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[21177] 【ネタ】時空管理局 歴史妄想  ~こうして彼らは脳味噌となった~ (魔法少女リリカルなのは)
Name: イル=ド=ガリア◆26666ccb ID:76b202cd
Date: 2010/11/07 10:03
 時空管理局 歴史妄想  ~こうして彼らは脳味噌となった~




 前書き(読み飛ばし可)

この話はとらは板にある私の作品の基本設定になってますので一応URLを
http://mai-net.ath.cx/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=toraha&all=22726&n=0&count=1



 こんにちは、イル=ド=ガリアというものです。


 この作品はギャグでありネタであり、同時に時空管理局が嫌いな方には向かないと思いますので、これらの条件に当てはまる方はただちに引き返されたほうが無難です。何よりも、「ああ、またガリアの設定厨が始まったよ」と思った方も[戻る]推奨です。



 私は“終末の聖杯戦争”という作品を投稿していたのですが、その際、電波を受けてパロネタとして“リリカルなのは”とのクロスをちょくちょく書いているのですが、ふと、素朴な疑問が浮かびました。



 『はて? 時空管理局とはどのような経緯で出来たのだろう?』


 古代ベルカ式、ミッドチルダ式、それらの中間ともいえる近代ベルカ式。


 汎用性のある杖タイプのデバイスから、近接戦闘で力を発揮するアームドデバイス、より兵器に近い特性を持つカートリッジシステム、さらにはインテリジェントデバイスなど、様々な武器、装置、技術体系は存在しています。


 しかし、戦術の上位に戦略あり、そしてその上位に政略はあるもので、“政略”の概念から見ればこれらはどのような事柄から発生したのだろうか、ということをまたしても電波を受けて妄想を開始しました。


 そうして、“多分、時空管理局はこんな組織”というのをギャグ前提で書いた結果がこれです。



 まあ、私はリリカルなのはシリーズが好きなので、結構悪者にされることが多い“時空管理局”に愛の手を差しのべたかったというのが最大の理由なのですが、やはり、彼女らが頑張る舞台はあまりドロドロしたものではなく、さわやかなものであって欲しいという願望から来る部分が多いです。



 稚作ではありますが、それでも読んでくださる方がいらっしゃれば、楽しんでください。

 

 なお作中にある ※は基本的に無視してくださって構いません。


2010.11/2 さらに考えた設定を載せました。この設定を元にとらは板でオリジナル再構成を書いてるので、暇な方はどうぞ。









 時空管理局 歴史妄想  ~まだ時空管理局は始まってもいない~



 場所 海常隔離施設。


 講師 ギンガ・ナカジマ


 生徒 アギト


あらすじ
 アギトは古代ベルカのユニゾンデバイスであるが、長年眠っていたため歴史的な背景や、時空管理局がどのようなものか実はあまり知らない。ゼスト・グランガイツも“時空管理局はどのような組織か”ということについては語ることはあまりなかったため、彼女はただ彼のために行動していたためである。ということにしておいてください。あと、なんでギンガさんが時空管理局の裏事情を知っているのかという部分についてもスルーの方向で。



 「それじゃあ、古代ベルカ時代のことだけれど、この時代のことはアギトの方が詳しいかしら?」


 「よく知らねえ、ぶっちゃけ、何も分からんも同然だ。シグナムならある程度は知ってるかもしれねえけど」


 「なるほど、まあ、一言で言えば“不明”で終わるかな」


 「それでいいのか?」


 「非常に高度で現代のミッドチルダよりも進んだ文明を保持していたのは間違いない。あの“聖王のゆりかご”やレリックなどの“ロストロギア”はまさにこの時代からの遺物だから」


 「確か、“ロストロギア”は過去の危険物の総称で、特に古代ベルカ時代に遡るものほど危険度認定が大きいんだよな」


 「“闇の書”と呼ばれていた頃の“夜天の書”なんかがいい例でしょうね。古代ベルカではカートリッジシステムを組み込んだアームドデバイスが主流で、これが指す事実は一つ、非殺傷目的でデバイスが使われていたわけではないということ」


 「だよなあ、なのはのビームなら非殺傷設定なら死にはしねえけど、ヴィータのグラーフアイゼンで殴られればそんなの関係なく死ぬよな」


 「だからこそ、現在の時空管理局ではミッドチルダ式が主流になるわけね。杖型のデバイスから発射するビームなら非殺傷設定にすればそれほど無理なく犯罪者を鎮圧できる。けど、エリオ君のストラーダみたいに近代ベルカ式の場合、使用者の技能で相手を殺さないように調整する必要が出てくる。ガジェットが相手ならともかく、一般の犯罪者を相手にする地上部隊ではあまり使い道がないというのが実情ね」


 「なるほど、テロリスト相手に警棒じゃあ意味がねえ。痴漢相手にミサイル持ってきても意味ねえってことか」※1







 「そういうこと、つまり古代ベルカはデバイスを“兵器”として用いていた。ヴォルケンリッターの方達が戦闘において比類ない強さを誇るのは基本的な土壌の違いでしょうね」


 「そりゃあな、非殺傷設定が当たり前の時代と、相手をぶっ殺すのが当たり前の時代じゃ話にならんわな。しかし、そう考えるとなのはやフェイトはとんでもねえな」


 「あの人達は管理外世界での命を懸けた実戦からスタートして、その後に訓練を受けたっていう普通じゃありえない経歴持ちだから。だとしても、あの強さは凄いけど、ともかく古代ベルカはその時代の次元世界において最大の繁栄と勢力を誇っていたけど、滅びてしまった」


 「理由は?」


 「微妙、まあ、ここらへんはありきたりな設定ということで ※2」




 「それで、古代ベルカは滅んだけど、ロストロギアの大爆発による大消滅とかじゃあなくて、文化的な衰退というか、歴史の流れに沿った退廃的な衰退によって滅んだらしいわ。“国家というものはより優れた行政機能が登場した時に滅びる”なんて言われているけど、その習いに従ったということね ※3」


 「古代ベルカが滅びる代わりに、勢力を拡大してその地位にとって代わった政府があるってことだな」


 「それが首都にクラナガンを持つミッドチルダ連邦政府。時空管理局の最高機関が評議会ということは、その前進であった組織が専制ではなかったということを強く暗示している。まあ、確証とはならないけれど、ベルカが王制だったことを考えればそれにとって代わった組織は民主共和制の可能性が大」




 「でもそれって、結構問題あるよな、結局は首がすげ変わっただけで、今度はミッドチルダが暴走したりしないのか?」


 「暴走したわ、盛大に。じゃなきゃ質量兵器の禁止なんて法律が生まれるわけもないし」


 「だよなあ、それまでは質量兵器と殺傷目的のアームドデバイスの組み合わせでやってきたんだし」


 「それでもミッドチルダ連邦も最初の50年くらいはいい感じだったそうよ。とって代わった組織は最初は活力に満ちているから腐敗の種はあっても芽は出にくい、でも、徐々に腐敗の土壌は育まれて、じわじわと社会システムを侵食していく」


 「人間国家の宿命ってやつだな。そう考えると古代ベルカは長く持ったほうか」


 「国家の寿命の長短で良い組織だったかどうかを測るのなら、良い組織だったのでしょうね ※4」



 



 「それに、ベルカは完全に滅んだわけじゃなくて、一つの王国としてだけど一応は残っていた。文明も完全に廃れたわけじゃなくて一部では伝えられていたみたいだし、その他の国家と国力的には同じだけれど、やはり古代の正統を継いでいるというステータスは最大勢力であるミッドチルダにとっても無視できないものではあった」 ※5





 「まあとにかく、その当時の次元世界は安定してはいたんだな」


 「ミッドチルダの武力を背景としたものではあったけど一応はね。ミッドチルダ文明の影響下にある世界は一千を超えていたらしいわ。古代ベルカは優れた文明を持ってはいたけど、あまり外に向かう体質ではなかったそうだから」


 「それってつまり、植民地か?」


 「正解、最初は対等な通商条約を結ぶ関係だったらしいけど、どんどん遠くへ進出すればするほど不平等条約に、果ては植民地とね。なのはさんの故郷である第97管理外世界には幸いにもミッドチルダの魔の手は及ばなかったそうだけど、もし及んでいたら………」


 「どうなるんだ?」


 「多分あまり影響ないわ」


 こけるアギト


 「さっきの前振りは何だ!?」


 「さっきも言ったけど、先史時代のミッドチルダは質量兵器による大量破壊兵器と殺傷目的のデバイスで武装した魔導師を大量に抱えていた。つまりは完全な軍隊ね、方式も古代ベルカ式から汎用性の高いミッドチルダ式に代わって、でも殺傷能力だけはそのままに」


 「ああ、つまり、文化的になのはの世界に似ていたと」


 「そういうこと、現在は魔法文明だけど、当時は科学が主体で魔法はその一部という扱い。国家によってその割合はまちまちだったそうだけど、最大勢力であるミッドチルダがその方式をとっていた以上、他の国家もそれに倣うのは自明の理」



 「仮にミッドチルダの手が及んでも、それほど影響を受けないってか。まあ確かに、腹黒い探り合いはありそうだが、それだけに仲良く出来そうではあるな」


 「それに、ミッドチルダは宗教を持っていなかったのもあるから、常に打算で動いていた。言ってみれば拝金主義ね。逆に、ベルカは聖王教会を有していて、人々の精神的な支えになりつつあった」


 「そりゃああかんな、どう考えてもミッドチルダが黙っているわけがねえ」


 「それはミッドチルダが大きな力を持つようになればなるほど顕著になった。次元世界のための武力はミッドチルダのための武力になって、徐々に傲慢になっていったわけね。そしてついには“ロストロギア”の保有にまで踏み切る段階まで進んだ」


 「いよいよ末期症状ってやつか」


 「だけど、それでもミッドチルダにも良心的な政治家はいて、暴走しがちな軍部を抑える機構もまだ機能していた。なのはさんの世界で言うところの国際連合ならぬ“次元連合”みたいなサミットの場もあったらしいから、各国とミッドチルダの良識派が協力して、ミッドチルダの暴走に歯止めをかけるための組織が作り出された」


 「ひょっとしてそれが」


 「そう、時空航空管理局の発足ね」


 「ん? 航空管理局?」


 「おかしいと思ったことはない。ミッドチルダの首都クラナガンに地上本部があって、行政機能も司法機能も立法機能も司っているも同然の組織が何で“局”なのか」 ※6




 「確かに言われてみりゃ変な話だな、普通そこは時空管理省とか、時空管理委員会とか、うーん、まあ普通にミッドチルダ政府でいいんじゃねえか」


 「でしょ。つまり、時空航空管理局は多国籍の組織であって、本来は国家を拠り所にする組織じゃないの、設立の中心となったのはミッドチルダだけど、ベルカも相当に協力してるし、数百を超える次元世界の自治政府がこれに協力しているのよ」


 「その理由は?」


 「ミッドチルダの拡大の建前は、横行する次元犯罪や海賊組織の取り締まりのため、つまりは次元世界の平和と秩序を守るため、だった。けど、それが目的なら別にミッドチルダに頼る必要もない。確かに、高度な次元航空能力を備えた艦隊を有しているのはミッドチルダとベルカ、後は周辺の先進世界くらいだったけど、ミッドチルダ一つが行う必要もないとね」


 「ああなるほど、ほとんどの世界の自治能力じゃあ対処しきれないけど、先進世界が中心になって、各国が協力し合って治安維持組織を設立すれば、ミッドチルダの軍隊に頼る必要もなくなるってわけか」


 「それを設立がちょうど150年くらい前、この時空航空管理局は、質量兵器と殺傷目的のデバイスで武装したミッドチルダ軍のアンチテーゼとして誕生したから、魔法を主軸とした非殺傷設定の攻撃が基本となった。それに、彼らは軍隊じゃなくてあくまで治安維持部隊、警察の強力版という形だった」 ※7



 



 「でもまだ、管理局法もなければ、質量兵器の禁止もなかったわけだな」


 「ええ、あくまで時空航空管理局では使用しないという謳い文句ね。で、この組織には治安維持以外にもう一つ役目があって、これが最も重要なものとなる」


 「それは?」


 「ロストロギアの探索、回収、そして封印よ」









 時空管理局 歴史妄想  ~御愁傷様です時空管理局~





 「時空航空管理局が設立された背景には、拡張を続けるミッドチルダと、それに対抗する国家群との深刻な対立があった」


 「ミッドチルダは“お前の物は俺の物、俺の物は俺の物”になっていったんだよな」


 「簡単に言えばね、しかし、ミッドチルダの大量破壊兵器による圧倒的武力に対抗できる国家はなく、ならばどうすればよいかと考えた果てに、禁断の技術を復活させて対抗しようという風潮が生まれ始めた」


 「終末思想その一だな」


 「ロストロギア、中でも古代ベルカ時代の遺産にはミッドチルダの兵器群を遙かに凌駕する悪夢のようなものすらあった。これらを保有することが出来れば、ミッドチルダの圧迫にも正面から対抗できる」


 「けど、国民への建前、おおっぴらにやるわけにもいかねえから、ことは秘密裏に進められた。そして、裏切り者が多発したと」


 「当然の帰結ではあるけれどね、ロストロギアを保有してしまえば、政府を脅して国家転覆を謀ることすら容易になる。次元世界を股にかけて国家を形成している大国はともかく、一つの世界で複数の国家が存在している場合は、当然奪い合いになる」


 「だよなあ、それを手にした国家が、その世界の覇者になることを可能にする過去の遺物、ロストロギア。欲しがらないわけがねえ」


 「そして、ロストロギアが原因で巻き起こった世界内部での戦争は、ミッドチルダが介入するための絶好の口実を与えることになった。“諸君らの技術ではロストロギアの制御は出来ない、我々が行い平和と秩序を世界に取り戻す”とね。でもまあ、事実を捉えてもいたのだけれど」


 「嘘偽りない事実なだけに反論もしにくいわけか、多分、ミッドチルダの国民の大半は純粋な正義感とかで政府を支持してたんだろうな」


 「そりゃあね、“侵略する悪の国家”よりは、“ロストロギアが原因の戦争に苦しむ、無辜の民を救う正義の軍隊”の方が響きはいいし、自分達も正義に酔いしれることが出来る。その後、制圧された国家がどうなったかは別問題で」


 「今度は、“俺達が救ってやったんだから、これくらいの見返りは当然”ってわけか。で、そのうちミッドチルダが裏で手え回してロストロギア問題を起こさせて、侵略するようになったって感じだろ」


 「まあ、誰でも発想出来るわよね。けど、圧倒的武力というものは反対意見を黙らせてしまう」


 「だからこその時空航空管理局か、中立の立場の多国籍組織を立ち上げて、次元航空での治安維持と、ロストロギアの回収と封印“だけ”の権限で、戦力だけは国軍規模にしたと」


 「その戦力も質量兵器を用いないことが前提で、魔導師を中心に据えられていた。つまり、各世界から優秀な魔導師を集めて、ミッドチルダの大量破壊兵器に対抗したわけね」


 「それで、ミッドチルダが軍隊を派遣する口実が潰されちまったわけか。政治的な権限がないから時空航空管理局の協力なら各国政府も受け入れることが出来る」


 「それが150年近く前の話、次元に跨って活動するから、その本局は各世界が浮かぶ次元空間の海に設置されたけど、まだ地上本部は存在しなかった」


 「当たり前だな、ミッドチルダ連邦の首都クラナガンに時空航空管理局の施設を置けるはずがねえ。なるほど、発足からして地上部隊と本局部隊は違うわけか、そりゃあ対立もするわな」


 「ミッドチルダの良識派の政治家も何とか地上部隊を置けないものかと頑張ったらしけど、どう考えてもミッドチルダ軍に正面から喧嘩売ってるでしょ」


 「そらそうだ。つーか、ミッドチルダに限らず、どこの国も大規模な基地を置くことに同意はしねえだろ」



 「それで、各国家の治安維持はそれぞれの政府が行って、時空航空管理局はあくまで次元犯罪の取り締まりとロストロギアの捜索のみを行った。つまりは、ロストロギア専門の国際捜査機関といったところかしら」※8









 「この体制はしばらくは上手くいった。ミッドチルダ連邦の拡張も抑えられて、各世界におけるロストロギアが原因の内戦も下火になりつつあった。現在の時空管理局の脳みそ評議員はこの時代の人間ね」


 「えーと、今から120年くらい前の人物ってことか」


 「ええ、時空航空管理局も発足理由が理由だから様々な問題を抱えてて、それを一つ一つ改革しながら進んで、組織として完成を見たのは110年くらい前のことになる。彼ら三人はその頃ちょうど若手のエースとして活躍していた三人組で、ちょうど、高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、八神はやての三人と同じね」


 「あの脳みそ連中が、なのは達の慣れの果てかあ」


 「想像したくないけど、当時の彼らをエースと慕っていた人達にとってはショック極まりないでしょうね」


 「でも、その体制に限界が来たと、原因はやっぱミッドチルダか」


 「ええ、巨大になり過ぎたミッドチルダ連邦は様々な歪みを抱え、社会に退廃の影が見られるようになった。産業分野でも徐々に他の国家に追いつかれるようになって、人材面でも同様に、何より、ミッドチルダ出身の有望な若者の多くが、ミッドチルダ軍ではなく、時空航空管理局に入局するようになってしまった」


