助言を入れる。


「我々衛士とて、いつでも戦場では恐怖する。
だが恐怖心は、時と場合によれば、危険に対してのブレーキとなる事もある。
それは生きる事に必要不可欠な感情、恥じる事は無い。
そして、誰しも恐怖心の無い奴などいない。
『居た』としても、そのような奴、死に急ぐ結果になるか、仲間の足を引っ張る結果になる事は目に見えてる。」


熟練の衛士として、先任としての言葉を語る真耶。
祷子達は真耶に注目し、真剣な表情で、その言葉を聞く。

「恐怖心に負けたく無いのであれば、『勇気と覚悟』を持つ事だ。
そして、自分の周りにいる仲間達を見るのだ。
そうすれば、恐怖という感情も薄まり、戦場で戦えるだろう。」


真耶の言葉を真摯に受け止め、先程まで震えていた我が身から恐怖が薄まっている事に気付く。

「決して貴様達は1人ではない――
我々も他の者達もいる事を忘れるな…良いな?」

「「「ハイッ!!」」」


真耶の言葉で先程までのガチガチ固まっていた祷子達の姿は無かった。


「さて、真耶さんに助言を受けた所で作戦会議を始める。」


少し笑みを浮かべながら、作戦会議を始める。


「現在、熱海・須走ではジャール大隊と第17大隊が防戦している。
しかし、大磯から来る一個大隊分の敵は俺達で倒すしかない。」


現在の状況を説明するタケル

一個大隊と戦うと聞き、緊張感が少し高まる訓練兵達


「そこで俺達第四中隊を前衛とし、仮想敵部隊・訓練兵部隊と配置し、戦闘に備える。
訓練兵部隊は無理して攻撃には参加はせず、己の防衛を第一に優先しつつ、防衛するんだ。」

「「「了解!!」」」

「冥夜は仮想敵部隊にそのまま参加し、彩峰とエレメントを組め。
仮想敵部隊には初の実戦の奴がいるから、色々サポートしてやってくれ。」

「了解」

「榊臨時中尉は、部隊を纏めつつ、防戦してくれ。
あと、出来る範囲内で構わないから、訓練兵部隊を守ってやってくれ。」

「了解」


的確な指示を出すタケル
成長したタケルの姿を見て、喜ぶ千鶴・壬姫・晴子だが、祷子や巽達訓練兵は、初めて見る『衛士として』のタケルの姿を見て、少し驚きながらも尊敬な眼差しで見る。


「白銀大尉、我々はどうしますか?」

「まりもちゃんは現在ジャール大隊と合流して戦闘中だから、正樹・まりかはオレと小隊を組む事になる。
お前達や篁・雨宮に取っても今回の戦闘が初陣だ、落ち着いて自分の身を最優先にして戦闘に集中するんだ。」

「「「「了解!!」」」」

正樹達にとっても、今回の戦闘が初戦となる為、訓練兵達程ではないが、緊張していた。

ただ、訓練兵達と違う点は―――『覚悟』はまだ未熟なものの、『恐怖心』は、やや薄い程度しか持っていなかった。


(初の実戦…とはいえ、不思議と恐怖心は余り無い…)

(うーん…やっぱりアレかな?)

(白銀大尉や真耶大尉達のおかげ……だな。)

(日頃の訓練とシゴキ…
あとは…やっぱり信頼のおかげかな?)


日頃、タケルや真耶達に訓練という名のシゴキ(拷問?)のおかげで、不思議な事に恐怖心が薄れていた。


唯依達にしてみれば、訓練の際、タケル・まりも・真耶を始めとして、様々な実力者達と対戦してきたのだ。
場合によっては、紅蓮・神野といった鬼畜級の衛士とイジメという名の対戦を繰り返していたのだ。

…唯依達にしてみれば、そんな連中と訓練していた為、普通の衛士相手なんぞに恐怖する訳もなく、例え実戦とはいえ、恐怖心が薄まってしまうのは当たり前なのかもしれない。


だが、それ以上に恐怖心を薄める結果になったのは―――
やはり先任たるタケル達の存在と信頼が大きかった。

『この部隊がそう簡単に負ける筈が無い』
『この先任達がやられる訳がない』

このような先入観のおかげで彼女達が恐怖心を薄める結果にもなったのだ。


勿論、本来はそういった先入観は危うくするものだが今回に限れば、うまい方向にいったのだ。


『CPからイグニス10へ
現在敵部隊である一個大隊がもうすぐそちらに到着する所です。
敵部隊は混成部隊で、様々な国の戦術機が集まった部隊だそうです。』

「混成部隊?
確認出来てる機体は何かわかるか?」

『第一から第二世代機の機体です。
確認出来てる機体だけで、トーネード・殲撃8型・・F‐15E・F‐16・su‐27・MiG‐29…
第三世代機の機体はまだ目撃はしていません。』

「お~お…良くまぁ…ここまで色んな国の戦術機を集めたモンだな…。」

『しかし、油断は禁物です。
今は目撃はしてませんが、大磯からの部隊はまだ確認してませんので、お気をつけてください。』

「イグニス10了解。」


敵戦力の詳細を聞き、呆れに似た感想を漏らすタケル
ピアティフに油断大敵と注意されるが、タケルもそれについては重々理解していた。



そして時間は経ち―――――
その時は訪れた。


「イグニス10から各機へ。
いよいよ『お客様』が来たぞ、己の全力を持ってして、接待やれ。」

「「「了解!!」」」


招かれざる『客』がすぐ側まで接近してきた事により、タケルが各機に指示を出す。

「さて、来たぞ…。
まずは劣化ウラン弾でももてなしてやれっ!!」


そして、射程距離に入った途端、タケルの号令と共に全機の突撃砲や滑空砲が火を吹いた!!


最初に命中させたのは、壬姫機
『見事』という言葉以外に言葉が出てこないぐらいに、そして当然と言うが如く、敵機の殲撃8型の機関部を貫き、一撃必殺で撃墜する。

(凄い…!!
あんなに綺麗に一撃で仕留めた…。)

同じ砲撃支援に配置しているまりかだが、壬姫の狙撃を見て絶句すると共に魅とれる。


同じポジションであり、機密としてタケルや冥夜に育てられたと聞く壬姫に注目していた。

先程補給時に多少会話はしたものの、その性格等はまりかにとっても好ましいモノだった。

しかし、タケル達が到着し、壬姫の事を聞くと絶句する一言が帰ってきた。


『白銀大尉、珠瀬臨時少尉って『衛士として』どんな子なんですか?』

『ん?タマか?
タマは砲撃支援でな、その長距離射撃に関しては『極東一』なんだ。』

『極東一!!?』

『ああ、タマの狙撃の命中率は桁違いでな、長距離射撃の訓練でも、狙った的は常にド真ん中を貫いてる、現時点では『ほぼ100%』だ。
多分今の俺が武御雷・羽鷲に乗ってても落とされると思うぞ?
近距離射撃はイーニァ
射撃としての戦闘技術としては母さん
そして長距離射撃はタマと、オレは考えてるぞ。』

『ふ、ふにゃ~~~~ッ!!?
おおお…おだて過ぎですぅぅぅっ!!』


タケルにぶっちぎりにお褒めの御言葉を貰い、アワアワと慌てる壬姫
だが、そんな壬姫とは別に、まりかはタケルの一言に沈黙し、じぃぃぃっと壬姫を見つめる。

そして今―――
その言葉が事実といわんばかりに証明される事になる。
そして次々と狙撃し、その度に撃墜される敵を見て、息を飲む


(上手いとかそんな問題じゃない――
才能もそうだけど、珠瀬さんは実戦に対しての『覚悟』を持ってる―――!!)


人を殺め、そして自分が殺される『覚悟』

そして、戦場での恐怖に打ち勝つ『覚悟』


自分にはまだ無いモノを持つ壬姫に対し、対抗心が生まれる。


(私は本来はどのポジションに着く事が出来るけど、今はこの砲撃支援に位置している。
けど――だからって『負けても良い』なんて思わない。)


普段温厚で誰にでも優しいまりかが、珍しく壬姫に対して対抗心を見せる。
恐らくは伊隅四姉妹以外(正樹を巡る際)には見せなかったであろう対抗心を壬姫に向ける。

(負けないよ、珠瀬さん。
このポジションにいる限り、対抗してみせるよっ!!)


目付きを鋭くし、敵をロックオンして狙撃するまりか
その一撃が敵機の左脚部を撃ち抜き、機動力を奪う。


(焦る必要は無い。
別に一撃で仕留める必要は無い。
私は私が出来る事をすれば良い―――)


そして二撃目は見事動力部を撃ち抜き、撃墜する。
そして勇気を振り絞って、更なる敵を狙い撃つ。


――――――――――――――――――――――

「A20701、フォックス3。
今よっ!」

「はああぁぁぁっ!!!」

千鶴機による援護射撃を受け、長刀で敵機を頭部から両断する篁機

一機撃破すると、お互いに寄り合い、突撃砲が火を吹く。


「イグニス37(唯依)からA20701へ
援護、感謝します。」

「良いわよ、別に。
それに、そちらこそ良い動きだったわよ。」

「いえ、まだまだ自分は未熟な身
これぐらい1人で乗り越えられないとは…」


援護射撃に感謝の言葉を贈る唯依
しかし、『感謝の言葉なんて良いわ』と落ち着いた表情で語る千鶴
けど、内心感謝の言葉に嬉しく、ちょびっと照れたりする。


だか、唯依は先程の状況を1人で対応出来ない故に、悪い癖の反省癖を見せる。
そんな唯依を見て千鶴は『似てる?』と感覚を覚える。


「別に恥ずかしい事じゃないわよ。
私だって、初戦は恐怖と戸惑いで全然戦力にならなかったもの。
それ所か、感情を暴走させて、仲間の足を引っ張ったぐらいよ。」

「榊中尉…」

「最初っから大活躍出来るなんて考えは自惚れと同じ事よ。
足掻いて足掻きまくって…少しずつ経験を積んで、やっと戦えるようになれるの。
だから、篁中尉も今回が初めての戦場…
ならば、無様な姿でも足掻きまくって生き残れば良いのよ。」

「足掻く…か…。」


千鶴の過去の経験談に『成る程…』と納得する唯依
そして千鶴の口から『あの言葉』が告げられる


「『臆病でも構わない―――
勇敢だと言われなくてもいい。
それでも何十年でも生き抜いて、ひとりでも多くの人を守って欲しい。
そして、最後の最後に人としての強さを見せてくれれば、それで良いのよ。』」

「――――ッ!!」

「この言葉は白銀大尉が教えてくれたんだけど、元はまりも大尉の言葉らしいわ。
けど、この言葉だけはずっと心の中に残るぐらい印象のある言葉なの。」

恩師・まりもの言葉が千鶴から告げられ、驚く唯依
そして理由を聞き、納得すると同時に、恩師の教えが広まってる事に対し、喜ぶ。


「さて、お喋りは終わってからにしましょう。
今は戦いに専念するわよ。」

「無論だっ!!」

次々と攻めて来る敵機を再び突撃砲で反撃する二人だった…。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第九十二話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:fd33fbfd
Date: 2011/12/21 07:52
「フンッ!!」

「甘いよ。」

止まる事なく敵を切り裂く天狼とsu‐37M2
天狼は特殊短刀で両腕を切り裂き、止めにsu‐37M2のモーターブレードで胸部を貫き、大破させる。
搭乗するまりもとラトロワは、互いに視線を合わせ、ニヤリと笑みを浮かべる。
互いに己の腕を競い、そして自然と背中を合わせ、守り合う。


「お見事です、ラトロワ中佐」

「なに、即席とはいえ、凄腕の相棒のおかげだよ。」

「御謙遜を。」

「謙遜などではないさ…。
しかし―――」


睨み付けるように敵を見るラトロワ
その不自然さに疑問視する

「余りにも脆過ぎる…。
何か隠してるな…?」

「同意します。
機体性能やOSの差が有るにしても、容易過ぎます。」

「ああ…それに動きがなんとなくだが…躊躇いが無さすぎる」

「…そうですね。」


未だに所属がわからないでいる事に不気味な空気を生む敵達…。


『イグニス1からジャール1へ』

「むっ、こちらジャール1、どうした?」

すると、椿からラトロワに通信が入る。


『今こちらの戦闘は終了しました。
そちらの方は?』

「こちらの方は、あと半数以下だ。
マリモ大尉が居たおかげで、部隊に被害が出ずに済んだよ。」

『そうでしたか…。
では、こちらが敵についてわかった事を報告します。』


ジャール大隊にまりもが居た事に少し驚く椿だったが、すぐに表情を戻し、報告をする


『今回の敵部隊は『無人機』による部隊です。』

「む、無人機だと!?」

『ハイ。
正確には、数人程は衛士が搭乗していましたが、その殆どか無人機でした。』

「なんと…。」


敵部隊の中身を知り、流石のラトロワも驚愕する。

『なんとか敵衛士を捕虜する事が出来ました。
その際、尋問(沙耶のリーディング)により、敵部隊の目的がわかりました。』


沙耶のリーディングで、情報を得た椿。
その内容に驚愕する事になる。


『敵の目的は新開発されたばかりの吹雪・改
正確には、それに搭載されたXM3です。』

「……それでは、敵の正体は…」

不安そうに訪ねるラトロワ
敵の正体に心辺りがあり、複雑な心境だった。


『流石にそこまでは…スミマセン、ラトロワ中佐』

「いや…気にしないでくれ。」


しかし、未だ敵の正体は不明だった為、とりあえず気を落ち着かせる結果になる。


『あと、敵部隊がまだ一個大隊程の戦力が潜んでるようで、現時点での敵の総戦力は四個大隊
その内我々とジャール大隊の敵を覗けば、残り二個大隊です。』

「そうか…ならば早々に此方も終わらせる必要があるな。」

『ハイ。
先程ですが、白銀大尉の方も戦闘を開始したようです。
私達も早急に白銀大尉達の下に合流するようにします。』

「わかった。
此方も早くに終らせるとしよう。」


敵戦力に当初わかっていた戦力より一個大隊分多い事がわかった。

椿達第17大隊も既にタケル達と合流しようと向かっていた。


そして通信を終え、ラトロワはジャール大隊とまりもに対し通信を送る。

「ジャール1から各機へ。
敵の目的と正確な戦力がわかった。
敵の戦力は四個大隊、その内一個大隊は既に第17大隊が撃破したと報告があった。
そしてその殆どの戦力が無人機と発覚した。」

「無人機ですか!?」

「そうだ、キーラ
更に言うならば、敵の目的は、訓練兵達の乗る吹雪・改
正確には、吹雪・改に搭載されてるXM3だ。」

「なんだって!?」

「…………」


ラトロワから情報を聞き、驚愕するキール達
しかし、何故かまりもだけは無言で表情を険しくしていた。


「…それで、何処まで知ってるのかな、マリモ大尉?」

それを見て感じたのか、まりもが今回の件に対し、情報を持っていたとラトロワは察する。

黙秘は無理と察し、諦めたかのように、まりもも答える。

「…私も昨日突然その情報を得ただけなので、全てはわかりません。
ですが、今ラトロワ中佐が報告した内容は知ってました。」

「成る程。
では聞くが、今回の件はソビエト軍の犯行か?」

「「「!!?」」」


情報を知っていたまりもに、『ソビエト軍の仕業なのか?』と訪ねる
その言葉に驚愕するキーラ達だが、まりもは落ち着いて返答をする。


「一応…ソビエトも関わってるとは聞いてますが、本命は別にいると聞いてます。」

「それは何処の勢力なのだ?」

「それは…私にもわかりません…。」

「しかし、コウヅキ博士辺りならば知っているという事か…。」

「恐らくは…。」

流石に今回の大元の勢力は知らないまりも
しかし、ラトロワ達ジャール大隊は、ソビエトも一応関わってると聞き、落胆の表情を見せる。


「…まあ、その件は後回しにしよう。
訓練兵達が狙われてるとなれば、急ぐしかあるまい。


「ハイ。
それでは、さっさと片付けるとしましょう…!!」

訓練兵達が危ないと知り、更に動きが鋭くなるまりもとラトロワ


「……すげぇよ…。」

「ラトロワ中佐はわかるとしても、マリモ大尉もハンパじゃないわね…。」

二人の動きを見て唖然とするキーラとトーニャ
敬愛するラトロワに関しては理解出来るが、そのラトロワと互角以上の動きを見せるまりもの実力に驚く。

(ターシャ…私が向かうまで無事でいてくれ…!)

我が子に等しいナスターシャの身を案じながら、次々と敵機を撃破していく…。


――――――――――――――――――――――


「ウォオォォォッ!!」

襲いかかって来る敵機を神威で音速機動で縦横無尽に撃破していく。

十機程密集していた所に音速機動で飛び込み、同時に長刀で敵一機を腹部から一刀両断
その勢いを殺さずに、しゃがみ反転しながら側に居た一機の脚部を両断、体勢を崩す一機に短刀で胸部に突き刺す

それと同時にバク転し、後方に居た敵に短刀を投擲する。
敵も短刀を回避し、神威に突撃砲を向けるが―――
既に姿は無く、代わりに背中から長刀を貫かれ、大破する。


「……凄い…これが白銀大尉の実力…。」

「あんな動き……初めて見た…。」


後方でタケルの戦闘を見て唖然とする祷子達
神威に搭乗した事もあり、その機動の凄みが更にアップしている為、訓練兵である祷子達には尊敬の眼差しと、驚愕故の唖然とするしかなかった。

「お前等なんかに……負けて…られるかぁぁぁっ!!」


音速機動で敵を翻弄しつつ、突撃砲と長刀で次々と撃墜していく。

敵機はロックオンすら出来ずに翻弄され、音速機動故に動きについていけず、その隙をつかれ撃墜していく。


「…って、アレ?」

『白銀君…早速音速機動使うとは…やっぱり君もチートなんだね…
戦闘開始から速攻で音速機動使って強制解除って…アンタ…。』

「ゆ、結城さんっ!?」


突然…というか、当たり前なのだが、初っぱなから音速機動を使っていた為、強制解除され、しばらくは音速機動不可になる
すーーっかり、その事忘れて暴れてたので、戸惑い、結城の一言にグサリッと刺さる。

『まあ、強制解除したのが丁度戦闘終了後だったから良いけど…。』

「スンマセン」

『これは…改良の余地アリだね。
これだけ無茶するんなら、完成はまだまだだね。』


神威の改良が必要と判断し、少しだけガッカリする結城
夢に描いた戦術機の完成が遠退いたのだから、当たり前である。


『…ゴホン、宜しいでしょうか?』

『あっ、ゴメンねぇ~☆』

「スミマセン」


途中、ピアティフがワザとに咳を一つし、『報告…良いでしょうか?』とちょっと睨み気味に答える。

『先程、第17大隊から連絡があり、敵部隊の情報を得たとの事です。』

ピアティフは椿から報告を貰った内容をそのまま伝える。

情報を知らない真耶や冥夜達
そして敵に標的にされたナスターシャ達も驚愕する内容だった。


ただし、タケルだけは既に知っていた内容であり、冷静に聞いていた。

実はタケルは香月博士から詳しい情報(鎧衣課長経由)を得ていた。
そして今回の敵の正体―――
反対勢力である『第五計画派』だった。


第五計画派は前回『明星作戦』でG弾発射失敗を下に段々と力を弱めていた。

第五計画派達はG弾失敗は『香月博士の仕業』と考えてるが、証拠が無い為どうしょうもなかった。

しかも今は発射失敗のせいもあり、G弾に対し反対派が大多数な為、力が弱く、先の『明星作戦』の件の真実がバレれば、世界中を敵にするかもしれない為、公には出来ないでいた。


そんな時に日本で新OSが開発され、従来のOSに比べ、衛士の生還率が倍以上に上がり、その成果は『本土防衛戦』『明星作戦』で証明されている
そんな理想的な新OSにとある噂が流れた。


『新OSを開発したのは、香月博士だ』

その時ふと浮かんだのが、新OSを使った罠
直接新OSに罠を張るのではなく、間接的…
つまり、新OSを『餌』にして他の勢力でぶつければいい。
そして自分達はその隙に香月博士に大打撃を与えればいい。


そして今回―――
都合の良い事にソビエト軍が新OSの件で問題があったらしく、『餌』には丁度良かったらしい。

そこで第五計画派はソビエト軍に甘い話を持ちかける。
同時に各国のテロ組織等にも情報を与え、とりあえず帝国や極東国連軍の目眩ましになる。


そして自分達は香月博士にとって、大打撃とは――――


(横浜基地に…行かせてたまるかよっ!!)


そう――
第五計画派の最大の狙いは、『横浜基地襲撃』である。

第五計画派は今回の襲撃者達にはこう情報を与えていた。


『もし――訓練兵の乗る戦術機を奪えなかった場合は――横浜基地と厚木基地を襲えば良い。
厚木基地は今の戦力は脆弱
横浜基地も出来たての基地故に戦力的にまだ怪しい。
ならば、厚木基地を抑え、横浜基地から来る部隊を撃破したのち、戦術機を奪えば良い。』


勿論、ソビエト軍やテロ組織達も第五計画派の言う事を全て信じてる訳ではない
しかし、嘘はついていないし、何よりリスクは高くても、得るモノも高い為、悩むだけ悩み、今回四個大隊という数を揃える事が出来た。


戦術機は裏ルート等で揃えたが、とあるテロ組織は、国連のユーコン基地から盗み出すという大技までしでかしたのだ。
…まあ、それに乗って、ソビエト軍も『戦術機が盗まれた』と言って、日本にコッソリと送ったのだが…。


そして、第五計画派は、それに準じて横浜基地を襲撃する予定
だか、けして『襲撃』であって『殲滅』ではない。

横浜基地を襲撃した、第四計画に影響する程度にダメージを与えれば御の字なのだ。
そうすれば第五計画が息を吹き返し、その時こそ香月博士を完膚なき叩き潰せる。

――という情報を鎧衣課長から得たのだった。


(やらせるかよ…絶対に守ってみせる!!)


ギリリッ…と歯を喰いしばり、横浜基地を守る事に強い意志を見せる


「タケル~♪
タケルの専用機って、ちょっと変わってるよね~?」

「ん、なにかだ?」

すると、相変わらず呑気な声でタケルに話しかける美琴
シリアスな場面をブチ壊されてしまうが『まあ…美琴だしな…』と内心苦笑いする。


「だってさ、本来背部にはマウントが付いてるけど、タケルの機体は『シールドが装備』されてるでしょう?」

「ああ、そういう事か。
これは『可変式飛行シールド』って言ってな。
盾でもあり、もうひとつの跳躍ユニットでもあるんだ。」

「「「へっ?」」」


タケルの返答に唖然とする一同。

「普段は背部に装備して跳躍ユニットとして使うんだ。
…といっても使う時は、音速機動の時だけどな。
そして背部に装備してる際は、シールド内に付いてるマウントで武器を装備出来るんだ。
元々折り畳んで少し小さくして背部に装備してるから、盾として使う際は、広げて使うんだ。」

「それじゃ、盾として使う際は、マウントを使って後方に狙撃する事出来ないんじゃない?」

「まーな。
確かにそれは欠点だけど、盾として使う際は内にマウントが付いてるから、武器交換が通常より素早く出来るのが長所でもあるんだ。」

可変式飛行シールドの説明をするタケル
千鶴の疑問に答え、他の性能についても説明する。

「防御力に関しては、36mmは無効化
120mmに関しては、一点に集中で連射でもしない限り、破壊される事は無いんだ。」

「ふえぇぇ…凄いです…。」

「しかし、それだけ頑丈な素材を使ってるなら、戦術機に使った方が良いのでは…?」

「残念だけど、かなり希少な素材で高価な物でな、戦術機丸々一機に使う事は出来ないんだ。」


高い防御力に驚く壬姫
唯依がふとした疑問には、高価で希少な素材な為、無理だと返答を返す。

「―――っ!
さてと…敵のお出ましみたいだぞ…。」

すると、レーダーに敵影のマーカーが映り、同時に警報が鳴り出す。

「ん…ファントムか…?
その割には何かかわってるような…?」

「いや違う…あれはファントム等ではないっ!!」

発見した敵部隊の機体がファントムに似ていた為勘違いするタケルだが、真耶が敵の機体の正体に気付く。


「あれは…戦術歩行攻撃機『A‐10・サンダーボルトⅡ』だっ!!」

敵機の正体に驚愕する真耶
『大砲鳥』カノーネンフォーゲルと称されるサンダーボルトⅡが圧倒的な存在として現れた…。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第九十三話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:fd33fbfd
Date: 2011/12/30 10:05

「タケル、即障害物に隠れるぞっ!!」

「わかった。
イグニス10から各機へ
敵の攻撃に備え、即座に障害物へ隠れるぞっ!!」

「「「りょ、了解!!」」」

真耶の進言に従い、各自建物等に移動すると―――
文字通りの『弾幕』が襲いかかって来る。

ある者は機体の所々を掠め、ある者はマウントに装備している突撃砲を壊される
しかし、機体自身は奇跡的にも数機掠めた程度で済んだ。

「あっぶねぇ…。
イグニス10から各機へ。
全機無事か報告せよ。」

「イグニス12(真耶)からイグニス10へ
此方は37(唯依)・38(佳織)共に生存を確認」

「こちらイグニス39(正樹)
40(まりか)と共に無事です。」

「こちらA20701(千鶴)
全機異常は無し。」

「こちら20701(ナスターシャ)
全機生存、異常は無し。」

「…そうか、良かった。」


全機生存の報告を受け、安堵するタケル
しかし、現状は変わらず、未だに敵の弾幕に身動きが出来ないでいた。


「真耶大尉、サンダーボルトⅡってどんな機体なんでしょうか?」

唯依が真耶にサンダーボルトⅡの事を聞き出す。

「サンダーボルトⅡは『戦車級駆逐機』タンクキラーの異名もあってな。
36mmガトリングモーターカノンである『GAU‐8・アベンジャー』が両肩に装着され、更に従来の防御力も上げた事により、重火力・重装甲を得る事が出来た機体だ。
F‐4を極限にまで改良した機体故に、機動力は犠牲にしたが、こと戦車級に対しては絶大な成果を出す故に『戦車級駆逐機』タンクキラーという異名まで付いたのだ。」

「…という事は、こと面制圧に関しては適した機体…という事ですか…。」

「そうだ。
故にあの機体を敵にした場面、正面からの突撃は自殺行為と同意だという事だ。」

真耶の説明を聞き、ゴクリと息を飲む一同
そしてその脅威が正に迫ってる最中だという事を体験しているのだ。


「これを攻略する方法は…?」

「重装甲というは、動きが鈍いという事
しかし、だからといって横からの攻撃ではダメだ
ならば――――」

「上からの攻撃………しかないな…。」


上からの強襲。
それ以外現段階では方法が無い。


確かに、サンダーボルトⅡのガトリングの攻撃範囲を考えれば、横より縦の方が『死角』がある。
例え突撃砲等による攻撃で死角を消されても、ガトリングに比べれば、突撃砲の方がまだマシなのかもしれない。


だが―――――


「なら、俺が――」

「無茶ですっ!!」

「いくら白銀大尉とて、無茶ですっ!!」


タケルが強襲役を受けようとすると、唯依や佳織が反対する。

「…では篁と雨宮、他に何か案があるか?」

「それは……」

「援軍を待つ案は…?」

「無理だな。
確かに援軍が間に合えば理想的だが、援軍到着時間と、盾にしている障害物の耐久力の限界、先にどちらがやって来ると思う?」

「そ、それは…」


タケルの質問に答えられない佳織
答えがわからない訳ではない。
わかるが故に、答えられないのだ。


「オレの身を案じてくれるのは嬉しいが、現状この案しか残されてないし、この案を成功出来るのは……残念だけどこの機体しかないんだ。」

「しかしッ!!」

悲痛な声と表情でタケルを止めようとする唯依
それは、佳織・正樹・まりかは勿論、ナスターシャ達訓練兵も同じ想いだった。


そんな時に―――――――


「白銀大尉、私は何をすれば良いのかしら?」


千鶴が突然口にした言葉。
余りにも自然で、余りにも当然のように出た言葉に呆気に取られる。


「うーん……委員長から『白銀大尉』なんて呼ばれると違和感が…。」

「あのねぇ…こんな時に…。
私だって違和感あるけど、今は作戦中でしょう?」

「……それはわかってるんだけどなぁ…。」


しかも、この絶体絶命の時に、呑気な会話をする事に硬直し、呆気に取られる。
そんな姿を見てか、真耶が堪えながら笑いだす。

「クック…このような時に…相変わらずというか…。」

「サラリと酷い事言ってません、真耶さん?」

「……白銀だから仕方ない。」

「更に酷ッ!?」

「タケルはボクと一緒だから、仕方ないよ~♪」

「美琴と一緒にされたっ!!」

「タケルさんだから仕方ないよ~♪」

「さりげなく、一番酷い事言ってませんか、タマ?」

「大丈夫だって☆
白銀はまだ女性をゲットするまでは死ねないから♪」

「こんな時に誤解を招く一言言うなッ!!」

「まだ私はタケルの子を宿してないぞ?
姉上だけではズルいぞ。」

「冥夜までこんな時にッ!?」

真耶・慧・美琴・壬姫・晴子・冥夜の順でタケルをいぢる一言を言い放つ。

その様子を見る唯依達にしてみれば、信じられない光景だが――

それは―――タケルを信頼している故の会話だった。


「こ、このような時に何を「…白銀を信じられないの…?」――ッ!?」


唯依が口にすると、遮る形で慧が答える。

「……篁中尉達や訓練兵達は…白銀の教え子なのに……白銀の事信じられないの?」

「そ…そんな事は…「なら…信じれば良い…。」」


慧の一言が鋭利な刃物で抉られるように突き刺さる。
拒絶の一言を言い切る前に、強い眼差しでタケルを『信じる』と語っていた。


「…白銀、囮役やっても良いよ…。」

「私も志願する。
何、無理をするつもりはないから安心するが良い。」

「ならこの『トラップウェポン』使ってみる?
本当は総戦技演習中に使う予定だったんだよね~。」

「なら、私と珠瀬さんは援護射撃をするよ。」

「援護は任せて下さいっ!!」

タケルに寄せる、彼女達の絶大な信頼―――
その光景が、唯依達には羨ましい程に輝いて映っていた。


(なんて信頼の強さだ……。
だというのに…我々は…。)

(畜生…情けねぇ…。
大尉の教え子の俺達が信じないでどうするっ!!)


冥夜や千鶴達の姿を見て、歯を喰いしばる唯依達。
恩師を信じきれなかった自分達の不甲斐なさに、悔やんでいた。

「気にすんな、篁、正樹」

「えっ?」

「大尉…」

そんな様子を見たタケルは、教え子達に声をかける。


「仲間を心配する事は当たり前だ。
もし、まだ気にするんなら――
後でオレを信じられなかった罰を与えてやるから期待して待ってろ。」


『罰』という帰る約束をしてイタズラっぽく笑顔で告げるタケル
その様子を見て唯依達は少し笑顔を取り戻し、『了解』と返事を返す。


『やれやれ…無茶ばっかりするよね~…。
けど、未だに音速機動の強制解除が解けない今、残された手段は一つだけ…。
勿論、それが狙いで使うんだよね?』

「本当にスミマセン。」

結城が再び通信を繋ぎ、意味有りな言葉を呟く。
そしてタケルも今回ばかりは流石に結城には頭が上がらず、謝罪の言葉を口にする。


『まったく…。
僕にとって、神威は我が子同然なんだよ?
それが壊れて帰って来る事は悲しい事なんだよ?』

拗ねたような顔で怒る結城
そして諦めたかのように、溜め息を漏らし、真剣な表情で告げる。


『30秒―――
それが限界だよ。
それ以上使えば―――神威は大破して…白銀君は確実に『死ぬ』よ。』

「「「えっ!?」」」

「了解、必ず神威と共に無事で帰還してみせます。」


『死ぬよ』と告げる結城
その一言に驚愕する冥夜達だったが、覚悟を持った表情で帰る約束をするタケル
そして――――


「それじゃあ…行ってくる。」

みんなに言葉を告げ、操縦捍を強く握る。

「―――XM3・EXTRA『解放状態』…発動!!」


すると神威の跳躍ユニットから、通常では考えられない程の出力が放出され、再び飛び立つ!!

その機動は、先程の音速機動と同等以上の速さで飛翔する。
スピードだけではない。
その機動時の鋭さや細かな動きまで、通常時とは比べ物にならない程の上昇だった。

敵達も神威の機動に反応するが、反応してから反撃する為、全て後手になる。


「ググッ…喰らい…やがれぇぇぇっ!!」

解放状態を発動した為、フィードバックで保護出来るGを超えてしまい、タケルの全身に重圧が襲いかかる。
しかし、今までの訓練と根性で耐えながら、敵の攻撃を回避しつつ、着地と同時に抜刀で一機撃破し、奇襲攻撃を成功させる。


突然の奇襲攻撃を仕掛けられるが、無人機故に冷静に、そして迷いの無い動きで突撃砲を放つ。

しかし、今の神威は最速の機体
撃たれる前に回避し、同士討ちを狙いつつ、また一機と撃破する。


そんなタケルの姿を見て、訓練兵―――巽・雪乃・美凪の三人に変化があった。

「………グッ…」

歯を喰いしばり、顔を下に向ける巽達

訓練兵の自分達は、安全な所で自身の身を守り、尊敬する恩師は、いま正に死地で戦い続ける。


―――自分は一体何の為に衛士になるのだ?
―――自分達は今、一体何をやっている?
―――ただ、命の奪い合いに脅えるだけなのか?

そう自分に問いただした瞬間――爆発した。


「アアアァァアァァッ!!!」

「巽っ!?
……って、美凪、雪乃までっ!?」


動き出したのは、巽
突然の行動に流石のナスターシャも驚愕し、反応を遅らせる。
その一瞬の隙を突かれてか、残ってた美凪・雪乃も飛び出す。


―――自分達は戦う為に此処に居るのだ。
日本の為、未来の主の為、大切な人々の為に未熟な身を叩いて鍛練しているのだ―――!!


それを我が身の可愛さで安全な場所で身を守る為ではない。
尊敬する恩師が今、戦っている戦場に身を投じ、守護者となる事が我等の使命なのだ。


恩師と肩を並ぶ事など今は出来ない――
だか、その背中を追う事は出来る。


いつかその背中に追いつき、認めて貰えるその時まで―――


ちっぽけな勇気を振り絞って、戦場を駆け抜けるまで―――!!


