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[21617] 【ネタ・習作】気がついたらヒロインだった(TS・オリジナルギャルゲ世界)
Name: alken◆2ac5deeb ID:928b0c2e
Date: 2013/08/02 22:26
「――好きです!付き合ってください!」





真っすぐに伝えられた想いのたけ
校舎裏に呼び出されて二人きり。なんてベタなシチュエーション。
校門から連なる桜の木には、満開の花がついている。
桜吹雪の中の告白。雰囲気もばっちりだ。
そして自分は告白される側。
中学三年生。卒業式が終わった後、後輩に。
こうもはっきりと好意をぶつけられれば悪い気はしない。

――ただ、自分自身の中でいまだ完全には割り切れてはいないのだ

こちらが何も返さないのが不安なのだろう、眉を寄せちらちらとこちらを伺う後輩。
相手は正々堂々と向かってきたのだ。こちらも真摯な答えを返さねばならない。
ならない、のだが――

「ごめんなさい、今は誰とも付き合う気はないんだ」

――逃げだ。
傍から見たならば、ただ単にそういう気がないから断ったととれる。
実際、そういう気にはならないから断った。
だけど、自分だけは分かっている。普通に断っているようでいて、その実真剣に相手に向き合ってなどいないのだ。

「そう――です、か……」

目に見えて落ち込む後輩。
いたたまれなくなって、心にもないことを言ってしまった。

「――――」

――これが間違いのもとになるとも思わずに。
ほんの気まぐれで、言ってしまったのだ。

それを聞いてしばらく立ち尽くした後、勢いよく頭を下げて走り去っていく。

後には一人佇む自分と桜吹雪。

自分で言うのもなんだが、そこそこ絵になる光景なんだろうと思う。
自惚れるつもりはないが、自分は十分――美少女、と呼べる容姿をしているだろうから。

――しかし、以前どこかこの場面に似たシチュエーションを客観的に見たことがあるような気が……
まぁ小説やゲームにありがちなベタなシチュだしな。そう感じることもあるだろう。
その時はそう断じて、踵を返し、その場を後にした。

その時、小さな疑問だろうと捨て置かずに、ちゃんと思い出しておくんだったと後悔することを、俺はまだ、知らなかった。














自分こと、九条楓には前世の記憶がある。
そのことに気がついたのは、物心がつき始めたころだった。
最初はそれはもうパニックになった。わけもわからず喚き散らした。
……今思い返すと恥ずかしいことこの上ない。


前世の自分は、学生のうちに死んでしまった。ろくに親孝行もせず、むしろ泣かせてばかりだったように思う。
だからこそ、今の両親にはめい一杯親孝行をしたい。
……幼少時代は色々と心配をかけただろうこともあるだろうし。


前世の記憶が蘇ったとき、パニックになったのは小さくなっていたというのもあるが、それだけではない。
あったはずのものがなくなっていることもそれに拍車をかけた。
そう、前世の自分は男であったから。
ナニがなくなっていたらそれは慌てるだろう。むしろ泣いた。あの時自分は何を口走っていただろう……。
思い出したくない過去である。黒歴史だ。


落ち着いたように見られた後も、女性になったことが認められず、男の子に交じって遊ぶことが多かった。
女の子の遊びなんて恥ずかしくてとてもじゃないができなかった。
それも両親を心配させる一端だったのだろう。せめて格好だけでも、と可愛らしい洋服を何着も買い与えられた。
それを着て遊ぶことはほとんどなかったし、着ても泥だらけになって帰ってくることが常だったけど。
今思うと申し訳ない。


小学生の高学年まで、自分は男であるのだと言い聞かせていた。
女の子らしくなんてしてやるものか、と。


だが、ある二つのことを転機に、少なからず思いなおすことになる。
――初潮と、初めての告白、である。


ある日学校から帰り、家でのんびりしているときである。
体がだるい。熱があるのだろうか、と思い用を足し早めに寝ようと考えた。
用を足しにトイレにいって……


泣いた。今生二度目のパニックだった。親にすがりついて泣いて助けを求めた。
あれは体験してみないと分からない。女のほうが血に強いわけを身にしみて分からされた。
今まで手のかからなかった子が頼ってくれたのが嬉しかったのだろう、母は満面の笑みを浮かべ、世話をしてくれた。
お赤飯も炊かれた。自分の顔も真っ赤だった。


