青空に浮かぶ太陽が、立ち並ぶビル群を照らすシュミレーター内の人工の景色の下、三人の女性が文字通り火花を散らしぶつかり合っていた。
一人はボーイッシュな印象を与える青色のショートカット、内側に見える表情は正に天真爛漫といった少女スバル・ナカジマ、もう一人はオレンジの髪を黒いリボンで
ツインテールに束ね上げ、本来なら勝ち気で知的な表情に焦りを滲ませる少女、ティアナ・ランスター。
二人は向かい合う女性が纏う白を基調とした服、バリアジャケットに良く似たバリアジャケットを纏い。女性時空管理局の『エースオブエース』との模擬戦の
真っ直中であった。
『エースオブエース』と呼ばれる魔導師、高町なのはは、悲しみと怒りが胸中に溢れてくるのを止める事が出来なかった。
これまでの教導を嘲笑うかの様な、スバルの何時もより全くキレの無い無謀な突撃、ティアナによる自分達の危険も顧みない危うい戦術。
自分の今までの教導が全く二人に理解されていなかった悲しみ、また理解させられなかった自分の力量不足への怒り、その二つの感情に支配されそうになったなのはだが
寸前の所で踏みとどまる。
思い出したのは自身が15才の時、自分の体調をも顧みず無謀な出撃を繰り返し、結果空から叩き落とされ大きな傷を負った過去の自分。
繰り返してはならない、彼女達を自分の様な目に遭わせてはならないとはのはは覚悟を決める。
何時だってそうだった、高町なのはは何かを分かって貰う時には相手に全力全開でぶつかるのだ。
「二人とも、ちょっと頭冷やそうか……」
高町なのはがもう少しティアナ・ランスターとの交流を持って、ほんの少しでも彼女の考え、人となり、力を求める理由を理解してれば、あの様な悲劇は起こらなかった
かもしれない。
ミッドチルダに一人の転生者が生まれた、しかも原作キャラの一人としてだ。しかしその転生者の男にとっては新たな世界に生まれ変わったという意識しか無かった。
男は『リリカルなのは』を全く知らなかった。転生の際与えられたモノは『閃真流』『忍術』『天空宙心拳及び天空真剣』の素養だった。
男は俺TUeeeeeeをしたかったのだが、鍛錬を続け前述の武術を極めようとしていた課程でそんな気は全く無くなっていた。大地の気と同化し、己の気を練り上げる。
それは男が使う武術の基本であった、それらの課程を踏まえていく内に森羅万象と同化し宇宙その物を感じ取る事にまで至った、それは男に魂が震える程の感動をもたらした。
それから男はどんどん武術にのめり込んで行った。大地の空の宇宙の気と同化し、強敵(友)達と拳を交えるとういう方法で会話をし、唯々高みを極めようとそれだけ
に専心していったのだった。
だがこの物語は、両親が事故で他界し、たった一人の肉親を養う為に時空管理局の地上部隊所属の何があっても定時で上がる駄目局員になった男であり。
『欲望』を司る守護獣を従えるブーメランを使う戦鬼や、『もっと力を!』と叫ぶ刀を使う銀髪の悪魔や、『滅びの母の力を』などと叫びながら力の押し売りを繰り返す
仮面の力の求道者等といった強敵(友)達と拳を交えての会話を通じ、白刃を切り結んだ下で新たな力や次の境地への扉を開いたりして、「この世界は多数のゲームが混同
した世界か」等と勘違いをしている武闘家でもある。
黒のロングコートの上に黒の外装を着用し、腰に胡散臭いサーベルを佩き、一度見たら忘れない虎頭のかぶりものを装着したバリアジャケットを纏う男。
『閃真流人応派』『ゲルマン忍法』『天空宙心拳』『天空真剣』の使い手、一武闘家、転生者ティーダ・ランスター軍曹が主人公では無い。
『私もお兄ちゃんみたいに強くなりたいです!!私にも『にんじゅつ』を教えて下さい!!』
この物語はそんな事を幼少の頃に宣言した、いや宣言してしまった少女、『地上の歩く理不尽』ことティーダ・ランスターの妹、ティアナ・ランスターが主人公である。
嘘予告(仮) 汚いなさすがランスターきたない
ホテル・アグスタでの事件、オークション会場でもあったこの地に多数のガジェットと呼ばれる機械が侵攻し警護を担当していた八神はやて率いる『機動六課』との
戦闘の最終幕、謎の召喚師により多数の虫型召喚獣が展開された直後。