「着剣ッ!突撃せよっ!!」

「「了解!!」」

長刀に装備し、突撃する巽達
途中、巽達の存在に気付いた敵機五機が巽達に標的を変えるが、それに反応した美凪が、ガンマウントを使い、突撃砲で一機撃破する


他の敵の四機は回避したものの、巽・雪乃の倒立反転中からの長刀と横旋回の噴射地表面滑走からの長刀による攻撃で二機が一閃される。


しかし―――残った二機が巽達をロックオンし、ガトリングが火を吹く瞬間――ガトリングが切断され、その後すぐに二機が大破される。


「えっ……?」

「馬鹿者ッ!!突然突撃するとは何事かっ!!」

「その命を蔑ろにするでないっ!!」


巽達の危機を救ったのは、冥夜機と真耶機の二機
三人を救うと同時に怒りの咆哮が飛び出す。


「コラッ!!
何イキナリ突撃してるっ!!
あと戦場に立ったんなら、敵に集中しろっ!!」

一足遅くナスターシャが到達する。
モニター画面に映るその顔は、怒りの形相で角まで見えそうなぐらいキレていた。


「やれやれ…無茶するからこうなるのだ…。」

その様子を見ていた冥夜が少し呆れながらも、三人を守るように剣を構え、次々と撃破していく。

「神代・戎・巴
先程の行動は誉めれる事ではない。
場合によっては、足を引っ張り、仲間を失う結果に繋がる事にもなる。」

冥夜から指摘を受け、一気に落ち込む巽達
崇拝する冥夜に怒られる事自体、彼女等にすれば、失恋時と同じぐらいツラい事である


「だが、しかし―――
先程の連携と突撃、中々良い攻撃であった。
次は使う所を間違えるでないぞ?」

「「「は…ハイッ!!」」」


最後に誉め言葉を貰い、一気に立ち直る巽達
その様子を見て、少し笑みを浮かべた後、狙いを定めてくる敵機に長刀を振るおうとすると―――

「させる――何?」

「エヘヘ…驚いた?」


突然敵数機が電撃のようなモノを受け、動きを止める。
すると美琴が冥夜の隣に並び、ネタを教える。


「鎧衣、これは…?」

「これがさっき言っていた『トラップウェポン』だよ。
発射型のセンサータイプの地雷でね、半径内に入ると特殊な電流を放出して、戦術機や戦車とか機械で出来てる乗り物を停止させるトラップなんだ。
これを使えば、殺さずに敵を捕まえたりする事も可能なんだ。」

「成る程、鎧衣らしいウェポンだな。」

「エルヴィンさんに作って貰ったんだ。
やっぱり対人戦とかを想定すると、こういったトラップが有効だと思うんだ。
戦術機の戦いって、戦術とかあっても、トラップとかって全然使わないでしょう?
だから心理的にも有効かな~ってエルヴィンさんに言ってみたら、喜んで作ってくれたんだ。」


トラップウェポンの誕生秘話を語る美琴
そんな会話をしつつも、停止した戦術機の手足を破壊し、行動不能にする。

「今が好機だっ!!
全機、今までの鬱憤を晴らすように総攻撃をかけろっ」

「「「了解ッ!!」」」


タケルの号令と共に総攻撃をかける唯依達
梼子達訓練兵も参加し、一気に畳み掛ける


最早混戦になってしまい、サンダーボルトⅡに攻撃をほぼする事すら出来なくなっていた。

これがまだ有人によるモノならば、強引にいったりするのだが、
無人―――つまりコンピューターによる思考では、賭のような行動をしない為、一度崩れてしまうと脆くなってしまう。


例えるならば、今の状況。
敵が隊形中に侵入した場合、同士討ちの可能性が出た場合、『フレンドリーファイヤの危険性が高い為、攻撃不可』と判断されてしまう。
これが不知火や撃震のような接近戦闘が可能な機体が居れば、話は別だが、機体はサンダーボルトⅡ
つまり―――中・遠距離専用の機体
しかも、短刀以外は全て『銃火器』なのだ。
マトモな接近戦が出来る筈が無い。

つまり、『教科書通りの行動しか出来ない』のだ。
突発的な発想・極めて低い可能性でも行動する発想・一か八かの選択
それらをする事の出来ないのがコンピューターの『弱点』でもあるのだ。

一応短刀で反撃をするサンダーボルトⅡだが、元々鈍重な機体な為、容易に回避され、反撃を受けるしかなかった。

そんな好機をタケル達は見逃す訳がなかった。


「そこっ!!」

「支援、感謝する。ハアァァッ!!」

梼子の視野の広さを生かし、的確な支援砲撃を放つ。
その支援砲撃の下で戦う唯依や慧が接近戦で敵を撃破し、攻撃した際の隙をカバーするように千鶴と佳織が周囲の敵に狙撃し、相手の攻撃を封じ、回避させる事で唯依と慧をフォローする。


「彩峰、余り大振りな攻撃は避けてちょうだい。」

「大丈夫…背中は信頼してますから…。」

「―――――ッ!?
…だからって無茶はやめてよっ!!
全部が全部フォロー出来る訳じゃないんだからねっ!!」

いつものように慧と千鶴の会話が始まる。
慧の予想だにしなかった一言に驚き、照れる千鶴だが、相変わらず照れ隠しなのか、反論すると慧の表情が驚きの表情になる。

「………………………………………………………………えっ?」

「そこで『何故ッ!?』って表情にならないでちょうだい…。」

一気にテンションが落ちる千鶴

そんな事をしている時に、第17大隊が援軍でやって来た。


「白銀大尉、待たせたわね。」

「助かります。」

「イグニス1から各機へ。
残った敵機を早々に撃破しつつ、第四中隊達を守るんだっ!!」

「「了解!!」」


椿の号令に全員が返答を返す。
それと同時に突撃前衛長が前に飛び出す。


「冥夜様、ご無事で。」

「うむ、済まないが月詠よ、力を貸してくれ。」

「勿論で御座います、冥夜様。」

「では…行くぞっ!!」


冥夜と真那がエレメントを組み、背後にいる巽達を守りながら敵を撃破していき、その姿を見ていた巽達が魅了してしまう。


「これが冥夜様と真那様のエレメント…。」

「凄いですぅ…。」

「…………私達も強くなって、あの横で戦えるようになるわよ。」


改めて二人の強さを見て考えを固める巽達

絶対に強くなってみせる―――
そう再確認する三人だった…。


―――――――――――――――――――――――――――――――――
「ふう…なんとか生き残ったな。」


「被害も大した事ないし、死亡者もいない。
大勝利ってもんだ。」


戦闘が終わり、一息つくタケル
孝志も被害も少なく、死亡者がいない事に安堵する。


「……白銀、どっちが勝者?」

「ん…ちょっとま―――――何?」


慧から勝者は誰かと確認をせがまれる。
実は千鶴と撃破数を競う賭けをしていた。
賭けの内容は『千鶴の奢りで一ヶ月間食べ放題』と『慧が一ヶ月間何でも言う事聞く』という内容だった。
やれやれ…と苦笑いすると―――異変は起きた。

「どうした、タケル?」

「いや、勝負自体は同数で引き分けなんだけど……
今回のサンダーボルトⅡの数か『35機』って―――」

「35機?
単に一機足りない状態だったんじゃないのか?」

「そうなのかな?
イグニス10からCP、サンダーボルトⅡの部隊の数はそちらでは何機だった?」

『こちらでも35機ですが?』

「そっか…気のせいか。」

「一応警戒してれば問題はないだろ。」

「ですね。」


ピアティフに確認を取り、『35機』と聞き安堵するタケル
孝志の指摘通り、警戒だけして、そのまま厚木基地へ向かう…。


―――――――――――――――――――――――――――――――――

『……作戦は失敗。
これよりプランBに移行。
何故かは知らないが、作戦が読まれていたと考える方が妥当なのかもしれない…。
此処は『住み処』に移動して、時を見るしか無いな…。』

タケル達の居る場所から数キロ先にある、とある場所では、静かに様子を見ていた者がいた…。


『それにしても、あの機体…。
もしや、あれは日本の第四世代機なのか!?』

月夜の薄暗い明かりに照らされる男
がっちりとした肉体を持つ『米軍』の軍服を纏う人物がモニターを見て驚愕する。


『違うよ、ルーチン中佐。
あれは第四世代機じゃない。
いわば……特別機だ。』

『……どういう意味だ、ミネルバ開発部長?』

『あれはね……私の『親友』が考えた機体だよ。
どうやらまだ完成していないようだけど……完成は案外近いのかもしれないね。』


神威の画像を見て笑みを浮かべる女性…。
まるで子供がオモチャを貰い、喜ぶような表情を見せていた。


『フフ……楽しみだよ、ユウキ…。
キミの創った機体と『私の創った機体』のどちらが優れているか…楽しみにしているよ…。』


煙草に火を着け、一服するミネルバ

笑みを浮かべながら、車の中へと消えて行った…。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第九十四話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:fd33fbfd
Date: 2012/02/12 22:39
2000年・5月30日
厚木基地・ブリーフィングルーム


「異例ではあるが、お前達の総戦技演習を合格とする。」

「「「「ハイ?」」」」

突然合格の報告を受け、唖然としているナスターシャ達。


突然のハプニング発生した今回の総戦技演習。
中止の報告を受け、がっっっつり落ち込んでいた梼子達だったが、いきなりの実戦・生死を分ける戦闘を体験し、演習どころではなかったのだが、
無事に終わってみると『……そういえば…演習中止になったんだっけ…?』と思い出してしまい、全員がへこんでいたのだ。


そしてその翌日に『お前達、合格ね。』などと突然言われれば『………………何故?』という反応も当たり前である


「今回の合格は、まあ…ギリギリ合格って所だな。
突然の実戦とはいえ、色々と問題点があったわけだし。」

「「「う"っ!!」」」

「演習中も、誉める所は多々有ったが、状況的には早々に大多数撃破されてピンチだった訳だし。」

「うっ。」

「色々悩んだが、今回の結果を上と考えた末、ギリギリ合格になったって訳だ。」


タケルに痛い所を指摘され、唸る巽・美凪・雪乃・ナスターシャ

「あの…合格になった理由を聞いて宜しいでしょうか?」

すると梼子が挙手し、質問する。


「ん、良いぞ。
まず、今回の総戦技演習の内容は『戦術機による退却戦』だ。
合格条件は『1人でも厚木基地に到着』だ。
確かに突然のハプニングにより演習は中止になり、この条件をクリアする事は出来なかったが、お前達は実戦で誰1人失う事にならずに生き残った。
これはある意味演習より厳しい条件でクリアしたとも言える。」

「しかし、それは白銀大尉や他の衛士達が守ってくれたおかげで…。」

「確かにそれも生き残った要因の一つだ。
だか、どれだけ優秀な衛士達を仲間にして守って貰っても、死ぬ時は死ぬんだ。
特に戦場では、仲間が優秀だからって生き残れるなんて保証は無いんだ。」

「…………」

「『死の八分』って言葉を知ってるな?
初めて戦場に出た衛士がまず乗り越えなければならない時間。
今回は対人戦ではあったが、お前達はこの『死の八分』を乗り越えたんだ。
これについては、自慢するがいい。
お前達は戦場での『恐怖と重圧』に打ち勝ち、生き残ったんだ。
これが合格の要因の一つだ。」

一つ目の要因を教えて貰う梼子達
戦場での『死の八分』を乗り越えた事が一つの理由として上げられる。


「2つ目は…演習中、オリジナルの隊形を牽いて、仮想敵部隊に対策した案。
恐らくはナスターシャあたりが出した案だろうが、その役割を果たし、僅かな時間とはいえ、前衛を逃がし、後衛の部隊だけで仮想敵部隊を抑えていた事には称賛する点だ。」


2つ目は巽達を逃がし、ナスターシャ達が冥夜達を抑える作戦を称賛される。


「結果とすれば、成功とは言い難いが、それでも現役の衛士を抑え、他の仮想敵に奇襲をかけた作戦は合格点をやれる。
強いていうならば、巽達は奇襲が失敗した際、無理して榊達を倒す事をせずに逃走すれば良かったんだ。
そうすれば厚木基地に到着する可能性がまだ高かったとも言える。」


タケルの言葉を重々しく聞く巽達
『確かに…』と頷き、少し悔やむ。


「三つ目は、お前達が覚悟をを持ち、戦う事が出来た事
戦場とはいえ、今回は人間同士の『殺し合い』だ。
『人を殺め、自分が死ぬかもしれない』という恐怖に打ち勝ち、戦う事が出来たお前達は戦場で戦える事を証明した。
きっかけはどうであれ、お前達は衛士としての覚悟を持った
……とはいえ、いくら戦場とはいえ、お前達は『人殺し』をした事には違いない。
だからこれだけは言っておく。
―――その罪から逃げるな。
殺めた罪を背負い、そして償う為にも戦い続け、そして生き残るんだ。
いいな?」

「「「「ハイッ!!」」」」


タケルの言葉を重く受け止め、大きな声で返答を返す訓練兵達。


「とはいえ、ギリギリ合格な訳だし、不安点は多い。
明日から今まで以上にしごいてやるから覚悟しろよっ!!」


「「「ハイッ!!宜しくお願いしますっ!!」」」

合格した事で笑みを浮かべる訓練兵達
大きな声で返答を返し、更なる修練を誓うのだった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――

「失礼します。」

「待ったわよ、三人共。」


とある一室に入るタケル・まりも・ナスターシャ

その部屋には香月博士を始めとして、鎧衣課長・ラトロワ・椿・真耶がタケル達を待っていた。

「さて、揃ったみたいだから、今回の件の話をするわ。
…さっきから知りたくてウズウズしてる奴も居るしね。」

「……当然だ。
今回の事件、祖国も関係しているとなれば。」


イタズラっぽくラトロワを見る香月博士
ちょっとイライラしてはいるものの、表情は冷静さを崩してはいなかった。


「話す前に言っておくけど、これから話す内容は重要な機密情報だから覚悟して聞きなさい。
勿論、我が身を大切にするんなら、今この席を外す事になるわよ。
さあ…どうするラトロワ中佐?」

「私は別に構わない。
……しかし、他の子達には…。」

ジャール大隊の子達を心配するラトロワ
それに香月博士は『安心なさい』と声をかける。

「あくまでもアンタだけだから安心なさい。
とはいえ…ナスターシャは既に関わってるから無理だけどね。」

「なんだとっ!?」

香月博士の一言に驚愕した、ナスターシャを見るラトロワ
少し済まなそうにコクリと頷く。


「ナスターシャの場合は互いに交渉した結果の事。
勿論、お互いに納得した事だから誤解しないでね。」

「……交渉だと?それは一体…。」

「『例の件』の時にね、ナスターシャがアンタ達ジャール大隊を助けたいって言って来た時があったの。
まあ、その件については私も原因を作った一人だから乗ったんだけど、殿下とは違い、タダでは助けられないから交渉したの。
その内容は『ジャール大隊を全力で助ける代わりに、ナスターシャは『計画』に参加する事』って内容よ。」

「なんだと…。」

「ナスターシャに感謝しなさいよ?
今アンタ達ジャール大隊が無事に居られるのは、ナスターシャのおかげでもあるんだからね。」

驚愕の事実を知り、言葉を失うラトロワ

とはいえ―――――


(うわ……相変わらず先生ったら、紛らわしい言い方するな…。
絶対ラトロワ中佐、ソビエト軍に売られた件の事だと思ってるよ…。)


内容を知ってるタケルとナスターシャ

香月博士の言ってる意味は勿論『2001年・8月19日のカムチャッカ・ジャール大隊壊滅』の件であり、先のソビエト軍の件ではなかったのだが、勿論ラトロワはそんな『未来の情報』を知るわけもなく、誤解しながら驚愕していた。

しかも決して嘘は言ってない為、更に質が悪い。
香月博士も『試作99型電磁投射砲』で間接的に関わってる為、一応無関係ではなかった。


「まあ、兎に角これから話す事は相当な内容だから覚悟しなさい。」

「……ああ、わかった。」


複雑な気持ちを押し殺し、軍人としての仮面を被り、香月博士の話を聞く。


「今回、ソビエト軍や様々なテロ組織の犯行と聞いてるわね?
その話は真実なんだけど…実はその後ろにとある組織が居るの。」

「何者だ、それは?」

「―――『第五計画派』
とある計画の組織で、私の最大の敵でもあるわ。
私は『第四計画』の計画総責任者でね、第五計画派とは対立している立場なの。」

「計画とは何なのか聞いても宜しいか?」

「残念だけど、今は駄目よ。
ただ、言える事は、BETAに対する計画…と言う事よ。
既に第一・第二・第三は失敗。
しかし、それなりの成果は残す事は出来た。
そして今回、私が計画する第四計画に対立するのが、米国の次期計画である第五計画なの。」


上手く機密を隠しながら語る香月博士
そして今回の事件に繋がる話をする。


「けどね、第五計画は現在勢力を弱めてるの。
理由はとある作戦を失敗し、自爆したの。
結果、第五計画が危険だと反第五計画派が増えてしまったの。
そのせいもあって、第五計画派は巻き返しを図って、今回日本に上陸したの。」

「では…今回の件は…。」

「ええ、第五計画派の仕業よ。
ソビエト軍やテロ組織達に甘い汁吸わせて、裏で操ってたって訳。
勿論、ソビエト軍やテロ組織達も警戒していたから、逃げ道作った上でやってたのよ。」

「愚かな…。」


機密情報は伏せられてはいるが、そのせいもあって今回の事件が発覚したと告白する。


「まあ、前もって鎧衣から情報を得てたから、むしろ利用してやったわよ。」

「……ちょっと待て。
『前もって』だと?
それは一体何時の事を言ってるのだ?」

「そうですな…確かジャール大隊が売られて間もない頃でしたかな…?
ホラ、陛下や殿下がジャール大隊の為に動いてくれた時です。」

「…なんだと?」

「それ本当ですか、鎧衣課長!?」


突如ラトロワの質問に答える鎧衣課長
その内容に流石のタケルも知らなかった。

「勿論本当だとも、シロガネタケル
ただ、この話は例の陛下がお帰りになった後に私が香月博士や殿下・雷電様に話したのでね、その場にいなかったシロガネタケルや社霞も知らなかったのだよ。
そして第五計画派がやり易いように誘い込み、様々な工作もあえて見逃してたのだよ。
大変だったぞ、なんせ敵にバレないように見て見ぬフリをするのだからな。」

「それじゃ…無人機とかの戦術機とかの搬入は…。」

「ウム、海路から国連や帝国軍宛に運ばれてきた戦術機だよ。
無論、その中に第五計画派の人間で運ばれてきた物も混ざっていたのだから、運び先も『基地に運搬する』と嘘のあったそうだ。」

「丁度私の方も米国の国連軍にサンダーボルトⅡを頼んだ事があったのよ。
それを利用してサンダーボルトⅡで攻め込みに来たんだと思うわ。」

「あのサンダーボルトⅡって、先生が呼んだんですかっ!?」

「まあね。
まあ、横浜基地の防衛に着けようと思ってたんだけど…。
まあ、おかげでコッチが弱味を握ってオイシイ目にあうんだけどねぇ~☆
ハア……なんて言いつけてやろうかしら…。
…三個大隊分ぐらい、タダで貰おうかしら…。」

「うわっ、鬼畜だっ!!」

途中、香月博士が説明するが、話の後半から本音ダダ漏れに語る香月博士
とても嬉しそうだ。


その様子を見たタケルも、流石に引いて本音を漏らす。


「『本土防衛戦』や『明星作戦』でかなり戦力が低下したでしょ?
戦力増加の意味もあってね、他所の国連や欧州とかに戦術機を大量に買っていたの
勿論それは横浜基地だけじゃなく、日本国内の国連軍基地や殿下も帝国軍の戦力補給の為に指示を出してたの。
只でさえ、すぐそばには佐渡島ハイヴがあるからね、戦力補給は当然の事よ。
だから第五計画派はそれを利用して今回の無人機とかを運んできたのよ。
注文した戦術機を運ぶんだから、丁度良い隠れ蓑になるでしょ?
XM3を奪った後は、コッソリと帰りの船に乗ってトンズラするつもりだったみたいよ。」

「良くサンダーボルトⅡが横浜基地に直通しませんでしたね。」

「それは当たり前よ。
今横浜基地周辺の港は、BETAの残骸の運搬や、横浜基地建設とかの資材運搬で入れないのよ。
だから名古屋や静岡・金沢とかの幾つかの港から戦術機を運ぶ必要があったのよ。」

「……それって、帝都もヤバかったのでは…?」

「それについては大丈夫でしょう。
今の帝都は戦力が充実して、なおかつ練度が桁違いに高いもの。
たかだか無人機四個大隊程度で帝都が落ちる訳が無いわ。
勿論それについては向こうだってわかってるから、やるわけが無いわ。」

香月博士の説明に納得するタケル
しかしラトロワやまりもはまだ納得しきれてない様子だった。


「博士、確かにテロ組織ならば今回の件に参加するかもしれませんが、流石にソビエト軍は動かないのでは?
例え動く理由として魅力的だとしても、失敗した時の事を考えれば、参加しないのでは?」


まりもが最もらしい発言をする。
ラトロワもまりもの意見に賛同するが―――――

「ソビエト軍だって馬鹿じゃないわよ。
けど、もし―――ソビエト軍の上層部の中に第五計画派が居たとしたら?
そして『捨て駒』を利用し、ある程度のリスクを覚悟して実行したとしたら?
そして―――そのリスクに対する『報酬』が有るとしたら―――答えは分かるわよね?」

「――――ッ!?」


まりもやラトロワの疑問を粉砕するかのように答える香月博士
その残酷で悪どい内容に背筋に悪寒が走り、同時に考えられる答えである事に無言になってしまう。

「地位・金・名誉。
色々考えられる欲望はキリがない程沢山あるけれど、多分一番の報酬は『自分の命』でしょうね。
自分の命を最優先にしなければ、幾ら地位や金があっても意味が無いわ。
ならば、『自分の命の保証』を報酬にして、他者の犠牲をもってしてギャンブルに勝つつもりなのよ、連中は。」

「そんな…!?」


第五計画派の考えと欲望を知り、絶句するまりも
そしてラトロワは第五計画派の考えに対して多少ではあるが、怒りを感じていた。


「勿論、第五計画派の人間が全てそういう考えとは言わないわ。
けどね、少なくとも私は第五計画に関しては反対だし、させるつもりは無いわ。」


香月博士の鋭い眼を見て、第五計画に対し、強い敵対心を感じ取る。


「計画とかの詳しい話は信用次第で公開するわ。
納得出来ないだろうけど、それだけの重要機密だから理解してくれると助かるわ。」

「……それはわかった。
しかし、ターシャは何処まで計画の事を知ってるのだ?」

「ナスターシャ?
別にそんな大した情報はまだ知らないわよ。
せいぜいA‐01が計画に関係しているぐらいの情報ぐらいよ。」

「本当にまだそんなに計画の事は知らないんです。」

「そうか…。」


ナスターシャがまだ計画の情報をそれほど得て無いと知り、内心安堵する。


「とはいえ、信頼次第では、これから色々と情報を公開するから覚悟して頂戴。」


「「了解」」


とりあえず一区切りを着けて、話を終える。
そしてタケルが違う話題に入る。


「そういえば随分と早くに訓練兵の合格を出しましたね。」

「そりゃ出すでしょうに。
現役の衛士達に守られる形ではあったけど、実戦で生き残り、一応活躍だってしたと聞いてるわ。
活躍に関しては別にしても、実戦で『死』を体験し、生き残った事に関しては合格点だと思うわよ?」

「その点に関しては同意です。
けど、突然の合格にアイツ等全員唖然としてましたよ?」

「残念ね。
そういう時にイタズラしたら面白いんだけどねぇ~…。」

「……やめてください。」


タケルとの会話で香月博士がイタズラっぽく怪しい笑みを浮かべる事に悪寒を感じ、『お願いしますから、やめてください。』と切実に願うナスターシャ


そしてラトロワ・まりも・ナスターシャが退室した後、香月博士・タケル・鎧衣課長・椿・真耶の五人が残り、密談をしていた。


「さて、まりも達が居なくなったけど…鎧衣課長、そろそろ本題に入って頂戴。」

「では…
今回の作戦通り、国内にいるオルタネイティヴ5派の『処分』は完了しました。」

「国内のオルタネイティヴって?」

「日本国内の国連内に潜むオルタネイティヴ5が居てね、先の本土防衛戦後に潜入し、今回の件に関わっていたのだよ。
中には関わって無い者もいたが、今回の事件をもって、国外へ追放、もしくは降格処分、厳しい物だと牢獄か重い刑になる。」


鎧衣課長が詳しい説明をするが、その表情には余裕のある表情ではなかった。


「これはあくまでも『殆どの者』であり『全て』ではない。
中には難を逃れてまだ日本国内に潜んでいるようなのだ。」

「なんですって!?」

鎧衣課長の言葉に驚愕するタケル
香月博士や椿・真耶の表情もやや険しくなる。


「シロガネタケルよ、今回の事件で『違和感』を感じなかったかね?」

「違和感?」

「ウム。
例えば…サンダーボルトⅡの部隊が35機しか居なかった事とか…。」

「―――――ッ!!
ありましたっ!!
なんとなく違和感を感じましたが、CPにも確認しましたが、35機しか確認出来てないと聞いたので、警戒はしてましたが、何も起きなかったので気のせいかと思ったんです。」

「ウム、そうか…。
しかし私が確認した限りでは、サンダーボルトⅡの部隊は『36機』
その内の一機が正体不明機なのだよ。」

「正体不明機ですって?」


正体不明機という言葉に反応する香月博士
鎧衣課長も詳しく説明をする。


「今回のサンダーボルトⅡとは違う別な機体で、何処の国、どの機体ともわからない物でした。」

「写真とかは有る?
もしくは特長は?」

「写真はありませんが、特長としては…少しスマートになった撃震…という所ですかな?
武装も外されていた状態でしたので、どういうタイプかはわかりませんが、少なくとも公に公開していない機体である事は間違いないかと。」

「そう…引き続き捜索を頼むわ。」

「勿論ですとも。」


香月博士から依頼を受けると、帽子を被り直し、退室する鎧衣課長


「ハァ…やっぱり上手い事ばかりは進まないわね…。」

「そうですねぇ…。」


鎧衣課長の退室後、溜め息を吐いてから珈琲を飲む香月博士


「そうそう、白銀
以前話した欧州の件だけど、7月前後に行く事が決まったわ。」

「7月前後ですか…。」

「欧州でアンタの変態機動を見せつけてやりない。
欧州の連中に認められれば、後々の手札になる事もなるでしょう。」

「ハイ。
出来るだけ仲間を増やしてきます。」


タケル達の欧州行きの件の話に変わり、後々の手札を増やすようにと念を押される

そしてしばらく雑談をしてタケル達も退室すると、1人残った香月博士が呟く。


「……遂に大きな事件が起きたか…。
いよいよ、『歴史』が動きだすかも知れないわね…。」

先程まで飲んでいた珈琲を飲みきり、立ち上がる香月博士


「―――もう、あんな歴史を起こさせないわよ。」

脳裏に浮かぶのは、無残にも殺害される親友の姿。
きっかけは自分にあるとはいえ、頭部から喰い千切られた親友の死は余りにも無残だった。


「まりも……絶対に死なせないわよ…。」


誓いを呟きながら、香月博士も退室していった。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第九十五話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:fd33fbfd
Date: 2012/01/17 15:12
2000年・6月3日――――


「………孝之さん。」

「なんだ、正樹……。」

「俺達って………諦めて、受け入れるしかないんですかね……。」

「………かもな…。」


とある帝都の城下町にある茶店で、正樹と孝之が団子を食べながら茶を飲んでいた。

しかし、その姿は哀愁が漂い、最早諦めの境地に居た。


この二人がこのような状況になったきっかけは、タケルの『二人目の赤子誕生』にあった。

昨日、6月2日の明朝に沙耶の陣痛が始まり、遂に二人目の赤子誕生という出来事があった。


今回は大体予測はついていた為、すぐに出産の準備は出来ていた。

勿論今回も『横浜の母』である京塚のオバチャンに産婆をしてもらい、無事出産する事が出来た。

今回は女の子で、名前は『春夏』
『丁度春から夏の変わり目に誕生した』というなんとも単純に考えたタケルだが、意外にも好評だった。


ここ迄は別段問題は無かった。
しかし―――問題はこの後からだった。


『良いなぁ~…。
私もこんな赤ちゃん欲しいなぁ~…。』

香月博士の護衛として、A‐01の面々が数名月詠邸に来ていた。
そして遙の一言から始まり、水月・みちる・まりかが同意しながらチラチラと正樹と孝之を見る。

勿論、二人共その視線には気付いていた。
否、気付かない方がおかしかった。


水月達は別に睨んでいた訳ではないのだが、むしろ乙女ちっくな眼差しなのだが、正樹・孝之の視点から見ると―――

………なんとも、獲物を狙う飢えた猛獣達が弱った草食獣をロックオンしたような眼差しで見えていたのだ…。


「……まあ、これ以上待たせるのも失礼……というか、男としてヤバいような…。」

「……だな。」


そろそろ覚悟を決めた(諦め?)二人
遂に決心をした時――――それは起きた。


「うわぁ…これは一大ニュースだ☆
みんなに報告しないと♪」

「な゛っ!?」

「鎧衣君!?」


突如として現れた美琴
今回は何時ものスニーキングではなく、フツーに二人の背後に忍びよって盗み聞きをしていた。


「これは早く知らせないといけないね…♪
ボク、みんなに教えてくるね~☆」

「「ちょ…ちょっと待てーーー!!!」」


二人の制止を無視してダッシュする美琴
否、元よりこの人物は人の話を聞く人物では無かった。


「「待てぇぇぇぇぇっ!!」」

猛ダッシュで追いかける正樹と孝之
今、美琴を止めねば、この後に起きるイベントが容易に想像が出来る。


なんつーか、普通にコクりたい二人だったが、こんな事をすれば、只では済まない事は決まってる。(例・タケル)


「いやぁ……結婚を決意するなんて、きっと喜ぶだろうなぁ…。」

「ちょっと待て、俺はまだ水月達と恋人関係すらなってないのに、イキナリ結婚!?」

「ええっ!?
まだ付き合ってなかったんですかっ!?」


自分の世界に入り込みながら逃走する美琴
その呟きに反応して、驚愕の事実を暴露する孝之

流石はキングオブヘタレ
世界は違えども、ヘタレ具合は変わらないらしい。


勿論、それを知った正樹はスッゲーリアルな顔になりながら驚く。


「何者だ、あの子!?
俺達ですら追い付かないってどういう事!?」

「しかもなんか上手く逃げ隠れしてるんですけどっ!?」

「というか、もう姿が見えねぇっ!?」


美琴の逃走に驚愕する二人
その隠密技術に『あの子何者ですかっ!?』と驚愕する程高く、最早美琴の姿を見失う程だった。


「……なぁ、一番最悪なパターンを考えるとして……あの子の行き先は何処だと思う?」

「一番最悪のパターン………
やっぱり香月博士の下?」

「デスヨネー……………って急げぇぇぇっ!!」


最悪のパターンを考える二人
やっぱりというか…当然というか…香月博士の下と想定し、今までに無い程のスピードでダッシュする。
多分、今なら小型種も追い抜ける。



「今、香月博士はっ!?」

「確か白銀大尉の家な筈。」

「なら、月詠邸にダッシュだぁぁっ!!」


息切れすら忘れる程の勢いで走る二人
………しかし、そこには魔の手があった。


「あれは……。」

「宗像に純夏?」

美琴を追いかけていると、途中美冴と純夏がいた。


「二人共、済まないけど………」

「正樹、そして鳴海中尉。
遂に決心して結婚するとお聞きしました。」

「おめでとうございます☆」

「「もう伝わってるーーーっ!?」」


正樹・孝之に祝福の言葉を贈る美冴と純夏
しかし何故か二人の両手には、黒い革の手袋を装着する。

「――まあ、大体の事は想像出来る。
二人が決心して告白する所迄は事実だろう?」

「まぁ…そうだけど…何故革手袋を着用?」

「けど、このチャンスを逃したら、鳴海中尉の場合、結婚は遠い未来になっちゃいそうだからね。
そのついでに…前島君も結婚しちゃえ☆」

「コッチの質問ガン無視!?
何、その巻き込まれるカンジ!?
俺、ちゃんと結婚する決心したから、フツーにさせてくれないかな?」

「却下。
普通にやったら面白くないだろ、主に私が。」

「やっぱりさせてくれないよな、コンチクショーーーッ!!」


涙を滝のように流す正樹
ヤケクソで美冴達に突撃する………が


「正樹、後は任せた。
俺は例の子を追いかける。」

「ちょっと待てぇぇぇぇぇっ!!」


ちゃっかり正樹をイケニエにして孝之は颯爽と逃走する。


そのあまりにもキリッ♪とした爽やかな表情は、水月や遙でさえ滅多に見た事は無い程の笑顔だった。

まあ…内心の本音では『あの子(純夏)と格闘するのは、もう御免です。』と弱々しい理由だったりする。
まあ…巻き込まれる形で『どりるみるきぃぱんち』を喰らえば、当たり前のような気はするのだが、それを言ったら正樹は訓練兵時代数回程喰らっているし、タケルに至っては、20年近く(以上?)大気圏突破を体験している被害者でもあるのだ…流石はヘタレ王。


「早くあの子を見つけないと…。」


正樹をイケニエにし、美琴を探す孝之
しかし、一向にその姿を見つけられずに焦る一方

そんな時に―――――――


「見つけたっ!!」

「けど、前島中尉じゃないよ?。」

「なら居場所聞き出しちゃえ~☆」

「チッ、訓練兵達かよっ!!」


美琴を捜索していると、巽達に見つかる。

(訓練兵相手なら逃げきれるか。)

訓練兵相手と見て逃走が容易いと考える孝之
しかし―――


「ナスターシャ~!!
コッチだよっ!!」

「……何?」

「良くやったよ、三人共。」


美凪が大声でナスターシャを呼ぶと、祷子と共にやってきた。


(ヤバいな…ナスターシャ大尉が相手だと厳しいかもしれない。)


流石にナスターシャ相手には厳しいと考える孝之
幾ら男女としての体格差や身体能力が上でも、相手は大尉
経験や技術は圧倒的にナスターシャが上と読む。

「鳴海中尉、前島中…「正樹なら、あっちで宗像少尉と純夏少尉と格闘中だぞ。」……え゛っ?」

「「「「口割るの早っ!?」」」」


ナスターシャが正樹の居場所を聞き出そうとすると、セリフを言い切る前に正樹の居場所を教える孝之
その返答の早さに祷子達もビックリ。


「俺、白銀大尉みたいな被害を受けたくないから、そろそろ行くわ。」

「鳴海中尉…気持ちはわかるけど、例え…酷くない?」

「けど…現実問題、かなり事実から脚色された事を香月博士に言おうとしてるんだ…。
『あの』香月博士がこの手の話に暴走しないと思うか…?」

「………………………………………………行ってらっしゃい。」


流石に可哀想になってきたナスターシャ達
孝之を潔く見逃す。
それに感謝し、美琴追跡を再開しようとした――――のだが、やっぱり神様はイタズラが大好きらしい。


「待ちなさい、鳴海
これより先は行かせないわよ。」

「―――――軍曹ッ!?
…じゃなかった、まりも大尉!?」

「鳴海ぃ~…そろそろ公私の切り替えぐらい出来るようになりなさい。」

「す、済みませんでしたっ!!」


まりも登場で驚愕する孝之
そして呆れたような溜め息を漏らし、孝之に近寄るまりも


「話は聞いた。
けど、まあ……ある程度の話は誇張されてる事はわかってるが…それでも鳴海、いい加減覚悟を決めて速瀬達と結ばれろ。
速瀬達が可哀想よ?」

「う゛っ!!
ハイ……スミマセン。」

恩師・まりもに頭が上がらない孝之
的確な指摘がクリティカルし、ズキズキと精神的ダメージを負う。


「まあ…大人しく投降すれば、痛い目には合わないわ。」

「いや、さっきもそうだったけど、何故革手袋を装着?」


ギュッ…ギュッ…と革手袋を装着するまりも
最早脅し以上の説得である。


「ぶっちゃけ、鳴海を倒して速瀬達に差し出すわ。
鳴海はこの手の事にはすぐに逃げるでしょう?
なら、身動き出来ないぐらい痛めつけて差し出せば、逃げられないでしょう?」

「鬼だっ!?」

「けど、一番の原因は貴方よ?」

「グハッ!?」


痛い所をつかれてしまい、言い返せれない孝之
そしてまりもも既に戦闘体制に入り、ファイティングポーズを取る。


「―――という事で、倒れろ、鳴海!!」

「いやぁあぁぁぁぁっ!!」


狂犬に迫られ、泣き叫ぶ哀れな子羊
少し離れて見ていたナスターシャ達が『南~無~……。』と合掌しながら……立ち去る。


―――――――――――――――――――――――――――――――――
一方、当の美琴は―――


「良い味ね。
やっぱり貴女の作る料理やお茶は美味しいわ。」

「有難う御座います☆」

やちるから入れて貰った緑茶を飲む香月博士
みちる・水月・遙・まりかもお茶を飲み、同じ感想だったりする。


タケルへのイタズラも終わり、そろそろ横浜基地に帰ろうかと考えてた矢先――――


「タケル~~☆
大ニュースだよぉ~☆」

「ゴブッ!?」

庭から居間へ移動しも、ダイビングヘッドで飛び込んできた美琴
見事タケルの後頭部にクリティカルし、タケル自身もちゃぶ台に飲んでいた緑茶を吹き出す。


「………何をやってるのよ、アンタ達は…?」

「………俺に聞かないで下さい。」


突然の事に唖然とする一同
香月博士も呆れ気味に一言呟くが、タケルも被害者な訳だから、逆に聞きたかった。


「鎧衣~?一体どうしたのよ~?」

「あっ、そうだっ!!
実は大ニュースがあるんです。」

「大ニュース?何よそれ?」

「鳴海中尉と前島中尉が遂に『プロポーズ』を決心したんですよ~☆」

「「「「「へっ?」」」」」


全員の時が停止する――――――
美琴の一言は絶大だったようだ。


「そ…………それは本当の話かしら?」

「ハイ、コッソリと後ろから近寄って驚かそうかな~って近寄ったら、前島中尉達が『そろそろ覚悟を決めよう』とか『これ以上待たせるのも失礼だ』とか言ってました。」

しばらくして、立ち直ったのが香月博士
美琴の説明を聞き『告白する』という事は本当だと判断する。
そして、みちる達は―――――


「ま、正樹が……遂に……。」

「みちる姉ちゃん…私達…遂に…!!」


身体を震わせながら喜ぶみちる・まりか


「遙…夢じゃないよね…?」

「うん、夢じゃないよ…水月ぃ…。」


孝之が遂に決心したと知り、涙を流しながら感激する。


「鎧衣、当の二人は何処?」

「多分コッチに向かってると思います。
なんかボクを追いかけて来てたみたいだから、偶々遭遇した宗像少尉や純夏さん、ナスターシャさん達訓練兵のみんなや、まりも大尉に教えて逃がして貰うようにしてもらったんだ♪」

「……アンタも容赦無い事したわね…。
まあ、良いわ。
まりもまで参戦してるなら時間の問題ね。」


美琴の追跡の妨害に様々な人物を使った事に対し『…容赦無いね…。』と 全員が呟く。


そんな時――――――――


「ぶへらっ!?」

「うわっ!!」

「ま、正樹!?」


突然『空から』正樹が落下してきた事に対し驚愕する一同
……どうやら、『どりるみるきぃぱんち』を喰らったらしい…。


「何故正樹が空からっ!?」

「……多分純夏の仕業だ。」

「……成る程。
例の『どりるみるきぃぱんち』ね…。」

庭で犬○家みたく上半身が地面に埋まり、ピクピクと足を痙攣していた。
タケルと美琴で聖剣を抜くように抜いてみると、正樹と判明し、みちる・まりかが介抱する。


「正樹、大丈夫?」

「みちる……まりか…。」

「正樹、しっかりして。」


朦朧としている正樹を心配そうに話しかけるみちる・まりか

「前島、コレにサインと拇印を…。」

「「えっ?」」

「ええ…と…名前と生年月日と…拇印………?」

ピヨッてる正樹に香月博士が『複重婚姻届』にサインと拇印を求めると、名前と生年月日をサインし、拇印を押した辺りで我に帰る。

「サインと拇印ゲット♪
伊隅、これでアンタ達は『夫婦』よ☆」

「えっ…?」

(しまったぁぁぁぁっ!!)

