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[21907] 神木・蟠桃の木の精霊(ネギま本編完結・超鈴音)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2012/03/15 18:40
神木・蟠桃の木の精霊(ネギま本編完結・超鈴音)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『神木・蟠桃の木の精霊』(しんぼく・ばんとうのきのせいれい)は、週刊少年マガジン・2003年13号(同年2月26日発売)より連載を開始した『魔法先生ネギま!』、日本の漫画作品の、フライング再構成型二次創作。投稿開始時期はチラシの裏2010年9月14日、赤松健板移動2010年10月21日、本編オリジナル完結は2011年1月21日。尚別スレッド、神木・蟠桃の木の精霊(本編アフター・超鈴音)で続編を投稿中。

注:2011年4月9日以降、新規にお読み頂ける読者様は「後書き」以降に追投稿した自然発生版に目を通される事を推奨致します。尚、あくまでも推奨です。

目次[表示]
1 作品概要
   1.1 基本設定
     1.1.1 転生版
     1.1.2 自然発生版
   1.2 物語
     1.2.1 火星テラフォーミング編
     1.2.2 魔法世界編
     1.2.3 本編完結編
     1.2.4 魔法・魔法世界公表世界編
     1.3 沿革
2 作品内局所設定
  2.1 魔法世界編
  2.2 本編完結編、魔法・魔法世界公表世界編
3 解説
  3.1 作風
  3.2 本作の特徴と注意
  3.3 転生版と自然発生版の相違点
    3.3.1 転生版
    3.3.2 自然発生版
4 脚注
5 参考文献

作品概要[編集]
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
基本設定[編集]
本作は、紀元前3000年の地球からスタートし、西暦2000年代の地球と魔法世界を本格的舞台とする。神木・蟠桃が生み出すエネルギーを元にして様々な生物は魔法を行使していたが、魔法世界に元々存在していたそのエネルギーが枯渇し始めた為、その事を知る者、知らない者達の動きが徐々に物語中で加速していく。

転生版[編集]
1神木・蟠桃の木の精霊=転生者。
2機動戦士ガンダム00要素・設定を擦り合わせる形での神木及びネギ・スプリングフィールドの魔改造要素有り。クロスでは無い。
3原作学園祭編で中心人物となる超鈴音が未来に帰ると死亡する(本作ではその阻止という形で進行)。
4地球(旧世界)で魔法行使可能とする為の「魔力」を麻帆良学園都市に存在する神木・蟠桃が生成している。テイルズオブファンタジア、テイルズオブシンフォニアの世界樹ユグドラシルの要素・設定を擦り合わせ。クロスではない。
5魔力と魔分という概念が異なる。
6魔法世界≠人造異界。
7近衛近右衛門は近衛近衛門で表記統一。

自然発生版[編集]
1神木・蟠桃の木の精霊=自然発生者。
2機動戦士ガンダム00要素・設定を擦り合わせる形での神木及びネギ・スプリングフィールドの魔改造要素有り。クロスでは無い。
3原作学園祭編で中心人物となる超鈴音が未来に帰ると死亡する(本作ではその阻止という形で進行)。
4地球(旧世界)で魔法行使可能とする為の「魔力」を麻帆良学園都市に存在する神木・蟠桃が生成している。テイルズオブファンタジア、テイルズオブシンフォニアの世界樹ユグドラシルの要素・設定を擦り合わせ。クロスではない。
5魔力の源を何らかの多様変異性素粒子と捉え、作中では魔分と略して呼称する。
6魔法世界≠人造異界。
7近衛近右衛門は近衛近衛門で表記統一。

物語 [編集]
火星テラフォーミング編 [編集]
神木の精霊は魔法世界の崩壊を回避する為に火星と異界である魔法世界の位相を同調させる事にし、火星のテラフォーミングを超鈴音他数名と共に秘密裏に計画を進めていく。その傍らでネギ・スプリングフィールドを中心に、彼らの強化も行われていく。

魔法世界編 [編集]
神木の精霊の存在によって影響を受けた環境の中で生活をしたネギ・スプリングフィールドは大切な仲間達と共に魔法世界へと旅立ち、魔法世界を舞台とした物語が展開される。

本編完結編 [編集]
火星テラフォーミング編と魔法世界編の物語が収束し、登場人物達の動きを経て『魔法先生ネギま!』として一応のオリジナル完結に至る。

魔法・魔法世界公表世界編 [編集]
魔法世界が火星と同調し、世界は新たな変革の時を迎える。詳細は別スレッド、神木・蟠桃の木の精霊(ネギま本編アフター・超鈴音)を参照。

沿革 [編集]
本作は「気のせい」による通算一作目、いわゆる処女作に当たり、転生版本編完結まで130日間を要した。その後、勝手な妄想の元に本編アフターの投稿が続く。ある時感想掲示板で指摘を受け、転生版を自然発生版へと修正を加える作業を敢行、その過程でのモチベーション維持及び本スレッドに追投稿した際の暫定的諸事情回避の為に小説投稿サイト「小説家になろう」で突発的にユーザー登録、「小説家になろう」内「にじファン」において修正毎に投稿を行った。修正完了の結果、本スレッドでも追投稿を行ったが、スレッド分割の提案を受け、個人的事情も相まって神木・蟠桃の木の精霊(ネギま本編完結・超鈴音)と神木・蟠桃の木の精霊(ネギま本編アフター・超鈴音)にスレッド分割に至る。
(尚、「にじファン」様における魔法先生ネギま!の投稿禁止の措置に伴い「にじファン」様においては削除致しました)

作品内局所設定 [編集]
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
魔法世界編 [編集]
1原作で度々出ている地図の上が北、下が南。
2一般旅客輸送飛空艇の平均時速は60km強、1日の総飛行距離を1500km。
3ネギ・スプリングフィールドの箒での最高時速=100km、徒歩での平地移動時速=12-18km。
4メガロメセンブリアを基準に時差を左に行くほどマイナス、右に行くほどプラス時間。尚、日付変更線はアリアドネーとフォエニクス(メガロメセンブリアのある大陸の東端)間の海。
5貨幣価値。
矛盾が多いですが以下のように設定。
1ドラクマ=16アス。1アス=10円。1アスの日本での感覚での貨幣価値は100円程。
ナギ・スプリングフィールド杯賞金100万ドラクマは日本人の感覚で16億、正しくは1億6000万(原作で3人奴隷労働6年分で返せるという発言は後に水商売含むか、トサカの適当な見積もりであると想定)。1アスが最小通貨で基本的にインフレ気味と想定。

参考:凡その魔法世界都市位置関係
  12時        14時       16時     17時                     1時            3時   4時     6時
                   ヘラス                            アルギュレー大平原
                                                             ボスポラス                  

 アリアドネー                      ノアキス  ニャンドマ  ヴァルカン   

                                                 エオス                           フォエニクス
シレニウム                                              メガロメセンブリア       ノクティス・ラビリントゥス
                                              トリスタン
         ゼフィーリア                     オスティア
                                               オレステス
                                                         クリュタエムネストラ

           ケルベラス
       グラニクス           モエル  エルファンハフト


                                                                             タンタルス
                         アンティゴネー                                  テンペ
ブロントポリス                           アル・ジャミーラ



           ケフィッスス             桃源

        セブレイニア      盧遮那     龍山山脈

本編完結編、魔法・魔法世界公表世界編[編集]
1南北が逆転(ヘラス帝国、アリアドネー、メガロメセンブリア、北に集中していた大陸が全て南半球)。
2自転周期が24時間から24.6229時間へ増加。
3公転周期が365日から686.98日に増加(火星での日数換算にして669.601日)。
4火星の暦を地球での2003年9月1日時点で同じく2003年9月1日に同期(公転方向は同じ為、季節にズレが出ないように)。

  地球、日本時間2003年9月1日3時43分=火星、オスティア時間2003年9月1日0時0分

5火星の一ヶ月を56日間に変更。

2003年
  9月~12月まで全て56日間

2004年
  1月=56日 2月=56日 3月=56日 4月=56日 5月=56日 6月=55日
  7月=56日 8月=56日 9月=56日 10月=56日 11月=56日 12月=55日

2005年
  1月=56日 2月=56日 3月=56日 4月=56日 5月=56日 6月=55日
  7月=55日 8月=56日 9月=56日 10月=56日 11月=56日 12月=55日

……以後、年間670日と669日を交互に繰り返す。

参考:本編完結編以降の凡その火星(魔法世界)都市位置関係
                          21時               0時                                   9時
                                          龍山山脈     盧遮那      セブレイニア

                                             桃源             ケフィッスス



                                       アル・ジャミーラ                             ブロントポリス
                テンペ                            アンティゴネー
 タンタルス

                                                              ケルベラス
                                             エルファンハフト  モエル           グラニクス

                    クリュタエムネストラ
                                オレステス
                                         オスティア                     ゼフィーリア
                                  トリスタン
  ノクティス・ラビリントゥス       メガロメセンブリア                                              シレニウム
フォエニクス                          エオス

                                    ヴァルカン  ニャンドマ ノアキス                     アリアドネー

                    ボスポラス
                   アルギュレー大平原                             ヘラス

解説[編集]
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作風[編集]
投稿開始当初は余り時間を掛けたく無かった為、適当に短編で済ますつもりであったが、話を書いていくに従い、一応の終わりは見えているものの次第に長文化、更に思いの外執筆に嵌り現実生活を非優先、結果、どういう訳か全体的に状況解説などが多い淡々とした雰囲気になった。ただでさえ、淡々としているにも関わらず随所に「仕様も無いネタ」「仕様も無いメタ発言」をばら撒き、その「程度」の結果、感想掲示板では読者様達が非常に有り難い事に空気を読んで下さっているのか、はたまた、それらに突っ込みを入れようとする気力を完全に削り取ったのかは不明だが、それらに対する言及は殆ど無く、一言で言えば「淡々としすぎて何とも言えない」ようだ[1]。この点については自然発生版では修正を行った為ある程度の改善を果たした。原作が萌え路線とバトルなどの燃え展開であるのに対し、それを一切無視するかの如く終始淡々とし、前述の要素が相当程度希薄化、敢えて良く言うなら「あっさり」した作風になった。但し、ネギ・スプリングフィールド界隈においてはその限りではない。他に、機動戦士ガンダム00を1期2期劇場版と録画映像を何度も見た結果、ガンダムの機体というよりも太陽炉とGN粒子の輝きに心奪われ無理矢理本作にその要素を入れてしまう始末。技名に関しても会話文で叫ばせるのが個人的に微妙、更には厨二病を慢性的に発病している為、テイルズシリーズにおける画面上部に技名が表記されるのを意識し「―○○○―」と囲う事になった。その割には戦闘描写はやはり、何とも言えない。加えてジャンルで分類するならば、超鈴音の超科学が必須という点でSFに相当するかもしれない。

本作の特徴と注意[編集]
1火星テラフォーミング編が約50万字、魔法世界編+本編完結編が約50万字、計約100万字。お読み頂くのにそれなりの時間を要しますのでお気を付け下さい。
2原作に限らずその他諸々全般に渡りWikipedia等を参考にしています。
3一部人名・地名等に実名を使用していますが、作中の出来事・人物達とは何の関係もありません。
4原作で魔法世界編が終っていないにも関わらず、オリジナル展開で完結させましたが、単行本派の方にネタバレになっているシーンが幾つか存在しますので、ご注意下さい。
5初出人物の容姿の描写などを含め、本来なら一応は描写すべき点を大幅にカットしている事が多々あり、原作を読んでいらっしゃらない場合イメージが上手く出来ない可能性がありますので、ご注意下さい。
6話の展開にご都合が含まれています。
7感想掲示板で疑問点(明確でも曖昧でも、予想などでも)等について書き込みを頂いた場合、ネタバレでも気にせず普通に回答していますので、もし遡る場合にはご注意下さい。往々にして気にして頂いた事について一切考えてなかったという場合もあります。
8文字サイズは大以下を推奨致します。

転生版と自然発生版の相違点[編集]
両方共、神木の精霊による状況解説部において内容に違いは殆ど無い(転生版に修正を一部掛けた程度に過ぎないという関係もある)。

転生版[編集]
何者かの力によって(主に作者の都合で)魔改造神木と神木の精霊が転生発生。機械的印象が強い。メタ発言、仕様も無いネタ有り。修正前でもある為、一気に読むと矛盾点が見受けられる。転生に際して全部の知識を入れられているというよりはほぼ原作から読み取れそうな情報しか保持していない為、例えばアルビレオ・イマとのやりとりが不自然。設定に不備がある。転生シーンを経ている為、原作キャラクターに対する神木の精霊の説明が心苦しい部分がある。神木の精霊は最初から超鈴音が好きであり、人間が好き。神木の精霊はどう見ても超鈴音に尻に敷かれている。それでも既存の読者様にはお読み頂いており、本当にありがとうございます。

自然発生版[編集]
どういう訳かは分からないが、時空連続体の歪みか何かで神木の精霊が魔改造神木と共にどうにかこうにか自然発生。植物的印象が強く、機動戦士ガンダム00の「らしい」要素を素で備えている。ベースの性格は転生版と大体同じだが「メタ発言」「ふさげた発言とそれに付随する他の登場人物達との会話」「地の文での極めて個人的一般人的感想」が無くかなり淡白。横文字に慣れておらず度々「いわゆる」「超鈴音風に言うと」などと発言する。修正後である為、矛盾点と設定不備が改善している。純正の精霊であり、原作に限定しない事まで当然の事として把握している部分がある為、その関係でアルビレオ・イマと狸度合いが被る。同じく純正の精霊である関係で、原作キャラクターに対する説明に心苦しさが無い。それぞれの人間を打算的に捉えている。超鈴音でさえも好きというよりは「好きにして欲しい」という傾向が強い。超鈴音の方が寧ろ積極的に話かけてくるようにすらなっている風であり転生版に比較するとその力関係は拮抗気味。結果としては、転生版に比較するとより自然、より淡白になっている。

脚注[編集]
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
1.arcadiaを語るスレ39⇔より。「展開が淡々としすぎて何ともいえんわ」恥ずかしながら本作のタイトル検索をした所、この一文で全てを表現していると思いました。

参考文献[編集]
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・機動戦士ガンダム00- Wikipedia -
・魔法先生ネギま! - Wikipedia -

……以上、転生版と自然発生版2つについてそれぞれ解説するに当たり、上手く自力で書くのに迷った結果、Wikipedia風仕様の前書きと相成りました。



[21907] 1話 超鈴音が来るまでの5000年(転生版)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/11 09:02
気が付くと先があるのかないのかわからない白い空間にいた。
……死んだ、ということなのだろうか。
とはいっても、なんというか……知識はあっても記憶が無く今こうして自覚している人格はあるが自分が何者なのかも不明なので生死はあまり問題ではないかもしれないが。
……既にこんな発想をしている時点でどうも元々こういう性格をしていた……ような気がする。

《ようこそ、我が空間へ》

と……突然声が聞こえた。
こんな何もない空間で永遠に居たらさぞ飽きる事だと思っていたが、呼ばれていたらしい。
とにかく挨拶をしておこう。

「お邪魔しています」

《ごきげんよう。……前世の生きた経験が喪失している……か。しかし、得た知識は残っている、人格にも大きな変化がある訳ではないようだ》

「ご存知とあれば話す手間が省けました。して、ここにいる理由について尋ねたいのですが」

《結論からいうと、魔力等というものが存在する世界に跳んで、方法は任せるがその世界のある修正をしてもらいたい》

あれか、二次創作なのか。
いや、歴史修正とはどういうことか。

「魔力等がある世界からそれらを消滅させれば良いのでしょうか?」

修正するのだったらまずその不思議な力等を修正すべきなのではないだろうか。

《消滅ではなく、残して貰いたい。世界の多様性という点で、そういったものがフィクションの中ではよくある力が実際に存在しているのは珍しいケースだからだ。ただそれ故に暴走しやすいので、繊細な世界でもある。……さて、修正の仕方は自由だが、今からこの世界の歴史を知識に追加するが、それを踏まえてどういった形で行いたいか、要望があれば言って貰いたい。今語りかけている私が直接行うというのは事情は省くがとある制限があって不可能だ。情報量が多いが、ここは時間経過は存在しない空間故、案が決定したら話かければ対応する。……実は世界の歴史を与えるのはこれが初の試みだが……良い案を期待している》

拒否権というか、前世が喪失している時点でアイデンティティに執着がある訳でもないので拒否する必要性も特に感じない、ものは試しか。
……知識が入って来たようだ。
なんだか自分の元の知識にある世界にとってつけたように不思議な力が混ざっている世界のようだ。
確かにこれは繊細なのかもしれない。
魔力等が消滅するのを防ぐということだったが、どうやら火星の座標に位相が異なるが存在した魔法世界がその形を維持できず崩壊し、歪んだ形で火星と同化しズタズタになった上地球との繋がりが絶たれたということらしい。
ある機関が送り出した少女が最後の望みをかけて過去に跳ぶ技術を得て歴史の修正を試みる……か。
過去に跳べる技術があったのも驚きだが、13歳の少女が跳んだのも驚きだ。
結局彼女は目的を達成することはできなかったがある程度歴史に影響を与える事には成功したらしい。
しかし、未来に帰ったこの少女は時間移動の反動で死亡したのか。
……まさに命懸けだ。
彼女によって影響を受けた時間軸の未来も、地球に生えている随分巨大な世界樹と呼ばれる木を利用して魔法世界を存続させるものの、魔力消費に耐え切れずおよそ千年後に結局魔力は枯渇。
頑張ったと思うが、形あるものはいずれ滅びるという訳か。
いずれにせよ繊細な魔法とやらは消滅した。
しかし、修正するからには根本的なものの変化を要望して、数千年単位の過去から準備する必要がありそうだ。
紀元前617年に始まりの魔法使いなる者の出現と魔法世界との繋がりが発生したあたりが一つの鍵か。
この繋がりが起きなければ……いや人がいる限りいつかは繋がりが起きるものか。
気になるのは鬼やら悪魔、この表現は人から見ただけのものだが魔力が枯渇し始めてから現れる事ができなくなったらしい。
驚きだが亜空間には彼等の天動説的世界が広がっているようだ。
……正直信じがたいがなんという奇跡だろうか。
しかし、これなら魔力がこの世界から消滅していないから問題ないのでは……なるほど、この亜空間は完全に閉鎖状態で進歩する可能性は無く既に完成している状態なのか。
つまり、不確定要素の多い地球の存在する宇宙空間とは違い観測しても完成しているから変化が無く意味がないという訳だ。
後気にするべきは植生時期があやふやなこの神木か。
魔力の供給を行っているようだが、この世界樹には種子が存在しない、つまり奇跡的確率で自然に生えたということか。
星の意思なのかもしれない。
ならば、修正すべきはこの奇跡の木の機能と認識疎外程度の自衛能力。
これだけ神秘の塊でありながら一方的に人に利用されたら流石に枯れるのも無理はない。
……要望として認められるかはわからないが一応決定……と。

「要望を決めました。この世界樹の発生と同時に私の存在をこの木と同化すること、つまり、この木に宿る精霊にでもなりたいと思います。それに際しての長い時を生きるのに耐えられる精神力、ストレスに耐えられるようにして頂きたいです。また未来から跳んで来た火星人の目的が完遂できるのを最低ラインとした木の能力強化、種子を生み出せる事、後は対人間用のインターフェイスを用意できればなんとかなるかもしれません」

《決定したか……しかし木の精霊……とは今までに無い案だ。初めて……と言ったが、この世界は時空間を完全に保存してあるため今までに、今回のように特定の存在に送り込んだ事がある。どうやら……歴史を追加したのが良かったのか、元々そういう性格なのが功を奏したのか……普通は大体オリ主がどうとかテンプレだとか言い出して人外な人間になるも結局上手く行きはしなかった。彼等自身はかなり楽しんで生活していたが。愚痴のような事を言ったが気にしないで良い。今ので分かると思うが、先例も幾度もあるからあまり気にする必要もない。ただし、期待できる案だけに、要望は可能な限り実現する。……それでは旅立つと良い、ごきげんよう》

何やらブツブツ最後に聞こえたが返答する前に、ただでさえ白い空間が眩しく輝き出した。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

……意識が戻って来た。
視界が人間離れ、いや既に精霊化しているのか、前後関係なく知覚できる。
周りは随分開けた平野が広がっている。
何はともあれ無事に地球に到着したようだ。
視界が広い割には異様に目線の起点が低いがこれは……生えたばかりか。
流石に生えた瞬間からやたら大きい訳ではないらしい。
まずは精霊体を利用して動き回ることにしよう。

……不自然に周囲が開けているのは自然にこうなったとしか言いようが無い。
ある程度離れると一面森が広がっている。
この世界の地球は凄い……自重という言葉を知らないらしい。
何処まで遠くに行けるかもついでに確認しておこう。
所謂幽霊のように浮遊しているというより完全に飛行だ。
5キロ程行ったところ……。
いや、何故5キロとわかるのだろうか。
初期文明も発生していない状態で何故元の知識の尺度で認識される。
木の能力強化とは演算ができるコンピューター……恐らく有機的のものではあるだろうが……そのようなものが搭載でもされているのだろうか。
……と、逸れたがどうやらここまでしか離れられないらしい。
不便だ。
恐らく木が発芽したばかりで出力が低いのだろう。
一旦木に戻る事にしよう。
……すぐに木と同調して情報の整理を始めた。
やはりコンピューター云々はアタリだった。
その結果判明した事だが、要求した種子の生成が可能になり安定した木の状態になるのは二千年後になるそうだ。
因みに今は元の知識とのリンクの結果紀元前3000年にあたる。
状況が佳境に入る頃には樹齢5000年とは中国の歴史云々を越す。
そして、周りが開けているのは自動で結界を構成しているためらしい。
余計な植物が生えない、動物がこない。
こうしてみると土壌として先行き不安だが木から発生している微弱な不思議な原子レベルの粒子、無色透明だが……いや、密度によってはそうでもない……かもしれない、のお陰でバクテリアは活発らしい。
というかこれが魔力か。
魔力というのは語弊があるだろうか……養分とかけて魔分なんて呼び方の方が正しい気がする。
どっちにしろ精霊が呼び方決めても意味は無いか。
因みに散布の仕方は地中活性と高速で上空に打ち上げて地球中にあまねく広がるようになっている。
さながら木という形を擬装したテラフォーミングマシンである。
地球自体は滅んでもいないのにかかわらず。
当然ながら世界の知識にもあった付近六ヶ所の魔分溜りと……当然世界他11箇所のものもまだないだろう。
こちらは千年少々したら結界のためと保険の為に貯める予定だ。
最初のイベントは千年後である。
現在の思考速度は高速で時間は殆ど過ぎていない。
観測速度の早送りができるようで、千年後までを人類としての感覚で、三日で回しておこう。
活動範囲も狭いし。

……当然、周囲の景色は太陽が上がったり下がったりのするのを繰り返しほぼ点滅していると言える。
木には周囲の映像を記録することができるので全て収集しておこう。
どこに保存するかと言えばハードディスク、もとい年輪である。
周りの森も延びたり倒れたり腐ったり、季節が回ったり、特段疲れはしないが……もし真面目に見たら疲れるのではないだろうか……綺麗ではあるが。
そういえば魔法世界は地球側の始まりの魔法使い、造物主とやらが造ったという情報もあるが、観測できなかっただけで恐らく悪魔さん達と同じで完全閉鎖型の亜空間だったところに何か穴のようなものを開けたのだろう。
完成していた世界に穴が空いて未完成の状態へ、つまり擬似的に地球と同じに存在になった訳だ。
結果魔分が徐々に地球側に流出しだして広大な宇宙空間に徐々に拡散、減衰していった……と。
因みに召喚される鬼、悪魔の世界が消滅しないのは召喚の際に使われる魔分が地球か魔法世界のものであるのが理由らしい。

……三日後、高さは50メートル程になった。
さながら物見の塔といったところか。
魔分溜りを形成し始め、活動範囲も100キロに達した。
このままだとローマ帝国に飛んでその魔法世界への道が恐らく開くであろう瞬間を見ることは叶わないのがはっきりした。
……あきらめも肝心である。
しかし、種子の形成とその発芽から成長を考えると時間が足りるのだろうか。
再計算開始。
……種子の形成開始は千年後と言う名の三日後。
種子の完成は更に二千年かかる。
千年時間があるなら木の中で苗というか若木ぐらいまで育てておけばいいだろう。
なんとか魔法世界の限界までには間に合うようで安心である。

……三日経ち種子が形成され始めた。
活動可能範囲は500キロに拡大した。
やはり日本から出られない。
まあ仮にも魔分散布している本人だから魔法世界と繋がったらわかる筈だ。
……因みに三日と言っているが、実際には精神力の強化を利用した無心状態になっているだけである。
つまり思い出そうと思えば周囲の記録は全て残っているので気が遠くなるの。
本当に精神力を強化して貰っておいて良かったと言う他ない。
寂しい等そういった感情も精霊にもある……私の場合特殊かもしれないが、強制的に感情を抑制している。
できなかったら多分啜り泣く大木とかいわくつきの木として処分されるかもしれない。
というかこの記憶、魔法で読まれたら普通の人類は精神が擦り減って死ぬのではないかと思うほど何も無い。
風景画家とか歴史家にはいい資料だろうが。

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さてやってきた紀元前617年。
異質な魔分のゆるやかな流入を感知した。
これで晴れて亜空間から魔法世界も火星の座標入りとなった。
しかし魔法は随分凄い。
ある意味元の知識にある無人探査機でそれなりの月日を要する道程の座標にゲートという手段でワープできるのだから。
穴を開けて魔法世界へと旅だった本人は新たな発見に喜んでいてそんな事には気付いてはいないのかもしれないが……。
歴史によれば魔法世界側の純粋な人間はこちらから移住したらしいのだが、2600年で6700万に増えたというのだから、恐らく旅立ちには研究機関か何かのかなりの人数で飛んだのだろう。
本格的にゲートが完成するのもかなり後であるからほぼ極秘裏に行っていたのであろうが涙ぐましい努力である。

……さて、次は400年の日本の関西地方、大和でのリョウメンスクナの襲来。
活動範囲内だから見に行こう。
精霊体は人間にも見える事はありえるらしいが時間加速状態で対応する訳もいかないし、世界樹の秘密がばれでもしたら早くも死活問題である。
最近は結界の使用をやめて認識疎外に変わっている。
動物からすればあって当然かつ無い状態はありえない存在という認識を与えているため木を傷つけられることはない。
人間も来るが動物と同じく祈りのような事をされるが害されることもない。
魔分の打ち上げも隠蔽度合いが上がっており、木から魔分が供給されているとは気がつかないだろう。
こればかりは本当にバレては困るが。
……と、ゆっくり飛んでいるうちにリョウメンスクナと覚しきものを発見。
現れたばかりだから弱いのか人間からダメージを貰っている。
日本では平安時代を過ぎないと魔力と気の運用が体形化されないので完全に単純な殴り合いとなっている。
……数日かかって、人間もかなり亡くなったが、リョウメンスクナもエネルギー切れで自ら封印状態に入った。
これで1500年かけて力を蓄えるのか。
うん、頑張れ。
埼玉、まだ違うが、未来の麻帆良の地と同じくここも龍脈があるから大丈夫。
そして……この後は後600年で種子が完成するという大事なイベントだ。
期待して待とう。

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まさに感動の瞬間だった。
完成と同時に光り輝き、幻想的な空間が木の内部に広がった。
種子とは言ったものの大きなクルミみたいなものではなく、見た目は淡い桃色で鮮やかに発光する巨大な華である。
この瞬間は永久保存決定……ケーブルな映像媒体の発見番組に送れば間違いなく世界の神秘として何度も再放送される筈だ。
……落ち着いて確認したところ種子は華の中心に存在していて華自体はあろうことか宇宙船として機能するらしい。
いや、物理的に火星に送るのだろうか、コレは。
何故かイメージ的にはファンタジアな物語の大いなる実りと見た目が同じである。
てっきり苗を、ゲートを通して魔法世界に持って行くのか……とも考えていたが、これだと打ち上げて魔法世界と火星の位相を完全に同調させた方が安定するのではないだろうか。
どうもその機能もついているようで……。
種子は華の中で育てる事ができるようなので任せる事にする。
要望しておいてあれだが、これは異様にハイスペックだ。
まさに備えあれば憂い無し。
華は宇宙船ということだが、これを利用すると精霊体の活動範囲限界を無視できるようだ。
いや、空飛ぶ巨大な華なんて確実に問題があるから実用性は皆無だが。
認識疎外にも流石に限界がある。
……それと、唐突だが世界樹を一応22年周期で発光させておこう。
精霊体が便利で忘れていたが、ヒューマノイドインターフェイスはまだ造っていない。
素体は肉体的に死ぬとそれきりのようだから何体か用意しておこう。
なんというか、軽く00な生命体入っている。

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次のイベントはというと真祖の吸血鬼の誕生とやらだが、500年ぐらい経ったらやってくるだろうし、どっちにしてもそんな外国には飛べない。
しかし不死で肉体持ちとは相当辛くないだろうか。
精霊体でぶらぶら……殆ど神木の中でだけだが……していると便利すぎて感覚がおかしくなっているだけかもしれないが。
成仏しない幽霊、精神体がいる理由もわかる。
世界を早送りで観測できるのは意外と面白い。
……元の知識通り江戸幕府が誕生し、明治維新。
そして1890年彼がやってきた。
既に高さ250メートルの大樹にもかかわらず認識疎外を行っていたが、これをすり抜ける人間がいたのだ。
明らかに開けているのに、ある程度周りを水源で囲まれているが、大して日本人も住んでおらず神木・蟠桃と大層な名で呼ばれているようだが、このあたりは本当に何も無い。
しかし誰も疑問に思わないのは認識疎外の結果だ。
たまに発光して綺麗だとか思っているだけらしい。

「西洋風の学園を建設する場所を探しにやってきたが何故ここは不可解に何もないのか。しかし何故調査に着いて来た誰もこの木を疑問に思わないのだ?」

ごもっともです。
これはヒューマノイドインターフェイスの出番となるか、いや面倒だし精霊体が見えるか試してからでいいか。
因みに精霊体の見た目は髪と目の色が翠色で性別のよくわからない子供の姿、基本的に半透明である。
4890歳だが。
見えるかな……と、とりあえず外人さんの目の前に降下。

「………」

驚いているか、まあ驚きますよね。
先手必勝。

《ようこそ外来人、見たところ拝みに来たわけではなさそうですが、用があれば聞きましょう。申し遅れましたが私はこの木の精霊です》

嘘をついたりすることはないと信じたい。
しかし、もし怪しければ木の存続の為に得た、意識を拡張して思考を共有又は読む能力を使っていこう。
プライバシーやら人権に引っ掛かるが結局使ったらどうしたってそうなるし……いずれにせよこれは極力使わないに限るが。

「私はヨーロッパから来たウィリアム・バークレーです。学術機関を設立する土地の視察に来ました」

まあ、さっき独り言聞いていたのだけれど。
地味に人類と会話するのは精霊になって初めてだった。
感情が抑制されていて感慨もないが。
4890年誰とも会話しないとは間違いなく史上最高齢の引きこもりだ。
人間ではないけども。
しかし……今回ばかりはウィリアムさんが魔法使いかどうかだけは確認しておこう。
……一般人だった。
単純に認識疎外が効かない体質と見た。
未来にいたな、同じ体質の人。
祖先かもしれない。
魔法使いは調査隊の中に混ざっているだろう。
ともあれ精霊体を濃くしておいたものの見えてくれて良かった。
学園都市自体の建設は必須だから拒否する必要もない。

《この地は不思議な力に満ちています。学園を開けば様々な才能に開華した優秀な人材が育つかもしれません。もしその学術機関をこの地に建てるのならば見栄えある立派なものにして下さい。長いこと精霊をやっていますがいささかこの地は殺風景ですので。ただこの木を傷つける行動はやめて頂きたいものですが》

上から目線と暗に勝手にしろと言った訳だが、彼は精霊に許可を得たと言って嬉しそうに感謝して戻って行った。
一部既に神社になっていたりもするが、本当に何も無いのでやりたい放題できるだろう。
頑張れ。
土地の権利の問題等ありそうだが神木が切られることは認識疎外のお陰でないから大丈夫だろう。
……それからというもの瞬く間に数年でいくつかの機関ができ、気が付くと地上に見事な西洋風の麻帆良教会、実態は地下に魔法使い人間界日本支部ができていた。
地下にするのはわかるが怪しい教団みたいでなんともいえない。
地下を掘るのは木の根的な意味でも、もしもを考えてやめてほしいところだ。
当然といえば当然だが六ヶ所の魔力溜りのひとつでもある。

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更に4年経って1894年6月、やっつけで発光した。
その後学校令が暫くするうちに色々改正されたが学園内の問題で特に関係はない。
都合よく、魔法関係者が関与しているのは間違いないが6ヶ所のポイントがめでたく全て調べられたらしい。
魔法使い支部、世界樹前広場、恐らく後に大学になるだろう麻帆良の高等学校の中央公園、女子高の礼拝堂、龍宮神社の門、大層な名前のフィアテル・アム・ゼー広場である。
そして1903年真祖の吸血鬼が来日する予定に近くなってきたのだが、先に麻帆良にやって来たのは武田惣角というちんちくりんのおっさんでした。
何やら合気柔術を、東北地方を中心にあちこちに広めているらしい。
やってきてすぐに麻帆良の施設内に道場を開いた。
やる気が凄い。
打算ついでに精霊体の隠蔽力を高めた状態で見よう見真似で動きをトレースすることにした。
重さのない躯だから微妙だが。
いつかヒューマノイドインターフェイス使う時に役立つかもしれないと期待しつつ。
……1ヶ月程して大きな魔分を保持した見た目幻術で変身した凄い金髪の美人がやってきた。
何故姿を変えているかわかるのかといえば地球の魔分の殆どは自家製で……その関連で殆ど分かるからである。
間違いなく真祖の吸血鬼に違いない、術式に悪意ある物の意思を感じてやや不快だが。
魔分隠蔽も完璧なようでここの魔法使い程度ならまだ気がつかないだろう。
手続きも単純なようで習ったらめでたく門下生入りというなんともいえない道場なのだが麻帆良は割と外国人が多いので彼女がやたら浮く事もないだろう。
色んな意味で本当に浮いているのは自分だが。
と油断していたのだが……凄い視線を感じる。
とりあえず気付かないふりをしつつ感情を完全に殺して今日の道場のメニューをこなした。
精神強化万歳。
帰るときは成仏する感じのエフェクトで霧散。
まだ木の精だとばれるのは早いだろう。
気のせい、だと思ってもらおう。
……真祖さんとの遭遇初日をクリアし、次の日、また次の日と彼女とはやや離れた位置で鍛練した。
驚くべきは彼女の熟達速度である。
日を追う毎にレベルが上がっているのだから。
三週間程経った頃彼女に敵う門下生はいなかった。
武田のおっさんは負けなかった。
流石である。
……その後半年もしないうちに彼女は合気柔術の達人になり麻帆良を去る事にしたようだ。
吸血鬼だとばれないうちにということだろう。
別れ際の武田さんはこんな才能のある真面目な弟子を得られて良かったといって喜んでいた。
外国に広めてくれと何度も念を押す姿がやる気に溢れていて熱い空間が形成されていたのが印象的だ。
彼女はこちらの存在には最初こそ気にしていたが暫くしたら気にしなくなっていた。
……さて、長命種の誼みと打算の布石の回収のため挨拶をしておこう。
追跡していた彼女の魔分反応の動きが止まったのを確認して精霊体で空から降下。
二度目だ。

「…………」

驚かせるのは別に趣味ではないのだが精霊らしい振る舞いは降下に限ると思う。

《ごきげんようお嬢さん。麻帆良の神木・蟠桃の精霊です。今日はお嬢さんが道場を去るということで挨拶に来ました》

これで、しつこい体育会系の幽霊だとは勘違いされないだろう。
実際一心不乱に鍛練に励む子供の幽霊が毎日成仏していたらありえる誤解だ。

「精霊だと?いつもいつも、てっきり暑苦しい武芸の幽霊だと思っていたが何か証拠はあるのか」

手遅れだった。
無視していたことのあてつけだろうか。
その割にはわざわざ高圧的な日本語で腕を組みながら会話してくれるが。
道場で話していた時と口調が違いすぎる。
せめて名乗って欲しい。

《証拠になるかはわかりませんがお嬢さんが見た目以上に長生きしており、今の姿すらも偽っているというのがわかる、というのはいかがでしょうか》

人類二人目の会話で何故か下手に出た返答をしてしまった。
今年で4903歳なのだが。

「ふん、確かにただの幽霊ではなさそうだな。まぁいいだろう、その精霊とやらがこの私に何の用だ」

完全にこういうキャラらしい。
挨拶って言ったのだけれど。
名前もわからない。
道場で名乗っていたのは間違いなく偽名だろうから。
歴史はわかっているのだが、個人名はどういう配慮なのかわからないが不明だから困る。

《長生きの方にお会いしたのはこれが初めてでして、またいつかこの地に来る事があったらと思い挨拶しに参りました。一つ、その長命化の術式に第三者の悪意が感じられるのが気になるのですが、お嬢さんの意思次第ではありますが清浄なものに修正できますがいかがでしょうか》

何故こんなに丁寧に話してしまうのだろうか、先手必勝と言った割に完全に主導権はあちら側だ、もういい仕方ない。
少々恩を売っておくことでこの地をできるだけ気にいってもらい、あわよくば実際に見た世界の話でも聞いてみたいものだ。
思考を共有してもいいが友好関係を築きたい相手にそんなことをするのはやめておきたい。

「ほう、この身体に刻まれた忌々しい真祖化の術式がよくわかったな。どういう訳か知らんができるものならやってみるといい。それで精霊だということを信じてやろう。失敗したらただではおかないがな」

自家製の魔分で行われた歪んだ術式をいじるのだから失敗することはありえないから安心してできる。
しかし、もし普通の人間が今のこのお嬢さんと真面目に会話するのはかなり怖いのではないだろうか。
感情抑圧のお陰で全くストレスを感じ無いから助かる。

《信じて頂けるとあれば、確実に成功させて頂きます。目を閉じてリラックスして下さい》

まだ信用できないのか、少し間を置いてから目を閉じてくれた。
さて始めよう。
術式の構成魔分を精製したばかりの魔分と交換、汚れた魔分は再吸収しておこう、放置する訳にも行かない。
歪んだ部分をできるだけ自然な流れに変更。
初めていじる魔法が真祖化の術式とはなんとも言えないが有機コンピューターこと神木の精霊である限り地球の魔分で行われているならば殆どがフォローできる。
因みに地球に流れ出ている魔法世界の魔分は先程と同じく時間はかかるものの再吸収して精製しなおしているのだ。
時間にして数秒といったところだろう。

《処置完了致しました。気分はいかがでしょうかお嬢さん》

治ったのは間違いないと思うがやりすぎた感も否めない、吸血鬼からずれて違う存在にしてしまった気もする。
歴史改変はまだ行いたくなかったのだが、精霊の存在について再度来日した時に面倒なことになっても困るので遅かれ早かれといったところだと思いたい。思いたい。

「な……なんだ、これは。身体を縛っていた鎖が感じられない。まさか人間に戻れたとでもいうのか」

人間に戻った訳ではないのだけれど、吸血鬼は廃業したな、これは。

《いえ、長い間定着し続けた術式に処置を加えただけですので人間になったということはありませんが、確かに吸血鬼でなくなったのもまた事実だと思います。申し訳ありません、余計な事をしてしまったかもしれません。元には戻せないのですが木を切るのは許してください》 

初めていじった魔法なものだから手加減できず可能な限り改変してしまった。
既に精霊として対話した相手には認識阻害は効果がないのだから木に手を出さないように頼むしかない。
しかもうっかり吸血鬼だと知っていたことを言ってしまった。
この地にはまだ吸血鬼は来たことないのに。
気がつかないでくれると助かる。
有機コンピューターはうっかりという人格に対しては補正をしてくれないようです。

「人間に戻ったわけではないのか…。まあ良い、お前は精霊の癖に随分取り乱す変な奴だな。別に怒ってはいない。吸血鬼でなくなったのは寧ろ喜ばしいことだから気にするな。木を切るなとか言ったが本当にあの無駄に大きい木の精霊なのか。その割に随分小心者のようだな。明日には私はこの国を出て行くが、お前の名は何だ」

暗に不釣合いだと言われた気がする。
最初に会話した時よりも穏やかになってくれたから良しとしよう。
しかし名は何というか、か。
そういえば木の精、木の精と自覚はあったものの前世の名前もわからない訳で名前はあるとしたら勝手に人間が呼び始めた神木・蟠桃しかないな。
いやこれは木の名前であって精霊の名前ではないか。
某物語でもユグドラシルが木で精霊はマーテルだったし。
まあ呼び方は好きにすればいい、他力本願でいいか。

《何分今年で4903年目に到達するのですが、こうして真面目に人類と会話するのはこれで史上二人目でして、最初の一人目はこの学園の創設者の方でした。しかしながら木の精霊だと名乗っただけですので木としての蟠桃という名前は人間が呼んでいますが精霊としての名はありません。私もお嬢さんの名前はまだお聞きしていないのですが》

もういいなるように成ればいい。
悪いことにはならんだろう。
精霊は正直者ということにしておこう。
木の精霊だから名前はキノとかでも構わないが。
安易すぎるが……別にいいか。

「お前そんなに生きていたのか。それなのに名前がないとはとんだ奴だな、人間の飼い犬ですら名前があるというのに。私の名前はエヴァンジェリン・A・K・マグダウェルだ」

ミドルネームを含めても随分凄い名前だった。
しかも飼い犬未満の認識になっているし。
もう少し年上を敬えと言いたい。
怒りの感情に関してはろくなことにならない可能性が多いと思い完全に抑圧しているのでやるせない気分だが。

《エヴァンジェリン・A・K・マグダウェルさんですね、よろしくお願いします。私も名前を今考えたのですが、木の精霊なのでキノとでも呼んでください》

エヴァンジェリン・A・K・マグダウェルという彼女の名前を聞いてチャチャなんとかという名前がよぎったので彼女に命名されるのはまずい気がしたのだ。
しかし今の今になって成り行きで名前が決定するとは……。

「キノ……か。木の精霊だから……いくらなんでも安易過ぎはしないか。あんな大層な木の割に控えめな名前だな、小心者のお前にあっているとは思うが。また気が向いたらこの国にも来るとするよ。その時はまた会おう、キノ」

なんかいい話になったのかこれは。
真祖の吸血鬼との邂逅編、完とでもいった感じか。
何故か強制的に会話が終わったのだが……ああ、勝手に精霊体が薄くなっている。
真祖の術式は意外と負担がかかったらしい。
別れの挨拶ぐらいしっかりしておこう。

《またこの地にいらしたら歓迎しますよ。エヴァンジェリン・A・K・マグダウェルさん。それではまた会う日までごきげんよう》

この後ようやくキノという名前に安易すぎる経緯で決定した精霊が数ヶ月活動しなかったのだが世界樹の成長期だっただけだった。
また、エヴァンジェリン・A・K・マグダウェルは二つ名である闇の福音と呼ばれていたのだが術式をキノがいじって以降使える属性の魔法が闇から光になったそうで、少々悩むことになるのだがこれはまた別の話。
等という……解説でした。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

あれから時間が経ち1916年に発光しておいた。
精霊体の活動可能範囲も広くなりとうとう中国の一部に被ることができたが地味に木が心配で離れられない。
麻帆良学園も創設26年を数えるが魔法使いを始めとしてこの土地に興味を持つものが増えてきており、魔力溜りの研究やら地下になにやら施設を作ったりと気になるからだ。
幸い木を傷つけるなかれという認識阻害もとい認識改竄とも呼んだほうが正しいもののお陰で大事には至っていない。
やはり一番怖いのは人間の性かもしれない。
しかしいつか人工衛星を飛ばされたりしてこの木が写ったらどうなるのだろうかとかなり心配である。
写真には認識阻害なんてできるわけがない。
そういう訳で認識阻害の効かないウィリアムさんに麻帆良の街並みを褒めつつ色々言っておいた。
しかし彼もかなり良い中年になっていた。
因みにこの時期世界では第一次世界大戦が勃発していたというのは歴史の知識の一つである。
そして元号が大正から昭和に代わり1938年にまた発光である。
さて、割と暇だが苗木の方の成長は順調である、恐らくこのまま荒野に植えても逞しく生えてテラフォーミングするだろう。
未来は安泰である。と思いたい。
時に、エヴァンジェリンお嬢さんの噂が魔法使い支部から観測できた。
そう、魔分溜りに支部を作った気持ちはわかるが、そこは私のテリトリーなので筒抜けなのです。
どうやら彼女は真祖の吸血鬼ということで、もう違うけど、魔法使いからは賞金首の扱いを受けているのだが、最近では魔法使いが「この吸血鬼が!」と言うと「私は吸血鬼ではない、闇の福音でもなく光の福音だ!」と訳の分からない事を言いだすようになった、そうだ。
要するに彼女が最初こちらを全く信用していなかったのはご苦労にも追いかけてくる魔法使いのせいで疑心暗鬼になったからなのだと思う。
精神的刷り込みとは怖いものだ。
完全にお嬢さんは被害者でしかない。
恐らく丁度50年したらまたこの地にやってくると思うのだが、その時は暖かく歓迎しようと思う。
1940年に高等女学校で連続殺人事件という麻帆良にしては珍しく随分過激な事件が起きたのだが、その中の被害者がどうやら地縛霊になったらしいのがわかった。
正直暇だし精神体の誼で相手をしようかと思ったのだが、最初こそ情緒不安定だったのだがいつの間にか鉛筆バトントワリング、所謂ペン回しを一心不乱にポルターガイスト現象の応用で練習したり、図書室や近くの書店の本を読んだりしていた。
それはそれで意外と精神体は、楽しそうだったのでしばらく放っておくことにした。
どうも死ぬ前の記憶があまり残っていないらしい。
共感できる。
助けようと思えば造るだけ造ったヒューマノイドインターフェイスをカスタマイズして入って貰えばそれで解決するのだが、これをやると世界樹の異常性を暴露するのと同じであり、まだ時期的に考えても先送りした方が良いだろう。
本当に無駄に数だけは揃えたが軽く安置所みたいである。
何故使わないのかというと、一度入るとどうあっても誰かの目につくため処理に困るからである。
エヴァンジェリンお嬢さん作だとかお墨付きをもらえればいいが後48年はかかるだろう。
……世界情勢も大分きな臭くなってきており、第二次世界大戦も近い。
麻帆良の地に対する外国人への感覚が悪い方へ向かっているかもと思いつつも魔法使い達が独自に魔力溜りを利用して展開した認識阻害のお陰で陸の孤島状態でありかなり平和だった。
この時ばかりは彼らの功績を認めざるを得ない。
ウィリアムさんも年になり学園長を退くことになったので、労いの言葉を伝えておいた。
会話回数が一番多いのが彼、いや会話した相手は未だ2人だけだが、もうすぐウィリアムさんも亡くなるであろうから知り合いがお嬢さんだけとなるのである。
木の精霊の交友関係の狭さは折り紙つきだろう。
さて、日本が降伏し、元の知識にもある科学が急速に発展する時代の幕開けである。
やはり魔分なんてなくても人類は困らないのではないか。
4945年も魔分を地球中に散布しといて利用されないというのもそれはそれで悲しいものがあるが。
せっかく少なくとも日本は安定したかと思えば今度は麻帆良の地を狙った侵入者達が夜な夜な入ってくるようになった。
注目すべきは近衛近衛門という麻帆良側の迎撃する若者が異様に強いということだ。
近衛近衛門という名前が個人的に、語呂が面白く気に入ったので自分もキノエ・キノエモンと名乗ったらどうかと思案したが語呂が悪いので却下である。
彼には四次元なポケットがあったらプレゼントしたいとなんとなく思う。
しばらくする内に麻帆良でのこの手の出来事は内々に処理するように裏で決まりごとができたらしく、それに併せて麻帆良の技術力を結集し電力と魔分溜りを利用した敵性反応を探知する侵入者用のセンサー的結界が整備されることとなった。
既に広がりに広がった麻帆良は随分大きな都市になったのだがこれをカバーする結界に魔分溜りを利用するとはいえ作成するとは、人間は逞しいものだった。
世界の歴史を確認したところ近衛近衛門はあの強さから言って麻帆良最強の魔法使いでこの後学園長になる人その人のようだった。
どうも気になったのはこれが原因だったのかもしれない。
思い立ったが吉日、近衛門に挨拶しておいた。
先日ウィリアムさんも亡くなったので本当に話す相手がいなくなったのである、彼は自分の夢見た学園がまさかここまで大層なものになるとは思わなかったようでかなり満足して旅立たれた。
知識で知っていた私自身もかなりそこには同意である。
そういう訳で、近衛門に話しかけたのだが夜の侵入者撃退後に部屋で休もうというところに会いに行ったのが悪かったのか、いきなりサギタ・マギカという矢という割には細めのビームにしか見えないものを数本放たれた。
当然、自家製の魔分が元なので効くわけもなく即座に全て分解した。
こういう時の対処は有機コンピューターに感謝せざるを得ない。
彼の部屋にも一切損害を出すことなく処理することができた。
仮にも故ウィリアム氏の夢の都市の建物の一部であるため外部の見た目の美しさと同時に内部もかなりデザインが良いのだ。
形あるものはというが、壊れないにこしたことはない。

《驚かせて申し訳ありません、落ち着いてもらえないでしょうか。私は神木・蟠桃の精霊で名前は最近決定したのですがキノと申します。今宵は近衛門殿の無双の侵入者撃退に感謝と挨拶に参りました。恐らく神木に精霊がいるなどとは聞いたこともないかもしれませんが、亡くなった先代のウィリアム学園長にしか姿を見せたことはなかったからなのですが信用して頂けるでしょうか》

若いからなのか随分血気盛んである。
日本男児恐るべし。
近衛門は第二次世界大戦に行ったのだろうか。
魔法使いでありながらも質量兵器の戦争に参加しつつ魔法を一切使わずに戦う姿を考えると命を賭けた縛りプレイとしか言いようがない。
と、近衛門は意外と素直なのかサギタ・マギカが消滅したことに怪訝そうにしながらも戦闘態勢を解いてくれた。

「こちらもいきない攻撃を仕掛けて申し訳なかった。蟠桃の精霊の噂は少しではあるが、小耳に挟んだことがあるため信用させてもらおう。俺の名をご存知とは光栄です」

良い人だった。
確実にこれは交友関係が狭い自分から言っても間違いないと思う。
思わず名前を呼んでしまったのだがむしろ褒め言葉になったようで良かった。

《どういう噂か興味がありますが信用して頂けたよう安心しました。以前はそんなにあからさまな侵入はなかったのですがね。確かに私が宿る木があるこの地を狙うのもわかるのですが、これだけ既に一般人も住むこの学園都市を襲ってどうするのか計画があるのか気になるところです。単純に麻帆良の力を削ぐためにやっているだけかもしれません。私の立場上あまり人間の闘争に介入するわけにもいきませんので陰ながら見守らせて頂きます。近衛門殿は今後もこの地にいるのですか。この国も安定してきて50年ほど前に魔法世界との繋がりとなる世界に点在する11箇所でゲートが公的に作動するようになったようですが、あちらに行かれる予定等はあるのですか》

多分精霊史上割と長めなセリフだったと思う。
しかも殆ど世間話だ。
実際この50年で地球側に対する魔分流出速度がゲートの増加で加速しているのは間違いない。

「噂の話というのは、現在の学園長は魔法関係者なのだが先代のウィリアム学園長が翆色の精霊は小さくて丁寧だと酒の席で述べていたことがあるそうだ。侵入者に関しては我々も最近では慣れてきたが、全く迷惑な話です。俺には精霊の立場はよく分かりませんが、この地にいる限りはこの地の守護は任せてください。短期間魔法世界に行くことはあるでしょうが基本的には地球の魔法関係の施設のある場所に上司と向かうのが多くなるでしょう」

なんか、近衛門の口調が安定しないのだけれど多分見た目子供なものだから接し方に混乱しているのかもしれない。
精霊体は大きくできるが、もう姿に執着する必要も無い上、単純にあまりに馴染みすぎたというのがある。
生粋の日本人の名前で魔法使いってなんか違和感あるが頑張れ。
その後少々世間話を続けつつ、重ねて守護の件に感謝を述べて、精霊の存在についてはミステリアスなほうが精霊らしいととりあえず適当なことを言いつつ納得させて口外しないで欲しいと頼んでおいた。
一つ魔法使いからの見地から魔法使用についての興味深い話を聞くことができた。
今まで気にしていなかったのだが、彼等にとって体内の魔分使用には同時に精神力を削るためやり過ぎると大変らしい。
精神力は思いの強さのようなものであり強化は可能だそうだ。
所謂筋力トレーニングと同じようなものなのだろうか。
彼等は魔力魔力といつもいっているが、どうやら大気に満ちる自然エネルギーを魔力といった形に変換して個人の器の中に保持しているとのことなのだが、この話を聞いたとき自家製の魔分はやはりイコールで魔力と結び付かず、その前段階の超自然的不思議粒子か何か程度にしか認識されていないのが明らかになり、昔からやっている上空への魔分の高速散布がいよいよバレない訳だと理解できた。
何故今更知ったかというといちいち魔法使い養成の基礎講義など聞かなくても地球上である限りほぼ不可能はないと感じていた……何の努力もしていないがそういう余裕が原因だったりする。
また、真面目に会話する相手が史上3人目にして魔法使いは2人目で1人目にはうやむやな内にしっかり会話することもなかったのも原因である。
いずれにせよ久しぶりに充実した一日だった気がする、夜だけだが。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

たまに近衛門に会いに行ったり、例の地縛霊のお嬢さんがここ最近で書店に並ぶようになった日本の所謂漫画を気に入って読んだり、相変わらずペン回ししたりと自分と生活パターンは違っても本質は変わらないなと思った。
ただ記憶があいまいなせいでいつまでも成仏せず時折悲しそうにしているのが辛いものだ。
近衛門に自分と同じような半透明な存在が地縛霊だけど女子中学にいるという話をしたのだが、どうやら当時近衛門も同時期に学校に通っていたため、連続殺人事件の事も聞いたことがあるらしい。
近衛門は、精霊体は見えるものの、地縛霊が見えるかどうかはわからないと言っていたが、後日侵入者撃退の際にその学校に寄ったことがあったそうだがいなかっただけなのか見えなかったと言っていた。
再び時が流れ近衛門は時折海外に出張したりしながらも基本的に麻帆良が拠点として活動するうちに結婚した。めでたい。
1960年に遅れたけどということで盛大に発光してやった。
今回はしっかり科学的映像媒体で記録したそうな。
画質は期待できないが良い映像資料になるだろう。
近衛門も中年入りしていて落ち着き始め、結婚した影響なのか段々性格も堅物から柔らかくなった気がする。
相変わらず防衛能力は恐ろしく高かったが、むしろ守るべき家族ができたからか更に強くなった気がしないでもない。
守るのは攻めるより難しいとなんとなく知識にあるのだが近衛門に関しては、ただし近衛門は除く、等と何かに記載されていそうだ。
程なくして娘も誕生した。めでたい。
しかしながら発光は大分先でできないので言葉で祝っておいた。
精霊に祝って貰えるなら必ず健やかに成長するだろうとしみじみとしていた。
更に時間が経過するうちに学園長が健康上の都合で、多分麻帆良防衛の黎明期で頑張った為精神的に疲れていたのだろう、退職して故郷へ帰って行った。
新たな学園長に任命されたのはそう、近衛門であった。
初代学園長は創設者であったため若い頃からずっとやっていたという例外だが、先代が学園長就任した年齢と比べると大分早い。頑張れ。
ただ前から思っていたが何故学園長室がもともと高等学校だったが女子中学に設置されているのかは謎だった。
多分ウィリアムさんの建築計画唯一のミスだと思う。
いや、あえてそうすることで麻帆良が完結することは無いとでも暗に言いたかったのだろうか、聞くのを忘れていた。
話は逸れたが近衛門の防衛能力の高さはもちろんとして、実は名家の出身ということもあって色々とあっという間だった。
いきなり偉くなって戸惑ってもいたが、なんとなく権利を使える立場にあるのだから麻帆良をもっと人材的に発展させたらどうかと言っておいた。
ここ最近の唯一の交遊関係がある近衛門が最高責任者になって間接的にという訳でもないが人脈を広げてもらった。
実際元々広かったものだからネズミ算的に拡大していった。
中でも雪広グループは発展が著しいものの一つで裏の処理で割と金がかかるのを上回る表の凄まじさを見せた。
麻帆良でも人気の就職先に入ったらしい。
麻帆良は以前から年二回学園祭と武道会で前者は芸術と科学、後者は体育会系がメインで盛り上がりを見せているのだが1978年の奴の武道会での突然の出現は衝撃だった。
彼の名はナギ・スプリングフィールド(10)である。
近衛門のイギリスの友人がいる、魔法学院から飛び出して来たらしいとんだやんちゃ坊主であった。
故に近衛門は前に一度会った事があるらしいのだが、近衛門も突然謎の少年が現れたという情報を得たときは驚いていた。
彼の魔分容量は懐かしいあのお嬢さんを超えていた。
人間なのだろうか。
ナギ少年であるが、トトカルチョがこういったイベントに必ず付き物なのが、麻帆良が麻帆良たる所以なのだが、大人の部に参加するものだから混乱が巻きおこったのだ。
当然麻帆良の人は流石に大人が勝つだろうと思うが、期待を裏切り、近衛門の戦闘能力も人外じみていたが、10才であれはない。
魔分で身体能力を向上させているのはわかるが麻帆良の大人達を圧倒していった。
麻帆良の地で長年修練を積むと一部人外な感じの人々が量産されるのだが、そういった人達がいるにも関わらず、優勝までいってしまった。
一つ述べておくと、18世紀から19世紀にかけて中国拳法では八極拳、八卦掌、形意拳が順に成立しており気の存在に関しては知っている人は知っているというものになっていて、大人達も十分強い人々がいるのにも関わらずこの結果である。
この年の武道会のトトカルチョはどちらが勝つかというものから始まってすぐにナギがいる所はどこまで謎の少年が勝ち上がるかというものに変化していた。
ナギの犠牲になった大人達の存在感が空気だった。
……その後本人は麻帆良を気に入ったらしいが、嵐のように去って行ったのだった。
正直彼に精霊の存在がばれると碌なことにならなそうなのは何故だろうか。
ナギによって掻き回された武道会であったが、映像機材が本格的に登場するようになり、裏の関係者達のどこかの実写版格闘ゲームのような熱い戦いは、技の自粛により大会の規模がこの年を最後にして縮小の一途を辿ることになった。
それ以前の大会はしっかり世界樹の年輪に記録されているので自分はいつでも閲覧できるのであるが。
世界樹が発光するのは前回撮られているし、今更やめる訳にもいかないので放置である。
その辺りの処理はできる麻帆良の人々が処理してくれる。
昔気にした人工衛星の問題もどういう訳か起こっていない、非常に助かる。

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ナギが麻帆良から去って行ったのを期にして、いよいよ今度は魔法世界が戦乱の世に突入して行った。
あちら側に行くとしたらヒューマノイドインターフェイスに入るしかないのだが……行っても神木があちらに無い以上バックアップが無いのだから……そんな状態で何ができる訳もなく、そもそも今となって思えばあり得ない、としか言いようが無いのだが、正直ナギ少年を見たらもうなんとかなるだろうと思った。
知識でわかっていたが改めて納得である。
彼と同じぐらい人外なラカンという人物が後に加わるならば色々ゴリ押しできるのだろう。
ただ悲しいかな地球側の魔法使い達が魔法世界の戦いに参戦し、少なくない数の人々が亡くなった。
こちらの魔法使いは地球の大戦が終わったのを見ているからこそ黙っていられなかったのだろう。
近衛門もこの事については嘆いていた。
後にこの影響が麻帆良防衛の人員不足に繋がり、生徒まで狩り出す事になるのは皮肉な話である。
1982年の発光はそういった意味でも控えめな鎮魂をイメージした雰囲気にした。
1983年魔法世界側の強力な魔分減衰が地球側でさえ感知できた。
途中で止まったようだがナギ達がうまくやったのだろう。
紀元前617年の始まり魔法使いの奴らはどうしているのだろうか。
恐らくかなり根本的に精神が擦り減っているはずだから過激な判断に至って全部消すという手段に出たのかもしれない。
それとも単純に人口を減らしたいだけだったのだろうか。
……とにかく終戦を迎えて良かった。
近衛門も疲れていたらしいので時間をかけて体内魔分の総交換を行っておいた。
今までの防衛の感謝の意味も含めて今更実のある事ができた気がする。
そして、1985年忘れていたリョウメンスクナが力を付けて目覚めたのだ。
だが運の悪いことに青山詠春の要請により人外なナギとその仲間達によって1500年前のほうが余程善戦していたと自信を持って保証しよう。
やられ役が定着しているとしか思えない。
この話を近衛門にしたら何を思ったかナギはともかく「詠春殿を婿に取る」と言っていた。
確かに娘さんの近衛木乃葉さんは間違いなく美人で見せてもらった詠春さんの人物像から理想の女性だろうと思う。
間違いなく上手くいく。
これで西の呪術協会が麻帆良にちょっかい出すのを減らせれば御の字だ。
ところで実は最近近衛門の後頭部に異変が起きそうだったのだがこの前の魔分交換作業の結果なのか、以後、後頭部の変は無かった。
わかりやすい見た目になる機会を潰した気もするが、これぐらいの改変は誤差の範囲内だろう。
その後詠春さんはノリノリだった木乃葉さんによって計画通りという形に落ち着いた。

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1988年になり懐かしい事にちゃんと85年振りにエヴァンジェリンお嬢さんが麻帆良にやってきた。
でたらめな呪い付きで。
犯人はあいつなのは間違いない。
我が史上二人目の対話者に何ということをしたのか。
賞金首からお嬢さんを消去したのはよくやったと評価しよう。
精霊にはその辺はどうしようもないし。
まだそうなってはいないが。
ただ一つナギとは関係ない変化があったようで、原因は85年前の術式改変のようで幻術、魔法薬無しでやや成長していた。
身長が……150にギリギリ届くか……というぐらい。
不老じゃなかったのか。
因みに木から観測しているだけなので直接お嬢さんと会っているのは近衛門とナギだ。
正確にはナギがいるから木に引きこもっているのだが。
ナギに関わるのはまずいと相変わらず警鐘が鳴っているからだ。

「久しぶりだな、じじい。10年経ったがあまり変わってないな」

「久しいのナギよ、魔法世界の方ではよくやった。本当のじいさんになるのはまだだがの。孫の顔を見るのが待ち遠しいわ。して、こちらの美しいお嬢さんの説明をしてくれんかの」

「ああ、こいつはエヴァンジェリン・A・K・マグダウェル、闇の福音だ。自称光の福音と言っているがそれはどうでもいいな。学校に通った事がないからじいさんの学園のどっかに入れてやってくれ、警備員足りてないみたいだし丁度良いと思うぞ」

恐ろしく強引だった……。
自分から中退した奴に言われても説得力がないだろう。

「ちょっと待てナギ、この訳の分からない呪いをどうしてくれるつもりださっさと解け。大体何を勝手に話を進めている。光に生きてみろ等というのが学校に通うことに何故なる」

「まあ心配すんなって、お前が卒業する頃にはまた帰ってきてやるからさ。それまで試しに学校通ってみろよ、友達できるかもしれないぜ。ああ、それとエヴァンジェリンお前は俺が倒したことにしとくから賞金首のリストから消しとく。それじゃ俺は行くからまたな」

会話が咬み合わない残念な空間だった。
近衛門とお嬢さんが展開の速さに置いて行かれた。
さて、なんと精霊史上二人きりの対話者が外部の人間がいない状態で揃っているという瞬間なのだから混ざらないわけにはいかない。

「して、エヴァンジェリン君よ、ナギの奴は前にここに来た時もあんな感じだったのじゃが、どうするかの。呪いを解くことはワシにはできんし。学校の件は直ぐに手配できるがどうするかの」

微妙な空間だがこの状況ならばいつ混ざっても同じだ。
降下作戦を実行に移す。

《エヴァンジェリンお嬢さんお久しぶりです、麻帆良へようこそお帰りなさい。歓迎します。近衛門殿、実は85年前にお嬢さんは麻帆良に来たことがあるのです》

「おお、キノ殿このお嬢さんをご存知でしたかの。以前ワシが三人目と言っていたということは二人目がエヴァンジェリン君だったのじゃな」

「久しぶりだなキノ、不本意な形でこの地に来ることになってしまったが話相手もいるししばらくはこの地にいることにしよう。少なくとも賞金が取り消されるのを確認するまではいるさ。あの時はお前が自然消滅したから成仏したかと思っていたが相変わらず性格は変わっていないようだな」

《そう言って頂けるとありがたいです。私もここ数十年は近衛門殿としか話す相手がいませんでしたので嬉しいです。ところでエヴァンジェリンお嬢さん、以前よりも成長しているように見えるのですが新しい魔法ですか》

「そうなのだキノ、よく気づいたな。お前の術式改変のお陰で肉体年齢の固定化にある程度介入できるようになってな、なんとか3、4年分の成長ができたのだ。あの時は言えなかったが感謝しているぞ」

どうやら予想通り魔法は全く関係なく物理的に頑張ったらしい。
見た感じ不老でなくなった訳ではないようだが。
というかなんだかんだ幽霊ネタ引っ張られているし。

《ところで近衛門殿からも以前聞いたのですが光の福音とは一体どういうことなのでしょうか。実はあの時魔法関係の術をいじったのは私の精霊史上初だった上確かに自然消滅してしまいよく確認できなかったのですが》

「それもお前の術式改変の副作用で私が使える属性が闇から光になったからだ。しかも闇の眷属だった筈が違う存在になったためか闇の魔法が使いにくくなったと来ている。メリットもあったがデメリットもあったな。まあ私の使う魔法は基本的に大体氷だから気にしなくていい」

《85年前余計なことをしれないと思いましたが、気のせいではなかったのですね。私としては以前の術式は精霊として妙な不快感があったので今のお嬢さんがスッキリしていて好ましいものです。ナギ少年にかけられた出鱈目な呪いは気になりますが。ところで近衛門殿、エヴァンジェリンお嬢さんの魔力は強大ですし、魔法先生達からしてみれば残念ながら脅威の的のようなものになりかねませんからなんらかの対策を取るべきだと思うのですがいかかでしょう。因みにその呪いは時間が経てば私が解くことができますのでもしもの時も安心してください》

正直者の精霊を自称していたが真面目に嘘を付いたのは初めてだ。
実際あの呪いも直ぐに解くことができる。
魔分に分解するだけで終わるから。
この後事務的な近衛門との会話を通し、お嬢さんの魔力を麻帆良の防衛結界に利用し、直接戦闘に出るのではなく侵入者の探知を主に行うことになった。
私の存在によって微妙に歴史とずれているが許容範囲内だと思う。
少なくともお嬢さんの麻帆良に対する感情は悪い方に行っていないのだし。
お嬢さんは3年経ったらナギが来て呪いを解いてくれると信じているので、今すぐに解けなくて構わないと言っていた。

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エヴァンジェリンお嬢さんは麻帆良学園都市の桜ヶ丘4丁目の一戸建てログハウスに住むことになった。
しばらくして内装はファンシーな感じになっていてそういうところは意外と楽しんで生活しているようだった。
それぐらいのもてなしはしないとナギの被害者としても妥当なところだと思いたい。
また、チャチャゼロという緑色の髪の毛の身長70センチぐらいの戦闘人形にお目にかかったのだが、「半透明ジャ切リガイガネェナ」などと訳の分からないことを言われた、ご遠慮願いたい。
歴史と異なり彼女が動けるだけの魔力は確保されているのである。
ヒューマノイドインターフェイスに入るのはやめておこう。
お嬢さんに私の入る人形を作ってもらおうかと思っていた計画もあっと言う間にご破算である。
間違いなく切られる。
4人目の対話者がとんだ戦闘狂だったのはなんともいえない。
この年ナギ少年属する赤き翼のメンバーの高畑・T・タカミチ少年が麻帆良学園に通っていたのは余談である。
そしてやってきた平成時代の幕開けである。
この年近衛門に孫娘が誕生し真・お祖父さんに晴れてなったのである。めでたい。
ただ一度孫娘を遠くから観測したのだが歴史通り魔分容量が異常に大きく将来遅かれ早かれ魔法関係に足を踏み込むのは避けられない事態だろうと思う。
エヴァンジェリンお嬢さんも初年度は中学3年の途中からだったので呪いが発動してやり直しになったが許容範囲内だったらしく、改めての中等部の3年間の生活はそれなりに楽しそうに生活していた。
そして見事3年が経過したのだがナギ少年は現れることはなかった。
お嬢さんはナギの安否を心配していたが私としては仮にも2人目の対話者がこのまま心に傷を残してまたやり直しというのはいくらなんでもないと思いこっそり呪いをいじって仲良くなった友人がお嬢さんを忘れないように改変し高等部にも上がってもらうことにした。
これも身長が伸びていなかったら物理的に難しかったかもしれない、あの時の選択は間違っていなかったと言いたい。
そして1993年にナギ少年が京都の赤き翼の拠点で麻帆良学園の研究をして、その後イスタンブールで行方不明になったという噂が入ってきた。
まもなく公式記録でナギ少年は死亡扱いになった。
お嬢さんにはナギ少年が京都にいた事は秘密である。
死亡の知らせについては、近衛門と共に「あれが死んでいるわけがない絶対嵐のように沸いて出ると思う」と言っておいた。
同時に初代学園長の時代から建設された麻帆良湖にある図書館島という島があるがそこに、住み着いたものがいるのを確認した。
アルビレオ・イマことクウネル・サンダースである。
彼は年齢不詳らしいので接触することにした。
図書館島に入るのは建物ができて見に行ったきりもう100年振りぐらいだったが地下施設の広がりが異様だった。
よくこんな無茶な増改築ができたものだと感心する。
アルビレオ・イマは最奥にいるのはわかっていたが、実際に彼の住んでいる場所は随分センスの良い所だった。

《ごきげんよう。私は麻帆良の神木・蟠桃の精霊をやっています。私自身は木の精霊なのでキノとでも呼んでください。あなたは恐らく赤き翼のアルビレオ・イマ殿だとお見受けするのですが、この度は挨拶に参りました》

史上5人目だがあの緑色の見た目が被る人形には丁寧に自己紹介はしなかったからほぼ4人目である。

「風の噂で神木には精霊がいるとは聞いたことがありましたが、本物に会えるとは光栄ですね。私をご存知とは意外ですが、こちらこそ宜しくお願いしますよ」

《自己紹介でここまで落ち着いて反応を返してくれた方はアルビレオ殿が初めてです、私の精霊史上5人目ですが。接触した理由ですがどうも長命な気がしましたので長い付き合いができるかもしれないと思いまして。つかぬことをお伺いしますがイノチノシヘンというアーティファクトは人間でなくても記録できるのですか。何年分保存できるのかも気になるのですが》

彼のアーティファクトの事はもともと知っていたが少なくとも精霊体としての記憶のみなら最初の4千年近くは延々と続く麻帆良の古代の自然の四季とでもいうような気の遠くなるものであり、木の最重要機密の種子や華、自分の発言等危ない記憶に関しては精霊体から切り離して年輪に記録させておけるので読まれてもなんということもないのである。
地味に面白そうだから読み取って欲しいというのが本音である。
ちょっと興味……悪戯心が働いたという事にしておこう。

「随分積極的ですが精霊の記憶を読めるとはまたとない機会ですから試しにやってみましょうか」

本人もどれくらいアーティファクトの効力があるか知らないらしい。
こういうのはやはり実験が肝心だろう。

《よろしくお願いします。大分長いかもしれませんがやってみてください》

アルビレオ・イマはそう返答する早速収集してくれた。
本が無駄に増えた。
凄く。

「驚きましたね、まさか5冊になるとは思いませんでした。何人かいるのですか」

5冊ということは記録可能な年数が1冊千年ということなのか。
エヴァンジェリンお嬢さんもまだ600歳だからこれは初めてなのかもしれない。

《恐らく1冊千年分だと思います。4冊目の400年目は初めてやってきたリョウメンスクナが記録されている筈です。5冊目は890年目あたりから麻帆良の記録が見られると思いますから楽しめるのではないですか。それ以外は美しい大自然の繰り返しですから真面目に見ると精神が壊れるかもしれませんから早送りでもあるなら別ですが気をつけてください》

正直見られて困るほど複雑な交友関係もないし。
ただ彼からの評価が、木がでかい割に引きこもりの小さな精霊というイメージになるだけだろう。

「まさか5千年近い樹齢とはよく今まで無事でしたね」

ごもっともです。
木の皮を被った何かでなければなかなか難しいと思う。

《その点に関しては自然発生した時からのことですから木の潜在能力の高さに驚いてください。どういうつもりかはわかりませんがこの空間に時間停止空間を擬似的に創りだして篭るのであれば暇つぶしにどうぞ。今度また来たときに感想でも聞かせて頂けると良いですね。それでは失礼します》

まあ……彼は色々事情がありすぎるのだが、無理に追求する必要もない。

「随分変わった精霊なのですね、私も当分暇ですから遊びに来てくださって結構ですよ。できれば私がここにいることは言わないでもらえると助かります」

《いえ、今まであなたを含めて五人しか話したことはありませんからまず話す相手もいないですから安心して下さい。寧ろ私の存在も他人に口外しないでもらえると助かります》

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その後1995年になる間にアルビレオ・イマに会いに行ったのだがクウネル・サンダースと呼ぶように言われ、随分気に入っているようだった。
確かに語呂がいいのは認めよう。
でも近衛近衛門よりはまとまりはないと思う。
記録の感想を貰ったが「やはり真面目に見たら自然編は気が遠くなりそうだ」と言っていた。
ただ、やはり歴史的価値は凄いものだそうだ。
価値が凄くても精霊に金銭なんてあっても意味が無いからどうでもいいのだけれど。
エヴァンジェリンお嬢さんのミドルネームのA・Kがアタナシア・キティだと情報を得た。
古い友だと言っていたから昔どこかで会った事があるのだろう。
お嬢さんの方はもうそのまま大学まで上がってもらうことにした。
身長的な問題は体質だということでゴリ押しである。
学部の方はお嬢さんが機械に弱いため文系の芸術系に進んでいった、過去に習得した合気鉄扇術も生かし舞を始めとする日本の文化がかなり気に入ったようだ。
中学生をリピートしないとここまで生き生きするとは思わなかった。
チャチャゼロは現実に戦い足りないのかテレビゲームをしたりと割と引きこもり生活を送っている。
人形だから我慢しろ。
赤き翼のメンバー、最近ではNGO団体悠久の風で活動している高畑・T・タカミチ君が神楽坂明日菜という少女を連れて来て、しばし面倒を見つつ初等部に入学させた。
彼も麻帆良で学生をして落ち着いていた頃もあったがそれでも、その頃からして一般人と比較するとかなり頻繁に外部に出かける事が良くあった。
一方、その少女と言えば、世界の歴史によればその実態は黄昏の姫御子であり……色々あって……というにはそんな簡単な言葉では到底済ませられる規模の話ではないが……いずれにせよ今後なるようにしかならないだろう。
驚いたのは無意識に魔分のアポトーシスを微弱ながら起こしていた事だ。
本人にも魔分許容用の器があるにも関わらず、である。
ある意味木の趣旨と正反対の能力だ。
そもそも1983年の強力な魔力減衰反応は彼女を利用されたものだというのだから当然かも知れない。
タカミチ君は近衛門を通してエヴァンジェリンお嬢さんからダイオラマ魔法級の使用許可を得て修行を本格的に始めたが、確実に老けるからやめておいたほうがいいと思う。
人外ならともかく。
因みにタカミチ君とは接触していない。
近衛門の方はといえば定期的に体内魔分管理はこちらが勝手にこっそり行っているのでボケたりすることもなく徐々に老化は進んでいるが基本的に健康そのものである。
……その後も順調に時が経ち、1999年お嬢さんは大学院に進学した。
学費は学園が全額負担なので悠々自適な生活である。
やっぱりタカミチ君は急速に年齢を重ねている。
君付けで呼んでいる場合ではないかもしれない。
近衛門に言ったらあまりやりすぎるなと言っているがかなり頑固な部分があるのかやめる気配が無いそうだ。
本人が納得しているなら精霊は口を出す訳にもいかないので傍観に徹するのみである。
ここ数年の楽しみは形骸化した武道会の代わりに、平成に入って営利活動が可能になった麻帆良学園祭の異様な盛り上がりである。
いつの間にか巨大な電光掲示板付きの飛行船が飛んだりと科学技術の進歩は凄い。
ある時龍宮神社のお嬢さんに浮遊中に隠蔽していた筈なのだが特殊な目なのか見られたようで、気がつかないふりをして成仏してやった。
因みに彼女は少女ながらNGO団体四音階の組み鈴に所属し、度々世界中の紛争地域で活動しているそうだ。
幼少からNGOに所属とはこの神社は何を祭っているのだろうか。
2000年も終りに近づく頃から近衛門の孫娘の麻帆良学園の女子中等部への進学が決まり準備が始まったが、どうやら神楽坂明日菜と同居することになるらしい。
近衛門に孫娘の魔力の器を一般的な水準にすることもできると言っておいたが、その話は保留ということになった。
この話をした時点である意味個人の魔力の器を好き勝手弄ることができると公言したようなものなのだが、近衛門が言いふらすことはないだろう。
割と最近はいたずらする事に目覚めているが、少なくとも近衛門が木に対して不利になるような行動を取ったことは一度もないのだ。
知らない人から見れば何故か女子中等部に存在する学園長室にいる、等と不名誉な噂もあるようだが、近衛門自身今更年齢的にも気にしていないし、初代学園長が残した唯一の初期建築失敗の証拠なのだから壊すのは忍びない。
数年前にエヴァンジェリンお嬢さんに女子中等部でお前と同じような幽霊を見たと言われた。
いや、私は幽霊ではないと何度いったらわかってもらえるのか、世界の歴史の知識から彼女たちが、人外魔境の巣窟のようなクラスに一同に集まることになるのはほぼ間違いない。
恐らく相坂さよが実体を持って中等部に同時に入学しても別に問題はないのではないだろうか。
気がつけば彼女はもう60年も幽霊家業をやっている訳で、例の芸はこれ以上極める必要もないぐらい達人の地縛霊になっていた。
しかも精神年齢は永遠の15歳というリアクションをしており以前気にかけていた時よりも更に悲しげな表情を見せるようになっていたのでいつか果たそうと思っていた同じ霊体の誼を実行に移すに至ったのである。

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某日、麻帆良学園女子中等部放課後を過ぎ、生徒たちが皆寮に戻り始めて彼女が一人になったとき接触を試みた。

《今晩は、私は麻帆良の神木・蟠桃の精霊をやっています。木の精霊なのでキノとでも呼んでください。相坂さよお嬢さんですね、お話があるのですが聞いてもらえるでしょうか》

正直今まで散々放置していたから罪悪感が凄いが、久しぶりに感情抑制を使って落ち着いて対応する。
この名乗り方も定着してきたが未だ6人目である上に、相手は正真正銘の幽霊である。

《こ、こ、こんばんは、まさか私に気づける人がいるとは思いませんでした。地縛霊になってから今まで見えていそうな人もいたけど誰も話し相手にはなってくれなかったので嬉しいです》

霊体同士の会話はなんか微妙だ。
いや、申し訳ないが人外の生命体なので。
とにかく話せる相手がいて単純に嬉しいらしい。
霊体の思いは意外と真っ直ぐ伝わってくるが自分もそうだったのだろうか。
そんなに黒い事は考えていないから大丈夫だろう。

《そう素直に言ってもらえると助かります。単刀直入に言うと、お嬢さんには来年度にこの女子中等部一年生に入学して頂こうと思っており、魂の入っていない完璧な身体に入ってもらおうと考えています。その際私自身の機密に触れる部分があるので魂に強力な制約をかけて情報を外部に漏らさないように刷り込みをかけることになるのですがいかがでしょうか。場合によってはもしもの時のために私を手伝って頂くことになるかもしれませんが》

そう、5000年もかけて待ち望んだ火星人の到着も近く、計画のために独立で動ける霊体の仲間が入れば心強いのである。
どう見てもこのお嬢さんは気弱な感じであり、霊体生活も長いため人間の俗物的欲望もかなり薄いであろうから人材、もとい霊材としてはなかなかの逸材である。
丁度いたからという本音が無いとはいえないが。

《あの、私もう一度人間になれるんですか。このままいつか成仏するのだと思っていました。こんな機会をくれるなんて嬉しいです。ありがとうございますキノさん。お願いします》

成仏できない原因を自覚していなかった。
前世の記憶があいまいだから死ぬ直前の強い思いがはっきりとわからない限り強制的に除霊される以外は成仏できないのですよ。
それはともかく、精霊史上二人目の女性は凄く良い性格でした。
エヴァンジェリンお嬢さんが強烈だっただけかもしれないが。
あれ、チャチャゼロって女性だった気がするが、気のせいだな。

《許可が得られたのでまずは相坂さよさんを地縛霊から精霊に完全に改変させて頂きます。痛みは霊体ですからありませんので安心して下さい》

まずは局所的な土地から開放することであるが浮遊霊に格上げしても木には入れないのでいっそ精霊になってもらうことにした。
ファンタジア、シンフォニアな物語も元人類から精霊へと大体こんな感じではなかっただろうか。
魂の情報を解析し魔分で地縛霊に関するものだけを上書きする。
久しぶりにフル活用する有機コンピューターであるがなまったりはしない。
魔分で情報改変というのも不思議粒子が為せる神秘の一つだろう。
彼女が魔法世界産の幽霊だったら難しかったかもしれないが地球産の幽霊なら問題はない。

《全工程終了しました。続いて精霊体としての運動パターンの最適化を行ないます》

発言が機械のオペレーションみたいでアレだがノリは大事だと思う。
5000年かけて研磨されたプロの精霊の動きをインストールする訳だ。

《ようこそ精霊の世界へ、相坂さよ。まずは木の内部に戻るので付いてきて下さいね》

同じ精霊になったのだからお嬢さんとかそういった概念は既に意味を持たないのであるから呼び方はこれでいい。

《本当にありがとうございます。凄く身体が軽くなったような気がします。あ、待ってくださーい》

まだ人間の身体を得ていないというに、まだ感謝するのは早いのではないだろうか。

《空を飛べるようになったのを喜ぶのは後にしてもらえるでしょうか。幽霊よりも精霊の方がこの地は見えやすいようなので》

そんなこんな初めての試みに割と緊張したプロの精霊(笑)と新人精霊少女の邂逅であった。

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相坂さよも無事に人目につくこともなく木と同化できて一安心だ。

《無事木と同化できたようで安心しました。まさか木の中がこんなふうになっているとは思わなかったでしょう。まだ、約束通り制約をかけていないのでその処理をします》

はっきり説明したことはなかったかもしれないが00な感じの量子演算装置の空間を想定してもらえればいいと言って伝わるだろうか。
とはいっても木の中が空洞になっている訳ではなく、ここも亜空間なのであるが。

《はい、とても驚きました。木の内部がこんなに植物とは思えないような空間が広がっているなんて誰かが知ったら大変ですねー。あ、私が知ってしまいました。そうでした、制約でしたっけ。どうぞお願いします》

そんなに妙な気合入れられても困るのだが。
テンション上がりっぱなしの精霊少女は元気でした。
魂に制約といったものの単純にアクセス権限に許可を必要とするもので、ああ言ったのは木の内部がコンピューターになっているなどとは実際に見なければわからないからである。
実際、機密情報に関する発言をしようとするとどうなるかと言えば、強制的に防止措置が即座に作動して、情報を知らないという状態で会話をすることになるのである。
試しに以前自分にかけてエヴァンジェリンお嬢さんに機密情報を話そうとしたのだが当たり障りの無い会話に自動的に変換されるという便利仕様だった。
記憶の選択除外ができるのだから当然といえば当然かもしれないが。
等と言っているうちに無事に完了したようだ。

《無事に終りました。制約と言いましたが私を上位アクセス権の保持者として相坂さよは下位アクセス権があります。こちらで権限に関しては取捨選択しておいたのでこの木の記録に関して閲覧できる情報は自由に見て構いません。また基本的に木の有機コンピューターによるバックアップを受ける事になるので計算能力を始めとする演算能力は恐らく世界最高になっています。但し、人格に関しては影響がほぼ皆無ですので会話が上手くなるといったその辺りは保証対象外です。最重要機密に関して近いうちに明かす事になるかもしれませんから楽しみに待っていて下さい。続いて約束通り、入る身体を見せるので下層に降りていくので付いてきてください》

有機コンピューターの割にはいつも引きこもってばかりで数学の問題を解いたことがあるわけでもないが恐らくその辺りは間違いない。
実際観測を行ったりしている時点で証明されているだろう。
魔分という不思議粒子を精製している癖に科学的というのも、一体何なのかと考えだすと碌なことにならないので気にしないのが良い。
例の死体安置所的な場所には降りると言っても精霊体で貫通するだけだ。

《うわー、なんですかこれは。キノさんの死体がいっぱいあります。あれ、あっちに私によく似た身体がありますね》

ちょっと待て。
最初のは死体なのに自分のは身体とはっきり言い直しているんだ、既に一回死人だったろうに。

《死体ではありませんよ。正式名称は対人間用ヒューマノイドインターフェイスです。別に人類と戦争するわけではないので勘違いしないで下さい。私自身は都合があって一度もこれらを使ったことはありません。相坂さよには既に専用にカスタマイズしたものを用意したあちらのものを使ってもらいます。何故既に用意しているか先に説明しておきましょう。まず相坂さよ、あなたが1940年に高等女学校で連続殺人事件に巻き込まれてから地縛霊になっていたのは知っていました。その点については後で木の観測の歴史を見ればわかると思います。今言いましたが、私はあなたを助けようと思えばいつでも助けられたのですが、今まで60年間見て見ぬ振りをしていたことになるのです。その点は謝らせてください》

遅かれ早かればれることなので正直者の精霊は言うべきことは言っておこう。
実際地縛霊になったのはこちらの責任ではないのだけれど、やはり助けられる設備がありながら見過ごすというのは揺れるものがあったな。

《謝る必要ないです、キノさん、長い間一人だったけど今こうして助けてくれたので感謝してます。キノさんは凄い精霊なのに私をフルネームで呼んでくれますがこれからは私の事はサヨと呼んでください。ほら、私ももう精霊なんですよね?》

彼女が怒らないのは最初から予想できたことだが、精霊になると名前がカタカナになるなんて知らない。
まあそういうルールにしておこうか。
お互い二文字で分かりやすいし。

《ありがとうございます、サヨ。これからよろしくお願いします。私のこともキノとそのまま呼んでくれて結構です。早速身体に入ってみてください。思う通りに身体を動かすことができると思いますよ。ただ、一度身体に入って木から出た身体は人間と同じように生体活動が起きますから水分や食事というのも必要になります。身体から出て精霊体になることもできますが、身体の状態には気をつけてください。木からのバックアップがあるので情報は逐一確認できるのでもしもということは殆どないと思いますが。とりあえずこの空間では好きなように動いても問題ないです》

因みに服は彼女の生前の物そのものをトレースしてあるから制服を用意する必要があるな。
自動でトレースしておいて驚いたが、当時の女学生はドロワーズを履いていたようだ。まさに生ける化石である。
図書館島の司書にこの話をしたら面倒な反応が帰ってきそうだが。

《凄いですね、違和感が全くありません。これならすぐにでも生活できそうです。身体を用意してくれてありがとうございます、キノ》

《サヨは護身術を習った事はないと思いますが私が昔合気柔術を記憶したことがあるので、恐らく問題なく使えると思いますよ。まあ大分古い型ですが。私は今から近衛門、学園長の所と恐らくエヴァンジェリンお嬢さんの所に寄って話をしてくるので身体に入ったまま木から出ずに適当に過ごしていてください》

これからはある程度各精霊のユーザー設定をしたほうが良いだろう……か。
少なくとも純粋な元人間のサヨの場合プライバシーもあるだろうからその方が……まあ5000年生きている私はそういうのはもう割とどうでもいいのだが。



[21907] 2話 火星少女地球に立つ。精霊(笑)少女相坂さよ始まります。
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/02/14 00:43
近衛門に相坂さよを精霊化して入るべき身体を用意してあると言ったら驚いていたが、あまり深く追求してくれなくて助かった。
サヨの戸籍や寮の部屋は上手く用意してくれるらしい。
エヴァンジェリンお嬢さんは今年で大学院も卒業である。
そこで来年度からもう一度だけ女子中学に入ってもらうように頼んでおいたが、怪訝な顔をしながらも「久しぶりに自分より身長の低い奴らを見られるのは悪くない」等と正直よくわからないことにこだわりを見せたが了承してくれた。
同時に例の地縛霊の問題が解決して彼女も通学することになる旨を伝えておいた。
身体をどう用意したのかといったことは近衛門との口裏合わせでごまかしておいた。
実はもう殆ど登校地獄の呪いは残っていないのでお嬢さんの意思次第なのであるが、麻帆良の地に対する印象はかなり良いらしくまだ残ってくれている。
ただ残念ながら新たに入るクラスは人外魔境になる予定なので身長がやたら高い中学生に遭遇すると思うが。
近衛門にもこの件を話しておいたが、同じことを考えていたらしい。
歴史というのは大したものだ。

それから明けて2001年。
待ちに待った火星人の来訪である。
紀元前から長い時をかけて修正してきた甲斐がやっと実るのだろうか。
今更といったところであるが、エヴァンジェリンお嬢さんとの最初の出会いの際に世界の歴史にはどういう配慮か個人名がはっきりしないということであったが、対象となる人物と関係のある人物から芋づる式に名前もわかるようになっている。
例としてアルビレオ・イマに関する情報は、ナギ・スプリングフィールドを確認した段階ではっきりしたため、イノチノシヘンのようなあらかじめ知っていなければ話題に出せないことについても聞くことができたのである。
さて、火星人、火星人と呼んでいたが、小学生の頃から天才的頭脳を発揮し麻帆良大学工学部に研究室を借りている研究一筋の葉加瀬聡美、彼女の中学の経歴ではっきり関係のあるのは火星人、エヴァンジェリンお嬢さん、茶々丸が殆どなのである。
彼女の名誉の為に言っておくと工学部の中ではとても有名人であり知らない人はいない。
長くなったが、火星人の名前がめでたくわかったところで珍しく本気を出して解説しておこう。

火星人、火星少女の本名超鈴音、発音でチャオ・リンシェン。
能力は非常に高く、勉強、スポーツ、料理を始めとしてできないことを上げたほうが早いであろう無敵超人。
麻帆良最強頭脳と呼ばれ、勉強の成績も前述の葉加瀬聡美を抑え常に学年1位。
100年先の未来の科学技術を駆使し、マッドサイエンティストでもある。
多くの研究会、お料理研究会、中国武術研究会、ロボット工学研究会、東洋医学研究会、生物工学研究会、量子力学研究会に所属し中でも東洋医学研究会では会長の任も務める。
目標は「世界征服」であり嫌いな物は戦争、憎悪の連鎖、大国による世界の一極支配である。
行動の異端さから学園の魔法先生からは危険人物として協力者の葉加瀬聡美と共に目をつけられた。
移動中華屋台「超包子」のオーナーであり、資金力も非常に高く計画のために2003年の学園祭に向けてM&Aを行った。
挙げていくとまだまだと言ったところだが、極めつけはカシオペアという航時機による時間跳躍や、本人の肉体と魂を代償に行使可能になる呪紋回路が体表に刻まれているということが挙げられる。
魔法の始動キーの意味は「我、魔法を使う最後の魔法使い」である。
最後に、本人すら与り知らぬ情報として彼女の計画が失敗しカシオペアで未来に帰ったとき反動で死亡したというものがある。

尚、跳んできた地球側からすると彼女の経歴は一切不明であるが、世界の歴史によると知能や運動能力が高いのは、元々天才であるのに加えて大量の情報を脳に直接転写しているからである。
普通に考えて13歳の少女がいくら天才であってもこれほど膨大な知識を備えるのは時間的に無理である。
航時機を始めとする情報機器を持ってきてはいるが、使いこなすのにも理解が必要なのであるから間違いない。
肉体的時間が停止できるダイオラマ魔法球なんてものがあったとしてもそこに篭って学習することは不可能ではないだろうが難しいだろう。
あのマジックアイテムには魔分が必要であるため枯渇した火星では魔法球内の魔分が減衰していってしまい、いずれは魔法球としての効力を失うためである。
火星に僅かに残った魔分は航時機による過去に時間跳躍に殆どが使用される筈である。
そのためにわざわざ呪紋回路まで刻んでいるのだから。

私が今まで準備してきたことは彼女の時間軸の過去からの上書きであり2001年になった今彼女の時間跳躍の結果と重なったという訳である。

火星少女の目的の中には魔法を保護するということは恐らくないと思われるが、魔法世界と火星の関係から魔法に対して恨みに近いものを感じていてもおかしくはないのであろう。
対して私の目的は実際魔法を保護というより、魔法が行使できなくなる原因そのものを阻止することであるので究極的には、地球で使えなくなっても構わないし、華の宇宙船がある時点で更に別の惑星を探しても構わないと言えるのである。
とはいっても地球で長いこと使われ続けることができるのならばそれに越したことはない。
数十年前にも述べたが、華の中で育てていた若木は既に千年が経過し火星でも間違いなく上手くテラフォーミングが可能だ。
ただ、物理的介入は魔法世界だけの問題ではなく地球の無人探査機等の存在もあり有機的宇宙船があるなどとバレれば日本が争いの火種に巻き込まれるのは避けられないだろう。
そういう意味では100年先の技術力を駆使し超鈴音の世界征服というのは是非やってもらいたいものである。

こちらの正史からすれば魔法を公表するということは立派な魔法使いにとってはタブーであり、近衛門と敵対することになると思うと裏切るようでなんとも言えない。
木の最終手段としてあまねく地球に散布された魔分を活用して「魔法はあって当然だ」という強制認識を地球人類にかけることもできるのであるが、これは正しくは強制認識ではなく完全に情報の上書きである。
ただ、地球人類にしか効果がなく、例によって魔法世界には効果がないので、確実に違和感が発生してしまうであろうし、最悪木を物理的に切られかねない。
魔分を利用している術に関してはこちらの完全支配下に置いて無効化できるが、京都神鳴流のような気を利用した危険な技は瞬動で木ごと飛んでいくことはできないので天敵である。
魔法障壁を張ることはできるだろうがジリ貧になるだろう。
こちらから打って出るのも不可能ではないがこの地球には核という手段があるので爆破されて終わりである。
また、そんな事になる前に魔法は必要ないという意思を持った認識阻害の効かない一般人達が表で運動を起こして以下同様ということもあるかもしれない。
5000年前に要望した能力は確かに万能に近いが完璧ではないので木という立場上イマイチ使いにくい。
華で飛んでいってしまいたい。

精霊としての立場に関係なく、5000年前から個人的な願いではあるが火星少女の死は回避したいということぐらい我侭を通したて叶えても良いだろう。
それぐらいは役得ということで許して欲しい。
5000年の間助けようと思えば助けられた命に。

サヨが超鈴音と同じ部屋になればサヨを介して交渉を行うことも可能になるのだが果たして上手くいくだろうか。
超鈴音に興味があるのでと言って近衛門にサヨを同じ部屋にしてもらおうか。
頼んでおこう。
火星少女の歴史の記憶からすれば相坂さよが肉体を持って活動しているのは確実に何かが起きていると思うのは間違いないのだから、遅かれ早かれ接触してくるであろうし、どちらかというと早い方がいい。

少なくとも超鈴音が万能能力で葉加瀬とエヴァンジェリンお嬢さんとの協力、歴史と異なりチャチャゼロが稼働しているが予め、以前からたまに精霊のお告げと称していたのを利用し新たな従者ができる機会について伝えておいたのでなんとかなると思うが、恐らくあっと言う間に茶々丸が完成するだろう。
エヴァンジェリンお嬢さんのドール契約方式とやらが必要な技術なので恐らく超鈴音の方から接触があると思うが。

火星少女が中学の始まる三ヶ月の間にどれほど地盤を固めるのか見させてもらおう。
お手並み拝見である。
もし私も対等な人間であれば彼女の方が自分よりハイスペックなのは間違いないからあまり偉そうには言えないが。

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観測した結果火星少女は学校が始まるまでに驚くべき過密スケジュールで、何らかのハッキングをかけたのか戸籍を用意し女子中等部への入学手続きを済ませてから、世界の歴史通りに大学のあちこちの研究会に殴りこみをかけ、必ず成果を残し人脈を広げていった。
あまりに活動が派手なものだから経歴不詳も相まって魔法先生から危険視され始めるのも時間の問題だった。
超包子を開店する資金源は未来からある程度レアメタル等を持ってきたのではないだろうか、勿論使い道は工学部の研究開発費などにも回っていくだろうが。
しっかりエヴァンジェリンお嬢さんと葉加瀬と共に接触し茶々丸の作成に取り掛かった。
その際チャチャゼロが稼働していることに疑問を持ったと思われる。
程なくして学園の結界が違う事にも気付くのではないだろうか。
混乱させて悪いが頑張れ。

今回本当にロボットが必要なのかどうかは怪しいが戦力はあったほうがいい。
なんといっても強制時間跳躍弾は血を流さずに相手を無力化し続けることができるので魔分が必要だとしてもいざとなったら木から供給できるからかなり理想的な武装だろう。

サヨの入居する女子寮の部屋であるが近衛門に頼んだ通り3人部屋になったのである。
女子寮は基本的に2人部屋であったが無理やりねじ込んだ訳だ。
権力は凄い。

そう、サヨであるが3ヶ月の間何をしていたのかといえば、始めは何よりも木内部のSFの未来的空間を満喫しており、麻帆良学園創設からの発展の記録などを見て楽しんでいた。
現クウネルも形骸化する前の麻帆良武道会を筆頭にかなり楽しかったと言っていたから予想どおりといえば予想どおりだが、サヨの場合は自分で通っていたこともあって思い入れがあったようだ。
相坂さよの生前の記憶はあまり残っていなかったが、両親の墓を探し出し精霊体で飛んでいって墓参りをしに行っていた。
その後は私から木の精霊としての役目についてかなり真面目に話した。
何も知らせずに火星少女の元に投げ入れるような真似は流石にしない。
魔分の精製に関するアクセス権を許可して見せたが、これが何なのかを理解してくれたところ、幽霊だったときに魔法を見たことがありましたと言っていた。
60年もいれば見たことがあってもおかしくはなかったから成程といったところで話が早くて済んで助かった。
私が観測していた超鈴音の目的を世界の歴史をぼかしながら予想として伝え、サヨ自身は魔法使いではないので秘匿に関しては無頓着であり世界に公表するといっても、「大変そうですねー、世界征服ですかー」等とコメントを頂いた。
意外に精霊には向いているかもしれない。
少なくとも、超鈴音の同じ部屋になったら彼女の開く店で働いたりするといいと勧めておいた。
会計、注文処理はバックアップで完璧だろうから。
しかも、かなり羽振りがよく時給も高いであろうし、近衛門にねじ込んで貰っているのだからそう言うのも悪くないだろう。
何にせよ人間の体で好きなように平成の世を楽しむと良い。
昔から読んでいた漫画や雑誌は精霊体でも相変わらず夜に書店に潜り込んで読んだりしているらしい。
幽霊の頃の癖は抜けないだろう。
本当にでかい木の精霊の癖に二人して色々小さかった。

魔法の秘匿だが歴史ではエヴァンジェリンお嬢さんはどちらでも構わないという立場を取っていたとされるが茶々丸の作成で、ある程度超鈴音の計画を聞いているだろう。
重大な発表であるが、今までお嬢さんのプライバシー云々で彼女の状態を精査したことはなかったのだが、今後少なくとも敵対関係になっては困るため、念入りに吸血鬼ではない何か別の存在について精査した結果がでたのである。
実は本当に微弱ながらも木から自動的にパスが通っており一部精霊化していた。
5パーセント前後の影響は大したことはないと思うかもしれないが、地球の魔分生産を一手に引き受けている木と少しリンクがあるだけでも不老不死である。
なんとなく成長した理由がわかったのだが、3~4年お嬢さんは魔法世界に行っていたのではないだろうか。
本人も変化が起きた原因をはっきりとわかっておらず、とにかく成長できて良かったと思っているだけであるから魔法世界に行った分徐々に気がつかないうちに80年の間成長したということなのだろう。
因みに木に対するアクセス権は100%精霊でないと発現しないので情報は一切漏れていない。

それと唐突だが長谷川千雨という麻帆良女子中等部に入学に当たって麻帆良にやってきた彼女は認識阻害の効かない故ウィリアム氏と同じ体質だった。
因みに血縁関係はなかった。
認識阻害が効かないと強烈なやつをやることになるが、それをやると人権的に問題があるし、麻帆良の異常性を感じられるという存在もまた異常ということで頑張ってもらうしかない。

……常々観測している割には真面目に結果を確認せず、日々を眺めていただけだったのだが火星少女もお出ましだしこれを期にニート精霊から働く精霊をやろうかと思う。
サヨもいることだし、しばらく完全に木と一体化しよう。
後は頼んだ精霊少女。頑張れ。

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えー皆さんこんにちは私は元人間、元地縛霊で今精霊でありながら人間に戻ったような相坂さよです。
ややこしいです。
キノが真面目に働くと訳の分からない事を言っていたので私もこうして頑張ることになりました。

何を頑張らないといけないかと言えば人間だった時にできなかった友達を作ることです。
キノの観測情報からある程度の命令のつもりなのでしょうが、いつも丁寧なのでお願いにしか聞こえません。
とにかく私は経歴不詳のここ三ヶ月で有名になった超鈴音さんと葉加瀬聡美さんと同じ女子寮に入ることになったので今引越しの作業中なのです。
実は当初の予定だとエヴァンジェリンさんのところに住まわせてもらう予定もあったらしいのですが私の身体はどちらかというと組成が魔法よりなので女子寮に住んだ方がいいんだそうです。
今かなり緊張しているのですが、キノから幽霊でしたが復活しましたと自己紹介するといいと言われたのが原因です。
冗談のつもりなのでしょうか。
超鈴音さんは未来人だろうということなので先方は知っているからそのほうが打ち解けられるだろうということらしいです。
葉加瀬聡美さんには幽霊だったと言ったら冷たい反応をされると思うと言われましたが、彼女の情報からして私からみてもそう思います。
ただ、彼女が計算している時に精霊のズルをして解けば興味を持ってくれるかもしれません。
頑張ります。

そう言っている内に女子寮についてしまいました。
ま、まだ建物の前なのですが、相変わらず麻帆良はなんでも規模が凄いです。
確かに女子中学だけで一学年700人超ですから三学年合わせれば2000人を越えてなおかつ中学からは全寮制なのですから当然かも知れません。
私の60年前のおぼろげな記憶ではこの寮はなかったと思います。
わくわくします。
中も期待出来るはずです。

ロビーも広いですね。
他の皆さんも続々と入っています。
私は6階の部屋になりました。
麻帆良女子中等部は一度クラスが決定すると三学年ずっと同じ教室を使うのですが、それは女子寮も同じなんだそうです。
よほど問題がない限り原則部屋は三年間一緒なんですね。

今のところ話したことがあるのはキノと戸籍などを便宜して下さった学園長先生と必要なものを買う時に店員さんと少しやりとりをした程度しかまだ会話していないのでまた緊張してきました。

いよいよ部屋に到着しました。
あえて少し遅めに来たので先に同室の二人は入っていると思います。
観測してしまえばわかることですがいちいちそんなことをしていてはせっかくの人間なのに勿体無いのでやりません。

あ、ドアに鍵がかかっていません、ドアノブを回します。緊張の一瞬です。

あわわっ!

「きゃっ」

痛いです……転んでしまいました。
幽霊の時もよく転んだことがあるのですが治っていないようです。

「入ってくると同時に転ぶなんて初めて見たネ。大丈夫か」

顔を上げるとそこには頭にお団子をした中華風の少女がいました。
間違いありません、超鈴音さんです。

「あ、はい、大丈夫です。みっともないところを見せてしまいました。そうだ、わ、私幽霊でしたが復活しました!相坂さよと言います、同じ部屋になったのでよろしくお願いします」

ちゃんと言えました。
いえ、言えてよかったのかな。

「何か今変なこと聞こえた気がするが私は超鈴音だ。よろしく相坂サン」

幽霊発言はなかったことにされました。
キノ、言っている事が違うじゃないですか。
引きこもりに従ったのが間違いでした。
しかし精霊は正直者という教えがあります、ここで引くわけには行きません。

「聞き間違いじゃないです。幽霊でしたが復活しました!」

何度でも言います。
分かってくれるまでは。

「そんなに強く言わなくても聞こえてるからいいヨ。私も火星人だから気にしなくていいネ」

幽霊と火星人は似たようなものらしいです。
未来人とは聞いていましたが火星人だったとは思いませんでした。
後で報告します。

「わかってもらえて良かったです。私も火星人でも気にしません。ところでもう一人部屋にいらっしゃらないんですか。三人部屋だと聞いていたんですが」

葉加瀬聡美さんがいないんです。
大学の研究室かもしれません。
何か凄いロボットを作っているらしいです。

「もう一人はハカセだが、ハカセは今大学の研究室に泊まりこみしているから帰てこないかもしれないネ。会った時に挨拶するといいヨ」

やはり研究室だったようです。
とにかくこうしてしっかり自己紹介もできて超鈴音さんとの邂逅を終えたのでした。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

サヨに頑張ってもらったが、まさか精霊は正直者の理論で二回も幽霊であるのを主張するとは思わなかった。
やり遂げたという様子で超鈴音さんは火星人でしたと報告してきた。
よくやったと思います、本当に。
私自身が会いに行ったら恐らく人外の言い合いとかにならないだろうからある意味事実である。
超鈴音が火星人だと会ってすぐ火星人だと暴露して来たが信じようが信じまいが関係ないからといったところだろうか。
私は私で女子寮の魔法先生による監視体制の観測をしているが例年と変わらないようだ。
監視体制といってもただの警備システムなのだが。
流石に盗聴を平然と行う等ということはない。
危険人物扱いしているのもまだ一部の敏感な人だけなのだろう。
引き続き頑張れ。
今度は精霊体で超鈴音に一時的に憑依してもらったりして幽霊だったことを証明すると面白いかもしれない。
真面目に仕事するってこういうのとは違うが。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

学校が始まるのは3日後なのですが、超鈴音さんが出かけていってしまったので私は寮の部屋でゆっくりしつつ、ベッドの上に身体を残したまま最大隠蔽モードの精霊体で麻帆良大学工学部の葉加瀬聡美さんの研究室に行ってみることにしました。

大学は中学とは違ってかなり近代的建物が多く工学部のある一番高い建物は30階近くあります。
そういう訳で来たもののどこに葉加瀬聡美さんの研究室があるのかわかりません。
失敗しました。
観測をするしかないようです。
なんだかんだであまり人間の身体で活動していません。
60年も精神体だったので意外とこっちの方が慣れているというか便利なんですよね。
本当に人間離れしたなと思います。

無事研究室が見つかりました。
なんとさっき別れたばかりの超鈴音さんもいました。
何やら緑色の髪をした耳の所にアンテナのような機械のついた、ガイノイドと呼ぶらしいですがどうやら今日が初めて起動する日のようです。
超鈴音さんが葉加瀬聡美さんらしき人と話しているのですがものすごく早口で会話しています。
いわゆるマッドサイエンティストというものなのでしょうか。

あ、目をあけました、凄いです。
関節などは機械だということがよく分かりますが造形は人間にそっくりですね。
ガイノイドさんの名前は茶々丸さんというそうです、なんだか変わった名前です。
あれ、エヴァンジェリンさんが名付け親だそうです。
キノは時々彼女の所に行って話をすることがあると言っていました。
私も仲良く出来るといいなと思います。

茶々丸さんが最大隠蔽モードの筈にも関わらずこちらを見ているような気がするのですがばれているのでしょうか。
超鈴音さんにはばれていないようですが。

うーん、どうしましょう。大変です。
あ、キノから通信です、え、隠蔽モード解除していいんですか。
確かに権限も降りてきましたが。
こうなったら超鈴音さんに幽霊で復活したことを証明するいい機会ですし頑張ります。

《す、すいませーん超さん、追いかけてきてしまいました。どうやら茶々丸さんが私に気づいているようで隠す必要ないと思ったので、このとおりさっきの発言は嘘ではないと信じてもらえましたか》

「……あ、相坂サン。本当に幽霊だったのカ。驚いたナ」

超鈴音さんが驚いています。
葉加瀬さんも何か変なものを見たような目で見ています。
同じ部屋なので仲良くしてください。

「超さん、彼女は一体誰ですか、幽霊なんて本当にいるものなんですか」

「超、ハカセ、彼女は幽霊ではありえません。私に幽霊を探知する機能はついていません。幽霊とは違う何かです」

消去法で幽霊を否定されました。
これってかなりマズくないですか。
でも権限が降りたままなので好きにしていいということなのでしょう。

《驚かせてごめんなさい。葉加瀬聡美さん初めまして、女子寮で同じ部屋になった相坂さよといいます。茶々丸さんも初めまして。よろしくお願いします。幽霊ではないということでしたが、元幽霊だったのは本当なんです。調べてくれればわかると思います》

精霊という発言は流石にやめておきました。
キノに迷惑をかけるのは早いですし。
うまくごまかして発言できたと思います。

「よ、よろしくお願いします相坂さん。正直科学に魂を売ったものとしては信じられないですが、その半透明なまま一緒に生活するんですか」

「相坂サン、エヴァンジェリンも呼んであるからもう来るとおもうがいいカ」

《女子寮に身体を置いてきたのでこのままということはないです。今は信じられなくてもいいですけどいつか信じてもらえると嬉しいです。エヴァンジェリンさんにはまだお話ししたことがないので構いません》

多分、いいよね。

それから間もなくエヴァンジェリンさんもやってきたのですが…

「なんで幽霊がここにいるんだ。茶々丸が生まれたと聞いてきたのだが。いや待て、お前昔見たことがあるな。確かあれは……」

えー、昔エヴァンジェリンさん私のこと見えてたんですか。
話しかけて欲しかったです。

《12年前から9年前に女子中等部のA組のクラスです。エヴァンジェリンさん、相坂さよです覚えていませんか。つい最近身体を貰ったのですが今は置いてきてしまいました》

「ああ、あの時の地縛霊か。そうだ前翠色の幽霊が言っていたのはお前の事だったのか。せっかく身体を得たのになんでまた浮遊しているんだ」

《すいません、随分長いこと幽霊やっているので慣れてしまっているだけです》

「エヴァンジェリン、茶々丸が相坂サンは幽霊とは違う何かだと言ているがどいうことかわかるカ。今日は茶々丸の起動日なのに幽霊事件とはネ」

「マスター、初めまして私は絡繰茶々丸です。ドール契約をして頂きありがとうございます。私には幽霊を探知する機能はないので相坂さんは違う何かだと思います」

「茶々丸、これからよろしく頼むぞ。よく相坂さよが幽霊じゃないとわかったな。幽霊でないとするとこいつは翠色と同じなのだろう。地縛霊から昇格という割には出世しすぎじゃないのか。あいつもじじぃもよくやるよ」

エヴァンジェリンさんは一度も精霊という言葉を使っていません。
ただキノの扱いが意外と酷いですが。

《エヴァンジェリンさん、正解です。お二人に助けてもらいました》

「私もハカセじゃないが予想外の出来事で少し疲れたヨ」

こうして一度に4人も知り合いが増えて私は嬉しいです。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

一時はどうなるかと思ったが、サヨならもうなんとかなるといった感じだな。
なんだかんだでまだ精霊ということがバレている訳ではないし。
あとエヴァンジェリンお嬢さんは精霊の事をうまく隠してくれていたが、幽霊ネタが役に立つこともあるようで世の中どう転ぶかわからないものだ。
超鈴音にはいずれバラさなければならないから時期を選べるようになったというところか。
感謝しよう。
さて、仕事を続けよう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

超鈴音さんに会ってすぐに私が幽霊状態を披露してから3日。
入学式を終えて、1-Aの教室で今自己紹介という名の事故紹介が起きています。
こんなことになるなんて思いませんでした。

学校が始まるまでの3日は葉加瀬さんと仲良くなるために邪魔にならないように精霊体で研究中の資料を見たりして計算している機会があったのでズルをして手伝ったら計算速度に驚いて、たまに手伝ってくれると助かりますと言ってくれました。
この辺りは予想どおりでした。
あれ、あんまり身体使ってないかな……。

超鈴音さんは、二日目に真剣な顔付きで仲間にならないかと誘われました。
この点はキノも予想外だったらしく随分早かったが別に問題はないしむしろ好都合だから頑張れと言っていました。
学園の監視が今のうちは緩いからもう精霊の事を話して構わないとも言っていました。
超鈴音さんの魔法の事を世間に公表するという話など大体キノの予想通りでしたが、協力しますと答えて自分が幽霊ではなく神木・蟠桃の精霊になっていることを明かしました。
それを言った瞬間超鈴音さんは神木に精霊がいたなんてと目を丸くして驚いてましたね。
続いて火星人というのは事実で、しかも未来人だと明かしてくれました。
キノの予想は当たっていたんですね。
調子に乗って精霊の説明をしようとしたのですが、例の防止装置がかかり当たり障りのない会話になってしまいました。
まだこの辺はダメということらしいです。
キノからはあまり急ぐ必要はないから精霊なんだよーぐらいでまだ済まして置けばいいと通信を受けました。

問題は今の状況です。
正しく自己紹介をしたところ高畑先生が、質問があったら聞くといいと言った矢先、朝倉和美さんという人がいるのですが、何か面白い物を見つけたような顔をして

「相坂さんは生き返ったんですか!」

と言われたんです。
何故かキノから珍しく爆笑する声が聞こえてきたのですがそんなのを相手にしている場合ではありません。
高畑先生も実は学園長先生から話を聞かされていないのか物凄く驚いていました。
翆色とお爺さんの評価が下がりました。
教室の中が完全にうすら寒い状態なんですがどうしてくれるんでしょうか。
こうなったら正直者の精霊の意地を通します。

「あ、あの、私生き返りました!」

せっかく勇気を出して本当の事を言ったのに聞いてきた本人も微妙に引いているんですが。
空気が完全に死んでいます。
相変わらず耳障りな笑い声が聞こえてくるので切断しました。
凄くショックです。
事故紹介でした。

「せ、先生までそんな顔しないで下さい。差別は良くないと思います」

と、キラーパスをぶつけてやりました。
これでもくらえ!

「あ、ああ悪かったね相坂さん、席に戻っていいですよ」

……スルーされました。
個人的な場だと信じてもらえるのに公の場になるとこういう反応をされるというのは全くもって集団の心理というのは嫌なものです。

でも、ここでまさかの超鈴音さんから反応がありました。

「皆私も火星人だから気にすることないネ。生き返ったならそれでいいじゃないカ」

火星人と生き返ったのは同じらしいです。
その後冗談だったのかという声が聞こえて教室の空気が回復しました。
超さんありがとうございます。
こっそりブラックジョークがうまいねと隣の席の朝倉さんが微妙に顔を青くしながら話しかけてきたのですが、どうやら彼女は情報はつかんでいてもまさかという感じだったようです。
ひどい目にあいました。

その後の自己紹介は順調に進み、忍ばない忍者がいたり、シスターがいたり中学生に見えないプロポーションの人がいる一方小学生の双子がいたり、随分ピリピリしたサイドポニーのかっこいい人がいたりしました。
一番ありえなかったのが茶々丸さんでした。誰も耳の機械を不思議に思っていないのか何事も無く通過しました。
認識阻害というやつですね。扱いの差を感じました。
あと長谷川千雨さんですが、インターネットに精霊のズルで介入できるのですがネットアイドルのちうさんに良く似ていましたね。
次のエヴァンジェリンさんは朝倉さんが「何故中学に戻ってきたんですか」とまたきついところを聞いたのですが「ああ、暇だったからな」と一言で済ませました。
見習いたいです。
最後のザジ・レイニーデイさんは怪しげでした。

キノが言うには「あのクラスは他に比べてサヨを含めて人外魔境だから仕方ない」だそうです。
確かに飽きがこなさそうですが、60年間あの席で生活してきた私でもこんなクラスは初めてです。
明らかに八百長のにおいがします。

初日は授業がないのでそのまま解散でしたがエヴァンジェリンさんは茶々丸さんとすぐに帰って行きました。
私も超さん、葉加瀬さんと工学部に行くことになりましたが4日目だから慣れたのか寮に身体を置いてでていくのはお決まりになっています。
途中超さんはお料理研究会に用があるらしく行ってしまいました。
葉加瀬さんとロボットの新型設計の計算を手伝いました。
葉加瀬さんも私がもう何者でもいいようです。
慣れって大事ですよね。

一日目からなんだか生きている気がしました。
午後は身体使ってないですけど。
寮に帰って来てから超さんも遅れて戻ってきて肉まんの屋台を開くという計画を聞かせてくれました。
これがどうやらキノが以前言っていた、超さんのお店のようです。
開店したらウエイターやりますと言ったら、「今それを頼むつもりだたヨ」と先読みに成功しました。

そういえば言ってなかったですが、この女子寮の大浴場は凄く豪華で収容人数も多く、人間の身体を得て入ることができて本当によかったと思いました。
私はお風呂は凄くよいものだと思うのですが5000年も半透明のままのキノは興味ないのでしょうか。

そういう訳で私の身体を得た二度目の学園生活が始まったのでした。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

朝倉和美の情報収集能力はやはり中学に上がっただけにも関わらず凄いものだった。

因みにこちらは何も無かったのかというと例の忍ばない糸目の忍者が神木の木登りを始めたのだが何故登れるのかは知らないが270メートルある頂上まで登りきった。
これで13歳というのは信じがたい。
高層ビルの特徴として部屋の中はともかくとして、外側は風圧の危険というものがあるのだが270メートルまで登れるというのがどういうことかわかるだろうか。
しかも登り切ったあとに呟いた言葉が「いい景色でござる。またさんぽにくるでござるよ」であった。
木登りが散歩だなんて聞いたことがない。
一切木に傷をつけないのも驚きだが。
いや認識阻害が効いているのだと思う。
逆に言えば木を害する意思は一切なく純粋に登りたかっただけで、かつそれが実現可能ということになるのだが、大したものだ。

後日彼女は小学生の双子とさんぽ部に所属したそうだ。
また「拙者は忍者ではないでござる」と忍者であることを否定しつつも小学生に忍術を教えることもあったのだが完全に矛盾しているのに気づいているのだろうか。
どこか頭が悪いらしい。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

あれから毎日を楽しく過ごしています。
中でも学園祭に向けて四葉五月さんと超さんの移動屋台「超包子」の出店に向けて活動するのが充実しています。
また工学部の発表するロボットの制作も順調です。
エヴァンジェリンさんは大学生の生活感が抜けていないのかよく学校に来ません。
自主休講というやつだそうです。

そんなある日の帰りなのですが、龍宮真名さんという褐色のかっこいい同じクラスの人に、隠蔽モードなのに姿を見られてしまい、何故か隠し持っている銃を構えられてしまいました。

そういえばキノが龍宮神社のお嬢さんは修羅場をくぐっていると聞いたことがありましたが。
なるほど、苗字が同じでした。

そうでした、茶々丸さんが私に気づいたのは本当に微弱な魔力反応を検知したからだったようです。
龍宮さんは片目が特殊な魔眼というものだそうです。
未だに夜な夜な漫画を読むのですがリアルに邪気眼というやつなのでしょうか。
思わず銃が出てくるのはそういう事なのでしょうか。

《龍宮さん、撃たないでください!相坂さよです、何も悪いことしてません。夜中に書店に入って漫画を読んだり映画館に入ったりすることぐらいしかしてません!》

あれ、意外と悪いことしてるのかな。
いえ、何にせよ一方的に成仏させられるのなんて酷い話です。
成仏しないですけどね。

「あ、相坂か、本当に幽霊だったんだな。済まない、悪霊か何かかと思ってとっさに撃とうとしてしまった、許してくれ。しかしそこそこ悪いことしてるじゃないか」

《ありがとうございます。良いんです、幽霊の仕事ですから》

仕事なら文句はありませんよね。

「ああ、わかった。気をつけて帰れよ。確かに便利だな。私は映画館に行くと大人の料金をいつも取られそうになるから困っているぐらいだよ」

やはり身体があるというのは不便なようです。

《身体があると大変ですね。私のおすすめの映画を見つけたら教えるので期待してて下さい》

「そうか、わざわざありがとう。楽しみに待っているよ」

龍宮さんはなんだか凄く大人な女性という感じの大人でした。
私は75歳なんですけどそれよりも大人って凄いです。

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なんだかとても神木の精霊として恥ずかしい会話が聞こえた気がするのだがあきらめよう。
サヨはそういう行動をとっているものだから超鈴音にも能力に疑問を抱かれることが計算能力以外では今のところない。
ある意味天性の隠蔽工作霊かもしれない。

以前、なんだかんだ、精霊のユーザー設定をすると言ったが、サヨの行動はたまにちらっと作業の合間確認する程度に見ると面白いのでやっていない。
許して欲しい。
私自身人格はあるものの三大欲求は既に希薄化が進みに進んでしまっているので所謂色々余計な物が観測できてしまうがどうでもいいといったところである。
どちらかというと面白いか面白く無いかの違いで情報を判断するようになっている。
因みにサヨは一応精神強化が自動でかかるが、本人の意思次第だが少なくとも以降の計画で数千年を過ごすということにはならないから必要性も無いが。
また、サヨは感情抑制を全く使っていない。
使わなくても、自分らしさでしっかり生活しているし大丈夫だろう。
私は加速していたとはいえ最初の孤独な4000年超はどうしても必要だった。
サヨについて心配なことがあるとしたら確率は低いだろうがパクティオーした場合である。
契約相手側の契約執行発動による時間制限は無限にできるという恐るべきブースター機能が誕生するからである。
バランス崩壊もいいところだ。
もしそうなったら今使っている肉体は処分してもらうしかない。
ただ、試したことがないからなんとも言えないが魂があればできるという資料が存在するのだがこれもかなり危険な情報になり得るだろう。
相坂さよがサヨになる前に説明のために魂に刷り込み云々言ったが、本当に介入が必要になるからだ。

ところで最近はしっかり仕事をしており、見逃していた情報の確認を初めとして魔法世界の怪しい奴らの観測を続けている。
世界樹の精霊の噂はかすかだが故ウィリアム氏の酒の席で既に広まっているから、麻帆良の支部に潜伏者が現れる可能性があるからである。
有機コンピューターであることが、もしも、バレていたならば手中に収めようと完全なる世界の奴らならハッキングをかけてくる可能性も十分ありえる。
意外にもサヨは我々がインターネットに介入ができることにすぐに気づいたが私は失念していた。
故にハッキングの対策を始めたのであるが。
そう、電子精霊というものがあるのだが、ここ麻帆良の魔法先生に弐集院光というなんともふくよかな男性がおり、始動キーを知ったとき感動した。
ニクマン・ピザマン・フカヒレマンである。
全くラテン語が関係ない。
ここまで自分の思いを魔法に乗せるだなんて熱いとしか言い用がない。
とても気に入った。
他の魔法先生は変えたほうが良いと言っているらしいが何を言っているのだろうか、変えるなんてとんでも無い。
話が逸れた。
およそ100年の間に地下施設が色々作られたのは以前にも言ったが、図書館等の内部のような謎の空間がいくつかあり興味深い。
正直施設の必要性は感じ無いが、魔法使いというのはやはり地下で怪しいことをするのが大好きなようだ。
立派な魔法使いと自称しながらせっせと穴を掘る姿を想像して欲しい。
なんと涙ぐましい努力だろうか。
全部記録して公式ガイドマップと称して売りに出してやったら面白いと思わないだろうか。
精霊に使い道なんてないが。

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半人半霊の生活リズムです。
相変わらず充実した人間の身体の生活と精霊体での生活を繰り返しています。
どうやら葉加瀬さんの手伝いをする日などに寮に戻って身体を放置して生活するのが原因で身体が弱いらしいというイメージが定着しつつあるそうです。
地味に事故紹介の影響を引きずっていて、復活ネタが横行しています。
ネタではなくマジなのです。

怖いことがまたありました。
龍宮さんが多分教えたのだと思うのですがサイドポニーのかっこいい桜咲刹那さんが私が一人で身体に入っていて偶然周りに誰もいない時に接触してきたのです。
恐らく付けられていたのだと思いますが観測していないので気づきませんでした。
なんと今度は銃ではなくやたら長い真剣が出て来ました。

「相坂さん、龍宮から聞いたが本当に幽霊らしいな。一体その身体は誰のものなんだ。もし、木乃香お嬢様を狙っているなら」

「待ってください!確かに私は幽霊もやっていますがこの身体は正真正銘私のために学園長先生が用意してくれたものです。何を焦っているか知りませんが刃物を出すのは危ないですよ」

どんどん危ない空気になっていくので会話を遮りました。
感情抑制を使うとこういった事態に動じなくなるそうですがキノは普通に生きるなら使わない方が良いと言っているので使っていません。
少なくとも今は生身なので危機意識が働かないのは問題あると思います。

「……申し訳ない、学園長が用意したのか。刃物を向けてしまったことを謝罪します。私も動揺するとは精進が足りませんでした。龍宮も言葉が少なすぎます」

「わ、わかってもらえたようで良かったです」

なんとか肉体の危機は去りました。
もし切られてもまだまだ身体は木の中に用意してあるので大丈夫なのですが。
でもこうして考えてみると、ここで死体になって後でまた新しい身体で現れたら社会的に死ぬでしょうからこの身体、大事にしないと。

キノに桜咲さんの事を伝えたら、木乃香お嬢様というのは学園長の孫娘、同じクラスの京都弁で話す近衛木乃香さんその人で彼女はその護衛でこの学園にやってきたそうです。
何故護衛が必要かというと近衛さんは極東一の魔分の器の持ち主で狙われやすいのだそうです。
そのため、幽霊が近衛さんの身体を乗っ取るのではないか心配になったのだろうということです。
桜咲さんはまだこちらに来て間もないため緊張しているのではないかということです。
私達は魔分生産を行っている神木の精霊のため無尽蔵に魔分があるのですが、このインターフェイスには器は搭載していても基本的には必要最低限しか充填していないので目立つことはありません。
この辺りは実際に使った私の方が詳しいです。
私も少し魔法使ってみたいなとも思いましたが、精霊体自体が高度な魔法みたいなもので身体強化の魔法であるとか瞬動や虚空瞬動といった歩法を学ぶぐらいなら、さっさと身体からパージ!して本気を出した方が早いと聞いて、人間って大変だなと思いました。
普段浮遊するときは七つの願いを叶える玉のお話のように効果音が付きそうな速度では飛んでいません。
普通に建造物を貫通したり、信号など全て無視して飛び越えるだけでもかなり移動は短縮できるので必要性がないのです。
また、対魔法使いなら地球にいる限り全て魔法は分解できる上、それの対応は有機コンピューターの適切な判断でオート稼働するので必要性もないそうです。
キノとしては精霊が人間と争うのは木が危険に晒されるから、やりたくないことランキングでも最上位に入ると言っていました。
特に桜咲さんの使用する神鳴流という剣術は魔分が関係しないので天敵だそうです。
少なくとも私達の性格ではかなり積極的に戦闘するなどかなりありえなさそうです。

何にしてもイベントの付きないクラスです。

超鈴音さんですが、超包子の出店計画ばかりをしているのではなく、様々な研究会に入っています。
その中に同じクラスの古菲さんが所属している中国武術研究会もあり、二人は中国拳法家同士仲良くなっていました。
そのため超包子の開店の際には私と同じでウェイターをやるかもしれないそうです。
とても明るい女の子なので一緒に働けると思うと楽しみです。

拳法つながりで、私は魔法を使うのを考えるのはやめましたが、キノの言っていた合気柔術というのが使えます。
そこで超鈴音さんに頼んで少し相手をしてもらったのですが、「まさか日本の武田惣角の生き写しを見るとは思わなかったヨ。これなら超包子の店員で困った客にからまれても大丈夫ネ」と誉められました。
私が知らない人の名前が出てきたのですが超鈴音さんの知り合いなのでしょうか。
どこで覚えたのか聞かれましたが幽霊の時に習得したと答えておきました。
似たようなものですからいいでしょう。
後でキノが合気柔術のトレース元のちんちくりんの凄い人で、私が生前生まれた時にはまだ現役だったということで一昔前の人だったようです。
精霊になって三ヶ月の間、木の資料:麻帆良の変遷は楽しく見ていたのですが私が生まれた時点から閲覧していたので見落としていたようです。
ただ超鈴音さんが褒めるような体術を引きこもってばかりのキノが覚えていたというのは意外でした。

4月が過ぎ5月も下旬、中間テストがありました。
60年間授業を幽霊として受けてきた私ですが中学の学力には自身がありますし、今はズルい計算能力も備わっているので数学はあってないようなものです。
間違って記述しない限りミスはありません。

テストの結果は737人中超鈴音さんが1位、葉加瀬さんが2位、私が3位という一つの寮の部屋に学年の最高学力が揃うという快挙を成し遂げ、注目を集めました。
私が3位になった理由はうっかりして書き間違いをいくつかしていたと言い訳したいです。
一方でこのクラスには致命的に点が悪い人もいて平均点自体は大したことないという結果に終わっています。

無事にテストも終り、6月に入って麻帆良学園祭の準備も本格的に始まりました。
1-Aでは何をやるかということであれやこれやと意見が出ましたが、超鈴音さんが温めてきた超包子の支店を出すことを条件に喫茶店をやってくれれば資金を拠出するということ決定しました。
その際、それならと「この雪広あやかも協力することをお約束しますわ」といいんちょ、こと雪広あやかさんも俄然やる気を出して見事決定したのでした。
いいんちょさんは麻帆良でとても有名な雪広グループのお嬢さんなので超鈴音さんがやるなら自分もやらなくてはということなのでしょう。

正式名称、移動式中華屋台「超包子」ですが、何が移動かといえば、麻帆良の地に走っている路面電車の一部車両をどういう手段でか買収し、改装することになっているのです。
当然葉加瀬さんの協力のもとただの改装には済まず、ほぼその車両だけで製造から販売まで可能な上、極めつけに飛行モードも存在するという、電車の枠を飛び越えたものになる予定なのです。
超鈴音さんが「五月、この店飛ぶからよろしくネ」と言った時の料理担当の四葉五月さんは「え?飛ぶ?」という反応には私も深く共感しました。
古菲さんの反応は「飛ぶのか、それは面白いアル」と純粋でした。

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麻帆良祭、それは毎年驚くべき盛り上がりを見せ、前夜祭を含め三日間開催され、一日に2億6千万もの金額が動くと言われ、東京の年二回のイベントにも勝るとも劣らない経済規模であり、また発表される技術力の高さから関東で知らない人の方が少ないというものである。

私にとって学園創設から毎年見てきた光景であるが今年は一つ違う点がある。
火星少女、超鈴音が今回参加するのである。
今まで全くヒューマノイドインターフェイスを使用したことはなかったが、5000年の永きに待った私が初めて実体のある身体に入り、彼女の経営する超包子の肉まんを、初めて口にしようと思うのである。
もちろんこれも感慨深いものであるが、超鈴音との接触のタイミングとしては麻帆良に人が溢れ返るという点でも最高の状態とは言えないが、悪くはないタイミングだろう。

こうして私の計画は本格的に動き出したのである。

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前夜祭も盛り上がり、今日は麻帆良学園祭初日です。
今は「超包子」メンバー全員、超鈴音さん、四葉五月さん、古菲さん、絡繰茶々丸さん、そして私の5人で移動型中華屋台の記念すべき開店の瞬間です。
1-Aの教室の方はクラスの皆が頑張ってくれているので私たちはこちらに集まっています。

「今日から超包子開店だよ。皆よろしく頼むネ。世界に肉まんを!」

「調理は任せてください。私の夢である店を出すこともできました、必ず成功させてみせますよ」

「任せるアル!」

「超、私も協力します」

「私も任せてください!」

こうして超鈴音さんの挨拶とともに忙しい三日間が始まったのでした。

元々朝倉さんにお願いして麻帆良新聞でも宣伝を行って貰っていた上、例の飛ぶ路面電車という話題性も相まって大盛況になりました。

途中高畑先生と弐集院先生が店に来てくれて、「凄く美味しい」と褒めてくれました。特に弐集院先生は肉まん全種をコンプリートし、「明日も来るよ」と幸せそうに帰って行きました。高畑先生は「相変わらず本当に肉まん好きですね」と苦笑していました。

途中一日の中であちこち地上を走って移動したり、お客さんを乗せながら飛行して驚かせつつ、定期的に1-A支店に肉まんの補充をしながら大成功の内に見事初日を無事終えることができました。
因みに1-Aは皆素敵な衣装を来て喫茶店を盛り上げていました。

そうして迎えた二日目、なんとキノが生き返ったのでした。

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初めて身体に入ったが本当に違和感がない。
向かうは超包子ただそれだけである。
麻帆良は身体があると非常に広く感じ、店の位置の観測を続けるがたまに飛んで移動してしまうのが10歳程度の身体には少々辛い。
壁を貫通したい、空を飛びたい、重力がある。
なんと不便だろうか。
ただひとつ良かったのは小柄なために人と人の間を通り抜けやすいということである。
一苦労してやっと目的の店についた時、金がないのに気づいた。
そんなものも必要だったなと失念していた。
その問題も救いの手に見せかけた違うものによってすぐに解決した。

「あれ、キノ生き返ったんですか!」

某精霊(笑)少女である。
多分この前の事故紹介とやらのあてつけだろう。
確かにあの時久しぶりに笑ったから悪いとは思ったが。

「そうそう、それです。復活です」

他の客の目が痛いので冗談と思える返答をしておいた。

「おや、その坊主も生き返ったのカ」

 火 星 人 が あ ら わ れ た。

感動の対面の筈なのであるが全くシリアスな空気にはならなかった。

「はい。生き返ったばかりなのでお金を持ってないのですがサービスしてもらえませんか」

「働かざるもの食うべからずネ」

正論だった。流石天才は言うことが違う!

「……では、私を臨時の店員として雇って下さい」

自分から働くことになったのだった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

翆色がやってきました。
なんというかお金を持っていないということで学園長先生にお小遣いぐらいもらってくればいいと思うのですが、仕方が無いので私がだそうと思った矢先。

「働かざるもの食うべからずネ」

流石超鈴音さんでした。
その後何故かキノはやるせない顔をしながらも労働力となったのでした。
たまには精霊の仕事という訳の分からないこと意外にもやってみろと私も思います。

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現在明らかに浮いている。
いつも浮いているが今日は存在である。
私の服装であるが、当然10歳用の服など用意しているわけがなく、そのまま首から店員用のプレートを下げられているのであるが、00な人造革新者と似たような格好なのである。
使用するまではあまり気にしていなかったのだが、やはり浮く。

ただ一つ、私の大変気に入っている弐集院先生が肉まん、ピザまん、フカヒレまんを並べて食べている今である。
魔法が発動するに違いない。
この状況に出会えるとは僥倖だった。

思わず

「弐集院先生、お仕事頑張ってください」

と応援した。

「ああ、なんだかよくわからないけどありがとう坊や」

残念ながら相手は食べ物にしか興味なかったらしい。
こういうのを期待ギャップとでもいうのだろうか、一方的だから微妙に違うが。
坊やにしか見えないのはわかるが仮にも齢5000を越えている。
違和感しか無い。

凄く忙しく働いているうちに、閉店である。
何も食べていない。
何ということだろう。
しかも色々人目についてしまったし、魔法先生も何人か来ていたじゃないか。
良かったのは危険な香りのする1-Aとは接触せずになんとか済んだということぐらいしかない。
こんな後ろ向きな喜び方をしたいわけではないのだが。

そんな中、調理を担当していた四葉五月さんがおもむろに肉まんを一つ差出してくれた。

人間の優しさに感動した。
5000年史上初の食事、立ったままとは行儀が良くない。
こんなに美味しいとは思わなかった。
弐集院先生がはまる理由がわかる。

「坊主、美味しすぎて泣いてるアルか」

中国少女Bだった。
遭遇した順番から言ってBである。
泣いているというのは本当だった。
感情抑制が知らないうちに切れていたのだ。

「はい、美味しすぎて涙が出ました」

精霊は正直者なんだ。
四葉五月さんは微笑ましい顔をしている。

「翆坊主にそう言てもらえるとは光栄だネ」

海坊主みたいな呼び方やめてほしい。
いい話だなという空気がいい話だったのかな、になるから。
まあ、働かざるものの件でこっちの正体はわかっていたんだろう。

「今日のアルバイト代はいらないので今度話を聞いてください。私はいつでも大丈夫なので、日時はさよに言っておいてくれればいいです」

「それなら学園祭が終わったら連絡するヨ」

こうして超鈴音とのなんともせわしない初の対面を終えたのだった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

今木に戻って来ているが、慎重に周りに人がいないかを確認してから無事帰還できた。

皆さん二日目の超包子一人いなかったと思わなかっただろうか。
そう、色がかぶりそうで危ない絡繰茶々丸である。

彼女はマスターであるエヴァンジェリンお嬢さんが所属するサークルの発表会に一日中付いていたのだ、例のマスターの記録というやつであろう。

ここ6年程でお嬢さんは永遠の美少女として大学で有名になっているのだ。
事情を知る一部の立派な魔法使いの先生達からすればあまりいい印象を持たれていないようであるが、そんな裏の人達等霞むぐらいに、表で人気を得ているのである。
基本的に日本の伝統芸能を好む傾向にあるお嬢さんは茶道や囲碁を初めとし舞などにも手をつけ、少し大学生としては身長が低くはあるが、その大人びた振る舞いと、金髪の外国人がひたむきに練習する姿に誰もが心を打たれたという。
この辺りが、お嬢さんがお嬢さんであり続ける所以である。
そういう訳で近衛門に近しい魔法先生の殆どは彼女の12年間の行動で、闇の福音という二つ名はどこへやら、どちらかというと安全な大人しい人物として定着しているのである。
外部から来る魔法使いの目に止まることもあるが、誰もその周りの空気からまさか闇の福音だとは思わないらしく大事には至らない。
魔法を使わずして認識阻害を展開するとは凄いことだと思う。
以前朝倉和美が自己紹介の時に質問していたのは彼女にとって当然の疑問と言えよう。
正史のように中学を卒業する度に周囲の人物の記憶がリセットされることがないとこれほど味方ができるのであるから、いかにナギの呪いが短絡的かわかる。
また、この映像を例の図書館島の引きこもりに渡すと、イケメンなのにも関わらず若干引くリアクションを見せるのをやめてもらいたいのは余談である。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

三日目の学園祭も相変わらず勢いがとどまることはなく、最後に向けていっそう盛り上がり私達は学園祭を終えました。
空飛ぶ屋台で料理も美味しいということで学園祭後も営業を続けていく予定です。

そんな時超鈴音さんに

「さよ、翆坊主に明日のクラスの打ち上げが終わったあと話を聞くと伝えておいて欲しいネ」

と言われました。
確かに明日は振替休日なので打ち上げが終わったら時間がありますしね。

「わかりました、超さん」

いよいよ明日ですね。



[21907] 3話 精霊と超鈴音
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/10/19 23:18
《単刀直入に言う、超鈴音、この先未来に帰ると死ぬ。航時機による反動と身体に刻んだ呪紋回路が原因だ》

「何いきなり言い出すんですか!」

「精霊だからといて何故そんな起きていないことがわかる。私はここに来て神木に精霊がいる事を知たときも驚いたが一体どうなているか説明して欲しいネ」

《サヨ、今から最重要機密に関するアクセス権を許可する。しばらく情報を確認しているといい。まず、私は超鈴音の2101年の時間軸の事を知っている。また、超鈴音が2001年に来て影響を与えた時間軸の千年後の結末も知っている。私は更にその時間軸の枠の外から紀元前3000年にこの地にやってきて今こうしてここにいる。人間ではないが過去を変えるという点では超鈴音と究極的な目的は異なるがやろうとしていることは同じ筈だ。超鈴音、質問だ、魔法を恨んでいるか、魔法は必要あると思うか》

「俄には信じがたいが信じるしかないカ。質問の答えだが私は故郷が苦しむ原因となった魔法を恨んではいるが、その必要性の有無については特に思うところはないヨ。故郷では殆ど使われることはなかたからネ」

《そうか、わかった。私の究極的な目的はこの魔法という不可思議な力を消滅させることなく未来に残す事にある。それが神木・蟠桃の存在理由でもある。なぜならこの星で魔法の行使を可能にしているのは神木・蟠桃そのものだからだ。知っていることには強制認識魔法の発動が出来る事以外にもあるだろう》

「星に対する魔力供給カ」

《その通り、人間は魔法の元を魔力と呼んでいるが、魔力は神木が供給するエネルギーそのものとはイコールではない。我々はそのエネルギーを魔分と呼んでいるので以降はそう解釈してもらいたい。一応確認だが、そちらの未来では神木には種子を残す能力は発見されていないな》

「神木の情報は故郷でもそこまで多くは得られていないヨ。一体何の植物なのかも不明だた、突然変異というのが通説だヨ」

《火星、魔法世界の崩壊後の星ではこの情報は判明していないのか。今のでわかったと思うが、今この神木には種子を作る能力があり、実際に既に亜空間内で樹齢1000年を数える。またこの第二世代の若木を火星に送るための手段も存在する。結論としては、魔法世界の消滅、火星の惨状を防ぐ方法として、ただ後は打ち上げればいいだけだ》

「なら何故この千年の間に打ち上げなかたネ。わざわざ私を待つ理由がないだろう」

《木は一旦根付いたら動くことができない。我々の目的は常に魔法を残す事が第一位であるため、地球の神木の安全を無視するならばいつでも打ち上げる事ができるが、それでは魔法の存在に対して否定的な人間によって害されるおそれがある。今でこそ神木の重要性が麻帆良学園都市にはあるからこそある程度の安全性が得られているが数百年前の人類の行動などを考えて見ればわかるだろう。狂信的な人間の思い込みは恐ろしいものだ。また、自然災害による根本的な損害も含まれる。確かに人類に対してならばこの木には強力な認識阻害によって木を傷つけないように刷り込みをかけることができるが全世界にそれを行うほどの出力はない。よってこの認識阻害の範囲外から核のような質量兵器で攻撃された場合防ぐ方法はないということだ。因みに強制認識魔法による魔法の存在の公表は可能だが、その瞬間しか効果がないため、つまり新生児には効果がない。100年は優に持つだろうから超鈴音の目的は達せられるが数百年、それ以上先になったらというのはわかるだろう。また、効果がなくなったらまた同じことを繰り返すというのも精霊の立場としては、人間を洗脳しているというのは可能性を潰すことでもあるから手段としてはふさわしくない。矛盾しているがそれが我々の存在理由でありここに人間の意思は関係ない》

「なるほど、わかったよ。学園祭の時の翆坊主は人間性というものを感じたのだがあれは仮初のものなのカ。それで私にこんなことを話したのだから何を要求する。話をしたいではなく話を聞いて欲しいと言っていたが。今更私の計画を実行しろと言うわけではないのだろうナ」

《人間性がないという訳ではない。今の私は人間性を全て封印しこの神木の精霊としての立場で話しているだけだ。超鈴音が感じたそれは仮初ではない。超鈴音、嫌いな物は戦争、憎悪の連鎖、大国による世界の一極支配だな》

「そんなことまで知ているのカ。私のプライバシーは……、分かたヨ、精霊の立場ならばただ答えるのみだネ。嫌いな物はそれで合っているヨ」

《火星に第二世代の若木を打ち上げるのは決定事項だ。神木・蟠桃の能力は強力だが対応できるのは地球での魔法関連に限定されていて完璧ではない。京都神鳴流などのような気を用いる物理攻撃に対して致命的な弱点を抱えている。また地球での魔法と言ったが、現在の魔法世界の魔分は地球の物とは異なるため、圧縮して持ち込まれた場合は支配下に置くことはできない。これの解決は火星に第二世代を定着させ魔法世界との位相を同調させて支配権を獲得するしかない。しかし、今魔法世界には紀元前617年に魔法世界への道を開いた最初の地球系火星人が作った完全なる世界という組織がある。魔法世界だけではなく、地球にもこの組織の工作員が存在する。現在三体目のフェイト・アーウェルンクスを筆頭とするが今頃イスタンブールの魔法協会支部に潜入しているはずだ。一体目、二体目は超鈴音の先祖、ナギ・スプリングフィールドが倒している。彼等は我々神木の精霊の存在に気づく可能性があり、そうであれば神木の支配権を獲得しようと行動を起こす可能性が十分にある。事実サヨを見ればわかるだろう。我々がなんらかの方法でハッキングされたら終わりだ。相手にしなければならないのは完全なる世界と危険度は下がるが魔法に否定的な人類だ。何故超鈴音に話したかだが、わざわざ自分の身体に危険なものを刻んでまで過去を変えに来たという点と火星が助かるという条件がある限りあらゆる魔法使いと比べて我々を裏切る可能性が最も低いからだ。我々だけでは不可能だが信用できる人間の協力があれば可能性が生まれる。別に一人で彼等と対抗して打ち倒せと言っている訳ではない、最大のハードルは第二世代が定着するまでの間だ。超鈴音の好きな物は世界征服だろう。是非やってみればいい、我々は超鈴音が裏切らない限り協力しよう》

「また壮大な話になてきたネ。私が一番信用できるからカ。随分期待されたものだナ。いいだろう、麻帆良最強の頭脳であるこの超鈴音、世界征服を目指すネ」

《よろしくお願いします。私の個人的な我侭な願い、命を賭けてまで未来に影響を与えた超鈴音の死亡を阻止するというのも叶えてみせます。翆の木の精霊が約束します。5000年も待ちましたが本当に長かったですよ。ようこそ麻帆良の地へ、歓迎します》

「それが翆坊主の人格としての願いカ。私一人の命とは確かに我侭だが随分待たせたようだナ」



[21907] 4話 精霊5000年稀代のイタズラ
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/24 22:01
昨日は、完全に外界との関係を絶つために寮の部屋と同じ座標に展開した亜空間で、キノの鈴音さんに対しての真剣な話が行われました。
キノという人格を封印していたため、機械のように話をするものだから私は全く会話に入れませんでした。
鈴音さんがいくら天才であっても知らない歴史の情報や特に木に関する機密情報は知らない限りはどうしようもありませんから一方的な説明に近いものがありましたが。
例の意識の拡張というもので知識を共有すればパッと終わるんですが使いませんでしたね。

最後の最後に元に戻りましたがキノの願いなんてあったんですね。
最初に鈴音さんが死ぬって唐突に言い出すものだから何を失礼なことを言っているのかと思いましたが、最後には5000年かけて助ける準備をしていたというんですから、首が長くして適当に生活していた時があるのも納得が行きました。

結局私が鈴音さんと初めて出会ってから昨日までの聞いてきた計画は大規模に変更となりました。
キノがもっと早く教えてくれていればと思いましたが、超包子をやめる訳ではないし、まだまだ必要ということもわかりましたから初期段階だった為無駄ではなかったと安心しました。

確かにキノがアクセスを許可してくれた情報は根本的に異常な物が多かったです。
出来事と結果はわかりましたが、全てが許可されなかったのか個人名の正確な情報を中心としてはっきりしてませんが、私への配慮なのかもしれませんね。
全てがわかってしまったら世界が色あせてしまうからといったところでしょうか。
正史という認識がなされているのですが、私からしてみれば驚くほど詳細な未来予想でしかありませんね。

既に正史はパワーアップした木によって違う道を進み始めることになりましたがうまくいくと信じたいと思います。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

昨日の超鈴音との対面は結果としてやはり私の言うべきことを聞いてもらうことばかりだった。
与り知らぬ情報があるのだから当然と言えば当然だが話を聞いていた超鈴音は、最初は怒っていたが最後はある程度の理解を得られたところで決着して良かった。

あの後、第二世代の打ち上げの計画について内容を詰めた。
超鈴音の100年先の科学技術力と木の電子回線介入能力の使用でまず麻帆良の発電所を初めとし関東地方全域を完全に制圧し、学園都市結界もろとも落とし、探知魔法の使用を不可能にする。
完全に照明が失われた段階で、タイミングを併せて地球の人工衛星、可能性のある日本に存在する米軍基地や自衛隊のレーダーにハッキングをかけ関東地方の情報を改竄する。
改竄している間、華を最短距離で茨城県沖に一旦射出し、関東地方全域の状況を直ちに復旧させる。

その際、発電所のシステムに不備が元からあったように偽装するのも忘れない。
日取りは天候が非常に重要だ。
曇りのレベルが80%近く占めているか同じような条件で雨が降っている夜中を狙いたい。
海への射出完了までを10秒以内で終わらせたい。
もしこの作戦で死人が出るような真似は避ける必要があるからだ。
自家発電などには対処できないだろうが、病院施設に執拗に攻撃を加える訳にもいかないので仕方がない。

以上、これらの条件が満たされたなら後は深海を移動させながら南極に近いところからの大気圏突破を試みる。
この際にもタイミングを併せて人工衛星の情報を改竄する予定だ。
こちらも天候の条件は同じである。

神木5000年の歴史をかけて成長した有機コンピューターの演算能力をご覧あれといったところである。

やりすぎの感は否めないが、目撃者はできるだけゼロにしなければならない。
日本から謎の飛行物体が射出されたとなると魔法云々の問題ではない。
やはり超鈴音の協力は必須であった。
但し実行するのは私とサヨであるため仮にこの大規模なサイバーテロの犯人がわかったとしても逮捕は非常に難しいだろう。
サヨは以前から軽犯罪をやっている気がするが捕まる気配はない。

なんといっても手錠ができない。
精霊体には物理攻撃が効かない。
魔法も効かない。
木の安全さえ確保されれば問題はない。

アフターケアとしてこの事件を起こしたら地球のインターネットとまほネットに事件に関しての情報操作を行う必要があるだろう。

気に入っている弐集院先生とのまほネット上での電子精霊バトルもあるかもしれない。
同様に長谷川千雨との地球インターネットでのハッキング対決もあるだろうか。
これらは楽しみでは全く無い。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

神木に精霊がいるということを知ったさよとの出会いから何かおかしいとは思ってはいたが、精霊自体が私と同じ歴史の改変にやってきた存在とは思わなかたヨ。
しかもその改変の始まりが5000年前からだなんて正気の沙汰ではないネ。
まあ翆坊主は人間でないが。

あの不思議な空間での一方的な情報提供は私の知らない情報も多かたナ。
特に木に関する部分は火星では情報の欠損が多かったから興味深かたヨ。
当然のようにナギ・スプリングフィールドが先祖だと言われた時は一瞬唖然としたが、いずれやてくるネギ・スプリングフィールドに私が同じことを言うにしてもあんなに流して言ったりはしないネ。

まずは、私としても第二世代の木を火星に打ち上げるためにハッキング技術の整理からはじめないといけないネ。
魔法を残すのが精霊の意思と言ているのに、今科学の方が必要にされているのは皮肉だが。
100年前の防衛システムなんてザルのようなものネ。
この超鈴音が完璧な仕事をしてみせるヨ。

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超鈴音との通信は傍受されない、名づけて、魔分粒子通信で行っている。
イメージとしては00なアレを思い浮かべてもらえればわかるだろうか。
脳内に直接響くため超鈴音は少し辛いと言っていたが我慢してもらうしか無い。
しかし粒子の加速空間での会話にすぐに対応してきたあたり量子力学の知識もあるとはいえやはり天才だ。
近いうちに有害な呪紋回路の削除と魔法が使用可能になるようにしてもいいが、前者はともかく後者は魔法先生がやってきそうなので保留だ。
パクティオーという手段もあるにはあるか。

着々と100年先の技術と木の能力との収斂を行っていく日々を続けていく。

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相坂さよです。
私もキノと鈴音さんの人間の枠を超えた方法での会話を聞こえるようにしてもらっています。
実行するのはキノと私なのでどうせなら聞いておけという配慮らしいです。
基本的には私は魔法関係者に怪しまれないように今まで通り日々を過ごしつつ、平常営業するようになった超包子で五月さん、古さん、茶々丸さん達と働きながら資金を稼いでいます。
本当に弐集院先生はよくやってきます。
たまに高畑先生や厳しいと言われている新田先生も来ますが、五月さんはさっちゃんと呼ばれて人気者です。
人徳の為せる業でしょうか。
葉加瀬さんの研究も超包子のため前ほどではありませんが手伝っています。
ちゃんといつも通り夜には漫画を読みに行くのを忘れません。

そういえば学園祭が終わった後朝倉さんの所属する新聞部の記事に超包子の平常営業についても載せてもらったのですが、一緒にエヴァンジェリンさんの学園祭二日目の記事も載っていました。
素敵な写真がいくつか載っていてクラスで話題になりましたが本人は自主休講でした。

これから中学生の私たちに残っているイベントと言えば期末テストです。
ですが殆ど勉強しなくても、今更というところです。
また1位2位3位を鈴音さんではないですが最強頭脳でとってやります。

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サヨ達の期末テストも無事に終り、三人はまた中間の時と同じ順位だったが、雪広あやかは前回5位だったが僅差の点数争いの中4位に食い込んだ。
努力家である。
そういえば彼女は華道を嗜むようで、例の学園祭でエヴァンジェリンお嬢さんにいたく感銘を受けたらしいが、自主休講の多さと相まって微妙な評価らしい。
そう、雪広グループの財力と表の情報網と手を組めれば、今回の作戦等ももう少し楽になるのではないだろうか。
まあ精霊のいたずらと称した犯罪に加担してもらうわけにはいかないが。

現在もう既にハッキング準備は完了して後は天候待ちという状態である。

台風が発生しているが中国大陸の方にそれていくことが多く困っている。

超鈴音は作業が終わりじっくり脳を休めている状態だ。木とリンクしている精霊ならともかく生身の人体では負担が大きかった。
やり遂げた際にはマッドサイエンティストとしての何かが垣間見えたが。

昼はよく曇って後少しと思ったら夜には月が見えていてしまっているという形で惜しい日もあったが、こうして天候がなかなか揃わず8月になり夏期休業に入った。
有機コンピューターなれど地上から天候を読み取るのはなかなか難しいもので、人工衛星をハッキングしたほうが早い。

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夏も本番ということで夏季休業ですが、やっぱり人間の身体は不便です。
外が暑すぎて干からびそうです、一応植物の仲間ですし。
そういう訳で夏場は寮に身体を放置することが多く、三人共出かけていて冷房をかけておかなかった時が一度あったのですが、あともうちょっとで熱中症になりそうな健康状態になり警告が出たのには焦りました。
身体は大事ですけど暑いのは嫌です。
精霊も悩み多き年頃というやつです。

真夏だと流石に熱い中、肉まんを食べに来る人も少なくなりましたが例の先生は例外でした。
汗をかきながら幸せそうに食べる姿が印象的です。

溜まっていた映画も全部見て、そのまま龍宮さんに報告しに行ったのですが、ついつい寮の部屋をすり抜けて会いに行ったのでびっくりしていました。
隠蔽度合いの問題で桜咲さんは気づいていなかったので龍宮さんの様子を見て「龍宮、突然変な動きをするな」と言っていました。
ごめんなさい。
その後桜咲さんにも見えるようにしたのですが、
「1-Aは最初からおかしいクラスだとは思っていたが、平然とその姿を見せられると現実感が逆にないな」
と、やや諦めモードでした。
それが良いです、気にしても仕方ないですよ。
とにかく映画の評価をしっかり報告した結果、龍宮さんが少し興味を持っていた映画はハズレで助かったよと言っていました。
人の役に立つというのは良いことだと思います。

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相変わらず精霊というより幽霊としてやりたい放題なサヨは放置するとして打ち上げの日取りが決まった。
結局システム完成から3週間かかってしまったがこうして実行に移せるようになって良かった。

超鈴音は頭が痛いのも治り、例の粒子加速空間での会話を通して何か得るところがあったのか量子力学研究会で凄いことをやらかしたらしい。
学会で今話題沸騰中である。
なんだか充実しているように見える。
副作用もあったのか、葉加瀬は元々マッドサイエンティストモードに切り替わると高速で話すが、それを超える速度で言葉が話せるようになったらしくそろそろ人外の仲間入りである。
本気で魔法を使わせたら燃える天空の発動速度が一般的魔法使いの基礎魔法の発動速度と変わらないだろう。
まさに純粋種として目覚めたのかもしれない。
超鈴音改め超・超鈴音の誕生だ。
発音でチャオ・チャオ・リンシェンである。
なんか何処かの国の挨拶に聞こえるのは気のせいだろうか。
願いを叶える7つの玉の物語に因んで超鈴音2とかでもかまわないかもしれないが。
その場合の読みはスーパーリンシェン・ツーである。
どこぞの人革連のいかした機動兵器の名前みたいだ。

さてやってきた2001年8月16日午前1時半。
天候は関東地方全域を覆う雲によって良好である。
今はサヨも真面目に木の中にいる。
今回初めてサヨも人格を封印する。
感情はいらないからである。
役割分担は私が魔法対策と華の射出シークエンスで、サヨが広域ハッキング担当である。
正味数秒間に渡る稀代のサイバーテロの幕開けである。

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《関東地方全域に電力を送電する可能性のある水力、火力、原子力発電所を規模にかかわらず推定200箇所に超鈴音プログラムによる介入を開始。2秒で制圧完了》

《並行して探知魔法の使用を全域に渡り使用不可状態へ移行、学園都市結界の解除を実行》

《関東全域の照明の無力化を確認、光度良好、第一段階完了。続けて軌道衛星上の人工衛星の映像の改竄、軍関連のレーダー機器類の情報の改竄を開始》

《有機結晶型外宇宙航行船:暫定名称大いなる実りの茨城県沖への射出シークエンスを開始。粒子力場の展開準備》

《第二段階完了。全ての映像、その他機器の情報の改竄を確認》

《射出タイミングを大いなる実りの自動プログラムに譲渡。射出開始。粒子力場の展開によりソニックブームの無効化を確認、地上に被害は発生せず。着水による津波の発生は許容範囲内、付近に船舶の存在は無し》

《続けて超鈴音プログラムによるハッキングの最終段階に移行。順次復旧作業に入る。システム不備の偽装を完了》

《学園都市結界の復旧、探知魔法を使用可能状態へ移行》

《全工程の完了を確認。作戦終了》

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こうして無事に私も仕事を終えることができました。
鈴音さん渾身の作、超鈴音プログラムからすれば現代の防衛システムなど言われていたとおりザルのようなものでしたが少し数が多かったです。
人格を封印するというのは初めてでしたが、機械になった感覚というのがわかった気がします。
今思うと漫画みたいで少し面白かったですがやってる最中は何も感じないのでなんとも言えません。

この後は華の南極到着と同様に天候の確認を待って大気圏突破を行うだけです。

また、ネット上での噂の監視も仕事に入りました。

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この電撃作戦による日本政府の対応は発電所全域の一斉停止という事態を重く見て公表されないことになった。
国防の問題点として全電力会社にハッキング対策の強化に対する通達が裏でなされたようだ。
一方麻帆良学園都市では近衛門達の緊急招集があったが、探知魔法の無効化は学園都市結界の崩壊による影響だろうという結論がなされた。
また学園都市結界の崩壊は例の発電施設の影響であるとも考えられた。

因みに超鈴音は当夜、例の量子力学研究会での発表の準備に携わって学生達と共に徹夜していたため、魔法先生も流石に彼女を疑うことはなかったそうだ。

しかし、やはりネット上の掲示板では、毎晩夜遅くまでパソコンを起動している人たちの嘆きの声が書き込まれていた。
突然の停電の影響で環境が悪かった人のデータはお釈迦になったそうな。
それに伴い、日本政府はサイバーテロを受けた事実を隠しているのではないかという憶測が飛び交ったが、規模があまりに大きすぎるため真相が迷宮入りであった。
「宇宙人の侵略の布石じゃね」「ねーよw」というような書き込みがあったが、一番近い。
少なくとも人外の仕業である。

まほネットの方は流石旧世界の防衛網は大したことないなどと勝手に話が違う方に向かっていったので特に問題は起きなかった。
ただ、麻帆良の学園都市結界もあっさり落ちたことに対して改善するべきだろうという意見もあり、この後麻帆良学園都市内の電力システムの強化が図られたのであるがこれはまた別の話である。

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あのいたずら翆坊主と幽霊少女は盛大にやったようだネ。
私の技術力を使っているのだから当然だナ。
例の粒子加速空間によるインスピレーションは私のマッドサイエンティストとしての才能に良い刺激だったよ。
これから通信技術の革新の時代がやってくるネ。
ただ思わぬ副作用には流石に私自身ハカセと会話した時若干引いてしまったヨ。
ハカセが「超さん何言ってるか全然わかりませんよ」と言ったからわかったのだがネ。
しかし、宇宙船があるとはなんどあの木に驚かされればいいのだカ。
飽きないからよしとしよう。

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無事に海に沈めることができた華だったが、1000年まえに大いなる実りと見た目同じじゃないかと言ったことで暫定的にそういう名前に設定していた。
ノリは大事だとは思うが改めて考えると、資料として見る分には違和感はあまり感じ無いが、実際に言うと語呂が悪いのが微妙だった。
恐らく宇宙船なのに、それっぽくないからだろう。
正直、宇宙船超包子号とかでもいい気がする。
ああ、弐集院先生もクルーとして搭乗してるな、絶対。

話は逸れたが、海底だろうと華は問題ない。
後は大気圏突破であるが、遅くてもいいわけではないがそこまで心配する必要もない。
地球が火星に最も接近した日は今年2001年においては6月21日であり皮肉にも麻帆良学園祭の開催時であったが、その際の直線距離は6734万㎞である。
この話は世間でも話題になり当日は観測を行った人が多々いただろう。
故にその付近で華を飛ばすことが不可能だったのも事実だ。
既に8月となっているが、地球と火星はおよそ780日の周期で接近を繰り返す。8月18日の今日はそこから59日が経過している。
とはいっても華の最高速度は秒速100kmの異常出力という仕様である。
もしソニックブームを無効化する機能がついていなかったら、秒速300mの音速の壁を越えるだけで地上のガラスに影響がでるのであるから、いかに途方もなく危険な代物かわかるだろう。
絶対に日本にそんなものがあるなどと知られる訳にはいかないのだ。
同時に、だからこそ、神木・蟠桃からも補助をして茨木県沖までほぼ最速の速度で射出できたのだが。
光と比べるのは質量がある時点で考えてはいけない。
移動可能距離は一日につき864万kmであり、今から打ち上げれば遅くても10日程度で到着である。
地球の現在の化学燃料を利用した技術で数ヶ月を要する距離がこのザマである。
ある研究機関の発表によると、比推力可変型プラズマ推進機(VASIMR)であるとか原子力ロケットが実現すれば、であるが、二週間程度で着くことが出来るであろうとされているが先の話だ。
正直そこには悪いが魔法世界と火星を同調させる予定なのでゲートもあるし必要ないだろう。
いずれにせよ学校が始まる9月には着くだろう。

超には華がどれぐらいの速度で火星にたどり着くかは言っていないが恐らく教えたら乗らせろと言ってきたに違いない。
これだけ廃スペックな華であるが、自己主張が激しいために発光はしないものの、光学迷彩の機能がついていない。
月の光に照らされたらどれだけ美しいことだろうか。
そういう訳で曇りの日をわざわざ選んだのだ。
また直接打ち上げると雲がどうしても吹き飛ぶため人工衛星の改竄を長時間続けなければいけなくなるので、海に一旦射出するという方法を取った。
単純に打ち上げるだけなら大気圏およそ500kmの突破まで5秒で済むが粒子力場で無効化するといっても流石に突破するときにはある程度光ってしまうのでこの作戦もやはり取れなかったという訳だ。
因みに魔分粒子力場に近いものは魔法使いも使っている。
浮遊術あたりがその典型だ。

さて、南極近くからの大気圏突破であるが天候を同じ雲りの状態を狙いつつ今度はまず雲の高さまでじっくり上昇した後に加速を開始するという方法をとる予定である。
これで南極の観測者達に仮に見つかってもあきらめるしかないと思う。国籍不明の謎のでかい華がぶっ飛んでいったなんて南極から報告されても
「捏造だろwww」「加工乙」
などとなってくれると思いたいが、祈るのみである。

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相坂さよです。
その後華の打ち上げは成功しました。
大気圏を突破する瞬間の映像は幻想的でした。
人工衛星の映像は改竄しているので、地上の南極の一部の人に発見されてしまったのは痛手でしたが各国政府の見解は、どこの国でもない上そもそも人工衛星に写っていないのでコメントは控えるというものでした。
世論とネット上では人間はやはりこういう話題が好きなのか色々ありましたが、9月になって学校が始まってすぐ、朝倉さんの属する新聞部からの記事には

[サイバーテロの犯人は地球外生命体か]
数日前の関東地方全域で起きたサイバーテロと思われる大規模停電と南極での謎の飛行物体の目撃情報は果たして関連性があるのだろうか。仮に地球外生命体がいるとして、日本を襲ったのは地球の技術力の高さを確かめるものだったのだろうか。南極での謎の飛行物体は空に飛んでいったという情報だが、もしかしたら地球に興味を失って帰っていったのかもしれない。真実がいずれ明らかになることを期待したい。

という内容で、実に記事自体も憶測で書かれており、信憑性が薄いとクラスの皆さんは言っていましたが私たちとしてはこういう勘違いをしてくれて助かりました。
後で鈴音さんに部屋で「サヨ達は私と同じ宇宙人らしいネ」と初めて知ったよそんなことというような表情で言われました。

実際キノは忽然と5000年前に現れたんですから宇宙人みたいなものだと思いますけどね。

鈴音さんの技術がなければこうしてうまく打ち上げて火星に到着させることもできませんでしたから何かお礼がしたいですね。
できるとしたら華から撮影された宇宙空間の移動映像なんかがピッタリだと思います。
神木・蟠桃から離れても木同士のリンクは深いもので映像もリアルタイムで到着するんです。
この10日間は本当に楽しかったですね。
やろうと思えば精霊体ならあちらにワープさせられるみたいで直に宇宙空間を見に行く事もできるみたいですけど、リアルタイムに情報共有はできているのであまり意味はないかもしれません。。
華自体は魔分を生産することはできないので、無闇にワープしたりすれば魔分を消費するため、場合によっては燃料切れのようなことに繋がりかねません。
でも華を射出する前に予めこの2618年の間に地球側に流れてきた魔法世界の魔分を再変換した分を含めて、かなりの量を搭載したので、仮にワープしたりしたとしても魔分切れの心配はほぼありえないんですけどね。
とにかく、無駄遣いは今は駄目という事です。

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既に華は火星への到着を終えており、木を定着させるポイントを探している。
火星に接近して改めてわかったことだが、魔法世界と火星の地形は非常に似ている。
魔法世界の地図は麻帆良教会の地下の支部に置いてあるのでバレバレだ。
ただ、地球から見れば、この地図は上下反転する必要があるのだが。
魔法世界と位相を同調した場合北極と南極が逆になるため魔法世界の地図は改められることになるだろう。
面白いのは魔法世界の地図では上の部分に南のヘラス帝国があり本人達も反対だということに気づいているのではないかということである。
同調したらきっとわざわざ金をかけて過去に火星探査機を到着させたソ連とアメリカは今までの苦労はなんだったのかと思うかもしれないが、関係ない。

木を定着させるポイントは魔法世界でいう龍山山脈のあるあたり、火星では北極洋だ。
そうする理由はメガロメセンブリアのある南半球に近いのは危険性が高いからである。
遠いと言っても残念ながらこの地域もメセンブリーナ連合の領域に近い。

しかし海を挟んでいるだけまだマシである。
位相が同調した時に陸が調整されて浮き上がることを信じよう。
幸運にも火星には月が二つあり、所謂月と星の力というのかこれの位置関係で魔分を元にした力の増幅が地球よりも強力に起きるだろう。
良くわからないかもしれないが世の中知らない方がいいこともあると思う。
勘弁して欲しい。

メタな発言は置いておくとして、いよいよテラフォーミングの始まりである。

華を大地に着陸させた後、華から亜空間内で今まで育成していた若木を魔分で保護しながら不毛の大地に根付かせるのである。
同時に有機結晶型宇宙船である華から余裕がある分だけ一気に大気中に向けて魔分を放出する作業を開始した。
とりあえず、数ヶ月を要するので随時観察が必要である。

因みに魔法世界の位相を破って火星に直接あちらの住人がやってくることはない。
そもそも、この事実にまだ気づかないだろうし、やってきたとしても人類なら今の状態の火星に生身ならば酸素不足で死亡する。
0.13%しか含まれていないのだから。
大気組成の95%が二酸化炭素である状態でのびのびと成長できるのは仮にも植物である二代目神木だけだ。
用意周到なことに水分と地中活性のためのバクテリアは華に積載してきているのでこれらを利用しつつ、5000年前の地球と同じく地下への魔分散布により強制的にテラフォーミングを敢行する。
楽なのは火星が地球に比べて表面積が1/4であることである。
魔分が行き渡るのには貯蔵してきている分も相まって数ヶ月で完了するだろう。
問題は重力が地球の40%程度しかないことだが、これについてはある引きこもりの力を借りれば解決しそうなので多分大丈夫だろう。
度々貸しを作ってきたのだから協力してくれる筈だ。

木の能力の真髄はこの全く自重しないところだろう。
種子を作れるようにと要求したがその範囲内には違う星で根付かせる事もしっかり含まれているようで本当に助かる。
流石に一晩でやってくれました!ということにはならないが。

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ここ最近私は随時送られてくる情報を見るという楽しいことが日課に加わりました。
苦労して打ち上げた第二世代の神木の様子です。
魔分を元々大量に込めている上既に高さ50mの大木であり、早送りなのではないかという速度で周辺の大地に異変が起きています。
この映像は高く売れるに違いありません。

日常生活は概ね人外魔境の巣窟1-Aとしてのレベルでは平和な部類に入ると思います。
秋と言えば体育祭でありウルティマホラの時期ですよ!知っていますか。
私は過去の麻帆良武道会の映像を見たことがあるので、確かにそれと比べるとそれほど大した内容ではない、ということになってしまいます。
でも超能力バトルではなく純粋な格闘技としての大会なので比較の対象にすること自体が間違いだと思います。
実は私例の合気柔術が使えるので出ようかと思っています。
身体が弱いという噂が定着しているのを払拭するいい機会になる筈です。
この大会の良いところは桜咲さんのような危険な刃物は出てこないので肉が切れたりはしないというところが安全で私向きだと思います。
古さんも、鈴音さんも中国武術研究会の一員として出場するのでどうせなら便乗して一緒にということです。
そのため大分気候的に涼しくなってきてまた人気が上昇中の超包子の営業が終わったら、相手をしてもらっています。

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およそ一年ぶりにクウネル・サンダースが引きこもる図書館島にやってきた。

《ごきげんようクウネル殿。およそ一年ぶりですが相変わらずのようですね。今年の分のエヴァンジェリンお嬢さんの学園祭の映像を持ってきましたよ》

「おや、学園祭が終わったらいつも間もなくやってくるので今年はこないのかと思って心配していましたよ。キティの映像をですが」

相変わらずお嬢さんの事となると地味に反応がきつくなるのだから、やめて欲しい。

《暇だからといって若干拗ねるのをやめて欲しいものです。今年は精霊の仕事が忙しかったのですから勘弁して頂きたい》

「精霊の仕事なんて見てるだけだと思っていましたが、そんなこともあるんですね」

《不毛なので早速イノチノシヘンの更新して下さい》

「失礼しました。では早速頂きますよ。キノ殿も以前に比べると大分私に対して対応が軽くなりましたね」

《同じ引きこもり同士ということです。今回はこれだけではなくある頼みがあるのですが聞いて頂けますか》

「ええ、話す相手も門番の彼女ぐらいしかいませんからいいですよ」

《知能があるからいいとは思いますがさながら老後の生活ですよね。いえ、なんでもありません。頼みというのは重力魔法に関する全ての情報の提供なのですが》

「精霊であるあなたが魔法を使う必要があるとは意外ですね。精霊の仕事というのはその辺りと関係がありそうですね。いいでしょう、この数年の暇つぶしに付き合ってくれているのですから協力しますよ」

《そう言ってもらえると信じていました。感謝します、クウネル・サンダース殿》

「もしかして以前大停電を引き起こしたのはキノ殿の仕業ですか。私のパソコンのデータが一部飛んでしまって困りましたよ」

《そう疑われると否定しても意味が無さそうですから、好きにしてください》

まさかこの引きこもりも被害者だとは思わなかった。
確かに図書館島建築されてから長いからそういったことがあってもおかしくはないな。
今回は目的があるから正直すぎるのは重力魔法に関する情報を手に入れるまでは自粛しよう。

こうして最後に核心をつかれるも重力魔法に関しての情報を得られることになったのである。
勿論この情報は調整を行って火星の神木に常駐プログラムとしてインストールする予定である。



[21907] 5話 超鈴音と二人の暇人
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/23 18:36
私はもう二つ寄る必要のあるところの一つ目、近衛門のいる女子中等部にある学園長室に来ている。

《近衛門殿、お元気ですか。この前の大停電の収拾は大変だったと思いますが》

実際これの主犯は我々だから、何を知らない振りをと言ったところだが、魔法先生の総意はともかく多分近衛門個人は気づいてると思う。
あの司書もそう思うのだから、我々の存在を実際に見て知っている人間はそうであっておかしくない。

「キノ殿、また突然ですな。色々後始末が大変じゃったが、あの停電の『お陰』で学園結界が強化されることになったのも悪いことではなかったの」

はっきり気づいているとは答えないがお陰でというあたりの言い方からして気づいているのだろう。
いつもこういう事に関して私には深く聞いてこないところが近衛門の良いところである。

《最近は麻帆良の警備も今でこそエヴァンジェリンお嬢さんが居ますが、昔のあの輝かしい全盛期の頃のようにとは言えませんね。一部十分に実力があるとは言え年端もいかない学生の手を借りなければギリギリというのは見ていて私も辛いものがあります。今回はその辺りでお話があるので聞いてください》

「神木の精霊殿に、それを言われると恥ずかしいものですな。麻帆良も表が豊かになって来た一方、裏がこの様というのは皮肉なものじゃ。話というのはもしや手伝って頂けるということですかな」

《ええ、精霊としてはイタズラが過ぎたと反省していましてね。それにそろそろ西洋魔術と東洋呪術で争うのをやめて頂かないと、中にとんでもないものがいつの間にか紛れ込むということになってしまいそうなので》

「ふむ、やはりあの停電はキノ殿の仕業だったのですな。いつか真相を教えてもらえると信じておりますぞ。儂も曾孫の顔を見るまでは死ぬつもりはないでの。西と東はもう長年争っておる事で婿殿がいるといってもなかなかままならないものじゃ」

今70代半ばの近衛門ならなんとか曾孫の顔も早ければ80代には見られるかもしれない。

《近衛門殿には言っていませんでしたが、私の行動可能範囲は既に中国大陸にまで及んでいるのです。そういう訳で近いうちに、その関西呪術協会の長である詠春殿に会いに行こうと思っていますよ》

「キノ殿にしては珍しいですな、やはりこの先何か動きがあるのですかな。そういえば興味を持っておられた超君の屋台でキノ殿によく似た容姿をした子供によくわからないが応援されたと言っていた魔法先生がおりましたな」

やっぱりあの学園祭は得られたメリットの割にデメリットが多すぎたな。
後悔はあまりしていないが。

《いや、お恥ずかしい。あの魔法先生の始動キーをご存知だとは思いますが、それを気に入っていましてね》

「前々から思っておったが、精霊というのはそういう語呂のようなものが好きなのかの」

《私だけですからあまり気にしないで下さい。話が逸れましたが麻帆良防衛の警備として相坂さよの時と同じく身体の用意がありますので参加させてもらいます》

「相坂君じゃったが、学校側としてもあれには助かりましたぞ。長年座らずの席として残しておくことになったのが解決できたのは良いことじゃった。うっかりタカミチ君には伝えてなかったから始業式の初日にはどういう事かと聞かれて困ったがの」

《何にせよまた彼女が生活できることになって良かったということです》

「そうですな。おっと警備に参加して頂けるのはありがたいですがまさか戦闘に直接するのかの」

《私が相手をするのは、やたらと鬼を召喚したりする人間全般ですよ。彼等の魔力封印処理を行ないます。直接殴り合いはしませんので誰か、できるだけマイペースな魔法先生と一緒に行動させてもらいたいですが》

「なるほどのう。確かにそれなら防衛もかなり楽になるのう。魔力封印をされた噂も捕まえて送り返して広めさせれば迂闊に手を出せなくなる訳じゃな。その魔法先生ならちとコワモテじゃが神多羅木先生がいいかもしれんの」

《大体そんなところです。行動する際の身体ですが今よりもっと小さいもの、お嬢さんのチャチャゼロぐらいの大きさですかね、頭にでも乗せてもらえればヘルメット替わりにもなりますよ。勿論私の存在は近衛門殿とお嬢さんの合作とでもしておいてください。解けない魔力封印なんて出処が気になるはずですから。普段はそうですね、身体の安全が気になりますがお嬢さんの家の何処かに放置しておくのがいいかもしれませんね》

「精霊の身体を安全第一に使うとは気が引けるのう。エヴァにも儂から言っておくが、キノ殿もこれから会いにいくのじゃろ」

《ええ、そのつもりです。そういう訳でこれからは今までよりずっと頻繁に会うことになりますがよろしくお願いします》

「こちらこそ心強い味方ができて助かりますぞ。報酬はどうするかの」

《情報隠蔽だけで結構ですよ。お金なんてもらっても使い道も殆ど無いですから》

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一緒に行動する魔法先生がマイペースな方がいいのは魔力封印処理自体は別におかしいものではないが私がやるものはあまりにも異端なので、そういうものを気にしない人間の方が都合が良いからだ。

精霊体で会いに行ってもよいが既に身体は、まだチャチャゼロサイズは一体だが作成してあるので直接訪ねる事にする。

人間の家の玄関に立ってインターホンを鳴らすのは初めてだ。
小さくしすぎて手は届いたもののギリギリだった。
背伸びしたい年頃である。

「こんな時間にどちら様でしょうか」

出てきたのは茶々丸だった。
そういえば、私がここに来ると緑率が75%になる上、この身体の名前も恐らくお嬢さんが付けることになるだろうから、数十年前の嫌な予感が思い出されるのだが…。

「翆色の幽霊と言ってわかるでしょうか、茶々丸さん」

「マスターに伝えて参りますので少々お待ちください」

そうして戻っていった茶々丸がまたすぐに出てきて招き入れてくれた。

「既に近衛門殿には話してありますが、これからこの身体をエヴァンジェリンお嬢さんの家に置いて頂きたいのですが」

「いつもの幽霊よりも更に小さくなってどうしたかと思えばいきなりなんだ、説明をしろ」

「ええ、麻帆良の警備に個人的に参加しようと思いまして身体を用意してきたのですが、直接戦うわけではありませんので、移動しやすい兼ヘルメットとして頭の上に張り付こうと思ってこうなりました」

「マスターお茶が入りました、お客様もどうぞお召し上がり下さい」

茶々丸がお茶を入れてくれたが、肉まんという固形物体を食べたのも5000年史上初だったが水分の摂取もこれが初めてだ。

「お茶を飲むのは初めてです、ありがとうございます茶々丸さん。美味しいですね」

「しかしチャチャゼロみたいだな。精霊が人間同士の争いに介入だなどどういう風の吹き回しだ」

そこへやってきた身の危険を感じる相手。

「ケケケ、御主人ナンダソノ俺ミタイナチッコイ奴」

「これはただの容器に過ぎませんし切っても面白くないですから勘弁してください。お嬢さん、私の個人的思惑もありますがこれから何かが起こるかもしれないので保険のためですよ。そこでこの身体はお嬢さんと近衛門殿の合作ということにして警備の方々に紹介することになるので名前を付けて頂きたいのですが」

「なるほどな、まあ好きにするといい。それより私が名前を付けていいのか。いいだろう。そうだな、チャチャゼロ、茶々丸と来たから次は茶々円だな。これでお前は二人の妹だな」

楽しそうな顔をして実にしてやったという満足感をかもしだしているのが微笑ましい。
0とか丸とか円とかバリエーションが尽きたらどうするんだろう。
嫌な予感はしていたけれど、麻帆良の高級学食焼肉屋のJoJo苑のパクリみたいな名前でいいのだろうか。
もともとJoJo苑も元ネタがあるのだが。

「ケケケ、マタ妹ガ増エタナ」

「マスター、私も妹ができたのですね」

皆さん、性別に違和感を感じているかもしれないがこの身体はお嬢さんの家の構成を考えて一応性別は女性だ。殆ど関係ないが。

「お嬢さん、とてもいい名前をありがとうございます。大事にします。つきましてはこの身体を放置できる手頃なマットでも用意してもらえるとありがたいです」

なんとも言えないが、チャチャゼロと茶々丸はそれで普通だという反応をしているので反論する気も起きないし、実際するつもりも始めからなかった。

「そのあたりは茶々丸、頼んだぞ」

やはり茶々丸がこの家にやってきて良かったらしい。

「わかりましたマスター、茶々円ついてきてください」

こうして今まで沢山用意していた身体よりも新しく用意したこの小さいものが使用率No1になるのだった。

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それから三日後の夜近衛門とお嬢さんの口裏合わせも済み警備の方々との顔合わせとなった。

「じじぃ、こいつを紹介してやれ」

「先生方、この小さな子は茶々円君じゃ。エヴァンジェリンと儂の作った傑作だから能力に関しては心配しなくて良いぞ。基本的に直接戦闘はしないが、主に召喚術師を相手にすることを想定しておる。警備の際には神多羅木先生に預けるのでよろしく頼むの」

近衛門も名前が茶々円になった時は微妙な顔をしていたが、もう慣れたらしい。
実はこの三日で私自身も意外と悪くないかもしれないと思い始めた。

「紹介頂いた茶々円です。皆様の日頃の負担を減らす為に頑張りますのでよろしくお願いします。神多羅木先生は私を頭の上に乗せて下さい。邪魔かもしれませんがヘルメット替わりになりますので」

「学園長、高い能力があるのにヘルメット替わりという発言をするなんてどういう教育をしているんですか」

女性の方々の視線が痛い。

「いえ、ご心配なさらないで下さい。私の身体は壊れても修復可能ですから。それに小さい理由は大きくても私は直接戦闘ができず良い的になるだけですから、その代わり運びやすいようにという配慮です」

なんとなく、人間にしか見えない小さい子供を警備に使うというのがあまり印象が良くなかったらしい。
先生たちが慣れるまで待つとしよう。
きっと大人の身体なら身体で実力を証明しろ等と言うことになりかねないのでこれで良いだろう。

「学園長、私が責任を持って警備をしますので任せてください」

神多羅木先生はサングラスとヒゲのお陰でコワモテにしか見えないが、あれを取るとつぶらな瞳が隠されているパターンなのだろうか。

「それでは今日の警備も皆頼むの」

こうして私のある打算を抱えた計画を伴って、コワモテの先生が頭に子供を載せて警備するというシュールな光景が麻帆良の夜の日常に加わったのだった。

因みにこの茶々円の身体は恐ろしく軽いので神多羅木先生の首に殆ど負担はかからない。
軽く北国の頭に被る防寒具の役割みたいなものだ。

「神多羅木先生、前方200mに呪符使いと思われる反応があります。どうやら鬼を召喚するつもりのようです」

「分かった。茶々円君。確かに完全にサポート型のようだな」

「ええ、その代わり直接戦闘能力はほとんどないですが。しかし意外と麻帆良はタバコを吸う先生が多いんですね」

「スーツに匂いが付いているのがわかるのか」

「消臭しておきますよ。鼻の効く連中がいるとも限りませんし」

そう言って魔分でニオイの元を分解した。
便利である。

《そろそろ近いですが、お任せします》

密着しているのもあって念話も容易だ。

20体近い鬼が目視で確認できる。

神多羅木先生は射程範囲内の中距離から両腕を高速で動かし気を次々に放っていく。
はっきり言って先生の攻撃に対して鬼の動きが鈍い。

一匹倒しきれずに懐に潜り込んできたが、この世界との繋がりを絶ってやった。
完成している世界の連中は隣の芝生を見ていないで目障りだからじっとしていろ。

《今のは君がやったのか》

《召喚術師対策というのは伊達ではないということですよ。神多羅木先生の実力なら今のもなんなく回避できたと思いますが。呪符使いは右前方10mの木の影に隠れています》

そう伝えた先生は瞬間一気に距離を詰め同じように気を放った。

《終わりですね。まずは一人目、パーソナルデータ解析、魔力封印処理を実行》

呪符使いが魔分容量の器から術に変換できないように改変する。

「それが君の役目か。確かにこれで再度侵入はできなくなるだろうな」

「そういうことです、いつまでも夜になる度に不毛な争いを繰り返すのをやめて欲しいものです。送り返してこの噂が広がってくれればそのうち効果が出るのではないですかね」

「さっさと捕縛して次へ行こうか」

こうしてこの後直接1人の召喚術師の封印処理を施し、そうでない相手は神多羅木先生が早業で倒し、他の魔法先生達が捕まえてきた召喚術師については以下同様である。

「学園長先生、この子は召喚術師しか封印処理できないのですか」

高音・D・グッドマンというお姉さまな感じのウルスラの女子高に通う魔法生徒が言った。

「高音君、その子のする封印処理は召喚術師に対してのみ特殊な効果を持つものじゃからその話はあまり意味が無いのう」

実際には誰でも可能であるが、やりすぎるのも問題なので、一人で何体も呼び出して仕事を増やす相手のみにしたのである。

「学園長の言うとおりです、私の封印処理はそれ以外の人物に対しては並以下の効力しかありません。普通に封印処理をした方が良いです」

「失礼しましたわ。学園長先生、茶々円さん」

彼女は多分強力な封印処理ができるというのなら全部やったほうが良いと思っているのだろう。
正義感が強いらしい。

「それでは皆様今夜はこれで失礼します。マスター参りましょう」

このようにエヴァンジェリンお嬢さんの事は茶々丸さんと同じくマスターと呼ぶことになっている。
同時に緑色の方々も姉と呼ぶことになったのだが。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

相坂さよです。
火星の様子は順調です。
ウルティマホラに向けての練習も順調です。
この身体は合気柔術を使うことはできても対人戦の経験がないのでそれを学習することは必要なのです。
ある時女子寮の裏庭で鈴音さんに相手をしてもらった事があるのですが、いいんちょさんにその様子を見られていたらしく学校で

「相坂さんも合気柔術を嗜んでいるのでわすね。身体が弱いと聞いていたので意外でしたが本当に大丈夫ですの」

と心配されたのですがどうやらいいんちょさんも合気柔術を含め色々使えるらしくそういう事ならと私は

「いいんちょさん、私はまだ中国武術しか相手にしたことがないんですが、違う流派の武術で相手をしてもらえませんか」

そういう訳で、あれよあれよという間に何故か大規模な施設で練習できるようになってしまい、古さんや鈴音さんは「なんとゆーか凄く広いアル」「流石雪広財閥ネ」と素直な反応をしていました。
ただ、成り行きで長瀬さんやなんだか面白そうという理由で腕に覚えがある人達も混じったりするようになっていましたが。
正直私の身体が弱いという設定は何処かへ吹き飛んでいったみたいでほぼ目的は達成されてしまいました。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

クウネル・サンダースから重力魔法の情報について得るようになったのはいいのだが問題があった。
彼は重力球を発生させて対象を押しつぶすというものを得意としているのだが、これは物を引きつけるのとは形態が違うため転用が難しい。

《重力球を使って潰す魔法はよく分かりましたが、対象に対して重力を発生させるか地球の重力加速度を増加させる魔法というのは無いのですか》

「大戦を生き残ってきた私としてはそういった使い方ばかりだったのですけどね。なるほど、少し工夫してみましょう」

《重力魔法についての文献があれば見せてもらえるとこちらとしても何かできるかもしれません》

「それでしたら私が書いた本がありますよ」

という訳で彼が重力魔法の権威だった。
全く売りに出す気はないみたいだが。

《一つ聞いておきますが魔法世界と地球の重力は同じですよね》

「私は違和感を感じたことはありませんので同じだと思いますよ」

《それにも関わらず、魔法世界のある星は地球よりも小さいというのはどういうことなのか気になるのですが》

「そんなにペラペラ喋ってしまって良いんですか。なんとなくキノ殿が何を気にしているのか分かって来ました」

《あまり時間もないと言いますか、方法が早めに見つかるに越したことはないので。私はクウネル殿を少なくとも敵だとは思っていませんし。最近真面目に仕事を始めてみたら、この図書館島の地下深くにどういう訳かうまく偽装してあるゲートもありますし、心配で堪らないのです》

「それは初耳です…この図書館島にまさかゲートがあるなんて…」

《クウネル殿も気づきませんでしたか。要するにこの麻帆良学園都市は魔法世界からやろうと思えば、確率の高低を問わなければいつでも来ることが出来る可能性があるんです。しかもこのゲートの怖いところは地下に見事に埋まっているんです。魔法世界側からしかほぼ使えないと見て間違いないいでしょうし、またどこに繋がっているかもわかりません》

「私もそれは気になりますね。調べてみましょうか」

《いえ、やめておいたほうがいいですよ。かなり危険なニオイがしますから。精霊の私もこの100年の地上の発展に気を取られすぎたようです。魔法使いが頑張って穴を掘っているな程度にしか思っていなかったのですから。それに今はこの魔法の方を優先したいのです》

「わかりました。あなたがそういうのでしたらそうなのでしょう」

これは超鈴音の協力も得たほうがいいかもしれない。
火星にやむなく投げ出された人類が低い重力の中作り出した戦闘服に着目すれば魔法技術と併せてなんとかできるかもしれない。

《クウネル殿、私が興味を持っている自称火星人の超鈴音という少女がいるのですが彼女の技術は凄いものですので一度会ってはもらえませんか》

「キノ殿は先程から恐ろしい程厳重な結界を張っているようですが、どうやら私は既に巻き込まれているようですね。いいですよ、私の趣味に合っていたら尚良いですが」

《それは自分で判断してください。後、もう一つだけこの際もう一度確認したいことがあります。私は基本的に地球の事しかわかりません。魔法世界は時間的にどれほどの時が過ぎていますか。もっと具体的に言えば例の大戦で中心となった国の歴史は2600年以上を越えているのですか》

「オスティアに関しては数千年と言われていますから2600年は優に超えていると思いますよ。これは間違いないです」

《…ありがとうございます。ゲートが100年前突然稼働し始めたのはそのせいかもしれませんね…。いえ、とりあえずこの本の内容は覚えましたのでまた来ます。続きはその時にでも》

やられた…。
おかしいとは思っていたが、世界に穴を開けて入っていったのは間違いないがその後時間の流れがダイオラマ魔法球と似たような状況になっているのに気付かなかった。
世界の歴史も地球の暦を元にしているものだから整合性がとれていない。
この分だと完全な歴史であるという保証もないな。
というかこの世界の歴史を与えると言われた空間では、「全て」なんて一言も言っていなかったじゃないか。
今まで他の者達にも試させたことがあったが上手く行ったことはなかったというのが歴史の知識の有無だと思っていたがその辺りも関係ありそうだな。
5000年振りに過去を想い起すだなんて皮肉な話だ。

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《超鈴音、二ヶ月振りですが話を聞いて下さい。今は大丈夫ですか》

《この感覚も久しぶりネ翆坊主。話なら私はこっちでハカセと会話しながらでも聞けるヨ。大体この会話法は加速してるからすぐ終わるだろう》

火星人は聖徳太子か。

《最近は日中も夜も忙しいようでやや心配でしたが超鈴音にはどうということもないようですね》

《当然ネ。この超鈴音に不可能はあまりないヨ》

地味に便利な言葉だと思う。

《赤き翼のアルビレオ・イマに興味はありませんか。今はクウネル・サンダースと名乗っているのでそう呼ばないと反応してくれませんが。個人的にまたやって欲しいことがあるので会ってもらいたいのです》

《翆坊主、私がこちらで調査しようと思てた相手に会わせたいんなんて相変わずネ》

《そういえば…そうなんですか。そこまでは知りませんでした。日取りですが我々はいつでも良いので都合の良い日をサヨに伝えて図書館島に来て下さい》

《やっぱり暇人なのカ》

暇ではないが暇がないかといえば暇になろうと思えばいつでも暇である。
ややこしい。

《不正解です。私は人ではありません》

《屁理屈はいいヨ》

はい。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

《超鈴音、図書館棟島にようこそ。私の所有物でもありませんが。まずは普通に入ってください。クウネル殿も近道を開けてくれるようですから》

《わかたヨ》

そう言って超鈴音の背後霊ではないが隠蔽モード全回で誘導していたところ忘れていた、あの部活の事を。
麻帆良学園図書館探険部である。

「あれ、超さんや~珍しいな。図書館探険部に入りに来たんか」

近衛門の孫娘だった。

《ここで彼女とその仲間に遭遇するとかなりまずいですよ》

《わかてるヨ。私はうまくやるネ》

「近衛サン私でもこれ以上所属する所を増やしても時間が無いネ。今日は少しここがどんなところか見に来ただけだヨ」

「それなら私達図書館探険部が案内するよ」

 孫 娘 の 仲 間 が 現 れ た 。

《超鈴音、天才でも早くもあまりない不可能が発生しましたね》

《隙を見て逃げ出すネ。誘導は頼んだ翆坊主》

《了解です》

それからというもの図書館探険部の彼女達は超鈴音を地下ではなく地上の建物から案内し始めたのだった…。

《なんというか彼女たちは実は敵なんですかね》

《わざわざ地上の方を案内するとは思わなかたネ》

「と、こんな感じが地上なんやけど、超さんこの図書館島は地下の方が実は深いんよ」

仕事をして充実感たっぷりの彼女達を見ているとなんともいえない。
何にせよ地下にやってこれた。

《後地下に二階分進んだら近道があるのでそれまで辛抱して下さい》

《突然消えたら心配しそうだナ》

《まあより彼女達がこの建物に興味を持つということで》

「そういう訳で私たち図書館探検部を、ってあれ超りんいない。消えちゃったよ木乃香」

「あれ、ほんまやなー。迷子になってしまったかもしれんな。探さないとやな」

《いや、本当に悪いとは思いますが思いの他隙だらけでしたね》

「意外と消えてもマイペースだったネ。大分時間が取られたがまだまだ大丈夫だナ。翆坊主案内頼むよ」

《任せてください》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

《クウネル殿、やっと着きましたよ。やはり身体があるというのは不便なものですね。彼女が超鈴音です》

「あなたが超鈴音さんですか。頭にお団子ではなくネコミミなんていかがですか」

あーだめだ。なんとかしないと。

「超包子の肉まん買ってくれたら考えてもいいヨ」

この引きこもりはここから出るためには神木の魔分出力を挙げなければいけないため無理だな。

《時間も予想外に削られていますし、本題に入らせて下さい。超鈴音、火星の重力は地球と同じでしたか》

「いや、こちらの地球で既に計算されているものと同じだたネ。その代わり専用の服で重力の問題を補っていたヨ。翆坊主がやって欲しいというのはそれカ」

《そういう事です。クウネル殿は重力魔法に造詣が深いのでなんとかできないものかと。私としては質量を擬似的に増加させるという方法しか思いつかないのですがね》

「火星人というのは本当のようですね。驚きました、普通の少女にしか見えませんね」

「普通じゃないネ。私は麻帆良最強の頭脳超鈴音だヨ。赤き翼のメンバーに会えて光栄だナ」

こうしてこの日随分と長いこと二人は技術の収斂を行ったが完璧な解決には至らなかったため、また次回ということになったのである。
それでも、何かしら得るものがあったので良しとしよう。



[21907] 6話 年寄り達が未来に向けて
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/13 18:56
「ハッ」

雪広あやか流という合気柔術なのですが、武芸百般というのは本当の事のようで

「やっ」

オリジナルの技まで開発しているんですから凄いです。

「相坂さん、なかなかやりますわね」

古さんとの相手をしてもらうのと違って私が怖がって防戦一方になることもないので

「いいんちょさんが相手の練習は楽しいです」

「さよ、ワタシとやるのは楽しくないアルか」

「古さん、そんなことはないですよ。私の実力だとまだまだ古さんの相手をするには早いと思うんです」

「それなら良かたアル。強くなるよう練習するアル」

ウルティマホラが開催される時は体育祭の時期と重なります。
学園都市にある学校が同時期に体育祭を行い施設の都合、人数の多さの問題のために、各生徒は自分の出場する競技をクラス内で決める必要があります。
ただ学年毎に参加できる競技に割り振りがあるので、得意な競技があるとは限らないのですが。
例えば徒競走では1-Aからは陸上部の春日さんと毎日新聞配達をしている神楽坂さんが出るといったような形です。
基本的にウルティマホラが開催される日は一般の競技は行われないので気兼ねなく参加したい人は参加できます。
ウルティマホラの予選は年齢の近い者同士行われていき、勝ち残って行けば徐々に年齢が離れた人達との相手となるのですが、つまり今この施設で練習している人同士で本選のための予選を行わなければならなくなるということです。

「いいんちょさん達はウルティマホラに出るんですか」

「武芸は護身術として嗜んでおりますので大会には出ませんわ」

「拙者も修行ができるだけで結構でござるよ」

意外にも楓さんは出ないそうです。
忍者だと聞くと「拙者は忍者ではないでござる」といつも言っていますから一応隠すつもりなのでしょうか。
こうなってくると結局出場するのは古さんと鈴音さんと私の三人ということになりました。
鈴音さんはここでの練習に毎日来てはいないんですけどね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

精霊やってると壁とか床というものに本当に縁がない。

《クウネル殿、わざわざ超鈴音を連れてここまで降りてくるのに時間がかかるのですがもっと近道ありませんか》

「いつ言い出すかと思っていたんですがね。ここの奥に地上への直通エレベーターがあるんですが気づいていないのですか。超さんを面倒な方法で連れてくるあたりわざとやっているのかと思って私も道を用意したのですよ」

《あの奥ってただの空洞ではありませんでしたか》

「いつも色々無視して突き抜けてくるものだから空洞だと思ってるだけだと思いますよ」

こういう事だ。
半透明の姿に慣れすぎているとそういった乗り物というかこの類の物の事を失念しやすい。

《どうやらその通りのようです。次からは使いますよ、便利な乗り物。ところで私から言うのも何ですが超鈴音は魔法を世界に公表しようとする計画を持っていたんですよ。要するに本来はクウネル殿とこうして会うということには絶対にならなかった筈なのですがね。代替案が見つかって現在進行形ですから》

「そんなことまで私に話して良かったのですか。最近本当に口が軽くなりましたね」

《真面目に協力してもらいたいというのもありますが超鈴音は正真正銘ナギ・スプリングフィールドの子孫ですからクウネル殿も何か思うところがあるのではないですか》

「それまた爆弾発言ですね。私がここで果たす約束よりも先に更にその先の血縁者ということですか、面白い。なるほど、火星人で未来人ということですか」

《色々と代償を払ってたった一人でここまでやってきたんですよ。私はナギを見たのは10才のまほら武道会の時がほとんどですが、無茶なところは似ていると思います》

「あの頭の良さや話し方、苗字など大分似ているかと言われると同意できかねますが、確かにたまに仕草が似ているかもしれませんね。しかし、未来を変えてしまえば彼女は結局…」

《既にこの時間軸にやってきて定着している時点で、未来が変わったからと言って身体が私みたいに薄くなって消滅なんてことはありえませんよ》

「彼女は未来には戻らないのですか」

《戻らせるわけには行きません。超鈴音が未来に戻れば長時間跳躍に身体が耐えられず反動で死にますから。少女がそういう事になるのは世界の損失なのでしょう。安全に未来に送るならば100年冬眠させる方法がありますけどね》

「私としても美少女の死というのは避けたいですね。しかしその方法は時間跳躍と言えるのですか」

《クウネル殿も似たようなもの使ってるんですから気にしてはいけませんよ。過去を変えるのは大変ですが未来に逃げるだけなら簡単ということです。今日が嫌なら明日になるまで安全な場所で寝ていればいいだけなのですから》

「確かに今の私のようなものですね。時間旅行者としては、方向は違いますが同じようなものということですか」

《そろそろ超鈴音が図書館島に着くので先程の近道で連れてきますよ》

「私としても今の雑談で彼女とはただの他人という訳ではなくなりましたし楽しみにしていますよ」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

《超鈴音、ウルティマホラも近いですが待っていましたよ。今日はエレベーターで行きましょう》

《翆坊主、何故前回それを使わなかたネ》

《一度ぐらい冒険を、と言いたいところなんですが忘れていただけです》

《昨日茶々丸のメンテナンスで翆坊主の親戚みたいのが実体化していた映像を見たがそんな非常識では世間でやていけないヨ》

《もうご存知ですか。あれもただの容器なので使ったら放置するだけなので今のところ困ってないんですよ》

《あの神木は本当に木なのか気になてくるヨ…》

《やりましたね》

《わざとネ》

他人がこのネタを使うとは思わなかった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「クウネルサン、前回来た時も思たが滝が周りにある空中庭園というのは風流なものだナ」

「そう言ってもらえたのは数年振りですよ超さん。精霊殿はこれよりずっと良い映像を見すぎていて特にコメントした事がありませんし」

《実際幻術の効果貼りつけてるだけなんですから、実物と比べられてもと思いますよ。空洞なのは事実ですけど》

「翆坊主、どんな映像見たことがあるネ。火星は荒野だたから興味あるヨ」

《超鈴音、クウネル殿、少し私の近況報告といきます。既に第二世代の神木は火星に到着しテラフォーミングを開始しています。しかし重力、大気組成、魔分の問題がありますから数ヶ月と言うところだったのですが実際もっと掛かりそうです。海だけは用意したいので氷が溶けるまで時間がかかりますし、これにも重力が関係ありますから。最速でも一年以上というところです》

「キノ殿、早い方がいいとは言っていましたが既に始まってるんですか」

「宇宙船使い終わたのなら研究させて欲しいネ」

《少しいきなり過ぎました。まあ遅かれ早かれということで納得してください。色々終わったら使っていいですが地球に戻すのがまた面倒なので当分お預けですし、公然と使えるようにするためには世界征服して下さい。火星と魔法世界の同調が現実化してきたということは人間と亜人との接触という新たな問題が起き、結果として魔法が世界に公表されるのも近いということですから。ファーストコンタクトは重要ですよ》

「それは確かに失敗できませんね。しかし、こちら側に同調させる必要はあるのですか」

《クウネル殿は知らないかもしれませんが、魔法世界は第二世代の神木がなければ今から11年程で崩壊します。それが完全なる世界やメガロメセンブリアが動いている理由でもあります》

「翆坊主、クウネルサンに教えてしまていいのカ」

《重力魔法の問題が大きいですが、どちらにしろ、いずれは話さなければなりません。それに超鈴音、いくら一人で大抵なんでもできる無敵超人であっても、少なくとも裏切らない味方はできるだけ多くいた方が良いですよ。少し他人に協力をしてもらうだけではなく頼る事も覚えてはいかがですか。そろそろ心の底から此処で生きたらどうですか。納得できるかどうかはともかくとして私は歓迎しますよ》

「失礼ながらナギの遠い血縁者だと聞かせてもらいましたが、先程の話はこのための前振りだったのですね。超さん、最終的に決めるのはあなた自身ですが、私がいることを言いふらさなければ、ここには来たい時にいつでも来て構いませんよ」

「……」

流石に超鈴音は黙った。
わかっていてこういう会話の流れに持っていったのは悪いとは思うが、これもある側面の事実だ。

《超鈴音、別に返答を求めているわけではありません。無意識に今の時間が夢のようなものだと感じているのではないかと思ったのです。超鈴音は今ここにいるんです。事実1-Aというクラスに友人もいます》

「…わかたヨ。その言葉は受けとておくネ翆坊主、クウネルサン」

「あなたの中で何か意識が変わると良いですね」

《精霊のおせっかいということで心のどこかに留めておいて下さい》

「しかしキノ殿、さらりと流してしまいましたが魔法世界の崩壊とは穏やかではありませんね。私の仲間もあちらにいます」

《そういう訳でクウネル殿も積極的に協力する理由ができましたね。因縁のある完全なる世界も含めて》

「この前は巻き込まれたと言いましたが、今巻き込まれて当事者になれて良かったですよ。少し話が長引きましたが前回の続きと行きましょう」

こうして少しだけ明るくなったように見える超鈴音と図書館島の司書、精霊は重力魔法の研究を続けたのだった。

そして時間が限界を迎えたところでクウネル殿が徐に

「蒸し返すようですが、超さん、本当の名前はスズネ・スプリングフィールドなのではないですか。音をシェンと呼ぶのは変わっていますし、超という苗字も所属名という感じがします。そうであれば屋台の名前にも付けるというのも自然な気がします」

世界の歴史では超鈴音で統一されているがどうなのだろうか。
言われてみると本名を隠しているという可能性は高いな。

「ははは、勘が良いねクウネルサン。本当に、予想外な事が起きすぎだナ。本名は火星でも隠す必要があたから私も殆ど印象にはないがその通りだヨ」

「もしやとは思いましたがなるほど。事情があるようですしこれまで通り超さんと呼ばせて貰いますよ」

《私もそれは知りませんでした。超鈴音が超家家系図という資料を持っているのは知っているので本名だと思っていましたが》

「翆坊主、覗いたのカ」

元々知ってるのは覗いているのを含んでいるような気もするが、睨まないで欲しい。

《元々知っていたんです。何度も言いますが超鈴音は今ここにいる、ただそれだけです》

「まあいいヨ。色々終わたら宇宙船貰うネ。少女のプライバシーを侵害した罰ネ」

「キノ殿はイタズラも程々にした方がいいですよ」

イタズラではない、これは。
ここにいる三人は割と性格が悪いかもしれない。

《もう好きにしてください。私たちはなんというか性格が悪いという点で似ているかもしれません》

「おやおや、私は違いますよ」

「翆坊主と一緒にされるのは心外ネ」

間違いないと思う。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「茶々丸姉さん、運搬ありがとうございます」

「妹の為ですから」

四葉さん並の優しさを感じる。
しかしマットを用意してくれと言ったのは確かだが、あれからいつの間にか大きめの猫用の丸い寝床に小動物のように寝かせられているのを見た。
茶々丸さんの認識では猫のようなものという事なのだろうか。
エヴァンジェリンお嬢さんはその辺り全く興味ないらしい。

二週間程警備に参加しているが、召喚術師の数がやはり減少傾向にある。
裏は裏で情報が流れるのは早いということだ。
関西呪術協会に接触するのももう少しという所だろうか。
そうこうしている間に神多羅木先生の所に到着である。

「神多羅木先生、茶々円を連れて参りました。よろしくお願いします」

「ああ、いつも悪いな。それでは茶々円行くぞ」

「神多羅木先生今日もよろしくお願いします」

この二週間で君付けは取れた。
戦闘中に念話する際にわざわざという事らしい。
合理的だ。

《噂が広がったのかわかりませんが、最近直接侵入者があたって来る事が少なくなりましたね》

《数自体が減少しているからな。効果が出ているというなら良いことだろう》

《一番近いところで隣の葛葉先生の所ですが行く必要ありませんね。その反対で葛葉先生の剣術の生徒さんが無駄に突出していて囲まれていますから行ったほうが良いかもしれません》

《葛葉を心配する必要はない。ここは生徒に加勢するべきだろう。誘導を頼む》

《了解です》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

《本当にうんざりする程数が多いですね。教師が居ないところを一点突破するつもりなのでしょう》

《動くから落ちないようにな》

そう言っていつものように射程圏内に距離を詰め無詠唱の気の衝撃波を死角から打ち出したのだが

「「「「出たな緑のグラヒゲ!!!討ち取れー!!!」」」

と元々こちらを向いていた奴らに叫ばれ

《神多羅木先生、二つ名ですよ嬉しいですか》

《少し黙っててもらえるか。片付ける》

それからはあっという間だった。
納得のいかない呼ばれ方をした神多羅木先生は容赦が無く、孫娘の護衛も体勢を立て直し、龍宮神社のお嬢さんもやってきたとなっては一方的なものだった。

「お三方、術師が逃げ出しました。追跡お願いします」

その後もあっさり術師二人は捕まえたのだが

「おい、緑のグラヒゲとはお前らが伝えてるのか」

神多羅木先生は意外と気になるらしい。

「鬼達が勝手に話題にしているだけだ、我々はそんな事は知らぬ」

との事。
速攻で気絶させられました。
しかしやはり奴らは意外と暇らしい。
そもそもこちらで倒されても還るだけだなんて虫が良すぎる。

「神多羅木先生、封印処理実行します」

「ああ、頼む。桜咲、いくら神鳴流が前衛だからと言って突出して窮地に入ってしまっては意味が無いぞ。葛葉にその辺りも鍛えてもらうんだな」

「はい、ご迷惑をお掛けしました。精進します」

龍宮神社のお嬢さんがこっちを凝視してるな…。

「龍宮神社のお嬢さん、麻帆良の警備ありがとうございます。何か私にご用でしょうか」

「いや、済まない。少し違和感を感じただけだ」

中に入っているのが精霊体の大きさとずれているのがバレているらしい。

「良い目をお持ちですね。神多羅木先生封印処理終りました。行きましょう」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「刹那、あの光景は最近よく見るようになったがどう思う」

「さっき注意されたが笑いそうになって大変だった。真面目に先生が話かけてくるのにあの子が頭にしっかりつかまって一緒にこっちを見てくるんだから」

「だろうな。私も頭に乗せてみたいよ。いや、しかし注意されていたこと自体は心に留めて置いたほうがいい、私もはぐれた時は肝を冷やした」

「分かっている。済まない龍宮」

「次から気をつければ良いだけだ。やれやれ、肩車している親子が少し過激な散歩をしているようにしか見えないな」

という会話があったとかなかったとか。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

明けて翌日。
近衛門の所に来ている。
クウネルに話したなら個人的に話す分には同じだろう。

《近衛門殿、二つほどお話があります》

「おおキノ殿、警備に参加してもらえるお陰で大分負担が減ってきて助かっとるよ。して今日は何かの」

《先に口外して欲しくない事から言いますので結界を張らせて頂きます。超鈴音ですが結果から言えば彼女の当初の計画は中止になりました》

「ふむ、超君の計画がなんじゃったのかも良く解らんが違う計画はあるという事かの」

《その通りです。ですが新たな計画は麻帆良で行う物ではありませんので監視の目はもっと違う所に回したほうが効率的です。その計画は私から頼んだものでもあるので、広い目で見れば最善なのですが、やはり魔法使いの立場からすれば異端かもしれません》

「監視の目を他に回せと言うても、もう少し具体的な事を言ってもらえんと動きにくいの」

《…分かりました。魔法世界は後11年程で世界を維持できずに消滅し、火星に地球出身の人間が投げ出されます》

「そ、それは本当なのかキノ殿。本国からはそのような知らせは受けておらんぞ」

《本当です。この事実を知っているのは前大戦を起こした完全なる世界の残党と本国の一部の人間です。この本国というのとこちらの繋がりが問題なのでこうして結界を張っているわけです。超鈴音はその未来の火星からたった一人でやってきたのです》

「確かに本国での極秘情報がこちらに漏れていたら問題になるの。超君はそういう素性じゃから昨年以前の情報が掴めず、あんなにも技術力が高いんじゃな」

《今はこれぐらいしか、と言ってもほぼ核心と言えるのでご理解頂きたい。因みに違う計画には既に図書館島のアルビレオ・イマ殿にも協力頂いていますので確認をとることができます。食料などを提供していた所からすると近衛門殿は彼の事をご存知だったのでしょう》

「何じゃ、アルも協力しておるのか。ふむ、図書館島に超君が行くのにも監視が強いと確かに困るじゃろうな。その辺りはなんとかしておこう」

《ありがとうございます。くれぐれも口外しないように願います。事態が本格的に動き出すのは早くても1年、もしくはそれ以上かかると思います。精霊の予想から言うと、A組という舞台から起きる奇跡の物語と重なるかもしれませんね》

「わかっておるよ。あの学年のあの子達は歴代の中でも恐ろしいほどに濃くての、儂としてはクラスを決める際に反対されたんじゃが、勘が働いての、一つにまとめたんじゃ。キノ殿も何か起こると思うという事は間違いではなかったんじゃな」

《私は人間ではありませんから、近衛門殿が私よりもいたずら好きでたまに問題を起こすのも気にしません。大体何か起きても最後は丸く収まるのですから良いと思いますよ。あのクラス編成は本当に、昔からの事ですが近衛門殿の勘の良さと言いますか人を見る目がどれほどなのか分かりますね。恐らく他人には全く理解できないと思いますが》

「そう言ってくれるのはキノ殿だけじゃよ。最近はしずな君やタカミチ君が厳しくての」

《恐らく見ているだけなのが地味にストレスになっているのでは無いですか。近衛門殿の昔を思えばもっと自分から動くタイプでしたよ。ストレス解消というのは何ですが、警備で暴れてみてはいかがですか》

「それは自覚しとらんかったかもしれんのう。確かに久しぶりに動いてみるのも悪くないかもしれんな。ところで二つ目というのは」

《失礼しました、忘れてしまいそうでした。一つめの口外できない事の問題から前回も言いましたが東と西の争いをさっさとやめて貰い問題を減らしてしまおうというのが目標です。そこで私が警備で行っている封印処理を受けた陰陽術師も増えてきている事ですから、時期を見て、この封印を解くという条件から麻帆良の手出しを控えてもらいたいと思っています。当然あちらはそれを無視して攻撃するという手段がありますから、この際それを切り口にして麻帆良に呪術協会の支部を何らかの条件付きで建てさせてしまえば良いのではないですか。実際この地に対する興味を諦めさせるというのは無理な話なのですから》

「そういう思惑じゃったか…。確かにここ数日あの封印処理は一体なんだと向こうから苦情も入っとるから絶対に無理とはいわんが…。割と精霊殿は気楽に言うがかなり難しいじゃろうな」

《それでも、近衛門殿なら不可能ではないのでしょう。私も詠春殿には近いうちに会いに行きますし。それに超鈴音なら「麻帆良最強頭脳のこの私に任せるネ」と必ず言いますよ》

「…キノ殿は本当に超君を気に入ったのじゃな」

《正しくは待っていたというところなんですがね。近衛門殿にも同じような人物が少ししたらきっと現れますよ》

「…ふむ、分かったわい。この近衛近衛門、一肌脱ぐとしようぞ」

《久しぶりにその生き生きとした姿が見られて嬉しいですよ。ご協力感謝します》



[21907] 7話 体育祭
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/01/21 16:46
鈴音さんが3日前図書館島からふらりと帰ってきた時様子がおかしかったんです。
何かあったんですかと葉加瀬さんと一緒に聞いたのですが

「気にしなくていいよ。少し思うところがあるだけね」

喋り方にも元気が無く珍しくそのまま直ぐ寝てしまいました。
なんだか儚げな話し方で普段見れない一面を見れた気がしました。
しかも二日続けて同じような状態だったので昨日クラスの皆も

「超りん元気ないけどどうしたの」

と心配していたのですが、何か思いつめたような顔をして塞ぎ込んでいました。
これには古さんも声をかけにくかったらしく2人で話したのですが

「超はすぐに元気になるアルよ。私は信じてるアル」

古さんは何か思うところあるらしいです。

「そうですね、私も信じます!」

そして今朝。

「さよ、ハカセ、私は今此処にいるよ」

以前にも増して明るい魅力的な笑顔でした。
ただ明るくなっただけじゃないみたいですね。
なんというか無理をしていない自然な印象がありました。

それから鈴音さんは学校に着いた途端古さんに宣戦布告したんです。

「クー!ウルティマホラは絶対に私クーには負けないネ!」

教室の入り口で堂々と宣言した顔は凄く嬉しそうでした。

「超、元気になたアルか!その勝負受けて立つアルよ!」

熱い空間が形成されて皆も驚いていましたね。
とにかく鈴音さんが元気になって本当に良かったです。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

10月10日から3日間体育祭の始まりです。

実は超包子の稼ぎ時でもあるのです。
なんといっても小腹が空いた時に肉まんを片手に食べられるんですから昼時の人気は凄いものです。
勿論クラスの競技にはしっかり参加していますよ。
因みに私は一応バレーボールに参加しています。
今はクラスの皆と徒競走系の種目の応援に来ています。

はっきり言って1-A強し!です。

短距離走は神楽坂さんと春日さんの独壇場。
軽く計測しても何かの新記録だと思います。
二人三脚は鈴音さんと古さんが本当に足に紐付けているの、という速度で爆走。
息が合いすぎです。
障害物競走は楓さんが、気がついたらゴールにいるという有様でした。
忍んでください!

応援している私達のテンションも異常な盛り上がりで若干他のクラスの人たちが引いていましたが今更気にしません。

バレーボールも正直容赦ありませんよ。
1-Aは龍宮さんを始めとして身長が年齢の割に高いんですが、それを他クラスと行うと一方的でした。
相手のスパイクは全てブロック、しかしこちらのスパイクはザルのようにコートに吸い込まれていくんです。

バトミントンも同じ体育館で行われたのですが桜咲さんがラケットを振るのが早すぎて見えません……。

「このクラスなんなんだよ、ありえねぇ……」

という長谷川さんの呟きも周りからすれば当然かも知れませんが残念ながら同じクラスなんです諦めてください。

あっと言う間に1日目が過ぎ、2日目に突入しましたがエヴァンジェリンさんが大将をする騎馬戦はギャラリーが多すぎでした。
大学の方から本格的な機材で撮影されていたのは流石にやりすぎだと思います。
さながら戦場を駆け抜ける戦女神のようで通り抜けた後には鉢巻は一切残っていませんでした。
そういう意味では良い映像だったかもしれません。

2日目が終わった後、超包子を1-Aで貸切り打ち上げです!

「いや~私たちのクラスは凄いアル」

「皆さん凄い勢いでしたからね」

「まさかこんなにトロフィーが一箇所に集まることになるとは思いませんでしたね」

「1-Aなら十分にありえることネ。皆、今日は超包子からのサービスだからどんどん食べていいヨー」

「ちゃおちゃおありがとー」

「四葉さん料理美味しいよ」

皆幸せそうで良かったです。
高畑先生も呼んだので途中から打ち上げに参加してくれたのですが、トロフィーを皆からプレゼントされて大変そうでした。
はっきり言って多すぎるんです。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

そして3日目、ウルティマホラ当日です。

場所はまほら武道会と同じく龍宮神社にある会場で行われます。

「昔のまほら武道会とはやっぱり雰囲気が違いますね」

「さよは幽霊の時に見たのカ」

「幽霊の時は学校付近に縛られていたので見れなかったですけど、翆色関連で見せて貰ったことがあるんです。活気が違いますね。なんというか今がある程度落ち着きがあるとしたらアレはなんでも有りという感じです」

「また翆坊主カ。前に凄い映像があるのとは聞いていたが見せて欲しいネ」

「私も鈴音さんに見せたい映像があるんです。どうやって見せればいいかわからないんですけどね」

「方法は私に任せればいいヨ。なんとかしてみせるネ」

「キノにも言っておきますよ。そろそろ私達の予選始まりますね。古さんはもう始まってるみたいですし」

「枠の数から見ても午後の本選で当たる事になるかもしれないネ。古も待てるヨ」

「はい!」

午前で一気に人数を減らすものの本選の枠は東西の1から32までのトーナメント二つで構成されていて、その総数はなんと64です。
ベスト8までを決定するため総試合数は67に登ります。
実際これでも少ないぐらいかもしれません。
3万人が通っていると言われる麻帆良学園都市ですからそのうち武術を嗜んでいる人口は千人単位になるのは間違い有りません。
ここまで言って本選に残れるのか心配になってきました。
良いことなのか悪いことなのか、どうも私が勝ち抜いていく必要のある地区は古さんとも鈴音さんとも違うので頑張って残らないといけないようです。
予選自体は大きく4地区で年齢は中学生から始まり徐々に混合して行き16ある枠まで残れれば本選出場です。
しかしそのため予選は迅速さの観点から一試合3分のみという超短期決戦で、不当に動かない場合は判定で不利になります。
また、勝敗に関しては使用する格闘技の何らかの技が決まった段階で勝ちとなり、その判断の難しい打撃技に関しては審判の判定で決定されます。

因みに私はいいんちょさんから大会に出るならばどうぞと貰った道着を来ています。
とてもデザインが良く着心地もぴったりでなんだか頑張れそうな気がします。

そうこうしているうちに私の試合の番がやってきました。

「両者共に礼!」

審判の人たちも沢山居ますが麻帆良各地にある道場の人達や学校の武術系の部活の先生が担当しています。

「「よろしくお願いします!」」

「試合始め!」

さて始まりました、相手は男子でどうやら中国武術の使い手のようです。
はっきり言って、いつも二人に相手してもらっている私にとっては何ということもありません。

「せいっ!」

掌底を叩き込んできましたが逆にそのまま勢いを利用し投げ飛ばします。

「やあ!」

ドサッという音とともに間違いなく決まった筈です。

「勝負有り!勝者相坂さよ!」

少し緊張しましたが、次から忘れていた精霊のズルを使って予選を切り抜けることにします。
これで全く焦ることなく落ち着いて対処ができます。


……やはり1-Aは異端です。
気がつかないうちに一般人の枠を殆ど飛び出しているのがよく分かりました。
相手が突っ込んできた場合は冷静に受け流してそのまま技を決めて終了。
相手も様子を見るタイプの場合はいいんちょさんに習った「雪中花」で一発ダウン。
いいんちょさん、一般人相手にはとても使い勝手が良いです。
この技をほいほい避けるのがあの二人ですからここまでうまく決まるとなんだか楽しいんです。
残念ながら予選なのでこの様子をクラスの皆に見せることはできませんが。
途中生理的な壁としてレスリングの使い手の男性等が立ちふさがりましたが16枠の一つを無事獲得することができました。
本戦出場が決定してから、同じ合気柔術の使い手さん達から応援されたり、何処の道場に通っているのかと聞かれたりして少し困りました。

古さんの方も決着が着いていたようですが、聞こえてきた話では一発打ち込むと試合が終わるという本人は全く満足できていなさそうな内容でした。
正直あの威力の打ち込みを喰らった人たちの安否が気になりますが……。
私も思い出すとあの恐怖はなんともいえないです。
鈴音さんの場合は加減するのでもう一つの地区は大丈夫だと思いますけど。

「古さん!私も本選出場まで行きましたよ!」

やっと見つけたので声をかけて報告です。

「おお、さよも本戦出場アルか!あまり手応えのある相手見つからなかたよ」

「さっき話しが聞こえてきたんですけど全部一発で終わったらしいですね」

「その通りよ。少し寂しいアル」

そこへやってきました。

「やはり二人共本選出場したカ。あまり強い相手がいなかたから当然ではあるが」

「超!待てたアルよ。これで三人揃たな」

「本選の組み合わせが決まるまで時間がありますし、近くに四葉さんが超包子を構えてるので行きましょう」

「腹がへては戦はできないネ」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

超包子でお昼ごはんを食べている途中、鈴音さんによると私たちがいなかった地区にかなり強い大学生がいるという事がわかりました。
要注意です。

食べ終わって時間も丁度という所でいいんちょさん達が応援に来てくれました。
私はいいんちょさんに練習に付き合ってくれたお礼を言って本選も頑張りますと伝えました。

本選は予選と異なりベスト16までは、3分3ラウンドで2本先取した段階で勝利、それ以降は5分3ラウンドとなり少し余裕ができます。
これはあまり長引くことによる疲労を考慮しての事らしいです。

「超、さよ組み合わせが決またみたいアル!」

あ、本当です。
係員の人達が組み合わせを貼り出していますね。

「私は古とは三回勝ち上がればあたるナ。さよは東側のトーナメントだが例の大学生がいるようだから気をつけるネ」

「超、正々堂々決着を付けるアル!」

「全力を尽くすヨ!」

私は二人と当たるとするなら一番上まで上がらないといけませね。
頑張りましょう!
因みに例の大学生の名前は三谷さんというらしいです。

さあ、いよいよ本選の始まりです!

とはいったものの東トーナメントでの初戦もやはり大したことがなく、最初に突っ込んできたので軽く見切ってぽいっとして、次は様子を見ていたようですが隙をついて「雪中花」で見事に勝利です。
なんというか全体的に動きに速さが足りません。

順調に勝ち上がった鈴音さんと古さんですがとうとう約束通り向かい合う事になりました。
クラスの皆も引き続き見に来ています。

「クー、この時を待てたネ!私の全力を受けるヨ!」

「超!いつもより良い顔してるアル!楽しくなて来たアル!」

「試合始めッ!」

お、驚くほど鈴音さんが積極的です。
いつも武術では古さんが一歩上を行くところですが今日の鈴音さんの気迫は観客からも簡単に感じられる程です。

「超りん達の試合見たの始めてやけどすごいな~」

「ここ最近修行で良く見ていたが今の超殿は輝いているでござるな」

「楓さんもそう思いますか」

「これなら拙者も出てみたかったでござるよ」

凄いです、楓さんの目が開いていますよ!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

後足の踏み込みから、掌底を繰り出し古の腹部を捉えたかと思たが、一瞬で後退するカ。
しかし、すかさず追い打ちを掛け回し蹴り!

「くぅッ」

避けきれず左腕でガードされたがダメージは通たネ。

ッ!右手が瞬時に足を掴もうとしてくるあたり反応が早いヨ!

「させないネ!」

足を戻しながら左で手刀を腕に向けて放つがこれは体勢が悪いナ。

「甘いアルッ」

動作を中断し咄嗟に身を屈めて足払いとくるカ。
しかしまだだヨ!
敢えて体勢を崩させバク転の要領で初期位置に戻るネ。

「隙有りアル!」

早いヨ!もう突きが来るのカ!
一度場外に出るッ

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

一度鈴音さんが場外に出るまでの一連の流れは一瞬でした。

「瞬きしていたら見逃してしまいますわね」

やっぱりいいんちょさんも非一般人です。
目で追えてる時点で十分凄いですよ。

反対側の方で既に鈴音さん達に負けた人達も見ていますが視線が追いついていません。

「いや~肉眼だとよくわからないけどビデオカメラ持ってきて良かったね。これは良い映像になるよ」

朝倉さんは流石に動体視力が追いついてないみたいですが、報道関係者として嬉しそうですね。

最初の三分間を制したのは判定勝ちで鈴音さんでした。

「私としてはクーには一本決めたかたヨ」

「今日の超はやはりいつもと違う。さきの蹴りは効いたネ。でも次は私の番アル!」

2ラウンド目に入ったら一転、古さんの猛攻が始まりました。
鈴音さんが反撃する隙が無く、あっても牽制程度という所ですがッ!

見事に古さんの掌底が入りこれで一本。
一対一となり次で決着です。
他でも試合が行われていますが、ここの空気だけが一層際立った緊張に包まれています。
気がついたら見ているだけなのに手に汗をかいていました。

「く…クーは本当に強いネ。一体故郷でどんな修行したのか気になるヨ。…しかし、まだ、まだ終わらぬヨ!」

ゆっくりと立ち上がりながら話す鈴音さん。
物凄い気迫に審判の先生も思わず後ずさりしています。
しっかり判定して下さい!
さっきの一撃はかなり効いているようです。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

2ラウンド目の古の一撃は直撃だたから立ているのも辛いがまだ終われないネ。

様子見で既に軽く打ち合っているが埒が開かないヨ。

仕掛けるしか無いッ!
下段に右で蹴り、身体を捻って左回し蹴り、そのまま背を向けた体勢から当て身!

ハハ…クーの捌く技術は高いナ、蹴りも威力を殺され当て身も後一歩というところで身体を引かれたヨ。

一旦距離を取り直すカ。
しかし、やはり辛いナ。

「クー、次で決めるネ」

「私の一撃を受けてみるアル!」

恐らくこれで最後ダ。
練り上げた気と共に足を踏み抜き全身の力を

右腕に乗せて突くッ!

…古の奴、わざわざ寸勁を拳にぶつけて来たネ。

ガッ!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

拳と拳がぶつかり合うという漫画のような展開が起きましたが、一瞬間を置いて鈴音さんが膝を着いて崩れ落ちました。
古さんの力が全身に伝わったようです。

「超、とても良い試合だたアル。今のは効いたネ」

崩れ落ちた鈴音さんを咄嗟に支えた古さんが言いました。

「……クー。……私は此処に居るヨ」

「超、当たり前アル。私達はずっと友達アル!」

「……そうカ。そうだナ。ありがとう、クー」

試合中の張り詰めた空気は一転し、二人共清々しい表情をしています。

「お疲れ様です!鈴音さん!古さん!とても想いの伝わる良い試合でしたっ!」

応援に来ていた皆も感動して一帯が拍手に包まれました。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

今のがベスト8の戦いで行われていたらもっと盛り上がっていたかもしれません。
でもそんなのは二人にはどうでも良い事だったようですけどね。

私はベスト16まで上がって来たところなのですがとうとう例の三谷さんと当たる事になりました。
割と小柄ですがどうやら合気道を使うらしいです。

因みに私の合気柔術は正式には大東流合気柔術と言い、合気道との相違点は合気道の方がより大きな円の動きで技を掛けるという点にあります。
後は武道の思想が異なり、その影響で合気柔術にある危険な技が省かれている傾向にあります。
と言っても私も使えはしてもそういう技は使わないので、ある意味合気道の方が向いているんですけどね。

そうこうしている内に試合が始まります。

「よろしくお願いします!」

「こちらこそよろしくお願いします」

「試合始めッ!」

三谷さんはとても落ち着いていてそれでいて自然体でありながら全く隙がありません。
困りました。

う~ん、いいんちょさんも見ていますし「雪中花」行きますッ!

「ハッ」

と思ったんですが、あれ!?

「ひゃあっ」

空中が見えます。

ドサッ

「一本!」

いたたた、気がついたら5m程投げ飛ばされてあっさり一本とられてしまいました。
なんですか、物凄く強いですよ、なかなか強いとか大嘘ですよ!

2ラウンド目はさっきの失敗を活かしてじりじり距離を縮めて様子を見ます。
はっきり言って近づいたら気づいた瞬間に投げ飛ばされているんですから近接技は自殺行為です。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「かえでサン、先程のあれは見えたカ」

「拙者も驚いたでござる。合気道は和の武道と申すがあれほどの達人なら下手に手を出せば一瞬で決まってしまうでござるな」

「私もあの方の噂を聞いたことはありましたが、あれ程とは思いませんでしたわ」

「相坂が苦戦しているようだな」

「龍宮サンも来たのカ」

「ここは私の実家だからな。しかしあの分だと三谷さんの方が実力、経験共に上だろうな。古の相手になるとしたら天敵になるだろう」

「確かに古の攻撃力は一般人としては麻帆良一と言ても過言ではないが受け流されてしまえば辛いネ」

「あ!三谷さんが動きましたわ!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「わぁっ!」

早すぎます。
地面を滑るように目の前に現れたかと思ったら少し肩をぶつけられただけで吹き飛んでしまいました。

起き上がろうとしたら続けて投げられます!
本当に一般人ですか!

「一本!勝負有り!」

……ああ、古さんと当たるという夢は儚くも潰えました。

「ありがとうございました」

「こちらこそ楽しい試合でした。ありがとうございます」

あまりにもにこやかな笑顔で挨拶を返されました。
負けたのですが、あまりにあっさりしすぎていて全く根に持てません。

はぁ……。

「さよ、お疲れ様だたネ。あの三谷サンは仙人みたいなものだネ。極地に到達していると言てもいいヨ」

「気にすることはないさ相坂、ここまで上がって来ただけでも凄いことだろう。トーナメントだとこういう事はよくある。恐らく彼が相手では今回は古も勝てないだろう」

「私もあの方を見てまだまだ精進が足りないと思い知らされましたわ」

「拙者もいいものが見れたでござるよ」

「皆さん、ありがとうございます。古さんの試合を応援しに行きましょう」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

結果として古さんは頂上まで上がって行きましたがやはり相手として立ちふさがったのは三谷さんでした。
「さよの代わりに私が倒すアル!」
と物凄い勢いで突撃したのですが
「おろ!?」
と一瞬にして投げられてしまいました。
2ラウンド目も体良く投げられてしまいましたが、今度は空中で体勢を立て直すという離れ業をやってのけ、そのまま一撃を加えることに成功しました。
古さん凄い!

が、その一撃はどうやらわざと受けたらしく、カウンターを放たれあえなく2連取されてしまいました。
相性が悪すぎますね。
所謂麻帆良の夜の警備で必要とされる技能とは正反対を行っています。
魔法、気有りの勝負であれば間違いなく倒せる筈ですが、こういう所が武術大会が武術大会である所以なのでしょう。

それでも古さんはウルティマホラ初出場にして2位という快挙です。

「三谷さんの詳細が分かりましたわ。今年で大学を卒業され麻帆良から出て就職されるそうですわ」

となると来年は古さんの優勝は固いかもしれませんね。

「皆、負けてしまたアルよ」

そういいながらも楽しそうな古さん。

「くーふぇ惜しかったねー!でも2位だよ2位凄いよ!」

鳴滝姉妹が大騒ぎです。

「古さん、2位おめでとうございます!」

「クー、おめでとうネ。来年は私と優勝を争うヨ!」

そのまま古さんの胴上げをして1-Aのテンションが上がりまくりの所、表彰式だから場所を開けて欲しいと係の人達に言われるまで、賑やかな空間が形成されていました。

こうしてこの後表彰式を迎え、1-Aのクラスに昨日に引き続きメダルが更に増えました。
その後古さんの知名度は一気に上がり、色々な武術系の部活やサークルからのスカウトが朝の日常に加わる事になったのです。
また、朝倉さんはインタビュー記事を担当することになり、撮影していた映像も相まってかなり気合の入った記事が掲載される事となりました。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

無事にウルティマホラも終わったようだ。
別に狙ったわけではなかったのだが超鈴音の心境の変化には良い舞台となったようで良かった。

因みにサヨが一瞬でやられた、ウルティマホラで一位を取った麻帆良大4年の三谷祐介さんは、武田惣角の弟子でもある植芝盛平が開いた合気道の門下の中では史上2人目と呼ばれる程の達人だそうだ。
因みにウルティマホラ出場は今回が始めてであったそうな。
流石麻帆良、天才がいても仕方ないのはいつもの事らしい。

この後は変わらぬ日常に戻り彼女たちは中間試験に突入することになる。


ところで火星の様子だが、地下にある氷の塊の扱いが難航している。
以前楽観的に出した数ヶ月という期間では到底終わらないだろう。
火星の大きさと第二世代の大きさの関係も地球と神木・蟠桃と同じような釣り合いが取れてはいるが、いかんせん環境が過酷であるため時間がかかる。
超鈴音の重力技術も、身体強化系の側面が強く星全体に張り巡らせる術式となると、軽く新たな試みになりそうだ。
とにかく、まずは出来ることから潰していこう。



[21907] 8話 第一段階完了
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/23 18:37
中間テストも終り既に11月に入った。
相変わらず4位までは独占できているのに下に偏りが多すぎて1-A自体は相変わらず最下位のままである。
まあ、そんな事は当人達の問題である。

《超鈴音、聞こえますか。一ヶ月振りですかね。その後調子はどうですか》

《本当にたまにしか連絡してこないんだナ。翆坊主達が言てた言葉だが、私自身完全にとは言えないが納得できたヨ。以前よりも世界が色付いて見える》

《それは良かった、私としても嬉しいです》

《重力魔法の件だが、機械で発動させる訳ではないからなかなか進まないヨ。私自身も魔法を試して研究してみた方が早いだろうナ》

やはりこういう事になったか。

《そうですか…。まだ火星の方も準備万端という訳には行きませんから急を要するわけでもないので焦る必要はありません。でも呪紋回路の使用は認めませんよ。今度会ったら消したいぐらいなんですから》

《翆坊主、さよは除くとしても私には随分贔屓するネ。精霊にも恋愛感情があるのカ》

どちらかというとエヴァンジェリンお嬢さんに対してやったことの方が余程贔屓のような気がするが。

《どうでしょうかね。以前にも言いましたが私にとって超鈴音は5000年の願いそのものなんですよ。ある意味恋愛という概念の上を行っているかもしれません。贔屓して当然です》

《大胆な発言ネ。しかし悪い気はしないな、違う道を与えてくれた事には感謝しているヨ》

《そう言ってもらえるだけで私は精霊やって良かったですよ。その魔法ですが、直接我々の処置を受ければ使えるようになりますが、これは魔法先生達が突然超鈴音から魔力が感知できるようになったら面倒です。別の手段としてアーティファクト狙いでパクティオーする方法もあります。恐らくそれで解決できると思います》

アーティファクトは確実にチートな物になる。
間違いない。

《なるほど、確かに前者は厄介だネ。後者は契約執行を利用しての魔力供給という事カ。しかし半透明でも可能なのか翆坊主》

《魂があれば大丈夫という事らしいですから、大丈夫ですよ。そうなるとキスによる方法になりますが、身体も用意できるので血による契約も可能ですよ》

《ははは、あの茶々円という小さい奴カ。神多羅木先生の頭の上に乗っているのは本当に面白かたヨ》

面白いのか。
シュールなだけだと思うのだけれど。

《私が唯一真面目に使っている身体なのですがプライバシーが侵害されてますね》

《翆坊主だけには言われたくないヨ!》

《いや、仕事みたいなものですから諦めてください。それでどうしますか》

《そうだナ。恋愛感情などという枠を超えた深い感情だと言うのならばキスで構わないネ。その代わりこの前無視された映像を提供してもらうヨ》

身体用意するとなると契約する場所が恐ろしく面倒になるから良かった。

《承知しました。まあキスと言っても半透明なので一切感触はないのですがね。そうでした、サヨにも言われてた映像ですけどこちらとしては元々渡す気だったんですよ。ただ方法がクウネル殿と同じようにする訳にも行きませんからどうしたものかと》

《なんだかプレゼントする気あると言われると拍子抜けだネ。クウネルサンにはどう渡したんだ》

《彼のアーティファクトは他人の半生を記録するという代物でして見る事が出来るわけです。当然まずい映像に関しては選択除外してありますが》

《そういう事カ。サヨの計算能力で前から思てたがあの木は有機物の割には演算処理に優れ過ぎではないのカ》

《ええ、超鈴音にはこの際なので言いましょう。神木・蟠桃の中身は確かに有機物ですが、同時に恐らく世界最高の有機コンピューターでもあります。情報の保存容量もほぼ無限と言っても過言ではありません》

《やはり木では無かたカ。そんなに高性能の割に互換性が無いとは笑えるネ》

確かにパソコンに繋ぐことができないのは皮肉な話だ。

《なるほど、それは言い得て妙です》

《ふむ、ここはマッドサイエンティストの魂が疼くネ。翆坊主達が用意する身体ではなく、茶々丸のような電子機器にも接続できる身体ならば解決するのではないカ》

《それなら出来るかもしれませんね。ああ、でも葉加瀬さんにはどう説明するんですか。サヨは彼女にはまだ一応幽霊のような物という解釈がなされていて精霊だとは知らないと思うのですが》

《その辺りは幽霊のような物で通せばいいネ》

それでいいのか。

《実際その身体にさよが入てくれれば様々な研究が捗ること間違いないヨ!》

なんかテンション上がってて若干サヨの安否が気になる。

《確かにそうかもしれませんが、精霊を計算器に使うというのはなんとも言えませんね》

《多少の非人道的行為も科学のためなら少し目を瞑るネ》

…そういえばそういう人達だったな。

《正確には人ではないですけどね。でもさよの人権はしっかり確保して下さいよ。慣れたとは言ってもまだ復活してから1年も経ってませんし》

《わかてるヨ。無理強いはしないから安心するネ》

《私は超鈴音を信じていますからね。では都合の良い時にクウネル殿の所で仮契約しましょう》

司書殿にからかわれるとは思うが気にしたら負けだ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

11月も半ば、茶々円として魔力封印を始めておよそ二ヶ月強。
そろそろ詠春殿の所に行こう。

《サヨ、少し遠出して来ますので大丈夫だとは思いますが、木に変な事が起きないか少しだけ気にかけて下さい》

《了解です。キノ、どこまで行くんですか》

《京都まで木乃香お嬢さんの父親に会いに行くんです。日帰りで戻って来ますから特に問題ありませんよ》

《え、なんかズルいですよ!お土産買ってきて下さい》

いや、半透明でどうしろと。

《物を持てない身体では無理ですし、お金もないですから諦めてください》

《そうでした!私大分身体がある事に慣れてきて混乱してました。あ、木は任せてください》

《はい、よろしくお願いしますね》

では、いざ出発。

いやー久しぶりにこの速度で飛行するが、ソニックブームが発生しないし本当に安全だ。
霊体とは素晴らしいものだね。
抑えているとは言っても、十数秒で到着するのだから、異常なスペックだ。

関西呪術協会総本山に到着と。
昔はこの辺りも何もなかった、と言っても数百年前の事だから当然か。

詠春殿は何処だろうか。
木乃葉さんの結婚式の時に遠くから見て顔は覚えてるし大丈夫だろう。
しかし、巫女さんが多いな。
いや、予想はできていたが権力の使い方に問題あるだろう。
赤き翼ってナギ少年にしろクウネル殿にしろそういう辺り常識というかなんというか。
不毛すぎる、他人の趣味にとやかく言う事はやめよう。

執務室を発見したが、ああ、いたいた。
仕事しているな。
なんだか処理している書面の内容に心あたりがあるが…ある意味好都合か。

《近衛詠春殿、初めまして木の精霊をやっているキノと申します。以後お見知りおきを》

この方法の自己紹介も久しいな、司書殿振りか。

「ん、空耳が聞こえたような…。おお!坊や誰だい。って幽霊か!?」

あー、仕事に熱中すると声が聞こえないタイプの人か。

《いやいやいや、もう一度名乗りますが、私は木の精霊をやっているキノと申します。半透明なのはそのためで幽霊ではありません。近衛門殿から翆色がどうとか聞いたことありませんか。因みに詠春殿のお嬢さんは元気ですよ》

「…これは失礼しました。麻帆良の神木の精霊でしたか。それに木乃香も元気なのですか、ありがとうございます」

突然改まられたな。

《お仕事中ですが失礼します。それと既に結界を張らせて頂いていますのでここの話はむやみに口外しないということでお願いします》

「分かりました。それでどのようなご要件ですか」

《今処理してらっしゃる書類ですが、根本的な原因は私です》

「そ…それはどういうことですか」

《呪術協会も一枚岩では無く、勝手に過激な行動を取る一派がいます。度々彼等は麻帆良にちょっかいを出すので、私が絶対に解けない魔力封印を施した訳です》

「話では翠色の幼児によくわからないうちに封印をされて一切魔力を用いる術が使えなくなったと聞いていたのですが、ああ、そういう事ですか」

陰陽術は簡単ものなら気で発動する事が可能であるため、完全に術を封じるというのは不可能であり、これが彼らのメリットでもあるが、少なくとも鬼の召喚には必ず魔力が使われる。

《しっかり説明しますと、ある事情から東と西で争うのをやめていただきたいので、おいたをする術師の魔力封印をして麻帆良の負担を減らしつつも、この封印処理を解く事を条件に夜中麻帆良に侵入するのをやめて欲しいと交渉に来たのです》

「……しかしそれは私が長であっても難しいことです」

《もう一つ譲歩する計画がありまして、この際呪術協会の支部を麻帆良内に建ててしまえば良いというものです》

「そんな事が可能なのですか。いくら東の長といえど本国がそれを認めるでしょうか」

《そう言われればそうですが、私は近衛門殿を信じています。本国が認めないとしてもなんとかねじ込んでしまいたいですね。木乃香お嬢さんを中心に一悶着起きるのを防ぐなら早い方がいいですし》

「それは、木乃香が危険な目に会うという事ですか!」

流石娘の為ならという気迫だ。

《麻帆良にいる限りは安全でしょう。夜の侵入者は多いですが。動機としてはやはり関西呪術協会の長の姫でありながら西洋魔術の本拠地に何故送るのかというなんとも視界の狭いものが一番ありえます。だったら麻帆良に支部建てれば文句無いでしょうという事なのです》

「確かに、その件ではかなり揉めましたからね」

《揉めたということは解決していないという事ですから、災の種は生えないようにするべきです。後一つ、これは絶対に口外しないで欲しいのですが、後11年程でこのまま行くと魔法世界は崩壊し消滅します。精霊としてはこれを防ぐ用意を行っているのでその結果として、今のこの程度の低い争いを終わらせる事に尽力して欲しいのです。目下としては近いうちに近衛門殿から来る交渉への下準備をお願いしたいのです》

「魔法世界が消滅する等と全くそのような情報は入っていませんが」

《本国の一部の人間と詠春殿が戦った完全なる世界の残党しか知りませんからね》

「そうですか……。東の長が動くのであれば西の長である私が動かない訳には行きませんね。分かりました、やってみましょう」

《ご協力感謝します。あまり詳細な事は言えませんがいずれわかると思います。大人の役目とは次世代の者達の生きる世界を一時的に預かる事なのですから、自信を持って引き継がせられるような物にしたいですね》

「全く、その通りですね」

《因みにその報告に上がっている翠色の幼児は近衛門殿の作品という事になっていますのでうっかり精霊だなんて言わないでくださいね》

「精霊というのは意外と詐欺みたいな事もするんですね。しかし安心して下さい、漏らしたりはしません」

《詐欺みたいな事をしなくて済むなら、なんて良いのだろうと思います。さて、そろそろ失礼します。では》

まあ大体近衛門に話したことと変わらないが、近衛門が電話等をするよりも安全かつ確実に伝えられるので安心だ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

さて、二週間ほどまた過ぎている訳だがサヨ、超鈴音、葉加瀬の最近の行動といえば例の新しい身体!を目下作成中である。

《超鈴音、例の身体はできましたか》

《翆坊主カ。あと少しという所ネ。茶々丸のケースがあるお陰でかなり楽にできるヨ。ああ、仮契約だが今日学校が終わたらで構わないネ。ついでに重力魔法の研究も進めるとしよう》

《映像が本当に電子データになるのは楽しみですね。是非それで資金調達するといいと思いますよ。麻帆良創設100年の歴史であるとか、大自然の四季なんかは割とごまかしさえすれば売っても問題ないと思います。後は、まほら武道会の全ての内容であるとか、火星へ飛ばした際の宇宙の神秘なんかは個人的に楽しんでください》

《やはり随分隠し持ていたようだネ。しかも売ていいのカ》

《世界征服にはお金がどうしても付き物でしょう。精霊には必要ありませんし、協力して貰っているお礼という事です。ただ、マズイ映像は葉加瀬さんには見せないで下さいよ》

《わかてるヨ。それでは後でまた会おう》

実際の所既に超鈴音の財力は相当な物になっている。
量子力学を始めとする特許は勿論、超包子の営業収入、株式投資等による資産運用も行っているからだ。
その分研究費用等も莫大な金額がかかっていることがしばしばではあるが。
後は裏の関係とも一部繋がりのある雪広グループと手を組めれば地球側の金銭で解決できることはほぼカバーできるようになるだろう。

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「クウネルサン、久しぶりだネ」

《今日は少しこの場所を借りさせてもらいますよ》

「ええ、どうぞ私も重力魔法の件は発想は色々と出てくるのですが、なかなかこれと言ったものが得られませんでしたからね。何をするのか知りませんが気分転換がてら見物させて貰いますよ」

《超鈴音、仮契約の前にその痛々しい呪紋回路を削除してもいいですか。それは確かにあなた達の覚悟の現れでもありますが、私はその全身に刻まれているというのが嫌いなんです。その対象が超鈴音であれば、尚更です》

「翆坊主、これは確かに辛い物だが忘れる訳にもいかぬのだヨ。……少なくとも今はまだ消さないで置きたい」

まあ素直に消して良いと言うとは思っていなかったが。
それでも、いつかは消させて欲しいところだ。

《……分かりました。多分そう言うのではないかと思ってはいましたが、それでは仮契約をしましょう。クウネル殿、そういう訳で仮契約の魔法陣お願いできますか。恐らく知っているのでしょう》

「実にまたはっきり来ましたね。ええ、私は赤き翼やそれ以前にも仮契約をしたことがありますからね。用意しましょう。しかし超さん、精霊と仮契約とは豪華ですね」

「私自身には魔力容量が存在しないからネ。重力魔法の研究に私も実際に実験をしたほうが糸口が見つけられるだろう」

「それで呪紋回路がどうとかという話だったのですね。超さんが魔法を使えれば研究も捗るでしょうね。……さて、書けましたよ」

《それでは超鈴音を従者とする仮契約を行ないます。良いアーティファクトが出ることを祈りましょう》

「できるだけ使い勝手の良いものがいいネ」

精霊体の状態で口付けを行った訳だが、やはり感触は一切ないものの繋がりができたのは確認できた。

《完了しましたね。カード自体はどうで……す……か……?》

「フフ、超さん、カード自体色々面白そうですね」

司書の顔が楽しそうだ。
カードの色調だが翆色を基調とした虹色だ。
自己主張が激しすぎる。
あの宇宙船並だ。

《派手な色ですね全く》

「称号は時をかける征服者……カ。皮肉なものだナ」

《なんだかカードからアーティファクトも随分なものが出るのが予想できるのですが出してみてはどうですか》

予想しなくてもかなりズルいものが出る筈だ。

「わかたネ。アデアット!」

アイテムが出なかった。
しかし身につけている服が変化したりという事も一切無かった。
問題なのは目だろう。
虹彩が明らかに不規則なパターンで輝いている。

「超さん特にアイテムを得た訳ではないようですが、どのようなバグのある効果でしたか。どう見てもおかしな現象が起きていますね」

バグ前提で話を進められたが実際間違いではない。
もう、見てわかる。

「これは……翆坊主、他の人間とは無闇に仮契約しない方がいいヨ」

ああ、相当チートだな。

《ご忠告感謝しますよ》

「アーティファクトの名前は『世界樹の加護』。形のある物ではなく概念そのものというところカ。効果は複数あるネ。時間無制限の契約執行が従者側から任意に発動可能。精神力の強化。演算能力の強化。視野の拡張。思考の加速。とこんな感じだヨ」

魔分出力が異常すぎる。
調節はできるのだろうが粒子状のフィールドが形成されている。

《前半部分聞く限り要するに電池ですね》

「キノ殿、自分で言って悲しくないのですか」

電池をバカにしてはいけない。
非常に重要な役目を果たしているのだから。

《まあ、実際それを狙っていましたからね。人と直接争うのを善しとしない精霊としては丁度いいかもしれません。しかし、殆ど精霊の能力と同じものが、劣化バージョンと言えど付与されるというのも手抜きな感がありますが》

「翆坊主、時間無制限の契約執行と精神力の強化というのはいくらなんでも魔法使いに喧嘩を売りすぎだヨ」

それが電池の仕事です。

「視野拡張も単体で、千里眼として存在してもおかしくない筈だが、特典の一部に含まれているだけの扱いというのはズルいネ。精霊はいつもこういう世界を見ているのカ」

実際視野拡張を行うということは情報量が増えるわけで結果として演算能力の強化も必須、疲れないように精神力も強化もあった方がいい、既に超鈴音が会得している思考の加速は周囲の状態を瞬時に判断するためにというところだろう。
まあこれがデフォルトで備わっている木の精霊も精霊だが。

《それは観測している時です。霊体の時は一般的な視野に視野範囲外の動きが感知できる程度に抑えていますよ。しかしアデアットする前に結界張っておいてよかったですよ。なかったら周りにバレバレですからね》

「これほど純粋な魔力の元のような物を感じたのは初めてですよ。大は小を兼ねると言いますし特典が多くて良かったですね」

「……そう言われるとそうだナ。どういう効果か分かたから戻すネ、アベアット。しかし、魔法を使うのに結界が必要となるとダイオラマ魔法球を用意しないと不便だヨ」

「キティは持っていますがね。まほネットでも相当高いですが売っていたと思いますよ」

《それでも超鈴音の財力なら余裕でしょう》

「ふむ、ここに来る時以外の為に用意する事にするヨ」

《時間設定は現実の時間と同じにして下さいね。タカミチ少年と同じような結果になるのは勧められませんし》

「直接見てはいませんが、タカミチ君はまほネットで写真を見る限り随分老けましたからね」

《その代償に強くなったのも事実ですが。とにかく、超鈴音の性格から言って便利だという理由で葉加瀬さんと一緒に篭もりそうなので先に釘をさしておきます》

「私も年を重ねすぎるのは勘弁だヨ。高畑先生が年齢の割に老けているのを実際に見ているからナ」

《さて、まだまだ今日は時間ありますし重力魔法の研究をお願いします。結界貼りますからアーティファクト使って良いですよ、出力の調整もしないと眩しくて見てられないですし》

「初の実験といこうカ」

こうして準精霊化するアーティファクトを手に入れた超鈴音は人外の域に更に近づいたのだった。
呪紋回路を使わず肉体的痛み無しで発動できる魔法に年相応の少女らしく少し楽しそうだったのは印象的である。

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皆さん、最近私は実験動物に近いです!
葉加瀬さんと鈴音さんの目が何かおかしいです。
特に葉加瀬さんの眼鏡が怪しげに光過ぎです。
しかもとうとう昨日「新しい身体!」というのが完成してしまい、早速パソコンを指先にある端子と接続しています。

「ハカセ、まず円周率の計算からやってみるカ」

「はい!相坂さんがどれぐらいの速度で計算できるのか気になっていたんですよ!茶々丸より早いと期待しています!」

えー、計算器扱いですかー。

「さよ、本気で頼むネ!」

そんなに期待した目で見ないでください。

「わ、分かりました。頑張ります。計算開始です」

まあ私はこれやっても全く疲れないので構わないといえば構わないですけど何か違う気がします。

「す、凄いですよこれは!こちらのパソコンの性能と計算に使用するプログラムから考えても驚異的速度です!」

葉加瀬さん、こっちの世界に戻ってくださーい。

「まさか数秒で桁が兆に届くとは思わなかたヨ。幽霊のような何かというのは凄いネ、さよ」

鈴音さん、幽霊のような何かって全然分かりませんよ。

「超さん、これなら私オカルトも信じられる気がしてきました!」

葉加瀬さんは落ち着いてください。
何気に誤魔化されている事に気づいてください!