「害虫には殺虫剤!!」
クワッ!!っと目を見開きながら叫び、どこからともなく取り出した強力な殺虫剤で辺り一面に白煙をばらまきながら多数の虫型召喚獣を殺傷し、
紫髪の少女に多大な恨みを買っていた事も知らない少女、ティアナ・ランスターは時空管理局の『エースオブエース』高町なのはとの模擬戦に向けての準備に余念がなかった。
「スバル、分かってるわね?」
「いいのかな~、こんな事して」
ティアナ・ランスターとコンビを組んでいる少女、スバル・ナカジマ、その二人の作戦会議を遠目に二人の直接の上司である高町なのはは相棒たるデバイス、
レイジングハートをチェックしながら三人の人物に詰め寄られていた。
「高町、絶対に油断をするな!奴はティアナは何をしてくるか分からんぞ!?」
一人はヴォルケンリッターの将、シグナム、焦った表情でなのはに忠告をする。
「ホントに気を付けてね、ティアナは本当に強かだから」
一人はフェイト・T・ハラオウン、とても心配そうな顔でなのはを見る、本当に心配しているのか気のせいかツインテールも何時もより萎みがちであった。
「強かとかそういう次元じゃねぇだろうがアイツの場合!マジで油断すんなよ、なのは!!あいつはあの『ランスター』の妹なんだからな!!!」
最後の一人はヴォルケンリッター、鉄槌の騎士ヴィータであった。
「みんな大げさだよ、ティアナは良い子だから大丈夫だよ、みんなどうしてそんなにティアナを警戒するの?」
「奴がランスター、『ティーダ・ランスター』の妹だからだ!!」
なのはの訝しげな表情にシグナムはどこか怒りを含んだ声色で叫ぶ、他の二人もウンウンと首を縦に振っている。
シグナム、フェイト、ヴィータこの三人には共通項がある、それはティーダ・ランスターにボロ負けしている事である。
「高町、戦術研究会の事を知っているか?」
「戦術研究会?」
首を傾げるなのはにシグナムは一つ頷くと説明を始める。
戦術研究会、それは海、空、陸の管理局員が集まり犯罪傾向や犯罪者によく使われる質量兵器を調べ、それらに有効な対処方や戦術などを話合う会である。
しかしそれは建前であり、海、空、陸の腕利き達が集まりトーナメント方式の模擬戦を行い一番強い局員を決める行事である、元々は海の高官が始めた行事であり、
優秀な海のエリート魔導師の力を顕示する事が目的だったがここ五年、参加した海や空の魔導師達は地団駄を踏んでいた。
なぜなら五年前からこちら陸の魔導師がチャンピオンの座に君臨しているからである。そのチャンピオンこそがティーダ・ランスター軍曹なのだ。
シグナム、フェイト、ヴィータも研究会に参加した事がありその課程でティーダに敗れ去っているという訳である。シグナムに関しては五年連続で敗北を更新していた。
「そんなに強いの?ティアナのお兄さん」
「強い?確かに強い事は強いのだが……」
シグナムはなのはの問いかけをきっかけに五年前を一人思い出していた。
「と、とにかく危険だ、ランスターは危険だぞ!!」
屈辱的な敗北を思い出したのか、シグナムは焦りながらなのはに更に忠告する。
「そうだよなのは、油断してたら何もさせて貰えないよ!!」
「そんなフェイトちゃんまで大げさな」
全く此方の忠告を聞いてくれないなのはに焦りながらフェイトも三年前研究会でティーダと戦った記憶を呼び起こそうと思ったがトラウマを刺激され慌てて中断する。
「なのは、気を付けないとホントに取り返しの付かない事になっちゃうかもしれないんだよ!?」
「そうだぜ、ランスターの姓を持つ奴は何考えてるのか分かんねぇんだからな!」
「ヴィータちゃんまで……」
「アイツはな、ティーダ・ランスターはninjaだったんだよ!!妹のティアナだってninjaに違いないぜ!ninjaは怖いんだからな!はやてが言ってたし、あの虎頭も
ninpouを使ってたからな!!絶対に気を付けろよ!」
忍者に対してはやてにとんでも無いデマを信じ込まされていたヴィータは全身を震わせながらなのはに忠告する。
「忍者って……ミッドチルダにそんなの居るわけ無いと思うけどなぁ」
「ホントだぞ!あの虎頭だって自分の事を『ゲルマン忍者』だって言ってたからな!」