香月博士の策にかかり、『やっちまった…。』と項垂れる正樹
離れた場所でタケルが『やっぱりお前もかぁ…。』と呟きながら涙を流していた

「……正樹、本当に私達と…?」

「まあ……その…待たせてゴメン。」

「正樹ぃぃ…。」


嬉し涙を流しながら正樹を抱き締めるみちる・まりか。

それと合わせたかのように、まりもが帰って来た。

「ただいま…って前島、もう来ていたのか?」

「来たというが…飛ばされたというか…。」

「……?
まあ…その様子だと、やっと決心したようだな、おめでとう。」

「有難う御座います。
………ところで、その担いでるのは一体…?」


まりもが担いでる『黒い物体』に注目する一同
正樹が代表する形で質問すると……

「ああ、コレか?
これは鳴海だ。」

「「「ええぇぇぇぇぇっ!?」」」

「流石に姿を晒した形で背負ってくるのもアレなんでな。
適当なモノでぐるぐる巻いて担いで来たんだ。」

「た、孝之ぃぃ!?」


黒っぽい布でぐるぐる巻きにされていた孝之
まりもにフルボッコされたせいか、気を失っていた。

水月と遙が孝之を介抱すると、孝之の方も気を取り戻す。


「水月…遙…実は…。」

「うん、何かしら孝之」

(アレ…?なんで二人共涙を流してるんだ?)


ふと違和感に気付いた孝之
水月と遙が笑顔で涙目になっていた。


視線をずらして見ると、怪しく笑う香月博士と、先程まで探してた美琴
そして苦笑いしているタケルを見て悟る。


(間に合わなかったーーーー!!)

手遅れと理解する孝之
恐る恐る確認をしてみると…。


「なあ…水月、遙…。
もしかしてあの子から何か聞いた?」

「うん、聞いたけど、孝之君から聞きたいな…。」

(やっぱりですか…。)


美琴から聞いたと遙から教えてもらい、力が抜ける
既に最終選択を迫られ、悩む孝之だが――――


(あれは…白銀大尉?)

(気付け…鳴海)


なにやら怪しいサインを送るタケル
それに気付いた孝之も合図を送る。


(白銀大尉、こういう時はどーすれば良いのでしょうか?)

(諦めて受け入れろ。
拒否=バットエンドと思え。)

「グハッ!!」

「た、孝之!?」


タケルとの合図でトドメを刺される。
最早これまでのようだ。

「水月…遙…今まで待たせてゴメンな…。」

遂に(やっと)決心した孝之
孝之の言葉を聞き、緊張しながら告白を待つ二人

「その………一緒になってくれるか?」

「勿論よっ!!」

「宜しく、孝之君」


長い間待たされた言葉を笑顔で受け入れる水月と遙
そして香月博士が持っていた婚姻届にやっとサインと拇印をする
(この後、横浜基地で待機していた碓氷に報告した所、嬉しさタップリな声が聞こえたとか…)


その後、孝之と正樹は『お持ち帰り』されてしまい、普通ならラブラブな雰囲気な筈なのだが、今回の一件で、疲れ果てた孝之と正樹を連れて行く姿は、某宇宙人が連れていかれる姿に似ていたとか…。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第九十六話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:fd33fbfd
Date: 2012/01/24 12:02
2000年・7月10日


「そろそろだな、タケル」

「ハイ。」

「任務とはいえ、海外へ行くのは初めて故に少し緊張するな。」


仲の良い孝志・タケル・政弘の三人が初めての海外に期待を膨らませる。

今回は以前から話にあった『欧州』に行く事になったタケル達

第17大隊が向かう事になり、現在は光線級に注意しながら輸送機で移動していた。


海と空を経由して、細心の注意をしながら欧州へと向かっていた。

そして、更に――――


「うわぁ~…☆
海が綺麗だねぇ~♪
いやぁ~…海外だなんて、父さんに強引に拉致られて、幾度となく逃げ回った時以来だよ。」

「………………ずいぶんと特殊な環境だね…。」

「……流石は鎧衣
家族そろって只者じゃない。」

「……呆れるしかないわよ。」


機内ではしゃぐ美琴
そして突拍子も無い発言に晴子・千鶴が呆れる
(慧に関しては多少慣れた。)


そう――今回の欧州への任務は、千鶴・慧・壬姫・美琴・晴子の五人も参加。
そして他に、結城・霞がXM3や戦術機等の技術者としてやってきた。

霞は今回タケルの武御雷改・羽鷲に搭載したXM3‐EXTRAの調整やバグを取り除く作業等もする為、同行する事になった。


そして、千鶴達の親御さん達には『来年度の為の特別教育』と説明する。
ただし、晴子は一般の家系な為・美琴は元々左近が承知な為、問題は無かった。


それ以外の親御さんには『白銀大尉やまりも大尉も一緒ですから、身の上の安全や教育は大丈夫。
上手くいけば白銀とイイ雰囲気になるかもしれませんけどね~♪』…等と香月博士が発言した所、娘の花嫁姿と初孫がイメージしたせいか、即答で了承を得る事が出来た。
……流石は日本が誇る親バカ達である。


因みに欧州には『香月博士の特別な部隊の隊員で、今回は白銀大尉の部隊に一時的に配属する』…という名目である。


「ねぇ、白銀…。
私のポジションは…何処?」

「ん?
ああ、まだ委員長達のポジション説明はまだだったな。」

慧が自分の配置をタケルに聞き出す。
まるで子犬のように、ワクワクしながら待ち望む。


「彩峰は俺や冥夜と一緒に突撃前衛
委員長・柏木は真耶さんの小隊で強襲掃討と砲撃支援
美琴とタマはまりもちゃんの小隊で制圧支援と砲撃支援だ。
真耶さんとまりもちゃんの小隊は人員が多くなるけど、今回は特例な処置だから、打ち合わせとかを忘れるなよ。」


「「「「了解。」」」」

「…了解(グッ)」


タケルからポジションや部隊配置を聞き、返答をする千鶴達
その中、慧は望むポジションに配置され、少し笑みを浮かべて内心でガッツポーズを取る。

そんな慧の姿を見たタケルは『本当に嬉しそうだなぁ…。』と小声で呟く。


「良いなぁ…私も突撃前衛に憧れてたんだよなぁ~。」

「篁さんもタイプ的には突撃前衛か迎撃後衛だよね。」

「そうだが…だが、今の私では白銀大尉や冥夜様の足下にも及ばない。
今だって、雨宮とエレメントを組んでるから真耶大尉に御迷惑をかける事は少ないが、あのお二人に着いて行く事はまだ無理だ。」

「そ、そんな事は無いよっ!?」


「けど…白銀大尉は勿論だけど、冥夜様も機動力高いからねぇ…気持ちわかるわ。」


突撃前衛に着いた慧を羨ましく見る佳織
唯依も本音では佳織と同じなのだが、自分の力量を考え、少し落胆する
そんな唯依にまりかがフォローするが、佳織の一言でぶち壊れる。


「違いますよ、篁中尉
彩峰の場合、その実力を発揮出来るのが突撃前衛で、それ以外のポジションは不向きなんですよ。」

「えっ?」


すると千鶴が唯依達に説明をする。


「彩峰はタイプ的に格闘タイプで、射撃とかは不向きなんです。
勿論下手って訳ではありませんし、むしろ中の上ぐらいの射撃技術はあります。
……けど、性格が災いしてか、接近戦闘を重視するんですよ。」

少し苦笑いをする千鶴
後頭部にでっかい汗が流れる辺り、やはり悩みの種らしい。


「他に着けるポジションを挙げるとすれば、強襲前衛か……強襲掃討も出来なくは…ないと思いますけど……短刀で接近戦ばかりするかも…。
他のポジションは彩峰の戦闘タイプじゃないから、無理ですね。
迎撃後衛も、出来なくはないですけど…指示を出すタイプじゃないので…。」

「……つまり、接近戦闘タイプ以外は戦力低下になるから、突撃前衛になったと…。」

「…………多分。」


千鶴の説明を聞き、先程の羨ましい気持ちはキレイサッパリ消えてしまう唯依達。


「ホラ、お前達。
そろそろ着陸するから、席に座ってシートベルト装着しろよ。」

「「了解」」

(うーん……なんか『向こうの世界』のまりもちゃんの気持ちがわかったかも…。)


さわぐ部下達を静め、着陸に備えさせるタケル
『向こうの世界』のまりもの気持ちがちょっとわかった気がした。


そして無事着陸すると、タケル達を待っていたのは―――――


「えっ…?」

「………なんですと?」

最初に部隊長である椿、続いて孝志と輸送機から降りると、予想外にも大人数が迎えに来ていた。

「ようこそ、国連地中海方面第1軍ドーバ基地へ。
私は西ドイツ陸軍第44戦術機甲大隊『ツェルベルス大隊』の大隊長のヴィルフリート・アイヒベルガー少佐です。
そして此方の者達は我が大隊の隊員達です。」


アイヒベルガー少佐を含めたツェルベルス大隊の隊員達が、椿達第17大隊に対し、敬礼しながら迎えていた。


「帝国斯衛軍第17斯衛大隊の大隊長を勤める九條椿少佐です。
これだけの大人数での迎え、恐縮です。」

「いえ…本来ならば今回の迎えは数名でしたが、先日日本に送った我が国の戦術機が襲撃に利用されたと聞きます。
本来ならば、その責任は我が国にもある所を、寛大な処置として軽い責任で済ませたと聞きます。」

「そうでしたか…。
ならば貴方達のお気持ち、有り難く受け取ります。
今回の采配は、我が国の政威大将軍・煌武院悠陽殿下の下した事です。
我々も貴方達を責める事はしないので、ご安心下さい。」

「有難う御座います。」

前回の襲撃事件の事で謝罪するアイヒベルガー少佐
その謝罪の姿勢に椿が『責めたりはしません』と語り、謝罪の気持ちを受け止める。


「白銀大尉・まりも大尉、こちらへ。」

「「ハッ」」


椿に呼ばれ、前に出るタケルとまりも


「この二人が今回の新OS・XM3の教導員となります白銀武大尉と白銀まりも臨時大尉です。
白銀武大尉に関しては、このXM3の発案者でして、XM3に関しては彼が一番操る事が出来ます。
そしてまりも大尉ですが、彼に次いでXM3や様々な機体のテストパイロットをこなしてる者です。
また、この二人は我が国の訓練兵の教導員もこなしていますので、教える事に関しては一番適した者達です。」

「訓練兵の教官を?」

「ハイ、自分は時間の許す限りですが、まりも大尉に関しては、元々訓練兵を鍛える教官ですので、その時以外は『臨時大尉』なんです。」

「成る程、そうでしたか。」


椿とタケルの説明を聞き、理解するアイヒベルガー少佐
そしてタケルに近寄り、話しかけてくる。


「君があのXM3を発案者か。
私も渡された映像を見るまでは半信半疑であったが、あの映像が事実ならば、戦力が飛躍的向上し、BETAから故郷を取り戻す事が可能になる。」

「勿論XM3が有るからBETAに勝てる…という訳ではありません。
あくまでもXM3はBETAと戦う有効な手札の一つと考えて貰えると良いと思います。」

「成る程、油断大敵か。
その慢心しない心構え、見習わせて貰う。」

「恐れ入ります。」


英雄・黒き狼王と呼ばれるアイヒベルガー少佐との初めての会話に少し緊張するタケル
何時ものプライベートの喋りをしないように言葉を選びながら語る。

無論、内心まりもや椿達は『いつもみたいな喋り方…しないよね?』……などとヒヤヒヤしながら見守っていた。


「さて、基地内を案内しましょう。
皆さん、着いて来てください。」


「有難う御座います。」

アイヒベルガー少佐の後に着いて行き、基地内を案内される。

そして、基地内を案内が終わり、広めな部屋へと案内されると、そこで各自自己紹介をする。


「シロガネ大尉」

「えっと…貴方は確か…。ララーシュタイン大尉?」

「ウム、そうだ。
私の名前を覚えて貰えて光栄だよ。」


ダンディーな雰囲気を漂わせる紳士・ララーシュタイン大尉
一見、何処かの貴族の執事みたいな顔立ちをしているが………なんか妙なポーズ取ったりする事に関して、ツッコミはしないようにするタケル
……多分、気にしたら負けだ。


「送られて来た例の映像で君の戦術機の機動を見させて貰ったよ。
あのような機動を操る君とは一度手合わせしたい物だよ。」

「ありがとうございます。
ですが、手合わせする際はXM3を操れるようになってからでお願いします。
出来れば、同じ条件で戦いたいので…。」

「成る程、しかしその前に旧OSで一度手合わせして良いかな?
新旧の差をこの身で体感したいのでね。」

「それは構いません。
その時は宜しくお願いします。」

ララーシュタイン大尉に頭を下げるタケル
ララーシュタインも『同じ大尉なのだ、そう畏まる事はないぞ。』と言葉をかける。


「おっと、早速手を出すとは、流石は『音速の男爵』
ちぇ、俺が一番先に倒そうと思ったのに…。」

「ん?
ブラウアー少尉もシロガネ大尉狙いかね?」

「勿論。
けどララーシュタイン大尉の獲物を横取りをするとなると…後が怖いからねぇ…。」


新たにタケルの前に現れるブラウアー少尉
貴族出身なわりには、言葉使いが荒い事にちょっと好感を持つ。


「シロガネ大尉もさ、少なくとも俺の前じゃ、砕けたカンジで話して大丈「いやぁ~そう?
実は固っ苦しい喋りが苦手で、ボロを出すんじゃないかと緊張してたんだよねぇ~♪」早速砕けたよっ!?」

砕けた喋りを進めたブラウアー少尉だが、タケルの砕けた早さにちょっと驚く。
ララーシュタイン大尉も馴れ馴れしいタケルの姿にちょっと驚き、その後直ぐに笑いだす。

「アッハッハッハッ♪
そちらの姿が本来の姿か。
いや、私も別に構わんよ。
但し、あくまでも休憩中やプライベートの時だけだぞ?
仕事中は気をつけたまえよ。」

「ハイ、ありがとうございます。」


ララーシュタイン大尉から許可を貰うと、孝志を呼び出すタケル
そして、ブラウアー少尉と打ち解け、すっかり何時もの喋りに戻ってしまう。


「いやぁ~…日本の貴族にもこういう喋り方する奴いるんだなぁ。」

「いやいや、俺が特例なだけだよ。
俺もタケルに出会って、喋り方に関しては楽になったよ。
それまでは沙耶がうるさくて…厳しいの何の…。」

「沙耶さん、結構厳しいですからねぇ…。」

「何言ってやがる。
タケルに出会ってからは、だいぶ丸くなったぞ?
タケルにぞっこん惚れてから、そういう事にうるさく無くなったんだぞ。」

「へぇー…知らんかった。」

ワイワイと雑談に入り、盛り上がる
すると、興味津々にララーシュタイン大尉が質問してくる。


「ふむ、話からするに、そのサヤという女性はシロガネ大尉の恋人かね?」

「恋人どころか嫁だよ。
しかもタケルの奴……嫁7人も居るんだぜ。」

「「なっ…………なんだって!!?」」

「た、孝志さんっ!?」

「しかも、まだ嫁候補が6~7人居るとか噂が…。」

「「ハーレムだとっ!!?」」


孝志から爆弾発言を告げられ、驚愕する二人
……そりゃ…ハーレム築けば誰だって驚く。

「ちょっと待て…日本って一夫多婦制だっけ?」

「1~2年ぐらい前にな。
まあ、日本の人口もかなり減ったから、条件付きで出来たんだ。
しかもタケルが第一号だったりする。」

「本当かよ……。」

「因みにタケルのモテっぷりは『恋愛原子核』と呼ばれてるらしく、本人がその気が無くても、異性から寄って来るらしい。」

「コンチクショーーー!!
俺にもそのモテっぷり寄越しやがれっ!!」

涙を滝のように流すブラウアー少尉
タケルのモテっぷりに羨ましいく思い、首を絞めながらブンブンと振る。
勿論タケルはピクピクと小刻みに震えている(呼吸困難による震え。)


「―――実はシロガネ大尉はハーレムを築いてるらしい。」

「や~め~てぇぇぇぇぇっ!!」

流石は『音速の男爵』
噂を流すのも速い。
男性陣からは殺意を、女性陣からは呆れと好奇心の眼差しをタケルに一点集中する。


「更に言えば、そこにいる前島中尉…タケルの教え子なんだが…。
タケルと同じでハーレム築いててな、嫁二人・嫁候補が三人居たりする。
流石はタケルの教え子…恋愛原子核も受け継ぐとは…。」

「九條大尉っ!?」

「お前もかぁぁっ!!」


更に何故か正樹まで巻き込まれる事に。
ブラウアー少尉に襟首掴まれ、ブンブンと揺さぶられる。


そして、同時刻――――――



「ハッ…!?
今………とてもオイシイ場面を逃した気分だわ…。
何かしら……このなんとも言えない残念なカンジ?」

日本の横浜基地に居る香月博士が何かを感じ取ったのか、とてもとても残念そうなカンジに悔しがっていた…。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第九十七話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:fd33fbfd
Date: 2012/07/16 21:48
2000年・7月11日


「う゛おおぉぉえ☆」

「駄目だな~…これぐらいで吐いてたら、今のオレの教え子の訓練兵達に笑われるぞ~☆」

「………………訓練兵にこれ……やらせてるのか?」

「ウム。
我が第207衛士訓練学校の『伝統』デスヨ。
ちなみに戦術機適性検査の『伝統』は………最低これの倍よ。」

「鬼畜だ………うぷっ!?」


今日早速XM3の慣熟訓練をしていたツェルベルス大隊の面々。
タケルとまりもが教官として。
正樹・唯依・佳織・まりかの四人はまりもの下で手伝いをしていた。

そして早速『伝統』の犠牲者となったブラウアー少尉はポリバケツのお世話になっていた。

精鋭を誇るツェルベルス大隊だが、タケルの変態機動には驚愕し、ポリバケツのお世話になっているブラウアー少尉を見て、二・三歩下がって引いていた。


「さあ…ブラウアー少尉…。
第2ラウンド……逝きますよ。」

「逝く!?」

「だってやる前に『へっ、こんな慣熟訓練余裕でクリアしてやるぜっ!!』って言ったぢゃないですか♪
やっぱり、言った以上余裕でクリアしないと駄目ですよ。」

「俺の馬鹿……なんでそんな事言ったんだ…。」


油断バリバリで言ってしまった自分を責めるブラウアー少尉
ツェルベルス大隊の仲間達も涙を流しながら見守っている。
けど、誰も助けようとはしない辺り、我が身が大事らしい。


「……本当にシロガネ大尉の教え子は、コレを体験してるのかね…?」

「ハイ…。
俺達全員体験してます…。」

「けど、さっきのアレ…まだ緩いよね。」

「……ウム。」

「………大変だったのだな。」


ララーシュタイン大尉の疑問に素直に答える正樹・佳織・唯依
その言葉を聞いて、正樹達に同情をしてしまう。

『そーら、まだまだいくぞぉぉっ♪』

『……………(ガクッ)』


ノリノリのタケルの変態機動に絶望感タップリで項垂れるブラウアー少尉
気を失わない辺り、衛士としてのプライドが支えていたようだ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――

「さて、全員終わりましたね。」

「…………」


慣熟訓練を終えるタケル達
元気タップリのタケルに対して、死屍累々のツェルベルス大隊の皆さん。
流石にアイヒベルガー少佐とファーレンホルスト中尉とララーシュタイン大尉の三人だけは項垂れる程度で済んだ辺り、流石は実力者である。


「今日はこれぐらいで終わりにしましょう。」

「「「これぐらい!?」」」

「えっ、何かおかしいですか?」

「「「本気で不思議がってる!?」」」


タケルの問題発言に驚く一同
離れて見ていた正樹達からは同情の涙がホロリと流れていた…。


「さてと…正樹、椿さん達に慣熟訓練が終了した事の連絡頼む。
あと、霞にも連絡頼むな。
オレと他の面々は…このポリバケツの処理とシミュレーター訓練の段取りをしてるよ。」

「了解」

タケルの指示に従い、敬礼したのち連絡しに向かう正樹

すると、その会話を聞いていた者達が驚いていた。

「シロガネ大尉…アレだけ動いてスグに訓練ですか?」

「ん…君達は確か…フォイルナー少尉にファルケンマイヤー少尉・ヴィッツレーベン少尉?
解散して休んだんじゃ…?」

「…ちょっと忘れ物を取りに来たんです。」


先程解散して、休息をしていた筈のツェルベルス大隊に所属するイルフリーデ達三人が、忘れ物を取りに戻ってきた。


「元々シミュレーター訓練をする予定なんだ。
だから今回の慣熟訓練も『それほど』厳しく無かったんだ。」

「………アレで厳しく無いですか…。」


タケルの言葉を聞いて、ゲンナリするヘルガローゼ
他の二人も少し血の気が引いていた。


「……出来れば見学…など宜しいですか?
日本のインペリアルガードの戦いを見たいのですが…。」

するとイルフリーデからの見学の案を出して来る。
ちょっと驚いたタケルだが、意外にも返答には渋っていた。


「いや、オレは構わないけど、あくまでもOKを出すのは椿少佐だからね。
その件については、済まないけど、椿少佐の許可を得てくれないかな?」

「わかりました。
ちなみに…時間はまだ余裕あるでしょうか?」

「時間に関しては大丈夫だよ。
だから汗流して着替えてきな。」

「ハッ、ありがとうございます。」


タケルに敬礼をして退室するイルフリーデ達
彼女達の頑張りに感心する。


そして40分後――――――――


「お待たせしました。」

「ああ、来たかい…………って、随分と人数が増えたね…。」

「あはは…。」


イルフリーテの声を聞き振り向くと……随分…というか、ツェルベルス大隊全員が集まっていた。
流石にこれにはタケルや椿もビックリする。


「シャワー室で見学の話をしたら、段々人数が増えていって…。」

「……最終的には大隊全員になったのね。」

「……スミマセン。」


言い出しっぺのイルフリーデも、苦笑いをしながら謝罪の言葉を言うしかなかった。


「別に良いんだけど………その人数じゃ、モニター室は入れ「そんな事も有ろうかと、此処に都合の良い所に速攻で作ったモニターがあったりする♪」なんて都合の良いタイミングでっ!?」


一度に大隊全員はモニター室は入らないと考えてたタケルだが、なんとまぁ………都合の良いタイミングで結城が緊急のモニターを数台作りやがった。


「いやぁ~☆
このセリフ…一度使ってみたかったんだよね~♪」

「良くこのタイミングで…。」

「いやね、多分こんな事もあるんじゃないかな~とは思ってたし、夕呼も『宣伝に使えるからやってね~☆』と、現金なお願い迄されたからね。」

「お見通しですかい…。」


結城と香月博士の予想が当たり、利用する所に呆れ気味に関心するタケル
他のメンバーも苦笑いしていたりする。


「……まあ、これならば画面は小さいですが、全員見る事が出来ますね。」

「ありがとうございます。」


予想外な結城の行動だったが、そのお陰でツェルベルス大隊全員がシミュレーター訓練を見学する事が出来、大隊全員から感謝の言葉を贈られる。

「霞、今回のステージは?」

「…今回のステージは、『明星作戦』です。
皆さんが攻略したハイヴですが、その壮絶な圧倒的な物量のBETAの戦力は侮れません。
ですから、横浜ハイヴのデータを使い、『佐渡島ハイヴ』を想定した訓練をしたいと思います。」

「成る程、横浜ハイヴのデータを使った仮想・佐渡島ハイヴ攻略か。
確かに、いずれは落とさねばならぬハイヴだ。
今からシミュレーター訓練をしておかねば後手に廻るかもしれない。」

「けど、いくらウチの大隊が横浜ハイヴ攻略に成功した部隊って言っても、それはいろんな部隊や支援があったからこその事だよな?
シミュレーター訓練とはいえ、その辺の設定とかもあるの?」

霞の訓練内容を聞き、納得する政弘
しかし孝志が疑問点に対して質問すると――――


「それについては大丈夫。
こっちのシミュレーター機にも『通信式管制ユニット』を付けたからね。
京都の帝都や横浜基地と通信して、より実戦に近い環境に出来るよ。」

「まぢでっ!?」

「まぢです。
帝都では第16斯衛大隊にジャール大隊が、横浜基地ではヴァルキリーズとオーディン隊
あとシルバーチャリオッツ隊が待機しているよ。」

「なんつー大がかりな訓練だよ…。」

「いやね、偶々こっちに来たついでだから、今回の訓練を急遽決めただけだったりするんだよね。」


日本にいる並み居る実力者達との合同訓練と知り、驚くタケル達
しかし、意外にもそれは突発的な事だったりする。


「ちなみに遠距離通信によるラグの時間差は修正してるから安心して大丈夫だよ。」

「……良くこの短時間でまぁ…。」

「この『天才』を舐めたら駄目だよ、白銀君
戦術機以外にだって発揮するよ。
………主にイタズラの方に。」

「駄目ぢゃんっ!!」

「あと、連れてきた整備兵やここの整備兵のお陰だよ。
…彼等の死は無駄にしないよ…。」

「屍と化してるっ!?」

「最近の若い子は根性と体力が無いよね~。」


そしてどれだけの急ピッチな作業をさせたのか、影で整備兵達の屍が死屍累々としていた。
勿論、力果てただけで本当に死んではいなのだが………結城だけはピンピンしている辺り、とんでもない体力と根性である。


「……九條少佐」

「……なんでしょうか…?」

「日本では、このような暴走は……当たり前なのか?」

「全てでは無いのですが………主に帝都と横浜基地では日常茶飯事ですね。」

「……そうか。」


流石のアイヒベルガー少佐も結城のはっちゃけぶりを見て困惑する。
そんな事を質問された為、椿も恥ずかしそうに答える。


(しかし―――この者達は、フェイズ2とはいえ、ハイヴを攻略している。
しかも聞けば、この部隊はハイヴ内突入したにも関わらず、戦死者がゼロと聞く。)


しかし、内心では鋭い視線でタケル達を観察するアイヒベルガー少佐
ハイヴ内突入部隊で死亡者ゼロという偉業を成し遂げた部隊の一つ。
そして世界初の人類の手でハイヴを落とした国・日本

そして未だに、直ぐそばには佐渡島ハイヴが健在するにも関わらず、強かにも生きるその姿に驚かされていた。


(この者達の強さとは一体…。
このシミュレーター訓練を見てわかるだろうか…?)


自分達も故郷を奪われ、そして今住むこの大地でさえ、奪われるかもしれない危機
ある意味日本と同じ状態なのだが、未だに防衛線を押し上げる事は叶わない。

確かに日本とは条件が違うとはいえ、一時期は国内に2つのハイヴが存在したのだ。
それだけでも、その驚異度は計り知れない。


(彼等と我々の違い…見極めさせて貰おう。)

その眼光は正に『狼王』に相応しい鋭い視線を向けていた。
すると、アイヒベルガーの背中に優しく触れる感覚を感じ取る。


「少佐…。
余り固くなりますと、他の者逹にまで緊張を与えますよ。」

「むっ。
…済まない、中尉」

「余り無理に背負わないで下さい。
我々も側に居るのですから、頼って下さい。」

「……ありがとう、感謝する。」


ジークリンデの言葉を聞き、肩の力を抜くアイヒベルガー少佐
その優しく柔らかい笑顔の彼女に見抜かれ、少し苦笑しながら感謝の言葉を告げる。


「そろそろ始まるよ~♪
準備は良いかな~?」


暢気な声で確認を取る結城
その返答に対し、参加者全員が笑顔でOKを出す。

そして――――――


「3…2…1…ミッションスタート。」

霞のカウントと同時に始まるシミュレーター訓練
そして疑似世界だが、あの『明星作戦』を再び体験するタケル達だった…。




あとがき―――――――

しばらくぶりです、騎士王です。

コンチクショーーー(泣)
夜勤が忙しくてネタ考える時間も書く時間もねぇ……orz

毎度毎度更新遅れてスミマセン…。


今回はいつもより短めになりましたのでご了承下さい。


追伸、ジークリンデとアイヒベルガーの二人がお互いの呼び方って…これで良かったでしたっけ…?
違うなら教えて下さい、修正致します。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第九十八話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:fd33fbfd
Date: 2012/02/28 21:25
『イグニス10(タケル)フォックス2!!』

『イグニス26(冥夜)フォックス2!!』

『……イグニス42(慧)フォックス2!!』


突撃前衛であるタケル・冥夜・慧が突撃砲で道を切り開く。
慧もなんとかタケル達について行き、足を引っ張る事は無かった。


ハイヴ内に突入した第17大隊
他には第16大隊・ヴァルキリーズが一緒に突入し、オーディン隊とジャール大隊が殿として『門』で交戦中だった。


今回も第16大隊・第17大隊・ヴァルキリーズが一緒に突入する事で生存率を上げる作戦を取る。


各隊の突撃前衛達が道を切り開き、後続の部隊が支援しながら後に続く。

特に目立つのが、やはりタケル達第四中隊の突撃前衛達
他に第1中隊の真那・駿のエレメントと第二中隊の孝志
そしてヴァルキリーズの水月&遙と遠坂明日香中尉のエレメントが活躍をしていた。


『イグニス5(孝志)からイグニス25(駿)へ
随分腕を上げたじゃねぇか、駿』

『みんなのお陰ですよ。』

『特に月詠中尉のお陰か?』

『『孝志さん(様)っ!!』』


駿をからかう孝志
駿と一緒に息を合わせて真那も照れながら怒鳴る。

そんな様子を見たタケル達や各部隊のメンバーが笑顔と笑い声が出てくる。
そして、そんなやり取りをする事で余計な緊張感等を無くしていた。


『それじゃ、タケル
恒例の…勝負をやるとしますか。』

『良いッスよ。
それで、勝負内容は?』

『そうだな…。
中階層迄辿り着いた時の撃破数と残弾の数で勝負だ。』

『乗った『私も参加しますっ!!』……やっぱり来たか…。』


いつもの二人の勝負をする事が決まると、やっぱり参加の声を挙げる水月。
すると、更に参加者が増えだす。


『ならば、タケルのエレメントとして黙ってはおられぬな。』

『……挑戦者として立候補する。』


『おおっ!?
第四中隊の突撃前衛陣全員参加と来たか♪』


冥夜・慧が声を挙げ、参加する。


『こ、今回は僕も参加しますっ!!』

『おおっ!?駿も参加するとは面白い事になってきたな。』

『それじゃ、今回はエレメント対決で行きますか?』

『良いねぇ。
たまには違う勝負もアリだな。』


駿の参加に喜ぶ孝志
そこでタケルがエレメント対決を提案し、採用する。


『なら、私はタケルとエレメントだな。』

『私は…遠坂中尉、良いですか?』

『ハイハイ、良いゴザンスよ。』

『宜しくお願いします。』


予想通り、冥夜はタケルと、水月&遙は遠坂中尉とエレメントを組む。


『ならば私が五十嵐中尉と組もう。』

『真那中尉!?』

『おっ、恋人同士でエレメント『『白銀大尉(タケルさん)ッ!!』』』


駿は真那と組む事になる。
そして――――――


『ならば私が孝志のエレメントとして組もう。』

『兄貴っ!?』

『たまには兄弟で崇宰の力を見せてやろうではないか。』

『突撃前衛長コンビか…手強いな…。』


孝志は兄・隼人とエレメントを組む事になる。
流石のタケルもこの組には『やべぇ……負けるかも…。』と内心で思う程だ。


そして、問題は―――――――


『………………………………………………榊…行くよ。』

『……随分と長い間ね…。』

『気のせい気のせい…。』


予想外(?)な事に慧自らが千鶴を指名。
しかし、余りの間の長さに相変わらずの反応をする千鶴

一応小隊長の真耶に許可を貰い、慧の頼みをのむ。


『……仕方ないわね。
その代わり、エレメント組むからには勝つわよ。』

『勿論…。』

彩峰機の隣に榊機が近寄り、エレメントを組む事が決まった。
榊機は強襲掃討な為、弾数はカウントされない事になった。


そして――――五組のエレメントが横一列になり、前進する。
途中、レーダーに映る進路に現れた少数のBETAの反応を見て、肉眼で見える位置まで移動したのち―――椿が勝負開始の砲撃を放つ。