自分は、親からすれば気味の悪いことこの上なかったであろう。
子供らしくもない言動や行動をとる幼児。子供らしく見せようと演技しようとはしていたが、うまくいっていたとは思えない。
そうであろうに、変わらずに――むしろ今まで以上に愛をそそいで育ててくれた両親には感謝してもしきれない。
落ち着いた今では、本当にそう思う。
……むしろ溺愛されすぎて頭を痛めることもあったりするが。


そのできごとは前世の男性像にすがっていた今までの俺をたたき壊した。
己は女である、とより現実的に示されたのだ。認めざるを得なかった。


それと同時期に、同級生の男子から告白された。
断りはしたが、それは男から自分が女として見られている、ということを知らしめるには十分なできごとであった。
母親に相談すると、ようやく自覚を持ってくれたと喜び、女の子としての振る舞いを手とり足とり教え込まれた。
もちろん満面の笑みだった。


その二つのできごとは、自分を女であると知らしめるだけでなくどこか夢のように感じていたこの世界を自分にとって現実であると知らしめる、という結果ももたらした。
今まで見えなかった両親の愛に気づくようになり、中学からはいいところを見せようと運動、勉強にうちこみ、いわゆる優等生を演じるようになった。
両親も結果を出すたびに褒めてくれ、それが自分にとっても嬉しかった。
一人称も妥協案として使っていた『僕』から『私』を使うようにし、心配をかけぬよう努力した。


――だが、ある一点、両親を不安にさせることがあった。
色恋関係である。


溺愛する娘に妙な虫がつくのは許せないが、浮いた話の一つもない、というのは心配させるに十分なことであったようだ。
女らしく振舞うようになってから、目に見えて美しくなっていく娘である。
誰これから告白された、という話はすることはあるが、好きな子はいるのか、という話は出てこない。

中学三年間、まったくないとなれば、尚更であった。


ちなみに中学に入るころにはもう女の子に対しそういった感情は持てなくなっていた。
ふとしたしぐさなどにドキッとさせられることはあれど、恋愛感情を持つには至らない。


だからといって、男に対してそういう感情を持つのも、前世が前世なのでいまだ難しそうだった。
中学では、男嫌いであると噂されていたようだ。


そうやって色恋沙汰では両親をやきもきさせつつも、成績優秀、文武両道を通し、中学卒業に至った。


その際卒業式の後にあった告白など、頭からすっかり抜け落ちていたのだ。
いつものことだ、と。


小さなことと捨て置かず、ちゃんとその時に抱いた疑問について考えておくべきだったのだ。
すでにこの世界が自分にとって現実であると認識しているからこそ、気付かなかったのかもしれない。


そして高校二年生になっての入学式。
物語は、動き出す。



「新入生総代――日下部裕樹」


「――はい」



新入生代表が呼ばれる。
在校生の席から、壇上に上がった生徒の顔を見る。


――目があった?


ような気がしたが、気のせいだろう。
顔立ちは幼いながらも、凛々しさの伺える少年から青年に移りゆく様子がその顔立ちからうかがえる。


……ありゃあ、もてるだろうなぁ。
イケメンである。総代になるのだから、頭もいいことになる。
あれで性格もよければ完璧だろう。まるでゲームの主人公のような……


と考えたところで、ふと頭に引っかかった。
何かを思い出しかけている……それが何か分からなくてもどかしい。


そう頭をひねっているうちに挨拶は終わったようだった。
そして、席に戻る道中――


嬉しそうにこちらを見る彼がいたのに、気が付かなかった


放課後、下手箱の中に手紙、という今時ないような手段で呼び出される。
またかと思いつつも、無下にするわけにもいかず、指定された場所まで行くことにした。


満開の、桜の木の下。
中学の卒業式の後のあの場面の、焼き直しのような。


そこにたたずむ男子生徒。
先の入学式で見た――


「日下部裕樹君……だったっけ。何の用かな?」
微笑み、話しかける。
入学式から感じていた違和感が思い出したようにだんだんと強くなっていく。



なんだこれは。俺はこれと同じ場面を――見たことがある?