「これだけ異常だと記録の更新の申請はやめておいた方がいいナ」

あえて性能が高くはないプログラムで計算したらしいのですがこの様です。
これから計算器としての生活がより増えそうです。

「私はこれから毎日計算することになるんですか」

死活問題です。

「無理強いはしないから安心するネ。しかし、とりあえず今日は記念に色々データを収集してみたいからお願いするヨ」

……どこまで尊重されるかやや怪しいですが信じることにしましょう。
これもキノが何かを鈴音さんに吹き込んだのが原因のようなのですが、どうやら映像を渡す為の方法という事らしく、それなら仕方ないかなという感じです。

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仮契約から一週間程して超鈴音から手に入れたカードを通じて連絡があったが、念話は傍受される可能性があるのですぐに粒子通信に切り替えた。

《超鈴音、新しい身体!というのが完成したそうですが、映像のためにわざわざ三次元映像技術まで用意したのはやりすぎではないですか》

《翆坊主、精霊とやらの視野拡張を体感した私からすればこの用意は当然ネ!》

楽しそうなのは何よりだ。

《それで、ああ、今は寮の部屋にその身体を持ち込んであるから葉加瀬さんがいないうちにという事ですか》

《その通り、ハカセはこの数日で得られた計算結果で大学に泊まりこみ中だからネ。今のうちに渡してもらうヨ》

《分かりました。ただ次からはアデアットした状態でなら粒子通信できる筈ですからカードを使った念話は控えてくださいね。契約執行もオフでお願いします》

《アレはそんな事もできるのカ。翆坊主一旦接続を中断して、こちらから実験してみるネ》

あの粒子フィールドからすればできない筈がないと思う。

…………。

《……翆坊主、聞こえているカ》

まあ予想通りだ。

《おめでとうございます。これで晴れて双方向通信ができるようになりましたね。サヨとも離れていてもいつでも話掛けられますよ》

《これは本当に便利だナ》

《直接的な武器アーティファクトよりは日常生活向けですからね。それではしばらくお待ちください。私は龍宮神社のお嬢さんに見つかると面倒ですので》

《ああ、魔眼だたカ》

龍宮神社のお嬢さんの位置を観測。

餡蜜食べてるから大丈夫だろう。
さて、出発。
寮に来るのは二度目だが無駄に大きい建物だ。

《超鈴音、着きましたよ》

「見た目はさよに似ているが早速入るネ」

そう、この新しい身体!というのはサヨの見た目に耳のアンテナがついているという物である。

「なんというかいつもとは少し異なる感じですが、悪くはないですね。では接続しましょう。ところでそちらに大量に用意してあるハードディスクは何ですか」

「念の為ネ。5000年分も保存できるか分からないが沢山用意したヨ。ついでに三次元映像が表示されるように接続するネ」

どんだけ見たかったんだこの火星人は。
確かに加速させてみると面白い映像とか、感動の生命の神秘とかあるから期待は裏切らないだろうが。

「では最初に公開できない映像から行きますよ」

華の誕生と、打ち上げから火星への旅、まほら武道会史、麻帆良地下施設ガイド、リョウメンスクナの生態から順に、容量が割とすぐに限界を向かえるので取り替えながら続けて麻帆良創設史、大自然編と……。
あれ、ちょっと渡しすぎたかもしれない。
まあ大自然編は多すぎて全部入りきらなかったが。

「……翆坊主、まさに生ける化石だナ」

「超鈴音、調子に乗りすぎて渡しすぎました。情報管理はしっかりお願いしますよ」

「…………」

見入っていて全く聞こえていないようだ。
華の誕生は気に入ったらしい。
まあその感動は分かるが。

「超鈴音!聞いていますか!」

「……!翆坊主、何か言たカ」

「調子に乗りすぎて渡し過ぎましたので、情報管理は確実にお願いします」

「安心しろ。この超鈴音に任せるネ」

暗に見ているところ邪魔するなという短い反応をされた。
まあその辺りは天才を信じるとしよう。

そうだサヨに連絡するか。
身体がベットに放置されているから浮ついているのだろうが。

《サヨ、超鈴音に映像を渡しましたが、自分で渡したかったですか》

お礼をしたいという事は言っていたからあり得る。

《えー!渡しちゃったんですか!私が見せたかったのに!》

《ええ、楽しみを取り上げたようですいません。で今何処に、ってまた映画館ですか、相変わらず好きですね。今超鈴音が映像を鑑賞している所ですので、一緒にいかがですか。火星のテラフォーミングについての映像は完成したらサヨが今度渡して構いませんから》

《むー、分かりました。今からすぐ戻ります。って私の新しい身体!使ってるんですか!》

何か言ってるが気にしないことにしよう。

「サヨもなんとなく呼んでおいたのでしばらく鑑賞するとしましょう」

この後サヨは自分のいつもの身体に戻って鑑賞することになり、似たような容姿が二人揃う事になった。
この日は葉加瀬が帰ってくることは無く夜遅くまで、延々と見ていたのだった。
超鈴音が満足そうだったのは良かったと思う。

「翆坊主、是非昔のようなまほら武道会をもう一度開いてみたいネ。当時10歳のご先祖様の映像は圧巻の一言だヨ」

やはりそこに興味を持ったか。
浮遊術、虚空瞬動使えて当たり前の10歳というのは……後に起きることになるだろうが、やはり異常だ。

「私も直に見てみたいです。って誰が鈴音さんのご先祖様なんですか」

「さっきの赤毛の少年、ナギ・スプリングフィールドですよ。因みにこれは絶対に口外しないように。制限かけときますからね。大会を開くだけであれば、財力と技術力で外部に情報を漏らさないようにできるでしょう」

「あの男の子ですか!……でも髪の毛の色が違いますね」

いや、そりゃそういう事もあるだろうよ。

「ふむ、実現に向けて準備してもいいナ。私も航時機を使えばアレぐらいの動きはできると思うネ」

「いや、短時間であってもあれは身体に反動が蓄積されるのでやめて下さい。アーティファクトで慣れれば実現できますよ」

「キノ、アーティファクトというと鈴音さん誰かと仮契約したんですか!」

ああ、まだ一週間だったから言ってなかったか。

「私達、正確には神木と仮契約です。実際に行なったのは私ですが」

「その通りネ。このアーティファクトでさよとも安全に通信できるようになたヨ」

「キノ、また私に内緒でそういう事したんですか……。通信というと粒子のアレですか、それは便利ですね。それにしても……なんだか私も少しそういうアイテム欲しいです」

精霊は精霊の時点でアーティファクトの塊のようなものだが。

「サヨ、私達が積極的に戦うというのはあまり良い事ではありませんし、私達自身アーティファクトのようなものですから隣の芝生のような物ですよ」

「そうですね。こういう時は気にしないのが良いんですよね」

大分思考が伝授されているが精霊としてのおおらかな心という奴だ。

「ダイオラマ魔法球が手元に来たら私も研究の合間に訓練してみるかナ」

「どう他人に『世界樹の加護』の説明をするかが面倒ですが訓練自体は良いことだと思いますよ」

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そして季節はいよいよ寒さが本格的になる冬に入った。
学生達は期末テストも無事かどうかは人それぞれだが終り、今は冬休みという状況である。
この間超鈴音はダイオラマ魔法球を入手し寮の部屋から出たり入ったりを繰り返しながらも重力魔法の研究と忍ばない忍者達が好きそうな修行を行っている。
他にも資金面で例の映像の加工なども行ないどうするか画策している。
近衛門は本国と麻帆良内に呪術協会の支部を建てる事の交渉を本格的に行い始め、詠春とも秘密裏に連絡を取り合っているようだ。
茶々円としての立場でも相変わらず順調に面倒な術師を片っ端から封印するという作業を続けているが少しずつ侵入者が物理攻撃重視型の奴らに変わりつつあるため狙い通りといえば狙い通りだが厄介である。
サヨは相変わらずの生活パターンを繰り返しているが、学生のアルバイト収入としてはかなりの額を、寒さも本格化して人気も絶好調の超包子で稼いでいる。
これには超鈴音が色を付けた事が起因しているようだが、計算器としての労働等を考えてみても等価交換ということで納得しておくべきだろう。

一方、最近の精霊の仕事といえば相変わらず観測を行いつつ、火星のテラフォーミングを徐々に進行させている。
大きな成果としては、過酷な環境にありながらも木のフル稼働により大気組成に占める酸素の割合が3%を超えたことだろう。
また、クウネルと超鈴音の考えたこれはと思えるような重力魔法の術式を試しに火星の一部での実験も行っているが、そろそろ確実な成果が出そうではある。
そろそろ第二世代の神木に名前を付けても良いと思うが第二世代という言い方はこれはこれで良いような気もする。
何か良い呼び名を付けたいところだ。

さて、ここで難航している地下の氷の問題を例に見てみよう。
魔分でゴリ押す事で溶かす事はできるのだが、火星の平均表面温度は-63度、平均気温は-43度と極寒である。
平均どころか北極に近い所に定着した第二世代は本当に凄い。
神木付近は以前サヨが驚いていたように、常に魔分保護により地中活性などが行われているが、その影響外になった途端、溶かしてもすぐに凍ってしまうのである。
これを根本的に解決するためにはやはり火星自体の重力を強化することによって、大気圧の大幅な上昇とスケールハイトと呼ばれる大気の厚さ自体を現在の11kmから半分近くに持っていく必要がある。
また、他の大きな問題として火星の磁気圏というものは微弱であるため太陽風を防ぐのが困難である。
そのため、これは先の薄い大気とも関連して、火星地表に到達する電離放射線の増加を引き起こし、生物が健康に生きていくという点で障害となる。
その有害さは地球と火星の軌道上での値を比較しても2.5倍を越える。
解決策としては磁気圏自体の強化があり、星の核に存在する金属物質の量を増やすことが単純な策ではあるが、これはいくら赤い地表の原因である鉄分があるとは言っても地道に地下に送る事は現実的ではない。
違うアプローチの方法として火星地下奥深くの冷えてしまっているマントル層を強制的に活性化させマントル対流が安定するまで持っていくという方法があり、これは可能性があるだろう。

いずれにせよ、まずは重力である程度解決ができる。
また対策はあるにしても、保険として役に立つ物として華が期待できる。
あれは有機結晶型の宇宙船、同時に魔分結晶体でもあるが、実際に人類が乗っても宇宙空間内で健康上問題なく過ごせるという驚きの性能である。
亜空間が内部にあるので必要な機能かどうかはこの際置いておこう。
つまり宇宙放射線対策は万全であるため、改めて魔分有機結晶と呼ぶが、これと同等とは言えなくとも近いものを精製し粒子状にして軌道上にばら撒くという方法が放射線緩和に役立つ筈だ。
これの情報自体は木から創られたものなので既に手元にあり、最初の面倒な取り組みを省略できる点はかなり楽である。
そのため超鈴音には重力問題が終わったら次にこの奇跡の物質の研究を行ってもらいたいと思う。
それにしても新年を迎え14歳になる火星出身の少女は本当に大忙しだ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

そんなある日であったが新年を迎えた瞬間超鈴音の叫び声が粒子通信で入って本当に驚いた。
恐らくサヨも驚いていることだろう。

《これで重力の問題は解決したも同然ネ!根本的に重力という所から少し離れて発想の転換が必要だたとは素晴らしいブレイクスルーを達成できたヨ!》

なんと大晦日にも関わらずダイオラマ魔法球の中で過ごしていたらしい。
恐るべし超鈴音の集中力。
年末年始というイベントは一切無視であった。

《鈴音さん!とうとう完成したんですか!今もう年明けてしまったんですけど蕎麦食べていたんですが一度出てきて葉加瀬さんと一緒に食べませんか》

サヨは復活して初めての年越ということもあり蕎麦を食べていたようだ。

《超鈴音、どうやら重力の件解決したようですね。本当にありがとうございます。今日は休んではいかがですか》

《サヨ、翆坊主か、思わず粒子を加速させてしまたネ。そうだナ、積もる話は後にしよう》

しばらく待つとしよう。

「相坂さん突然びっくりしてどうしたんですか。蕎麦が喉に詰まったりしたんですか」

「葉加瀬さん、大丈夫ですよ。もうすぐ鈴音さんが出てきますから一緒に食べましょう」

「超さんやっと出てくるんですね。今日も出てこないかと思いましたよ。それにしても魔法は私にとってはオカルトのようなものではありますが、あの魔法球という技術は一度入ってみましたが凄いですね」

そこへ丁度良く鈴音さんが出てきました。

「いや~いい成果が出たネ。さよ、ハカセ、あけましておめでとう。私も蕎麦を食べさせてもらうとするヨ」

「あけましておめでとうございます超さん」

「あけましておめでとうございます鈴音さん。蕎麦はもうありますからどうぞ」

「これは美味しいネ。日本の伝統とは良いものだナ」

この後私達は蕎麦を食べた後龍宮神社に初詣に行きました。

「二人は何をお願いしましたか」

「私はロボットの進歩で心おどるような成果が出るようにですかね」

いつも通りの葉加瀬さんらしいです。

「野望の成就と世界平和を願たネ」

とても壮大です。

「あ!超さん達も初詣来てたんだねー!」

とクラスの皆さんも後からやってきました。
いつも寮の食堂や大浴場で会いますからさっき会ったばかりという感じではあるんですがね。
今日は寮の門限が午前2時までという事なので皆と少し話をした後一緒に寮に戻りました。

明けて次の朝、寮の食堂ではおせち料理が出て感動して、その後皆で改めておみくじを引いたり、お守りを買ったり絵馬を書いたりとやることはやりました。
なんといっても私には60年ぶりのお正月ですから。
引いたおみくじの結果は小吉というなんとも言えない感じでしたが、体調に気をつけるべし、なんて言われてもこの身体はハイスペックなのでそんな事関係ありませんよ!
お守りは巫女さんをやっている龍宮さんに勧められてなんだか色々買わされた気がします。
早乙女さんの絵馬を書く速度が物凄く早い上に一緒に書いていた絵も上手かったです。
いいんちょさんや近衛さん達の着物姿はとても様になっていました。

そして午後、葉加瀬さんは新年早々大学の研究室に行ってしまい、私達は鈴音さんからの報告を受けることになりました。

《では重力の件の報告を始めよう。以前に翆坊主が考えた星の質量を擬似的に上げるというものだたが、これは維持のために魔分の無駄遣いでしかなかたから却下だたネ》

《そもそも無い質量を増やすというのは人間の一般的な生活規模であればなんとかなりますが惑星規模になると困難でしたね》

《加えてクウネルサンと共に研究した重力魔法を地表に張り巡らさせるというものだたが、術式に範囲指定が必要で大気の層を引き寄せるほどの出力は得られなかたナ。しかしこれは組み合わせには使えるヨ》

《何度も図書館島に篭った甲斐があるならば嬉しいですね》

《今回私が考えた方法はズバリ変身魔法ネ》

《鈴音さん突然違う魔法ですね》

《変身魔法という言い方は語弊があるが別に実際に見た目が変わるわけではないヨ。正しくは惑星そのものにあたかも大きさが変わるかのような術式をかけて、惑星自体に錯覚させるものだ。人間には見てもわからない、星の自己催眠とでも言えばわかるカ。先の質量操作の方は無いものをあるようにするのは魔分の無駄遣いがあたが、逆に星の大きさを擬似的に小さくする方法ならば魔分効率も良く、火星の半径が短くなる偽装の結果、重力加速度を増加させられるヨ》

《その術式もなんとも随分無理がありそうですがよく開発できましたね。進化ができる人間は、時間がある意味止まっている我々精霊に比べて発想力という点で遥かに上を行きますね》

《お褒めに預かり光栄だナ。続けるが計算の結果火星の半径約3397.2kmを約2084kmになるような術式で解決するネ。因みに、この術式は弄られたら終りという危険性があるだろうから強力なプロテクトをつけておいたヨ。アーティファクトの効果で得られた演算速度を参考にして断続的に変化する乱数を鍵にした。これなら神木レベルのスペックが無い限りは誰にも介入不可能だろう。後は組み合わせる重力魔法だがこれはそのまま外側に向けて保険として発動するタイプのものにしたヨ。二つある月の軌道万が一にもズレてこないとも限らないからネ。実際試さないとわからないが、少なくとも公転軌道に大きな変化はないだろうからその点は安心だネ》

《月が落ちてきたら大変ですよね》

《しかし5000年間超鈴音を待って本当に良かったですよ。気になるのは魔分使用量ですが、地球の大きさを蟠桃一本で支えられていますから恐らく大丈夫だと思います》

《これで未来の故郷の悲劇が回避できるならば私としても努力した甲斐があたネ》

しかし、まだ終りではないんだ。

《超鈴音重力の件だけでも感謝していますが、これでまだ一段階目です。二段階目はわかりますか》

《この超鈴音が気づいていないと思うカ。実際に住んでいたのだからネ。宇宙放射線の事だろうが、木のおかしな力で地中活性ができるのではないのカ》

《という事は未来ではその方法が確立していたのですか。私達の得て居る情報では結局耐えきれずに滅びに向かったということしか知らないので》

《故郷ではマントル対流を直接活性化させるための大規模な装置を地下に向けて放ち、強力なエネルギーをぶつけてある程度地磁気を強化する事ができたヨ。ただその装置は生き残りをかけて資源、時間的にもギリギリだたから複数作ることが不可能でネ。徐々に効果が失われていたヨ。勿論この装置もある程度の改善だたから足りない分は専用の服で防護していたネ。そういう事情を含めて私がここにいる訳だナ》

地下マントルを直接活性化させるとは核か何かを使ったのだろうか。
流石人間の発想力と実現する力は凄い。

《なるほど、そうだったのですか。確かに神木で地中活性は可能ですがやはり万全とはいかないと思います。そのため火星の軌道上に、神木で創られた宇宙船の素材である魔分有機結晶を粒子状にして散布できないかと考えているのですが、あの物質ならほぼ完璧な対宇宙放射線性能を誇ると思うので保険としては申し分ないと思います》

《翆坊主、それならこの私に任せるヨ!その物質に興味があるネ》

《そういえば宇宙船に興味をお持ちでしたね。魔力的有機結晶の情報に関しては既にありますからサヨに新しい身体!に入ってもらって受け取って下さい。恐らく超鈴音の技術なら解決できると期待していますよ》

《研究対象が次から次へと飽きることが無くて良いネ。しかしその物質を精製するのは良いがどうやて火星に送るんだ翆坊主》

元々精霊体ならば転送できる事だしゲートの理論を参考にして神木同士を完全に繋げてしまうのがいいだろう。
正直いちいち華の亜空間に保存して運搬なんてやっていられない。
ついでに超鈴音のダイオラマ魔法球との間にもパスを繋いでおけば夜な夜な神木に魔法球を運んで物の受け渡し的な事もしなくて済むだろう。

《そのあたりはゲートを参考にして神木同士を繋ぐことにします。準備ができたら超鈴音のダイオラマ魔法球ともリンクさせて貰いますね》

《そのあたりは本当にズルいとしか言いようがないネ。しかし地球と魔法世界を人間が繋ぐ事ができるのだから当然カ。そうと分かれば確実に仕事は完遂してみせるヨ》

《これだけ積極的に協力してもらえるとまたお礼がしたいですね。以前宇宙船の所有権に関して話半分でしたが、色々終わったら超鈴音に譲渡する事を約束しますよ》

《鈴音さんの私有宇宙船ですか!旅行する時は私も乗せて下さいね》

サヨも賛成のようだ。
まあ精霊の我々は精霊体だったら、やろうと思えばワープできるから所有権を他人に渡すぐらいなら超鈴音に渡したほうが余程良い。

《今の発言はしかと耳に入れたヨ。故郷では安全に宇宙に出られる高速船までは流石になかたから楽しみにしてるネ》

未来でも魔法が残っていれば十分安全に宇宙に出て行く事はできたのではないかと思うが、言っても始まらないか。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△


あの後、年末年始は流石に開いていない図書館島に行き司書殿に超鈴音の解決策ができたことを伝え、手伝ってくれたことを感謝した。
超鈴音が次に来たときにネコミミをつけてもらうとか訳の分からない事を言っていたがなんとも言えないので考えるのをやめよう。

完成したとあって早速大規模術式を火星で実行した。
およそ1日で重力、大気圧、スケールハイトは理想の状態に安定した。
月の軌道は観測しながらもし問題があれば微調整を行う予定だ。
これに伴い火星の平均気温、地表温度も徐々に上昇するだろう。
それからなら氷を溶かしてもなんとかなる。
ただ火星は地球に比べると太陽光が半分程度しか届かないので数日で完了などと勢い良く変化が起きるわけではないだろう。
また、地下のマントルの活性も全力で行っているが効果が出始めるのはまだ先だろう。
今後の魔分有機結晶の粒子精製に関しては麻帆良最強頭脳の超鈴音の技術力、財力をフルに結集させた実力が発揮されることだろう。



[21907] 9話 交渉人超鈴音
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/23 18:37
火星の重力の問題が解決したと思えば次は宇宙放射線対策だというのだから忙しいネ。
今日は正月が終わて図書館島に入れるようになてからクウネルサンの所にお礼を言いに来たところだ。
行きがけに五月の作たばかりの超包子の肉まんをお土産に持て来たヨ。

翆坊主の映像資料で図書館島の地下もくまなくわかたが魔法的処理がされていなければ崩落しておかしくない所だ。

この道程も慣れたものだがやはり面倒だナ。

「クウネルサン、翆坊主から聞いてると思うが火星の重力は片が付いたヨ!」

空中庭園のテーブルで紅茶を飲んでいるようだネ。

「おや、超さん待っていましたよ。精霊殿に聞きましたが流石麻帆良最強頭脳というところでしょうかね」

爽やかに挨拶をしてくるのはいいが何故ネコミミを持ているネ。

「クウネルサンの重力魔法も私にとてはいい勉強になたからお礼に来たヨ」

「それはそれは、では是非このネコミミを付けて貰えませんか」

…………。

初めて会た時も同じようなことを言ていた気がするが冗談では無かたのカ。
なんだか赤き翼のイメージが崩れるネ。

「ふむ、ネコミミ付けても構わないヨ。その代わりお礼として持て来た肉まん一つ1000円で買うネ。しめて6000円ネ」

私のネコミミ姿は安くないヨ。
定価の数倍の値段で手を打つネ。

「わざわざ貴重な肉まんをありがとうございます。私はここにいるものですからあまりお金の使い道もないので喜んで買わせて頂きますよ」

…特にダメージはないらしいな。
多分1個1万でもこの人買いそうな気がするネ。
価格設定を間違えたか。
貴重というのも皮肉なのか本心なのか読めない人だナ。

「お買い上げありがとネ。約束通りネコミミ付けるヨ」

「ではこれをどうぞ」

しかし私が髪を下ろした状態で日中いるというのは相当珍しいネ。
こういうのを付けるのはなんだか恥ずかしいネ。

「ご要望通り付けたが感想もらえるのカ」

「ええ、大変お似合いだと思います。良い物を見れましたよ」

普通に誉められたヨ。

「満足頂けたようで良かたネ。五月が作た肉まんも温かいうちに食べるといいヨ」

「イノチノシヘンで殆どがキティのではありますが今年の学園祭の映像を見ていまして、この肉まん食べてみたかったのですよ。ありがたく頂きます」

本心だたのカ。
キティとは誰かの愛称なのだろうナ。

「肉まん食べに外に出たいなら翆坊主に言えば魔力提供してくれるのではないカ。割と礼をする性質のようだから重力魔法の対価として手を打てると思うネ」

「私としても出たいといえば出たいのですが、他人に私がここに居る事が知られるのはまだ困るのですよ。確かに私がここを出るためにはキノ殿による世界樹の発光時のような魔力が必要なのは事実なのですがね。それに今回の協力は私の方が礼を返しているものですから良いのですよ」

「そういう事情があたのカ。まだというのはご先祖様…いや、時が来たらわかるネ」

「ええ、数年間待っていますがそろそろ近いと思いますね」

「クウネルサンは近未来視もできるようだナ」

「その辺りは秘密ですよ」

「ふふ…詮索はやめておくヨ。また今度肉まん届けにくるから期待するネ」

「ええ、好きなときに来てください。お茶ぐらいは出せますので」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

それにしてもサヨから受け取た魔分有機結晶の情報は凄いヨ。
確かにこれなら宇宙放射線に対する抵抗その他があるのは頷けるネ。
人類が宇宙空間に安全に出ていけるようになる点でもやりがいがあるヨ。
しかし宇宙放射線対策を行わなければいけない優先度と期限を考えれば地道に進めても問題ないだろうナ。

本物と同等の精製は無理だろうがこれに近いものならば私の技術と組み合わせれば実現も可能なのは良いことだ。
原料には純粋な魔分を内包した物質が必要だから世界樹の加護のアーティファクトを始めとして用意する必要があるネ。
有機的部分は成分を見る限り色と素材が物入になるだろうし安定したルートを確立したいヨ。

…麻帆良で作業するのだから雪広グループに協力を頼むカ。
まほら武道会も実現してみたいからネ。
クラスの雪広サンを切り口に交渉してみよう。
資金的にもやはり例の映像を活用したい所だたが売りつける先がなかなか難しかたがまとめてやてみるヨ。

《超鈴音、この前映像渡しましたが容量不足で結局無理だったものがあるのです。麻帆良の夜の防衛という壮大な記録なのですが興味ありますか。サヨが自分で何か渡したがっていましたし丁度いいかと。近衛門殿の戦闘はナギ少年とは違った見所があると思いますよ》

突然通信が来たが翆坊主は私に甘々だネ。
まあ何か別の意図があるのかもしれないナ。

《メモリーをまた用意したらサヨに頼むヨ。言われてみれば学園長の魔法にも興味があるヨ》

エヴァンジェリンを除外すれば、学園最強の魔法使いというのだから興味は尽きないネ。

《だそうですよ。サヨ、後でよろしくお願いしますね》

《はい!鈴音さん、私に任せてください》

……この通信方法は便利なのは便利だが用途によては能力の無駄遣いだナ。
最近サヨも雑談をしてくるようになたからただ通信料のかからない電話みたいなものだ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

有言実行、今日の授業が終わたから二つ前の席の雪広サンに交渉するヨ。

「雪広サン、雪広グループに幾つか交渉したいことがあるのだが時間を貰ていいカ」

「珍しいですわね。……ええ構いませんわ。超さんがグループに直接問い合わせるのではなく私に話を持ちかけるということは時間をかけたくないという事ですわね」

「話が早くて助かるヨ」

「ここでそういった話というのも場所が悪いですから、今からグループの者に連絡して場所を用意させましょう」

「雪広グループにとても悪い話ではないから期待してくれていいネ」

「超さんの噂はグループでも有名ですから社員たちも興味を持つ筈ですわ」

「それは光栄だネ」

流石雪広グループ、やはり某黒くて長い車だたヨ。
案内されたのは応接室だナ。
雪広サンと縁が深そうな社員の人もいるしここまですぐに進むというのは助かるネ。

この商談成功させるヨ。
例の映像とこれを映す三次元映写機も用意してきたから必ず食いつく筈ネ。

「まずはこれを見て欲しいネ」

さあ、記録が写真でしか残ていない第一回麻帆良学園祭をフルカラーで見るといいヨ。
どう手に入れたか気になるだろうがそこは企業秘密でいくヨ。

「三次元映像!流石超さんですわね。でもこの映像は……麻帆良学園かしら」

「あやかお嬢様!こ、これは第一回の麻帆良学園祭の映像ですよ。何故このような映像があるのですか」

ふむ、印象は悪くないが、やはり入手経路を聞いてくるか。

「落ち着いて欲しいネ。映像技術は私が開発したものだが、残念ながら映像の出所については企業秘密だヨ」

「分かりましたわ。映像の入手方法については詮索致しません。超さんがこれを見せるという事は買い取って欲しいという事ですか」

「その通りネ。なんとか活用する方法を探していたところだたが、やはり麻帆良でも影響力の強い雪広グループに頼むのが一番良いと思てネ。当然三次元映像技術の売り込みも兼ねているヨ」

「あやかお嬢様、ここは社長もお呼びしましょう。今の時間ならこの本社にいらっしゃいます」

これは随分早く大物が釣れたナ。

「ええ、そうですわね。お願いしますわ」

それから社長サンが来るまで映像を見てもらていたが、昔の麻帆良の映像に完全に見入ていたヨ。
私も翆坊主に渡された時は長いこと見たから気持ちはわかるネ。

「あやかお嬢様、社長がいらっしゃいました」

「あやか、そちらのお嬢さんが噂の超鈴音さんかな」

雪広サンもだが社長さんも有名な俳優のような人だネ。

「ええお父様、私の学友の超鈴音さんですわ」

「初めまして、超鈴音です。失礼ながら正規の方法ではなく、あやかサンに直接話を通して頂きました」

私がいつもの口調でしか話せないと思たら大間違いネ。

「私が雪広グループの社長であり、あやかの父です。あやかに話をしたのはその方が早いからだろう。私も今年の学園祭で有名になった超包子の肉まんは社員に買いに行かせて頂いたよ。とても美味しかった。屋台も飛行機能付きだというのを知って驚いたものだ」

超包子の肉まんがここまで浸透しているとは嬉しい誤算だネ。

「お褒めに預かり光栄です。本日は幾つか交渉したい事があり伺いました。まずはこちらを御覧ください」

「ほう、これが先程連絡で聞いた麻帆良の昔の映像か。しかも三次元映像技術とは超さんの引き出しはどれだけあるんだい」

「私の発明は友人と協力して行っておりますのでこれからまだまだ実力をお見せできるでしょう。つきましては今回これらの映像の買取りをお願いしたいのです」

「なるほど、これ程貴重なものはなかなかないだろう。買取りは前向きに検討させて貰うとして、詳細は後で担当に来させよう。幾つかという事だったが他の要件を聞かせてもらおうか」

突然真剣な空気に変わたがビジネスに対する嗅覚が鋭いネ。

「今度はこちらの依頼なのですが、今までの研究とは違う分野にも手を出そうと考えています。そこで必要な物資を安定して得られるルートを確保したいのですが、雪広グループに依頼するだけにその内容は多岐に渡ります。更に、個人的に噂に聞く昔のまほら武道会というものを復活させたいと考えていまして雪広グループの協力を頂きたいのです」

「物資の継続購入とまほら武道会の復活……か。あやか、済まないが席を外してもらえないか」

「……分かりましたわお父様。超さん、私は先に失礼させて貰います、明日学校でお会いしましょう」

この辺りの暗黙の了解が徹底しているのはありがたいネ。
しかしやはり社長ともなると裏の事は知ているカ。
社員も何人か出て行たが残ている人もいるということはそういうことなのだろうナ。

「超さん済まないね。あやかに聞かれる訳にはいかない話になりそうなので席を外してもらったよ」

「いえ、これで私も先程言えない事が言えます。まほら武道会に関しては協力頂けなくても構いません。少なくとも物資の買い入れは確実にお願いしたい」

「こちらとしても、既に対価は頂いたような物だから物資の件は約束しよう。まほら武道会の復活だがその様子だと裏の事を知っているのかな」

「約束感謝します。裏についてはそう考えて頂いて構いません」

「なるほど、しかし復活させるとなると学園長に話を一度通さないと難しいだろう。確かに我々の組織ならば情報操作も可能だろう」

ここで学園長が来るカ。

「情報操作は私の方でも対策方法を考えているのでその点は万全にできる自身があります」

「私も興味がない訳ではないからね。この件は学園長に打診をしてみよう。その時に超さんの名前を出させてもらうが構わないだろうか。ただ色よい返事がもらえない場合は諦めてもらうしか無いよ」

この人も興味あるとは都合がいいネ。
雪広グループから打診して貰えるというならそれだけでも僥倖だナ。

「ご協力ありがとうございます。名前は出して構いません。お願いします」

この後買取をしてもらう映像の査定をして貰い、材料の方のリストを見せてやや驚かれたが仕方ないネ。
地球で手に入る地域が国をまたいでいるからこそ雪広グループに頼んだのだからネ。
売却価格は手付金として買い付けにかかる費用である程度相殺されたが今後続けていけば総額では赤字になるかもしれないナ。
そうなる前に売れない映像もある程度加工する作業をして行くとしようカ。
色々と目処が付いた所で明日も頑張るヨ。
しかし口調を変えるというのはなかなか辛いものだたネ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

超鈴音は上手く行っているようだ。
私達と言えば、サヨが第二弾の映像を渡し前回の無念を晴らす事ができた。
地味に茶々円の映像を入れるのをやめて欲しい。
結局それでまた超鈴音に笑われる事になったのだが。

そう、今晩も茶々円で活動を行うのである。
しかも今日は特筆すべき点がある。
近衛門も警備に参加するというのである。
前から薄々思っていたが、一層今日は某ハンターな協会の会長みたいに見える。
オーラが凄まじい。

「学園長、今日はどうしたんですか。いつもと様子が違いますよ」

タカミチ少年がかなり動揺している。
後ろの方の魔法先生がとうとうボケがここまで来たかなどと呟いている。
寧ろその逆だろう。

「今晩は儂も警備に参加するのじゃよ。そのため今回は明石君に来てもらった。全体の管制を頼むぞい」

口調はいつもと同じだが威圧感が半端ではない。
懐かしいあの近衛門無双の始まりか。

「わ、分かりました学園長。しかしどうして急に自ら出られるんですか」

いつもは警備に参加する事が殆ど無い明石教授。

「何、準備運動じゃよ」

ああ、懐かしい。
魔法生徒達が興味津々のようだ。
エヴァンジェリンお嬢さんを覗けば学園最強の魔法使いが戦いに出るというのだから当然といえば当然か。
あの普段あまりやる気のない謎のシスターこと春日美空までもが目を輝かせている。
シスターシャークティが学園長ではなくそっちに驚いているぞ。

「じじぃ、無理するなよ」

エヴァンジェリンお嬢さん、光の福音?だけあって全く怖気付いていないが、やはり興味があるらしい。
私も今日は近衛門の頭に貼りつきたいが後で観測情報を確認するとしよう。

「今日の儂はいつもとは違うでの。安心せい。では今日の警備を始めるとしよう。先生方、よろしく頼むの」

と言った途端近衛門の姿が消えた。
本気すぎる。
先生達が唖然としているのは面白い。

「神多羅木先生、私達も行きましょう」

「あ、ああ、そうだな」

そういえば思い出してみれば、神多羅木先生のフィンガースナップの技は近衛門が昔使っていたものを速射性に特化させたもののような気がするのだがどうなのだろうか。
近衛門はフィンガースナップを使っていた訳ではないが。

「神多羅木先生の魔法は学園長の魔法を参考にしているのですか」

「茶々円は学園長の魔法も知っているのか」

それは見たことあるからね。

「私は学園長の作品でもありますから」

と言っておこう。

「そうだったな。私は学園長が執筆した本を参考にしたんだ」

ああ、そういう事なのか。
関東魔法協会の理事長でもあるというのは伊達ではない。
というかこっちが本職か。

「そういう事ですか。フィンガースナップ自体を個別の始動キーにするというのは威力と速射性から考えても良いですね」

無詠唱魔法と言われているが実は単体魔法に対応する唯一の発動始動キーを付けたものである。
それができるのも飛ばすのが気だからという理由があるが。
指を弾くこと自体をキーとすることで無詠唱により起きやすい威力低下を防ぎ速射性を実現した訳だ。

「いつから気づいていた」

「薄々以前からという所です。無詠唱魔法と聞いて先入観がありましたが違和感を感じたので解析したのです」

「茶々円は優秀なサポート役だな」

それが私の仕事ですから。



[21907] 10話 茶々円残機-1
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/23 18:38
いつもよりもやたら早い時間で明石教授から警備終了の通信が入り、神多羅木先生と共に戻ってきた。
予想はできていたが原因はやはり近衛門だった。
とにかく、今日の警備は大変楽だったということでいいと思う。

「ふぉっふぉっふぉ、久しぶりに身体を動かしたがいい運動になったわい」

とても元気そうだ。
何やら魔法先生達のヒソヒソ話によると、警備担当の場所で侵入者達が気絶しているのがそこかしこで発見されたらしい。
流石の防衛能力である。
魔法生徒の一部が闇夜に紛れて突然現れた人影を見たとかなんとか言っているがそれも近衛門だから。

「おお、そうじゃ茶々円はこの後話があるから残ってくれんか」

ああ……恐らく何か動きがあったのだろう。

「分かりました学園長、参りましょう」

「明石君、今日は突然呼んで悪かったの。皆も今日は解散して構わんぞ」

「じじぃ、私もその話を聞いてもいいか」

おや、エヴァンジェリンお嬢さんも察したわけか。

「……ふむ、構わんぞい。それでは行こうかの」

タカミチ少年が自分も参加したほうがいいのだろうかとやや判断に困っていたが、さっさと私達は行ってしまうのである。

当然だが場所は近衛門の自宅である。
麻帆良の中心部からはやや離れているが和風の落ち着いた家だ。
まあ和風だからこそ西洋風な街並みから離れていると言うべきか。

「近衛門殿、話を伺いましょう」

「うむ、呪術協会の支部を麻帆良に受け入れる目処が立ったのじゃよ。後は建設をするだけじゃな」

いやいやいや、まだ動き出してから半年も経っていない筈なのだが。

「近衛門殿、いくらなんでも早すぎるでしょう。どんな裏技を使ったのですか」

「じじぃ、ついてきて良いとは言っていたが話が読めん。説明しろ」

「エヴァンジェリンお嬢さん、私が説明します。詳しい事情は省きますが、茶々円として活動していた狙いは呪術協会の支部を麻帆良に建てさせ、東と西の不毛な対立を緩和させる事にあったのです」

「なるほどな。あのふざけた魔力封印処理を呪符使いに対して徹底していたのはそういう事だったか」

ご理解頂けたようで。

「先方としては外面上難色を示していたようじゃったが、封印処理の解除と支部の建設には旨味しかないからの。西の長が根回しをしていたのも効いたようじゃ。体裁として木乃香を呪術協会で護衛するという形を取れるのもあちらの面子を立てる事になるわけじゃ」

「なるほど、その辺りは計画通りと言ったところですか。準備した甲斐がありましたね。……しかし問題の本国の許可はどうされたのですか」

実際こちらが一番問題だろう。

「一部からは強硬に反対されたのじゃが、大勢としては旧世界の呪術等大したことが無いと見下す傾向にあっての、大した脅威でもないと判断されたようじゃ。本国としても旧世界との繋がりを軽視する孤立主義の傾向が強くなってきておってな。身内のいざこざを本国に持ち込まなければ問題なしのようじゃ。実際本国側も麻帆良の守備の状況を報告してもこちらに回す人員を渋るようじゃしの」

流石多数決。
深く考えないでくれて助かる。
まあ危険視すべきはその一部の反対勢力だろう。

「一枚岩でないのが今回は逆に有利に働きましたね。その反対勢力が大勢を占めていなくて助かりました」

「それでも無条件にとは行かなかったがの。何か問題が起きたら儂が責任を取ることになっておるよ。注視すべき対象が本国の反対勢力と呪術協会とは手間が増えたの」

それはきついがなんとかするしかないな。

「それはまたなんとも辛い条件ですね……。ですがそのような事にならないよう私も監視しますので任せてください。近衛門殿、この短期間でこの案件を実現に持ち込めるようにしてくれたこと感謝します」

「キノ殿、これは儂らにとってもいつかは通らなければならない道じゃったのじゃ。これからが大変じゃが、きっかけを与えてくれた事こちらからも感謝しますぞ」

お互い様ということでこれから頑張るとしよう。

「茶々円、前に保険と言っていて大して気にかけなかったが、その内容とは何だ。聞いていれば寧ろ面倒になったように思えるが、お前がじじぃに感謝するということは何かしらメリットがあるという事なのだろう」

……エヴァンジェリンお嬢さんにもそろそろ話して構わないか。
というか立場は精霊の筈だけども既に茶々円で定着している訳ですね。

「エヴァンジェリンお嬢さん、ここからは他言無用でお願いします。一番大きな問題は後11年程度で魔法世界が消滅し、人間が火星に投げ出される事なのです」

「……それは本当なのか」

「それは間違いありません。ただそれ自体は回避する用意がこちらにあるので問題ないのですが、その結果として今までにない大きな問題に発展するのでこの小さな日本で不毛な争いをするのをさっさとやめて欲しかったということなのです」

「裏でコソコソとそんな事をやっていたのか。しかし何故私にも話さなかったんだ」

あら、除け者にされたと怒っていらっしゃる。

「それは申し訳ないとは思っていますが、今回の呪術協会の件はお嬢さんの手を煩わせる必要もありませんでした。近いうちに話すつもりでしたがそれが今ということで許していただきたい。事態が緊急を要する事になったら力を貸して頂けると心強いです」

「……まぁいいだろう。確かに私が手を出すことも無かっただろうからな。最近私も暴れ足りないからな。今日のじじぃの真似でもしてみるか」

それはやめて欲しいかもしれない。
戦闘が行われた場所が大変な事になりそうだから。
そうだ、今日の近衛門殿というとあの発言は気になった。

「近衛門殿、今日急に警備に参加して、準備運動と言っていましたが、もしやこの前私が言ったことと関係あるのですか」

奇跡の少年が卒業するのは今年2002年の7月。
後半年程度と言ったところだ。

「ふぉっふぉ、あの時はいつになる事かと思っておったが、あっという間じゃったの」

情報が既に回っていると見て間違いないな。

「もしや、近衛門殿が直々に手を出すつもりなのですか」

そうなってくるともう全然歴史と違うだろう。
近衛門に直接しごかれたらやたら強くなるのは間違いないが。
それにここはお嬢さんもいる。
また随分豪華な修行環境になるな。

まあ既に実際、周りの被害を度外視すれば、少年の成長を促す出来事が起きる可能性をかなり潰しているから必要なことではあるかもしれない。

「おい、また何を勝手に話しているんだ」

うっ……ナギ・スプリングフィールドの息子が来るなんてばらしたら……。
私は知らない。
近衛門頑張れ。

「ふぉっふぉっふぉ、エヴァや、その時になるまでの秘密じゃよ。キノ殿の言葉がなければ傍観していただけかもしれんが儂も一仕事したくなっての」

これは熱い。
近衛門に見ているだけではなく動けと言ったのがストレス解消に留まらなかった訳か。
いや、寧ろ大いに歓迎だ。

「じじぃじゃ埒があかない。茶々円!説明しろ!」

しまった、お嬢さんこっち来た。

「エヴァンジェリンお嬢さん、楽しみは後に取っておいたほうが良いと思いますよ」

「チャチャゼロにお前をやるか」

ちょっと待ってそれはなかなか酷い。
茶々円×5→茶々円×4になるではないか。
いやでも、別にいいかなとも思わなくもないが。

「……好きにして下さい。でもヒントを言いましょう。それは 赤 毛 です」

「な、何だと!それを早く言え!そうか……こうしてはおれんな、ハハハハ!楽しくなってきたぞ!」

狙ったのは確かだが見事に違う方向に勘違いしたようだ。
間違いではないからいいと思う。
それにしてもテンションが高い。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

麻帆良都市に新たな勢力が加わることが明らかになってから数日。
性懲りも無く映像鑑賞会を開いている訳だ。

《翆坊主、学園長はこんなに強かたのカ》

《昔から凄かったですよ。ナギ少年は10歳であの強さという点でまた異常でしたが》

《初めて見たら確かに驚きますよね》

そう、熱い近衛門談義である。

《今貰た先日の学園長の映像も年を取ている割には衰えていないナ》

《攻撃は無詠唱、魔法の射手闇の矢縛りなんてやっている所からすると本当に準備運動だったようですね。それでもあの強さですが》

《あれで遊んでいるのカ……。虚空瞬動する度に魔法の射手を遅れて発動させる光球を残すだけでなく敵を正確に追い込んで捕縛する技術には驚かされるネ。スローで見なければ何が起きているのかわからない程の早業だナ》

《キノ、学園長先生自身で放つ、この射程と貫通力が他のものに比べて高いのも同じ魔法なんですか》

《ああ、それは近衛門殿がロシアの魔法協会に昔出張した時の事らしいのですが、戦時中にスナイパーをやっていた魔法使いの方にライフルの弾丸を模した魔法の射手を見せてもらったことがあるそうです。所謂螺旋による回転力で通常のものより大幅に威力が高いですね》

《戦時中魔法使いは魔法使わなかったんですか》

《もしこちら側で大っぴらに魔法を使って戦争することになっていたら未だに戦時中だったと思いますよ。まあ本当に危ない時は魔法障壁の一つぐらいは発動させていたのかもしれませんが》

《学園長は質量兵器の戦争の経験もあるという事カ》

《近衛門殿の恐るべき能力としては戦術眼とでも言うのかそれとその戦闘センスの高さですね。相手が気づかない内に戦闘の運びが近衛門殿に常に掌握されているというのはご冥福を祈るしかありません》

《学園最強と言われる理由もわかるナ。高畑先生の攻撃はこれだと当たらないネ。……しかし全ての映像を通して時々空中から真下に移動しているがこれはいくら虚空瞬動でも異常だヨ》

《超鈴音は虚空瞬動だと思いますか。実際にはあれは個人転移呪文の上位、あえて言うなら瞬移とでも言えると思いますよ》

《えっ、これ魔法なんですか》

《翆坊主、それではまるでカシオペアを使った戦いのようだヨ》

実際近衛門ならカシオペア使われても突破しそうだ。

《ええ、信じられないのがその発動速度と移動距離ですけどね。でなければあんなに広範囲に渡ってカバーはできませんから》

《ふむ、流石の私も学園長に興味を持つネ》

《例の人物の来訪に向けて近衛門殿は準備運動するそうです》

《例の人物って近いうちに来るらしいという男の子の事ですか》

《そうですよ。会ってみてのお楽しみという事です》

サヨには一度歴史を見せているが、概要を見せただけであり名前などのピンポイントな情報は伏せてある。

《私も手合わせしてみたいものだナ》

ウルティマホラの一件以来超鈴音はあの忍者ではないが作業の合間に修行をするようになった。
まほら武道会の事もあるということかもしれないが。

《今の近衛門殿なら訓練がてら相手をしてくれそうですが、超鈴音の場合アーティファクトの問題がありますからね》

《そこは諦めるとするヨ。でもこの映像で高速転移魔法を研究するネ》

あの夜近衛門が戦っている所を確認できた人間は殆どいないだろうから、この映像は相当凄い資料だと思う。

《鈴音さん、頑張ってください!》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

しばらくして呪術協会の支部建設も場所が決まり建設も始まった。
麻帆良の建築技術にかかればあり得ない速度で建つだろう。
時期を同じくして夜の警備の負担がかなり軽減されるようになったのは間違いない。
それというのも呪術協会から先遣隊がやってきたからである。
支部が建てられるからと言って東と西の関係がいきなり改善する事もなく、大体の東洋呪術師の皆さんは西洋魔術師がお嫌いである。
要するに、プライドが高いので西洋魔術師が警備をやっている中で自分たちが守られるというのは癪に触るから我々も警備に参加するということだそうだ。
動機はアレだが敵が味方になるとこれほど心強いことはない。
逆に今までの魔法先生達と彼等の間で軋轢が生まれる要因にもなっているが、今のところ直接争うようなことをしないあたりは一安心である。
西洋魔法使いが嫌いである割に呪術師の皆さんはまず相手を知るとでもいうのか、西洋魔法自体には興味がある様子なのは関係改善の切り口になるかもしれない。
因みに先遣隊の人数は非戦闘員を含めおよそ30人程度であり後から後発隊が来るかというとそこまでの余裕もないらしく、増えても数人という所であるらしい。
その中に天ヶ崎千草、犬上 小太郎が居ることが分かったわけだが歴史から見るに今後どう転ぶかは注視する必要があるだろう。
名前が分かったので彼等の情報について詳しく確認すると天ヶ崎千草は先の大戦で両親を失い、そのため西洋魔術師を嫌うどころか恨んでいる。復讐をこの地でするかどうかというのがポイントだろう。
次に犬上小太郎だがまだ10代に手が届くかどうかという年齢で狗族と人間のハーフの少年である。
まだ子供であるため単純に西洋魔術師が従者を前衛にして戦うというのが、かっこ悪いと思っているらしい。
耳と尻尾があからさまだが街中を歩いていても麻帆良の認識阻害にかかれば日常の一部になるのでその辺りは寧ろ関西より生活しやすいだろう。

さて、件の魔力封印の解除であるがとうとう茶々円の仕事も終わりである。
先日の近衛門戦闘の後、呪術協会の件が発表され動揺も起きたが今更反対しても遅いということで無理やり丸く収めた。
続けて茶々円を呪術師の魔力封印を解除する事を最後にして処分する事も発表した。
寧ろこちらの方が問題であった。

「先生方、もう一つ伝えることがあるで聞いてくれんかの。近日中に茶々円を西に送って魔力封印の解除を行った後、その場で言い方は悪いが処分することが決定しておる。誰かその仕事をやってもらいたいのじゃがどうかの」

初めて自己紹介した時よりも空気が重く痛い。
地味にマスコット的に定着しつつあったというのは誤算であったが、茶々円の存在をこのままに残しておく訳にも行かない。
確実に能力的に火種になる事は間違いないのだから仕方がない。

「学園長!茶々円ちゃんはしっかり人格がありますのに殺すとおっしゃるのですか!それは自分勝手すぎます!」

高音さん、正義感半端ないです。
しかもいつの間にちゃん付けになっているし。
まあ処分と聞いて良い気分の人なんていないだろうが。
処分という単語に魔法生徒はかなり動揺しているな。

「私の存在は東と西の関係にとってはこれ以上いる事は新たな火種にしかなりません。高音さん、心配して下さりありがとうございます。確かに私のこの体は消えますがきっと魂は残りますので気にしないでください。皆様、今までありがとうございました」

そう言いながら頭を下げる訳だが、まあある意味お嬢さんと近衛門の作品という自己紹介の時点から騙していたようなものだからまた罪悪感が凄いな。

「皆が思う気持ちも儂もわかるが、これは必要なことなのじゃよ」

「…………」

「……ですが!」

「高音!これは必要なことだ!学園長、茶々円を西に送る任、私にやらせてください」

カットインは神多羅木先生だった、流石。

「学園長、茶々円は私の妹です。私にも是非行かせてください」

って茶々丸姉さん来るの?
前より人間っぽくなったな。
エヴァンジェリンお嬢さんも驚いてるよ。

「人数はこれ以上増やせんからの。それでは神多羅木先生、茶々丸君、茶々円を頼むぞい」

こうしてまだ死んでいないからやるとするなら割と明るい生前葬の筈だが、完全に葬式モードな空気で話がついたのだった。

そして、出発当日。

「神多羅木先生、茶々丸姉さん、私の同伴ありがとうございます」

「いや、これまでサポートしてくれていたんだから当然だ」

「私の初めての妹ですから当たり前です」

茶々丸姉さんは事情を知っているからともかく、お世話になった神多羅木先生には最後に言っておいたほうがいいな。

「神多羅木先生、私がこの前言ったきっと魂が残るというのは本当ですから安心してください。今日最後の仕事が終わったらわかりますから気に病んだりしないで下さいね」

「そう……なのか、俄に信じがたいが……茶々円が言うならそうなのだろうな。少し気が楽になったが見るまでは安心できないな」

終わったら是非安心してください。
因みに茶々丸姉さんには認識阻害の魔法を本気でかけてあるので問題ない。

電車に乗るというのは学園祭の超包子のありえない車両を除けば初めてだ。
しかし新幹線はまだまだ遅いと思う。
午前に出発して総本山に着いたのは昼を大分過ぎた頃である。
地味に奥地だから遠い。
係の人に従い詠春殿の所に向かう。
近衛門と詠春殿の間で既に処分の話は通っているので準備は万端である。

「この度は東からようこそおこし下さいました」

相変わらず巫女さんだらけだった。
通された場所は物凄く広い庭であり、封印処理を喰らった術者の皆さんがゴザに正座という何処の江戸時代かと思うような光景が広がる場所だった。
その総数数十人という所。
やはり本当に自重して欲しいと思う。
神多羅木先生もこんなにいたのかと驚いてるし。

偉そうな人達は封印解除を見る証人なのだろうか、お奉行様的位置にいる。
そこに詠春殿を発見。

「東の長から話は聞いています、ようこそおこし下さいました。神多羅木さんと茶々丸さん、それに茶々円さんですね」

「近衛詠春殿様、長々した挨拶も何ですから早速解除を始めたいと思います」

術師達が実にイライラしているのでさっさと終わらせたい。

「それもそうですね、ではお願いします」

片っ端から封印解除を行う。

「魔力封印の解除を実行します」

突然解除されて襲い掛かられるかとも思ったが神多羅木先生が私の後ろに立っているのでそんな事もない。
大抵解除された術師はすぐさま使えるようになったかどうか確認するために、簡単な火を灯す陰陽術を気ではなく魔力を用いて試し、無事成功して喜んだり安堵したりしている。
まあ職を失う瀬戸際だった訳だから当然といえば当然か。
滞りなく全ての術師の封印解除を終了し、いよいよ私こと茶々円の番である。
魔力封印の恨みがある事もあり、この場で処分を行ったほうが心象的に良い。
どうやら盛大に火葬してくれるらしい。
詠春殿ではなく、例のお偉いさん直々に呪符でやってくれるそうだ。
実際詠春殿にやらせると実は死んでないのではないか等と疑われるからこちらとしては構わない。

「茶々円、私は忘れませんから」

茶々丸姉さん、それは狙っているんですか。

「茶々円、今まで助かった。ありがとう」

神多羅木先生もさっき言ったけど別に大丈夫ですからね。

「麻帆良の方々にはお世話になりました。別れの挨拶も済んだのでよろしくお願いします」

お偉いさんもいざ幼児を処分となるとしんみりした空気になったが、見事な大文字焼きをやってくれました。
当然焼かれる直前に精霊体で抜け出して地中に身を潜めましたが。

見事に初めてインターフェイスが消滅した。
封印処理を受けていた術師達は幼児処分という微妙な感じもありつつも、概ね気が晴れたような表情だった。

神多羅木先生と呪術協会の面々の皆さんの挨拶も済み、随分あっさりだったがこれで今日の仕事は終わりである。
そのまま神多羅木先生と茶々丸姉さんは詠春殿に連れられ執務室に通された。
結界を張りつつ私の登場の出番でもある。

《神多羅木先生、少し姿が大きくなっていますが茶々円です。詠春殿、滞りなく終了して安心しました》

「おおっ、茶々円なのか。伝説になっている噂の翠色の精霊のようだな」

あの例の噂か。
しかも伝説って何。
ともあれこれは本国にも噂程度には知られてるだろうな。

「キノ殿、神多羅木先生には伝えていなかったんですか」

《私が精霊だったという事実を知っているのは魔法先生の中では近衛門殿だけですからね。神多羅木先生、こうしてまた会えましたが私の事は口外しないでください》

「本物なのか。……私にとってはそれでも茶々円なんだがキノ殿と呼んだほうがいいのか。学園長直属の部下であるし精霊の話については口外しないと約束しよう」

どっちでも好きに呼んだらいいと思う。
そういえばキノというのは名前だが苗字がなかったな。
この際 茶々円 キノ と名乗っても良いかもしれない。

……芸名みたいだな、保留。

《神多羅木先生も茶々丸姉さんも茶々円と呼んでくれて構いません。約束感謝します。詠春殿、この度はこの短期間で支部の建設を進めてくださってありがとうございました。派遣されてきた先遣隊の中に過激派と見られる方達も見受けましたが、それはこちらでなんとかします》

「キノ殿、こちらも東と西の関係改善の足がかりができて前進しました。これからが大変ですが引き続き尽力します。先遣隊の人選を全て私が行うということはできませんでした。迷惑をかけるかもしれませんがよろしくお願いします」

《近衛門殿も言っていましたが、いずれは避けて通れぬ道ですからね》

こうしてこの後事務的な事を行った後、精霊体でうろうろする訳にもいかないので先にパッと帰らせてもらった。
茶々丸姉さんは別れ際にまたお茶と肉まんを食べに遊びに来て良いと言ってくれた。
なんて優しいのだろうか。
というか、茶々円のこれまでの主な栄養源は殆ど茶々丸姉さんが買ってくる超包子の肉まんで構成されていた。
精霊の食事事情は単純である。
でも美味しいから全く問題はない。
神多羅木先生が帰ってきた後、葛葉先生が「あまり気を落とさないでください」等と言っていたが事実を知った神多羅木先生としては微妙だろう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

2月も半ばという頃、超鈴音の擬似魔分有機結晶粒子の精製も雪広グループの協力のもと材料の入手と機材等の条件がようやく整って超鈴音魔法球の中の一角は工場と化している。
詳しい生成方法の説明は省くが、精製の光景は例によって淡い桃色に輝く非常に美しいものである。

《キノ、私達また中間テストでトップ3を独占しましたよ!》

と、よく突然報告が入るようになった。

《これで通算5度目ですね、おめでとうございます。相変わらずトップとそれ以外で随分成績に差があるクラスだと思いますが。今回はそれだけではないのでしょう》

《よく分かりましたね!最近麻帆良に今までいなかった人達が入ってきましたけどその中にコスプレしている男の子がいるんですよ!》

それ……コスプレじゃないからね。
本人の前で言うのはやめておいたほうがいい。

《そうだ翆坊主、あの団体は一体何ネ》

常に全体通信が癖になってきているが丁度アデアットしていたらしい。

《超鈴音には言ってなかったかもしれませんがあの人達は関西呪術協会からやってきた先遣隊です。茶々円の件で私が少し手を出して始まった計画でしたが、上手くまとまり支部を麻帆良に現在建築中です》

《茶々円はそういう事だたのカ。ここ二ヶ月茶々丸のメンテナンスやていなかたから知らなかたネ》

《まあ茶々円の身体は先日見事にこの世から消滅したんですけどね》

《それでも予備の身体があるんだろうナ》

《その通りです。サヨ、さっきの男の子ですが名前は犬上小太郎という人間と狗族のハーフの少年です。コスプレではありませんから変なこと言わないように》

《なんだ、コスプレじゃなかったんですね》

いや寧ろ本物だからテンション下げることはないんじゃないか。

《一般人には麻帆良の認識阻害が効いていますから気にならないと思いますよ。確か彼は初等部に入学した筈なので元気にやっているといいですが》

《その小太郎君だがあちこちで割と有名になてるヨ》

何だって。
火星の様子と呪術協会の動きには注目していたが表での少年は見ていなかった。

《え、本当ですか今確認します。……ああ、これはまた元気ですね》

《中国武術研究会に突然やてきて「勝負頼むわ!」だからネ。古と気を纏て戦ていたが及ばなかたからまた来る言てたネ。後はそのまま超包子の肉まん食べて「これはうまいわ!」と満足そうだたヨ》

《私も夜中飛んでる時に森で楓さんと修行しているの見ましたよ》

……典型的なバトル少年だな。

《随分順応性は高いみたいですね。彼は裏でも警備に参加するようになりましたがなかなか強いです。ただ持ち場を離れて単独行動に走る傾向があるあたり落ち着きが足りませんが。にしても1-Aの武道四天王と呼べる四人に既に接触があるのは凄いセンサー持っているような気がしますね》

《桜咲さんと龍宮さんとも何かあったんですか》

《さっきの持ち場を離れたところその二人に遭遇したということです》

《それは良い嗅覚持てるようだネ》

《ところで超鈴音、まだ時間は大分ありますが火星の地下水を地上に出す事が現実的になってきました》

《それはまた大変だナ翆坊主。地上でも普通に倍率150倍、口径100mmを越えていれば観測することができるのだから問題だナ》

《また規模の大きな話になってきましたね》

《神木自体が生えているのはまだ点が増えたぐらいにしか観測できない筈ですからある程度安心ですがね。そういう訳で粒子の精製も引き続きお願いしますが、そろそろ地球側から観測できる範囲に光学迷彩を展開する大規模魔法を新たに開発してもらいたいのです。まあ魔分量の問題でいずれは使わなくなることになりますが、その時はその時で予め超鈴音が関係を持った雪広グループに情報操作面で根回しをしてもらうことにもなるでしょう》

《重力、宇宙放射線の次は光学迷彩と来るカ。重力の件はクウネルサンがいたから早めに解決したが、幻術魔法が得意な魔法使いに協力してもらた方がいいネ。雪広グループとは私も仲良くしていたいヨ》

《既に火星重力の解決で常駐魔法を発動させている上に地下マントルの活性化、氷の融解まで行って居るところに更に光学迷彩の魔法なんて魔分量は大丈夫なんですか》

《それが問題なんですが一応解決方法はあります。地球で蟠桃が精製する魔分を木に用意するゲートで第二世代に送り込めば一時的に出力は足りる筈です。地下マントルは一度安定したら魔分を消費しなくて済みますし、氷の融解も終了すれば光学迷彩だけでよくなりますから。ただ同時に複数の問題にあたる必要があるのはやはりキツイですね》

《パッと計算するだけでも相当厳しいですね……。キノ、私もこれから神木の管理と火星の観測しっかり協力しますよ》

《よろしくお願いします、サヨ。超鈴音、幻術魔法の件ですが今回もクウネル殿かあるいはエヴァンジェリンお嬢さんという手もありますね。まあ面白そうなのはご両人に頼むというのが良さそうですが》

《島から出られないクウネルサンにもまた会いに行かないと悪いからネ。エヴァンジェリンと来るカ。学園長相手は無理だがエヴァンジェリンなら戦闘の相手もしてくれそうだネ》

《いつの間にか戦闘狂になってませんか。楽しんでもらえればそれで構いませんが》

いずれは旧世界に魔法世界の存在、魔法の存在が明らかになる事は間違いないが、その時こそ超鈴音の望む世界征服が必要になるだろう。



[21907] 11話 麻帆良は概ね平和
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/01/21 16:46
火星のテラフォーミングを始めたものの、地球よりも本当に障害が多い上に環境が過酷だネ。
クウネルサンにももう2ヶ月以上は会ていないから行くとしよう。

「クウネルサン、久しぶりにまた来たネ。肉まんも持て来たヨ」

「これはこれは超さん久しぶりですね。もっと頻繁に来てくれても構わないんですよ。肉まんもありがとうございます」

凄く嬉しそうな顔してるネ。
余程暇なのだろうカ。

「今日来たのはまた新魔法の開発だヨ」

「おや、キノ殿がいないので会いに来てくれただけかと思いました。それで今回は何の魔法ですか」

「翆坊主は今、第二世代の神木の管理、蟠桃の新システムの搭載と呪術協会の監視で手が空いてないからネ。本題だが、重力の次は光学迷彩だヨ。火星に海を作るために地球から隠すのに必要だからネ」

「またもや規模の大きい話ですね。私もその辺りの魔法には協力できると思いますが、丁度良くキティがいますし彼女にも手伝ってもらったらどうです」

またキティと言ているが誰の事かナ。

「クウネルサン、そのキティというのは誰の事ネ」

「おや、超さんは精霊殿に聞いていないのですか、キティというのはエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルのKの事ですよ」

ふむ、キティというのはエヴァンジェリンの事カ。
翆坊主は全く話していないナ。
エヴァンジェリンにも茶々丸の件でお互い様という所だが協力してくれるのか気になるネ。

「対価無しに協力してくれるとは思えないナ。クウネルサンが一筆書いてくれるのカ」

愛称で呼ぶぐらいだから頼みぐらい聞いてくれそうだナ。

「キティにラブレターですか。それは面白いかもしれませんね。ただ時期が……いえ、この際だからいいでしょう。超さん、エヴァンジェリンに今から手紙を書きますから渡してください」

ラブレターと言ているが冗談なのか本気なのカ。
……とにかくチケットのようなものが手に入るから良いネ。

「分かたヨ。待てる間に暇だから少し翆坊主と通信するネ。アデアット」

このアーティファクトにも慣れたものだナ。

《翆坊主、図書館島に来ているがクウネルサンもエヴァンジェリンを紹介してきたヨ。それで聞きたいのだが、キティという呼び名は何か問題があるのカ。言い方に何か含みを感じるネ》

《超鈴音、多分その名でエヴァンジェリンお嬢さんを呼んだら命の危険に関わると思いますから忘れたほうがいいですよ》

《やはりそうカ。元々呼ぶ気はないが気になたネ。しかしその危険な名前で呼ぶクウネルサンは大丈夫なのカ》

《司書殿にとってはエヴァンジェリンお嬢さんをからかうのが楽しみの一つですから危険を承知なのでしょう。一つ、こんな事で超鈴音が連絡してくるとなると、今クウネル殿何かやってるんじゃないですか》

《確かに私がこんな事で通信するのも変だナ。ただ暇というのもあるけど、クウネルサンに、エヴァンジェリンにラブレターという招待状を書くから渡してくれと言われたネ》

《……それは重大な事かもしれません。多分超鈴音が感じているのは危機感ですよ。その手紙は茶々丸姉さんに一旦渡したほうがいいです。多分超鈴音も司書度のからかいの対象に含まれつつあると思います》

《勝手に身体が動いたのはそのせいもしれないネ。それにしても翆坊主、茶々丸が完全に姉として定着してるヨ》

《もう茶々丸姉さんでいいんですよ。私に食事とお茶を提供してくれた回数は世界一ですから》

餌付けされたカ。

《翆坊主の言う通り一度茶々丸に手紙を渡す事にするヨ》

「アベアット」

「おや、もういいんですか。まだ書き終わっていませんから少し待って下さい」

粒子通信は速度が早過ぎるな。
暇つぶしの割に時間を潰せないとは。
肉まん食べるネ。
五月の肉まんはいつ食べても美味しいネ。
茶々丸は超包子にいるかナ。

「お待たせしました。これをエヴァンジェリンに渡してください」

封筒の見た目は普通だネ……。

「分かたネ。エヴァンジェリンに渡したらまた近いうちに来るヨ。肉まんは今日は差し入れネ」

さて、茶々丸を探すカ。
この時間だと先生達が多いところに屋台はありそうだナ。

「茶々丸、今日の仕事が終わて帰た時にこの手紙をエヴァンジェリンに渡してくれないカ。私もエヴァンジェリンに用があるから後で行くからよろしくネ」

「超、確かにマスターに渡しておきます。それでこれからどうするのですか」

「部屋に戻て作業の続きをするヨ」

粒子の精製は引き続きやらないといけないからネ。
機材を組み立ててある程度自動化できるようになたが魔法的処理の部分は未だにアーティファクトで一気にやるしかないからナ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

さて、丁度いい時間だからエヴァンジェリンの家に向かうネ。
この辺りは林に囲まれていて良い空気だな。
インターホンを押すが、面倒な事が起きないといい。

「どちら様でしょうか」

「茶々丸、さき言たとおり来たヨ」

そのまま茶々丸が出てきて通されたが、エヴァンジェリンはひどく荒れていたようだナ。
翆坊主の言うことは正しかたようだ。

「エヴァンジェリン、茶々丸に持たせた手紙は読んだみたいだネ」

「超鈴音か……この手紙には貴様が来ると書いてあったがどうして茶々丸に渡したんだ」

「翆坊主のアドバイスに従ただけネ」

「ん、何だと。この巫山戯た手紙の八つ当たりをしてやろうかと思ったが、どうして翠色の事を知っているんだ。相坂さよがばらしたのか」

図らずして違う方向に興味を逸らせたようだ。
しかし大分時間が経ているが翆坊主は自分で紹介した割にエヴァンジェリンには私の事は何も伝えていないのカ。

「さよが精霊だと言て来たのは確かだが、大分前に翆坊主自身が直接私に接触してきたネ。今回エヴァンジェリンを訪ねた理由は翆坊主の頼みごとでもあるヨ」

「……奴にしろ茶々円にしろ何のつもりだ。手紙によると超鈴音に図書館島の案内をしてもらえとあるが、アルはあそこにいるのか」

やはりあの手紙、まともな内容が書いてないようだナ。
結局最初からエヴァンジェリンに直接接触したほうがましだたかもしれないネ……。

「今はクウネル・サンダースと名乗ているが、図書館島の奥にある施設に住んでいるヨ。説明すると、ある魔法の開発に協力して欲しいから訪ねに来たんだヨ」

「なんだその名前は……。まあいい、明日連れていけ、奴に一撃いれてやらんと気が済まんからな。だが魔力も無いのに魔法を研究するのは難しいだろう」

「ある裏技で使えるようになたヨ」

「それも奴らが手出ししたのか。……どれぐらい使えるのか知らないが今から私の別荘で実力を見せてみるか。最近茶々円から赤毛が来る情報を得たものの、丁度相手もいなかったからな」

これは早い対戦だネ。
魔法の開発の前にぶつかり会うのも悪くないカ。
真祖の吸血鬼相手にどこまでこのアーティファクトで戦えるのかも実験してみたいからネ。
アーティファクト自体がばれるのは結局明日分かる事だから構わないナ。
しかし赤毛という情報でここまでテンションが上がるのはおかしくないカ。
エヴァンジェリンは一度も会た事がない筈だろう……ああ、翆坊主、わざとだろうが情報が少なすぎるヨ。

「最強と呼べる魔法使いと手合わせできるとは光栄だナ。どこまで通じるかも一度試してみたいからネ。その話受けるヨ」

「ケケケ、御主人ニ挑ムナンテモノ好キダナ」

「超、無理はしないでください」

こうして見るとやはり二人共どこか翆坊主に似ているナ。

「いい度胸だな超鈴音、この光の福音である私にどこまでついてこられるか見せてみるがいい」

闇の福音ではなかたカ。
確かに最初に会た時から魔の気配がなかたが。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

エヴァンジェリンの別荘に入ったのは初めてだが私の買たダイオラマ魔法球より豪華だナ。
巨大な城な上に施設も充実している。
今度私の方も内装を変えてみるカ。

「超鈴音、その裏技とやらを見せてみろ」

「きと驚くネ。アデアット」

「な、パクティオーカードだと!」

―契約執行をオンに変更、出力制御―

最初から全開でやると命の危険に関わるからネ。
私は不死身ではないヨ。

「なるほど、契約執行ができるのか。それなら魔法が使えるな。驚くには驚いたが、魔法具が出ないというのは地味だな」

初めてアデアットした時は異常だたが制御すれば地味なアーティファクトに見えるのようだナ。
光の加減で虹彩の輝きはわからないのカ。

「魔法が使えるようになただけましだヨ」

「まあそうだな。……その魔力反応、私と似ている気がするがどういう事だ……」

私と魔力が似ていると言たけど、なるほど似ているどころか殆ど同じだナ。
これが光の福音という事か、しかし……。

「翆坊主に何か直接されたのカ」

「良く分かるな。真祖化の術式を100年前あの精霊に弄られてな、少なくとも吸血鬼ではなくなった。……まてそういう事か……。契約者は翆色か」

また翆坊主カ。
真祖の吸血鬼でもなくなているとはナ。
どうやら同じ力の源同士であるようだけど、こうして戦うというのは魔分の無駄遣いだナ。

「その通りネ。私もなんとなく分かて来たヨ」

《翆坊主、さよ、今からエヴァンジェリンに相手してもらえるんだが直に見に来るカ》

《ええ!?さっきの今日でもうお嬢さんと戦うんですか。……まあ好きにしてくれて結構ですが、そうですね見に行きますよ》

《鈴音さん、エヴァンジェリンさんと戦うんですか!気を付けてくださいね。私も見に行きます》

「今翆坊主達呼んだからそのうち来るヨ」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

超鈴音からお嬢さんと試合すると連絡がきたものの……。
真祖化術式改変一部精霊と精霊化アーティファクトの戦いなんてある意味内輪揉めのようなものだ。
ややこしいことになりそうだ。

さて、別荘にお邪魔するとしよう。
まだ地上でやってるのか。
フィールド展開したら飛ぶのも余裕だろうに。
見たところ超鈴音が放った魔法をお嬢さんが相殺しているな。

     ―ラスト・テイル・マイマジック・スキル・マギステル―                ―リク・ラク・ラ・ラック・ライラック―
 ―炎の精霊 来たりて 67柱 魔法の射手 連弾・炎の67矢!!― ―光の精霊 来たりて 67柱 魔法の射手 連弾・光の67矢!!―

一斉に放たれた67本の炎の矢と光の矢が相殺しあい一瞬閃光が起こる様は、まるで綺麗な花火のようだ。
始動キー詠唱開始は同じだが超鈴音の方が先に発動させているところを見るとお嬢さんは本当に丸くなったというか余裕そうだな。
しかし実際超鈴音が超加速状態に移行したら詠唱速度諸々ではどうなるのだろうか。
あまり熱くなられても困るが、確かに面白いし見ものではある。
茶々丸姉さんもしっかり記録してるようだし。

「来たか翆坊主、エヴァンジェリンに相手をしてもらてるヨ。さてまだまだ実験したい魔法あるネ」

「茶々円、人間と仮契約するとは超鈴音はそんなに興味があったのか」

《そんな所ですよ。実際前回も超鈴音の協力がなければ解決できない問題でしたからね》

「そして今回は私の協力も借りたいと言うわけか。私も色々用事があるから、頻繁には協力できんぞ」

《それで構いません、よろしくお願いします。茶々丸姉さん、隣失礼します》

大学のサークルで学園都市内だがあちこち行っているから当然か。

「次行くネ!心配いらないと思うけど避けるといいヨ!」

     ―ラスト・テイル・マイマジック・スキル・マギステル―
      ―来たれ 火精 土の精!!―
       ―劫火を従え 噴出せよ―       「なっ、その規模の魔法も使えるのか、だがまだまだ甘いぞ!」
                               ―リク・ラク・ラ・ラック・ライラック 来れ氷精 大気に満ちよ―
                                  ―白夜の国の 凍土と氷河を―
        ―爆ぜる大地!!!―                     ―凍る大地!!!―
                                            
なんだそれ!?お嬢さんも詠唱早すぎるでしょう!
火柱と氷柱ってなんのアート。
威力自体は溶岩と化している超鈴音の方が上のようだが。

《うわー、何か芸術的ですねー》

遅れてご到着ですね。

《サヨ、来ましたか。今のところ、まだ、落ち着いている方です》

燃える天空まで出し始めたらカオスだ。

「詠唱早いネ、流石光の福音の名は伊達ではないカ。私も本気でやらせてもらうヨ!出力上昇!」

双方浮遊術に入り、超鈴音は準加速状態。

                                   「まだ上がるのか!いいだろう、この際最後まで相手してやる!」
      ―ラスト・テイル・マイマジック・スキル・マギステル―                  ―リク・ラク・ラ・ラック・ライラック―
―来たれ火精 風の精!! 大気を制し 薙ぎ払え 灼熱の嵐―          ―来たれ氷精 光の精!! 光を従え―
           ―炎の豪風!!!―                           ―吹雪け 白夜の氷雪―
                                                   ―輝く息吹!!!―
2種類の竜巻がぶつかり合い強烈な閃光と轟音が辺りに鳴り響く。

炎の竜巻と殺傷性がやばそうなダイヤモンドダストの激しい衝突は戦争でもしてるのかという感じだが……。
お嬢さん……本当に闇の属性使えなくなったんですね。
なんかご迷惑おかけしました。
しかしそれでもちゃんと代替魔法開発してるという努力のあたり、お嬢さんらしいな。

《あわわわ、大丈夫なんですかあんなの出して!》

《大分派手になってきましたが、多分次の方が酷いですよ、急速に互いに距離を空けてますから。って言ってる側から!》

        ―ラスト・テイル・マイマジック・スキル・マギステル―                    ―リク・ラク・ラ・ラック・ライラック―
―契約に従い 我に従え 炎の覇王 来れ 浄化の炎 燃え盛る大剣!!―  ―契約に従い 我に従え 氷の女王 来れ 終焉の光!―
―ほとばしれよ ソドムを 焼きし 火と硫黄 罪ありし者を 死の塵に―              ―永遠の氷河!!―
             ―燃える天空!!!―                    ―全ての 命ある者に 等しき眠りを 其は 安らぎ也―
                                                       ―凍る世界!!!―
先の竜巻の衝突を遙かに超える広範囲で炎と氷が衝突し、その中心では一瞬にして大量の煙が立ち昇った……。
とうとうやってしまった広範囲焚焼殲滅魔法の燃える天空と広範囲完全凍結魔法の凍る世界のガチバトル。
別荘でなければ今の世の中何処で使うにしても戦争でもない限り使えないだろう。
一対一でやるには派手さそのものがばかりが目立つが、この後高速機動戦もやるのだろうか。

《……なんていうか魔法使いの戦いって秘匿と言っている割に派手ですね》

それを言ったらおしまいですよ。

《魔法世界の前大戦では大体こんな感じなわけです。私達としてはこういった方向に魔法の技術を向けられると微妙なんですがね。まあ大規模火災を鎮火するであるとか、木造家屋のある一体を全て取り壊すとかいうなら、役立つかもしれませんが。それでも地球の核兵器よりはましですよ。土地に住めなくなるわけではないですし》

《要は使い方次第ということですね》

その通り。だが、なんともそう上手く行かないというのが実情である。

「いや~、ここまで盛大に魔法使たのは初めてだヨ。調節して相手をしてくれて助かたネ」

「超鈴音、天才だからと言って古代の魔法まで使えるのはどういう事だ。仮契約したのがいつかは知らないが魔法の扱いに慣れ過ぎてはいないか」

《その辺りは少々複雑な事情があるんですよ。……それでこの後接近戦もやるんですか》

「それはまた今度にしたいネ。エヴァンジェリンもいいカ。次を考えるとしても、科学でやろうと思ていた武装があるのだが魔法で実現できそうだからそれまでは遠慮しておきたいヨ」

「合わせて魔法を発動させていただけあって私は物足りない部分があるがまあいいだろう。だがこの別荘にから出るにはあと丸一日経たないと出れないぞ」

《ほら、そういう訳でやはり時間の流れは現実と同じにした方がいい事もあるでしょう、超鈴音》

「エヴァンジェリン感謝するヨ。アベアット。確かに翆坊主の言うとおりだネ。同じ流れに設定してるからいつでも出入りできるのは便利だヨ」

「超鈴音も別荘を持っているのか」

「かなり高かたけどなんとか入手したヨ。今やてる作業はあそこでないとできないからネ。こちらの方が施設は素晴らしいけどネ」

「数百年の歴史でもあるから当然だな。時間もある事だ、茶々円色々説明しろ」

《説明と言っても何からにしますか》

「私が超鈴音に聞いていた計画だと世界に魔法を知らせるという物の筈だったと思うが、魔法世界の消滅を止めようとしている精霊とどう関係があるんだ」

《実際その二つの話は結局同じ結末になるんですよ。ところで超鈴音、話しても構いませんか》

「ふむ、翆坊主の言ている遅かれ早かれという奴だナ。構わないヨ」

《では私から説明します。超鈴音は今から100年先の未来の魔法世界が崩壊した後の火星から時間跳躍をし、昨年の冬に到着しました。当初の目的はお嬢さんが聞いた通りですが、結局魔法世界という名の火星が悲惨な事になるというのを回避するという目的で私達精霊と超鈴音は進む方向が同じです。しかも100年先の技術というのは驚異的なもので、昨年の夏の大停電に始まり火星の重力強化などはそのお陰で実現できた事の典型です。そして今回は火星全体に光学迷彩の魔法をかけて地球からは未だに不毛の赤い大地と思われる必要がまだあり、今に至るという訳です。大体こんな感じですね》

「当たり前のように言うな!前にじじぃの所で魔法世界の消滅を止める為に動いているとは聞いていたが直接火星を改造しているのとは聞いていないぞ!大体火星自体の改造の為のエネルギーは何処から出てるんだ」

《驚かれても困るのであっさり言いますと、神木には二代目の木がありましてそれを火星に打ち上げました。エネルギーはそれで解決です》

「……おい、実はアレは木ではないだろう」

《私もそこは強く否定できませんね》

「疑問が解決したところで翆坊主、何故エヴァンジェリンの魔力反応とこのアーティファクトを使た時と同じなのか詳しく説明して欲しいネ」

あ……やっぱり聞きますかそこ。
やはりややこしいことになったな。

《今までお嬢さんには言っていなかった事があるんで失礼ながら言わせてもらいます。エヴァンジェリンお嬢さんは既に吸血鬼の特徴の殆どを失っていますが、今一体どういう存在なのか説明しますと5%程神木の精霊と同化しています》

《えっキノ、エヴァンジェリンさんも精霊なんですか!》

「茶々円!次から次へと隠し事が多いぞ!その微妙な精霊化は一体何なんだ!」

「翆坊主、キリキリ吐くネ」

《いやぁ、これは機密情報に触れるのであまり言いたくないのですが、お嬢さんは真祖化の術式の改変の結果5%程度精霊化し、不老不死の特性は術式の効果もあり維持されています。どうやら不老の部分に関しては神木の影響範囲外になると効果が薄くなるようです。恐らく術式を弄った時以前より強くなったと思いますが、それは魔力供給が神木から行われているからです。ただし、魔力量自体の限界は増えていませんので一気に使えば供給が追いつかず、空になる事はあると思います》

「……100年前もそうだったが……忌み嫌われる吸血鬼でなくなっただけましとするか……。それで影響範囲外というのは魔法世界の事か」

《そうですね。お嬢さんが成長した理由の原因はそこだと思います》

「一時的に旅をしていた期間の分成長が進んだという事か。つまり魔法世界に行けば成長できる訳だな。それは良いな、ハハハ!……いや待て、そんな術式の変更ができるならば人間に戻る事もできるのではないのか」

そう言うと思っていたから今まで黙っていた訳だが……。

《……大変残念ですが、十中八九再度術式に手を加えてそれを行った場合、言い方に問題がありますが、即座に死に至ると思います……》

《……そんな……》

「マスター……」

「そうか……いや、気にしなくていい。茶々円がいなければ私の今の生活も無い。身体の成長に興味もあるが麻帆良からはまだ離れんよ。それに、話を聞いていれば近いうちに魔法世界でも成長できなくなるのだろう」

《……ええ、それが精霊の目的ですから。今まで黙っていて申し訳ありませんでした》

「私も興味本位で聞いてしまたがあまりいい話ではなかたナ。エヴァンジェリン済まないネ」

「元気を出してください、マスター」

「……ハハハ、私も丸くなったものだな。茶々丸、茶を入れてくれるか。少し落ち着きたい」

そっとしておくべき空気になりました。

《精霊は一度失礼させて貰います。サヨ、行きましょう、観測を続けないといけませんし》

《……そうですね、鈴音さん、エヴァンジェリンさん、茶々丸さんまた明日会いましょう》

精霊はダイオラマ魔法球の制限には縛られない。

超鈴音がここで一日過ごしても出る時にはまた夜という事になる訳だが、やはりその辺り問題あると思う。


あの後観測に戻り、しっかり一時間程した後超鈴音達は別荘から出てきて元の生活に戻った。
こっそり確認したところ、エヴァンジェリンお嬢さんは以前よりも更に雰囲気が丸くなっていた。
何か思うところがあったのだろう。
それに比例してお嬢さんのファンクラブの会員が増えることは間違いないと思うが。

超鈴音は別荘の中で久しぶりにぐっすり寝たらしく、戻ってきた後朝まで起きたまま修行と研究と粒子精製の作業を行っていた。
因みに、気になる超鈴音の科学でやる予定だった装備というのは恐らく00な敵側でよく使っていた「まだあるんだよ!」という飛んでくるアレだと思う。
そういうの好きそうだし。
実際視界拡張の効果で空間認識能力は人外のレベルになるから合っていると言えば合っている。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

昨日から一日なのにほぼ二日という感じになてしまたが、エヴァンジェリンと図書館島に向かている。
途中図書館探険部の4人組が追い越していく時、私達の組み合わせの珍しさに驚いていたが今回は面倒な事にはならなかたヨ。
その原因は後ろにいるエヴァンジェリンなのだが、昨日の別荘から急にしおらしくなたからだナ。
道行く男子共もエヴァンジェリンの様子を見ると思わず動きが停止するあたり破壊力が凄いネ。
これはクウネルサンに合わせるのはいいが、昨日とは状況が違いすぎるのではないカ。

一般人は知らない入り口からエレベーターに乗て少し歩いた所で到着。

「エヴァンジェリン、着いたヨ」

「ああ、案内済まない」

……この反応のエヴァンジェリンは普段から考えると珍しすぎるヨ。

「クウネルサン、エヴァンジェリン連れて来たネ」

「超さん、ありがとうございます。久しぶりですねエヴァンジェリン。私の手紙読んで貰えましたか」

「手紙か……ああ、読んだぞ。……アル、久しぶりに会えて良かった」

クウネルサン、エヴァンジェリンの様子に気づいたようだナ。
驚いてるヨ。
昨日は一撃入れると言ていたのを聞いていた私としてもこれは予想外だからナ。

「どうしたのですかキティ、こんなに可愛らしい様子をするなんて。予想と違いましたが……これはこれで良いですね」

最後ぶつぶつ言ているが幸せそうだナ。
余程会えたのが嬉しいみたいだネ。

「不死について考えていてな。変わらないアルを見て少し安心した」

私はお邪魔な空気になているような気がするヨ……。
しかもキティという危険な名前で呼んだのに無反応だナ。
昨日の流れから行くとやはり不死のあたりの事だたカ。
昔までは不可能だた安らかな死が翆坊主達には可能であり、同時に永い時を生き続ける事も可能という事だからナ……。

「不死……ですか。私は完全な不死という訳ではありませんが、何かあればできる限り協力しますよ」

「なんだかお邪魔の用なら今日は私はこれで失礼するヨ」

「待て超鈴音、例の魔法とやら私にも手伝わせろ」

勢いを取り戻したようだが不安定だナ。

「超さん、幻術魔法の開発も早いほうがいいのでしょう」

「そうだネ。クウネルサン、エヴァンジェリンよろしく頼むヨ」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

例の司書殿の手紙だが、失礼ながら拝見した。
ここ数年のお嬢さんの学園祭での様子などに関する感想が書いてあった。
魔法の研究に協力して欲しいとは一言も書いていなかった。
やはり予想は正しかった。
ただ、色々とタイミングが良かったというのもある。
普通に考えてどうやってお嬢さんの様子を知ったのかという事になったらすぐに私の所に容疑がかかるのは間違いない。
実際お嬢さんの学園祭の映像は既にサークル単位で近年麻帆良で販売もされているからおかしなことではないが、あの日の出来事のお陰で炎上しなくて済んだ気がする。

さて、あれから時は流れ期末テストもいつも通り過ぎ短い春休みである。
光学迷彩の幻術魔法の研究も進行中であり、自己顕示欲の強い木をしっかり隠す目処も経ったというものだ。

木自体の改造も図書館島の地下にある怪しげなゲートの情報によりあっさり解決し地球と火星を月一どころか常に繋ぐことができる正直ありえないものができた。
いや、ありえてくれる必要は十分にあるが。
サヨは何をするようになったかというと精霊体で火星を飛んだりしている。
勿論私も行ったが、正直何も無い、どこまでも赤い大地と二酸化炭素の固まったドライアイスしかない。
変な感覚になるだけだが、サヨはそういう何も無いところを高速で飛ぶのが面白いと言っている。
ともかく新しい趣味ができて良かったのだろうと思う。
現在は似たような方法で超鈴音のダイオラマ魔法球との間に粒子転送用のポートの設置作業を行っている。
と、言っても超鈴音が作成中である装置が完成した際に空間を繋ぐところだけが私達の仕事であるが。

数日前に超鈴音が再度雪広グループに出向いて例のまほら武道会の復活の件が近衛門を通して回答を得られたという事だったが、2002年度は無理だが2003年度は開催して構わないということになった。
恐らく赤毛の少年の事を想定しての事だろう。
超鈴音はその回答で今年は先送りだが開催する事ができるようになっただけで収穫はあったとその辺りは気にしていないようだ。
寧ろ、例の映像を今年度の学園祭で雪広グループ特別展示施設で上映が決まり、それに併せて編集された映像の販売がなされるという事が今は熱い話題である。
麻帆良の歴史は超鈴音が奇跡的に保存されていた映像を発見しカラーでおこし三次元にまで昇華させたという事で済ますつもりらしい。
それで通るあたり麻帆良はやはり変である。
例の認識阻害の効かない少女が見たらしっかり「ありえねぇ……」と言ってくれるに違いない。
他の自然編や宇宙編も超鈴音が作成した素敵なCGという事でゴリ押しであるがこちらの方が寧ろ普通に感じるのだから、実に現実感の無い映像に関しては扱いが楽だそうだ。
同時に認識阻害は効いているものの三次元映像技術が発表される舞台にもなるので今年度の麻帆良祭は動員数は更に多くなりそうである。

もう一つ進展があったのは、麻帆良の外れにある呪術協会支部であるが短期間で建設が完了した。
表向きは地上部分が教会である魔法協会と似たようなもので、日本、主に京都の文化振興の施設という扱いになっている。
龍宮神社ともこっそり呪符関係で手を結んだりとしっかりやる所はやっているあたり彼等も麻帆良に慣れてきたようだ。
因みに天ヶ崎千草は謀略をめぐらせる暇が今のところないぐらい忙しいので安全である。
というのも、例の一件でよりしおらしくなったエヴァンジェリンお嬢さんが先日あちこちのサークルの一年のまとめとしての発表に参加した結果、余りにも絵になりすぎていたため男女問わず強烈なインパクトを与え、着物、茶、日本舞踊などがブームになったところ、先の施設ができたからである。
裏の施設の筈なのに表でやたら儲かるというのはなんともタイミングに恵まれている。
しかもその原因が、今は闇という文字のかけらも見えない光の福音殿だというのだから皮肉な話である。

一方小太郎少年の方は、忍ばない忍者と双子の小学生が所属するさんぽ部に頻繁に参加するようになり、小学生が3人になった。
少子高齢化と言われる時代に珍しい風潮もあったものだ。
ただ、神木に何処吹く風という様子で登れる人数が2人になったのは微笑ましいと言えば微笑ましいが微妙である。

「今日もここから見える夕日は綺麗でござるな」

「めっちゃいい眺めやわー。また来るで」

「うむ、またさんぽに来るでござるよ、コタロー」

という会話が日常に頻繁に加わるようになったのだった。

何はともあれ概ね麻帆良は平和ということで良しとしよう。



[21907] 12話 全人類肉饅補完計画
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/13 19:44
まほら武道会を今年度復活させることは学園長が認めなかたが、翆坊主の話から考えるとご先祖様の到着を待ちたいという事なのだろうナ。
それでも今年は雪広グループとの協同展示の方での資料作成が忙しいからネ。

私の信念には世界に肉まんをという標語があるが、有言実行に限るネ。
五月達で運営している屋台だけではなく、更に2号店、3号店と出店計画をしなければいつまで経ても野望は成就できないからネ。
そこで、この前の会合で雪広グループの社長が超包子の肉まんを好きだというのだから、麻帆良の外への出店計画についての協力を申し込んでみたヨ。
その時出席していた社員の人達は、なんと皆超包子の肉まんを気に入てくれているようで「超包子はブランド化できる!」という事で話はあという間に進んだヨ。
まず最初の足がかりとしてインターネットで超包子の肉まんを味を落とす事なく瞬間冷凍したものを4個を目安にして箱詰めして通信販売という方法を取る事になたネ。
流通経路の確保、販売促進は両方とも雪広グループに協力してもらう事になり、麻帆良祭では超包子の常駐支店を雪広特別展示会場のすぐ近くに建てる事も視野に入れる事になたネ。
いくら麻帆良最強頭脳であても、麻帆良を出てしまえば科学系はともかく食品業界にツテは無いから当然だナ。
まだ気が早いかもしれないけど、ハカセとロボット工学研究会にも五月の調理技術を模倣できる設備を作ることを頼むことにしようと思ているヨ。
五月は自分で作たものを他人に食べてその日を元気に過ごしてもらえれば良いという考えだから店舗拡大という事には興味はないかもしれないが。

しかし私の生活も毎日毎日予定が詰まているものだナ。
魔法球で魔分有機結晶粒子の精製、ポート作成、修行、新型魔法の開発。
図書館島で二人と光学迷彩魔法の研究。
中国武術研究会で古と小太郎君の相手。
ロボット工学研究会でハカセとさよと研究。
お料理研究会で五月と地道に人材の育成。
東洋医学研究会での会長業務。
生物工学研究会で例の魔分有機結晶の有機部分の情報を小出しにした研究。
量子力学研究会で現行技術に基づく新型通信技術と量子コンピューターの研究。
そして雪広グループとの提携。
一週間ではとても回らない生活パターンだヨ。
翆坊主の言う魔法球の時間を変更しない方が良いというのは分かるが、現実の流れを増やさないとこちらは解決しないネ。
高速思考が可能とは言え、まさに時は金なりという事だナ。
疲労感が溜まるかというと、仮契約する前と違って世界樹の加護の効果で精神力が強化されたり、魔分供給で身体機能が向上するものだから寧ろ以前より頑張れるヨ。

因みに何故東洋医学研究会で会長職までやているかと言う事だが、西洋医学で治せない事も私の知識でなら治る事があるからだヨ。
日々一日を健やかに過ごす事を助ける事ができるならささやかでも私は労力を惜しまないネ。
他に外科はともかくとして医学方面にも関係を広げておきたいという事もあるが。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

皆さん相坂さよです。
私はこの秋から冬にかけて超包子で五月さん達と働きに働いて中学生にしてはかなりの額を稼ぎました。
なんとなく高畑先生と新田先生と特に弐集院先生の財布の中身が流れて来たという感覚が強いですが、私が幽霊になったばかりの頃に比べると洋服を始めとして色々充実しています。
今までできなかった事をしっかり実現できていて楽しいです。
最近エヴァンジェリンさんが火をつけた日本文化がブームになっていて奮発して着物を買ってしまいました。
衝動買いができるというのもやはり生きている醍醐味の様に思います。
この買った着物を実際に着てみたのですが、身体が覚えている、というのも変ですが意外と普通に着られました。
少し生前の事も覚えていることがあるんだなと嬉しいような少し寂しいような気がします。

一方、鈴音さんと葉加瀬さんはそれどころではないという感じでいつも大忙しですけどね。

ここ数ヶ月キノの暗躍が激しかったですがあえて私のこれは!と言えるような活躍を思い出してみます。
去年の秋のウルティマホラである程度……勝ち進んだ事……。
鈴音さん達に新しい身体!を作ってもらって新開発のための計算、いえ、辛くなんかないですよ!
しっかり対価を貰いましたからね。
龍宮さんへの映画の報告は役だっています!

そしてなんといっても神木からの観測、火星の探査です!
今の火星環境ではまだ生身の人間であればすぐに死んでしまうような状況ですが精霊体である私は範囲内ならばしっかり見て回れます。
夜になると一切地上の光が無い世界ですから星空がとても綺麗なんですよ!
それにたまに強烈な嵐が起きるんですが、なんていうか雨の日や台風が来ている時にあえて走りまわりたくなるような感覚と同じで無性に楽しくて、それでいて地球のものとは比べ物にならない光景なんですから!
今までも映像が送られてきたというのは確かですが直に空を飛んで見渡すというのはまた違います。
環境が改善されて魔法世界と同調してしまえば、なかなかこうして今この時に感じるという事はできませんから得した気分です。
人間が住んでいない原始的惑星から見える世界とはこうもあるというのを身をもって知ることができる私は全人類で初めての経験をしているに違い有りません。
別に哲学的な事がどうとか言うのは綾瀬さんではないのでわかりませんが、ありのままに感じることは私にもできます。
そのうちまたこれも映像化してみたいですね。

そういえば鈴音さんの新型魔法の開発でしたが、まさに機動戦士のアレに近いものがビュンビュン飛んでたんです!
鈴音さんに聞いたところ、指で操った方が反応は早いけれど最終的には演算能力で管理した方が効率がいいらしいです。
自然体でかつ目の虹彩が輝いたまま十数本の光の刃を飛ばしているという姿は漫画や映画だとどちらかというと敵側の強いキャラクターの一人という感じですが、私達精霊にとっては鈴音さんは主人公側なのです。
因みにビームサーベルみたいなのは無いんですかと聞いてみたところ、「さよ、そんなこともあろうかと!」と両腕から魔力剣が出現しました。
しかも今度は足にも形成してみたいんだそうです。
ただ、まだ完璧とは言えず未完成の状態との事です。
寧ろもう鈴音さんで映画が作れそうですね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ここ最近で一気に忙しくなった超鈴音だが、高速思考やアーティファクトの効果があるとは言え、日々を確実にこなすのだから本当に大した少女だと思う。
表でかなり目立ち始めた超鈴音が裏よりも表で命を狙われることがないかと最近心配になってきたのは気にしすぎだろうか。

ここで恒例の火星の様子の確認を行うとしよう。
前回年末の時点では酸素の大気組成は3%だったが更に4月現在の今ではあと少しで6%という所になっている。
酸素の組成は上げすぎる必要もないがあと丁度1年程度は上げていく予定だ。
前回よりも上昇率が下がっているのは他所に出力を回していたからである。
これからは地球側からも魔分供給を行うのでまた上昇率も元にも戻るだろう。
また、火星の平均表面温度及び平均気温も以前より大分上がってきているため、いずれは嵐になっても二酸化炭素がドライアイスになったりという事も減っていく筈だ。
とはいっても0度のラインを抜くのはまだ先なのだが。
今回の大きな成果といえば4ヶ月近く地中活性を行ってきた事もあり、ようやくマントルに第一歩というべき対流が発生した事だ。
一度動きだしたからには徐々に流れを活発にしていく必要がある。
と、このような状況で着実に成果を上げているので問題なしだ。

《翆坊主、さよは既に受けてくれたが、特設展示施設での職員として働いてもらいたいのだが良いカ》

突然何の話ですか。

《え、私も身体に入って麻帆良の説明をするんですか。確かに麻帆良で知らない事はほぼないですから適役ですね。でしかしサヨならいいですけど、いきなり戸籍不明の謎の翆色の人物が学園祭の期間中だけ現れたとなっては怪しすぎませんか》

《そう言うだろうと思たけど、前にさよの新しい身体!や翆の大小の身体を使た事があるのだから、改めて全然違う素体を用意すれば済むのではないのカ。戸籍不明に関しては私と雪広グループの手にかかればどうということはないヨ》

そういえば身体って作れば何でもできたのだった。
こうしてみると明らかに後ろめたい人達からすると便利すぎる機能だな。
頭が硬くなっていたつもりはなかったがやはりそういう事には自分では気づかないものなのだろうか。

《うっかり忘れてましたが言われてみれば可能ですね。ですが、人の出入りが激しくなる時間帯は観測をしっかりしますから一日中という訳には行きませんよ》

《分かたネ。その辺りは配慮するから安心するヨ。終わたら肉まん用意しておくから好きに食べていいヨ》

そういえば一体目の茶々円の身体が関西での最後を迎えて以降、物を食べられる身体に入っていないな。
入るものはいくらでもあるのだけれど……。

《久しぶりに超包子の肉まん食べたいですね。是非手配お願いします》

随分安い対価で労働する事になった気がするが、超鈴音の協力の元ここまでやってこれたのだから何も不満に思うところは無い。

《翠坊主、一足先にその超包子の肉まんが麻帆良を飛び出して世界への道が開ける事になたのは知ているナ》

《はい、知っていますよ》

《一つ確認するけどさよの合気柔術の型が見事なのは精霊の能力の一つなのカ》

そういえばトレースの事は言ってなかったな。

《ええ、そうです。動きを模倣する事をしっかり繰り返せばその行動をプログラムとして保存できます。サヨの合気柔術のデータは昔私が記録したものです》

《そうと分かれば話は早いネ。これで開発が短期間で済むヨ。少しさよに力を貸して貰うネ》

流れから言って話は読めたな。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

春休みもあっという間に終わり私達は中学二年生に上がりました。
今年も担任の先生は高畑先生で副担任の先生は源先生です。
この二人が付き合っているのではないかという噂があるのですが、これをとうとう神楽坂さんが聞いてしまいました。
真っ白に燃え尽きたというのはああいう状態を言うに違いないです。
同時にそのあと近衛さんのフォローを受けてからの立ち直りも早かったですが。

去年に引き続き身体測定もありましたが私の身体は一切変化がありませんでした……。
改めてこの体が作り物であるというのがよく分かります。
でも一応15歳の身体なのでまだそんなに気になりません。
一方鈴音さん達はしっかり身長が伸びていました。
一部去年の時点でおかしな人達もいましたが深く考えてはいけないと思います。

ところで、今日も超包子で働く筈だったのですが、鈴音さんと五月さんに連れられてお料理研究会に行く事になりました。
……どうも鈴音さんの様子が若干マッドサイエンティストモードのようで嫌な予感がします。
五月さんも正直何をするのかよくわかっていないみたいなので不安です。

「さよ、五月の肉まん調理技術を習得するネ!」

あれ、私が料理する側に回るだけですか。
でもそんな筈は……。

《サヨ、何をするのか聞かされずに連れて来られたようですね。簡単に言うと合気柔術が使える要領で肉まんの調理技術をトレースして欲しいと言う事だと思います。後は新しい体!と言えば分かりますよね。では頑張って》

……突然翠のお告げが一方的に聞こえました。

料理の練習という名のロボット開発のためのデータ作成ということですか。

何だか便利家扱いされてますが、それでも、あえてこの任務やり遂げて見せます!

「今お告げもあったので、料理頑張ります!」

「相坂さん、お告げはよく分かりませんがしっかり練習しましょう!」

鈴音さん以外の皆さんはお告げって何という様子でしたが、こうして肉まん調理の特訓が始まりました。

超包子の肉まんは皮も独自の物を使っているため一から生地をこねて作る必要があります。
今まではなんとなく五月さんと時々鈴音さんが作る所を見ていただけでした。
でも、いざやってみると本当に中学生なのかという程なめらかな動きで二人が料理しているというのがよく分かります。
それぞれの材料の分量と比率に始まり、生地のこね方とその時力加減、肉まんの具に適したサイズにするための材料の切り方、しかも特に重要な肉については細かい決まりがあり、更に蒸した時に具と皮の間に空洞ができないようにする工夫、蒸す時の肉まんの配置、時間、水分、温度の調節と極めつけに五月さんの一般人よりも温かい手の温度であるとか、他にもあるんですけど省略します……。
とにかくこれらの動きを全てトレースする訳で目標は学園祭の前には習得ということなのであまり時間がありません。
こういう時は気合いでなんとかすればいいと誰かが言っている気がします!
実地でやっているだけでは時間が足りないので夜も木の中で五月さんの観測映像を見ながらその動きを精霊体の状態でですがなぞって行きます。
キノが言うには動作のトレースは精霊体よりも実際の力加減がわかるインターフェイスの方が早いだろうと言うことで、この状態の時は力があまり関係の無いものを学習することにします。
最初は良かったですけど、なんだかキノの近くで練習するのはシュールになってきてしまい、気分を変えて火星の木で練習したりもしました。
それについて火星の無駄遣いと言われましたが、どちらかというと火星の有効利用だと思います。
日に日に上達して行くので五月さんからは「筋が良いですよ」と褒められましたが、たゆまぬ努力の結晶なんです。

5月下旬の中間テストもなんのその、いつも通り2-Aで4位までを独占し6月頭、ほぼ完璧な肉まん調理技術をトレースしました。
お披露目にクラスの皆に食べてもらった所「いつ食べても美味しいね!」というある意味至上の評価が貰えたのでこの難度の高いミッションを達成できました!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

さよが全人類肉饅補完計画の第一段階を進めている間、私はエヴァンジェリンとの光学迷彩魔法の合間にある興味深い事に気付いたネ。
焦点は神木の精霊の力を借りた魔法は一体何に分類されるかという事だヨ。
結論から言えば、基本魔法は全て神木の精霊の力にあてはまるという事がわかたネ。
精霊の使命とやらが世界に魔法を残す事というのを実現するかのように、万人向けが売りなのだろうナ。
ただ魔法世界ではその辺りはどうなているかは試してみないとわからないネ。
攻撃性のある魔法に転換できるかもやてみたが、基本的に光の精霊との親和性が高いみたいだからあまり意味がなかたヨ。
防御魔法の方ではアーティファクトの異常なフィールドを見るに適正があるだろうと目を付けて、エヴァンジェリンも枚数で数えるタイプの魔法障壁よりも障壁の層のように展開できるのは防御面で優れていると言ていたネ。
その場で受けとめきれない場合突破されてしまうものとは異なり、徐々にめり込んでいくタイプだから咄嗟に強力な攻撃を受けても瞬時に体勢を整えられる筈だナ。
仮に攻撃魔法で使えたとしても、詠唱の時に口が裂けても、機密に関わてしまう為、神木だとか初源の精霊などと言えず、結局無詠唱しか日常では使用不可能という事になるから、丁度いいのかもしれないけどネ。

もちろん魔法球でもきちんと粒子精製も進めて、併せてポートも翆坊主から提供された情報を基に完成させたネ。
また新しく次にやるべき事が増えるんだろうが一つやるべき事が終わただけでも楽になるナ。

回想はここまでにして、今はさよが努力して記録した行動プログラムを新しい身体!に入て貰てダウンロード中だヨ。
ハカセにはさよの幽霊みたいなものの能力で人体の行動パターンをプログラム化できるか実験してみるネ!と少し騙すような真似をしたがいつも通りテンション上がて来たみたいで良かたネ。
実際私も今画面に表示されている複雑なプログラムに感動してるヨ。

「相坂さん、前回の計算能力も驚きでしたが今回も凄いですね!こんなプログラムを持っているなんて幽霊というのはオカルト等ではなく情報生命体なのかもしれません!」

ふむ、情報生命体というのは的を射てるかもしれないナ。

「私もこんな風に表現されるとは思いませんでした」

「このプログラム言語ならば今までできなかた事も実現できるかもしれないヨ」

「次はこれを再度ロボットアーム等にインストールして最適化する作業ですね!いえ、茶々丸タイプのボディにそのままの方がいいでしょうか、しかしそれでは大量生産が達成できませんか。ただプログラムを再現出来るだけのスペックが機械側にあるかどうかの確認をしないといけませんし……」

完全にスイッチが入てしまたようだナ……。

「さよ、これからは超包子で調理と配膳の両方を店の状況を見て切り替えたら良いヨ。データを取る為だけにやた訳では無いからネ」

「そうですね。五月さんに任せきりの料理の手伝いがこれでできます!」

「頼むネ、さよ。ハカセ、どちらも試してみたい所だが、まずプログラムの解析と分割をして理想の動きを再現させられるよう大量生産型の機械を開発するとしよう!」

私も考え出したらワクワクしてきたヨ!

「こんなに研究対象として凄いプログラムはなかなかありません。ええ、きっと解析が完了すれば人間の動作だけではなく動物の動きも忠実に再現できるようになるかもしれません、なんて素晴らしいのでしょうか!!」

その気持わかるネ、ハカセ!!
科学の発展のために完璧な動作を再現してみせるヨ!!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

慌ただしい二ヶ月だった。
夜になるとサヨが木の中でシャドー肉饅料理をするわ、恥ずかしいからと火星でやるも観測してるものだからチラチラ情報に入ってくるわでなんだかんだせわしなかった。

そろそろ麻帆良祭も近いので身体も用意した。
モデルは00な組織の創設者の老人である。
やはり歴史の解説と言ったら学者っぽい方が良いだろう。
サヨも解説するというのだから祖父だとでも通せば意外と自然ではなかろうか。
名乗るとしたら 伊織修平 等と言うのがなんとなく良い気がする。


さて、今何をしているかと言えば、めでたく完成した木と超鈴音の魔法球を繋げるポートの開通式である。

《超鈴音、接続作業を行いますよ》

「いつでもいいヨ。翠坊主の提供してくれたゲートの情報を参考にしてるから性能には問題は無い筈ネ」

「いよいよですね」

-接続開始-

……状況は良好、と。
基本的に一度神木・蟠桃を経由させて続けて二代目に転送させられるようにしてある。

《お見事です、超鈴音。これなら実体のある物質も転送できますよ》

「これで貯めに貯めた粒子もようやく役に立つナ。で、実体があても転送できるという事は、私も木の中に入て実際に見ても良いと言うことになるのカ」

映像で木の中で生まれた華については見せた事があるから興味があって当然か。

《一応華を格納していた頂上の場所にゲートを設置しているので今は何も無いただの亜空間になっていますが……そうだ、第二世代から華を転送させましょうか》

すっかり火星側に放置していた忘れかけていた宇宙船だったがゲートを使えば移動もできたのだった……。
因みに安置所にゲートを移動させる事も可能だがあまり紹介したくないので却下である。
また観測空間だけは精霊体でないと侵入はできない。

「おお、宇宙船見せてくれるのカ!それはすぐ行くネ!」

《分かりました、今手配します。サヨは久しぶりにその身体を安置所に並べてみますか》

「いらない配慮です!」

《冗談です、ゲートの設定を変えるのは可能ですがやっぱり面倒ですからね。それでは準備できたので宇宙船の見学ツアーへようこそ》

「人類初、木の中に入るネ!」

華が誕生した空間に実際に入れた喜びに超鈴音はテンションが上がりまくっている。

「映像では見ていたが宇宙船というものがこんなに美しいというのは生命の神秘だヨ!人間の想像ではもとこう金属の塊だたりする筈なのだが、これはなんと言ても全体のバランスの良さといいこの手触りといい素晴らしいネ!」

あれ……手で触った事……ないな。

《そんなに手触り良いのですか》

「キノ、私も触ったことなかったですけどこれはなんとも言えない良さです!」

そこまで言うなら触ってみないとな……。
後でゲートを二つ繋いで安置所からも移動できるようにするか。

《私もそのうち触ってみる事にしますよ。それで、乗ってみますか》

「是非乗てみたいネ!……と言いたいところだが、これの所有権の譲渡を約束されているし、お手付きのような気がするから今日はまだやめておくヨ」

意外とそういう記念的なものを大事にするんですね。
すぐに内部の研究を始めるのかと思ったのだけど。

《私達としては超鈴音ならいつでも乗ってもらって構いませんからその気になったら言ってください》

「感謝するネ翆坊主、さよ。……ところでこんな所で何だがクウネルサンが図書館島から出れるように学園祭の時だけでも麻帆良全体の魔分出力を上げないのカ。私が知ていたデータだと毎年学園祭の時期になるとある程度神木の反応が上がていた筈だたが、こちらに来てそれが無いのがわかたからナ」

ああ、適当に22年に一度だけ発光させてたんだった。
それ以外は常に、特に変動もなく少しずつ一定の勢いで魔力溜りに魔分を供給しておいていたのだった。

《それは私の手抜きで22年に一度だけ出力を上げていたのが原因ですね……。また歴史云々の問題でややこしいですが、司書殿も22年に一度出力が上昇するというのは理解しているからこそ、あそこにいるのだとは思いますが、光学迷彩の魔法にも協力して貰っていますしなんとかしましょう。今更学園祭の時に出力を上げるのも変なので個人的に魔分供給する方向で解決させますよ》

エヴァンジェリンお嬢さんの映像の件も掘り返されたら堪らないし、今年は直接見学してもらうとしよう。

「歴史の問題については確かに気にしない方がいいカ。では、クウネルサンは頼むヨ」

《了解しました、任せてください》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

という訳でクウネル殿の所へやってきた。

《クウネル殿、光学迷彩の魔法への協力感謝します。そのお礼といっては何ですが、今年の学園祭は外に出てみませんか》

「おや、キノ殿久しぶりですね。私もまた協力させてもらえることで超さんとエヴァンジェリンに会えていますからそれなりに満足していますよ」

《それは良かったです。実はこの頼みは超鈴音からの物なのですよ。失礼ながら私はすっかり考えから抜け落ちていたもので》

「超さんが……ですか。……そういえば重力魔法が完成した時にも似たような事を言われましたね。それでは、お言葉に甘えておきましょうか」

《お嬢さんの晴れ舞台を直に見てくると良いと思いますよ》

「……キノ殿、寧ろ私に今回は実際に見て欲しいと思っているのでは」

あ、墓穴掘ったか。

《ははは、お互い様ということで済ませませんか。わざわざ火種を大きくするのもよくありませんし》

「私としてはそういうエヴァンジェリンも見てみたいですね。この前は予想と違う反応のまま有耶無耶になってしまいましたし」

そういうの期待しているのは勝手にすればいいけど巻き込まないで下さい。

《お嬢さんも最近また以前の状態に戻って来ているようですから一人で頑張ってください》

「木を氷漬けにされては困りますか」

《困ります。勘弁してください》

まあ実際そうなる事はないだろうがあったとしても魔法を妨害すれば済むのだけれど。

いよいよ2002年度の学園祭の幕開けだ。



[21907] 13話 赤毛の少年 1人! 来りて 大志を抱け 魔法の先生 2A・31人!!
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/02/08 01:04
話は少し遡るが、麻帆良の歴史説明用インターフェイス伊織さんの件だ。
怪しまれないように周りに気を配りつつ、木から出て超鈴音と雪広グループが手配したホテルに向かったわけだ。
そこで学園祭の前に予め泊まり、主に何を説明するのか等を超鈴音、サヨ、社員さん達と話しあいつつ身体を放置するという寸法だ。
しかし、現実問題この有様である。

「済まないが、お爺さんは誰ネ」

「私もこのお爺さん知りませんよ」

わざとなのか何なのか正直困る。
何サヨはこそこそ超鈴音に話しかけているのか。
こうなったら逆にそのまま押し通る!

「伊織修平と申すものじゃ。今年の学園祭で麻帆良の歴史を語ろうぞ」

……そんなにうんざりしたような目をしないで欲しい。

「……翆坊主、違う素体を用意すれば良いとは言たが何故わざわざ年寄りにしたネ。その名前もどこから来た」

「キノのイメージってなんか変な偏りがありませんか」

「ぬう、不評のようじゃがさよの祖父等と通せば自然かと思うての。名前は珍しく思いついたのじゃ」

「さよ、お祖父さんだそうだヨ」

「この人が私のお祖父さんですか……。全然似てないです……」

こんなわざとらしい遠い目は初めてだよ!

「この老体に立場なしというのも何じゃ。中に入らせてもろうても良いかな」

「その口調はわざとなんだろうナ。社員さんの前ではその方がいいけどネ。着いてくるヨ」

お互い様ということで。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

私達「超一族」は今年のクラスの出し物には殆ど参加する時間がなくて申し訳なかったのですが、そこはいいんちょさんが「数人減ったところでなんとかしてみせますわ」とまとめてくれたので好意に甘える事にしました。
もしかするといいんちょさんは雪広グループのお父さんから何か言われたのかもしれませんね。
今回は超包子の麻帆良外への展開の為の大事な機会であり、飛べる超包子の屋台も特別展示施設の近くに用意されたスペースに常駐することになりました。
恐らくあちこち飛びまわるよりもあそこが一番宣伝になりそうだからです。
6月頭に収集された肉まんの調理データは葉加瀬さんが工学部の人達と共に研究室で徹夜を敢行した結果、およそ2週間で大量生産可能な設備が完成しました。
その完成した瞬間には強烈な雄叫びが外からでも工学部棟から聞こえる程で余程限界だったのかその後は屍累々の地獄絵図でした。
床に倒れたままでぶつぶつと新たなロボットの開発について呟いている人達は不気味なのであまり見たくはないものでした……。
この設備はしっかり屋台の近くに突貫工事で建設された建物で稼働させ、できたものは冷凍のお持ち帰り用と、その場で食べる用として売りに出します。

そして、とうとう私が復活してから二度目の麻帆良祭が始まります!


今年の超包子開店式in麻帆良祭では鈴音さん、五月さん、古さん、茶々丸さん、葉加瀬さん、そして私に、雪広グループから派遣されてきた綺麗なお姉さん達が加わっています。
最強の布陣です。

「去年に引き続き今年も超包子で世界に肉まんを届けるネ!」

「「「「「「世界に肉まんを!」」」」」」

こうして開店式で気合が入ったところでお客さんに売って売って売りまくります!

見て下さいこの料理の鮮やかな動きを!
この3ヶ月近くの間に洗練された料理の腕はかなりのものです。
肉まんの調理技術習得後は他の料理も短い期間でしたが練習したんです。
麻帆良祭開始早々に三次元映像技術の噂で持ちきりの特別展示施設は既に長蛇の列を成し、そこから並ぶのも面倒という事でまだ昼前に関わらず超包子に人々が流れてきます。
どこの席が最初に埋まるかと言えばそれはカウンターです!
五月さん、鈴音さん、私の三人体勢で繰り広げられる厨房はカウンターから見ることができるので人気の席となっています。
予想以上の混雑で今からこの状況では、昼時には一体どういう事になるのかと気が遠くなりそうな所、鈴音さんがお料理研究会の腕利きに電話し始め、直ぐに応援に来てもらえることになりました。
そうでないと私と鈴音さんは特別展示施設での仕事もありますから大変です。
一方ウェイターの仕事をしている古さんの動きは曲芸のようですが、社員のお姉さん達の動きも無駄がありません、必ずお持ち帰り用の肉まんの宣伝をしているようで葉加瀬さんが販売をしている肉まん専用窓口にも列が出来始めました。
従業員は女性一色で構成されている華々しい空間もあって、お客さんの構成人数の多くは男性という有様ですが、実にわかりやすいですね。
今回は去年とは違い材料の補充はグループの協力のお陰でほぼ無尽蔵ですから驚異的売上を記録するはずです。
程なくして高畑先生達も来てくれて、余りの人数の多さに驚いていましたが、頑張ってねと少し声を掛けてくれた後その場で肉まんを買って行ってくれました。
いつもお世話になっている先生達にはゆっくりしていって貰いたかったですが、割り切るしか有りませんね。

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私の麻帆良の歴史説明の仕事も打ち合わせ通り始まった。
社員さん達は私の存在については疑問に思うところばかりだろうが、深いところまで聞いてくることもなく助かった。
逆になんでそんなに詳しいんですかとしつこい人達が現われると直ちに彼等は現れては「それ以上は正規の手続を行って下さい」とどこかに連れていってくれる。
人間の組織力というのは大したものだと思う。
因みに今のでわかったかと思うがその犠牲になったのは2-Aの朝倉和美も含まれている。

「失礼ですがお爺さんは何故そんなに麻帆良に詳しいんですか。私も情報に詳しい者ですが伊織修平さんという方の名前を聞いたことがありません、詳しくお話聞かせてください!」

と去年から一年経ってパパラッチな度合いが更に上昇し、目の光り方が怪しくなっている彼女には早々に退場頂いた。
南無。
というかこの施設に入るための長蛇の列に真面目に並ぶだけでもかなりの時間がかかるのにクラスの方はいいのだろうか。

後で分かったことだが、エヴァンジェリンお嬢さんに雪広あやかが是非是非と頼み込んで着物の着付けコーナー的なものをクラスで展開していた為ローテーションで回せば良く、一時に人員を必要としないのが原因だったようだ。
春にブームになったのがまだ続いているのか、普段は高くて手が出ないような着物を着れるとあって、2-Aの少女達自身と客達にも好評と相成った。
しかしまあよくお嬢さんが了承したものだと思う。
その噂を聞きつけた大学生たちが女子中等部に流れこむようになったのは二日目以降であったそうだが。

午後に突入し、また2-Aのお嬢さんがやってきた。
何処かで見たなと思えば図書館探険部の綾瀬夕映である。
超鈴音を図書館島に連れていったあの時は孫娘の仲間たちその1の扱いであったがご登場。
どうやら彼女は神社や仏閣のマニアであらせられるようだが、今回麻帆良の詳しい建設の歴史がわかると聞いてやってきたようだ。

「お爺さん、麻帆良の詳しい歴史を教えて下さいです」

語尾に特徴があって楽だとかそういうメタな事を気にしてはいけない。
なんていうか朝倉和美とはまた違った目の輝き方でこちらは好感が持てて微笑ましい。

「良かろうお嬢さん、儂の知る範囲で答えるぞい。まず何時の頃を知りたいかの。この機械で映像も好きな物を選べるから言うてみるとええぞ」

「……この映像技術は凄いです……。それではまず麻帆良発祥当時の事をお願いするです。当時の資料は殆ど概要程度しか残っていないので興味があります」

そう、麻帆良学園都市発祥当時の資料で公的に知ることができるものは恣意的に削られている事が多い。
何故かといえば、初代学園長は一般人であったが、それ以外の魔法使い達の手によってその後魔法世界のメガロメセンブリア、上部組織との繋がりができ徐々に勢力を伸ばし今に至るという訳だ。
それが良いか悪いかという評価はともかく今は伝統ある近衛家の現最有力者である近衛門の影響力もあり、中身が真っ黒等という訳でもない。
単純に謎の地下施設がやたら大規模に広がってしまったのは事実であるが。

「分かったぞい。まず建築のモデルとなった……」

長々と30分程説明に費やした気がするが、少女の目は真剣そのものだった。
図書館島について聞かれたが、図書館探険部をやっているのだったら自分で究明した方が面白いだろうと言った所「それは一理あるです」と理解頂いた。
何故探険部か分かったのか聞かれたがあからさまな腕章しているからという説明で納得してくれたが、前から知っていたのも事実である。
この後彼女はサヨも歴史に詳しいという事を知ることになり詳しくサヨに追求する事になったのはすぐ後の話。

午後三時に施設の一角で、超鈴音と雪広グループ社長と傘下の電機メーカーの方々が出る説明会と引き続き記者会見が行われ、麻帆良の歴史云々よりも異常な技術力の塊である三次元映像装置の発表が行われた。
任意に座標指定した視点から自由に映像を見ることができる訳で撮影機器の方も超鈴音がアーティファクトで得た視覚拡張の感覚から近いうちにやってのけるそうなので、そういった説明の場となり超満員だった。
席に集まっている殆どがマスコミと国内含め、各国の同業他社、警察機関の方で構成されていた。
一つおかしな物が混ざっているように見えるが、視点の自由度という発生により今まで証拠が曖昧だったりする防犯カメラ等の新たな段階という事で視察に来たらしい。
精霊個人として何に驚いたかと言えば超鈴音の口調が一番であった。
普通に話しているのは違和感しか無い。

次の日、テレビ放送で超鈴音が麻帆良の枠を飛び出し全国に顔が出たかというと、その辺りはしっかり配慮がなされていてとりあえずは名前が小さく出るだけという事になった。
当然それでも直接取材にくる方々もおられたと思うが雪広グループのエージェトはパーフェクトであり、抜かりは無かった。
実際今の生活パターンから更に連日取材という事になったら流石に限界だろう。

普段の麻帆良であれば、この手の事は専門機関の暗躍によってニュースになったりすることはないのだが、今回は超鈴音の超包子の展開や雪広グループにとっての利益等、諸処の事情により珍しく意図的に外部に情報を流す事になったのである。
どう考えても、部活やら研究会やらで飛行機が麻帆良の街並のすぐ上空で普通に飛んでいるのは非常識であり他所で話題になってもおかしく無いし、極めつけには巨大ロボットが闊歩しているのはかなり異常だと思うのだが、麻帆良の為せる奇跡はもはや何でもアリだ。

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三日間の学園祭もあっという間に過ぎ動員人数も数年連続で記録を突破するという全体としても華々しい成果に終わりました。
インターフェイスの身体は疲れが殆ど溜まらないというかなりずるい性能なのですが、この三日は生き抜いたという実感が強いです。
朝から始まり夜まで営業し続け、五月さんも途中何度も休憩を挟みましたが一日が終わるたびに寮で爆睡するという有様でした。
一方古さんの体力が無尽蔵なのは社員のお姉さん共々唖然とするしかありませんでしたが。
安くて美味しい!が売りである超包子の3日間での売上は肉まんだけで300万円を記録、通常の料理200万との売上を併せて約500万円となりました。
低価格設定と販売の規模からすると正直異常としか言いようがありませんが原因は営業時間の長さ、材料が尽きないのと、初稼働であるにも関わらず、一日1万個もの大量生産が可能であった機械の働きが大きいです。
もし手作りでこの数を生産となれば過労で五月さんも元の私のように幽霊になってしまったかもしれません。
それでも単純計算すれば一人4個詰めで一日2500人にしか売り切ることができなかった、と麻帆良祭動員人数から考えればもっと売れた可能性はあるかもしれませんが時間的、人員的制約から見れば仕方なかったかもしれません。
食べてみたかったけど食べれなかったという人達は通信販売でも買えますという宣伝のみになってしまいましたが、口コミでおいしさは浸透しているはずなのでこれからが楽しみです。

そうでした、私の麻帆良の説明の仕事もしっかりこなす事ができた筈なのですが、朝倉さんと綾瀬さんという変わった組み合わせでの追求がクラスの打ち上げで発生し逃げまわるのが大変でした……。
宮崎さんと同じく本好きというイメージの強い綾瀬さんが意外に走るのが早く、図書館探険部という名前だけでは判断不可能なポテンシャルだったのは脅威でした。
というか高畑先生は笑って見てないで助けてください!

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学園祭が無事に終わって7月上旬、図書館島に集まり、光学迷彩魔法も完成を迎えた。

《クウネル殿、今年の学園祭はいかがでしたか。結局分身体という事になってしまいましたが感覚は共有されていたのですよね》

「ええ、今年は楽しめましたよ。実際に見るのは良いものでした。エヴァンジェリンの晴れ舞台も見れましたし満足していますよ。超包子の方は混みすぎていて諦めましたけどね」

「肉まん食べたかたらまた今度持てくるから任せるネ」

「アル、私についての感想を聞こうか」

「それはもう、とても見目麗しくて心が洗われるようでしたね。……ただネコミミをつけたりスクール水着を着たりするのも私は良いと思いますよ」

また何言ってるんだこの司書は。

「クウネルサン、それはいくらなんでも日本の文化には場違いだヨ……」

「……では今この場でつけて貰いましょう」

そこでキュピーンとかいう効果音付きで目を光らせるのは何ですか。

「いい加減にそういうのやめろ!褒めるなら褒めるだけにしておけ!一発殴らせろ!」

「こらこら、暴れてはいけませんよ、キティ」

「その名前で呼ぶなと何度言ったら!」

お嬢さんが殴りかかるも身長差で一撃も当たらないという流れは予想できたが、こういうからかい方をするのが好きらしい。
二人が落ち着くまでしばらくかかったがやっと本題に入れた。

「翆坊主、まずこの魔力を込めてある球体で実演してみせるヨ。アデアット。幻術迷彩魔法起動」

光学という部分は何処へやら。
しっかり半球に偽装がされているのがわかるな。

《半球だけであればコストも少なくて済みますね》

「地球側に面してる公転面に常に発動させる計算もきちんとしてあるから万全だヨ」

抜かりはないようで。

「そんなに急いでいないと聞いていましたから完成までに重力魔法の時よりは大分かかりましたがこれでまた解決ですね」

「茶々円、この魔法を開発したのは良いが今火星がどうなっているのか見せる事はできないのか。開発に携わってどう使われているか確かめたい」

《そんなこともあろうかと!ですよね》

「翆坊主、それは私のセリフだヨ。以前の映像だが持てきたネ」

「荷物が多いと思ったら用意していたのか」

《クウネル殿もご覧あれという所ですが、実際何もありませんから激しい天候変化と星がはっきり見える映像という感じですね》

「用意できたヨ。上映開始ネ」

私は見慣れた映像であるが、お嬢さんは意外と喜んでいるな。
司書殿も興味ありというところか。

《超鈴音、例の映像技術の公表でしたがあれからどうですか》

「特許は取得してあるからナ。まだ映像を映す技術だけだから撮影する方も直ぐに実現したいところだネ」

《普通は両方一緒にできるものだと思いますがその辺り不思議に思われないのが凄いですよね》

「両方の技術をあの場で公表したらもと騒ぎが大きくなてたヨ。開発の予定で済ませたから、協力させて欲しいとか資金提供する等のメールが沢山来たネ」

《余程茶々丸姉さんの方がブラックボックスだとは思いますが》

「この映像技術なら何処かで数年したら開発されただろうから特許が取れて良かたヨ。他にも日の目を浴びるのを待機している技術もまだまだあるからネ」

《当分資金源には困りそうにないですね。しかし、警察機関のお出ましには逮捕されないか心配になりましたよ》

「夏に派手にやらかしたのは翆坊主達だから私は関係ないヨ。まあ警察機関が来たのは良い事もあるが、悪いこともありそうだナ」

《いきなり国家権力のお出ましですからね。国の上部組織にも魔法使いは混ざってますからどう転ぶかという所ですね》

「そうだ、数日前ちうサンからハッキング攻撃を受けたヨ」

何いきなり被害報告をしだすか。

《認識阻害の効いてない彼女ですか。展示施設に来て期待通り「ありえねぇ……」って呟いてましたからね。ストレス発散と腕試しに超鈴音の部屋にサイバーテロですか》

「こちらの普通のパソコンを使ている割にはかなり技術力は高かかたヨ。重要なものはネットに繋いでないから問題はないけどネ」

《敵対意識みたいのを持たれると厄介ですからどうせなら破らせてみた方がいいのでは》

「ふむ、それも有りカ」

《ところでいかがですかお二人は》

完全に魅入ってたな。
って華の飛行映像か!
まあ……この二人ならいいか。

「茶々円、なんだこの巨大な華は」

「私も気になりますね」

《それが打ち上げに使用した宇宙船です。もちろん無人で飛ばしましたが》

「はぁ……木が宇宙船作るなんてどうかしていないか」

「いつか乗ってみたいですね」

《深く考えない方がいいですよ。今日はこんなところで早速幻術迷彩魔法を使わせて頂きます。今回もお三方ご協力ありがとうございました》

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結果は流石トップレベルの三人が開発しただけあって幻術迷彩魔法の効果、効率は非常に良かった。
それでも地球側から超鈴音が精製した粒子と共に魔分供給も行う必要があるが許容範囲内だろう。
今までよりもテラフォーミングの速度が若干遅くなるかもしれないが安全に行うためには必要な対価だと割り切ろう。
去年の6月の接近から一年程経っているため火星は今かなり遠い位置にあるが、海が発生する頃にはまた近づき始める事になる。


その後、超包子の肉まんのインターネット販売はかなり順調に注文数が増えており麻帆良祭の宣伝効果はやはり大きかったようだ。そのうち雪広グループ協力のもと支店がいくつかできる事になるのも近いだろう。
何故か超包子のブランド化計画に動く社員達は皆女性という状況であり、このまま行くと味と安さだけでなくそういう方面でも有名になりそうな気がする。
三次元映像技術の情報は瞬く間に世界に浸透し、人々は新たな映像表現の可能性がどうなるか、と言った事で盛り上がったりしている程度であり、これで撮影技術が完成すれば本格的に動き出すだろう。
一方サヨはしばらくの間パパラッチと哲学少女に追い掛け回される事になっていたが次第にそのなりも影を潜めて平穏な生活に戻って一安心だろう。
まあそのために学校が終わるとすぐに寮に戻って身体を放置したりと色々苦労したようだが。
葉加瀬聡美は解析された動作プログラムから茶々丸姉さんの性能を上げる事に情熱を燃やしているようだ。
これは是非やってくれと言いたい。
でも無駄に物騒な武装の開発をするのは正直やめて欲しい。
そして相変わらずこの三人と雪広あやかで期末テストをまたしても4位までを独占したわけだが絶賛記録更新中である。

そんなこんなで動きがあったのは近衛門の所であった。

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もう夏休みかという7月の末、放課後に高畑先生から言われてさよと一緒に学園長先生に呼ばれたネ。色々思い当たる節はあるが新たな動きという事かナ。

「高畑先生、二人を連れてきてくれて済まんの」

「学園長、僕はこれで失礼します」

「超君、相坂君わざわざ呼んで済まんかったの。随分有名になったようじゃが調子はどうかの」

「学園長とこうして直接話すのは初めてだネ。雪広グループとはうまくやれているヨ。まだまだ忙しいけど調子は順調だヨ」

「学園長先生、もう1年半ぐらいになりますがまたこうして生活できて良かったです。色々手配して下さりありがとうございます!」

「ふぉっふぉ、二人共充実しておるようじゃの。して、超君は最近女子寮に侵入者が出るようになったのに気がついておるかの」

まずそこからカ。

「ふむ、あれは困るネ。私の部屋には人には見せられない大事なものが沢山あるからネ。そのためだと思うが監視がまた付き始めたのは諦めるしかないなと思てるがやりにくいヨ」

「あー、やっぱりあれ侵入者だったんですね」

「厄介な事に超君は表で狙われるようになっているものじゃから、気をつけるようにするんじゃぞ。監視の方は付けんと色々大変じゃから勘弁して欲しいの」

表の人達は銃という質量兵器なものだたりナイフでザックリだたりするから危険極まりないネ。
裏の人間なら魔力や気の反応で寧ろ対処が取りやすいのだが。

「木乃香サンの侵入者が裏で私が表という訳カ。せつなサンの機嫌が悪そうなのも無理ないナ。しかし表で狙われると一発で命を落とすから怖いネ。ところで、表裏の話をするという事は精霊を呼んだ方がいいカ」

「察しが早くて助かるの。儂から話かけるのはできんからな」

「えっ、というと学園長先生は私が幽霊でなくなったのはもう知ってるんですか」

「何、なんとなくそうじゃろうと思っていただけじゃよ」

翆坊主の動きを考えればすぐに分かるだろうナ。

「それならもう呼んでもいいだろうナ。結界も張てあるようだから連絡頼むヨ」

「分かりました」

《キノ、学園長先生が呼んでますよ》

《え、これは珍しいですね。今行きますと伝えておいてください》

「すぐ来るそうです」

「念話とは全く違うもののようじゃが便利そうじゃの」

「私が今度機械で似たようなものを実現してみせるヨ」

「うむ、超君は麻帆良最強頭脳と言われるだけはあるの。世間で話題になっとる映像技術も期待しとるよ」

「お褒めに預かり光栄だネ」

《お待たせしました、近衛門殿この組み合わせはなかなか珍しいですが何かあったようですね。私も結界張らせてもらいます》

呼んだらすぐ来るあたり全然待てはいないけどナ。

「キノ殿、今日は二人に呼んで貰ったが済まんの。相坂君が精霊になっとる件は今聞かせてもらったわい。今は女子寮への表の侵入者の件を話していたのじゃが」

《その件ですか……。私達としても裏の人間ならば意外とすぐわかるのですが表の人間はただ確認しただけではわからないのが困りますね。それに結局人間同士のそういった事にあまり介入しないのが精霊としての自然な形です》

心配しなくても十分対処できているから今のところは大した脅威でもないネ。

「うむ……木乃香の事もあるし、何より他の生徒に危険が及ぶ事があるかもしれんのが問題じゃな」

「学園長、それなら私とハカセで警備システムの強化と警備ロボットを作るという事もできるヨ」

《それも有りですね。私としては本当に危なくなったら阻止するつもりですから油断はしないで欲しいですが心配し過ぎなくて結構ですよ。ただ、侵入者が発生するようになったという事実が面倒極まりないですね》

「確かに心配しすぎる事もないが現状維持という事で構わないかの。できれば超君、その作業頼みたいの。キノ殿ももしもの時は頼みますぞ」

「その依頼受けさせてもらうヨ、守れるなら自分の身は自分で守りたいからネ。ところで私からも一つあるが、まほら武道会の来年度の開催を了承してくれて感謝するヨ」

「超君から言われるとはの。実はそれと少なからず関係ある事が本題じゃったのじゃが……。まほら武道会は時間的に余裕が無かったもので今年は許可できず済まんの」

「その分来年全力でやらせてもらうネ」

《近衛門殿、ということは何か動きがあったのですか》

「キノ殿だけに話したいことではあったのじゃが、どうも今更のようじゃな……。機密情報に触れるのじゃが3人ともそれ以上の機密じゃし良いじゃろう。イギリスの9歳の少年あちらの学校を卒業して今年の三学期にこの学園に教師として赴任する事が決まっておる」

その話だろうとは思ていたが生憎全員知てるネ。

《……やはりその件ですか。それでわざわざ私達、いえ私の予定だったようですがそれを話す理由というのは。三学期といえばまだ数ヶ月あると思いますが》

「そうなのじゃが、儂の強い要望で8月には彼に来てもらう事にしたのじゃよ」

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いやいやいや、話がもう全然違くなっているなにこれ。

《キノ、例の歴史とスタートから違ってませんか》

《全くその通りです》

《翆坊主、ということは、本当は時期が3学期だと言う事なのカ。そこは私も知らないネ》

サヨ、超鈴音にも通信繋いでたんですか……。

《そういう事になります》

近衛門との話に戻ろう。

《近衛門殿、いきなり日本に呼んでも言葉が通じないのでは》

「ふむ、それもそうじゃが英語を話せる人間は儂を含めても麻帆良におるし、ネイティブスピーカーで通せばよかろう」

……言われてみるとそうかもしれない。
学校の授業でも一人の日本人英語教師と殆ど日本語の通じないネイティブスピーカーの二人で行われる授業というのも無くはないからな……
寧ろ変に日本語が流暢だと英会話の授業としては生徒が緩くなって微妙になるからいい……のか……。

「私も英語話せるヨ!」

流石麻帆良最強頭脳であらせられる。

「キノ殿、ほらすぐ側に良い例がおるじゃろう」

何乗ってるんですか。

《話が進まなさそうなので単刀直入に聞きますが、精霊の私、私達に何をして欲しいのですか》

「言わなくてもキノ殿ならやってくれるとは思うのじゃが儂から改めてお願いしたいんじゃ。彼の少年を見守ってやってくれんか」

そういう事か、それは実に精霊らしい仕事だ。

《ええ、もちろんです。私もそうするつもりでしたし。近衛門殿からの正式な依頼とあればしっかり見守ることにしましょう》

「学園長先生、私にも任せてください!」

「おお、キノ殿、相坂君感謝するぞい。では、よろしく頼みます」

しかし自分でやっといて何だが少年が成長する機会がどれだけ削られたことか。
魔法世界のやばくておっかない人達はどっちにしろなんとかしないといけないから困ったものだ。

「学園長、それでその少年は何処に住むネ。小太郎君が呪術教会支部で生活しているのと同じように魔法協会で生活するのカ」

「その事も知っておるのか。全部筒抜けな訳じゃな……。その件じゃが儂は反対されるのはわかっておるが超君達の女子寮に住ませるべきだと思っておる」

本当に無駄にピンポイントな勘だが近衛門自重。
しかし周りの被害を無視すればそれが良いと言えば良いが。
罪悪感を感じるが人間のそういう件は内輪でなんとかして欲しいと思う。

《またやけにピンポイントな勘ですね。私はそれを人間の一般的常識を度外視すればその選択で良いと思いますよ》

「学園長先生がよく根拠の無い事をするのは全部勘だったんですか」

《まあそう言いますが大体うまく行くんですよ。下手な占いより確実です》

「翆坊主、大体というのは信用できないヨ……。私の寮の部屋は既に三人いるから先に断わておくネ」

「やはりそう言うか……。こうなると住ませられるのが木乃香の部屋になってしまうのじゃが、婿殿に悪いの……。超君、どうしてもダメかの」

こういう訳の分からないが意外と正しい勘が働くものだから結局迷惑をかけるとしたら身内の部屋というオチになるんですね。
こうして魔法に関わらせたくないという意向は完全に没になると。
詠春殿、南無。
しかも魔法世界の超特殊能力者もいると。
カオス極まりない。
世界の歴史はこういう事だったのか。

「諦めるネ。私の部屋はその少年以上の機密だらけだヨ。その少年に興味はあるけど、部屋に入れると大変な事になりそうだから絶対にダメネ」

「私も幽霊なんですか!って怖がられるのは困ります!」

それはどうでもいいかもしれない。

《近衛門殿、周囲から酷い反対受けること請け合いですが勘に従って身体が勝手に動く限り選択肢はもう一つしかないですね》

「……ああ、タカミチ君達がまたうるさくなるのう。木乃香もまたトンカチで殴るんじゃろうな……」

近衛門、頑張れとしか言えない。

《それで、精霊のお告げ的な事を言いますと、その少年を鍛えた方がいいと思うのですがいかがですか》

「翆坊主、それは面白そうだネ」

先に火星人が釣れた。

「それは儂が……襲いかかろう……かと思っておるよ……」

以前本気で警備してたから真っ向から指導するのかと思ったらなんという邪道。
普通に問題発言だが麻帆良なら許されるのだろうか。

「学園長先生最後もごもご何言ってるんですか。私は面白そうなので賛成ですけど」

「学園長、それ私もやていいカ。古と小太郎君のところに連れていけば強くなるヨ!」

駄目だもう……なるように話が進んでいくな……。
しかし中国武術研究会に放りこむのは悪くない。
丁度バトル少年もいることだし。
……そのまま忍術も覚えたら……とこれ以上はやめておこう。

「超君、何故そこだけは楽しそうなのかの。まあ表でやってくれる分には構わんよ」

《下手するとエヴァンジェリンお嬢さんも出てきますからね。この前変に勘違いさせていまいましたが》

「とても教師だけでは済まない生活環境になりそうじゃの……」

遠い目になりますよね、その気持分かります。

《その辺りも含めて見守りますよ。大分話が飛んでしまいましたが近衛門殿がまほら武道会に関係あるというのは図書島の司書殿との事なのでしょう》

「おお、忘れておった。まあ今の話でわかると思うがまほら武道会でその少年と彼に戦う場所をと思っての。超君には儂からもその件で改めて手配を頼みたいのじゃよ」

「それは私としても復活第一回目のまほら武道会が素晴らしい物になりそうだから完璧に仕事してみせるヨ。任せるネ!」

「雪広グループには儂からも頼んでおくからよろしく頼むの。事はついでなのじゃが、学園祭のあの特別展示施設の映像は超君、いや、キノ殿の物ではないのかの」

《ええ、そうですね。ああして取り込めるようになったのは超鈴音が実現させました。既に読めてるんですが、ナギ少年の映像があるのかという事ですが、答えは有ります》

「話が早くて助かるわい……。その映像じゃが近いうちに儂にくれんかの」

「確かにあのまほら武道会は素晴らしいものだたネ。学園長、借りが私に大分できたが返せる時に返してくれればいいヨ」

「ふぉっふぉ、あいわかった。借りは必ず返すとしよう」

こうして赤毛の少年の環境は歴史よりも安全なのかもしれないが、それと同時にもしかしたら初っ端からより過酷なものになるのかもしれない。

少年よ大志を抱け。
私からは頑張れと応援を一言。



[21907] 14話 ネギ少年の4日間in麻帆良
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/17 17:43
アーニャはさっき空港で別れる最後までずっとうるさかった……。
でも、細かい事はネカネお姉ちゃん達が準備してくれたけど日本語も憶えていないのに日本に行って本当に大丈夫かな。
おじいちゃんは向こうの学園長先生がなんとかしてくれるって言ってたけど。
向こうにも英語を話せる人がいるから大丈夫って聞いてるからなんとかなるかな。
時間が無かったから知ってるのは、ネカネお姉ちゃんと一緒に見た学園のお祭の映像を見たぐらいだったけど、日本の伝統芸能という物の映像は綺麗だったなぁ。
エヴァンジェリンさんって言ったと思うけど、僕と同じ外国人なのに凄く馴染んでたし、あんな風になれたらいいな。

……ふぅ、初めての長旅になった。
初めて飛行機に乗ったけど意外と乗り心地が良かったな。
少し身体が痛いけどね。

空港にタカミチが待っててくれるって聞いたけど人が多いから見つかるかな。

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肉まんが大量生産できるようになた訳だが、これを期に麻帆良内での店舗も増やす事にしたネ。
これから夏本番だが、それを過ぎればすぐに寒くなるからネ。
肉まんの製法には色々こだわりがあたが、一定の品質で届けられるようになたからお料理研究会で各々が出している店に置いてもらう事にするネ。
できれば店の名前に超包子と入れて宣伝してもらえると助かるナ。
そうだ、今まで超包子には特にロゴが無かたけど、翆坊主達が見せてくれた華をモチーフに看板に加えるネ!
どこかのチェーン店が桃のマークなら超包子は華のマークだヨ。

良い思いつきができたが今はちうサンの所に行くヨ。
ハッキングするのいい加減やめて欲しいネ。
回数を重ねる度に手際が良くなていくものだから一度本当に破られた時は驚いたネ。
さよにずるをしてもらたが部屋にいるようだから丁度良い。

「長谷川サン、話があるネ」

…………。
居留守を決め込むつもりカ。

「ちうサン!話があ」

「その名前を何故知ってる!もう分かったから入れよ!」

フフ……うまく釣れるものだナ。
ちうサンと呼んだだけでこの反応は分かりやすくていいネ。
思わずいつもの口調が崩れてるヨ。

「ちうサン、まずは肉まんを食べて気分を落ち着けるネ」

「超……その名前で呼ぶのをやめろ」

「分かたネ。その代わりハッキングするのやめて欲しいナ。一度破られたのは驚いたネ」

「やっぱりバレてたか……。学園祭のあの施設やら映像やら極めつけにテレビに名前が出たら一体寮の部屋に何があるのか気になったからな。悪かったよ」

「私の部屋は秘密が一杯ネ。ハッキングやめてくれれば特に通報したりはしないから安心するといいヨ。その代わり腕を見込んで依頼したいことがあるのだが聞くカ」

「体の良い脅迫って所か……。まあ聞いてやるよ」

「ありがとネ。実は最近この女子寮は外部者から狙われていてネ。警備システムの強化を私が主導でやることになたのだヨ」

「はぁ……なんで住人が警備の強化するんだよ……。それでその強化を私にも手伝えってのか」

「そういう事ネ。ネット回線のハッキングに対する強化を手伝てもらいたいヨ。長谷川サンのウハウがあれば大抵のハッキングは退けられる筈ネ。報酬も払うから悪い話ではないと思うヨ」

「超……お前……ありえないだろ……。どこの中学生が中学生を雇うんだよ……」

「ここの中学生ネ。超包子は大体そんな感じだヨ」

「ああもう分かった。詳しい話を頼む」

私がやても良かたけど餅は餅屋に、だナ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

8月3日麻帆良に少年が到着である。
前回の話から1週間と少しというところ。
どんだけ急に来させたのだか。

《超鈴音、サヨ、麻帆良に例の少年がタカミチ君と共に入りました。一度学園長室に寄ってから来ると思いますが、まだ英語しか話せないでしょうから接触するならどうぞ。あと雪広あやかに寮の入り口で待つと良いと伝えておくと面白いかもしれませんよ》

《なんとゆうか、見守るどころか情報が筒抜けだナ。分かたネ、面白そうだから言葉を学習する時間を取らせずに古達の所に連れてくネ。明日菜サンと木乃香サンが女子寮に戻て来たら、さも偶然を装うヨ》

面白いというより割といじめになってる気がするが……まあいいか。
言葉の障壁突破!無理の槍!とかどうせそのうちやりそうだし。

《なんとなく分かりますけど、いいんちょさんは私が用意します!》

物扱いでありますか。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

タカミチと一緒に学園長室に来たけど心配になってきたよ……。
最初は英語で立派な魔法使いになるための僕の教師をやるという課題について話をしたけど、その後だ……。
二人のお姉さんが何か話してて、まだ日本語はよくわからないから困るな、早く勉強しないと大変だよ。
アスナさんとこのかさんという名前は分かったけどアスナさんの方は凄く怒ってて、このかさんの方はにこにこしてるから大丈夫そう……かな。

「(ネギ君、そういう訳じゃからこの二人と同じ寮の部屋に住んでもらうが悪いの)」

「学園長先生!なんでこんなガキと一緒に住まなきゃいけないんですか!他に部屋があるでしょ!」

「まあまあ、アスナ落ち着き。この子まだ言葉も通じんしかわいいからええやん」

「このかは物分りが良くて助かるの。(言葉は今夏休みじゃし二人と話して覚えたらええからの)」

「(分かりました学園長先生!ありがとうございます)」

「(ネギ君、困ったことがあったら言うんだよ)」

「(タカミチもありがとう!夏休みの間に言葉は覚えるよ!)」

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ふむ、肉まんで翆坊主のように餌付けの準備もしたし後は待つだけネ。

《さよ、あやかサンの準備はできたカ》

《はい!場所は特定して部屋にいるので呼べば来るはずです。なんか待ち伏せって楽しいですね》

《楽しそうなところいいですけど目標三名まもなく到着です。言葉が通じずお嬢さん二人と単語で英会話してるようです》

《単語で英会話て何の番組ネ。右手に肉まんの用意があるヨ。いつでも来るネ》

《私は左手にいいんちょさんですね!》

何か究極技法が起きるのかもしれないナ。

《なんで餌付けの用意みたいなことしてるんですか》

《教師ということは給料が入るからネ。学生より財布に余裕ができる筈だヨ》



「(教師、大変、一人?)」

「(はい、一人です)」

「なんでこんな子供が2学期から私達の教師になるのよ……」

さて期は熟した!いざいくネ!

《さよ、ミッションスタートだヨ》

《了解です!》

「やあ明日菜サン、このかサンその坊主は弟かナ」

「あ、超さん!英語しゃべれる?この子供は弟じゃなくて2学期から私達の教師やるんだって!しかも私達の部屋に泊めることになったの!」

明日菜サンは元気一杯だネ。

「ふむ、色々事情がありそうだネ。(初めまして、私は明日菜サンとこのかサンと同じクラスの超鈴音だ。英語が話せるから協力するネ)」

「(うわー!本当に英語話せる人いるんですね。良かったー。あ、僕は2学期から女子中等部で英語の教師をすることになったネギ・スプリングフィールドと言います。超さん!よろしくお願いします)」

ご先祖様との初の会話だがこちらも元気がいいネ。
まだまだ子供という感じだが、鍛えた方がいいというのは確かかもしれないネ。
常に魔力で身体強化しているようでは元の肉体が強くならないヨ。

「(ネギ先生だネ、よろしく。丁度肉まんという食べ物があるが食べるカ)」

「(あ、これお姉ちゃんと見た映像にあった肉まんですね!頂きます!)」

「(一応麻帆良の勉強してきたのカ)」

「(は、はい。あまり時間無かったですけど学園長先生が送ってきてくれた学園祭の映像を見てきたんです。うわーこれ美味しいですよ!)」

「(そう言てもらえるとありがたいネ。その肉まんは私がオーナーをやている超包子の定番だから食べたくなたら買いに来るといいヨ)」

「何のんきに肉まん食べてるのよ……」

「超りん、何話してるん?」

「ネギ坊主は超包子の肉まんを故郷で見た学園祭の映像で見た事があると言う話ネ」

「そうなんかー。この子英語で話せる人に会えてさっきよりも喜んでるなぁ。うちも英語話せるようになりたいわ~」

「鈴音さん、その子誰ですかー」

打ち合わせ通りだが白々しいやりとりだナ……。

「まあ、どなたですかその男の子は。とてもかわいいですわね!」

あやかサン、目がもう既に来てるヨ……。
翆坊主、まあ面白いのは同意するネ。

「(えっネカネお姉ちゃんどうしてここに!)」

「わ、私がお姉さんですって!いえ、悪く有りませんわね……是非お姉さんになりますわ!」

翆坊主の面白いというのはこちらの事カ。

「げっいいんちょ!ショタコンのあんたがなんでこんな丁度良く来るのよ!」

「なんですって、このオジコンのアスナさん!相坂さんが私に買い物に付き合ってほしいというものですから出てきただけですのよ」

買い物に行く事で話を通したのカ。
無難だナ。

《鈴音さん、ミッションコンプリート!》

《さよ、よくやたネ!》

《でもいつもの二人が言い合ってるだけになってますね……》

《いや、ここからだヨ》

「あやかサン、この少年はネギ・スプリングフィールドと言て2学期から私達の英語の教師をやるそうだヨ。来たばかりでまだ日本語が通じないらしいネ」

「まあ!こんなに小さいのに私達の先生になられるんですの!言葉が通じないとは不自由でしょう、私も英語は話せますから協力しますわ!(初めましてネギ先生、私は雪広あやかと言います。是非お姉ちゃんとお呼び下さい!超さん達とは同じクラスですからよろしくお願いします)」

「(す、すいません、ネカネお姉ちゃんに似てるものだから間違えてしまいました。でもまた英語が話せる人に会えるなんて良かったです!僕はネギ・スプリングフィールドと言って2学期から英語の教師をすることになりました。よろしくお願いします!)」

「あ~なんてかわいいんでしょう!」

「超さんと言いいいんちょと言い立て続けに英語が話せるとは……ここは日本じゃなかったの……」

「アスナ、うちらも英語勉強してネギ君と話せるようになろ!」

「明日菜サン、ネギ坊主に英語を教えてもらいながら日本語を教えたらいいネ。そしたら成績も上がるヨ」

「(初めまして、相坂さよと言います。私も皆と同じクラスなのでよろしくお願いします、ネギ先生)」

さよも話せたのカ……。
元からなのか、精霊だからかのどちらかだナ。

「(三人目ですね!相坂さん、よろしくお願いします!)」

「……超さん、言うとおりにするわ……。なんでこんなに英語皆話せるのよ……」

なんだかトドメを刺せたようだナ。

「(ところでネギ坊主、荷物を置いたら少し運動しないカ。長旅で身体が鈍ってるだろう。子供は元気が一番ネ)」

「(超さん、何処に連れて行く気ですの)」

「(中国武術研究会を紹介するネ)」

「(そ、それでは今度私は馬術部を紹介しますわ!)」

「(いいんちょさん合気柔術でもいいんじゃないですか)」

「(まぁ!それもいいですわね!)」

「(なんだかよくわからないですけどよろしくお願いします!)」

「英語もっと勉強しといたら良かったな~、アスナ」

「なんだかこれから苦労しそうだわ……」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

なんというか女三人寄ればかしましいとは言うがまさにその通りだな……。
ネカネ・スプリングフィールドと雪広あやかが似ているというのはネギ少年を確認した段階で情報が更新されたから分かったが見事にお姉ちゃんと発言した事で、言われた本人は嬉しかったらしい。

《キノ、いいんちょさんはネギ先生のお姉さんにそんなに似てるんですか》

《それは私も気になたネ》

《よく見ればすぐ分かる程度ですが物腰は似ていると思いますよ。まあ私もネギ少年のお姉さんを直接見たわけではありませんが》

《あやかサンはいつになく幸せそうだたネ》

《小太郎君と遭遇した時は「なんて野蛮なのかしら!」と言ってた気がしますがタイプがあるんでしょうねきっと》

小太郎君、2-Aに遭遇しすぎだろう。

《まあ人それぞれという事で。まだまだ今日は長そうですね。次はいよいよ何食わぬ顔で中国武術研究会に投下する予定ですか》

《フフ、ネギ坊主が予想通りなら言葉をすぐに覚えてしまうからネ》

学習能力と発明力がチートらしいから、って超鈴音にそっくりだな……。

《やはり超鈴音のご先祖様ですね。天才という部分が似すぎですよ》

《それは褒め言葉と受け取ておくネ》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ネギ坊主に荷物を置かせてそのまま連れだしたヨ。
あやかサンは約束通りさよと買い物に行ったネ。

「(ネギ坊主、ここが私が所属している中国武術研究会だヨ。同じクラスの古菲もいるから挨拶するといいネ)」

「(はい!超さんありがとうございます)」

「古!今日は飛び入り参加の少年を連れてきたヨ!小太郎君と同じぐらいの年ネ!」

「おお、超!その坊主も小太郎と同じぐらい強いアルか」

「それは試してみてのお楽しみネ。あまり本気でやてはだめだヨ」

「なんやそのチビ助、超ねーちゃんの弟か」

小太郎君、自分の姿をよく見て言うネ。

「この坊主はネギ・スプリングフィールドと言うネ。2学期から私達の英語の教師をやることになたらしいヨ」

「俺と同じ子供やのに先生やるやて!冗談ちゃうんか」

「超、それはホントアルか」

「本当らしいネ。生憎まだ日本語通じないから、拳で語り合うといいヨ」

「(二人に自己紹介して手合わせするといいネ)」

「(はい!僕はネギ・スプリングフィールドと言います、よろしくお願いします)」

「ほんまに外国人なんやな!」

「コタロー、私も外国人アル」

「くー姉ちゃんはエセ中国人みたいな話し方やろ」

「小太郎君、それは私にも言てるのカ。相手するヨ。なら古はネギ坊主の相手するといいネ」

「それ怒るような事か。でもええわ!今日こそ勝ったるからな!」

「望むところネ」

普通の中国拳法ならまだ私も負けてないネ。

「ネギ坊主、私が相手するアル。かかてくるといいよ」

「(ネギ坊主古はいつでもかかってきて良いと言てるネ)」

「(分かりました!こういうのは初めてですけど、行きます!)」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ネギ少年を見守る、もとい観察してる訳だが、古菲との初めての手合わせは当然ではあるがネギ少年の完敗に終わったものの、意外としつこく頑張るうちに動きを吸収していくのはスポンジみたいだった。
その後小太郎君とも戦ったが流石にアドバンテージがあちらにあり、こちらでもネギ少年の完敗である。
しかし超鈴音は途中でネギ少年を意図的に放置したようだがロボット工学研究会に途中で移動していった。

《ネギ少年を置いてきて大丈夫なんですか。道もまだ分からないでしょうし寮に戻るのにも一応電車に乗る距離ですよね》

《古もいるから多分大丈夫ネ。もし駄目だたら翆坊主が見つけて私が回収すればいいだけネ。見守るのが仕事だろう》

まあそう言われればそうかもしれない。

《そういう事なら。実際に動きを見てどうでしたか》

《それ私も気になります!》

高度な会話術がただの雑談術に落ちているのはなんとも言えないが、使わないよりはましか。

《うむ、ネギ坊主はあまり運動はしていなかたようだネ。常に魔法で身体強化しているのは身体が強くならないヨ。でもあの短時間での吸収力は目を見張る物があたネ》

《やはり今のところはスタート地点という所ですかね》

《今度私もいいんちょさんと合気柔術に連れていこうかな》

……全く日本語を覚える暇がなさそうだがネギ少年、頑張れ。

《鍛えた方が良いとは言いましたが、もうなんかこの際龍宮神社のお嬢さんのバイアスロン部とか、木乃香お嬢さんの護衛の桜咲刹那の剣道部とか全部連れて行ったらいいんじゃないですか》

《それも面白そうだが、私も毎日暇な訳ではないからネ》

《龍宮さんと桜咲さんの所なら私が連れて行きますよ》

《それは丁度いいネ。中国拳法に合気柔術、射撃に剣道、あとありそうなのは楓サンの修行に加わる事カ。夏休みに来たというのは意外と良かたかもネ》

確かにそうかもしれない。
世界の歴史の方が2月あたりに来るという事だったが三学期も半ばからでは微妙だろうし。

《実際純粋な魔法使いタイプからかなりかけ離れてますけど学習能力が高そうですし色々やっても何かしら効果がありそうですね》

《学園長が襲いかかるのがいつかは知りませんけど、育成ゲームみたいで面白いですね》

……いや、現実だからねこれ。

《……ところで小太郎君は裏の人間でもありますが、気づいてるようでしたか》

《ふむ、最初見た時に一瞬顔が変わてたから気づいてると思うネ。でも、あの二人は言葉は通じてないが仲良くなれそうかもしれないネ》

それは良かった。
身近なライバルがいれば切磋琢磨できるというものだろう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

その後ネギ少年は中国武術研究会の終りの時間まで粘り、それをサヨに知らせて古菲、雪広あやかと共に女子寮に戻っていった。
ネギ少年が割とボロボロになっていて雪広あやかが非常に心配したのは言うまでもないが、手当できるとあって嬉しそうだった。

無事に孫娘達の部屋に戻ったネギ少年だが、神楽坂明日菜に見事にくしゃみを当て服がはじけ飛んだ辺り歴史はある程度修正するらしい。
その事で一悶着有ったが英語で必死に謝られ、言葉の壁に苦慮したのか彼女は意外とすぐに怒りを収めたのだった。
夕飯を食べながら英会話と日本語のギブアンドテイクな関係がこの夏3週間程続いたそうだがそれはそれという事でネギ少年の一日は終わったのだった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

はあ、昨日は麻帆良に来てすぐだけど凄く疲れたな。
それに超さんが連れていってくれた中国武術研究会だけど、運動すると言われて行ってみたら身体をほぐすなんていうものじゃなかったよ……。
でも、イギリスにいた時に1ヶ月タカミチに相手してもらったから少しは頑張れたかな。
古菲さんに僕と同い年ぐらいのコタロー君はすっごく強かった。
もしあれが本当の戦いだったら魔法を唱えている前にやられちゃうよ。
それに魔力で身体を強化してるのに二人はそれ以上に強かったしあれはタカミチが使ってる気と同じみたいだったな。
それでも僕はサウザンドマスターの父さんのような立派な魔法使いになるんだからあの二人に簡単に負けていられない。
でもその前に日本語を勉強しないと不便だからこっちも頑張らないと。
結局昨日は夕方帰ってきた後少しぐらいしか日本語勉強できなかった……。
しかもアスナさんの服をくしゃみで吹き飛ばしちゃって謝ったけどちゃんと伝わってるかな……。

あれ!?何故かアスナさんの布団で寝てる!

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何故ソファーで寝ていたのに二段ベッドの上に上がれるのだろうか。
それを思わず抱きしめている神楽坂明日菜もなんなんだか……起きたら面倒な事になるに違いない。

さて、ネギ少年が昨日ご到着した訳だがエヴァンジェリンお嬢さんが気づいていないわけがない。
騙してはいないが、いずれこうなるとは思っていたんだ。

「おい、翠色の幽霊そこにいるのは分かってる。さっさと出てこい、さもないと凍らすぞ」

えー脅迫を行う人物が約一名、この時間帯に無駄にでかい木に話しかけるお嬢さん。
端から見れば……周りに誰もいない!

「ああ、あくまでだんまりを決め込む気か。いいだろう、リク・ラク・ラ」

《いや本当にやめて下さい。冗談じゃないです。話はしますからとりあえず家に戻ってはいかがですか》

発動されたら分解すれば良いだけなんだけど、お嬢さんの魔分は5%的に無限だからキリがないし。

「寝てた等と言い訳するんじゃないだろうな」

《精霊は基本的に寝るとか起きるとかないですよ。少し優柔不断になっただけというかそんなところです。こうして顔だけ木から出して話すのを止めたいと言いますか、木のあたりで話すこと自体がマズイので一度お戻りください》

「そう言われても、こちらから茶々円を呼ぶ方法がないだろう」

まあ家の中で大きな声で叫ぶとかすれば気がつくかもしれないが……。
あれ、5%精霊化してるし粒子通信できるのではないだろうか。
今まで全く試す機会、必要がなかったから忘れていたが。
誰にでも話しかけるのはできるからやるか。
一度木の中に戻って、と。

「おい!なんでまた引きこもるんだ!」

《エヴァンジェリンお嬢さん、聞こえるでしょうか。口で話さず、念じてください。念話とは違いますがそういうようなものです》

《こんな方法があるなら最初からやればいいだろう!》

《すいません、あまりこの方法を他人に広めたくないもので。会話にかかる時間は現実時間の一瞬にしかすぎないので割と長くはなしても大丈夫です》

《はぁ……まず昨日タカミチと入ってきたあのガキは誰だ。赤毛というのはナギの事ではなかったのか、思い過ごして馬鹿みたいだろうに》

《精霊は正直ですので全て話させていただきます。ご意見はその後どうぞ。あの赤毛の少年はネギ・スプリングフィールドと言い、予想がつくと思いますがナギ少年の息子です。2学期から英語の教師として麻帆良の女子中等部に赴任する事が決まっています。当初の予定ではもっと後に来る筈だったのですが近衛門殿の積極的な働きかけによりもう到着したという事です。因みにまだ英語しか通じません》

ショック受けるだろうな……好きな相手ではなくその子供が来るんだもの。
寝取られたとは何か違うだろうがそんな感じだと思う。

《……それは、本当……なのか……》

怒り出さないあたり相当だろう。

《……ええ、ショックを受けると思ったので近衛門殿の所では赤毛とぼかしましたが寧ろ逆効果でした。数ヶ月期待させるような真似をして申し訳ありません》

《……ハハハ、興味を持って無理やり聞きだしてみれば結局自分に返ってくるとはな……。つい最近も似たような目にあったな……》

《これで元気になるかは分かりませんが、クウネル殿のアーティファクトが使用可能なのは知っていますか》

子供がいること自体がショックだろうが生きている事の確証が得られるだけでも……と。

《そうか。そういえばアルの奴その事は一言も言っていなかったな……む、という事はナギが生きていると言いたいのか》

《クウネル殿に聞けば何処に居るかはわからないが生きているのは確かだと言われると思いますよ》

《奴が生きているのは本当だったのか……。分かった、それは早いうちにアルに確認に行くとするよ……。茶々円……また湿っぽくなって悪かったな》

《少しでも元気を出してもらえたようで良かったですよ》

《それで、じじぃは何をするつもりなんだ。直々に指導するつもりなのか》

あー、これも言わないと駄目なんだろうなー。

《えー、近衛門殿は何故か時期を見てネギ少年に襲いかかるそうです。目的は少年を鍛える事なので、その話を聞いた超鈴音含め私達が昨日彼を中国武術研究会に投げ込んだのはその為です。実際動機のほとんどは面白そうだからの一言で解決しますが》

《鍛えるというのはわからなくもないが教師として生活するのに必要なのか》

《これは壮大なネタバレなんですが、一年以内にそうする必要が訪れるので必要かどうかと言われると非常に必要です。ここからは憶測ですがナギ少年がその結果見つかるかもしれません》

《今度は隠さずに話すとは殊勝な心掛けだな。その時が事態が緊急を要するとやらなのか》

《実際にどう動くかまでは分かりませんがそうなる可能性は高いです》

《ほう、そこまでは精霊でも分からないのか。じじぃが襲うと言ったが、私があのぼーやをじじぃに一泡吹かせる為に強くしても構わないんだな》

おお、歴史は繰り返すか。
マスターはあくまでもマスターですか。

《動機は聞かなかった事にしますが、まさかお嬢さんがこれに協力するとは思いませんでしたよ》

《奴の息子なら鍛えがいがありそうだからな。暇つぶしにもなるだろう》

暇つぶし等と言っているが、内心恥ずかしく思っているだけのような気がするが。

《こんな事を言うのは野暮かもしれませんが、魔力量こそ劣るものの、ネギ少年はナギ少年を越える可能性は十分にあると私は思います。今の彼を見てもそうは思わないかもしれませんが》

《どうやら強さだけの事を言ってるのではなさそうだな》

《それはお嬢さん自身の目で見て直接感じるほうが楽しいと思いますよ》

《フッ……それもそうか》

《ところで、この通信方法ですがお嬢さんからも話しかける事は恐らく可能です。因みにこの方法を続けると思考速度が異常に早くなり、魔法の詠唱速度がその影響でやたら早くなるかもしれません》

《それは超鈴音の事か……。燃える天空の発動速度はその為と言うわけだな》

《まあこの会話法に長時間着いてこれる事自体が凄いと言えば凄いのですが、お嬢さんはまだ平気ですか》

《私は全く問題ないな》

《やはり、一部精霊化してる為でしょうね。普通の人間なら頭がとてつもなく痛くなります。それで繋ぎ方は理解されましたか》

《それが原因か……。ああ、通信方法は分かった。これから利用させてもらうとするよ》

《いつでも話しかけてくれて結構ですよ。最近しょうもない雑談ばっかりに利用していますし》

《そんなに暇なら最初からさっさと出てこい!》

墓穴掘った。

会話終了後お嬢さんは時間が殆ど経っていないのを改めて理解しやや驚いていた。
いつ指導し始めるか知らないが、厳しくも優しい先生になりそうだ。
闇の魔法とやらはどうなっているのだろう。
お嬢さんが使いにくくなったというのは100年も前の話だからこの魔法自体を知っている人がいないような気がするが……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

夜が明けて翌朝。
今日はネギ先生に合気柔術をいいんちょさんと教えますよ!
キノはなんでも一度やらせたら何かしら効果はあるだとろうと言っていますし、何より面白そうなのでやります。

と、思っていた所部屋のドアをドンドンと叩く音が。

「超りん、相坂さん、ちょっと来てほしいんやわ」

神楽坂さんが絡んでいるに違いないです。

「さよ、通訳のお出ましネ」

「そうみたいですね」

……状況としてはソファーに寝ていたはずのネギ先生が二段ベッドの上にある神楽坂さんの所に潜り込んでいたところ両者目を覚ましたものの言葉が通じず、ジェスチャーで意思疎通を図るものの断念したとのことです。
神楽坂さんがなんだか朝から疲れてますね……。
確か今日は新聞おやすみの日ですからバイトと関係なくて良かったですね。

「(ネギ先生、どうして神楽坂さんのベッドに入っちゃったんですか)」

「(ネギ坊主、乙女のベッドに勝手に潜り込むのは英国紳士としては失格だヨ)」

ご先祖様を叱る子孫というのはなんとも言えませんね……。

「(はい……反省してます。僕イギリスにいた頃はいつもネカネお姉ちゃんと一緒に寝てもらって気がつかないうちについ癖で潜り込んでました……)」

「(でもどうしてわざわざ二段ベッドの上の神楽坂さんの所なんですか)」

「(そうだナ。木乃香サンの所の方が近い筈だヨ)」

「(……それは多分……アスナさんの匂いがお姉ちゃんと似てるからかもしれません)」

「明日菜サン、ネギ坊主が入り込んだのは故郷で普段お姉さんと一緒に寝ていて、そのお姉さんの匂いが明日菜サンにそっくりだからだそうだヨ」

「ほうかー。まだやっぱり子供なんやな」

「理由は分かったわ。さっき怒り過ぎてもう一度怒る気にはならないし……。気をつけてと言って欲しいんだけど」

「(ネギ先生、神楽坂さんはもう怒るのはやめたそうですけど気をつけてと言ってますよ」

「(はい、アスナさん、ごめんなさい。気をつけます……)」

そう言いながら頭を下げた所でこの話はお開きとなりました。

「(ネギ坊主、そんな事では教師をやては行けないヨ。これを小太郎君に知られたら笑われてしまうネ。身体も鍛えた方がいいが心も鍛えたほうがいいネ)」

す、凄く厳しい事言いますね。
9歳なんですけど……、まあ鈴音さんも火星にいたときはもっと苦労したのかもしれませんね。

「(鈴音さんの言うことは尤もですよネギ先生。でも一度失敗したぐらいでクヨクヨしてはいけません、しっかり前を向いてください。今日は私がネギ先生が身も心も強くなる場所に連れていきますよ!)」

「(そ、そうですね……。こんな事では教師なんて勤まらないしコタロー君に笑われても仕方ないや……。超さん、相坂さんありがとうございます。今日もよろしくお願いします!)」

「(うむ、元気が一番ネ)」

「(では準備ができたら私の部屋の前に来てくださいね)」

「ネギ君落ち込んだり明るくなったりしとるけど大丈夫なん」

「ネギ坊主は強い子だヨ。大丈夫ネ」

こうして正直不自然な流れに誘導している気がしないでもないですが、今日はいいんちょさんと合気柔術の道場に連れていくことになりました。

「(ネギ先生、今日は私と相坂さんで合気柔術をお教えしますわ。怪我をしないように最初は基本から始めましょう)」

「(合気柔術は相手の力を逆に利用するのが基本ですから心を落ち着ちつける事が大事ですよ)」

あれ……全く日本語の勉強にならない空間が広がっていますね……。

「(はい!今日はよろしくお願いします、あやかさん、相坂さん!)」

元気が良くて良いですね。
いいんちょさんがとてつもなく幸せそうな顔をしていますが、合気柔術の腕前は申し分ないですから手取り足取りしっかり教えていきます。

しかしネギ先生の飲み込みの良さには二人で驚きました、確かにこれは凄いです!
いいんちょさんのテンションが更に上がって行きますがそんな時でした。

《相坂さよ、今ぼーやに合気柔術を教えていると茶々円から聞いたが今何処にいる。私もそれに参加させてもらおう》

えっ!どういう事ですかこれ。

《エヴァンジェリンさん一体どうしたんですか、今は雪広の合気柔術の道場なんですがわかりますか》

《……ああ、あの100年近く前から変わっていない所か、すぐに行くよ》

というかこの通信方法エヴァンジェリンさんもできるんですか。
あれ……どうしようこれいいんちょさんに言うの不自然すぎるんですけど!
絶対キノが原因ですね。

《キノ、今エヴァンジェリンさんから合気柔術の練習に参加すると粒子通信入ったんですけど説明を要求します!》

《翆坊主、それは気になるネ》

《相変わらずオープン回線ですか……。今日の明け方お嬢さんが神木の目の前に直接やってきて色々あったんですよ……。結論としてはお嬢さんもネギ少年を鍛えるのに参加するそうです。動機は近衛門殿に一泡吹かせるとのこと。合気柔術の話は私からしましたが、まさかもう行動するとは思いませんでしたね》

《大体分かたが、英語の教師とは何のことだろうナ。私も加担しているとは言え昨日からネギ坊主はまだ運動しかしていないネ》

《私達は今ネギ先生とちゃんと英会話してますよ》

《雪広あやかに説明が難しいかもしれませんがなんとかして下さい、すいません》

なんとかって……。
なんとかするしかありません!

《エヴァンジェリンさん、来る時の理由は鈴音さんに用があって電話したら私達がやってることをついでに聞いたということにして下さい。いいんちょさんがいるので説明しないといけませんし》

《委員長がいるのか。だから雪広の道場という訳か。分かった、説明は任せておけ》

……少なくともこれで私がおかしいと思われることは回避しました。
あれ、正直何もしなくてもなんとかなったかもしれませんね。

しばらくしてエヴァンジェリンさんが来ました。

「委員長、超鈴音に用があって電話してみれば新しく先生になる子供に合気柔術を教えているそうじゃないか」

「まあ、エヴァンジェリンさん珍しいですわね。このネギ先生が2学期から新しい先生になられるんです!」

「(え、エヴァンジェリンさんって本物のエヴァンジェリンさんですか!わー二日目でもう会えるなんて凄いです!握手して下さい!)」

ネギ先生何故エヴァンジェリンさんを知ってるんですか。
エヴァンジェリンさんも一瞬厳しい顔をしましたがすぐに微妙な表情に戻ってされるがままに握手されています。
多分光の福音だと気づかれたのかと思ったのでしょう。
なんだか嬉しそうな顔してますね。

「(ネ、ネギ先生、エヴァンジェリンさんとお知りあいなのですか)」

「(いえ、日本に来る前に学園のお祭の映像で見たことがあるんです。その時映ってたのがエヴァンジェリンさんでお姉ちゃんと一緒に凄く綺麗だなって思ったんです)」

その映像送ったのは学園長先生ですか。
今の発言でエヴァンジェリンさんが顔を俯かせていますが少し恥ずかしそうですがもっと嬉しそうです。
って、いいんちょさんの雰囲気が黒くなっているような……。

「(ネ、ネギ先生!私の事はどう思われますか!)」

「(あやかさんですか、とても親切な良い人だと思います!)」

「ああ!もう幸せですわ!」

子供だと思って油断しているととんでもない男の子かもしれません……。

「(ぼーや、私を前から知っていたとは嬉しいことを言ってくれるじゃないか。今日は私も合気柔術を教えてやろうと思ってな)」

「(ほ、本当ですか!ありがとうございます、エヴァンジェリンさん!)」

「(そ、そんなに嬉しいのか……いいだろう。だが私は甘くはないから覚悟しておけよ)」

「(ちょっとエヴァンジェリンさん!手荒な真似は許しませんわよ!)」

私は幽霊の頃から存在感が薄かったですが、この空間だと思わず成仏してしまいそうです……。

それからの一日でしたが、いいんちょさんの懇切丁寧な優しい指導とエヴァンジェリンさんの実践的指導と、とてもうまく行きました。
ただ……技を掛けられて投げられる所を実際に見せる役は私が必死にやりました。
これが適材適所と言う奴なのでしょうか。

しかしエヴァンジェリンさんの映像を予めネギ先生に渡していたのが学園長先生だとしたらとんだ策士です。
流石キノが信用しているだけはありますね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

とても気になって観測していたが近衛門が映像を渡していたらしい。
多分酷いことにならないようにという保険のつもりだったのだろうが、第一印象がとても良くなるという物凄くプラスな役目を果たしたらしい。
近衛門の勘はこれだから大したものだ。
という訳で実際に会うとしよう。

《近衛門殿、遠見の魔法で見ているのはネギ少年達ですか》

「おお、キノ殿。その通りじゃよ」

《会話を聞きましたが、学園祭の映像を送ったのは近衛門殿ですか》

「ふぉっふぉ、まさかああなるとは思わんかったの」

《ええ、エヴァンジェリンお嬢さんがこんなに楽しそうな顔をするのは久しぶりですね。元の狙いが違ったとは言えこれは良かったと思いますよ》

「まあ送った映像は殆どアルが選別したんじゃがの」

って映像提供元は司書殿か!
だからあんなにべた褒めする反応になるのか……。
イノチノシヘンで記録もされているがどうやってかサークルが出してる映像も全部入手しているらしいからとっておきを選んだんだろう。
いや、これはクウネル殿よくやったと言わざるを得ない。
後であの様子を見せに行こう。

《なるほど、クウネル殿が選別したらそうなるでしょうね。多分彼に並ぶ程お嬢さんに詳しい人は大学サークルの通でもなかなかいなさそうですし》

「あの二人の初対面があんなに穏やかになるとは予想外じゃな」

《全くです。あ、それとお嬢さんが近衛門殿に一泡吹かせる為にネギ少年を鍛えるそうですから、魔法の関係もありますし時期は見てくださいね》

「なんじゃと!エヴァの目的は儂への当てつけか……。こうなればどちらが上手か勝負じゃの……。これは楽しみじゃわい」

《近衛門殿、オーラが漏れてますよ……。でもネギ少年って英語の教師の筈だったと思いますが完全に何処へやら……ですね。まあこの夏だけでも心身共に成長すると良いですが》

「教師は学校が始まったら頑張れば良いじゃろうて」

《そうですね。まあ日本語の勉強する時間が殆ど無いですがネギ少年の学習能力に期待ですね》

「大丈夫じゃよ。あちらの学校の成績を見る限り飛び抜けた天才のようじゃし、特に基本魔法の扱いに関してはここ近年歴代一の才能じゃから言語の習得はなんとかなるじゃろう」

《くしゃみの威力からすると風の魔法かと思いましたがそういえば基本魔法の方が適正あるんですね》

「ふむ、キノ殿は何か思うところあるようじゃな」

《もしかしたらというという憶測程度ですが結局頑張るのは本人ですから》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

昨日も夕方に帰てきたネギ坊主だが一昨日に比べればボロボロにはなていなかたネ。
それどころか嬉しそうな顔をしていたが、さよと翆坊主から聞くにエヴァンジェリンに会えたのが相当良かたらしいナ。
大分前にエヴァンジェリンに手合わせという名の魔法の威力実験をさせてもらたがあの時の様子から考えると友好的な出会いになるのはありえないと思ていたのだが。
しかし今日で三日目だが朝倉サンにまだ見つかていないのは奇跡のようなものだが、小太郎君といれば見つかるのは時間の問題だネ。

私が何をしていたかと言えばハカセと一緒に警備ロボットの作成をしてたヨ。
侵入者が女子寮に出没している話をしたらロボット工学研究会の大学生のお兄さん達は俄然やる気が出てたが、やることは複雑でも思考回路は単純で助かるネ。
モデルはどこかの外国の州知事さんが出ている映画を意識しているヨ。
量産型として作れば人員的、地理的にカバーする事が不可能だた範囲の警備もそのうち可能になるだろうナ。
開発シリーズ名はT-ANK-α、田中サンと呼ぶヨ。
侵入者が思わず後ろを向いて両手を必死に振りながら走り出したくなるようなものを作成してやるネ!
また赤外線センサーを寮の周りに敷き詰める計画、三次元映像監視機器の作成も早々に進めた方が良さそうだネ。
ここで実験してデータを収集すれば警察機関に説明する時にも説得力が増すナ。
全体の監視を翆坊主達に常に行なてもらう訳にも行かないからネ。
後はちうサンにこちらで用意した端末をどのレベルまで渡すかだが、あまり良いのを渡しすぎるとハッキングの技術が危険な段階まで上がる危険があり、大したものでなければシステムの強化の本来の目的からも外れてしまうからバランスが重要だナ。

うむ、この麻帆良最強頭脳の私が暇になるのは遠い先の話になりそうだネ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

これでネギ先生が来てから三日目、鈴音さんから指令を受けている肉まんによる餌付け作戦は続行中です。
確実にこのまま行けば肉まん依存症になることは間違いありません。
私が最近超包子で働いていないと思われてしまいそうですが、夏なのでそんなにお客さんは来ませんし、葉加瀬さんの計算の手伝いも部屋でもできるので大丈夫です。

「(ネギ先生、今日はバイアスロン部にいる龍宮さんのところに行って射撃を体験してみましょう!本当はスキーも行うんですが今は夏ですからね)小太郎君も龍宮さんは知っていますよね。今日は射撃訓練ですよ」

昨日いいんちょさんはネギ先生分を補充しすぎて放心状態なので放置です。
ご覧の通りですが小太郎君も途中で拾ってきました。
まあ観測しながら偶然を装って遭遇しただけなんですけど。

「(はい、相坂さん、色々な事を体験させてくれてありがとうございます!)」

「たつみー姉ちゃんの事は知っとるで!俺は格闘が好きなんやけどネギもやるんなら負けられんわ!」

「(小太郎君も射撃は初めてだそうですけど負けないって言ってますから頑張ってくださいね)」

「(はい!コタロー君、一昨日は敵わなかったけど今日は僕も負けないよ!)」

実に良いライバルになってますね。
まだ会うのは二回目なんですが言葉が通じないだけに感情でぶつかり合いやすいみたいですね。

「(ネギ先生、一度バイアスロンの競技の説明をしましょう。バイアスロンとは、クロスカントリースキーと、ライフル射撃を組み合わせた競技で元々はスキーをしながら銃で獲物を狩猟するのが発展したものだそうです。1861年からノルウェーで本格的にスポーツとして広まったようですが、麻帆良学園より歴史は古いですね。スキーについては省きますがライフル射撃は本来スキーで走り込んでから行う為、心拍、呼吸が乱れた中での精密射撃が要求されるのがポイントですから何か得るものがあると良いですね)」

お分かりの通り銃を扱いますが、麻帆良では認可がしっかりされているので使われる銃弾は全てゴム弾と言う事になっています。
恐らく龍宮さんの私物には物騒な物が大量にあるはずですが細かいことは気にしてはいけません。

「(相坂さんは物知りなんですね!)」

まあインターネットに介入して昨日の夜便利なサイトの情報を覚えてきただけなんですけど……。

「何長くネギに説明してるんや、さよ姉ちゃん!不公平だから俺にも教えてーな!」

「はいはい、バイアスロンの説明をしただけですよ。小太郎君に言う必要があるのは、ライフル射撃は本来スキーで走り込んでから行うから、心拍、呼吸が乱れた中でも精密射撃がうまくできるように、という事ですかね」

「俺はちょっとやそっとの運動ぐらいじゃ息が切れたりはせんから大丈夫やな!」

賑やかに会話をしているうちに目的地に到着です。

「龍宮さーん、来ましたよ!今日はよろしくお願いします」

「相坂か、話は聞いていたから準備はできているぞ。コタロー君も一緒か、なるほどライバルという訳だな。で、そっちの少年がそのネギ・スプリングフィールド君かな」

昨日の晩予め龍宮さんの部屋にお邪魔してお願いしておいたんです。
報酬として超包子の肉まんの無料券と餡蜜をご馳走するということになりましたが、相変わらず裏で報酬を貰っている割には金銭にはシビアな人です。

「よっ、たつみー姉ちゃん。今日は俺も参加させてもらうで!」

「言うのを忘れていましたがネギ先生はまだ英語しか話せません。(ネギ先生このお姉さんが私と同じクラスの龍宮真名さんでバイアスロン部でもトップの腕前を持っているんですよ)」

「(初めましてネギ・スプリングフィールドです。2学期からこの麻帆良学園に英語の教師として赴任することになりました。よろしくお願いします龍宮さん!)」

「(おや、年の割には落ち着いてて礼儀正しいな。私が紹介に預かった龍宮真名だ。よろしく)」

「(龍宮さんも英語話せるんですね!日本って凄いなー)」

そうでした、龍宮さんも英語話せるんですね。
まあ確かに実際日本人には見えませんし、四音階の組み鈴に属していたのですから当然ですか。
それに神社の巫女さんをやっていますがはっきり言ってイロモノ過ぎますよね……。
褐色系、凄腕スナイパー、邪気眼、巫女さん……。
あ、なんかマズイ殺気が。

「相坂、今変な事思わなかったか」

「いえ!今日の餡蜜はどこがいいかなーと思っただけですよ!あ、映画のチケットもあるんで良かったら貰って下さい!」

「焦り過ぎだろう。落ち着け。映画のチケットは貰っておこう」

「は、はい。では早速二人にバイアスロン部を体験させて上げてください、お願いします」

「分かった。コタロー君付いて来い。(ネギ先生も付いてきてくれ)」

「負けんでネギ!」

「(コタロー君、頑張ろう!)」

宣戦布告なんですが微妙に咬み合ってませんけどまあいいですよね。
あれ、右手に出した映画のチケット本当に無くなってます!
こ……これはまた完全透明状態で侵入するしかありませんね。

それからの射撃訓練でしたが小太郎君も力はあるので射撃をした時の反動で銃身がブレる事が殆どありませんね。ネギ先生も魔分で身体強化しているので似たようなものですが、端からみると10歳ぐらいの子どもの身長で長いライフルを普通に構えて撃ってるあたり異常ですね……。
周りの部活の人達は大した坊主だな、流石龍宮が見込んだだけはある等と麻帆良らしい反応で済ませてますが……あきらめましょう。
結局二人は完全にハマってしまい、長時間続けることになりましたが随分上達しました。
私も龍宮さんの動きをトレースして結構上達したんですがこれはかなりズルなので生身で実現している二人はどういう事なのでしょうか……。

「相坂、コタロー君がこういったものに強いのは知っているんだが、ネギ先生のこの上達の速さは何だ」

「ネギ先生は何と言うか天才で、古さんが言うには覚えるのに1ヶ月はかかる技を数時間でものにしてしまうらしいです。昨日私も合気柔術を教えたんですが面白いぐらいに吸収が早くて早くて」

「あの古までそう言うのか。少し落ち着きのある子供ぐらいかと思っていたらとんでもないな。確かに鍛え甲斐があるとは思うが」

「昨日いいんちょさんなんてそのせいもあって、ずっと付きっきりでしたよ」

「ゆ、雪広に会わせて大丈夫だったのか」

委員長なのにこの辺りの信用が殆ど無いですね……。

「少し……怪しかったですけど大丈夫でした。エヴァンジェリンさんもいましたし」

「ああ……、少し話についていけんな。それで明日は刹那の剣道部にも連れて行く気なのか」

「その予定ですけど、桜咲さんは最近機嫌悪いからどうかなーって少し心配です」

「それなら一つ良い事を教えておこう。明日もコタロー君を連れて行くと良い。それに私からも刹那に伝えておくよ」

「龍宮さん、ありがとうございます」

「しかし、不自然に連れ回しているようだが誰かの差金なのか」

「それは……秘密です。それに教師にもなりますから予めこの夏生徒と知り合っていた方が9歳の先生にとっては良いでしょう」

「まあ、大体分かるがそういう事にしておこう」

夕方部活が終わるまで続き、その後餡蜜を皆で食べに行ったのですが、龍宮さんと小太郎君は自重して下さい。
ご馳走するとは言いましたが何杯も頼むのはおかしいでしょう!
龍宮さん!一番高いの頼むのもうやめて!
小太郎君も俺の方が沢山食べるとか言って同じの頼むのやめて下さい!
それに引き換えネギ先生の大人しいこと大人しいこと、これは……いいんちょさんが溺愛したくなる気持ちもわかります。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

い、一時的ですが財布の中身が空になりましたよ……。
超包子で働いていなければ大変でした……。
いえ、龍宮さんは私が稼いでいることを知っていてこんな事をしたに違いないです。
今度映画の内容で嘘教えましょうか……。

昨日帰り際に小太郎君に明日は桜咲さんの剣道部に行くから付いてきませんかと言ったらネギが行くなら俺も行くと凄い単純に釣れました。
子供の扱いはこういう時楽です。

また予め桜咲さんには夜にお願いしておいたんですが、相変わらずピリピリしてました……。
多分精霊体で部屋に入ったら斬られてたんじゃないでしょうか。
小太郎君も一緒に行くという話をしたら一瞬目が大きくなりましたがやはり何かあるらしいですね。
その後無事了承を得られたので良かったです。

「(おはようございますネギ先生)」

「相坂さん、おはようございます!今日もよろしくお願いします!」

あれ……日本語の発音完璧……。

「(ネギ先生日本語話せるようになったんですか)」

「(この三日で挨拶はきちんとできるようにこのかさんとアスナさんに教わったんです!)」

確かに、自己紹介ができるようになるのは重要ですね。
だからと言って一切違和感のない日本語が話せる理由にはならないと思いますが……。

「(それは良い事ですね。早速小太郎君を連れて行きましょう。はい、今日も肉まんどうぞ)」

「(今日はコタロー君にもちゃんと挨拶します!肉まんありがとうございます。本当に美味しいです)」

食べ歩きは行儀が悪い気がしますがまあいいでしょう。
小太郎君とは女子校エリアの前で待ち合わせになってます。

「小太郎君おはようございます」

「さよ姉ちゃん、おはよう!今日は刹那姉ちゃんの所やろ!ネギ!昨日は射撃で最後負けたけど今日はそうはいかんで!」

そうです、昨日最後厳密に勝負したらネギ先生の勝ちでした。
スーパー小学生、いえ子供先生ですか。

「こ、コタロー君おはよう!今日も僕負けないよ!」

言いたい事から覚えてきたという訳ですか。
ちゃんと言えて凄く嬉しそうですね。

「おうネギ!日本語もうそんな話せるようになったんか。先生するだけあってほんまに頭良いんやな」

「まだ少ししか話せないけど頑張ってすぐ話せるようになるよ!」

「それでは早速剣道部に行きましょう」

桜咲さんが夜に振るう刀は太刀なので剣道の竹刀とは長さが異なりますが、あまり得物には拘らないらしいですね。

「桜咲さん!おはようございます。今日はよろしくお願いします」

「相坂さん、おはようございます。小太郎君もおはよう。そちらが話に聞いたネギ先生ですか」

桜咲さんは龍宮さんと一緒に話すときは仕事人モードな口調なんですが、普段話しかけると丁寧な口調になるんですよね。
まあ口数は物凄く少ないですが。
それにしても小太郎君を見る目がなんだか優しいですね。
龍宮さんが言っていたのはこの事だったんでしょう。

「刹那姉ちゃんおはよう!今日はよろしく頼むで!」

「初めまして、ネギ・スプリングフィールドです。2学期から英語の教師として赴任することになりました。今日はよろしくお願いします」

「初めまして、桜咲刹那です。英語しか話せないと聞いていたんですが話せるようになったんですか」

「基本的な挨拶だけはこの三日で覚えました」

「そうなんですか。とても流暢な日本語なので驚きました。それでは早速剣道着の着用から始めましょう」

やはり剣道ならでは、道場は独特の匂いがしますね。
私はやっぱり……合気柔術の方が好きですね。
この剣道のビシッっていう竹刀の音が耳に聞こえる度身体のどこかが痛い気がします。

稽古が始まったんですが、ネギ先生は一日目の中国拳法、二日目の合気柔術、三日目の射撃訓練の相乗効果により呼吸と精神が凄く落ち着いてるみたいで見た目に見える体格よりも大きな存在感を放っているように思えます。
面を着けているので表情はよくわかりませんが、桜咲さんも多分驚いていると思います。
二人足さばきの上達が早すぎる上、面、小手、胴の動きも綺麗な物です……。
既に今年入部した中学一年生を遥かに越える状態で剣道部の先生も驚いてますね。
最初は小学生に少し体験させようぐらいに思ってたんだと思いますが……。
なんでも一度やらせてみればの程度の筈が、どう考えても一度やった程度のレベルアップではありません。
桜咲さんの指導もなんだか熱が入り始めてあっと言う間に時間が過ぎていきました。

「桜咲さん、お疲れ様です。さっき超包子で肉まん買ってきたのでどうぞ。小太郎君とネギ先生もお腹すいたと思うので食べてください」

「ありがとうございます、相坂さん」

「何度食べても美味いなこの肉まん!」

「うん、四日間毎日食べさせてもらってるけど美味しいね」

まあこの暑い夏に肉まんはどうなのっていうのは置いておいてください。

「小太郎君もネギ先生もこんなに上達するとは思いませんでした。相坂さん、二人は昨日もこんな風だったんですか」

「龍宮さんも昨日同じこと聞いてきましたよ。ちょっと信じられない上達速度ですよね」

「帰ったら龍宮に聞いてみますよ」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

帰り道でしたが

「小太郎君は携帯電話持ってますか」

「持っとるで」

「私にアドレスと電話番号教えてください。ネギ先生の携帯電話が今日には用意できるらしいので連絡取り合えた方が良いでしょう」

実は鈴音さんが完全自主制作の廃スペックな携帯をロボット開発の合間に作り出したと連絡があったのです。
意外とやさしいですよね。
というかこう言うのは学園側が用意するのではと思いますがどうなんでしょう。
この三日の間に私が知らないところで話が進んだのでしょうか。

「おお、ネギも携帯電話持つのか!なら教えたるわ」

「(相坂さん、一体どうしたんですか)」

「(ネギ先生の携帯電話が今日にはできるので小太郎君の携帯のアドレスと電話番号を教えてもらっているんですよ。ネギ先生もその方が良いでしょう)」

「(本当ですか!お世話になりっぱなしでなんだかすいません。ありがとうございます!)」

この後途中で小太郎君と別れて、桜咲さんとネギ先生と一緒に寮まで帰りました。

「桜咲さんは小太郎君を見るとき優しそうですけど、あ……これは聞かない方が良いですか」

「いえ……ただ少し羨ましいなと思っています」

「細かいことは聞かないでおきますね。元気だしてください、桜咲さん」

「(どうかしたんですか二人共)」

「(何でもありませんよ。大丈夫です)」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ふむ、ロボット開発の合間に学園長に少し連絡してネギ坊主の携帯電話作てやたネ。
契約の処理はあちらに任せたが、午前中に作って午後にはもう手続きは済んだようだナ。
高畑先生に微妙な顔で見られたが、多分怪しんでるんだろう。
翆坊主も茶々円で活動した結果神多羅木先生に先に精霊バレをするとは高畑先生は避けられている気がするネ。
魔法世界での有名人には知られない方が良いというのが本音なのだろうが。
後は私にもあれだけ必死に止めろと言てくるのだから時間の流れが早いダイオラマ魔法球で修行したのを快く思ていないんだろうナ。

《超鈴音、一昨日の朝は厳しかったのになんだかんだネギ少年に優しいですね。サヨ達はもう帰ってきますよ》

《ご先祖様だからネ。敬うのは当然だヨ》

《そういう事にしておきましょうか》

翆坊主の言た通りすぐ帰て来たネ。

「さよ、せつなサン、ネギ坊主お帰りだネ。(それでこれがネギ坊主の携帯だ。既製品の性能を遥かに凌駕した操作性と機能を備えているから存分に使うといいヨ。既に何人かアドレス帳に登録されているから確認するといいネ)」

「(超さん、ありがとうございます。相坂さん、アスナさん、古菲さん、学園長先生、このかさん、タカミチ、龍宮さん、超さん、エヴァンジェリンさん、あやかさん、昨日までにあった人が殆ど入ってますね!)」

「(これで小太郎君を入れれば後は桜咲さんだけですね)桜咲さんもネギ先生の携帯に登録してもらってはいかがですか。この夏時間があればまた剣術をするのも良いと思いますよ」

「え……、はい、そういう事ならお教えします」

「(桜咲さんも教えてくれるんですか。ありがとうございます!)」

「(ネギ坊主、この四日間で私達が紹介できる運動はこれで大体終りネ。後は好きなものに取り組むといいヨ。そこに登録されている人達は皆歓迎するらしいから遠慮せずに連絡するといい。もちろん小太郎君に違う所に連れて行てもらうのも良いだろうナ)」

「(皆さんいつでも都合が合うということはないかもしれませんが気にせず連絡してくださいね。夏が終わったらいよいよ先生になるんですからそれまで麻帆良をじっくり見るのもいいかもしれませんよ)」

「(はい!超さん、相坂さん、桜咲さん、ありがとうございます)」

これで大体一段落だネ。
実はネギ坊主の携帯には特殊な通信技術を試験的に搭載してあるが、使用にはこちらから一度起動させる必要があるからもしもの時用という事だナ。



[21907] 15話 夏の終わり
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/13 19:58
4日目にして言語の障壁をやはり突破し始めたネギ少年だったが完璧に話せるようになったのは8月の末になった。
予想通りパパラッチ朝倉和美がネギ少年に気づき突撃、その騒ぎで他の寮室の2-A達にも伝染するもまだ言葉があまり通じていなかったため雪広あやかが仕切るという結果に終わった。
その後パパラッチがネタを求める為英会話に熱を入れるようになったが先にネギ少年の日本語マスターの方が早かった。
無駄な努力とは言わないが天才少年には勝てないようだ。
神楽坂明日菜は夏休みの宿題をまさかのネギ少年に「先生になるんだからそれぐらいわかるんでしょ!服吹き飛ばしたんだから手伝いなさいよ!」と言葉が通じるようになったのを良いことに強引に手伝わせるという暴挙に出たが、冷静になって流石に恥ずかしくなったのかその後英語だけは真面目に勉強するようになったそうな。

夏の彼の生活であったが、小太郎君に早速電話してやはり忍ばない忍者とさんぽ部に参加しだし、小学生が四人に増えた。
定期的に人数が増えるとは一体どういう事なのだろうか。
そして夕日に照らされながら木に三人並ぶのは何かの番組でも始めるのだろうか。
また、逆に小太郎君の強引な勧めにより忍者と山で修行する事になり、その結果その日帰ってこなかった為に寮で騒ぎになり、雪広あやかが失神しかけたが、サヨが呪術協会支部、もとい日本文化振興施設に電話し、山に行ったんだろうという情報を得て事なきを得た。
2人が寮に戻ってきたとき小太郎君と雪広あやかの喧嘩のようなものが発生したのは言うまでもない。
忍者の方は流石に忍びらしく一足先に何食わぬ顔で寮に戻りネギ少年を出迎えていた。
正直初めて忍んだのではないだろうか。

呪術協会所属の犬上小太郎君とサウザンドマスターの息子であるネギ少年が仲良くする事自体に裏でどういう動きがあったかと言えば、若い世代同士東と西の垣根を越えるのにもってこいだろうという事で知る人達は微笑ましく静観するという態度を決め込んでいる。
ただ犬上小太郎君が狗族と人間のハーフであり、元々厄介払いのつもりでこちらに連れてきたという意図も呪術協会としては無いでは無いので微妙な部分もあるだろう。

それ以外は今までに回った運動をローテーションしつつ、違う2-Aに遭遇する度にラクロス部やらバスケ部などなど色々体験したようだ。
一つ、それはちょっとというような女子中等部の新体操までやったが佐々木まき絵のリボン技能検定はネギ少年でも取得できなかったのは最大の謎である。

木乃香お嬢さんも言葉が通じる事を良いことに自慢げに図書館探険部に連れて行き、その仲間達と共に地下三階まで潜るという冒険をやってのけた。
ネギ少年は正直あり得ない構造の図書館島に驚きの連続であったが、あまりにも他のメンバーが普通の様なので深く突っ込むことはできなかったようだ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

一方でエヴァンジェリンお嬢さんの高速思考習得のついでに夏休み中、粒子通信を頻繁に行なっていた。

《エヴァンジェリンお嬢さん、合気柔術を教えるだけでも楽しそうですけど魔法はどうするんですか》

《あのぼーやはまだ身体ができていないからな、今のところは普通に運動するだけでも良いだろう》

《そういう割に日常的に魔法で身体能力を強化してますよね……》

《それは私が魔法を教える時に言うしか無いだろうな》

と、どういう切り口で魔法を教えるタイミングを得るのかよく分からないが教えるつもりらしい。

また別の日に聞いてみた事があるのだが

《闇の魔法ってこの100年の間に誰かに教えた事ってあるんですか》

《ああ、あれは私が忌々しいことに真祖の吸血鬼になってから生きていく為に10年程度の歳月をかけて完成させた技法だからな。はっきり言ってあれは使い勝手が悪い。だから誰にも教えていないがどうかしたのか》

…………。

魔法世界でナギと並ぶチートなラカンという人に教えて貰うという筈だった気がするのだが……。
しかも、10年程度と言うことは大したことない技だったのか……。
確かに500年近く真祖の吸血鬼やっておきながら始めの10年に習得した技なんてそんなものなのかもしれないが。

《いえ、なんでもありません。そうすると闇の魔法を越える何か必殺技のようなものがあるんですか》

《そんな事をしなくても私は強いからな、必殺技など必要ない。大体絶対に勝たなければいけないという場合に出くわした事がないし、あったとしてもさっさとゲートを作って逃げて終わりだ。いちいちリスクを負う必要がないだろう》

非常に合理的だった。
しかし、それだとナギと戦った時はどうだったのだろうか。
丸くなってるお嬢さんが本気を出す前に巫山戯た罠に嵌って呪いをかけられただけのような気がするが……。
えーと、闇の魔法は却下……。

《お嬢さんの考え方には精霊としては私も賛同です。ただネギ少年は男の子ですので負けられない戦いがありそれが強敵だった場合だったらどうするんですか》

《フフ……茶々円、ここ最近既に私はどれぐらい別荘に入っていたと思う》

《えー、あれ、簡単に確認しましたがここ半年で軽く1年を超えていますね……。まあ私はお嬢さんならダイオラマ魔法球をどれだけ使おうと気にしませんが》

流石に観測すると行っても超鈴音の魔法球ならともかく、いちいちお嬢さんの別荘の中まで見ないから入っていた時間を計算したらそうなる。
休日に15回丸々入るだけで1年だから恐ろしい空間だ……。
タカミチ少年もそりゃ長期休業にガンガン入ったりすれば年も喰う訳だよ。

《相変わらずそういうところの確認だけは早いな。ここ最近に限った話ではないがここ100年を含め研究はしていたからな。この前私が一部精霊化していたのが分かる前から、それが何かは分からなかったが、基本魔法についてはある程度把握していた》

《それはつまり魔力ではなく魔分の本質に基づいて、という事ですか》

《超鈴音のアーティファクトのフィールドを見てな、最後の鍵が解けたんだよ。それにじじぃの所に行ってぼーやの成績表を拝借して見てみれば基本魔法の扱いに関しては特に天才だそうじゃないか》

お嬢さんも気づいてたんですか。
超鈴音に言われて私もなんとなく気づいていたけれど……。
流石過ごした年数分の経験がある訳だ。

《それ教えて大丈夫なんですか。なんだか機密に関わりまくりの気がするんですけど》

《まあまずそれが私や超鈴音のような精霊の力を直接借りずにできるかという問題がある。それ以前に魔法を使った戦闘訓練もまだ基本すら確立していないだろう》

まあ生身の人間に魔分の本質が分かるのは今の今まで起きてこなかった訳だから当然か。
実際使えたとして真似ができなければレアスキルの一点張りになるだろうし。
少年の才能に期待するしかない。
ああ、今まで闇の魔法に期待していたのは何だったのだろうか。
しかし気になるのは魔法世界で果たしてうまく使えるかだが、祈るしか無い。

《そうですね。お嬢さんに任せればうまくいきそうですから安心しましたよ》

《確実にじじぃに目にもの見せてやらんとな。まあ断罪の剣ぐらいは一発喰らわせてやりたい》

物騒すぎるんですけど。
当たると強制的に気体に変化させる基本性能に加え、それを回避しても融解熱と気化熱の吸収で強烈な低温状態に相手を晒すという危険な代物だったと思う。
そういう武装が好きな超鈴音が開発中でもある。
まあ使うかどうかともかくただ単に開発したいだけだろうけど。

《そう言えば断罪の剣って属性で言うと何に分類されるんですか》

《属性か、それは別に一つに限らないが私は今まで氷と火でやっていたな》

あれも複合系だったんですか。

《今までというのは今は……まさか基本魔法……ですか》

《そうだ。出力も高い上に一旦別の精霊の力を借りる必要がないから扱いやすい》

今まで神木の精霊というか魔分自体の事をあまり考えていなかったが凄くチートだ……。
まあ魔法自体がチートみたいなものだがこれを言ってしまっては元も子もない。

《そうだ、超鈴音の身体だがあれは普通に生活する分には問題ないがそれでも脆くないか》

その事は呪紋回路と火星という特殊環境で育ったせいだな……。
超鈴音にとって触れられたくない事だろうが。
今はアーティファクトで誤魔化すことも可能になったが、本気で戦うならば専用の強化服を着用する必要がある。

《火星が特殊だった、と言うことです》

《私も大概だが事情を抱えている奴は麻帆良には多いな》

故に麻帆良が麻帆良である訳だ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

で、こちらは図書館島。

《クウネル殿、近衛門殿にエヴァンジェリンお嬢さんの詰め合わせ映像を送らせたようですね》

「おや、精霊殿もご存知でしたか。そうですよ。効果の程はどうでしたか」

《完璧過ぎてクウネル殿を褒めざるを得ませんね。ネギ少年とお嬢さんのファーストコンタクトがこれ以上無いほどにうまく行きました。その時の映像収集しますか》

「なるほど、ご褒美ですか。頂きましょう」

《それとお嬢さんがナギ少年の生存について聞きに来ませんでしたか》

「来ましたね。強引に見せろと言ってくるものですからからかうのが楽しかったですよ。おや、この顔はとても良いですね。感謝しますよ」

相変わらず天敵だな……。

《それはどうも。来年の麻帆良祭が楽しみですね》

「ええ、機会としても最高の場所でやっと約束を叶えられますからね」

《しかも既に呪術協会の方もいますからなかなか面白くなるかもしれませんね》

「そんなにトーナメント組めるのですか」

《超鈴音次第でしょう。アンダーグラウンドな場所で試合するなら3日間やっても良いかもしれませんし》

「主催者側というのは便利ですね」

《その代わりそれだけやることがあって大変でもありますが》

「でもそんな超さんを見るのが楽しみなのでは」

《クウネル殿にとってのお嬢さんには負けますよ》

「そこは勝ちを宣言しておきましょう」

なんの会話だ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「千雨サン調子はどうかナ」

「お前の渡した端末だがなんだよこれ、どうして市販の一番良い製品を軽く超えてんだ」

「お褒めに預かり光栄だネ。それは私が開発したヨ!」

「本当に火星人だったりすんのか……」

「オオ!千雨サン良く分かたネ!」

「冗談はやめろよ……。あぁもう……本題に入るがプログラムは完成した」

「ふむ、確認するヨ。肉まん食べるといいネ」

「この肉まんもだが、なんで一個100円なのにこんなに美味いんだよ……。しかもインターネット販売始めて明らかに他所の営業妨害になるだろ」

「それは私と五月の肉まんに対する愛の結晶が為せる技ネ。営業妨害については他人のサイトをハッキングで攻撃してるちうサンに言われたくないぴょん」

「超!お前!いい加減にしろよ!」

普段学校では人付き合いが悪いイメージだたが話してみるとからかい甲斐があるネ。
気がつけば呼び方も長谷川さんから千雨さんに自然になてたヨ。

「千雨サンの運動不足の身体で私に一発入れるなんて甘いネ。当たらなければどうということはないヨ」

「はぁ……はぁ……無駄に疲れる……。いつも学校で古達と馬鹿な事やってる癖に底の知れない奴だな……」

「私の秘密はこの世界にも匹敵する機密事項ネ。人間の尺度で図ろうなどというのが間違いだヨ」

「調子に乗りすぎだろ……」

「ハハハ、そこは否定しないヨ。おお、流石だナ、こんなプログラム到底普通の中学生の物とは思えない出来だネ!ハカセも驚くヨ!」

「お前にだけは言われたくねぇよ……。大体何なんだよそのハカセが弄ってるあのロボは。どうして授業に出てても誰も不思議に思わないんだよ」

おやおや、随分溜まているネ。

「茶々丸はガイノイドだヨ。不思議に思わない理由は、千雨サンが不思議に思う方が此処ではおかしいだけだから安心するといいネ。イライラが溜まるなら休日に部屋にいないで麻帆良の外に出てみるといいネ」

「説明になってねーよ。で、それは何か、私が不思議に思わないのが不思議だと言いたいのか」

「そういう事だネ。ここはある意味夢の楽園のような場所で生活するには便利だと思わないカ」

「それはそうだろうけど……。っていうかさっきの発言だと超は不思議だと思っても仕方ないと思ってんのか」

「私にとてはまだまだ不思議でも何でもないけどネ。行き過ぎた科学は魔法のような物だという事かナ」

「言ってる事はわかるがわかりたくねぇな……」

「割り切るしかないネ。仕事の方は助かたヨ。報酬は千雨サンの銀行に振りこんでおいたから確認するといいネ」

「もう報酬払ってあんのかって何で私の銀行口座知ってんだ!」

「フフ、麻帆良最強頭脳である私に不可能なことはあまりないネ。ではまた会おう」

私が何を言ても最後に判断するのは自分自身だからナ。

さて、田中サンことT-ANK-αシリーズはα2まで進化が進んだネ。
まだ微調整が必要だがこの分なら9月には完成形がロールアウトできるヨ。
8月の頭にネギ坊主に渡した携帯電話だが使う機会がないナ。
まああれは魔分を使うからどこでも通信できるという大分ありえない代物だからそう簡単には使えないのだがネ。
それにまだネギ坊主に知られるには時期が早いカ。
ネギ坊主と小太郎君がウルティマホラに出ると当面の目標としては面白いから勧めてみるカ。
明らかに年齢制限に引かかてるがなんとかするネ。

超包子の肉まんはお料理研究会の他の店でも置いてもらう事が決定したから麻帆良内で製造設備をフル稼働した生産量を無駄なく届ける事ができるようになたネ。
ロゴの方は社員さん達からの賛成を貰たから商標登録した後袋や箱に印刷を加えて浸透を図るネ。
また新店舗の計画だたが世界に広めるという事を見据えて日本の空港に店を出す方向で話が進んでいて出店は冬前にはできるヨ。
海外に出すにはまずその国の特徴を抑えないと失敗する可能性があるからその市場調査も行う必要があるナ。
宗教的にあまり気にならない国ならすぐにでも出せるとは思うが、技術漏洩の恐れがあるから治安も考えないとだめだネ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

8月29日僕もあと少しでとうとう英語の教師になる日も近くなった時あのエヴァンジェリンさんから電話が来たんだ。

「ぼーや、今日は暇か」

2学期の為に準備する時間は十分あったし大丈夫だ。

「はい!今日は空いてます」

「そうか。なら私の家に来ると良い。茶々丸が迎えに行くから寮で待っていろ」

「あ、エヴァンジェリンさんは茶々丸さんと住んでいるんですよね。分かりました」

「それではまた後でな」

「はい、また後でよろしくお願いします」

エヴァンジェリンさんの家って何処にあるんだろう。
麻帆良女子中等部の皆さんは全寮制だからここにいないということは家の事情でもあるのかな。
茶々丸さんと一緒に住んでるらしいけど、クラスの名簿でまだ見ただけなんだよな……。

「ネギ、エヴァンジェリンさんから電話?」

「はい、家に招待してくれるらしいです。茶々丸さんが迎えに来てくれるのでそれまでここにいますよ」

「ネギ君エヴァンジェリンさんから気に入られたんやね~」

「エヴァンジェリンさんが招待するなんて珍しい事もあるのね」

「えっそうなんですか」

「エヴァンジェリンさんは大学院を卒業してるんやけど何故かうちらと同じ中等部にいるんよ。そやからあんまりうちらとは仲良うないんよ」

なんで大学院まで出てるのに中学生やってるんだろう……。

「でもこの前の学園祭の時は凄く一生懸命着付けを指導してくれて良い人だったわ」

「あの時は厳しかったけどお陰でしっかり着れるようになったんやわ。あの時着た着物良かったな~」

「私達のお金じゃちょっと買えない物だったよね」

やっぱり二人も同じようなイメージなのか。

「おはようございます」

「あ、相坂さんかな」

「朝から失礼します、ネギ先生、茶々丸さんが寮の前に待ってますよ。それでこの手紙を読んで来て欲しいそうです。また読んだら手紙は返して下さいと言ってましたよ」

「もう迎えに来たんか。アスナみたいに足はやいんやね」

アスナさんの足の速さは新聞配達に一度付き合ったけど魔力で身体強化してるのと同じぐらいだったから麻帆良って凄い人ばかりみたい。
箒で空を飛んだりしたら駄目と学園長先生に言われているからこの一月近くは身体強化以外にほとんど使ってないや。
あ、でも使う暇がないぐらい忙しかったのもあるかな……。
日本語の習得にはアスナさん達に隠れて基本魔法を使ったけど2学期に間に合わないよりはいいよね。

「秘密の手紙なんて怪しいわね」

「駄目ですよ神楽坂さん。女性のプライバジーは守らないといけません。エヴァンジェリンさんは私達よりも年上なんですし。はいこれをどうぞ」

「ちょっと言ってみただけだって」

「ありがとうございます」

ん……何故か魔力の痕跡があるな……。
えっサウザンドマスターの事が知りたければ杖を持って来いってあるけど、どういう事だ。

「あ、相坂さんエヴァンジェリンさんはどんな人だと思いますか」

「ネギ先生、焦らなくても大丈夫です。手紙の通りにすればきっと良い事がありますよ」

相坂さんは嘘を言うような人じゃないし……、よし行ってみよう。

「ちょっとネギ君様子おかしいけど大丈夫なん」

「手紙を貰ったくらいで動揺してはいけませんよ。この夏でネギ先生は身も心も成長したじゃないですか」

「は、はい!このかさん、僕は大丈夫です」

そうだ、この夏コタロー君と一緒に頑張ったんだ。
そのお陰で一人でちゃんと寝れるようになったし前より身体も強くなったんだ。

「それではまた会いましょう、ネギ先生」

そのまま相坂さんは出て行った。

「相坂さんも英語が話せたのもあるけどこんなにネギの面倒を見るとは思わなかったわ……」

「そやなぁ、いつも超包子で肉まん売ったり違う時は学校が終わったらすぐに寮に篭ったりしてたもんなぁ」

「体調が悪いのかと思えば去年はウルティマホラで凄いところまで行ったし少しよく分からないわよね」

「そのウルティマホラって何ですか」

「ウルティマホラ言うんは10月にある格闘大会の事や。去年うちのクラスでは超さん、くーちゃん、相坂さんが出たんよ。くーちゃんは去年2位やったんやけど、今年は1位になるだろうって皆言っとるよ」

「面白そうですね!でもくーふぇさんより強い人なんているんですね。小太郎君もまだ勝てないのに」

「その人は去年で麻帆良から出て就職していったんよ」

やっぱり此処は凄いな。

「そうだったんですか」

「ってネギその長いだけの杖持ってくの?」

「えっ駄目ですか」

「べ、別に駄目じゃないわよ。気をつけてね」

「では行ってきますね、アスナさん、このかさん」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

茶々丸さんに手紙を渡してマスターの家に参りましょうと言われたけどマスターってエヴァンジェリンさんの事かな。

「茶々丸さん、エヴァンジェリンさんって魔法使いなんですか」

「私からは申し上げられませんが道端でその言葉はよく有りませんよネギ先生」

あ、そうだった……。

「す、すいません」

「着きましたよ。このログハウスがマスターの家です」

「ここがエヴァンジェリンさんの家かー」

「マスター、ネギ先生をお連れしました」

「茶々丸、ご苦労だったな。我が家へようこそ、ぼーや」

「おはようございます、エヴァンジェリンさん。お邪魔します」

「日本語が上手くなったようだな、それにすぐに質問してこないで落ち着いているのも良い。では本題に入るか。手紙にはサウザンドマスターの事を知りたければと書いたから約束通り話そう。話せることにも限りがあるが聞きたい事を言ってみると良い」

「と、父さんとはいつ出会ったんですか」

「もう15年以上前になる。私が崖から落ちたときに助けられた」

「父さんはやっぱり良い魔法使いなんですね」

「……それは一概には言えないな。確かに助けてくれたがその後私をこの麻帆良に封印する呪いをかけた」

「えっ父さんがそんな事する筈がありません!」

「ぼーやはサウザンドマスターを詳しくしらないんだろう。奴がそうした理由は私が光の福音だというのもあるが、突然学校に通ってみろと言い出してな。いきなり罠に嵌められてこの地にいる」

「光の福音……って何ですか?」

「ハハハ、そうか、ぼーやは何も知らないんだな。私は14年前までは600万ドルの賞金首だったんだよ」

し、信じられない……。

「……エヴァンジェリンさんは悪い人なんですか」

「悪いというのも色々あると思うが、人を殺したことがあるかという事か。それなら私はあるよ。それも随分沢山な……」

「殺したくなかったのに殺したように聞こえるんですけど……」

「ぼーや、短い間に成長したようだな。初めて見た時はただの子供かと思ったが正直怖がって逃げ出すかと思ったぞ」

「エヴァンジェリンさんに初めて会って合気柔術を教えて貰って、厳しいけど優しい人だなって思ったんです」

「私が優しい……か」

「アスナさんやこのかさんもエヴァンジェリンさんは良い人だって言ってましたよ」

「フッ……この地にいる間に随分丸くなってしまったものだ。これも最近言ったばかりだが。……さっきの質問だがぼーやの言ってる事は合っている。ただ一人目だけは自分の意思で殺したがな」

「そ、その一人目の人はエヴァンジェリンさんに酷い事をしたんですか」

「……こんな事をぼーやに話すのはどうかと思うがまあいいだろう昔話と思って聞くと良い。600年ほど前その一人目の男は私を真祖の吸血鬼にする呪いをかけたんだよ。その時私は10歳だった。後は吸血鬼という理由だけで追われる日々という訳だ」

「そんな……どうしてそんな酷いことを……」

「さあ、ただ単に開発した魔法を試したかっただけだろう」

「それだけの理由で、ですか……。そ……それで今も吸血鬼なんですか、全くそういう感じがしないですけど」

「ああ、今は違うものになった。それはぼーやの色違いみたいな幽霊にやって貰ったんだがな。そのお陰で昔はその呪いでイライラする事も多かったが今は気分がかなり落ち着いている」

「違う物ってなんですか」

「それは教えられない。ぼーやが頑張ればもしかしたらその幽霊が会いに来るかもしれんが」

「頑張るって……。その幽霊ってどんな幽霊なんですか」

「どんな、と言われれば変なやつだな。私の数倍長生きだが、普段はずっと引き篭っているような奴だ」

「確かに変な幽霊ですね。そんなに長生きなのに成仏しないのも変です……」

「ハハハ、まあそうだろうな。それで頑張るというのはぼーやが強くなりたいか、という事だよ」

「ぼ、僕はサウザンドマスターのような魔法使いになりたいんです!」

「ぼーやが目指すのはサウザンドマスターなのか。それを越えてみたいとは思わないのか」

「僕が父さんを越える……。それは越えられるなら越えたいですけど、まだくーふぇさんや小太郎君にも勝てないので……」

「ハハハハ、とんだ欲張りだな。まだ一ヶ月もしていないのに勝とうと思っているのか。あいつらがどれだけ今まで鍛錬を積んでいると思っているんだ」

「そ、そうですね……。くーふぇさん達に失礼な事を言ってしましました」

「ぼーやは今が見えていない。もうすぐ学校が始まるが、秋にはウルティマホラもある。ぼーやも出てみればいいじゃないか。丁度ライバルもいるんだろう」

「は、はい!そうですね、頑張ります!」

「それはそうとして、私はぼーやに魔法を教えるつもりがあるが受けてみる気はあるか」

「ほ、本当ですか!や、やります!僕に魔法を教えてください!」

「その為に杖を持ってこさせたんだがな。私の指導は厳しいぞ、それでもいいんだな」

「はい!厳しくても必ずやり遂げてみせます!」

「その言葉を忘れるなよ。なら条件がある、まず弟子入りするなら私の事はマスターと呼べ。次にウルティマホラの為の鍛錬では魔力で身体強化をするのは禁止だ。地力でなんとかしろ。ずっとそれに頼っているとちゃんと身体が強くならない」

「はい、分かりました!マスター!」

「それでは今から修行場に連れていってやる。杖を持って付いて来い」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

なんか……物凄く優しい。
あんなに過去について話すなんて思わなかったが一時の気の迷いかもしれないし、そうでなくても知られたからどうということもないか。
まあパターンがネギ少年から頼むんじゃなくて誘ってるわけだから当然といえば当然かも知れないが……。

《サヨ、手紙を配達した後の木乃香お嬢さん達の会話ですが、面倒見がいいとは意外で、しかも普段は超包子か引きこもってるかのイメージが強いらしいですね》

《あーもううるさいですよ》

《気にすることないネ。人に対する印象なんて一人一人違うのだからナ》

《お前たち、いつもそういう会話してるのか……》

《あれ、キノ、エヴェンジェリンさんにも繋いでるんですか》

《あ、間違えました、オフにしてませんでした、すいません。というか変な奴とかネギ少年の色違いとかどこの2Pカラーですか》

《翆坊主、ネギ坊主の2Pカラーとは全くその通りじゃないカ》

《まさに脇役って感じですよね》

《うるさいから黙ってろ、接続を切るぞ。大体他人の会話を聞いてるんじゃない!》

《まあ見守るのが仕事なので。脇役というかまあもういいです。実際今までに精霊として話した人間の人数って未だに10人なんですよね……》

《5002年も生きているのにたった10人とは寂しいものだネ》

《一人当たり500年に一回って凄いですね》

その計算全く意味ないから。

《それに人間じゃないのが多いんじゃないカ。私は火星人、さよは元幽霊、エヴァンジェリンは元真祖の吸血鬼、従者二人は人形とガイノイドだろう》

地球系火星人じゃなかったのか。

《凄いイロモノ揃いですね》

《その発言龍宮神社のお嬢さんに言って撃たれると良いですよ。あのお嬢さんは勘が良さそうですし》

《……嫌なトラウマ思い出させないでください。あれで大分毟り取られたんですから》

《翆坊主、最近火星の様子を聞いていないが調子はどうなんだ。海はできたカ》

ああ、丁度4月から5ヶ月近く経ってるか。

《酸素の組成は順調に増加し10%を記録しました。平均気温も上昇してようやく0度を越えたり下がったりしてますので場所によっては地下水が観測できてます。まあまだ出たら死にますけど。粒子結晶の散布状況も良好ですが、マントル対流がまだ完璧に稼働していないので正確な地磁気の状態は測りかねます》

《来年にはなんとかなりそうですね》

《テラフォーミングに関しては問題ないでしょう》

《私がコツコツ精製しているのも意味があるようだネ》

《今火星の軌道上に打ち上げている映像は凄く綺麗ですからまた渡しますね》

《おお、頼むネ》

《超鈴音、強制認識魔法って麻帆良以外の11箇所の魔分溜りを利用するんでしたっけ》

《ああ、火星から持てきた資料だとそうだヨ。でもあれは世界にあまねく認識させるのを早めるための補助的な役割だネ》

《あの勝手に溜まった魔分って逆に引き出せませんか。もしもの時の為に手段は色々あった方が良いんですが》

《ふむ、出力上昇の為のブースターにしたいのか》

《火星と魔法世界の同調の際に結局地球からも出力補助を行うことになるでしょうから使えるものは何でも使おうかと。大体魔分溜りって淀んでるというか、人間には利用価値がありますがあまり綺麗な物ではないですし、私としては使ってもいいかなと》

《それはゲートが使えなくなるんじゃないカ》

《終わったら意図的に供給すればいいだけですよ。あくまでも一時的なものです》

《それならいいカ。一から調べる必要がなくて大分楽だからなんとかなると思うヨ。また新しい仕事だナ》

《次から次へとありがとうございます》

《まあいいヨ。色々対価も貰てるからネ》

《ところでエヴァンジェリンお嬢さんが基本魔法の本質を解明したらしいんですけど超鈴音はどうですか》

《私は普段から魔法を使う訳ではないからネ。アーティファクトの補助で大体実現できるから微妙な所だナ。まあ魔力フィールドもとよりエヴァンジェリンの断罪の剣は基本魔法で実現できるぐらいには理解してるヨ》

完成したのかあの物騒な物。

《それって殆ど分かってるって事じゃないですか》

《魔法を本格的に使い始めて1年程度で600年の研鑽を積んだ魔法使いと同等等と言うのは流石におこがましいからネ。アーティファクトの効果で理解というよりも予め知っているという状態に近いからやはりズルだヨ》

《鈴音さん、あの剣足からも出せるようになったんですか》

《足から出すと手が覚束ないからネ。不可能ではないが練習時間が不足してるヨ。慣れるまでにもう少し時間がかかるネ》

《時間加速空間を使わないでそれだけできれば十分ですよ》

《翆坊主は時間の流れを変える魔法球がそんなに嫌いなのカ》

《使い方次第ですけど、人生を消費するという対価を払っているとはいえ周りの人を置いていくようなのはあまり良い気はしません》

《なんとも人間臭い精霊だネ》

《それは褒め言葉と受け取っておきますよ》

《しかし、翆坊主にとての良い使い方とは何ネ》

《例えば放射能で汚染された土地を切り離して濃度が薄れるまで加速なんて良いと思いませんか。まあ精霊の私がやることではないですけど》

《確かにそれは魔法でないと難しいし合理的な使い方だネ。でも既にネギ坊主がエヴァンジェリンの別荘に入っている気がするがいいのカ》

《うーん、1年以内なら許容範囲内にしておきたいですかね。後はネギ少年が魔法を普通に練習できる用に普通の魔法球を贈呈すると良いかもしれませんが》

《私から渡す訳には行かないがエヴァンジェリンを経由して渡せばありカ。しかしアレは凄く高いからネ》

《鈴音さんのはいくらしたんですか》

《億だたヨ》

億って……。

《前はなかなか高かったって言ってましたけど……それはちょっと……プレゼントできないですね。しかしそれを買った超鈴音は流石ですね》

《便利というのもあるが必要だたからネ。出してない技術を始めとして特に魔分粒子結晶等を世間に公表できれば寝てるだけで回収できるネ》

《あの結晶ってそんなに凄いんですか》

《さよ、宇宙にあれ程安全に出れるものはなかなか無いヨ。地上でも遮蔽物質として普及すれば万一事故が起きても被害を防げる確率が現状とは比較する必要も無いぐらいネ。しかも魔法さえあれば割とあちこち材料は必要だが意外と簡単に作れるというのもポイントが高いナ》

《確か今雪広グループに払ってるのは輸送費が多いんでしたっけ》

《そうだヨ。それが大半と言ても良いネ。もしこれで金とかプラチナが必要だたら匙を投げていたヨ》

《重力魔法でダイヤモンドでも作成したらいいんじゃないですか。使い手も殆どいないですし》

《翆坊主、それはなかなかズルい案だナ。炭素だけでできるんだから悪くないネ。フフフ……》

《鈴音さん、なんか黒いですよ!》

《まあやり過ぎると命の危険に関わりますし、市場価格が暴落しますから気をつけて下さい》

《うむ、実際工作機械用にあると便利だから作成を試みるヨ。最初はまた圧力の問題になるナ》

なんというかそういう方向に主に魔法を使うから超鈴音は落ち着く。



[21907] 16話 2学期の始まり
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/23 18:39
いよいよ9月になり2学期が始まりました。

皆すでにわかっていますがネギ先生が教育実習生という形で私達のクラスの担任になるんです。
神楽坂さんは高畑先生が担任から外れるということにショックを受けているのは言うまでもありません。
隣の朝倉さんはこの夏ネギ先生が言葉が通じないのを知って英会話を勉強するという事をしていたそうですが、結局ネギ先生は8月の末には発音も完璧な状態でマスターしていたのでその事実を知って

「こ、この夏休みもっと違う事をしていればもっと良いネタが手に入ったかもしれないのに……」

と微妙に燃え尽きています。
2-Aでネギ先生の事を知らない人は殆どいないので鳴滝姉妹が罠を仕掛けるという事もありません。
さんぽ部という名前に似合わずハードに麻帆良を見て回ったようなので先生というよりは友達という感覚が強くなっていて開口一番「ネギ君おはよー」と言うだろうと思いますが……。

とガラガラという音を立て教室のドアが空いたところでネギ先生と源先生が入ってきました。

「今日から2-Aの担任を受け持つ事になりましたネギ・スプリングフィールドです。担当教科は英語です。皆さんこれからよろしくお願いします」

落ち着いて自己紹介ができていますね。
私が去年皆の前で行った事故紹介とは似て非なる物です。
皆日本語うまくなったねーとかネギ先生頑張ってーと歓迎ムードが広がっています。
ネギ先生の目の前の席のいいんちょさんの目がキラキラ光ってて心配になりますが……。

その後の英語の授業も準備はできているようで教え方もなかなかだと思います。
原因は夏休みに神楽坂さんの宿題を手伝ったりしていたという情報を得ていますが、恐らくそれで間違いありません。
それでも私語が飛び交ったりするのはいつもの2-Aならではの光景ですね。

心配なのは8月の末にネギ先生がエヴァンジェリンさんの家に招かれてから3日連続で通っているという情報が、既に皆に浸透していていつ誰かが尾行を始めてもおかしくないという事です。
キノ達としては仮にそうなったとしたらそれで良いという静観の構えを貫くようです。
魔法の秘匿義務を破ればオコジョ刑というなんとも間の抜けた刑罰も魔法世界が火星と同調してしまえばいずれ無意味な事になるはずです。
正直その後の事後処理が最大の障害となるのでしょうが。

《鈴音さん、そういえばネギ先生と小太郎君のウルティマホラ出場の手配ってどうするんですか。学園祭と違って独自の大会でもないし、そんなに簡単に特別ルールを認められませんよね》

《確かにそう言われるとそうだナ。魔法と気に関してはウルティマホラでは身体強化にしか使えないから諦めて貰た方が楽と言えば楽だネ》

《でもそういうからに超鈴音には何か策があるんですよね》

《今までのウルティマホラと言ても私は去年が始めてだたが、予選と優勝者決定までを一日で一気に終わらせるというのは忙しないと思たネ。今回はその辺りを改善するための費用をこちらで負担しようと思ているんだヨ》

《つまり複数日に分けて龍宮神社を借りるのを口実にという事ですか》

《3日間に分けるついでに一緒にルールも少し変えてしまて、できるだけ自然にするつもりだヨ。例えば小学生の部を先に開催して上位三名は任意で中・高・大生の部にも参加できる等とすればいいだろう》

《確かにそれなら許容範囲内ですね》

《親御さん達も子供の勇姿を見たいって思うでしょうし良いかもしれないですね》

《初等部となればそこまで参加者も期待できないから10月12日の土曜日一日で済ませて、13日に予選、14日体育の日に本選にすれば良いネ。麻帆良の人は結構タフだから13日に予選でも文句は言わないだろう。それに疲労回復を促進する施設でも用意すれば良いネ。更に今回中・高・大それぞれで本選の枠を完璧に決めてしまえば学校単位での競技と被らない工夫もしやすくなるからネ》

《随分熱心ですね。まほら武道会の予行演習という所ですか》

《そういう事だネ。段取りもあるし、裏表関係なくまほら武道会を開くかどうかの実力を観るのにも使えるから結構重要だヨ》

《ネギ先生達の為だけに動くのではないあたり抜かりはないですね。ところでその疲労回復ですが龍宮神社の南門付近の魔分溜りでも利用したらどうですか》

《ふむ、特製疲労回復飲料を東洋医学で作ても良いのだがそちらも研究になりそうだナ。期間は短いが良いだろう》

《流石私達の鈴音さんはパーフェクトですね》

《フフ、麻帆良最強頭脳を名乗るからにはそれぐらい当然ネ》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

火星の様子も順調であるのでネギ少年を見守ると称して、観測し続けるのが最近の流行りである。

《ぼーや、この通信方法は念話と違うんだがまだ付いてこられるか》

《は、はい、まだなんとか大丈夫です。マスターは頭が痛くならないんですか》

《私は魔法世界でも幻想種に分類される生物のようなものだからな、全く問題ない。これに付いてこられるようになれば、思考速度が格段に上がる上、呪文詠唱も普通では認識不可能な速度でも行うことが可能になるから頑張るんだな》

一部精霊化していただけあってあっと言う間に粒子通信に慣れたお嬢さんだったが情報開示が早いな。

《ほ、本当ですか!頑張りますマスター!あれ……でもそんなに凄いのにどうして父さんの罠に……?》

《詳しいことは言えないが、この方法を会得したのは私も最近なんだよ》

《そんな簡単に僕に教えていいんですか》

《私が口を動かして会話するより楽なのもあるが、これは現実の時間で長時間話せるようなものだから長くなりがちな魔法の理論講義にうってつけで、実際に魔法を発動させた後に利用すればその場で改善点を指摘する事もできる。頭を使うのが得意なぼーやには向いているだろう。これ自体で魔法の扱いがうまくなるわけではないから今の活用法は学習効率を高めるといったところだな。この先ぼーやがどう利用するかは好きにすればいいさ》

単純に自分が楽だという事ですね。
ネギ少年にとってはある意味ただでさえ1時間が24時間の空間で更に時間を極大化させているようなものだから地獄の特訓にしか思えないのだが……。
まあ、習得できてしまえば通信はできないものの思考限定の擬似時間停止みたいなものになるから強力な武器になるのは間違いないか。

《分かりましたマスター!》

少年をだしに近衛門とお嬢さんの謎のバトルという裏事情があるが、純粋さが失われるのはもう少し先でいいと思う。

《ああ、ただこれを習得してもウルティマホラでは使うなよ。あの大会は同じ土俵で戦う事に意味があるからな》

《はい、そうですね。ズルしてるみたいで良くないですよね。あ、でもウルティマホラは13歳以上じゃないと駄目だって聞きました》

魔法球使ってる時点でズルいけどね!

《その辺りはなんとかなるから練習に専念しておけ。しかしぼーやが覚えている戦闘に使える魔法が魔法の射手、風花武装解除、風精召喚、眠りの霧、風花風塵乱舞、雷の暴風だけとはやはり魔法学校というのはあまり身を守る為の手段を考えていないな》

《僕が魔法学校で覚えたのは戦闘用の魔法は魔法の射手だけで、他の魔法は学校の書庫に潜り込んで覚えました》

《魔法の射手だけだと。それ以外は独学という事か……まあ私も独学だが、ここには収集した魔法書やスクロールもあるからぼーや向けのを選んでやるよ》

既に覚えてるからどうでもいいというのもあるのかもしれないが凄い太っ腹だな。

《わー、マスターありがとうございます!こっちに来る前に古代語の魔法も禁書庫に入って覚えようと思ってたけど時間が無かったんです!》

あっさり禁書指定の区域に入るつもりだったのか。
その辺りの常識が吹き飛んでる気がするが……。

《興味があるなら古代語の魔法も教えてやるよ。ただぼーやは基本魔法の適正が一番高い。そのため前人未到の領域に自力で辿りつけるかもしれんから面倒な古代語魔法はいらないかもしれんがな》

《えっ、マスター、基本魔法って戦闘で戦力として使えるんですか。そんなこと聞いたことないですよ》

《今のぼーやが知るのはまだまだ早い。この会話法を会得できればある程度掴めるかもしれん。頑張ることだ。そろそろ頭も辛いだろう。今日は術式の効率化と精神力の増加をやるからな》

《はい、大分痛い……です》

超鈴音でさえ痛みが治って慣れるのに大分時間がかかったから当分は筋肉痛でけでなく頭痛も追加される訳だ。
この後魔力が底を付くまで魔法の射手を打ち続け、その度に修正を受けるという地道な訓練が続いた。
しかし吸血鬼ではないから授業料として血を吸う訳でもなく、まさかただで教える訳ないだろうし何を要求するのだろうと思っていたらこれだ。

「ところでぼーやが私に払える魔法の授業料は何がある」

「僕がマスターに払う授業料ですか。……教師として貰えるお金ぐらいしかないですね……」

「ほう、でも金が無くなっては困ることもあるだろう。こうしよう、私がぼーやに魔法を教える代わり、私は何と言われようと学校を好きなときに休み早退もするというのはどうだ」

……仮にも教師に不登校を要求するとは。
まあお嬢さんに今更中学とか全く意味ないの分かってますけどね。
というかそんな金銭換算しにくいものを授業料にするなんてどう価値評価するんだろうか。

「ぼ、僕はマスターの担任です!しっかり学校には来てください、お願いします!」

「ぼーや、そんなに私に会いたいのか!それなら毎日ここに来ればいいだろう、何なら寂しい夜一緒に添い寝してやってもいいぞ」

「えっど、どどどうしてその事知ってるんですか!」

「ハハハハ、なんだ図星かぼーや、恥ずかしがらなくてもいいぞ」

……堂々巡りが始まったのだった。
なんとなく司書殿に発言が似てきている気がするが大丈夫だろうか……。
因みに神楽坂明日菜のベッドに潜り混んでいた件は、暇なときに超鈴音たちから聞いていたらしい。
プライバシーがどうとか私が言えた義理ではないのでどうでもいい。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

毎日ネギ坊主は早朝に武術の練習をしたり、学校が終われば長いだけの杖を持ってエヴァンジェリンの家に行き、授業中には頻繁に頭を押さえるものだからそろそろ、2-Aの皆が後を付けるのも時間の問題だろうナ。
正直我慢できそうにないあやかサンとなんだかんだ興味津々な明日菜サンが一番危ないネ。
仮契約なんてことはしないだろうから無駄にバレる事もないだろうがネギ坊主はボケボケしてるところがあるからナ。

9月も半ば、田中サンもT-ANK-α3までできたところで完成したヨ。
田中サンは秘密的にも面倒な魔力炉を入れる訳にはいかないから全部電気で動くネ。
充電は専用のポッドに立てば自動的に行われるようにしているから手間要らずだヨ。
早速女子寮に持ていて配備するネ!

「まず今回は始めてだから15体配備するヨ!」

工学部のお兄さん達は女子寮に来れただけで喜んでるからとても助かるネ。
コンテナから続々起動して降りてくるのはまさに映画のようだナ。

「ブッ、超!なんだよその怖いロボットは!」

おお、今お帰りのちうサンじゃないか。

「千雨サン、怖く無いと意味ないだろう。これは最近女子寮をうろつく不埒な輩を撃退するためのものなのだから可愛かたら逆に持ていかれてしまうネ」

「別に可愛くしろなんて言ってねーよ!ここに住んでる奴らが怖がるだろ!」

「そうでもないようだヨ。あちらを見ると良いネ」


「何このロボット、映画みたーい。何、寮守ってくれるの。頑張ってねー」

「ねーあのロボット話せるの?」

「うん、警備頑張りますとか言ってたわよ」

「男子中等部の奴らより絶対頼りになるね」


隊列を組んでザッザッザと歩いていく田中サンは壮観だナ。

「千雨サン、感想貰えるか」

「なんで私が悪いみたいになるんだよ……」

「元気だすネ。銀行の口座見たらそんなの吹き飛ぶ筈ヨ!」

「ってそうだ!脅迫じみてたからやった仕事だったがなんだよあの謝礼は!0の桁が多すぎだろ!なんでサラリーマンの平均年収超えてんだ!怖くて銀行から下ろせなくなっただろ!」

「まあまあ落ち着くネ。ハッキリ言てあのプログラムを破れる人類は麻帆良にはいないから当然の対価だヨ。ちゃんと源泉徴収もしてあるからそのうち紙が届くし安心するネ」

「そういう処理の事を言ってるんじゃねーよ!最初は表示のエラーかと思ったのに銀行員に聞いたら正規の手続はされてるだとかそういうのを求めてるんじゃないんだよ!」

「ほら、カルシウム入りの肉まんを用意してあるから食べるといいネ」

「お前はネコ型ロボットか!」

いつの間にかクウネルサンの癖が感染してる気がするナ……。
因みに千雨サンの作たプログラムに少し手を加えた物はギリギリオーバーテクノジーでは無いから外部に出しても問題ないので雪広グループに試算してもらたのだがまたおかしな額になてね、パソコンのOSを作てる小さなソフト会社の日本支部に持ち込んで提供する方向で決またヨ。
千雨サンの謝礼に大分払たように思うかもしれないが、微々たるものネ。
交渉条件に超包子の支店をアメリカのワシントン州に出す便宜を雪広グループと共同でしてくれる事になたがそんな事お安い御用という感じだたネ。
フフ、アメリカのファストフード業界を甘く見るなというつもりなのだろうが、こちらは安い、美味いを完璧に実現しているから勝機はあるネ。
雪広グループも世界的に広がているが、本拠地は日本だしあまり一つに肩入れしすぎると危ないからナ。
こんな所で足踏みするようでは世界を肉まんで征服なんてできはしないヨ!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

一方並行してウルティマホラの準備を進めてもいるネ。

「龍宮サン、神社の娘サンとして交渉したい事があるのだがいいカ」

「超か、巫女のバイトでもやりたいのか」

生憎これ以上属性を増やすつもりはないヨ。

「ウルティマホラの開催期間を3日に伸ばそうと思ていてネ。神社の使用料はこちらで負担するからその約束を取り付けたいと思てナ」

「誰の差金かは知らないがあの子の為に頑張るものだな」

「これは私の意思だヨ。来年形骸化したまほら武道会を学園祭でもう一度復活させるための予行演習のつもりネ。ネギ坊主に関係がないというのは嘘になるけどネ」

「まほら武道会か。確かに私も親からその話は聞かされた事があるが今とは比べるまでもないらしいな。良いだろう、私も協力させてもらうとするよ。できるだけ報酬は弾んでくれると助かる」

「報酬に関しては確実に満足できる額を用意できるから期待して欲しいネ。協力感謝するヨ」

次は実行委員会だネ。
体育祭の実行委員会は麻帆良祭実行委員会の一部組織と中・高・大の大規模な運動系の部活に有力な格闘団体の上層部を加えて構成されているからどちらかというと血の気が多いのが問題だが、深く考えない人達だからいつもより良い条件でウルティマホラができると言えば分かてくれるはずネ。
まあ古の名前でも出せばなんとかなるヨ。

「中国武術研究会の超鈴音だがお邪魔するネ。今日は話があて来たヨ」

「おう!古菲と一緒の嬢ちゃんじゃねぇか。最近テレビで名前も出てたが話って何だ。俺たちには科学とかそういうのはわかんねぇぞ」

「別に科学の話をするつもりは無いヨ。ウルティマホラを3日間にする交渉をしに来たネ」

「み、3日間だと!?どうやってそんなスケジュール合わせるんだ。龍宮神社を借りる費用も審判員を用意するのも一日ならなんとかできるがよ」

「落ち着いて話を聞いて欲しいネ。まずはこの肉まんでも皆で食べるといいヨ」

「おお、嬢ちゃんとこの超包子の肉まんじゃねぇか。しかし相変わらずうめぇな」

これだけ豪快に食べてもらえれば肉まんも本望だナ。

「龍宮神社を借りる費用に関しては私のクラスに神社の娘サンがいるから話を付けてもらうことにしたから解決するヨ。審判員については三日に分けることで人数を少なく済ませられるようになるから大丈夫ネ。スケジュール管理は麻帆良祭のエキスパート達で協力するから任せて欲しいネ。三日でやるから今まで一発で終わていた予選でも時間が取れるようになるし、本選を翌日にすれば疲れも取れるから悪くない提案だと思うがどうかナ。この際運の要素の強くなるトーナメントも予選ぐらいは総当り戦にしても良いのではないカ」

「流石超鈴音さんですね、今日は会議だと来てみれば今年の体育祭は少々大変ですがやりがいのあるものになりそうではないですか」

「麻帆良祭の実行委員長じゃねぇか。今この嬢ちゃんの話聞いてたが、俺たちはこれができるっていうなら賛成だぜ」

「委員長サン、お邪魔してるネ。賛成してくれるようだが良いのカ」

「我々としても麻帆良祭はあれだけ盛り上がるのが外部の人間も来るからとはいえ、体育祭だって盛り上げたいと思うのは道理です」

「ふむ、賛成してくれると期待していたがこうも歓迎されるとは助かるネ。一つ、3日間とは言たが初日に小学生の部を開催したいと思てるのだが了承して貰えないかナ。そこで決定した上位三人はウルティマホラの中学生の部にエントリーする権利を与えて欲しいネ」

「小学生の部?どうしてまたそんな事をしたいなんて言い出すんだ。大人の部に参加しても怪我するだけだろう」

「中国武術研究会に良く殴りこみを掛けてくる小学生がいてね、これがかなり強いんだヨ。特別ルールで入れるというのも不可能では無いと思うができるだけ正規の手続を踏みたくてネ。それに面倒なだけと思うかもしれないが、全寮制ではない初等部の親御さん達を呼びつつ各道場の宣伝をするいい機会にもなると思わないカ」

「本音はその小学生を出してあげたいという事で建前の方はついでですか。分かりやすくて良いですね。実際道場の宣伝になるのは間違いないと思いますよ、会長さんはどうですか」

「その小学生ってのはあれだろ、今年の冬頃に突然やってきてあちこちでやんちゃしてるコタローって奴の事か。俺たちは強い奴が参加してくれるんなら寧ろ盛り上がるから歓迎するぜ。伝説の三谷さんもいねぇし古菲に勝ちをストレートに譲らせるのも面白くねぇしな」

「会長サンも小太郎君の事を知てるのカ。どれだけこの短期間で目立つ事をやたんだろうなあの坊主は。まあどうやら賛成してくれるようだし後はスケジュールを詰めるだけだネ。委員長サン、スケジュール管理の最新ツールも用意してあるから協力するヨ」

「麻帆良最強頭脳というのは活躍の場を選ばない元気な女子中学生なんですね。いいでしょう、我々もやる気が出てきましたからね。今年は前年よりもウルティマホラだけでなく他の面でも改善を行っていきましょう」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

9月も末、朝倉さんの所属する報道部からの積極的な広報活動により今年の体育祭の大きな変更点が周知され、ウルティマホラが3日間で行われその初日は小学生の部が開催されるという事もあっという間に麻帆良に広まっていきました。
最初は3日間の体育祭にウルティマホラを完璧にはめる筈だったらしいのですが、麻帆良祭が前夜祭含めて4日間なら体育祭だって4日やってもいいだろうという事になり、最初の1日は通常の体育祭の競技をガンガン行い、2,3,4日目は中・高・大でスケジュールを組んでうまくウルティマホラを楽しめるように工夫したそうです。

ここ最近の鈴音さんは以前よりもハードな生活になっています。
なんといっても三万人以上を越える人数の学生がいる麻帆良学園の体育祭の競技のスケジュールを把握し、場所の移動距離や効率を考えて最適化する作業は、資料集めから始める必要があり大変で、たまに申請競技に漏れがあったりするなど大規模化した結果起きるアクシデント等も仕事量を増やしているそうです。
いつもの私達のように身内だけで済ませられるなら驚きの速度でそういった事務処理は終わるんですが、初の試みですし仕方ないですね。

因みに今年のウルティマホラは私は出場する予定はありません。
去年あっさり本選でやられたとはいえ、私が不健康で虚弱なイメージは既に吹き飛んでいま……まあ微妙な誤解を受けている事もあるのですがそういう訳です。

「相坂さん、あの、今日も超さんは出かけてるんですか」

「ネギ先生、鈴音さんに用ですか」

「ウルティマホラは年齢制限があると聞いていたのに急に今年規定が変更されて、その実行委員の名前に超さんが入っているのでお礼が言いたいんです。でも、休み時間中もすぐに何処かに連絡したり出て行ったりしてしまって言う機会が無くて」

《鈴音さん、ネギ先生がウルティマホラに出られるようにしてくれた事にお礼が言いたいそうです》

《ほう、ネギ坊主は礼儀正しいネ。今日はちゃんと寮に戻るからその時に時間を作るヨ》

帰ってこないで徹夜してる時もあるんですが、葉加瀬さんみたいですよね。

《ネギ先生にそう伝えておきますね》

「鈴音さん今日は寮に戻るそうなのでその時に直接言えば良いと思いますよ」

「ありがとうございます。後でお礼言いに行きますね」

「はい、また後で会いましょう、ネギ先生」

1ヶ月程度では粒子通信の反応に気付くことはできないみたいですね。
まあ反応を傍受されたという例も今のところないようですし考えても仕方がないかもしれませんが。
相変わらず頭痛を抱えているように見えるんですが鈴音さんも1ヶ月間粒子通信を続けた後完全に治るまでには更に1ヶ月弱要したのでそれぐらいは必要かもしれませんね。
頭痛のする状態でウルティマホラに臨むというのはハンデな気がしますがいずれは越えなければいけないですから頑張って欲しいですね。
小太郎君も小学生の部でウルティマホラ、3位以内に入れば大人の部で出場が出来る事が分かってから修行により身を入れているみたいで、帰りがけに超包子に寄って今日は何をしたとか肉まんを食べながら詳しく教えてくれます。
一回ぽろっと「ネギと一緒にネギの先生のとこいったら、その姉ちゃん俺が住んどるとこで凄い有名やけどめっちゃおっかなかったわ!」等と言っていたのですが、後で確認したところエヴァンジェリンさんの別荘に小太郎君も招かれたそうです。
動機はぼーやの相手としては好都合だからという事らしいです。
当然その際ネギ先生が魔法使いの試験で麻帆良に来て教師をしている事、小太郎君も呪術協会所属というのがお互い分かり更に仲良くなったそうです。
それにしてもやっぱりエヴァンジェリンさんは呪術協会で有名なんですね。
あの春から長く続いた日本文化ブームは凄かったのがよく分かります。
そういう理由もあって裏の人が誰も干渉しないのかもしれません。

古さんが二人の成長速度が前よりも更に反則気味に早いと言い始めていて、エヴァンジェリンさんの家に潜入しそうな人物がまた一人追加されました。
魔法球を使えば一時間入れば一日が二日になるので当然修行量も増えるので仕方ないですね。
心配なのは小学生の部でのウルティマホラで二人にケガをさせられる小学生が増えるのではないかという事なのですが、小学生の部では気と魔力を纏わないという事で取り決めしたらしいです。
決勝戦で二人が戦う場合はもちろん使用OKだそうです。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

魔分溜りから疲労回復を促す術式を発動させるという事で超鈴音の魔法球で人体実験が行われている。

「翆坊主、これはなかなか素晴らしい実験だヨ。普通なら絶対に捕まるからネ」

何をしているかというとダメージを与えたヒューマノイドインターフェイスに怪我、疲労度その他諸々身体の調子を計測する機器をとりつけて術式の成果を見るというものなのだが……

「いくら私が痛みであるとかそういったものを全て遮断できるからといってこれほど外道な実験ができるのは精霊のお友達である超鈴音の特権みたいなものですね」

「多少の非人道的な行為も科学の発展の為にはやむなしだヨ」

魔法の発展だがな。

「まあこのまま行くと全く使い道のない数十体の素体にも日の目を見る瞬間がやってきた訳ですが、もし独立した思考を持っていたら、こんな事するために生まれたわけじゃない!って言うと思いますよ」

-魔法の射手 光の1矢!!-

ドゴッ!

「いや~うまく魔分で身体強化してくれて丁度いい怪我の具合を再現できて便利だヨ。宝の持ち腐れがこうして有効利用できて良かたナ、翆坊主」

もしもの精神論なんて聞いてないあたり流石マッドサイエンティスト。

「まあ私が魔分溜りを利用すればと言い出したことですし、何処かで本当にこんな実験やられるぐらいなら私がその対象で良いですよ。しかしポートを繋いでおいてこんな利用法があるとは盲点でした。今まで木から直接現れるというなんとも不気味な事をしていましたが魔法球に転送できるなら問題ないです」

「もうこの魔法球は世界で一番機密情報が一杯だナ」

「本当に誰かに入られたら終わりですよ」

「そこは抜かりないから安心するネ」

「こんないつの間に科学で寮の部屋の一部を広げるなんて事したんですか。下手すると迷子になりますよ」

そう、下手に一般人が入っても正しい足の踏み出し方を知らないと魔法球に辿り着けず、しばらく迷子になった後弾き出されるという空間が形成されているのだ。

「まさに無限回廊という奴だヨ。学校の怪談ではなく寮室の怪談だナ。次はアキレス健行くよヨ」

-魔法の射手 光の2矢!!-

ダンッ!

「寮の部屋が三年間同じで良かったですね」

「本当に生活には殆ど困らない都市だヨ」

「あら、ネギ少年が部屋の前に来るようですね」

「ああ、ウルティマホラ出場のお礼とか言ていたナ。律儀な事だヨ。少し出てくるがまだまだ実験する部位があるから素体の準備頼むネ」

本当に使い道がおかしい気がするが、安置所にゴロゴロさせとくよりはマシだと思っておこう。

-ピンポーン-

「おお、ネギ坊主何の用かナ。肉まん食べたいならあるヨ」

「こんばんは超さん、今日はウルティマホラに僕とコタロー君が出れるように動いてくれた事にお礼を言いに来たんです」

「ふむ、私がネギ坊主達の為に動いたというのは理由の一つなんだが礼儀正しいのは良い事だネ」

「超さん、ありがとうございます!僕教師も頑張りますけどウルティマホラもコタロー君と頑張ります!小学生の部の応援是非来てくれると嬉しいです」

「どういたしまして。ネギ坊主は先生だがウルティマホラに出場する時はスーパー小学生として頑張るといいヨ。2-Aが応援に行けるようにスケジュールを組んであるから見に行かせて貰うヨ。これはネタバレだが、小学生の部のトーナメントは東と西に小太郎君とネギ坊主が分かれるように細工しておくから頂上決戦でもするといいネ」

「ほ、本当ですか!何から何までありがとうございます!」

「小太郎君にメールするといいヨ。ほら、今日の餞別の肉まん部屋に持て帰て明日菜サン達と食べるといいネ」

「はい、頂きます!ではまた明日学校でお会いしましょう!」

「また明日なネギ坊主」



「しかしネギ少年は生き生きとしていますね」

「翆坊主や学園長がある程度お膳立てしているのもあるが、ああいうのも悪くはないと思うヨ。いきなり戦場の中に放り出されるのと比べるまでもないからネ」

「さて、その戦場の際の治療技術の発展の為にも実験を続けるとしましょうか」

「しかしやはりこうして素体を沢山置かれると不気味だナ」

「本当に傷ついたら木の中に戻せば修復できますし、遠慮しなくて大丈夫ですよ」

「この作業私もアーティファクトの効果で精神力を強化できていなかたら少し大変だたネ」

「役に立てているようで光栄です」



[21907] 17話 新生体育祭1日目
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/13 20:11
10月に入り、いよいよ体育祭も後一週間程で始まるかという頃とうとう痺れを切らした2-Aの女子中学生達がエヴァンジェリン邸に潜入を開始するという事態になった。
発端は古菲の「あそこに行けばなんか強くなれそーアル」というごく単純な物であったがそれをきっかけにして雪広あやか、神楽坂明日菜、それを「やめといたほうがええよ」等と言いながらついていく気が満々の孫娘、大分離れた地点にその護衛が後をつけるという尾行に尾行が付くという状況ができた。
因みに朝倉和美はヤバすぎるのでサヨが不自然な流れ満載ながら「朝倉さん!体育祭の広報で超包子の宣伝を掲載して欲しいんです!」とある程度意味ある動機で何処かへ連れ去っていった。
他の面々は運動部系に関しては大会なども近いので先の一人を除いて参加する事はなかった。

そして、ネギ少年と小太郎君が家に入った後、茶々丸姉さんが買い物に行くのを見計らって四人が無断で家に入ろうとしたところ、突然突風が吹いたと思えば孫娘は護衛に何処かに連れ去られたのだった。
脱落者1名。
詠春殿の意思を尊重して妨害したのは彼の部下として良くやったと評価したい。
連れ去る瞬間に対象を眠らせる陰陽術を放ったのは良い仕事であるが、露骨に悲しそうな顔と嬉しそうな顔を繰り返すのはどうかと思う。
孫娘の魔法バレは呪術協会支部があるため防ぐのは当然の流れであり、もし護衛が動かなくても誰かしらが処理したのは間違いないが。

孫娘がいなくなった残りの3人は

「このかさん気がついたらいませんけどどうされたのかしら」

「このかならやめたほうが良いって言ってたから帰ったんじゃないかな」

もう少し不自然だと思おうか、と言いたい。

因みにチャチャゼロはどうしたのかというと魔法球の中で暴れているので家の中はもぬけのからとなっている。
何故姉さんと呼んでいないのかと言われても、あんな身の危険を感じる相手に姉さんだなんて呼ぶのは流石にありえない。

「ネギ坊主とコタローが入ったのにいないアルな」

「ま、まさかエヴァンジェリンさんがネギ先生と隠れてとんでもないことをしているかもしれませんわ!」

「落ち着きなさいよ、いいんちょ。ちゃんと探せばいるわよ」

不法侵入と家探しとは恐れいった。
雪広あやかがこんな事をするのは仮にも財閥の令嬢としておかしい気がしないでもないが既に目がおかしいのでどうしようもない。

ネギ少年達が魔法球に入ってから10分程経過してから3人はとうとう念願の魔法球を発見した。
加速空間内での進行時間は既に4時間である。

「何アルかこの水晶玉みたいなものは」

「中身の造形がとても細かいですわね。一体どうなっているのかしら。ってあら!」

「いいんちょいきなり消えてどこ行ったのよ!」

「いいんちょが消えたアル。きっとこの水晶玉に何かアルよ。アスナも調べるよ」

まさかの雪広あやかが2-Aで魔法球に一番乗りである。

「な、ななな、何ですのこれは!手すりもないこんな場所に出てくるだなんて。アスナさん達もいませんし……。はっここにネギ先生の匂いがしますわ!」

どういうセンサー。
もう本来最初にバレる相手すら異なるとはなんということなのか……。
最高にテンションの上がった状態で手すりの無い渡りを走り、ネギ少年達が修行している屋上に突撃していった。

遅れて魔法球に古菲と神楽坂明日菜が突入したのは魔法球内時間でおよそ10分後、現実時間で大体30秒という所である。

「ネ、ネギ先生それにエヴァンジェリンさんここで一体何を!何ですかその光っているのは!」

「あ、あやかさん!」

「なんでここにあやか姉ちゃんがおるんや」

「ケケケ、侵入者ダゼ御主人。殺ッチマッテイイノカ」

「やめろチャチャゼロ、あれはただの迷子だ。一体茶々丸は……そうか買い物に行っていたか。委員長、1人で来たのか」

「い、いえ私とアスナさん、くーふぇさんで来ましたわ」

「いつかついてくるかとは思っていたがなんだその人選は……。それで委員長はどうしたいんだ。悪いがここに一度入ると出るのに丸1日かかるぞ」

「あぁ……一体どうなっているんでしょう。ま、まずはネギ先生とコタローさんと一緒に何をしていたのか聞いてもよろしいですか」

「ぼーや達、もう4時間以上経っているから一度休憩していいぞ。今日はもう組み手だけだな。私はぼーや達がウルティマホラで頑張れるように教育しているんだよ」

「隠れて個人指導だなんて、私もやらせて頂きますわ!」

「おいぼーや達、委員長に普通の組み手でも見せてやれ」

実演したら付いていけない領域なのがわかるだろうな……。
お嬢さんの合気柔術も達人レベルだから雪広あやかにできる事というのはあまりない。

「な……なんですかこの動きは!?」

「見ての通り委員長では付いていくのがやっとという状態だろう。出来る事と言ったらぼーや達のけがの手当ぐらいか」

「それなら私が是非やらせて頂きます!」

「そうか。委員長に二人は頼むとしよう。ぼーやは休憩しながら授業だからな」

「はい!マスター!」

「あやか姉ちゃん入ってこんならもっと修行できた言うのに。まあええわ。喉渇いたし」

「委員長、先に言っておくがさっき見たという光について他人に言ったらぼーやはイギリスに帰る事になるかもしれんから気をつけるんだな」

「それはどういうことですか?」

「そういう暗黙の決まりがあるんだよ。ぼーやがここで先生をしているのもその一環だ」

「分かりましたわ。お父様が隠しているのと同じような事ですわね」

「まあ入ってきたのが物分りの良い委員長で良かったよ。チャチャゼロ、後数分で入ってくる迷子が人いるから武器を置いて奥に案内してやれ」

「タダノ迷子ハツマンネェナ」

それから数分して、現実で数十秒だが、観測するのがややこしい、残り二名が到着である。

「ヤット来タナ。迷子二人到着ダナ。付イテ来イヨ」

「え、ちょっとあんた誰よ」

「小さい人形がしゃべってるアル」

「説明スルノハ面倒ダ。付イテ来ナイト置イテクゼ」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「うーん、まだ慣れないなぁ……」

「個人差があるから慣れるまで頑張るんだな」

「ネギ先生の頭が痛そうなのはエヴァンジェリンさんのせいなんですか!」

「頭が痛くなるのは副作用にすぎんよ。それを越えるだけの授業はしてるつもりだからな」

「あやかさん、心配しなくて大丈夫です。まだ時間はかかるかもしれませんがそのうち痛くなくなります」

「授業と言ってもさっきから殆ど時間は経っていませんわよ」

「あやか姉ちゃん、それは俺も良く分からんから気にすんなや」

「コタローさんには聞いてません」

「なんやてー!」

「暴れるなら外でやってくれ……」

「ケケケ、御主人迷子ヲ連レテ来タゼ」

「神楽坂明日菜に古菲か。よくも他人の家に勝手に上がり込んだものだな」

「そ、それはごめんなさい」

「ごめんなさいアル」

「お前たちここに入って来たからには後丸1日経たないと出られんからな」

「ちょっとそれどういうこと。1日経ったら明日学校サボる事になっちゃうじゃない」

「アスナ姉ちゃん、ここは外での1時間が1日になっとるから大丈夫や」

「それは先程私も聞かされましたがネギ先生が数時間でいつも寮に戻られますから多分正しいと思いますわ」

「そういう事だ。まあここで1日ゆっくりしていくんだな。丁度古菲もいるからぼーやと小太郎の相手でもしてれば良いだろう」

「ここの1日が外での1時間アルか。最近坊主達の成長が早いのはそれが理由だたアルか」

「マスター、なんで僕はぼーやなのにコタロー君は名前で呼ぶんですか」

「ぼーやはまだまだぼーやだからだ。小太郎は私がぼーやの相手の為に呼んだからな。それだけだよ」

「俺はエヴァンジェリンの姉ちゃんに弟子入りしとる訳やないって事やな」

「分かりました。1人前になれるように頑張ります!」

「ちょっとネギ、1時間が1日っていうのも信じられないけどマスターとか弟子って何よ」

「僕がエヴァンジェリンさんに弟子入りしているのでマスターと呼んでいるんです」

「何の弟子なのよ……」

「当面はウルティマホラに向けての教師というところだな。もう一度説明するのは面倒だな。委員長説明頼んだ」

「分かりましたわ。アスナさん、ここはエヴァンジェリンさんの家なんですからもう少し落ち着きなさい」

その後、深入りするとネギ少年が面倒な事になるという事が簡単に説明された。

「要するにここの事を他人に話したりするとネギがイギリスに帰らないといけなくなるから言うなって言いたいのね」

「言いふらしても構わんが、その時は神楽坂明日菜の良心がその程度だったという事だ」

「分かったわよ!ここの事言わなきゃいいんでしょ。それぐらいできるわよ」

「私も口固いから安心するアルね」

「嘘言うなや、くー姉ちゃん口軽すぎるから心配やわ」

「私嘘つかないアル!そこまで言うならコタロ勝負するアルよ」

「おお、ええで!ここならいつもと違うてぎょうさん修行できるからな」

「……お前たちやるなら下の砂浜でやってこい。近くでやられたらうるさくて休憩にならないからな」

「分かったで。くー姉ちゃん付いてきいや!」

「修行付けてやるアルね!」

バタバタと螺旋階段を降りていくが元気な事だ。

「行ったか……。ぼーやはそうだな、この本でも読んでると良い」

「何それ英語の本?」

「アスナさん、これはラテン語の本です」

「あんた英語と日本語も話せるのにそんな本まで読めるの……」

「アスナさんはもう少し勉強をした方がよろしくてよ」

「うるさいわよいいんちょ!」

「なんですって、本当の事を言っただけでしょう!」

「お前たちも外に出てるか」

「「失礼しました……」」

と、こうして魔法球はバレたものの魔法自体がバレる事はありそうでなかったそうな。
ただ、テスト前に神楽坂明日菜がここを使いたいと言い出して却下されていたのは当然である。
使わせてくれなければここの事バラすわよ等と一瞬のたまったが、白い目で見られて小さくなっていた。
古菲はウルティマホラまで魔法球を使うことを許されたようで、後1週間程は魔法の訓練は一旦停止して武術に専念するようである。
ネギ少年の扱う武術であるが、中国武術が主でありながらも、合気柔術が混ざったりと、まあよくうまく組み合わせられるものだと思う。
因みにネギ少年がウルティマホラで着る道着は雪広あやかが用意する事が勝手に決まった。
小太郎君は学ランが戦闘服だそうでそこは譲れないらしい。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

さて、インターフェイスで実験を重ねてデータを得た魔分溜りを利用した疲労回復魔法の研究であったが、結局疲労どころか外傷、火傷、打撲など色々試してウルティマホラで怪しまれない程度の出力を出すことを可能にする術式の調整が完了した。
また、この研究で魔力溜りから魔分を引き出す方法に関してもある程度の見地が得られたようで、火星と魔法世界の同調の際に役立つらしい。

超鈴音と葉加瀬聡美が配備した田中さん軍団であるが、夜中にずっと警備を行っている事もあって表の人間がのこのこ近づいてくる事は殆どなくなった。
その事実を知らない侵入者が無謀にも潜入しようとしたところまさに命を賭けた鬼ごっこのようなものが展開され1人が必死に逃げ惑うのを、5人の目が赤く発光する田中さんが両腕をギュンギュン振って集団で追い回すのは不気味だった。
わざわざ全力で捕まえずに恐怖心を与えてからトドメを刺すあたりどういったプログラムにしているのか疑問であるが、下手人は当然お縄にかかってさようならである。
正体はどこかに属している訳でもない単独で情報を盗んで売るタイプのスパイだったそうだ。

実は田中さんは警備だけをプログラムされているのではなく、寮の食堂に届く食材を運んだり、重いものを持ち帰ってきた場合に頼めば部屋まで運んでくれたりととても紳士的なロボットであった。
流石に茶々丸姉さんのように猫に餌をやったりするような人間性は備えていないが。
その為、噂が他の寮にも広がりうちにも欲しいと工学部に依頼が入るようになり田中さん程怖くない鈴木さんシリーズや佐藤さんシリーズも作るかどうかと超鈴音と葉加瀬聡美はマッド化しているようだ。
当然鈴木さんにしろ佐藤さんにしろ仮名であるが間違いなく正式名称になると思われる。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

そしてようやく10月11日、初の4日間の体育祭の始まりです。
要項が発表された時に皆で驚いたのですが、種目が増えていました。
当然年齢制限や一定の要件などを満たしていないと出場できないのですが、水泳が室内プールが使用になり解禁、麻帆良湖でのボート競技、絶対に一部の人しか出ないであろう重量挙げと砲丸投げ、三段跳び、棒高跳び等が追加になっているんです。
今までは体育祭というイメージで構成されていた筈なんですが、既にウルティマホラという格闘系競技がある為、どちらかというとオリンピックに近くなってきていて、「実行委員会やりすぎだろ……」と長谷川さんの嘆きが聞こえました。
ちゃっかり棒高跳びと三段跳びに出場が決定している楓さんは忍んで下さい。
そんな初日である今日は水陸系個人種目と個人、団体球技がメインの日となります。

「皆さん今日から四日間体育祭なので怪我をしたり体調を崩さないように気をつけてください。水分の摂取も欠かさないようにしましょう」

「ネギ先生もウルティマホラ頑張ってねー!」

「是非私達の応援にも来て下さい!」

と朝早くから元気なのですが残念ながらネギ先生は教師という事もあって、常に私達の応援に来られる訳ではないです。
でもウルティマホラの出場は学園長先生達の配慮があったようでそこは問題ないそうで良かったですね。
種目が多くなったからと言って沢山の種目に出れるようになったとは一概には言えないので、移動をテキパキしさえすればあちこちを見て回る事ができるようになっています。
何故か移動用に突然飛行しだす小型の建物があるのですがどうやら超鈴音さんと工学部の仕業のようです。
既成概念なんてものは打ち壊すべしと体育祭の面影を失いつつありますが、綱引きとかリレーとか騎馬戦やったりするのを応援するというイベントはしっかり3日目に残っているので安心しました。
2-Aは皆相変わらずです!
今年は短距離走は春日さん、長距離走を神楽坂さんが爆走。
体育祭らしさを残している二人三脚は今年は鳴滝姉妹が出ましたがさんぽ部で1年の間に鍛えられすぎて優勝。
その師匠の楓さんは先のちゃっかり申請してたでござる競技で人外の記録を弾きだしました。
大体助走をつけなくても異様な跳躍力で棒高跳すら棒を必要としないレベルなのはもうメダルが取れます。
新たに追加された競泳では早速大河内さんが惜しくも1位を逃し2位でしたがこういうのが普通だと思います。
話題になった砲丸投げを試しに皆で見に行ってみたんですが、流石に異色すぎてすぐに帰りたくなりました。
巨人のような身体の大さの人達がズラリと勢揃いしていて、どの辺が小学生も楽しめる体育祭になっているのか異議を申し立てたいと思います。

団体球技は午後に始まるので皆でお昼を食べに行く事になり、さて何処へ行くかという所でやはり超包子となりました。
今回超包子で私も古さんも茶々丸さんも五月さんも働かなくていいという事で聞いていました。
その理由は8号店までが体育祭に出店されているからであり、その従業員は学園祭でもお世話になった雪広グループのお姉さん達とお料理研究会の競技そっちのけの大学生さん達でした。
もう運動していつもよりお腹が空いた人が3万人以上なので売れに売れているのは間違いないです。
鈴音さんとしてはこの体育祭にかかった費用を回収しようという発想なのでしょうが順調に征服が進んでいます。
席は一切空きそうになかったので大量生産している肉まんを皆で大量に買って学園祭の後夜祭が行われる草原の広場で皆で食べる事になりました。
丁度午後から私が参加する団体球技のソフトボールの会場にもなっているので都合が良いです。
他にも参加できる球技はあったんですが、なんといってもズルをするとボールが投げられた瞬間に軌道を計算し思いっきり振り抜けばホームランが狙えそうなので一度やってみたかったんです。
まあソフトボールと言っても9回の裏までやることは無く30分の試合時間でその間に交代が行われるのは何度でも構わなく表に入ったら必ず裏には入るというルールになっています。
交代要員を入れて10人まで参加できるソフトボールですが2-Aからは私、綾瀬さん、神楽坂さん、茶々丸さん、近衛さん、早乙女さん、桜咲さん、長谷川さん、エヴァンジェリンさん、宮崎さん、という図書館探険部のメンバーの占める割合が多い構成です。
多分長谷川さんとエヴァンジェリンさんが参加してる動機は他の球技に比べると楽そうだったからと言い出しそうなのであまり深く考えないことにします。
長谷川さんはこのメンバーで忍者と中国人がいなくて良かった……と安心していますが私と神楽坂さん、茶々丸さんあたりは自重しない筈なので2-Aで安心できる場所なんてありませんよ。
確かに楓さんがいると打ち上げられたボールを空中に飛び上がってキャッチしそうなので相手側がげんなりしないのは良いかも知れません。

「2-A対2-Jの試合を始めます両クラス共に礼!」

「「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」」

さあ記念すべき初戦の開幕です。

「みんなー後攻になったわ。エヴァンジェリンさんピッチャーお願いね」

神楽坂さんが一応キャプテンとなっていて、このメンバーだと正しい人選だと思います。

「ああ分かった。茶々丸はキャッチャーを頼む」

「はい、マスター」

エヴァンジェリンさんの顔は涼しげですがどうやら全力で投げるようです。
因みに女子中学生の試合でありながらウインドミル投法が認められています。

ブンッ! バンッ!

「マスター、良い球です。この調子でどうぞ」

バシッっていう音なら分かるんですけどミットに入った音どう聞いても銃弾ですよね……。
完全にバッターの子が怯えてるのであっさり三振です。

ブンッ! パァンッ!

9回投げたらチェンジです。

「エヴァンジェリンさん凄ーい!初回から三者凡退なんて絶好調じゃない!」

「こんなものだとあっけないな。次は神楽坂明日菜が投げたらどうだ」

「よーし次は私に任せて、このかキャッチャーやってくれる?」

「ええよ、アスナ」

長谷川さんの身体が震えていますがまた例の異常を見ると寒気がするという奴でしょうか。

「長谷川さん、大丈夫ですよ。落ち着いてください」

「心配しないで大丈夫です、相坂さん」

鈴音さんから聞いているのとはやはり態度が違いますが、学校では大人しくしているんですよね……。

「相坂さん一番バッターよ!」

「はい!分かりました!」

やってきました、打順は出席番号順という芸の無い並びですが最初にランニングホームランで決めます!

相手のピッチャーが投げた!

《軌道計算開始、到達座標計算完了》

振り抜くッ

ドゴッ

え、今凄い変な音が……。
まあ……いいです。
凄く良く飛んだのが確認できたので後は走り抜くだけです!

皆歓声を上げて喜んでます!

1塁…2塁…3塁…振り返ってみても全然余裕ですね。ホーム!

「ランニングホームラン達成です!」

一度やってみたかったんですよね。

「相坂さんも凄いんやね!」

「凄いです相坂さん」

「もう一点目が入るなんてこの試合勝ったわ!」

「ありがとうございます。皆も頑張って下さい!」

《相坂さよ、少しやりすぎじゃないか》

《あはは……エヴァンジェリンさんもピッチャーやりすぎだと思いますよ》

《というか一度やってみたかったというのは分かりますけど無駄に木の演算機能使うのはどうかと思いますよ》

《さよ、何したか大体分かるがズルは良くないネ》

《分かってますよ。キノの言うとおり一度やってみたかっただけですから、次からは普通にやるので安心してください》

《私もピッチャーで少し本気を出したらこれだからな、神楽坂明日菜に譲ったよ》

《エヴァンジェリンお嬢さん、それは多分大して結果変わらないと思いますよ》

私もそこは間違いないと思います。

その後は綾瀬さんが打ち上げてしまいアウト。
それでも長谷川さんまで回って交代となりましたが、何の戦略性もないのに4点普通に取れたあたりやはり2-Aはズバ抜けています。

2回目の表は予想通り神楽坂さんが豪速球を投げ三振を連発で交代、大量得点の繰り返しで圧勝でした。

順調に準決勝にまで進出し試合も終わりという時

「エヴァ!ピッチャー頑張って!」

「エヴァちゃん相変わらず可愛い!」

と、信じられないぐらい親しい呼び方をする集団が現れどんな人達かと思ったら超包子で働いている社員さんの一部と知らないお姉さんの集まりでした。
私はサードを担当していてエヴァンジェリンさんの顔が見えたんですが、凄く嬉しそうな顔をしていて驚きました。
あっという間に6回投げて人をアウトにして試合終了でした。

「応援来てくれてありがとう。この前美幸達に会ったのは学園祭振りだな」

「エヴァの勇姿が見れるならどこにでも現れるに決まってるじゃない」

「ちゃんと録画してるからね後で家に送るから」

「ねぇ、久しぶりに抱きついても良い?」

「ああいいぞ、学園祭の時は着物が崩れるといけなかったからな」

「それでは失礼して……う~ん、この感触はやっぱり忘れられないな」

「それにしても雪広グループに就職していたと聞いてたが何故超包子で働いてるんだ」

「それはね……超ちゃんっていう子が本社に大分前来てそこから超包子のブランド化を進めたいっていう計画を頼まれて私達がそれに参加することになったのよ」

鈴音さん、世界は狭いですね。
どうやらエヴァンジェリンさんと12年近く同期だった人達のようです。

「超鈴音か、今私と同じクラスだよ」

「えーそれ本当なの!世の中意外と狭いもんね」

「超ちゃんはソフトボールじゃないのね」

「確かバスケットボールだったと思う」

「まあいいわ。優勝したら皆でまた記念写真取ろうね」

「まだ優勝と決まった訳ではないぞ」

「さっきエヴァの2-Aのスコア確認したけど圧倒的なんだから優勝確実でしょ」

「……それもそうだな」

「皆さん!応援来ましたよ!」

あ……これは火に油を注ぐ事態になります。
ネギ先生が炎上ですよ!!

「キャー!エヴァちゃんこの男の子誰なの!弟!?」

「わっ、す、すいません放して下さい!」

私達が反応する前に高速でネギ先生を確保したお姉さん達恐るべし。

「弟じゃなくてそのぼーやは2-Aの担任だよ」

「じゃあこの子が噂の子供先生なのね!」

「超ちゃんから聞いてたけど相変わらず変な学校よね。子どもでも先生できるんだから」

鈴音さん、超包子企画部でどんな会話してるんですか。

「あら、暴れちゃだめよ坊や」

「お、降ろしてください!」

ネギ先生、助けられなくてごめんなさい。

「あれ、そっちにいるのさよちゃんじゃない」

やっと私に気づいたみたいですね。

「こんにちは、西川さん超包子で今日は私達働けなくてすいません」

「体育祭なんだから中学生はしっかり運動してればいいのよ。私達も今日だけで随分稼いだから仕事として当然ね」

「ありがとうございます。それでそろそろネギ先生を降ろして上げた方がいいと思いますよ。周りの人達も皆見てるみたいですし」

「あらそうね。美幸、ネギ君降ろして上げなよ。ほら、恥ずかしがってるから」

「えーいいじゃない別に。次いつ会えるか分からないのよ」

「美幸ばっかりずるいぞ、ほれ、こっちにも回しなさいな」

流石にこの状況には神楽坂さんも唖然として手出しできないとは思わぬ強敵がいたものです。
早乙女さんの目が怪しく光ってるんですが何か創作のインスピレーションでも湧いたのでしょうか。
長谷川さんが凄く嫌そうな顔でその早乙女さん見てますけど……。
宮崎さんが顔を赤くしてますがそういえばネギ先生が好きみたいですね。

この後この賑やかな空間が収拾したのは次の試合が始まるから移動して欲しいと係の人達から言われてからでした。
決勝戦もネギ先生はお姉さん達にガッチリ捕まえられた状態で応援してくれることになり、私達もなんとなく恥ずかしくなったので本気で相手チームと試合してしまい凄くスカッとする圧勝っぷりでした。
生きてるっていうのはこういう時を右手を握り締めて実感できる瞬間だと思います。
お姉さん達の言うとおり優勝したので皆で写真を撮り続け、ネギ先生がエヴァンジェリンさんをマスターなんて呼ぶものだからまた炎上したりして大変でしたが楽しかったですね。
すぐ後に鈴音さん達のバスケットボールのグループも到着して去年より1日早いですが打ち上げを超包子を貸切でやりました。
どうやらバスケットボールの方も圧勝だったみたいです。
クラスの31人に更にネギ先生、お姉さん達を合わせて50人近くなりましたが何処からともなく朝倉さんが本格的カメラを用意して皆で写真をもう一度撮りました。
最初は体育祭の面影が失せつつありどうかと思いましたがとても良い1日目の体育祭になったと思います。



[21907] 18話 ウルティマホラ
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/23 18:49
昨日の一日早い打ち上げには雪広の社員サン達も加わったがエヴァンジェリンの同期のお姉サン達だという所までは知らなかたネ。
流石にあの場で商売の話をあまりするのは良くないから一日の売上だけ聞いておいたが、いつもの激安価格設定で1000万に達したのだから上々だナ。
恐らく四日で4000万越えにはなると思うが原価が結構占めてるから今回あちこちに支払った費用を少し回収できた程度に過ぎないネ。
まあ肉まんは世界征服の手段の一つと考えれば超包子自体で赤字にならなければそれでいいヨ。

「実行委員長サン、初日の運営と反応はどうただかナ」

「今まで使えなかった施設を開放して種目数が増えて人を分散させる事ができましたし、あの飛行機能付きの建物のお陰で端から端までの緊急輸送も助かりました。反応としては体育祭らしさがなくなったという声と大学の部活系からはマイナー競技も申請許可に感謝しているという声が来ていますね。前者については三日目で解決しますからおおむねこの一ヶ月苦労した結果が実ったと思います」

「急な変化には反発する声もあて当然ネ。私自信も昨日は体育祭を楽しめたし良かたヨ。今日はいよいよウルティマホラ小学生の部だが仕込みの方は要望通りしてもらえたかナ」

「噂の子供先生と会長さんすら知っているという小学生の東と西への配置、大人の部出場の場合の予選参加グループの分散ですね。心配しないで大丈夫です、超さんと古さんとその二人はバラバラですから当たるとするなら本選になります。またその本選すらも今回は東西南北の四つになっていますから抜かりはありません」

「職権乱用の気がするが感謝するヨ。予選よりもやはり本選というちゃんとした舞台でのほうが緊張感が出るからネ。古もあの子達もそういう場所の方が本気が出せるヨ」

結局中・高・大それぞれで枠を決める事は決定したが、前年までと同じくそれぞれを更に4つのグループに分割して枠を争うというのは引き継いだから都合が良かたネ。
予選でも当たておきながら本選でもまた当たるというのは一度きりという稀少性が失われるからナ。
予選が総当り戦だから互いにどこまで白星を作れるかで競えそうだが結果は手加減でもしない限り中学生同士なら負けはしないカ。
本選の枠も東西南北で24づつに増やして去年のベスト8からベスト16まで決定させるから総試合数も67から107まで40試合も増やせたのは苦労の賜物だネ。

「これだけ費用を負担して貰いましたしそれぐらいお安い御用ですよ。こちらとしてもその方がウルティマホラが盛り上がりますしね。トトカルチョも我々が全て一括管理させてもらうというのも運営資金の足しになりますから十分な対価も得られますから」

「毎年勝手なトトカルチョを開く人達がいるぐらいだから正式に電光掲示板で一括管理した方が観客側でのいざこざも減るだろうからナ」

「血の気が多いのはいつもの事ですね。下手な人達がトトカルチョを行なおうとすると例年金銭トラブルになりますからね」

「この交渉を生活指導委員会と行た時は負担が減るから助かると言われた時は拍子抜けだたネ」

「トトカルチョがどこでも行われる風潮はもう麻帆良では今更ですからね」

「うむ、ところで疲労回復施設を龍宮神社の南門の場所に設置させてもらたが説明は行き届いているかナ」

「また不思議な装置ですねあれは。あの場所にいるだけで疲れが取れたり身体の痛みが引くというのは驚きましたよ。お陰でここ連日の肩こりやら寝不足が解消されて助かりました。選手の誘導のパターンは完璧ですから任せてください」

一応それらしい機器を置いてあるが実際には全く意味が無いのだけどネ。
魔分溜りを使用するという事については予め学園長に伝えておいたから私がまた魔法先生達から不審な目で見られたりということはそこまで無いとは思うが、一部の頑固な人達は仕方ないナ。

「それを聞いて安心したネ。私は純粋にウルティマホラを楽しませてもらうとするヨ」

「今年は古菲さんとの勝算はいかがですか」

「古は去年よりも更に強くなているからナ。全力でぶつかり合えればそれでいいヨ。坊主達にはまだまだ負ける気は無いがネ」

「彼女に追いついていけるだけでも我々としては驚きですよ」

「そろそろ今日のメインが始まるし私は行かせてもらうネ。朝のホームルームも昨日も今日も出ていないからナ」

「実行委員会に名を連ねているのですからホームルームに出ない事ぐらい当然でしょう」

「まさに役得だネ」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「楓姉、そろそろネギ先生達の小学生の部始まるよね」

「そうでござるな。さよ殿予定はどうなっているでござるかな」

「午後からですけどもう始まってますね。選手の保護者は客席に優先で入れるそうですけど小太郎君は楓さんが保護者になってるんですよね」

「よく知っているでござるな。山での修行の時に頼まれたのでござるよ。そういうネギ坊主は誰が保護者かな」

「いいんちょさんです。保護者制度が発表された瞬間に申請しに行ってましたからね。なんだかんだ神楽坂さんと争って獲得したらしいです」

神楽坂さんが姉として主張したところそれなら私は母親でも構いませんわ!と親権まで主張し始めたので神楽坂さんがこれは付いていけないという状況になり折れたんですがね。

「そうであったか。いいんちょは相変わらずでござるな」

「さよー、私達は一緒に入れないの。早くいかないと終わっちゃうよ!」

小太郎君とネギ先生なら負けませんから安心してください。

「任せてください!2―Aで見たい人は特等席とは言いませんがその用意がありますから」

「わーい!」

鳴滝姉妹は本当に小学生にしか見えませんね……。

「それにしても楓さんは今年もウルティマホラ出場しないんですか」

「そういうさよ殿も今年は出ていないでござらぬか」

「私は去年出て満足していますから。これは私の予言みたいなものですけど、来年は楓さんも実力を出せる大会が開かれると思いますから楽しみにしてくださいね」

「ほう、それは良い予言でござるな。コタローの師匠としての見せ場も欲しかったでござるからな」

「さんぽ部っていつのまに忍術学校になったんですか」

「拙者は忍者ではござらんよ。ニンニン」

「僕とふみかは甲賀忍軍なんだよ!」

隠す気全く無いでしょ!
……まあオープン過ぎて逆に信じてない人が多いんですけど。

気を取りなおしていいんちょさんを除いた皆で龍宮神社の会場に向かいました。
着いてみると鈴音さん達から聞いていたとおり南門にあからさまな休憩室がありますがどう見てもお爺さんお婆さんも席に座ってるんですけどなんですかこれ。

「お爺さん、ここで休んどると気分が楽になるのう」

「婆さんもリウマチが良くなるとええの」

…………いいんですかこれで。

実際キノと鈴音さんの絶対に外部には知られたら駄目な実験のお陰で痛みであるとかピンポイントに良くなるそうなので利用してもらえる分には役に立っているとは思うんですがね。
小学生の部なので温かい空間ということで放っておきましょう。
明日からは巨人みたいな人達が座ると思うと激変に着いていけません……。
去年の生理的に立ちふさがった相手の人達を思い出しそうです……。

っていうか鈴音さんと朝倉さんが司会やってるんですか!
どうりで今日見かけないと思ったら……「やあよく来たね」みたいな反応して軽くスルーしようとしてますし。
小学生の部で集まったのは大体100人ぐらいだったようですが一度に四試合ずつ進めていたので大分試合は消化されてますね。

「「ネギ先生!応援に来たよ!」」

「あ、皆さん来てくれてありがとうございます!」

「あら皆さん遅いですわね」

いいんちょさんはネギ先生が絡むと色々スイッチを入れるの控えた方がいいですよ……。

「いいんちょが早すぎんのよ……」

「最初の方の試合は俺達にとっては大したことあらへんから丁度良いと思うで」

「コタローも順調のようでござるな」

「俺の本命はネギとの真剣勝負と明日からの大人の部やからな」

「あー!その子がコタロー君なの!?」

そういえば小太郎君の事はクラスの全員が知ってるわけでは無かったですね。

「そうや!俺が犬上小太郎やで」

何やら普通に話しだしましたが会話で相手を選ばないタイプなので放っておいても大丈夫そうです。
この後二人が順調にトーナメントを勝ち上がって行き、その度に圧倒的な強さから皆「かっこいい!」とか「ネギ先生あんなに強かったんだね」と予想通りの反応をしてました。
まだ魔分と気を使っていないので決勝戦でどうなるかやや心配ですが。
実際相手の子供達があっけなく二回投げられてストレート勝ちというのは若干可哀想な気がしますが。
まあ手加減してるのは良いことだと思います。
何故か小太郎君が背負い投げにハマってるみたいなんですが「派手でええやん」だそうです。
まあ床が木で出来ている訳ではないですから危険な怪我には至らないと思います。

「やあ皆、担任から外れたけど元気にしてるかい」

「高畑先生!」

神楽坂さんのこの反応の早さは久しぶりですね。

「高畑先生もネギ先生を見に来たんですか」

「ああ、超君からネギ先生が出場しているから見に来たらどうかと言われてね」

鈴音さんはあちこち気が回りますね。
多分明後日の本選は混む事を予想して呼んだのだと思いますが。

「これがネギ先生の今の戦績ですよ」

「おお、全部ストレート勝ちか。ん、どうやら本命はコタロー君かな」

「その通りです。二人で真剣勝負して大人の部にも出場ということです」

「うん、良くできているね」

それはその通りですけど先生が言うのはどうなんですかね。

予想通り二人の決勝戦と相成りました。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ここまで勝ち上がって来たのは今までの修行から考えれば当然だ。
いつもの会話法で頭が痛いのは乗り越えるしかないな。
まだ本気で武術で戦ってコタロー君に勝ったのは一度もないけど頑張ろう。

「よっしゃ!ネギ!やっと決勝やな!本気で行くで!」

コタロー君が気で強化したな。

「僕も今日は本気で行くよ!」

マスター達に言われて普段の修行の時は魔力で身体強化をしないでやってきたから最初はうまく身体が動かなくて大変だった。
でも今なら、強化しないで訓練した意味が分かる。
日常的に強化してた頃よりも改めて強化すると更に身体がよく動くようになったんだから。

「犬上小太郎対ネギ・スプリングフィールドの決勝戦を始めます!両者共に礼!」

「「よろしくお願いします!!」」

「試合始めッ!」

構えから一歩で接近、そのまま突きッ!

―箭疾歩!―

後ろに下がられたッ!

「ネギの得意技やからな!」

連続瞬動か!

ならこっちも!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「ねー!あれ一体どういう事なの!?ネギ先生達瞬間移動してるよ!」

「ネギ坊主も箭疾歩が得意技とは八極拳の秘伝も安いものアル」

「い、いつの間にこんなにネギ先生達は強くなってるんだい」

「というかあれはルール違反に近い筈なんですが……」

一応格闘大会だから連続で瞬動するのは無しですよ、無し!
後ろ取り合って狙い撃つんじゃないんですから。
エヴァンジェリンさんもちゃんとその辺伝えてなかったみたいですね。

[[おーっと小太郎選手とネギ選手の動きが突然早くなったーッ!これはどういう事なのでしょうか!、超さん解説お願いします]]

[[あー、小太郎選手、ネギ選手、その歩法の2回以上の連続使用はウルティマホラではルール違反とするネ。即刻やめるように]]

「そんなん聞いてへんよ!」

「ご、ごめんなさい!」

[[審判の先生、もう一度仕切りなおし頼むネ]]

「両者共に一度位置に戻りなさい!……試合再開ッ!」

[[解説の超さん、何故ルール違反なんでしょうか。これはなかなか見られるものではないと思いますが]]

[[ウルティマホラは純粋な格闘大会ネ。先のような足の早さを競うのとはそもそも趣旨が違うからルール違反とすることにしたヨ]]

去年の古さんと鈴音さんの試合でも高速で移動し続けながら戦うということはしてませんでしたからね……。
まあ打ち合い自体は高速でしたが。
単純に気や魔力を足に貯めないとできないので一般に余り知られる訳にはいかないだけなのですが。

「広域指導員の時に似たような事やってる高畑先生は意外そうな顔するのやめた方がいいですよ」

「あ、ああ、済まない相坂君。ついいつもの癖でね」

「高畑先生もあんなことできるんですか!?凄い!」

「ア、アスナ君落ち着いて」

そういえば別荘に入ったらしいですがキノの話では神楽坂さんはなんだかんだ別荘の色々な施設を堪能して過ごしたそうで修行自体を見た訳ではないらしいです。

「ぼーや達のいつもの癖が出たな」

「確かにああいう事が単純にできるだけで楽しそうだとは思います」

「ネギ坊主もコタローも腕を上げたでござるな。古はあの二人にまだ勝てるでござるか」

「仮にもあの坊主達の中国拳法の師匠アルからまだまだ負けないアルよ。超でもまだ負けないアルね」

「それでも成長速度が異常だと思いますよ」

「それは否定しないアル……」

ネギ先生の対処が冷静ですね。

「あっネギ君が一本取ったよ!すごーい!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ネギ坊主のカウンターで転身胯打からうまく裏拳が決まったナ。

「やるやないかネギ!でもこの勝負絶対負けへんで!」

「両者位置に戻って!……第二ラウンド試合始めッ!」

しかし先の瞬動連発はどうしようかと思たヨ。
周りの小学生達の事も少し考えて上げた方がいいネ。
あまりに差がありすぎてショックを受けてる子もいるようだからナ。

小太郎君も一本取られたからかなりキツイ所に打ち込んでるネ。

[[超さん、今度は小太郎選手が優勢のようですがどうですか]]

朝倉サンもノリノリだナ。

[[先程よりも小太郎選手の動きが鋭くなているからこのままだと判定勝ちもあり得るヨ]]

[[なるほど、判定勝ちは今まで両選手はストレート勝ちでしたがその可能性もありますか]]

[[小太郎選手はあちこちの道場で色々体験しているから繰り出す技が変速的で読みにくいネ]]

[[中国拳法、柔道、空手、ボクシング、ムエタイ等々、調べた所によるとここ数ヶ月で門戸を叩いたのは数しれないようですね]]

[[門戸を叩いたというよりは殴りこみをかけたのが正しいネ]]

[[元気な小学生ですね。何故学ランなんでしょうか]]

[[小太郎選手にとて学ランは戦闘服らしいヨ]]

基本的にパンチよりも蹴り技の方が突然出てくる上威力が高いから一度見せられた上でペースを取られると消極的になりやすいナ。
ネギ坊主は蹴り技はあまり使わないから余計に意識してるようだネ。

[[どうやらこだわりもあるようですね。おおっとここで強烈な回し蹴りがネギ選手の脇腹にクリーンヒット!]]

「犬上小太郎選手!一本!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ネギ先生が肘鉄を当てようとしたところを小太郎君が体勢を低くして回避しながら回し蹴りを放ったのが決まりましたね。

「ああ!ネギ先生がお怪我を!あの野生児は手加減というものを知らないんですから!」

「いいんちょさん落ち着いてください」

「綺麗に入ったがネギ坊主は大丈夫でござるよ」

魔分で身体強化してますからちょっとやそっとでは怪我にはなりません。

「第三ラウンド始めッ!」

「相坂君、ネギ君も夏休みに色々体験していたんだっけ」

「中国拳法、合気柔術、バイアスロン、剣道、山篭もりが主なので小太郎君よりはバリエーションは少ないですよ」

「格闘じゃないのも混ざってるんだね……。その内容からすると皆2―Aのクラス関連かな」

「はい、古さん、鈴音さん、いいんちょさん、私、エヴァンジェリンさん、龍宮さん、桜咲さん、楓さんです」

「ははは、随分豪華だね。そんなに連れ回したのは一体誰だい」

地味に不審そうな顔でこっちみるのやめて下さい。

「あー、それは私です、高畑先生。学園長先生から聞いてないんですか」

「相坂君なのか。ここ3ヶ月近く出張が多くてね。学園長とも仕事の話しかしていなかったからな」

学園長先生も高畑先生に何も知らせていないとは……。

「丁度クラスの皆に慣れる事もできて良かったと私は思います」

「……そうだね。僕もいつでも頼って良いと言っておきながら時間が取れなかったからな」

キノに言わせると一ヶ月間戦いの基礎をネギ先生に教えたのが高畑先生だそうで、自分で教えられなかったことに責任を感じているのかもしれませんね。

二人の試合の方はというと基本的に距離を取り合って両者タイミングを図るという事がなく、常にどちらかが攻撃すれば、ガードかカウンターに入るのを交互に繰り返すという状況で、未だ練度では上である小太郎君の方が優勢です。
さっきの蹴り技を受けたのが精神的に効いているらしく今一歩ネギ先生は攻め手に欠けますね。
そういえば鈴音さんも足に断罪の剣というのを出す練習をしていましたが確かに意表を突かれると厄介なのは違いないですね。

[[おっとネギ選手が小太郎選手を投げた!]]

[[まだだ、無茶な状態だが身体を捻って一本入るのを回避したヨ]]

[[とても小学生の動きとは思えません!後1分程で試合が終了になろうとしていますが、今回も判定では小太郎選手の方が優勢でしょうか]]

[[ヒット数からすれば小太郎選手の勝ちだナ]]

[[ネギ選手が最後に仕掛けたッ!]]

焦ったネギ先生でしたが、それを引き出すのを待っていたかの如く小太郎君が突き出された腕をつかんでそのまま背負い投げをしました。
さっきの仕返しですがこれは回避できないでしょう。

[[綺麗な背負い投げが決またネ]]

「一本!勝者犬上小太郎!両者共に礼ッ!」

「「ありがとうございました!」」

「ネギ!今回は俺の勝ちやな!」

「コタロー君優勝おめでとう!」

「ネギせんせーい!惜しかったよー!」

「コタロー優勝おめでとうアル!ネギ坊主は惜しかったアルな」

[[今年初めての小学生の部でしたが優勝者は犬上小太郎選手に決定しました!会場の皆様、両選手に拍手をお願いします!]]

[[犬上小太郎選手にはトロフィーの贈呈だヨ!保護者の長瀬楓さんは壇上に上がって選手に渡して欲しいネ]]

ああ、そういうイベントなんですかこれ。

「拙者がトロフィーを渡す事になろうとは思わなかったでござるよ」

「楓姉いいなー!」

「小学生の部らしい配慮ですね」

「ネギ君がここまで強くなっていることには驚いたけどコタロー君にはまだ及ばないか」

裏で実際に戦闘している分やはり差が出ますね。

「この短期間であれだけ強くなったんですもの、次にやったらネギ先生が勝ちますわ!」

楓さんが鈴音さんからトロフィーを受け取り壇上に上がって小太郎君に授与します。

「コタロー良くやったでござるよ。優勝おめでとう」

「楓姉ちゃんおおきに!弟子としてしっかり結果を出したで!」

本来保護者は呪術協会の人がやっても良いとも思いますがそのあたりは複雑なんでしょうね。
皆拍手を続けたり歓声を挙げたりしていますが保護者の人達が多いので温かい空気広がってます。

[[上位三名までは明日から予選が行われる大人の部に参加する事ができます。手続きは受付で行って下さい]]


「皆さん僕2位でしたけど明日からの大人の部の予選も頑張ります!」

「明日も応援に行くよネギ先生!」

小太郎君とこの場で本気で勝負できて良かったですね。
きっと大人の部から始まったならお互い決勝で会おうと言い出しそうな子達ですから。

因みに優勝者の小太郎君には超包子から食券が300枚贈呈されました。
運動してお腹がすく小太郎君には丁度良いですね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

惜しくも小太郎君に勝てなかったネギ少年だったが、頭が痛い状態というハンデがありながらあれだけ戦えただけ上出来だろう。
三日目のウルティマホラ予選はネギ少年、小太郎君、古菲、超鈴音の四人は全員バラバラのリーグに振り分けになり各々白星を重ねて見事本戦出場となったが、総当たり戦で行われるトトカルチョとはどういったものになっただろうか。

《超鈴音、トトカルチョがどっちが勝つではなくどの選手がどれだけ白星を上げるかとそのリーグから誰が本選出場するかという組み合わせを対象にするのはなかなか面白いですね》

《予選というと観客としては単純に本選までの情報集めという側面が強かたからネ。例年だと誰が勝つで終わてしまうが、総当り戦なら強くない選手がどれだけ勝てるかも賭けの対象にする事ができて観客も積極的に楽しめるようになてるからネ。胴元を実行委員会で独占して、今までに集めた詳細な事前情報で倍率も全部決めたから最終的には委員会側が儲かるように出来ているヨ》

うまい商売だことで。

《古菲と超鈴音の倍率が恐ろしく低いのはそのせいだったと》

《まさかの単純倍率1倍未満というのは皆引いてましたよ。勝利数の予想まで含めなければ1倍を越えないと分かってクラスの皆は専ら比較的倍率が高く設定されているネギ先生達に賭けてましたからね》

《フフ、当然じゃないカ。まあ私に賭けた連中は痛い目を見ただろうナ》

《最後に一度わざと負けるというアレですか。なかなか酷い作戦だったと思いますよ》

《賭けた人達は大抵何も考えずに全勝で出してたみたいですからね……》

《思わず昨日終わた後は実行委員長と会長サンで大笑したヨ。天才頭脳はえげつない等と言われたが仮にも私は委員会側の人間だからネ。一般人の期待通りの行動をする筈無いヨ》

《ネギ少年も予選を身体強化無しでやったりやらなかったりするものだから2回ほど負けてましたけど、あれもエヴァンジェリンお嬢さんの命令という名の仕込みですか》

《ネギ坊主は純粋だからネ。まあ丁度良い相手には身体強化を使わなくても良さそうだと判断したらエヴァンジェリンが指示していたようだヨ》

《そうなると複合倍率が最高で1.00倍の古菲も除外するとして唯一の良心は小太郎君だけでしたね。まあ馬鹿みたいに古菲のファンが増えもしないのに買うという暴挙に出てましたが》

《昨日の試合を見に来ていた人達しか殆ど知りませんから小太郎君は穴場でしたよ》

《途中から俺も倍率下げてくれやと言われたときは困たがネ》

《倍率が低いほうが強いと言うのを楓さんが言うものだから俺はもっと強いわ!ですからね》

《強さはかなりの物ですがその辺りがまだ子供なんでしょう》

《委員会側の認識としてはあまり日の目見なかた格闘大会の予選が総当たり戦という形式のお陰でかなり凄い盛り上がりを見せて来年も是非という事になたヨ》

《これで来年の麻帆良祭の下地も着々と、という訳ですね。ところで疲労回復の術式はかなり評判が良かったようですが》

《一昨日行った人の噂を聞きつけてやってきてたお年寄りの集団は異色でした》

《あれは私も予想外だたヨ。確かに痛みが引くから関節痛に良く効くのは間違いないからナ。仕方が無いから試合中は体調が良くなたお年寄りから順に特製疲労回復ドリンクを安く売てお帰り頂いたネ。結局試合終了後に再度現れたのには何かの執念を感じたけどネ》

《三日間自動発動ですから仕方ないですね》

《生活指導と言う名目で先生達まで試合終了後に来たのは職権を行使しているとしか言えませんね。にこにこしながら肩凝りが楽になって良かったと言ってましたけど》

盛り上がったのはウルティマホラだけでなく身体の痛みに悩む人達もという事で。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

昨日の予選はマスターに言われて身体強化をしなかった時に負けちゃったらクラスの皆に泣かれたのは困ったな。
皆チケットを握りしめていたけど、あれがトトカルチョっていう奴なのか。
一昨日コタロー君に負けたのは悔しかったけどコタロー君が呪術協会のメンバーで麻帆良に来る前も来た後も修行してたんだからそう簡単には勝てないよね。
マスターも頭痛がある割りにはよく頑張ったって言ってくれたし、何より魔法も含めればどうなるかはわからないっていうのは自信になったな。
最近魔法の射手の効率が上がって無詠唱でも三矢までなら出せるようになったし威力と飛距離、精度も龍宮さんの所で射撃訓練したのが良かったかな。
元々僕はイギリスで射的は得意だったけど射程距離が伸びたのはこっちに来てからだ。

ウルティマホラだけじゃなくて日本の伝統的な体育祭の競技に皆が参加しているのも応援できたし、しかも学年優勝までして楽しかった!
さて、今日は本選だしホームルームもある!頑張るぞ!

「きりーつ!れーっ!」

「皆さんおはようございます!昨日の綱引きや騎馬戦は僕初めて見たので凄く楽しかったです。学年優勝もおめでとうございます!」

「ネギ先生おはよう!優勝は皆の頑張りだよ!今日の本選頑張ってね!」

「「「今日は昨日みたいにうっかり負けたりしたら駄目だよ!」」」

「ゆーな達は先生に沢山賭けてたからね……」

「だってあんだけ強かったら予選も全勝だと思うにゃー!」

「あれで私のお小遣いが……」

「皆さん元気だして下さい!今日は僕しっかり勝ち進みますから!くーふぇさんと超さんと当たったら辛いかもしれませんが頑張ります!」

「良いこと教えてあげるよ。本選もネギ君は小太郎君、くーちゃん、超りんとはベスト4まで上がらないと当たらないという確定情報が入っているのさ。情報元は実行委員会の超りん自身だけどね」

「本当ですか、朝倉さん!ありがとうございます!それで今日はもう殆ど競技もなく振替休日に近いかもしれませんが体育祭が終わるまで怪我なく過ごしてください!」

小学生の部も予選も当たらないようになってたけど超さんがそういう風にしてくれたのかな。
超さんは今日もホームルームは出てないけど色々やってて凄い人だなぁ。
超包子を経営してたり、携帯電話を作ってくれたり、寮の警備ロボットもそうだし、実行委員会にも参加してるし、あの会場の疲労回復施設では魔力の反応があったけどあれも作ったのは超さんなのかな。
でも超さんからは魔力を感じ無いしそれは無いか。

《ぼーや、今日の本選は最初から最後まで身体強化していいからな。行けるところまで行って来い》

《分かりました!マスター!》

マスターの許可も出たし頑張ろう!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

昨日はウルティマホラの予選がとても白熱しましたが、中学生の部のウルティマホラ予選は午前中だったので午後は当然伝統的体育祭としての綱引きや玉入れ、棒倒し、騎馬戦、リレー等も行われこちらも大盛り上がりでした。
騎馬戦は前年通りエヴァンジェリンさんの無双が起こり、大学生の熱狂的集団に更に超包子グループのお姉さん達が加わりカオスでした。
大量の鉢巻を手にしてお姉さん達の方に優しく微笑かける姿を射線軸上にいて直視してしまった男性の一部はその場で倒れたので、視界が開けてよかったと思います。
綱引きは神楽坂さんがいるとただ手を添えるだけのようになり、リレーも神楽坂さんと春日さんで後は適当にして学年優勝が取れるのは2―Aのありえなさを実感する瞬間です。

私達中学生の競技はもう無いので本選のトトカルチョにまた皆が燃えています。
本選のトトカルチョのルールはどちらが勝つかだけでなく勝負の内容までが範囲になっているのでこれまた賭ける側としては面白みがあります。
ストレート勝ちになるかどうか、また任意で倍率を上げるために判定勝ちが試合に含まれるかどうかも選択できます。
はっきり言って引き続き実行委員会がボロ儲けする企画でしかないのですが、昨日とはまた違ったルールに皆興味があるみたいですね。
流石に今回は鈴音さんも酷い事をしないと思いますが、その代わり倍率がまた物凄く下がり、トーナメント最初の単純倍率は1倍未満で内容の分を賭けても丁度1倍という恐ろしさ……。
古さんの熱狂的ファンは相変わらずそんな事をものともせず買いまくってるようですが古さんに何かが還元されるわけではないのでそろそろ目を覚ましてください。

全107試合全てに付き合っていられないので結果から言えば頂上あたりで古さんと鈴音さん、また小太郎君とネギ先生があたる事になりました。
やっとこの段階になって4人の倍率がまともな水準に復活しましたが、正直勝負の内容まで当てるというのは至難ですよ……。
同時にこの二つの試合が行われる事となりましたが、ネギ先生達の方は小太郎君が全く油断しなかった為ストレート勝ちとなりました。
古さんと鈴音さんの友情熱い戦いは今回も手に汗握るものでした。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

こちらに来て後2ヶ月もすれば2年が経つが当時よりも身長も伸びた私は古よりも手足の長さでもリーチがあるから有利ネ。
とは言たものの毎日長時間修行している古に比べて私は毎日必ず少しは鍛錬して時々中国武術研究会で活動するから大分差が付けられてしまたヨ。
今回もなんとか一勝一敗の状況には持ち込めているが、エヴァンジェリンの別荘で古は修行したからか気の扱いが格段に上手くなているナ。

「最近更に強くなたな!クー!」

「超こそ蹴りが強烈になたアルよ!」

どうしても火星生まれの弊害のせいで気が地球生まれの人類よりも小さいのは分かていたが、やはりこういう時軍用強化服がなければこの時代の達人とやりあうのは辛いと感じるヨ。
それでも私は今ここでこうして必死に毎日を生きているんだ!

「試合始め!」

古の腕から繰り出される打撃には常に良く練られた気が込められているからまともにあたるのは勘弁したいネッ!

ガガッガガガガッガッ!

古が踏み込みを入れて高速で打撃を出す散手を仕掛けられるとじわじわ削られるッ!

一旦後ろに引いて間合いを取りなおし蹴り主体で攻めるネッ!
アーティファクトを使っての浮遊術の状態で蹴りの訓練をかなり積んでいるからこっちならまだ勝機があるヨ!
まあ今は浮いてなどいないがナッ!