スタートダッシュに成功したタケル&冥夜組
機体性能が高い為、一番先頭を取る。

続いて水月&遙と遠坂中尉組と孝志・隼人組のエレメントが追う。

『ぬうぅぅっ!!
流石は白銀大尉の機体ね。
超ハイスペックな性能差で先頭を奪われたわ。』

『冥夜中尉の機体も将軍家専用機だから、白銀大尉の機体性能に匹敵するよ。』

『直線による水平噴射跳躍では敵わないわ
勝つには接敵した際の無駄の無い戦闘をするかしないかによるわ。』


白銀機と冥夜機の背中を追うような感じの水月&遙と遠坂組
孝志・隼人組よりやや前に位置し、二番手となるが、先頭の白銀組には追い付けず、戦闘に入った時に勝負を仕掛ける様子。


『やっぱり先頭はタケルと冥夜か。
まあ、無理して追いかける必要は無い、接敵した時が勝負だ。』

『ハハッ。
相変わらず白銀大尉と勝負する事に夢中だな、孝志』

『たりめーよ。
全然タケルには勝ってねぇからな。
そろそろ勝利数を上げたい所だぜ』

『では、弟の為に兄が支援してやらねばな。』

『頼りにしてるぜ♪』


今回は白銀組には追いつこうとはせずに、戦闘に入った時を狙う事にした。

異例とはいえ、滅多に無い兄弟同士のエレメントに楽しんでいた二人。
今回はタケルを追う事はせずに、兄・隼人とエレメントを楽しむ事にしていた。


そして、遂にBETAと接敵し、戦闘が開始する。


先頭の白銀組が突撃級の突進に対し、倒立反転で回避
同時に回避した突撃級の背部に突撃砲と長刀で攻撃
着地と同時に次の突撃級の突進を左右から地表面滑走で回避しつつ、長刀で脚部を攻撃、無力化にする。


そして遅れて水月組と孝志組が戦闘開始。
水月組は噴射跳躍で一気に突撃級の群の背後に周り、着地と同時に突撃砲での一斉射撃
勿論、背後から迫って来る要撃級の接近に注意しつつ、突撃級を蜂の巣にする。


孝志組は白銀組と合流し、得意の二刀流で戦闘


孝志は跳躍時や横に回避時に独楽のように回転しつつ斬りつけ、隼人は匠のような最小限の回避だけしつつ、一閃を入れる

そして、要撃級が近づいてきた時―――
狙ってたかのように慧・千鶴組が到着する。


『彩峰、突撃級は白銀達に任せて要撃級の相手をするわよっ!!』

『…了解。』


突撃級を無視して、近づいてくる要撃級を標的にする彩峰組

突撃級の後方から攻撃している水月組をカバーするように、まだ離れている要撃級の群れに突撃砲で対処し、一定の距離まで近づいた際、慧が単機で突進する。

『~~~ッ!!
全くアナタって人は~~ッ!!』

『頼りにしてる……。
背中は任せる…。』

『ホンット、後で覚えておきなさいっ!!』

『……忘れておく。』

『あ~や~み~ね~っ!!』


……毎度お馴染みというか…タケルや冥夜・美琴・壬姫・晴子の五人にとっては、何時もの光景に『あっ……やっぱりやったか…。』と呟く。
二人が組んだ時点でわかりきった事なので、余り驚きはしないが、初めて見る者逹にすれば、唖然とするしかなかった。


モニターに映る彼女達の映像や会話を聞けば、犬猿の仲とも見えるが、実際の二人の行動は、正に息がピッタリな程の攻勢を見せていた。


無謀に見える彩峰機だが、その実は背後に居る水月組を守るように、ぶつかるであろう要撃級のみを撃破していく。


今回彩峰機は長刀や突撃砲の他に、腰部に特殊短刀を装備する。
長刀に比べれば、リーチが短い為、使いやすく
通常の短刀に比べれば、リーチが長く、尚且つ耐久性・切れ味が高い為、長時間使用する事が出来る。


慧は特殊短刀で二刀流となり、なるべく最小限の攻撃で要撃級の首や前腕部等を切断し、撃破もしくは戦闘不能にしていく。


しかし、例え善戦しようとも、あくまでも単機。
紅蓮や神野のようなチートではない限り、いつまでも持つ訳がない。


『全く……こういう時だけ頼りにされても困るわよっ!!』


しかし―――その彩峰機を守るように、榊機が空中からの支援砲撃で彩峰機を守る。
タケルや冥夜程ではないが、鍛え上げたアクロバットを駆使し、要撃級を駆逐する。

なんだかんだ言いつつ、慧を心配する千鶴
特に正月では、自分を守って貰った恩があった為、今回は慧を立てるようにサポートに回る。


『……そんな事は無い…。
今は私より榊の方が強い…。
それだけは誰よりも認める…。』

『えっ?』

『…だから…直ぐに追い付いて…追い抜く。』

『……簡単には抜かせないわよ。』


お互いに照れながら言葉を交える。
認めあってるライバルであり、戦友な為、その闘志に火を着ける。


『まったく…単機で突撃するのは関心せんぞ。』

『無茶したら駄目ですよ。』

『むっ…もう追いついた。』


彩峰機を守るように真那・駿組が合流する。
彩峰機の周りの要撃級を無駄な動き無しに切り裂く真那機
タケル直伝のアクロバットで次々と撃破していく駿機
互いに息の合った無駄の無い動きに慧も闘志を燃やす。


『イグニス26、これより後続が到着する間、要撃級を撃破する。
但し、戦車級がそろそろ到着する為、一定の距離まで近づいた際後退しつつ、要撃級と共に対処する。』

『了解』


真那の指示に従い、戦車級に注意しつつ、要撃級を撃破する駿
もはや、エース級クラスに成長した駿を見て、タケルを始めとして、第17大隊のメンバーが誇らしく見守っていた。


『やるじゃないか、駿
もう突撃前衛長を任せても大丈夫だな。』

『だな。
駿、第二中隊で突撃前衛しないか?』


『タ、タケルさんっ!?
孝志さんまで!?』


すると突撃級を後続に任せ、上がってくる白銀組と孝志組
駿の成長に心から賛辞を贈る。


『現在、殿をしていたオーディン隊とジャール大隊がそろそろ合流する事になる。
要撃級と一緒にある程度戦車級も撃破し、後続と合流したら、戦闘離脱するぞ。』


『『『了解』』』

後続と合流次第、戦闘を離脱して先に進む事になったタケル達
殿をしていたオーディン隊やジャール大隊に撃墜者がいない事に安堵する。


『フム、やっと追いついたが…なにやら楽しそうな事をやってるようだな。』

『ハア…また水月が勝負に出てるとは…。』

『アハハ……』


やっと合流したジャール大隊とオーディン隊
毎度お馴染みのイベントを見て少し興味を引くラトロワだが、一方新婚ホヤホヤの嫁二人が勝負に参加してる為『また参加したのか……。』と呆れ気味な視線で見る孝之

その複雑そうな様子を見てか、今回ジャール大隊に参加したナスターシャが苦笑いをする。


『水月……また勝負に参加しちゃって…。』

『た、孝之!?』

『気持ちはわからんでもないけど…程々にな。』

『う゛っ!?』


ラブリーな旦那からの『やり過ぎは厳禁』と警告を受ける水月
流石は手綱の引きに慣れていた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


「……なんだって…?」

タケル達の活躍をモニター越しにに見るツェルベルス大隊一同
余りの予想外な会話等に唖然とする者までいた。

「………なんか随分と楽しんでますね…?」

「オイオイ…。
本当にこのメンバーがハイヴを攻略したのか…?」


余りの予想外な光景に目をゴシゴシと擦るイルフリーデ
ブラウアー少尉も疑問視するが、ララーシュタイン大尉やアイヒベルガー少佐等は鋭い眼光でその中身を見極めようとしていた。


「会話だけで判断するのは良くないぞ、ブラウアー少尉」

「会話…という点だけで見るならば、我々とて似たり寄ったりだと思うが?」

「そりゃ…そうだけどよ…。
けど任務中に勝負とかはしないだろ?」

「アレは部隊の余計な緊張感を取り除いたり、士気を上げる事を鑑みた案だと思うが?」

「戦闘を見てもわかると思うが、彼等の戦闘は我々とはかなり違う。
突撃級の対処もそうだが、通常我々ならば噴射跳躍で回避し、反転したのち攻撃するか、突撃級の突進を横に回避したのち攻撃するのが当たり前だか、彼等は倒立反転や地表面滑走をうまく使い分け、通常の対処方法よりロスが少なく、何より回避している最中に攻撃をしている。
その短縮した時間差が生存率を上げる要因に見えた。」

冷静なアイヒベルガー少佐の分析にゴクリと息を飲む一同
モニターに映るタケル達の戦闘を見て、『確かに…。』と誰かの口からこぼれる。


「今の我々にあの動きを真似をしろと言われても出来ないだろう。
確かに近い事ならば出来るが、アレを完璧にこなすには…XM3の力やそれを使いこなせる衛士としての技量が必要だ。」

「確かに。
私やアイヒベルガー少佐でも『今は』無理だろうな。
まあ…いずれはこなしてみせるがね。」

「無論だ。」


ララーシュタイン大尉の言葉に笑みを浮かべ、強い意欲を見せるアイヒベルガー少佐


「それにしても…シロガネ大尉の機動…。
少佐はアレを見てどう思いますか?」


タケルの機動に注目するヘルガローゼ
同じ突撃前衛として、タケルの戦闘には強い興味を持つ。


「流石にアレは凄いな…。
機動の鋭さやキャンセルする技術は絶賛する。
また、視野も広く、いかなる事に対する対処がちゃんと出来ている。
同じ突撃前衛として、彼は興味を引くには十分だと思うが…我が隊の突撃前衛長はどう思う?」

「私も彼の戦闘には興味を持ちます。
機動…という点では、負けますが、他に関しては負けるつもりはありませんが?」

「流石は『白き后狼』
頼もしい一言だよ。」

ジークリンデの言葉に笑みを浮かべるアイヒベルガー少佐
ララーシュタイン大尉もその強気な姿勢に頼もしく思い、彼女の評価を更に上げる


「さて…これからが正念場だぞ。」


強い興味を持つアイヒベルガー少佐
モニターに強く視線を向け、まだ見ぬ展開に期待していた…。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第九十九話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:fd33fbfd
Date: 2012/05/24 21:05
『――――イグニス6(政弘)から各機へ。
反応炉を破壊を確認。』

政弘から通信が入り、全機体から歓声が響く。


遂に反応炉の間に到着したタケル達
撃墜者は数名いたものの、全員救助出来た為全員生存していた。

救助の際も一旦管制ユニットから降り、救助対象の管制ユニットまで向かい、救助まで行い、再び機体に搭乗するという本格的な訓練も交えていた。

これにはツェルベルス大隊のメンバーも驚いていた。


「……流石に驚いたな…。
本当に全員生存して反応炉を破壊しやがった。」

「それにしても、あのS11を設置したイグニス43(美琴)の手際の良さ…アレには驚いた。
反応炉破壊にしろ、途中後方からやって来るBETAの大群の進行を止める際、封鎖に使った際も素早い作業には絶賛するしかあるまい。」

「特にあの装甲の応急補修フォームを接着剤代わりに使った機転…素晴らしいと思います。」


S11の設置に貢献した美琴に高い評価を与えるララーシュタイン大尉とジークリンデ中尉
突然の機転と設置の速さに絶賛する。


『これより地上に帰還する。
反応炉を破壊したからといって浮かれるなっ!!』

『『『了解ッ!!』』』


「な……なんだってっ!?」

「まだ…続くだと…?」

反応炉を破壊しても訓練が続く事に驚くツェルベルス大隊のメンバー
流石のアイヒベルガー少佐も、その事には驚愕していた。


「別におかしい事は無いでしょ?
実際にだって、反応炉破壊して終わりって訳じゃ無いんだから。
反応炉破壊したら地上に帰るでしょうに?」

「そりゃ…そうだけどよ…。」

「知ってる?
ハイヴ攻略で一番危険なのは、BETAによる奇襲攻撃と…反応炉破壊した後が一番危険なんだよ?」

「えっ?」


結城の発言に驚くイルフリーデ
他のメンバーも結城の発言に注目する。


「反応炉を破壊するとね、BETA達は何らの方法でそれを知り、生存している全てのBETAが脱出するんだよ。
…その際、もし退却中のBETAと遭遇したら……最低でも数万…下手したら十万単位の大群と戦闘する事にもなるんだよ。」

「「「―――ッ!?」」」

「現にこの『明星作戦』でも、数万規模のBETA群と接触して、危うく全滅しそうだった部隊だって有ったんだから。」

「なんと……。」

「それに奇襲攻撃だって、今回は出て来なかったけど、『母艦級』が現れたなら……死亡者だって出ただろうね。」

「母艦級…とは?」

「推定値で全高176m・全長1800m・全幅176mと…BETA中最大級の種さ。
特徴は運送用BETA…とでも言えば良いのかな?
闘士級・兵士級・戦車級等の小型種を始め、突撃級・要撃級・要塞級・光線級・重光線級を胎内に格納し、地中で移動しながら目的地まで運ぶBETAなんだ。
戦闘中時々不可思議な地震が有るじゃない?
実はアレは母艦級が移動している揺れなんだって。」

「なんだと…そんな種がいるなんて初耳だぞっ!?」

「けど、『本土防衛戦』の時にも出たみたいだよ?
『明星作戦』の時も、ハイヴ内に突入したとある部隊が、母艦級が運んできた要塞級に全滅したって話も聞いてるよ。」

「ハイヴ内に要塞級って……なんの冗談だよ…。」


結城の発言に絶句する一同
まだ知らぬ母艦級の存在に驚愕の表情を出していた。


「だからね、反応炉を破壊したら『ハイ、終わり』じゃないんだよ。
反応炉を破壊して折り返し地点―――つまり『半分』なんだよ。
そこの所、殆どの軍が勘違いしてるんだよ。」

「しかし…ハイヴ突入した部隊の生還率は限り無く低い…。
だからこそ、その考えに至らなかったのでは?」

「逆に聞くけど、何故至らなかったの?
戦力としても、或いは貴重なデータとかも回収しなければならないのに、何故『帰還時の対処』を考えないのかな?
今の人類にはそんな猶予は無いんだよ?
その為には1人でも多くの衛士や僅かなデータを回収しなければ進展なんかする訳が無い。
例え低い確率だとしても、1%の成功率でも上げる事が人類にとって『希望』に繋げる道なんじゃないのかな?」

「………ッ!!」


ルナテレジアの発言に反論する結城
その発言に対し反論が出来ず、言葉を失う。


「彼等はね、ただ単に生き延びたいから頑張ってるんじゃないよ。
後の衛士達の為、そしてまだ幼い子供達や怯えて暮らす民達の未来の為に頑張ってるんだよ。
その為には1人でも多くの衛士達が生還するしかないんだ。
そして…自分にとって、大切な人達の『幸せ』を守る為には、生き残らなければならない。
その為には…仲間の命を救う事も大切だけど、一番大事なのは、自分の命を救う事だと思うよ。」

「自分の命を救う…?」

「そうだよ。
自分の命を救う事が出来なきゃ、他人や仲間の命を救う事なんて出来やしないだろ?
例え、自分の命を引き換えに仲間の命を救っても、残るのは守られた者への『罪悪感と後悔』と残された者逹への『不幸』だけだよ。
身代わりになって死んだ事で、守られた者はもしかすると無理を重ねて死を求めるかもしれない。
身代わりで死んだ事で、残された家族達の悪い方向に未来が変わるかもしれない。
…だから彼等はね、自分の命を救う事で仲間達や残された者逹の未来を守る険しい道を選んで、日々頑張ってるんだよ。」

結城の重い言葉を聞き、沈黙するツェルベルス大隊の一同
中にはその事を理解している者も数名居たが、改めて言われ、その言葉の重みを再確認する。


「まあ……愚痴っぽく説明してゴメンね。
けど、知って欲しかった…彼等の強い意志を
理解して欲しかった…彼等の強い願いを。」


結城の想いに心を打たれる。
一部の女性陣の目尻に涙が滲み出す者もいた。


「あっ、白銀君
さっき勝負で一番になれなかったから罰ゲームねぇ~☆」

「「「雰囲気ぶち壊しっ!?」」」


さっきまで良い話してた筈の結城だが、ボケに走り、雰囲気ぶち壊しになる。
勿論突然の発言にタケルも『何故ッ!?』と呟く


「罰ゲームはねぇ~……『強制音速機動でハイヴ内3往復』ってのはどうかな~?
勿論わざとに撃墜されたら………わかってるよね?」

「「「鬼畜だよ、この人!!」」」


クックックッ…とアブナイ笑みを浮かべながら、タケルを追い込む結城
ツェルベルス大隊の皆さんも五歩下がって本音を呟く。


『相変わらず鬼畜野郎ですね、コンチクショーーーーーッ!!』

「アハハッ☆
以前言ったよね…その言葉は誉め言葉だとっ!!」

涙を流しながら、本音を口にするタケルだが、むしろニコニコと笑みを浮かべながら『アリガトウ♪』と本気で喜ぶ結城


その様子を見たツェルベルス大隊の皆さんや、シミュレーター訓練に参加している皆さんも涙を流しながら、南無南無…と合掌する。

………助ける…?
そんな人…居ないに決まってるじゃないですか。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


「お疲れ様です」

「ありがとうございます。」


シミュレーター訓練を終えたタケル達
タケル『以外』は管制ユニットから降り、休憩に入る。

……………タケル?
タケルは――――


『コンチクショーーーーッ!!
後で覚えてろよーーーーっ!!』

「やれるもんなら、やってみてね~~~☆」


タケルは………本当に罰ゲームを喰らい、現在強制的に音速機動を常時使用状態でハイヴ内を飛び回っていた…。


勝負の勝者は、予想外な事に水月組
白銀君や孝志組は途中、合流した仲間達を守るように進んでいた為、勝負に影響が出てしまった。


彩峰組は純粋に撃破数で敗北
駿組も彩峰組を守っていた為、途中から勝負を捨てていた。
なんだかんだ言え、部隊の生存を重視していた。

そんな事に気づいた水月は『今回の勝負…ノーカントです。』と発言。
自分が未だに未熟と再確認し、『次回は完全な意味で勝利してみせますっ!!』と決意を新たにする。


「お疲れ様です。」

「ありがとうございます。」


シミュレーター訓練を終えた椿達を迎えるツェルベルス大隊の一同
ジークリンデが椿にタオルを渡す。


「大変勉強になりました。
日本の戦術や戦術機の操作技術
そして何より生還する強い意志は、我々も見習う所です。」

「それは何よりです。」


オホホ…ウフフ…と天使の笑顔を絶やさない椿とジークリンデ
しかし―――――


「……なあ、タカシ
中尉とツバキ少佐……なんか有ったのか?」

「知らん……つーか、俺が聞きたい。」


孝志やブラウアー少尉達からの視線から見ると、静かに…そして激しく火花を散らす椿とジークリンデの激突シーンに見え、距離を離す。

あのアイヒベルガー少佐ですら、自分の副官に近寄れず、二・三歩下がる。


「貴女…確かミキって言ったよね?
凄い精度ね、貴女の狙撃。」

「そそ…そんな事ないですうぅぅぅ!!」


イルフリーデ・ヘルガローゼ・ルナテレジアが壬姫達の下でワイワイと騒ぎ出す。
特にイルフリーデは壬姫を気に入り、抱き締めながらナデナデする。


「それにしても、先程の手際の良さは驚きましたぁ。」

「えへへ…そんな事無いよ~☆」

「良いや、大した奴だよ。
ウチの部隊にも欲しいぐらいだよ。」

「中尉っ!?」

「アンタ達もこの子を見習うんだよ、ああいった技術が時として作戦の成否を左右されるんだからね。」

「「「ハッ!!」」」


ルナテレジアと美琴が会話している所を、途中からやってきた『ブリギッテ・ヴェスターナッハ中尉』が美琴を絶賛する。
勿論そんな美琴は顔を真っ赤っかにしながら照れていた。


すると、バタバタと走る足音が響き、シミュレーター室に入って来る。


『ハァ…ハァ…間に合わなかったか…。』


息を切らせて入って来る一人の青年
まだ幼い感じはあるものの、その整った顔と鋭い目
『クールなイケメン』とも見える青年が息を整え、同時に落胆する。


「どうしたの、『清十郎』?
息を切らせて…?」

「いや…日本から斯衛軍が来て、今シミュレーター訓練をしていると聞いてたので…。」

「なら残念だな、先程終わってしまったよ、真壁候補生」

「真壁…だと?」


イルフリーデが『清十郎』という青年の下に近寄り、話しかける
どうやらタケル達のシミュレーター訓練を見学に来たようだが、ブリギッテに『もう終わったぞ?』と答えられ、落胆する。

すると、真那が清十郎の名前が聞こえ、清十郎に話しかける。

「貴様、もしや『赤』の真壁か?」

「ハイ、自分は日本斯衛軍衛士養成学校二回生の真壁清十郎候補生と言います。」

「そうか。
私は帝国斯衛軍第17斯衛大隊第一中隊所属の月詠真那中尉だ。」


真那に敬礼しながら自己紹介する清十郎
その堂々とした態度に関心し、真那も自己紹介をする。


「真壁候補生。
何故貴様がこのドーバー基地に?」

「卒業生全員研修で来てるんです。」

「そうか、頑張るがよい。」

「ハイ!!
…あの月詠中尉…すみませんが…。」

「なんだ?」


清十郎と短い会話をする真那
すると清十郎が立ち去る真那を呼び止める。


「その…白銀武大尉…は何処にいるのでしょうか?」

「はっ?」


予想外の質問に唖然とする真那

「白銀大尉ならば……………ホラ、そこのモニターに」

「えっ?」

真那の指指す先には―――



『うっぎゃーーーっ!!
何、この数のBETA!?
優に十万越えてますよっ!?』

「アハハ~~~☆
ちょっといぢくらせて貰ったよ♪」

『後で覚えておけよーーーーーーーッ!!』


結城のイタズラに翻弄されてるタケルが映っていた……。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第百話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:fd33fbfd
Date: 2012/02/28 21:46
「あの……大丈夫でしょうか…?」

「………………だいじょうばない。」


罰ゲームが終了し、真っ白な灰になるタケル
心配して声をかける清十郎だが、その疲れっぷりのタケルの姿を見て『駄目かも…?』などと思ってしまう。


ちなみに罰ゲームはクリアならず。
二往復で限界か来たタケルが要撃級に挟まれてしまい、ク○ス○ンバーばりの攻撃を受けてしまい、撃沈。
『拉麺人の気持ちがわかった瞬間だった…』とタケルは呟く。


「あの…白銀武大尉……ですよね?」

「そうだけど……君誰?」

「あ、ハイ。
自分は日本帝国斯衛軍衛士養成学校二回生の真壁清十郎候補生です。
此度は卒業生全員がドーバー基地で研修中でありますっ!!」


何故か真那の時と違い、少し緊張気味に自己紹介する清十郎
タケルもそれに気づき、『楽にして良いよ。』と声をかける。


「『白銀の守護者』と呼ばれる白銀大尉に会う事が出来、光栄でありますっ!!
自分も白銀大尉の噂は良く耳にし、その…貴方のような衛士になりたいと思ってます。」

「うわっ、ムズ痒いって。
そんな大した奴じゃないって。」


ベタ褒めの言葉に流石に照れるタケル
清十郎の緊張の理由はどうやらタケルへの『憧れ』だったらしい。


「清十郎、シロガネ大尉の事知ってるの?」

「ハイ、日本で良く噂を聞きます。
『白銀の守護者』という呼び名は、少なくとも養成学校の中では全員が知る程でして、流石に名前を知ってるのは…極一部しか知らないと思います。」


イルフリーデが清十郎に近寄り、質問する。
すると清十郎の口からタケルの渾名等の話が出てくる。


「『本土防衛戦』に姿を現した白銀のカラーリングの不知火・改
今までに無い機動を操り、BETAを次々と撃破する凄腕の衛士。
光線級が現れた際、単機で飛び込み、光線級のレーザー照射を回避しながら殲滅した話は有名です。」

「ええっ!?
シロガネ大尉、光線級のレーザー照射の中を飛び込んだんですかっ!?」

「いやぁ……今思えば、なんつー無茶したんだろうと思ってるよ。」

タケルの無茶っぷりを知って驚くイルフリーデ
離れた所で話を聞いていたアイヒベルガー達も呆然とし、『本土防衛戦』を体験した椿達に至っては、『そんな事もしたわねぇ…。』と苦笑いしながら呟く。


「自分も、白銀大尉の事は尊敬してまして…その…一度会ってみようと思ってました。」

「成る程。
しかし…がっかりしただろ、噂の人物がこんな奴で。」

「い、いえっ!!
先程モニターを少し見ましたが、あのスピードの中で繰り出す戦闘。
撃墜はしてしまいましたが、『凄い』の一言しか思い浮かびません。」

「いや…アレはとある鬼畜な技術者のおかげで必死になってただけだって…。」

「……それでも音速機動で二往復出来る事は凄いと思うんですけど…。」

憧れの自分に会いに来たと知るタケル
情けない姿を見せて『落胆しただろ』と問うと『そんな事ありません』と返答を返す清十郎
そのそばで、小さな声でイルフリーデがタケルの先程の結果について苦笑いしながら呟く。


「シロガネ大尉も疲れてる所だ。
今日はこれぐらいにして解散しようではないか。」

「あ、ハイ。
それではシロガネ大尉、ごゆっくりお休み下さい。」

「アリガト。
さてと…汗でも流すかぁ…。」


アイヒベルガー少佐が気を使ってくれ、今日は解散する事になった。
タケル達も解散し、各々自由行動となる。


―――――――――――――――――――――――――――――――――

「うぃ~…腹減った…。」

「もうすぐPXだから我慢するがよい。」


PXへ向かうタケル・嫁達三人と千鶴・慧・美琴・壬姫・晴子
PXに着くと、メニューを見て悩むタケル達だが、慧に至っては『………ヤキソバが無い…。』とへこんでいた。


「さてと…何処に空いてる席は…『シロガネ大尉、こっちこっち~♪』……あれはフォイルナー少尉?」


今晩の食事をパスタに決めたタケル、料理を持って席を探していると、イルフリーデが手を振って招いていた。

食事を運んで向かうと、イルフリーデ・ヘルガローゼ・ルナテレジアの三人娘と、清十郎と数人の日本人が食事をしていた。


「シロガネ大尉達も今食事ですか?」

「そっ。
そっちは…食べ始めって所か?」

「ハイ、先程の訓練とかの話で盛り上がってた所にシロガネ大尉達がやってきたのを見かけたので。」

「清十郎もそうだけど、他の候補生達もシロガネ大尉達に会いたかったみたいだし♪」

「…成る程。」


イルフリーデ達も丁度食事を始めたばかりだったらしく、まだ食事が八割程残っていた。

どうやら先程迄の訓練の話で盛り上がり、話に夢中になっていたせいで少し食事が進んでなかったようだ。

たまたまタケル達を発見し、呼ぶと清十郎以外の候補生達が緊張でカチカチに固まっていた。


「俺は帝国斯衛軍第17斯衛大隊第四中隊所属の白銀武大尉だけど、なんか聞きたい事あるか?」

『あああ…あの…白銀大尉は…あの『白銀の守護者』ですよね…?』

「ん~まぁ~…そう呼ばれてる。
まったく…大袈裟な渾名だよなぁ…。
ちなみに君の名前は?」

「すすす…スミマセンっ!!
私は…日本帝国斯衛軍衛士養成学校二回生の『楯都鈴鹿』と言いますっ!!」

「いや、だからそんなに緊張しなくても良いって…。」


ガッチガチに緊張しまくってる楯都候補生を落ち着かせようとするタケルと清十郎
内心では『築地みたいな子だな…』と思っていたりする。


(……清十郎…この子大丈夫?)

(……これでも一応候補生でNo.2の実力なんだけど…。)

(……そうなんだ…。)


イルフリーデが清十郎に小さな声で訪ねると、以外にも好成績の楯都候補生にちょっと驚く。

その後、雑談等で賑わうと、食事も後半にさしかかってた所に霞がやって来る。


「……間に合いました。」

「お疲れ様、霞
私の隣が空いてるぞ。」

「ありがとうございます。」


タケルの隣に座ってた真那の隣が空いた所に霞を招き、座らせる。


「おっ、『合成サバ煮定食』があったのか?」

「ハイ…サバ煮定食…好きです。」

「そっかそっか~♪
これでニンジンも食べれるようになれれば良いんだけどな~。」

「………ニンジンは…苦手です…。」


予想外にも合成サバ煮定食があった事に驚くタケル
日本食を好んで食べてくれる霞が可愛らしく見え、ナデナデする
けど、意外にも釘を刺すように好き嫌いを直すように発言する辺り、親バカ(兄バカ?)みたいな事を言う。


すると――――
何かが閃いたかのように行動を起こす霞
右手に持つ箸を上手にサバ煮をつまんで―――


「白銀さん…。」

「ん、なんだ霞「……あ~ん。」………ゑっ?」

「「「「―――ッ!!!?」」」」


突然の『あ~ん攻撃』に霞以外の者逹が時が止まる。
周辺にいる人達ですら、突然の事に時間停止する。


「………………………………いやぁ~…霞クン、ソレハキミノオカズダヨ?」

「あ~ん……。」

「いやいや…遠慮しないで食べ「…あ~ん。」……かす――ッ!?」


突然の『あ~ん攻撃』に戸惑うタケル
説得(?)するが、問答無用にあ~ん攻撃を止める様子は無い。
そんな時に―――タケルに複数の殺気が篭った視線を感じる。


「「「「………………(食べるな食べるな食べるな食べるな…。)」」」」


冥夜を始め、千鶴・慧・美琴・壬姫・まりもの殺気の篭った痛々しい視線を受けるタケル
途中、美琴と壬姫が『自分も真似をすれば…』等と考えたが……与えるオカズが無く、痛々しい視線が三割増しになる。
慧に至っては、何やら怪しい怨念を送りつけている様子。

そんな殺気を周辺の人達も感じてる訳で………………PXに居る皆さんも逃げる事すら忘れる程の恐怖を感じ取り、その場でガクガクブルブルと震えるしか出来なかった。


「か……霞……それは「……嫌ですか…?」いや、そうじゃなく…。」

「…………(ウルウル)」

「わわわ…わかった、だから泣く「あ~ん…。」………(パクッ)」

「「「「――――――ッ!!!」」」」


悲しそうな表情・涙ウルウルのコンボで撃沈するタケル
覚悟(?)を決めてパクッと食べると、冥夜達の殺気が一気に膨れ上がる。

勿論、皆さん恐怖で失神者続出
候補生の鈴鹿に至っては、天に召されそうデスヨ?


「し~ろ~が~ね~?
わざわざ遥かドーバーに来てまで………見せつけてくれるわね。」

「ちょっとまて、委員長っ!!
これには海より深い訳が…。」

ブチ切れる千鶴
今宵の眼鏡は何時もより輝いてると言わんばかりに殺意の眼光がギラギラと光りだす。


「勿論、O・HA・NA・SHI・してあげるわよ。」

「ま、まりもちゃん、そのお話意味違うっ!!」

――狂犬モード発動。
ターゲット捕捉、ガッチリと獲物の(タケル)両肩を掴み、逃走不可能。


「………今日の皆流神威は良く斬れるぞ?」

「落ち着け冥夜っ!!
あとそれ本気で怖いからっ!!」

シャキン…と鍔に親指を当て、鯉口を切る。
抜刀準備OK


「……白銀……新技開発に協力…。」

「ダメダメっ!!
っていうか、まさかSTAに代わる新技!?
って……うおっ!?」

STA(スペース・トルネード・アヤミネ)に代わる新技開発の獲物としてタケルを指名する慧
するとタケルの手元に食器のナイフがカツンとテーブルに刺さる。


「ゴメンねぇ~♪
手が滑っちゃった~……エヘッ♪」

「『エヘッ♪』じゃねぇっ!!
っていうか、今ナイフをナイフスルーしましたよね?」

ブチ切れてる美琴
表情は笑顔、けど今の美琴は狩人(ハンター)のように獲物に狙いを定め、フォークをナイフスルーしようと構える。


「タケルさぁ~ん♪
コメカミにゴミがついてますよぉ~☆」

「いゃあぁぁっ!?
タマ、拳銃の銃口でコメカミグリグリしないでぇぇぇっ!!」


流石の壬姫も堪忍袋の緒が切れ、携帯用の拳銃をグリグリとタケルのコメカミに零距離ロックオン完了
安全装置?なんですか、ソレ?


乙女の凄まじい嫉妬の嵐にタケル…カウントダウン開始。
勿論、召される意味で。

そして皆さん(冥夜達)タケルを力強く抱き締めて(拘束)


「全速力っ!!」


千鶴の号令と共に全速力で立ち去る。
タケルの断末魔が響くが、誰一人助けに向かう者は居ない…。


「………白銀大尉に対し……敬礼。」

ヘルガローゼがポツリと呟くと、PXにいる全員が犠牲者(タケル)に対し敬礼する。
勿論、黙祷の意味で。


「……真耶大尉は行かなくて良いんですか?」

「別に。
流石に大人気ない真似をするのも恥ずかしいしな。」


予想外にも真耶だけは残り、晴子の問いに冷静に答えながら茶を飲む。


(………大人気ない……ねぇ……けど……さっきの『アレ』……。)


しかし、晴子は見た――――
真耶が嫉妬で影でタケルの横っ腹に携帯していた短刀の柄をコツコツと当ててたのを―――
無論、鯉口を切っていた状態で。

ぶっちゃけ、彼女もキレていたのだ。


(白銀……御愁傷様…。)

唯一の理解者である晴子が本心で同情していた……。


「いやぁ……びっくりしたね……。
まさか『あ~ん』ひとつで、あそこまでなるとは…。」


流石に同じ女性でも驚いていたルナテレジア
ヘルガローゼも頷き、同意すると、何やらイルフリーデが思いつき、行動する。


「清十郎~♪」

「なんで「あ~ん☆」―――――ッ!?」


第二次あ~ん攻撃勃発。時間停止再び。


今度はイルフリーデが清十郎に対し、あ~ん攻撃を仕掛ける。

勿論PXに居る皆さんが一斉に注目する。


「あの…フォイルナー少尉…これ「あ~ん☆」……ですか「あ~ん☆」…い「あ~ん☆」………(パクッ…バタリ)」


必要迄にあ~ん攻撃を仕掛けるイルフリーデに観念し、食べる清十郎
同時に『さっきの出来事が自分にも起こるのか?』と考えた清十郎は、恐怖の余り、気を失ってしまう。
しかし実際には、単にイタズラッ子をしただけなので、そんな事が起きる筈はなかったのだ。


「ぐっじょぶです…フォイルナー少尉…。」


あ~んを成功させたイルフリーデに称賛を贈る霞
そして、PXに居た皆さん達は清十郎に対し、涙を滲ませながら、敬礼を贈るのだった……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき


遂に百話まで辿り着きました。\(^o^)/
けど……約2年近くかかって、まだ原作の所まで届いて無い…orz
…………多分、今やっと半分ぐらい?(えっ?)