声を聞いた男子生徒、日下部裕樹は、なぜか少し悲しそうな顔をした後



「久しぶりです、九条先輩。先輩に言われた通り、新入生総代になって、追っかけてきちゃいました」
そう言って彼は笑う。


その言葉に卒業式のあの場面がフラッシュバックした。


「言いましたよね、九条先輩」


そう、言った。言ってしまった。


―― 私の入る高校、県一の進学校だって、知ってるよね? ――


―― 一年後、私のことがまだ好きで、新入生総代になって追いかけてくるような気
概があるなら……考えちゃってもいいかもね ――


そうして彼は実際にやってみせた。


「俺はまだ、あなたのことが好きです。……考えて、くれるんですよね?」


さすがにここまで一途に思われると、照れる。顔が赤くなっているのが分かる。
そしてここまで来て、ようやく感じていた違和感、認めたくなかった事実が頭に思い浮かぶ。



―― 一途に恋を貫くか。それとも新しい出会いを見つけるのか。 そんなキャッチフレーズで発売された恋愛アドベンチャー

『SincereHearts』

この世界は、その舞台。そして――


彼、日下部裕樹は主人公。
自分はそのゲームの、いわゆるメインヒロインだという、事実が







続く?





◆◆◆◆◆◆
さて、プロロ―グでした。
駄文にお付き合いいただきありがとうございます。

へたれTS大好きです。主人公もへたれさせます。

転生してヒロインになったら面白いかも、という意見は聞けど、見たことはない。
なので書いてみたらこうなった。
後悔はしていない。

追記:「小説家になろう」様にも投稿しました。長いこと音信不通で申し訳ありません。書き方が変わってしまっているかもなので、リハビリしつつになり、以前のような速度は出せません。修正が終わり次第、こちらも追記していこうと思います。



[21617] 一途なハーレム主人公のメインヒロインは胃を痛めるもの
Name: alken◆2ac5deeb ID:fccae1ce
Date: 2010/09/01 03:33

『SincereHearts』


一緒に行動する女の子を選んで、選択肢を選び話を進めていくオーソドックスなギャルゲ―である。
中学の時に告白した先輩が忘れられず、先輩の残した気まぐれにすがって追いかける主人公。
先輩のことを一途に思う主人公と、主人公のことを一途に思うヒロイン達がおりなす恋愛劇。


その先輩を攻略するには、他のヒロイン全てのエンディングを見た後、追加される選択肢を選んでいけばいい。
いわゆる真ヒロインってやつだ。裏ヒロインとも言うかな。当然パッケージでは真ん中でないにしろ一番大きく描かれている。
他の子に一切目移りせず、先輩の好感度を上げる選択肢のみを選んでいけば、めでたく先輩のルートに入れる、というわけだ。


そしてその先輩が……九条楓、つまり今の私なのだった



家に帰ると、すぐにベッドに頭からダイブした。



「――なんて頭の痛い事態に……」



枕を抱きかかえ顔を押し付ける。
ベッドに脇には大きなキリンのぬいぐるみ。
まごうことなき女の子の部屋がそこにはあった。



九条楓……ゲームの中では物語の中核を務めるヒロインである。
小柄で、胸は控えめ。黒くて長い髪を後ろで二つに分けて結び、星を象った髪飾りでとめている。
間違いなく私だった。髪飾りは親からの誕生日プレゼントだ。
子供のくせに何もほしがらない私に苦心して選んでくれた、宝物だ。ぬいぐるみもしかりである。