 「あー、なるほど、“次元世界を駆け巡り、ロストロギア災害と戦う専門機関”。若者にとっては憧れの的になるよな。しかも、多国籍な組織だからミッドチルダ出身でも問題ない」


 「そればかりか、時空航空管理局の人員の多くはミッドチルダ出身者で占められるようになる。これが、地上本部の前身にもなるのだけれど、時空航空管理局に入局した若者はこれまでのミッドチルダ本位の価値観だけでなく、より次元世界的な価値観を身につけるようになる。つまり、出世して活躍すればするほど、自分の祖国に対して疑問を持っていった」


 「なるほど、時空航空管理局は右肩上がりで、逆にミッドチルダ政府は右肩下がりになっていったと。入局を禁止したら自分達の現状を全世界に公表するようなもんだし、辺境の世界からすら舐められる。かといって、このままじゃあ古代ベルカと同じ運命を辿るだけ」


 「そして、内政に行き詰まった政府が最後にとる道をミッドチルダ連邦は選択した。古代ベルカは潔く滅ぶ道を選んだけれど、ミッドチルダは最後の悪あがきに出た」


 「つまり、外征によって解決すると。絶対に良い結果になるわけがない道だな」


 「そして、後は次元世界全域に広がる戦争が待っていた。最強の軍事力と質量兵器を保有するミッドチルダに対抗するため、聖王教会の信仰を軸にベルカ王国を中心に連合軍が組まれた。ここに、ミッドチルダ連邦とベルカ連合軍の全面戦争が開始されることとなった」


 「だけど、ベルカに勝ち目はないだろ?」


 「その筈だったんだけど、ミッドチルダ連邦にとっては予期せぬ出来事が起こった。彼らが時空航空管理局へミッドチルダの若者を送り続けたのは、組織を内側から乗っ取るためでもあった。既に時空航空管理局の幹部クラスの大半はミッドチルダ出身者で占められ、連邦政府の意のままに操れる――――はずだった」


 「つまり、彼らは逆にベルカ連合軍についたと」


 「最大の失敗は、彼らが裏切るはずはないと思いこんで、人質作戦をとらなかったことね。時空航空管理局は次元交通を司る。戦争が始まりそうな雰囲気になった際に、自分達の家族を安全な世界に避難させることくらいは彼らにとって朝飯前。それに、他の世界出身者と結婚してる人達はその世界に本居を移してもいた」


 「彼らはもうミッドチルダのために戦うんじゃなくて、次元世界のために戦う存在になっていたわけか」


 「その中核となったのが例の脳みそ三人組ね、当時は今から85年くらい前だから、ちょうど55歳くらい。組織の中核に相応しい年齢になっていた」


 「その果てが脳みそかあ」


 「歴史は無情よね。それで、戦争は激化の一途を辿って、時空航空管理局でもかの“闇の書事件”でも使用された“アルカンシェル”が実戦に投入され、ベルカにおいても古代ベルカで使用されていた質量兵器を復活させて、ミッドチルダではより大量に殺せる兵器の開発が凄まじい速度で進められた」


 「殲滅戦争の様相を呈してきたな」


 「当時の次元世界は1000を超える世界が確認されていたけど、戦場になった世界だけで100を軽く超えるとか。質量兵器によって惑星ごと破壊されるなんてことはざらで、屍だけが無限に連なっていった」


 「戦争の狂気ってやつか。そんなんでもなきゃ質量兵器が禁止されたりするわけねえか」


 「作りやすさ、整備しやすさ、そして何よりコスト。安全性以外のあらゆる面で質量兵器は魔法兵器を上回っていた。けど、だからこそ大量に人を殺すのに向いている。戦争はその事実を完全に証明してしまった」


 「そんな中でよく魔導師中心の時空航空管理局は戦えたな」


 「いえ、彼らがいたからこそ、ベルカ連合軍は互角に戦えた。同じ条件で戦ったのなら、資源と兵器の数が多い方が勝つのは自明の理だけど、時空航空管理局が展開した魔導師によるゲリラ戦法はミッドチルダ軍の最大の悩みの種となった」※9



 「ゲリラ戦法か――――確かに、個人で飛び回れて、小回りのきく主砲みたいな存在がいるからな。正面から戦えば負けるけど、裏から忍び込めば」


 「想像してみて、後方の補給艦に高町なのはが現れて、ビームで的確に動力炉を破壊する様子。もしくはフェイト・T・ハラオウンが艦内に侵入して、司令部制圧して味方目がけて砲撃を叩き込む様子を」


 「最悪だな、戦艦と正面からは戦えないけど、それに乗ってるのは人間だ。銃を持った人間じゃあ人間戦車には勝てねえな」


 「しかも小隊単位で動くから捕捉しにくい。空間を飛び越えるようなレアスキル持ちもいるし、ロストロギアとの長年の戦いであらゆる魔法戦に対応した時空航空管理局の局員たちは戦術の幅が豊富。逆にミッドチルダ軍は正面決戦には強いけど、柔軟性のなさが浮き彫りになった。これは司令官の質も影響していたようだけど」


 「国柄だな、ミッドチルダ式の考えしか出来ない軍隊と、多国籍組織であるが故に柔軟な発想が出来る組織」


 「でも、それも一歩間違えれば寄せ集め部隊になってしまう。それらをまとめ上げて、効率よく配置する指揮官が揃っていてこそ、初めて有効な戦力足り得る。無能な指揮官でもそこそこ戦果を上げられる組織を優れた組織と定義するなら、ミッドチルダ軍の方が勝ってはいた」


 「しかし、人材の質に差があれば、その優位性は逆転すると。その中心が脳みそ三人衆か」


 「あまり想像したくないけど、その当時は50代の壮年の指揮官だったわけだから。ともかく、当初は圧倒的にミッドチルダ優位と思われていた戦争は、時空航空管理局の思わぬ奮戦によって泥沼化した。これがいいことなのか悪いことなのか」


 「うーん、頑張った結果が泥沼か。かといって、負けてたらミッドチルダの暴走がどこまでも続く。どうしようもねえな」※10



 「で、屍だけがどんどん積み重なって、滅ぶ世界もどんどん多くなった。ここで、魔法の言葉が登場する。すなわち、“戦争を終わらせるためだ”」


 「地獄を作り出す魔法の言葉だな。つまり、やっちゃったと」


 「ええ、戦争状態にあってすら禁じられていたロストロギアによる超兵器。“闇の書”の災害すらも上回る次元震を引き起こす時空破壊兵器が解放されてしまった。ミッドチルダ、ベルカの双方がほぼ同時期に」


 「当時、ベルカとミッドチルダはどれくらいのロストロギアを保有していたんだ?」


 「まあ、世界中に散らばるロストロギアの三割と五割ってとこかしら。ミッドチルダが三でベルカが五、時空航空管理局が回収したロストロギアが原則として聖王教会に引き渡されていたから、ベルカの保有数はミッドチルダよりも多かった。そして、特殊性が高すぎる一割は時空航空管理局の本局に、残りは未だに不明。とはいえ、これも推測値に過ぎなくて、実数は分かっていないのだけれど」 ※11



 「でも、戦争中にロストロギアは使われなかったのか?」


 「使われはしたけど、それらは条約に引っ掛かりにくい補助的なものがほとんどで、敵を殺し尽すような凶悪兵器はまだ使われていなかった。というより、敵を殺すだけなら既にミッドチルダの質量兵器はロストロギアの域に達していたわけ」


 「なるほど、残ったのは、世界そのものを根底から捻じ曲げるような法則外のロストロギアってことか」


 「つまりは、科学文明よりも魔法文明よりの超兵器ということね。汎用性は質量兵器が上だけど、異常性にかけてはロストロギアが上回る」


 「そいつらを、“戦争を終わらせるためだ”の魔法の言葉が解き放ったと」


 「後の結末は分かりきったこと、一千を数えた世界は半数以上が消滅し、ベルカ領は完全消滅。ミッドチルダも首都クラナガン以外は全滅して、その他の国家も消滅したか、時空震の余波を喰らって壊滅状態。つまり、次元世界は文字通り灰燼に帰したというわけね」


 「となると、後に残されたのは」


 「ロストロギア災害にどの機関よりも長く携わってきたが故に、唯一次元震への事前の対処が可能で、かつ、世界じゃなくてそれらをまとめる次元空間のみに拠点を持っていた時空航空管理局だけが残された。この段階で、次元航空能力を持っていて、組織としての体裁が残っているのは時空航空管理局しかなかったわけ」


 「なるほど、それで」


 「時空航空管理局は、時空管理局と名前を変えて、航空以外のあらゆる分野で次元世界を管理する組織に変わらざるを得なくなった。激減した人材と、戦争の爪痕を抱えたままで」


 「新手の拷問か?」


 「でも、やるしかないのよ。彼らにとって最後に守るべき故郷クラナガンは残ってしまった。だったら、嘆いている時間すらない」


 「苦しい戦いの始まりだあ」













 時空管理局 歴史妄想  ~休みがない、やってられない、やるしかない~






 「まあ、ここまでの経緯を簡単に言えば、ロストロギアを用いた大戦争があって、ミッドチルダ連邦とベルカ連合軍は領土ごと消滅。次元航空を司っていた時空航空管理局だけが、かろうじて消滅を免れたミッドチルダ首都クラナガンを有する惑星と共に残されたって感じね」


 「夢も希望もありゃしねえな」


 「それでも確認されている世界の中でも300近い数の世界は未だに残っていた。特に、戦争地域とは関係なかった方面は平穏無事、なのはさんの故郷も一切影響なかったとか」


 「でもよお、どこもかしこも戦争の傷跡を抱えてる上に、次元航路は寸断されて連絡もままならない。その上、ロストロギア災害の余波まで喰らったわけだろ」


 「ついでに言えば、ミッドチルダとベルカが保有していたロストロギアは再び次元世界の各地に飛び散ってしまった。一度使用されれば今度こそ次元世界に止めをさせそうな凶悪な代物が、その中に“闇の書”もあったみたいだけど」


 「ああ、駄目だこりゃ、次元世界終わったね」


 「諦めてしまえればどんなに楽だったか知れないけど、クラナガンには戦災孤児がたくさんいた。彼らを道連れにして終末思想に走ることは時空航空管理局には許されなかったみたいね」


 「子供の将来を人質にとられた虜囚ってとこだな」


 「さあ、ここからが苦難の始まり、まずは、唯一次元航空能力を持っている彼らは、大消滅で捻れた時空を可能な限り修復して、“挟間”に取り残されているであろう人々を救助しなければならなかった」


 「結構な数がまだ生き残ってたんだな」


 「中には大陸単位で次元の挟間を漂っていたケースもあったそうだから、そういった人々はクラナガンがある次元、もう一つだけになってしまったから、惑星ミッドチルダに移住することとなった。北部にあるベルカ自治領はその移民達の暮らす場所よ」


 「なるほどねえ」


 「それに、聖王教会が“大消滅”で滅びなかったことは人々にとって一つの希望にはなったみたいね。神はまだ我々を見捨てていない、復興するのはこれからだという気概を引き出すのに一役買ってくれた。だからこそ、現状における最大宗教となっている」


 「宗教ってのは本来そうあるべきなんだろうな」


 「で、元々幾つもの世界によって成り立っていたミッドチルダは惑星一つだけになってしまってはその機能が働かない。他の世界と連結し、その中心となって初めて機能する惑星機構になっていたから。そこで、地上本部をクラナガンに置いて、次元世界を管理する時空管理局の行政的な本拠と定めた、これが新暦元年のこと」


 「延命措置というか、応急処置というかだな。よくまあその状態でやってたもんだ」


 「当時の評議会を構成していた三人は、冗談抜きで100日間寝ないで働いていたそうよ」


 「待て、それ死ぬから」


 「だから、身体を機械に取り換えたの。まあイメージにするとこんな感じで」









 『なあ、今日はいつだっけ?』


 『さあ、そんなことは忘れた』


 『最後に人と直接会ったのは――――』


 『人? それはスクリーンの中にいるのではなかったか?』


 『違う違う、向こう岸に行くな』


 『休暇に、給料、我々とは無縁となって久しい言葉だ』


 『ああ、懐かしい響きだ』


 『すまん、頭痛がまた酷くなってきた』


 『薬品による強化もそろそろ限界か』


 『かといって、仕事は終わらんぞ。大消滅の被害者の救出の目処はたったが、次は地上本部の設立と各世界との航路の修繕にとりかからねばならん』


 『それだけではない、並行してロストロギアの再収集も進めねば』


 『もし一つでも光爆すれば、今度こそ全てが滅ぶかもしれん』


 『それだけは何としても食い止めねば』


 『しかし、そのために人々を犠牲にするのでは本末転倒だ。ことは同時に進める必要がある』


 『だが、人手は足りん。大消滅で絶対数が減ったのだ、にも関わらずロストロギアの数は大規模な変化はない』


 『よもや、ただの二つであれほどの破壊が引き起こされるとは、甘く見過ぎていたな』


 『消滅を免れた世界にも支援の手を伸ばす必要がある。見捨てていては終末思想にとりつかれ、全てを道連れにロストロギアを起動させるやもしれん』


 『……一つでも狂った国家が誕生すればそれまでということか』


 『だが、可能性の話でもある。ロストロギアは各地に散らばり、未だに全容すら分かっていない』


 『だからこそ、どこぞの世界の犯罪者に渡った危険すら考え得る』


 『ロストロギアの中には魔導師を求めて自分から活動するものも多い、一つのロストロギアを得た者がそれの力によってさらなるロストロギアを―――という可能性は大いにある』


 『やはり、国家間の関係修繕は急務か』


 『だが、果たして国家と呼べるものがどれだけ残っていることか』


 『それすらも現状では把握し切れていない、調査を進めよう』


 『ああ、つまり――――』


 『休みはない、少なくとも10年は軽く』


 『………』


 『………』


 『………』






 長く大いなる沈黙






 『ロストロギアの起動スイッチは………』


 『待て! お前が混乱してどうする!』


 『すまん、錯乱した』


 『しかし、10年間休まずに働くのが不可能であるのもまた厳然たる事実か』


 『むう、ならばいっそ、肉体を機械に変えてはどうダ?』


 『それイイな、どうせ休暇などないわけだし』


 『既に100日以上ここにいる。ならば、機械だろうが人間の肉体だろうが変わらんよ』


 『ああ、休みが欲しかった……』


 『過去形か』


 『あの時、ロストロギアが光爆した瞬間、我々から“休暇”と“給料”という概念は消え去った』


 『ならば、ここにいるのは唯の残骸』


 『然り、ならば機械だろうと変わらんよ』


 『そーしよー、そーしよー』


 『ええじゃないか、ええじゃないか』


 『ええじゃないか、ええじゃないか』










 「って感じね」


 「まさか………あの脳みそがワーカーホリックのなれの果てとは」


 「過労死対策を究極まで極めると機械化になって、その果てに脳みそだけ残ったらしいけど」


 「なんて悲しい理由だ――――――しかし、本当になのは達の未来な可能性もあるのか」


 「あの人達も働きすぎるから」


 「ホント、よく時空管理局でやっていけたな」


 「まあ、弊害は数え切れないほどあったそうだけど」


 「どんな?」


 「えーと、まずは、クラナガンの行政能力の向上。現在でも大量の都市区画が廃棄されて、クラス取得試験として利用されてるのは知ってるでしょ」


 「ああ、あれは兵どもが夢の跡だったのか」※12




 「難民も多かったから、地上部隊はそれらの治安維持にてんてこ舞い。闇市もいくらでもあったらしいし、皆生きるのに必死で、当時は現在とは比較にならない状況だったとか」


 「さて、何人死んだ(過労死)ことか」


 「でも、本局はそれ以上に大変で、次元航路の修繕と、各世界に散らばったロストロギアの回収及び封印、さらにそれらの世界の治安維持の手伝いに、次元航路の治安維持も同時並行。ミッドチルダとベルカがあった頃の範囲を時空管理局だけで」


 「正気か?」 ※13





 「“休みがない、やってられない、やるしかない”の3Yが当時の時空管理局のスローガンだったそうよ」


 「悲壮感が漂ってるな」


 「そんな体制が元年あたりから15年くらい続いたんだけど―――もちろん、毎年毎年状況の変化によって体制は変わっていたんだけど、重大な変革期がその頃に起こったわけ」


 「よく15年続いたな、普通だったら三ヶ月で死んでる」


 「根性の塊だったのもあるだろうけど、弱音を吐いても待っているのは世界崩壊という厳し過ぎる現実だけがあったらしいから」


 「そこで終末思想に行きつく奴が何人いたことか」


 「当時の管理局員の三大死因は“過労死”、“自殺”、“ロストロギア災害”だったそうよ」


 「上二つが大問題だ」


 「唯一の光明は、ロストロギアはどれほど厄介でも数に上限があるということ。回収が進むということは終わりに近づいているということでもある。治安維持と違って終わりがある作業ということが、微かな希望となったみたい」