書き始めた時は一年ぐらいで完結するだろうと予想していたが……甘かった……。


とりあえず次回は百話記念に久し振りに外伝を載せる予定です。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 外伝~百話記念
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:fd33fbfd
Date: 2012/03/06 14:26
2000年・7月12日


「うーむ…やっぱりそろそろ矯正用の眼鏡が必要になってきたかな…。」

両目を閉じ、瞼の上に人差し指と親指で押さえるようにウニウニとマッサージするタケル
苦手な書類整理と格闘し、目が疲れてきたようだ。


「どうしました、白銀大尉?」

その時、丁度息抜きに紅茶をタケルの所に運んできた唯依が聞き出す。


「いやね…書類整理してたんだけど…普通の人よりにらめっこしてるもんだから、目が疲れてきてね…。
そろそろ矯正用の眼鏡でも買おうかなぁ~って考えてた所。」

「そうですか……。
そういえば、先程ララーシュタイン大尉が街中のメガネ屋で眼鏡のレンズの調整してきたとか…。」

唯依の話に興味を示し、更に話を聞いてみるタケル


「へえ~…それで、場所とか聞いたりする?」

「ハイ、私も訓練学校時代から使ってる矯正用のメガネの調整をしたい所でしたので、場所は聞いてます。」

「そっか。
もしよかったら同席して良い?」

「勿論良いですよ。
その際、榊さんも一緒に行く予定ですけど。」

「委員長も?」

「ハイ、良い眼鏡があれば買おうか考えてるようですよ?」

「な ん で す と ?」

唯依の話を聞き、驚愕するタケル
突然リアル顔で驚くもんだから、唯依は絶句しながら一歩後ろへ下がってしまう。


「委員長が……メガネをクラスチェンジするだと……?
あのでっかいまん丸メガネから一体どのような…?」

「いや……別におかしい訳じゃ……。」

「うんにゃ、眼鏡外した状態ならば、まだわかるが、あの眼鏡以外の眼鏡をかける委員長を………俺は想像出来ない。
むしろ、俺は『委員長+丸型伊達眼鏡=榊千鶴』と判断しているぐらいなのだよ?」

「………なんですか、その方程式は……?」


千鶴がメガネを変える事に動揺するタケル
唯依は頭を痛めながら、そんな失礼な判断をされた千鶴に深く同情する…。


―――――――――――――――――――――――――――――――――

「まさか白銀が眼鏡とはね…。」

「俺は委員長が眼鏡を変える事に驚いた。」

「失礼ねぇ…。
私だって、他の眼鏡かけたいと思うわよ。」


作業を早くに終え、タケル・唯依・千鶴の三人でドーバーの街中を歩く。
何時ものタケルと千鶴の会話シーンを見て苦笑いをする唯依


「ちなみにどんな形の眼鏡にするんだ?」

「…まだ決めてないわ。
けど、せっかく欧州まで来たんだもの、私だってオシャレな眼鏡を買って見たいと思うわよ。」

「まっ、そ~だな。」

「あっ、どうやらあのお店みたいですよ。」

たわいの無い話をしながら歩いていると、唯依が眼鏡屋を発見する。


「………何やら高級店っぽい店だな…。」

「しかし、ララーシュタイン大尉の話だと、良心的な値段と信頼出来る品揃えと聞きますが…?」
「入ってみればわかるわ。」

眼鏡屋に到着する三人だが、店の外見は高級感タップリな店だった為、思わずゴクリと息を飲む。

扉を開くとカランカランとベルが鳴ると、ララーシュタインとは違う、いかにも執事っぽい老人が現れる。


『いらっしゃいませ。
今日はどのような品をお求めでしょうか?』

「矯正用の眼鏡をひとつ。
あと……ついでにオシャレ用の眼鏡も作ろうかな?」

『ありがとうございます。
それと、そちらの御方達は?』

「私は矯正用の眼鏡の調整を…。」

「私は……良いのがあれば、作りたいと思って…。」

『そうでしたか。
それではお二方には、こちらの席へお座り下さい。
そちらのお客様は、ごゆっくり品定めをしてください。
もし、お気にいった物があれば、お呼び下さい。』

「ハイ、ありがとうございます。」


タケルと唯依は席に座り、視力検索等を行う。
千鶴は、店内の眼鏡を試着し、鏡に写る自分の姿を見て品定めをする。


そして一通りの検査等を終えると、タケルと唯依は千鶴の下へ向かう。


「委員長、良いのあったか?」

「うーん…。
品は良いのばっかりなんだけど…。
自分に似合う物となると…。」

どうやら自分が気に入る眼鏡が見つからず、苦笑いして答える千鶴

「委員長、眼鏡云々は置いといて………コンタクトはどうだ?」

「コ、コンタクト!?
私がっ!?」


タケルの意見に驚き、戸惑う千鶴

タケルが持つ『記憶のひとつ』にコンタクトをして美少女に変身した千鶴を思い出し、ちゃっかり勧めてみる。


「そうですね。
榊さんなら、コンタクトを使う事も手かと。」

「篁さんっ!?」

『そうですね…お客様なら、より一層美しくなるかと。』

「なあっ!?」


唯依・老紳士な店長の感想を聞き、顔を真っ赤にして、頭から蒸気がモクモクと出てくる。
すると、店長が千鶴に近寄り、小さな声で囁く。


(こちらの『彼氏』もコンタクト使用したお客様のお顔を見たいと思ってますよ。)

(かかか……彼氏ッ!?)

(私としても、当店の眼鏡をお買い上げて貰いたい物ですが、お客様の笑顔の為ならば、出来る限り全力を尽くさせて貰います。)

(けけ…結構ですっ!?)


意外と積極的に千鶴を応援する店長
流石に慌て拒否する千鶴だが、店長の眼鏡が怪しくキランッ☆と光った事には気付かなかった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


「ハア…疲れたわ…。」

「いいぢゃん。
みんなに見せびらかしてやれよ。」

「恥ずかしいわよっ!!」

眼鏡屋を出て一息つく三人
結局店長のあれよこれよと誘導され、コンタクトを作る事になった千鶴
一応眼鏡の方も、現在使ってる眼鏡より一回り小さい眼鏡を購入する事になった。

タケルは、矯正用の眼鏡の方は安くて四角の黒縁眼鏡を購入
理由は『仕事で使うんだから、別に格好つけなくても良い』…だそうだ。
オシャレ用は、小型の丸い眼鏡を購入
こちらは少し高い物を選び、購入した。


「いつ頃出来上がる予定ですか?」

「俺も委員長も5日程で出来るってさ。」

「滞在期間ギリギリ間に合う感じね。」


購入した眼鏡やコンタクトも、滞在期間ギリギリに間に合うと聞き、ホッとする二人


「とりあえず目的は達成したけど……少し街でも見回るか?」

「そうですね。
せっかくの欧州に来たんですから、色々回るのも良いかと。」


まだ時間も早い為、もう少し街中を歩く事にしたタケル達
途中、カフェがあったので息抜きに寄り、珈琲や紅茶等を頼む。


「そういえば…二人共随分と仲が良いけど…いつから仲良くなったんだ?」

「こうして接したりするのは、今年の総戦技演習後ですが、一応それ以前からはお互いに顔見知りでした。」

「初めて会ったのは、正月の誘拐未遂事件の時よ。
その時は2・3会話した程度だったけど、総戦技演習後に話をしてる内に意気投合してね…。」


千鶴と唯依が親友関係になった話になり、盛り上がる
話を聞くと、親友関係になったきっかけは『タケルへの気苦労話』だったらしい…。


「白銀大尉は先任として、恩師としても素晴らしい方だと思いますが……
最初の頃は『胡散臭い人物』にも見えましたし、馴れ馴れしくて、私は最初の印象は悪い方でした。」

「最初の印象って……確か…大陸から巌谷中佐が帰ってきた時に、篁がせっかくそれに合わせて取ったの休日に俺が訪問した時の事か?」

「ハイ。
あの時は無事に帰ってきた叔父様を歓迎しようと思って楽しみにしてたら、いきなり当時中尉だった白銀大尉も来たんですから、あの時は不機嫌にもなりました。」

「……けど、アレは巌谷中佐が強引に拉致った結果だぞ?」

「それは…後々知りましたけど、やっぱり養子とはいえ、親子水入らずの時間を楽しもうとした時でしたので…その時は白銀大尉の事を『お邪魔虫』に見えました。」

「ゴメンゴメン。」


当時の不満な気持ちを告白する唯依
タケルは悪くは無いのだが、結果として当時の唯依にとって『お邪魔虫』だったと告白される。


「軍人らしかぬ態度や馴れ馴れしい態度には悪印象に見えました。
訓練兵入隊時には『この人で大丈夫なのか?』と疑問視までしてました。」

「うわっ!!
痛々しい感想が今暴露っ!?」


唯依の当時の印象を暴露され、ゴリゴリとHPが減っていくタケル
その話を聞いていた千鶴も『自業自得よ』と厳しい発言を告げる。


「まあ、時間が経つにつれ、印象は良い方向へ行って、現在に至りますけど……。
そんな話をしてたら、榊さんと会話が弾み、いつの間にか今の関係になってました。」

「……その話を聞いた時は、我が事のような気持ちになって、同情までしたわよ…。」

「……とてもとてもスミマセンでした。」


今まで唯依に迷惑をかけた事に対し、謝罪するタケル
………ぶっちゃけ、その原因の殆どが香月博士や巌谷中佐に有るから、タケルも一応犠牲者なのだ。

唯依や千鶴もそれをわかっている為、それ以上は言わないでいた。


「おや?シロガネ大尉達ではないか?」

「ララーシュタイン大尉ではないですか。」


すると紙の買い物袋を持ったララーシュタイン大尉がタケル達の下へやってきた。


「買い物の帰りですか?」

「いやいや、そんな大層な物ではないよ。
偶々ブラウアー少尉とポーカーの勝負をしてね、運悪く負けてしまい、こうして罰ゲームを受けてる訳だよ。」

「上官にパシリって……中々とんでもない罰ゲームっすね…。」


軽い賭け事で負けてしまい、買い物をしていた事を打ち上げるララーシュタイン大尉
ちなみに買い物袋の中身はパンやワインといった食料品だった。


「しかし……流石はシロガネ大尉だね。
早速美女二人とデートとは…流石はハーレムを築くだけある。」

「「な゛ぁ゛っ!?」」

「違います、単に眼鏡を作りに行っただけですよっ!!」

「成る程。
しかし結果として見れば同じ事。
女性二人を連れまわして街中を歩けば立派なデートだと私は思うのだが…。」

「ぐふっ!?」


ララーシュタイン大尉に遊ばれるタケル
『デート』という言葉を聞いて真っ赤になる唯依と千鶴
ミョーに意識を向けてしまう。


「まあ、ハーレム築くのは別に構わないが、ちゃんと女性をエスコートするのだよ、シロガネ大尉
紳士たる男子は淑女たる女性を守らねばならんのだからね。」

「………そのつもりなんですけど……ウチの女性陣は男性陣より強いんですよね…。」

「そんな事昔から決まってる事だよ。
とはいえ、それでも守ってみせるのが、男としての『生き様』だと思うがね。」


ララーシュタイン大尉に釘を刺されるタケル
タケル自身わかってはいるのだが、中々難しいと思いつつ、苦笑いする。

「君達もシロガネ大尉をゲットするならば攻めるべきだよ。
この手の者は、アピールぐらいでは振り向く所か気付きもしないのだからね。」

「それは………痛々しいぐらい承知です…。」

「そうか………。
なら…他にかける言葉は有るまい…。
頑張りたまえ…。」


ララーシュタイン大尉の忠告を痛々しい迄に理解している千鶴と唯依
そんな姿を見てか、ララーシュタインの目尻からキランと光る一筋の水滴が滲み出ていた。


ララーシュタイン大尉と別れ、しばらくしてからカフェを出るタケル達
気になる店に入り、色々と見学をする内に時間が経ち、夕方頃になる。


「もうこんな時間か…。
飯でも食ってから帰るか?」

「そうですね。」

「ご馳走様、白銀。」


帰る前に外食する事になり、適度な店を探す事になったタケル達

十分程探すと、雰囲気の良いイタリアンの店を見つける


『いらっしゃ~い♪
お客様は三名様ですか~?』

「は、はい…(なんなんだ…このテンションの高い子は…?)」


店に入るとかなりテンションの高いウェイトレスが出迎え、そのまま席まで案内される


先程とは違うウェイトレスにメニューを渡され、見てみると……。


「………………」

「………白銀……メニュー読める?」

「………………辛うじて。
二人は?」

「来る前に勉強しましたので、なんとか…。」

「私も一応読めるけど…。
逆に白銀が読めるのはびっくりしたわ。」

「うっせ。
一応大尉だから、来る2ヶ月前から勉強してたんだよ。
………けど、聞いたり喋ったりする方は大丈夫なんだけど…読む方はまだ苦手でな…。」


当然ながらメニューにはイタリア語が書かれてる為、少し沈黙する三人
優等生組の千鶴・唯依は少し戸惑うが、読めるのだが………タケルの方は少し汗を流しながらも、なんとか解読が出来た。

「じゃあ問題。
この品はなんて読むの?」

「………………………………………ええ……っと………『海鮮パスタと卵と山の幸のスープ』…であってるよな…?」

「…当たりよ。
本当に勉強したのね…少し驚いたわ。」


なんとか正解出来、心底ホッとするタケル
正解して驚く千鶴と唯依を見て、少し傷つく。


とりあえずメニューを決め、三人共注文を頼む
食事か来るまで少し雑談をする。


「白銀ってさ、頭は良い方だとは思ってたけど、こういった勉強に関しては苦手よね?」

「そうなんだよ……。
まあ、苦手って言っても、赤点取る程悪いって訳じゃあ無いから、まだ良いんだけどな。」


千鶴がタケルの話題を出すと、素直に答えるタケル
その答えに『ああ…やっぱっり?』と納得する二人。


「けど、以前香月博士が申してましたけど、『白銀は教えこめば吸収するように賢くなっていく』って…。」

「…いやね…なんつーか…あの人とは付き合いが長い……というか腐れ縁だからな…。
それに覚えないと、自分の身が危険な時も有ったし…大変ナンデスヨ?」

「…………大変だったのね…。」


唯依が以前香月博士から聞いた言葉を教えると、その大変さを態度に現したのか、その姿を見て二人から同情の眼差しを向けられる。


「けど、やっぱり先生の下で働くって事は、その時の戦場や裏の動きが絡んでくる事だから、ひとつ間違えるだけで、大きく悪化するからな。
そういう意味でも『命懸け』で賢くならなければならないんだ。」

「命懸け……ですか。」


タケルの話を聞き、驚愕しながら聞く唯依
千鶴に関しては、『前の世界』でタケルが特殊任務とかを受けていた事を知っている為、さほど驚きはしなかった。


その後、雑談で話が盛り上がると、注文した料理が運ばれてくるが………。

「……………」

「……予想以上に多い量ね…。」

「………うむ」


タケルと千鶴の注文した料理の一品にべらぼうに量が多い料理が現れ、沈黙する。


「……まあ、取り敢えず食べるぞ。」

「ええ…」

「そうですね…。」


挑みかかるように料理に挑むタケル
しかし…その量に苦戦する事になる。


(どうしたもんだが……。)

味は旨いのだが、いかんせん量が多い。
そこでタケルはある事を思いつく。


「委員長」

「なにか「ほら、一口あ~ん」~~~ッ!?」


突然タケルが千鶴に『あ~ん攻撃』を仕掛けると、再び顔が真っ赤になり、頭から蒸気がモクモク出てくる。


―――――――――――――――――――――――――――――――――
同時刻・日本のとある場所では―――

「むっ、何故かわからんが…千鶴に微笑ましい事が起きたような……?
フム……やはりそろそろ孫の名前を考えた方が良いかも知れないな……。」


日本で政務をこなしていた是親
突如直感が来たのか、娘・千鶴に良い事が起きた事を察知する。
流石は日本が誇る親バカ。
遥か彼方の大陸にいる娘のイベントに反応する。

しかも机の引き出しから万年筆とノートを取り出し、孫の名前を書いては呟きながらニコニコと笑みを浮かべる。
無論、開いたページには、沢山の孫の名前がびっしりと埋まっていたりする。


―――――――――――――――――――――――――――――――――

「な、なにを突然に…?」

「いやな、昨日俺が霞に『あ~ん』をされた時の気持ちを委員長にもわかって貰おうと思ってな……。」

「だからって…「いやぁ~…昨日は痛かったなぁ……トイレに連れ込まれてボコボコに…」…わかったわよ、わかったからそれ以上は止めて頂戴。」


フォークに絡めたパスタをずいっと千鶴の口元へと運ぶタケル
恥ずかしさ一杯で拒む千鶴だが、昨日の件を弱味とされ、諦めて食べる事になった。

勿論、唯依も顔を赤くし、ドキドキしながら見守る。


そして――――


「あむっ…。」

可愛らしく食べる千鶴
モグモグと食べながら『………美味しい。』と小さな声で呟く。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


一方……再び日本では―――――


ドゴォォォォン!!!


『チェリィィィッ!!』

『またあの子にチェリーがっ!!』


横浜基地のとある場所で、再びチェリー(男)が閃光と共に空へと飛んでいく。
勿論、その原因は……。

「なんだろう……?
やけにタケルちゃんに『ふぁんとむ』を喰らわせたい気持ちなんだけど…。」


我等がチャンピオン・純夏の『どりるみるきぃふぁんとむ』が炸裂する。

乙女の直感なのか野生の勘なのかはわからないが、タケルの『あ~ん』を千鶴が食べた瞬間、純夏の近くを歩いていたチェリーに『ふぁんとむ』を発動する。

ちなみにチェリー(男)はこれで二度目の『ふぁんとむ』である。



―――――――――――――――――――――――――――――――――


「どうだった、委員長?」

「…………………………………スッゴク恥ずかしいわ…。」


初めて『あ~ん』を体験する千鶴
タケルの気持ちが初めてわかったが、それ以上に唯依を含めた周りのお客や店員にも見られてしまい、小さくなってしまう。


「さて、唯依姫…あ~んしようか…。」

「はっ?」

そして突如強襲されてしまい、唖然とする唯依
周りの客や千鶴も硬直してしまう。

―――――――――――――――――――――――――――――――――

「はっ!?
今、唯依ちゃんになにかしらのイベントが起きたような…?」

「どうしました、巌谷中佐?」


帝都城で巌谷中佐が悠陽に開発状況を報告している最中に、例の如く感じ取った巌谷中佐が反応する。


「いや……欧州に居る唯依ちゃんに良い事が起きたような…。」

「きっと、タケル様がらみですわ。」

「やはり……。
これは、帰ってきた時に祝言を挙げた方が…。」

「まあ♪
唯依さんが義妹になるんですか?
私も応援致しますわ♪」

「唯依ちゃん………頑張れっ☆」


悠陽も唯依を嫁側に引き込もうと協力する姿勢を見せ、巌谷中佐も『遂に唯依ちゃんの孫を抱ける日が近づいたな…』と感激していた…。


―――――――――――――――――――――――――――――――――

「し、白銀大尉…これは一体…?」

「いやね、一人だけ安全地帯に居る唯依姫をこっちに引き込もうと…。」

「引き込まないで下さいっ!!」


唯依を巻き込もうとするタケルに怒鳴る唯依
しかし、何故か千鶴がニコニコと笑顔で唯依の背後に回って両肩を掴む(逃走防止に)


「さ、榊さん…一体…?」

「私達…親友よね?
なら、篁さんもあ~ん♪」

「ええっ!?」


……つまり、『私達親友なんだから、一緒に恥ずかしくなりましょう。
ニゲルノハダメヨ?』と答えてる千鶴
自分だけ恥ずかしい想いをする事に納得しないのか、親友を巻き込もうとする。
唯依、仲間がいない為涙を流す。


そして、諦めてパクっとタケルのあ~んを受け入れると―――――


―――――――――――――――――――――――――――――――――

ダンダンダンッ!!


「ウフフ……何故かしら?
理由はわからないけど、心の底から殺意が沸き上がってくる…。」

「し……慎二ィィィィッ!!!?」

「次の獲物は……鳴海中尉か………?」

「いやいや、ちょっと待てクリスカ!?
俺は別に何も悪い事はしてないぞっ!?」

「チッ…実弾じゃないのが残念だけど…………………ゴム弾だから、幾ら当てても大丈夫よね…?」

「殺す気っ!?
あと、ゴム弾でも当たり所悪かったら逝くからっ!?」

「ウフフ…さぁ……私を楽しませて……☆」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


殺意のオーラを纏うクリスカ
携帯していた拳銃で慎二を射つ(外れてはいるが、クリスカの恐怖で気絶する。)

近づいて来た孝之をターゲットにして、パッキュンパッキュン乱射する。

――――勿論、助ける人は誰も居ませんが?
巻き込まれますからね♪


―――――――――――――――――――――――――――――――――

「………恥ずかしかったわ…。」

「…………………………」

「少しは気持ちわかったか?」


レストランから出て基地へと歩むタケル達
千鶴と唯依は顔を下に向けながら赤くする。


「まあ、二人共済まんな。
けど、たまにはこういうのも良いだろ?」

「…私達に恥ずかしがる事かしら?」

「違う違う、『息を抜く』って意味だよ。」


タケルの言葉に反応し、不思議そうな顔をする二人

「いや、二人ってさ『似た者同士』だから、良い所も悪い所も共通してるんだ。
悪い所は、一度失敗すると、他の人達以上に落ち込み、自分を責めて、悪循環にズルズルと入り込む癖がある。
委員長は、自暴自棄になったり、他人に強く当たったりするだろ?
篁は失敗した跡に自分を責めるような反省癖がある。
長所の『真面目さ』が時に悪い方向に向かって、ズルズルと深みに嵌まっていく感じになるんだ。」

タケルに言われ、表情を暗くする二人
わかってはいるのだが、中々直らない癖な為、長年悩んでいた。


「だからさ、常に…とは言わないから、息を抜く事をしよう。
悩んでたら、仲間や親しい人に相談する事。
失敗したならば、次に繋げれるようにする事。
少しずつで良いから息を抜いて皆を頼ってくれ。」

タケルの言葉に『そうね…』と賛同する千鶴
唯依も賛同し、首を縦に振る。
そして基地へ着くと――――――


「おかえり。
随分と楽しいデートだったらしいわね…?」

何故か暗黒のオーラをゴゴゴ…と放出する嫁達&慧・美琴・壬姫が待ち構えていた。

「いや、眼鏡を作って買い物して飯食っただけだけど…。」

「知ってる…
レストランでは、タケルが榊や篁中尉に『あ~ん』までしたそうだな。」

「何故それをっ!!」

素直に、そして簡単に説明するタケルだが、予想外にも、冥夜の口から驚きの言葉が出た。


「何故皆さんがその事を……?」

『「それは我々がストーカーしたからだよ。」』

「ララーシュタイン大尉に……………眼鏡屋の店長!?」


なんとも奇妙なポーズを取りながら登場するララーシュタイン大尉と眼鏡屋の店長
……ドイツの紳士はこんな奴等がデフォなのか?

「な……何故店長が…?」

「実はね、彼はかつて私の同僚なのだよ。」

「「「え、ええぇぇぇっ!?」」」


予想外の展開に驚くタケル達三人
ララーシュタイン大尉は自慢のヒゲをピョンピョンいぢりながら説明する。


「数年前迄は現役の大尉だったのだが、戦闘で酷い重傷を負い、引退したのだよ。
だが、丁度親が経営していた眼鏡屋を継ぐ事になって、現在は眼鏡屋の店長に落ち着いたのだよ。」

「偶々お客様の応援致そうとストーキングをしていると、ララーシュタイン様に遭遇しまして…その際に一緒に陰ながら応援してました。」

「ちなみに君達が頼んだパスタやサラダは、私か心を込めて増量しておいた。」

「アンタの仕業かっ!!」

予想外の展開にオドオドするタケル達三人


「あの時はレディ達がシロガネ大尉に『あ~ん』をするかと増量したのだが……まさかシロガネ大尉の方からするとは………。」

『流石です、お客様。』

「流石ですじゃねぇぇぇぇぇっ!!」


店長の言葉に反応して吠えるタケルだが……


「まっ、それはさておき。」

「どうやらタケルさんは今日も『OHANASHI』をしたいみたいですしぃ~。」

「今日も…れっつ…ごー…。」

「突撃っ!!」


冥夜・慧・壬姫・美琴が例の如くタケルを拘束し、トイレへとダッシュする。
――――――――しかし、今日はそれだけでは終わらなかった。


「さて…榊…そして篁。
私達と一緒に『OHANASHI』しようじゃないか。」

「まりも大尉っ!?
それに真耶大尉までっ!?」

千鶴・唯依にはまりも・真耶ががっちりと拘束し、まるで某宇宙人のように連れて行かれる。

「羨ま…けしからん奴だ。
人前であーんをするとは…。」

「(私だって…された事がないんだからねっ!!)」

幾ら嫁とはいえ、羨ましい事には変わりはない。
うっかり本音を出しそうになった真耶と小さな声で本音を呟く。


「天誅っ!!」

「『ぐはっ!!』」

「貴様等が邪魔しなければ…いい雰囲気だったものの…。」


千鶴を影で護衛していた静が、怒りの天誅とばかりに背後から短刀一閃でヤッちまう。
………まあ…こういう奴に限って死なないので、皆さんスルーの方向に移行。

素晴らしいチームプレーである。


そして、十数分間、誰かの悲鳴がドーバー基地中に響いたそうな……。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第百一話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:fd33fbfd
Date: 2012/03/16 20:55
2000年・7月13日


『ひゃっほー♪
戦術機が手足のように動くぜっ!!』


今日はXM3を初めて体験する日
昨日の内にXM3を搭載を済ませた為、急遽実機での訓練が始まった。
整備兵?勿論皆さん屍と化してますが……何か?

最初はツェルベルス大隊の殆どが転倒・よろめきを起こしていたが、二時間程で殆どの者が慣れてきた様子。


特にブラウアー少尉に関しては、一番早くに慣れ始め、はしゃぐ姿をみせる程。
嬉しさでダンスを踊る程まで慣れてきた。


『ほほう…
二時間でここまで動けるとは、やりますね。』

『ったりめーよ。
ツェルベルス大隊を舐めたら困るぜ?
直ぐに隊長達だって、これぐらい動かせるようになるぜ。』

ブラウアー少尉を褒めるタケル
未だに完全には動かせてはいないが、短時間で慣れ始めたブラウアー少尉に関心を持つ。

『無論だ、これ以上情けない姿は見せられないからな。』


ブラウアー少尉の言葉に反応するアイヒベルガー少佐
未だ多少ぎこちない動きを見せるが、時間の問題だろう。


『けど、このXM3が欧州に拡がれば…。
『欧州奪還』だって可能性がグーンと上がるぜっ!!』

『ハッハッハッ♪
大きく出たな、ブラウアー少尉
…しかし、その気持ちはわかる。
まさかOSひとつで、ここまで違いが出るとは、私も予想外だったのだからね。』


『欧州奪還』―――――
欧州に住む人間が誰もが考える願望。
今までは、圧倒的な物量であるBETAに押され、侵略し続けて来たが、今……やっと奪還に『希望』という名の可能性が出てきた事に喜ぶ。


ブラウアー少尉の言葉に反応を見せたララーシュタイン大尉
しかし大尉も気持ちは同じで、XM3の存在に大きく関心を持ち、同時に感謝もしていた。


(欧州奪還に夢見てきたが……日本には大きな借りが出来たな。)

心の中で日本に感謝するアイヒベルガー少佐
自分達の故郷を取り戻せる可能性を与えてくれた日本に恩義を感じ取る。


それからしばらく訓練したのち、ツェッペリン大隊のメンバー殆どがXM3に慣れ、一通りの動きを出来るようになっていた。


一番覚えが早かったのはやはりブラウアー少尉
性格が功を制したのか、吸収するように理解し、柔軟な動きを身に付ける。


「大体皆さん使いこなしてきましたね。」

「だが、未だに完全にとはいかない。
訓練あるのみだな。」

「と言いながら、ブラウアー少尉に次いでアイヒベルガー少佐が二番目に使いこなしてるじゃないですか。」

「大隊長の意地だよ。
流石に私とて、先任としての意地はある。」

「こういうのは格好じゃないですけど……気持ちとしては良くわかります。」


次いでアイヒベルガー少佐が使いこなしていた。
流石は大隊長…と言いたいのだが、本人としてみれば『先任・大隊長としての意地』で頑張った所が多少有ったらしく、苦笑いしていた。


「あとは……どうしましょうかね…。」

「白銀大尉名物の『鬼ごっこ』等はどうですか?」

「『鬼ごっこ』?」

「白銀大尉が鬼になって、制限時間内迄に逃げ切れば良いんです。」

「けど、アレは幾ら多くても小隊規模ぐらいが限界だぞ?
一度に中隊規模とかしんどいし…。」


すると正樹が『鬼ごっこ』を提案するが、タケルが拒否
流石に36人相手するのは大変らしい。

そんなこんな会話をしていると――――
平穏な時間を奪うように警報が鳴り響く。


「――――ッ!!
全員、ブリーフィングルームに集合だっ!!」

「「「「イエッサー!!」」」」

「私達もブリーフィングルームに集合よっ!!」

「「「「了解ッ!!」」」」


アイヒベルガー少佐と椿の号令に従い、ブリーフィングルームへと駆け出す。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


「皆集まったな。」

ブリーフィングルームで待機していたタケル達
アイヒベルガー少佐と椿が入室し、状況を報告する。


「報告によると、リヨンハイヴからBETA群が出現してきたとの報告があった。
BETA群は北上し、ディジョン・オルレアンと移動してきている。
恐らくはシェルブールに移動したのち……ここ、グレードブリテンに到着するだろう。」

「そこで今回の作戦は、シェルブールで迎え撃つ事になる。
そして、今回は我々帝国斯衛軍も参加する事になった。
従って今回はツェッペリン大隊と一緒に出撃する。」

「今の我等は幾らXM3を得たとしても、完全には使いこなしてはいない。
そういう意味でも彼等の助力は大変助かる。」


アイヒベルガー少佐と椿の状況の報告を受け、緊張感が高まる一同
まだXM3を使いこなしてないツェッペリン大隊をサポートする意味でもタケル達第17大隊の参加が決まった。


「欧州・国連の艦隊がイギリス海峡で制圧攻撃を行う。
艦隊の制圧攻撃の中、国連のA‐6・イントルーダーで上陸戦術を行い、一定の防衛線を築いたのちに西ドイツ陸軍のA‐10サンダーボルトが上陸し、イントルーダーと共に防衛線を押し上げる。
そこから戦術機甲部隊が突入し、地上制圧を行う。
ここ迄は至って通常の戦術だが……我等2大隊は別行動を取る。」


アイヒベルガー少佐の説明の内容は至って通常の作戦内容だが、第17大隊とツェッペリン大隊は別行動を取ると告げる。


「シェルブールで防戦をしている間、我々は迂回し『後方』から強襲をかける。
勿論、BETA群の後方を攻撃するとはいえ、楽になる訳ではない。
場合によっては、逆に挟撃を喰らう可能性もある。
故に早期決戦が絶対条件になる。」


危険度の高い作戦内容に息を呑む一同
しかし、その中には怯える表情は一つたりとも無かった。


「そして先程だが、日本の極東国連軍横浜基地副司令のコウヅキ・ユウコ博士から通信があり、『そちらに最強の援軍を寄越す。』と告げてきた。」

「先生からっ!?」

「白銀大尉………
通信時の香月博士は………いつも以上に妖しい笑みを浮かべてたわよ…。」

「……………………………ええ…?」


香月博士から通信があった事を告げるアイヒベルガー少佐
その後椿が不吉な一言を告げると、タケルを始め、第17大隊の皆さん達の表情が暗くなり、『……一体何をやらかす気だ…?』と怯える。

そして、なにやら複雑そうな顔をしたアイヒベルガー少佐がタケル達に質問をする。

「すまないが…多分、間違いだと思うのだが……。
援軍を寄越すと言ったので、数を確認したのだが………『三機』と書かれていたのだが………?」

「三機………?
いや、まさか………」


アイヒベルガー少佐の言葉を聞き、嫌な汗をダラダラ流すタケル
他にも椿・孝志・政弘・真那・真耶が嫌な汗をダラダラと流す。

なんせ、心当たりがありまくる。
日本が誇る(?)伝説的人物の人数も三人


「…………………………多分………間違いじゃないと思いますよ。
ただ…戦力的には戦術機の師団規模以上なんですけど………非常識極まりない人達でして…。」

「………絶句する程驚愕する事は間違いないですね。
私達第17大隊ですら、一人で全滅させる方々ですから…。」

「「「……えっ?」」」

タケルと椿の言葉に唖然とするツェッペリン大隊の皆さん
……そりゃ、一機で大隊規模を全滅させると聞けば、当たり前である。


「ゴホン…。
とにかく、今は作戦を成功させ、この地に踏み入れる事だけは絶対阻止せねばならん。」

なんか奇妙な話になった所を軌道修正をするアイヒベルガー少佐
その発言を元に空気が変わりだす。


「我々地獄の番人の力をBETAに刻み付けてやれ。」

「「「了解ッ!!」」」


アイヒベルガー少佐の号令に力強く返事を返すツェッペリン大隊のメンバー
そして次に椿が第17大隊に号令を出す。


「我等の部隊名はアグニス…『篝火』を意味する。
我々はその名の通り『照らす光』となりて『闇』であるBETAを駆逐し、道を作る。
土地や所属など関係無い。
我々は守るべきモノの為に戦い、奪われたモノを力づくで取り戻し、力無き民達に希望を与える為にも照らし続けるのだ。
我等日本人の……帝国斯衛軍の力を欧州の地に刻み付けろっ!!」

「「「了解ッ!!」」」

凛とした力強い表情から発せられる号令に答えるように、タケル達も力強い返事を返す。


「それでは各自出撃準備を怠るな、解散。」

解散を告げると全員が急ぎ足で出撃準備をする。
タケルも出撃準備に向かおうとすると、結城が呼び止める。


「急いでる時に呼び止めてゴメンね。
けど、一応大事な話だから早めに言っておかないとね。」

「大丈夫です。
それで…話って?」

「今回の白銀君の機体は武御雷改・鷲羽
勿論、XM3・EXTRA搭載
以前よりバグは無いからおもいっきり戦う事は可能だけど、『解放状態』だけは制限時間内にやめる事。
出来れば限界時間の30秒前にやめてもらえると、こちらとしても安心出来る。
あと、ツェッペリン大隊が乗る艦隊には霞ちゃんと護衛に紅蓮静中佐が乗る予定
少しでも戦い易いようにツェッペリン大隊の機体調整を霞ちゃんがするみたいだよ。」

「そうですか…結城さんはここに残るんですか?」

「そんな訳ないでしょ~に。
僕も白銀君達と同じ艦に乗るよ。
君達の機体調整は僕が責任持って仕上げてあげるよ。」

「そうですか……お世話になります。」


ぺこりと頭を下げて礼を言うタケル
すると結城はそれを笑いながら拒否し、『当たり前の事だからいいんだよ。』と優しく声をかける。


「少しでもおかしい所があったら戻っておいで。
必ず速攻で直してあげるから。」

「ハイ、ありがとうございます。
それでは失礼します。」

再び感謝の言葉を送り、立ち去るタケル
その背中を見届け、呟く。


「君だけは……必ず生かして帰らせるよ。」


強い気持ちで誓いを立てて、結城も早足で持ち場へと向かう…。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第百二話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:fd33fbfd
Date: 2012/05/24 21:36
ドーバー基地から出撃したタケル達
今回は本隊とは別行動な為、シェルブールを迂回するルートを通る事になった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――

「カスミ…あんまり無理しちゃ駄目よ。」

「……大丈夫です。
皆さんが思い通りに動けるように調整しておきます。」


延々と長いコードを繋げたパソコン三台を使って、ツェルペルス大隊の機体調整をする霞
心配して声をかけるイルフリーテ達だが、霞は笑顔で返答を返す。


バグの処理や修正を素早いタイピングでこなしていく。
額に多数の汗を流すが、まるでそんな些細な事には眼中が無い程、凄まじい集中力で画面と睨み合う。

まだ幼い少女がここまで必死に打ち込む姿を見て、皆が心を打たれる。


「カスミ…。」

「大丈夫です…。
ですから…皆さん無事に帰って来て下さい。
一人でも失ったら……とても悲しいです。」


ルナテレジアが声をかけるが、霞の切実な言葉を聞き、胸を撃ち抜かれるような衝撃を受ける。


何故このような少女が戦場に赴かねばならない?

このような幼い少女にまで、我等以上の覚悟を背負わせなければならないのだ?