その言葉を聞いてなのははプッと吹き出すと堪えきれない様に笑い出す、何処かツボにはまったのかお腹を押さえながら笑いを堪えていた。
「ゲルマンってドイツでしょ?ドイツに忍者が居るわけないの、ヴィータちゃん面白い事言うなぁ」
「ホントなんだからな、おいなのは、聞いてんのか?待てって」
なのはは適当にヴィータをあしらうとティアナとスバルと模擬戦をするために訓練場に移動する。
ヴィータの忠告をこの時に真剣に受け止めていれば、高町なのははあの様な醜態を犯さずに済んだのかも知れないが……この世は無常である。
場面は再び冒頭に戻る。
「二人とも、ちょっと頭冷やそうか……」
レイジングハートをモードリリースして、接近戦を仕掛けて来たティアナにディバインバスターを放とうとした瞬間、なのはは猛烈に嫌な予感がした。
「ティアはやらせないっ!」
バインドを両手にされたままのスバルの体当たり。違う、これでは無いその証拠に背筋を駆け上がる、寒気を催す感覚が消えるどころか更に強くなっていた。
そしてなのはは見た。
ティアナの口元が歪んだイヤらしい笑みを、見た事も無い程にワルい顔をしているスバルを。
「ッ!!レイジングハート、セットアップ!!」
瞬間、爆発した……ティアナとスバルが、至近距離からの大爆発。
なのはを飲み込んだ爆発により巻き上げられていた砂埃が晴れるとそこには所々焦げの付いたバリアジャケットと、急遽セットアップしたレイジングハートを握った、
殆どダメージの無いなのはの姿だった。
「ま、まさか自爆なの!?……いや違う!!」
背後から襲い掛かる影、ティアナは低い姿勢からスルリと自然な動きでなのはの懐に入ると、クロスミラージュから発生した魔力刃をなのはの首元目掛けて突き刺すが、
なのはが咄嗟に展開したシールドに防がれてしまう。
「あ、危なかった、ティアナ今のは?」
「実体を持った分身の術、影分身です」
二人が会話を続けている間もティアナの魔力刃はなのはのシールドを削ろうと唸りを上げている。
「ぶ、分身の術なの!!?ま、まさかティアナは忍者だったりしないよね?」
「忍術を扱う者を忍者と言うなら私は正しく忍者、くのいちです」
(オーマイガットなの!まさか魔法の世界に来て忍者と戦う事になるなんて、しかもそれが教え子だなんて!)
地元97管理外世界、日本では忍者の国家検定なる物があるので、存在する事を知っていたなのはだったが、まさかミッドチルダにも存在するとは夢にも思っていなかった。
なのはは忍者が相手なら油断は出来ないと気を引き締める。
「スバァァァァァァァルッ!!」
ティアナの声が訓練場に響いた瞬間、スバルは幻術の掛かった自分が隠れていたダンボール箱を跳ね上げ、模擬戦が始まってからウイングロードを展開する以外で
始めて動いた。今まで温存していた魔力を目一杯使い、スバルはなのはに向かって吶喊した。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」
「くっ!」
背後からのティアナの魔力刃、正面からのスバルのリボルバーナックルを二枚同時に展開したシールドで防ぐなのはだったが、今まで温存されていたスバルのリボルバー
ナックルの一撃を防ぐのは厳しい状況だった。
しかし防きれない程ではないとシールドに魔力を送り強化すると、元気一杯のスバルよりも与し易いだろうと、シールドを展開したままアクセルシューターを発動、
巧みに誘導弾を操りティアナを弾き飛ばし、弾き飛ばされたティアナがどうなったかを確認する間も無く圧力を増したスバルの攻撃に全力で魔力をシールドに集め
対応する。
だがそこでなのはの魔導師としての感覚が、この模擬戦が始まってから最も強い警鐘を鳴らす。
『シュトゥルム・ウント・ドランクゥゥゥゥゥゥ!!』
なのは自身の影の中からティアナ・ランスターが陸士訓練校の卒業の祝いに兄、ティーダ・ランスターより譲り受けた、光り輝く剣、アームドデバイス『サイファー』
を用いての高速回転をしながらの高速斬撃、ゲルマン忍法、シュトゥルム・ウント・ドランクによる奇襲を慣行する。