 「だけど、過労死と自殺は増加傾向と」


 「ええ、でも、過労死はともかく自殺は急速に減っていった」


 「なんで?」


 「自殺した者達の代わりに、10歳に満たない子供達が管理局員として働くことになったから」


 「末期だな、いや、組織として始まってもいないのか」


 「そっちの認識が正しい。ミッドチルダは古代ベルカみたいに緩やかに滅んだのではなく急に消滅してしまったから、何もかもが壊れたまま。本来なら政府がやるべき作業を時空警察に過ぎなかった時空航空管理局が時空管理局として引き継ぐことになってしまって、その基礎すらまだ定まっていない。管理局法は発布はおろか原案が出来てもいない」


 「呑気に法律作りに携われる人材がいなかった。そんな暇があればまずは現場で人助けってことか」


 「当然、取り決めはあったけど、それは“法”として国家が定めたものじゃない上、そもそも時空管理局は政府じゃないから他の世界の自治政府とどのようなスタンスで付き合えばいいかも不透明。“相手の法を無視する”どころか、“自分達の法すらない”状況。なのに、ロストロギアへの対処能力や次元航空能力を持っているのは時空管理局のみ」


 「究極的な捻れだな」


 「だから、時空管理局はまだ始まってもいない組織。時空航空管理局として存在した頃からの役割と、大消滅で被害を受けた人達の災害救助を行っているだけで、時空管理局とはそも“何を行うための組織”かすら定まっていない」


 「赤ん坊ですらなく、胎児ってとこか」


 「その胎児からようやく赤ん坊になれたのが新暦15年頃ね、過労死と自殺とロストロギア災害でいよいよ深刻になった魔導師不足。これに対処するためには時空管理局の目指すべき方針を固めて、進むべき道を定める必要があった。戦争前に蓄積されていた優秀な人材はこの15年で吐き出してしまって、次代の育成も考えながら物事を進めねばならない。ただ突っ走るだけでは限界が来たわけ」


 「火事場の馬鹿力すら使い尽したと」


 「まさに、絶対絶命の危機ということよ」












時空管理局 歴史妄想  ~やかましい! 文句言う前に代案を出せ!~






 「新暦の15年あたりはまさしく暗黒時代、時空管理局にとって最も辛く厳しい時代だったのは疑いないわ」


 「その前は自己認識すら出来てなかったから、そんなことを考える余裕すらなかったわけだもんな」


 「船が嵐にあって、次々に襲い来る問題に対処してる時の方がある意味では気が楽よ。束の間とはいえ、危機を乗り切った時は達成感や勝利感を得られる」


 「まあ確かに」


 「けど、どんなに努力してもどうしようもなくて、沈没の運命しかないということを突きつけられたら?」


 「ああ、それが分かっちまったのが15年なわけか」


 「これまでも漠然とした不安に怯えながら突っ走ってきたけど、ついに自分達を誤魔化すのにも限界がきて、これからの未来を考えなければいけない段階に差し掛かった」


 「見たくないなあ」


 「まずは究極の二択、人材不足の最大の要因は時空管理局が魔導師に頼った構成であること、限定的ながら質量兵器を復活させて魔法の素養がない者も戦力をなるようにするか、それともこのままで行くか」


 「諸刃の刃だなあ、管理局員が質量兵器で武装すりゃ、必然犯罪者も武装しやすくなる。とはいえ、このままでは魔導師ばっかりに負担がかかる。それもそれで問題と」


 「そう、過労死や自殺が魔導師に多いということも統計データから分かってしまって社会問題になってしまった。時空管理局自体が魔導師によるシステムだから仕方ないといえば仕方ないんだけど」


 「家族はそうはいかによなあ、夫が過労死した日には子供を時空管理局に入れるわけにはいかなくなる。けど、時空管理局が機能不全を起こせば、次元世界はいよいよ終わり。少なくともミッドチルダは確実と」


 「戦闘機人計画もこの頃から骨子はあったそうだけど、純粋な技術的な問題から不可能。ジェイル・スカリエッティが登場するまではまだまだ時間がかかる。ならば、次世代の魔導師を何とか確保するしかない」


 「それが、管理内世界からリンカーコアを持つ子供達を半ば強制的に集める方式か?」


 「そこにもジレンマがある。そんなことをすれば現地の政府との折り合いが悪くなることは必至だし、そうなればロストロギア対策にも支障が生じる。そして何より、万が一戦争にでもなったら今度こそ次元世界が滅んでしまう。だからこそ、時空管理局は軍隊に非ず、あくまで治安維持組織であり続ける」


 「皮肉なもんだな、国家になることすら出来なかったことが、この局面では逆に役に立ったと」


 「だけど、破綻は見えている。そこで、伝説の三提督が提案して、評議会が決定したのが、世界を管理外世界と管理内世界に分けること。そして、管理外世界では原則魔法の使用を禁止」


 「あー、つまり、“自分達が管理している世界”じゃなくて、“自分達の手が届くぎりぎり範囲”が管理内世界なんだ」


 「そう、その基準はロストロギアの危険度によって定められた。あの戦争によってロストロギアが次元世界中にばら撒かれてしまったけど、やはり、主戦場に近い地域ほどその可能性は高く、戦争に巻き込まれなかった地域はロストロギアが在る可能性は低い」


 「なるほど、管理外世界ってのは“自分達の干渉を必要としない独立した世界”、もしくは“かつて自分達の犯した災害が及んでいない地域”なわけか」


 「と同時に、万が一ロストロギアの光爆があっても、ミッドチルダに影響が出ないであろう範囲もそれに含まれる。非情なようだけど、全部を救おうとして全部滅ぶよりは、自分達の子供の未来を救おうと思うのは当然といえば当然」※14




 「まあ、時空管理局は政府じゃないから次元世界の秩序と平和のために活動しなくてはならないのだけれど、その点から考えてもやはりそれが限界のラインだったわけ」


 「ま、どんなに崇高な理想を掲げても現実には勝てんか。遠く離れた世界を救う前に、過労死と自殺を止めなきゃなあ」


 「そして同時に、就業年齢の引き下げも行われた。これには反対意見も多かったけど――――」




 『やかましい! 現実を見ろ! 法で15歳以下の就業が禁止されていても、リンカーコアを持つ子供達は働かされている! 人手が圧倒的に足りてないんだ、子供達を働かせざるを得ない! だったら、法で保護して最低限の就業規則を守らせることに全力を傾けろ! 現実から目を逸らす暇があれば子供達の未来のための法律を作れ!』




 「と、一蹴されましたと」


 「現実はいつも苛酷だなあ。しかし、それが通ったということは、同時に“質量兵器禁止”の管理局法も出来たんだな」


 「ええ、質量兵器があれば子供達を働かせる必要はなくなる。けど、今度は子供達に兵器を持たせれば戦力になるようになってしまい、犯罪組織には見境がなくなる。魔導師不足によって時空管理局が簡単に戦力の増強が出来ない事実は、同時に犯罪組織も同じ枷を負っていることになる」


 「犯罪組織じゃあ、リンカーコアがあるかどうかの検査装置を整えるのは難しい、精密機械だからメンテナンスもいるしメカニックも必要。その上、子供達を連れてくる手間も馬鹿にならないってか」


 「ええ、その点では公的機関は圧倒的に強い。健康診断の延長線上で行うことも出来るし、リンカーコアの情報は時空管理局にとってまさに死活問題だからその管理はまさに鉄壁。けど、質量兵器となるとその関係が裏返ってしまう」


 「なるほど、公的機関が子供に銃を持たせるわけにはいかねえが、犯罪組織ならお構いなしだ。誰でも使えるってことは誰でも教えられる。引き金引けば殺せるんなら、数さえ揃えればそれなりに使える。結局、子供の死ぬ数は増す一方ってか」


 「新暦の60年代以降ならまだしも、当時では質量兵器の導入はマイナス要素が圧倒的に大きかった。何より、人々の心の中に質量兵器を忌避する感情が深く根付いていたことが最大の要因」


 「それでいっそ開き直って。子供も正式な戦力として時空管理局に入局させることにしたわけか。なるほど、曖昧にしてぼかすよりはよっぽど効率的だ」


 「魔法兵器を選ぶか、質量兵器を選ぶか、慎重に会議を重ねて結論を出す―――――暇すらなく、彼らは仕事に追われてたわけだから、冗談抜きで胃の壁を削りながら出した改革案なわけね」


 「………その頃、トップ三人は?」


 「いよいよ生命維持装置から脳みそにクラスチェンジ。機械のメンテナンス時間すら惜しくなったみたい」


 「すげーよあんたら、尊敬するよ」


 「だけどまあ、ミッドチルダはともかく、周辺の管理内世界では反発もあったわけ。管理内世界の番号はロストロギア災害の危険度基準に定められた。番号が多いほど危険が少なくて、時空管理局との交流も少ないってことになるわね」


 「そいつらにとっちゃ、向こうの勝手でリンカーコアを持つ子供達が連れてかれるように感じるわな」


 「そう、それで、時空管理局のやり方を非難する抗議文があったんだけど………」






 『時空管理局は横暴だ! 我々の法を無視し、勝手に裁き、あまつさえ子供達を連れさるなど言語道断だ! その上、子供達にまで働かせるなど、人としての倫理はないのか!』



 『やかましいわ! こちとらそんな余裕はねえんだよ! 俺達だって好きこんで120時間連続勤務をやってんじゃねえ! だがな! 倒れるわけにもいかねえんだ! 俺達が倒れたら子供達が240時間連続勤務になるんだこらあ! 文句言うなら代案を出せ! あれもダメこれもダメで世界がまわりゃあ時空管理局はいらねえんだよ! 休みよこせ! 故郷に返せ! やってられるか! でもやるしかねえんだよコンチクショー! テメーやれっか!? やれねえだろ! だったらぐだぐだ言うんじゃネエよ、バーカバーカバーカ』(資料によると、45歳 2児の父の発言)







 「本局からは苛酷な勤務命令を下され続け、ロストロギア災害で同輩を失い、過労死寸前まで追い込まれてたところに今度は現場の世界の自治政府からさえ文句を言われた管理局員達がついにキレたとか」


 「そりゃキレるわな」


 「その余りの剣幕というか、魂の叫びに押し返されて、自治政府の外務担当は引っ込みましたとさ」


 「勝てるわけねえな。連れてかれる子供達はまだしも、文句を言う政府の高官はたらふく食って有給休暇を消費してるわけだからな。その仕事がどんなにきつかったとしても時空管理局以上はないな」


 「でもまあ、中には強硬派な世界もあって、要は自分達の世界を上手くまとめられない部分を時空管理局という外の組織に押し付けることで国民の不満を逸らそうとした政府も結構あって」


 「きたねえが、それもまた有効な手段ではあるか」


 「それで……」





 『我々は時空管理局の横暴をこれ以上看過することは出来ない。今後は貴国との関係を絶ち、時空管理局の我が世界への侵入を一切禁止する』




 「と宣言した世界がいくつかあったんだけど………」




 『グッジョブ、待ってました、後任せた』




 「時空管理局は二つ返事で了承したと」


 「まあ、そうだろうな、元々時空管理局の能力でそれだけの世界の支援を行うことが無理だったわけだし」


 「そうなのよね、確かに各世界からリンカーコアを持つ子供達を集めたけど、それ以上の数をミッドチルダから本局航空部隊としてロストロギア探索に派遣していたから、削れていってたのはむしろ管理局の方で」


 「つってもそれも、ロストロギアが光爆したら自分達も巻き込まれるって理由からだろ」


 「だけど、それだけを基準に考えるなら、せいぜい管理内世界は100程度でよかった。この頃の200というのはミッドチルダの安全だけを考えれば明らかに多い。まあ、元はミッドチルダとベルカの戦争が原因なんだから、その後始末をする義務が時空管理局にはあったんだけど」※15






 「つまり、戦争への反省から、身を切りながらも遠くの世界までロストロギア探索部隊を回していたけど、それじゃあ管理局が消滅するから最低限の人員確保のために次代を担う子供達の中でリンカーコアを持つ者達を登用してた。それに不満を爆発させた政府が管理局と対立、管理局は感謝の言葉と共に手を引いたと」


 「まさに“待ってました”の一言ね。そもそも治安維持は各国の政府が行っていて、時空管理局はロストロギア災害対策のために駆けまわっていたようなものだから、別に時空管理局がいなくても各世界がやっていけないわけではない。ちょうど、管理外世界のように」


 「まあ、それでいいんじゃないか。どうせ今度は別の問題が管理局内部で噴出してるんだろうし」


 「正解。新歴も35年頃になると第一世代から第二世代への切り替えが始まる。15年の法で入局した子供達が一人前に活躍する段階、リンディ・ハラオウン提督やレジアス・ゲイズ中将らはもう少しだけ先だけど、彼らも10歳近くになっていたからそろそろ入局していたはず」


 「相変わらず人材不足だな。でもまあ、存命してるだけましか」


 「そうね、三提督の世代はこの時点で半数まではいかなくてもかなりの数が亡くなってるし、長年の無茶がたたって身体を壊す人が続出して、まあ、なのはさんみたいな例が日常茶飯事だったわけで」


 「そう考えると、今は随分よくなったなあ」


 「海のクライド・ハラオウン提督や、グレアム提督、陸のレジアス中将の必死の奮戦の賜物ね。相変わらず本局は“休みがない、やってられない、やるしかない”の状況だったけど、地上部隊は“安い(給料)、休みがない、やってられない”になりつつあったとか」


 「………やるしかない状況から脱却したことを喜ぶべきか、待遇が悪くなったことを嘆くべきか」


 「ちなみに、それまでの本局は………」





 『おーい、俺、給料上がったぜ!』


 『俺もだ! 一気に倍だぜ!』


 『まったくありがてえはなしだ! 設備と食堂が完備された巡洋艦でどこで使えばいいんだろうな!』


 『最後の休暇、いつだったっけ!』


 『8年前くらいじゃねえか!』


 『休暇ってなんだ? 俺初めて聞いたよその単語』


 『ああ、そういやそんなもんもあったな』


 『そうだ皆、焚火しようぜ、ここに無意味な紙屑がいくらでもあらあ!』


 『おう、最高じゃねえか! 誰かー ビールもついでに頼む!』


 『ついでにロストロギアの起動スイッチもよろしく!』


 『了解! もういいよな俺達!』


 『ああ! 頑張ったよ俺達は!』


 『さらば地獄! ようこそ天国!』


 『『『『『『『『『『『 あははははははははははははははははははははははははははははははははは!!! 』』』』』』』』』』』









 「という感じだったとか」


 「なるほど、過労死が増えるわけだ」


 「ちなみに地上は……」







 『部隊長、来週の週末なんですけど』


 『喜べお前ら、何と基本給が1.2倍になるそうだ』


 『それは嬉しいですけど、来週の』


 『それになんと、勤務外手当ては1.5倍なんだと、いやあ、最近は高待遇になったよなあ』


 『それで、部隊長』


 『さあ、今日も張り切って仕事に行くか』







 「こんな感じです」


 「大差ねえな。希望が全くないが故に諦められる本局か、微かな希望があるがために諦めきれない地上部隊か、果たしてどちらが地獄なのか」


 「108部隊のゲンヤ・ナカジマ三佐などはこの時代を生きた強者ですね」


 「信じられねえ」


 「まあ、なまじ希望が見えつつあるがために、仕事地獄はより苛酷さをまして管理局員の精神を蝕んだということです」


 「スバルやティアナの世代は本当に希望なんだな」


 「ええ、私達にだけはこのような苦労をかけさせたくないと必死になってくれた方々のおかげです」









 時空管理局 歴史妄想  ~そして、現代へ~







 「長く苦しい戦いもようやく僅かの光明が見え始めた頃」


 「まだ問題があったのか」


 「時空管理局との繋がりを絶っていた世界の一つが滅びました。俗にいう“闇の書事件”の記念すべき第一回ですね」


 「なるほどな」


 「この事件は時空管理局が一切関与していないため詳細は不明。ただ、危険なロストロギアが光爆する可能性は未だに高いということを再認識させる結果となりました」


 「光が見え始めたと思ったらそれか、つくづく呪われてるな」


 「そして、時空管理局との繋がりを絶った世界はその事実を知らなかったわけであり」


 「自分達の世界だけで良しとしたからな、伝わるわけがねえ」


 「ですが、犯罪者は別で、勝手に入り込んできた不法入世界者によって原因はともかく、一つの世界が消滅したことはばらされました、消滅から二年後くらいに」


 「やはり遅いな。時空管理局がなかったらそんなもんか」


 「それが野火のように伝わっていき、大まかに分けて対応は二つ」


 「予想は出来るな」


 「一つは、自分達もロストロギアを収集し、それへの対応能力を身につけようとしたもの、大体四割くらいですね」


 「つーと、残りの六割は?」


 「時空管理局と再び国交を回復し、“元々はお前達が戦争でばら撒いたものだろうが”という論法でロストロギア対策を任せようというもの」


 「恥を知らないのか」


 「それが政府というものですから。ですが、時空管理局の中枢は政治的な駆け引きもあるのでともかくとして、巡洋艦で相変わらず休みなしで飛び回る現場の管理局員は………」





 『ほーういい度胸だ、あれか、俺達は恥も倫理も知らねえ人攫いだから出て行けと言っておきながら、今度は元はと言えば俺達のせいなんだから早く助けに来い、そしてロストロギアを何とかしろと、へーえ、ほーお…………舐めんのも大概にしやがれ!!!!!!!!!!!』