本来ならば、同年代の子供達と遊び回る年代だというのに、何故この子はこの過酷な世界で戦わなければならないのだ?


手のひらを拳に変え、力強く握り締める
その場にいた衛士や整備兵達は唇を噛みしめ、己の不甲斐なさに責め続ける。


「………自分を責めないで下さい…。」

「カスミ……。」


その場にいた一人であるブラウアー少尉の握り拳に、優しく、暖かい、小さな手のひらが包みこみ、癒してくれる。


「衛士の皆さんは戦場で必死に戦ってくれてます…。
整備兵の皆さんは、衛士の皆さんが無事に帰ってこれるように日夜頑張ってくれてます…。
ですから…私も出来る事で…皆さんと一緒に戦いたいです…。
ただ…安全な場所で待つのは嫌なんです…。」

霞の切実な言葉を聞き、責め続ける皆の心を癒す。

小さな勇気で戦う少女の姿を見て、改めて自分自身を見つめ直す。


「ですから…私も些細な力ですが…皆さんを支えたいんです。」

「些細な力だって……?
とんでもねぇ……すっごくデケェ力だよ…。」


声を僅かに震わせながら、切実な気持ちを伝えるブラウアー少尉
その言葉は、その場にいた者達の代弁でもあり、素直な気持ちでもあった。


「ありがとうございます…。
また…皆さんと一緒に…思い出いっぱい作りたいです…。」

「ああ…一杯作ろうな…。
まだ滞在期間は4日もある…。
それまでにいっぱい…忘れられないような思い出を…いっぱい…しような…。」

「ハイ……楽しみにしてます。」

満遍な笑みを浮かべる霞に全員が誓う。

―――必ずこの子を悲しませる結果にはさせるものかっ!!

強い決意と共に持ち場へと戻る整備兵達
そしてブラウアー少尉も後ろにいたイルフリーデ・ヘルガローゼ・ルナテレジアの三人に言葉をかける。


「テメェら絶対に生還するぞ。
カスミの想いを無駄にするんじゃねぇぞっ!!」

「ええっ!!」

「無論だ。」

「勿論ですわ。」

イルフリーデ達の強い想いを見て安堵する霞

そんな皆に『ありがとうございます…。』と小さな声で呟く。



―――――――――――――――――――――――――――――――――


「強い…子なのだな…。」

「そうですね…あの子も一緒に戦ってるんですね…。」


離れた場所から一通りの事を見ていたアイヒベルガー・ジークリンデ・ララーシュタイン・ブリギッテの四人
霞の強さを遠くから眺め、心を打たれる。


「…これで生き残らねばならない理由がまたひとつ出来ましたね…。」

「ウム、あのような可憐な少女を悲しませる事は紳士としてあってはならない事
必ず笑顔で迎えられるよう応えてやらねば。」


ブリギッテとララーシュタイン大尉が共に笑顔を作る。
小さな少女の強さに応えるように改めて決意を強める。


「我々の責任は重大だ。
何があっても、全員で生還するぞ。」


「「「了解ッ!!」」」

笑顔で敬礼をするジークリンデ・ララーシュタイン・ブリギッテの三人
そして駆け足で準備に向かう中、アイヒベルガー少佐が足を止め、再び霞に視線を向ける。


「このような子まで強い気持ちで戦うとは…。
何時からこのような残酷な時代になったのだ…。」

守るべきモノの為に必死に立ち向かう姿
それは自国でもそうだが、まさか幼い少女まで戦場で戦う姿を見て、心を痛める。
このような時代を終わらせる事を決意し、アイヒベルガー少佐も持ち場へと走って行く…。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


『やれやれ、まさかこちらが先に着くとはな。』

『だが、そのお陰で防衛線を充分に取れる事が出来たんだ、幸運な事だと思えばいい。』

『そりゃそうだ。』


最前線であるシェルブールでは、予想外にもBETAの到着が遅く、A‐6・イントルーダーとA‐10・サンダーボルトが戦闘する事なく上陸し、防衛線を張る事が出来た。

流石に拍子抜けした隊員達だが、この幸運を喜び、これから来るBETA群をいまかいまかとトリガーにかけてる指がひきつる。


すると、CPから通信が入り、BETAが近づいてると報告が入る。


『ブロッケン1了解。
早く戦術機部隊を上陸させてくれよ?
今が上陸するには絶好なタイミングなんだからな。』

『CP了解。
なるべく早くに到着させる。』


イントルーダーの部隊であるブロッケン1がCPに戦術機部隊を早く上陸させるように進言する。

やはり少しでも犠牲者を出したくは無い気持ちもあってか、戦術機部隊の到着を逸る気持ちで待つ。


『こちらナルバ1からブロッケン1
我々A‐10の部隊は、現在地より700程前方迄前進し、防衛線を上げる。
…少しでもBETAの到着を遅らせた方が良いだろ?』

『……すまねぇ。
その代わり、後ろは任せておけ。
お前等の背後に回ったBETAは残らずミンチにしてやる。』

『頼もしい限りだ。
背中は任せるぞっ!!』


通信が終わると、鈍重な機体を跳躍噴射し、前進するサンダーボルト

少しでも戦術機部隊の生存率を上げる為、防衛線を更に上げる。


すると、戦術機部隊が到着すると同時に、BETA群がサンダーボルトの防衛線に接近し、戦闘が始まる。


『カルバン1からナルバ1
済まない、待たせたな。』

『良いって事だ。
ただ、出来れば突撃級を殲滅して欲しい。
要撃級や戦車級はミンチに出来るんだか、突撃級ばかりは動きの鈍いサンダーボルトでは不向きなんでな。』

『カルバン1了解。
但し、全ては無理だ、それらの対処は任せる。』

『了解。
それぐらいならば大丈夫だ。』

到着したトーネードによる戦術機部隊・カルバン部隊が地平線のように迫る突撃級に突撃し、駆逐しはじめる。
その後方でサンダーボルトによる援護射撃や艦隊による砲撃制圧で突撃級達が肉片と化す。


『おっと、要撃級と戦車級のお出ましだ。
ナルバ1、アンタ達の出番が来たぜ。』

『待ってました。
カルバン1、一度部隊を後退させてくれ。
そのまま前にいたんじゃ、フレンドリーファイヤする危険性がある。』

『カルバン1了解。
カルバン1から各機へ、これより我等戦術機部隊は一度後退し、攻撃機部隊と共に要撃級や戦車級を攻撃する。
――BETAどもに劣化ウラン弾をお土産として渡してやれっ!!』

『『『了解ッ!!』』』


一度前に出た戦術機部隊だが、要撃級・戦車級の接近により、一度後退し攻撃、攻撃機部隊と共に反撃する。

―――――――――――――――――――――――――――――――――


『CPからツェルベルス大隊及び第17斯衛大隊。
現在、前線ではBETAとの戦闘を開始。
突撃級・要撃級・戦車級との戦闘を確認
しかし、未だ後方には要塞級が健在だが、光線級は確認せず。
よって、要塞級が防衛線から1000程近づいた際に突撃を開始する。』

『シュバルツ1了解。』

『イグニス1了解。』


CPから報告と指示を受け、返答を返す両大隊長
そして所属する衛士達に出撃命令を出す。


「シュバルツ1から全ツェルベルスの隊員達よ。
今こそ新たな力を得た我等の力を見せつけてやれ!!」

「「『了解ッ!!』」」


「イグニス1から各機へ。
ここで力尽きる事は絶対に許さん。
必ず全員で日本へと帰るぞっ!!」

「「「了解ッ!!」」」


「「全機出撃せよっ!!」」


両隊長の出撃命令と共に揚陸艦から飛び立つ両大隊
水平噴射跳躍で水面ギリギリに飛び、イギリス海峡を渡る。


「――――スゲェ…。
さっき訓練してた時とは全然違う。」

「まるで…自分の手足のように動いてくれてる…。」


「僅か数時間しか経ってないというのに…まるで違う機体に乗っているような感覚だ…。」


出撃してすぐに驚愕するツェルベルス大隊の隊員達
先程慣熟訓練で搭乗していた時より操作が思い通りに動く事に気付く。

すると霞から通信が入る。


『……皆さん。
どこかおかしい所ありませんか…?』

「ぜんっぜん無いよ♪
寧ろ、今までに無いぐらい動きが良いよ。」

「ありがとう、カスミ
お陰で我々は今まで以上に戦える。」

心配してか、調整に不具合が無いか聞いてくる霞だが、イルフリーデとブリギッテが笑みを浮かべて問題無い事を伝える。
それを聞いてか、ホッとした霞が笑みを見せると、ツェルベルス大隊全員から感謝の言葉を告げられる。


『ありがとう、カスミ!!』

『絶対に帰って来るから、その時はぎゅ~って抱きしめさせてね♪』

『帰ったらご褒美に洋服買ってあげるから楽しみにしてね。』

『嬢ちゃん、アリガトなっ!!
お礼は必ず帰ってからするぜっ!!』


ツェルベルス大隊のメンバーからの御礼の言葉
そして霞を悲しませないように『必ず帰る』と約束すると、霞の瞳から一筋の涙が流れる。

『皆さんの帰りを……待ってます。』

『『『『了解ッ!!!』』』』


小さな『女神』からの一言を心に刻み、帰還する決意を改めて強める。
今日ばかりは、彼女が自分達の主君となる。
その少女の願いを必ず叶える為にも―――――地獄の番人達は操縦桿を強く握り締め、全速力で戦場へと向かう。


そしてイギリス海峡を渡りきり、遂に上陸しBETA達の背後に回る事に成功する。


「イグニス1からイグニス各機。
さあ、遂に我々の出番がやってきた。
欧州に巣食うBETAどもに我々の力を見せつけてやれっ!!」

「「「了解ッ!!」」」


タケル達の欧州での戦いが遂に始まる…。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第百三話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:fd33fbfd
Date: 2012/05/24 06:45

「全機突撃せよっ!!
奴等の背後から刻み付けてやれっ!!」

「「「了解ッ!!」」」


全速力で匍匐飛行をするタケル達
その少し離れた位置にツェルベルス大隊がピッタリとくっついて来る。

一番最後尾である要塞級に突撃前衛達が切り込む。

「邪魔だっ!!」

「フンッ!!」


まず最初に要塞級を撃破したのはタケルとアイヒベルガー少佐
タケルは頭部に滑空砲を放ち、アイヒベルガーは首筋にフリューゲルベルデで両断し、撃破する。

「調子は良いみたいですね。」

「カスミのお陰だ。
まさかここまで動き易くなったのは予想外だった。」

「言ったじゃないですか、霞は『天才』だって。」

「フッ、そうだったな。」


霞が誉められ、自分の事のように嬉しいタケル

すると、背後から冥夜・慧・ジークリンデがタケル達の頭上を飛び越え、前方にいた要塞級2体を撃破する。


「少佐、私を置いて戦うなんて酷いですね。」

「済まない、中尉。」

「今度無断で単独行動をしたら……ジャガイモ料理お預けです。」

「ぬぅっ!?
……それだけは勘弁して欲しい。」


密かに置いてけぼりをされて怒ってるのか、ジークリンデはアイヒベルガー少佐の大好物のジャガイモ料理を『お預け』を宣告すると、本気で深刻そうに『勘弁して下さい、お願い致します。』と謝るアイヒベルガー少佐

その姿を見てか、タケルは親近感を持ちながら『…アイヒベルガー少佐も大変なんだなぁ…。』などと小さな声で呟く。


「冥夜、彩峰
俺達は要塞級だけを撃破する事を専念するぞ。
但し、光線級の出現やイレギュラーな事態が起きた場合はそちらを優先する、いいな?」

「「了解」」


タケルの指示に従い要塞級のみを狙う冥夜と慧
三機一体となり、要塞級を一体づつ撃破していく。


タケル・冥夜が噴射跳躍で頭部や間接部まで飛び込み、長刀で斬り込む
その後ろでは慧が滑空砲で援護射撃し、時折迫り来る触角を長刀で切り落したりと二人を援護する。


「済まぬ彩峰、援護助かる。」

「…任せて、二人には傷つけさせない。」


慧の援護に感謝の言葉を告げる冥夜
――しかし、慧の気持ちを知ってか、それ以上は言えなかった。

(…彩峰…無理しよって…。)


そう―――
本来彩峰慧という人物は攻撃的なタイプ。
決して味方の後ろで援護するタイプではない。

無論、援護自体は彼女とてやる。
しかし、彼女の本来の戦闘は前線で接近戦で戦うタイプだ。

勿論彼女の現在の実力ならば通常ならば充分通用する実力だが―――


(……今は我慢……
もっと…もっと強くなって…追い付いてやる…。)

しかし、追う背中はタケルと冥夜――

現在のタケルの実力は、流石に日本国内で五指…とまでではないが、それでもかなりの上位クラスには居る。
エレメントの冥夜も、接近戦に関してはタケル以上の実力
しかし、機動力等についてはまだ劣るが、それでも日本が誇るエース級以上な衛士である事は間違いない。


低い階級で有りながら、そこまでの実力を持つ最大の理由は…皮肉にも『ループによる経験の継続』というチートな理由だった。

無論、この2年間戦いたい続けたという時間も有るが、それでも僅か数年でその実力に登り上がった二人の才能も理由の一つでもあった。

故に―――彼女は静かに闘志を燃やす。
苦難が高ければ高い程挑む性格でもあるし、何より―――――


(必ず――追い付く。
そして…追い抜いてやる。)


想う人と並ぶ為にも――
そして、共に戦う戦友達の為にも―――
僅かに笑みを浮かべながら、挑む高みへと一歩一歩歩み進む。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


(彩峰…無茶やってないかしら…。)

真耶の小隊に臨時で配置されてる千鶴と晴子
タケル達とは違い、真耶達は要撃級や戦車級を掃討していた。


そんな激戦の中、千鶴は慧の心配をする。
幾ら喧嘩する仲とはいえ、彼女も大切な友。
慧が無茶してないか心配そうに時折チラチラと慧の居る方角とレーダーを見る。


「やれやれ…。
彩峰なら大丈夫だよ、榊さん。」

「柏木…。」

「白銀達が居るから大丈夫だよ。
もし、そんなに心配なら、この辺のBETA達を早く片付けなきゃ。」

「わ、私は別に彩峰の事なんか…。」

「どもってるどもってる☆」


晴子に指摘され、少し慌てる千鶴
しかもトドメと言わんばかりに『彩峰の事心配なんでしょ~?』と言われてしまい、あわあわと顔を赤くしながら慌てだす。


「――けどさ、榊だけが心配してる訳じゃないんだよ。
私だって白銀とか皆とか心配してるんだから。
――でも、だからといって今自分の位置を棄てる訳にはいかないし、身勝手な事も許されない。
ならば、一秒でも早くBETAを片付けて仲間の所へ駆けつける事が最善の方法だと思うよ。」

「………柏木」


かくいう晴子も仲間達の安否を心配していた。
今までこんな風にバラバラに配置される事が少なかった事が原因かは知らないが、チリチリに配置された仲間達の安否を心配していた。

(まいったね……今までこんな風に不安になった事はなかったのに…。)


『まだまだ未熟だねぇ…』と心の中で呟き、狙いを定めてBETAを撃ち抜く。

そんな二人をモニターで確認していた真耶が会話に参加する。


「やれやれ、不安なのはわかるが、今はこの場の事だけに集中するがいい。」

「スミマセン」

「りょーかい。」


真耶に指摘され、『うっ…。』と苦い表情になる千鶴
晴子は相変わらずの態度だが、内心では千鶴と同じ心境だったりする。


「…とはいえ、二人共流石だな。
確かにタケルや冥夜様が言った通りの実力を持ってる。」

「いえ、まだまだ未熟です。」

「右に同じく。」


謙遜する二人を見て『…やれやれ』とため息を漏らす真耶
そして二人を思ってか、真耶は二人に忠告をする。


「謙遜もいいが、少しは強気になって貰わねばならぬぞ?
そうでなければ上に上がる事も出来ないし、部下を持った時に示しがつかん。」


真耶の忠告を受け、苦い表情をしながらも『了解』と呟く千鶴と晴子

そんな話が終わると、CPから通信が入る。


『――これより極東国連軍横浜基地から発射されたHSSTが軌道降下部隊を投下してくる。
それに備え――――』


CPの通信により、更に苦々しい表情になる千鶴と晴子
流石の真耶も色々な意味で不安そうな表情を浮かべる。


「………援護……向かった方が良いんでしょうか?」

千鶴の質問に対し、真耶は…………


「………………………………立場上、向かうのが当たり前なのだが……。
あの御三方には必要あるまい…。」

「………むしろ、巻き込まれそうだよねぇ…。」


流石の真耶も、これから来る援軍に対し『援護は無用』と判断する。
晴子の一言に千鶴・真耶も賛同する。


なんせ、相手は複数の重光線級のレーザー照射にすら生身で耐えそうな人物だ…。
そう思われても仕方ない……と思う。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


『ガッハッハッ!!
この光景を見るのは二度目だが、相変わらず美しい光景よっ!!』

『ヌウゥゥ…!!
こうして美しき地球を見ると、我々の存在も小さく見えますな。』

『そうだのぅ…だからこそ我々人類が礎となって、支え…守らねばならん。』


そして遥か宇宙では、『とある三人』が蒼く美しき地球を眺めながら待機していた。

その光景に感動し、涙を滝のように流しながら様々な感想を呟く。


『CPから『ジェネラル』へ
これより、第二プランとして軌道降下を始める。』

『ジェネラル1了解っ!!
―――さあっ!!我等三人の力を欧州の地に見せつけよっ!!』

『『了解っ!!』』


CPからの通信を受け、軌道降下を開始する。
僅か三人のみの突入に彼等は『恐怖』という感情は無く、高鳴る『歓喜』が高々と響く。


『久々の三人での戦場じゃぁぁっ!!
此度は手加減一切無し、大盤振る舞いで暴れようではないかっ!!』

『『オウッ!!』』


超音速での突入から生まれる凄まじいGすら、今の彼等にはそよ風の風圧程度にしか感じないだろう。


―――――今、欧州の大地に『鬼神』達が降臨する。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


「見えましたっ!!」

「っていうか…あの軌道…………BETA群のど真ん中!?」


軌道降下部隊を発見するルナテレジア
しかし、イルフリーテがその降下するルートを調べると、BETA群のど真ん中に到着するのを見て、絶句する。


「全機、軌道降下部隊を救「あ~…救出しなくても大丈夫ッスよ。」……どういう事だ、シロガネ大尉…?」

アイヒベルガー少佐がツェルベルス大隊全機を使い、軌道降下部隊を救出する指示を出そうとすると、タケルが割り込み『救出いらないですよ』と爆弾発言をする。


「いやね………むしろ救出する軌道降下部隊の攻撃で巻き添えを喰らう危険性が高いから………止めた方が無難ですよ?」

「………どういう事だ?」

「…………見た方が早いですよ。」


苦笑いしながら答えるタケルの返答に困惑の表情を見せるアイヒベルガー少佐


そして、上空数百メートルからの場所から『三機』が舞い降りて来る。

再突入殻が分離され、轟音と同時に土煙の柱が数本立つ。

そして、その土煙の中央には――――
三色の異なる戦術機が立ち構えていた。


「ガーハッハッハッハッ!!
待たせたな、タケルよっ!!」

「儂等が来たからには大丈夫じゃっ!!」

「婿殿(タケル)、そして冥夜よ、我等の事は心配せんで良い。
――むしろ、近寄って巻き込まれても責任は持たんぞ?」


現れたのは、紅・深緑・そして紫のカラーを持つ不知火・改
しかも、更にハイスペックな改造をした特別機であり、彼等の専用機。
下手をすれば、タケル機の武御雷改・鷲羽をも上回る機体なのだ。


そんな機体を搭乗するのは、彼等以外にはいない。
日本が誇る『最強の三人』である紅蓮醍三郎・神野志虞摩・そして…煌武院雷電である。


「フハハハッ!!
『不知火改・紫電』の初の実戦ぢゃっ!!
その性能を戦場で見せつけてやろう。」

「雷電殿、儂とて、『不知火改・疾風』の初実戦。
心が猛々しく踊る気分じゃ。」

「さて…丁度側にはBETAがたんまりおります。
腕試しといこうではありませぬかっ!!」


近寄って来るBETA群に対し、お互いの背を合わせ、老兵達は互いの持つ『武』を振る舞う。


彼等の武装は主に接近武器
一応87式突撃砲を一丁装備しているが、余程の事でない限り使う事は無い。


接近戦のみの戦闘
一見自殺行為に見えるが、あくまでもそれは『一般論』
彼等にそんな『一般論』なんぞ通用はしない。


「ぶるあぁぁぁぁぁっ!!」

先制を放ったのは紅の不知火改・烈火
お馴染みの素手でのアッパーで突撃級を吹っ飛ばす。
こう……地面を抉るようにして放つアッパーは硬い装甲殻の下に吸い込まれるように戦術機の拳が入り。アッパーカットする。


「「「ええぇぇぇっ!!?」」」

「突撃級を………素手で撃破した…?」


初めて見たツェルベルス大隊の隊員達が驚愕の声を響かせる。
唯一ジークリンデだけがポツリと一言だけ呟く。

…当たり前である、常識的に考えたって、突撃級をアッパーで吹っ飛ばす事なんて…無理である。


まあ……とある赤いアホ毛の少女の放つ幻の左なら……生身でも突撃級ぐらいは吹っ飛ばす事は可能……のような気はするが、彼等とてタケル以上のチートな御方達。
やっぱり非常識な塊みたいな存在なんで、そこんところは……考えたら負けである。


「ぬぅんっ!!」

「はっ!!」

紅蓮とは違い、お互いの専用武器で蹴散らす神野と雷電

神野は薙刀・雷電は鎚の付いた長柄タイプの戦斧で攻撃する。


要撃級を一刀両断する神野の薙刀
要撃級の前腕による攻撃を華麗に捌き、流麗の動作で一気に懐に入り、一閃する。

背後・側面から他の要撃級が複数迫るが、神野は恐れる事無く、狂喜たる笑みを浮かべながら、歓喜の声と共に横薙ぎの一閃で攻撃もろとも切り払う。


対して雷電は戦斧で要撃級を切り裂き、突撃級を鎚による打撃で叩き潰す。

特に鎚による攻撃は、あの硬い外殻をも粉砕し、その下にある脆弱な本体を叩き潰し、肉片を飛び散らせる。

一応上段からの長刀の攻撃でも突撃級の外殻は切り裂く事は可能だが、あくまでも可能な話。
あの獰猛な突撃をする前に正面から斬り込む事など自殺行為である。


しかし雷電はその獰猛な突撃すら臆する事無く、正面から外殻を粉砕する。


迫り来るBETA群の猛攻
しかしそれ以上に老兵達の攻撃は激しさを増し、肉片と化したBETAの死骸が積み重なってくる。


「雷電殿、久し振りに我等の秘奥義を見せてやろうではないですかっ!!」

「おおっ!!名案だ、紅蓮よ。
フッフッフッ…久方ぶりの三位一体の業…胸が高鳴るわっ!!」

「では見よ、BETA共!!
これが我等三人の秘奥義……!!」


すると、紅蓮・神野・雷電の機体が集まり、怪しげなポーズをキメる。
そして何故か彼等の周りには、輝かしいオーラが現れ、渦巻くように動く。


「「「我等三位一体の秘奥義ッ!!!」」」


きゅぴーんと三人の機体の眼光が赤く光る
そして…………。


「「「真・噴射気流殺ゥゥゥゥゥゥッ!!!」」」


全力の水平噴射跳躍を竜巻のように螺旋状に跳躍する三人。
巻き込まれるBETAを殲滅し、最後はお約束と言わんばかりに三人の背後で大爆発。
そしてポーズを決める辺り、抜かりは無い。


「「「フッ、決まった☆」」」


キラーン☆と歯を光らせ笑みを浮かべる三人
久方ぶりの秘奥義使用に満足する。


「――――援護いるように見えます?」

「……………………………………………いらんな…。」

全力で暴走っぷりを見せる三人を見て、絶句するアイヒベルガー少佐
思わず頭痛がしてしまう程のチート能力に言葉が出てこない。
タケルの言葉を漸く理解し、やっとの思いで本音の一言を呟く。


「………まあ、あの辺のBETAはあの三人に任せて他を当たりましょう。」

「了解した…。」


タケルの提案に従い、この場は紅蓮達に任せる事にしたアイヒベルガー少佐
彼等の心に『ヤマトダマシイ…恐るべし。』と誤った認識を刻み付けたのであった…。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第百四話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:fd33fbfd
Date: 2012/05/24 22:08
「イグニス36(まりも)からイグニス39・40・43・44(正樹・まりか・美琴・壬姫)
これより我々は要撃級・戦車級を殲滅する。
要塞級は無視して構わん、他の部隊に任せろっ!!」

「「「「了解ッ!!」」」」


まりもが率いる第三小隊が要撃級・戦車級を重点的に攻撃を開始する。

タマ・まりかは要撃級を、正樹と美琴は戦車級に殲滅対象に選び、まりもは指揮をとりながら、前線でBETAを殲滅する。


まりもの圧倒的な強さにBETA達は屍を増やし、その後方で支援する正樹や美琴達ですら、その強さに息を飲む。


蒼き戦術機――天狼が欧州の大地を駆け抜け、巣食う外敵・BETAの命を刈り取る。


「ハアァァァッ!!」

特殊短刀を装備し、地表面滑走で一瞬要撃級の懐に入ると同時に切り裂き、離脱する。
群れで攻めてくる戦車級には『リヴァイヴ・ボックス』に搭載されてるキャニスター弾と突撃砲を使い、殲滅する。


すると、そのまりもの横に紅き戦術機が並ぶ


「素晴らしい腕前ですな、ミス・マリモ。
まさに『フェンリル』の名に相応しい戦いぶりだ。」

「お褒めの言葉、感謝します。
『音速の男爵』に評価して貰えるなんて思ってませんでした。」

「何を言う。
貴女の実力は我々『七英雄』をも凌ぐとも劣らないモノだ。」


ララーシュタイン大尉自らがまりもの実力を認める。
その表情はまるで子供のように笑顔で答える。


「ローテ1から第二中隊機へ。
―――今度は我々の出番である。
極東の英雄達に我々地獄の番人達の実力を見せつけてやれ。」

「「「了解ッ!!」」」


ララーシュタイン大尉率いる第二中隊・ロート中隊が号令と共に荒れ狂う。


「オラオラァァァッ!!下級生物共がぁぁっ!!
この地球上にお前等が住み着いて良い場所なんて、一ヵ所もねぇんだよっ!!」

「フン、どうした?
今日は一段と鈍く見えるぞ。」


ブラウアー少尉とブリギッテ中尉が道を作る為に突撃砲が火を吹く。
ブリギッテ中尉は地表面滑走を上手く使い、BETAの攻撃を回避しながら、接近戦闘や射撃を使い分けながら次々と撃破していく。


「オラァッ!!
タケル直伝のアクロバットの味はどうだ?」


XM3を大隊一使いこなすブラウアー少尉も、タケルや冥夜程ではないが、覚えたてのアクロバットを披露する。

倒立反転で回避しつつ、空中で地上にいるBETAめがけて四門同時掃射。
着地と同時に背部のガンマウントを移動し、後方のBETAに射撃しながら、前方・右側のBETAを滑空砲で掃射する。


「ヘルガ、道を作るわっ。
ルナはヘルガのサポートお願いっ!!」

「了解ッ!!」

「任されましたわ。」


イルフリーデの通信に賛同し、突撃するヘルガローゼ
そのすぐ後ろには援護としてルナテレジアが着いていき、更に後ろでは高速機動&長距離射撃をするイルフリーデが援護射撃をする。


「うおぉぉぉぉぉっ!!」

ハルバートで次々と切り裂くヘルガローゼ
高速機動での突撃を繰り出しながらも、BETAの攻撃を紙一重に回避し、同時に斬撃を入れて撃破する。


「邪魔ですわ、おどきなさいっ!!」


普段のほほんとした雰囲気と違い、迫力のある台詞を吐きながらBETAを排除するルナテレジア

彼女が操る突撃砲が要撃級の命を刈り取り、前方で戦うヘルガローゼの道を作る。


「このっ!!このっ!!
二人の邪魔するんじゃないわよっ!!」


遥か後方から援護射撃をするイルフリーデ
ヘルガローゼやルナテレジアの周囲のBETAを中隊支援砲で撃破する。

―――――――――――――――――――――――――――――――――

「………凄いです。
イルフィさん、あんな高機動を操りながら遠距離射撃を決めるなんて…。」

「そういえば、イルフリーデさんって、最初は突撃前衛を候補してたって話を聞いた事ある。」


イルフリーデの実力を知り、驚愕と共にただ、その姿を焼き付ける壬姫とまりか。


狙撃には自信がある壬姫
様々なポジションや役割を十全にこなせるまりか

しかし、イルフリーデの実力を見て、『砲撃支援』というポジションに対し、敗北感を感じる。


確かに『狙撃力』でいえば壬姫だろう。
恐らくその才能で言えば世界クラス。

様々なポジションをこなせる『器用さ』でいうなれば、確かにまりかだろう。
恐らく、あの『涼宮茜』すら超える程の才能だろう。


しかし――実戦での『戦力』としていうなれば、二人はイルフリーデには現段階では負けている。

別に一番でなくても良い――
別に様々なポジションに着けなくても良い――


必要なのは、戦場で生き抜く力。
そして、仲間を守り、支える事が出来る力。
それを―――イルフリーデは持っていた。


そしてイルフリーデは高機動&長距離射撃だけではない。
敵が何処に移動するか、何処に現れるか
まるで『未来予知』と勘違いしてしまう程の『感覚』―――つまり、勘の良さである。


そのお陰でイルフリーデは部隊一の命中率を誇る衛士となり、皮肉にもそのせいで突撃前衛になれなかったのである。

例え、機動特性のチートであるタケルが真似をしても、同じ結果にはなる事は無い。
もし、イルフリーデを超える砲撃支援を探すならば――
強襲掃討でありながら、殆どのポジションをこなせてしまうチートママ・白銀楓しかいないだろう…。
銃撃戦限定ならば、楓無双状態だからである。


「……負けられないね。」

「ウン……そうだね。」

イルフリーデを見て闘志を燃やす壬姫とまりか
気持ちを切り替えてBETA掃討に集中する。


―――――――――――――――――――――――――――――――――

「いけぇぇっ!!」

美琴が群がる戦車級相手に支援突撃砲のような武器を使用する。

使用する武器は新開発した『試型00式拡散型電磁砲』
例の如く、香月博士の発明品だ。


通常ならば、弾薬庫を背負って使用するが、今回は超小型化に成功。
背負う大きさもサンダーボルトが肩部に装着している弾薬庫一個分とほぼ同じ大きさだ。


弾数は百発程度限定だか、散弾故に一発の殺傷範囲は折り紙付きだ。


今回はリロードする弾薬庫も予備の冷却装置も無いため、使いきったらパージして棄てる以外選択肢は無い。

一応弾薬庫も切り離しは出来るが、ガンマウントが二つ着いている為、これだけは残さないと駄目だか。


しかし――
その成果は予想以上。
電気を纏いし拡散されていく弾丸は、小型種は勿論、要撃級、そしてあの強固な外殻を纏う突撃級ですら、肉片を撒き散らし、肉塊と化す。


「………凄いや…。」

「……相変わらず、なんでもアリだな、あの人は…。」

使用した美琴は勿論、美琴の護衛に回っていた正樹ですら圧倒する威力。
ただ一発。
しかしその一発で大勢のBETAを殲滅する。


「……オイ。
オイオイオイオイッ!!
そ、そりゃ…一体なんなんだよっ!?」

「一発でBETAが大量に倒すとは…。」

「ミコトッ!!
その武器なんなのっ!?」


拡散型電磁砲の一撃を見て驚愕するブラウアー・ブリギッテ・イルフリーデの三人
勿論、他のメンバーもその威力に絶句していた。


「これは『試型00式拡散型電磁砲』って言って…香月博士が考案した新兵器なんだ。」

「「「電磁投射砲ッ!!?」」」

「ウン。
けど、これはまだ試作品だから、今回戦闘があった場合、テストを含めて使ってくれって頼まれたんだ。」


拡散型電磁砲の話を聞き、絶句する一同。

―――遥か極東の地では我々の想像を超える開発をされているのか?


XM3といい、拡散型電磁砲といい、とんでもない開発を見せつけられて戸惑いだすツェルベルス大隊のメンバー達。


そして―――これこそが香月博士の狙いの一つだったりする。


(………これで良いんだよね?)