静止状態から蹴りを放っても硬気功を使って防がれるから離れた所からの踏み込みが必要だヨ!

狙いは腹当たりに飛び蹴りッ!

「ハァッ!」

両腕でガードされたが読んでるネ!
既に腕は封じているッ!

そのまま足場に利用して無理やり身体を捻り首筋に回し蹴りッ!

「フッ!」

ッ!この一瞬で身体を反らすかッ!

これは、体勢が崩れるッ!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

僕は今日コタロー君にストレートで負けちゃって今まだ終わってないくーふぇさん達の試合を見てる。

「ネギ!姉ちゃん達の本気の勝負見たの久々やけどやっぱ強いな!」

「うん!次にどちらかと試合だと思うとドキドキするよ!」

「ここだけ空気がピリピリしとるで!」

超さんはいつも飄々としてるように見えるけど今は一心にくーふぇさんと戦ってる。

「おお!超姉ちゃん大胆な蹴りに出るで!」

「あっ!くーふぇさんの方が反応が早い!」

体勢を崩した状態で超さんが着地したところをくーふぇさんが身体の反りを一瞬で戻し強烈な追い打ち!

ダンッ!

「勝負有り!勝者古菲!」

「やっぱくー姉ちゃんの方が強いんか。超姉ちゃんにもまだ俺勝てへんけどこれは決勝辛いわ」

「コタロー君が超さんに勝てないなら僕も三位決定戦は辛いよ」

「ま!それでもここまで来たんやから本気ださなあかんな!」

「うん!」

「くーちゃんおめでとう!超りんお疲れ!」

「古さん、鈴音さんお疲れ様です、今年も良い試合でした!タオル使ってください」

「二人は仲良しでござるな」

「古はこの1週間で急激に強くなてるものだから困たネ」

「私はもう少し身長が欲しいアルよ」

「くーふぇさん、超さん、凄く良い試合でした!」

「姉ちゃん達研究会でやっとる時よりも真剣さが違うわ!」

「おや、ネギ坊主達は試合終わていたのカ。次はどちらと3位決定するのかナ」

「僕が超さんの次の相手です!よろしくお願いします!」

「ふむ、ネギ坊主が相手カ。今までの成果を見せてもらうとするヨ」

「くー姉ちゃんの相手は俺やで!」

「コタロには負けないから今年の優勝こそ私が頂きネ!」

「くうっ!せめてストレート勝ちにはさせへん!」

「大きく出たアルな!」

「まあまず休憩所に行くネ。三位決定も優勝決定もベスト5以下が決定されるまでは時間があるヨ」

そうか、次は超さんと試合するのか。
8月に少し相手してもらった時は型を教えてもらったりばかりだったから本気で試合するのは初めてだ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

鈴音さん達が四人とも休憩所に向かいましたが、かなり倍率の高い試合が同時に2試合行われて受付は大混乱でした。

「ベスト4からトトカルチョの内容が強制で判定有りの判断なんて宝くじみたいだったねー」

実力がある程度拮抗している状態でのルール適用は実行委員会の悪意を感じます。
私は賭けてませんけど、性懲りも無くクラスの一部は賭けていましたね。

「ネギ先生達の方はまた一本づつ取るかと思ったらストレートだもん。当てるの凄く難しいよ~」

と、そこへ突然

《超鈴音、今年の試合も結果はどうあれ一生懸命思いを込めた試合ができましたか》

《そうだナ。古とは大分実力で差を付けられてしまたが私の想いは伝わた筈ネ。しかし火星生まれを恨むのは筋違いだがやはり惜しいとは思うナ》

《鈴音さん、どういう事ですか》

《翆坊主は分かているかもしれないが、私は火星生まれで地球生まれの人間よりも根本的に身体が弱く、分かりやすいのが気そのものが小さいんだヨ》

《やはりそうでしたか……。専用の服というのはその点もカバーしていた、という事ですか》

《その通りだ。強化服を装着すれば動く時に機械音がするが、こちらの達人レベルと遜色ない動きができるネ。ま、私が直接戦う必要のある機会というものはそうないだろうから気にする事でもないヨ。勝てはしないもののこうして精一杯全力を出すことはできるからネ》

《私から見ても鈴音さんは今年のウルティマホラも輝いてましたよ》

《さよ、ありがとう。まだこの後ネギ坊主の相手が残ているし、来年はまほら武道会もあるからネ》

《祖先との真剣勝負ですね》

《翆坊主があまり快く思わない魔法球まで使てどれぐらい強くなたか直接見てくるヨ》

《鈴音さん、頑張ってください》

《うむ、坊主にはまだ勝ちは譲れないヨ》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

自分で用意しておいてなんだが、この疲労回復術式は少し効果を高め過ぎたかナ。
20分もするとほぼ疲れが取れるのはやりすぎたかもしれないネ。
お年寄り達がやてくるのも分かるナ。

「ネギ坊主、麻帆良の生活には慣れたカ」

「はい!8月に来た時は言葉が話せなくて大変でしたけど超さん達が英語で通訳してくれましたし、何より僕がイギリスにいた時には知らない事が一杯あって充実してます!」

「それは良かたナ。私も麻帆良に来たときは最初は大変だたが友達や、やるべき事も見つけられたからここはいい場所だヨ。月に一度ぐらいは故郷のお姉サンに手紙は送ているのカ」

「あー!!忙しくて忘れてた!」

「ネギ、どうしたんや。何か忘れものか」

「故郷に手紙を出すのを忘れていたんだ!」

「ネギ坊主、私も故郷には時々手紙は出すアルが忘れてたなら後ですぐに出すといいね」

「帰るべき場所があるならば大事にした方がいいヨ」

「そうやでネギ!帰る場所も無い奴もおんねんから!」

そういえば小太郎君も狗族とのハーフで色々あるんだたナ。

「うん!今日ウルティマホラが終わったら手紙出すよ」

「その前にそろそろネギ坊主は私と試合だヨ」

「そうですね。移動しましょう」

ネギ坊主はどれくらい強くなただろうカ。
一昨日の小学生の部で瞬動がある程度できるようになたのは分かているが連続で瞬動するのはルール違反だと分かているだろうから、初手箭疾歩に気をつけてカウンターを狙うのがいいだろうナ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

スプリングフィールドの血族の先祖対子孫という状況がナギの登場を待たずしてできあがったがこの試合の結果は明らかだった。
まずネギ少年の思い切った箭疾歩が初手で繰り出されたものの超鈴音が鋭いカウンターを放ち開始早々に1本を取った。
その後もネギ少年が魔分で身体強化しているとはいえ、身体強化魔法の戦いの歌と呼ばれる状態程強くなっている訳ではないので超鈴音としても打たれても古菲程の重みは無かったようだ。
ネギ少年は一昨日小太郎君の蹴り技に翻弄されただけあって、先の戦いで見た超鈴音の蹴りをかなり警戒していたが、当然腕から繰り出される打撃もリーチがありそれどころではなかった。
超鈴音は最初様子を見ていたが、3分経過したあたりから見切りを付け猛攻、一瞬わざと手を緩めた所で攻撃を引き出し投げ技で一本を決めストレート勝ちとなった。
まあこの辺りは精進するしかないだろう。
近衛門やナギの戦闘センスは異常な面があるがそれでも最初から強かった訳ではないのだから。
ましてやイギリスで禁書庫に篭って魔法の勉強ばかりしていた少年では尚更だろう。

「大分強くなたし、型も綺麗に再現できているが根本的に戦いの経験が少ないようだネ。これでウルティマホラは終わりだが、来年の学園祭で私はある大会を開くからこれからも修行は続けるといいヨ」

「はい!超さん、ありがとうございます。僕もっともっと強くなります!」

「その意気だヨ、ネギ坊主。次は古達の決勝戦だから見に行くとしようカ」

そう言いながらコート内でネギ少年の頭を穏やかに撫でる超鈴音に周りの2―Aの中学生達はずるいだなんだと賑やかなものだった。
こうして見ると姉弟のようにも見えなくもない……か。

ネギ少年と超鈴音の試合はストレートで勝敗が決したが、その後の決勝戦も古菲という中国拳法に関して達人の前では小太郎少年も勝つことはできなかった。
狗神を使ったり気弾を放つならば話は別だがそういう試合は来年まで待つしかないだろう。
両方の少年共お姉さんには負けたがルールを守った範囲内で全力で戦ったので清々しい顔をしていたから良かっただろう。

去年優勝を合気道の仙人によって逃した古菲は見事優勝を手にし、その後更に朝の登校時間に挑む格闘家の数が増えたのは言うまでもない。
今回のウルティマホラを期に中国武術研究会の現部長は古菲にその座を譲ったのであった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

長かたようで短かた4日間の体育祭だたが、色々収穫はあたな。
まず、ウルティマホラで気の扱いに長けた人間は数人しかいなかたから来年は表裏を混ぜてまほら武道会を開く必要は無いネ。
事前にその道のルートで情報を流して極秘で開催した方が観客は少なくなるが質の高い大会が開ける筈だヨ。
それ以降のまほら武道会は翆坊主達との計画がうまく行けば大分変わて来ると思うがまだ先の話ネ。
その時はその時でまた違う事で忙しくなるだろうからナ。

トトカルチョによる収益も実行委員会からの収支報告が出たが予想以上に儲かたから今回私が負担した費用の一部も返て来たネ。
一番儲かたのが実は予選の大学生の部だたのはまあ当然といえば当然だが金があるところからはきちんと集めないとネ。
来年も是非協力をお願いすると言われたから、来年は更なる充実と、麻帆良祭での便宜を図て貰うことで交渉成立したヨ。

超包子を8号店まで稼働させたが売上高は初日に予想した通り4000万を超えたネ。
今年の学園祭で1店舗しか出さなたのが悔やまれる成果だが来年は必ずこれ以上を弾きだすヨ。
赤字にならなければ良いから通常営業もこのままやて行けるネ。

しかし一番苦労したのが疲労回復の術式の解除だたヨ……。
翆坊主達から通信を受けて明らかに魔法先生達や、魔法の全く関係ない人達も張り込んでいるという困た状況になたから私が魔法を使う訳にいかなくなり、エヴァンジェリンを呼び出して説明しながら解除してもらたヨ。
その時一緒に工学部のお兄さん達も呼んで一般人対策にカモフラージュとして置いてあっただけの機材を運びだしてもらたネ。
この時エヴァンジェリンに良くこんな微妙な出力の術式が実現できたなと言われたが口が裂けても人体実験を繰り返したなんて言えなかたからこちらの言い訳も苦労したナ……。
軽々しく翆坊主の魔分溜りを利用するという案を採用したが、メリットもあればデメリットもという感じだたネ。
実際今回の術式を科学で再現するのは時間的にも、効果的にも無理な部分があたからウルティマホラ自体にはかなり役に立たのは間違いないけどネ。

随分忙しかたが、これでまた一つ仕事が解決したナ。
この後は超包子の麻帆良外出店の計画、世界11箇所の魔分溜りをリンクさせるための研究と引き続き粒子精製、田中サンシリーズの別バージョンの制作等やることは尽きないナ。
流石に学園長がネギ坊主を襲う事には手出しする必要は無いし、用意しておくべき映像もいつでも渡せるから問題ないだろう。



[21907] 19話 冬目前の長い1日・前編
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/02/08 23:12
9月の半ばから稼働させ続け今は中間テストも終わり11月初頭、田中サン達のデータが1ヶ月半以上は溜またネ。
麻帆良祭で発表した三次元映像の撮影する技術は出すタイミングがなかなか無くて困ていたが、あれから4ヶ月ぐらい経ているから世間のほとぼりも沈静化して来ているから丁度良いだろう。
田中サンは侵入者を発見すると捕獲モードに入り無意味に目が赤く光るようになているが、普段から三次元映像が撮影できる機能も実は搭載しておいたネ。
翆坊主達のように麻帆良全体を常に監視するほどの範囲が撮影できる訳ではないが、全方位半径25メートル程度の視界は三次元で確保している。
もちろん前方のみに限ればもと先まで視認はできるようにしてあるがナ。
この事を知ているのは田中サンを作たハカセと私だけで、工学部の人達には教えていないヨ。
三次元映像は犯罪の減少に役立つと同時に犯罪を増やす可能性を持つ諸刃の剣のようなものだから、きちんとしたガイドラインを作成しないと世の中にホイホイ出せるものではないネ。
撮影技術自体の完成については契約に従て雪広グループには既に話を通してあるから、あちらに利用の準備ができさえすれば開放という事になるだろうナ。
聞いた限りだと、どうやら警察機関や警備会社系の監視カメラでの使用が一番最初に導入されるようだネ。
その為には一応世間にもその使用を告知する必要があるから結局マスコミを通してすぐ情報が広がるのは間違いないが、恐らく「新時代の映像技術の光と闇」等という安易なタイトルの討論番組などで議論が始まるだろうネ。
あまり社会的善悪の事について開発者である私が首を出してもただ目立つだけだから何か要請でも無い限りは動く必要は無いナ。

それよりも、私にとての大きな進歩と言えば、冬を目前に控えて羽田空港、成田空港、関西国際空港、中部国際空港の日本の国際空港で同時に超包子の肉まんを扱て貰うことが実現した事だヨ。
雪広グループの協力のもと、各空港の近くに大規模では決してないが超包子の工場をそれぞれ建設したからターミナルのゲートのあちこちで取り扱てもらえるようになたネ。
工場が別にあるから製造技術の情報漏洩の危険性も少ないし、とにかく数を売るという超包子の趣旨には非常に適しているヨ。
今日は丁度学校も休日で一番近場の羽田空港に視察に来ているヨ。

「鈴音さん、やっと麻帆良の外にも直に超包子の肉まんを進出させられましたね」

「いよいよだヨ。いきなり空港からスタートとというのはかなり良い。空港を利用するビジネスマン達が帰りがけにでも買て行てくれれば国内外の各地の茶の間にお届けできるからネ」

「私は超包子の味を再現した肉まんがこうしてあちこちに届けられるのは嬉しい反面、自分で直に料理していないので少し寂しいです」

「五月の気持ちも分かるが、元の味は去年の麻帆良祭から出店したあの超包子の物には変わりはない。今まで育ててきた超包子は麻帆良だけに留まらず外へと飛び出していくに値すると私は思うネ。ここで買てくれる人達は安くてとても美味しい肉まんと喜ぶだけもかもしれないが、私達の想いが詰また肉まんである事に疑いの余地はないヨ」

「そう……ですね。私は料理人ですからこれからも超包子の味を更に良くするために精進します。それで私の知らない何処かで誰かが美味しいと言って笑顔になってくれる助けにならばと頑張りますね」

「五月の味を越える味を出せるのは五月しかいないヨ。まだ学生でもあるから先の話だが、社会人になた時五月が自分の店を出す時にどうするかは私が口出しする領分ではないが、今しばらくよろしく頼むネ」

「こちらこそよろしくお願いします、超さん」

「話がついたところで超ちゃん達、せっかくだから記念に肉まんここで食べていきましょうよ」

「そうですね。西川さん、私買って来ますね」

「悪いわね、さよちゃん、よろしく頼むわ」

「西川サンは雪広グループの社員として他にやりたいことがあたのではないカ」

「私としては丁度新しいプロジェクトに参加できたらな、と思っていたから超包子のブランド化メンバーの募集があった時にはすぐに応募したのよ。それに超ちゃんはこの計画は世界まで広げるつもりなんでしょ。そうとなればなかなか他を探しても同じような企画はないから寧ろ感謝してるのよ。他の皆も大体同じだから安心してね」

「そう言てもらえると嬉しいネ。世間から見れば大それた事をと思われるかもしれないが私は必ず世界に超包子を広めてみせるネ。絶対に途中で諦めたりはしないと約束するヨ」

「本当に中学生とは思えないやる気ね。私達が本校女子中等部にいた頃はまだ麻帆良祭で営利活動が盛んになり始めた黎明期だったから気楽なものだったわ」

「その頃のエヴァンジェリンはどういう感じだたのか教えてもらいたいネ」

「エヴァ?うん、エヴァは最初は私達と初めて会った時はなんだかツンツンしてたりやる気のない感じで関わり辛かったけど、私達が高等部の先輩達から屋上の使用権で文句をつけられて喧嘩になった時に割り込んできてその場を一発で黙らせたのよ。あれがもうカッコ良くてカッコ良くて、しかもその後少し恥ずかしそうに怖がらせて悪かったななんて言う姿も凄い可愛くてあれは今でも覚えているわ」

「それは面白い話を聞いたナ。その喧嘩の時割り込んで来たというのは実は屋上で昼寝を邪魔されただけじゃないのカ」

「おお、良く分かったわね。流石同じクラスか。まあその後とぼとぼ昼寝に戻ろうとするものだから私達がエヴァを捕獲して一緒にバレーボールしたのよ。そしたら最初は嫌々やっているような感じだったけど運動神経が凄く良いのが分かってなんで茶道部入ってるのかとか色々聞いたりしているうちにエヴァからも話すようになって仲良くなったわね」

「今のエヴァンジェリンは早退したり自主休講ばかりしているが当時は初々しかったのだナ」

「そうなのよ。エヴァって年頃の女の子とは違う口調で話すでしょ、でもそれが妙に貫禄があって、逆に恥ずかしがると何とも表現しにくい良さがあって。ついちょっかいを出して遊んだものよ」

とても600万ドルの賞金首とは思えない逸話だナ。

「この話を聞いたなんてエヴァンジェリンに言たら大変な事になりそうだから心に留めておくとするヨ」

「あら、ポカポカ殴ってくるの可愛いじゃない」

「それは友達で、身長差もあればの話だネ」

「そうかそうか、私達はここ数年身長差に慣れちゃってるからね。確かにまだ中学生ぐらいならそうかもね」

「肉まん買ってきましたよ!結構並んでて驚きました」

「一人で並ばせちゃてごめんね。超包子の肉まんは値段も味も最高で今回は宣伝をしておいた上での取り扱い初日だから混んでるのも無理ないわね」

「それだけ人気が出てくれるなら本望だナ」

結局視察と言いながら皆で話しながら肉まんを空港で買て食べるという休日を過ごしたようなものだたネ。

「今日はこの後もう麻帆良に帰るだけですよね」

「ああ、そうだネ。さよは何処か寄りたい所あるのカ」

「はい、そういえば麻帆良の外に出たのって凄く珍しいなと思って」

「おお、私も麻帆良の外に出るのは珍しいネ」

「超さん達は休暇中すら実家に帰ったりしないですからね」

まあ実家は遠い遠い場所だから安安帰れるものでは無いヨ。

「超ちゃん達って麻帆良にいつもずっといるの?」

「忙しくてそうでしたね」

「毎日スケジュールが詰まているからナ」

「信じられない中学生ね……。東京に買い物に出たりしないの?お金あるんでしょ」

「まあそうなんですけど、大体麻帆良って何でも揃ってるじゃないですか」

「ああ……それは雪広グループのせいね……。確かにあそこで生活に不自由なんてしないわね」

「生活するには楽園みたいなものだヨ」

少し話をして、その後普通に帰路につこうとタクシー乗り場へ歩いて行たヨ。
しかし、突然さよが私に突っ込んできて、身体を押された私は……体勢が崩れた。

「!」

瞬間、何か嫌な音がして、振り返りながら後ろを見ようとすれば時間の流れが遅くなったかのような錯覚に陥り、視界に入ってくる周囲の動きもスローモーションのようになった。
……視界に見えたのはさよが両手を前に突き出したまま地面に倒れていく姿。
さよが完全に倒れかかるというその時、更に遠くで強烈な爆発音が聞こえた。

「……鈴音さん、怪我は……ない……ですか……?」

鈍い音を立ててさよは倒れながら私の安否を確認して来た。
同時に、私の体感時間は急速に元に戻った。

「さよちゃんどうしたの!?え、ち、血が出てるじゃない!」

「相坂さんしっかりして下さい!」

これは……完全に麻帆良の外だというのに油断していた。
翆坊主に通信を取て手遅れになる前にまず犯人の特定を頼むか……手早く済ませる!

―アデアット―

懐の仮契約カードに手を添えて無詠唱発動、契約執行はオフで通信のみ最大加速で開始だ!

《翆坊主!応答しろ!犯人の観測はできるかッ!》

《こんなタイミングの悪い時に限って!今火星の方に精霊体ごと移動していて地球に戻るのに数秒かかります》

それは運が悪いナ!

《恐らく対象は自爆したヨ!》

《それは用意周到な犯人ですね!サヨ!応答して下さい!》

さよが反応しない……くっ……視える限りこれは致命傷!

《さよは身体に受けた傷の程度はまた運悪く致命傷ネ!とにかく、翆坊主がこちらにいない事で状況が良くわからないがこちらも人目があるから行動に移るヨ!》

《分かりました!行動開始します》

―アベアット―

この一瞬なら問題無いとは思うが、今のアデアットの反応を誰も感じなければ良いが……。
とにかく実際に至近距離でさよの状況を確認する。

「さよ!怪我は……ッ!西川サン!悪いがさよを乗せてくれる車を見つけて欲しい!それと搬送先は近くの雪広の病院でお願いするヨ!」

これだと血が出すぎる……空港にも医療施設はあるがこれだと間違いなくさよは此処で死亡認定される!
幸運にも雪広傘下の病院はすぐ近くにあった筈。

「わ、分かったわ!……すぐ戻るからね!」

「さよ!さよ!しっかりするネ!」

「相坂さん!」

しかしこんな空港から出てすぐに銃撃されるとは相手は一体何処の人間だ。

「どうしましたか!……怪我人ッ!?救急車手配します!」

やはりこの衆目のある状態だと面倒だナ。

「超ちゃん!こっちのタクシーの人が乗せてくれるからさよちゃん運びましょう!」

「あ、あの、こちらで搬送しますが……」

「厚意は感謝するが複雑な事情があるから遠慮するヨ。五月もこのままだと危ないからタクシーに乗て麻帆良まで戻るネ!」

「で、でも超さん!」

「さよは大丈夫だ!私を信じろ!」

「……分かりました!超さん相坂さんをお願いします」

「ああ、任せるネ!」

……この後五月は先に麻帆良にタクシーで帰らせ、私と西川サンでさよを雪広の病院まで搬送した。
当然既にさよの身体自体はもう危険な状態だたがとにかく出血が酷いから止血をして見た目から分かる状態を隠すぐらいしかできなかたネ。
ここで治癒魔法を使う訳にも行かない。
とにかく電話をするヨ。

「……超鈴音です、雪広の社長さんに繋いで欲しいのですが……はい、お願いします。…………社長さん、超包子の空港支店の視察に来ていたら友達が銃撃を受けたヨ。今雪広の病院に向かている所だがその病院のオペ室のトクベツな用意を頼むネ」

『特別な用意か……。分かった、手配しておくから任せて欲しい。今回護衛を付けなかったのは失態だった、謝罪するよ』

「私もいつも麻帆良にいたから油断していたネ。二度と同じことは起こさせないヨ。手配感謝するネ」

搬送先の病院の名前を告げ電話を切たネ。

「超ちゃん、特別な用意って……?」

「特別な用意は特別な用意だヨ。さよは酷い傷だが死んだりはしないから安心して欲しいネ」

「……どっちが大人だかわからないわね。普通友達が銃撃されてこんな酷い出血していたら落ち着いてなんていられないわよ」

「血も涙も無い友達などでは決してないから誤解しないでくれると助かるヨ」

「そこは大丈夫よ。そんな風には思っていないから安心して」

運転手さんはただひたすら沈黙したまま法定速度を明らかに無視していたが車を走らせてくれたヨ。

《超鈴音、サヨが応答しないのは痛みを遮断する前に身体に入ったまま気を失い一時的にリンクが切れている為です。時間が経てば精霊体の方は意識を取り戻す筈です。公的な処理が面倒でしょうが、申し訳ないですが私は力になれません。ただ、サヨの行動からすると、寸前で銃撃を察知したと思われます。爆発があった地点の観測を行ないましたが死体が無いところからすると恐らく長距離用魔法転移符を予め銃撃をした後にすぐ発動するよう設定した上で証拠隠滅に現場も爆破したようです。既に追跡も不可能です。警察機関も現場に移動しているようですが、証拠は何も出てこないでしょう》

《さよについては了解したネ。その面倒な処理は私がなんとかするからいいヨ。何と言てもこの「もしも」の時にサヨは身を張て助けてくれたのだから。しかし、移動方法が裏で攻撃方法が表の質量兵器とは手の込んだ真似をする奴がいたものだナ》

《少なくとも裏が関係しているのが明らかなだけマシですね》

《私を狙たのがどこの組織なのかというのも気になるが、ありえる可能性の一つとして魔法転移符が東洋呪術系の物だとすると麻帆良での内部分裂でも犯行グループは狙ているのかもしれないし、実際に関西呪術協会の一部の者の犯行なのかもしれないし良く分からないナ。もちろん西洋魔術系の転移符ならば海外の組織の可能性もあるだろうしネ》

《ええ、これだけ手際が良いところからすると、組織だっているのは間違いありませんが、確かに組織が国内の物と断定するのも早いでしょうね。超鈴音の予想のように他国の魔法協会の勢力という可能性もありますから》

《随分前に聞いたイスタンブールのフェイト・アーウェルンクスの事カ》

《その可能性もありますが、私が知っている情報だと人間を無闇に殺したりはしない筈なんですがね……。まあ計画の邪魔になると判断したらそうとも限らないでしょうから一概には言えませんが》

《翆坊主の知ている情報とも状況が異なているのかもしれないしナ。魔法世界側の動きが良く分からないというのは不便極まりないヨ》

《世の中何でもうまく行く訳ではないですからね。今までが順調過ぎた事から考えれば一度ぐらいこういう事があってもおかしくはないです》

《翆坊主が火星にいた時と重なたというのもハッキングされているのはありえないだろうから相手側は相当運が良かたナ》

《偶然にしてはできすぎていると言いたいですよ》

《それでも、こちらはさよのお陰で私の死は回避できたから半々だろう。これで借りができたな翆坊主》

《借りとか貸しとか思うのは勝手ですが今回はサヨの機転のお陰ですよ。私達は超鈴音を全力でサポートするのみです》

《さよが目を覚ましたら礼を言うとするヨ。通信を一旦切るネ》

間もなく病院に到着し、担架にさよを移しオペ室に移動したヨ。
私も入る必要があるネ。

「超ちゃん、オペが始まるからここで待ってないと!」

「西川サン、これがトクベツな用意だヨ。後は任せて欲しいネ。……空港の後始末やらがあると思うが頼んでも良いかナ」

「それは……もちろんよ!雪広のエージェントはパーフェクトだから任せて!」

「頼もしいネ。では……行てくるヨ」

さて、さよの身体の状況だが……。

「私が超鈴音ネ。ここに居る先生達は裏を知ているという事でいいかナ」

「私が執刀医の石田です。ここにいる5人は全員裏を知っています」

「さよの状態は見てわかる……だろうネ」

「……残念ながら……既に間違いなく死亡です。銃弾は心臓部を完全に貫通。……しかし、上からの連絡で超君の判断に従うようにと指示を受けています」

身体自体が死亡しているから治癒魔法も既に効果が無い。

「ふぅ……流石社長さんだね。話が早い。まずはとにかくできるだけ身体を正常な状態にするように外傷の縫合を頼みたい。次に怪しくない程度に時間を取ってオペをしたように見せかけてさよを個室に入れて欲しいネ。当然相坂さよの死亡認定はしないようにお願いするヨ」

「……裏の人間でなければ、単純に現実を受け入れられないだけの発言にしか聞こえないでしょうね。分かりました、その要望は全て叶えます。ではまず外傷の縫合を始めましょう」

縫合自体にもそれなりに時間を要したが、残り数時間はやはり待機したヨ。
オペ室から出る時に偽装した心電図モニタを備え付けて生きているようにみせかけたネ。
私の服もさよの血が着いていたから着替えさせて貰た。
個室に移動させてからさよの精霊体の意識が戻るのを待たが反応が出たのは深夜になてからだたヨ。
その間できる限りの対策は打っておいたネ。

《はっ!ここはどこですか!あ、鈴音さん!怪我は無いですか!》

なんだか身体は死んでいたというの第一声がここはどこかだなんて元気だナ。

《さよのお陰で私は銃撃されなかたネ。感謝するヨ。その代わり今のさよの身体は完全に死体になているから処理が大分面倒になるだろうが心配しなくて良いヨ》

《え!私死んじゃったんですか!なんでそんな当たり所悪いんですか!》

それは私も聞きたいネ……。

《それは私も運が悪いとしか言いようが無いヨ……》

《ああ、でも代わりの素体ならまだ一杯あるから大丈夫です!鈴音さんが無事ならそれで良いですよ!》

《テンション高いようだが大丈夫なのか》

《サヨ、意識が戻ったようですね。何か思い出しましたか。例えば生前の記憶……とか》

《……………………そうですね。思い出しました。でも私成仏できない事も分かりました》

《それは聞いてもいいのか》

《……はい、誰かに聞いて欲しいですし、話します。……鈴音さんは私がどう死んだのか知らないと思いますが62年前現在の女子中等部、当時高等女学校で連続殺人事件があったんです》

《……麻帆良にしては物騒な事件だネ……》

《私も被害者ですが、その前に一緒に仲が良かった友達も殺されてしまって私は犯人を捕まえようと一人で犯行が行われた場所に何度か足を運んだんです。そして足を運んだ最後に同じ学校の生徒が私の後に入ってきて、その人が犯人だとはその場で思い至りませんでした。反応が遅れた時には既に刃物が刺さっていて私も何もできないまま殺されてしまったんです。その時の意識を失う前最後の私の願いはその犯人に必ず復讐をするという、今の私から考えると違和感のあるものだったんですが、結局その記憶が今まで吹き飛んでいました》

……記憶を失たために犯人に呪う等の方法で復讐することも叶わなかたのカ……。
突然重い話しになたナ……。

《サヨ、私に何か言いたいことはありますか》

《それは殺人事件が起きないように防いでくれれば良かったのに、ですか。それは……まあ全く思わないと言えば嘘になりますけど、大分人格自体に齟齬があるみたいなので恨んだりはしませんよ。少なくとも今はこうして生きてますからね》

いや……また死んだけどネ……。

《二度も死なせてすいません、私からは超鈴音を守ってくれてありがとうと言わせてください》

《なんて事ないですよ!私も鈴音さんが怪我しなくて良かったです!一応記憶も戻りましたし怪我の功名ですね!》

怪我で済んでないヨ……。

《サヨがそれでいいならそうしましょう。本題ですが、銃撃される前に犯人は観測したんですか》

《いえ……物々しい鉄の筒だけが観測できたので咄嗟に鈴音さんを突き飛ばしただけで犯人までは観測してません……》

《そこまで余裕は無いですよね……。これでいよいよ情報が裏に関係ある人間の仕業という事だけになりましたね。対策自体は置いておくとして、これからの動きはどうするんですか。明日から学校もありますよね》

《それは休むしかないヨ。まあ何もなかたというのは流石にないが五月にはさよは無事だと連絡したから間違ても死んだなんていう情報は伝わらないヨ》

《五月さん私が撃たれたの見て大丈夫だったんですか》

《当然ショックは受けていたけど五月は心がとても強いから大丈夫だヨ。最後には私を信じて任せてくれたからネ》

《幸せの化身の五月さんをこんな事に巻き込むなんて……》

《過ぎた事を考えても仕方ないヨ。明日高畑先生がここに来る事になているから事情を説明するネ。予定としては1週間程入院した後怪しまれないように退院して、麻帆良の女子寮に生徒のいない日中に戻て魔法球を介して身体の交換を行うネ》

《木に直接投げ込む訳にも行きませんしそうなりますか》

《私1週間暇になりますね》

《サヨは一秒ぐらいで木に戻ってこられるじゃないですか》

《なら今すぐ素体に入ってすり替え……という訳にはいかないんですか》

《リスクが高いから駄目だネ。ここは魔法先生達の力を借りたほうが安全だヨ。さよの新しい身体!ならあるけどハカセしか知らないしそれも却下だネ》

《今日は私はあちこち連絡して大分疲れたから寝てもいいかナ》

《こういう事になると精霊は力になれなくて申し訳ないです》

《鈴音さん私の処理の為にありがとうございます》

《お互い様だヨ。それではしばしおやすみネ》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

朝になるまで私は鈴音さんが病室で寝ている姿を見守りながら周囲の観測を続けました。

「良く寝たネ。おお!さよの身体は完全に見た目からとても生きているようには見えない状態だナ」

身体機能が完全に停止しているので放置していても維持される機能も当然動いていません。
起きるまで随分かかりましたが今午前10時ぐらいなんですよね。

《鈴音さんおはようございます。昨日は余程疲れてたみたいですね。よく寝てましたよ》

「もう10時なのカ。おはようネ」

《翆坊主、高畑先生はもう学校を出ているカ。昨日学園長にも連絡したが》

《タカミチ君ならもうすぐ着く筈ですよ。私からも今朝近衛門殿に頼んでおきましたから大丈夫です》

《そうか、そういえば翆坊主と学園長は普通に会えるんだたナ。電話を使うより余程安全だたのに昨日は少し焦ていたヨ》

《私も昨日は普段観測しない他県の地域まで出力を回して魔法転移符を観測してました……。結局見つけても犯人のものかどうかはわからないという有様ですが》

《どうせ多重転移を繰り返しているだろうし場合によては実行犯は既に処分されているかもしれないから黒幕に辿りつくのは難しいだろうナ》

物騒な会話が始まりましたよ……。

《そうですね……。とりあえずこのまま粒子通信してても何時まで経ってもタカミチ君が来ないので切りますね》

「さよは高畑先生に精霊体の状態を見られた事はあるのか」

《んー、分からないですけどほぼありえないですね。基本的に隠蔽レベルは最大で活動してましたから》

「それなら高畑先生が私達を不審に今まで思ていたのは無理もないネ。学園長は知ているがほぼ情報を知らされていないようだし」

《それ分かります。ウルティマホラの時に不審げな目で見られましたから。ポケットに手突っ込むんですよ》

「ハハハ、別に取り憑くわけでもないのに警戒しているんだナ」

《失礼しちゃいますよね。麻帆良祭の時も私が朝倉さんと綾瀬さんから逃げまわってる時は笑って見てただけだというのに》

「あれは逆に強く止めると先生に質問が行きそうだから自分の身を守たのだろうネ」

《……考えても無駄ですね。あ、もう先生来るみたいです。あれ、高畑先生だけじゃない。あれは……葛葉先生でしたっけ……。護衛かもしれませんね》

「一応幽霊の設定なのに魔を払う神鳴流を連れてくるとは皮肉だナ」

成仏させられないように気をつけないと……。
それからすぐに病室に先生達が入ってきました。

「失礼するよ、超君」

「失礼します」

「高畑先生に葛葉先生か、麻帆良の外まで来てくれて助かるヨ」

私も早いうちに自己紹介しておきましょう。
姿を現して……

《こんにちは高畑先生、葛葉先生。すいません、私また死んじゃいました》

「「………………」」

「……それではただのホラーだヨ」

《べ、別に怖がらせるつもりなんてないですよ!ただ私の身体が駄目になったせいでこうして先生たちが来ることになったので謝っておいたほうがいいと思っただけです》

「やあ……相坂君、学園長から銃撃を受けたとは聞いたけど死んだとは聞いていなかったよ……。一般生徒が銃撃を受けるなんて麻帆良学園では前代未聞だから驚いたよ」

また情報ちゃんと教えてもらってないんですか!

「学園長から座らずの席の生徒が通うことになったとは聞いていましたがその姿は初めて見ましたね。無事……ではないようですが元気そうですね」

《はい、また幽霊に逆戻りしただけです》

「……どうやら騒ぎにしないために学園長が情報を絞たみたいだが、早速詳しい報告をするネ。その前に葛葉先生は結界を張てもらえるのかナ」

「私が裏の人間だと知っているんですか」

「今まで裏で目立つような事はあまりしていないが茶々丸の制作者の一人だから知ているヨ」

「そうか……超君はエヴァの従者の茶々丸君の制作者だったね。葛葉先生結界をお願いします」

「分かりました」

いつもだとキノが張ってますがやっぱりお札を貼るんですね。

「本題に入るネ。昨日の午後4時頃超包子の羽田空港内への肉まん販売の開始の視察に行た帰り空港から出た瞬間に長距離からの射撃を受けたヨ。狙いは私のようだたがさよが庇てくれたから私に怪我は無いネ。その代わりこの有様だヨ。犯人は銃撃後長距離魔法転移符の類を利用して逃げた後時限式の爆弾で現場を爆破したと思われるネ。理由は表の人間にしては証拠が殆どゼロに近い事からそう考えるのが妥当だヨ」

「色々聞きたいことがあるが一つずつ聞いていいかな」

「答えられる範囲で答えるネ」

「長距離射撃なのに何故相坂君は気づけたんだい」

《それは私はこう見えて目が良いんです!》

「そ、そうか。それで銃弾や血痕等の処理は大丈夫なのかい」

「雪広のエージェントに頼んでいるから抜かりは無い筈だヨ」

「雪広ですって!」

一瞬形相が変わったんですけど大丈夫ですか……。

「葛葉先生、どうしたんですか」

「い、いえ、なんでもありません」

んーどういう事なんでしょうか。
ああ、そういえば。

《葛葉先生がお付き合いしている男性が雪広の社員さんなんですよね》

「ど、どうしてそれを!」

《霊体でぶらぶらしてる時に相手の方が社員証を首から下げているのを見たことあるので》

「え、学園長が用意した身体というのは出たり入ったりできたのかい」

《そうですよ。それも聞いてないんですか》

まあ確かに機密情報みたいなものですから当然かもしれませんね。

「学園長は相坂さよの問題が解決したとしか言ってませんでしたから詳しいことは私達も知りません」

「一緒の寮の部屋の人間の方が詳しいとはナ」

「続けて質問だけど犯人の動きについて情報を知り得たのも相坂君のお陰という事でいいんだね」

「そう考えてくれて構わないネ。現場の検証情報は雪広から聞いたけどネ。資料がまとまたら学園側に送ると聞いているヨ」

「細かいことはそちらの情報が届くのを待った方が良いようだね。それでこれからどうする予定なんだい」

「私はさよの身体を見張る必要があるから1週間ここで生活するネ。私もここから出るとまた撃たれる可能性があるから丁度良い。必要な物は用意してもらうから気にしなくていいヨ。それで1週間経たらまたここまで来て車を用意して欲しいネ。一応それでさよを退院という事にして私の女子寮の部屋に運んでもらえばそれで解決するから。最後の部分はどうしてと聞かれても答えられないから予め言ておくネ」

「そういう事か。最後が確かに一番気になるが葛葉先生が荷物を持ってここに来たのはその為だね」

「私は学園長から超鈴音を護衛するように言われています。そのため今日から私もここで生活します」

「なるほど、てっきり高畑先生に経緯を報告すれば良いかと思たが確かに護衛がいてくれると助かるネ。同性となれば尚更だナ。まあその割には先生達は私の事をいつも不審に思ているから少し居心地が悪いヨ。ある程度誤解を解いておきたい所だが機密情報が多すぎてネ」

《高畑先生もウルティマホラの時は私を見てポケットに手入れてましたからね!私知ってますからね!》

「……僕の技も知ってるのかい。それは済まない事をしたよ。つい警戒してしまってね」

《そんなに私は信用できませんか……》

「不審がるなと言われても超鈴音もです。あなたは去年以前の情報が全くわからない上に次から次へと目立つ行動をするんですから当然です」

「目立つ行動をしなければ肉まんで世界征服なんてできないヨ……。最近の怪しまれる行動だと麻帆良祭での麻帆良の歴史映像やネギ坊主のウルティマホラ出場への手配が当たるカ」

「肉まんは好きにしてくれていいよ。僕もそれは応援しているからね。超君は少し信じられない技術を持っていたり、ネギ先生に何をしようと考えているんだい」

よほど銃撃なんかしてくる連中よりもマシな事やってますよ!

「是非帰りに肉まん買ていてくれると嬉しいネ。しかし……やはり答えられるのは初めて自己紹介した時の私は火星人だというので殆ど説明できるのだけどネ。前者は私の頭脳の賜物、後者は可愛い子には旅をさせよという感じだナ。一つ迷惑をかけたから先生達には今後の予定を教えるが来年麻帆良祭で形骸化する前のまほら武道会を復活させる予定だヨ。そんなに怪しいことは計画していないネ」

《私もネギ先生をあちこち連れ回したのは少し強くなってもらいたいなと思っただけですよ。なんでそう思ったのか、は秘密ですけどね》

「二人共理由はわからないがネギ先生には強くなって欲しいだけなんだね。今まで特にネギ先生に害はないようだしそれは信じる事にするよ。でも、まほら武道会を開くというのはできるのかい。一般人にバレる訳にはいかないんだよ」

「そうです!ネギ先生を強くするというのとまほら武道会の関係は分からなくはないですがあんなに人の出入りの多い麻帆良祭の何処で武道会をやるというんです」

「まほら武道会の開催の許可は学園長からも得ているし、雪広グループからの協力、龍宮神社へのお布施、体育祭で麻帆良祭実行委員会からの便宜も得たし、最後に私の技術で外部への情報漏れは完全に防ぐヨ。今年の春から温めて来た計画だから必ず実現させるネ」

「それは凄いな超君……いつの間にそんなに用意していたんだい。それにどうしてそこまで僕も知らない過去のまほら武道会を開きたいと思うんだ」

《私が60年幽霊やっていて知っているので鈴音さんに話したんです!》

と、言うことにしておきましょう。
実際殆ど正解みたいなものですし。

「いつの間にと言われれば地道な努力の積み重ねネ。さよから聞いたが、まほら武道会が形骸化したのは映像機器の登場というただそれだけの理由だそうだ。それにウルティマホラよりも賑やかで皆盛り上がたと聞いているヨ。そんな面白そうなものを科学技術の弊害程度で開催を断念するなんてやる気が足りないヨ。やろうと思えばできるのにやらないというなら私がやるしかないネ!」

「そうか……超君にとってはそう思えるのかい。僕はそういう事なら否定はしない。開催することになったら是非出場させてもらうよ。これからはあまり危険視するのを控えるよ」

「未だに怪しい事ばかりですが、あなたの気持ちは分かりました。麻帆良学園は生徒の自主性を尊重します。問題にならないという自信があるなら邪魔はしません。頑張りなさい。私も実現したら出ても良いですね」

「おお!先生達が出てくれるなら盛り上がるヨ!開催が実現したら招待するネ」

《少し先生達も信用してくれたみたいで良かったです》

「昨日銃撃を受けたというのに色々疲れさせて済まなかったね。1週間休むといいよ。僕は処理された現場を一度見に行ってから学園に戻ります。葛葉先生は後をお願いします」

「分かりました高畑先生。後は任せてください」

そう言って高畑先生は出て行きました。

《あ、因みに葛葉先生がお付き合いしてる男性は裏の事知りませんよ》

「何を藪から棒に言い出すんですか!」

先生面白いですね。

「うむ、葛葉先生としては相手の男性が裏の事を知ている方が都合が良いだろうナ」

「なんであなた達はその事ばかり!」

《そうですよね。隠し事が無くて済む方が精神的に楽ですよね。でも、女性なら秘密の一つや二つあったほうが魅力的かもしれませんね》

「葛葉先生は美人だからそれぐらいが丁度いいカ」

「何なんですか!褒めても何も出しませんよ!」

《太刀が出そうですね》

「太刀が出るネ」

「はぁ……無駄に疲れますね」

「肉まんあるから食べるといいネ」

「気が効きますね。では頂きます……」

《鈴音さん、2-Aの事だとお見舞いとかに来そうですけど大丈夫なんですか》

「さよは面会できる程元気ではないという事にしてあるからナ。来ても面会謝絶で押し通すしか無いヨ。雪広の社長さんにも頼んでおいたからあやかサンと五月がなんとかしてくれる筈ネ」

《私は良いですけど鈴音さんはどういう理由で1週間休む事にしたんですか》

「…………さよが撃たれたショックで立ち直れず自主休講でいいヨ」

《そんな理由で良いんですか……》

「さて……そろそろさよの身体を低温で保存する装置を運んで貰た方がいいネ。腐敗が進んでしまうヨ」

《それは勘弁したいですね……》

「物を口にしている時にその会話やめて貰えません。まぁ、この肉まんが美味しいのは認めます」

「これは失礼したネ。肉まんを気にいて貰えて光栄だヨ。……………………済まない、また疲れて来たから少し寝るネ」

《鈴音さん、しっかり休んでください》

あっという間に寝てしまいましたが髪の毛を纏めていない鈴音さんの姿は普段の活発そうなイメージとは違いますね。
きっと心労が溜まったのだと思います。
私が昨日気がついたのは昨日というより午前2時頃でしたから当然ですね。

「……あなたは学園長に折角身体を貰ったというのによく超鈴音をその身を投げ出して庇えましたね」

《当然です。私にとって鈴音さんは誰よりも大事なんですから。例え何度身体を失おうとも守ってみせます》

「……少し羨ましいわ。私は結婚していた魔法使いがいましたが、命を賭けて彼を守れるかというと今ではそう簡単にはい、とは言えないでしょう」

《葛葉先生の新しい相手はそうなると良いですね》

私の場合は身体自体に大した重要性が無いので人間程一度きりの命に賭けるというのがそもそもできないというのがありますけどね……。
その分思い切りの良さは誰にも負けないですけど。



[21907] 20話 冬目前の長い1日・後編
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/01/21 16:48
一週間入院のフリをしているだけでは時間の無駄だネ。
さよの身体は低温保存してもらえるようにできたし、これからを考えると何がいいだろうカ。
私の世界征服というのは肉まんは当然としても、後は別に私自信の手で世界を操ろうという訳ではないのだが、翆坊主との計画が成立した際には世界の大混乱をどうにかする必要があるネ。
雪広グループに頼ているだけではなく、全世界の人々から情報を収拾するというのが良いかも知れないナ。
三次元映像技術が出るとなれば、個人の利用は先であろうとも、開発者である私が一番詳しいのだからあえて率先して統一規格を作てしまた方が混乱しないで済むだろう。
動画をやりとりするネット上の手段は今のところ直接ダウンロードするタイプかファイル共有ソフトを使たグレーな部分のあるものが主流だし、個人が情報を公開するサイトと言ても千雨サンのようなブログやそのポータルサイトが殆どで、リアルタイムで情報を共有できているとは言いがたいナ。
翆坊主達が全てを観測する余裕が無いのなら、人々の方から情報を提供させ、あわよくば私達からの情報発信の場とする事もできる筈ネ。
2002年の今はまだSNSが試験運用され始めたばかりで、しかもアメリカやオーストラリアでの運営が主流で、日本ではついこの間9月に期間限定でサービス実験が始またばかりで言葉自体まだ広まっていないけどネ。

《翆坊主、地球上全てを観測するのと一元化されたネット上のサイトを観測するのを比較すると後者の方が負担は少ないのカ》

《休んでいればいいのにこんな時も働くんですね……。質問の答えですが、その通りです。地球上全てを観測するぐらいだったら軌道上を飛んでいる人工衛星やインターネットに介入した方が早いですよ。麻帆良の範囲の常時観測はある意味最後の防衛線ですから全て映像として収拾していますが、わざわざ観測範囲を広げても何も無い空とか海とかただの山であったりなんていうのは苦労の割に得られるものが少ないです。そもそも観測範囲をただ単に広げるだけと言っても結果は情報量が自乗化し続けるのであまり取りたくない手段でもあります》

《鈴音さん何か新しいことでも考えたんですか》

《今回の事件もあた事だし、情報収拾を何もかも雪広に頼るというのは得策ではないネ。三次元映像技術のこれからの展望もあるし、情報共有サイトと銘打た私設情報収拾兼発信網を構築しようと思うネ》

《あー、それってソーシャル・ネットワーキング・サービスのようなものですか。まだこの年代だと殆ど流行ってないですよね》

《なんですかその長い名前のサービス。……また歴史関連の情報ですか、確かに本格的に広がるのはまだ先の話ですね》

私は未来人だから良いが、歴史を知ているとは言え、一応この時間軸に生きているのだたらもう少し大きなリアクションでもするといいネ。

《既に知ているようで拍子抜けだナ。略称SNSだが、これを大規模に構築すれば翆坊主達はそれを観測すれば今までより楽に情報収拾ができるだろう。情報を発信する側が地球に住む人類なのだからナ。それに運営する側ならば情報を瞬時に世界に発信する事もできるヨ》

《なんだかんだ超包子の宣伝をするのは抜かり無いですね。しかしテキストや写真に留まらず動画までとなると費用は莫大にかかるでしょうからほぼ確実に赤字になりますよね。その他諸々の社会的問題も絡んでくるでしょうし。それでも構築できたら相当情報収拾が楽になるのは間違いないですが》

《超包子の宣伝については否定しないヨ。赤字になるのは覚悟の上ネ。私は今後も保有技術から資金は捻り出せるし、贅沢をして暮らしたいと思てもいないからナ。私の世界征服に大いに役立ちそうだから他の企業が乱立する前に主導権を握た方が後手に回らなくて済むだろう》

《精霊にとっては人間の貨幣は意味もない物ですからとやかく言いません。それより超鈴音が体調を崩して倒れる方が心配ですよ》

《そうですよ鈴音さん!毎日毎日働き詰めじゃないですか。今はアーティファクトを使える状況でも無いんですから無理しないでください》

《分かているヨ。昨日も今も良く寝たから疲れは取れているネ。逆に何かしていないと落ち着かなくてネ》

《完全にワーカーホリックですね……》

《その上今の状況の原因が私なんですから早く身体を交換したいです……》

《さよが気に病む必要は無いネ。聞きたいことの確認も終わたし行動に移すヨ》

雪広に頼てばかりでは駄目だと言たばかりだが、子会社として設立したほうが早いだろうから結局頼らざるを得ないナ。
機密情報に近いから粒子通信しに早く切り替えたいがまだ普通の電話で我慢するとしよう。

「……超鈴音です。……新しい企画があるので端末を用意して欲しいのですが……。……はい……助かります」

「あなたこんな状況でも何かやるんですか」

「葛葉先生、こんな状況だからこそ出来ることはどんどんやて行かないと駄目ネ」

《ショックで入院という理由とはかけ離れてますね……》

端末を社員サンに持て来て貰てこの1週間は過ごしたヨ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

私は葉加瀬さんを心配させるのも悪いので入院3日目、葛葉先生に鈴音さんをお願いして一度女子寮に戻りました。

《葉加瀬さん、私だけ一度戻ってきました。皆の様子はどうですか》

「うわっ!びっくりした!あ、相坂さんお帰りなさい。二人共大丈夫なんですか。入院先の病院もわからないので皆お見舞いに行けないと言っていましたよ」

なるほど、その情報伏せてたら来られないですね。

《えーと、私達どういう症状で入院しているか伝わってますか》

「出かけた帰りにちょっとした事故にあって入院とは聞いてます」

雪広のエージェント恐るべし……空港であんな酷いことになったのにニュースにならないとは……。

《正しく伝わってるみたいで良かったです。変に心配しないでも大丈夫です。鈴音さんも病室で仕事してるぐらい元気ですから。五月さんの様子はどうですか》

「超さん入院しても何かやってるんですか。なら私も鈴木さんと佐藤さんの開発進めていると伝えてください。四葉さんは少し落ち込んでますけど詳しいことは何も言わないで、ただ二人は大丈夫ですと言ったきり、超包子で料理に没頭してますよ。でも二人が休んだ初日に古さんに問い詰められて困ってました」

流石五月さんは強いですね、古さんが心配するのも分かりますが我慢して下さい。

《葉加瀬さん、色々教えてくれてありがとうございます。私達は後4日したら女子寮に戻るのでもう少し待ってて下さい。鈴木さんと佐藤さんの事は伝えておきます》

「分かりました。二人が帰ってくるまでこの部屋は私が守ってるので安心して下さい」

改造の施された部屋を深く追求することもない葉加瀬さんはありがたいです。
女子寮のセキュリティは田中さん達が守ってますから大丈夫でしょう!

その後病院にすぐ戻り、鈴音さんに葉加瀬さんのロボット開発について伝え、鈴音さんも企画の用意をしていました。

やはり病院は暇で、葛葉先生とも話しましたが、幽霊のようには見えないと言われてかなり焦りました……。
桜咲さんにはあまり半透明の姿を見せていないので今まで何も言われませんでしたが、長時間一緒にいると幽霊との違いが分かってくるみたいですね……。
そんなごまかしをしたりしながら4日が過ぎ麻帆良に戻る日がやってきました。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

高畑先生が手筈通り車椅子を載せることができる自動車に乗て病院の裏口に来たネ。

「高畑先生、車の手配助かたネ。さよの身体をこのまま車椅子に乗せて麻帆良に戻るヨ」

「超君入院中なのに仕事してたと葛葉先生から聞いたけど大丈夫なのかい」

「心配ご無用ネ。時は金なりと言うからナ。一週間寝ているのは勿体ないヨ」

「その真面目さを2-A の元気な子達にも少し分けたいね」

「遅くなると女子寮に誰か戻て来てしまうかもしれないから行動するネ」

「よし、早速麻帆良に戻ろうか」

予定通り裏口から車椅子でさよの身体を運んで高畑先生の車に載せ、1週間ぶりの麻帆良へ戻たネ。
女子寮に到着した後はさよの観測の元女子寮に誰かが見張ていないことを確認して部屋に戻たヨ。
最後の最後に不審な顔で見られたが、学園長が話さないなら諦めるネと言ておいたヨ。
きちんと部屋の鍵を閉めた後、私がさよの身体を背負って魔法球へ移動し、ポートに乗せるのはもう簡単だたネ。

《これで晴れてさよは元通りだナ》

《この身体は修復に少し時間がかかりますから他の身体を使ってください》

《身体の新調ですよ!ああ、やっとまた元の身体です!》

《喜んでいるところ何ですが、身体を得たところで魔法球に転送します》

《よろしくお願いします!》

素体の出はいりには疲労回復術式の実験で慣れたものだが無事に帰て来たネ。

「これでやっと落ち着いて生活できますね」

《まだ部屋の前に先生が二人いますから戻ったほうがいいですよ》

解決したのを見なければ納得できないカ。
魔法球からすぐに戻り、玄関へ。

「この通りさよの身体は無事に元に戻たから安心して欲しいネ」

「詳しいことはやっぱり秘密ですけどね。このまま午後の授業に私達出る事にします」

「修復可能とは驚いたな……。学園長が手配しているのか」

学園長の技術という事になたヨ……。
そういえば茶々円も学園長が作たということになている筈だしそれでいいカ。

「あなた達がまた狙われないよう学園側でも警戒は怠らないようにします。1週間で少しあなた達への認識が変わりました。やりたい事はとことんやってみなさい」

「葛葉先生1週間の護衛をしてくれて感謝するネ」

「葛葉先生、ありがとうございました」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ようやくいつもどおりの生活に戻る一歩として、電車に乗って女子中等部に向かいました。
到着したのは丁度昼休みの時間でした。

「長期休暇で学校に来ないことはあるが、こうして1週間ぶりに来ると新鮮だネ」

「そうですね。きっと教室に入ったら古さんが突っ込んでくると思いますよ」

「うむ、古ならあり得るな、いざ2-Aの扉を開かん!」

ガラガラと音を立てて開けたところ

「あ、二人戻ってきたえ!」

「二人共怪我もう大丈夫なの!?」

「お帰りなさい!」

そんな中机をいくつか飛び越え古さんが飛来してきました。

「超!さよ!戻てきたアルか!」

「古!退院したばかりなのだからもう少し大人しくするネ。心配かけたな、私達は二人共健康そのものだヨ」

「私も大丈夫ですよ」

「相坂さん!……本当に……無事で良かったです。葉加瀬さんから、今日戻ってくると聞いて肉まん用意してきました、……良かったら食べてください」

「五月さん、心配かけてごめんなさい。肉まんありがとうございます!泣かないで下さい、もう大丈夫ですから」

「五月、私を信じろと言ただろう。泣かれると皆が余計に心配するネ。肉まんはありがたく頂くヨ」

「やはり二人の怪我は酷かったアルか!」

「大したことないですよ。どこももう痛くないですから」

「この話は終わりだヨ、古。ハカセ、新シリーズの開発は進んだカ。私も新しい企画はまた工学部の力が必要ネ」

「鈴木さんも佐藤さんもバッチリですよ!二人がいない間に田中さん達の受注依頼も溜まってます」

「それは順調だネ。古もまた後で手合わせするヨ」

この後事ある度に皆から心配されて大変でした。
ネギ先生が教室に走ってきて驚きましたが、高畑先生達が何一つ詳しいことを教えてくれなかったそうで心配してくれました。
一応エヴァンジェリンさんには通信で状況を伝えておきましたが、当然ネギ先生に教えたりはしていないですからね。

この後放課後まで授業を受けたのですが、学園長先生に呼ばれました。

「失礼します」

「失礼するネ」

「わざわざ呼んで済まんかったの。大体の処理は雪広グループがやってくれたようじゃが、情報は言われたとおりに出来る限り伏せておいたわい」

「それには感謝するヨ」

「しかし儂も学園の生徒を守れんで面目無い。して、雪広から提出された報告書じゃが犯人は現場を爆破して逃走したようじゃな」

《それについては私からも話しますよ》

「おお、キノ殿か。この前来た時はまとめて話すという事じゃったからもう良いのじゃな」

《ええ、今回犯人は超鈴音を長距離から銃撃、同時に長距離用魔法転移符を発動させ、時限式爆弾で現場を爆破したと思われます。こちらで犯人の追跡を試みましたが失敗に終わりました》

「転移符を使ているからと言て必ず裏に関係があるとも限らないが組織的犯行なのは間違いないヨ」

《正直言って今回の犯人を捕まえる為に人員を割くぐらいなら別の事に回したほうが得です。証拠が銃弾しか残っていないのでもう一度わざとおびき出すでもしない限り尻尾を掴むのは難しいでしょう》

「私も麻帆良からは極力でないようにするから学園長は今まで通りにしていると良いネ。少なくとも魔法転移符について呪術協会を探るのも効果は無いだろうし、下手に溝を作ることになりかねないからそれもやめておいた方が良いヨ」

「私が鈴音さんを助けるために銃弾に当たった部分もかなり運が悪かったからこんなに面倒な事になってしまいました」

「なるほどのう……。せめて裏か表かはっきりしてくれればいいんじゃが。表の人間が偶然魔法転移符を入手しただけかもしれないのじゃな。あいわかった、学園でも警備は強化するようにしよう。雪広も謝ったかもしれんが、学園側からも護衛をつけないで済まなかったの」

「何度も言てる気がするがさよのお陰で大事には至らなかたから良いヨ。次から気を付けるネ」

「私が鈴音さんを側で守りますから任せてください」

「相坂君も身体に替えが効くとは言え超君を助けてくれて感謝するぞい」

《あまりここで考えても埒があかないですね。話しを切り替えるとして、近衛門殿はいつネギ少年に勝負をしかけるのですか》

「そうだヨ、すっかり忘れていたネ。ナギ・スプリングフィールドのまほら武道会での映像ならいつでも渡せるヨ。当然だが私が狙われた後にそういう事をするのが不謹慎だ等と思うのは筋違いだからナ」

《そうですね。そのためにネギ少年には今回の事を完全に伏せたのですし》

「ネギ先生が魔法をエヴァンジェリンさんから習い始めたのってまだ三ヶ月ぐらいですよね」

「……気を使わせて済まんの。決行は冬休みのつもりじゃよ、じゃから映像は冬休みまでに渡してもらえると助かるわい」

《流石に通常授業期間中にはやりませんか。冬休みとなれば大体4ヶ月分ぐらいの修行になる筈ですから丁度良い頃合いかもしれませんね》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

超鈴音とサヨは通常の生活にようやく戻った。
すぐ次の日に雪広の社員である西川さんがサヨが超包子で働いている所にやって来て涙を浮かべながら抱きついていたのは人目を引いたが、彼女にしてみればどうみても致命傷だったのに無事でいるサヨを見たらそう思っても仕方ないかも知れない。
麻帆良の警備レベルは裏関連に関しては呪術協会も居ることでかなり強化されていたが、表の方も超鈴音と葉加瀬聡美が鈴木さん、佐藤さんシリーズを完成させ順次出荷させていった事と、雪広グループの陰ながらの超鈴音の身辺警護の強化も加わり少なくとも麻帆良にいる限り無抵抗にやられたりはしない水準になったと言える。
工学部は一体いつの間にロボット製造工場になったのかと深く考えてはいけない。
田中さんはどう見ても西洋人だったが鈴木さんは東洋人で、何処かで野球をやっていそうに見えなくもなく、佐藤さんは女性型であり世の中の居るだけで癒される寮母さんを平均化させたような容姿をしている。
でも全員怒らせると怖い。

超鈴音のSNSサービスの提供も1週間の間に企画書が雪広グループに提出され、子会社として立ち上げることが決定した。
直ぐに認可が降りたのは銃撃事件を防げなかった事への負い目もあるのだろうが、出資の殆どは超鈴音の自費で行われ持分会社適用ギリギリの額を雪広グループが持つことになった。
その自費の中に以前冗談で言ったつもりのダイヤモンドの製造が上手くいき、工作機械用として地味に回しているのも元手になっている。
今は通常のダイヤモンドよりも硬いハイパーダイヤモンドの作成やダイヤモンド半導体への転用も視野に入れているらしく、銃撃されたというのにマッドサイエンティスト化とは、「それはソレ、これはコレだヨ」と一向にへこたれる様子はない。
特にダイヤモンド半導体の方はSNS計画の為、パソコンの処理速度の向上の強化等に役立つ事になるため真面目に作成に取り組むつもりらしい。
実は茶々丸姉さんには量子コンピュータが組み込まれているのだが、やはり全世界に広げる技術なのでオーバーテクノジー化しやすいものは控えるそうだ。
なら量子力学研究会で研究を続けている量子コンピュータは何のつもりなのかと言えば、現行技術でどこまで作れるかやってみたいという趣味の部分があったり、個人で技術を保有しているのがバレた時に隠れ蓑になるからだそうだ。

超鈴音が想定しているSNSは私の元の知識にある様々なSNSを混ぜたものに近いようなのだが使い勝手が悪くならないのか気になるところだ。
試験的に作ったサーバーで2-Aの女子中学生達でコミュニティサイトの実験等もし始めたようだが好評らしい。
彼女たちにとってはパソコンよりも携帯電話の方が使用頻度が高いのでモバイル用の対策もするそうだ。
どうやら会員登録をすればそれ相応のコンテンツを利用することができるが、かといって会員登録をしなくても一般公開用のコンテンツは全て利用出来るというものを予定しているらしい。
最終的に全世界でそんな事をやってサーバーが落ちたりしないのか気になるところだが、某OS制作会社も資本参加しそうなので意外となんとかなるのかもしれない。
そのうち起きるであろうハッキングや問題の有るコンテンツのアップロードは超鈴音、葉加瀬聡美、長谷川千雨にかかると小指一本で弾くどころか逆探知までしそうなので触らぬ神に祟りなしである。
場合によっては最終兵器精霊のイタズラと称して私達が介入したら一発なのであまり心配する必要はなさそうだ。

仮にも魔法を世の中に残すのが義務である精霊がこんなに科学の事ばかり見ているわけにも行かないだろう。
ネギ少年の方はといえば、9月から始まった粒子通信による高速思考の訓練による頭痛がほぼ完治した。
小太郎君と模擬戦をする際に本気で高速思考を利用すると身体の動きさえ間に合えば先読みに近い行動が可能になったのは大きな進歩である
だが、戦闘中というのはただ物思いにふけるのとも訳が違うので、頼りすぎると軽度の頭痛が再発するがそこは許容範囲内だろう。
ウルティマホラの時点で瞬動ができるようになっていたネギ少年は銃撃事件の時には虚空瞬動までできるようになり、冬休みに向けて目下浮遊術の習得を目指している。
まあ達人レベルまで瞬動術が上手いかと言うとそこまでではないが十分な成長速度である。

小太郎君の方は相変わらず休日に忍者の修行に同行し、分身の数を増やしつつ実体の密度の上昇を図る修行や、こちらも虚空瞬動の練度上げる修行を続けているので、両少年ともバトル向けの進化が着々と進行中である。

さて、攻撃魔法について触れていないがそちらはどうなったのかといえば……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「ぼーやが使える魔法も大分増えてきたな。ウルティマホラではただの身体強化だったが戦いの歌が使えるようになって効率も上がっただろう」

「はい!白き雷、雷の斧は使い易いですし、魔法の射手も無詠唱で7本まで出せるようになりました」

「その魔法の射手を収束させて腕に絡ませて放つ打撃技も何か名前を付けると良いだろうな。無詠唱となら相性も良い。遅延魔法を使う必要がないならその方が楽だ」

「名前はコタロー君と一緒に考える事にします。確かに遅延魔法はマスターとの通信訓練で詠唱速度も早くなって来たので必要があんまりないですね。でもまだなかなか断罪の剣はうまく構成できません」

「未完成といえど一応形だけでもできているだけマシだよ。相転移が少しだけでも発生しているだけ筋は良い。まあ私がやるように基本魔法でパッとできるようになれば簡単なんだがな」

「マスターのその断罪の剣全然わかりません……。前に見せてくれた属性がある方の物の方が理解できました」

「まだ分からないか……。こんなに簡単なんだがな、ほら!」

「うわぁ!あ、危ないですよ!」

至近距離で出すのは本当に洒落にならない。

「時間はあるから徐々に感覚をつかんでいけばいいさ。ああ、それと風精召喚の囮は瞬間で出せるように訓練しておけ。使い慣れれば相手の判断を一瞬遅らせる事ができる。模擬戦で積極的に練度を上げていけ」

「分かりました。それでマスター、防御魔法は訓練しないんですか。今のところ風楯と風花風障壁ばかり使っていますけど、風楯はマスターやコタロー君の場合突破されるので心もとないです」

「魔法障壁か……。私は不死身だから攻撃は最大の防御といえるんだが、……そうだなこれを見せてやろう」

そう言って発動させたのは魔分フィールドだった。

「な、何ですかそれ!魔力の塊、いや魔力の層のようなものができてます!」

「移動するぞ、付いてこい。これの性能を見せてやろう」

浮遊術で空中に移動するお嬢さん。

「マスター!まだ浮遊術使えません!」

「ああ、まあそこからでいい、雷の暴風を全力で私に撃ってみろ」

「確かにその力場帯は凄いですけど大丈夫ですか?」

「問題ない、もし突破されても死なないから安心しろ」

「……分かりました」

      ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―来れ雷精 風の精!! 雷を纏いて 吹きすさべ 南洋の嵐―
        ―雷の暴風!!―

雷の竜巻がお嬢さんを直撃して爆風を発生……しなかった。

「雷の暴風が掻き消えた!?」

「分かったかぼーや、これに雷の暴風程度では当たった所で煙すら出ないんだよ」

「凄いです……、それも基本魔法なんですか」

「そうだ。薄い魔法障壁を何重にするよりよほど頼りがいがある。あえて呼ぶとしたら魔法領域とでも、いや……安易すぎるか……まあいい。とりあえず今からそう呼ぶ事にしよう」

茶々円なんて名前を3秒以内に思いついたんですから今更ですよ。

「それを覚えれば良いんですか」

「覚えられるかはぼーや次第だがな。浮遊術の理論も遡れば魔法領域と似ている部分があるからこれからは浮遊術を練習しながら魔法領域のコツも身につけろ。そうすれば断罪の剣もできるようになるかもしれん。それにヒントをやるが今までやってきた通信の感覚は私の言う基本魔法の根幹を担っている。頑張って感覚を掴め」

「あの感覚が基本魔法……。分かりました、絶対にその魔法領域を会得します!」

「ああ、その意気だ。更にやる気が出るように教えてやるが、魔法領域は展開している時にも攻撃は放てるし、逆に相手と接近戦になっても相手の攻撃は領域を突破できなければ届かないという優れものだ。どうだ、やる気になったか」

「本当ですか!?やる気出ました!よーし!頑張るぞ!」

少年は心が純粋だった。

「それはそうとぼーや、また手紙を故郷に出さないのか。一月に一度出すと言っていたと思うが前回からもう1ヶ月以上は過ぎているぞ。どうせ女子寮で魔法の手紙は隠れてやらないと書けないだろう、ここで書いていったらどうだ」

「あっ!また忘れてた!ここで書いていきます。それでマスターも一緒に手紙に出ませんか。この前ネカネお姉ちゃんにマスターに魔法を教わってるって送ったら紹介して欲しいって言われたんです」

元賞金首、もちろんかなり一方的に付けられたものだが、今や人気者とは時代は変わったものだ。

「前に言ったと思うが私は光の福音だぞ……。しかし、ぼーやが一緒に映像を見たという姉なら良いか。どうせなら着物を着るがどうする」

「マスター着物着てくれるんですか!ありがとうございます!きっとお姉ちゃんも喜びます」

「そんなにはしゃぐものなのか……。ぼーやは手紙の用意でもしていろ、私は着物を着てくるから少し時間がかかる」

「はい!先に報告していますね!」

ネギ少年がネカネ・スプリングフィールドに先に手紙の内容を吹き込み始めてからしばらくして、エヴァンジェリンお嬢さんが登場し、軽く自己紹介をしてネギ少年の魔法の師匠をしていること等を簡単に述べて手紙は締め括られた。

その後また返信が来たときにまだ修行中ではないアンナ・ユーリエウナ・ココロウァ、アーニャがその手紙に乱入し、ガミガミとうるさかったとネギ少年は語った。
その際彼女はお嬢さんの映像を見ていなかったようで自己紹介でお嬢さんの本名を聞いたときに震え上がった反動でその手紙ではさっさとその人から離れなさい!とうるさかったのだそうだ。
このままだと日本に乗り込んで来ないとも限らないが、果たしてどうだろうか。

こうして見守っているつもりだが完全に覗き見でしかないと言われたら返す言葉もない。



[21907] 21話 少年達の試練
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/10/19 23:40
12月に入り寒さもいよいよ本番を向かえるという頃、警察機関が来たネ。
当然女子寮に突然やてきたのではなく、雪広グループを介して話が来たのだがナ。
多分三次元映像の試験運用の件だと思うが一応開発者に話しを通すという所カ。
既に田中サン達と後発で稼働している鈴木サンと佐藤サンでもデータは収拾できているから提出する資料に不足は無いナ。

「社長、超鈴音さんをお連れしました」

「失礼するネ。……失礼しました」

いくらなんでも警察の人が多すぎるヨ。
これはいつもどおりの口調だとマズいネ。

「超さん、よく来てくれました。紹介します、こちらから順に埼玉県警の篠田本部長、鉄道警察隊の根岸管理官と金子捜査官、そして科学捜査研究所の榊原所長です」

………埼玉県警のとても偉い人達ばかりだネ…。
紹介されてない人もいるみたいだが話には参加しないという事カ。
おや、麻帆良祭で見た方もいるナ。

「初めまして、私が超鈴音です」

「おお、麻帆良祭でも発表に出席させてもらったが本当に若いですな。今日は三次元映像技術の開発者として話がしたく社長さんに頼んだのです」

本部長さんは縦と横に幅が広いががっしりしているナ。

「お会いできて光栄です。本日は映像技術に関する資料も持参しているので詳細な説明ができます」

「それでは超さん、早速こちらの席にどうぞ」

「失礼します」

「警察の皆様にはまず、撮影技術のシステムから説明しましょう。超さん、お願いします」

「分かりました。まず三次元映像撮影の為の機器がこちらになります。見ての通りそこまで大きくは無いので監視カメラとしてもそのまま使えます。もちろん通常の監視カメラとしても使用できるようになっていますので、導入には困らないと思います。但し、保存の際に必要となる容量が現状よりも大分増えるのでそちらで費用がかさむでしょう。説明するだけでは分かりにくいと思いますので実際に撮影しながら投影機器に映したいと思います」

ゴツい人達が真剣に見ているのは居心地が悪いナ…。
撮影機器と投影機器を接続して録画開始。

「この通り、現在のこの部屋の撮影映像が縮小化されてこちらに映し出されています。有効半径は25メートルなので一つだけでもこの部屋なら全て賄う事ができます。視点の変更もできるので是非試してみて下さい」

今のこの部屋の縮小映像が映ているから誰かの身体が動くとそれもリアルタイムで反映されるので反応は上々だネ。

「榊原所長、いかがですかな」

「これ程の技術が世の中に既にあるというのは驚きです。これが監視カメラの主流になれば、監視映像が証拠不十分になる事も解決できるでしょうな」

「監視カメラを設置しても証拠が得にくい満員電車内での犯罪もこれが導入されれば大幅に検挙率が上がるでしょう」

「これだけの物を見れば申し分ないですな。本題に入りますが、我々が今回依頼したいのは電車内での犯罪の抑止と撲滅の為にこの技術を試験運用させて頂きたいという事なのです」

鉄道警察隊を呼んでいるのだから当然だろうナ。
痴漢は滅びるといいネ。

「我が社としても映像技術があっても社会的問題から公開するタイミングを図りかねていましたが、その試験運用を足場にガイドラインの作成まで進められそうですから是非協力しましょう」

「開発者である私も監視カメラの取り付けから映像の保存まで全て賄う用意がありますので導入に際しての障害についてはカバーできます」

国家権力に対して拒否するのは有り得ないのだがナ。

「それはありがたい。詳しい説明は根岸管理官と金子捜査官にお願いしたい」

「それでは金子捜査官、試験運用の予定についてお願いします」

「はい、それでは説明に入らせて頂きます。まず……」

この後導入する列車とその区間と運用期間の説明等を受けた後、それに要するカメラの数、対応する保存用メモリーの必要数について話し合い、撮影した映像の取り扱い、技術の漏洩防止の契約等色々取り決めがなされたヨ。
導入に際しては私と雪広の社員と鉄道警察隊共同で行われる事になり、運用期間終了後はカメラについては全て回収という事になたネ。
収集した映像はガイドライン作成の為の資料として活用された後一定期間が過ぎたら順次処分していくことになるだろうナ。
告知無しで監視カメラの設置を行う訳にもいかないから当然事前に運用区間での周知を徹底した上で行われるヨ。
これに反発が起きる事はあるだろうが、少数派に当たるだろう。
視点移動によるアングルの問題があるが、これが三次元映像技術の真骨頂なのだから使用禁止とはいかないが、撮影された映像の確認をする人の人選は配慮する必要があるネ。
そしてこの話し合いも終わりとなり、警察の方達が退出した後社長さんと話をしたヨ。

「今回先月の銃撃事件に触れられなかったが、東京空港署の所長から埼玉県警には話が通っていてね。本当はこの後事情聴取に移る予定だったのだがお断りしておいたよ」

そういう意味でも全面協力する事になたのカ。

「銃撃された相坂さよの事は学園長から聞いていますか」

「ああ、聞かざるを得なかった。手術を行ったことになっている病院では医者達から搬送されていた時に既に死亡していたと報告も受けていたからね。まさか幽霊で身体を与えていたなんて表で話せるような事ではないよ」

「裏でさえ珍しい事例です。怪我の痕を見せろと言われても既に一切傷は残っていませんから事情聴取をされると都合が悪いです。この度のご配慮感謝します」

「社員一人だけを付き添いに行かせたのが失態でした。当然の配慮です。エージェントの調査でも犯人を割り出す事はできなかった。大変申し訳ない」

「犯人は相当警戒感が強いようでしたから仕方がありません。そのためにもガイドラインの作成とSNSの拡大を進めたいと思います」

「こちらでも全面的に協力させて貰うよ。提携したいという企業はあちこちあるから必ず上手く行くでしょう。まだ実験段階で小規模にしか行われていないSNSですが、超さんからの企画書を見て将来的に大きな波になると確信しました」

この後どうせならと超包子ブランド化企画の社員さん達との会議もまた行ってから女子寮に帰宅したネ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

それからの12月と言えば、2学期の期末テストを残すのみであったがネギ少年に対して2-Aを学年最下位から脱出させる等という課題は出されていない。
クラスの順位を上げる事はタカミチ少年が8回チャンスがありながらもできなかったのだから、これを課題としてやらせるほうがおかしいとも言えるだろう。
まだ2学期という事もあり時期的に半端というのもあるが。

近衛門からの要請でナギ少年が優勝した時のまほら武道会の映像の受け渡しも超鈴音から無事に行われた。
襲う等と7月の末から言っていたがようやくどうするのか詳しく教えてくれたのだが、実態はというと…。

12月20日、2学期の終業式もつつがなく行われ、ネギ少年はその日教師としての仕事を終えるのに大分時間がかかり、夕方を過ぎたという頃女子寮の中に入る寸前だった。

「これは結界!?しまっ!」

一瞬にして首筋に手刀を叩き込まれ、気絶させられた。

「ふぉっふぉ、反応が良くなっとるがまだまだじゃの。儂が昔使ったこのスクロールを1年かけて改造したがとうとう使うときが来たわい。ネギ君、頑張ってこの試練を切り抜けるんじゃぞ」

近衛門はやたら分厚い魔法のスクロールを広げネギ少年の手を当てさせた。
淡く一瞬だけ発光した後、ネギ少年の身体を女子寮入って直ぐのロビーに寝かせ、スクロールだけ回収して転移魔法で学園長室に戻っていった。
その学園長室に陣取っていたお嬢さんの目の前に。

「襲うと言っていたがもう終わりか。折角断罪の剣を直接ぶつけてやろうと思っていたというに…。あ…待て…じじぃなんだそれは」

「物騒じゃのうエヴァ。この巻物にはネギ君の精神だけを取り込んであるのじゃよ」

「はぁ…茶々円が闇の魔法がどうとかうるさかったが、じじぃが似たような真似をするとはな。それで脱出条件は何なんだ」

「最後に儂のコピーに勝てたら脱出じゃの。当然見た目は儂とは違うんじゃが」

《近衛門殿、先程ご自分も昔使ったと言いましたがどういう事ですか》

「キノ殿も来とったのか。このスクロールはスタートから徐々に敵が強くなっていくようになっていての、ある時油断するとポックリいくわけじゃ。時間もこちらの72倍で進むものじゃから試練としては好都合じゃろうて」

「なるほどな、そのスクロールもやはり精神的に死ぬのか。襲うと言うよりは捕まえて谷に落とすようなものだな」

《ネギ少年は無事に…と言えるかどうかわかりませんがロビーで倒れているところしっかり部屋まで運ばれたようです。でもスクロールを使うのでしたら近衛門殿がわざわざ警備に参加したりした理由はあったんですか》

「儂も若い頃よりは魔法の熟練度自体は上がっておるからの、情報の更新じゃよ。最後に相手をするのは儂の若い頃にその情報を上書きしたコピーじゃからの」

ネギ少年の安否が心配になってきた…。

《それ…脱出できるんですか》

「ネギ君次第じゃからわからんが、最悪24日の同じ時刻には自動的に解除されるわい」

《72倍速の4日間なんていったら288日になりますけど、どれだけ長いんですか…》

「私がこれまで指導した時間の数倍だな…。ああ…ぼーやの試練が終わったら寮のクリスマスパーティが待っているのか。とんだサンタクロースだな。しかし死にすぎると本体の身体の方がまずくなると思うが大丈夫なのか」

お嬢さん意外と冷めてますが不死だとそういうのあまり気になりませんか。

「ふぉっふぉ、それは予め分かっているからの。好きな時に覗けるから安心するがええ」

普通に襲ってその日ボコボコにするよりも遥かに性質の悪いものだった。
まあある意味驚くほど贔屓している状況でもあるが…。

《近衛門殿が心配することではないですが、小太郎君には似たような事させないんですか。ライバルとして差を付けられたとなれば相当悔しがるでしょう》

「それなら既に手は打ってあるぞい。呪術協会支部は儂が直接言うと大体話は聞いてくれるからの、コタロー君にも似たようなものをプレゼントしてあるわい。その巻物も後で届く筈じゃ」

職権乱用もここまで来ると清々しいな。

「小太郎にも渡してあるのか、…あのガキなら絶対やるだろうな…」

《ネギ少年を鍛えるだけかと思えば小太郎君も計画にいつの間に混ざってたんですか》

「ついでといえばそれまでじゃがの。警備でも良い働きをしとるし、ネギ君の相手としては申し分ないからの。複製して少し弄っただけじゃし」

「てっきり私はぼーやをじじぃの孫のパートナーにでもするのかと思っていたがな。先にぼーや達の方が仮契約でもしたほうが余程すんなり行きそうだな」

あー、それは有りかもしれない。
司書殿もナギ少年と仮契約していたのだから十分あり得るだろう。

「ふぉっふぉ、このかとネギ君がそうなったら儂は歓迎じゃよ。確かにあの少年達が相棒になるというのも悪くないの」

「このスクロールが終わったら一度話してみるか。…それで一度覗いても構わないのか」

「そうじゃの、一度覗いてみるとしよう」

《私も付いて行きましょう》

近衛門とエヴァンジェリンお嬢さんに付いて行ったがスクロールの中身はなんだこれとしか言いようがなかった。
近衛門の話によるとネギ少年は気絶させられた瞬間にこの中に精神だけ移動させられ、近衛門のコピーに

「我が貴様の父親を封印した。仇を取りたくば我の元まで来るが良い、それまでに何度も死ぬだろうが、ここでは死ぬことも許されん。永遠に苦しむが良い!ハハハハハ!!」

と、茶番ゼリフを述べられたらしいがネギ少年は襲われた状況から意外とすんなり信じたそうな。
お嬢さんにしろ、近衛門にしろ少年は上手く言いくるめられているようにしか思えないのだが、一般常識の勉強もした方が良いと思った。
一方小太郎君の方はと言えば

「時間は気にする必要はない、進めば進むほど敵が強くなる。最後まで倒せたら褒美をやろう」

と、どこの手抜きのゲームだという説明しかなされていないらしいが、内容は大体同じらしく、ネギ少年のものとギャップを感じざるを得ない。
恐らく褒美というのはその中で強くなった自分自身なのだろうが、無理に悟りというか良い話のような流れを作る必要もないのではないかと思う。
まあ実際スタートからしてゲームっぽさが出ていて、最初は下級の鬼だったり低級の魔獣だったりが襲いかかってくるのを倒して、先へ進むのに一定の地点で巨大な中ボスを倒す必要がある作りになっていた。
しかし、サクサク行くかと思われれば、罠が作動して大量の矢が飛んでくる状況で襲いかかってくる同じく大量の飛行タイプの魔獣であるとか油断すると本当にあっさり死ぬようにできていた。
原始時代に突然戻り恐竜が闊歩している場所があったりと子供心にそれなりに見るだけなら楽しめるようにもなっていたが、気温が異常に高かったり、その逆等もあり手放しに喜べる程優しい場所ではなかった。
因みに死ぬと狭い部屋に移され、しばらくすると死んだすぐ前の場所にまた強制的に戻されるという仕組みになっており、断続的に死を体験するわけではないもののスパルタだった。

《ぼーやはもう3回死んだか。模擬戦ばかりやっていたから実際に油断するとあっさり死ぬという事が理解できていないようだな》

《死角からの攻撃を受けて失敗した後はしっかり全方位に障壁を張るようになって学習してるじゃないですか》

《麻帆良は安全な場所じゃが、魔法世界での未開地帯なんてこんなものじゃよ。トレジャーハントでもやっとれば、罠で死ぬことも当然あるからの》

《そういう世界だから図書館島がああいう風になるんですね…》

《じじぃも昔これで鍛えた事があったとはな。他に今まで誰か使った奴はいるのか》

《ふむ、ネギ君の祖父であるメルディアナの学園長も使ったの。しかし麻帆良の魔法先生では儂もついこの間まで存在自体忘れとって使わせたことなんてなかったの》

仲が良いとは聞いていたが一緒に使ったことあるのか…。

《ぼーやのじじぃか…》

《このスクロールもまだまだ始まったばかりじゃの。最短で終わるまででも後2日はかかる筈じゃ》

《おや、女子寮の方も大変そうですね》

《このか達かの》

《私もずっと見ているのも飽きるから家に戻るとするよ》

今日の覗き見は終わりとなり、意識を現実に戻した。
どこ吹く風という様子で近衛門は遠見の魔法を使ってネギ少年の様子を観察する訳だが女子中学生が見るには時々痛々しい苦悶の表情を浮かべる事から、多分あっちで死んだのだろう。
スクロールの最初の方とはいえ72倍速なものだから苦しそうにする感覚は短くはないので見ている側としては…。

「このか達の部屋に2-Aの子達が集まっとるの」

《超鈴音の部屋の三人はいないですけどね…》

何処に居るかと思えば工学部でまだ何かやっているようだ。

「龍宮君と刹那君は精神だけが違うところにあるのが分かったようじゃが…」

《木乃香お嬢様に泣き付かれて困ってますね》

神楽坂明日菜と雪広あやかがせっせと汗を拭いたりしているが今回は嬉しそうではない。

「刹那君もこのかともっと仲良くしてもええんじゃがのう…」

とそんな事言っているうちに学園長室に近づく人影。

《葛葉先生が到着したようなので一度隠れます》

「コタロー君の巻物じゃな」

「失礼します学園長」

「入って構わんぞ」

「呪術協会の犬上小太郎の巻物を持ってきました」

「届けてくれて助かったわい、葛葉先生」

「学園長、そちらにも同じものがありますがまさか…」

「そのまさかじゃよ」

「この巻物を使った彼を見ましたが一体どういう事ですか。苦痛を与えるのが目的なのですか」

「安心せい、儂も昔使ったことがあるで死にはせんよ」

「…そうですか。学園長はいつも説明もなしに勝手に行動するのは分かっていますが…。それでは失礼します」

葛葉先生は半ば諦めた顔で戻っていった。

《ネギ少年の方は襲ったなんて言えませんし仕方ないですね。それにしても小太郎君の方の看病はどうなってるのかと思えば点滴使っているんですか》

「ネギ君の方にも超君に連絡して恐らく持っとるじゃろうから点滴を用意してもらおうと思っとるよ。コタロー君は明日エヴァの家に移動じゃな。面倒は茶々丸君に観てもらうとしよう」

小太郎君の呪術協会内での立場は微妙だからな…。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

工学部でオーバーテクノロジーではない高性能サーバ等を制作していたが今日は泊り込みはしないからここまでだナ。
先日の警察からの依頼も大体済んだから今はこちらに集中できるネ。
電車への三次元監視カメラの設置も急ピッチで進み、麻帆良沿線の車両に備え付けられたし、同時進行でそれの周知も行われ、実際に試験運用が始まるのは後数日という所カ。
全ての車両に取り付ける程カメラの製造が間に合わなかたがそれは追々だナ。

学園長から点滴をネギ坊主に与えてくれとメールが来たが襲うというのはとうとう今日からだたようだネ。

《翆坊主、点滴が必要になた経緯について一応説明を頼むネ》

《それはネギ少年が予告通り近衛門殿に襲われて精神だけが魔法のスクロールに取り込まれ身体だけが放置状態となっているので、衰弱するのを防ぐためです》

魔法のスクロール等というものがあるのカ。

《理由は分かたがよく学園長は私が点滴持ていると知ていたな》

《東洋医学研究会ですし、ウルティマホラの疲労回復魔法なんかを見てればそう思えそうですよね。まあ、実際そうじゃないですか。あの時色々実験しましたし》

《そうだナ。しかし、そのスクロールというのは少し入ただけで衰弱するものなのカ》

《簡単に説明すると、その中では現実の72倍速の時間で一番遅くても24日までは起きません。また精神だけが入ってるといっても精神の死があるので放っておくと場合によっては熱が出るそうです》

単純に襲われるよりも辛い試練カ。
72倍とはふざけたスクロールもあるものだな。
最長で288日間とは私達がネギ坊主と生活した時間よりも圧倒的に長いヨ。

《24日には起きるというのは学園長も寮のスケジュールは把握しているらしいナ。分かたネ、魔法球に点滴はまだあるから出してくるとするヨ》

《因みに小太郎君も似たようなスクロールに入ってます。彼の場合は自分から面白そうという理由で飛び込んだようですが…》

《二人共仲の良いことだナ》

「コミュニティで皆ネギ先生が大変って言ってますね」

「作ったクラスのネットワークはこうしてみると便利ですね。ネギ先生が眠ったまま起きないそうですけど魔法関連ですか」

「恐らくそうだろうナ。昏睡状態なら点滴でもネギ坊主に付けてやるカ。しかし携帯自体の性能がもう少し上がた方がいいナ…」

「処理速度が遅いですからね。超さんが作った携帯なら問題ないでしょう」

「うむ、現行のと最新のとを比較しているが天と地程の差があるヨ」

「私も鈴音さんにこの携帯貰いましたけど便利ですよね」

「千雨サンにも渡したら下手なノートパソコンから更新するより早いと言われたからネ。性能は申し分ないヨ」

ネギ坊主の心配をあまりしない私達は冷めているナ。
女子寮に戻たがこのかサン達の部屋の前に皆群がてるネ。

「あ、超りん!携帯見た?ネギ君が大変なんだよ!どうにかならない?」

「見たヨ。私の医学で少しは楽になるネ。まず一旦部屋に戻て必要な物を取てくるヨ」

魔法球の中は物置場としての役目を果たし始めているが、まだまだ空間は広いから問題ないネ。

「皆ネギ坊主が起きないと聞いたから点滴持てきたネ」

「超さん素晴らしいタイミングですわ!ネギ先生汗をかかれていたので直接水を飲ませようと思っていたところでした」

あやかサンが飛び出してきたヨ。

「超の部屋は何でも揃ってるアルな!」

「失礼するヨ。おお、ネギ坊主もこれでは肉まん食べられないナ…。明日菜サンこのパックをこっちに吊り下げて欲しいネ」

「分かったわ。…もうネギったら女子寮のロビーで倒れてたし、起きないし、うなされてるし全く心配ばかりかけて…」

「超りん、ネギ君の症状は何かわかるん?病院に連れて行った方がええんか?」

「よし、これで点滴は入ったネ。ネギ坊主のこの症状…そうだナ、遅くとも4日したら治るヨ。でも、それまでは絶対に起きないと思うネ。大事なのは献身的な看病だナ!」

「看病なら私がやりますわ!」

「ネギは私の部屋に住んでんのよ!私とこのかでやるわよ!」

「病人の前で喧嘩するんはよくないえ」

「ネギ坊主が起きる時に丁度クリスマスパーティで迎えてやると良いヨ」

「「「「それだっ!!」」」」

「きっと起きたら喜んでくれるよネギ君!」

誰も具体的に起きる日を指定した事を聞いてこないナ…。
先に失礼するとするカ。

「点滴が終わたら様子を見て連絡くれれば良いネ。コミュニティで更新するのでも構わないヨ。私はこれで失礼するネ」

「超さんありがとう」

「超りんありがとうな」

さて部屋に戻て夕飯を食べるとするカ。
寮の夕飯には間にあわなかたから五月が作てくれた昨日の残りがあるネ。

「超さん、少しいいでしょうか」

「超、私もいいか」

せつなサンに龍宮サンか、二人はネギ坊主の状態に気づいているようだネ。
先生達に不審がられたら次は裏関係の生徒から目を付けられるとはナ。
美空は全く気づいてなかたみたいだガ…。

「廊下というのも何だから二人の部屋で話そうカ」

「…はい、そうしましょう」

二人の部屋に来たはいいが、このかサンの部屋に比べると殺風景だナ。

「ネギ先生を襲ったのは超さんですか」

せつなサンはそうくるカ。

「刹那、それは早計だろう」

「先生達に不審がられるならまだしも同じクラスからそう思われるのとはネ。質問の答えだが私は襲てはいないヨ。二人は魔法生徒だから見せてもいいカ。これは学園長からのメールだヨ」

「学園長からの直接のメール?ネギ君に点滴を付けて欲しい…これだけ?」

「ははは、ネギ先生が夏に来てからの相坂や超の行動はやはり学園長のせいか」

「龍宮サンは理解してもらえたようだナ」

「…超さん疑ってすいませんでした」

「気にしなくていいヨ。肉まん買てくれればそれでいいネ。ネギ坊主は精神だけ別の場所で修行しているヨ」

「なるほどな。しかし相坂が幽霊だから色々知っているのは分かるが超はどこまで知っているんだ」

「それなりに、知ているヨ」

「深く語る気はないか。…今回と関係はないが、先月二人が入院したのは本当にちょっとした事故だったのか。四葉の様子は明らかにおかしかったぞ」

「…私もそう思います」

「どうおかしかたのかナ」

「死への恐怖が見えた、とでも言えばいいのか」

流石プロは違うネ。

「…ふむ、龍宮サンは報酬を払えば護衛してくれるのカ」

「…ああ、報酬次第だがな」

「それなら期待に答えられるヨ。麻帆良内では必要としていないが、麻帆良の外に出る時は依頼するかもしれないネ」

「そうか、依頼人予定のプライバシーを深く追求するつもりはないさ。必要な時には協力しよう、ウルティマホラではお布施も随分貰ったことだしな」

そういえば3日間で大分払たからナ…。
その大部分は実行委員会から返て来たが。

「よろしく頼むヨ。因みに小太郎君もネギ坊主と同じ状態らしいから見舞いに行くといいかもネ」

私は呪術協会に入た事はないがせつなサンはあるだろうな。

「小太郎君もですか!?」

「二人はライバルだからネ。せつなサンはそんなに心配なら手でも握て来てあげるといいヨ」

「そ、そんな事は!」

「恥ずかしがる事はないだろう。私も明日見に行くとしようか」

「そろそろ私はこれで失礼するネ」

お腹も減たし部屋に戻るとしよう。

後でこのかサンがネギ坊主の容態が少し良くなたと更新していたがやはりこちらから確認しなくてもリアルタイムに情報が入てくるのは便利だ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

次の日、近衛門の予定通り早々に小太郎君は茶々丸姉さんによって必要なもの共々エヴァンジェリン邸へと移され、面倒を見られることになった。
桜咲刹那と龍宮真名が呪術協会に向かったが、既に移されていることがわかり、彼女達にとって初めてエヴァンジェリンお嬢さんの家に向かうという事になった。
小太郎君の場合存分に力を出す事ができるので辛そうにしながらも、満足したような顔になるため、見舞いに来た二人は予想よりも落ち着いた状況に安堵していた。
確かにネギ少年ほど深刻な状況ではないが、いくらスクロールを弄ってあると言っても砲台としての魔法使いの広範囲殲滅魔法を持たない彼にとってはかなりきつい修行になっているのは間違いない。
ただネギ少年、小太郎君共に浮遊術と気を車輪のようにして飛ぶ技術をこの一ヶ月強で完全とは言えないながらも身につけているので何処かに追い込まれてそのままみすみすやられたりということはあまりない。

しかし、誰がこのスクロールの原型を作ったのかは知らないが、とにかく長い。
既に一日が経過して72日間が経過しているが、ネギ少年はまだ大丈夫なようだ。

「奴は一体どこにいるんだ…。もう長いこと皆の元に帰っていないけど、もしかしてここもマスターの別荘みたいに時間の流れが早いのかな。何度死を体験してもあの部屋に戻るからここが実体のある場所ではないのは分かる…」

そう言いながらネギ少年が進んでいるのは現在狭い洞窟だが、いつ敵が出てくるかわからない状態である。

「……………」

無闇に明かりを点けなくなったあたり魔法使い云々よりも段々と何か違う方向に経験が積まれて行っているが、あらゆる地形に対応できるようにという配慮なのだろう…と思いたい。
常に戦う場所がウルティマホラの時のような決められた範囲内で整った場所でも、別荘の冬山エリアのような寒くて開けている場所とは限らない。

「ッ!」

―魔法の射手!!雷の9矢!!―

洞窟の僅かな音と共に無詠唱で攻撃をしかける少年は神経が研ぎ澄まされていた。
破壊属性の光の矢を使わないのも狭い場所では正しい判断だろう。
ふざけたスクロール内では、一定以上の衝撃を与えると建物が崩れるという箇所が存在し攻撃に際しての手段は的確に選ぶ必要があったりする。
果たして実践にどれほど役に立つかはわからないが…。

地味な状況だけでなく、例えば図体の大きなボスを相手にする際には速攻で確実に潰していく戦法をとりつつある。
初手で魔法の射手を連射し、通りの良い場所を見つければ、雷の斧を唱えるか虚空瞬動で接近し未完成・断罪の剣を容赦なく当てるようになっている。
一方人型サイズの相手の場合には動きが素早い事が多いため敵の手札が2,3わかるまでは迂闊に近づかずに回避と防御を基本にして、切り口を見つければ捕縛属性の風の矢を使って行動不能にした上でとどめを刺すのがある程度セオリーとなりつつある。
一度接近した瞬間に石化攻撃を喰らって終わったのは相当堪えたようだ。

精神的に死ぬだけでなく心を挫く仕掛けが数限りなくあるは何なのだろうか。

一方小太郎君はイベントに参加する感覚に近いのか失敗すると当然痛いので辛そうではあるが、「くっそー!もう一回やったるで!」と前向き過ぎて感動した。

彼らの身体の方のケアは充実しているので命の危険が迫るほど衰弱する事もなく時間が過ぎて行き、3日目を越し4日目に突入した。

「このスクロール長すぎないか。まだじじぃのコピーに辿り着いてないじゃないか」

「そうじゃのう…でもネギ君はもう後1時間もすれば辿り着くじゃろうな」

《小太郎君はまだしばらくかかりますか》

「ふむ…元が魔法使い用じゃから、弄ったには弄ったが相手の数が多すぎたりする場合にはネギ君のように雷の暴風で薙ぎ払ったりできんし、基本魔法で罠の探知などができるネギ君とも違うから後7時間はかかるの…。それでも戦闘の時に分身で頭数を増やしてそれぞれ気弾を放つという作戦は良いの」

「小太郎はその場その場を楽しんでいる傾向があるからな。ぼーや程最後まで絶対に到達という目標が明確になっていない」

「二人共儂の所までは辿り着くようじゃから問題ないじゃろ」

《てっきりどちらかは精神的に参ってリタイアすることになるかと思ったんですがね…。ネギ少年は空間の異常性に気づいたとはいえもう200日越えてますよ…。それに近衛門殿のコピーなんて倒せるんですか》

「じじぃのコピーが手抜きでもしない限りはまずないだろうな」

「もしも勝ったらそれで十分じゃが、儂としてはネギ君は一度大きな壁に当たった方が良いと思うんじゃよ。あの子は天才的な学習能力で大体乗り越えてしまうから何かにぶつかって長いこと苦労した事がないじゃろう。エヴァが指導して模擬戦で力の差は分かっておっても明確な挫折を味わったことはまだないじゃろ」

そもそも倒させる気は無いんですね…。
だからこその4日後には自動で解除という仕掛けがあるのか。

「…そうだな。あのぼーやは小利口だから何でもすぐに吸収してしまう。一般人が長いこと伸び悩んでからある時急激に伸び始める事がないのはぼーやにとっての欠点でもある」

《ネギ少年の成長を線で表すと常にどちらかというと直角に近い右肩上がりですからね…。一般人の感覚を学ぶというのも教師として役に立つという事ですか》

「若いうちは何事も経験しておくに限るの」

初日にネギ少年の様子を見て動揺した孫娘達も今はひたすら少年が無事に起きるのを待っている。
一方で特に直接何かできるわけではない2-Aの中学生達はクリスマスパーティを盛大にやろうと忙しく動いている。

そんな中いよいよネギ少年は近衛門のコピーの元へと辿り着こうとしていたのだった。



[21907] 22話 超部活設立
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/23 18:41
《それにしてもネギ君の詠唱速度は早いもんじゃの》

《そうなるように鍛えたからな》

《本気でやると雷の斧なら質は低くなるものの連射できるのは凄いですよね。それでも近衛門殿も異常に早い上、無詠唱で発動できる魔法が多すぎますよ》

《ふぉっふぉ、年の功じゃて。して、この3日間でネギ君が使っとる魔法障壁のようなものもエヴァが教えたのかの》

《完成形には程遠いがな。本当はもっと強度があるが、ぼーやのは密度が薄いからすぐ貫通する》

《掴みだけでもできているだけで私は驚きですよ…。この3日間で最初よりは密度も濃くなってるじゃないですか》

《なるほど、新魔法のようじゃな》

《そんなところだ。そろそろじじぃのところに着きそうだが戦場はどんな場所だ。まさか洞窟だなんて言わないだろうな》

《どこまでいっても地面も壁もない、あるのは空のみじゃよ》

《空間認識能力が試されますね》

《最後の最後も初めての場所か。じじぃの転移魔法が一番有効に使えるだろうな》

《最初は何秒持つかの》

瞬殺宣言だった。

《ここまで来るのにぼーや達の浮遊術はほぼ完璧になっている。せめて1分は持たせて欲しいものだ》

そして、とうとうネギ少年は近衛門のコピーの元に辿り着いたのだった。

わざわざ近衛門のコピーが「ここまで来れたのは褒めてやろう、だがここで終わりだ!」なんていう挑発を言い出して開幕。
様子見するかと思えばコピーが最初から本気で潰しにかかり瞬移で死角に回り込み魔法領域を容易く貫通する魔法の射手の雨を乱射。
少年は早速深手を負いながらも風精囮を出現させ虚空瞬動で移動するが、囮にも移動先にも魔法の射手が同時に着弾し一度目は為すすべなく撃墜。
これが全て魔法の射手なのだから恐ろしいものだ。
いかに少年が高速思考、詠唱ができても攻撃に対処できなければ意味が無い。

《近衛門殿、容赦ないですね……》

《手加減したら意味ないじゃろ》

《これを見ると私の訓練も甘いものだな…。そもそも本当に殺すつもりでいつもやっていないから仕方がないが。しかし5秒も持たんとはな》

《貫通した数が多い上に大体急所狙いですからね……》

《戦争じゃとこんなもんじゃよ。一瞬で復活はせんから少しばかり時間がかかるの》

《お優しい事に精神のダメージを緩和させるために間を置いているんだな。これが昔の私の闇の魔法のスクロールならじわじわ傷めつけて遊ぶだろうが、これはあっさりいくな》

闇の福音の頃だとそんな感じの行動を取るんですか……。
その後意識を一旦現実に戻し、2分、つまり二時間程時間を早送りし、また戻るというここ数日で慣れた行動を繰り返す事になった。

《2度目は開幕から浮遊術で高速移動しつつ風花風障壁を自分の死角に連続発動か。大方威力を見極めるつもりだな》

優しい事にわざわざ魔法の射手を障壁に向けて放つコピー。
しかし、結果はその魔法の射手が継ぎ矢の容量で同じ箇所に放たれており、あっさり貫通し急所に命中するという異常な結果だった。

《確かに風花風障壁は防御力が高いが面ではなく点で突破すれば紙のようなもんじゃよ》

《首筋と心臓、頭にまで撃つとはな……》

ショッキングな映像だった。
一発触れたら即終了のタイプのゲームかという状況である。

《こう何度もすぐにやられるとスクロール内で復活に数時間かかると些か面倒ですね》

現実で数分落ち着くのも何なので小太郎君のスクロールも覗いたが、まだ最後まで到達していないが分身の密度上昇が著しくガンガン攻略中であった。
むしろ分身に実体が出せる小太郎君の方がコピーと当たった場合耐久時間は長いかも知れない。
見られているとも知らず獣化も頻繁に使用している。

ネギ少年の方に戻るとすぐさま部屋から出ていくかというと今回は悩んでいた。

「風花風障壁をあんなに簡単に破られた。一方向に障壁を何重にして守ってもすぐにまた死角から魔法の射手が飛んでくる。せめて急所に直撃するのは防がないと……。そもそもあれは虚空瞬動なのか?厄介な瞬間移動に対応できない限り勝機が見えないな。奴が魔法の射手なら僕もこの長い間に本数も増えた無詠唱魔法の射手で対抗するしかないか」

まもなく強制的にコピーの元へ移動させられ戦闘再開。

《ぼーやも今回は厳しいだろうな》

《まだ全然挫けてませんからどこまで伸びるかですね》

《ほう、ネギ君も魔法の射手で来るかの。じゃが威力がまだまだじゃの》

そら魔法障壁があってないような貫通の仕方をする魔法の射手に簡単に対抗出来るわけがない。
今回も駄目かと思われた矢先。

《ぼーやの奴雷の斧を身体全体に振り回し始めたぞ。連続詠唱のお出ましか》

《面白い事しますね。確かに雷の斧レベルならば近衛門殿の魔法の射手の軌道を少なくとも急所からは反らせられますね》

それでも少年は少なくない数を身体に被弾した。

《斧より鞭に近いのう。ふぉっ、左手にも出して攻撃しおったか》

右手で防御、左手からの雷の斧で防御の隙間から攻撃。
右手の雷の斧の持続効果がきつくなると無詠唱魔法の射手に移行。
しかし攻撃は一切当たらない……。

《複数の魔法をこの年で同時に行使できるとは大したもんじゃな。じゃがもう限界じゃの》

既に急所以外の部分の身体がズタズタになっていたため力尽き、あえなく三度目はこれまでとなった。

その次は防御するのを捨て、回避に専念する事にしたようだが連続の虚空瞬動は近衛門にはタブーである。

《ぼーやも分かってるだろうがどこまで機動力に差があるかの確認のつもりだろうな》

《まだ戦闘経験が甘いから何処に移動するか簡単にわかってしまうの》

《避けていると思わせてやはり誘導ですか。時間は10秒でしたね……》

《これはしばらく試行錯誤が続くだろうな。普通子供相手に最初から本気でかかる相手なんてあまりいないが》

《初見の相手の力を見誤り油断することの愚かさは叩き込まんとな。最初から本気でなくとも後から突然強くなられれば同じことじゃよ》

夜9時頃にコピーとの戦いに突入したネギ少年だったがその7時間後の午前4時頃の小太郎君が追いついた時には、スクロール内時間で21日後、死亡回数も100を超えていた。
何度も試行錯誤を持てる魔法を駆使して実験したネギ少年の結論としては、強力な詠唱魔法で対抗したところで、相手は必ず回避し、攻撃手段が相変わらず無詠唱の魔法の射手のみという速射性の違いからジリ貧にしかならない為、魔法領域の強化と少年自身も同じく魔法の射手の威力を近衛門に近づけ相殺を狙うという事を何度も何度も実戦の中で繰り返すようになったのだった。
螺旋回転を早々に取り入れ、練度を着実に上昇させていった。
死、とはいっても精神空間内であるが、これを繰り返すとその度に徐々に精神力が高まっていくので飛躍的な効果が得られた。
少年の魔法の射手1矢は9月に修行を始めた当時魔力を込めたストレートパンチ一発の威力程度しかなかった。
それも今では、死ぬと移動する部屋の壁に、螺旋回転を加え威力が拡散すること無く罅が一切入れずに綺麗に穴が開くようになった。
それでも近衛門の魔法の射手には届かないが、無詠唱と最も基本的な攻撃魔法の延々とした訓練のお陰で魔分の運用効率が上昇した結果魔法領域の出力も上がってきた。
矢が着弾すると貫通までに一瞬の余裕が発生し、根本的に大分慣れてきたのもあってその瞬間にわずかに虚空瞬動することで何割かの確率で回避もできるようになったのである。

《後十数時間ですね。ところでこのスクロールは一箇所で長時間じっとしていられない理由はやはりできるだけ今持てる力のみで戦えるようにという配慮です……か》

と思ったら近衛門寝てた。
お嬢さんも一旦帰ったし。
結局見守るのは本当に私の役目らしい。
ところで経過時間の割に死亡回数が少なくなっている理由は、ダメージの受け方によって復活までにかかる時間の長短が決まるため大分粘るようになってきた少年はその度に復活までの時間も伸びてきているからである。
成長してきたとは行っても、戦闘で持つ時間はやっと秒の域を脱し、分の階段にようやく足を踏み出した程度だ。
まず今回そもそも勝たせる気はない試練なので、時間が伸びればそれだけでも十分とは言えるだろうが。

それから更に3時間、9日が経過した小太郎君も結果は最初のネギと同じである。
少し違うのは小太郎君の方が野生の勘とでもいうのか反応が良い時があり、また、やはり実体のある分身が出せる上、狗族の生命力の高さから攻撃を受けても撃墜されるまでの時間が始めからやや長い事である。

ようやく朝7時近衛門が起きた。
とりあえず先ともう一度同じ質問をした。

《その通りじゃ。スクロールで数日時間があれば新魔法でも開発できてしまうかもしれんがそれはちと趣旨が違うの。あくまでも戦闘の度に持てる力のみで対処する経験は多い方がええじゃろ。その為にも何度もやり直せておるんじゃからな。これで一箇所におる時間がたっぷりあったら勝てそうになるまでネギ君の場合修行し続けそうじゃろ》

だ、そうだ。
まあ言われてみればそうかもしれない。
ラスボスの一歩手前でセーブして修行し始めたら4日間という時間制限が存在するこの試練の趣旨が削がれるのは間違いない。

《朝になってきてみればまだ3分も持たないか》

お嬢さんもお出ましである。

《近衛門殿の瞬間移動は異常ですからね。先読みができない限り攻撃も当たらないですし。でもネギ少年随分成長しましたよ》

《ふむ、ぼーやの奴じじぃと同じ技術を磨く事にしたのか》

《ふぉっふぉ、これでネギ君は儂の弟子でもあるの》

《何言ってる。努力してるのはぼーや自身だろうに》

お嬢さんは少し嫉妬しているようだ。

《近衛門殿、ここでの空間の経験は肉体が無いですが現実に戻った場合どうなるんですか》

《それは肉体が付いて行かんから劣化するの。それでも経験と記憶はしっかり残っとるから意味はあるぞい》

やはり、ここでの成長がそのまま現実で反映される訳ではないか。
記憶が残るということはやはり魔法開発にはうってつけだろう。

《スクロールに入ればすぐに誰でも強くなれるのならば魔法学校等いらんしな》

《エヴァは厳しいこと言うの》

《現実はいつでも甘くないという事だよ。それにしても後から追いついた小太郎の方が最初は善戦しているな》

《生命力と分身、勘がありますからね》

《長瀬君との修行は効果あったようじゃの》

近衛門も知っていたか。

《彼女もあの年にしては相当な手練ですからね。瞬動術に関してはほぼ完成形と言って良い上、気の扱いもかなりのものです》

《私は直接見たことはないが、体育の時の身のこなしを見る限り、下手な魔法先生より強いだろうな》

《そうじゃな。長瀬君が山奥からわざわざ出てこの学園に入った理由は一般人の生活を学ぶ修行だそうじゃがな》

だから一応は「忍者ではござらんよ」なんて言うのか。
麻帆良学園の外だったらもっと浮いていただろうが、そこは良かったのか逆に修行の場として温いのかもしれないし、どうだろうか。

《昔からたまに忍者が学園に入ってくることもありましたが、入学時点でこれだけ強いのは彼女が初めてでしょうね》

《入ってくるにしてもある程度都会慣れしとる忍者が多かったがの。長瀬君は珍しい例じゃよ》

生きる化石か何かなのだろうか。

そんな話をしながらも刻々と時間が過ぎていく中で、ネギ少年は最近練習していなかった遅延呪文にも手を出し始めた。
どうやら解放しながら同時に高速詠唱を行うつもりらしい。

《頭の回るぼーやはまた遅延呪文をやり始めたか。まあ否定はしないから好きにすればいいがな》

《ふぉっふぉ、あれもこれもとやってはどっちつかずになると思うがの。ネギ君の才能に期待じゃな》

《高速で詠唱が行えますからそこまで必要かというと疑問もありますが一度に発動させれば火力は上がりますね》

《断罪の剣を遅延呪文で貯めておくのは今のぼーやには防御としても利用できるな》

まさに攻撃は最大の防御って、少し違うか。
しかし、高速移動、魔法領域、無詠唱魔法の射手、その他の高速詠唱、更に遅延呪文が並行して使えるのは才能に溢れすぎだと思う。
最初の3つが最終的には完全に無意識でできるようになるのだろうが、まだそこまで熟達していない。
対して、今の近衛門コピーは攻撃を喰らわないという前提のため、高速移動、無詠唱転移魔法及び魔法の射手だけで対処している。
非常にシンプルだがそれ故に強い。
近衛門を完全に倒すならば、どうにかして捕獲するか、一点を爆心地とした広域殲滅魔法で消し飛ばすしかないのではないだろうか。
生半可な広範囲魔法ではどうせ相殺するか防がれるか又は完全に一旦退避されるであろうし難しいだろう。
神経ガスを大量に散布するか強力な爆弾などが良い対処法だと思うが、外道である。

長くなったがネギ少年の時間制限的に最後になった戦いは良くやったと思う。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「うわぁっ!!」

「ぐっ……はぁっ……はぁっ……またやられたのか」

もうこの起きた瞬間の激痛も数百回は超えた。
それでも父さんの仇なら負けるわけにはいかない。
もう一度だ。
移動する前にいくつかの魔法は発動しておけるから準備しよう。
まずは浮遊術から……。

    ―戦いの歌!!―
   ―魔法領域展開―
―断罪の剣・未完成 術式封印!!―

    扉を開ける前に

  ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
 ―来れ 虚空の雷 薙ぎ払え―
 
    さあ行くぞ!

    ―雷の斧!!!―
奴は予想通り転移、次は今まで通りなら続けて魔法の射手が死角の斜め上か下から飛んでくる筈。
    ―風精召喚―

マスターの教え通り一箇所に留まらず踵に魔力を貯め虚空瞬動。
上方に移動しながら上下反転で後方視認!!

攻撃は下から!追尾式魔法の射手が来る!
ここで相殺だっ―解放!!―全弾撃破!
続けて―光の17矢!!―

どうせ通ってない!背後の急所の射線上に
 ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―来れ 虚空の雷 薙ぎ払え―
振り返って―雷の斧!!!―

……今度も撃破、次はどっちだ。
移動して離れようにも奴の瞬間移動できる距離は底が知れない。
とにかく―断罪の剣・未完成 術式封印!!―
再度右手に―断罪の剣・未完成!!―

左手で避けられない―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―雷の精霊199柱!!集い来りて 敵を射て―魔法の射手 連弾・雷の199矢!!―攻撃だっ!行け!!

奴に魔法障壁を張る気がないのは分かってるけど、前方180度に向けて多弾頭で放っても倒せはしない!
どこに反応が…左上かっ!
断罪の剣で吹き飛べっ!

「はぁっ!!」

全力で投げつけるっ!!

……けどやっぱり回避されるか……もっと全然、速度が足りてない。
奴と対等に戦うなら転移魔法がないと駄目だし、雷系最大呪文の千の雷も覚えないと!

まだ、まだ、始まってもいないのに!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

《今回で終わりでしょうけど集中力が凄いですね》

《ああ、最後の最後で7分経っても未だまともに被弾していない》

《ふぉっふぉ、ここまで来れば合格じゃろうて》

―出力最大!!―

おおっ、かなり高い水準の魔法領域か!

《ぼーやの奴、壁を突破したか》

《こりゃ驚いたわい。あそこまで硬くなるのかの》

既にあちこちに滞空している光球から放たれる無数の魔法の矢を未完成の断罪の剣で吹き飛ばす少年。
同時に魔法の射手で応戦し、相殺しきれず突破してくる矢は魔法領域着弾後、2秒かけて突き進みながら減衰、消滅に至るようになった。
もうすぐ現実に戻ってくるとして、再現が難しくなるというのが惜しいぐらいである。
流石にお嬢さんの雷の暴風を一瞬で霧散させてしまうのと比べるべくもないが、戦闘訓練を本格的に始めて4ヶ月程度の子供が到達するレベルは遥かに超えている。

《このままだと魔力が完全に尽きるまで続く持久戦になるな。小太郎のようにこちらも行動パターンが変わるのか?》

《そうじゃな。もうそろそろじゃろう》

近衛門のコピーの行動のルールは現状の戦法で速攻で倒す事が第一となっている。
当然現状で倒せないと判断すればすぐさま攻撃パターンが変わる訳だ。

近衛門の宣言通りすぐにコピーの様子が変わり、空を埋め尽くす大量の槍が出現した。
少年はそれを見た瞬間の表情はなんともいえなかったが、そろそろ身体も限界に達しそうな所、まもなくそれらが殺到した。

《まともな対抗手段も無くここまで出させたなら良くやったよ、ぼーや》

《ええ、ここでの経験は後で成長につながると思います》

《10分を越すとは儂も思わなんだ。ナギとはスタイルは違うが、片鱗を見たの》

《ああ、ぼーやだけの進むべき道の始まりだな》

さて、小太郎君の方はどうなったかだが……。
実体のある分身2体と共にお互いに攻撃と護衛を補い合うという戦法で善戦していた。
一人が防御に全力を注ぎ、一人が攻撃に、もう一人は両方の補助をしながら視野の確保で死角を潰す。
うまくできていたため、耐久時間は長かったが、攻撃が本体に当たるとなると一気にやられてしまう弱点があった。
異常な威力の魔法の射手を見てやはり彼も気弾一発ずつの威力を上げるようになり、2発なら1矢を越える威力にまで上がった。
結果この地道な気のコントロールのお陰で全身の気での強化も遥かに効率が上昇し、獣化するとその伸びが実にはっきりした。
その水準に達したのはネギ少年の最後の戦いよりも数十分、つまり1日と少し早かった。
しかし先の通り、早々に攻撃パターンが変わった近衛門コピーによりそれもあえなく撃墜されたのだった。
ネギ少年よりも到着は遅くなったが視野の問題を解決できるという点はネギ少年よりも遥かに有利であった。
スクロール内の二人が戦ったら先に近衛門に攻撃手段を変えさせた小太郎君が勝つかと言えば、ネギ少年の魔法領域の頑丈さ、未完成断罪の剣の危険性も考えると、どうなるかはわからない。
何より、今回は終始遠距離戦であり、接近戦のかけらもないので比較が難しいだろう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「うわぁぁっ!!」

最後にあんな攻撃に移ってくるなんて!

「ぐっ……はぁ……はぁっ……あれ!?ここは?」

「ネギ!気がついたのね!」

「ネギ君起きたんやね!」

「ネギ先生!よくご無事で!」

ああ、やっと…やっと戻ってきたのか…。

「うっ…うっ…うっ…」

「ネギどうしていきなり泣き出すのよ」

「いえ…戻ってこれたのが嬉しくて…。凄く…長い間ずっと寝ていた気がします」

「ネギ君な、4日間ずっと寝てたんよ」

あんなに長かったのにたったの4日間!?
マスターの別荘の比じゃない!

「たったの4日間……」

「たったって何よ!ずっと苦しそうにしてるし、汗はかくわ心配してたんだからね!」

そうか、アスナさん達は僕の事をずっと看病してくれてたのか…。

「アスナさん、このかさん、あやかさん、心配させてごめんなさい。寝ている間にご迷惑をおかけしました」

「ネギ先生、そんなにすぐ動かれて大丈夫なのですか?」

「そうやよ、ずっと寝てたんやからゆっくり起きんと身体に悪いえ」

「大丈夫です」

「ネギ…何か雰囲気変わったわね」

ずっと一人で生活してたからかな。
前より精神的に強くなったのはわかる。

「アスナさん、僕は僕のままですよ」

「何だかネギ先生が凛々しくなられましたわ!」

「そうけ?…う~ん…よく見ると顔つきが変わったような気がするなぁ」

「ま、それは良いとして今から寮の食堂でクリスマスパーティやるから行きましょう」

「そうやね!ネギ君の為にクラスの皆も張り切ったんやよ!」

「では早速私がネギ先生のお着替えを…」

「いいんちょ!それぐらいネギなら一人でできるわよ!」

ふふ、この二人は変わらないな。
久しぶりに現実に戻ってきて、起きてみればクリスマスパーティを皆が準備してくれているらしい。
食堂に向かう途中の廊下

「ネギ、さっきたったの4日って言ってたけどまさかエヴァンジェリンさんのアレみたいな感じだったの?」

アスナさんが耳元に頭を寄せながら小声で話しかけてきた。

「確信はないですけど、4日間は僕にとっては数ヶ月間の時間だったと思います」

「数ヶ月!?何よそれ!」

「アスナさん、声が大きいですよ」

「わ、悪かったわね。でもただの夢じゃなかったのね…」

「はい、全部覚えてます。だからアスナさん達に会えて嬉しいです」

「ば、馬鹿ね。同じ部屋に住んでるんだから当たり前じゃない」

…アスナさんは素直じゃないな。
そんな事を話しながら食堂についた。

「「「「ネギ先生復活おめでとう!!!」」」」

「ほらネギ、皆あんたのこと心配してたんだからお礼ぐらい言いなさい」

「はい!皆さん心配かけてごめんなさい!こんな綺麗な飾り付け見たこと無いです、ありがとうございます!」

「硬いことはいいからネギ君の席はこっちだよー!」

「そんなに引っ張らなくて大丈夫ですよっ!」

「恥ずかしがらないくていいよー!」

そうだ、これが2-Aの皆だったな。
クリスマスイブっていうと落ち着いて過ごすものだったと思うけどここでは関係ないみたいだな。

《ぼーや、起きたようだな》

マスターだ!

《マスター、心配かけてごめんなさい》

《気にすることはない、ぼーやの体験の原因は学園長からの試練だからな》

学園長先生の試練!?
じゃあ最初に襲って来たのも学園長先生だったって事なのか。

《じゃあ父さんを封印したっていうのは嘘なんですか!?》

《ああ、そうだ。ぼーやに本気を出させる為の口実だろう》

《そうだったんですか…。でも僕最後の相手を倒すことはできませんでした…》

《当然だよ。あれは姿は異なっても学園長なんだからな。それに元々倒させる気は無かったようだ》

《あの最後の相手は学園長先生だったんですか……》

《私も何度か覗いたが、まあ新型の基本魔法もまだ不完全な状態で良くやったよ。あれでぼーやに新魔法でもじっくり開発する暇があればもう少し健闘できただろうな》

《はい、落ち着いていられる時間が殆ど無かったのはきつかったです》

《それでも戦闘中での地道な工夫と発想は良かったぞ。特に最後の集中力と、魔法領域の完成度は目を見張ったよ。浮遊術も最初と比べると自然になった》

《ありがとうございます!》

《…それと、あの空間だが、学園長もぼーやのじじぃも経験済みだそうだ》

《おじいちゃんが!?》

《小太郎もぼーやと同じ日からやっていたよ。結果はぼーやと同じで最後の相手を倒すことはできなかったがな》

《コタロー君も!?》

そうか、おじいちゃん達もコタロー君も同じことやったのか。

《明日学園長の所に行くと良い。一応試練に耐え切ったご褒美をくれるらしいからな》

ご褒美ってなんだろう…。

《はい、分かりました、マスター》

《今日は楽しむ事だな。それでは通信を切るからな》

う~ん…なんだかずっと騙されてた気がするんだけどな…。
でも、今日は言われたとおり、皆に会うのも久しぶりだし楽しもう。

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ネギ少年と小太郎君は両者共に288日間の長きに渡る精神空間をリタイアすることなく過ごし切った。
小太郎君は近衛門のコピーを倒すことができなかった事を悔しがっていたが、勝てたら勝てたで近衛門よりも既に強い事になるので流石にそれは無い。
あの空間では肉体的成長は一切しないものの、精神力、反射神経、戦闘技術やこれらの積み重ねの中での勘については飛躍的に伸びたと言える。
スクロール内で全く新しい新技を開発するだけの安全な時間が無かったものの、その場の発想の中での技の昇華は著しいものだった。

ネギ少年と小太郎君は次の日、言われたとおりに学園長の元に向かった。

「ネギ君、コタロー君4日間よく頑張ったの」

「へっ、学園長も乗り切った言うんやから当たり前やで!」

「僕は少し騙された気がしました…。でも途中で挫けそうになっても頑張りました」

「して、二人は凄く強くなったと思っとるかの」

「おう、数倍は強くなった気がするで!」

「僕もそう思います」

「そういうと思っとったが、あのスクロールは精神だけを取り込んどるから、現実で同じ事を再現しようとすると劣化するんじゃよ」

「えー!?そんなアホな!折角あないに強うなったと思うとったのに」

「そうだったんですか……。でも出来事はしっかり覚えてます」

「その通りじゃ。経験と記憶は残っとるからそのイメージに近づくのは修行次第でじゃから努力すればええ」

「意味無かったんやないんか。よっしゃ!それならまた修行や!」

「あのイメージか……忘れないようにしないと」

「しかしネギ君には何も伝えずスクロールに放り込んで悪かったの。恨まれても文句は言えんのじゃが、このプレゼントで我慢してもらえると助かるの」

「おじいちゃんもやったと聞いたのであまり気にしてません。それでこれってニュースでやっていた三次元映像ですか」

「なんで学園長が持っとんのや」

「それは色々秘密があるんじゃよ。大事なのはこの映像の内容じゃ。確かこの辺じゃったの」

「ここ龍宮神社やないか」

「うん、ウルティマホラの時とは少し舞台が違うけど…」

「これはの、今は形だけ行われておるまほら武道会の昔の映像じゃよ」

「おっこの赤毛の奴ネギによう似とるな!」

「え、ナギ・スプリングフィールド!?学園長先生、これって?」

「ネギ君の思った通りじゃよ。これはネギ君の父親が10歳で、まほら武道会に突然参加した時の映像じゃ」

「これがネギの父ちゃんか!」

「これが父さんの小さい時…こんなに強かったんだ……」

「なんやめっちゃ強いな!……でもあの学園長の偽物に比べるとまだ戦えそうやで」

「そりゃそうじゃろう。この大会では地面があるからの。それに色々ルールもあるものじゃから二人が戦った儂の偽物とはそもそもスタイルが違うんじゃよ」

「ウルティマホラみたいなもんなんか」

「近接戦闘がなんだか懐かしいや」

「ナギの話じゃが、当時既に浮遊術は完璧にできおったし使える魔法は少ないものの体術のセンスは誰に教わるでもなくとにかく強かったの」

「父さんはどこまで勝ち残ったんですか」

「最後まで見てのお楽しみじゃよ。全試合揃っとるからじっくり見ていくとええ」

「学園長先生、ありがとうございます!」

「昔はこんな凄い大会あったんやな」

「実は来年の麻帆良祭では当時と同じまほら武道会を開催する予定なんじゃよ」

「本当ですか!?」

「一般人対策はどうするんや」

「それはしっかり対策を用意しとるから気にせんで良いぞ。二人とも出場する気があるならこれからも修行を続けるとええじゃろ」

「当たり前や!ウルティマホラと違うて気を隠さず使えるんなら絶対出場するわ!ネギもそうやろ?」

「うん、僕も絶対に出場するよ!」

「特別企画もあるようじゃから楽しみにしておくといいじゃろ」

ナギ少年が優勝まで行くまでの映像を真剣に見続けていた少年達の目は輝いていた。
その後の少年達にまずは魔法のスクロール内での自分のイメージに追いつくこと、そして目指すは10歳の時のナギ少年を越すという明確な目標ができ、より修行に打ち込むようになったのだった。

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ネギ先生達の試練も終わり、年末年始となりました。
テレビのニュースではとうとう麻帆良沿線での監視カメラの試験運用が始まったと報道され、試験運用期間の間に犯罪発生率がどれだけ減少するかのサンプルが集められるそうです。

「今年も無事に年末を迎えられましたね」

「そうだナ。私にとても日本での二度目の年末になたヨ」

「去年は年を越してから蕎麦を食べましたが、今年こそ正しく食べられましたね」

「そういえば鈴音さんも葉加瀬さんも去年は年末年始関係なく研究ばっかりでしたね」

「そう言われると、まだまだ研究することは尽きないのだけどナ」

「私も相坂さんが収集した行動プログラムで新型ロボットの新たな可能性を模索したいです」

「あのプログラムに従えば人型に限らず四足歩行でも昆虫の動きも再現できるだろうからネ」

「昆虫の動きはちょっとやめて欲しいです…」

「何言ってるんですか相坂さん!昆虫の動きからはまだまだ学ぶべきところが限り無くあるんですよ!例えばムカデの足の動きが精密に再現できれば新しい自動車ができるかもしれませんし他には…」

なんでムカデとかそういう考えたくないものをいきなり例に上げるんですか!
そんな見た目の乗り物乗りたくないですよ!
…というか折角年末でほっと一息かと思えば結局マッドサイエンティスト化するんですね…。

せめてもの癒しと言えば、日本での年末年始が初めてのネギ先生が初詣やおせち料理にどれぐらい感動するのかというところですが、きっと目を輝かせてくれると思います。
でも、今回の試練を乗り越えてなんだか顔つきが変わってただのかわいいからカッコイイになったと皆言っています。
コミュニティの方の情報もそういう書き込みで盛り上がったりしてますけど凄い内輪にしか役に立たない内容ですね。
連絡網としてもかなり役に立っているみたいでカラオケに行こうとか、近いうちに服を買いに行く予定があるけど誰か一緒に行かないなんていうのを書き込むと同じ寮の部屋でなくてもすぐに伝わるので便利といえば便利です。
長谷川さんは未だに積極的にコミュニティでは情報を出していませんが、自分のブログでは相変わらずのようです。
SNSの制作には協力を得ているので規模が大きくなれば飛躍的に会員が増える事につながると思います。
と、ぼーっと考え事をしていたら鈴音さんと葉加瀬さんの白熱した会話はまだ続いていたみたいです。

「二人共もう後10秒で新年ですよ!」

「おお、そうだナ」

「カウントダウンですね」

6,5,4…

「「「3!2!1!、あけましておめでとう!!」」」

「それにしても皆すっかり携帯の更新にも慣れましたね」

「予想通りだが、大量のあけましておめでとうだネ」

「やってみて思いましたがこれは絶対流行りますね」

「うむ、間違いないヨ。さて、皆で初詣に行くみたいだから用意しようカ」

「はい!」

女子寮の前で皆と合流し、ネギ先生も引っ張って龍宮神社に行き初詣をしました。
綾瀬さんがネギ先生に詳しく参拝の方法とそれにまつわるうんちくを長々と講釈していて、流石神社仏閣マニアだと再認識しました。
去年しつこく追い掛け回されたのも良い思い出です。

次の日去年と同じく朝食堂でおせち料理を食べた後、改めて神社に向かい、おみくじを引いたり絵馬を書いたりというのは伝統通りというのか去年と違いありません。
しかし今年は私に違いがあります!
それは私も着物を着ているということです。
ネギ先生が似合ってますねと褒めてくれて着て来て本当に良かったです!
それを聞いた着物を来ていなかった人達は私達も買っておけば良かった!と騒ぎになり、結局ネギ先生が全員に似合ってますと言う羽目になりました。
龍宮さんに私と鈴音さんは猛烈に安全関連のお守りを進められ、良いようにお金を消費させられたのです。
後で確認しましたが流石に安産祈願は余計ですよ!
語感的に似てますけどそういうことじゃないです!

そして、そこそこに解散となり、予想通りというか昨晩二人が熱く新型の制作について語っていたため工学部に半ば強引に連れていかれ、計算に付き合うこととなりました…。
いつの間にか工学部の直ぐ横に体育館のようなものが出来始めているのですが、どうやらSNS関連の為のもののようです。
見た感じ今月中には容易に完成しそうなあたり、どういう建築技術なのか気になります。

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1月も今までと変りなく忙しい日々を過ごしたが、試験運用している監視カメラがあるのにもかかわらず電車で犯罪におよぶ不届き者が次々に検挙されたり、一週間毎に犯罪発生率が激減していくのが報道されているのは爽快だたネ。
運用期間はまだあるが、既に人口の密集している東京の路線からも導入したいという話が上がて来ていると雪広から知らされたヨ。
近いうちに個人的な表彰状が渡されるという話もあるらしいが、目立つのは御免だネ。

11月から空港で販売し続けた超包子の肉まんも世界に届けられていて、とうとう来月にアメリカで支店を出す件が実現することになたヨ。
実際国内に店舗数を増やしてもよかたのだが、各空港店からもインターネット販売を行ているから無闇に情報漏えいの確率を上げる必要も無いネ。

《翆坊主、来月アメリカに出店する超包子にまた視察に行こうかと思うのだがどうネ?前銃撃犯はもう一度おびきだすでもしない限り尻尾を掴めないと言ていたが、国外にあえて出てまた似たような事があれば国内組織なのか国外組織なのかも判断できるヨ》

《わざわざ囮になるということですか…》

《鈴音さん危ないですよ!行くなら私もまた付いていきます!》

《サヨが付いていくというなら構いませんが、プロの護衛はしっかり連れていった方が良いですよ》

《それなら丁度龍宮サンがいるネ。この前約束もしたから丁度いいヨ》

《また随分用意周到ですが想定の範囲内ですか。一応確認ですがどこの州ですか》

《ワシントン州だヨ。それがどうかしたのカ》

ワシントン州と言えば、例のOS会社があり、アメリカのアラスカを除外した一番北西の位置で美しい風景が広がっている西海岸の州だヨ。
鈴木サンのモデルになた野球の選手の所属するチームの本拠地でもあるネ。

《いや…都合がいいと思いましてね。アメリカにはジョンソン魔法学校があるのですが、なんとワシントン州にあります。そしてその魔法学校出身の生徒が超鈴音達の一つ下の学年にいます。名前は佐倉愛衣と言いまして案内でも頼むと良いかもしれません。次が重要ですが彼女は探知能力が非常に高いそうです》

確かに都合の良い事だナ…。
無理に連れて行く必要もないが面白そうではあるネ。
地理に詳しいならまずマイナスに働くこともないし英語も話せるカ。

《ふむ、面白そうだナ。適当に部活でも設立してアメリカに行てくるカ。人数は私、さよ、佐倉サン、龍宮サン、あと一人足りないネ》

《わー、なんか確かに面白そうですね!危険がまた一杯そうですけど》

《あと一人だったら春日美空と初等部ですがそのマスターのココネ・ファティマ・ロザでもどうですか。言ってて大分投げやりな感がありますが、ココネの方は微弱な念話を聞き取る能力があります。私が仮契約カードでの通信を拒否したのは実は彼女が原因です》

《こういう時翆坊主の能力はずるいとしか言いようがないナ。しかし美空について触れないのはなんとも失礼だと思うヨ》

《ではコメントを…春日美空はココネを肩車して早く走れます。イタズラ魔法が得意です。超鈴音と同じクラスですから巻き込むのは意外と簡単です》

そんなところだろうと思たヨ。

《キノ、棒読みですよ…》

《ふむ、一足先に部活を設立しておくカ。ネギ坊主達もいずれ部活を設立して魔法世界に行くのだろう?》

《コメントはスルーですか。まあその通りですよ》

《私海外行くの初めてなので楽しみです!》

《さよ、まだ決また訳ではないが、…学園長には多大な貸しがあるからほぼ確実に実現できるネ。早速授業が終わたら交渉開始ネ》

《えっ鈴音さんもう動くんですか!?》

《視察まで時間がないから急がないとナ》

《設立頑張ってください。今回は私もサヨからバックアップを行ないますから観測は遠隔地でも大丈夫です》

《それって私の人格残るんですか?》

《人格には影響ないですよ。サヨが知覚して無くてもこちらで知覚できるようになるだけです。いざとなったら強制的に身体を動かすかもしれませんが》

《さよは海外旅行を愉しめばいいネ。今回は私達の方が先手を打てる状況になるからナ。通信終わりだヨ》

この日授業が終わった瞬間から行動を開始したネ。
まずは隣の席からだヨ。

「美空、私が作る部活に入るネ」

コソコソ話しかけると何か企んでる感じがするナ。

「超りん今なんと?」

「私が作る部活に入るともれなく海外旅行がタダでできるヨ」

「おおっそれはいいな、何処に行くのさ」

フフ、簡単に釣れるものだナ。

「ワシントン州だヨ。西海岸だから期待しておくと良いヨ」

「おっけー、何かよく分かんないけど私はいいよ」

「交渉成立だナ」

次は龍宮サンだな。

「龍宮サン、護衛の依頼だヨ。私が作る部活を隠れ蓑にアメリカまで来月着いてきてもらいたいネ」

「アメリカまでか…。来月とは急にどうしたんだ」

「超包子のアメリカ支店が出店するから視察だヨ。費用は全額負担に報酬は払うから任せるネ」

「本当の狙いはそれではないようだな。護衛のついでにタダで久しぶりに海外に行けるようだしその依頼受けよう」

「話が早くて助かるネ」

次は佐倉サンか。

《翆坊主、佐倉サンは何組で、もしくはもう何処かに移動しているカ》

《ホームルームが長いのでまだ大丈夫なようです。クラスは1-Dですよ》

《情報提供感謝するネ》

《あっという間にサヨを含めて四人は早業ですね》

1-Dは二階だたナ…。
ホームルームが終わたようだネ。
顔がイマイチ分からないが、お料理研究会の後輩がいたから聞けばいいナ。

「超先輩!どうしたんですか?」

「少し聞きたい事があてネ。佐倉愛衣サンはどの子か教えてもらえるカ」

「それならあそこの端の席の赤い髪の毛の子です」

「教えてくれてありがとネ」

そういえば翆坊主の映像で見た事あたナ。

「佐倉愛衣サンだネ。初めまして私は2-Aの超鈴音だ」

「は、初めまして。はい、私が佐倉愛衣です。超先輩が私に何かご用ですか」

「知てもらえているようで光栄だネ。詳しい話は省くが、海外に行く部活を設立するつもりでネ。まず来月アメリカに行く予定なんだヨ。それで私のクラスの情報通から佐倉サンがアメリカに留学していたと聞いて案内を頼みたいと思たネ」

朝倉サンから聞いた事にしておくネ。

「か、海外に行く部活ですか!?私アメリカには詳しいですから構いません!」

海外に行く部活と言た瞬間随分テンション上がたナ。

「協力感謝するネ。海外旅行の費用は全額タダになるから安心するといいヨ。書類の手続きは後になるから携帯のアドレスを教えて欲しいネ」

「全額タダになるんですか!?アドレスは、ちょっと待ってください携帯を……あ、はい、ありました、これです」

「これでいいナ、また後ですぐ連絡すると思うからよろしく頼むネ」

「はい、連絡お待ちしてます!」

もう少し疑われるかと思たのだがタダとか海外に行く部活と聞いただけで釣れるあたり美空と同じようなものカ。

最後は学園長室だナ。

「学園長、失礼するヨ」

「超君か、入って構わんよ。今日は何の用かの。結界は張っておくぞい」

「助かるネ。私の超包子のアメリカ進出の視察とこの前の事件の犯人を炙り出すのを兼ねて部活を設立したいと思うネ」

「随分危ない橋を渡ろうとするものじゃな。一応話を聞くが部員はどうなっとるんじゃ」

「私、さよ、龍宮サン、美空、1-Dの佐倉サンだヨ。できれば美空のマスターも連れていけると助かるネ」

「ふぉっふぉっふぉ、その情報を提供したのはキノ殿かの」

「そうだヨ。丁度ワシントン州に行くから佐倉サンは適任だろう。学園長は許可したくないかもしれないが、これは私に借りを返す良いチャンスだと思うネ」

「ジョンソン魔法学校の事も聞いたのか。ふむ…また危ない目に合わせるのは借りを返せるとは言えないと思うんじゃが、超君には借りが溜まっとるからの…。よし、分かった、部活の内容は外国文化研究とでもするといいじゃろうて」

「フフ、部活の設立の許可感謝するヨ。顧問の先生は葛葉先生が良いと思うネ」

「それはまた適任じゃな。神鳴流には基本的に飛び道具は効かんからの。手配しておこう」

「部活にかかる費用は全て私が負担するから金銭で迷惑をかけることは無いから安心して欲しいネ」

「麻帆良最強頭脳は逞しいの。無事に帰って来ることを祈っとるよ」

「大丈夫ネ。今回は私が先手を打てるからナ。ココネ・ファティマ・ロザは初等部だが手配してもらえると助かるヨ」

「分かっとるよ。シスターシャークティには儂から伝えておこう。春日君はあまり戦力にはならんと思うがの…」

「人数合わせは十分戦力になているヨ」

こういう時本当に貸しを作ておいて良かたと思えるナ。
部活申請用紙を事務室で受け取て埋められる場所は全て埋めたから寮で名前を書いてもらうとしよう。
学校でやると朝倉サンに嗅ぎつけられるからナ。

結局この日中に全員の署名が得られて、すぐ次の日に学園長に提出、ココネも特例で部員追加が認められ、葛葉先生も顧問になてくれたヨ。
そして今は部員全員が学園長室に集合となているネ。

「まさかたったの二日で部活が設立されるとは思わんかったの」

「それは学園長が許可したからでしょう」

「超りん、呼ばれてみればこの人選は何だい」

「美空、この部活の真の目的を教えよう。来月ワシントン州に出店する超包子の視察と危険な犯罪者の燻り出しが目的だヨ」

「そうなのかー。ってなんだよそれ!?」

「まあ落ち着くネ。費用は全てこちらで負担、数日滞在もするから観光もできるし安心するネ。危険になるかどうかも実際には分からないヨ」

「学園長、超先輩は…」

「超君と相坂君は魔法生徒ではないが、裏の事をある理由で知っとるんじゃよ。超君、一応危険性についてしっかり話してもらえんか。ここにいる全員には情報を漏らさせないと約束させよう」

「分かたネ。ここからは秘密で頼むヨ。今回の設立の理由の一つである危険な犯罪者の炙り出しだが、11月に私を庇てさよが銃撃された事が発端ネ」

「超、やはりただのちょっとした事故ではなかったのか」

「龍宮サン、この前は話さなかたがその通りだヨ。美空、面倒そうな顔するナ。特典も沢山あるネ」

「げっ顔に出てたか。相坂さんが銃撃されたなんて…大丈夫なのか」

シスター服でも着て顔隠すといいヨ。

「春日さん、私は大丈夫です」

「この前銃撃されたのは完全に油断していたのが原因ネ。犯人の炙り出しと言ても国外犯かどうかはわからないからただの海外旅行になるかもしれないし、実際に襲われるかもしれないが今回のこのメンバーなら大丈夫だヨ」

「それについては儂から説明しよう。葛葉先生は神鳴流じゃから飛び道具は効かんし、龍宮君はプロ、佐倉君は探知能力に優れている上ジョンソン魔法学校出身、ココネ君は念話の傍受ができるじゃろ」

「学園長せんせー私足手まといじゃありません?」

「春日君はココネ君の従者じゃろ。シスターシャークティからはしっかり使ってやってくれと言われとる」

「その通りでございます…。し、シスターシャークティ…図ったな…」

「学園長、私はジョンソン魔法学校に連絡した方が良いのでしょうか」

「それには及ばんよ。儂の方から佐倉君が行くことをあらかじめ伝えておくから気にせんで良い」

「分かりました、学園長」

「この部活の趣旨は分かてもらえたようだネ。明るい話をすると、出発は2月8土曜日から1週間だヨ。勿論学校は正規の手続で休みネ。泊まる所も雪広グループからの手配で文句無しの場所だから期待するネ」

「マジ!?一週間もいけんの超りん!」

「久しぶりにアメリカに行けます!」

「たまには麻帆良の外で仕事をするのも悪くない」

「もし本当に仕事になたら後で報酬もきちんと払うから任せるネ」

「超鈴音あなた相変わらずですね…。私も顧問として引率はしっかりやります」

「葛葉先生、よろしくお願いするヨ。そしてこれで最後だが今回部活のメンバーに特別な携帯電話を支給するネ」

「おっこれ超りん達が持ってる凄い携帯か」

「海外でも使えるようになているが、本邦初公開の技術があるヨ。皆携帯持てるだけでいいネ」

粒子通信の起動を開始。

《皆聞こえるカ》

《なんですかこれは》

《おおっ凄いよこれ!超りん口動かしてないのに聞こえるけどこれ念話か!?》

《ミソラ、念話じゃない…》

《ココネ、これ念話じゃないの》

《超先輩すごいです!》

《これは私が開発した新技術の通信方法ネ。誰にも傍受されないから情報の安全性は最高峰だヨ。もし単独で危険になても、スイッチを押して起動させておけば身体に当てておくだけで通信ができる優れものネ。圏外は考える必要ないから安心してほしいネ》

《超の発明は全く役に立たないものもあるが、これは便利だな。起動方法はどうするんだ》

背を伸ばす機械とかは確かにギャグだと認めるヨ…。

《起動方法はこの通信が終わたら携帯に表示されるからそれに従て欲しいネ。悪いがこの機能はアメリカから戻てきたらまた使えなくするヨ。まだ万人が利用できる程実用的ではないからナ》

「儂一人だけ何しとるかわからんのじゃが…」

「この携帯の通信方法を試してただけネ。出発まで余り時間はないけど、ここでの話はくれぐれも他言無用だヨ。詳しい連絡はこの携帯で行うからよろしくネ」

これで後は実際にアメリカに飛ぶだけだナ。

《鈴音さん、あの機能教えて良かったんですか》

《一度ぐらい試しておかないとネ。理論は並の科学者では到底理解できないから大丈夫だヨ》

《宝の持ち腐れよりはマシですか》

《翆坊主に前言ったその通りだヨ。使える時に使わないとネ》

《なるほど…なら大丈夫ですね。それにしても異色なメンバーになりましたね》

《面白くなりそうだしいいと思うヨ》

《高音・D・グッドマンが出て来るかと思いましたが出てきませんでしたね》

《今回探知系の能力が必要だからナ。映像で見た高音サンの派手な操影術は普通の街中ではとても使えないヨ》

《あれ脱げるんですよね……》

《あれは無いヨ》



[21907] 23話 2月の始まりとアメリカ編の幕開け
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/01/19 23:06
1月中にあっという間に決定されたアメリカへの1週間の海外旅行の一方その間のネギ少年はというと。

「ぼーや達、仮契約は知っているか」

「西洋魔術師のアレやろ?何やかっこわるいやん」

「それは小太郎の偏見だろう。別に契約相手は異性とは限らん。ぼーやの父親達も仲間で契約はしていたぞ」

「父さんもですか!?」

「そうだ。契約の主の資質が高ければアーティファクトという魔法具が出る。ナギと契約したジャック・ラカンという馬鹿のアーティファクトは宝具と言えるような代物だったな」

「あのめっちゃ強いネギの父親も契約しとったんか。そんでアーティファクトいうんはそんなに凄いんか?」

「個人によるよ。その馬鹿のものは如何なる武具にも変幻自在になるものだったな」

「どんな武器にでもなるんですか!?」

「そら凄いな!」

「ぼーや達が興味を持ちそうな説明は大体こんなところだ。他にもパクティオーカード自体にも遠隔地から召喚できたり、念話、魔力供給、ついでに服装も登録しておける」

「マスターそれを僕達に話すということは…?」

「ああ、無理にとは言わないがぼーや達は契約するのは悪くないだろうと思ってな」

「俺がネギの前衛の前衛でネギが前衛なんやな!」

「コタロー君それちょっとおかしいよ…」

二人共近接戦闘ばっかりやってる時間の方が長かったからと言って…。

「意外と乗り気のようだな。ならやってみるか」

「なんや面白そうやし俺は構へんで」

「僕も興味あります」

「それなら魔法陣を用意するから少し待っていろ」

「どんな魔法具出るんやろな」

「コタロー君はそれが楽しみなんだね」

便利アイテムが手に入るなら子供なら喜ぶのは無理もない。

「ほら、魔法陣は書けたから二人でその中に立って私の言うとおりに言葉を続けろ」

「なんや面倒やな…」

「口づけなら一発で終わるがどうする?」

「ブッ!そらお断りや!」

あれ…この反応だと春頃に来るかもしれない妖精の立場って何だろう…。

「マスター、続きをお願いします」

そのまま長々とした言葉を続けた後、指を少し切って血を媒介とした契約が行われ、カードも無事に出現した。

「アデアット!」

「…マスター、魔法具出ませんけどもしかして僕の資質が低いんでしょうか」

「何も出ないやんか!」

何も出なかった…。

「そんな事はないだろう。小太郎、しっかり確認してみろ。なんという名前のアーティファクトだ」

「やってみるで。…んー、千の共闘やて」

都合よく千シリーズだった。

「馬鹿のアーティファクトも千の顔を持つ英雄という名だったからな。千というからにはなかなかの魔法具の筈だが…。共闘か、ぼーや達一度模擬戦してみろ」

「分かりました、マスター」

「効果がわからんと使えへんな。……おっなんとなく分かったで!こら面白いな!模擬戦やるで!」

「コタロー君効果分かったのに模擬戦するの!?」

「効果はやってみてのお楽しみや!」

「小太郎の奴いきなり楽しそうになったな」

模擬戦の結果、小太郎君が信じられない程ネギ少年の動きを読むようになってネギ少年は負けた。

「僕の攻撃が全部読まれた気がするんだけどそういうアーティファクトなの?」

「これはな、ネギの動きが感覚でわかるもんなんや!」

「僕の動きがわかる?」

「なるほどな、共闘とはそういう事か。考えている事まではわからないのか」

「考えとる事まではわからんけど、言葉よりも瞬時にわかるから言ってみれば阿吽の呼吸やな」

「ハハハ、小太郎には丁度良いじゃないか。武器なんてお前使わないだろう。タッグで組んで戦うなら相手にしてみればぼーや達が強くなればなるほど脅威になるだろうな」

「それってコタロー君が僕の動きに合わせて戦えるって事?」

「そういう事や。ネギが魔法を唱えればいつどこに放つかもなんとなくわかるんや」

「それ凄いよ!」

「ぼーやがいなければ意味が無いが、従者としては悪くないアーティファクトだろうよ」

こうしてネギ少年と小太郎君の仮契約で出たアーティファクトは超鈴音のものと同様実体のない概念型のものとなったのでした。
その後、小太郎君は度々こっそりアデアットしてネギ少年の動きを読むという遊びをするようになり、ネギ少年がむきになって戦うという事があったが、避けられないような攻撃をするという修行には非常に役に立ったらしい。
全く従者らしい使い方ではないが気にしない方が良いだろう。

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2月に入り、超鈴音達のアメリカへの旅行が裏で着々と進む頃、同じように着々と進んでいる火星の状況はと言えば。
前回の9月の頭に確認した時からさらに丁度5ヶ月が経ち、酸素の組成は15%に到達している。
魔法で力場を作らない限りこの濃度では酸素欠乏症になるのは間違いないが、場所さえ選べば以前に比べてすぐに意識不明になったりはしない水準にまでは上がった。
春休み頃には17%程度には上昇する筈なので超鈴音ならばアーティファクトをしっかり発動させていれば火星に降り立つこともできるだろう。
平均気温も北極と南極を除外すればまともな水準に上昇し、赤道なら氷点下になることも殆ど無くなった。
原因としては大気組成の殆どが温室効果ガスである二酸化炭素を含んでいるため、ようやくと言ったところである。
地下水も既に地上に出始めており、全体から見れば海とはまだまだ言えないが、巨大な湖があちこちに出来始めている。
水が湧き出しているのが星レベルで起きるといよいよテラフォーミングらしさを感じるのは無理もないだろう。
マントル対流の動きも活発になってきて、地磁気も安定してきたが、まだ活性化する余地もあるし、粒子結晶の散布も引き続き行った方がいいのは変わらない。
既に火星がまた地球に接近しつつあるので地球からの火星観測もまた所によっては熱心に行われるようになり、幻術魔法を火星にかけておいたのがいよいよ役に立つという訳だ。
火星の改造自体は上手くいっているが、やはり魔法世界との同調の際に必要となる魔分の総量に不安が残る。
もし歴史通りにいくならば、相手側としては皮肉な結果となるだろうが、その時には上手く利用出来るのではないかと思う。いずれにせよその時になってみないとわからないが、手段の一つとして考慮に入れておくに越したことはないだろう。

さて、今となっては今更だがようやく本来ネギ少年が麻帆良学園にやってくるべき時が来た訳だがこれまで割とうまくやってきたのにこうなるのは何かの運命なのだろうか。

2月5日、女子中等部の屋外で、宮崎のどかが何故か一人で運ぶにはどうかと思うような大量の本を抱えて階段を降りようという時バランスを崩し階段の無い場所から落ちるという危険な状況になったのである。
個人的にはキャスター付きの鞄であるとかに入れて運べばいいものをと思うのだが、事実こうなったのだから仕方がない。

「ネギ、あれ本屋ちゃんじゃない」

「本当ですね。一人であんなに本を持つのは危なっ!」

「えっ、落ちるわ!」

―戦いの歌!!―

目視できるとは言えかなり離れている状況から距離を詰めるもわずかに間に合わず

―風よ!―

「ふぅ、間に合った」

が、風で保護する対象を絞らなかった為落ちてきた本まで浮いてしまっていた。

「しまった!」

魔法の発動媒体は杖ではなくお嬢さんから貰った指輪を使っているが、それでも明らかにおかしかった。

「ちょっとネギ!本屋ちゃん助かったのは良いとして、あんた前からおかしいとは思ってたけどやっぱり超能力者だったの!?」

「いえ、これはその違うんですよ!ほら、そんな事言ってる場合じゃないですよ。のどかさん気を失ってますし保健室に運ばないと!」

今までもたまに危ない事はあったが、今回は久しぶりでうまい言い訳が思いつかず少年は完全にテンパっていた。

「……それはそうだけど本屋ちゃん運んだらこの際きっちり白状してもらうわよ。この前あんなに心配かけたんだから言い逃れは許さないわ!」

若干心配しているらしいがこれはもう駄目だった。
終始訝しげな目で見られながら保健室まで宮崎のどかを運んだ後、少年は首根っこを掴まれて人気の無いところで正座させられた。
残念ながらネギ少年の方から私達がいつも使っている通信をすることはできないので頑張ってもらうしか無い。

「大体初めて会った初日に服を吹き飛ばしたり、子供の癖に私と同じ速度で走れるわ、エヴァンジェリンさんの家の変な別荘やら、ウルティマホラではおかしい動きをするわ、ついこの間はずっと寝込むわ、ネギ!あんた一体何者なのよ!頭が良いのはわかるけど子供が教師やるのはやっぱり変よ!」

物凄い剣幕でまくし立てながらガクガクと肩をゆする気の強い少女の前に少年は為す術がなかった。
そして都合よく小太郎君のカードが落ちた。

「って何よこれ。コタロー君が描いてあるカード?」

「ちょっとそれ返してください!」

「返してあげてもいいけど、その代わり洗いざらい話しなさい!」

こちらとしてはいつ少年が記憶を消そうという手段に出ないか気になるのだが、麻帆良に来てから近衛門の試練の時までずっとお世話になっている分そのつもりはないらしい。
こういう時残念ながら純粋な心だと、そのまま僕は超能力者なんです等と嘘も言えないらしい。
近衛門の試練であれだけ卑屈な罠を喰らったりしているのに性格に歪みが出ていないのはそれはそれで大したものなのだが、それでももう少し処世術を身につけるべきだろう。

「僕は一人前の魔法使いになるためにここに修行に来てるんです」

「超能力じゃなくて魔法だったの!?」

いや、お嬢さんの別荘見たらどちらかというと最初から魔法だろうに。

「あ、しまった!」

「い い か ら!続けなさい!」

この後ゴタゴタしながらも順調に魔法使いの事についてバレて行き、他人にバレると故郷に戻されるという前にも話したことと最悪オコジョにされるという、正直どうかとおもう処罰についてまで話がなされた。
神楽坂明日菜も別にいじめるつもりがあった訳ではないのだが、魔法と聞いて目を輝かせたものだから大変だった。
小太郎君のカードが質になっているのでやむなく魔法で何ができるか言ってしまい、占いのあたりで神楽坂明日菜の恋愛についてやったところ非常に気まずい空気になった。
ネギ少年もこれまでの経験からこれを言うのはマズいと思ったのか口ごもったのだが、もったいぶらずに教えろと強く言われ、仕方がなく「失恋の相が出てます」と答えたのだった。
当然また面倒なことになり一悶着あったが、その後惚れ薬を作ったりという暴挙には少年は出なかった。
その理由としては、その日いつものようにお嬢さんの家に向かい修行をする前に少年ががっかりした顔で

「マスター、アスナさんに魔法の事がバレてしまいました」

と経緯を信頼できる師匠に打ち明け、

「抜けてるぼーやもとうとう魔法がばれたか、ハハハハ!」

大笑いされたが

「だからといって神楽坂明日菜に要求された事を魔法ではするな」

としっかり念をおしたからである。

しかしその夜寮の部屋で神楽坂明日菜が小太郎君のカードをネギ少年の目を盗んで孫娘に見せるという事をしでかしまた面倒な事になっていたが、頑張れと言いたい。

助けられた宮崎のどかはと言えば、保健室の先生にネギ少年がここまで運んできたというのを聞き、完全に惚れてしまったらしい。
その後寮の部屋に戻ろうとした彼女だったが早乙女ハルナにラブ臭なるものを検知されて部屋に乗り込まれ、こちらも洗いざらい吐かされ告白しろ!という流れになった。
次の日、ネギ少年は図書館探険部の三人に呼び出され、後は頑張れと言いながらネギ少年と宮崎のどかを残し、早乙女ハルナと綾瀬夕映はその場を離れて行ったがあからさまに成り行きを見ていたのは言うまでもない。
特に早乙女ハルナの目が光っていた。
当の本人は意外と勇気があったのかそれとも今までの想いを溜め込んでおけなかったのかきっちり告白することができたので良かったと言えば良かったのだろう。
告白された方の少年は常に忙しい毎日をおくっている中で、今までに無い経験をしたものだからとうとうキャパシティオーバーとなったのだった。
お嬢さんとの訓練ですぐに

「どうしたぼーや!今日は不抜けているぞ!」

と模擬戦の集中力がなさすぎるのがバレバレで、二日続けて人生相談をお嬢さんにすることになった。

「人間の一生は短い。ぼーやは後悔しないよう自分でどうするか決めることだな」

結局決めるのは自分次第だと言う結論を突きつけられたが、ネギ少年はこれまでの修行で精神的にも成長していたのですぐに立ち直ったのだった。

が、宮崎のどかが見事告白した後すぐに早乙女ハルナが恐ろしい速度でコミュニティに

「のどかネギ君に告白一番乗りおめでとう!」

等と更新していたものだから炎上した。
サヨが言うには皆更新履歴がネギ先生一色だったそうだ。
ある一幕では丁度、超鈴音が長谷川千雨の部屋に赴きSNSの機能性向上の件で意見を求めていたところであり、一体何事かと彼女が茶を飲みながら確認した際「ブハッ!」と口にしていたものを吹き出したらしい。
「防水仕様も完璧だから安心するネ」
という超鈴音は流石科学者だった。

そんな事も露知らず、女子寮に戻ってきたネギ少年はまたもやお姉さん達にしつこく絡まれる事になったのだった。
雪広あやかは「私は好きどころかネギ先生の事を愛してやみませんわ!」と宣言したが、ハイハイと流されていた。
見慣れた光景には意外と冷たいようである。
朝倉和美がこれは!とネギ少年の部屋に突撃したが神楽坂明日菜の「いい加減にしなさい!」というガードによりそんなドタバタした2月6日も終りを迎えたのだった。

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翆坊主からとうとうネギ坊主が魔法使いであることが明日菜サンにバレたというのを聞いたヨ。
ボケボケしてるネギ坊主にしては今までよく頑張た方だネ。
あやかサンには既にバレているのだが、深く追求しないのは流石雪広だナ。
それよりも皆は昨日本屋がネギ坊主に告白した話の方が一大事のようだけどナ。
このドサクサに紛れて明日からアメリカに出発だヨ。
一応担任のネギ坊主にはクラス四人で来週の金曜まで学校を休むと書面で伝える必要があるがどうなるかナ。
情報は提出したらすぐに漏れそうだが今更誰かが私も連れていけと言われても遅いから土産でも買てくることにするネ。
既に携帯の通信は何度も試しているが、その内容の一つに戻てきたらすぐに中間テストがあるのはどうするのかという話になたが、私とさよでカバーできるから安心しろと言ておいたネ。
愛衣サンは一つ下の学年だが去年とカリキュラムは変わらないから問題無いと言ておいたら感謝していたナ。
翆坊主達ともそうだが、あまり重要な話に結局使わないというのは皮肉な事だナ。

昨日の今日で一段と騒がしい2-Aだたが帰りのホームルームも終わたネ。

「ネギ坊主、大事な提出物だ」

「ネギ君、私もっス!」

「ネギ先生、私もです」

「ネギ先生、私もだ」

こんなに四人で動いたら怪しいだろう…美空、調子に乗るのをやめるネ。

「まさか四人はネギ君にラブレターを渡すつもりか!?」

なんて言葉が聞こえるのだが違うからナ。

「超さん達4人もどうしたんですか。えっ公欠届ですか。部活でアメリカに1週間!?」

「ネギ坊主、声が大きいヨ」

「す、すいません」

「何だって!ちゃおりん達アメリカ行くの!?今日はネタが多いぞ!」

朝倉サンに目を付けられたヨ…。

「その通りだヨ。明日から1週間行てくるネ」

「そんな部活の情報私は知らないなぁ。一体どういう部活なんだい?」

「朝倉さん、私達は外国文化研究会の正式な活動でアメリカに行くんです。許可も学園長先生から取ってあるので間違いありませんよ」

冷静にさよが答えてくれたナ。

「ふむふむ、それでなんでこんな人選なんだい?春日がいるのは意外だと思うんだけどな」

「朝倉、私がいたっていーじゃんか!」

やはり美空は違和感があるカ。

「特に意味は無いヨ。お土産は買てくるからそれで勘弁して欲しいナ。それでは私達は明日からの準備があるから失礼するヨ」

「5日間学校休みますけどコミュニティにあっちの写真を上げるので待ってて下さい」

「そんじゃ2-Aの皆また会おう!」

美空、自信満々で言わなくていいネ。

「仕方がない…ここは学園長に取材するしかないね」

朝倉サン、頑張るネ。

「えー学校休んでアメリカ行けるなんて私も入りたいよー!」

後ろから予想通りの声が聞こえるが今回は諦めて貰うネ。
すぐに寮に戻て最後の荷造りを始めたネ。

《超りん、私のパスポートはどうなってんの》

《明日空港で渡すから安心するヨ》

《全自動って楽だー!危ないとは聞いてるけど、普通に旅行っぽいじゃん》

《危なくなるとは限らないからナ。ココネの面倒をきちんと見るネ》

《あったり前!ココネ今日は私の部屋で寝て一緒に行くし》

《皆明日朝7時に女子寮の前に集合だから忘れないようにネ》

《おっけー》

《了解だ》

《分かりました超先輩!》

《葛葉先生は自宅に直接お迎えが来るから楽しみにするといいネ!》

《なんであなたはまたそんなに楽しそうなんですか…》

《これは!というような私服を着る事をオススメするネ》

《ま、まさか!》

《なになに!超りんどういう事?》

《大人の事情という奴ネ》

これはサービスだナ。

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そして2月8日朝7時です。
土曜の朝ですが一部見送りに起きてきています。
外には既に雪広グループの黒くて長い例の車が止まっています。

「全員揃たネ。荷物は社員サンに任せるヨ。龍宮サンの特別な荷物はきちんと手配しておくから大丈夫ネ」

「超りんのコネ凄いな…」

「面倒な処理をしなくて済むのは助かるよ。…これをお願いする」

「私の荷物もお願いします」

「先輩、こんな車に乗れるなんて凄いです!」

「この後も雪広の自家用機で飛ぶからこれぐらい驚いていては大変だヨ」

「ま、マジか…」

「鈴音さん、葛葉先生はいつ合流するんですか」

「成田空港で直接集合になているヨ。少しは楽しんでもらわないとネ。それでは出発しよう!」

鈴音さんが楽しそうですけどどういうことなんでしょうか。

「超さん達気をつけて行ってきてください!」

「お土産待っとるえ。気いつけてな」

「気をつけて行ってきてね!」

「ネギ坊主達もしっかりやるヨ!帰てきたらすぐ中間テストだからネ!」

「ぐっ…超さん…嫌な事を考えさせないでっ…」

神楽坂さんダメージ受けすぎですよ。

「アスナ勉強しておきなよ!私達もアメリカでテスト対策はしてくるからさ!」

「大きなお世話よ!美空ちゃん!」

もう出発する時になって寮から皆飛び出してきましたが、既に車に乗っていたので口の動きから判断するに「行ってらっしゃい!」と「羨ましい!」の大体二種類でした。

そして車内ですが

「予め言ておくが今から出発して飛行機で大体9時間程でシアトルに着く時にはあちらで今日と同じ2月8日の深夜1時から2時頃になる予定ネ。飛行機で寝続けると着いた途端生活リズムが崩れるから気をつけるネ」

「おっけー。なんか時差考えるのは面倒だな」

「着いたらいきなり夜景が楽しめると思うヨ」

「それは写真に取らないとね!」

「そういえば飛行機で映画なんかも見れるんですよね?」

「さよちゃん、その通りよ!」

って仕切りを突然空けて西川さんが出てきました。

「西川さんまた着いてきてくれるんですか!」

「当たり前よ!二度と前回のような事は繰り返したりしないわよ!」

西川さんには前回凄く心配かけたので今回も来るとは思ってませんでした。

「皆、こちらは雪広の社員サンの西川サンだヨ。1週間ずっと一緒という訳ではないがお世話になるネ」

「超ちゃん達の友人の皆ね。よろしくお願いするわ」

「「「よろしくお願いします」」」

「で、話は飛んだけど、飛行機の中のサービスは充実しているから期待していいわよ。予定通り行けば9時前に成田でそのまま飛行機に乗り換えて後は超ちゃんの言った通りになるわ。シアトル・タコマ国際空港に到着する頃には夜になるけれどそのままホテルにチェックインする手筈になっているわ」

「手配してくれて感謝するネ」

「当然よ。でも聞いたわよ、超ちゃん今回の費用全額負担するんですって?」

「ハハハ、知ているのカ。対価はきちんと払わないと駄目だからネ」

「げっ、超りん本当に全額負担なのか。いくら持ってんだ…」

ほぼ無尽蔵にありますからね。

「その割にはあんまり買い物とかしないんだから。アメリカに着いたら観光の時に色々買ったらいいじゃない」

「そのつもりだヨ。お土産も買わないといけないしネ」

「超包子がアメリカに出店するとは驚きだな。一昨年までは1店舗しかなかったのに成長が著しい」

「お褒めに預かり光栄だヨ、龍宮サン。海外に広める事を視野に入れて日本の空港に出店したからネ。成田に着いたら買ていくヨ」

「超先輩、視察って言ってましたけどそれ以外には何か予定はあるんですか」

「んー、他にもあるけど完全に私の仕事だから皆は自由行動だヨ。葛葉先生は付いて来てくれるけどネ」

例のOS会社のあるレドモンドに行くらしいですが、私はギリギリまで着いていきますが仕事の話には参加しません。
恐らく超包子関連と本題のSNSの方でしょうね。

「中学生で仕事なんて尊敬します!」

異色空間ですけど佐倉さんも普通に馴染んできましたね。
鈴音さんが渡した携帯に凄く感動していましたが、キノによると流行といったものに目がないそうです。
ココネちゃんは無口な子ですが、春日さんと一緒にいるのに慣れているみたいです。
そのまま話ながら車で移動し成田に着きました。
今回羽田にしなかった理由は前回を考慮した上での選択だと思います。
既に葛葉先生は到着していたみたいですが、あ!あの一緒にいる男性は…。
鈴音さんが仕組んだのでしょうね。
かなりいい雰囲気だと思いますが、出発の手続きもあるのでこの辺でストップです。

「葛葉先生、楽しんでもらえたかナ。日本に帰ってくる時も期待しておくといいヨ」

「あなたにこんな配慮をされると思いませんでしたが、楽しめました。ありがとう」

少し顔が赤い私服の先生はいい感じです。

「おおっ、葛葉先生の彼氏がエスコートしていたのかっ」

「春日美空、シスターシャークティからは私が監督するように言われているので言動には注意した方がいいですよ」

黒いオーラが出てます!

「はっ!はいっ!失礼しました!」

春日さんは戦力にならないという話ですが、その分ムードメーカーですね。

海外行きの飛行機に乗るのが初めてなのは私と鈴音さん、春日さんだけでした。
その場でパスポートを貰い、雪広の自家用機に乗ったのですが、ファーストクラスという次元を超えていましたね…。
いいんちょさんはこれに毎年乗って南の島に旅行しているそうですが、お金持ちというのはスケールが違いますね。
機内では皆思い思いの過ごし方をしていました。
龍宮さんは大量にある映画でどれを見るか時計を見ながらしばらく考えて、三本をきっちり決めていました。
春日さんとココネちゃんは操舵室に入れてもらったりしてましたが、後で葛葉先生に引っ張って行かれました。
佐倉さんはあちこち写真を撮ったり、機内食を頼んでそれも写真を撮ったりと充実してそうでした。
誰かに送っているようでしたが、高音さんの可能性が強いですね。
葛葉先生は備え付けのワインを頼もうか頼むまいか悩んでいましたが、勧められて結局飲んでましたね。
一方鈴音さんは機内で合流した社員さん達と会議会議の連続でした。
私は西川さんとその様子を見ながら、「休めと言ってもあの子は変わらないわね」と半ば諦めながらものんびりしていました。
また「撃たれた傷は大丈夫なの?」とこっそりこの前も心配されたことを確認してくれるんですが、私の身体は特殊ですから騙してる感じがしますね…。

予定通り9時間程度の空の旅も終わりいよいよアメリカに上陸するのでした。
鈴音さんが言っていた通りシアトルの夜景は麻帆良では見られない美しいものでした。
しっかり携帯のカメラに収めてコミュニティに上げておきました。
日本では丁度午後6時頃なのですがやっぱり、「付いて行きたかったー!」という反応が多かったです。
それでも観光に来ただけでは当然ありません。
龍宮さんの荷物の物々しさがそれを物語っています。
この前の犯人が燻り出せるかはわかりませんが、今回は準備万端なのでどっからでもかかってこいという感じです!



[21907] 24話 外国文化研究会inシアトル・前編
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/02/10 18:55
シアトル・タコマ国際空港に到着した私たちは夜景の撮影もそこそこに、雪広グループが手配してくれたホテルに移動することになりました。
車で北に20分程の道程でシアトルのダウンタウンの中心にある巨大なホテルでした。
名前をグラン・ハイアットと言い一昨年建築したばかりで、近代的な外観とは裏腹に内装は木や石の素材を活かしてありますが、日本人の私達からすると照明がやや暗いかなという雰囲気がします。
春日さんが凄く小さくなってますが、私も緊張してます。
部屋は最上階の30階で部屋の窓からはシアトルの街はもちろん、ユニオン湖を一望する事ができます。
でも湖がはっきり見えるのは明日の朝ですね。
感覚では今午後7時ぐらいの感覚なのですが、深夜なので不思議な感覚がします。
私は精霊なので眠る必要はないですが……。
因みに精霊体自由活動範囲は樹齢の丁度2倍の10000kmなので直線距離7700kmのシアトルはカバーできています。
ニューヨークまでは残念ながら行くことはできません。
でもネギ先生の故郷のウェールズはギリギリ範囲内です。
ちょっとふらふら出ていきたい衝動に駆られますが誰かに見られてしまうかもしれないのでやめておきます。
私達の一応部活の上での部屋割りは3人部屋2つで片方はココネちゃんを含めて4人になりました。
私の部屋は鈴音さんと葛葉先生と一緒です。

「さよ、葛葉先生、私は今日はもう休ませてもらうヨ」

「鈴音さん飛行機でずっと仕事してましたからね。おやすみなさい」

「私も明日に備えて休みます。おやすみなさい」

……私も今日は人間らしく寝ようかな。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

春日美空ッス。
超りんの口車に乗せられてホイホイ付いていったら面倒な事になったじゃんか……。
気がついたら飛行機に乗って豪華なホテルに付いて寝て、朝適当に起きてレストランで朝ごはん食べてうまかったのは認めるよ。
なんで超りんは私に最初から部活に入れと言ってきたんだ……魔法生徒だとバレてた?
そんなバカな、クラスではいつも目立たないようにして、気楽に生きていた筈。
火星人とか1年の時に自己紹介してたけど何かの超能力者なのか?
相坂さんも幽霊がどうとかいう話だし、銃撃されたっていうのは実は本当に死んだんじゃないかと思うんスけど怖くて聞けないね。
エヴァンジェリンさんなんてアレだよ、魔法世界でナマハゲ扱いの人じゃないスか。
命が危ねー。
あのクラスの人選おかしいだろ。
今まで魔法関連に見て見ぬフリを決めこんできたつもりがなんでこんな事に……。
隣のたつみーの荷物ヤバイっすよ、マジモンの銃と弾丸じゃんか。
海外旅行行けると喜んで来たものの日本語しか話せないのに不安になってくるし、あー面倒だー。
こうなったら楽しいところだけ楽しむっきゃない!

「さて、我が部活の初日は超包子のシアトル工場の様子を見た後支店の視察をしてその後すぐに観光に移るネ」

超りんの肉まんうまいのはマジっすけど世界に飛び出すとは思ってなかった。
工場まで車でススーっと移動して、内部見学して、肉まんが大量に生産されてるのは驚きだー。
いつ建てたんだろ。
というか、この今の状況もどっからか狙われてんスかね?
私だけ特殊能力何もないっつーかお荷物だよ!
いざとなったら走るぐらいしかできないよ。

「工場は問題無いネ、次はダウンタウンにまた戻るから期待するといいヨ」

麻帆良に長いこといると日本ていうよりヨーロッパの感覚がするけど、大分違うッスね。

「超りん、外国文化研究って部活だと一応活動報告なんてことするのかい?」

「ふむ、美空、そんなにやりたいのカ?」

やりたくねー!

「ハハハハ、遠慮するよー」

「安心するネ、私が即効で作て提出して終わりだヨ」

スゲーよ超りん。
麻帆良最強頭脳ってのは機械の開発ばっかかと思ってたけどまじで万能だな。

「超ちゃん達、ほらあそこが超包子支店よ」

「おお、馴染んでいるネ。開店したばかりで人も並んでいるナ」

凄い行列じゃんか。
って開店初日は肉まん一つ50セントみたいな事書いてあるっぽいな。
麻帆良でも思ってたけど安すぎだよ。

「それで隣にあるSTARBOOKS COFFEEは麻帆良にもあるけどここシアトルの店が記念すべき1号店なのよ」

ブッ!あの有名チェーン店の1号店の隣に開店とかどんな裏技ッスか。

「これで超包子の視察は終わりネ。皆観光に移るヨ」

え?終わり?もうスか。
はえーな。
まだ11時前じゃん。
1週間長っ!

超包子の視察に来たのに入る店はSTARBOOKSかい。
ん?マグカップがここ限定?
それは買うしかないッスね。

「あ、私人数分買っておきますね」

相坂さん行動早っ。
お金はどうなってるんだ?
ココネ、解説してくれー。

そのまま皆で店の前で写真撮影したね。
2-Aも変だけどこの7人のメンバーも変だ。
西川さんが撮ってくれたけどカメラじゃなくてやっぱその携帯かー。
うおっ、メール来たかと思ったら今撮ったばっかの写真かい。
手際良すぎる。
ロゴが違うのを後で確認するといい?
おおっ緑色じゃなくて茶色という事ね。

工場からここに戻ってくる時は車で移動したけどこの後は徒歩でダウンタウンを散策するみたいだね。

《車で移動しないのはその方が街を楽しめるというのもあるが、危険人物を釣り上げるのも含まれているから頼むヨ》

そんなこと言われてもなー。
それにしてもこの携帯の通信不思議だな。
ま、便利なのは間違いないね。

《了解だ》

《分かっています》

《はい!》

《おーけーっす》

《……分かった》

佐倉さんめっちゃ気合入ってるけど、高音さんの影響スかね。
偉大な魔法使いを目指そう!てな感じか。
地味に今回悪の組織潰すような話だしやる気が出てるんだろうな。

そんなこと言った割には普通に街並みを楽しみながら歩いて東京タワーのシアトル版の、スペースニードルとゆータワーに着いた。

「昼ごはんはここの360度回転する展望レストランで食べるヨ」

座ってるだけで景色変わるとか便利だねぇ。
上がるためのエレベーターに行列できてるから随分待つかと思ったら、私達は先に行っていいって?
入場の手続きもいつのまにか済んでるし。
なんか目立つ行動ばかりしてるのは狙ってんのか。
超りんの髪型は相変わらず中華風だしわざわざ超包子の制服着てるんだよな。
それはさておき何なに、高さは184mで展望台は159mとな。
あの馬鹿でかい木よりも100mは低いのか。
たいしたことないのか感覚がおかしくなってるだけか……。
ホテルからもかなり見えたけどこれまた絶景ッスね。
佐倉さんは携帯の録画機能で360度撮り切るつもりか。
しっかしこれ電池の持つ時間もやたら長いし、画質も高すぎるような気がするんだけどねぇ。
今200万画素なんてのが凄いとか巷で言ってる筈がこれなんか遥かに越えてるだろ。
何頼もうかと思ったらたつみーデザートなんかもガンガン頼んでるし、いいのか?
費用全額負担ってどのレベルなのか実感ないよなー。

「超りん、いくらまでとか決まってる?」

「遠慮することは無いヨ。好きなものを食べるといいネ。ただお腹を壊さないように気をつけて欲しいかナ」

太っ腹だよ。
庶民的発想で考えてるのが小さく見えるね。
食べ過ぎっていうと肉まんどれぐらい食べれるかなんて事やったけど、あれは最後の方肉まんの味しなかったからなー。

「まじかー感謝感謝。ならこれと……」

昼だからそんなにかからないだろうけど食べてみたいのは頼んだよ。
やっぱ来て良かったー!

1時間よりちょい少ない時間でレストランは一回転して佐倉さんの撮影も終わったな。
丁度食べ終わって、レストランを利用したら展望台にも入れるっつーか、利用しなくても入っただろうけどまたもや景色を見た。
流石にエメラルドシティっていうだけあって自然が多いねー。
天候が良かったみたいで山脈もよく見えたし満足だ。
さんぽ部の連中は神木に登ったり登らなかったりって聞くッスけどあぶねーよ。

地上を眺めるのも飽きてきたと思ったら、また地上に降りてさっき登る時はスルーした土産屋でこれまた好きなもの買っていいっていうもんだからテンション上がったんスけどね。
ほら、やっぱキーホルダーとかそんな感じで、持って帰っても1週間もしないうちになんだっけかーってなるじゃんか。
だからスペースニードルが柄になってるスプーン買っといた。
そんで他の皆は何にしたのかと思ったらお土産って言ってんのにエメラルドのジュエリー買ってんスか!
金銭感覚麻痺し過ぎじゃないのか。
でもココネはスノーボール買ったよ。
子供らしくてちょっと安心した。

あっさりスペースニードル来たけどここシアトルセンターっていう色々な施設がある場所の一部何スね。
その後この辺りにある建物を巡る話になって超りんがどっか行ったかと思ったら雪広の社員さんと荷物をどっからかゴロゴロ引っ張ってきてパシフィック・サイエンス・センターてとこに連れてかれたよ。
中の展示物はそれなりに面白かったけど、なんつーか麻帆良祭のロボット見てるからこのロボット恐竜あんま凄くないなーと思ったり。
でも他の動物やら昆虫やら自然やら、個人的にはバタフライウスなる蝶の展示は良かった。
こればっかりは麻帆良じゃ見れないッスよ。

で、またもや超りんどっか消えたかと思ったらブース開設してのかよ!
例の3Dで映像が見れる奴の実演始め出してしかも英語うまっ!
子供が寄ってくるかと思ったらここの施設の職員まで見に来てるっぽくないか?
あっという間に超満員だよ。
流してる映像がどういうCGなのかわかんねーけどリアルな宇宙空間のものだな。
何か都合よくラジオ局来てるし、インタビューされてペラペラしゃべってるよ。
超包子がシアトルに開店したからよろしくってそれがやりたかっただけかい!

ん?そういえば日本のテレビのニュースでも顔は出してなかったけど、もしかして全部仕込んでんのか?
何考えてるかわかんねースよ。
相坂さんはたまにぼーっとしたりしてるけど実は何かやってんのかな?

その後もあちこち回って、やたら金のかかってそうな音楽に対する情熱が伝わってきそうな博物館だとかバレエの公演とか、評価の高い陶器、彫刻、絵画、宝石なんかを見たりして過ごしてたらもう夕方になったし。
こりゃ1週間長いとか思ったけどあっという間っぽいな。

帰りに超包子の視察にまた行くなんて事になって行ってみたら猛烈に人気が出てて驚いたわ。
さっきのラジオどんだけ効果あったんスか。

ホテルの部屋に戻ってきたら超りんの部屋で会議だとさ。

「皆何か怪しげな動きは感知したカ」

「鈴音さんがラジオでインタビューを受けた後から接近してくる割には超包子にもよらずシアトルセンターにも入ってこない人はそれなりにいました。でも、ただの偶然のかもしれないですしまだわかりませんね」

えーっ相坂さんやっぱ何かの能力者だったんスか。

「まあ餌は撒けたという所だネ」

「相坂、お前が本当にアレだというのは話さないのか」

「う~ん、見せてもいいんですか」

「いいと思うヨ。このメンバーでも半分は知ているしネ」

「分かりました」

ってベッドに寝っ転がるんかい!
およ?何だソレ!

《春日さんと佐倉さんとココネちゃんは知らないと思いますけど私本当に幽霊だったんです。それでちょっと目が良いので周りも観察できるんです》

ま、マジもんの幽霊ッスよスゲースゲー。
しかも千里眼能力持ちとな。

「……ゆ、幽霊なんて初めて見ました」

《皆最初は必ずそういう反応するんですよね》

そりゃするわ。

「あー、相坂さんが今日たまにぼーっとしてたのは遠く見てたんスか?」

《えっ良く気が付きましたね。そんなに長い時間見てないんですけど》

「美空は意外と観察力が高いのかもしれないネ」

意外とってなんだよ!
ま、ほんとに観察力があるんならいつも隣の席の超りんが何者かわかるっつの。

「それ多分偶然だなー。うん」

「話を戻しますが、私は特に殺気は感じませんでした」

「私も感じなかったな」

「誰かに見られているのかどうかは今日人が多かったので少しわかりづらかったです」

「念話は聞こえなかった……」

葛葉先生達全員仕事してたのか……。
ココネが迷子にならないように手繋いでるぐらいしかやってねー。

「ふむ、一日目から襲われても折角の旅行が台無しだからナ、皆協力感謝するヨ。明日と明後日の予定だがスキーに行く事になてるネ」

つか、なんで全部予定が前もって教えてくれないんだ。
超りんが思いついたかのように言ってるけど仕込んでんのは今日でわかったからな。

「私スキー久しぶりです!」

《スキーは一度もしたこと無いので楽しみです》

「合宿で冬休みに行ったばかりだが外国のスキー場も悪くないな」

合宿?
たつみーってバイアスロンとかいうよくわかんない競技入ってるらしいけどスキーもやってんのか?

「美空、バイアスロンはクロスカントリースキーと射撃の複合競技ネ」

「なんで思ってること分かった?」

「顔に書いてあるヨ」

「マジかー。そんで何で前もって予定を全部教えてくれないのさ?」

「それは予め教えておくと面白く無いからネ」

そんだけかー。
何か嘘っぽいけどな。

「そうかー。ならそれ以降も楽しみにしとくよ」

「明日の予定も話たから、今から中間テストの勉強するヨ。直前の授業受けて無いからネ」

な、なんですとー!

「えー、初日からやるんスか?」

「まさか帰りの飛行機だけでやるとでも思たのカ?佐倉サンも興味なさそうな顔するのはよくないネ」

いや、その通りでございます……。

「い、いえ、別にそんなことは……」

仲間がいたっ!

「安心するネ。要点を押さえた教材でパッと終わるから手間はかからないヨ」

渋々始めた勉強だったけど超りんの用意してきた教材スゲーよ。
なんかテストに出そうな感じがバリバリするね。
葛葉先生も教えるのに混ざるのかと思ったらそんな事なかった。
てか私とたつみーてテストの順位中間ぐらいなんだけどなー。
バカレンジャーに比べるまでも無いッスよ。
佐倉さん最初やる気ないかと思ってたらサクサク進んでるし、何やら感動してるな。
おや、その脇に積んであるのはノートか!
その賄賂はズルい。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

昨日はきちんと超包子の宣伝と、ある程度餌を撒くことができたネ。
色々準備していた甲斐もあて、スムーズにできたナ。
予定通りの時間に雪広から荷物が届いたりするのは助かたネ。
放送するメディアがテレビ局ではなくラジオ局だたという配慮には感謝する他ないナ。
翆坊主達から火星のドライアイスの山は見せてもらたことあるが、実際のスキーをするのは私も初めてだネ。
色々今回楽しめるようにワシントン州で最大のスキー場、クリスタルマウンテンに行くヨ。
週末はナイトスキーもできる上に宿泊施設も完備だから2日間使ても問題ないネ。
スキーウェアもボードも全部現地でレンタルではなく、予め雪広で用意してくれるから本当にありがたいナ。
まあその分料金を払ているのだから当然だが。

朝皆で起きて用意してくれたスキー用具でサイズを合わせてどれにするか決めた後、車に乗てホテルから大体2時間の道のりになたヨ。

「それでは!外国文化研究会の皆さんに今日の分のリフト1日券をお渡しします。葛葉先生はこちらをどうぞ、超ちゃん達も一つずつ取ってね」

西川サンは完全に専属になりつつあるけど一緒にスキーするみたいだナ。

「葛葉先生と愛衣ちゃんはスノーボードなんスね」

「さっき選ぶまではスキーにしようかと思ったんですけど葛葉先生がスノーボード上手いと聞いて挑戦したくなったんです!」

「私は上手いとは言ってません。経験があるだけです」

その割には格好がビシッと決まているナ。

「私、さよ、美空とココネはスキーの経験が無いから龍宮サンと西川サンに教えてもらうヨ」

「インストラクターは任せて!」

「運動神経はあるからすぐ滑れるようになるだろうな」

「よろしくお願いします!」

「たつみーお手柔らかに頼むよ」

「よろしく頼むネ!」

早速インスタントスキー講習が始まり、転び方と立ち上がり方、スキーを履いた状態で平地を歩く、緩い斜面の登り降り、エッジの扱い方、ブレーキのコツ、膝の使い方を学び、大体合計で1時間強かかたネ。

「にしても皆慣れるの早いわね。普通は2時間ぐらいかかるんだけどなー」

「麻帆良の住人はこんなものだろうな」

「やっぱりそうなるのか。つくづく変なとこよね!」

「軽いッスねー」

「そろそろ本格的に滑るヨ!」

さよの習得速度が異様に早かたが多分また動作のトレースしたんだろうナ。

最初は緩やかなコースからだたけど、私達の上達速度は早かたヨ。
一度昼食を葛葉先生達とも合流してとった後皆でどうせならと山の頂上までリフトで移動したヨ。
愛衣サンも元々スキーの経験あたから直ぐにスノーボードには慣れたみたいだネ。

「ここの頂上から見えるあっちの山がレイニー山よ。今日は天気が良くて良かったわね!」

「スゲー!マジこんな景色直に見れるとは思わなかったー」

「一面煌く白銀の世界、絶景です!」

「携帯持ってきたんで写真撮ってもいいですか?」

「愛衣サンその携帯気に入ってもらえたようで良かたヨ。どんどん撮るといいネ」

「はい、ありがとうございます!」

「私もここのスキー場は初めてですが、素晴らしい眺めですね」

「わざわざ来た甲斐があたヨ」

ふかふかのパウダースノーが積もてるからすぐに飛び出していきたいネ。

「それでは私から滑らせてもらうよ」

「次は私が行くネ!」

「あっ待ってくださーい、私も行きますよ!」

「ココネ、はぐれるなよ!」

「大丈夫、ミソラの後に続く」

龍宮サンはクロスカントリースキーが得意かと思てたけど鮮やかな滑降を決めてるし別に関係ないみたいだネ。
美空は……ココネに付いてこいと言ておきながらブレーキ一切かけず直滑降で物凄いスピードで降りて行ったヨ。
誰にもぶつからなくて良かたナ。
そのアホを追いかけて葛葉先生がプロ顔負けの風格で見事捕獲してくれたヨ。
これはシスターシャークティに報告されるナ。
愛衣サンもその後追いかけて降りて行たが、お姉さんタイプの人に付いていくのに慣れているのだろうカ。

いちいち考えても仕方がないから一日中滑てはリフトで登り、また滑りを繰り返し途中休憩をはさみながらナイトスキーまで楽しんだヨ。
私も一日で随分慣れたから火星に降り立つ時にはドライアイスの雪山で滑るのも面白そうだナ。
翆坊主から聞く限りだとアーティファクトを使ていれば春休み頃までにはなんとかなるようだしネ。
今までテラフォーミングに貢献してきた役得だナ。

この日はスキー場の宿泊施設で泊まて、疲れをとたネ。
翌朝日の出を山の頂上から見たのだが、昨日の昼過ぎに見た景色とはまた違た趣があて良かたヨ。
頂上から見える川が朝日に照らされて輝いているのも印象的だたネ。
引き続き午前中から滑り続けて、午後丁度良い頃にスキーにも満足した所でシアトルに戻たヨ。
長時間滑ていて足が張てるものだから市内のスパでマッサージをしに皆で行たヨ。
終始テンションの高い美空もこの時ばかりは至福の表情をしていたナ。
葛葉先生と龍宮サン、西川サンは大人の雰囲気が出ていたネ。
一人違うけどナ。
これだけ純粋に遊んだのも私にとてはかなり珍しい事だヨ。

明日からは完全別行動で私はOSの会社で超包子の出店の際の便宜の感謝と新技術の売り込みとSNSを世界に広めるための交渉をかけにレドモンドまで行かないといけないヨ。

《超先輩、ホテルの方から私宛に連絡がきてました。ジョンソン魔法学校から母校に顔を出さないかという内容なんですけど、明日はどうされるんですか?》

《明日から私の個人的な仕事をするから愛衣サンは美空でも連れて魔法学校に行てくるといいヨ。ついでに怪しい連中がいないかどうかも情報収集してもらえるとありがたいネ》

《はい、分かりました!任せてください!》

《えっ、何私も行くんスか?》

《私の護衛でもしているのでも構わないヨ?》

《いやぁ!それなら魔法学校付いていくよ!英語うまく話せないけど》

《国際交流という奴だナ。明日行くところは身の安全性は高いから私の心配はしなくても大丈夫だヨ》

《春日先輩、ジョンソン魔法学校も自然が一杯の所なので良い旅行になりますよ!》

《おおっマジかー。それは期待》

ジョンソン魔法学校は国立保養地としての皮を被たシアトルの北東に位置するがとにかく緑の多いところらしいネ。
魔法使いというのは自然の間に学校を作て外界からの隠匿を図るつもりなんだろうナ。
麻帆良の場合は神木があるお陰で裏側は森と草地が広がているものの、認識阻害による恩恵が大きいだろうナ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

超鈴音達がアメリカに旅立っているあいだの少年達の修行には、ある変化が生じていた。

「コタロー君ちょっと腕貸して」

「なんやネギ、なんか付いとるか?」

「違うよ。学園長先生の試練で遅延呪文を練習したんだけど、コタロー君のアーティファクトならきっとできると思うんだ。行くよ」

―特殊術式 再発動用鍵設定キーワード「右腕」!!―
―魔法の射手 収束・光の9矢!! 対象・犬上小太郎!! 術式封印!!―

「って魔法の射手やないか!俺に封印してどないすんねん!」

「右腕解放って言って使ってみてよ。多分発動するから」

「多分ってなぁ。まあええわ!」

―右腕!!解放!!―

「あれっ!?何か僕がやるよりも強そうだよ?」

「おおっ、俺の右腕でネギの桜華崩拳ができるんやな!砂浜覚悟!でりゃぁぁぁっ!」

爆発音と共に砂浜に穴が空いた。

「こらおもろいな!」

「凄いよコタロー君!溜めが長いから実戦向きじゃないけど、改善して101矢ぐらいでやれば連携技として使えるんじゃないかな」

「連携技か。アーティファクト使うてればネギがいつこれをやるかわかるんやしできそうやな」

「おーい、ぼーや達何やっているんだ」

「あ、マスター。遅延呪文をコタロー君に試してました」

「小太郎に遅延呪文だと?」

「おう!この穴がその証拠や!」

「……小太郎、気を練った状態でやったのか」

「当然や。いつもそうしとるで」

「話だけではわからん、もう一度やってみろ」

「はい、分かりました」

また先と同じ工程を繰り返し小太郎君の腕に光の9矢が封印された。

「何故封印できるんだ」

「なんでって言われてもなんとなくやで」

―右腕!!解放!!―

「もう一発や!」

「なんだその威力は……。ぼーや、小太郎に契約執行した事はあったか?」

今まで大体小太郎君のイタズラにしか使われていなかったので契約執行なんてしてなかった。

「そういえば……無いです」

千などと名前がつく割にはネギ少年がいないと全く意味が無いアーティファクトという微妙な性能だとは思っていたが。
まさか……。

「ならやってみろ」

―契約執行180秒間 ネギの従者 犬上小太郎―

ただの契約執行とは思えない風が小太郎君から発生した。

「なんやめっちゃ身体が軽くなったで!」

途端に砂浜を驚異的な速度で走ったり跳ねたりする小太郎君。

「ハッハッハッハ!そのアーティファクトはやはり宝具だよ!」

「マスターどうしたんですか。何がそんなにおかしいんですか」

「ああ、どうやら千の共闘を使用している状態で契約執行すると自動的に咸卦法が発動するようだな。だから術式封印もできるんだろう」

「咸卦法?」

「そのカンカホー言うんはこないに身体が強くなるんか」

「難しい説明をしても意味がなさそうだが話しておこう。咸卦法とは相反する陰の気と陽の魔力を融合し、身体の内外に纏い強大な力を得る高難度技法の事だ。咸卦法を使うと肉体強化・加速・物理防御・魔法防御・鼓舞・耐熱・耐寒・耐毒その他諸々のオマケが付く」

「反則みたいな技ですね……」

「発動しとるだけでそないになるんか!?」

「だから宝具だと言ってるんだ。何の努力も無しに使えるのだから反則だろう。タカミチはそれを習得するのに数年かかったんだ」

「タカミチが!?」

「ポケットに手突っ込んどるあのおっさんか」

「そうだよ。そもそも、なんとなく、ぐらいで出来る筈が無いんだが、ぼーやが世界だとすると小太郎が自分自身、それを繋ぐのがアーティファクトと言ったところか」

「なんやそれ?全然言っとる意味わからんな」

「……分からなくてもいいか。とにかくそのアーティファクトは凄いという事だ。その連携技も好きに試したらいいだろう。だが砂浜に穴を空けるのはやめろ。二つ空いているのも埋めておけ」

「僕の動きがわかるだけかと思ってたら凄い物だったんだね」

「でもやっぱネギがおらんと意味ないやん!」

千の共闘とは、まさかのただの契約執行で咸卦法が勝手にできてしまうというふざけたアーティファクトだった。
確かにこれなら主が死なない限り千回でも共に戦えそうではある。
とりあえず少年達にしてみれば小太郎君が恐ろしく強くなるアイテムという認識で終わった。
それからというもの別荘の中では一日中エヴァンジェリンお嬢さんと修行している訳ではないので二人は合間に連携技を開発するようになり、タッグバトルでは反則的になりそうだということは予想できる。



[21907] 25話 外国文化研究会inシアトル・後編
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/02/10 18:55
アメリカへの旅行もとうとう今日で4日目となった2月11日、私達は別行動を取ることになりました。
鈴音さん、葛葉先生と私はホテルから車で30分程度行ったレドモンドにある小さなソフト会社の本社に来ています。
後の4人は車で2時間半程にあるジョンソン魔法学校に行きました。
龍宮さんも最初は鈴音さんの護衛に入るのかと思っていたんですが、葛葉先生がいるし、逆に春日さん達が狙われる可能性もあるので3人の護衛という形で一緒に付いて行きました。
当然車を運転するのは雪広の社員さんで裏の事情を知っている人が担当しているんだそうです。
さて、この本社なのですが、所謂巨大な本社ビルが建っているのではなく、広大な敷地内のあちこちに100近い建物が建っていることからキャンパスと呼ばれています。
一体どれぐらいの人達が働いているのかというと、係の人に説明してもらったところおよそ3万人の従業員さん達がいるそうです。
麻帆良の学生だけの人数にはまだ及びませんが相当な数の人達が働いているのはわかります。
鈴音さんと雪広の社員さん達は皆本社の人達と会議室に移動して行きましたが私と葛葉先生はここの社員さんと一緒にいればある程度見学して構わないという許可を頂きました。
セキュリティチェックの厳しさは葛葉先生も感心していました。
環境も良く、建物の外は自然が多いですし、備え付けの飲み物は自由に飲んでいいし従業員さん達のためにカファテリアもいくつもあるそうです。
超包子もこの中で売り出したら面白そうですね。
ちらっと覗かせてもらった電子機器があったのですが、葛葉先生は割と興味深そうに見ていましたが、私は葉加瀬さんと鈴音さん、工学部のお兄さん達との開発に携わったり、鈴音さんの魔法球内はもっとおかしな事になっているのでそんなに驚けなかったです。
待っているだけというのも暇なのでコミュニティをしっかり確認していたのですが、皆から「できればこれの写真を取って欲しい」とか、「お土産は是非アレが良いよ」なんていう話がなされていたり、まあ既に個人的にメッセージも受け取っているのでわかってはいたんですが本当に皆付いてきたかったみたいですね。
龍宮さんはこの件については鈴音さんに言って欲しいという表明をしていて、春日さんはぽつぽつ撮っていた写真なんかを上げていたみたいで盛り上がってました。
鈴音さんのページは連れていけという要望以外なら受け付けるという事で、先のお願いが大量に殺到してました。
初日はしっかり勉強した私達でしたが、2日目のスキーの後は疲れてやらず、昨日は少しだけやりました。
まあ私と鈴音さんに関しては必要ないんですけどね。
そんな事を考えながら携帯を見ていたのですが、付き添いでいた本社の社員さんが興味を持ってくれたようなのでしっかり英語で説明しました。

「これは何処の製品ですか?」

「私達と別れて会議に参加している超鈴音さんが個人的に開発したものなんです」

「おお、それは凄いですね。彼女の話は去年の夏頃から届いていましたが、私達の間でもよく話題になっています」

やっぱり有名になってますね。
三次元映像もそうですけど確か長谷川さんとの合作で作った防衛プログラムなんかも提供してた筈です。
その後もいくつか会話しましたがあまり当たり障りの無い内容にとどめておきました。
流石にここの中まで怪しげな人たちが入ってくることはないですから安心です。

《サヨ、こちらでも観測は行っていますがワシントン州では拳銃に関しては携帯許可が必要ですから警察官でなく持っている場合はすぐにわかりますが、街中で持ち歩いている人間はそうそういないにしてもライフルに関してはどうしようもないですね》

《初日に動きのあった人たちも偶然だったのかもしれないし、ただの偵察のだったのかもしれないですからね。転移符は見つけられないんですか?》

《今回も転移符を使ってくるかどうかわからないですが、そもそも転移符は使用するか予め貼りつけでもしておかなければただの紙でしかないので観測で見つけるのも困難です》

《でも今回の場合は前回と同じ射程距離ならなんとかなるんじゃないですか?》

《ええ、数百メートルならば何も問題はありません。今のところ特に動きが見られない辺り、11月の時と同じように帰る時を狙ってくる可能性が高いかも知れません》

《それなら帰る前にしっかり見とけばこんどこそ大丈夫ですね!》

《犯人が待ち構えている所を先に抑えてしまうのがベストでしょう》

《なんか映画みたいですね!それにしてもキノ、全然連絡して来なかったですね》

《珍しく超鈴音が遊んでいる旅行ですから邪魔するのもどうかと思っただけですよ》

私もそれは同感です。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

いや~もう2日間スキー行ったかと思ったらまたとんでも大自然に囲まれた魔法学校行きよ。
既にこれまでの3日間でとても私の小遣いじゃ払えないような金額を消費してる筈なんスけど、未だに何も自腹切ってないんだよなー。
ま、大分前のウルティマホラのトトカルチョで損した分は遥かに越えたからホント来て良かった。

「たつみーって報酬いくらぐらい超りんから貰ったんスか?」

「そんなに気になるのか?」

「愛衣ちゃんも気になるよね?」

「わ、私ですか!?え、えーとちょっと気になります」

「……まあゼロが後ろに6つは付くような金額だな」

「6つ?……ってええ!?」

百万超えてんのかい!
そんなポンポン払える超りんやべーよ。

「……超先輩って何者なんですか……」

「隣に一昨年から長いこと座ってるのにわかんないなー」

「意外と火星人というのは本当なのかもしれないな」

たつみーまでそう思うんスか。

「見た目ただの中国人にしか見えないって」

「夢は世界征服かもしれんな」

ブッ!世界征服って何スか!

「でも超先輩ならやりかねないですよね」

「……そう言われると超りんの奴ならやりそうだな。ところでたつみーはいつから相坂さんが本物の幽霊だって知ってたのさ?」

「入学してすぐの頃からだな」

「ちょっ!そんな重大なことそんな前から知ってたのか!」

「半透明の身体は便利らしいぞ。映画館は無料で見放題、夜中に書店でポルターガイストを起こして本を読むこともできるらしい」

なんて俗物的な幽霊……。
いや、映画全部無料で見れるのはズルいな。

「それは羨ましいな……。でもそんなに頻繁にうろついてたなら私だって一度ぐらい見ててもおかしくない気がするんだけどなー」

「初日のあの姿は濃かったからな。普段は存在感が希薄で普通の人間には見えないだろうな。私は目がいいから見えるが」

一般人には見えないなんて便利すぎるだろ。

「スパイとかやったら儲かりそうだな」

「でも身体から出たり入ったりできるなんて変わってますよね」

「刹那が言うには学園長が身体を用意したらしい」

「私は幽霊見たのが初めてだからそういう身体が変なのかもちょっとわかんないわ」

「そういえば去年の冬に茶々円という子が警備の時にいたがあの子と同じ身体かもしれないな」

あー、いたな。
なんか緑色の小さいの。
私はたまーに、シスターシャークティに無理やり伝令に駆り出されるだけだから2回しか見てないな。

「あ、去年の春から麻帆良に来たので私は見てないですが、お姉様から話だけは聞いたことあります」

「あの子2回ぐらいしか見てないけど、どうなったんスか?」

「そうか、二人共あの時いなかったか。呪術協会の建設の為に処分されたそうだ」

えっ!重っ!?

「お姉様その話をしてくれた時悲しそうでした……」

「神多羅木先生付きのマスコットとして定着していたんだがな」

「裏が安全じゃないのはわかってるスけど、重いなー」

「……そうか、確か茶々円の身体は傷ついても修復できると言っていた。11月に銃撃された相坂の身体も同じように治したのかもしれん。撃たれた傷は1週間入院したところで治らないから辻褄は合う」

なんか車での移動時間に推理の話になってるなーなんか面白いけど。
ってあれ?

「それだとその処分された子も実は幽霊なんじゃないスか?」

「じゃ、じゃあお姉様が言ってた魂は残りますって言ってたのはやっぱり……?」

「もしかしたら茶々円の中身は相坂だった……いや、魔法は使えなさそうだからそれはないか」

うわーなんかどんどん学園長の怪しい部分に踏み込んでる感じじゃんか。
絶対こういうの2-Aの奴らは好きだろうな。

「封魔の瓶みたいに封印してあるのかもしれないですね」

それが一番ありそうだな。

「学園長も謎が多いッスね」

「まあ今の話で茶々円の魂か霊体が残っているのが本当である可能性が高いのは間違いないな」

「それならお姉様に私」

「佐倉、それはやめておけ。この旅行はその学園長から無闇に情報を口外するなと言われているだろう。超だけでなく相坂まで狙われる事になるかもしれない。私も珍しく少し話しすぎた」

おおお、マジこえーよたつみー。
そうか、相坂さんもレアな存在って事だもんな。

「そ、そうでした。わー何か今までお姉様に送ったメールに変なこと書いてないか心配になってきました。確認しないと」

バンバン写真撮って送ってたもんな。

「気になる事もあるけどこの話は深入りしない方が身の為ッスね」

「春日のその身の引き際の良さは戦場で生き延びるのには悪くないな。仲間を見捨てる事になるかもしれないが」

「いやいやいや、私が戦場に出るとか考えられないッスよ。それにココネなら抱えて逃げるわ」

「ミソラにそんな任務は与えられない」

ってココネー!
確かに私のマスターだけど評価低いぞ!
この車内の会話は運転席とは完全に遮断されてるらしいから他には漏れてないだろ。
私にしては珍しく危険な事に首突っ込みかけたなー。

今すぐ怪しい雰囲気から脱するには携帯で2-Aの皆の脳天気なコミュニティ見るのが一番ッスね。
あ、これも超りん作ったんだよな。
聞いた時はふーんって感じだったけど使い出すと止まんないわーこれ便利だし絶対流行るわ。
そういや今日仕事でレドモンド行くって言ってたけど具体的に何処行くか聞いてないな。
何か有名な企業を検索しーのと……。
ってこの企業もまたデカイっつの!
うわーこの州に本社あったのかー。
マジ経済的に世界征服しそうだな。

隣の席の中学生がいよいよ常識から吹き飛んでるのがわかったわ。
もう考えるのやめよ。

私もジョンソン魔法学校付いてったのはいいいけど英語そんなにうまく話せないから大人しくしてたッスよ。
麻帆良学園とはまた違った学校の造りだけどどっかの古城かって言う程のもんじゃなかった。
ちょい古めの大学のキャンパスみたいなもんだな。
愛衣ちゃんの事知ってるっぽい魔法先生達が話かけてきて、紹介される度にそれなりに挨拶しといた。
たつみーの事を知ってる人もいたみたいで何か話してたな。
裏で有名なスナイパーっていう噂、いや間違いなく事実だろうから知ってても不思議じゃないッスね。
愛衣ちゃんが丁度魔法演習の授業に誘われて私達も付いてったけど、愛衣ちゃんスゲー。
私よか年下なのに、無詠唱魔法できるんかい。
もしかしてシスターシャークティこの事知ってんのか?
だったら、しごかれても仕方ないのはなんとなく理解できるわ。
あれ、それ考えたらネギ君とそのライバルも半端なくないか。
ウルティマホラで瞬動連発した時は空いた口が塞がらなかったわー。
なんかネギ君はエヴァンジェリンさんの家に毎日通ってるらしいし弟子入りでもしてんのか。
それなら絶対私よりもう強いんじゃ?
最近の子供スゲー。
超りんも瞬動見た時何食わぬ顔で普通に禁止にしてたからきっと瞬動できるんだろーな。
ま、私は私でいいんスよ。

ここの学園長にも会ったけどやっぱりじじぃだった。
若い学園長って何だって話だけどさ。
まともな情報得られたのが裏から表に一部魔法具が流出してて、特に多いのが転移符だとか。
たつみーがぼそっと一枚80万はするとか言ってるのが聞こえたけど、そんなもん扱ってるなんてどこのマフィアだよ。
他にも流出してる魔法具って何だ?
結界の札とかそういうのか。
そりゃ秘密の会合なんかには便利だもんなー。
もし犯罪組織に流出とか一番駄目なパターンじゃんか。
でもそれが普通の魔法世界よかましか。

結局魔法学校の見学会ツアーになったし。
学校の周りの自然風景とか写真家がいたら絶対うまく撮るまで粘りそうな湖畔もあったし何しろ今冬だから空が澄んでるし山も白くなってていいわー。
夕方ぐらいまでぶらぶらしてそのまま、また2時間半かけてホテルまで戻ったッスよ。
超りん達戻ってきてなかったけどまだあの有名企業で仕事してんのか?

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

昨日までの三日は遊び疲れたが、今日は仕事で疲れたナ。
先方との交渉もうまく行たし、いくつか組んだプログラムを提供しつつ、SNSの件でも実際にその場で利用してもらて使い勝手を理解して貰えたから普及に関してのサーバーの用意等、全面協力をしてくれることになたネ。
プログラムを見せたら就職しないかと冗談のつもりだろうが言われたのは丁重にお断りしておいたヨ。
まあある意味千雨サンの未来の就職先は引く手あまたということの証拠だネ。

「鈴音さん、それにしても朝からこの遅くまで大分長かったですね」

「実際に体験してもらたりしているのに時間がかかたりしたからネ。後は権利関係の手続きなんかで随分時間がかかたヨ。私的独占に近くなる可能性も問題だたが、営利でやるつもりがあまり無いから利用者から不満が出ないように努力するヨ。その辺りはのらりくらりと避けていくしかないだろうナ」

「全く、とても中学生がやることではありませんね。私も大概慣れてきましたが」

「中学生と言ても後ほんの数年もしたらすぐ大人になるからナ。少し始めるのが早い程度の事ネ」

「くっ……後数年もしたら……」

……しまたナ。
年数関係の話は葛葉先生にはタブーだたネ。
でも気の扱いに長けている人は若さを保つ事も一般人に比べれば容易だからあまり気にする事ではないヨ。

美空達からメールが来てもうジョンソン魔法学校から無事に戻ているようだし、後数分でホテルに私達も戻れるし今日も何事もなく終了だネ。
さよと翆坊主からの話だと銃撃犯は今回も帰りがけを狙てくる可能性が十分ありえそうだからそろそろ警戒した方がいいのは間違いないネ。

ホテルで食事をした後、魔法学校組からの情報で裏の道具が表の組織に流れている事がわかたヨ。
結局どんなものも使う人次第という事になるが、本当の平和等というものが世界に訪れるのは永い永い夢のようなものだろうネ。
それでも、諦めてしまうより少しでも願ているほうがマシだナ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

どっからか狙われてんのかと思ったけど、そんな事もなく旅行5日目も普通に観光してあちこち見て回ったわー。
初日は見なかったパイク・プレイス・マーケットっていう生鮮野菜・魚介類の通りに行けば、日本で買う場合パックになってる事が多い魚がそのまま並べてあってサーモンはスゲー迫力。
しかも注文すると魚を投げて渡すパフォーマンスなんてのは観光としちゃいいけど、落としたらどーすんのさって思うわ。
他には豪華客船みたいな船に乗って遊覧しつつ、コースに入っている例の有名企業の豪邸を外側からだとよくわかんないッスけど見たり、海かと思えば今度はヘリコプターで空から街並みを見下ろしたりちょっとどんだけ金かかってんのか気になるわー。
ちょい残念なのは野球はシーズンじゃないからやってないのと、ワインの祭典もあったらしいんだけど未成年だから却下だった事かねぇ。
その後は大体買い物買い物の連続だったね。
泊まってるホテルからでて少し歩くといくらでも店があって買い物できるのは便利だったわ。
2-Aの皆が送ってくる買ってきて欲しい物リストとか写真に撮って欲しいものとかもこなしつつ、次の日も似たように過ごしてテストの勉強もして寝て大体もう旅行も終わりかーと思ってたらそんな事なかった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

《サヨ、今回は直接狙ってくるかもしれません!かなりの速度でホテルに接近する車両が2台あります。中は銃器が積み込まれているので一度起きた方がいいです》

《そんな車両は……あ!本当です!わかりました、一旦皆起こします》

帰りがけを狙ってくるかと思いましたが、寝込みを直接襲ってくるとは思いませんでした。
確かに寝る前にホテルの受付から私たちが今宿泊している部屋がいつ予約できるか聞かれたらしいので、狙うなら今日しかありません。

「鈴音さん、葛葉先生起きてください!銃器を積んだ不審車両がホテルに向かって2台接近してます!」

「……寝たと思た矢先にとうとう来たカ。しかも随分直接的な手段に出たナ。そんなに恨みを買た覚えはあるようで無いけどネ」

「直接ホテルに乗り込むのか、向かいの建物から銃撃してくるのか知りませんがすぐに動けるように荷物を整理しておいて正解でした。ホテルに到達するのにどれくらいかかりそうなのですか」

「後……4分ぐらいですね」

「あまり時間が無いナ。さよは霊体で隣の4人に知らせてくるヨ。私と葛葉先生は雪広の社員さん達を起こしてくるネ」

《わかりました!》

30階の部屋を私達意外にも社員さん達でいくつも借りているので確かに上まで上がってこられると厄介です!

《龍宮さん!もう起きてたんですか》

「ああ、隣の部屋で動きがあったようだからな。春日、佐倉、ココネ起きろ!」

《三人とも起きて下さい!》

「……ん?もう食えないッスよ?」

何寝ぼけてんですか!
龍宮さんが強行手段にでてチョップしました。

「うぉっ!イテテ、何、何あったの?マジで狙われたり?」

「ど、どうしたんですか?」

「どうやらその通りのようだ。動きやすい服に着替えろ。魔法障壁の1枚ぐらいは予め張っておけ」

「うわー、人間コエー。毎回馬鹿の一つ覚えみたいに麻帆良に侵入する鬼とかよりコエー」

《あれ?シスター服着るんですか?》

「いや、そりゃ私達の戦闘服だからね!」

小太郎君も学ランがどうのと言ってましたが魔法使いはよくわかりません。
佐倉さんは普通の服でした。
私も身体にすぐ入り直しました。
急いで準備をしましたが、犯行グループが到着するのもすぐという状況でした。
このホテルに一緒に泊まっている人数は、西川さん達を始めとする社員さん15人に私たちを含めて22人です。
鈴音さんと葛葉先生は4分の間に手分けして部屋に行き、起こした社員さんと共に違う部屋にと、手際良く状態を整え、向かいにビルが無い部屋に全員移動した後、フロントに連絡したようです。

「鈴音さん、葛葉先生、準備できました!」

「さよ、まだフロントには何も来てないようだが」

「待ってください!丁度6人入ってきたようです。チェックインしていた客らしく、2人が大きな荷物を持ったままエレベーターに乗り込む模様です」

観測状況も同じです!
2台とも運転手だけ残しています。

「フロントの人には声をかけないように伝えて下さい」

「分かりました。(そのまま声をかけずに通して下さい)……伝えました」

「ありがとうございます。龍宮真名と私以外はこの部屋でドアと窓からできるだけ離れた場所で待機していて下さい。龍宮真名、行きますよ」

「了解だ」

《全員携帯を身体から離さないようにするネ》

「葛葉先生、2人で6人なんて危険では?」

「大丈夫です、西川さん。私たちは麻帆良の人間ですから。それでは」

結局戦闘員は二人だけなんですよね……。
西川さんは龍宮さんと葛葉先生のあからさまな武装を見て驚いていますが、裏を知っている社員さんは何も言わずに頭を軽く下げていました。
私は観測で状況を伝えるだけです。

《葛葉先生、6人は30階で降りるようですが、エレベーターに乗った途端荷物を開けて武装し始めました、気をつけてください。3列に2人ずつ並んでいます。後10秒程です》

《時間がありません、エレベーターまで一気に距離を詰めます》

《了解だっ》

観測してる私だけが見えてますが二人共走るの早いですね!

《あ!ガスマスク付けました!》

《配置に着いた、変な物を撒かれる前に無力化する》

《2、1、開きます!》

龍宮さんと葛葉先生は扉の横にピッタリ待機し、エレベーター特有のチーンという音と共に扉が開きました。
準備万端という用意で先頭の2人が一歩外に踏み出した瞬間。葛葉先生が敵の武器を一刀両断、峰打ちし、龍宮さんが麻酔弾と思われるものを的確に当て、そのまま首を出さずに続けて2発発射。
突然の事に驚いた一番後ろの二人が声を上げた瞬間、その二人もあえなく無力化されました。
相手の行動が予め読めるというのはここまで対処が楽になるんですね。

《サヨ!転移符が発動します!》

えっ?

《犯人達が持ってた転移符が発動するみたいです!》

《なんですって!》

《しまった》

どうやらホテルの下で待機していた運転手が通信機で音声を拾っていたらしく声を上げた瞬間、異常を察知して元々そういう計画だったのか遠隔操作したようです。

見事にエレベーターの中には大きなトランク二つと銃器だけが残りました。
 
《相坂、何処に移動したかわかるか》

《下に待機していた運転手が呼び戻したようです。既に車は発車して南に抜けていきます。でもピンポイントで追跡はできるので任せてください》

《撃退しただけとはとんだ失態です。それにしても少し目がいいどころか透視までできたのですか》

あはははー、それを言われると困りますね。

《そ、それは幽霊の秘密ということでお願いします》

《うはーホントの戦闘なんて起きるもん何スね》

《状況が詳しくわかりませんでしたが、葛葉先生達凄いです!》

《相手の動きが分かてて良かたネ》

《全くだな。相坂の能力は大したものだ》

《まず奴らが残していったこの荷物をなんとかしないといけませんね》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

その後は色々処理が面倒だたヨ。
犯人の荷物の片付けに、事情を知ている社員さんへの説明に始まり、ジョンソン魔法学校への転移符が使用された件の連絡と、さよの観測での完全追跡を利用しての逃走した犯人達の捕獲要請、ホテル側への情報操作等、旅行最後の夜にしては慌ただしいものだたネ。
明朝にジョンソン魔法学校の職員と葛葉先生達がやりとりした後、さよが捕捉したシアトルから離れたかなり南部にあるアジト、まあただの普通の建物だたらしいのだが追撃が行われたようだヨ。
どういう手段で追跡したのかは龍宮さんが発信器をつけたという事でかなりキツかたがなんとかごまかしたネ。
追撃の結果は着いた時には幹部の連中と思われる奴らは転移符で多重転移を繰り返したらしく既に逃げていて、龍宮さんが撃ち込んだ麻酔弾を喰らて1日は全く動く事ができない奴らだけが捕またらしいヨ。
この先はもう私達の管轄外だたから、それで話は終わりなのだが、さよと翆坊主の観測で逃げた奴らが持ていた資料から世界の各地に既に拠点がいくつもあるだろうという事がわかたネ。
犯行組織全貌を捉える事はできなかたが、少なくとも前回の銃撃は国内犯ではなく世界規模の連中の仕業だというのは明らかになたヨ。
余程魔法世界にいる下手な魔獣よりも全て潰すのは骨が折れるのは間違いないネ。
アジトの場所も大体わかたのだが、その情報を公開するのは入手手段の問題で明かせないから魔法使いのNGO組織に頑張てもらうしかないという結論に落ち着いたヨ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

昨日?いや今日か、の夜中にマジで襲撃を受けたのをたつみーと先生が一瞬で返り討ちにするなんてのがホントに起きたッスよ。
バタバタしてたのと妙に興奮して全ッ然寝れ無かったけど、今はもう明けて朝8時過ぎに帰りの飛行機に皆で乗って空の上だわ。
なんてゆーかやっぱり相坂さんの千里眼凄すぎだろ。
そりゃたつみーが発信器つけた事にするわな。
バレたら確実に今度は誘拐の対象……?浮ついてるから捕獲できないか。
ま、面倒な事を考えるのはやめた方がいいな。
最後の最後でそんな感じでも、もう死ぬわーって状態になったのでもないから、総合的に今回の旅行を評価すると……また何度でも学校休んでどっか行きたい!まさに優先順位堂々の1位だね。
途中から金銭のことなんて考えるのやめたけど確実に十数万だか数十万だかは消費した気がする。
いいんちょみたいにリアルに金持ちでもないのにこの生活は無いわ。
仮にもシスターらしい生活とはかけ離れてたッスね。
清貧?何だそれって感じ。
シスターシャークティにはとても自慢できねー。
今更眠くなってきたから一眠りするか。
今日金曜だから戻っても、しっかり毎晩対策したから余裕で中間テストなんて攻略できんじゃん。


……って起きて、もうすぐ着くと思ったら何?
朝出たのに土曜の昼だって?
あー!時差か、忘れてたわ。

超りん成田に到着して麻帆良へ帰る車に乗ろうとした時またかなり警戒してたけど11月の事件ってのはかなりヤバかったぽいな。
お土産大量に買ったけど自分で運ぶ必要なく、女子寮に届けてくれるらしい。
絶対個人旅行とか友達同士で行ったらこれも無いわ。
魔法世界にも前行った事あるッスけどここまで完全におんぶに抱っこなのは初めてだったな。
3年になったらすぐに修学旅行だけどどこ行くんだろ。
うちの学校外じゃありえないけどクラス単位で旅行だからなー、ハワイとかか?
今回ほどはっちゃけられないだろーけど2-Aで馬鹿やるのはそれはそれで楽しいだろ。



[21907] 26話 フライング京都
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/02/10 18:55
葛葉先生と龍宮サンのお陰で怪我なく麻帆良に帰て来る事もでき、女子寮に戻てきたらわらわらと沸いて出てきた皆にたかられたヨ。
そういえば2-Aとはこんな感じだたネ。
全員用のはもちろん頼まれていたお土産をそれぞれ配て、朝倉サンから取材させろと迫られたが主に美空に押し付けて部屋に戻たヨ。

「ハカセ、留守の間部屋を見ていてくれた助かたネ」

「おかえりなさい、超さん。私以外はこの1週間この部屋には入ってないですよ」

魔法球に侵入されるのが一番困るからナ。
その点は翆坊主も見てるからもしそんな事が起きたらすぐわかるのだけどネ。

「ハカセ達と用意した資料はあちらでは好評だたヨ」

「それは張り切った甲斐ありました。ギリギリまで徹夜して作成したのでどこかにミスがないか心配でしたけど」

「あー、ミスは結構あたが、行きの飛行機で直しておいたネ」

「やっぱり……」

「まあ影響は特に無かたからいいヨ」

「しっかり確認しないと駄目ですね。……それより少し大変だったのは授業で超さんと相坂さんがいないせいでまた私といいんちょさんに集中的に当たった事ですよ」

入院のフリをしていた時もそうだたらしいがまたカ。
先生たちもバカレンジャーに当ててどうしようもないと私達に回すからナ。
ネギ坊主はお世話になているという理由で明日菜サンによく当てるが、意外と英語はできるようになているからあの二人は割と仲がいいネ。

「それは悪かたネ。授業中に次のロボットの構想も進まなかたのではないカ」

「そうなんですよ。後もう少しで出てきそうっ!っていう時に限ってあたったりするとアイデアが吹き飛んじゃって」

「飛行機の中で休んできたから今日は開発のアイデアでも練るカ?」

「やっぱり超さんが一番理解してくれるのが早いので助かります」

ハカセは過程が飛躍する事が多いからナ。
やはりこれが日常だネ。

さよはまだ皆と話てる所カ。
しかし、帰りの飛行機で捕まえた犯人達から得られた情報が届いたが、予想通りというか末端の人間だたヨ。
単純に私達を狙うように指示を受けていただけのようだネ。
そんな連中でも麻帆良にまでは入てこれないから、そこまで厄介ではないが地味に行動を制限されているみたいで不快だナ。
釣り上げて潰すつもりだたが思いの外組織が大きいものだから私の命が外で常に安全になるのは当分先か、もう無いかのどちらかだろうナ……。

《翆坊主、この1週間殆ど連絡してこなかたがこちらの様子は変わりなかたカ?》

《おかえりなさい。最後だけドタバタしましたが1週間超鈴音にしては伸び伸びできたようですね。こちらは11月の時と同じく各研究会の人達が多少困る程度の現象が起きたぐらいですよ》

他の皆もハカセと似たような状態カ。

《うむ、スキーをマスターして来たから火星でもこれで楽しめるヨ。各所には後で顔を出して置くネ》

《前言った事本気にしてたんですか。確かに4月の頭にはアーティファクトがあれば問題なく過ごせるようになりますから楽しみにしておくといいでしょう》

《二酸化炭素の固まりでスキーはどんな感触だろうナ》

《またなんというか科学者っぽさが動機に出てますね。そうそう、アーティファクトと言えば小太郎君のものもかなりズルいものでしたよ》

ネギ坊主と小太郎君が仮契約したのは聞いているが、出たアーティファクトは小太郎君がネギ坊主の動きがわかるという使用用途に幅が無いものだと聞いているが。

《新発見でもあたのカ?》

《ええ、実は小太郎君のアーティファクトは契約執行すると自動で咸卦法が発動するものだったんです》

《それはとんでもなくズルいネ》

《タカミチ少年が知ったらげんなりするでしょうね》

《リスクが殆ど無い上にメリットばかりあるというのは本当に仮契約はバランスがおかしいネ》

《まあ、契約主の資質次第ですから周りに特異な人間がいない限り縁の無い話ですけどね。佐倉愛衣のアーティファクトは性能もそれほど高くないホウキですし》

《それでバランスを取ているのかもしれないが、選ばれた者だけが更に優遇されるというのはあまり愉快ではないネ》

《それは仮契約の魔法を最初に発案した人間の欲望の現れとでも言えるでしょう》

《昔から人間は変わらないネ》

他に何か動きがあた事と言えば丁度昨日バレンタインデーでネギ坊主があちこちからチョコレートを貰たり、押し付けられたりしてたらしいネ。
途中からどれが誰のかなんてわからないなんてオチになてるんじゃないかナ。
きちんと覚えておかないと英国紳士は失格だヨ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

超鈴音達が帰国してすぐの中間テストもあっさり終わった。
結果は超鈴音部屋の3人と雪広あやかで4位までを取るのはいつもと同じであったが、春日美空の順位が丁度中間あたりから200位前半へ、龍宮神社のお嬢さんも400台から300番台の前半まで上がった事である。
原因は日本史の暗記物や、古文の重要部分、数学の公式等を旅行中にピンポイント学習をしたお陰で簡単に点数が稼げたかららしい。
英語はバッチリの佐倉愛衣も日本史と古文の点数が飛躍的に伸びたようで、超鈴音をより尊敬するようになったのである。

と、そんな訳で二人程順位が上昇したため、これで良いのか悪かったのかはともかく、なんと2-Aは僅差ながらも下から数えて二番目にクラス順位が上がり最下位からの脱出を果たしたのだった。
これに伴い今回のトトカルチョで2-A最下位安定と思っていた多くの生徒達は食券被害を受けたそうな。

そして2月も末という頃、エヴァンジェリンお嬢さんのもとに表の京都の人達からの強い要望が届いたのだった。
なんでも、この1年の売上が例年よりも数十%も高くなり、その原因を詳しく調査したところ、元を辿ればエヴァンジェリンお嬢さんに端を発した日本文化ブームだというのが判明したのだそうだ。
要するに是非お嬢さんを本場に招待してイベントやら感謝やらをしたいという事らしい。

「じじぃ、沢山手紙が届いているし久しぶりに学業の一環証明書を作れ」

「儂の所にも要望が来とるしそれはいいんじゃが、最後に作ったのはいつだったかの?」

「大学の4年の時だから……5年近く前か」

「もうそんなになるかの。5年前じゃと確かこっちの棚じゃったような……」

ナギがかけた登校地獄はかなり緩くなっているので、麻帆良内なら自由に行動できるようになってはいるが、外に出るとなるとちょっとした処理が必要なのだ。
正直、完全解除すればそれで終わりなのだがお嬢さん自身がそれを望んでいないのでこういうことになる。

「確かあの時はエヴァの友人達と旅行に行ったんじゃったか」

「サークルでも度々誘われたが、あの旅行だけは行きたかったからな」

因みにその前が高校の修学旅行の時である。
中学の修学旅行の時はまだ信用が得られていなかった為許可されなかったので、これで通算3度目となる。

「おお、あったあった、キノ殿が呪いを緩めたお陰で条件をきちんと付ければちと分厚いが手書きで証書を作れば外に出られるからの」

「全部解かせないのは私の未練だがな。一応私の立場もあるし仕方ないだろう。出発は28日の金曜の午後からで帰ってくるのは3月3日の月曜だな」

「あい分かった。それまでに用意しておくわい。……ついでと言ってはなんじゃがこのかも連れて行っても構わんかの?」

「ああ、別に今更人数が一人増えても困らない。元々サークル規模の人数だからな」

「婿殿もこのかに会いたがっとるからの」

「寂しいなら麻帆良に入れなければいいのにな。そうだ、このかを里帰りさせるならぼーやも連れていったらどうだ?」

「……それはどういう事かの?」

「確か赤き翼の隠れ家があっただろう。ぼーやにここ数ヶ月のご褒美でもやったらどうだ?」

「褒美はついこの間も与えたのじゃが……」

「ナギが10歳の時の映像はあの試練の褒美だろうに」

「エヴァも情が移っとるの。ふむ、足跡を辿らせるのも悪くないか」

「一応私の優秀な弟子だからな」

「気にかかるのは2-Aの子達に情報が漏れないかじゃろうな。朝倉君がこの前からしつこくて適わん」

「超鈴音に借りを作った代償だろう。しっかり払え」

「わかっておるよ。この際、ネギ君に改めて西への親書でも持たせるとしようかの」

「念押しのつもりか。好きにしろ」

こうして近衛門とエヴァンジェリンお嬢さんのとの間でまたもや秘密裏に旅行計画が成されたのだった。
孫娘も連れて行くにあたり護衛には桜咲刹那、またしても葛葉先生、呪術協会から数人、そして特別に小太郎君が付くことになった。
葛葉先生が今回も選ばれた理由は魔法協会の所属でありながらも神鳴流という事もあって呪術協会と関わりが強いからである。
小太郎君までも特別に護衛入りした理由はネギ少年もいるから東と西の架け橋の象徴にでも、というつもりなのだろう。
エヴァンジェリンお嬢さんがいるため今回の護衛はかなり形だけの存在であるが、一応体裁は重要である。
次の日すぐに近衛門から孫娘に里帰りの話を伝え、また改めてネギ少年に親書の件をだしに京都に行って来るように伝えられたのだった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

28日金曜、学校が終わってすぐ、京都行きのメンバーが駅に集合したが、一部お互いの存在を確認して驚いたのだった。

「あれ?せっちゃん!せっちゃんも一緒に帰るん?」

「お嬢様、私の事はお気になさらず」

相変わらずスタスタ去って距離を取る桜咲刹那だった。

「……せっちゃん……」

「あれ?このかさんも京都に行くんですか?」

「よう!このか姉ちゃん!」

「えっ!?なんでネギ君とコタ君もおんの?」

「僕は学園長先生に頼まれごとをされたので」

「俺はその付き添いや」

「へーそうなんか。ほな、せっちゃんも同じ理由なんかな?」

「そうなの?コタロー君?」

「あー、それは俺も知らんへんな」

「コタロー君その顔何か知ってるでしょ」

「いや、何も知らんて!」

ブンブン手を振るあたり、小太郎君、隠し事が下手だった。

「コタ君教えてくれへん?」

そこへ今までサークルの人達に囲まれて姿が見えなかったお嬢さんが登場。

「ぼーや達も来たか」

「ま、マスターまで!?そんな事聞いてないですよ?」

「じじぃから聞いてないのか。元々私達が京都から招待されたのが今回の旅行の発端だ」

「そうだったんですか」

「知らない人がぎょうさんおると思うたらそういう事なんか」

「まあぼーや達と近衛木乃香はそれぞれやることやればいいさ」

《ぼーや、じじぃが説明してないようだから先に言っておくが近衛木乃香は学園長の孫で極東一魔力量も多いから桜咲刹那や小太郎達呪術協会が護衛についているんだ。少なくともぼーやがこの旅行中にさっき小太郎に迫ったような近衛木乃香に魔法の事をバラしかねん真似をすると故郷に戻されるかもしれんから気をつけろよ》

《は、はい!分かりました、マスター!あ……危なかった。でも刹那さんも護衛だったんですね》

《やはり知らなかったか。まあ小太郎もあまり呪術協会の事は話さないようにしてるからな》

「エヴァンジェリンさんはせっちゃんが来とる理由知らへん?」

「あの剣道部の先生と用事でもあるんじゃないか」

「あ、ほんまや。葛葉先生もいたんか。せっちゃん剣道強いからそうかもしれへんね。おおきに」

「私も詳しくは知らんからな。本当に気になるなら本人に付き纏ってでも聞き出せばいいだろう」

「なんやうちせっちゃんに避けられとるみたいやからそれはしとうないな……」

「ま、好きにすると良い。そろそろ時間だ。それではな。ぼーや達も用事が被らなければ私達の発表でも見に来ると良い」

「はい!時間があったら是非行きます!」

適当にお嬢さんが桜咲刹那と葛葉先生の関係を仄めかして孫娘の興味を適度に削いだことで小太郎君に及びかけた追求の手は収まった。
こうしてお嬢さん率いる大学サークル+ネギ少年親書任務+孫娘帰郷作戦+ネギ少年の監視も兼ねた主に孫娘の護衛団という異色の団体旅行客が結成された。
埼京線麻帆良学園中央駅から東京まで出た後新幹線に乗っておよそ2時間半程で京都に到着である。

京都駅に迎えに来ていた詠春殿直属の関西呪術協会の人達が孫娘を誘導し本山に連れていった。
その後間を置いてネギ少年と護衛達も後を追ったが、サークルの人達は招待を受けている宿へ泊まる事になり早くも別行動となったのだった。
本当についでというか便乗という他ない。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

このかさんだけ先に行ったけどそこまでして魔法の事を隠さないといけなかったのか。
今までこのかさんにはバレなくて良かったー。
アスナさんが話しちゃうんじゃないかとハラハラしたけど本当に良かった。
刹那さんがこのかさんを避けてるっていうのもこれが原因なのかな。
小太郎君が刹那さん達をすぐ紹介してくれたけど皆護衛なのか。

「あのー、刹那さんは護衛だからこのかさんから離れているんですか?」

「そうです、ネギ先生。今まで隠していてすいません」

それなら仕方ないのかもしれないけど、このかさんさっき悲しそうな顔してたな。

「いえ、隠していたのは僕もですし。……でも、折角クラスメイト同士なんですから仲良くした方がいいと思います!」

「し、しかし……」

「ネギ、それはお節介やないか」

「でも、僕は刹那さん達の担任だから生徒の関係はちゃんとしないと」

「はぁ……ネギはたまに頑固になるんやもんな」

「刹那さんはこのかさんと仲良くできないんですか?」

「い、いえ、そんな事はないですが……」

「なら仲良くした方がいいですよ!」

「俺は強うは言わんけど刹那姉ちゃん少しこのか姉ちゃんに冷たいと思うで」

「小太郎君まで……。分かりました、考えておきます。それでは失礼します」

あ、また行っちゃった……。

「俺はネギの担任の仕事はようわからんけど、俺が通っとる小学校は生徒が喧嘩してるのは先生が止めさせて仲直りさせる事はあっても、喧嘩もしてへんのに無理やり仲良うさせたりはせえへんで」

「無理やりっていうつもりはないんだけどな……」

「なんや魔法使いになる修行言うんは面倒やな」

「それでも僕は絶対この修業をやり通すよ」

「ネギならそう言うと思ったで。そうや、教師としての悩みならあの葛葉先生に聞いたらええんちゃうか?」

「あ、そうか!ありがとうコタロー君。本山の行きに聞いてみるよ」

丁度他の先生が居て良かったな。
もう出発するみたいだし聞きに行ってみよう。

「あ、あの、葛葉先生、こうして話すのは初めてですけど話を聞いてもらえますか?」

葛葉先生ってちょっと怖そうだな。

「はい、構いません。なんでしょうか」

「葛葉先生は、一人の生徒に仲良くしたいクラスメイトがいて、そのクラスメイトの方はその生徒を嫌いではないけど避けてる状況を見て仲良くさせようと思いますか?」

「あぁ……刹那の事ですか。普通であれば状況によるでしょう。避けている方が単純に恥ずかしがり屋で周りに誰も力を貸すような人間がいないならば少し背を押してあげるぐらいはして良いと思います。刹那の場合は恥ずかしいというのもあるでしょうが、立場が絡んでいるので難しいですね」

「立場……というとやっぱり護衛の事ですか?」

「木乃香お嬢様は近衛家の大切な一人娘です。対して私達護衛は命を賭けてでも守らねばなりません。そして護衛には替えが効きます。その為無闇に仲良くして結果悲しませるような事になっては護衛としては失格なのです」

命を賭ける……か。
スタンさんも僕の事をあの時身体を張って守ってくれたな……。
でもやっぱり残った方は悲しいし、悔しい。

「僕は守られて残された側の気持ちがわかります。でも、やっぱりそれは悲しすぎると思うんです」

「いいですか、ネギ先生。私は一般的な護衛としての立場を言っただけです。刹那は護衛でありながら幼少の頃からの木乃香お嬢様の幼馴染でもあります。その点をどう考えるかはネギ先生の自由です。私から個人的な意見を言うのは簡単ですが、教師としてのあり方もその人の数の分だけあります。ここからはネギ先生がネギ先生としてのやり方で、どう手を出すか出さないかは決めるべきでしょう」

僕の教師としてのあり方か……。
魔法使いになるための課題で始まった僕の今の生活はこういう事を経験する為なのかな。

「葛葉先生、ありがとうございます!僕は僕自身の答えを見つけるように頑張ります!」

「どういたしまして。良い答えが見つけられると良いですね」

よし、頑張るぞ!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

午後7時を過ぎたという頃、孫娘は無事に本山に到着し詠春殿と木乃葉さんと久々に一時の再会を果たしたのだった。
しばしの団欒の後、母と娘とその他の巫女さん達はそのまま一緒に温泉にでもと移動していった。
その後詠春殿の所に今度はネギ少年の到着である。

「初めまして、ネギ・スプリングフィールドです。関東魔法協会から親書を届けに参りました」

「ネギ・スプリングフィールド君、遠路遥々ようこそ。私が関西呪術協会の長の近衛詠春です。楽にして結構ですよ」

「近衛……という事はもしかしてこのかさんのお父さんですか?」

「ええ、そうです。このかと同じ部屋に住んでいると聞きましたが今まで魔法の事を隠し続けられたとは大したものですね」

いや……そういう趣旨で同じ部屋になった訳ではないのだが。

「え?あ、はい、ありがとうございます。あの、これが親書になります」

「はい、確かに受け取りました。…………なるほど、分かりました。明日は何か予定はありますか」

「いえ、特には……あ、でもマスターの発表会が午後からあるのでそれは見に行きたいです」

「それなら明日の午前、赤き翼、ナギ・スプリングフィールドも使った事がある京都にある隠れ家を見てみますか?」

「え、父さんの隠れ家があるんですか!?」

「はい、昔のまま残っていますよ」

「是非お願いします!」

「分かりました。今日は疲れているでしょう。ここには温泉もありますから今晩はゆっくり休んで下さい」

「ありがとうございます」

こうして無事に親書を届ける仕事も難なく終わったネギ少年であった。
近衛門が書いた親書の中身は三種類、一つは真面目な内容の親書、そしてネギ少年を隠れ家に案内する便宜、最後に孫娘に裏のことを教えてはどうかというものだった。
特に最後の内容は近衛門からの私見だが、ネギ少年が冬休みに4日間昏睡していた時に僅かに回復術が孫娘から発動していた事と裏の事を孫娘にこれからも秘匿し続けながら護衛を陰ながらつける事の効率の悪さについてであった。
前者についてはあの時の小太郎君とネギ少年の状態を比較して分かったことだが、本当に偶然だった。
ネギ少年の方がスクロールへの最初の参加環境が精神的に悪かったにも関わらず小太郎君と体調が大して変わらなかったのである。
後者については超鈴音の前例で孫娘が攫われて利用されるどころか場合によっては、排除対象になり銃撃されて一発で終わりなんて事も可能性としてありえると近衛門が考慮したからである。
それと桜咲刹那の事も少しは含んでいるのかも知れない。
ここで久しぶりに精霊としてちょっかいを出そうと思う。

《サヨ、ちょっとまた関西まで行ってきます。すぐ戻ります》

《珍しいですね。行ってらっしゃい。木は見ておくので任せてください!》

《助かります》

ネギ少年が執務室から退出し、麻帆良から付いてきた護衛とのやりとりも終え、詠春殿が一人でいるところ。
前回も行った事があるので数秒で到着である。
念のためいつもどおり結界を張りつつ。

《詠春殿、お久しぶりです》

「うおっ!これはこれは、キノ殿ですか。少し驚きました。今日は何のご用ですか?」

《私は近衛門殿からネギ少年を見守って欲しいと頼まれていまして、今までのやりとりは全て見ていました。その手紙の内容についてもです。今回は少しお節介に来ました》

「全部筒抜けですか、となるとこの手紙の件ですか?」

《ええ、木乃香お嬢様に裏を教えるべきかという事です》

「……やはり親としては、このかを裏に巻き込みたくは無いですね」

《一つ、私がネギ少年と別に気にかけている人物がいるのですが、麻帆良を出た途端に命を日常で普通に狙われるんですよ》

「それは表で、ですか?」

《裏と関係のある表です。つい最近分かったのですが世界中に拠点を持った裏の道具を活用する表の組織があるんです》

「それは厄介ですね」

《恐らくその組織は裏からの依頼も表からの依頼も料金次第で請け負う可能性が高いです。要するに木乃香お嬢様を単純な依頼で殺害対象にされる事もこの先あるかもしれません》

「……学園長にしては珍しく警戒していると思えば非効率とはそういう事ですか」

《娘を守るのであれば、表も裏も無いのではないですか?》

「キノ殿はこのかにはこの際裏を教えた方が良いと思われるのですか」

《結論を言えばそうです。呪術協会支部も麻帆良に建った今、以前ほど関係が面倒な事になっている訳ではありません。正直木乃香お嬢様は自分の持つ力についてしっかり自覚しておいた方が良いと思いますよ。この前優秀な治癒術師としての片鱗も垣間見えました。総合的にはデメリットよりもメリットの方が多いでしょう。最後に、ついでのついでですが、大事な幼馴染と公然と仲良く出来るようにもなるでしょうね》

ここまで手を出すのは越権行為の気がするが、ここはあえて開き直り精霊としての立場を悪用するとしよう。

「キノ殿はこのかの事も見守ってくれていたのですか。私も分かってはいましたがそう精霊に言われるとお告げに従った方が良さそうですね」

見事に騙し……ではなく、スムーズに後押しができて良かった。

《最後にどうするかは詠春殿次第ですが、この休みにでもじっくり話されるといいでしょう》

「こちらこそ、決心が固まりました。またいつでも……と言っても見ているんでしたね」

《そう言われると、全くもってその通りです。それではこれにて失礼します》

結局のところ駄目押し程度の意味しか無かったかもしれないが、精霊からも言ったという事の重要性を見てくれると助かる。
私としても超鈴音だけが無事ならそれでいいという程薄情ではないのだから。

その夜、詠春殿は孫娘に裏の事をしっかり話し陰陽術や魔法の訓練をするかどうかについても意思を尋ね、孫娘の返答は予想通りであるがやると答えたのだった。
簡単な陰陽術は気を用いる事が多いので、近衛門の様に最初から魔分を使う西洋魔術の方が適正はあるだろうが。
続けて詠春殿は桜咲刹那についてもなんとハーフである事についても含めて話し、それを聞いた瞬間彼女が何処にいるかを聞き返し、寝間着の姿のまますぐ様突撃していった。
その姿を見て詠春殿はひとまず話して良かったのだろうという顔をしていた。
少なくとも訳の分からない成り行きで裏の事件に巻き込まれるよりは親から予め説明しておくべきだろう。

「せっちゃん!せっちゃん!」

「お、おおお、お嬢様!?どうしてここに?」

「うち父様から裏の事聞いたんや!」

「長が話されたのですか?」

「そうや!せっちゃん今までうちの事守ってくれてたんやろ?」

「は、はい、微力ですが陰ながらお守りしておりました」

「やっぱりな!それでな、うちせっちゃんがハーフやて言う事も聞いたんよ」

「……そ……そんな」

「逃げんでええ!うちはせっちゃんが人と少し違うてもそんなんどうでもええ!うちにとってはせっちゃんはせっちゃんや!」

ハーフである事を知られた瞬間に慌てて飛び出そうとした桜咲刹那だがその前に孫娘に抱きつかれて身動きがとれなかった。

「お、お……この…ちゃん」

「せっちゃんやっとその名前で呼んでくれた!うちせっちゃんと昔みたいに仲良うしたいんよ!駄目なんて言いひんよね?」

「……はい、お嬢様」

「またその呼び方!今晩うちここで一緒に寝てもええ?」

「え!?そ、そそ、それは!?」

「せっちゃん恥ずかしがらんでええよ。眠くなるまで今夜は一杯せっちゃん話してな!」

桜咲刹那の武勇伝が子守唄代わりになった。
そんなこんなでこの夜関西呪術協会の一室は孫娘に強く言われると断ることなどできない桜咲刹那によって日付が変わっても尚話し声が続いたのであった。

次の日、ネギ少年は朝食の際に二人の女子中学生に話をしようと思っていたのだが、少女達はぐっすり寝ていたため会えなかった。
詠春殿はその事を尋ねられて、適当に笑って濁しつつ、約束通り隠れ家にネギ少年を案内し、赤き翼の写真を見せ、ナギの残した資料をネギ少年に渡した。
それは麻帆良の地下施設の見取り図で、ナギの適当なイラスト付きでオレノテガカリ等と書いてあるものだが、明らかにクウネル殿のいる場所に繋がっていた。
一人で行ったら確実に門番の彼女に酷い目に遭わされるのだが、先にエヴァンジェリンお嬢さんに見せたら果たしてそれも解決するのだろうか?
昼頃に本山に戻った少年は孫娘と桜咲刹那が大変仲良くしているのを見て、唖然としたが前向きだったので「仲良くなって良かったです」と声を掛けていた。
しかし

「ネギ君は魔法使いなん?」

「ど、どうして知ってるんですか!?」

昨日孫娘に裏がバレるのがマズいというのを実感した矢先だったので衝撃が強かったらしく一瞬にして顔が青ざめた少年だった。

「ネギ君、安心してください。私が教えたのです」

という詠春殿のフォローでホッと一息、やっと落ち着きを取り戻した。
ネギ少年の魔法使いとしての事情についても無難に説明をし終えた。
因みに午前中には孫娘が裏の事を知らされた事については護衛達にも伝わっていた。
午後にネギ少年がエヴァンジェリンお嬢さんの発表会を見に行く事になり、それに参加する人達が本山入り口に集まった。

「あ、コタロー君!」

「ようネギ!おお、姉ちゃん達仲良うなったみたいやな!」

「そうやよ!」

「はい、昨日はどうも」

「んー、ほな、そのうちこのか姉ちゃん達も仮契約するんか?」

「仮契約て何なん?」

「仮契約というのは魔法使いの主従契約をする事です」

「それでどうなるん?」

「それをやるとこのカードが出るんや!」

バーン!と小太郎くんが掲げて見せた。

「コタロー君、そんな見せびらかさなくても!」

「あー!それアスナに前見せてもらったえ!その仮契約言うんするとそのカードが出るん?」

「そうやで。しかも凄い魔法具も出るんや!」

「それ以上はコタロー君、マスターが言っちゃ駄目って!」

そう、小太郎君のアーティファクトは無闇に人に教えるのはどうかという効果なのでエヴァンジェリンお嬢さんから二人には他人に簡単に教えたりしないようにと念が押されている。

「分かっとるって。俺のは見せられんけど、そういう事や」

「へー、ほんなら、うちがせっちゃんと仮契約したらせっちゃんのカードが出るんやね」

「お、お嬢様!」

孫娘にはそういうグッズ系の話はタブーだった。
ガンガン話に首を突っ込み、契約陣を描く必要があるとわかるところまで話が済んだところで結局今すぐにはできない事がわかり保留となった。
そして、もうそろそろ時間となり4人はもちろん、エヴァンジェリンお嬢さんが来ているのという事もあり、詠春殿は昔のちょっとしたよしみで、葛葉先生達は護衛は勿論一応立場的にも、結局皆で車に乗り込み出発した。

その発表会はと言えば当然素晴らしい出来で、大好評を受けた後、その場でお嬢さんと写真会であったり、サイン会だったり、握手会だったりした。
元賞金首って何のことだろうか。
誰もかれも一般人でそんな事気にしていなかった。
ずっとやり続けた訳ではないので、お嬢さんも京都の観光をそこそこする事ができて楽しめたようだ。
二日に渡るイベントであるため、次の日曜には前日とはまた違う場所で内容も変えて行われたが、その反響については以下同様である。
その間何かあったかといえば、詠春殿とお嬢さんが少し話たり、ネギ少年がお嬢さんに例の地図を見せて「あーそれだけか」と事実を知らなければ分からない冷めた反応をして終わったり、孫娘もお嬢さんに仮契約の事を早速聞き、「せめて少しはまともな魔法使いになってからにしろ」と一蹴した事ぐらいだろう。
それでネギ少年が「僕は少しはまともになりましたか?」と真面目に尋ねたものだから「最初に比べれば、だがな」と無難なやりとりもあった。
月曜、一行は朝早くに新幹線でまた麻帆良に戻っていき、午後に授業に戻ってきたらまた色々と厄介なことになったのは言うまでもないだろう。
孫娘が携帯から「京都の実家行って来るえ」と情報を上げていたのと、朝倉和美も元々サークルでお嬢さんが招待されていた情報を掴んでおり、更にはネギ少年も同じ所に行っていたとなっては追求が激しくなるのも無理は無い。
また早乙女ハルナが女子中学生2名からラブ臭に近しいものを検知したりしなかったりもしたそうだが、そんなセンサー何に役に立つ。

今回の小旅行を襲う等という暴挙に出る勢力は皆無であり、実に平和そのものであった。



[21907] 27話 孫娘の秘密
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/02/10 18:56
世界の歴史からフライングして京都に行ってしまった一部の人々がいたが、再びいつもの麻帆良に戻っている。
と、言いたいところだがやはり少し状況は変化していた。
孫娘は帰ってきてから近衛門に「父様が全部教えてくれたえ」と報告し、近衛門が散々周りの人間にその事実を言いふらさらないように念を押した上で、孫娘も魔法生徒の新入りとなった。
当然誰かに師事する必要があるが、その間に問題があった。
やはり西洋魔法と東洋呪術どちらを学ぶかである。
当然呪術協会からすれば、孫娘が西洋魔法ばかり学ぶのは気に入らないのだ。
かと言って気を扱うのを会得するにはかなりの時間がかかる上、やはり孫娘のアドバンテージと言えばその魔分容量に他ならない。
結果として、それでも気の扱いを覚える事を全くしない訳にはいかないので、週に1回であるとか定期的に呪術協会支部で授業を受けることになった。
孫娘はまさか日本文化振興施設が呪術協会の支部だったなんて知らなかったため大層驚いていたが、心が広いようで「そういうこともあるんやね」と割とあっさりしていた。
さて、西洋魔法は誰から学ぶかとなれば近衛門がやれば済む話ではあったが、麻帆良で優秀な治癒術が使える人物とは誰がいただろうか。
そう、去年の7月半ばから特に出番もなかった彼、図書館島の謎の司書、クウネル・サンダースこと本名アルビレオ・イマである。
公的には、彼の存在は魔法先生達も知らないし、呪術協会の人達も知らないが、師は優秀であるのに越したことはない。
西洋魔法の担当は表向きは近衛門で、秘密裏にクウネル・サンダースとなったのだった。
司書殿としてはこの依頼は仮にも色々生活で便宜を図ってもらっている近衛門からのものであるため、断るなんていう選択肢は存在せず、それどころか暇そうだったのでスムーズに行ったが、連れて行く少し前に一悶着あった。

「あのな、私は麻帆良で確かに今はそこそこ楽に生活しているが、積極的にその触れてはいけない暗黙の了解の塊とやらになりたくはないんだが」

「そこをなんとかしてくれんかの。エヴァの所ならネギ君が行こうがコタロー君が行こうが、この際このかが行こうが刹那君が行こうが人数がちと増えるだけじゃろ」

触れてはいけない暗黙の了解とは、「エヴァンジェリンお嬢さんがあの福音殿である事を分かっていても気にしない」に端を発し、「ネギ少年と小太郎君が去年の夏の終わり頃から頻繁にお嬢さんの家に通っていても害は無いのでやはり気にしない」を期に一気に麻帆良に浸透していったルールのようなものの事である。
つまり、基本的にお嬢さんが関係することには周りは不干渉を貫くというものだ。

「私にメリットは何かあるのか?」

「……それを言われるときついんじゃが、金銭はいらんだろうし、何か要望があれば聞くわい」

「そうだな……といってももうあまり要求する事など無いが、ならせめて頻繁に外に出れるように証明書をもっと用意しておけ」

「それだけでいいのかの?」

「じじぃから何か毟り取っても大して面白くもないからな。あー、あえて言うなら、私の好きに刹那と木乃香は使わせてもらうぞ。もうじじぃに一泡吹かせるのはどうでも良くなったが、ぼーや達を鍛えるのは最近の趣味の一つだからな」

「刹那君を訓練に参加させ、まだ先じゃろうがこのかに怪我を治させるという事かの?」

「大体そんな所だ。木乃香の才能はよく知らんがな。今は私とぼーやが適当な治癒魔法で訓練の怪我を治しているがやはり面倒だ」

「それはこのかにとっても経験になるじゃろうから構わんがの。しかしエヴァにあまりメリット無いの」

「欲が無くなってくるとそんなものだろう。適当にこじつけでもしておくに限る。後で何か要求ができたら遠慮せず言うさ」

「面倒をかけてすまんの」

「一応私はじじぃよりも年長者だからな。たまには頼ればいいさ。だがアルの所にはじじぃが木乃香を連れていけよ。一応ぼーやが京都でアルのいる場所を示す雑な地図を手に入れたからな。泳がせてみると面白いだろう」

「そんなものしか無かったとはの。知っとる側としてはつまらないものじゃな。分かったぞい」

一部精霊化してるからなのかどうかは知らないが落ち着きと無欲さを身につけているお嬢さんは完全に隠居人そのものである。
実際金を手に入れようと思えば、設定次第にもよるが購入に億はかかるダイオラマ魔法球を通常ではありえない時間差24倍の物を作成することができるのだから、人間の通貨などに大して興味もないのだ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

そして近衛門がお嬢さんに言われたとおり図書館島の地下に孫娘と散歩しに来た訳だ。

「おじいちゃんと一緒に図書館島に来るなんて思わなかったえ」

「ふぉっふぉっ、儂もじゃよ。じゃがちと図書館探検部はこのかには面白くなくなるかもしれんの」

「それどういう事なん?」

「すぐわかるぞい。ほれ、こっちじゃよ」

「え、そっちに何かあるん?」

一般人は予め知っていないと見つけられない、以前超鈴音やお嬢さんも利用した地下への直通通路である。

「ここじゃよ」

「あれ?こんな所に入り口あったなんてうち今まで知らんかったなぁ」

「これも魔法じゃからな。誰かに見られるといかんから行くぞい」

「面白くなくなる言うんはそういう事なんか」

祖父と孫が仲良く普通ではあり得ない場所を散歩しつづけ、エレベーターに乗り門に到着した。

「おじいちゃん!あの大きい生き物竜なんか?」

「竜であり、ここの門番じゃよ。通行許可証を見せれば通してくれるからの。ほれ」

許可証を見せた途端、キューと鳴き声をあげてバッサバッサとどっかに彼女は飛んで行った。

「変な所やね」

「慣れれば普通じゃて」

久々に司書殿のお出ましである。

「アル……いや、今はクウネルじゃったか、元気にしていたかの?」

「ええ、それはもう。いつもと変わりありませんよ。学園長、ようこそ。そちらが聞いていたこのかさんですね。初めまして。クウネル・サンダースと申します」

「こちらこそ初めまして。うちは近衛木乃香や。その名前がほんまですか?」

「ええ、本名ですよ。クウネルとお呼び下さい」

真顔で嘘を付く司書はそれ程までにその名前が気に入っていたらしい。

「分かったえ!くーねるはんやね」

「……あまり儂の孫に変な事を教えんように頼むぞい」

「それはご安心下さい」

全くこの言葉は信用できないが、全体としてはまともな事をするだろうと思いたい。
孫娘だとノリノリでネコミミ付けそうだから意外と息が合いそうではあるが。

「おじいちゃん、ほな、くーねるはんがうちに魔法教えてくれるんか?」

「そうじゃ。呪術協会と同じで定期的にじゃがの。普段は儂の用意する場所か、また後で行くことになる場所で練習すればいいからの」

「分かったえ。これからよろしゅうお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします。ここまで来るのに少々時間がかかりますが我慢してもらえると助かります」

「うち図書館探検部で鍛えとるから大丈夫やよ」

「それは良かったです」

「このか、分かっておると思うが、ここの事もクウネルの事も他人には話してはいかんぞ」

「おじいちゃんうちを信じてや」

「おお、信じとるよ。刹那君なら連れてきても構わんがの」

「ほんま!?あ、でもせっちゃん剣道部あるから邪魔はできんひんな」

「たまに一緒に来るといいですよ」

「そうやね。都合がおうたらせっちゃんも連れて来るえ」

「そろそろ勉強を始めるとするかの」

「そうしましょうか」

と、初めての孫娘西洋魔法講習は保護者同伴で行われたのだった。
何だかんだで近衛門も孫娘に付きっきりで教えていたあたり、やはり祖父である。
何にしても最初はプラクテ・ビギナル火よ灯れから始まり、一朝一夕にできるようになるでもないので座学が主だったが。
少しは孫娘の近衛門へのトンカチ突っ込みが減ることを祈ろう。
それにしても司書殿は初めてで、かつ近衛門がいるにも関わらず、「ネコミミを付けると魔法が上手く使えるようになりますよ」等とさらりと嘘をついてのけ、孫娘は「ほな、うち自分で今度選んでくるえ!」と乗り気だった。
近衛門は本人の同意もあるならいいか……という事で微妙な顔をしたが、司書から無駄に念話で「きっと似合いますよ」等と褒めるものだから「このかには大抵何でも似合うからの」と孫娘の気がつかない裏で孫自慢に話が移動していったのだった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

引き続き孫娘の状況であるが、今度は近衛門が言っていたまた後で行くことになる場所、の件である。
場所について近衛門から直接言われた孫娘はどこの事かもう殆ど分かっていたので「やっぱりなー」と反応し、それからすぐの休日、桜咲刹那と共にエヴァンジェリン邸を訪れたのだった。
その道中以前孫娘が神楽坂明日菜達と一緒に忍び込もうとした時気がついたら寮の部屋で寝てたなんて話をしたものだから「あの時はすいませんでした」と謝る桜咲刹那とのやりとりがあった。
そして玄関の呼び鈴を鳴らし出てきたのは意外にも葉加瀬聡美である。

「あれ?ハカセちゃんがなんでおんの?」

「どうも、近衛さん、桜咲さんこんにちは。私はちょっと今茶々丸の出張メンテナンスに来てただけです。それで茶々丸が今動けないので私が代わりに出てきました、上がって大丈夫ですよ」

「葉加瀬さんこんにちは、失礼します」

「おおきにー。せや、茶々丸さんのメンテナンスって?」

「あ~、そう言えば皆さんは知らないんでしたね。茶々丸は私が主導で開発したガイノイドなんです。……ちょっとタイミング悪かったなぁ……」

少しばかり情報がしっかりやりとりされていなかったために起きた鉢合わせであった。

「ほうか~、今まで知らんかったなぁ」

そんなこんなで家の中に入ったところ。

「近衛さん、桜咲さんこんにちは。ハカセ、一度私を動けるようにして下さい」

「ちょっと待ってね。すぐ動けるようにするから」

その手早い作業を孫娘と桜咲刹那はぼーっと眺めていたが、本当にすぐに終わった。

「はい、これでいいよ」

「ありがとうございます。お待たせしました、マスターの元へご案内します」

「ほんまにガイノイドやったんやね」

「あの、葉加瀬さん、私達がここへ来たことは」

「大丈夫です。私がここに来たこともあまり誰かに言わないでもらえますか?近衛さん達に事情があるように私も事情がありますから」

葉加瀬聡美は茶々丸姉さんの制作を通して魔法の事は知っているし、ネギ少年が魔法使いであることも知っている。
ただ、茶々丸姉さんが保存したデータで私、キノについてや、サヨが実は幽霊のようなものではなく精霊である等というマズイ情報については超鈴音が処理しているのでそこは知らない。
情報の機密の優先度はこれで正しいのだ。

とにかく、お互い見なかったことにしようという了解の元、孫娘達は茶々丸姉さんに連れられて別荘のある場所へ案内された。

「お二人ともこちらへどうぞ。この中に移動されたら手すりがありませんが橋を渡って中央にお進み下さい」

という指示を受け、いざ時間差24倍空間へ突入である。
当然移動した瞬間ここ何処?というような反応を見せたが、言われたとおり橋を通ってあちこち周りを見回しながら中央に到着である。

「木乃香と刹那か、よく来たな。まあ今日は見学程度だがここで一日ゆっくりしていくと良い」

「「こんにちはエヴァンジェリンさん、お邪魔します」」

「……あの、それで、ネギ先生と小太郎君はいつもあんな事をやっているんですか?」

既にネギ少年と小太郎君が空中で訓練を繰り広げている所だった。

「何や音が凄いと思うたら空で戦うとるん?」

「ん、まあそうだ。冬に完全に浮遊術を会得したからな。地上でやられてもこの石畳が壊れるだけだ」

「いえ、そうではなくて……」

「ああ、そうだった、私は慣れているがぼーや達は少し成長がおかしいからな。驚いたか?」

それは驚くだろう。
何と言ってもネギ少年の魔法領域の訓練の為にわざわざアーティファクト使用状態の小太郎君に契約執行をまでして、超高速移動状態であらゆる角度から無数の気弾を徐々に威力を上げながら防ぎ続けるという訓練をやっている最中である。
ネギ少年の動きが感覚でわかる小太郎君は魔法領域が薄くなってるところをすぐさま察知しそこへ目がけて叩き込むという訳だ。
近衛門の試練から早3ヶ月が経過しスクロール内でできたイメージに近づきつつある。

「小太郎君の動きも信じられませんが、ネギ先生のあの魔法障壁は一体何ですか?」

「あれ、やっぱりコタ君なんか?全然見えへんよ」

まさに、残像だ。の一言で目が追いつかない孫娘にとってはそう見える。

「企業秘密、と言いたいところだがお前達が敵対する事もないだろう。小太郎は咸卦法、ぼーやは私が魔法領域と呼んでいる防御魔法を使っている」

「か!?咸卦法ですか!?小太郎君の普段の警備では一度も見たことありませんが」

「木乃香、先に言っておくが咸卦法というのはとりあえず凄く強くなる技の事だからな。でだ、ついこの間の旅行で小太郎が仮契約の事をベラベラと話したようだが、あの咸卦法はあいつのアーティファクトの効果だから勘違いするなよ」

「ほうかー、仮契約って凄いんやね」

「す、凄いどころの話では……」

「それは良いとしてだ、まずそこに座れ」

少年達の訓練は当分続くので放置のようだ。

「さて……私が言うことでもないかもしれんが、桜咲刹那、お嬢様と別け隔てなく過ごせるようになったからと言って、ゆめゆめ己の剣が鈍るような事は無いように気をつけろよ」

「ッ!!……はい……心得ておきます」

「え、エヴァンジェリンさん!?そん」

「木乃香もだ。刹那と仲良くなれたからと言って、いつもベタベタしている訳にもいかないだろう。詠春から自分の立場についてもしっかり聞かされたのではないのか?」

「そ……そうやね。うち少し舞い上がっとったかもしれへん」

「まあそんなに露骨に気を落とすことはない。今のは忠告だ。気がついたときには手遅れだったなんてことがないようにな」

「な、なるほど。わざわざ私のような者にご忠告して頂いたとは恐縮です。エヴァンジェリンさん、ありがとうございます。自分を見失わないように精進します!」

「そうやったんか!おおきにエヴァンジェリンさん!」

「……ああ、自覚できたならそれでいい。刹那、手を握ってまで感謝しなくていいぞ。顔が近い」

落ち込んだり突然テンション上がったりと色々忙しかった。

「し、失礼しました!」

「全く、こういうことは本来じじぃ達がやるべきだろうに。しかし、あいつらは甘いからな。……ま、それを言えば私も甘くなったか」

「あの、今まで伺った事はありませんでしたが、エヴァンジェリンさんは今は一体……?」

何か桜咲刹那がエヴァンジェリンお嬢さんを見る目が尊敬に染まっている気がする。

「やはり私が何者か気になるか。……今からもう100年近く前になるが、その時から少なくとも私は真祖の吸血鬼ではなくなった。今がどういう存在なのかは話すことはできないがな」

「……そうだったのですか。不躾な質問をしてすいません」

「ほんまに長生きやったんやね」

「少し話が逸れたが本題に戻ろう。木乃香は魔法と気の扱いを学ぶのに時間がないだろうからたまにここに来て練習するといい。今はまだ無理だろうが、治癒魔法が使えるようになったらぼーや達の怪我を治療すれば実地訓練になるだろう」

「分かったえ。ありがたく使わせてもらうな。早く治癒魔法使えるように頑張らんと」

「だからと言って毎日来るような事をしているとぼーや達はともかく年をとるから程々にな。今のタカミチみたいになっても知らんぞ。奴は数年間ここで修行したからな」

「そ……それは気をつけるけど高畑先生が年齢の割に老けとるのってここ使うとったからなんか」

「す、数年間ですか……」

「次は刹那だが、今日は早速後でぼーや達に混ざるといいだろうが、たまに訓練の相手になれ。これは私がじじぃと交渉した結果だから断られても困るが」

「いえ、こんな修行場を使わせて頂けるなら文句等ありません」

「まあ、大体話しはこんなところだ。ぼーやもそろそろ限界だろう。お互い適当に挨拶でもすると良い」

《おい、ぼーや、もうそろそろ終りにしていいぞ》

《わ、分かりましたマスター》

「おっと、これまでやな。終わるタイミングも分かって本当に便利やで。アベアット」

「はぁ……はぁ……コタロー君ありがとう。良い訓練になったよ。特に薄い所ばっかり狙ってくるところとか」

「ははは!そら分かるからな!俺も咸卦法状態の感覚を実感して普段の目標にできるからお互い様やで」

「普段のコタロー君が咸卦法モードになったらとんでもないね」

普通に会話し続けそうだったので。

「おい、ぼーや達!いつまでそこで話してるんだ。一応今日は新入りが来てるから降りて来い!」

「あ、はい!」

「新入り?ああ、このか姉ちゃん達やな」

ようやく十数分間の耐久訓練が終了し少年達は孫娘達と挨拶を交わし、孫娘と桜咲刹那は二人に対して驚きの言葉を述べたり、孫娘が治癒魔法の習得を頑張る話であるとか、桜咲刹那もこの後修行に参加する旨について相互理解がなされた。
当然お嬢さんからこの件については外では口外しないように厳重に注意がなされた。
早速孫娘が火よ灯れの練習であったり、気の扱いについても桜咲刹那から優しく教えられた所、「それが甘いんだ」とお嬢さんから檄が飛んだり、小太郎君が「こう力入れてガッっとやるんやで!」とかはっきり言って下手な説明をされたりした。
何にせよまだ孫娘については始まったばかりである。
一方桜咲刹那と少年達がそれぞれ時間を置いて模擬戦を行なったが、地味に少年達は近衛門のスクロールの経験のためか、武器破壊攻撃に出ようとすることが多く、神鳴流は武器を選ばないと言っても「卑怯ではないですか?」と夕凪が危険な目にあったため彼女は少々青筋を浮かべた。
しかし、そういう事を気にした為に幾度と無く精神死を経験した二人としては「今の模擬戦は実戦を想定しているから不確定要素はできるだけ排除するに限る」と言い、続けて「仮にルール有りでの武道会だとしてもやはり同じ行動に出ることはあるだろう」と何の迷いもなく答えたのだった。
それを聞いた桜咲刹那は正直10歳の子供の思考回路とはとてもではないが信じられなかったのでどうしてそう考えるのか聞き返した。
すると二人から冬休みに4日間寝てた間の結果だと言われ、桜咲刹那も近衛門にスクロールを使わせてもらおうかとぶつぶつ何やら悩み始めてしまった。
ネギ少年は「意見が合わないとしても僕は僕ですし、刹那さんは刹那さん自身の考えで構わないと思いますよ。どちらが正しいかなんて簡単には決められませんから。そこから悩み抜いて自分の答えを見つけて下さい」と葛葉先生のアドバイスが微妙に生きたのか、10歳の少年が14歳に語る出来事があったとさ。

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ふむ、麻帆良にいると本当に安全だネ。
2月の中間テストでは美空はかなり手応えがあたと喜んでいた癖に食券トトカルチョで安定とされていた2-A最下位に賭けていたとはドジだナ。
工学部の隣にSNS用の巨大な施設も建設が完了して、麻帆良全体での運用、そして外部へと広がり始めたネ。
2-Aの皆があちこちで「こんなのがあるんだよ」と他の女子中学生に話を広めてくれていたお陰で爆発的に人気が出たのは私の学校が一番早かたヨ。
アメリカで交渉した結果が出始めるのはもう少し先かナ。

三次元映像撮影監視カメラの埼京線での試験運用ももう2ヶ月が経過しているが、車内での驚異的な犯罪率の低さと検挙率の高さを弾きだし、更に冤罪の撲滅にも役立たネ。
順次他路線でも導入の要求が来ているから試験運用どころかそのまま本採用に漕ぎ着けるにあたり、三次元映像技術の取り扱いに関するガイドラインの作成も急ピッチで進んで、見事この3月に完成したヨ。
去年の6月に発表してから10ヶ月近くかかたがようやく日の下に出せるようになたネ。
映像再生機については、販売は自由となたが、撮影機には製造した全てに固有のシリアルナンバーが登録され警察機関にその情報が伝わる事となたヨ。
購入に際しては手続きがかなり厄介だが、審査を受けて無事に通れば問題無しとなり、当然もし盗撮のような悪用をする事があれば極端に重い罰則が課されるようになたネ。
勿論、撮影機を違法製造した場合も同様だヨ。
まあ個人で認められるのは先になるだろうがまずは企業レベル、特に映画会社や警備会社等が先を争て購入申請をするだろうナ。
後は公共機関で例えば水道管の状態の調査等にも使われるだろうネ。
今のところ完全に雪広グループで技術を独占しているから法律に触れていると判断されるのも遅くないヨ。
その為他電機会社への共通規格作成で話が進む予定ネ。
これに関してはもう私は一介の開発者として手を出すつもりは無いヨ。
どんどん普及して、普通の撮影機も一緒に売上が伸びればSNSの方での情報収集にも役立つようになる筈だと信じるのみネ。

これからの予定と言えば、諸々の機器の製造は勿論だが、ダイヤモンド半導体の作成を詰めたり、まほら武道会の為の用意、ハカセ達といつも通りロマン溢れる新型ロボットの開発を進めるネ。
ロボットと言えば田中サン達の事だが、流石に麻帆良の外に普及させるのは無理があたから市場にはもうそろそろ限界が見えてもおかしく無いだろうナ。
もう少し外のロボット開発会社には気合を入れて貰わないと無駄にオーバーテクノロジー化したままになるネ。
資金もあるから投資するかナ。

後はSNSの基盤が固また所で今度は新型携帯の普及を進めたいが、携帯電話事業にまで手を無闇に伸ばすといよいよ命の危険が迫りそうだから、携帯本体の製造を行ている企業とうまく付き合う用にするヨ。
流石に粒子通信は搭載するつもりは無いが、性能はもう少し高い方がいいからネ。
この前の旅行が終わてすぐ皆の粒子通信は起動禁止にして、便利さを実感した皆は「普及させると良い」と言てくれたが、もしそうしたら先の電話事業そのものが潰れかねないから無理だナ。

大体科学面はこんな感じだネ。
一方相変わらず魔分有機結晶の精製はやているが4月頭の春休みになたら火星に行くつもりだからその際放射線レベルをきちんと計測した方がいいかもしれないナ。
魔法関連で言えば最近2ヶ月に一度ぐらいしか肉まんの差し入れしていなかたクウネルサンのところにこのかサンが弟子入りしたと翆坊主から聞いたヨ。
間違てもハカセのように鉢合わせしないようにしないといけないネ。
これから春が過ぎれば本格的にまほら武道会の準備を始めるから、翆坊主に聞かされたクウネルサンのネギ坊主の為のお膳立てをどうするか考え、直接話しておく必要があるヨ。
あの人の事だからネギ坊主に「決勝までこれたら戦わせてあげます」なんてニコニコしながら言いそうだからナ。
どうやら分身で出場する予定の割には、その分身半分無敵みたいなものらしいから通常の選手登録をさせたくは無いネ。
いくらクウネルサンが果たしたい約束だからと言てもそこまで個人を優遇したいとは思わないからナ。
私は純粋に在りし日のまほら武道会を復活させたいだけネ。

最後に、麻帆良以外の世界11箇所の聖地、いや翆坊主にしてみればただ勝手に溜まただけの場所らしいが、これを神木の出力上昇のブースターへ転用する為の計算をする事が課題カ。
引き出す事自体はウルティマホラの回復魔法術式で基礎理論はできているから後少しだナ。

そういえばネギ坊主はまだ正式な教員ではなかた気がするが、学園長はどうするつもりなのかナ。

《翆坊主、学園長はネギ坊主を正式な教員として認めるのはどうするつもりネ?》

《あー、実は2-Aのテスト順位をせめて最下位から脱出させる事だったらしいんですが、見事に超鈴音が春日美空と龍宮神社のお嬢さんの成績を上げた為に破綻したようです》

それは学園長も残念だたナ。

《まあ高畑先生にできなかたのにネギ坊主にやらせるというのは高畑先生が後で責任問題を取らされそうだし良いのではないカ?》

《ええ、全くそのとおりだと私も思います》

《それで代替案はどうなたのかナ?》

《いわゆる2-A底辺5人とじっくり面談を行い学習意欲を向上させ期末テストの結果がこれまでの統計的順位から相対的に上昇したと判断できたら合格、だそうです。ただ、解決手段に魔法を使ったり、試験を合格しないと正式な教員になれないという情報がどういう形であってもその5人の耳に入ったら即終了というものになったそうです。当然バレなければ良いというグレーゾーンを根絶するために常に監視が付いていると念も押されています。まあそれ私なんですけどね》

……何かきつくなていないカ。
しかも監視者が翆坊主では言い逃れできないネ。

《ハハハ新田先生にネギ坊主が相談しに行く姿が目に浮かぶようだナ。それでも正式な教員になれないだけで故郷へ即帰還ではないのだろう?》

《まあそういう事です。無理だったら続けて3年の中間で追試か、あるいはその間の彼女達の学習態度が改善されたと各先生が判断したらそれでも合格にするそうです。まあこの内容は詳しく伝えられず、追試はあるが諦めずに頑張りなさい程度に収められていますよ》

《年上の生徒に根気よく当たる10歳という構図からバカレンジャーに自身を理解させるのが手だろうネ。ま、ネギ坊主は天才だからで逃げられるのが難点だナ》

《果たしてどうなるでしょうかね》

《私も他人の事は言えないが、ネギ坊主もなかなか多忙な生活を送ているから大変だナ》

《そもそも労基法が云々ですが、若くして過労なんてネギ少年と超鈴音ぐらいなものですよ。葉加瀬聡美も近いですが彼女はとことん好きなことやってますし》

《別に私は嫌々やている訳ではないから日々充実しているヨ。ハカセと似たようなものネ》

《それなら構いませんが。春休みの火星探査でも楽しみにしていて下さい》

《ああ、それは楽しみにしているヨ。結局華にはお手付きする事になるがナ》

《今更そんな事気にしても意味ないですよ》

《なんというか私の矜持が素直に許さなくてネ。翆坊主が気にする必要は無いヨ》

《分かりました。体調には気をつけてください》

《大丈夫ネ。それとも何か気になる事があるのカ》

《あると言えばあります。……超鈴音がアーティファクトで精神強化をする時の補正値が以前より若干増えているので11月からの一件が地味に効いているのだと思いまして》

病は気からというが、ストレスは現代人には付き物だナ。

《私の願いの成就の為に必要な対価だと割り切るヨ》

《ならせめて積極的にアーティファクトをしっかり使ってください》

《ありがたく使わせて貰うネ》



[21907] 28話 アドバイザー美空
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/02/10 18:56
時期を見て、エヴェンジェリンお嬢さんに「あーそれだけか」と言われたものの、京都で折角詠春殿に貰ってきた地図に書いてある場所に行ってみようと思っていたネギ少年だったが、その前に近衛門から「一応試験はしなければいけないから」と、割とやっつけで底辺5人の学習意欲を向上させる課題が出された為あえなくその計画は後回しになった。
因みに課題が出されたのは3月7日の金曜日であり京都小旅行からすぐの事で、その翌日の土曜日に少年達と孫娘達は魔法球で遭遇したのだ。
課題が雑な感じになったのは近衛門が孫娘の扱いに忙しかったからなのだろうと思う。
そして来るべき期末テストの日は3月17日の月曜日であり本日、日曜から数えて勉強できるのはもう8日間しか時間がなく、普通はテスト対策は一週間前からするものなのでネギ少年は、女子寮にいる事を利用して早急になんとかするしかなかったのである。
そんな中ネギ少年はこれまでの2-Aの生徒達のテスト順位を魔法を使わずにパパッと一覧にした所、目についたのはやはり春日美空と龍宮神社のお嬢さんだった。
先月の中間テストの前一週間もアメリカに行っていたのにも関わらず順位が急激に上がったのは何か秘訣があるのだろうと思い至るのも無理はない。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

また期末テスト近いッスねー。
先月は超りんのすげぇ教材のお陰で点数上がったけど今回は無理っぽいな。
寮の部屋は五月と同じだけど、いつも店で働いてるから大体休日でもいないんだよなー。
勉強しよかとも思うけどやる気起きねーわ。
……お?インターホンの音が。
……誰スかね?

「はーい、今出るよ」

扉を開けたけど誰もいなって下か!

「春日さん、少しお話を聞かせて欲しいんですが今良いですか?」

なんでネギ君来るし。
えーまさかネギ君にも私が魔法生徒ってバレた?
いやいやいや、訳の分からん超りんはともかくそこまでマヌケじゃないッスよ!
ま、不自然に断るのも悪いし、いっか。

「おお、ネギ君ッスか。何?別に構わないけど、何なら上がるかい?」

「はい、ありがとうございます。お邪魔します」

アスナ達の部屋に行ったりしたことはあってもネギ君が私の部屋来たことなんてなかったな!
だってほら、目立たないようにしてるからクラスで割と空気だし。
……自分で言っといて辛くなって来たッスよ。

「んで、何の話が聞きたいんだい?」

「えーと、春日さん前回の中間テストで急に順位が上がったので何か心境の変化があったのかな、と気になったんですが……」

うぇっ!?何?私が勉強できるようになるとアレか、槍が降るとでも言いたいんスか?
そんで心配になって様子見に来た?
……んーでも、この様子だと違うか。

「まーぶっちゃけると心境は一切変化してないけど、単純に超りんの教材が凄かっだだけだね」

「あ……そうなんですか。超さん……教材か……いやでも……どうしよう」

何か悩みだしたなー。
適当に懺悔室でシスターシャークティの目を盗んで神父さんの代わりとかしたら面白そうだ。

「ネギ君、実は私これでも一応シスターなんで悩みとか聞きますよ?」

「え、そうなんですか?……それでは、春日さん僕が今から言う話を……口外しないでもらえますか?」

微妙に重い話か?でもテスト関係っぽいから大した事じゃないだろ。
少年のプライバシーの一つぐらい守れるしいいか。

「それはもちろん、口外しないって誓うから安心してよ」

「ありがとうございます。実は……」

語り出した内容は、もう来週の月曜の期末までによりにもよってバカレンジャーの学習意欲向上させて期末テストの順位をそれなりに上げなきゃいけなくて、しかもこれが最後じゃないけど達成できないと正式な教員になれないとな。
そんでもってこの話がその5人の耳に入ったら失格ねぇ……。
もしかしてその監視は相坂さんか。
今も見られてたりすんのか?それはやべーよ。
あの千里眼半端ないからなー。
なんつっても密閉空間まで覗けるらしいし。
しまった、興味本位で軽く聞いてみたらまた面倒な事に巻き込まれたかっ!
でもまあここは真面目にアドバイスでもするか。

「んー学習意欲向上させるって事は今回の期末テストだけ点数が高ければ良いってもんじゃないんだよね?」

「それは聞いてないんですが、僕がさっき迷ったのは単純に順位を上げればそれでいいのか、と思ったからです」

「そうだなー、点数上げるだけだったら超りんの教材でも借りてくればそれで終わりッスからね。先生としてなら大変だろうけどやっぱ学習意欲を上げた方がいいんじゃ?」

「やっぱりそうですよね。あぁ、答えは最初から一つしか無かったのに迷うなんて……」

いきなり落ち込んでるが大丈夫か?