「吹き飛ばされたのも分身か!ラ、ランスターめ、どうやらこの模擬戦が始まる前から高町の影に隠れていたようだな……」
シグナムはティアナのやり口と自分が無様に敗北したティーダとのやり口とを比較して「奴もランスターという訳か……」と身震いした。
「最初から戦ってたのは恐らくだけど全部ティアナの分身だぜ、多分最初に居たスバルだって変化の術で変身したティアナの分身だったって訳だ、
キレが無い動きだったてのも当然だよな、あのスバルはティアナの分身がスバルの動きを模倣してた訳だからな」
ヴィータはやっぱり妹もninjaだったよと頷きながらティーダを彷彿とさせる戦い方をするティアナに「あの腐れninja兄妹が……」とジト目で訓練場のティアナを見る。
「あう、あう、あうぅぅぅぅ」
フェイトは一人体育座りをして、ティアナの戦い方からティーダとの、恥辱に塗れ一ヶ月も立ち直れなかった戦いを思い出し、トラウマを刺激され錯乱していた。
「あ、あああああああああ!」
「へあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ティアナのシュトゥルム・ウント・ドランクがなのはのシールドを凄い勢いで削っていく、その姿は正に疾風怒濤かはたまた産業革命か、その例えの如く凄まじい威力を
持つ攻撃に曝され、なのはの防御力を上まりそうになる。
「か、カッドリッジロード!!」
なのはは堪らずにカードリッジを炸裂させて魔力を底上げしてシールドを固め、何とか攻撃を防ぐ事に成功する。
「カードリッジを使う事になるなんて……意表を突かれたの、でも二人ともこんな危ない戦い方は駄目だよって……ティアナその格好はなんなの!?」
「危ないって《スバル分かってるわね?》私達の本体が攻撃したのは《良いのかな~?》今の攻撃が初めてなんですが、《兄さんを嗾けるわよ》
それにこの格好はバリアジャケットに決まってるじゃないですか、《今すぐやります》忍装束ですよ」
鎖帷子の上に紫色の忍装束の上下を着込み、首元に巻かれ、目から下を覆い隠した紅いマフラーが風に靡いている、そんなバリアジャケットを纏った
ティアナがなのはの目の前に立っていた、これはティアナの勝負服であり、戦いと名の付く戦闘行為を行う時に身に纏うものなのだ。
ティアナはなのはの問いかけに答えながら全く表情を変えずにスバルとの念話を挟む。
「(そういえば分身の術だったの)でも勝負はこれか「何を言ってるんですかなのはさん」え?」
「なのはさんはもう詰んでるんですよ、身体動かせます?」
この子は何を言っているんだろうとなのはは身体を動かそうとして驚愕した、全く動かない、話す以外の行動が全くとれないのだ。
「な、何をしたのティアナ!?」
「影真似の術、成功」
念話によりスバルに出した指示は簡単なものだ、ウイングロードに過剰に魔力を送り色を濃くしただけである、そしてその上に伸びたなのはの影をさりげなく踏みながら
影真似の術、影を媒介にして相手の動きと自分の動きをシンクロさせる術を発動したのだ。
ティアナには兄ティーダに比べ『閃真流』『天空真剣』『天空宙心拳』の様な肉体的頑強さを必要とする武術の適正が低かった、適正が高かったのは『ゲルマン忍法』と
『木の葉式忍術』だった、その中でも影真似の術は兄ティーダすら使えない技である、ティアナにこの資質が有ったのは天の采配か、それともティーダの妹である事実か、
それは分からないが、ティアナにとって最も重要な武器の一つであることは疑いようがない。
それにティアナにはティーダには無い資質も持っていた、それは器用さである。ゲルマン忍法、木の葉式忍術これらは扱う力が全く違う。前者は気であり、
後者はチャクラと呼ばれるエネルギーである、これら違った力を戦闘中、瞬間的に切り替えて運用するのは思った以上に大変なのだ。
兄であるティーダの使う『閃真流』『天空真剣』『天空宙心拳』『ゲルマン忍法』これら全ては気を扱う武術であり基本となる部分は似通っている為同時に扱うのは
然程難しく無い。その証拠にティーダは鍛錬の効率が大幅に上がる影分身の術、何かと便利な口寄せの術以外の『木の葉式忍術』を会得していないのだ。