少し不安そうな表情をみせる美琴

実は今回欧州に渡る際、香月博士から『任務』を受けていた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――

『戦闘があった場合、拡散型電磁砲を必ず使いなさい。
勿論、欧州の衛士達の目の前でド派手に見せつけて良いわよ。』

『良いんですか?
普通こういうのって機密なんじゃないんですか?』

『普通はね。
けど、コイツの威力を見せつけてやれば、間違い無く欧州の連中は尻尾を振って食い付いてくるわ。
…そうすれば、XM3と一緒に色んな交渉材料にもなるし、上手く使えば『こちら側の味方』に引き込む事だって出来るわ。』

『うわぁ~…。
やっぱり香月先生は何処にいても香月先生ですねぇ~…。』

『…アンタ、相変わらず良い度胸よね…。』


美琴の態度を見て、ちょっとカチンと来る香月博士
しかし、『鎧衣だしねぇ……。』と無駄と考え、気持ちを切り替える。
……まあ、美琴の言う事も当然の事なので言い返せれないのも、あったりする。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


「ヨシ、これならイケる。
イグニス43(美琴)からイグニス39(正樹)へ。
これから拡散型電磁砲で暴れるから、護衛よろしく。
あと、当たらないように気をつけてねぇ~☆」

「イグニス39了解。
なるべく当たらないように後方から援護するよ。
……だから、フレンドリーファイヤだけはやめてくれよ?」

「そういえば、前にタケルにフレンドリーファイヤした事あったっけ?」

「ええっ!?白銀大尉をっ!?
………本当に、切実にお願いします。」


ビクビクと戦術機ごと震えながらお願いする正樹
恩師・タケルすらフレンドリーファイヤさせる実力(?)と知り、本気で怯える正樹だが………当の美琴はいつものように笑顔で笑っているもんだから、恐怖度は二割増し状態になる。


「ツェルベルス1からジェネラル1・イグニス1へ
イグニス43を護衛しつつ、BETA共を殲滅する。
今、この場を無事に切り抜ける最良の方法は、彼女の持つ兵器を上手く使い、殲滅する事。
そして反対側で戦うそちらと挟撃するように戦えば一気に好転する。
…宜しいかな?」

「イグニス1了解。
一気に片付けましょう。」

「こちらも構わん。」


アイヒベルガー少佐が美琴を護衛しつつ、雷電達と挟撃する事を提案する。

椿も作戦に賛同し、雷電も笑みを見せながら了承の返答を答える。


「ガッハッハッ!!紅蓮・神野よ、これより我々は婿殿達と挟撃を開始する。
まだ我等が若者達に負けない事を証明しようではないかっ!!」

「「おうよっ!!」」


雷電の号令と共に高々と声を上げる紅蓮・神野
その嵐のような暴力でBETAを肉塊と化す。


「どけどけぇぇぇぇぇぇいっ!!」

「我等の道を途絶すではないっ!!」


雷電の前で守護する二人の鬼神
己の相棒たる獲物で敵を切り裂く。

紅蓮の振るう大太刀が
神野が払う薙刀が
BETAという屍の道を作り、主たる雷電がこれを通る。


「いくぞ、紅蓮・神野よっ!!
若者達の未来の為にも、老兵たる我等の命を燃やそうぞっ!!」


鈍重たる戦斧を振るい、邪魔する敵を殲滅する雷電だった……。

―――――――――――――――――――――――――――――――――


『凄い……これが極東の力なのか…?』


タケル達の奮戦を海から見守る艦長。
予想以上の成果を上げている為、呆然とした表情が浮かび上がっていた。

『……これは…?』

『どうした?』

『……どうやら現在、戦術機甲部隊達から3000離れた位置から謎の振動をキャッチ致しました。』

『謎の振動だと?』


CPからの情報に不安を覚える艦長

『現在低速で進行を続け、約20分後にはツェルベルス大隊と帝国斯衛軍と接触が予想されます。』

『……そうか。
ツェルベルス大隊及び、帝国斯衛軍に通達。
謎の振動が進行中、警戒するように伝えておけっ!!』

『了解!!
CPからツェルベルス及び帝国斯衛軍――――――』


艦長命令に従い、通信を入れるCP
その後ろで艦長が不安が高鳴るように心臓の心拍数が速くなる。


『これは一体なんだというのだ……?』


見守る事しが出来ない艦長
今は戦場で戦う衛士達の命運を祈るだけだった…。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第百五話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:fd33fbfd
Date: 2012/05/16 06:51
『CPからツェルベルス及び帝国斯衛軍へ――
現在南方3000から謎の振動を探知した。
ツェルベルス大隊・帝国斯衛軍はこの謎の振動の接近に気をつけよ。』

「ツェルベルス1了解。
……謎の振動だと?」


CPの通信を受け、マップを調べてみるアイヒベルガー少佐
すると確かに遅いスピードで接近する謎の振動があった。


「なんだこりゃ……?
いままでにこんな事なかったぞ…?」

「我輩もだ。
このような振動…今回が初めてだ。」

「大尉ですら…。
一体…なんなのだ、これは…?」


通信の内容を聞いて確認するブラウアー・ララーシュタイン・ブリギッテの三人
初めての展開に驚きを隠せないでいた。

しかし――――
帝国側の衛士達の殆どがその『正体』が何なのかに気づいていた。


「イグニス1からCPへ。
謎の振動が姿を現れた際、艦砲射撃を要請したい。
あと、S‐11の使用許可も頂きたい。」

「「「!!!?」」」

『はっ…?
S‐11の使用許可だと…?』


椿の発言に驚愕するツェルベルス大隊のメンバー達
あまりの突然の事にCPも唖然とする。


『イグニス1どういう事だ?
あれの正体が何なのか知ってるのか?』

「ああ…知ってる。
『本土防衛戦』の時に一度遭遇したからな…。」

『なんだとっ!!あれの正体は何なのだっ!!』


椿の一言に驚愕し、質問してくるCP


「あれは超大型種BETA…母艦級
推定値で全高・全幅170m強・全長に至っては1800mにも至る新型種だ。」

「「「――――ッ!!」」」

『新型種だと…そんな報告は聞いてないぞっ!?』

「当たり前だ。
この情報はとある筋から得た情報の機密さ故に公には出来なかったのだ。
しかも『本土防衛戦』の際は、土煙の中、地面スレスレに出てきた為、姿を捉える事は出来なかった。
つまり、新型種の公開をしたくても、『映像という証拠』がなければ信じて貰えない為、非公開だったという事なのだ。」

『そんな…。
いや、それでその新型種の特徴は?』


遂に公開された母艦級の情報に戸惑いの色を隠せないでいたCPだが、強引に冷静さを取り戻し、更なる情報を聞き出す。


「母艦級は攻撃的ではない為か、攻撃手段は現時点では無い。
せいぜいその巨体を利用して押し潰すぐらいだろう。
しかし、母艦級の恐ろしい点は、その名の通り『母艦』としての役割だ。
その胎内には旅団規模のBETAがウジャウジャ溜め込んで移動する。
…勿論、大型種の要塞級や重光線級も存在している事を確認している。」

『――――ッ!!』


「つまり、この母艦の目的は、BETAの援軍をこの戦場に運ぶ事。
そうなれば戦況は一瞬で逆転し、全滅だって考えられるっ!!」


椿の報告に顔を青ざめるCP
その後ろや周辺にいる乗組員達や艦長も同じように青ざめる。


「下手をすれば、その巨体故に艦砲射撃も効かないかもしれない。
しかし、S‐11であれば、撃破する事も可能だ!!」

『なっ――!?』

「早く使用許可を取ってくれっ!!
早くしないと………全滅は愚か…貴様達の安住の地にも奪われるかもしれないんだぞっ!!」

『―――――ッ!!
わかった、すぐに連絡する。
しばらく待ってくれ。』

「すまない、感謝する。」


椿の迫力のある説得に反応し、それに応えるCP
そして、しばらくして――――


『CPからイグニス1。
たった今、S‐11の使用許可が降りた。』

「イグニス1了解、感謝します。」


S‐11の使用許可が降り、安堵する椿
感謝の言葉をCPに告げると『御武運を。』と一言だけ告げられる。


「イグニス1から第17斯衛大隊・ツェルベルス大隊・ジェネラル小隊へ。
たった今S‐11の使用許可が降りた。
従って早急にジェネラル小隊と合流し、母艦級を撃破及び退却させる。
雷電様・アイヒベルガー少佐宜しいですか?」

「委細了解した。」

「了解、異論は無い。」

母艦級対策として、殲滅作戦を止め、合流を優勢する椿達
そして―――


「今回のS‐11を母艦級まで届ける役は…白銀大尉…出来るな?」

「勿論っすよ。
っていうか自分から立候補してましたよ。」

「そう……ごめんなさい。」


S‐11を運ぶ役としてタケルを選ぶ椿
苦痛そうな表情を浮かべるが、タケルの言葉を聞き、謝罪の言葉を告げる。


「そして随伴機として冥夜中尉とまりも大尉
貴殿等が白銀大尉を守る随伴機とする。
これは、白銀大尉の機体の全力に着いていける機体と衛士の腕を考えての選択だ。」

「了解、望む所です。」

「こちらも天狼の性能をフル活動してでも守り抜いてみせるわ。」


随伴機として冥夜・まりもが選ばれる
愛する人を守れる役に当たった為か、二人の表情に笑みが現れる。


「他のメンバーは可能な限り、この三人を守ってくれ。」

「「「「了解ッ!!」」」」


椿の言葉に笑みを浮かべて返答を返す。
そして、雷電達との合流を目指し、全速力で跳躍する。


そして―――――


「ガッハッハッハッハッ!!
皆無事かっ!!」

「紅蓮大将!!」


BETAの群れから不知火改・烈火が現れ、タケル達に笑みが浮かぶ。
あれだけ暴走していた人達だか、やっぱりその存在感は大きく、タケル達に安心感を与える。


紅蓮のすぐ後ろには、雷電・神野が姿を見せ、合流を果たす。


「九條少佐よ、母艦級の到着時間はあと何分だ?」

「あと……6分です。」

「ウム、ならば我等三人は周辺のBETAを掃討する事に集中しよう。
母艦級はそちらに任せるぞ。」

「ありがとうございます、雷電様」


雷電・紅蓮・神野の三人が三方に別れ、タケル達を護衛する。
すると、雷電達の元に数名の衛士達が着く。


「我々もご同行致します。」

「そなたは…」

「ツェルベルス大隊大隊長・ヴィルフリート=アイヒベルガー少佐です。」

「ジークリンデ・ファーレンホルスト中尉です。」

「一人より数人ならば護衛もしやすいでしょう。
微力ながら、我々も一緒に戦います。」

「ウム、恩に着る。」

雷電の元にアイヒベルガーとジークリンデ率いる第1中隊が防衛にまわる。
紅蓮・神野の元にも、ツェルベルス大隊第二中隊と第17斯衛大隊第三中隊が防衛にまわる。


「一人で戦うより、大勢で戦った方が良いですよ。」

「我々もお供致します。」

「ガッハッハッ!!
なかなかどうして、心強いオナゴ達だのぅ。」


紅蓮の隣にはイルフリーデ・ヘルガローゼ・ルナテレジアが武器を構え、BETAと対峙する。
その勇ましい姿を見てか、紅蓮は関心しながら大声で笑いだす。


「これより、この場は死地と化す。
誰一人たりとも脱落は決して許さん……わかったな?」

『『『了解ッ!!』』』


神野の背後には、頼もしき第17斯衛大隊第三中隊が武器を掲げ上げる。
その勇ましい姿を見ることはないが、笑みを浮かべ、カッカッカッと笑い声を出す。


(今の若者達も頼もしくなったものじゃ…。
本当に我等老兵がやる事が無くなってきたのぅ…。)


今まで、未だ鼻垂れ小僧達しか殆ど居ないと思っていた神野
しかし、タケルと出会ってからか、その見方が変わり、考えを改める。


(どうやら儂の眼は些か曇っていたらしい…。
これ程にも……勇敢な若者達が居るではないか。)


最早自分達の時代は終わった。
これより先は、この若者達の時代
普段頑固者で時々暴走っぷりを見せる神野だが、この時、考えを決める。

(生涯現役を貫く考えは未だ変わらんが…そろそろ、後々先の事を考えねばならんのぅ…。)


そんな事を頭の中で考えながら――――薙刀を天に突き立て、号令を出す。


「行くぞ、皆の衆!!
我等の姿を、この欧州の地に刻み付けよっ!!
全機着剣、突貫せよっ!!」

神野の号令と共に着剣し、突撃する。
それと同時に雷電・紅蓮達も突撃を開始する。


「私達は母艦級が現れるまでこの場で待機しつつ防戦を行う。
母艦級が姿を現したその時こそ勝負の時だっ!!」

「「「「了解ッ!!」」」」


第17斯衛大隊の第一・第二・第四中隊がその場に残り、母艦級の出現を待ち続けながら防戦する。


残り距離1500―――1200――1000―――

徐々に近寄る振動に緊張し、握る操縦桿を更に強く握る。


そして――――


「振動が大きくなる!?
まだ500も有るぞ!?」


振動のマーカーは500の地点で振動が大きくなり、上昇している事を理解するタケル達。

すると――――遂にその姿を現す。


「…………………これが母艦級……。」

誰が呟いたかは知らない―――
だが、初めて生で見る母艦級の姿を見て、全ての衛士達の心に『恐怖』を刻み付ける。

その巨大さに―――
その未知なる生物に―――
先程までの緊張が恐怖へ変わり、全身が震えだす。


「母艦級を撃破する、全機突貫せよっ!!」

「「「了解ッ!!」」」


しかし、彼等は違った――――
その恐怖に打ち勝ち、全速力で跳躍する。


―――――――――――――――――――――――――――――――――

『ぜ、全艦砲撃準備せよっ!!
狙いはあの超大型種・母艦だっ!!』

『戦術機部隊には当てるなよっ!!
光線級が現れるまで殲滅せよっ!!』


茫然自失していた艦長達が冷静さを取り戻し、砲撃支援の号令をだす。


『砲撃―――放てェェェェッ!!』


イギリス海峡に浮かぶ艦隊から大音量の轟音と幾多の炎が放たれる。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


「うおぉぉぉぉぉっ!!」

砲撃の嵐の中、白銀の戦術機が先頭になり、BETA群を突き抜ける。
最低限の攻撃以外は全て己の機動特性に賭けて低空飛行をする。


「タケルの……邪魔をするなァァァァァッ!!」


その側で白銀の戦術機を守るのは、紫色の戦術機。

タケルの武御雷のやや後ろでピタリと息を合わせ、近寄る怨敵を切り裂く。


そして、タケルと冥夜のそばには、蒼い戦術機が同行する。


「どけっ!!」


今回はタケル達について行くため、いつもの地表面滑走や主脚走行はせずに水平噴射跳躍や匍匐飛行で可能な限り回避をし、最小限の攻撃でBETAからタケル達を守る。

未だ光線級の姿は見せないが、いつ出てくるか緊張が高まる中、三機は果敢にも突貫する。


そして、その三機を守るように、その背後では仲間達が猛攻を仕掛ける。

すると―――――



「母艦級が口を開いたよっ!!」

「全機光線級の攻撃に注意しつつ突貫せよっ!!」

「「「了解ッ!!」」」


母艦級の口が開き、ワラワラとBETAが現れる。

その影響もあってか、次々と護衛する仲間達と離ればなれとなる。


「イグニス10からイグニス1へ。
そろそろ退避してください、一発とはいえ、その破壊力と衝撃波を考えるならば、戦術機に影響は高い。」

「イグニス1了解。
全機イグニス10を残し、撤退する。」


苦渋な表情を浮かべながらも通信を入れる椿
他の仲間達も歯をくいしばりながらも退却する。

「タケル…。」

「大丈夫だ。
ちょっとそこまで行って、タイマーセットしたS‐11を口の中にブン投げるだけだ。
後は解放状態を使ってトンズラするから心配するな。」


心配そうな表情でタケルを見つめる冥夜とまりも
退避命令が出ていても、やはり心配で未だ護衛を続けていた。


「必ず……生きて帰ってきてよ…。」

「勿論、必ず帰ってくるさ。
まだこんな所ではくたばる訳にはいかないんでね。」

「………わかったわ、信じてるわ。」


タケルの答えを信じて退避を開始する冥夜とまりも。


「………久し振りだなぁ…単機突撃するなんて『あの戦い』以来だな…。」


二人の退避を見届けた後、同時にタケルも母艦級に向かって突撃する。


(佐渡島以来…とはいえ、あの時よりは難易度は跳ね上がってる事は間違いないな。)


思い出す記憶―――――
『二度目の世界』で『佐渡島ハイヴ』での戦いを――――

あの時は囮と仲間の突破口を開く為に単機で要塞級を相手にしていた。

危うく要塞級の触角に貫かれる寸前だったが、伊隅みちる大尉に救われた。


しかし、今回は正真正銘の単機。
一応艦隊の支援砲撃はあるものの安堵は出来ない。


「………これを乗り越えなきゃ、男じゃねぇっ!!」

緊張と恐怖を気合いで吹き飛ばし、文字通り『地獄』に突入するタケルだった…。



[20989] MUVーLUV ALTERNATIVE~三度目のループ 第百六話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:fd33fbfd
Date: 2012/07/17 00:01
「うおぉぉぉぉぉっ!!
どきやがれぇぇぇぇぇっ!!」


全速力で噴射跳躍をするタケル
その動きについて来れないBETA達の攻撃を掻い潜り、飛翔する。


光線級対策として、低空飛行をするタケルだが、最低限突撃級や要撃級の攻撃が届かない程度のギリギリ高度を保ち、心臓をバクバクしながらも果敢に単機突撃する。


今―――光線級に撃たれれば、地上に降りるしか助かる手段は無い。
しかし、地上に降りれば―――幾多のBETA群を相手にする事になる。


「……だから…なんだっていうんだよ…。」


『前の世界』では、尊敬する先任と共に狭い空間内で光線級のレーザーを回避したではないか―――


佐渡島では、囮役として単機で要塞級を撃破したではないか――――


何より―――あの地獄ともいえるオリジナルハイヴでは、彼女達は賢明に戦い、己の命と引き換えに自分を助けたではないか―――


「これしきでの戦いで死ねる程、俺は暇じゃあねぇんだよっ!!」


まだ死ねない―――
否、死ぬ訳にはいかないのだ―――


仲間達の命を守る為に―――
彼女達の『死の運命』を変える為に―――
初めて手に入れた『幸せ』の為にも―――



「うおぉぉぉぉぉっ!!!」


徐々に母艦級との距離が縮まる白銀機
チラリとレーダーを確認すると、仲間の最後尾がもう少しで危険地域より外れる事を確認する。


「―――――ッ!?」


一瞬の隙、前方で要撃級が仲間の残骸の上に上がり、攻撃を入れる。

「喰らうかっ!!」


白銀機は急遽回避行動と共に左腕で要撃級の前腕部を叩きつけ、回避を成功する。
しかし、その犠牲として、左腕部が肘まで大破する結果となる。


「邪魔するんじゃねぇぇぇぇっ!!」


前方で邪魔なBETAのみを背中のマウントに装備していた突撃砲で一掃しながらも、その足を止める事はなかった。


―――その背中にズシリとのし掛かる、重圧。
Gによる重圧ではなく、全く別モノ。


――その正体はタケルは知っている
それは『恐怖』と『責任』

自分が死ぬかもしれないという恐怖ではなく、『失敗したら、仲間を死なせてしまう』という恐怖

失敗した場合、自分にふりかかる責任ではなく『仲間達の命を守る』という責任
そのとてつもない重圧がタケルの背中にのし掛かる。


今までだって、オルタネイティヴ計画だの未来を変えるだの、タケルの背中に重圧を背負っていた。
しかし、それは香月博士や仲間達が一緒に背負っていた為、乗り越える事が出来た。


しかし―――今、この瞬間においては、タケルがこの戦場の―――
欧州の未来を一人で背負う事になったのだ。
その重圧は、計り知れない程だ。


仲間達を失ってしまう―――
欧州がBETAに占領され、彼等の希望を失ってしまうかもしれない――――


そんな恐怖と責任に押し潰されそうになるタケルだが――――唇の端を噛み締めながらも、その重圧に耐える。



母艦級との距離がドンドン縮まる。
まるで、スローモーションのように、一秒が数十秒に感じてしまう程、タケルの集中力は高まり、その最短ルートを跳ぶ。


そして、遂に―――
目的の距離に到達する。

「これでも喰って、弾けてなっ!!!」

閉じようとする母艦級の口の中にS‐11を投擲する。
タイムは10秒
さあ――――生と死の逃走劇の始まりだ――


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!
解放状態発動ッ!!」


最後の切り札である解放状態を発動し、逃走するタケル

音速で回避しながら、ドンドンと距離を離す。



残り5秒――――

要塞級の胎内から現れた複数の光線級がタケルの背中にめがけてレーザー照射をする。
ギリギリで回避しながらも、距離を離していく。


残り3秒―――
機体に幾度とレーザーが掠りながらも、逃げ回る白銀機
一度でも陸に降りてレーザーを回避すれば、爆発に巻き込まてしまう。


残り1秒―――
爆発に備え、歯をくいしばり、最後の1秒まで生き残る事に専念し、仲間達の背中を目指す。


そして――――


自身の身体を粉砕するかの如く、轟音と共に大爆発が起こる。
無論、その衝撃波を受けたタケルは体勢を崩し、地に不時着する。


「タケルッ――!!」

その様子を目的した冥夜とまりも
背中に悪寒が走り、煙の中に消える白銀機の救助に向かう。


「タケル!!タケル!!何処だッ!?」

「クソッ!!通信が今の爆発で使えないなんて…。」

煙の中をかき分けて白銀機を捜索する冥夜とまりも
通信もレーダーも一時的に使えない中、必死に白銀機の捜索に専念する。


見つかるのは、BETAの残骸
艦砲射撃や爆発で肉片と化したBETAの残骸があちらこちらに散らばっている。


徐々に襲ってくる最悪のイメージ
不安が膨れ上がる中、ガシャンと音が鳴る。


「「―――ッ!?」」


音が鳴る場所へと向かう冥夜とまりも
其処には―――大部分大破していた白銀機があった。


「タケルッ!!」

「……………ういぃ……頭がクラクラしやがる……。」

「……良かった…。」


冥夜の問いに反応するタケル
情けない声を聞き、安堵し、涙を流すまりも
冥夜も涙を拭いながらも、タケルの救助に向かう。


「タケル、無事か!?」

「一応は……けど、機体がやられてベイルアウトが出来ねぇ。」

「機械化歩兵には?」

「それもちょっと無理ぽい。
腕部がポッキリと折れてるから脱出出来んわ。」

現状を報告するタケル
ベイルアウトも機械化歩兵での脱出も不可能と分かり、冥夜機と天狼が白銀機を担ぐように運ぶ事になる。


「怪我はないの?」

「頭に少し怪我して血を流している以外は打撲程度だな。
骨折とかの心配は無いから安心してくれ。」

「……心臓が止まるかと思ったぞ…。
解放状態からの不時着だ…。
最悪のイメージが頭に浮かんでばかりでハラハラしたぞ…。」

「運が良い事に要塞級の死骸がクッションになってくれてな、何とか死なない程度に不時着したよ。」


あの瞬間――
衝撃波でバランスを崩し、不時着する白銀機
バランスを崩した事で多少減速した事と、最後まで体勢を直そうとしたタケルの生への執念。

そして、地上へ不時着する瞬間、要塞級の肉片がクッションの役割になってか、更に減速
……まあ、その代わり、派手にバランスを再び崩して不時着してしまう結果になったのだが…。


「うわぁ……胴体以外はド派手に大破したなぁ…………
良く生きていたな、オレ」

「全くだ。」

「結城君に感謝した方が良いわよ?
多分、彼のおかげよ。」

「そうだな………
出撃前に格好つけたからなぁ……土下座して謝ろう。」


機体を大破した事に責任を感じてしまうタケル
………まあ、後々結城からのタノシイタノシイ……お仕置きが待っているとも知らずに…。


「イグニス36(まりも)からイグニス1へ。
イグニス10の生存を確認した。
しかし機体はかなり大破した上、ベイルアウトが不可能故にイグニス26(冥夜)と共にイグニス10の機体を運搬する為、護衛をお願いしたい。」

「イグニス1了解。
イグニス1から第二・第四中隊へ。
イグニス10の生存を確認した、しかし現在戦術機が大部分大破した為、イグニス26・36が機体を運搬する。
従って、第二・第四中隊は三機を護衛
安全圏内まで避難した後、イグニス43(美琴)がイグニス10を救助作業し、同乗させ第四中隊は艦隊まで一旦退却、イグニス10を治療班に受け渡し、再び戦前復帰・第二中隊は海岸で第四中隊を見送った後復帰せよ。
イグニス6(真耶)がイグニス10の代わりに第四中隊を指揮をせよ。」

「イグニス6了解。」


椿からの指示に従い、タケルの代わりに真耶が隊長代理となり、第四中隊でタケル・まりも・冥夜を護衛する。
そしてそのすぐ側には孝志・政弘率いる第二中隊も護衛として配置される。


「スミマセン、孝志さん・政弘さん
ご迷惑かけます。」

「馬鹿野郎、誰が迷惑だって?
仲間を守る事は当然の事だから気にするんじゃねぇ。」

「そうだぞ、タケル
更に言うならば、今回の任務、タケル一人に任せる形になった自分達の不甲斐なさで逆に謝罪する立場だ。
だから気にする事はない。」

「………スミマセン。」


自分達の不甲斐なさに猛省する政弘
同じように孝志も自分自身に苛立ちながらも、グッとこらえ、冷静さを保つ。

そんな姿を見てか、やはり謝るべきと考えるタケルは、再び謝罪の言葉を呟く。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


「ふぅ……危なかったな。
念のために管制ユニットの骨格を特別製にしておいて正解だったよ…。」

ため息を漏らす結城
タケルが生還したと聞き、安堵する。

「夕呼、白銀君に異常は無いみたいだよ。
一応怪我は負ったみたいだけど、そんなに酷くはないみたいだよ。」

『そう…ありがと、結城』


タケル生還の報を知り安堵する香月博士

現在、結城と通信を取っていた。

S‐11の爆発の影響か不明だが、一時的に白銀機からの通信手段が途絶えてしまい、流石に結城も焦っていた。
そんな時、偶々香月博士から戦況を知る為に通信が入ったのだが、タケル墜落の報告を受け、流石の彼女も背筋に悪寒が走った。


しかしタケルが生存してると知り、彼女も安堵からのため息が漏れる


『流石に今回は焦ったわ…。』

「僕だって焦ったよ…。
まあ、一応墜落する対策として管制ユニットの骨格とか色々特注品にしたからね…それでもヒヤヒヤしたよ。」

『それで、今回の墜落の原因はなに?』

「簡単に言えば、S‐11の爆発から発生した衝撃波だね。
S‐11は戦術核にも匹敵する爆発だからね、簡単に音速に達するよ。
幾ら解放状態使ったって、BETAを回避しながら逃げたんじゃ、衝撃波に捕まった途端、バランスを崩すのは当たり前だよ。」

『空に逃げれば良かったんだろうけど……光線級が居るんじゃ、良い的になるだけね。』


今回の墜落の原因を考え、再びため息を吐く二人。
しかし、今回ばかしはタケルの行動が最善策だった為、文句が言えないでいた。


『あとで白銀の怪我の状態を教えて頂戴。』

「わかったよ。
それじゃ――――」


ピッ、と通信を切り、『やれやれ』と苦笑いする結城
どんなオシオキをしようかと考えながら―――――


「―――早く完成させないと……駄目か…。」


難題を頭に抱えながら、タケルの下へと歩んでいく…。



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度 目のループ第百七話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:46d23d18
Date: 2013/03/18 03:48
2000年・7月14日

戦闘から1日が過ぎた。

基地内にある、休憩室の一角に車椅子に座ったタケルと、車椅子を押す役として霞がイルフリーデ・ヘルガローゼ・ルナテレジアの三人と談話していた。


「大丈夫ですか、シロガネ大尉?」

「身体中ひしひしと痛いけど、大丈夫だよ。」


車椅子に乗るタケルの容態に心配するイルフリーデ。
他の二人も同意見で、タケルを心配そうに見ている。


昨日、戦闘で墜落したタケルだが、軽い全身打撲と頭部に浅い怪我で済み、数日間は車椅子生活をする事になった。

因みに車椅子を押すポジションは霞がガッチリとゲットし、勝利した。
敗者の皆さん達は羨ましそうな視線で見送ったとか…。


「ウーム…欧州の地まで来て墜落とは…少し情けないなぁ…。」

部隊内の被害は自分の墜落以外は軽度…とは言えないが、それ程酷い損害はなかった為安堵するものの、自分だけ墜落してしまった為、ちょっと落ち込みながら反省する。


「シロガネ大尉、そんな事は無い。
シロガネ大尉が奮戦してくれたお陰で、母艦級を撃破する事が出来、尚且つこの地と多くの人間が救われたのです。
墜落した事など、誰一人責めたり侮辱する者など居ません。」

しかし、ヘルガローゼがそれを否定し、昨日のタケルの活躍を褒め称える。

-----結果として、昨日の戦闘は、稀にみる大勝利だった。
様々な要因はあるが、一番目立ったのは母艦級の出現により絶体絶命の危機を乗り越えた事である。

もし、母艦級撃破に失敗していれば、大勢の命と戦力が失い、このドーバー基地も壊滅し、BETAに占領されていた事は容易に想像が出来る。


無論、新たに現れた母艦級の存在により、頭を悩ます問題が増えはしたものの、今は戦闘に勝利した事に喜んでいた。


「シロガネ大尉、身体は大丈夫かね?」

「ララーシュタイン大尉…それに皆さんまで。」

すると、タケル達の後方からララーシュタイン大尉が声をかけてくる。
その更に後ろには、アイヒベルガー少佐やジークリンデ中尉・ブリギッテ中尉がタケルを心配そうな表情で現れる。


「あの速度での墜落した時は流石に肝を冷やしたぞ。」

「あはは…恥ずかしい限りです。」

「あの音速機動の事も気になるが、それより身体の容態は?」


心配しながらタケルの容態を聞くアイヒベルガー少佐

「意外と軽いですよ。
全身打撲と頭部に軽い切り傷程度
後遺症とかの心配も無いので、しばらくは安静しないといけないので、滞在中の訓練の指導は無理そうです。」

「…それはなりよりだ…。」

ホッと安心するアイヒベルガー少佐
他の面々も安心してか、表情が明るくなる。

『おお~い、カスミ~♪』

すると、ブラウアー少尉を筆頭にツェルベルス大隊のメンバー達が『荷物』を手にしながら走って此方に来る。

「ふぅ~…探したぜカスミ。」

「皆さん…一体どう…ップ」

『カスミにプレゼントだよっ♪』


すると、霞に大きなウサギの人形を渡す女性隊員
余りの大きさに霞の顔が埋まってしまう。
しかし、顔を出した霞の表情は、幸せそうな表情になっていた。


「これは…一体…?」

「昨日約束したろ?カスミに『プレゼントする』って。
本当はカスミと一緒に買い物したかったんだけど、シロガネ大尉の看護してたろ?
だからとりあえずプレゼントを先に買って来ようって話になったんだゆよ。」

『勿論一緒にお出かけする話は無くなってないから安心してね。』

「皆さん…ありがとうございます…。」

感激の涙を滲ませる霞
その涙を拭って、満遍な笑みを浮かべる。


「ウム、やはり可憐な少女はああやって笑顔であるべきだな。
些か表情が少ない為、心配はしたか…無用のようだな。」

その様子を見て笑みを浮かべるタケル達一行
ララーシュタイン大尉も自慢のヒゲをピョンピョンいぢくりながら、霞の笑顔を見て一抹の不安を取り除く


その意見に無言で傾くイルフリーデ達
自分達はこの笑顔を守る為に戦っている事を再確認し、『報酬』である極上の笑顔を見て、自分達も笑みを浮かべる。


「白銀大尉~」

「ん、正樹か。どうかしたのか?」

それから数分後、正樹と唯依がタケルの下に小走りで来る。
アイヒベルガー少佐達に敬礼し、それから用件を話す。

「今、横浜基地から連絡がありまして、今日の1800頃に白銀少佐と大尉(楓)が来るそうです。
用件は、白銀大尉の護衛と戦闘時の白銀大尉の代理だそうです。
まぁ…これは『建て前』みたいで、本音は白銀大尉の事が心配で来るみたいですよ?」

「…多分、母さん絡みだな。」

内容を聞き、苦笑いをするタケル。
大方楓が暴走気味になって、仕方無く理由付けて此方に来るのだろうと考える。
楓もやはりタケルには甘い親バカなのだ。


「あと……余談ですが…。
通信中、香月博士の後ろから…純夏の声と、『ふぁんとむ』らしき閃光がちらついたりして…。」

「『私もタケルちゃんの所にい~き~た~い~~っ!!』…ってセリフと共に、ドッカンドッカンってスッゴい音響いてましたから…。
…何人『ぱんち』や『ふぁんとむ』の餌食になったんだか…。」

「……なんか、胃がキリキリしてきた…。」

唯依と正樹の話を聞いて、胃が痛みだすタケル
遥か彼方の横浜基地で暴れる純夏の姿が良くわかる為か、不安と犠牲になった人達への申し訳ない気持ちで胃を痛めてしまう。


「……その際、もしかしたら純夏も来るかもしれないと…。」

「…多分来るな…。」

「ですよねぇ~…。」


純夏も来る可能性を考え、『オレ…欧州の  地でも飛ぶのかな…?』…などと考えてしまう。

皮肉にも、唯依や正樹も全く同じ考えだったりする。

そて、タケルの後ろに居た霞も『…………ふぁいとです、白銀さん…。』と、ぬいぐるみを抱きながらガッツポーズをとって励ます。

…ぶっちゃけ、逆効果だったりするのだが…。




あとがき

久し振りです、騎士王です。
去年の7月…ぐらいかな…?
前話から久しく投稿しました。

今まで放置して、読者の皆様に誠にすみませんでした。

今まで投稿しなかった理由は、騎士王の実の父親がくも膜下で倒れてしまう事が有りました。


その為、いきなりの一人暮らしと父親の世話(入院・転院の手続き・市役所での手続き等々…)
忙しい日々だった為、投稿出来る時間がありませんでした。


今現在は、そういった手続き等は無くなり、時間が少し出来たので、少しづつ書いてました。
そんな時に、尊敬してるテンパさんの復活や、読者様達の暖かい書き込み、あとPS3のマブラヴオルタネイティヴのプレイで、再び火が灯しました。

投稿する期間は相変わらず不定期ですが、これからも頑張りたいと思います。

今回は短い話になりましたので、御了承下さい。



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度 目のループ第百八話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:46d23d18
Date: 2013/12/10 01:37

「ようこそ、ドーバー基地へ」

アイヒベルガー少佐を先頭に、ツェルベルス大隊が並んで敬礼する。
彼等の前には-----


「帝国陸軍第7戦術機甲大隊・大隊長の白銀影之少佐です。」

「同じく帝国陸軍第7戦術機甲大隊の白銀楓大尉です。」

白銀夫婦がビシッと敬礼し、自己紹介をする。
そして-----


「国連太平洋方面第11軍横浜基地所属の『前島みちる』大尉です。」

「同じく国連太平洋方面第11軍横浜基地所属の白銀純夏少尉ですっ!!」

…ヤッパリというか…欧州の地にやってきた純夏
その純夏の護衛にみちるが同行する。

そしてみちるもつい最近、やっと正樹と婚姻出来た為(まりかも)、『前島』の名前を名乗る事に喜びを感じていた。

表情には出さないが、内心幸せタップリほわわん…と喜んでいた。
その様子をわかる者は……ツェルベルス大隊の後ろで、正樹達と並んで敬礼していたまりかだけだった…。


「あ、あの……タケルは…白銀武大尉は…?」

やっぱり『母親』の楓が心配そうにタケルの様子を質問する。

「シロガネ大尉ならば、現在治療の為医務室に居ます。
ご安心ください、治療と言っても頭部の傷の治療と軽いリハビリを行っているだけです。」

アイヒベルガー少佐の説明を聞いて、深い溜め息を吐き出し、安堵する楓
影之も肩の荷が降り、安堵の表情を見せる。

そして純夏も安心はするが、やはりタケルに会いたい気持ちが強い為、ウズウズする。

「では、案内致します。
こちらです、ついて来て下さい。」

ジークリンデ中尉が影之達を医務室まで案内する。


カツカツと足音を響かせる一同。
無言で歩いてる為か、足音だけが響く。

「ところで、スミカ少尉はもしかしてシロガネ大尉の…?」

無言の沈黙を破ったのは、ジークリンデ中尉
少し重苦しい空気を無くす為に、あえて純夏に声をかける。

「あ、ハイ…その…タケルちゃんの…「奥さんだと?」……ハイ。」

顔を真っ赤にし、モジモジとしながら答える
そんな姿を見てか、影之や楓の表情に笑みが少し浮かべる。

「そんなに照れなくて良いのよ、スミカ少尉。」

「そうなんですけど……ヤッパリまだ馴れてないっていうか…。」

「まぁ、その件に関しては時間が経てば解決するわ。
最初はやっぱり初々しかったりするものよ。」

モジモジする純夏にフォローを入れるジークリンデ中尉
楓も会話に参加して、経験談を語る。

そんな姿を第三者視点で見ていた影之は、『ヤレヤレ…』と苦笑いをしながら呟く。
しかし、ジークリンデ中尉のおかけで空気が軽くなり、内心では感謝していた。

「つきました。
コチラの部屋になります。」

「ありがとうございます、ジークリンデ中尉」

医務室に到着し、影之が医務室のドアをノックしてから開けると---


「失礼しま………はっ?」

影之が見た光景は------

「タケル、今度はリンゴだぞ、ア~ン」

「ボクはオレンジだよ、ア~ン♪」

「わ、私はイチゴです、ア~ン」

「もう、そんなに食べさせたら、喉が詰まるでしょ?
…ホラ、タケル水よ。」

「わ、私は…別に…。
ホラ、口元が汚れてるわよ?」


------何?この幸せ空間は?