 「爆発しました。これ以上なく盛大に」


 「だよな」


 「そして、管理局で初のストライキを前提とした抗議文が中央に殺到し、もしあのふざけた連中のために120時間働けなんぞ言い出したら全員で辞めてやるとまで発展しました」


 「管理局員だって人間だもんな、限度ってもんがあるよ。つーか、よくこれまでストライキがなかったな」


 「第一世代の苛酷さは第二世代を上回っています。何しろ、伝説の三提督の方々の同年輩はあらかた無理がたたって50前に亡くなってますから。そして何より哀れな脳みそ。その彼らがやりぬいたというのに、自分達がストライキを起こすわけにはいかないという信念があったようです」


 「………なのはの未来をそこに見た気がする」


 「確かに、三提督のように伝説の人物となるか、もしくは過労死か、可能性はかなり狭まっていると見えます」






 「しかし、政府の事情でこれ以上仕事を増やされるのだけは我慢ならなかったみたいで、これまでの“やるしかない”の要素はなく、“やってられるか”が極限まで膨れ上がったわけで、流石の管理局もストライキを起こされてはどうしようもないので、レジアス中将の改革で地上部隊にゆとりができ、ロストロギア回収がもう一段落進んで落ち着いた頃に、“管理内世界”にそれらの世界を戻そうということ決まりました」


 「本音を言えば戻したくなかったんだろうな」


 「そりゃあそうでしょう。ですが、時空管理局の大元はロストロギアを回収し、封印することを目的としているので、そこを外すと存在意義がなくなります。しかし、最終目標は時空管理局が役目を終え、ミッドチルダとベルカ自治領を一つとした新たな国家を築きあげることだと思いますが」


 「未だに寄り合い所帯なんだもんな。地上部隊と本局の関係も悪いし、本局と聖王教会はともかく、地上部隊とは溝があるし」


 「ですが、明るい兆しもあります。時空管理局に頼らず、自力でロストロギアの封印を試みた世界はその困難さを知って、時空管理局と“対等な”協力関係を結ぶことを提案。時空管理局もこれを受け入れました」


 「なるほど、“対等な”関係か」


 「現場の方でもロストロギアのことを知らず文句ばっかり言う奴らはともかく、自力でロストロギアを封印しようとする気概を持ち、そのために協力を求めてくる人達とは共に仕事が出来るといい感触で、ようやく時空管理局は“唯一”の次元航空技術とロストロギア封印技術を持つ組織という重責から解き放たれました。その時に協力した一族に、スクライアという家系があります」


 「あ、無限書庫の司書長さんだ」


 「ええ、未だに時空管理局は人材が不足しており、“ジュエルシード事件”のように管理外世界で起きたロストロギア災害はアースラ一隻を派遣するのが精一杯。ですが、管理外世界に本局の部隊を送り込めることになっただけでも大きな進歩です」


 「よーやく、よーやくまともな組織っぽくなってきたな」


 「ですが、就業人口分布には未だに問題があります。三提督クラスの年配の方は絶滅危惧種。レジアス中将やゼスト・グランガイツさんの世代ですら海・陸問わず多くの人員が殉職、もしくは過労死を遂げ、現在の主戦力は20代と10代という有り様」※16




 「一見ズタぼろだが、これで100倍マシになってるんだから恐ろしいな」


 「このまま私達が殉死せずに20年も過ぎれば、適切な就業年代になるはずです。それに、エリオ君やキャロちゃんみたいな小さい子供は出来る限り危険の少ない地方の警備隊なんかに回れるようになりましたから、なのはさんのように11歳で撃墜されるようなことは減るはずです」


 「まさに、時空管理局はこれから始まるわけか、これだけ時間を懸けてようやく子供とはなあ」


 「そして、子供から大人になるのは、ミッドチルダとベルカの統合国家に属する本当の意味での“時空管理局”になれる時。その時が時空管理局の終わりであり、同時に始まり何でしょう」


 「この世代で出来るかなあ?」


 「あの方達なら出来ると信じています。“エースオブエース”、“金色の閃光”、“夜天の主”、あの三人を中心とした我々が今度は時代を引っ張っていくので」



 「その果てが、過労死対策の脳みそと」



 「それだけは御免ですね。少なくとも、週休はとれるくらいにはならないと」



 「では、ワーカーホリックのなれの果て、哀れなる脳みそに黙祷!」


 「黙祷!」








 終わり








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この下の※は別に気にしなくても読み進めれます。単に作者の感想が書いてるだけなので。


 ※1 アギトは質量兵器であるミサイルのことを知らないのではないかというツッコミはスルーでお願いします

 ※2 ゼノギアスの移民船の元となった文明を作者は想定しております。もしくはワイルドアームズ・セカンドでのロストテクノロジーあたりを、両作品を知らない方はゴメンナサイ)


 ※3 イメージは古代ローマ、昔は優れた行政システムがありましたが、やがては腐敗し、堕落しきった政治家の代わりに、清廉な司教、つまりはキリスト教の高位の者達が台頭したわけです。しかし、その後キリスト教も腐敗し、今度は堕落しきった神官の代わりに、清廉な王や騎士が治めるようになります。後はエンドレス

 ※4 地球では中国の漢などが例になるかと、なにしろその後の中国の規範となったわけですから

 ※5 秦の始皇帝が中国を統一した後、再び七王国体制に戻り、楚あたりが最大勢力となったが、それでも秦は王国の一つとなったものの残っている。という状況を想定すれば分かりやすいかと

 ※6 時空管理局最大の疑問。ロストロギアを扱う専門の部署が“時空管理局”ならまだわかるんですが、国家機構が“局”を名乗るのはどういうことなのだろうと、なので、ひょっとしたら時空管理局とは本来、アメリカ航空宇宙局のように、高度な技術と人員と予算を持った専門家集団によるある特定の役割を遂行する組織だったのではないかと妄想した次第です

 ※7 日本の自衛隊が一番近いと思います。装備だけは戦争が出来るくらいだけど、理念がそれとは真逆のところにあって、犯罪者が殺傷設定で撃って来ても、殺傷設定で撃ち返すの禁止という正気の沙汰とは思えない理念で動いています。でも、だからこそ存在に意義がありました

 ※8 ルパンを追うインターポールの銭形警部を想像してください。ルパンあるところに銭形あり、ロストロギアあるところに時空航空管理局ありです。ついでに、次元空間の治安維持も行っております、質量兵器なしで

 ※9 アメリカ軍は第二次世界大戦には勝ちましたが、ベトナム戦争で敗れました。その違いを想像してくだされば分かりやすいかと

 ※10 太平洋戦争が起こらず、日中戦争が永遠に続いた感じを想像してください。中国としては泥沼になっても戦い続けるしかなく、暴走している日本の軍部にはそもそも戦争を止めるという発想がない

 ※11 冷戦時代のアメリカとソ連が保有していた核兵器を一斉にぶっぱなしたと思ってください

 ※12 アギトがなぜ日本の俳句をしっているかについてはスルーの方向で

 ※13 日本の自衛隊だけで、世界中の空の便の安全を確保しながらアジア全域の治安維持を担い、同時に世界中に散らばる核地雷の撤去を並行して行うようなものです。日本の治安維持は本局を自衛隊とするなら、警視庁だけで行っている状況です、優秀な職員は次々に自衛隊に引き抜かれながら

 ※14 自国の経済を破綻させて人道支援を行う阿呆な国は存在しません。まずは自国の民の生活を守ることからです 

 ※15 ドイツがEUにおいて他国への経済援助の中心となっていたのも同様な理由であるとされてきました。しかし、第二次世界大戦から60年以上が過ぎ、世代が代わるにつれ、“なぜ我々の金を他国のために使わねばならない”という風潮が強まっているとか。要はそういうことです

 ※16 リリカルなのは第三期を見て私はそう思いました。ゲンヤ・ナカジマさんくらいの働き盛りが驚くほど少ない。地上部隊でも本局でも、これが、子供達を働かせる最大の要因なのだろうと私は考えました




[21177] ユーノ・スクライアによる次元世界講座
Name: イル=ド=ガリア◆ec80f898 ID:97ddd526
Date: 2010/11/02 22:56
 
 次元世界講座

 この話はリリカルなのはの世界観や私が考察した時空管理局のシステムを解説するものなので説明文的な仕様となっています

 細かい舞台背景は考えてないので、その辺はツッコミ無用でお願いします。一応の設定は1期と2期の間です。

 一応講師役の視点のつもりですが。かなり説明文くさくなります。


 新歴65年9月 次元航空艦 アースラ内部

 講師:ユーノ・スクライア

 生徒:フェイト・テスタロッサ
    アルフ



 「よし、それじゃあ説明を始めるよ。フェイト、アルフ、準備はいいかな」


 「端末問題ありません」


 「ウィンドウ異常なしだよ」

 フェイトが嘱託魔導師になるとのことなので、リンディさんたちがフェイトに管理世界や管理局のことを詳しく教えることになった。

 しかし、2人は忙しいようで、代わりに僕が教師役を務めることになったが、別に嫌なことじゃないので問題ない。こうやって知識を伝えることにより、僕自身もよりそのことに対する理解が深まると思うので結構気持ちはうきうきしている。

 フェイトの教育はリニスという人が行ってきたらしいけど、次元世界の詳しい成り立ちはミッドチルダで過ごす限りは特に重要なことではないので、歴史の教科書に載っている程度の説明しかしていないと聞いている。これを機に時空管理局がどういう組織でどのような問題点を抱えているかについても教えることにしよう。

 スクライア一族は昔から管理局とは縁深い付き合いだし、僕自身も学校でかなり歴史や成り立ちなどは細かく調べた。性分だろうか。

 しかしまあ、次元世界とはいっても、多くの人間は生まれてから死ぬまで自分の世界を出ることはない。次元を渡る技術を持たない管理外世界であっても生まれた国から一度も出ないで死ぬ人間は多いし、出たとしても旅行や仕事が大半で永住することはまれだろう。国家ごとの文化や法律の違いを本当の意味で理解するのはなかなかに困難な事柄だと思う。


 「いいかい、まずは次元世界の定義だけど、知っての通りこれらは全て平行世界であって基となる惑星は一つなんだ。僕達の世界ではミッドチルダと呼び、ある世界ではエデン、ある世界ではアルダ、他にもヒアデス、カダス、ファルガイアなんて呼ばれる」


 「えっと、異なる可能性を歩んだ同じ惑星であって、大きさとかはそのままなんだよね?」


 「うん、可能性の話ではあるから5倍以上に大きくなったミッドチルダや、逆に半分以下のミッドチルダもあるだろうけど、そういう大きくかけ離れた世界へは現在の技術では到達出来ていない。現状における管理世界は似通った大気組成と重力を持っているものに限られる。だからこそ同じような人類が存在するわけなんだけど」


 「確かさ、“宇宙戦争”だったっけ、人類が銀河系に進出してたくさんのエイリアンと戦争やってる映画があったよね」

 アルフの知識には一部偏りもあるが、こういった俗世のことにはフェイトよりも詳しい。 そのことを知ってけっこう驚いた。


 「そうだね、三年前にクラナガンで公開されたロングヒットだったかな。あれはフィクションではあるけど、三次元世界に移動可能距離を大きくする方向に発達した人類の話だね。つまり、宇宙船が光速で移動することが可能になって、遠く離れた銀河系にも進出できるようになったという仮定で物語が進んでいる」


 「でも、私達の世界は三次元じゃなくて五次元方向に移動可能距離を大きくするように発達した」

 フェイトが確認するように捕捉する。


 「その通り、三次元方向に進出して人間じゃないエイリアンが住む遠くの惑星に到達するのも、五次元方向に進出して異なる可能性を辿った自分達人類と接触するのも同じ結果をもたらす。そこに優劣があるわけじゃないけど、コミュニケーションの取りやすさで言えば外見も文化も似てくる僕達の方だろう」

 爬虫類の外見をした人類と話すよりは、やはり同じ形の人類の方がコミュニケーションはとりやすい。 フェレットに変身しても、狼男と話が通じるか、と言われればすごい自信が無い。アルフはどうだろうか?


 「だろうね、地理や歴史が異なっても大元の人間はあまり変わらないんだから」


 大気の組成も太陽の数も異なる遠くの星の人類ならば、その文化は全く違うものになるだろうが、管理世界は互いに似通った文化を持つ。少なくとも肉食獣と草食獣のような共生不可能な関係にはなっていない。


 「だけど、僕達が往来できるのはある程度の距離の世界だけだ。あまりに近すぎる世界だと“同一存在”の矛盾やパラドックスが起こって、最悪世界そのものが崩壊する危険があるとか。過去に次元断層で滅んだ世界は、進歩し過ぎた文明が近すぎる世界に接触したことが原因だなんていう学説もあるくらいなんだ」


 「逆に、遠すぎる世界だとそもそも人間が生存可能な環境じゃないから接触することに意味がなくなっちゃうわけだね」


 無人世界と呼ばれ、犯罪者の収容や流刑に使われる世界がそれに当てはまる。生きていけないほどではなくとも、生きていくことが難しく、かつ、五次元的な“距離”が遠い、そう簡単に空間転移などが行えないため流刑地には持ってこいだ。


 高ランク魔導師が個人で行う転移魔法で移動可能な世界はあくまで五次元的な距離が近い世界に限られる。大気の組成や進化の過程が根本から異なり、全く違う可能性を歩んだ世界に移動するには個人の力では到底不可能であり、次元航行艦船が備える大型炉心のエネルギーがなくては“道”に到達することができない。故に、無人世界への移動手段を保有しているのは時空管理局のみとなる。


 「要はバランスってやつさね、近すぎても遠すぎても問題あるから、行けるところに行こうって話だろ」


 「それですら未確認の管理外世界が無数にあるのが現状なんだ。まあ、僕としてはそれを見て回りたいけどね。一つの世界の島国国家を例にするなら、空でも海でも港を備えている国家が管理世界で、港を持っていないのが管理外世界、そして南極とかにあってまともな手段じゃ辿りつけないのが無人世界だ。港が無くても個人単位で別の国を訪れることは出来るけど、港が無い以上は大量の物資を運び込んだり貿易を行うのは不可能になる」


 「歩いていくことは出来ないし、転移魔法だと個人単位が限界だもんね」


 「確か、次元転移には質量が最大の問題で、大質量を転送するには莫大なエネルギーが必要なんだけど制御に失敗するとマズいことになるんだったっけ」


 「そうだよ。時空管理局の次元航行艦が宇宙空間で転移を行うのは、次元転移の衝撃波だけで惑星に影響が出るのと、失敗した際の巻き添えをなくすため。人間一人程度の質量なら、転送ポートや転送魔法で十分なんだけど、コンテナに満載したレアメタルを大量に送るにはやっぱり船が不可欠になってくる」


 これは次元世界だろうが一つの世界の中だろうが変わらない。大量の物資を運ぶにはどうしても人力では限界が来る。


 「そういうわけで、時空管理局の宇宙航行能力はそこまで高いものじゃないということだね。実は管理外世界の中には、僕達よりも宇宙開発が進んでいる世界もあるという。要は方向性の問題で、三次元方向に進化したか、五次元方向に進化したかの差だね」


 「それで、次元航路を管理しているのが時空管理局、ということ?」


 「うん、他にも業務は多岐にわたるけど、最も一般的なのはそれだね。元々は時空航空管理局と呼ばれていた組織で、各次元世界が資金を出し合って国際的に次元航路を管理するための機構を作り上げたのが発端なんだ。だからこそ管理“局”と呼ばれる。次元世界最大の国家共同体である“次元連盟”の一部局というわけだ」

 これが政府だったら局とは呼ばれない、政治的な立ち位置では時空管理局は各国政府よりも下になる。“次元連盟”は各世界内では国際連合だの世界政府だの呼ばれる連合体を次元世界の規模に拡大したもので、時空管理局は国家ではなく国家の共同体によって設立された組織、それ故に存在そのものが国際的だ。


 「さて、こっからは具体的な話になるんだけど、“イスカリオテ条約”は知ってる?」


 「確か、次元連盟に加盟している国家が批准している国際法で、超兵器に区分されるロストロギアの発掘と保有を禁じて、さらに大量破壊を行う質量兵器も禁じている実質的な軍縮を行うものだったと思うけど」