改めて、整理してみる。
ゲームの中の『九条楓』は、ルートによってかなり違う顔を見せるヒロインである。


主人公に惹かれながらも、主人公が他のヒロインにも惹かれていることに気づき身を引くルート
思い切り手ひどく利用して振って、主人公を傷心させるルート
最初から最後まで友達というスタンスを崩さないルート
ヒロインと恋の鞘当てをして、主人公を奪い合うルート


ユーザーからは賛否両論あるヒロインであった。
他のルートにおける『九条楓』は、お邪魔キャラでしかないからだ。
その分、メインとなるシナリオでは、ファンをしっかりと得ていたりする。


主人公が最後まで一途でないと、振り向かせることは不可能というギャルゲ―にしては難儀なヒロインである。


どこまでこのゲームの設定がこの世界と同じなのかは調べてみないと分からない。
だけどおそらく、ツンデレだが世話焼きな幼馴染や、主人公の義妹、三年生のミステリアスな先輩、同級生の快活な女の子といった他のヒロインは存在するのだろう。


その女の子達は、須らく主人公に対し一途な思いを抱いている。
それゆえに『九条楓』に対し、あからさまなライバル心をむけることももちろんあるのだ。


つまりゲームの通りなら複数の女の子たちからの嫉妬の嵐を受けることになるわけで……


「……胃薬、用意しとこうかな」


――うん、必要になるだろう。












「先輩、おはようございます!」



後輩が通学路で待ち伏せしてました。


「お……おはよう、日下部君」

おもわず顔が引きつるが、仕方がないだろう。主人公の後ろに、修羅が見える。
……怖ぇえええ!!?


あ、あれがもう一人のメインヒロインである幼馴染の……


「……裕樹、その人が、いつもいつも耳がタコになるほど聞かされた、『先輩』?」


森永若菜、その人であった。メガコワイデス。
森永さんのその様子に気づかない日下部君。さすが主人公、鈍感だね。


「ああ、その先輩だよ。――先輩、絶対に振り向かせてみせますからね」


森永さんにいかにも嬉しそうに返した後に、こちらに挑戦的な笑みを浮かべる日下部君。
思わずどぎまぎしてしまうが、森永さんの膨れ上がる黒いオーラに物おじして、ひきつった笑みしか返せない。


昨日はあの後、一方的に宣言した日下部君は
『先輩は考えてくれるって言っただけで、これで彼氏になれるなんて自惚れてはいません。あくまでスタートラインに立てただけです。――先輩、絶対に振り向かせてみせますから』


笑顔とともにそう言い残し、帰っていった。
流石は主人公、中学のときはぱっとしないと思っていたあの男子生徒が、これである。
男子三日会わざれば……とはいうけれど、とんでもないものである。
あの私が男にドキッとさせられるとか。


大きなプレッシャーを受けながらも軽く雑談をしながらの登校。
道すがら森永さんが私に近づいて……



「……絶対、負けませんからね」


……すごい目つきで仰りました。
……さっそく胃薬のお世話になりそうだと思いつつ、ため息をこっそり吐いたのだった







◆◆◆◆◆
皆さん原作について書かれておられましたが、この作品は架空のギャルゲ―の世界におけるお話です。


主人公ならまぁいいのかなとは思いつつも、他のヒロインが恐ろしいので主人公(楓)からは積極的に動くことはありません。

日下部君がいかに一途な想いを貫けるかが鍵となってます。

主人公の希望としては最後まで友人ルートがよいようですが……



[21617] 癒しのはずのクラスメイトに弄られるのもメインヒロインの役目
Name: alken◆2ac5deeb ID:fccae1ce
Date: 2010/09/06 21:16
「ぅ~…」


クラスにつくや私は机につっぷした。
アレが毎日続くようなのは勘弁してほしいところだけど……


「どしたのいいんちょ、お疲れみたいだけど~?」


憔悴しだれている私に近づいてくる二人の生徒。
髪を耳でそろえた長身のショートカットの女子生徒、腰まで伸ばした金髪を三つ編みにして瓶底眼鏡をかけた女子。
クラスの中でも特に仲のいい二人である。
私は彼女達をジト目で睨みつけた。