戦闘中『魔力』『気』『チャクラ』と切り替えて戦えるティアナは驚く程に器用なのだ。故に魔法もティアナに取っては戦う為の手段の一つでしか無いのだ。
「変化!」
「私そっくりに変身した!?変身魔法?……まさか変化の術だったりしないよね?」
「そうですが」
変化の術でなのはそっくりに変化したティアナ、なのは(偽)は軽くなのはの常識を打ち崩しながら、懐から取り出したクロスミラージュを起動させると
なのはに聞こえない様に指示を出す。
『私高町なのは、十九歳☆』
なのはの声その物を使ったブリッ子ブリッ子した、痛々しいセリフがクロスミラージュから流れてくる。
「な、なんなの!?私こんな声出したりしないの!!」
なのはの驚愕の声をスルーしながらクロスミラージュから流れてくる、なのはの声色を使ったセリフに合わせて、
なのは(偽)は片足を上げ両手を握り拳の形にすると顎の下に持って行き、そこでウィンクを一つ、勿論だが影真似の術を掛けられているなのはも同じポーズを取る。
「か、身体が勝手に!」
なのはは勝手に動く自分の身体に驚愕の声を上げる。
『あわあわ!きゃ!』
なのは(偽)は、わざとらしく大げさに両手を振りながらバランスを崩したように尻餅を付く。当然なのはも同じ動きを取る。
『ちょっとドジっ子だけど、私には秘密が有るの、えへっなの!』
さらに尻餅を付いたまま自分の頭をコチンと叩き、照れ隠しの様に舌を出す。
「ティ、ティアナ止めてなの、この痛い踊りを止めてなのぉ!!」
なのはは絶望の声を上げるが、当然だがティアナが止める筈もない。
『高町なのはは、魔法少女なのだ!今日もいけない人達を私の魔法でお仕置きなの☆』
二人のなのはは腰を振りながらクルッっと回って、目元にピースサインを当てながら、舌を横にだしてブリッ子ポーズを決めた。
瞬間二人は四つん這いに成り、ティアナは変化を解き元の姿に戻り、まるで吐血をしている様な状態になる。
「うあ~なのはさんに変化してたとはいえ、流石に痛すぎて私にも結構クルものが……私はまだ17才だからまだギリギリ踏みとどまったけど、
19才な、なのはさんにはさぞかし厳しかったんじゃないですかねぇ?」
ティアナは心底意地が悪そうな笑みを浮かべながら、なのはにブリッコダンスの感想を聞いたが、なのはに全く反応が無かった。
「…………」
高町なのはの目は死んでいた。ハイライトが消えた目で放心状態に成り、心此処に非ずといった状態になっている。まあ来年二十歳を迎えるうら若き乙女があんなイタイ
ダンスを無理矢理させられ、目の前には鏡の如く自分と瓜二つな存在が踊る痛いダンスを見せつけられてはこうなっても仕方ない事だろう……ご愁傷様である。
なのはは深呼吸を繰り返し、未だ自由に成らない自分の身体に、次は何をされるのかと軽く絶望しながら、それでも不屈の闘志で己を取り戻しティアナを睨み、叫ぶ。
「ティアナ!卑怯だよ!!」
ティアナは心底意味が分からないと言わんばかりに驚愕の表情を貼り付ける。
「卑怯!?卑怯と言いましたか?」
「そ、その通りなの、こんなやり方は卑怯なの」
その言葉を聞いたティアナは、「やっぱり理解出来ないですねぇ」等と言いながら腰に手を当てて前屈みに成り、指を一本立てると、聞き分けのない子供に言い聞かせる
様な口調で話し出す。当然だがなのはも同じ動きを取っている。
「いいですか?なのはさん、卑怯と言うのはですね、例えば、例えばですよ。とある教導官が昔受け持った、年下の可愛い教え子が
『合コンに誘われたのですが、初めてで不安なので某教導官さんに付いてきて欲しい』と年上の格好いい女に憧れる表情で頼まれ」
「え!?」
全く表情を変えずに淡々と『例え話』をし始めたティアナに、なのはは猛烈に嫌な予感がしていた。
「某教導官さんは合コンどころか、男性とキスは疎かデートの一つもした事が無い癖に、『まかせてなの』と見栄を張り、そして迎えた合コン当日」
「ちょ、ちょっと!?」
なのはは慌てた様な声を出し、ティアナの語る出来事に何処か心当たりが有るのか、ティアナを止めようとしたが、全く言う事を聞かない身体に絶望する。