「どうしたんスか?落ち込んで」

「ちょっと前に自分の答えを見つけて下さいってある人に言ったんですが、その僕がこの体たらくじゃ顔向けできないなと」

げー私が10歳の時とかそんな事で悩んだりしたことないわー。
魔法使いの試験めんどくさいねぇ。

「自覚してるだけいいじゃないッスか。それより今は先に5人の問題を解決しないと」

「ありがとうございます、春日さん。でも学習意欲って言っても僕少し読めば大体本何かだと覚えてしまうので、あまり皆さんの苦労がわからないんですよね……」

うはー天才少年贅沢な悩みだなぁ。

「ネギ君頭良いからねー。一応私の感覚で学習意欲がわかない感覚を言うと、勉強を始めても集中力が続かない、やる気が余り出ない、苦手な歴史とかに手を出そうとすると突然アレルギー反応が起きるとかそんなんッスね」

「それって勉強自体がつまらないって事ですか?」

「まあスゴーく楽しいなんて事は胸張って言えないね。簡単にやる気を出させるなら動機付けでもするしかないんじゃないか?例えば順位が上がると何か良い事があるとかさ」

「動機付け、ですか。うーん、金銭は駄目だし何かあるかな……」

「あの5人じゃ全員一人づつ対処法は変えないと駄目だろうね。あんま良い例じゃないけどアスナの場合順位が低いままだとバイトは禁止とか。これは窮地に追い込むタイプで脅しみたいだからオススメしないけど」

「僕そんな事アスナさんに言えないです……」

そらそうだろうな、結構迷惑かけてるみたいだし。

「ゆえ吉は本自体は好きだし哲学っ子だからとにかくやればすぐ点数は上がるだろうね。どうやらせるかだけど」

「春日さんってクラスの皆さんの事良く見てるんですね!良かったら他の3人のことも教えてくれませんか?」

んー乗りかかった船だし私見で良ければだな。

「まき絵って新体操であんな複雑な事できる割に勉強ができないのはじっとした状態だと頭に入ってこないタイプなんじゃないかと」

「うんうん」

この子真面目にメモし出したよ。

「楓はあれだ、単純に勉強してないだけでしかも、どう見ても忍者で洞察力はありそうだからそこを突けばなんとかなるんじゃ?」

「やっぱり楓さんって忍者ですよね……。それでくーふぇさんはどうですか?」

ほんっと全く忍んでないよなー。
山から帰ってきたときの格好一度みたけどすぐ分かるっての。

「くーちゃんは、英語は無理だし、強い奴が好きみたいだし、昔の中国の武人とかさそういう歴史上の偉人伝とか意外と興味もったりしない……かなー?それに楓と同じで単純に勉強全くしてないだけだ」

「なるほど……確かにくーふぇさんは既に強い人ですからそういう歴史上の伝説なんかでも興味持つかもしれませんね」

まーそこは流石に適当だわ。

「改めてアスナについて言っとくと、あいつは高畑先生の補習授業を受けたいが為にネギ君が来るまで勉強してこなかったからツケが回ってるんだわ。逆にネギ君が先生同士っつー事で高畑先生にこれからアスナのテストの順位が毎回上がったらデートと言わないまでも散歩でもするように約束させればいいんでない?ま、ある意味高畑先生がちゃんとアスナにきつく注意しなかったからこれまで改善してこなかったんだしその辺つつけば先生も無碍にはできんしょ」

あれ、めっちゃ語ってるわー。
つかマジいつも人間鑑賞してると意外と気づいてることあんだな。
でも隣の超りんわっかんねー。

「す、凄いですよ春日さん!色々ありがとうございます!僕自分なりにも頑張ってみます!」

何か尊敬されてんだけど、まずった。
これで私の順位また下がったらネギ君じゃないけど、顔向けできないわー。
マジ自分の首締めた、アホだ……。

「いや~なんか力になれたみたいで良かったッス。そんじゃ、まあ頑張ってみなよ」

「はい!失礼しました!」

はぁ……年下の子供先生がこんなに頑張ってるつーのに年上の女子中学生が頑張らないってのは何だし、いっちょやりますかね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

《んーどうしたんだ翆坊主。面白い事でもあたのカ?》

《いえ、春日美空の所にネギ少年が例の課題について相談しに行ったんですが、シスターらしからぬ口調でしたが意外と真面目に回答してまして》

《ははは、ネギ坊主の奴美空のとこに行たのカ。私の教材でも貰いに、というのでもなさそうだネ》

《ええ、単純にテストの点を向上させれば良いという結論ではなく、しっかり学習意欲の向上を図る方向で頑張るようです》

《しかし美空そんな事ネギ坊主にアドバイスして成績がまた下がるなんてできなさそうだナ》

《全くもって。やる気なく部屋でゴロゴロしてましたが今勉強してますよ》

《どうせ、首絞めたと思てるんだろうナ》

《そんな事ぶつぶつ言ってましたよ》

《ドジだナ》

《まあ彼女らしいですね》

《ふむ、後で少し援護射撃でもしてやるカ。SNSの効果の程を見せつけてやるネ》

《それは……ネギ少年というより春日美空への報酬みたいなものですか?》

《まあそんな所だヨ。美空には、アメリカには連れていたが、追加報酬払ていないからネ。中間テスト対策もしたがあれはあの旅のサービスの一環だからナ》

《律儀なことで》

《火星人は義理堅いネ。ここが今回の期末のポイントだ講座でもコミュニティに上げるとするヨ》

《グレーっぽいですけど別にテスト問題を盗み見てる訳でもないですから許容範囲内ですね》

《監視役のお墨付きも得て何も問題ないナ》

そして、その後のネギ少年の行動は迅速だった。
まずタカミチ少年に連絡し、アドバイス通り痛い所を突きくものの、のらりくらりと避けられそうだったが、懸命にお願いし続け、かつ少し純粋さが失われたのか「僕がタカミチの代わりに解決するなんて事でいいの!?」と言った事が心に刺さり、神楽坂明日菜のインセンティブはあっさり獲得できたのだった。
それから立て続けに面談をし、忍者には一緒に山篭りした経験から生物に関しては寧ろ文献より詳しいだろうと、そこから理科を、古菲には「昔はこんな凄い人がいたんですよ!?興味ありませんか?」とちょっとびっくりするような迫り方をしつつ、話して聞かせ始めたら、何とも話し方がうまく彼女は肉まんをパクパク食べながら「面白いアル」と少しはマシになった。
佐々木まき絵には「身体を動かしながらならすんなり覚えられるんじゃないですか?一度やってみましょうよ!」と新体操の為の曲ではなく、英語の曲をかけたり、二人でランニングしながら問題を出してみたりと実験して効果がそこそこ出たため「ネギ君!私ちょっと頑張ってみるよ!」と目が輝いたので確かに意欲は向上したと見える。
綾瀬夕映には口論では彼女のお祖父さんの哲学で押されそうだったが、「何事もまずやってみませんか?」と問いかけ、むむむと唸りながらも「……一理あるです。分かりました今回は頑張ってみるです」となんと5人とも効果の程はわからないがやるだけの事はやったのだった。

更に2-Aコミュニティに4日程してから超鈴音による今回のテストのポイント講座というものが上げられ、春日美空は「監視してんのホントに相坂さんっぽいなー。超りん達神だわ」とある意味核心に限りなく近いことを呟いていた。
監視している人物は違うが種族は同じだ。
当然それ以外の生徒達も「マジ神来た」等と言っていたが。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

3月17日月曜日いざ期末テストを終え、2-Aの皆は「いつもよりできた!」と言っている反面、「今回トトカルチョ全く期待できないね」と2-A最下位安定の方が食券が確実に稼げたと言う声もありましたがネギ先生の秘密課題がかかってますからね。
それにしても神楽坂さんがニコニコしているのが端から見てわかるレベルです。
「どうしたのアスナ、そんなにテストできたのうれしかったの?」と皆に聞かれてますが、「えっ、別にそんな事ないわよ!」とあからさまに顔を赤くして否定していますが、それではただの肯定ですよ。

また、春日さんがチラチラ私の事を見るようになったんですが、そのうち話付けておきましょうか、残念ながら精霊違いなので。
別に悪いように思われているわけではないから気にしなければいいだけでもありますが。

鈴音さんの講座が上がっていたという情報は他クラスにも漏れていて、今後の定期テストはクラス対抗の叡智をかけた総力戦みたいな事になりそうです。
そのうち的中率とかもトトカルチョ対象になりそうですね。
色々何か見つけてはすぐに活用するというのは人間が人間らしいところでしょうか。
まあ、なんだかんだ鈴音さんの情報が一番人気が出るでしょうから2-Aの皆と何か部活が一緒だったりした場合は漏れそうですね。
そのうちエスカレートして先生から苦情が来たらどうするのか聞いてみたところ「そしたらテスト期間中にはオープンでのテスト関連情報の書き込みはできなくすればいいと思うヨ」と開発者らしい発言をしてました。
ネット系は流行り廃りが早いからずっと同じことが続けられる必要もないし、時間が経てば似たような事を繰り返す事もあるでしょうね。

さて、次の日、期末テストの結果が出ました。
先生達は採点お疲れ様です。
結果は上位4位までを2-Aで独占するのはいつもどおりで、頑張って欲しい5人は全部の教科の成績が向上した訳ではないですが、特定の教科に関して順位が上昇し十分学習意欲が向上したと言えるものになったと思います。
逆に全教科の点数が軒並み上昇したらその場限りの付け焼刃と判断されたかもしれませんから、これぐらいで丁度良かったのではないでしょうか。
何事も程々にと言いますし。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

うーん学園長先生に呼ばれたけどどうなるかな。

「失礼します、学園長先生」

「ネギ君、入って構わんぞい」

「はい」

ふぅ……緊張するなー。

「ふむ、生徒の特性を見極めて伸ばせるところを伸ばしたようじゃな。これはネギ君が一人で考えたのかの?」

「いえ、正直に言うと、春日美空さんから色々アドバイスを貰って、僕なりに実行しただけです。だから今回は一人の力だけでやりきったとは言えません」

「何、儂も一人でやれ等最初から言っとらんから良いのじゃよ。ネギ君は自分で考えて春日君に相談したんじゃろ?生徒の目線から見えるクラスとネギ君から見えるものとは違ったのではないかの?」

「はい、僕一人では見えなかった事が、相談することで見えました」

「よかろう、この通りあの子達の成績も上がっとるし、見事合格じゃよ」

……はぁ、良かったぁ。

「学園長先生、ありがとうございます!」

「それでは次年度からは正式な教員として頑張るんじゃぞ」

「はい、頑張ります!」

良し、これで最初の課題は乗り越えたぞ。
すぐに春休みになるからこれでやっと地図の場所にも行ってみることができる。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

見事ネギ少年は課題に合格した。
2-Aのクラス順位も前回の中間より更に上がり全体で10位ぐらいにまで上昇したのだ。
だがしかし、一つ何か忘れていないだろうか。
そう、ネギ少年は近衛門の課題に没頭していたためすっかりホワイトデーというものの事を忘れていたのだ。
その点について、突っ込まれハッとなったネギ少年は正直に「忘れててすいません」とかなりの人数に対して謝罪しながらお返しをして回っていた。
いわゆる三倍返しという奴である。
正直10歳の少年がそれぐらい忘れていたからといって誰も怒ったりしないのだが、紳士なのか懇切丁寧に方々に出向いていたのを見て、無理やりチョコレートを先月押し付けた者共は微妙に罪悪感を感じたに違いない。

一方神楽坂明日菜はタカミチ少年と買い物に付き合ってもらうことにし、鈴の髪飾りの別バリエーションを買って貰ってそれなりに嬉しそうだった。
タカミチ少年はというと、朴念仁なので、「アスナ君、そんなに嬉しいのかい?」だ。
空気読め。
女子中学の教員やっておきながらそういう事を理解できないのか、そんな事自分にはありえないなんていう思い込みなのかはともかくいずれにせよ、大きな間違いである事を自覚すべきだろう。

その後無事に3月25日に終業式を迎え、学年トップを取った訳ではないが、とりあえず祭りの類が好きな2-Aの少女達は打ち上げを行い、そのイベントに長谷川千雨が参加せずにスタスタと寮に戻っていったのを見たネギ少年はどうしても気になったのだった。
かといって勝手に部屋に入り込んだりはせず、きちんと呼び鈴を押して、彼女が出てくるまでじっと待っていたため、それをドアの穴から見た長谷川千雨は「今回ぐらい仕方ねーか」とコスプレ衣装から着替え直しネギ少年の前に出たのだが、メガネを忘れていた。

「長谷川さん、メガネ無い方があってると思いますよ。凄く綺麗です!」

とベタ褒めである。
これをこのまま年齢を重ねても続けるといつか刺されるかもしれないから気をつけようね。

「ッー!」

言われた本人はメガネ無しの顔を直接人に見られた為大層恥ずかしがったが、ほめられたのは悪い気はしなかったらしく、落ち着いてメガネを取りなおしかしましい2-Aの宴会に参加したのだった。
因みにネットアイドルである彼女だが超鈴音によりSNSが広がり始め、その結果ブログのランキングをまとめたポータルサイトの重要性が急速に薄れつつあるため、長谷川千雨は自分のコミュニティと今までのブログを合併するかどうかという瀬戸際に立っている。
かといって自分の趣味を公開するのはちょっと、と悩み多き年頃である。
ブログのコメントに「ちう様はSNSはやらないのですか?」と誘いが大量に来ているので断り続けるのも、ちょっとという感じである。
個人による複数アカウント作成は今のところ超鈴音が認めていないので、なかなか難しい状況だろう。
それができるのもSNS内の巡回プログラムが異常に優秀であることに起因するが、実際ユーザーからはネットとしての仮想現実を楽しみたいという声もあるのでそのうち対応するのかもしれない。

こんな瑣末な出来事まで私は元々起こることを知っているのか?というと、さてどうだろうか。
知っていようが知っていまいが誰もそんな事知りはしない。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

そしていよいよ、短い春休みの始まりである。
ネギ少年と一緒に行ってみないか誘われた小太郎君は春休みに入ってすぐ、図書館島であるが特に重装備もせず詠春殿から貰った地図の場所へ向かった。
実際今の二人が司書殿の所にいくと門番の翼竜の彼女が酷い目に合わされるのではないかと心配になるのだが、予めエヴァンジェリンお嬢さんが孫娘にその事を伝える手紙をクウネル殿に渡すように、しなかった。
実際する寸前だったのだが、「どうせ奴の事だ、ラブレターだなんだと面倒だから直接伝えておけ」と口伝になった。

地図には便利なエレベーターの事が全く書いていないため普通に突入したが、冬のスクロールでかなり性質の悪いものを長いこと経験した二人にとっては、図書館島の罠は非常にレベルの低いものだった。
そもそも基本的に歩いたら発動するスイッチタイプに関しては常に浮遊術でスルーするので罠自体が発動しないというのも冒険がぬるくなるのを加速させた。
そんなこんなで割とあっという間に彼女の所に到着である。

「そろそろ地図の位置なんやないか?」

「うん、そうだね。えーっとそこを右か」

「よっしゃ!」

「別に急いでないから確実に行こう」

「分かってるて」

しっかり曲がり角で小太郎君が分身を出して先行させ、彼女に気づかれずに視認させすぐに戻ってきて報告である。

「腕が翼になっとる巨大な竜がおるで」

「なんや、最後はやっぱり学園長のアレと同じようなもんなんか」

「うーん、精神空間で戦った竜種とは耐久力も違うだろうから下手に怒らせる前に速攻で角があれば折った方がいいね」

「角の数は短いのが5本や」

「5本か……。何本かまとめて折らないと駄目かな」

「角同士は離れとるんか?」

「威力さえあれば2本ぐらいいけそうやったけどな」

「実際頭に近づけそうなの?」

「それは分身で陽動しといて背後から奇襲かければいけそうや」

「どれぐらい耐久力があるかわからないけど、予め溜めといて一気に行こうか」

「ああ、現実の竜は初めてやからな。油断せんと最初から本気で行くで。アデアット!両腕に術式封印頼むわ、分身!」

偵察に出た分身を含め密度の薄い3体を出現させた。

「うん!僕は両腕に断罪の剣と遅延呪文で三回出せるようにしておくけど、小太郎君余裕あったらよろしく!」

「アーティファクトですぐ分かるから安心しい!」

      ―契約執行 300秒間!! ネギの従者 犬上小太郎!!―
            ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―光の精霊101柱! 集い来たりて 敵を射て!! 魔法の射手 収束・光の101矢!!―
           ―短縮術式「右腕」封印!!―
            ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―光の精霊101柱! 集い来たりて 敵を射て!! 魔法の射手 収束・光の101矢!!―
           ―短縮術式「左腕」封印!!―
              ―戦いの歌!!―
         ―未完成・断罪の剣・術式封印!!―
          ―双腕・未完成・断罪の剣!!―

「おっしゃ!陽動出した後一気に背後に回って決めるで!」

「もちろん!」

とんでもないドーピングをしてから出撃という用意周到ぶりだった。

分身を三体を囮に出し作戦通り彼女にあえて発見させ興味を引きつけた隙にお互い目立たないよう端を虚空瞬動で駆け抜け、背後に回り込み飛び上がって急接近した。
彼女は緩い気弾をポンポン撃ち出す分身にイラっとしたのか炎を吐いた時。

        ―右腕解放!!桜華狗音崩拳!!―
        ―双腕・未完成・断罪の剣!!―
「もう一発や!」―左腕解放!!桜華狗音崩拳!!―
     「こっちも!」―解放!!―

死角から角を一瞬にして爆発音と共に5本刈り取った少年達だった。
彼女がこれで魔法障壁を張るタイプの竜種であれば苦労したのだろうが、そうではなかった為通りは良かった。
続けざまに小太郎君が高速でネギ少年の腕を掴み一旦距離を取った。
様子を見ていた所、気がついたら角を全部折られてしまった彼女は「キュキュキュー!!」と鳴き声を上げ涙目で必死に逃げていった。
かわいそうすぎる。
どうやら翼竜がもう戦いたくないと思ったらすぐ逃げるように司書殿が言い聞かせておいたようだがちょっと見誤ったと思う。
二人は確実な戦法を取り、模擬戦でもない今回の実戦では、早速惜しげもなく小太郎君が咸卦法を使用した結果がこれである。
部位破壊達成かつ敵大型モンスター撤退完了。
報酬はきっと角そのものだろう。
残念ながら小太郎君がやった方はかなり砕け散っているが……。
角にオーバーキルである。

「あー、300秒もいらんかったな」

「まあこんなものだよ。今のでやれてなかったらきっと泥沼だったし」

「そうやな、ここで怪我なんてしとないしな。アベアット。殺さなくて済んでよかったわ、これ現実やし」

「うん、そうだね。この角もらっていっていいかな」

「あんまでかくない角やけど、エヴァンジェリンの姉ちゃん驚くやろな」

「……でもマスターこの地図見せたらなんか知ってそうだったからどうかなぁ」

「ま、勿体ないし、貰うとこうや」

「そうだね、コタロー君威力高すぎたね」

「そら通常の俺の数倍の力みたいなもんやからな」

と、角を採取して軽い荷物にしまい始めた二人であったが、扉が開いた。

「お二人とも初めまして。私はクウネル・サンダースと申します、以後お見知りおきを」

「おわっ!まだボスが出てくるんか!アデアット!」

「いえいえ、私に攻撃の意思はありませんよ。少しここまで来るのに疲れたでしょう、お茶などどうですか?」

「あ!父さんと一緒に写真に写ってた人だ!」

「なんやて?」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

詠春さんに見せてもらった写真に写っていた、クウネルさんという人に案内された空中庭園は凄い場所だった。
色々話したらさっき僕達が奇襲をかけた竜はここの門番だったらしくて、「ごめんなさい」と謝った。
「まさかあんな方法で角だけ折ってしまうとは思いませんでした」と驚いてたけど、実際小太郎君と一緒じゃなかったら無理だったなぁ。
凄くアーティファクトに興味持ってたけど効果について他人に話してはいけないと言われている事を伝えたら「そうですか、分かりました。少々残念ですね」と諦めてくれた。

「あの、僕この地図を詠春さんから貰ってきてここに来たんですがクウネルさんは父さんの居場所を知っているんですか?」

「おや、どれどれ。……なるほど、ナギが書いたオレノテガカリというのは確かに私ですが、残念ながら私もナギの居場所はわかりません。ただ確実に生きているのはわかりますよ」

「何や、こうなることエヴァンジェリンの姉ちゃん知っとったんか」

そうみたいだな……。

「僕も数年前故郷が襲われた時に父さんを見たので生きていると信じているんですが、確実な証拠って何ですか?」

「契約カードですよ。契約者が死ぬとこうなりますが、私とナギの物は、ほら、こうです」

死んだカードは生きているカードに比べて文字が沢山消えてるのか……。
それに本当にマスターが言ってた通り父さんも契約してたんだな。

「父さんが生きてるのは分かりました、ありがとうございます」

「はー、死ぬとそんなに寂しいカードになるんか」

「私もこれぐらいしか協力できなくてすいません。少々事情があってここから出られないものですから」

「いえ、隠れていたのに門番の翼竜さんを酷い目に合わせてごめんなさい」

「俺もやりすぎたわ、悪かったわ」

「あれは私も油断していましたか良いですよ。隠れていると言ってもあまり人も来ませんからね」

「クウネルの兄さんの事は口外しない方がええんか?」

「隠れてるからにはそうですよね?最近秘密にしないといけないことが多くて」

「物分りの良い少年達で助かります。失礼ながらできればここにはしばらく来ないでもらえるとありがたいですね」

「おう、分かったで!」

「はい、約束します!」

「ありがとうございます。少しナギの話でもしてあげたい所なのですが、詠春から聞きましたか?」

「はい、それなりに父さんの小さい頃については」

「そうですか、なら似たような事を話かねませんから今回はやめておきましょう。少し私も昔を思い出しておくことにしますよ。こちらからそのうち何らかの方法でまた招待しますから」

その後、あまり長居するのも悪いし、昼過ぎに出発してそろそろ夕方だからクウネルさんに別れの挨拶をして戻る事にした。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

まさかの竜の角を獲得して、クウネル殿としてもありえないタイミングでネギ少年と会ってしまったが、魔法世界の事をそそのかしたりはしていないし、学園祭についても触れていなければ、孫娘についても話していないので、まあ許容範囲内だろう。
実際竜の角をどうしたかというと、寮に持って帰る訳にもいかないのでエヴァンジェリンお嬢さんの家に預けに行き「まさか折ってくるとはな、正攻法か?」と聞かれたので「「奇襲をかけました」」と堂々と外道発言だった。
「まあ、大怪我をしないようにするのだったらそれが正しい選択だよ」と一応その攻略方法を認めていた。
完全討伐ならもっと苦労しただろうが、撤退で済ませられたので今回少年達はかなり楽だったろう。
ある意味あの瞬間の奇襲で終わらなければドーピングが難しくなる上、彼女が激昂すれば大変だった筈だ。
何はともあれこれにて二人の図書館島地下探検はスクロールでの経験を実際に活かすのには、それ自体が良かったか悪かったかはともかく、役立ったと言える。



[21907] 29話 まともな名付け親
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/13 20:19
少年達が翼竜の角を全て刈り取った日から2日後の29日の土曜日、孫娘が司書殿の元に訪れた際、角が折れている彼女を発見し何やら会話し始め、「ウチが頑張って治したげるからな!」と言いながら鼻先を撫でていた。
その際同行した桜咲刹那は「一体誰が……」と驚いていたのだが、更に次の日エヴァンジェリンお嬢さんの家に向かったら一部砕けているもののどうみても5本角が置いてあり「「え?」」となって一悶着あったが、孫娘達は少年達にその件を触れられないのでお嬢さんからタイミングを見計らって「少々行き違いがあってな、ぼーや達もわざとじゃなかったんだよ、反省はしているさ」とフォローが入ったのだった。
果たして今回誰に問題があったのかは微妙な所だが、そもそもナギが意味深な地図を残した事なのか、お嬢さんがはっきり言わなかった事なのか、司書殿が少年達の戦力を見誤ったのか、少年達がとりあえず倒しておこうという思考回路を取った事なのか、それぞれに原因はあったと思う。
何にせよ門番の彼女には養生してもらいたい。
因みに孫娘が司書殿の元を訪れた日にはネギ少年は雪広あやかの実家に神楽坂明日菜と共に家庭訪問していたそうだ。

そして4月に入ってすぐ、場所は超鈴音のダイオラマ魔法球である。

「うむ、翆坊主、さよ、この万全の装備なら問題ないネ」

「私も身体ありで行くのは初めてです!」

《随分色々持ち込むんですね》

スキーに必要な道具は勿論、軍用強化服やら地質調査用の精密機器やら、放射線を計測する機材やら色々である。

「華に積みこんであちこち実際に見て回る必要があるからナ。では早速転送頼むヨ」

《分かりました》

ポートに全ての機材を載せていざ木の内部、華のある間に転送である。

「翆坊主、前回華には触ただけだが、入るのはどうするネ?」

《特に何も、入れると思って入れば入れますよ》

「外壁の一部が開くのではないのカ。確かに機械的では無いネ」

「魔分散布の時も華の上部から普通に花粉みたいに飛ばしてましたし、特に扉無いですからね」

「ふむ、それでは人類初の乗船だヨ!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

初めて華に入たが、内部はとても変わていたヨ。
壁面は全て私がアーティファクトを使た時の目の虹彩と同じように不規則に輝き、華の中心には大きな球体が浮かび、そのすぐ隣には、どこか全く違う草原に繋がるアーチ状の門のようなものが正直場違いでは無いかと思えるように無造作にそこにあたネ。

「さよ、この華は操縦できるのカ?そちらのが例の亜空間なのは分かるがこの球体は何ネ?」

「あー、そういえば鈴音さんには華の中は楽しみにって事で見せてませんでしたね。その球体は私たちの観測空間と良く似ているんですが、同化すると操縦できます。鈴音さんも問題なく入れる筈ですよ。試したことないですけど」

試したこと無いのカ。
でも一番乗りというのは悪くないネ。
大方同化というのも華に乗り込む時と感覚は同じなのだろうナ。

「よし、少し入てみるネ」

「では先に荷物亜空間に運んでおきますね」

「よろしく頼むヨ」

手を当てて入れる、と思う。
……おお!アーティファクトを使た時と似たような感覚だが、情報が流れこんできて操縦の方法から全部わかるようになるのカ。
これも有機コンピューターのようだけど、機材を持ち込む必要はあまり無かたかもしれないナ。
まあまたもや互換性が無さそうだから無駄ではないだろう。
それにしても精霊というのはファンタジー的なものだと思ていたが、SF的なものに近いのカ?
時間加速機能なんていうなんだか危なそうなものがあるのだが設定によては未来に一瞬で行けそうだヨ……。
身体がどうなるのか心配だから使えないけどネ。
まだ色々気になる事もあるがさよに全て運ばせるのも悪いから一旦出るカ。

「あ、鈴音さんどうかしたんですか?すぐ出てきて」

おや?

「さよ、どれくらい私は入ていたネ」

「よろしく頼むヨと言って手を当てて入ったらすぐに出てきましたよ」

通常は、粒子通信や、してもいなかたつもりだたが高速思考と同じ状態なのカ。
だから調整の為に時間加速機能がついているんだナ。

「この中に入ると設定しない限り時間が殆ど経過しないみたいだネ」

「そういう事ですか。私達の木の観測空間は一応現実と同じ流れにしているのでズレは無いんですよ」

「私も次はそうするネ。ならまず先に機材を運んでしまおう」

「はい!」

とにかくスキー板用具だけは持ていきたいネ。
アーチ状の亜空間内はやはり見た通り草原だたヨ。
水源もあるようだし一体どこの異界なのかと言いたいが、食料の自給自足もやろうと思えばできそうだし、家も建てられそうだネ。
まさに華という見た目を偽装した方舟のようだナ。
……間違いなくここも時間設定ができそうだからわざわざ生活する必要もないかもしれないけどネ。
途中から往復するのが面倒になて、アデアットして物を浮かせる魔法で一気に運んだらさよが「最初からそれで良かったんじゃ……」と言われたネ。
でも何でも魔法に頼るのは良くないヨ。

《準備できたようですので華を火星側に転送します》

《頼むネ》

第二世代に来たのも初めてだが全く同じだたヨ。

《続けて華を木から射出するのでそのまま中で待機しててください。その後は自由に操縦して良いです。有機結晶型外宇宙航行船、射出シークエンスを開始、カウント3、2、1、射出。コントロール権限を自動プログラムに譲渡》

地球のロケットのように爆音は無く気がつけば飛んでいたようネ。
騒音対策も完璧とは大したものだナ。

《翆坊主、この華の名前は付けていないのカ?》

《暫定的に大いなる実りとかなってるんですけど、語呂が悪いので好きにつけていいですよ。何なら超包子でもいいですし》

《鈴音さん何か良い名前付けてください!》

精霊にとては名前は何でもいいというのは翆坊主が「木の精霊だからキノ」からしてなんとなく分かるが第二世代の木にも名前が未だに付いていないみたいだからネ……。

《ありがたく名前は考えさせてもらうヨ。でも超包子は流石に無いネ。確か木の位置は魔法世界の龍山山脈のあたりだたナ》

《そうですよ》

《付近にある都市の名前は北に桃源と西に盧遮那だたかナ。多分このまま行くと第二世代も蟠桃で決まてしまいそうだネ。ふむ……》

《どうしてもメガロメセンブリアからは離しておきたかったですから。また中国っぽいところです》

《桃の次は栗ですか?》

《柿でもよさそうですね》

この二人は駄目だヨ……。
神木・甘栗や神木・渋柿なんてあまりにも締まらなさすぎるネ。
エヴァンジェリンだと神木・茶々になりそうだし、私もロボットに田中サン、鈴木サン、佐藤サンと安易に付けたから他人の事は言えないカ。
クウネルサンもあの人自身ネタに走ているし、どうもまともな感性の人間が麻帆良には不足しているヨ。
中国の伝説であれば、山海経によると、東方の海中に黒歯国があり、その北に扶桑(ふそう)という巨木が立ており、そこから太陽が昇ると言われているヨ。
扶桑自体が東方の島国、つまり日本を指してもいるが。
神木・扶桑……アホなネタより余程マシだナ。
後は仏教経典から、3000年に一度咲く際に金輪王が現世に出現すると言われる花があるのだがその名前が優曇華だたネ。
実物は花というよりもやしみたいな見た目をしているのだが、3000年に一度というあたりぴったりだと思うヨ。
無理やり解釈すれば、「優」れているが、「曇」りでないと飛ばせない「華」と、なんとも一昨年の夏の逸話そのままだネ。

《決めさせてもらたネ。第二世代の木は中国の伝説から、神木・扶桑。華の名前は仏教経典から3000年に一度咲くと言われる花、優曇華。特に優曇華の方は打ち上げの時の出来事そのものを一つずつ漢字で表せていると思うヨ》

《超鈴音、ここまで真面目に名前を付けた人は初めて見ました。流石天才です!》

《この華は優曇華ちゃんですか!おいしそうですね!》

好評で良かたネ。
その前に自分達でもう少しまともなものを考えたらどうかと思うけどナ。
さよ、何故ちゃん付けなのかは知らないが食べられないヨ。

《喜んでもらえたようで良かたヨ》

《今度からはネーミングは超鈴音に一任しましょう》

《それがいいです!》

話が進みそうに無かたから、早々に話題を転換してドライアイスの山に向かたネ。
スキー用具を装着、アデアットしてエヴァンジェリンが名付けたという魔法領域を展開しながら外に出たヨ。
アーティファクトの視野拡張効果を極限まで伸ばして今更神木・扶桑を確認したが……。

《扶桑は既に水に浸かてるようだが大丈夫なのカ?》

《大丈夫です、問題有りません》

《きっと水生植物にもなれますよ!》

一応私の故郷なのだが、変にテラフォーミングが進んでいるから違和感しか無いヨ。
多分あちこちで妙な海ができているのだろうナ。
……それは今は置いておくとして、さよもスキー用具を装着してどうするのかと思たが、魔法領域出せたみたいだネ。

「さよも魔法使えたんだナ」

「んーでも勝手に出てる感覚がして、自分で使っているという実感があまり無いんですよね。これを銃撃の時に使っておけば死体にならなくて済んだかなぁ……」

「あの時は衆目もあたし、魔法を使う訳にはいかなかたからナ。過ぎたことは仕方ないネ。それではスキーを楽しむヨ!」

「はい!」

うまく滑れる場所とどちらかというとスケートの方が滑れたかもしれない場所もあたが、地球には無い規模の一面ドライアイスの空間を堪能して、ある程度滑り降りたら、優曇華に乗てもう一度と繰り返したヨ。
浮遊術でも良かたのだがリフトの代わりに優曇華を使うというのは贅沢だナ。
途中で炭酸飲料をばら撒きたくもなたが、環境破壊になりそうだたからやめておいたネ。
なんと言ても雪状のドライアイスを精製するには普通機械が必要なのが場所によっては天然で存在するというのは、やはり遊びに来た甲斐があたヨ。

「この映像は優曇華ちゃんが全部記録しているので後で渡しますね」

「思い出の1シーンだネ。誰にも見せられないけど。さて、そろそろ、次の作業を始めるカ」

「了解です」

《翆坊主、北半球側の地下の氷はよく溶けているようだが、南半球はどうネ?》

《北半球にある地下の氷やクレーターの氷の湖は地上に出てきたり、既にただの湖になっています。一方南半球の北側はなんとか大丈夫ですが南極となるとあまり進んでいません》

《ふむ、それなら重力魔法で一気に穴を空けて燃える天空をやてもいいのカ?南極の極冠には全部溶ければ火星表面を単純計算で10m一気に水深を増やせる量の氷があた筈ネ》

《ゴリ押しですね。まあ全部の場所をカバーはできないでしょうが少しでも早くなりますからお願いします》

《任せるネ!》

火星の表面積は1億4400平方kmで10mの水深になるのだから、体積で言えば144万立方kmの水になるヨ。
比較の対象として平均水深が1752mの日本海が丁度136万立方kmだから、それよりも多いぐらいの量になるネ。
地球で考えると微々たるものだが、火星の表面積は地球の1/4の上、同調する魔法世界の地図には南半球つまり、火星で言う北半球にも大陸があるのだから、海の面積はその更に半分程度で構わない事を考えるときちんと効果はあるヨ。
それに翆坊主の話だと、あくまでもできるだけ同調の際に火星と魔法世界の間で齟齬が発生しないようにテラフォーミングをしているのだから完璧な海を用意しなければいけない訳でも無いネ。

「さよ、南極まで飛ぶヨ」

「南極まで大体1万kmだから優曇華で1分ちょっとですね」

……本当にありえないぐらい優秀な船だナ。
地球でさえ一周するのに6分強しかかからないのだから、この前アメリカまで行くのに9時間飛行機に乗たのと比べるまでも無いネ。
折角だから優曇華と同化して飛んでみたヨ。
思うように動かせるというのは面白いネ。
無音だから迫力に欠けるが、穏やかな生活がしたい人には向いているナ。

「鈴音さん、極冠到着です」

「では一暴れしてくるヨ」

「気をつけてください!」

「アーティファクトがある限り大丈夫ネ!」

クウネルサンから教わた重力魔法を出力最大にして邪魔な地層を圧縮して吹き飛ばしつつ、氷の層を発見だヨ。

       ―ラスト・テイル・マイ・マジックスキル・マギステル―
―契約に従い 我に従え 炎の覇王 来れ 浄化の炎 燃え盛る大剣―
―ほとばしれよ ソドムを 焼きし 火と硫黄 罪ありし者を 死の塵に―
            ―燃える天空!!!―

       ―ラスト・テイル・マイ・マジックスキル・マギステル―
―契約に従い 我に従え 炎の覇王 来れ 浄化の炎 燃え盛る大剣―
―ほとばしれよ ソドムを 焼きし 火と硫黄 罪ありし者を 死の塵に―
            ―燃える天空!!!―

       ―ラスト・テイル・マイ・マジックスキル・マギステル―
―契約に従い 我に従え 炎の覇王 来れ 浄化の炎 燃え盛る大剣―
―ほとばしれよ ソドムを 焼きし 火と硫黄 罪ありし者を 死の塵に―
            ―燃える天空!!!―

       ―吹け 一陣の風 風花 風塵乱舞!!!―

……と高速詠唱で同じ事を連発し続け、蒸発したそばからまた南極の気温で凍らないようにできるだけ吹き飛ばすという派手だが地道な作業を続けたネ。

《鈴音さん!水蒸気が地上で氷に戻らないように優曇華で辺り一体の気温を強制的に常温にしますから気にせず続けてください!》

テラフォーミングに関しては木や華の方が上手だたナ。

《分かたヨ。上空で雲になたらそれもなんとかできるか?》

《はい!雲には優曇華のアーチの中に入ってもらうので大丈夫です!》

扶桑を吐き出したのだから予想はできたがやはり、吸い込む事もできたのカ。
ならば私はひたすら派手に溶かし続けるだけだヨ!

       ―ラスト・テイル・マイ・マジックスキル・マギステル―
―契約に従い 我に従え 炎の覇王 来れ 浄化の炎 燃え盛る大剣―
―ほとばしれよ ソドムを 焼きし 火と硫黄 罪ありし者を 死の塵に―
            ―燃える天空!!!―

地球では南極の氷が温暖化で溶ける事が問題になているのにこうも火星で溶かすというのは何とも言えないが、地球でもエヴァンジェリンのように凍る世界でも使えば氷は復活させられるし、温室効果ガスの二酸化炭素も翆坊主が本気を出せばすぐに酸素にでもできるからナ。

       ―ラスト・テイル・マイ・マジックスキル・マギステル―
―契約に従い 我に従え 炎の覇王 来れ 浄化の炎 燃え盛る大剣―
―ほとばしれよ ソドムを 焼きし 火と硫黄 罪ありし者を 死の塵に―
            ―燃える天空!!!―

なんて恵まれた星々だろうネ!

途中何度か休止して持てきた肉まんで腹を足しながら数時間作業を続けたヨ。
こういうのも精神力が強化される補助が無ければここまでやり続けるだけの集中力もやる気も起こらないが、全て解決できるとはやはり、信用できない人間には絶対に翆坊主達と契約させる訳にはいかないナ。

「突発的に氷を溶かしたけど、ここまで上手くいくとはネ」

「回収した雲は全て赤道付近に放出しましたからそのうち地上に落ちますね」

「今地球で午後7時になるところだナ。ここにいると昼夜関係ないから感覚がネ」

「オリンポス山で地質調査と放射線測定しますか?」

「そうだネ。全部やてしまおうカ」

地質調査自体は私の個人的な趣味だが放射線の量は地球の1.4倍ぐらいだたヨ。
かなり効果は出ているようだがもう少しだネ。

《翆坊主、まだマントル対流は活発化するのカ?》

《はい。でも後3ヶ月、6月ぐらいには上限になると思います》

《分かたネ、後もう少し粒子精製を続けるヨ》

《手間を取らせてすいません、お願いします》

《今日の事は今までの人生でも屈指の経験だたから気にしなくていいヨ。もうかなり長い間精製をしているが、自動化に自動化が進んで最後にまとめてアーティファクトで一発だから時間も少ししかかからないネ》

《必要分の精製が終わったら、その後は資金回収に役立てて下さい》

《優曇華のように宇宙船でも作ろうかと思ているが、私から見ても、優曇華は改造するならともかく、一から作てもここまでおかしな性能にはできないと思うヨ》

《えっ?改造できるんですか?》

《ワープ航法ぐらい実現したいネ》

《ワープ航法ってそんな事可能なんですか?……いえ、できるなら是非実現して欲しいですが。来る第三世代の為にも》

《それは転移魔法があるのだから不可能ではないだろうナ。そんな事を言うからには翆坊主は第三世代を飛ばす予定もあるのカ?》

《転移魔法……確かにワープですね。ちょっと既成概念のせいで忘れてました。次の木を飛ばす予定は無い訳ではありません。知ってると思いますが、てんびん座の方面20光年の位置には地球によく似た環境の星があるんです。現行の優曇華にもゲートを設置して魔分供給し続けて飛ばした場合でも6万年ぐらいかかりますけどね》

今の優曇華で片道6万年とはまたスケールの大きな話ネ。
でも夢はあるナ。

《それは有名だから私も知ているネ。翆坊主がそんな離れた場所に飛ばしたいのはもし枯れたら、悪用されたら、を心配しているのかナ?》

《いつ枯れるかは私もわかりませんが神木・蟠桃もしばらく経てば、と言っても千年単位ですが、また新たな華と共に種子ができるようです。その為あまり心配する必要もないかもしれませんが1本ぐらい人間の住まない星や、遠い遠い星で保険にしておくのも悪くないかなと》

精霊にとって魔法を残すという使命は延々と続くようだネ。
穿った見方をすれば、精霊による宇宙征服とも見られるが、翆坊主の場合私利私欲というより、どこまでも心配なだけなのだろうナ。

《そういう事カ。……今更聞くのも野暮だが、思うに魔法世界を放置して木星の衛星にでも飛ばして、そこで新たな木でも増やした方が良かたのでは無いカ?》

《それは私の我侭ですよ。前に一度言いましたが私は発生した時から超鈴音をずっと待っていたんです。一つ壮大なネタバレをすると、超鈴音がいなければ私はこうして発生する事もなかったかもしれません。それに魔法世界は本来的に異界ですからそれがこちらの世界に出てくるというのは非常に夢があると思いませんか?》

《私がいなければ、結局その「もしも」も無い……か。科学者である私にしては今のは失言だたかナ。既に時を跳躍しているとは言え、数奇なめぐり合わせだネ。翆坊主の言う魔法世界が残る事での未来には夢はあると私もそれは思うヨ。もう一つ、翆坊主は発生する前は何者だたか聞いてもいいかな?》

《ははは、それも凄いネタバレになりますね。まあそんなに重要でもないですから言いますけど多分元々人間だったと思いますよ。何しろその時の記憶は一切無いので結局は、私は私なんですけどね》

度々会話していてどうも人間臭いと思てはいたがやはり人間だたかもしれないのカ。

《前々から無駄に人間臭い精霊だと思ていたから、単純に今更あえて確認しただけという感じだナ。確かにあまり重要では無かたようだネ。うむ、そろそろ夜も遅いし優曇華で扶桑に戻るから地球への転送頼むネ》

《はい、分かりました》

「さよ、そろそろ戻るネ」

「はい、そうしましょう。それにしても空が綺麗ですね」

火星でも空が青いのは変わらないネ。

「ああ、また見に来たいナ」

「時間さえあればいつでも来られますよ」

「はは、そうだたネ」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

第二世代の神木と華の命名も鈴音さんにより扶桑と優曇華に無事決まり、無理やり南極の氷を溶かしたりと頑張ってから、残りの春休みもあっという間に過ぎて行き4月8日新学期を迎え私たちも3-Aに進級しました。

「「「「3年A組!ネギせんせーい!!」」」」

と進級しても引き続き私達のクラスの担任になったネギ先生はいつもの賑やかな皆に迎えられました。

「皆さんおはようございます!今学期から正式な教員として担任を勤めることになりました。よろしくお願いします」

「そうなの!?」

「「「正式採用おめでとう!ネギ君!」」」

「………?」

そもそも正式教員とそうでない事の区別すら付いてない人もいたみたいです。

「ありがとうございます!今日は身体測定ですから、皆さん用意して下さい」

「「「はーい!」」」

「ネギ君いたら着替えられないよー!」

「それとも着替える所見たい、ネギ先生?」

「し、失礼しました!ではまた後で!ホームルームはこれで終わりです」

素早く教室から逃げ出していったネギ先生でした。
今年で3回目の身体測定でしたが、私はまたもや一切変化ありませんでした。
当たり前なんですけどね。
身体測定のカードに3回分全部同じ数値が付いたので流石に係の先生に驚かれたので適当に変えたほうが良かったかなと思いました。
それはエヴァンジェリンさんも同じですが。

《さよは成長させた身体に変えないのカ?》

《うーん、一応これ既に私の15歳の時の身体なので来年こそは!です》

《1年の頃は少しさよより背は小さかたが今では10cmぐらい追い抜かしたネ》

《こうしてみるともう3年目なんだなって思います》

《日々一日確実に時間は過ぎていくからネ》

それにしても184cmの龍宮さんと181cm楓さんは本当に背が高いです。
まあプロポーションも凄いですが……。
そういえば私って死んだの63年前ですが当時の日本人の平均身長と現在の日本人の平均身長って昔より高くなってる筈ですから……しまったー!!もう少し鯖読んでも良かったじゃないですか!

そんな事を悩みながら新学期初日は終わったのですが、翌日4月9日夜、飼い主不明の小動物が麻帆良に侵入してきてあろう事か女子寮に忍び込もうとしたんです。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

いつか来るだろうなと思っていたら妖精来たけど、彼に今必要なのは救援要請だろう。

《ハハハ!面白いネ!田中サンに追い掛け回されているヨ!》

《田中さんは鼠一匹通しませんからね》

《少し過剰戦力なのでは?》

《そろそろフェイズを上げて楽にしてあげるネ》

マッド化しすぎだろう……。

「フェイズ4に移行!」

フェイズにどう違いがあるのかは謎だがとりあえずこれで速攻で妖精は気絶させられて捕獲されるだろう。
女子寮に配備されている田中サンのカメラアイの映像は全て超鈴音部屋でリアルタイム確認できるので高みの見物である。
何気に妖精が「この死角ならわからないだろっ!」とか言いながら逃げようとしたが、劣化千里眼を搭載されている田中さんには死角なんて無かった。

「ギャーッ!!」

妖精にしては随分リアルな鳴き声だった。
そのまますぐに意識を失って田中さんの右手に捕獲された。

「さよ、回収しに行くネ」

「えっ、麻帆良の外に捨てるんじゃないんですか?」

サヨは意外と酷かった。
そういえばあの妖精の情報教えて無かったきがする……。
まあ捨ててもいいような気がするけど。
あ、丁度良いし、手出ししておこう。

《気絶してる間にやりたい事があるんですがいいですか?》

《何がしたいネ?》

《仮契約魔法陣を書いても発動しなくなるように弄ります》

この前妖精の意義について考えたが結局これが一番安定する気がする。

《あの小動物は魔法生物なのカ。ふむ、確かに仮契約魔法陣を書く能力はさよに危険が及ぶからその方がいいナ》

《鈴音さん以外と万一仮契約することになったら大変ですしね》

特にネギ少年だったら相当面倒だ。

《そういう訳で手早く部屋に一度持ち込んでください》

《分かたネ》

捕獲した田中サンが超鈴音部屋にすぐに届けに来た。
私も既に部屋に来ている。

《ではさっさとやってしまいます。指定魔法封印開始、アルベール・カモミール、対象術式仮契約魔法陣》

「翆坊主、そういえば、オコジョ妖精は仮契約を成功させると仲介料が入るのでは無かたカ?」

知っていたのか。

《そうですね》

「これでこのオコジョさんは無能になるんですね」

《一応他の魔法は使える筈ですよ》

「何があるネ?」

《念話妨害とか》

「私達には関係ないですね」

「全くだナ」

《後はある特定の人物に対する好意度を図ったり、魔法そのものではないですが、パソコンを通してまほネットが使えたり、知識だけはあったり、そんな感じです》

「オコジョって随分人間の文化に詳しいんですね」

確かに妖精の割には俗物的ではある。

《では私はこれで戻ります》

「私もこの部屋を魔法生物に知られる訳にはいかないから、田中サンにまた渡して放置してくるヨ」

じゃあなんで最初捕まえようとしたんだ。

「今度からネズミ取りしかけておきましょうか」

下着泥棒するらしいからそれは正しい判断だろう。
そのまますぐに部屋の前で待機していた田中さんにまた渡して女子寮の外に放置されたのだった。
大分時間が経ってから復活した妖精だったが相変わらず強行突破を試みるものの田中さんにその度に気絶させられ朝になった。
その執念深さについては翌朝映像を確認した超鈴音は「これは何か犯罪を犯して、その後釈放されても確実に再犯するタイプの奴だネ」と評した。
動物一匹すら入れない女子寮の防衛能力に改めて感心せざるを得ない。

朝、女子中学生達が皆一斉に寮から出て登校の時間となった時やっと妖精はネギ少年に会うことができた。
しかし道端で話すわけにもいかないのでカバンに入ってもらい学校に連れて行く事になったのである。
その日の昼休み、屋上にてやっと会話ができたのだった。
「前に見たときよりも成長したね」とか、「兄貴を追ってここまで来たんすよ」と再会の挨拶を軽く交わした少年と一匹だったが。

「カモ君僕を追って何しに来たの?」

「俺っちは兄貴のパートナー探しの協力に来たんすよ。使い魔として仕えるなら兄貴しかいないって思うんでさ」

「パートナーって契約の事?」

「兄貴知ってるんすか?」

「ほら、僕もう仮契約してるんだよ」

そう言って小太郎君のカードを見せるネギ少年。

「えーっ!?これ男じゃないすか!普通兄貴のパートナーって言ったら相手は女と決まってますぜ!」

「何でそんなに焦ってるの?僕の父さんも男の仲間と契約してたからおかしくないよ。それに小太郎君は僕の一番の相棒なんだよ」

「俺っちいないのに兄貴仮契約できたんすか……。はっ!兄貴どうやって仮契約したんすか!?」

「どうやって?それは私が用意したからに決まっているだろう侵入者」

お嬢さんは当然妖精の侵入を感知していたのでネギ少年と何か怪しいことをしていないか見に来たのである。

「マスター!僕がここにいるのがよくわかりましたね」

「へ?マスター?」

「ぼーやの師匠だから当然だよ。小動物、昨日は見逃してやったが直接話をした方が早そうだな。オコジョ妖精……大方仮契約で金を稼ぎに来たという所か。純粋なぼーやをそそのかしにでも来たか?」

「お、俺っちがそそのかすだなんて変な事言うな!姉ちゃんこそ一体何者だ?」

「私が何者かだと?フッいいだろう、せいぜい怖がるがいい、私はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル、光の福音、不死の魔法使いだ」

「なっ!?し、しし、真祖の吸血鬼か!?兄貴やばいっすよ!騙されちゃだめっす!」

「これが外部の魔法関係者からの私の認識だよ」

「マスター……。カモ君、今の言葉は取り消してね。僕はマスターの事をカモ君の知ってる知識より正しく知ってる」

「………へ?」

「ぼーや、先に言っておくがそいつを女子寮に入れるな。どうせぼーやに仮契約をさせて金を稼ごうと魔法関係者かどうか関係なくどこにでも仮契約魔法陣を書くから魔法の事が周囲にバレるぞ」

「カモ君僕に協力って言っておいて実際はそうなの?」

「い、いや!そんなことないですぜ!」

しかし汗を書いている時点でバレバレである。

「図星みたいな反応して言われても信じられないよ。カモ君どうするの?女子寮には入れられないけど」

「……昨日も女子寮にロボのせいで入れなかったっていうのに……」

「ん、それでいいか……小動物、私が雇ってやろうか?」

「え?」

「マスター、何を?」

「ただの気まぐれだよ。外の裏の情報を集めてきたら報酬をやっても良いと言っているんだ。小動物なら監視の目も緩いだろう。いいか、誘っているがお前に選択肢が残っているかよく考えるんだな」

しばしどうしたものかと完全硬直をした妖精だったが程なくして再起動した。

「分かった……その条件飲むぜ。それで俺っちに何の情報を集めろって言うんですかい?」

「その話はまた後でだ。ぼーやにはまだ聞かせられない。ぼーやは今日も修行に来るだろうからその時に話すとしよう」

「分かりました、マスター」

そしてその場は解散となったのだが、一体どういう事かというと。

《エヴァンジェリンお嬢さん、今のはどういう事ですか》

《ああ、その話は相坂と超鈴音から聞いた方が早い。超鈴音、説明しておけ》

オープン回線になった。

《翆坊主、少し前さよに双方向通信でエヴァンジェリンにあの魔法生物を使て魔法転移符の流通経路を捜すようにしてもらえないか頼んだんだヨ》

《私はアーティファクトを発動していない鈴音さんの仲介しただけですけどね》

《それで私から小動物を雇う事にして、実際の報酬は超鈴音が払うという訳だ。まあ私も何か面白い情報を拾ってくるならそれで構わんがな。少なくとも麻帆良にいてもぼーやに何か吹き込みかねんだろう》

折角わざわざ麻帆良まで来たのに世界を巡る旅に出そうな妖精……。
頑張れ。

《なるほど、確かに裏に手を出している表の人間ならば、オコジョがうろついていても本当に鼠程度にしか思わないでしょうね》

《私から直接雇うのは無理だたが、エヴァンジェリンが雇うということならあの魔法生物も有効利用できるだろう?》

資源の有効活用みたいな言い方だな。

《ごもっともです。まあそもそも人海戦術が必要でしょうから早々成果が出るとは思えませんが利用しないよりはマシですね》

《話がついたようだから私は切るぞ》

《お嬢さん、お手数かけました》

《キノ、仮契約魔法陣封印した意味あんまり無かったみたいですね》

《ええ、まあ超鈴音の依頼なら仮契約ができようができまいがどうでもいいですね》

《オコジョは人件費が低くて楽そうだナ》

それが安易に雇った理由か。

この日、ネギ少年がお嬢さんの家にいつも通り修行に向かい、小太郎君とのメニューをこなさせている間にエヴァンジェリンお嬢さんが妖精に依頼内容を話したのだった。
当然依頼内容をネギ少年に口外したらどうなるかわかってるだろうな?と脅したのは抜かりなかった。
そのまま修行風景を見ていた妖精だったが、魔法領域やら小太郎君のアーティファクトの性能を見て目が飛び出そうになりつつも、仮契約がこれ以上ネギ少年にあまり必要がなさそうなのは何となく理解したらしい。
適当な旅費を渡してそのまま妖精は麻帆良から旅立った。
なんて短い滞在期間だったのだろうか。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ネギ坊主の所にやてきた魔法生物は3日目にして去て行たネ。
そろそろ6月の麻帆良祭に向けてまほら武道会の準備を水面下で進める必要があるからあちこち向かう必要があるヨ。

「学園長、直前になてからまほら武道会の告知をしても裏の人間が集まらないから情報の周知はそろそろ始めてもらえるかナ」

「そうじゃのう、もうそんな時期になったのか。あい分かった、魔法先生、魔法生徒、呪術協会、京都神鳴流にも情報を流しておくからの」

神鳴流は神鳴流で別枠なのカ。

「感謝するネ」

「おお、そうじゃった。キノ殿に伝えておいて欲しいんじゃが、月詠という神鳴流剣士が脱走したそうなのじゃよ」

何やら不穏な動きがあるようだネ。

「分かたネ。もし日本に怪しい連中が潜伏しているようなら今回の修学旅行も場所を考えた直した方が良さそうだネ。特に京都はやめた方がいいかもしれないナ。リョウメンスクナの映像を見た事があるがこのかサンの魔力なら恐らく復活させられるだろう?」

「う~む、そうじゃな。しかし16日には何処にするか確定せんといかんのじゃが、できれば魔法協会がある場所の方がいいのう……」

規模としても関西術協会よりも魔法協会の方が大きいからナ。

「ふむ、ハワイも悪くないが、この際ネギ坊主の故郷なんかどうネ?ネギ坊主が引率なら地理も詳しいし魔法学校もある、一応島国だからアメリカの時のように例の組織の多重転移にもそれなりに制限できるし、何より3-Aの皆ならネギ坊主の故郷だと聞けば行きたがるに決まてるヨ」

移動手段が飛行機だが、メリットは意外と多いネ。
海外に修学旅行になると付き添いの先生の数も増えるからナ。

「ふぉっふぉっふぉ、奇遇じゃな。儂も選択肢の一つに思うとったよ。ネギ君も長い事故郷に帰っとらんし一度里帰りも悪くなかろう。超君はまたイギリスに超包子でも出すのかの?」

それは実現したいが今回は少し時間が無いナ。

「流石に3週間も無いから超包子は無理だヨ。今のは私の意見だから気にしなくていいけど、まほら武道会の方も頼むネ」

「分かっとるよ」

さて、次は……。
その前に翆坊主カ。

《翆坊主、月詠という神鳴流剣士が脱走したらしいヨ》

《月詠……月詠ですか、ああ、はい、かなり会いたくない人ですね》

《また歴史の情報カ》

《凄くバトルジャンキーな性格で面倒です。強い相手と戦えれば所属する場所を選ばないような感じの人ですね》

《戦闘狂なのカ……。学園長から伝えてくれと言われたのはこれだけネ。翆坊主が観測で探し出すかどうかは決めると良いネ》

《ただ私も実際に観測して見た事が無いので……まあ一応探しておきます》

《私もまだ行くところがあるからナ。今日はこのかサンはクウネルサンの所に行くのカ?》

《いえ、行かないですよ》

《分かたネ》

クウネルサンに相談しに図書館島に行くが久しぶりだナ。
道順は慣れたものだが、何度来ても変な所ネ。
門番の翼竜の角をネギ坊主達が全部折ったと聞いたが、討伐していないとは言え随分腕を上げたナ。

「クウネルサン、久しぶりだネ。肉まん持て来たから食べるといいヨ」

「超さん、お久しぶりですね、ようこそ。そろそろ来るかと思っていましたが、今日でしたか」

「肉まん食べながらでいいけど、最近このかサンの調子はどうネ?」

「本題はそちらではないと思いますがいいでしょう。このかさんはとても筋がいいですし熱心に魔法の練習をしていますから今月には初級の治癒魔法は習得できるでしょう」

「全く魔法に触れていないのにその習得速度はなかなかだネ。でも石化魔法の解除までは程遠いカ」

「フフ、もしかして修学旅行の場所が決まったのですか?」

私がネギ坊主の子孫だと知ているからできる会話だが楽だナ。

「まだ完全に決まてはいないが、今日ここに来る前学園長にネギ坊主の故郷を修学旅行の場所として上げておいたヨ」

「それは殆ど決定のようですね。石化魔法は程度にもよりますが上級悪魔のものは非常に厄介です。キノ殿なら解除できそうですがね」

「できたとしても誰が解除したかが問題になるからそれは難しいだろうナ」

「……そうですね。結局醜い人間の思惑の結果ですから精霊の立場でなら不干渉が正しいでしょう」

「……ふむ、そろそろ本題に入るが、まほら武道会でクウネルサンはどうしたいネ?」

「できるだけ良い舞台で友との約束は果たしたいですね」

「やはりそうカ。翆坊主に聞いたがクウネルサンが反則気味の分身で出場となるとトーナメントを採用した場合、ネギ坊主と戦うまでに当たる人達はどうしようも無いから少し考えたくてネ」

「私の分身の事も聞きましたか。決勝でとなれば当然なんとしてでも勝ち進みたいところですね」

「そう言うだろうと思ていたヨ。まあこれはあくまでも確認ネ。実は今回トーナメント方式をやめてランダムな総当りに近いものをやろうかと思ているヨ」

「昔ながらのまほら武道会をそのまま、とはいきませんか」

「折角科学技術と魔法があるからネ。色々やてみたいじゃないカ。龍宮神社は会場にはするが、実際に戦う場所にはしない予定ネ」

「それは異空間でも使うのですか」

「そんなところだヨ。使い手によては観客席に配慮もしなければいけないだろう?それに確実に舞台が毎回壊れるから、木の板の床は修理するだけ時間の無駄だし土が良いと思てネ。エヴァンジェリンに協力でも頼もうかと思ているヨ」

「ダイオラマ魔法球ですか?」

「その予定だヨ。応じてくれるかはわからないけどネ」

「確かにタカミチの本気の攻撃や詠春の剣技で普通の舞台は壊れるでしょうし、観客席にも被害が出るでしょうね」

「龍宮神社の備品をいちいち破壊するのは無駄な費用がかかるからネ。それに試合数を増やせるからトーナメントである必要も無いヨ」

「それは私としては困るような困らないような気がしますね」

「ネギ坊主にサプライズとして戦う機会ぐらいは用意するヨ。それに戦うのはクウネルサン自身ではなくそのアーティファクトの人なのだろう?」

「……まあ、私の友ならどこでも良いといいそうですね。個人的にはできるだけ雰囲気のある場所でお願いしたいですが」

「それは任せるネ。一応合意も取れたところで今日はこれで失礼するヨ」

「予め教えてくれてありがとうございます」

「何、当然ネ。私もクウネルサンには色々教わたからナ。特に重力魔法は良かたヨ」

「そんなに使えますか?そう言われると嬉しいですが」

「ただの炭素に超高圧力をかけてダイヤモンドにできるからネ!実験材料が安上がりで手に入るヨ!」

「フフフ、それはまた平和的な利用法ですね」

「何事も使い方次第ネ」

さて、最後にエヴァンジェリンかナ。

《エヴァンジェリン、昨日の魔法生物の件は助かたネ。今度は別件で依頼があるのだが聞いてもらえるカ?》

《私も暇つぶしになりそうだからな。依頼とやらは内容を判断してからだ》

《まほら武道会の為に特殊なダイオラマ魔法球の作成をして欲しいのだがどうネ?》

《続けろ》

《時間差はせいぜい数倍で、短時間の経過で出入可能かつ、外から中の様子を見られるようにしたいヨ》

《前者は相関関係にあるから調整次第で可能だろう。外から中を見るというのは夢見の魔法の感覚でいいのか?》

《できるならそれが一番いいネ》

《まあ面白そうだからやってもいいが、一から作ると学園祭まで少し時間が足りんぞ?》

《協力してもらえるようで感謝するネ。それならば魔法世界の何の変哲もない魔法球を用意すればいいカ?》

《幾つ用意するが知らないが高いだろうに》

《十数億程度なら私のこの願いを成就させるのには障害にはならないヨ》

《分かった。用意できたら私の所に持って来い。調整してやるよ》

《ありがとネ》

《調整するだけなら少しの手間で済むさ。一応ぼーや達のお披露目会のようなものになるだろうし、私もやぶさかではない》

皆協力的で助かるネ。
私も専用の端末やらスクリーンやら部屋にある科学迷宮空間の武道会の為の用意をしないといけないから忙しくなるナ。
その前に修学旅行だけどネ。



[21907] 30話 修学旅行
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/25 08:36
超鈴音が来るまほら武道会開催に向けても動き出し、こちらも月詠の脱走情報を元に観測し始めたのだが……。
ところで脱走というと聞こえは悪いが、ある意味武者修業と称して勝手に飛び出した可能性もある。
その先で誰に出会ってしまうか、が最大の焦点だろう。
神鳴流で飛び出したと言えば、神奈川県日向市という所にこれまた変わった人達の住まう女子寮だったり旅館だったりする「ひなた荘」というがあるのをご存知だろうか。
そこの住人に神鳴流宗家であり師範としても腕の確かで、ついでになんだか3-Aの一人の女子中学生に似ていなくもない青山素子という、この春めでたく東京大学1年法学部に入学した人物がいる。
彼女が元々ひなた荘に来た理由は地元京都での諸々、主に姉等が原因だろうが、逃避もとい修行と称してやってきたのである。
月詠と行動が似てるようで似ていない。
何故こんな事が気になるかというと、まあ青山素子の持つ刀であったり、世界の歴史によると既にフェイト・アーウェルンクスが先月には日本に潜伏している可能性があるのが原因である。
名前が分かっていても、彼の姿も月詠の姿も確認していないので観測するにしても面倒極まりない。
しかし、私も全部を知っているわけではないが、なんとなくひなた荘を気長に張っていれば足が掴めるような気がするのだ。
また、近衛門は京都神鳴流にもまほら武道会の情報を流すらしいが、実際どうなるかはともかくここのやたら戦闘力の高い住人も参加したら面白そうだとは思う。
しかしながら、若干マッドサイエンティストのようでそうでもないが、危ない武装を開発、所持している太平洋に浮かぶ南の島の王国の出身の人はどちらかというとご遠慮願いたい。
超鈴音と葉加瀬聡美と会ったら本当に化学反応が起きそうではあるが。

さて、話が逸れたが、例年通り麻帆良学園都市のメンテナンスによる停電もしばし行われ、その翌日16日、修学旅行先の決定である。
女子中学生達は修学旅行といえば京都、とそう思っていたのだが……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

今、朝のホームルームですがとうとう修学旅行先が確定します。

「皆さん、修学旅行の行き先は京都ではなくなりました」

予想はしてましたが、やっぱりそうなりましたか。
少し後ろを振り返ってみると神社仏閣マニアの綾瀬さんがショックで石化してます。

「「「「えーっ!?京都じゃないの!?」」」

「残念な人もいるかもしれませんが、事情があってイギリスになりました」

「イギリス?もしやネギ先生の故郷でありませんこと!?」

食いつきの早いいいんちょさんでした。

「そ、そうだよ!ウェールズ行くか知らないけどさ!」

「丁度私達海外旅行この前行けなかったしいいじゃん!」

「わーネギ君の故郷見に行こうよ!!」

こうなる事は予想出来ていましたが鈴音さんが学園長に言ったとおり誰も反対しませんでしたね。
春日さんが鈴音さんを微妙な表情で見ていますが、何となく感づいたのでしょうか。
誰も気にしていませんがパスポートを持っていない場合来週出発するには、普通発行までの時間が無いんですがその辺りは麻帆良なので基本的に無視というかあっさり解決するので大丈夫です。
かくいう私もこの前自分から何も申請していませんが、きちんとパスポートは雪広グループから受け取ったのでどうなっているのかは気になりますが、気にする必要も無いでしょう。

この日、修学旅行の班分けも決めました。
普通5人班5つに一つ6人班という形なのですが、今回は海外という事で6人班4つに一つ7人班となり内訳は
1班はチア3人組+鳴滝姉妹+龍宮さん
2班が私含めた超包子組+春日さん、楓さんで7人
3班はいいんちょさん部屋3人+エヴァンジェリンさん、茶々丸さん、ザジさん
4班は明石さん、和泉さん、大河内さん、佐々木さん、朝倉さん、長谷川さん
5班は図書館島探検部4人+神楽坂さん+桜咲さん
となりました。
1班の鳴滝姉妹が楓さんと同じ班ではないのは、「楓姉がいなくても自立できるよ!」とアピールするためだそうです。
そのため龍宮さんが楓さんの代わりではないですが入っています。
1班の護衛は龍宮さん、2班はそうは思っていないかもしれませんが楓さん、3班はいいんちょさんがいるのでエヴァンジェリンさんという豪華キャスト、5班は桜咲さんという調整が一応なされています。ただ、4班は完全に一般人……明石さんは微妙に違いますけど護衛なしなのが不安ですが多分大丈夫でしょう。
龍宮さんから「前回も旅行だったが、護衛の面も強かったし今回は気軽に旅行するよ」と後で聞きました。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

何でこんなことになってんのかなー。
同じ班になったから何かあるだろうとは思ってたけどさ。
超りんの前でおしとやか決め込む必要はもう無いとは思ってたけど、なんで私の部屋使うんスか。
五月の部屋でもあるからまあいいけど……。

「さて、皆もう来週に迫たイギリスへの修学旅行だが渡しておくものがあるネ」

「超さん、班長を呼んだというのでもなさそうですわね?」

集まってんのは2班の私と超りん、相坂さんに楓と他班からたつみー、いいんちょ、長谷川さん、桜咲さんなんだわ。

「私にとて都合が良さそうな人を選んだだけネ。早速だがこれを一人一つずつ修学旅行に持ていて欲しいヨ」

お?この前とはまたちょい違う携帯?端末なのか?

「超、これで緊急時に通信を取れということか?」

「龍宮サンは話が早くて助かるネ。海外だから皆の携帯も全員使えるとは限らないだろう?それはトランシーバー、と言うと語弊があるが確実に連絡が取れるようになているから、迷子やもしもの時にでも使うといいヨ。何故?と聞かれても私の実験の一つだと思てもらえればいい」

これには不思議通信ついてんのかな?
というか私は超りんからアメリカ行った時貰った携帯そのまま使ってるし必要なのか?

「やはりそういう事か。分かった、借りさせてもらう」

「流石超さんですわね。ありがたく使わせて頂きますわ」

「超さん、お借りします」

「うむ、この後は私達の班で予定を立てるからあやかサン達は自分達の用意をするといいネ。時間を取らせて済まなかたナ」

で2班一部だけが残ったんスけど……。

「楓サン、悪いが私の班は誰かから襲われるかもしれないからよろしくネ」

やっぱまたそうなるんスね……。
くーちゃんに言わない理由はあれか、頭の問題か。

「ほう、襲われるとは穏やかではないでござるな」

片目開いたー!!

「行てみないと分からないが、その為楓サンにもこの端末を渡しておこうと思てネ」

「超殿、先程の真名の物言いにさよ殿と美空殿がいるのは、2年の時の旅行に似ているとお見受けするが関係あるのかな?」

「そう考えてもらうのは自由ネ。甲賀の中忍長瀬楓サン」

やっぱマジの忍かー、てか中忍?上忍まであんの?

「拙者は忍者ではない。とは言えないようでござるな。子細は分からぬが心得ておこう」

両目開いたー!!

「甲賀最上位の中忍にそう言てもらえると助かるヨ」

また顔読まれた?中忍までしかないのかー、ってその年で最強!?

「しかし拙者このような機械の使い方は詳しくないでござるよ」

「そうだろうと思ていたから必要な機能については説明しておくネ」

「これはかたじけない」

突然端末の使い方講座始まったし……、ん、不思議通信はついてないのか。
本当にトランシーバーみたいだな。
緊急時には互いの現在位置がわかるのか、いや、どういう原理かは知らないけどGPSみたいなもんスか。
うーん、前回の旅行は本当に贅沢の限りを尽くしたけど流石に修学旅行だから全てが豪華って訳じゃないんだよなー。
飛行機はファーストクラスではないし、宿泊施設を調べてみたらアホみたいに高いところでもないみたいね、部屋によるけど。
ま、後半でウェールズに行くみたいだし別にいいか。
ネギ君の母校の魔法学校は流石に行かんだろうなー、もしかしたら普通の学校と騙して行くのかもしれないけど。
それより今回付き添いの先生は、新田が来ない!
夜これは遅くまで起きてられるわ!
その代わり葛葉先生が入って、ネギ君、しずな先生、瀬流彦先生、神多羅木先生って厳重だな。
あれ……どうなるんだろう。
ま、なるようになるか!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

旅行の前日にネギ先生と近衛さん、桜咲さんが東京に出て何かを買ったかと思えば神楽坂さんの誕生日プレゼントだったりと言う事があったようですが、遂に修学旅行出発当日です!
修学旅行は4月22日に出発してから4月27日の朝飛行機に乗って4月28日の朝に帰ってくる予定です。
8時に皆で駅から成田空港まで行き、飛行機の出発は10時から少し時間があり、超包子の支店でしっかり皆腹ごしらえをしていました。
皆は初めて超包子の支店が麻帆良の外にあるのを見て驚いていましたが、今更なんですよね。
既にアメリカではシアトル支店が出てからすぐに人気が出て店舗数も順調に増加して、工場から迅速に運べる範囲内ですが4店舗までに増えています。
そんなことはさておき、飛行機自体には何か不審な事はないかと目下観測中ですが、流石に爆弾やら武器を持ち込んでる人はいま……いますね。
上手く収納してあるみたいですけど、龍宮さん、桜咲さん、楓さん、あと先生達です。
少なくとも私達に害はないので一安心です。
因みに10時に出発するとイギリスまで12時間強飛行しても、またもや時差の関係で到着するのは同日の昼午後1時台になるんです。
当然皆機内では話したりしてますが、とにかく長い時間です。
着いた時の感覚では夜10時なのに昼に戻るので仮眠を取るなり我慢するなりしないと普通は大変でしょうね。
私はあまり関係ないですが。
最初は皆どこを班の自由行動で見てまわるかで雑誌を見ていたりしていたのですが次第に飽きてきたり、体中が痛くなってきて身体を少し動かしたりと大変そうです。
数時間が経過して完全に皆沈黙したようで、我慢して起きている人はいず、皆昼寝してました。
私もこればっかりは暇だったので時間加速を使ってさっと飛ばしておきました。

無事ロンドン・ヒースロー空港に到着し、体中が痛い皆は思いっきり伸びをして、柔軟体操を行ないました。
そのまま、まずはホテルに向かう事になり、用意されていたバスに乗って30分ほど行ったところでリージェントストリートにあるザ・ラムガンに到着です。
外観はとにかく大きな建物で、日本によくあるビルとは正反対の貫禄あるヴィクトリア調の建物です。
来て早速写真を撮ろうとしている人がいますが、すぐ玄関の所から撮ってもうまく全体は収まりませんよ。
因みに私達が宿泊するのは基本的に二人部屋で、31人のため3人部屋が一つですね。
早速荷物を置いてどうするかと言えば、遅めの夕飯という名のお昼ごはんを食べて一先ず今日は周囲の散策となりました。

「くーふぇさんどっち行きますか?」

「古が班長だから決めるといいヨ」

「うーむ、あっちアル!」

適当に決まりました!

「ここの通りの曲線美は日本じゃなかなか無いね」

ストリートは南北に2km程の長さなので散歩には丁度良いです。
ホテルのすぐ近くには教会もあります。

「それに色んな種類のお店がズラっと並んでます」

本屋、ベーカリー、何種類もの服飾ブランド点の数々、化粧品、雑貨、アウトドア、ジュエリー、玩具店、F1の自動車の展示、小さなOS会社とパソコンのシェアを二分する林檎社の直営店等々歩いて回るだけでもなかなか楽しいです。

「楓さん何か考え事ですか?」

「いや、鉄の塊が飛んだりするとは思いもよらなかったもので……」

え?今更?山奥で育つと飛行機が飛ぶとも思えなかったんですか……。
私としては自力で空中ジャンプしたり、1km近く一瞬で移動したり分身する方が思いもよらないですけどね!

「楓は乗るときも同じ事言てたアルね」

「飛行機っていうからには飛ぶよ、うん」

「意外でござるな……人が自力で飛ぶ方がまだ信じられるでござる」

「それは無いヨ」

くーふぇさん、春日さん、止めの鈴音さん三連弾でした。
そんなこんなで裏通りにも行ってみたら占いをやっている女の子を発見しました。

「占いかーイギリスらしいなー。魔法使いみたいな格好だね」

なんて春日さんがぼそっと言ったんですがもの凄くビクッと女の子はしました。

「いえ、占い師はこの格好と決まってますので。外国から来た方達のようですがどなたか占いをしましょうか?」

精霊に占いって効くんでしょうか。

「あ、はい、私お願いします!」

「ではお名前と生年月日をお願いします」

生年月日……。

「相坂さよ、1925年10月4日です!」

「さよ、それ冗談アルか?」

「さよ、からかては駄目ネ」

し、しまったー!!
最近記憶がはっきりしたからといって調子に乗りました!
生きてたら既に今年で78歳ぐらいですよ!

「あ、冗談ですよ、あははは」

「……死相?違う、既に死人?ええええ!?ハッ!いえ、なんでもないです!!ごめんなさい!」

占い師って私が死んでること分かるんですか……。

「さよ、身の回りには気をつけるネ」

「さよ殿、拙者がついているからこの修学旅行は安全でござるよ」

「ありがとうございます。あの今の気にして無いので大丈夫です。次くーふぇさんやってもらうといいですよ」

「うむ、よろしくアル」

春日さんが何か気づいたみたいなんですけど、苦笑いしてますね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

あーこの子あれだ、魔法使いだわ。
占い魔法普通に使ってるね。
しかもなんで相坂さん自爆した。
知らない人間にはブラックジョークだけど、知ってる人間としてはなー、複雑すぎるだろ!!
まあ、くーちゃんなら普通の占いになるっしょ。

「古菲1989年3月16日生まれアル」

「はい、分かりました。…………少年と仲間たちとの仲が困難な旅の中で良くなるそうです」

ピンポイントすぎるーっ!!
どう考えてもネギ君しかいないじゃん!

「それネギ坊主かもしれないナ。仲良くなれるらしいヨ」

「もうネギ坊主とは私は仲良いアル!困難な旅ってこの修学旅行の事アルか?」

「……ネギ?」

この子もしかしてネギ君知ってんのかな。
何か面白くなってきたッス。

「次楓やってもらいなよ」

「拙者占いというものは初めてでござるよ。よろしく頼むでござる」

それにしても葉加瀬は全く占い興味無しだなーどこ見てんだろ。
流石科学者。

「長瀬楓1988年11月12日生まれでござる」

「は、はい。…………え、少年の面倒を見る中で困難な旅の支えになるそうです」

「やはりネギ坊主は困難な旅をするでござるか。人生とは常に旅のようなものであるからな。占い感謝するでござるよ」

そう解釈するか。

「ネギ坊主は大変アルね」

「かわいい子には旅をさせよというからナ」

ネギ君って何、何か旅すんの?
もしマジだとしても巻き込まれたくないなー、超りん達よりも面倒そうだ。
占い魔法の有効期間ってどれくらいだったかな。
何かこの子ネギ君の名前出るたびに反応してるけどなんか知ってるっぽいな。
ここは一つ。

「お嬢ちゃん、この写真に写ってる少年にもしかして心当たりある?」

携帯に保存してある集合写真見せてみた。

「な、な、なんでネギが!?ま、まさかあなた達ネギの生徒なの!?」

「ネギ君は私達の担任だね。で、ネギっていうのはネギ・スプリングフィールド君でいいのかな?」

「そ、そう、そのネギ・スプリングフィールドよ!」

食いつき方半端無いなー。

「今ね、私達修学旅行でイギリスに来てるんだ。良かったらネギ君呼んでこようか?まだまだ時間あるし」

「え!?え、えーと、それならお願いします」

ネギ君を知っていて魔法使いの修行っぽい事で占い師となると……幼馴染で同級生って所か。

「ネギ坊主呼ぶのは任せるネ!……あ、もしもし、ネギ坊主か、今リージェント通りの裏通りに来ているのだがネギ坊主を知ている女の子がいてネ。是非会いたいと言てるネ。……ん、名前?そうか、お嬢さんの名前は何と言うのかナ?」

「アンナ・ユーリエウナ・ココロウァです」

「分かたネ。ネギ坊主、アンナ・ユーリエウナ・ココロウァだそうだヨ。おおっ、いきなり大きな声出されると驚くネ。場所はメールで送るから少し待つといいヨ。それではナ」

「超りん、ネギ君何だって?」

「アーニャがこの近くに!?って驚いていたヨ」

「ほほう、アーニャとは愛称かな。アーニャちゃん、ネギ君とどんな関係?」

「ど、どんな関係って別にただの幼馴染です!」

顔が赤いから何かどう取ったらいいかよく分かんないけど、会えるのは嬉しいんだろな。
ネギ君来るまで五月も占いやってもらったよ。
未来は明るいって言われてたからそのまま夢に向かってまっしぐらだな。
私と超りん、葉加瀬はやらなかった。
何かマズい気がしたし。
しばらくしてネギ君だけかと思ったら大量に皆が寄ってきたわ。
全部班揃ってんじゃないか?

「あっ本当にネギじゃない!」

「ほ、本当にアーニャだ!久しぶり!ロンドンで占いやるって聞いてたけどここでやってたんだね!」

「そ、そうよ!ってかネギ!こっちに来るなら来るって予め手紙の一つぐらい送って来なさいよ!」

おお、さっきまでとは一転お転婆少女になった感じだな。

「ごめんごめん、でも急に決まったから送っても間に合わなかったよ。僕は今日から数日こっちで皆の修学旅行なんだ。ウェールズにも行くんだけどアーニャも一緒に来ない?」

ネギ君それ何かのデートのお誘いかい?

「え?でも修行があるし……」

「でもずっとやってなくちゃいけないんじゃないでしょ?」

「そ、それはそうだけど……」

「そんなに嫌だったら、別に無理にとは言わないよ」

「い、嫌じゃないわよ!行くわ!行くったら行く!」

微笑ましい子供の言い合いッスねぇ。

「ネギ、その子あんたの知り合いなの?」

「アスナさん、アーニャは僕の幼馴染なんです」

「へー、ネギ君幼馴染いたんかー」

「まあ、ネギ先生の幼馴染ですって!?」

「なになに?これは何か面白いネタのニオイがするよ!」

朝倉は変わらんなー。

「ハッ!ネギ!エヴァンジェリンさんって言う人も来てるの?」

「マスター?うん、マスターなら……後ろにいるけど呼ぶ?」

おおっとこれは泥沼か!?

「おや、なんだぼーやの幼馴染か。ほう、それなりの水晶を使っているようだな」

流石エヴァンジェリンさん、貫禄が違うッスね。
出てくる時のオーラが輝いてるし、何がどう悪しき訪れだとか闇の福音なのか教えて欲しいわ。
どちらかって言うと神々しいの間違いだわな。
ってあれ?一応封印されてんじゃなかったっけ?
あーでも京都行ってたし学園長がまた何かやったのか。

「あ、あ、あなたがあ、あ、あの有名な!?」

「有名かどうかは知らんが落ち着いたらどうだ」

「そうだよアーニャ、落ち着きなよ」

「う……うん、分かったわ」

今皆、ネギ君の幼馴染という登場に物凄い注目してるから結局エヴァンジェリンさんの話は適当に終わったわ。
それより騒々しい3-Aの連中がよってたかってネギ君とアーニャちゃんに色々聞いてるし。
ここ一応裏通りなんだけどうるさいわー。
たまに通る人がめっちゃ見てるよ。
つかアーニャちゃん会話する時皆の胸見すぎ。
千鶴、楓、たつみーあたりはもうどんだけって感じだけど、朝倉、パル、アキラ、いいんちょ、ゆーなあたりも女子中学生の次元超えてるからなー。
ゆーなの奴なんか最近ブラがきついとかほざいてたし、成長期自重しろ。
それを苦々しい顔をして見ているかと思えば、私以下ゆえ吉あたりまで見て安心したような顔すんのやめないか。
大体アーニャちゃんネギ君と同じでまだ二次性徴も始まるか始まらないかぐらいだろ。
そんでもってこんな所で一人で占い師やって何処に住んでんのかと思ったら近くで下宿してるらしい。
流石にウェールズにいちいち帰ったりしてられないもんね。
何か明日にでもネギだけじゃ頼りないからロンドンの案内手伝ってくれるって言ってるんだけどどう考えても心配なだけだろー。
占い師っての聞いて興味ある皆順にやってもらったけど、妙にピンポイントだったりするんだけど何なんスかね。
このかは占い研の部長だから、占いって聞いた瞬間に目光ってガンガン絡んでるわ、急に仲良くなった桜咲さん巻き込んでるし、何か二人もネギ君と旅に出るような結果だった。
聞いてないけどこのか京都行って魔法の事知ったのかな。
地味に他の皆もかすってる感じだから何とも言えないわ。
困難な旅がこの修学旅行なのかそれとも別なのかもよく分かんないし。
ただアスナだけ占いができなかったみたいなんだけどなんでかね。

そんなこんな気がついたらぶらぶらしてたのも結構長かったのもあってかもう夕方だったからホテルに皆で帰還したわ。
私もだけど微妙に皆眠そうだよなー、すんごい長い時間飛行機乗ってて夜だろって感覚なのに着いたら昼だし仕方ないか。
超りんの部屋三人は全く眠そうじゃないけど、いつも夜更かしどころか徹夜してるからだな。
私の部屋は相坂さんと一緒でくーちゃん、超りん、楓が唯一の三人部屋だったな。

「相坂さん超りんと一緒じゃなくて良かったの?」

「すぐ隣の部屋なので大丈夫ですよ。あの、春日さんの事これから美空さんって呼んでいいですか?」

ほっ、なんか初々しいなこういうやりとり。

「いいよー。じゃあ私もさよって呼ぶからよろしくね」

「この前の旅行から言おうかと思ってたんですけど機会が無いというか私が幽霊だっていうのでひかれちゃったかなーと心配で」

さよも悩みぐらいあるんだな。
そういや髪の毛の色とかも日本人というには青白いよな。
まあ私としては綺麗だとは思うな。

「正直あれには驚いたよ。さっきの占いもだけど」

「さっきはうっかりしてて本当の事を言っちゃいました」

たまに何も無いところで転んでるのもうっかりか。

「やっぱりそうかー。ところでまたホテル狙われたりするのかな?」

「うーん、どうでしょう。目立つ行動をしたら寄ってくる可能性はありますけど明後日から2日間ウェールズに移動するからそこまで心配する必要はないと思いますよ。私も一応視てますし」

やっぱ千里眼便利そうだなー。

「目立つ行動って言っても3-Aだとどこでも目立つよね……。超りん自身が目立つ行動しなければ大丈夫か。それで聞いていいかわからないスけど、2年の学期末にネギ君の正式教員採用の監視って学園長から頼まれてたり?」

「んー、残念ながら私じゃないです。遠見の魔法ってありますし」

なるほど……でもそれで四六時中ネギ君監視してる学園長もどうかと……。
麻帆良の幽霊やってると、魔法も相当詳しいのか。

「そうかー。正直あの後偶然か超りんがピンポイント講座上げてきたから見てたのかなと思ってさ」

「鈴音さんはSNSの効果を見たかっただけみたいですよ」

超りんは常に実験の感覚なのか。

「超りんらしいね。それにしてもSNSあっという間に流行ったよねー。もう中等部どころか大学まで広がったみたいだし。私の陸上部なんかあれでスケジュール管理もするようになったし」

ツールも豊富で便利なんだよなー。
皆で書き込めるカレンダーみたいのもあるし。

「たくさん使ってくれると嬉しいですね。麻帆良の外にも広がってますし、来月にはアメリカで使われ始めるでしょうから世界規模になりますよ」

アメリカに行った時の有名企業かー。
あれ?

「さよも開発したの?」

「私計算は得意中の得意なのでその方面で手伝いました」

そういやさよの数学のテストの終わる速度異常だもんな。
60分のテスト時間なのに物によっては10分ぐらいで終わってるみたいだし。
超りんと葉加瀬より早いのは凄いと思う。

「超りんのとこの部屋は凄いね。普段からだけどテストも今年また3位までずっと独占したら伝説になるよ」

「そう言えば12回連続でしたね」

「もうそんな回数になってたかーマジ凄いな。おっともうこんな時間か、そろそろ私は寝るよ、さよおやすみー」

「はい、美空さんおやすみなさい」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

昨日は無事に終わたネ。
2日目の今日はいよいよロンドンの自由観光ネ。
基本的には地下鉄とバスをうまく利用して好きなところを見る事になているヨ。
でも出発前に葛葉先生に呼ばれたネ。

「超鈴音、私達引率の教員がそれぞれの班に護衛につくのは無理ですから注意は怠らないように」

「一応皆との中学の修学旅行だからそういう事を考えずに済ませたいナ。護衛には私の班の楓サンという忍としての能力は随一の人がいるから大丈夫ネ。それに今回は無闇に目立たりもしないヨ。それより4班だけは見ておいた方がいいネ。誰も戦力がいない」

「それは私達も心得ています。安心しなさい。私は立場上5班について行きます」

「分かたネ。特殊通信を起動しておくからもしもの時は携帯で連絡するヨ」

「分かりました。気をつけて楽しんできなさい」

「忠告感謝するネ」

さて、出発するヨ。
オックスフォード・サーカス駅からあちこちに行く事になたが最初は世界最大の観覧車ロンドン・アイからロンドンを見渡す事にしたネ。
最高で地上135mに達し30分間で一周する上その高さからロンドンの有名な建築物がいくつも見られるヨ。
今は午前だから普通だけど、夜になたら夜景が綺麗だろうネ。

「テムズ河に架かってる橋なんかも壮観だねぇ。そういや楓は麻帆良の木のてっぺんまで登ったことあると思うけどこのくらい大した事無い?」

「そうでござるな。神木の半分ぐらいの高さであろう。わざわざこの箱に入らなくても大丈夫でござるよ」

一般人にはありえない感性だが五月もハカセも超包子の屋台は飛んでたりするし別に驚かないカ。

「は、箱かー」

「これだけ見晴らしがいいなら私も麻帆良に帰たら木登りするアル!」

「ネギ坊主達と共に登るのは良いでござるよ」

美空、自分で話題に出しておいて微妙な顔するナ。
箒に乗れば似たようなものだろう。
次はテート・モダンというピカソやダリのような有名なアーティスト達の美術作品が置いてあるところが近いのだが、このメンバーはあまり芸術には深くないからパスだたヨ。
古が見ても「うー良く分からないアル」で終わりそうだしナ。
どちらかというと最近古は歴史には興味があるみたいネ。
これもネギ坊主の努力のお陰だナ。
続けて少しロンドン中心部から離れるのだけどグリニッジに向かたネ。
世界標準時間の都市として有名だが、ここ一帯だけでも歴史的建造物が多くあるし、その美しさは素晴らしいヨ。
今は稼働していないが天文台の周りは穏やかな緑の多い公園にもなているし少し落ち着くネ。

「おお、凄く広い公園アル!美空、あの建物まで競争するアル!」

「え?うん、よーし陸上部エースの名にかけて負けないよ!」

公園を爆走していく二人だがアホだナ……。

「超さん、私も行ってきますっ!」

「ハカセ?」

まさかハカセが走ていくとは思わなかたネ。
確かに科学者としても何か感じるところがあるのだろうナ。

「何やら面白そうでござるな。拙者も行って来るでござるよ」

「皆元気ですね」

「元気すぎる気もするけどネ」

結局天文台までの競争は美空の勝ちだたナ。
気がつくと楓サンが天文台の上に登ているのだが一応世界遺産だからやめるネ。
そのまま国立海洋博物館を見て大英帝国時代の海洋帝国として栄えた頃を少し感じたり、公園にある昔の海洋都市時代に世界最速を誇った帆船カティーサーク号を見たヨ。

「お昼はどこで食べますか?」

「サウス・バンク・センターでテムズ河を眺めながら食事が取れますよ」

流石イギリスの食事にも興味を持ている五月だネ。

「またロンドン中心部に戻るネ」

着いてみれば食事も勿論したが総合芸術施設でもあり、またもやモダンアートが見れたり、コンサートも行われているようだがそれはやはりパスして施設を見る程度にとどめておいたネ。

午後一番は今度は大きく西に移動してキュー・ガーデンという今年2003年に世界遺産登録された植物園に行たヨ。
とにかく広いと言えば広く、東京ドーム数十個分の広さはあるのだがつい春休みに火星の極冠を蒸発させたのを思い出すとさほどでも無いと思えてしまうナ。

「ここも広いでござるな」

「世界遺産になているから競争は駄目ネ」

「そうだったアルか。危なかったよ」

元気が良すぎるのも考えものネ。

「あっちに見える温室でかいなー」

集まっている植物は5万種近く世界的な植物研究機関としても機能している場所だヨ。
イギリスでも熱帯雨林の植物があて少し場所を錯覚しそうネ。
グリニッジが美しいとしたらこちらは華やかな感じだナ。
大温室を見て周り、古が反応する建物があたヨ。

「超、何故中国の建物がある?」

10階建ての細長い中華風の塔ネ。
パゴダというが要するに仏塔、ストゥーパだナ。

「あれはウィリアム・チェンバーズという人が250年前に建てたパゴダたヨ」

「中国の建築を真似したアルか。見事ね」

「意外と馴染んでいるでござるな」

外国の文化を好き好んで取り入れるとこういうこともあるネ。
丁度午後のお茶を飲みたい時間になたから園内のティールームで一息ついたヨ。
五月は飲み物にも興味を持たようだが、向上心があるのは良い事ネ。

時間に限りがあるからまたロンドン中心部に一気に戻り、午前にロンドン・アイから見えたが、またもや世界遺産のウェストミンスターに行たヨ。
寺院の方は立派なゴシック建築だと思たらそれで終わりだが歴史的有名人が多数埋葬されている場所でもあるネ。
万有引力を発見したアイザック・ニュートンも眠ているヨ。

「ここに眠ってるんですか」

感慨深げだが、さよ、埋まりたいのカ?

またその隣には現在も議事堂として使用されている議会政治発祥のウェストミンスター宮殿があるネ。
南北の長さは265m敷地面積は3万平方mを超える中には多数の部屋、階段、中庭もあるヨ。
更にその隣には聖マーガレット教会と世界遺産のオンパレードだナ。
実際2月に外国文化研究会で飛び出したのはこういう有名建築のある場所の方が適していたとは思うが今更ネ。
そのまま更にロンドン中心部へと進み、真っ白い外壁のバッキンガム宮殿を背景に皆で写真を取り、ビックベンを背景にまた写真を取りと思い出を増やしたネ。
時間が押して来たがドーム型をした塔が特徴的なバロック建築のセント・ポール大聖堂を周たヨ。
最後に無数の立派な柱で支えられ、700万点ものコレクションを有する大英博物館は入場は無料だからギリギリまで興味のある美術品や遺跡の品を見たり、レプリカグッズのコーナーでお土産を買ておいたヨ。
一日で大体ロンドンをテムズ河を中心ラインとして一周したと思うネ。
何より良かたのは誰も緊急連絡をしてこなかた事だナ。
ホテルに戻て夕飯をクラスの皆と食べたがそれぞれの班は何処に行って何をしたと話すのに夢中だたヨ。
ネギ坊主とアーニャは明日菜サン達の班と行動していたみたいだが、案内している筈が子守のようになていなかたか気になるネ。

「しかし今日は平和でござったなぁ」

「何も起きなくて良かたヨ。修学旅行が台無しでは寂しいからネ」

「超何の話アルか?」

「うむ、今日は楽しかたという話ネ」

「そうアルか!私も今日は皆とたくさん周れて楽しかったアルよ」

古には危険性を知らせなくて良かたナ。
明日は朝からウェールズまでバスで移動して2日間滞在する予定だから早めに寝ておこう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

昨日は超りん達が綿密に建てた計画通りあちこち見て回れたッス。
こうイギリスらしいなーっていう写真とか沢山取れたし、これが修学旅行京都とかハワイだったらそれはそれで楽しかったろうけどこれはなかなか良かった。
朝早く8時前には用意されてたバスに乗っていざウェールズへ出発よ。
一応修学旅行って事で直接ネギ君の故郷に向かうのではなくウェールズの首都カーディフに行ってお城を見るんだとさ。
でも、移動に3時間かかるってんだからなっがいわー、バスの中で企画やらないとやってられないね。
そういや、いつのまにやらアーニャちゃんがバスに混ざって馴染んでるねぇ。
ゆえ吉達のところが落ち着いたか。
なんで言葉通じてるの?とか不思議に思ったら負けだから。
なんかカラオケ始まったら、どうも日本の曲ばっかで、なんで?と思ったら超りんの持ってきてためっちゃ小さい端末でやってるらしい。
色々機能搭載する実験でもやってんのか。
神多羅木先生の顔が見えねースけどどんな顔してんだろな。
長いバス移動も一旦終わってようやくカーディフ到着。
でっかい城壁だなーと思ったらここが城か。
何やら説明を受けたところ、内部では写真撮影禁止だから気をつけろとの事。
城壁内は石畳がズバーっと走ってて、中心の古墳みたいの上にうまくそのサイズレベルの城が建ってた。
昨日からだけどあちこち緑が多いねぇ。
石畳以外は全部草地だし。
そこそこブラブラしたところで昼になったから食事してまた出発。
カーディフがロンドンからそのまんま西にズズーっと進んだところだけど、今度は北の方に向かってくみたいね。
しばらく進んだら道の右も左も前も後ろも山、山、山のラッシュ。
なんか方向感覚を狂わせようとしてるんじゃないかとも思うような走り方してんだけどネギ君の故郷って言うか一応メルディアナ魔法学校近いから秘匿か何かの関係か。

「ネギ達の故郷ってどんなところなの?」

「えーと、特にこれといって特徴は無いですけどとにかく山ばっかりの所です」

「もう山しかあらへんよ?」

「そろそろ着くと思うわ」

午後も午後って時、やっとこさ到着したわ。
やっぱ長閑なケルト的田舎風景がどっこまでも広がってる場所だった。
シアトルのスキー行った時の雪山とかジョンソン魔法学校の周辺もかなり良かったけどこういうのも良いねぇ。
誰か女の人いんなーと思ったらアスナといいんちょになんとなく似てるっつーか、三人並べたら親戚で通りそうだな。

「お姉ちゃーん!!」

「ネギ!ああ、会いたかったわ!」

ネギ君が飛び込んでったかと思ったら振り回されてんのはお姉さんの方かい。
普通逆だろ。
感動の再会ってところ、ネギ君が私達クラスの事紹介してくれたわ。
話し方はなんとなくいいんちょに似ているがそこまでお嬢様的でもないね。
すんごい美人のお姉さんだけど何歳だろ。
私達よりは年上なのは分かるけどな。

「あれがネカネサンか」

「ネギ先生が初めていいんちょさんに会った時に言ってましたね」

もう去年の夏だもんなー。
そろそろ一年じゃんか。
時間立つのはえーわ。

「明日菜サンともどことなく似てるネ」

「ニオイが似てるって話ですけど嗅がせてもらいますか?」

「DNA的に近いかもしれないから髪の毛のサンプルでも貰えると本格的に研究できるヨ!」

おいおい……。

「ほう、ネカネ殿とアスナ殿のニオイが似ているのでござるか……どれ」

犬でもないのにクンクンしてんだけど分かんのか?
忍者ならなんでもOKって訳じゃないだろーに。

「楓サン結果はどうネ?」

「こ……これは。そっくりとは驚いたでござるな、まことに親戚なのではござらんか」

両目開いたよ!
そんなに驚いたんスか。
両親いないアスナにとっちゃそれ重大発言だろ。

「ふむ、楓サンの嗅覚でそうなのだとしたらこれは確かめてみた方が面白そうだネ。……採取しに行くヨ……」

あ、やべースよ。
超りんの目がマッド化してる、あれは実験動物を見つけたような目だわ。
じりじり距離詰めてるし。

「さよあれほっといていいの?」

「欲望の赴くがままに対象を研究しつくすことこそ真理にたどり着く近道だそうです」

それっぽいこと言ってごまかしてるだけだろ。

「はははー、もう好きにすればいいスよー」

「超さんの研究分野はロボットだけではないですからね」

中学生で本格的どころかマジもんのロボット研究してる葉加瀬も変わんないスよ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ふむ、触れてはいけないパンドラの箱のような感覚がひしひしと伝わてくるが髪の毛の一本ぐらい採取してもどうという事は無いネ。
ネギ坊主の髪の毛は今までに採取するタイミングはいくらでもあたから持ているし、ここは一つミッションをやり遂げるヨ!
どう怪しまれないように髪の毛に触らせてもらうかだが……。

「ネカネサン、初めまして。私は超鈴音ネ。いきなりで済まないのだけど、髪型を明日菜サンみたいにしてくれないかナ?」

「あらまあ、あなたが超さんですか。ネギからの手紙で色々お世話になったと聞いています。面倒を見ていただきありがとうございます。髪型をアスナさんのようにですか、ええ、構いませんわ」

よりお淑やかなあやかサンのような感じだナ。

「これからもネギ坊主を陰ながら支えるヨ。髪型は私が言い出したから私が結いてもいいかナ?」

「結いてくださるんですか?ではお願いいたします」

フフ、これで後は髪を結いでいる間に仕込み刃で一本拝借するだけだヨ。
なんとも綺麗な金髪で良い髪質しているネ。

「手入れが行き届いているいい髪だネ」

「そうですか?嬉しいですわ」

サッと一本削てと……。
できたネ。

「結いたヨ。明日菜サン!少しこっちに来てくれないカ?」

「超さん何ー?ってお姉さんの髪型!」

「アスナどうしたん?あー、ネギ君のお姉ちゃんの髪型アスナと一緒にしたんか。アスナ並んでみたらええよ」

「う、うん」

「おーいネギ坊主!少し二人を見るネ!」

離れたところで何やら話こんでいるから振り返らせないとナ。

「超さん?ええっ!?アスナさんが二人!?ってネカネお姉ちゃん!?」

「何なにー。あー!凄い似てるよアスナ!」

「頭の良さは似て無さそうだけどなー」

「うるさいわよ!!」

皆でバシバシ写真に撮て保存しておいたネ。
髪の色は違うが誰が見ても似ている以外の言葉はありえないナ。

「ネカネサン、ご協力感謝するネ。もう解いてくれていいヨ」

「そんなに似ていましたか?私も楽しかったです。紐ありがとうございました」

「手間をとらせたネ」

さて、目標も達成できたし面白いものも見れたヨ。
戻ろうかと思たら今度はエヴァンジェリンか。

「手紙でやりとりした事があるがこうして会うのは初めてだな。私がエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだ」

「まあ!初めまして!ネギの姉のネカネ・スプリングフィールドです。素敵な映像たくさん拝見しました!握手して頂いて構いませんか?」

どれだけ気に入たのだろうナ。

「ああ、こちらこそ挨拶しておこうと思っていた」

エヴァンジェリンの右手を両手で包んで握手してるヨ。

「あの……それで……」

「細かい話はまた後にしよう、ここでは場が悪いからな」

「ええ、分かりましたわ」

魔法関連だろうナ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

この後野原でバーベキューしたりして過ごし、班分けがあんまり意味なくなりましたが、かなり楽しかったです。
食べ物もイギリスはどうのと聞きますがそんな事なく美味しかったです。
今日は皆でレンガ造りの大きな宿?なんですかね、そこで泊まりました。
明日はネギ先生の母校を見に行けるという事なんですが、認識阻害全開にするんでしょうね。

《もしかするとウェールズ滞在中に何か起きるかもしれませんから気をつけてください》

これはキノから通信ですね。

《キノ、どういう事ですか?》

《日本で頑張ってフェイト・アーウェルンクスを探しているんですが見当たらない、正しくはきっちり認識できないだけなんですが、もしかしたらそっちに行ってるかもしれません、という事です》

《ふむ、私が直接戦うという選択肢はありえないのだがここの警備は厳重だろう?心配する必要あるのカ?》

《エヴァンジェリンお嬢さん並に高度な術師の筈ですから、結界程度簡単に破ると思います》

面倒な敵ですね……。

《今日来たばかりでここがバレているなんて事あるんですか?》

《可能性は十分あります。一応大分前にイスタンブールの魔法協会を調べましたが、偽造だとは思いますが名前だけは記されていたので地球にいるのは間違いありません。壮大なネタバレなのでアレですが、ネギ少年の故郷での出来事も超鈴音と同様知っている筈です》

《ネギ坊主の幼少に住んでいた村一つが全滅したという話カ》

《石化した村の人々はメルディアナ魔法学校の魔法的処理をされた地下に安置されてますけどね》

《それって治せないんですか?》

《私やさよなら術式を解析して反転させる事で治せると思います。方法としては精霊体で直接乗り込んで解除して逃げるだけでもいいですけどこの旅行中にそれをやるのはタブーですね》

《怪しまれるからやめた方がいいナ》

《そうですね》

《そういえばネギ坊主は攻撃系の魔法ばかり習得しているようだが、石化解除の方法を探ろうとはしていないナ》

《それはネギ少年が村の人達が石化したのは知っていても、その後無事に保管されている事を知らされていないので、全員死んだのだと思ってるからですよ》

《それが理由でネギ坊主はどこまでも強くなろうとしているのカ》

《どこまでもと言ってもまだナギ少年程強くもないですから別に間違っても絶対に正しい訳でもないでしょう》

《つくづく困た一族だネ》

《鈴音さんも同じじゃないですか》

《それも壮大なネタバレだヨ》

《まあ恐らく今晩は大丈夫だと思います。起きるなら明日でしょう》

《一般人のフリしているに限るナ。ネカネサンの髪の毛も手に入れたし無くさないようにしないとネ》

《うわっ、それはまた世界の謎の一つみたいなものに触れましたね》

《翆坊主もそう思うカ?私も興味が尽きなくてワクワクするヨ》

《鈴音さん、採集しているようには見えませんでしたけど髪の毛結っている時ですか?》

《そうネ。あの時仕込み刃でパッと採集したネ》

楓さんみたいな仕込みですか。

《あれは違和感なかったですねー》

《怪しまれたら大変だからネ。しかし襲われると言てもエヴァンジェリンがいるから何も問題なさそうだナ》

《京都の時とは違って、こう立場的に一応強力な魔力制限をかけてますから戦力にはなりませんよ》

《そうなんですか!?》

《いや、まあただ危なくなったら近衛門殿がスタンプ押すと解除できますから大丈夫です》

《その伝令は私がやればいいんですね》

《そうならないことを祈りたいですが》

《さよ、頼むネ》

《はい、分かりました!》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ネギ君の故郷で一晩寝て次の日、ネギ君の母校に行かせてもらえる事になったんだけどきっとあらかじめ処理してんだろな。
だって今日金曜だけど誰も生徒はいないし、先生っぽい人もいないし。
いいんちょなんかここが「ネギ先生の勉強された場所ですの!感激ですわぁ」なんて舞い上がってるし、ここがどこかの針のポッター的学校でも構わないんスね。
皆物珍しそうに天井の高い廊下だとか見てるけど、麻帆良の麻帆良教会も似たようなもんスよ。
まあ一般人はあそこに積極的に寄り付かないようになってるから仕方ないか。
葛葉先生と神多羅木先生がいないけどここの校長にでも会いに行ってんのかな。
ネギ君のお姉さんがガイドさん化してるし。
ネギ君とアーニャちゃんの背比べの跡まで説明してるけど、自分たちも印付けようとすんな鳴滝姉妹!
普通こんな子供の頃の跡なんて観光スポットにならない筈なんだけどそのままネギ君達が小さな時に遊んだ山だとか川だとか滝だとか見たよ。
「タカミチがこの滝を素手で割った」って何の伝説ですか。
海が割れるよりはマシだけどさ。
アスナはそれで感動してるし調子いいなー。
およ?

「さよ、どうかしたの?また視てるみたいだけど」

「美空さん、ちょっと気になってるだけです」

「今回は大丈夫だと思うけどねー。アーニャちゃんの占いはともかく」

「そうですね。でも……私の占いは酷かったです……」

「あー掘り返してごめん」

そら幽霊でも死相とか既に死人とか言われたら嫌だよなー。
大自然を堪能して疲れたところでまた宴会始まったわ。
気をそらすつもりなんだろうけど、VIP待遇っぽい感じ。
ネギ君は先生としてアーニャちゃんと学校に行くみたいね。
エヴァンジェリンさんの姿がいつの間にか消えてるけど同じ用事か?
にしても今回は巻き込まれなくて良かったわー。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ネカネお姉ちゃんに予め言われたとおりメルディアナ魔法学校にもどってきておじいちゃん達のところへ来た。

「おじいちゃん!久しぶりです、帰ってきました!」

「よう戻った。……中国では男子三日会わざれば刮目して見よというが、見違えたぞネギ!」

「はい!ありがとうございます!」

「ぼーやも故郷へ戻ってきて元気そうだな」

「マスター!それにお姉ちゃん!」

「だからネギ!そのマスターってのは何なのよ!」

「あれ……おじいちゃん、マスターが居てもその、状況的に大丈夫なんですか?」

「コノエモンから聞いておるから大丈夫だ」

「まあ私も出てくるのに今は魔力に制限をかけているし、それに私は既に死亡したことになっているから誰に見られてもさほど問題ではない」

「そうですか……良かったぁ」

「おじーちゃん!ネギの魔法の先生がえ、え、エヴァンジェリンさんでいいの!?」

「私は別に良いと思うぞ。ネカネもそう思わんか?」

「ええ、私はこんな素敵な方にネギが魔法を教えて頂けるなら賛成です」

おじいちゃんもお姉ちゃんも賛成してくれるのか。

「な……な……はぁ……もういいわ……」

アーニャもやっと納得?してくれたみたい。

「して、ネギ、父の跡を追い続けるのか?」

それは……僕の目標だから!

「はい!僕がいつか探し出して追いついて見せます!」

「……ネギ、今度の夏休みになったらまたここに来なさい」

「それはどういう?」

「その時になったら教えるから待っておれ」

夏休みか……その時には丁度一年経つなぁ。
でもマスターの別荘で訓練してるから1年は既に経ってるか。

「分かりました。そうだ、僕おじいちゃんも使ったことがあるスクロールを乗り越えたんです!」

「おお、あれか、コノエモンの奴それは言っていなかったな。どうだ、大変じゃったじゃろ?」

「大変でしたが、とてもいい経験になりました。それに僕の仲間も一緒に乗り越えたんです」

「仲間とな?」

「はい!これが契約カードです」

「ちょっと聞いてないわよ!見せなさい!誰よ相手って!女なの!?」

「アーニャ、犬上コタロー君、男の子だよ」

「へ?じゃあ、ま、ま、まさかキキキキ、キスしたの!?」

「キスじゃない方法だよっ!」

「っはぁ……はぁ……なんだ」

「ネギにも相棒ができたか。それは良いことじゃがちゃんとしたパートナーも探してはどうじゃ?」

「校長!」

「冗談じゃよ、ネカネ」

「パートナー候補になりそうな女子なら生徒達皆そうだがな」

「マスターまで!」

「事実じゃないか。まあぼーやはまだ子供だか……っ!!どうやら侵入者が団体でお出ましだな」

「マスター?ッ!!」

この気配は!

「何者かが入り込んだか!すぐ総員に連絡じゃ!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「ッ――!!美空さん、野菜は一度ここまでにして洗った分だけ持って宿に戻りましょう」

「さよ、どうしたの?」

「作戦は落ち着いて一般人のフリです。行きましょう!」

「一般人のフリ?」

いきなりさよが宿に向かって洗った分の野菜持って移動しだしたんスけど何?
一般人のフリってまさか敵襲?

仕方ないからそのまま付いて行ったんだけど。

「ってええっ!?」

皆でここウェールズの美味しい郷土料理を作ろうって、役割分担で野菜洗いに行って戻ってみたらなんで皆石化?
これやべースよ!!
残ってんのは楓とたつみーだけスか!
アスナ達は違うとこ行ってるからいないけどさ!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

皆と郷土料理をしているところネ。

《鈴音さん!キノ!》

《分かってます!最大加速状態で会話しますから落ち着いてください》

《さよ、どうした?》

《……はい、はぁ……今にも宿から何か出ます》

《侵入者カ?》

《そのようです。1秒後には水の転移門から出現すると思います》

《私としては鈴音さんには逃げて欲しいんですが……》

《いえ、水の転移門である事からするとフェイト・アーウェルンクスの筈ですから、使ってくるのは普通の石化魔法でしょう。逆に不用意に反応した場合もっと酷い攻撃を受ける可能性があります》

《分かたネ。さよ、私は軽く石化するかもしれないがバレる訳にはいかないから落ち着くネ》

《……分かりました。でも今からそっちに向かいます》

《私はエヴァンジェリンお嬢さんの制限を解除してもらうように近衛門殿に連絡してきます》

《作戦はとにかく一般人のフリだナ》

さて、いつ出てくるかナ……。
ここには、龍宮サン、楓サンぐらいしか反応できそうなのはいないネ。

        ―ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト―
―小さき王 八つ足の蜥蜴 邪眼の主よ 時を奪う 毒の吐息を―
            ―石の息吹!!―

「キャッ!!」

「何この煙!」

全体を石化する煙カ。
確かにこの程度なら後で治るネ。
普段は魔力が無いからレジストもできないナ。

「この煙は何でござるか!」

「楓!一旦退避だ!」

流石二人だナ。
後は任せるネ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

瞬間移動はズルすぎます……。
観測した感じもう皆石化してます。
気がついて粒子通信で状況を伝えられても、結局さっき話したように下手に反応したり、精霊体を見せる訳にもいきません。
って鈴音さんの石像に向かって攻撃しかけようとしてませんか!?
……何か呟いてますね。

「あるルートで優先目標になっていてもこの程度か。それともわざとかな。……まあいい」

あ、危なかった!!
絶対鈴音さんが反応してたらもっと酷い事になってましたよ!!
楓さんが襲いかかりましたが水で転移しましたね。

歩いて宿に戻ったんですが。
案の定皆の石像がズラリ。

「ってええっ!?」

私も一応驚いておいた方が良かったですかね。

「二人とも無事でござったか!」

「済まない相坂、一瞬にして煙が飛び出してきたから避けるだけで精一杯だった。敵は超が石化した後に何か呟いていたが消えたよ。それとも見ていたか?」

「あー、まあそうですね。気づいたんですけど過剰反応すると碌な事がなさそうだったのでそこそこに戻ってきました」

「やはりそうか。まあその対処で正しかっただろう」

本当に鈴音さんは軽く石化しただけみたいですね。

「うわーマジかー」

「相坂、敵の目的は何だと思う?」

「多分ここはただの陽動です」

「陽動か……場合によっては麻帆良の安全管理の脆さを露呈させるのが目的かもしれんが、他に何か見えるのか?」

「神楽坂さん達の方が危ないかもしれません。少し離れた山林から大量の悪魔みたいなのが出現してます」

「アスナ達もか……。しかしなんつー厄介事……」

「アスナ殿達でござるか」

「先生達が抜けているこのタイミングを狙ってくるとはな」

「先生達といえば、ちょっと待ってて下さい。連絡しておきます」

「アメリカの時のあれか」

粒子通信の起動をオープンで開始。

《葛葉先生!宿にいる皆石化されました!源先生もです。残っているのは私と龍宮さん、春日さん、長瀬楓さんです!》

《相坂さよですか。超鈴音も石化してしまったのですか?》

《石化してますけど、治癒術師がいれば解除できるレベルの筈なので大丈夫です。それよりも別の場所にいる戦えそうな桜咲さんと古菲さん含む神楽坂さん達が危険です。大量の飛行型の悪魔が出現していて神楽坂さん達の方とこちらにも向かっているみたいです》

《そうですか……。召喚の反応はこちらでも感知しました。少しゴタゴタしていますが今から安全の確保に私達も動きます》

《よろしくお願いします》

《あー葛葉先生?私も防衛した方がいいですか?》

《春日美空、十字架があるなら出しておきなさい》

《了解です……》

「ただ握っていただけのようだが終わったでござるか?」

「はい、終わりました。それで多分こっちに向かっている連中は足止めのつもりだと思います。最悪石像を破壊するつもりかもしれませんけど」

「刹那と古もいるが神楽坂達を助けに行った方がいいのか?距離的にはどうなんだ」

「村の人が運転しているトラックに乗ってるみたいなので追いつくのは徒歩だとちょっと……。接敵まで向こうが後2分ぐらいでこの宿の方は先生たちがもうすぐ来ますけど、敵も後もうすぐで見える筈です。数は数百に上がってます……どう召喚したかはしらないですけど」

「数百!?無いわー」

美空さん、それは私も思います。

「弾丸もそんなに持たんな。エヴァンジェリンはどうしている?」

「魔力制限解除が行われ次第出てくれそうです」

「楓、どうするかは貴様次第だが私はここを守る」

「先生たちが来るならば拙者はアスナ殿達に加勢するでござるよ。真名、皆を頼む」

「ああ、石化には気をつけろよ」

「じゃあ私は適当に障壁張るとしますわ」

「さよ殿、アスナ殿達はどちらの方角でござるか?」

「丁度あの道なりに、西ですね10kmぐらい離れてます」

「10km!?楓行けんの?」

「拙者なら問題ないでござる、いざ!」

―縮地无疆!!―

地面にありえない衝撃が出て大穴開いたんですけど見事に長距離移動していきましたね……。

「楓スゲー!何あれ、忍者凄っ!」

「春日、驚いているのはいいが、どうやら敵のお出ましだな」

とうとう空を埋め尽くす黒い影が見え始めました……。

「美空さん、皆の石像を壊さないように安定させておきましょう」

「……それなら私でもできるね、走るしか能が無いのに戦う事になったらやべースよ」

「先生達の方が先に付きますから大丈夫ですよ」

さて、常時観測しているので龍宮さんの状況は見ているのですが、宿屋の屋根から長距離射撃で敵の数を地道に減らしていますが、広範囲殲滅魔法の方がこういう時は早いですね。
そこへ麻帆良の先生達が戻ってきました。

「遅れて済まなかった、少しの間だけと思って宿を離れたのが悪かった。我々で結界を今から張るから中にいなさい。龍宮は防衛感謝する!」

神多羅木先生と瀬流彦先生それに葛葉先生でした。

「ああ、報酬は学園に請求させてもらうよ」

「神多羅木先生、あの悪魔の量は何ですか!?」

「瀬流彦、落ち着け。お前は結界に専念していろ」

「は、はい!」

瀬流彦先生冷汗かいているところからするとこの手のゴタゴタはあまり経験が無いんでしょうね。

「神多羅木先生、私はこのかお嬢様の元にいかなければなりませんので、よろしくお願いします」

「分かってる、行って来い。石化には気をつけろよ」

「魔を断つ神鳴流に悪魔等とは笑わせます」

葛葉先生の目が白黒反転してて怖いんですけど……。

《相坂さよ、お嬢様はどちらの方角ですか?》

《西の方角です、行けば悪魔が大量にいるので分かる筈です。楓さんも追いついていますが一般生徒の護衛の関係で乱戦状態になってます》

《分かりました、あなたはそこで目立たないようにしていなさい》

《はい!》

物凄い勢いで陸上を突っ切っていく姿、神鳴流凄すぎます。

       ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―来れ雷精 風の精!! 雷を纏いて 吹きすさべ 南洋の嵐―
         ―雷の暴風!!―

ネギ先生来ないなーと思ったら派手な竜巻魔法と共にようやく来ました。
制限が解除されたエヴァンジェリンさんと一緒です。
その後ろにはメルディアナの魔法使いの皆さんが群を成しています。
人数が多いと言える程多くないのは麻帆良と似たようなものですね。
なんと言うか悪魔達の進行ルートが複数あるせいでメルディアナ自体も防衛しないといけない状態とは手間どらせますね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

これは一体何が起きている。
被害はそこまで出ていないけどこれじゃまるで6年前の再現だ!

「ケケケ、少しデカイ魔法を撃つかと思ったらただのガキ共か!」

邪魔だ!

  ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―来れ 虚空の雷 薙ぎ払え 雷の斧!!!―

「ギャァァァ!!」

「カカカ、後ろがお留守だな!」

―解放!!未完成・断罪の剣!!―

「ナンダトォ!?」

……あちこちに飛んでる悪魔達はそこまで強くないけど、バラつきはあるみたいだ。

《その調子だぼーや、反応がいいぞ。神楽坂明日菜達が劣勢だそうだ、助けに行って来い。ここの道は私が開けてやる。ついこの間覚えた魔法でも試してこい!》

《はい!分かりました、マスター!》

「麻帆良とは違い動きが良いとは言っても、この私がいるところに群れでこんな有象無象共が蔓延るとは大した身の程知らずだな!魔界にさっさと還れッ!!」

         ―リク・ラク・ラ・ラック・ライラック―
―契約に従い 我に従え 氷の女王 来れ終焉の光 永遠の氷河!!―
    ―全ての 命ある者に 等しき死を 其は 安らぎ也―
           ―終わる世界!!!―

マスターの広範囲凍結粉砕魔法!
この前見せてもらったばかりだけどやっぱり凄い!
前方に大きく道が開いた!

《マスター、ありがとうございます。では行ってきます!》

《ここ一帯の敵を片付けたら私も手伝ってやる、後の事は考えずにまず頑張ってみろ、弟子よ》

《はい!》

「ネカネお姉ちゃん、龍宮さん、行ってきます!」

「ネギ!大丈夫なの!?」

「僕を信じて!」

「ネギ先生、気をつけてな」

「はい!」

龍宮さんは皆が来るまで宿を守ってたみたいだし僕も頑張らないと!

―最大加速!!―

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

なんか戦争っぽくなってるけどマジやばいスよ。

「ネギ君いきなり出てきて凄い魔法出したかと思ったら何か剣とか斧とかも出してるし、ってエヴァンジェリンさんも半端無いわー」

なんだあの広範囲魔法……私いわゆる大戦期後の世代ッスからあんなん見たことないし。

「美空さん、安心するなとは言わないですけど窓からもう少し顔離した方がいいですよ」

いやいや、怖いもの見たさって奴だよ。

「だってさよ見えてんでしょ?」

「それは否定できないですね」

「おおっネギ君行っちゃったよ!?何?確かに悪魔倒せるみたいだけど、天才少年って凄いなー」

「ええ、まさかあんなにネギが成長しているなんて思いませんでした」

うわっ、ネギ君のお姉さんじゃん。
何か失神しそうな勢いに見えるけど、心配なのか。

「ネカネさん、ネギ君って卒業した時はあそこまで強くなかったんですか?」

「ええ、メルディアナは魔法の射手までしか教えませんし、あの子が隠れて何か魔法を勉強しているとは知ってましたが見たことはありませんでしたわ……」

いやいや、仮に魔法の射手だけだとしても卒業から1年も経ってないのにアレはおかしいだろ。

「ところでネカネさんはここに何しに来たんですか?」

「あなたは春日さんでしたね。魔法を知っているようですが魔法生徒の方ですか?」

あの適当な自己紹介で覚えてくれてたの!?

「あ、はい、一応見習いシスターやってます」

「私は一般人です」

さよ、嘘つかなきゃいけないのは分かるけど、ブラックボックスすぎるよ。

「そうでしたか。一応私は治癒術師なので皆さんの石化を診に来ました」

おお、確かにそんな感じはするね。

「さよは治るって言ってるんですけど」

「美空さんっ!」

「げっごめん!」

マズったわー、一般人って言った矢先じゃんか。

「相坂さんも何か事情がおありのようですが、ネギの生徒の皆さんの石化は解除できそうですから安心して下さい」

「良かったです。でもこの騒動が終わるまでは治せませんね」

さよは結局開き直ったか。

「石化が治ると聞いて安心しました」

「はい、治療の手筈は私達でしっかり行ないます」

アメリカで普通の人間も怖いとは思ったけど数だけは多い悪魔の群れも怖いわなー。
地味に割と強めっぽいのも混ざってるけどエヴァンジェリンさんが滅多打ちにしてるから大丈夫だろ。
しっかしこんな大量に召喚した奴は一体何がしたいんだ?
ここが陽動だってのはさよが言ってたけど、狙いはアスナ達っていうか近衛のお嬢様のこのかか。
だとすると状況は分かんないけど今回これで桜咲さんが近くにいなかったら今頃終わってたんじゃないか?

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

エヴァンジェリンさんが主力で宿周辺の敵を薙ぎ払い、漏れた敵を龍宮さんと神多羅木先生が撃ち落とし、残りは魔法学校の方へ抜かれないように防衛ラインを張ってますが、たまに墜落する魔法先生がいて心配ですね……。

一方神楽坂さん達が接敵してからずっと見ていましたがどうなっていたかというと。
メンバーは神楽坂さん、桜咲さん、近衛さん、くーふぇさん、綾瀬さん、宮崎さんと運転手さんでした。
車の形状は前に二人が乗れ、後ろに荷台がついてそこに乗れるタイプのものです。

「な、なんだあの数の魔物は!運転手さん!車を戻してください!」

「おお、分かってるさ!あれはマズいね!」

引き返そうとしたところでしたが、悪魔からの攻撃で車のタイヤがパンク、走行不能になってしまいました。

「タイヤをやられたか!」

「「「きゃあっ!」」」

「あれ一体何なのよ!」

「せっちゃん!あれ何や?」

「間違いなく敵です。お嬢様はアスナさん達と下がっていて下さい。私が抑えてきます!」

「刹那、私も戦うアルよ!」

「すいません、古さんはお嬢様達をお願いします!お嬢様、この姿を他の皆様の前で晒すことをお許し下さい」

「せっちゃん、気にせんでええよ」

「行って参ります!」

そう言った桜咲さんは烏族の白い羽を出してゆっくり空中に飛び上がりました。

「桜咲さん何その天使みたいね羽!綺麗!」

「綺麗です」

「羽があったアルか!」

「せっちゃん、気いつけてな!」

「はい!」

―四天結界守護方陣!!―

「その中から出ないで下さい!」

「お嬢ちゃん力にならなくて悪いね、私も障壁は張れるからこの子達は任せておくれ」

「よろしくお願いします!」

そのまま猛烈な勢いで空を飛び常に持ち歩いていた夕凪を抜いて大量の敵に桜咲さんは立ち向かいました。

―真・雷光剣!!―

神鳴流の中でも決戦奥義と呼ばれる剣に強烈に帯電させ爆発させる、広範囲破壊技を放ち大軍に攻撃をしかけました。
しかし直ぐ様に悪魔達は散開し、神楽坂さん達を守っている結界に集中攻撃をし始めたため、あっという間に破壊されてしまいました。

「しまった!もう破壊されたか!お嬢様っ!」

隙をついて人型をした二本角の生えている悪魔が口を開け石化光線を放とうとしましたが。

「させぬでござるよッ!」

「ガァッ!!」

とてつもない気の塊を右手に形成している楓さんが長距離瞬動のまま突撃して間に合いました。

「楓、加勢に来てくれたアルか!」

「楓!手助け感謝します!」

「刹那!古、安心していられる状況ではござらん。救援が来るまで持ちこたえねばならぬ」

「ただの小娘達かと思ってみれば、なかなかやるではないか。私はヘルマン卿、悪いがそこの娘に用があるので手加減はしないぞ」

楓さんに吹き飛ばされた悪魔でしたがどうやら爵位持ちのようですし、ここは麻帆良ではないので力に制限は何もかかっていないので耐久力は相当です。

「悪いがそれは拙者を倒してからにしてもらうでござるよ!分身!」

4人に分身して、ヘルマンと名乗る悪魔と高速で戦い始めた楓さん、近づく下位悪魔を弾き飛ばすくーふぇさん、空を飛び周る敵を切り飛ばす桜咲さんで非戦闘員の4人と実は魔法使いだった運転手の叔母さんの攻防が始まりました。
数の多さでジリジリ追い詰められていた皆さんでしたが、そこへ更にゴスロリの服を着た二刀の剣士が桜咲さんに飛びかかりました。

「刹那センパイの相手は私がやらせてもらいます」

「貴様何者だっ!」

「月詠言います、ほなよろしゅうお願いします」

げっ、あれがキノの言ってた会いたくない人ですか!
何か顔がにやついてて気持ち悪いです!
ただ名前を名乗っただけでそのまま二人は乱戦状態に入りましたが、空を飛んでいる筈の桜咲さんが押され始めました。
一方その一瞬の隙をついて転移呪文でまたあのフェイトが飛び出し、くーふぇさんを何かの拳法で弾き飛ばしつつ、石化魔法を発動してしまいました。

「くーふぇっ!」

            ―ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト―
―小さき王 八つ足の蜥蜴 邪眼の主よ その光 我が手に宿し 災いなる 眼差しで射よ―
               ―石化の邪眼!!―

今度はヘルマンと同じく光線が飛び出し、それを浴びてしまった近衛さんが手と足の先から一部ずつ石化が始まり、あえなく叔母さんは石化、後ろにいた綾瀬さんと宮崎さんはお陰で無事でしたが……神楽坂さんは服が石化して砕けただけでした。

「やはり……君は魔法無効化能力の持ち主か。そしてレジストの高さからするとそちらの君は旧世界の姫のようだね」

「一体何なのよ!このかと叔母さんを元に戻しなさいよ!」

「指が……石化しとる……」

「命までは取らないけどそのまま石化するといい。情報収集のつもりだったけど、そうだ、このまま君には来てもらうか」

「そうは、させないアルッ!」

地面に叩きつけらたくーふぇさんが活歩で急速接近しフェイトに拳を叩き込みましたが、軽くいなされ、続けて打ち込み続けるもまた弾かれ。

「かはっ!」

さっきと同じく地面に叩きつけられてしまいました。

「古!大丈夫でござるか!」

「お嬢さん、よそ見はよくないね」

「しまっ!」

「そちらは分身でござるよ。悪いが貴殿との戦いは後にしてもらおう!分身!」

楓さんは凄かったです。
人数が16人に増えたかと思えば一人は地面に転がったくーふぇさんを抱え、8人でフェイトに接近しつつ、残りはどこからか巨大な手裏剣やクナイを出して空中で何やら待機状態に入った下級悪魔に投げつけました。
綾瀬さんと宮崎さんは抱えることに成功しましたが、神楽坂さんと近衛さんに近づいた分身はなんと全て弾かれてしまいました。
どれだけ強いんですか!
ひどく劣勢の状態に入りましたが、そこへ遅れて杖に乗って飛んできたネギ先生+葛葉先生がやってきたんです。
葛葉先生は陸上を走ってる時にネギ先生に拾ってもらったようです。

「ネギ先生運んでくれてありがとうございます。それでは私はここで降りますので」

「はい!空には飛び上がらないでくださいね!」

そう言ってかなりの高さから葛葉先生が飛び降りた途端。

             ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
  ―契約により 我に従え 高殿の王 来れ巨神を滅ぼす 燃ゆる立つ雷霆―
―遠隔補助魔法陣展開!! 範囲固定!! 域内全雷精霊加圧!! 3…2…全力解放!!―
           ―百重千重と 重なりて 走れよ稲妻―
                 ― 千の雷!!! ―

呪文の長さを高速詠唱で補い、実質カウントが最大の時間を喰いましたが、強力な広範囲雷撃殲滅魔法を発動させ空中で待機していた下級悪魔を一掃しました!

「この魔法は……あれはネギ坊主でござるか!」

「ネギなのっ!?」

因みに空中戦を行っていた筈の桜咲さんは月詠の攻撃で地面に落とされていたので大丈夫ですが、大丈夫ではないです……。
飛び降りた葛葉先生は桜咲さんを助けるかと思えば楓さんと交代するかのようにフェイトに攻撃をしかけました。

「相手を変わりなさい!あなたはお嬢様を安全なところへ!」

「承知した!見た目に惑わされるがその子供厄介でござるよ!」

「やれやれ……人が増えてきてしまったね」

「お嬢様から離れなさい!」

斬りかかった葛葉先生でしたが水の分身が壊れただけで終わり、突然現れたと思えば、近衛さんはもういいのか神楽坂さんだけを水で捕縛して浮遊術で空中に飛び上がりました。

「分身かッ…その生徒をどうするつもりですか!」

「そう怒ると皺が増えるよ。どうってあなたに教える必要は無い」

「何ですって!」

年齢発言をされて葛葉先生の目が白黒反転しましたが、その話している状態の所へネギ先生が虚空瞬動から断罪の剣を背後の死角から打ち込みました!

「手応えが無いッ!」

やはりまた水の分身で、本体がいるのかいよいよ怪しくなってきましたが、そのまま水の捕縛術は葛葉先生が切り裂いて神楽坂さんは解放されました。

「きゃっ」

「いきなり攻撃を仕掛けるとは物騒だね。そうか、君が……ネギ・スプリングフィールド、情報よりも成長が著しいね。ここで少し叩いておこうか」

突然現れて石化魔法を飛ばす奴に言われたくないセリフですね。

―障壁突破 石の槍!!―

突然地面から石でできた槍が飛び出しネギ先生に襲いかかりました。

「くっ」

―魔法領域 最大出力!!―

ギリギリで展開できたフィールドにジジジっと音を立てながらめり込んで行き、その瞬間に横に移動してネギ先生は回避しました。

「なんだいそれは?まさか……似ているけど……何故君がそれを使えるんだろうね」

フェイトは魔法領域を知っているんでしょうか。

「君に教える必要は無いよ!」

―双腕・未完成・断罪の剣!!―

魔法領域を展開したまま高速で斬りかかるネギ先生でしたが切っても水分身、そうでなければ回避される始末……。

「不死の魔法使いの得意技か……あっちで暴れているのもそろそろ終わるようだ。厄介だね、今回は深入りはよそう、置き土産に悪魔をプレゼントするよ」

―召喚―

周囲から突然また大量の悪魔を召喚し、瞬間移動したかと思えば月詠の側に移動しました。

「月詠、今日はこれで終わりにしよう。ヘルマン卿は……頑張ってね」

「もう終わりですか~。羽が出とる刹那センパイはまだまだのようですし分かりました」

―ひゃっきやこ~う!!―

「貴様ッ!!」

抜けた掛け声と共にイギリスなのにも関わらず大量の妖怪が飛び出しました。
置き土産邪魔すぎます。
そのまま転移門で二人は逃げていきました。
残った強い相手といえば……。

「ヘルマン殿でござったか、どうされるのかな?」

「私はここで朽ち果てるまで戦わせてもらおう、そこの少年、私に見覚えは無いかね?」

「ネギ坊主?」

「お前はッ!楓さん!僕に相手を代わって下さい!皆さんは他をお願いします!」

突然ネギ先生の魔分量が上昇しました。

「ははは、いい眼だ。私もここでなら全力が出せる。いざ尋常に勝負といこうじゃないか」

「石化攻撃を使う相手にそんな勝負があるかっ!」

―未完成・断罪の剣 術式封印!!―
―双腕・未完成・断罪の剣!!―

言われてみればもっともな発言で切り替えしたネギ先生はそのままヘルマン卿に向かって行きました。
悪魔の力で放たれる強い衝撃波を魔法領域で緩和しては断罪の剣で吹き飛ばし、貫通力の高い無詠唱魔法の射手を乱射、並列して高速詠唱で雷の斧、等多彩な手段で戦いながらどんどん空中に上がって行きました。
度々石化光線が飛びますが虚空瞬動で回避し、押している雰囲気がありますがヘルマン卿が本気を出しているかどうかが微妙なところです。
一方地上は、ボロボロになってはいるもののまだ戦える桜咲さん、分身の数を最低限に戻した楓さん、最高にイラついていながらもその狂気を刃に変えている葛葉先生により残りの雑魚の一掃はすぐに終わりました。
それよりも問題は近衛さんでした。

「せっちゃん……うち……うち、まだ簡単な怪我治す事しかできへんのに石化なんて無理やよ……」

もう駄目だといった風に近衛さんの目には涙が浮かんでいます。

「お嬢様!」

「刹那、落ち着きなさい、ここはメルディアナですから高位の治癒術師もいます。お嬢様の石化はまだ本格的には進行していません。今から衝撃を与えないように運べば大丈夫です」

「は、はい」

「葛葉先生、拙者が分身でここの皆は運ぶがネギ坊主はどうするでござるか?あそこまで高いところでは加勢も難しいでござるよ」

「よく分かりませんがあの悪魔は本気ではないようです……。間もなく加勢が来ますから大丈夫でしょう。言ってる側から到着のようです」

エヴァンジェリンさんでした。

「ぼーや、面倒な騒ぎはなんとかしたようだが今加勢は必要か?」

「マスター、そこで見ていてください。僕がやります」

「不死の魔法使いがお目見えとは豪華なギャラリーではないか。では続きを始めようか?」

「話をする気があるなら質問するよ。6年前村を襲ったのはお前でいいのか?」

「特別に質問に答えよう。ああ、その通りだ。これで満足かね?」

「何のために村を襲った!」

「依頼を受けただけだ。悪魔はそういうものなのだよ」

「誰に依頼された!」

「それは契約違反になるから話すことはできないな」

「……そうか。もういいよ、村の皆は還ってこないけど黒幕がいるのは分かった。質問に答えてくれてありがとう」

純粋で優しげなネギ先生は何処へ行ってしまったのか、微妙な焦燥感を表情に見せながらも落ち着いた状態で断罪の剣を装備し、また戦闘を開始しました。
もう既にかなりの魔力を消耗している筈なのでそろそろ限界に近い気がするのですが、エヴァンジェリンさんもいるし大丈夫ですね。

地上の葛葉先生達はその状況を見て、メルディアナの方角に向かう事にしたようです。
怪我をしたくーふぇさん、綾瀬さん、宮崎さんと石化してしまった叔母さんを楓さんの分身で、葛葉先生と桜咲さんで近衛さんを慎重に運び、神楽坂さんは自力で空の様子を心配そうに見つめながら移動していきました。

その後、ネギ先生の戦闘はどうなったかというと、何度も激しいぶつかり合いをしましたが、最終的に3発の呪文を遅延させ、捕縛属性の風の矢で隙をついて動きを封じた瞬間に一気に連続で解放しヘルマン卿のこちらでの実体を保つ力の限界に至り、魔界に還っていきました。
その際少し会話があったのですが……。

「少年、私は依頼されたとはいえ君の村の人々を石化させた。完全に滅ぼしたいとは思わないのかね?」

「そう思う気持ちは無いと言ったら嘘になるけど、あなたを滅ぼしても僕には何も残らない。ただ虚しくなるだけだよ。僕はさっき聞いた黒幕を暴きだすだけだ」

「そうか……。君には堕ちる才能があると思うのだがね。それではありがたく魔界に帰らせてもらおう。さらばだ」

そのまま空気に溶けこんでヘルマン卿はネギ先生とエヴァンジェリンさんに見送られて消えていきました。

「ぼーや、気分はどうだ?」

「マスター、あいつは最後まで本気ではありませんでした。倒せても晴れ晴れした気持ちなんかじゃ無いですけど、とにかく今日はこれで終わりです。それにアスナさん達クラスの皆の所に戻らないといけません」

「復讐まがいの事をしても落ち着いているようだが、少しは成長したな。魔力も限界だろうから肩を貸してやろうか?」

「いえ、大丈…夫…で……す。あ……れ?」

「身体は正直なようだな、見栄を張ることはないさ。さて戻るぞ」

「ありがとうございます。マスター」

「全く厄介な日になったな」

「白髪の少年には逃げられましたし、謎ばかりが残りました」

「白髪の少年……か。後で引きこもりにでも聞いておくか」

「え?前に言ってた幽霊さんは知ってるんですか?」

「さあな、まあそういう事もあるだろうよ」

「僕が一人前になったら姿を見せてくれるかもしれないって言ってましたけど、いつになるんだろう……」

「まだまだぼーやは一人前には程遠いさ。その軽くあしらわれた小僧に次会ったときにでも鼻の穴を空かせてやれ」

「……そうですね。まだまだ頑張ります!」

そのまま師匠とそのお弟子さんはちょっとマズい話をしながら仲良く空を飛んで宿に戻ってきました。
長かったようでそんなに長くもなく、およそ十数分の激闘はこうして終わりました。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ふむ、気がついたら少し時間が経ていたネ。
皆で料理をしていた筈なのだが……。
何か忘れているナ。
周りの皆も似たような感覚のようだが聞いてみるカ。

《翆坊主、さよ、何か違和感があるが何かあたのカ?》

《鈴音さんは今フェイト・アーウェルンスクの石化魔法から回復して記憶を少し消去されてるだけです》

《おお、石化されていたのカ。あまり覚えていないが何も反応せず石化されて結局は良かたのかナ?》

《はい、それは間違い有りませんでした。フェイト・アーウェルンスクは超鈴音があるルートで優先目標になっているのがどうとか話していたので、無闇に反応すれば一般的には解除できない永久石化をやられていたかもしれません》

《なるほどナ。今回は甘んじて弱い魔法を受けた訳カ。二人だけが色々と知ているのはなんだかズルいネ。どうなたか教えて欲しいナ》

《私が話します!宿の皆が……》

……なるほど、宿はすぐに安全が確保されて、明日菜サン達の方が乱戦だたが、ネギ坊主と葛葉先生が加勢したら大体終わたのカ。
その過程でフェイト・アーウェルンスクと学園長から聞いた月詠を確認できたとはなんとも言えないネ。
しかもやはり私の知ていた通り明日菜サンは魔法無効化体質で、それが原因で攫われそうになたり、このかサンは石化を受けたがレジストが強くて大事には至らなかたようだネ。
古と本屋達の記憶は紆余曲折あって消さなかたというのは驚きだナ。
ついでにかなり活躍した楓サンも記憶処理は無しのようだたネ。
まあ明日菜サンは体質のせいで消せないというのはわかるが。
もともと彼女には魔法の事はバレていたしあまり変わりはないが、何やら鍛錬をしようと思たらしいネ。
良くはわからないが、ネギ坊主が覚えたばかりの千の雷を振るう瞬間に何か感じたようだと翆坊主は言ていたが、これ以上は歴史に関わるというか、明日菜サンはある意味鍵のような存在だからネ。
さよは一般生徒扱いで記憶処理かと思えば、葛葉先生のお陰で……もしやられても効かないだろうし助かたネ。
30分にも満たない短い間だたようだが、当事者の皆にとてはひどく疲れる出来事だたようだナ。
麻帆良に戻たら改めて映像をさよに見せてもらうとしよう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

はー、なんか窓から覗いてだけだけど割とあっという間に終わって、周りは嘘みたいに平和に戻ったな。
記憶処理とか色々先生たちにしつこく言われたりしたけど、自分からバラしたりしないから安心して欲しいスよ。
もう今はゴタゴタは終わって、アスナ達が持ってくる予定の材料は中止になったけど普通にまた料理作って、楽しんだわ。
ゆえ吉達がげっそりしてたけど私よりも修羅場だったんだからそら仕方ないか。
ネギ君は疲れたからそのまますぐ寝たみたいだし、話によるとエヴァンジェリンさん並の広範囲殲滅魔法使ったらしいし、マジありえん。
ネギ君お疲れ様。

そんなこんなで知らない人は普通に過ごして次の日朝からまたロンドンに戻って、班ごとの自由行動かと思いきや、土産限定でストリートを周る計画に変わったよ。
襲われたからこうなるのは予想できたさ。
とりあえず自分のお小遣いで土産買うと金銭の大事さが分かる。
シアトル観光カムバック!

そんでもって更に翌日曜日朝からヒースロー空港から日本に向けてまた戻り時差の関係で成田に着いたのは午前6時、麻帆良の女子寮に戻ったのは9時近かった。
私は面倒な事には関わりたくないスけど、ネギ君達はどんどん面倒な方向に進んでそうだわ。
ウェールズ出発する前に何かメルディアナの校長と色々話してたみたいだし、今回の事件処理とかもあるんだろうな。
主に葛葉先生がキリキリしてたからそれがいかに面倒かはわかるわ。
責任問題とかどーなるんだろ?
私が考えても仕方ないッスよ。
2回の旅行で得た教訓はあんまもう麻帆良から出たくない、以上。
ココネ肩車しないと落ち着かないわー。
シスターシャークティのお叱りはごめんだけどね……。



[21907] 31話 DNA
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/02/19 21:10
さて、とうとう面倒なフェイト・アーウェルンクスが情報収集とやらが目的で出現したが、メルディアナにわざわざ現れた理由はあそこにあるゲート周辺の結界のレベルを図るためなのだろうか。
恐らく今から強化したところで来たる日にはいずれにせよ対策は間に合わないだろうから情報は彼にとっては収集できた方なのではないだろうか。
ヘルマン卿はメルディアナの一角に厳重に封印されていた筈だったのだが、確認したところ封魔の瓶が見事に盗まれていたそうだ。
恐らく結界をあってないようなものとして通過する彼にとってはそれすら造作もない事だったのだろう。
因みに私は彼の逃げた行方を探知できたかどうかだが、多重転移が国をまたぐレベルで本当にありえなかった。
精霊体でマッハ移動するのと大して変わらないのは正直ありえない。
そういうわけで見失った……いやまあがんばればできただろうが、確かに彼は脅威ではあるけれども超鈴音とサヨのことがバレた訳ではないから放置しておく。
それに餌というと言い方が悪いがネギ少年や神楽坂明日菜に興味を持ったらしいから、接触してくるのを待てばいいだけだとも思う。
その神楽坂明日菜であるがとうとうあからさまな魔法無効化能力を露呈した上、ネギ少年が千の雷を放つ姿にナギ少年の面影を感じたのだと思われる。
因みに彼女にアーニャの占いができなかった理由は正しい本名ではないし、生年月日が正しくもないからであろう。
サヨのアレは酷いとしか言いようがないが。

少し修学旅行が終わる前どうなったのかを見ておこう。
忍者と古菲が記憶処理を受けなかった理由は生徒でありながらも悪魔達と渡り合った為、忘れるかどうかの意思を確認したところ口外はしないという約束を行ったからである。
綾瀬夕映は魔法の存在を見たことから麻帆良学園全てのおかしさの説明が付くことがわかり、宮崎のどかは年下にも関わらず惚れてしまっているネギ少年の事もあってか、前述の二人と一緒に説明を受けた時にとてつもなくゴネにゴネ、記憶処理をまぬがれた。
理由としては古菲が心配だから日常でバレそうになったら止めるようにする等とのたまっていたが、実際その虞はあるし一概に否定はできないが意外とひどくないだろうか。
強制的に記憶処理に動かなかった理由としても、この二人はフェイト・アーウェルンクスと月詠の姿をはっきりと見てしまっているため、記憶を消したところでそんな事関係なく口封じに狙われる可能性が残ってしまうというのも関係しているようだ。
神楽坂明日菜は、神多羅木先生が近衛門直属の部下である事から彼女の体質については理解しており本人が有害だと思う限り記憶消去ができないと知っていたため、とりあえず口外しない事に釘をさされた上で麻帆良に戻ってからどうするか決めるという事になった。

ウェールズからロンドンに戻る前にネギ少年とエヴァンジェリンお嬢さんは改めてメルディアナ魔法学校に呼ばれた。
その際あちこちの魔法先生からその戦功について絶賛を受けたりしていたが、エヴァンジェリンお嬢さんがネギ少年に粒子通信で「ぼーや、ナギもこれと似たような評価を受けただろうが、調子に乗ったらそれまでだぞ」と伝え「分かっています。こんな評価を受けたくて戦ったんじゃないです。他人がどう見ようと僕は僕です」とフェイト・アーウェルンクスの事が念頭にあるため外面上は適当に挨拶していたが基本的には10歳にして他人をあしらっているという状況だった。
ネカネ・スプリングフィールドはその姿を見て「私の知っているネギは一体どこに行ってしまったのかしら……」と悲しそうで、ともすれば失神しそうだったのは余談である。
アーニャはネギ少年の戦闘を直接見たわけではないが、話は聞いたらしくとんでもない差が付いていると実感したらしい。
その後地下にネギ少年の村の住人が石化したままではあるが安置されているのを明かされてネギ少年は治癒魔法についても学ぼうかと思ったようだが、そこでお嬢さんがネギ少年の治癒魔法の才能の無さと孫娘の方向性について言及していた。
それでも他人任せはどうかと思ったようなのだが、既にメルディアナにいる高位の治癒術師ですら戻せないという現実を突きつけられ納得したのだった。
その部屋を去るときにスタン氏の石像に向けて墓参りではないがネギ少年は自分の成長と決意を報告した。
一方お嬢さんに言及された孫娘の方は、実際に石化した事から「うち、怪我だけやなく、なんでも治せるようになるえ!」とこちらも決意を新たにしていた。
桜咲刹那は葛葉先生から月詠が神鳴流の脱走者だと聞き、以前お嬢さんから忠告を受けていたことが身にしみたのか、己の未熟さを実感しより鍛錬を積むことを決意したらしい。
また神楽坂明日菜だが、襲われた際に人外戦闘を見せつけられた上、どうしても気になることだらけで、桜咲刹那、古菲、忍者に何やらこそこそ話しかけ、とにかく何か鍛錬をしようと心に決めたようだ。
それに同室の孫娘がいつの間にか魔法生徒入りしていたのを知ったのもなんとなく身近に感じたらしい。

総合的にメルディアナの対応としては、完全に油断していたことを麻帆良学園に対して謝罪していたが、エヴァンジェリンお嬢さんが一応「術者のレベルからすると麻帆良でも似たような事は十分にありえただろう」という発言や引率の魔法先生3人も油断していたというのもあって詳しい処理については麻帆良に戻ってからということになったのだった。

こんな所で修学旅行のゴタゴタの出来事は終わりであるが今度は戻ってきての麻帆良である。
麻帆良に戻っての報告では虚偽を報告するわけにもいかず、呪術教会に孫娘が実際に石化魔法を受けた事について情報が伝わって一悶着あったのだがこの点に関しては私も少し暗躍した。
近衛門にフェイト・アーウェルンクスについて、術のレベルから言って世界のどこでも確実に安心と言える場所など無い上、公表できない事ではあるが、彼が完全なる世界の残党でナギとも因縁があり、月詠がいたことから日本でも同じ事が起きる可能性が十分あったであろう事を伝えておいた。
それを聞いた近衛門は結局、仮定の話にしかならないが京都への旅行にしていたとしても、メルディアナの結界が破られるならば、関西呪術協会の総本山の結界もただでは済まなかったであろう事を遠まわしに関係者には伝えた。
また、メルディアナのすぐ側ですらその有様だったのに関わらず、京都旅行の場合宿泊施設は呪術教会からは離れていて、より護衛は困難であったであろうこと、神鳴流の月詠が脱走していた不備について色々相殺して面倒な問題についてはなんとか抑えつける事ができた。
今回の問題をなんとかできたのは、関東魔法協会理事であり、近衛家の当主であり、メルディアナの校長と仲が良い近衛門ならではだろう。
今回引率で事後処理に一番苦労したのは言わずもがな、魔法協会にも呪術協会にも関わりのある葛葉先生であった。
双方の勢力から挟まれて、かつ間をつなぐ伝令もしていたのだからさぞストレスが貯まった事だろうと思う。
しかもすぐに自分の授業をまた始めなくてはいけないのだから教職でもある先生は大変だ。

さて、出来事はこれだけには留まらない。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

修学旅行から戻り落ち着いて5月に入った頃、神楽坂明日菜の事である。
同室3人共が魔法関係者になった事で裏関連の会話に自重が外れた面があり、神楽坂明日菜はネギ少年を無性に心配し始めしつこく話かけるようになった。
ネギ少年は仕方ないという事で自分に深く関わるといかに危険な問題に巻き込まれる可能性があるかについて説明するつもりで、孫娘もまとめて夢見の魔法を使ったのだった。
内容は6年前のネギ少年の幼少の頃から村が滅ぶまでのもので、自分がいつか父親を見つけ出す事、修学旅行で戦ったヘルマンが言っていた黒幕を探し出さないといけない事について話して聞かせてこれで大丈夫だろうと思ったのだが……逆効果だった。
どうもナギの姿とネギ少年の姿が被って仕方が無いのか「ネギ一人でやるなんて危ないことはさせられないわ、私も協力する!」と何を思ったかそんな事を言い出して大変だった。
折角数年前にタカミチ少年が本来やりたくもない記憶封印の処理をしてまで日常生活をさせていたにも関わらず、曖昧なビジョンの影響なのか、もう怒涛の勢いで魔法関係に向かって突っ込んでいくという様相を呈していた。
はっきり言って不自然でしかないのだが、その後彼女はタカミチ少年と近衛門に学園長室に呼ばれとうとう話をすることになった。
しかし「どうしても私も何かしないと駄目な気がするんです!」とそれが運命だとでも言いたいような発言をして二人を困らせ、しまいには「大丈夫!」という根拠がないが何故か信じてみたくなるオーラを出して驚かせ、どっちにしろ何言ってもだめそうだし、記憶も消せないという事で二人は、今すぐ問題になる訳でもないので何をするのかはともかく鍛錬をすることには許可をしたのだった。
その許可を得た神楽坂明日菜はネギ少年を守れるぐらい強くなる事が目標になったらしく、ネギ少年に鍛錬することに決めた事も伝えた。
そもそもなんで鍛錬するのかというと、自分の身体能力の高さには自覚があるのでそれならできそうという事らしい。
ネギ少年は神楽坂明日菜の底抜けに前向きな勢いに押されて、真剣な雰囲気に一気に変わりエヴァンジェリンお嬢さんの別荘に彼女を連れて行くという行動に出た。

「で、ぼーや、神楽坂明日菜を連れてきて何をするつもりなんだ」

「マスター、少し場所をお借りします。アスナさん、アスナさんの言葉は嬉しいですが僕はアスナさんがどこまで本気なのか分かりません。ただ鍛錬するというなら止めはしませんが、魔法関連に関わるというのなら覚悟を見せてください」

「私は本気よ!ネギ、その覚悟っていうのはここに連れてきたからには戦って見せればいいの?」

「僕はアスナさんと戦うなんて嫌ですけど、こうしましょう。僕にどういう形でも一本入れて見せてください。時間は限定しません」

「ネギ、あんた偉そうなこと言うようになったわね。いいわよ。やってやるわ!」

俄然やる気の神楽坂明日菜である。

「ほう、ぼーやが神楽坂明日菜を試すというのか。お前達の問題だから私が口出しをする気はないが、どういうつもりだ。結果はみえているだろう」

「コタロー君やくーふぇさん、超さんとで得た経験ですが、こうしてぶつかった方が相手の考えている事が素直にわかると思うんです!」

「なるほどな、神楽坂明日菜、せいぜいぼーやにお前の想いを伝えると良い」

「なんか良くわからないけど、分かったわ!行くわよネギ!」

「どこからでもどうぞ!」

こうして始まったネギ少年と神楽坂明日菜の模擬戦であったが、ネギ少年は戦いの歌も使わないただの魔分による身体強化のみで彼女を圧倒した。
当然といえば当然の結果ではあるが、合気柔術で覚えた技で受け流したり、投げ技で対応し続けた。
すぐ諦めるかと思われたが、1時間を経過してもなお続ける神楽坂明日菜にエヴァンジェリンお嬢さんは見ているのも飽きて城に戻っていった。
続けて観察していようと思った矢先。

《茶々円、見ているなら返事しろ》

勘がいいな……。

《あー、はい見てますよ。お嬢さん》

《聞いてなかったが、修学旅行で出たという白髪の小僧と神楽坂明日菜には何か関係があるのか》

《……お嬢さんならマズイ事は口にしないと思いますが正直に言った方がいいですか》

《当たり前だろう。嘘を教えられてもたまったものじゃない》

まあ嘘付くわけじゃないけど情報を小出しにすると誤解ぐらいは生まれるだろうな。

《白髪の子供は魔法世界の前大戦の黒幕、完全なる世界の強力な残党の一人です。広域魔力消失現象と魔法無効化能力、そしてタカミチ少年が数年前に彼女を連れてきたというのでなんとなくわかりますか?》

これは……言い過ぎだろうか。

《……おい……そんな事今まで隠していたのか》

隠していたつもりなんか全く無いんですけどね……そもそも言う必要もないですよ。

《隠していたというか麻帆良にはそんな秘密があちこち埋もれてますから今更ですよ。全部話したらキリが無いですし》

サヨは初めての自己紹介の時に少し何か感じたようだが、ネギ少年のクラスには今の今まで全く目立ってないながら、とんでもないのが混ざっているだから。

《はぁ……分かった。たまたま修学旅行がそのきっかけだったというだけか。茶々円の話からすると神楽坂明日菜は黄昏の姫御子なんだな?》

《そういう事です》

《あのクラスはおかしな奴が多いとは思っていたがじじぃも大概だな。……それでフェイトとやらは今後神楽坂明日菜を狙ってくる可能性があるのか》

《絶対とは言えませんがその可能性が無いという方が少ないでしょう》

《……そうか。神楽坂明日菜がぼーやにやたらと構う理由はナギに姿を重ねているという所か》

《よく分かりますね》

《あんな自分でも理解できていないような不自然な動機でこちらに顔を突っ込むのだから今の話と合わせてもそうとしか考えられないだろう》

《説明の手間が省けました》

《あー、またここに入り浸る奴が増えそうだな》

《まだまだ増えそうですけどね》

《古菲あたりか……》

忍者あたりも怪しいが。

《朝倉和美や早乙女ハルナに入り込まれたら始末に終えないので気をつけてください》

《奴らは確かにまずいな、入られたら問答無用で記憶を消してやるか》

なかなかの強硬手段だが、あの辺りは際限が無さそうなので別にいいと思う。

《それはお好きにどうぞ。特にアーティファクトの事がバレると碌なことにならないでしょうね》

《それはこのかを見てなんとなくわかるさ。まあ火種になるオコジョは今はどこかに行っているし問題ないだろう》

そう言えば妖精の事忘れてた。

《彼どうなってるんでしょうかね》

《さてな、ハードボイルドがどうとか言ってノリノリだったが知らん》

漢の中の漢ってそういうものなのだろうか。
妖精は良くわからない。

《ただでは死ななそうですし大丈夫でしょう》

《死んでも構わんがな。アーティファクトと言えば神楽坂明日菜は魔法無効化系の魔法具でも出そうだな》

さらりとひどいこと言ったな……。
アーティファクトについてはまあその辺は予想できるか。

《叩けば召喚生物は一発のアイテムでも出そうですね》

《まあぼーやと仮契約なんてやるかどうかも分からんがいずれにせよ先の話だ》

《そんな事を言うからには彼女も育てるつもりなんですか?》

《下手に外で目立たれてもかなわん。大体ぼーやがいるところについてくるんだから付き物みたいなものだろう》

《なら一つお教えしますが、彼女は咸卦法が使えます。忘れてますけどね》

《は?何だと?》

《小太郎君とは違い自力で発動できる筈ですから凄いですよ》

《何故そんな事まで知っている》

《知っているものは知っているんです。クウネル殿にも聞いてみたらどうですか?》

《……お前達性格悪いな》

《クウネル殿には負けますよ》

《もういい……。しかし咸卦法が使えるという事は他の技術もすぐに習得できる可能性が高いな。面白い、鍛えても無駄かと思えば意外と脈はあるようじゃないか。剣でも持たせてチャチャゼロに相手でもさせるか》

あれー、やたら都合良いんだけどどうなってるんだろう。
……気にしたら負けか。

《それでは私はこれで失礼します》

《どうせ見ているんだろう?》

《まあ、そうですね》

エヴァンジェリンお嬢さんとの会話も終わったところで、ネギ少年達はというと……。
そのまま2時間が経過するかという状態に入ったのだった。

「アスナさんッ!どうしてそこまで頑張れるんですかッ!」

神楽坂明日菜は既に幾度となく膝をついても尚、またすぐに起き上がる。

「はぁ……はぁ……そんなの……私にもよくわからないけど、諦められないのよ!それにネギだっていつも……頑張ってるじゃない!」

「説明になってないですよ!アスナさん!……あれ……なんで涙が……出てくるんだろ……」

「どうしてネギが泣き出すのよ!私が泣きたいぐらいよ!もう……やだ、私も何か涙出てきたじゃない」

熱い汗と涙の青春とは大分状況が違うが涙が止まらなくなった二人だった。
勝手に目元からこぼれ出続ける涙がようやく落ち着いたところ。

「……理由はともかくアスナさんの気持ちはなんとなくわかった気がします。ありがとうございます、アスナさん」

「……なんでお礼するのよ」

「アスナさんからは……どこまでも優しさ、それしか伝わってこないんです。だから……ありがとうございます」

「……優しさ?もう……よく分かんないけどネギが何かわかったならそれでいいわ。にしてもどれだけ強くなってるのよ、10歳の子供の癖に」

「年は関係ないですよ、僕は僕の道を進むだけです」

「全く……そんな事言う割には心配でみてられないんだから、このっ」

ネギ少年の頭の上に手を置いて雑ながらも姉のような態度で撫でるのだった。

「アスナさん、ちょっと痛いですよ」

「私がさっきどれだけ痛い思いしたと思ってんのよ!」

「ちゃんと調節してたんですよ!それに大体アスナさんが……」

何かいい空気になったかと思ったらすぐに言い合いが始まるあたりは変わらない二人だった。
そんなギャーギャー言ってる所にエヴァンジェリンお嬢さんが戻ってきた。

「何やってるんだお前達……神楽坂明日菜、随分ボロボロじゃないか。私も一応治癒魔法は使えるから手当してやる。それで話はついたのか?」

「えっ!?ホント?」

「マスター、話がついたとは言えないですけど、アスナさんが一生懸命だっていうのは分かりました」

「拳で語り合うなんて本当にやるとはな……。ほら、傷を見せろ」

お嬢さんは手で招いて近くに中学生を寄せた。

「あ、お願いします」

―治癒―

「はぁ……神楽坂明日菜、お前は自分の特殊体質を理解しているか?」

「……石化魔法だっけ?あれが効かなかったと思ったらあの白髪の子供に攫われかけた事?それってそんなに重大なの?」

「あの小僧はかなり手強い。それが攫おうとするのだから重要なんだろうさ」

「アスナさん……やっぱり危ないですよ」

「ネギ!さっき分かったっていったばっかりじゃない!」

「おい、暴れるな……」

「ご、ごめんなさい」

「ぼーやは心配だろうが自衛手段ぐらい持っていてもいいだろう。刹那にでも剣を習うといい」

「刹那さんに剣を?」

「そうだ。古菲のように武術を学びたいならそれでもいいがな。一応説明しておくが刹那の京都神鳴流は武器を選ばんから素手でも戦えるぞ」

「そうなの!?刹那さんならこのかと最近仲いいし頼んでみようかな」

「マスターどうしてそんなに積極的に?」

「何、ただの気まぐれさ。それにぼーやも神楽坂明日菜が一般人とは思えない身体能力をしているのは分かっているだろう?」

「それは僕も何度も見ているので分かります」

「え?私そんなに変じゃないわよ!」

「アスナさん、自動車と同じ速度で走れるのは普通じゃないですよ」

「普通は綱引きで一人が引っ張っただけで勝敗はつかんだろう」

「ぐ……私普通じゃなかったの……」

「いいじゃないか、それだけ見込みがあるという事さ」

「確かにアスナさん凄いですね!」

「今更何褒めてんのよネギ!何も出ないわよ!」

「痛いですよ!手が出てるじゃないですか!」

「そういう事を言ってるんじゃないの!」

「そういうところは子供だな……」

そんなこんなで話がなかなか進まない空間が広がっていたが、神楽坂明日菜は桜咲刹那に剣術諸々を教えてもらう事をとりあえず勝手に決めたのだった。
当然2時間程度しか経っていなかったのでその後ネギ少年とエヴァンジェリンお嬢さんの模擬戦を神楽坂明日菜は見ることになったがやはり驚きの連続だったようだ。
とにかく動きが速すぎるから仕方はないのであるがそれでも割とすぐに目が慣れたあたりやはりどうかしていると思う。
流石に咸卦法をいきなり試させようということにはならなかったがそのうちそんな事もあるのかもしれない。
しかし、何はともあれお嬢さんの懐の広さというものがなんとなくわかる。
その後すぐ神楽坂明日菜から直接鍛えて欲しいと頼まれた桜咲刹那は当初良くわからない風だったが、お嬢さんの元に出向いた時に話を聞かされ「はぁ……そうですか。わかりました。私もまだまだ修行中の身ですがそれで良ければ」と律儀なのは変わらなかった。
他の面々は一体どうなっているかだが、古菲はフェイトにボッコボコにされた経験から武術の修行に何か物足りなさを感じていたところ、忍者の凄さを見た事から小太郎君もついていく山篭りの修行に「私も行くアル!」と忍者の部屋に張り付いて離れず、山篭りの人数が増えた。
気の扱いに関しては驚くほどエキスパートである忍者からは古菲も小太郎君も学ぶことがまだまだ多いようだ。
特に瞬動術は古菲にはかなり役立ったらしい。
しかしその後麻帆良郊外の岩山が砕け散る現象がそこかしこで観測されるようになったのだが自重して欲しい。
程なくしてたまにお嬢さんの魔法球にも混ざるようにもなるのだがそれはまた別の話である。

さて、図書館探検部の綾瀬夕映と宮崎のどかはどうかというとかなり迷っていた。
宮崎のどかは前から、綾瀬夕映は2年の期末テストの一件から地味に綾瀬夕映もその気はあったようだが、修学旅行の一件でネギ少年の千の雷での派手な登場からの活躍を見てしまい何か憧れのようなものとネギ少年がどこか遠く離れた存在のように感じられたようだ。
それと魔法に興味が尽きなくて仕方ないらしい。
地球での魔法を行使することを可能にしている神木の精霊である私としては精霊冥利に尽きるというかそんな感じなのだが、そんな事は露知らず意を決した二人は5月も半ばという頃ネギ少年の部屋に訪れたのだった。
部屋のインターホンを鳴らして出てきたのは神楽坂明日菜だったが。

「あれ、夕映ちゃんに本屋ちゃんじゃない。どうしたの?」

「ネギ先生に話があって来たのですが上がらせてもらってもいいですか?」

「うん、いいわよ。いらっしゃい」

「失礼するです」

「失礼します」

「ゆえ、のどかいらっしゃい。どうしたん?」

「あれ、のどかさんに夕映さん、こんばんは。話というのは何ですか」

「あ……あの!私達に魔法を教えて欲しいのです!」

と、綾瀬夕映は勇気を振り絞って言ったのだった。
いや、これが魔法がない世界だったら本当に痛い発言なのだが、実際使えるのだから真面目な話である。
ネギ少年にしてみれば折角なんとか納得できた神楽坂明日菜に引き続き、更に二人、しかも取り柄は図書館探険部で何気に鍛えている体力あたりぐらいが評価できる人達の登場である。
そこでネギ少年はなんとかして魔法に関わろうとするのを思いとどまらせようと危険性を説いて聞かせていたのだが、恋する中学生は手ごわかった。
しかも近衛門に色々言い聞かせられている筈の孫娘は応援したくなったのか火よ灯れぐらい挑戦してもいいのではないかとか言い出した。
更に神楽坂明日菜は「なんとかなるわ、大丈夫よ」と自分がゴリ押しした経験から二人に割と肯定的だったのはネギ少年にとっては刺客でしかなかった。
結局考えさせて欲しいと一旦何とか二人を部屋に帰したネギ少年だったがつい最近まで佐々木まき絵の新体操部の夏の大会の選抜テストの為に朝一緒に特訓に付き合ったりもしていたというのに次から次へと問題が尽きず苦労している。
就労制限どころか勤務時間外も忙しすぎて半端ではない。
次の日ネギ少年はエヴァンジェリンお嬢さんにその出来事について話し、お嬢さんはひどく苦い顔をしたが、ご自分もナギに惚れた経験からか、なんとなく絶対ダメとは言えず「好きにしろ」で終わったのだった。
こればっかりは数百年出会いに恵まれなかったお嬢さんにとっては仕方がないかもしれない。
ネギ少年は魔法のことが他人にバレたらオコジョになるというのは忘れたことは無かったが、順調に裏の関係を知る人物が3-Aに増えていく事に疑問を感じざるを得ず、自分のどこに問題があるか真剣に悩んだりもした。
修学旅行が不可抗力だったから仕方ないとは言え悩ましい問題である。
結局折れに折れて「他の人にバレたらそこで終わりにします。それでもいいですか?」という条件を付けた上で手持ちの初心者用の短い杖を二人に渡し、火よ灯れ、物を動かす魔法、未来を占う魔法の魔法学校に入ったら必ず習う最初の基本的な魔法の練習法について教えたのだった。
その際孫娘が実演してみせたのは二人のやる気を大変上げたのであるが、あんまり自慢すると近衛門に言いつけますよ。
本当に心配なのは度々二人の部屋に強引に突入する早乙女ハルナただ一人であるがかなりの強敵である。
ラブ臭という迷惑千万なセンサーが搭載されている彼女はまるで埋まっている地雷ですら安々と探し当てるダウジングマシンか何かのようだ。
結局一番厄介なのが身近な人間とは皮肉なものであるが、約束したからには何としてでも二人は頑張るようだ。
……修学旅行に端を発したゴタゴタは大体こんなものである。
一方この間超鈴音はというと自分のやるべき事を着々と進行させていた。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

いや~魔法球を2年前と同じようにまほネットで個人情報を適当に偽造して注文し、届く荷物としては地球の普通の家具として来るように手配したのだが、5つとなると部屋のスペース的に邪魔で仕方が無かたヨ。
流石に20億近くかかたのは怪しまれる事請け合いだから近いうちに記録を改竄しておいた方がいいだろうネ。
届いたのは修学旅行から帰てきてすぐの5月の頭だたが丁度間に合いそうだナ。
早速田中サンにエヴァンジェリンの家まで運搬をお願いしておいたが届いた筈ネ。
一応付属した手紙に詳細を書いておいたから大丈夫だとは思うヨ。
科学迷宮用の敷設ワイヤーも龍宮神社の周りを囲うだけの長さも取れそうだし、端末の数も余りそうなぐらいには用意したネ。
後はメインの総合管理用のプログラムとスクリーン等が必要だナ。
ネットワークはSNSの特設コミュニティで間に合わせればいいしネ。
SNSと言えばとうとうアメリカでの導入も完了し世界規模で運用がスタートし始め、今まで主要な使用言語が日本語が多かたが英語の使用率が急速に伸び始めたヨ。
学園長からの話だと武道会の参加者数はかなりの数に登るようで、京都神鳴流の宗家も来ると聞いているのだが最強の剣客集団が参加とはこれは主催者としての腕がなるネ。
刹那サンにとては最高峰の技を見るのにいい機会になるのではないかナ。
まほら武道会の準備はこの通り順調に進んでいるヨ。
そして今は……DNA鑑定の真最中ネ。
修学旅行で手に入れたネカネサンの髪の毛と明日菜サンの髪の毛とネギ坊主の髪の毛の比較の結果がそろそろ出るヨ。
教室では私のすぐ後ろの席に明日菜サンは座ているから髪の毛は簡単に採取できたネ。
結果はどうかナ……。
これは……。

《翆坊主、さよ、DNA鑑定の結果が出たヨ》

《おお……何かマズい気がしますがどうだったんですか?》

《ドキドキしますね》

《簡単に言えば三人共親戚だたヨ》

《あーまあ……似てますからね》

《えっ、ってことはネギ先生達は神楽坂さんの家族みたいなものなんですか?》

《ここからが怖いところなのだが……遺伝的には明日菜サンが一番古いようネ》

《それは……神楽坂明日菜が先祖という事になりますね》

《えええええ!?》

《当然私も遠い親戚ということになるのだが、流石に私まで来るともう関係は薄いネ。実に歴史的価値ある資料を手に入れた気がするのだがとてもではないが公表できないナ》

《もしかしたらとは思っていましたが、本当に魔法世界の尻拭いをしているだけなのかもしれませんね……》

《始まりの魔法使い、アマテルという女の人だたという伝説だがどうなのだろうナ》

《残念ながらその情報は私も把握していない上、2600年前のローマ帝国は観測していないので謎ばかりです。それに彼女が実在したとしてもたった一人だけ魔法使いだった訳ではないでしょうし》

《ふむ、そうだネ》

《しかし、ある意味髪の毛の色である程度判断できましたね》

《キノ、どういう事ですか?》

《明日菜サンは黄昏の姫御子というその名の通り黄昏時つまり美しい夕焼けの髪の色をしていると言いたいのかナ?》

《そういう事です。髪の色の濃さから言っても神楽坂明日菜の方が上代の存在である証明になります》

《……なるほど、だからネカネさんは金髪に近くなって少し薄いんですか。いいんちょさんにも似てるのは遠縁だったりするんですかね?》

《大体予想できるが多分その可能性は高いナ》

《大方神楽坂明日菜の身体能力が異常に高い理由も血が濃いからで説明できそうですね》

《生ける化石みたいなものだネ》

《神楽坂さんって実は私よりお年寄りなのかもしれないんですね……》

《多分長期間封印されていたと考えるのが正しいヨ》

《……やっぱり触れない方が良かった部分でしたね》

《……そうだナ。でも一応明日菜サンがネギ坊主に構う理由は子孫を守るという本能だと分析できるヨ》

《本人が理解していないにも関わらず勝手に身体が動くのは確かに本能ですね》

《何だか複雑なのに私達3-Aと合わさるともう、混沌としてる気がします……》

《3-Aだからこそ混ざていられるとも言えるヨ。報告はこれで終わりネ》

《興味深い事が分かりました。そういえば警察から表彰状を授与される日取りが決まったそうですね》

その話カ。

《……思い出したくなかたのだが、出たくないヨ》

《私達ハッキング普通にしてますもんね》

それは主にまほネットの方ネ。

《確実に新聞に乗りそうなのだがどう回避したものカ……》

《超鈴音、髪型から色々変えるのはどうですか?》

うむ、一応パッと見は変わるナ。

《鈴音さんのお団子下ろして出るだけでも大分印象違うと思いますよ!》

《ふむ、後はハカセから度の強い眼鏡でも借りるとするかナ》

《突然仮装とは有名になると大変ですね》

《命が懸かているからやるしかないヨ》

6月頭にその予定らしいがやはり遠慮したいネ……。
折角ダイヤモンド半導体も完成したというのに気分は微妙だヨ。



[21907] 32話 まほら武道会要綱
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/02/19 21:24
気がつけば3-Aの中でも裏及び魔法関係に関わっている人数が15人もいるという状況になっていますが、これからも増えていくかどうかは謎です。
少なくともネギ先生が油断して直接バラしてしまったのは神楽坂さんただ1人だけです。
いいんちょさんなんかは魔法球に勝手に入ってきたのが悪いですしね。
そういう訳で新たに裏に関わった人達の生活もそこそこに始まり5月26日に今年最初の中間テストがありましたが相変わらず4位までは独占しているのは変わりありません。
神楽坂さんの順位は前回よりも更に上がっているようで、きっちり高畑先生に時間を取ってもらう約束は継続中です。
当たり障りの無い会話をしただけかと思えば、裏に関わっただけあってその話も少ししたみたいですが、高畑先生は神楽坂さんが咸卦法がどうとか言い出した為冷や汗をかいていたそうです。
そして6月2日新聞に普段とは違う姿の鈴音さんが新聞の紙面にそこまで大きくはないですが写真が載りました。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

埼玉県警まで出向くことになて、出発する前に予め雪広グループとも打ち合わせをしてできるだけ普段の格好とは異なるような化粧に始まり変装を頼んだヨ。
髪はさよに言われたとおり下ろした状態にして、いつもは全然考えていない化粧もして目の周りも原型が残らないようにし、眼鏡をかけて準備万端となたネ。
西川サンが言うにはその方が美人に見える等と言われたが違和感があるから微妙だヨ。
麻帆良の外にある埼玉県警まで厳重な警備の元移動はうまくいたが、逆に目立ちすぎたとしか思えないネ。
報道関係者が大量に待機しているものだから雪広のエージェントを突破してマイクが飛び出たりシャッターが切られたりと有名人になるのは私は御免だヨ。
署の中に入た後も署内の職員の人が皆見てくるから手早く移動を済ませ、ようやく署長室に到着したネ。
12月に会て以来の篠田本部長以下見た人達が勢揃いしていたが、最初入た時「お嬢さんはどなたかな?」と聞かれたが「超鈴音です、篠田本部長。この度はお招きいただきありがとうございます」と答えておいたヨ。
そしたら「眼鏡は伊達だと思うがとても良く似合っていますね」と褒めてくれたのは慣例だと思いたいナ。
そもそも、表彰状、私の場合は民間人だから感謝状という事になるのだが、功績としては三次元映像関係の技術の開発によって犯罪率が激減、残った映像が証拠としてフルに機能するなど、世間の役に立つ働きをしたからという事ネ。
三次元映像撮影機を開発したのにも関わらず、感謝状の授与の際に取られる写真やら映像は一般的なもので行うというのは少々おかしいと思うヨ。

乗り気では無かたもののその後は流れ作業だたから打ち合わせ通りに感謝状を受け取て、その瞬間をきちんと写真に納められ、鉄警隊の根岸管理官やら科捜研の榊原所長に絶賛され、挨拶を交わしたネ。
相当効果があたようでこれなら私もニアオーバーテクノロジーを放出した甲斐があたナ。
そこでまた私が構築したSNSの件についても言及されたが、違法コンテンツに関しては巡回プログラムに即座に潰されるようになていて健全性について評価を受けたヨ。
多分この振りは、サイバー犯罪も近年増加傾向にあるから、これだけの技術を持ているのだから協力して欲しいと暗に言ているのだろうナ。
好きなことだけやていればそれでいいという程完全に自由な環境から離れていくのも近いかもしれないネ。
結構気になていたのは私は一応中国からの留学生という事になている上、戸籍は偽造だから、その辺りの追求が一切無いのは何かうすら寒いものを感じるが雪広が手を回したのだと信じたいヨ。

無駄に肩の凝る空間から解放されたと思えば翌日予想していた通り朝刊に変装した写真が載ていたヨ。
学校に行くために女子寮を出た瞬間麻帆良の独自メディアが大量に待機していてあしらうのに苦労したと思えば、学校につけば皆からは「新聞は白黒だけどあの写真の超りん綺麗だったね」とまた褒められるし、極めつけはネギ坊主も「超さん凄いです!写真も綺麗でした!たまに髪下ろすのもいいと思いますよ!」と満面の笑顔で言われたのだが私のご先祖様にも困たものネ。

恥ずかしいイベントもあたが、これから20日までの学園祭に向けて本格的に準備をしなければいけないし、また3-Aの皆の事だとアホな案ばかり出して決まるまでにかなり揉める筈ネ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

今年の麻帆良祭の3-Aの出し物は決定までに難航を極めています……。
金儲けに皆走り始めたため今年は喫茶店関係から出し物が出始めましたが1年の時に似たような事やってますし、段々破廉恥な出し物でふざけ始めた極めつけにはあの那波さんが「素直にノーパン喫茶でいいんじゃないかしら?」ってそれ昔の風俗業の店ですよ!
私達、いえ私は幽霊でしたけど88、89年代生まれで知っているということは実は年齢詐称疑わ!?
マズイです!
とんでも無く黒い気配を感じるんですが右後方を直視したら成仏する気がします!
私そんな変な事考えてません!
どちらかというと私が年齢詐称してました、ごめんなさい!

……結局この日は決まらずネギ先生が全然まとめられなかったとショックを受けていましたが先生のせいではないですから元気だしてください。
そういう時に五月さんの常駐する超包子によくネギ先生はよく寄るのですが、今回も同じで偶然来ていた新田先生の隣の席に座り3-Aについての悩みを吐き出していました。
10歳にしてそんな心労がたまるなんて麻帆良は本当におかしいですね。
私も店員として丁度働いていたのでネギ先生に声をかけておきました。

「ネギ先生、3-Aの出し物今日は決まりませんでしたけど気にしないで大丈夫ですよ」

「え?相坂さん、でももうそろそろ他のクラスは準備始めてますよね?」

「そうなんですけど、大体いつもA組はギリギリまで出し物が決まりません。でも決まる前兆があって絶対にありえない出し物が案に出た後次の日ぐらいに皆一致団結してあっという間に決まるんです!だから安心して下さい!今日決まらなかったのは先生のせいじゃないですよ」

「ほ、本当ですか!?うわー、未だに皆さんについていけない時があって困ります。僕もう少し皆さんの事が理解できるように頑張ります。相坂さん、ありがとうございます!」

3-Aの事を完全に理解してしまったら麻帆良の外で逆にやっていけないと思いますから頑張らなくていいですよ。

「どういたしまして。ネギ先生も五月さんの料理で元気つけてくださいね」

「はい!いつも美味しく食べさせて貰ってます!」

やっぱりネギ先生は元気なのが一番ですね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

まほら武道会に向けてネギ少年、小太郎君、話を去年のウルティマホラでサヨからその存在を聞かされていた忍者を始めとし、古菲、桜咲刹那、まだ1ヶ月と少し程度しか鍛錬していない神楽坂明日菜は日々精進し続けている。
そして超鈴音と直接交渉された龍宮神社のお嬢さん……は特に元々生粋のスナイパーなのでその場で出場するようだが、とうとう6月6日、裏のルートで公式要綱が発表され各所に通達されたのだった。
無事に3-Aで揉めた出し物の内容もお化け屋敷に決定したその当日6月7日、丁度麻帆良祭から2週間前の事である。

まず主催者と協賛の内訳が超鈴音であったことに、彼女を知る一部の人達は大いに驚いた。
更に麻帆良学園そのものと雪広グループによる協賛がされている事から、いかに一大イベントであるのかがわかるだろう。
そのまほら武道会のやる気の凄さを表すものの一つとして、出場者登録をする選手及びその付添は雪広グループ提供で宿泊施設の3日間の無料使用権が与えられているのだ。
そう、一日で終わりなどではなく三日間行われる知る人ぞ知る極秘の大会になった。
近衛門が流した情報の範囲は広く、西に関西呪術協会、京都神鳴流、忍の里、東に関東魔法協会そして各地の独自流派で気を扱う道場関係者、個人的に知っている使い手等にあまねく知らされるという徹底ぶりだった。
当然、誰にも見せられず秘匿しなければいけという事で出場できない方々も多いであろうが。
その中には例のひなた荘の住人関係者も含まれていた。
東京大学法学部1年青山素子、同大3年の浦島兄とその妹、瀬田夫妻と見た感じ謎ではあるが、その実、神鳴流宗家最強一角の使い手、それの鍛錬に付き合っていたり武術を嗜んでいたらやたら強くなっている上に不死身のような身体をしている浦島兄、忍者かと思えるようなその妹、中国武術で達人レベルの夫婦と麻帆良並に濃い。
出場予定の人は予め麻帆良学園の特別窓口に連絡先の住所を申請する必要があり、その後順次専用端末が配達されるという仕組みだ。
選手登録者にとってはそれが龍宮神社へ入るための許可証となる。
付き添いの人物は選手が端末で人数を申請しておけばしっかり宿泊施設を利用できるし、専用の出入り可能になるチケットが間もなく届く。
そういう事で一応遠隔地に住む裏と関わりのある人間も参加がしやすい仕組みになっている。

超鈴音が復活させるまほら武道会であるが、まず龍宮神社の一帯の完全貸切+周囲に特殊科学迷宮ワイヤー敷設が対一般人工作の第一段階で、これを突破するためには前述の端末かチケットが必要である。
次にエヴァンジェリンお嬢さん完全監修の元に調整が加えられた超特殊魔法球5つが舞台として用意されており、その性能は時間の流れを等倍から最大5倍まで自由に変更ができ、かつ短時間で出入りを可能にする事ができる上、外部からの観戦が可能というものだ。
はっきり言って凄過ぎる。
後でお嬢さんから聞いたことだが、一部精霊化してから魔法球をいじるのはこれが始めてだったらしく、5%分魔分が無限なので、時間を24倍までにはしない代わりにかなりありえない性能にできてしまったらしい。
魔法球というよりもう既にただのブラックボックスである。
それを龍宮神社会場内の巨大スクリーンで等倍速で試合が行われるものについては映像が映し出され、倍速で行われている試合を等速で見たい人は夢見の魔法で覗けるし、それができなくても全ての試合を後から端末で映像を見られるという機能までついている。
当然その魔法球と全般的システムが異常すぎる事自体を認識阻害する魔法が龍宮神社全体にかけられるのは抜かり無いようだ。
更に、ウルティマホラでも効果を発揮した、魔分溜りを利用した回復術式の調整を骨折だろうと治るレベルまでに高めたものが用意されているので棄権で出場できなくなるという事が起きないようにという配慮もなされているがこれは流石に要綱には記載されてはいない。

大会の試合形式であるが、これも端末をフルに使ったハイテクなものとなっている。
何やら方式名は長ったらしいが、ポイント獲得型ランダムリーグ方式という正直良くわからないものである。
とにかくトーナメントではなく、ランダムな擬似総当り形式で、勝敗によって選手の持ち点が増加して行き、その総合ポイントで順位を決めるというものらしい。
ランダムとはどういう事かといえば、試合を組む前段階で端末に表示される選手登録者一覧から各選手は対戦してみたい相手を優先度順に5人まで申請する事で、その際に集計された結果から人気度順に倍率がズラリとランキング化される。
この倍率こそがポイント獲得の鍵になるのだが、例えば係数が3倍に設定されている選手に勝てば自分の持ち点が3倍になる。
負ければ相手のポイントが無条件2倍になるだけで対戦を申請した選手の得点には影響はない。
次に改めてそのランキングを参考にした上で対戦相手の申請を同じく5人まで行い対戦相手がプログラムに従って確定される。
当然被ることがあれば抽選が行われるが、何度も高い優先度で申請を重ねていけばその分申請が通る確率が上がる仕組みになっている。
5人目まで申請した相手が全滅だった場合は完全にランダムになるがそれは止むを得ない。
ただ、一定以上倍率が高い選手側には対戦相手の申請権が無くなるので基本的には挑戦を受ける側に徹する事になる。
それとは別に彼らには対戦相手の確定個別指名権が与えられるので、例えばタカミチ少年の人気が高くなったとしても、タカミチ少年が権利を行使さえすればネギ少年との対戦が別個成立するので問題ない。

以後これを3日間、午前10時から午後6時まで何度も繰り返すことで持ち点がどんどんインフレしていき最終的な得点を争う訳だが、太っ腹な事にそれが賞金に繋がるらしいのでインセンティブとしてもなかなかのものだと思う。
賞金の出元は主に超鈴音の自費が大半を占めるだろうが……。
また、完全貸切という事から大会と関係なしに選手同士で直接交渉するなりなんなりして午後6時以降に勝手に試合を行うことも可能であるので、大会というより技の祭典というものに近いと思う。

3日間と言っても当然途中でリタイアしても構わない制度になっているし、試合時間も申請しておけば、双方の都合が合う時間になるようにできるだけうまく自動的に決定され端末に試合時間一覧がズラリと並ぶようになっているので自由度が高い。
その為途中で龍宮神社から出てまほら祭を楽しめるようにもできている。
恐らく選手は100人ぐらいになると思われるが、そうなる場合大体1日に選手一人あたり4試合程度までが目安となるので最大で試合の間隔は4時間程度あり、十分麻帆良祭自体を楽しむ事ができると思われる。
リーグ方式と言っても全ての総当り戦を行う訳ではないので1200試合ぐらいが限界だろう。
それでも十分おかしい試合数ではあるが。
3日目が終わった段階で端末のデータは自動で全て削除されるようになっているのでそのあたりも抜かりはないらしい。

試合そのもののルールであるが、基本的には飛び道具や刃物は禁止で木刀や投石については可で呪文詠唱は禁止(広範囲魔法は武道会に即していないから)但し技名は可である。
その他に真剣勝負を行う事も双方の同意があれば可能となるが寸止めは絶対条件となる。
舞台は15m×15mで制限時間は15分、10カウントのリングアウト及び気絶で敗北、ギブアップ有り。
判定は茶々丸姉さんの妹達による厳正な科学判定とそれぞれに人間の審判が5人付くことになっているが基本的に雪広グループのエージェントであったり、麻帆良学園の先生だったりする予定だ。
舞台はいくら破壊しても構わないように土でできており、修繕は苗字さんシリーズのロボット達が活躍するそうだ。
ここまで来ると昔の原型を止めていない気がするが、どれだけ超鈴音はまほら武道会に思い入れがあるんだろうと不思議でならないが、原動力というのは凄いものだ。

そして現在、ネギ少年の部屋がカオスになっている。
原因は主催者が超鈴音であることに起因している。

「皆明日菜サンの部屋に集まてくれたようだが大分狭いネ」

部屋に集まっている人はネギ少年、神楽坂明日菜、孫娘、桜咲刹那、古菲、忍者、龍宮神社のお嬢さん、サヨ、そして超鈴音、計9人である。

「あの、超さんと相坂さんは裏……の事をしっているんですか?」

因みにサヨと春日美空は修学旅行でのゴタゴタの際にネギ少年には見られていない。

「そうだヨ、ネギ坊主。驚いたかナ?でも私は茶々丸の開発に携わているのだから不思議では無いだろう?」

「私の部屋三人は大分前から事情があってその辺の事を知っていたんですよ」

「そうか……茶々丸さんってガイノイドだったんですよね」

「どうして知ている等と聞かれても困るから単刀直入に聞くが、ここにいる皆はこのかサンは除くとしてもまほら武道会には出てくれるのかナ?」

「こんな面白そうなの出るに決まているアルよ!」

「古はそう言うと思ていたネ。刹那サンも出るといいネ。京都神鳴流の宗家の人が来るヨ」

「ええええっ!?宗家の方がいらっしゃるんですか!?」

黙っていたところ突然の振りに驚きに驚いている桜咲刹那である。

「ここで敬語を使ても仕方がないヨ、刹那サン」

「ハッ……そうですね。いえ、宗家の方がいらっしゃるというのであればこの私も是非研鑽の為に参加したいと思います」

「せっちゃん、そんなに宗家の人って凄いん?」

「お嬢様、凄いどころではないですよ!もう、何といいますか、こう、ああ……うまく言い表せません」

「刹那サン、落ち着くネ。楓サンは前にもさよが少し話した事があたと思うがどうかナ?」

「拙者も修行ばかりでござったが、力を見せても構わぬ大会があるならば出場するでござるよ」

「ありがとネ」

「超、私も興味があるから出させてもらうよ。一応場所を提供しているしな」

「私もまだ1月ちょっとぐらいだけど出てみるわ!」

「アスナさんも!?ぼ、僕も絶対出ます!」

「鈴音さん、全員出てくれるみたいで良かったですね」

「うむ、今まで数ヶ月苦労した甲斐があたヨ。では先に大会専用の端末を渡しておくから個人情報の登録を済ませておいて欲しいネ。ネギ坊主、明日小太郎君にも渡しておいて貰えるカ?」

「は、はい、勿論です!」

「では一人一つずつどうぞ」

サヨが孫娘以外に渡し終え作業は完了である。

「これが出入りするためのチケットの役目も果たすので無くさないようにして下さい」

「このかサンには観戦用チケットを後で用意するから待ていて欲しいネ」

「うちにもあるんか。超りんありがとう」

「それでは大会まで2週間程だが修行頑張てネ」

「皆さん、失礼します」

「あ、あの!超さん達は魔法を使えるんですか?」

「私には科学があるヨ」

「私は知っているだけですよ、ネギ先生」

はっきりと答えなかったが飄々とネギ少年の部屋から先に退出した二人であった。

「して、この端末はどう使うでござるか?」

「んーわからないアル」

点で駄目だった。

「楓、古、私が教えてやろう。ネギ先生達も一緒に登録するか?」

「はい、そうしましょう!」

その後しばし時間をかけて選手登録を無事済ませたのだった。
それにしても……。

《超鈴音、随分大会の用意頑張りましたね》

《エヴァンジェリンの用意する魔法球が凄いからナ。それに予想だとかなり人数が集まるみたいだから沢山試合を見てみたいしネ。トーナメントで起きやすい相性の問題もこれで解決できるし悪くはないと思うヨ》

まるで生きた標本でも記録するかといった風だ。

《裏の人でも流石に魔法球やら回復術式は信じられないと思いますがね》

《認識阻害を甘く見ては駄目ネ。そもそも麻帆良に認識阻害がかかっている上に更に認識阻害をかけるのだから誰も不思議に思わないヨ》

そうか……二重にかけるのか。

《しかし魔法有り、気有りだと気しか知らない人間にとってはどうなんですか?》

《遠当ての技術は普通に存在するから魔法の射手を見たところでそんなに驚かないヨ》

《まあ魔法の射手なら有りでしょうけど、ネギ少年の断罪の剣なんかはどうかと……》

《神鳴流の派手な技に比べれば意外と地味じゃないカ?》

《確かに……帯電させたりする技からしたらあまり変わりませんね》

《そういえばネギ坊主はまだ断罪の剣の完成には時間がかかるのカ?》

《えー、魔分で完璧に行うのにはまだもう少し時間がかかりそうですよ》

《まだか……でも生身にしては頑張ているナ。ネギ坊主がどこまで成長するか分からないが断罪の剣を完全に魔分で行えるようになたら分解をマスターした事になるネ》

《とうとう1か0の世界に突入ですか》

《1か0と言ても結局は出力の問題になるけどナ》

《再構成はどうなるでしょうね》

《私はできるようになたが、アーティファクトの恩恵が強すぎるネ。しかし、分解と再構成を突き詰めるとこれが異界と空間を繋げるという事との繋がりがあるだろうというのがなんとなく分かるナ》

《やっぱり始まりの魔法使いは最初の基本魔法の天才だったんですかね》

《しかも特殊体質だたというオチ付きだろうネ》

《あー、世界って変わってますね全く》

《だから面白いんじゃないカ》

《おっしゃる通りで》

元々この神木すら自然発生するような世界だからそういう事があってもおかしくは無いか。

《まほら武道会だが、全試合を見れるようにしたと言ても選手は大体100人ぐらいになるだろうから一回毎、全試合等倍速で見るだけでも最大で24時間かかるだろうというのは少し騙している気がするヨ》

《好きなものだけ見ればいいんだと思いますよ》

《トーナメントではない事の弊害でもありメリットでもあるネ》

《昔ながらというより記念すべきオーバーテクノロジー版まほら武道会の復活ですね》

《どうせやるなら盛大な方がいいネ。表でも田中サン達で超包子主催イベントやるしイベントは尽きないナ》

《鬼ごっこでしたか》

《それなりに参加者は出ると思うヨ。とりあえず頑張れば商品券だからネ》

《弐集院先生が頑張るのが目に浮かびますね》

《あの先生はまほら武道会では観戦側の人間だろうナ。魔法先生なのに表で頑張るとは面白いネ》

《私はあの先生の始動キー未だに最高だと思ってますから》

《翆坊主の趣味は分かたヨ》

《さて、私は魔分溜りの補充でもしておきますか》

《そうしておいてくれると助かるヨ。回復術式に認識阻害の二つを使うからネ》

《はい、任せてください》

《審判もやるカ?》

《どうでしょうかね。誰かにバレそうですからね……》

《ふむ、そうだナ。でもせめてさよには会場で管制をやてもらうとするヨ》

《そういう超鈴音は出場しないんですか?》

《小太郎君ではないがやはり世界樹の加護は他人には見せられないネ。それに主催者だから色々と忙しいヨ》

《そうするのがやはり安全ですね。忙しいといえば3-Aのお化け屋敷は準備間に合うんでしょうかね》

《どこまで凝るかによるが、皆は際限なくやりそうだから泊り込みなんて事しそうだナ》

《新田先生が大変ですね》

《3-Aについてはもう諦めてもらた方がいいヨ》

やれやれ、お祭り騒ぎが好きな女子中学生だことで。

その後、出場を決めた選手達からまほら武道会運営本部にどんどん申請が届き、その都度専用端末が送られて行った。
予想通り合計人数は100人より少し少ない94人となった。
内訳はネギ少年達のグループ含め魔法生徒、魔法協会、呪術協会、京都神鳴流、ひなた荘関係者、忍、中国及び日本等の拳法の達人達そして雪広グループのエージェント等である。
それぞれ面白い事になりそうだ。
京都神鳴流には近衛門から個人的に詠春殿が誘われて参加表明してしまったのだが、怖いお姉さん達も参加する事は詠春殿には伏せられているのでカオス化するだろうし、忍達の申請は長瀬楓にとってはとんでもないサプライズになると思われる。
ひなた荘関係者には中国拳法の達人がいるので古菲にとっては手応えがあるだろうし、忍者っぽい人もいるのでこちらも長瀬楓にとっては面白いかもしれない。
明石教授はある人にサインを頼むかもしれないがそれは個人的にやって欲しい。
付き添いには以前予期していた南の島の王国の人が超鈴音の端末を見たのも関係有るかは知らないが、付き添いでくるだろうと思われる。

《翆坊主、麻帆良には温泉はあるかというのはどういう事だろうネ?》

そんな事大会本部に問い合わせてくるのは……。

《留守番させておいておけば良いと思うんですけどね。多分変わったカメの為だと思いますよ》

《変わたカメて何ネ?》

《時速60kmで空を飛んだりします》

《南の方に生息する珍しいカメの事カ》

《知ってるんですか?》

《私は麻帆良最強頭脳ネ》

これは恐れいった……。

《どう返信するんですか》

《女子寮の浴場の一部も温泉だからネ。雪広に繋いでおけば問題ないヨ》

霊脈が集まってるからと言ってなんでもかんでもあるのは贅沢極まりない。

《本当にパーフェクトな組織のようで》

《私も大分お世話になているネ》



[21907] 33話 2003年度麻帆良祭開幕
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/02/19 21:50
3-Aの出し物はお化け屋敷ですが、クラスの皆は結局普通の中学の学園祭ではここまでやらないレベルのセットを作るのに何の迷いもなく頑張り始めたので、やっぱり時間が足りなくなって学校にこっそり……はしてなかったですが泊まりこんで間に合いました。
新田先生がクラスにしっかり入ってきて確認していたら終わってました……。
ネギ先生人気は相変わらずで、麻帆良祭直前では皆からあちこちのイベントに参加する事を誘われていて、日程と時間を聞いてはメモしていましたが全部回れるのでしょうか。
軽い気持ちで変に期待させるような約束をしてはいけませんよ。
まほら武道会にはエヴァンジェリンさんも出るのかなと思っていたのですが、特別参戦ぐらいはあるかもしれませんが基本的には出ないそうです。
実際エヴァンジェリンさんは今年も相変わらずサークルの発表等が忙しいですから、まほら武道会には、魔法球の開発者として大会運営本部に出入り自由という待遇に留まっています。
鈴音さんの話によると私は未だに直接あったことがないクウネルさんは今年も麻帆良祭を分身体で見て周り、龍宮神社にも出入り自由という事になっているそうです。
今年の超包子は五月さんを筆頭にお料理研究会と雪広グループに丸投げな感じになって申し訳ないんですが、私はクラスでの仕事以外では多分プログラムの管制を主に鈴音さんと葉加瀬さんとやると思います。

そして前夜祭も盛大に行われ……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

いよいよ、6月20日金曜日から3日間の2003年度麻帆良祭の開催である。

初日は、生徒たちは8時頃に最終準備を行い、9時から本格的に外部から人々が入ってきた。
サヨ達はまほら武道会の開催式が10時からあるので、クラスとの折り合いをつけ龍宮神社へと向かっていった。
その際、朝倉和美が龍宮神社周辺一帯が完全占拠されている事にネタの臭いを嗅ぎつけていたため関係者の中学生達はこれはマズいと逃げるように彼女の近くから消えていったのだった。

そして龍宮神社会場内に入る際に佐藤さんシリーズに端末又はチケットを見せて入場したところそこは既にネギ少年達からは予想以上の人々の数で混雑していた。
出場選手96人に加えて、関東魔法協会及び呪術協会の戦闘タイプでない人々の観戦者用チケット申請、各極秘流派道場の関係者以下同様のため人数が揃いに揃っていたからである。

「ネギ!姉ちゃん達おはよう!凄い人数やな!」

「コタロー君おはよう!うん、本当に凄い人数だね。こんなに裏の関係者の人達いたんだ」

「おはようでござるコタロー」

「コタ君おはよう」

「コタロー君おはよう」

「コタローおはようアル!」

「小太郎君おはようございます」

「おう!しっかし学園長に見せてもろた映像と同じぐらいはおるで」

「マスターの話だとここ最近は小規模の大会になってたって聞いてたけど本当に復活したみたいだね」

神社境内に集まった人々でごった返している中。

「せっちゃん、あれ?父様やない?」

「お嬢様?あ、はい、間違いありません!」

「あ、詠春さんですね!」

「皆ちょっと待っててな、うちの父様紹介するえ!」

「私もお供します!」

そう言って元気に走って行って詠春殿に後ろからダイブした孫娘とそれを見て少々慌てた桜咲刹那は挨拶を交わしネギ少年達の所に戻ってきた。

「皆、うちの父様や!」

「これはどうも、皆さん、このかがお世話になっています」

「「「こんにちは!」」」

詠春殿は律儀にネギ少年、桜咲刹那、長瀬楓、古菲に修学旅行の件で孫娘を守ってくれた事についてお礼を述べ始めたところ……。

「……なかなかいいおじ様ね」

「アスナ、父様もタイプなんか?父様結婚しとるよ」

当たり前だろ。

「えっ?ち、違うわよ!どっちかっていうとあっちにいる人みたいな」

「えーどれどれ?あーあのさっきから笑い声が耐えない人やな。でも隣に付きおうてそうな人おるよ?」

「だから!そうじゃなくて!」

「あ!あの人殴られたえ!」

「え!?ほんとだ!凄い吹き飛んだけど……あ、頭から血が出てるのにまだ笑ってる!」

「丈夫な身体なんやね、あ!カメさん飛んどるよ!せっちゃん、あのカメ何かな?」

「お嬢様どうされま……何でしょうかあれは……」

「何なのあの人達……」

そう、殴られても軽く笑っているのは東大の考古学教授瀬田記康、そして殴ったのは奥さん、近くでその光景を見ていつもの事だと笑っているのはひなた荘の住人、飛んでいるのは温泉たまご、愛称たまちゃんである。
ただの一般人ではないか?と思われるかもしれないが、瀬田教授はあちこちの遺跡を掘り返したりする過程で表裏問わず修羅場慣れしているので問題ない。
そして神楽坂明日菜が呆れているのは現在浦島景太郎を巡りバトルも勃発しているからだ。
発端はその妹浦島可奈子が久しぶりに兄に会ったからであるが……。

「あの女の人中国拳法できるアルね!」

「殴られた御仁もかなりの使い手のようでござるな」

「ん?どうしたんだい……おお、あれは。素子君も来ていたんだね」

「長、知っているんですか?」

「あの男性は有名な教授ですよ。そして、近くにいるあの黒髪の女性は現在神鳴流で1、2位を争う師範の青山素子君、私の親戚です。もちろんこのかにとってもですが。……彼女は長い事関東に修行しに出ていたからこのかも刹那君も知らなかったね。鶴子君は知ってると思いますが彼女の妹さんですよ」

「ええ!?あの方が噂に聞く!?わ……若い……」

「へー、あの素子はん言う人はうちの親戚でせっちゃんと同じ神鳴流なんか」

「少しアキラに似てるね」

「おおっ似てるアルな!」

「ほんとだ、似てますね!」

「ほう、素子はんが誰に似とるんどすか?」

「!?だ、誰でござるか……気配が全く無かったが……」

気がついたら袴に蓑笠で顔を隠しながらネギ少年達の輪に混ざって現れたのは……。

「げっ!?鶴子君!?来ていたのか!……皆さん私はこれで失礼するよ」

突然挨拶も無しにそそくさと去ろうとする詠春殿。

「お、長!?」

「と、父様?」

「詠春はん、げっとはなんどすか?待ちなさい」

一瞬で鶴子さんが移動して首をガッ!っと掴んだ所詠春殿が戻ってきた。

「……いや、何も言ってませんよ。ちょっと用事がありまして」

「そうどすか……。後でお話を……いえ、大会で指名しましょうか」

ギリギリと片手で詠春殿の首を締め始め空中に吊り上げ始めた。
その光景は何やら先程の瀬田教授の扱いを彷彿とさせるが、ネギ少年達は鶴子さんの出す空気の酷さに声も出なかった。

「それは勘弁願えないかな……私も若くなくてね。首、首が締まってるから、いだだだ!ほら、鶴子君、刹那君ですよ」

まさかの孫娘の護衛を手で示し生贄として捧げた詠春殿。
その言葉に反応してポトリと詠春殿を地上に落としながら首をぐるりと桜咲刹那の方に向けた。

「あら、これは刹那はん、お久しゅう」

「鶴子様!お久しぶりでございます。その度はありがとうございました」

突如ピッと背筋が強ばりそのまま深々とお辞儀をする桜咲刹那。

「刹那はん、堅苦しい挨拶はいれへん。頭をお上げなさい。詠春はんに預けたきりどしたが修行は続けとるようどすな」

「はい、まだまだ未熟ですが……」

「そうや、うちが稽古つけましょか?」

「え!?そ、そんな私のような者に、滅相もない!」

「……うちの誘いが気に入りまへんか?」

ピリピリとした真剣な空気が広がり、急激に周囲の温度が下がり始めた。
怖い。

「い、いえ!そんな事ありません!ありがたくお受け致します!」

拒否なんてできる空気ではなかった。
地面ではその間孫娘が詠春殿に「父様大丈夫?うち治癒魔法使えるようになったえ」と囁き「さすが私のこのかです。私は大丈夫ですよ」とこそこそやっていた。

「よろしい。うちだけやなく姉様達も来とりますから楽しみにしときなさい」

その言葉を聞いた瞬間詠春殿の顔が更に青ざめ「お義父さん……騙しましたね」と呟いたのだった。
詠春殿が若い頃一人で魔法世界に行った最初の単純な理由は、既に腕は当時最強だったにも関わらず日々襲いかかってくる神鳴流の女性達が恐ろ……いや、ストレスから、世のためと大義名分をこじつけ逃げ出したのが始まりだったらしい……。
大戦が終わり戻ってきてみれば癒し系の木乃葉さんと即座に結婚し、関西呪術協会の長にもなり優しい巫女さんを周囲に集めたのはその反動なのかもしれない。
どれだけ神鳴流の女性は怖いのだろうか。

「鶴子、気を抑えなさい、子供たちが怖がっている」

鶴子さんと同様全く気配なく現れたのは……。

「蘇芳はん……皆さん、怖がらせるつもりはおまへんどした。ほな、失礼」

「長、また後で挨拶に上がります、鶴子が迷惑をおかけしました。失礼します」

鶴子さんの旦那様でした。
突如桃色空間が広がり二人はそのまま移動していったが程なくして次は素子さんが被害者になりそうだ。

「息がつまりそうでした……」

「今の御仁も……一体何者でござるか……?」

「……彼は鶴子君の夫です。いつも西の遠征に出て妖魔の討伐を行なってくれている上、礼儀正しいですよ」

「相当できるようでござるな」

「……しかも凄いイケメンだったわね」

「アスナには渋さが足りんかなぁ?」

「そうね……ってそういう話じゃないわよ!」

「あー今の兄ちゃん呪術協会で昔見たことあるで。ごっつ強いらしいわ、あの人ともやってみたいわ!」

「その通りですよ、小太郎君。本当に、鶴子君が彼と結婚してくれて助かりました……」

凄く遠い目をしているのだが大丈夫なのだろうか。

「この大会本当に面白そうアル!」

「宗家の方の技が見られるなんて……」

「せっちゃん何や上の空やよ?」

「ハッ!お嬢様!?そんな事は……」

「各地の手練がこれだけ揃うとは超殿が開いたこの大会凄いでござるな」

「超はこのために一年近く準備していたらしいからな」

とそんなこんな話を始めたところ。

「「「「お嬢!!」」」」

シュッ!という音と共に長瀬楓の前にズラリと現れたのは……。

「お主達!」

「お嬢!ご健在のようで何よりでございます!」

「わー、楓この人達の知り合いなん?」

「に、忍者……」

「忍者ではござらぬよ。拙者の故郷の者達でござる。市、父上と母上の様子はどうでござるか?」

「はっ!頭領はご健在です。椛様はまた旅に出られていますが……」

頭領って言うな!

「母上ならば問題なかろう。お主達も大会に参加するのでござるか?」

「お嬢の勇姿を確認するのが我らの任務ですが、頭領から我らも出場せよと承りました」

「そうでござるか。この大会では我々の力も見せても問題ない。良い試合を期待するでござる」

「はっ!それではこれにて!」

再びシュッという音でもつけたくなるような感じに消えた。
というか一応口元は隠していたものの……忍べ。

「か、楓さんの家族って一体……」

「ネギ坊主、普段は皆都会で暮らしているでござるよ」

「そ、そうですか……」

「椛……というのは楓の母親か?」

「そうでござるよ真名。拙者は今は亡くなった祖父母に山奥で育てられた上あちこち放蕩している故あまり会ったことはないでござるが。父上は都会にいるでござるよ」

長瀬楓の家庭事情だった。
元々小学校卒業近い年齢の時に彼女の祖父母は亡くなったそうでそれを期に父親が麻帆良学園への入学手続きをしたらしい。
それまでは祖父母と一部のお付きの忍び達と共に山奥で生活していたそうな。
因みに先程頭領だとか平然と言っていたのはそのお付きの人である。
常識なんて無い。
彼等は大体都会に出て生活しているらしいが、雪広のエージェントになったりする事もあり、今回意外と忍者率は高かったりする。
一方このやりとりの別の場所では葛葉先生と鶴子さんが出会ってしまい、地味に夫自慢をした鶴子さんに内心歯ぎしりをしていた葛葉先生という状況ができていた。
元々葛葉先生の方が結婚は早かったのであるが離婚した今となっては立場が微妙に逆転している。
まあその後他の神鳴流のお姉さんたちがゾロゾロやってきてとんでもないカオスになったのだが……。
……なんというか、皆さん仮装しているつもりはないのに会場が仮装大会のようになっているぐらい服装が違いすぎる。
それぞれ知り合いにあったりして談笑を交わしているうちに大会の開会式の始まりである。

[[皆様、これよりまほら武道会開会式を行ないます。この度の大会を実現に導いた雪広グループ社長の雪広義國様、超鈴音様、麻帆良学園学園長の近衛近衛門様から開会の挨拶を頂きます。お三方は壇上にお上がり下さい]]

「超さんです!」

「おじいちゃんや!」

「それにあれいいんちょのお父さん!?」

[[紹介に預かた超鈴音ネ。25年前実質最後となたと言われているまほら武道会の復活を実現出来た事を嬉しく思うネ。詳しい事は後にして挨拶を代わるヨ]]

[[紹介に預かりました、雪広義國です。こちらの超鈴音さんから今回の企画を打診されたのは1年以上前になりますがようやく実現に至りました。我々グループからは全力でサポートを行いますので良い大会になるよう祈っております。気になることがあれば、近くの係員にお申し付け下さい。それでは学園長どうぞ]]

[[紹介に預かった近衛近衛門じゃ。25年振りに本来のまほら武道会の復活になった。皆互いの力を競い合い活気ある大会を作り上げて欲しい。新生まほら武道会の開催をここに宣言する!]]

近衛門の開催宣言により大いに盛り上がる龍宮神社会場内。
そのまま詳細情報の確認に移行し再び超鈴音にマイクが移った。

[[復活最初の大会として、より多くの試合がとり行えるように配慮をしたヨ。こちらの映像を見て欲しいネ]]

巨大スクリーンに龍宮神社の周りが水に囲まれた能舞台が映り、そこにある5つのカバーを係員が取り去った。

[[この水晶球は中に入れるようにできている上、その中ではなんと時間が通常の5倍にまで加速設定できるようになているヨ。選手の皆さんにはこの中で試合を行てもらうネ]]

魔法球の話は要綱には記載されていなかったので会場は時間がのびるという発言に驚いたが認識阻害のお陰で「そんな物があるのか」と、ただそれだけである。
そしてスクリーンの映像が切り替わり……。

[[この映像が水晶球の中ネ。見ての通り試合の為の舞台が用意してあるヨ。土で作てあるから試合でいくら壊しても構わないネ。修繕の用意もあるから安心して欲しい。試合の観戦はスクリーンでも行えるが直接見たい人は試合の前に予め申請してもらえれば水晶球の中に入れるヨ。その代わり何が起きるか分からないので舞台からはできるだけ離れてもらう事になるネ。次に休憩施設の説明に移るヨ]]

更にスクリーンの映像が南門の休憩室に移り。

[[選手の皆さんは試合後には必ず、試合前には任意でここに寄てもらいたい。特別な用意の為に疲労、怪我の治りが早くなるように処置がしてあるネ。続けて詳細な試合のルールに移るが、要綱に記載したものと同じだからスクリーンで再確認して欲しい。書いてある内容の一部が通じない人もいるかもしれないが気にしなくて大丈夫ネ。試合の判定は各審判と厳密な映像で行うヨ。但し勝負が制限時間内につかない場合は引き分けとなるから注意して欲しいネ]]

その後少々細かいルールについての説明が続いた後いよいよ武道会最初の試合決定である。

[[それでは第一試合の組み合わせを決定する前段階として今から端末に送られる情報を参考にして選手の皆さんは申請を済ませて貰いたい。登録方法が分からない場合は速やかに係員に言て欲しいネ]]

実に事務的作業が開始されたが、タッチパネル式で割と感覚的な操作が可能なのであるが、それに説明書も付属されていても良く使い方がわからないという人もちらほらいた。
大抵近くに知り合いがいれば教えてもらったりで済んだが、ひなた荘関係者はそうもいかなかった。
カオラ・スゥという見た目はインド人ぽく、口調は関西弁に近い謎のメカを所持している南の王国出身の女性……なんともイロモノというかそんな感じだがノリが軽すぎて「けーたろ、ウチが登録したるで!」と頼んでもいないのにぶんどって勝手に操作し始めたりと個人の意思で対戦相手を選べる制度の筈がどこへやらである。
素子さんは青山~とズラリと名前が並ぶ一帯付近を見て青ざめ、そこは無かった物として適当に登録していた。
まあそんな事関係なく怖いお姉さん達は素子さんや詠春殿を狙い撃ちにするに違いないのだが……。
浦島可奈子は「お兄ちゃんと……」とブツブツ言いながらパネルを高速で操作していた。
大会なんかよりも兄が全てという感じである。
基本的に一番最初はお互い情報が少ないので戦いたいと思った相手が被る可能性がかなり少なく相手を指名する格好の機会である。
と、そんな所へ更に超鈴音からの全体連絡が入った。

[[そろそろ一回目の参考倍率が表示されるが待ている間観客の皆さんはスクリーンに表示しているアドレスのSNSコミュニティに登録して貰えれば、トトカルチョに参加可能、そして投票でリアルタイムで見たい試合を決める事ができるから奮て登録して欲しいネ。詳しい事は当該サイトを見てもらえればわかるヨ]]

恐らくこれが選手に設定される倍率にも影響が出るのだろうが、この連絡により暇だった観客の皆さんは携帯を一心にいじり始めたのだった。
程なくして参考倍率が表示されたが本当にマチマチだった。
妙に古菲と瀬田教授の倍率が高いのは各道場に二人の情報が伝わっている関係だろう。
瀬田教授は截拳道の達人という事になっているが、そもそも截拳道とは中国武術に他の様々な格闘技を取り入れて行くようなものなので、結果特定の型がある訳ではなく、一人ひとり異なる戦闘スタイルになるためあくまでも総称のようなものである。
一応原型があると言ってもある意味何かにこだわらないという点では非常にナギに近い戦法であると言えるだろう。
基本的に近接格闘戦闘が主体の瀬田教授であるが、投石の技術もおかしな事になっているので遠距離でも戦える。
なんといっても小石を投げて当てるだけで飛行中のヘリコプターを落とすことができる程なのだ。
もうお二方倍率が高いのは明らかに狙い撃ちをされた詠春殿と素子さんである。頑張れ。
元々詠春殿は魔法協会でも知らない人はいない赤き翼の一員という事で人気がでるのは当然だったが……。
そして再度戦いたい相手の申請を済ませ一回目の試合の組み合わせが決定した。
スクリーンに表示されている倍率が刻々と変化していくがやはり携帯投票によるスクリーンで見たい試合の申請が関係しているようだ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

プログラムで自動的にはじき出された試合だが記念すべき初戦はなかなか面白そうな組み合わせになたネ。
早速確定指名権を獲得した古は、例のカメが飛んでいる所にいる瀬田はるかサンという人に名前を聞いて試合を申し込んでいたヨ。

「私は古菲アル!お姉さんの名前はなんていうね?さっきの拳凄かたから試合を申し込みたいアルよ!」

「私は瀬田はるかだ。こいつを殴った時を見たのか」

「はっはっは、はるかの拳は強烈だからね」

「教えてくれてありがとアル!試合申し込むね!」

古の一回目の相手は中国拳法の使い手に決まているが、確定指名戦の方が面白いだろうナ。
ネギ坊主は高畑先生といきなり当たる事になた上魔法先生達の熱烈な投票により等倍速試合になたネ。
刹那サンは最初は明日菜サン、楓サンは龍宮サンと小太郎君はランダムになたが浦島景太郎という人とやることになているヨ。
他はなんとなく魔法関係者組と武術関係者組で二極化しているナ。
一番人気の試合はこのかサンのお父さんと青山鶴子サンの試合になているネ。
後は割と人気の高かた瀬田記康サンの相手は抽選で明石サンのお父さんに決またヨ。
他には愛衣サンが雪広のエージェントと当たているのだが、選手登録をしていたのには驚いたヨ。
この前動機を聞いてみたらアメリカの旅で実戦経験をした方がいいと思たらしいというのだから真面目だネ。
因みに高音サンも出場しているヨ。
美空は出てないけどネ。
……それで今、暇をもてあましたのか来客が来ているのだが武道会の為のプログラムを一緒に組んだハカセを交えて話をずっとしているヨ。
茶々丸の妹機の作成等でも協力してもらたからハカセがいるのは当然ネ。
しかし性格は絶対に合いそうにないのだがカメのロボットをいじっているヨ。

「こ、この浮遊システムは一体どうなっているんですか!?」

「これはたまの浮遊理論を応用して実現したんや!」

どうも魔法の浮遊術のシステムを再現しているようなのだが、アンチグラビティシステムをこの時代に開発できる人間がいたとはネ。
流石にこれが火星技術の源流ではない筈だが世の中探せば意外と凄い技術を持ている人というのはいるみたいだナ。
もし私の当初の計画での強制認識魔法を実行する場合だたならハカセにもアンチグラビティシステムを見せたかもしれないが、実際そこまではやていなかたネ。

「アンチグラビティシステムだネ」

「超さん知っているんですか?」

「ハカセ、私もこれは実現できるヨ」

「チャオが送ってきおった端末は凄かったで!ウチのハッキングが通じんかったのには驚いたわ!」

他人の事は言えないが普通にハッキングて言たナ。

「スゥさん、他には何がついてるんですか?」

「プラズマ爆弾に光学兵器、探知レーダーが付いとるで!」

武装好きとは話が合いそうだネ。

「鈴音さん、そろそろ最初の試合始まりますよ」

「おお、一応最初だから試合開始の音頭を取らないとネ」

[[これより記念すべきまほら武道会第一試合を開始するヨ!選手の人は能舞台に移動して貰いたい!]]

最初の等速試合はこのかサンのお父さんと青山鶴子サンだナ。

「スゥさん、この後工学部に来ませんか?いろいろ見て欲しいものがあります!」

ハカセ、それは面白そうだネ!

「ハカセ、楽しみは後にとておくものネ。今日の分の試合が終わたらいくらでも話せるヨ!」

「ほんまか?ウチここの学園の事知らんかったけど面白いな!よっしゃまた後でな!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

……予想していたとおり化学反応が起きてしまった。
なんていうか、カオスゥである。
因みにカオラ・スゥは戸籍を普通に偽造しているので色々と超鈴音に共通している部分がある。
そんな事はさておき詠春殿の試合である。

「せっちゃん、父様勝てるんかな?」

「長も鶴子様もお強いですからね……」

「逃げようとしてたからこのかのお父さん勝てないんじゃない?」

「アスナ、うちの父様やのに酷いえ」

「ごめんごめん」

と外野は気楽である。

「詠春はん、おなごに囲まれて鈍っとらんかうちが試して差し上げますえ」

「ははは、お手柔らかに頼みます、鶴子君」

「真剣でやりますかえ?」

「木刀でお願いします」

冷や汗しか出ていない詠春殿である。
はっきり言って娘どころか皆が見ている中、仮にも赤き翼の最強剣士があっさり負けるわけにはいかない。

「……試合を開始しても宜しいでしょうか?」

審判が完全に怖がっているんだがこれから毎回こうなるのだろうか……。

「いつでもええどす」

「お願いします」

「分かりました。制限時間15分。試合、開始ッ!」

鶴子さんが開始の合図の瞬間に斬りかかり、警戒していた詠春殿はギリギリで受け止めたが本当に危なかった。

「やはり鈍っとりますな」

「……これからですよ」

木刀と木刀がギギッと音を立てる度に周囲には衝撃波が発生して舞台にビシビシ罅が入っていくのだが既に審判の人は身の危険を感じて遠くに離れている。
それが正しい。
茶々丸姉さんの妹機はかなり遠距離から試合状況を見ているので巻き込まれることはないだろう。

鍔迫り合いが終わったと思えば鶴子さんの猛攻が始まり、詠春殿は防戦一方で攻撃に移る隙が無かった。
そうは言ってもとんでもなく高レベルの戦いであり、二人は結局舞台を完全に無視してあちこち駆けまわり出した。
審判がたまに飛んでくる恐ろしい気弾に怯えながら地面に身を伏せながらもカウントを律儀に数え、ギリギリになったと思えば瞬動で即座に一旦戻ってはまた再びという有様だった。
その度に舞台関係なくいたる所の地面が割れたり爆発したりと数分もしないうちに何かの災害現場と化した。
どうやら詠春殿の作戦は15分間捌き切るという物らしい。
確かに勝つことが難しくてもさばくことができるならば引き分けに持ち込む事ができる。

「父様達強いなあ!」

「す、凄い!凄いですよ!このちゃん!」

何故かテンションが上がって孫娘の呼び方が素に戻っていた。

「審判の人かわいそうね……」

「アスナさん、僕もそう思います……」

「怖い姉ちゃんやな……俺、女相手にすんの苦手やけどあんなんに襲われたらそれどころやないで……」

「姉上……」

「素子ちゃん……当たらないように気をつけてね」

「あれ……アキラ……じゃない。あ、あの青山素子さんですか?」

観戦していたら偶然隣に居合わせた。

「ん?そうだ。どうして私の名前を?」

「このかのお父さ……近衛詠春さんから聞いたんです。このか!刹那さん!試合もいいけどこっちこっち!」

「アスナさん?はッ!こ、これは素子様!お噂は伺っております!桜咲刹那と申します!」

「父様の言っとった人やね。うちは近衛このかや」

「ああ、詠春さんの娘さんか、これはどうも。私は青山素子だ。刹那さんはもしかして……神鳴流かな?」

「はい!腕はまだまだ未熟ですが……。あの、宜しければ修行の方法を教えていただけませんか?」

「ああ、構わないが」

「素子ちゃん、知り合いなの?」

「浦島、こちらは私の親戚の娘さんだ」

「素子ちゃんの親戚に会うのって始めてだね。僕は浦島景太郎って言うんだ、よろしく」

「あ!その名前!兄ちゃん俺の相手やないか!」

「おおっ、じゃあ君が犬上小太郎君か!試合ではよろしく」

こうして成り行きでネギ少年達とひなた荘住人の交流が始まり、互いにそれなりに自己紹介と挨拶を交わした。
小太郎君が浦島兄に強いのか?と聞いた際「んーどうだろう。素子ちゃん相手だと数回に一度は勝てるぐらいかな」と言ったため要するに相当強いという事が分かり、やる気が出たようだ。
それを聞いて桜咲刹那も驚いたのは言うまでもない。
一見普通の外見に眼鏡をしているだけで、そんなに強そうには見えないのだが人は見かけによらないという事だ。
まあ彼は被弾無効化能力とでも言えるほど体が丈夫なので普通でないのは間違いないが。
素子さんの訓練方法の一つに訓練用の刀に数百キロの重りを付けて素振りというものがありそれを聞いたネギ少年達は「凄い!」と口を揃えて言ったのだが、誰か常識人はいないのだろうか。
本当に実行し出しそうである。
桜咲刹那は伝説でしか聞かされた事が無かったが、素子さんによって完全に調服されている妖刀ひなを見せてもらったりもして終始興奮気味だった。
なんだかんだ会話に華が咲いてしまったが詠春殿はというと懸命に捌き続けていた。

「大分勘が戻ってきたようどすな」

「お陰様で」

最初冷や汗を掻いていた詠春殿は急速に動きに対応し始めかなりいい勝負になっていた。
あっさり地面が割れる斬岩剣に強力な気弾が飛ぶ斬鉄閃、広範囲を破壊する雷光剣と試合開始時に一応場外と段差を付けてあった舞台は既にその名残もない。
これを龍宮神社でやったらと思うと被害総額は一体いくらになったであろうか。
既に他4つの魔法球の試合は3度目の試合に入っておりサクサク試合数が消化されていっている。
観客は神鳴流の派手すぎる戦いに大いに盛り上がったが、とうとう15分が経過して引き分けとなった。

「流石詠春はん、神鳴流剣士らしゅうなりましたな」

「私もいい運動になりました。多少手加減してくれて助かりました、鶴子君」

「ほな次は本気でやらせてもらいましょか?」

「いや……それは結構です」

というかまだ本気じゃなかったとか本気出したら地上が滅ぶ。
二人が魔法球から出てきた時には一層の盛り上がりを見せ、会場内は拍手喝采であった。
詠春殿は試合開始前と開始後でビフォーアフターでもやって比較したら顔が全然違うのがよく分かるだろう。

「父様かっこ良かったえ!」

「このか、ありがとう」

詠春殿にしてみれば娘からの言葉が一番嬉しかったに違いない。

「「「「詠春はん、次はうちらのお相手してもらいますえ」」」」

と怖いお姉さん達が颯爽登場したのはご愁傷様である。
しかしこの後超鈴音の回復施設で休んだところみるみるうちに疲労が回復したので「意外といけそうだ」とかぼやいていたが、見方を変えるとただのドMな気がする。
因みに破壊の限りを尽くされた等速魔法球からは苦労した審判さんも出た上で、設定を5倍速にしてこれまた遠くにいた田中さん達が高速で舞台の修繕を行ったのだった。
あれだけ派手な試合を見た後では魔法の射手を誰かが見たところで全く驚かないだろう。
そのためネギ少年は「断罪の剣使っても大丈夫そうだな……」なんて言っていたが……。



[21907] 34話 それぞれの試合
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/02/19 22:12
大変疲れる試合をこなした詠春殿が回復施設で休んでいた時、懐かしい来客があった。

「詠春、お久しぶりです。先程の試合は実戦から離れていたにしてはなかなかのものでしたね」

「ん?おおっ、ア」

「詠春!クウネルとお呼び下さいッ!」

またそこを強調する司書殿だった。

「クウネルって……分かりました。ともあれ久しぶりです。麻帆良にいたのか」

「ええ、ナギとの約束を果たすため……だけではないのですがそうです」

「ネギ君か……」

「タカミチ君と最初に試合するそうですよ」

「私はネギ君がどれ程の腕なのか見ていないがどうだろうな」

「かなりいい線いく筈ですよ。タカミチ君も油断しているとまずいぐらいには」

「ナギとは正反対かと思っていたがあまり変わらないか……。楽しみだな」

「フフ、詠春が神鳴流の女性達に追い回されるのも楽しいですよ」

「……さっきのトラウマが……。クウネルは試合には出ないのか?無詠唱魔法なら得意だったろう」

「実は私の今のこの身体は本体ではないので、半分無敵なのです。それを知られている大会主催者には釘を刺されていましてね」

「学園長か」

「……そんな所です。ところでこのかさんの魔法の才能は素晴らしいものですよ」

「私の娘に変な事してないだろうな?」

「ネコミミを付けてもらっていますよ」

「何ぃ!?」

「ほら、これが写真です」

紅き翼のメンバーの再会も真面目なものになるかと思えば駄目だった……。
司書殿が色々なネコミミのパターンや尻尾の有り無しなど色々持っていたため傍から見れば何やってんだとしか言いようがない。
因みに対戦相手だった鶴子さんは離れた所で旦那さんと仲良くしていたのでお構いなしである。

一方数分おきに着々と試合が消化されていっている。
それに伴い端末で見ることができる映像も増えているため、手の空いている選手は確認作業に忙しい。
これによってお互い情報の少ない相手の力量がある程度図れたりするわけで、最初の確認作業は大変重要である。

殆どの試合が加速魔法球で行われる中、佐倉愛衣と、黒服にサングラスをかけていながらもスタイリッシュな雪広のエージェントとの戦いも行われていた。
オソウジダイスキという箒のアーティファクトを出し、続けて炎の魔法の射手を撃ち出すものの相手は実際に裏で働いている人間であり、中学生の年で無詠唱が使えるだけでも凄いのだがそれと試合とは関係がなかった。
彼女は瞬動術に対して免疫が無いため懐に入られると一瞬で勝負が付いてしまう。
エージェントは基本的にパーフェクトなので華麗に佐倉愛衣の背後に接近し、首筋に軽く手刀を放ちスマートに試合を終わらせたのだ。
そのまま回復施設に運ぶのも欠かさない。
佐倉愛衣が起きたところで、試合について色々とフォローもし、無詠唱魔法が運用できるぐらい魔力の扱いに長けているならば瞬動術もすぐに習得できるであろう事や、魔法球は本日分の試合が終われば自由に使える事、既に達人達の試合のデータが集まっているため参考資料は山のようにある事を伝え、元気付けていた。
なんだかんだ魔法についても詳しい上に紳士すぎる。
元々実戦経験を積むために出場を決意したらしいので勝ち負けには対してこだわってはいないようだが、次の試合に向けてアドバイス通り蓄積されつつあるデータの確認を彼女はし始めたのだった。
高音さんも試合を終えたようだがこちらは勝ったらしい。
まあ気絶でもして負けると脱げるので是非勝ったほうがいいのだが……映像に残るというのは恐ろしいものだ。
操影術は影という陰気な感じがするイメージとは裏腹にド派手で、しかも防御力、攻撃力共にかなりのものなので油断しなければ強いのは間違いない。
佐倉愛衣に会いに来て「愛衣!次は頑張りなさい!」「お姉様!」という会話を繰り広げていたのは言うまでもないだろうか。

一回戦目の試合をとりあえずずっと観戦している超鈴音達であるが、神楽坂明日菜と桜咲刹那の試合も回ってきた。
魔法球の中に入ってネギ少年と孫娘は直接観戦する事にしたのだが、入る人はそれだけでは無かった。
神鳴流のお姉さん達が大量発生したのだ。

「刹那さん……なんだか緊張するわね」

「は、はい……」

「アスナさん、刹那さん!頑張ってください!」

「せっちゃん!アスナ!頑張りや!」

「刹那はん、修行の成果見せてもらいますえ」

最後の発言が一番プレッシャーだ。

「試合開始ッ!」

二人の得物は両者共木刀である。
神楽坂明日菜に気の扱いは果たしてできるのかという事だが……。

「右腕に気、左腕に魔力……合成!!」

―咸卦法!!―

そう、神楽坂明日菜は既に物に気を纏わせるどころかたった1ヶ月と少し程度で咸卦法を発動可能になり、瞬動術も出来るようになっていた。
まあある意味昔覚えたことを忘れてはいても思い出すだけの作業であるのでそこまで不思議ではないが、彼女の成長速度を見ている側としては溢れんばかりの才能に目が眩みそうではある。
これには小太郎君も大いに驚いていたが、千の共闘で得られる咸卦法の効率は自動で最高レベルになるので、まだまだそれ自体に差はある。
しかしながら小太郎君としてはネギ少年から契約執行を受けないと咸卦法状態になれないのに対して、自力でできてしまう神楽坂明日菜を見て負けた気がしたのか「俺もやったるで!」と千の共闘での感覚を頼りに自力での咸卦法習得を地道に始めたりもしているようだ。
少なくともアーティファクトのお陰でタカミチ少年が習得にかかった時間より遥かに短い時間で習得できるであろう。

……話が逸れたが、ただでさえ元々身体能力の高い神楽坂明日菜が咸卦法を使用すると身体の基本的な動きという点では桜咲刹那とも張り合えるぐらいになるので後はもう実戦経験と練度の差である。

「刹那さん、行くわよ!」

「アスナさんこそ、行きます!」

ちょっとやそっと叩いたぐらいで咸卦法状態の肉体にはダメージは通らないので桜咲刹那としてもそれなりの手加減をするという手間を掛ける必要がなくその点では楽である。
これまで神楽坂明日菜の鍛錬に一番時間を割いてきたのは桜咲刹那であり、戦法や癖についてもかなり理解をしているため攻撃を捌くのは容易であった。

「あの年で咸卦法……。坊や、刹那はんの相手の神楽坂はんは何や裏の仕事をしとるんどすか?」

「いえ……アスナさんは先月から鍛え始めたばかりなんですが成長速度が少し早いんです」

ネギ少年も他人の事言えないけどね。

「そうどすか。あの子あれだけ才能があるなら神鳴流で鍛えたら……」

神楽坂明日菜も行く行くは怖いお姉さんの仲間入りでもさせるつもりか。
鶴子さん達の口元がわずかにニヤリとしたのを見たネギ少年は悪寒を感じずにはいられなかった。

「あ、あの刹那さんはどうですか?」

「刹那はんも既にあの腕なら神鳴流剣士としては前途有望やろうな。しっかりとした目標もあるようやし真っ直ぐな心しとる。それに神楽坂はんが咸卦法なら刹那はんにも霊格高い力がありますえ」

「せっちゃんの羽やね!」

「綺麗ですよね」

「このかはん達は見たことあるんどすな」

試合と言えば咸卦法で加速した神楽坂明日菜と桜咲刹那は高速で打ち合いを続けているものの、詠春殿達程酷い戦いにはなっていない。

「アスナさんのここ1月の成長は素晴らしいです!」

「刹那さんの指導がいいからね!」

「本当にこのまま鍛えていけばかなり強くなれますよ!でもまだ私は負けませんよ」

動きにまだまだムラのある神楽坂明日菜の隙をついて、桜咲刹那は浮雲・旋一閃という回転しながら相手を地面に叩きつける投げ技を放ちそのまま固め技に入りダウン状態を維持させカウントが数えられ始めた。

「咸卦法でいくら力が強くても、力の使い方次第で抑えつける事は可能です」

「6、7、8」

「う!うーっ!力入れてるのに立ち上がれない!」

「……カウント10!勝者桜咲刹那選手!」

かなりまともな試合だった。

「あー負けちゃったわ!刹那さんありがとう!」

「こちらこそアスナさん、ありがとうございました」

握手を交わしいい運動をしたという風体でネギ少年達の元へ近づいていった二人だった。

「刹那さんおめでとうございます!アスナさんも惜しかったですね!」

「せっちゃんおめでとう!アスナも頑張ったで!」

「ありがとう、次はネギも頑張りなさいよ」

「お嬢様、ネギ先生、ありがとうございます」

だが……。

「刹那はん、神楽坂はん。良い試合どした。……時に二人共うちらの指導を後で受けてみまへんか?仙子姉上もそう思いますやろ?」

「え?」

「そうどすな、鶴子はん。神楽坂はんは刹那はんから神鳴流を齧っとるようやし鍛えれば必ず強うなりますえ」

神楽坂明日菜の抜けた声はスルーされた。

「うちは刹那はんに斬魔剣弐の太刀を教えたい思いますわ」

「え!?斬魔剣弐の太刀を宗家で無い私のような末席の者にですか!?め、滅相もありません!」

「そうやな、月詠のように歪んどる訳やなし、見て盗まれるより余程ええ思いますえ」

桜咲刹那も同様である。

「葉子はん、それはええどすな。月詠も才能は確かどしたが、飛び出したしな」

「刹那はん、宗家の伝統かて必ず守らなあかん訳やおまへん。それに刹那はんは身も心もうちらと同じ神鳴流。何も問題おまへん」

「詠春はんかて魔法世界言うところで神鳴流ですらない男に技を教えたそうどすからな」

何故そんな事知ってるんだろう……ああ、木乃葉さんに詠春殿が武勇伝を語った時にでもポロっと漏らし、それが鶴子さん達に会った時にでも話したのだろうな……。
情報網って怖い。
「指導を受けて見まへんか?」なんて聞いた割にはあまり二人の少女の意思も聞かず勝手に話が進んでいき3日間暇があれば18時以降に魔法球を借りて指導するなんて事になったらしいのだが、借りるというより貸さざるを得ない空気を醸しだして占領しそうである。
まあこのお姉さん達だらけのところにあえて突っ込んでいきたいなんて稀有な趣向の持ち主は早々いないだろうから魔法球のうまい棲み分け……が出来る事だろう。
実際桜咲刹那は斬魔剣弐の太刀を教えてもらえるということでテンションが急激に上昇していっているので放っておこう。
流石5倍魔法球の中、出てきたら時間は3分ぐらいしか経っていなかった。

続けて魔法先生達から猛烈な人気が出ているネギ少年のタカミチ少年との試合の開始である。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「ネギ君、前にした約束通り腕試しをしよう」

「うん!タカミチ!僕の成果を見せるよ!」

タカミチが僕に戦闘の基礎を教えてくれた時は普通の体術だったけど、素手で滝を割ったのはそれとは違う物だった……。
マスターの話だとタカミチは咸卦法が使えるからまずは少しぐらい本気を出してもらうように頑張ろう!

「制限時間15分!試合開始ッ!」

「ネギ君最初からかかってきて構わないよ」

うーん……誘われているのかな。
タカミチはポケットに手を突っ込んでいるから用意は万端みたいだ。
いつかかっても良いというのは既に射程範囲内に入っているからその代わりって事なのかも。
それなら!

 ―戦いの歌!!―
―魔法領域展開―

僕の今の無詠唱魔法の射手の一度の最大本数は29本まで!

―収束・光の29矢!!―

ポケットを使って発射する技なら完全に真上からの攻撃には対処できない筈!
2連虚空瞬動で肩口を狙う!

―桜華崩拳!!!―

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ネギ坊主の分析能力も魔法の運用能力も上がたものだナ。
試合開始に高畑先生に誘われたが、その次の瞬間にほぼ並列して魔法を3つ行使するとはネ。
準備が出来た瞬間に、爪先により多くの魔分を集め、高畑先生の頭上に虚空瞬動で上半身を下に向けて回転させながらを飛び上がり、続けて直角に右腕で崩拳。
落下速度と組み合わせて威力も上げる作戦カ。
高畑先生はギリギリで肩口に当たるのを逸らしたけど舞台には綺麗に穴が空いた上、接近された事には変わらずそのまま更に連弾・雷の29矢をネギ坊主は左手で発動。
高畑先生も瞬動で下がりながら本気で障壁を張ていなかたら危なかたネ。
早めに咸卦法使うといいヨ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

等速で行われているためネギ少年の試合はスクリーンでリアルタイム中継されているが会場は開始直前は子どもが格付けAA+のタカミチ君にどこまで頑張れるかとザワザワしていたが開始直後の一瞬で完全に観客は声を失ったのだった。
まず目を見張るのはネギ少年の身体を完全に球状で覆っている淡く光る魔分の層、魔法領域である。
会場にいる魔法先生では近衛門と葛葉先生しか見たことがない特殊技術であるため「なんだアレは……」と呟いたのが数人でたが、次の瞬間見事な虚空瞬動で頭上で切り返しを行い直下降、光の29矢桜華崩拳を放ち寸前で回避されたものの、舞台にくっきり穴が空きどれほどの威力なのかが鮮明になった。
終わりかと思えば左手からも拡散型の魔法の射手をタカミチ君に逃げ場が無くなるように放ち、「ネギ君今の動きは凄かったよ」なんていう甘い感想を言わせる暇も無いままタカミチ少年は後ろに下がりながら魔法障壁で威力を減衰させ、数本は本気でレジストした。
たった1秒弱の早業を終え、しゃがんでいた状態からスーッと立ち上がるネギ少年のオーラは魔法領域と相まってただの子供魔法使いではないのをはっきりと示していた。

「タカミチとの腕試しだからこそ、僕は本気でやるよ」

熱いと形容するにはあまりにも冷静に宣言した。
対するタカミチ君は予想外のネギ少年の実力を見て額に汗が浮かんでいる。

「ははは、まさかここまで成長していたとはね……。悪かったネギ君。僕も真面目にやらせてもらうよ。右腕に気、左腕に魔力……合成」

―咸卦法!!―

開始数秒でタカミチ君に咸卦法を使わせるに至ったネギ少年の姿をようやく観客も現実のものとして認識出来るようになり歓声が飛び始めた。
しかしタカミチ君は小手調べに普通の無音拳をまだ一発すら放っていない。
ネギ少年と小太郎君の戦闘コンセプトは不確定事項は早期に潰すというものの為、可能ならば速攻をかけるのでかなり殺伐としたものになりがちである。

「ありがとうタカミチ!」

「ああ、今度は僕からも行かせてもらうよ」

拳法の構えを取ったネギ少年にタカミチ君は今度は自分からも仕掛けるという発言をした瞬間ようやく一発無音拳が飛び出した。
既に咸卦法で強化されている無音拳であり、通常のものに比べると威力も段違いなので、タカミチ君の戦闘技術を知っている魔法先生にしてみればこれは終わったなという感じだった……のだが。

魔法領域に当たった無音拳は確かにかなり奥までめり込んだのだがネギ少年本体には届かなかった。

「やっぱりタカミチは凄いよ!こんなに削られるなんて!」

ネギ少年は突如テンションが高くなったが、観客との間には壮絶な温度差が発生している。
実際フェイト・アーウェルンクスの障壁突破石の槍すら一瞬留める事ができるのだから当然の防御力なのだがまたもやタカミチ君の無音拳の威力を知っている魔法先生達は「は?」と口を開けざるを得なかった。

「咸卦法を使った状態での無音拳を常時展開の障壁で防げるなんてね……」

タカミチ君も大いに驚いている。

「でも二発連続で撃たれたら突破されたよ。それじゃ、もう止まらないで行くからね!」

発言と同時に浮遊術で丁度良い高さまで飛び上がりまたもや舞台無視の行動が始まった。

  ―魔法領域 出力最大!!―
―光の7矢!―雷の7矢!―風の7矢!―
   ―双掌底・断罪の剣!!―

並列魔法運用にしてはレベルが高すぎるが最後のものは特におかしい。
とうとう断罪の剣がまほら武道会にあわせてギリギリで習得できたネギ少年であるが、剣として実体化させる事はできず、手の周りに展開するに留まっている。
しかし当たったら相転移する掌底なんて恐ろしすぎる。
地面にかすればその部分の土が消失するのだ。
ある意味咸卦法を使ってもらわないとネギ少年としても迂闊に使えなかっただろう。
浮遊するネギ少年の周りを3種合計21本の滞空する魔法の射手がグルグルしている光景に更に緊張の走ったタカミチ君は上空に向けて容赦なく無音拳を放った。
ネギ少年も同時に魔法の射手をタカミチ君を囲むように放ち、無音拳を虚空瞬動で回避または直接当たる軌道からズレるように移動してはお返しに魔法の射手を連射し始めた。
ネギ少年はそんな弾幕戦の中ジグザクに高速移動しながらタカミチ君の懐に近づいていき掌の断罪の剣をあろうことかポケットに向けて投げつけた。

「もらった!」

武器破壊もといポケット破壊とは恐れいった。
狙いを理解したタカミチ少年はその戦法にまたもや驚き身体を横に捻って全力で回避したが、その際上着の袖が消滅した。
高そうな背広……さようなら。
勿論それだけで終わる訳無く、破壊属性の光の矢29矢のセットがポケットに向けて猛威を振るい、タカミチ君もとうとう地上で戦うのが窮屈になったのか虚空瞬動で空中に飛び上がって回避し、魔法陣が描かれている足場を作って空中戦へと突入した。
審判の人は「カウント……どうすれば」という感じだったが場外に足が着いたわけでもないので問題ない。

1番最初の詠春殿対鶴子さん、2番目の古菲対中国拳法家で武道らしい戦いと思える等速試合になったと思えば、3番目のネギ少年対タカミチ君でまたもや派手なものになった。
因みに言うまでもないが古菲は少し時間がかかったもののしっかり相手をダウンさせて勝利した。
ネギ少年達が観戦していなかった理由は「瀬田はるかさんとゆー人との試合の方が面白い筈アル」と本人が言ったからであるが。

段々試合がエスカレートし始め、風精召喚の囮による分身が大量出現したと思えば、それを全部一気に吹き飛ばすように対軍用では?というような放射状に一斉に飛ぶ無音拳が出始めた。
ネギ少年にどこまで引き出しがあるのかとワクワクするような表情を浮かべるタカミチ君は、ネギ少年の腕試しをするどころか、会話なんてする暇は無いものの完全に試合を楽しんでいた。
一方観客はというと……。

「明石、高畑の奴やりすぎじゃないか?」

「ああ……刀子さんから聞いてはいたもののネギ君もここまで強かったのか。僕も瀬田教授との試合が終わったら申し込んでみようか」

「教授、程々にして下さい。ネギ先生は千の雷をあの年で既に使えますし、修学旅行では強敵を退けましたから」

「私もネギ君がエヴァンジェリンの断罪の剣をあの時使っているのを見たが成長がな……。葛葉、ネギ君のあの障壁は何だ?」

「私は実際に見ましたが詳しいことは分かりません。私の私見では障壁を解除して突破するタイプの攻撃にすら有効なようです」

「……万能だな」

「神多羅木先生、僕もうネギ君に勝てないですよ」

「瀬流彦、お前はお前で頑張れ」

「……はい」

「それにしてもよくポケットを狙うなんて手段に出るな」

「ネギ先生はあの年にして完全な敵に向かっては急所を狙う攻撃を躊躇無くしますよ」

「いつそんな風に育ったんですか」

「恐らく学園長が去年の冬に使ったスクロールが原因だと思います」

「スクロール?」

「詳しい事は聞いてませんが4日間スクロール内に精神だけ取り込んで何かをさせていたようです」

「学園長か……相変わらず情報を殆ど出さない方だな」

魔法先生たちは思い思いの感想を述べていたり、瀬流彦先生は自信を喪失していたりするが頑張れ。
3-A関係者の反応はと言えば……。

「か、かっこいい!!このか!今の高畑先生見た!?凄いわよ!!」

「アスナ……気持ちは分かるけど、ネギ君も凄いえ」

「あの先生と俺も戦うてみたいな!タッグでも面白そうやけど」

「小太郎君、それだと流石の高畑先生にも組む相手がいないと……」

「ネギ坊主よくやるアルね!」

「けーたろ!ネギ凄いな!」

「空飛んでるもんなー」

驚くところはそこか。

「はっはっは、良い功夫だね!」

功夫も混ざってるけど何か違うよ。

「景太郎兄ちゃん、俺も飛べるで!ほら!」

小太郎君も浮遊しだした。

「おおっ凄いよ小太郎君!」

「はー最近の子供は飛べるんだな」

タカミチ君も飛んでますよ、はるかさん。

「たまも飛んどるからな!」

「浦島も空飛んでみろ」

「ええ!?素子ちゃん、それ無理だよ!」

「お兄ちゃんならきっと飛べます」

「なる先輩達も祭りもいいがこっちを先に見に来れば良かったのにな」

「ウチが呼んだろか?」

「っておい、カナコ!どさくさに紛れて浦島に抱きついて持ち上げようとするな!むしろ私がやる!」

「ちょっとちょっとここで俺投げられても飛べないよ!?」

「モトコねーちゃんやれー!」

「問答無用!はぁっ!」

「えええええええ!?」

浦島兄は吹き飛んでいった。
確かに滞空時間は数秒あった気がするがそれは飛んだとは言わない。
何にしてもひなた荘関係者は常にマイペースだった。

大事な試合の方であるが、5分程空中戦を繰り広げた上で再度会話の機会が出来た。

「ネギ君、もしあの舞台上で戦い続けたなら僕の戦場として有利だったんだけど今は空中戦だから本気で行くよ。まだ負ける訳にはいかないからね」

「タカミチ……うん……分かった!僕も精一杯やるよ!」

「よし、行くよ!」

フルパワー無音拳、射程距離も飛躍的に伸びる豪殺居合い拳の登場である。
確かに魔法領域を突破かつダウンを狙うならそれぐらいの威力の方が良い。
巨大なレーザーみたいなのが一発発射されたかと思えばネギ少年は回避、したところを読まれていたわけではないが続けて5発同時に同規模の豪殺居合い拳が飛んできたうちの一つにネギ少年はあえなく被弾した。
近衛門だと完全に移動先を読むのだが、タカミチ君の場合は移動しそうな場所に決めて放ったようだ。
見事に魔法領域を吹き飛ばし角度もクリーンに顎に入り気絶させたのだった。
しかしそれでもあれほどおかしな威力の攻撃をここまで軽減できるようになったのだからネギ少年は凄い。
今回の試合もやはり龍宮神社だったら被害総額が気になるレベルのものになったであろう。
墜落していくネギ少年をしっかり空中で受け止めたタカミチ君は地上の舞台へ降り、ゆっくり舞台に寝かせてカウントの開始である。
流石に既にかなり本気で戦ったタカミチ君も「君の想いはその程度なのか?」なんて気絶させたネギ少年に言って挑発するような状況ではない。

「8、9、カウント10!勝者高畑・T・タカミチ選手!」

上着が完全に駄目になっているタカミチ君はそのままネギ少年を抱えて魔法球から出てきた。
当然観客は大歓声を上げてネギ少年のねぎらいをしたり、タカミチ君に流石だ!という声が飛んだりした。
呪術協会との折り合いもあるので、ネギ少年が浮遊術を使えなかったならともかく、近衛門を除けば学園最強のタカミチ君が下手に手加減してネギ少年に負けるわけには行かない。
この辺りはどことなく詠春殿と同じである。

「詠春、ネギ君はどうでしたか?」

「ははは、大したものです。これならナギの遺言体とやらも喜ぶだろう」

「ええ、いつやるかが問題ですがやはり最終日がいいですね。まだ成長しそうですし」

「しかしタカミチ君にあの技を使わせるとは……」

「ガトウが懐かしいですね……」

「そうだな……」

「私達もタカミチ君に会いに行きましょうか」

「また休憩室ですか」

そう言って紅き翼の二人はタカミチ少年とネギ少年が多数の知人に囲まれながら移動していった回復施設に向かっていった。

一方、二人の試合が終る直前に長瀬楓と龍宮神社のお嬢さんの試合も加速魔法球で開始されていた。

「真名とこうして戦うのは初めてでござるな」

「楓とは私も一度やってみたかったから丁度いいさ」

「制限時間15分。試合開始ッ!」

実はこの二人双方の同意の元装備有りである。
ヤバすぎる。
クナイに巨大手裏剣それに対して実弾銃である。
これでどう寸止めするのか知らないが、同意が取れているのだから仕方がない。
ここの審判は加速魔法球だから等倍速より楽だろうなんて思っていたのだが、殺伐としすぎる試合を担当することになるとはなんとも不運である。
彼は真剣勝負すると聞いて本物の剣使うぐらいかなんて思ったりしたのだが実弾銃は本気で終わっているので試合開始早々、茶々丸姉さんの妹機と一緒に遠隔地からの審判というなんとも言えない状況になっている。

「真名、銃弾の費用は良いのでござるか?」

「超からのお布施の一部は私個人当てだから構わん。貴様相手なら惜しくない」

さて、実弾撃って長瀬楓は大丈夫なのかという疑問が残るが神鳴流を思い出して欲しい。
飛び道具は彼等には基本的に対面で撃っても弾くのだから、忍者だってそれぐらいできるのだ。
少し会話をしたかと思えば完全に真剣勝負に突入した。
長瀬楓が分身して4人になり各々気を纏わせたクナイを投げつければ、龍宮神社のお嬢さんが回避できないものについては二丁拳銃で撃ち落とし、魔眼でどれが分身かわかるためそれに対しては躊躇なく急所に弾丸を撃ちこむという応酬である。
分身もレバーを引いて巨大手裏剣を高速回転させ銃弾を弾き、そのまま投げつけ追い打ちで気弾も連射とこれが3-Aに所属する武道四天王の2柱だというのだから末恐ろしい。
後にこの二人の試合映像を確認したどちらかというと一般人寄りの選手の方々は、二人の個人情報に中学生と書いてあるのが信じられないし、あまりの危険さに閲覧中は青ざめていたが、終わってみるとその辺の下手な映画より迫力があったとかなんとかいう感想を漏らしていたようだ。
物は捉え方次第だ。
ネギ少年達が見た時には「二人共真剣勝負なんて危ないですよ!やめて下さい!」なんて注意したのだが、断罪の剣で相転移させる技を使ったネギ少年が言っても実はあまり説得力がなかったりする。
実際気で本気で身体強化すれば銃弾の一発ぐらい当たってもなんとかなるので意外と問題無い。
余程神鳴流の決戦奥義の方が危険である。

龍宮神社のお嬢さんには最終奥義があるもののそれは流石に出せないため、長瀬楓に分身という手段がある点で分が悪い戦いであったものの本体の右肩、左足に銃弾を命中させる事ができた。
足に当てた方法が地面に突き刺さった銃弾に角度をあわせて撃ち弾丸を跳弾させるという物だったが……。
しかしそれと引換えに片腕一本骨折を喰らい攻撃手段半減の結果首筋にクナイを突き付けられギブアップ宣言をすることになった。
なんていうかとにかく怪我が痛い。

「勝者長瀬楓選手!治療室に急いで下さい!」

「流石だな。本気でやると私の方が劣るか」

「真名には少しこの舞台は狭いでござろう」

「貴様も同じ事だろう。銃弾はどうするんだ?」

「こうするでござるよ」

え……普通に細いクナイ使って抉り出すんですか?
痛いからやめて!

「ひいっ!は、早く治療室に移動してください!」

審判さんに直視はちょっと……。

「おお、これは済まないでござる」

「足をやったからな……左肩なら空いているから掴まれ」

「かたじけない。しかしこれはすぐに治るのであろうか」

「すぐに治るらしいぞ。既に骨折した選手もいるようだが完治しているそうだ」

「それは凄いでござるな」

出血していたり盛大に骨が折れたりしているにも関わらず平然と会話している女子中学生なんて嫌だ。
細菌感染なんていうものが気になるかもしれないがそういうのも全部解決してあるので気にしなくて問題ないらしい。
どういう仕組みなのか聞きたい場合は超鈴音にどうぞ。

そんなやりとりが行われていた間、ネギ少年は休憩室に運ばれ数分間気絶していたが目を覚ましたところ丁度周りには皆が集まっていた。

「ん……ここは」

「あ、ネギ君起きたえ」

「ネギ!目覚めたんか!」

「ネギ!もう起きて大丈夫なの?」

「はい、大丈夫です。……あれ、僕タカミチと試合してて凄いのを喰らった気がするんだけど負けたのか」

そこへタカミチ君登場である。

「ネギ君、本気の一撃を当ててしまって悪かったね」

「大丈夫だよ、タカミチが強いのはよく分かった。いつか追いついて見せるよ!」

「ははは、ネギ君ならもう1年もしないうちに僕は追い抜かされてしまいそうだけどね」

「……そうかな?」

そこへ更に顔を出すのは……。

「ネギ君、先程の試合は見事でした」

「お久しぶりです、ネギ君」

「あ、詠春さんにクウネルさん!どうしてここに?」

「学園祭を回りに出てきたついでにタカミチ君に会いに来ました。詠春もいますし紅き翼が3人揃いましたよ」

「あ、本当ですね!」

「あまり大きな声で言わない方がいいですがね」

「詠春、あなたはもう十分目立っているではないですか」

「そうやよ父様!」

「……これはお恥ずかしい」

更にそこにやってきたのは……。

「真名との真剣勝負はなかなかでござったな」

「ああ、私も久々に骨のある戦いができたよ」

未だ血が出てたりするが、ネギ少年達がいる所に平然とやってきて椅子に座って二人は休み始めた。
当然二人の銃創と骨折を見て「何やってたんですか!」という話になり端末で映像を確認してみれば真剣勝負であった事がわかりネギ少年が先生として注意したりと騒ぎになったが実際みるみるうちに二人の怪我は治ってしまったのでなんだかんだ有耶無耶になった。

そんな事が休憩室で繰り広げられている一方4番目の等速試合も始まろうとしていた。
試合の組み合わせは明石教授と瀬田教授という教授バトルである。
教授同士であるのにその舞台が武道会というのは何なのだろうか。

「瀬田教授、お会いできて光栄です。私も麻帆良大で教授をやっています。後でよければサインを貰えませんか?」

「おおっ、そうですか!僕のサインで良ければどうぞ」

「ありがとうございます。それでは試合の方もお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」

ネクタイ無しの黒服を着ている飄々とした瀬田教授とワイシャツネクタイにベストを着用している明石教授の試合である。
全然武道会と言える服装ではないがこれが彼等の正装なのだろう。
瀬田教授は素子さんよりも強い程の截拳道の達人であるものの、奥さんには勝てない……がこれは相性というかそういうものなので仕方がない。
さて、明石教授は今となっては普段たまに麻帆良の警備に出てきては管制を担当することばかりだが、実は戦闘の実力はかなり高い。
なら何故警備で前線に出ていないかと言えば奥さんが魔法世界での任務に出た際に亡くなってしまい、これで明石教授まで何かあれば娘の明石裕奈が一人きりになってしまうからという近衛門の配慮がある。
元々1993年にその任務に立候補した明石夕子さんをエージェントに最終決定したのが近衛門だったというのも大きな理由である。
その任務というのはナギ失踪の後すぐの調査のためのものであり、任務中に何かマズい情報を掴んでしまったかどうかは憶測でしかないのだが殉職しているのだ。
この事件は麻帆良にとっては魔法世界での大戦以来の悲しい出来事であり、しかも任務に関する詳細情報が一切降りてこなかった為近衛門はメガロメセンブリアの一部が臭いと睨んでいたが、それよりも麻帆良を守らなければならなかったため深入りはできなかったのである。
話を戻すと明石教授は魔法世界にいた時にはメガロメセンブリア正規軍武装隊で部隊長を務めていた事もあり、普段のだらしない生活からはあまりイメージが沸かないが近接格闘戦においてはそれ相応の実力がある。

「試合開始ッ」

―戦いの歌!!―

明石教授はやはり白兵戦には欠かせない戦いの歌を使用し身体に対物魔法障壁を纏い、身体能力及び反射神経を上昇させた。

「僕から行きます明石教授!」

と一応年齢的に若い瀬田教授が先に仕掛け開幕となった。
格闘戦の様相はウルティマホラでの古菲対超鈴音戦を超えるハイレベルなものとなり、観客は大いに盛り上がりだした。
しかし瀬田教授は相変わらず爽やかに笑いながら一切焦る様子も見せずバシバシ散打を打ち込むものだから、明石教授としては気の扱いに長けているどころかとんでもない達人だと実感せざるをえなかった。
戦いの歌を使用している魔法使いの動きに余裕の表情で対応できる東大教授って一体何だ、としか言いようがないが、打撃のみかと思えば突然バク宙から蹴り技を繰り出したりと終始トリッキーな動きをしていた。

「明石教授、いい功夫ですね!」

「瀬田教授もお強いですね!」

と真剣勝負をしながらも仲良くなりつつあり、互いに挨拶を欠かさず、ガンガンぶつかり合っている。
二人共手足が長いためスタイリッシュ格闘とでも言えばいいのか、神楽坂明日菜がイイ感じに渋いこの二人を見たらきっと気に入るであろう。
互角かと思えば瀬田教授の攻撃はクリーンヒットすることがあるが、明石教授の攻撃は常に寸前で華麗に完全にガードされるか逸らされ回避されるかして防がれているため実際一方的な試合になっている。
数分間の戦闘の結果気がつくと膝がガクガク言い出したのは明石教授でギブアップ宣言をしたのであった。

「いやー、参りました瀬田教授」

「はっはっは、明石教授も良い試合でしたよ」

お互いニコニコした表情のままガシッと固い握手をして試合を終えたのだが、非常に爽やかでよかったと思う。
この試合映像を明石裕奈が見たら負けはしたものの父親の格好良さのあまりいよいよ「結婚しよう!」なんて真面目に言い出しそうであるが。

「瀬田やん強いな!」

「相手の人も強かったが……この大会は凄い。今まで開かれていなかったのが惜しいぐらいだ。次は浦島の試合か、子供に負けるなよ」

「瀬田教授みたいに勝てるかなー。俺飛べないし」

ネギ少年のいる休憩所から先に飛び出してきて会話を聞きつけたのは。

「おう、景太郎兄ちゃん!飛ばないから安心してや!俺は地上戦も得意やで!」

「それは助かるよ。流石に飛ばれたらどうしようもないからさ」

「浦島、木刀使うか?」

「んー、小太郎君が素手なら俺も素手だね。それじゃ行こうか」

「よっしゃ、よろしく頼むで!」

引き続き倍速魔法球で小太郎君と浦島兄の試合である。
一緒に魔法球に入った観客はひなた荘関係者の人達と飛び出していった小太郎君の後を追うようにやってきたネギ少年達である。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

コタロー君の初戦の相手の浦島景太郎さんは強そうに見えないんだけど……。

「よーし、やるぞ」

あれ!?突然構えた途端見ててわかるぐらい凄い気だ!

「何や景太郎兄ちゃん本気出すとそないになるんか!面白いな!」

「制限時間15分試合開始ッ!」

「ハッ!」

あの構えは箭疾歩!
この人瞬動術ができるッ!
当たる寸前でコタロー君も後方に瞬動で回避したけど鋭い!

「ッ!?ネギの得意技やないか!慣れとらんかったら危なかったわ。俺からも行くで」

―狗音爆砕拳!!―

「うわッ!何だその不思議パンチ!」

コタロー君の動きに対応した!?
寸前で腕の軌道を逸らして避けるなんて!

「避けるんか!やっぱ面白いわ!ガンガン行くで!」

コタロー君も景太郎さんがどれぐらい強いのかわかったみたいで殆どいつも通り戦ってるけど景太郎さんの避ける時の声でなんだか気が抜けるな……。

「浦島は避けるのは上手いな……」

「素子が景太郎に長い事散々襲いかかったからだろうに」

景太郎さんって……。

「よう避けるな!でもこれならどうや!分身!」

「ぶ、分身!?忍者か!?」

「忍者ではないでござるよ」

楓さんに言ってるんじゃないですよ!

―疾空黒狼牙!!―

3体で一斉に狗神を飛ばして攻撃だけど……凄い!
避け方はなんかその場繋ぎだけど捌いてる!
あっ当たった!

「あぷろっ!」

あぷろ……?

「いやー、びっくりしたよ。何か飛んできたし、ははは」

何事も無く起き上がったしまだ全然ピンピンしてる!?

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

何か決まった型で動くというよりガン避けしつつカウンターを仕掛けたりする浦島兄であるが攻撃を喰らうと謎の声をあげるのには突っ込んではいけないのだろう。
最初は面白がっていた小太郎君であるが、何度攻撃を当てても「ははは」とか言いながらまるで無傷の状態で起き上がってくるのを見て段々気味が悪くなってきたのか、凄く嫌そうな表情をしだした。
一応武道会なので春休みの翼竜の角を折るような人間に対して致命傷レベルの攻撃をする訳にも行かず、延々と打ち合いを続けるものの相手はピンピンしているのにカウンターは痛いという小太郎君にとってはジリ貧の戦いになった。
獣化すればすぐに怪我なんて治るのだがそれはそれで何か負けた気がするので嫌なのだろう。
確かに軽い笑いを発しながら戦っている相手に本気を出すには気分も乗らないのは分からなくもない。
途中素子さんが「浦島!気合が足りんぞ!」なんて言っているが多分彼は窮地に追い込まれると鋭くなるタイプだと思われるので、真剣で斬りかかったりしない限り本領は発揮されないのだろう。
総評としては気の抜けた高レベルな戦いと言える。
殴られるたびに「けーたろやられたー!」等とひなた荘の住人が囃し立てるものだからそれを更に増長させたのも原因だが。
結局15分間やり続けて引き分けである。

「景太郎兄ちゃん身体どうなってんのや……」

「あー俺不死身だからさ」

「何やて!?」

「「「不死身!?」」」

流石にこの発言には3-Aの皆さんも驚いたようだ。
ネギ少年の身近で不死身といえばエヴァンジェリンお嬢さんしかいないのだが、比較対象としては何か違うような気がしてならない。
日本武道館のてっぺんについている高さ3.35m、直径5.15mの擬宝珠という、実際玉ねぎみたいな見た目をしているものがどういう訳か飛んできて彼に直撃してもただの足の骨折だけで済むのは不死身と判断してもよさそうではあるがやっぱり違うと思う。
何か深く突っ込んでは負けだという空気が広がりとりあえず小太郎君は浦島兄と握手をして初戦を終えたのだった。
何やら古菲は「強い男……アルか?」と呟いていたが強いには強いが分類するなら「打たれ強い」だろうが、それで気に入ったのならお好きにどうぞ。

その次の等速試合6戦目は素子さんと鶴子さんではなく、違うお姉さんの仙子さんとの試合であった。
この試合は初っ端から本気で行われ、素子さんは長引かせるのが嫌で嫌でたまらなかったのか本気で攻め真剣でないものの帯電している状態での寸止めになったが「素子はんと試合できて楽しかったどす」とにこやかに感想を言われたのだった。
その際言われた素子さんの額の辺りがピクピクいっていたが恐らくまだ後に数人控えているからであろう。
数年間関東に出て割と平穏に好きなように修行していたところ麻帆良に来てみればこのザマである。
早期に終わったとは言え、舞台はやっぱり跡形もなく消滅することとなり、観戦していた男性選手は美人のお姉さんと戦ってみたいと一度でも思ったことをなんて愚かだったんだと悟った。
それでもその更に一部の人達に回復施設の効果を知った上で切られる瞬間を脳裏に刻んでみたい等というとんでもない趣味の持ち主もいて二戦目の試合に早くも申請していたそうな。
まあ需要と供給がうまくあうならそれでいいのではなかろうか。

さて、ようやく一戦目が一周したところで、いよいよ古菲の確定指名戦である。

「はるかさんよろしくアル!」

「ああ、よろしくな」

「試合開始ッ!」

夫婦そろって飄々としているが瀬田はるかさんは八極拳の達人であり、一方古菲のメインは形意拳と八卦掌であるが八極拳に関しても他人に伝授出来るほど熟達している。
そもそも八極拳とは超近接戦闘を得意とする拳法であり、二人の試合では周囲に莫大な被害が出たりはしないが、観戦する側としては全く目が離せない試合内容となった。

「くーふぇさんもはるかさんも凄い……」

「はるかの姉ちゃん古姉ちゃんより強いで!」

はるかさんはどうやら小太郎君にはまだまだお姉さんの部類らしいです。

「古は一般人では最強の部類に入ると思っていたが世界は広いな」

「拙者も驚いたでござるよ。近頃気の扱いについて共に修行して相当成長したがそれを超えているとは……」

「はっはっは、あんなに若いのにはるかと張り合うなんて将来凄いだろうね!」

被弾する度に辛そうな表情を浮かべる古菲に対して表情に特に変化もなく黙々と打撃を繰り出すはるかさんはまさに達人である。

「はるかさんは誰か師匠がいたアルか?」

「あー、義母と相手をしたり、瀬田を殴っていたら自然とな」

……環境と慣れって怖い。
まあ浦島ひなたという現在世界中飛び回っているお婆さんも壮絶に強いので自然とというのは別に冗談ではないだろう。
実際浦島妹もそのお婆さんから鍛えられていて強いのだから。
全体的にひなた荘関係者は主に男性が殴られるのが常であるが、正直まっぴら御免である。
ウルティマホラの普通の一般人同士の試合であれば、間合いを読んでしばしにらみ合ったりする時間があったり、打撃が直撃すればそれだけで一度仕切りなおしなんて事も多いのだが、この気の達人とやらは体全体を鎧みたいな硬さにあげる上、更に硬気功なんていう一般的に実戦ではとてもではないが使えないようなものを普通に使用するのだから次元が違う。
例えば肘打ちなんてまともにくらってそのまま立っていられるだろうか、少なくとも私のインターフェイスで普通にやられたら魔分で保護するか痛みを遮断していなければ確実にその場で倒れるだろう。
極まっている人間を見るというのは実に面白いが、やはり世界全体の総数からみれば彼等は一握りにしか過ぎないのである。
そう考えれば超鈴音がこうしてまほら武道会という場を設けることによって各地に散らばる人々を集合させるというのは確かに苦労して実現するだけの価値があるというのも分かる気がする。
二人の試合で先に倒れてダウンしたのは古菲であった。
それまでの数分間の中で何度か膝を地面に付くことがあったがその度に不屈の闘志で再び立ち上がり果敢に立ち向かっていく姿は実に生き生きとしていた。
古菲にとっては同じ中国拳法の使い手でここまで強い相手に会ったのは久々としか言いようがなく受けたダメージに辛そうであるものの楽しくて仕方がないという顔であった。

「……私こんなに強い八極拳の達人を見たのは故郷の両親以来アル」

舞台に寝転がったまま話し始め。

「私も驚いたよ。その年でそこまで強いなら私の年齢……には遥かに強くなっているだろう。今回のはただの年齢の差だな」

年齢の件でやや自分で言って何か嫌だったのか詰まったようだ。

「試合受けてくれてありがとアル!楽しかったね」

「それはどうも。たまには知らない相手とやるのも悪くないな。自分で起きれるか、ほら手を出しな」

「ありがとアル!握手するネ!」

「ああ」

手を出されてそのまま起き上がり握手となった。
魔法球から出てきた二人は温かい拍手に包まれ、それぞれネギ少年達の所、ひなた荘関係者の所へと移動していった。
やはり武道会というのはこういうものの方が合っている。
はるかさんは速攻でタバコを吸い始め、瀬田教授もつられて吸い始めたがここ禁煙とかあったのだろうか。
知らない。
タカミチ君や神多羅木先生も吸ってるから問題ないと……思う。

とにもかくにも、一戦目がようやく終りを迎えたわけだがまだまだまほら武道会も麻帆良祭も始まったばかり、時間は丁度昼少し前である。



[21907] 35話 アーティファクト発動!
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/02/19 22:27
これでとうとうA組の麻帆良祭も三回目だわ。
シスターシャークティから聞いてたけど龍宮神社で超りんが開いたまほら武道会ってのやってるんスよ。
で、私は観に行かないのかってそんな面白いこと見に行かないわけない……んだけどさ、ほらネギ君いるから会ったら困るなーという事でね。
超りんから端末もらっちゃってんのさ。
これ元々選手用の端末らしいんだけど、少しデチューンして試合映像だけ見れるようにしてくれたみたいね。
やっと一戦目ってのが終わったみたいなんだけど全部見ると5、6時間かかるんだけど何これ。
ダイオラマ魔法球ってので試合やってるからなんだろうけど確かこれまほネットで見た時とんでもない額してた筈だし、そもそもこんなホイホイ出たり入ったり出来なかったと思うんスけどね。
後でどうなってんのかちょっくら見にくかー。
とりあえず見てみたい試合は周りに3-Aの皆がいないところでいくつか見てみたんスけど、このかのお父さん?の試合やべースよ。
相手の女の人怖すぎだろ。
選手の個人情報のところに青山鶴子:主婦ってなってるんだけどお前のような主婦がいるか!ってね……。
マジ無いわー。
たつみーと楓の試合も気になりすぎて見たけど両方共通すんのは審判の人が一番かわいそうだわ。
私だったら審判なんてやらん。
流石にこれは朝倉でも嫌がるよ。
てかなんでたつみー達真剣勝負してんのさ。
明らかに楓銃弾受けてたしそれアリなのか?
怪我はすぐ治るとかそういう問題なのかね……。
愛衣ちゃんの試合も見たけどこういうのが普通ッスよ。
私も、もし……もしだけど出てたら確実にこんな感じになるね。

で、今丁度昼で五月と西川さんのいる超包子で昼飯食べた訳さ。
そしたら超包子主催の

「激走鬼ごっこ~麻帆良を駆け抜けろ~」

なんていう適当な副題まで付いてる「イベントやるからよかったら出てみてね」なんて言われたんだけど無駄に凝ってるよ、コレ。
超包子は今年の麻帆良祭に10店舗まで出てるんだけど、それに合わせて同時刻から10店舗で同時に鬼ごっこやるんだとさ。
で、鬼の役は誰かっていうと私達の女子寮を去年から守ってる田中さんと別シリーズの鈴木さんと佐藤さんが参加者数にあわせて1店舗につき数体……人か?が最初鬼として1号店なら1号店のゼッケン付けて麻帆良をうろつくらしいのさ。
イベントに参加する側は当然逃げる側で、登録をした店舗の番号付きのゼッケンを貸し出されて対応する店舗の鬼から逃げるって訳。
因みにゼッケンって言う割には雪広グループも監修してるだけあって相変わらずセンスがいいから着てもいいじゃんって感じだから別に気にならないね。
でもって対応する店舗の鬼だけに見つからなければいいのかっていうと、他店舗の鬼の視界に入ると追いかけてはこないけどそこに居るっていう情報がすぐ伝わる仕組みみたいで油断できないわ。
しかも時間がある程度経過すると田中さん達の数が増えるのね。
そんでタッチされればゼッケンのセンサーから情報が店舗に飛んでアウトになると。
あとまた別に端末があって、超包子からイベント中の情報を受信したり、時間表示、全参加者の現在位置色別でわかる麻帆良のGPS地図機能、参加者同士でメールをやりとりできる機能が搭載されてるのが配られるのね。
他にも特殊な機能がついてて、長時間屋内に隠れているようだと失格の判定がされるらしい。
これ絶対開発したの超りんだろ。
妙なものよく作るよなー。
ここまで見ると人によっては簡単そうとか難しそうとか思うけど、出場を決意させる餌がね……。
賞金が毎秒200円ずつ増加していって90分間逃げ切れば108万円の賞金か超包子の商品券200万円分を選べるんだってさ!
まあ多分こんだけ高いって事は相当難しいんだろうと思うけど参加するだけでも超包子の商品券1000円分は確実に貰えるし、45分逃げ切った段階で5000円、75分で5万円の商品券は確定するんだと。
時給換算すると高すぎだろ。
いや、ってか商品券200万円分を選ぶにしても誰が使い切るんスか。
毎日三個肉まん買い続けても10万もいかんでしょ。
五月の本格的高級中華料理のコースでも頼んだら……ってそんなのあったか?
先着順に1店舗50人までで最大で一度に合計500人までだけど十分多いね。
普通鬼ごっこなんて数人でやるもんだろ。
でもってこんだけ真面目にルール見たからには私は出るに決まってるッスよ!
これはアーティファクト使ってもよさそうだなー。
逃げるだけしか能が無い私のアーティファクトだけどこれはいける。

「美空ちゃん出るの?」

「はい、面白そうなんで」

「じゃあこれがゼッケンと端末ね。美空ちゃんは大丈夫だと思うけど端末持ち帰ろうとしても発信器付いてるから気をつけてね」

「大丈夫です。確かにこれだけ高機能だと持ち帰りそうな人いそうですもんね」

「流石超ちゃんよねー。それで開始時刻は13時丁度からだから頑張ってね。それまではどこに行ってても大丈夫よ」

「但しその時に屋内にはいないようにって事ですか?」

「そう、それよ!まあちょっとぐらいなら大丈夫だけどね」

「分かりました。西川さんも仕事頑張ってください。五月も頑張ってね」

「行ってらっしゃーい」

忙しそうな五月は何も言わなかったけどこっちみて微笑んでくれたわー。
そんじゃちょいと本格的鬼ごっこやってみるか!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

まほら武道会も一戦目が終わたけどかなり盛り上がたネ。

「魔法をこうして見ると凄いですねー」

「科学でも似たような事ができるけどネ。こういう戦いだけでなく日常生活にも役だてられるヨ」

「鈴音さん、魔力炉の安全性ってどうなんですか?」

「ふむ、基本的に暴走させない限り危険ではないのだが当然強い衝撃を与えれば爆弾のようになるのは科学と同じだヨ」

「茶々丸を開発して思いましたがそれでもかなりクリーンなエネルギーではありますね」

「クリーンと言えばクリーンだが反応のさせ方次第ではあるヨ」

「いつか魔法世界行ってみたいですねー」

「今すぐには無理だがそのうち楽に行き来できるようになるかもしれないネ」

一戦目で目立た試合が魔法かというとこのかサンのお父さんと青山鶴子サンの試合が最初の試合にして一番迫力があたナ。
あれが気でできるというのだから神鳴流は凄いネ。
二戦目も既に始まているが、流れ自体はうまくいているし途中で抜けても大丈夫そうだナ。
翆坊主によるとクウネルサンも来ているようだがネギ坊主の下見という所だろうネ。
やはり最終日に試合をセッティングする事になるだろうが恐らく空中戦を普通にするだろうし魔法球の中で全く問題無いだろうナ。
しかし少し前神鳴流のお姉サン達が18時以降に魔法球を貸して欲しいと言てきたがニコニコしている割にはプレッシャーしか感じ無いのだからあれは脅迫に近いヨ。
西川サンからの連絡で超包子の鬼ごっこ企画ももうすぐ始まるようけどどうなるだろうナ。
今年の麻帆良祭では広域指導員の先生は一般の先生が殆どで、魔法先生はまほら武道会の合間に交代でという感じだが、それで足りない分は雪広グループの社員サン達が腕章つけて表で色々サポートしてくれているヨ。
基本的に麻帆良祭でははっきりとした死者が出るという事が無いのだがそれは麻帆良の異常性の賜物でもあるナ。
外でやったらプロペラ機の試験飛行なんてどこかに墜落するかもしれないのだからネ。
さて、一度クラスに戻てお化け屋敷の客寄せもしておかないとネ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

よーしもうそろそろ13時だね。
端末確認する500人全員参加か。
田中さん達の数は100人……1体あたり5人の計算ねぇ……少なくとも私は1号店の10体から確実に逃げればいいと。
丁度龍宮神社の付近に来たんだけどここ佐藤さん多すぎだろ……。
あれ?何あの飛んでるカメ。
こっち来たし。

「みゅ~」

なにこれ可愛い。
おっ小さいネームプレート付けてる。
温泉たまご……何だそれ。
ペット買うにしてもなそんな明らかに商品名っぽいのは無いだろー。

「たまごちゃん……たまちゃんってとこか」

「みゅ、みゅ~」

うわー何言ってんのかはっきり分かんないけど頷いてるから多分それでいいみたいだな。
実は頭いいのか?
ってか飛ぶカメなんてどこぞの映画じゃないんだから……龍宮神社付近にいるあたり魔法生物かな。

「私今から鬼ごっこやるんだけど何か用かい?」

「みゅ~?」

質問を質問で返されてもなー。

「とりあえず時間だし固まってると危ないから移動するか。じゃあたまちゃんまたね」

さてと……アーティファクト使っとくか。

「アデアット!」

特に麻帆良祭だからって私みたいな魔法生徒に何か役目が回ってくる事なんてないんだけどどうすっかなー。
桜子でもいたら運で切り抜けられそうなんだけど……。
ちょっと麻帆良教会の上にでも登ってまほら武道会の試合でも見るかな。

一気に走って……え!?なんでたまちゃんついてきてんの!?
時速何km出てると思って……。

「たまちゃん、どうしてそんなに速く飛べるんだい?」

「みゅみゅみゅー」

ヒレでジェスチャーすんのうまいなー。
任せろ!ってとこか。

「分かったわ。たまちゃんいつまで一緒にいるか知らないけど付いてきていいよ。後で龍宮神社に……って自分で戻れるか」

「みゅう!」

賢いな。
あれ、でも龍宮神社入るのってこっちの端末必要なんじゃなかったかな……。
ま、いっか。

「まあ飛ぶの大変だろうし頭の上に乗る?」

「みゅ」

実は今シスター服着ちゃってるから直接の感触は無いけどね。

「よし、乗ったね。そんじゃ出発!」

このアーティファクト脚力も上昇する上、とにかく足場がある限り直角だろうとなんだろうと走り続けている限りは落ちないっていう代物だから逃げるという点では相当有利だよなー。
適当に建物の屋根に飛び上がってと……後は屋根伝いに麻帆良教会まで一直線よ。

ほっ、そっ、よっ、はっ、とっ!そいっ!
……よーし到着、ここならしっかり屋外だし問題ないだろ。
見晴らしもいいしさ。
GPSで居場所がわかるからちょいマズい気もするけどいいよね。
端末一応確認するかー、どれどれ……げっもう人数減ってんじゃんか。
早過ぎるだろ。
……また減ったな。
実際鬼ごっこって言っても大通りなんかはそんなあちこち走り回れるほど道空いてないし鉢合わせしたら終わりだもんなー。
おっ何か麻帆良大の中央公園に集まってる人達いるみたいだけど何やってんだろ。
集団戦もできるみたいだから協力は確かに有効だけど。
メールも確認しとくか。

13:06to全体[双眼鏡貸出]
麻帆良大学工学部キャンパス中央公園で双眼鏡の貸出を行っています。
数に限りがありますがよければ是非。

はー多分大学生だろうけど、真面目にそんな事すんのか。
多分個人の携帯同士で常に通話状態にするのもありだろうから360度視界を確保できれば強いっちゃ強いだろうな。
このメール情報田中さん達に漏れてたりしたら一網打尽にならんのかね。

ん、個人メール来た。

13:12fromキツネto謎のシスター
シスターさんでええのかな。
ウチ近くにいるんやけど、そこにいるとアウトになるで。

いやー、わざわざありがたいけど、ここ屋上だからさ、大丈夫だわ。
ってか何で登録名が……地図、これ人の位置タッチすると個人情報出るのか!
どんだけ高機能なんスか。

「みゅ~」

「ん?たまちゃん何?」

ヒレで指し示してるけど……ああ。

「ゼッケン付けてる……あれがキツネさんっていうか何人かいるね。一応メール返しとくか」

全員私より年上っぽいなー。

13:15toキツネ
ご忠告どうもー。
実は屋根の上にいるんで多分大丈夫です。

しかも同じ1号店の登録者の人か。

「みゅっ!」

お、たまちゃん飛んでったな。
キツネさんとこか……飼い主なのか?
何か知ってるっぽいな。
おっこっちにヒレ指してアピールしてるし。
気づいたみたいね。
やっぱ驚いてるけど手振ってくれてるわ。
私も振っとこう。
どうもー。
たまちゃんももう終わりかー……ってまた飛んできた!

「みゅう!」

「どうしたのさ、飼い主じゃないの?」

「みゅー」

飼い主だけど、また後で会えるから大丈夫?
なんとなく意思疎通できるのはなんでかね。

「まー、たまちゃんがそれでいいって言うならいいよ」

また頭に乗ってくれたけどこの子人の頭乗るの慣れてるっぽいね。
さてと……ネギ君と高畑先生の試合でも見るかな。
うわーもうデータ100試合超えてんのか。
超りんが開催したって話だけど凄いな。
おっとまたメール来た。
今握ってたからわかるけど、これメール受信したのわかるように変えた方がいいかな……。

13:17fromキツネto謎のシスター
たま頭いいから大丈夫やと思うけどよろしく頼むわ!

13:17fromなるto謎のシスター
落ちないように気をつけてねー。
たまちゃんお願いします。

13:17fromしのぶto謎のシスター
どうやってそこに登ったんですか?

あそこにいる人3人か。
やっぱたまちゃんでいいのか。
だったら「温泉たまご」じゃなくて「温泉たま」でいいじゃんか!
なんか語呂悪いけどさ……。
とりあえず一括送信はと。

13:18toキツネ,なる,しのぶ
途中どっか行ってしまうかもしれませんけどたまちゃんは任せてください。
登った方法は企業秘密でお願いします。

これでよし。
ネギ君の試合は……これだこれ。
いざ、映像再生!
なるほど、高畑先生の接待試合……じゃ無いっ!?
ネギ君コエーよ!
なんだこれ!
舞台に穴空きすぎ!
いやいやいや、修学旅行で何か凄い強いのは少し見たけどさ、どんだけ強くなってんのさ……。
楓の長距離瞬動見た時も驚いたけど、虚空瞬動なんて前パラパラ見た上級教本にすら載ってないかったような……。
まー魔法使い全員が瞬間移動しなけりゃいけない訳でもないから必須技能でもないし。
あっちの拳闘大会とかだと使えて当たり前だったりするらしいけど、進む方向性が違うからね。
しかもよく分かんない障壁張ってるし、魔法の射手も20本以上出たけど全部無詠唱ってことか……愛衣ちゃんで驚いてたけどそれどころじゃないわな。

「みゅ~」

「ん、何?鬼ごっこの端末?いいよ、ほら」

たまちゃんって何のカメなんだろ。
機械扱えるとか凄いわ。
試合の方はもうね……さっきお前のような主婦がいるか!って思ったばかりだったけど、お前のような子供がいるか!って感じだわ。
ネギ君のお父さんも強かったってのはあっちで有名だけど大概だな。
こうして端末でみると何かのCGだと思えてこなくもないんだけど実際の試合なんだもんね……。
アーニャちゃんの占いで出てたネギ君と一緒の旅ってこんなに強くても困難だなんて、もしかして社会的に大変って事なんスかね……。
そりゃナギ・スプリングフィールドの息子だなんて知られれば社会的に大変だろうけどさ。
最終的には高畑先生の勝ちか。
なんつービーム放ってんだよ!
次はアスナと桜咲さんの試合……って何でアスナ!?
いつ魔法生徒になったし……。
修学旅行でどうなったか詳しく知らないけど記憶消せなかったのか?
しかも何でアスナも高畑先生と同じ事できてんのさ。
前から身体能力おかしかったけどもう私より強いだろー。
絶対ネギ君の周りって何かおかしいよな。
ふぅ……もうそろそろ1時40分ぐらいか。
もう後半分ちょい粘ればいいだけって余裕じゃないか?