 「大体正解だよ。ロストロギアに関連する技術をロストテクノロジーなんて呼んでるけど、それらに由来する超兵器の類は一つの国家が持つには少々剣呑すぎる。強力すぎる兵器は武器としてではなく国際的な交渉の場における切り札になってしまい、実際、“イスカリオテ条約”を批准していない国家では、未だに核兵器と呼ばれる大量破壊兵器の開発競争をやっていて、核開発を交渉のカードにして先進国から経済援助を引き出そうとする国も多くあるんだ」


 地方の世界では特に顕著だ。国際的な取り決めというものは批准している国家以外には法的な拘束力を発揮できないから当然と言えば当然の話だが。


 「だからさ、“イスカリオテ条約”ってのはそういった恫喝まがいの方法で国益を得ようとする考え方そのものを非人道的と定めて、人類社会のモラルそのものを向上させようってことで始まったんだよね」


 「そういうことだね。他人から奪って自分の富にするのが当たり前の文化を否定するところから、現在の先進国と呼ばれる国家群は始まっているから。狩猟騎馬民族とかが基になっている国家から見れば、傲慢そのものの考え方になってしまうんだけど、やっぱり世の中多数決には勝てないところはあるからね。それになにより、他者から奪う考えの国家の行きつく先は古代ベルカ時代の戦乱や、次元世界を跨る巨大国家時代の大戦争だと歴史が示してもいる。要は、昔その路線で失敗したから、今度は別の方法で行こうよってことなんだ。上手くいくかどうかは歴史が示すだろうね」


 「はあ、難しい話なんだ」


 「まあそうだね、偉そうに言ってるけど、僕もそっちの方面は詳しくないなあ。たぶん、政治や歴史の話はいつだって難しいんだよ。さて、次元連盟に加入するには“イスカリオテ条約”を批准することが最低条件だけど、同じ条件で最も有名な国際ルールがもう一つある。知っているかい?」


 「えっと、“クラナガン議定書”?」


 「正解、よくできました。こっちはリンカーコアを持つ魔法生物の乱獲を禁じて、その保護を行うための取り決めだね。魔法文化はとにかくリンカーコア開発と切っても切れない関係にあるし、医薬品の原料として多くの魔法生物の体組織が利用されているから、魔法文化圏においては最も重要な資源の一つといっていい。前時代の化石燃料と似たようなものだね」


 「石炭を原料にして発展した文化は、石炭の利権を国際法で厳しく取り締まる。石油が原料になっているなら油田の開発とかは国際問題の柱になる。そして、魔法の恩恵を受けているあたしらは、魔法生物に関する利権を厳しく取り締まるってってとこかい」


 「残念なことに密猟者は後を絶たないけど、これらは各管理世界の政府の警察機構、と時空管理局が連携して取り締まりを行っている。ドラゴンとかは最上級の保護指定動物で、国家によって保有可能な数が決まっていたりするから、これを密漁することは重罪だ。例え管理外世界であったとしてもかなり重いペナルティが課される」


 「取り締まりの中心になっているのは時空管理局の方でいいんだよね」


 「そうだよ。次元犯罪者の取り締まりは次元航路の保全と並ぶ、時空管理局の二大業務と言っていい」


 「それってつまり、一つの世界における世界政府とかと国際警察の関係を、次元世界規模に発展させたってことだろ?」


 「そのとおりだよアルフ。A国で罪を犯した犯罪者がB国に逃げた場合、A国の警察がそれを追えるかという問題は、あらゆる次元世界が抱える問題だ。そういう場合には政治的な干渉を行わず、あくまで国際犯罪にのみ権限を絞った機構を立ち上げるのが一般的だ。だから、時空管理局の権限もあくまで次元犯罪に限定され、政治的な問題への関与はできない」


 「でも、そういう組織と航路の保全を行う組織は普通別じゃないの?」


 「いいところを突くねフェイト。そう、普通だったら国際犯罪の取り締まりを行う組織と、国際航路の管理を行う組織は、世界政府の中で別の部局となる。これは次元連盟においても例外じゃなくて、昔の時空航空管理局だった時代はまさに航路の保全だけを行っていた。だがしかし、そういうわけにもいかなくなったんだ」


 「あれだね、新暦に移行するちょっと前の時代の、いくつもの次元世界を支配した巨大国家同士の大戦争」


 「その時代は各国が大量破壊を行う質量兵器を保有していて、あちこちで次元間戦争が起きていた。そんな状況で大きな武力を持たない時空航空管理局が何を言っても無視され、次元警察は航路を遮断されればそれまで、現地に向かうことすら出来なくなっていた。そんな時代を変えるべく動いた者たちもいて、そして、それらが統合された時空管理局が発足した。“イスカリオテ条約”や“クラナガン議定書”が定められたのもその頃なんだよ」


 その当時、時代の流れを変えるべく動いた者たちの中心こそが、時空管理局最高評議会とよばれる人たちだ。彼らがいなければ現在の体制は夢物語にしかなっていなかっただろう。


 「っていうことは、間に合わなかった?」


 「そうなんだ。“大消失”を防ぐことはできず、多くの次元世界がロストロギアの引き起こした次元断層に呑まれて消えた。そして、強力な軍事力を備えた国家群が、ある種の自業自得で滅んだ後の世界をまとめるために発足したのが時空管理局。もっとも、その頃には次元航行能力を十全に備えているのが、それまで蚊帳の外にいた時空航空管理局の発展型である時空管理局くらいしかなかったという事情もある」


 「皮肉なもんだね」


 「それで、その大戦争の反省として取り決められたのが“イスカリオテ条約”。質量兵器と超兵器に区分されるロストロギアを病的なまでに排除するのは、その戦争時代の精神的後遺症ともいえるかな。とはいえ、残念ながらそれも先進国家に限った話で、後続の国家にはそれほど浸透していないんだ」


 「えっと、よくわからない………」


 「後続の国家って、なにさ?」


 「簡単なことだよ。旧暦時代に既に次元航行能力を獲得し、古代ベルカの次の時代の覇者となった国家群は次元連盟を作り上げた。しかし、軍事力を増強し地方世界の併合を繰り返して巨大化していった国家にとって、次元連盟は有名無実と化し、やがては次元間戦争をやらかしたわけだけど、その頃にはまだ次元航行機能が未発達で、新暦になって時空管理局が発足してから管理世界に認定された世界の国家は次元間戦争を経験していない。だから、ロストロギアを用いた超兵器や質量兵器への忌避感が薄い。戦争を経験した国家と経験していない国家じゃ価値観が違うということさ」


 「なるほど」


 「次元世界の価値観もそれぞれで、一枚岩じゃないってわけかい」


 「時空管理局はその中でも次元間戦争を経験した旧暦から続く先進国家が中心となって立ち上げた組織だから、ロストロギアの超兵器や質量兵器はご法度だ。アルカンシェルですら旧暦末期の兵器群に比べれば破壊力が低く、安定性が極めて高い兵器に区分される」


 「当時は、世界一つを吹き飛ばすのは当たり前で、いくつもの次元世界を巻き込むものが超兵器と呼ばれていたって、歴史の教科書には書いてあったけど」


 「その辺は若干の誇張もあると思うけど、それほど離れてもいないだろうね。まあとにかく、ここまで色々話してきたけどポイントは一つだ。“次元世界”と一言に行ってもそれぞれが異なる歴史と価値観を持ち、それらにはいくつもの種類があって、大まかに分けて三つに区分される。一つ目は分かるよね?」


 「ミッドチルダのような、旧暦以前から次元航行能力を備えていた管理世界」


 「もう一つは、次元航行能力を持たない人間が住む管理外世界だね」


 「もし世界がこの二種類だけだったら時空管理局は苦労していないってクロノが言ってたよ。“ある”世界と“ない”世界で明確に区分されるんなら、その境界線を抑えれば済むだけの話だから」


 「だけど、もう一つ区分される世界があって―――」


 「そいつが一番厄介な部分ってことだね」


 「その通り、新暦に入るころには、次元航行能力を備えていなかったか、もしくは未発達だった世界。旧暦から発達していた世界は多くの国家が次元連盟に加入し、“イスカリオテ条約”と“クラナガン議定書”を批准しているから、その世界の基本的な価値観が魔法文明となっているけど、後進の世界では次元連盟に加入している国が世界の中で僅かに一つや二つという場合が多い」


 「それでも、国家間の繋がりがあって、合法的な船舶のやり取りがある以上は管理世界になるよね」


 「かといって、その世界の文化を魔法文明とはいえないよねえ。だって大半は未だに質量兵器を使っている国家なんだから」


 「それこそが、時空管理局にとって最も厄介な点なんだ。その世界のある部分では管理局法も適用されるが、ある部分では存在すらしていない。かといって、管理外世界と違って時空管理局を国際組織として認識はしているから下手に干渉すると内政干渉になってしまう」


 「管理外世界で“我々は時空管理局だ”って言っても頭がおかしい人扱いされるだけだけど」


 「そういう国の場合、“我々の国で何をしている! 内政干渉だ!”ってことになっちまうね」


 この基本的な認識の違いが、管理外世界の最大の特徴といえるだろう。


 「こういった発展途上の世界を“准管理世界”と呼ぶことが多い。先進国から始まった蔑称に近いニュアンスもあるから公式文書には載っていないが、実際には外交官ですらこの言葉を使っている」


 「管理世界と、管理外世界と、准管理世界の三つ」


 「三つ目が大問題だね。“ある”と“ない”が混ざってるもんだから時空管理局にとってはやりにくいことこの上ない」


 「だけどね、実は、もう一つ区分けが存在するのんだよ」


 「えっ?」


 「まだあるのかい」


 「うん、公式文書では使われないんだけど、一般的にはよく使われる准管理世界とは別の存在なんだ。一般的には全く使われないが、公式文書にはしっかりと別区分として記載されている世界がある」


 「聞いたことないけど………」


 「どこの辺境にあるんだい?」


 「ハハっ、辺境じゃないよ。その世界は別の区分もされているが、同時に管理世界でもあってね。というより、管理世界の中で特別な役割を持たされた世界といっていいんだ」


 「管理世界なんだ」


 「へえー、じゃあ案外近くにあるのかね」


 「その区分は“永世中立世界”と呼ばれる。“イスカリオテ条約”、“クラナガン議定書”を批准し、国際法として管理局法を受け入れている管理世界の諸国家と異なり、国内法として管理局法を持ち、政治的には完全な中立を貫き、そもそもが国家ですらない政治的、経済的特区であり、司法・行政・立法機関として時空管理局が代行を任されている唯一の世界」


 「それって………」


 「まさか………」



 「そう、第一管理世界ミッドチルダ。こここそが管理世界、管理外世界、准管理世界のいずれとも異なる特殊な統治機構を持つ第四の世界、“永世中立世界”と呼ばれる次元間戦争放棄の象徴ともいえる世界だよ」


 「ミッドチルダがそんな呼ばれ方してたなんて知らなかったな」


 「うん、それで…・・・ ん? 『ああ、今やってるところだ。ん、そうかい、わかったよ』


 「どうしたんだい? なんかあったの?」


 「いや、エイミィさんが僕を呼んでるらしくて、それでクロノのほうが手が空いたから、代わりに来るって」


 「じゃあ、クロノが来るので休憩してようかな」


 「それがいいよ。長話で疲れただろうから、なにか飲み物でも持ってこようか?」


 「いいさ、自分で行くって。ねえ、フェイト」


 「うん、ありがとうユーノ」


 「どういたしまして。それじゃまたね」


 「うん、またね」


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 ちなみにお気づきの人もいらっしゃるかと思いますが、多分にWILD ARMSのパクリがあります。というかWILD ARMSとリリカルなのはは似てるところが多いと思います。アルターコードFのOPのセシリアの魔法はディバインバスターにしか見えない。



[21177] クロノ・ハラオウンによる准管理世界講座
Name: イル=ド=ガリア◆ec80f898 ID:97ddd526
Date: 2010/11/02 22:55

 ※出てくる世界や国家の固有名詞はフィクションです。


 クロノ・ハラオウンによる准管理世界講座




 休憩をはさんで授業再開。

 講師交代、ユーノ・スクライアに代わってクロノ・ハラオウン。


 「さて、これから4種類の世界について解説していくが、まずは分かりやすいところからいく」


 「ってことは、管理世界かい」


 「ミッドチルダに一番文化的には近いんだよね」


 「例として挙げるのは第五管理世界のソレイシアだが、海が七割、陸が三割で大陸の数は五つ。大気組成はミッドチルダとほぼ同じで衛星は二つ。人口は億人でミッドチルダにかなり似通った世界といえるな」


 「国の数はどのくらい」


 「ここでは世界政府という名前の国際組織が代表みたいなものなんだが、そこが認定している限りだとカ国だ。最も、民族対立があって現地の人間にとっては、別の国だと主張したい地域は山ほどあるだろう。そこまで説明するときりがないから割愛する。それに、その辺の問題には時空管理局は一切関与してない」


 「だろうね、そんなとこまでやってたら人員がどれだけあっても足りやしないよ」


 「あくまで時空管理局は次元世界を管理する組織であって、世界の中のことは専門外だもんね」


 「それで、この世界政府がカ国で構成されているわけなんだが、ニ度の世界大戦と次元間戦争を経て、現在ではカ国が中心となった委員会を構成している。これがこの世界の意思決定機関と言えるが、満場一致はまずないと思っていい。どこかが何かを提案すれば、必ずどこかが反対する。その度にややこしい駆け引きや裏取引があってドロドロとした政治ゲームの果てに“世界の意思”は決定される」


 「なんか………」


 「夢も希望もありゃしないね………」


 「あまり言いたい言葉じゃないが、えてして現実はそんなものだ。そして、このカ国に次ぐ立場にある国家が程あって、合わせたカ国がソレイシアという”世界”における先進国といっていいだろう。これに加えて、発展途上国の中でもかなり進んでいる国家が“イスカリオテ条約”と“クラナガン議定書”を批准して次元連盟に加入している。合計でカ国、つまり分の以上もの国家が次元連盟に参加しているわけで、それらが全てソレイシアにおける主要国家となるとこの世界の文明は決まってくる」


 「主要国が魔法文明を採用している以上、発展途上国もそれに追従する形でしか発展できないんだ」


 「まあ、魔法文化じゃなくても同じことがあるだろうね。化石燃料を使った文明でも先進国は最先端を行って、発展途上国は昔ながらの農耕をやってるなんてザラだしさ」


 「アルフの言うことは正しい。魔法が文明の基幹になったところで人間のやることは変わらないし、国家体制が根本から変わることはあり得ない。それで、ソレイシアの加盟国は次元連盟に多額の拠出金を出していて、それらの金で時空管理局は運営されている。国家ごとに地上部隊の駐屯所は大量にあるし、陸士訓練校や士官学校もある。リンカーコアの素養を持つものなら本局の武装隊を目指す奴も多いな」


 「大体はミッドチルダと変わらないってことだよね」


 「一番の違いはあくまで時空管理局が外側の組織ということだ。仮に他の次元世界との連絡が絶たれて時空管理局が消滅しても、ソレイシアの諸国家がなくなるわけじゃない。ただし、次元間交易が既に産業システムの根幹に組み込まれているから、経済が大打撃を受けて世界恐慌が発生。先進国は足りなくなった資源を途上国から奪うべく侵攻を開始してしまい、第三次世界大戦の幕開けとなってしまう」


 「うわあ………」


 「つまり、管理世界は次元間交易なしでは成り立たない産業構造になっているってことかい」


 「そういうことだ。だからこそ管理世界の先進国は時空管理局に多額の資金を出す。万が一にも時空管理局に倒れられたら、自分の国の経済が崩壊するからな。そういうわけで、時空管理局が管理外世界とかを守るために頑張ることに、管理世界の政府はあまりいい顔はしない。私達が出している金なんだから私達のために使え。管理外世界のやつらがどうなろうが、私達の知ったことじゃない、という意見も当然出てくることになる」


 「うーん………」


 「人間って、穢れてるんだねえ」


 「アルフ、それは一概には言えない。個人単位ではそうでもないだろうが、国家単位になると、どうしても自国の発展と安寧を第一に考えなくちゃいけなくなるからな。管理外世界に友達がいる人間にとっては政府に文句の一つ二つ言いたくなるが、政府としてもそこは譲れない。それが政治というものだ。先進国といっても金が無限にあるわけじゃないし、失業問題、魔導師不足による犯罪の増加、そういった色んな問題をそれぞれの国家が抱えているんだ。残念だが、理想だけじゃ世の中回らない。けどだからと言って理想を捨てて安易な道を選び続ければ、いずれ破滅が待っている。大事なことは、現実に対応しながらも、理想を忘れないことだ。っとすまない、話がそれた」


 「かまわないよ、うん、私、今のクロノのお話聞いて、いつか一人前の管理局員になって皆のために頑張るよ」


 「ちょっとフェイト、いきなり何を言い出すのさ」


 「ありがとう。素直にうれしいよ、期待して待ってる。さて、フェイトに限らず、高い魔力を持つ子供がこういう話を聞くと、そう思うのも無理はない。なにせ僕もそうだった。管理世界の先進国家は自国を第一に考えるが、時空管理局だけは国家に依存しないから次元世界の人々のために働くというのが存在理由となる。まあ、スポンサーと対立することもままあるうえ、そこが障害になる場合も多いが」