「思い切り顔をニヤ付かせながら聞かれてもね……。分かってて聞いてるでしょ」


あ、分かっちゃう?などと悪びれた様子もなく笑うショートカットの方の女の子。
伊藤善美。
バレー部らしい長身に、引き締まったスタイル、それでいて出るところは出ている。
私はどちらかというと子供体系なので、彼女のスタイルには憧れる。


女性として過ごして15年と少し。男としての見方はいつの間にかできなくなっており、今では大きな胸を見ても羨ましいとしか感じない。
努力として牛乳も飲んではいるのだが、全く成長する兆しもないのは今は世界の修正力というもののせいだと信じたい。
もしそうだとしてもそれはそれとして空しい物があるのだけれど。


「あれ、入学式で総代やってた子だよね?詳しい話聞きたいな」


金髪で三つ編み、そして瓶底眼鏡。なんともアンバランスな容姿の女の子。
久瀬岬。
アメリカ人とのハーフらしく、その証である金髪はよく見れば綺麗に手入れされており、ちゃんとした格好をすれば見違えるほど綺麗なのを私と善美は知っている。
もったいないとは思うが、これが彼女の学校でのスタイルなのだとか。文芸部だから、とは彼女の弁。よくわからない理屈だ。
おまけに実は着やせ体系で、普通に見えるあの体には善美のものすら超えるたわわなものがついている。

二人と比較されるように子供体系が強調される私の身にもなって欲しい。少しくらい分けろ。


「……笑わないでよ?」


普段何かとお世話になっている親友である二人に隠し事はしないと決めている。
私はクラスメイトに聞かれないように二人を近づけ小声で経緯を話す。


笑われた。思い切り周囲をはばかることなく笑われた。
岬でさえ、何かをこらえるようにしている。

先ほどまでよりも強く睨みつけ、善美の足を踏みつける。
悪びれた様子もなく謝ってくるが、全く誠意が感じられない。これでも私の親友なのだろうか。

「でもさぁ……、それだけ聞くと」

「ねえ?」

なにさ?と言いたげな私に二人して指を突き付け

「「自業自得」」


全く持ってその通りなのでぐうの音も出ない私は軽くのけ反り机に頭をぶつけ再び突っ伏した。
でもそんなはっきり言わなくてもいいじゃない、とは思ってはならないのだろうか。
笑うな。それくらい分かってるんだよちくしょう。


「……で、二人はどうして朝の出来事を知ってるの」


話題をそらそうと、疑問に思っていたことを聞いてみる。
愛されてるねーなどと私の肩を叩いていた善美が言うには


「わが校のアイドルと今話題の新入生総代君が一緒に登校してればそりゃあ噂にもなるよ」


「かっこいいもんね、彼」


あの容姿で、総代まで務めたのだ。確かに話題にはなるだろう。
総代になったのが私のため、というのを考えると恥ずかしいけれど。


「……アイドル?」


誰が?という意思を込めて聞いてみる。
あんたが、と指をさす二人。
なんだそれは。さすがに何度も告白されていれば私がもてるというのは分かるが、校内中に渡るほどの人気者になるほど……では……


「――今ので思い出したんだけど、風の噂で私のファンクラブなんてのがあるって聞いたんだよね」


そういえば、私こと『九条楓』はゲームの中でそんなものを作られていた覚えがあった。
だがここは私にとって現実なのだ。こんなとこまで同じじゃあないだろう、という思いを持って聞いてみる。



答えがない。教室がいつの間にか静まり返っている。気付かなかったがこちらに聞き耳を立てていたのだろうか。
……ナニコノハンノウ。


「ま、まさかだよねー?」


顔が引きつっているのが分かる。真実であってほしくない。
ゲーム内ではどこで撮ったのか私の着替え写真なんてものもあった。
一縷の望みをかけてもう一度聞く。


「う、うん!そんなものあるわけないじゃない!」

「や、やだなぁいいんちょ、そんな漫画みたいなのがあるわけないって!」

「だ、だよねー!」


アハハハハハ、と乾いた笑い声をあげる私達。
ちなみに善美が私のことをいいんちょと呼ぶのはからかう時かごまかす時と相場が決まっているのだが、気にしない。
うん、そんなものはないんだ。