「たまちゃん端末いい?」

「みゅー」

何いじってたんだろ……ってえええええええ!?
メール打っとるよこの子!

13:24toなる
景太郎 武道会 一試合目 引き分け
ニ試合目 勝ち

13:26fromなるto謎のシスター
たまちゃん?分かった、ありがとう。

13:27toキツネ
世界樹広場 安全

13:28fromキツネto謎のシスター
たまちゃんありがとな!

13:31fromしのぶto謎のシスター
たまちゃん私には何か無い?

13:33toしのぶ
しのぶ 頑張って

13:34fromしのぶto謎のシスター
たまちゃん、ありがと!

13:37toキツネ
神社 安全

13:38fromキツネto謎のシスター
分かったで!

……えーと、この人達何スか。
普通にこのメール送ったのがたまちゃんだって分かって対応してるこの人達もそうだけど、文字理解して単語だけどそれだけでもわかるメール打つカメって何さ。

「たまちゃんって頭いいの?」

「みゅう!」

「そうかそうかーえらいなー」

どうも景太郎って人もたまちゃん達の知り合いってみたいだしキツネさん達も裏関係なのかなー。
って45分経過きたわーこれで5000円ゲット!
うますぎる!

13:45from超包子to全体[フェイズ2移行のお知らせ]
参加者の皆様、当イベントも残すところ半分の時間となりました。
つきましては鬼の機動性能が向上します。
残りの参加者の皆様のご健闘をお祈りしております。
尚今まで安全であった場所にいた方も油断なさらぬようお気を付け下さい。
脱落者数345人
残存者数155人

げっなんじゃこりゃ。
しっかし随分脱落者でたなー。
田中さんの機動性向上ってあれか、何かスーパーになる奴か。
もしやここも危ないのか。

「たまちゃんどう思う?って何その縄どっから出したの?持ってろ?」

「みゅっみゅ!」

「後ろ?……って出たああああ!」

田中さん出たわー!!
登ってくんな!
はい上がってくんの怖いから!
これは難易度高すぎるだろ!

「逃げるッスよおおおお!!」

つかもう一人につき1体レベルの比率になってるしこっからは体力勝負なのか?
あ……でも脚力だけ上昇で走る速度はセーブしてあんのか。
普通に振り切ったし。
キツネさん達まだ無事みたいだけど、運良いのか?

「みゅい!」

またヒレのジェスチャーですか。

「たまちゃんそっち?GPS的にキツネさん達の方だね。ま、いいよー」

屋根の上もそろそろ駄目つっても自動車ぐらいの速度なら問題ないね。
風を受けながら走るのはやっぱいいねー。
やっとっ、ほいっ!
なんつーかあちこち佐藤さんとか鈴木さんもいるなー。
7、9、4、2うーん全部違う。
向かってる方向がたまちゃんがメールで送ってた神社なんだけどなんで安全って分かんのかね。
そういう場所が時間で変化すんのかな。
あーいたいた。
……着地と。

「あーどうも、謎のシスターです。たまちゃんがこっちってジェスチャーしてくれたんで来ました」

「こんにちはー、私がなるよ」

「こんにちは、しのぶです」

「お!よう来たな!ウチがキツネや。さっき遠くでよう見えんかったけど中学生ぐらいか?」

なるさんスゲー美人、どことなく長谷川さんに似てる……ような気もする。
しのぶさんは麗しの高校生って感じか。
キツネさんは一番年上みたいだけど多分キツネってのは本名じゃないな。
目元の特徴的なもんだろ。

「あ、はい、そうです」

「みゅー」

「たま、楽しかったか?」

「みゅう!」

「よかったね、たまちゃん」

私の頭の上にいただけの気がするんだけどね……。

「あの、たまちゃんがメール打てたのも驚きなんですけど鬼には会わなかったんですか?」

「そうやな、なんでかわからんかったけど会わなかったな」

「近くに違う店舗の鬼は来たんですけど、すぐ違うところ行っちゃいました」

「あ!またメールよ」

13:50from超包子to全体[鬼の人数増加のお知らせ]
これより各店舗の鬼の数が5体ずつ増加します。
残っている参加者の皆様のご健闘をお祈りします。
脱落者数382人
残存者数118人

「まだ増えるんか」

このまま時間が経つ度条件が変わってったらほんと全然人残らないだろ。

「で、たまちゃん、この縄は何だい?」

「みゅいっ!」

おお、しのぶさんに巻きつけ始めたんだけど何の真似だ?

「あー懐かしい、たまちゃん一人ぐらいなら持ち上げられたわね」

「えっ!?」

どんな力持ち何スか。

「わー、たまちゃん飛ばせてくれるの?」

「みゅっみゅ」

痛くないようにうまく取り付けて……?
飛んだー!!

「凄いよたまちゃん!」

「空中飛ぶのってまあ屋外だからいいと思いますけどたまちゃんって何のカメなんですか?」

「温泉ガメの女の子よ」

聞いたことねースよ。
あ、だから温泉たまごなのか。
にしても安易だな……。

「初めて聞きました」

「珍しいカメやからな」

「……そうなんですかー。ところであんなに高くまで飛んでますけど大丈夫なんですか?」

『成瀬川先輩ー!キツネさん!高いですよー!』

なんか神木の方に飛んでってる気がするんだけど……。

「たまちゃんならしのぶちゃん落としたりしないから大丈夫よ」

この人達麻帆良の人じゃなさそうだけど絶対どっかおかしいな……。

「あ!鬼が来おったで!」

「うわっマジかー!」

「でもしのぶちゃんは生き残るわ!」

そりゃ飛んでるからな……。

「それじゃ私足には自信あるんでここでっ!」

「ほな、頑張りや!」

「失礼しまーす!」

そろそろ真面目に端末確認しないとマズいね。
大分前に双眼鏡配ってた麻帆良大にもう人誰もいないしなー。
逆に狙い目かね。
時速60kmぐらいで走れるから移動するのに数分だしすれ違い様にタッチされなきゃいけるいける!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

2戦目も後半に突入し始めたぐらいなのですが、私は超包子に鬼ごっこの状況を確認しに来ています。

「西川さん、こんにちは!」

「こんにちは、さよちゃん」

「ちょっと鬼ごっこの状況を見に来たんですけど管制室見せてもらっていいですか?」

「もちろん!今結構面白いのよ。美空ちゃんなんか特に」

美空さん何やってんですか……。
超包子特設管制室のモニターを確認してみたところ、美空さんが凄い速さで走って逃げているみたいです。

「どう?美空ちゃん陸上部入ってるのは聞いてたけどこんなに足速かったのね」

多分アーティファクトでしょうね。

「ほんとに点の移動速度おかしいですね……。あれ、こっちの点は?」

「ああ、それね。さっき他の店舗から確認してもらったんだけどカメが女の子を縄につないで飛んでるのよ」

カメ?ってまたあのたまちゃんですか?
観測してみましょう。

……ほ、本当でした。
凄く一生懸命にヒレをパタパタさせているのが可愛らしいんですけど飛んでます。
神木にもうすぐ着きそうなんですけど確かに木を傷つける訳にはいかないですから、田中さん達も迂闊に追いかけられないでしょうね。

《超鈴音、サヨ、カメ凄いですね》

《キノ、神木に女の人が飛んでいきますね》

《翆坊主、神社に姿が見えないと思たらまたタマというカメか?》

《いやー、よほどこの前麻帆良に入ってきた妖精よりなんていうか、良いですね》

《飛べるからってだけじゃないんですか?》

《後でサヨも確認するといいですけど、春日美空と一緒にしばらく行動してまして、その際端末使ってメール打ったりしてたんですよ》

え?何ですかそれ、欲しい。

《あのタマちゃんという魔法生物はメールも打てるのカ》

《一家に一匹欲しいですね》

《美空と居たというのは何なのだろうネ。後で映像見せて欲しいナ》

《鈴音さん、任せてください!》

結局女の人は神木の太い枝のかなり高いところに着地したみたいですがこのままだと確実に逃げ切れますね。

「この分だといきなり2人も賞金獲得者出るわねー」

神木に登って追いかけるという思考が普通の人にできないのは認識阻害のせいなんですが、たまに洗脳じゃないかと思うときがあります。
でも無理に田中さん達に登らせて傷でもつけられても嫌ですしね。

「まあ楽しんでもらうイベントですから、賞金獲得者は出てもいいと思います!」

「そうねー。これも超ちゃんから資金出てるから超包子が赤字になる訳じゃないし仕方ないかしらね。本当に太っ腹だわー」

ダイオラマ魔法球で既に20億ですから今更108万、商品券飛んだところで大したこと無いですし。

「それにしてもさっきまでこのしのぶさんと一緒にいた二人は全然田中さん達に出会わなかったのよね」

「勘が良いんでしょうか」

しばらくモニターの管制を続けていたところ。

「そろそろ次の全体送信ね」

14:15from超包子to全体[フェイズ3移行のお知らせ]
参加者の皆様、当イベントも残すところ15分となりました。
つきましては更に鬼の機動性能が向上します。
残りの参加者の皆様のご健闘をお祈りしております。
尚、足に自信が無い方以外は迂闊な行動は控えた方がよいでしょう。
脱落者数482人
残存者数18人

もうここまでくるとダンボールに入って隠れるのに近い事をやるかとにかく逃げまわるかの二択しかないでしょうね。
もう殆ど人数も残っていませんが、ここで脱落しても5万円の商品券ですから75分で稼ぐ額にしては十分だと思います。

「送信したけどもう2、4、5、7、8号店は全滅ねー」

「一部体力とチームワークのいい人達だけが残ってるみたいですね。全滅した店舗の田中さん達って一定範囲内しか動かないんですね」

「圧倒的に鬼の方が多いようだと流石に酷いもの。それぐらいのハンデはないとね」

その代わり機動力が上がっているのでハンデというには全然足りてないですが……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

よーしあと4分!
これは108万貰った!
煩悩の数なのは何か気になるけど私は宗派っていうかそもそも違うんで!
1号店で残ってんのは私としのぶさんだけになったみたいで15体のうち10体がかなりの速度で追いかけてきてるけどなんとかなる!
残り5体は神木の下でうろちょろしてるけどわざわざ近づきたくないッス。
機動力がまた上がったっていうのはどうも時速が私の半分ぐらい?……大体30kmぐらいになって、行動が集団で追い込むパターンに切り替わる感じみたいっ!
3体後ろから追いかけてくるかと思えば残り7体が左右に散開して囲んでくるんスよ!
今どこで本気の鬼ごっこしてるかっていうと神木の裏側の草地ッス。
田中さんが走ってくんのはなんとなくわかるんだけど佐藤さんがニコニコしながら本気で走ってくんのは別の意味で怖い!
ここ何も無いかっていうと普通に屋台でてるから逃げにくいけど他に比べれば走りやすい!

うおっ!
マズイ追い込まれっ……ターンで切り返し!
脚力舐めんな!
ジャンプで飛び越えてやるさ!
フフッこの春日美空、お前達よりも2倍以上の速度で走れるのだから捕まる訳がないッ!

ん?
メール来た?
つかそんな確認する暇なんて無いッ!

……凄い音するんだけど何この駆動音?
げっフェイズ4とやらにでも上がったのか!?
速っ!
後1分だっつの!
ぬおおおおおっ!
ここまできて108万諦められるかー!!
つか私のこの足で逃げ切れ無いんだったらこの企画賞金払う気なんてないだろ!

草地から脱出して神社の方にまた行くか!
もう後はジグザグ走るより一直線に走ったほうが確実だし!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

春日美空は……こういう場合流れ的にアウトになりそうであるが、見事逃げ切った。
実は春日美空を追いかけている田中さん達だけ最後にフェイズ4に移行させたらしいのだが対超人用になっているだけあってかなり追い詰めていたが速さが僅かに及ばなかった。
逃げ切った際はやり遂げたという表情と嬉しさに満ちていて「108万とったりー!!」と盛大に叫んでいた。
まさに煩悩の為せる業とでも言えようか。

もう一人ハイスペックなカメ、温泉たまごのアシストにより見事逃げ切ったのは前原しのぶさんである。
これ以降カメでの飛行禁止なんていうお触れが鬼ごっこのルールに記載されたらしいがもう二度とないから安心して欲しい。
まあ「みゅうー!!」と鳴き声上げながら必死に飛んでいた努力を無碍にもできないのでたまちゃんに免じてである。

実はこのイベントに3-Aの生徒も春日美空以外に参加していたようだがある程度粘ってすぐに捕まったようだ。
そんな中、あの先生、弐集院先生は75分まで生き残っていた。
45分間までは普通に逃げていたが機動力の上昇により場所によっては頭上から飛んでくる田中さん達が現れるようになってからは凄かった。
普段細目で長瀬楓のような感じなのだが完全に開眼していた上、あのふくよかな体型にして背後に佐藤さんが接近すれば寸前で瞬動したりするのものだから技術の無駄使……いや、あの先生にとってはここぞとばかりにと言えるだろうか。
戦いの歌までは流石に使っていなかったものの生命体としての気の無い田中さん達の接近を勘で「ハッこの感じはッ!」と気づいたりしていたのは何らかの電波を受信していたのかもしれない。
少なくとも5万円分の商品券を獲得した時点で先生は十分このイベントで勝利していたと言えるだろう。

第一回目の鬼ごっこ企画の後、このイベントは相当難易度は高いものの、最初から2人の逃走完了者が出たという情報がネットワークに瞬く間に広がりこの後も申込者が後を立たず、むしろ参加する事自体が大変になるという有様だった。

さて、春日美空はそのまま無事に賞金を獲得できたかというと大変だった。
残念ながら後に教会の礼拝堂で、掃除中に浮かれた勢いでココネに「ココネのアーティファクトのお陰で賞金とれたわ!」なんて言ってしまったため、アーティファクトを使っていたことがシスターシャークティにバレ、大量の十字架が舞う恐怖空間でお仕置きをされた上、その賞金の小切手は大人になるまで使えないように春日美空の両親のもとに送られてしまったのである。
流石に教会に寄付なんてことにはならなかったが「お……おのれシスターシャークティ……」と黒いシスター服にも関わらず真っ白になっている春日美空が見られたらしい。
まあ数年後使えばいいじゃないか、残ってるかどうかは知らないけれど。
その次の日学校で春日美空の隣の超鈴音が事情を泣きつかれたものの「美空、ドジだナ」だそうだ。



[21907] 36話 ネギ少年の学祭巡り・前編
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/02/19 22:51
2戦目の申請を済ませたら次の試合までに皆1時間以上時間がある事が分かったから僕はコタロー君と昼前に一旦3-Aに寄ることにしたんだ。
アスナさん達はそれぞれの部活や研究会に行った。

「コタロー君は学園祭前にまわったことあるんだよね?」

「ああ、そうやで。俺も麻帆良に来たのは去年の2月ぐらいやからな。去年初めて学園の祭り見た時は驚いたで。ただでさえ人が多いのがこないにもっと増えるんやからな」

「僕が来たのはコタロー君の半年ぐらい後だもんなー。僕も去年の学園祭も見てみたかったな」

「何言っとんのやネギ、まだ始まったばかりやで」

「あはは、そうだね」

「せや、ネギ、お前俺の事君付けて呼ぶのそろそろやめんか?」

「コタロー君……じゃなくてコタローって呼べって事?」

「そう!それや!」

「うわ!びっくりした!」

いきなり大きな声出すんだから。

「なんで俺ももっと早う言わんかったかな。どうせネギの事やから慣れたら外すと変な感じする言いそうやったのに」

「……そんなに君付け嫌なの?」

「当たり前やろ!いつまでもよそよそしそうにコタロー君コタロー君って。俺はすぐ会った時からネギって呼んでたやろ」

うーんでも初めて会ったときは日本語でいう敬称の感覚あんまりよく分かってなかったんだけどな。
確かあの時はKotaroって呼んでた筈なんだけどネカネお姉ちゃんに言われたとおりできるだけ丁寧な言葉遣い覚えたのが原因かな。

「気づかなくてごめん、コタロー」

「おう、それでええで!」

そんなに嬉しいのか。
こんな事ならもっと早く外しておけばよかったな。

「去年初めてあった時はちゃんとKotaroって呼んでたのに日本語覚えたら君付けしてたや」

「そういやネギ日本語話せんかったな。すぐ話せるようになっとったから忘れてたわ」

「うん、でもあの時もう少し日本語話せない振りしてた方がアスナさん達の英語はもう少しうまくなったかもしれないんだよね」

「そんなん言うたら俺かて英語なんて話せんからな」

「いざとなったら言葉が通じなくても会話できるようになるまほ……えっとまあなんとかできるからね」

「ははっ!まほ……は便利やな」

そんなわざとらしく言わないくてもいいよ……。
危ない危ないさっきまほら武道会で魔法なんて単語何度も言ってたからつい外でも言いそうになっちゃったよ。
話してたらそろそろ女子校エリアに到着だ。

「ネギのクラスはお化け屋敷やったか」

「うん、ギリギリで出し物決まったんだけどね」

あれ……あそこにいるのは……。

「あ!ネギ君!どうしたの?」

「まき絵さん!一応クラスの担任として3-Aを見に来たんですけど僕も何か手伝えることありますか?」

「おっネギ君じゃん!ならこれ着てよ、ドラキュラの格好!」

後ろから!?

「裕奈さん!後ろからいきなり驚かさないでください」

「ごめんごめん、それじゃこれよろしくね。あ、コタロー君のもあるからちょっと待ってて」

「何や俺も着るんか」

「巻き込んでごめんコタロー」

「まあええで。小学校の出し物よか面白そうやし」

「コタローの小学校の出し物って何?」

「姉ちゃん達みたいに金儲けるような事せんから教室全体にテーマ決めて図工の一環で作品一つ作るだけやで」

「へーそうなんだ。見てみたいな」

「俺は天井に色々つけるのばっかりやったけどな」

「少しジャンプするだけで届くもんね。小学校の友達とはどこか行かないの?」

「んー、仲悪い訳やないんやけど俺にはあんま馴染めんのや。ネギ程マセてる訳やないつもりやけど会話合わん事多いし」

「でもライダーの話は通じるんでしょ?」

「そりゃそうや!万人共通やからな!」

僕もコタローに言われて一緒にやったりするけど日本のテレビ番組っていうのは凄いよなー。
僕の故郷にそういう娯楽が少なかったっていうのもあるのかもしれないけど。

「ほら、コタロー君持ってきたよ!」

「何やこれ犬の着ぐるみやないか!」

「似合ってるじゃん!」

「コタロー君、似合うよきっと。お姉ちゃんが保証するよ!」

うーん、まき絵さんはお姉ちゃんっていうにはちょっと違う気がするけど。

「ああ、分かった分かった。ネギ、はよ着るで」

「あ、うん」

僕がドラキュラ少年の格好、コタローが犬の……あれ?別にお化け関係ないような……着ぐるみを着て3-Aのお化け屋敷の呼び込みを手伝った。
その途中から柿崎さんが来て違う衣装着せられたんだけど……。

「ギャハハハ!ネギ何やそれ!女装か!」

「ネギ君似合ってるよ!」

「柿崎さんなんでこんな格好なんですか!」

「柿崎、それネギ君の集められる客層狭めてるよ!でも狐娘のその格好、イイね!」

「まあネギ先生が一体どうなされた……ブハッ!!」

!?凄い鼻血出て倒れた!

「あやかさん!!どうしたんですか、しっかりして下さい!」

コタローまだ笑ってるし、あのままだと笑い死にそう。

「こ……ここは天国でしょうか」

「あやかさん!まだ逝くのは早いですよ!」

3-Aに来て客寄せにはなったみたいなんだけどやっぱりいつも通り何か起きるのは変わらなかったや。
回復したところであやかさんと一緒に学祭を回ることにした。

「ネギ先生と学園祭をご一緒できるなんて!……一人余計なのがいますが」

「あやか姉ちゃん俺目の敵にすんのやめ!」

「だって……あなたネギ先生にまだ傷を付けたりしているのでしょう?」

「そら仕方ないやん!少しぐらい怪我するで」

「あやかさん、心配してくれるのはありがたいんですがその話はあまり外でしないでもらえますか」

「ね……ネギ先生……失礼いたしました」

「それでどこ回るんや?古姉ちゃん何や昼にやる言うてたな」

「カンフースクールだったと思うよ」

「まあくーふぇさんの所ですか」

「地図見ると近そうやし行ってみようや」

「そうだね」

くーふぇさんのカンフースクールに行ってみたらあの人達がいた。

「ネギ坊主にコタロ、それにいいんちょ!良く来たアルな。二人も套路見せてやって欲しいね」

「はっはっは、さっきは凄かったねネギ君。はるかと一緒に古菲君に誘われてね。今截拳道見せてるけどサラもいるよ」

「瀬田さん、はるかさんにサラさん!」

「ああ、飛ぶ少年達か」

それ言われるとちょっと……。

「ネギ先生、この方達はお知り合いなのですか?」

「えーっと、さっき知り合ったんです。お二人とも拳法の達人なんですよ」

「そうなのですか。あら、瀬田とおっしゃいますとあの瀬田記康教授でいらっしゃいますか?」

「僕を知っているのかい。お嬢さんの言うとおり僕は瀬田記康。東大で考古学の教授をやっているよ」

「光栄ですわ。フィールドワークの実績は素晴らしいものとお伺いしております。一昨年のモルモル王国の遺跡ではご活躍だったとか」

「いやー詳しいね」

「お前の研究も最近は女子中学生も知ってるんだな」

「結婚式の事はさすがにしらないだろうけどね。はっはっはっは」

「黙れ」

あっ!

「ぐはっ!!」

「「「「あー!またあのおじさん飛んだ!!」」」」

「はるかさんいい拳アル!」

「よう飛んだな。はるかの姉ちゃんやっぱ凄いわ」

「私をそう呼んでくれる君はなかなか見込みがあるよ」

「あの……大丈夫なのですか」

「あーいつものことだから問題ない」

景太郎さんもそうだけど何で不死身なんだろ……。
僕もコタローと套路を一緒に披露したよ。
くーふぇさんは僕たち二人とも上手くなったと褒めてくれた。
この後あやかさんの馬術部にも寄って馬に乗せてもらったりしていたらそろそろお腹が空いて来たから五月さんのいる超包子でお昼を食べていたら。

「何やこれ、激走鬼ごっこ~麻帆良を駆け抜けろ~っちゅうんは」

「ふふ、それはね、超包子主催の本気鬼ごっこイベントなのよ」

そこへ来たのは……。

「あ、西川さん!」

「はーい正解。ネギ君、小太郎君にあやかお嬢様いらっしゃい」

いつもって訳じゃないけどよく超包子で見るマスターの同級生の人だ。

「よう!みのり姉ちゃん!」

「小太郎君はお姉ちゃんって呼んでくれるから嬉しいわー」

「西川さん、こんにちは。ここでは普通にしてくださって結構ですわ」

「はい、それでは。で、三人も鬼ごっこ出てみるって言いたいところなんだけどもう始まっちゃってるのよ。あ、ネギ君が知ってる子だと美空ちゃんは出てるわね」

「え?春日さん参加してるんですか?」

「ええ、この1号店で参加申請してくれたわ」

「おー90分逃げ切れば108万なんか。俺とネギならいけそうやけど」

「もう少し早く来てくれれば良かったんだけどね」

「ま、どっちにしろ俺らも用あるしな」

「そうだね。それでその次は4時からかー。ちょっと分からないね」

「ネギ先生、何かこの後ご用があるのですか?」

「そうなんです、あやかさん」

「はい、それじゃしっかり食べていってね!」

「ありがとうございます!五月さん!今日も美味しいです!」

五月さんは厨房で忙しそうだけどちゃんと聞こえたみたいで笑ってくれた。
あやかさん付いてくるんだけどどうしようかな……僕たちの事知ってるのにチケット持ってないから入れないだろうし……。

「この方向は龍宮神社ですわね」

「あはは……そうですね」

「(おいネギ、あやか姉ちゃん連れてきてええんか)」

「(端末もチケットも無かったら入れないからいざとなれば大丈夫だよ)」

「(そうやったな)」

「あら……あそこにいるのはお父様では?」

え?あ、ほんとださっき開会式で壇に上ってたあやかさんのお父さんだ!
何かまた起きそうな予感が……。

「お父様!どうしてここにいらっしゃるのですか」

「お!……おお、あやか……それにネギ君か。いや、少し人の少ない所で休憩をと思ってね」

「もしやお父様が龍宮神社を貸しきったのではありませんこと?」

「それは違うよ」

「いいえ、お父様嘘ですわね。ここ最近グループの宿泊施設が3日間貸切になっていますし無関係でないとは思えませんわ」

「(あーこりゃまずいで)」

「(どうしよう……魔法がバレてるのがバレるかも……)」

「(あやかの姉ちゃんがネギに都合悪くなる事はせんと思うけど)」

「(……う……何か罪悪感が……)」

「あやかの情報網もなかなかものになったようだね。お付きに調べさせたのかな?」

「いいえ、お教えできませんと言われましたから。私のクラスには情報に強い方がおりまして独自に調べたのですわ」

朝倉さんだな……。

「……そうか。あやか、中に入るか?」

「……よろしいのですか?言い方が悪かったですが私は別に責めるつもりはありませんわ」

「あやかならこれまで分かっていても対応してくれたからね。それに来月すぐあやかの誕生日だ」

「ふふ、それではお言葉に甘えて」

「分かった。あやか、入ってから少し話すことがあるがいいね」

「もちろんですわ」

「これがチケットだ。無くさないように持っていなさい。ネギ君達はそろそろ時間でしょう。先に入って下さい」

「あ、はい、ありがとうございます」

「おおきに!」

「あやかさん、またすぐ後で!」

あやかさんもこの分だとすぐ入ってくるだろうけど魔法がバレていたのははなんとかなる……と思う。
それより二戦目の試合はコタローが浦島可奈子さんで僕が高音・D・グッドマンさん。
聖ウルスラ女子高等学校2年生って事で魔法生徒の人みたいだ。
前の試合を確認してみたら影精を使った格闘型の魔法を使うみたい。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

さよが超包子の鬼ごっこ企画の様子を見に行たけどすぐその後ネギ坊主と小太郎君の試合だヨ。
ネギ坊主は一戦目の等速試合で人気が随分上がて申し込みが絶えなかたが相手は高音サンだネ。
小太郎君は浦島可奈子サンとだヨ。
浦島可奈子サンも前の試合からすると楓サン達忍に近い上に瞬動術は完全な縮地だたのだから驚いたネ。
浦島流柔術は表には滅多に出てこない流派らしいが日本にはまだまだ東洋の神秘というだけの秘密が一杯のようだナ。

おや、社長さんと一緒にあやかサンも神社に入て来たがいいのカ?
親の同意があるならいいけどやはりあやかサンは驚いているネ。
ネギ坊主の試合はまた等速で行われるからスクリーンで見ていくといい。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「ネギ先生、先程の高畑先生との試合お見事でした」

「あ、ありがとうございます」

「高畑先生とあれほど渡り合えるのであれば私、最初から全力で参りますわ」

「はい、僕も全力でやらせて頂きます」

「ネギ選手、注意事項のメモがあります、先にお読みください。これを」

なんだろう。

「注意事項?はい……えーと……え?……わ、分かりました」

気絶させると全裸になるから気をつけるようにって……。
全力って言ったばかりだけど、これが本当だったら……もし下手に気絶させたりしたらアスナさんに絶対後で怒られる!

「審判さん、注意事項とはなんですか?」

「私から申し上げる事はできませんが、不利になるようなものではございませんので。それでは試合を開始したいと思います。制限時間15分試合開始ッ!」

「参りますわ!」

―黒衣の夜想曲―

実際に見ると、は、派手だ。

  ―影よ―

続けて影の使い魔を操る術か。
こっちも―戦いの歌!―
    ―魔法領域展開―

気絶させるのがマズイとするとギブアップを狙うしかない!
左右から使い魔がそれぞれ2体ずつ攻撃をしかけてくるけど。

「不思議な魔法障壁のようですがこれはいかがですか!」

……ぶつかって来たけど威力不足だな。
ジリジリ音が言う場合は結構あるんだけどもっと静かな音が出てる。
やっぱりタカミチ程の威力はないだろうし突破はできないから無視して大丈夫だ。

「なっ!?」

―双腕・未完成・断罪の剣!!―

これで一気に自動防御する影ごと吹き飛ばしてギブアップしてもらう!
瞬動で懐にもぐり込む!

「させませんわ!」

やはり目の前に自動防御!まず左腕!

「はあっ!」

よし砕けた!
未完成だと破壊範囲が拡散しちゃうけど刃自体は伸ばせるからこういう時便利だ。

「私の影がっ!?うっ!」

もう首筋に右腕の剣をつきつけたし……。

「首元に影は装着していないようですがどうしますか?」

「つ、強い……ギブアップ致しますわ」

「ギブアップにより勝者、ネギ・スプリングフィールド選手!」

右腕解除……と。

「高音さん、ありがとうございました!」

「いえ、こちらこそ。私もまだまだ未熟だと思い知らされました。ありがとうございます、ネギ先生。それで……先程の注意事項のメモとは?」

あ、マズイ……。

―火よ灯れ!―よし、証拠隠滅……。

「あっどうして燃やすんですか!」

「き、気にしないでください!何でもありません!」

「やはり何か不利になるような事が書いてあったのでは!?」

「そ、そんな事無いですよ!た、ただ」

「ただ、何ですか?」

高音さん怒ると怖い……。

「あ、あの、とりあえずここの外で話しましょう!」

「いいでしょう……分かりました」

いつまでスクリーンに出てるかここからだとわからないから迂闊に話せないや。
転移魔法陣から能舞台に戻って拍手受けてそこそこに挨拶した後規定通りに休憩施設で……。

「どういう事だったのですか!?」

「えーと、メモには高音さんが気絶すると裸になるから気をつけるようにって書いてあったんです」

「なっ!?どうしてそれを!?」

「いえ、僕も元々知らなかったんです!メモの差出人もよく分からなかったですし」

「そ、それでは私の事を考えてあのような方法で?」

「……はい。でも僕いつもできるだけ短期決戦に持ち込むようにしてるのでメモが無くても同じだったかもしれません」

だからやっぱりタカミチは強かったな。
虚空瞬動で接近しても魔法領域を無理やり素手で突破しようとしてきたぐらい近接戦闘の技術も凄かったからあの拳圧出せない位置にずっといるのもきつかったし。
それで避けるまでに時間の余裕ができる離れた所から魔法の射手を連射したりしたんだけど。

「これは責めるような真似をしてしまい失礼しました。そのような配慮までされるとは教員を勤めているだけありますわね」

「お姉様、お疲れ様です!ネギ先生こんにちは」

「愛衣!」

この人は確か……超さん達とアメリカに一緒に行った時にいた……。

「こんにちは……確か……」

「2-Dの佐倉愛衣です、よろしくお願いします」

「佐倉愛衣さんですね。学校で何度か見かけたことがありましたが名前まで覚えてませんでした、すいません」

「気にしなくて結構ですよ。高畑先生との試合も見ましたけどお姉様まであんなに早く……ネギ先生ってお強いんですね」

「強くなれたのは周りの皆のお陰ですし、まだまだマスターには遠く及ばないです」

「マスター、ということはネギ先生には師匠がいらっしゃるのですか?」

「あ、えーと……」

うう、言わない方がいいに決まってるよ……。

「すいません、他人に言うと怒られるので誰とは言えないんですけど師匠はいます」

「そうですか……それは素晴らしい方なのでしょうね」

「はい、それはもう!」

「いいですねー、私ももっと頑張らないと」

「愛衣、私達もこの大会で精進しましょう」

「はい、お姉様!」

二人とはこれで別れたけど魔法生徒って意外といたんだな……。
3-Aはちょっと多すぎる気がするけど。

「ネギ先生!お怪我はありませんか!?」

「あやかさん!それで……お父さんは?」

「お父様から色々伺いました。少々信じがたいですがネギ先生は魔法使い……という方だったのですね」

「あ……はい、隠していたみたいですいません」

「ネギ先生の秘密がこうして分かっただけでも十分ですわ。……それに調べてみればあのアスナさんまでこの武道会に出場しているとか」

「そうなんです。アスナさんは先月から鍛錬し始めたばかりなんですけど成長が凄く早くて」

「せ、先月から!?映像も見ましたけどそれだけであんなに身体が光ったりするようになるのですか」

咸卦法の事かな。

「あれはなんていうかアスナさんの元々の才能だったみたいなんです」

「才能……私も多少武術は嗜んでいたのですけれどあんな動きはいくらなんでも……」

あやかさんも一般人としては合気柔術の腕は凄いと思う。

「おっネギも終わっとったんか!等速やからもう少しかかってる思ったんやけど」

「コタロー!試合どうだったの?」

「……負けたで。怖い姉ちゃんやった」

「なんか顔色悪いよ?」

「試合もう見れるようになっとるみたいやから確認すればええで」

「あ、うん」

あやかさんと一緒に見たんだけど浦島可奈子さんが開始から「お兄ちゃんに痛い目あわせた罰です」って言った途端、楓さんより凄い縮地で畳み掛け、コタローが狗神で応戦したら足を一閃しただけで全部跳ね返してそのまま可奈子さんも更に凄い気弾を放ったり凄い。
怖いっていうのは表情が一切変化していないところだなきっと……。
最終的にコタローがどこから出したのかわからない縄で縛られて終わったんだけどどうして破れないんだろ。

「こんな女性がいるんですわね……」

「この最後の縄何だったの?」

「よう分からん。何故か破れんかった。エヴァンジェリンの姉ちゃんの魔力の糸とは違う筈なんやけどな。景太郎兄ちゃんに思い入れあるみたいやわ。ネギも気をつけや」

「う……うん」

「ま、楓姉ちゃんより凄い瞬動直に見れたから収穫はあったわ」

「まるで学園長先生の瞬間移動みたいだね」

「1戦目確認したら普段からずっとあんな動きする訳やないみたいやけどな」

景太郎さんと当たらないようにしよう……。

「そんなに簡単に連勝ってできないね」

「ネギは一回目の相手悪いだけやで。俺も不死身相手はやる気削がれたしな」

「でも普段知らない人と試合するのっていい経験になるね。次の試合登録しておこうか」

「よっしゃ。次こそ蘇芳の兄ちゃんに当たれや!」

「間違って鶴子さん達には当たりたくないね……」

「……そうやな」

神鳴流の宗家の人達に会えて刹那さんは目が輝いてたけど僕たちはちょっと……。
この後僕とコタローは希望試合時刻を早めに設定して更にその次の試合との間隔を空けることにしたら相手はそれぞれ葛葉先生と忍者の人だった。

「楓姉ちゃんの知り合いやんか」

「僕は葛葉先生だ」

宗家の人達みたいに舞台が消滅するような事にならなければいいけど……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

春日美空の鬼ごっこも佳境に入っていた頃、ネギ少年達の3戦目は2戦目の後すぐに開始された。
今回は二人共加速魔法球で同時に試合が行われる事になったが一つずつどうなったか見てみよう。

ネギ少年と葛葉先生の試合はタカミチ君との試合程派手にはならなかったものの一応教師同士の良い試合だった。
ネギ少年の掌底・断罪の剣を葛葉先生が切り込んだ所を逸らして刃の腹に当てたところ気が通っているものの強力な相転移で一部分解されたのだ。
寸前で葛葉先生が刀を戻して回避したが、もう一度振り抜いたところ丁度展開し直した魔法領域に当たった瞬間折れた。
あっという間に武器となる木刀を排除したネギ少年であったが、これが真剣で無くてよかったと安心すべきだろう。
神鳴流で使われる野太刀は気を効率的に通す事ができるという特殊な処理に必要な製法にかかる手間だけでなく、刀剣としてのそれ自体の価値もかなり高い為実際もし折れたら、場合によっては修理出来る事もあるだろうが損害額はかなりのものになる。
主要な攻撃手段を失った葛葉先生であったが「流石はネギ先生、高畑先生の時もポケットを狙っていたのですから当然私も予想しておくべきでした」と冷静に無手で構え直し試合続行となったのだ。
ネギ少年はどういうつもりか「葛葉先生とはこれ無しで行きたいと思います」と言いそのまま魔法領域の使用をやめて双方純粋な格闘戦へと突入した。
手抜きという訳ではないのだろうが、いつも魔法領域ばかり使っていては折角の武道会なのに体術を活かす機会が勿体無いという事なのだろう。
それに青山鶴子さんが相手でもないので少しは安心できるからというのもあるだろうか。
ネギ少年は雷華崩拳をメインに無詠唱魔法の射手を、葛葉先生は神鳴流の打撃技および柔術に、手から気弾を放つタイプの斬空掌系や脚からも裂蹴斬が飛び出したりと見事な中・近接戦闘を繰り広げた。
試合の結果自体としては15分ギリギリまで続いたのだが直前で葛葉先生が「武器を折られた時点で私が油断していました」とギブアップをしてネギ少年の勝利となった。
どうも葛葉先生は全力ではあったが、できるだけ長く試合をしてみたかったようで手抜きをしたのとは違うが、これは戦法自体のものだろうと思う。
ネギ少年は勝ちを譲ってもらった形になって少し抗議しようとしたが「私がこれでいいと言ったら良いんです」といつものお固いイメージはどこへやら、10歳程度の子どもが一生懸命なのが気に入ったらしくうっかり頭を撫でていた。
その光景もギリギリで映像に収録されており「あの刀子さんが……」「葛葉がな……」と後で映像を確認した魔法先生達にとっての葛葉先生の姿が少し崩れたのだが、まあ良いんじゃないですか。
その後葛葉先生は青山のお姉さん達に「刀子はん、ちょっと」と呼ばれ止む無く会話をしていたのだが、葛葉先生も桜咲刹那の訓練に加わる話が進んだ上、何やらお姉さん達の標的にネギ少年も入ったらしい。
二人共頑張れ。

一方小太郎君はというと忍者と少しは忍べよと言いたくなるような分身バトルを繰り広げ、舞台が1つなのに常時合計8人近くいてそれぞれ殴りあうというタッグではないがそんなものが展開され窮屈だった。
たまに普通に場外して戦う分身なのか本体なのかもしれない事があり審判の人は非常にカウントに困った。
小太郎君は2戦目に運悪くまたしてもひなた荘関係者との戦いになってしまって負けたが、完璧な縮地を連発されただけあってこの戦いはそれよりも楽だったのかようやく一勝できた。
相手の人は忍軍でもそれほど戦闘が得意ではなくどちらかというとサポート系の人であったようで、その力量の幅を分かりやすく言えば忍軍の市という例の頭領発言の女性は今の長瀬楓よりも強いのである。
最強は長瀬楓の母親なのかもしれないが、だからこそ長瀬楓は麻帆良に来ても「拙者もまだまだ修行中の身でござれば」等と言うのだろう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

僕とコタローは試合が終わった所で次の4試合目までに大分時間が作れたからあやかさんと三人でまた学園祭を見て回ることにして龍宮神社から出た。

「ネギ先生達お怪我や疲れたりはしませんの?」

「休憩所には仕掛けが施してあるらしくて疲労も怪我もすぐ治るんですよ」

「まあそうなのですか、便利ですわね」

「あれウルティマホラの時の強化版やな」

「多分マスターがやったのかもしれないけどどうだろう」

「あの別荘もそうやしな」

「僕もそういう技術も少しは勉強させてもらってるんだけどね……。あ、ハルナさんだ」

「似顔絵を描いているようですわね。ネギ先生描いてもらってはいかがですか?」

「三人で描いてもらいましょう。ハルナさん描くの凄く早いですし。ハルナさん!こんにちは」

「やあネギ君にいいんちょそれにコタロー君。似顔絵興味ある?」

「はい、お願いします」

「ハルナさん、ネギ先生はできるだけ丁寧にお願いしますわ」

「はいはいー分かったよ。それじゃ三人そこ座って」

やっぱりハルナさん描く速度が凄かった。
あっという間にできあがったし、似顔絵はそっくりだった。

「あの料金は?」

「ネギ君達は別にいいよ。いいんちょはもう一枚ネギ君描いたら買う?」

「もちろんですわ!」

ははは、そういうこと。
次に絵画つながりでアスナさんの美術部の展示作品を見に行ったんだけどアスナさんは丁度いなかったや。

「アスナさん本当に高畑先生好きですわね」

「アスナ姉ちゃんわざわざ作品で先生書くんやな」

「でも凄くタカミチを上手く書けてると思うよ」

アスナさんの美術部の作品はタカミチの肖像画で良く特徴が捉えられてた。
そういえばタカミチが美術部の顧問だからアスナさん美術部入ってるんだよな……。

「ネギ先生、そろそろ3時前ですが、何か屋台で食べません?」

「そうですね。確かアキラさんがいる屋台があった筈ですよ」

「まあ、流石ネギ先生生徒の事もしっかり把握してらっしゃいますのね」

それで少し何かお腹にいれようと思って、アキラさんがいる屋台に行ったらたこ焼き屋さんだった。

「ネギ先生来てくれたのか」

「はい!丁度お腹も空いてたので。たこ焼き美味しいです」

「祭りはやっぱ屋台やな」

アキラさんはよく喋るタイプの人じゃないけど僕が指輪の魔法発動媒体落とした時は一緒に探してくれたし良い人だな。
それにいざとなると凄い力持ち。

「コタロー、やっぱり素子さんに似てるね」

「ああ、そうやな。髪型はちゃうけど似とるな」

「素子さんって?」

「ちょっと学園祭で知り合った人なんですけどアキラさんによく似てるんです」

「へー、そうなのか」

「あ、小太郎君!」

この声は……?

「景太郎兄ちゃん!……に可奈子の姉ちゃん、素子の姉ちゃんにカオラ姉ちゃんもおるやないか。後知らない姉ちゃん達も」

瀬田さん達以外全員……かな?
眼鏡外した長谷川さんに似てる人もいるな。

「こっちの四人は成瀬川なる、紺野みつねさん、乙姫むつみさんそれに前原しのぶちゃん。全員ひなた荘の住人だよ」

「こんにちは」

「みゅー」

また挨拶とか色々して龍宮神社にいなかった四人は学園祭をまわってたみたい。
むつみさんは参加しなかったらしいけどしのぶさんは超包子の鬼ごっこで逃げ切って108万取ったんだって!
見かけによらず足早いのかな。
コタローが可奈子さんから距離取ってるけどそんなに怖いのか……。
それでやっぱりアキラさんと素子さんの話になった。

「いやー昔の素子ちゃんに似てるね!」

「そ、それはどうも」

「浦島、それは私が老けたとでもいいたいのか?」

「え?そんなつもりで言ってるんじゃないよ!」

「じゃあ一体どういうつもりだ」

もめ始めたんだけど景太郎さん殴られそうだな……。

「あぷろぱぁっ!!」

「あ、やっぱり」

うまく人のいない所に吹き飛んでった……。

「……ネギ先生、あの人大丈夫なのか」

「景太郎さんは不死身らしいので大丈夫だそうです」

「不死身って……。私に似てるっていうのは本当だね。驚いたよ」

「若いモトコや!!」

「スゥ!!」

「モトコが怒ったで!」

「……賑やかな人達だね」

3-Aも賑やかだけどこの人達も負けてないな。
この後まき絵さんの新体操の発表会を見たけど、確か夏に県大会があるんだよな。
これだけ凄いけどどうなるんだろう。
そういう評価は僕にはちょっと分からないな。

「ネギ君見に来てくれてありがとー!」

「はい!新体操綺麗でした!」

「まき絵さん新体操素敵ですわ」

「そのリボンどうなっとんのか不思議やな」

僕もそれ気になる……。
魔法みたいに物理法則無視してる時あるし、耐久力もおかしいんだよね。
まあ、それはいいとして次近そうなのは……。

「ネギ先生、ちづるさんの天文部でプラネタリウムを見てみません?」

「プラネタリウムは俺も見たことないな」

「僕も見たことないです。いいですね、行きましょう」

そういえばあやかさんと千鶴さん、夏美さんの部屋に入れてもらったことあるけど天体の地図が一杯張ってあったな。

「まあ私のあやか、来てくれたのね」

「私のあやかって何ですのちづるさん」

「恥ずかしがらなくてもいいのに。ふふふ。ネギ先生達もいらっしゃい」

「こんにちは千鶴さん」

「よっ!千鶴姉ちゃん」

「どうかしら、天文部が総力を上げて作ったプラネタリウムは?」

「これ学祭前だけでよく作れますねー」

「山奥で夜空見た時と同じやな」

「ネギ先生達は楓さんと山篭りしてらっしゃるんでしたわね」

「そうやで」

「千鶴さん、普段天文部ってどんな事してるんですか?」

「普段?恒星に惑星、色々観測してるわよー。あ、最近だと火星が良いわね。予定だと8月27日になるけど21世紀でその日火星が最も接近する日になるわね。今年の大接近は過去6万年で一番近くなるそうよ」

「へー火星ですか」

「どれくらい近くなるんや?」

「5600万kmより近くなるそうよ」

「ちょっと数字が大きすぎて実感沸かないですね」

「ロケットでどれぐらいかかるんやろ」

「んー、いつか行ってみたいな」

「雪広グループでもロケット開発に資金は提供していますが有人探査はずっと先になりますわね」

「どう?ネギ先生達も天体に興味出たかしら?」

「はい!またお部屋で地図とか見せてもらってもいいですか?」

「いつでもいらっしゃい」

「ネギ先生でしたらいつ入って来ても構いませんわよ。いっその事私の部屋で泊まってもいいですわ!」

「あはは、ありがとうございます」

千鶴さんの天文部を後にして次は何処へ行こう。
あと今日は、朝突然まほら武道会が始まる前にザジさんからナイトメア・サーカスのチケット貰ったからそれに行こうと思ってるけど、他の3-A皆の出し物明日の予定にしてあるからこの後は自由にしててもいいんだよなー。
あれ、それにしてもザジさんが喋ったのって初めて見たような……。

「ネギ、図書館島に何や人集まっとるみたいやで」

「図書館島探検大会は明日だった筈なんだけどなんだろうね、行ってみようか」

「あー!ネギ君みっけー!」

「まき絵さん!どうしてここに」

「えへへ、ちょっとネギ君達見かけたから追いかけてきちゃった」

「あやかさんも図書館島行っても良いですか?」

「ええ、もちろんですわ。……邪魔なのが増えてきましたが」

何かボソッと言ってるんだけど……。
図書館島の人が集まっている所に行ってみたら極秘コスプレイベントっていう幕が張ってあった。

「何やここもお化け屋敷みたいに仮装しとるんか」

「結構人いるねー。あれ、あそこにいるのは……千雨さん?」

「あら、長谷川さんですわね」

「千雨ちゃんだ!」

あ、気づいたみたい。
っていきなり引っ張られた!?

「なんで先生がここに来てるんだ……ですか?」

「たまたま人が集まってたので……千雨さんその格好ってちう」

「ブッ!!……なんでその名前知ってんだよ!」

「超さんから千雨さんがブログやってるって聞いたので調べてからずっと見てますよ」

「超の奴……後で会ったら……。ってずっと見てんのかよ!」

「はい、SNSには入らないんですか?沢山コメントあるのに、僕も書き込んだんですよ」

「ネギ先生もあの中のコメントの一人かよ……」

「それでこのイベントって例のブログでも話題になってたやつですか?」

「そうですが……私は出ません」

「え?どうしてですか?その格好してるのに?」

「どうしても何も」

「ネギ先生!見て見てーここの貸衣装屋さんで着替えてみたよ!」

「どうですか、ネギ先生?」

まき絵さんとあやかさんが何でか分かんないけどナースの格好を……。

「似合ってると思いますよ」

「わー、じゃあいいんちょ、これでこのイベント出てみようよー!」

「そ、そうですか?」

あれ、千雨さんの雰囲気が……。

「ちょっと待てお前ら、そんな格好で出たら恥かくだけだ。私が用意した衣装貸してやるからそっち着ろ」

突然プロデューサー風になったんだけど……やっぱり衣装持ってきてたって事は千雨さんも出るつもりだったんじゃ……。

「何や、あの姉ちゃんも出るつもりやったんやないか」

「そうみたいだけど端にいたってことは迷ってたのかもしれないよ」

「ほら、できたぞ」

「「魔法少女ビブリオン!」」

って何でポーズまで取ってるんだろ。

「えーこのポーズも取らないとダメなの?ちょっと恥ずかしいけど……ま、いっか。いいんちょ行こうよー!」

「まき絵さん、引っ張らなくてもいいですわよ!」

行っちゃった……。
二人はそのまま出場して出たら凄い好評だった。

「あいつら人の領域にまで入ってくるのに適応力高すぎるだろ……」

「ネギ君、ウケたよ!次千雨ちゃんの番だよ!」

「え?ちょ!待て!私はそんなつもり!おいっ!」

「長谷川さんも出場なさるべきですわ」

千雨さん連れていかれた。

「賑やかな姉ちゃん達やけど、景太郎兄ちゃんと一緒にいる姉ちゃんみたいに殴られなくてええな」

「いや……あれと比較するのはちょっと……」

そのまま千雨さんを二人が強制的にイベントに参加登録を済まさせて出させたんだけど……。
緊張したあまり舞台に座り込んじゃって……って凄い会場盛り上がってる!

[[素晴らしい演技です!魔法少女ビブリオン敵幹部の特徴をよく捉えています!皆さん盛大な拍手を!]]

「何やキャラクターわからんとピンとこんな」

「そうだね、でも千雨さん賞取れるみたいだし良かったと思うよ。これでクラスの皆とも積極的に仲良くしてくれるといいんだけど」

「先生って大変やな……」

「あ、優勝決定した!凄いね」

「俺もライダーで出たらどうやったかな」

「お客さんが男の人多いからどうかな……」

最初ここで合った時の千雨さんは少し不機嫌そうだったけどまき絵さん達にイベントに連れていかれた後は誰が見てもわかるぐらい嬉しそうだった。

「そろそろ次だね」

「そうやな」

「私もまたご一緒しても宜しいですか?」

「はい!」

「なになに?ネギ君何か用あるの?」

「えーと、このイベントが極秘だったみたいに僕とコタローも似たようなのに参加してるんです」

「えー!何それ!いいんちょ入れるの!?」

「私にはチケットがありますわ」

「へーこれの事か。何々、まほら武道会……龍宮神社?」

「長谷川さん!いつの間に私のチケットを!?」

「いや、ほらさっき着替えてたときに落としてたろ」

「返してくださいませ!」

「分かった分かった、ほらよ」

「ありがとうございます。危ないところでしたわ」

「僕達も無くさないようにしないとね」

「3日間やもんな」

「あやかさん、行きましょう。まき絵さん、千雨さんごめんなさい。チケット余ってないんです」

「いいんちょちょっと私にもチケット貸してよー!」

「だ、駄目ですわ!」

追いかけっこ始まっちゃった……。

「ネギ先生、龍宮神社に入ろうとした奴らが入っても入れないってのはその武道会のせいなのか?朝倉も何か言ってたし」

「そ、そうなんです」

「ネギ、ちょい時間マズイで。あやか姉ちゃん俺捕まえてくるわ」

「あ、ごめん。お願い」

「先生、ウルティマホラみたいなもんだろうけど頑張りな」

「千雨さん、ありがとうございます!それじゃ」

コタローがあやかさんを捕まえてそのままもう走って行ってる。

「コタロー君走るのはやっ!ずるいよー!私も見たいー!」

「まき絵さんごめんなさい!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

5時半過ぎ、ネギ少年と小太郎君、雪広あやかが急いで龍宮神社に戻ってきて今日最後の4戦目となった。
相手はそれぞれ気の扱いを心得ている拳法家であるが、ネギ少年達にとってみれば相手としてはかなり楽な方であっさり勝利した。
さて、その場には既に本日分の試合を終えるのを待ち構えていた集団があった。
青山宗家のお姉さん達、青山素子さん、桜咲刹那、孫娘、神楽坂明日菜、葛葉先生、古菲、長瀬楓とくノ一、佐倉愛衣、高音・D・グッドマンそして呪術協会の協力者の方である。
完全に強すぎる女性とまだまだ強くなりたい女性の園と化しそうな状況である。

「アスナさん!あなたいつの間にこの武道会に出てたのです!」

「い、いいんちょ!どうしてあんたがここにいんのよ!」

「それはお父様にチケットを貰って色々話も聞かせてもらったからですわ」

「いいんちょのお父さんが直接話したのね……。てっきりネギが連れてきちゃったのかと思ったわ」

「ざ、残念ながら私を連れてきたのはコタローさんでしたが……」

「コタロ君が!?」

微妙に話が咬み合っていなかった。
そして訓練するなんて話になったものだから何故か雪広あやかもその集団に加わってしまったのだがいいのだろうか……。
青山素子さんはほぼ渋々参加している形になっているが桜咲刹那から壮絶に尊敬の眼差しで見られた為生真面目さが仇になったか期待を裏切ることはできなかったようだ。
他魔法生徒二人は何かその場のノリでお姉さん達によって「まとめて指導しますえ」なんて事になり、古菲達は「面白そーアル」という理由で参加する訳だが、既に何かの洗脳がその場一帯で行われている気がするが気にしてはいけない。
まあ佐倉愛衣あたりにとっては多分いい……先生になると思う。
映像記録のシャットアウトを超鈴音にさせた後、そのまま彼女達は魔法球の一つにゾロゾロと入っていった。
早速中で何が始まったかといえば、一角でまずはお姉さん達による神楽坂明日菜と桜咲刹那に対する優しい指導が行われ始めた。
優しいといってもお姉さん達の基準で、であるが……。
桜咲刹那は緊張のあまりテンションが上がっていて正気の判断ができていなかった一方、神楽坂明日菜は目の前の光景に唖然と、素子さんは嫌そうな顔をしていた。
鬼が召喚されては消滅を繰り返すのは何の無限ループなのだろうか。
お姉さん達が呪術協会の人に頼んで、快い返事……を頂いた……客観的に見れば半強制的に訓練に協力させられていたのだが、その協力内容とは鬼を召喚する事だった。
召喚した傍から「ほな、よう見ておきなはれ」と言いながら。

―斬魔剣弍の太刀!!―

をあろうことか術者の方を間に挟んで連発しているのである。
因みにこの協力している術者は長い事出番が無かった天ヶ崎千草さんであり、とてもかわいいらしい猿鬼や熊鬼が虐殺されていた。
善意……かどうかはともかく間に挟まりながら斬魔剣弍の太刀を放たれる気分とはいかようなものなのだろうか。
この後桜咲刹那は自分の斬魔剣を披露し、弐の太刀習得への絶対条件、気を自在に扱える事、の指導が始まった。
孫娘はマイペースであるため、かなり異常な空間でもあるが「せっちゃん頑張りやー」と応援していた。
勿論全員が桜咲刹那についていた訳ではないので、魔力と気で違いはあるものの瞬動術の講習諸々が佐倉愛衣らに行われていた。
そのまた別の場所では松葉市さんという例のお付きの人その他と長瀬楓の気の扱い方講習も行われていた。
平和そうに言えばワークショップというのが合っているが、こんな過激な体験型講座があるか!である。
当然1時間が5時間になるので時間的余裕はありすぎるぐらいである。

他の4つの魔法球では自由に流派を超えて鍛錬に打ち込む人達や、軽く模擬戦を行なったり、試合の映像を確認したいものの試合数が多すぎて時間が無い人達が利用していた。

そんな魔法球が自由に使えるようになったすぐの頃外ではエヴァンジェリンお嬢さんが様子を見に来ていた。

「ぼーや達今日はどうだった」

「マスター!タカミチには負けちゃいましたけど結構頑張れたと思います。僕もまだまだです」

「俺も変な兄ちゃんに変な姉ちゃんやら面白かったで。本命には当たっとらんけどな」

「まあ後でぼーや達の勇姿とやらを確認するよ」

「マスター、この後ナイトメア・サーカス一緒に見にいきませんか?」

「サーカスか。まさか保護者同伴じゃないと入れないのか?」

「そんな事ないですよ!マスターそれ分かってて言ってますよね!」

「ははは、少しからかっただけだ。行くのは構わんがアスナ達はいいのか?」

「アスナ姉ちゃん達には手出しせんほうがええで。まだあそこから出てこんから」

「ほう、訓練しているのか。ぼーや達は参加しないのか?」

「いえ……女性限定みたいなので……それに怖いですし」

「俺も嫌やで……」

「修行好きの小太郎にしては珍しいな」

「青山鶴子っちゅう姉ちゃんの試合見りゃわかるで」

「青山?……神鳴流か。あれは強くなりすぎると暗黒面に引き込まれやすいからな」

「そ、それじゃあアスナさんや刹那さんもそのうち……」

「嫌やな……」

「数時間程度でそんなに変わらんだろう。サーカスの時間はいいのか?」

「あ、今から行けば大丈夫です。3日間18時半からやってるそうですから。それじゃあ行きましょう」

ネギ少年達はエヴァンジェリンお嬢さんをエスコートする形でサジ・レイニーデイのナイトメア・サーカスに向かっていったのだった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「ほう、普段一切話さないザジがぼーやに喋ってまで誘ったのか」

「僕も驚きましたよ。今まで一度も喋ったことなかったですからね」

「俺もそのザジっちゅう姉ちゃんはあんま見んな」

「あいつは何かある筈なんだがな……イマイチよくわからん」

「何かっていうのは?」

「関係者ではない……とは言い切れそうにないという事さ」

「ザジさんも!?」

「まあ害は無いだろうさ」

「そ、そうですか。良かった」

「お、ここやで」

「丁度10分前ぐらいだね。曲芸手品部って事は外部サークルか」

受付の人にチケットを見せて通った先は……。

「うわぁ、僕サーカスって見たこと無いんですけど会場内って少し暗いんですね」

「スポットが当たるんだから客席側は暗くないとな」

「席はどの辺りや」

「これ指定になってるんだけど一番前の方みたいだね」

「特等席じゃないか。近くでよく見えるだろうさ」

僕が真ん中、左がマスター、右にコタローで座って18時半になっていよいよショーの始まり。

[[皆様、本日は当ナイトメア・サーカスにようこそおいで下さいました!大変長らくお待たせいたしました!これより記念すべき第一回目公演を開始致します!]]

会場全体が拍手の渦に包まれた!

「わー、本当のサーカスみたい!」

「ネギ、本物やで」

「そ、そうだった」

最初は動物の曲芸なんだけど何がでるかと思ったら5頭の馬に乗った人達が出てきたと思ったらステージを旋回しながら疾走して舞台の中心にある的に向けて矢を射った!

「凄い!全部命中したよ!」

魔法の射手だったらできるだろうけど、普通の矢でできるなんて!
しかも一定間隔でグルグル回ってるんだけどスピードはかなり速いし芸術的だ!

「こないによう動物ぎょうさんおるな。馬にライオン、熊、トラ、象までおるで!」

「象なんて初めてみたよ!凄く大きい!」

「このサーカス予算はどうなっているんだ……」

動物達が火の輪をくぐったり自転車に乗ったりしてるけどよく言う事聞いてくれるなー。
あれ……舞台の端にいるのはザジさん……何か動物に話かけてる?……あ、こっちみて笑った。

次は手品部ってだけあってマジックをやるみたいなんだけど人体切断!?

[[このようにもし失敗すれば間違いなく重症になります]]

重症どころじゃないよ!?

「ぼーやは純粋だな。あれにはタネがあるんだよ」

「マスター、こういうのは心から楽しいって前向きな気持ちで見た方がより楽しめるんですよ」

「ネギ、それ俺もわかるで!どうなってんのか考えるぐらいやったらずっとワクワクしとる方が楽しいで!」

「……ひねくれた見方だとうまく楽しめない……か。なるほどな」

人体切断マジックは派手にノコギリ入れてたけどちゃんと無事だったし、大きな箱に団員の人が入ってそこに槍をどんどん刺して行くのは心配になったけど気がついたら中にいた人は客席の後ろの方に移動してた!

「瞬間移動やで!一般人にもできるんやな!」

「コタロー、この人達はもう一般人じゃないよ!既に達人の筈だよ!」

「そう言われるとそうやな!」

「ぼーや、小太郎の事を呼び捨てするようになったのか」

「今日からそうする事にしました!」

「ま、いつまでも他人行儀なのもな」

「はい!」

「……それどころじゃないか……」

[[次は当サーカスの目玉、高さ12メートルからの空中ブランコです!]]

「あ、ザジさんだ!」

[[まずは当サーカスの寡黙なピエロことザジ・レイニーデイ!!]]

「目隠ししとらんか!?」

「心眼かも!?」

「お前達楽しそうだな」

ザジさんは空中ブランコで二つあるブランコのタイミングをどうやって図ってるのかわからないけど目隠ししたまま右に行ったり左に移ったり、次第に飛び移る時に2回転、3回転、2回転半で足で逆さまに掴まったりしてるのに全てが滑らかな動きで少しも目が離せない!

「俺も挑戦してみたいな!」

「僕もやってみたいよ!」

「ザジ降りてくるみたいだぞ」

「ほんとだ……」

ザジさんが重力を感じさせない動きで12mの高さのブランコから回転しながらマットに降り立った。

「……ネギ先生、どうぞ。お友達も」

くるりと回して手が差し出された。

「え?」

「俺も?」

[[ここでザジ・レイニーデイから観客に誘いが入りました!空中ブランコを初心者がやるのは危険ですが……おーっと少年達は参加するそうです!観客の皆様拍手で二人の少年を応援下さい!]]

成り行きで空中ブランコやらせてもらえることになったんだけどいいのかな。

「ザジさん、良いんですか?」

「…………」

コクッとうなずいてくれたって事はいいんだろうけどなんでまた話さなくなっちゃうんだろ?

「よっしゃ俺から行くで!でやっ!」

流石コタロー、この程度の高さなんてことないみたい!

[[いきなり少年が飛び出したが凄い!御覧ください見事なパフォーマンスです!]]

あ、ザジさんが続けて行った……コタローの足に捕まった!

「ネギ先生、このまま私の足に掴まってください」

えええ!?
喋った……のはいいとして……まあ落ちてもマットあるしそもそも身体強化しておけば大丈夫だから落ち着いてやろう。
1、2、3……1、2、3……今だっ!


「それっ!」

……よし!掴まった!

[[まさかの三人連続で掴まっていますが、だ、大丈夫なのか?ザジ・レイニーデイ!信じていいんですね!]]

司会の人も困ってるみたいだ。

「ネギ先生そのままま身体に力をいれずしっかり私の足だけ掴んでいて下さい」

「は、はい!」

ってうわぁ!?
僕がザジさんの足に掴まったまま反対側のブランコに移った!

[[す、凄い!流石はザジ・レイニーデイ!観客の皆様盛大な拍手をっおお!?最初の少年がまた移ったー!!]]

「俺もこっち!」

「すき放題やってるんだけどこれでいいのかな!」

「細かいこと気にすんなや!ネギもやりたかったんやろ!」

「う、うん!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ナイトメア・サーカス、安全管理は大丈夫なのか……。
確かに少年達は大丈夫だが、麻帆良は常識とはやはり縁がないらしい。
そのまま少年達とザジ・レイニーデイはヒョイヒョイブランコを行ったり来たりして観客を沸かせた。
うっかり手が滑ったら一般人の感覚としてはそれだけで「あ、危ない!」という感じだが、そんなミスは起きそうになかった。
客席に取り残されたエヴァンジェリンお嬢さんは微笑を浮かべて少年達の奇行を楽しんでいた。
散々ブランコを堪能したところでようやく地上に戻った少年達は再度客席から盛大な拍手を送られながら客席に戻っていった。
ザジ・レイニーデイの好きなものは人間であるが、まあ食べ物ではないらしい。
恐らく人間鑑賞、生態調査の類だと思われるがサーカスとは別に関わりはないような気がする。
私は彼女の正体を知っているが、驚くべきことに修学旅行では普通に石の息吹を受けていたし能力の隠し方は大したものである。

空中ブランコで終わりかと言えばそんな事なく、そのまま綱渡りに移ったと思えばトランポリン、そして続けて団員二人の合計10本のクラブを投げ合うジャグリングや団員全員による人間ピラミッド等、曲芸手品部という地味な名前のサークルからは全く思いもよらないハイクオリティな内容であった。
終始ネギ少年達は目を輝かせていたが、やはりまだ肉体年齢で10歳を少し過ぎた程度の子供である。
エヴァンジェリンお嬢さんの保護者同伴という言葉はあながち間違ってはいなかったかもしれない。

一方男子禁制の魔法球内の過激なワークショップは魔法球内時間で5時間が経過する頃にはカオスそのものだった。
なんというかあの空間は人類としての平均水準が異常に高かったため、最初は驚いてばかりの生徒達も1時間する頃には目の前で起きる現象にどんどん慣れて行き常識はどこかへ行った。
そのお陰で彼女達は非常に短期間で成長を果たしたのだが。
特に成長したのは佐倉愛衣と高音・D・グッドマンであるが瞬動術は練度は度外視しても普通に習得していた。
神楽坂明日菜は神鳴流の技がいくつか使えるようになったし、桜咲刹那は気を自由に扱うというものの掴みは会得したらしい。
孫娘も苦手だった気の扱いについても魔法球に入る前と出た後でかなり上達していた。
雪広あやかも気を扱えるようになると若さを保てるとかなんとか聞いたら俄然やる気になっていて、元々武芸に秀でていただけあって孫娘より寧ろ早く気を扱えるようになりそうである。
華々しい空間であったため全くむさ苦しさはなかったものの、常に凛とした空気が張り詰めていた魔法球はこれが史上初めてであろう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

まほら武道会1日目も終わり、自由に魔法球を利用したりしている所私達は管理を雪広グループに任せて中夜祭に行きました。
3-Aがお化け屋敷なのはもう今更ですが、実は営利活動もしていてしっかり売上があったそうです。
佐々木まき絵さんが「こんなに儲かったよー!」と喜んでいたんですが何故ドル袋なんでしょうか。
ここは日本ですよ。
鈴音さんに突如長谷川さんが襲いかかりましたがサッと避けられて二人でコソコソ話していましたが大体の内容としては「なんでネギ先生に私がブログやってること教えたんだよ」「千雨サンの事を知りたいというネギ坊主の健気な姿を見てナ」とのらりくらりやってました。
鈴音さんは他にも武道会組がボロを出す前に神楽坂さん達の端末での映像検索、再生を完全停止させて裏の事がバレるのを予め防止していました。
美空さんには1号店で2時半ちょっと過ぎぐらいに「逃走完了おめでとうございます」ってお祝いしましたがまだ嬉しそうですね。
最後に田中さん達のフェイズを特別に4に上げた事を教えたら「私だけスか!?」って予想通りの反応してましたけどスイッチ押したのは西川さんです。
16時からも2回目をやりましたが、逃走完了者はおらず全滅でした。
明日からは少しずつルールを変化させて、途中でメールを全体に送信して「先着順で規定の時間内に超包子の登録店のスイッチを押して自首したらその時点の額までの賞金を獲得できる。その代わり自首者が出た時点で鬼の数が増える」というのもやるそうです。
善良的な気がしますが、店舗に自首する事自体が結構難しいですし、鬼の数が増えれば結局払う額もタイミング次第ですが問題ありません。
回復術式でしっかり休んでいるだけあって、神楽坂さん達は元気でしたがこのまま3-Aは次の日回って午前4時まで騒いでました。
途中朝倉さんが龍宮神社で行われている秘密イベントがどうのという話になって佐々木まき絵さんが「いいんちょチケット持ってるんだよー!」と言った為に大変な事になりましたがいいんちょさんの体術が明らかに上達していて飛びかかった皆して投げられてました。
既に麻帆良祭2日目に突入していますが麻帆良祭はまだまだ続きます。



[21907] 37話 ネギ少年の学祭巡り・後編
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/11/14 18:36
ネギ少年達は朝まで騒いだ中夜祭で、肉体的疲労感は無いもののエヴァンジェリンお嬢さんの勧めで、別荘で寝るように言われ現実時間で1時間を過ごした。
疲れていないとは言え、経験したことや記憶の整理には睡眠がやはり大事であるからという事なのだろうが素敵な配慮だと思う。
それに試合の映像を、人目を気にせず鑑賞できる時間も得られるというのがあるだろうし、ネギ少年達にとっては願ってもないことだった。
エヴァンジェリンお嬢さんは別荘でネギ少年達が寝ている間に試合の映像を確認し、起床した所で、ネギ少年達自身での分析等も言わせ、それについてのコメントやお嬢さんからした良かった点と反省点の指摘をしたり、まほら武道会という貴重な実践の場での経験をできるだけ多く吸収できるようにさせていた。

ところで、昨日一日目で4戦全勝した人には青山素子さん、瀬田夫妻、タカミチ君、松葉市さん、鶴子さんの旦那さんの蘇芳さんを筆頭に実力がある人達が揃っている。
皆さん全員持ち点は既に基本で16倍、そこに更に補正が掛かってそれ以上にふくれあがっているので今日も勝ち続ければ256倍、明日も勝てば4096倍で初期持ち点1000点に単純にかけるだけで最低409万は賞金が得られる事になる。
引き分けも一応1.2倍ぐらいに増えるのだがやはり勝利するのが一番稼げる。

そんなこんなで麻帆良祭もいよいよ2日目に突入した。
この日も10時からまほら武道会が行われる事には変わりないが、2日目、3日目は朝早くから学園祭はやっており、そんな中超鈴音、葉加瀬聡美、カオラ・スゥはロボット工学研究会で色々やっていた。
昨日、後で紹介するという割にはお互い中夜祭とひなた荘住人で祭りを見物するのに忙しかったから、こうして朝連絡を取り合って集まってごちゃごちゃやっているのだが睡眠時間も短い割には非常に元気だ。

「スゥさん、この技術力はどこの物なんですか?」

「ウチの実家モルモル王国やねん。そこの科学力やな」

「まさかこんなにオーバーテクノロジーに近いものがあるとはネ」

プラズマ火球を発生させたり、普通にレーザー兵器が作れるのはまぎれもなくオーバーテクノロジーだろう。

「モルモル王国ですか……こんな技術があるなんて行ってみたいですね」

「気に入ったらウチの国来るか?二人の技術力ならウチの国でも歓迎やで。世界征服も早まりそうやし!」

「スゥサンの目標も世界征服なのカ?」

「もしかしてチャオも世界征服なん?」

「話が会うようだナ!ははは!」

「そうやな!あははは!」

……世界征服なんて真面目にやりたがる人間は意外といるらしい。
こんな明るい世界征服の話が行われている一方ネギ少年は引き続きまほら武道会をうまくこなしながらまだ回っていない生徒達の所に行くのを欠かさなかった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

よし、疲労感は無かったけどマスターの別荘で休ませてもらったらやっぱり少しスッキリした気がする。
今日も10時からまほら武道会の二日目があるけど僕の試合は12時少し前だからまだ4時間はあるし昨日回れなかった所に行こう。
さっき急いでこのかさんが先にマスターの家から出ていったけど多分占い研かな。

「ぼーや、今日は私の所にも寄るのか?」

「えーっと午後からですよね?絶対見に行きます!」

「それは良い心がけだ。あー、それと茶々丸の野点も近くでやっているからな」

「分かりました!ではまた後で!行ってきます!」

「ああ、行って来い」

コタローは今日午前中楓さんとさんぽ部で走りまわるって言って先にいっちゃったけど、どうも普通に見てまわるみたいだったな。
女子校エリアは麻帆良でも奥の方だから少し遠いんだよね。
皆さっき朝まで騒いでたのに今日も客寄せやってるけどよく疲れないなー。
えーっと占い研は三階か……。
ああ、あったあった。
何かお化け屋敷みたいに凄い薄暗いな。

「こんに……おはようございます」

「あ、ネギ君来てくれたんか!?」

「はい!このかさん、占いお願いできますか?」

「もちろんや!せや、本当の占いやろうか?杖もあるんよ」

そういえばこのかさん占い魔法は凄いハマってたんだった。

「このかさん、杖持ってきて大丈夫なんですか?」

「占いの小道具ってことにすれば大丈夫や」

「あはは、ではお願いします」

「うちにまかしとき」

そろそろこのかさんも始動キー決めてもいい気がするんだけどどうだろうな。

「ネギ君今日きっと素敵な出会いがあるえ」

「素敵な出会いですか?」

「実はそれうちかもしれんよ」

「な、何言ってるんですか!?」

「冗談やよ、ネギ君慌ててかわいいなぁ」

「からかわないで下さい……」

「ネギ君、人の言うこと真に受けすぎやよ」

「それは……そうかも」

「んでも、そこがネギ君のいいとこでもあるんやけどな」

うーん、直した方がいいのかな……。

「今日の試合も応援しとるよ」

「はい、今日も頑張ります」

「あ、今日図書館島探険大会もあるから良かったら来てな」

「はい!それでは占いありがとうございました!」

次は夕映さんの哲学研究会のクイズか。
でも僕哲学者は詳しくないんだけど、それは関係ないし、行ってみよう。

「夕映さん!おはようございます!」

「ね、ネギ先生、わざわざ来てくれてありがとうです」

「いえ、皆の所をまわるのは僕も楽しいです」

「あの、昨日のいいんちょさんがまき絵さんに追求されていた武道会というのにはネギ先生も出られているのですか?」

「はい、そうです。チケット持ってなくてごめんなさい」

「やはりアレが関係しているのですね」

「……そうなんです」

「私も特別に知ることを許されているだけですから我侭は言わないです。ネギ先生、頑張ってください」

「ありがとうございます、夕映さん」

「それではクイズ良かったらどうぞ」

「はい!」

……と頑張ってみたんだけど難しかった。

「ネギ先生、気にしなくて大丈夫です。ここに集まっている人達は皆哲学に詳しいので仕方ないです」

「ははは、皆凄いですね」

クイズの早押しでボタン押すだけならできるけど他の参加者の人達ちゃんと答えられているから凄いや。

「このかさんにも誘われましたけど後で図書館島探険大会も行くのでまた後で!」

「お待ちしてるです!」

夕映さんこの前魔法見せてもらったときもう火よ灯れも小物を動かす魔法もできてたしどれぐらい魔法練習してるのか聞いたら一日3時間もやってたらしい。
本が好きっていうのは変わってないけど魔法使いにもなりたいみたいだし実際夕映さんには才能があると思う。

まだ大分時間あるんだけど……マスターも茶々丸さんも午後、探険大会も午後、桜子さんのライブも夜だし後は……あった!
麻帆良学園大学第三演劇部、夏美さんの発表が丁度10時からだし、行ってみよう!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

今丁度龍宮さんと高畑先生の試合が行われているのですが……。

「龍宮サンは昨日から良い試合だたが相手が高畑先生だとこうなるとはネ」

鈴音さんの話では昨日龍宮さんは最初500円玉を使おうと思っていたらしいのですが、雪広グループのツテでスロットのコインを使う事になってコインの消費に糸目がなくなりました。

「あれってパチンコの玉じゃ駄目だったんですか?」

「駄目ではないと思うがコインなら隙間なく重ねておけるからネ」

「なるほど。貫通力だとパチンコ玉の方が良さそうだと思いましたけどそういう事ですか」

「龍宮サンのレベルになると玉でもコインでも威力は十分だヨ」

―異空弾倉―

「あの異空間に弾丸隠しておくの便利ですねー」

「この前の旅行でも胸に機関銃すら入れてあたらしいヨ」

「魔法の谷間ですか……」

龍宮さんは高畑先生の無音拳を全て見切ってコインを弾き飛ばして相殺させていますが一体どういう目……魔眼をしているのでしょうか。

「普通はただの拳圧なんて見きれるものではないのだけどネ」

「龍宮さんには見えるんですねー」

「なんというか相性の良くない試合だナ」

高畑先生が咸卦法を使ってビームを出し始めたらコインは流石に役にたたなくなると思いますが使う気配が無いですね。
しばらく激しい銃声……コイン声?が続きましたが龍宮さんが無音拳を見切って鮮やかな身体捌きで接近していき近接格闘戦に持ちこまれましたが、高畑先生が無音拳を距離の関係で使えないのに対して、ゼロ距離でも数枚まとめて発射できる龍宮さんは、攻撃手段は減っていません。

「やはり龍宮サンが護衛だと心強いのが分かるネ」

「あの時も一瞬でしたしね」

押しているかに見えた龍宮さんでしたが

「高畑先生、やはり強いな」

「龍宮君もその年でこれだけなら本当に凄いよ」

「それはどうも。しかしこれ以上続けると弾丸の処理が面倒だ」

突然距離を取って龍宮さんは腕を下ろし

「終わりかい?」

「ああ、ギブアップだ。高畑先生とは試合より仕事で組む方が合っているだろうな」

「確かにその方が僕も助かるよ」

「もし機会があれば」

「勝者高畑・T・タカミチ選手!」

これでまた連勝記録を高畑先生は更新しました。

「二人共本気では無かたがお互いの力量はわかるのだろうナ」

「龍宮さんが本気だとまず武装が違いますもんね」

「元教え子相手に真剣勝負という訳にもいかないネ」

仕事人風の龍宮さんが潔く負けを認めて能舞台に戻って休憩室に行く姿はカッコイイです。
散らばった弾丸は毎回必死に田中さん達が集めているんですけどね……。

「昨日の青山サン達に貸し切られた魔法球で修行した成果なのか愛衣サンは動きが良くなたネ」

「そうですね、佐倉さんは瞬動を使い始めてますし昨日より確実に伸びてます」

「私も今日も引き続き指導が行われるなら参加してみようかナ」

「鈴音さんも参加するなら私もやってみたいです。いいんちょさんも昨日混ざってましたし」

「一緒に運動するカ」

「はい!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

超鈴音達までもがあの魔法球で修行する事にしたのはさておき、ネギ少年の本日最初の相手は松葉市さんだった。

「お嬢の先生と聞いてみれば、若すぎると思っておりましたが昨日の試合拝見致しました。私も本気でお相手致しましょう」

「よろしくお願いします!」

「制限時間15分試合開始ッ!」

市さんは本体と同密度の分身を本体含め8体も出せる上、途中で突然そのうちの一体が舞台に同化して消えたかと思えば気配を一切感じさせず縮地で接近する事ができるなど初日に長瀬楓の前に現れた時の頭領発言はともかく、忍としての能力は凄まじい。
いくら全方位防御の魔法領域と言えど、タカミチ君との試合のように目の前に集中していれば良い訳ではないので全8方向から迫るのは脅威としか言いようがなかった。
風精の囮とは訳が違う東洋の神秘は何ともズルい気がしてならない。

「囲まれたッ!」

―雷の29矢!!―
―光の29矢!!―

「これでは軌道が読めますね」

牽制に一斉発射した魔法の射手もむなしく完璧に見切られ懐に入られてしまい

「くっ!」

回避を試みて空中に向けて虚空瞬動をするが

「まだ我らが残っています」

「なっ!?」

空中に予めいたかのように忽然と4体の分身が現れ

「空中には上げさせません」

三体がそれぞれネギ少年の斜め頭上から魔法領域に殴り込みをかけ、残りの一体が膨大な気の塊を溜めも殆ど無く瞬時に腕に形成したかと思えば完全な真上からそれを猛烈な勢いで投げつけネギ少年は空中に逃げようとするも虚しく地上に叩きつけられた。

「こうなったら……」

ネギ少年はリアルタイムに反射で戦うようにしているためまほら武道会でも強力な手札になりえる高速思考はタカミチ君との試合以外では使っていなかったのだがここで再度解禁した。
これによってネギ少年の視界範囲内の攻撃に対する反射が極限まで高くなり魔法領域にかかる強烈な衝撃を、僅かに体勢をずらす事で緩和しだした。

「動きが良くなりましたね」

「楓さんより凄いなんて……」

「お嬢の才能はそれは素晴らしいものですがまだ修行中の身です。上には上がいるという事をお忘れなく」

「勉強になります!」

しかし8体のうちどれが本体なのか全く分からないという状況下では完全にジリ貧だった。

「なかなか固い防御ですが……」

―甲賀77式刺突―

「これは流石に耐えられないでしょう」

何が77式なのかは知らないがボッっという音と共に指先から肘にかけて目に見えるレベルの気の刃が発生し8体同時に刺突をかけた。
剣のように伸びてはいないが、断罪の剣・気バージョンとでもいうような恐るべき威力だった。

「がはッ!」

狙ったのは全てネギ少年の四肢の関節であり、見事完全に外してしまった。
そのまま立つ事も腕を振るう事もできなくなり魔法領域は展開していてもダウンと相成ったのだった。

「ご安心下さい、痛みなく元に戻せますので」

「す、凄い……。ありがとうございました」

「カウント10!勝者松葉市選手!」

勝利が決定し直ぐ様各分身が所定の位置に付き

「力を抜いてください、参ります」

と、すると一瞬にして関節が全て元に戻ったのだった。

「ほ、本当に全然痛くなかった……」

「お疲れでしょう、私がお運びいたします」

「い、いえ、そんな!」

「私も子供相手に少々本気を出してしまいましたからせめてものお詫びでございます」

ネギ少年は流れるような無駄の無い動作で、だっこされそのまま休憩室に連れていかれて行った。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

あーびっくりした。
関節ってあんなに簡単に外れるんだ……。
このかさん達が心配して皆来てくれたけどあっさり無力化されただけで痛みがあったのは関節外された時だけだったんだよね。

「ネギ坊主、大丈夫でござるか?」

「楓さん、全然大丈夫です!忍者って凄いですね!感動しました!僕も分身してみたいです!」

「拙者は忍者ではないでござる」

「楓姉ちゃん、あの市の姉ちゃんのやったあの技できるんか!?」

「コタローも落ち着くでござるよ」

驚きっぱなしで僕もコタローと同じようにどんな事ができるのかしばらくずっと聞いてたら楓さん少し困ってた。
詠春さんが言うには父さんも分身できたって話だし東洋の神秘なんてできないなんて言ってる場合じゃないよ!
気で分身が作れるって事は精霊召喚じゃなくて純粋な魔力でできる筈。

……少し興奮しちゃったけど、続けて2戦目をやった。
今度の相手はそんなに強くなかったから高音さんの時と同じ方法で勝ったよ。
マスターの舞台もあるからお昼ごはんは超包子で肉まんを買って食べて済ませて茶々丸さんの野点もある場所に移動した。

「茶々丸さん、こんにちは!」

「ネギ先生、ようこそお越し下さいました」

「お茶を貰えますか?少し喉も渇いてて」

「抹茶と緑茶がありますがどちらに?」

「えっと、緑茶でお願いします」

「分かりました、少々お待ちください」

ふー、ここは少し落ち着くな。
マスターの舞台は……あそこか。

「ネギ先生、お待たせしました。どうぞ」

「ありがとうございます!頂きます」

「ネギ先生、試合はいかがでしたか?」

「とても良い実戦経験になりました。楓さんの知り合いの人が凄かったです」

「楽しそうですね」

「はい!」

茶々丸さんにはマスターの別荘でもいつもお世話になってるし、一緒に買物行ったら街の人達の人気者だし、猫にも餌をやってたり良い人だなぁ。
少しゆっくりしてマスターの舞台もそろそろ時間になるから茶々丸さんと一緒に席で待機したよ。
この舞台で発表されたのが、後で映像として販売されるんだけどネカネお姉ちゃん喜ぶかな。
マスターが入っているサークルは日本舞踊ならジャンルを問わず舞い、踊り、振り三種を全部やってるけど、厳密に格式に拘ってもいないから舞台がそれぞれで違くてもうまくやってるんだよね。

「ネギ先生、始まりますよ」

「春にも見ましたけど楽しみです」

あ、マスター出てきた。
最初は雅楽からみたい。
珍しい楽器もたくさん揃ってるしこのサークルは凄い!
マスターが人目を引くのはあやかさんと同じ金髪だけどいつもどことなく輝いてて、ゆっくりした動作で舞をすると、通った後にその残滓が感じられる事だと思うんだ。
これは他のメンバーの人には感じられない大きな差だ。
顔を仮面で覆う舞も女舞っていう白塗りの厚化粧で演技をする時もそれが見てわかる。
僕はでもやっぱり薄化粧か素顔の方がいいけどな。
見に来てる人達も「神々しい……」って言ってる通りマスターは綺麗っていう言葉で言うには少し違う雰囲気。
近くを道行く人も必ず足を止めるような魅力がある。
あ、これで一旦終わりか。

「エヴァンジェリン様!!」

「エヴァちゃーん!!こっち向いてー!!」

「女神が降臨したぞーッ!!」

わー凄い人気。
落ち着いた雰囲気だったのが完全にテレビでやってる歌手のライブみたいな盛り上がりになっちゃってるけどいつもこうらしくてネカネお姉ちゃんと一緒にイギリスで映像見た時もそうだった。

「マスターの得意は扇を用いた神楽ですからまたすぐ後で出て来られます」

「茶々丸さん、このサークルの楽器や衣装にかかっている費用っていくらぐらいするんでしょうか」

「とても高いですよ。一つ駄目にしてしまえば青ざめるぐらいには」

「あはは……それがこんなにあるって凄いなー」

「今年で9年目ですから最初はここまで充実していなかったそうです」

それがここまで……。

「マスターはこの舞台で披露する以外に断絶しそうな伝統芸能を多数習得しているので、人間国宝に認定されるのも近いかもしれません」

マスターって何でもマスターできるんだなぁ。
サークルの他の人達による各種舞が披露された後またマスターが巫女服を着てでてきた。

「おや、ネギ君も来ていましたか」

「え!?クウネルさん、いつのまに隣に!?」

「丁度今です」

いきなり現れるからびっくりした……。

「クウネルさんもマスターを見に?」

「フフフ、キティの合法的かつコスプレ用ではなく本物の巫女服姿が見られるのはここだけですからね」

凄く目が光ってるー!!

「ネギ君、そういえば聞いていませんでしたが学園長が送ったエヴァの映像は全て見ましたか?」

「あ、はい!全部ネカネお姉ちゃんと見ました」

「あれは実は私が全て選別したものだったのですがお楽しみいただけましたか?」

「え?あれクウネルさんが選んだものだったんですか?それはもちろん素敵でした」

「それは良かった。それではエヴァの演技を見るとしましょう」

「はい」

マスターの扇の所作一つ一つが流れるような動きをさっきまで歓声を上げていた観客の人達も息を飲んで真剣に舞台を見つめている。
凄くゆっくりした動きだけど、何故か飽きが来ないからちょっと時間が長くても見ていられるな。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

広域指導員の仕事で笑う死神、デスメガネ等と学園の血の気の荒い学生達に恐れられているタカミチ君だが、今まさに相対するのは笑う教授こと瀬田記康である。
二人とも全勝中であるが、瀬田教授が確定指名権を行使しタカミチ君との試合を申し込んだのだ。
理由は、あの無音拳と咸卦法に興味があるからと、ただそれだけらしい。
ヘビースモーカー同士仲良くしてろという感じであるが、この試合、まさに衝撃の一言だった。

「瀬田さん、よろしくお願いします」

「高畑さん、こちらこそよろしくお願いします」

と双方穏やかに挨拶を済ませたのだがお互い微笑を浮かべていている割には舞台はひどい威圧感に覆われている。
タカミチ君も明石教授を始めとした完全な裏関係者を制している瀬田教授に油断はしていないのだが、無音拳を使っていいのかは微妙に戸惑っていた。
しかしそこへ先に一石を投じたのは

「ではこちらから」

瀬田教授この武道会初の投擲攻撃の始まりである。
投げる物は龍宮神社のお嬢さんと異なり普通のパチンコ玉である。
が、密度の濃い気が通してあり威力は相当高い。

「投擲か!」

弾丸が跳弾するような音が聞こえたと思えばタカミチ君の咄嗟の反応での無音拳で相殺された。

「いやー、はっはっは、とても興味深い。それでは」

言葉だけがその場に残り、忽然と姿を消したかに思われた瀬田教授は既に空高く飛び上がっており頭上から投擲を仕掛けながら飛びかかった。
計算されつくしたかのようにパチンコ玉が全て弾かれた所、無音拳を放つ事ができない距離に瀬田教授が接近、得意の截拳道が猛威を振るう。
等速魔法球で行われている試合に観客は目が釘付けであったが良く考えてほしい。
瀬田記康はあくまでも東大教授であり、世界に飛び出しあちこち飛び回るまでは長い事裏も知らなかった一般人なのである。
それが仮にも悠久の風通称AAAのタカミチ・T・高畑を押しているのである。
しかも笑いながら。
魔法使いの方々は驚いていたが、一番驚いているのはタカミチ君本人である。

「ほ、本当に大学教授とは思えない腕前ですね」

「はっはっは、荒事には慣れていまして。遺跡発掘作業中に襲われた所を返り討ちにしているうちに自然と」

「一昨年一機のプロペラ機だけで多数の追っ手を蹴散らしたとは聞いていましたが……」

「いやーあれもなかなか大変でした。懐かしい」

何故か会話する余裕がある二人だが目にも留まらぬ動きで瀬田教授風にいうと功夫を繰り広げる二人であった。

「まだ本気では無いようですが咸卦法をお見せしましょう」

「それはありがたい!是非実際に目で見たかった所です」

「右腕に気、左腕に魔力……合成」

―咸卦法!―

その状況を見た観客と言えば……。

「あの高畑先生に咸卦法を使わせるとは大した御仁でござるな」

「私も瀬田さんと相手してもらったけどはるかさん並に強かったアルよ。しかも笑いながらアル」

「いい!凄くいいわ!」

神楽坂明日菜はタカミチ君のイカした本気モードをまた見れるとあって大喜びである。
まあそれに後でデートする約束をしたからというのもあるのだろうが……。
再び試合の方に戻れば、怪奇現象が起きていた。

「咸卦法とは興味深い、こうですかね。……合成」

―咸卦法!―

「何だって!?」

見様見真似咸卦法が出た。

「しかし、あまり持ちそうにないですね。あっはっはっは!」

「これはまるでジャック・ラカン……」

とうとう魔法世界伝説の最強傭兵剣士ジャック・ラカンと同列に扱われた瀬田教授だった……。
確かになんとなく共通項はある気がする。
言わば旧世界のチート・無限のバグキャラなのかもしれない。
しかもすぐその弟子浦島景太郎もチート・無限のバグキャラ候補生であるのだから、先行きも明るい。
まあ彼等はそんな事お構いなしにあちこち世界を飛んで回っては掘り返すから戦いとは本質的に無関係であるが……。
気が扱えるのは、武術の修練によって自然と身につくからおかしなことではないが魔力まで扱う事ができるのは、魔分の集積しやすい遺跡などに長期間いたりしたからなのだろうか。
さて、試合の結果はまさかの瀬田教授の勝利で終わり、まほら武道会で全勝同士の間に明確な力量差が出たのだった。
勿論あくまでも一対一の個人戦に限った結果であり、タカミチ君には対軍用の技もあるのだから完全な比較はできないだろう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

マスターの舞台も全部終わったけど、やっぱり本当に良かった。

「直に見るのは良いものですね」

「はい!」

「ところでネギ君、明日私と試合しませんか?」

「えっ?いきなりどうしたんですか?」

「戦うのは私では無いのですが、是非相手をしたいと言っている人物がいましてね」

「そ、そうなんですか?……はい、わかりました」

「それでは明日全試合終了後18時に龍宮神社でお待ちしています」

「はい……ってあれ!消えちゃった」

僕と戦いたい相手だけどクウネルさんと試合するって……どういうことだろう。
不思議な人だとは思ってたけど……まあ明日後夜祭の前に特に予定も無いから大丈夫だ。
マスターに挨拶しておきたいけど……凄いファンの人達に囲まれてるし、図書館島探険大会もそろそろ近いし後にしておこう。

「茶々丸さん、僕も図書館島に用があるのでこれで失礼します」

「はい、ネギ先生、お気をつけて」

ちょっと時間があるからまほら武道会の試合結果を確認してみようかな。
……え!?タカミチが負けた!?
相手は……瀬田さんだ!
凄く強いのは分かってたけどタカミチよりも強いなんて……後で確認しておこう。
まずは図書館島探険大会だけどどこまで潜るんだろう。
浮遊術は使えないから無視できた罠も……矢が飛んで来る所とか一般人の人がいきなり参加しても大丈夫なのかな……。

「このかさん、のどかさん、夕映さん、ハルナさん、こんにちは!」

「あ、ネギ君来たえ!」

「ネギ先生こんにちはです」

「ね、ネギ先生こんにちは……」

「ネギ君よく来たね」

「それで今日はどういった内容なんですか?」

「まずは地上部分を回った後地下4階までやね」

「4階ですか。あの、罠はどうなっているんですか?」

「それはうちの部員が先回りして解除してあるから大丈夫だよ!」

「それなら安心ですね!」

「ほな、出発するえ!」

地上部分は図書館らしいツアーになったけどやっぱり地下部分は探険だった。
去年の夏にも地下3階まで潜った事があったけど1階と呼ぶには天井と床の高低差がおかしかったりする場所だから多分空間を広げる魔法が使われているんだろうな。

「ねえねえ、ネギ君が参加してる格闘大会ってなんなの?」

「えーっとウルティマホラみたいな感じです」

「それなら他の場所でもいくつも大会やってるじゃん」

「僕が参加しているのはくーふぇさんみたいな人が沢山出ているもので……」

「ふむふむ、ハイレベルな大会かー。ってくーふぇも出てたとはね……これは後でとっちめるか」

「ハルナ、そういうの良くないえ」

「だって極秘の大会だよ?気になるに決まってるじゃん!今年変わった人達が多くて、アキラに似た人が野菜をシュバババッって切る曲芸とか路上でやってるしさ。絶対凄いよ!ってかネギ君どんなの?教えて!」

マズい……なんとかしないと。
アキラさんに似た人って素子さんかな。

「ごめんなさい、それを言ってしまうと選手権が剥奪されてしまうので……」

嘘って辛いなぁ。

「あーそれは駄目だね。私ネギ君の試合見てみたいし。こうなったらいいんちょからチケットを掻っ攫うしかないかー?」

全然諦めてないみたい……。
ハルナさんの口撃が凄かったけどこのかさんがそれとなくフォローしてくれたからなんとかなった……。

「ネギ君来てくれてありがとな!」

「ほら、のどか、ネギ先生に言う事あるんじゃないの?」

「え……う、うん」

「のどかさん?」

「……ね、ネギ先生!今日この後良かったら私とデートして下さい!」

で、デート!?

「あ、え、えと、はい!喜んで!」

「おおっ、やったじゃんのどか!」

「あ、ありがとうございます、ネギ先生」

「のどかさん、時間は4時過ぎぐらいからでもいいですか?」

「は、はい!」

「ちょっと僕また用事があるのでメールしますね!」

「お待ちしてます!」

デートってデート……か。
なんだか緊張するなぁ。
でも、まずその前に試合だ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

まほら武道会では引き続き試合が消化されていき、楓さんと浦島可奈子さんの試合も終わりました。
相手が女性だと本気を出すのに躊躇するという欠点を抱えている小太郎君とは違い分身をフルに使う事のできた楓さんの方が優勢でした。
途中楓さんそっくりに変装して分身同士見分けがつかないという驚きの瞬間もありましたが楓さんはそれに対して「これほどの身体操術に変装……可奈子殿、どこでそんな技術を?」と尋ねた所「おばあ様に教わりました」と言い、「祖母がいるでござるか……」と楓さんは少し懐かしげでした。

「次は刹那サンと青山鶴子サンの試合だネ」

「神鳴流の戦いは奥義を使い出した途端にすぐ災害になりますけど今度はどうなるでしょうか」

ところで鶴子さんの妹の素子さんはこれまで全勝ですがたまに二刀流?なのかシャーペンが飛び出します。
そのシャーペン、気を通しているというにはどこにも刃が付いてる訳でもないのに異常に固いんですが一体どこの特注なんでしょう……。

桜咲さんの試合は「昨日の修行の成果を見せてみなはれ」という鶴子さんが言ったのに対し「はい、鶴子様、よろしくお願いしたします!」と礼儀正しく挨拶を交わして始まりました。
最初は単純ながら超人的な速度で剣戟が繰り広げられ、その内容は鶴子さんが桜咲さんを軽くあしらうというものでした。
普通に見ているだけだと桜咲さんも十分強いと思うのですがこうして二人が相対すると歴然とした差が分かります。

「少し成長したようどすが、まだまだ。ハッ!」

「え?」

木刀と木刀がぶつかった瞬間桜咲さんの方の木刀が半ばでスッパリ切れてしまいました。

「無手で続けましょか?」

「い、いえ、滅相もありません。お相手頂きありがとうございました!」

「ほな、今日も18時から」

「お願いします!」

鶴子さんの言葉、やさしそうに聞こえますが実際凄く怖いです。
なんでも、普段主婦をやっている時はいつも包丁を片時も離さないなんて逸話もあるらしいんですがなんていうか猟奇的な感じがしますね……。

「気をあれだけ自由に扱えるというのだから達人は凄いネ」

「生命の神秘ですね」

試合を終えた桜咲さんはその後木刀が真っ二つにされた瞬間を振り返り「もし真剣だとしても確実に折られていた……」と戦慄していたそうです。
素子さんはこの試合を見て「止水……」と呟いていましたが似たような経験があるのかもしれませんね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

試合があるからとまほら武道会に戻ってきたネギ少年であったが、相手は雪広のエージェントの戦闘が専門ではない人だったため、あっさり雷の29矢雷華崩拳を叩き込んだ所レジストしきれずそのまま相手がダウンという形で速攻だった。

他に行われた試合では古菲対龍宮神社のお嬢さん戦は異空コイン弾倉の前に古菲が苦戦、大量に被弾するが布棍術で応戦し出し、攻撃を受けること覚悟で接近し浸透勁を決めたがダウンさせるに至らなかった。
そこへ反撃とばかりに「私に苦手な距離は無い」と言い放ちながら両手に握りこまれたコイン数十発が古菲の顎に全弾クリーンヒット、これで古菲がダウンに至った。

また、なんだかバグであると認定してよさそうな瀬田教授の奥さんの瀬田はるかさんは見様見真似咸卦法なんて事はしないが、小太郎君と当たった。
小太郎君としてはどうせなら蘇芳さんか瀬田教授の方が良かったのだが、自分の持ち得る近接格闘の技術で挑むも、はるかさんはタバコを口に咥えているかのような余裕さで滅多打ちにし「小太郎君、なかなかいい試合だった」とサバサバしたセリフを最後に述べるという相変わらずスタイルが常に一貫してぶれず、拳法家の選手の人達の憧れの的となっていた。
小太郎君は「女殴るの趣味やないけど、時と場合によっちゃこだわってられへんな」と少し認識が改まったらしい。
しかしひなた荘関係者にあたるたびに小太郎君は勝てないが何かループに入っている気がしないでもない。
頑張れ。

一方ネギ少年は再び龍宮神社を飛び出し、宮崎のどかとデートに出かけて行った。
残念ながらこの日あったベストカップルコンテストは既に16時には終わっており出場は……いや、一応教師と生徒と禁断の愛等となりかねないから出なかっただろうが、できなかった。
一番の問題は早乙女ハルナが今年の2月の時と同じように二人の様子を尾行するという褒められた行為ではないことをしていた事だが、綾瀬夕映と孫娘も興味が尽きずそれに追従していた。
そんなものだからその様子を途中見かけた野次馬精神旺盛な3-Aの生徒が後ろにどんどん増えていった。
ネギ少年は流石にあからさまな尾行に気づいていない訳なかったので、せめて宮崎のどかが緊張しないようにと常に尾行がいない方向に目が向くように配慮していたのだから涙ぐましい。
18時過ぎにライブ会場で、でこぴんロケットというバンドを組んだ3-Aの和泉亜子、柿崎美砂、釘宮円、椎名桜子の4人の演奏を聞き、そのままフィアテル・アム・ゼー広場の近くにある屋上喫茶で一息ついたりと英国紳士のエスコートはなかなかだった。
当然これも少し離れた席で下手な変装をした3-A生徒達が興味津々でみていたのだが……。
そしてデートもそろそろ終わりかという時。

「ネギ先生、今日は一緒に学園祭をまわってくれてありがとうございました」

「僕ものどかさんと学園祭まわれて楽しかったです」

「それでこれは今日の私のお礼……みたいなものなんですけど……ネギ先生、目を閉じて貰えませんか?」

「え?はい!いいですよ。閉じました」

と、宮崎のどかは大胆にもネギ少年とお互いファーストキスをしようとした……のだが……。

「ちょぉぉっとおおおお!お、お、お待ちなさい、のどかさん!きょ、教師と生徒がそんな行為に及ぶのはいけませんわ!」

カットイン入りましたー。
ビシッ!と人差し指で指し示すポーズを決めた雪広あやかの特攻を皮切りに他の尾行集団も姿をあらわし、てんやわんやの騒ぎになった。
実際この雪広あやかの行動を止めようとした生徒達が沢山いたのだが、昨日の修行に参加した結果一般人ではとても相手にできず振り切られてしまったのである。
これによって皆に見られている事に気がついて宮崎のどかは恥ずかしさのあまり逃げ出そうとしたが、それを阻止され失敗、そのあたりは3-Aの底抜けな明るさでフォローされていた。
まあ、宮崎のどかがネギ少年を好きだということは3-Aで知らない人間はいなかったし、それを言い出すと雪広あやかも「愛しております!」だとか佐々木まき絵も「私ネギ君の事結構好きなんだよねー」とか言ってるので今更である。
何にせよ逆・光源氏計画なんてやましいものを考えている人より余程純粋な心を持っていると思う。

こちらのデートが終わった一方では神楽坂明日菜が今日の5時間分の修行を終えてからタカミチ君と、さんぽ……もといデートをしていたのだがこちらは神楽坂明日菜が告白するに至るも、タカミチ君に予想通りの返答をされていた。
なんとなく心のどこかで分かっていても実際に口に出して言われたのはやはりショックであったようでその後神楽坂明日菜はエヴァンジェリンお嬢さんの家、目的は別荘に一目散に逃げこんでいった。
その中で長い事ボロボロ泣いていたかと思えば突然咸卦法を発動して、砂浜があるのをいいことに、覚えたばかりの斬岩剣をぶっぱなしながら「う、海のバカー!!」とお約束である。
すぐさま虚しくなって突如テンションが最低に落ち込めば屋上のプールでダラーっとこれまた長い事していたりと実に彼女らしいと言えば彼女らしかった。
地味に海が割れていたのは触れないほうがいいだろうか。

さて、時間を18時に遡れば超鈴音とサヨまでもが例の魔法球に入っていった訳だが、その二人を含め昨日よりも更に女性の数が増えていて、いよいよ間違って男性が入ったら痛い目に合わされる場所となっていた。
その妙な人気を博している魔法球を精神的に疲れた表情で目をやった人物の中には既に8戦中5戦の相手の内訳が青山のお姉さん達だった詠春殿がいた。
お疲れ様でした。
もう青山のお姉さんはこれで終わりですから安心してください。
そんな疲れきった人をよそに、ネギ少年もおらず小太郎君はどうしていたかと言えば瀬田教授と浦島景太郎がいるところを見つけ、不死身のなり方について割と本気で弟子入りしようとしたり、19時になって松葉市さんが出てきたところを捕まえ、例の甲賀式刺突やら分身について真剣に教えを請っていた。
実際小太郎君は狗族であるため爪を自由に伸縮させることができるので刺突というのは相性が良い。
各々やりたいことをのびのびできるとあって充実していたことだけは共通していると言えるだろう。

こうして学園祭2日目も無事に幕を閉じたのだった。



[21907] 38話 まほら武道会閉幕
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/02/19 22:57
昨日は私とさよも修行に参加させてもらたがなかなか良かたネ。
私は気弾の形成というのはできなかたのだが、コツさえ分かれば意外にできるものだナ。
さよの身体では気が使えない訳ではないが、魔分を使える立場にある時点で覚える必要も無かたから専ら柔術のトレースを一生懸命やていたヨ。
それにしても明日菜サンの成長速度には驚いたネ。
神鳴流の奥義でも難易度があるとは言えあんなに早く習得できるとは到底信じられないヨ。

「超さん、おはようございます」

「おお、クウネルサン、ネギ坊主に何か言てきたのかナ?」

「ええ、今日の18時という事でお願いしておきました」

「それは何も問題無いネ。しかしこれだけ関係者がいる前でやる訳にもいかないと思うがどうネ?」

「私としましては多くの方に見てもらっても構わないのですが……私自身がここにいると知られるのも少々困りますからね」

「分かたヨ。一つ貸切にしておくネ」

「頼みます。それにしても私もこの大会出てみたかったですね」

「ネギ坊主以外に誰かめぼしい相手でもいたかナ?」

「旧世界にも探せばこれだけいるものなのだとは」

「それでもかのナギ・スプリングフィールドを超える者はいないだろう?」

「フフ、まあそうですね」

「そうだ、試合してみたいというなら私とやてみるカ?」

「超さんとですか?それは確かに面白そうですがあのアーティファクトでは勝ち目が無さそうですね」

「クウネルサンも半分無敵なのだろう?」

「お互いルール違反ですね」

「だから出てないんだヨ」

「しかしそれはまた追々という事で」

「分かているネ。何も本気ではないからナ」

「フフ、それでは」

既に保存試合数は384試合に確定指名戦を足して400超だが、あまりリタイアする人がいなかたのは良かたネ。
やはり骨折まで治るというのは大きいナ。
さて、今日でこのまほら武道会も終わりだが普通なら1日目が予選2日目が本選で終わるのがこれだけできているのだからもう望みはほぼ達成されているヨ。
賞金は全ての参加者に払うが貴重な映像資料の対価という所だネ。

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麻帆良祭3日目、各サークル、部活、クラスは最後の稼ぎ時と、猛烈な追い込みをかけていた。
麻帆良中どこもかしこも睡眠不足もなんのその、客引きの声が飛び交う中、まほら武道会最終日はと言えば……。

「コタロー、頑張ってね」

「おう、やっと本命との試合通ったんやからな」

「この試合は本気の本気や。俺も出し惜しみはせえへん」

「うん、そうか」

「ほな、行ってくるで」

小太郎君の相手は進藤蘇芳、鶴子さんの旦那さんであるが鶴子さんの姓は仕事の関係で基本的に青山のままだ。
等速魔法球での試合、スクリーンでリアルタイムに映像が流れている。

「関西呪術協会所属陰陽師、進藤蘇芳です。どうぞよろしく」

「関西呪術協会所属狗神使い、犬上小太郎や。よろしゅう!」

「それでは制限時間15分、試合開始ッ!」

―狗族獣化!!―

小太郎君は開幕初手早くも獣化を使い。

「分身!」

本体含めて3体に分身し。

「元気が良いですね。私も全力でお相手致しましょう!」

「「「そうこないとな!行くで!」」」

無詠唱陰陽師とは一体いかような戦闘スタイルなのか。
実際陰陽術では広範囲殲滅魔法や召喚術系には必ずと言っていいほど魔力が使われるが、それ以外は気で行使する事ができる。
当然気の扱いに長けている人間が格闘戦に長けていない筈がないのだ。
神鳴流と呪符使いは、魔法使いと魔法使いの従者のような深い関係があるとは言われるが、それはやはり所謂一般的砲台としての場合だけである。
大体そんな守ってもらわないとダメ、なんていう相手と鶴子さんが結婚する訳がない。

三方向から小太郎君が取り囲み狗音爆砕拳でなぐりかかれば、一体に接近、手首を掴み、そのまま残る二体の接近に合わせて投げ返し軽く脱出した。
当然小太郎君もただ投げられた訳ではなく投げられる直前に蹴り技に移行したのだが、無詠唱陰陽術で触れられた瞬間金縛りを喰らい完全停止、反撃できなかったのだ。
投げ飛ばされた分身は残る二体にキャッチされ、衝撃を与えられた事で金縛りも解けた。

「やっぱこれ金縛りやったんか」

「はい、続きを行きましょう」

「おっしゃ!」

既にこれまでの10戦近くで度々、この金縛りは使われており、抵抗力の無い人がこれをうけると10カウントダウンというのはザラにあり、このまほら武道会のルールではかなり有利な術である。
分身のような回避手段がない場合もろに喰らえばそれだけで終わる可能性があるのだ。
当然それだけではなく、無詠唱魔法の射手一発が0.3秒で出せるというのと張り合うかのような速度で空や地面に魔方陣を描く事ができ、それを任意のタイミングで発動させることまでできるのである。
描かれる物には、星型の五行魔法陣、
子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥の十二支、
甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸の十干、
九星図という一から九までの数字で構成される魔方陣、
爻と呼ばれるバーコードのような記号3つを組み合わせてできる乾・兌・離・震・巽・坎・艮・坤の八卦文字、それを更に2つずつ組み合わせた六十四卦などがある。
西洋魔法と東洋魔法どちらが優れているかというのはよく衝突の種になるが、やはり使い手次第である。

小太郎君が地面から疾空黒狼牙を発動し、多数の狗神を放とうとすれば、同じ地面から即座にフェイト・アーウェルンクスの使うような石の槍が飛び出し全て貫かれるという早業である。
しかも属性に拘らず、火、水、土、木の精等、無数に使えるというのは手札を探る意味を相手に失わせる。

最初舞台上で真面目に戦っていた小太郎君だったが、開始2分にして空中、地面問わずあちこち敷設魔方陣が描かれ、まさに地雷原に取り囲まれてしまい、浮遊術で空中に逃げるしかなくなってしまったのだった。

「映像で見たことある言うてもなんちゅう速さや。学園長の魔法の射手よりタチ悪いわ。うおっ!また石の槍か!これなら避け、ッ!?分岐するやと!」

同時に小太郎君目がけて三本突き出しだけに終わらず、石の槍半ばで木の枝が伸びるかのように追尾し続ける。

「空中に逃げられると些か厄介ですね。ハッ!」

舞台上、空中問わずおよそニ十数カ所が光ったと思えば強烈な熱線が一斉発射され

「くそっ、どこまで追尾すんのや!がぁッ!」

石の槍は注意を逸らすための攻撃にすぎず、槍ごと貫く熱線が小太郎君達に直撃し、地面に落下。
同時に分身2体も消滅。

「これで終わりです」

獣化の本領はその生命力の高さ、少し怪我した程度すぐに自己再生できる点にあるが、ダメージを受けて落ちてきた直後首を捕まれ、再び金縛りが決まった。

「カウント5、6」

「まだ……や」

「あまり獣化を続けないほうがいい、身体に良くないでしょう。ハッ!」

再度解けかけた金縛りを決められた。
確かに純粋狗族でもない小太郎君が無理に獣化し続ける事にリスクが無いわけがない。
少なくとも寿命が僅かに縮む程度の代償はあるだろう。

「ぐっ……」

「カウント10、勝者進藤蘇芳選手!」

「同じ関西呪術協会所属の者としては君のような将来有望な少年がいる事を嬉しく思います。立てますか?」

「ああ……蘇芳の兄ちゃんほんま強いな。……俺、昔兄ちゃんの事見たことあんのやけど覚えとるか?」

「あれは……島根の妖怪退治の時でしたか。私も管轄が違うというだけで他の班に口出しできず歯がゆい思いをしたのを覚えています。戦場に駆り出すにはあの時の小太郎君は今よりも年端もいかない子供でしたね」

「記憶力ええな。俺は別に自分の生まれの事にぐずぐず悩んだりしてへん。考えても意味もない事やしな。俺、もっと強うなるで」

「そうですか。犬上小太郎君、期待しています」

「おう!またいつか相手してや!」

「はい、その時は今回と同じく手は抜きませんよ」

「望むところや!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

小太郎君の本命の相手との試合はこれからの小太郎君にとって良い方向に働くと良いですね。

「東洋呪術も無詠唱であれだけ自由自在に扱われたら、向かうところ殆どの妖魔は大した敵ではないだろうナ」

「普通呪符使うと思ってたんですけど無詠唱でできるものなんですね」

「便利な道具があると頼てしまいがちだがあの人はそれを自力で行えるように血の滲むような努力をしたのだろうネ」

「はー、凄いですねぇ」

「……でなければ鶴子サンの相手等務まらないと思うヨ」

突然小声で会話ですか。

「……私もそう思います」

不意を突かれて包丁が刺さってたなんて事も進藤さんなら無さそうです。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

まほら武道会最終日もつつがなく全試合が終了したところ、とうとう閉会式を迎えた。

[[この3日間、選手の皆サン、実に素晴らしい試合の数々だたネ。日本を中心に探してもこれだけの手練が集またのだ、主催者としてはこれほど嬉しい事は無い。感謝するヨ]]

[[儂からも礼を述べさせてもらおう。今年突然急な呼びかけに応じてくれたこと、心より感謝する。この25年間ももし開催していたらと思うような良い武道会じゃった]]

[[雪広グループを代表して、私からも一言述べさせていただきます。皆様の試合、真に賞賛に値するものでした。我々グループ一同この大会のサポートを務められたことを嬉しく思います。それでは司会の方、お願いします]]

[[選手の皆様、お待ちかねの表彰に移らせて頂きます。まずは総合ポイントベスト5までの発表です。
5位主婦、瀬田はるか選手596万7400ポイント
4位関西山奥の村民、松葉市選手658万9400ポイント
3位関西呪術協会所属陰陽師、進藤蘇芳選手792万5600ポイント
2位関東魔法協会、悠久の風(AAA)所属、高畑・T・タカミチ選手793万1800ポイント
1位東京大学考古学教授、瀬田記康選手901万2300ポイント
以上がトップ5までの順位でございます。各選手の皆様に盛大な拍手を!]]

素子さんはどうしたかというと1度浦島景太郎と試合して負けたので全勝でなくなってしまった為、点数が跳ね上がらず一回り低いポイントとなった。
それにしても瀬田夫妻は3日の間に合わせて1802万円を稼いだ訳だが、多分使い道は何度も壊れる瀬田カーの修理費用に消えて行くのではないだろうか。
各々5人の選手は壇上に上がってトロフィーとポイント分の額の巨大小切手を渡され、軽くコメントをしていたがそれぞれよく性格が出ていた。
はるかさんは「まさか全勝できるとは思っていなかった」
松葉市さんは「このような人前に出るなどと恐縮の極み」
進藤蘇芳さんは「皆様と良い試合が出来たこと、嬉しく思います」
タカミチ君は「世界は広いと思い知らされました」
瀬田教授は「はっはっは、良い功夫でした」
だそうだ。

6位以降の人達は大体200万前後、100万前後と下がったあたりで後は団子状態になるというのは大体予定通りだった。
そして、また自由に選手同士や観客同士で会話を楽しむというのが夜10時ぐらいまで行われたのだが、能舞台、中央の魔法球だけは最初のわずかな間だけ完全貸切だった。
5倍加速空間の中にいたのはネギ・スプリングフィールド、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル、アルビレオ・イマ、近衛詠春、高畑・T・タカミチ、そして神楽坂明日菜達である。

「ネギ君、昨日の約束通り試合したいという相手の紹介をしたいと思います」

「紹介というのは……?」

「まあ見ていて下さい、アデアット」

「アーティファクトカード!」

アルビレオ・イマの周りを無数の本がとりかこみ徐ろにそのうちの一冊を手にとり、栞を本の該当ページに挟みこみ引き抜いた。

その姿は

「詠春の姿をとり」

―雷光剣!!―

をあさっての方向に向けてデモンストレーションがてら放ち

「このように特定人物の身体能力と外見的特徴の再生ができます。これは私のアーティファクトの一つ目の能力ですが、二つ目の能力はこれら、『半生の書』を作成した時点での特定人物の全人格の完全再生なのです」

話しているうちに元の姿にアルビレオ・イマは戻った。
舞台袖でこそこそ孫娘が「若い時の父様かっこええな」とか言って詠春殿が「このか……今は……」なんてやってるが放置。

「……という事はもしかして」

「ええ、ネギ君の父親であり私達の友であるナギ・スプリングフィールドの人格を再生することができます」

「と……うさんを……」

「但し、この再生を一度行えば半生の書は魔力を失い二度と再生することはできません。再生時間も10分間だけです。……どうしますか?」

「……お、お願いします!」

「よい返事です。それでは始めましょう」

そしてナギ・スプリングフィールドの半生の書を手に取ったアルビレオ・イマは栞を挟み、再び引き抜いた。

一瞬の静寂のあと、白い鳩が大量に大空に飛び立って行った。
ここ魔法球ですが。

「よぉ、お前がネギか?」

「とう……さん」

「うぷ、ぺっぺっ、何だよこの大量の鳥は。……またアルのヤローの過剰演出か?」

「と……父さんっ!!」

「ハッハッハッハ」

ネギ少年はキラキラした笑みを浮かべているナギに向かって飛び込んでいき、親子感動の対面になるかと思えば……デコピンでネギ少年が吹っ飛んでいった。

「へぷっ!?」

ごろごろとネギ少年は舞台端に戻され

「なんだここ……まほら武道会じゃなさそうだが。わざわざ舞台は用意してあんのか。相変わらずマメな奴だな。って詠春にタカミチか?お前ら老けたな!なんだそれ!!」

「「余計なお世話だッ!!」」

完全に鳥の演出なんてぶちこわしである。

「おい、ナギ私を忘れるな!」

そこへ無視されたエヴァンジェリンお嬢さんも叫んだが、舞台上でネギ少年が涙を流しており。

「あーあーあー情けねーな、我が息子よ。男のくせにポロポロ泣いてんじゃねーぞ」

「だ、だって……」

「来い、ネギ。稽古つけてやるぜ」

「は、はい!」

目に涙の跡が残っているも、中国拳法の構えをとるネギ少年。

「お、なんだその構え。おもしれーな」

「行きます!」

     ―魔法領域展開!!―
      ―戦いの歌!!―
―連弾・雷の29矢!!―連弾・光の29矢!!

「やっ!」

即座にネギ少年は魔法領域と戦いの歌を発動させながら2種無詠唱魔法の射手で牽制射撃を放つ。

「おおっなんだそりゃ!はははっ流石俺の息子だな!いいぜ!ハッ!」

ナギも瞬時に大量の魔法の射手を放ち相殺どころか、完全に飲み込みネギ少年に攻撃が通ったかに思われたが。

―特殊術式 無詠唱用鍵設定キーワード「双腕」!!―
    ―双掌底・断罪の剣!!術式封印!!―
―特殊術式 無詠唱用鍵設定キーワード「右腕」!!―
    ―収束・光の29矢!!術式封印!!―
―特殊術式 無詠唱用鍵設定キーワード「左腕」!!―
    ―収束・雷の29矢!!術式封印!!―
―滞空・光の29矢!!―滞空・雷の29矢!!―
      ―双掌底・断罪の剣!!―

煙が晴れたところ、虚空瞬動で空中に回避し飛び上がり、浮遊術に移行、1秒半で遅延呪文3発をストック、臨戦状態の為に魔法の射手と断罪の剣を再度発動。

「虚空瞬動に浮遊術!できるじゃねえか!もしかしてちゃんとお前も魔法学校中退したのか?」

していません。
というかその発言魔法学校に完全に喧嘩売ってるから。

「してないです!ちゃんと卒業しました!」

「なんだ、そうか」

何微妙に残念そうな顔しながら飛び上がってるんだ。

「ま、いいぜ。稽古の付けがいがあるってもんだ、なッ!」

語尾に力が入った瞬間、右手を軽く振りかぶっただけで極太の魔法の射手がネギ少年に向けて襲いかかり

「これぐらいなら!」

虚空瞬動で落ち着いて回避し

―連弾・光の29矢!!―

お返しに滞空させていた魔法の射手を放ち、それに乗じて至近距離に近づき空中格闘戦にもつれこんだ。
魔法領域の真骨頂、発動している術者は自由に攻撃できるが、反撃する側は常に魔分の層を突き破らないといけないという特性にここで始めて気づいたナギは。

「変わった障壁だな!でもまだ柔らかいぜ!」

と褒めるも、馬鹿げた魔分による身体強化と自由自在に身体に雷やら光の属性の魔法を強靭に纏うナギの前には、攻撃を一瞬留める程度の強度だった。

「くっ!はッ!」

掌底・断罪の剣でナギのストレートパンチをギリギリで防いだところ

「おお、いてえな」

相転移する拳に何かちょっとだけ痛かったぐらいの感想を漏らすデタラメさは健在だった。
当然、相転移なんてしてない。

「やっぱり父さんは凄い!右腕!!左腕!!」

―解放!!桜華・雷華崩拳!!―

「さっき溜めといたやつか?」

ネギ少年オリジナル技を余裕の表情で捌く姿は「はっはっは」と笑いながら試合する東大教授と被る部分があるが、ナギの場合は口元が少しニッとするだけだ。
ナギはネギ少年の右手首をあっさり左素手で捕まえ、魔法の射手は全てレジスト。
続けて右腕をネギ少年の腹に向かって打ち込んだところ、咄嗟に高速思考を働かせたネギ少年が左手の雷華崩拳をナギの右ストレートにぶつけるが

「威力が足りねーぜ」

「うわっ」

左手が打ち負けあさっての方向に逸れたところナギの左回し蹴りが突如、右腕を捕まれてガラ空きの右脇腹に思いっきりめり込む。

「かはッ!」

一瞬の停止の後、一気に真横に吹き飛ぶ。

「わりー、ちょっと力入れすぎた、大丈夫か。でも右腕に反応するとは思わなかったぜ」

「だ……大丈夫です!」

ネギ少年はとても痛そうな顔しながら右脇腹を左手で抑えて答える。

「へっ、その意気だ!」

その後、遠くからだと、度々空中に極太ビームやら、無数の矢やら、投擲した断罪の剣が飛び交う、派手な親子の戯れが見られた。
そのまま数分間ナギが言うには稽古、をネギ少年がつけてもらっていたところ、エヴァンジェリンお嬢さんも空中に飛んで行き

「おいナギ!ぼーや!もう後2分もないぞ!」

「あ?あー、そうだ、これ時間切れあんのか。ネギ、よく持ったな」

「は、はい」

という半端な幕切れだったがこれにて稽古終了であった。
結局全然使われなかった舞台に二人とお嬢さんが舞い戻りしばしの会話となった。

「ネギ、怪我は後でアルにでも治してもらえよ」

「はい」

「それならうちが治すえ!」

「お、誰だ?」

「私の娘ですよ」

「詠春の娘か!そりゃ老けるわ!」

「うっさいわ!」

「じゃタカミチの子供は?」

「いません!」

「それと、アスナ、でかくなったな」

「……え?」

「おっと、それはいいとして。ネギ、ここでこうやってお前と話してるってことは俺は死んだっつーことだな……」

「いえ、父さんは死んでない!生きてるんです!6年前の雪の日父さんは僕を助けてくれました」

「お?そうなの?」

「それにアーティファクトが使えるって事は父さんが生きてるっていう何よりの証拠です!」

「あー、そっかそっか。これアルのアーティファクトだったな。んー……でもってエヴァ、俺ちゃんと呪い解いたんだな」

「解いてないわバカめ!」

「え?だって解けてんじゃないのか、それ」

「緩めただけだ!」

「あー、じゃあ解きに行けてないのか俺」

「どうせ忘れてたんだろーが!」

「そりゃ悪ぃな」

「罰として私を抱きしめろ!」

「えー、やだ」

「だったらせめて頭を撫でろ!」

「なんだ、それだけでいいのか、ほらよ」

「心を込めて……撫でろよ」

「ネギ、お前が今までどう生きてきてお前に何があったのか……俺のその後に何があったのか……幻にすぎない今の俺には分からない」

しんみりして少し目に涙を浮かべるエヴァンジェリンお嬢さんを撫でながら、ナギはネギ少年に話しかけだした。

「…………」

「けどな、この若くして英雄ともなった偉大かつ超クールな天才最強無敵のお父様に憧れる気持ちはわかるが……俺の跡を追うのはそこそこにしてやめておけよ」

「……うっ……うっ……」

「いいか、お前はお前自身になりな。……ほら、もうあんまり泣くんじゃねえぞ」

「は……はい!僕は……僕自身になります!」

「フッそれでいい……じゃあな」

……こうしてナギの10分間の完全人格再生は終わった、が。

「いつまで撫でている!手を離せっ!」

「フフフフフ」

少し良い空気になったかと思えばこれである。

「はぁ……。ぼーや、どうだった」

「父さんは……僕の、思ったとおりの人でした」

「デタラメだったがな」

「あはは」

「私……ネギのお父さんと会ったことあったのかな?」

「アスナ君には……そろそろ教えてもいいのかな……。アスナ君は覚えてないかもしれないけど麻帆良に来る前の頃ナギに会ったことがあるんだよ」

「そう……だったんですか……」

「タカミチ!それほんとなの!?」

「ネギ君、隠していたみたいでごめんね」

「ううん、別に気にしてないよ。ただ驚いただけ」

「なら尚更、ネギのお父さん捜さないとね!私もお世話になったみたいだし!」

「あ、アスナさん!」

「うちも捜すの手伝うえ!父様、ええよね?」

「こ、このか」

「ダメなんていうたらうち父様嫌いになるえ」

「ええ!?そんなッ!?」

詠春殿に9999の精神的ダメージ!

……とまあ、そんなこんな内輪でしばらく話が盛り上がったのだった。

「皆さん、私のお茶会に招待しましょう。この招待状を渡しておきます。明後日にでも図書館島の地下に来ると良いでしょう。ネギ君のここにいないもう二人の生徒さんも一緒にいかがですか?」

「え?」

「新米魔法使い見習いの二人ですよ。フフフ」

「ど、ど……わかりました」

いつの間にか図書館島の二人の女子中学生の事を知っていた意地の悪い司書だった……。
せめてもの救いはここに雪広あやかがいなかったことだろう。
彼女は超鈴音や雪広義國さん達と外で、何やら色々話していたようで、ネギ少年達が現実時間の僅かな間だけ魔法球の中にいた事を知ることは無かった。

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後夜祭で3-Aの皆と馬鹿騒ぎをした後、深夜、龍宮神社に戻て会場の撤収にとりかかたヨ。
基本的には田中サン達が物資は運んでくれるから力仕事は一切無いけどネ。

「さて、最後の仕上げだナ。全端末保存映像の自動削除と端末自体のシステムダウンを実行するネ」

「超さん、了解です!」

「ハカセ、嬉しそうだナ。まあ主催者側はデータを保存できるのだからまさに役得だネ」

「もちろんです。これだけの試合数の戦闘データを動作プログラムに反映すれば、茶々丸の機動性能はもとより、これからのロボットの発展にとっては宝の山です!」

「私にとてもロボットにも役立てば、人間の神秘を解き明かすのにもまたとない有益な資料だヨ」

「もう早く撤収してデータの研究を始めたくてたまりません!」

「後は夏休みまでたっぷり時間はあるネ!」

「はい!やる気でてきたぞー!」

ハカセのテンションも深夜になてくるのと合わさて完全にハイだネ。
この後も田中サン達に敷設科学迷宮ワイヤーの回収、魔法球をエヴァンジェリンの家の倉庫への移送を済ませ、今回はエヴァンジェリンの力を借りずに自動で認識阻害魔法と回復術式が停止するのを確認して終わりネ。

「超さん、こんばんは」

「おや、クウネルサン、まだ表に出られていたのカ」

「どうやら朝までは大丈夫なようです。彼には感謝しませんと」

「伝えておくヨ。それで何の用かナ?」

「用が無くても話したい所なのですがね。明後日私の住処でお茶会を開くことになりまして、その招待状を超さんにも渡しに来たのですよ」

「ネギ坊主達も来るお茶会カ。するとアチラの話をするのかナ?」

「そのつもりです」

「分かたヨ。私もネギ坊主達に渡すものがあるし好都合ネ」

「それは良かったです」

「それでクウネルサンの約束とやらは果たせたのかナ?」

「はい、この武道会のお陰で詠春やタカミチ君にも会わせる事ができましたし、本当に良い場でした」

「それはまほら武道会を実現に導いた甲斐があたヨ」

「フフ、次はあなたがどんな事をするのかも楽しみにしていますよ」

「ふむ、割とすぐだと思うヨ。期待するといいネ」

「ではその時まで私はまた隠れさせてもらうとしましょう。それでは」

「ああ、また肉まん持て行くネ」

……長いようで短い3日間だたナ。
まあ全ての試合を合計するととんでもない長さになるのだけどネ。
保存しなかた映像に関しては翆坊主達に見せてもらうとするカ。
ふむ、来年のまほら武道会は果たしてどういう形になるかナ。
それは私もまだ見ぬ世界、楽しみは後にとておくものだネ。
その前に、まずは撤収して古達と騒ぎに戻るとしよう。



[21907] 39話 新たなる未来へ向けて
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/11/14 20:24
麻帆良祭も終わり、場所は司書殿の住まう図書館島深部の庭園である。
集まったのはそのクウネル殿、エヴァンジェリンお嬢さん、茶々丸姉さん、チャチャゼロ……、ネギ少年、小太郎君、神楽坂明日菜、孫娘、桜咲刹那、古菲、長瀬楓、ついでに綾瀬夕映、宮崎のどか、そして……。

「ようこそ私のお茶会へ。お待ちしていましたよ」

「ぼーや達、遅かったな」

「クウネルさん、こんにちは。お邪魔します」

「クウネルの兄さん、来たで!」

「くーねるはん、こんにちは」

「クウネルさん、こんにちは」

少々人数が多いものの挨拶を交わしたところ
司書殿が虚空に向かって話しかけた。

「そろそろ出てきてはいかがですか?」

「え?クウネルさん、まだ誰か来るんですか?」

「ふむ……そうだネ」

わざわざこの時のために光学迷彩コートを用意して、それを着用して予め隠れていた超鈴音の登場である。

「超!」

「超姉ちゃん!」

「超さん!どうしてここに?」

「どうしてここに、と言てもまほら武道会の時の事を思い出せば私がクウネルサンと知り合いであることは何ら不思議では無いと思わないカ?」

「あ……た、確かにそうですね」

「気になる事もあるでしょうが、皆さん、まずはお茶とお菓子がありますからどうぞ席に座ってはいかがですか?」

という司書殿の一声でひとまずはお茶会を楽しむ事となり、ネギ少年は色々な種類の紅茶に感動しつつ専門家か?というような批評をしたりする一方女子中学生達は複数種類のスイーツを食べては「おいしいねー」と感想を漏らしていた。

「ネギ君、あなたのお祖父さんから夏にまたウェールズに戻るように言われていませんか?」

「ど、どうしてその事を?」

「学園長から聞いたのです」

「学園長先生が?」

「ええ、そうです。以前ナギが生きていることについて契約カードで見せたと思いますが、ネギ君がナギの事そのもの、行方を知りたいのであれば英国はウェールズへ戻るといいでしょう。あそこには魔法世界……ムンドゥス・マギクスへの扉があります。恐らくネギ君のお祖父さんもそのような意図があるのだと思いますよ」

「魔法世界……」

「ネギ坊主、行く気はあるのかナ?」

「そうですね……はい、是非行きたいです」

「ぼーやの為にわざわざゲートを用意してくれるんだ、夏休みの旅行にしてはやや遠出だが行ってみるのもいいだろう」

「ネギ、私も付いて行くわよ!」

「ネギ君、アレを見たからにはうちも行くえ!」

「ネギ先生、私も行きましょう」

「俺も当然行くで!ネギの相棒やからな!」

「これが……もしや旅でござるか。ならば拙者も参るでごさるよ」

「楓、そうみたいアルね!ネギ坊主、私も行くアル!」

「ね……ネギ先生!私も行かせて下さい!」

「ネギ先生、私も行くです」

「……皆さん。……でも……いえ……分かりました。教師としても引率はしっかりやります。夏休みを利用してですから情報収集程度になると思いますがよろしくお願いします」

「話はまとまたようだネ。私からも少し手助けをするヨ。これをネギ坊主に渡しておくネ」

超鈴音が取り出したのは……。

「これは超さんの部活の書類?」

「外国文化研究会。生徒を引き連れて公的に海外に行くというのならば部活が良いだろう?後は顧問にネギ坊主が登録して皆が部員になるだけネ」

「超さん、もしかしてこのために……?」

「元々私の用事で設立した部活なのだけどネ。年内に使う予定は特に考えていないから設立した時の状態に戻してあるヨ」

「そう……ですか。でも……あれ?そういえば相坂さんと春日さんと龍宮さんもいたと思いますが2月の旅行は一体何を……?」

「ただ観光をして超包子の支店を視察、それに少しビジネスをしに行ただけネ。きちんと部活としてのレポートも提出してあるヨ。予め言ておくが詳しい事については教えられないネ」

「……そうですか。分かりました。深くは聞きませんが、超さん、ありがとうございます」

「どういたしまして。私は付いていかないけど魔法世界に行くなら気をつけてナ。ここから先はネギ坊主達の話になるだろうし私は退席させてもらうネ。それではまた」

そう言って庭園から去っていった超鈴音であるが、ネギ少年達からすると今までよりも更に謎が深まった事に違いない。

「まるで超さんはこの事を知っていた上で部活を作ったかのような気がするのですが……」

「刹那さん、僕もなんだかそんな気がします」

「ネギ坊主、超はたまに良くわからないけどあれでも協力しているアルよ」

「……そうですね、ありがたくこの部活の書類は使わせてもらいます」

「それじゃ部員の役職決めたりしないと駄目ね!」

「ほな、うちは書記がええな!」

「私は肉まん大臣アル!」

「古姉ちゃん、肉まん大臣って何や?」

「肉まん大臣は肉まん大臣アルよ!」

なんだかんだ超鈴音の謎についてはあっという間に流れていったのだった。

《茶々円、ぼーや達は本当に魔法世界に行っても大丈夫なのか?》

《心配なら付いていったらどうですか?》

《そこまで私も過保護ではないさ。それにしても超鈴音の部活の書類とやらは用意が良すぎると思うがどういう事なんだ》

《超鈴音はある程度どうなるか分かった上でついでという形で部活を作ったんですよ。実際2月の時には必要でしたし》

《わざわざそこまでお膳立てしてやる必要は無いと思うがな》

《超鈴音がネギ少年達に手を貸せる事はもうあまりありませんから駄目押しのようなものですよ》

《ふ……そうか。それにしても茶々円はぼーやを魔法世界に行かせたがっているように感じるがそうしようとする意図は一体何だ?例の魔法世界の崩壊とやらは解決するのだろう?》

《確かにネギ少年達が魔法世界に行かなくてもさほど問題は無いです。……個人的な事情としましては、それでも恐らくネギ少年達が魔法世界に行ってくれた方が魔法世界の崩壊の件があっさり解決する事になる可能性が高いんです。実に身勝手極まりないですけど勘弁して欲しいですね》

《足りないピースが揃った方が噛み合うのは当然という所か……。問い詰めたところでお前の言うとおり本当に気になるなら私も行けばいいという話にしかならんか》

《私にも本当の所これからどうなるかなんて正確には分かりかねます。ただ、やるべき事をやって問題が起きるなら予め対処するなり起きてしまったなら解決させるだけです。と言っても直接関わる事は殆どと言っていいほどできませんが》

《間接的には既に十分関わっているだろうに》

《たった数人と、だけですけどね》

《それは茶々円の事情を考えれば仕方ないだろう。諦めてその数人で頑張るんだな》

《それでも心強い数人ですから》

《当たり前だ。私を誰だと思っている》

そりゃあもう重々承知しておりますよ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

早くも7月に入りましたが学園祭が終わって大分皆気が抜けた感じになっています。
そこへ更にいよいよ夏に突入するため暑さが追い打ちをかけてきていてだるい空気が教室に広がっています。

鈴音さんがネギ先生に外国文化研究会の書類を渡した後、ネギ先生達は必要事項を書き込みしっかり事務手続きを行って手続きを済ませた後は、相変わらず修行をしたりして過ごしています。
真面目に修行する必要があるの?という疑問も湧きますが、くーふぇさん、楓さん、小太郎君と桜咲さんは今更ですから。
それにしても綾瀬さんと宮崎さんがもう初級魔法については扱えるようになったというのには驚きましたが、本来魔法生徒が学ぶのは魔法の運用だけではなく歴史、魔法薬の知識、魔法に関する一般常識、ラテン語や古代ギリシア語の解釈そのものの勉強等が必要なんだそうです。
つまり綾瀬さん達は初級魔法の本をネギ先生から借りていたとはいえ、基本的には発動させる魔法の呪文をそのまま発動できるように運用の練習のみを大量に積み重ねただけという事になるので、魔法使いと名乗るにはあまりにも偏りがあるでしょう。
近衛さんはその点についての座学も行っていますが。
ただ、どうやら綾瀬さんには魔法の才能はかなりあるようなのですが、宮崎さんはそれほど魔法の才能が無いようです。
でも、高畑先生のように呪文詠唱が元からできない訳でもないですから、もう努力の問題でしょう。

火星の方はと言えばもう春休みから3ヶ月が経ち、大気組成も酸素が20%になりとうとう地球とほぼ同じ濃さになりました。
放射線レベルも地球の1.1倍程度となり若干惜しい気がしますがこれなら許容範囲内だそうです。
南極の極冠を全部溶かした時点で海になるべき部分には全て水が行き渡っていますし、その後もしっかり地下の氷を溶かしたので、水深に少し物足りなさはあるものの誰がどこから見ても海だとしか思わない筈です。
それに同調すれば今はもう海に浸かっている神木・扶桑も龍山山脈の付近に重なって陸上に戻る上、その大陸の分さらに水深が上がりますしね。
平均気温も15度前後になり快適な状況になりましたが、これは二酸化炭素の影響でまだまだ勝手に上がり続ける可能性があるものの、元々太陽から遠いのもあって急激に上昇することはなさそうです。

それで同調の際の増幅魔法はどうなったかというと丁度鈴音さんの魔法球で最終実験で今にも結果がでるんです。
そこそこの大きさの球体を浮かせ、その球体に地球の11箇所の聖地と対応する場所に魔分溜りを、麻帆良の位置にも神木とそれを囲む6つの魔分溜りを模した物を用意してあり、既に11箇所それぞれから魔力の流れが神木に集中するという状況ができています。

「うむ、星と月の座標の計算を考慮していないもののこれでほぼ完成だろうネ」

「キノ、これ実際にやったら目立ちますね」

《それは……まあ仕方ないでしょう。何にせよ超鈴音のお陰でようやく同調の目処が立ったわけですし。星と月の座標の計算は私達がやればあっさり終わりますから大丈夫でしょう。ありがとうございます、超鈴音》

「ああ……思えば2年半こうしてやてきたが私の本来の予定よりも1年早く目的が達成できたナ」

少し遠い目をしている鈴音さんはなんだかどこか遠くに行ってしまいそうな雰囲気です……。

「……鈴音さんはどうするんですか」

《…………》

「……それは私が未来に帰るかという事かな」

「鈴音さんは帰りたいですか……?」

「そうだね……帰りたいと言えば帰りたいよ。私を送り出した故郷の皆に会いたいと思わないわけがない。できるならば皆にもこちらに来て欲しいぐらいね」

《そうですか……》

「……元々私、私達は過去を変えれば未来が変わる……けれど変えたところで私達のいる未来が変わるのでは無く違う未来の分岐が生まれるだけで解決にはならないという矛盾をはらんでいたのは理解していたよ。……翆坊主、私が未来に戻ると死ぬというのは……つまり私は強制認識魔法の発動に完全に失敗したか、あるいは発動に成功した未来と失敗した大きく未来が変わりはしなかった未来の二つの分岐を作り後者からそのままあるべき場所に戻ったという事なのか?」

《……ええ……そうです》

「やはりそうか……。翆坊主と話した時から薄々そうではないかと思っていたがあえて考えないように日々を過ごしていたのだけどね。失敗していなければ私が未来に帰るという選択自体取る筈無いものな。それが私が『この先未来に帰ると死ぬ』と、それはそれなりに近いうちに起きる事だと暗に翆坊主が言った理由なのだろう。少なくともカシオペアを使って戻ったという事は何らかの資料は持ち帰ったもののその際死亡したという所か」

「鈴音さん……」

「……翆坊主とさよは歴史を知っているだけだと言う話だけど私が故郷からこちらへ来る時に故郷の皆に一体何と言われたか聞くか?」

鈴音さん今まで泣いた事なんて一度も無いんですけど目元が……。

《……聞きましょう》

「私も……聞きます」

「ああ……『スズネ、体に気をつけなさい。しっかり睡眠はとるネ。ご飯はあちらにはいいものがあるだろうけれど必ず食べるんだヨ。ここより風邪も多いから気をつけるネ』なんてそんな心配ばかりだった」

《…………》

「最後に『私達はこれからも頑張るけれどスズネも頑張ってきなさい、達者でネ』……だよ。皆笑顔で送り出してくれたがどう考えても……別れの挨拶にしか……聞こえないだろう?……悪い、少し思い出して……しまったよ……」

「鈴音さん……泣きたい時は泣いていいんですよ」

《……サヨの言うとおりですよ》

「済まないな……さよ、少し胸を借りてもいいか?」

「もちろんですよ」

「……ありがとう」

鈴音さんは今まで一度も見せた事が無かったですが、初めて涙を流しました。
泣いてもいいと言ったのに、私に顔を見せないようしがみつき、少し震えながら我慢して声を押し殺し泣いていたのは鈴音さんとしてもやりきれない思いがあったからなのでしょうね。
しばらく小さな音が魔法球の中に響き続けました。
キノは精霊体だったので鈴音さんに触れる事はありませんでしたが表情には哀愁が漂っていたように思います。
それでも、泣き止んで顔を伏せたまま深呼吸して息を整えて顔を上げた鈴音さんはいつもの元気な鈴音さんに変わりありませんでした。

「ん……少し情けない所を見せたナ。私が肉まんを世界に広めるのは故郷で一番お世話になた人、母の好物だたからネ」

「鈴音さんのお母さんの好物だったんですか……」

「もちろん私の好物でもあるけどネ。超というのはクウネルサンが言ていた通り所属機関の名前ネ。超機関のメンバーは人種、出自を問わずとにかく火星で生き抜くための研究をし続ける所だたヨ。私が超という苗字を使うのは皆に共通する名を名乗ろうと思たからネ」

《超には故郷の願い、想いが詰まっているんですね》

「そういえば翆坊主にとても私は願いだたかナ?」

《はい、それはずっと変わりません》

「……まるで私は願いの塊だナ。うむ、だからこそ、やはりそう簡単に死ぬわけにはいかないネ。まだまだやることはいくらでもあるのだからナ」

「私にも手伝えることは言って下さい!」

《私もできることがあれば協力しますし、応援します》

「……少し私らしくもなく話すぎたかナ。さあ、そうと決まればこうしてはいられないネ!次のプランをどんどんたてるヨ!」

「はい!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

超鈴音が真面目に自分の話をしたのはこれが初めてで色々考えさせられるものがあったが、話してくれたのはただの気まぐれなのか、それとも信用した証ということなのだろうか。
……後者だと思っておくのが幸せに生きるコツだと思う。

それからというもの、超鈴音は更に新たな研究に手をつけ始めた。
目新しいのは今まで東洋医学研究会で会長職を勤めていても、魔法球で薬草を栽培したりという事はしていなかったのだが突然「優曇華のアーチを貸すネ」と言いだし、雪広グループのツテを利用して古今東西の植物を集めて栽培する事にしたのである。
因みに優曇華のアーチ内はつい2年程前まで扶桑が入っていた為時間の加速はできなかったのだが、出してしまった今となっては設定次第で加速ができるのだ。
これまでは通常の時間の流れと全く同じにしていたのだが、これからは超鈴音の一存で色々変化する事となるだろう。
どうして薬草に手を出すことにしたのか聞いてみたところ「優曇華の有効利用法としては良いし、科学ばかりやりすぎるとオーバーテクノロジーだらけになるからネ」だそうだ。
私もサヨも特に使わないので宝の持ち腐れなのは否定しないしどんどん使ってもらえればそれで構わない。
しかし、その割には魔法世界と火星が同調するのを見越して半永久魔力炉なんて夢だらけのものを作ろうとしているようで開発意欲は留まるところをしらない。
茶々丸姉さんの魔力炉すら一日一回ゼンマイ……を卷く必要があるというのに半永久という事は大気中の魔分を使用した側から再利用でもするという物なのだろうか。
確かに実現したら画期的発明になると思うが。

ネギ少年達の方はといえば外国文化研究会という部活名だけでなく、一応対外的な名前としてナギ達の赤き翼に因んで白き翼と団体名を付けたそうだ。
それを示す物としてエヴァンジェリンお嬢さんがバッジを作るという事になったのだが、もうあまりネギ少年達には関わらないかと思われた超鈴音にその話を少ししてみた所興味が出たようで

《エヴァンジェリン、その作る予定のバッジにはどういう機能を付けるネ?》

《茶々丸には付いて行かせようと思っているから位置を把握できるセンサーぐらいは付けるつもりだ》

《茶々丸姉さんも行くんですか》

《茶々円、寂しいなら付いていったらどうだ?》

それはいくらなんでも無理ですよ……。

《残念ながら地球でやらないといけない事がありますから》

《……茶々丸頼みのセンサーか……エヴァンジェリン、原型ができたら私に回して貰えないカ?少し改良するネ》

《好きにしろ。私は機械には強くないからな。もともと科学と魔法の両方を利用するつもりだったから超鈴音かハカセにでも頼もうかと思っていたところだが丁度いい》

《そういう事なら任せるネ。……ここは一つ私からもネギ坊主達に何か作てやるかナ》

そんなこんなで超鈴音がバッジの改造ともう一つ餞別を作成する事にしたらしい。

《どんな物を作る予定何ですか?》

《あちらで使うにしても色々困るだろうからソーラー発電装置と誰でもできる魔力注入で動く端末を作る事にするネ。まあやはりまた携帯電話だナ》

《もう粒子通信バラしても問題無いんじゃないですか?》

《うむ、エヴァンジェリンと共同で作たという事にすれば私が翆坊主達と関わりがあるというのにも早々行き着かないしそれでいいだろうナ》

《便利ですよね。例の妖精にしろお嬢さんを介すと》

《そうだ、あの魔法生物はまだ戻て来ないのカ?》

《はい、一体どこをほっつき歩いているのかは知りませんけど戻って来ませんね。もう今月で4ヶ月ぐらい経ちますが》

《少しぐらいまともな情報を持ち帰て来るのを期待したいナ》

《ケット・シーと並ぶ由緒正しき妖精という事ですが果たしてどうでしょうかね》

《実際転移魔法符のルートはきちんと把握しておかないと下手なテログループに渡れば過激な所なら毒ガスや爆弾を直接転移させるなんて手段にも出かねないからナ》

そんな事が起きたらもう大惨事だな……。

《魔法使いのNGO達も例の組織の捜索にかかっているようですから彼等の活躍に期待したいものです》

《世の中ままならないものだネ。人間も怖ければウイルスのような極小微生物もどんどん進化を続けるしナ》

《ウイルスと言えば障壁を張っている場合自動でブロックできるんですよね》

《それはエヴァンジェリンのような相当高位の魔法使いに限るネ》

《ま、エヴァンジェリンお嬢さんにウイルスなんて意味ないですが》

《全くだナ》

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そのまま、あっという間に7月も半ばになり期末テストを迎え私たちはいつも通り乗り越えそのまま念願の夏休みに突入しました。
これでネギ先生もほぼ1年間教師をした事になりますが、去年来た時よりも大分身長が伸びています。
魔法球にもうそろそろ1年近くは入っている事になるので実年齢で10歳後半ぐらいにはなっていると思います。
小太郎君はネギ先生よりも少しだけ年上だったと思いますが、ネギ先生程魔法球に毎日入っていた訳ではないので誕生日の差が違う程度でもう殆ど同年齢と考えていいでしょうね。

ところで今、茶々丸さんの性能向上を兼ねて新しいボディへの換装を終え、実際に実験しているところなのですが凄い事になっています……。
原因はまほら武道会で数百試合分の戦闘データが蓄積されたからなのですが……。

「茶々丸もあの瞬動術ができるようになるとはねー」

「ハカセは前から実現したいと言ていたからナ」

「茶々丸さん、凄いですね」

実際に瞬動やら虚空瞬動を使っているのは驚きなんですが、いずれ田中さん達も使えるようになるのでしょうか……なんだか麻帆良はどんどんおかしな都市になっていきそうです……。

「ありがとうございます。ただ……ハカセ、何故こんなに武装があるのですか?」

「それはね茶々丸、科学者のロマンだよ!」

産みの親というだけあって茶々丸さんと話す時の葉加瀬さんのは丁寧口調ではなくなるんですよね。

「そうネ茶々丸。ロケットパンチはその最たる物にして最も基本的な物だヨ!それ無しには話すら始まらないネ!」

「……そうですか」

そんなに嬉しくないのは何となくわかりますけど、強く要らないとも言えないですよね……。
魔法関係の武装だけならまだ良かった気がするのですが、カオラ・スゥさんと技術の擦り合わせをしたらプラズマ火球や完全なレーザー兵器も搭載されたようなんです……。

「新しいボディはなかなかのできだと思うんだけどどんな感じ?」

「見た目はより人間らしくなったようでそれはうれ……しいです」

「うん、良かったね。ネギ先生もその方がいいでしょ」

「なっ!ハカセ、その話はもうしないと!」

茶々丸さんの表情がっ!

「あーごめんごめん。もうしないからさ、今度の旅行楽しんで行ってきなよ」

以前茶々丸さんのデータを確認した時にネギ先生の画像の比率がおかしく葉加瀬さんが気になって色々調べた時一悶着あったんですよね。

「うむ、茶々丸もこの2年の間に人間らしくなたネ」

「それでも、私には心があるのでしょうか。自分でもよく分からないのです」

「茶々丸、心はあると思えばあるし無いと思えば無い!そういう事だよ」

「ハカセ……」

「今すぐに答えを出す必要も無いヨ。もしかしたらこの旅行で何かのキッカケぐらいにはなるかもしれないネ」

「……分かりました」

私からすればもう茶々丸さんにはしっかりとした人格があると思うんですよね。

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嵐の前の静けさ、とでも言うのか7月は特に何か問題が起こることもなく順調に日々がすぎていく……かと思われたが、地道に張り続けていたひなた荘で動きがあった。
住人達が暑い中出払っている時に窃盗事件が発生したのだ。
盗まれたのは青山素子さんの所持している妖刀ひなである。
犯人はあの月詠だが、フェイト・アーウェルンクスも彼女の侵入と逃走に水の転移門で一役買っていた。
実際、ひなた荘自体が荒らされた訳でもなく忽然と妖刀ひなだけが無くなっていたので住人が月詠の姿を見る事もなく、見事な手際だったと言えよう。
たまちゃんは「みゅー?」と侵入に気づいた節もあったが特にどうこうできはしなかった。
それに素子さんも普段から妖刀ひなばかり振り回している訳でもないので刀が無くなっているのに気付いたのはすぐとはいかなかった。
ひなた荘自体あまりそういったまともな事件……度々おかしな事ばかりやっているが、そのためか無くなっているのをそんなに重要視せず、「いつか戻ってくるだろう」程度に考えたようなのだが、実際その予想は正しいのかもしれない。
まあ妖刀ひなが無くなったのを素子さんが鶴子さんに連絡したりするか、と言ったら「姉上に……やめておこう」とそんな絶対面倒にしかならない事をする訳も無かったのだが。

一方麻帆良ではそんな時に合わせたのかはどうかは知らないがメルディアナからドネット・マクギネスさんというネギ少年達も既に修学旅行で会った事のある女性が遠いところやってきて明石教授と対談していた。
話し合われたのは例によってフェイト・アーウェルンクスの事についてである。
彼はやはりイスタンブールの魔法協会から日本に派遣されたと書類上の処理がなされていたらしく、それにも関わらず修学旅行で月詠を伴ってメルディアナに現れた事についてメルディアナと麻帆良でそれぞれ独自に調査を行っていたためそれの情報の擦り合わせをするというわけである。
一番の問題はどこから3-Aの生徒達の修学旅行の行き先がイギリスに決まったという情報が漏れていたのかという事であるが実際航空チケットの予約から分かってもおかしくはないので双方の魔法学校に内通者がいるとは早急には考えがたいのだが、ここで浮上してくるのが例の魔法具に手を付けている組織の存在である。
例の組織は裏のルートに手を付けていると言っても一般社会への溶けこみ方にかけては元々表が主なだけあり怪しいとめぼしをつけてもどこまでも憶測でしか判断がつかなかったりと決め手にかける事が多く非常に厄介なのだそうだ。
二人の元々の目的は情報交換であったので特に結論が出た訳ではないものの、会話をしている二人には低レベルな尾行がついていた。
それは明石教授の娘、明石裕奈とそれに付いて行った佐々木まき絵他クラスメイトである。
彼女達はドネットさんを知っていたので「えー、まさか遠距離恋愛!?」とかなんとか言っていたが声が大きすぎて明らかに聞こえていた為ドネットさんはやれやれという体で、少女達を手で招いて事情を嘘を交えて話しだした。
それによって明石教授が娘本人からすると浮気だ等と思われていた誤解も解け、明石教授とドネットさんが旧知の仲であり、更に明石裕奈の母の友人であったという事を明かされしばし話をしたのだった。
明石夕子さんに「とてもよく似ているわ」と評された明石裕奈は、実際遺伝的に魔法の才能は一般人に比べれば遥かに適正があるであろうが果たして関わる時が訪れるのだろうか。

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7月の終わりは毎年夏祭りがあるのだがこの日その前にエヴァンジェリンの家に全員集合してもらたヨ。

「皆に集まてもらたのは他でもない、あまりお節介を焼くつもりも無かたのだが乗りかかた船でネ。一つ餞別を私から渡しておこうと思てナ」

「私からもあるぞ。お前達一応対外的に白き翼と名乗るからには何か証になるものでもあった方が良いと思ってな。ほら一人一つずつとれ」

「バッジですか?」

「何や皆お揃いでええね」

「ありがとうございます、マスター」

「ありがとう、エヴァンジェリンさん」

バッジ自体にも私が改造を加えたのだが、端末の方でほぼ代用できてしまたから茶々丸のセンサーで互いの位置が数千キロの範囲でわかるようにしておいたヨ。

「次は私からネ。皆一つずつ取て欲しい」

「超さん、ありがとうございます」

「超りん、ありがとな」

「超殿、かたじけない」

「超、また端末アルか?」

「古、使い方は全て端末で調べて分かるようにしてあるから慣れてくれると助かるネ。それでは機能の説明をするヨ。まず、一番凄いのはどこでも、どれだけ離れていてもほぼ確実に通信ができる事ネ。これはエヴァンジェリンと協力して作たのだが是非今試してみるといいヨ。エヴァンジェリン頼むネ」

「ああ、それでは起動するぞ」

《聞こえるか?》

《皆聞こえるかナ?》

《ま、マスター!この感覚は!?》

《何これ、不思議な感じね》

《テレパシーみたいやね》

《念話……とは違うのですか》

《ぼーや、これは加速はしないがアレと同じだ》

《そ、そんな事ができるんですか……》

《ネギ、知ってるの?》

《はい、一応》

皆この新感覚にそれぞれ驚いて心の声を念じたりしていたが、そのまま太陽エネルギーでの発電と側面につけたスイッチを押すと出てくるレバーを回すことで魔力注入が出来る事を教えておいたヨ。
魔力注入については不思議に思われたが元々これはエヴァンジェリンの技術だからそこまでおかしくは無いネ。

「大体こんな所だネ。今日は夏祭りがあるがネギ坊主は去年8月に来たから知らないだろう?皆で行くといいヨ。3-Aの皆もこの通り行くみたいだしネ」

SNSにはもう鳴滝姉妹の偵察で屋台の構成についての情報が書き込まれているが特にいつもと変わりは無いナ。

「お祭りですか、是非行きましょう!」

「よっしゃネギ!金魚掬いに射的で勝負や!」

「うん!」

「うちも金魚掬いやるえ!」

「私もやるアル!」

「拙者も挑戦するでござるよ」

楓サンがやると水槽の金魚が全ていなくなりそうだけどネ……。
私もいつもの楽な服装ではなくさよから着物でも借りてみるかナ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「鈴音さん着物にあってますよ」

「そうかナ?何だか自分で買えばいいのにさよの着物借りて悪いネ」

「一度に何着も着れませんし、お祭りですから雰囲気楽しんだほうがいいですよ」

「うむ、そうだナ。ありがたく着させてもらうネ」

「それじゃあ出発しましょう!」

既に夕方を回ってお祭りの屋台が並ぶ通りにも灯りが灯り始めた頃に丁度着きました。

「ネギ先生達はもう金魚掬いやってますね」

「元気なことだネ」

ネギ先生と小太郎君、楓さんがピタリと水槽の前で動きを止めたままタイミングを伺っているのですが、何でこんなに真剣なんですか!

「ッ!今でござる!」

「「了解!」」

金魚掬いに使われるポイを三人が一斉に水面に振りかざした瞬間、何がどうなったのかわかりませんが水槽の中の金魚さん達が全部水から飛び出し、そこをボールで一気に回収されてしまいました……。

「絶滅したナ」

「生態系は大事にしないと」

店主のおじさんが凄く間の抜けた顔をしていたのですが、なんとか正気に戻り「一人3匹までしか持って帰れないよ」と注意を促したところネギ先生達もやってみたかっただけで「飼う余裕もないからいいです」という事になりお祭りが始まったばかりで金魚すくいの屋台が一軒終了するのは免れました。

「ネギ君達、今の何なん?」

「このかさん、これは楓さんと山篭りした時に川の魚を効率的にとるために身につけたものなんです」

「このか姉ちゃんも覚えてみるとええで」

効率的どころか下手すると絶滅ですよ!
何でもやってみたいという割には普段の生活がハイレベルな状況において童心でお祭りをこのまま楽しめるのか気になりますね。

「よっしゃ、次は射的や!」

「うん!」

……そんな事心配しなくても大丈夫そうです。

「龍宮サンのバイアスロン部で鍛えてるから店の人も困るだろうナ」

「商売上がったりですね」

射的の屋台に走っていったネギ先生達はすぐ様お金を出して銃を渡してもらっていましたが、10才の子供達には少し台自体が高く店の人が「届くように踏み台用意してやろうか?」と言うと同時にジャンプしては景品を撃ち落とし、弾を再度詰めてはジャンプして撃ち落としを繰り返し、どう考えても倒せないようになっているものは二人が息をあわせてネギ先生が撃った所へ小太郎君が続けて撃つことで衝撃を増幅させ無理やり落としていました。

「ネギ坊主達にかかるとどこも絶滅は免れないようだナ」

「ネギ先生達には射程距離数百メートルぐらいが丁度いいかもしれませんね」

その後も回転する的にダーツを投げて当てる店でも猛威を振るい一番細い枠の所に何発も当てたりしていて店の人がかわいそうでした。
この子達に難しいお祭りの屋台なんて無さそうです。
景品はどうなっているかというと気に入ったものを神楽坂さん達が好きなように貰っていったり、途中から合流してきた明石さん達によって全て消費されています。
来年?ネギ先生が夏祭り出入り禁止なんて事になりかねませんね。

「ネギ坊主達を見ているのも飽きなくていいが、綿飴を食べるのは欠かせないナ」

「ちょっと口元のパチパチした感じがなんともいえなく良いですね」

「後はチョコバナナにたこ焼き、焼きそばかナ」

「たこ焼きなんかはどの店のが美味しいか食べ比べるのも楽しいですよね」

「しかし誰が何と言おうと肉まんは超包子以外はありえないヨ!」

「もちろんです!」

「たこ焼き味の肉まん……流石に無いかナ」

たこ焼き味の肉まんってどうなるんでしょう……。
たこを肉まんに入れるだけだと……。

「ただの海鮮風肉まんになるんじゃないですか?」

「そういうのも今度メニューに考えて見るカ」

「五月さんならきっといいアイデア出してくれますよ」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

2003年8月3日ネギ少年が日本に来て現実時間でとうとう1年が経った日のエヴァンジェリンお嬢さんの別荘では魔法世界への出発もあとわずかとなり、荷物の用意などが徐々に始められていた。

「マスター、いくらなんでも夏休みに入ってからこんなに修行する必要あるんですか?」

7月21日からおよそ2週間を毎日4日に増やして修行を重ねているため既に夏休みだけで2ヶ月が経過しようとしている。
当然ネギ少年の修行期間も1年を軽く越えた。

「嫌だと言うなら構わんが、魔法世界で合流する事になっているのがあのラカンなのだろう?信用できたものじゃない」

「え、どういうことですか?」

「あいつは金にうるさい上、自分勝手な奴なんだ。予定では迎えに来ることになっていても来ない可能性の方が高い」

「ええええ!?そんな!?」

残念ながらそれが現実です、ネギ少年。

「それにだ、ぼーやがナギの息子というのが公的に伏せられているとは言え、どんな輩がぼーや達に近づいてくるかわからん。性質の悪い奴らだと相手の立場によっては事情はどうあれ先に攻撃を仕掛けた時点で法的に嵌めようとしてくる可能性もある。まあこれは修行でどうこうというものでもないがな」

「僕が利用されるかもしれないって事ですか」

「それは十分にありえるだろう。アスナのような単純な奴がそういう奴らに煽られて少しでも攻撃してみろ、大変だぞ」

「アスナさんなら……なくは……無いですね」

「ネギー!何か言ったー?」

「いえ、大丈夫です!気にせず続けて下さい!」

ボソっと言っただけなのに離れたところで訓練していながらにして僅かな音声を拾うとは……。

「地獄耳だな……。とにかくだ、メガロメセンブリア首都が治安的には辺境に比べれば一番安全なのは確かだが、あそこはぼーやにとっては政治的に一番危険な場所でもある。甘い言葉には常に何か裏があると思え。ナギの捜索は以前行われても行方が掴めなかったような情報だ、ぼーやは情報収集程度と言ったがある意味でそれを調べるのは一番難しいぞ。下手に顔を突っ込めば藪から蛇をだしかねん」

「は、はい。分かりました、マスター。……それって学園祭でクウネルさんが会わせてくれた父さんが『俺は死んだって事か』と言っていたのとやっぱり関係があるんでしょうか」

「ナギは世界最強の魔法使いと呼ばれていた。それが行方不明になるという事は何らかの情報を掴んだが、結果それは相当マズイものだった、という可能性が高い。一体何があったのかは分からないがな」

「…………。少し今回の旅行を甘く見ていました。備えあれば憂いなし、ですね。改めてマスター、後数日間の修行をお願いします」

「ぼーや、今まさにぼーやが修行をするよう誘導した形になったのを分かっているか?」

「あ……」

「いいか、ぼーやの純粋さ、真面目さは美点だ。だがな、こういうのは往々にして気がついたときには既に手遅れになっている事が多い。気をつけろよ」

「……はい!気をつけます!」

「あと1ヶ月ぐらい時間があるが戦闘技術かどうか問わず引き続き教えるからしっかり覚えていけ」

「はい!よろしくお願いします!」

「元気な返事でよろしい。と、言ってもまだ休憩中だから適当に魔法世界の地図でも見ておくといい。行く割にはまだ見てもいないだろう。茶々丸!端末に魔法世界の地図を入れてくれ!」

「了解しました、マスター」

「そうですね、行くからには地図ぐらい見ておいた方が良いですよね」

「データの転送終わりました」

「しかし超鈴音の技術はどうなってのか良くわからんが便利ならまあいいだろう」

「この立体映像なんて魔法の映像付きの手紙の比じゃ……あれ?魔法世界ってなんか火星に似てますね」

「……ぼーや、どうしてそう思うんだ」

「千鶴さんの部屋にお邪魔して火星儀見せてもらったからなんですけど……ほらこうして魔法世界の地図をひっくり返すとここの龍山大陸はないですけどそれ以外は良く似てると思うんです。マリネリス渓谷の形はそっくりですしエリジウム大陸も……あれ、エリシウム島にヘカテ……何ですかこれ!!そんなまさか!!」

城のテラスでゆっくり会話していた所突然椅子からネギ少年は立ち上がった。
いや、まさかこの段階でネギ少年が気づいてしまうとはちょっと思わなかった。
那波千鶴恐るべし。

「はっはっはっは!!ぼーや、良い生徒を持ったな!」

「ま……マスターは魔法世界が火星を触媒にして成り立っている異界だと前から……?」

「ぼーやはこれをどう考える?」

「……人工的に造られた世界だとしか」

「つまり誰かの手によって全て造られた世界だと、そうぼーやは思うのか?」

「はい、とてもじゃないですけど信じられませんが……」

「火星の地名が命名されたのは私からすればつい最近なのは知っているか?」

ヘラス、エリシウム等といった地名をつけたのは1877年に火星の大接近を口径22cmの屈折望遠鏡で観測したジョヴァンニ・ヴィルジニオ・スキアパレッリというイタリアの天文学者、実は魔法使いの方である。
魔法世界ではあまり天体に興味は持たれていなかったが地球側では広大に広がる宇宙に興味を持つ魔法使いもいたのだ。
因みに人造異界の存在限界・崩壊の不可避性についての論文が出されたのは1908年であり、彼はその2年後に亡くなっている。
単純に老衰だったのかはわからないが衝撃の事実に気づいたショックが祟ったのかもしれない。
崩壊するのは間違いないが、ただ人造と彼等は考えているがそれは違う。
考える事自体があまり意味もないが、もし仮に人造異界だとするならば、直接その土地に魔法処理を行う必要がある。
しかし地球と火星という優曇華でも無ければ気が遠くなるような距離にいくら魔法が使えるといっても紀元前の人類に出来る訳がない。
単純に土地があればいいだけならば、どうせなら一番近い月か、地球との平均距離が火星に比べて半分の4000万kmで済み、表面積も地球の90%もある金星に普通は造るだろう。
仮に人造異界だとしたら何故魔法世界の方が全体の魔分量が地球よりも遥かに多いのかという問題もある。
人造ならば元になる魔力が必要になるのだから。
要するに魔法世界の成り立ちは世界各地のゲート周辺のような一般的な異界とは全く異なる。

「え……じゃあ先に魔法世界の方ができていて……その名前に因んで?という事は火星の地名の命名には魔法使いが関与していることに……」

「ぼーやの気になる事はまほネットでジョヴァンニ・ヴィルジニオ・スキアパレッリという人物を検索すればいいだろう。……まあまず本当に人工的に造られたのかどうかから考えるべきだろうがな」

お嬢さんには魔法世界が火星だとは大分前に言ったものの人造かどうかなんて言ってないから……実際その認識がどうあれ問題はただ一つだ。

「マスターは自然発生的なものだと思うんですか?」

「ぼーやもとても信じられないと言ったばかりだろう」

「それはそうですけど……人造異界の存在限界・崩壊の不可避性についての論文がありますし」

「お?読んだことがあったのか、ぼーや」

「えっと、詳しい事は知らないんですけどタイトルは知ってます」

「それで人造だと先入観があるのか……まあ通説だと言われたらそう思っても仕方ないか。一つ考えてみろ、仮に造る手段があったとして実行する際に必要な魔力はどこから来る?」

「普通はその場にある魔……そんな大量の魔力なんて一体どこから……」

「これの答えは奴なら知ってるかもしれんがどうだかな……」

「それってまたマスターがたまに言う幽霊さんの事ですか?」

「そうだ。どうせ現れんだろうが」

うーん、最高にネタバレになるのだが既に手前まで行き着いているネギ少年には一つだけ言ってもおいてもいいような……よし。

《グレート・グランド・マスターキー》

はい、通信終了。
受信拒否開始。

《おいっ!》

《え、この声は一体!?》

《チッ……奴め、通信を切ったか》

「マスター、今の声が?」

「そうだ、訳の分からない単語だけ言いよって……。マスターキー、か」

「何の鍵なんでしょう……」

「奴が今の話を聞いていたのだとしたら魔法世界の謎に関係する事だろうな」

「魔法世界に行く前に大きな謎が増えましたね」

「今の単語は頭の片隅にでも置いておけ。さあ休憩は終わりだ、続きをやるぞ」

「……はい!」

その後、エヴァンジェリンお嬢さんに通信不能を解除した途端問い詰められたりしたが「お答えできません」の一点張りでなんとかした……。
ネギ少年から通信をつなぐことができなくて本当に良かった。

ネギ少年の主な修行はエヴァンジェリンお嬢さん指導による戦闘訓練とサポート系の魔法、魔法薬の授業とそれ以外の時間は学園祭でナギの遺言体に「お前はお前自身になりな」と言われた事からその一つの取り組みとしてオリジナル魔法を目下開発中である。
が、何だかかなり凄いものの気がしてならない。
下手すると戦闘そのものの意義がどこへやらとなってしまうかもしれないレベルで。
超鈴音のDNA鑑定によりネギ少年も黄昏の姫御子の系譜であるのが間違いないのは分かったが、だとするならばたまに妙な攻撃が出るのはその影響なのかもしれないがどうなるだろうか。

さて、大分遡るが宮崎のどかと綾瀬夕映も必死に修行に参加して魔法の練習をしていた訳だが、綾瀬夕映の方は成長がかなり凄かった。
魔分量的には一般レベルであるのは間違いないが威力はともかく、白き雷が使えるようになったのは驚きである。
実際これには孫娘がかなりショックを受けていた。
まあすぐ「うちには治癒魔法あるえ!」と気を取りなおしたが何だかんだ魔法の射手を練習したりと対抗意識はあるようだ。
宮崎のどかは魔法使いの資質としては平均より僅かに低いぐらいであるが使えない訳ではなく、ネギ少年達の人外訓練を目の当たりにして、「夕映程うまく魔法使えないけど」と、せめて機動力だけでもと魔力での身体強化に関する教えを請って、それなりにモノになり始めていた。
とりあえず図書館探険部3人は仲良く箒で飛ぶ練習してたりと微笑ましい限りである。

小太郎君はと言えば地道な訓練の甲斐あって真面目に咸卦法の練習を始めて4ヶ月程度で1秒間なら咸卦法を発動させることができるようになった。
が、実用にはまだまだ時間がかかりそうであり、それ以上続けようとすると咸卦法どころか気での強化すら解除されてしまったり、場合によっては力を入れすぎて掌で爆発が起きたりと大変である。
そんな時は孫娘の治癒魔法の被験体として役だっている為それも無駄ではない……だろう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

どうもー、108万の小切手をシスターシャークティに取り上げられて親に送られたのが懐かしいと感じられる春日美空ッス。
もうこの暑いっつうのに黒いシスター服は辛いわー。
そんな感じでダラダラ夏休みを過ごしてたりしたんスけど学園長から呼ばれたわ。

「暑い中よく集まってくれた。4人には麻帆良代表でメガロメセンブリアに行ってもらおうと思っとる。任務は一応旧世界と新世界の交流という事なんじゃが、2、3挨拶する所に行ってもらう以外は特にこれと言った仕事はないから安心して良い。ま、夏休みを楽しんでくればよかろう」

お?これってもしかしてサマーバケーションですか?

「学園長、この高音・D・グッドマンにお任せくださいませ」

「学園長先生、私も是非行って参ります」

「学園長、私も行きまーす」

「春日さん、もう少しシャキっとできないのですか?」

「ほら、学園長も夏休み楽しんでこい行って言ってるじゃないですか」

「少なくともそれはまず先に交流を済ませてからです!」

やっぱお堅い人ッスねー。

「はい、肝に銘じておきます……」

……てな訳で数日間魔法世界行ってきてOKになったんだけど、旅費は全部麻帆良学園持ちらしい上、VIP待遇を受けられるらしいわ。
なんつーか最近私旅行に恵まれているような……あ?何かマズくない?
大体麻帆良から離れるとここ最近妙に面倒な事に巻き込まれてるんだけど今回は……三度目の正直って言葉もあるし、大丈夫だよな……うん。
きっとそーだなー。

……気を取りなおして、魔法世界に行くためのゲートはまた愛衣ちゃんのジョンソン魔法学校の近くにあるのを使うから8月の週末にまた飛行機でシアトルに飛んでいくんだそうで、二度目だから大丈夫だろ。
あと3日ぐらいしかないからまた荷造りするかなー。
何持っていったらいいんだろ……十字架は必須としても金とか?
そういやドラクマと日本円ってどんなレートなんだっけか。
まほネット見た時は何も考えずにドラクマで見てたけど詳しく憶えてないわー。

「高音さん、ドラクマのレートって日本円でどれくらい何スか?」

「そんな事も知らずに行くつもりだったのですか?」

「いやー、お恥ずかしい」

「1ドラクマが16アスというのはご存知だと思いますが、あちらとこちらではそもそも貨幣価値が違います。大体の目安としては日本の100円で買えるものがあちらでは10円で買えると考えればいいでしょう」

100円のおにぎりが10円で買える感覚かー。
安ッ!

「安いッスねー」

「基準自体違いますから。1アスが10円で、例えば有名なナギ・スプリングフィールド杯のチケットは12アスですから日本円だと120円で買えます」

ネギ君のお父さんの大会のチケット安ッ!マジやっす!
あ!だからVIP待遇にできるのか。
そら10倍の貨幣価値だったら余裕だわ。
1万が10万の感覚だったらそらな。

「日本に住んでて良かったー!」

「それは確かにそうですわね。他国の魔法協会だと所によってはそうはいきませんし」

日本の高度経済成長もこういう時役に立つとは……。
ブレトンウッズなんちゃらとかいう金本位制の時は1ドルが360円だったんだもんなー。
あのエヴァンジェリンさんが600万ドルの賞金首になったのって大分昔だから……当時の貨幣価値だとえーと携帯の電卓で……ほいほいっと……おお……21億6千万……魔法世界の感覚に直すならこれに更に10倍をかけてと……216億……なんだそれ。
とんでもない金の塊だな……。

とりあえず整理すると1ドラクマは160円だけど日本人の感覚だと1600円てなもんか。
たつみーがボソッと言ってた魔法転移符が80万だから……800万を1600円で割ると5000ドラクマか。
魔法具はやっぱ高いなー。
確かにレート的に考えれば、国を選べば地球で転移符が裏で回ってるっぽいのも仕方ないなこりゃ。
あと覚えてんのは……結構良い認識阻害魔法付きメガネが確か2万9800ドラクマだから……476万8千円か……。
ダイオラマ魔法球の一番安いのなんて250万ドラクマだったから……4億……。
はー!超りんあれ5つ用意するとかやっぱおかしい!
まあさっきのエヴァンジェリンさんの賞金をドラクマに換算しなおすと……1350万ドラクマ?
幻想種って凄いわ……。
しっかし誰がこんなレートに設定したんだ?
こんだけ差があると魔法世界からこっち来るのって相当金銭的に辛いだろ。
新世界と旧世界で孤立主義がどうのっていう話だけどなんか意図的っぽいような気がするな。
ま、そんなのはさておき私は安い金で贅沢ができるって事で!

で……寮に戻って荷造りしてたらさ。
なんで情報掴んでんのかしらないけども、超りん訪ねて来たわー。

「やあ美空、魔法世界に行くそうだネ」

「ど、どうしてそれを?まさか一緒に行くとか?ちょっとそれ」

「安心するネ。私は行かないヨ。ただ渡しておくものがあてナ。ほら、魔法世界用端末だヨ。使い勝手を後で教えて貰いたいネ」

「お?あー確かにこっちの携帯使えないもんね。4つって事は全員に渡せって事スか?」

「愛衣サンの所はともかく高音サンの所に行くのは面倒だからネ。動力のシステムは端末の説明書を読んでくれればいいヨ。因みに例の通信装置も起動してあるからネ」

「そりゃー助かるわ。んー、ソーラー式と……おお?このボタンで……レバー出しーの回しーので、これでも充電できると。ありがたい、超りん、戻ってきたら感想言うよ!」

「いずれ商品化したいと思ているからどんどん使て欲しいネ」

「おっけー!高音さん達にも渡しとくよ!」

「頼んだヨ。それではナ」

これ商品化かー、つか半永久じゃんこれ。
エコって奴だな。
不思議通信も付いてるって事はどこでもまた使えるんだろうな。
念話はココネみたいな能力者だと聞き取れるらしいけどこれなら安心だもんね。
超りんもうまいよなー、これ買ってくれと言われたら手が出ないけど試用してくれって事だし。
うん、使おう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

そして8月8日に飛行機でアメリカに飛んだ春日美空達は、ゲートを使って魔法世界にネギ少年達よりも一足先に出発していった。
因みに一応春日美空達が魔法世界に行く情報は近衛門から超鈴音に知らせてあったという事で口裏を合わせた上で端末を渡してある。

《美空達がネギ坊主達に会うかどうかはわからないがもしもの時は役に立つだろうネ》

《なんといっても世界一の技術力を持った超鈴音の完全監修ですからね》

《ふむ、まあ美空ならなんとかなるヨ。それで翆坊主こちらの予定はいつになるネ。やはり出力が一番高くなる火星の大接近に合わせるのカ?》

あの事件が起きて予定通り行けば……いかなくても近いのを利用して無理やりなんとかするしかないが。

《その予定です。8月27日、日本時間18時51分、丁度太陽が落ちた後ですね》

《直線距離5575万0006km、6万年来の大接近カ。さよも言ていたが目立つだろうナ》

《ええ、1年早めの大発光になります。火星を観測している方達には明るくなって申し訳ないですが、諦めてもらいましょう》

《単純な接近なら2年2ヶ月毎にあるからナ。余程世界12箇所が同時に光る方が興味あると思うネ》

《綺麗だなと思ってくれるだけならそれでいいんですけどね》

《問題が無数に沸く事は間違いないがそれよりも新たな何かも同じぐらい得られる筈だヨ》

《超鈴音は宇宙に飛び出したくて仕方ないですか》

《まさに新世界の幕開けだナ》

さあ、ようやく新たな未来への第一歩だ。



[21907] 40話 旅立ち直前
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/01/05 12:03
ネギ少年達がいよいよウェールズへ飛行機で出発する前日の事。
エヴァンジェリン邸別荘に部員全員集合である。

「何だぼーや、全員わざわざ集めて」

「なんなのネギ?円陣でも組むつもり?後ここに3日はいるでしょ?」

「違いますよアスナさん。マスター、確認したい事があるんですが仮契約って後で解除はできるんですよね?」

「……そういうことか。そうだな、所定の手続きを踏めばできるぞ」

「ネギ、姉ちゃん達と仮契約するつもりなんか?」

「……うん、マスターとこの前話して、備えあれば憂いなしと思ってさ。念には念を入れてこの旅行の間だけ仮契約した方がいいかなと思ってさ」

「ネギは心配性やな。まあカードの召喚機能は前に試した時便利やったし、そういうつもりなら俺も悪うない思うで」

「もしもの時の魔力供給もできるからな。まあ、ぼーやと仮契約すると全員アーティファクトが出るだろうが。さて、どうする、お前達。ぼーやと仮契約するかしないかは自由だぞ」

「はい、もちろん強制ではありません」

「なんといっても異性と仮契約となると最近は結婚相手探しのネタにも使われるからな」

「結婚!?ネギとコタロが!?」

人の話聞いておけ。

「アスナさん!異性って言ったの聞いてましたか!」

「ほんま、アスナ姉ちゃん、よう人の話聞かんとあかんで。変な想像させんなや」

「き、聞いてたわよ!今のはわざとよ、わざと!」

「アスナ、嘘はあかんえ」

「アスナ、嘘はだめアル」

全員がうんざりした顔で神楽坂明日菜を見た。

「ぐっ……。聞いてなくて悪かったわよ……」

「おい、話が進まない。それでどうするんだ」

「うちはやりたいえ!できればせっちゃんともな!」

「お、お嬢様!」

「えーせっちゃんはネギ君と仮契約するの嫌なん?」

「そっちの話じゃありません!はぁ……いえ、ネギ先生の提案は良いと思います。私も仮契約は構いません」

「コタロみたいなスゴイのでるなら私もいいわよ」

「言うだろうと思っていたが、アスナ、せめて欲にまみれたような発言は思っても言うな……」

「よ、欲にまみれてなんか無いわよ!それだったらコタロなんか何よ、いつも契約執行した時の俺の咸卦法の方が凄いとかいっちゃって」

「まあぼーやと小太郎に仮契約を勧めた時は私も魔法具で釣ったんだが、前例がある上で露骨に物が欲しいと言われるとな……」

「俺も魔法具に憧れたんは認めるで……。せやけどな、アスナ姉ちゃん、俺のアーティファクトはネギがおらんと何も意味ないんやで」

「普通は何かしら武器やらアイテムが出るんだが、小太郎のアーティファクトは相当珍しいんだよ。まさに相棒と共にあるためだけのようなアーティファクトだからな」

「どうや、カッコええやろ!」

「はいはい、分かったわよー」

「あの、また話が進んでないです……。他の皆さんはどうですか」

「拙者は構わぬでござるよ」

「私もお願いするです」

「私も構いません」

「くーふぇさんと茶々丸さんは……?」

「マスター、私に仮契約はできるのでしょうか?」

「多分大丈夫だろう。ただ、茶々丸の場合は……あーなんでもない」

キス発言をすると面倒になりそうだったからお嬢さんは回避したらしい。

「あ、そうか……」

「ま、マスター?」

「安心しろ、茶々丸、大丈夫だ」

「は、はい、マスター」

「その結婚がどーとゆーのが気になるが私もいいアルよ。それで仮契約とゆーのはどうやってするアルか?」

「契約陣を書いて、10分ぐらい言葉を並べて最後に血を契約陣に双方垂らすだけだ。少し長いが我慢しろ」

「しゃべるだけアルか」

「途中で言葉間違ったらどうするの?」

「……やり直しだな。しかし、まあ、ゆっくりやって10分だ」

「俺にもできたんやから大丈夫やで。もし無理やったらアスナ姉ちゃんだけキ」

「黙れッ!小太郎!」

突如大きな声を出すエヴァンジェリンお嬢さん。

「ヒッ!?びっくりさせんなや!」

他の面々もびっくりしたが……。

「いいか。それ以上言うなよ。面倒事を増やさせるな」

「……あー、分かったで……。このか姉ちゃんにあの方法言わんで良かったわ」

ネギ少年に遅れて気づいた小太郎君であった。

「どうしたん?」

「コタロ、今何言いかけたのよ」

「いいから小太郎、あっちの山まで30往復してこい」

「げっ!」

「げっ、じゃない、さっさと行ってこんか!」

「お、おう、分かったで!修行や修行!はははは!」

そそくさと神楽坂明日菜達の追求を逃れた小太郎君であった。

「さて、仮契約陣は書いてやるが、呪文詠唱はぼーや達でやれよ。呪文を書いた紙を用意してやるからなんとかしろ」

「はい、マスター、ありがとうございます」

「茶々丸、ついてこい、呪文の該当箇所のコピーを頼む」

「分かりました、マスター」

そう言ってテラスから城の奥にお嬢さんと茶々丸姉さんは入っていったが、その間ネギ少年は小太郎君が何を言おうとしたのか聞かれ、「何でもないです」と連呼しつづける修行をしたのだった。
仮契約する前から喉が枯れそうである。
程なくして、お嬢さんと茶々丸姉さんがわざわざ呪文にカタカナでフリガナも振ってある紙を数部持って戻ってきた。

「それでは契約陣を書くから少し待ってろ……陣は少し大きめにしておくか」

ぶつぶつ言いながら、オコジョ妖精が書くような小さな円ではなく割と大きめの円が書かれた。

「よし、これでいいだろう。後は自分たちでやれよ。終わったらコピーカードは纏めて後で作ってやる」

「はい!ありがとうございます!」

この後ネギ少年は7人の女子中学生と1時間以上の時間をかけて仮契約を終えた。
途中詠唱に神楽坂明日菜と古菲が見事失敗して無駄な時間がかかったのは仕方ないだろう。
オリジナルカード7枚が出現したところでネギ少年はエヴァンジェリンお嬢さんの元へ届けに行き。

「マスター、終わりました!」

「ああ、分かった、オリジナルカードを渡せ。ぼーや、茶々丸と仮契約をさっさと済ませろ。もうそこに陣は書いてあるからな」

「お願いします。それでやっぱりキス……ですよね」

「ん、当たり前だろう。茶々丸には血がないのだから仕方がない」

「ネギ先生、私とのキスは嫌ですか?」

「そんな事はないです!……けど……なんていうか……」

「なんだ、ぼーやはファーストキスに拘りでもあるのか」

「ち、違いますよ!」

「分かった分かった。ぼーやが今からするのはノーカウントだ。ぼーや、力を抜いて後ろを向け」

「え?あ、はい……」

「よし」

「ッ!?」

ネギ少年がお嬢さんに背を向けた瞬間に首筋に強烈な手刀を叩き込み、倒れた身体を茶々丸姉さんが支えた。

「ま、マスター、こんな手荒真似をされては……」

「いいから」

「わ……分かりました。ネギ先生……失礼します」

「茶々丸……恥ずかしそうな顔をされるとこちらが恥ずかしい……」

「そ、そんなことは……」

「あーいいから早くしろー」

気絶したネギ少年の前でごちゃごちゃしたがなんとか茶々丸姉さんの仮契約も済んだ、が……。

「アーティファクトカードでは無いな」

「普通のパクティオーカードという事ですか」

「気にする事はないだろう。いいじゃないか、茶々丸、アーティファクトが出ないとしても、これでお前にも魂はあるという一つの証明になったんだからな」

「マスター……。はい、ありがとうございます」

そしてまた全員が集合したところで……。

「「「「アデアット!!」」」」

アーティファクト召喚祭りである。

「剣が出たわよ!」

「うちは扇と衣が出たえ!」

「私は複数の小刀ですね」

「拙者は布が出たでござる」

「私は棍棒アル!」

「本が出ました」

「私も本です」

「……よくもまあゾロゾロ出るものだな」

「……そうですね」

「何や姉ちゃん達皆アイテムやないか。欲が出とるな!」

「コタロー、少し羨ましいでしょ……」

「……そら俺だって何か欲しいで」

「コタローは僕の相棒だよ」

「へっ!当たり前や」

そして各々出たアーティファクトの性能を試す事となり。

「これでアスナに真剣を渡す必要も無くなったな」

「都合よく出るんですね……」

「ねー、これ何か特殊能力とかないの?」

「あるだろうな、ほら」

―火よ灯れ―

火よ灯れにしては巨大なガスバーナーのような炎がお嬢さんの指から出て神楽坂明日菜の剣を焼いた。

「何するのよ!ってあれ、消えちゃった」

「分かったか、魔法無効……小太郎、気弾をアスナの剣に向かって撃て」

「おう!」

―空牙!!―

「ちょっと!ってこれも!?」

「おおっ!気も無効化するんか!」

「まあ予想の範囲内だな」

「びっくりさせないでよ……ってなんでハリセンになってんのよ!」

いつの間にか見事な大剣がハリセンに退化していた。

「ほんとだ……」

「気が抜けたんちゃうか」

「形態が変化する事はアーティファクトではよくある。ま、慣れる事だな。で、このかのはどうやら治癒系、刹那と古は見ての通りか。楓は……隠密用の布の中と言ったところか」

まほら武道会を思い出すとわざわざアーティファクトでやらなくても、地面に同化するぐらい忍者なら大体できる隠密技術である、が。

「いや驚いた。中にキッチン付きのウチがあったでござるよ」

「何ぃ!?」

流石にお嬢さんもこれには驚いたらしい。

「家が入ってるんですか!?」

「宿いらずやないか!」

「楓、うち入りたいえ!」

「楓、私も入るアル!」

「ずるいわよ!私も入るわ!」

「楓姉ちゃん俺も入りたいで!」

「ならば一緒に入るでござるよ」

家が付いているとあって物件的に一番人気だった。

「……次、ゆえとのどかの本は何だ」

「私のは世界図絵、魔法学大全のようです」

「……ほう、ならそれで色々学習できるだろうな」

「夕映さんに合ってますね。のどかさんのは何でしたか?」

「私の本はいどのえにっき……というらしいです」

「……魔導士シャントトが1469年に作ったというマスターピースとも呼べる魔法書だな。効果は……」

「相手の思考が読める……みたいです」

「ま、マスター……」

「ああ、危険だな」

「え?危険って?」

「ぼーやの父親探しに役立つ可能性が高いが、相手に読心の事が知られれば下手すると命の危険が生じるだろうな。仮契約を解除しろとは言わないが使い方には気をつけろよ」

「のどかさん、無闇な使用、特に知らない人に対しては使わないでくださいね」

「は……はい、ネギ先生」

「まあ、ちょっと見せてみろ」

「あ、どうぞ」

「…………ふむ、濫用を考える者の手元には召喚されない……か。なるほど、今ののどかは濫用はしないと認定されたからこのアーティファクトが授与されたという事か。どちらにしろ使い過ぎると場合によってはそのうちアデアットできなくなる可能性が高いな。返すぞ」

「マスター、そんな事あるんですか?」

「さっき形態変化する事があると言っただろう。似たようなものだ。茶々丸のカードだって今はただの仮契約カードだがそのうちアーティファクトカードに変わるかもしれん」

「な、なるほど」

「まあ召喚機能ともしもの契約執行をうまく使うことだな」

「そうですね」

本のアーティファクトが出た二人について一段落ついたところ。

「和室だったわねー」

「はー、ほんまに家あったな!」

「食料なんか入れておいたらきっと便利やね」

わらわらと残りのメンバーが布から飛び出してきた。
恐らく他人にも利用出来るという点で長瀬楓のアーティファクト、天狗の隠れ蓑は最も活用頻度が高くなりそうである。

「マスター、こんなにポンポンアーティファクト出ましたけど、実際一体どこから出てくるんですか?」

実にまっとうな疑問である。

「……世界パクティオー協会、だそうだ。人間は誰も行けない所にあるらしい。好き勝手な精霊達が趣味でやっているなんて言われているな。それに全てのアーティファクトを管理しているかというと、今までに確認されたものだけらしい。だから精霊達としてもたまに新しいものが出たら面白いという事なのだろうよ」

「へー、そうなんですか」

協会というにはあまりにも気まぐれなものである。

「詳しい事は例の魔法生物にでも聞いた方がいいだろう。あれも一応妖精だからな」

「そういえばカモ君、帰ってきませんね」

「知らん、そのうち帰ってくるだろ」

「あはは……」

「……それとこのか、仮契約はこちらに戻ってきたら必ず解除するからな」

「なんで?……あー!そやな」

「すいません、このかさん、呪術協会の兼ね合いもあるんですよね……」

「少し真面目な書類でも書いておくといいだろう。この際それも用意してやる。それ以外はまだ出発まで時間がある事だ。今のうちにある程度アーティファクトの使い方には慣れておけ」

「「「「はい!」」」」

「よし。ぼーやとこのかは付いてこい。さっさと終わらせてお前達も最終調整だ」

「はい、マスター!」

「分かったえ」

……こうしてネギ少年達が出発する前の限定期間付きのつもりでの仮契約祭りも終わり、その後ネギ少年達はしっかりと最終調整を各自行った。
この夏だけで相当な時間数修行しており、ネギ少年単体ではこの1年で確実に2歳以上年を取ったが、まあ、許容範囲内としておきたい。
ネギ少年の新術は今一歩完成には至らなかったがあちらに行ってから完成するかもしれないし、しないかもしれない。
当然他の面々も大分強くなっているので、戦力面ではあまり心配は無いが、こうなってくるとやはり話す前にすぐ手が出てしまわないかが心配である。

……そして8月12日、ネギ少年達は修学旅行から3ヶ月超で再び成田空港から英国はウェールズへと再び旅立っていった。
因みに今回のネギ少年達の魔法世界行きの情報はとことん配慮がなされ、本当に一部の人間しか知らない極秘事項となっているため、孫娘の立場的に呪術協会系でゴタゴタするのは最初からスルーされている。
それが良いか悪いかはともかく、後はもうなるようにしかならないだろう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

美空達に続き、ネギ坊主達も魔法世界へと向かて飛行機に乗て旅だた後間もなく、私達はクウネウサンの所に集またネ。
目的は……まあ答え合わせという所かナ。

「ネギ君達はとうとう旅立って行きましたか」

「何か起こると分かっていながらぼーや達を送り出したがどうなることやら」

「ネギ坊主達なら大丈夫ネ」

《何かに巻き込まれるのは間違いでしょうが、何とかなりますよ。きっと……》

「おい、その自信の無い言い方はなんだ」

「ならエヴァも付いていけば良かったのではないですか」

「ふん、私が付いていかなくてもぼーや達なら……大丈夫だろうさ」

エヴァンジェリンも思うことは同じカ。

「フフフフ」

さてと……。

「ところでクウネルサン、10年来の約束の為だけにネギ坊主をここで待ていた訳ではないのだろう」

「はて?何のことでしょう」

《ここでとぼけられても余り意味がありませんよ。2年前、魔法世界の崩壊についてさらりと私はあの時『クウネル殿は知らないかもしれませんが』と言いましたが、クウネル殿は最初から知ってましたよね。実際あの時全く驚いていませんでしたし》

「これはこれは、大分前の話をするんですね。……ええ、私は20年前から知っていました。ですが、キノ殿が突然具体的に重力魔法について尋ねて来た上、超さんまで連れてきてくれたので、わざわざ私の遅々として進まない研究をしなくて済みましたよ。本当に感謝しています」

「やはりそうでしたか……。それではそろそろここから解放されても良いのではないですか?」

「そうですね……自分を実験台にしてここにいた訳ですが、この術はもう要らないかもしれませんね」

「……話が読めんぞ。なんだ、アルも魔法世界の崩壊とやらを解決するための研究をしていたとでも言うのか」

「キティ、正解です、えらいですね」

「嬉しくないわ!」

「フフフ、ところでこれを知ってどうするつもりなのですか?」

「何、ただの答え合わせのようなものネ。翆坊主は余りクウネルサンの事を調べようとはしなかたようだが実際どういう術だたのかナ?」

「ほほう、答え合わせですか。そういう事ならいいでしょう。……世界樹の魔力についてはナギも注目していました。魔法世界人は例えゲートを使ってコチラ側に逃げてきたとしても、魔法世界が崩壊すれば結局は消えてしまうという事実。そこで私は世界樹の魔力を利用して身体を維持するという実験を行っていたのです」

「……なるほどナ」

大体予想は当たていたネ。

《ナギが京都で行っていた研究はそれが関係していたんですか》

「はい、昔の魔法使い達の遺跡について調べれば何かわかるかもしれないと一生懸命でしたね」

「ナギはそれをやっていて私の事をすっかり忘れていたのか……」

「ナギは目の前の事に集中すると周りが見えなくなる事が多いですからね。まあただ単にバカだっただけかもしれませんが」

「アンチョコ見ながらでないと長い詠唱などできないような奴だったな……。記憶力に難がありすぎだろう……」

「その分、魔法の扱いの才能、魔力、戦闘センスにかけてはまさに並ぶ物無しの最強無敵でした。それにアンチョコさえ見れば深い理解が無くとも大体魔法が使えるという有様でしたからね。普通呪文だけ見ても簡単には使えないものなのですが」

《それが由来で、更に得意の千の雷とかけて、千の呪文の男、サウザンドマスター等とはなんともうまい呼び方ですね》

「本当にデタラメな奴だよ……。そんな最強が今は一体どこにいるんだか……」

「イスタンブールで何かがあったのは間違いないのですがね……」

《それを言い出すとネギ少年の生まれも謎が多いんですがね》

「ナギ・スプリングフィールドが失踪したのが1993年、ネギ坊主が生まれたのは1994年、少なくともその間母親は無事だたという事カ」

「そうだ!一体奴はいつ誰と結婚していたんだ」

「フフフ、いつ、誰とでしょうね」

「古本、燃やすぞ」

「キティの得意魔法は氷では?」

「だからその名で呼ぶなと……もういい、茶々円、知ってるだろ」

《……あー、それは……はい……。1985年、アリカ・アナルキア・エンテオフュシア、ウェスペリタティア王国王女様です》

「あー?」

エヴァンジェリン、不良のような顔するのはやめるネ……。

「はぁ……つまり私と出会った15年前には既に婚姻していたという訳か。なるほど……私になびかぬ道理よ。……そういえばアスナがナギと知り合いなのだから当然…………おい、茶々円、だとすると何だ、アスナがぼーやに拘っているのは血縁関係もあるとでもいうのか?」

《それは……その可能性もあると思いますよ。超鈴音、科学の出番のようですね》

「ふむ、私の出番だネ。……実は修学旅行の時、ネカネサンの髪の毛を採取して明日菜サン、ネギ坊主のDNAと一緒に鑑定したんだヨ。結果は……まあ血縁関係は見事にあたヨ」

「そうか……」

「おや、少し濁すということは血縁関係に何か問題でもあったのですか?確かにナギも陛下とアスナさんの関係については言葉を濁していましたが……」

「翆坊主、どうするネ?」

《まぁ……答え合わせ中ですから。かなりアレな情報ですが、どっちにしろ憶測である程度あたってしまいますし、いいと思いますよ》

「ふむ、まあいいカ。要するにアスナさんが一番古いDNAを持っていたという事だネ」

「見た目通りではない……やはりそうでしたか。ただの妹ではないとは思っていましたが」

「なるほどな……大方血が濃いのを利用されて長い事封印でもされていたという所か」

エヴァンジェリンもそう思うカ。

《というより、クウネル殿がその辺知らないのは私も意外ですよ》

「私も何でも、正しく、知っている訳ではありませんよ。実際ナギも真実を知っているかどうか怪しいですから」

《ああ、そういう事ですか》

ほぼ事実を確信しているとはいえ、真実を知る者から聞いていない限りは憶測にすぎない……という事カ。

「……しかしアスナが黄昏の姫御子であるなら尚更、魔法にあえて関わる方向に進んだのは、まさに全てを犠牲にして得た平穏を自ら捨てたようなものだな」

《そう思っている割にはしっかり自衛手段を持たせられるようにと訓練させていたじゃないですか》

「フッ……まあなかなか見込みはあったからな」

「キティは素直ではありませんね」

「……うるさいぞ」

「話がそれたがネギ坊主の出自とはどうなのだろうネ」

「私もこの地下に篭った後の事ですから正直な所は……。陛下も恐らく……失踪されたのでしょう」

「その点はぼーやのじじぃに聞くのが早そうだな」

《後は石になっている村民の方々ですかね》

翆坊主も全てを知ているようで知らない情報もあるのだから、こういう時は不便だネ。

「置き手紙と幼いネギ坊主だけ残して消えたなんてまるでお伽話のような事もありそうだけどネ」

「後は想像にお任せ……ですね。ところで、こんな答え合わせをするという事はもう目処は立ったのですか?」

「まほら武道会の時にクウネルサンに言た通りネ」

《今月の末には魔法世界の一番の障害は解決します。……その後はその後で面倒でしょうが》

「おや、もう今月には解決するのですか」

《はい、十中八九そうなる予定です》

「翆坊主、詳しい事は後でちゃんと話すネ」

《分かっています》

「茶々円、私が手伝うことはないのか?」

《エヴァンジェリンお嬢さん、お心遣い感謝します。この件は特に問題なく行くと思いますから、頼むとすれば解決した後になるでしょうね》

「まあ無理にとは言わんさ」

《それでクウネル殿自身はどうされるのですか?解除がご自分でできないのなら私がやりますが》

「今はまだ結構です。この場所もそれなりに気に入っていましてね」

《分かりました。その気があればいつでもどうぞ》

「ふむ、そろそろ私は作業に戻るかナ」

「私も久しぶりにゆっくり家で過ごすとするか」

「これから暑くなりますが、お菓子とお茶は出しますからいつでもいらしてください」

「分かてるヨ」

「ああ、気が向いたらな」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

私が観測できる最後の最後であるが、ネギ少年達がウェールズに到着し、一泊するのを見ていた所、あるものに気がついた。
彼がウェールズに出現しているのだ。
これはもう確実に何かが起こると思っても間違いない。

《翆坊主、ネギ坊主達に何かが起こるというのはもうすぐなのカ?》

《楽しみは取っておくもの……と今回は言えませんが、恐らくもう後数時間という所です》

《しかしそれは私達の計画には必要なことなのだろう》

《そう言われると……そうですね。うまく利用できると思います。しかしまだ起きると決まったわけではありませんよ》

《どうだかナ。……私はネギ坊主達がそれに巻き込まれても無事に済むことを祈るヨ》

《そうですね。……ネギ少年達が無事に帰ってくることを願いましょう》

ネギ少年達にとっては超鈴音の祈りというか既に渡した物が一番のお守りになるかもしれないが……。



[21907] 41話 2003年8月27日火星大接近(魔法世界編1)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/01/12 00:06
2003年8月27日日本時間18時36分00秒、地球麻帆良、神木・蟠桃。

太陽は地平線に沈み、1年早い超大発光の中心、世界樹は麻帆良のいかなる場所よりも明るく明滅していた。
魔法世界強制位相同調まで後15分、既に麻帆良地下に存在していたゲートポートを覆う瓦礫は吹き飛び、再起動を果たしていた。
ここでまず、かねてより用意していた術式を実行し世界に存在する魔分溜りの吸い上げ、ゲートポートから麻帆良に流れこんでくる魔分の吸収を開始した。

《星座標、月運行との同期、世界11箇所の聖地からの魔分河流形成および接近を確認、到着まで600…599…598…597…596…595…594…》

《並行して地下ゲートポートからの魔分流入の吸収を開始。蟠桃出力順次上昇。暫定最高出力見込みまで144…143…142…141…》

《神木・扶桑内、優曇華による魔分展開補助プログラムの起動を開始するネ》

《了解。魔分河流到着まで560…559…558…557…556…555。続けて蟠桃・扶桑間ゲート開門用意、開通まで15…14…13…》


2003年8月27日日本時間18時36分59秒、地球麻帆良、神木・蟠桃。

《カウント1…0…。蟠桃・扶桑間ゲート開門完了。蟠桃管理権限を精霊体個別識別名:SAYOへ譲渡及び精霊体個別識別名:KINO、扶桑へ転送》

《管理権限の譲受を確認。吸収済地下ゲートボート魔分の暫定出力範囲内での転送開始》


2003年8月27日日本時間18時37分01秒、火星北極圏、神木・扶桑。

《精霊体個別識別名:KINO、扶桑のコントロール掌握。転送済魔分の軌道上への打上開始。星座標、フォボス、ダイモスの運行計算、強制位相同調システムの準備開始。扶桑出力順次上昇。暫定最高出力見込みまで150…149…148…147…146…145…》

《優曇華、アーチ開放。魔分打上援護を行うヨ》

《了解》

火星では依然として幻術魔法が行使されていたが、神木・扶桑からの魔分打上はまるで天に向けて伸びる光の柱の様だった。


2003年8月27日日本時間18時38分20秒、地球麻帆良、神木・蟠桃。

《蟠桃暫定最高出力まで10…9…8…7…6…5…4…3…2…1…上昇完了。魔分河流到着まで449…448…447…446》

《暫定最高速での魔分転送を確認。扶桑暫定最高出力まで57…56…55…54…》


2003年8月27日日本時間18時39分21秒、火星北極圏、神木・扶桑。

《扶桑暫定最高出力まで10…9…8…7…6…5…4…3…2…1…上昇完了。魔分打上暫定最高速に到達》

《魔分河流到着まで379…378…376…375…374…》

北半球11箇所の魔分溜りからそれぞれ光の河が発生し、その全てが一路麻帆良上空を目指していた。


2003年8月27日日本時間18時45分50秒、地球麻帆良、神木・蟠桃。

《魔分河流到着まで10…9…8…7…6…5…4…3…2…1…蟠桃上空に魔分渦確認。対星魔分供給システム反転まで4…3…2…1…蟠桃出力増加。暫定最高値比105%…111%…118%…126%…135%…145%依然増加中》

《扶桑出力も遅れて増加103%…107%…115%…121%。並行して魔分打上速度最大加速》

神木・蟠桃上空1万mを越す地点に集まった魔分は巨大な渦を巻いて集積、直後、神木蟠桃に向かって空から巨大な光の柱が落ちた。


2003年8月27日日本時間18時50分00秒、火星北極圏、神木・扶桑。

《星座標、フォボス、ダイモスの運行の計算及び強制位相同調システム準備完了。起動まであと60…59…58…57…。扶桑出力177%…174%…176%…》

《蟠桃出力189%…192%…193%…。200%を超えると危険域に到達する可能性アリ》

《扶桑出力は概ね安定。蟠桃の出力は200%未満を維持すべし》

《了解》

麻帆良では、神木・蟠桃を直視すれば超大発光のために眩しくて何も見えず、火星でも神木・扶桑は勿論、二つの月も淡く発光し始めた。


2003年8月27日日本時間18時50分50秒。

残すはカウントダウンのみ。

《地球と火星の最大接近まで10…9…8…》

《強制位相同調システム起動まで7…6…5…》

《《《4…3…2…1…》》》


2003年8月27日日本時間18時51分00秒。

―火星北極圏、神木・扶桑―        ―地球麻帆良、神木・蟠桃―
《強制位相同調システム起動!!》   《火星最大接近、直線距離5575万0006km!!》


……2003年魔法世界暦にして10月某日。

地球との時間の流れの差にして4倍以上の開きができていた魔法世界は、この日時空間の壁を突き破る神木の強制位相同調によって火星との完全な同調を果たした。
時間にしてわずかに瞬きする間に火星の大地は魔法世界側の物に瞬時に同化、エリジウム大陸、龍山大陸等元々火星に無かった地形も即座に隆起、海水面も津波無く上昇した。
この同調による地形変化での動植物、無機物への被害はまさに奇跡の如くゼロ。
幻想的世界の象徴とも言える多数の浮遊岩、浮遊大陸も健在である。
直ぐ様同調したと気づいた魔法世界の人類は果たしていたのだろうか。

その答えは……地球の暦でおよそ2週間を遡る所から始めよう。



[21907] 42話 ゲートポート事件(魔法世界編2)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/01/12 00:07
―2003年8月13日英国時間、5時36分、ウェールズ、宿―

ネギ一行はゲートへ向かう前に荷物整理をしていた。

「みんな、杖・刀剣類等は全てこの箱の中にしまう必要があるから出してもらえるかしら」

「分かりました、ドネットさん」

「もし隠し持ってたのがバレたらどうなるんや?」

「メガロメセンブリアはそういう規制が厳しいから、もし隠し持っていたとなるといきなり屯所行きね」

「マスターが言ってた法的にってそういうものなのかな」

「拙者常にあちこちに武器を隠しているが全部出すのは面倒でござるな……」

そういいながら隠し持っているにしても体積が合わない武器類がゾロゾロ出始める。

「楓さんいつもどこに巨大手裏剣しまってるんですか?」

「これでござるか。4枚に分解して背中にいれているでござるよ」

「……意外と普通なんですね」

「何も臓物の中に隠したりはしないでござる」

「そんなこと期待してないですよ!」

殆どが長瀬楓の忍具で埋め尽くされたがなんとか終わりである。

「そういえば修学旅行の時ネギ先生仮契約したって言っていたけれど、仮契約カードのコピーカードはこの中にしまってね」

「あ、仮契約カードも含まれるんですか?」

「ええ、武器の場合もあるから一括して全てカードも入れる決まりになっているわ」

「分かりました」

「俺の武器やないんやけどな」

「うちのも違うえ」

「え?ちょっとネギ!このかとも仮契約したの!?」

「私もよ、アーニャちゃん」

「拙者もでござる」

「私もアルよ」

「私もです」

「な、な、な、なんて事!!あんた……そんなにキスしたかったの!?」

ワナワナ震えながらネギに指をさすアーニャ。

「……アーニャ、キスじゃない方法だし、この旅行期間限定なんだよ」

「ほ ん と に ?」

大変胡散臭そうな目である。

「本当だよ!」

「ちょっとネギ、キスって何よ」

「えー、キスでも仮契約ってできるん?」

「く、くく、口付けアルか?」

「あら、キス以外の方法でやるなんて珍しいわね。時間かかるのに」

「あーあー、折角エヴァンジェリン姉ちゃんが面倒いうて隠してたのが台無しやな。ええやん、姉ちゃん達みんな呪文唱えるのでやったんやし」

「キスねぇ……だから結婚のネタなんて言ってたのね……」

「キスの方法があったんかー。ほな、せっちゃん、せっちゃんとする時はキスでええ?」

「お、お嬢様!な、何を!」

「……いいかしら、まだ時間は大丈夫だけれどそろそろ出発した方がいいわ」

「皆さん!仮契約カードを全て出してください!」

出発前も騒ぎが絶えない団体である。

「それでこの箱はどうなるんですか?」

「ゲートで転移する時に自動でゲートポート内に届けられるわ。その後受付で入国手続をして、また受け取る事ができるの。その時はこんなに大きい箱ではなくてもっと小さな封印箱に変わってるわ」

「厳重なんですね」

「その通りよ。ゲートポート内での魔法使用は厳禁だからその一貫ね」

「空港の荷物検査みたいなもんなんやね」

「僕達普通に刃物もって来ちゃいましたけど……」

深いことは気にしてはいけない。

「さあ、ゲートに向かうわよ。皆コートを着て付いて来てね」

「「「「はい!」」」」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

途中はぐれたりしないように気をつけるようにと、ドネットさんがゲートへの道案内をしてくれた。
意外だったのは昨日メルディアナに着いたときにアーニャも行くって言い出した事なんだよね。
おじいちゃんから聞いてたみたいだから前から準備してたみたいだけど……。

「さあ、着いたわよ」

霧が晴れてきて……。
凄い、ストーンヘンジだ!

「わー、結構人いるんですね」

「これでも少ない方よ。ゲートが開くのは一週間に一度、酷いときは一ヶ月に一度なんて時もあるわ」

孤立主義っていうのもその間隔だと仕方ないのかな。

「ドネットはん、ここに誰か紛れ込んだりせえへんの?」

「それはまずありえないわ。もしいるとしたらそれは世界最強クラスの魔法使いか、あるいは人間じゃないわね」

「世界最強クラス……」

「エヴァンジェリン姉ちゃんならできるんやろな」

「さ、まだ時間はあるけれど第一サークルの中に入って待ちましょう」

「はい!」

……あれ?ここ何か魔力の質が違うような……。
……なんだろう。

「ドネットさん、ここって何か変な感じしませんか?」

「変な感じって?」

「いえ、その、魔力の質が他と違うような気がして」

「私にはそんな事は感じられないけど、ネギ君何か感じるの?」

「あ、いえ、ただ何となくそんな気がしただけです、あははは」

……なんだろう、地球の魔力とは色が違うようなのがこのゲートから僅かに漏れてきている気が……。
漏れて……?
……まさかそんな筈は……。

「ネギ!肉まんたべんか?」

「ネギ坊主も食べるアルか?」

ほんとに肉まん大臣……。

「はい、僕も食べます!」

「サンドウィッチもうまいで」

「ちょっとコタロ、そのサンドウィッチは!あ、ごめんなさい!」

アーニャが誰かにぶつかった。
顔は見えないけど背丈は僕と同じくらいか。
なんだか変な予感がするんだけど大丈夫かな。
それに詠春さんに写真を見せてもらったラカンさんは……マスターが言うように来なかったらどうしよう……。
しばらく時間になるまで待っている間、夕映さんが持ってきた魔法世界に関する話を聞いたりしているうちに時間になった。

「いよいよ出発よ」

地面が光りだしてゲートが開く……。
やっぱり、魔力が違う気がする!
うっ眩しいっ!

……光が収まったたように思うけど……。

「着いたわよ」

「わー、サークルが一杯あるんね」

星型の魔方陣が書いてある台がいくつもある。
行き先別なのかな?

「空港のターミナルのようなものね。ネギ先生、このかさん、受付で入国手続きをしましょう」

「そうや、近衛名義だったんやね」

「はい」

「他の皆さんは先にあそこから外を見ることができるわよ」

「おっしゃ!一足先に外を見てくるで!」

「コタロ!待ちなさいよ!」

コタロー達は元気だな。
……ん、なんだ!?
これは!足元に、巨大な魔方陣!?
どんどん広がっていく!

「ドネットさん!!」

「こ、これはまさか強制転移魔法!?こんな全体に一体どうやって!?」

まずい!
杖も武器も無い!
あるのは荷物だけだ!

「ネギ!一体どうなって!?わぁぁっ!?」

もう発動したッ!?

「あ、アスナさん!手を!」

「ネギー!!」

「アスナさーん!!」

あぁ届か……ないッ!
凄い勢いで吸い込まれる!
このままどこかに飛ばされる!!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月13日メガロメセンブリア、ホテル、深夜―

いやー、高級ホテルに豪華な食事、まさに夢の国だな気に入った!
麻帆良の魔法生徒やってるだけでこの待遇はいいね!
まあ物価のせいもあるだろうけどさ。
にしても超りんとの旅行も良かったけどこっちの夜景もスゲーわ。
ココネの故郷も見てこれたし満足満足。
にしてももう明日帰るんだよなー。
1週間ぐらいいたっていいのに。
あーこの飲み物も美味いなー。
ま、とりあえずテレビでも見るか……。

[只今入りました緊急ニュースをお送りします。世界各地のゲートポートで同時多発テロが発生し、世界を繋ぐ楔が破壊されました]

「ブッー!!って帰れねえぇーッ!?」

誰だよそんないらんことしたのは!
いやーマジもう日本戻れねー。
骨でも埋めんのこれ?
結局三度目の正直も裏切られたわ!!

[尚、ゲートポート内にいた利用者、職員全てが消え去るという異常事態も起きており、現在大変な混乱が起きている模様です。新たな情報が入り次第引き続き報道をしていく予定です]

何?全員死亡?それとも失踪?

「おいおい、神隠しって何スか!」

「ミソラ……」

「なんですか春日さん、大きな声を出して」

「高音さん!ニュースニュース!ゲートポートでテロで帰れない上、神隠しッス!!」

「何ですって!?」

「お姉様一体……?」

違うチャンネルでもニュースやってたから高音さん達も見て分かってくれたわ。

「で、高音さん私達これからどうするんスか?」

「……まずは私の両親に連絡しますわ」

「あー!高音さんの親御さん魔法世界にいるんスね!」

「私も連絡します、お姉様!」

愛衣ちゃんもかい。

「確かゲートって直すのに数年かかるんじゃ?」

「当分はこちらで過ごす事になるでしょうね……」

「……学校帰れないなー。卒業式は……出れんなこりゃ」

高音さんがいるからって理由で葛葉先生ついて来るかと思ったらこなかったし……って葛葉先生的には来なくてよかったか。
彼氏と世界隔絶して恋愛とか無いもんなー。
一体どこのどいつだよゲートポート破壊なんて……。
……まぁ、金の心配ならなんとかなるだろ。
高音さんとこに厄介になるだろうけど、あれだよ、鬼ごっこの賞金とかあるしさ……今手元に無いけど……。

「あのー、携帯みて下さい。表示されている名前があるんですが……」

「え?」

まさかこの事件は超りんの仕業……なんてことはないだろう……けど、あ?
ネギ君の名前が何で表示されてんの?

「これ不思議通信用のアレじゃ?」

「まあ、ネギ先生ですわね。一体どうして……」

「とりあえず通信かけてみればいいッスよ」

そいっ!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

わぁぁぁぁ!!!

着いたみたいだけど……ここは一体……?
夜のような昼のような微妙な明るさ……それに寒い!
一面雪と氷ばっかりだ!
とにかく魔力で身体保護をしないと……。
荷物はあるから食料もあるしすぐには死んだりはしないけど……なんでこんな事に……。
……あれ、あそこに場違いなお姉さんがいる……あ、倒れた!
まずい、助けないと!
……少し離れてたけど見えて良かった。
楓さん達と遠くをみる訓練したお陰だな。
あ……この人魔力で身体保護ができないみたい。
どうしよう、杖も一切ないし……。
発動媒体無しで使える魔法は……いつものあれだ!

―魔法領域 展開!!―

あれ……少しいつもと感覚が違う気がする……。
いや、でもとにかくこれが浮遊術と同じで杖なしでできてよかった……。
防御用だけど誰か特定の人を中にいれて保護することもできるように練習しておいた甲斐があったな。
この人、僕が着いてすぐ倒れたって事は、僕が到着したのとは少しタイムラグがあるのかもしれない。

「大丈夫ですか!」

身体中が冷え切ってる!

―魔法領域 出力最大!!―

これで体温を上げさせてなんとかしよう。

《ネギ!皆!聞こえる!》

あ、これは超さんのくれた端末の通信!

《アスナさん!大丈夫ですか!》

《ネギ!あんた大丈夫なの?今どこ?私どこかの山林の中でそろそろ日が落ちるみたいなんだけど一体どうなってるのよ!》

《アスナ!ネギ君!うちは暑い砂漠や!》

《お嬢様!私も砂漠です!ですが……夜なので寒いです……》

《僕は雪山だと思います!太陽の位置的に昼なのか夜なのかはわかりません。今僕と同じように飛ばされたように思える女性が冷え切ってて大変なんです!》

《ネギ!俺も似たような雪山や!気で保護せんとすぐやられるで!》

《拙者は密林で恐らく昼ごろでござるよ、何やら巨大な生物がいるでござる》

《私は高い山アルが、雪はない所アル!朝日が見えるアルよ!》

《ネギ先生……私はどこかの遺跡の中みたいです……》

《のどかさん!》

《ネギ先生、私は今ドネットさんと一緒にいますが、恐らく楓さんと同じ密林にいるようです》

《茶々丸殿もでござるか》

《ドネットさんもいるんですか!》

よく近くにいれたな……。
ドネットさんは端末持ってないから茶々丸さんが近くにいて良かった。

《はい、白き翼のバッジには私のセンサーで位置がわかる機能がついますので範囲内ならば、時間をかければ皆さんの位置がわかると思います。まずはドネットさんにも会話に参加して頂きます。ドネットさん、手を当てて下さい》

《こ、これでいいのかしら。皆大丈夫?茶々丸さんが今会話を説明してくれていたから大体聞いていたけれど》

《ドネットさん、今会話していた皆は大丈夫です!でも夕映さんが反応しませんし、アーニャは場所自体が分かりません》

《……そう、分かったわ。でもこの端末は凄いわね。こうしてかなり離れている筈なのに会話できるなんて。さっきのは恐らく何者かが強制転移魔法であの場にいた全員を世界各地に飛ばしたようね。いいかしら、まずは各自の身の安全を最優先してちょうだい》

僕のせい……じゃないだろうけどいきなりこんな目にあうなんて……。

《《《《分かりました!》》》》

《皆さん、超の端末から写真が送れます。もし星が見れるならば私に送ってください、星の位置から場所が割り出せます。他の皆さんも景色を撮ってもらえれば場所が分かる可能性があります》

そうか!
サーバーとかどうなってるかわからないけど写真が送れるのは助かる!

《茶々丸さんお願いします!太陽が変な位置にいますけど星もみえてます!》

《俺もや!》

《砂漠の夜で星はよく見えていますので送ります》

《私も日が落ちたら写真送るわ!》

《アスナさん、夜の山は危険ですからできるだけ早めに寝床の用意をして下さいね》

《分かってるわよ!エヴァンジェリンさんの所でどれだけ修行したと思ってるの?》

《あはは、そうでした》

《せっちゃーん!砂漠暑いえー》

《お嬢様!?ご無事ですか!》

《うん、遠くやけど街みえとるから多分大丈夫やよ。箒あったらええのになー》

《このかさん、蜃気楼には気をつけてください》

《分かったえー》

《のどかさんは大丈夫ですか?》

《は……はい。とにかく外に出てみるようにします。もし無理でも雨風はしのげますし、命に別状はありません。それよりゆえはどうして反応しないんでしょうか?》

《……分かりません、持続的に話しかけ続けるしかない……と思います》

《ネギ、一緒にいる女の人ちゃんと助けるのよ!》

《はい、勿論です!それではまた何かあったらお互い必ず連絡をして下さい!》

《分かったえ。離れててもこうして皆と話せて良かったなぁ》

それは本当に間違いない、超さんには感謝しないと。
どうも一応陸地に転移させられているみたいだし、だとすると海に投げ出されたりって事はないみたいだから夕映さんもアーニャも多分大丈夫かな……。
落ち込んでいられない、まずは写真を撮って茶々丸さんに送ろう。
折角仮契約したのにカードは全部ゲートにあるままなんて……。

「ん……何だか温かい……」

「あ!目が覚めましたか!」

「んん……坊やは一体誰?」

「僕は……ネギ・スプリングフィールドです。まずは身体を起こしてください。地面は雪で寒いですから」

「あ、ありがとう。スプリングフィールド……ああ!ネギ・スプリングフィールド様ですか!?」

「え?あ、はいそうですけど」

「私メガロメセンブリアゲートポート受付のミリア・パーシヴァルと申します。ネギ・スプリングフィールド様がいらっしゃると存じておりました」

……凄く自然に握手された。
場違いな格好だと思ったらゲートの受付の人だったのか……確かに胸の所にネームプレートもついてる。

「いえ、そんなに畏まらなくて結構ですよ」

「し、失礼しました。それにしてもここは一体何処なのでしょうか……。いきなり足元が光ったと思えば雪山に投げ出されて寒さで倒れたのですが……」

「僕もまだ分かりませんが安心して下さい、場所はもうすぐ判明すると思います。あの、ミリアさんは身体保護できますか?」

多分太陽の位置と明るさからいって極地に近い気がするんだけど……。

「魔力でですか?……残念ながら……」

どうしよう……魔法領域もずっと展開していると効率が悪いし……。
何か手は……魔法発動媒体も無いし、アレしかないかな……。

「ちょっと待ってて下さい」

「ネギ・スプリングフィールド様?一体何を書かれているのですか?」

「ミリアさん、ネギでいいですよ」

「それでは……ネギ君とおよびしてもいいですか?」

「はい!」

「承知しました」

えーっと確か魔方陣はこうだった筈……。
ずっとこの前見ていたから覚えているし、大丈夫。

「できた!ミリアさん、僕と仮契約しませんか?」

「ええ!?いきなりそんなことを申されましても……」

やっぱり恥ずかしがるのか……。
あ、今のは僕の言い方が悪かったのか。

「あの、そういう意味ではなくて、ミリアさんに僕が魔力供給できるようにする目的で言っています」

「ま、まあ、わざわざ私を助けるためだったのですね……つい勘違いしてしまいました」

この人……意外とマイペースみたい。
周りは一面の雪なんだけど……。

「気にしないで下さい。仮契約の方法ですが呪文詠唱の方がいいですよね?」

「あら、キスではないのですか?」

「それは……キスでもできると思いますけど、僕はこの方法で覚えたので……お互い唱える言葉は同じですから僕に続いて言ってくれれば大丈夫です」

何回もやって覚えといて良かった……。
コピーカードは作れないけど、契約執行だけでもできれば大丈夫だ。

「……分かりましたわ。お願い致します。ネギ君」

「はい!それでは始めましょう」

この後10分ぐらいでなんとか仮契約は一発で終えられた。

「これで終わりでしょうか?」

「はい、それでは契約執行に切り替えますね」

「そういえば、この障壁のようなものは杖無しでできるのですか?」

「浮遊術の一種みたいなものです」

「その年で浮遊術ができるなんて、流石はナギ・スプリングフィールド様のご子息ですね」

「あ、ありがとうございます。でも僕は、僕ですから」

「これは失礼を……。比べるつもりではなかったのですが申し訳ありません」

「そ、そんなに謝らなくて結構です!頭を上げてください」

「……ネギ君、ありがとう……ございます」

ええ!?泣き出した!?

「ど、どど、どうして泣くんですか?」

「ようやく……現実が理解できて、ネギ君が助けてくれていなければ今頃私は死んでいたと……。助けていただきありがとうございます、小さなマギステル・マギ様」

立派な魔法使い……か。
マスター、父さん、僕が目指す僕にとっての立派な魔法使いにはこう言う在り方もきっとありますよね。

「ありがとうございます、もう泣かないで下さい。絶対安全な場所まで連れていきますから」

「……はいっ、お願いします!」

―魔法領域 解除―

―出力調整 契約執行 3600秒間!! ネギの従者 ミリア・パーシヴァル!!―

「い、一時間もですか?」

「大丈夫です、戦闘用とは違いますから身体保護程度の契約執行なら長い間持ちます。寒くありませんか?」

「はい、温かいです」

「はぁ……良かったです」

《ネギ先生、場所が特定できました。ネギ先生のいらっしゃる場所は……南極です。一番近い街は盧遮那と桃源がありますが位置から考えるとどちらも2000km程の距離があります。まずは寒冷地帯を抜ける事を優先して下さい。今からメルカトル図法ではなく心射方位図法での地図を転送致します》

やっぱりそうか……。

《な、南極……。ちゃ、茶々丸さん、すいません、地図をお願いします》

《南極ですって!?ネギ!大丈夫なの?》

《アスナさん、今のところ大丈夫です。助けた女性の人はメガロメセンブリアゲートポートの受付のミリアさんという方でした。今仮契約をして契約執行で身体保護をしています》

《受付の人も飛ばされてたのね……。それで、ま、まさかキスしたの?》

《アスナ姉ちゃん、それどころやないやろ!》

《ご、ごめん……》

《はぁ……一応呪文は散々唱えて覚えていたので、呪文詠唱で行いました。茶々丸さん、コタローの位置は……?》

《北極です……。小太郎さんにも今から地図を送りますので》

《何やて!?バラバラに転移させるにも程があるやろ!地図よろしく頼むわ!どっちに街あるんや?》

《一番近いのはヘラス帝国領首都、ヘラスです》

《ヘラス帝国?何やそれ》

《小太郎君、首都だったらこのゲートポートの事件も伝わっている筈だから、元々私達は入国手続もしていないけれど、不法入国になってもいいからそちらへ向かいなさい》

そうか……僕達入国手続もしてないのか……。

《要するに違う国なんやな。まあええで、とにかくまずは楓姉ちゃんと特訓したサバイバル技術でなんとか北極切り抜けたるで!》

《コタロー、ネギ坊主、頑張るでござるよ。まだ茶々丸殿と合流できていないがこちらもなかなか危険な場所のようでござる。図書館島の竜とは違うタイプのものまでいるようでござる。いやはや、武器がないというのは辛いでござるな》

《りゅ、竜種……。楓さん、絶対生きて合流しましょう!》

《約束でござるよ》

《……続けて刹那さんの位置がわかりました。テンペテルラ大陸の砂漠のようです。一番近くにテンペというオアシス街がありますのでそこに向かうことを推奨します》

《わかりました、ありがとうございます。ネギ先生達もお気をつけて》

《古さんは時間帯、景観から言ってタルシス山脈だと思われます。まずは南下してタンタルスという街を目指してください》

《分かったアル!ネギ坊主達も気をつけるアルよ!》

《はい!》

《古姉ちゃんは地図間違えんようにな》

僕もそれが心配。

《それと私の半径3000kmのセンサーで夕映さんとこのかさんの居場所がわかりました。それぞれアリアドネー首都、セブレイニア大陸の砂漠のようです》

《それなら多分一番今夕映さんが安全ね。世界最大の独立学術都市国家アリアドネーは学ぼうとする意志と意欲を持つ者なら、たとえ死神でも受け入れると言われている場所よ。通信が取れないと言っても命に危険は無いわ》

《ドネットさん、そうなんですか。良かった……》

《ゆえの場所分かったんですね。良かったです……》

《茶々丸さん、うちは進んどる方向あっとるのかな?》

《はい、合っています。そのまま東に進んでいけば一番大きい所でケフィッススという街につきます》

《分かったえ。ネギ君達が頑張っとるならうちも頑張らんとな!》

《これで後は私とのどかの場所とアーニャちゃんだけね。私はさっき起きたばかりだけどもう寝る所作ったから大丈夫よ!》

《はー、超さんの端末には感謝しないと……》

《そうね、超さんにこれ貰ってなかったら大変だったわ》

《学校戻ったらお礼言わんとな》

《その超さんって三次元映像技術やSNSを広めたっていう超鈴音さん?》

《ドネットさん、その通りです》

《ネギ君達はたくましいわね……。私にはあなた達が北極や南極にいても大丈夫だというのに驚いたわ。この端末にしても距離を完全に無視しているのは画期的発明よ》

《あはは、どうなっているのか全然わからないんですけどね……。それでは僕とミリアさんはまだ移動するのでまた後で》

こんなに早く皆の居場所がわかるなんてなぁ。

「ネギ君、その端末は一体どのようなものなのですか?」

「これは僕の凄い発明家である生徒の超鈴音さんという人が魔法世界に来る時の為にってくれたものなんです。今はぐれてしまったみんなと念話みたいな感じで通信してました」

「こんな寒冷地で山に囲まれていても使えるなんて凄いですね」

「ただどこかに電話することはできないみたいなんですけどね。基本的にはこの端末同士でしかやりとりできないみたいです。あの……それでこの場所が分かったんですが聞きますか?」

「分かったのですか!?はい、聞かせてください」

「南極だそうです……」

「そ、そんな……」

「だ、大丈夫です!絶対無事に街まで行けますよ!」

「うぅ……ありがとうございます」

「さあ、先を急ぎましょう」

「はい、私の方が大人なのに恥ずかしいですね……」

「そんな、気にしないで下さい」

方向がわかるお陰で完全に遭難する事もないし、とりあえずはまだ……大丈夫。
しばらく歩いていたら……。

《あー、テステス、ネギ君……かな?聞こえるかい?》

ええ!?この声は!

《春日さん!?どうして!?》

《うおっ、マジでネギ君か!あー、いや私、実は魔法生徒なんだよ》

《し、知らなかったです……》

《言わなくてごめんね》

《い、いえ》

《ネギ先生、こんにちは!》

《ネギ先生、魔法世界にいらしているのですか?》

《その声は……佐倉さんに高音さん!一体どうして?まさか春日さん達もゲートポートで強制転移魔法を喰らったんですか!?》

《へ?ちょっとネギ君今なんと?》

《ゲートポートで強制転移魔法を喰らったって……》

《うわー、ネギ君達例の事件の被害者か。あーちょい待ち、最初から整理するとさ、何故か突然私達が超りんから貰ってた端末にネギ君の通信情報が表示されたんだよ。もしやネギ君以外にも来てる……というか飛ばされたり?》

《そうだったんですか……。はい、皆飛ばされてしまいました》

《ネギ先生今どこにいらっしゃるのですか?》

《えーっと南極です……》

《それほんと?いや……ネギ君そんな冗談いわないもんな》

《大丈夫では……なさそうですね》

《……今はなんとか大丈夫です。それでアスナさん達も来たんですが全員飛ばされてしまいました……》

《おおぅ、アスナ達って事は……》

《アスナさん、このかさん、刹那さん、楓さん、くーふぇさん、コタロー、のどかさん、夕映さん、茶々丸さん、アーニャそれとドネットさんです》

《そ……そんなに……。アーニャちゃんとドネットさんも来てんのかい。場所はわかってるの?》

《大体分かってます、アスナさんはまだ分からないんですけどこのかさんは……》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

軽い気持ちでポチっとなしたらこのザマだよ……。
とうとうネギ君に私が魔法生徒だっつーのを言う事になった訳だけど事態はそれどころじゃないな。
なんで南極と北極に一人ずついる上受付のお姉さんも一緒にいたり、よりにもよって超危険地帯のケルベラス大樹林なんかに飛ばされてんのさ……。
そんな辺境に飛空艇飛んでないっつーの。

《なんてゆーか、ファンタジーもいいとこだね》

《春日さん、私達で捜索隊を結成致しましょう》

《お姉様、仕事ですね!》

《ほ、本当ですか?ありがとうございます!》

いや、まあ……助けないほうがどうかしてるわな。

《あの、できれば僕達の杖類をゲートポートから持ってこられませんか?封印箱に入ったままらしいんですが……》

《げっもしや杖無しで南極いんの!?》

《は、はい……》

無いわー。
それでなんとか大丈夫って言ってるネギ君凄過ぎるだろ……。
杖無しでどうやって受付の人助けてんの?
普通逆じゃないか……。

《なんて事ですか!分かりましたわ、この高音・D・グッドマン、必ず助けだして見せます。ゲートポートの荷物はお任せ下さい!》

《ありがとうございます!》

《それとさ……気落ちさせるかもしれないんだけど、ゲートポート全部破壊されたみたいで日本に帰れなくなったんだよ》

《えええ!?そんな!一体誰が!?》

《……今調査中だそうです》

《……分かりました。とにかく僕はまず南極を抜けるよう努力します。今からアスナさん達の通信情報も送りますね》

《了解ッス。ネギ君頑張ってね》

《ネギ先生、お気を確かに》

《ネギ先生、待ってて下さいね》

《ありがとうございます、春日さん、佐倉さん、高音さん!》

さーてと、どうするよ。

「高音さん、捜索隊ってもどうするんスか?非常事態宣言が発令されちゃったみたいだから渡航許可も1週間は取るのは難しいんじゃ?」

「確かにそうですが、少なくともまずはゲートポートでネギ先生達の杖類を受け取る事ですわね。その後はなんとかしてメセンブリーナ連合を中心に散らばった皆さんを拾っていきましょう。両親にもまだ連絡していませんし」

「助けるって言ったからには動かないとスね。しかし流石に南極と北極、それとケルベラス大樹林は洒落になってないスよ……」

「飛行艇はどこもそんな所通りませんものね……」

「いずれにせよ、まずは朝になるまで待ちましょう。私は今から両親に連絡してきますわ」

ネギ君達はあちこち飛ばされてるから、また時差で色々面倒なんだろうな……。

「お姉様、私も行きます!」

「それじゃ私はネギ君から来たアスナ達と連絡取っとくんで」

おお、通信情報来た来た。
うん、全員分だね。
とりあえず一番元気そうに思えるアスナにでも連絡するか。

《あーアスナ?聞こえるかなー?》

《ちょっと、その声美空ちゃん!?どうして!?》

《いやー私実は魔法生徒だからさ》

《そうだったの!?》

《あー、そんで高音さんと愛衣ちゃん、ココネと一緒に来てるんだよ》

《美空ちゃんどこにいるの?もしかして飛ばされた?》

《飛ばされてないよ!メガロメセンブリアにいるよ。何故かネギ君の通信情報が超りんに貰った私達の端末に表示されたから試しに通信しみたらこうなった訳よ》

《わー、やっぱり超さんのお陰ね》

正直ネギ君の通信情報が出てきたのは一体どういうつもりなのか分かんないけど、超りんの奴、ネギ君達も魔法世界来るの知っててイタズラのつもりか、あるいはこうなることを知ってた……とか。
……いくら火星人でもそりゃないか。

《超りんの発明は一般人には構造は理解できんけど便利だから助かるよ。そんでアスナどこにいんの?》

《どこかの山奥よ。もうすぐ茶々丸さんに夜空の星を写真に撮って場所を特定してもらうわ》

なんで妙に適応能力高いんだ……。

《逞しいな、アスナ……。まあそれはともかく、私達で皆の事捜索するからさ。無理しないように気をつけなよ》

《ホント?ありがと、美空ちゃん!でも無理しないようにっていうのはまずネギに言いたいわよ。あの子ゲートの受付のお姉さんと仮契約して今ずっと契約執行してるのよ》

《は?マジすか?どんだけ優しいんだよ、10歳にして涙ぐましすぎるわ!》

つか仮契約ってキスですか……?
いやいや、ネギ君にそんなバカな事聞けるかっての。

《ほんとよ、もう!美空ちゃんもネギに言ってやってよ!一番近い街まで2000kmもあるっていうのに大丈夫ですっていうのよ。何が大丈夫なのよ!!》

アスナめっちゃ心配してんなー。

《アスナ、気持ちはよくわかったけど、めっちゃ頭に響く……》

《ご、ごめん……》

《うん、そんでさ、ネギ君にもさっき言ったんだけど、ゲートポート全部破壊されちゃって日本に帰れないんだわ》

《えー!?何よそれ!》

《私も明日には帰るっつー時にこれですよ》

《お互い災難ね……》

《まあ起きたもんは仕方ないし、とりあえずネギ君達の杖やらは私達が朝になったらゲートポート行って引き取れるように交渉するからさ》

《ありがとね》

《アスナ達も本当は観光する感じだったんでしょ?》

《そうよ、ちゃんと宿も取ってあったらしいのに……》

《当分帰れないからさ、観光はいくらでもできるよ。できるだけ早く迎えに行くからさ》

《うん!それじゃあ場所分かったら連絡するわね》

《連絡待ってるわー》

何にしても、せめてもの救いはバラバラでも居場所が分かってるって事だな。
楓はケルベラス大樹林だろ……話しかけたら、丁度魔獣に襲われてましたーなんて怖くて無理だな……。

……で、この後分かったのはアスナのいる場所がヘラス帝国の領地に近いか、あるいは既に入っているかのノアキス地方みたいだな。
とんだ山奥だわ。
しかも国境線近いと碌な事にならんだろうな……。
とりあえず一番楽に迎えに行けそうなのはメガロから南東に飛んだ桜咲さんのテンペと更に東に行ったくーちゃんのタンタルスかね。
あとはアーニャちゃんが行方不明と……。
これが一番まず……小太郎君と特にネギ君も相当マズイよな……荷物に食料が入っているって言っても2000kmってどう踏破するよ。
……何にせよ興奮して目が覚めちゃったけど朝になるまで動けないから頑張って寝とくか。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月13日、南極、契約執行から1時間が経過―

「そろそろ一時間ですね……。ミリアさん、疲れはありませんか?」

「ネギ君の魔力供給のお陰で身体は楽です」

雪の照り返しで目が焼けるのは魔力で保護してるからサングラスが無くても進める。

「それは良かったです。契約執行更新しますね」

―契約続行追加 3600秒間!! ネギの従者 ミリア・パーシヴァル!!―

「ほ、本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫です。僕を信じてください」

「……ええ、分かりました。ネギ君、信じますね」

「それでは進みましょう」

少ない魔力供給だけどこんなに長時間するのは初めてだな……。
そのうち危なくなるかもしれないけどなんとかしないと。
でもまだあと数時間はいけると思う。

「ミリアさん、メガロメセンブリアって僕達が着いた時何時だったんですか?」

「丁度日をまたいで8月13日になった深夜ですね」

夜か……。

「雪だらけですが契約執行してるので寝る事もできますが休憩しましょうか?」

「ネギ君、心配してくれてありがとう。私夜勤なのでしっかり寝てあります」

「……そうですか、辛いですけどできるだけ早くこの氷雪地帯から抜けてしまいましょう」

「はい。……あっ!」

「どうしました!?ってそうか!ごめんなさい、ハイヒールだと気づかなくて……足は……」

「捻ったりはしてないから大丈夫です。ただ、ハイヒールの踵が折れてしまいました……」

どうしよう……。
ミリアさんが歩くのが遅いと言っても無理に走ってもらうわけにもいかないし……僕が運べれば……運べばいいのか!
こんな時の為にマスター直伝の年齢詐称薬の出番だ!

「ミリアさん、魔法薬を飲んでもらえませんか?」

杖がないから調合できないけど、最初からいくつか持ってきておいて助かったな。

「魔法薬っていうのは?」

「僕の師匠から習った年齢詐称薬です。ミリアさんは僕が背負って運びますので」

「えっ!?」

「これでも僕修行したので体力には自信あるんです!靴の持ち合わせは無いので嫌かもしれませんがお願いします」

「そんな……嫌なんてことは……でも運んでいただくなんて……」

「遠慮しないで下さい。恐らくこれが一番効率よく移動できます」

「……何から何まで迷惑をかけてごめんなさい、ネギ君」

「ミリアさんは何も悪くないじゃないですか!悪いのはゲートポートで皆を強制転移させた連中です。こんな理不尽には僕は絶対負けません。はい、これをどうぞ」

「……ありがとうございます。それでは頂きますね」

ボンッっていう音と共にミリアさんは小さくなった。
一応幻術なんだけど実体もあるっていう不思議な年齢詐称薬だから便利だ。

リュックは前に抱えてと……。
端末も身体に密着させているし……これでよし。

「ミリアさん、背中にどうぞ」

「す、凄い魔法薬ですね。失礼します」

「では出発しましょう」

これなら魔力消耗は早くなるけど、一気に速めの自転車ぐらいの速度で持続的に移動できるぞ。
平地なら3、4時間で50kmはいける。

「は……速いですね」

「酔わないように目を瞑って寝て貰っても大丈夫です」

「こんな事言うのは不謹慎なのですが、南極の景色を見るのは初めてなので……」

「あはは、自然観光っていう気分でいた方が気持ち楽になりますよね」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8/12日、14時頃、アリアドネー魔法騎士団候補学校、コレット・ファランドールの寮室―

あーなんとかなった……。
昼休みに箒乗って移動中、課題に夢中でよそ見してた私が突然道に現れたっぽいユエに激突……。
そのままその場で気絶したからとりあえず急いでユエのだと思われる荷物を全部寮室に運び、医務室にユエを連れて行って先生に事情を話しつつ、ユエが目覚めるのを待った。
目覚めて話してみたら名前しか覚えてないって事になって、先生が検査精霊でユエの頭を走査したんだけど記憶喪失が確定。
どうもその原因はやっぱ私にあるっぽい……。
あまつさえ課題の初級忘却呪文が充填された杖が暴発したみたいでユエの記憶喪失の原因は頭部打撲と私の未熟な忘却呪文のせいで間違いなさそう。
先生にバレたら大変と思ってごまかして……、先生がユエという名前を検索したんだけどどこにも該当する情報は見つからなかった。
それでユエにどうするか聞いたら私の魔法騎士団候補学校で勉強できないかって言い出したから驚いたよ。
これには先生も、アリアドネーの学ぼうとする意志と意欲を持つものなら例え死神でも受け入れるという思想に則って、ユエの記憶が治るまでここにいるように手配までしてくれた。
どこに泊めるか言われたけど私の寮の部屋で泊めようという事にしたんだけど……。
そう、ユエの荷物あったんだよ!
私も記憶喪失にかかっているなんてことはないんだけど忘れてた……。
さっきごまかしたけどここはちゃんとユエに謝ったほうがいいね。

「ユエ!ほんっとうにごめん!ユエの記憶喪失は私の未熟な忘却呪文が暴発したのが突然現れたユエにあたったせいなの!」

……うぅ、何も言ってこない……。

「……コレットはドジですね」

ええええー!?

「えーっとそれだけ?」

「記憶が無いので怒りようが無いです」

あーそっか……。

「それがね、ユエの荷物結構あったんだよ。急いでて忘れてたんだけど」

「コレットはドジですか?」

今度は疑問形!?
こ、これは……。

「はい、ドジです……。あの、荷物の事隠してたって思わないの?」

「隠せてないではないですか。それにコレットの顔からしてわざとやったとは到底思えないです」

ガーン!
……こ、これでも魔法騎士団候補生の一人……ハッ!私落ちこぼれだった……。

「…………」

「コレット、何を落ち込んでるですか」

「いや、なんでもないよ。そうだ!とにかくユエの荷物確認しようよ!何か思い出せるかもしれないよ!」

「は、はいです。突然元気になられると驚くです……」

「ははは、ごめんごめん」

ユエの荷物を確認してみたら……。

「ユエ、この文字何だかわかる?」

「日本語ですね……」

「ニホンゴ?」

「私の出身の国の言葉だと思うです。……どうやら私の名前は綾瀬夕映というようですね」

「アヤセ・ユエ?じゃあアヤセが名前?」

「いえ、ユエ・アヤセと言い換えるべきです」

「苗字が最初に来る国なのね。あれ、この本に地図が……あああ!!」

「どうしたです?」

「ユエは旧世界人だったんだよ!こんな地図が載っている上、知らない文字が書いてある本を持っているということは旧世界人に違いないッ!」

「コレット、そんなに自慢気にポーズ取りながら言わなくていいです」

ユエ……もう少し自分の事がわかるんだからテンション上げないの?

「でも一体どうしてあんな道に突然ユエは現れたんだろう……何かの事故かな?」

「何か大きな事件があったならわかるですよ」

「そ、そうだね。後は……この本は魔法書みたいだね。ユエは旧世界の魔法使いだったんじゃない?そうだ、私の杖と箒あるからやってみなよ!」

「は、はいです」

―プラクテ・ビギ・ナル―
―火よ灯れ―

「うん、呪文は使えるみたいだね。次は箒ね」

「はいです」

―飛行!―

「おおっ箒も使えるじゃん!ユエは魔法使いで間違いないよ!」

「むむ、確かにそうかもしれないです」

「うん、あ、ごめん、まだ荷物あるから見てみようよ」

「そうですね」

次は服…服……下着……紐!?

「ユエ、紐だよ紐!」

「コレット、掲げなくていいです。……でもなんだか懐かしい気がするです」

「下着が記憶回復の手がかりになるとは……」

あれ、底に何かある……。

「あれ、この機械は一体……。ユエこれ何かわかる?はい、どうぞ」

てのひらぐらいの大きさで殆どボタンは付いてない。

「画面が真っ暗ですがどこかに電源があるのでしょうか……。えっと……あったです」

お、電源入ったみたい。

「わー綺麗なスクリーンだね」

「タッチパネル式の操作……ですね。写真がありますが……」

「どれどれ?わー、たくさんいるね。誰か覚えてる?」

「いえ……何となく引っ掛かる人物はいるですが……」

「そ、そう……。記憶消しちゃってごめんね」

「次は忘却呪文を道で練習しないように気をつけるです。コレットの話だと私が突然現れたのも原因のようですし」

「ユエ、ありがと。よそ見しないように気をつけるよ……あ、何か画面に文字が出てるよ!」

「こ、声が聞こえるです!」

「え?」

「コレットもこれに手を当てるですよ」

「う、うん」

《今夕映さんの声聞こえませんでしたか!?》

「ほ、ほんとだ、しかもユエの事何か知ってるみたいだよ!」

《知らない声も聞こえたでござるな》

「一体これはどういう機械なのでしょうか」

「念話みたいなもの……じゃないかな?」

《ゆえ!うちやよ、近衛このかや!》

《ゆえ、ゆえ!私、宮崎のどかだよ!携帯の事忘れちゃったの?》

《このか……のどか》

《すいません、夕映さんと一緒にいるのはアリアドネーの関係者の方ですか?端末の通信方法は心で念じるだけで大丈夫ですので》

念じるだけでいいのね。

《えっと初めまして私はコレット・ファランドールと言います。アリアドネー魔法騎士団候補学校の生徒です》

《コレットさんですね。初めまして。僕はネギ・スプリングフィールドと言います。日本の麻帆良学園で夕映さんのクラスの担任をやっています》

教師?
子供みたいな声だけど……。
それにスプリングフィールド?

《な、なんだか聞き覚えのある声の気がするです……》

《えっと、経緯を説明すると私が練習中だった初級忘却呪文が突然道に現れたユエにあたってしまって記憶が一時的に消えてしまったみたいなんです、ごめんなさい》

《そ、そうだったんですか……。だから1時間以上も反応が無かったんですね……》

《ゆえ……記憶が消えちゃったの……》

《のどか、大丈夫やよ、一時的言うてるし》

《少し良いかしら、コレットさん、私はドネット・マクギネスと言うわ。夕映さんは今どういう扱いになっているのかしら?》

《えっと、この端末を確認する前に気絶したユエを医務室の先生の所へ連れて行ってしまい、その時のユエの意志で私と同じ魔法騎士団候補学校の生徒になる準備ができてます》

《あら……記憶が消えているのに身の安全は完璧のようね》

《それは大丈夫です!……それでユエはドネットさんの元に連れて行った方がいいでしょうか?》

《いえ、それはいいわ。信じられないかもしれないけれど、私達はゲートポートのテロに巻き込まれて世界各地に飛ばされてしまったのよ。特に私が今いる場所はケルベラス大樹林、コレットさんならわかるかしら?》

《け、けけけ、ケルベラス大樹林ってあの危険極まり無いって言われているあそこですか!?》

《……そうよ、私も信じたくないことなのだけれど。それでも夕映さんに一番近いのは私達なの》

し、信じられないようなことにユエは巻き込まれてたんだ……。
あ!それにゲートポートでテロって事は、ニュース見れば分かるかな。

《あの、夕映さん。夕映さんは記憶が消えているという事ですがそのままアリアドネーにいますか?》

《私は……できれば勉強してみたいです。でも助けに行った方がいいのであれば……》

《いえ、記憶喪失では危険ですし、折角安全なアリアドネーにいるのであれば、僕としてはその場にいてくれた方が助かります。ドネットさん、ケルベラス大樹林を抜けたらどうされますか?》

《そうね、まずは抜けた先のヘカテスを通ってグラニクスに行くわ。まずはそこで本国と連絡を取る予定よ。いずれにしてもまだ数日はかかるわね》

《……分かりました。そういう事もありますし、夕映さんはアリアドネーで待っていてもらえませんか?僕も今南極にいますし、独立都市国家であれば僕達のもしもの時の集合地点にもなります》

な、南極!?

《ネギ君、それは一体?》

《僕の憶測ですが……今回の事件、メガロメセンブリアのどこかが絡んでいるのかもしれません。すいません、ドネットさんを疑っているわけでもないですし、本国を疑いたくはないのですが……》

《そうね……これほど鮮やかに各地のゲートポートの人間を各地に転送し、しかも破壊までしたというあたり確かに何者かが内部で手引きしていたという可能性も否定出来ないわね……。夕映さん、どうするかしら?最後に決めるのはあなたなのだけれど》

な、何か凄く重大な話になってる!?

《……分かったです。どうなるか分からないですが、しばらくはアリアドネーにいるです》

《ゆ、ユエのことは私に任せてください!》

《コレットさん、ゆえをお願いします!》

《コレットはん、ゆえをお願いするえ》

《コレット殿、夕映殿をお願いするでござる》

《コレットさん、夕映さんをお願いします》

《はい!分かりました!》

《コレットはドジですから私も努力するです。このアリアドネーで調べられる事があれば連絡して欲しいです》

《夕映さん、ありがとうございます!》

《……えっと、あのー、それで、さっきネギ・スプリングフィールドって聞こえたんですけど、ナギ・スプリングフィールドとの関係はもしやおありですか?》

《あ、はい、僕は……あーこれは言わないほうがいいんでしょうか》

《そうね……。コレットさん、今ので大体分かってしまったかもしれないけれどネギ君の事は口外しないでもらえるかしら》

これは間違いなくナギの子供!?

《は、はい!もちろんです!》

《コレットさん、助かります。それでは僕もまだ移動を続けるので通信を一旦切りますね。夕映さん、頑張ってください》

《ネギ……先生も頑張ってくださいです》

《ゆえ、私も後でまた連絡するね》

《うちもするからな》

《のどか、このか、ありがとうです》

これで一旦通信は終わったけど今の声の人達は多分さっきの写真に写ってた人達だろうね。

「ユエ、何か思い出した?」

「声に覚えはある気がしますが完全には思い出せないです」

「でも、ユエを知ってる人がいてよかったよ!」

「はいです!」

「きっとこの写真の……赤毛の子だね、先生っていってたけど、ネギ・スプリングフィールド君!あの有名な英雄ナギ・スプリングフィールドの子供だよ!」

「コレット、その話は口外しないと先ほど約束したですよ」

「あ……ごめん。でも、ほらほら、これとかこれとかぜーんぶナギグッズなんだよ!それにほら、ジャジャーン!ナギファンクラブ会員証!」

「そんなにナギ・スプリングフィールドとは有名なのですか?」

「それは有名だよ!ナギの事ならそれだけで私3時間は語れるよ!」

「むむ3時間……、いいでしょう聞くです」

「え?聞くの?よーしいいよ!今日は語って語り尽くすよ!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―2003年8月13日日本時間、17時43分、麻帆良―

やはり予想通り各地のゲートが全て壊れた。
既にこの情報は地球のまほネットに大きな衝撃を与えた。
そして今、私は近衛門のいる学園長室に来ている。

《近衛門殿、ゲートが壊されましたね》

「おお、キノ殿もやはり気づいておったか。して、高畑君、葛葉君と龍宮君をまだ僅かに動いとるゲートから魔法世界に行ってもらおうと思っとるんじゃが……キノ殿はどう思うかの?」

《はい、それが良いと思います。そして近衛門殿達にとっては困った事態でしょうが、私としてはゲートが壊れたのは想定の範囲内です》

「ふむ、理由は教えて貰えるのかの?」

《ええ、先に伝えておかないと大変ですからね。今月の末に魔法世界の崩壊をいよいよ解決する計画を実行に移します。それにあたりゲートポートが壊れたことによって起きる、魔法世界から地球側に流れこむ魔力の対流全てが麻帆良地下にある廃棄されたゲートポートに集中するのを利用するつもりです》

「……なんと、もう解決するのかの」

《と、言いましても、もう2年半も経っていますからね》

「ふむ、精霊殿にとっても2年半が長いと言われると違和感があるんじゃが……まあよい。キノ殿はゲートポートを破壊した実行犯がやったことを逆に利用するつもりなのじゃな?」

《その通りです。犯人は確実にフェイト・アーウェルンクスらですが、奴らはもう地球にはいません。地球側は完全なる世界の連中からはノーマークの状態となっているこの時を逃す訳にはいきませんので》

「またアーウェルンクスか……。なるほどのう……しかし麻帆良の地下にゲートポートがあったとは……」

《驚くほど巧妙に隠されているので見つけるのは難しいですよ》

「しかし魔力が集中するということは、こちら側は勿論じゃがあちら側はそれ以上に相当危険な事になるのではないのかの?」

《ええ、そうですね。廃都オスティア、そこが鍵です》

「20年前の再現じゃな……。あいわかった、それで他に儂がキノ殿に協力する事はあるかな?」

《運命の日に史上最大の発光をすることになる筈なので、関係者の方々が慌てないようにして頂ければと思います》

「いつもの大発光には1年ばかり早いの」

《異常気象の影響ということにでもして頂けると。神木の発光自体は上手くいくと願って静観してもらう他ありませんが、恐らく世界中にこの現象が知れ渡ってしまいますので、その後すぐの情報操作諸々が一番大変だと思います》

「麻帆良に世界各国が入ってくる可能性があるという事じゃな」

《その可能性は高いでしょう。もし仮に武力が出てきた場合にはエヴァンジェリンお嬢さんに直ぐ様連絡して何としてでも防衛を頼もうと思っていますが》

粒子通信で呼べばお嬢さんが本気出せば数秒で臨戦態勢が取れるだろうし、核兵器でも出てこない限りはなんとかなるだろう……。
まあそうなったらやはり魔法を世界に残すというのは夢物語にしか過ぎないというのを証明する事になるが。

「ふむ……魔法世界の問題が解決するそばから人間自身でまた新たな問題を起こすとはのう……。じゃが、麻帆良の地下のゲートポートが起動するというなら、本国からも人が入ってくることになるじゃろうな」

《……そうですね。外と内両方からの板挟みになると思います。個人的には私達の計画が成功した段階で麻帆良の地下のゲートポートの楔も一旦破壊してしまった方が良いとは思うのですがね。しかしそれは魔力暴走が起きますから取れない手段ではありますが……》

「……どうやら儂の最後の大仕事になるようじゃな」

《歴史でも稀に見る出来事になるのは間違いないですね》

「ふぉっふぉ、責任重大じゃな」

《近衛門殿の体調管理は私がこっそりやっておきますから任せてください》

「……やはりたまに調子がよくなっておったのはキノ殿のお陰じゃったのか」

《はい、今まで言ってきませんでしたが、時々魔力の流れを整えてます。近衛門殿にはお世話になっていますからね》

「金銭等もらうより余程助かるわい。しかしキノ殿が儂に感謝する事も結局儂らにとって利益となるのじゃから、全く人間とはままならぬものじゃな」

《まあ私も決して人間だけの味方ではないですから。例えば魔法生物達もそうですし、結果として、そうなるだけです》

「キノ殿、それでも感謝するぞい。……ふむ、高畑君達は送るにしても、その後の事はなってみないとわからんの」

《そうですね、良いか悪いかはわかりませんが、この先は完全に未知の世界ですから》

完全なる世界どころか、しばらくは不安定極まりない世界になるだろうな……。

「この年になってもまだ為さねばならぬ事があるとは生きてきた甲斐もあったもんじゃ」

《曾孫の顔を見るのが一番の大切な仕事でしょう》

「ふぉっふぉ、そうじゃった」

魔法世界では何が起こっているのか、もう詳しくはわからないが、ネギ少年達、頑張れ。



[21907] 43話 春日美空バカンスの終わり(魔法世界編3)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/01/12 00:09
―8月13日午前7時前、メガロメセンブリア―

いやー4時間ぐらいはぐっすり眠れたんだけど高音さんに叩き起されたわ。
ネギ君達の杖類の回収だけど名義が学園長の近衛名義になってるみたいで、ネギ君自身の情報は伏せられてるらしい。
これなら麻帆良学園の魔法生徒って事で私達でも多分引き取れるね。

[依然ゲートポートでの魔力暴走は止まっておらず復旧の目処も立っていません。旅行者の足に影響が出ると思われます。また、消えた利用者、職員の一部と思われる人物からメガロ当局に連絡があったという情報が入っています。専門家によると高度な強制転移魔法を無差別に発動させたのではないかと見られています]

ですよねー。

「さあ、春日さん、ココネさん、愛衣、行きますわよ」

「はい、お姉様!」

「了解ッスー」

「了解」

そういう訳で朝っぱらからゲートポートに向かったんだわ。

「高音さん結局ご両親は何と?」

「当然、ネギ先生達をお助けしなさいと言われましたわ。旅費に関しても払って頂けるようですし、渡航許可も明日か、遅くても明後日には取って頂けるようです」

明後日って早っ!

「高音さんの家って凄いんスか?」

「お姉様のご実家はメガロの北ボスポラス地方の由緒正しき影使い一族、グッドマン家なんですよ」

あれか、もしかしてあの自己主張の激しい影の仮面が家紋だったりすんのかな……。

「おお、詳しいことは良くわからないスけど名家なのは分かったよ」

「時間があれば実家に招待致しますわ」

「その時は……お世話になります」

「ゲートポートが見えてきましたわ、麻帆良学園の魔法生徒証明証を用意しなさい」

屋根に大穴開いててめっちゃ魔力の柱っぽいのが噴出してんなー。
お、警備の人近づいてきた。

「申し訳ありませんが、これより先、現在立ち入り禁止となっております」

「失礼ですが、これをご覧下さいませ。知人の荷物を引き取りに参りましたわ」

4人でこうやって証明証見せつけるとか何か私に合ってねー。
どこの刑事ドラマよ……。
こりゃテロ事件だけどさ……。
ココネ妙に貫禄あるんだけど身体交代するか?

「こ……これは、少々お待ち下さい。……はい……麻帆良学園関係者、グッドマン家の方です。…………要件は知人の荷物を引取りに来られたという事です。…………はい、了解しました。大変お待たせしました、どうぞゲートポート内にお入り下さい」

スゲーよこの権力的何か!
しかも高音さんの家マジ効果あるな。
高音さんの証明書見た時だけ目がカッ!て開いたもんなー。
お堅いのも分かる気がする……。

「ありがとうございます。それでは失礼しますわ」

「失礼します」

「どうも、失礼します」

腕章付けた職員やらフード被った魔法使いっぽい人達がせわしなく動いてんだけど、テロあったつーのにフードはどうよ?
受付自体は……すぐそこだな。

「あの、一体どういうご用件でしょうか?」

「麻帆良学園生徒、高音・D・グッドマンと申します。近衛近衛門学園長の荷物を引取りに参りましたわ」

「これは失礼しました、先ほど警備から連絡があった方ですね。封印箱を持ってまいりますので少々お待ち下さい」

これで名義がネギ・スプリングフィールドなんてなってたら多分ややこしーことになってただろうな……。

「麻帆良学園って凄いんスね」

「上部組織が本国とは言いましても世界を隔てているだけあってある程度独立していますから」

いちいち意見は聞かなくても自己裁量でおっけーって事か、まあ、時々学園長の無茶ぶりからすると十分ありえるな。

「お待たせいたしました、こちらでお間違いないでしょうか?」

「……はい、間違い有りませんわ」

「それではこちらにご署名をお願い致します」

「分かりましたわ」

「申し訳ありませんが、麻帆良学園関係者証明証の写しを取らせて頂いてもよろしいでしょうか?」

一応その辺は厳重なのね……テロられたけど……。

「ええ、これをお願いしますわ」

「はい、確かにお預かりしました。少々お待ち下さい」

高音さんが書類に魔法世界での署名法で名前書いてる間に、すぐに証明証の写しも取り終わった。

「書類のサイン終わりましたわ」

「ありがとうございます。それでは証明書をお返しします。そしてこちらが封印箱となります。尚、中身が杖刀剣類なので開封する場合には携帯許可を当局で必ず取ってください」

「分かりましたわ。ありがとうございました」

「「「ありがとうございました」」」

本当にあっさりだったなー。
もう少しゴネるかと思ったけど。
実際のところ本人確認とかしてないし後でやっぱ返せとか言われたら面倒だわ……。
しっかし回収できたのは良かったけど、開けられんなこりゃ。
絶対巨大手裏剣出てくんだろ。
邪魔すぎる……。
そんでもってこの後一旦またホテルに戻ってきて、ついでに明後日までの宿泊期間延長もしておいた。
宿移動するのも億劫だしね。

「お姉様、やっぱり開けてみる訳には……」

「愛衣、それはできませんし、まずは後にしなさい」

「愛衣ちゃん、絶対楓の手裏剣とかクナイ入ってるから気持ちはわかるけどただ邪魔なだけだと思うよ」

「あ、そ、そうですね」

「それではネギ先生達にご報告致しましょう」

「ほーい」

《ネギ先生方、杖刀剣類の入った封印箱は回収できましたわ。名義が学園長になっていて助かりました》

《ネギ君の名前とかだったら大変だったよ》

《本当ですか!?ありがとうございます!》

《わー、良かったなぁ》

皆喜んでくれて、アスナだけ反応しなかったけど、多分まだ頑張って寝てんだろうな。

《飛空艇での捜索ですが早くて明日、遅くて明後日から出発致します。桜咲さんから助けるルートと、臨機応変にオスティアを経由してニャンドマ方面に出てアスナさんを、そして南下して桃源に向いネギ先生からお助けする二つのルートで参りたいと思います》

な、なんですとー!?
二手に別れんのかい!
オスティアからニャンドマ行く場合は飛空艇の正規渡航ルート存在しないから大変だわ。
大体ノアキスってめっちゃ広いし、かなり時間喰うな……ネギ君の方がやば気だけど桃源に行ったところで山脈越えて南極に乗り込むのもありえんし。
いや、ネギ君は迂回するかマジで越えないとこっちこれないけどさ……。
小太郎君はヘラス帝国向かうらしいけどアリアドネーからしか手が出んし、許可取るのもなぁ……。
ボスポラスに南下すれば良かったのに。
まあ元々北極は帝国領みたいなもんか。
確かに臨機応変だなこりゃ。
いずれにせよ各都市間で3日前後は毎回かかるから今から最速で回収できる桜咲さんですら4日か5日だな。

《わ、私より先にお嬢様をお願いします!》

《あー桜咲さん、どっち回ってもケフィッススまでは10日以上はかかるから同じなんだよ》

《そ、そ、そうですか……》

《せっちゃん!うちは大丈夫やよ!大分歩いたけど身体強化できとるからもうすぐ小さなオアシス街着きそうなんよ》

このかも逞しくなってんなー。
何その身体強化って……エヴァンジェリンさんとこの修行って都会生活で大して意味なさそうだけどこういう時役立つな……。

《わ、悪い人に騙されないように気をつけてください!》

《せっちゃんもな!》

《……いいかしら、私たちもケルベラス大樹林を抜けるのに後数日はかかるから救出方法は任せるわ。状況次第でうまく動いていきましょう。協力感謝するわ》

《いえ、当然の事です。一刻も早くネギ先生達を救出できるよう努力しますわ》

《高音さん、ありがとうございます》

《ネギ先生も無理はなさらないで下さい》

《ネギ君まだ契約執行してるんだったらそろそろ7時間ぐらいいくでしょ。早めに休んだほうがいいよ、でないとアスナが起きたら怒り出すよ》

7時間契約執行っていくらなんでも長すぎる……。
契約執行25200秒間!!とかやれるなら私も言ってみたいわ。
マスターはココネだけど。

《あはは、そうですね。分かりました、ありがとうございます》

そんでもって大体通信は一旦終わって二手に分かれるのをどうするか決めることになったわけだけど……。

「高音さん、どう二手に分かれるんスか」

「私と愛衣で桜咲さんを回収するルート、春日さんとココネさんでまずはオスティアに向かい状況を見て行動するルートにしましょう。もし何かあれば私が高速艇の渡航許可をなんとかしてとって追いつきますから」

高速艇ってめっちゃ金かかるよなー。
つか魔法世界って進んでるっちゃ進んでるけど地球の飛行機より圧倒的に遅いんだよなー。
何か飛行途中の音もゴゥンゴゥン言うし。
要するに空も日本でいう普通の道路みたいな感じなんだろな。
こっちに地球の飛行機もってきたらほんと数時間で行けるんだけどな……。
私がアスナんとこのルートか。

「高音さん直々にネギ君助けなくていいんスか?」

「春日さん、あなたは正真正銘ネギ先生の生徒でしょう。私は最も確実に助けられる所から回っていきます」

あー、気を回してくれてんスね。

「それに、新オスティアの治安は良いですから春日さんでも大丈夫でしょう」

そういうことね……。
確かに郊外行くと治安が激悪になるのはココネの故郷行った時実感したもんな。

「そういう事ならありがたく西ルート行きます。高音さん、了解しました。あ、でも二手って事はやっぱいつか封印箱開けないとだめッスね」

「いえ、それはやはり携帯許可の問題がありますから今は無理です。春日さんは予備用の杖と箒を余分に持って行きなさい」

「あー、そうすれば確かに大丈夫スね」

杖が無くて困ってんのはネギ君とあとこのかぐらいだもんなー。
アスナはあの高畑先生ができる咸卦法があるからとりあえずはなんとかなるって言ってたしな。
アスナから寝る前に聞いて驚いたのはもし武器が無くてもその辺に落ちてる枝に気を通せば良いだけよって言ってた事だな……。
のどかの場所がまだわからんのはアレだけど……。

「早くても出発までに1日以上は時間がありますから、その準備と情報収集をしておきましょう」

「了解ッス」

「はい、お姉様!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月13日、南極、契約執行から8時間が経過―

まずい……流石にそろそろ契約執行し続けて移動するのも限界だ……。
夕映さんが数時間前にアリアドネーで保護されて無事だっていうのには安心できたけどこっちは油断できない。
高音さんや春日さんが助けに来てくれるみたいだけど数日はかかるらしいから自力で南極圏はなんとしてでも脱出しないと……。
浮遊術を覚えてなかったら崖と崖の切れ目なんかは危なくて迂回するしかなかったかもしれないけど、実際使えて本当に良かった。
一応ミリアさんとの仮契約カードがあるから5km~10kmごとに僕が先に進んで召喚を繰り返すという方法もあるんだろうけど何があるかわからないからそんな事はできない。
茶々丸さんから通信で聞いた話だと、ケルベラスのあちこちには天然の魔力妨害岩があったりするらしいから、もしかしたら南極にもあるかもしれないし、下手なことはできない。
何よりそんな妨害岩があっても通信ができるのは助かる。

……このままだと突然気絶するかもしれないから、そろそろどこかで休まないと……。

「ネギ君、息が速くなっていますが大丈夫ですか。小休止を挟んでいてももう数時間走りっぱなしですよ」

「ミリアさんにもわかるぐらいだとそろそろ危ないかもしれませんね。幸いこのあたりは開けている上、近くに雪崩が起きそうな山も無いですし、カマクラという物を作って休みましょう」

「カマクラ……ですか?」

「僕が旧世界の日本で修行していた時に作った事があるんです。遊びなんかで作ったりもするようですが、今回は風と雪を防ぐ用にちゃんとしたものを作ろうと思います」

マスターの雪山エリアだと崖に穴を開けたりして洞窟にしたこともあるけど、詠唱魔法が使えない今、それは難しい。

「あの、私にも手伝えますか?」

「はい!お願いします」

「お世話になりっぱなしでしたから私頑張りますね」

「ありがとうございます。まず、僕が丁度良い大きさの円形を描きますから、その円の中の雪を足で踏んで圧雪してもらえますか?」

「ふふ、なんだか工作みたいですね」

「楽しんで作ったりするものらしいですし、そういう気持ちで良いと思いますよ。それでは……えーと大きさはこれぐらいで……」

二人の子供用でいいからそこまで大きい必要もないかな。

「はい、こんなもので良いと思います」

「わかりました、しっかり踏み固めますね」

「はい、二人でやればきっとすぐ終わります」

その後にやる雪の積み上げはスコップが無いから大変だけど頑張るしかない。
元々積雪もあるから地下に広げてもいいだろうし、背丈分積み上げなくても大丈夫。
しばらく一緒に足踏みして地固めが終わった。

「次は周りの雪をこの円内に圧雪しながら積み上げてドーム状にしましょう」

「ふー……はい、分かりました」

手で積み上げるものだから1時間も積み上げにかかったけど、契約執行の時間はこれで9時間……急がないと。
のどかさんはまだ遺跡から出てないみたいなんだけど大丈夫かな……。

「ネギ君、後は掘るだけ、ですか?」

「そうです。スコップがあればいいんですけど魔力保護した素手で掘るしかありません。最初は僕が入り口を作るのでミリアさんは少し休憩していて下さい」

「ありがとう……ネギ君」

「任せてください」

アスナさんやコタローみたいに咸卦法ぐらいのポテンシャルがあれば素手でも簡単に掘れるんだけど……。

《ネギ、春日の姉ちゃんも言っとったように大分時間経っとるけど契約執行やら身体は大丈夫なんか?》

コタローからの個人通信かな。

《うん……そろそろギリギリだから今カマクラ作ってる所だよ》

《おお、役に立ったな。俺は丁度ええ洞窟見つけたで》

《明日は僕も洞窟見つけられるといいな……。コタローはどれぐらい進んだ?》

《百数十km以上は行ったで。俺半分狗族やから元々寒さには結構強いしな。密度薄い分身出してルート探索もできるで》

《あ、そうか、分身あったんだった!》

僕は大体100kmがいいとこだな。
大きな街まで残り1900km……。
途中でどこかに村があるのを期待するしか無い。

《ネギの場合は魔力無駄遣いする訳にはいかんやろ。さっきギリギリ言うてたやないか》

《そ、そうだね……》

《助けたっちゅう姉ちゃんの事優先して共倒れせんように気をつけや》

《うん、ありがとう、コタロー》

《極地同士頑張ろうや》

《境遇同じだね》

《ネギには咸卦法無いし、姉ちゃんもおるから大変やろうけど、いつでも連絡するんやで》

《分かってるよ》

《しっかし、ネギの新術完成しとれば良かったのにな》

《あはは、新術っていうには夢みたいなものだから実際できるかどうかも怪しいよ》

《俺はできるんやないかと思っとるで。ま、そこでじっくり修行する訳にもいかんやろ。ほな、また後でな》

《うん、また後で》

「ミリアさん、ちょっと狭いですけど中も一緒に掘れるようになったので良かったらどうぞ」

「はい、休ませてくれてありがとうございました、ネギ君」

「もう後は掘るだけで寝床が確保できますから頑張りましょう」

「はいっ!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月13日、14時頃、ノクティス・ラビリントゥス地方、某遺跡内地下階層―

一体どうなってるのかな……。
遺跡の中は地下みたいで真っ暗だけど端末の光がライト替わりになるから足元は見える。
図書館島で日常的に罠を発見してたから、もうこの数時間でいくつも回避できているけど……あまり進めてないみたい……。
階段があったと思っても地上まで続く階段が無いから1階1階慎重に進まないと。
ネギ先生達も頑張ってるんだし、私も頑張ろう!

あっ……私以外の足音が聞こえる。
一人……二人……それ以上いるの……かな。
怖い人達だったらどうしよう……。

『ねえ、クリス、罠発見したのに何でまたわざわざ作動させちゃうのよ!』

『悪い悪い、まあただの矢だったし気にしないでさ』

『もっと罠探知能力の高い奴がいると助かるんだがな……』

『同感……』

『えー酷いよ、三人とも!』

女の人の声が聞こえる。
それに罠がどうって言ってる……。
……うん、ここで一人でいても心細いだけだし会ってみよう!
多分通路を左に曲がったところ……。

『おい、何か足音がするぞ。気をつけろよ』

『りょうかーい』

『遺跡に隠れてる魔物かしら』

ま、魔物じゃないです……。

「あの!私魔物じゃありません!助けてください!」

勇気をだして大きな声で叫んだ。

『うおっ、女の子の声じゃないか?』

『こんな所に女の子が一人でいるなんてありえないでしょ』

『でも今声が聞こえたのは間違いないんじゃないかなー』

『近いぞ』

もうすぐそこの角。

「灯りが見えるわ。って……ほんとに女の子いるわよ」

「おぉ……」

「ホントだ」

4人……耳が人間と違う人がいる……もしかして小太郎君みたいな人達なの……かな。

「あ、あ……あの……その」

き、緊張して声がうまく出ないよ……。

「嬢ちゃん、どうしてこんな所に一人でいるんだ、探険にしちゃ危ないだろ」

「クレイグ、さっきこの子助けてって言ってたじゃん」

「落ち着いて。私はアイシャ。アイシャ・コリエルよ。あなたの名前は?」

あ、アイシャさん……。

「私、私は宮崎のどか……です」

「ノドカね。一つずつ聞いていいかしら。ノドカはどうしてここに?」

「は……はい。ゲートポートで魔法世界に来た時に強制転移魔法っていうらしいものでここに飛ばされてしまったみたいなんです」

「おいおい、嬢ちゃんそれは本当かよ。さっき朝、街中のニュースでやってたアレか?」

春日さんがニュースになってるって言ってたけどもう伝わってるんだ……。
さっき朝なら今は昼ぐらい……かな。

「あの事件本当だったんだ……。人がいなくなったっていうから消されたんじゃなくて飛ばされてたんだねぇ。ノドカちゃんここにどれくらいいたの?」

「えっと……9時間ぐらいだと思います」

「9時間!?ノドカ、そんな長い間こんな所に一人でいたの!?怪我は?」

「怪我はありません、大丈夫です」

「もしかしてここにずっといた?罠があるから迂闊に動くと危ないし」

「5階ぐらいは……上がってきました」

しばらくは気を紛らわせるためにこのか達と話してたから時間を潰してたけど……。

「ええ!?下から!?罠は?」

「私罠を見つけるのは得意なので……」

「嬢ちゃんそりゃ凄いな。で、お前達どうする。一旦地上に出るか?」

「そうね、ノドカをこのまままた奥に連れていく訳にもいかないし……。私は今日の遺跡探索は中止でいいわよ」

「僕もいいよ」

「私も構わない」

「なら決まりだな。嬢ちゃん、地上まで送って行ってやるよ」

「あ、ありがとうございます!見ず知らずなのに助けていただいて……」

「ノドカ、当たり前よ。女の子一人残して置いていけないでしょ」

「そうだぜ、それに嬢ちゃんが最初に助けてくれっていったんじゃねぇか」

優しい人達で良かった……。

「うっ……うっ……」

「おいおい、泣かれると困るぜ」

「クレイグ、一人でノドカちゃんずっといたんだから心細かったんだよ」

「さあ、ほら、ノドカ、地上に戻りましょう!」

「うぅ……はい、ありがとうございます」

はぁ……良かった。
落ち着いたらちゃんとネギ先生達に連絡しよう。
地上に出るのにはそんなに時間はかからなかったから、結構上の階まで上がってこれてたみたい。
太陽はもう下がり始めてるから午後……かなぁ。
元気な女の人がアイシャさん、もう一人無口な女の人がリンさん、大剣持っている男の人がクレイグさん、短剣を持ってる明るい人がクリスティンさん。

「地上まで連れてきてくれてありがとうございます!」

「いいってことよ」

「それじゃあ、一度街に戻りましょ」

「よーし、街に戻ろー!」

「戻る……」

「あの、ここってどのあたりなんでしょうか?」

「ノクティス・ラビリントゥスって所よ。このあたりは遺跡が沢山あるから私達みたいなトレジャーハンターの稼ぎ場所なのよ」

トレジャーハンター……。
本当に夢の話みたい……。

「あー、嬢ちゃんどこのゲートポートから飛ばされたんだ?」

「メガロメセンブリアっていう所です」

「それは一番最初に被害にあったゲートだねぇ」

「首都か……大分離れてんな……」

「あの、具体的にどれくらい離れているか教えてもらえませんか?」

「ノドカ、聞きたいことあるならなんでも遠慮せず言いなよ。ここはそうね、ノクティス・ラビリントゥスでも北部だから4000km以上は離れてるわ」

よ……4000km……。

「そ、そんなに……」

「ノドカちゃんはメガロメセンブリアに戻りたいの?」

「えっと……それが一緒に来た皆もあちこちに飛ばされてしまったので特に集合場所も決まってないんです……。一応メガロメセンブリアにも知り合いはいるんですけど」

「皆って事は団体で来たのか?」

「はい、あと11人います」

「連絡先は無いの?」

「それは……皆とはこの端末同士でやりとりできるんです」

「あ、それさっきノドカが灯りにしてた奴ね。でも通信できるって事はそんなに離れてないんじゃないの?」

「いえ、私にもどうして離れていても通信できるのかはわからないんですけど、これは私のクラスメイトの人から貰ったものなんです。飛ばされた皆の場所で分かっている所だと、ケルベラス大樹林に3人、南極、北極、セブレイニア大陸の砂漠、テンペテルラの砂漠、タルシス山脈、ノアキス地方、アリアドネー、あと一人は行方不明なんです」

「……そりゃあ本当か……」

「ちょっとちょっと、ケルベラス大樹林なんて絶望的じゃない」

「そ、そうなんですか!?」

「魔法は使えなかったりする上に出るのは魔獣に竜種だろ……。今の中でまともなのはアリアドネーだけだな。一体そんなにバラバラにする強制転移呪文なんてどこのどいつがやったんだ」

「ノドカちゃん、端末同士やりとりって事はもしかして写真なんてある?」

「あ、はい……。えっと……これがケルベラス大樹林を崖から見渡した景色、写ってるのが一緒に来た人で、次が私の先生の南極の写真、その次が砂漠の写真、タルシス山脈の朝日を撮った写真だそうです」

「うわっ、これほんとに本物だよ!」

「確かにこのアングル……資料映像じゃないわね」

「こりゃ酷ぇな……。嬢ちゃん、このあたりは飛空艇飛んでないんだがどうする?」

飛んで無い地域ってあるんだ……。

「できれば、クレイグさん達一緒に通信に参加してもらえませんか?」

「そりゃいいが……どうすりゃいいんだ?」

「これに手を当ててもらえればできます。声に出してもいいですけど、心で念じるだけで大丈夫です」

「それじゃ、手置くわね」

「ノドカちゃん、僕も置くね」

「なんだか、円陣組むみたいだな」

「私も……」

「ありがとうございます。始めます」

《ネギ先生、ドネットさん、私の居場所がわかりました》

《の……のどかさん、地上に出れたんですか?》

ネギ先生疲れてるみたい……。
クレイグさん達は声が聞こえてことに驚いてるけどじっとしてくれてる。

《のどかさん、ドネットさんに今繋ぐので少しお待ちください》

《のどか殿、場所がわかって良かったでござるな》

《のどかさん、良かったです》

《これで後はアーニャだけアルね》

《おおっ、のどか場所分かったんだ。メガロに近い?》

《はい、遺跡の中でトレジャーハンターの方に助けて貰いました。場所はノクティス・ラビリントゥスという所で4000km以上は離れているそうです》

《うはー、遺跡地帯か、そりゃまた飛空艇飛んでないねぇ……》

《のどかさん?場所はノクティス・ラビリントゥスだそうだけどそのトレジャーハンターの方達はどうしてるのかしら?》

《あ、今会話聞いてて貰ってたんですけど、クレイグさんお願いします》

《あぁ、この機械驚いたな。悪い、俺はクレイグ・コールドウェル、トレジャーハンターをやっているもんだ》

《私はアイシャ・コリエルよ》

《僕はクリスティン・ダンチェッカーさ》

《私はリン・ガランド》

《僕はネギ・スプリングフィールドです。クレイグさん、アイシャさん、クリスティンさん、リンさん、のどかさんを助けて下さりありがとうございます!》

《のどか姉ちゃん良かったな!》

《のどか、助かって良かったえ》

《おう……そりゃ何よりだ。んで俺たち嬢ちゃんをさっき遺跡で見つけてこうしているんだがどうする?メガロまで連れて行ってもいいが時間かかるぜ》

《私はドネット・マクギネスよ。のどかさんを助けてくれてありがとう。クレイグさんがリーダーで良いのかしら。ノクティス・ラビリントゥスからだと徒歩で10日以上はかかるでしょうし私達もまだ動きが取れないのだけれど、のどかさんを任せても良いかしら?》

《あ、あの、その話なんですけど、クレイグさん、私クレイグさん達と一緒にしばらく居てもいいですか?》

《の、のどかさん?》

《嬢ちゃんそれはどういう事だ?》

《私、罠は発見できますし、少しなら魔法も使えます、ただ送ってもらうだけでは悪いですし協力したいんです。ネギ先生達が頑張っているなら私もって……》

《ノドカ、それ本気なの?遺跡って危ないのよ?》

《でもノドカちゃんあの遺跡を下から上がってきたって事は相当罠見つける能力高いよね》

《嬢ちゃんはこう言ってるんだが……どうするよ》

《僕は遺跡の探索には賛成できないんですが……》

《うちものどかの事心配やけど、のどかなら図書館探検部でうちらとぎょうさん罠は見つけてきたからきっと大丈夫や。それにクレイグはん達は凄く良い人や》

このか……。

《おいおい、会ってもないのにそんなに信用されても困るぜ》

《信じられるえ。クレイグはんさっき聞いてもないのにのどかを連れて行っても良いって言ったやん。それで十分やよ!》

《お、お嬢様……》

《こ、このかさん……。そうです……ね……のどかさんの実力なら魔獣が出るような危険な場所でない限りは大丈夫だと思います。僕は南極にいる限り今からのどかさんの元にすぐ行って止めることもできません。最終的に決めるのはのどかさんの意志次第です……どうしますか?》

《ネギ先生……私、頑張ります。絶対に皆の元にも合流すると約束します。……だけど、それまではクレイグさん達といさせて下さい。お願いします》

《……分かりました。クレイグさん、のどかさんをお願いできますか?》

《はぁ……あんたら凄いな。南極やら樹林やらにいるっていうのに……。ああ、こうなりゃ乗りかかった船だ、俺は嬢ちゃんが危険な目に会わないように面倒みるぜ》

《私もよ》

《僕も》

《私もだ》

《クレイグさん、アイシャさん、クリスティンさん、リンさん……》

《……ネギ先生がそういうなら私が出る幕ではないわね。クレイグさん達、私からもお願いするわ。具体的にどうするかはまた定期的に連絡を取合えばいいでしょう》

《ああ、分かったぜ。そういうことなら嬢ちゃんは任せな。あんた達も無事に街までたどり着けるよう祈ってるぜ》

……こうして私はクレイグさん達とトレジャーハントの手伝いをしながら状況を見て動くことになったのでした。

「ねぇノドカ、さっき勢いで忘れてたけど男の子を先生って呼んでたり、男の子もネギ・スプリングフィールドって名乗ってたけれど……」

「それ僕も気になったよ、スプリングフィールドって言ったらあのナギ・スプリングフィールドが思いつくけどさ」

な、ナギさんってネギ先生のお父さん……。

「あの英雄な」

「え、英雄……?あの、クレイグさん達はナギ・スプリングフィールドさんを知ってるんですか?」

「そりゃあ、この世界で知らない奴はいねぇよ。もしいたらモグリだな」

ゆ、有名人だったんだ……。
あ……夕映の時は話さないように言っていたから言わないほうがいいんだよね……。
でも……このかも言ってたけどクレイグさん達は良い人達だと思う……。

「そう……なんですか。あの、実はネギ先生は私達とナギ・スプリングフィールドさんを探しにこっちへ来たんです」

「探しにって……じゃあまさか!」

「おいおい、そりゃ驚くってもんじゃ無ぇぞ。凄ぇ事だが……当の本人はそれどころじゃねぇか……」

「ノドカちゃん今こっちって言ったけどやっぱりゲートポート使ってたって事は旧世界から来たの?」

「は、はい、そうです」

「そうじゃないかとは思ってたけど本当に旧世界人だったのね。それなのにいきなり皆あちこち飛ばされちゃったのね……。偶然にしては……できすぎてるんじゃないかしら。何か……誰かの悪意を感じるわね」

「断言はできねぇが、俺もそう思うぜ。嬢ちゃん、俺たちを丸っ切り信じろとは言わねぇが任せとけ。一緒にいる間は守ってやる」

「アイシャさん、クレイグさん……ありがとうございます……」

「ノドカちゃん、僕も結構強いから任せといて」

「ノドカ、私も」

「クリスさん、リンさん、ありがとうございます」

「流石に南極まで嬢ちゃんの先生を助けに行くことはできねぇが我慢してくれよ」

「いえ、そこまでは……それにネギ先生ならきっと南極を抜けられると思います」

「そうか、信じてんだな」

「は、はいっ……」

「ところでノドカ、さっき魔法使えるって言ってたけど、どれぐらいできるの?」

「あ、えっと、基本魔法は全部使えます。だから罠の解除も少しぐらい離れたところでもできます。身体強化もできるのでいざとなったら走るのも大丈夫です。あと箒があったら遅いですけど飛ぶこともできます」

「ノドカちゃん、その年でそれは凄いよー」

「はー、ノドカの先生が言ってたのは本当だったのね。いいわ、後で私の予備の杖と箒も出してあげる」

「こりゃきっと罠の発見もクリスよりうめぇな」

「ちょっとクレイグ、それ酷いよー」

「そういうのはまず自分でわざわざ発動させたりするのをやめてからにしろよ。嬢ちゃんでそれなら他の仲間はもっと凄いのか?」

「えっといくつか挙げると、虚空瞬動、浮遊術、分身、咸卦法なんかだと思います」

「なんだぁそりゃ……だからケルベラス大樹林にいても割と落ち着いてられんのか。咸卦法なんて伝説だと思ってたぜ……」

そ、そんなに凄いんだ……。
アスナさんと小太郎君もできてたんだけど……。

「虚空瞬動なんて僕うまくできないんだけどなー!」

「クリスが遺跡で虚空瞬動なんてしたら遺跡が崩れるからやめとけ」

「えー!僕さっきから扱い悪いよ?」

うん……クレイグさん達ならきっと大丈夫。
しばらくの間……私も頑張ろう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―時は数時間遡り8月12日、17時頃、ヘラス帝国首都ヘラス、城内某所―

な、な、一体ここどこよ!
コタロを追いかけて外に出ようとしたらいきなりここに飛ばされたと思ったら、なんなのよ!
どこか建物の部屋みたいだけど凄く豪華……一体どこに来ちゃったのかしら。
ネギ達とメガロメセンブリアに着いたと途端はぐれちゃうし散々だわ!
まずはドアから外に……。
あれ、捻ってないのに勝手にあい……?