 「障害?」


 「そこはおいおい語っていこう、後の方になれば嫌でも分かる。ともかく、管理世界はそういう感じで、次元連盟に加入している先進国を中心に魔法文化が発展している世界と認識しておいてくれ、時空管理局との仲も政治的な部分を除けば良好だし、政治的な部分でも対立には至ってない、協力関係にあるといっていいだろう」


 「仲がいいのは結構なことじゃないか」



 一つ目はここまで、続いて二つ目。



 「次に管理外世界だが、ここは簡単だな。魔法の使用は原則禁止で、魔法生物の調査とかも“クラナガン議定書”において禁止されている。調査したかったら時空管理局に申請を出して許可をもらわないといけない」


 「・・・・・・私達が『ジュエルシード』を探す際にも許可が必要だったってことだよね」


 「まったくもってその通りだ。ああ、そんなに縮こまることは無い。君の場合は不可抗力だった、顔を上げてくれ」


 「うん・・・・・・ありがとう」

「礼を言う必要は無いさ。さて、話を戻すぞ。ちなみに、各国家が調査団を派遣することはまずない。やろうとすると次元連盟の会議の場で提案しなければいけないが、魔法生物資源を独占されることを恐れる別の国家が必ず反対する。それを防ぐために根回しとかもするが、それよりは時空管理局に依頼して調査結果を受け取った方が安上がりだ。他の国家を出しぬけないという欠点はあるが、初動を早くすれば先を越せる可能性は十分あるから、最近はそっちが主流だな。何より企業との連携がポイントになるし、時空管理局の幹部クラスと繋がっていれば情報も早めに手に入る」


 「また政治の話なんだ………」


 「どこまで行っても付きまとうねえ」


 「管理外世界で違法研究とかをやればばれた時の言い訳は不可能だ。だから管理外世界を拠点にする魔導犯罪者は案外少ない。魔法を捨てて逃げて平穏な暮らしを求めるのなら最適だが、ギャングやマフィアみたいな組織だったら管理外世界は敬遠する」


 「その理由は?」


 「管理外世界にやってくるのは、本局の次元航行部隊しかあり得ないということだ。管理世界の国家だったら犯罪者の相手は地上部隊が行い、国家によって錬度がまちまちだったりするが、次元航行部隊は錬度の桁が違う。国家間戦争すら可能な戦力を持つ本局の高ランク魔導師を、一組織が相手にするのは分が悪すぎるってことだよ」


 「なるほどねえ」


 「じゃあ、魔導犯罪者が潜むのは管理世界――――――じゃない、もっと適した世界がある」


 「よく気付いたなフェイト。そう、管理世界の地上部隊の錬度は本局に比べれば劣るが、それでも油断できるものじゃない。発展途上国ならそうもいかないが、国際警察というものもある。先進国の全てが次元連盟に加入しているソレイシアならば、高ランク魔導師によって構成された国際魔導犯罪者専門特殊部隊、通称IMIと言う組織もあって、彼らの錬度は本局の航空武装隊に勝るとも劣らないとさえ言われる、各管理世界における伝家の宝刀だ」


 「やっぱ管理世界は次元間戦争を経験しているだけあって、魔導犯罪への対応はしっかりしてるんだねえ」


 「物流の遮断という問題がなければ、時空管理局がいなくても治安維持だけは何とかなるレベルの機構を管理世界は備えている。もっとも、それは時空管理局が次元航路を守っていることが前提の治安であって、時空管理局がなくなれば治安の悪さは一気に落ちる。犯罪というものは景気が悪くなれば爆発的に増えるからな、経済が不安定になれば社会も不安定となり、社会が不安定になればヒトの精神も不安定になる」


 「複雑だね」


 「複雑としか言いようがないね」


 「しかしこれらも、主要国がロストロギアの超兵器と質量兵器を禁止する“イスカリオテ条約”を批准していて、魔導師を中心とした治安維持機構を共通して持つからこそ可能なことだ。これが准管理世界だとそうはいかない、魔法を中心とした治安維持を行う国家と、質量兵器を中心とした治安維持を行う国家が協力して犯罪者を追うのはほとんど不可能だ」


 「批准国なら“質量兵器保持違反”の犯罪者も、別の国に逃げれば違反でなくなる」


 「その辺を突っつかれたら、自分達の国家機構を批判されてるような気分になるからね。感情的なものを考えても協力は難しそうだ」


 「そういうわけだ。ここからは実際の例を基に説明していこう。第109管理世界リュダウア、人口23億人、大陸2割、海8割、月は一つで大気組成はミッドチルダとほぼ同じ。大陸は三つで地表の41%、30%、19%をそれぞれ占める。残りの10%は島だな」


 「次元世界の中には超大陸を持つのもあったような・・・」


 「ああ、全部の陸地が一つの大陸のケースだな。割合的には二十個に一つくらいだからかなり珍しい」


 「でもさ、海がない世界や逆に海しかない世界もあるんだから特殊ってわけでもないさね」


 「それはそうだが、いや話がそれたな。リュダウアには特異な文化があるわけではなくて、歴史の流れもある意味で平凡だ。人間を喰う文化が主流だったり、世界統一国家や統一宗教があるわけでもない。普通に発展して普通に異民族戦争をやって、普通に産業革命が起こり、そして世界大戦に突入してしまった」


 「戦争があることが普通なんだよね……」


 「世界大戦が一度もない世界の方がまれだからねえ。戦争なんて無いに越したことはないけど」


 「そのためにも僕らは努力している。たとえ日進月歩であろうとも。おっとまた話がそれた。続けるぞ、この世界では魔法は完全にオカルトではなく、一つの大陸の国家では主要産業でこそないが、『ソーサー』と呼ばれる技術体系があった。リンカーコアを持つ人間が独自に理論を発展させたもので、ミッドチルダ風に翻訳すれば『演算自然力学』といった感じで、自然信仰や精霊信仰に近い文化に守られつつ発展したらしい」


 「ミッドチルダ式に近いの?」


 「ああ、ミッドチルダ式の枝の一つみたいなものだ。ミッドチルダ式とは複数の世界で発展した魔法体系を纏めて作り上げた汎用的魔法体系だから、その枝の数はかなり多い。そして、『ソーサー』が発展したのは陸地面積41%の大陸で、その中で最も大きな国家である「アークハイム連邦」で最も盛んだった。逆に、陸地面積30%の大陸の支配者である「ベゼル帝国」という国家は『ソーサー』を否定していて、純粋な機械文明を築き上げていた。大戦後も冷戦関係のような状態でアークハイム連邦と対立していたという」


 「文化的に合わなかったのかな」


 「多分、貴族制と共和制の根本的な対立もあるんだろうね」


 「それもあるだろう。さらにアークハイム連邦でも産業革命は起こっていたが、『ソーサ―』の存在もあったから、環境への配慮もそれなりにされていた。機関工業が出す排煙や工業廃液の処理施設も、早い段階から整っていたし、自然保護の方面では『ソーサー』はかなり有効だったようだ。それに対してベゼル帝国は機械文明を急速に発展させ、環境のことを考えずに次々に大型の工場を築いていった。その結果、公害も多く発生したがその被害は平民階級がほとんどであり、貴族階級は工場がない特別地域で暮らしているため被害はなかった」


 「つまり、貴族階級は機械化の恩恵だけ受けて、自分達は公害から逃れたんだ」


 「そりゃあ、いつか潰れるね」


 「そういうことだ。リュダウアでは62の国家があって、独立国家共同体と呼ばれる連合体が一応存在していた。だが、二つの大陸の覇者であるアークハイム連邦とベゼル帝国が仲悪いもんだからあまり役割を果たせていたとは言い難い。有力国家はその2つも含めて8つほどだったが、他の六カ国が連合してもアークハイム連邦とベゼル帝国の二国連合には及ばないという力関係だったみたいだ」


 「二大国家の対立による冷戦構造………」


 「ありがちって言えばありがちだね」


 「アークハイム連邦の人口は4億、自由経済と民主主義が基本で、同じ大陸にあるサマルガン、エルリアのニ国がそれと同じ機構を持つ。ベルカ帝国は人口2億8000万で統制経済による貴族社会が基本、これに続くのが同じ大陸のヴェスト、テーベのニ国。ミラルゴとトルファンは三つ目の一番小さい大陸にある中立国ってとこだな。6カ国はそれぞれ4000万から8000万の人口を抱えている」


 「主要八カ国のうち、アークハイム連邦を中心とした三国、ベゼル帝国を中心とした三国で対立して、残り二つが中立だったってことかい?」


 「そうだな、簡単に言えば二つの大陸が基本的な文化の違いを原因にして対立し、もう一つの大陸は中立を宣言したってことだ。残りの島国や、大陸の中の小国家は主要八カ国に対抗できる力を持っていなかった」


 「じゃあ、独立国家共同体に所属している残りの国家はどうしていたの?」


 「簡単に言えば属国扱いだ。管理世界になる前のリュダウアは帝国主義が主流だったみたいで、国家間の平等にはあまり主眼が置かれていなかった。それが大きく変わったのは次元連盟とのやり取りが出来てからだ、こういった次元世界との接触によって政治形態が変化することを“次元船来航”なんて言ったりもするな」


 「じゃあ、最初に接触したのは『ソーサー』の文化があったアークハイム連邦だね」


 「ああ、元々リンカーコアを制御する技術は持っていたから、管理外世界とも言い切れない部分があったからな。個人的な繋がりはあったそうだが、不要な文化の流入は避けた方がいいってことで国家間の繋がりはなかった。しかし、旧暦末期の次元間大国による大戦争時代に補給物資を求めた次元航行戦艦がやってきて、それが魔法文化流入の本格的な始まりになった」


 「戦争が原因なんだ………」


 「なんというか、だねえ」


 「交流の原因となったことには変わらない。あまり素直に喜べはしないがな。さて、一度交流が始まれば、後は加速度的に話が進む。アークハイム連邦は『ソーサー』を積極的に導入していた経緯もあって、次元世界との交流は自分達にさらなる繁栄をもたらすと確信した。そして、新暦2年に“イスカリオテ条約”と“クラナガン議定書”を批准し次元連盟に加入、ここに第109管理世界リュダウアが誕生した。ちなみにリュダウアってのは独立国家共同体のアークハイム語読みだ」


 「次元世界の一員になっても、色々問題はありそうだね」


 「まず何といってもベゼル帝国だろうね、どう考えても黙っているわけがないさ」


 「それ以前の問題として通貨があるな。次元世界の共通通貨はミッドチルダで使われている通貨と同じだが当然アークハイム連邦は違う通貨を使っていた。交易するにしても基軸通貨との為替の問題や、資源の値段の設定とか、関税とか死ぬほどたくさんの問題をクリアしなければならない。だから、その辺が整うまでは次元間交易は一か所の港に限定されて、企業レベルじゃなくて国家レベルでのみ取引は行われる。こういった空港を『出島』と呼ぶのが一般的だ」


 「そっか、いきなり自由貿易を始めるのは無理だよね」


 「ってことは、何年かはほとんど変化なしかい」


 「その通り。管理世界ではあっても、魔法製品が入ってくるのは限られた地域のみで、『出島』以外の港が作られたのは新暦13年頃になってからだ。その間に魔法文化を受け入れる下地を整えるわけだが、そのあたりで大きな役割を果たすのが聖王教会だ。次元世界の歴史を最も克明に保存しているのは聖王教会だから、次元世界の文化を学ぶなら聖王教会の布教を受け入れるのが一番手っ取り早いし、アークハイム連邦は多神教というかあまり宗教的なこだわりがなかったからその辺は円滑に進んだようだ」


 「これが排他性の強い宗教だったら―――」


 「宗教対立の始まりだね」


 「ベゼル帝国はその最たる例だな。貴族は神から平民の支配権を授けられたことになっていたから、聖王教会の布教はナンセンスだ。それで、新暦13年頃から企業レベルでの取引もスタートしていよいよ次元世界の一員となるアークハイム連邦だが、ここでまた大きな問題が起きる」


 「えーと、ベゼル帝国がなんか言ってきたとか?」


 「いいや、逆だ。アークハイム連邦がやたらと手間がかかる作業の果てにようやく入ってきたデバイスなどの魔法製品、これが裏ルートでベゼル帝国にも流れて、それを解析してベゼル帝国が作った粗悪な複製品が途上国に流れ出したんだ。アークハイム連邦からの製品は次元航路を超えてくるための金も入るから値段が高く、途上国ではベゼル帝国が作る複製品を買う傾向が強かった」


 「でも、多分アークハイム連邦はベゼル帝国には輸出してないよね?」


 「つまり、他の国が買った物をさらに買うなり、奪ったりしたってことかい」


 「それだけじゃない、本格的な交易が始まってすぐに複製品が作れるはずもない。要は、口先ではアークハイム連邦が次元連盟に加入することを批判して、当然次元連盟への拠出金も払っていないが、裏では魔法製品を高値で買い取って複製品の開発を進めていたわけだ、10年という時間をかけて」


 「ひどい………」


 「卑怯な連中だ、アタシは気に食わないね」


 「アークハイム連邦として“ふざけるな”としか言いようがない。散々苦労してようやく次元世界との貿易が軌道に乗ったというのに、その成果だけを横取りされたようなものだからな。ミッドチルダを始めとする管理世界の魔法製品が、リュダウアに届くための航路の保全を行っている時空管理局に金を払っているのはアークハイム連邦なのに、届いた製品を途上国に流通させるのがベゼル帝国じゃあ踏んだり蹴ったりになる。というか、ベゼル帝国は本来『ソーサー』すらも批判していわけだからな」


 まあ、『ソーサ―』が自然との共生を掲げる文化と共に発展した経緯があり、根本的にベゼル帝国の文化とは相いれない関係にあったが、ミッドチルダの魔法製品には純粋な工業製品と同じようなものだったから受け入れやすかったというのもある。


 「そりゃ怒るね」


 「それで当然、独立国家共同体の会議の場が荒れるわけだが、ベゼル帝国も“技術とは人々のためにある。途上国のために魔法研究を行うことが非道だというのか、魔法製品を貧しい国相手に高値で売り付けるお前達こそが非道だ”っという感じの論法で反撃してくる。魔法製品がリュダウアに届くまでの費用を自分達は一切払っていないという事実は脇に置いといて」


 「厚かましいことこの上ない連中だね」


 「別にアークハイム連邦が正義の国家というわけじゃなくて、あくまで自国のために次元世界との交易を開始したわけだが、魔法製品の恩恵を得ようとするなら関係はギブアンドテイクであるべきだ。アークハイム連邦が次元航路保全のための費用を負担しているなら、魔法製品が高くなるのは当たり前といえる。乱暴な言い方をしてしまえば、それに文句を言いたいのなら、お前達も時空管理局への拠出金を出してから言え、というやつだ。勿論、自国だけが次元世界から魔法製品を輸入できることを利用して、高値にしすぎるのも問題だ」


 「じゃあ、途上国にとってはありがたい展開だったんだ」


 「貧しい国にとっては、アークハイム連邦もベゼル帝国も共通の敵みたいなものだからな。両方が喰い合って安い製品が自分達に来るならそれに越したことはない。とはいえ、両国が全面戦争に踏み切っても、そのとばっちりを受けることになるからその辺の塩梅は微妙だ」


 「難しい………」


 「立場が変われば正義はコロコロ変わるねえ」


 「ああ、正義と言うものの定義はとても難しいものなんだ。さて、そんな状況で
ある事件が起きる。次元空間から出てきたばかりの民間船が海賊の襲撃を受けた、アークハイム連邦から要請を受けた次元航行部隊が出動してこれを追跡、拿捕に成功したが、これがなんとベゼル帝国の軍艦だったんだ」


 「うわあ」


 「そこまでやるかい」


 「無念なことだが、ここに時空管理局の限界がある。時空管理局の権限はあくまで次元航路の保全と次元犯罪の取り締まり、海賊を捕まえるところまでは出来ても、その正体が独立国の軍隊であればそれは政治問題になってしまい、管理局は手を出せなくなる。これがただの海賊だったら、どこで犯罪を行おうが容赦なく管理局法によって裁くことが可能なんだが」


 「ソレイシアで罪を犯した人がリュダウアに逃げても、時空管理局は逮捕して管理局法に基づいて裁判にかけられるけど―――」


 「それが国家の軍隊で、しかも次元連盟に加盟していない国となると話は別になるね」


 「だが、流石に次元連盟を真正面から敵に回すわけにもいかなかったみたいで、そこはベゼル帝国が謝罪した。法的な拘束力がなくても、圧力をかける方法はいくらでもあるからな。特にその民間船が所属していた国家の怒りは相当なものだったし、世論を敵に回しても勝ち目はない。だが、アークハイム連邦とベゼル帝国の対立は深刻で根が深いものになっていった」