私は涙目で三度机に突っ伏すと、考えるのをやめた。





◆◆◆◆◆
今回も少し短いかな。
感想の伸びとPV数にびっくりしました。
こんな作品に期待してくれるというので頑張って続けたいと思います。
次は更新遅れるかもしれません。



[21617] 生徒会と懇意にしているのもメインヒロイン
Name: alken◆2ac5deeb ID:fccae1ce
Date: 2010/09/04 17:29
放課後、グラウンドからの喧騒が聞こえる廊下を歩く。
今週は部活勧誘週間ということもあり、運動部が新入生の勧誘に精を出しているようだ。


自身も部活に所属する身ではあるが、既に7人の新入生を確保できたこともあり、勧誘には熱を上げていない。
部活動が再開されるのは来週からであるし、私は暇を持て余していた。
友人たちと話すのもいいが、この暇を使って改めて今の状況を整理したくなったのだ。


薄暗い階段を上り、大きな鉄製の扉に手をかける。
錆びついた軋むような音を立て、屋上への扉は開かれた。


「……あら?」


夕焼けをバックに、彼女は立っていた。
風で波打つ髪を手で押さえ、グラウンドで走り回り声を上げる生徒たちを優しげな瞳で眺めている。
扉が開く音に気付いたのかこちらを振り向いた彼女は一瞬目を見開き、そしてまた微笑んだ。


「九条楓さん、だったかしら?こんなところに何か御用?」


現生徒会長、そしてヒロインの一人である、藤堂氷雨その人がそこにいた。
私は見惚れていたことに気づくと軽く頭を振り、苦笑しつつ答える。


「いえ、ちょっと涼みにきただけなんですけどね」


一人で考えをまとめたかったのだが、先客がいるならば仕方がない。
このまま校舎の中に戻るのも気が乗らないし、会長の隣にいき、フェンスに体をもたれかける。


「会長こそ、なんでこんなところに?副会長、探してましたよ」


委員長という役柄や優等生を演じていることもあって、教師からの信頼はそれなりに厚かったりする。
そのため様々な仕事を与えられ(押しつけられともいう)、その中には生徒会の手伝いなども含まれていたりした。
そういう関係もあって、生徒会の役員には、私は顔を知られていたりするのだ。
その中でも私は副会長である穂摘奏と特に親交を深めている。
仲良くなるまでには色々あったのだが、よく愚痴を聞かせ合う仲となっていた。


「だってうるさいんですもの。仕事しろーって」


「いや、それは副会長のほうが正しいでしょう。愚痴を聞く身にもなってくださいよ」


くすくすと笑う会長に、わざとらしく顔をしかめながら、答える。
「聞こえませーん」などと耳を塞ぎながら笑う姿は、とてもこの学校の生徒会長には見えない。
これを見ると本当に仕事をしていないように見えてしまうが、実際は違う。
必要なところをおろそかにする様な人ではない。
残っているという仕事も、今はそれほど重要な仕事ではないのだろう。


「奏は真面目すぎるの。あの子はストレスをため込みやすいから、愚痴でもなんでも聞いてやって頂戴な」


ストレスの要因の一人が何をとも思うが、副会長が会長の愚痴をこぼす時は、気付いてないようだがどこか楽しそうなのだ。
それほど不満に思っているわけではなく、親友としてしっかりして欲しい、というところなのだろうか。
「氷雨は、何物にも縛られない」
いつだったか副会長がこぼしていた言葉だ。前に立ち、自由に振舞いつつも後ろの物を惹きつけ引っ張っていく。
なるほど、リーダーとしての魅力はあるようだ。


「副会長が真面目すぎる、というのには同意します。会長もそのストレス軽減に尽力してほしいものですが」


「善処するわ」と笑う。ヒロインの一人だからと一瞬身構えてしまったが、なんてことはない。
やはり彼女も現実にいる普通の女の子なのだと、感じられた。
あまり悩む必要はないのかもしれない。私も、確かにこの現実に生きているのだから。