影之が見た光景は、タケルの介護に我先にと乙女達が奮闘する光景だった。

冥夜・美琴・美姫によるア~ン攻撃と、まりもの水分補給
千鶴もツンデレ発動しながらも、口元をタオルで拭いたりと世話をする。

勿論他の者達も隙あれば、あれこれと世話をしていた。

そして当のタケルは………窒息寸前で顔色が真っ青になっていた。

「アッハッハッハッハッ♪
ヒー…ヒー…腹が痛くて…息が出来ないや…。」

そして第三者視点で見ていた結城が、腹を抱えながら爆笑していた。
…勿論ビデオカメラで撮影は忘れない。


----------------


「----アナタ達、反省はしたかしら?」

「「「「ハイ、スミマセンでした。」」」」


楓の前で正座させられる嫁達&候補の乙女達。
その中には純夏も入ってたりする。


理由は簡単。
ラヴリーな空間を見て、怒りゲージMAXになった純夏が『ぱんち』を放ち、タケルが欧州の大空を飛びだってしまったからだ。

勿論その事も原因だが、それ以前にタケルが窒息寸前まで追い込まれてた事も説教の原因だ。


タケル?
タケルは------


「へぶらっ!?」

只今着地(落下)したようだ。
その様子を初めて見たジークリンデ中尉は『…日本の乙女はあんなパンチを放てるの…?』…などと勘違いをさせてしまう。

…しかし、まぁ…確かにそういった事が出来る者が多々いるから、そう思われても仕方ないのだが…。


「…まったく、話を聞いた時は心臓が止まったかと思ったぞ…。」

「ゴメン…オヤジ」

そしてタケルと影之は今回の事の会話をする。
影之も理解はしてるが、『父親』として、『息子』であるタケルの行動に怒りを抑えつつ、接していた。

「確かに突然発生した任務だから今回の事は理解してる。
衛士としてならば、その行動も結果による代償も当然考えられる可能性だ…仕方ない。
----しかし、『父親』としては、今回の件はどんな理由があっても、そう簡単には『ハイそうですか』と納得出来る事ではないのだぞ?」

「…ゴメン」

「自分の命より大切な1人息子が死にそうになったんだぞ?
お前だって、護や春夏が同じような事になったらどう思う?」


影之の静かな怒りと不安を言葉として伝え、タケルの心に響かせる。
楓も今回の影之の姿を見て、参加する事すら出来ない程、影之は怒り---タケルの無事を安堵していた。

「だからタケル…今以上に強くなれ…皆に心配をかける事が無いぐらいに強くなるんだ。」

「ああ…わかった。」

この二人の間に割って入る者は、誰一人いない…。
そう-----よっぽど『空気を読めない奴』以外は----


「ああ~…ゴメンねぇ。
親子の会話に割らせてもらうよ?」

いた。
この入り込めない空気にズガズガと入り込んだ奴が。

突如として結城が二人の間に入り込む。

しかし、その表情はいつものイタズラな小悪魔的な表情ではなく、至って真面目な表情であった。


「結城さん…?」

「ゴメンね、本来は白銀クン達の話に割り込む気は無かったんだけど、これだけは伝えないといけない事だからね。」

「伝えないといけない事…?」

タケル・影之は勿論、周りにいる者達も結城の言葉に戸惑う。

「今『強くなれ』って話が出たよね?
それについてだけど-----僕は反対をさせて貰うよ。」

「「「「えっ!!?」」」」


突然の言葉に全員が唖然とする。


「以前から言ってるよね?
白銀クンは、その余りの機動特性の成長の早さにより、搭乗出来る戦術機に限定されてしまう事に。
撃震・陽炎・瑞鶴・吹雪・不知火は勿論、現在に至っては不知火・改や吹雪・改ですら実戦には搭乗出来なくなってしまっている。
…はっきり言ってしまえば、武御雷や武御雷改・羽鷲だってギリギリの所なんだから。」

結城の言葉に衝撃を受ける影之達。
タケル自身もその言葉の意味をよく知っている為、無言で聞いていた。

「ギリギリって意味もね、『全力で機動出来る』って意味じゃないの。
『抑えて戦闘に出れる』って意味なの。
今現在全力で戦闘出来るのは、試作機の神威だけ
その神威だって---下手したら完成する前にお払い箱になる可能性をちらつかせてるんだよ?」

「そ、そんなっ!?」

あの化物クラスの神威ですら、搭乗の危機に陥っていた事に驚愕する
すると、まりもが前に出て結城に質問する。

「結城クン…その…抑えて戦闘する訳にはいかないの?」

「出来なくはないけど、いずれその『代償』はやって来るよ。」

「代償って…?」

「今回の墜落の件----
ハッキリ言ってしまえば、白銀クンが全力を出せる事が出来れば、あんな結末にはならなかった可能性があったかもしれないって事だよ。」

「……えっ?」


今回の墜落の件の話が出てきて、言葉を一瞬失ってしまう。

「一応データ上なら、白銀クンはあの状況を持ち直して無事な着地を出来る事を証明してるんだ。
但し、機体は神威って条件付きだけどね。」

「----!?」

「現にそういう訓練をさせてるの。
音速機動をするって事は、あらゆる条件化の中で『墜落しない』事が使用条件なの。
神威に搭乗するにしろ、XM3-EXTRAの解放状態にしろ、そのスピードやGに耐え、操る事が最低条件なの。
解放状態に関しては、元々レーザー級対策や奇襲攻撃の際の一瞬だけに使うのが本来の目的みたいなモノだから、普通の衛士はある程度耐えられれば大丈夫だけど、白銀クンみたいに限界ギリギリとなれば話は別。
常時音速機動となれば、機体もそうだけど、人体にだって影響はあるんだよ?
…まぁ…白銀クンの場合は、純夏ちゃんの『ぱんち』とか『ふぁんとむ』を毎度毎度喰らってるおかげもあって、耐えられるけど…
けど、墜落したら元も子もないからね、あらゆる条件化でのシュミレーターで墜落しないように訓練してるの。」

結城の説明を聞き、納得するまりも。
確かに音速機動をするからには、墜落に対する対策をするのは当たり前。
そして、それと同時にある『答え』も浮かび、結城が言わんとする『問題』も理解する。

「結城クン…神威の完成は…まだなのよね…?」

「勿論、っていうか完成出来ないよこのままだったら夕呼に言われた期限迄には間に合わないだろうね。」

「期限…?」

「来年の12月だよ」

「-----ッ!!!」


残り時間の少なさに絶句するまりも。

事情を知っているタケルや他の数名も、表情を曇らせ、沈黙する。


「…結城クン。
なんか解決案は無いのかしら…?」

「解決案っていうか、そもそもパーツの強度に問題があるの。
今ある戦術機のパーツの骨格部分や外装部分の強度さえ解決すれば…」

「神威の可変式シールドみたいな素材?」

「あ~…アレなら問題無いね。
けど、アレはそもそも素材不足だから戦術機には使えないんだよねぇ~…。」


ふむぅ…と苦い顔になる結城
一応素材は有るが、素材が滅多に手に入る素材でないが為、頭を悩ます。

「ねぇねぇ、結城さん。
そもそもその素材が採れない理由って何なの?」

すると、純夏が疑問を質問する。
他の一同もその問題に同意するかのように結城に注目する。

「いやね、その素材は横浜ハイヴを調査してた際に発見した素材でね、元々地球上の鉱物なんだけど、BATEがハイヴ建造する際に至る所掘った為その素材が余り手には入らなかったの。
けど、この素材は掘れば必ず出るって訳でもなく、元々かなり希少な鉱物だとわかったらしいよ?」

「そっかぁ~…。」

「まぁ、掘るにしたって莫大なお金がかかるから、そう簡単には出来ないんだけどね。」

結城の説明を聞き、皆が同意し、納得する。
純夏も諦め顔になりながらトホホ…とする中-----タケルは『何かが』引っかかってた。

「………」

「どうしたの、白銀クン?」

「……結城さん…。
その素材って、かなり深い地層にあるんですか?」

「ん~…そういう訳でも無いみたい。
地層の深さに関しては、幅は広いみたいだけど、そうだね…浅い所なら、地下100mぐらいから出るみたいだよ?
勿論浅い場所故に発見する確率も低いみたいだけどね。」


「そうですか…。」

結城の説明を聞き、頷くタケル。
しかし、タケルの頭の中には『何か』が違和感に似た感覚が残る。

「タケル…余り無理するでない。
今は身体を療養をするのが先だ。」

「済まない冥夜---------」

心配した冥夜がタケルに声をかける。
そしてタケルも謝りながら、冥夜の顔を見ると---モヤモヤしていた違和感が無くなる。


「ああ…アアアッッッッッ!!」

「うわっ!?」

「ど、どうしたのだタケル!?」

突然のタケルの大声に全員がビクンッと驚く。



「そうだよ…何で今まで思いつかなったんだよ…?」

「ど、どうしたんだい…白銀クン?」


突然のタケルの行動にビクビクする結城
ブツブツと独り言を呟く姿を見てか、より一層近寄りがたい雰囲気を漂わせる。

「ジークリンデ中尉!!」

「は、ハイ!?」

突然呼ばれてしまい、どもるジークリンデ中尉

「横浜基地に通信したいんですが、許可取って貰えないでしょうか?」

「あっ、ハイ…それぐらいならば…。」

タケルの頼み事に即座に行動するジークリンデ中尉
近くにあった内線で、通信許可を貰おうとすると…。

「シロガネ大尉、今許可を申請した所、あと五分後にクジョウ少佐がコウヅキ博士と通信する予定だと…「ありがとうございますッ!!」…って…えっ?」

ジークリンデ中尉の話を聞くと突然車椅子に乗り込み、猛スピードで部屋を出るタケル…。
忘れてはいけない…彼は今…全身打撲だという事を…

『ウギャ!?』

部屋を出て数秒後…何やら壁に激突して、潰れたカエルのような声が聞こえて来る。
勿論皆さんは何の声かはわかるのだが、余りのタケルの行動に反応が出来ないでいた…。


---------------------

「---という事で「失礼しますッ!!」って…えぇぇっ!?」

『……随分と元気一杯ね…。』

通信中に突然のタケル乱入に驚く椿。
ズタボロのタケルの姿を見てか、香月博士も流石に唖然とするしかなかった。

「先生先生先生先生ッ!!」

『何よ突然?通信中に乱入とは、随分と慌ててるみたいだけど?』

慌てまくるタケルを冷静に質問する香月博士
一旦深呼吸をして、冷静さを取り戻し、『本題』に入る。


「先生、『装置』はまだ作ってないんですか?」

『装置?装置って一体何の-----』

タケルの質問に首を傾げながら考えこむ香月博士
しかし、直ぐにその意味を察し、表情がやや険しくなる。


『……どういう事…?』

「実は-----」

理由を聞く香月博士にタケルは先程の専用機の件について詳しく話す。

タケルの用件を聞き、『なる程』と納得し、考えこむ。

「どうですか、先生…?」

『可能って言えば可能だけど、不可能って言えば不可能の話ね。』

「…どういう事ですか?」

不可解な返事を聞き、問うタケル。

『そうね…アンタに分かるように説明すると、人間数人程度ならば問題無いわ。
けど、戦術機クラスの物量と人間となると問題有りなのよ。
問題点としては、『電力の量』と『装置のサイズ』ね。
『向こう』なら、装置のサイズの問題点をあっさりクリアしそうだけど、こっちはそういう訳にはいかないわ。
こっちの場合、秘密裏に進めながらだから場所が限られてしまう。
横浜基地の場合…そうね…『90番ハンガー』のような場所が必要だけど、彼処は今凄乃皇で使う事は出来ないわ。
帝都城にしたって、今アンタ知ってる場所以外は無いし、大体にしても装置を作れる大きさの部屋じゃないわ。
せいぜいシュミレーター用の管制ユニット十数機分でやっとよ。』

香月博士の説明を聞き、苦い表情になるタケル
しかし香月博士の問題点の説明は続く。

『電力量についてはアンタも知ってるけど、人間一人でさえ基地の電力をかなり使ったわ。
それを戦術機クラスの物量ともなれば、下手すれば原子力発電所一カ所分ぐらい使うかもしれないわね。
そんな電力を『あっち』で自由に
使える所あるの?
あったとしても、『あっち』からこっちに運ぶ際に都合の良い場所に運べるとは限らないのよ?』

「そっかぁ…」


ガックリと肩を落とすタケル。
そばにいた椿が慰めの言葉を言うが、やはりそう簡単には立ち直らなかった。

すると-------


「何の話かはわからないけど、神威に関連するんなら、僕も参加させて貰うよ。」

「なっ!?」

『結城!?』

突如通信室に入って来てた結城に驚くタケル達だった…。











[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度 目のループ第百九話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:54e06d33
Date: 2014/04/07 02:13
2000年・8月20日

横浜・横浜基地ーーーーーー


「遅いねぇ~…夕呼は何してるかな?」

「さぁ…?」


現在、タケルと結城・美琴・晴子の四名は横浜基地に来ていた。
ドーバー基地での通信後、涙と笑いの別れを告げ、タケル達は日本に帰還した。

特に霞に関しては、ドーバー基地内では爆発的な人気な為、多くの者達が涙した。

また、タケルの体調も回復し、訓練出来るまで回復していた。


そして今日ーーーー
秘密裏にタケル達は横浜基地にやってきた。
本来は来年迄は来ない予定だったが、内容が内容な為、仕方無く来ていた。


「ハ~イ。
遅くなってしまってゴメンねぇ~♪」

「謝ってるセリフじゃないですよね…それ。」

遅刻して来た香月博士が明るい声で謝罪するが、勿論言葉だけで、これっぽっちも気持ちが籠もっていなかった。

「会議が思ったより長引いたのよ。
かと言って、アンタ達は秘密裏に来てるから、おいそれと連絡出来ないし、ピアティフに頼もうにも、今ちょっと野暮用でいなかったから、アンタ達に遅れる事が伝えられなかったのよ。」

「…まあ、それならば仕方ないけどさ…。」

遅刻して来た理由を聞き、納得するタケル達。
結城も渋々納得する。

「こんな所に居ても話は始まらないわ、移動しましょう。」

香月博士の後に続くタケル達。
しばらく地下に降り、とある部屋に入ると、一際大きい装置が有り、そのそばで純夏・クリスカ・イーニァとタケル達と一緒来た霞が何やら見慣れぬ小型な装置を作業をしていた。

「あっ、タケルちゃんだ~♪」

「タケルしばらくぶり~♪」

「…タケル…しばらく振り…。」


タケルにしばらく振りに会えて喜ぶイーニァ
トテトテと小走りしながらタケルに抱き付く。
その後ろでクリスカがデレながらタケルに近寄る。

その姿を純夏と霞は笑みを浮かべながら作業を進めていた。


「夕呼~?この大きい方の装置は何なの~?」

「説明するからちょっと待って頂戴。」

大きい方の装置に興味を持ち、質問する結城だが、香月博士は質問を一旦置くと、作業を終えた小型装置をカートでガラガラと押して来る純夏に指示を出す。

「…ナニコレ?」

「簡単に言えば、この装置の小型で簡易版にしたヤツよ。
言葉より実際に見せた方が信用性がアンタの場合はあるでしょ?」

「まあ…ね。」

カートに乗っている小型の装置に大量のケーブルを繋ぎ、準備をする純夏達
最後の一本のケーブルをパソコンに繋ぎ、準備完了する。


「…さて、これからこの小型の方の実験をするけど…
この装置の中央に注目して。」

「中央って、この二つのガラスの事?」

「そ。その中に有るのは『コーヒー入りのカップ』と『何も無い状態』よ。
今からこのコーヒー入りのカップを、こちらの『何も無い方』に移すわ。
…勿論、手で移すなんてボケは無しよ。」

「…………へっ?」

香月博士の説明を聞き、思考が停止する結城
そんな結城を無視して装置を稼動する。


「…まだ足りないわ…社、電力を上げて頂戴。」

「…ハイ。」

香月博士と霞が装置を操作する。
そして、香月博士の指示通りに霞が電力を上げるとーーーーー


「あっ、ガラスの中が光出したよ!?」

「えっ?」

美琴の声に反応した結城がガラスの中を注目するとーーーー



「………えっ?」


『コーヒー入りのカップ』が一旦消え、『何も無い方』のガラスの中からコーヒー入りのカップが光と共に現れた。


「…転移…だって…?」

「そういう事。
けど、この装置はね『ワンピース足りない』から、すぐに元に戻るのよ…ホラ、こんな風にね。」


転移したカップは再び光出し、何も無かったかのように元のガラスの中に戻っていった。

「まあ、装置の詳しい説明すると今日中に終わらないから省くけど、今回結城達に来てもらったのは、こっちの大きい方の転移装置を使う為よ。」

「こっちの転移装置を?
けどワンピース足りないんじゃないの?」

香月博士の説明を聞き、理解する結城。
しかし、先程の小型の転移装置と香月博士の発言を聞いた状態で大型の転移装置を起動する理由が理解できず、質問する。


「そうね、確かにこっちの小型の方は足りないわ。
けど、この大型の方は有るのよ…アンタの隣にね。」

「へっ?」

香月博士の言葉に反応して、周囲をキョロキョロする結城

しかし、周囲にあるのは…
後方にクリスカとイーニァ
右後ろに美琴と晴子
前方には、香月博士と移動してきた純夏

左側にはーーーーーータケルとトテトテと移動してきた霞がいた。


「…えっ?」

「そうよ。白銀と社
これが小型の方に足りなかった『ワンピース』よ。」

「ハイ……?」

流石の結城も思考停止する。
当たり前だ。
結城にしてみれば『何かしらの装置』だと思って辺りを見回したのだ。

しかし、香月博士の返答はタケルと霞
『人間』だとは流石に想定外もいい所だ。

そして、結城がとった行動はーーーーー


「…駄目だよ、夕呼…。
そんなに無理しちゃって…ホラ、仮眠室は何処だい?
僕が手を貸して連れてってあげるからさ…。」

「またそれかーーーー!!」

香月博士の腕をつかみ、仮眠室迄連れてこうとする結城
目尻には涙を溜めながら、可哀想な目線で香月博士を見る

「別に寝不足でも仕事による疲れでも何でも無いわっ!!
今回は真面目も真面目よっ!!」

「けどさ~…いくらなんでもそれはないよ?
確かにこの転移装置は凄いよ?完成すれば物資の運搬や戦場に戦術機とか色々運べるかもしれない。
…けど、その装置を完成するには白銀君と霞ちゃんが必要だなんて、どういう事だい?」


「それは見てみれば分かるわよ。
それと、この転移装置はもう完成してるわよ。
ただ、さっきも見た通り、転移したモノが直ぐに戻る原因を取り除くには、白銀と社の力が必要なのよ。」

「何で?霞ちゃんは夕呼のサポートという意味なら分かるよ?
けど白銀君は違うでしょう?白銀君が頭悪いなんて微塵も思ってないけど、けど彼の本領発揮するのは戦術機関連だ。
決してこういった事じゃないよ?」

「あぁ~もう~!
さっきも言ったけど、詳しい説明すると1日じゃ足りないわよっ!!
大体説明したって、アンタの場合眉唾以上の話になるから難しいのよ。」

「眉唾以上って、例えば?」

「…実は私は平行世界からやって来た「うわぁ~…眉唾以上どころの話じゃないよ…。」…だから難しいのよ。」


結城の説得に難航する香月博士。
例えじゃなく本当の話をしたのだが、100%否定した為表情を苦々しくする。


「ええい、埒があかないわ、結城、ぶっちゃけて言うわよ。
アンタ、白銀・鎧衣・柏木と一緒に転移して来て頂戴。
そこで神威の件の解決策が出てくるかもしれないわ。」

「ハッ?」

「安心なさい、ちゃんと人間を転移する事は成功してるから。
白銀と柏木がそうよ。」

「いや、なら僕が行く必要は「アンタが行かないと話にならないのよ」…だけど」


ギャアギャアと言い争う香月博士と結城。
その様子を生暖かい目で見守るタケル達

そしてーーーー!!


「ええい、仕方無いわ。プランBに移るわ。」

「プランB?…っていうか、クリスカちゃんとイーニァちゃん?
何で僕の腕を掴むのかな?」

香月博士がプランBを発令すると、クリスカとイーニァが結城の腕を掴む。
クリスカは申し訳なさそうな表情だが、イーニァは楽しそうに『かくごしてね、ユウキ♪』と呟く。

そしてーーーー純夏が申し訳なさそうな表情で結城の前に立ち、革手袋をギュッと履く。

「………純夏ちゃん…一体何を…「ゴメンねぇ~…結城さん。一応手加減するから安心してね~。」ヤッパリィィィィッ!!
僕白銀君みたいに補正入ってないから死んじゃうよぉぉぉっ!!」

純夏の拳が自分に唸ると悟る結城。
逃げようと暴れるが、女性とはいえ、クリスカ達軍人には叶わない。

「いくよ~…ボディッ!!」

「グハァッ!!」

キレイに結城のボディに純夏の拳が入る。
意識は有るものの、身体に力が入らない状態の結城は某宇宙人のようにクリスカ・イーニァに引きずられ、転移装置の中に入れられる。

「ホラ、結城の荷物よ。
あと、例の件忘れてないでしょうね?」

「ハイ、ちゃんと覚えてますよ。」

懐のポケットから財布を取り出すタケル。
中身は、かなりの金額のお札が入っていた。


「元の世界でつかえそうなモノ色々買って来て頂戴。
以前柏木達が持ってきたゲームとかでも役に立てば何でも良いわ。
XM3みたいに戦術機や兵器関連に役立つヒントがあれば、使う手はないわ。」

『元の世界』での娯楽から生まれたタケルの機動特性とXM3

そして晴子とタマが持って来たゲームガイや各ソフトを調べ、様々な技術やアイデアに香月博士は目を付けていた。

こちらの世界とは違い、娯楽にも様々な技術をつぎ込んでる様子を予想した香月博士は、こちらの世界より柔軟な考えをむこうの世界は持っている…と考える。

現に前の世界の時は、自分が行き詰まっていた理論をむこうの世界では、クソゲーをやって閃いたと聞く。

つまり、この世界には無い技術と発想が有るという事。
そして、それを手に入れれば、XM3のような発明や『何か』を手に入れれると考えていた。

「さて、白銀達も入って頂戴。
あと、社と…『スミカ』…頼むわよ。」


「…ハイ」
『任せて下さいッ!!』

スケッチブックや写真を用意する霞と、軍服を脱ぎ出し、その下に着ていた 零型特殊強化装備が姿を見せる。

「先生、もしかして…。」

「そうよ。
今回は人数が人数だから、スミカも付けるわ。
ただ、スミカの能力は零型特殊強化装備無しだと社以下になるし、本人の負担がかなりかかるから、今回は 零型特殊強化装備を使うわ。 」

「大丈夫だよ、タケルちゃん。」

『霞ちゃんも居るし、大丈夫だよ。』

「…無理すんなよ。」


純夏の頭に手をのせて、優しく撫でるタケル
霞にも撫でながら『純夏を頼む』と言い、霞も『任せて下さい…。』と笑顔で答える。


そして、美琴・晴子・タケルの順に転移装置に乗り込み、扉が閉まる。
すると、転移装置の内部スピーカーから香月博士の声が聞こえる。

『聞こえるかしら?今から転移させるから、柏木・鎧衣は白銀にガッチリと捕まりなさい。
鎧衣は白銀のサポートで元の世界を強くイメージしなさい。
柏木は、アンタが行った元の世界をイメージして、その世界に行けるようにしなさい。
白銀は結城と荷物をシッカリと掴みながら、以前通り強く元の世界に戻れるようにイメージしなさい。
上手く行けば、以前柏木と珠瀬が行った元の世界に行けるわ。
万が一行けなくても、向こうの私に会って説得しなさい。
今回の任務は、むこうの世界で神威の材料の調査と交渉、上手く行けば調達の準備とかもして頂戴。
あと、向こうの世界の使えるモノの購入よ。
これは最悪入手失敗しても構わないけど、神威の件に関しては失敗は許されないわ、良いわね?』

「「「了解!!」」」


香月博士の任務内容を聞き、返事を返すタケル達。
すると、少し動けるようになった結城が少し混乱する。

「えっ?えっ?本当に装置を起動するつもり!?」

『するつもりじゃなくて、してる最中よ。
ホラ、パラポジトロニウム光が現れたわ、結城も白銀にガッチリと掴んでて頂戴。』

パラポジトロニウム光の光量がドンドン増していく。
混乱する結城だが、香月博士の言うとおりにタケルを掴んでた方が良いと悟り、タケルの腕をガッチリと掴む。

『向こうに着いたら、詳しい話は白銀に聞いて頂戴。
あとーーーー巻き込んでゴメン。』

「えっーーーーー?」

香月博士の最後の一言に驚く結城
それと同時に光量が最大迄高まりーーーーーー転移する。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「……うーん……イテテッ!?」

純夏のボディブローされた痛みで目が覚める結城
お腹をさすりながら辺りを見回してみるとーーーー辺り樹木が生い茂っていた。

「…ここ…何処?」

先程まで横浜基地の地下に居たはず。
それがこんな所に自分が居るという事は…。

「転移は…一応成功なのかな?
まぁ…着いた場所が山の中って所を除けばねぇ…。」

皮肉そうに呟く。
確かに転移はしたが、山の中では成功しても微妙な気持ちになる。


「あっ、結城さん気付きましたか?」

「純夏ちゃんのキツ~イ一発のおかげでね…イテテッ」

「ハハハ…スミマセン。」

茂みからタケル達が現れ、少しホッとしながらイヤミを言う結城
晴子や美琴が心配そうに『大丈夫ですか?』と声をかけてくれる事に少し感謝しながら大丈夫と答える。

「ところでここは何処なの、白銀君」

「あそこの大木わかります?」

「大木?あの周りが見渡し良さそうな所の?」

「ハイ」

タケルの指差す場所を見てみると、見渡しの良い場所に一本の大木が見えていた。

「あそこに行けば、ここの場所が何処なのか分かりますよ。」

「ふ~ん、なら行こうか。」

痛みに耐えながら、目的地まで歩いて行く結城
そしてーーーーー茂みを抜け、大木の下に辿り着くと、驚愕と困惑が待っていた。


「………………………えっ?」


その光景はーーーーーー
かつて自分と親友達が過ごしていた町

そして、今は滅びて無くなった筈の大切な町がーーーーそこにはあった。


「これは…どういう事かな…?」

震えながらタケルの方を見る結城


「何で『柊町』がここにあるんだいッ!?」

信じられない出来事に戸惑いながらも、タケルの襟を掴みながら質問すると、苦笑いしながらタケルが答える。


「落ち着いて下さい、結城さん。
今ちゃんと説明しますから」

結城を落ち着かせ、襟を掴んでた手を離させ、ゴホンと一度咳を出す。

「まずは、説明する前に一言」

「な、なんだい?」

ゴクリと息を呑む結城
そしてーーーーーー




「ようこそ、『元の世界』へ。
ここは俺達が居た世界とは別な世界…並列世界と言えば通じるかな?」

「ハ…ハアァァァァァァッ!?」

タケルの言葉に結城の大声が辺りを響かせていた。







あとがき

騎士王です。
今回も読んで頂き、ありがとうございますm(__)m


今回、この話を作ってる最中に知った事ですか…(皆さんは知ってると思いますが…orz)





ラトロワさん…生きてたorz

そしてーーーーーー






タケルちゃんの母親の名前って、『白銀光(風守光)』って名前で白の斯衛だったんですね…orz

しかも影行は技術者で唯依の父親や巌谷中佐と面識あるときたもんだ(だったかな?)

しかもそれが明らかになったのは、ゲーム版のTE(だっけ?)
騎士王はゲーム版のTEは持ってなかったので、全然知りませんでした。
ラトロワさんの設定や影行夫婦の件はTEが発売する前に作った設定なのでどうしょうもありません。



…もう、ここ迄きたら修正は難しいので、孝之や慎二の時と同じく、このままの設定で行きますので、御了承下さい。

ハア…orz
影行夫婦よりラトロワさんの件が一番イタイなぁ…。



[20989] MUV-LUV ALTERNATIVE~三度 目のループ第百十話
Name: 騎士王◆cd16c2d4 ID:54e06d33
Date: 2014/04/07 02:28

「並列…世界だって…?」

「ハイ」

タケルの一言に唖然とする結城
普段なら信じたりはしないが、今この光景を見て、困惑する自分ではあるものの、どうしてかは否定出来なかった。

「あのさ…催眠術とか、夢とかでもないんだよね?」

「違います。
その証拠に純夏にやられた痛みがあるでしょう?
幻や思い込みにしたって、ここ迄リアルでは無いと思いますが?」

「…だよねぇ。」


催眠術等の可能性を出してみたが、全てタケルに否定される。


「並列世界…とか言ったよね?
一体どういう事か、どうしてこんな事をしたか教えてくれない?」

「ハイ、少し長くなりますが、良いですよね?」

「勿論だよ。」

結城の質問に対して答えるタケル
ただ、時間が無い為、タケルが結城を背負い、下山しながら語り出す。

そして、香月博士から許可された範囲の事を説明する。(オルタネイティヴ4の内容は秘密)

タケルが元々このBETAのいないのどかな世界の出身であること、そして数度並列世界を飛んだ事を告白する。

一度目は、香月博士が計画するオルタネイティヴ4が失敗し、オルタネイティヴ5が発動
世界にG弾を撃ち、世界の半分が死の大地と化した事
そしてタケルは数年後に戦死した事を告白する。

二度目は未来を変えようと決意し、香月博士と共に計画する
結果とすれば、佐渡島・オリジナルハイヴを攻略に成功する。
しかし、代償として大切な人達を大勢失った事。


そして、今回ーーーーーー
今回は大切な人達の命も救おうと立ち上がり、今に至る事を話した。

「ーーーーーーそっかぁ…白銀君が特別な意味が分かったよ。
確かに未来という情報があるならば、それは計り知れないアドバンテージが有るね。」

「信じてくれるんですか?」

「うーん…素直な気持ちで言えば、半信半疑って所かな?
けど、柊町や語ってた時の白銀君の顔を見たら…ね。」

とりあえず結城にある程度信用してもらう事に成功した。
しかし、結城の表情は少しばかり悲痛な表情を浮かべる。

(語ってた時の白銀君の顔は…とてもじゃないけど、嘘を語ってた顔じゃない。
とても暗く…まるで絶望のドン底に堕ちた死人のような顔だよ。)

簡略化したとはいえ、絶望的な記憶を思い出し、語った事により、表情に出ていたタケル
その表情は、結城だけではなく、晴子や美琴も見ており、心を痛めていた。

(もしかして…私が死んだ事も少し関係してる……よね…ヤッパリ。)

(…タケルがあんな表情する所…初めて見た…。)

なるべく表情に出さないように頑張る晴子と美琴だが、やはり無理して表情に出さないようにしてた為か、タケルにバレてしまう。

「済まんな、美琴・柏木。
雰囲気暗くしちまってゴメン。」

「そんな事ないよ、タケル」

「…ゴメンね…白銀」

「そんな顔するなって、ホラ麓が見えてきたぜ。」

雰囲気を盛り上げようと話を変えるタケル
麓に辿り着くと、小さなコンビニを見つける。

「とりあえず、中で少し買い物しようか。」

「えっ、なんで?」

「一応変装しないとマズイだろ?
この世界の自分に出会ったら、どんな事になるか分からんからな。」

「あ、そっかぁ。」

タケルがコンビニで買い物をする事に質問する美琴
理由を述べると、『なる程』と納得し、晴子も『流石だねぇ』と感心する。


そして、コンビニの中で帽子・サングラスやメガネ、あとはコーヒーやサンドイッチ等の飲食を少し買う。

買ってきた帽子やサングラスを装着し、簡単な変装を完了する。
そしてーータケルはコーヒーを飲みながら、レシートを見る。

「日付は…2002年3月2日…って、もうすぐで卒業の時期じゃねーか。」

「白銀、何見てるの?」

「ん?レシートだよ。
この世界の日付を確認しないといけないからな。」

「なんでぇ?」

「次来る時にこの日付を目安にしないと駄目なんだよ。」

「そっか、検討違いな日付に来ても意味ないからね~。」


レシートを確認するタケルに近寄り、質問する晴子
その理由を聞き、納得する。

「さてと…これからどうするかな…。」

「どうするって、夕呼に連絡取るんじゃないの?」

「そうなんですけど、まだこの世界が柏木が来た事のある世界とは限らないから、確証するモノが欲しいんですよ。
それにこの時期卒業シーズンが近いから、学校にも行けませんし、電話してもし万が一違う世界だったりしたら、イタズラだと思われるかもしれませんしね。」

うーん…と唸るタケルと結城。
すると、美琴が何か思いついたかのように、声をかける。


「ねぇねぇ晴子さん?」

「な~に?」

「晴子さんと壬姫さんが居た事のある世界って、香月先生と霞さん以外に誰が関わっていたの?」

「関わってたって、ループ関連の事?
それなら、御剣と殿下と、月詠さん二人と神代さん達三人だよ。」

晴子の返答に満足したのか、まんべんな笑みを浮かべる美琴
そしてニコニコしながらタケルに言う。


「タケル~タケルの家に電話してみなよ~。
少なくとも、神代さん達には連絡取れる筈だよ?」

「おおっ!?ナイスアイデアだ美琴!」

美琴助言に感謝しつつ、コンビニに設置してある公衆電話から、自分の家に電話をする。


『ハイ、モシモシぃ~?白銀ですけど?』

「その声は…戎か?」

『ゲッ…タケル様ですかぁ?』

「ゲッって何だよ…。」

電話に出たのは戎だったが、思わず出た言葉にツッコむ。

「まぁ、いいや。今そばに真那さんか真耶さんのどちらか居るか?」

『そばって訳ではないですけど、屋敷の方に真耶様が居ますけどぉ?』

「なら、大至急連絡が取りたい。
あと『ループしたタケル』って言ってくれると助かる。」

『わかり…ま……した…………………えええぇぇぇぇっ!!?』

タケルの言葉に時間差で驚く戎

その声は離れていた結城達すら耳を塞ぐ程の大音量だったりする。

『ななな…なんでタケル様がその事を…?』

「だって、本人だもん。」

『えええぇぇぇぇっ!?』

再び大声で驚く戎
電話の向こう側で神代達が『どうしだのっ!!?』『今度は何をやらかしたのっ!?』などという声が聞こえてくる。

「済まないんだけどさ…時間が余裕が余りある訳じゃないから、急いで欲しいんだけど。」

『わわわ…わかりましたわぁ~(急いで真耶様に連絡入れて呼んでですぅ~!!)』

(な、なんだよいきなり?)

(大至急ですぅ~!!タケル様からの緊急の電話ですぅ~!!)

(わ、わかったから落ち着けって…。)

電話の向こうで何やら面白い事が起きている事に容易に想像出来るタケル達

そして、居場所を伝えて一旦電話を切る。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「どうしたのだ、戎?タケル様からの緊急の電話と聞いたが?」

「真耶様ッ!?」

一方、タケルの家に居る戎達。
神代が携帯電話で真耶を呼び出し、数分後に真耶がタケルの家にやってくる。

「じじじ…実は…。」

「落ち着け、戎」

余りの出来事にパニックてる戎を一睨みでおさめるが…今度は恐怖でプルプルと怯えていた。


「実は…。」

戎の話を聞いて驚愕の表情を浮かべる真耶
神代・巴は驚愕し過ぎてカチコチに固まる。

「それでタケル様は今何処に!?」

「冥夜様達が通ってる白陵柊のそばにある、山の麓のコンビニに、タケル様を含めて四人が居るそうですぅ~。」

「……ならば、ここか。」


真耶が地図を開き、場所を見つける。

「私がタケル様達を迎えに行く。
神代は真那に連絡をとって、夕陽様達を連れて来て貰うように連絡を、巴は香月様と霞様に連絡をとり、迎えに行って貰うわ。
戎は屋敷に戻って、タケル様達を迎え入れる用意をしなさい。」

「「「ハイ、わかりましたぁ~!」」」

バビュンと、即行動をする神代達
そして真那も急いでタケル達を迎えに行く。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ん?あれは…。」

電話を切ってから十数分後、タケル達の前にひじょーーーに長い車が止まりだす。


「……………何、この無駄なぐらい長いリムジンは…。」

「ハハハ…懐かしいな…。」

60mリムジンを見て、呆気にとられる結城と久し振りに見て苦笑いするタケル。
すると、リムジンの扉が開かれ、真耶が出て来る。

「ーーーーータケル様……ですよね…?」

「ハハハ…懐かしいな…その呼び方。」

成長したタケルを見てか、涙腺を緩ませる真耶
懐かしい呼び方で迎えられ、タケルは笑顔で答えーーー


「ただいま……で、良いのかな?」

「……お帰りなさいませ、タケル様…。」

タケルの言葉で涙腺が崩れ、涙を流しながらも、頭を下げながら迎える真耶だった…。


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