 「なんかこう、戦争へ一直線って感じがするんだけど」


 「だがしかし、さらに15年も経過すると事情は変わってくる。新暦28年頃には次元間空港も30を超えるようになり、企業レベルでの取引も100倍以上に増える。そればかりじゃなく、アークハイム連邦と同じ大陸にある主要国、サマルガンとエルリアのニつも次元連盟に加入し、徐々に世界全体に魔法文明が浸透し始める。これによって、安くて質のいいミッドチルダ製品が途上国にも流通し始めるようになる」


 「そうなったら、ベゼル帝国の複製品を買う人は少なくなるね」


 「それに、軍需も様変わりする。馬に乗って剣や槍で戦っていた時代の治安維持組織は当然の如く剣で武装していたが、時代が進めば武装は銃剣に変わり、さらに進めば拳銃となる。次元世界との交流が始まる前ですら、アークハイム連邦で剣を振り回す警官はいなかった。この意味が分かるか?」


 「つまり、剣から銃に武装が変わったように、今度は銃からデバイスに武装が変わったってことだね」


 「デバイスを使うのは何も魔導師だけじゃない。時空管理局の非魔導師の陸士は電磁ショックを起こすタイプの武装である“ショックガン”が主流で、カートリッジほどの出力はないが、魔力電池で動く汎用デバイスを使用している。要は、火薬の力で鉛玉を飛ばしていた時代から、魔法電池の力で電磁フィールドや力場を飛ばす時代になったってことだ。ポイントは質量がなくて、相手を気絶させることが前提ということだな」


 魔導師が扱うデバイスの動力は本人のリンカーコアだが、魔力容量が少ない低ランク魔導師はそれを補うために魔力をよそに蓄えておき、魔法使用時に補給することが多い。銃型のデバイスを使用するタイプなら昔のガンマンのようにガンベルトを腰に巻いている奴もいたりする。


 これを更に発展させ、高ランク魔導師が魔法を放つ際に出力を向上させるのに使用するものを専用カートリッジと呼ぶ。安全性がまだ確立されておらず、これを扱えるのは時空管理局でも本局に所属する一部のA級デバイスマイスターくらいだろう。


 つまり、リンカーコア以外に魔力を蓄える場合、非魔導師が使用する“ショックガン”などの動力となる魔法電池、低ランク魔導師が魔力不足を補うために使用する汎用型カートリッジ、そして、高ランク魔導師が出力をさらに上げるために使用する専用カートリッジの順番に技術的な難易度は上がっていく。


 「音響閃光弾や無力化ガスをよりクリーンにしようって発想で“ショックガン”とかは生まれたんだったよね」


 「非殺傷設定の魔法がそれの象徴さね」


 非魔導師が相手なら弱い出力でも魔力ノックダウンは狙える。リンカーコアの保有する魔力が高いほど、魔力ダメージに対抗する力も強くなっていくためだ。


 「“イスカリオテ条約”の批准から25年も経てば当然産業も変化する。これまで銃を扱っていた企業は政府からの特別助成金を受けつつデバイスを作る企業にシフト、これと同じような現象が色んな分野でも起こって、第二次産業革命ともいえる変化を引き起こす。環境にとってはよりクリーンな方向というのも大衆の支持を受けやすいポイントだな、公害がなかったから人々もこれを積極的に取り入れたわけだ、税金は多少上がったが」


 デバイスといっても非魔導師が使う“ショックガン”も広義の意味ではデバイスに属する。狭義の意味では魔導師が魔法を使用する際の演算を補助する装置ということになるが、広義の意味では魔力を動力源とする端末ということになり、誰もが使う通信用スクリーン発生装置すら広義の意味ではデバイスとなるのだ。


 「税金は上がったんだ」


 「改革するには財源が必要だからねえ」


 「税金が上がってもそれに見合った恩恵があれば、不満もそれほど上がらないものだ。特に、“魔法製品”という実に分かりやすい新製品の導入による恩恵は民衆の支持を得た。収入が増えて、税収が増えて、それによって貿易はより活発になって、また収入が増える、こういう正の循環を作り出すことが政府の目指す形の一つだろう。当然色んな問題はあるが、社会が勢いづいていればある程度の問題は解決できる」


 「でも、どこかの国が右肩上がりということは………」


 「どこかの国が右肩下がりになるってことだね」


 「それがベゼル帝国だ。アークハイム連邦と正式な国交を持っていなかったこの国は、裏ルートでしか魔法製品は入ってこなくて、しかも貴族階級が独占していた。民衆には劣化模造品が配られ、今やその性能はアークハイム連邦のものとは比較できないほどの差がついている。“魔法革命反対運動”ってキャンペーンなんかをやっていた時点で、既に時代の変化に乗り遅れていたわけだ」


 「時代かぁ」


 「乗り遅れは無残だね」


 「時代の変化はまだある。ソレイシアなどの管理世界にあるように、アークハイム連邦でも25年の時をかけてリンカーコアを持つ国民を検査で判別し、魔導師を養成する学校を作った。その一期生達を中心に新たな機構を作り上げ、魔導犯罪専門部隊がアークハイム人によって作られた。そしてこの機構は異なる名前も持っており、それが時空管理局地上部隊、第109管理世界リュダウア駐屯部隊という名称だ」


 「時空管理局の地上部隊って――――」


 「そういう組織だったんだ」


 「ソレイシアの国際魔導犯罪者専門特殊部隊(IMI)のように時空管理局に属さない場合もあるが、大半の次元連盟加入国の治安維持組織が持つ対魔導犯罪部隊は、時空管理局の地上部隊を兼任している。これによって、各国の法律に沿う警察機構と、管理局法に基づく地上部隊との連携は取りやすくなるし、何より資金の流れが簡単になる」


 「そっか、自分の国にある時空管理局地上部隊を自費で賄えば、それがそのまま時空管理局への拠出金になるんだ」


 「確かに、手間は省けるね」


 「だから、完全に国際的で政治的中立を保つ本局と異なり、地上部隊はまさに地域に密着した部隊だ。アークハイム駐屯部隊は95%以上をアークハイム人で構成されていて、地上本部からの出向組が僅かにいる程度で本局からは皆無といっていい。そういうわけで、本局と地上部隊は同じ時空管理局の局員で構成されるが、その役割や性質は大きく異なるんだ」


 「こうして聞くと、まるで別組織だね」


 「でもさあ、そういう印象はあまりないけど………」


 「そこがミッドチルダの特殊なところでもあるが、その前に君も管理局に入ったら必ず知ることになる、本局と地上部隊の対立の根幹について説明しよう」


 「対立の原因?」


 「新暦32年、徐々に開く経済格差と、平民階級からの突き上げなどの社会的不満を背景に、軍事力によって解決を図ったベゼル帝国は近隣の小国に侵攻を開始し、それを非難したアークハイム連邦との間に先端を開いた。第109管理世界リュダウアでは二度目となる世界大戦だ」


 「やっぱり起こったんだ……」


 「まあ、起こりそうな流れではあったけど」


 「だがやはり、時空管理局の権限はあくまで次元航路の保全と次元犯罪者の取り締まり、管理世界内部の戦争に関して口を出せるのは、次元連盟に所属する国家であって、時空管理局ではない。政治のことは次元連盟が、治安維持や航空の保全など、実践的な部分は時空管理局という役割分担である以上、政治的中立を掲げる時空管理局は動けない。紛争地帯などで救助活動を行えるのはNGOに限られるわけだよ」


 「でもそれは、あくまで本局、つまりは次元航行部隊の話だよね」


 「そう、地上部隊の役割はアークハイム連邦の人民の安全と財産を守ることだ。その相手がベゼル帝国の正規軍であろうとやることに変わりはない、人民を害された以上は、それらを逮捕しなければならない。逮捕なんて悠長なことを言っていられなくなれば、非殺傷設定も解除される」


 「つまり、時空管理局地上部隊はアークハイム連邦軍と共にベゼル帝国軍と戦って、本局は助けたくても助けられないってことだね」


 「ああ……そういうことだ。ここに、質量兵器を用いる軍隊と魔法兵器を用いる軍隊との間の戦争が始まる。一度戦争が始まれば非殺傷設定なんてものが使用されるはずもなく、魔導師は絶えず前線に送り込まれ、強力な戦力として命を張り続けることになる。魔導師のバリアジャケットも、純粋な質量の前には対抗しきれないからな」


 バリアジャケットは熱、光、音などには強く、温度が400度に達する火災現場でも専用のバリアジャケットを構成すれば対処でき、ガス攻撃にすら訓練を積めば対処できるようになる。つまり、AAランク以上のエース級魔導師を非質量攻撃で仕留めることはほとんど不可能に近い。


 しかし、純粋な質量と速度というものだけは例外だ。火災現場で活動が出来ても、建物が崩落し数百トンの瓦礫に潰されれば高ランク魔導師といえど死ぬ。そして、それは大砲や重機関銃に対しても同じことがいえ、拳銃程度ならばバリアジャケットが弾いても、戦車を破壊するための地雷や高射砲、ロケット砲などを撃ち込まれれば、高ランク魔導師であっても死にいたる。まあ、フィールド系の防護ではなく、バリア系やシールド系を用いれば話は別だが、質量兵器で高ランク魔導師を殺すことが出来るという事実は動かない。


 「歴史の教科書には時空管理局が設立されてから戦争は起こっていないって書いてあったけど」


 「それは解釈の仕方の問題で、それで書いていたのは次元間戦争の話だな。管理世界ですら途上国のどこかで常に戦争は起きている。まして、質量兵器と魔法兵器が混在する准管理世界では世界大戦規模の戦争すら起こる。リュダウア以外にもいくつか同じようなケースはあるんだ、第89管理世界フォルスのオルセアという内戦地域なども有名だが、管理世界の教育課程ではあまり教えられない事実だな」


 「ってか、アンタはどうやって知ったんだい?」


 「僕は執務官だ。これでもまだ知らない裏の事情は多いと思っているが、管理局員でもある程度の地位に着けば、おそらく誰でも知っているだろう」


 「地上部隊の人にとっては、応援を求めても静観するだけの本局の人が憎くなる」


 「本局の人間にとっては、人々が死んでいくのに動けない自分が歯がゆいってことだね」


 「歯がゆいことだが、そういうわけだ。そして、世界大戦は2年ほどで終結した。次元世界から孤立しているベゼル帝国と次元連盟の支持を受けるアークハイム連邦では物量が違いすぎた。兵力は同じでも、経済力に差があり過ぎて、あっという間に戦争資金が底をついたわけだ。逆に、アークハイム連邦には人道支援の名のもとに続々と支援物資や義勇軍が集まってくる」


 「でも、時空管理局の本局は来ないんだ」


 「そして、追いつめられたベゼル帝国はついにとんでもないものを使用してしまう」


 「まさか………」


 「大量破壊兵器だだ、三発もの核分裂を用いた兵器がアークハイム、サマルガン、エルリアにそれぞれ撃ち込まれ。その三日後に戦争は終結した」


 「三日後!?」


 「随分早いね!」


 「理由は簡単だ。大量破壊兵器が使用されたことによって、ロストロギアを用いた超兵器または大量破壊を行う質量兵器を廃絶することを掲げる時空管理局が動けるようになった。ベゼル帝国は“イスカリオテ条約”に加盟していないが、核兵器によって加盟国が攻撃された以上、次元連盟の組織である時空管理局も容赦はしない。ベゼル帝国は主権国家ではなく、テロ組織と位置付けられたわけだ」


 「だから、出動できたんだ………」


 「次元航行艦艇が30隻出動し、軌道上から“アルカンシェル”をべセル帝国の国土全体に狙いを付けた。さらに、武装航空隊のエース級魔導師が100名以上、武装隊の局員が3000名以上出動し、ベゼル帝国の軍事施設を広域殲滅魔法によって制圧、航空戦力を二日で奪い、全ての空港を破壊。後は降伏勧告を出すだけだ」


 「凄い………」


 「普段は次元世界に分散してるけど、一箇所に集まればそれだけの戦力になるんだね………」



 「これが時空管理局の持つ恐ろしさの一片だ。滅多なことでは国家への武力行使は行わないが、いざという時は容赦なく徹底的にやる。だから、次元世界で核兵器やロストロギアを用いた超兵器を使用する国家は現在では存在しない。だが、逆にいえば、通常兵器でどれだけ多くの人間が死んでも本局は出動できないということにもなる」


 「じゃあ、核兵器で数十万の人々が一度に死んだら出動できても――――」


 「5年かけて数百万の人間が死んでも、出動できないってことになるんだね」


 第89管理世界フォルスのオルセアはその最たる例になる。子供が銃をとって戦い続ける情勢が延々と続いているが、人々が大量破壊兵器ではなく銃によって殺し合っている以上、時空管理局は手出しが出来ない。フォルスは准管理世界であり、オルセアは“イスカリオテ条約”も“クラナガン議定書”も批准していないため、地上部隊も存在しない、活動出来るのはNGOに限られる。


 「残念だが、時空管理局は万能の組織じゃない。出来ることは“起きてしまった悲劇の後始末をする”ことと、“悲劇が起きないように目を光らせる”ことだ。“悲劇をすべて無くす”ことはできないんだ。だが、”どうせ無駄”などと考えてはそこでおしまいだ。それをできるだけ減らそうと努力を続けることを忘れてはならない。さて、ベゼル帝国の降伏後、核兵器の回収と解体、さらには発見されたロストロギアの回収を行ったのは本局の部隊だが、それまで最前線で戦ってきた地上部隊にとってはやりきれない思いが残る」


 『なんでもっと早く来てくれなかった』


 『いまさらやってきて何のつもりだ』


 「時空管理局の本局がやってきても、核兵器で焼き殺された人々が蘇りはしない。それでも、時空管理局は悲劇を無くすことは出来なくとも減らすための活動を続けている、少しずつではあるが効果は出ているのは間違いない。新暦35年頃に比べ、現在では准管理世界で起きている戦争の数は間違いなく減っているし、犯罪の発生率は減り、検挙率は上がっている。問題はまだまだ多くあるが、徐々に良くなっては来ている」


 新歴が始まった頃などは比較できないほど悲惨な情勢だったはずだ。次元間に跨る大国の戦争の爪痕が管理世界のあちこちに残り、未使用の超兵器が散らばっている状況。その次の世代も管理世界と准管理世界の格差や、魔導師の数と能力に依存した治安維持体制の弊害などに悩まされ、戦力不足や政治的な問題に対処しながら歩みを進めてきた。


 そして新歴65年の現在に至りようやく次元世界が安定し、ミッドチルダの地上の安定にも予算を割けるようになってきた。これまで雀の涙のような予算でミッドチルダ地上を守ってきた地上本部の苦労は、世界大戦の最前線に立たされる地方の地上部隊や、ロストロギア災害や広域次元犯罪者と戦い続ける次元航行部隊に劣るものではないだろう。



 「頑張っているんだ、管理局も」


 「そんだけ頑張って報われなかったらやりきれないね」


 「そして、そんな管理局の中枢があるのは本局で、地上部隊の中枢はミッドチルダの地上本部だ。最後にそのミッドチルダの説明をするが、いったん休憩を入れよう」


 「ふう、疲れた」


 「随分長くて重い話だったね」


 「そうだな。ああ、それと、これは今までの流れとは関係ないんだが、魔導師と非魔導師では出世の早さが、大きく異なるのは知ってるな。どうして魔導師は待遇がいいか、わかるか?」


 「ええと、やっぱり魔法文化だから、魔導師が有利になるからじゃないかな」

 
 「大筋は正解だ。しかし理由はもっと世知辛い。高ランク魔導師がほしいのは管理局だけじゃない。一般企業もそうだし、民間団体もそうだ。だから、それぞれ待遇を良くして高ランク魔導師を得ようとする。しかも管理局は激務だと知られているから、こっちとしてもより高待遇にするしかなくなる」


 「まあ、そうだろうね。でもさ、それは仕方ないんじゃないのかい?」


 「そうなんだが・・・・・・ いまではそのことによって、魔導師と非魔導師との間に軋轢が生じてしまっている」


 「うまくいかないんだね…・・・」


 「ああ、世の中はこんなはずじゃなかったことばっかりさ・・・・・・」








[21177] リンディ・ハラオウンによる永世中立世界講座
Name: イル=ド=ガリア◆ec80f898 ID:97ddd526
Date: 2010/11/07 09:59
 
 リンディ・ハラオウンによる永世中立世界講座

再び講師交代、クロノ。ハラオウンに代わりリンディ。ハラオウン




 「さて、これより永世中立世界の説明に入りますね」

 
 「あれ? リンディさん? どうして?」

 
 「あの黒い坊やはどうしたんだい?」


 「いえ、私も講師役をしたかったものですから、代わってもらったのよ」

 
 「そ、そうなんですか」


 「あら・・・・・・私じゃ不満かしら? やっぱりクロノのほうが良い」

 
 「いえ、そんなことは無いです」


 「そう、よかった。それでは説明を始めます。ここまで管理世界と管理外世界と准管理世界について説明してきましたが、次元連盟と各世界の関係、そして時空管理局の役割については大体わかりましたか?」