「一度あなたとはゆっくり話したかったのよね。奏ったらあなたのことばかり話すのよ?」


「私というものがありながら」などとわざとらしく唇を尖らせ、指を突き付ける。
その様子には苦笑するしかない。


「大丈夫です。副会長も会長のことばっかり話しますから。相思相愛ですね」


「当然よ。私と奏は親友ですもの」


その割には苦労させているようであるが、これが彼女らの関係なのだろう。





「奏を待たすのも悪いし、そろそろ私は行くわね」


「早く行ってやってください。きっと待ちわびてますよ」


そうするわ、と彼女は扉に向かい、手をかけると、ふと思い出したように振り返った。
――何故か、肌が粟立つように感じた。


「――そういえば、新入生総代君に、求愛されているんですってね。噂になってるわよ?」


「う、噂になってるんですか……。あまり目立ちたくはないんですが」


それこそ今更じゃない、とくすくす笑う。先ほど感じた違和感は気のせいだったのだろうか。


「彼の何が不満なのかは知らないけれど……うかうかしてると、鳶にかっさらわれていかれちゃうわよ?」


そう、今までとは質の違う笑みを向けられ、ひきつった笑みを浮かべるしかできなかった。
覚えておきます、と返すと、彼女は扉の間から手を振りながら、階下へと降りて行った。


……今のは、遠回しな宣戦布告なのだろうか。
森永さんと違い表向きは友好的なのを今はよしと考え、ため息を付くと自身も階段を下りていくのだった。



◆◆◆◆◆
生徒会長との一幕でした。
番外編、賛否両論ですね。
私も読み返してみて、違和感を感じたので、一度削除しようと思います。
外伝や番外編は一度完結した後か、よく構想を練り直したのち、投稿することにします。
読んでくださった方々には申し訳ありませんが、本編を優先させたいと思います。



[21617] お約束は付き物なのもメインヒロイン
Name: alken◆2ac5deeb ID:fccae1ce
Date: 2010/09/06 03:49
あの再度の告白から一週間。特に変わったこともなく、拍子抜けするくらいであった。
ヒロインの面々との顔合わせがいくつかあったくらいか。
二人ともしっかり宣戦布告してくるんだもんな……油断はできない。
しかし、今はそんなことは忘れて走る。

そう、今日から部活が再開するのだ。




実はこの部活も私がゲームの世界だと気付かなかった原因でもある。
ゲームにおいて九条楓は各部活に助っ人として駆り出されるだけでどの部活にも属してはいなかった。
だが私はある部活に所属している。二度目の人生、大いに楽しまなきゃ損じゃないか。
前世ではそれほど運動神経がよくなかったが、この体のスペックは高い。
それなら、と運動部に所属してみることにした。


マイナーなスポーツであるのだが、目まぐるしく動く様は飽きさせることはない。
一目見て、心奪われた。自分もやってみたい、と思った。
そして、これがなかなかに、楽しかったのだ。
体を動かすのが楽しい、チームメイトと駄弁るのが楽しい、上手くなるのが嬉しい。
改めて前世では損をしていたんだな、と感じた。


だから部活が始まる今日をどれだけ楽しみしていたか。
ストレスの発散もかねて、思い切り体を動かそう。



私は、らしくもなく浮かれていた。
だからだろう、周りが見えていなかったのだ。
いつもなら、こんな失敗はしないはずなのに。


走る。あの角を曲がれば皆の待っているグラウンドにつく。
足を速め、そのまま飛び出し――



「――え?」



それは、どちらがあげた声であっただろう。
体は急には止まれない。呆けたような間抜けづらが見えた時には、既に時遅く……


そのままの勢いで、その影に全力でタックルをしかけることになった。




「…………」


「…………」



……ち、沈黙が痛いっ!
どうしてこんな状況になっているというのか。お約束というのは絶対だというのか。
どうして私からぶつかって私のほうが下になってるのかとか色々あるがとにかくなんというか。
私はどうしようもなく、パ二くっていた。