「慣れない場と初めての経験で緊張していた某教導官さんは、あっと言う間に酔いが回り、あろう事か『管理局員の正しい在り方』や『砲撃の重要性』等といった演説を
始めてしまうという……」
「ま、待ってなの。待って下さいなの!?」
なのはは己の黒歴史が公に晒される事態に恥じも外聞も捨ててティアナに懇願するが、当然ながらティアナには全く表情を変えずに止まる様子は無かった。
「何たるKY発言、周囲はドン引き、教え子の尊敬もストップ安!この様な醜態を映像に収め」
「え!?嘘、嘘と言ってなの、ティアナ!」
まさか!真逆!あの自分の黒歴史が映像に収められているのか!?となのはは、絶望を滲ませた声を上げる。
「その映像を夜な夜な匿名希望でその某教導官さんに送り、精神的に弱り切ったその後で、様々な要求をを聞いて貰う、この様な事を……」
「ティ、ティアナ?」
「信じているからね、ティアナは良い子でしょ」続けようとしたのだが、自分も騙せない様な嘘では意味がないと言葉は続かなかった。
流石にこれだけの仕打ちをされ、ティアナは良い子だと信じられる気力はなのはには無かった。
「卑怯と言うのですよ!!なのはさんにこんな卑怯者と同列に見られていたとは……ショック過ぎて、心を落ち着ける為に逆立ちをしたくなります」
「さ、逆立ち?」
自分の教え子のやり口に恐れ戦いていたなのはだったが、ティアナが行き成り逆立ちをするといった突拍子も無い事を言い出したので、訝しげに問い返す事しか
出来なかった……悪い予感しかしなかったが。
「ええ、逆立ちをすると精神が落ち着きますから……ああ、でも今なのはさんは影真似の術に掛かっていましたね?という事は、私が逆立ちをすればなのはさんも
逆立ち状態になると言う事ですね?」
「と、解いてはくれないんだね……」
心底楽しそうなティアナに腰が引けながら、全く意図が読めないティアナの行動に、なのはは困惑気味に一抹の希望を抱き術を解いてくれないかなと頼んでみるが、
ティアナは全く聞いていない様子であった。
「私はこの通り忍び装束、つまりズボンですが、なのはさんはその年甲斐もなく履いているミニスカで逆立ちをしてしまったら、中身が丸見えですね!」
「え゛?嘘なの……止めてなのティアナ……」
ティアナの意図にようやく気づいたなのはは、割と失礼なティアナの言動が気にならない位の衝撃を受けたが、
気づいた所で絶望に彩りを与える事しかできなかったのだった。
「輝かしいエースオブエースの教導の歴史に、パンチラならぬパンモロの歴史が先程のブリッ子ダンスと共に刻まれる分けですね?」
「そ、そんな映像残すわ「我らが愛すべき大将、八神はやて二佐がこんな面白映像を消すとでも?」にゃ!!」
「お願いしますなの、止めて下さいなの……」
最後の頼みの綱すら自分の友達であり上司でもあるはやての今までの行動を思い出し、簡単に望みが打ち砕かれると、恥も外聞の無く半分泣きながらティアナに向かって
懇願する。
『管理局のパンモロエース、華麗に事件を解決』などという見出しの新聞がミッドチルダ中に発行され。
「流石パンモロだな(笑)」「あの痛々しいブリッ子ダンスが効いたな(笑)」
等と局員が会話し管理局のヨゴレキャラとして定着している未来を想像し「鬱だ死のう」と思った所まで絶望の未来を想像したなのはだったが、
次の瞬間身体が自由を取り戻し動ける様になった。
「…………冗談ですよなのはさん、私も乙女ですから、あんなブリッ子ダンスやパンツモロ出しが歴史に残ってしまったら、恥ずかしくて生きて行けませんからね」
「ダンスはもう記録されてしまったの、私もう生きて行けないんだ……」
何故か術を解いてくれたティアナに、なのはは何故かお礼を言おうと思ったが、続くティアナの言葉に冷や水を掛けられ意気消沈する。
「まあ所詮なのはさんですから、どうせ色気の欠片も無いパンツを履いてるんでしょう?……見ても気の毒にしか思わないでしょうし」
「そ、そんな事無いの!!私だって色気のある、そ、そうフェイトちゃんみたいなHなスケスケな下着だって持ってるの!!」
何を言うのだこのティアナ・ランスターはと、なのは驚愕しながら心外だと、無意識にフェイトの事を道連れにしながら私にだって色気の有る下着はあるのだと、