「お?なんじゃ、そなた、どうやってここに潜り込んだのじゃ?」

あ、あ、頭に角が生えてるわ!
あ、あれよ、おじーちゃんに聞いたことあるわ、きっとヘラス帝国の人ね!
どうしよう!

「わ、わわわ、私はその!」

「暗殺者にしては間抜けじゃし……」

暗殺者!?

「ふむ、迷子か」

「そう、迷子です!ってちが!違くないです……」

「姫様!一体どうされまし……曲者!?姫様、危険です!お下がりください!」

「良い、ぬしの目は節穴か。ただの娘子ではないか」

「し、しかし!」

「頑固じゃのう、妾が良いと言っておろう。そこにおれ。娘子よ、妾はテオドラ、ヘラス帝国第三皇女じゃ。そなた名は何ともうす?」

「こ、皇女様!?わ、わ、私は、あ、アンにゃ・ユーリエウにゃ・ココろわぁです」

「何じゃ、緊張してうまく言えとらんな、まあよい、アンにゃ・ユーリエウにゃ……アーニャで良いか」

え!?なんで私の愛称が分かるの?

「アーニャよ、そなたどうしてここにおったか説明できるか?まずは落ち着くのじゃ。ほら、ユリア、茶を持ってこい」

「ひ、姫様!?良いのですか?」

「何じゃ、どこかこのアーニャに不審なところは……不審じゃが……危険ではなかろう」

不審よね……。

「はぁ……分かりました。只今お持ち致します」

「ほれ、アーニャ、そこの椅子に座ったらどうじゃ?」

「は、はい!ありがとうございましゅ」

「噛んどるの……」

はぁ……はぁ……落ち着くのよ私!
顔を叩いて気をしっかりもちなさい!
いたっ!

「アーニャ、いきなり顔を叩いては……見事に赤く腫れたの。はっはっは傑作じゃ!」

「ふぅ……はぁ……。皇女様、私がどうしてここにいるかですが、メガロメセンブリアのゲートポートに着いた途端すぐにここにいたのでどうしてかは良く分かりません……」

「ゲートポートのう。となると、アーニャは旧世界から一人で来たのか?」

「いえ……ネギ達と…えっと…私含めて12人で来ました」

「ふぅむ……ならば12人とも全員どこかに散らばった可能性がありそうじゃな。アーニャがここに来たのも何かの縁じゃ。丁度妾も暇じゃったから良い。残りの者達の顔が分かるようなものはあるか?」

写真……えっとネギ達が修学旅行に来て一緒に撮った時のなら……。

「こ、これです」

「む?どうも人数が多いが……アーニャ、アーニャの隣におるこの赤毛の子供の名は何という?」

「それがネギです、ネギ・スプリングフィールド」

「スプリングフィールドじゃと!?ま……まさかナギの子供か?」

「は、はい……それが何か?」

「アーニャ、良くここへ来たの!これは面白くなってきたわ……」

な、なんでいきなり頭を撫でられるの!?

「ひ、姫様!はしたないですよ!」

「ここは妾の部屋じゃ。ユリア、それより茶を」

「……分かりました。お待ちください」

「アーニャ、それ以外の者でこの写真に写っておる者を名前と一緒に上げてみよ」

「は、はい。カグラザカアスナ、コノエコノカ、サクラザキセツナ、ナガセカエデ、クーフェイ、ミヤザキノドカ、アヤセユエ、カラクリチャチャマルそれとここの端に写っているドネット・マクギネスさん、あともう一人イヌガミコタロっていうネギと同じぐらいの犬耳のついてる男の子がいます」

「ふむふむ、アスナに近衛か……良いぞ。後でこの写真コピーさせてもらってもよいか?」

「か、か、構いません!」

「よし、後でまた名前も照合させてもらうとしよう」

「あ、あの、ネギ達の事探してくれるんですか?」

「ヘラス帝国領内じゃがの。アーニャがおるという事はまだ他にもおるかもしれんじゃろ。アーニャ、仲間が見つかるまでしばらくここにいてよいぞ」

「え?そ、そんな滅相もありません!」

「いや何じゃ、アーニャは見たところこのネギの幼なじみなのじゃろう?」

「は、はい」

「ならば妾にネギの話をしてくれれば良い。それが宿泊料じゃ」

「え!」

「姫様!」

「ユリア、お主もナギの息子の話を聞きたくはないのか?」

「ぐっ……そ、それは……」

「くっくっく……さすがのお主もこの誘惑には勝てぬようじゃの。はっはっは、良い弱点を見つけた!」

「ひ、姫様!」

「アーニャ、まずは茶を飲むと良い。それからゆっくり話してもらえるか?」

「は……はい、分かりました」

皇女様が探してくれるなら……きっと無闇に私が探しに行くよりうまく見つかるわ。
それに皇女様はネギのお父さんの事を知ってるみたいだし、きっと良い情報がつかめる筈よ。
一時はどうなることかと思ったけどなんとかなりそうだわ!



[21907] 44話 それぞれの地にて・前編(魔法世界編4)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/01/21 16:48
―8月13日、南極、契約執行から10時間が経過―

のどかさんも無事場所が分かって良かった……。
トレジャーハンターの人達と一緒に遺跡を探索するって言い出した時には驚いたけど、助けてくれた事に対して恩返しをしたいっていうのはのどかさんらしい。
クレイグさん達も、このかさんが言うとおり良い人達そうだしきっと大丈夫。
このかさんは何とか一つ目のオアシス街についてうまく冒険者がいるところの宿屋で交渉して泊めてもらえたみたい。
杖で治癒魔法が使えるだけあって、危険はあるかもしれないけど、実演したらなんとかなったんだって。
くーふぇさんはタルシス山脈に何故か丁度建物があったらしくて少し早いけどそこに今日は泊まることにしたらしい。
マスターの所で修行してた時からそうだったけどくーふぇさんは崖で先に足場がなくて降りるのが危険な場合、自分の足場を寸勁で破壊して、壊れた瓦礫をそれぞれ伝って瞬動を繰り返して降りたりするから凄い高低差があるのにやっぱり100km以上は進んだみたい。
刹那さんも同じぐらい進んでるみたいだけどまだ昼頃らしいから頑張って進むって言ってた。
楓さんは茶々丸さんとドネットさんとも合流できたみたいで今は真夜中らしいから丁度良い洞窟もあったからもうすぐ寝るって話だった。
あとはアーニャだけだけど今頃どうしてるかな……。
早く無事を確かめたいけど、僕ももう10時間目にして契約執行は限界。
かまくらの穴も掘り終わって今日はもう休んでいる。
分厚くないけど一応身体にかけられるものもあって良かった。
食料は……あと携帯食料が2日分……どこかで採集しないと駄目だな……。

「ミリアさん、大丈夫ですか?」

「はい、私はネギ君の背中にずっといただけですから大丈夫ですよ」

「良かったです……。すいません、僕そろそろ限界みたいなので契約執行続けられないかもしれません。一応それなりの温度があるから寝ても大丈夫だとは思います」

「ネギ君、ありがとう。もっと近づいてもいいですか?」

「え?ど、どうしてですか?」

「それは……かまくらの中がそんなに寒くないとは言っても人肌の方がやっぱり温かいですから。ずっと契約執行し続けてくれましたから寝るときぐらい私が温めます」

「そ……そんな、あの」

「ネギ君、これでも私何歳だと思っているんですか。大人なんですよ。子供なら、それもネギ君のような子なら尚更、たまには私のような大人にも頼ってください」

そう言ってミリアさん……身体は年齢詐称薬で僕より少し小さいぐらいになっているけど背中に抱きついてきた。

「あ……温かいです。ミリアさん、ありがとうございます。僕、少し眠りますね」

「はい、ゆっくり休んでください」

《皆さん、僕今から寝ます。アスナさんが起きたらちゃんと休んでますって伝えてもらえると助かります》

《ネギ先生、それは私がやりますので任せて下さい》

《ありがとうございます、刹那さん》

…………う……ん……疲れた……な。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月13日、5時頃、ヘラス帝国領、ノアキス地方山林―

ふぁー、よく寝たわ。
ちょっと早いかもしれないけど、少し空が白みがかっているしちょっと立てばもう朝ね。

《起きてる皆おはよう、アスナよ》

《アスナさんおはようございます》

《アスナおはようアル》

《アスナさん、おはようございます》

《ア……スナさん、こんばんはで……おはようです》

《アスナ起きたかー、おはよ!》

《刹那さん、くーふぇ、のどかちゃん、夕映ちゃん、美空ちゃんおはよう。ネギは……寝てる?》

記憶飛んじゃってるらしいけど夕映ちゃんの所は丁度夜頃なのね。

《ネギ先生は丁度1時間前程に休んだそうです》

《ネギ君マジ凄いわ、契約執行10時間って異常すぎ》

《え!?あの子10時間もやってたの!?全くもう!》

《まあまあ、お陰でミリアさんって人は全くの無事らしいしさ》

《それはそうだけど……》

《そんでもってアスナ、私早くて4日後にはオスティアってとこに行くんだけど多分間に合わないよなー……》

《オスティア……?》

《そう、まあオスティア着いたからっていってもアスナいるとこに一番近いメセンブリーナの街のニャンドマまで行っても、個人チャーターの飛空艇か何かで1日ぐらいだからそれなりに遠いんだけどね。つかやっぱそこ確実に帝国領だよ》

《帝国って……コタロが向かうって言ってた所?》

《そうそう。アスナが国境をヘラス帝国国境警備隊に見つからずメセンブリーナ側に越えられれば良いんだけどさ……っても下手に無理やり抜けるとお尋ね者になるから気を付けないと駄目だよ》

《えー、美空ちゃん、どうすればいいのよ!》

《説明しよう!と言ってもまあ私も出発まで時間があって暇だからネット使って調べてるだけなんだけどさ。そんで、超単純に距離に換算して2000kmぐらい東に移動すればメセンブリーナのニャンドマ、西に同じぐらいで帝国領首都ヘラスがあるけど、くーちゃんや桜咲さんで一日150kmがいいとこらしいからどっちも10日はかかる。ぶっちゃけ私は一応オスティア経由してネギ君目指して行く桃源、盧遮那に行くルートなもんで、遅くても5日後にはオスティアを後にするから、アスナがヘラス帝国側に進んだ方が小太郎君とも会えるかもしれないし、悪手ではないと思うよ。まあドネットさんに相談した方がいいかもしれないけど……》

ネギより私を優先するとネギを助けるのに余計に時間がかかっちゃうって事ね……。

《つまり、国境を越える危険な真似をするか越えずにそのまま西に進んでヘラス帝国を目指した方が良いってこと?》

私昨日いきなり山奥で日が沈んじゃっててかなり長いこと寝てたからまだ殆ど移動してないのよね。

《そういう事だね。ヘラスまで着いて、そのままなんとかして飛空艇に乗れればゆえ吉のアリアドネーまで行けるよ。不法入国でも勉強しまッス!って言えば大丈夫だから》

《ねぇ……美空ちゃんそれ私にわざと言ってる?》

《いや……まぁ……細かいことは気にすんな!》

《気にするわよ!》

《アスナ、気にしないほうがいいアル!》

《くーふぇまで!》

《アリアドネーならば受け入れると思うですよ。記憶喪失の私でもすぐに受け入れてくれたですから》

《夕映ちゃん……まともな事言ってくれるのは夕映ちゃんだけよ!ありがとう!》

《アスナ!私真面目な話してたろ!》

《い……いえ、私は当然の事をしただけです……》

《ゆえのそういう性格的な所は変わってないんだね》

《のどか……そうなのでしょうか?》

《夕映ちゃん語尾にですが付くのは今まで通りよ》

《そうなのです……ですか。本当ですね》

《ふふふ……》

《きっとすぐ記憶も戻るわよ》

《そうだと良いです》

《あ、それで私は結局どっちに進めばいいのよ。何か見た感じヘラス遠くない?》

《アスナ、それメルカトル図法って地図だから極地側に近い所は縦に長くなってるんだけど実際はそんなに遠くないんだよ。ネギ君と小太郎君も心射方位図法の地図使ってるらしいからそっちの方が分かりやすいね。それにニャンドマの方は頑張って出てきても結局メセンブリーナの辺境も辺境の片田舎だし、どちらかっていうと近づけば近づくほど首都に近くなる帝国のほうが良いんじゃないかな?》

《うーん、コタロ一人だけ帝国向かうっていうのも心細いだろうし……それでいいかなぁ……》

《多分でかい湖が3つぐらいあったりするからそれも目印になるよ。渡し船もあるからなんとか乗せてもらえればすぐ着くだろうし》

《いいわ、美空ちゃんを私信じるわよ!》

《お、おう!信じてみろ!》

《それで、途中で帝国の人に会ったらどうすればいいの?》

《挨拶すればいいんじゃ?もし警邏の人いるなら一度不法入国扱いでも首都に護送してもらった方が徒歩より早く着くだろうし身の安全は取れると思うよ。多分小太郎君もそうなるだろうし。つかアスナ達皆不法入国扱いなんだけどさ……》

《私達のせいじゃないわよー!》

《分かってるよ。とにかく、アスナ、下手に逃げたり、人を攻撃したりすんのはやめなよ》

《私そんなに乱暴じゃないわよ》

《いやいやいや、咸卦法なんてのできる時点で次元が違うからさ。自分は大丈夫と思ってちょっと力入れたら予想以上に相手の人吹っ飛んだりするよ?》

《そ……それはなんとなくわかるわ……》

《あー、あれか、まほら武道会の雪広のエージェント吹き飛ばしてた時の事か?》

《そうそう……って美空ちゃんまほら武道会の時いたっけ!?》

《いやー、超りんから映像だけ見れる用の端末貰ってたからそれで》

《超さんかー。超さんも一緒に来てくれたら今頃凄い発明で皆すぐ集まってそうなのにね……》

《超りんだと……地球の時速数百キロが余裕で出るような飛行機作っちゃいそうだからな……下手するとロケットとか……》

《そうよ!どうして魔法世界の乗り物って空飛んでる……まだ見てないけど、そんなに遅いのよ!》

《それはエンジンに地球のガソリンとかじゃなくて祈祷精霊エンジンっての使ってるからだと思うよ。私も気になって調べたし。何でこんなに遅いのかと》

《何よその祈祷精霊エンジンって……祈りながら運転するの?》

《んにゃ、そりゃ無いわ。下位から良くても中位精霊っていう割とどこにでもいる精霊を利用してる汎用エンジンだからもともと最大でそこそこは出ても地球の科学のような際限のない馬鹿みたいな出力は得られ無いらしいんだよ》

《へー、やっぱり全然違う世界なのね》

《まーそういうこったな。貨幣価値もおかしいし》

《私一銭も持ってないわよ……》

《春日さん、私もです……》

《美空、私もアル》

《うわー、マジかー。ってそりゃそうだよな……。入国する前にそれじゃーな。日本円160円が1ドラクマ相当なんだけど、この1ドラクマは大体日本人の感覚で1600円なんだわ》

《何よそれ!10倍も差があるじゃない》

《そういうことー。まあこっちで稼いでもあっちに戻ったら10分の1になっちゃうって訳だな》

《働く気が無くなるわね……。まぁいいわ、私そろそろ出発するわね》

《気をつけてね、アスナ》

《大丈夫よ、いざとなったら咸卦法使って斬空掌で戦うから》

近づかれる前に気弾で倒してやるわ!

《そういう喧嘩っ早いのも含めて気をつけてね……》

《アスナさん、ガラの悪い人を見かけても不用意に咸卦法で斬空掌使うのはやめたほうがいいですよ》

《せ、刹那さんまで……。分かったわ、危険な動物追い払うぐらいにしか使わないわよ》

《危険な動物っても竜種は見たら攻撃せず速攻逃げなよ》

《え?この辺竜なんて出るの?》

《その辺は一定のテリトリーに竜種いるっぽいよ。何でもニャンドマの方は今黒いのと青い竜がいるらしいからやっぱ近づかないほうがいいかも》

《あー、うん、決めたわ、私ヘラス帝国行くわ。それじゃあ出発よ!》

《行ってらー!》

《アスナさん、お気をつけて》

《アスナ、気をつけるアル》

《アスナさん気をつけてです》

《アスナさん、気をつけてください》

《皆ありがと!右腕に気、左腕に魔力……合成!!》

―咸卦法!!―

よーし、頑張って湖目指すわよー!
私走るのは前から速かったけど咸卦法を使えば一気に進めるわ!
木にぶつかりそうになっても瞬動で切り返せばいいだけだし!
もし当たっても痛くないし、全然行けるわ!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月13日16時頃、メガロメセンブリア―

アスナがヘラスに移動し始めてから6時間ぐらい経過した。
何か別にニャンドマに行っても良かったんじゃない?って速度で進んでるっぽい気がするけど気にしたら負けだな……。
出発する瞬間に明らかに咸卦法使ってたから山の中でもかなり速い自転車ぐらいの速度は出てそうだよな……。
走ってただけで偶然いた通りすがりの人を轢いたりしないか心配だわ……。
んでくーちゃんとゆえ吉は寝てるけど丁度皆起きてきた。
ネギ君、小太郎君、楓達とこのかね。

《おはようございます、皆さん》

《あ!ネギ!おはよう!》

《よう、アスナ姉ちゃん、俺も起きたで!》

《ネギ先生、小太郎君、お、おはようございます……》

のどかはネギ君無事起きて一安心ってとこか。
トレジャーハンターやるって言い出したときは驚いたけどネギ君達はもう何か普通の常識じゃ図れんから私が口出す領分でもないけど。
周りにいんのがマジもんのトレジャーハンターなら大丈夫だろ……多分。

《ネギ坊主、コタローおはようでござる》

《ネギ先生、小太郎さん、おはようございます》

《ネギ君、小太郎君おはよう》

《皆おはようさん~》

《皆さん、お嬢様、おはようございます》

桜咲さんはそろそろ丁度砂漠でどうにかして寝る感じらしい。
呪符があるお陰で結界は張れるんだとさ。
便利だよなぁ。

《ネギ君達おはよう。アスナ、移動先の事について話しとかないと》

《そうね》

《アスナさんどうかしたんですか?》

《私もヘラス帝国の首都に向かってるからそれを伝えようと思って》

《何や、アスナ姉ちゃんも俺と同じ所なんか》

《それを勧めたのは……?》

《あー私です、ドネットさん》

《春日さんね。理由は国境越えがあまり良くないからかしら?》

《そうですね。後は私が飛空艇でオスティアまで飛んでもその時には合流は間に合いそうにないからって事だったんですけど、どうも今アスナ相当速い速度で走ってるからどっちでも良かったかもしれないんですよね……》

《速いって言うほどじゃないと思うわよ》

《時速30kmぐらいは出てるんじゃないの?》

《うーん、時速なんて言われてもよくわからないわ。あ、咸卦法切れそう。右腕に気、左腕に魔力……合成!!》

だめだこりゃ……。

《あはは……さすがアスナさんですね》

《そう……もう進んでいるなら仕方ないわね。確かに国境越えと不法入国二つだったら不法入国だけの方がいいわ。小太郎君とも合流できるかもしれないでしょうし。このままうまく集まるなら今のところアリアドネーがいいかもしれないわね》

強力な武装中立国だし、ゆえ吉もいるしな。

《ドネットさん、分かりました。私ヘラス帝国にこのまま進みます。ネギ!美空ちゃんがネギの方にすぐ行ってくれるから無理するんじゃないわよ!》

《え……アスナさん、もしかして僕のためにヘラスに向かうんですか……?》

《あんたは自分の事だけ心配してればいいの!分かった!?》

《……は、はい……》

あー、まあそういう意図も無かったというと嘘になるけど、実際アスナが国境で捕まったり、ニャンドマに出たとしても迎えに行くのにオスティアから北上しないといけなくなるから時間かかるのは事実なんだよな……。

《よっしゃ、そんならアスナ姉ちゃん俺とヘラスで合流や!》

小太郎君とヘラス盆地最端までの距離は元々1700km強ぐらいだったらしいし昨日それなりに進んだっぽいから距離的には今だけに限定すればアスナよか近い距離のところに到着してるだろうな。
それに首都がヘラスなもんだから少し離れた所にも街やら村やらある筈だしネギ君よかやっぱ環境はいいわな。
超巨大盆地にこれまた大きな湖がいくつもある麗しの水の都らしいから観光にもなるんじゃないかね。

《コタロ、約束よ!》

《おう!》

にしても小太郎君元気だな……。
杖なんか無しでガチで戦えるとこういうときゃ強いよな。

《分かりました。皆さん、今日も頑張りましょう!それでは僕もこれから出発します》

ネギ君のまとめで一旦解散になった。
私はまだ情報収集を続けるけどどっかに残ってるゲートとか無いんかね。
ゲートを破壊するってことは孤立主義を物理的に加速させるためなのか何なのかはわからんけど。
元々一部の超急いでる人達が各都市間を一瞬で移動するためのテレポート用の役目も果たしてたんだけどこれで空路が余計に混むこと間違いない。
ニュースも相変わらずどこの局もゲートポートから噴出してる魔力暴走の映像ばっか放送してるしなぁ……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月13日6時頃、セブレイニア大陸某オアシス村―

ほな、朝の仕度はできたえ。
昨日は村の宿の女将はんに頼んでとめてもろたけどええ人でよかったな。
少しびっくりしたのは動物の耳がコタ君みたいに付いとる人や、身体全体がイルカだったりする人がいたことやね。

「女将はん昨日は良う眠れました。おおきに」

「おお、お嬢ちゃん早いね。昨日ここ着いたの夜遅かったじゃないか、あの時は驚いたよ。あんなに砂被って一人で砂漠越えてきたなんてさ」

もう女将さんは厨房で食事作っとるね。

「驚かせてもうてすいません。うち、ただで泊めさせてもろたから何や手伝いさせて欲しいんです。もちろん今日冒険者の皆さんの怪我を治すのもやるえ!」

「なんだか悪いねぇ……だってお嬢ちゃんあれだろ、こんな辺境にはニュースはまだ届いてこないけど、お嬢ちゃんが言うにはゲートポートのテロっていうのに巻き込まれちまって一緒に来た仲間ともはぐれちまっただけなんだろ?ケフィッススに行くっていうのは私も賛成だけどさ」

「うち、はぐれてしもた皆とは連絡とれとるんで、皆が頑張ってるからうちも頑張らんとあかんのや。それに女将さんうちに杖と箒もくれる言うし、その分しっかり働くえ」

「連絡が取れてるっていうならいいんだけどねぇ。それに杖と箒は大分前の誰かの忘れ物だしさ。分かったよ、それじゃ野菜洗うの手伝ってもらえるかい?」

「分かったえ!うちこう見えて家事は得意なんや!」

「お嬢ちゃんがいてくれたら冒険者もきっと癒されるよ。今日は頼むね」

「はい!」

それから野菜洗うて、それを女将さんの言うとおり切ったりして手伝ってたんや。

「お嬢ちゃん、手際いいねぇ。それで魔法で火はつけられるかい?」

「できるえ!」

「ま、箒に乗れるってんだからそれぐらいできるさね。なら私の隣のコンロで使い方は教えるから一緒に野菜炒めてもらえるかい?」

「分かったえ!」

「それじゃよろしく頼むよ」

―プラクテ・ビギ・ナル― ―プラクテ・ビギ・ナル―
 ―火よ灯れ―    ―火よ灯れ―

「そうそう、そうすりゃすぐにフライパンがあったまるからね」

「こっちは料理にも魔法使うんやねぇ」

日本だとコンロのノブを回して調節するだけやからなぁ。
日常的に魔法使うなんて思わんかったえ。

「そうか、お嬢ちゃんゲートから来たってことは本当に旧世界人なんだねぇ。ここ最近まで伝説だなんて言われてたからね」

「そんなに珍しいんですか?」

「滅多に旧世界の人なんてこんなとこ来やしないよ」

「そうなんか……。あ、そうや、香りの良い花ってありますか?」

「ん、そうだねぇ、オアシスだから一応あるさね」

「ほな、後で冒険者の人達が起きてきたら貰えませんか?」

「何か魔法使ってくれるのかい?」

「はい、そのつもりや」

「嬉しそうな顔してるねぇ。いいよ、料理が終わったら持ってくるからさ」

「おおきに」

日本で魔法練習しとっても生活で普通に使うことできんかったからなぁ。
女将さんと一緒に料理して30分ぐらいしたら冒険者さんら起きて2階から降りてきたえ。

「それじゃお嬢ちゃん朝食を配膳してもらえるかい?」

「任せてや!」

砂漠でもオアシスのある村には2日に一回は定期的に行商が来て食材や日用品を売りに来るんやて。
そやから、結構朝食もあるみたいなんや。

「ほな、どうぞお召し上がり下さい」

「お、それじゃ頂くぜ。……あ?嬢ちゃん見かけない顔だなぁ。どうしたんだ?」

「ダンさん!その子は昨日夜砂漠から一人で長いこと歩いてきて私の所を頼ってきたんだよ。ゲートポートって奴の事故でこの辺に飛ばされちまったんだってさ」

「へぇ!そうか!良く解らんがそりゃ大変だな。元気だせよ、嬢ちゃん」

「おおきに、ダンはん!」

「名前はなんていうんだ?」

「近衛木乃香や」

「このか嬢ちゃんか、がんばれよ」

「はい!」

ここに泊まっとったのはうち含めて10人やったよ。

「お嬢ちゃん、花持ってきたよ」

「女将さん、ありがとう。ほな、やるえ」

        ―オン・ハラハラ・オンキリ・ソワカ―
―花の香りよ 彼の者達に元気を活力を 健やかな風を refectio!!―

「ほー、花の香りを使った気付けの魔法かい」

「そうや、うちの専門は治癒やからね」

「このか嬢ちゃん、気分がスッキリしたぜ。ありがとな!」

「へー、これこのかちゃんがやったの。ありがと」

「どういたしましてや!」

ゆえやのどかもそれぞれ頑張っとるんやからうちも今日頑張るえ!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月13日日本時間、20時52分、麻帆良―

《超鈴音、用意はできましたか?》

《翆坊主が予想した通りになたネ。端末の用意はできているから龍宮サンに渡してくるヨ。丁度龍宮サンも準備ができたところなのだろう?》

《観測した所そうですね。もうすぐ寮の部屋から出るはずです》

《分かたネ。しかしゲートポートの破壊とはよくやるヨ》

《私達にとっては麻帆良地下の封印されているゲートポートに魔力が集中することになりますから好都合なんですがね》

《ふむ、ネギ坊主達は無事だといいがナ》

《あれだけ修行してましたからちょっとやそっとのサバイバルは大丈夫ですよ。一番怖いのは司法機関でしょうね》

《フェイト・アーウェルンクスがネギ坊主達にマイナスになるような罠を仕掛けていたらその可能性は高くなるナ》

《せめて私達にできるのはネギ少年達が、無事に夏休みが終わる頃に帰ってくるのを祈るだけです》

《麻帆良の地下のゲートポートから帰てくるということカ》

《なにぶん、世界が隔絶されてしまいましたから詳しいことはわかりませんが》

《そうだナ。恐らく美空達の端末には自動でネギ坊主の通信情報が表示されるように仕掛けをしておいたからゲートで何かがあたとしても連絡は取れるようにしているから大丈夫だとは思うヨ》

《恐らくネギ少年達にとってはかなり役に立つか、既に立っていると思いますよ》

《当然ネ。もしこれが公的に広がれば世界中常に会話が絶えないなんてことになるからナ。3-Aに広めたりすれば授業中にしゃべり続けるだろうというのが目に浮かぶようネ》

《目の見えないところで授業崩壊ですね……》

《そういう事だから、まだ世界には出せないナ》

《下手すると電話業界が滅びますしね》

《私もそれは前に思たヨ。さて、それでは龍宮サンに渡してくるネ》

《はい》

翆坊主の話だとこの数時間であちらは既に数倍の時間が流れているそうだからもう間もなく1日近くは経つことになるだろうナ。
おや、女子寮の前に高畑先生のと思われる車が止まているネ。

「お、まさか超も行くのか?」

これは私の方が先に寮から出ていたようだナ。

「いや、この軽装を見ればわかるだろう?龍宮サンにいつものを渡しておこうと思てナ」

「……端末か?」

「そうネ。ほぼ確実にネギ坊主達、美空達と連絡が取れるようになるヨ」

「なるほどな、超がどれぐらい今回の件を予想していたかは知らないがありがたく受け取っておくよ」

「高畑先生と葛葉先生の分もあるから頼むネ」

「ああ、分かった。高畑先生に会わなくていいのか?」

「また変に疑われそうだからネ。後でそれとなく渡しておいてもらえると助かるヨ」

「超は謎が多いからな。仕方ないさ。端末は後で必ず渡しておくよ」

「ふむ、それでは龍宮サン気をつけてナ」

「ああ、私はあちらにも行った事があるから大丈夫だ。帰って来られるかどうかは知らんがな」

「それで良くこの依頼を引き受けたネ」

「私達の担任の先生がいないようでは2学期からの授業も退屈になるからな。それに2年もあれば戻ってこられるさ」

「2年を軽く言えるとはナ……。報酬はツケで……という事のようだネ」

「そんな所だ。まあ超がこうしてこれを渡したという事はどうなるかはわからんが意外とすぐ戻ってこられるんじゃないかと今思ったよ」

「私をそんなに信用されても困るヨ。でもネギ坊主たちと一緒に2学期までに帰てくることを祈ているネ」

「ああ、そうなるといいな。それでは行くよ。端末感謝する、仕事が楽になりそうだ」

これで私がネギ坊主達にできることは、運命の日まで2週間しかないが、それまではもう殆ど無いナ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月14日、メガロメセンブリア時間4時、南極、2度目の長時間契約執行から10時間が経過―

これでようやく総時間数で1日と数時間が経過したけど合計200kmぐらいは進めたと思う。
食料は早めに消費すると後がなくなるから今日は空腹の状態で我慢してたけど頑張るしか無い。

「ネギ君、今日は洞窟があってよかったですね」

「はい、助かりました。ミリアさん携帯食料食べますか?」

「いえ、私はネギ君の背中にいるだけでしたから必要ありません。少しダイエットと思えば大丈夫です」

「すいません……まだ後数日は我慢しないといけないと思います……」

「ネギ君が謝らなくていいですよ。雪がありますから水には困りませんし」

「そうですね……これで本当にどこまでも何も無い砂漠だったら大変だったかもしれません」

「魔法世界の砂漠には定期的にオアシスがありますから意外となんとかなるそうですよ」

「そうなんですか……だからこのかさんも村でうまくやってるって言ってたんですね」

「ネギ君と一緒に来た方達は皆さん凄いですね」

「サバイバル技術はかなり鍛えてますから少しぐらいなら大丈夫です。あの、昨日壊れたゲートの事を話しましたけど、どこか残っているゲートってありませんか?」

「そうですね……確か……今はなき麗しの千塔の都オスティア、廃都オスティアに昔廃棄された休止中のゲートポートがあると言われていますが……」

ま、まだ地球に戻る方法は残ってるんだ!

「じゃ、じゃあゲートは残ってるかもしれない……あ……それも壊されているかもしれませんね……」

「私には詳しくは分かりませんが、廃都オスティアは今では魔獣蠢く危険地帯なので許可を受けた冒険者以外は立ち入り禁止になっているので容易に入ることはできないと思います」

魔獣蠢く危険地帯……?
ゲートポートを全て壊した奴らが、魔獣がいるからといって壊しに行かないということはあるんだろうか……。
あれほどの魔法が使えるなら魔獣だって強制転移でもさせてしまえばいいだけだろうし……。
それともそこに何かがあるのか?

「その廃都っていうのは……?」

「今から丁度20年前に終結した大分裂戦争で、最後に広域魔力消失現象と呼ばれるものがその旧オスティアで起きたのです。それを抑えるためにネギ君のお父様、ナギ・スプリングフィールド率いる紅き翼を始めとして、戦争をしていた連合、帝国とアリアドネーが協力してその現象を食い止めて世界を救った代償に、大小100を越す浮遊島が全て地上に落ちてしまったんです。その落ちた浮遊都市郡を廃都オスティアと呼びます」

「父さん達が……世界を救った……」

「そうです。そのため紅き翼は当時の少年少女の憧れでした。……恥ずかしながら私も……その一人です」

「そ、そうだったんですか」

「ネギ君は知らないのですか?」

「はい、僕は殆ど魔法世界の事を聞いていませんし教えてもらってもいないんです」

「それは……そういう風にネギ君の周りで決めてあったのかもしれませんね。私の口から言って良いような事ではなかったかもしれません……ごめんなさい」

「そんな、謝らないでください。僕が魔法世界に来たのは父さんを探しに来たのが目的なので、当然普通にメガロメセンブリアに着いていたら今頃知っていたかもしれませんから」

「え……ナギ・スプリングフィールド様は亡くなったと……あ、も、申し訳あり」

「いえ、必ず父さんは世界のどこかで生きているんです」

「そ、そうなのですか!?」

「確証もあります。地球にいないのであれば残るは魔法世界しかない筈なんです」

「それでわざわざ魔法世界にいらしたんですか……」

「はい、今回の旅行だけで見つけられるとは思っていませんが……」

今回のこのゲートポートの破壊事件、廃都オスティアにあるという休止中のゲート、20年前の戦争の最後の舞台となったその廃都オスティア、そして広域魔力消失現象……もしかしたら何か繋がりがあるのかも。
ゲートで気になった事といえば質の違う魔力の流れ……。
ゲートを破壊すれば当然その流れは止まる筈……。
もしかして止める事が目的だった……何故……?
マスターと話した火星を触媒にして魔法世界が成り立っているという事。
人造異界、人造でないかもしれないけどその存在限界・崩壊の不可避性の論文……原因はまさか魔力の流出……?
だとするとこのゲートポートを破壊した奴らは崩壊を遅らせるためにこんな事をしたのか?
いや、全ては憶測にすぎない……けど全く関係が無いとは言い切れない。
ここで知らないだけで調べれば分かるのは僕が題名しか知らない論文の内容、そしてオスティアの事……。

「ミリアさん、崩壊する前のオスティアにまつわる話ってありませんか?例えば、伝説とかそういうのでも構わないんですが」

「旧オスティア・ウェスペリタティア王国の伝説ですか……そうですね、例えば魔法世界の文明発祥の聖地であるとか世界最古の王国だと言われていますよ」

「魔法世界の文明発祥……の聖地……世界最古の……王国……?」

「ね、ネギ君どうしたんですか?急に悩んだような顔をされて」

「あ、ミリアさん、大丈夫です。少し気になることがあったので。教えてくれてありがとうございます」

「それなら良いのですが……。私にはこれぐらいしかネギ君にできることはありませんから」

「そんな事ありません、これからも気になる事があったら聞いても良いですか?」

「それは勿論いつでもどうぞ」

「ありがとうございます」

「人造」異界……オスティア……魔法世界の文明発祥の聖地……世界最古の王国……。
魔法世界の文明発祥であるならば詳しく調べれば人造なのかどうかもわかるのか……?
そもそも魔法世界が人造であるならば、魔法の発祥自体は魔法世界である筈がない。
なら魔法自体の発祥は一体……?
魔法の呪文がラテン語や上位古代ギリシャ語であるのはどこも共通している……これが源流だとするなら魔法自体は地球が発祥ということになる……でも文明は魔法世界が発祥……一体どういう事だ。
マスターのいう人造かどうかという事、作り出す際の魔力自体の問題色々気になるけど情報が足りないな……ここは調べてもらった方が早いかもしれない。
それより僕はなんとしてでも南極を抜けないといけないけれど……頼んでおくだけ頼んでおこう。

《春日さん、聞こえますか?》

《ネギ先生、春日さんは今寝ています》

《茶々丸さん、そうですか……》

《どうされたのですか?もうお休みなると先ほど言っておられたと思うのですが》

《あ、もう今休む所です。ただ、少し調べたい事があって……》

《調べたいこと……ですか?》

《ね、ネギ先……生、私でよければアリアドネーの蔵書で調べるですよ。丁度授業も終わった所です》

《ゆ、夕映さん!それでは一つお願いしても良いですか?》

そうか、今日からもう学校で勉強してるのか。
どんな感じか感想聞いてみたいけどそんなに余裕は無いなぁ……。

《はいです》

《人造異界の崩壊・存在限界の不可避性の論文というものがあると思うんですが、それの内容を知りたいんですがお願いできますか?》

《わ、分かったです。コレットにも手伝ってもらうです》

《ありがとうございます、夕映さん》

《任せて下さいです》

《ね、ネギ君?その、どうしていきなりそんな昔の論文を……?》

《あ、ドネットさんもしかして内容知っているんですか?》

《いえ……私も少ししか知らないわね。昔は話題になったそうだけど……今では取り組む人も少ない領域の研究分野ね》

《そうですか……。動機としては各地のゲートポート事件がただのテロではなく、何らかの意図があったと思えるからなんです》

《意図……というのは?》

《僕の憶測でしかありませんが、魔法世界の……崩壊を防ぐ為……かもしれません》

《魔法世界の崩壊ですって?》

《ドネットさんにウェールズから移動するときにゲート周辺の魔力の質が他と違うように感じるって言いましたよね?》

《ええ、言っていたわね。私には全くわからなかったけれど……》

《今ならなんとなくわかるんですが、あの時感じた魔力というのはこの今いる魔法世界の魔力なんです。つまり、ゲートからは魔法世界の魔力が地球側に流出している可能性があるんです。結果そのゲートを破壊するということは魔力の流出を絶つ事になると考えられます。ここで気になるのがさっきの論文の内容なんです》

僕が魔力の質を朧げに自覚できるようになったのはマスターとの加速通信法を習得してからの事だけど……。
マスターも最近覚えたって言っていたから気づいた人あんまりいないのかな……。

《も、もしそれが本当なら大変な事ね……。私も詳しくは知らないけれど元々あの論文はダイオラマ魔法球のようなものも含む人工的な異界、異空間に焦点を当てて説明したもので結論はかなり漠然としたものだったんじゃないかしら。内容は確かに通説にはなっているけれど、題名だけで内容を鵜呑みにして勘違いする人もいるらしいわね》

《あ……それ僕もです。前魔法世界が人造異界だと勝手に思い込んだ事があって……》

マスターも僕があの論文の話をした時詳しく知ってるのかと思ったけど、後で聞いたら「昔の人間が書いた論文だからな」って言ってて詳しく読んだことは無いみたいだから確かにそうかもしれない……。
何しろ古いのは確かだし……。
それにマスターはそれ以外にもっと重要な何かを知ってそうだったんだよなぁ……。

《それはまた突飛な説ね……。まあネギ君が異質な魔力を感じたというのが、他の人には気付けないとしても、詳しく調べてみる価値はありそうね》

《そう言ってもらえると嬉しいです。それでは僕そろそろ今日は休みますね》

《ええ、引き止めてごめんなさいね》

《いえ、まだまだ知らないことが多いなってわかりました。おやすみなさい》

皆からお休みなさいと挨拶をされて今日もこれで移動は終わり。
明日も頑張って100kmは進むようにしよう。
できれば明日もまた丁度良い洞窟が見つけられると願って……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月13日、16時頃、アリアドネー魔法騎士団候補学校、図書室―

突然ユエが「コレット、もう一度図書室に調べ物に行くです!手伝って欲しいです」って言い出したから何かと思ったよ。
今日、一応転校初日で名前も私の親戚という事で「ユエ・ファランドール」って名乗ったのは昨日決めた通り。
ユエは薬学や歴史を始めとした分野の知識が殆ど無かったけど実技の方はかなりすごかった。
知識面については一杯本を図書室から授業の合間に借りてきて勉強してるから問題ないかなーと思う。
ただ、能力のアンバランスさから委員長に目をつけられてたような気がするけど気のせいだといいなぁ……。
それにしても昨日本当に世界各地のゲートポートでテロがあって、職員と利用者が全員行方不明になったっていう事件あったのは驚いたよ……アリアドネーに情報が届くまでは数時間差があったみたいだけど。
今日クラスでもその話が結構出てたね。

「それでユエ、一体何を調べるの?」

「人造異界の崩壊・存在限界の不可避性の論文の詳しい内容です」

「なにそれ?人造異界?」

「私も分からないから調べるです。ネギ……先生が調べて欲しいと頼んできたのですよ」

おおっあのネギ君が調べて欲しいって頼んできたのね!
それは協力しない訳にはいかないよっ!

「それを早く言ってよー。よーし、探そう!」

「はいです」

魔法騎士団候補学校の図書室はすっごく広いからきっとある筈だね。
人造異界……人造異界……。

あれー……見つからない……。

「ユエ、見つかった?」

「いえ、見つからないです。そもそも論文ということは本ではないかもしれません」

「そ、そうか!じゃあもう司書の先生に聞いた方が早いよ」

「怪しまれないでしょうか……」

「死神でも学べるんだから大丈夫だよ!きっと!」

「それは物の例えであってですね……」

「はいはい、さっさと行こうよ~」

「そんなに押さないで良いですよ、コレット。わっ!」

「きゃっ!」

ユエを本棚の通りから押してたら誰かに当たった!?

「あ、ごめんユエ!それと……い、委員長!?」

あと委員長の後ろにいつものベアトリクス・モンロー、ビーさんもいるけど……。

「痛いですわね、図書室ではもう少し落ち着いて行動しなさい」

「ごめん委員長……」

「ごめんなさいです……」

「分かったならよろしいですわ。……それで一体何を調べていましたの?」

え……何でここで委員長が絡んでくる?

「そ、そそ、それは……」

「委員長、論文というのはどこで調べられるでしょうか?」

ユエ!ナイス!題名言わなきゃいいのか!

「論文?転校生、あなた一時的とはいえ記憶喪失なのではないのですか?」

あちゃー、自己紹介の時に先生がわざわざそういう事を言ったから……。

「覚えていない事と覚えている事があるです」

「そ、そうなんだよ!」

「……そうですか、いいでしょう。私もその調べ物協力しますわ」

「ゑ?」

「コレット……その間抜けな顔をやめるです」

「何ですコレットさん、私が協力するのがお嫌なのですか?」

そんな間抜けな顔してたかなぁ……。

「そ、そそ、そんな事ないけどさ。どうしてわざわざ?」

「同じクラスの委員長として、記憶喪失で困っている学友、それも転校生とあれば協力するのは道理。何か問題でもおありですか?」

「流石お嬢様です」

これぞ委員長の鏡!みたいなオーラを出されても。

「いや、何も問題ないよ。流石委員長、頼りになるね」

あ、私もなに口滑ってんだろ……。

「そうでしょう!……それで論文でしたがこの魔法騎士団候補学校では論文は置いていませんから、学校の外にある総合図書館に行くべきですね。案内しましょう」

「委員長、ありがとうです」

「礼には及びませんわ」

委員長がユエの事を見る目がどんなものか実力を図ってるような感じの気がするんだけどなー。
実際戦闘魔法に箒の実技はクラスで委員長の次ぐらい上手かったからライバル視してるのかも。
まあそれは置いといて……委員長とビーさんの後を付いてアリアドネー総合図書館に向かった。
私基本的にわざわざここまで来ないんだけど外から見ると、でかい……。
中もやっぱり広いねぇ……見つかるのかな。

「蔵書等はこの機械で検索すれば、書架にある場合は本のコードとその本のある階棚番が表示されますし、書庫に入っている場合は書庫とそのコードが表示されますわ」

「むむ……委員長、この機械使い方がわからないです」

「仕方ありませんわね、私が検索して差し上げますわ。その論文のタイトルは何ですか?」

意外と……いつもだけど委員長面倒見は良いなぁ。
結局何調べるか言わないといけなくなっちゃったけど。

「人造異界の崩壊・存在限界の不可避性というものです」

「……本当に変わった記憶喪失ですわね。分かりましたわ、少しお待ちなさい」

あっさりした反応で良かったー。
いきなり人造異界の崩壊・存在限界の不可避性なんてタイトル言われたら確かに変わった記憶喪失に思えるよね。

「ありましたわ……やはり書庫にあるようですわね。受付に参りましょう」

「はいです」

そのまま受付に行って委員長が率先して借りる手続きをしてくれて、少し待たされたけど出てきて……。
どうせだからって皆で机を囲んで……それなりに時間かかったけど読み終わった。
何だか不可避性なんていうタイトルが付いているから完璧な結論まで出てるのかと思ったんだけどその辺が有耶無耶であんまりパッとしない内容だった。
殆どの庶民には関係ないダイオラマ魔法球等の構造とその製造の難しさの話とかは詳しく書いてあったからそれはそれで面白かったけど……。

「これは……本物の論文ではないのではないでしょうか。あまりにも内容のバランスが悪い気がするです」

「バランス……そう言われると不自然ですわね。これだけ最初の方で細かいダイオラマ魔法球の説明までしてあるのに結論はなんというか尻切れトンボのようですし。しかしユエさん、あなたどうしてこの論文を?」

「理由は言えないです……。でも委員長……私はどうしてもこの論文の本物、もしくは削られているかもしれない部分に書かれてある事が知りたいです。どうにかして調べる方法はありませんか!?」

おおっユエが委員長に縋りついた!?

「お、落ち着きなさい、ユエさん。……理由が言えないというのはやましい事でもあるのですか?」

「そんな事は無いです。誓っても良いです!いつか必ず理由は話すです!」

「…………分かりました。そこまでいうなら……実家に頼んでみても構いませんわ」

「お嬢様?」

「でも、まずは魔法騎士団候補学校の先生達にも聞いてみた方が良いでしょう」

「委員長、ありがとうです!」

「別にあなたのためだけに協力する訳ではありませんわ。ただ、この論文の事が私も気になっただけですっ」

こ、この反応の仕方は……。
委員長、素直じゃないなぁ……。

「しかし、いいですか、私達の本分は魔法騎士団候補学校の学業をきちんとこなすことです。あなたのような薬学も歴史もその他諸々知識のないのにこの論文の事ばかりにかまけていてはいけませんわよ」

「わ、分かったです」

「……分かったなら良いですわ。しかし、寮の門限もあります。今日は戻って授業の復習をするべきでしょう」

「はいです」

委員長の発言で今日はネギ君から頼まれた論文を調べる作業は終わったけれど明日も先生達に聞いたりする所から動く事にしたよ。

「コレットはあの論文どう思ったですか」

「どうって……タイトルの割には結局あんまり要領を得ないような内容だったなって」

「私が思うに、意図的に結論が削られているか、差し替えられているならば、どこかの誰かにとってマズい情報だったのではないかと思えるですよ」

「じゃ、じゃあもしかして誰かの陰謀って事?」

「陰謀というのは言い方が悪いかもしれませんが、何らかの問題があるのではないかと思うです」

「何らかの問題って?」

「大きな社会問題になる……とかですよ。例えば先程の論文で説明されていた物であれば、ダイオラマ魔法球の中で生活していたら突然ある日何も無い大地に気がついたら立っていた……というような」

「なにそのお伽話みたいな例」

「いえ……私もこのような事は言いたくないのですが、ネギ先生は魔法世界が崩壊するかもしれないと言っていたのですよ……」

「えっ!そんなまっさかぁ!それが本当なら今頃大きな社会……問題……に……」

「分かったですか?」

「な、な、何か凄い危ない事に足を突っ込んでいるような気がするよ!?」

「ネギ先生も憶測でしかないと言っていましたが、その可能性もあるものとして調べる価値はあるです」

「……そ……そうだね。でも勉強もちゃんとしようね」

「コレットもですよ」

「分かってるよー!」

この怪しい論文の事、グランドマスターに聞いたらきっと分かるんじゃないかなーと思うんだけどどうだろう……。
とりあえず今日は、うん、寝よう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月14日7時頃、メガロメセンブリア―

世界各地に飛ばされたネギ君達で起きている人達と朝また定期連絡を済ませた後。

「春日さん、愛衣、予定通り渡航許可が取れましたわ。既に便も確保してあります。出発は9時からですから準備なさい」

「うおっ早ければ今日って言ってたけど本当にもう取れたんスか!?」

「この通りホテルの受付に、実家から自由渡航許可証が届きましたわ」

そ、それはアレだ。
正規ルートが通ってるなら基本的にどこでも自由に行き来できるっつーやたら金のかかるチケットじゃんか!

「高音さんの家凄いッスねー」

「お姉様、私準備してきますっ!」

「私も準備しまーす」

「お待ちなさい、春日さんにはこのクレジットカードを渡しておきます」

「え?おお、助かります」

「基本的にいくら使ったか、何を買ったかはわかりますからあまり変なモノを買わないようにして下さい」

「そりゃあ勿論ですよ!で、これ使った請求ってどこに行くんスか?」

まぁクレジットカードが使えない場合もあるから現金もそこそこ持ってるけどさ。

「私の実家ですが、連絡が取れれば後で麻帆良学園にきちんと請求しますから安心なさい」

うはー、肩代わりする訳ね。

「了解です、自由渡航許可証と現金もそれなりにあるんで大丈夫だとは思うけど、もしもの時は使わせてもらいます」

「はい、それで良いです。それでは私も出発の準備をしますので」

えーっと昨日のうちに準備した予備用の箒と杖もあるし、携帯許可も取った。
そんでもってこの自由渡航許可証にクレジットカードそれと端末、この3つをもしなくしたら積むな。
気をつけよう。
サクサク荷造りを済ませてホテルの今日の分の朝食を取って、明日の分までホテルを予約していたのをキャンセルしてチェックアウト。
そのまま飛空艇発着所に向かった。

「いいですか春日さん、何かわからないことがあればすぐに連絡なさい」

「了解です!」

「それでは出発しますわよ。オスティア行きは西ポートです。私と愛衣は東ポートですがからここで別れる事になりますから気をつけるように」

「分かりましたー。それじゃ臨機応変に周るんで」

「定期連絡はこちらからもします。それでは」

「よし、ココネ行くよ」

「分かった」

西ポートに移動して……と。
やっぱクジラだよなーどこからどうみても。
帝国はなんていうかシャチみたいなインペリアルシップっていう奴らしいんだけど、まあどっちも共通してんのはデカイって事だな。
とにかく自由渡航許可証を見せて係員に驚かれたりしたけどそれは置いといて個室に到着と。
まあ普通のビジネスホテルみたいな感じだな。
オスティアに着くのは3日後の8月17日午前8時頃の予定。
それまで暇だけどまほネットは繋げるし、基本メガロメセンブリアのニュースは逐一入ってくるから大丈夫だろ。
一旦部屋から出て遊覧飛行を救出作戦中ながら楽しんだり、軽い飲み物を1アスで買ったり、昼時になって機内のレストランでココネと一緒に8アスのラーメンの親戚みたいの食べてまた部屋で休憩。
……にしても日本円でいう1円なんていう細かい貨幣も無く安けりゃなんでも1アスっていうのはざっくりしすぎだと思うんだけどねぇ。
それはともかく、時間はメセンブリア時間で13時。
この間ネギ君達とも色々不思議通信したから一旦状況を整理するか。

魔法世界地図で一番西側にいるゆえ吉はアリアドネーで今は丁度深夜で寝てる。
私達が寝てた間にネギ君から人造異界の崩壊・存在限界の不可避性っつー論文を調べて欲しいって言われたらしく早速アリアドネーの総合図書館で調べたそうな。
でもどうも臭い資料だったらしく肝心な部分が書いてないなんて事言ってたな。
さっきまた起きてまた3度目の長距離移動に入りだしたネギ君がその事について軽く説明してくれたんだけど、今回のゲートポートテロは魔法世界から地球に魔力が流出するのを防ぐ目的で行われた可能性があるって話らしい。
ついでに私が今向かってる新オスティアの地上郊外にある廃都オスティアに休止中のゲートがあるらしんだけどそこも破壊されてたらほぼその線で確定&私達が戻る手段が2年は本当に無くなるみたい。
かといって潜り込めるかっつーと魔獣が蠢いてるから許可のない冒険者以外ははいっちゃいけないって事で私は今回は全力でスルーする事に決定。
そんでいつかはわからないけど魔法世界が崩壊するかもしれないと聞いてマジびびったけどネギ君はそんなブラックジョーク言う子じゃないしな。
しっかし南極にいんのに事件の分析してるネギ君マジネギ君だわ。
あからさまに元気が無くなっているように聞こえるんだよな……仕方ないだろうけど。

それで丁度1時間前に今日も元気に山奥で起きたアスナはそのネギ君の様子を感じて流石に直接怒れず私に爆走しながら愚痴ったりしてる訳だ。
アスナの端末の活用法がなかなかアレでさ、木の実の写真撮って送ってきては食べれるかどうか聞いてきたり、多分デカイ湖が源流の川を見つけては、泳いでた魚に斬空掌なる気弾ぶつけて狩猟しては「美空ちゃん、この魚も食べれるか教えて!」だもんなー。
私が協力できんのはそれぐらいっちゃそれぐらいだからまほネットで魚一生懸命検索してわざわざ美味しい焼き方なんてもんまで調べて教えたりしたよ。
実際食べてみて美味しいとわかったら何匹か余分に狩猟してその後の食事用にもゲットしたらしいし。
とにかくアスナは逞しすぎる。
多分進み方次第によってはもしかすれば今日には湖にある村ぐらいには着くんじゃないかと思うんだけどね。

テンペ南の砂漠で相変わらず強行軍で進んでる桜咲さんはあんまり自分の事報告しないけど、大丈夫そう。
つか飛ばされた初日に18時間近く移動し続けてたから徒歩での移動距離が相当長い。
もう300kmぐらい移動してきてるからもしかしたら明日にはもうテンペまで自力で到着できるかもしれない。
ただ問題は水だろうけど気力でなんとかするそうな。
高音さん達がテンペに向けて出発したって聞いたから一気に駆け抜けるって言ってたな。

くーちゃんは例の山脈にあった古ぼけた建物に井戸があったり、キッチンあったりしたらしく水の安全面はあれだけど沸かして消毒しといたから桜咲さんより状況は良い。
つかその写真で送ってきた建物なんだけど結構でかかったんだよな……。
いつ使われなくなったか知らんけど誰かの別荘だったのかもね。
今日はガンガン足場破壊しながら降りてきたらしく、海が見える崖まで出てこれてその辺で野宿するってさ。
その海多分タンタルスとの間を挟んだ湾の入り口みたいなところだからそこに沿っていけば多分崖がいつかは砂浜に変わる筈。
まあその前に丁度運送屋やら飛空艇のルートに入っているから運が良ければ前者だと乗せてってもらえるかもしんないね。

3-Aの武道四天王は強いなーと言いたいところあと一人の楓は茶々丸とドネットさんと一緒にケルベラスを抜けるのに苦労してて今は午前3時ぐらいだから寝てんな。
竜種見つけてやべー時は楓の分身でわざと怒らせて撒いたりしてるらしい。
トレジャーハンターの人が驚いてた気がするけどなんつーかケルベラス組は命の危険があるようで全くその危険がなさそう。
ドネットさんも結構な魔法使いみたいだから身体強化はできるし、もし危なくなっても楓と茶々丸がいるなら余裕だろ。

のどかは今日初めてそのトレジャーハントに参加して、罠発見と解除が神だったらしい。
クリスティンさんがのどかの端末から私達に「僕罠発見するの下手だったからノドカちゃんの手際見て驚いたよー。これからもいて欲しいぐらいね」って感動したような、自分の立場が無くなったような感じで語りかけてきたからよう分かった。
アイシャさんの話だと「ノドカ箒で浮いてられるから設置型トラップは全部あっさり突破できて進むのが凄く早かったわ」って喜んでた。
クレイグさんは「嬢ちゃんの腕には驚いたが、怪我は一つもしてねぇから安心してくれ。あんたらも頑張れよ」ってマジ良い人。
このかの目じゃなくて耳というか心には狂いは無かったな。
多分一番明るい気分になるのはトレジャーハンターの人達だわ。
のどか自身は「私そんなに役に立ってません」とか常に謙虚だからなー。
今更ながら図書館探険部ってそんなに凄い部活だったのかと、魔法世界でも通用するレベルの罠が普通にある図書館島を有する麻帆良はやっぱりどうかしてるとしか思えん。

もう一人の図書館探険部のこのかは既に深夜で寝てるけど私が出発した9時頃に連絡して来た時に聞いた話だと、セブレイニアのオアシス村で一日働いたそうな。
小さい宿屋の女将さんから杖貸してもらって料理の手伝いしたり冒険者の怪我治したりかなりまともな日常生活を送ったらしいわ。
あと数時間でまた起きたら次の村に向けて貰った箒で飛んでいくってさ。
これで一緒に荷物を届ければ魔女宅的何かができそうな気がする……。

最後小太郎君は「この辺北極いうても何や食べられる動物ぐらいおらんのか」って聞いてきたけど、まだ北極圏真っ只中だから流石に出てこんだろ。
ヘラス鹿ってのが美味しいらしいから見つけたら狩猟すればとは言っておいたんだけどね……。
肉まん大臣っていう謎の役職についてるらしいくーちゃんと一緒に肉まん運んでたらしいからまだ食料に困ってはないみたい、凍ってるらしいけど。

結局一番ヤバイのが安否の完全にわからんアーニャちゃんを除けばネギ君だというオチだな……。
皆あんまり触れたりはしてないけど、多分全員ネギ君が一番危ないっていうのは分かってると思う。
……そういう訳で私の責任滅茶苦茶重大だー!!
アスナが私に愚痴ってくんのは多分それもあるね。
何気にこのかはケフィッススまでつきゃ私と大して変わることなく盧遮那あたりまでは行けるかもしれないけど金が無いからキツイだろな。
誰かヘリコプター持って遭難者二名救出してこいって感じ。

…………あー、真面目にオスティアから高速艇に乗り換えるか。
装備整えてアーティファクトフルスロットルで爆走すれば地面さえあり続ければどんな崖だろう谷だろうと地面と足が密着してさえいれば時速100kmは出るし箒とうまく併用すればなんとかなるんじゃないか?
少なくとも食料やら防寒具、それに杖ぐらいは届けたりできるかもしれないし。
流石に麻帆良祭の鬼ごっこの時はそんな非常識な速度では走らなかったけどさ……田中さんは地味にトラウマだけど。
捜索隊を組んでもらった所で動き出すのにどうせ時間かかるからそれじゃ遅いし私が行った方がまだマシだな。
とりあえず高音さんに連絡しよう。
柄にもなく私が頑張るって珍しいけど、たまには役に立つとしますか。



[21907] 45話 それぞれの地にて・後編(魔法世界編5)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/01/21 16:49
―8月14日、17時頃、ヘラス帝国領、ノアキス西部地方湖畔目前―

このかも貰った箒で次のオアシス目指してるみたいだし、私は美空ちゃんによればもうすぐ大きな湖に着くはずよ!
美空ちゃんには何としてでもネギを最優先で救出してもらわないと!
ん……咸卦法が切れるわ。
右腕に気、左腕に魔力……合成!!

―咸卦法!!―

結構この辺でも咸卦法が切れると少し寒く感じるけどエヴァンジェリンさんの別荘で咸卦法の修行しまくったから寒さ、暑さには滅法強いわよ。

……あっ林が終わりそう……そしたらきっと村がどこかに見える筈……。
もうすぐ今日も日が落ちそうだけど……やったわ、一つ目の巨大湖とうちゃーく!!

《美空ちゃん、湖着いたわよ!》

《んー!?予想はしてたけど本当に移動はやすぎだろ!》

《だって全然疲れないんだもん》

《……そりゃ元気なことだな。そうそう私さっき高音さんに伝えてオスティア着いたら高速艇に乗り換えて桃源まで行くことにしたからさ。順調に行ってオスティアから1日と十数時間で着く計算》

《美空ちゃんネギの所に急いでくれるの?》

《まぁそんな所だよ。私の柄じゃないんだけど走るだけならアスナにも負けないアーティファクト持ってるからさ。ネギ君がもし今のペースで移動し続けたとしても1000kmはいかないだろうからそれだと未だ寒冷地帯抜けきらないからね。装備整えて私から助けに行くつもり。そしたら本気出して十数時間走れば一気に近くまでいける……と思う》

《えっ!?一体美空ちゃんどれぐらい早く走れるのよ!》

《時速100kmは行けるぜ!飛空艇より早いぞ!》

《そんなに長時間走って疲れないの?》

《いやー私も陸上部の短距離専門なもんだからそんなに走り続けた事ないんだけどさ、アーティファクトだからそんなに疲れないんじゃないかと思うよ。おまけに高低差数十メートルの着地も余裕だし。あと箒も持って行くから力場帯で寒さも高地の低酸素現象も軽減できるしさ。まあ私も初めての試みだからやってみなきゃわかんないけど、もし長時間走れないなら走れないで休憩しながら行けばなんとかなるっしょ》

《ありがとう美空ちゃん!ネギを助けてあげて!》

《任せとけ!……とは胸を張って言えないけどまだネギ君には言わないでおいてね》

《なんで?》

《そりゃネギ君私が南極に特攻するなんて聞いたらやめてください!って言うに決まってるじゃん》

《そ、そうね……。分かったわ。ネギには伝えないでおくわ。でも美空ちゃんも気をつけないと駄目だからね!》

《はいはい、私も決死の覚悟って訳でもないから助ける範囲内で、安全第一で行くつもりだよ》

《それでも何があるかわからないんだからしっかり連絡はしてよね。で……どっちに村があるのかしら……って、んー?んー!あったわ!》

ちょっと煙突のようなものから煙が上がってるわね。
それにボートのようなものが湖に浮いてるのも見えるし。

《見えるんかい!》

《それじゃあちょっと行ってくるわね》

こうして湖畔に沿って進むのも結構いい景色ね。

《おっけー。多分ヘラスの人は褐色系で頭に角生えてるけど驚かないようにね》

《そうなの?》

《そうです。しかも長命で見た目より全員年上だから基本敬語がいいよ》

《分かったわ。忠告ありがとう》

《それじゃこっちは一応夜中なんだけど明日明後日と飛空艇の中だからまだ起きてるつもりだし、何かあったら連絡しなよ》

《うん!》

このかも宿屋に泊めて貰ってたぐらいだから私もまともな寝床が欲しいわ。
一応獲った魚もあるしなんとかなるといいんだけど……。
日がもう落ちてきてるから急がないとね。

……20分ぐらい移動し続けて着いたわ。
村の人も私に気がついたみたい。
女の人みたいね、良かった……本当に角が生えてるけど。

「あのー!すいませーん!ここに宿屋ってありますか?」

「その前にあんた見たところ人間みたいだけど、それにその格好に荷物、一体どっから来たんだい?」

「えっと、最初から説明します。私は神楽坂明日菜と言います。丁度一昨日ぐらいにあったゲートポートのテロ事件でここから東の山の中に飛ばされてしまって二日かけてここまで来ました」

「ゲートポートで事故ねぇ……誰か知ってるのは……通信機がある村長のところにいけば分かるかもしれないね。ま、それはいいさね。私はハンナだ。ここには宿屋なんてものはないから村長の所に案内してあげるよ」

「あ、ありがとうございます!」

「小さい村だしすぐ着くからそんなお礼なんていいよ。ついてきな」

「はい!お願いします!」

ハンナさんの後について村長さんの家の所まで連れて行ってもらう途中

「ハンナさん、その子一体どうしたんだ?」

男の人がハンナさんに話しかけてきて

「ああ、何かこの辺に飛ばされてきたって言ってるよ。詳しいことは村長の所に着いてからだね」

「そうかい、こんな村じゃ面白い話も少ないから後で教えてくれよ」

「気が向いたらね!」

……何か特別っていうのでもなくただの田舎って感じね。
移動するまでに似たような反応を3人ぐらいにされたけど不法入国なんて誰も言わないわね。
気にしてないだけかしら。
村長さんの家についてハンナさんが扉を叩いたら、また女の人が出てきてそのまま私は案内されたわ。
村長さんっていうからよぼよぼのお爺さんかと予想してたんだけど……ちょっと年を取ってるぐらいのオジ様って感じね。
悪く無いわ!

「儂がこの村の村長じゃ。話を聞かせてもらえるかな、お嬢さん」

喋り方とギャップがあるわよ!
まだその話し方は早いと思うわ!

「……え、あ、はい、私は神楽坂明日菜と言います。一昨日ゲートポートで起きた事故に巻き込まれて気がついたらここから東の山の中に飛ばされてしまって、二日かけてここまで来ました」

「ほう……ゲートポートの事故のう。……ゲートポート……アスナ嬢さん、ちと街に連絡を入れるから待っとくれんか」

「はい、構いません」

村長さんは今の日本からすると古そうな電話のようなもので街に連絡をしてくれて、事件の確認から始まり、人が飛ばされたかどうかについても話がチラっと聞こえた感じどうもヘラス帝国にも情報は伝わっていたみたい。

「……ふむ、どうやら本当のようじゃな。ここへ来たということは、アスナ嬢さんは首都に向かうつもりなのかな?」

「はい、そのつもりです」

「そうかそうか。ならば今日はここに泊まっていくといい。渡し船も毎日動かしとるから明日一緒に乗って行くとええ」

「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!」

「特に何もない村じゃが、一人娘さんが増えたところで何も変わらんから気にすることはない」

「ありがとうございます!あの、良かったら今日ここまで来る途中川で魚を獲ってきたのでどうぞ」

えーっとビニール袋に入れてあるんだけど……。

「……そんな気遣いせんでええんじゃが……」

「これです!」

「おぉ!これは立派なノアキストラウトじゃな」

これ昨日も食べたんだけど美味しかった。
美空ちゃんには寄生虫に気をつけるように散々言われて、指示通り処理をした後よく焼いて食べたから大丈夫だとおもうけど。
それにしても塩あったら良かったのになぁ。

「是非受け取って下さい!」

「ほっほ、ならばありがたく頂こう。丁度夕飯も近いから一緒にうちの者に調理してもらうとするかの」

この後村長さんのご家族と一緒に、私が獲ってきた魚の料理含む夕飯を食べさせてもらったわ。
なんていうか日本の料理とは大分違ったけど新しい味って感じね!
見たことない野菜一杯あったし。
私がゲートポートから来たっていう事で旧世界、地球の事を聞かれたから話をしたんだけど皆興味津々で聞いてくれたわ。
このかも言ってたけど旧世界人って相当珍しいらしいわ。
聞いた話だと飛空艇は村長さんが連絡した街に行けば飛んでるらしいんだけどまだしばらくは普通に行くしかないみたいね。
首都は凄く綺麗なところだから期待するといいって言われたわ。
二日ぶりぐらいにまともな寝床につかせてもらえて助かった……けどネギはまだずっとここよりも寒い寒い所で食料も少ないのに頑張ってるのよね……。
美空ちゃん……できれば私が直接行きたかったけど……頼むわよ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月15日、15時頃、テンペテルラ大陸、オアシス街テンペ目前―

はぁ……はぁ……お嬢様……やっと……最初の目的の街まで……辿り着き……ました……。
お嬢様……申し訳ありません……もう……歩けません……あと少しだったのですが……一旦……ここで……休みます……。
み……水……。
…………。


『おーい!誰かあそこに倒れてるぞ!街のすぐ外だ!』

『なんだって?』

『誰か手の空いてる奴、休んでないでちょっと手伝え!』

『おう、俺がいってやる!』

……何か街の人の叫んでいる声が……。

「女の子じゃねぇか、一体どうしてこんな所で倒れてんだ」

「分かんねぇがとにかく運ぶぞ」

「ああ」

……どうやら街の中まで運んでもらえるようです……感謝しなければ……。


…………うぅ……涼しい……。

「ほら、しっかりしな!大丈夫かい嬢ちゃん」

「……こ……ここは……」

「お!気がついたよ!」

……目を開けたらそこには猫の……人がいた。

「嬢ちゃん、まずは水でも飲むかい?」

「あり……がとうございます。頂きます」

……ひ、久しぶりの水だ……。
生き返る……。

「どうだい、落ち着いたかい?」

「はい、助けて頂きありがとうございます」

ここはどこかの部屋のようだが……。

「それならジョニーさん達に言いなよ。嬢ちゃん運んできたのは運送屋の人達だからね。ちょっと待っておいで、呼んでくるからさ」

「あ、ありがとうございます」

猫の女性は部屋から出て行った。
恐らくここはテンペの筈……。
そうだ、荷物は……。
あった、ベッドのすぐそばに置いてある。
……端末もポケットの中に入っているし大丈夫だ。

『さっきの女の子起きたのか』

『ああ、さっき目を覚ましたばかりだよ』

『しっかし、街の外で倒れてるから何事かと思ったぜ』

「嬢ちゃん入るよ」

「あ、はい、どうぞ」

扉を開けて新たに入ってきたのは目が少し細い男性と……虎の人だった。

「あの、先程は助けて頂きありがとうございましたっ!」

「そんな仰々しくお礼されるような事してないから顔を上げてくれ。とにかく助かって良かったじゃねぇか」

「そうだぜ、俺たちほんのちょっと運んだだけだからな。空を飛ぶより容易いぜ」

「は……はい、ありがとうございます」

空を飛ぶって事は飛空艇で運送屋をやっている人達なのか。

「それで嬢ちゃんは一体どうしたんだい?」

「先日のゲートポートのテロ事件でここより南の砂漠に飛ばされてここまで歩いてきました」

「ゲートポートの事件つったら2日も前の話じゃねぇか。南の砂漠なんて言ったらどこにもオアシスも無いだろうに、よく頑張ったな」

「ああ!あのニュースか!運送屋仲間が場違いな所で人拾ったって話してたの聞いたな。てことはお嬢ちゃんもその一人か。そりゃ大変だったろう」

「はい……それなりに」

「何より無事で良かったね。あたしゃここの食堂の女将やってるもんだよ。何かあったら言ってごらん」

「あ、これは申し遅れました。私は桜咲刹那と申します。あの……できれば1泊か2泊程泊まれる場所を教えてもらえないでしょうか。連絡だけは知り合いと取れていて、ここに迎えに来てくれる事になっているのですが……残念ながら一銭も持ち合わせがなくて」

「ああ、それならうちに泊まって行きなよ。それぐらいお安い御用だよ」

「あ、ありがとうございます!泊めていただく代わりと言っては何ですが、それまでの間是非ここの食堂を手伝わせて下さい!」

「それは刹那ちゃんみたいな可愛い子に店手伝ってもらえると嬉しいんだけどね……だけど体は大丈夫なのかい?かなり疲れているみたいだけど……」

「大丈夫です!身体は鍛えているのですぐに元通りの体調になりますから。あともう1時間程休めば問題ありません」

「そうかい……?無理するんじゃないよ。思ったよりも脱水症状が酷いこともあるからね」

「はい、お心遣いありがとうございます」

「随分礼儀正しい子だなぁ。俺はジョニーってんだが何かできることがあれば遠慮せず言ってくれよ刹那ちゃん」

「俺はトラゴローだ。よろしくな」

「ありがとうございます、ジョニーさん、トラゴローさん」

この後女将さんに言ったとおり1時間程休んでいる間にネギ先生達、高音さん達への連絡も終えた。
高音さん達が飛空艇で迎えに来て下さるのは8月17日の未明の予定のようだ。
お嬢様は箒を現地の方から貰ったことで一日置きに村から村へ移動されており、今は丁度寝ておられるが起きたら今日はまたケフィッススに向かって移動されるそうだ。
早く……合流しなければ……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月16日、メガロメセンブリア時間、午前1時頃、オスティア行飛空艇内―

長い……ってかやっぱ飛空艇めっちゃ遅いわ!
飛行機持ってこいよー!
ロンドンやらアメリカとか数千km離れてても数時間寝たら着く距離だったじゃんか!
あれだよ、地球の豪華客船で世界一周の旅とかいうならこれぐらいでいいんだろうけどさ、私は現代人でしかもかなり急いでんですよこっちは!
やっとオスティアまで残り半分ぐらいの時間になったけどイライラするわー。
ココネ肩車してウロウロしてたら「ミソラ、降ろして」って言われたもんなー。
あー落ち着かねーの何のって。

良い感じなのは、とにかく安全な学校の勉強が好きになったゆえ吉、トレジャーハンターのどか、箒でガンガン魔法少女このか、二つ目の巨大湖&次の村に到着した逞しいアスナ、それと数時間前にテンペに到着したっていう連絡が入った桜咲さんぐらいだな。
楓達とくーちゃんは相変わらずだけど……ネギ君に続き小太郎君も少し元気が無くなってきてて、更にその当のネギ君は今まで結構通信会話の主導を握ってまとめてたんだけど、それすらも余裕が無くなってきた感じなんだよな。
そもそもおかしいのは、朝と夜がよくわからない極地だからって、10時間契約執行活動した後6-7時間睡眠のサイクルを既に4回はやってるって事だよ。
その10時間でしっかり100km進めてるのかっていうとそれもはっきり言わないから予想するしかないんだけど平地じゃない所も頻繁に出てきてるみたいだし、寝るときにかまくら作ったりだとか、洞窟見つける作業で結構時間くわれてるから難航してるとしか思えないわ。
大体6-7時間寒い中寝た程度で魔力って全快すんのかっていうのが一番気になる……。
ネギ君に大丈夫か聞いたところで大丈夫ですって元気なく返してくるだけだからマジで上辺だけなんだよなぁ……。
それに反比例するようにアスナが異様に元気振るから逆にわかりやすすぎて痛々しい……こういう時離れている相手の状況がわかるだけっていうのは悩みの種にしかならねー。
本当に単純に考えると1ヶ月から2ヶ月は何も食べなくても水さえあれば生きていけるってことだけど……これは極地を想定してないデータだろうしなぁ……大体魔力使い続けて精神的披露もかなりアレだから全然アテにならんし、私が桃源につく約4日後にどうなってることやら……。
あーもう頑張って寝よう……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月15日、18時頃、ヘラス帝国首都ヘラス、城内某所―

「アーニャ、ここの生活は慣れたか?」

「は、はい、こんなに良くして頂いてありがとうございます」

もうここに滞在して4日目、慣れたかと言われたら慣れたわ!
飛ばされた瞬間から城内だったけど外から一度城を見せてもらったらメルディアナ魔法学校の比じゃないわよ。
周りは綺麗な湖で囲まれてて夢みたいなお城ね!
凄く大きな龍樹っていう龍なんかもいるし魔法世界ってどこもこんな感じなのかしら。

「ネギ達の捜索の手配はちと手間取ってしもうたがようやく各所には連絡を回せたからもう少し待っておれ」

「ありがとうございます。でも何故ニュースで流さないんですか?」

「それはじゃな……仮にもネギはナギの息子で帝国の中には恨みを持っている者もおるから名前と写真を公表して帝国内で捜索するのは良くないからじゃ。それとアーニャの話を聞いた上での妾の勘なのじゃがゲートポートの事件は何やら臭うから下手にニュースで流すとマズいと思ったのじゃ」

「……そうなんですか……」

「それに基本的にニュースで顔が出るのは指名手配の場合が多いから勘違いされてネギ達が不埒な輩に襲われるのを防ぐというのもある。賞金稼ぎがその辺ウロウロしとる世界じゃからな」

「……そ、そんな事あるんですか……」

「よくあることじゃ」

ロンドンで占いやっててもそんな危険な人達なんてどこにもいなかったわよ。

「……それにしても……アーニャとネギの故郷が悪魔の襲撃にあったというのは、あの腐ったメガロメセンブリア上層部から嫌な臭いがプンプンしおる……」

「え……?」

メガロメセンブリアってネギ達が行くところだったじゃない……。

「おっと、済まぬ、今のは忘れてくれ。妾の思い過ごしじゃ」

「は……はい」

「しかしネギの師匠があの闇の福音というのは世の中面白いものじゃな」

「私は離れなさいって言ったんですけど実際会ってみたら闇っぽさはどこにも無いし、ネギは本当に強くなってて驚きました」

「千の雷を使ったというのが本当ならまさに二代目と言ったところじゃな」

「私その時のことは直接見ていないからよくわからないんですけど……」

「ふむ……ネギが強いなら丁度10月にオスティア記念式典で大拳闘大会もあるし変装でもして出てみたら面白いと思うんじゃが……どこにおるか分からないのではな……」

「大拳闘大会っていうのは……?」

「ナギ・スプリングフィールド杯という名を冠した年に一度最強の拳闘士を決める大会の事じゃ」

「な、ナギ・スプリングフィールド杯!?」

なんでネギのお父さんの名前そのままなのよ!

「アーニャが知らないなら無理ないが、実にそのままの大会名じゃろ?」

「もっと別の名前があっても良さそうですが……」

「ま、それはあのバカに言えばいいんじゃが一体どこにいるんだか……来いと言っておるというに音沙汰も無いし……」

「あのバ……カ……?」

「ナギの事ではないぞ。どちらもバカじゃがな。はっはっは!」

「あ、私達がメガロメセンブリアに行く時に迎えに来てくれる人がジャック・ラカンっていう」

「なんじゃと!それでは、あやつメガロに行っておったのか……。ああ、済まぬ、バカというのはそのジャック・ラカンの事じゃ」

「そうなんですか。出発前ネギはラカンさんは来ない可能性が高いって不死の魔法使いから言われたって言ってました」

「おー、信用されとらんな。確かにジャックの事じゃと約束すっぽかしそうじゃな。どうにか燻りだせないものか……」

こんな感じで私のメガロメセンブリアの首都じゃなくて帝国の首都での生活は過ぎていくけど一体ネギ達はいつ見つかるのかしら……無事だといいけど……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月16日、22時頃、テンペテルラ大陸、オアシス街テンペ、食堂―

あと数時間で高音さん達が迎えに来てくださるが、ここで私は役に立てたのだろうか……。
昨日助けてもらってから、その日の夕方から食堂を手伝っているが……。

「はい、刹那ちゃん、これで今日の店はしまいだよ。それで今晩は泊まっていくのかい?」

「あと数時間で飛空艇発着所に迎えが来るのでお構い無く。女将さん、少ししか手伝えませんでしたが、ありがとうございました」

「いやいや、そんないいって。ここに可愛い子がいるってすぐ昨日噂が広まったみたいで今日はいつもより客が多かったからね。運送屋の人達も喜んでたよ」

「いえ、そんな……恐縮です」

「刹那ちゃんは謙虚だねぇ。ま、お仲間と合流しないといけないんだろ?発着所までの行き方はわかるかい?」

「はい、ジョニーさんに教えてもらったので大丈夫です」

「そうかい。それなら大丈夫そうだね。気をつけていくんだよ」

「はい、お世話になりました」

「また機会があったらここにおいでよ。特にこれといってもてなしもできないけどさ」

「それは機会があれば是非伺います。ありがとうございました」

丸1日と少しだけ食堂で手伝うだけだったが、かといってこれ以上ここに長居しては本末転倒だ。
忘れ物が無いか確認し、荷物を整えて飛空艇発着所へ向かった。

《高音さん、私はテンペのポートに待機していますので到着したら連絡お願いします》

《桜咲さん、わかりましたわ。こちらは東ポートにテンペ時間で3時に到着予定です》

《分かりました。東ポートの待合室でお待ちしています》

《それでは、あと3時間後に》

《はい》

東ポート一般旅客用の待合室で日付が16日から17日になり、3時間が経過するのを待った。
しかし、私達の中で一番酷い状態なのはネギ先生だ……春日さんが桃源という所に向かうそうだが間に合うだろうか……。
お嬢様は今日も無事次の村に着かれてケフィッススに順調に近付いているようで安心できたが……。

[間もなく、3065便タンタルス行き、メガロメセンブリアからの直通便が東ポートに到着致します。6時間程のメンテナンスを行った後9時にタンタルスへ向けて出発する予定でございます]

ようやく到着だが、メンテナンスが入るか……。
放送通りすぐに高音さんと佐倉さんの乗る便……見た目は大きなクジラが東ポートに入ってくるのが見え、乗客達が降りてゲートを通ってきた。
それをしばらく見ていたら高音さんと佐倉さんがゲートを同じように通ってくるのが見えた。

「桜咲さん!お待たせいたしました」

「桜咲先輩、こんばんは!ようやく会えましたね」

「高音さん、佐倉さん、迎えに来て頂きありがとうございます」

「当然の事です、同じ麻帆良の生徒なのですから。今から桜咲さんの渡航許可証の発行手続きを行って来ますから待っていて下さい」

「ありがとうございます」

高音さんは受付に向かって私の分の渡航許可証を発行する手続きを始めてくださった。
他人が発行できるのか気になったがどうやら顔写真は必要ではなく名前さえあれば良いようだ。
危機管理が緩い気がするが、佐倉さんの話によると元々渡航者は幻術や変装、認識阻害を使用している事は日常茶飯事でわざわざ写真登録をする方が煩雑だからという理由らしい。
地球とは大違いだ……。

「桜咲先輩、私達、ネギ先生達も魔法世界にいらっしゃる事を全く知らなかったんですが、極秘だったんですか?」

「極秘……だったかどうかは分かりませんが、学園長に手回しして頂いたので情報管理はかなり厳重だったかと思います。特にネギ先生の情報はマズいですから……」

「そうですよね。私も麻帆良でネギ先生の事に気づいたのは大分時間が経ってからでした」

「それがあのまほら武道会で認識阻害がかかっていたという話であっても地球では派手に目立ってしまったが……」

「魔法世界側には大会の情報は流れてなかったようですし、多分大丈夫ですよ。あ、それともう首都メガロメセンブリアではないので封印箱開けられますよ」

ようやく夕凪……と仮契約カードを受け取れるのか……。
あ……高音さんと佐倉さんは仮契約カードの事を知らない……。
ここは私がなんとかフォローしなければ!

「ありがとうございます」

「桜咲さん、発行手続き終わりました。それでは飛空艇に戻ってから話の続きをしましょう」

「はい、お姉様」

手続きを終えて戻ってきた高音さんの発言により私も飛空艇の中に初めて入る事になった。
飛空艇自体移動するホテルのようで、主な食事をする場所だけは広い食堂だがそれ以外は個室に大体の機能がついているようだ。
高音さん達の部屋は元々私と古の事を考えて4人部屋を取っていたらしくかなり広い。

「桜咲さん、それでは封印箱をどうぞ。首都メガロメセンブリアに戻るか、アリアドネーの場合許可証が必要ですが、当分は必要ありません」

「ありがとうございます。それでは開けます」

「何かドキドキします」

「ただの武器類ですから面白くはないと思いますが……」

封印箱をこうして見るのは初めてだが、確かにウェールズの宿で詰めた時よりも遙かに小さい。
開けたらどうなるのだろうか……。
封印に張ってある紙を剥がし両開きにしたら……。
机の上、近くのベッド等、空間のある場所にどんどん並んでいった……。

「わー、本当にクナイや手裏剣入ってたんですね。確かに邪魔ですけど……私達が来た時は杖と契約カードしか入れてませんでしたし大分違いますね」

「こんなに沢山あったんですわね……」

殆ど楓の物だが……。

「……あれ、仮契約カードがありますね……」

「あら、本当ですわね」

「あの……それは私達とネギ先生との間でこの旅行期間中だけ限定での仮契約カードなんです」

「ええ!?その為にわざわざキ、キスなさったんですか!?」

やはり一般的にはキスの方法が普通なのか……お、お嬢様とは一体どうしたら……いや、そんな滅相もない……でも……あぁ……うーん……。
ハッ!そんな事考えてる場合じゃない!

「あ……いえ……私達全員に聞けばわかりますが、指の血を媒介とした違う方法で行いましたので誤解しないで頂けると……」

「あーそうなんですか、流石ネギ先生ですね!生徒の身の安全の為にわざわざ仮契約までするなんて」

「そ、そうでしたか……まほら武道会の時の私への気遣いもそうでしたが流石ネギ先生ですわね」

ネギ先生、3-Aからだけではなく他の方々からの信用もあるようですね。
私は夕凪と自分の仮契約カードを回収、皆の仮契約カードも無くならないように纏めてホルダーに入れて保管、ネギ先生達の杖と楓の武器類は……なんとかしよう。

「この箱にもう一度残りの武器類を封印するという事はできないのでしょうか?」

「使い捨て用の箱ですからね……それに何度も使える圧縮用の箱となればそれだけで費用がかさみますから一旦開けてしまえばただの箱です。それに高いのはあの封印紙の方ですわ」

「そうなんですか」

「まだ出発まで時間もありますし、保管用に鞄を用意してきましょう」

「高音さん、お願いします」

「愛衣、ネギ先生達と春日さんに合流できたことを連絡しておきなさい」

「分かりました、お姉様!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月17日、4時頃、新オスティア、飛空艇南ポート―

約3日の飛行でやっとこさ新オスティア国際空港の東ポートに到着。
4時間っていう妙な時差が発生してるもんだから起きたら丁度いい感じの朝のつもりが予想以上に早起きだったって感じだな。
昨日寝る直前桜咲さんと高音さん達が合流できたって話を聞いたからやっとこれで一人目と合流……先は長い。
なんか仮契約カードが封印箱の中に大量に入ってて祭りになったみたいだけど、実際のところ全部面倒な契約方法でやったらしい。
ま、その辺突っ込んでもネギ君的に今アレすぎるしどうでもいいスよ。
多分今頃高音さん達はそのままタンタルスに出発してる筈で私はここで一旦降りてどうするかだな。

「ココネ、荷物の準備できたー?」

「出来てる。ミソラは?」

「よーし、おっけーだね。じゃ高速艇に乗り換えよう」

3日間も篭ってた飛空艇ともおさらばして、空港のカウンターで高速艇用の追加チケットを早くも高音さんから貸してもらったクレジットカードで購入、次の出発は8時。
大体4時間ある訳で……高速艇に荷物を置いてからその間にネギ君を救出するための装備で揃えられるものは揃えておくことにした。
オスティアの品揃えはかなりメガロに近いから桃源で揃えるより余程良い。
まほネットで検索したら、一つ2000ドラクマ、32万もするけど、8時間ぐらい持つ使い捨て型サーモスタビライザーなんて便利なものがあるからいくつか買っていこ。
要するに一定空間を設定した温度に保ってられるっていう魔法具ね。
これで自腹だったら死ねるけどクレジットカード助かるわ……。
しっかし魔法具値段たけーつの。
魔法具店は……そんな空港から離れてない筈だけど……。

「ミソラ、あそこ」

「おお、流石ココネ。そんじゃ行くか」

メガロ程日本の高層ビル群は無いけどやっぱ浮遊都市ってだけあって着陸した瞬間は壮観だったわ。
魔法具店はレンガ造りの雰囲気がまさに魔法って感じの場所だった。

「いらっしゃいませ、何かご入用でしょうか?」

入った瞬間あるのはカウンター、んでもって入り口すぐにはお姉さんだよ。
あれか、魔法具店ってだけあって一つでも万引きされると速攻赤字になるから全部品物はカウンター越しの売買なのか。

「サーモスタビライザーをいくつか買いたいんですが」

「サーモスタビライザーですね。少々お待ち下さい」

お姉さんはカウンター奥に入っていって出しに行った。
カウンターにはでけぇおっさんがいるんだけど威圧感スゲー。
主にヒゲとかヒゲとか。
どーみても魔法使いには見えないわー。
何かどこ見るわけでもなくどっしり構えてんなー。

「お待たせ致しました、こちらがサーモスタビライザーα型になります」

ちっちゃ!
まほネットの写真あてにならねー!
何かやたら小さい円盤みたいなんだけど大丈夫なのか……?
てか何だそのαってのは。

「えっとαというのはどういう事ですか?」

「保持時間に違いがありまして、αが4時間、βが6時間、γが8時間になっています。お客様の使用用途をお教え頂ければ適切な時間をお教えできますが」

なんつーゲームのアイテムっぽい製品なんだよ。
いや、アイテムはアイテムだけどさ。

「雪山で使う予定なんですが、途中で休憩するかもしれないですし、何泊かするかもしれないんで……」

「ならαとγ両方だな」

おっさんいきなり喋ったー!

「お客さん、どこの雪山行くんだい?」

「えー、南極です……」

「南極ね……そっちの子とかい?」

「いやー、私だけです。ハハハ」

ココネは連れてけねーよ。
桃源で待っててもらうわ。

「細かい事は聞かんが南極は寒いから気をつけろよ。そうだな、南極行くなら何が起こるか分からんから余分に持っていった方が良い。行きに一日帰りに二日ぐらいで考えるべきだ」

「お客様、マスターは南極に行ったことがありますので信用してくださって大丈夫ですよ」

うはー熊男だからってそのまんまもいいとこすぎるだろー!!
もう少し捻れよ!
つか経験者に語られてんのかこれ。
6日もいらんだろうけど……5でいいか……。

「……分かりました、5日分でお願いします」

「5日ね、予定わからないっていうならそれぐらいがいいだろう。一日にα1つγ1つで15000ドラクマね」

「く、クレジットカードでお願いします……」

「お預かり致します」

げげー、240万?そんな感じか?高ッ!
つかその値段で普通みたいな対応されると引くわー。
まあ……さ、元々魔法具店なんて金ある奴が行くところだから当たり前っちゃ当たり前だろうけど……。

「お客さん、品物はこれね。命は大切にしなよ」

「は、はい、それはもう」

「こちらクレジットカードお返しします」

「どうも」

「お買い上げありがとうございましたー!」

はぁ……カードで買った筈なのに何か抉られた気がする。
とりあえずこれがあれば後は風が防げる簡易テントぐらいで毛布もデカイのはいらんし楽なのは確実だな。
後はドライフードでも買っていくかー。
やたらかさばる食料なんてリュックに入れて持って行く気起きないし。
雪があるなら水がなくても……と言いたいけど無いかもしれないから普通の食料も必要だな。

「ココネ、次行こうか」

「分かった」

続けて必要なものをあらかた買ってから高速艇に戻っていざ桃源へ。
やっぱ高速艇ってだけあって早い。
一般旅客用の2倍の速度は出てるよ。
その分他の飛空艇に比べて飛んでる高度も高いんだけどさ。
私はまたもや、まほネットで桃源から単純に南下し続けた場合のルートを検索しながら過ごしつつ昼飯を食べたりしてたんだけど、アスナから連絡があった。

《さっき丁度お昼に結構大きな街についたんだけど、門番の人に呼び止められたのよ!そしたらヘラス帝国で独自に私達の事探してくれてるみたい!》

なんじゃそりゃ、どーして帝国の方が探してくれんのさ!
丁度私よか東側の皆とネギ君と小太郎君は寝てるから反応はしないだろな。

《アスナ、そりゃ良いけどなんでまた帝国が?》

《なんか軍の人だけに私達の写真と名前が回ってるみたい。コタロは名前だけらしいけど。探してるのは皇女様だってさ》

は?
極秘指名手配ってわけじゃないだろうけど……。

《アスナさん、それはもしかしたらアーニャさんかもしれないわね》

あーそういう可能性もあるか。
いや、にしてもなんでいきなり皇女様が出てくんだよ。

《ドネットさん、確かにアーニャちゃんかもしれませんね!》

《アスナさん、小太郎君が北極にいるの伝えたかしら?》

《あ、はい、伝えます》

《どうやらアーニャ殿も無事であったようで何よりでござるな》

《良かったなぁ。アーニャちゃんもアスナも》

《もしアーニャちゃんが城の中に突然転移してたらどこのお話だって感じだけどさ》

《しかし、城の中にでも転移しなければ皇女と話すのは不可能では?》

茶々丸……なるほど、的確だ。

《た……確かに》

《私このまま首都行きの軍の飛空艇に一緒に乗せてもらえることになったから行くわね!》

アスナが最初に乗るのがクジラじゃなくてシャチのインペリアルシップとは……。

《多分インペリアルシップだな。アスナ、それ滅多に乗れないから後で感想よろしく》

《そうなの?分かったわ》

《小太郎君が起きたら捜索が出ていることを伝えましょう》

《了解です》

ヘラス帝国の方が安全って何だ。
皮肉すぎるわ。
軍用の船なら高速艇より速いから首都までその日のうちに着くだろな。
それに引換えメガロと来たら未だにゲートポート関係で軍関係は動かないしなんて機動力の無い……。
まあテロ受けたんだから仕方ないっちゃ仕方ないけど。
まだ1週間経ってないしね。

《私達も今日には山越えも終わってようやくヘカテスまで出られるわ。その後二日移動してグラニクスに行く予定よ》

《やっと街でござるな》

マジかー!
超危険樹林組もようやっと脱出スか。

《いやー、ドネットさん達が無事にケルベラス大樹林抜けられて良かったです》

一番襲われるっていう点で命が危険なケルベラス大樹林から脱出ってギネス申請できるレベルだろ……。
竜種に襲われてマジやばい時は茶々丸のガチ武装でレーザー撃ったりしたらしい。
流石現代兵器、威力は自重しない。
楓もその辺にあった固めの石加工して武器にしたらしいし、サバイバル本家は伊達じゃないな。
わざわざ高音さん達が手裏剣やらクナイ運ぶ必要があるのか謎だ……。
この調子で行くと19日にはネギ君と、帝国軍次第だけど小太郎君以外は大体みんなどこかしら村か街にはいる感じか。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月17日、20時頃、ヘラス帝国首都ヘラス、帝国直轄飛行場―

門番の人に話かけられて名前名乗ってからはあっという間。
空港に連れて行かれて美空ちゃんが言ってたインペリアルシップっていうのに乗せてもらったわ。
千数百キロぐらいあった筈なのに数時間で着いたから本当に速かった。
それでも飛行機程速くなかったけど……。
首都の景色を上空からも見れて、言ってみれば本当に湖に囲まれた水の都って感じ。
丁度夜で明かりもついてて夜景が綺麗だったわ!
それにしてもここ数日変な夢ばっかり見てる気がするんだけど、私こっちに来たことなんてあったのかしら……。

「どうぞ、カグラザカアスナ様、足元に気をつけてお降り下さい」

「ありがとうございます」

降りてみたら、まーインペリアルシップしかない飛行場ね。

「アスナー!!」

あ、あの手を振っているのは!

「アーニャちゃんっ!!」

思わずかけ出しちゃって周りの人達驚かせちゃったけどそれよりアーニャちゃんよ!

「アーニャちゃん、ヘラスにいたのね!良かったー!」

「アスナこそどこいたのよ!それにネギ達も居場所全然わからないじゃない!」

「それがネギ達の場所は全部分かってるのよ」

「え?」

「そなたがアスナか?」

近くにいた綺麗な女の人で……探してたのは皇女様っていう事は……。

「あ、はい、私が神楽坂明日菜です。もしかして皇女様ですか?」

「そうじゃ。妾はテオドラ、帝国第三皇女じゃ。アーニャが数日前妾の部屋にいきなり現れたでの。捜索の手伝いをしたのじゃ。積もる話も何じゃ、城に戻るぞ」

「え、アーニャちゃんもしかして飛ばされたらお城の中だったの?」

「そうよ」

ほ、本当にどこのお話よ……。
皇女様とその護衛の人達に連れられてお城まで連れていってもらったわ。
徐々に護衛の人達が減っていって案内されたのは皇女様の部屋。

「よし、ここなら話せるぞ。アスナ、コタロとやらが北極にいるという情報だが、状況を整理してから明日、明けてすぐ一番に捜索を出させるからしばし待つと良い」

「あ、ありがとうございます!」

「アスナ、なんでネギ達の場所が全員分かるのよ」

「これよ。アーニャちゃんに見せてなかったけどこの端末で皆とはここ数日通信できてたの」

「何よそれー!私だけ仲間外れ!?」

皇女様の前でこんなにはっちゃけていいのかしら……。

「そんなつもりじゃないけど、人数分しかなかったのよ。ドネットさんの分も無かったし」

「そ、そうだわ、他の皆の場所はどこよ」

「夕映ちゃんはアリアドネー、楓、茶々丸さん、ドネットさんは今日ケルベラス大樹林って所を抜けてヘカテス、このかはケフィッススから離れた村、刹那さんはこっちに来てた麻帆良の魔法生徒の人と一緒にタンタルスに向かう飛空艇の中、くーふぇはタンタルス北のあたり、のどかはノクティス・ラビリントゥスでトレジャーハンターの人達と一緒。それでコタロが北極で……ネギが南極よ」

「場所言われてもちょっと良くわからないけどネギが南極って……」

「ものの見事に……バラバラに飛んだようじゃな。ケルベラス大樹林を抜けてヘカテスにたどり着いたとは驚いたが無事で何より、コタロは明日には捜索が出るから大丈夫じゃろうが……ネギはアスナの言い方からすると良く無いようじゃな」

「はい……しかもネギだけじゃなく、ゲートポートの受付の人も一緒に飛ばされていて食料も殆ど無いのに移動してるんです……。一応今高速艇でオスティアから桃源に向けて麻帆良のもう二人魔法生徒が向かってるんですけど……」

「ネギとその受付の人そんな寒いところでどうやって移動してるのよ……」

「ネギが仮契約して移動中はずっと契約執行してるらしいわ」

「ま、また仮契約!?ってそんな場合じゃないわね……。移動中ずっとって数時間もやってるの?」

「初日は10時間やってたわ」

「じゅ、10時間!?」

「ナギも馬鹿魔力かと思えばネギもか……しかしいくら魔力が多いと言うても限界があるじゃろ。済まぬな、ヘラス帝国は南極に助けをやることはできぬ」

「皇女様、気にしないで下さい。アーニャちゃんと私、コタロをありがとうございます。それで……ネギのお父さんの事を知ってらっしゃるんですか?」

「ああ、妾はナギに会ったことがあるしよく知っておる」

「アスナ、その話はまた後でいいけど、ネギとその端末っていうので通信はできるの?」

「できるわ……丁度今日最後の移動中よ。ちょっと待ってね、アーニャちゃんの声を聞いたらきっとネギも元気になるわ。……はい、これに手を当てて。通信は念じるだけでいいから。良かったら皇女様もどうぞ」

個人通信でいいわよね。
アーニャちゃんの無事は皆と別に話せばいいわ。

「妾も良いのか?それでは遠慮せず」

《ね、ネギ、アーニャちゃんヘラス帝国にいたわ。今一緒で助けてくれた皇女様もいるわ》

《う……アスナさん、ほん……とうですか?アーニャ、無事で良かった……。皇女様、助けて頂きありがとうございます……》

5日間の間なのにもう8回目の移動……だったと思うけどこんなに衰弱して。

《ね、ネギ。私は無事よ、あんたその……大丈夫なの?》

《テオドラじゃ、ネギ、礼には及ばん。身体を大事にせよ》

《アーニャ、僕は……大丈夫……。前よりは……寒くないところにいるし……。テオドラ様、ありがとうございます……。アーニャ、必ず僕……皆と合流するから……ちょっと待っててね……》

《ネギ、もう無理しなくていいわ。また後で連絡しなさいよね》

《はい……アスナさん。また後で……》

あの子本当に大丈夫しか言わないんだから……。

「アーニャちゃん、ネギはこんな感じなの……。でも、美空ちゃんって私の友達が助けに行ってくれるから絶対大丈夫よ」

「わ、私も助けに行くわっ!」

「アーニャよ、落ち着くのじゃ。ここからでもどうあっても南極に行くには数日かかる。アスナの友人の方が早くつくじゃろう」

「そうよ、アーニャちゃん」

「うぅ……だって……」

アーニャちゃんの気持ちも分かるわ。

「アスナ、ネギは杖をやはり持っておらなんだか?」

「はい、私達全員杖武器類は全てゲートポートの封印箱に残したままだったので」

「そうか……祈るしか無いの。妾に協力出来ることは帝国にいる後一人、コタロとやらの捜索じゃな」

今日は私もアーニャちゃんと一緒に城の部屋で泊まらせて貰ったわ。
皇女様がネギのお父さんが活躍した大分裂戦争で関係があったっていう話を聞かせてもらったんだけど、オスティアのあたりの話っていうのが、ネギが言うように少し私も何か引っ掛かる気がするのよね。
私の場合は魔法世界の崩壊とかそういう事とは違うんだけど……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月18日桃源時間0時頃、南極、強制転移から124時間(5日4時間)が経過―

これで8回目の移動も終わり……なんとか今日は洞窟がみつけられたけど……携帯食料はもうないし……救いは雪から水が取れるだけ……。
山が多くなってきたせいで街までの直線距離で700km進めたかどうかっていう距離……これはマズい……。
木でもあればいいんだけどまだどこにも植物は無いし……本当に雪だけだ。
嬉しい情報はアーニャがヘラス帝国の首都にいたって事だ……。
お陰でアスナさんも首都に着けたみたいだし詳しくは聞いてないけどコタローもこのままなら大丈夫だろう。
こっちは春日さんが来てくれるって事だけどまだ時間がかかるだろうな……。

「ネギ君……今日は昨日より休んだほうがいです。いくらネギ君の魔力が多いと言っても6時間ぐらいでは完全に回復したりしないでしょう」

「は……はい、でも大丈夫です」

「ネギ君、大丈夫ばっかり言ってます。どう考えても大丈夫じゃないって言っているようなものです。休んでください」

そういえばアスナさん達にもずっと大丈夫ばかり言ってるな……。

「分かりました、ミリアさん。今日は少し長めに休みますね」

「そうして下さい」

……実際には6時間を超えて契約執行を切っていると凍死しそうだから早めに起きて移動するのを口実に契約執行し続けてるんだけど……これは言えないな……。
食べ物を食べていないからエネルギーが足りないのも問題だ。
多分身体にもともとある脂肪を燃焼させてるだろうけどその実感も無いし、走り続けられる程のエネルギーが得られているとは思えない。
多分あと1日か2日で魔力が回復し切らずに移動中に足りなくなるかもしれない……けど……無理でも……無理を押し通すしかない。
皆と合流するって約束したんだ、絶対にこの約束守ってみせる。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月18日ヘラス時間、8時頃、北極、某所―

アスナ姉ちゃんが言うにはもう捜索が出とるって事なんやけどこの辺山多いからな。
1000km越えたんは間違いないんやけどまだどこにも鹿見つからんな。
凍った肉まんは全部食べ終わっとるし、ハラ減ったわー!
咸卦法覚えといてホンマ良かったわ。
この5日で結構上達したからな。
生き死にかかっとると底力出るもんやで。
待っとってもしゃあない、まだまだ進むで!
右腕に気、左腕に魔力……合成!!

―咸卦法!!―

アスナ姉ちゃんみたいに長時間はずっとやんのは無理やけど5分は必ず越えられるようになったからな。
このか姉ちゃんおったらもっとやってもええのやけど爆発は御免や。
やっとただの何もない雪山からちらほら木も見えるようになったな。

……何やこの音?
ゴゥンゴゥン言っとるな。
お、空に何や浮いとるのが見えるで!
ひぃふぅ……正確にわからんけどいくつか来とるな。

[こちらヘラス帝国軍捜索部隊、イヌガミコタロ、付近にいれば応答されたし、しばらく応答が無ければ移動する]

まーたコタロってアーニャ言うんネギの幼なじみにしろアスナ姉ちゃんにしろあとちょい伸ばせばええだけやないか!
まあええ、荷物あるけど浮遊術で寄っていったるわ。
のろし替わりにこれも見てみろや!

―咸卦・疾空白狼牙!!―

狗神は普段黒いんやけど、前と違うて初速に咸卦法を乗せるんやなくて、狗神自体に咸卦法の力も乗せるようにしたら白く光るようになったわ。
これやと影使い廃業やけどな。
ま、威力は段違いに上がっとるからええ。
ネギと組めばそう簡単に負けはせえへんで。

結構高いところに浮いとるんやな。
真面目に打ち上げたんやけど、届かんわ。
ま、既に空中の高いとこ浮いとるから気づくやろ。

[イヌガミコタロと思われる人物を発見、2番艦高度を下げ救助活動に入る]

おお、下がってきおった。
何や飯食わせてくれると助かるんやけどな。
俺も1000mぐらい上がったところで同じ高度に到着したわ。

[これよりハッチを解放する、入ってこられたし」

アスナ姉ちゃんシャチみたい言う取ったけどサメでもええんちゃうか?
浮遊術でそのまま開けてくれたとこから入らせてもらったわ。

「助かったで、感謝するわ!」

「イヌガミコタロ殿ですか?」

あー、ホンマに角生えとるんやな。

「ああ、犬上小太郎や」

「送られてきた写真の特徴とも合致します。間違いありません。犬上小太郎殿、本艦へようこそ」

「首都まで世話になるで。あー、できればなんやけど、何でもええから食べる物くれへんか?腹減ってかなわんわ」

「それは勿論です。食堂がありますのでご案内します」

「よっしゃ!やっとまともな食事や!」

軍人やっとるのなんて男ばっかりかと思っとったけど女の姉ちゃんもおるんやな。
荷物を預かってもろて食堂に連れてもらって腹が膨れるまで食わせてもらったわ。

「コタロ殿が先程本艦に近づいてきたのは浮遊術ですか?」

「なんで兄ちゃん達俺に敬語使ってるんや?俺どうみてもガキやろ。質問やけど、浮遊術やで」

兄ちゃん達俺の周りに集まっとんのやけど集中して食えへんわ。

「言葉遣いは決まりですので。その年で浮遊術とは素晴らしい。格闘の方も得意なのですか?先ほどの狼煙も変わったものでしたがかなりの威力があったとお見受けしました」

あれ見て威力分かるんか。

「格闘っちゅうか俺普段ずっと修行しとるからな。前より強くなったのは確かやけど、まだまだやな」

まほら武道会は俺やネギでも敵わん相手多かったしな。
楓姉ちゃんより凄い忍びやとか瀬田の教授やとかはるか姉ちゃんやとか蘇芳の兄ちゃんやとか全勝しとった人達には咸卦法使えてもまだ勝てる気がせえへん。
あの教授に至ってはその場で使いおったしな。
ホンマありえへんで。
……おっ、この肉ウマイな!
もしかして鹿か?

「拳闘大会というものがありますが良ければ参加されてはどうですか?ある程度腕が無いと危険ですがコタロ殿なら問題ないかと思います」

「拳闘大会?」

「はい、2ヶ月後にオスティアでナギ・スプリングフィールド杯という大拳闘大会があります」

「ブッ!!ゴホッゴホッ!」

「だ、大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫や。それ俺みたいなガキでも出れるんか?」

驚いたわ。
何やねん、ネギの親の名前そのまんまの大会は。

「年齢は問題ありません。ただ2対2で戦うので一緒に戦うパートナーが必要となりますが」

「へー、それタッグバトルなんか?」

「はい、その通りです」

「ゲートも壊れて帰れへんし、俺の相棒も助かったら出てみたいな!兄ちゃん達は出えへんのか?」

ネギはちとヤバイからな……。
春日の姉ちゃんが行ってくれるゆうたけど間に合うのを祈っとるで。

「我々は軍人ですから。ヘラス族は長命なので参加する者もあまり多くありません」

あー、そう言うことなんか。
大怪我して長い事生きなあかんのは面倒やしな。
こっちの医療がどんなもんかは知らんけど。
ウマイ肉が何か聞いたらやっぱヘラス鹿やったわ。
食いまくって腹いたくなって寝たかったんやけど、その後強制的にシャワーあるとこ引っ張られて身体洗わされた。
ま、臭うんは仕方ないな!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月18日16時頃、アリアドネー魔法騎士団候補学校―

ユエはこの数日でもう結構学校になれたね。
学校にある凄く変な味のするジュースに嵌ってるんだけど味覚大丈夫なのかな……。
それにトイレが近いという弱点があるのがわかった。
これを委員長に「戦場では致命的ですわ!」なんて言われてた。
そういう時は飲まなきゃ大丈夫!
で……今日も先生に例の論文の事を聞きにいったよ。

「あなた達、その論文についてここ数日聞きまわっているようだけど、そんなに気になるならグランドマスターに聞いてみなさい。私からも伝えておくから」

「本当ですか?ありがとうです、先生」

「学校の勉強だけに満足せず他の事にも興味を持つというのは良い事だわ」

「先生、ありがとうございます!」

教員室から失礼して、緊張するけどグランドマスターのいる部屋に向かうことにしたよ。

「にしても先生達にも聞いて回ったけどあんまり知らないみたいだったね」

「はい……。一つわかったのはあの論文が旧世界出身の魔法使いが書いたという事だけです」

「知りたいのはあったとしたら本当の論文、その中身なんだけどね」

……話しながら進んでたら

「お待ちなさいユエさん、コレットさん。何処へ行くのですか?」

委員長、とビーさんなんで都合よく曲がり角から現れる?

「あ、委員長もグランドマスターの所に一緒に行くですか?例の論文の事を先生からグランドマスターに聞いてみるといいと言われたです」

「セラス総長にですか!?……分かりました、私もご一緒しましょう」

委員長も論文の事調べてくれてるから断る理由もないね。
4人で学校最上階にある総長室まで行って……。

「緊張するね……」

「何を言ってるんですか、コレットさん。入りますわよ」

あ、委員長がドアノックした!

「総長失礼致します、3-C、エミリィ・セブンシープです」

『話は聞いているから入っていいわ、エミリィ』

委員長が最初に入って挨拶して

「失礼いたします、ベアトリクス・モンローです」

「失礼するです。ユエ・ファランドールです」

「し、失礼します、コレット・ファランドールです」

総長室って広いなぁ……。
大きめの机にグランドマスターって入った名札が置いてある以外は応接用のソファーと壁際に本棚があるぐらいだけど。
机の前に4人で並ぶのってなんか緊張するよー!
グランドマスターの貫禄は凄いし!

「さ、要件を聞きましょう。ユエ・ファランドール」

「は、はいです。グランドマスターは人造異界の崩壊・存在限界の不可避性の論文で総合図書館に保管されているものとは違うものがあるか知っておられるですか?」

「あなた達がここ数日聞いて回っていたというのはその論文ね。ここの学生が調べるには変わった論文だけれど私も総合図書館のものしか知らないわね。もしかしてあなた達もあの論文に違和感があると感じたのかしら?」

「で、ではグランドマスターもあの論文が第三者によって手を加えられていると思われるのですか?」

「その可能性は否定できないわね。その前にどうしてあの論文に興味を持ったのか聞いていいかしら?」

「はい……。数日前のゲートポートでのテロと関係があるです」

「ユエさん!?それはどうい……総長失礼致しました」

「エミリィ、気にしなくていいわ。ユエ、詳しく聞きましょう。でも、まずは席をあちらのソファーに移動しましょうか」

「「「「はい!」」」」

なんだか4人一緒に総長面談してるみたい……。

「さあ、ユエさっきの続きをお願い」

「はいです。グランドマスター、内容を判断してからでいいのですが先にここでの話は秘密にしてもらえないでしょうか」

ユエ、もしかしてネギ君の事言うのかな?
確かにグランドマスターに約束してもらえれば大丈夫だと思うけど。

「……ええ、いいわよ。盗聴防止の結界も張っておくから安心しなさい。エミリィ、ベアトリクス、コレットもいいかしら?」

「「「はい」」」

「これでいいわね」

「ありがとうです。私の記憶は今一時的に失われているのですが、私を知るという人達と連絡が……この、端末で取れていてその中のある人に頼まれた調べ物なのです」

ユエが端末を机に出した。

「あら、ユエ、あなた身元が分かったの?」

「はいです。しかし、この端末で連絡が取れる人達の事がはっきりと思い出せないのも事実です。どうやら私は旧世界出身で麻帆良学園という学校の生徒だったようです」

「ユエさんが旧世界人!?」

「麻帆良学園……ね。確かに旧世界の日本にその学校はあるわね。私も知っているわ。その連絡が取れる人達とは合流しなくていいの?」

「数日前全員、ゲートで入国手続も終わらないうちにゲートポートのテロに巻き込まれ世界各地に飛ばされしまった事と、集合の順序、固まりから今アリアドネーが集合場所の一つとなっているです」

「そういう事……。ゲートポートのテロに巻き込まれた上記憶が失われているなら無闇に動くより待っていた方がいいわね。安心なさい、人助けもアリアドネーの為すことの一つだから。とりあえずそれはいいわ。続けて頂戴」

「ありがとうです、グランドマスター。話の続きですが、そのある人によると、ゲートポートでのテロ事件は魔法世界から旧世界への魔力流出を防ぎ、ひいては魔法世界の崩壊を防ぐという目的があるのではないか、という話を聞いたのです。その裏付けに人造異界の崩壊・存在限界の不可避性の論文の詳しい内容が知りたいという事なのです」

「ま、魔法世界が崩壊ですって!?」

委員長、その反応は分かるよー。

「それは……壮大な話ね……。あの時の事を思い出しそうだわ……。そのある人というのがそう思った理由は何かあるのかしら?」

「旧世界の魔力と、魔法世界の魔力は質が違うと感じるからだそうです」

「そう……質ね……。これまでそんな事に気づいた人はいなかったのだけれど……。分かりました、私もその論文についてもう一度調べてみましょう」

「グランドマスター、ありがとうです」

「ユエ、そのある人と直接話がしてみたいのだけれどできるかしら?」

「その……もうすぐ起きるかもしれないのですが……その人は今真面目に話せる程元気が無い……かなり衰弱……しているようなのです」

「ユエ、衰弱ってそれ本当!?」

ユエ、その事言ってなかったじゃん!

「コレット、言わないでいてすみません。……既に彼は南極で6日間杖も食料も無く移動しているそうなのです」

「南極!?ユエさん!どうして助けにいかないのですか!?」

「委員長……私も保護して貰っている身ですし、南極はメセンブリーナ連合領です。アリアドネーに救助を頼んでも無理なのです。メセンブリーナ連合自体は今のところ非常事態宣言のままで軍もゲートポートの事件で手一杯で動いていません」

アリアドネーからじゃ助けにいけない……。

「アリアドネーから飛空艇を出すのは確かにユエの言うとおり無理ね。その他に飛ばされた人達というのは大丈夫なの?」

「他の人達はそれぞれ全員どこかしら街には着いたそうで、その中の一人が明日には桃源に高速艇で到着そのまま出発して南極へ救助に向かうそうです」

「分かったわ、ここまで聞いたからにはアリアドネーでその人達を受け入れられるよう準備をしましょう。既にアリアドネーにも何人かゲートポートから飛ばされたという人もいるから大丈夫よ。その端末で他に話が出きる人はいるかしら?」

「ドネットさんという人がいるです、グランドマスター、コレット、委員長、ベアトリクスもこれに手を当てて欲しいです。通信開始」

ユエに言われて端末に皆で手を当てた。

《ドネットさん、夕映です》

《夕映さん、少々お待ち下さい、ドネットさんに繋ぎます》

《この方は茶々丸さんというそうです》

《変わった通信ね。念話とも違うようだけど》

《はい、夕映さん、ドネットよ。何かあったかしら?》

《ドネットさん、魔法騎士団候補学校セラス総長を紹介するです》

《ドネットさん、初めまして。セラスです。ユエさんに話を聞いて通信を繋いで貰いました》

《こ、これはアリアドネーのセラス総長ですか。初めまして、私は旧世界メルディアナ魔法学校所属のドネット・マクギネスです》

《……メルディアナの方でしたか。ユエさんから少し聞きましたが入国手続をする前にゲートポートの事件にあったとか。これよりアリアドネーはあなた方の受け入れに尽力することをお約束します》

《セラス総長……直々のお言葉感謝します》

《他にアリアドネーで協力できることはあるでしょうか?》

《お気遣い感謝します。現状、一人を除いては……順調なので問題ありません。私は現在ヘカテスから自由交易都市グラニクスに向かっており明日には着く予定ですが、そこから本国に連絡をするつもりです》

《分かりました、アリアドネーに寄ることがあればどうぞ》

《ありがとうございます。セラス総長。夕映さんもありがとう。セラス総長であれば彼の事を教えても構わないわよ》

《わ、分かったです……》

これで一旦通信は終わった。

「グランドマスター、彼というのは私も先日調べて驚いた事なのですが、あのナギ・スプリングフィールドの実の子供、ネギ・スプリングフィールドという少年のようです」

「な、ナギ様の子供ですって!?そんな事聞いたことありませんわ!!」

委員長が凄く反応したんだけどもしかしてナギファン!?

「この……写真を見て下さい。麻帆良学園での集合写真だそうです。私も写っていますが、この赤毛の少年がネギ・スプリングフィールドです」

ネギ君と他に私達と同じぐらいの女の子達が写ってる写真。
ネギ君が先生って事だから他は皆生徒なんだね。

「まあ……確かにナギ様の小さいころの面影が……」

委員長、顔が露骨に赤くなってるよ。
ってビーさんも……ってユエもか!
頬が熱くなってるってことはまさか私も!?

「なるほど……8月ということは旧世界の学校でいう夏期休暇ね。旅行に来た途端にゲートポートでテロにあって散り散りになったという訳ね。なんて運が悪い……。ナギ・スプリングフィールドに子供がいるという情報は恐らくメガロメセンブリアでもAランク以上の情報でしょうね。エミリィ、ベアトリクス、コレット、絶対にこの事を口外してはだめよ」

そうか、機密情報なのね。

「「「は、はい」」」

「ユエ、論文から話がそれてしまったけれど調べておくから安心なさい。それに記憶が戻るまでここに居ていいのは変りないわ」

「ありがとうです」

グランドマスターの部屋にこんなに長居したのは初めてだった……。
総長室を出てから寮に戻るまで委員長の顔が喜びと悲しみを交互に繰り返しながら小さくブツブツ呟いているんだけど「ナギ様の子供」って連呼してるみたい。
私も衰弱してるって聞いて心配だけど、救助に行く人がうまくやってくれることを祈るよ。

「委員長もナギ様のファンなの?」

「コレットさん、どうやらあなたもそのようですが、その通り。しかしあなたとは格が違いますわ。これを見なさい!!」

「な、そ、それはっ!?」

なんだか光輝いて見える会員証、しかも!!

「かかかか、会員ナンバー78!?二桁台なんてそんなバニャナニャ!?」

二桁なんてファンクラブが設立された瞬間、その情報を掴んでるでもいない限り持っていないはず!!

「フッ……私こそが真のナギ様のファン。親の代からのファンですわ。し……しかしユエさん……」

「お嬢様、それ以上はダメです」

「ハッ!私としたことが危なかったですわ。ユエさん、総長も言っておられましたが私もあの論文の事、全力で調べますわ。ナギ様がいなくなってしまって久しい今、これは何という天の巡りあわせ!今にも私なん」

「お嬢様、それ以上は危険です」

「ハッ!」

ビーさんの的確なツッコミでトランスする度に現実に戻る委員長は変人に見えた。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月19日1時頃、桃源目前、高速飛空艇内―

眠い……。
けどようやく桃源着くな。
着いたら一旦桃源で宿とってココネと持ってく必要ないものを置いてくる必要があるな。
あーメガロが丁度6時頃だから降りる前にニュース見とくか。
あーでもまた今日も同じかな……。

[6日前世界各地で同時多発的に起こったゲートポートでのテロ事件ですが依然犯行声明もなく背景が全て謎に包まれたままのこの事件ですが、メセンブリア当局より新たな映像が公開され、実行犯の一人とも見られるこの外見上10程度の少年に見える人間に懸賞金付きの国際指名手配がなされました]

は?
何だコレ!!
ちょっと!誰か説明しろ!
なんでネギ君の顔がデカデカと写ってんだよ!
ネギ君系の情報機密はどーした!

[続けてこちらの映像を御覧ください]

おーおーなんだ?
ネギ君が突然ゲートの頭上にあらわれてスゲー魔法でそこにいた人達を全部強制転移……んで、要石に手をあてて……力を入れたら何か一撃で粉砕したし。
よくできてるなー。

ってねーよ!!
どうみても捏造だろーこりゃ!

[またこれら人間の少女にも同様に懸賞金付きの国際指名手配がなされました]

はー、アスナ、このか、桜咲さん、楓、くーちゃん、のどか、ゆえ吉……。
ナニコレ。
茶々丸、小太郎君、アーニャちゃん、ドネットさんが何故いない?
いや、なんつーかこの面子ってあれじゃね?
修学旅行の時のあの一団な気が……。
ってことはあの悪魔召喚の奴らが噛んでるじゃ……。
ネギ君が30万ドラクマ……アスナ、このか、のどか、ゆえ吉が1万5千ドラクマ、他が3万ドラクマってなー。
たけーよ。

[ご乗船ありがとうございました。桃源に到着でございます。荷物をお忘れずにお降りください]

ってそれどころじゃねー!!

「ココネ、とりあえず通信しながら移動するよ!」

「分かった」

ええーい、もう訳わからん。
ネギ君が言ってた「メガロメセンブリアのどこかが絡んでいるかもしれない」ってのはマジ大当たり、それどころか真っ黒じゃんか!
ニュースがリアルタイムで届くには場所によって数時間差があるから早めの行動が肝心。
飛空艇が常にメガロとリンクしてて一番に情報が見れたのは不幸も不幸中の幸いだわ。
とにかくネギ君以外に全員通信。
丁度皆のいる位置だと深夜で寝てる時間帯なのは私から6時間東だから都合よく誰もいない!

《高音さんも見てたかもしれないけど皆、メガロのニュースで酷い事が分かった!》

《春日さん、こちらも見ていましたわ。桜咲さんをすぐに変装させます。幸い不法入国の件を警戒して部屋に居てもらいましたからあまり人の目には触れていません》

それで撒けるのか……?
まあそれはいい。

《春日さん、一体何があったの?》

《ドネットさん、説明します。ネギ君、アスナ、このか、桜咲さん、楓、くーちゃん、のどか、ゆえ吉の顔写真がニュースで出て、名前は付いてないですけど懸賞金付きの指名手配がかけられたんです》

《な、何ですって!?》

《美空ちゃんそれどういう》

《アスナは何とか帝国で匿ってもらえ!今マズいのは、このかとくーちゃん、それとのどか!このか、そこニュース届くの遅いっていってたけどケフィッススには変装無しで近づいちゃだめだ!せめてフード被って》

《美空ちゃん、ここまだ村やから大丈夫や。しっかり変装するえ》

《美空、私もまだタンタルス着いてないから大丈夫アルよ!》

《美空さん、私クレイグさん達に伝えて変装させてもらいます》

《はーそれなら良かった。ただのどかは守ってもらえるとしてくーちゃんは強いけどこのかだな……。楓はプロだろうから大丈夫だろうけど》

ここで忍者って言わなかったことを自分で褒めたいわ。

《そうでござるな。拙者の身体操術ならば子供にもなれるでござるよ》

なんだそれ!
そこまでは求めてないわ!
セルフ年齢詐称薬って何かの宣伝文句みたいじゃんか。

《流石楓だな!ドネットさん、私桃源到着したんで今から宿取って朝まで寝たら南極行きますんで》

《分かったわ。それにしても……ネギ君が言ったとおりになったわね……。これではメガロメセンブリアには戻れないわね。皆アリアドネーに集合で決定よ》

この後私は皆の通信を聞きながら桃源空港を後にして、一番安全そうなホテルでチェックインした。
とりあえず7日分部屋は取っておいたからこれで南極に行っても大丈夫だろ。
ネギ君用の変装用具は……年齢詐称薬があるから用意しなくていいか。
この間皆の通信を聞いてた感じ、アスナまだ情報が回っていないうちに城内で認識阻害メガネ、獣人変装キットを貸してもらったらしいし、皇女様は「メガロメセンブリアは真っ黒じゃな」なんて言ったらしい。
私と同意見だわ。
のどかもクレイグさん達が「偶然にしてはできすぎだったな。ノドカ嬢ちゃんは俺達が必ず守るから任せとけ」って直接通信に参加してきたからこっちも大丈夫だと思う。
つかホント良い人達だな。
メセンブリア当局も見習え。
んで楓はマジで身体操術ってので完璧に化けたらしいし、桜咲さんは高音さん達がなんとかするだろ。
しっかし、このか、くーちゃんは自力で頑張れとしか言いようがない。
一番高額の賞金首のネギ君は誰も捕まえに行くのはありえない南極にいるけど、命が危険だから賞金首どころじゃないわ。
つか、まーその為に私が来たんだけど。
微妙にまた興奮してうまく寝付けないのに同じこと数日前あったなと思うけど、朝一で保存の効く食料手に入れたらアーティファクトと箒で一気に駆け抜けるつもり。
さ、頑張って寝よ。



[21907] 46話 南極(魔法世界編6)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/01/12 00:15
―8月19日、某新オスティア浮遊岩地帯―

ネギ一行が懸賞金付きの国際指名手配にされた頃、フードを被った数人が周囲を見渡す限り他に何も無い岩ばかりの場所にいた。
そこへ、桜吹雪とともに新たに現れた人影があった。

「フェイトはん、新世界のお姫様はヘラス帝国に入ってしまいました~」

「ヘラス帝国……。何故だろうね。彼らが地理を把握しているとは思えないんだけど、そういうこともあるのかな」

「フェイトはん、どうしてゲートで突然挨拶も無しにセンパイ達を飛ばしたんどすか?」

「予想以上に厄介になっているかもしれない彼等の足止めと異世界旅行のスパイスにね。いつかは接触しなければいけないがあの時こちらから姿を現す必要もなかったからね」

「え~ウチいつセンパイ食べていいんですか?」

「月詠さん、少し我慢してもらえるかな。時が来たら、お姫様をヘラス帝国から連れ出すその時にでも好きにしていいよ。場所が分かっているならどこにいようと連れ出すのは容易い」

「は~い、分かりました。でも味見ぐらいはええですか?」

「あのね……」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月19日、7時頃、桃源、ホテル―

あー朝だ。
ぐっすり眠れなかったけどまあいいスよ。
今日出発するための荷物は殆どできてるし、後は日持ちの良い食料買っていけばいいだろ。
クレジットカードとか自由渡航許可証は無くすとダメだから置いていってと……。

「ココネ、数日かかるかわかんないけど行ってくるよ。多分5日もかかんないと思うけどさ。アーティファクトは使わせてもらうから」

登山用の本格的リュックに私の箒、ネギ君用の箒、杖、地図その他諸々持ったしおっけー。

「ミソラ、気をつけて」

「ああ、分かってるって。どう?このゴーグル?走ったり、雪の中で視界確保する用に買ったんだけど」

「前のスキーの時と同じ」

そういやシアトルの時と似たようなもんか。

「ははは、そっかそっか。変な人来ても部屋の中いれちゃだめだからね」

「分かってる」

「うん、ココネはしっかりしてるから大丈夫だよね。それじゃ、ちょっくらハードな旅に出てくるからさ」

「いってらっしゃい」

「おう、行ってきます!」

重装備でホテルの部屋から出て1階のフロントを通りすぎようとしたら「お気をつけて」って言われたけど空気読んでるよなー。
近くの食料品店で携帯食料をリュックに入る分だけ買い込んでと……。
よっし、行くか!
箒に乗って……。

―飛行!!―

まずは中心市街から離れたとこまで飛んでかないとな。
進むべき方向は南に進み続ければいいだけだからわかりやすい。
ちょっと……っと久しぶりに箒乗るとバランスがなー。
飛空艇の部屋の中で少し練習しときゃよかった。
さてと、高さも丁度良いし、前方の視界は良好、遠くに龍山山脈が見えるけど今回あれはスルー。
あの馬鹿みたいに高い山脈が途切れてる所に狙いを定めて。

―加速!!―

眼下に見える中華っぽい街並みの桃源の街は10kmちょっと離れたらあっと言う間にあとはもう田園風景。
なんつーか、これで乗ってるのが箒じゃなくて雲だったら、周りの風景的に西遊記の絵本みたいな感じになりそうだ。
そうだ、一応出発したこと高音さんに報告しとくか。
桜咲さんやらくーちゃんどうなったかわからんし。

《高音さん、おはようございまーす。こっちは今南極に向かって飛行開始しました。そっちはどうですか?》

《春日さん、おはようございます。私達の方は3時間程前にタンタルスに飛空艇で無事到着しましたわ。幸い桜咲さんに気づいて騒ぎ立てるような方はいませんでした。既に新たにホテルを取って桜咲さんにはそこで待機してもらい、現在私と愛衣で古菲さんを、春日さんと同じく箒で迎えに飛行中です》

流石高音さんだ。
個人チャーターで飛空艇か単車借りる訳にもいかんしな。
魔法使いならやっぱ箒が一番だろ。
二人ぐらいは余裕で乗せられるし。
くーちゃんの変装って、変装っていうよりチョビ髭付けただけの仮装っぽい気がするから早めに拾わないと面倒そうだ。
ま、賞金稼ぎの人達がくーちゃん狙ったところであの拳を喰らえば大体一撃だろうけど。

《了解スよ。定期連絡するんでまた》

《はい、春日さんも気をつけて》

《重装備だから大丈夫ッス》

うーん、こんだけ周り気にせず箒かっ飛ばすのって結構楽しいな。
麻帆良だと隠れて練習とかやりにくくてしゃーないし。
あと危なそうなのは、このかと今まさに救出中のネギ君か。
小太郎君は帝国の救助部隊であっさり見つかってそのまま城に連れてってもらったらしい。
食べ過ぎで腹壊したとか聞いたんだけど大丈夫か。

おっ、もうそろそろ道が何も無くなってきたな。
それじゃあ、まあ一旦アーティファクトの稼働限界とやらを試してみるか。

―急速停止!!―

箒から降りて……リュックの隙間に挟んで紐で結いて固定してと、もう一度背負ってと、よし。

「アデアット!!かそくそーち!!!」

足に力をめいいっぱい込めて…………スタートッ!!
おっしゃぁぁぁ!!
箒より間違いなく速いぜ!!
いけるいける!
これなら日本の高速道路でも普通に走れるスよ!


―8月19日、11時頃、桃源より南約300km―

麻帆良祭の時の鬼ごっこで30分以上は走ってられるのは実証済みだったけど3時間越えた。
この辺りはもう何も無いな。
ポツポツ謎の桃みたいな木が生えてるだけだわ。
ちょい不気味。
……おっと!?
突然走る速度落ち始めてる気がするんですけどーありゃりゃ……。
あーあー、足から煙出るとか初めてみたわ。
擦り切れた?
エンスト?
まー仕方ない。

「アベアット!」

んー靴底に穴が開いたりとかはしてないし……。

「まー3時間走ってかなり進んだのは間違いないか。元々短距離っぽい仕様を無理した訳だし」

どっちにしろ後でまた使えるようになったらあと3回繰り返せば単純に計算してもネギ君の近くまで行けるか。
ここらで昼飯を食べよう。
で、何食べるかっていうと桃源で売ってた肉まんですよ。
流石中華っぽいだけあるわ。
うまいうまい。
あー、やっぱ南極に近づくと服はスキーウェア的にバッチリだからいいけど顔にあたる空気とか結構肌寒いな。

《高音さん、そっちはもうとっくに夜だと思いますけどどうスか?》

《私と愛衣で野宿することにしました。古菲さんと通信を取ったところタンタルス湾岸がようやく折り返したそうなので、私達からの位置からすると遅くても明後日には合流できそうですわ。春日さんは?》

《私は3時間走り続けて300kmぐらいは進んだと思うんスけど、アーティファクトがエンストして丁度今昼なんで休憩中です》

《足が速くなるだけと聞いていましたが本当に速いですわね。その後は箒で移動ですか?》

《まーその予定スね。適当に折を見て箒とアーティファクトを使い分けるつもりです》

《分かりました。それではまた明日》

《了解しましたー》

高音さんは良いとしてと……。

《アスナー、起きてるかー?》

《ん、美空ちゃん?起きたわよ》

《宣言通り今桃源から南に向かって一直線に進んでるのを伝えようと思ってさ》

《そっか、こっちが寝てる間にもう出発してたのね》

《そうそう。指名手配のニュースは帝国にも届いた?》

《届いたわよ。ついさっきその聞きたくもない情報が流れてきたわ》

《変装は完璧?》

《この私の人間の耳がコタロの耳みたいになるの凄いわね。なんか言葉が通じなくても翻訳できるらしいわ。通じてたけど》

これで英語なんて勉強する必要ないじゃないとか言い出したらアレなんだけどな……。

《まあでも城内にいるんだったら大丈夫でしょ?》

《皇女様が色々やってくれたわよ。それにコタロが実際に北極で特にそれらしい装備も無く食料も殆ど無い状態で移動してきてた話が流れてたお陰で、城の人達も『連合の自作自演だ』なんて言ってるの聞いたわ》

あー、確かに自作自演っぽいスね。
どっからかネギ君が来る情報が漏れてて飛ばした上でゲート破壊、孤立主義加速、ついでに犯人に仕立て上げると。
黒すぎて酷いな。

《帝国の人達の方がメガロよか信用できるなんて皮肉すぎるね。麻帆良学園の魔法生徒証があるとメガロで特権的生活できたんだけど、アスナ達持って無いんでしょ?》

《何それ?そんなもの私達持ってないわよ》

やっぱりかー。

《無いものは仕方ないな。小太郎君は元気なの?》

《食べ過ぎるぐらい元気ね。ナギ・スプリングフィールド杯っていう2ヶ月後にやる大拳闘大会の事聞いて『残ってるゲートもオスティアっちゅうとこでやるんやったらネギが助かったら一緒に出てみたいわ』って言ってたわ》

《小太郎君はネギ君が助かることに何の疑いも持ってないみたいスね》 

《そうなのよ。『ネギなら絶対大丈夫やて、あいつがそんな南極ぐらいで終わったりせえへん』って言うのよ》

《友情って言うかなんていうかだなー。そんな当たり前のように言われてるんなら私もそろそろ箒で移動するかな》

《美空ちゃん、気をつけてね》

《大丈夫、日本円に換算して240万分の気温維持装置買ってあるし、絶対凍死とかしないから。因みにアスナの懸賞金と同じ額ね》

《えっ!?もしかして高音さんが融通してくれたの?》

《そそ、クレジットカードでポンね》

《高いわね……》

でなきゃ私に買えるわきゃないんだけど。

《アスナの懸賞金もな!》

《そ、そうね……そんな額だったら絶対追われる事間違いないわ……》

《それじゃ、また後で通信するわ》

《うん、分かったわ》

よっしゃ、出発するか。
アーティファクトは一時間毎に使用できるか試すって事で。

―飛行!!―
―加速!!―

気分はスキーするつもりで謎のシスター春日美空、行くッスよ!!


―8月19日、12時46分、桃源より南約350km―

ほいっと。

―急速停止!!―

にしてもホントにアーティファクトの方が速いな。
私も箒で加速使って移動すんのはいいけど魔力切れ考えないとマズいか。
今まで生活してきてそんな事気にした試しないスけど。
ま、それはいいとして。

「アデアット!」

調子はどうだー。
ちょっとまだ煙でてるんだけどいけるか?
ま、今のうちに性能試しとかないと後で困るし。


―8月19日、12時54分、桃源より南約360km―

ぎゃぽっ!?
っと、突然エンストすんな!!
どわっ、地面にぶつかる!
イテッ!!

あたたた、駄目だなこりゃ。
数分間はフルスロットルで移動できるところからすると一定時間、間を置くと稼働時間が回復する感じなのか。
こんなこと初めて知ったよ!
新たな発見でも嬉しいような嬉しくないような。
まーいいわ。
これは一日おかないともう一度3時間走るのはまー無理だろな。
しばらく箒で飛ぶっきゃないか。

―飛行!!―
―加速!!―


―8月19日、16時52分、桃源より南約560km―

げー、もうだめだわ。
魔力切れする。

―停止!!―

……はー、疲れたわ。
つか超進んだんじゃね?
って箒から降りたらめっちゃ寒ッ!
こんな状況で寝たら一晩で風邪引く自信があるぞ。
まだこの辺雪無いからいいけど、結構標高、高いとこまで来たな……。
高山病とか怖いスよ。

さーてと、どうせもう移動できないし、テント張ってサーモスタビライザー使おう。
……うーん一応2人用テントなんだけどネギ君達と合流したら狭いかな。
ま、我慢するしかないスね。
おっ魔法世界のテントは設置楽だな。
なになに、「中央のボタンを押すと自動的に広がってテントになります。その後付属の杭で地面と固定して下さい」か。
ポチっとな。
!?うおっいきなり開くな!
びっくりするわ。
……気を取りなおして、杭打つか。
これで土じゃなくて岩だったら刺すの面倒だったろうけど良かった。
4箇所打ってと……はい、おっけー。
寒いからさっさとスタビライザーも起動させよ。
今の時間から休んで明日の朝まで休むと……α1つγ1つって所か。
まずはαから……これも中央のへこみを押すだけでいいのか。
温度メーターが付いてるからノブを合わせればいいのかな。
25度ぐらいで、そいっ。
ブーンって音がしたと思ったらどんどん暖かくなってくるわ。
流石1000ドラクマ。
大した性能スね。

《起きている皆、私達は今グラニクスに到着したからこのまま高速艇に乗ってケフィッススにこのかさんを迎えに行くわ》

順調に到着だな。
流石ドネットさん。
金はあるって訳ね。

《このか殿、しばし待っていて欲しいでござるよ》

って楓の声がめっちゃ子供っぽい!?
忍者の身体操術パネェ。
写真送って欲しいわ。
骨格からどうやって変えるんだよ。
骨とか一旦溶かしたりできんのか?
いやーそりゃないだろーけど考えたらいけない気がする……。

《ドネットはん、楓、ありがとな》

でもってあっちで明日20日の朝8時頃には着く予定らしい。
1週間ぐらいでなんとかそれぞれ固まれたっていうのはもう超りんの端末のお陰としか言いようがないな。
科学に魂売るって言うのもなんか分かる気がしないでもないね。
さてと、使い果たした魔力がどれくらいで全部回復するか自分で実感してみるか。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―3時間程遡り8月19日、7時頃、アリアドネー、魔法騎士団候補学校寮―

昨日グランドマスターと話してから寮に戻った後、ユエからネギ君達がメガロメセンブリアで懸賞金付き指名手配にされたって話を聞いて驚いたよ。
しかもユエも1万5千ドラクマがついたらしいんだ……でもいざ朝のニュースを寮のロビーで見てみたら……。

[6日前世界各地で同時多発的に起こったゲートポートでのテロ事件の続報です。依然犯行声明もなく背景が全て謎に包まれたままのこの事件ですが、メセンブリア当局より新たな映像が公開され、実行犯の一人とも見られるこの外見上10程度の少年に見える人間に懸賞金付きの国際指名手配がなされました]

「コレット……これはメガロメセンブリアに絶対何かあるです」

「うん、間違いないよ」

[続けてこちらの映像を御覧ください]

動いてるネギ君を初めて見るのがこんな形だなんて……。
こんな大規模魔法使えるなら今頃南極なんかにいないよ!

[またこれら人間の少女にも同様に懸賞金付きの国際指名手配がなされました]

ユエに見せてもらった集合写真の子達の中にいた6人の顔写真が映ったよ。
でも、ユエは映ってない!

「ユエ、これって」

「はいです。グランドマスターのお陰かもしれません」

「なら放送自体……」

「それは連合との間で問題になるですよ」

「ちょっと、ユエさん、コレットさんッ!!」

わっ誰!?ってこの声は委員長!
振り返って見て見ればすっごい顔が青ざめてる!

「委員長、顔色悪いよ?」

「お嬢様、お気持ちは分かりますが」

分かるんだ!

「いいえ……私の事など気にかけている場合ではありません。ユエさん、コレットさん端の方へいらして下さい」

って言いながら凄い力で肩つかまれ?ひっぱられって!

「委員長!そんな引っ張らなくても行くから」

仕方なーく、ロビーの端でコソコソ話す事になった。

「ユエさん、あれは一体どういうことですの?」

「メガロメセンブリアの罠のようです。メガロメセンブリアのニュースでは私もあの中に写真が映っていたそうなのですが……恐らくグランドマスターが削除しておいてくださったのかと」

「罠ですって!?全くなんて腐っているのかしら、メガロメセンブリア元老院め、忌々しいッ!」

「お嬢様、発言に気をつけて」

確かに元老院が凄く怪しいのは分かるけど、まだ完全に黒って決まった訳じゃないよ。

「くーっ、こうなったらアリアドネー上層部に報告して国際問題に……」

か、過激だー!!

「委員長、それはグランドマスターに任せるです。ドネットさん達はアリアドネーに集合すると言っていたです」

「アリアドネーに集合?と、いうことは……あぁ、それはいつになるのでしょうか?ハッ!そうではありません!」

委員長昨日からテンションがおかしいね……。
顔が蕩けそうになったり怒りの形相になったり、周りの皆も不思議そうな顔して見てる。
とにかく、学校の時間もあるから話は一旦終わり。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月20日、5時06分、桃源より南約560km―

うおっ!
寒ッ!
びっくりしたー、サーモスタビライザー切れたか。
強制目覚ましの効果もあるとは高性能。
体調は……暖かかったから快調そのものだな。
魔力も大丈夫だと思う。
いや、12時間休んでこれだからな……サーモスタビライザーも食料も何も無くて6時間ぐらいしか寝てないネギ君どんだけヤバいんスか……。
ここで後4時間α使うのも無駄だし出発しよ。
朝食がてら携帯食料を食べ、杭を外してテントを元のコンパクトサイズに戻し片付けて、荷物を整理し直して……と。
よーし行くかー。
遠くに見える南の方はもう真っ白だな……。
流石南極。
地球だと南極大陸はデカイ島だけど、ここはそれ以上でかいわ。

「アデアット!!かそくそーち!!!」

3時間進んで一気に300kmまた詰めるスよ!!
高音さん達も既に今頃くーちゃんと合流するためにまた今日も箒で飛んでる所だろ。


―8月20日、8時22分、桃源より南約860km―

ついさっきから周りは雪だらけになって寒いのなんのって無理すぎるからサーモスタビライザーαをリュックの中で起動しながら移動中スよ!
そろそろ3時間経つんだけど……来たか!!
昨日も見たエンストですよこりゃ。

「アベアット!」

エンジンなんてついてないけどさ。
箒に切り替えだな。

―飛行!!―
―加速!!―

馬鹿みたいに魔力ありゃ長時間かつ超高速で飛んでられるだろうけど私一般魔法使いレベルなんでそこまでできんわ。


―8月20日、9時43分、桃源より南約910km―

そろそろ後2時間で1000km踏破っていうか正しくは踏破&飛破できそう。
気温25度で南極飛んでられるのはマジ画期的。
今日中にネギ君のところ着けるか。
それにはまず連絡しないといけないんだけど……。

《ネギ君が大変です!!》

この声は……数日前に一回ネギ君が紹介してくれた受付のお姉さんのミリアさん?
それに全体通信っぽい。
スゲー嫌な予感が……。

《ミリアさん、ネギがどうしたんですか!!》

最初に気づくのはアスナか。

《今日も移動してたんですが……突然「ごめんなさい」って言った途端倒れてしまったんです。それに倒れる直前に私に契約執行を最後の最後にしてくれたみたいで……。どんどん体温が下がっています……このままだと……》

ちょっとちょっと、最後の力振り絞ってミリアさん優先するってホント子供としてはありえなさすぎるわ!

《そ、そんな……。そうだ、美空ちゃん!》

《アスナ!今日中には合流できると……してみせるけど!まだ時間かかるよ。ミリアさん、なんとか寒さをしのげる場所に移動して下さい。今私そちらに向かってあと5時間ぐらいで着く筈です!できれば目印になるものか何かの写真も送ってください!!》

5時間も魔力持つかわかんないけど……。

《5時間ですか……、分かりました。とにかく移動します。写真も送り……ますね》

そういや凄い年齢詐称薬でミリアさんって縮んでんじゃなかったか?
どの薬が解除薬かわからないとマズいだろ……。

《ミリアの姉ちゃん、ネギにも端末握らせてや!皆で声かけて起こすで!》

それで意味あんのか!?

《わ、分かりました……はい、握らせました》

《ネギ!!起きろ!諦めんなや!》

《ネギ!そのまま寝ちゃだめ!絶対合流するって約束したでしょ!》

《ネギ先生、目を覚まして下さい!》

《ネギ先生、死んじゃ嫌です!!起きて!!》

《ネギ坊主、諦めてはダメアルよ!!》

《ネギ先生、春日さんが参りますから諦めないで下さい!》

《ネギ先生、春日先輩がすぐ行ってくれます。頑張って!!》

《ネギ先生、寝てはダメ》

皆の熱い応援始まったー!
私もここは一つ。

《ネギ君待ってろ!私が今行くから!》

東側で起きてる皆が小太郎君の精神論的発想で一斉に声をかけ始めたんだけどごちゃごちゃしてもう訳わからん。
のどかの「死んじゃ嫌です」ってのはどうも、口に出して言ってるみたいでクレイグさん達も「坊主、頑張れ!嬢ちゃんが待ってるだろ!」って応援してくれるようになって更にカオス!
皆の想い、ネギ君に届けっ!!
つか私の責任重大すぎるわー!!
こうなったらもうヤケだッ!

―最大加速!!―

ゴーグルに雪がぶちあたるのなんのって!
こんの、コントロールが難しいっ!!
うりゃぁぁぁ!!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月20日、13時14分、桃源より南約1200km、某洞窟(強制転移から180時間が経過)―

ネギ・スプリングフィールドが南極から通算11度目の移動中にとうとう体力、精神力、魔力切れを起こし突然倒れてから3時間程。
端末を持つ者は皆ネギ・スプリングフィールドに絶えず呼びかけを続けていた。
アリアドネーからは朝起きた瞬間事態を把握し、学校の事も忘れ、綾瀬夕映、コレット・ファランドール、コレットから話を聞きつけたエミリィ・セブンシープ、ベアトリクス・モンロー。
ケフィッススからは高速艇で丁度到着した、長瀬楓、絡繰茶々丸、ドネット・マクギネス、その迎えを待っていた近衛木乃香。
ヘラス帝国首都ヘラスからは神楽坂明日菜、犬上小太郎、アンナ・ユーリエウナ・ココロウァ、テオドラ・バシレイア・ヘラス・デ・ヴェスペリスジミア。
ノクティス・ラビリントゥスからは宮崎のどか、クレイグ・コールドウェル、アイシャ・コリエル、クリスティン・ダンチェッカー、リン・ガランド。
タンタルスからは桜咲刹那、古菲、高音・D・グッドマン、佐倉愛衣。
桃源からはココネ・ファティマ・ロサ、そして現在箒に乗り最大加速で飛行を続けている春日美空。
ネギ・スプリングフィールドのすぐ側にいるミリア・パーシヴァル含め総勢24人もの心の声が、距離に隔てられる事無く響いていた。
そもそも、ネギの体調は既に2日前には限界を迎えていた筈だったが、これまで彼自身の「絶対に南極から脱出してみせる」という強い信念で無理を通していたのだ。
元々契約執行という魔法は10時間も連続してやるべきものでは無く、術者の身体に大いに負担がかかる。
そこへ更に、氷点下の気温が普通の極地、僅かな睡眠時間、絶食状態、一般人を運ばなければならない、と最悪の環境が重なっていたのだ。
一つネギの周りで誤算があったとすれば、それは春日美空が直接南極に救助に来るという情報が彼には伏せられていた事である。
自力でなんとかしなければという思いからネギは余計な無理をしてでも延々と続く雪山を杖も無く移動し続けたのだ。
実際途中の洞窟で救助が来るのをじっと待っていれば状況はまだマシだったかもしれない。
しかし、もし、の話をしても今更後の祭りである。
そんな心の声を念じ続けていた人達の中、誰かが「もうだめかもしれない」と一瞬思った矢先の事。
人々の想いが為せる奇跡が起きたのか……それは……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―2003年8月14日日本時間、12時58分、火星北極圏―

ネギ少年達が魔法世界に飛び立っていったすぐ次の日、相変わらず暑い夏休み、超鈴音の突然の発案で残り十数日で見納めとなるであろう火星の景色を見ることになった。
私も火星の神木・扶桑の状況を見がてら、超鈴音、サヨと共に珍しく地球の神木・蟠桃まさかの精霊不在という状態を現在進行形で続けてまで、こちらに来ているが、たまにはこういう事が一度ぐらいあってもいいだろう。

《ふむ、原始時代の風景というのは、このような感じなのかもしれないネ》

《神木も完全に浸水してて水棲植物状態ですねー》

藻みたいに増殖したりはしないが……。

《超鈴音、見納めというのはわかりますがどうして突然ネギ少年達が旅だったあとすぐ今日に火星に来たいと思ったんですか?》

《翆坊主、この海と荒野しかない火星と、位相がズレた所にある自然溢れる魔法世界にネギ坊主達が今いると思うと何だか不思議な気がしないカ?》

《それはアレですか、超鈴音は時空間の壁を突き破ってみたいんですか?》

《例えばこう手を伸ばしたらそこにネギ坊主達がいるかもしれないだろう?これが不思議でなくて何ネ》

そりゃまあ……そうですが。

《鈴音さん、確かにこの辺とかもっとあっちの方にネギ先生がいるかもしれないと思うと面白いですね》

《科学者の超鈴音がそんな事に興味を持つとは少し意外です》

《時空間もれっきとした科学の一分野ネ。実際翆坊主に前言たとおり、この点を解明できれば、ワープだて可能になるのは間違いないヨ》

《……なるほど、そういう事ですか。それなら超鈴音が時空間すらも解明するのを期待していますよ》

《その為にはもう少し優曇華のシステムを研究する必要があるネ》

《アーチにしろ球体……にしろ、時空間の極大化、極小化の情報の塊のようなものですから確かに解明の糸口になりますね。私達精霊でなくても実際に入って触れて研究できるのは太陽系では恐らく優曇華ぐらいなものでしょうし》

《未知への答えに繋がるかもしれないものがこれ程近くにあるのだから私は当分飽きないヨ》

《いつか長距離ワープできるようになったら本格的な宇宙旅行してみたいです》

《さよ、私に任せるネ!》

実に平和だ……。
アーティファクト全開浮遊術で火星を飛び回ってる超鈴音と、精霊体で似たように飛び回っているサヨ。
私は神木・扶桑から観測中……。

《……ア…………さん……皆……》

今第三者の粒子通信が聞こえたような……。

《……アスナ……さん……》

《翆坊主、ネギ坊主の声ではないカ?》

《ネギ先生の声ですね!》

《まさか本当に時空間の壁を破って……?》

《ネギ坊主!ネギ坊主!いるのか、返事するネ!!》

《ネギ先生!》

超鈴音は単純にこの超常現象に興味を持っているテンションだな……。

《……超……さん?……それに……相坂さん?》

この声は……ネギ少年で確定だ……。
昨日まで散々観測していたのだから覚えていないわけがない。

   ―観測開始、霊体反応に限定して走査―
―神木・扶桑から800km東北東の位置に霊体反応有り―

《わかりました、800km東北東のポイントです》

《翆坊主、優曇華使うネ》

《私先に行ってきますね》

サヨが先に一瞬で該当ポイントに近づき、遅れて出力全開の超鈴音も浮遊術にしては異常な速度で優曇華に乗り込み8秒で接近、アーティファクトを身体保護レベルに抑えて到着した。
私は……神木から観測を維持である。
仮にネギ少年が本当に本物だったら優曇華の秘匿とかサヨの幽霊問題とか色々問題があるがそれを越える重要性があるのもまた事実。

その該当の場所には、ネギ少年の極限まで薄い霊体があった。

《ね、ネギ先生、どうしてここにいるんですか?》

《ネギ坊主、魔法世界からこちらに来てしまたのカ?》

《な……何で相坂さんと超さんが……それにここは一体……?僕は南極で倒れてそのまま……皆の声が聞こえた筈なんですけど……》

既に昔のサヨのような幽霊にしか見えないネギ少年とそれに相対するサヨと超鈴音の場違いな場所での会話があった。
因みに、海の上である。
どこの幻想世界だと言いたい。

《翆坊主、少し話していいカ?》

《ええ、もうどうなってるのかわかりませんがお好きにどうぞ。処理は何とでもします》

《わかたネ》

個人通信でネギ少年に漏れないようにやりとりを済ませた超鈴音はネギ少年にサヨと共に会話を始めた。

《ネギ坊主、ここは火星だヨ。よく来たネ》

《火星!?》

《ネギ先生、本当ですよ》

《相坂さんその姿は一体……?》

《私幽霊なんですよ。桜咲さんが知ってますから聞いてみてください》

酷くズレのある嫌な会話だ……。

《は……はぁ……》

《ネギ坊主、私は火星人ネ》

《火星人!?》

いや、明らかに生命の危機か何かだと思うから真面目にやりとりしたらいかがですか。

《ネギ坊主、南極にいて倒れたと言たからには命の危機なのだろう?》

《はい……もしかして僕死んじゃったんですか?》

……ネギ少年それを魔法世界の南極で言ったらそれらしいだろうが、ここではネタにしか聞こえない。

《ネギ先生、そんなことないですよ》

《ネギ坊主、皆の声が聞こえたのだろう?きちんと戻らないと駄目ネ》

《で、でもどうやったら……》

これは……どうも魔分で強制的にネギ少年の霊体を活性化させて無理やり送り帰すしかないだろう。

《超鈴音、サヨ、私が今からネギ少年を送り返しますから見送ってあげて下さい。それと面倒な物を見られたので霊体に介入して問題のある記憶を改竄・封印します。ただ一つ『魔法世界の根本的な問題は解決する』とだけ伝えておいて下さい》

《分かたネ》

―霊体解析開始―

《ネギ坊主、今から魔法世界に帰すから少し待つネ。それと、伝言ネ。魔法世界の根本的な問題は解決する、だそうだヨ》

《え?それって……?》

《ネギ先生、行ってらっしゃい》

《ネギ坊主、また会おう》

―霊体解析終了、特定の情報を除き、問題のある記憶の改竄と封印を開始―
 ―霊体が時空間を越えたパターンを反転、魔分による出力補助を開始―

……すると間もなくネギ少年の霊体は眩く発光し、火星からの反応は完全に消失した。

《……翆坊主、私とサヨ、優曇華の事はネギ坊主の記憶から消したのカ?》

《そうですね。消したというよりは完全な封印ですが似たようなものですね。ネギ少年にとっては火星側に出てしまった事がなんとなく、そんな気がするレベルで認識できる程度の筈です。あとは頭の片隅に超鈴音が伝えてくれた伝言が残るだけですね》

《ま、そんな事だろうと思たヨ》

《多分そうするんだろうなーと思って私も幽霊だって言ったんですけど、別に幽霊の事自体は桜咲さんも知ってるからいいんですけどね》

ネギ少年は真剣だというのに何なのだろうか、この温度差は……。

《それより原因は何だたネ?》

《生命の危機に瀕し、魔法世界との親和性が高すぎたのと、神木扶桑が割と近い位置にあった事が影響して霊体だけが偶然にもこちらに出てきてしまったという事だと思います。ネギ少年に死なれるのは困るので、戻すついでに霊体に魔分充填のプレゼントもしておきましたから、あちらでどういう状況かは大体検討がつきますが、多分回復すると思います》

恐らくあちらの南極……こちらの北極で凍死しかけたという所だろう。
何にせよ始まりの魔法使いの系譜の特殊体質は本当にどうかしている。

《エヴァンジェリンと通信しすぎた影響もあるという事カ》

《それが原因の大半だと思います》

《不思議な事ってあるんですね》

《さよ、世の中は常に不思議な事に満ちているネ》

良いお言葉ありがとうございました。
……それにしても死にかけることで三途の川や花畑が見えるのではなく、やっつけの海と荒野のある火星に出てくるなんてネギ少年は実に変わっていると思う。
もしかしたら助かる見込みがある可能性があったからこそ、こちらに無意識に出てきたのかもしれないが……。
戻す際にネギ少年の霊体に神木の魔分を直接投射したことで何か影響が出るかもしれないが悪いものではない……と思いたい。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月20日、13時15分、桃源より南約1200km、某洞窟(強制転移から180時間が経過)―

《ネギ!ネギ!!ネギー!!》

《ネギ!諦めるな!目を覚ませや!》

「ネギ君!しっかりして下さい!」

アスナさん……皆……。
何だか身体に魔力が溢れてくる気がする……。
この魔力は地球の……?
それについさっき……何かがあったような……。

「ミリアさん……」

「ね、ネギ君!良かった!それに急に手も温かくなってきて」

《ネギ!気がついたの!?》

《アスナさん、もう大丈夫です。気を失っている間皆さんの声が聞こえました、ありがとうございました》

《よ、良かったよぉー!!》

《ネギ!心配させんなや!》

《コタロー、声かけてくれてありがとう。聞こえてたよ》

《おう!俺の考えは間違いなかったな!》

《ネギ先生、良かったです……》

《ネギ君、良かったえ!》

《ネギ坊主、目を覚ましたでござるな》

《ネギ坊主、助かったアルね!》

この後凄くたくさんの人から助かって良かったって言ってもらえた。
知らない人がいるなって思ったら夕映さんの学校の同級生の人だった。
会ったことないのに凄く心配されて驚いたよ。
何だかあやかさんみたいな感じの人だった気がする。

《ネギ君、私あともう1時間ちょいぐらいで着くから待っててよ!》

《春日さん!そんなに近くに来てたんですか!?》

かすかにもうすぐ行くから待っててって聞こえたのは覚えてるんだけどもうすぐそこまで来てたんだ。

《杖、箒、食料、テント、気温を保てる魔法具もあるからさ!》

《ほ、本当ですか!ありがとうございます》

《任しといて!》

どうしてか凄く純粋な地球の魔力が身体に溢れてる気がするんだけどお腹が空いてたりするのは変わらないな。

「ネギ君、助かったのは本当に良かったですが何があったんですか?」

「えっと……何だか気を失っている間変わった場所にいた気がするんですが……よく覚えてません。多分夢だと思います」

「身体が突然温かくなったのには驚きました」

「はい、何故か魔力が溢れてきて……あ……」

「ネギ君、どうかしたんですか?」

「いえ……ちょっと……一つ分かったことがあって。気にしないで下さい」

「は、はい……」

魔法を使用するときの魔力と身体に存在する魔力って少し違うんだ……。
何で今まで気づかなかったんだろう……。

―魔法領域展開―

「ね、ネギ君?」

「やっぱり……」

今ならわかる。
マスターにはまだ及ばないけど前よりスムーズに使える。
それに……でも……今はやめておこう。

「ミリアさん、倒れる前に契約執行した気がするんですけど大丈夫でしたか?」

「はい、お陰様で大丈夫でした。でもあんな自分を大事にしないような事はもうしないで下さい」

「……心配かけてごめんなさい」

「ネギ君を心配していた人はあんなにいたんです。これからはその事ちゃんと覚えていて下さいね」

「はい!覚えておきます!」

気分は良いんだけどお腹が空いたなぁ……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月20日、14時41分、桃源より南約1200km―

殆ど死にかけだった感じのネギ君が突然奇跡の復活を遂げてテンション上がったら私も昨日よりガンガン進んでて驚きだわ。
最後の方なんて不思議通信に真面目に心を傾けると頭がおかしくなりそうな感じだった。
今までネギ君が毎日報告してた進路とミリアさんがあちこち周囲の写真を撮って送ってくれたものから見て大体この辺だと思うんスけど。

《ネギ君、多分近くに来てると思うんだけど……何か目印になるような事って……無理か》

杖も魔力もないのに魔法なんて撃てないよな。

《あ、はい、春日さん、分かりました。ちょっと待ってて下さい。浮遊術で空に上がるので》

《なるほど》

あれ、さっきまで死にかけてたのに飛ぶ余裕あるのか?

《上がりました》

ってどこだー?

《春日さん、ちょっと大きめの音を出すので》

《ん、りょうかーい》

―断罪の剣!!―

うおっ左何か溶ける音がした気が……って浮遊術はともかくとして、なんで魔法使える?
雪崩の心配は……大丈夫か。

《ネギ君、方向分かったよ。おっけー》

《はい!》

音がした方向に箒を進めたら都合よく洞窟発見した。

―下降停止―

「ネギ君!色々持ってきたよ!ミリアさんこうして直接会うのは初めま……して」

おーっと凄い脱力感……。
魔力切れだな……。

「春日さん!大丈夫ですか!?」

「いやー、ちょっと無理したからただの魔力切れだよ」

ネギ君手出してくれた。
どっちが助けに来たんだか……。

「あ、何か温かいですね」

「そうそう、これがサーモスタビライザーってやつね。私も洞窟いれてもらうよー」

サーモスタビライザーαも飛んでくる途中に切れたから今日で既に2個目なんだよね。

「はい、どうぞ」

「春日美空さんですね。助けに来て頂きありがとうございます」

凄い年齢詐称薬だな。
完璧に子供にしか見えない。

「どういたしまして。ミリアさんも無事で良かったです」

洞窟の中に私も入って、まず地面が平らな所でテントを広げてから、サーモスタビライザーも3人で中心に置いて囲んだ。

「ネギ君に届け物ね。杖と箒。それでさっきのって杖無くても使えるの?」

「ありがとうございます!それで、えっと……そうですね。使えるようになりました」

「使えるようになった?」

「さっきの魔法は杖が無くても使えるようになった……んです」

なんつー奇跡。

「ま、それならそれでいいスよ。それより携帯食料持ってきたから食べてね」

「わー、お腹すいてたので助かります」

殆ど食べてないでずっと移動してたらそりゃね。
缶詰とか乾パン的な何かとか色々あるけどこれはこれで結構うまい。
ネギ君が一生懸命モキュモキュ食べてるのは小動物みたいだな。

「あー、生き返った気がします」

「それは来た甲斐があったよ。それでネギ君に伝えてない情報があるんだけど……聞く?」

「はい、何ですか?」

「ネギ君とアスナ、このか、楓、くーちゃん、のどか、ゆえ吉が賞金付きの国際指名手配になったんだよ」

「ええええ!?ど、どうして!?」

「そ、そんな……」

「私達もちょっと信じられないんだけど、まだ誰も捕まってないからさ。安心してよ」

「そ、そうですか……」

「伝えてなかったのはネギ君がそれどころじゃなかったからだから許してね」

「気にしてないので大丈夫です」

「ネギ君が前言ってた通りメセンブリア当局がゲートポートの事件には絡んでるかもしれないね」

「メガロメセンブリアが……」

「一応ゆえ吉のお陰でアリアドネーの総長が受け入れしてくれるって話だからとりあえずはアリアドネーに集合する予定ね」

「夕映さん、記憶が無くなってても助けてくれるんですね」

「忘れているって言っても少しは覚えてるんだと思うよ。で、まだいいけど、ネギ君年齢詐称薬で見た目年齢上げるかした方がいいよ」

「はい、年齢詐称薬はまだあるので出発する時に使いますね」

ネギ君魔力切れか何かで倒れた割には本当に大丈夫そうだけど死にかけると突然回復したりするもんなのか……?

「出発は明日まで待ってもらえるかな?私魔力切れだからさ」

「もちろんです。春日さんは箒だけでここまで来たんですか?」

「あー、私のアーティファクトって時速100kmぐらいで3時間は走れるんだよ。それと後は魔力が切れるまで箒で昨日は進んだんだ」

「へー凄いですね。それに春日さんも仮契約してたんですか」

「そう!ココネがマスターなんだ!」

「そういえば佐倉さんも高音さんと仮契約してるんですよね」

「うん、そうそう」

何かどんどん普通の話になって指名手配とかそっちの方の話全然しないで、私が魔法生徒だったのが本当で驚いたとかそんな事ずっと話してたわ。
その途中でαがまた切れて、寒いのやだしサーモスタビライザーγも普通に追加投入した。
何か病み付きになるね。
5日分持ってきて良かった気がする。
ネギ君に値段聞かれて結構アレだったけどごまかしといた。
この間にこのかはドネットさん達と無事合流できたから、桃源の方来るかって話になったんだけど絶対バレない年齢詐称薬あるし、私の自由渡航許可証もあるから大丈夫って事でそのままアリアドネーに向かう方向で落ち着いた。
高音さん達は明日、もうちょい移動すればくーちゃんと合流できるって言ってたな。
賞金稼ぎにまだ出会ってないのは当然っちゃ当然だけどタンタルスへの帰りの変装のレベル次第だと思う。

「春日さんは修学旅行の時の事件って知ってますか?」

とうとう気がついたかー。

「あー、あの時の事ね。うん、知ってるよ。私は宿で待機してて、ネギ君が杖に乗ったまま雷の暴風とか使ってたの見たし」

「春日さんはあの時宿にいたんですか。僕は疲れてそのまますぐ寝ちゃったので詳しく知らなかったです」

「それでネギ君が気になるのは指名手配されたネギ君達7人が修学旅行の時大変な事になってた7人と同じって事でしょ?」

「そ、そうなんです!もしかしたら今回の件にも白髪の少年が関わっているかもしれません」

私その少年知らないスわ。

「私はその白髪の少年の事は知らないんだけど、ドネットさんはメルディアナの人だから何か知ってるんじゃないかな?」

「そうか。ありがとうございます。ちょっと聞いてみますね」

ネギ君がドネットさんに個人通信で聞き始めたらやっぱその白髪の少年の事知ってたらしい。

「どうやら白髪の少年の名前はフェイト・アーウェルンクスというらしいんですが、それ以外は不明だそうです」

「名前だけかー」

「全然分からないですね……」

「まー、ゲートもどこも壊れちゃってて残ってるのが廃都オスティアのだっけ?夏休み中に学校帰れないかもしれないけどネギ君が悪いわけじゃないしさ、10月にオスティアである記念式典でお祭りもあるらしいから楽しんでもいいんじゃないかな?」

「オスティアの記念式典?」

「オスティア記念式典とは前ネギ君に言いました前大戦が終わってから毎年開催されている7日7晩続く終戦記念祭なんですよ」

「そんなお祭りがあるんですか。麻帆良祭みたいで面白そうですね」

「小太郎君はネギ君が助かったら一緒にその祭りで行われるナギ・スプリングフィールド杯っていう拳闘大会に出てみたいって言ってたよ。まあこれは直接聞いてみた方がいいと思うけど」

「父さんの名前の大会?」

「その話は私もしていませんでしたね。年に一度の世界で一番を決める拳闘士の大会なんですよ」

「でもまあ拳闘士ってのは場合によっては試合で死んでも構わないって契約書を書く必要があるから積極的に勧められるものじゃないんだけどね。腕に自信があればって感じだよ」

「あはは、なんだかそれはアスナさんに止められそうですね。コタローには後で聞いてみようかな……。でも僕はどういう訳か一応賞金首だから目立つのもマズいですね」

アスナの影響がかなり出てるなー。
マジで姉弟みたいだ。

「ネギ君は一切悪くないんだけどね……」

「一応例の論文の事もありますし、桃源に戻ったらドネットさん達と同じようにアリアドネーに向かいましょう。ミリアさん、桃源についたらメガロメセンブリアまで戻ることできますか?」

「ええ、はい、一応メセンブリーナの銀行が桃源にもありますからお金は大丈夫です。私は桃源まで送って頂ければ構いませんので」

「はい、ミリアさん、必ず桃源までは送り届けます。でもお別れはまだ少し先ですよ」

「まだ助かった訳ではありませんが、なんだかネギ君と離れるのは名残り惜しい気がします。あと仮契約も解除しないといけませんわね」

吊り橋効果だなー。

「あ、そうでした!でも……そういえば解除魔方陣知らないや……」

「細かい事は桃源のホテルに着いてからで良いんじゃないかな?仮契約の解除はアリアドネーかどこかで調べてもらえばいいと思うよ」

「そうですね。夕映さんにまたお願いしておきますね。僕結構さっき気を取り戻してから調子はいいんですけど明日に備えてそろそろ寝ますね」

「それじゃあ私も休むとするよ」

「それでは私もお休みしますね」

ちょい早いけど明日に備えてだな。
にしても私今日スゲー頑張った。
超頑張った。
魔法生徒として初めてこんな働いた気がする。
シスターシャークティに見せたやりたいスよ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月21日、1時頃、メガロメセンブリアゲートポート―

ゲートポートが破壊された瞬間に既に時差は4倍に膨れ上がっていたため、高畑・T・タカミチ、葛葉刀子、龍宮真名の三人が地球側からギリギリで動いたゲートを使ってやってきた時には8日が過ぎていた。

「ふぅ、着いたね」

「まずは一旦ホテルを取って情報を集める所から始めましょう」

「了解した」

未だ忙しなく現場検証が行われているゲートポート内をよそに、3人は正規の入国手続を行い、そのまま足で春日美空達が泊まっていたホテルに向かい、チェックインを済ませた。
確認したところ、麻帆良の魔法生徒は既にチェックアウトを済ませどこかに移動していた後だというのがわかり、2部屋借りたうちの1部屋に集まり今後の方針を決める所で、龍宮真名がある物を取り出した。

「高畑先生、葛葉先生、これを」

「これは……端末かい?」

「超鈴音……ですか?」

「ああ、一昨日女子寮を出るときに超から持って行けと言われてね。どうやらこれでネギ先生達、春日達と連絡が取れるらしい。あちこちにネギ先生達が賞金付きの指名手配になっているのはここにくるだけでも散々目についたが本人達に話を聞いた方が早いだろう」

「超君がわざわざこんなものを……。彼女は一体何を知っているんだろうね」

「少なくとも私達に協力していると見て間違いないでしょう。しかし一昨日は8月13日だった筈ですが、もうこちらの日付で8月21日です」

「どうやらゲートポートが破壊されたことで時間の流れが変わっているようだね」

「4倍か……超は2学期までに帰ってくることを祈っていると言っていたんだが……これを見越していたのかな」

「超君はそんなことまで……。確かに4倍なら夏が終わるまでにはこちらで後2ヶ月はあるが」

「高畑先生、まずは端末で連絡を取りましょう。起動方法は……」

「前のと同じだな」

「どうすればいいんだい?」

「一緒に起動するよ。……これでいい。心で念じればいいのは念話と大体同じだよ。全体通信を始める」

《ネギ先生達、春日達、聞こえるか?龍宮真名だ》

《ネギ君、春日君、高畑だ》

《葛葉です》

《茶々丸です、今ドネットさんに繋げますので》

《茶々丸君か。ドネットさんもいるのかい》

《高畑先生!?助けに来てくれたんですか!》

《おっ、アスナ君!さっきついたばかりだったんだが何だか変な事になっているようだね》

《高畑先生、どうも、ドネット・マクギネスです。私から詳しく事情を説明します。8月13日にメガロメセンブリアのゲートポートに着いてすぐ、何者かの大規模強制転移魔法を受け私達は全員バラバラに飛ばされました。その後今は各自ある程度固まっていますが、丁度丸1日程前突然ネギ先生達が指名手配にされました。これには確実に何か裏がある筈です。私は現在茶々丸さん、このかさん、楓さんとケフィッススへ戻り、そのままアリアドネーに向かう予定です》

《報告ありがとうございます。ドネットさん、このかお嬢様をお願いします》

《葛葉先生、高畑先生、うちは大丈夫え!》

《無事で良かった。ドネットさん、ネギ君や他の皆はどうなっていますか?》

《ネギ先生とその救出に向かった春日さんは南極、ココネさんは桃源のホテルで今寝ています。のどかさんはノクティス・ラビリントゥスでトレジャーハンターの方達と一緒、夕映さんはアリアドネーの魔法騎士団候補学校、高音さん、佐倉さん、桜咲さん、古菲さんはタンタルスに固まっていて、こちらも現在寝ている所です。また、アスナさん、小太郎君、アーニャさんはヘラス帝国でテオドラ第三皇女様の元、既に保護を受けています》

《情報ありがとうございます。ネギ君が南極とは……。それにテオドラ皇女殿下というのは本当ですか?》

《なんじゃタカミチ、妾がおっては不満か?》

《皇女殿下!こ、これはお久しぶりです》

《テオで良いぞ。まあ、後でまたな。話を進めると良い》

《ありがとうございます。南極には応援は必要ありますか?》

《2日で桃源に自力で戻ってこられるのは確実だそうだから大丈夫だそうよ。それよりできればメセンブリア当局でどうしてネギ先生達が指名手配される事になったのかの調査を頼みます》

《分かりました。それでジャック・ラカン氏との連絡は取れていますか?》

《いいえ、全く取れていないわ。ネギ先生は来ないかもしれないって言っていたからその通りになったわね》

《ははは……頼んでおいたんですがね……。大体分かりました、こちらも夜が明け次第行動します》

《お願いします。私達もケフィッススに移動しますので。後は個人同士での通信にしましょう》

《了解しました》

《龍みー姉ちゃん、よっ!》

《コタロー君、元気そうだな。まあまた後でな》

《分かったで!》

簡単に状況をまとめた通信はこれにて一旦終了した。

「随分変わった事になっていたね……」

「ええ、全くです」

「どうやら指名手配された割にはまだ日も浅いから酷い事にはなっていないようだな」

「不幸中の幸いだね。僕達は明日からドネットさんに頼まれた通りまずはメセンブリア当局の調査からだ」

「分かりました」

「了解した」

……こうして、遅れて魔法世界にやってきた役者もようやく揃い、話はまた新たな動きを見せ始めることとなる。



[21907] 47話 アリアドネー魔法騎士団候補学校(魔法世界編7)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/01/12 00:18
―8月21日、7時頃、桃源より南約1200km―

はー、良く寝たー!
一度保温が切れた時に起きたりしたり、フカフカのベッドって感覚では全然なかったけど12時間近く寝れたな。

「春日さん、ミリアさんおはようございます」

「ネギ君、ミリアさんおはよーございまーす」

「ネギ君、春日さん、おはようございます」

「起きてる皆さんにも報告しますね」

「そだね」

《おはようございます。昨日は心配かけてすいません、今起きました》

起きてんのは高音さん達ぐらいかな。

《ネギ先生、おはようございます。実はネギ先生達が休んでおられる時に高畑先生達がこちらにいらっしゃりました》

へ?何でこれた?
ゲート壊れてんじゃないの?

《え!?タカミチが!?》

《おはよう、ネギ君、倒れたって聞いて心配したけど元気そうだね。良かったよ。春日君が救出に向かってくれたそうだね、ありがとう》

《葛葉です。ネギ先生、ご無事で何よりです。春日美空、よく頑張りました》

《ネギ先生、春日、おはよう。私も助っ人に来たぞ》

うおっ!
葛葉先生にたつみーも来てんかい!
って端末持ってるってことは超りんの差し金か何かか?
こうなるってマジで知ってたんじゃないだろーな……。
大人率が上昇して何か修学旅行っぽくなってるけど良いことだ。

《タカミチ!葛葉先生に龍宮さん!》

《高畑先生、葛葉先生、どうも。けっこー頑張りました。たつみーもこっち来たのか》

《タカミチは今どこにいるの?》

《メガロメセンブリアだよ。ドネットさんに頼まれてネギ君達が賞金付きの指名手配された理由を調べてるところなんだ》

《そっか、ありがとう!多分修学旅行の時のフェイト・アーウェルンクスっていう少年が絡んでる気がするんだけどドネットさんから聞いた?》

《ああ、既に色々聞かせてもらったよ。それで、ネギ君達自力で南極から出てこられるかい?》

《うん、春日さんが箒持ってきてくれたからすぐ戻れるよ!》

《それなら大丈夫そうだね》

《高畑先生、ゲートってまだ動いてるんですか?》

これが事実なら長居する必要無いし。

《いや……こちらに来ることはできたんだけど、戻る事はできないようだね》

なんて一方通行。

《そーですかー……》

《期待させて悪いね。原因はどうも魔法世界と旧世界で時間差が4倍ぐらいできてるからだと考えられるんだ》

は?4倍?

《え!タカミチ、4倍ってどういう事?》

《僕達が旧世界のゲートでこっちに移動してきたのはゲートが壊れたという情報が分かってから2日経っていたんだが、こちらの日付では21日になっていたんだよ》

《ゲートが壊れた影響……》

げー!
それだと麻帆良の皆より年取るじゃんか!
戻ってみたら浦島美空なんて嫌スよ……。
ゲートが直るのに2年だとするとあっちは半年だけって……。
でも……どーせ千鶴みたいに成長したりはしないな。

《その辺りは追々にして、また後で定期的に報告してくれると助かるよ》

《うん、分かったよ、タカミチ》

帰れるかと思ったらコレだよ……。

「タカミチ達がこっちに来たのは驚いたなぁ」

「戻るアテあるんスかね」

「やっぱり廃都オスティア……でも許可のある冒険者どころか賞金首だからなぁ」

「高畑先生なら顔が効きそうスけどね」

「あの、高畑先生というのは悠久の風の高畑・T・タカミチ様ですか?」

「はい、ミリアさん、そうですよ」

「まあ、それは頼もしいですね」

「タカミチって……まほら武道会で悠久の風に所属してるって分かったけど有名なんですか?」

「それはもう有名ですよ。雑誌の表紙を飾った事があるぐらいです」

「へー、そうだったんですか!僕本当に魔法世界の事知らないな」

「これからお知りになれば良いと思いますよ」

「そうですね!それでは、そろそろ出発しましょうか!」

「箒あるしね。ネギ君どれぐらい速く飛べるの?」

「えっと、最大加速で時速100kmぐらいは」

なにぃぃぃぃ!?
フツーそんな出ねースよ!
地上を走り続ける私より余程色々速いじゃんか。
ま……流石ネギ君だな。
比べても意味ないスよ。

「私そんな箒で速度出ないからさ。途中平地になったらアーティファクトで走ったりするね」

「はい、分かりました!」

「よーし、出発するか!」

「はい!」

ミリアさんとネギ君が一緒に、私は単独で箒に乗って。

―飛行!!― ―飛行!!―
―加速!!― ―加速!!―

……飛び始めてみたらやっぱネギ君が速い速い。
向かい風を避ける為に私がネギ君のすぐ後ろで追走する感じになってるんだけど楽だー。
ついでに残りα2つを起動させながら飛んでるからその点でもかなり楽。
もうγも2つだけだから5日分で丁度良かったかなー……というか私が無駄遣いしただけか。
ま、気にしない。
ネギ君も私に配慮してくれてるからか、最大加速は使ってないからのんびりな感じだ。
飛行しながらさっきあんま話さなかった高音さん達ともう一度連絡を取ったらとっくにくーちゃんと合流し終わってて、タンタルスに引き返し始めてたらしい。
くーちゃんの変装はやっぱりどう見ても仮装だったらしくてマジあぶねーあぶねー。
合流した瞬間ネギ君、小太郎君と同じで持ち合わせの食料を大量に食べて満足したのか箒ではそのまますぐ寝て静かなんだそうな。
くーちゃんやっぱ腹減ってたんスね。
ドネットさん達もケフィッスス朝早々9時の便でグラニクスを経由してアリアドネー行きの飛空艇に乗ったそうな。
到着は8月25日13時現地時間の予定らしい。


んーで、この後は結構あっと言う間だった。
途中昨日私が走りまくった平地でまたアーティファクトに切り替えつつ、すぐ上空をネギ君が最大加速で並飛行。
私が魔力切れしそうになったら、「春日さんも乗ってください」なんてネギ君が言うもんだからお言葉に甘えて私も一緒に乗せてもらった。
3人で一本に乗るのはちょい狭かったけどこの一日で700kmぐらい進んだな。
魔法使いには杖と箒、これぞ真理。
オスティアの熊店長の忠告とは裏腹に帰り道は楽すぎる。
ついさっきゆえ吉が昼休みぐらいの時にネギ君が仮契約の解除魔方陣の書き方を調べて貰もらえるよう頼んだりしたから明日桃源に戻った時には解決するだろ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月22日、16時頃、桃源、ホテル―

昨日は春日さんが持ってきてくれた箒のおかげでかなり進めたから、今日は少しゆっくりめで飛んで来たけどようやく街に着いたな。
初めてみる魔法世界の街が中華風でイメージがちょっと違うんだけど、他の街はそれぞれ全然違うって話をミリアさんから聞いた。
年齢詐称薬を今日出発する時に飲んだら春日さんに「げっ!そっくり!」とかミリアさんに「本当に良く似ていらっしゃいます」って言われたんだけどどうも父さんに結構似ているらしい。
今丁度春日さんが滞在する為に数日間取っていたホテルについた。

「ココネー!!ただいま!」

「ミソラ、おかえり。ネギ先生、ミリアさん無事でよかった」

「ココネさんありがとうございます」

「ココネちゃん、ありがとうございます」

「とりあえず、まずは、この桃源のホテルには温泉があるから久しぶりに入りましょう。ココネちょい早いけど一緒にいく?」

「行く」

「よし。ミリアさんは……先に年齢詐称薬解除してもいいんじゃ?」

「あ、そうですね。ネギ君、お願いできますか?」

そっか、数日間結局小さいままだったんだ。

「ちょっと待って下さい……えーっと、はい、これを飲んでください」

「ありがとうございます。では……」

最初の時と同じで煙と音と共に元の大人の姿に戻った。

「やっぱりこの体が落ち着きますね」

「うおっ、分かってたけどミリアさん凄い美人!」

「どうもありがとう、春日さん」

「それじゃあ、ミリアさんも一緒に温泉入りましょう!」

「はい」

「ネギ君は風呂嫌いだからって言っても流石に入った方がいいよ。アスナが聞いたら怒るし」

「わ、分かってますよ!ただちょっと目に水が入るのが嫌なだけで……」

「うーん、ならばシャンプーハットをオススメするよ」

「あはは……」

「ふふふ」

こうして、僕は数日振りのお風呂、それも温泉に入った。
何だか浴場に行くまでに結構顔見られたんだけどもしかして賞金首ってバレてるのかそれとも父さんと似たような顔してるからなのかな……。
年齢詐称するだけじゃなくて完璧に違う変装した方がいいのかなぁ。
そんな事を考えながら身体を洗ってたら、結構お風呂って気持ちがいいなって思えてきた。
苦手でも必要な時は必要って事なのかな。
去年の夏休みに麻帆良学園のあちこちに連れて行って貰っていつも汗掻いて帰ってきたらアスナさんに無理やり洗われたのがなんだか懐かしいや。
実際には1年以上経ってるんだけど。
コタローとは例の拳闘大会の話をしてたら途中にテオ様が話に入ってきて「腕に覚えがあるならヘラス帝国の闘技場で選手登録してみたらどうじゃ?」って勧めてくれたからそれも良さそうだねって話になった。
ただミリアさんの話だと父さんは帝国からは前大戦で連合の赤い悪魔って恐れられたらしいからヘラスの人達の中には良い感情を持ってない人がいるんじゃないかって話を一応テオ様にしたんだけど、「そなたはナギ本人ではないのじゃから気にするでない。それに拳闘士は拳闘士でそれぞれ誇りがあるから大丈夫じゃ。気になるならアリアドネーの闘技場でもよかろう」って言ってくれた。
なんでも、テオ様は結構拳闘士の話に詳しいみたいでコタローに既に目ぼしい拳闘士の人達の映像を見せたらしい。
僕もちょっと見せて貰いたいと思ったんだけど、コタローの見立てでは「俺とネギなら普通にいけるで。まほら武道会の時と違うて場外無しで武器もアリやけど問題あらへん。まほら武道会で上位の人達よりは強くないと思うで」って言ってたから僕達でもやっていけるみたい。
驚いたのはアスナさんまで「これぐらいだったら私でも行けそうね」って言ってた事だ。
これなら春日さんが言ってたようにアスナさんに強く止められたりもしないんじゃないかなと思う。
拳闘大会に興味はあるし出てもみたい、けど今回のゲートポートの事件の真相、この世界の謎、もちろん父さんの事自体もまだまだ知りたいことはたくさんある。
……はぁー、気持よかった。
こうやってゆっくりできたのも久しぶりな気がする。
後はミリアさんとの仮契約の解除や服には影響しないマスター直伝の完璧な年齢詐称薬用に服も用意した方がいいかな。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月22日、18時頃、桃源―

あー日本人の私がハードな旅をして4日振りに入る風呂が温泉ってのはなかなか気が効いてると思う。
ミリアさんも温泉入れたのがかなり嬉しかったみたい。
丁度ホテルのレストランで今日の夕食、もちろん中華料理を皆で食べてお腹も満たせた所で、ネギ君が大人バージョン用の服を用意したいって話をしてきたから早速街に買いに出た。
今日南極から出発する時からナギ・スプリングフィールドそっくりだったから桃源着いてからは結構人目を引いてて、できればフード被って欲しいかも……っていうのは言ってない。
大人用の服で何買うのかって聞いたら結局普通のワイシャツ、スーツ、ネクタイが欲しいって言うもんだから、いつものネギ君がただ成長しただけって感じ。
スーツとかそういうのには私は詳しくないスけど、一緒に替えの服を持ってないミリアさんもメガロに戻る用の服を買うついでに、ネギ君に「これが似合いますよ」ってガンガン選んでた。
どこから金が出るかっつーと、高音さんから貰ったクレジットカード、それとミリアさん自身がネギ君にお礼の意味も込めてネクタイなんかをプレゼントしてた。
ぶっちゃけ子供にあげるもんじゃないよなー、ネクタイなんて普通は。
まーそれでもネギ君は律儀に「お礼なんていいですよ。当然の事をしただけですから。でもありがとうございます、大切にしますね」って返したんだけど、今確かに姿は大人バージョンになってるけど、まだ私よりも年下の子供じゃんか。
だめだ、3-Aで培った先入観が強すぎてネギ君限定で子供と大人との境界が崩れそうだわ……。
ミリアさんもいるけど誰かここにもう一人ぐらい大人を寄こしてくれ。
そんな感じでここ数日には無かった普通の日常的生活感を醸しながら、またホテルに戻って、ゆえ吉から仮契約の解除魔方陣の情報を受け取って今まさに解除し始めるってとこ。

「ミリアさん、今回も呪文を唱えるだけでいいのでお願いします」

「はい、ネギ君。分かりました」

「では始めましょう」

魔方陣の中に二人で立ってモゴモゴ唱え始めてから数分が経って魔方陣が強く光ったと思ったら終わりっぽい。

「はい、これで仮契約解除ですね」

「私を守ってくれたネギ君との繋がりは終わりですが、この事は忘れません、ありがとう、ネギ君」

「僕も絶対忘れません!何か僕にできる事ってありますか?さっきネクタイを頂いたお礼がしたいんですが……」

「……お礼ですか……さっきのも私からのお礼だったんですが、お礼にお礼をしているとキリがありませんね。……それでは、ネギ・スプリングフィールド様のサインを頂けますか?」

「僕のサインですか?それで良ければもちろんです!」

いやー、それはなかなか貴重だと思うよ。
後で本物だと分かればオークションでもかなり値段が付きそうだし。

「ありがとうございます、ネギ君」

「そんじゃ私ちょっと色紙用意してくるよ!」

「え?春日さん、そんなわざわざ」

「いやいや、別に時間が無いでもないんだしどうせなら形に拘るべきだと思いますよ。止められるとアレなんで行ってきまーす」

こういう時はさっさと行動に移した方がいいスよ。
ホテルのフロント行ったら、たまに有名人がここの温泉に寄ったりするから色紙ならあるって話だったからちょい交渉して分けて貰った。
ネギ君にいざ渡して、書くのか?って時に「ちょっと練習します!」って紙に練習し始めたのは面白かったな。
一枚毎書いてはミリアさんに「こんな感じでどうですか?もっと何か直した方がいいところがあったら言って下さい」なんて見せて、そのミリアさんは最初「ネギ君が書いてくれるものなら何でもかまいませんよ」って言ってたんだけどネギ君が予想以上に拘ってたから、ミリアさんが「では、ここをですね……」とか言いながらどこの親子習字教室ですかって感じになったわ。
うーん超平和。
ある程度落ち着いて英語で遂に色紙にサインして終わりかと思ったらネギ君何を思ったのか「ミリアさんにメッセージも書きますね」って言い出して、実際書き始めたんだけどサインにも確かに少しメッセージぐらいは書く事もあるだろうけど、どーも寄せ書きみたいになった。
書いたのは一人だけど。
ま、子供らしくていい感じではあるね。
英語で書いてあったから大体しかわかんなかったけど南極での事についてなのか「辛い時に一緒に居てくれてありがとう」とか感謝の気持ちを表したみたい。
それでミリアさんの涙腺が緩んで泣いたりしたんだけど、ちょい南極での様を想像したら不覚にも私も貰い泣きしそうになったスよ。


―8月23日、9時頃、桃源国際空港―

いよいよ私達もドネットさん達に遅れてようやくアリアドネーに向けて飛空艇に乗る時がやって来た。
ミリアさんはオスティア経由メガロメセンブリア行きの便に乗るからとうとうここでお別れ。

「ミリアさん、またいつかお会いしましょう!」

「はい、メガロメセンブリアのゲートでお待ちしてますね」

「その時はちゃんと受付に寄りますね」

「最後に握手して貰っても良いですか?」

「はい!」

「ありがとう」

ネギ君が右手を出してミリアさんがそれを両手で優しく包んだ……のが子供と大人なら微笑ましいだけなんだけどー、今のネギ君は姿は大人の紳士モードだから何か違う別れのシーンにしか見えないスよ。

「ミリアさん、メガロメセンブリアのゲートに寄る時はまた私達もッスよ!」

「はい、春日さん、ココネちゃん、またお会いしましょうね」

「ミリアさん、また」

そのままお互い手を振りながらそれぞれの飛空艇に乗船した。
ミリアさんがギリギリまで笑顔で手を振っていたのはグッと来たわ。
……んで、今回部屋2つ借りたりしたかっていうと金もかかるしそんな事はしてない。
とりあえず、今後の予定の確認って事で、部屋で寛いで話すことにした。

「ネギ君、アリアドネーに着くのは8月31日になるみたいだね」

「1週間近くありますね」

「もう少し速いといいんだけどね。高音さん達も明日朝タンタルスからアリアドネーに飛んで着くのは8月30日だよ」

日付変更線をまたぐからあっちの方がちょい早いな。

「はー、いきなり飛ばされてから集まるのに時間かかっちゃいましたね」

「そうだねー。まあ、集合って言ってものどかはまだトレジャーハンターやってるから全員じゃないけど」

のどかは必ずネギ君達と合流するって約束したけどノクティス・ラビリントゥスにいるなら、フォエニクスまで一旦出ればアリアドネーまで2日ちょいでこれるから変装さえうまくいってれば特に問題も無いって事に今のところなってる。
何だか、トレジャーハンターやっているうちに、のどかは探し出したい魔法具があるみたいでまだまだ遺跡に潜る気はあるみたいね。

「のどかさんと通信して感じたんですけど、とても生き生きしていると思うんです」

「それ分かるなー。のどかは周りにトレジャーハンターの人達がいてそれなりに安全だし、図書館探険部での経験も予想以上に役に立ってるみたいだしやり甲斐感じてるんじゃないかな」

「3-Aの担任として生徒が成長するのはなんだか嬉しいです」

あー、ネギ君、君もまだまだ私達より成長する余地残ってるからね。

「ははー、それはネギ君もだと思うよ」

「あはは、そうですね」

「まー、その姿だとアレだけど。本当に凄いねその年齢詐称薬」

「マスター直伝ですから」

「エヴァンジェリン印って訳かー。私エヴァンジェリンさん所詳しく知らないんだけど、夏休みの間結構通ってた感じやっぱり修行してたの?」

「そうですね、1時間が1日になる魔法球で修行してました」

はー!?
なんだそのリアル浦島空間。

「24倍って……。そりゃ驚いた」

「僕もまだあんな空間を作るような大魔法はできません」

「あれ一番フツーので、まほネットでいくらするか知ってる?」

「えっと、知らないです……」

「4億円だよ。ドラクマだと250万ドラクマね」

「よ、4億!?」

ネギ君の驚いた顔面白いなー。

「それも2倍ぐらいでせいぜいだからね。24倍なんて普通市場にまず存在すらしないよ」

「はぁ……分かってはいましたけど僕って恵まれてたんですね……」

「まー恵まれてるっちゃ恵まれてるとも思えるけど、ちゃんと年は喰ってるから人それぞれじゃない?」

「そ、そうですね。でも戻ったらマスターに感謝しないと……」

「良い師匠だねぇ。そうだ、となると私今年のまほら武道会の試合実は見たんだけど、あの時よりも成長してるんでしょ?」

「春日さんもあの時龍宮神社にいたんですか?」

「あーいや、映像が見れる端末だけ持っててさ」

「そうだったんですか。まほら武道会の後はかなり修行したので確実に成長したと思います」

「高畑先生とネギ君の試合見て思ったけど、こっちの拳闘大会がどんなもんか分からないけど十分やっていけそうだよね」

「あ、それはコタローも言ってました」

インフレしてんなー。

「本人がそう言うならそうだろうね。何にしても後8日あるから、まほネットは繋がってるし色々情報も集められるよ」

「そうですね。僕も調べてみたい事が結構あるので使わせてもらいますね」

「どうぞどうぞ。それじゃあちょっと私は展望デッキの方散歩してくるね」

「分かりました。行ってらっしゃい」

さてと後は悠々自適、空の旅って奴だな。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月25日16時、アリアドネー魔法騎士団候補学校―

4日間に及ぶ空の旅の間、ドネットはまほネットで情報収集を行いながら高畑達と連絡を定期的に取り合っていた。
高畑達がメガロメセンブリアで調査を行った結果、ネギ達が懸賞金付きの賞金首になったのは、どういう訳か全てのゲートポートの監視映像のデータに確かに犯行の際の映像が偽造とはいえ残っていたのが理由として一番大きいという事が判明した。
全ゲートポートの破壊となれば重大なテロ行為であるのは紛れもない事実であるため、メセンブリア当局としては指名手配にかけるのは当然の流れであった。
メセンブリア当局で何度調べてもそのフェイト・アーウェルンクスが仕掛けた偽造映像を偽造だと見抜けない、当然偽造であるという確たる証拠も無いというのが問題ではあったが……。
ただ、犯人としてほぼ確定した上で懸賞金まで付ける事を決定したのはメガロメセンブリア元老院であるのは間違いない。
極秘に軍を動かして捜索という手もあった筈だが、国際指名手配という手段を取ったのはヘラス帝国に逃げられた場合を見越しての事であろう。
満場一致で国際指名手配にする事が決まった訳ではないのだが、証拠映像からの判断、そして実際にネギの事を予め昔から知っていた元老議員達の票が合わせて過半数を超えてしまったのである。
こうなってしまっては悠久の風所属、高畑と言えど、いかに声を上げた所で指名手配を取り消すというのは無理な事である。
あるとしたら終戦20周年を記念してのオスティア記念式典で恩赦でも降りるか、又は実際に自首をして裁判を受けて無罪を勝ち取るでもしない限り取り消すのは不可能である。
しかし後者は嵌められる可能性がかなり高くこちらも無理な話である。
高畑の持つツテからジャン=リュック・リカードやクルト・ゲーデルと接触して何かしらの交渉を持ちかける事もできるだろうが、ネギ達の居所を話さなければならなくなるかもしれないという点でリスクの割には成果が見込めない為これは見送りとなった。
ドネット達の現時点での結論としては指名手配に関してはどうしようもなく、まずはやはりアリアドネーやヘラス帝国で秘密裏に保護を受けるのが今のところの次善策であるという所で落ち着いのだった。
いずれにせよ高畑達は調査を始めてまだ4日程度であるため今後も引き続き調査を続ける運びとなった。
ただ、葛葉刀子は元々魔法世界にやってきた経緯が近衛木乃香の護衛であるため、一人メガロメセンブリアからオスティア、モエル、ゼフィーリアと経由してアリアドネーに向かう事になった。
また高畑は他にも、グッドマン家と佐倉家に対して挨拶回り、特にグッドマン家には麻帆良学園代表として今まで肩代わりしていた費用の返済をする必要があり、加えてアリアドネー魔法騎士団候補学校にも奨学金で入学している綾瀬夕映の授業料を返済する必要がある。
更にはメガロメセンブリアゲートポートに現れなかったジャック・ラカン氏と連絡を取る必要もある。

そして今、ドネット、長瀬楓、近衛木乃香、絡繰茶々丸はアリアドネー魔法騎士団候補学校に到着した。
そしてドネットが学校の窓口でセラス総長とのアポイントメントがあることを告げ、確認が取れた後、学校内に入る許可証を受け取った上で校内に入りそのまま総長室に向かったのだった。
職員に案内されて総長室に到着したドネット達をセラス総長が招き入れた所そこにはセラス総長だけではなくある生徒もいた。

「夕映っ!」

「夕映殿!」

セラス総長との先に挨拶する事そっちのけで綾瀬夕映、現在の名でユエ・ファランドールに近衛木乃香と長瀬楓は声を発し、近衛木乃香に至っては綾瀬夕映に飛びついたのだった。

「夕映、うちやよ!近衛木乃香や」

「このか……」

「このかさん、いいかしら」

「ドネットはん、すいません。夕映……ほなあとでな」

ドネットの一声で綾瀬夕映から一旦近衛木乃香は離れ、元の位置に戻った。

「セラス総長、お目にかかれて光栄です。メルディアナ魔法学校所属、ドネット・マクギネスです」

「近衛木乃香です」

「長瀬楓でござる」

「絡繰茶々丸です」

「初めまして、アリアドネー魔法騎士団総長のセラスです。本日は当校へようこそ。まずはあちらの席へおかけください」

「ありがとうございます」

6人が応接用の席に座りいくつか挨拶を交わした後本題に入った。

「セラス総長、国際指名手配されている子達、ここでは長瀬さんとこのかさんが該当しますが、アリアドネーでの扱いについて伺いたいのですが」

「形式通りの説明ですが、アリアドネーはいかなる権力にも屈しない独立学術都市国家であり、犯罪者や魔物であっても、学ぶ意思がある者の逮捕は禁止されています。よって、学ぶ意志表示とその形式さえ満たせばアリアドネーの庇護下においては指名手配から削除をすることをお約束致します」

「ありがとうございます。形式という事は学校に入るという形でよろしいのでしょうか」

「そうして頂けると一番良いです」

「分かりました。そういう話なのだけれど、このかさん、長瀬さん、アリアドネーの学校のどこかに入学する気はあるかしら?」

「ドネットはん、そういう事なんやね。うちも魔法の勉強はしたいからどこかに入学はしたいえ」

「拙者は……魔法は使わぬからなぁ。身体操術で気づかれずに生活ができれば構わないのでござるが……」

「長瀬さんはそうよね……。このかさんは良いのだけれど、この後もあと最大で5人は来る可能性があるのよね……」

形式を満たしさえすればアリアドネーの庇護下にあるという決定的な事実が得られるので指名手配は削除できるが、実際の所拠点としてアリアドネーに滞在するだけでも十分であり絶対に入学しなければいけないという事ではない。

「長瀬楓さんが魔法以外で学びたい事はあるかしら?」

「うーむ、強いて言うならケルベラス大樹林での経験から魔法世界の植物や魔法世界の変わった生物については気になったでござるな」

「ケルベラスでは苦労したわね……」

「……それなら大丈夫です。独立学術都市国家には魔法を扱わない学校も存在するわ。そこに在籍という形さえ取れば問題ありません」

「そうでござるか」

「セラス総長、長期間入る必要も無いですから体験入学という形で手続きをすることはできますか?」

「ええ、もちろんです」

「それではお願いします。このかさんは……夕映さんと同じ学校に入るかしら?」

「そうやな……うちも夕映と同じ学校がええな。夕映の記憶が戻るのも早うなるかもしれんし」

結果近衛木乃香は綾瀬夕映と同じアリアドネー魔法騎士団候補学校に入学する事になり、長瀬楓はほぼ形式だけで別の学校に体験入学という扱いになった。
そのままセラス総長とドネットとの間で手続きが迅速に行われ、まずは二名の指名手配がすぐにアリアドネーからは削除される事が決定した。
当然ある意味アリアドネーにいるということをバラす事になるが、実際に逮捕することはできないので、連合の領地で独自に捕獲でもされない限りは安全である。
交渉を終え、ドネット、長瀬楓、絡繰茶々丸はアリアドネーのホテルにこれからしばらく滞在する事になったが、ただ一人近衛木乃香はアリアドネー魔法騎士団候補学校女子寮に必要な物を持って早速入寮する事になり、獣族の変装キットを使用中のままであるが綾瀬夕映にそのままついていったのだった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月25日、17時頃、アリアドネー魔法騎士団候補学校、コレット・ファランドールの寮室―

ユエの旧世界での同級生がやってきたんだよー!

「こうして会うのは初めてやな。うちは近衛木乃香、あ、コノカ・コノエの方がええんかな?」

「コノカね!私はコレット・ファランドール。あの、ユエの記憶消しちゃってごめんなさい……」

「コレットそれは前にも謝ったですし、起きてしまったことは仕方ないですよ」

「コレットはん、夕映がこう言っとるし気にせんでええよ。そのうち記憶は戻るんやろうし。ほなよろしゅう」

私の中では尾を引きずってる事なんだよー。

「……うん、よろしくね、コノカ」

「うちもコレットって呼んでええかな?」

「もちろんだよ!」

「うん、ありがとな、コレット」

「それで……このかも魔法使えるんだよね?」

「まだまだ見習いやけどな。うちの専門は治癒魔法なんやよ。そんな酷くない怪我なら簡単に治せるえ」

治癒魔法!?

「えー!凄いよこのか!治癒魔法は専門教育だからここの学校だとあんまり扱ってないんだよ」

「そうなんか。ここに入るからにはうち戦闘魔法もきちんと頑張らんとあかんな。夕映達が受け取る授業も受けてみたいえ」

「明日から早速なんだよね?クラスは?」

「3-Cやよ」

私のクラスだけ転校生が多い!

「それなら私達と同じクラスだよー!」

「セラス総長が便宜を図ってくれたんや」

「流石グランドマスターだね」

「うちの指名手配も解いてくれるらしいえ。それで夕映はここの学校でどうなんかな?」

「うーんとね、実技は凄いし、他の科目は最初全然だったけどこの10日でかなり点数も上がってきてるんだよ」

「コレットも私と一緒に頑張っているです」

ユエにそんな簡単に抜かれるわけにはいかないからね。

「夕映前は学校の勉強嫌いやったんやけど少し変わったんやなぁ」

「やはり……そうでしたか。私も少し違和感があったですよ」

そういえばユエそんな事少し前言ってたなー。

「いいことやと思うえ。ネギ君もきっと良かったっていう筈や」

「そ……そそ……そうですか」

「ユエ、ネギ君の事になると動揺するなー。そうだ、ネギ君ってもうすぐアリアドネーに来るんだって?」

「そうやね。まだアリアドネー行きの飛空艇の中や。着くのは31日言うてたな」

「あともうすぐだね!」

「他にもあと何人か来るえ」

「楽しみだなー。私達こっちで旧世界の勉強はしても殆ど行ったこと無いから詳しい話を聞いてみたいんだよね。ユエの学校の事とかも」

「ほんならうちが説明するえ」

「やったー、ありがとう、コノカ」

「任せてな。夕映には少し通信で話したんやけど今度はもっと詳しく話すな」

「お、お願いするです」

「ほな、まずは……」

コノカから長い事話を聞かせて貰ったんだけど旧世界は科学が発達してて、飛行機っていうのは魔法世界の飛空艇よりもずっと速かったり、電車や新幹線、宇宙に飛んでいけるロケットっていうものまであるんだって。
食べ物の話も聞かせてもらってお寿司とか天ぷら、鍋なんてものがあるらしいんだけどいつか行ってみたいな。
ユエとコノカが旧世界の学校で入ってた図書館探険部は、図書館なのに罠が仕掛けてあったりして迷宮になっている凄く変わっている所の全貌を解明するための部活なんだって。
アリアドネーの図書館だとそういうのは無いし旧世界って面白そう。
ユエも話の途中で少し引っ掛かる事があったりして少しは記憶回復の手がかりにはなったみたいで良かった。
明日からコノカとも一緒に授業を受けられると思うと楽しみだよー。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月30日、16時頃、アリアドネー魔法騎士団候補学校、女子寮―

アリアドネーに到着したすぐその翌日から、新たに近衛木乃香は転校生として魔法騎士団候補学校に迎えられ授業を受け始めたが、地球で学んでいた事と違う分野、教科が多く色々勉強することがあると実感し、その上で綾瀬夕映の適応能力の高さに驚いたのだった。
それでも、近衛木乃香はやはり実技の方はレベルがそれなりに高く、訓練中に怪我をしたクラスメイトがいれば治癒を使ったりもして入学早々人目を引いた。
近衛木乃香のフワフワした雰囲気に当たると仮にも精鋭を目指す魔法騎士団候補学校にはそぐわない緊張感の無い空気が広がったりするが、コレットや綾瀬夕映がいたことや、エミリィ・セブンシープとも既にネギの一件で通信をしていた事と、彼女自身近衛木乃香の写真を見ていた事から、入学したその日に交流をし、馴染むのにさほど時間はかからなかった。
数日が経った8月30日、ようやく高音・D・グッドマン、佐倉愛衣、桜咲刹那、古菲もアリアドネーに到着し、予め予定を伝えてあったドネット達と合流を果たした。
ここに来てようやく高音が運んできた手裏剣やクナイ類の忍具それと仮契約カードは長瀬楓本人の手元に戻った。
そして改めてドネットは桜咲刹那と古菲を伴いセラス総長と再度面会し、流れ作業となりつつあるが、長瀬楓と同じく体験入学という形で形式だけ整え二人のアリアドネー下における指名手配削除が続けて決定された。
まさに「学ぶ意志のあるものは例え犯罪者であっても逮捕する事は禁じる」という独立学術都市国家ならではの裏技であり、この方法はメセンブリーナでもヘラスでもできない事である。
しかし、今回こうも簡単に事が進んだのはアリアドネー魔法騎士団総長であるセラスとの直接の繋がりがあるからこそ可能であり、通常は正真正銘の犯罪者が逮捕されるのを逃れるために来た所で、本人に学ぶ意志がある事を認定するのに厳しい審査があり、そう簡単に庇護を受けることはできはしない。
そうでなければ今頃アリアドネーは犯罪者の巣窟になっているのだから。
まさに特例中の特例であり、この縁を作る原因となった綾瀬夕映がアリアドネーに飛ばされ、コレット・ファランドールと一悶着あったのはある意味幸運であったと言えよう。
この件に関してセラス総長の責任は非常に重く、もし彼女達がテロ行為に及ぶような事があればセラス総長もその総長という地位に揺らぎが出るリスクは必ず付き纏っており、セラス総長自身それを分かった上での協力である。
できた借りには底知れない物があるが、事実ネギ達が無実であるのは自明であり、セラス総長としては毅然とした対応を取るのが神聖なる騎士団として当然の行動だそうだ。
またセラス総長自身、前大戦の最終決戦でも若くしてアリアドネー騎士団部隊の最高指揮官として働いた功績は勿論の事、それに加えて終戦後20年間これまでの働きからもアリアドネー上層部での信用は厚く、今回のセラス総長の処置が決して間違ったものではないだろうと理解が得られているので実際に解任に追い込まれるようなことは早々無い。
アリアドネー上層部でもゲートポートの件は連合の自作自演であると決して公言はしないもののそう見る向きが多いのもその一助になっている。
実際どこのデータにも存在しない赤髪の少年が突如現れ各地のゲートポートで同時多発的にテロを行い、その共犯者としてこれまた身元不明の6人の少女が加担したと誰が心から確信するだろうか。
寧ろ、幻術を使っている可能性があるにしても、見た目年端もいかない数人の子供に厳重な警備が為されている筈のゲートポートがあっという間に全て潰された等という事実そのものが帝国とアリアドネーにしてみればお笑いぐさでしかないのだ。

……そして今女子寮に顔を出しにドネット達に伴われて主に、未だ変装付きだが桜咲刹那と古菲が近衛木乃香と綾瀬夕映に久しぶりに再開を果たした。

「うわぁぁん!!せっちゃん!せっちゃぁぁぁん!!」

「お、おおおおおお、こ、このちゃん!?」

顔を合わせたその一瞬の間を置いて近衛木乃香が桜咲刹那に飛びつくのは必然である。

「会えて良かったえー!!」

「お嬢様もご無事で本当に、本当に良かったです!」

うら若き魔法騎士団候補生が女子寮のロビーの床でゴロゴロしているのは場違いであるのだがドネット達は仕方ないという風で微笑ましくその様子を眺めていた。

「お嬢様、夕映さん、お届けものです」

「あ、うちの仮契約カードと杖やね!せっちゃん、高音さん、ありがとう!」

「礼には及びませんわ」

「こ……これは私の……仮契約カードなのですか?」

「はい……間違いありません。カードの絵柄が消失していますが消去法で夕映さんのものであるのは確実です」

「夕映さん、カードの絵柄が消失しているのは一時的な記憶喪失と関係がある筈よ。そのうち元に戻るでしょう」

「あ……あの、これの契約相手はやはり……」

「夕映、前言ったけどネギ君やよ。魔法世界に来てる時限定の予定やけどな」

「そ、そそそ、そうですか。ありがとうです」

「夕映は本当に記憶が無くなってるアルな」

「のどかやネギ君に会ったらきっと思い出すえ」

「そ……そうだと良いです」

「そんでせっちゃんとくーふぇはどうなったん?」

「私と古も楓と同じく体裁だけ学校に入学した事になっていますが、基本的にはこの女子寮の近くのドネットさん達と同じホテルに滞在する事になりました。葛葉先生も数日中に到着します」

「そうなんかー。明日はネギ君達も来るし、日曜やから皆でアリアドネー見て回りたいな」

「それはいいわね、このかさん」

「ありがとう、ドネットはん」

「それではお嬢様、夕映さん今日はこれで失礼致します。また明日お会いしましょう」

「うん……分かったえ」

「このか、夕映、また明日アルね!」

「このか殿、夕映殿またでござるよ」

「また明日です」

こうしてそれぞれ再会を果たし、仮契約カードも持ち主の元に戻り、残るカードは神楽坂明日菜、宮崎のどかと犬上小太郎のものとなった。
因みに未だ神楽坂明日菜、アーニャ、犬上小太郎の3人はテオドラ皇女の庇護の元、ヘラス帝国首都に滞在している。
これは是非テオドラ皇女がネギと会ってみたい、できればヘラス帝国の闘技場で拳闘大会に参加して欲しいという思惑があるのだが、3人の安全は確保されているし、それぐらいは寧ろ当然だろう。
勿論狙いはネギだけではなくそこから世界のどこかにいる筋肉ダルマを釣り上げるという目的もあるのかもしれないが。
この晩コレットの寮室では近衛木乃香のアデアットを披露という事があったりして盛り上がったのは余談である。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月31日、12時頃、アリアドネー国際空港―

んんー、はぁー!
やっと着いたー。
高速艇を急いで使う必要もないから一般旅客用飛空艇でゴゥンゴゥン来たけど時間かかったスよ。
魔法世界を一周都市を伝って回るだけで5万ドラクマかかるっていうのは常識らしいんだけど既に私達合計すると余裕で超えてるね。
全部高畑先生が立て替えて払うらしいけど、そういや高畑先生ってまほら武道会で800万近い賞金貰ってた気がする上、元々金持ってそうだから問題ないか。
ぶっちゃけネギ君の最大加速の箒で飛べば旅費なんてかからないし、しかも速いけど流石にそんな数千kmも飛べんからね。
で……空港の正面玄関すぐの所にドネットさん達が皆来てるって事なんだけど……。
っておおっ、皆揃ってるな!

「あっちに大勢でお迎えだよ、ネギ君」

「はい!」

こっちに皆まだ気づいてないし、ちょっと驚かせられるか?
つか何人いんだ、知らない人もいるっぽいけどあれだ、多分ゆえ吉のクラスメイトか。
このかも入学したっていうのには驚いたけど、まー指名手配削除するならアリか。
相変わらずの獣族の変装に加えて認識阻害メガネもしてるみたいだけど。
思わず小走りで皆のとこに急いで走ったよ。

「皆さん、お久しぶりです!この前は心配をおかけしました!こうしてやっと会えて嬉しいです」

「やー皆久しぶりッス。高音さんクレジットカードとか色々助かりました」

「………………」

「あのー、皆さんどうしたんですか?」

あはー、ネギ君大人バージョンだもんなー。
ゆえ吉のクラスメイトっぽい人達は完全に石になってるんだけど大丈夫か?

「ネギ君……なん?」

「でかいネギ坊主アルか?」

「ネギ坊主……しばらく見ないうちに大きくなったでござるな」

身体操術とやらを使ってる楓に言われたくねー。
視線がネギ君に釘付けだけど私は空気デスカー?
視界に入らないのかなー。

「いや、皆、年齢詐称薬だからね!」

「あー……。そうや!!ネギ君、無事で良かったえ!美空ちゃんも久しぶり!」

「おおっ!ネギ坊主、美空良かったアル!」

「ネギ先生、春日さん、お久しぶりです」

「ネギ君無事でよかったわ。春日さんも救出本当にありがとう」

思い出したかのようにスイッチが入って畳み掛けられたんだけどなんだかなー。
とりあえずネギ君がもみくちゃになってる間に高音さんに報告だわ。
てか、かわいそうだからネギ君の顔の肉引っ張ったりすんのやめなよ……偽物か確認するんじゃないんだし。

「いやー、高音さんクレジットカード助かりました」

「お役に立ったようですわね。費用は高畑先生が払って下さることになりましたから問題ありません。それより春日さん、よくご無事で。春日さんがわざわざ単独で南極に向かうことは当初考えていませんでしたのに、危険な目にあわせてすいません」

堅っ!
堅いわ!
流石高音さん。
まー確かに当初の予定だと望みは薄くてもなんとかして捜索隊でも出してもらうよう要請するって案も選択肢にあったスからね。
……それがオスティアに着いた段階でネギ君が相当ヤバそうだった上に19日に着いた途端指名手配までかかったらやるっきゃなかったし。

「まー、終わったことだからいいスよ。南極突っ込むのに高い買い物したおかげでかなり楽でしたから」

サーモスタビライザーは神。
まー飛空艇一台でも荒れる可能性ある天候の南極に無理して飛ばせば一発だったかもしれないスけど。

「ええ……良かったです」

「春日先輩お疲れ様です。無事で良かったです」

「愛衣ちゃんもお疲れー。今日はどんな感じなの?」

「今日は皆でアリアドネーを回る事になってますよ」

「なーるほど、日曜だから丁度観光って事ね」

「はい!」

お、ネギ君の方も落ち着いたか。

「ネギ先生、杖と指輪です」

「わー刹那さん、ありがとうございます!」

「ネギ君、うちと夕映のクラスメイト紹介するえ!」

「こ、コレット・ファランドールです!初めまして!」

「え……エミリィ・セブンシープです。ネギ様、お目にかかれて光栄ですわ」

「ベアトリクス・モンローです。ネギ様初めまして」

様付けかーい!
まーミリアさんを思うに生粋の魔法世界人はどこもこんな感じか。

「初めまして、コレットさん、エミリィさん、ベアトリクスさん。ネギ・スプリングフィールドです。夕映さんをありがとうございます」

「…………はぁ、いえ、当然ですわ……」

おおーう、エミリィさん露骨に蕩けてんだけどそこまでいくと流石に重症なんじゃ?

「夕映さん、まだ記憶戻ってないかもしれませんが、色々調べ物を手伝ってくれてありがとうございました」

「は……はいです。でもあまりお役に立てませんでしたが……」

「そんな事ありません。助かりました」

「…………ど……どういたしましてです……」

あー、だめだこりゃ。
ネギ君の大人バージョン紳士スマイルで落ちる女性の数をカウンターで計算すると酷い事になりそうだわー。
多分アスナが見たら「な、何か生意気よ。ネギのくせに!元の姿に戻りなさいよっ!」とかマジ言いそう。
てか言うな、絶対。

まー数えてみたら15人いて、感動の再会もそこそこにアリアドネー巡りをぞーろぞろ揃ってしたんだわ。

「楓、その身体ってどういう仕組み?」

うわー、糸目のちびっこマジ笑えねー。
しかも見た目これで戦闘能力はアレだしな……。

「これでござるか。身体操術に忍術を併用した自前の変化でござるよ」

つーか今明らかにとうとう忍術って言いやがったな。

「あー、骨は?」

「骨は……聞きたいでござるか?美空殿」

そんな高い声とちっさい身体でキリっとした顔されてもなー。

「いや、やめとくよ……」

「フフ……これも秘伝なのでござるよ」

聞いた私が馬鹿だったスよ……。

アリアドネー観光ってどんなんだったかっていうと結局あちこちの歴史ある学術的建物見たりだとか、遊覧飛空艇に乗ってアリアドネーの中でもイチオシのスポット、主に北部の港町を巡ったりとかそんな感じ。
アリアドネー東の郊外にSilva-Monstruosaっていう魔獣の森とかあったけど誰が行くもんかーって……楓、入りたそうな顔するな。
総じてやっぱ学生風の人が多い多い。
それに学術都市国家って言う割りには闘技場も西部にちゃんとあったしちょっと意外。
聞いてみたら戦闘魔法を実戦で使ったり、闘技場付きのヒーラーとして働けば実地訓練にもなるからってのと、単に娯楽が必要だからってのが理由にあるらしい。
その辺で野良箒レースとかもやって賭けしてる風景は麻帆良に似てるっつーか、あ、麻帆良がこっちに似てるだけか。
だから日本の中でかなり浮いてるんスねー、よく分かった。
昼から夕方まであちこち見て回ってかなり楽しかった。
楽しいっていうより幸福感でそのまま昇天しそうなエミリィさんはマジ顔がいいんちょより危ないわ。
クラッと倒れそうになって、都合よくネギ君が「大丈夫ですか、エミリィさん」なんて支えたらもうね。
ネギ君は素だけど、エミリィさんの顔がアレすぎて糖分口から吐けそう。
あまーっ!!
つか、いいんちょよりヤバいっていうかこっちでマジもんの委員長だった。
なーんか話し方も似てるし委員長って言ったらコレ!って決まってんのかね……。
あと「ネギ様……よろしければサインを頂けないでしょうか?」なんてお願いされて、快くネギ君は「はい、構いません。あの、僕の方が年下ですからもっと軽く呼んで良いですよ」って言いながら3人分サイン書いてた。
ミリアさんの分で練習しまくっただけあって「春日さん、練習しておいて良かったです」って言ってきたから「何事も経験スねー」って返しといた。
ついでにちゃっかり愛衣ちゃんもサイン貰ってたのは抜け目無いと思う。
観光を終えて私達はホテルに、このかとゆえ吉とクラスメイト3人は女子寮に戻った。
この後ネギ君はドネットさんとセラス総長に会いに行くらしい。
今後どーする予定なのかさっぱり分からないけど私が南極程超頑張ったりすることは多分……無いだろー……と思いたい、うん。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月31日、20時頃、アリアドネー魔法騎士団候補学校総長室―

今日はやっと皆に会えてすぐ、アリアドネーのあちこちを一緒に見物できて楽しめた。
父さんの杖とマスターの指輪の発動媒体も戻ってきたしやっぱり長い間使ってたからこっちの方が馴染むな。
今、アリアドネーでの皆の指名手配を解除してくれるよう動いてくれたセラス総長にドネットさんと一緒に会いに来て話をする所。

「初めまして、ネギ・スプリングフィールドです。夕映さん達をありがとうございます」

「アリアドネー魔法騎士団総長のセラスよ。初めましてネギ・スプリングフィールド君。その姿だとお父様にそっくりね」

「あはは、やっぱりそうですか」

「ええ、よく似ているわ。それで、ネギ君の指名手配の件ですが……」

「セラス総長、やはり……」

「はい。ドネットさん、ネギ君の指名手配はここでは削除しない方が良いでしょう。ネギ君は恐らくメガロメセンブリアから一番狙われている人物よ。ここで指名手配を解除している事をアピールするのは危険ね。他の子達の懸賞金がそこまで高くないのは、誰か捕まえた上でネギ君をおびき寄せる為の罠かもしれないわ」

「そうですか……」

確かに僕だけ賞金額が他の皆より桁違いだった。
その可能性は十分にある。

「でもネギ君のその年齢詐称薬ならまず気づかれることは無いから大丈夫だと思うわ」

「……そうですね、ドネットさん。ここまで来るのに気づかれなかったのでそれは大丈夫だと思います。……それに、一度僕はヘラス帝国に行く必要があるので指名手配解除の件は結構です」

「申し訳ないわね。あなたが犯人ではないのは間違いないのに」

「容疑をかけられてしまっては仕方ありません、それより他の皆を保護をお願いします」

「それは任せて頂戴。アリアドネーの庇護下では逮捕させたりはさせないから。それと例の論文の件なのだけれど、アリアドネー内でまだ調査中よ。確実にありそうなのはメガロメセンブリアのそれも上層部の可能性が高いけれど」

火中に飛び込まなければ手に入れられないか……。
実際には殆ど確認だけで良い。
ただ魔法世界の崩壊の原因が魔力の流出であると、しっかりした研究、それが理論的にどう裏付けがされた上で書かれているのかが知りたい。

「ご協力ありがとうございます。そうですね……メガロメセンブリアにあるならタカミチ……高畑先生にも頼んでみます」

「それは高畑・T・タカミチかしら?」

「はい。今メガロメセンブリアでゲートポートの事件を調査してます」

「それは心強いわね。魔法世界と旧世界の魔力の質が違うという話をユエから聞いたのだけど説明してもらえるかしら?」

「僕もその時はなんとなく感じただけだったんですけど、やっぱり色が違うと思うんです」

「色?」

「はい……旧世界の魔力が緑色だとするのなら魔法世界の魔力は桃色なんです。もちろん、感覚的なものなので僕に魔力が常に視覚的に色がついているように感じられている訳ではありません」

南極での一件で出力が上がったから一応見せられそうな方法はあるんだけど……。

「変わっているわね、そんな事を感じられるなんて」

「僕も最近気づいた事なんです。一応判断が付くかは分かりませんが実演してみましょうか?」

「そんな事が可能なの?それなら是非お願いするわ」

「はい。少し離れますね。……行きますっ!」

―魔法領域展開 出力最大!!―

こ……これなら、殆ど白く光ってるだけだけど本当に僅かに淡くうっすら桃色、赤色という感じ……かな。
マスターが初めて実演してくれた時も本当に少しだけ緑色に感じられたしやっぱり違う。

「これを少し抑えると」

―魔法領域 出力抑制!!―

もういつも通りの完璧な白色の輝き。

「……少しだけ色に違いがあったと僕は思うんですけどどうですか?」

「…………その前に色々興味が湧いたわ」

「ええ……私もよ……ネギ君、その障壁は一体……?」

そういえばまほら武道会で使った時にも結構驚かれたんだったな。
ドネットさんは修学旅行の時にメルディアナにいたけど……実際には見てなかったか。

「ドネットさん、これは僕の師匠から教わった魔法障壁の一種なんです。障壁というより魔力の層そのものなんですけどね。魔法発動媒体は不要で、特に魔法詠唱をする必要も無く、訓練して念じるだけで発動できます」

「流石はあの魔法使いね……」

ドネットさんが誰か言わないでくれて助かるな……。

―魔法領域解除―

「魔法発動媒体無しでできるというのは凄いわね……。私としては興味が尽きないのだけれど話を戻しましょう。確かに私には先程の障壁の色が前と後で僅かに桃色がかっているものから完全な白色に見えました」

「私もそうね」

「是非旧世界で試した場合との違いを比較したいわね」

「それは機会があれば是非」

「質が違うという意味はなんとなくわかりました。ありがとう」

「いえ、少しでも理解して頂けて良かったです」

「今日の所は一応例の論文のアリアドネーの総合図書館にある物の写しを渡しておきます」

「ありがとうございます。セラス総長」

「どういたしまして」

「セラス総長、今日の所はこれで失礼致します」

「それでは失礼します、セラス総長」

「はい、何かあればまたご連絡下さい、ドネットさん。論文の件で進展があったらこちらからも連絡するわネギ君」

「分かりました、ありがとうございます」

これで次はヘラス帝国か……。
修学旅行の一件で現われたフェイト・アーウェルンクスが今回のゲートポートの事件に関わっているのだとしたら、アスナさんを連れ去ろうとした事、多分魔法無効化能力が原因だろうけど、これが無関係で無いとは言い難い。
それに一度アスナさんに無事な姿を見せないと。

「ドネットさん、できるだけ早く僕はヘラス帝国に向かいたんですが良いでしょうか?」

「そうね、いいわよ。旅費に関しては心配しなくていいわ」

「はい、ありがとうございます」

「ただ、アリアドネーでのその姿のネギ君の正式な滞在許可証とヘラス帝国行きのための渡航許可証の発行に時間がかかるから少し待ってもらえるかしら?」

「それはもちろんです」

「それにしてもネギ君の魔法はセラス総長の言うとおり色々興味深いわ」

「そうですか?」

「無詠唱や浮遊術はともかく魔法発動媒体無しでできるというのは画期的ね」

「それが実は分類で言うならアレは浮遊術の一種なんです」

「あら、そうなの?」

「はい」

「本当に興味深いわ。きっとどこの魔術開発部でも情報が知りたいと思うわよ」

「あはは、そんなにですか」

マスターも僕ができるようになるかはわからないって言ってたぐらいだし……実際あの通信法で感覚が掴めないと無理な気がするからどうかなぁ……。
新しい魔法っていうと理論を作ってそれを実際に術式にすれば良いんだけど……これはマスターが言うようにもっと基本的、根源的なものだ。
とにかく、まずはホテルに帰ったら論文の写しに目を通すところから始めよう。



[21907] 48話 授業参観(魔法世界編8)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/01/12 00:17
―9月1日、8時30分頃、アリアドネー魔法騎士団候補学校―

昨日の夜ネギ君がアリアドネーの総長さんと話をしてきた結果を皆で聞かせて貰った。
指名手配解除ができないのはまぁ仕方ないかって感じだな。
ネギ君が調べたいっていう論文は高畑先生にも連絡してメガロメセンブリアでも調べてもらえるようすぐ頼んでたし、貰ってきたコピーも昨日の夜早速全部読んでた。
そんでヘラス帝国の首都に行くって言うから今日ドネットさんと茶々丸がアリアドネーの入国管理局で色々事務手続きをして皆の書類作成と、アリアドネーでの長期滞在許可証の発行で大体丸1日潰れるって事になって今どうなってるかっつーと……。
アリアドネー魔法騎士団候補学校の授業の見学会スよ。
参加メンバーは高音さん、愛衣ちゃん、ココネと私と……てか残り全員。
いやー、一応最初から指名手配関係なかった純粋魔法生徒の私達がいるのは交流だとかそういうのでなんとなくわかるんだけどさ。
変装に認識阻害メガネもかけてるからいいっちゃいいだろうけどもうねー。
ネギ君って昨日の件はともかく女子校に入っていいのか?
あれか、麻帆良でも女子中等部だったしアリか、アリ……か。
まあこれ決定したのは突然今日の朝セラス総長から宿に連絡が来て「よかったら魔法騎士団候補学校の授業を見に来ないかしら?」と言う誘いを受けたからなんだけどね。
昨日のアリアドネー巡りでもゆえ吉とこのかのクラスメイト3人とも知り合いになったし、魔法世界のガチな学校がどんなもんなのかは気になるっちゃ気になるのは確か。
それより今の状況スよ。
3-Cの教室の一番後ろにズラっと私達8人がパイプ椅子を用意してもらって並んでんのさ。
エミリィいいんちょとベアトリクスさんが割と前の方の席でゆえ吉とコレットさんが真ん中一番後ろから2番目の列の3人掛けの3人机の席のうちの2つ、でもってこのかが更にその後ろに一人でいる感じ。
4人机あってもいいかもしれないけど、皆スゲー何冊も本机に積んでるから狭いしって事なんだろうけど、羽ペンの動く速度が速すぎるしやべースよ。
どこの受験予備校だっつーの。
いや、シャーペンじゃ無いの?とか思うけど魔法世界の学生が使うペンはこれが普通らしいし、インク瓶必要なくずっと書けるみたいなんだから良いんだろうけど。
これ3-Aが見たら引くわードン引くわー。
ネギ君何か授業風景に超驚いてショック受けてるし。
……まーなんつーかゆえ吉とこのかの授業参観っぽいわー!!
で、アレじゃん、私達端末持ってるからベラベラ授業中でも喋れる訳よ。
このかとゆえ吉には繋いでないけどね!!

《あの……僕の授業ってもしかしてダメでしたか?教室の雰囲気も含めて……》

言うと思ったよー!!

《ネギ坊主、こんなむつかしい話で緊張した中授業されても私わからないアルよ》

いや、くーちゃん今結構面白いだろ。
何か丁度地球の話しててちょっと笑えるし。
つかアレだよ、緊張した雰囲気の方が集中力増して覚えられる筈スよ。

《ネギ坊主、ネギ坊主はネギ坊主でいいでござるよ》

因みに今日の楓は謎の幼児形態じゃなくて普通の変装と認識阻害メガネ付きだから身長に声の高さは元通り。

《ネギ先生、自信を持ってください》

《ネギ君、校風って奴だからさ。気にしなくていいと思うよ》

《私も麻帆良の中等部は中等部で良いところがあると思います》

《皆さん……》

ここまでフォローが入ったんだけど……。

《皆さん何をおっしゃっているんですか。やはり学校とはこう規律あるべきです》

高音さんの反撃来たわー。

《た、高音さん……。僕……麻帆良に戻ったらもう少ししっかりとした授業します!》

《お分かり頂けたようで嬉しいですわ》

《ネギ坊主、今まで通りでいーアルよー!》

あーだめだこりゃ。
でも3-Aをこんな空気にするなら命の危険でも迫らせない限り無理だな、うん。
……流石のエリート養成学校でもクラスの人達が結構こっちチラチラ見てくるねー、しかもネギ君の方に集中して。
まー何の説明もなく、「見学の方です、いつも通りの授業態度を心がけるように」とかで一蹴されてもナギに似てるかどうかは認識阻害がかかってるからはっきり分からんだろうけど、それを別にしても男子がいるんだから無理な話だな。

「つい一世紀前まで民衆の間では伝説かお伽話と思われていたこの『旧世界』ですが、ある面では我々より遥かに進んだ社会形態を持ちながらも、他面ではより深刻な病理を抱えた世界ともいえ数千年にわたって全く異なった道を歩んできました。この二つの世界はまるで鏡のようにお互いを……」

おとぎばなしー?
私は地球生まれ地球育ちだからなー、寧ろ魔法世界の事を親から聞かされた時の方が私にしてみりゃどこのファンタジーって感じだったスよ。

《高音さんと愛衣ちゃんは魔法世界生まれなんスよね?》

《そうですわ》

《はい、私は物心ついた頃にはアメリカのジョンソン魔法学校にいたんですけど》

5、6歳ってとこか。

《地球の事ってやっぱり小さい頃はお伽話とか思ったんスか?》

《ゲートポートの事は教えられていましたからね。このアリアドネーのような説明をされたことはありませんでしたが、初めて麻帆良に来た時には魔法無しで科学が発達していたのには驚きましたわ》

いやー、麻帆良は科学のレベルもどっかおかしいから。
特に最近は超りんとハカセのせいでヤベーよ。

《育った環境って大きいんスねー》

《僕も日本に来た時には驚きました。……今まで聞いてなかったですけど高音さんはどうして麻帆良で魔法生徒を?》

《ネギ先生と同じく修行の一貫ですわ。私は実家から魔法世界だけでなく旧世界でも見聞を広げて来いと言われたのが発端です。私の年齢から丁度受け入れ先に麻帆良学園を紹介されたのですわ》

堅すぎたり偉大なる魔法使い系の発言は根本が魔法世界の感覚だからかー。
でもまーグッドマン家が子供の教育に熱心なのは分かった気がする。

《そうだったんですか》

アリアドネーだから何なのか知らんスけど数千年って言ってるのは何か変じゃね?

《高音さん、より深刻な病理っていうのは地球の現状の事だと思うんスけど、中国とかはアレにしても数千年って言うほど地球の歴史って長くないんじゃ?科学が一気に発達したのはここ数百年が殆どッスし》

5千とか6千とかだったらそれらしいとは思うよ。

《2000年もあれば一応数千年だとは思いますが……》

《それは……タカミチが言っていた時間の流れが違うっていうのが関係しているのかもしれませんね》

《あーなるほど。って事はもしかしたら魔法世界って地球に比べて凄く長い時間が経過してるかもしれないって訳か。例えば4倍ぐらい?》

《……春日さん、その疑問は良いですね》

《え?何?》

《この世界の謎について仮定とは言え新たな情報ですから》

《あー、なんだか分かるようで分からないけどネギ君の役に立ったなら良かったスよ》

もー先生っていうより世界の謎を解き明かす!とか学者っぽいな。
プロフェッサー的な。
でー、何のかんの話が流れていって……。

「……以上のように北の古き民と南の新しき民は古くから様々な確執をもっていた訳ではありますが、20年前の『大分裂戦争』時点においても全面戦争に至るほどの理由はどこにもなかったのであります」

戦争の話になったー。

「この戦争には世界を欺き両者を裏から操って至福を肥やそうとした悪党達の姿があったのです。この彼等こそかの悪名高き秘密結社完全なる世界です」

《完全なる世界……》

《有名ですわね》

「この組織と王都オスティアの犠牲を持って大戦は終りを告げます。そして大戦末期全ての真相を暴き世界を滅亡の危機から救った英雄とまで言われるのが皆さんもよくご存知のナギ・スプリングフィールドと紅き翼なのです」

「「ブハッ!!」」

不意打ちすぎる!
もろ紅き翼の映像出てんじゃん!
超似た人すぐここにいるから我慢できん!!
認識阻害半端ねー!

《春日さん、古菲さん、何を吹き出しているのですか!》

《す、すんませーん!》

《ごめんアル!》

「見学の方どうされましたか?」

「いえ、授業を中断させてしまってすいません。何でもありません。どうぞ授業を続けて下さい……」

《映像のナギにそっくりな姿してるネギ君が近くにいるからつい条件反射で……》

《私もアル……》

《私も春日先輩に釣られて吹き出しそうになりましたよ……》

愛衣ちゃんもか!

《愛衣……》

《あはは、認識阻害メガネしてて良かったです。こうして父さんが魔法世界の授業の映像にまで出てると本当に英雄だったんだなってわかりますね》

《歴史の教科書に載っているぐらいですから》

《僕はそれどころか指名手配犯ですけど……》

重っ!

《ネギ先生のせいではありませんわ》

《ネギ坊主、そうでござるよ》

《ネギ先生、元気だして下さい》

《ネギ君の責任じゃないからさ》

《はぁ……ありがとうございます……》

「……さて大戦末期の巨大な魔法災害によって廃都とも呼ばれるようになったオスティアですが、環境は復活してきています」

《この魔法災害って広域魔力消失現象の事なんですよね?》

《そうですわ、ネギ先生。この後崩落したオスティアを中心とする直径50km圏内はメガロメセンブリアの試算で以後20年間にわたり魔法も使えない地域となったそうです。今説明があったとおり環境は復活しており丁度今年で20年が経ちますから魔法も徐々に使えるようになってきているでしょう》

《丁度20年魔法が使えなかった……ですか……。そうするともう壊されているかもしれませんが例の廃棄されたゲートが稼働する可能性もありそうですが……一度行ってみたいですね》

《しかし侵入許可を取るのはなかなか難しいでしょう……》

《そう……ですよね。麻帆良に戻れるとしたらそこしか無いように思うんですが……》

《確かにそうなりますわね……》

まーたネギ君悩み始めたな。

「来月には戦後20年を期に大祭典が開かれる予定です。このお祭りではこのナギの名を冠した拳闘大会が行われる予定です」

《来月となると高畑先生の言うとおりならば丁度麻帆良は8月の末ぐらいですね》

《夏休みが終わるでござるなぁ……》

全くだなー、まー気にすんな。

《オスティア記念式典にナギ・スプリングフィールド杯、廃都オスティア、色々イベントが詰まってるスね》

《帰れないにしても皆でオスティアのお祭り行ってみたいです、お姉様》

《そうですわね、愛衣》

《ま、どーせなら悩んでるより楽しんだほうが得スね》

《麻帆良祭みたいなら面白そうアル》

《…………僕もコタローとは拳闘大会には出てみたいですから行きたいです》

ちょい考えごとしてたと思ったらネギ君復活したか。

《ネギ坊主とコタローのコンビは厄介でござるからな。良い試合になると思うでござるよ》

《ありがとうございます、楓さん》

《コタロのあの咸卦法はズルいアルよ》

小太郎君も咸卦法使えるっていうのは北極脱出の時に聞いたんだけど……。

《くーちゃん、あの咸卦法って?》

《春日さん、それは僕が説明しますね。コタローのアーティファクトは僕が契約執行するとコタローが自動的に咸卦法の状態になる上、契約執行の魔力供給次第で出力が変わるんです。しかも効率は常に無駄がない状態です》

なんだそれー!?
契約執行が咸卦法!?

《随分変わったアーティファクトッスね……》

《コンビネーションも良くなりますからね。私も相手をした時は大変でした》

《大体はコタローが僕に合わせてくれるんですけどね》

ネギ君との仮契約で授与されるアーティファクトがおかしい事はよく分かった。
愛衣ちゃんのアーティファクトは魔法世界の騎士団で正式採用されている物と同型のモノだっつー話だし、主の資質次第ってマジだな……。
まーアーティファクトが出るだけでも全然マシな訳だけど。
短距離走は自分の足で走るのが当たり前だけど、それに見合ったのが出てるし私も恵まれてる方スね。

1時間目の歴史の授業が終わったーと思ったら次はラテン語と古代ギリシャ語の解釈……3時間目は魔法の術式構成の授業……数学とか普通に混じってるからマジ眠い。
ルートにルートそれに更にルートとか付けんな!!
くーちゃんと楓は速攻ダウンしたし。
桜咲さんは……このかガン見してるな。
どんだけー。
ネギ君はふんふん聞いてるんスけど流石天才。
ま、高音さんと愛衣ちゃんも余裕っぽいし、ゆえ吉とこのか含めたクラスの人達も全員真剣そのもの。
4時間目は魔法薬の調合の授業で……わざわざ私達の分の調合材料も手配してくれたっ!
妙に待遇いいな。

「皆さん、ちょっとやってみますね」

とネギ君が代表でやってくれることになった。
クラスの人達は2人一組なんだけど流石に私達に4組分用意する必要は無いスからね。
ネギ君が手早く、指定の材料を正しく調合して呪文詠唱。

―いざ、生ぜん、癒しの薬よ!―

「はい、できました」

「流石ネギ先生ですわね」

手際良過ぎでクラスの誰よりも早く完成したもんだから授業の先生が近づいて来たわ。

「見学の方、非常に慣れていらっしゃるようですね。良ければ生徒の為にもう一度教壇で実演してもらえませんか?」

こーいう時先生がやれば?って思うのはナシなのか?

「あ……はい、僕で良ければ勿論です」

「ではこちらにどうぞ」

ササーッとクラスの視線がネギ君に集中した。
認識阻害は大丈夫か?

「ネギ君目立つなー」

「流れるような手際でしたから、実演は確かに良いと思いますわ」

高音さんと愛衣ちゃん感心して見てたもんな。

「ネギ坊主は修行の休憩中によく練習していたでござるからなぁ」

「楓……休憩中に練習してたらそれ休憩って言わないんじゃ?」

「激しい運動はしてないアルよ」

「そ、そーかそうかー」

ネギ君達の常識のラインが高すぎてついていけねー。
エヴァンジェリンさん相当スパルタだろ……。

「皆さん、見学の方が良い手本を見せて下さいます。一旦作業を中断して……大丈夫ですね。ではお願いします」

全員既に作業中断してるスね。

「はい。それでは魔法鎮痛薬の調合を行わせて頂きます。まずはウスバサイシンの根と弟切草の葉をすり潰し……」

解説付きで3分調合的な何か始まったー!

「皆さん、しっかり参考になるところを見ておくように」

「「「「「はいっ!!」」」」」

良い返事スねー。
もう一度見るけどすり潰す際の道具の使い方めっちゃ上手くてしかも早っ!
途中からスピードアップして右手ですり潰しながら左手は計量、試験管に入れて分離とか……スゲー。

「……最後に魔法詠唱で完了です」

―いざ、生ぜん、癒しの薬よ!―

音も一切発生せずにドーナツ型の煙だけがゆっくり一つ上がって終わり。
ホントに一切無駄が無いな。
普通はここまで来ても爆発したりするんだけどねー。

「はい、以上で終わりです」

「素晴らしい手際です。皆さん見学者の方に拍手を」

緊張が解けたかのように3-Cの人達が一斉に拍手しだした。
あちこち「すごいわー」とか「ステキ……」だとか「流石ネギ様……」「お嬢様それは」って聞こえるんだけどエミリィ委員長かいっ!
ネギ君は「あはは……どうも」って言いながら戻ってきたけど実体は私達よりも背の低い子供なんスよねー。

「いつも通りやったつもりなんですが……どうもやりすぎだったみたいです……」

今更遅いよー。
高音さんが「やりすぎという事はありませんわ」ってフォローしたけどアレはやりすぎも何も凄すぎるだけスよ。
この4時間目も無事終わったら昼休みになるのは当然で、予想はしてたけど大量にクラスの人達がネギ君に押しかけていった。

「あの、先ほどは素晴らしかったです。お名前はなんとおっしゃるのですか?」

「是非教えてくださいませ!」

「見学というのは講師になられるのですか?」

人気出たー!

「えっと……名前はネギと言います。見学は本当にただの見学です」

スプリングフィールドを名乗らなければいいっちゃ良いのか。

「ネギ様ですって!」

「わーネギ様ですかー!それでは家名はなんとおっしゃるのですか?」

「それは……えっと……」

「皆さん!ネギ様が困ってらっしゃいますわ!少し離れなさい、はしたないですわよ!」

「委員長だってネギ様に興味あるでしょ!」

「そ、それは……そうですけれど」

認めたーっ!
……もーネギ君は助からんな。
昼休みなのを良い事にネギ君はグイグイ食堂に連れてかれてった。
メガネ外れないように気をつけるんスよー。
ゆえ吉とコレットさんも行っちゃったし。
結局3-Aとあんま変わらなかったな。

「せっちゃん達も一緒に食堂行こ?」

「はい、お嬢様」

人の居なくなった教室は静かだ……。
見学っていつまですんのかと思ったら一日中何スね。

「このか、次は何の授業?」

「魔法の実技訓練、その次が体術の訓練で終わりや。違う時は箒で100km飛行訓練なんかもするんやけどね」

こっちも結構スパルタだなー。

「魔法の実技訓練っていうとやっぱり魔法の射手とか?」

「そうや、的に向かってやけどね」

「なーるほど」

「お嬢様、頑張ってください」

「うん、せっちゃんに良いとこ見せるえ!」

皆で3学年が使う超広い食堂で食事したけど、ネギ君がいるところだけガンガン人口密集地帯になっていったよ。
途中からポロポロ「凄いイケメンがいるんだってー!」とかそんなのが聞こえてきたけど完全に野次馬スね。
5時間目の時間が近くなってそれぞれ用意に移ってやっと解放されてからネギ君は「何か色々勧められて食べ過ぎました……」って言ってた。
どうも「これ美味しいですわよ!お食べになってください!」「それよりこちらの方が!」とかそんな感じだったらしい。
異常にモテるっていうのも考えもんだな……。
そんでいよいよ5時間目、闘技場なんかにもある魔法障壁が張ってある施設での実技訓練スね。
ギリシャ語と古代ギリシャ語の解釈の授業の時にも杖持って詠唱したりするんだけどこっちの方が実践的だな。

「皆さん凄いですね」

「魔法の射手だけではなくその上の魔法も使っていますわね」

各種武装解除も使ってたりするなー。

「あ、あれ、私も使える紅き焔です!」

愛衣ちゃん紅き焔使えるんスねー。
まほら武道会の時は詠唱禁止だから使えなかったけど。
ここ数日の飛空艇で移動中暇だったから色々調べてたんだけど、連合艦の一般的な艦載砲にはその紅き焔が搭載されてるらしい。
それより凄いのは精霊砲、要するに魔力ビームとかになるとか。
ゆえ吉とこのかが普通に白き雷使ってるのが結構馴染んでて違和感無いのがアレだな。
30分ぐらいやって一旦休憩になったんだけどその際にまーたネギ君に白羽の矢が立った。
どうも実技の先生が魔法薬の先生から話を聞いてたらしい。
だから先生がやれば?って思ったんだけど「同年代の方がやった方が励みになります」との事。
ネギ君も断るのも悪いしってことで「わかりました、具体的に何が良いでしょうか?」って実技の先生とごちゃごちゃ話し始めて、割とすぐまとまった……みたい。

「それでは休憩中の間ネギさんが皆さんに魔法の実演をして下さいます。よく見ておくように」

今回は一度もまだ魔法使ってる所見せてないんだけどよく見ておくようにってどうよ?

「それでは、いくつか魔法を実演させて頂きます」

「「「「「キャー!!」」」」

いきなり盛り上がる盛り上がる。
障壁から20mぐらい離れた所に書いてある白いラインの側に立ってネギ君の実演開始。
魔法発動媒体は指輪……か。
私もこんだけ近くで、しかも生で見るのは初めてだな。

        ―雷の47矢!!―光の47矢!!―風の47矢!!―

っておーい!!
一瞬で光球がババーっと出たと思ったら3連続無詠唱かい!
まほら武道会の時よりも成長してるってマジかー。
皆それを見て固まった瞬間ネギ君はそのまま次の魔法に……。

             ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
          ―来れ 虚空の雷 薙ぎ払え 雷の斧!!―
                 ―白き雷!!―
             ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―影の地 統ぶる者スカサハの 我が手に授けん 三十の棘もつ 霊しき槍を―
               ―雷の投擲!!―
             ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
      ―来れ雷精 風の精!! 雷を纏いて 吹きすさべ 南洋の嵐―
               ―雷の暴風!!―

え?
何今の?
詠唱速すぎて何使ったか良く解らんわ!
小さい声だったのもあるけど始動キーすら一切聞き取れなかったんスけど……。
とりあえず、最初に斧で最後が雷の暴風で凄い音がしたのだけは理解できた。

「えーっと魔法使うの久しぶりだったんですけど……これでどうでしょうか?」

どうでしょうか?って……ねぇ……。

「み……皆さん、ネギさんに拍手を」

このかが一番最初にマイペースに拍手し始めてそこからエミリィさんも起動して拍手が広がり始めたんだけどかなーりまばらな拍手で、ゆえ吉に至っては唖然としたまま完全に石になってるし。
ネギ君はそのままこっち戻ってきて「少し詠唱の方は鈍っちゃいました」とあれで鈍ってたの!?って思ったら

「ネギ坊主、いつも通りでござるよ」

「うむ、ウォーミングアップには丁度良かったアルね」

「ネギ先生、大丈夫ですよ」

って武道三天王はだーめだー……。
ゆえ吉も多分記憶が無くなってなければ普通の反応したんだろうな。

「あーネギ君、さっきの連続魔法解説してもらって良い?」

「はい、春日さん、もちろんです。最初が各3種魔法の射手47矢から雷の斧、無詠唱白き雷、雷の投擲、雷の暴風までです」

47って……。
あの僅かな時間で141矢も撃ったのか。

「はーそりゃ凄いわ。詠唱も速いし」

「ええ、本当に速いですわね……」

「あの、ネギ先生っていつもどんな修行してたんですか?」

愛衣ちゃん……それ聞くと色々ぶっとんだ事いわれると思うスよ……。

「どんな修行っていうと色々やりましたけど、今ので言えば毎日の訓練の終りには魔力が残らないように使い切る事はやってましたね。さっきのものがそれの雷系で固めたものの一つです」

そ、壮絶だ……。
毎日使い切ってたから契約執行もあんな長時間耐えてられてたのかもな。

「す、凄いですね。私も頑張らないと!」

愛衣ちゃん、頑張れ!
内輪でもこんな感じでネギ君の魔法実演の反応が終わった丁度ぐらいに

「「「「ネギ様!私達に魔法の指導をして頂けませんか!!?」」」」

って10人ぐらいようやく正気取り戻してネギ君に殺到して来たわ。

「え?あ、はい。僕で良かったら」

「「「「キャーッ!!」」」」

「では是非こちらへっ!」

「そ、そんなに引っ張らなくても大丈夫ですよ」

昼休みと同じ状況になった。
ネギ君が魔法の射手について詳しい解説した上で実演。
生徒さん達がそれを見てとりあえずやってみて、一人ずつ改善点を述べるもんだから本当に指導し始めて実技の先生がマジ空気。
解説中は超静かに生徒さん達が皆聞いてるから魔法の射手の話は私にもよく聞こえたんだけど、多弾頭と収束の違いやら、魔力効率の上げ方、1矢自体のバリエーション、例えば、1矢自体の魔力量を増やして極太レーザーみたいにするだとか、螺旋回転を加えたり、先端部分を流線型にして威力を上げるなんていう変化法とかそんなの知らんかったわ。
確かにまほら武道会でやたらギュインギュイン言う感じの魔法の射手乱射してたのは覚えてるんだけどあれってそういう変化加えてたのか……。
収束からそのまま撃つのとか、それを拳に乗せるネギ君の奴とかも説明してたけど、まー生徒さん達もそんなすぐ出来る訳ないから結局光球状態での滞空法から始まって、それを変化させるコツを延々とアドバイスし続けてたら30分なんてあっと言う間に終わった。
何だかんだ実技の先生もネギ君に詳しく色々聞いてたから相当興味あったみたい。
ネギ君に何聞かれたのか後で聞いたら魔法の射手の体系立った練習法についてだったらしい。
愛衣ちゃん曰く普通魔法の射手は、的に当てるコントロール、本数を増やす事、魔力の運用効率を上げる事、そんで無詠唱ができるようにひたすらやるものなんだとさ。
まー普通はそれで精一杯だわな。
常識として、魔法の射手1矢なんて障壁張られてれば簡単に弾かれるから突破するために何発も撃つんだし。
それもエヴァンジェリンさんに教わったの?って聞いたらそれは学園長らしい。
なんでも学園長の魔法の射手は貫通力が異常で風盾なんて1矢で余裕に突き抜けるわ、一瞬の防御力の高さならかなりのものを誇る風花風障壁も2、3発で貫通してくるらしい。
じじい強えーな。
寧ろネギ君と学園長がそんなやりとりした事あったのが驚きだわ。
5時間目が終わってそのまま6時間目が体術の訓練だから体操着に着替えなきゃいけないからって事で流石に休み時間に、ネギ君は一瞬解放された。
でも、拳に乗せる魔法の射手見せた時点で体術出来る事バレてたから今度は生徒さん達から体術の先生に「ネギさんに実演して頂きたいです!!」って皆言うもんだから先生も「ネギさん、生徒達はこう言っていますがお願いできますか?」とまたしても寧ろ歓迎な反応だったよ。
ネギ君は「ええ、構いませんが……組み手の相手はくーふぇさんお願いします!」って妥当な所が来て「ネギ坊主、良いアルよ!」とアリアドネー式体術というより、中国拳法の実演になったわ。
くーちゃんもまほら武道会で結構やらかしてたけどあの時よりも更にキレが増してて二人とも目にも留まらぬ速さって感じだった。
当然生徒さん達からは黄色い歓声が上がってもうこれで何度目って感じ。
で、終わりかと思えば「中国拳法だけでなく他の体術もお見せたした方がいいですよね。楓さんお願いできますか?」と楓にパスが来て「ネギ坊主、久しぶりでござるな。良いでござるよ」と組み手が始まった……んだけどねー。
ネギ君っていつの間に分身できるようになったし?

「ネギ坊主、修行の時間が取れていなかった割には分身の密度が上がっているようでござるな」

「南極の一件で少し魔力の効率が上がったみたいなんです。でもまだまだです。楓さんもやっぱり大樹林で成長したようですね」

「そうでござるか。なるほど、お互い生き抜く上で自然に強くなったようでござるな」

「はいっ!」

会話してるのはいいんだけど、二人とも分身3体ずつで計6人がそれぞれ組んでたと思えば、臨機応変に2体1だとかに変わったりもするし体術から逸れてどちらかっていうと東洋の神秘披露会だから。
分身した時点で先生含め生徒さん達は目が点になったし、体術って言ってんのに虚空瞬動余裕で使うのは場違いスよ。
生徒さん達は揃って「A級以上の達人!?」ってリアクションしたし。
まあ虚空瞬動抜きにしても達人スよ。
どっちが勝つとかじゃないからそこそこで組み手は終わったら今度はくーちゃんと楓にも人気が出た。
因みに桜咲さんはちゃっかり手とり足取りこのかの相手してた。
ネギ君が3人、楓が16人でクラス半分の相手ができるっていうのはカオス。
てか5時間目に最初からネギ君分身してたら楽だったんじゃ?
生徒さん達の実力はっていうとコレットさんとベアトリクスさんが結構強くて、特にベアトリクスさんの方は明らかに何か武術やってる感があったな。
そんな中エミリィ委員長はネギ君に相手してもらったら「あぁ……私もう……」って蕩けて倒れたもんだからそのままネギ君がベアトリクスさんの案内で保健室に運ぶなんて事になって更に症状が悪化、蕩けるどころか、今にも溶けそうだったわ。
幸せだろうから心配する必要はないけど……。
6時間目はこんな感じでこれまたあっと言う間に終わってようやくネギ君に分身の事を聞いた。

「ネギ君分身って忍術も覚えたの?」

「あー、いえ、あれは術式を組んだ上で純粋な魔力で分身体を形成したものなんです。実際にはそんなに使い勝手が良くなくて、分身は時間が経てばどんどん魔力を消耗していく上、分身に割いた分の魔力は本体から分身を解除しないと還元されないので、分身が消滅すれば無駄が多くなり実戦に使うには適していません。なのでまだまだ改良の余地があります」

丁寧に問題点の説明してくれるけど、それより、よくまぁ術式を組んだってあっさり言うな。

「はー、魔力で分身ってできるんスね」

「楓さんやコタローの分身は気で行ってますし魔力でもできるだろうと思って考えました。それに理論は風精召喚の類を流用しているので」

まー詳しい話は良くわからないけど要するに精霊の力を借りないって事なんだろーな。

ホームルームも終わったから帰るかーと思えばクラスに丁度良く「セラス総長!?」って私は初めて見るセラス総長さんがやってきてネギ君にちょっと話があるからって連れてったわ。
一日見学会がネギ君の披露会みたいな感じになった気がするんだけど気にしたら負けだな……。
実際生徒さん達にとっては良い効果あったのは間違いないし。
放課後ネギ君から連絡があるまでゆえ吉達に学校内を案内してもらったり、箒の練習を見せてもらいつつ時間を潰し、ネギ君が戻ってきたらこのかとゆえ吉達に挨拶してホテルに帰還した。
そんでセラス総長にネギ君が呼ばれた理由は

「放課後になったらきっと困るだろうって配慮してセラス総長は僕を呼んで下さったようです。それと今日の授業を遠見の魔法で見ていたらしく、その話を少ししてました」

って事なんだとさ。
まあ確かにあのままネギ君が教室に放課後いたら色々終わってたのは簡単に想像できるわな。
話としちゃ、きっと生徒に良い刺激になって良かったとかそういうことだろ。
夕食を食べにホテルに戻って愛衣ちゃん達と今日の感想を話してたら丁度ドネットさんと茶々丸が帰ってきてヘラス行きの準備が整ったとのこと。

「僕は明日からしばらくヘラス帝国に行ってきます。それで楓さんと茶々丸さんに同行をお願いしたいんですが良いですか?」

「ネギ先生、私は構いません」

「拙者も構わないが、ネギ坊主は仕方ないにしても指名手配中の拙者を連れて行く理由は何でござるかな?」

「アスナさんの護衛をお願いしたいんです」

「アスナ殿でござるか?」

「はい、今回のゲートポートの事件、指名手配の件、そして修学旅行の件からするとアスナさんが狙われる可能性が高いと思うんです」

飛空艇にいる時に修学旅行の事詳しく聞いたんだけど、アスナは例の白髪の少年に攫われそうになったらしい。

「あの白髪の少年、フェイト・アーウェルンクスと言ったでござるか……」

「はい」

「……あい分かった。確かにあの者ならば城の中と言えど並の警備では簡単に侵入してきそうでござるからな。心してアスナ殿の護衛を致そう」

「ありがとうございます。僕も近くにいるように気をつけますが、目を放した隙に転移でアスナさんを攫ってくるかもしれないのでよろしくお願いします」

「任せるでござる」

「ネギ坊主、私は行っては駄目アルか?」

「……できるだけ皆さんには指名手配が解除されているアリアドネーにいて欲しいので、くーふぇさんすいません……」

「……うむ……私は楓のように警護は得意では無いアルからね。分かったアルよ、ネギ坊主」

くーちゃんも行きたがったけどまー仕方ないな。
楓なら身体操術とか自力の変装技術やらまだ隠してる謎の忍術とかありそうだし。
特に分身は警備向きだもんな。
こうして合流すると魔法生徒4人の私達はあんましなきゃいけない事が無いんだけど、学術都市ってだけあって魔法の勉強とかはいくらでもできるのは事実だし環境も整ってるから高音さんと愛衣ちゃんは魔法騎士団候補学校を見学したのもあるのか結構やる気あるみたいスしね。
私もココネと適度に生活するかな。
メガロまで戻るにしても特に今と生活は大して変わらないし、今から戻るとまた10日ぐらい普通にかかるし、どうせならオスティアの祭りの時に行けば無駄も少ないスよ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月5日、7時頃、ヘラス帝国首都ヘラス―

ネギ達3人がヘラス帝国行きの飛空艇に載っている間にはいくつか動きがあった。
まず葛葉刀子がようやく9月4日にアリアドネーに到着し、ドネット達と合流できた。
勿論目的は近衛木乃香の護衛であるが、それによって春日美空の生活態度が多少規律あるものになったのは言うまでもない。
古菲はヘラス帝国について行かなかったが、アリアドネーでの生活で特に問題は無く、修行をしたり、魔法騎士団候補学校での体術を指導した一件から桜咲刹那と共に放課後に呼ばれたりする事もあった。
場所を移せば、しばらくの間トレジャーハンターとして精力的に活動していた宮崎のどかは探して求めていた魔法具「鬼神の童謡」を見事見つける事に成功していた。
未だアーティファクト、いどのえにっきを手元に回収していないが「アナタノオナマエナンデスカ」と唱えなければ真名が分からないというリスクを負うものの二つを組み合わせれば強力なコンボとなるのは間違いない。
宮崎のどかの心理の根底にはネギ・スプリングフィールドの役に立ちたいという想いがやはりあり、読心術によって自分が被る危険性をはっきり理解していないのは問題であるかもしれない。
かといって理解しようにも実際に狙われなければそんな事はどこまで行っても想像でしか補う事ができないので何ともし難い話ではあるが……。
次に宮崎のどかは「読み上げ耳」という、書いてある文字を自動的に読み上げるという魔法具を探すつもりであったのだが、その事をトレジャーハンターの4人に伝えた所、「視覚障害者の為に魔法具店ではある程度の値段で普通に販売している物なのでわざわざ遺跡探索で探す必要もない」と言われたのだった。
そのため、宮崎のどかの目的はほぼ達成されてしまったのだが今しばらくトレジャーハンターを続ける予定のようである。
「鬼神の童謡」は直接相手に問いかけなければ効果を発現しないが、実は伝説的なレア魔法具に「死神の健康診断」という生物なら人間に限らず対象を見るだけでその名前と老衰までの時間が秒数刻みでわかるという、別に違うノートが一緒にあったら非常に怖いモノが存在するという噂があるらしいが、その存在の真偽の程は定かではない。
仮に存在したとしたら医者にしてみればかなり便利ではないだろうか。
しかしながら、いどのえにっきは半径7.4mにいなければ使えない上、詳しい思考を聞くためには結局対面して問いかけなければいけないのであまり意味はないかもしれない。

一方高畑・T・タカミチは、といえばジャック・ラカンと連絡を取ることに成功し、メガロメセンブリアに出てきているどころか自由交易都市グラニクスの郊外に存在する遺跡でまだ隠遁していたというのが発覚して

「お願いしますよ、ジャック!」

「がははは、ま、無事だったんだろ?いーじゃねーか!で、ネギってのはどこにいんだ?」

「ヘラス帝国の首都に向かう予定ですよ」

「何?」

「テオドラ皇女殿下と面会するんです」

「あのじゃじゃ馬皇女とかぁ?どうしてそうなった?」

「それは話すと少々長くなるんですが……」

とやりとりがあったそうだ。
一応その結果、ジャック・ラカンは重い腰を上げ、ヘラス帝国に割と渋々「仕方ねーか」とグラニクスからヘラス帝国まで飛ぶことになったのだった。
その事を高畑・T・タカミチは神楽坂明日菜の端末からテオドラ皇女殿下に報告し「でかしたぞ!タカミチ!」と褒められたようだ。
また挨拶回りに寄った佐倉家は普通の魔法世界の家庭であったが、グッドマン家は屋敷に招き入れられた所、その壁には様々な仮面がズラりと飾ってあり、当主と面会してみれば頭全体にスッポリ仮面を被っていたのだった。
その際高畑は夕食もご馳走になったが、直前まで家の人達は仮面を外さず、食べる時になってようやく仮面に手をかけゆっくりと外し、それぞれ使用人に預けるという光景が見れたそうだ。
因みに全員金髪の美男美女で揃っていたらしい。
ともすると影使い一族であるにも関わらず髪の毛の色が明るいためそれを隠すためというのが仮面を付ける風習に繋がったのかもしれない。
この晩餐中の会話で高音・D・グッドマンの父親の弟、風太郎・D・グッドマンという人物が前大戦以降長い事まさに風のようにどこかを常に放浪しているのでもし会ったら一度連絡を寄こすように高畑に頼んだらしいのだがその放蕩者に果たして会う事はあるのだろうか。
因みに、ネギから頼まれた人造異界の崩壊・存在限界の不可避性の論文の捜索も龍宮真名とのゲートポート事件関連の調査と共に目下進行中である。

さて、ヘラス帝国の城内に滞在中のアーニャ、神楽坂明日菜、そして犬上小太郎は既に2週間以上城に滞在していた。
そのうち犬上小太郎は修行を相変わらず欠かしておらず、神楽坂明日菜と練兵場を借りて咸卦法の修練に励んだり、時には帝国兵を相手に模擬戦をしたりして生活をしていたのだった。
そこへネギ達3人は2時間前にヘラス帝国首都ヘラス国際空港に到着し、その連絡をした上で城門前にやってきた。
そこで門番に名前を問われたネギは「ネギ・スプリングフィールド、長瀬楓、絡繰茶々丸です」と伝え門番はスプリングフィールドの名を聞いて驚いたものの、確認が取れ、入城を果たしそのまま案内を受けた。
ネギと神楽坂明日菜は感動の対面になるかと思われたが、年齢詐称薬をネギが服用していたため「あんたネギなの!?」というツッコミが何よりも先に入り「何その姿ちょっとやめなさいよ!戻れないの!?」と有無を言わさず幻術を解除する事になり服がブカブカになったが再会の挨拶は改めてやり直しとなった。
既に年齢詐称薬を使った状態での姿の写真は神楽坂明日菜達も送られていて見た事があったのだがやはり直接見るのとでは違うらしい。

「アスナさん!」

「ネギ!無事だってわかってたけど……本当に良かったぁ……。ねぇ、どこか身体に悪いところない?大丈夫?」

「僕も会えて良かったです、アスナさん。身体は大丈夫ですよ」

「はぁ……それなら良いわ。皆はアリアドネーで元気?」

「はい、元気です。アーニャも無事で良かった」

「フン、あんたに心配されなくても私は平気よ!」

「アーニャちゃん、折角会えたんだから……」

「う……そ、その、ネギ、南極から無事戻ってきて良かったわ」

「うん、ありがとう、アーニャ」

「ネギ、楓姉ちゃんに茶々丸姉ちゃん、久しぶりやな!」

「コタロー、久しぶり!」

「アスナ殿、アーニャ殿、コタロー、息災のようでござるな」

「アスナさん、アーニャさん、コタローさん、お久しぶりです」

しばらく再会の挨拶を交わし落ち着いた頃にタイミングを見てテオドラ第三皇女の登場である。

「良く来たな、ネギ」

「テオ様、こうしてお会いするのは初めてですね。ネギ・スプリングフィールドです。アスナさん達をありがとうございました」

「礼には及ばぬ。アーニャがここに飛ばされて来たのも何かの縁じゃからな。……積もる話もあるが、拳闘大会はどうするのじゃ?」

「はい、僕はコタローと出たいです」

「おう!俺もや!」

「そう言ってくれて嬉しいぞ。前にも伝えたがあまりナギ・スプリングフィールド杯の出場権の獲得までに時間が無いのじゃ。できるなら今日からでも2試合はこなして貰いたい。そなた達がどれぐらいの実力があるかコタロで大体分かっておる。きっと大丈夫じゃ」

「はい、分かりました」

「ネギ、普通は1日試合したら次の試合までに最低でも3日はあけるのが一般的な拳闘界の常識やけど多分2試合はいけるで」

「コタローがそう言うなら大丈夫だね。しかもこれがあるし!はい!」

「おおっ!俺の仮契約カードか!」

「アスナさんもどうぞ」

「ネギ、ありがとう!折角仮契約したのに使えなかったわねー」

「事故だったから仕方ないですよ」

「まあ、そうね。ネギ、拳闘大会出るのはいいけど、ちゃんと気をつけなさいよ。危なくなったらちゃんとリタイアするのよ?」

「アスナさん、心配してくれてありがとうございます。引き際はちゃんと分かってますから」

「そうやで、俺達なら平気や」

「大丈夫とか平気って言うのが一番心配なのよ」

「ははは、僕達を信じてください、アスナさん」

「もう、信じてるわよ」

「一応話を進めてもよいか。年齢詐称薬を使うのは最初から分かっておったからコタロの服は用意しておる。ネギももう一度例の年齢詐称薬を飲むのじゃぞ」

「はい!」

「コタロ用の服はすぐ持ってこさせるから待っておれ」

「テオドラ姫さんおおきに!」

……こうしてネギはヘラス帝国到着早々に小太郎と共に拳闘士登録をすることになり、年齢詐称薬で姿を青年に変え、テオドラ皇女殿下がネギに見合う拳闘士服を用意したのだった。
因みに小太郎の方はかねてよりの強い要望で学ランが既に用意されていた。
そして直ぐ様ヘラス帝国闘技場へ向かい、特定の拳闘士団への入団は無しに無所属でのエントリーを済ませた。
伏せられている事ではあるが、テオドラ第三皇女が後見人となった事によって後にネギと小太郎に発生するであろう権利関係について、テオドラ皇女殿下は全権を握ったことになり実はかなり色々と良い立場にある。
拳闘士名はネギの顔写真は出ていても名前までは公表されていなかったことから本名のまま「ネギ」と「小太郎」で登録している。
他の拳闘士でも本名と拳闘士名が違う事は良くあるので苗字を入れていないが別に問題は無い。

「ネギ、目指すはナギ・スプリングフィールド杯や!」

「コタロー!もちろんだよ!外部でこうして二人で共闘するのは初めてだから少しワクワクして来たよ」

「俺もや!どこまで通じるかやってやろうや!」

「うん!よし、行こう!」

「おう!」

いざ、記念すべきネギと小太郎コンビの初の拳闘試合の幕開けである。



[21907] 49話 ジャック・ラカン・前編(魔法世界編9)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/01/21 16:49
―9月5日、10時30分、ヘラス帝国首都ヘラス闘技場―

[[さあ、ヘラス夏季大会ヴェスペリア杯も後半に差しかかってきておりますが、本日の第3試合、東はあと4試合勝利すればナギ・スプリングフィールド杯予選出場権獲得間近、皆さんお馴染みの『灰音』『店長』ですが西からはここで、新たに先程無所属拳闘士登録をした二名の新米自由拳闘士の登場です!無所属ではバックアップが不安な上、本人達の実力も一切不明ですが、果たしてどのような戦いを見せてくれるのでしょうか?]]

流石はヘラス帝国首都の闘技場と言ったところか、収容人数は10万人、中央アリーナ部分の直径は300mとほぼ最大規模の広さである。
場内はこの時期での新たな参戦者の登場に少しの動揺が起きているが、灰音、店長の実力は大拳闘大会本選レベルであることから、新米自由拳闘士2名に賭けた観客は殆どいなかった。
そんな中ネギと小太郎の出番を今か今かと特等席でテオドラ皇女とそのお付き達、神楽坂明日菜以下数名が待っていた。

「初戦の相手が灰音店長とはちとキツイかもしれんがどうなるじゃろな」

「ネギとコタロならきっといけるわ!」

「落ち着いて見守るでござるよ」

「試合の中継はアリアドネーでもされるのですか?」

「保存映像は後で流れるぞ」

「それなら美空ちゃん達も見れるわね」

[[さあ、双方の選手の入場です!新米自由拳闘士は赤髪と獣族黒髪の青年2名の模様です]]

場内のモニターがネギと小太郎に一瞬ズームし、司会により簡単な特徴の説明が行われる。
ネギと小太郎の最初の相手は灰音と店長という拳闘士名から分かる通り、本名ではない。
ヘラス族の灰音と店長の衣装はそれぞれ、ウェイター服とラフな服装にエプロン、装備は金属のトレー及びその上の10枚重ねの中心に穴が空いた薄い皿、店の前を掃除するためのような箒、という拳闘士というには全くそぐわない格好だが、実力はかなり高い。

「店長、新米二名様来店でーす」

「灰音、初回のお客様には丁重なおもてなしを」

この二人にとっては対戦相手が客であるというスタンスで会話をするがこれも名物であるらしい。
実際に従業員も複数いる喫茶店HINEをヘラス首都で経営しており、この本人達による身体を張った宣伝により結構繁盛しているそうだ。

[[ルールは皆様ご存じの通り、ギブアップ又は戦闘不能で決着。武器魔法の使用制限無しです!]]

一方ネギと小太郎と言えば

「映像で見せてもろた事あるんやけどホンマ拳闘士にはあっとらん格好やな」

「コタローも学ランでしょ」

「俺のは戦闘服やからな。ま、普通にあの二人は強いで」

「うん、分かった」

「でも契約執行まではいらんで」

「コタローは自分でやるんでしょ?」

「そういう事や」

[[それでは試合、開始!]]

とうとう司会からの試合開始宣言である。

「ほな最初は打ち合わせ通りやで、アデアット!」  「店長、いつも通りで?」―戦いの旋律!!―
「うん!」―戦いの旋律!!―                「いつも通りで」―戦いの旋律!!―

早速小太郎のアーティファクト、千の共闘の発動である。対する灰音店長は両者戦いの歌上位の戦いの旋律を発動。因みにトレーと箒が魔法発動媒体である。

[[おっと、新米自由拳闘士、いきなりアーティファクトを使用!しかし特に変化は見られません!]]

「よう見とけや!右腕に気、左腕に魔力……合成!!」
―咸卦法!!―
「ネギ!」                          「あれはまさかっ!?」
                              ―カフェ・ド・ブレンド・メモリード―
「分かった!」                    ―来れ 深淵の闇 燃え盛る大剣!!―
小太郎が少し膝を屈め両手を構えたところにネギが飛び乗り
                           ―闇と影と憎悪と破壊 復讐の大焔!!―
「飛んでいきっ!せやっ!」          ―我を焼け 彼を焼け そはただ焼き尽くす者―     
                                ―奈落の業火!!!―

[[黒髪の選手が突如発光した瞬間赤髪の選手を空に飛ばしましたっ!が、ここで店長の大魔法発動です!!]]

咸卦法を使っての膝をバネにした力を利用してネギを空中に上げ、そこへ小太郎を飲み込む程の業火が迫るが

「この程度っ!」
―咸卦・疾空白狼閃!!―

咸卦法の効果で白く光る狗神を足元から大量に飛ばし主に中央突破で相殺、一方上空に上がっていたネギは

                     ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
                ―光の精霊1357柱 集い来たりて 敵を射て―
                 ―魔法の射手 時差連弾・光の1357矢!!―

空中で優雅に一回転しながら無数の魔法の射手を発動し、まるでようやく開戦の合図であるかのようにフィールド上に千もの光の矢が雨あられのように僅かな時間差を置いて次々と降り注ぐ。

[[花火のような魔法の射手の雨!これは派手です!]]

灰音、店長は何かが来るのは予想していたが、予想以上の量の魔法の射手に一瞬驚くも二人で固まって二重障壁を展開、灰音はそのままトレー上の皿を軽く跳ね上げ人差し指を穴に素早く入れ、まとめて小太郎に投擲する

「来おったな千輪っ!」         「それではディッシュをどうぞ!」
                     「防御を忘れるなよ灰音!ふんっ!」

投擲された皿の千輪は灰音の右手の動きに合わせ空中で変幻自在に飛び回り、小太郎に襲いかかる。
その最中もネギの放った魔法の射手が灰音店長の全力で張る魔法障壁に精密なコントロールで範囲を限定して行きながら次から次へと着弾していく。

「皿なら全部壊したる!」
―双腕・咸卦・狗音爆砕拳!!―        「魔法の射手にしては威力……が高いっ!」

小太郎が両腕に纏った狗神の拳で目の前に飛んできた皿を右腕で、脇腹を狙って飛んできたものを左腕で殴り、足を狙ってくるものを更に右腕でと次々に殴りつけ金属の形を歪ませるも

「壊れても安心、頑丈設計!」

形が歪んだまま依然皿は飛び周り続け

「コタロー!それ、魔力の糸で操作してるっ!今吹き飛ばす!」
  ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
「なるほどな!殴ってもダメな訳や!」
―吹け 一陣の風 風花・風塵乱舞!!―

依然右手で魔法の射手を連射し続けながらネギは左手で風花・風塵乱舞を発動し上空からの激しい強風で小太郎を襲う皿のコントロールを失わせ地に落とす。

「おっしゃ!」             「障壁が……ぐ……持たないっ!」
「今だよっ!」             「店長、ここは散開しやしょう!」
「おうっ!」               「灰音!やられるなよ!」

灰音、店長は2連瞬動で爆撃地点から離脱、足を止めずに二手に分かれて小太郎を挟むように走る。
それに合わせてネギは魔法の射手の対象を店長に絞りながら地上に向かって高度を下げ距離を詰め、アーティファクトで瞬時にそれを理解した小太郎は狙いを灰音に絞り突撃、それぞれ一対一に持ち込む。

[[目まぐるしく4選手、フィールドを動き回っています!特に赤髪の選手は今尚続く魔法の射手のコントロールからすると高位の術師です!]]

皿を再起動し距離をとろうとした灰音に小太郎が咸卦法の速さを活かし急速接近し

「これで終いや!」

―咸卦・狗音爆砕拳!!―

「な!ぐぁっ!!」

鳩尾に強烈な一撃を叩き込み、灰音を闘技場の壁に叩きつける。
一方ネギは魔法の射手も丁度撃ち終わり浮遊術のまま店長の目の前やや上、近接戦の距離に回りこみ

                   「なんという上客っ!しかしっ」
                     ―連弾・火の11矢!!―

                   「無詠唱魔法!でもっ!」
                      ―魔法領域展開!!―
               「これでっ」―双腕・断罪の剣!!ー

店長は咄嗟に無詠唱火の矢を飛ばすもネギの魔法領域に当たった瞬間雲散霧消、その光景に呆気に取られた店長の隙を狙って、箒に断罪の剣を二振りし解体、そのまま更に魔法領域内に取り込み、並の相手では身体が動かない状態にした上で両腕の断罪の剣を首筋に交差して突きつける。

                     「終わりです!」

                   「くっ!へ……閉店ッ!!」

[[こ、これは決まりました!!まさかの店長閉店宣言です!ナギ・スプリングフィールド杯大会本選レベルの猛者が僅か2分も経たずギブアップ!突如流星の如く現われた二名の新米自由拳闘士、一体何者だ!?]]

決着と同時に場内には見物だけの観客達からの歓声と、灰音店長に賭けていた客の札が空にばら撒かれながらブーイングの声が飛び交う。

―解除―

「ネギ、良い手際やな。アベアット」

「コタローお疲れ。つい武器破壊しちゃうのは悪い癖かな。店長さんごめんなさい」

「いや……その剣の威力を理解するには安い物だったさ」

ネギは対戦相手の魔法発動媒体を破壊した事を気にしていた。
そこへ司会の女性がネギと小太郎に近づいてインタビューが始まった。

[[おめでとうございます。初戦にして初勝利ですね。二人のお名前を聞かせて貰えますか?]]

「俺は小太郎や」

「僕はネギです」

[[小太郎選手とネギ選手ですね。お二人ともファミリーネームは秘密ですか?]]

「ええ、秘密です」

「悪いなー」

[[そうですかー。しかし……おおっ、皆様御覧ください!ネギさんは何だかあの、ナギ・スプリングフィールドにとても似ていると思わないでしょうか!?]]

闘技場のモニターにアップでネギが映り、場内にざわめきが広がる。

「えーっと、ただ似ているだけです。気にしないで下さい」

[[本人は非常にあっさりした回答をしております。気になる事もありますが詮索はここまでにして、お二方のこの時期での夏季大会参戦はやはりナギ・スプリングフィールド杯を視野に入れてのものですか?]]