主人公on私、胸の上には大きな手
胸の上には手。胸の上。
こ、このラッキースケベがっ!
顔が赤い。声がうまくでない。これ、蹴っていいんだよね?
いいよね?文句言われないよね、この状況。


「ひぅっ!?」


も、もんだ……!?もまれただと……!?
もまれるほどないとか聞こえたきがしたが気のせいだ。
涙目になってくるのがわかる。わなわなと体が震える。


「け……」


「……け?」


「……結構なお手前で?」


決めた。殴る。
この女の敵め。自分自身がやられて改めてよく分かった。
お約束は主人公だからいい思いをするのであって女の子は恥ずかしいだけだ。


「く、日下部君……?さすがに私でも……」


「いい加減どきなさいこの馬鹿ぁ!!」


「ぷげらっ!?」


……怒りをぶつけようとした対象が、横合いからのミサイルのようなドロップキックに吹っ飛ばされていく。
あっけにとられながら飛んでいく日下部君を見送る。
あ、顔から落ちた。なんとも痛そうだが自業自得だ。主人公補正で体だって丈夫なのだろう。そういうことにしておく。


「大丈夫ですか!あの馬鹿がすみませ……」


「……あ」


助けてくれた男前は日下部裕樹の幼馴染、森永若菜その人だった。






「……立てますか?」


改めて気を取り直したのか、こちらに手を伸ばしてくる若菜さん。
呆けたまま頷き、手をとり立ち上がる。
軽く礼を言い、あたりを見回す。……あった。
袋から取り出し、折れていたりしないかを確認し、ほっと息をつく。
めったなことでは壊れないが、気をつけるにこしたことはないだろう。


視線を戻すと、若菜さんと目が合う。
ちらちらとこちらの持っている物に視線が向いている。
これが何か気になるのだろう。


「改めて助けてくれてありがとうね、若菜さん」


「い、いえ……当然ですよ、そんなの」


「私の不注意でぶつかったのだから、本当はこっちのほうが悪いんだけどね」


「……でもあいつ、胸もんでました」


「……思い出させないで」


すみません、と頭を下げる若菜さん。
……うーん、日下部君が絡まなければいい子なんだけどなぁ。


「あ、先輩急いでたんじゃないんですか?」


「うん、部活にいく途中だったんだけどね、久しぶりだから浮かれちゃってたみたい」


照れながらほほをかく。先ほどのはぶつかるまでは私のほうが悪いのだ。


「部活、ですか?」


若菜さんの視線が私の手に持つ物に向く。
ああ、気になってたものね。


「そ、女子ラクロス部。面白いよ?」


スティックを取り出しながら見せる。
そう、私がやっているのはラクロスである。
地上最速のスポーツなんて呼ばれていたりもするそのスポーツはしかし残念ながらマイナーである。
知らない人は空中もあるホッケーみたいなものと思ってくれればよい。


「ラクロス……えっと、今部活見学して回ってるんですけど、ついていってもいいでしょうか?」


ふむ、部活見学中だったのか。
私の所属している部活だ。興味を持ってくれるのは嬉しい。


「うん、それならついてくるといいよ。……日下部君も、復活したみたいだし」


飛ばされた日下部君が立ち上がり、よろめきながらもこちらに歩いてくるのが見えていた。
二人で回っていたのだろうし、大人しくしてもらえれば問題ないだろう。
見れば若菜さんも苦笑しつつも頷き、日下部君を迎えに行った。
少しは打ち解けられた……のかな?


そうして私は、ひたすら謝り続ける日下部君と、若菜さんと共に部活へと向かうのであった。



◆◆◆◆◆
お約束の時間です。
ぶつかるパターンとしてはパンちら、顔の上にお尻が、などありますが覆いかぶさって胸もみというパターンをとりました。
こういうラッキースケベはギャルゲのお約束ですよね。

友人に見られたのですが、この感想数とPVならさっさと本坂行け、と言われました。

……実際どの程度で移るべきなのでしょう


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