 「はい、時空管理局の主な役割は次元航路の保全と次元犯罪者の取り締まりで、航路の保全は本局が行って、次元犯罪者の取り締まりは本局と地上部隊が連携して行うけど、その二つの仲はあまり良くない」


 「ついでに、戦争とか国家が絡む問題になると地上部隊は最前線で働かされるけど本局は出動することができない。出来たとしてもそれは超兵器による被害が出た後で、後始末だけをやることになるんだったね」


 「はい、その通りです。国家への介入を可能にすると、時空管理局の権限が大きくなりすぎますからね。時空管理局が国家の軍隊を超える規模の戦力の保持が許されているのは、政治的な中立を保っているからであって、“イスカリオテ条約”に反する超兵器を使用でもしないかぎりは、次元航行部隊の戦力が国家に向けられることはありません」


 「だから、主要国が全部次元連盟に加入している管理世界や、逆に魔法文化が存在しない管理外世界なら大きな問題はないけど、質量兵器を用いる国家と次元連盟加入国家が入り混じる准管理世界では、常に後手に回ることになってしまうんですね」


 「よく理解していますね。そこで問題になるのが、時空管理局の行動の指針となる管理局法の存在になります。これは次元連盟が定めた国際法であるわけですが、一番重要なのは各国の国内法とのすり合わせ部分。次元犯罪者は管理局法で裁くことが慣例になっているからいいですが、経済的な部分に関わる法律や、それこそクローン技術に関わる法律などは死の定義や倫理問題、文化的背景などにも関わることだけにこの辺は実に難しいのです」


 「私は、管理局法では違法な技術で生まれになるんですよね・・・・・・」



 「そう落ち込まないで顔をあげなさい。大丈夫、誰もそんなことで貴女のことを貶すことはありません。もっと自分に自信を持っていいのよ。貴女には、なのはさんも、ユーノさんもいる、すばらしい友人が大勢いて、皆貴女を大事にしてるのだから。もちろん私も、ですよ。さて、話がそれましたね。実は、治療目的ならばクローン技術を認めている国家も数多くあるのです。流石にクローンを用いた軍隊の創設なんかは問題外ですが、様々な理由でクローン技術が求められた際、特別な審査の末に研究を許可されるケースもなくはないのです」


 「フェイト、気にすることはないよ、この人が言うんだから間違いないさ」


 「うん、大丈夫」


 「ですが、やはりクローン技術を一部で認めている国家は現在管理局の法律関係の部署と協議の真っ最中です。最初の協議が始まってから既に12年ほど経過していますが、結論は未だ出ていません」


 「長いね」


 「難しい問題ですからね、とりあえず結論が出るまでは研究開発は禁止ですが、出来てしまったものについては追認するしかない、というのが現状で、乱暴に言えばやったもん勝ち的な話ではあるんです。何もかも一定の基準で禁止すれば上手くいくほど人間社会は単純じゃなく、基準となるべき法律は尊重しつつも現実的な妥協点を探るのが、法関係の人間の仕事と言ってもいいでしょう」


 「やっぱり、難しいですね」


 「なので、この問題に限らず、管理局法と国内法のすり合わせは次元連盟に加盟している国家の悩みの種の代表格と言ってもいい。これの是非で自国内部の地上部隊の扱いとかが変わる可能性もありますし、本局との付き合い方を見直さなくてはならない場合もある。だから、管理局法をいきなり各世界に施行するのはあまりよくない。つまりはテストケースが欲しい、というわけです」


 「テストケース?」


 「そう、管理局法を国際法ではなく国内法として備え、行政機構などは可能な限り一般的な国家に類似させた上で国際的な中立を保ち、経済的な面でも一つの国家に偏ることなく全ての世界と平等に付き合う政治的、経済的特区、そんな世界を永世中立世界と呼ぶのです」


 「それが、第一管理世界ミッドチルダってわけかい」


 「全ての管理局法は次元連盟と時空管理局によって作り出され、まずミッドチルダで施行される。そして、現実に出てくる問題点を見極め、各世界に施行するにはどのような点に注意するべきか、その際、地上部隊と本局では対応が変わるかどうかなど、様々な面から議論を重ねたうえで次に管理世界に施行され、准管理世界は最後となる。これが現行の管理局法のシステムになりますね」


 「あたしらにとっては管理局法=法律って感じだけど、他はそうでもないんだね」


 「ミッドチルダで生まれ育てば、そういう感じになるのは当たり前になるんです。それに、通貨の面でもミッドチルダで使用される通貨は基軸通貨になり、これも経済的にバランスを取るべく作られた経済特区としての特性を考慮すれば当然の話。どこかの国の通貨を基軸通貨にするのではなく、いずれの国の通貨でもない次元連盟用の通貨を作り出し、それがミッドチルダの通貨として各世界の通貨との為替の中心とする。その場所がクラナガンです」


 確か、第11管理世界にはロクシアス連合という27の国家による共同体があり、そこでは共通の通貨を使用していたはず。昔は有力な二つの国の通貨が国際通貨として扱われていたようだけど、いずれの国の通貨でもないロクシアス連合用の新たな通貨を新設した。ミッドチルダの通貨はそれを次元世界規模に拡大したものと言っていい。


 「だからクラナガンはあんなにおっきいんだ」


 「さらに、次元世界に加盟する国家から様々な文化も流入するから、言語もそれらに対応するべく汎用的なものになります。100を超える言語学者が協力して全ての言語との相関を考えた場合、最も翻訳を行いやすい文字と文法を持つ汎用的言語を作り上げた、それが現在のミッドチルダ語。ミッドチルダの法律も、通貨も、言語も、そして魔法も、全ては次元世界から集められたものを汎用化させたものであり、それ故にミッドチルダは永世中立世界と呼ばれるのです」


 「うーん、あまり実感はないけど」


 それもポイントの一つ、特殊なコンセプトで作られた世界でありながら、そこに住む人間にとっては普通の世界と何ら変わりない実感を持たせること、これがミッドチルダの意義。“普通の世界”に管理局法を施行し、どのような問題点が浮上するのかを調べるのが目的なのだから、ミッドチルダの住民に選民意識などを持たれては困るし、自分が住んでいる場所が特殊であると認識されても困る。


 「そんな政治的中立なミッドチルダを統治するなら、その機構もやはり中立でなければならない。各世界から人・物・金が集まるということはそれだけ犯罪者も入ってきやすいということで、その治安を守りつつ経済特区としての意義を損なわないように行政を行える機関と言えば、時空管理局しかありえない。それで、ミッドチルダだけは時空管理局が立法・司法・行政を担当しているのです。主権国家ではないからこそ可能な芸当ですね」


 「逆に、どっかの国家がミッドチルダの行政を担当する方が余程問題になるね」


 「“ミッドチルダを制する者は、次元世界を制す”って感じかな?」


 「実際にその格言はあります。そんなミッドチルダの地上部隊は、他の管理世界に存在する地上部隊とは性質が異なるということは分かりますね」


 「えっと、他の世界の地上部隊は次元世界の安全よりも、まずは自国とそこに暮らす民の安全を考えなくちゃいけないけど―――」


 「ミッドチルダだけはそもそも国家じゃなくて政治的中立地帯だから、ミッドチルダの安全を守ることは、そのまま次元世界の安全を守ることに繋がる?」


 「その通りです、管理局法を国内法として備えるミッドチルダの治安を守ることは、国際法を順守することに等しくなる。中立を保たなければミッドチルダが成り立たない以上、他の国家の事情を無視してミッドチルダの事情を優先することはあり得ない。なぜなら、どの国の事情もまた、ミッドチルダの事情の一部なのだから」


 「次元世界の事情はミッドチルダの事情で、ミッドチルダの事情は次元世界の事情」


 「まさに、次元世界の中心、第一管理世界ってわけだね」


 「残念なことですが。そういった事情を知らずに“時空管理局は傲慢だ”、“管理局法を押しつけるな”って叫ぶ人たちも多いんです、その人たちは、もう少し大きな視野を持って、自分の世界以外の価値観、常識を知ってもらいたいですね。自分の価値観と異なる価値観で暮らしてる人たちは、星の数ほどいるのですから。そうした情報の交換も、管理局はがんばっているのですが、逆に知識を押し付ける形になっては、本当に傲慢で横暴になりますから難しいところです」


 「あのリンディさん、ひょっとしてそれ、クロノが言ってた第109管理世界リュダウアのベゼル帝国とか?」


 「良い勘をしていますねフェイトさん。ベゼル帝国がアークハイム連邦に宣戦布告する際に次元世界を非難したわけですが、その時の内容は、“野蛮なるミッドチルダ王国は自らの国の通貨を基軸通貨として経済を支配し、自らの国の言語を共通語として広めて文化を破壊し、あまつさえ、自らの法律さえも管理局法として我々に押し付け、全世界の支配を目論んでいる。我々は神に地上の統治を任された聖なる使者として断固これに抗戦するものである”と、そういう風に記録されてます」


 「うーん、一面だけ見ればあながち間違いじゃないけどさあ、世間知らずにしか聞こえないよ」


 「基軸通貨を定めたのは次元連盟と各国の主要銀行が作っている金融連合、ミッドチルダ語を標準語として作ったのは時空管理局と次元連盟の専門機関、そして何より、ミッドチルダは主権国家じゃなくて時空管理局が次元連盟から統治の代行を任されている政治的、経済的特区。関係はまさに逆で、ミッドチルダで生まれたものが次元世界に広まるのではなく、次元世界中からあらゆるものが集まって汎用化されたものを“ミッドチルダ”と呼ぶ、ミッドチルダと名がつくものは汎用性を示すと思ってください」


 「ミッドチルダ語、ミッドチルダ式魔法、ミッドチルダ通貨、全部そうなんだ。管理局法だけは違うけど、ミッドチルダの立法機関が時空管理局なんだから似たようなものだし」


 「実は、宗教の面でも同じことが言えます。聖王教会は次元世界で最も一般的に普及している宗教組織ですが、その総本山であるベルカ自治領があるのはミッドチルダ。この事実もミッドチルダが政治的中立地帯であることを示していますね」


 国家を跨って広がる宗教の場合、その総本山が一種の独立国になることは多くある。宗教と政治を完全に切り離すことは難しく、どこかの国に総本山があっては政治的に利用される可能性が高くなってしまうからであり、そうなると異なる宗教との調整なども難しくなってしまう。それ故に完全に一つの宗教のみを抱える小さな独立国が作られることになる。

 聖王教会はそれを次元世界に拡大したような宗教であり、それ故に総本山には政治的中立が求められる。だからこそミッドチルダにある。聖王教会と最も繋がりが深い組織とは時空管理局であり、掲げる理想や理念にも共通点が多い。片や、古代ベルカの戦乱の時代への反省から出発した聖王教会、片や、旧暦末期の次元間国家の大戦争の反省から出発した時空管理局、戦争へのアンチテーゼが出発点という部分では兄弟のようなものだろう。


 「そして、そこに君臨する地上本部もまた然り。地上本部の役割はミッドチルダの治安を維持することと、各管理世界の地上部隊の現状を把握し、時空管理局としての予算を配分することにあります。各世界の地上部隊は地上本部を通すことで初めて本局との繋がりを持つというわけです。ミッドチルダに住んでいれば地上部隊と本局は近しい存在に感じますが、管理世界ですら距離は遠く、准管理世界に至っては一度も本局との交流がない部隊が多いんです」


 「本当にミッドチルダの地上部隊は特別なんだ」


 「いまいちピンとこないけどさ」


 「准管理世界で戦争が起きた場合、次元航行部隊の直接的な派遣は不可能でも、地上本部から出向という形で高ランク魔導師を現地に派遣することは可能です。だから、ミッドチルダ防衛用の本局航空武装隊を、一時的に地上本部首都防衛隊に出向させて、そこからさらに別世界の地上部隊に出向なんて裏技も最近は取られています。時空管理局もただ手をこまねいて見ているだけではないのよ」


 「やるねえ」


 「凄い方法だ」


 「時空管理局本局は、次元世界の平和を守るというある意味“理想”を掲げた組織ですが、地上部隊は自分の国の民の安全を守るという“現実”を見据えた組織です。地上本部はその二つを繋ぐ調整役と言えますね。本局は扱う案件が大きいだけに足元が見えなくなりやすく、地上部隊は足元だけ見ていて視野が狭いと言われています。本局に地上の現実を伝えながら、地上部隊にも次元世界は有機的に繋がっていて、自分のことだけを考えていても結局は破綻するという事実を教える。これが出来るのは、ミッドチルダという特殊な世界の治安を維持する地上本部だけなのです。まあ、私も偉そうに言っているものの、ただしく地上部隊の現状を理解してるわけじゃないの。組織の機構と今問題になってる事実を知っているだけで」


 「本部が次元空間に浮かんでいて、世界に根付いていない本局には地上の現実が分からない」


 「自分の住んでいる世界しか知らなくて、次元世界全体を見ない地上部隊には次元世界の現実が分からない」


 「そういうことですね。そして地上本部はまさにその中間にあります。本局の人間と普通に会って話す機会が多いのは、ミッドチルダの地上部隊だけですからね、本局の人間もたまに地上に降りますが、その大半はクラナガン。他の管理世界まで任務以外で行くことは意外と少ない、何しろ仕事が忙しくて休暇が少ない、という問題がありますから」


 「盲点ですね」


 「本局の管理局員が実は旅行経験に乏しいってわけかい」


 「もし地上本部が本局と各地の地上部隊を結ばなかったら、次元犯罪者の検挙率は一気に落ちてしまうでしょう。陸の犯罪者が海に逃げたという報告を、どれだけ迅速に本局に伝えられるかどうかが犯人逮捕の要と言っていい」


 「でも、准管理世界の次元連盟に加盟していない国に潜んでいる犯罪者は、地上部隊でも本局でも対応できないんじゃないかな?」


 「確かにそうだですが、逆に考えてみて。本局は次元航路を守る、地上部隊は自分の国を守る、つまり、その犯罪者が次元連盟未加盟国にいる以上、別に逮捕する必要はないのです。その国は時空管理局に未加盟というわけですから、その犯罪者がその国で何をやろうが時空管理局は関与しない。その国にいられなくなって出てきたらその時に逮捕、という形になる」


 「うわあ……」


 「なんつー適当な……」


 「いやな話ですけど、管理局の人員も有限だし慢性人手不足なの、あまり低級な犯罪者を血眼になって追う余力はないのよ・・・…」


 「低級?」


 「見方の問題、ですね。痴漢、窃盗などの犯罪者はミッドチルダ以外ではそれぞれの国家の警察機構が捕まえる。ミッドチルダでは交通違反までも管理局員が取り締まるがこれは例外になります。そして、地上部隊は魔導犯罪者を取り締まりますが、それから逃げて未加盟国に逃げる輩は、つまりそれだけレベルが低い。もしくは、地上部隊を出し抜いて増長した者達です、こういう人たちが増長するとより大きな仕事に手を出そうとして次元世界に出てくる」


 「そして、本局の網にかかってバイバイってわけかい」


 「地上部隊と本局では設備が違います、魔導師のランクが違う、扱うデバイスが違う。井の中の蛙は海に飛び出し、サメに喰われておしまいというわけね」


 「サメ……」


 「微妙な表現だね」


 「しかし、中には本局の網すら食い破り、他の管理世界に移って活動を続ける犯罪者もいます。准管理世界の政府などにすり寄るのではなく、隠れ蓑として一方的に利用して切り捨てる。国家すらも己の道具とする一流の犯罪者、時空管理局ではこれを“広域次元犯罪者”と定義し、次元航行部隊の歴史は広域次元犯罪者との抗争の歴史と言ってもいいでしょう。何しろ、アークハイム連邦とベゼル帝国の世界大戦すら、その引き金となったのは一人の広域次元犯罪者だったりするくらいですから」


 「嘘!?」


 「マジかい!?」


 「マジ、ですよ。しかも戦争中に既に他の世界に逃亡していたのです。ですが、戦争被害者が中心になって作り上げた執念のネットワークによって見つけ出され、遺族の手によって殺された。当時の管理局もこの人物に対しては殺傷設定の使用をためらわなかったということです」


 「それは、仕方ないと思う」


 「管理局員だって人間だもんね」




 「さて、長々と説明しましたが、大体こんなところですね。それと最後に、管理世界、管理外世界、准管理世界、そして永世中立世界であるミッドチルダ、これらの関係を示す実に良い格言があるんです」


 「どんなのですか?」


 「興味あるね」


 「ミッドチルダの常識は、管理世界の非常識。管理世界の常識は、准管理世界の非常識。准管理世界の常識は、管理外世界の非常識」


 「分かりやすいですね」


 「要は、世界それぞれで常識が違うってことかい」


 「そういうことです。そして、その常識のすり合わせを行う公的機関が時空管理局。まだまだいろいろ問題は多いけど、これでも頑張っているのよ。フェイトさんも、しっかりと勉強して、良い管理局員になってくれるとうれしいわ」


 「わかりました。私も頑張ります」


 「あんまり無茶しないでくれよ」

 
 「では、講義はこれにて終了です、お疲れ様でした」


 「「お疲れ様でした」」



 


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