「はい、そのため今日は少なくともあともう1試合は申請します」

[[皆様お聞きになりましたでしょうか!お二人は本日少なくともあともう1試合するそうです!確かに、試合時間も短く、目立った怪我も無いようですから無理ではないでしょう!皆様次のお二人の試合をお楽しみ下さい!]]

「よろしくお願いします」

「よろしゅう!」

観客席から「がんばれよー!」という声援がネギ達に向かって飛び、それを背に二人はフィールドを後にした。

「コタロー、灰音さんは大丈夫なの?」

「鳩尾にうまく当てたからな、骨も折れたりはしてへん筈や」

「内蔵が心配だね」

「ヒーラーおるんやから大丈夫やて」

「まあ……そうか」

「それよかアスナ姉ちゃん達のところ行こうや」

「うん!」


―9月5日、10時45分、ヘラス帝国首都ヘラス闘技場、特等席―

2分も経たずして灰音を戦闘不能、店長にギブアップ宣言をさせて試合終了という早業をやってのけた二人は特に疲れも殆ど無く、次の試合申請を相手はともかく、手続きを済ませ、テオドラ皇女達がいる場所にやってきた。
「初勝利おめでとう」といくつか交わし、テオドラ皇女から話しに入った。

「うむ、見事な試合じゃった。しかし、コタロのアーティファクトは一体何なのじゃ?特に何も変化が無かったようじゃったが」

「それはな……秘密や」

「なんじゃと!コタロ、妾に秘密とは生意気じゃぞ!」

「冗談や。俺のアーティファクトはネギの動きを勘で察知できるものなんや」

「ほほう、変わったアーティファクトじゃな。それで息がピッタリあっておったのか」

「合わせてるのはコタローですけどね」

「最初にネギが魔法の射手を大量に撃ったのも落ちる場所は全部わかっとったから、もし俺の範囲にも撃ったとしても避けられるで」

「なるほど、使い方次第では強力じゃな」

「それより、ネギ!さっきの非常識な魔法の射手に変な障壁とか剣は一体なんなのよ!」

「そうか、アーニャは見たこと無かったんだっけ?」

「見てないわよ!いつの間にあんたそんな超人になってたのよ!浮遊術まで使えてるし!」

「修学旅行の前から結構修行してたんだよ」

「その修学旅行の時も私は学校で留守番だったのよ!」

「そ、そうだったんだっけ?あの時僕すぐ疲れて寝たから事詳しく覚えてないんだ……」

「はぁ……私あの時もう少しあんたに直接聞いておけば良かったわ。修学旅行の時のネギの事は話だけ聞いて、私もちょっと修行したのに全然じゃない」

「ならアーニャちゃんも一緒に修行すればいいわよ」

「アスナみたいな身体中光ったりはしないの!」

「えー簡単よー。右腕に気、左腕に魔力……合成!!」

―咸卦法!!―

「ほら」

「だから無理だってば!」

「咸卦法を使える者が2人もここに居るとは驚きじゃ。それにしても妾が注文した通り派手な開幕じゃったな。あれで良いぞ。一気に注目を浴びた筈じゃ」

「あはは、ありがとうございます。でもあんまり目立ちすぎると困るんですけどね」

「何を言っておる、ナギ・スプリングフィールド杯を目指すのならば目立った方が良いに決まっておろう」

「そうなんか?」

「うむ、妾の予想じゃとそなた達の公式ファンクラブ設立の申し込みがすぐに入ってくる筈じゃし、それにお主達のファイトマネーも増えるぞ」

ファイトマネーが増えるのは事実である。
賭けられる額が多かったり、試合が盛り上がれば盛り上がる程選手の獲得できるファイトマネーは増えるようになっているのだ。
拳闘士の試合で地味なものを広い闘技場でやられても……という訳だ。
もちろん、それはそれで構わないのだが。

「ファンクラブ!?」

「テオ様、そんなものできるんですか?」

「あくまで妾の予想じゃがな。妾が後見人じゃからそなた達に取材の申し込みが来ればきちんと選別するからの」

「色々ありがとうございます」

「礼には及ばぬ。ふふふ、妾もこれでオスティア記念式典までの暇つぶしができるぞ」

「あはは……」

今後あちこちから取材の申し込みやらグッズ作成に公式、非公式ファンクラブができれば、当然後見人であるテオドラ皇女が陣頭に立つため色々とやりやすい立場にある。

「さっきの相手がナギ・スプリングフィールド杯の本選レベルならネギとコタロなら優勝しちゃいそうね」

「それは早急すぎますよ。アスナさん」

「もしそんな楽なら拍子抜けやで。まほら武道会の方がおもろいやないか」

「うーん確かにそうね、あれはお祭りみたいで面白かったし」

「技の祭典のようでござったからなぁ」

一試合だけ見て判断するのは確かに早急だ。
武器魔法に使用制限は無いなので、作戦次第によっては実力的に劣っていても工夫次第でその差を埋める事もできるのが拳闘界の醍醐味である。
もちろん、絶対的な強さを持つ者の爽快な試合を見る、というのが目当ての人もいるだろうが、それは人それぞれであろう。

色々会話をしながらネギ達は時間を潰し、特等席で昼食を取った後ネギと小太郎の本日2度目の試合が始まった。
2度目の試合の相手は重装備の鎧をつけた大剣使いとハンマー使いであった。
大抵大層な鎧やら武器を装備している連中というのは概して弱い。
試合開始早々、小太郎はアーティファクトを使用、更に自力で咸卦法を発動し、ネギはそれに合わせて手早く双腕・断罪の剣を小太郎の腕に術式封印、自身も双腕・断罪の剣を構え二人で突撃した。
そのまま二人は断罪の剣でバターの様に相手の武器をバラバラに切り落とし、とどめに鎧もこれまたバラバラ解体したのだった。
相手としては威力不明でも、魔力の剣と打ち合うぐらいはできると思ったのだろうが、たった1合ぶつかっただけで武器が柄までしか残らず、驚きのあまり声も出なかった。
ギブアップを宣言せざるを得ず、またもや殆ど疲労することなく二人は勝利を納めることができた。
観客側はといえば、ネギと小太郎に賭ける者達が増えていて、鮮やかな速攻に場内には一際大きな歓声が飛び交っていた。
試合終了後、1試合目に引き続き司会がまたしてもインタビューに来た。

[[2試合目も圧勝でしたね。前の試合で使われていた障壁や今回も使われた非常に切れ味の高い剣のようなものは見たことが無いのですがオリジナルの魔法でしょうか?]]

「両方共僕の師匠から教わったものです。先に断っておきますが師匠の名前は言えないので、すいません」

[[な、謎が多いですねー!それに他人に魔法を発動させる事ができるというのは驚きです。コタロー選手の身体が光る技も気になりますし、これから目が離せませんね!今日はもう1試合されるのですか?]]

「そうやな、これならまだいけるやろ」

「25勝しないといけないでしょうから、是非申し込みたいと思います」

[[皆様、お聞きでしょうか?期待の新星2人の試合、なんと本日まだ、観戦する事ができます!試合時間は15時以降になりますので、リアルタイムで試合が見たい方は是非午後の部2回目の観戦チケットもお買い求め下さい!]]

拳闘界の常識から考えれば1日に3試合するなど非常識も良いところであり、これは観客に衝撃を与えた。
1試合目の映像も丁度ヘラスの拳闘専門番組で放送され、順次アリアドネー、連合の拳闘士協会でも流れる予定である。
ナギ・スプリングフィールドに似ているが名乗る名前はネギとだけで使う魔法も謎が多い、一方相棒の小太郎は試合中身体が輝き、その全貌は2試合では未だ明らかになっていない事から注目を浴びるネタには事欠かない。
さて、言うまでもない事だが3試合目も勿論ネギと小太郎は軽く勝利を納め、テオドラ皇女は大層上機嫌であったという。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月6日、18時頃、アリアドネー魔法騎士団候補学校、女子寮ロビー―

今ロビーのテレビで皆一緒にヘラスの闘技場の試合見てるんだけど昨日からすっごいよ!
もうこれで6連勝!
あっと言う間にネギ君、ナギ・スプリングフィールド杯出場決定しちゃうね!

「ユエ、コノカ、凄い、凄いよーっ!」

今日の3試合目もよく分からない剣で相手の武器を簡単に切り裂いて速攻だったり、その前はネギ君が花火みたいに魔法の射手を降らす中コタロ君が上も見ないで走り回ったり鮮やか!

「ほ、本当に凄いです……」

「そやなぁ」

「あぁ!ネギ様、素晴らしいですわ!」

「ここまでとは……」

「それにコタロ君も何これっ!身体中光るし!」

「あれは咸卦法言うんよ」

「あ、あれが咸卦法!あの紅き翼ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグの究極技法ですか!こうして見るのは初めてです……」

ビーさん詳しー!
未だに拳闘放送では何の技法か明言されてないんだけどどうしてだろ。

「咸卦法ってつまり何なの、コノカ?」

「んー、魔力と気を混ぜて……バーンッ!ってなるんよ」

両手を上げるリアクションは何か伝わってくるけど。

「ごめん、全然わからない……。とりあえず凄いのはよく分かったよー」

「むー、うちも聞いてもよく分からないんよ」

使ってる本人じゃないと分からないよねー。

「ネギ様のファンクラブができたら絶対に1桁台を取得してみせますわ!」

委員長のナギの番号が2桁なら今度は1桁かー、ってそれ9人しかいないじゃん!

「あ、私も私も!!」

「お二方合わせた呼び名ももう『流星のジェミニ』と決まって、そのファンクラブもできるそうですよ」

「え、ビーさん何それ?」

「お二人の初試合に実況で流星と形容されたのと容姿は似ていませんが息がピッタリな様からジェミニと付けられたそうです」

うん、確かに二人のコンビネーションは他の拳闘士より数段上で息ピッタリだもんね。

「へー、何か良いね!」

「ネギ君達、今回のナギ・スプリングフィールド杯までしか出んやろうからほんま流れ星みたいやね」

「素敵ですわ……」

「ね、ユエはさっきから画面見て固まってどうしたの?」

「い……いえ、何でも無いです」

ユエ、顔が赤い!

「ネギ君にみとれてたの?」

「な、何を言ってるですか!」

分かりやすい!

「大丈夫、私もだからっ!」

「こ、コレットっ!」

「ネギ君人気者やなー」

コノカは脳天気だねぇ。
にしても私も学生だけどなんとかしてオスティア記念式典でネギ君達の生試合見に行きたいよー!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月7日5時頃、廃都オスティア某所―

雲間から光が覗き今にも朝日が登るという早朝、今は地に落ちた廃都オスティアの陸地末端に数人の人影があった。

「魔力の対流は狙い通り時満ちるまで……約3週間。全て順調だ……」

「当然だね。僕たちはそのために作られたんだ。……でも順調すぎるのもつまらない……かな」

「…………」

そこへまた桜吹雪と共に一人の人物が現われた。

「どぅもー。フェイトはんご報告ですぅ。新世界のお姫様はヘラス帝国の城に入ったままです。旧世界のお姫様はアリアドネーで生徒さんのようですえー。指名手配も意味ないみたいですぅ」

「……わかった。遠くから気づかれないよう諜報を続けて」

「はぁん。遠くから見とるだけなんて殺生やわぁ~」

「もう少しだけ我慢してもらえるかな……。月詠さん」

「予想以上に奴等の動きが良いようだが大丈夫なのか?」

「どうも何らかの通信手段があるようだけど問題ない。ヘラス帝国の警備程度やろうと思えばいつでも突破できる。それに……彼は拳闘大会に出ることにしたようだね……」

「…………」

「フェイトはん、少し楽しそうに見えますえ?」

「……どうだろうね」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月9日18時頃ヘラス帝国首都ヘラス闘技場―

ふぅ、今日も2試合だけだったな。
協会からすぐに25勝しそうだからって一日2試合にしてくれないか頼まれたんだよね……。
もう12勝してるし来週中には予選出場権の25勝規定は満たせる。

「コタロー、お疲れ」

「お疲れさん、って大して疲れとらんやろ?」

「あはは、うん、そうだね」

「何やあっさりしとってて拍子抜けやな」

「いつの間にかそれなりに強くなってたんだね」

「ずっとエヴァンジェリン姉ちゃんに相手してもろうてて、楓姉ちゃん達もいつもいて気づかんかったなぁー」

「うーん、確かに」

マスターは常に最強って感じだったし。
第一雷の暴風が雲散霧消するような魔法領域が展開できるんだから並の突破力じゃ全く効果が無い。
広範囲殲滅呪文の千の雷の出力を一点に収束させるか、後は修学旅行の後にマスターから教わった光系呪文を使うか、はたまた複合させるかって所なんだけどそんなの開発してもなぁ……実際に使う機会なんて殆ど無いだろう。
父さんの魔法が雷中心なら、マスターからは僕が氷は得意じゃないからって光中心に教えてもらった。
一番使ってるのは魔法領域と断罪の剣だけど。
後は僕の新術……みたいなのは感覚が南極の一件で鋭くなったお陰で多分できそうだけど、じっくりやらないと危険だし……できたらできたで画期的だけど色々問題もあると思う。
まあテオ様達の所へ戻ろう。

「張り合いが無いようだな。少年達」

ん、通路の陰に誰かいる。

「誰や?」

「誰と聞かれたら……初回サービスだし答えてやるか」

凄く背が高くて……。

「あ、おっさん!」

「あ、あなたは!」

「お?お?俺の事知ってんの?ねぇ、知ってんの?」

間違いない、写真でも見た!

「筋肉ダルマや!」

「筋肉ダルマのラカンさんですか!」

「ダルマじゃねーよ!!あのじゃじゃ馬何て変な事教えてんだっつーの!」

……仕切り直してちゃんと挨拶したんだけどこの大男の人はジャック・ラカンさん、ゲートポートで本来メガロメセンブリアに来てくれる……筈だった人……。
マスターの予想通り現れなかった……。
凄い背中とか叩かれたんだけどかなり痛い。
とにかくテオ様達のいる特等席に案内した。

「おお、ジャック!」

「うぉっ!?」

「アハハハ!久しぶりじゃなこの筋肉ダルマ!何故顔を見せん」

テオ様がラカンさんに飛びついて肩車状態……。

「オイオイ、じゃじゃ馬第三皇女いきなり会って早々コレか!お前三十路だろ!」

「ヘラスの族は長命だから三十代の女は人間換算でまだ十代じゃ!ミソジゆーな!」

「十代でも肩車で飛びついてくる女はいねぇよ。あー?大丈夫か帝国はこんなんでよ」

「だから普段はしっかり皇女を演じておる」

うーん……あまりそれらしいところをここ数日見てない気が……。
アーニャ達は見たことあるって言ってたけど僕達が拳闘大会に出始めてから結構はっちゃけてるらしい。

「つーかな、俺はお前に会いに来たんじゃなくて、このガキ達に会いに来たんだよ!」

「はぁ?連れないこと言うな!」

「ほらほらとっとと降りろー。皆見てんじゃねぇか。恥ずかしくないのか?」

「この者たちは気にしたりなどせんから良いのじゃ!」

確かにそんなに気にしないけど……。

「ひ……姫様……いくらなんでも」

「ユリアはうるさいのー!」

久しぶりに3-Aの空気を思い出したような気がするなぁ。
今頃地球での日数だと夏休みはとっくに終わって皆とも会ってるんだろうけど……。
テオ様がラカンさんから気がついたら降りてた。

「で、そいつがアスナかぁ?なるほど、こいつぁデカくなったもんだなぁ」

ら……ラカンさん!?何アスナさんの胸触ってるんですか!

「はぁ!?ちょっとどこ触ってんのよ!」

―咸卦法!!―

「このっ変態っ!」

あっ凄いアスナさん!
手使わずに咸卦法発動して殴った!

「げぽあっ!」

錐揉みしながらラカンさんは床に倒れた。

「この筋肉ダルマ!何堂々やっておる!このっ」

続けてテオ様に足蹴にされてる……。
マスターの言うとおり本当に信用できなそう……何かアホっぽい……。

「はー筋は悪かねぇようだな」

突然起き上がった!?
しかも僕達じゃなくてアスナさんに言うの!?
でも……隙が……今アスナさんに殴られたけど……無い気がする。
楓さんもそれには気づいてるみたいだし。

《ネギ、このおっさん見た目通りアホっぽいけどアホみたいに強いな》

個人通信か。
何か酷い言いようだけど。

《う……うん。倒せる気がしないね》

《もうちょい丁度ええ相手おらんのか》

《そんな丁度良い人ってなかなかいないんじゃないかなぁ》

《もうこの際人やなくて魔獣相手でもええわ》

《あはは……それはもう拳闘大会である意味が無いね》

《廃都オスティアっちゅう所はゲートもあって竜種みたいな魔獣がウロウロしとるんやろ?》

《そうらしいね。できれば近いうちに探索に行きたいよ》

《高畑の先生がなんとかしてくれへんのか?有名なんやろ。許可取るぐらいできそうやないか?》

《うーん、どうだろう。タカミチは後数日でメガロメセンブリアの調査もあんまり意味が無くなるだろうって言ってたから近いうちにオスティアに飛ぶみたいだけど現地で許可取ってもらえるように頼んでみようか》

《おお、そうしとき。俺達来週にはナギ・スプリングフィールド杯出場決定やし。一足先に行っても構わんやろ。ネギの幻術もバレとらんし》

《確かに丁度いいね》

「でー、お前らの試合はここに来るまでに飛空艇の中で全部見てたんだが……」

……ちょっと真剣っぽい。

「ナギの奴に似てねぇなー!戦い方とかぜんっぜん!使う魔法は割と似てる癖にどーしてそこまで違うよ」

「え……えーっと」

これは……どういう意味なんだろう。
僕は僕らしい戦い方ができているならそれでいいけど。

「あれだ、師匠とか言ってたが断罪の剣使ってるあたりまさか闇の福音か?」

「そ、そうです!闇じゃなくて光ですけど!」

「やっぱりなぁ。道理で鍛えられてると思ったぜ」

「ネギ、それは真か!?」

「はい、言ってなくてすいません、テオ様。マスターは父さんに倒された事になってるのであんまり言ってはいけなかったので」

「……なるほど、まあそれなら気にせんで良い」

「そんでコタロつったか?お前なんで究極技法の咸卦法できんだ?その年にしちゃいくらなんでも早過ぎるだろ」

「それはな、ネギのアーティファクトとアスナ姉ちゃんのお陰やで!」

「あ?お前のアーティファクト意味わかんねーじゃん。何も出ねえし見た目も変わらねぇし。てかその前にお前らキスしたの?ねぇ、キスしたの?」

このわざとらしい顔、もうさっき見てこれで二度目だなぁ。

「そんなん言うならラカンのおっさんもネギの父親とキスしたんか?」

「してねぇよっ!」

「俺もやっ!」

「ちっ、知ってやがったかぁ……つまらん」

はははー……。

「コタロー、この際だし効果見て貰えば良いよ」

「おう、そうやな。アデアット!」

―契約執行 60秒間!! ネギの従者 犬上小太郎!!―

ある程度供給を抑えたから爆風は出てない。

「因みに俺は何もしとらんからな」

「ほー、それが本来の効果なんじゃな!」

「何だぁそのアーティファクト。契約執行が咸卦法になんのか。ズリーな。そりゃコツがつかめる訳だ」

「ラカンのおっさんのも凄い宝具やって聞いたで」

「俺素手のほうが強いからぶっちゃけイラネーんだよ」

「はぁ!?」

「ええっ!?」

「ま、コタロのネタは分かったとして、ネギの方には何か必殺技とかねーのか?」

「断罪の剣があります!」

断罪の剣には二種類あって一つ目が、物質の構造相転移で、対象を蒸発させて切り裂き、それで詰ませられなかったとしたら超低温攻撃の二段構え、更にその超低温で超伝導状態に近くできるから結果電気抵抗もゼロに近づいて、そこに雷の魔法を複合させると生物にとっては……相当危険な威力になる。
二つ目は完全純粋魔力で原子レベルに分解するもの、南極で死にかけてから魔法発動媒体無しに完璧に使えるようになった。
拳闘大会で使ってるのは後者の方、剣が通った場所だけしっかり切れるから前者みたいに低温攻撃は無いし、人体に当てさえしなければ……大丈夫。

「まあ確かに断罪の剣も必殺技だな。だが俺が言いたいのはそーゆー意味じゃなくてだな。コイツの咸卦法みてーな奴。エヴァンジェリンの奴何か隠してたろ」

「何も聞いてないですよ……」

マスターの別荘の書物庫には大量にスクロールもあったからそういうのもあるかもしれないけど……。

「あー、何だアイツ。そういうのは教えなかったのか。まぁ確かにそのほうがいいかも知れねーが。俺はタカミチに言われて見に来たんだが……なんつーかお前らの試合を見てて俺も興味が出てきてなぁ……」

「…………」

「…………」

な……なんだろうこの沈黙。

「お前ら、ナギ・スプリングフィールド杯、それも決勝で俺が戦ってやるぜ」

「なっ!?ラカンのおっさんも出んのかいな!」

「えええっ!?」

「はー?ジャック、おぬしが出たらネギとコタロでも無理じゃろう」

「まー物は試しだ。それにさっきお前ら試合拍子抜けとか言ってただろ。丁度いいじゃねーか。流石に今じゃ無理だろうが、俺もお前らと良い試合やりてーし少し鍛えてやるよ」

「へっ、まあそれもそやな。ラカンのおっさん出るならやる気出てきたで!」

「……うん!ラカンさん、お願いします!」

「そーだなぁー。じゃあまずは授業料100万ドラクマな」

「高っ!?」

金にうるさいって本当だったんだ……。

「ほんなら、ナギ・スプリングフィールド杯でおっさんに勝ってその優勝賞金100万ドラクマで払ったるで!」

「コタロー!それ意味ないよ!ラカンさんが僕達に勝てばそもそもその賞金ラカンさんのものになるんだし!」

「あー、そやな」

「ガハハハハ!いや、悪くねーな!なら絶対に俺はお前らに負けねぇ。きっちり耳揃えて出世払いで払えや」

何か無茶苦茶だー!!
アスナさんとアーニャの顔が酷い呆れ顔になってるし。

「どっちにしろこんな機会滅多にないで!俺はやれるだけやったるわ!」

「うん、僕もやれるだけやってみます!」

「よーし威勢の良い発言。それでこそ男だ。つかさっきもそうだがお前ら俺の事結構知ってんの?驚かし甲斐がねぇんだが」

「妾が教えたのじゃ」

「あーお前拳闘士に詳しいんだったな。どうせならグラニクスにくりゃよかったのに……。まあいい……とりあえず改めて俺の自己紹介を聞けーいッ!!」

「突然でかい声を出すな!この筋肉ダルマ!!」

「千の刃の男!!伝説の傭兵剣士、自由を掴んだ最強の奴隷剣闘士!!サウザンドマスター唯一にして永遠の好敵手!!勝敗は498対499!!そう!!それがこの俺!!ジャック・ラカンだっ!!!」

ビシバシポーズ決めながら言い切ったー!
マスターから聞いてたけど本当に父さんのライバルなんだ!

「「おー!!」」

「……」

「ほー」

「耳が……」

「うるさいのじゃ……」

「暑苦しい……」

茶々丸さんは静観、楓さんは感心してるけどアスナさん、テオ様、アーニャは……。
ラカンさんが僕達の相手を少ししてくれるって事で場所は何処がいいかって事になったんだけど……。

「城の練兵場使っていいのか?」

「駄目じゃ!おぬしが使ったら更地になるじゃろ!」

どんな核兵器何だろう……。

「えーじゃあ何処だぁー?でけぇ湖の上でやるか?お前ら飛べるし」

「それも駄目じゃ!湖が消し飛ぶ!!魔法球を用意するからその中でやっとれ!」

「テオドラ姫さん魔法球あったんか!」

「それぐらい城にあるぞ。じゃが10倍じゃから妾はあまり入りとうないから、出さんかった」

「三十路だから年齢気にしてんのかー?」

「だからミソジゆーな!!」

「テオ様……魔法球があるのはありがたいんですけど……湖が消し飛んだりするぐらいなのに魔法球は壊れたりしないんですか?」

凄く心配だ……。

「……それは……わからんのじゃ」

「がははは!安心しろ!もし壊れても俺は死なん!」

本当に滅茶苦茶だーっ!!
まあ……落ち着いたらラカンさんにフェイト・アーウェルンクスの事とかもダメ元で聞いてみよう。
何か知ってるかもしれないし。
お金請求されたら出世払いかな……。
でもそれだと最初からタカミチに聞いたほうが早そうだけど……。
……こうして僕達はラカンさんに少しの期間修行を付けてもらえる事になった。
魔法球があるお陰で新術開発も進めたり、魔法世界の崩壊についてじっくり考えられる時間もできるだろうし。
うーん、テオ様には凄くお世話になってるなぁ。
もし賞金取ったらテオ様に渡したり、夕映さんやこのかさんの学費とかタカミチが払ってくれた金額の足しにしてもらおうかなって考えてたんだけど……。

「ところでラカンのおっさん、拳闘大会出るにしても相方おらんのやないか?」

「心配すんな、結構強い奴知ってるから呼んでやるぜ」

「へー、どんな人なんですか?」

「ボスポラスのカゲタロウって奴だ。操影術ってのを使う」

「高音さんと同じ術かな」

「多分そやろうな」

「お、なに、お前らまた知ってんの?」

「麻帆良で生徒をしていて今アリアドネーにいる同じ術を使う人が知り合いにいるんです」

「そりゃ珍しいな、あの地方にしか殆どいないんだが。名前は?」

「高音・D・グッドマンさんです」

「あいつの本名何つったかなー……」

ラカンさんぐらいになると強い人とも知り合いなのかなぁ。
僕も地球にはまほら武道会で強い人達がたくさんいるのはわかって知り合いもできたけど。
魔法世界にも拳闘士として登録はしてなくても本当に強い人達っていうのはきっといるんだろうな。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月20日日本時間、13時24分、麻帆良―

ネギ少年達が魔法世界に旅立ってから早1週間程が経ち、私達の計画も残すところ後1週間という時、侵入者……ではなく帰還者が現われた。
思い起こせば5ヶ月近くが経とうとしていたが、そう、あのオコジョ妖精アルベール・カモミール捜査官である。
随分前に超鈴音がエヴァンジェリンお嬢さんを介して魔法転移符の流通経路を捜すように麻帆良から体よく追い払ったのだが何らかの成果を掴んだのだろうか。
悪いが、私個人としてははっきり言ってあまり期待していない。
場所はどこかといえばエヴァンジェリンお嬢さんの家であるが妖精は戸惑っていた。

「エヴァンジェリンの姐さん、あー兄貴はどこ行ったんですかい?」

そう、てっきり一緒にいるかと思ったらネギ少年が見当たらないからである。
女子寮にも先に来ようとしたのだが、田中さんガードで侵入は不可能だった。

「あ?何だ、情報を掴んできたんじゃないのか。なら帰れ」

「ちょ!?ちゃんと持ってきやしたよ!」

「ほう、そうか。ぼーや達なら今頃魔法世界だ」

「でええっ!?全部ゲート壊れてるじゃないすか!」

「お前が心配することでは無いだろう小動物」

「エヴァンジェリンの姐さんは心配じゃないんですかい!?」

「これでも私の一番弟子でな。信用してるんだ。ぼーや達ならなんとかなるだろう。来週には帰ってくるだろうさ」

「ゲートが壊れてるのにそんな無茶な」

「まぁ気にするな」

「はぁ……そうですかい」

「で、ゲートが壊れたのを知っているということは海外にも行ってきたのか?」

「もちろんですぜ。まずは俺っちの報告を聞いて下せえ。ちょっと失礼」

「小動物、この家は禁煙だ。何ならお前を燃やしてみるか?」

オコジョ燃料って何だろうか……。

「ヒィッ!じょ、冗談でさぁ。雰囲気が出ると思っただけで……」

ハードボイルドが板についたらしい。

「さっさと始めろ。ちゃんとデータもあるのか?」

データに関しては茶々丸姉さんのコピー機、茶々丸’姉さんがいるので問題ない。

「もちろんありますぜ。まずは……」

魔法転移符の流通経路、オコジョ妖精の調べによると実に多岐に渡っていたようだ。
件のルートでは東洋呪術系の魔法転移符もあれば、西洋魔術系の魔法転移符の両方を扱っており、サヨが以前撃たれた時の物も追跡が不可能だった時点で出所はわからなかったが、妖精の報告によってその区別をする事自体あまり意味が無いというのが分かった。
普及率という点では西洋魔術系転移符の方がシェアを占めているが、中国から日本にかけての地域では東洋呪術系魔法転移符も用いられているのでそれぞれの拠点での使用率に特色はある程度出るだろう。
基本的に東洋呪術で良く使われる呪符には魔法的処理を施した特殊紙に、呪術刻印を入れる必要がある。
当然魔法転移符にも同じことが言え、魔法的処理をした特殊紙に、東洋呪術系魔法転移符なら呪術刻印、西洋魔術系魔法転移符なら魔術刻印を入れる必要があるのだ。
この違いは私からすると些細な問題であるが、作る側としてはそれぞれ異なった魔法体系なので西洋魔術師が東洋呪術系魔法転移符に描かれている刻印をそのまま単純に真似して同じ物を作ろうとしたところでうまくいかない。
基本単価1枚日本円で80万する事からコピーして大量生産というのは基本的に不可能であるのは自明な事であるが、ならば一体例の組織は一体どうやって一定量の供給を受けているのだろうか。
オコジョ妖精だけにアルベール・カモミールが鼠のように組織のある拠点に入って得た情報によると、当然組織全ての場所に常に充分な転移符が行き渡っている訳ではなく、請け負った依頼内容の難易度を判断した上で魔法転移符の使用の有無が決定されるので、実際に魔法転移符が使用されるケース自体は少ないらしい。
要するに超鈴音が2度も狙われたのは、組織の優先排除対象に入ってしまっているからなのだ。
これは組織の事を知っているような事を修学旅行の時に匂わせたフェイト・アーウェルンクスの発言からも明らかだ。
組織でも末端の人間は魔法転移符そのものの存在を知らないこともあるようで、これが限りなく白に近いグレーで判断が難しい事の元凶である。
シアトルでの一件のようにあからさまなアジトがある場合もあるが、これは所謂実行部隊限定の物であり、それ以外のサポート系の組織のメンバーは通常実に普通の企業で社員として働いている事が多いようだ。
羽田空港でのサヨが撃たれた事件にしてみれば完全にフリーの殺し屋に、組織が接触し魔法転移符の使用方法を説明して持たせただけで、撃った後は自動で多重転移、使い終わった魔法転移符は効力を失いただの紙になる、ただそれだけという可能性が高そうだ。
どうも元々普通の人材派遣会社だったものに組織の人間がその上層部に潜り込み、徐々にその勢力を広げるというケースが悪質で、隠れ蓑に利用される典型のようだ。
性質が悪いのは誰か特定の人物がトップであるという事が無く、組織形態がアメーバのようで、構成員自身も組織の全貌がどうなっているのかはよくわかっていないという事だ。
この組織自体を潰すのはかなり難しいことであろうが、少なくとも魔法転移符の出元を潰せば余計な技術流出というのは防げる筈である。
誰が供給しているかと言えば、現実とは概して陳腐な物で、当然その正体は西洋魔術師、陰陽師崩れ達である。
所謂悪い魔法使いとでも言えばいいのかそんな所だ。
いつからなのかは知らないが彼らが組織と接触を持ったことにより、魔法使いの側としては隠れてコソコソ魔法転移符を作るだけで楽に生活できる資金が得られ、組織としては便利な道具があるお陰で仕事がやり易くなるという双方に利益のある関係ができているのだ。
彼等はどのようにして連絡をやりとりしているかと言えば、当たり前だが超鈴音のSNSは使っておらず、それ以外の電子メールやら普通郵便、使い捨て前提での電話番号を利用した通信が基本である。
彼等も間抜けではなく、優先排除対象の超鈴音が作りあげたSNSをわざわざ利用したりしない。
この辺りは既に私達がSNSを神木のスペックをフル活用した捜査でも明らかだ。
メガロメセンブリア本国に捕まればオコジョ刑どころかそれ以上の刑も必死の魔法使い崩れ達であるが、元々転移魔法符を作成する技術が無い場合、往々にしてアンダーグラウンドなルートで、転移魔法符を作成する技術がある魔法使い崩れと連絡を取り、その技術習得をする為に群れる事があるようだ。
また魔法転移符のみならず、まほネットにハッキングをして、魔法転移符そのものや、その他の魔法具、魔法転移符作成の為の特殊紙を入手するのを生業とする電子精霊使いも存在するらしい。
やっている事は何だか超鈴音と同じようだが、このタイプの人間は住所を驚く程転々とする。
合わせて一体何人いるのかは正確な人数は不明だが仮に1000人いるとしても、365日間頑張って作成するだけでも魔法転移符は相当な枚数に膨れ上がる。
大体彼等は治安の悪い国や地域の魔法協会出身だったりする事が多いようだが、それだけに高額の報酬が得られるというのは魅力的なものなのだろう。
彼等が捕まらないように組織側も配慮するようで、色々な偽装をする事もあるらしい。
魔法幻術薬ではなくこちらの世界の整形技術で姿を変えてしまえば、魔法協会に名前と顔写真が登録されていても本人かどうかわからなくなるという有様である。
場合によっては死亡したように偽装をすることもあるようで本当に性質が悪い。
作成された魔法転移符は普通に郵送や、コインロッカー等の所定の場所でやりとりされるようだが、この辺りは普通である。
魔法の事等知らない運び屋の人間がその仲介をした場合、地球の立派な魔法使いが地道にそれを捜査するのは人員的に考えて絶望的である。
地球の立派な魔法使いは一般的にNGOに所属して活動するもので、紛争地域や自然災害で被害を被った地域を飛び回っては限られた範囲内で魔法を行使するのが常であり、もしこの魔法使い崩れ達を捜索するとなると人員が足りなさすぎるのだ。
以上、大まかにこんな所であり、結局組織の全貌は掴めず、その何処かしらに隠れている魔法使い達の居場所も詳しくわからず、とりあえず概要が掴めただけ、という歯切れの悪い捜査結果であったが、オコジョ妖精にしてはよくやった方であろう。
一応数カ所の組織が関わっている場所の特定はできたようだが、これが魔法使い達の出る幕なのかどうかの境界からして怪しい。
忘れてはならないが基本的にこの組織は、魔法に関わっているかどうかという点で、表であるため魔法云々を抜きにして、寧ろ違う容疑で摘発できるため、普通の警察が出た方が良い場合が多い。

「とまあこんな感じですぜ」

「なるほどな……しかし人間とは俗な生き物だな」

「そうっすね……それで今回の報酬なんすけど……」

「いくら欲しいんだ。まあ50万ぐらいは払うが」

「え!?ホントですかい!?」

因みにオコジョ妖精の一日の生活費用とは人間に比べると恐ろしく少ないので月給5000円で充分だったりする事から考えると50万でも破格である。
国を渡る際の費用は人間ではないから法は関係ないが、一応人間的に言えば不法に貨物船や飛行機に乗り込んで動き回るのである。
確かに人件費が少なくて済むのは事実である。
しっかり電子データも確保できる辺りオコジョ用パソコンというのは意外と優れているようであり、妖精業界は魔法使いに仮契約及び本契約をさせるというのではなくもう少し違う方向性で活躍できる気がする。
妖精は妖精で独自の通信網も有しているようで更にそれを後押ししそうだ。

「ああ……。少し待っていろ、出してくる。余計な物に触るなよ」

「俺っち頑張った……漢だぜ……」

捜査期間も定めない超適当な依頼にも関わらず勝手にミッションコンプリートをひしひしと感じているなら、放っておいた方がいいだろうか。
エヴァンジェリンお嬢さんが適当に自宅に置いてある現金の入った封筒を妖精に渡して終わりである。

「ありがたく頂戴しやす」

「小動物、捜査のついでに何か他に面白い話は掴まなかったのか?」

「あー……一つ、エヴァンジェリンの姐さんが世界で人気だってのはわかりやした」

「ほう、なるほど、それは私のサークル関係のものか」

世界に飛び出すエヴァンジェリンお嬢さん。
既にSNSで専門コミュニティもできているらしく、底堅い人気を誇っている。

「そうみたいっすね。にしても前回エヴァンジェリンの姐さんを見た時は動転してて気が回らなかったすけど真祖の吸血鬼にはとても見えないすね」

「それは、私は真祖の吸血鬼ではないからな」

「ホントですかい!」

「今私が何者なのかは説明できんがな」

「はー、不思議な事もあるもんすね」

「まあそういう事だ。で、お前はどうする?また続けて今度は更に詳しくその魔法使い崩れ共の居場所でも探し当てるか?」

「やっぱり俺っちとしては兄貴のような前途有望な魔法使いの使い魔になるのが真理ですぜ」

「いや、それは無い」

即答だった。

「そんなぁ!?」

「思うにお前たち妖精は使い魔だ何だとよりも、諜報活動の方が実は向いているだろう?実際人間に見つけられても情報を吐け等と言われないだろう?」

エヴァンジェリンお嬢さんも同感のようだ。

「そりゃあ俺っちが何も言わなきゃそうだが……。なに……つまり俺っちは天性のハードボイルドなのか……何かカッコイイぜ」

「……また何か情報を掴んだら買ってやるさ。好きにしろ」

「おおっ、分かったぜ!燃えてきたっ!!」

人語を解する小動物、私はたまちゃんの方が好きだが俗物的な方がこういうのは向いているかも知れない。
早速また旅に出るかと思われたが、とりあえずは受け取った日本円をオコジョ$にどうやってか換金して好きに使うらしい。
レートも不明だが恐らく50万はかなりの高額であろう。
今回アルベール・カモミール捜査官が掴んだ電子データは茶々丸’姉さんが、会話内容は私が超鈴音に伝えた。
あっさり超鈴音がエヴァンジェリンお嬢さんに50万を払って今回の件は解決である。

《ふむ、結局とことん面倒な組織に私は狙われ続けるというのが明らかになたようだネ》

《はい……残念ながら》

《……本当に宇宙開発したい気分だヨ》

《元々火星人ですしね》

《地球系火星人だけどナ》

《まあいざとなったら魔法世界というか火星側に移動すれば良いと思いますよ》

《それもそうだが、どうなるかは世界の動き次第だろう?》

《ええ、もう残り数日ですからね》

《正直どうなるか見物だナ》

《良ければ超鈴音にも作戦を優曇華から手伝って貰えると助かるんですが》

《おや、私もそんな大規模な事に参加していいのカ?》

《恐らく私が扶桑、サヨが蟠桃を完全管制するので優曇華の機能で補助してもらえるならその方がありがたいです》

《ふむ、そんな機会二度と無さそうだし、やらせてもらうヨ。それにしても恐ろしいぐらい加速した魔分を浴びそうだネ》

《まあそうでしょうが、当然アーティファクトを使用しておく事になりますから》

《大丈夫だという訳だナ。分かているヨ》

さて、向こうでは後1ヶ月程だろうが、ネギ少年達頑張れ。
こちらも数日中にある人物と接触するべきかどうか……。



[21907] 50話 ジャック・ラカン・後編(魔法世界編10)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/01/21 16:49
―9月11日、13時頃アリアドネーホテル―

もう大分アリアドネーでそこそこの生活を続けてるけどメガロに居た時ほどVIP生活じゃないけどまぁ……楽な方スね。
数日前にやってきた葛葉先生によって私がゴロゴロすんのが不可能になったのにはちょっとへこんだわ。
高音さんも「春日さん、あなたアリアドネー魔法騎士団候補生の学校の授業を見てもっとやる気をだそうとは思わないんですか?」なんて言ってくるし、微妙に生き辛いスよ。
葛葉先生は桜咲さんと早朝はいつもどっか行くんだけど、多分神鳴流の剣術の訓練か何かかだろ。
それにくーちゃんも付いてくから私はココネと暇を持て余す訳だ。
そんな暇を潰すネタと言えばネギ君と小太郎君の拳闘大会の試合に限る。
どうもテオドラ皇女殿下のお達しで「できるだけ派手に試合しろ」みたいな事言われてるらしく、速攻で決めるにしても何か魅せる試合を二人は心がけてるね。
その分見てる方としては本当に面白い訳だけど。
ネギ君が何故か小太郎君に遅延呪文を封印できたりするもんだからやたら切れる剣とか凄く腕が光るパンチを一緒に繰り出して戦う時はもうシンクロしまくり。
鎧をバラバラに解体するのはもう名物だね。
他には小太郎君が射線軸上にいる状態なのにネギ君が相手に大量の魔法の射手を撃った時「それはマズイだろー!!」と思ったんだけど、当の小太郎君は後ろを見てもいないのに弾幕の中を華麗に縫って進んで相手に突っ込んでいったのは何のサーカスだって感じだった。
それを他の人達はどう思ってるんだろうと気になって、拳闘協会専門サイトの掲示板的なものをまほネットで調べてみたら、ネギ君と小太郎君の謎の多さとその使用技術の異常性についての話題で予想通り超盛り上がってた。
ネギ君達の使う技術は司会の人が毎回聞こうとするんだけどネギ君は大抵「ごめんなさい、教えられないんです」って言うもんだから、そうすると間近で見た当の対戦相手達に毎回試合後のインタビューが入るようになって「あれは間違いなく遅延呪文だろう」「あの魔力の剣相手にもう戦いたくない」「いやあれは信じがたいが原子分解魔法だ」「あれは魔法障壁なんてそんなチャチなもんじゃない」「コタローが使っているのはあの咸卦法じゃないのか」「まさかあの年齢で使える筈が無い」なんて負けた側も意外とノリノリで答えながらメディアに露出できるもんだから満更でも無さそうなのが面白いスよ。
あとそれとは別にネギ君には大量に魔法使い達から使用する魔法についての問い合わせが殺到してるらしい。
余程気になるんだろうな。
2人ともそれぞれファンクラブができて、2人合わせたコンビでのファンクラブも含めて3つあるのは豪華すぎる。
丁度昨日から拳闘協会の公式サイトでファンクラブ参加の為の連絡先が公表されたもんだから、愛衣ちゃんが光速で動き回って宛先に向けて魔法郵便3つ送ってたのはちょっと笑えた。
地味に入会費かかるんだけど気にしてないみたいね。
そんでもって拳闘士のネギ君が9月1日に見学に来たネギ君だってのは皆分かってたから、ゆえ吉とこのかのとこの学校の寮はやっぱ戦争だったらしい。
あの時は一応元々初対面だから狙いとしてはナギと誤認されなきゃいい程度だったし、そもそも認識阻害メガネって映像には効果無いスからね。
箒で飛ぶときに麻帆良で認識阻害かけても写真に撮られればモロに写るのと同じ原理だな。

当のヘラス帝国にいるアスナと端末で会話してみたら、ジャック・ラカンっていうこれまた紅き翼の有名人が一昨日現れたらしく一言で言うと「あの人変態よ!」だってさ。
……変態はともかく、昨日から魔法球でネギ君と小太郎君は生ける伝説にまずは腕試しをしてもらったんだけど、ラカンさんは……もー何でもアリな人だったらしい。
そんでナギ・スプリングフィールド杯の決勝で戦う予定で……って私にはどうしてそういう流れになったのか全然分からんスよ。

他の動きはっていうとのどか達トレジャーハンターの皆さんはこの1月くらいの遺跡探索でかなり稼げたっつー話で、フォエニクスからアリアドネーに皆で来るって話になってて1週間以内には着くらしい。
のどか的には欲しい魔法具が手に入ったみたいで充実してたんだろうと思う。
特に賞金首として追われたりもしなかったらしいしクレイグさん達にはマジ感謝。
アスナ達が賞金首稼ぎ達と戦闘になって返り討ちとかにした事も無いから結局あの最初のニュースで指名手配された後20日ぐらい経ってもうニュースに取り上げられるのも見てないし。
これでもし武道四天王が大暴れしてたらと思うと大分違ったかもスね。
あとは高畑先生とたつみーが明明後日にはオスティアに飛ぶって聞いたな。
ゲートポートの捜査も限界って事でオスティアにいる高畑先生の個人的な知り合いにうまく当たってみるらしい。

……あーヘラス帝国の闘技場でネギ君達に賭けたら相当儲かったんじゃないかなぁとも思うんだけど既に倍率が低くなりすぎて今更遅いスね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月12日、ヘラス帝国首都ヘラス城内、ダイオラマ魔法球内―

ラカンさんに相手してもらい始めてから魔法球内時間で10日、闘技場での1日に2試合こなしてから夜頃に魔法球に8時間ぐらいずつ入るサイクルでやってきた。
初日の一番最初に相手してもらった時「ぼーず達、力試しだ!全力で打ち込んでみろ!」ってラカンさんが言ったから流石に断罪の剣はやめたけど、僕が収束光の505矢桜華崩拳、コタローが咸卦・狗音爆砕拳を叩き込ませて貰ったら全然堪えてなくて驚いた……。
最初僕が構えた瞬間は普通に受け止めるつもりだったみたいなんだけど当てる直前に気合い?で防御されたらそれで簡単に防がれた。
コタローは「ラカンさん……ホンマに人間なんかな?」って悩んでたし……。
咸卦法が気合いに勝てないのは理不尽だと僕も思う。
アスナさん達もそれ見てて呆れてたしなぁ。
僕とコタローの見立てだとあの気合いの防御力を越えるダメージを与えるか、防御する前に隙を突いて一撃入れるぐらいじゃないとまずダメージは入らないっていう結論に落ち着いた。
それで、僕達二人の力を合わせてやってみていいってラカンさんが言ったからあの時本気を出したんだ。

「ネギ!やるで!アデアット!」―狗族獣化!!―

「うん!任せて!行くよっ!」

「おー、やってみろぼーず共!」

    ―契約執行 120秒間!! ネギの従者 犬上小太郎!! 出力最大!!―
              ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―光の精霊505柱! 集い来たりて 敵を射て!! 魔法の射手 収束・光の505矢!!―
             ―短縮術式「右腕」封印!!―

最大出力咸卦法に収束光の505矢、現在の僕達ができる最大のコンビネーション打撃技。

「おっしゃぁぁぁ!!ラカンさん行くで!」

―右腕解放!!咸卦・桜華狗音爆砕拳!!!!―

「おっと」―気合防御!!―

また気合いの防御!

「でりゃあぁぁぁッ!!」

狗族獣化も使ったコタローの全身全霊の現最高打撃、強烈に発光してる拳は確実にラカンさんの腹部に直撃してる!
地面の砂浜にも余波でクレーターができてる!

「ふんっ!!!」

けど!……打撃の効力が終わってもやっぱり……。

「はぁ…………ラカンさんどうなっとんのや……」

腹部から煙が出てるだけだった。

「がはははは!!いやー今のは結構効いたぜ!そうだな……ぼーず達二人の力を合わせると1足す1が2じゃなくて3か4ぐらいにはなってるのは間違いない。その年にしちゃかなりのもんだぜ。でも俺にはまだまだ届かねぇな」

「…………」

「…………」

「ネギ、コタロ、その筋肉ダルマをまともな感覚で図るのは無意味じゃ」

「無茶苦茶ね……」

「真っ向から受けて防ぐとは凄まじいものでござるな……」

「なんといっても俺は最強だからな!よーし、お前達の強さを簡単に表にしてやろう」

「表ですか?」

「そんな簡単に表になんてできるもんなんか?」

「まー見とけぇ」

そう言ってラカンさんは強さ表っていうのを書き始めたんだけど……。
昔の僕達なら単純に信じた可能性は高いんだけど明らかにラカンさんから見た基準で測ってるような表だった。

「なんやねんコレ……。ラカンさんおかしくないか?」

「イージス艦が1500って……これは何処からの接敵開始を想定してるんですか?」

長距離からのミサイル攻撃はそもそも対人を想定してないと思うんだけど……。

「そうや、大体なんで海におる船と戦うんや」

「はぁ?お前達もっと純粋になれよー。障壁ないんだから沈められるだろ?」

「……沈められたとしても接近した距離によっては爆発の余波に巻き込まれて相討ちになりませんか?」

「そこは気合だ!」

「ふーんどれどれ、これだと200の戦車8台用意したらイージス艦に勝てるって事なの?」

アスナさんからも突っ込みが……。

「まず戦車は海で戦えませんから無理だと思いますよ。射程を考えればイージス艦が圧倒的に強いです」

「そうよねーネギ」

「…………」

「なら2800の鬼神兵っちゅうのは海でも戦えるんか?」

「それは無理じゃな」

「ほな海挟んでたら鬼神兵の射程範囲外からイージス艦が攻撃したら鬼神兵は負けるやろ」

「そうじゃな。妾はイージス艦がどんなものか知らぬが陸に船はおらんし逆は考えても意味ないの」

「…………だぁぁぁ!!!なんだぁー!?嫌なガキ共だなぁー!!俺が折角書いてやったって言うのによぉ!!勝負は相性、時の運もあるが細かい事は気にすんなよ!!」

「筋肉ダルマが頭の悪い表など書くからじゃ。ああ、馬鹿じゃったか」

この表そもそも比較対象として適切じゃないんと思うんだよなぁ……。
冬に学園長先生のスクロールを乗り切った後にコタローと話したけど、敵が凄く弱くてあっさり倒せても、その瞬間強力な毒ガスや石化の煙が出てきてやられたりしたから、強さってなんだろうってつくづく思ったんだよなぁ。
結局、常にその場の状況、一定の条件下での自分と相手の比較しかできないんじゃないかな。
だからこそ試合にはルールがあるんだと思う。
もし裕奈さんのバスケ部で浮遊術使って良かったらいくらでも点数なんて取れるだろうし。
でも、それがどういう条件であれ戦わない訳にはいかない状態ならそれはそれで頑張るしか無いのも事実だけど。

「あー、分かった分かった。とりあえず、お前らは俺よりまだ全然弱い、ただそれだけだ!これから修行つけてやるからな!」

「はいっ!」

「おうっ!」

というやりとりがあって10日が経過してるんだけど楓さんもいるし確かに少しは強くなったには強くなったと思うんだけど、あまりにも次元が違う気がする……。
父さんって今の僕より少し上の年齢ぐらいに前大戦で活躍したらしいんだけど、まほら武道会で父さんと試合した時はやっぱり稽古つけてくれてたんだなって思う。
このラカンさんと引き分けたりするぐらい強かったって一体どうなってるんだろう……。
単純に一発の攻撃力が防御力を上回ってたって事なんだろうけど、確かに父さんは常に魔力の塊を身体に纏ってる感じだったから、その点ラカンさんが使ってるのは気だけど、よく似てると思う。
当面の目標としてはアスナさんをフェイト・アーウェルンクスが狙ってきても撃退できるぐらいには強くなりたいから、ラカンさんにもしかして知ってるかどうか試しに聞いてみたんだ。

「ラカンさん、フェイト・アーウェルンクスという白髪の少年を知っていますか?」

「!?……アーウェルンクス……そりゃまた懐かしい名前だな……」

「知ってるんですか?」

「まぁ……な」

何だか因縁があるみたいな感じだけど……。

「聞きたかったら100万」

やっぱりかー……。

「いえ……じゃあ、僕の話を聞くだけ聞いてください」

「あ?なんだ?別に構わねぇが」

「はい。僕が今まで得た情報を上げるとアスナさんの魔法無効化能力、そしてその為にフェイト・アーウェルンクスに修学旅行でアスナさんは攫われそうになった事、前大戦で起きた広域魔力消失現象、フェイト・アーウェルンクスがやったと思われるゲートポート11箇所の破壊、残っているゲートがあるとしたらそれはその現象があった廃都オスティア、そして旧世界の火星の地形が魔法世界によく似ていること、魔法世界から旧世界への魔力の流出、最悪魔法世界の崩壊が起こる可能性があると言った感じなんですが、これらは全て関係があるような気がしてならないんです」

一つずつあげていくうちにどんどんラカンさんの表情が変化していくんだけど……。

「…………おい、ぼーず。特にその最後の方のは誰から聞いた。まさかアルのヤローか?」

ラカンさんが凄く真剣になった……。
しかもクウネルさん?
まさか紅き翼の人達は皆魔法世界が崩壊するかもしれない事を知っていた……?
という事は父さんも……失踪……マスターが言っていた「行方不明になるという事は何らかの情報を掴んだが、結果それは相当マズイものだった」っていうのも何か関係があるかもしれない……。

「いえ……僕が自分でそういう仮説を考えただけです」

「おいおい……マジか。チッ……失言だったな……。しかしナギの息子にしちゃ頭が周りすぎだろ。正直俺は、お前は何も知らずにそのまま麻帆良に帰ればいいと思ったんだがな……」

「え……」

「それでお前はどうしたいんだ、ぼーず」

「僕は……アスナさんがフェイト・アーウェルンクスから狙われても撃退できるぐらいにはせめて強くなりたいです。それにアスナさんと関係していそうなこの世界の謎を知りたいですし、帰還ルートとして廃都オスティアのゲートが残っているのかの確認をしたいです」

「そうか……まあ俺がここでできるのは一つ目の手伝いと少し話をするぐらいか。その前に俺からも一つ聞くが、こっちに来たのもついこないだのお前がどうして魔法世界から旧世界への魔力の流出なんてのが分かる?」

「それはアリアドネーの総長さんにも説明したんですけど……ラカンさんにも説明しますね」

「っておい、アリアドネーの総長ってセラスか?」

「はい、そうですけど」

そういえばその辺の話はラカンさんにはまだしてなかったな……。
テオ様にも論文を探してるぐらいの話はしてたけど……。

「ぼーず、お前賞金首になった割にピンポイントに人脈は広げてんだな」

「えっと……運が良かっただけです」

「大方嵌めようとしたフェイト・アーウェルンクスも予想外だろうぜ、良い気味だ。……話逸らしちまったな、セラスにもした説明ってのをしてみろ」

「はい、まず魔法世界と旧世界では魔力の色が……」

一応魔法領域を展開してセラス総長にした説明と同じことをした。

「そんなの聞いたこともねー。魔力にそんな決まった色なんてあったか?そのエヴァンジェリンから教わったっていうお馴染みの魔法領域とやらも俺があいつに会った時一度も見たこと無いぞ」

「マスターも最近習得したらしいです」

「ふーん。……いつあいつがそんなもんを習得したのかが臭うんだが……絶対何か隠してるな」

「僕もそれは思います。マスターは何か知ってそうでした」

「はー、もう真面目に麻帆良戻って聞いた方が早いんじゃね?」

「そうは言っても廃都オスティアでは……一応タカミチが明後日メガロメセンブリアからオスティアに飛ぶって言ってましたけど……」

「って事はだ。タカミチにもその話はしたのか?」

「は……はい、一応」

「そうか、そういやタカミチは知らなかったんだっけか……。ならタカミチが行くところは一つだろうな」

タカミチが知らなかったって事は紅き翼の全員が知ってた訳じゃないんだ……。

「その行くところっていうのは……?」

「元・紅き翼の仲間の所だ。今はひねくれてやがるだろうけどな。そいつはオスティアの総督なんてクソ面倒なもんをやってる」

元……?

「オスティアの総督!?」

「まー、多分アイツは立場的に大体もう知ってるんじゃねぇか?後はタカミチの手腕に期待ってとこだな」

タカミチがはっきりオスティアの何処に行くって言ってなかったのはそのオスティア総督と個人的に何か話をしに行くからなのかな。

「で、ぼーずは油売ってねぇで修行だ。ぶっちゃけアーウェルンクスはナギが苦戦するような相手だ。その修学旅行で狙われたってんなら今後十中八九絡んでくる可能性が高い。お前はアスナを守るんだろ?なら今は修行に専念しろ」

父さんが苦戦!?

「アーウェルンクスって父さんが苦戦するような相手だったんですか……」

「まー俺が奴とやったら俺が勝つけどな。要するにだ、アーウェルンクスはナギが苦戦する強さ、そのナギと俺は互角、つまりぼーずが俺に絶対勝てねぇなんて言ってるようじゃアスナを守れやしないって事だな」

アスナさんを守れない……。

「……分かりました。ラカンさん、修行をお願いします」

「へっ、ガキの癖にちったあ良い顔するじゃねぇか。よーし、あっちで楓嬢ちゃんとやってるコタロも混ぜてやるぞ。咸卦法が使えてる時点で出力はぼーずよりもコタロの方が上だぜ?頑張れよ」

「はいっ!!!お願いします!!」

……この日の修行を終えてラカンさんが少し話をしてくれた。
タカミチから聞けばアスナさんの事はわかるって言われたんだけど、旧ウェスペルタティア王国の王族の血筋には代々不思議な力を持つ特別な子供が生まれてきたらしい。
この世界が始まったのと同じ力でこの世界に息づく魔法の力を終わらせていくという神代の力。
黄昏の姫御子、完全魔法無効化能力者……。
伝説上の話みたいだけど、ここまでの情報から言ってアスナさんは間違いなく黄昏の姫御子……フェイト・アーウェルンクスが狙うのはそれが理由だと思う。
それでアスナさんが最近変な夢や幻覚を見ていないかどうかそれとなく聞いてもしそうだったらこの薬を飲ませろってラカンさんに渡されたんだけど……もしそうだとしたら飲ませるべきなんだろうか……。
多分変な夢って事は記憶封印系の薬の気がするんだけど。
先にタカミチにも聞いてみようかな……まほら武道会の時タカミチは、アスナさんに「アスナ君には……そろそろ教えてもいいのかな」って言ってたし。
それにアスナさん自身の意思も聞いたほうが良いと思う。
記憶としては何か辛い思い出なのかもしれないけど今のアスナさんならきっと乗り越えられると僕は信じてるから。

……それに引き換えアーニャとテオ様は何か隠しているような気がするんだよなぁ……。
最初に会った時すぐ闘技場に向かってドタバタしてたけど先月からアーニャはテオ様の所にいたんだから色々父さんの話を詳しく聞いていそうなんだけど……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月14日、14時頃、メガロメセンブリア発オスティア行き飛空艇内―

高畑・T・タカミチと龍宮真名はメガロメセンブリアでのゲートポートの調査、論文の調査を打ち切り、オスティアへ向かう飛空艇に乗っていた。

《おはよう、タカミチ。少し話したいことがあるんだけど良い?》

《おおっ、ネギ君そっちは丁度朝かな。おはよう。話したいことっていうのは何だい?》

《アスナさんの事なんだけど……》

《アスナ君か……》

《ラカンさんから少し聞いたんだ。でも今はラカンさんから渡された、アスナさんがここ最近見てるかもしれない夢や幻覚を抑える薬を、もしそれが本当だったら飲ませるべきかっていう事なんだけど……僕はこの薬は多分思い出しそうな記憶を再封印するタイプの物だと思ってる。僕がこう思っているのに何も考えずにアスナさんに飲ませる事はできない。タカミチは前にまほら武道会の時にアスナさんにそろそろ話してもいいかなって言ってたでしょ。それで気になったからタカミチに聞いておこうと思って》

《そうか……ネギ君はその薬が何か殆ど分かっているんだね。その予想で正しいよ。それでネギ君はアスナ君に状態を聞いてもしそうだったらアスナ君自身の意思を確かめるつもりかい?》

《そうしようと思ってるよ。僕には……アスナさんの過去にどんなことがあったかはアスナさんじゃないからわからない……けど、過去に何かがあったとしても今のアスナさんなら乗り越えられると信じてる。何かあっても大丈夫!ってアスナさんなら絶対言うと思うんだ》

《大丈夫……か……。そうだね、アスナ君ならそう言うかもしれないな。その薬をどうするかはネギ君が決めればいいよ。ネギ君、アスナ君の詳しい事を話すのはアスナ君も含めて直接会ってからでいいかな?》

《分かったよ、タカミチ。アスナさんにもし症状があるようだったらそのままでいるかどうか聞いてみるね》

《ああ、それでいいよ》

《うん。じゃあまた連絡するね》

「フ……。ネギ君には……驚かされるな……」

飛空艇の船室の椅子の背もたれに身体を預けて呟く。

「どうしたんだ高畑先生?ネギ先生から通信か?」

「ああ、そうだよ」

「そうか……ネギ先生に何か驚かさせられる事でもまたあったようだな」

「全くだ……。本来僕がやるべき役目すらやっているよ……」

「これから高畑先生も誰かに個人的に会いに行くんだろう?」

「それぐらいは……やらないとね。大人として少しは力にならないと示しがつかないさ」

「良いところを見せてくれる事を期待しているよ」

「ああ、もちろん。教え子の前だしね」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月14日、7時頃、ヘラス帝国首都ヘラス城内某所―

タカミチは絶対飲ませないとダメって言わなかったし多分飲ませる必要はないと思う。
ラカンさんは飲ませるべきだって言ってたけど……。

「アスナさん、最近何か変な事ないですか?変な夢を見たりとか変な幻覚が見えたりとか……」

「へ?な、何の話?」

「いえ……そういう事が無ければ良いんですが……」

「あ……あるわよ、あるある!渋いオジサマとかクウネルさん達とかが周りにいたりして結構チヤホヤされたりする変な夢で……。あれ?……私もしかして欲求不満……そんなまさか……」

どういう記憶処理の魔法だったんだろう……。
魔法世界に来ると思い出すようになってたのかな……。

「やっぱり……そうですか」

「やっぱりって何よ、ネギ」

「僕にも……詳しいことはわかりません。アスナさん、その夢は恐らくアスナさんに実際あった過去の出来事です」

「私の……過去?」

「はい……そのまま放っておけばいつか思い出すかもしれません。それで、ここにその夢を見なくする薬があるんですが……アスナさん、飲みますか?」

「え?……そんな事いきなり言われても……うーん……そうね……私が夕映ちゃんみたいに記憶喪失だっていうならそれは思い出した方がいいに決まってるじゃない!変な夢だけど」

「……分かりました。この薬は無かった事にしておきますね」

「ネギ、その前にその薬一体誰から貰ったのよ」

「ラカンさんです」

「あの変態から!?絶対ダメよ!そんなの飲んじゃ!きっと惚れ薬に決まってるわ!あのおっさん私に会った瞬間胸触ってくるような変態なのよ!」

あーそうか……確かにそんな反応しても仕方ないか……。

「あはは……そうですねー。捨てておきます」

「全くもう!ネギを使ってそんな変なもの飲ませようとするなんて!」

「ラカンさんにはこの事言わないで貰えますか?」

「この事って薬飲まなかった事?」

「……はい。きっとラカンさんとしては飲んで欲しい理由があるんだと思うんです。アスナさんが今言ったようなそういうのとは全く関係なく真面目な意味で」

「うん……別にいいわよ。飲まなかった事わざわざ言ったりしないわ」

「はい。最後に確認ですが、アスナさん……もし思い出した記憶が、いっその事思いださなかった方が良かったものだったとしても大丈夫ですか?」

「何言ってるのよ、そもそもどんな記憶なのかもわからないのにそんな事心配してどうするのよ。嫌な記憶や思い出なんて今の私にだってたくさんあるわよ。今更1つや2つ増えた所でどうってことないわ。大丈夫よ!」

「……アスナさんならそう言うと思いました。大丈夫ですよね。タカミチがオスティアで直接話したい事があるって言ってました。今僕も良くわかってませんがそれまで待ちましょう」

「高畑先生がオスティアで?……うん、いいわよ。皆でどうせお祭りに行くんだし。私は賞金首のままだけど」

「僕もですよ」

のどかさんは明後日にはアリアドネーに着くからドネットさんがセラス総長とまた手配してくれる事になってる。

「そ……そうだったわね。知ってる?美空ちゃんに言われたんだけど私日本円で240万なのよ!?」

「僕は4800万ですよ……」

「う……高いわね……。ネギ、いい?絶対人前であの変装は解いちゃだめよ」

「分かってます。任せてください」

「よろしい!」

やっぱりアスナさんは思った通りだったな。
あんまり考えてないだけかもしれないけど……。
僕も今日と明日の試合が順調に行けば、明後日1勝だけすればそれでナギ・スプリングフィールド杯出場権が確定するから、頑張ろう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月15日、12時頃、アリアドネー魔法騎士団候補学校、廊下―

ネギ君とコタロ君結局未だに一度も負けてないし、それどころかこの数日で何か更に強くなってるし凄い凄い!
明日にはナギ・スプリングフィールド杯の出場権が確定するよ!
3-Cは全員ネギ君があの見学に来たネギ君って分かってたし、そうでなくても人気絶大だったから10日にファンクラブ加入の為の魔法郵便を拳闘協会に送る時女子寮は戦場だったよ……。
私も頑張って送った……でも1桁はどう考えても無理な気がする……。
それ以外だと魔法の実技では皆して魔法の射手のコントロールを真剣にやり始めるようになっちゃったし、完璧にネギ君の影響受けてるねぇ。
放課後にはネギ君の中国拳法の師匠さんの古菲さんが来て教えてくれたりするしアリアドネー魔法騎士団候補学校も少し変わったような。
そんな中……私達寮生が遠い外国のお祭りに行くなんて無理だなぁって思ってたんだけど掲示板にどうも人が集まってるなって気になってみてみたら……。

[オスティア記念式典における栄えある警備任務を諸君らの中から募集する。人数の上限は6名まで。志願者多数の場合は今週末選抜試験を実施する]

ええええ!?
こんなおあつらえ向きな企画が!
一個分隊の人数かな?

「ユエ!コノカ!何か都合良いね!」

「はいです……」

「はーオスティアに行けるんやねぇ」

でもこの2人は……これに志願しなくてもオスティアに多分行くんだよねぇ。
選抜種目はペアでの箒ラリー……一緒に出てくれる人……。

「コレット、一緒に志願するですよ」

「え?ユエ?でもでもっ!」

「コレットにはお世話になっているです。それに一緒に行けた方が良いですよ」

「ユエ……。う、うん、ありがとう!」

「夕映、コレット、頑張りや!」

「おや、ユエさんとコレットさんも出るのですか?」

「委員長!?って事は委員長も?」

「もちろんです。まあ枠が6人分あるのですから私とビーは余裕ですわ」

「お嬢様、油断は厳禁ですよ」

「わ、分かっていますわ」

「た……確かに、委員長達の実力なら余裕そうだぁ……」

で、でもまだ4枠残ってるっ!

「選抜種目は2名のペアでの箒100kmラリーなんやね」

「魔法による妨害自由、但し直接攻撃は厳禁……ですか」

「うーん、基本的に武装解除の撃ち合いになるねぇ。正直凄惨な脱がし合いになりそうだけど!女子校なのを良い事に!」

「何を元気に言っているですか。コレット、これまで通り特訓ですよ!」

「ユエ!うん、頑張ろう!」

「はい!」

私はこの日から時間はもう今日を含めて4日しかないけど箒の飛行訓練と武装解除、障壁の使い方をユエと一緒に頑張ることにした。
実際志願者はすぐたくさん出てきたから放課後は練習する生徒達でいっぱいだったよ。
でも、なんとかして絶対オスティア行きを手にしてみせるよっ!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月16日、13時頃、アリアドネー国際空港―

予想通りっていうかネギ君と小太郎君はさっき午前中最後の1勝を軽く決めてナギ・スプリングフィールド杯予選出場権を獲得したスよ。
何より凄いのが25試合全戦全勝っていう快挙だな。
ま、これで試合も終わりかっていうとこの後も協会からの要望であと何日かは試合するみたいだけど。
……それにしてもラカンさんに修行付けてもらったからなのか、この数日でまた変に強くなってたのには驚いたけど、完璧に発揮してはいなかった感じスね。
実際全力出すほど相手が強くない……いや、ネギ君達がおかしいだけか。
どーせまた常識のラインが異常に高くなってるんだろうなー。
アスナの変態観察記録によるとラカンさんはその場の思いつきの技が酷過ぎるそうで、ラカン適当に右パンチ!とか適当のくせに超巨大クレーターレベルの拳の跡が砂浜に残るとかなんとか……。
ネギ君の新たな必殺技に、ってこれまたてきとーに全身を光らせるエターナルネギフィーバー!ってのはただの超高性能爆弾みたいな感じだったらしい。
……くーちゃんはそんなバグってる人に修行つけてもらってるネギ君達の試合を見て「私もこうしてはいられないアル!」って修行に励んでたのは……いい事なんだろー……なぁ?
かと思えば毎日早朝どっか行ってた桜咲さんと葛葉先生は昨日何故か魔獣の森に入ってちょっくら竜種薙ぎ払ってきたらしいし。
マジ意味わかんねー!!
何そのデケェ角?持って帰ってきてどうすんの?って感じだった。
実際討伐証明に必要なんだろうけど。
……まあアリアドネーでも毎年この時期定期魔獣討伐の為の部隊が結成されるらしく、桜咲さんもなんたら剣弐の太刀とかいう技を実戦で使用してみたかったから丁度良かったって事らしい……マジ神鳴流パネェわ。
下位種だから楽だったって話だけどそういう話じゃねースよ。
本気だしたら森なんてあっという間に焦土にできそうな人達だから分からなくも無いけどさ。
なんていうか結婚できるんスかね……怖くてやだろ、旦那さん。
そりゃあまほら武道会でゾロゾロいた蓑笠集団の人達含めて全員美人だったけど。
このかのお父さんドン引きだったし……。
……にしてもこんな万国びっくり人間達に囲まれてても一般人の感覚を失わない私って意外と頑張ってると思う……いや……特に頑張ってないけどさ……。

と、ぼーっと考え事してたら、丁度のどかとクレイグさん達が乗ってる飛空艇がアリアドネー国際空港に着いたみたい。
桜咲さん達ものどかに直接会うのは丁度1ヶ月振りだろな。
まさか顔が骨格から変わってるって事は無いだろうけど雰囲気は本好きから冒険者の様になってるのかね。
乗客もどんどん降りてきてるからそろそろ来るだろ……って出てきた。
ドネットさんが手を軽く上げてこっちをアピールしたからすぐ気づいてやってきた。
すげーマジもんの冒険者って感じ。
拳闘士の試合とかでも見た事あるけどホントRPG的格好そのものだな。

「ドネットです。皆さん、遠いところわざわざのどかさんとここまで一緒に来てくれてありがとう。感謝するわ」

「クレイグだ。礼には及ばねぇさ。俺達もオスティアの祭りには丁度行きたかったしな。それよりほら、ノドカ嬢ちゃん、皆に挨拶すんだろ?」

「は、はい!皆さん、お久しぶりです!今まで心配かけてごめんなさいっ」

おお、何か本屋というにはアウトドア派な雰囲気があってこれだともうあのネーミングも終わりだなー。
格好は本の中のキャラクターみたいな感じになってるけど。

「元気そうで良かったわ、のどかさん」

「のどか、おかえりー」

あ、おかえりは何か違うか。

「のどかさん、ご無事で何よりです」

「のどか、久しぶりアル!」

そんなこんなクレイグさん達とも挨拶兼自己紹介をしつつ、空港で長話ってのもアレだし、ホテルに一旦戻った。
のどかは着いて早々ドネットさんとまたアリアドネー魔法騎士団候補学校に向ったから適当に手続きして、ネギ君を除けば最後の賞金首からの削除するんだろうな。
んでクレイグさん達はどうなったかっつーと、空港には来ずにホテルで待機していた葛葉先生が部屋を既に取ってて、その部屋の鍵を渡すのと一緒に色々堅い挨拶してた。
高音さんが一緒だと更に堅さが上がるスねぇ……。
そのまま私達が滞在してる一番広い部屋にクレイグさん達を呼んで色々話したわ。

「ほんっとう、ノドカちゃんには助かったよー」

「うん、ノドカの罠発見能力は一級品よ」

「あの年で大したもんだ」

「……普通どんな罠があるんスか?」

「そうね、落とし穴とか天井が落ちてくる罠とか巨大な鉄球が転がってくる罠とか入ったら閉じ込められてしまう罠とか一杯よ!」

はっはー!正直そんなベタな罠冗談にしか聞こえないけど多分マジだから洒落にならねー!!
それを回避できるのどかもどうかしてるけどさ!
つーか昔そんな訳分からん遺跡作った人達って頭おかしーだろー!

「命がけッスねー……」

「いざとなったら無理やり破壊したりするんだけどねぇー。そういうミソラちゃんも南極に行ってきたんでしょ?」

クリスティンさんって軽いテンションだなー。

「あー、まあそうスね。高い魔法具使ってたんで全く寒くなかったスけど」

「そうだとしてもノドカの周りの人達は皆凄いわよー。例のネギ君とコタロ君の試合私達も見たけどあれで10歳なんでしょ?」

「ああ、あれには驚いたぜ……。信じられない子供だな全く」

いや、私もお前達のような子供がいるか!って感じスよ。

「旧世界ってそんな凄い人達ばっかりなのかと思っちゃったよー」

「ネギ先生と小太郎君は成長速度が少し異常ですから……」

桜咲さんに言われてもなー!

「刹那ちゃんも凄く強い剣士なんでしょ?」

「いえ……私はまだまだで……」

そんな桜咲さんは昨日竜種を捌いて来たけどねー。
この場では言わなかったけど後でこっそりクレイグさん達にこの事言ったら超驚いてた。
呆れた顔が拝めたスよ。
ちょい自信失いそうだったから悪いことしたなって反省。
遺跡って潜ればそんな簡単に財宝とか眠ってんのかとか聞いてみたら普通に埋まってるらしいね。
実際金品ゲットしまくったんだと。
こっちじゃ遺跡は潜って探索するもんだけど地球じゃ遺跡なんて文化遺産で保護する対象なんだからマジ文化違いすぎるな。
古墳にふざけた罠とか滅多に無いし保護しやすいってのもあるんだろうけど。
クレイグさん達のこれからの宿泊費やらオスティアまでの旅費は完全に麻帆良で……というか高畑先生が持つことになってて、その話を葛葉先生がしたらクレイグさん達は「そこまでしなくて良い」って言ったけど葛葉先生の堅さの前には無駄だった。
のどかの面倒をここまで無事に見てくれてたんだから当然っちゃ当然スね。
その後も色々話して、ネギ君達の所にラカンさんがいるだとか話したら「あの伝説のラカンさんがっ!?」ってマジ驚いてた。
魔法世界だとそういう認識なんスねー。
高音さんと愛衣ちゃんもラカンさんがネギ君達の所にいるのを知った時似たような反応だったから無理もないけど。
のどかがホテルに帰ってきてみれば、このかとゆえ吉に会ってきたみたいで図書館探険部3人がようやく集合だね。
唯一残ってた仮契約カードものどかの手元に戻ってアデアット披露してくれた……んだけど。
突然慌ててなんか本をパタンと閉じたー!
……のどかによると鬼神の童謡と読み上げ耳っていう魔法具、それにアーティファクトのいどのえにっきを組み合わせてみた……っていどのえにっきってなーに?って私が思ったら高音さんと愛衣ちゃんは知ってたみたいでマジ驚いてた。
相手の心を読める凄く珍しいアーティファクトなんだとさ。
なーんかもう小太郎君ので諦めてるけどネギ君と仮契約すると異様な性能のアーティファクト出すぎだろー。
3-Aだったら……特にハルナとか朝倉が知ったら絶対ネギ君に飛びかかる、間違いない。
今までバレなくて良かったスね、ネギ君。

今後の予定はゆえ吉の学校でオスティア記念式典の警備任務のために100kmの箒競争するイベント……あの学校の制服で街中飛ぶとか羞恥心何処かに吹き飛んでるな……うん。
武装解除使うらしいし。
というか武装解除って実際たつみーに使ったらどうなるんだろーな。
ホルスターにしっかり固定されてたら拳銃吹き飛ばず服だけ吹き飛んで武装解除にならないと思うんスけど……。
絶対武装解除の魔法開発したの男だと思う……それを常識にしたのも然りって感じだなーきっと……。

ま、何にしても最大のイベントはそのオスティア終戦記念祭に皆で行く事スよ!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月18日、18時頃、オスティア総督府総督執務室―

高畑・T・タカミチは新オスティアに龍宮真名と共に9月17日に到着し、ホテルの確保などを迅速に行った後、高畑にとっては旧知の間柄、メガロメセンブリア元老院議員であり、現オスティア総督でもあるクルト・ゲーデルとの面会の為のアポイントメントを取ったのだった。
これは危険性を伴う行動ではあるが、高畑はネギ・スプリングフィールドの名前をまだ出してはいないし、ある意味現状で色々鍵を握っているとしたらそれはやはりクルト・ゲーデルしかいないのだ。
そしてオスティア記念式典も近いにも関わらずたった一日で折り返し連絡をよこして来た事に高畑は

「クルトの策士としての能力には気を付けないとな……」

と呟いたのだった。
そして場所はオスティア総督府総督執務室である。

「久しぶりだな。クルト」

高畑はポケットに手を入れたまま総督執務机に座っているクルトに声をかけた。

「久しぶりですね。突然どうしたのです?タカミチ、珍しいではありませんか」

クルトは仰々しく席から立ち上がり挨拶を返す。

「……要件は大体お前ならもう分かっているんじゃないのか?」

「それはそれは買いかぶりすぎですよ。なんの事やら」

クルトはわざとらしく肩を竦め両手を上げて答える。

「まあ……そういう反応をするだろうな。クルトの話術に嵌められるのは困るが……それをいちいち気をつけるのも面倒だ。はっきり言おう」

「ほう、それは助かります。私も忙しい身なので」

「クルト、ゲートポート破壊容疑で指名手配をかけられている赤毛の少年と7人の少女達が麻帆良学園の出身だと分かっているな?」

「分かっていたとしてどうだというのですか?私だけの意見で指名手配をかけたられはしませんよ」

「それぐらい分かっているさ。……分かっているものとして話を続ける。重要なのはその赤毛の少年が、英雄ナギ・スプリングフィールドとウェスペルタティア王国最後の皇女、アリカ・アナルキア・エンテオフュシアとの間にできた子供、ネギ・スプリングフィールドである事についてだ」

「おお、そうだったのですか?それは知らなかった」

「ああ、そうか。彼がゲートポート破壊の偽造映像を残され犯人に仕立て上げられたのはフェイト・アーウェルンクスの仕業だが、実際に指名手配にしたのはメガロメセンブリア元老院だというのは調べがついている。一つ目の話だが、オスティア記念式典での総督としての権限を行使してネギ・スプリングフィールドと7人の少女達の指名手配を解除して欲しい」

「くっはっはっは!私はあれが偽造だなどという証拠は全く知りませんよ。しかし……タカミチ、お前が来るとはな」

「返答はまだいい。まだ続きがある」

「ええ、どうぞ」

「ネギ・スプリングフィールドは、魔法世界の崩壊の可能性について気がついているぞ」

「!?何だとっ!?この事はメガロメセンブリアでも上層部の中の一部しか知らない……。タカミチ、お前も知らない筈だっ!何故!……まさかアルビレオ・イマがっ……」

ここでクルト・ゲーデルは突然取り乱した反応を顕にした。

「違う……。彼は独力で気がついた。それも全く驚きの方法でな。しかしやはりお前は知っていたんだな……。彼がオスティア終戦記念祭、それもナギ・スプリングフィールド杯に出場をすることはお前なら既に知っているだろう。俺が来たと言うからにはクルト、お前は彼に接触する気があったに違いない」

「フフフ……まさかタカミチ、貴様がわざわざそんな情報を持って出張ってくるとはな」

「教え子の前で少しは良いところを見せないといけないからな。……大方終戦記念祭の最後にでも彼を招待して、メガロメセンブリア元老院の事を教え唆し、仲間という名の傀儡として引き入れ利用しようと思ったんだろう?指名手配されている少女達を交渉材料にしてでも」

「久しぶりに会ったと思えば……随分抜け抜けとそんな根も葉もない勝手な事を言いますね」

「顔に出ているぞクルト」

「ッ!」

「らしくないじゃないか。冗談だ」

「ぐっ……お前に一本とられるとは私も動揺しているようだな……」

「クルト、お前がネギ・スプリングフィールドに今執着するのはタイミングが違う。それよりも廃都オスティアの休止しているゲートポートの確認をするべきだ。フェイト・アーウェルンクスは近いうち……例えばそのオスティア記念式典で各国勢力が集まる事で警備が薄くなる時を狙ってくるかもしれない」

「馬鹿な!?あそこには並の者では入り込めるわけが」

「並の者ではないからゲートポートを全部破壊できたんだろっ!!……お前がオスティア総督としてここの警備の力を充分理解しているだろうが、だからこそ過信するな」

「…………何もオスティアの事を知らないお前に何が分かるッ!!」

「分かるわけがないだろう!!だから確かめに行く!」

「はっ!くはははは!!貴様が確かめに行くだと!?流石は悠久の風の高畑・T・タカミチだなぁ!ふざけるなよっ!!」

「どっちがッ!!」

執務机が吹き飛びクルトと高畑は突如として殴り合いを始め

「私がッ!がぁっ!……どんな思いでッ!」

「ぐぁっ!……それがお前の選んだッ!」

双方会話をしながら強烈なストレートを繰り出し

「やってきたとッ!」

「道だろうッ!!」

……数分間に渡り得意の居合い拳を使うでもなく、神鳴流の剣を振るうでもなく、ただただ殴り合い、そこにあるのは大の大人の喧嘩、それだけだった。
そしてようやく頭に上った血がお互い下がって息が整うまで睨み合いが続いたところ

「クルト様!?一体何事ですか!高畑・T・タカミチ!一体何をッ!」

殴り合いの事態を聞きつけた部下が駆けつけてきたのだった。

「何でも無い!下がっていなさい!誰も入れるな!」

「!?はっ!分かりました!」

クルトが檄を飛ばし、直ちに入ってきた部下は退出し扉を閉めた。

「はぁ……はぁ…………いいだろう。タカミチ、要求はそれで終わりか?」

「はぁ……はぁ……いや、最後にもう一つ、人造異界の崩壊・存在限界の不可避性の論文の原本だ。これは……ネギ・スプリングフィールドから頼まれている資料でね……」

「ほう?……独力で……気がついたにしては順番がおかしいようですが……よく原本がある等と思いましたね。確かに現存するものに違和感を感じてもおかしくはありませんが……どこを探しても見つからない筈ですから」

「やはり……あったか……」

「フッ……なるほどなるほど、オスティア記念式典中の総督権限での彼等の指名手配の解除、廃都オスティアへの探索許可証の発行、人造異界の崩壊・存在限界の不可避性の論文の原本。確かに私でなければどれも不可能でしょうね。但し、私からも条件があります」

「何だ?」

「直接ネギ・スプリングフィールドに私も会わせて貰いましょう」

「その交渉は本人にするといいさ」

「はっ!どうやって!?」

「これだ」

そう言って取り出しで見せたのは超鈴音が作り出した端末である。

「何?そんなものでヘラス帝国と直接通信ができるとでも?」

「ああ、できる。試したほうが早い」

高畑は端末を起動させ、ネギ・スプリングフィールドとの個別通信を開始する。

「クルト、これに手を置け。通信方法は念話と似たようなものだ」

「いいでしょう」

《ネギ君、紹介したい人物がいる。オスティア総督クルト・ゲーデルだ》

《タカミチ?ラカンさんが言ってた通りオスティアの総督さんと会ってたんだね》

「まさか……本当に繋がっているだと……」

《これは失礼……初めまして、オスティア総督クルト・ゲーデルです。ネギ・スプリングフィールド君こんばんは、いえ、ヘラス帝国ならばこんにちはといった所でしょうか》

《初めまして、クルト・ゲーデル総督。ネギ・スプリングフィールドです》

《細かい話をしたい所なのですが、今それは省くとしまして、ネギ君、オスティアに来て私と会っては貰えませんか?直接話したいこと、見せたい事があります》

《……はい、構いません。元々オスティアには行く予定でしたしお願いします》

《ネギ君、指名手配の件、廃都オスティアの探索許可、例の論文の原本、全て解決したよ》

《ほ、本当!?タカミチ!ありがとう!クルト総督もありがとうございます!》

《……まだ指名手配は解除できませんがね……。協力はさせてもらいます》

《ネギ君、ちょっとまだ用があるからまた後で》

《うん、分かった!》

「声を聞いただけだとただの子供といった感じでしたが……本当に気がついているのか?」

「ああ、本当だ。それに話し方は関係無いだろう」

「……それもそうですね。しかしこの端末は何だ?念話のようで念話ではない。異常すぎる」

「詳しい事は分からない。作成者はネギ君の生徒の一人だ。気になるなら旧世界に直接行くといい」

「こんな物をただの女子中学生が?」

「そういう所なんだよ。麻帆良学園はな」

「旧世界とは思えない異常さですね。なるほど、確かにそんな場所なら不思議なことがあってもおかしくはないかもしれませんね」

「クルト、さっきの約束、強制証文で契約しないと駄目なんて事はないだろうな?」

「心配ならしておきましょうか?」

「いや……いいさ。そうだ、クルト、さっき流したが、この世界は本当に人造異界なのか?」

「は?人造異界だと気づいてたのではないのですか?その論文まで読みたいというのですから」

「いや、ネギ君はこの世界が崩壊する可能性はあるとは言ったが、論文の表題が人造とついているが、魔法世界が人造だと決め付けるのは早いと言っていた。驚いた事に彼の師匠もそう言っていたらしい」

「なっ……。子供の戯言ではなくその師匠までだと?それは一体誰ですか、やはりアルビレオ・イマ?」

「エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだ」

「不死の魔法使いだと!?ナギが倒した……はは、倒したのは嘘という事でしたか。流石はナギですね。それに人造ではないですか…………少々麻帆良学園に興味が出てきましたよ」

「クルト、それは重要な事なのか?」

「我々の間ではこの世界に住む人類・亜人間のうちメガロメセンブリア6700万人以外は全て幻想でしかないというこの厳然たる事実の前に為す術は無いという見解でしたが、それが人造でないとするとこの認識自体が根本的に間違っていると言うようなものなのですよ」

「幻想だって!?」

「この際ですから話しておきましょう。……魔法世界が崩壊すれば、仮に旧世界に脱出を図ってもメガロメセンブリア6700万人以外は結局全員消滅する運命にあるのです。これはナギやアルビレオ・イマも知っていた事です。しかしこの20年彼等は解決することはできなかったどころかナギに至っては何処かへ消えてしまった。ここで、かの不死の魔法使いの意味深な発言……重要でないと誰が言えますか」

「そんな事が……。それは重大な事だな……。いずれにせよ一度麻帆良学園に戻れば何か分かるかも知れない」

「完全なる世界の残党であるフェイト・アーウェルンクスらがゲートポートを破壊し尽くしておきながら、あの魔法災害から丁度20年経ち稼働する可能性のある廃都オスティアの休止中ゲートポートを狙わない訳が無いですね……これは私も確かに過信していたようです」

「当面の最大の敵は奴等だな」

「それは魔法世界共通です。ですがその次は……」

「それは後だ、クルト」

「分かっている。もし……この絶望的事実を覆せるというのならば……その後は必ずッ」

クルトは右手の拳をきつく握り締め何処かへの恨みを顕にした。

「クルト……」

「……フッ……それはそうと怪我は大丈夫ですか?」

「お前こそな。今日はこれで俺は一旦戻るとするよ。そうとなれば準備が必要だからな」

「私も記念式典前に仕事が増えた」

「……仮にもまだ子供の彼等に良いところを取られるのはまだ早いさ」

「当たり前だ。たかが10歳の少年に全てを任せられる筈も無い」

そのまま総督執務室を後にした高畑はホテルに戻ったが、激しく殴り合った為戻った瞬間龍宮真名に驚かれたのは余談である。
……こうして気がつけばメガロメセンブリア、アリアドネー、帝国の三大勢力がある一点に向けて動き出すこととなったのだった。



[21907] 51話 麻帆良の謎(魔法世界編11)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/01/19 08:30
―9月19日、13時頃、アリアドネー魔法騎士団候補学校―

昨日はマジ驚いた。
高畑先生が個人的に会いに行ったのがなんとオスティア総督だっつー話だからね。
その結果ネギ君達の賞金付きの国際指名手配もオスティア記念式典中に解除できて、ネギ君が読みたがっていた論文の原本もゲット、廃都オスティア探索の許可も取れる事になったらしい。
高畑先生スゲーわ。
アスナは「流石高畑先生ね!美空ちゃんもそう思うでしょ?」って予想通りの事言ってきたから同感つっといた。
で、いつオスティアに行くのかって話になったんだけど超急ぎで明日高速艇に乗って皆で出発スよ。
思い立ったが吉日って奴だな。
流石にテオドラ皇女殿下が一緒にオスティアに行くことはなくラカンさん含むネギ君達だけが個人飛空艇で向かうらしい。
大体明日それで出れば皆9月23日には着く予定。
で、それに当たってこのかはアリアドネー魔法騎士団候補学校を休学っていう形を取って……ゆえ吉はっていうと今まさに箒ラリーに出る所。
ちゃっかり私達、また魔法騎士団候補学校に入れてもらっちゃってラリーの様子をモニターで見れるんスよ。
上位6人までって事らしいからある意味3組目と4組目のペアの凄惨な妨害バトルになること間違いなしだな。

[[それでは栄えあるオスティア記念式典警備隊選抜試験を始めます!ではまず志願者の紹介を!]]

栄えあるのかー。

[[3-C委員長エミリィ・セブンシープと書記ベアトリクス・モンロー!]]

「委員長頑張ってー!!」

エミリィ委員長人気かーってかここもトトカルチョやってんのかい!!
そりゃ頑張れって言うわな……。

[[3-F、J・フォン・カッツェとS・デュ・シャ!]]

[[3-G、マリー・ド・ノワール、ルイーズ・ド・ブラン!]]

[[3-J、メアリー・クロイス、アンナ・ヴァンアイク!]]

この後も何組も点呼が続いて……最初組順に点呼してたのかと思ったらあちこち戻ったりして10を越えた始め最後に……。

[[そして最後に3-C、ユエとコレットのチーム!]]

出てきた出てきた。
何か凄い泥だらけなんだけど今の今まで練習してたのか?

「夕映、コレット!頑張りや~!!」

「ゆえ!コレットさん!頑張ってください!」

のどかはアリアドネー来てすぐゆえ吉の勇姿を見る訳スね。
のどかに会ってもまだ記憶が戻らないあたり、やっぱ少し時間的なものかきっかけが足りないんだろうな。

「ゆえ吉!コレットさん頑張れー!」

「夕映、コレット、頑張るアルよ!」

「はいです!」

「頑張りますっ!」

[[では各選手位置についてっ!…………スタートッ!!]]

レース開始スねー。
皆一気に鳩の群れみたいに飛んでった。
何か見てるとこの前南極に本気で飛んでったの思い出すわー。
ちょっとあの時必死だったのは忘れられない思い出だなー。

[[ご存知のとおりレース中は妨害自由!10箇所のチェックポイントを通過した後、ペアでスタート地点まで帰ってゴールです!!]]

10箇所のチェックポイントがあるってことは、裏を返せばある程度ルート無視してもOKって事なんだろうけど……どうなんだかなー。
魔獣の森はやめといた方がいいだろうけど。
スタートダッシュ決めて最初の順位状況はっていうと……。

[[現在のところ1位はエミリィ&ベアトリクス組、2位フォン・カッツェ&デュ・シャ組そして3位にはコレット&ユエ組!]]

丁度3組目までに入ってるからいけ……おお、4位以下が猛烈に武装解除乱射されてる!
マジコエー!!
なんつーかとりあえずは3位VS以下全員みたいな……。
逃げるに限るだろー。
実際よくまあ箒の上に立った状態でしかも後ろ見て障壁張りながら飛べるなー。

「ゆえ、凄い……」

「夕映は記憶が飛んでしもうてから学校の勉強が好きになったんよ」

「そうなんだぁ……」

親友ののどかは何か感慨染みてるけど、のどかも短期間の冒険で雰囲気少し成長したからなぁ。

……にしても市街に男子共が大量発生してるあたり……下から覗く気か……しょうもないスねー……。
武装解除の飛ぶ方向を注視しまくってるし……。
クレイグさんとクリスティンさんは午前中この事聞いて「ちょっと散歩出てくるわー」って言った瞬間アイシャさんにモロに沈められてたからな……女性ばっかの私達の前でその発言はマジ自業自得スよ……。

ゆえ吉達は結局埒があかないから加速して一気に距離を引き離す作戦にでたわ。
武装解除喰らった所でまー我慢して飛べばいいだけっちゃ飛べばいいだけだからなー。

[[都市外壁を越えた時点で先頭はエミリィ&ベアトリクス組!]]

「流石委員長!」

「よーし絶対1位取ってよー!!」

外野は気楽スねー。
後ろの方がもつれてたもんだから1位2位3位の間がそこそこ空いてる。
まあ数十秒とかそれぐらいの差だろうけど。

[[コースはいつも通り市街を抜けた後魔獣の森を大きく周り再び市街に戻ります!]]

魔獣の森では桜咲さんが鷹竜?の下位種一体を葛葉先生とザックリやって討伐済みらしいけど、別に一体しかいないって事は無いだろうから安全性的にはどうなんだろ。
どういう竜だったのか桜咲さんがあんまり乗り気じゃなかったけど、一応説明してくれた所によると常に風の障壁があるからなんたら剣弐の太刀の使用は必須とか一体どういう事やら……。
ま、要するに障壁を無視して本体を直接切れる攻撃らしい。
ちょいマジで信じられないレベルなんスけど……。
3位のゆえ吉達も加速した効果がようやく出てきて4位以下と少しずつ差が出てきてる。
ま、これなら余裕だろー。
しばらく数分間順位変動無しかと思ってたら……。

[[おおーっと!これはマズくは無いでしょうか!?4位以降が魔獣の森のショートカットを試み始めました!!]]

「げっ!マジかー!」

「危ないえー」

魔獣に出会わなければどうということは無いとか言うのは勝手だろうけど、もし会ったらどうするかとか考えてないだろー!
そんなにオスティア行きたいんスかー!
森の中にまではサーチャーは無いからどうなってんのかサッパリわからんけど変なもんを拾わないことを祈る。
……んで、また数分経ったと思ったら

「あ、あれは!?」

「げげっ!?」

[[これは竜種っ!?なんとチェックポイントを無視して1位のエミリィ・セブンシープ組の所にショートカットを図った集団が竜を連れて乱入したー!!]]

6人ぐらい出てきたけど……後ろにやっぱり変なのいるしー!!
しかもショートカットの仕方がレースの事完全に放置な感じでエミリィ委員長の所かい!

「あれは……この前の翼竜と同種です……」

「桜咲さん、それマジすか……」

「はい……よく覚えていますので」

「せっちゃん、皆危ないえ!」

教員の先生達が一応動くみたいだけど、栄えあるのか何なのか知らんスけど、その魔法騎士団の選抜試験で堂々とショートカット働くようなモラルじゃそもそもアウトだろー!

「あ、委員長!」

おわっエミリィ委員長とベアトリクスさん勇者すぎるっ!
竜種に攻撃魔法放って挑発して逃げてきた6人先に行かせた!?
1分ぐらいで2位はもちろんゆえ吉達もそこに何も知らずに追いついちゃうんだけど……。

「すいません、あなたが桜咲さんでしょうか?」

「あ、はい、そうですが」

「申し訳ないのですが教員の箒と一緒に出て貰えないでしょうか?討伐隊を用意する準備する時間が無くて……」

「せっちゃん!」

「はい、大体わかりました!私でお役に立てるならば!」

「感謝します!」

おおー、桜咲さん行くんだ……。
今日葛葉先生は明日の旅行手配とかでドネットさん達とここにはいないからなー。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月19日、14時13分頃、Silva-Monstruosa外周―

ユエと一緒に箒ラリーに出場して今3位!
この状況なら行けるよー!

「ユエ、これならいけそうだね!」

「はいです!」

……このままいけば大丈夫ーって思ってたら何あれっ!?
委員長にビーさん!?
何で竜種に追われてしかも逆走してこっちに来るの!

「コレット!1位の委員長が竜種に追いかけられている経緯はよく分かりませんが助けるですよっ!」

「う、うんっ!」

―加速!!― ―加速!!―

あっ!風の影響で体勢を崩して箒から落ちた委員長の所に竜種のブレスが飛んでく!

「あれはカマイタチブレス!!逃げて!切り刻まれるよーっ!!」

「キャ――ッ!!」

「お嬢様っ!!」

ビーさんが委員長を守る形で障壁を張って構えた……けどっ……!

「委員長っ!ベアトリクス――ッ!!」

―最大加速!!―

えっ!?

「ユエ――ッ!?」

ユエが最大加速で距離を詰めてビーさんと竜の間に入って白紙のままだった筈のネギ君との仮契約カードを盾にしてる!!

「ユエさん!?何故私達をっ!?いえ、何故あなたが竜種のブレスを防ぐ程の!?それはっ、例の仮契約カード!」

「くっ、ユっ、ユエさん駄目です!盾が持ちませんっ!」

「くぅっ!!」

凄い!防ぎ切れそうっ!
なら私は今のうちに委員長の箒を回収だよっ!

「アデアァ―――ット!!」

ユエ!防ぎきった上アデアットできた!
私も委員長の箒を確保っ!よしっ!
翼竜はブレスが防がれたからか様子見てる!

「魔法使いの従者!ユエ・アヤセ!!委員長!怪我は無いですか!?」

「は、はいっ」

「よかった。それなら行けるです!倒すですよ、この魔獣。いいですねっ!」

「な、何を言っているんですかユエさん!?私達がこんなのに勝てる訳がないでしょう!」

「そうです!下位種とは言え、あれはれっきとした竜種です!私達もショートカットして来た皆さんを逃がすので精一杯でした」

「そ、そうだよ!ユエ!委員長達助けるにしてもなんとかして逃げようよ!委員長、箒!」

「コレットさん!」

ユエがアーティファクトで何か調べてるけど……。

「この時期の鷹竜は凶暴で一度狙われたが最後、ただの箒では逃げ切れません。でも、大丈夫、この四人なら切り抜けられる筈です!今まで授業で特訓して来たですから!!」

うぅ……逃げ切れないっていうなら!

「うんっ!」「はいっ!」「分かりました!」

《また攻撃が来るです!障壁展開で散開退避!通信は念話でするです!》

《《《了解!!》》》

2人ずつに別れて翼竜に狙いを定めさせないようにして一定の距離で飛行して作戦を聞く時間を稼ぐっ。

《奴の特殊攻撃はあのカマイタチのみ。問題なのは常にその身に纏うあの風の障壁。私達程度の魔法では全てあれに弾かれるです。ですが、全方向に纏える訳ではありません。隙を突いて弱点の角に攻撃を与えることができれば一時的に気絶させられるです》

《つまり2手に別れて片方が攻撃を与え注意を逸らしている隙に接近すればいいのですね》

《そういう事です。コレット、ベアトリクスと一緒に障壁を全力展開しながら鷹竜の注意を引いて森の中に一旦入ってあの岩山を目指すです!森の中の木々が盾となるので二人ならなんとかなるです!》

《わかった!》《はいっ!お嬢様、気をつけて!》

《委員長は私と先回りして岩山に向かい氷槍弾雨を鷹竜の頭上から撃ち込むです!私がその中を縫って角に短剣を当てそこに白き雷を流し込むです!》

《分かりましたわ!》

《作戦開始です!!》

それでビーさんと一緒に翼竜に軽く魔法の射手を放って注意を引いて森の中に一旦入ったのは良いんだけど……。
わーわー!!
後ろで凄くたくさん木が吹き飛んでるよー!!

「わー!!なんとかなるって思いたいけど怖いよー!!死んじゃうぅー!!」

「うわぁぁー!!」

い……岩山まで後少し!

《準備OKです!二人とも、光を目指してまっすぐ!私が見えたら散開退避!》

《わ、わかったよ!》《はい!》

ユエが見えたっ!

「「散開退避っ!」」

よっし!

《ユエさん!行きますわよ!》

―氷槍弾雨!!―

《了解です!》

  ―フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ―

委員長が時間をかけて用意してた氷槍の雨が鷹竜の注意を作戦通り上方に逸らして、その中をユエが凄い箒捌きで接近!

 ―闇夜切り裂く 一条の光―
―我が手に宿りて 敵を喰らえ―

そのまま短剣を角に突き刺して!
強風で少し離れちゃったけどっ!

     ―白き雷!!!―

決まった!!
ユエの白き雷が鷹竜の片方の角に刺さった短剣に吸い込まれて直接ダメージ!

「うわっ!」

ユエは体勢を崩して地面に激突!
あ……翼竜の角は……折れたっ!
やったぁ!
翼竜はそのまま地面に倒れた!

「やった!やったよ!」

「いたた……復活までにそんなに時間は無いです。このタカトカゲが倒れてる隙に戻るですよ!」

「う、うん!」「ええ!」「はい!」

……もしあの時1人だけ囮になれば残りの3人は確実に逃げられたと思う。
でも、4人の力を合わせたから全員で逃げれた。
もうレースの方は駄目だろうけど、全員生きて逃げられて良かったー。

「はー、無事に逃げれたのは良かったけど、レースはもう駄目だねぇー」

「仕方ありませんわ」

「コレット、一緒にオスティアに行くと約束したのに……」

「ユエ、気にしなくていいよー。皆無事だったんだしさー」

「……はいです」

「ユエさん、コレットさん加勢して頂いたこと感謝しますわ」

「私からも感謝します。ありがとうございました」

「委員長、ベアトリクス、2人も他の皆を逃がす為に囮になったのですから気にする事はないですよ。無事で良かったです」

「そうだね」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月19日、14時28分頃、Silva-Monstruosa―

桜咲刹那は魔法騎士団候補学校職員の箒に一緒に乗って最大加速で魔獣の森に駆けつけたが……

「え?……はい、翼竜に襲われていた生徒4人はその翼竜を一時的に撃退したですって?」

「え?」

「桜咲さん、どうやら襲われていた4人は無事だったようなのだけれど……」

「いえ……一度撃退したという事は気性が荒くなっている可能性があります。ここまで来たなら討伐します」

「本当に任せて大丈夫?無理にやらなくてもいいのよ?こちらが頼んだのだし」

「大丈夫です。任せてください」

「悪いわね……ありがとう。もう見えたわ、どうやらあの鷹竜で間違いないわね」

「はい、飛べますのでここからは私だけで行きます」

「と、飛べるの?」

「はい!神鳴流剣士、桜咲刹那、参るっ!」

桜咲刹那は烏族のハーフ、白い羽を開放して飛び上がり、角が片方折れて既に目標を失い気性が荒くなっている鷹竜に接近し

「はぁぁぁッ!!」

―斬岩剣弐の太刀!!!―

まず翼竜の羽を狙って障壁無視の物理攻撃を繰り出し斬りつける。

「グォォォ!!」

片方の羽の付け根を切り裂かれうまく飛べなくなった鷹竜だが、攻撃をしかけた桜咲刹那にカマイタチブレスを放つ。

「遅いッ!」

虚空瞬動で簡単にブレスの射程から離れそのまま翼竜の背後に周り

―斬岩剣弐の太刀!!!―

「ガァァァ!!」

もう片方の羽にも斬りつけ、続けてもう一度斬岩剣弐の太刀を飛ばせるように心を研ぎ澄ませ気を練りながら、位置を移動し再度剣を放つ。

―斬岩剣弐の太刀!!!―

続けて素早く前脚と後脚に斬りつけ動きを完全に封じた上で、一点に留まり気を自在に操る感覚を研ぎ澄ませ、次の瞬間トドメを放った。

「この竜に罪はないが……済まないな……」

しばし黙祷を捧げた桜咲刹那は翼竜の血を浴びる事なく魔法騎士団候補学校の職員の元に戻った。

「討伐……完了です」

「ほ……本当に一人で倒せてしまうのね……」

「普段から生きるのに常日頃から他の生命の命を貰っているとはいえ……直接奪うというのはやはり…………」

「申し訳ないわ……」

「いえ……私が自分で決めてやったことですから……きちんと向き合わなければなりません」

桜咲刹那がいくら魔獣討伐に行き、竜種を倒した事を周りから凄いと言われても、手放しに喜べはしないのはこう言う事である。
寧ろあまり話題に出さないで欲しいというのが本音であろう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月19日16時頃、アリアドネー魔法騎士団候補学校―

うーん、とんだアクシデントというか、オスティアに行きたいというあまり危険を冒した数人はきつく説教をされる事になって連れてかれてったわー。
ゆえ吉達4人はうまく翼竜を気絶させて撤退することに成功してさっき戻ってきたんだけどこの4人には皆大歓声だったスよ。
4人は何で?って顔してたけどセラス総長がお出まししてその場を収集させるお言葉を述べた。
この選抜試験で選ばれたのはエミリィ委員長とベアトリクスさんを助けはしなかったものの元々2位だった2人と、翼竜を倒したゆえ吉達4人、あとショートカットを図ってない後続の人達で2位3位に入った4人に決定したわ。
6人までの筈が……10人に増えてるけど……いいのか。
それよか学校の先生と一緒に出撃していった桜咲さんは、翼竜どうしたのか知らないけどこっそり戻ってきてたな。
このかが心配そうに声かけて小さい声で二人して会話してるのが見えたけどちょい悲しそうな顔してた。
……やべースよ、この前多分私かなり空気読んでなかったなー!
竜自体が生きてる事には罪はないってのにそれを討伐した本人が超嬉しいなんて事あるわけないじゃんか……。
竜とかファンタジーって感じだけど、これ現実だからなぁ。
楓達がケルベラス大樹林の道中色々あったのは仕方ないにしてもそれとは少し状況が違うスもんねー。
謝っとくか……気にしてませんって言われそうだけど。

ゆえ吉は白紙だった仮契約カードの絵が復活して元に戻ったらしい。
記憶も少し戻ったような戻らなかったようなって感じだけどのどか達は喜んでたしもう少しで戻りそうスね。
オスティア行きはどうすんのかなーって思ったらゆえ吉はコレットさん達と一緒にアリアドネー魔法騎士団の一員として後から向かうって自分で決めたよ。
まあ端末はあるから連絡はしようと思えばできるし、指名手配が取り下げられるかもしれないとはいってもまだだからアリアドネーの庇護下にいること自体は悪くないだろうし、いいと思うスよ。
ドネットさん達も特にそれについて反対もしなかったし。
にしても1ヶ月ちょいの間に皆それぞれ新たな出会いがあったんだなーと思うと妙に感慨深い。
……さーて、私達はホテルに戻ってさっさと荷造りしないとスね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月23日、14時頃、新オスティア国際空港―

タカミチから連絡を受けた次の日、すぐにオスティアへの出発の準備を始めた。
テオ様にはわざわざその為の個人飛空艇を用意して下さった事と、今までお世話になった事のお礼を言ったんだけど「妾も楽しかったのじゃ。それにオスティア記念式典でまたすぐに会えるのじゃから気にするでない。またすぐに会おうネギ」って言ってくれた。
あとダイオラマ魔法球はオスティア記念式典に合わせて持ってきてくれるって。
まだ全然ラカンさんの領域にはどう考えても届かない。
新術を運用できるレベルまでに持っていくでもしないと今の僕の基礎力じゃ到底無理だ。
タカミチからは飛空艇に乗っている途中に人造異界の崩壊・存在限界の不可避性の論文の原本を送ってもらった。
実際読んでみたら、アリアドネーでセラス総長に貰ったのより遙かに詳しく書いてあった。
人造異界の崩壊についての実験法については魔力が込められているダイオラマ魔法球を魔力の無い空間に置いて放置することで観測した結果が述べられていた。
基本的に常に魔力は多い所から少ない所へ緩やかに流れていくという現象があって、特に周りに全く魔力が無い場合それは加速度的に早くなるらしい。
その現象は基本的に両方が同じ魔力の濃度になるまで続くだろうっていう事なんだけど、両方が近づくにつれて流出は遅くなる。
でも、遅くなったとしても魔力の多いほうが形を維持できなくなれば崩壊する可能性は十分にあるっていう事だった。
実際時間設定を数倍にしてあった筈の魔法球は時間差がどんどん無くなっていったところからもこれはほぼ明らか。
崩壊について決定的だっていうのは何処の資料かはわからないけど魔法世界の魔力の濃度をある一定の場所で調べ続けたデータ……多分オスティアなんじゃないかと思うけど、それがあって本当に僅かに薄くなっているのが数値で示されている事だ。
もちろん魔法世界が人造異界である可能性についてもちゃんと書いてあった。
この論文を書いた人は旧世界の魔法使いだったんだけど、まず魔法世界と旧世界ではあまりにも魔法生物の数、魔法植物について違いがありすぎることが指摘されていた。
次に旧世界よりも魔法世界の方が狭い事からこれがダイオラマ魔法球とその外との関係によく似ている事が指摘されていた。
他にも前に僕が思った最初の魔法の起源が古代ギリシャ語とかから始まっているとか色々な根拠からそれを裏付けるような事が書いてあって、自然発生するにしても旧世界からするとあまりにも異常な事と、例の魔法世界最古の王国旧ウェスペルタティア王国の黄昏の姫御子が「この世界が始まったのと同じ力でこの世界に息づく魔法の力を終わらせていくという神代の力」を持っているという伝説に関係性があると考えれば、魔法世界は人工的に造られたと考えるのが妥当で、当然崩壊する可能性がある筈だっていう結論だった。
確かにここまで読むと人造異界だと考えたほうが妥当だとは思うんだけど、「この世界が始まった力」っていうのが完全魔法無効化能力なのだとしたらそれは変だ。
確かめる術は無いけど、魔法無効化能力で魔力に溢れる世界が作れるとは到底考えられない。
大体それで簡単に世界を始められるなら魔法世界が崩壊する事も簡単に解決できることになる。
でも、それは行われていないんだからそれはできない可能性が高い。
その方法が失われているにしても、魔力のない無の状態から魔力を生み出すのに、魔法の術式も何もある訳が無いから。
少なくともやはり魔法世界崩壊の最も根本的な原因は魔力の枯渇という事でほぼ間違いなく、魔法世界が人造異界かはともかく、これについての裏付けが取れたのは大きい。

これからタカミチと合流して、約束してた話より先にまずはクルト・ゲーデル総督と会う。
オスティア記念式典まで時間はあまり無いから廃都オスティアの探索は始めるとしたら明日すぐ早朝からオスティア記念式典開催までの6日間を予定している。
何かがそこで掴めればいいんだけど……。

「ネギ!そろそろ出るわよ!」

「そこでぼーっとしとらんで、置いていくで!」

「あ、うん!今行くよ!」

個人飛空艇発着所を後にして新オスティア国際空港の出口に向かった。
そこで待っていたのは、タカミチと龍宮さん!

「やあ、皆久しぶりだね」

「ネギ先生達、久しぶりだな」

「タカミチ、龍宮さん、お久しぶりです!」

「高畑先生、迎えに来てくれてありがとうございます!」

「たつみー姉ちゃん、高畑先生久しぶりやな!」

「真名、高畑先生、久しぶりでござる」

「よぉー!タカミチ!老けたな!あっはっは!!」

ラカンさんはやっぱりタカミチの背中バシバシ叩いてる……あれ痛いんだよなぁ。

「ジャック……ナギと第一声が同じですよ……」

うん……クウネルさんのアーティファクトでの父さんも同じこと言ってたな……。

「とりあえず、ホテルまで一旦行こう。その後すぐクルトに会うけどいいかな、ネギ君」

「うん、もちろん!」

新オスティアの地図を一旦確認してみたら、何故か浮遊島なのにナイーカ漁港っていう漁港があったりして一体何なんだろうってちょっと不思議。
凄く広い自然公園や湖があったりと自然にあふれてる。
川もあって浮遊島の端からどんどん流れ落ちてるみたいだけどどうなってるんだろう……いくらでも湧くのかな?

「わー、綺麗な所ねー」

「そうですね。発着所に着く前から景色見て驚きました」

「こんな大陸が浮いてるなんて夢みたいねー」

「地球じゃあり得ないですよね」

アスナさんがこのオスティアで何かを思い出す可能性は高い。
それと同時にここにアスナさんを連れてくる事も危険だとは思う……けど、遠いところに居てもらうより近くにいてくれた方が自分でどうにかできるから安心だし、何より近くにいなかったことで後悔しないで済む気がする。
そのかわりいつフェイト・アーウェルンクスが出てくるか分からないから気は抜けない。
最強のラカンさんがいるとは言ってもそれは同じだ。
タカミチが取っていたホテルは国際空港から丁度正反対の地域にあるリゾートホテルエリアにある所だった。
そのまま部屋に連れて行ってもらって、まずは荷物を置いて、タカミチと同じでスーツに着替えた。

「それじゃ、ネギ君、行こうか」

「うん」

「ここはリゾートホテルエリアだから人目もあまり多く無いけど、アスナ君達はあまり目立たないようにね」

「はいっ!高畑先生!」

「がっはっは、任せとけよっ!」

「ジャックには期待してないです……」

あはは……ラカンさんはそこにいるだけで目立つからなぁ……。

「ネギ、行ってらっしゃい。久しぶりにスーツ……その身体で見るのは初めてだけど……似合ってるわよ」

「はい!アスナさん、ありがとうございます。行ってきます」

タカミチに連れられてリゾートホテルエリアとピンヘ湖を挟んだ所にあるオスティア総督府にやってきた。
行くまでの道は殆どが林道で空気がおいしい。
廃都オスティアとして地に落ちてしまったけど昔はここと似たような大小100の浮遊島があったんだと思うと勿体無い気がするな……。

「……こうしてネギ君と2人でどこかに向かうのはネギ君が去年ウェールズから成田空港に来たとき以来かな」

「そうだね、思い出してみると色々あったけどあっと言う間だった気がする」

「ネギ君もこの1年……エヴァの魔法球にいただろうけど最初に会った時に比べると見違えるようだよ」

「そうかな?」

「ああ、間違いない。さあ、着いたよ」

「……お待ちしておりました。クルト・ゲーデル総督がお待ちです」

係の人に案内されて総督執務室に着いた。
そのまま扉を開けてくれたから通させてもらって……。

「ようこそ、ネギ・スプリングフィールド君。オスティア総督クルト・ゲーデルです」

「初めまして、クルト・ゲーデル総督。ネギ・スプリングフィールドです」

「クルト、何か用意でもしてくるかと思ったら無いのか?」

「ありますよ。しかし最初から起動していたら……また怪我をする事になると思いましたからね」

「それは懸命な判断だな」

タカミチが……何かいつもと違う。

「ネギ君、それでは話の前に少し昔の映像をいくつかお見せしましょう」

「昔の映像?」

「ええ、それでは御覧ください」

そう言って指を鳴らした瞬間部屋の空間全体に映像が投映された。

「こ、これはっ!」

「クルト……」

「わかりますか?6年前の冬の日の出来事です……」

そう……6年前のあの冬の日、僕がピンチになったときには父さんが助けに来てくれるって思ってたから……起きた……罰だとすら思える出来事……。
火に包まれいつもの穏やかな村の姿は一瞬にして消え去った……。

「なっ……何故こんな映像が……」

「ネギ君、何故だと思いますか……?」

修学旅行の時、スタンさんが僕の目の前で封印した筈だったヘルマン卿という悪魔が「依頼を受けた」相手というのは……やはり……。

「クルト……お前まさか……」

「総督がこの映像を持っている……つまり所属から考えてメガロメセンブリアがあの事件の元凶だったと……そういう事ですか」

「おや?10歳の少年が叫び出すでもなく泣き喚くでもなく落ち着いていますね。これは驚きです。もう少し取り乱すかと思ったのですが……」

「賞金首付きの指名手配にされた時点でその可能性は心のどこかで気づいていた事です。そして協力すると言ってくださった総督がこれを僕に見せるということは……あの事件はメガロメセンブリア元老院全体の総意だった訳では無いということですね」

「ネギ君……」

「ほう、本当に物分りが良いようで……。タカミチが私に先に会いに来たことで予定が狂いましたが……。ネギ君、復讐したいとは思いませんか?真の敵に対して!」

「クルトッ!!」

「タカミチ!!……良いよ。僕は大丈夫だから。総督、僕の故郷の村を襲わせた黒幕を教えてくれて……感謝します」

「それでは復讐を?」

「いえ……僕は黒幕を暴きたかった。真実が知りたかった。ただそれだけです。……それに今明らかになりましたが、メガロメセンブリア元老院とは人々の集合体の筈です。特定の人物に直接何かした所で何の解決にもならない。もし、復讐をしたとしても、その後には本当にただ虚しさしか残りません。結局僕の心に刻まれたこの出来事は、どうあっても無かった事になりはしない。僕にできるのはあの出来事を忘れずに向き合い、前に進む事だけです」

……6年間メルディアナのおじいちゃん達でも解除できなかった石化魔法……僕もいつかまとまった時間が取れれば自分で解除の方法を探したい……。
マスターにも言われたとおり僕には治癒魔法の適正は無いけれど……魔法の理論開発だけなら勉強すればできる筈だから……。

「そんなっ!?悔しくはないのですか!」

「それは当然悔しいです!悔しくない訳がない!できればメガロメセンブリア元老院の闇を白日の元に晒せるなら晒したいです!でも、総督はそれができなていないのでしょう!?まだ立派な魔法使いの修行中でしかない身の僕が、ましてや政治家でもないのに今はどうしようもありません!」

「ぐぅっ……君に言われる筋合いはありませんが……私にそれができなかった事は認めましょう……。しかし、それが君ならばできるかもしれないのですよ!?」

「……僕が父さんの子供だからというだけで何ができるんですか!!そんなに甘くはないでしょう!!」

「…………」

「そうですか……しかし、なるほど。タカミチ、ネギ君の母上についてはまだ誰も何も教えていなかったのですか?」

母……さん……?

「ああ……教えていない。ネギ君、悪かったね……これは紅き翼の中での取り決めだったんだ……」

「じゃ、じゃあテオ様が僕に何か隠しているようだったのは……」

「そう、僕からまだ……言わないように伝えておいたんだよ。でも……もう今のネギ君なら大丈夫だとわかった。クルト、用意はあるんだろう?」

「もちろんです。ネギ君、見ますか?あなたの両親にまつわる物語を」

「……はい。お願いします」

「……それでは、始めましょう」

そして……総督が一つの映画を見せてくれた。
父さん達紅き翼が前大戦から活躍し始め……仲間を増やし……黄昏の姫御子……これは小さいころのアスナさん?……との出会い、そして更にその中で帝国と連合、2つの巨大勢力に挟まれて翻弄され続けてきたウェスペルタティア王国の王女、アリカ・アナルキア・エンテオフュシア殿下との出会い。
更なる調査を続けた先に明らかになる秘密結社、完全なる世界の存在。
奴らは連合と帝国の両方の中枢にまで入り込んでいた。
メガロメセンブリアのナンバー2、執行官までもがその手先である事が明らかになり父さん達は接触を図った。
しかし、そこで父さん達が罠に嵌めらる際に出会ったのは……あのフェイト・アーウェルンクスによく似た人物だった。
その後連合からも帝国からも追われる身となった紅き翼は辺境を転戦し、のどかさん達がトレジャーハントをしていた地域、アリカ・アナルキア・エンテオフュシア殿下が帝国の皇女と接触しに行った先で幽閉されていた夜の迷宮に救出に向かい成功。
ってこの人テオ様!?
小さい……しかもじゃじゃ馬っていうのはなんとなくわかる……今もそんな感じだけど……。
場所はタルシス山脈のオリュンポス山にある紅き翼の隠れ家……ここは……くーふぇさんが強制転移魔法で飛ばされた時に泊まった所だ。
小さいテオ様は掘立小屋って言ってるけど……結構大きいと思う……。
……ここからアリカ様は父さん達紅き翼と行動を共にし、反撃を始める。
数ヶ月に及ぶ戦いの後、舞台は世界最古の王都オスティア空中王宮最奥部、墓守り人の宮殿での最終決戦。
これが……例の最終決戦。
世界を無に帰す儀式……黄昏の姫御子……アスナさんは完全なる世界に捕まってたのか……。
帝国・連合・アリアドネー混成部隊が……あれ、この人若い時のセラス総長?……父さんにサイン貰ってる……。
父さん、クウネルさん、詠春さん、ラカンさん、あともう一人詠春さんに写真で見せてもらったことがある父さんの師匠っていうゼクトさんはフェイト・アーウェルンクス達数名の強力な相手……これは映像だけど……どれぐらい実際に近いんだろう……僕だったら相手にできるんだろうか……。
父さんは凄い……あのフェイト・アーウェルンクスを追い詰めて……造物主っていう黒幕の登場。
その一撃で強烈なダメージを父さん達は負った、けど、父さんとゼクトさんだけが造物主に立ち向かって行った……。
突然映像は父さんと造物主っていう大規模な魔方陣を展開した相手と戦って……杖を槍に変えて……凄い、その一撃で倒した。
でも、世界を無に帰す魔法の儀式は既に終わっていて発動してしまった……。
それをテオ様やアリカ様達が率いる艦隊が大規模反転封印術式を展開して封じ込めた。
その際アリカ様は凄く悔しそうな顔をして……どういう状況になっているか良く分からないけど黄昏の姫御子であるアスナさんを封印するからか……。
この辺り詳しくわからないけど……アスナさんが今こうしているって事はタカミチが何か知ってるんだろうな。
場面はすぐに……ここは今僕がいる新オスティア……父さんが「お師匠……」って呟いた所に現われたアリカ様2人の場面に移って……叩かれてるけど仲よさそう……多分この流れだとこの人が母さんなのかな……。
そうすると……僕は……父さんの息子ってだけじゃなくウェスペルタティア王国の末裔って事に……これが総督の言いたい事か……。
また場面が数時間前の父さんの最終決戦に戻って……ってこの掻き消えた人ゼクトさんに似てる……?
2600年の絶望を知れ?どういう事だ……。
もしかして造物主って父さんが完全に倒した訳じゃないのか……?
その後また場面は戻りどこかの酒場……詠春さんがゼクトさんが亡くなった事を言って……クウネルさんが父さんがそれについて言おうとしたのを遮って……。
クウネルさんはゼクトさんと最初から知り合いだったみたいだけど……一体2人は何者何だろう……。
麻帆良に戻ったら色々聞きたい。
マスターにも……。
次の場面はアリカ様の所に移って……報告に現われたのは小さい時の総督ともう一人はガトーさんっていう人……。
アスナ姫封印直後から崩壊が始まるって……とうとう前から聞いていた大小100の浮遊島が崩落を始めるのか……。
アリカ様は指揮を取って市民の避難誘導を始めた。
広域魔力消失現象のせいで、辺り一帯で魔法が使えなくなった……けどアリカ様はその中でも……無効化されない魔法が使える!?
これがウェスペルタティア王国の王家の魔力なのか……。
だとすると僕にも使える可能性があるって事になるけど……。
結局王都を中心とする直径50km圏内は高音さんが説明してくれた通り以後20年間にわたり魔法も使えない不毛の大地と化す事を代償に世界は救われた……。
犠牲者の数は人口の3%……状況的には奇跡的な数値だけど……それでも相当多いだろうな……。
その後アリカ様は汚名を着せられ、メガロメセンブリアに逮捕、裁判にかけられ即座に2年後の処刑が決定っ……。
そのまま父さん達はアリカ様を救い出す事もできずに処刑執行間近に……。
メガロメセンブリア元老院議員が、拘束されているアリカ様に黄昏の姫御子と共に封印された墓所の最奥部への至る方法を聞き出そうとして……世界を滅びから救う為……?アスナさんを救う為……?
この2年の間にメガロメセンブリア元老院は魔法世界の崩壊について気がついたという事なのか……?
だとすると……まさか……人造異界の存在限界・崩壊の不可避性についての論文を書いたのは地球の魔法使いでもありながらオスティアに関係していた人物だったのか……。
そうなら論文の不完全版だけを世に残し……オスティアの上層部に原本を残したと考えると辻褄が合う……。
オスティアがメガロメセンブリア信託統治領になったのは大戦後だから……。
父さんは刑の執行直前までアリカ様に言われた無辜の民を救えというのを実行し続けて……それが地味な活動だって言ってクルトさんが怒ってる……。
そして刑の当日、アリカ様は魔獣蠢くケルベラス渓谷の谷底に落とされる残虐な処刑法で……自分から落ちて……!!
場面は兵士として紛れ込んでたラカンさん達に移って……詠春さんやクウネルさん、ガトーさんも現われた!
ここに父さんがいないって事は落ちたアリカ様を助けたのは……!!
父さん……ちゃんと助けに来たんだね……。
魔力も気も使えない谷の中を走ってアリカ様を抱えたまま魔獣から逃げながら……谷から脱出。
父さんがそこでアリカ様に夕日を背景にプロポーズして……アリカ様もそれを受けた……。
一方処刑に来ていた軍の人達は紅き翼の皆に倒されたのか……。
ガトーさんの技ってタカミチと同じだ……。
最後にタカミチと総督が会話するシーンで終わり……か。

アリカ様…………母さんはとても強い人だった……。
皆教えてくれも良かったのに……僕は母さんが災厄の魔女と呼ばれていても気にしない……。
父さんは……ちゃんと最後に母さんを助けに来たし、やっぱり思ったとおりのヒーローだった。
その二人が結ばれて……。
……それを知れただけでも、良かった。

「いやぁ~、何度見でもこの件はいいですねぇ」

「総督……この映画は……」

「ええ、ご心配なく、この映画はほぼ事実ですよ。ナギとアリカ様、お二人のみの場面も本人達への綿密な取材のもと作りましたから」

「そうですか……」

「俺も見たことが無いシーンが入っていたな……」

「総督、僕が客観的に重要な存在だというのはよく分かりました」

「おわかり頂けたようで何よりです。大英雄の息子であり、世界最古の王国の血を引く最後の末裔の一人ですらある。その2つは対外的に見て大変な価値があります。ネギ君がその気ならば本当は是非仲間になって頂きたい所なのですが……」

旗印になれと……そういう事かな。

「しかし、私からもネギ君に聞きたい事があります。どうして魔法世界の崩壊の危機に、魔法世界に来てから1ヶ月程度のあなたが気づいたのですか?非常に興味があります」

メガロメセンブリア元老院議員でありながらこの事を聞いてくるという事は魔法世界の崩壊についてなんらかの対応をしようとしているのは間違いない。

「……分かりました。説明します。まず魔法世界と旧世界では……魔力の色に違いがあります」

「魔力の色?」

「実演するので見ていて下さい」

―魔法領域展開 出力最大!!―

「……この魔法障壁の一種ですが、本当に僅かに桃色がかっているんですが……」

―魔法領域 出力抑制―

「……これでほぼ白色に戻りました。特に色を付けるとかそういう魔法ではないのは信用してもらうしかありません」

「それが拳闘大会でよく使っている奇妙な障壁ですか……。ええ、色があるという事については分かりました」

「ネギ君、それはエヴァから教わったんだね?」

―魔法領域解除―

「うん、マスターから教わったものだよ。説明を続けると、魔力の色が、魔法世界が桃色だとすると旧世界は緑色をしているんです。この違いからウェールズのゲートからメガロメセンブリアのゲートに移動する時に魔法世界の魔力が旧世界に流出していると感じられたんです。そして、最初こちらへ来てすぐにゲートポートが11箇所破壊された事から、世界と世界の繋がりを絶てば当然魔力流出が止まる、と考えたんです。結局犯人はそれが目的ではないともう分かりましたが。あとは人造異界の存在限界・崩壊の不可避性についての論文がある事を元々知っていた事からそれらの関係性を推測してそう考えました」

「……魔力の流出を独力で感じられる……そんな例は聞いたこともありませんね……。崩壊の可能性について気づいた経緯は分かりました。なるほどなるほど、確かにこれは驚きです。しかし……魔力の枯渇という魔法世界崩壊の根本的原因、これを解決する手立ては流石のネギ君でも無いでしょう?」

何か……今のは引っ掛かるような…………何だ……。

「魔法世界崩壊の根本的原因…………」

思い出せ……思い出せ…………。
根本的……根本的……魔法世界の……根本的な問題は……解決する……?
何故だろう……誰かから最近そんな事をどこか海の上で言われたような……。

「魔法世界の根本的な問題は解決する……」

「何?」

「ね、ネギ君……?」

「つい……最近、魔法世界の根本的な問題は解決すると誰かに言われた気がするんです。唐突にこんな事を言ってすいません……」

「それが本当ならば私も是非信じてみたいものなのですがね。私の計画もそうであるならば最初から練り直さねばなりませんし。それは置いておくとして……もう一つ、魔法世界が人造ではないとネギ君は考えているそうですが、それは一体どういう事ですか?しかもあの不死の魔法使いもそのように言ったそうではありませんか」

「魔法世界が火星に位相を異にして存在する異界というのはほぼ間違いないと思います。ですが、もし人造の場合、それを仮に造る手段があったとして実行するための魔力は一体どこから来るのか?とマスターは言っていたんです。まさか何も無い所から魔力を作り出すなんて言うことが本当に可能なら別ですが……。それに今説明したとおり、魔法世界と旧世界では魔力が違うんです。だから旧世界の魔力で魔法世界を作り出すとは到底考えられません」

マスターとその話をした時確か……。

「確かに……常識的に考えてそれは尤もです。世界の始まりと終わりの魔法でこの世界は始まった……と伝説では言われていますが……」

「…………」

「それと……その話をマスターとしている時にグレート・グランド・マスターキーというこの世界の謎に関係すると思われる単語を幽霊……さんから聞いたんです」

マスターが知ってる幽霊さんって謎が多いような……。

「グレート・グランド・マスターキー……?ネギ君、それは本当にエヴァから聞いたのではないのかい?」

「うん、それは間違いない。マスターがたまに話していたんだけど、マスターより数倍長生きで、僕の色違いみたいな幽霊だって言ってた。それで……これは言わないほうがいいのかもしれないけど……その幽霊さんのお陰でマスターは真祖の吸血鬼じゃなくなったらしいんだ」

「真祖でなくなるだと!?そんな馬鹿な……」

「そ、それは本当かい?」

「本当かって言われても……タカミチはマスターのどの辺が吸血鬼に見えたの?全く闇の気配なんてしなかったでしょ?」

「ああ……僕もエヴァの魔法球でお世話になった事があるから交流はある方だしね……全く闇の気配がしなかったどころかどちらかというと光って感じだったな……。そういえば血も要求された事はなかったし……。ん……ちょっとまったネギ君、その幽霊って本当に幽霊なのかい?」

マスターが光って感じなのはタカミチも同じ意見か。

「うーん、それは分からない。普段はずっと引き篭っているって言ってたし……」

「引き篭っている…………エヴァの皮肉だとすると隠れてるって所か……。クルト、麻帆良学園創設時に現われたという伝説の翠色の精霊の話は知っているか?」

精霊?

「……私はそんな話聞いたことがありませんが……どれどれ、少し調べてみましょうか……」

総督はモニターを開いてどこかに接続し始めた。

「タカミチ、翠色の精霊って?」

「一説には麻帆良の神木の精霊だ……と言われているんだが見た者がいない眉唾ものの噂レベルの話しでね」

「神木の精霊……?神木ってあの高い木の事?」

「ああ、そうだよ。神木・蟠桃、種別、樹齢全て不明、膨大な魔力を内包していると言われ、その証拠にあちこちに魔力溜りを形成し、22年毎に大発光する木だ」

そういえばあの木に登ると何だか新鮮な気分になったような……。
魔力溜りを形成……?

「……分かりました。確かに旧世界麻帆良学園創設時1890年にそのような精霊がいるのではないかという報告があったようですね。ただ、それを見たと言った初代学園長は魔法関係者ではなく一般人でしたが。実際特に神木を調べてもそれらしいものは確認できなかったようですね。ついでに不死の魔法使いについても少し調べてみましょう……」

「確かにネギ君が言うとおりならエヴァの事を調べた方がいいな……。僕が会った時点で既に闇の気配は無かったからね……。もしそのエヴァの言う幽霊というのが精霊で、その謎の単語が魔法世界と関係するのだとすると重要な可能性が。…………それにしても翠色……ん…………まさか」

「タカミチ、どうしたの?」

「いや……ネギ君が麻帆良に来る数ヶ月前に翠色の髪の毛をした小さなホムンクルスをエヴァが夜の警備に連れてきた事があってね……一時期麻帆良に侵入してくる術者達に強力な魔力封印をかけ続けた事があるんだよ……。僕達でそれを調べた事があったんだが、魔力封印にしては何らかの術式をかけた跡も見つからない異常なものだったんだ。エヴァと学園長の合作という事で納得してはいたんだけどね……今思うとあれはおかしいな……」

「な……なにそれ……」

「不死の魔法使いの情報で報告内容が変わった時期がありますね。1903年以降、闇属性の魔法から一転、光属性の魔法を多用するようになり、自ら、闇の福音ではなく光の福音だと名乗るようになったようです」

実際マスターは光だからそれはおかしくないけど……。

「エヴァは一度昔麻帆良に来たと聞いた事があったが……麻帆良創設と時期がかなり近いな……」

「その精霊というのが不死の魔法使いに何らかの形で接触した可能性がありますね」

「ああ、いよいよ麻帆良に一度戻ってきちんと調べた方が良さそうだな……」

「もし……もし、この世界の絶望を覆せる手がかりがあるならばそれは確認する価値が十分にありますね………」

「タカミチ、僕が来る数ヶ月前だったら茶々丸さんってその時いるんだよね?マスターと一緒にいたなら何か知ってるんじゃないのかな?」

「!……そ、そうか……そうだね。いつも茶々円君を連れてきたのは茶々丸君だったな……」

「茶々円?」

「それが小さなホムンクルスの名前さ。ホテルの茶々丸君と限定通信をしよう」

「うん、繋ぐね」

「クルト、この前と同じだ」

「それでは失礼して……」

まさか……この通信であんな事が分かるとはこの時思いもしなかった……。

《茶々丸君、君に聞きたい事があるんだがいいかい?》

《茶々丸さん、お願いします》

《高畑先生、ネギ先生、何でしょうか。私に聞きたい事とは》

《……神木の精霊、翠色の精霊の存在、又は……茶々円の正体を知っているかい?》

《申し訳ありません……それについてお答えすることはできません……》

え!?

《茶々丸さん!どうしてですか!?》

《口外しないようにとマスター、それと超から言われているのです》

ここで超さんも!?

《超君も絡んでいたのか……。茶々丸君、答えられないという事は知っているという事だと解釈できるが、どうしても駄目かい?》

《茶々丸さん、教えてください、お願いします!》

《ね……ネギ先生……そんなに……知りたいのですか?》

《はい、知りたいです!魔法世界の崩壊に関係する重要な事かもしれないんです!》

《ど……どうしても……ですか?》

《どうしてもです!》

《う……うぅ……分かり……ました。ネギ先生……そこまでお気づきになられたのならお教えしましょう……マスター、超、許してください……》

凄く悪い気がするんだけど……。
というか茶々丸さん全部知ってたんだ……。
凄く身近にいたのに盲点だった……。

《お願いします!》

《……茶々円の中身は翠色、神木の精霊です。また、相坂さんも精霊です……。更に実は……マスターも一部精霊なのです……》

《えええええっ!?》

マスターが精霊!?
それに相坂さんも!?
もう何が何だか……。

《な……あ、相坂君は幽霊じゃないのかい?それにエヴァも……何なんだ一体……》

相坂さんが幽霊!?

《失礼、クルト・ゲーデルです。聞いていれば、その神木の精霊とは一体どれ程の力を持っているというのですか?》

《ま……魔法世界の崩壊についての問題がもう既に解決する段階にはあるぐらいかと……》

《そんな馬鹿な!?一体どうやって!?》

《私もそれは聞いただけなのですが……に……2本目の神木が既に……旧世界の火星に定着しているそうです……》

《《《………………》》》

《マスター、超……申し訳ありません……戻ったらどんな罰でも受けます……》

え……えっと?
どういう事なんだろう……火星に2本目を定着ってどうやって?

《あ……あのー、茶々丸さん、2本目の神木が火星に定着って……ど、どういう……?》

《2001年の夏ごろに地球から火星に向かって宇宙空間へ打ち上げたそうです。詳しいことは私にも分からないのですが……》

《ま……まさか……2001年の夏というとあの大停電と南極からの謎の飛行物体の確認情報というのは……》

《あ、それ僕も知ってるかも……。UFOが飛んでったって話》

《ば……馬鹿な……。し……しかし、その木が火星に定着したのを百歩譲って信じるとして、その木に一体何ができると……》

《……半永久的に魔力生産ができるようです……原理は光合成と似たようなものだと思われます。但し今は位相が異なりますが……》

《は、半永久的ってあの神木にそんな効果が……。そ、総督……タカミチ……魔力の枯渇問題ってもしかして……》

だから魔力溜りが形成できるのか……。

《ああ……正直信じられないけれど、誰も知らないうちに魔力の枯渇問題は解決されつつあった……という事になるね……》

《そ、その木が火星に定着している場所は、一体どこなのです!?》

《……申し訳ありません……そこまでは私も知りませんので……。くれぐれもお願い申し上げますが、この事は他言無用でお願いします。事実を知っている人間は地球でもたった数名しかおりませんので……》

《ぐ、具体的には一体誰なのですか!?》

《人間に限定すれば……恐らく……学園長とアルビレオ・イマ……詳しく知っているかどうかわかりませんが近衛詠春……そして一番詳しい超だけかと》

一番詳しいのが……ちょ……超さん……?
それに人間に限定って……。

《たったの4人だと……しかも紅き翼の2人が……。し……しかしさっきからその超というのは一体誰なのですか?》

《……クルト、この端末の製作者だ》

《僕の生徒……です》

《私の生みの親でもあります。……これは恐らく最重要機密です。重ねて申し上げますが、他言しないようお願いします……》

《ああ……大体今ので謎が解けた気がするよ……。ありがとう茶々丸君》

《あ……ありがとうございました、茶々丸さん》

《情報提供感謝します……》

凄く驚きすぎて、寧ろ呆れちゃうぐらいだったけど、魔力の枯渇による魔法世界の崩壊という根本的な問題はどうも解決しそうという事が分かった……。

「いやはや……これは重大という言葉で済むレベルの話ではありませんよ……。私が進めてきた計画はそもそも意味がなかったようなものです……」

「全く驚きだな……。少なくとも今俺達にできる事は……」

「廃都オスティアのゲートポートの確認とフェイト・アーウェルンクスの何らかの計画の阻止……だね。多分精霊さんが僕に言ってきたグレート・グランド・マスターキーもどこかで関わってくるんだと思う……」

「ふむ……そうですね。やはりゲートポートを確認するのは必須のようです。崩壊から免れる可能性があるにも関わらずフェイト・アーウェルンクスら完全なる世界の残党がやる事と言ったら、もう一度世界を滅ぼそうとする事しか考えられません。これは排除しなければならないでしょう」

「明日から探索開始だな」

「タカミチ、探索許可証を渡しておく」

「ありがたく受け取っておくよ、クルト。お前の精鋭部隊で調査隊は組まないのか?」

「それはやまやまですが……オスティア記念式典、それも20周年であるのにかかわらず、その前に要地である廃都オスティアに我々が公的に入るとなると明らかに協定に違反しますし、仮に組むとしても今から魔法世界一の危険地帯へ調査に赴く人員を選抜するだけで時間がかかります。上位種の竜までもが大量にいる所ですからね……」

「そういえばそうだったな……。確かに上位種の竜では並の手練では駄目だろうな。それこそネギ君達でなければ」

「総督、許可証の手配ありがとうございます!」

「いえいえ、こちらこそネギ君と直接話せたお陰で予想以上どころかこの上なく重要な事が分かりましたから。これくらい安いどころか寧ろ何かお礼をして良いぐらいです。もちろん、オスティア記念式典が始まったらすぐに指名手配を解除することをお約束しましょう」

「お願いします!」

総督の表情がかなり明るくなってる……確かに今までずっと悩んでた事が一つ解決しそうなんだから嬉しいだろうけど。

「クルト、そう露骨に明るい表情になると逆に何か企んでるように見えるぞ」

「失礼な奴だな……タカミチ。お前にもこの重要性が分からないわけではあるまい」

「ああ、分かっているさ。さ、今日はもう映画を見ていたから随分時間が過ぎている。ネギ君、戻ろうか」

「うん!総督、失礼します!」

「クルト、またな」

「ええ、またお会いしましょう。ゲートポートの調査が上手くいくように期待しています。私もフェイト・アーウェルンクスらに備えて警備の強化を進めておきましょう。もちろん今日のことは絶対秘密でお願いしますよ」

「はい、それはもちろん」

「分かっている」

こうして、僕はこの日父さんと母さん、紅き翼の事が分かっただけでなく、とんでも無い事まで分かった。
ホテルに戻ったらドネットさん達も皆既に着いててかなり大人数になってた。
茶々丸さんは僕と視線が合って凄く取り乱してたから、こっそり絶対口外はしない事と、教えてくれた事にありがとうございましたって伝えておいた。
……それでこの後、アスナさんとタカミチの3人で約束通り話をすることになったんだ。

「高畑先生、話っていうのは?」

「今から話すよ。アスナ君落ち着いて聞いて欲しい。まずは少し歴史を話そうか。アスナ君も魔法世界に来て22年前に大戦があったのは知っているかな?」

「はい。大分裂戦争っていう大きな戦があったっていう……」

「そう。その戦争での2つの大きな勢力、帝国と連合その間に挟まれて翻弄され続けた王国がある。その名をウェスペルタティア王国。アスナ君はね、そこのお姫様、黄昏の姫御子なんだ。本名はアスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシアという」

「アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシア……。その名前……夏休みが始まるぐらいの時に夢で……。私が……姫……」

その頃からもう思い出していたんだ……。

「麻帆良にいた時から思い出していたのかい……。最近他にも夢を見たりすることがあるよね?」

「は……はい。小さい私がなんだかネギのお父さんやクウネルさん達と一緒にいる夢です」

「その夢は全て昔アスナ君にあった出来事なんだよ」

「ネギの言った通り……あの夢は全部本当にあったこと……なんですか」

「そう……。一度話を戻そう。アスナ君は大分裂戦争中、ナギ達が向った戦場にいあわせた事があってね。それが最初の出会いなんだよ。僕はその時はまだ一緒ではなかったけれど」

「私が戦場に……?」

「黄昏の姫御子、完全魔法無効化能力、アスナ君自身も体質については知っているよね。それを……言い方は悪いんだけど……戦争中に利用されていたんだ」

「…………」

「その場ですぐにアスナ君を助ける事はナギ達にもできなかった。大分裂戦争の間に、裏から戦争を手引きしていた連中、完全なる世界という組織にアスナ君は捕まってしまったんだ」

「わ……私が捕まった……」

「厳密にはウェスペルタティア王国の上層部が完全なる世界の一派だったからんだけどね……。そこでも最終決戦の際に世界の始まりと終わりの魔法というものの発動に利用されたんだ」

「それで起きたのが……広域魔力消失現象なんだね……」

「そうだ、ネギ君。残念ながらその最終決戦の際、アスナ君は反魔法場ごと封印される事になってしまったんだ」

「私が封印……?」

「助けられたのは……その2年後以降……なの?」

実際2年後すぐだとは……アスナさんの身体年齢を考えるとおかしいからもっと後なのかも……。

「さっきの映画から推測したらそうなるか……流石だね、ネギ君。その通り、アリカ様を助けだしてから、封印されていたアスナ君を助ける事ができるようになった」

映画でメガロメセンブリア元老院議員が墓所の最奥部への行き方を聞いていたからそうじゃないかと思ってたけど……。

「高畑先生、そのアリカ様っていうのは?」

「僕の母さんです」

「ええ!?ネギ、あんたお母さん分かったの!?」

「はい……さっきクルト・ゲーデル総督の所で映画を見せて貰ったんです。それで僕の母さんの名前はアリカ・アナルキア・エンテオフュシアと言います」

「なによーその映画、私も見たいわよ!ってエンテオフュシア……?」

「タカミチ……僕とアスナさんには血縁関係があるって言うことなんだよね?」

「ネギと私に血縁関係!?」

「直接……とは限らないけれどね。その辺りはアリカ様が詳しく知っていらしたんだけど……実際の所良くわかっていないんだ」

「そ……そうなんだ……」

黄昏の姫御子というのがどれ程の重要性がウェスペルタティア王国にあったのかを考えると……あるいは……。

「じゃ、じゃあ私ってネギと親戚って事なんですか?」

「そう……なるね」

「そう……なんですか……。なんだか不思議……」

「そうですね、アスナさん」

「初めて会った時は赤の他人だと思ってたのに」

「僕も……そう思いましたよ」

「それで、さっきの封印の件だけど……アスナ君、落ち着いて聞いてね」

「は、はい」

「アスナ君が封印されていた期間は1983年から9年を超えていたんだ」

「9……9年も……ですか?」

9年……封印の効力によるけど、だからアスナさんの身体的年齢は成長していないのか……。

「ああ、そうだ。封印から助けだしたのはナギと……ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグという僕の師匠。この写真を見ると良いよ」

「父さんと……ガトウさん……」

「こ……この渋いオジ様夢に出てきたわ……」

「アスナ君が助けられた辺りの話は僕も師匠に聞いただけだから詳しくは知らないんだ。寧ろアスナ君が思い出した方がはっきりした事がわかるかもしれないね……。しばらくは3人で旅をして砂漠なんかで生活したと聞いたよ」

「砂漠……その時の夢も見た気がします……。ネギのお父さんが夜空の星が綺麗だって……。ガトウさんっていう人はネギのお父さんが持ってきたネズミみたいの……を……」

思い出し方が変な気が……。

「その夢も見ているんだね……。その後僕も高校を卒業して師匠とアスナ君とナギに合流して一時期行動を共にした事があるんだ。ここからは僕も実際に知っている事だよ」

「高畑先生も私と一緒に……」

「タカミチ、高校ってガトウさんのお弟子さんだったのは……」

「僕は大戦が終わった後数年して麻帆良学園に通う生徒だったんだ。師匠の弟子だったのはその大分前からだよ」

「そうなんだ。あ……話の途中でごめん、タカミチ」

大戦期からガトーさんとタカミチは一緒にいたみたいだしやっぱりそうか。
タカミチも生徒だった頃ってあるんだなぁ……。

「いいよ。そんな中、一度ジャックを除く紅き翼の皆、ナギ、詠春さん、アル、師匠と僕である港町に集まった事があるんだよ。そこで僕はアスナ君に咸卦法のコツを教えて貰ったんだ」

「私が高畑先生に咸卦法のコツを!?」

アスナさんが咸卦法を使えたのは昔できたことがあるからだったのか……。

「ああ……そこは少し事情があってね……。その後、ナギ、アル、詠春さんとはそれぞれ別行動になり、師匠とアスナ君と僕とでの3人での行動になった。そしてしばらくして入ってきた情報にナギが行方不明になったという事、ほぼ同時期にアルにも連絡がつかなくなったという出来事があった。1993年の事だよ」

「その時父さんが死んだっていう噂が流れたんだね……。それにクウネルさんにも連絡つかなくなったんだ……」

「アルは結局麻帆良学園の図書館島にいたというのがこの前今更分かったけどね……。当時その事を知った僕達はとてもショックだったよ。まさかナギが消息不明に……ましてや死亡だなんて信じられなかった。その後僕達はナギを探す事を目的の一つに入れて旅を続けたんだ……」

「タカミチも父さんを……」

「結局何もつかめなかったんだけどね……。それから1、2年ぐらいして……アスナ君、もう一度言うけどここからは落ち着いて聞いて欲しい」

「わ……分かりました、高畑先生」

「ああ……今度は目を離した隙に師匠が何者かに襲撃を受けてね……亡くなったんだ……。僕とアスナ君の目の前でね……」

「え……」

タカミチの師匠ってそんな気はしていたけど亡くなってたんだ……。

「そ……そんな……」

「続けるよ。この後僕はアスナ君と共に旅を少し続け、雪の降る冬のある日、日本の麻帆良学園に行くことにしたんだ。当時アスナ君は7歳近かった」

「麻帆良学園に……」

「この時師匠から僕は受けていた遺言があったんだ。アスナ君の記憶を封印するように……と……」

「私の記憶を……封印……?」

「アスナ君はその時まだ幼くてね……精神的ショックが強すぎたんだ……。突然こんな事を言って混乱するかもしれないけれど、僕はそれまでのアスナ君をある意味で殺してしまった……。今まで黙っていて本当に悪かった……アスナ君。許されるような事ではないと分かっている……」

タカミチがアスナさんに頭を下げた……。

「た、高畑先生!そんな……やめて下さい!」

「タカミチ……」

「…………」

「高畑先生、私はちゃんと……今思い出そうとしてます。少し時間がかかっちゃいましたけど、辛い思い出があっても、今なら……大丈夫です。思い出しても私は私のままです」

「アスナさん……」

「アスナ君……。僕を恨んでもいいんだよ……今までずっと騙して来たようなものだ……」

「そんな事無いです!高畑先生は私を麻帆良学園に連れてきてくれた時に面倒見てくれました!この鈴の髪飾りだって……!あれが全部嘘だった訳じゃ無いじゃないですか!」

「…………済まない。そうアスナ君に言って貰えると……救われるよ……」

タカミチがたまに寂しそうな顔をしたり、遠くを見るような顔をしていたのはいつもそんな事を考えていたのかな……。

「高畑先生……ありがとう……ございます。私、麻帆良学園に連れてきて貰って本当に良かったです。後悔なんて全然、全く、これっぽっちもしてません。ありがとう。ありがとう。高畑先生」

アスナさんがタカミチにそっと抱きついた……。
今までじゃ絶対あり得なかったのに……今は凄く自然……。

「アスナ君…………ありがとう」

タカミチが泣いてる……。
……僕もつられて涙が出てくるな……。
そんなに長い時間じゃないけど落ち着いた所でまた話をした。

「高畑先生、私の苗字の神楽坂って……」

「アスナ君の戸籍を作る時に師匠のミドルネームを借りて来たんだよ。師匠からはアスナ君の師匠についての記憶は念入りに消すように言われていたんだけどね……どうしても僕が……そうしたかったんだ」

「そうなんですか……。じゃあ……私には2つも、本当の名前があるんですね。……大事にします」

「アスナさん……そうですね」

「そうしてもらえると師匠もきっと喜ぶよ」

「はいっ!」

「アスナさん、今の話でアスナさんがこの魔法世界で重要というのは分かりましたか?」

「ネギ、大丈夫よ!ちゃんと分かってるわ!」

「絶対に、オスティアにいる間一人にはならないで下さいね。修学旅行の時のようにフェイト・アーウェルンクスが突然現れるかもしれませんから」

「心配しなくても大丈夫よ。ネギこそ一人で勝手に突っ走っていっちゃ駄目だからね」

そういうのが一番心配なんだけどなぁ……。

「はい、分かってます。僕には皆がいますから大丈夫ですよ」

「そうよね、皆がいるものね」

「僕も力になるよ。……さあ、2人とも、大分時間が経ったし、お腹も空いているだろう。皆と夕飯食べに行こうか」

「はいっ!」「うんっ!」



[21907] 52話 オスティアにて(魔法世界編12)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/01/12 00:23
―9月24日、7時36分、新オスティアリゾートホテルエリア―

昨日はゆえ吉以外全員集合したよ。
ネギ君と高畑先生は私達がホテルに着いて寛いでたところに帰ってきたと思ったらすぐアスナ連れて別の部屋に行って何か話してたらしい。
のどかはネギ君が戻ってきたところに居合わせなかったからアレだったけど、夕食の時間になってまたネギ君達が戻ってきた瞬間には、ちゃんと2人で再会の挨拶を微笑ましいぐらい丁寧にやってたよ。
なんか初々しい。
微妙に3人とも泣いてたんじゃないかと思えるんだけど突っ込んだらいけない気がした。
実際スッキリした顔してたしネギ君とアスナに至っては姉弟っぽい空気がいつもよりしてたしまー良かったんじゃ?
一方クレイグさん達はラカンさんに会ってテンション上がりっぱなしでやばかったなー。
それは愛衣ちゃんもだけど……皆やっぱサインですよねー。
で、そのサイン見せてもらったらめちゃめちゃ似顔絵うまくてビビったわ。
「俺に不可能はない!」らしい。
どうも私はアスナの変態発言が地味に頭に残っててテンションがそこまで上がらなかったんだけど……まあいいスよねー。
このかはラカンさんと話して「お前があの詠春の娘か!あいつからどうしてこんな可愛い子が生まれるんだよ!」「ややわー、ラカンはん」とか一瞬で馴染んでで適応能力スゲーわ。
桜咲さんと葛葉先生とくーちゃんはラカンさん見た瞬間驚いてたけど隙が無いとかそんな感じなのかね。
小太郎君もクレイグさん達に咸卦法見せたり、サイン貰われそうになってたんだけど……「俺のサインなんて貰って嬉しいんか?ただのガキやで?」だからなー。
謙遜とかじゃないだろうけど実際子供にしては……あんま調子乗らないよなーネギ君にしろ小太郎君にしろ。
去年は結構単純だったような気がするんだけど……いつの間に成長したんだろーな。
ネギ君と高畑先生戻ってきてからもクレイグさん達がサイン貰ってたのは以下同様。
高畑先生もやっぱ相当な有名人なんスねー。
確かにまほネットで色々検索してたら高畑先生が表紙飾った雑誌のバックナンバーとかあったから分からないでもないけど。
でもって22人もいるごっちゃごちゃした状態で夕飯をホテルのレストランの席の一角を完全占拠して皆で食べたスよ。
さっすがリゾートホテル、うまいっ!!
タダ飯最高ッス!
無口なリンさんもこの点は同意見みたいで私とココネと一緒にガンガン食べたわ。
うーん、1ヶ月前にほぼ通りがかっただけなのが悔やまれる。

それで一晩明けたと思えば、予告通り、ケルベラス大樹林よりも危険な、現在は複雑怪奇なダンジョンと化してる廃都オスティアにあるゲートポート探索に乗り出す訳だ。
リゾートホテルエリアの末端に高畑先生が予め用意しておいた小型飛空艇があるんスよ。
当然私は行くわけ無いんスけど誰が行くかっていうと、ネギ君、小太郎君、楓、くーちゃん、桜咲さん、茶々丸、高畑先生の7人。
ぶっちゃけ魔獣出るならラカンさん行けば終わりじゃ?って思ったら「俺がゲートポート探索?そんなん向いてないぜ!!がっはっは!!」とか豪快に笑ってのけ高畑先生も最初からそう言うだろうと思ってたみたいな顔してたよ。
リゾートホテル居残り組も戦力的には、言わずもがな最強無敵ラカンさん、葛葉先生、たつみー、クレイグさん達、高音さんに愛衣ちゃん?……と……アスナとか後どれくらい強いのか知らないけどドネットさんがいるから多分大丈夫。
私は……走れるだけで戦力にはならないからカウント対象外で。
というよりその前にこんな安全そうな所で狙われる事なんてあんのか?ってのが一番気になるんだけど……葛葉先生がピリピリしてるから多分マジなんだろーな……。
とにかく、ネギ君達の探索が無事に済むよう柄にも無くシスターらしく祈りながら待機組皆で見送りを済ませたよ。
7人が帰ってくる予定は一番遅くて29日、終戦記念祭の前日らしい。
私達は……リゾートホテルで終戦記念祭が始まるまでも始まった後も楽に生活ができるっ!!
あんまり今までと変わらないスねー。
因みにゆえ吉はアリアドネーで夜が明けたら今日から巡洋艦ランドグリーズってのに乗ってエミリィ委員長達分隊の皆とオスティア記念式典の警備にくるらしい。
アリアドネー魔法騎士団だからセラス総長も当然来るみたいスね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月24、7時58分、オスティア雲海、小型飛空艇内―

アスナさんを一番危険な所に連れて行く事はできないから、ラカンさん達に任せる事になった。
葛葉先生と龍宮さんもいるから大丈夫だと信じてる。

「しかし……食料こんなにいるのかい?少し狭いと思うんだけど……」

主にくーふぇさんとコタローが大量に買い込んできた食材のお陰で小型飛空艇の船内が狭い……。

「安心するでござるよ、高畑先生。アデアット」

「それが楓君のアーティファクトかい?」

「この中にはキッチンがあるから冷蔵庫も付いているのでござるよ。古、コタロー、運ぶでござるよ」

「おうっ!楓姉ちゃん!」

「任せるアル!」

「…………変わったアーティファクトだが……キッチンって……」

タカミチも驚くよね……。
最初僕もそんな風になってるの知って驚いたし。

「中が家になってるから飛空艇では探索できない場所でも泊まることができるよ」

「確かに探索に便利だね。でもいくらなんでも多い気が……」

「皆一杯食べるからすぐに無くなるよ」

「ははは、なるほど成長期って事かい」

「ネギ先生、高畑先生、もう間もなく廃都オスティア陸地末端に到着します」

「分かりました、茶々丸さん!」

「了解したよ。探すべきは空中王宮なんだが……それがどの大陸かも霧のせいで視界が悪く分からない。東京都よりも広い場所の末端だ。虱潰しにやっていこう」

「うん!」

大小合わせて100近い陸地が落ちている中、どこも霧だらけで視界が悪いのはタカミチの言ったとおり。
まずは最初に着いた陸地が市街地かどうかを確認し、そこを基点として徐々に地図を作成していく予定。
茶々丸さんがこの仕事に最も適任で、視界が悪くても赤外線センサーで飛行中に竜種が飛んできたとしても察知できるし、タカミチにも白き翼のバッジをのどかさんのを借りて持っててもらっているからそれで皆の場所を把握する事もできる。
タカミチ以外は僕との仮契約カードで召喚機能も使うことができる。

「さ、分身の出番やな。いくで」

「そうでござるな、コタロー」

「僕も分身出すよ」

「私も式神を飛ばしますので」

楓さんが16人、コタローが8人、僕が3人、刹那さんが小さい刹那さんを3体。

「おおっ、皆凄いな」

「「「が、頑張りますっ!」」」

式神は何だか……刹那さんらしくない。

「刹那っぽくないアルねー」

「少し式神は……頭の方が悪いんです……」

「その代わり明るいみたいやなー」

「小太郎君……それは私が暗いと?」

刹那さん……。

「そんな事言ってへんやろ!いつもの刹那姉ちゃんより明るいってだけや!」

「……いえ……あまり気にしてないので……」

結構気にしてるような……。

「それじゃあまずはこの陸地の大きさと内部の状況を簡単に把握しよう。魔獣がいる可能性は十分あるから気をつけて」

「うん。本体は皆で一緒に行動で行きましょう。タカミチとくーふぇさんは飛空艇の護衛でいいよね?」

「ああ、そのつもりだよ。ネギ君達が戻ってきた時に飛空艇が壊れてたじゃ済まないからね。でも危なくなったらすぐに端末で連絡して欲しい」

「うん!」

「任せるアルよ、ネギ坊主。アデアット。この棍で遠距離からでも戦えるアルからね」

「はい!陸の大きさにもよりますけどあまり時間かけずに戻ってきます。コタロー、楓さん、刹那さん、行きましょう」

「おう!」「承知したでござる」「はい、参りましょう」

僕達は最初の陸地に降り立ち、手早く探索を開始した。
魔獣が蠢くというのが一体どれくらいの数いることを言っているのかは実際に体験してみなければわからない。
恐らく厄介なのはこの霧、風向きによって視界が一時的に晴れたりすることもあるけれど気がつくと至近距離に魔獣がいた、なんて事も無いとは限らない。
気になるのは広域魔力消失減少そのものの効果だ。
20年間魔法を使うことのできない不毛の大地という事だけど今年で20年目の今、少し試してみたけれど魔法は使えている。
集中して確認してみたけど、微弱ながら魔力の反応が消失していくのが感じられる。
魔力は多いところから少ない所に流れるという事を考えると、ここ廃都オスティアに魔力が流れこまなかったという事はありえない。
恐らくアスナさんを利用して発動させた魔法の影響で、ここ一帯に魔力が流れこんできても次々消失……過程としては魔力そのものが崩壊して行き魔力として機能しなくなってしまうという物なんだと思う。
王家の魔力というのがこれの無効化現象でも無効化されないというのなら、発動する魔法が、この場の魔力消失の影響を全く受けずに魔法として維持できるという事なんだろう。

「何や森ばっかりやな」

「式神とのリンクで確認しましたが、ここは末端の割と小さな陸地のようです」

「長居する必要は無いでござるな」

「そうですね。一つに時間かけてられませんし次の陸地に行きましょう」

「魔獣っちゅうのがどこから出てくるか知らんけど端にはまだおらんのやな」

「恐らく中心部に近づけば近づく程強力な竜種等が出てくると思います」

「魔法が使えない土地やったのになんで魔獣が巣食っとるんやろな。上位種の竜種いうんは魔法障壁も張るんやろ?そないな所に好き好んで住むんか?」

「……それは魔獣にとって安全だからだと思うよ」

「あー、なるほどな。魔法使いが退治に来ても戦えんちゅう訳か」

「楓さん達がいたケルベラス地方にあるケルベラス渓谷の中は魔力も気も一切使えない環境だけど強力な魔獣が一杯いるらしいんだ」

「魔力も気も使えないってどんな場所やねん……」

「それでは拙者達も一般人になってしまうでござるなぁ」

「ただのガキになってまうで」

強制転移魔法でもしケルベラス渓谷に飛ばされていたら終わってたかも……。
そんな事を話しながら素早く飛空艇に戻りタカミチに報告して次の陸地を目指した。
飛空艇の展望デッキにはもしもの戦闘にすぐ移れるように2人は待機する事にしてて、今はタカミチと刹那さんが出てる。

《右舷前方から2体竜種と思われる生命体が接近してきます。まずは回避を試みますが……もしもの時はお願いします》

《茶々丸君了解したよ。こちらはいつでも迎撃できるようにする》

《了解しました》

「ネギ坊主、拙者達も出るでござるよ。2人なら問題はないと思うが、皆で協力した方が早いでござる」

「はい!」「よっしゃ!」「行くアルよー!」

展望デッキには僕達6人が出る広さは十分あるし、浮遊術も使えるから問題ない。

《右舷前方30度距離200m。恐らく精霊祈祷エンジンの反応に気づいた模様です。引き続き回避パターンを取りますが追いつかれると思われます》

《すぐに反応してくるあたりこの辺りが縄張りのつがいの竜のようだね。了解した》

「皆、2体いるから気を抜かないように」

「うん」

「分かったで。アデアット。右腕に気、左腕に魔力……合成!!」

―咸卦法!!―

「ははは、コタロー君が咸卦法使うのを直に見るのは初めてだな。よし……右腕に気、左腕に魔力……合成!!」

―咸卦法!!―

流石タカミチだ、まほら武道会でも見たけど咸卦法の練度が凄い!

―戦いの旋律!!―
―魔法領域展開―

刹那さんは夕凪をもう構えてるし、くーふぇさんは神珍鉄自在棍を出している。
楓さんは多分……すぐ忍具が出てくると思う。

「コタロー、僕達は飛空艇の壁面に回ろう!」

「おう、任しときや!」

僕とコタローは展望デッキから飛空艇の壁面に備え付けられている手すり目がけて浮遊術を使って飛び移った。

《距離50!》

《ネギ君、視界を晴らしてもらえるかい?》

霧があるから相手も攻撃しにくいだろけど、あっちはエンジンに気づいて追って来てるから確かに視界は晴らした方が良い。

《分かった!》

   ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―吹け 一陣の風 風花・風塵乱舞!!―

強風で霧を一帯吹き飛ばして現われたのは2体の30mはありそうな巨大な黒い竜……。
動きが速いっ!

《助かるよっ》

―七条大槍無音拳!!!!―

飛空艇から凄いビームがっ!!
強烈な打撃音!

「おわっ!?高畑先生の技か!」

接近してた2匹の竜をまとめて吹き飛ばした!
直撃を受けた1匹目の方は角が2本とも折れてる……。

「凄い……」

……これがタカミチの対軍系レベルの攻撃か。

《流石に実体がある分堅いな……。一気に片を付けるよ。いちいち長く相手してられないからね》

《お任せ下さいっ!》

次は刹那さんが飛んで行って……。

―斬岩剣弐の太刀!!!―

タカミチが直撃を与えた1体目の竜の片翼を切り裂いて高度を落とさせた!
後は1体目が盾になって比較的ダメージの軽い2体目だけど……炎を吐きそうな予備動作っ!

      ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―来れ雷精 光の精!! 雷を纏いて 打砕け 閃光の柱―
          ―光の雷撃!!―

「俺も行くで!」

―咸卦・疾空白狼閃!!―

竜巻に雷を乗せる雷の暴風よりも、純粋破壊力の高い光属性魔法の光線に雷を纏わせた一点突破力の高いレーザーのような攻撃魔法。
コタローの攻撃と一緒にきっちり炎を吐いて来るのをキャンセルさせられた。
狙った角にはちゃんと直撃させて折りつつ雷で痺れさせられた……でもタカミチの言うとおりやっぱり堅いな……。

「伸びるアルっ!」

痺れて一時的に麻痺させた所をくーふぇさんの神珍鉄自在棍が巨大化して竜の頭部に強打。
……そのまま気絶したのか落ちて行った……あれだけ強力な竜だから落ちるぐらいでは死なないと思うけど……。
コタローと一緒に展望デッキに戻った。

「ほ、本当に……いつの間に皆こんなに強くなったんだい?」

「マスターの別荘で結構修行してたからね」

「私はまほら武道会で宗家の方々から技を教えて頂きました」

「このアーティファクトが便利なだけアル」

「拙者の出番は無かったでござるなぁ」

楓さんの巨大手裏剣が更に当たってたら流石に翼が切れてたと思うな……。

「そ、そうか……ある程度予想はしていたけど実際に見て驚いたよ」

「高畑先生のさっきの技もまほら武道会では使っとらん規模やったやないか」

「ああ……あれはさっきのような竜種や鬼神兵を相手にある程度距離が空いている時に使うものでね」

ラカンさんの表でタカミチ(本気か怪しい)は2000だったけど……2800の鬼神兵よりやっぱり全然強いんだね。

「居合い拳の射程って10mぐらいやと思ってたんやけどちゃんとそういうのもあるんやな」

「隠し玉の1つや2つぐらいあるものだよ」

「流石高畑先生アル。私も手合わせ願いたいね。しかしあの竜は大丈夫アルか?」

「上位種だからね、障壁は張っているからあれぐらいでは一時的に撃退したぐらいでしかないさ」

「街中で出会ったら大変そーアルね」

「竜種となると逃げるにしても最低限気絶させないと難しいです」

「霧が深い分ケルベラス大樹林より苦労しそうでござるな……」

気を抜かないようにしないと本当に危ない場所だ……。
この後も次の陸地に着いては一体今どの辺りなのかを把握しては再度飛空艇で移動を繰り返した。
その間やっぱり竜種を初めとして、獣のような魔獣にも遭遇して倒さざるを得ないときもあった。
炎を吐くだけじゃなく、2本の角の間に電気エネルギーを溜めて飛ばしてくる竜や、刹那さんがアリアドネーで戦った事があるっていうカマイタチブレスを吐く竜がいたり、獣型の魔獣でも、体毛を針みたいにして飛ばしてきたりと大変だった。
コタローと冬のスクロールとそっくりだって一緒に思ったけど、これは本当の本当に現実だから気が全く抜けない。
でも僕達もこんな中でもやっていけるぐらいのレベルにはあるから大丈夫。
不用意に接近してもしかしたら持ってるかもしれない毒を受けたりしないように基本的に遠距離からの攻撃を心がけるようにしている。
刹那さんは非常に強力な弐の太刀を初めとして遠距離に気を飛ばす技はあるし、楓さんも気弾はもちろん、鎖に繋いだ巨大手裏剣は破壊力、射程距離共に申し分無い。
コタローも咸卦法強化で普通の狗神で十分戦えるし、僕は元々遠距離攻撃を多く持ってるから今のところはなんとかなってる。
茶々丸さんが美味しい昼食と夕飯を用意してくれて外が殺伐とした環境でも凄く落ち着いた気持ちになれた。
タカミチが持ってきてた崩壊する前のオスティアの地図とは大分陸地の位置にズレが生じててやっぱり少しずつ位置関係を把握してくしかなさそう。
市街地のある陸地がいくつもあるから今いる陸地がどこなのかも常にしっかり確認する必要がある。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月25日、18時47分、旧オスティア官庁街―

ネギ達が廃都オスティアのゲートポート探索を初めて2日目の夕方、旧オスティア官庁街のある建物の中に同じデザインの外套を着た5人の少女達の姿があった。

「何者かがこの廃都に侵入しているようですね……数は7と言った所でしょう……」

角が目立つ両目を閉じた人物が言った。

「調、それは本当か?」

ツインテールで釣り目の少女が聞き返す。

「木精の声が聞こえるので間違いありません」

「終戦記念祭前に侵入者……ふぇ、フェイト様に報告しなくてはっ!」

黒髪で猫の耳をした豹族の少女が慌てる。

「暦、落ち着いてください」

それを落ち着かせる声をかけるのはエルフのような耳をした少女。

「…………」

無言を貫くのは頭の横に太めの角が左右にある竜族の少女である。

「少なくとも計画のためには私達の姿が侵入者達に見つかる訳には参りません。3日後フェイト様と合流しますから見つからないよう遠くから監視をしましょう」

調によるまとめによりその場は一旦纏まり、遠距離からネギ達の行動を監視し目的が分かり次第フェイト・アーウェルンクスに報告をする事に落ち着いたのだった……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月26日、9時頃、新オスティア、リゾートホテルエリア―

ネギ君達が廃都オスティアのゲートポート探索に出てから今日で3日目。
特に目立った怪我も無く派手に……本人達はそんな気ないかもしれないけどやってるらしいスよ。
しつこい竜種を仕方無しに3体完全討伐したらしいけど、マジ常識から考えると異常な気が……。
普通数日がかりで倒したりするもんをどうやって……って言いたい所だけど、ネギ君のやたら切れる剣とか桜咲さんの障壁無視するらしいなんたら弐の太刀だとかあるから急所に攻撃を続ければ確かに倒せそうだと思えるから困る……。
何でも高畑先生がまほら武道会の時よりおかしなビーム放ってるらしく、茶々丸がその瞬間の映像を撮ってアスナに送ってきてくれて、皆で一緒に見たんだけどマジ吹いたわー!
何スかこの展望デッキ固定砲台。
パネェよ。
あの小型飛空艇に武装付いてるのかどうか知らないけどこれじゃ高畑先生が主砲スよ。
って思ってたらラカンさんが「それぐらい俺の右パンチで余裕だ」とか言ってくれた。
なんてゆーか次元が違すぎて私はついて行けんスよ。
一方平和なオスティアに入ってくる飛空艇の数は徐々に増えてきてて、当然観光客もどんどん集まってきててお祭りムードにガンガン近づいてる。
中心街の方にいくつも屋台が組み立てられ始めてて続々出店準備って感じ。
で、クリスティンさんとリンさんがトレジャーハントで稼いだ使う予定も特に無い魔法具を売るからって一緒についてった。
その行き先っていうと先月寄った例の魔法具店な訳だ。
お姉さんは……奥か?

「おや、お客さん、無事のようだな。南極はどうだった?」

おっさん覚えてたかー!

「あー、覚えてて貰って光栄ですー。南極は……例の品物のお陰で寒さに苦しむ事は一切ありませんでした。南極の景色はそれはそれでかなり見ごたえがあったというか自然の厳しさを理解できたって感じスね」

「それは良い事だ。魔法世界は温かい所の方が圧倒的に多いからな。寒い所は良い。龍山山脈越えはしたか?あれは絶景だったろう」

この熊男のおっさんマジでそういう趣味の人かー!!

「い、いやーそれが龍山山脈は避けたんで……」

「……そうかい。ま、どこまで行ったか知らないが命あっての物種だ。もしまた行く機会があれば龍山にも寄ると良い」

「はい、機会があればそうしますわー」

「ミソラちゃん、ここの店長と知り合い?」

「あー、南極行く時にここで魔法具を買ったんですよ」

「そうなんだぁー。店長さん、魔法具の売却お願いできますか?」

「ああ、やってる。品物は?」

「品物は……これと……これと……」

カウンターにゾロゾロ並び始めたー。

「あら、店長、お客様ですか?」

お姉さん奥から出てきた。

「売却の鑑定だ」

「承知しました。そちらのお客様、南極から戻られたようですね。魔法具はいかがでしたか?」

南極行く客なんて珍しいから覚えてるんだなー。

「あーそれはもう。お陰様でとても助かりました」

「それはそれは何よりです。また魔法具を購入する際は当店でどうぞー」

「その時があればそうさせてもらいます」

営業スマイル、これが普通スね。
クリスティンさんが10個近く品物を出したのをおっさんが手袋して真剣に鑑定し始めて……。
おっさん熊っぽいだけに獲物を狩るかのような鋭い眼光に変わってコエーよ。
クリスティンさん微妙に引いてるから。
リンさんは無表情だけどさ……。
一つずつ紙に商品名をサラサラ書いてって横に金額を書き連ね……合計は……。

「…………しめて3万8500ドラクマだな。どれがいくらするかはこの表を見な」

「どうもー。どれどれ……」

リンさんもこれには真剣にリストを見て……一つずつ確認しては頷いてるな……。

「リン、これでいいのー?」

「大丈夫」

えー!?
クリスティンさん人任せかいっ!!
リンさんが親指立てて断言してるから大丈夫なんだろーけど。
……どうも3つぐらい結構高いのあったらしくてこの金額になったらしい。
日本円に換算して……616万……。
まさにトレジャーハントここに極まれり!
って感じの額だなーこうしてみると。
それ言い出すとナギ・スプリングフィールド杯の賞金は1億6千万だけど。
そのままお姉さんがドサッとドラクマ入った袋持ってきてリンさんがきっかり確認したらどことなくホクホク顔になってたような気がする。

金が危ないからって事でホテルにそのまま一旦戻ってきたら……フロントにスゲー存在感の仮面被った人いるー!!
仮装するにはお祭りはまだ早いスよー。
あ?なんか高音さんのアレに似てるよーな……。

「私はボスポラスのカゲタロウ。ジャック・ラカン殿からこのホテルに滞在していると連絡を受け馳せ参じた。取次ぎを願いたい」

何かスゲー堅そう……。
そういやネギ君達が、ラカンさんが一緒に出る相手に強い人呼んだんだって言ってたような……。

「申し訳ありません、そのような事はこちらでは伺っておりませんが……」

「何?」

あちゃー、ラカンさん絶対そんな事忘れてるよ!
しかもコエー!
……コエーけど、どーせラカンさんが悪いんだろコレ。

「ミソラちゃんどうしたのー?エレベーター来たよ」

「あー、クリスティンさん達先行ってて下さい」

……完全に目が釘付けだったわー。

「んー、分かった。じゃあ先行ってるね」

「また後で」

「はい」

で……カゲタロウさんはどうも受付の人にもう一度確認するように頼む……もとい威圧してるんだけど……しゃーない、行くかー。

「あのー、ジャック・ラカンさんの所まで案内しましょうか?」

「……お嬢さんは一体どなたかな?」

めっちゃこっちに顔だけ向いたー!

「私は春日美空って言います」

「私はボスポラスのカゲタロウ。春日殿、ラカン殿を存じているのか?」

殿付けで呼ばれるのは楓以外では初めて……というか楓もあれはあれでおかしいけど……。

「一応近くの部屋に滞在してるというか、大部屋も借りて知ってるんで……」

会議用の大部屋一つに個室複数を普通に借りてるけど一体いくらかかってんだか……。

「そうか。ならば案内願おうか」

「あー、はい。では案内しますんで」

受付の人が軽くこっちに会釈してるし……。
軽く返しとこ。
エレベーターに一緒に乗ったけど……気まずい。

「あのー、ボスポラスって言ってましたけど影使いの方なんですか?」

「春日殿、よく知っておられるな。その通り」

「知り合いに影使いの人がいまして、その人もボスポラス出身の影使いなんで」

「……それは真か?」

エレベーター着いた。

「丁度今同じ部屋です」

廊下で歩きながら話を何故か続けてるし……。

「……その方の名前は何と言うか聞いてもよろしいか?」

「えー、高音・D・グッドマンって言います」

「ぐ……グッドマン!?……しかし……まさか……」

突然動揺したー!?

「グッドマン家の事やっぱボスポラスだと知ってるんですか?」

「あ……ああ、知っている。地元では有名だ……」

微妙に焦ってるような……。

「……えっと着きました。多分ラカンさんはこの大部屋にいると思います」

豪勢な呼び鈴を鳴らして……と。

『はい』

この声は……。

「あ、高音さん、今戻りました」

『開けましたわ、どうぞ』

「どうもー」

ロックが外れたところで扉を開けーのと……。

「カゲタロウさんもどうぞー」

「ああ、かたじけない」

「春日さんその方は……」

「ラカンさんを訪ねて来たボスポラスのカゲタロウさんです。下のフロントで困ってたみたいなんで……」

「……私の一族と同じ仮面ですわね……。私は高音・D・グッドマンです。つかぬことをお伺いしますがカゲタロウさん、家名はおありですか?」

「……その金髪……やはり間違いない。私の本名は……風太郎・D・グッドマン」

カゼタロウ……カゲタロウ……えー安易すぎるわー!!

「風太郎・D・グッドマン!?まさか……まさか叔父……様なのですか?」

「へ?」

何この超展開。

「兄上に娘がいたとは……。仮面を外そう……」

え?外してくれんの?
確かにめっちゃ素顔気になるけど……。
でけぇ右手をゆっくり仮面にあてて……取った。

「…………」

何このスゲー渋い金髪イケメン!?
アスナ見たら絶対反応するね。

「お父様に似ていらっしゃる……」

高音さんの顔が感動に浸ってる感じになったよ!

「しかし……私は叔父等と呼ばれるような事は……」

「叔父様は叔父様です。お父様からは叔父様の事は伺っていました。前大戦後行方不明と聞いていましたが……ご健在だったのですね……」

高音さんの涙腺が緩んでる……。

「心配をかけたようで済まない……」

何か私邪魔だな……そろっと退散しよー。

「おおー?お前その格好カゲタロウか?よく来たな!何で仮面外してんの?てか外していいの?」

おっさん空気読めー!

「ラカン殿、呼びかけに応じ参上した。どうやら高音殿は私の姪のようだ」

「え?それマジ?感動の再会?」

「ラカンさん、少しお待ちいただいてもよろしいですか?」

高音さんの額に青筋浮かんでるし……。
いい感じの雰囲気が一瞬にして崩壊したから当事者としての反応としてはアリだな。

「あー悪ぃな、高音嬢ちゃん。じゃ、また後で。ゆっくりしてけや」

「かたじけない」

ラカンさん一銭も払ってないだろー。

「ねー美空ちゃん、あのオジ様誰?」

こっちも食いつきが早いッスよ……。

「高音さんの本物の叔父さんらしいよ」

「えー本当!?素敵!」

言うだろーと思った。
実際あんな美形なのに仮面で常に顔隠してんだとしたら変わった一族だなー。
高音さんは仮面はしてないけど。
高音さんとカゼ……カゲタロウさんの会話を遠くから見た感じ、高音さんからガンガン話かけてる。
「今までどうしてらしたんですか?」「やはり偉大なる魔法使いとして?」「影使いの技量はお父様より素晴らしいと聞いておりますが……」とかそんな感じで聞かれた方のカゲタロウさんはちょい困ってるね。
カゲタロウさんの発言的に高音さん産まれてたの知らなかったあたり、偉大なる魔法使い云々よりどう考えてもマジ風来坊だったんだろーと思う。
しっかしラカンさんが呼んだってのが高音さんの叔父さんとか世界は狭いなーって魔法世界は元々地球より狭かった。
大部屋の端の方で高音さんが影の使い魔出したりして見せたり、カゲタロウさんが「私が姪にできるのはこれぐらいだが……」とかなんとか呟いて似てるけどもっと強そうな使い魔出したりした。
高音さんはそれ見た瞬間テンション上がってて普段とは違う一面を見た気がする……。
まさかの高音さんの師匠現わるってとこだな。
とりあえずこの日からとんでもなく堅い人が1人増えた。
食事する時以外結局仮面付けるもんだから存在感がスゲー。
違うとこ出かけてた皆も帰ってきては大体カゲタロウさんを2度見するね。
愛衣ちゃんは最初ギョッ!とした反応したんだけど高音さんの叔父さんだとわかるとペコペコ挨拶してたわ。
葛葉先生も麻帆良学園の教師って事で挨拶したけど、当のカゲタロウさんはまさかこんな所に来るとは思ってなかったんじゃないかなー。
仮面で良く分からないけど結構困ってたように見えたし。
ラカンさんとは普通にワイン一緒に飲んで何か話してたよ。
うん、どう見ても堅物な感じな人と適当な感じの人の会話が成立しているのが不思議でならないスね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月27日、16時頃、旧オスティア空中王宮ゲート―

探索4日目にしてネギ達は端末の撮影機能を利用しながら着実に廃都オスティアのかなり詳細な地図を作り上げていき、また新オスティアへの帰還ルートの確定も行いながら、今となっては横倒しに近い形で傾いている空中王宮のゲートにとうとう到達した。
道中多くの巨大な市街地陸地や旧オスティア空港、旧オスティア官庁街も確認しており、単純にゲートの状態を確かめる事だけが全てではない。
度々遭遇する魔獣は、小型飛空艇での移動中であれば撃退、街中探索での場合には討伐もやむをえないという形であるが、戦力的には常に一瞬本気を出して全員でかかればすぐに片がつくため、メンバーの中で特に大きな怪我などをした者はいない。
ゲートに近づくにつれ、ネギは魔力の流れが僅かながらゲートに向かっているということに気づきやはりゲートに何かあるに違いないと確信していた。
ゲート自体の調査にあたっては、空中王宮に小型飛空艇で入れるところまで侵入し、祈祷精霊エンジンを完全停止させて全員でゲートに向かったのだった。
一方フェイト・アーウェルンクスの部下5人の少女達はそれなりに優秀であるのか、ネギ達に悟られる事無く遠くから監視することができていた。
……ゲート付近には魔獣もおらず、時折空から丁度傾き始めた夕日が差し込み穏やかな雰囲気に包まれている。

「間違いない。休止中のゲートだね。要石は破壊されていないようだが……」

「ここから戻れるんやな」

「ネギ坊主、ゲートは動くアルか?」

「それは少し調べてみないとわかりませんね……。ただ分かるのはフェイト・アーウェルンクス達は意図的にこのゲートを残したのか、それとも破壊する必要が無かったのかどちらかの可能性がある……という事ですね……」

「皆、少々動かないでもらえるでござるかな?」

突然両目を開けて注意を促した。

「楓君?」

「楓さん?」

「いや……ここについ最近誰かが来たような形跡があるのでござるよ……」

「ほ、本当ですか?」

「茶々丸殿は床を見て何か気づかれないかな?」

「……お待ち下さい…………確かに、そこの通路からこのゲートにかけての床に間違いなく私達以外の足跡が複数あり、積もっている埃の量が少ないようです」

「複数……と言う事はやはりフェイト・アーウェルンクス達という線が強いね……。ここで一体何をするつもりだ……禄でも無い事だとは思うが……」

「タカミチ、どうもここに来て、まだ微弱なんだけどこのゲート一帯に魔力が集中しつつあるように感じるんだ。多分魔力をここに集中させるのが狙いなんだと思う……」

「ネギ君がそういうならフェイト・アーウェルンクス達の狙いはそれで間違いなさそうだね……。他の11箇所のゲートを壊した事で行き場を失った魔力がここに集まっているという事かな」

「うん、多分そうだと思う。正直このゲートも破壊してしまえば奴らの計画は阻止できると思うんだけど……」

「2年は戻れない事になってしまいますね……」

「はい……その通りです、刹那さん」

「ここを破壊するのは……まずは調査してからにしよう。要石自体は壊さないで後で利用する事もできるからね」

「あ、そうか。壊れたゲートに移し替えればいいんだね?」

「そういう事さ。さ、本格的に調べようか」

他の既に破壊されたゲートの要石の代わりにここの要石を移し替えれば、わざわざこの危険地帯までやってくる必要が無くなるので重要な事だ。

「ゲートの調査は、拙者は専門ではないから一度飛空艇の様子を見に戻るでござるよ」

「楓姉ちゃん俺も行くで」

「私も行くアル」

「そうして貰えると助かるよ」

「お願いします」

ゲートに残って本格的に調査をするのは主にネギ、高畑、茶々丸の3人で行い、周囲の警戒を兼ねてまずは桜咲刹那が近くで待機することとなった。
破壊されたゲートの調査した経験から高畑が主に分析をし、茶々丸が映像を初めとする科学的データを収集かつオスティアで待機しているドネット達との通信を行い、ネギが魔力反応を、感覚を研ぎ澄ませて辿りながら2人とは違う視点からの意見交換をすること3時間、それなりの結論が出た。

「どうやら一度多量の魔力を注入しないと再起動はせず、強力な攻撃魔法でショックを与えるのは当然駄目……か。更にこのオスティアのゲートは通じる先の指定が旧世界側のゲートのどこかを選択できず、既にどこか一つに行き先が固定されているようだね」

「恐らくそれで間違いないでしょう」

「フェイト・アーウェルンクス達は他のゲートを壊しておきながらここのゲートだけ復旧させたかっただけっていうそんな単純な事が狙いでは無いと思うんだけど……。とにかく、ここの魔力濃度の観測は行ったほうがいいね」

「ああ、クルトにそうするように伝えておこう。魔力がここに集中するとなると一番危険なのはどちらかというと墓守り人の宮殿の可能性が高いんだけどね……」

「20年前の再現……って事?」

「その通り。ネギ君も見た映画だけど、当時の最終決戦の際異常な魔力の光球が発生したからね」

「世界の始まりと終わりの魔法って、やっぱり発動には魔力が必要ってことなんだよね……」

「魔法無効化能力が媒体となるにも関わらず魔力を必要とするその仕組みはよくわかっていないから詳しい事は……」

「それは仕方ないね……。アスナさんが攫われなければ大丈夫だとは思いたいけど……」

「近いうちにフェイト・アーウェルンクス達の方から接触してくる可能性は高いだろう……」

「うん……油断しないようにしないと。タカミチ、一応ゲートの確認でここまで来たけど……墓守り人の宮殿はどうするの?」

「ネギ君達のお陰でここまでのルートはわかったから次来る時から1日で一気に座標を当てにして来ることができるから特に急ぐ必要は無いよ。既にここに侵入された形跡があるから墓守り人の宮殿にも入り込まれている可能性は高いが、相手の戦力が分からない以上、リスクを冒してまで調査に乗り出すより、改めてジャックにも来てもらう方が良いから今回はパスしておこう」

「うん……。もし本当にフェイト・アーウェルンクスと今戦う事になるとしたら……それこそラカンさんの協力が必要だね」

「一度新オスティアに戻ってクルト、もうすぐ到着するセラス総長やテオドラ皇女殿下とも連絡を取り合って体勢を整えよう。茶々丸君、データは良いかな?」

「はい、問題ありません。全て記録しました」

「ありがとう、茶々丸さん」

「い……いえ、当然の事です」

「そんな事ないですよ、茶々丸さんのお陰でこの探索は実のあるものになりました」

「は……はい」

「よし、戻ろうか」

「うん」

「分かりました」

こうしてネギ達は素早く撤収の準備を済ませ、小型飛空艇に全員乗り込み新オスティアへ帰還することになった。
一方5人の少女達と言えば、ネギ達が新オスティアへ戻るルートに入ったのを確認し、ネギ達の目的がゲートを確認し旧世界への帰還ルートの探索に来たのだと判断したのだった。
これでネギ達が墓守り人の宮殿にまで調査の手を伸ばしていた場合かなり違う状況を呈した可能性があるが、高畑の慎重にすすめるべきという意見によって、途中夜になり一泊を安全な所で過ごしつつもネギ達は一路新オスティアへと戻って行ったのだった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月28日、3時頃、新オスティア、某浮遊岩礁地帯―

浮遊岩礁地帯から見えるオスティアは深夜にも関わらず光々と照明が輝いており、幻想的な夜景である。

「フェイトはん、お祭りは明後日からでしたっけ?」

「そうだよ。興味あるかい?」

「いいえ~。もとより人の間で生きられぬ性なれば……ウチには血と戦いがあれば充分ですえ」

「そうか……!ツクヨミ」

フェイトが反応し月詠のマフラーを引っ張り岩場に隠れると同時に雲海から突如巨大な飛空艇が出現した。

「はわっ?なんですのー。潜水艦おすか~?」

「アリアドネーの特務潜空艦だよ」

「刹那センパイがおったとこですねー。でもどうして北の小さい国がおるんどすかー?ここて一応南の大国はんの領地なんちゃいます?こんなトコにあんなんがいてええんですかー」

「アリアドネーだけじゃない。祭りに乗じて北の帝国の隠密艦も当然、南のも色々うろついてるよ。ここは要地だからね。平和の祭典とは名ばかりということさ」

「ややこしいですねー」

「逆にこの各国勢力が牽制しあっている時期でなければ僕達がオスティアの辺りに近づくのは難しいんだよ」

「へー。それで、アレ切ってもええんですかー?」

脈絡も無く特務潜空艦を切りたいと言い出す月詠。

「話聞いてた?……月詠さんなら切れるだろうけど……」

そう返すと同時に潜空艦はまた雲海に潜っていった。

「……それにしてもお姫様達皆ここに集まってまいましたなぁ」

「わざわざ帝国から運ぶ手間が省けたという所かな……。しかしあのジャック・ラカンが近くにいるというのは想定外だね……。ネギ・スプリングフィールド達は廃都に調査に出たようだけど……」

《フェイト様》

―召喚―

「調、焔、栞、暦、環」

次々と5人の少女達が仮契約カードによって召喚され、全員片膝をついて現われた。

「……早かったね。どうだった?彼らの動向は」

「はっ、ご、ご存知でしたか!ゲートの探索のみを行い今日にはオスティアに戻ってくるかと思われます」

「帰還ルートを探しに行ったか……。調、墓守り人の宮殿には彼らは行っていないんだね?」

「はい、その通りです」

「タイミングは良かったというべきか……魔力の対流は昨日丁度整ったばかり……。魔力が本格的に集中する前に向かってくれてある意味怪しまれずに済んだかな……。そろそろ……作戦を決行するよ」

「「「「「はっ!!」」」」」

「ウチも戦えるんですねー」

「手練が多いようだから一人に固執しすぎないようにね。陽動を頼むよ」

「はいなー。ところで……あんた達の目的はなんですか?」

「……世界を救う」

「ほう……それは」

そしてフェイト・アーウェルンクスらも……いよいよ作戦に取り掛かるのであった……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月29日、15時頃、新オスティア、中心街―

昨日ネギ君達がゲートの確認をして戻ってきたスよ。
話聞いてて分かってたけど、本当に目立った怪我も無かったし、食事もちゃんと食べてたみたいで全然問題なかったみたいね。
アスナとこのかはそれぞれネギ君と桜咲さんにしつこく怪我無いかどうか聞いてたけど。
とりあえず、ゲートの再起動には現段階では魔力が足りないらしくちゃんとした手続きを踏んで稼働させるようにしないと駄目らしい。
ま、でも最後のゲートは壊されずに残ってただけでも収穫スね。
一応地球に戻れそうで良かったー。
4倍ぐらい時差が本当にあればあっちはまだ8月の末頃だしねー。
戻ってきて早々高畑先生はまたオスティア総督府に出かけて総督さんに報告をしに行ったらしい。
ネギ君と小太郎君はラカンさんと組むのが高音さんの叔父さんだって事に凄く驚いてた。
丁度昨日ホテルの外でカゲタロウさんの影槍の威力とやらをサービスなのか見せてもらって、マジ強いのはよーく分かった。
ちょい腕を動かしただけで何本も影の槍が飛び出して標的として置いといたコンクリが軽くスパスパ切れたし……。
高音さんはそれ見て「流石叔父様、素晴らしい練度ですわね!」って超感動してた。
高音さんもあんな感じになったらと思うとマジこえースよ。
まほら武道会で高音さんの影槍も見たけどこうして比べると実際ホント全然威力違うのが分かる。
ネギ君と小太郎君は「ラカンさんに高音さんの叔父さん……凄い壁だ……」って悩んでた。
ラカンさんはどうもネギ君達に強くなってほしいのかはっぱかけてる節があるんだけどそんなに急ぐ必要あるのかねー。

そんな事考えつつココネと一緒に完全にお祭りモードになった中心街をフラフラしにきてる訳で……。
屋台で売ってるナギまんってネーミング安易だなーと思いつつ、安いもんだからついつい買っちゃったりして食べてみたら何か結構ウマイ。

「ココネ、これ美味しいよね?」

「うん、美味しい」

そりゃ良かった。

「だよねー!安くて美味いとか超りんの肉まん以来だわー」

妙にまほら祭に感じが似てて錯覚しそうだわー。
歩いてる人達が仮装じゃなくて紛れもない本物っていうのは大きく違うけど。
にしても箒レースやら野試合やってたり結構過激スねー。
地球でこの風潮は受け入れにくいと思うわ。
麻帆良ならまーアリかもしれないけどそれでも私闘が多すぎる。
そもそも常識として魔法世界には決闘がちゃんとした制度としてあって、合意の元なら死んでも仕方ないなんていうルールがある時点でどうかしてるんだけど……。
空にアリアドネーでちょい見た記憶のある飛空艇がちらほら見えてるからゆえ吉達が乗ってる巡洋艦ランドグリーズももう着いてる頃かな。

いよいよ明日から7日7晩のなんでもござれの終戦記念祭が始まるけどやっぱ目玉はナギ・スプリングフィールド杯スね。
これは間違いない。
明日から早速予選開始だけど、既に決勝戦の組み合わせはもう分かったようなもんだけどどうなることやら。
テオドラ皇女殿下が今日にはオスティアに着くらしく、つまるところダイオラマ魔法球がまたやってくるみたいで、ネギ君と小太郎君はもうちょい頑張れそう。
何かズルい気もするけど。
ま、ラカンさんは存在がズルい感じだし別にいいんじゃ?と思う。

廃都オスティア探索組を除く、まだ指名手配中のアスナ達はこの数日リゾートホテルから出ないようにしてたけど、明日すぐ式典が始まった瞬間に総督が祭り中の総督権限を行使して皆の指名手配を解除してくれるから晴れて自由の身になれるらしい。
こういう時権力ってスゲーと思う。
職権濫用と言ってもおかしかない感じするけど、元々無罪だし、当然スね。
さて、裏通りに行かないように気をつけてもうちょいココネと散歩すっかなー。

「ココネ次どこ行くー?」

「湖が良い」

「あー、この辺やかましいもんね。おっけー」

ココネは静かな所に行きたいみたいね。
まー、らしいっちゃらしいな。
そうとなれば行くかー!



[21907] 53話 終戦記念祭(魔法世界編13)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/02/20 17:42
―9月30日、9時頃、新オスティア―

ついに終戦20年を祝う、オスティア終戦記念祭が開催された。
連合からはメガロメセンブリア主力戦略艦隊旗艦スヴァンフヴィートを筆頭にした艦隊とそこから、降下して複数の鬼神兵が姿を現す。
帝国からはインペリアルシップ艦隊と、帝都守護聖獣の一体、古龍龍樹が姿を現す。
そして記念式典中のオスティアの警備を担当するのが強力な独立武装中立国であるアリアドネーのアリアドネー魔法騎士団である。
かつての前大戦が終わり、終戦協定が結ばれた場所と同じ式典会場では、連合からはメガロメセンブリア元老院議員主席外交官ジャン・リュック・リカード、帝国からは第三皇女テオドラの2人が握手を交わし、その後ろではアリアドネー魔法騎士団セラス総長とオスティア総督クルト・ゲーデルがその様子に拍手を送っていた。
それぞれの要人が終戦記念祭についてコメントを述べ、滞り無く祭りの開催が宣言され、周囲は一層の歓声に包まれた。
ネギ達はその式典を少し離れた所から見て、オスティアの祭り一色の熱気に驚いていた。

「いよいよ、終戦記念祭の始まりですね。アスナさん」

「はー、麻帆良祭もびっくりよねー」

「麻帆良祭も僕は驚きましたけど、ここのお祭りも凄いですね」

「仮装行列に見えるけど全部本物なのよねー。それでネギとコタロはこの後すぐ闘技場で予選でしょ?」

「はい、そうです」

「皆で応援するから頑張ってね。でも、無茶はしちゃ駄目よ?」

「ありがとうございます……アスナさん」

「……もー何よその顔は!そんな暗い顔してると私まで暗くなってくるじゃない!」

アスナは突然ネギの頬を両手で引っ張った。

「いたたた!何するんですかアスナさん!痛いですよー」

「よし、それぐらいの顔の方がいいわね。やっぱネギはその姿の方が……あ、ちょっとネギ身長伸びたわね」

「そ、そうですか?」

「そうよー。この前はもうちょっとここぐらいで……」

「あはは、よく覚えてますね」

「おおっ!アスナ!指名手配解除されたよ!」

そこへまほネットを確認していた春日美空が声を上げる。

「ほ、ホント!?美空ちゃん!」

「まほネットで今確認した所。間違いないスよ」

「総督のお陰ですね。良かった……」

「あー良かったー!何もしてないのに指名手配されるなんてたまったもんじゃないわよ!これで自由に行動できるわ」

「あ、でも1人にはならないで下さいね」

「それぐらい気をつけるわよ。いざとなったら私も結構強いんだから」

「そうですけど……相手はどれほどの戦力があるかわかりませんから交戦は控えてください。そもそも街中で戦ったりしたら夕映さん達アリアドネーの警邏の人達に通報されますし」

「え、そうなの?」

「そうですよ。野試合にしても一応決まった所でしかやってはいけないそうです」

「き……気をつけるわよ」

「必ず端末で連絡するか、1人で対応しようとせず、皆がいるところに逃げるように心がけて下さいね」

「ハハハ!アスナ心配されてるなー!」

「もー、何か私が子供みたいじゃない!ネギなんて本当に子供なのに!」

「いや、アスナ、私達皆子供だからね」

「え?」

「え?じゃないよ?大丈夫か?」

開催式典が終わると同時にネギ達にかけられていた指名手配は終戦記念祭期間中の総督権限により恩赦という扱いで解除された。
この情報を知ったフェイト・アーウェルンクスの部下の少女達は少なからず動揺をしたが、フェイト・アーウェルンクス本人は「指名手配が解除されようがされまいが大した問題ではないよ。作戦が成功すればいいだけだ。それよりも遠くから監視していた事で彼らの動きをきちんと把握できなかった事の方が厄介だね……。そういえばオスティアの総督は元紅き翼だったか……」と相変わらずの無表情で答えたのだった。

そして拳闘界の頂点とも言われるナギ・スプリングフィールド杯の決勝トーナメント出場を決めるための予選も初日から行われた。
ネギとコタローは拳闘士団には無所属であるため他の拳闘士達と異なり、闘技場で寝泊りしていない。
そのため、2人は選手専用出入口を通って試合に臨む事になるのだが、その出入口の前には大量の報道関係者及びファンクラブ会員達が待機していたため、2人がゆっくり人ごみをかき分けながら愛想を振りまきつつも、心中は非常に面倒だというものであった。
当の試合と言えば、相手がいわゆる「剣」闘士であったため、観客達はもう名物になっている武器の解体ショーを期待していたのだが、2人はその期待に見事応え、場内は歓声の渦に包まれた。
ネギ達関係者は皆特等席で観戦していたのだが、全員が同じ特等席のある部屋ではなかった。
それというのも、当の特等席には、テオドラ第三皇女、アリアドネー魔法騎士団セラス総長、メガロメセンブリア元老院議員主席外交官ジャン=リュック・リカード、オスティア総督クルト・ゲーデル、高畑・T・タカミチとジャック・ラカンという先の式典のメインであった人物達含め大物が揃っていたという理由が大きい。
何の因果か全ての国家勢力が集結するという様相を呈し、フェイト・アーウェルンクスらの問題について経緯を整理し説明するところから始まり、連合、帝国、アリアドネーの戦力状況を互いに認識するという作業が行われた。
途中ジャン=リュック・リカードが「あの拳闘士のネギって誰?」と聞くという間の抜けた一幕もあったが、ネギがまだ10歳の子供という先入観にとらわれ幻術を使っているという基本的な事に気付かなかったものの、知らなかったものは仕方がない事かもしれない。
因みにジャック・ラカンがそんな政治や軍事的な詳しい話についてはどうでもよく、テオドラ第三皇女から絡まれつつもさっさと隣の部屋に退散していったのは言うまでもない。
そしてその部屋では既に13時を過ぎまだ食べていない昼食をどうするかという話になり、「折角指名手配も解除されて堂々と街中を歩けるようになったのだから祭りの屋台を回りながら適当に食べ歩きがしたい」という一声により、主に指名手配されていた面々はそういう流れになった。
一方既に街中は前日までに見て回っていて、ジャック・ラカンとカゲタロウの試合まではそんなに時間も無く、どちらかというと生ける伝説の試合を直に見たいというクレイグ達と本物の叔父もいる高音・D・グッドマン率いる魔法生徒4人はその場に残る事にした。
街に繰り出したのは、元々リゾートホテルで待機しているドネットと茶々丸を除いたネギ達11人である。
終戦記念祭中のオスティア街中を11人で一緒に回るというのは煩雑であるが、地球では絶対に見ることのない、変わってはいるが美味しい食べ物を販売する屋台を巡りながら腹を満たし、アフタヌーンティーと言う事であるカフェの一角でネギ達は一息ついていた。
……しかし……そこで事件は起こった。


―9月30日、14時43分、オスティアカフェテラス―

―時の回廊―

フェイト・アーウェルンクスは、暦に与えたアーティファクト、時の回廊をネギ達がいるカフェの外から自ら使用し、彼等を除くカフェ内一帯の時間を極限まで遅延させた。
時の回廊とは、任意の効果範囲の時間操作を可能とする魔法具であり、擬似時間停止に近いことも可能である。
ただし、遅延させた効果範囲に範囲外から飛び道具などによる攻撃をしかけてもそれすら遅延してしまうため使い方には注意が必要とされる。

「暦、悪いけどもう少し借りておくよ」

時の回廊、見た目は砂時計をフェイトが暦に渡す。

「は、はい!フェイト様!で、でも……何故私にやらせては頂けないんですか?」

「少し心配だから……かな……」

「そ、そんな~!」

「すぐに任せるよ。悪いね、時間をかけられない」

―無限抱擁―

フェイトはまたしても環に与えていたアーティファクト無限抱擁をネギ達11人と自分達「6人」に直線状に関係ない者を巻き込む事なく発動させた。

「環、これも少し借りておくよ。無限抱擁の事が気づかれれば彼らの戦力から考えると環が危険だからね」

「ハッ!な、なるほど、了解したデス」

その瞬間カフェ内の時間は再度動き出したが、無限抱擁の中に取り込まれたネギ達はカフェの中から忽然と姿を消した。
無限抱擁という名の通り、無限の拡がりを持つ閉鎖結界空間が発生し、大量の巨大な白い柱が空に縦横ランダムに無数に浮かび、底はどこまでも続く雲海という現実離れした光景が広がる。
無限の広がりを持つだけあって、当然底に落ちればどこまでも地面は無くただ落ちていくだけである。

フェイト達は、未だほぼ完全に時間の停止したカフェを切り出したかのような場所のすぐ下に、かねてより用意していた広域遠距離転移魔法陣を完璧に敷設した。

「彼らは何らかの通信装置を持っている筈だ。この後は流れになるけど、壊せるようなら壊して」

「「「「はっ!」」」」

「わかりましたえー。あぁ、センパイ達止まっとるなんて……フェイトはん、まだですのー?」

「もう始めるよ。座っている場所順に1から9まで……。月詠さんの相手は5番だろうけど……好きにしていいよ」

「はーい」

「さあ、始めよう」

―時の回廊解除―

ネギ達はカフェで座った状態のまま無限抱擁に取り込まれた為、突然時間遅延が解かれ周りの光景が変わった事に驚く。

「え?」

「どこ、ここ?」

「何やコレーッ!不思議空間!?」

「お嬢様っ!?」

「こんにちは。数ヶ月振りかな」

最初にいたカフェの床ではなく近くに浮かぶ柱の上からフェイトが話しかける。

「貴様はっ!フェイト・アーウェルンクス!!」

桜咲刹那の発言でネギ達に緊張が走り、即座に構えを取る。

「そう、良く知ってるね。でも、これで2度目だ」

―発動―

「しまっ!!」 「またっ!?」

フェイトが指を弾いた瞬間敷設してあった魔方陣が発動し、その場からネギとアスナ以外は姿を消し、遠距離に飛ばされた。

「はわぁー、うふふ、ウチ、行って来ますぅー!」

月詠は恍惚とした表情を浮かべ、後を追うかの如く桜吹雪に包まれ転移した。
残ったのはフェイト達5人とネギとアスナのみ。

「フェイト……アーウェルンクスッ!」

「あんた達一体なんなのよ!」

「まあ、話をしに来ただけさ」

―時の回廊―

そう言いながらもフェイトはもう一度時の回廊を密かに発動しネギとアスナの時間を止める。

「さて、次の段階だ」

そう言いながらフェイトは続けて懐からスクロールを取り出し封印を解く。
……そこから現われたのは栞であった。

「栞、お姫様を頼むよ」

「はい」

栞は自分が出てきたスクールを懐にしまいながら、すぐにアスナの目の前に向かい時の回廊の効果範囲内に入る。
フェイトはその瞬間時の回廊を再度操り効果範囲をネギだけに絞り、アスナと栞を時間遅延から解放する。

「こんにちは、お姫様」

「ふむっ!?」

アスナは突如目の前に現われた7人目に驚いた隙を突かれ、口付けをされる。
アーティファクトの効果によってかアスナはその場で気絶し、栞は完全に姿をアスナに変える。

「栞、めぼしい荷物を取り替えて」

「はい」

倒れたアスナは特に鞄等を持ってはいなかったが、栞がポケットに端末と白い翼のバッジが入っているのを見つけ、取り替える。

「終わりました。スクロールに封印します」

「それでいいよ」

アスナの身体が光った瞬間スクロールの中に取り込まれる。
偽アスナとなった栞はスクロールを一瞬迷うも、フェイトに向かい投げて渡した。

「スイッチをいれて」

難なくスクロールを受けとったフェイトはそれをしまう。

「はい……スイッチをいれます」

「あとは皆の芝居次第だ。暦はタイミングを合わせてアベアットしてね」

「「「はっ」」」

アスナの姿をした栞から機械音がし……。

「……ん?アレ……私?」

―アベアット―

この間ネギの時の回廊による時間停止時間はおよそ30秒。
飛ばされた9人がいきなり空中に放り出され落下し始めた状態から体勢を整え、周りの景色に愕然としながら見回して丁度という所。

「話をしに来ただって!」

フェイト達5人の立ち位置は時の回廊発動直前から一切変わっておらず、すぐにネギが時間を遅延される前に言おうとしていた言葉をそのまま放つ。

「ハッ!そ、そうよ!あんた達と話す事なんて何もないわよ!」

「君達がそういうつもりでなくてもこっちには用があるんだ。ネギ君、おとなしくお姫様を渡してもらえないかな?」

「なっ!?」

「ありえない……」

―魔法領域展開―
―双腕・断罪の剣―

ネギは完全に戦闘態勢に入り両腕に断罪の剣を構える。

「ネギ・スプリングフィールド、貴様ッ!」

「いいよ、焔。やれやれ、血の気が多いね。人の話は最後まで聞くものだよ?」

「……なら続きを言えばいいだろう」

「お姫様を渡す、それだけで君達全員現実世界に帰れるようにしてあげるよ。悪くない取引だと思うけどね。僕達は彼女を今までやろうと思えばいつでも簡単に奪う事ができた。それをわざわざ紳士的に取引を持ちかけているんだよ?彼女に身寄りはいない。彼女がいなくなって現実世界で困る人間もいないだろう。元々彼女の麻帆良学園での8年間は……偽りの人格。偽りの記憶、人形の上に貼りつけられた薄っぺらな人生に過ぎないのだから……」

「…………言いたい事はそれで終わりか。フェイト・アーウェルンクス」

「偽りの……人格ですって……」

ネギとアスナはフェイトのわざとらしい挑発の数々に拳をきつく握り締める。

「事実だろう」

「違うッ!アスナさんはアスナさんだ。薄っぺらでも何でもない!見てきたように言うのをやめろ!お前に何が分かる!それに身寄りなら僕がいる!タカミチがいる!皆がいる!困らない人なんて、誰もいやしないッ!!」

「ね……ネギ……」

ネギが先に立て続けに言葉を返したため、アスナも怒ろうとした所タイミングを損ね、ネギの言葉で冷静になった。

「へえ……そこで高畑・T・タカミチの名前が出てくるということは全部聞いたのか。お姫様の記憶を消した張本人から」

「高畑先生を悪く言うんじゃないわよ!」

「いい加減にしろ……。そもそも話をしに来たという癖にこんな空間に閉じ込めておいて話も何もないだろう」

「受け入れてくれたら解くことを約束するよ」

この無限抱擁を発動したのはフェイトであり、フェイトが解除しない限りは無限抱擁から逃れる事はできない。

「くっ……」

「悩んでいる暇はあるのかい?君の仲間達で空を飛べない人達は今頃どこまでも落ち続けている所だよ?途中で柱に叩きつけられているかもしれないね」

「あんた達卑怯なのよ!」

「…………」

「お姫様、卑怯だと言われようとこれが仕事だからね。あきらめてもらうしかないよ」

「だが……絶対にアスナさんを渡す訳にはいかない……。この世界にアスナさんが縛られているというのなら……僕がその鎖を絶ち切る。お前達の世界を破滅させる計画もやらせはしない」

「ネギ……その言葉は……」

「確かに……君の言うとおり、ある側面から見れば確かに僕たちの目的は……この世界を破滅させることだ。だがそれも故あっての事だから……何も知らない君達は黙っていてくれないか。それで充分だ」

「始まりと終わりの魔法に一体どういう効果があるのかは知らないけど、魔法世界の崩壊をわざわざ早めるような真似をすると目の前で言われて黙っているわけにはいかない」

「……それはオスティアの総督から聞いたのかい?指名手配を解除してくれるぐらい仲が良いようだけど」

「お前に答える必要はない、フェイト・アーウェルンクス。だけど……やはり寧ろ何も知らないのはお前達の方だ」

「何だとっ!?」

「へえ……君にそんな事を言われるとはね。……でもそれは聞いても教えてはくれないんだろう?」

「この空間から開放して、アスナさんを今後一切諦めるなら……教えてもいい」

「フ……最初から分かっていたけれど、どうやらお互い無理な相談だったようだね。これで晴れて僕達は敵同士だ。しかし、こうなれば力の無い者にはどうすることもできない。焔、暦、環、調、ここは僕がやる。君達は他を協力してあたって」

「「「「はっ!」」」」

次の瞬間4人は転移魔法符で飛ばされた9人のうち、既に月詠の相手をしている桜咲刹那以外の残り8人のうち1人目の元に転移していった。

「さあ、始めようか。ネギ君、修行したんだろう?僕に勝てればここから出られるよ」

「やるしかないか……。アスナさん、皆の話は聞いてましたね?」

「もちろんよ!」

当然と言えば当然だが、端末は万一の時に備えて常に起動してあるのでここまでの会話でネギとアスナはアーニャを除く他7人の無事……を確認していた。
そもそもそれどころではない1名は桜咲刹那である。
これまでフェイトとの会話でネギとアスナが発した会話は性質上8人全員に聞こえていた。

「行きます!」

ネギは両腕に断罪の剣、魔法領域を展開したまま浮遊術で空中に飛び上がり仕掛けた。

             ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
  ―契約により 我に従え 高殿の王 来れ巨神を滅ぼす 燃ゆる立つ雷霆―
           ―百重千重と 重なりて 走れよ稲妻―
                 ― 千の雷!!! ―

「はぁぁッ!」

ネギの本気の魔法詠唱速度は、詠唱自体知覚できないレベルの音の羅列になるため、呪文の長い千の雷ですら2秒強という速さであり、まさに普通の魔法使いが魔法の射手を詠唱するよりも場合によってはそれよりも速い。
欠点は、高速で魔法を連射できても、当然魔力消費量の激しい魔法を何度も使えば、それだけ早く魔力が底をついてしまうという事である。
千の雷はそもそも広範囲殲滅魔法であるため一点に集中する魔力量はさほど多くは無く、放たれた側のフェイトは右手を軽く前に突き出してほぼ常時展開している曼荼羅のような多重障壁であっさり防いだ。
ただ、障壁で防がれなかった場所の柱は跡形もなく消滅し、足場が崩れた事でフェイトも浮遊術で空に上がった。

「……なるほど対軍魔法か。狙いは光と轟音で位置を知らせるという所かな……」

周りから煙が上がる中、フェイト・アーウェルンクスは悠然と宙に浮いていた。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

突然フェイト・アーウェルンクスとその部下と思われる、修学旅行の時に見た神鳴流剣士1人を含む5人が現れて結果的に交戦するしかなくなった。
フェイトと話をしている最中に葛葉先生達から全体通信が入って来たから、皆フェイトが言うようにどこまでも落ち続けているという事は無い。
今僕とアスナさんの位置を知らせるのと攻撃も兼ねて千の雷をフェイトに撃ったけど……。

《ネギが千の雷を放ったわよ!》

《ネギ先生、光、見えました!》

《見えた!今からそちらに向かうでござるよ!》

《ネギ君、見えたえ!》

《見えたで!俺はもう向ってるから待ってろや!》

《ぐっ……私も見えたには見えたが……このフェイトの部下とゆーのは……厄介アルねッ!伸びろッ!一旦通信を切るアルよ!》

……くーふぇさんがマズそうだ。
問題のフェイトは……流石に父さんやラカンさんレベル……全然効いてない……。
コタローはアーティファクトの効果で僕がどの方向にいるのかすぐわかったから影の転移を利用してこっちに来てくれてる。

《ネギ先生、私も見えた。葛葉先生、どう見る?》

《円周を描いて転移させられた可能性があります。ネギ先生は2人に任せ、龍宮真名は私とお嬢様達の回収に》

《了解した》

《真名、葛葉先生、それなら拙者も分身を出すでござるよ》

《……では、長瀬楓もお願いします》

くーふぇさんがフェイトの部下の相手をしているということは……他の皆も狙われる可能性は充分にある……か……。

「いきなり大呪文か。不死の魔法使いの元での修行とジャック・ラカンの元での修行はそれなりに効果があったのかな。まずはウォーミングアップといこうか」

―障壁突破 石の槍―

無詠唱の貫通力が高い石の槍!
フェイト自身は飛んでいるのに右前方の柱から飛び出してくるって事は遠隔発動もできるのか!
修学旅行で使ってきた時よりも規模が大きい!
断罪の剣を投擲して分解するッ!
伸びる速度が速いっ……虚空瞬動で真上に回避!

―双腕・断罪の剣―

右手側だけ身長以上の長さに伸ばして魔法領域の外まで射程を作る。

「流石にそれぐらいは避けられるか。良いよ。そうでなくては。その剣で戦うというなら僕もこれで相手をしよう」

石の剣か!
分解できそうだとは思うけど……多分拳闘大会で使われる金属の剣よりも強度は高い可能性がある。

《ネギ!私も戦うっていったらやっぱり邪魔?》

《はいっ!今ここで入ってこられてもキツいです!柱を足場にしなければいけないアスナさんでは空中戦にはそもそも向いてません!》

「また会話中かい?集中してくれないと困るよ」

《わ……分かったわ……》

左横っ!?こんな近くにっ!!
動きも速い!
石の剣の刺突が魔法領域を突破してくる!

「だぁッ!」

断罪の剣を当てて抑えながら虚空瞬動で上方に回避!
倒さなければ出れないのはわかっているけどウォーミングアップと言ってる時点でまだまだ凶悪な技を持っている可能性が高くて迂闊に攻撃には出られないっ……。

「遅いよ」

上かっ!

「ッ!」

もう一度回避!
……一度のどかさん以外に仮契約カードでの召喚を試したい。
楓さんが召喚できさえすれば天狗之隠蓑でアスナさんを遠くに運ぶ事も可能なんだけど……。
千の雷の音が仮契約カードの召喚可能限界の10kmに届くのは後数秒の筈だ。
もし数十km単位で離れていた場合、雷鳴の届く音の一般的限界距離が15kmだから千の雷でも音が届かない事になるけど。
でも光が見えてくれたのはせめてもの救いだ。

「それにしても気になる障壁だね。似ているけれど、少し違う。それに吹き飛ばすつもりでやっても一瞬止められる瞬間があるというのは興味深い。今度はこれを見せようか」

また別の攻撃かっ!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

さて、ネギとアスナを除く9人が一体どういう配置で転移させられたかと言えば、ネギとアスナのいる位置を基点として半径30kmの円を描き等間隔、各人およそ20km程度となっている。
そんな中、暦、環、調、焔の4人は古菲の前に現われた。

「申し訳ありませんが、しばらく動けなくなって頂きます」

という調の第一声により戦闘が開始された。
まず暦と環の2人が古菲に近接攻撃を左右から仕掛け「行ける」と2人は思ったが、4対1という状況に油断し、本気を出さなかった為、繰り出された2人の攻撃を古菲はギリギリで見切ってかわし、カウンターに腰を落として掌底を2人の鳩尾に叩き込み吹き飛ばした。

「みぎゃっ!」「かはっ!」

「暦!環!」

「油断するなと!アデアット!」

調はアデアットした狂気の提琴で音波攻撃を放ち古菲のいる足場を粉々に砕いた。

「およっ!?」

「1度目はサービスです。2度目はありませんよ。焔」

この時ネギの千の雷の光が届いた。

「分かっている。よくも暦と環を!」

焔は発生した粉塵に向かい睨みつけ、足場が無くなった瞬間そのままバランスを崩し斜めに傾いた場所に落下する古菲を頭上から粉塵爆発が襲いかかる。

「しまッ!!」

―アデアット!!―

爆発によって一気に煙が発生する。

「直撃はしていませんから、命までは失うことはないと思いますが……」

「油断できない、調」

「伸びろッ!」

煙の中から古菲の声がすると同時に神珍鉄自在棍が突如伸び、焔に当たりそうになるが

―炎精霊化!!―

焔は精霊化で物理攻撃の回避を行い、難を逃れた。
煙の中から古菲が飛び出してきたが、背中の服はボロボロ、むき出しになった肌には火傷の跡もあるが、直前のアデアットで召喚した神珍鉄自在棍棒を盾にした上に硬気功を重ねる事でかなり防いでいた。
端末は懐に入れていた為無事である。

「戻るアルッ!凶悪なコンボアルな!それに当てたと思ったら実体が無くなるのは反則アル!」

「粉塵爆発の中でもその程度のダメージとは……そのアーティファクトは!」

神珍鉄自在棍を見て焔が驚く。

「物理攻撃が効かない相手に戦う必要は無いネ!伸びるアルッ!!」

それに対し古菲は神珍鉄自在棍の太さ、長さを自在に変えられるという性質を活かし、棍を通常とは逆の方向に急速に伸ばす事で空中に浮かぶ白い柱を、爆音を上げて次々砕き折りながら、ある意味飛行状態を実現し、その場から逃走した。

「貴様、逃げるのかーッ!!」

「速い……。暦、環、無事ですか?」

「いたた……うぅ……無事です」

「油断……」

強く吹き飛ばされた暦と環だったが特に致命的なダメージを受けた訳ではなかった。
実際足場を粉々に砕いた瞬間に、最初から暦が手元に戻っていた時の回廊を使い古菲の時間を遅延させた上で焔が発火させれば確実に決まっていたであろうが、後の祭りである。

「逃がしたのは失態でしたが、せめて他の者の通信機は破壊しなければ」

「分かっている。次は必ず」

古菲以外にも既に犬上小太郎、長瀬楓はネギの千の雷が光った場所に向かっており、柱から移動できず身動きが取れないのは宮崎のどか、近衛木乃香、そしてそもそも連絡の取れていないアーニャの3名であった。
それの回収に向かう形で葛葉刀子と龍宮真名と長瀬楓の分身2体は先の転移魔法が円周を描いているという仮説を立て光が見えた方角を基点として動き出している。
桜咲刹那も月詠と戦闘を続けながら徐々に光の見えた方向に近づこうとしているが、烏族の羽で桜咲刹那は飛ぶことができるにもかかわらず、飛べない月詠に苦戦し、状況は芳しくなかった。

一方最大の強敵フェイト・アーウェルンクスと戦闘中のネギはと言えば……。

「う……くぅッ!」

「これぐらいでもう防戦一方か。失望させないでくれ」

フェイトが使用するのは石を用いた魔法だけかと思われたが高速高密度の砂塵を操る攻撃を開始し、ネギの魔法領域を全方位から覆い徐々に侵蝕するという窮地に追い詰めていた。

「ネギーッ!!」

アスナはその光景に叫び声を上げ、下から見守っていただけから一転、アデアットし、エンシス・エクソルキザンスをフェイトに向かい投擲する。
しかし、既に偽アスナである彼女のアーティファクトには魔法と気を無効化する能力は無く形だけの剣となっており、フェイトの曼荼羅障壁を突破することなく、片手で簡単に弾かれ、雲海の下に落ちて行った。

「そんな……一体どうしたらいいの……」

跳躍力はあるにしても空高い場所で戦闘を続けているネギとフェイトに介入する余地はアスナにはなかった。

ネギは魔法領域で砂塵の侵入を抑えているがジリ貧の様相を呈していた。
そこへ更にフェイトが空中に石の槍を数十本出現させ、これまた囲むように発射、猛威を振るう砂塵攻撃の上から更に一点突破力の高い槍が魔法領域にあらゆる角度から次々突貫し始める。

「これは……マズいっ!」

   ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―吹け 一陣の風 風花・風塵乱舞!!!―
    ―双腕・断罪の剣―
   ―魔法領域 出力最大!!―

強風を巻き起こすという性質上活用方法として色々な事に応用できる風花・風塵乱舞を上方に向けて発動、真上から突貫してくる石の槍で吹き飛ばなかったものは断罪の剣で薙ぎ払い、砂塵の包囲から脱出する。

「そろそろ出てくる頃かと思ったよ」

     ―ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト―
   ―小さき王 八つ足の蜥蜴 邪眼の主よ―
 ―その光 我が手に宿し 災いなる 眼差しで射よ―
         ―石化の邪眼!!―

「なっ!」―風精召喚!!―

フェイトはネギが飛び出して来た瞬間を狙って石化光線を指先から放ち、ネギは無詠唱風精召喚の囮を残して回避する。
しかし、一度吹き飛ばしただけの砂塵は直ぐ様ネギを追跡しだし、途中柱を粉々に砕いてはそれも砂塵として加えみるみるうちに砂の海のような量に膨れ上がる。

「量が……多すぎる!消滅させるしかないかっ!」

ネギはそう言い放ちながらアスナを巻き込まない位置に向かって飛び続け、上昇し詠唱を始める。

         ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
       ―契約により 我に従え 破壊の王―
  ―来れ終末の輝き 薄明の光芒 満ちれ エアロゾルよ―
ネギの足元にオーロラのような光の膜が広範囲に発生する。
   ―降臨し 全ての命ある者に 等しき死を 其は安らぎ也―
            ―天使の梯子!!!―

詠唱の終わりと同時に千を越えようかという光の破壊光線が放射状に次々と降り注ぎ、砂塵の海のみならず周囲の柱も跡形なく消滅させる。
砂塵自体元々ほぼ極小の粒子であるに関わらずそれすら完全に消し飛ばす光系最大広範囲殲滅呪文。

「はぁっ……はぁっ…………」

一度の魔力消費量が激しく術者本人にも極度の精神疲労による反動が出る。

「千の呪文の男の得意技だけでなく、こんな大呪文も習得していたとはね。今のは驚いたよ。不死の魔法使い直伝と言った所かかな」

周囲に邪魔となる柱は無く、フェイトとネギの2人だけの姿があった。

「砂塵が壁になったにしてもこの魔法でも……駄目なんて……」

持てる最大呪文2つを放っても遠距離からでは大して苦も無く防ぎ切られた事にネギは焦りを隠せない。
そこへ救いの声が届く。

《ネギ坊主、召喚を試せ!》

《ネギ!多分俺も行けるで!》

《わ、わかりました!》

―召喚!! 長瀬楓!! 犬上小太郎!!―

「ネギ坊主、無事でござるか」

「ネギ、怪我は無いみたいやけど消耗しとるな」

「楓さん、コタロー!」

ネギは即座に仮契約カードの召喚機能を使用し長瀬楓と犬上小太郎を呼び出した。
2名はそれぞれ縮地无疆の連用と影を使った連続転移で召喚可能範囲内に到達していた。
空中に召喚された長瀬楓は落ちそうになるが犬上小太郎の分身2体が足場として現れ1対3でフェイトに向きあう。

「へえ、もう近くまできてたんだ。速いね」

「お前がフェイトっちゅう奴やな!」

「楓さん、下にアスナさんがいます。お願いできますか?」

「あい分かった。足場の無いここでは拙者も分が悪いでござるからな」

長瀬楓がアスナの元に向かって下に飛び降りた所。

「そうはさせないよ」

すかさずフェイトが多数の石の槍を長瀬楓に向かって放つ。

「あっ!」

「しもたっ!」

「アデアット!」

刺さるかと思われた瞬間長瀬楓は天狗之隠蓑を使用し、迫り来る石の槍を全て中に取り込んで防ぎ切る。

「あれは……天狗之隠蓑……」

天狗之隠蓑を見たフェイトは一瞬驚きをあらわにして呟く。

「ネギ!こいつを倒さんと出られんのやろ?」

「うん、間違いない。1人は無理でも……」

「2人で抉じ開ける!」

―契約執行 300秒間!! ネギの従者 犬上小太郎!! 最大出力!!―
        ―短縮術式「双腕」封印!!―
         ―双腕・断罪の剣!!―
         ―双腕・断罪の剣!!―

「あぁぁぁッ!!」

「おりゃぁぁッ!!」―双腕解放!!断罪の剣!!―

「君のアーティファクトは見たことも無いね。いいだろう。2人同時に相手してあげるよ」

ネギと小太郎は左右に別れフェイトを挟むように接近し、断罪の剣を振るう。

「なんだこの障壁っ!?」

「固いッ!」

悠然と構えたフェイトに向かって振るった断罪の剣は多重曼荼羅障壁を1枚1枚突き破る度に侵入を阻まれる。
突破力としては断罪の剣で問題は無いが、フェイトが黙ってその攻撃を受けつづける訳も無く

「こちらからも行くよ」

石の剣が一閃、寸前でネギと小太郎は後退してその一撃を避ける。

「何だ……あの曼荼羅みたいな多重高密度の魔法障壁は。これで攻撃を防がれていたのか……。人間技じゃない……!!」

集中してフェイトの張っている障壁を確認したネギは驚きの声を上げる。

「よく言うね。ネギ君、君の障壁も既に人間技じゃないよ」

「へっ、要するに厄介な障壁やから、突破できる攻撃せなあかん言う事やろ!」

「できるならやってみるといいさ」

「上等ッ!!」「やるしかないかっ!!」

―咸卦・影装刺突!!― ―連装・断罪の剣!!―

小太郎は最大効率の咸卦法で強化した狗神を纏い、一本の槍と化した右腕で、ネギは破壊力を最高の状態から落とさないよう断罪の剣を連続発動し続ける右腕で曼荼羅障壁の突破を試みた。
曼荼羅障壁の特徴は通常の魔法障壁と基本は同じで、バリアのように周囲に張りめぐらせる事もできるが、戦いの歌のように対物魔法障壁を身体に直接纏うようにする事もできる。
そのため近接戦になった場合には、いくら打撃を入れようが、吹き飛ばして壁に叩きつけようが、障壁を突破できなければ一切ダメージが入らないという事が起きる。
因みに魔法領域も圧縮して身に纏えば同じ事ができるが、魔法領域内では発動者は自由に攻撃できるが、相手は常に高密度の魔力の層に阻まれ、場合によっては一切身動きを取らせなくさせる事すらできるというメリットを失う事になる。
但し、実際フェイトのような相手が格上の場合は圧縮して身に纏っても大差無いともいえる。
3人が切り結んでいる間、長瀬楓はアスナを発見し、天狗之隠蓑の中に無事に入れ、本体でフェイトとの戦闘に臨む訳にも行かず本体と同レベルの分身をもう一体出しネギと小太郎の加勢に加わった。

一方龍宮真名は移動中に長瀬楓の分身の1体に遭遇し、進む方向を間違えたと分かり、移動速度では最速の縮地无疆を連発できる長瀬楓の分身に運んでもらい逆方向に進み始めていた。
そして長瀬楓のもう1体の分身は気絶して倒れている近衛木乃香を発見した。

「木乃香殿!木乃香殿!」

「…………うぅん……あ……楓!」

「フェイトとやらの部下にやられたでござるか?」

「うーん、一瞬目の前に4人現われたのは覚えとるんやけど……気がついたら楓がおったんよ」

「そうでござるか。木乃香殿、怪我は他にないでござるかな?」

「ふむぅー、特に痛いとこあらんえ。……ん……ああ!ウチの端末が無いー!」

「なるほど、それが狙いでござるか……」

時間をかけていられないと焦ったフェイトの部下4人が現れて早々、時の回廊を暦がフェイトに習って気付かれないようにきちんと使用し、近衛木乃香の時間遅延を行っている間に接近し即効で気絶させられ、端末を回収されていたのだった。
ただ、近衛木乃香は戦闘要員ではないと認識されていたため、無駄に怪我をすることがなくて済んだのは幸運であった。
そのまま分身は近衛木乃香を抱えて次の地点に向かい同じく縮地无疆で移動を開始した。

フェイト達4人の部下はというと1番の古菲の端末破壊に失敗した後2番の近衛木乃香の元に飛び成功し破壊ではなく回収、続けて3番の長瀬楓の元に転移、縮地无疆の影響で陥没している足場を見て追うのは無理だと判断した。
4番の龍宮真名の元へ転移してみれば特に足場が壊れていた訳ではないが、周囲をしばし捜索してみても見つからず、5番の桜咲刹那は月詠が相手をしているので6番の犬上小太郎の元に行くも以下同様であった。
彼女達4人の誤算はネギ達の移動速度は基本的にかなり速い事を考慮に入れず、かつ無限抱擁を発動したのがフェイト・アーウェルンクスであるため、全体を監視する事が出来るはずが今回できないため、捜索する手間が増えていたという事である。
それでも間もなく、7番のアーニャと8番の宮崎のどかに関しては近衛木乃香と同様の手口でうまく行くのは数十秒後の事であった。

転移魔法を受けてすぐに戦い続けていた桜咲刹那は、恍惚とした表情を浮かべる月詠と既に優に200合を越える数、剣を交えていた。

「はぁ……はぁっ……いい加減にしろ、月詠!」

「センパイのいけずぅ~。もっとウチを楽しませて下さいー!」

―にとーれんげきざんてつせーん!!―

神鳴流の技名を間延びした声で放つ月詠にイライラしながらも太刀筋自体は凶悪なので桜咲刹那は真面目に対応せざるを得なかった。
そこへ突如月詠に銃弾が飛び、不意打ち気味であるにも関わらず

「はわっ、なんですのー」

二刀の小太刀をクルっと回して銃弾を弾いた。

「龍宮か!?」

戦いの音を聞きつけて駆けつけた龍宮真名と分身の長瀬楓であった。
桜咲刹那は空中に滞空したまま、月詠は近くの柱の上、そこから20mは離れた柱に2人。

「刹那、加勢はいるか?」

「ウチの戦いを邪魔せんでもらえますかぁー?」

―斬岩剣弐の太刀!!―

戦いを邪魔された事のお返しとでもいうのか月詠の目の色が反転した瞬間龍宮真名の持つ銃が真っ二つになった。
切り落とされた銃身がズリ落ち鈍い音を立てる。

「は、やってくれるじゃないか。酷い出費だ」

「弐の太刀は凶悪でござるなー」

「龍宮、楓、ここは私一人で問題ない。他を当たってくれて構わない」

「うふふ、センパイもウチと戦いたいんですねぇー?」

「断じて違うッ!」

「なるほど、戦闘狂という訳か。面倒だな」

「真名、刹那を信じて先に行くでござるよ」

「ああ」

結局一度桜咲刹那と月詠の戦いを中断させただけで2人は再び縮地无疆で移動を開始した。
丁度その頃近衛木乃香を抱えた長瀬楓のもう1体の分身は途中古菲の神珍鉄自在棍が複数の柱の上に橋のように架かって異様に伸びている光景を途中見つつも、移動を続け葛葉刀子に追いついていた。
分身には端末が無く、近衛木乃香も端末を無くしてしまった為これまで通信ができていなかった。

「葛葉せんせーい!」

「お嬢様、ご無事で」

「葛葉先生、木乃香殿を頼んでも宜しいかな?」

「わかりました。長瀬楓の方が、移動が速いのは間違いありませんね。あなたの分身含むネギ先生達はフェイト・アーウェルンクスと未だ交戦中のようです」

「そうでござるか……」

「葛葉先生、うち、4人の女の子達に気絶させられてもうたんよ」

「え!?お怪我は?」

「いや、どうやら彼女達の目的は端末のようでござる」

「うちはただ少し気を失ってただけや。端末は取られてもうたみたいなんです」

「……分かりました。だとするとこの先にいるであろう2人も気絶させられる可能性がありますが……無闇に危害を与えるつもりが無いのなら……」

「そういう事だから拙者はのどか殿とアーニャ殿を探しに行くでござるよ」

「お願いします」

「楓、気いつけてな」

「大丈夫でござるよ、木乃香殿。ではっ」

―縮地无疆!!―

「あれ速いなぁー」

「流石は甲賀の中忍ですね。では、参りますよ」

「葛葉先生、お願いするえ」

そして葛葉刀子と近衛木乃香はネギ達のいる方向に向かい移動し始めたが、同時に最も危険な戦闘地帯に近づきすぎる訳にもいかないので、その辺りは通信で折り合いをつけるしかなかった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

楓さんがアスナさんをアーティファクトの中に入れてくれたから、これでフェイトとの戦闘にアスナさんが直接巻き込まれる事はなくなった。
刹那さんはまだ戦闘中、このかさんは葛葉先生と一緒で、くーふぇさんが神珍鉄自在棍を使って撒いたフェイトの部下4人の目的は端末だったらしい。
くーふぇさんは未だに神珍鉄自在棍を伸ばしてこっちに来ているみたいだけどまだ数分はかかると思う。
楓さんとコタローぐらいの機動力じゃないと正直すぐに到着っていうには無理がある。
それにしても、僕とコタローが空中戦、楓さんの高密度分身が遠距離攻撃で戦っているけど……決定打が入らない。

  ―ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト―
 ―おお 地の底に眠る死者の宮殿よ―
   ―我らの下に姿を現せ―
       ―冥府の石柱―

「何やっ!?」

一帯の柱をさっき消滅させたのにあんな大質量の石柱を複数召喚できるのか!

   ―障壁突破 石の槍―

石柱から石の槍を伸ばすのが狙いか!!
下から突き上げて来るのを横に避けて回避。
ん、伸びた石の槍から更に追尾式に石の槍が出てくる!
これはコタローがまほら武道会で戦った蘇芳さんと同種の技だ。
……もう一度吹き飛ばすしかない!

             ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
  ―契約により 我に従え 高殿の王 来れ巨神を滅ぼす 燃ゆる立つ雷霆―
           ―百重千重と 重なりて 走れよ稲妻―

コタローはもう退避したっ!

                 ― 千の雷!!! ―

6本の巨大な石柱は千の雷でそれぞれ半分近く吹き飛ばせた。

「はっ……はっ……」

「ネギ、あと2回か3回やられたらキツいな……」

「うん……。今の攻撃から砂塵攻撃にまた発展されたらもっと酷くなっただろうから仕方ないけど」

千の雷級だとコタローが気づいてる通り後2回か3回やられたら魔力切れする……。

「俺達の方は余裕あらへん言うのに、あのフェイトは表情一つ変えへんな……」

「話してる場合なのかい?」

後ろっ!?
間に合わ

「ぐぁっ!!」

「コタローッ!!」

コタローがフェイトの攻撃で吹き飛ばされた。
今のは……八卦掌!
違う、そんな考えてる場合じゃないっ!

―連装・断罪の剣!!―

「はぁッ!!」

「今のでこの石の剣だったら彼は終わってたね」

この剣……分解するのに時間がかかるっ!

「一体どういうつもりだ!」

「それは僕が本気を出していないということかな?」

「ッ!!」

「できれば早く力の差を理解してお姫様を自発的に渡してもらいたいと思っててね。まあネギ君もしばらくすればもうすぐ魔力切れになるだろうけど」

―咸卦・狗音爆砕拳!!―

「でやぁっ!!」

コタローが体勢を整え直して、打撃を入れて吹き飛ばしたッ!!

「不意打ちのお返しや。さっきは結構効いたで」

「やれやれ、それで障壁を突破することはできないと分かっているだろう?」

ほぼ無傷か……。
ラカンさんと同じだと思えば仕方ないとは思うけど……次元が違う……。

「チッ……」

「くっ……」

「「「「フェイト様!」」」」

フェイトの部下4人!?
転移してきたのか!

「こりゃキツいで……」

「…………」

「お帰り、悪いけど下にお姫様を守っている人物がいるから行ってきてもらえるかな?」

「「「「はいっ」」」」

「待てや!!」

「君達の相手は僕だよ」

速いッ!

「だぁっ!……くっ何度も直撃せんで!」

今度はギリギリでコタローはガード。
後ろを向いてる余裕は無い……か……。

「コタロー、楓さんなら」

「大丈夫やな。しゃーない」

僕達が全員集まれば人数ではこっちの方が上の筈なのに……劣勢だとしか感じられない。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月30日、14時47分、新オスティア闘技場―

ネギ君達がオスティアの街中に堂々と出て祭り巡りに行ってた間、私達はラカンさんと高音さんの叔父さんの試合を見た。
クレイグさん達は超テンション上がってて今か今かって試合始まる前はワクワクしまくりだったね。
というかラカンさんとカゲタロウさんはそもそも拳闘大会の地方大会自体出てないのに出場できんのか?って思ったんだけど、それはもう大分前にどーにかなってたらしい。
でも全然告知はされてなかったもんだからいよいよ選手入場してラカンさんが出てきた瞬間観客席が一瞬シーンとなったと思ったらすぐにスゲーうるさくなった。
試合自体は……まー、相手の選手も戦意喪失っていうかその前にサイン欲しい的なアレになったんだけど、問答無用で適当に右パンチ(寸止め)一発だった。
寸止めって何?粉々になってない所?
カゲタロウさん何もしてないスよ?
高音さんは「程度というものがあるでしょう!」って席からガタッって立ち上がって思わず叫んだ辺り、カゲタロウさんの活躍を観たかったらしい。
ま、そりゃそうスよね……。
つーかネギ君達でもアレはいくらなんでも無理だろー。
よくラカンさんに修行つけて貰ってたな……。
まほネットで調べると
「死なない男」
「不死身バカ」
「つかあのおっさん剣が刺さんねーんだけどマジで」
が帝国拳闘界での通り名らしい。
いや、全然呼ばれても嬉しくないだろコレ!
伝説の傭兵剣士とかは除くにしても、千の刃の男ぐらいしかまともなの無いじゃないじゃんか……。
んで「40年以上前、少年奴隷剣士として戦いを重ねていた頃は死に掛けることも多かった。それらを乗り越えて帝国拳闘界の頂点を極め、奴隷身分から解放されて以降、傭兵として幾多の戦場を回るうちに圧倒的な強さが身についた」
とな。
……その圧倒的な強さが身についた辺りの話が端折りすぎだろー!!
戦場回っただけであんな風になるなら今頃世界はどこも世紀末状態スよ!!
死にかけて何度でも乗り越えるとかも、どー考えても何か別の惑星のDNAが混ざってるだろ。
宇宙人なんて……あ、火星人の知り合いはいたわ。
つかネギ君が言うには魔法世界は火星にある異界らしいけど、いやコレもマジ驚きだけど、そう考えると超りんはその事知ってて実は魔法世界生まれだからあーいう事言ってたんじゃ……?
まー、そうだとしても科学技術力の説明にはならないけど。

で、そんな感じで観戦終わってフラフラしてたら茶々丸からの緊急通信でネギ君達の反応がロストしたとの事。
は?
としか言いようがないんだけどオスティアのカフェがある座標で突然消えたらしい。
ドネットさんがそこの店に連絡したら確かに11人いた客が突然消えたとか。
集団神隠し型無銭飲食……じゃなくてこれはもー間違いなく例のゲートポートテロの連中の仕業スね。
すぐ高畑先生が状況を見に出て行ったんだけど……。

「私達も参りますわよ!」

「お姉様!」

「ええ!?」

「春日さん、何を驚いているのですか!当然でしょう!」

「あ、ハイ、そうスねー!」

……てな訳でその怪事件の起きた現場のカフェに急行。
闘技場からは割と近いカフェだったから十数分で着いた。
先に着いてた高畑先生が店の人に11人分の代金払っててネギ君達が指名手配解除された瞬間無銭飲食の罪になるのは回避された。
ネギ君達がいたらしい席は確かに飲みかけのお茶やら食べかけのケーキだけがまだ残ったままでホントに事件現場そのもの。
高音さん達と流れできちゃったけど実際私達ができること何も無いじゃん。
いつまでも店の中にいる訳にもいかないから店の外カフェテラスに出た。

「高畑先生、これからどうされるのですか?」

「困ったね……。茶々丸君によると半径3000km圏内には既にいないらしいんだが……その外側にいるとしても端末で通信してこないのはおかしい」

何だその半径3000kmって……。

「……考えられるとしたら……」

「どこか別空間に閉じ込められたという可能性が高いね……」

いやいやいや別空間って何。
ダイオラマ魔法球じゃないんスから。
まさに迷宮入りって奴スね!
なーんて言ってる場合じゃないけど、どこにあるかわからない別空間をどうやって見つけろと。

「フェイト……アーウェルンクス!!」

へ?
ネギ君の声?
振り返って見てみたら……ネギ君達、そこにいた。

「「はぁっ……はぁっ……」」

しかもネギ君と小太郎君はそのまま倒れた……って何だその怪我!?
槍みたいの刺さってるじゃんか!

「ネギ君!」  「コタロー!」 「ネギッ!?」

  「小太郎君!」   「ネギ先生ッ!」

     「ネギ先生!」   「コタロ!」

       「ネギ―――ッ!!」

楓のスカーフからアスナ飛び出てきて最後に強烈な叫び声上げた。

「……このか姉ちゃん、早うネギの手当してやってや……俺は大丈夫やから」

小太郎君も大丈夫じゃねースよ!!

「わ、分かったえ!楓、ネギ君に刺さっとる槍抜いて!」

「あい分かった!」

「このか君!?ここで抜いたら出血が酷くなるよ」

「まだ3分たってへんから治るんよ!アデアット!」

私たちがいることとか完全スルーで、このかがアデアットして巫女服っぽくなった。
もうここ路上とかどーでもいい。
楓がネギ君の右太腿、左腕、右肺?に刺さってる槍3本をあっと言う間に抜いて、当然……血が出る……いや……ちょっと待てー。

  ―氣吹戸大祓 高天原爾神留坐 神漏伎神漏彌命以 皇神等前爾白久―
―苦患吾友乎 護惠比幸給閉止 藤原朝臣近衛木乃香能 生魂乎宇豆乃幣帛爾―
               ―備奉事乎諸聞食―

「ぐっうわああああぁッ!!」

げげっ!?
ビシビシ音するんだけど大丈夫か!?

「ネギ君、大丈夫」

「はー……はー……」

……このかが長い詠唱してネギ君に抱きついたら怪我全部治った……。
どんな3秒……いや3分ルール……。

「よ、良かったー!!」

「ネギっ……良かったよぉ……」

「ね、ネギは治ったんやな……。ぐっ……俺も……はぁっ……」

小太郎君は自分で槍抜き始めたー!

「コタロー、大丈夫でござるか?」

「俺は獣化で……治るで」

―狗族獣化!!!―

…………はーもう訳わからんスよ。
カフェテラスで騒然とした状態になってネギ君と小太郎君の怪我がとにかく治ったのは良かったけど、そのまますぐ闘技場の救護室に戻った。
特に酷い怪我だったのがネギ君、小太郎君だったけどこの2人は治ったと。
他には楓とくーちゃんは何か火傷の跡が目立って、桜咲さんは切り傷が少しって感じだった。
他の皆はほぼ無傷。
このかが皆に治癒魔法かけてみるみるうちに治したのは驚いた。
いや……何かまほら武道会を思い出すと骨とか普通に折れてたのとかすぐ治ってたからアレかもしれないけど……。
……皆の怪我が治った所でやっとこさ落ち着いて、何があったのか確認を始めた……。



[21907] 54話 究極技法(魔法世界編14)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/01/12 00:24
―9月30日、16時頃、オスティア闘技場、救護室―

ネギ達が閉鎖空間から解放され、闘技場備え付けの救護室に移動し、しばらくして落ち着いた所でフェイト・アーウェルンクスらに閉じ込められた空間で何があったのかについて話が始まった。
ネギと小太郎がフェイトと戦闘中に、フェイトの部下4人の少女が現われた後、何があったのかと言えば、変わらず戦い続けた事には相違は無かった。
フェイトの部下4人が現れてから程なくして宮崎のどかは長瀬楓の分身に気絶しているところを発見、アーニャも同じく気絶している所を長瀬楓のもう一体の分身と龍宮真名に発見された。
そのまま彼女達もネギ達のいる中心に向かって再度移動を開始した。
フェイトの部下4人に追われた長瀬楓本体は分身を駆使して対応して逃げ続けるも、調の音波攻撃と焔の発火能力による粉塵爆発を虚空瞬動で避け続ける中、動きを読まれ一度直撃しかけ、古菲と同じく軽い火傷を負った。
その当の古菲はおよそ20kmを10分近くかけ、途中仮契約カードに戻して再アデアットを挟みつつも神珍鉄自在棍を伸ばして移動し続け、ネギに召喚を試すように伝えた。
フェイトの部下が現れてから古菲が通信を入れるまでの間は3分程であったが、その間にフェイトがまた発動させた冥府の石柱から砂塵攻撃への発展を許してしまい、ネギは止む無く3度目の千の雷を放ち相殺せざるを得なかった。
短時間で大呪文を4発、出力最大契約執行、更に断罪の剣と魔法領域の連用によって、魔力切れまで時間が無いという時に古菲の通信が入り、すかさずネギは召喚を行った。
しかしながら、やはり空中戦であったため古菲には分が悪く、仮に離れた足場から跳躍して攻撃を仕掛けたとしてもフェイトの攻撃の餌食になる可能性が高く、結果古菲は長瀬楓の加勢に出る他無かった。
そういう意味では空を飛ぶことができ、障壁を無視できる弐の太刀を扱える桜咲刹那を月詠が嬉々として抑えていたのはフェイト達にしてみれば実に正しい事であった。

「もう10分は超えてるけどよく持ったね。少し見直したよ」

「はぁっ……はぁっ……まだ終わっとらんで!」

「はっ……はっ……そうだ、まだ終わってない!」

酷く消耗したネギと小太郎に対して全く疲れを見せないフェイト。

「いや、これで終わりさ」

そう言い放った瞬間、冥府の石柱一本分と同程度の質量はあろうかという大量の石の槍がネギと小太郎の周囲を埋め尽くして出現し、一斉に襲いかかった。

「この数はッ!!」    「そんなんアリか!」

―双腕・断罪の剣!!―   ―咸卦・疾空白狼閃!!―
―魔法領域 出力最大!!―

即座に迎撃を2人は始め、最初の一瞬だけは完全に対応できたものの、あっと言う間に押されてしまった。
最も離れているところから射出された石の槍は半径から言って、その総数も至近距離に出現した石の槍よりも到達した段階での数は倍以上の差があり、捌ききれなかったものが容赦無くネギと小太郎の身体に突き刺さった。
僅か3秒の出来事である。

「ぐぁぁっ!!」   「がぁぁッ!」

ネギには3本、小太郎には4本が完全に決まる。
攻撃で捌くだけでなく身体を捻り回避したにしても、石の槍の総数から考えれば寧ろこの数で済んだだけマシだったと言えよう。
しかし、そのまま墜落すると思われた2人であったが、突如目を見開いて最後の力を振り絞るかの如く虚空瞬動し、ただの拳による打撃ではあったがフェイトの顔面を殴るという事をやってのけた。
小太郎の拳は障壁に阻まれダメージは一切無かったが、なんとネギが殴った方は確かにダメージになったのだ。

「へえ……この力は……。ハハハハハ、遺伝子のなせる技か、面白い。それでこそだ。ネギ君、敬意を表して今日お姫様を渡してもらうのはやめにしてあげるよ」

「な……何……?」  「何の……つもりや?」

2人は突然のフェイトの発言に驚きを隠せない。

「ただの気まぐれさ。僕には向上の努力の必要はないけれど、せいぜい次は楽しませてくれる事を願っているよ。それではまた会う時まで」

―無限抱擁解除―

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月30日、20時頃、オスティアリゾートホテル―

強敵だっていうのは分かっていたけど……全然フェイト・アーウェルンクスに歯が立たなかった……。
たった……十数分の事だったけど……奴がラカンさんと同じ次元の強さだというのはよく……分かった。
怪我もこのかさんのお陰で僕は治ったけど、コタローは僕を優先してくれて自力で反動覚悟で獣化、くーふぇさんと楓さんと刹那さんも怪我をした……。
それにアスナさんが今回攫われなかったのは本当にフェイトの気まぐれでしかない……。

「ネギ……今日はえらい目におうたな」

「そうだね……コタロー。それより怪我は大丈夫なの?」

「そら大丈夫や。獣化で致命的なとこは治したし、ちゃんとこのか姉ちゃんにも治癒してもろたからな」

「それなら良いんだけど……。何かごめん」

「何言っとんのや。今日の事は一つもネギのせいやないやろ。俺達の力があの白髪に及ばなかっただけの事や」

「本当に……及ばなかったね……」

「それで、ネギ、これからどうすんのや?」

「それは……決まってる」

「ハッ、そうやな」

コタローも同じか。

「次は絶対に負けない」「次は絶対負けへん」

「そうとなれば明日から修行やな」

「うん。折角ラカンさんとカゲタロウさんが拳闘大会で相手をしてくれるんだ。ラカンさんは、ラカンさんに絶対勝てないって言ってるようじゃアスナさんを守れない、フェイトには勝てないって言ってた」

「ああ、これは良い機会やで。あと本当に6日しか無いなら無理やけど、テオドラ姫さんが魔法球持ってきてくれとる」

「2ヶ月ぐらいは……行けそうだね」

「それぐらいあればネギも例のアレどういう形になるかは知らんけどできるならやった方がええな」

「うん……構想はできてるからやってみせるよ。数年あるならそれをしなくても地道に鍛えればいいかもしれないけど、はっきり言って時間が無い今、僕も咸卦法みたいな事ができないとどうあっても基礎力が足りないからね」

「俺の獣化の形態もそれなりにリスク背負っとるから似たようなもんやな」

「お互い出来る限り頑張ろう」

「おう、もちろんや」

僕とコタローはこれから6日間ナギ・スプリングフィールド杯決勝でのラカンさんとカゲタロウさんとの試合を次の目標として修行をすることにした。
さっきタカミチ達に何があったか話をして、フェイト・アーウェルンクスが接触して来た事で、アスナさんの件はもちろん他の面でも警戒を強めるために動く事になった。
そうは言っても連合・帝国・アリアドネーの軍事的な問題は僕1人がどうこうする事じゃないから、その点はタカミチ、総督、テオ様、セラス総長達が動いてくれる。
墓守り人の宮殿にフェイト達が既にいそうだというのは間違いないと思うけど、オスティア記念式典中に迂闊に攻め込めば、今お祭りに来ている人達が被害を受ける可能性があるし、そもそも式典のための艦隊しかいないから戦力的に考えて、増援を集めるのにもしばらく時間がかかるから、今は様子を見るしかないらしい。
アスナさんの警備はどうするのかだけど、恐らく街中だと今日と同じ手口で気づかないうちに閉じ込められる可能性があるから、アスナさんも基本的に魔法球の中で生活する予定だ。
アスナさんには大怪我した事でまた凄く心配かけちゃったけど、それでも僕は今できることをやるだけだ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月2日、12時頃、オスティア闘技場―

ネギ君達が例のゲートポートテロの犯人のフェイト・アーウェルンクスなる白髪の少年に襲われてとんでもない怪我してから3日目。
ここ2日高畑先生は色々対策に乗り出してるみたいでオスティアの総督さんとかの偉い人達と総督府に集まったりしてる。
当のネギ君達はっていうとテオドラ皇女殿下が持ってきたダイオラマ魔法球の中でもうずっと修行中スよ。
10倍の魔法球らしいから昨日の深夜から入り始めて……この時間だともう15日ぐらい経ってるんじゃないかな。
なんでも面倒なことにそのうちまたアスナを狙ってやってくるらしいからその対策だって。
修行すりゃ良いってもんじゃ……と思ったりするけど、実際テロみたいな事してくる連中ならそれぐらいしかネギ君達にはできないスよねー……。
高畑先生達大人はちゃんと動いてるし、いや、ラカンさんは別だけどさ……。
一昨日の一件すぐの時は皆ピリピリしてたけど大体皆魔法球で結構生活してて日数が経過してるからそこそこ落ち着いてる。
そのすぐの時、このかとのどかの端末が奪われ、小太郎君の端末は槍が刺さった時に運悪く大破したって言うもんだから、その日のうちに茶々丸の説明の元、端末からこのかとのどかの端末との接続を完璧に切る作業を皆でやった。
うっかり全体通信でこっちの情報が漏れかねないから仕方ないスね。
……んで、メインイベントのナギ・スプリングフィールド杯の予選は昨日も今日もネギ君と小太郎君は相変わらずあっさり勝ち進んだ。
決勝戦はネギ君達とラカンさん達の試合でほぼ決定になるだろうってその辺でもっぱらの噂になってるけど、拳闘士の試合そのものとして見る分にはちゃんと他の試合も見ごたえはあるんスよ。
力量差がありすぎると、速攻で終わるけど実力が均衡してればしてるだけ白熱するしね。
そんな周りがゴタゴタした中私は何やって生活してんのかっていうとですね……。
よくよく考えると、私は純粋魔法生徒で、今周りには他にココネ、高音さん、愛衣ちゃん、このかとアーニャちゃんがいるじゃん。
そんで、ネギ君達の修行に協力するって形で会議の合間にセラス総長が来ると。
ネギ君が何か魔法開発をしだすもんだから、資料集めとかその研究をセラス総長が手伝う、その更に合間に私達魔法生徒は世界でもトップレベルの魔法使いに魔法を教えてもらえるわけだ。
このか、アーニャちゃん、高音さん、愛衣ちゃんはノリノリで、私はそれに巻き込まれたというかそんな感じ。
因みにアイシャさんとのどかも気がついたら横にいたりする。
まあ実際勉強にはなるっちゃなるんだけど、うちの両親との取引を寧ろ自分から破ってるような気がしてならないスよ……。
まあ私の個人的な事情よりも、まずはこの魔法球のカオスをどうにかして欲しい。
セラス総長の特別講習中は魔法で遮断してるけど、常にあちこちから爆発音が止まないんスよ。
エヴァンジェリンさんとこの魔法球も多分いつもこんな感じだったんだなって今更よーく分かった。
高音さんは昨日カゲタロウさんが1人で影槍ってのを操ってラカンさんじゃないけど速攻で試合終わらせたの見て「流石叔父様ですっ!」って感動した流れで、魔法球が来てからは操影術の指導を受けてて、その爆発音の原因に仲間入りしてるから除くとしても、私とココネ、アーニャちゃん、愛衣ちゃんはこの惨状?に正直最初マジ引いたわー。
セラス総長も流石に最初やってきたときは驚いてたしな……。
まあ、それを言ったらクレイグさん達も見に来た時はドン引きで「旧世界の人達ってやっぱ凄いんだねー」ってクリスティンさんは遠い目してたし。
いやいや、流石に旧世界でもあんな連中がゴロゴロしてる訳じゃないスよ……完全に間違ったイメージを与えてるからねコレ。
ネギ君が開発中と思われる収束大呪文?を海に向かってぶっぱなしてるの見たけど何あの戦艦の主砲みたいなのは……魔法使いは究極的には砲台とか言うけどそれにしても……ねぇ……。
その割に「これじゃまだまだだ……」とか落ち込んでたし、どんだけフェイトってのは異常なんスか。
他にもネギ君がある程度時間かけて雷の投擲の槍を大量に出して、それで小太郎君を囲んで一斉発射、その逆もやってたり修行の割には常に命懸けすぎるだろー。
後は巨大岩を身体に乗せて腕立てとかそんな修行……10歳とかでそんな事して身体が大丈夫なのかって疑問に思わなくもないからちょっと理解に苦しむわ……。
ネギ君と小太郎君はそれ以外に、それぞれ別れて凄い遠くの海に飛んでってその洋上で何かやってるらしいけど、それは秘密らしい。
帰ってきた時にネギ君は髪の毛が一部変に短くなってた事があったんだけど……絶対散髪してたなんて単純な話じゃないんだろーな……。
アスナはまた無茶やってるんじゃないかって心配してるのは、確かに尤もな話。
でも……またっていうか私からみれば全部無茶苦茶スからね。
そんな光景の中ただ変わらないのは、よく食べてよく寝てるとゆー事ぐらいだな。
因みにネギ君達の相手するラカンさん本人はっていうと魔法球にはあんまり入ってないんだよね。
まあ一応対戦相手って事もあるんだろうけどさ。
……それにしても、魔法世界来てからというもの異常事態の連続すぎてもー何がなんだか……。
廃都オスティアにあるっていう要石早くメガロにでも移設しないかなー。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月25日日本時間18時13分、麻帆良―

運命の日まであと丁度2日、ほぼ準備万端の状態である。
優曇華内にも魔分組成のゲートを作成した為魔法世界と火星の同調の際にそのまま宇宙に打ち上げてしまっても、燃料としての魔分供給はゲートを通して行える為半永久機関化、当然転送も可能なので、広大な宇宙空間のどこかから行ったり来たりできてしまうという仕様に仕上がった。
宇宙開発に携わっている人達からするとまさに夢だらけの方舟状態である。
自給自足しようと思えばアーチ内には一般的な魔法球を超える広大な亜空間が広がっているので作物、薬草は栽培したい放題、基本の環境設定は優曇華でできるし、超鈴音の科学技術力を以てすればアーチ内に植物工場を建て工場栽培することも容易である。
もっと酷いのは、魔法球の中に魔法球を入れる事はできないが、アーチ内には更に魔法球を持ち込む事ができるため、空間的にはもう何でもアリな状況に成り得るという事だろうか。

それはさておき、3-Aの生徒達はネギ少年達が2週間近く経っても帰って来ていない事でてんやわんやしている。
特に雪広あやかの症状が酷い。
エヴァンジェリンお嬢さんの所に訪問し「ネギ先生達がどこにいったかご存知ですか!?」と聞くものだから、お嬢さんは「落ち着け委員長。ちょっとした旅行だよ。もうすぐ帰ってくるさ」と軽く対応されていた。
そんな事よりも、先日接触するべきかどうか考えていた人物であるが、驚いたことにあちらから超鈴音の元にやってきたのだ。
ザジ・レイニーデイである。
普段は寡黙で、意思疎通はジェスチャーで行い、そこから詳しい事を汲み取れるのは先の雪広あやかぐらいなものだが……。
場所は夕刻の超包子の屋台、超鈴音が珍しくゆっくりしていた所である。

「………………」

相変わらずの無表情であり何も話さず、超鈴音の目の前に現れてじっと見つめる。

「おおっ?ザジサン、何か話かナ?」

これには流石の超鈴音も目を少し見開き驚きを隠せない。

「…………」

ザジ・レイニーデイはコクリと頷きちょいちょいと指で超鈴音を招く。

「……ふむ……分かたネ。構わないヨ。五月、また明日ナ」

「はい、超さん、また明日」

そのまましばらくザジ・レイニーデイの歩む先に向かい超鈴音もついて行った。
その先とは……神木・蟠桃の所だった。
正直これは驚かざるを得ない。
木の根元で終わりかと思えば跳躍して木に登り始め、超鈴音はやれやれという顔をしながらもそれについて登り出した。

《超鈴音、何聞かれるかは知りませんけど適当にどうぞ》

《ザジサンは翆坊主の事を知ていたのカ?》

《わかりません、存在の薄い幽霊でさえも見えるらしいですから私とサヨがこの麻帆良学園で浮遊しているのを見たことぐらいはあるのかもしれませんね》

《というか彼女は何者ネ?》

《高位の魔族……かと》

それこそラスボス級の……。
正直魔界に関しては、神木の観測範囲外も良いところであり、世界としての成り立ちとして完成している事を除き詳細は不明である。

《ハハハ……3-Aのクラス編成は……何なのだろうナ》

《近衛門殿はザジ・レイニーデイが何者か知らず、勘だけでこのクラス編成にしたのですから驚きですよ》

別に同じクラスである必要性も無い筈にも関わらず、思わず一箇所に集めてしまったというのは何というか凄い。

《そうか、学園長もそんな事知る由も無いカ。確かに素晴らしい勘だナ。いつになく至近距離だが見ているといいネ》

《そうさせてもらいます》

頂上とはいかないがそれなりに高い位置でザジ・レイニーデイは枝に腰かけた。
それに習って超鈴音も腰をかける。

「……話はここでいいのかナ?」

「…………」

ここに来ても返答は頷きで返すザジ・レイニーデイだった。

「…………ふむ」

「…………」

「…………」

しばし沈黙が続き……。

「……何故、未来に帰らなかったのですか?」

「…………唐突だネ。それより私が何者なのかザジサンは知ているのカ?」

「……100年先の未来の火星から歴史を変えるためにやってきた地球系火星人。魔法を世界に知らせる為の強制認識魔法を発動させ……失敗するはず……でした」

えー?
いやいや、歴史の内容を何故知ってる……。

「…………ハハハ、実に端的な説明だネ。合ていると言えば合ているヨ。ところでその情報は歴史を知ているかのようだが……一体何ネ?」

「……私は過去と未来を繋ぐ流れをある程度視る事ができました」

何故か過去形だが……とんでもない事を言い出したな。

「……なるほど、未来視的な物カ。それで、そんな重大な事を明かしてまで私に聞きたいのはどうして未来に帰らなかったという事カ?」

「そう……。視える未来が不安定になりだしたのは2年前から、ついに完全に視えなくなったのは学園祭の時です」

「ふむ……私が未来に帰る筈が帰らなかったのが影響と言いたいのカ」

「そう……」

「それは迷惑をかけたようだが……私の影響では無いヨ」

「困ってはいない……ただ気になっただけ。……この木の事も」

そこで来るか……。

「…………ならば時間跳躍をしたのが私だけではないとしたら……と言えばわかるかナ?」

確かにそれが答えだろうな……。
干渉したのは神木だけだから影響範囲外の魔界は混乱しているという事か。

「…………分かりました。それで……解決しますか?」

……なんと意外にもあっさり納得してくれた。

「もう……間もなくだヨ。そういうからには止めるつもりは無いのかナ?」

「はい……。でも私の姉は……そうではないかもしれません」

《超鈴音、ザジ・レイニーデイの姉は完全なる世界の協賛者です》

《それは……大変だネ》

《ザジ・レイニーデイの態度から考えて一つ聞いてもらえませんか?》

《神木が魔界では必要かどうか、かナ?》

《ええ、その通りです。多分要らないと言うと思うんですけどね》

「……時に、魔界ではこの木は必要とされているのかナ?」

「……私が何者か知っているのですか?」

「少し聞いたんだヨ」

「……この子からですか……」

いやいやいや、気づいてるのはともかくとして、枝を撫でながらこの子呼ばわりされたんですが……。

「この子……というには……まあそうかもしれないナ」

見た目的にって事ですか。

「私の故郷では……必要としないでしょう。魔界は完全なる世界ですから」

やはりそうなるか。
魔力の枯渇がない常に安定した世界だから当然と言えば当然だが。
それにしても魔界を称して完全なる世界とは……。

「それならば……この子も安心すると思うヨ。その完全なる世界のお姉サンは止めないのカ?」

「姉が動いたら……私は少しだけ先生の手助けをします」

姉妹関係がどうなってるのかサッパリだ……。

「そうカ……。ネギ坊主達の帰りは皆が待ているからナ」

「その時は皆で一緒に『おかえり』をします」

「……そうだネ」

「……聞きたい事は終わりです」

「ふむ、では帰るとしようカ」

「………………」

ザジ・レイニーデイは再びコクリと頷き話すのをやめた、が……。

「………………」

「ザジサン、この木に用かナ?」

凄い見つめられている訳で……。

「……おつかれさま」

ははは、そういう事か。
出るか……。

《労い感謝します》

「初め……まして」

《こちらこそ、初めまして》

「……あなたは……何が好き?」

唐突な質問だな……。

《……そうですね……簡単な答えなら全部ですかね。人間を含めて》

「私も同じ」

《意見があったようで》

「うん。……またね」

《ええ、また》

「ははは、翆坊主、またナ」

《はい》

……こうして超鈴音とザジ・レイニーデイは木からひょいひょい降りていき女子寮に戻っていった。
しかしながら新たに知り合いが増えたのがまたしても人間ではないというのは何の因果であろうか。
……少なくとも彼女が邪魔をする、害を為すという事はないと思われるので計画の実行に関しては安心であろう。
とうとう地下ゲートポートから僅かに魔法世界の魔分が漏れ出し始めており、運命の日はもう間近である。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月5日、ダイオラマ魔法球内―

現実時間で明日の15時にはラカンさんとカゲタロウさんとの決勝戦。
もう5日目も終わりそうで、外にいた時間もそれなりにあるからこれで大体45日はぐらいは魔法球内で修行できたかな。
この期間で、必死に修行しただけあってかなり実力が向上したのは間違いない。
技法の完成には一度完全発動させないと駄目だろうけど……リスクが高い……。
失敗したら即死する可能性もある……。
けど……絶対に成功させてみせる。
最初のうちは髪の毛で試してたけど、やっと、体の動きに関係無い箇所で部分的に試しても安定はして来た。
失敗した時はこのかさんのアーティファクトのお世話になって、心配もかけて「危険な事はやめなさい」って言われたけどこれ以外に、リスクを払って今僕が得られる技法は出力的に考えてもこれ以外に無い。
そして今いつも通り魔法球の洋上にいる。

「ネギ、ここに呼んだ言う事はやるんか?」

「うん……」

「引き返すなら今のうち……やないのか」

「それでも……僕はやるよ。自分で決めた事だ」

「……分かったで。もしもの時の為にこのか姉ちゃんはすぐに呼べるようにしてあるで。分身がこのか姉ちゃん連れて影でここに転移してくるからな」

「ありがとう」

「ああ、絶対成功させろや。信じとるからな。アデアット」

「させてみせるよ」

「これで状態は常に把握しとるで」

「うん、じゃあ、始めるよ」

僕がやるのは……自分の中の陰の「気」と陽の「魔力」の合一の咸卦法とは異なり、自分と陽の魔力つまり世界との合一。
自身の肉体と魂を分解し、全てを魔力……魔力の根源で再構築しなおし、森羅万象、万物に宿る自然エネルギー、魔力そのものと自ら同化する事。
失敗すれば世界に引き込まれてそのまま消滅する可能性がある。
一度再構築して安定させた後術を解いて元に戻れれば、成功。
それ以降は色々制約を決めてやれば術のオンオフができるようになる筈だ。
これを考えるに至った発端は刹那さん達神鳴流の人達が扱う弐の太刀と呼ばれる技が気を自由自在に扱える事を前提としているのを知った事から。
陰陽を表す太極図、白黒の勾玉が組み合わさってできる円の形は気と魔力が互いに対立する2つの力であるのを示している。
咸卦法はこれを合一することによって気とも魔力とも異なる3つ目の咸卦のエネルギーを得るものだ。
僕が行うのは太極図の色で言うと黒の陰である「気」の部分を全て白の陽である「魔力」に変えて全てを白い円にするというもの。
相反するものが無くなる事で出力的には咸卦法を超えるポテンシャルが得られる筈だ。
うまくできさえすれば2つの白の陽である「魔力」の勾玉がお互いを飲み込み合う事で流れが発生し、出力の自乗化も夢じゃない。

……さあ、始めよう。

     ―此処に契約を為し 真理之扉を開く―
   ― 一は全に 全は一に 我は世界に 世界は我に ―
―陰之気を捧げ 太極を改め司るは 万物に宿りし陽之気―
     ―始まりは終わりに 終わりは始まりに―
    ―灰は元に 塵は元に 夢は現に 幻は現に―
      ―此処に在りて此処に在らず―
        ―森羅万象・太陽道!!!―

「うぁぁぁぁぁッ!!」

始まったッ!!
強烈に引っ張られるッ!!
精神が持たなければあっという間に消滅してしまうッ!!
まずは分解からだッ!

        ―双腕・分解!!―
        ―双脚・分解!!―

「ぐぁぁぁぁぁッ!!」

手足は出来たッ!!
魔力の根源の感覚を思い出せッ!!
粒子の加速をイメージしろッ!!
次は絶対に失敗できないッ!!
胴体と頭全部は一気にやるッ!!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月5日、ダイオラマ魔法球内―

魂の叫びみたいな声を上げて……ネギの奴マズイんちゃうか……。
それにこんな誰でも分かるような膨大な魔力の流れが渦を巻いてネギに向かって集中するやなんて尋常な事やないで。
これやと陸におる姉ちゃん達も皆気づくレベルや……。
アーティファクトで感じる今のネギは生死の堺を極端に行ったり来たりして彷徨っとる感じや。
既に分かる感じ肉体の分解が終わったようやけど再構築が始まらんッ……。
このか姉ちゃん呼んだ方がええのに変わりあらへんけど……失敗したらこれは肉体的損傷が残るどころでは済みそうにあらへんな……。
まほら武道会の後、刹那姉ちゃんが弐の太刀の修行しとるのをネギが見てから陰陽術の理論にも興味持って勉強しとったのは今更やけど……どうそれ使うかはようわからんかったがここまで不安定な技法とはな……。
俺が寿命をリスクにしとるとしたらネギの奴は自分の存在そのものをリスクにしとるで。

《がぁぁぁぁぁッ!!》

しっかし……それでも俺にはネギが成功することを信じて待つ事しかできん。

「コタ君!」

俺の影から来おったか。

「このか姉ちゃん!」

「ね、ネギ君!?あっちからでも分かったけど何やのこれ!」

「邪魔はできんで……下手に触れればネギは死ぬかもしれん……。今ネギは肉体を分解して、再構築しとる所や」

《あぁぁぁぁぁッ!!》

「分解!?ほな、ネギ君の身体が一部分無くなったような怪我してたんはそのせいなん!?」

「そうや……」

「コタ君はどうして止めへんかったのっ!?」

このか姉ちゃんは俺の分身に抱えられたまま本体の俺に、掴みかかった。

「ネギは自分の為やなくてアスナ姉ちゃん達の為に頑張っとる。これはネギが自分で考えて自分でやると決めた事や。俺に口出しはできん。でも俺は絶対にネギが成功すると信じとる。信じるしか……無いんや」

「む~!!だからってこないな事しなくたってええのにっ!」

「このか姉ちゃんもネギを信じてやってくれへんか?」

「当たり前やよ!うちもネギ君信じとる!」

「ほな、頼むで……」

《なぁぁぁぁッ!!》

存在が薄くなったり強くなったり……ブレが激しすぎるで……。
この感じやと……時間かかりそうやな……。
自分で考えた術やろ、使い方はお前が一番知っとる筈や。
必ず生きて戻れや、ネギ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月5日、ダイオラマ魔法球―

ネギが太陽道を発動させた途端、魔力が渦を巻いてネギに集中しては別の箇所から同じように渦を巻いて放出されるという現象が起き始めてから間もなく、小太郎と近衛木乃香だけだった所に桜咲刹那は翼で飛んで、他の面々は箒で飛び、水面歩行ができる面々はそのまま走って現われた。
到着してみれば、まるで前大戦の墓守り人の宮殿で発生した異常な魔力の集中する現象のようにも見える光景を前に皆絶句し、ネギの状態が感覚でわかる小太郎によって説明が行われたが、人体の分解と再構築という言葉の前に更に絶句するしかなかった。
洋上という関係上アスナが勢い余って魔力の奔流に包まれるネギに不用意に近づいたりという事は無かったが、ネギの魂の叫び声が鳴り響く一帯は心が揺すぶられ、近くにいると辛いものがあった。
魔法球の外にいたジャック・ラカンも呼ばれ、やってきてみれば彼をして「これはやべぇぞ……ぼーず……」とおふざけ無しの本音を言わしめた。
ネギの魔力体が再構築しかけたかと思えば、部分的に消滅したりと不安定な状態を続け、気がつけば10分、30分、1時間と時間が経過して行った。
セラス総長の知見では魔力の奔流が安定して収まった時が分かれ目で、その際に消滅すればそれ切り、再構築できれば成功であろうという事だった。
いずれにせよ全く前例の無い試みでありどれ程の成功率なのかは分からない、そもそも初の例であり成功率そのものを図る事すら意味が無いという状況であり、ただただ、無事に再構築が完了するのを信じ、祈るしかなかった。

……当のネギはと言えば、加速した魔分の粒子の奔流の中で意識も同様に加速しており、現実に経過している時間の何倍どころではなく極大化した時間を体感していた。
魔力は濃い所から薄い所へ流れるという現象に従い、ネギの魔力体はその周りの空間に強烈に引き込まれる為、ネギは消滅しかけるのを精神力で耐え、なんとかして制御し再構築を果たそうと必死であった。
いつ引きこまれて消滅してもおかしくない状況下で、ネギの精神がギリギリで耐え、その場に繋ぎ止められていたのは、意識の端でアスナ達が近くにいてネギの名前を呼び続けていたお陰である。

……そして2時間が経過しようかという時、突如魔力の渦が急速に収束し始めた。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月5日、ダイオラマ魔法球内―

皆の呼ぶ声が聞こえるッ!!
アスナさん達が外で待ってるんだッ!!
絶対に、生きて戻るッ!!
行くぞッ!!

―空間掌握!!!―魔力収束!!!―

あぁぁぁぁぁッ!!

    ―再構築!!!―

…………できた……。
気がついてみたら……アスナさん、コタロー、皆すぐ近くにいてくれたんだ……。
あれ……何か視界がおかしい気が……上、下、後ろまである程度わかる……。

「ネ……ギ……ネギィィッ!!」 「ネギ!やりおったな!」  「ネギ坊主!」

  「ネギ君!」  「ネギ先生!」 「ネギ君!」

  「ネギ坊主!」 「ネギ!!この馬鹿ッ!」  「ネギ君!」

  「ぼーず!!戻ったか!」

「アスナさん……ちゃんと戻ってきました。うっ……ちょっと苦しいですよ」

ここ海の上なのにアスナさん飛びついて来た。

「馬鹿馬鹿、バカネギ!!どうしてこんな危険な事したのよ!心配……したじゃない……」

「心配かけて……ごめんなさい。でもアスナさん達のお陰で戻ってこられた気がします。南極の時と同じですね。もう2度もこんな事やってしまって……」

「ホントよ!麻帆良でもそうだったけど、こっち来て南極で死にかけたかと思ったらまたなんだから!ってちょっと何かネギ目が輝いてるわよ」

「目が輝いてる?」

「言葉の表現とかじゃなくてホントに」

海に顔を映してみてみたら……確かに目の虹彩が不規則に輝いてる……。
あっ……それより一旦、太陽道を解除しないとまだ終わりじゃない……。

―太陽道・解除―

…………はぁ……ちゃんと元の身体に戻れたかな……。
視界も元に戻ったみたいだけど……。
うっ……なんか凄く身体から力が抜けてきた……。

「ちょっとネギ!?沈むわよ!」

「ネギ!反動かっ!」

だめだ……力が入らない……。
それにしても気が異常に少なくなってるのは……太陽道の影響か。
ある意味…………太陽道を解除する時に、気が一切残らなかった場合、問答無用で即死する可能性があるな……。
リスクが高いのは…………分かってたけどちゃんと把握しないと駄目だな……。

「ちょっとネギ!!しっかり!」

うぅ……凄く眠い……。


―10月6日、ダイオラマ魔法球内―

……目が覚めて起きてみたらまたアスナさん達に心配された。
なんでも魔法球の中で2日近くも眠ったままだったらしい……。
丁度日付は現実時間で10月6の午前0時台ぐらいだって。
動いてみたら凄くお腹が空いてて一杯食べ過ぎた……。

「よお、ぼーず、気分はどうだ?」

「ラカンさん!良く寝たのでスッキリしました」

「そりゃぁ良かったな。しっかし、あのやばそうなモンは結局何なんだ?」

「一応太陽道と命名しました。基本的には一時的に魔力容量を無視して魔法が使えるようになるという物です」

「はぁー、魔力容量を無視とは大層なもんだな。その代わり失敗すれば死ぬってか?」

「はい……多分そうです」

「……まぁぼーずが自分で手に入れた力だ。しっかり制御しろよ」

「はい。まだ初期発動に成功しただけなので、調整しないと全然使えないんですが、制御できるように努力します」

「おうよ。そんじゃ外の15時間後、戦ろうぜ、ネギ」

ラカンさん、初めて名前で呼んでくれたような……。

「はいっ!」

この後5日近く魔法球で太陽道の効果を確認した。
と言っても1日に使える限界時間が凄く短いから気を大量に消耗する関係で寝る少し前に確認する以外は殆ど通常の修行をするしかなかったけど……。
とにかく初期発動のお陰で、即時分解・再構築で身体を魔力体に変換する事ができるようになって、予想通りこれでオンオフが切り替えられる。
発動中は目の虹彩が輝くのと、視界が拡張したのは予想してなかったから驚いたけど、後者についてはかなり助かる。
発動前に怪我をしてても、発動後に再構築し直せば損傷を無かった事にできるから治癒魔法がある意味必要無くなったし、当然魔力体なら身体の部位を損傷しても同じように再構築できる。
魔力体ならではだけど、掌握してる空間内なら学園長先生と同じように一瞬で転移もできる。
ダメージ自体を無効化、転移で回避できるからあまり意味がないんだけど、発動中の出力上昇の効果自体は期待した通りで魔法領域の防御力はマスターとほぼ同レベルだと思う。
太陽道とは別に開発した新魔法も発動中ならほぼ完璧に使える。
はっきり言って発動中はほぼ無敵になるっていう感じ。
ただ……本当に限界時間が短い。
本当はもっと行けるのかもしれないけど無理して長時間試した場合本当に死にかねない。
結局の所発動のオンオフをうまく使ってやりくりする最初の合計数十秒間までが普通に運用できる限界だと思う。
それ以降になると発動をやめた途端に脱力感が激しすぎて、戦闘どころか身体を動かす事もままならなくなるから……。
必殺技らしいといえば必殺技らしいけど。
……そして、いよいよナギ・スプリングフィールド杯決勝戦を迎えた……。

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―10月6日、14時54分、ナギ・スプリングフィールド杯決勝戦、大闘技場―

ナギ・スプリングフィールド杯決勝を迎え、オスティアの闘技場は模擬戦形式に変化し、収容人数は12万人、中央アリーナ部分の直径は300mと、最大規模の広さである。
まさに拳闘界の頂点を決めるのにふさわしい舞台と言えよう。

[[さぁ、いよいよ決勝戦です!!流星の双子、依然として謎ばかりのネギと小太郎か、はたまた千の刃のラカンとボスポラスのカゲタロウか!?凄まじい激闘が予想されますが最強クラスの戦いを前に観客席は大丈夫なのでしょうか?……それについてはご安心を!]]

―紅き焔!!―

司会の女性が無詠唱紅き焔を観客席に向けて放ち、爆発が起きるが魔法障壁によって防がれる。
目の前で紅き焔を放たれた観客達はそのデモンストレーションに盛り上がり、歓声を上げた。

[[この通り!連合艦艦載砲すら防ぐ魔法障壁によってお客様の安全は完璧に保護されています!!]]

決勝戦とあって、しばし引き伸ばしを行うような説明が続き、会場内では各人が今か今かと試合が始めるのを待ち続けていた。

《会場内の警備シフトになるなんて運が良いのでしょうっ!?》

《日頃の行いが良かったからだよ!委員長!ね、ユエ!》

《は……はいです。ただ……通信で聞きましたが、この場内の何処かにゲートポートテロを行った犯人達も来ている可能性があるです。油断はできません》

《その、怪しい人物がいないか目を光らせるのが私達の仕事です》

《分かってるよ!》

《はいです》

《それにしても、生で試合が見れるのは楽しみだよー!》

《あぁ……紅き翼伝説の英雄の1人ラカン様と正体を隠し続けているナギ様のご子息ネギ様の運命的奇跡の一戦!!》

《お嬢様、その発言はマズいですよ》

《委員長……》

《始まったよ委員長……》

《あああ、一体どちらを応援すべきか。こんな試合が見られるなんて……一体どちらを応援したらいいのでしょう!ラカン様も良いですが……筋肉ですし……やっぱりここは可愛らしい、いえ凛々しいネギ様でしょうか!あー!迷いますわ!》

《お嬢様……筋肉って……ヒドイ……》

筋肉もいける隠れラカンファンのベアトリクス・モンローの呟きであった。

《こんな通信していたのがバレたらマズいのでは……》

《大丈夫……だよ!ユエ!これ会話ログは残さないから!》

《……それはもう委員長の発言のせいでその方が良いですが……それはそれでどうかと思うですよ……》

《一番大事なのはこの奇跡の試合を永久保存することですッ!》

《お嬢様、警備が第一優先では……》

《ビー、どちらが優先ということはありません!どちらも第一優先ですっ!》

もし会場外の警備シフトであれば状況は違ったのだろうが、観客席各ゲート付近で警備を行う4名は試合に対する興味が尽きなかった。

[[流星の双子の勝敗予想は街頭アンケートでは2割と人気の割にはそれ程高くありませんが、それもそのはず。専門家の間ではこれまでの試合から見て、実力的には依然としてラカンが上を行き『ネギ選手があのナギに似ているとしても本物でもない限りラカンが負けることはない』とも囁かれています。早くも何分間流星の双子が持つかが賭けの焦点となっている模様です。しかしながら、この試合の後、流星の双子は『今後地方拳闘大会に引き続き出場する予定は今のところ無い』と宣言しているため名残惜しくはありますが『流れ星のこの終着点はどうなるのか』と期待も持たれています!]]