顔を真っ赤にして腕を振り上げながらにゃ~にゃ~と反論する。
「成る程、なのはさんはHな娘でスケスケの下着を愛用しているんですね?」
「全然違うの!Hなスケスケの下着を履いているだけ!!……はっ、謀られたの!ティ、ティアナァァァァァ!もう許さないなの!!すっごく頭冷やすといいの!!」
大声でHな下着を履いていると叫ばされたなのはは、完全に嵌められた、弄ばれたと鬼の首を取った様な表情をしたティアナに向かってレイジングハートとを構え、
自分の最大の攻撃、スターライトブレイカーを放つ為周囲の魔力を取り込み始めた。
その瞬間爆発した…………レイジングハートが
「きゅう」
魔力を収束中の無防備ななのはが耐えられる筈も無かった。
「勝利!!城を攻めるを下策とし心を攻めるを上策とする。心が簡単に乱されるから、デバイスがすり替えられていた事にも気づかないんですよ……」
『戦いは実際に矛を交える時には八割は終わっている』というティーダの教えの通り石橋を叩いて、叩いて最後には隣に新しい橋を建設して渡る様な過剰なまでに慎重に、
戦う状況を用意周到に整え、あらゆる状況を想定し、相手の思考を誘導し罠に嵌め、相手に何もさせずにこちらは好き勝手にする、それこそが『ランスターの戦術』である。
模擬戦の随分前から、『ティアナ・ランスターは焦っていて、力を求めている』というティアナの人物像を周囲に浸透させる為、日夜普通に見れば過剰と言える自主訓練を
繰り返し、わざと人目に付きヴァイスあたりになのはやシグナムにティアナの現状を報告させ、『自分の教導が全く伝わっていない』という状況を伝えさせ、
相手の動揺を誘うという行為を行ったり。
最も一般的に過剰な鍛錬というだけであり、理不尽な忍術を体得しているティアナにしてみれば、何時もより軽めかな程度であり、
それら一連の行動はヴァイスが誰にもティアナの現状を伝え無かった為、今回はあまり意味を成さなかったが。
更に鍛錬の為に展開している影分身に、鍛錬のついでにあらゆる場所で情報収集をさせていた、もちろん兄、ティーダもティアナなどより大規模にやっており、その過程で
今回のなのはの黒歴史などの情報を手に入れた訳である。(映像はティーダが持っていた)
その様な行動を取ったりと、今回の戦いに置けるティアナは実に『ランスター』の名に恥じない物であった。
それらの行為を心の一番高い棚に置きながら、ティアナは心底戦いは、勝利とはこんなにも虚しいと言わんばかりの表情を浮かべる。
「だからお前は飼い犬なのさ……」
何の脈絡も無く、ティアナは何処ぞのストライダーの様な決めセリフを放ち、胸元で印を組みドロンという音と共にその場から消えた。
「ごめんなさいなのはさん、ティアに逆らったらティーダさんと修行になっちゃうから……私はもうティーダさんと修行はイヤなんです!私のなけなしの常識が
無くなっちゃいますから!だからもう一回謝ります、ごめんなさいなのはさん!!」
ティーダ・ランスターとの悪夢の修行は二度と御免だった為になのはさんを売ってすいませんと、スバルは意識を失っているなのはに何度も土下座して謝っていた。
そんな一部始終を見ていたヴィータ、シグナム、フェイトは溜息を吐き、自分達が無様に敗北したティーダ・ランスターにそっくりな戦い方をするティアナ・ランスター
に対して、今日は空が青いなと現実逃避をしながら万感の思いを込めて、吐き出す様に三人とも同じ言葉を呟いた。
「「「汚いな……さすがランスターきたない」」」
そんなやり取りが行われていた機動六課の訓練施設に設置された、一番高い場所に位置するアンテナの天辺に人影があった。
黒いロングコートに黒い外装、腰にサーベルを佩き、首に白いスカーフを巻いた、猛虎を形取ったかぶり物を被った虎頭の男が
腕を組み直立不動なポーズで危なげなくアンテナの天辺に立っていた。
「あの様な戦いが出来る様になったか……ティアナよ、見事なり!!」
そう叫ぶと、町中で発見されれば職務質問されそうな虎頭の男、ティーダ・ランスターは一陣の風と共に消え去った。
ミッドチルダは今日も平和である。