一方特等席で見ている面々は一般の観客席程盛り上がってはいなかった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月6日、14時58分、ナギ・スプリングフィールド杯決勝戦、大闘技場、特等席―

「ネギ……コタロ……」

「ネギ先生……」

空気が重い……重すぎる……。
何かマジ世界の終わりみたいな空気をアスナが中心になって醸しだしてるせいで、テンション上がらないスよ……。
昨日、魔法球の中の時間で言えば数日前にネギ君がやらかした魔法が殆どの原因。
順調に修行を続けて充実してるなーって矢先、例の洋上で何かやってた実験の成果をネギ君が実行した所、私でも分かる魔力の奔流が発生した。
箒で飛んでってみれば小太郎君が「ネギは自分の身体を分解・再構築しとるんや……」とか言い出して、その話を聞いた私は凄くヤベー感じがする以外はサッパリだったけどセラス総長は「ネギ君……それは人の身にはあまりにも過ぎた力よ……」って青ざめながらボソっと呟いてた。
あのラカンさんでさえもあの時はマジ顔で驚いてたからな……。
物凄い発光する中心でブレまくるネギ君の姿に最初気圧されたけど、アスナが最初にネギ君の名前を呼びだして、それに皆も続いて、南極の時のコール以来またしても似たような展開になった。
1つ違うのは、今回の件はネギ君が自らやったって事で、それもアスナを守るためってんだからなんて10歳……。
私が見てる限り、ここ最近のネギ君の行動原理には自分が払う犠牲はそっちのけで他人を優先する傾向が強すぎる気がする。
2年の夏の時にネギ君来たときはホント、ただの可愛い子供だったんスけどね……何がどうしてこうなったんだか……。
性質悪いのが、ネギ君自身頑固なせいで、周りがやめた方が良いって言っても「自分で決めたんです。お願いします。信じて下さい」って返してくるからどうにもならない事スよ。
まあ、2時間ぐらいしてネギ君が無事に異常な儀式?を完了させた時は本当にホッとした。
それだけで安心して思わず皆声上げて、アスナがすぐに飛びついたもんだから有耶無耶になったけど、そこからネギ君がすぐ倒れるまでの間、ネギ君はそこにいるのに、雰囲気というか存在感が異常に薄かった気がする。
んで、その技が多分使われるんだろう試合が今まさに始まる所。
ネギ君は「大丈夫ですよ」としか言わなかったけど、明らかに常に命の危険が伴いそうな技を使う時点でそれを観る私達は気が気じゃない。
元々拳闘界って試合で命落としても文句は言えない世界だから何言ってんだって話でもあるけどさ……。
それとこれとは別スよ。

[[さぁ、いよいよ選手入場です!!西からは紅き翼千の刃のジャック・ラカーンッ!!ボスポラスのカゲタロウ!!]]

ラカンさんは何かマント着て、一本大剣持ってきてるけど……どうせすぐ脱ぐんスよね。
カゲタロウさんはいつも通り。
観客席はやっぱ超盛り上がってるなー。

[[東からは流星の双子、ネギ!!小太郎!!]]

出てきた出てきた……こっちが問題の……。
うーん?……何か凄い落ち着いてる雰囲気醸し出してるような……。
観客はそんなのそっちのけで騒いでるけど。
あー、始まる前から何かこう変な気分になるわー。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月6日、15時、ナギ・スプリングフィールド杯決勝戦、大闘技場―

両選手が舞台に現れ観客から大歓声が上がる中、ジャック・ラカン、カゲタロウとネギ、小太郎は向かい合い互いに声をかける。

「よぉ、ネギ、コタロー。この舞台で本気で相手してやる。つべこべ言わず、かかって来い!!」

「はいっ!僕達の修行の成果、ここで見せます!それでは行きますッ!」

「おう!行くでっ!」

[[ナギ・スプリングフィールド杯決勝、試合開始!!!]]

「アデアット!」

―契約執行 600秒間!! ネギの従者 犬上小太郎!! 出力最大!!―
       ―魔法領域展開 出力最大!!―
          ―戦いの旋律!!―

ネギが最初から太陽道を発動させない理由は限界時間の問題もあるが、何よりまずは基礎力で勝負という理由からである。

[[おおっと!?小太郎選手の咸卦法、いつもより数段出力が高いようですッ!!]]

「いきなりアレは使わねぇか、行くぜ、おらよっと!!」―アデアット!!―

「手加減する必要無しッ!!」― 千の影槍!!! ―

ラカンはアデアットし一本の槍を出しながら闘技場内上空に飛び上がり、カゲタロウはその場から動かず、影精で編んだ強力な無数の影槍を、ネギと小太郎の前面180度を覆うように放つ。

           ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―契約により 我に従え 高殿の王 来れ巨神を滅ぼす 燃ゆる立つ雷霆―
         ―百重千重と 重なりて 走れよ稲妻―
               ― 千の雷!!! ―

対してネギは即座に詠唱を済ませ千の雷を放ち、それに合わせて小太郎は怯む事なく千の雷の後を高速で追従する。
千の影槍と千の雷は半ばで衝突し相殺、範囲で上回る千の雷が観客席の魔法障壁に当たり轟音が鳴り響く。

「はぁぁッ!!」―咸卦・白狼影槍!!!―

その爆発の煙を小太郎は潜りぬけながら、白い狗神を槍状に変化させて複数飛ばすカゲタロウに類似した技を放つ。

「何と!」―百の影槍!!!―

カゲタロウは煙から飛び出して来た小太郎の攻撃に対し咄嗟に百の影槍を放ちまたしても相殺する。

「まだやッ!!」―咸卦・影装刺突!!!―      「ぬんッ!!」―影布七重対物障壁!!!―

小太郎が一点貫通攻撃の構えに入り、カゲタロウはそれでもその場を動かずに障壁を展開する。

「だりゃぁぁぁぁ!!」                        ―百の影槍!!!―

障壁を突き抜けようという時にカゲタロウは防御中から百の影槍を小太郎の真横を狙って放つ。

―投擲・双腕・断罪の剣!!!―

しかし、控えていたネギが両腕に発動した断罪の剣、相転移版を小太郎の左右に向かって投擲し、周囲の気化による爆散でそれを防ぐ。
小太郎はそれと同時に影の魔法障壁を突き破り、直撃を当てようとする。
が、カゲタロウは真後ろに瞬動して回避する。

「ハッ!……動かせたで!」

「この私を動かすとは、見事な連携!だが、私だけではない!」

この僅か数秒の間、上空に飛び上がり、ラカンは異常な量の気を集中させていた。

「出し惜しみ無しの千の雷かぁ。折角の晴れ舞台だ、俺様も久々に全開を出してやるぜっ!!」

「な……あれはヤバイで!ネギ!」

対するネギは断罪の剣の投擲の後、ラカンの攻撃をほぼ理解し、対応する為両手を頭上に上げながら直ぐ様次の魔法詠唱を開始していた。

      ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
    ―契約により 我に従え 破壊の王―
―来れ終末の輝き 薄明の光芒 満ちれ エアロゾルよ―
―収束魔方陣展開!!! 集え 我が手に 域内精霊加圧!!!―
  ―第1から第12 臨界圧縮!!! 第0へ解放!!!―
ネギの頭上にオーロラが広がるかと思われたが、掲げた両手の上に12の小さめの魔方陣が中心の大きめの0番目の魔方陣を囲むように展開された途端広がるどころか全光精が一点に収束を始める。
―降臨し 全ての命ある者に 等しき死を 其は安らぎ也―

「オラァァァッ!!!!」

ラカンが僅かに槍を先に投擲し、ネギを襲う。

      ―然して 死を記憶せよ―
       ―大天使の降臨!!!―

常人には捉えるのは到底不可能な速度で投げられた槍は、ギリギリ放たれた収束版・天使の梯子の破壊光線とネギの頭上10mの距離で衝突し、周囲に衝撃波を巻き起こす。

「うぉぉぉぉッ!!!!」

大地を破壊しつくす槍から、まるで地上を守るかの如く、ネギは両手を掲げたまま大声をあげながら収束大呪文を放ち続ける。

「キャァァァァッ!!」

ラカンよりも更に上方に退避していたにもかからず、司会の女性が吹き飛ばされる。
更に、槍を放った本人と、魔法で迎え撃った本人に明らかな影響が出るよりも先に、地上12m程度の高さから衝撃波が発生し、闘技場の魔法障壁にダメージを与えすぐにビシビシと軋むような音を立て始める。

[[いかん!緊急障壁を展開せよ!!]]

テオドラ第三皇女の緊急放送により、通常の魔法障壁の後ろに更に予備用の緊急魔法障壁が展開される。
観客席からは爆煙によって衝撃波が発生している以外は何も分からないという状況であり、歓声ではなく純粋な叫び声を上げる者も現れる。
6秒間に渡る大天使の降臨の照射によって、槍は完全消滅し、威力は弱まったものの破壊光線が打ち勝ったが、その射線上からラカンは既に退避していた。
会場外の警備をしていたアリアドネー魔法騎士団員は6秒間の強烈な爆発と最後に打ち上がった光線にテロ攻撃ではないかと勘違いしかける程であった。

「はっ……はっ……」

魔法の発動でネギは息を切らせ、カゲタロウと小太郎は一旦互いに距離を取りなおし、小太郎はネギの近くに戻る。

「よっと!今のを防ぐどころか破るとは大した威力だなぁ!!大呪文を収束させる術式なんて良く考えたもんだ、ホントに器用じゃねぇか」

ラカンも同じくカゲタロウの近くに大ジャンプから戻り着地する。

[[こら!ジャック貴様という奴は後先考えず!客がいるのじゃぞっ!ネギが真っ向から防いだから良いものの!!]]

「いやーハッハッハ、やっぱ最初は全力で相手するってのが礼儀ってもんじゃんよぉ。案外もろいなこの闘技場!うはは!お前もそう思うだろ、ネギ!」

「はぁ…………そういう事ではないと思うんですが……。でも、確かに脆いですね……」

脆いと言うが、確かに強力なエネルギーの2つの衝突によって起きた衝撃は連合艦標準艦載砲である紅き焔の直撃等目ではないのは事実であった。

[[アホかーッ!緊急障壁で威力が弱まったからこの程度で済んだようなものの一つ間違えればふが!!]]

[[姫様口調!全国ネット!]]

テオドラ第三皇女お付きのユリア女史により口を塞がれるが今更遅い。

「すげぇ……今のがホントに個人の技なのかよ。これが世界を救った英雄の力か……」

「それを超える魔法を放ったネギも只者じゃないな」

「こんなの初めてみるよ」

「さすが紅き翼・ナギの盟友ラカンだぜ」

「あのネギってナギ本人だったりすんじゃないのか?」

「馬鹿だな、ナギの魔法つったら雷系って決まってんだろ。さっきのは違ったろ」

「そもそもあの魔法何?またネギの引き出しが増えたぜ」

会場内は先の光景に対するコメントの嵐でざわめき出す。

[[す、すさまじい!!開幕早々なんという光景でしょうか!カゲタロウ選手の影槍に、ラカン選手の渾身の一撃だけでも凄いですが、ネギ選手はかのナギと同じ大呪文の千の雷のみならず、見たこともない光系の大呪文と思われる魔法を、それも両方ありえない詠唱速度で2度も放ちました!!まだまだ試合は始まったばかりですがこれは期待が……おっと緊急障壁の常時展開も完了しました!!仕切り直しとなりましたが、試合再開ですッ!]]

そして再び、司会の宣言により試合が再開する。



[21907] 55話 拳闘大会決勝(魔法世界編15)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/01/19 08:31
―10月6日15時5分、ナギ・スプリングフィールド杯決勝戦、特等席―

「うぉぉぉ、スゲー!ぼーずの奴あのジャック・ラカンの一撃を打ち破ったぞ!」

「盛り上がって来たねぇー!人数が増えたし!」

「ネギ!コタロ!その調子よ!」

「叔父様!頑張ってください!」

「ネギ君、コタ君頑張り!」

はははは、何スかコレー。
超重い空気が吹き飛んだのは良いよ、良いけどさ。
もう外でやれよってレベルだろー!
ラカンさんの槍とネギ君の収束大呪文はいきなりすぎだよ。
ま、ネギ君は最初から例の技を使う気は無いらしくて一安心したわ。

「おいおい、あの短期間で収束大呪文なんてモン開発するなんて、ネギはどういう頭してんだ。普通なら年単位かかるってのに……うちの魔術開発部に欲しいぜ」

「全くね……ネギ君の才能で最も恐ろしいのは魔法の応用力と開発力よ。特にアレだけは……やってはいけないモノよ……」

「なんだそりゃぁ?」

「あなたはあの時いなかったわね。もしこの試合で使うとしたら……ネギ君が魔力を使い終わったときよ」

「はい?魔力使い終わったら魔法なんて使えないだろ?」

「見てれば分かるわ、私も興味はあるけれど、正直な所使って欲しくないわね」

「あー何か、さっきここの空気が重かったのはそれが原因か!」

「あなたはここでは素なのね……」

「政治家なんて肩が凝るだけだって」

「よく言うわ」

リカードさんの髪の毛どうなってんだろ。
重力に逆らってるよ。
記念式典の開催の時も同じ髪型だったけど、いいのかね。
地球であんな髪型で政治家だったら、一時的に流行になる……ならないな。
それか、ちゃんと固めろって文句言われると思う。
ってどーでもいーわー!!
にしてもカゲタロウさんってやっぱ機敏に動けたのか。
これまでの試合一歩も動いた事なかったけど、あの影槍に加えて、この機動力は凄いな。
しかも高音さんと同じで影の自動防御発動してるし。
グッドマン家事実上の最強ってマジみたいだな。
それに対応してるのは小太郎君とネギ君。
小太郎君はいつもの如くネギ君の剣を腕に発動させて飛んでくる影槍を切り裂き、ネギ君はあの不思議全体障壁に影槍がゴリゴリ言いながらも腕に出した剣と無詠唱魔法の射手を連射して戦ってる。
そんでラカンさんと戦ってるのもネギ君と小太郎君スよ。
どっちに回ってるのが本体なのかは良く分からないけど分身って便利だよなー。

「分身を利用しての各個撃破でござるか。あの2人が相手では消耗は激しくなるが悪くは無いでござるな」

「短期決戦で済めば良いが……」

マジで短期決戦だったらここの闘技場ごと吹き飛ばす攻撃をラカンさんがすれば終わりな気がするって言ったら……元も子も無いか。
カゲタロウさんの方は押してるけど……ラカンさんの方は通ってないスね。
ヒットはしてるけどダメージになってないんだわ。
確かにカゲタロウさんを先に倒せれば、完全2対1でラカンさんと戦えるから2人の連携を活かすという点では良い考えなのかもね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月6日、15時6分、ナギ・スプリングフィールド杯決勝戦、大闘技場―

試合再開の後、ネギと小太郎は高密度分身を1体ずつ出してラカンに回し、本体でカゲタロウの相手をしだした。
ラカンに分身を回した単純な理由は、当然直撃を貰っても分身なら消えるだけなので問題なく、先に「強者」であるカゲタロウの方が倒しやすいからである。

[[ぶ、分身です!!小太郎選手が使うのは以前の試合でもありましたが、ネギ選手が使うのは初めてです!]]

「お前ら分身の方だろ。俺より先にカゲタロウ相手とは考えたな。なら遠慮無く吹き飛ばすぜ?」

「本体と同等の密度はあるで!」

「その通りです!」

ラカンはすぐに相手が分身だと判断したが、こちらに分身を回した理由は他にもあった。
ともあれ、ネギと小太郎の分身はラカン相手にこちらも断罪の剣を用いて千の顔を持つ英雄からいくらでも出てくる武器と剣による試合を行い始める。
一方本体のネギと小太郎は猛烈にカゲタロウを攻めつづけていた。

「でやぁぁッ!」―投擲・双腕・断罪の剣!!―
        ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
   ―影の地 統ぶる者スカサハの 我が手に授けん―
       ―三十の棘もつ 霊しき槍を―
    「はっ!!」―雷の投擲!!!―

小太郎が両腕に纏った断罪の剣の限界時間を察知し投げつけた所にネギが更に追い打ちを掛けるように雷の投擲を発動、5本の雷槍を射出する。

「まだまだッ!」― 千の影槍!!! ―

カゲタロウの自動防御は断罪の剣が吹き飛ばし、無防備になったところを本命の雷の投擲が襲いかかるが、即座にそれを千の影槍が迎え撃つ。

「チィッ!」

相殺どころか完全な反撃に対し小太郎はネギの展開する魔法領域内に虚空瞬動で退避し、小太郎はネギに背を向けたまま両手を差し出しながら千の影槍から身を守る。
そこへ瞬時に影槍が魔法領域に刺さり甲高い音が鳴り響く。

―短縮術式「双腕」封印!!―
 ―双腕・断罪の剣!!―
 ―双腕・断罪の剣!!―

「はぁぁぁッ!」
「よっしゃぁぁっ!」―双腕解放!!断罪の剣!!―

全方位から突き刺さる影槍を2人で手分けして断罪の剣で分解して対応する。
小太郎が自前の技で対応しない理由は他人の特に気弾系は魔法領域内でも外からの攻撃と同じように魔法領域を貫通しないといけないからである。
魔法領域内で自由に使えるのは結果ネギが発動させる断罪の剣となるのは必然である。
フェイトに襲われた時を彷彿とさせるような状況に2人は俄然やる気を出し、高速で剣を振るう。
ネギと小太郎はカゲタロウがお互い横に見える位置に移動し、カゲタロウがいる反対の横に空間ができた瞬間、2人は同時に虚空瞬動で抜ける。
小太郎のアーティファクトがなければ同時に移動する等無理な話である。
突如襲う対象が無くなった影槍は互いにぶつかり合い地に落ちる。

「大した動きだ!」―操影槍・黒雨!!!―

カゲタロウは右腕全体に今までとは桁違いの影精の練りこみをかけた重武装のランスと呼ぶに相応しい槍を纏い、即座にそれを伸ばしてネギと小太郎に仕掛ける。
その密度は広範囲を襲う事のできる千の影槍での1本1本の薄く鋭い刃を全て一つに集中させたもの以上の高さであった。
2人は再度虚空瞬動で左右に分かれ回避するが、それを予め理解していたのかカゲタロウは一瞬にして操影槍を元の長さに縮める。

「次は更に速いぞ少年ッ!」

「上……等ッ!?がぁっ」

「コタローッ!」

カゲタロウが警告した上で、小太郎が啖呵を切り終わる前に操影槍の先端が右上腕、右肩に2撃、突き刺さり、そのまま小太郎を軽く吹き飛ばし、槍は再びすぐ元の長さに戻る。
そのダメージで小太郎の両腕に展開していた断罪の剣は消失する。
秒速544m、マッハ1.6で伸縮する槍は、声が届くよりも速い。
長瀬楓の縮地无疆の移動速度はマッハ3に近いが、特に振りかぶりも無く溜め無しでマッハ1.6というのは驚異である。

「仲間の心配をしている場合か!」

続けてネギに向けて槍が突貫するが、魔法領域で阻んだ一瞬の隙をつきネギは虚空瞬動で回避する。

「つ、強いっ!」―風精召喚!!―

尚も槍の伸縮の嵐が襲い、ネギは回避に専念せざるを得ない。

「うぉぉッ!」―部分狗族獣化!!―

ネギは風精召喚による目眩ましの幻影分身を出現させて対応し、小太郎は右手から槍が刺さった右肩まで獣化させ受けた傷を一気に治す。
浅くもないが深すぎる傷でも無かったのが幸いした。

「いざ、尋常に勝負!」―黒耀の夜想盾!!!―

瞬く間にネギの出現させた風精召喚の囮を消滅させながらカゲタロウは更に身体の90度を覆う影精で編んだ強靭な盾を出現させ、宙に浮かせる。
完全に重武装状態に入ったカゲタロウをネギと小太郎は射線軸上に挟む。

「うらぁッ」―咸卦・影装刺突!!―   「ハァっ!」―双腕・断罪の剣!!―

虚空瞬動で一気に距離を詰めて2方向から攻撃を仕掛けるも、夜想盾にも自動防御が働きネギの断罪の剣をも防ぎ、更に小太郎の右腕獣化状態一点突破の刺突攻撃は七重から数を増やした影布九重対物障壁が自動防御する。

「おぉぉッ!!」           「固いッ!?」

カゲタロウはすかさず小太郎の刺突攻撃に向けて操影槍の狙いを定め放つ。
残り1枚になった影布が解除され突如視界が開けた瞬間、小太郎の右腕の側面に斜めから操影槍が入りその軌道を逸らす。

「ッ!!」

「ふんッ!」―黒雨・五剣閃!!!―

操影槍を以てしても獣化、咸卦、狗神の3種強化を行っている腕にはダメージは入らないが、獣化していない身体部位に操影槍の付け根から5本の剣が飛ぶ。
右腕の軌道を逸らされた影響で小太郎の身体は左側面を5本の剣に向けて顕にする角度であった。

「ぐぁっ!!」

1本は外れるも、残り4本は左上腕、左脇腹、左大腿、左下腿に確実に突き刺さる。
そのままカゲタロウは操影槍を振り抜き、小太郎の身体を吹き飛ばしながら剣を抜く。

「はぁぁぁぁッ!!」―連装・断罪の剣!!!―

小太郎が吹き飛ばされるまでの一連の流れは影布が突破されるのを含め僅か2秒強で、ネギは双腕から右腕のみに絞った連続発動断罪の剣に切り替え攻撃をしかける。
これには流石の鉄壁の盾も貫通を許し、突破される。

―影布九重対物障壁!!―

カゲタロウは直撃する寸前で咄嗟に影布九重対物障壁を再展開し断罪の剣を一瞬阻む。

      ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―来れ雷精 光の精!! 雷を纏いて 打砕け 閃光の柱―
          ―光の雷撃!!―

ネギは完全に空いている左手を断罪の剣が貫いた影布障壁の隙間に向けて光の雷撃を至近距離で放つ。

「ぬぉぉぉッ!!」

確実に光の雷撃がカゲタロウの腹部を打ち砕きにかかるが、カゲタロウは吹き飛ばされながら操影槍の先端を光の雷撃の射線に重ね、その威力を拡散させる。
操影槍の半分が原型を失いながら闘技場壁面にカゲタロウは叩きつけられ、壁には衝撃で円状の窪みができる。

「ぐ……何のッ!」― 千の影槍!!! ―

その状態でも尚、カゲタロウは左腕で千の影槍をネギに向けて放つ。

「俺が……ッ!!」

完全にカゲタロウの意識から外れていた所を体勢を整え直した小太郎がそう小さく呟き高速で移動、最後は瞬動で最接近する。
カゲタロウはその瞬間まで小太郎に気づかなかった。

「いるでぇッ!」―咸卦・狗音爆裂寸勁!!!―

最後に瞬動で発生させた勁を活用し古菲直伝の寸勁をカゲタロウの腹部に炸裂させる。
ほぼゼロ距離から放たれる技に対しては自動防御の発動は不可能であった。

「な……がぁ……」

運動エネルギーがカゲタロウの身体に直に作用する。
既に窪んでいた壁面は爆音を轟かせながら更に窪みを広げ中規模のクレーターと化した。

「ハァ……ハァ……ハァ……やったで」

小太郎は左半身から出血させながら息を切らせて呟く。
ネギに届こうかという千の影槍はカゲタロウのダウンにより魔法領域に当たる寸前で力なく、地に落ちて消滅した。

[[おおーッ!!あのカゲタロウ選手をこれ以上あろうかという素晴らしい連携攻撃で流星の双子、目にもとまらぬ速攻を畳み掛け撃破!!カウント開始です!1……2……3……]]

ラカンと分身の剣戟戦に気を取られていた観客はカゲタロウが撃破された事に驚き歓声を上げる。
元々カゲタロウと本体2人の方を見ていた観客はその鮮やかな攻防の余韻に息を飲んだままだったが、他の観客の歓声で我に返り、つられて歓声を上げる。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉおぉおおおお!!!!」

突如わざわざ反対側で分身と戦っていたラカンが大声を上げると共に膨大な量の気を全身からほとばしらせる。
それに気圧され、分身2人は思わずラカンから距離を取る。

「カゲタロウをマジでやりやがったか。そうかそうか、やりやがったかぁ。ああ……よくやったぜ。……なら、次は俺が相手だぁぁあッ!!!ここからが第2ラウンドだぜぇッ!!」

まさに第2形態かというような雰囲気を纏いラカンは雄叫びを上げる。

「うぉぉぉっ!!行くでラカンさん!!」―狗族獣化!!!―
「行きますっ!ラカンさん!!」

カゲタロウダウンのカウントも無視してラカンの咆哮が試合再開の合図となり、ネギと小太郎の本体、分身、共に構えを取る。
小太郎の本体は左半身に負った傷を急速回復させ臨戦態勢に入り、ネギの本体の近くに移動した。
ラカンからおよそ10m離れた距離に分身2人、100m離れた位置に本体2人の配置である。

「しゃぁッ!!」―咸卦狗神・縛鎖影縛之術!!!―
        ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―               「うおっ!俺の動きを封じる寸法か!」
  ―風の空 統ぶる者 アイギスの 我が手に授けん―
       ―三十の刺もつ 愛しき霊槍を―
  「決めるッ!!」―風戒の投擲!!!―                   「こりゃぁっ!」 

小太郎の分身が、ラカンの足腰を影で、ネギの分身が、ラカンの上半身を全魔力を投入した捕縛属性の風の槍群で、全力全開で動きを封じる。
そして分身は更に生身でラカンの鋼の肉体にしがみつき、自身でも動きを封じにかかる。

[[7……8……。おぉぉぉ!!あのラカンの動きを流星の双子の恐らく分身体が止めています!!]]

「ネギ、アレ行くで!」
「もちろんっ!」

「あぁぁぁぁッ!!!」―咸卦・狗神集中!!!―

小太郎は両手を頭上に掲げ狗神を集中させ始め、ネギは収束・千の雷の詠唱に入る。

           ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
         ―契約により 我に従え 高殿の王―
        ―来れ巨神を滅ぼす 燃ゆる立つ雷霆―
     ―収束魔方陣展開!!! 集え 我が手に 域内精霊加圧!!!―
        ―第1から第12 臨界圧縮!!! 第0へ解放!!!―

「うぉぉりゃぁぁあッ!!」―咸卦・白狼大神槍!!!!―

小太郎の両手の上にギュルギュルと音を立てながら白く輝く狗神でできた巨大な槍が顕現する。

         ―百重千重と 重なりて 走れよ稲妻―
            ―絶千招雷通天炮!!!―
         ―特殊統合!!! 対象・白狼大神槍!!!―

ネギも収束・千の雷の詠唱を終了したが、更にそれを小太郎の掲げた槍と統合しにかかる。

「「ハァアァ――ッ!!!!!」」」           「融合オリジナル技だと!?どこまで器用で息合ってんだてめらはよ!」

ネギと小太郎が共に両手を掲げ、ただでさえ白く輝く槍が収束・千の雷の電撃を纏い超帯電状態に移行し、更に爛々と輝く。

「「完成ッ!!」

[[こ、これは!!とてつもない威力だと予想されますっ!!私は……逃げますッ!!!]]

「コタローッ!!」―契約執行!! 特殊追加 5秒間!!!―            「いいぜ、それなら俺も喜んで付き合ってやるぜ!!」

「うおりゃぁぁぁッ!!!」―咸卦千招・白狼雷天大神槍!!!!!― 

ネギが契約執行の出力を瞬間的に限界を突破させ、小太郎がそのブーストを受けて槍をおもいっきり振り抜いて投擲する。

                 ―ラカン・インパクトォ!!!!!―「ぬおぉぉぉ!!」

小太郎の投擲と同時にラカンは上半身の風戒の槍群を気合いで破り、右腕から渾身のラカン・インパクトを放つ。
ラカンの右腕と巨大な槍は衝突し、その爆心地から球状の光を伴い周囲に衝撃波が巻き起こる。

「あれでは終わらん!!」―咸卦・白狼影槍!!!―

小太郎は投擲した後浮遊術ですかさず飛び上がりラカン・インパクトの集中を削ぐべく複数の槍を放つ。

「うんっ!!」     ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
          ―契約により 我に従え 破壊の王―
      ―来れ終末の輝き 薄明の光芒 満ちれ エアロゾルよ―
      ―収束魔方陣展開!!! 集え 我が手に 域内精霊加圧!!!―
        ―第1から第12 臨界圧縮!!! 第0へ解放!!!―
ネギも同じく浮遊術で飛び上がり、斜め上から両手をラカンに向けて収束魔方陣を展開する。
      ―降臨し 全ての命ある者に 等しき死を 其は安らぎ也―
              ―然して 死を記憶せよ―
               ―大天使の降臨!!!―

ここに来て高速詠唱の技術の甲斐あり、収束魔方陣の為に多少時間はかかるものの未だラカンが白狼雷天大神槍と力比べをしている所にネギは強烈な破壊光線を追い打ちで放つ。
ラカンを一般的常識で図ってはいけないという考えに従い、通常ならオーバーキルであるが、光球が収まる前に追い打ちをかけるというのは、バグとも言える肉体にタメージを与えるには正しい選択であった。
白狼雷天大神槍とラカン・インパクトが衝突する瞬間には観客は沸きに沸いたが、更に爆心地に向かって複数の槍と破壊光線で追撃をかけるネギと小太郎を見て、危険を察知し観客席で伏せる者まで現われた。
浮遊都市オスティアの闘技場にも関わらず大地が揺れるという現象が起き、通常障壁は完全に割れた。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月6日15時9分、ナギ・スプリングフィールド杯決勝戦、特等席―

「きゃぁぁぁあッ!!」     「うわぁぁッ!!」     「うぉぉぉ!」

     「お嬢様ーッ!!」      「アホかー!!」   「姫様ー!!」

「これ程とはっ!」    「やりすぎアル!!」    「もう何なのよー!!」 

 「お姉様ーッ!!」    「叔父様は無事ですのーッ!?」  「死ぬー!!」

「どこが拳闘なのよー!!」    「なんだこりゃぁぁ!!」

   「ありえねースよ!!」     「人間技じゃねぇー!!」

うっさいわーっ!!!
闘技場全体が地震みたいに揺れてるわ、特等席の前の障壁もガラス張りもビシビシ言ってるしモニターも閃光で何も見えんスよ!!
マジ観戦してるこっちが死ぬかと思うわ!
席にしがみついて耐えないと駄目な試合とかなんのアトラクションだっての。
つかあの最初の核兵器みたいな爆発は何さ!!
あー……大分揺れが収まってきたわぁ……。

「くぅー全く、2人とカゲタロウとの試合までは良かったが、あの筋肉ダルマとの試合は魔法球の中でやっとれば良いわ!!」

「ああ……ここじゃ狭すぎる……ってその前に流石にありゃあのラカンも無事じゃないと思うんだが……」

「ネギ君達、分身を特攻のように使うというのはよく考えたね……」

「その間の時間であの高威力の槍と更に追い打ちをかける大呪文……末恐ろしいわね……」

「これは拙者ももう追いぬかれてしまったでござるかなぁ……」

「私もアル……」

「いやいや、楓にくーちゃんそれ比べる事自体間違ってると思うよ?忍者ってあんな戦いしないでしょ?拳法家ってあんな爆弾みたいな攻撃しないでしょ?」

「美空殿、それはそうでござるなぁ」

「美空、それは一理あるアル」

どっか少し頭が弱い2人はコレだから……。
なんつーか、あの3人の戦いは超高性能爆弾を発射するためのスイッチをお互い持ってて、それを押して撃ちあったって感じスね……。
アスナか誰かがさっき言ってたけどどの辺が拳闘なのか教えてほしいわ。
確かにカゲタロウさんとラカンさんが別れてネギ君と小太郎君の相手してる時の戦いは激アツだったよ。
カゲタロウさんが超カッケー槍出して2人相手にしだした時は高音さんテンションあがりまくって「流石叔父様!あんな魔法まであるなんて!」とか尊敬一色に染まってたし。
かと思えばその後のネギ君の暴風っぽい呪文から小太郎君が拳でトドメを入れるまでの一連の流れは何かこうビリビリ来るものがあったな。
それが……高畑先生が言うようにその後の分身が特攻じみた行動に出てからスね……。
ネギ君と小太郎君がド派手な槍を出して投げつけ、それをラカンさんが超光る拳で迎え撃ったあたりだわ。
色々とネギ君達の努力というか技術というかそういう成果が出たのは確かだけど、やっぱここじゃ場違いスよ……。

[[し、試合開始の時の攻撃を遥かに超える凄まじさでしたが、そろそろ煙が晴れてきます!!私も予め離れていなければ命が危ない所でした!]]

司会のお姉さんが一番可哀想スね……。

「おっ状況がわかりそうだぞ!」

「ジャックは無事でしょうか……」

「あの筋肉ダルマもこれは流石にどうじゃろうな……。死ぬとは思えぬが」

テオドラ皇女殿下も結構酷い言いようスね……。
まあ信じてるって事か。

「ってうおおおぉーいッ!!?何かピンピンしてやがるぞ!!あんだけ喰らってそりゃねぇだろ流石にッ!?」

うはーマジかー!!
何か全身から煙が昇って口から少しダボーッて血吐いてるだけだわ。
どこか身体が吹き飛んでもおかしくないのになんで原型とどめてるんスか……ネギ君と小太郎君が追い打ちかけたのは流石に鬼畜すぎると思ったけどそうでもなかったか……。
何か幽鬼みたいなオーラ放ってるんだけど……。

「ネギ君の方は魔力切れのようね……」

確かに小太郎君がネギ君に肩貸してるな……。
大呪文4発に魔力無駄にする分身にその大量の捕縛槍とかそれ以外にも色々やってたしなぁ……こうなってくると……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月6日15時10分、ナギ・スプリングフィールド杯決勝戦、大闘技場―

闘技場内の煙が晴れ、状況がはっきりした所、契約執行が切れた小太郎は通常の獣化状態になり、ネギ自身は魔力切れを起こし、魔法領域の展開もできなくなっていた。
分身を使っていなければ、後大呪文1発分の魔力は残ったのだが仕方の無い事である。
対するラカンは全身から煙を出し、軽く血を口から吐きながらも、広範囲にできたクレーターにゆらりと地に両足をつけ尚健在であった。

「ハはハハはハはハハははハはハはハハはハはハハははハはハハはハハはハはハハははハはハハははハはハはハハはハはハハははハはハハはハハはハはハハははハはハハははハはハはハハはハはハハははハはハハはハハはハはハハははハはハハ!!!」

突如今度は完全に狂ったかのような笑い声をラカンは上げ始める。

「駄目やったか……。なら俺達の通常の実力はやっぱりまだまだ届いとらんな……」

「はぁ……はぁ……はぁ……頑張ったと思うけどここから先はアレしかないかな……」

「ハハ……は」

笑い声を上げるのをやめた瞬間闘技場の空間がギシリと歪むような異常な空気が立ちこめる。
それに伴いラカンの肉体から前よりも重苦しく滲み出すような膨大な気が発生する。

「かは」
「な……」

瞬間、ネギと小太郎の腹部に気がつけばラカンの拳がめり込んでいた。
すぐにその運動量からネギと小太郎は後方に吹き飛ばされるが、それを更に先回りしてラカンが迫る。

―羅漢大暴投!!!―

吹き飛ぶネギを空中で捕まえ飛んでいた方向とは反対側の闘技場の壁に投げつけ、クレーターを発生させる。

―羅漢破裏剣拳!!!―

続け様に未だ滞空中の小太郎の背後を取り、螺旋回転が入った強烈な拳の一撃を入れ、空中高く吹き上げ、小太郎は重力に従いそのまま無造作に地に落ちる。
軽く物理的にありえない行動を一瞬のうちにやってのけるその異常さはまさに第三形態とも言えるような無敵の強さを示していた。

[[で……伝説の英雄、ここに尚健在!!先ほどあれだけの集中砲火を受け弱るどころか、ネギ選手と小太郎選手を一瞬で倒してしまうほどの力を見せつけました!!]]

ラカンのたった一瞬の動きでネギと小太郎が撃破されたことでしばらく闘技場内は静まり変えっていたが、ようやく歓声が上がり始める。

「ふぅー……。あーついやりすぎちまったな。いやー、さっきの融合技、俺でなければ確実に終わってたぜ。その後に更に大呪文で追い打ちをかけてきたのには流石にイラッとしたが。まあアレでも俺はやられたりはしないから悪く無い戦法だがな。落ち込むことはねぇぞ、この俺様に本気の本気を出させたんだ。2人がかりってのはアレだがそんな奴はこの世に5人もいねぇだろうよ。まさかここまでやるとは思わなかった。胸張っていいぜお前ら!」

ラカンの大声が闘技場全体に響き渡る。
未だネギは全く反応せず、小太郎が倒れたまま先に声を上げる。

「がぁ……ほな……ここからは……俺のリスクを取った奥義で相手してもらうで……」

「先にコタローか……。いいぜ、相手してやる。審判!ネギの奴にカウントは無しだ!ネギが復活するまでコタローとサシでやるぜ」

[[こ、ここでラカン選手の宣言が入りました!ネギ選手に対してカウントは行いません。2対に2の拳闘大会ですが、1対1の試合にもつれ込みます!!]]

「右腕に気、左腕に魔力……合成!!」

―咸卦法!!―

倒れたまま両手を合わせ咸卦法の発動を小太郎は試みる。

「ぉぉぉぉ!!」―我流犬上流獣化奥義 大神・狗音白影装!!!―

更に小太郎は身体の形態変化を始めた。
巨大になるかと思われたが、そこに現われたのは体高60cm程度、長い尻尾が3本ある白く輝く狼だった。

「小っさッ!?もっと大きくなんじゃねぇのか普通?それ奥義なのか?」

「へっ、大きさが問題ちゃうわ」

大きさ的にはゴールデンレトリバーと同程度であるが、確かに奥義というにはガラリと変わると期待するのも無理は無い。

「おーやってみろよ、ワンコ!」

「ハッ!」

―大神・戦吼弾!!!―

すぐに小太郎はラカンから一旦距離をとりつつ口元に溜め無しで白く発光する小さな弾丸を9つ形成し、発射する。

「ぬ……溜め無しでこの威力か。結構痛ぇな!このヤロー!!」

サービスのつもりで、腕でガードしつつも直撃を受けてみたラカンだったが気合防御はしていないものの煙が上がっておりダメージにはなっていた。

「ネギの契約執行があればもっと上やったんやけどな!これで我慢や!」

「俺も行くぜぇ!」

ラカンは拳を構え小太郎に突撃する。
その速度は先ほど物理法則を無視した時程速くはなかったがそれでもかなりのものだった。
しかし小太郎は尻尾を素早く伸ばし、その手首に巻きつけ、逆にラカンを投げ飛ばしその巨体を地に叩きつける。

「コォォオオオオッ!!」―大神・戦吼砲!!!―

叩きつける反動でラカンの上空に上がってそのまま浮遊術に移行していた小太郎は口に光球を形成し、そこから一点集中の光線を心臓に向けて放つ。

「なにっ!」―気合防御!!!―

ラカンはその光線を見て咄嗟に気合防御をして防ぐ。
驚くべきはその光線の照射時間であった。
最初の発動には確かに溜めを要したが、その後光線を吐いても光球は小さくなることも、光量が減ることも無かった。

「ぬぉぉぉぉっ!」

先にラカンの気合防御の持続時間が切れ、通常状態でまともに光線を受けラカンは確かにダメージを受けた声を上げる。

「何の……これしき!」―アデアット!!―

光線を急所に受けながらもラカンは再び立ち上がり千の顔を持つ英雄を使用し、大地に剣群を出現させそれを拾っては次々投げつけ始める。
しかし小さい体躯であるのが幸いし、特に巨大な的になることも無く小太郎は縦横無尽に虚空瞬動を繰り返して回避しながら、光線の狙いは心臓から外さず照射を続けた。

「なるほど……派手な攻撃よか全て急所に命中され続ける方が余程やべぇ。ぐぷっ……だがな、まだまだだっ!!」

ラカンに口から血を吐かせる程のダメージを与えた小太郎だが、そこへ再度本気の本気になったラカンがマッハの壁を軽々超えた速度で2振りの大剣を携え跳びかかる。
何を隠そうラカンは足場さえあればマッハ3.2で投げた剣に更に追いつく程の速度で軽々跳躍する事ができ、しかもそれが特に瞬動等という技術でも無く、ただ単純に気を用いた身体の動きなのだ。
長瀬楓のマッハ3を記録する長距離瞬動術、縮地无疆ですら移動の際に足に力をこめて溜める時間を必要とするにも関わらず、である。
流石にこの速度の動きにまで小太郎の光線は急所を追尾することはできず、狙いが外れ舞台の床を破壊するが、そこで初めて威力が明らかになった。
光線が通ったルートは例外なく地面に深い裂け目ができ、常人では少しでも掠ればアウトだというのは観客の誰の目にも自明であった。
逆に言えばラカンの耐久力の異常さが浮き彫りになり、観客からはどよめきと歓声が上がる。
超高速で動きだしたラカンに対応できなくなった小太郎は光線から複数の弾丸を飛ばす攻撃パターンに移行するより他なかったが、この後は一方的であった。
この時点で小太郎は例えラカンに被弾させたとしても行動不能にできる程のダメージを与える事はできないのが明らかであり、勝つ見込みは一切無かった。
それでも、強靭な白い剛毛で身体全体を覆った体躯の耐久力はかなり高く、ラカンの剣戟、拳の直撃を数発受けても、怯むことなく果敢に反撃し続ける事ができた。

「これでシメだッ!!」―羅漢萬烈拳!!!―

「ガァァァァッ!!」

空中で小太郎の背中を取ったラカンは、強烈な一撃で地にたたき落とし、マウントポジションを取った状態で続け様に左右の拳で超高速ラッシュを畳み掛ける。
完全に体を抑えられている状態で全弾被弾し、ここで小太郎も限界となった。
煙を立てて小太郎は元の姿に戻る。

「ふぅー、的が小さい上に結構固いせいでなかなか手こずったな。コタロー、よく頑張ったぜ。お前に足りねぇのは威力と速さ、コレだな」

等とラカンは評したが、それができるなら誰も苦労しはしない。

[[こ、ここで小太郎選手、完全ダウンです!!伝説のラカンの前にはやはり及ばなかったー!!]]

千の顔を持つ英雄の出血サービスを始め、ラカンの目にも留まらぬ打撃技を直に見ることができ非常に満足した観客が多く、歓声が飛び交う。
これにて勝利者はラカン、カゲタロウチームで試合終了となろうかという時、場の空気が一変した。

[[これにて試合しゅ]]

         ―森羅万象・太陽道―
―契約執行 魔力供給無制限 ネギの従者 犬上小太郎―

壁に埋まっていたネギが再起動した瞬間、膨大な魔力の渦が巻き起こる。

[[い、一体これはっ!!?]]

「げほっ!これはネギか!?」

ダウンしたばかりの筈の小太郎が魔力供給を受けて意識を取り戻す。

「とうとうアレが来るかぼーず……」

「いや!マズイで、ラカンさん逃げろ!」

驚愕で両目を見開き小太郎が声を上げる。

「なに?」

      ―空間掌握・万象転移―

粒子分解してラカンの背後にネギの魔力体、しかも10歳形態が音もなく現れる。

        ―終末之剣―

「な」

瞬間、ラカンの最強の右腕が、傷跡の部分で斬り飛ばされる。

「ッこいつぁやべぇ」

流石歴戦の猛者というべきか、ラカンは腕が斬り飛んだ事に呆然とするでもなく即座に退避行動に入り、マッハ3を軽く超える速度でその場から闘技場端に離れる。

      ―空間掌握・万象転移―
       ―双腕・終末之剣―

しかし、ラカンが退避したその足元に再び粒子分解してネギの魔力体が頭と腕だけ地面から出して現れ、2撃目の終末之剣が左足の膝から下を左右の腕で両方から挟んで斬り落とす。

「マジか!」

しかしラカンはそれでも右片足だけで跳躍する。

          ―アデアット!!―
    ―左脚動甲冑!!――右腕動甲冑!!―

右腕と左足を失ったラカンはアーティファクトで無理やり動甲冑を装着し、倒れる事はない。
ここでネギは続けて転移せず、そこでしばらく佇み虚空を見つめ出す。

「おい、ネギ!目ぇ覚ませ!それ以上無意識で行動すんのやめ!!」

千の共闘でネギの状態が分かる小太郎の発言によってネギが現在無意識で活動しているのが明らかになる。

「ぼーずの奴、気ぃ失ってんのか!」

      ―空間掌握・万象転移―

「そう何度も」

ラカンはネギの魔力体が出現する位置を気合で察知し、そこに左腕を振るう。

「喰らうかよッ!」

丁度ネギの魔力体の上半分が桜吹雪のように吹き飛び、下半分だけがそこに残る。

      ―空間掌握・万象転移―
         ―再構築―

下半分が再度粒子分解し、闘技場上空に完全に元の状態でネギは再構築を果たす。

「……マジで無敵モードかよ!つかやっぱりこの感覚、力は……まさか」

ラカンの右腕と左足が斬り飛ぶという光景を前にゾッとする感覚に囚われ司会はおろか観客達すら誰一人声をあげられない。
腕の一本が吹き飛ぶぐらい拳闘界では一定の頻度で起きることであるが、この場には確かにそういうものとは違うと感じられる、異常な空気が満ちていた。

       ―破壊の王 我と共に 力を―
 ―来れ終末の輝き 薄明の光芒 満ちれ エアロゾルよ―
        ―集え 全ては 我が手に―
 ―降臨し 全ての命ある者に 等しき死を 其は安らぎ也―
        ―然して 死を記憶せよ―
          ―大天使の降臨―

静まり返って数秒が経過した後、突如ネギは始動キーを破棄し、大天使の降臨を僅か1秒で詠唱しラカンに向けて放つ。

「この威力はっ!」―全力全開!!ラカン・インパクトォ!!!―

極光がラカンを包み消滅させかかるが、気合全開のラカンは左腕でラカン・インパクトを放ち相殺させにかかる。
防がなければ確実に闘技場の魔力障壁を突き破り、地面を貫通しかねない威力だった。

「カハァ……」

照射が終了し、立ち込める煙からゆらりとラカンは現れ、動甲冑は消滅していたが、他の身体部位も損傷はあるものの原型としては問題なく無事であった。
しかし、そこでラカンはダウンし、ドサリと音を立て地に倒れる。
そんな状況に小太郎が思い立ったように声を上げる。

「アスナ姉ちゃん!ネギに何か言ったれ!!」

小太郎はそう、アスナに呼びかけた。

[[ね、ネギ!馬鹿ネギ!何やってんの!目を覚ましなさい!]]

そこへ直ぐ様アスナの声が放送で場内にこだまする。

《あ……スナ……さん?》

「ネギ!早く術を解けや!戻れなくなるで!」

《コタ……ロー……?》

虹彩は輝くが生気の無い虚ろなネギの目に光が戻る。

「僕は……しまった使い過ぎ……」

         ―太陽道・解除―

「た……」

上空で翼を失った鳥のように、そのままネギは重力に従い落下する。

「ネギッ!」

しかし小太郎がそれをキャッチする。

[[司会!この試合引き分けじゃ!!]]

[[は、はいっ!ナギ・スプリングフィールド杯決勝戦、引き分けです!!な、なんとネギ選手に不思議な現象が起こり伝説のラカンを圧倒するも、力尽きました!!皆様両選手に盛大な拍手を!]]

闘技場内から異常な空気が失せ、観客達は皆我に返り、両選手に歓声と拍手を送る。
超常現象の数々の起きたこの十数分に渡る試合を振り返ってみれば奇跡の一戦とも呼べるような内容であった。
この試合は全国ネットで流れていたが、直に闘技場で見ていない人間はネギの使用した太陽道の異常な空気は伝わらず、何やら凄い技だったというような感想を持っただけだった。
ラカンの身体はもちろん、切り落とされたラカンの右腕と左足は闘技場スタッフが素早く回収し、救護室に運びこみ、そこに先に到着していた近衛木乃香がアーティファクトを発動させる事によってその傷は一瞬で完治した。
カゲタロウもダウンから気を取り戻したが、こちらは闘技場付きのヒーラーによって丁寧に治療された。
小太郎はネギの無制限魔力供給によってか、直前に受けたラカンからの攻撃によるダメージはほぼ無かった事になっており、軽く治療を受けただけで済んだ。
ネギはと言えば、再構築した為、完全無傷であったが、またしても眠りについてしまい、ネギは魔法球の中で休ませる事になった。
この試合でネギが太陽道を無意識に発動させる鍵となったのは皮肉にも、ラカンが小太郎を羅漢萬烈拳でラッシュをかけて撃破した事であった。
大事な仲間を倒されたネギは無意識で契約執行を行い、仲間を傷つけた対象を無力化しに動いた、というのが今回の真相である。
太陽道、それは人の身には余りにも過ぎた力。
そこにあるのは有か無、1か0かの極端な世界。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月6日、15時26分、新オスティア某所―

人気の少ない場所でナギ・スプリングフィールド杯決勝の様子をモニターで観戦していた面々がいた。

「ふぇ、フェイト様、あのラカンを圧倒した技は一体……」

暦が焦るように問いかける。

「正直信じられないが……あれは……本当の意味で僕達に対抗出来うるのはネギ君ただ一人なのかもしれないね……」

「そ、そんなに凄いものなのですか?」

「お姫様の力とほぼ同等、寧ろ干渉すらできると見てもよさそうだ」

「そ、それは……」

「あんな10歳の子供が……」

「ネギ君も凄いが……ジャック・ラカンも大概だよ。3度目には対応してみせたぐらいだ。やはり明日、オスティアの総督府の舞踏会で要人達が集まる所を叩いて戦力を削いでおく……残念ながらこうなればネギ君も無力化しておいた方がいいかもしれないね……」

「フェイト様、連合・帝国・アリアドネーの部隊が集結しつつあるようです」

「分かっているよ、調。デュナミスが数を減らす予定だ」

「ハッ」

「ところでお姫様はどうだい?」

「フェイト様が術をかけてからは塞ぎこんだままです」

次に焔が答える。

「そうか。……最初出したときはとんだお転婆で困ったものだったけど……どちらの人格が残るかな……」

「まさか神鳴流の技を使ってくるとは思いませんでしたね……」

「大人しくしてくれているならそれでいいよ。それと例の端末は気になる事もあるけどもう破壊しておいてね。逆探知されるかもしれない」

「お任せください」

「頼むよ。そろそろ戻ろうか」

「「「「ハッ!」」」」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月6日、22時頃、オスティアリゾートホテル、ダイオラマ魔法球内―

ん……ここは……。

「ネギ!」

「ネギ先生!」

「アスナさん、のどかさん……僕……また寝てしまいましたか?」

「そ、そうよ!3日間ずっとよ!前より酷くなってるんだから!」

「ネギ先生気分はいかがですか?」

「3日ですか……。気分はどちらかというと良いです。お腹は空きましたけど」

前より長くなってるな……。

「もう……ほら、またずっと寝てたんだからゆっくり起きなさいよね」

「あ、はい。ところで……試合はどうなったんですか?」

「一応引き分けということになりました……」

「引き分け……ですか?」

あんまり太陽道を使ってたときの事覚えてないんだよな……。

「ラカンさんもネギも倒れちゃったから引き分けになったの」

「ラカンさんが倒れた!?」

「何驚いてんのよ、あんたがやったのよ、ネギ」

「そ……そうですか……」

ラカンさんを僕が倒させた……?
確かに太陽道なら不可能ではないかもしれないけど……具体的に一体どうやったんだ……。
コタローが危ないって思った事だけはなんとなく覚えているんだけど。

「とりあえず今ご飯用意してくるから待ってなさい」

「ありがとうございます。アスナさん」

アスナさんとのどかさんが朝……ご飯を用意してくれて美味しく食べさせてもらった。
皆魔法球の外にいるみたいで、アスナさんとのどかさんと一緒に魔法球から出た。
大広間についてみたらラカンさん達がいて待っててくれたみたい。

「ネギ、大丈夫か?この時間やと3日は寝とったようやな」

「うん……まさか無意識で使うとは思わなかったよ。あの、ラカンさん倒れたって聞いたんですけど怪我は……?」

椅子に座ったままかなり真剣な顔してるけど……。

「ああ、このか嬢ちゃんのお陰で問題はないぜ。それよりお前の方だ。ネギ」

「はい」

「あの技、アレは確かにスゲェ。俺も正直信じられねぇが、20年前の決戦で造物主を見たときと似たような感覚だった」

え!?
造物主と似たような感覚?

「そ、それって……」

「ジャック、それは本当ですか!?」

「ああ、マジだ。戦って倒せる気がしないと思ったのは久しぶりだぜ。はっきり言うが、アレならフェイトも倒せる」

「ほ、本当ですか!?」

「俺が保証してやる。ただ、使う場合には気を付けろよ。あんな短時間使っただけで数日寝るようじゃ特攻みたいなもんだ」

ラカンさんの言うとおりだ……それにもし、発動限界の時間まで搦手で時間を稼がれて仕留め損なったらそこで終わりだ……。

「はい……気をつけます」

「ジャック、造物主に似ているというのは……」

「それなんだが、俺の勘だと、ネギが開発した太陽道ってのは造物主のデタラメな力に通じる所がある。つまりだ、ある意味ナギに続きネギなら、ま、造物主はナギが倒したが、対抗しうるっつーこったな」

「それに……僕の中に流れている魔力で無効化の中でも無効化されない……ですか」

「おお、分かってるじゃねーか」

今のところはアスナさんが近くにいるから大丈夫だとは思うけど……。

「ネギ君の重要性が更に増す……か」

そう……かな。

「何にせよだ、ネギ、お前は俺やナギのレベルに届いた。いや……寧ろ極限に振り切れた力を手に入れたと言った方がいいか」

「僕が……」

極限に振り切れた力……。

「何しろ俺が油断したとは言え右腕左足切断、全身損傷なんて有様に一瞬でなるぐらいだ。ま、戦りあっても全く面白くねぇがな」

「ラカンさんの腕と足を切断!?」

「本当だよ、ネギ君。僕も驚いた」

タカミチが言うならそうなんだろうけど……。

「元々ネギがフェイトからアスナ姉ちゃん守るために手に入れた力やから無敵ぐらいで丁度ええと思うけどな。あの時のネギはこの5日間の太陽道の修行の時よりも出力が上やったで。無駄に止まっとる時間あったけど全自動モードって感じやった」

「そ……そうなんだ……」

リスク無視、最大出力で動いてしまったって事か……。

「アスナを守るって点じゃお前は1人前だ。紅き翼の俺が保証する。誇れ、胸を張れ!」

うん、僕は……それで良い。
アスナさんを守れる、フェイトにも対抗できるなら充分だ。

「はいっ!ラカンさん、ありがとうございます!」

「おう、それでいい。でだー、授業料の50万ドラクマは出世払いな。きっちり払えよ!ぼーず共!」

「「ああーっ!!!」」

50万ドラクマって……今までのファイトマネーがいくらかある筈だけど……足りない。
日本円で8000万円……気が遠くなりそうだ……。

「忘れたとは言わせねーぞ」

「きっちり払います!」

「約束やからな!払ってみせるで!」

「ジャック……そこは変わらないですね。ところで明日クルトから総督府で舞踏会があるんだけどネギ君とコタロー君はどうするかい?」

「ああ、アスナ姉ちゃん達ドレスがどうのって言っとった奴か。俺ただのガキやのに出る意味あるんか?」

「僕も……特に積極的に出たいとは思わないんだけど……」

「何いってんだよお前ら。ずっと修行ばっかだったんなら少しぐらい楽しんでこいや。つーか、ぶっちゃけるとアスナ達嬢ちゃんのエスコートしてこい。あいつら楽しみにしてるぞ」

「な、なるほど。分かりました!」

「あー、それで姉ちゃん達喜ぶならええけど」

「僕達皆で行くから特に緊張する必要もないよ」

「うん、ありがとう。タカミチ」

太陽道ならフェイトにも打ち勝てるというラカンさんのお墨付きを貰えて良かった。
いつまたフェイトが襲ってくるかはわからないけど、明日は皆で夜に総督府の舞踏会に行くことになった。
詳しく聞いてみたら夕映さん達も来るらしくて、修行してた期間長かったから久しぶりでなんだか楽しみ。

「ネギ……前より少しだけ存在が薄くなっとるのは……自覚しとるか?」

「……やっぱりコタローは気づいてるか。うん……自覚してるよ。僕が少し周囲の空間と同化して溶けてる感じになってるのは分かってる」

やりすぎると二度と戻れなくなるかもしれないのも……。

「ラカンさんも言うとったけど特攻みたいな事は……アカンからな」

「ありがとう、コタロー。肝に……銘じておくよ」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月7日、20時頃、オスティア総督府―

ナギ・スプリングフィールド杯決勝戦が引き分けに終わった事の号外が出てから1日。
ネギが太陽道を試合中に発動したことで姿が縮んだことについても触れられていたが、専門家の間では術の副作用という見解で一致していたためさほど問題にはならなかったが、以前指名手配されていた赤毛の少年によく似ているのでないかという話題も無いでは無かったが、指名手配が解除された今となっては別に逮捕される訳ではないので、特段問題は無かった。
そして、ネギ一行はオスティア総督府で開かれる舞踏会を訪れていた。
ただ一人を除いて。

「あれ、ラカンさんがいないみたいですけど……?」

「ラカンさんならちょっくらトイレ行ってくるぜぇって言ってたわよ」

「あはは、そうですか。アスナさん、そのドレス似合ってますよ」

「む……ちょっと、その姿でそういう事言うの禁止、ダメよ!本当はただの子供なのに全くもう……」

「えー、駄目なんですか?」

「駄目ったら駄目よ!」

「わ、分かりました」

「キーッ!ネギ!あんたなんか本当さっさと元の姿に戻っちゃえばいいのよ!」

「なんでアーニャまでそんな怒ってるの?」

「知らないわよッ!」

「え、えーと……」

「ネギ君は大変スねー。頑張れー。私はタダ飯食べるかー。あ、リンさん!あっちに美味しそうなのがあるッスよ!」

「行こう」

舞踏会でもシスター服を着用している春日美空はそんなネギ達の横で軽く呟き、舞踏会で出されている料理にココネ、リン・ガランドと共に、両手にナイフとフォークを持って一目散に向かっていった。

「美空ちゃんったら……」

「あはは、春日さんらしいですね」

そんな舞踏会も始まったばかりという頃、オスティア総督府の屋根から1人眼下を見下ろす人物の姿があった。

「…………何も知らない、哀れで儚い……木偶人形達。人の自我など錯覚による幻想にすぎない……などと言ったところで慰めにもならないね」

フェイトは舞踏会に向かう人々の姿を見てそうつぶやき始める。

「まあ……僕も大した違いはないけど……今の僕には……」

「ったく、嫌な予感がするかと思えばあたるもんだな。しっかし、頭のいいバカの言う事は敵も味方も訳わかんねぇな」

そこへ対峙するように現われたもう一人の人物。

「……あなたが出てくるとは意外だな。世界のコトなどどーでもいい人だと思っていたけど」

「なぁに、世界はまぁどーでもいいんだが。ガキが頑張ってるのにおっさん世代の俺が何もしてないってんじゃ示しがつかねぇしな。自分のシリは自分で拭きに来たってこった」

「へぇ、あなたのような英雄ともあろう人が彼に感化されるとはね」

「てめぇ……土のアーウェルンクスだったか?20年前に一人目、10年前に二人目をナギの野郎にやられて……何人いんのか知らねぇがてめぇで少なくとも「三番目」以降って訳だ」

「三番目なんて無粋な呼び方をしないで欲しいね」

「あー、フェイトだったか。自分で付けた割にゃ結構いい名前じゃねぇか。しっかし相変わらずお前やることは世界の滅亡なんだよな」

「あなたからすればそう思えるかも知れない。けれど、僕達の方法が最も多くの、弱き者……神に祝福されぬ者達の魂を救う……疑いはない。僕たちは彼の意思を継いでいるからね」

「フン……信念持ってる奴ぁやっかいだねぇ。ま、ここに来たって事は何か悪さしにきたんだろ。何にせよ戦るしかねぇな」

「そうだね」

「ぶっちゃけ、お前も試合見てたんだろ?アイツの最後のあの技ならお前も無力だぜ?その前にお前はここで俺が倒すが」

「それは……どうかな」

「何?」

「試してみれば分かるよ」

「はー、何かお前、昔と違って……なんつーか人間臭いな。戦り辛そうだ」

「その割には楽しそうにみえるけど?」

「当たり前だ。その方が面白いに決まってるじゃねぇか」

そこへバサバサという音と共に更に人数が増える。

「フェイト様――ッ!!ここはひとまずお任せを!!ラカン殿とお見受けします!」

「あん?何だ嬢ちゃん達。迷子なら帰れ」

「迷子じゃないですぅーッ!!」

「あー、ぼーず達が言ってたフェイトの部下って奴か。なに、世界滅ぼそうって奴のとこにはカワイイ子が集まる世の中なのか。かーそりゃ滅ぼしたくもなるわ」

「何言ってるんですかー!!」

「話になりませんね」

「あー、前哨戦すんの?まあカワイイ子と戦るってんならやぶさかじゃねぇけど」

「その減らず口もすぐ叩けなくしてやるですっ!!環!」

―無限抱擁!!―

そしてオスティア総督府の屋根だけが切り出された足場の周囲に無数の白い柱が縦横無尽に浮かぶ空間が広がる。

「何だこの空間。なるほど、これにぼーず達は閉じ込められたっつー訳か。大層なモン持ってんじゃねぇか。いいぜ、もうまとめて掛かって来いよ!」

「言われなくても!」

「参ります」

「行く」

「…………」

こうしてラカンとフェイトの戦いが始まる前に、フェイトの部下4人の少女達との戦いが行われる事となった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月7日、20時頃、オスティア総督府―

タダ飯サイコーッ!!

「いやーこの肉、魚美味いスねー」

「美味しい」

「ミソラ、アレ取って」

ココネはサラダ行くかー。

「はいはーい」

舞踏会とかどーでもいいスよー。
セレブ用の食事出るっつーからキツそうなドレスなんかよかシスター服でおっけおっけー。
んー、幸せだー。
リゾートホテルにずっと泊まってるけど更にグレードが上がってるっつーかそんな感じ。
にしても昨日の決勝戦、最後の小太郎君のワンコ化も驚いたけど、ネギ君の無意識暴走モード?アレは怖かったなー。
最初試合始まる前にアスナ達が出してたのは世界の終りみたいな空気だったけど、あの状態のネギ君が暴れまわったらそれこそ世界の終りみたいな感じだった気がするスよ。
いきなりラカンさんの腕と足一瞬で切り飛ばした上、それまで効いてなかった筈の破壊光線一発でラカンさんダウンとかやばすぎるわ。
ラカンさんが反撃で殴り返しても再生してたし……完全に人外になってるだろありゃ。
一瞬会場騒然としてたし。
そんなネギ君も今はアスナ達と踊ってる訳で。
小太郎君は楓とくーちゃん辺りから踊ってるね。
高畑先生達は微笑ましそうにそれを見てるな。
つーか周りに知らないセレブ大量発生とか何アレ。
ネギ様!とかコタロー様!とか、ネギ君達が移動すれば後を追うようにゾロゾロと……。
中身とゆーか本体は10歳ぐらいの子供だし、そんな相手してられるほどあの子らは今肉体的にも精神的にもそんな余裕ないスよ……。
そろそろネギ君に皆で一言入れておこうみたいな話でてるし。
放っておくと一人でどこまでも進んで、気がついたら誰も手の届かないところに行ってしまいそう、っていうアスナの発言は一理ある。
たまにネギ君と小太郎君が2人が小声でお互い顔を見ずに会話して、その後パッと別れる時の表情何かは特に深刻そう。
あー、困った子供だことで。
カゲタロウさんは相変わらずの仮面の存在感で周囲の空間圧迫してるけど高音さんは無視して何か話してるね。
いつか高音さんもあんな仮面つけて日常的に活動するようになったら……と考えるのはやめとこ。
カゲタロウさんの怪我は闘技場付きの治癒術師でしっかり治ったから良かったスね。
ラカンさんはこのかがやったにしても、寧ろかなり酷い怪我だった筈のネギ君と小太郎君はほぼ治療する必要が無かったっていうのは何だかねー。
って、おっ、ゆえ吉達来た!
あれはアリアドネーの学生服か。
なるほど、警備の立場で来たんじゃなくて学生の立場って事か。
エミリィ委員長の目線が泳いでると思ったらネギ君探してるんスね……。
分かりやすいわー。
丁度ネギ君がアーニャちゃんと踊ってる……所とか……ていうかアーニャちゃんも年齢詐称薬飲めばよかったんじゃ?
あれは何か嫌だろー。
ホントは同じような年齢なのに片方が大きい姿で化けてるとか。
つかラカンさんマジで来ないな。
アスナはトイレ行ってくるとか聞いたらしいけどどうなんだか……面倒だとか言って逃げたんじゃ?
まーそんな事言ったら私もここで好きなだけ食べてるだけなんだけどさ。
気に入った食べ物が少なくなってきたー!と思ったらすぐさま補充入るのはありがたや。
総督府パネェ。



[21907] 56話 オスティア総督府舞踏会(魔法世界編16)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/01/12 00:26
―10月7日、20時30分頃、オスティア総督府舞踏会会場大広間―

なんだか魔法世界に来てからアスナさんはもちろん皆成長したっていうかそんな気がするなぁ……。
2ヶ月以上もこっちで生活してることになるからそれはそうなんだけどね。
一通り踊り終えたけど……さっき着いて端のほうにいる夕映さん達にやっと挨拶できる。
後ろにまだまだゾロゾロついてきてる人達がいるけど……。

「お久しぶりです!夕映さん!コレットさん、エミリィさん、ベアトリクスさん、こんばんは!」

「こ、こここ、こんばんはです。ネギ……先生」

夕映さんはまだ記憶戻ってないんだったな……。

「こんばんは!ネ、ネギ君!」

「ネギ様!お会いできて光栄ですわ!」

「ネギ様、こんばんは」

皆変わらず元気そうで良かった。

「この式典中警備していたそうで、お疲れ様です」

「い、いえ……当然の事です」

「それが私達の使命ですから!」

「ネギ君こそ、昨日の試合はお疲れ様。凄かったよー!」

「はいです……。あそこまであの伝説のラカンさんを圧倒するとは……驚きました」

「数々の大呪文をあれ程高速で鮮やかに扱えるのはネギ様ぐらいですわ」

「コタロー様との連携も素晴らしいものでした」

「ありがとうございます!」

「……あの、最後のは一体……」

「あの時は意識が無かったんですが……僕の必殺技……といった感じです」

「流石はネギ様!ネギ様の魔法には皆注目していますので話題が絶えません」

「あはは、そうらしいですね。では、皆さん、一曲踊って頂けますか?」

「そ、それはもう喜んで!」

「は、はいです」

「もちろんだよ!」

「恐縮です」

夕映さん達とも踊り始めて、その中で夕映さんと踊りながら話を少しした。

「地球にいた時とやっぱり少し変わりましたね、夕映さん」

「そ、そうなのでしょうか」

「もちろんですよ。雰囲気もそうですけど、まさか一国の騎士団員として、候補生とはいえこうしてその任を全うしているんですから」

「そ、それはセラス総長達の配慮のお陰であり……」

「夕映さん自身の努力の賜物ですよ」

「あ、ありがとうです……」

「もうそろそろ、ゲート確保から……色々と動くそうですから、解決したら一緒に麻帆良学園に帰りましょう」

魔法騎士団、魔法騎士団候補学校の手続きはちゃんと行われるから大丈夫。

「はい……。その時にまで記憶が戻れば良いのですが……」

「大丈夫ですよ。きっと戻りますから」

すぐエミリィさんとも踊ったんだけど……途中で熱が出たみたいで端の方の席で休んでもらった。
何だか前にも同じような事があったような……。
一通り皆と交流を終えたらタカミチが総督室に行くから一緒についていくことになった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月7日、無限抱擁内―

ラカンとフェイトの部下4人との戦闘は、伝説のラカンの前に健闘するもあっけなく終了し、既にフェイトとの戦闘に入っていた。
羅漢萬烈拳で左右の腕で猛ラッシュを決め強力な魔法障壁を3枚割り、螺旋掌で柱を破壊しながら叩きつけそのまま無造作にフェイトを掴んで明後日の方向に投げつける羅漢大暴投で更に柱に叩きつける。

「確かにお前は強い。が、こりゃぁやっぱ俺の勝ちなんじゃねぇか?」

「フ……やはりあなたは何もわかってはいないんだね。……それに僕を倒しても何一つケリなどつきはしない。僕はただの駒……。とても残念だよ、ジャック・ラカン。こんなにも楽しいのに僕はあなたを倒さなければならない。勝敗には関係なく」

フェイトは片目から白い血のような涙を流して答える。

「あん?」

「あなたは僕に絶対に勝てない。僕自身はあなたの力に敬意を表する。その強さを本物と言っていいのかバグなのかわからないけれど……例えそれが幻でも」

立ち上がりながらフェイトが虚空から出したのは火星儀のようなものが先端についいる杖であり鍵のようなもの。

「ハッ、それが切り札って訳か。余計な詮索は無用だ、どっちにしろやるだけだ。行くぜ」

ラカンはそれに気にせずフェイトに攻撃をしかける。
対してフェイトは小規模な魔方陣を複数展開したかと思えば、大量の黒い杭を無数に出現させてラカンを全方位から囲むように放つ。
ラカンは千の顔を持つ英雄で大剣を二振り出し、超高速でそれを捌く。
それでも一本の杭がラカンの右腕の傷跡の部分に刺さる。

「なるほどな、この違和感はその鍵の影響か。ぬんっ!」

腕に刺さった杭でフェイトが出した鍵の火星儀の部分を粉砕し小細工もできないようにラカンは……した。

「ぬぅあああっ!!」

―羅漢萬烈拳!!!―

再び超高速の左右の腕でラッシュを仕掛けフェイトに強烈な打撃を与える。

「これでシメだ!フェイト・アーウェルンクスッ!」

―零距離・全開!!ラカンインパクト!!!―

フェイトの体に掌をあて3秒間溜めて最高出力になった一撃を放つ。
遠くからその様子を心配するように見守るフェイト4人の部下達は、地球の核爆弾に似たような光景に驚きを隠せない。

「ふー、ぼーずの相手を取っちまった気もするが、ま、拭き残しと戦り合うこともあるまい」

完全にフェイトを倒したかのように思われたが……いつの間にか無限抱擁の空間が変化し、花畑の美しい景色が周囲に広がり、暖かな風が吹く。

「ようこそ、ジャック・ラカン。コーヒーでもどうだい?」

フェイトは側がすぐ池の近くにある席についてラカンにコーヒーを勧める。

「アッアレ?ココどこ?」

「フェイト様ッ!?」

「ふ、服まで……?」

「てめぇ……」

「……美しい場所だね。この景色が戦火によってもう存在しないというのは残念だよ。この景色がなくなったのはそう……40年前」

「人の過去を勝手に覗き見るのはいい趣味じゃねぇな」

語り出したフェイトに即座に近づき肩に手を置いた……ラカン。
しかし、ラカンは気がつくとフェイトの向かいの席で、タキシードを着て足を組んだままコーヒーカップを右手で持っているという状況になる。
このとてつもない異常な変わり様に流石のラカンも驚きを禁じえない。

「てめぇ……何をしやがった」

そう言いながらもラカンはこの感覚に覚えがあった。

「……人形は人形師に逆らえない」

―造物主の掟!!―

フェイトの持つ鍵がキィィと音を立てた瞬間ラカンの四肢が花びらのように吹き飛ぶ。

「けっ……ぼーずと似たような攻撃しやがって!!」

―左腕動甲冑!!―右腕動甲冑!!―
―左脚同甲冑!!―右脚動甲冑!!―

「へ……幻?人形だぁ?へへ……それがどうした」

 ― 千の顔を持つ英雄!!! ―

「くだらねぇな!!」

ラカンは額に汗を浮かべながらも両手両足に動甲冑を装着する。

「フ……そう来ると思ったよ」

そして……ラカンは造物主の掟に挑み始める。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月7日、21時頃、オスティア総督府総督執務室―

タカミチと一緒に前と似たような感じで総督に会いに来た。

「昨日の試合は見事でした、ようこそネギ君。今宵ここに来ている賓客達も皆流星の双子が来ることを楽しみにしていました」

「ありがとうございます、総督」

「一つお聞きしたいのですが……最後の技は一体何だったのですか。やはり不死の魔法使いから教わった魔法に関連があるのですか?」

総督も気になるか……皆もそうだったし当然か。

「はい、マスターから学んだ例の魔法障壁の技術を流用しているのは確かです」

「ネギ君の技について……ジャックは造物主に連なる力だと言っていた」

「ジャック・ラカンがそんな事を!?」

「その事ですが……僕の……太陽道と呼んでいるこの技は、僕自身の肉体、魂の情報を術によって世界に同化させ自由に分解・再構築させることを基本としています。ラカンさんがこの力が造物主に連なると言っていた事から考えた仮説ですが、恐らく造物主は魔法によって世界の情報を書き換える能力、世界そのものに干渉、改変する能力を持っている、いたのではないでしょうか?」

「ほう……分解・再構築という話の時点で驚きですが……とにかくネギ君は前人未到の領域に到達したという事ですか……。なるほど、造物主の力が世界に干渉する能力とは……」

「だとすると……伝説でしかないが……造物主と言っても一から世界を造り上げたのではなく魔法世界という異界に干渉しただけ……という可能性もありそうだな」

そうだ……タカミチの言うとおり元々あった異界に何らかの方法で干渉した、という可能性はある。

「うん、タカミチ、その可能性は高いと思う」

「ここまでネギ君が重要な存在になるとは……。ネギ君にはお教えしていなかった情報を……私から明かしましょうか」

何の事だろう……。

「アレの事か、クルト」

「アレって?」

「まず、この魔法世界に住む人間種の総人口は約5億人、亜人間主等を含めればその総数は12億人。ここまではネギ君も知っているでしょう」

「……はい」

「そのうち旧世界が生まれの起源であると確認されている人間はメガロメセンブリア魔法使い市民のおよそ6700万人です」

「ま、まさか!」

「察しが早くて助かりますね。つまり、魔法世界が崩壊すれば、メガロメセンブリア6700万人以外は全員それに伴いどうあっても消滅する、要するに幻想のようなものなのです」

「ということはテオ様やセラス総長達は皆……」

「残念ながら……そういう事になります……が、それもネギ君の持ち得た見地と情報のお陰で少なくとも幻想だ、という認識は間違っている線が濃くなってきました」

「元々そういう存在であって、幻想という認識をする事自体がおかしい、という事だな」

……テオ様、ラカンさん、セラス総長、エミリィさん達が幻想……あんなに人格があって心豊かなのに幻想……そんな馬鹿な事ある筈が無い。
まぎれもなく僕達と同じ人間だ。
造物主によって操られている……だなんて信じられない。

「地球が崩壊……地球がある宇宙がどこまで広がっているかすら分からない、その世界そのものが崩壊すれば、僕達が消えるという逆の現象も起こり得る……かもしれない……ですか」

「ええ、正直それは私達が認識する限りでは到底ありそうにない事ですが……そういう考え方が正しそうです。ただ、魔法世界の崩壊のほうが早い、ただそれだけかもしれません。その真実を知っている人物はどうやら旧世界のそれも麻帆良にいそうですから確認してみたい所ではあります」

「その為にもまずは……」

「完全なる世界、フェイト・アーウェルンクスです」

「タカミチ、墓守り人の宮殿に行く準備出来そうなの?」

確実にフェイト達が潜り込んでいるのは間違いなさそうだけど……。

「後3日って所だね」

「オスティア総督の権限ではメガロメセンブリアの一部の艦隊しか準備できませんが……」

「主力艦隊旗艦スヴァンフヴィートはリカード元老院議員が連れてきているし、テオドラ皇女殿下がインペリアルシップを数隻、アリアドネー魔法騎士団の巡洋艦隊もある」

「備えあれば憂いなしですが……20年前の再現を奴らがしようとしているのであれば、当然の対応です」

「その時は……僕も墓守り人の宮殿に行くよ」

「ネギ君……」

「王家の魔力……無効化現象の中で無効化を受け付けないのは僕だけだから」

「ネギ君自らそう言ってくれるとはありがたいですね。が、本拠地にネギ君のようなまだ子供を単身1人送り込むようでは我々に全く進歩が無いようなものですから、その辺りは配慮させてもらいますよ」

「はい、ありがとうございます」

「それではもうしばらく舞踏会を楽しんッ!?」

「なんだこの揺れは!?」

「外っ!」

突然外から凄い大きな音が聞こえてきた!

「オスティア駐留艦隊、何があった、報告しなさい!……雲海に召喚痕……巨大召喚魔?フリムファクシが操舵不能だと!?精霊砲はどうした!?」

「……どうやら先にあちらが仕掛けてきたようだね……」

「対処するしか……」

「精霊砲が掻き消されるだと!?…………この映像はっ!……どうやら巨大召喚魔は前大戦で投入されたものと同型のようです。触手を伸ばし、付近の飛空艇を大小関係なく破壊しにかかりながら総督府に向かってきています」

精霊砲が!?
掻き消される……まさか!

「ここには要人が……ッ!それが狙いか!」

「タカミチ、戦艦の精霊砲が効かないなら僕がコタローとその召喚魔の足止め……もしくは破壊してくるよ。避難誘導の経路を僕はよく知らないからその方がいいでしょ」

「……ネギ君……。下にいるテオドラ皇女殿下に龍樹を投入してもらえるよう連絡するし、ジャックにも……連絡するから……頼めるかい?」

「もちろん!ここで待ってても皆が危険になるだけだ」

「ただ……あの技の使用は控えるんだよ」

「分かってる」

「ネギ君……頼みますよ。タカミチ、まずは舞踏会の客の避難誘導が優先だ」

「ああ、俺は先に下に降りてるぞ」

―召喚!! 犬上小太郎!!―

「コタロー!」

「ネギ!いきなり呼んだっちゅう事はあのデカブツ相手すんのか?」

フォークと皿持ってるけど……食べてたのか……。

「うん!」

「……なら細かい事は後にして行くで!アデアット!」

―契約執行 600秒間!! ネギの従者 犬上小太郎!!―

「そこの窓から行こう!総督、行ってきます!」

「おうっ!」

「……お願いします。私も後からオスティア艦隊を指揮しに出ますので」

「はいっ!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月7日、21時頃、オスティア総督府付近雲海―

ネギと小太郎は浮遊術で総督執務室を飛び出し、小太郎がネギの手を引っ張る形で巨大召喚魔の元に急いだ。
召喚魔は全長700m破格の大きさ、全身黒色で統一され、左右に3つずつの目に鋭い牙、胸部は骨が露出し、心臓部と言える弱点が見当たらない、まさに巨大悪魔であった。
背中、雲海に隠れた足元からは無数の触手を伸ばすことができ、的が大きいと言っても容易に接近を許しはしなかった。

―短縮術式「双腕」封印!!―
 ―双腕・断罪の剣!!―
 ―双腕・断罪の剣!!―   ―双腕解放!!断罪の剣!!―

ネギは小太郎に断罪の剣の装備を施し、自身も断罪の剣を纏い、左右に別れ、立ちふさがる巨大な触手を切り裂き始めた。

「はぁッ!」      「でやぁっ!」

上から迫り来る触手を身長大の長さの右腕の断罪の剣で切り払えば、雲海の下から迫る触手は同じように身長大の長さの左腕の断罪の剣で一閃。
切断に必要な威力としては申し分ないが如何せん標的があまりにも大きい。
クルト・ゲーデルが連絡を受けたオスティア駐留艦隊所属巡洋艦フリムファクシは触手によって絞めつけられ操舵不能、船体後部についている高出力精霊祈祷エンジンを破壊され既に雲海の底に落ちてしまっていた。
触手はその手を休める事なく次々と周辺に展開している戦艦を絡めとりベキベキと音を立てて破壊しに掛かっていた。
戦艦は精霊砲を放つも全て掻き消されてしまい効果が無い。

「くっ……戦艦の中にはたくさん人がいるっていうのに!ハァッ!」

「本体……多分頭部撃破すればそれで終わらせられるんやないんか?でやぁッ!」

「それしかないかッ!」

「白狼雷天大神槍、アレならいけそうやけど溜める時間は貰えそうにあらへん。ラァッ!」

2人は会話しながら断罪の剣を振り回す。

「そうだね。ハッ!」

「俺が鬱陶しい触手は処理しとくからデカイ収束大呪文当ててやれや!」

「分かった!もう少し接近するよ!」

「おうっ!」

ネギと小太郎の触手との攻防をよそに巨大召喚魔は着実に総督府に近づきつつあった。
2人は大天使の降臨を威力減衰無しで打てる射程範囲に近づこうとするが問題があった。
触手だけではなく今度は巨大な両腕までもが攻撃を阻止しようとして来たのだ。

「デカイ腕やな!」

「くっ……腕の可動範囲から離れよう」

仕方なく2人は遠距離から攻撃をしかけるしか無くなった。

「行くよ!!」     ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
          ―契約により 我に従え 破壊の王―
      ―来れ終末の輝き 薄明の光芒 満ちれ エアロゾルよ―
      ―収束魔方陣展開!!! 集え 我が手に 域内精霊加圧!!!―
        ―第1から第12 臨界圧縮!!! 第0へ解放!!!―

3秒は必要な収束を開始したネギの魔法領域に再び触手が迫る。

「邪魔はさせへんッ!」

それらは小太郎が高速で空中を飛び回り全てを切り払い前衛の前衛としての役目を果たす。

      ―降臨し 全ての命ある者に 等しき死を 其は安らぎ也―
              ―然して 死を記憶せよ―
               ―大天使の降臨!!!―

「あぁぁぁぁッ!!」

ネギの両手から破壊光線が放たれ巨大召喚魔の頭部を消滅させにかかる。
組成が闇の魔素を編んで構成されているものだけあって、光の魔法の効果は高く、安々と頭部は完全に消滅し、それどころか背中まで貫通したのだった。
……しかし、それでは終わらなかった。

「はぁ……はぁ……僕の魔法は効いた……けど、核と呼べる部位が無いのか!?」

「こら性質悪いな!戦艦の破壊に来た理由がよう分かる!」

頭部が無くなっても尚巨大召喚魔は動きを止めなかった。

「だからと言ってここで諦める訳にはッ!やっぱりアレを……」

「ネギ、それは最後にとっとき!最悪姉ちゃん達の避難が終わるまで持ちこたえられればええんや!」

「……分かった、コタロー。少しでも足を止められるように頑張ろう」

「危険やけど背中からいくらでも出とる触手を片っ端から切るだけでも大分違うはずや!」

「うん!……でも召喚だとしたら必ず術師がいるはずだけど……一体何処に……」

そして2人は再び巨大な両腕が振るわれる範囲に飛び込んでいった。
一方遡ることしばし、高畑は総督府から舞踏会のフロアに降りる為、総督府の廊下を移動していたが、こちらにも小型の召喚魔が床という床から溢れ出始めたのだった。

  ―咸卦法!!―

―百条閃鏃無音拳!!―

高畑は一度に百発の無音拳を放射状に弾き出し、目の前に現われた召喚魔を一掃する。

「かなり脆いが……数だけは多いみたいだな」

《葛葉先生!廊下に召喚魔が多数出ています。そちらの様子は!?》

《こちらも同じですッ!烈蹴斬!!床のあちこちから数種の召喚魔が今出現し始めた所です》

《客を避難させたいところだが、廊下にまでいるとなると会場でなんとか守りきるしかない》

《……今のところは風太郎・D・グッドマン氏と私達でほぼ抑えられています。斬鉄閃!!……しかしどうやら、召喚魔に効く魔法と効かない魔法があるようです。斬魔剣!!……会場の客が魔法の射手を打ちましたが掻き消されました》

《それは……外の巨大召喚魔と同じ状況のようだね……。了解した。そちらに急ぐよ》

そして目の前にやや巨大な鬼のような召喚魔が現れるが。

―豪殺居合い拳!!―

一定以上の物理攻撃には非常に弱く、高畑にとって障害にはならなかった。
そのまま咸卦法で加速された身体で廊下を突き進んだが、突如左手の屋外テラスの空間に亀裂が走った。

「何だ!?」

雷撃のような音と共にそこに膝と手を同時について現われたのは両腕両足に動甲冑を装着したジャック・ラカンであった。

「ジャック!?」

「よぉ……ぼーずじゃなくてタカミチかよ。まぁいい、最後に会えて……良かったぜ」

「一体何が!?その動甲冑は!?」

それだけではなくジャック・ラカンの存在感が異様に希薄になっている事を高畑は感じられずにはいられなかった。
そこへ更に空間に亀裂が発生し、またしても雷撃のような音と共にもう1人が現れる。

「お前はッ!フェイト・アーウェルンクスか!」

「へぇ……紅き翼の高畑・T・タカミチか。これはまた意外だね。ここに空間を開いたのは……あなたの意思か、ジャック・ラカン」

「知るかよっ!ぬんっ!!」

― 千の顔を持つ英雄!!! ―

ラカンは余裕のフェイトに構うこと無く千の顔を持つ英雄で大量の剣群を射出する。
しかし、フェイトの持つ造物主の掟の前にはラカンのアーティファクトで構成された剣群は溶けるように形を失う。

「ジャックのアーティファクトが!?」

「何度やっても無駄だよ」

現実空間に飛び出すまでも何度も同じ事を繰り返していたかのようだが、それでもラカンは攻撃をやめはしない。

―斬艦剣!!―

戦艦をも一撃で落とす巨大な剣を両腕動甲冑で担ぎ投げつける。
しかし、またしても溶けるように剣は形を失う。

「無意味だよ、ジャック・ラカン。全てを分っていてなぜ向かってくる?」

―リライト!!―

フェイトは右目を見開き、ラカンの頭部目掛けてその空間に直接魔法を発動させる。

「よっ。どうした?効かねぇぞ?」

目を見開くというだけのほぼノーモーションにも関わらず、ラカンは気合でその攻撃を察知し、一瞬で身体を左にズラして避ける。
それでも、フェイトの放った魔法はラカンの右腕の動甲冑にあたり、花びらのように雲散霧消する。

「今の攻撃はっ!?」

昨日の試合でネギが行った分解と再構築によく似た現象に高畑は驚きを顕にする。

「………やれやれ……頭を狙ったんだけどね。ここまで持つだなんて……あなたには本当に感服するよ。今のあなたと僕には圧倒的な力の差がある。それこそ象と蟻の字義通りに等しい程の力の差が……それを十分に理解している筈なのに……何故だ?」

フェイトは少々呆れた表情を見せ呟くようにラカンに問う。

「あぁん?」

「ジャック!!」

逆に聞き返すように声を上げながらも額に汗を浮かべギリギリの状態に見えるラカンに高畑は思わず加勢しようとする。

「来るな!そこでおとなしく最後まで見とけ!タカミチ!そしてぼーずに伝えろ!」

「くっ……」

― 千の顔を持つ英雄・帝国九七式破城槌型魔道鉄甲!!! ―

ラカンは千の顔を持つ英雄で、消滅した右腕動甲冑に代わる、自身の全身よりも巨大な攻城用と言えるような右腕を装備する。

「……あなたに似合わぬ無様な武器だ。なぜだ……?何故あなたはそんな顔で戦える?全てが無意味だと知らされながら……いや、あなたは既に知っていた。……10年前いや、20年前のあの日から。メガロメセンブリア上層部がひた隠しにするこの世界の秘密に。この世界の無慈悲な真実に。絶望に沈み神を呪うもおかしくはない真実だ。事実これまでに 僕が見てきた者は皆そうだった。真実を知り尚20年前……何故あなたはこの意味なき世界をそんな顔で飄飄と歩み続けられる?」

フェイトはラカンの右腕に現われた無骨でバランスが悪いとも言える装備に、失望の表情を浮かべながらも困惑が入り交じった状態でラカンに問う。

「ほ……なんだ。てめぇ、んなこともわかってなかったのかよ」

一瞬呆気に取られたような表情をラカンはするもニッと笑い言葉を続ける。

「真実?意味?そんなことは俺の生には何の関係もねぇのさ!」

「……ッ!ならば!その真実に焼かれて消え去るがいい!幻よ!!」

フェイトは再び無数の黒い杭を出現させラカンに向けて射出する。

「これはッ!」

―豪殺居合い拳!!―

その余波を喰らいかけそうな所を高畑は無音拳で相殺して回避する。

「ジャック!」

巨大な右腕を装備したままでありながらもラカンは驚異的な移動速度でフェイトに向かって苛烈な攻撃を仕掛ける。
そしてラカンはついに右腕の帝国九七式破城槌型魔道鉄甲でフェイトの身体を床に押えつけ潰しにかかる。

「ぐ……これも無意味だよ。ジャック・ラカン。結果はもう決まっている」

「けど、楽しかったろ?ハッもうちっと楽しめや。フェイト!!」

続けてラカンは帝国九七式破城槌型魔道鉄甲の仕掛けにある、カートリッジを起動し更に出力を増加させ床を割り始める。

「くっ……ジャック!!」

余波が収まった所で高畑がラカンの元に駆けつけるが、ラカンの身体はとうとう限界を迎えたのか、指先から消え始めた。

「……なるほど。限界って訳か……。確かにもう結果は決まってやがったな」

「ジャック……」

「タカミチ……ぼーず共の為におっさん世代の矜持として過去の拭き残しはサッパリ拭ってやりたかったが……どうも全部押しつけることになっちまいそうだ。これが俺の最後の言葉だ。よく聞けよ……奴と戦って分かったが……見ての通り奴らは世界の秘密に繋がる力を得たみてぇだ。お前やクルトならわかってんだろ?「俺」じゃ今の奴らにてんで敵わねぇって訳だ。どうも奴らは既にアスナを手に入れてるみてぇだ。俺ですら気付かなかったが今側にいるのはありゃ偽者だぜ。奴らにまんまと嵌められたって訳だな。でだ、奴らの力に本当の意味で真っ向から対抗しうるのはやっぱネギだけになりそうだ。ネギに伝えろ。奴らを止められるのはお前達だけだ!前を向いて進め。前を見て進み続けるヤツに世界は微笑む。頼んだぞ!……悪ぃ、もう時間がねぇ……後は……任せるぜ……」

そう畳み掛けるようにラカンは言葉を紡ぎ高畑に伝え、最後にニッと笑いながら、全身が花びらと化し、完全に消え去った。

「……ジャック……確かにその言葉、受け取りました。必ず……伝えますッ……」

高畑はラカンが消え去るのを見送りながら右手をきつく握り締めた。

「やれやれ……お姫様の事がバレてしまったか……。仕方ないね……」

「な……無傷だと……。その鍵の効果か!」

床に埋まるような形だった筈のフェイトは何事も無かったかのように造物主の掟を持ってそう話しだす。

「高畑・T・タカミチ、あなたでは僕には敵わない。それでもあなたの相手をしても構わないけれど……僕も用事があるからね。これで失礼するよ」

―転移門―

「フェイト・アーウェルンクスッ!」

―豪殺居合い拳!!―

高畑はフェイトが水の転移門で去る所に渾身の居合い拳を放つが……遅かった。

「……くっ……こうしてはいられない……か」

それでもラカンが目の前で消えたという現実を受け止め、重要な事実を得た高畑は廊下の召喚魔を粉砕しながらも急いで下の舞踏会の会場に向かったのだった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月7日、21時頃、オスティア総督府舞踏会会場大広間―

今の状況を一言で表すと、超イタチごっこ状態。
さっき爆音がしたと思って皆窓の外を注目して見てみたら巨大なバケモンが窓の外からこっち向かって来てんのがわかってパニックになった。
そんで近くでやっとご飯にありつけてた小太郎君が突然消えた後すぐ、出口の近くにいたお客さんが逃げようと廊下に出ようとしたら、突然床やら天井やらあちこちから小型やら中型の気味悪いガイコツやら鬼やら丸っこいのとか棒みたいのに羽生えてる奴とかが一斉に出現して逃げ場なし超ピンチー!って思ったら、コレだよ。

    ― 千の影槍!!! ―百の影槍!!!―斬魔剣!!―斬鉄閃!!―神珍鉄自在棍!!―16分身!!―異空弾倉!!―装剣!!―03式対魔特殊光線!!―

……あーここの戦力マジ忘れてた。

「動くなよ春日!」

「へぁ!?」

っちょ!
足元にも出てくるんスか!
たつみースナイプやべーやべー。
動いたら逆に死ねるって。
っておーい!!機関銃かい!
何物騒なモン出してんスか!
てか何、魔法の谷間か?谷間なのか?
頭上からはカゲタロウさんと高音さんの影槍がザクザク降ってくるグッドマン家無双始まってる!
桜咲さんと葛葉先生は剣圧を飛ばすわ、くーちゃんも棍棒伸ばしたり縮めたり、ゆえ吉達もアリアドネーの装備つけて応戦し出すわ、茶々丸は何か完全科学っぽいレーザーとか……なんてカオス!!
ココネは私にしっかりしがみついてるからいいけど……この状態じゃアデアットしても走るのマジ怖いスよ!
私もだけどお客さん達も皆もう伏せまくってるし。
まーそこん所を楓は16人に増えて、お客さんを誰彼構わず抱えて主にカゲタロウさんの付近に集めてるから待つだけっちゃ待つだけなんだけどさ。
にしても倒した傍から無限沸きってどうなんだ!?
千日手過ぎるわ!

   ―メイプル・ネイプル・アラモード―       ―フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ―        ―フォル・ティス・ラ・ティウス・リリス・リリオス―
―ものみな 焼き尽くす 浄化の炎―    ―闇夜切り裂く一条の光―      ―炎の精霊39柱!! 集い来たりて 敵を射て―
 ―破壊の王にして 再生の徴よ―    ―我が手に宿りて 敵を喰らえ―       ―魔法の射手・連弾・火の39矢!!―
 ―我が手に宿りて 敵を喰らえ―          ―白き雷!!―
       ―紅き焔!!―

最初はてろてろテロですかー?ってオロオロしてた愛衣ちゃんも参戦、ゆえ吉も容赦ないわ、アーニャちゃんも何か逞しいな!

―アネット・ティ・ネット・ガーネット―      ―タロット・キャロット・シャルロット―         ―ミンティル・ミンティス・フリージア―
   ―黒き飛礫!!―       ―魔法の射手・連弾・氷の37矢!!―    ―魔法の射手・連弾・氷の35矢!!―

「また掻き消された!?」    「何故ビーとユエさんの魔法は効くのですか!」

コレットさんとエミリィさんの魔法は何でか効かない現象っていうか。

―対召喚魔用徹甲魔弾一斉発射!!―

「バカな!どうして効かない!」

「警備の者は守りに専念していろッ!」― 千の影槍!!! ―

メガロメセンブリア警備兵のごつい鎧着込んだ人達が、楓が集めたお客さんを守るように並んで壁作って構えた魔法剣から撃った攻撃すらも効かないからなんていうか……どうなってんの?
つかカゲタロウさんこれはマジで絶賛マギステル・マギだわ。
ドネットさんはそれに従って障壁張ってこのか達と待機モード入ってる。
んで、そのすぐ近くでテオドラ皇女殿下は念話が通じないってユリアさんとボヤいてる。
てかそういやアスナとのどかがいないと思ったら、アイシャさんとリンさん含むクレイグさん達4人が護衛って事で一緒にお手洗いに行ってた筈何スけど……。
まー、クレイグさん達もここの柔い魔物なら余裕っぽいだろうし、アスナは何気超強いから余裕か?
あ、でも狙われてるって話だからマズイ気が……。

「春日殿、ココネ殿!」

「おっ楓頼む!」

楓にこうして抱えられるとかぶっちゃけ初めてなんだけど、ちょっと同じ年齢だとは思えんスわ。
つーかこれいつまで続くんだー……。

「ベアトリクス!」  「ユエさん!」

―アリアドネー97式分隊対魔結界!!―

お客さん所に私とココネも混じったらすぐ、ゆえ吉達の結界の重ね掛け来た。

「一体アレは何なのです!?」

「私のアーティファクトで今調べてみるです。……ふむ……アレは召喚された魔族ではないようです。闇の魔素を編んで造った言わば魔物の影。影使いと人形使いの中間のような非常に珍しい魔術です。しかもこれほどの量を一人で操っているとしたら……凄まじい使い手です」

ゆえ吉のアーティファクトって情報系だったのか……。
相変わらずネギ君との仮契約で出るモノは突込みどころしかないなー。

「それに窓の外のあの巨大召喚魔は20年前の大戦で使われたという情報もあるです」

「20年前……ということはやはり完全なる世界ッ!?」

「そんな半端な影など恐るるに足りませんわ!」―百の影槍!!―

高音さん何か叔父さんと共闘できてテンション上がってるだろ……。
まあいいけどさ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月7日、21時頃、オスティア総督府回廊―

お手洗いを済ませ長い廊下を歩いて舞踏会会場に戻ろうとしていたアスナ達6人であったが、こちらも召喚魔に囲まれて足を止められていた。

「なんなんだよコイツらは!」

「わかんないけど、さっきの揺れからするとテロだよ!」

「のどか、アスナ、離れちゃだめよ」

「はい!アイシャさん!」

「……もう、私も戦います!それにこういうのには滅法強いんで!アデアット!」

そう言いながらアスナはエンシス・エクソルキザンスをアデアットし行く手を阻む召喚魔一体にその大剣で斬りかかる。

「おい、嬢ちゃん!」

「ハァァッ!」

鬼のような召喚魔の頭部に思いっきり振り下ろしたアスナだったが、予想とは違う結果に本人も驚いた。

「え?効かない!?」

「呆けるな、嬢ちゃん!オラァッ!」

クレイグはアスナが斬りかかった鬼が、アスナに腕で攻撃を仕掛けようとするのを瞬動で接近してロングソードで防ぐ。

「何故か効かないけど、それでもっ!」―紅き焔!!―

アイシャは無詠唱で紅き焔を放ち召喚魔に当てるが……その魔法は虚しくも、また掻き消えてしまった。

「またっ!」

そして防戦に専念せざるを得なくなりながらも、一行は召喚魔に囲まれながら地道に大広間へと向かおうと進み始めたが、突如周囲の召喚魔が失せた。

「何だ?」

「誰かいるわよ!」

召喚魔の代わりとして現われたのは黒いローブに仮面を被った巨躯の人物だった。

「カグラザカアスナ……」

「てめぇ何者だ?嬢ちゃん達には指一本触れさせねぇぞ!」

「あいつがこの術師なんじゃないの!?」

「…………うるさい木偶共だ。……消しておこう」

「んだてめぇ?頭イカれてんのか」

会話は成立せず、クレイグとクリスティンとリンが前衛に出てそれぞれ構える。

―灰は灰に 塵は塵に 夢は夢に 幻は幻に―
   ―全ての者に永遠の安らぎを―
       ―リライト―

しかしそれより先にローブの人物が造物主の掟を大仰に構え、呪文を唱えた。
そして造物主の掟が静かに音を立てた瞬間、前衛に出た3人の身体が中心から花弁が散るように形を失ってあっという間に消滅する。

「え?」 「そん……な?」 「クレイグ!?」

「人形は人形師に逆らえない」

「あ……あっ……クレイグ……さんっ」

宮崎のどかは目の前の光景に唖然として声は出るが身体が動かない。

―紅き焔!!―

「何してるの!早く逃げるのよ!のどか、アスナ!」

アイシャはローブの人物の顔面に咄嗟に紅き焔を放ち、宮崎のどかとアスナを後ろに押し出して逃げるように促す。

―リライト―

……しかし、ローブの人物は紅き焔を何事も無く無視して、煙から手を伸ばしてリライトをアイシャに放ち、同じように身体の中心から分解するように消滅させる。

「アイシャさん!?」

「この……よ……よくも……ッ!!」

続け様にクレイグ達4人が消滅させられたことにアスナは怒り、ローブの人物に斬りかかる……が。

「フェイトから連絡があった。お前の役目はもうここで終わりだ。栞」

―リライト―

「……そん……な……」

アスナではなく栞、とローブの人物はそう呼び、躊躇すること無くリライトを発動させた。
ローブの人物の魔法が自分には効くはずがないと思い込んでいたアスナは目を見開いて呟く。

「後から皆もすぐに追いつく、案ずることはない」

「フェイ……ト……様」

消滅するその瞬間、アスナの幻術が解け、栞としての本来の姿を表す。
生気の抜けた表情を浮かべながら栞は最後の言葉を呟くも、間もなく全身がリライトの効果を受け花弁のように散った。
そして音を立てて床に落ちて残ったのはアスナの持っていた端末と白き翼のバッジだけだった。
そこには宮崎のどか……ただ1人だけが残る。

「クレイグ……さん……リンさん……クリスティンさん……アイシャさん……あ……あ……アスナ……さん……?」

目の前であっという間に起きた現象に宮崎のどかは腰が砕け、その場に力なくへたり込み、目からは涙がとめどなく溢れる。

「小娘は……確かミヤザキノドカ……。お前も送ってやろう。先に消えた彼らと同じ。永遠の園へと移り住むだけだ」

「どう……して……どう……して……」

「……しかも彼らと違い人間であるお前は肉体も残し逝く。安心して身を委ねるが良い。彼らとも愛する者ともいずれあちらで会えよう」

しばしの沈黙の後、ローブの人物の巨大な右手が迫り、宮崎のどかもそのままリライトを受けようかという時。

―アデアット―

「何?」

挫けるどころか、その目には明らかに生への渇望に溢れる輝きを宿し、宮崎のどかは再び立ち上がり始める。

「…………小娘と思い……油断しましたね。魔術師さん」

宮崎のどかは右手の人差し指につけた鬼神の童謡をローブの人物にスッと向けながら次の言葉を発する。

    ―我汝の真名を問う!!―

「ほう……」

虚空に自動で鬼神の童謡がローブの人物の真名を書き出す。

「デュナ……ミス……」

その現れた文字を宮崎のどかは緊張して冷や汗を書きながらも読み上げる。

「名前が分かった所で…………いや、まさかっ!」

―黒き牢球!!―

デュナミスは複数の黒い剣を宮崎のどかの周囲に突き刺し、それを更に爆発させることで無力化を図る。

「ふ……」

しかし、その一瞬の隙を突き宮崎のどかは魔力で身体強化を施し、見た目には似合わない速度で床を滑るようにデュナミスの背後に回りこんでいた。
その際、なんとデュナミスの造物主の掟までも奪取し、続けて宮崎のどかは言葉を紡ぐ。

「白き翼の一員にして冒険者・宮崎のどか。反撃をさせて頂きます。質問ですデュナミスさん、この杖の使い方と仕組みを教えてください」

「何っ!?」

瞬時に理解したかのように宮崎のどかは目を瞑りながら造物主の掟を左手に取り、それを用いようと試みる。

「小娘……!!」

デュナミスは巨大召喚魔の腕と触手を部分的にその場に召喚し宮崎のどかに攻撃を仕掛ける。
しかし、それらの攻撃は宮崎のどかが持つ造物主の掟によって防がれ、それでも続け様にデュナミスは影で造り上げた巨大な剣を振り下ろす。

「キャァァッ!」

防げると言ってもやはり衝撃は強く、宮崎のどかが持ちこたえるのは辛かった。

―豪殺居合い拳!!!―

と、そこへ突然強烈な拳圧がデュナミスの頭部に直撃する。

「ぬうっ!」

「のどか君ッ!」

そこへ駆けつけたのは先程ラカンの消滅を見届けたばかりの高畑であった。

「た、高畑先生!」

「……おのれ……貴様はっ……Death.MEGANE!!……タカミチィーッ!!!積年の恨み!許さぬ、許さぬぞォォ!!うおおおおっ!!」

デュナミスは高畑を認識した瞬間激昂し、着ていたローブを粉砕し、第二形態へと変化する。
その姿は肩口から2本の巨大な腕と鋭い爪を有し、頭部の仮面と一部尖った棘だけが白く、それ以外は完全に黒色で統一された高位の魔族のような姿であった。

「完全なる世界かッ!!のどか君、下がっていなさい!!」

見た目をガラリと変えたデュナミスは背中から影を大量に高畑に向かって飛ばす。

   ―七条大槍無音拳!!!―

高畑は、キュン、という音と共に、豪殺居合い拳を超える威力を持つ7本の光線のような無音拳を放ち、迫り来る影を吹き飛ばし、余波で周りの廊下の壁には巨大な穴が開く。

「拳で語るッ!」

煙から再び姿を現したデュナミスは両の掌を一旦ピッタリ合わせる構えを取る。

「受けよタカミチ!秒間2千撃、巨龍を葬る重拳の連突!!芥子粒も残さぬ!!!」

「マズいッ!」

   ― 千条閃鏃無音拳!!!! ―

デュナミスの超高速直接打撃を、高畑は咄嗟に千にも及ぶ多数の拳圧を完全に正面にのみ放ち応戦するが、間合いも悪い上、打撃そのものの数と速度が違った。

「―――――!!」

耐え切れずに高畑は、後ろに下がっていた宮崎のどかの更に後ろに声を上げる事もできずに吹き飛び、無造作に床にうつ伏せに崩れ落ちる。
身体の前面は直視すれば酷い打撲傷であり、咸卦法と無詠唱による戦いの旋律による身体強化がなければ、無音拳で相殺していなければ、即死していた。

「高畑先生ーッ!!こ、この状況からの離脱方法があるとしたらそれはっ!?」

「何ッ!?」

―リロケート 宮崎のどか!! 高畑・T・タカミチ!!―

過去の個人的な恨みで高畑に激昂して宮崎のどかを忘れていたデュナミスはリロケートの魔法を読み取られ、宮崎のどかと倒れた高畑に逃げられる。

「……おのれ……小娘ーッ!!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月7日、21時頃、オスティア総督府舞踏会会場大広間―

依然として無限に沸き続ける召喚魔を大広間で殲滅しながら客を一箇所に集めて防衛していた面々の元に、空間に発生した亀裂からガラスが割れるような音と共に、造物主の掟を持った宮崎のどかと高畑が出現する。

     「何事だっ!?」  「何だ?」   「この音は一体!?」

「のどかっ!?」  「高はた……先生ーッ!?」   「のどかさん!」

   「何じゃっ!」  「キャァァッ!」  「血がーッ!!」

「高畑先生!」  「高畑殿ッ!!」  「高畑先生ッ!!」  「タカミチ!」

高畑の惨状を目にした者は叫び声を上げる。

「こ、このかっ!高畑先生を……お願い、治して!!!」

宮崎のどかは近衛木乃香を直視してそう心の叫びを伝える。

「あ……の……のどか。わ……分かったえ!!アデアット!」

近衛木乃香は衣を纏って高畑の元に急ぎすぐ様呪文を唱え始める。

  ―氣吹戸大祓 高天原爾神留坐 神漏伎神漏彌命以 皇神等前爾白久―
―苦患吾友乎 護惠比幸給閉止 藤原朝臣近衛木乃香能 生魂乎宇豆乃幣帛爾―
               ―備奉事乎諸聞食―

「うぐぁぁぁぁっ!!!」

先ほどデュナミスから受けた打撲傷が元々無かった、という状態に回帰するかのような反動により高畑は呻き声を上げる。
……それでも、高畑の傷は無事完全に治った。

「高畑先生……よ……良かった……」

「こ……このか君……済まないね。のどか君も……助かったよ」

そこへ丁度、宮崎のどかの後ろの空間に黒い渦が発生し、そこから巨大な腕が伸び、宮崎のどかの身体全体を造物主の掟ごと締め付け始めた。

「わぁぁぁ!!!」

「ククク……読心術の小娘よ。先ほどの手並みは見事だ。賞賛に値する。仲間の消滅が才能を引き出したか。いずれにせよ貴様のアーティファクトと、その使い手たる貴様にはここで消えてもらう他無い」

腕だけではなく、デュナミスの巨大な身体全体がその姿を大広間に現し、宮崎のどかを絞めつけたまま、その胸に隠して展開されていたアーティファクトを抜き去り焼却する。

   「キャーッ!」   「バケモノよっ!!」   「魔物っ!?」

 「のどかーッ!」       「いやーッ!!」    「のどか!」

   「のどかさん!」   「怖いよー!」    「のどか君ッ!」

「動くな貴様らァッ!我々は人間を殺めることは禁じられているが……この小娘の魂を永遠の園へと連れ去ることはできる。完全なる世界へと」

「くっ……」

デュナミスを取り囲むように高畑、葛葉、長瀬楓、桜咲刹那、龍宮真名、古菲、風太郎・D・グッドマンが構えを取ったまま停止する。

《ネギ君、のどかをそっちに召喚して!》

端末で全体通信が行われた事を露も知らないデュナミスは、高畑達としばし睨み合うも、宮崎のどかがデュナミスの腕の中から消え去った。

「なっ、仮契約カードか!おのれ!」

「今だッ!」

―斬魔剣弐の太刀!!!― ―豪殺居合い拳!!!― ―斬魔剣弐の太刀!!!― ―対魔術弾丸!!!―

「ぐぬぉぉっ!!分が悪いかッ」

デュナミスの巨大な両腕は一刀両断され床に落ち、高畑の無音拳と龍宮真名の魔術弾丸が胴体に飛ぶ。

―リロケート―

デュナミスは切り飛ばされた腕を分離させたままロケットパンチの要領で飛ばして反撃する事もできたが障壁を突破する斬魔剣弐の太刀の2撃目が迫る事を察知しその場から転移したのだった。

「去ったか……」

「まだ召喚魔は終っていない」― 千の影槍!!! ―

新たに沸き出していた召喚魔をカゲタロウが千の影槍で串刺しにして一掃する。

「春日美空、今の機転はなかなかのものでした」

「いやー、それほどでも」

一箇所に固まっていた客達の中に混じっていた春日美空は端末を咄嗟にいじり、ネギが巨大召喚魔と空戦中を行っていながらも、宮崎のどかを召喚するように伝えたのだった。
デュナミスが去り、落ち着いたかのように思われた大広間であったが、そこへ新たな刺客が現れた。

     ―リライト―    ―リライト―    ―リライト―

……仕返しと言わんばかりにデュナミスは、造物主の掟、リライト専用型汎用マスターキーを搭載させた召喚魔を複数同時に送り込んだのである。
丁度死角となる大広間の端から、召喚魔の頭部と腕部分だけが出現すると同時にリライトが薙ぎ払う様に振るわれ、固まっていた客の外側を固めていたメガロメセンブリア重装兵団員達が花弁となって消え去る。

「しまったッ!」

「小賢しいッ」―百の影槍!!―

直ぐ様カゲタロウがリライトを放った召喚魔達を串刺しにする。

「何ですか今の攻撃はっ!?」

「楓君!アーティファクトを!」

「承知したでござる!アデアット!全員は入りきらないとて、最初から使っておけば!」

  ―天狗之隠蓑!!―

長瀬楓は両目を見開き即座に天狗之隠蓑を広げ、固まっている客達に被せ、その中に隠す。
一度では一部の人数しか入りきらないが、中心にいた人物達は被った段階で和室の中に入った。

「皆、その布の中に入るでござる!」

長瀬楓のその言葉を皮切りに、客達は悲鳴を上げながら先を焦るようにして布の中に入り出したのだった。
一軒平屋分しか広さが無いためいずれにせよ全員が入ることは不可能であったが、これ以外に確実にリライトを避ける方法は無かった。

「こ、コレットと委員長も入るです!」

「何を言っているのですか、ユエさん!」

「そ、そうだよユエ!」

「先の攻撃は間違いなく魔法世界人、あの召喚魔達に魔法が通じない者に致命的な効果があると思われるですよ!」

「な!」    「そんな!」

「……その通りだ夕映君。召喚魔に魔法が通じない人達はできるだけ中に入るんだ!あらかた準備が出来次第総督府から離脱を始める!」

高畑がそう宣言し、長瀬楓のアーティファクトの中にできるだけ客を詰め込んだ上で、廊下にまで蔓延る召喚魔を排しながらの総督府からの撤退戦が始まったのだった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月7日、21時頃、オスティア総督府付近雲海―

ハァ……ハァ……まだ動いてるけど、あちこち部位を破壊した巨大召喚魔と戦闘中に春日さんから通信があった。

《ネギ君、のどかをそっちに召喚して!》

どういう状況か分からなかったけどすぐに一旦巨大召喚魔から離れて召喚を行った。

―召喚!! 宮崎のどか!!―

「のどかさん!」

「けほっ……あ……ね……ネギせんせーっ!!」

いきなり涙を目に浮かべてのどかさんが泣きながら飛びついてきた……。

「の、のどかさん、一体何があったんですか?」

「状況がわからんで、あっちで何かあったんか?」

「うっ……うっ……あの……完全なる世界の幹部と思われる人物に襲われて」

「まさかこの召喚の術者か?」

「た……多分そうだと思います」

「そうですか……ならやっぱりこの巨大召喚魔を倒しても……」

だからと言ってこのまま放置することもできないけど……。

「やあ、ネギ君、小太郎君、こんばんは」

「なっ!?フェイト・アーウェルンクスッ!!」

いきなりここで現れるのかっ!?
何か杖……鍵みたいなものを持っているけど……。

「ここで出てくるんかフェイトッ!!」

ど……どうする!

「悪いけど、そのミヤザキノドカにはここで退場してもらうよ」

「何だって?」  「何やと?」

アスナさんじゃなくてのどかさんが狙い!?
まさか読心でのどかさんが知ってはいけない何かを掴んだのか!

「コタローッ!!」

「任せろやッ!!」

今ここで、太陽道で、フェイトを倒すしかない!
のどかさんはコタローに任せてここから退避してもらうッ!!



[21907] 57話 造物主の掟(魔法世界編17)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/01/12 18:37
―10月7日、21時頃、オスティア総督府付近雲海―

ネギと小太郎、それに加え召喚によって現れた宮崎のどかの3人が、ボロボロになって尚動く巨大召喚魔から距離を取っていたところ、更にフェイト・アーウェルンクスが現れたのだった。
フェイトが宮崎のどかには退場してもらうという発言をしてすぐに、ネギは小太郎に宮崎のどかを預け退避をさせる形で動いた。
すぐに小太郎は咸卦法で加速した状態で宮崎のどかを抱えフェイトを尻目に戦線から離脱した。

「……まさか彼女が読心に関するアーティファクトを所持しているとは驚いたよ」

「追う……つもりはないのか?」

ネギとフェイトは空中で対峙し、ネギはフェイトが小太郎を追わないことに疑問を呈する。

「探知魔法には抜かりはないからね。それよりネギ君がそうはさせてくれないだろう?」

「その通りだ。フェイト・アーウェルンクス、ここでお前を倒す」

「……フ……是非やってみるといいよ」

そう会話している間にも、依然として動きを止めない巨大召喚魔は触手を伸ばしてあちこちの戦艦を破壊しにかかっているのには変わり無く、ネギは時間をあまりかけていられなかった。
不敵な表情を見せ、造物主の掟を持つフェイトに違和感を覚えながらもネギは行動に出た。

「……行くぞッ!!」

        ―森羅万象・太陽道!!!―

ネギは瞬間、太陽道を発動し、人体組成を純粋魔力に変換する事で一定範囲内の空間に広がる魔力、世界に同化し、数十秒間という僅かの間だけ無限の魔力と極限に振り切れた出力を得る。
ネギは昨日無意識に発動したのとは異なり、普通に発動したため、異常な魔力の渦が発生することは無く一見安定した状態で太陽道に移行した。

        ―空間掌握・万象転移!!―

ネギは即時転移を行いフェイトの背後に移動する。

        ―双腕統合・終末之剣!!!―

出現と同時に両腕を合わせて、一本の終末之剣となるように変化させ、フェイトの胸部に突き刺し、左に振り抜く。
今までは確実に障壁に防ぎ切られていたが、盛大に障壁は割れ、安々とそれを無視する程の威力を呈した。

《通った!》

「なるほど、恐ろしい移動速度と威力だ」

《なっ!?効いてない!?》

明らかに急所を潰し、それだけでなく左肺まで切り裂いた形になり、もう終わったかと思ったネギであったが、振り返りながら何事も無いかのように言葉を発するフェイトに驚愕する。
しかしそれに構わずネギはフェイトの右腕を終末之剣で切り飛ばす。

           ―リロケート―
            ―リロード―

フェイトは損傷に構わず造物主の掟を使用してネギの即時転移と同じ事をリロケートで行い一旦退避、そればかりかリロードで受けた傷も完全修復し、斬りとんだ右腕はその瞬間、元通りになる。

《まさかその鍵の力かッ!ならッ!》

        ―空間掌握・万象転移!!―
          ―終末之剣!!!―

再びネギは即時転移を行い今度はフェイトの左手辺りに滞空する造物主の掟を狙って終末之剣を振るい、フェイトの左腕ごと火星儀の部分で一刀両断する。

《これでその力も終わりッ!》

           ―リロケート―
            ―リロード―

《破壊しても効果が無いッ!?》

確かに造物主の掟は破壊し、フェイトの左腕も切り飛ばしたが、リロケートは使用可能で、その際造物主の掟は何事も無く再生し、そればかりかリロードも問題なく行われてしまった。

「今度はこちらからだよ」

     ―灰は灰に 塵は塵に 夢は夢に 幻は幻に―
        ―全ての者に永遠の安らぎを―
            ―リライト―

フェイトは驚いているネギに対してリライトを躊躇なく放つ。

《その呪文はっ!?》

ネギはリライトが直撃して胴体が花弁のように分解されながらも寧ろフェイトのリライトの際の詠唱に驚いた。

「その状態なら効くだろうとは思ったけど……送れはしないのか。凄い力だね」

《まずッ!》   ―空間掌握・万象転移!!―

しかしネギは魔力体に受けたリライトによる分解の進行状況に焦り、残りの部分を自己分解と即時転移を行い一旦離れる。

            ―再構築!!!―

《これはッ!?》

ネギは自己分解した部分の再構築は成功したが腹部のリライトを受けた箇所の再構築が行われないことに更に驚く。

「へえ、何だ、戻れないんだ」

フェイトはやや興味を失ったかのように目を少しばかり細める。

《くっ!》―灰は元に 塵は元に 夢は現に 幻は現に―
            ―再構築!!!―

ネギは認識不可能な速度でリライトを反転する詠唱を行った。
すると再びネギの消滅していた腹部は再構築を果たし元に戻る。

《……そういう事か。その鍵の力とほぼ同じで少しだけ違う……》

「……やっぱり干渉できたんだね。今ので送られること無くそんな簡単に抗うなんて本当に驚きだよ。そうこなくては。なら……」

フェイトは再び僅かに興味を取り戻したような表情を見せる。

《試すだけだッ!》

       ―リライト―      ―空間掌握・万象転移!!―

フェイトが目を見開きリライトを放つのを粒子加速状態の擬似時間停止に似た能力で寸前に察知すればネギは即時転移で回避しつつフェイトの死角に飛ぶ。

                    ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
                 ―破壊の王 高殿の王 我と共に 力を―
             ―来れ終末の輝き 薄明の光芒 満ちれ エアロゾルよ―
                 ―来れ巨神を滅ぼす 燃ゆる立つ雷霆―
                    ―集え 全ては 我が手に―
ネギは終末之剣で再びフェイトを刺すのではなく、収束大呪文の高速2重並行詠唱という太陽道でなければほぼ不可能な事を実行しだす。
             ―降臨し 全ての命ある者に 等しき死を 其は安らぎ也―
                  ―百重千重と 重なりて 走れよ稲妻―
                     ―然して 死を記憶せよ―
                        ―天の雷!!!―

ネギの両手の前にみるみるうちに収束した大呪文が融合し千の雷を纏う極大の光球が完成し、即座に照射される。

           ―リロケート―

極光に巻き込まれる寸前にフェイトは射線軸上から避けるように転移を行う。

《逃がすかッ!》 ―空間掌握・万象転移!!―

しかし、ネギは照射を続けている状態で即時転移を行い、再びフェイトを射線軸上に捉え、極光を放ち続ける。

           ―リロケート―

尚もフェイトは避けるが次のネギの行動は少し異なった。

          ―空間掌握・万象転移!!―

《先に召喚魔を消すッ!》

避けたフェイトを無視して、総督府に近づいていた巨大召喚魔の完全に真上90度の地点に転移し撃滅する。
既に遠距離からクルト・ゲーデル総督率いるオスティア艦隊も精霊砲ではなく、降魔魚雷に切り替えて主に触手群に対して援護射撃を行っていたが、これは決定的であった。
巨大召喚魔が真上から極光に貫かれ、中心から裂けては焼け爛れてあっという間に形を失う光景が広がり、それを見た人々は、天からの神罰でも下ったのかと見紛うほどであった。
しかし、この時点でネギは太陽道を発動してから40秒が経過、フェイトの造物主の掟の効果を見極めるためと会話で時間を消費しすぎ、限界時間が残り僅かであった。

            ―リライト―

「頭部に当てたら……どうなるかな」

ネギが天の雷の照射を終了し、巨大召喚魔を完全に撃滅し終えた隙にフェイトはリライトでネギの頭部を狙い撃った。
ネギの首から下が残り、首の部分からリライトの侵蝕が徐々に始まり残りも消滅し出したが、太陽道の特性に対しては効果は無かった。
それを理解した上でネギも直撃を受けてまで巨大召喚魔の排除を優先したのだが。

        ―空間掌握・万象転移!!―
     ―灰は元に 塵は元に 夢は現に 幻は現に―
            ―再構築!!!―

掌握した空間の範囲内に自身を同化させることで、魂と肉体の情報をその空間にバックアップとして記録しているため、頭部だろうと心臓部だろうと、再読込という形で再生ができる。
まさに、ネギはそこにいながらにしてそこにいない。
太陽道解除時に魔力体が完全な形で形成されるという要件さえ満たされれば問題ないのである。
ただ、確かに無敵状態ではあるが最大の敵は自分自身であり、空間から情報を再読込できずに逆に空間に引き込まれればそのまま即消滅、空間に溶けてしまうリスクは常に付き纏う。

「本当に効かないんだね……」

        ―空間掌握・万象転移!!―
          ―終末之剣!!!―

《貰ったッ!》

そうフェイトが呟いた瞬間にネギは限界時間数秒の状態であったが、フェイトの傍に現れ、再びその左腕を切り裂き、造物主の掟までも奪って高速でその場から離脱しだす。

《これは分解できなッ》

「無駄だよ」

          ―造物主の掟!!―

ネギが手元に奪った筈の造物主の掟は、瞬間フェイトの手元に戻った。

《やはりそれはッ!》

視界拡張の効果のお陰で振り返る事無くそれにネギは気づく。

           ―リライト―

しかし、フェイトはお返しとばかりにその隙を突いてネギの左腕をリライトで消滅させる。

           ―リロード―

そして切れた左腕も元に戻る。

     ―灰は元に 塵は元に 夢は現に 幻は現に―
《限界ッ――!!》 ―太陽道・解除―

「そん……な……だめ……だ……」

再構築する余裕なく太陽道の限界時間が訪れ、止む無く解除せざるを得なかった。
解除しなければネギそのものの存在が消滅しかねない。
そしてネギは左腕を失い、リライトの侵蝕そのものは反転して抑えたが、そのまま身体が一切動かなくなり雲海の底に落下していった……。
それを見送るようにフェイトはどことなく寂しげな表情を浮かべながら呟く。

「残念だったね……ネギ君。リロケートでも一度発動させたなら……最後の鍵なら別だけどこれは僕の造物主の掟だ。……しかし……これだけ負荷をかけたから……あの消耗なら次で終わりかな……。まあ……努力に免じて読心術師の掴んだ情報ぐらいは渡してあげるよ。……戦艦も落とした、木偶も送った……少なくともこれで混乱は免れない……。大規模反転封印術式はやらせない……」

         ―リロケート―

……そして雲海上空からフェイトは消え去った。

一方この僅か数十秒の間、全力で宮崎のどかを抱えて戦線から離脱した小太郎は、途中高密度分身に宮崎のどかを任せ、再びネギの元に加勢に戻ろうとしていたが、ネギからの契約執行が切れるどころか、ネギが一切動けなくなったのを感知した。
小太郎は急いで自身で咸卦法を行い、全速力で視界の悪い雲海に飛び込み、ネギが落下していく地点に向かっていった。

「ネギ――ッ!!!」

分厚い雲海を弾丸のように突き抜け、地に落ちていくネギの姿を視認した小太郎は声を上げて重力に従うだけでなく更に加速する。

「届けぇぇぇ――ッ!!!」

地上の霧に包まれている地帯に突入するかという所で小太郎がグンと手を伸ばしネギの右腕を掴む。
そのまま加速度がついている関係で尚も落ちるが、地上に激突する寸前で停止する事に成功した。

「ハァッ……ハァッ……間に合ったで……」

「コタ……ロー……ごめん、倒せなかった……」

「……何謝ってるんや。そんなのもうどうでもええ……。それよか……その……左腕はどうしたんや……」

小太郎は柄にも無く目に涙を浮かべ、あえて聞くがほぼ分かっていた。

「……溶けたよ……」

ネギは生気の抜けた虚ろな表情で答える。

「……このっ……馬鹿ネギがっ……」

「ごめん……」

「もう、しゃべらんでええ……。今は休めや……」

「……う……ん……」

……そしてネギは粒子化転移、リライト反転と再構築の連用で酷く消耗していた為、限界時間ほぼ丁度に太陽道を解除したにも関わらず再び眠りについた。

「フェイトッ……アーウェルンクスッ……」

ネギが目を閉じるのを見届けた小太郎は上空を見やりながらフェイトの名を噛み締めるような声で虚空に向けて呟いた。


―10月7日、22時頃、オスティア総督府―

テオドラ第三皇女が足止めされた関係でインペリアルシップを率いて古龍龍樹が投入される前にネギが巨大召喚魔を撃滅し、フェイトが去った後、総督府のあちこちに現れた召喚魔も姿を消した。
本当に短時間であるが、完全なる世界による今回の電撃作戦で急襲を受けた事で、オスティアは甚大な損害を被った。
舞踏会会場で高畑達が護衛した魔法世界人の客達はリライトによる消滅を免れたが、その他の総督府施設の場所にいて防衛の手段を持たなかった魔法世界人達は造物主の掟簡易版を持った召喚魔達によって一掃され、その数を減らしに減らし、静寂と残った僅かな者達の混乱だけがその場に残っていた。
巨大召喚魔によって地上に落とされた戦艦の中にも本来いるべき人数より遥かに少ない人数しか残っておらず、戦艦の中でも召喚魔が現れリライトを放ったのは明白であった。
墓守り人の宮殿に攻めこむ準備を整える矢先に先制攻撃を受け、連合・帝国・アリアドネーは完全に体勢を崩される形になった。
情報連絡系統がズタズタになり、事態が収拾、正確な状態を把握できるまでに日付をまたぎ、朝日が昇るまで一夜を要した。
また朝方になって、廃都オスティア旧ゲートポートの方角では多量の魔力が集中し、発光現象が観測され始め、今まで地に落下していた浮遊岩が浮遊岩としての機能を取り戻し浮き始めていた。
高畑達はその間それらの収拾に追われ、ネギや宮崎のどかの問題はとりあえず後回しとなり、フェイトらの襲撃後小太郎が顔を伏せ、悔し気な表情を覗かせ、左腕を失ったネギを背におぶって戻ってきた時も、深い事情を聞くこともなく、まずはネギをホテルの魔法球の中で休ませる事が優先された。
宮崎のどかは、今になって精神的ショックが襲ってきたのか気を失ってしまいホテルの普通のベッドで休ませられ、他ネギ一行の中で精神的に疲れた者も多く、常に賑やかな筈のホテルの大部屋もこの時ばかりは沈黙に包まれた……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月8日、9時頃、新オスティアリゾートホテル―

目を覚ましたらアスナさんはいなくて、このかさんと刹那さんとアーニャが傍にいた。
起きて挨拶をしたら僕のもう無い左腕の辺りを凄く見られて気まずい空気になった。
それでもこのかさんが無理して笑うような表情で朝御飯を勧めてくれて食べたんだけど僕が聞く質問にはあまり答えてくれなくて、ただ5日間寝ていたというのは教えてもらった。
やっぱりフェイトのあの鍵みたいなもので受けた攻撃を反転するのでかなり消耗したんだと思う……。
再構築はできるからって倒すことを優先して魔法領域を展開しなかったのが悪かったかな……。
あの攻撃を魔法領域で防げるかどうかはわからないけど……。
食べ終わったら刹那さんに「とにかく魔法球から出てから話をしましょう」と言われてそれに従って静かに魔法球から皆で出た。
ホテルの大部屋には今まで無かった筈の会議用の机と人数分の席があってもう皆揃って座っていた。
僕が来たことに皆気づいていつもどおり挨拶したけど……アスナさんとラカンさん、それにクレイグさん達がいない……。
その代わりテオ様とセラス総長と総督にリカードさん、夕映さん達がいる。

「ネギ君、まずは席に座ってもらえるかな」

「ありがとう、タカミチ」

「ネギ君が来たからもう一度簡単に状況を説明するよ」

「うん。でもアスナさんやラカンさんにクレイグさん達は?別の部屋?」

…………え……何で皆何も答えてくれないんだろ……。
まさか……フェイトのあの攻撃……?

「ネギ君……落ち着いて聞いて欲しい。……ジャック、クレイグさん達、アスナ君は完全なる世界の有する鍵のようなもので消滅させられた」

「そ……そんな……。じゃあフェイトのあの攻撃は……。いや、アスナさんが消える筈は!?」

「いいかい。どうやらここ数日の間僕達の傍にいたアスナ君は偽者だったようだ。ジャックが僕の目の前で消える前にそう言っていたよ。のどか君から簡単に聞いた話でもそれは間違いない」

…………え?

「偽……者……?あんなアスナさんそのものだったのに……?」

魔法球で僕とコタローがラカンさんとカゲタロウさんと試合する為に修行する時に協力するって苦手な筈の料理も頑張って練習してくれていたあの……アスナさんが……?

「すり替えられたのはネギ君が恐らく記念式典初日にフェイト・アーウェルンクスに襲われた時だ。本物のアスナ君は既に墓守り人の宮殿に囚われていると見て間違いない」

「…………」

「ジャックからのネギ君達への伝言を言うよ」

「……伝言?」

「奴らを止められるのはお前達だけだ。前を向いて進め。前を見て進み続けるヤツに世界は微笑む。そう言っていた」

前を向いて進め……か。

「ラカンっ……さんっ……くっ……」

多分……あの時僕の前に現れたフェイトは既にラカンさんを消した後だったのか……。

   「ラカンさん……」    「ラカン殿……」   「ラカンさん……」

「馬鹿ジャックめ……」   「ラカンはん……」   「あの生ける伝説がな……」

「完全なる世界の手にしている魔法世界人に対して致命的な効果を持つ鍵のようなものについての説明はのどか君……もういいかな?」

「……はい、任せてください」

……のどかさん?
やっぱり完全なる世界の幹部から何か情報を掴んだのか……。
そんな危ない事をしたなんて…………マスターの言っていた通りだ……危険過ぎる……。
でも……そのお陰で重要な情報が……それにしてもフェイトは何故追撃しなかったんだろう……。

「昨日、完全なる世界の魔術師真名デュナミスの心を読み、彼らがこの世界の秘密に至る力を手に入れたことが判明しました。ここ数日の出来事です。名を造物主の掟。この世界の創造主の力を運用できる魔法具です」

「造物主の掟……」

「創造主……ですか……」

「クルト、その点は後回しだ。のどか君、続けてくれるかな」

創造主……という点についてはやはり総督が思うように疑問がある。

「はい。造物主の掟には大きく3つの種類があり、まず無数のマスターキー、戦闘用の簡易タイプです。簡易と言ってもこれを持つものに魔法世界人は敵いません。次により高度に創造主の力を模した7本のグランド・マスターキー。魔術師デュナミスや恐らくフェイトが持っていたものです。そして最後に1つのグレート・グランド・マスターキー」

「グレート・グランド・マスターキー!!?」  「それはッ!?」  「ここでそれが来るのか!」

ま……まさかここでグレート・グランド・マスターキーが出てくるなんて……。
だとすると本当に、マスターの知り合いの幽霊さん、神木の精霊さんは全部を知っているのか……?
それを僕に教えたっていうのは……。

「どうしたのじゃ3人揃って驚いてからに。何か知っとるのか?のうタカミチ」

「い……いえ……詳細については全く知りません。話の途中で遮って悪かったね、のどか君」

「え……えっと、はい。そのグレート・グランド・マスターキーから引き出せる力はこの世界の創造主と同等とされ、まさに世界の最後の鍵と言えます。この力を用いれば、この世界の最後の鍵を手に入れる事ができれば、恐らく消えてしまった人達を元に戻せるはずなのです」

   「おおっ!」  「それだけの情報をよく!」  「戻せるんか!」

「スゲー」  「のどか凄いえ!」   「尋問拷問いらず……」   「おおー」

龍宮さんが物騒な事を……。

「ありがとう、のどか君。重要な情報が手に入った。感謝するよ」

「いえ……そんな……」

「のどかさん、危険をおかしてまで……すいません、ありがとうございます」

「は……はい」

「ネギ君、ジャックはもう一つ言っていたんだ。その造物主の掟の力に本当の意味で対抗しうるのはネギしかいないと、そうね。昨日のフェイトとの戦闘は……どうだったのか聞いてもいいかい。左腕の……事も」

対抗しうるのは僕だけ……か。

「もちろん、話すよ。……昨日僕はフェイトの持つ造物主の掟で太陽道発動中に3度消滅させられる魔法、リライトと一度だけ唱えているのが聞こえたけどそれの直撃を受けた」

「3度も……」  「驚いたな……」  「本当に対抗できるというの……」  「あの技か……」

「僕の私見だけど、リライトは情報を書き変える、書きなおして何も無い状態に戻す魔法だよ。一帯の空間に肉体と魂の情報をバックアップさせていなければ確かに一撃でも受ければそれで終わりだった。僕はリライトを反転させる事ができる。でも……僕は旧世界人だから通常の状態でリライトの直撃を受けた場合なら恐らく即座に致命的な効果は無いと思う」

ただ、ラカンさんでも無い限り、僕は太陽道の出力でなければ、フェイトの障壁を無視して攻撃を与える事ができないのも事実だ……。

「それで左腕は……3度目のリライトの直撃を受けて消された後再構築をする前に太陽道自体の限界時間が来て、あの魔法の侵食を反転させる事しかできなくて……世界、大気に引きこまれて溶けたんだ……。肩の所の血管については咄嗟に詰まらないように処理したよ」

「ネギ君……」   「ネギ坊主……」   「ネギ……」  「ネギ先生……」

「うちのアーティファクトやったらっ……」

「このかさん、恐らくこのかさんのアーティファクトでも治らないと思うので……気にしないで下さい。タカミチ、魔法世界には義手あるんだよね?ラカンさん……みたいに」

「ああ……そうだよ。馴染むのに時間はかかるが……」

「……義手はまだ……やめた方がええやろ……」

「…………」

コタローはやっぱりまた気づいてるか……。
あの時珍しく泣いていたのが見えたし……。

「ど、どういう事よ、コタロ!」

「コタロー、説明するのじゃ!」

「……ネギの消えた左腕は単純な左腕やない。魂と肉体、命そのもの。義手で補っても左腕に相当する分の寿命は……元に戻らんって事やっ……」

「そんなっ!」  「そういう事か……」  「ネギ坊主……」  「ネギ様……」  「そ、そうなのネギ!?」

「…………数年分。……でも僕は今ちゃんと生きてる。先の事を心配してもいつ何が起こるかわからないんだから考えても仕方ないよ、アーニャ」

麻帆良に戻ってマスターに相談すれば取り戻す事も可能性は低くてもできるかもしれないけど……どうかな……。

「もうっ!!ネギ君!!後でうちらお姉さん達からお話あるからな!!」

「こ、このかさん!?」

頬を膨らませてあのこのかさんが怒ってる……。

「そうです。ネギ先生、覚悟しておいて下さい」

「ネギ坊主、覚悟するでござるよ」

「ネギ坊主、観念するアル」

「皆さんまで……」

「失礼、お嬢さん方、申し訳ありませんが、ネギ君にはまだ聞きたい事がありますので。ネギ君、造物主の掟の魔法には消滅させるリライトというもの以外には他に能力は無かったのですか?」

「それは私が……」

「のどかさん、僕が先に。高速転移と、即死級の傷も無かった事にできる情報改変能力、造物主の掟自体は破壊しても修復する、というのは見てわかりました」

「即死級の傷が治る?」

「はい、というより、正しくはフェイトが少なくとも人間ではないという事です。心臓から左肺にかけて完全に切り裂きましたが何事も無いようでした」

あれには僕も流石に驚いた……。
完全に仕留めたと思ったら普通に言葉を発していたし……。

「そ……それは……」

「常人の手に余るな……」

「あの障壁やっぱ突破できたんか」

「あの、その高速転移の魔法はリロケートと言います。私も使ったので……」

「え!?のどかさん、造物主の掟使えるんですか?」

「は、はい……魔術師デュナミスから隙をついて造物主の掟を奪取して、心を読みその場から脱出する時に使いました」

あれ……?

「あの、そのデュナミスから取り返されはしなかったんですか?……僕がフェイトから奪った時にそのまま持って去ろうとしたら、すぐに僕の手元から消えてフェイトの手元に戻ったんですが……」

「それは所有権のようなものがあるらしいので……一度何らかの魔法を、所有権を持った人物以外が行使すればその所有権が破棄されるらしいです」

「そ、それは凄いですよ、のどかさん!」

「それは……重要ですね……」

「あの、再生する魔法については……?」

「ごめんなさい……全部が読み上げられる前に本を燃やされてしまったので……」

「そう……ですか……。でも奪取できる事がわかっただけでも希望はあります」

「そうだね。しかしグランド・マスターキーが7本あるとなると……フェイトやあのデュナミスといった水準の術者が残り5人近くいる可能性があるが……」

「非常に厄介ですね……」

「その……デュナミスと戦闘した時攻撃って効いたの?フェイトは、僕の魔法領域ではないけど、曼荼羅のような多重高密度魔法障壁を張っていてラカンさん並の出力でなければそれを突破する事はできないと思うんだけど……」

「ああ、その通りだよ。ネギ君。僕の無音拳は殆ど効果が無かった。葛葉先生と刹那君の剣は効いたけどね」

「やっぱり……。でも流石、弐の太刀は効くんだ」

「まだまだ完成には程遠いですが……」

「学園祭の一件で私も少々」

「ほう、お二人も弐の太刀が使えるのですか。確かに神鳴流ならば斬る物、魔の対象の選択は自由ですから障壁は無意味ですが」

「総督も神鳴流なんですか?」

「クルトは詠春さんの弟子だからね」

「そうだったんだ……」

「長が魔法世界で技を教えたというのはゲーデル総督だったのですか……」

「生粋の神鳴流の方にその事を知られるのは私も少々困るものがありますが……。大体情報が出揃った所で今後の予定を詰めて行きたいのですが……ネギ君は墓守り人の宮殿に向かうつもりに変わりはありませんか?」

「はい、それはもちろんです。アスナさんがそこにいる、グレート・グランド・マスターキーがそこにあるならば尚更行かない訳にはいきません。片腕でも……戦えます」

義手の時間が間に合うかはわからないけど、足技を主体に変える方法もある。

「強い信念をお持ちで助かります。お嬢さん方はそれを心良くは思っていないようですが……」

「む~、ネギ君」

このかさんまだ怒ってるな……。

「ネギ、俺も行くで。お前の隣は俺のポジションや。それにアスナ姉ちゃんをあんな奴らに攫われといて助けにいかないのは男やないからな」

「ありがとう、コタロー」

「拙者も加勢するでござるよ。友は助けにいかなくては」

「私も行くアルよ、ネギ坊主。アスナは私達の仲間ね。フェイトの部下にも借りがある」

「ネギ先生、私も微力ながら共に参ります。アスナさんは私の友人であり、弟子です」

「楓さん、くーふぇさん、刹那さん……ありがとうございます」

「あー、いいかい。その詳しい話はまた後にしてもらえるかな」

「ここは一旦大人で別に話を進めた方が良さそうですね。ネギ君はお嬢さん達と話をすると良いでしょう。墓守り人の宮殿への突入の用意については、昨日の一件で戦艦も大分損害を受けましたが、それも含めて私達が万全に準備を進めますので」

「そうするか」

「妾に出来ることはそのリライトとやらでやられそうな龍樹とインペリアルシップを配備するぐらいじゃが、とっておきの小型強襲用艦を用意しよう。魔法球は好きに使うと良い」

「いずれにせよ最悪の事態を想定して反転術式が展開できる戦力は揃えなくてはいけないわね」

反転術式でアスナさんの封印をしなければいけない状態になるのは何としても避けないと……。

「スヴァンフヴィートは健在だから任せとけ」

「廃都オスティアの旧ゲートポートに魔力が集中する現象も朝方から確認されていますから注視する必要もあります」

「ありがとうございます。総督、テオ様、セラス総長、リカードさん。大規模戦力については僕が首を出すことではないので、お願いします」

「なぁに言ってんだこの坊主はよ!俺達お前よりどんだけ長く生きてると思ってんだ!愚痴愚痴考えてねぇでラカンが言った通りお前は前だけ向いとけ!横やら後ろやらの七面倒な事は大人に任せとけ」

「わ、わかりました!い、痛いですよリカードさん!」

いきなりリカードさんがクワッ!って飛び掛ってきて痛い!

「ネギ君は病み上がりなんだから、暑苦しいわよ、リカード」

「これぐらいでいいだろ!わざわざ湿っぽくなる必要ねぇっつの!20年前のナギ達の不敵な様セラスも覚えてんだろ。サインとかな!」

「……人の思い出を弄るのをおやめなさい。無論、私も忘れる訳がありません」

そういえば映画で見たけどセラス総長決戦前に父さんからサイン貰ってたんだったな。

「ほな、ネギ君!お姉さん達のお話聞いてもらうえ!せっちゃん!」

「はい!お嬢様!」

え?え?

「刹那さん?その縄は何ですか?」

「なんとなくです。ネギ先生、失礼します。楓!」

何でなんとなくでもう一本楓さんに渡してるんですか!

「刹那、任せるでござる!ネギ坊主覚悟!」

何で無駄に両目開けてるんですか!

「ええええええ!?」

「問答無用アル!」

何か良くわからないうちに縄で縛られて魔法球にまた連れてかれた……。
後ろにはタカミチ達以外皆ついてきてるけど話って一体……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月8日、新オスティアリゾートホテル、ダイオラマ魔法球内―

いやいやいや、マジ昨日はカオスもいいとこだった。
正直あのラカンさんにクレイグさん達、アスナまで消えたっていうのは私もショックすぎた……。
ま……アスナはちょっと信じられないけど、何故か数日前から偽者だったらしいんだけど……どうなんだ……ただのアホなアスナそのものだったような……違和感なんて欠片もなかったし。
あーあーあー、リンさんとは一緒に直前までタダで美味い飯にありついてたってのに……荷物はホテルに残ってるから……どこかに突然失踪したって感覚しか沸かないスよ……。
早く戻って来て欲しい……ってさっきの話で出てたなんたらキー無いと無理なんだっけか……何で微妙にそういうアイテムが必要とかゲームっぽいんだか……コレ紛れもない現実だよ!
……にしてもネギ君達をゲートポートでふっ飛ばした連中がここまでやべー奴らだとは思いもよらなかったわ。
ただのテロリストじゃなくて、丁度ゆえ吉の学校見学行った時に授業でやってた世界の破滅を企てた黒幕そのものだってんだからな……。
何で私今ここにいるんだ……ホンッとちょい魔法世界に遊びに来ただけの筈だったんスけど……マジでどうしてこうなったー!!
私が旧世界人だから造物主の掟っていう鍵で速攻消滅したりはしないって言っても、所謂ラストダンジョン的な墓守り人の宮殿で、怪しげな儀式ってのを連中がやったら結局同じだからなー。
まー私は走るだけでこれ以上何すんだって、2ヶ月前南極から今超重要人物になってるネギ君救助しただけで相応の役目達成してるだろー……と思うんだけど、とりあえずらしくもなくシスターらしく祈ったりするぐらいだね、うん。
おお、何か今私シスターとしての道しか残ってなくね?
実はマジ天職だったかー盲点だったなこりゃ。
ネギ君筆頭に小太郎君、武道四天王あたりはラストダンジョンに殴りこみかけるらしいから、無事を祈る、マジ祈るよ。
ネギ君のさっきの証言でサラッと流されたけど、フェイトって例の白髪の少年は人外の方らしく、身体が致命傷受けても死なないとか……ラカンさんを今ここに数人ぐらい誰か召喚してって感じだな。
世もマジで本格的世紀末って感じになってきたみたいだけど、この魔法球はただの南国パラダイスなもんだから感覚が狂う狂う。
あー……あちこち遠くの崖がゴッソリ陥没してたり、森林が禿げてる場所があるのは見なかった事にするけど。
そんで今丁度ネギ君を何故か縄で縛って砂浜に正座させてる所。
何やるかっていったらアレだ、アスナ……偽者だったらしい……が前々からネギ君に年上のお姉さんとしてしっかり一言入れておこうってのを実行する訳だ。
本来ならアスナがガツンとやる筈だったんだけど……いなくなったから意外にもこのかが率先して動いたと。
まあ今までネギ君と一番長く生活してたのは同室だったアスナとこのかぐらいなもんだから妥当か。
それにしても、本当にここ、女子率が高いなー。
このか、桜咲さん、楓、くーちゃん、たつみー、のどか、ゆえ吉、茶々丸、アーニャちゃん、高音さん、愛衣ちゃん、コレットさん、エミリィ委員長、ベアトリクスさん、ココネに私を入れて……計16人。
対する男子は縛られたネギ君と私達の横にいる小太郎君2人だけっていう。
まー、そんな事言ったら3-Aなんて1対31人なんだけどね。
……うーん、こうしてマジマジ見ると本当にネギ君の左腕無くなってるなぁ……それを平然と受け止めたようなさっきの「先の事を心配してもいつ何が起こるかわからないんだから考えても仕方ない」ってネギ君の発言もマジどういう精神構造してんだか……。
悟ったような顔で淡々と話すこの子供にこのかが怒りたくなる気持ちもわかるわー。
小太郎君も昨日眠ったネギ君背負って帰ってきた時は完全に沈黙を貫いたまま何があったか言わないわでアレだったけど……相棒としてって奴か。
もーこんな10歳児2人は世の中もうこの2人ぐらいだけで充分だよ!

「ネギ君、何でうちが怒っとるかわかる?」

「……無茶をして皆さんに心配をかけてしまったから……ですか」

「そうやないんよ!ネギ君周りの事は見とるけど自分の事考えてへんでしょ!めっ!これはアスナの代わりや!」

めっ!って……ネギ君のおでこ叩くとか、何かあんまり締まらないのは突っ込んだらだめか。

「!?……じ、自分の事……ですか……」

「ネギ坊主、魔法世界へ来てからいささか自身の身をおろそかにしすぎでござるよ」

「楓の言うとおりアル。ネギ坊主、アスナを守るなら自分の身もきちんと守ってこそ真の強い男アルよ」

くーちゃんはそういう理論か。

「ネギ先生、もう少し私達を頼ってください。共に修行を重ねた仲間であり私達の大事な先生なのですから」

「ネギ先生、楓達の言うとおりだ。昨日の一件にしても偉大な魔法使いとしては既に大したものだが、君はまだ私達より年端もいかない子供なんだ。お姉さん達を頼りなさい」

おお、たつみーまで報酬とか関係無く個人的な意見を言うとは……。
あー、確かに昨日の巨大召喚魔を1人でトドメさしたってのもそうだし、ミリアさんを必死になって南極で助けてたのも完全に偉大なる魔法使いだねぇ。
何でこんなに生き急いでるんだろ……本当に流れ星みたいにあっという間に命消えそうじゃんか……。
てか、マジそうならないように祈るよ?

「ネギ先生……自分の命は大事にして下さい。お願いです」

のどかは素直だなー。

「ネギ先生、私もネギ先生が傷つくのは見たくありません。マスターも戻ったらきっと悲しみます」

「このかさん、楓さん、くーふぇさん、刹那さん、龍宮さん、のどかさん、茶々丸さん……」

「ネギ君、偽者やったらしいけど、アスナが言うとった言葉があるんや」

「…………アスナ……さんが?」

「そうや。放っておくと一人でどこまでも進んで、気がついたら誰も手の届かないところに行ってしまいそうって言っとったんよ。……うちらから見ててもこっち来てからのネギ君は何や凄く危ういんよ」

「誰の手も届かない所……ですか……。僕はここにちゃんといるんですが……そういう事では……無いんですね。あの、皆さんの言葉は凄く……嬉しいです。でも……ごめんなさい。僕はきっと……どこまで行っても僕のままです。無茶をして……皆さんに心配をかけて、それでもまた心配をかけて……きっと……分かってても、それを繰り返します」

ははは、マジ頑固だなー。
まーそんな簡単に変われないのは仕方ないかもしれないけど。
泣いてる感じ、少しは伝わったんじゃないか?

「…………は~、もうネギ君は仕方ないなぁ。うちらの気持ち分かってくれたんなら少しは自分の事大事にしてな」

「ネギ先生が頑固なのは前から分かっていましたが……それならば私達も遠慮せずネギ先生を構いますから覚悟して下さいね」

「全く困った弟子を持ったものアルな。ネギ坊主、嫌とは言わせないよ」

「アーニャ殿の占いはピッタリ的中したでござるな。ネギ坊主の面倒これからも見させてもらうでござるよ」

あーそんな占いあったなー。
確か支えになるとかなんとか。
マジで超的中したな。
うん。

「はいっ!お願いします!」

……まー結局根本的に解決はしそうにないわなこりゃ。
おお、アーニャちゃんがネギ君が縛られてるのをいいことにガクガク揺すって文句言いまくってるなー。
今さっき乗り遅れたからここぞとばかりにって感じだな。
ネギ君困ってる困ってる……元気なこって。
……にしてもネギ君がアスナの事を中心に考えてるのがちょっと常軌を逸してるレベルのような感じがして、理解しがたい部分あるな……。
というかそもそもアスナって何者だって所からなんだけどさ……。
魔法無効化能力があって狙われてるってのは一応前聞いて知ったけど……。

「あのさーネギ君。ネギ君にとってアスナはどんな人か聞いてもいいかな?」

「えっと……それはアスナさんが何者か……という事も含めて……ですか」

「そうや、アスナの魔法無効化能力言うのが希少なのは知っとるえ。でも……ちょっと高畑先生達の様子見とると単純な能力の問題やないみたいやけど……どうなん?」

「それ私も気になるアルね!」

「狙われているのは修学旅行の時から知っていたが、拙者もそれは気になるでござるよ」

「……分かりました。皆さんにもちゃんと説明しますね。アスナさんが何者なのかも含めて」

おっとこれは朝倉がいたら喜びそうなシチュエーション入ったか?

「アスナさんの本名はアスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシアと言います」

「「「「長ッ!?」」」」  「フ……」

え?何その一人余裕のたつみー、まさか知ってる?

「え……エンテオフュシアというとまさか……旧ウェスペルタティア王国ですの?」

「はい、その通りです、エミリィさん。アスナさんは旧ウェスペルタティア王国のお姫様……厳密に言うなら黄昏の姫御子なんです」

これは何か重い話っぽい?
縛られたまま淡々と話出したところ悪いんだけど、何か白状させてるみたいでシュールだ……。

「「「「「お姫様!?」」」」」

「た……黄昏の姫御子というと……前大戦で戦場に投入されたという記録があるです……」

ゆえ吉のアーティファクトも凄いな。

「えっと、その話は僕も詳しくは無いので省きますが、今度は僕とも関係ある話もしますね」

「ネギ君と関係?」

「はい、そうです、このかさん。僕の父さんがナギ・スプリングフィールドだというのは皆さんも知っていると思います」

「そうでござるな。元々ネギ坊主の父親を探しにこちらへ来たのでござるから」

「はい。それで……僕の母さんの話は今まで全く触れてきませんでしたが、ついこの間僕も初めて知ったんです」

「そういえばネギ君のお母さんの話出た事なかったなぁ」

「僕の母さんの名前は……アリカ・アナルキア・エンテオフュシア、旧ウェスペルタティア王国最後の女王、災厄の魔女と世間では呼ばれた、その人なんです」

「「「「「王女様!?」」」」」

何だそりゃ!
あー何か、ネギ君は父親が英雄で母親は女王様と。
いやいやいや、いくらなんでもハマリすぎだろ。
つかそうなるとネギ君マジもんのプリンスかいっ!!

「またエンテオフュシア……という事は!」

「そ……それはとてつもなく重要な意味を持つです……」

「アスナさんとの関連で言えば僕とアスナさんはどこまで近いか詳しいことはわからないんですが、確実に親戚なんです」

「ネギ坊主とアスナは親戚だったアルか!!」

「この魔法世界で非常に重要な存在である上に血縁関係まであったのですね……」

「……親戚て……。あーっ!!そやからうちのお祖父ちゃんネギ君うちらの部屋に住ませたんか!!」

「はい、このかさん。そうだと思います。今思うと僕が女子寮に住む事になったのはそれが関係していたとしか思えません」

「うはー、何か運命の出会いみたいな感じスねー。仕組まれてるっぽいけど……」

流石あの学園長だわ。
謎多すぎで隠し事多かったり……言うのが面倒なだけかもしれないけど相変わらずだな……。

「ネギ先生とアスナさんは姉弟みたいだと前から思ってましたが本当に家族……だったんですね……」

確実に親戚って言い方がアレだから、家族というにはちょい語弊がありそうだけどね。
のどか顔がファンタジーな世界にちょい入りかけてるぞ……大丈夫かー。

「まさかネギとアスナが親戚だったなんて……」

幼馴染みとしちゃ衝撃の事実だよなー。

「うむ、ネカネ殿とアスナ殿の匂いがそっくりでござった時にまさかとは思っていたが、いやはや本当にそうだったとは数奇なものでござるな」

「あー、修学旅行の時か。あの時超りんネカネさんの髪の毛採取してDNA鑑定するとか言ってたけどどうだったんだろうねー。その後一切触れてなかったし」

ん……?
あれ?何かおかしくないか?
ネカネさんはウェスペルタティア関係ない筈……だけど?
まー、細かい事はいいか。

「え!?超さんがネカネお姉ちゃんとアスナさんをDNA鑑定!?」

「超りんそんな事やってたんかー」

「流石超だな……。やることが実に科学的だ」

「超はハカセとさよと怪しげな事ばかりやっているアルからなー。変な新発明はやめて欲しいアル」

「くーちゃん、よく実験台にされてるもんなー。端末は超役立ってるけど」

「たまに私をいじる為だけに作ってると思う時があるね!」

自動肉まん暴飲暴食マシーンとかその典型だったなー。

「………………」

「ネギ君どうしたん?急に思いつめたような顔して」

ホントだ……表情がマジモードになってるよ……。

「…………超さんは一体……何者なんでしょうか……。茶々丸さん……」

それ私も聞きたいわー。

「ネギ先生、それは麻帆良に戻った時に超本人に直接聞かれると良いですよ」

「そう……ですね……」

「超りんの事だと、私はある時は女子中学生、またある時は麻帆良最強頭脳、そしてまたある時は謎の火星人、その名も超鈴音ネ!とか真顔でスルーしそうな気がするね」

「確かに超りんならそう言いそうやなー」

「あの、その火星人って……僕聞いたこと無いんですけど……」

「あれ?そうやったっけ?うちネギ君に言わなかったかなぁ?」

天然だー!!

「はい。変わってる……ぐらいにしか聞いてないです。……いや……それが冗談のようで冗談でないとすると……」

まーたブツブツ言い始めたぞこの子供先生は……。

「何や話が超姉ちゃんの方にズレて来とるな。とにかく……ネギにとっちゃ親戚とかそんな事関係なくてもアスナ姉ちゃんはアスナ姉ちゃんやろ」

うわーごめんね、小太郎君。
かしましいと私達話どんどん関係ない方にズレちゃうんだわ。

「うん、コタロー。そうだ。僕にとってアスナさんはアスナさん。それだけ。いつも元気でまっすぐで明るくて、ちょっとアホっぽくて、少し乱暴だけど、でも凄く優しい僕の、大事な人なんだ」

「へっ、それでええ」

「「「「「………………」」」」」

あまっー!!
ごめん、愛の告白にしか聞こえないよ、ネギ君。
小太郎君もそれで当然みたいな感じ醸して2人だけ勝手に友情モード入ってるけど、私、年の分だけ思考がアレでホント何かごめん。
エミリィ委員長なんてガーン!って顔して露骨にショックうけてるし。
つかそれどころか何か皆顔が微妙に赤いというか……ま、そうだわな……。
本人は心からそう思ってる表情してるから愛で分類するなら家族愛的な何かなんだろーけども……その辺りの境界ちょっと危ういぞ。

「ね……ネギ君、それアスナに言ったらきっと喜ぶえ」

「はいっ!そうします!言葉でしか伝わらないこともありますよね、このかさん!」

あー、マジかー、マジで素だわこの子。
南国パラダイスが桃色パラダイス化してきてるから。
うん、シスターには何か辛いスよ。
……でもって何やかんやあって、ネギ君がようやくお縄から解放されて、真面目な話に移った。

「墓守り人の宮殿に僕は行きます。それで、もう一度皆さんの意思を確認したいのですが……」

「俺は言うまでもないで」   「私も参ります」  「拙者の意思は変わらぬでござる」 

    「私もアル!」  「ネギ先生、私も行こう」  「うちも……行くえ!」

「ネギ先生、私もです」  「ネギ先生私も付いて行くですよ」 「ネギ!あんたが無茶しないか心配だから私も行くわよ!」

「ネギ先生、私も同行致します」   「この高音・D・グッドマンも共に参りますわ」

「わ、わ、私も!」  「わ……私は……」  「お嬢様……」  「私は……」

「皆さん……」

ゆえ吉あたりはその場のノリで行こうとしなくていいんじゃ……。
こういうのを集団心理とゆーんだろうけど、空気を読まないことも大事スよ。

「あー、ネギ君、私はシスターらしくネギ君達がアスナ連れて無事に戻って、ラカンさん達も復活させるの祈ってるからさ!ここで帰りを待ってるよ」

「私もミソラと待ってる」

「春日さん、ココネさん、ありがとうございます。僕もそうして欲しいと思っていました」

こうして改めて言われるとホッとするな。

「いやー、当然スよ。私戦力にならないしさ」

「流石春日だな。こういった場では正しい判断だ」

「似たような事たつみーに言われるの2度目スね。結局私は最初から戦場には行かないよ」

「皆さん、お気持ちはありがたいです。ですが、一緒に墓守り人の宮殿に向かう人は選ばせて下さい。何も墓守り人の宮殿でしか何もできないという訳ではありません。春日さんのように帰りを待ってくれる事で僕も安心して行けますから。……コタロー、楓さん、刹那さん、くーふぇさん、龍宮さん……そしてのどかさん。今ここにいる中ではこのメンバーで行きたいと思います」

「そんな、うちなら怪我も!」 「…………」 「私も力になれますわ!」 「…………」 「ネギ先生、私の武装であれば……」

「俺はそれでええで」  「それが……妥当でござるな」  「お嬢様……待っていて下さい」

「分かったアル」 「ネギ先生……私、行きます」 「正しい判断だな、ネギ先生。だが宮崎は……例の造物主の掟か」

スゲーガチ戦闘組揃いだな。
まーそれで当然か。

「はい、のどかさんは造物主の掟の使い方を知っているので危険ですがお願いしたいと思います。このかさん、負傷の問題は確かに重要な事項ですが、僕の契約執行で回復できます。それに守りながらでは進むのも難しくなってしまいますので……分かってください。高音さん、高音さんの操影術は、混成部隊の艦隊で戦ったほうが有効な筈です。恐らく奴らはまた召喚魔を出してくると見て間違いありません。更に、墓守り人の宮殿では魔法が無効化される可能性があります。それで茶々丸さん、茶々丸さんは例の件から言って連れて行く訳にはいきません。……それよりも茶々丸さん達にはこのどれだけ離れていても通信が可能な端末でのサポートをお願いしたいと思っています」

お?
無効化?
例の件?

「ネギ君……せっちゃん……」  「ネギ先生……分かりました。遠距離からサポートさせて頂きます」 

「ありがとうございます、茶々丸さん」

このかは諦めろー。
茶々丸はちょい例の件ってのが謎だな。

「ネギ先生の仰ること……分かりましたわ。悔しいですが……その通りですわね。しかし無効化というのは……それではネギ先生も」

「無効化というのはアスナさんの能力を利用した現象が発生するかもしれないという事です。先程の話に関連しますが、僕にはウェスペルタティアの魔力があるので詳しいことは省きますが、無効化現象の中でも無効化されないので問題ありません」

「なるほど……王家の魔力か……。ラカン氏がネギ先生だけが対抗しうると言ったのはそれも含めてか」

たつみー何だその謎ワード……。
超不思議パワーみたいなもんか?

「はい、その通りです。それで……このかさん、茶々丸さん、夕映さん、アーニャ、高音さん、佐倉さん、エミリィさん、コレットさん、ベアトリクスさん、僕達の無事を……待っていて下さい」

「は~、分かったえ、ネギ君」     「分かりました」    「分かったです……」

「わ、分かったわよ……私が行っても足手まといになるのは認めるわ」 「私はこちらに残り召喚魔の相手を致します」 「私もお姉様と共に」

「ネギ様、分かりましたわ、お気をつけ下さい」  「ネギ君、ユエ達と一緒に待ってるからね」  「ネギ様、私もお嬢様達とお待ちしています」

「ありがとうございます。皆さん」

なんつーかこのネギ君の雰囲気は子供から逸脱しすぎだなー。
凛々しすぎるわ。
ああ、プリンスか。

「それで……一応僕が考えている墓守り人の宮殿での大まかな作戦を話しますね」

「ハッ、ネギ、俺達の考えやとアレやな」

「うん」

何か今……2人して微妙に黒い笑いしなかったか?

「何でござるか?」  「何ですか?」  「何アルか?」  「何か作戦があるのか?」

…………ネギ君と小太郎君が顔を合わせて何か一緒に言うみたいだけど……。

「「墓守り人の宮殿の破壊」」

「ブハッ!!」  「えー!?何なんソレ!?」  「何だか外道な気がしますわね……」

その発想は無かった。
RPGの法則無視だよ!
ラストダンジョン破壊って……いや、まー現実的にはアリなのか?
ゲームでも確かに最終的にはラストダンジョンが崩壊して脱出ってパターンもあるからおかしかないけど……先に壊しちゃうかーそうかそうかー。
蟻の巣に水流しこむみたいなもんスね。
蛇が出るんじゃ……まあ……どっちにしろ中に入っても襲いかかってくるんだろうから同じか……。

「なるほど、素晴らしいなネギ先生。確かにそれは良い」

たつみーが目を見開いて絶賛してるよ……。
やることテロと変わらないような……ま、お互い様か。

「破壊でござるかー」 「武器破壊の経験から……まさかとは思いましたが……」 「なら私の神珍鉄自在棍でやるアルよ!」

「ネギ君……それアスナが危ないえ?」

「いえ、それも見越してです。アスナさんは完全なる世界にとって絶対に欠かすことのできない存在です。例のリロケートで退避するなりして傷つける真似はしない筈です。僕の太陽道の特性上、振り切れた出力がメリットなので生かさない選択を取る必要はありません。僕の魔法であれば、アスナさん本体なら当たったとしても必ず無効化します。それにアスナさんはあの墓守り人の宮殿の何らかの施設がある限り、世界に縛られたままですし、それこそ破壊してしまえば世界の終わりと始まりの魔法も阻止できる可能性が高いです。造物主の掟自体は破壊しても再生するのは分かっていますからそれも問題無い筈です。また、墓守り人の宮殿はかなり広い筈ですし、当然侵入者用の罠があると考えて間違いないですからそれらを無力化、無視することもできます。と言っても、当然総督達にも相談しないといけませんが……」

あー、パネェ。

「どっちにしろ、アスナ姉ちゃんの近くはフェイト達が守っとるやろうからこっちから行くのも炙り出すのも変わらんしな」

「フ……そうとなれば、テオドラ皇女殿下が用意してくれるという小型強襲用艦に、武装コンテナも搭載して破壊専門の空中魚雷等を大量に積んでもらうよう頼むのがいいだろうな」

たつみー銃器派の人だから微妙にテンション上がってる……か?
えぁー、何かもう地球のミサイル撃ちまくる感じスね……。
確かにそんなカオスな所にこのか以下がついて行った所でどうしろとって感じだよなー。
こんな感じに話が飛躍し始めて、特に話についていけないアリアドネー組のゆえ吉達は唖然としてた。
まーそんな話も長くは続かなくて、完全なる世界の凄い障壁ってのを破壊する方法について、ゆえ吉がアーティファクトで参考になる資料を調べたり、楓の結界破壊忍術だとかそういうのを試行錯誤しだしたよ。
ま、私は……後は祈る……と。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月8日、12時頃、新オスティアリゾートホテル―

このかさん達から自分の事も考えるように言われてから1日近く魔法球の中で過ごした。
……皆が心配してくれているっていうのはよく……分かった。
本当に……嬉しかった。
嬉しかった。
けど……僕は次、本格的に太陽道を使ったらもう持たない可能性が高い……前回よりも更に存在が薄くなってる……。
あの話をしてる時に一切コタローが口を挟まなかったのはそれを分かってるからだろう……。
ラカンさんとコタロー2人に言われたけど、もしフェイト級の奴が本当に7人もいたら多分僕は消滅するとしても限界時間を無視して太陽道を使い続ける特攻以外に取れる方法は無い……。
考えてみれば父さんを探しに来たはずの旅がいつの間にかアスナさんを助けるための旅に変わっていたな……。
父さんもアスナさんを助けようとして……助けて……映画の中では皆で一緒に京都に行きたいって言ってた。
僕は僕の意思でアスナさんを助けたい、助けるし、これは父さんが望んでいた事でもある、きっとラカンさんも、タカミチだってそうだ、皆そう思ってる。
でも、どうなるかはわからないけど……最悪の事態も覚悟した方がいいかもしれない。
現状でフェイト達の障壁を完全に破壊できるのは僕の太陽道、無視できるのは刹那さん達の弐の太刀だけ。
あの再生する魔法の事を考えると……正直絶望的な気がするけど……それでもやるしかない。
とにかくまずはタカミチに僕達のうち誰が墓守り人の宮殿に行くか報告する必要があるし、墓守り人の宮殿の破壊についても相談しないと駄目だ。
義手についてもコタローは反対するだろうけど……魔法球があるんだから早めに馴染ませた方が良い。
もう今更数年の寿命がどうこうって気にしてられない。
2時間強入ってた間に総督とリカードさん、テオ様、セラス総長は戻ったみたい。
部屋に残ってるのはタカミチと葛葉先生、ドネットさん、カゲタロウさんだ。

「おかえりネギ君、他の皆はまだ魔法球かな?」

「うん、そうだよ。タカミチ、僕達の中で墓守り人の宮殿に向かうメンバーを決めたから聞いて欲しい」

楓さん達は障壁破壊の術をまだ試行錯誤してる……。

「…………分かった。ネギ君、聞こう」

「コタロー、楓さん、刹那さん、くーふぇさん、龍宮さん、のどかさん、そして僕の7人だ」

「そうか……確かにそれがいいだろうね。のどか君は造物主の掟関連かな?」

「うん、使い方については感覚的なものらしいからうまく説明はできないって話だから危険に晒してしまうけど、仕方が無い」

「なるほど、分かったよ」

「高音は行かぬか……。正しい判断だな」

「他には何かあるかい?」

「墓守り人の宮殿に向かったら最初に外部から墓守り人の宮殿そのものの破壊を敢行したいと思ってるんだ」

「破壊だって!?」

「ネギ先生それは……」

「また斬新な考えね……」

「ネギ殿、考えをお聞かせ願えるか?」

カゲタロウさんって律儀というか堅い人だよなぁ……試合の時は少年って呼んでたけど。

「はい、もちろんです。まず……」

皆に話したのと同じ事を説明した。

「もちろん、絶対にそれはやってはいけない事情があるならやらないよ」

「うん……なるほど。確かに例の儀式が行われる場所に決まりがあるのなら座標自体をずらせば世界の終りと始まりの魔法も阻止できる可能性はあるね。ただ、墓守り人の宮殿は思っているよりも遥かに大きいよ。それにクルトとしては多分破壊は望まないだろうな。危険な儀式が行われると言っても要地であるのには変わりはない」

「上層の塔部分を倒壊させて中層、下層と分けて真っ二つにするぐらいなら部分的な被害しかでないと思うけど……駄目かな?どっちにしろ中に入ったとしても僕は高出力魔法を使わない訳は無いんだけど……」

「世界が破滅するのを墓守り人の宮殿の破壊で済ませるのなら安いと私は思いますが」

「僕もその点には葛葉先生と同意見だよ。その辺りは政治的問題もあるからクルト達に話をしておくよ。その龍宮君が言ったという武装コンテナももし実行するなら早めに用意しないといけないからね」

「うん、一度お願いしてみて欲しい。それで旧世界人の人達の戦力はどうなの?僕が心配することではないけど……必ず例の召喚魔が出現すると思う。それも簡易タイプの造物主の掟持ちの」

「本国から援軍を招集するよう急ピッチで働きかけている所だよ」

「それについては私が言えた義理ではないが、ボスポラスの影使い一族、我らグッドマン家の系譜の者達は皆緊急集合する事になっている」

「高音・D・グッドマンが以前から私達と行動を共にしていた為グッドマン家からスムーズに了承が得られました」

「そ、そうなんですか!それは凄いです!」

「ああ、非常に強力な戦力になって下さるよ。どうやら昨日の戦闘からすると簡易タイプの造物主の掟持ちは放出系の魔法に対して抵抗値が高いようだが、操影術の直接刺突攻撃はその点非常に有効だからね」

「練度は皆異なるが、高音並の術者ならば100名はいるだろう」

「高音さんレベルが100人……百の影槍で一度に1万の影槍ですか…………」

凄い……僕達、僕を南極から助ける時も間接的に協力してくれたしグッドマン家の人達には感謝しないと。

「後は僕の所属している悠久の風のメンバーと佐倉君の家の方も個人的に来てくれる。万全というにはそれでも不足しているが、少しでも戦力を増やすよう動いているよ。アリアドネーとヘラス帝国の戦力が戦艦の物理武装系以外はほぼ意味を成さないというのは致命的だがね……」

「そっか……うん、きっと20年前の時と同じように阻止できるよ、いや、するんだよね」

「その通りだ。奴らの勝手を許す訳にはいかない」

「ネギ先生、私も墓守り人の宮殿には同行しますので」

「葛葉先生もですか!?」

「こら、何を驚いているのです」

「いたっ!?」

葛葉先生までこのかさんみたいに額を叩いてくるなんて……。

「いいですか。ネギ先生達がこの世界でもかなりの手練だというのは確かな事実です。だからと言ってあなた達子供だけを、それも麻帆良学園の生徒ばかりを危険な場所に送り出す筈がないでしょう」

「ご、ごめんなさい。てっきり僕達だけが突入するものと勝手に思ってました……」

「分かれば良いです。お嬢様達に言われた事は大体見当がつきますが、ネギ先生は1人で先を生き急ぎ過ぎです。大人も頼りなさい!」

「は、はいっ!!」

こうして葛葉先生に言われるのは2回目だな。

「よろしい。では高畑先生、ネギ先生の義手の件ですが……」

「ああ、ネギ君、義手はどうするかい?コタロー君はまだやめた方が良いとは言っていたが不便だろう」

「うん、お願いするよ。足技主体に変えても良かったけど、片手で収束大呪文を通常時放つのは辛いと思うから仕方ない」

「悪いね……ネギ君。君に託すような形になってしまっていて」

「ううん、これも僕自身の意思だから後悔は一切しないよ。アスナさんだったら絶対そういう。最後には大丈夫ってね」

「……そうだね。ネギ君の身体だけど、麻帆良に戻ったらエヴァに診てもらうんだよ」

「うん……そうするよ」

マスター……僕はマスターにもう一度会いたいです。
絶対に……無事に皆で麻帆良に帰るつもりで行きます。
けど……もしもの時は……謝らなくてはいけないかもしれませんが、最善を尽くすので見守っていて下さい。

「僕も作戦決行時、ネギ君と同行するか、戦艦の上で防衛戦を張るかは当日の戦力状況によって決めるから決して自分だけの力で頑張ろうとしないようにね」

「ありがとう……タカミチ。あ、後タカミチが持ってる浮術場魔方陣が展開できる指輪型魔法具って楓さん達用にも用意できる?」

あれがあれば楓さん達も空中戦がしやすくなる。
タカミチのはそれが魔法発動媒体にもなってる特別製らしい。

「ああ、確かにあったほうがいいか。詠春さんも使っていたぐらいだ。葛葉先生も必要だろう」

「そうですね。前回まんまとフェイトアーウェルンクスに閉鎖空間に閉じ込められた時もそれがあれば大分違いました。いいでしょう。ネギ先生の義手を今日中に優先して手配してもらうついでに魔法具店で購入しましょう」

「お願いするよ、葛葉先生。こっちは僕とドネットさんでやっておくから」

「了解しました」

「え?義手って1日でできるの?」

「ネギ君、映画見ただろう。ジャックの腕は決戦の後十数時間後に即席ではあるけど義手がついてたぐらいだ。今は戦争中でもないからきちんとした義手も今日1日かければ夜には縫合までできるよ。馴染ませる件も、作戦決行の予定の明明後日まで、20日間分程は馴染ませられる筈だ」

あ、そういえばそうだった。
時間があまり無い筈だけど魔法球でまだ20日あるなら……なんとかなるかな。

「そっか、うん、分かったよ。葛葉先生、お願いします」

「ではオスティア魔法医療機関、体組織再生科に向かいましょう」

「はい!」

こうして僕は義手の作成、縫合までを1日で一気に行う事になった。
義手の作成に際して、僕の右腕が参考になるから数時間で済んだ。
体組織再生科の医療スタッフの人達は凄く急いでやってくれたみたいで助かった。
受付で葛葉先生が総督の名前を出してたからそれも関係あるんだろうけど。

「ネギ先生、縫合手術の覚悟は良いですか?」

「はい、もちろんです。作ってもらっておいて縫合しない訳にはいきません」

「分かりました。それでは行いましょう」

縫合は完全に外科手術だった。
僕が肩の所の血管を処理したせいで少し手術には手間取ったけど、3時間で手術は完了した。
継ぎ目の所が凄く痛い……よくラカンさんは義手つけてすぐにあんなに元気だったんだなって思う。
正直タカミチの言うとおり馴染ませないととてもじゃないけど戦闘はできない。
リハビリの方法をきちんと指導されて、葛葉先生をホテルに戻った時には10月9日に日付が変わっていた。
葛葉先生は僕の手術中とリハビリの講習中に魔法具店で浮術場魔方陣が展開できる指輪型魔法具を購入して来てくれた。

「義手を馴染ませるのは大事ですが、決して無理はしないように」

「ありがとうございます。葛葉先生。気をつけます。それに魔法球の中だと皆さんがもうそんな事させてくれないと思うので……」

「そうでしたね。刹那には特に見ておくように言っておきますから、目を盗んだりしないように」

「あはは……そこまで疑われますか、僕」

「ネギ先生は今まで無茶しすぎなので早々信用は得られません」

「はい……」

魔法球の中に戻ったら、6日ぐらい過ぎてて、障壁突破法も少し進歩があったみたい。
でも……完全に全部割るというのはとてもじゃないけど難しいだろうな……。
楓さんなら分身の波状攻撃で一気に割るっていう方法もあるかもしれないけど、1度はできても繰り返せる方法じゃない……やっぱり刹那さん達神鳴流の弐の太刀が有効かな。
クウネルさんやゼクトさんは一体どうやって突破してたんだろう……多分映画で出てきたフェイトの仲間もあの多重障壁が使えると考えて間違いないから……。
……それも僕が義手をつけて戻ってきたらそれどころじゃなくなった。
結局義手を付けた事についてコタローは一回だけ溜息ついて、その後は納得してくれた。
それからはリハビリを行う事になったんだけど……何かずっと監視されるような生活になった……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月8日、墓守り人の宮殿某所―

――仕方あるまいまた役立ってもらうしかないようだ。

――このような幼子が……不憫な……。

――愚か者が、姿に惑わされるな。コレは人ではない。兵器と思え。

――この百年で何千何万の命を吸ってきている。

私には何も無い……何者でもない……。

――化け物だよ。

ただ奪い……奪われるだけの日々……。

――そんなガキまでかつぎ出すこたねぇ。後は俺に任せときな。

――アスナか、いい名前だ。よしアスナ、待ってな。

ナギ……嘘つき。

――黄昏の姫御子……我が末裔よ。その本来の役割果たしてもらおう。

始まりの魔法使い……恐ろしい……悲しい人……。
私の力で多くの人が消えていく……。

――悪ぃ……遅くなっちまった。全くいつもいつもヒーロー失格だな。

ナ……ギ……?
おかしな人達……バカばっかり……。
でも……なんかあったかい……。

――これなら将来良い魔法使いの従者になれますね。

――ハハハ……嬢ちゃんおじさんのパートナーになるかい?

ガトーさん……。

――……何だよ、嬢ちゃん。泣いてんのかい?

――涙見せるのは……初めてだな。

やだ……ナギもいなくなって……おじさんまで……。
やだ……。

――幸せになりな嬢ちゃん。あんたにはその権利がある。

ダメッ!ガトーさん……ッ!!
……いなくなっちゃやだ……。
ガトーさん……。
ガトー……さんっ……。
……私は……誰?
私は……何?
…………う……うん……。

「私は……また……」

……全部思い出した。
私が何だったのか……どういう存在だったのかも……。
でも……それでも今の私は私……ナギ……ガトーさん……高畑先生……ネギ……。

「……起きたんだ、お姫様。驚いたよ。過去の記憶に流されることなく薄っぺらな仮人格が自我を取り戻すなんて」

この声は……!!

「……あんたッ!!出たわね悪の親玉!!」

―咸卦法!!―

フェイトなんたら!!

「あんたを倒せば!!」

―斬空掌!!―

「フ……」

弾いたッ!?
なら接近戦でッ!!

「無駄だよ」

投げ返される!?

「痛!!」

……こいつー!!
思いっきり壁にたたきつけて……。

「やれやれ。魔法もリライトも効かないお転婆姫は厄介だね。……君は考え違いをしているよ。神楽坂明日菜。僕を倒しても何一つ解決などしない」

はー、咸卦法のお陰で全然痛くないからいいけど……。

「なんですって?大体あんた達意味わかんないのよ。いきなり人攫って。私使って悪さする奴なんて倒した方がいいにきまってるでしょ!」

「仕方ない……。君には理解してもらった方がいいかもしれないね。僕達の目的を。説明しよう。焔」

「フェイト様、お任せください」

何でこいつと一緒にいる2人はメイド服なのよ……。
それにいきなりホワイトボード?
何か書き出したけど……。

「こういうことです」

魔法世界がBON?

「つ、つまり、ど、どーゆーこと?」

「この世界が滅ぶという事です」

「ほ、本当にそうなの!?」

「彼から聞いていたか……。そうだよ。原因は世界を支える魔法力の枯渇……まあ、君達の世界の環境問題のようなものさ。十年後か百年後か……明日にかもしれないけれど。この世界は滅びの時を迎える。これは避けられない現実だよ。そして……魔法世界という幻想が消え去ればそこに住んでいる全ての人間は……人の生存不可能な火星の荒野に投げ出されることになる」

火星!?
それに魔力の枯渇……流出ってネギの言ってた通りじゃない。

「だからってあんた達はどうしようっていうのよ!!大体滅びるならさっさと地球に皆で移り住めばいいじゃない!」

「随分簡単に言うね……。少しは考えてみなよ。この魔法世界に住む12億もの難民を地球が受け入れるのは不可能だ。可能だとしてもそんなコトを実行すればどうなるか……」

「う……」

「メガロメセンブリア6700万人すら受け入れることは難しいだろう……まあ、いずれにせよ悲惨な事になるだろうね」

「……ち……ちょっと待って。なんでそこでメガロなんちゃらが出てくるの?助けるんなら12億人全員でしょ?特別扱いみたいじゃない」

「……その通りだよ、神楽坂明日菜。特別扱いはいけない。だから……彼らには例外なく世界から消えてもらう。君の力で魔法世界を書き換え、封ずることによってね」

「ちょ……消えてもらうってどーゆー事よ!?ふざけんじゃないわよ!!全員殺しちゃうって事!?許さないわよ!!」

「殺す訳じゃない。書き換えられた世界、完全なる世界に移り住んでもらうだけさ。そこは永遠の園。あらゆる理不尽、アンフェアな不幸のない、楽園だと聞いている」

「……で……でも。何でそんな事……」

「それしかないからさ。れっきとした人間であるメガロメセンブリア市民と違い、それ以外の魔法世界人は現実には、いないんだよ」

「……な?何……言ってんのよアンタ……」

「魔法世界人は魔法世界と同じモノでできている。魔法世界が消え去る時魔法世界人も消え去る……。つまり……彼らは幻想なんだ。彼らをすく方法はない。これがこの世界の謎の最後の1ピース。解決不可能の問題だ」

「そ……ん……な」

皇女様達が皆幻……?
そんなの……何よそれ……。
それ……どうにかできないの?
消すしかないの?
また……私で……?

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月10日、9時頃、新オスティアリゾートホテル―

何だかんだネギ君は義手があっという間に付けられて戻ってきて、ネギ君はこのか達の完全包囲網の中リハビリを行って13日ぐらい。
私はずっと魔法球に入ってる訳じゃないからちょいちょい確認するぐらいだったけど、最初より義手は馴染んでるみたいだった。
それで、例のネギ君と小太郎君の言い出した墓守り人の宮殿破壊作戦は本当にやる事になったんだって。
総督は渋ったらしいけど、高畑先生とリカードさん、テオドラ皇女殿下、セラス総長がそれを賛成する形で押し通す方向になったんだとさ。
一応中層部の一番広い円盤みたいな部分とそのすぐ上層部の付け根から真っ二つにする作戦になったらしい。
特にテオドラ皇女殿下はかなりはっちゃけてて「武装コンテナとな。うむ、良いじゃろ、目一杯魚雷を喰らわせて連中に一泡吹かせてやるのじゃ!」との事。
どことなーく、テオドラ皇女殿下はラカンさんの事好きみたいだったから結構躍起になってる気がする。
インペリアルシップで特攻とかしなきゃいいんだけど……ま、そこは流石に大丈夫か。
そういやネギ君が義手付けて戻ってきた時、葛葉先生が空中に足場作れる魔法具を用意してきて、楓とくーちゃんとたつみーそれにのどかに渡してたな。
確かにそれがあれば地上に落下して大怪我って事も少なくなるだろうから便利だよね。
まー、それ考えるとネギ君と小太郎君が浮遊術使えるのは年齢的に考えてマジ凄いって事になるんだけどさ。
それはともかくとしても、今のこの状況は壮観というか、怖いというか……ねぇ。
気がついたら扉からゾロゾロと集団で何かやってきたっていうか。
完全にこの場から退散するタイミング逃したわー!!

「風太郎、久しいな。何故今まで一度も帰って来なかった」

「父上……久しぶりでございます。私は20年前仲間と共に命を賭す覚悟で戦場に向かったというのに……1人生きながらえたとあっては顔向けもできず……とうの昔に風太郎は死んだものとしておりました」

「馬鹿者が。……言ってやりたいことはまだ山ほどあるがそれは今回の件が片付いてからだ」

「ハッ!」

カゲタロウさんが従順の姿勢見せたー!!
つか何あの超デカイ人達、皆身長平均で180ぐらいあるだろ。
デケーよ!!

「高音よ、息災のようで何より。修行は順調であるか」

「お久しぶりでございます、お祖父様。この高音・D・グッドマン、全身全霊をかけ、修行を重ねております」

「うむ。左様か。旧世界での見聞は広げられているか」

「はい。まだまだ知らないことが多くはありますが、日々精進しております」

「高音、修行ご苦労。後しばしでこちらに戻ってくると良い」

「はい、お父様。必ずこの修業やりとげてみせます」

「高音、元気でしたか。旧世界はこちらとは色々違う事もあるでしょうが、上手くやっていけているようですね」

「お母様、はい。心身共に健康そのものでございます。生活にも慣れましたわ」

「それは良い事です。そうです、愛衣殿も後ほど紹介なさい」

「はい、もちろんですわ」

「高音、大きくなりましたね。後であちらの話を聞かせなさいな」

「お祖母様、お元気でしたか。私のお話で宜しければ是非に」

「楽しみにしていますよ」

「「「「「高音お嬢様、お久しゅうございます」」」」」

そこ集団はグッドマン家侍従軍団かー!!!
つーか何で高音さんは全員判別できてんの?
ここまで全員仮面つけた真っ黒黒尽くめの仮装集団だからね。
ちょっと仮面のデザイン違うのはわかるけどいちいち覚えてんのか……ボスポラスの風習ってのはちょっと理解できないな……。
呼んでる感じお祖父さんとお祖母さんまでいるらしいけど……背筋ピンとしすぎだろ……。
見た目超若かったりして。

「春日美空、キョロキョロするのをやめなさい。失礼ですよ」

「あい、すいませーん、葛葉先生」

いやいや、見るなって言う方が無理だろこれ。
絶対オスティアの空港からここまで来るのにめちゃめちゃ目立っただろ……。

「ふー、大分義手慣れてきたか……な……ッ!?」

「どうしたんネギく……え」

「お嬢様どうされま……」

「姉ちゃん達まで何やね……」

そう!
やっぱその反応スよ!!

「おおー、仮装行列アルか!!」

くーちゃん自重。

「高音、あちらの方達がそうか?」

「はい、お祖父様、あちらがネギ先生達ですわ!」

にこやかな顔して笑って肯定ですかー!
高音さん、空気読んで!
って高音さんの家族の皆さんがV字型の陣形で並んだままネギ君達の方に向かったー!

「ネギ・スプリングフィールド殿、お初にお目にかかる。私はグッドマン家当主、源治・D・グッドマンだ」

源治ってどんな日本人スか。
いや……風太郎っていう時点でなんとなく分かってたけどボスポラスって実は墓巣保羅州とかそういう当て字だったりしないだろうな……。
マジありそうで怖いんだけど……。

「は、初めまして!ネギ・スプリングフィールドです。よろしくお願いします。僕達の捜索の際にはご協力頂きありがとうございました」

「何、当然のことをしたまで。気にする事はない。拳闘大会の試合拝見致した。そちらの小太郎殿共に見事な試合であった」

「おおきに、源治さん。犬上小太郎や」

「ありがとうございます。源治さん」

適応能力高いな少年。
何か順番狂ったけど、その後もグッドマン御一行は高畑先生と葛葉先生にも挨拶してた。
愛衣ちゃんが高音さんにグイグイ引っ張られて御一行の渦中に入っていったのは……まあ害がある訳ないんだけど超テンパってたよ。
その後愛衣ちゃんの両親も来たんだけどお母さんにそっくりだったわー。
きっと大人になったら愛衣ちゃんあーなるんだろうなっていうゴールが見えた気がする。
とりあえず、美人確定。
いや、ぶっちゃけここ私がどうかはともかく、殆ど美人しかいないんスけどね。
「お父さーん、お母さーん!」って愛衣ちゃんが家族やってるのは何かグッと来るものがあったよ。
ぶっちゃけネギ君達の明日の作戦が失敗したら皆終わりだもんな……うちの両親も……数ヶ月は会ってないし……はぁ。
ネギ君はその様子を見て少し羨ましそうな表情を一瞬見せた気がするけど、すぐに真剣な表情に戻って頷いてた。
祈ってるだけってのはやっぱり辛いけど……私にゃどうしようも無い。
そんなに強くなってどうすんだー!!って、前から思ってたけど、こーなってくると凄く意味あったんだなぁと今更思えてくる。
まさに大は小を兼ねるってこういう事を言うのかと。
後ですぐ分かったことなんだけど、グッドマン家の高音さんとこの本家以外の傍系の人達もゾロゾロ来てて、オスティアに黒衣の仮面集団が大量発生したらしい。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月27日日本時間17時3分、麻帆良―

精霊史上最大規模の作戦決行まで後1時間と少しという頃、麻帆良ではやはりというべきか混乱が生じ始めた。
因みにもう間もなく作戦を行うというのに未だいつも通り観測しているのは別にやる気が無いという訳では決してない。
絶対に失敗できないが、だからといって上手く行くかどうか心配になってあっちいったりこっち行ったりウロウロ落ち着かない様をやって見せろと言われても、半透明でやった所で全く様にならないから勘弁してほしい。
そんな事はともかく、日が傾き始め日没まで約1時間ぐらいになった今、ようやく麻帆良の地下ゲートポートに反応があった。
まだ発光するつもりはないのだが、かなり大量の魔分がこちらに流出してき始めた為、勝手に木が発光し出した訳だ。
頑張って我慢してもいいが、どうせまた後ですぐに更に盛大に発光するから別にいいと思う。
超鈴音はと言えば、既に火星の神木・扶桑内の優曇華の中で嬉々として同調の際の補助プログラムの確認をしているので……放っておこう。
いや、放っておいてはいけないのだが、本当に会話したかったら加速すればいくらでも時間は得られるので全く問題ない。
予め近衛門には今日事を起こす予定だと伝えておいた為、もう間もなく魔法先生達を集め、さも自分も今知ったと言わんばかりに総員総力即応体勢を発動してくれる筈である。
それよりまずは今ご自宅のログハウスの屋根の上からこっちを見て通信を仕掛けてきているお嬢さんだ。

《茶々円、よく光ってるじゃないか。魔分が流れてくるのが丸分かりだな。いよいよという訳か》

お褒め頂きありがとうございます。

《ええ、もうあと1時間半ぐらいです。世の中は火星大接近の天体観測で盛り上がる所なのですが、これから世界のあちこちで光ることになるので、大変恐縮ではありますが私達がそれを台無しにします》

《茶々円が言うと全く大事に聞こえんな……。まあ火星なんて見ようと思えばいつでも見れるだろう》

《いやー、そりゃ緊張しても仕方ないですからね。しかし、火星はもう既に以前とは……海があったりと地表が大きく変わっているので見ようと思えばというのは少し語弊があるような気がしますね》

《私も協力した例の幻術を解かない限りは同じ事だろう》

《まあその通りなんですが……今年の6月10日と7月7日にスピリットとオポチュニティという火星探査機が打ち上げられて、2004年の1月には両方火星表面に到着してしまうのでどう考えても困った事になるんですよね……。その前にフォボスとダイモスも星の運行を利用した術式の関係で発光するのでそこからですが……》

《潔く諦めるんだな。私は情報規制だとかそういうのに興味はないが、その辺は超鈴音やじじぃ達が主導でどうにかするだろう》

超鈴音って言ってる時点でそれは私達も参加するって事ですよ、お嬢さん。

《まー、なるようになりますよね、きっと。いえ……なるようになるしかないんですが》

《……当たり前だろう。しかしこの前私が手伝うとしたら解決した後に頼むと言っていたが、要するにもしも、どこかが血迷って馬鹿な攻撃をしかけてきたら防衛すれば良いのだろう?》

《……そういう事です。ですが殆どあり得ないと思うんですけどね。現実的にありえそうなのは他所の各国機関が麻帆良の調査に乗り出そうと挙ってやってくるぐらいでしょうか》

《何にしても、木をやられると私も困るからな。もしもの時は動くさ》

パスを繋いだ為に運命共同体のような事になっているがそれならば、たまに凍らせるとか冗談のような冗談を言うのをやめてほしいような……。

《その時はお願いします、エヴァンジェリンお嬢さん》

《任せておけ。それにしても茶々円の目の前に随分慌てて明石の教授と神多羅木が認識阻害して飛んでるじゃないか》

そう、今光ってるのを確認しに明石教授と神多羅木先生が木の前に浮遊術と箒でやってきている。

《流石に魔法世界がどうこうなるなんて、近衛門殿も口が裂けても事が起きるのを知ってはいても言えませんからね。一応確認は大事ですよ》

《ま、そうだな。しかしその様子だと木の周辺は魔分濃度が濃すぎるから一般人は避難した方がいいな》

《全くもって。私が半透明の姿で奥さん、非難してくださいなんて言ってもホラーでしかないですから先生達には頑張ってもらうしかありません》

《麻帆良の住人の事だとどうせ、避難しても近くで発光現象見ようだとか言い出すんだろうがな》

ありそうだ……というか絶対そうだ……。

《目を痛めるどころでは済まない発光をしかねないので見学の際はサングラスを絶対着用でお願いしたいですが》

《ほら、火星の大接近なんてどーでも良くなりそうじゃないか》

《あー……そうかもしれませんね》

決して見世物のつもりはないのだが、それで楽しめてしまうというなら仕方ないだろうか。
火星観測派と神木見物派で2大勢力の結成となるかもしれない。

《それでだ、ぼーやは帰ってくるのか?》

この前死にかけて火星に出てきたのはどうにも引っかかるが……。

《私もあちらの状況は把握できないので断言はできませんが、帰ってくると思いますよ。ただネギ少年がやろうとしていた新術がどうなっているかと少し気になりますね……》

《ああ、私の別荘で修行していた時は気づいていなかったみたいだが、ぼーやは闇の魔法よりも余程リスクのある新術の構想をしていたからな。だが……人間の身でやるには流石に無理だろう。それにそもそも手をつけるような余程の理由でも無い限りぼーやもやろうとはしないだろうさ》

余程の理由……闇の魔法が無い……あー……なんだかとてつもなくマズい気が……。
仕方なかったのと一部良かれと思ってやったが……もしあの魔分投射が革新への道を完全に開いていたとしたら……。

《そうだと良いですね……》

《何だその引っかかる言い方は》

《いえ……ただ少し心配になっただけです》

《ま……あと少し待てばすぐに分かることか》

《ええ、もう間もなくです。外で発光を見られても構いませんが、図書館島のクウネル殿の元に行って埋まっているゲートが起動するのを待っても良いかもしれませんよ》

《やはりこの反応はそうか。ぼーや達が帰ってくると前から言っていた事で大体分かってはいたが……肝心な事をよくまあいつも言わないでいるものだな》

《特に悪気はないので勘弁して貰いたいですね……》

《分かった。気が向いたらアルの所に行くとするよ》

そんなこんなお嬢さんとの会話で緊張がほぐれた……という事も無くはないが、近衛門は予定通り魔法先生達を緊急招集し、総員総力即応体勢を発令してくれた。
魔法先生達から魔分の集中について戦闘配置についておくべきではないかと提言があったが、それは最低限に留められ、木の周辺の住民を適当な理由をつけて避難させる運びとなった。
神多羅木先生は私の事を知っている為、近衛門が多分何か知ってるんだろうというような表情をしていたが、まあこっちは大丈夫……ですから。
避難住民はなんだかんだお嬢さんの言った通り避難というよりも木の発光が見れるベストポジションに移動して行ったというのが……なんというか正しかった。
ご老人達は皆揃って公民館……ではなくカフェテラスで夕日と発光を眺めながら一息ついている。
なんというか、もうコメントは控えていいだろうか。

《キノ、もう少しですね》

《はい。ゲートポートから狙ったとおり魔分が流れてきたのでもう確実に成功させられます》

《私達はまた人格封印モードに入るんですよね?》

《その方が全く無駄のないパフォーマンスで実行できますから当然そうです》

《うーん、なんだか全自動で終わっちゃいそうですね》

実際そうだけどね。

《一つずついちいち手動みたいな事やってられないですよ。木はスペックは勿論、バックアップも世界最高ですからあるものは使わないと》

《私も準備万端ネ!翆坊主、サヨ、きちんと映像の保存も抜かりはないカ?》

またテンション高いな。

《大丈夫ですよ鈴音さん!必ずビシっと世紀の奇跡の瞬間をとらえてみせます!》

いや、それも大体全自動だからね。

《ええ、抜かりは無いですよ。私は途中で火星を担当しますが、そっちも大丈夫です》

《いやー、こうして直に作業に携われるというのは感慨深いものがあるが科学者としてやはり私も後で何があったか全部確認しないといけないからネ!頼むヨ!》

《はい!》

《了解です》

まあ……テンションはともかく、超鈴音も手伝うとなれば必ずうまくいくこと請け合いだ。
……いざ、精霊史上最大のミッションの幕開けである。




[21907] 58話 墓守り人の宮殿(魔法世界編18)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/01/12 00:28
―10月11日、2時頃、オスティア、連合・帝国・アリアドネー混成艦隊、オスティア艦隊旗艦フレスヴェルグ内格納庫、小型強襲用艦―

日が昇ってから連合・帝国・アリアドネーは墓守り人の宮殿攻略作戦を実行する予定であったが、未明に廃都オスティアの魔力の集中に更なる異変があったという報告が観測班から入り、事態は急変した。
幸いだったのは、出撃までに残り4時間という状況で、ほぼ艦隊の準備はできており、当然ネギ達が乗り込む武装コンテナ搭載式特殊小型強襲用艦の準備もできており、ネギ達本人も魔法球で予め睡眠を取った上で待機に入っており体勢が整っていた事であった。

[[緊急報告!完全なる世界が墓守り人の宮殿で何らかの動きを起こした模様!尚、廃都オスティアから観測される魔力の総量は現在増加の一途を辿り、このままでは間もなく前大戦時とほぼ同等になると思われます!]]

「……奴らのほうが先に動いたのか」

「マズいな……」

「早う行かんと」

「今すぐ船を出す許可をゲーデル総督達に取りましょう」

葛葉はそう言って、通信を繋ぐ。

『ゲーデル総督、小型強襲用艦で先行する許可を』

『……そう、せざるを得ないようですね。先行を許可します。ですが、私も小型強襲用艦で同行します』

「え!?」  「なんやて?」  「ほう……」

ネギ達はクルトの発言に思わず驚きの声を上げる。

『おい、クルト、それはどういうつもりだ!』

フレスヴェルグのブリッジ内でクルトのすぐ隣にいた高畑が問いただす。

『どうもこうも、艦隊の指揮ならばリカードと提督がおられる。それに恐らく私の剣が今回程意味を為す機会はもう二度と無いだろう。わざわざ出し惜しみする必要もない』

『総督、危険です!お考え直し下さい』

側に控えていたクルト直属の部下がその発言を諌める。

『危険を承知でネギ君達は先行するのですから条件は同じ。本来の作戦決行時、元々私はネギ君達に同行するつもりでした。奴らが先に動いたとなれば先行できるだけの戦力を持つネギ君達の作戦成功率を少しでも上げるのが道理です』

「そ……総督が……」

「確かに神鳴流である総督も同行するとあれば心強くはありますが……」

あくまで指揮をオスティア艦隊で続けると思っていたネギ一行であったが総督の元々同行する予定だったという発言に更に驚く。

『クルト、ならそれは俺が行く』

『何を言っている。私の方が戦力になる。タカミチはここで戦線を維持しろ』

『お前こそ、ここの指揮をっ!』

『総督、高畑殿、ならば両者共に同行すればよかろう』

その会話にデッキの貧客席に座っていたグッドマン家当主が割り込む。

『ご当主!?』

『我ら影使い一族の力を見くびってもらっては困る。事態が急を要するというなら尚更、先行する戦力は多い方がよかろう』

『おい、タカミチ、クルト、そんな所で言い合いしている場合ではなかろう!リカード、オスティア艦隊の指揮は問題無いのか?』

通信用スクリーンが更に増え、テオドラ第三皇女がモニターに現れる。

『あったりめぇだ。スヴァンフヴィートは提督にお任せして、俺が移ればいいだけだぜ。さっさと行って来いよ。クルトにタカミチよぉ!』

話題を振られ、メガロメセンブリア艦隊旗艦スヴァンフヴィートのデッキにいるリカードもモニターに映る。

[[続けて報告!廃都オスティア周辺から先日のものと同型と見られる召喚魔の出現を多数確認。急速に数を増やしている模様!]]

『もう来たかっ!これ以上は時間の無駄のようですね。お前が何と言おうと私は格納庫に降りる』

『仕方ない……分かった。ネギ君達、僕も同行する!』

「タカミチも!?」

『好きにしろ、タカミチ。ご当主、お願いします。リカード、オスティア艦隊を任せますよ』

『必ずや戦艦の防衛、果たしてみせよう』

『おうよ、任しとけ。それじゃ提督、スヴァンフヴィートは頼みます』

『うむ』

結局時間も無駄にかけていられず、その場の流れで高畑とクルトは共に小型強襲用艦のある格納庫に向かった。

「クルト、お前がネギ君達に同行するとは意外だな」

「彼らは旧世界の学生、教師。今回の事も本来魔法世界の中で片付けるべき事だ。それが特にネギ君に頼らなければならない上、彼は……ナギというよりも性格はアリカ様に似ている。みすみす危険な場所に向かうのを黙って見過ごすようではアリカ様に申し訳が立たない」

「……クルト……お前。確かに……ネギ君はアリカ様似だな……」

「タカミチ、今の話は無かった事にしろ」

「ああ……分かってるさ」

格納庫に向かう途中に会話をした高畑とクルトであったが、格納庫に到着してすぐに出発の準備にとりかかった。

「待たせたね、ネギ君」

「それでは、行きましょう。時間がありませんので」

高畑とクルトは有無を言わせず小型強襲用艦に乗り込んだ。

『フレスヴェルグ!ハッチ開放!』

[[了解。フレスヴェルグ、ハッチ開放します]]

「タカミチ、一緒に付いて来てくれてありがとう。でも総督は……本当に良いんですか?」

「ああ、予定と違って成り行きで悪いね」

「私は紅き翼とは袂を分かった身ですが、目的は同じです。作戦の成功率を上げるのであれば私が参加するほうが良いでしょう」

「……そうですね。総督、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「ハッチが開いた。発進させるぞ」

「お願いします、龍宮さん」

「了解した。発進!」

小型強襲用艦は特殊精霊祈祷型エンジンをフルスロットルでハッチから飛翔し、星々が輝く夜空の中、光球の発生源へ先行を開始した。
最初の墓守り人の宮殿破壊作戦にあたり、小型強襲用艦の操舵を担当するのは龍宮真名が行い、宮崎のどかと共に火器管制も行う事になっている。
その遠隔補助を行うのはフレスヴェルグのデッキで待機している茶々丸である。
小型強襲用艦の映像をリアルタイムで共有することで、遠隔から適切に火器管制を運用できるようになっている。
小型強襲用艦は最高速で闇夜の中を突き抜け光に向かって飛行を続けた。

[[ほ、報告!て……敵集団総数計測不能……概算で50万を超えています!!敵集団は主に動く石像タイプ!依然増加中!]]

視界全てを埋め尽くすような召喚魔の数が具体的な数値で報告が入る。

「50万も!?」

「50万ッ……。どうやら一筋縄には通してはいただけないようですね」

「数は多いが……全部が造物主の掟簡易タイプを持っている訳ではないだろう。戦線に関しては……信じるしか無いな」

「悪いが、そろそろ接敵のようだぞ」

龍宮真名がそう言い、召喚魔が射程範囲内に入る事を伝える。

「こうなっては迎え撃つ他ないでしょう」

「うん、皆で甲板に出よう」

ネギがそう言って出撃を促す。

「任せるでござる」 「やるアルよ!」 「行くで!」 「参りましょう」

「下部の武装コンテナをやられるとこちらが一撃でお陀仏だから頼むぞ」

墓守り人の宮殿破壊の為の武装コンテナは小型強襲用艦下部の砲台と接続している。

「ここで爆散する訳にはいきません。何としてでも死守します」

葛葉がそう返して、ネギ達は甲板に上がり、召喚魔との接敵に備えた。

「宮崎、緊張しているのはわかるが、今この艦にいる戦力は魔法世界でも最高峰だ。安心しろ」

「は、はい……」

[[報告!!墓守り人の宮殿周辺に魔力の渦のようなものの発生を確認!バリアーとなっている模様!そのまま突入を行うのは危険です!]]

「防衛機能も備わっているとは厄介だな……」

『聞こえているか、ネギ先生達』

『はい、聞こえました。ですが、魔力が渦となっているのであれば、僕の太陽道での魔法領域で艦全体を保護すれば無理やり突破できると思います。その際魔力の渦を逆に利用して最大出力で墓守り人の宮殿の上層部破壊を敢行することもできるかもしれません』

『なるほど、逆に利用すると言う訳か』

『ネギ君、その魔法領域で突破できる可能性は?』

高畑がそれの成功率をネギに尋ねる。

『思う、とは言ったけど、出力はゼロから極大まで自由だから、その渦を超える出力にすれば必ず成功するよ』

『そうか……。ネギ君を最初から消耗させるのは避けたいが、特に策が無い今はそれに頼るしかない……か。龍宮君、突入前は一度バリアーに沿うよう飛行してもらえるかい?』

『了解した』

『突入口の捜索は引き続き観測班が全力で行いますから、到着まで見つかればすぐにそちらに変更しますが良いですね?』

『はい、もちろんです。総督』

「フ……去年ネギ先生が麻帆良に来た時の事を思い出すとまるで別人のようだな」

「私もそう思います……」

「あの先生はどんどん先に行ってしまうだろうから、しっかり袖を掴んでおくんだな」

「そ!そそそ!そんな事言われても!」

「冗談だよ。少しは緊張がほぐれたか?」

「あ……は、はいっ!」

艦内でこのようなやりとりがあった後間もなく、迎撃の準備を整えたネギ達は甲板の上でとうとう召喚魔達と接敵した。
一面空を埋め尽くすような黒い召喚魔の軍勢が目の前に広がる。

「先制攻撃で進行ルートを開けます!」

         ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
       ―契約により 我に従え 破壊の王―
  ―来れ終末の輝き 薄明の光芒 満ちれ エアロゾルよ―
   ―降臨し 全ての命ある者に 等しき死を 其は安らぎ也―
            ―天使の梯子!!!―

ネギは小型強襲用艦の甲板の先頭に立って魔法を放ち、眼前に広がる召喚魔の集団のうち前方100度近くを千に及ぶ放射状の破壊光線が眩く輝き、次々に薙ぎ払い一掃する。

「はぁ……はぁっ……両翼後方の守備をお願いします!」

負荷の大きい大呪文の為、ネギは義手である左腕を右腕で軽く抑える。
道が開いたところを、小型強襲用艦は一気に突き進み、直ぐ様艦艇の左右後方を召喚魔達から包囲される。

               ―光の53矢!!―光の53矢!!―
                    「ハァッ!」

  ―斬鉄閃!!―「はぁっ!」             「ふんっ!」―斬光閃!!―

―神珍鉄自在棍!!―「伸びるアル!」      「うりゃぁッ!」―咸卦・疾空白狼閃!!―

  ―斬空閃!!―「はっ!」              「ハッ!」―楓忍法鎖手裏剣之術!!―
                     「フッ!」
                 ―千条閃鏃無音拳!!!―

各自所定の位置に立ち、遠距離攻撃を行い、召喚魔を次々に撃破していく。
その強度と言えばお情け程度でしかないため撃破はネギ達にとっては余裕であったが、数だけは非常に多く、いちいち相手にするのは非常に手間がかかった。
そこへ混成艦隊からの連絡が入る。

『混成艦隊の配備が整ったぜ!今からそのザコ共の露払いをするから先に行けや!』

『了解です!リカードさん!』

『じゃ提督、一発お願いします』

『うむ』

『こちらも準備いいわ』

『こちらもじゃ。カウントするぞ!3!2!1!』

リカード、提督、セラス総長、テオドラ第三皇女がモニターに映る。

『『『『全艦!主砲一斉射撃!!!』』』』

瞬間、小型強襲用艦の付近にいる、造物主の掟簡易タイプを装備した召喚魔以外は混成艦隊の主砲により一掃され再び墓守り人の宮殿までの道が大きく開く。

『速度を上げるぞ!』

龍宮真名は小型強襲用艦の速度を上げ、距離を詰める。
残った造物主の掟簡易タイプを持った召喚魔達が接近してくるが、甲板の上に立つ8人の前には為す術も無く撃破されていった。
小型の物については言うまでもなく、大型の竜型を模したタイプのものが行く手を阻もうとも、高畑の七条大槍無音拳によって胴を貫かれ、神鳴流3名の弐の太刀によって翼、脚、腕を両断され、その損傷に耐え切れず、消滅した。
そんな中、あいた所を埋めるようにすぐに近寄ってきた召喚魔の大群を切り抜け、魔力が渦巻くバリアーが目前に迫り、龍宮真名が機体を操縦し、その軌道に乗るコースを取る。
観測班からの突入口発見報告は未だ入らず、それを待って時間を取る訳にもいかず、止む無くネギが無理やり突破口を切り開く事になった。

『ネギ先生、軌道に乗った!いつでもいいぞ!』

「分かりました!行きます!突入してください!」

          ―森羅万象・太陽道!!!―
        ―魔法領域最大展開!!出力極大!!!―

ネギは太陽道発動と同時に瞬時に小型強襲用艦全体を巨大な魔法領域で覆い、特に艦首と左舷前方の出力を高めて防護する。

『了解!突入するッ!』

龍宮真名はネギの掛け声と同時に操縦桿を一気に左に倒す。
バリアーを超える魔力量を纏った小型強襲用艦はバリアーに突貫し、その衝突で甲高い音が響き渡る。

「あぁぁぁぁッ!!!」

「行けるで!」  「これ程とはっ!」  「行けます!」  「凄いアル!」

『絡繰!』    『了解!弾道計算開始します!』

バリアーよりもネギの構成する魔法領域の方が出力が高く、抵抗を受けながらも3秒間かけて小型強襲用艦は分厚いバリアーを突き破り、予定通り墓守り人の宮殿中層部やや上方、8方向に伸びる姿勢制御を保つかのような巨大岩とその上のより長い十字の橋と中層部の居住空間と思われるドーム状の施設が立ち並ぶのが見える位置に飛び出す。

『突破したッ!宮崎!絡繰!』

          ―魔法領域解除!!―

すぐにネギが魔法領域を解除する。

『はいっ!』 『了解!』

      ―対物破壊特化型対空魚雷・全弾発射!!!―

小型強襲用艦そのもの、武装コンテナ容量一杯に搭載された大量の対空魚雷が、まだかなり離れている墓守り人の宮殿中層部居住空間と上層部との境に向けて砲台から間を置くこと無く次々と一斉射出され茶々丸の軌道計算に従って拡散する。

                    ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
                 ―破壊の王 高殿の王 我と共に 力を―
             ―来れ終末の輝き 薄明の光芒 満ちれ エアロゾルよ―
                 ―来れ巨神を滅ぼす 燃ゆる立つ雷霆―
                    ―集え 全ては 我が手に―
             ―降臨し 全ての命ある者に 等しき死を 其は安らぎ也―
                  ―百重千重と 重なりて 走れよ稲妻―
                     ―然して 死を記憶せよ―
ネギも太陽道の限界時間を無駄にしないようにと対空魚雷の発射と共に天の雷の詠唱を即座に行い、依然艦首に立ったままその両手を前に出して、周囲の魔力の濃さを逆に利用し前回発動時よりも更に巨大な光球を形成して行く。
                        ―天の雷!!!―

《うおぉぉぉぉッ!!》

光球の膨張が完了した瞬間、全てを無に帰す極光が、射出された対空魚雷の軌道の上から墓守り人の宮殿上層部を右から左へと薙ぎ払いに掛かった。
照射の瞬間に墓守り人の宮殿の端が即座に消滅し始め、全てが上手くいくかと思われたその時。

「上から何か来ます!」

墓守り人の宮殿上層部に配備されている古代の迎撃兵器が侵入者を感知し、大量の巨大針を小型強襲用艦、既に着弾する寸前の対空魚雷に向かって降り注ぎ始めた。
小型強襲用艦が、上層部が倒れては来ないであろう中層部に接近し続ける中での攻撃であった。

  「迎撃兵器!」     「邪魔をさせるかッ!」

― 千条閃鏃無音拳!!! ― ―斬空閃弐の太刀・百花繚乱!!!―

高畑が魚雷に降り注ぐ針で射程範囲のものを撃ち落とし、クルトが高速で太刀を振るい小型強襲用艦本体に降り注ぐ針をまとめて薙ぎ払う。
高畑の無音拳の届かない針は対空魚雷を貫き着弾する前に爆破、誘爆も引き起こすが、それでも物量の前に対空魚雷のうち6割は墓守り人の宮殿に着弾し容赦無く破壊をもたらす。
また、当然ネギの天の雷を遮るものは何も無く、例え極光に針が当たろうとも瞬時に消滅し、対空魚雷が着弾する地点より上の上層部を4秒間の照射で6割近く薙ぎ払っていた。

《行けるッ!》

上層部は徐々に傾き始め、ネギは最後の一振りを行いにかかる。

            ― 絶 対 防 護 !!!!―

《なっ!?》

全てが消滅していく天の雷と対空魚雷の雨が着弾する中心から一瞬にして極めて強力な積層多重対物対魔法障壁が一帯広範囲に展開され、防がれ始めた。
完全に防いでいる、という訳ではなく、実際には天の雷によって次々に障壁である魔方陣が1枚1枚破られる傍から、この障壁を展開した術者が新たに障壁を次々に張り続けていたのであった。
7秒間に渡る天の雷の照射が終了し、魚雷もあと少しを残しほぼ撃ち果たし終えた。

          ―太陽道・解除―

ネギの天の雷だけが効いていた訳ではなく、魚雷による攻撃は満遍なく破壊をもたらしていたため、最後に攻撃が防がれたものの上層部は傾きを早める。

「はぁ……はぁ……最後防がれたけど倒れるっ!」

「防ぎに現れたということは上層部が儀式に重要なようですね!」

       ―斬空閃弐の太刀・百花繚乱!!!―

クルトはそう言いながらも傾きながらも未だ上層部から降り注ぐ針を撃ち落とす。

「なればあそこにアスナ殿がいるということ!」

「しかしさっきの障壁は……反撃も来ないようだが……」

『とにかく一度中層部近場のドームに魚雷で穴を空けてそこに着艦する!楓は宮崎を!』

有無を言わさず龍宮真名は操縦桿を操作しながら中層部端のドームに残った魚雷を放ち、壁に穴を開ける。
長瀬楓は龍宮真名の呼びかけに応じ直ちに機内に戻り天狗之隠蓑の中に宮崎のどかを入れに戻る。
ネギ達は着艦するまでの数秒、降り注ぐ針を全力で撃ち落とし、被弾するのを防いだが、倒れかけていた上層部の周りに異変が起こったのを確認した。

「何やあれは!?」

「倒れないアル!」

「あんな広範囲の力場を維持できるなんて!」

倒れかけていた上層部は目に見えるレベルの力場帯によってその姿勢を取り戻し、みるみるうちに傾く前の位置に戻っていった。

『ネギ先生、着艦する!』

          ―魔法領域展開!! 出力最大!!―
           ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
             ―風花・風障壁!!―

ネギは龍宮真名の声に即座に応じ、艦首に魔法領域を展開すると同時に風花・風障壁を発動し、着艦の際の衝撃を和らげる。
ドームの中に飛び込んだ小型強襲用艦は床面を滑りながら反対側の壁にぶつかる事で緊急停止したが、特殊装甲のため目立った被害もなく迎撃兵器の針の山から逃れる事に成功した。
結果としてネギ達は、魔力の渦のバリアーを無理やり破った途端に墓守り人の宮殿自体を対空魚雷と高出力呪文で急襲するという正味12秒程度の電撃作戦を敢行し、完全なる世界が明らかな反撃に出てくる前に破壊作戦を見事成功させたのだった。
ただ、物理的には倒壊してもおかしくない上層部が完全なる世界の術者の1人によってそれを抑えられているという状況だけが誤算であるが、それは同時に上層部が重要であるのを露呈した事を意味し、強力な術者1人がそれを行う事で完全なる世界の戦力として外れた事をも意味していた。

「なんとか、侵入できたな……」

「こっからやで」

「向かうは上層部ですね」

「恐らく向かえば連中と必ず戦闘になるでしょうが、止むを得ません」

「ネギ坊主、のどか殿を隠蓑の中に入れたでござる」

「よし、ネギ先生、私も準備できた。行けるぞ」

長瀬楓と龍宮真名が準備を終えて小型強襲用艦から甲板に上がって来る。

「分かりました!どうせ罠があると思いますのでここから中心部まで一気に道を作ります」

       ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―

「ネギ坊主、それは私がやるアルよ。どっちアルか?」

ネギが詠唱を始めた途端すぐに古菲がそれを遮る。

「くーふぇさん?えっと、こっちの方向です」

ネギは破壊すべき方向を指差す。

「分かったね!伸びるアル!」

古菲の掛け声に従い神珍鉄自在棍は巨大化しながら伸びて壁をぶち抜きその後も轟音と共に次々と中層部のドーム群の壁を破壊していった。

「…………」

「……古は豪快だな」

「これで解決アル!アベアット!」

上層部まで完全に道ができた訳ではないが、30秒近くで1kmは掘り進めた。

「あはは、ありがとうございます。くーふぇさん」

「あまり破壊しない……という筈でしたが……もう遅いようですね」

クルトは少し呆れたような、困ったような表情を浮かべる。

[[我が神聖なる墓所を荒らす者に永遠の眠りを]]

「今の声は!?」

「敵か!」

空間全体に響くような声がネギ達に聞こえ、どこからか敵が現れるかと皆それぞれ構えを取る。

「こんにちは…………ネギ先生」

突然また異なる声が聞こえた瞬間、ネギの目の前に1人の人物が現れる。
そしてそれはネギ達にとっては知っている人物であった。

「ザ……ザジさん……何故ここに」

「な、何でここにサーカスのザジ姉ちゃんがここにおんのや……」

ネギと小太郎の2人以外も動揺を隠せないが、ザジと思われる人物がほほ笑みを浮かべながらも発するプレッシャーのあまり、声が出ない。

「いや、世界間移動ができない今、彼女がここにいる筈はない。これは罠だ!悪いが議論の余地は無い!」

その沈黙を龍宮真名が打ち破り、すかさず引き金を引き3発の弾丸を頭部に放つ。
しかし、その弾丸は当たる寸前で停止し、無力化される。

「!?何者かは知りませんが道を開けて頂きましょう!」

「ならばっ!」

クルトの宣言で龍宮真名、長瀬楓、桜咲刹那はそれぞれ接近し銃と剣を突きつけ、クルトは弐の太刀を放とうとするが、謎の力によってそれを遮られる。

「!?」  「!」 「!?」

「これはっ!」

4名は後方に吹き飛ばされ、更に何かによって空中に縫いとめられた上で動きを拘束される。

「くっ!」

残りの者もそれに焦り、動こうとするが、それもザジと思われる人物が発するプレッシャーが一段と上昇し、気圧された。

「……動くなポョ。……君達を傷つけるつもりはないポョ。……私は君達を、君を止めにきたんだ……ポョ」

尚もプレッシャーは上昇し、空間全体に語りかけるような声が響く。

「君は間違っているポョ。今や君は危険な存在ポヨ」

そして空間が激しく揺らぎ出し、その場を崩壊せしめようかという程の膨大な魔力をザジと思われる人物はネギの太陽道とは異なり純粋に自身の身体からほとばしらせ始め、更に次の言葉を続ける。

「君の進む道は完全なる世界の進む道より多くの血を流すっ……ポイョ。最善とは言えなくとも完全なる世界の進む道こそ次善解。これ以上危険な君達をここに置いておく訳にはいかない……それと……最後の選択肢をあげるポョ」

ザジと思われる人物から発せられる魔力の奔流が最高潮に達し、その発光が一段と強まった瞬間、周囲の風景が一変する。
そして……ネギ達は墓守り人の宮殿からその存在を消した。

「君がここで手を引けば、君達はこのままここへ返してあげるよ」

その風景は暑さが残り、蝉の鳴く声の聞こえる何の変哲もない麻帆良学園。
先程までいた空間を切り取ったかのように小型強襲用艦と割れた地面だけが場違いに麻帆良の街並みに混ざっている。
そんなネギ達を学生達や会社員達が遠巻きに見て、中には手の込んだイベントなのかと思い携帯で写真を撮り始める者まで現れた。

「こ……ここは……そんな……麻帆良学園?」

「まさか世界間移動ができるというのか……」

「幻術の類では……」

ネギ達は目の前の光景があまりにもリアルで麻帆良学園そのものであっても俄に信じる事はできはなしなかった。

「ぐっ……馬鹿な……独力で超えるなどそんな話……何だこの見えない力はッ……」

クルト達は依然として空中に縫いとめられ、絞めつけられていた。

     ―羅漢銭!!!―

そこへ龍宮真名が魔眼でその拘束していた何かを羅漢銭で破壊する。

「はっ……はっ……」  「けほっ」  「し、してやられたでござるな……」

「くっ……解除感謝します、お嬢さん」

4人はそのまま地に難なく着地し体勢を整えるが、ネギ達は迂闊に動けばまた同じ力で拘束される為、様子を見る他無かった。

「ここは……僕達の麻帆良学園ではありませんね」

「……何故そう思うポヨ?」

そうネギが沈黙を破りザジと思われる人物に確認を求めるが、本人は不敵な笑みを崩さず聞き返す。

「ゲートポート破壊によって地球と魔法世界の間に生じた時間差は最低でも4倍。ゲートポートが破壊されてから既に59日が経過していますが、単純に計算しても8月13日に15日を足しても28日。まだ夏休みの筈です。更に、時間差がそれ以上なら尚更まだ夏休みである筈。しかし学生達がこうして制服を着て登校しているという事は、ここは確かにリアルですが本当の麻帆良学園ではありえません」

ザジと思われる人物が作りだしたこの麻帆良学園の空間が偽物であるということを、この混沌とした状況の中でも周囲の情報を汲み取り、そう、ほぼ確信したネギは実に冷静に語った。

「……ネギ君、確かにそうだね……」

「今の状況でよくそんな事を……」

「流石ネギやな」

「ネギ坊主、何言ってるか良くわからないアル!」

「「「古……」」」

他の面々もネギの今までの戦闘体勢に入っていた流れから言って普通は出てこない発言に呆気に取られる。

「まさか……そんな人間の風習ごときでこの空間が偽物だと見抜かれるとは……盲点だったポョ……。か、確信した。やはり君は危険な存在ポヨ!」

ザジと思われる人物はネギの説明にいささか動揺しネギをプルプルと指差しながらそう発言したが微妙に逆ギレしている様子であった。

「大体あなたは誰なんですか。ザジさんは語尾にポヨなんてつけません!空中ブランコで一緒に遊んだ時は至って普通でした!」

「そうや!ザジの姉ちゃんは意外と普通の口調やったで!」

「ネギ君、ザジ君と話した事……あるのかい?」

「私は一度も見た事ないですが……」

「拙者も無いでござるな」

「私も無いアル!」

寧ろザジと会話したことがあったという事の方がネギと小太郎以外の面々には驚きであった。

「ポヨを付けていない……だ……騙された……。いや、語尾程度がどうしたというんだポョ!もういい!もう一度聞くポョ!君が進む道は完全なる世界の進む道より多くの血を流す。それでも進むのか?……君が進む道はきっとあの超鈴音の未来に繋がってるんだポョ!」

彼女は何やら完全に開き直って話をし始めた。

「世界そのものを消すのを現状維持の今の世界と比較して血が流れないのは当たり前です!そもそもそれは比較の対象として成り立っていない!しかもその……超さん……の……未来?どういう……」

「超の……未来だと……」

「超君の……未来?」

「超鈴音の未来?」

ザジにそっくり別人の超鈴音の未来という言葉にネギ達は皆反応する。

「くっ……そうか……これは起きなかった事かッ……!深く語る必要はなし!やむを得ないポョ!」

      ―幻灯のサーカス!!!―

「しまっ!?」

「アーティファク!?」

ザジのそっくり別人が咄嗟に取り出したアーティファクトカードが光り、発動する。
その光に飲まれたネギ達は1人として残さずその場で眠りについたのだった……。

「これで……全てが終わるまで眠っていると良い……ポョ」

そう言ってザジのそっくり別人は少し安堵したようにその場に眠りに落ちたネギ達を見下ろして呟いた。
そんな幻灯のサーカスの影響下、ネギは夏休みが終わり何事も無く麻帆良学園2学期初日の朝に起き、アスナを見た瞬間思わず涙を流し一悶着あったが、ニュースにて謎の飛行物体が発見された事が放送され違和感を感じるも、いつも通り教師として麻帆良学園女子中等部に生徒達と共に登校する生活を始めた。
そんな中エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルを見て思わずマスターと呼ぶも「いきなりどうした?確かに私は人生という点ではぼーやの先生のようなものだが、マスターと呼ばれる覚えはないな。それとも私の舞や茶道、囲碁の生徒でもやってみる気になったか?」と凛としながらも優しげに言われ、その返答にまた微妙な違和感を感じた。
その日の授業が終わり生徒達と喫茶店に誘われ、何気ない平和な日常を過ごし、それを実感するも、何か大切な事を忘れているのでないか、とネギは思う。
そんな事を考えていると、ある2人の人物が現れその思考を遮った。
それはナギ・スプリングフィールドとアリカ・アナルキア・エンテオフュシア、ネギの両親その人だった。
2人に話しかけられ、ネギは思わず涙を流し、周囲は慌てふためくも他愛のない会話を交わすのだった。
そんなネギの様子を遠くから見つめるとある人物は呟いた。

「……一度。一度堕ちれば二度とは戻れない……。ここは全てを絶ち切る場所……永遠の園、無垢なる楽園。完全なる世界」

しかし、そんな彼女に気づく事無く、ネギは至福の一幕を過ごした。
両親が来た事で騒がしい生徒達が皆集まり、お祭り騒ぎになるが、その夜、ネギは両親の泊まる宿で寝ることになり3人で一緒に向かったのだった。
その途中、左右を両親に挟まれて手を繋いで歩き「楽しいか?幸せか?」と問われネギは涙を浮かべ「……はい。今とっても」と心から答えた。
しかし、その次の瞬間ネギは両親の手を放し、歩みを止めて後ろを振り返り、真剣な顔をしてある人物に問いかけた。

「でも……これはホンモノじゃない。そうですね?ザジさん」

そこにいたのはザジ・レイニーデイ本人。
その表情は慈愛に満ちていた。

「はい、先生。でも……これもひとつの現実……」

そして、会話は始まる。

「これが……完全なる世界の実現しようとしている世界だとでも言うんですか?」

「……これは彼女のアーティファクトが造りだした幻影です。……ほぼ、同じようなものとは言えますが」

「幻影……?」

「ですが、これが完全なる世界と考えてもらっていいでしょう」

「こんな……こんな都合の良い夢がですか?」

「ただの都合の良い夢ではありません。あり得たかもしれない幸福な現実。最善の可能世界……先生の場合は……」

ザジは一呼吸置き、言葉を続ける。

「もしも20年前フェイト一味が全滅していたら。……こういう世界になります。彼らがいなければナギ・スプリングフィールドが行方不明になることはなく、6年前の先生の村の襲撃もナギ・スプリングフィールドによって未然に回避され、フェイトらの画策による修学旅行での事件も無くなり、先生が魔法世界に危険を冒してナギ・スプリングフィールドを探しに行くこともありません。つまり先生にとっての敵、戦いのない世界、清明で暖かな善意に満ち満ちた争いなき世界です」

「……僕の場合、と言いましたね?」

「ええ、ネギ先生の仲間にも同じように体験してもらっています。お見せしましょうか」

そう言ってザジは力を発現し、映像を見せようとするが。

「いえ……結構です。大体の想像はつきますし、僕が皆だけの世界を見ていいものではありません」

「……ふふ、懸命な判断ですね。そう……完全なる世界は各人の願望や後悔から計算した、最も幸せな世界を提供します。人生のどの時期であるかも自由……死もなく幸福に満たされた暖かな世界。見方によってはこれを永遠の楽園の実現と捉えることもできますね」

「……でもそれはやはり本物ではありません」

「そう……一部異なりますが……彼女たちはまだ若い、その多くは……完全なる世界等なくとも、たった一歩のわずかな勇気でつかめる世界でしょう。……ここを抜け出るキーワードはわずかな勇気です」

「あ……あなたは……一体……?」

「それより……いいのですか先生?この世界はきっと、今後あなたがどれほどの力を費やしても、もう二度とは手に入らない楽園なのですよ」

「いえ……もういいんです」

「……強がりを。せめて一晩……父に甘え、母の膝で眠ることは許されるというのに」

「……これ以上甘えさせてもらったらもう戻ってこれなくなりそうで。それに……今も囚われている大切な人を僕は助けに行きます。だから……ここで立ち止まっている訳にはいかないんです」

「……その身体でも、ですか?」

ザジはおもむろにネギの傍に立ち、自らの顔をネギの顔に近づけながらその頬を両手でゆっくりと触れ、心配そうに問う。

「やっぱり……あなたが……本物のザジさんなんですね」

「はい……外にいるのは私の姉です」

「僕は……この身体でも、行きます。例えどうなろうとも……。ザジさん……マスターに、皆さんに戻れなかった時はごめんなさい、と伝えて貰えますか?」

「ええ……嫌です」

「え……あ!いたたた!」

一瞬肯定するかと思われたがザジは眉間に皺を寄せ、触れていた指でネギの頬をつねり出した。

「ですが……今の私にはネギ先生を止める事はできません。ネギ先生、世界の崩壊自体は心配しなくて良いそうです。ネギ先生は思うとおりにして下さい」

「それでは……やはり超さんが……」

「それについては答えませんが……ネギ先生がもしもの時……それは私の新しい友達に頼んでおきます。ですから……あと少し、あと少しだけ頑張って。これは……私が先生にできるおまじないです」

サジはネギの額に右手を当て、両目を閉じて集中を始める。

「友達……ですか。ザジさん……おまじない……というのは?」

「私の姉は彼らと全く同じ理由、意図で動いている訳ではありません。姉が協力するのは力ある者の責務として。……できました。それで姉に会えば……きっと分かってくれます」

「あ……ありがとうございます」

ザジが手を離すとネギの額には魔族特有の刻印が付いていた。
ネギは自分の額に何かついたのはわかったが詳しくは分からず、少し額に触れて確認するに留まった。

「では……ネギ先生」

ザジはネギから距離を取る。

「はい、僕は前を向いて進みます」

「必ず、またお会いしましょう、ネギ先生」

「はい、ザジさん。また」

      ―わずかな勇気!!!―

そしてネギは幻灯のサーカスからの脱出のキーワードを唱え、辺りは再び光に包まれた。
一方、偽物の麻帆良学園ではしばらく時間が経過しても眠りに落ちたまま全く反応を示さないネギ達の姿があった。
 
「無理も無い……。満たされぬ想いが多ければ多いほど、心の穴が大きければ大きい者ほど、幸福という甘美な夢……完全なる世界からは逃れられぬポョ。本物の術式ではないが……」

その様子を眺め、ザジの姉は呟く。
その麻帆良学園で刻々と時間が過ぎていくかと思われたその時、倒れていたネギがスッと立ち上がり一言。

「はじめまして……ザジさんのお姉さん」

「バカな……一体どうやって……。そうか……我が妹の手引きポョね、ネギ先生」

ザジの姉はネギが起きた事に驚き、その事実に一瞬目を疑うが直ぐ様その原因に気づく。
蝉の声が鳴り響く中、2人は静かに対峙する。

「ええ、ザジさんのおかげです。それと……ザジさんからおまじないをして貰いました。これです」

ネギはそう言って自分の前髪を上げて額を見せる。

「!?……それはアイオーンの印!」

「これでザジさんのお姉さんに会えばきっと分かってくれるとザジさんは言っていました」

「……いいだろう……少年。それを確認する前に問おう。どうして完全なる世界を止めようとするポョ。今体験した君の世界をわざわざ捨ててまで」

ザジの姉は印を見た瞬間、落ち着きを取り戻してネギに尋ね始める。

「……僕の大切な人を助けに行くため、これが僕にとっての一番であり、最大の原動力です。勝手な言いようですが、この魔法世界を滅びから救うというのは僕がどうにかできる事ではありません。確かに体験したあの世界は幸福に満ちていたし、僕にとって2度と手に入れる事のできないものだというのも分かっています。ですが、それでも、僕はこちらで前へ進む事を選びます」

「……実に自分勝手な発言。全く以て人間はどこまでも愚かで度し難い……ポョ。しかし下手に綺麗事を並べられるよりも余程マシ……ポョか。そう……知っての通りこの世界はいずれ滅びるポョ。その崩壊に巻き込まれて魔法世界12億の民の多くは死に絶え、なんとか生き残り不毛の荒野に取り残された者達も生存をかけて地球人類との100年を超える争いに叩き込まれ……悲惨な歴史を辿る……事になるポョ。……この魔法世界の崩壊というものが解決不可能、避け得ることのできない唯一の未来ポョ。私の研究機関による試算では最低で9年6ヶ月の後に崩壊が始まるポョ」

「そんな未来が……」

ネギはそのザジの姉の説明する事に思わず驚きの声を漏らす。

「これら全ての悲劇を回避するためには完全なる世界の計画通り、この世界全てを完全なる世界に封ずる他ないポョ。私は魔法世界人でも旧世界人でも無いが力ある者の責務としてこれら未曾有の危機を見過ごすことはできないポョ。世界を救った英雄の息子である君がこれまで無謀な行動に出ることがないよう祈って、我が妹の眼を通して監視をしていたポョ」

「ザジさんの眼を通して……僕を監視……」

「勘違いしないように言っておくが我が妹は自分の好きなように生きているだけポョ。私が旧世界に赴いて直接君を監視しても良かったが……それなら好都合と我が妹が志願しただけの話ポョ」

「そう……ですか」

「黄昏の姫御子の力はある側面ではこの世界全てを、崩壊どころかあらゆる不条理からも救う為に使われるポョ。それでも君は止めようとするポョか?」

「はい。僕の決心は変わりません。僕は、僕自身が思うアスナさんの為に、僕自身の為にも、僕の自分勝手で、僕の大切なアスナさんを取り戻します。いくらそれで世界が救われようと黙って見過ごす訳にはいきません」

「……世界と個人を天秤にかけ個人を取るとは、ほとほと自分勝手ポョ。自覚がある上でそういうのだから尚性質が悪い」

「どう言われようと構いません。それと……もし僕だったら崩壊まであなたが言うように、まだ9年6ヶ月あるなら、そのギリギリまで崩壊を回避、解決する方法を探します。それをせずに、今、世界の終わりと始まりの魔法を発動させるのは、未来がどうであれ、実際実現可能か不可能か関係なく、僕からしてみれば、ただ諦めているだけとしか思えません」

「たった1人。ちっぽけな人間の可能性……そんなものを信じて賭けられる程世界は軽くはないポョ……」

「一つ聞いてもいいですか。世界の終わりと始まりの魔法……それはアスナさん自身にも有効なんですか?アスナさんの力を使うというならアスナさん自身は完全なる世界には送れないのではありませんか?もしそうだとすれば、全てを救うというのは正しくありません。ただ1人を除いて、他全てを救う、の間違いです」

「…………ははは……その通りポョ。黄昏の姫御子自身には効果は無い、送られる事は無い、救われ無い。しかし多くを救うために少ないもの、小さいものを切り捨てる。これは君達人間の間では日常茶飯事の筈ポョ」

「……やっぱりそうですか。日常茶飯事……その通りかもしれません。でも、そうであっても、そうであるなら尚更今の僕はその少ないものの1人として、たった1人のアスナさんを選びます」

「……は……君の決心の固さは分かったポョ。話を戻そう。さっき監視していたと言ったが……どうやら君以外の所に重大な漏れがあったらしいポョ。特に君のその常軌を逸した技法の根源に繋がるものなのだと思うポョ。さて、そろそろその印を確認させて貰うポョよ」

「はい。……どうぞ」

「これで……私はどうするか最終判断をするポョ」

ネギとザジの姉はお互いに歩み寄り距離を詰める。
そしてザジの姉がネギの額の印に触れ、その印が光を放ち、徐々にその輝きが失われた時、ネギの額の印は消えていた。
逆に印を吸収したかのように、ザジの姉の両目にはその印が浮かび上がり、虚空を見つめ、その表情も刻々と変化していく。

「…………なっ……まさか……そんな超常現象が起きていたポョとは……。確かにこれは我が妹が印を使うに値する。私の行動原理を理解した上で……と言ったところポョか。しかしこの関連事項だけ隠していたなんて……帰ってきたらお仕置きが必要ポョね……。少年、力ある者の責務としては、この魔法世界がこのまま続くとなればこの戦いに私が介入する理由は今やもう無いポョ。古き友に呼ばれて来たが、積極的な協力はここまでとするポョ。既に儀式は始まって時間も残り少ない。儀式が成功するのが先か、君達がそれを防ぐのが先か、その行く末を見届けさせてもらうポョ。さぁ行け!!人間達よ!!」

ザジの姉が最後にそう高らかに宣言した瞬間、麻帆良学園の風景に雷が落ち、墓守り人の宮殿中層部、小型強襲用艦が無理矢理着艦した場所にネギ達は戻っていた。
その場には既にザジの姉の姿は無く、間もなくネギ以外の者達は遅れて眠りから覚め始めた……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月11日、4時11分、連合・帝国・アリアドネー混成艦隊、儀式完了迄1時間49分―

ネギ達が墓守り人の宮殿のバリアーを突破して破壊作戦もおおよそ成功した事が判明した際に、混成艦隊の士気は上がりに上がった。
しかし、その後ネギ達が中層部に着艦してからすぐにザジの姉が登場した途端小型強襲用艦そのものの反応がロストした事が判明し、その原因不明の事態から後十数分で2時間が経過しようかという頃、その状況を打開しようにも圧倒的な戦力差の前に防戦一方の混成艦隊は手をこまねいていた。
混成艦隊の総数は53隻、先日の完全なる世界の巨大召喚魔の襲撃でかなり数を減らされていたにも関わらず、急を要して遠隔地から戦艦を結集させるのはこれが限界であった。
実際には作戦開始時刻6時にはメガロメセンブリア本国からも遅れて艦隊が追加で到着する予定であったが、先に完全なる世界の動きが始まってしまったのだ。
混成艦隊53隻に対し、この2時間近くで40万にまで減らしたものの依然大量の召喚魔との兵力差は圧倒的であった。
更に、真正の人間であるメガロセンブリア本国出身の者が少なく、この戦線において生身で直接出撃するも、自分が真正の人間であるのかどうか分かっていない者達は造物主の掟簡易タイプを装備した個体に為す術も無く、容赦なく放たれるリライトの光線によって消滅させられていた。
その状況でも混成艦隊の戦線維持を可能としていたのは、グッドマン家を筆頭にして今回の戦に集った勇気ある者達の危険を省みない獅子奮迅の活躍であった。
彼らは各戦艦の上に立ち、また箒で艦隊の弱点の近くを飛行して固めながら、襲い来る動く石像タイプ、黒一色の召喚魔の軍勢の迎撃を行っていた。

[[攻撃の手を緩めるな!世界の命運、この一戦に有り!影使い一族の力をここに示せ!味方撃ちに気をつけよ!総員、放てッ!!]]

     ― 千の影槍!!! ―      ― 千の影槍!!! ―      ― 千の影槍!!! ―      ― 千の影槍!!! ―      ― 千の影槍!!! ―

  ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―

―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―    ―百の影槍!!―     ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―

  ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―

―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―    ―百の影槍!!―     ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―

  ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―

オスティア艦隊旗艦、フレスヴェルグの甲板に両手で杖をつき、どっしりと構えて立つグッドマン家当主、源治・D・グッドマンの指揮に従い、空を埋め尽くす黒い軍勢に対し、黒衣装に仮面を被った者達が、それぞれ己が立つ戦艦を守るべくして、影槍を一斉に放ち、次々と串刺しにして葬り去る。
そんな中、ネギ達の中で待機している筈だったが、意を決して戦線に参加している者達の姿もあった。

「お姉様が頑張っているなら私もっ!」

           ―メイプル・ネイプル・アラモード―
―ものみな 焼き尽くす 浄化の炎 破壊の王にして 再生の徴よ―
         ―我が手に宿りて 敵を喰らえ―
              ―紅き焔!!!―

佐倉愛衣は連合艦標準艦載砲を自ら放ち密集していた3体の召喚魔を爆破して消滅させる。

「あの馬鹿ネギ!反応が消えたってどういう事よ!全くっ!む、邪魔よ!」

―アーニャ・フレイム・バスターッ!!!―

アーニャは箒に乗って何やらブツブツ言いながらも、咄嗟に箒を両手で掴み軽く逆立ち状態になったかと思えば、炎を纏った脚によるかなりアクロバットな蹴りを放って接近してきた小型召喚魔を倒す。

「愛衣、アーニャちゃん!そんな前に出ては危険よ!少し下がりなさい!」

―魔法の射手・連弾・火の57矢!!―

「お母さん!」

佐倉愛衣とその母とアーニャは共に箒で戦艦の周りを飛んで戦っていた。
その丁度反対側では綾瀬夕映とベアトリクス・モンローもアリアドネー戦乙女騎士団の甲冑を装備し、箒で空を飛びながら、魔法剣を懸命に振るっていた。

「ベアトリクス!」     「ユエさん!」

―雷撃武器強化!!―  ―氷結武器強化!!―

「これ以上こいつらを先に行かせる訳にはいかないです!」

「もちろんです!お嬢様達の為にも、先に行かれたネギ様達の為にも!」

「「はぁぁぁッ!!」」

2人の魔法騎士団候補生は雷と氷の属性魔法で強化を施し威力を底上げした魔法剣を振るい、接近する召喚魔を両断して消滅させる。
放出系魔法よりも武器強化の方が魔力の消費量も抑えられ、長時間戦闘に向いている。
一方、連合艦隊旗艦スヴァンフヴィートの甲板上で召喚魔を撃破していたのは風太郎・D・グッドマン、その姪の高音・D・グッドマン、そしてその父親の凛太郎・D・グッドマンであった。

「高畑殿達はどうしたというのだ!」

― 千の影槍!!! ―

「未だ反応はロストしたままだそうです!」

―百の影槍!!―

「今は彼らを信じてここを守る事に専念するしかあるまい!高音、そろそろ疲労が溜まってきた頃だろうがマズいと思ったら下がれ!」

― 千の影槍!!! ―

「分かっていますわ、お父様!」

「私が言えた義理では無いが、兄上も長らく戦いから離れていたならそろそろ休息を取られたほうがよかろう!」

― 千の影槍!!! ―

「何を抜かすかこの風来坊が!何のまだまだ!」

― 千の影槍!!! ―

連合艦隊旗艦スヴァンフヴィート、53隻の中では最もその船体は大きく、守りには多くの術者を要したが、とりわけ2人の千の影槍使いと、1人の百の影槍使いが放つ放射状に突き出す影槍によって、召喚魔は近づく事もままならずことごとく撃滅され、依然目立った損傷も無く健在そのものであった。
特に風太郎・D・グッドマンの千の影槍1本1本の威力は戦線に出ているグッドマン家の者達の中では最高であり、並の術者が3本の影槍をかけて倒すものも風太郎・D・グッドマンにかかればたった1本で安々倒すどころか、余裕で貫通し、その後ろに蠢く複数の召喚魔すらもまとめて撃破する事ができる程であった。
また、直接戦いに出ている者達だけではなく、戦艦内では戦闘による負傷者達の手当をすることで戦線を陰から維持している者達の姿もあった。

「このか!包帯持ってきたよ!」

春日美空は医療物資が置いてある部屋から包帯を抱えて近衛木乃香のいる救護室にココネと共にやってきた。

「分かったえ!美空ちゃん!そこに置いといてな!あ!それと新しいお湯貰ってきてくれへん?」

―治癒!!―

近衛木乃香はそれをパッと見て確認するもてきぱきと、戦闘で打撲や切り傷を負った者達の治療を行っていた。

「あいよー!このか了解!ココネ次行くよ!」

「うん」

春日美空は最初、戦闘に突入してからというもの、仲間達の異様な状況適応能力の高さにまたもや呆れ「付いていけねースよ」とぼやきながらもフレスヴェルグのデッキで茶々丸の近くで共にモニターを見つつ、一応シスターらしくそれなりに祈っていたのだったが、そんな暇そうな所を近衛木乃香に引っ張られ、成り行きで働く事になり、なんだかんだ意外と本人も状況に適応していたのだった。
また、エミリィ・セブンシープとコレット・ファランドールと言えば、混成艦隊の中ではかなり後方に展開している、セラス総長率いるアリアドネー魔法騎士団の戦艦の中で近衛木乃香達と同じように後方支援に回っていた。

《コレットさん!三番砲塔の魚雷残弾数はどうなっていますの!?》

《後5分もしたら尽きるかも!今から格納庫に補充の連絡を入れるよ!》

《こちらもそろそろ尽きそうですが、格納庫の在庫も残り少なくなって参りましたわね》

《でも、やるっきゃないよ!》

《当然ですわ!》

亜人種は紛れもなくリライトの餌食になるという現実から、直接戦闘に撃って出ることはできない為、この状況下、それでも今自分たちが出来ることを精一杯行っていた。
問題のロストしたネギ達の状況であったが、一切目を離さずフレスヴェルグ内デッキでモニターし続けていた茶々丸とドネットによって4時27分に反応が復活したのが確認された。

「リカード指揮官代行!ネギ先生達、小型強襲用艦の反応、復活しました!」

「恐らく空間系の術に閉じ込められていたようね」

「おおっ!」  「真か!」  「それはっ!」

その報告に同じデッキ内で働く者達は希望を取り戻したかのようなどよめきを上げる。

「あいつらやっと戻ってきたか!全員無事なのか!?」

「ここから確認する限りではネギ先生以外が倒れているようですが特に目立った外傷もなく全員無事のようです。先ほど現れた人物も姿がありません!」

『茶々丸さん!心配かけてすいません!時間をかなり喰ってしまったようなので急ぎます!皆さん起きてください!』

茶々丸による状況報告が行われてすぐ、ネギが通信を繋いで来る。

「眠らされてたみたいだが……一体何の罠に嵌ったんだぁ?」

『おお、ネギ達は無事じゃったか!』

『信じるしか無かったけれど、良かったわ。でも依然一切の予断は許さない事に変わり無いわ』

『ネギ先生、ご無事で何よりです。観測班の情報によると、墓守り人の宮殿上層部中間で左右に伸びる場所の先端に特に魔力が集中している模様です!』

『……分かりました!皆さんご心配おかけしました!ありがとうございます!』

そう言ってネギは時間が惜しいのか通信を切断した。

「あいつらに賭けるしかねぇが……にしても上層部の破壊は大正解だったんだな」

「以前は中層部最奥という情報があったようですが場所にズレがあったようですね」

「前大戦の時みてぇに突然高魔力源体が現れなけりゃいいんだが……」

「反転封印術式を実行するきっかけとなった現象ですね」

「だが今回はそれができるだけの数の戦艦もなけりゃこの場所じゃ位置的にも無理だ。状況はかなりマズい。だがまぁ、あいつら信じるしかねぇな」

「ネギ先生達ならきっと止めてみせる筈です」

「ええ……そう信じるしかないわ」

前大戦時は連合・帝国・アリアドネー混成艦隊の総数は今回の数倍が揃っており、墓守り人の宮殿を全方位から囲むことができたのであるが、今回それは絶望的であった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月11日、2時29分、墓守り人の宮殿上層大祭壇―

時間を遡ることおよそ2時間、ネギ達が墓守り人の宮殿のバリアーを予想外にも無理矢理突破し、破壊作戦を敢行するよりも少し前、丁度儀式の最終段階に入るまであと30分という頃、上層大祭壇にいたのはフェイト・アーウェルンクス、デュナミス、フェイトの部下4人であった。
デュナミスが何やら準備を終えた所フェイトが尋ねた。

「準備は終わったの?」

「うむ。後は姫君の力をお借りするのみ。テルティウム、後は任す。調、敵混成艦隊の状況はどうか?」

デュナミスは未だ新オスティアに近い空域に展開している連合・帝国・アリアドネーの混成艦隊の状況を調に確認する。

「混成艦隊は艦艇53隻。我が方50万の傀儡悪魔との兵力差は圧倒的。さらに真正の人間であるメガロセンブリア本国出身の兵士が少ないため、多くは我が方の造物主の掟装備の個体には為す術も無いでしょう。混成艦隊はもう間もなく傀儡悪魔と接敵しますが、一隻小型の艦艇が先ほど先行を始め猛スピードでこちらに接近しています」

「ふむ。こちらはほぼ順調という訳だ。その一隻の小型艦が恐らく例の奴らだと思われるがそれさえ無力化できれば問題ないだろう。墓守り人の宮殿全体の強固なバリアーを抜くことすら叶わぬかもしれぬがな」

「上か下からなら入って来られるだろうから油断はできないよ」

「フ……それでも迎撃兵器を前に虚しく下層以外には行き場もなかろう。しかしやはり例の少年の無力化ができなかったのは痛手だな」

「重要な事だったけど……彼の状況から言って次で確実に終わる。脅威ではあるけどリスクが高すぎるあの技法はもう早々使えはしないよ。あの時点では貴方も……さほど重視していなかったろう」

「しかし、来るとなれば排除せねばならん」

「なら、お好きに」

「良いのか?貴様はかの少年に少なからぬ執着を見せていたと思うが」

「……別に。あなたの好きにしたらいいさ、僕はすぐに仕上げに取り掛かるよ」

「それでは我自ら下に降りて出迎えよう……」

「「「デュナミス様!私達もお供致します!」」」

「……好きにするが良い」

そう言ってデュナミスは中層部に移動を開始しようとその場をフェイトの部下3人と共に場を後にした丁度その時、彼らの予想だにしない事態が起きた。

「先行する小型艦、最も分厚いバリアーの周囲を旋回して時間を潰していまっ!なっ!直接バリアーに突撃!?」

「馬鹿な事を……大破するよ」

フェイトはその報告にモニターを特に見ず、呆れた顔をして言う。

「いえ!突破!モニターをご覧下さ!?攻撃!?キャァァッ!!」

バリアーを突破したばかりの小型強襲用艦から放たれた対空魚雷群と天の雷によって墓守り人の宮殿上層部に強烈な衝撃が走り、激しく揺れ始める。

「まさか分かっていて使うというのか!?愚かな!」

フェイトはまさかネギが太陽道を、しかもこのタイミングで使うとは考えておらず、常の無表情を崩し驚愕する。
実際テロ攻撃に近い事をネギが行うとは思っていなかった理由に、フェイトはネギの太陽道を、大拳闘大会と自身との戦闘において2度見て、一度発動すれば途中で解除出来ないものと考えていた故の失念であった。

「このままでは、倒壊する可能性がっ!」

「たしかにここが倒されれば儀式は……っ!」

            ― 絶 対 防 護 !!!!―

瞬間、突如激しい衝撃が止む。

「収まった!?あ、あれは!ぼ、墓所の主様!す、凄い!」

フードを被って表情は見えない小柄な人物、墓所の主が、造物主の掟を用いながら両手で強固かつ大規模な障壁を展開し、天の雷と対空魚雷の集中砲火の爆心地で完全に守りきっている姿が、爆煙の中、モニターにかすかに映る。

「あの人か……へえ……あれを防げるのか……」

フェイトは墓所の主が動いた事にもやや驚いたが、寧ろネギの攻撃を防いでいる事の方がより驚く事のようであった。
そして間もなく天の雷の照射が終わり、小型強襲用艦が迎撃兵器をやりすごしながら無理矢理近場の中層部に着艦を試みだす。

「敵小型艦!中層部に着艦する模様です!し、しかしこのままではやはり倒壊……!?」

[[落ち着くのじゃ。倒れさせぬ]]

墓所の主が全体に聞こえるような言葉を発し、未だ朦々と上がる煙に包まれる中、上層部中間地点で強大な力場を展開し倒壊し始めた上層部そのものの位置を元の座標へと戻し、更に維持し始めた。

「一体何事だ!」

「「「フェイト様!!」」」

「何ですの~?」

大祭殿を後にしたばかりのデュナミスとフェイトの部下3人と今まで辺りをふらついていた月詠までが状況を確認しに現れる。

「彼らが墓守り人の宮殿の破壊攻撃を仕掛けてきたんだよ」

「何だと!バリアーはどうやって抜けた!」

「い、異常な魔力で艦そのものを覆い無理矢理突破されました」

「どうやらあの技は任意で解除もできたようだね……。意外と自由が効くのか……それとも改良したのか。何にしてもやられた」

「やはり前回潰しておけばっ……!!」

「敵、中層部に着艦しました!」

「む!なれば、我が向かおう!」

[[まだ手を出すな。私の旧知の者を呼んだ。間もなく来る]]

「何だと?」

デュナミスが墓所の主の思わぬ発言に怪訝な顔をして疑問を呈する。

「敵、続けて中層部居住区の壁を次々破壊していきます!」

「おのれ奴ら……好き勝手しおって……!む、あれはクルト・ゲーデルに高畑・T・タカミチ!!ぐぬぬ、忌々しい!!」

デュナミスはクルトと高畑の姿を確認し恨みを募らせる。

[[……我が神聖なる墓所を荒らす者に永遠の眠りを]]

「ぼ、墓所の主様怒ってるような……」

「し……しかし墓所の主様は一体……」

暦と焔にとって未だ詳細不明の墓所の主が発言するだけでも珍しいというのに、何やら怒っているというのに思わず言葉を漏らす。

「な、謎の人物が現れました!」

「それが墓所の主様のお知り合い!?」

「モニターに出しますか?フェイト様?」

「どうぞ」

フェイトは軽く肯定し、調はモニターに謎の人物の映像を出す。

「ふぅむ。見覚えがないですね……」

暦がその人物を見て呟く。

「おぉお!」

無口な環が珍しく驚きの声を上げたが、謎の人物、ザジの姉が丁度クルト達4人の動きを空中に拘束した所であった。

「つ、強い!」

「……ん……知らぬな」

「僕も知らないね」

デュナミスとフェイトもザジの姉は知らないと言う。

「あ!き、消えた!?」

モニターから小型強襲艦もろともネギ達とザジの姉が消失する。

「敵一行、謎の人物との戦闘の末小型艦ごと反応が掻き消えました!」

「空間系か……」

[[……2度とこのような不測の事態が起きない限りあれで奴らは終わりじゃ。デュナミスよ、4、5、6の稼働はどうなっておるか]]

「む……貴様に言われずとも既に済ませた。儀式の30分前には稼働する」

「4、5、6を……?さっきのはそれか……」

フェイトはその発言に余り良い表情をしない。

[[30分……ならぬ。その稼働、早めよ。奴らは危険じゃ。確実に止めねばならぬ]]

「ふん……貴様に命令されるのは癪だが、奴らがいないのならばする事も無し。いいだろう。奴らは油断できぬからな」

[[テルティウム、最終段階に入り次第すぐに彼の復活も行うのじゃ。今奴らがいないこの時こそ好機]]

「……構わないよ。あなたはてっきり黙ってみているだけかと思ったけど……それにしてもそのまま維持を任せていいのかい?あなたの役目というのも……」

[[私の事は案ずるな。役目を果たせ]]

「……ならいいけど」

フェイト、デュナミス、墓所の主の会話を聞いていた、フェイトの部下4人と月詠は途中から何のことやらわからない、という体であったが、墓所の主の言葉でその場は一先ず収まった。
そして3時になりフェイトが儀式の最終段階を始め、デュナミスも墓所の主に言われた通り作業を早めるよう動き出したのだった。
彼らにとって作業を急ぐのは保険でしかなかったが、墓所の主が恐れていた不測の事態は、4時27分……起こるべくして起きた。

「!!侵入者再探知!先程の場所から動いていません!映像回復します!」

調が偽物の麻帆良学園の空間から墓守り人の宮殿中層部の一角にネギ達が戻ってきた事を報告する。

「彼らは戻ってきたか……」

それまでつまらなさそうな雰囲気を醸し出していたフェイトであったがまた少し興味を取り戻したような表情をして言う。

「ぬ……まだ稼働にはしばし時間がかかる……」

[[ネギ・スプリングフィールド……まさか本当にレプリカとはいえ完全なる世界から脱出したというのか……?]]

「墓所の主様のお知り合いの姿はありません!」

[[何……?何があった……まさか倒されたというのか……?]]

墓所の主の姿は大祭壇には無いが、ザジの姉の姿がネギ達の所に見えない事にかなり動揺した様子であった。

「……今度こそ我自ら出でようぞ!!あ奴らを止めねば悲願の成就もまた夢の幻!!小娘共も付いてくるなら好きにしろ」

「「「ハッ!デュナミス様!」」」

「ようやっと刹那センパイと戦えますぅー。デュナミスはん、ウチも行きますえ」

月詠は会う前から恍惚とした表情を浮かべながらデュナミスに言う。

「来るなら来い。貴様のような者の力にも頼らざるを得ないのが我らの現状だ」

「それはもう。お給料分は働かせてもらいますえ」

「暦、環、焔、気をつけてね」

「「「は、はい!フェイト様!必ずや使命果たしてみせます!」」」

フェイトに気遣われたことで3人は少し顔を赤らめながらもやる気を見せる。
……そしてデュナミスとフェイトの部下3人と月詠は、依然作業を続けているフェイトと調、そして既に力場を2時間維持している墓所の主を残し、ネギ達に相見えようと大祭壇を後にしたのであった。



[21907] 59話 戦闘開始(魔法世界編19)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/01/12 00:29
―10月11日、4時29分、墓守り人の宮殿中層部、小型強襲用艦着艦地点、儀式完了迄1時間31分―

ネギは1人起きた状態で偽物の麻帆良学園からザジの姉の解放により脱出し、茶々丸達に連絡を一旦入れ、進むべき場所を知った後すぐに他の仲間達を起こしにかかった。
何やら皆寝ぼけていた所、1人1人揺する事で全員を起こし、今まで見ていた夢というのが完全なる世界の正体だというのをネギは軽く説明した……のだが。

「ん~死んだジジババと里でのんびり過ごしてしまったでござるよ」

長瀬楓は実際心地良かったと一言。

「「…………」」

古菲と桜咲刹那は黙ってプルプルと震えていた。

「なるほど。あれが、完全なる世界。恐ろしい術だな。……幸せという麻薬はいかなる脅迫にも拷問にも勝る。古、刹那、何を顔を赤くして震えている」

「な、何でもないアル!」

「何でもありません!」

「……何や修行しとる所は俺あんま変わらんかったな。ただ家族がおったのは驚いたで……俺覚えとらん筈なんやけどな」

「家族か……僕もそうだったよ」

因みに長瀬楓の天狗之隠蓑の中に入っているままの宮崎のどかも大体反応は桜咲刹那と古菲と同じであった。

「「「………………」」」

しかし、高畑、クルトは何やら思い出すだけで涙を流すようなギャップがあったらしく、一方で葛葉は思い出すだけでイライラとする様子であり、ネギはうまく声がかけられなかった所、高畑が気を取りなおし、ネギに尋ねた。

「ネギ君、あのザジ君は一体どうなったんだい?」

「う……うん……詳しいことは全部終わってからだよ。とりあえずさっきのザジさんはザジさんのお姉さんだったんだ。僕はあの完全なる世界という夢の中でザジさんに協力してもらったお陰であそこから脱出しできて、ザジさんのお姉さんにもなんとか手を引いてもらえる事になったんだ」

「ザジ君のお姉さん……だったのかい」

「ザジに姉がいたとはな……まあザジは元々一般人でないというのは怪しさからほぼ分かりきっていた事だったが」

龍宮真名は元々ザジが怪しいと前から思っていた。

「全く……とんだモノを見せられました……ッ!」

「くっ……どうあってもあんな都合の良いものを現実として受け入れる訳には行きません。それを皆に同意をとるでもなく勝手に提供しようという形で押し付けようとする等もってのほか。……何はともあれ、今はそれどころではありません。我々がここに到着してから2時間も時間を取られました」

「はい、感傷にひたっている場合ではありません。先ほど通信を受けた結果墓守り人の宮殿上層部、左右に分かれている場所の先端が怪しいそうです。ザジさんのお姉さんは既に儀式は始まって時間も残り少ないと言っていました。もう時間は無駄にできません」

「2時間も潰されたら無理もないでござるな……」

「よし、ならいつまでもここにいられない。先を急ごう。戦力を分散させるのは碌な事にならないだろう。小型強襲用艦はここに置いていくよ」

「うん、そうだね、タカミチ。じゃあ、くーふぇさんがさっき開けてくれた道から中央部に向かおう。さっき破壊した上層部内部に入り込むにしても外壁を伝うにしても最後には飛行して進むしか無いから、迎撃兵器が角度的にやり過ごせる距離まで進まないと」

「では皆さん、先頭は我々3人で行きますので」

「え?」

「え?じゃありません!行きますよ!」

そして高畑、葛葉、クルトはさっさと先陣を切り始める。

「あ、は、はいっ!皆さん行きましょう!」

「参りましょう!」 「行くで!」 「行くアル!」 「進むでござる!」

ネギはクルトと葛葉の発言に一瞬呆けるがすぐにその後を追い、残りの者もそれに続き道を駆け抜け始める。
途中外にむき出しになっている場所に出た際にすかさず迎撃兵器から針が飛んで来たり、中層部を闊歩する大小自動人形、造物主の掟簡易タイプ持ちの召喚魔が行く手を阻んだりするも、それらはほぼ先頭を行く高畑、葛葉、クルトという魔法と関係無いもので戦う3人の手によって早急に処理された。
古菲が開けた穴が終点を迎える度に再び神珍鉄自在根で無理矢理道を作り、進む事を繰り返していった。
ようやく中央部付近、破壊した上層部が依然維持されたまま、ほぼ真上と言っても良い角度で斜め上に見える位置に着いた時、時刻は4時51分、途中戦闘もあるものの、かなり急いで進んでいたにも関わらず中層部端から中央部まで移動するだけで十数分かかるというのはいかに墓守り人の宮殿が広いのかというのをネギ達は実感せずにはいられなかった。
更に進んだ中央部、床は魚雷の影響でズタズタ、本命の上層部は、扉はおろか階段どころか外壁そのものが6割超ごっそり無くなっており、上に見える上層部に入り込むためには浮遊術であがるか長瀬楓の長距離瞬動で真上に飛び上がるか、用意した浮術場魔方陣発動指輪での移動を繰り返すかという方法があり得た。
そこで何も障害がなければそのままネギ達上層部へ上がったのだが、そこには気配を一切隠す事無く、悠然と待ち構えていた者達の姿があった。

「ようこそ諸君。良くぞ来た……と言いたいところだが、貴様らをこれ以上先に通す訳には行かぬ。ここで引導を渡してくれるわ!」

「これ以上先には行かせないです!」

「通さない」

「私達が相手だ!」

「ウフフ……センパイ、この前の続き、ウチとして貰いますえ」

デュナミス、暦、環、焔、月詠の5名。
実際の所戦力差では9対5と圧倒的にネギ達が優勢であった。
対峙する互いの間の距離はおよそ20mと言った所。

「話し合いでどうこうする必要もありません、さっさと先を通させて貰いましょう」

「悪いが、どうあっても通させてもらおう」

「月詠ッ……貴様どこまでも……ここでその歪みきった心、その身体ごと成敗してくれます」

ネギ達の先頭に立つのはやはり大人3人。

「葛葉先生、月詠の相手は私が。先生方はあのデュナミスという人物を」

桜咲刹那が葛葉の発言に割り込みをかける。

「あ~ん、センパイもウチと斬り合いたいんですねぇー?嬉しいですぅー」

「黙れ……その口2度と叩かせるものか」

桜咲刹那は月詠の相変わらず抜けていながらも狂気に満ちた言葉に、一層毅然とした雰囲気を醸しだしてキツく返答するが、この時点でほぼ月詠と桜咲刹那が戦闘に縺れ込むのは誰の目にも明らかであった。
そこへ、クルトは持っていないがネギが端末による通信を始める。
念話では即時盗聴されるおそれがあるので、止むを得ない。
因みに、ここにいる者で小太郎と宮崎のどかは以前端末を失ったが、今回の作戦に際して春日美空、ココネの分を予め2人に回している。

《彼女達はアスナさんを攫った時の事を考えると、なんらかの強力な魔法具、空間、時間操作系の物を持っている可能性があります。気を付けてください》

《分かっているネギ先生、2度とあの閉鎖空間は使わせない。何か使おうとすればすぐに止める》

そう答えながら龍宮真名は銃をいつでも使える体勢に入る。

《あの粉塵を起こす者は今回おらぬからして、フェイトの部下3名の相手はそれさえ気をつければ容易いでござる》

《あの炎になる目付き悪いのは少し面倒アルよ》

《一番はあのデュナミスっちゅう奴が問題や。ネギが言った事からすればあいつも普通は致命傷でも倒せん可能性が高いで》

《まずは一度造物主の掟を使う所を抑えないと駄目だと思う》

《分かった。少女達の方は楓君達に任せるよ。ただ、奴は本当かどうかは怪しいが僕達人間を殺すことは出来ないと言っていた。だから、少なくとも少女達にはそれなりの配慮は頼むよ》

《任せるでござる》   《任せるアル!》   《仕方ないな》

《刹那が月詠の相手をするのは避けられそうにありませんが、私と総督でデュナミスとやらの例の障壁を無視します。では……参ります!》

葛葉の宣言を皮切りにして、とうとう完全なる世界との戦いの火蓋は切って落とされた。
月詠と桜咲刹那の2人は、桜咲刹那が仕方無しに誘う形で一気にその場をあさっての方向に移動することで月詠との一対一になり、長瀬楓、古菲と龍宮真名は暦、環と焔に速攻をかけに、ネギ、小太郎、高畑、葛葉、クルトの5名はデュナミスに完全に標的を絞るべく動いた。
デュナミスに向かう5名は左右に散開し、デュナミスの前に並ぶ暦、環、焔を無視して左右後方背後を囲みに回り、それを阻止しようと暦、環、焔の3名が一瞬遅れて動こうとする所を、同時に突撃していた長瀬楓、古菲、龍宮真名が遮り交戦状態に入った。

「環!」

暦の掛け声と共に環がアーティファクトを発動させようとする。

―時の回―     ―無限抱―

「遅いッ!!」

しかし、仕事人としてプロの龍宮真名の本気の二丁拳銃の早撃ちによって砂時計の形を持つ時の回廊は発動前に撃ちぬかれ、環の無限抱擁は身体全体から発動させるものであるが、動きを見せた途端に弾丸を両腕に喰らいそのショックで2人共発動をキャンセルさせられる。

「みぎゃ!」      「うぐっ!」

2人もやられるだけではなく、瞬間次の行動に出ようと動く。

  ―豹族獣―      ―竜族竜―

―爆裂螺旋勁!!!―  ―楓忍法!!四身分身朧十字!!!―

「!!」          「!?」

しかし、銃撃に間髪おかず、獣化と竜化が行われ面倒な事になる前に、暦は古菲の拳が一瞬めり込んだ後吹き飛び、環は長瀬楓が分身を出現させ四方から強烈な掌底を速攻で叩き込み、声も上げられずにその場で崩れ落ちる。
いくらまだ潜在能力があろうと、先に気絶させてしまえば、それも意味をもたない。

「おのれッ!!」

―炎精霊化!!! 火力最大!!!―

その一瞬の出来事に焔は激昂し、己の身体を炎の精霊と化しその火力を最大に上げて古菲と長瀬楓にお返しとばかりに業火を放つ。

「生憎特殊弾丸でね」

  ―異空弾倉!!―
―装填・対魔特殊弾丸!!!―

しかし、幾多の戦場での経験がある龍宮真名にとって焔のその単純な行動は愚かとしか言いようがなく、予めフェイトの部下に炎と化して実体を無くする能力者がいるという情報から龍宮真名は異空間に特殊弾丸を用意していたのだ。
高畑からの注意により急所は外されるものの、精霊化していても効果を持つ弾丸は焔の四肢、肩に、また胴体で致命傷とならない部位を一切の容赦無く一瞬にして十数箇所も穿つ。

「な……あ……ぁ……」

古菲、長瀬楓を襲おうかという炎は消滅、焔自身も精霊化での物理攻撃無視という効果を無視され、そのダメージによって元の身体に戻りその場に崩れ落ちる。
実際古菲1人だけでも暦と環の相手はできたであろう上に、物理攻撃が効かない筈の焔も龍宮真名に抑えられた上に長瀬楓までいるとなればもののわずかな間に決着がつくのは自明の事であった。
問題はデュナミスであり、すぐに長瀬楓の分身はその場に倒れた環と焔を古菲が吹き飛ばした暦の元に、戦闘に巻き込まれないよう運び出した。
たったこの数秒の間にデュナミスとネギ達5人は激戦を既に繰り広げたかと言えば、そうではなく、一定距離を置き包囲しての睨み合いしか行われていなかった。
というのも、ネギ達としては暦、環、焔は一瞬で無力化できるだろうと踏んでいた事が一つの大きな理由であった。
気がつけば暦、環、焔の3人があっさりやられ、長瀬楓、古菲、龍宮真名もデュナミスの相手に回れる事になり、その戦力差は8対1となる。
8対1という一見圧倒的な状況であるが、確実に障壁を破壊し尽くす攻撃ができるのはネギの太陽道、障壁を無視できるのは葛葉とクルトの弐の太刀のみであり人数が多ければ良いという問題ではなかった。
もちろんデュナミスもそれを当然分かっているからこその囲まれていても尚この余裕である。

「フハハ!流石、真っ向からではあの小娘共は僅かな足止めにもならんか。ならば……ふんッ!」

デュナミスは例によって被っていたローブを粉砕して第二形態に即座に変化し、その存在感を顕にする。
その瞬間であった。

                  ―豪殺居合い拳!!!―

「でやッ!」―咸卦・白狼影槍!!!―         ―投擲・双腕・断罪の剣!!!―「はぁッ!」

   「今ッ!」            「ぬんッ!!!」        「ハッ!」
―斬魔剣弐の太刀!!!―       ― 千の闇槍!!! ―     ―斬魔剣弐の太刀!!!―

     ―苦無手裏剣!!!―                 ―障壁解除弾!!!―

高畑は既に空中に魔方陣を構築し立っていた所から斜め下に見えるデュナミスに向けて無音拳を、小太郎とネギも遠距離から白い槍と断罪の剣を飛ばし、葛葉とクルトは弐の太刀を、長瀬楓は気を纏わせた苦無を、龍宮真名は一般的な障壁なら解除できる弾丸をほぼ同時に放つ。
対してデュナミスは背中から闇の魔素で編んだグッドマン家の技と見た目はほぼ同じ闇槍を大量に放ち応戦、更にそれだけでは済まなかった。

                 ―虚空影拳貫手二十殺!!!!―

葛葉とクルトが弐の太刀を放つ瞬間にデュナミスは20本の巨大な太い腕を闇の魔素で構築し、それをわざと切らせ、それらの腕を空間転移魔法で操り、脅威の空間跳躍パンチとして更なる反撃をして来たのである。
デュナミスの槍はクルトと葛葉以外の攻撃でほぼ相殺されたが、この部位を切り離しての攻撃はネギ達の意表をついた。
空間のどこから跳躍して来てもおかしくないこの攻撃は死角を狙うのにはあまりにも適していたのである。

                    「くッ!」

        「分身!!」             ―魔法領域展開!!―「空間跳躍!?」

「なッ!?」―百烈桜華斬!!!―         ―即時対物対魔守護円陣!!!―「そんな技がッ!」

    「下がれ古!分身!!」             「チッ!」

高畑は死角からも飛んでくる空間跳躍パンチといえど、操作可能範囲があると見て即座に後方に虚空瞬動をかけ後方に退避、もともと無音拳を極めるにあたり動体視力は非常に高いため空間跳躍パンチを無音拳で捌きつつやりすごした。
小太郎は咄嗟に分身を肉壁として防御に出し、ネギは魔法領域、クルトも大きく後ろに後退して片膝を地面に付き強固な半球状の障壁を展開して防御、葛葉も同様に後退して自己の周囲をまとめて薙ぎ払う技で応戦するが、弐の太刀を脅威と判断された事で集中攻撃され一撃を浴びた。
古菲は長瀬楓が後方に大きく突き飛ばし、本人も小太郎と同じく分身を盾に、龍宮真名は己の魔眼で見切ったが、この3人に転移攻撃はいかなかった。
殆どがクルトと葛葉に集中、残りが高畑、ネギと小太郎だったのである。
その転移攻撃の嵐が収まり飛んでいた腕群が一旦地に落ちた時である。

「ぐっ……ごふっ……」

葛葉は一撃を貰った事で思わず左手で口を抑え吐血しながらよろめくも……まだ倒れはしなかった。

「「「「葛葉先生ッ!!」」」」

「まだ……ですッ」

まだ目の前のデュナミスを倒してすらいないのにここで倒れる訳にはいかないと葛葉は痛みを堪え、集中して気を取り直した。
実際いくら敵の腕を一撃で斬り落とす事ができる程の高い破壊性能を持つ攻撃ができるからといって自身の防御力もそれに比例して高い訳ではない。
その両方を異常な水準で兼ね備え、最強無敵として君臨したジャック・ラカンのような人物は、早々おりはしないのだ。
それ故、敵の攻撃とは被弾するだけで重大な損害となるリスクを常にはらんでいる。

「ふむ、刺突にすれば良かったか。殺さないようしなくてはならぬとはいえ加減が難しい。しかし……1対8とはいささか卑怯であろう……なあ?」

今のデュナミスの空間跳躍パンチは拳であったため爪による刺突パンチよりも威力は低く、そう言いながらデュナミスは現状を卑怯だとわざとどこかに語りかけるように漏らした。

「卑怯も何も無い!」            「元より正々堂々等とは毛頭ッ!」
   ―斬魔剣弐の―               ―斬魔剣弐の―

   「――ッ!」               「ぐあァッ!」

瞬間、葛葉がどこからともなく現れた大質量の水に囚われ溺れ始め、クルトは不意に強烈な電撃を浴び、その衝撃で錐揉みしながら吹き飛び、勢いを失った所でそのまま地に倒れ伏す。
2人が言葉を返すとほぼ同時に弐の太刀を振るおうとした、その時であった。

「クルトッ!」    「総督ッ!」   「葛葉先生ッ!」    「葛葉先生ッ!」    「何だッ!?」

残りの者達は突然の事に驚きの声を上げる。

     ―リロケート―                       ―リロケート―                     ―リロケート―
―ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト―           ―ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト―           ―ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト―
  ―契約により 我に従え―                ―契約により 我に従え―                ―契約により 我に従え―
  ―炎の精霊 集い来たりて―               ―雷の精霊 集い来たりて―              ―氷の精霊 集い来たりて―
      ―紅蓮蜂!!―                        ―白雷閃!!―                      ―雹散花!!―

突如、中空に現れた3名が高速詠唱し同時に左腕を振りかざした瞬間、炎を纏った大量の蜂、雷撃の雨、小さな花の形を模してはいるが弾丸のような雹がネギ達に次々爆撃のように降り注ぐ。

「フ……来たか」

デュナミスは一瞬勝ち誇った笑みを浮かべる。

                 「新手かッ!」
               ― 千条閃鏃無音拳!!! ―

  「3人やと!!」                     「フェイトッ!?」
―咸卦・疾空白狼閃!!!―                ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
                            ―光の精霊499柱 集い来たりて 敵を射て―
                             ―魔法の射手 連弾・光の499矢!!― 

―楓忍法・天覆縛鎖爆炎陣!!!―
    「防ぐ!分身!」                 「割りに合わんなッ!」

                 ―神珍鉄自在棍!!!―
                  「ズルいアル!」

葛葉とクルトを欠いた状態でネギ達はその攻撃をそれぞれ迎撃し、防ぎ切る。
龍宮真名は咄嗟に胸元から取り出したマシンガンを連射、長瀬楓は起爆札を取り付けた鎖を渦巻くように中空に投げてすぐさま爆破して応戦しつつ、その隙に水牢に囚われている葛葉を救出、クルトも回収しに分身を瞬動で飛ばす。

「葛葉先生ッ!!」―甲賀崩天気功掌!!!―

長瀬楓の分身は掌に巨大な気弾を作り出しそれを水牢に叩きつけて破壊する。
当たった瞬間水牢は解け、葛葉は口から水を吐き出し呼吸を取り戻す。

「ご……ごはッ!……たっ……助かりました。長瀬楓」

「当然でござる」

一方クルトの回収に向かった分身はクルトを肩に担ぎ一旦その場から長距離瞬動で離れ、移動先付近の建物に退避していた。
弾丸の打ち合いともいえる応酬が終了した所で、新手3名は三角形の頂点を頂く位置に滞空したままそれぞれ同時に言葉を発する。

                    「クウァルトゥム。火のアーウェルンクスを拝命」


「クウィントゥム。風のアーウェルンクスを拝命」            「セクストゥム。水のアーウェルンクスを拝命」

火を司る4、クウァルトゥムは己の背後を炎で覆い、両手を仰々しく戯曲的に胸元辺りで構え、髪の全体も燃え上がるように凶暴で荒々しい印象、風を司る5、クウィントゥムは髪の毛全体が雷で帯電しており、無口な印象、水を司る6、セクストゥムは女性型で両腕を後ろの腰で組み、一切揺れのない水面のように落ち着いた印象があった。

「フハハハ!急ぎ鍵の力を用い3体の稼働も間に合ったようだ。いやはや保険はかけておくものだな!」

8対4と未だネギ達の方が人数は多いが、単純な数での問題ではなく、戦力的にはこの瞬間形成は完全に逆転していた。

  ―リロケート―      ―リロケート―      ―リロケート―

クウァルトゥム、クウィントゥム、セクストゥムの3名は虚空から造物主の掟を取り出してデュナミスの元に転移し、その場で片膝をつく。

「参上した、我が主」   「見参致した、我が主」   「推参しました、我が主」

「良くぞ来た。クウァルトゥム、クウィントゥム、セクストゥム。目覚めさせたのは私だが私はそなたらの主ではない。我らの主は彼ただ一人のみ」

「「「はっ!」」」

「して、目を覚まして最初はあの弱そうな者達の処理をすれば良いので?」

クウァルトゥムが目障りそうにネギ達を一瞥してデュナミスに尋ねる。

「あ奴らは人間だ。人間の殺害はならぬ。無力化してから処理せよ。クウァルトゥム、クウィントゥム、セクストゥム」

「……了解した」

「承りました」

「……殺害不可?……くだらない決まりだね。まあカタチがどうなろうと魂が残っていればいいのでしょう?送れるなら」

クウィントゥムとセクストゥムは即座に了承するが、クウァルトゥムは人間の殺害不可という事に酷く表情を歪めながら答える。

「……過度に抵抗するならそれもやむを得んな」

デュナミスは白い仮面を被っているため特に表情に変化は見られはしないものの、一瞬間を置いて許可をする。

「なら話は早い。手早く済まそう。せいぜい消し炭にならないでくれると助かるね」

「排除しよう」

「降伏するなら今のうちです」

確認が終わった所で3人は後ろを振り返りながら再び空中に飛び上がり詠唱を開始する。

  ―ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト―           ―ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト―           ―ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト―
     ―九つの鍵を開きて―                 ―四つの秘宝を解き放ちて―               ―九つの冥界を統べ―
―レーギャルンの筺より 出で来たれ―          ―ルーの御力より 出で来たれ―          ―エーリューズニルより 出で来たれ―
    ―燃え盛る炎の神剣―                  ―轟き渡る雷の神槍―                 ―澄み渡る水の神弓―

クウァルトゥムは身長の数倍はあろうかという燃え滾る巨大な剣を、クウィントゥムは同じく身長の数倍はあろうかという白く輝く稲妻を纏う巨大な槍を、セクストゥムは身の丈と同じ程の透き通った水でできた弓を召喚した。
しかし、その直前、その場から離脱した者達がいた。

―我流犬上流獣化奥義 大神・狗音白影装!!!!―

小太郎が自らの身体をみるみる形態変化させ、白く輝く狼になる。

「ネギッ!」   「コタローッ!」

―契約続行 追加300秒間!! ネギの従者 犬上小太郎!!―
     ―魔法領域展開 出力最大!!!―

小太郎は最高速でネギの元に向かいその背にネギを乗せ上層部の内部からでは無く、外部を壁伝いに空を駆け抜け、墓守り人の宮殿の宮殿上層部中層の問題の場所を一路目指して突き抜けていったのである。
こうなった経緯はと言えば、クウァルトゥム、クウィントゥム、セクストゥムの3人が名乗りを上げてすぐに行われた通信に遡る。

《ネギ君、コタロー君、2人共先に行くんだ!時間が限られている今、明らかな新手、それも強敵が現れたとなっては各個撃破して進んでいる場合ではない》

《タカミチ!?》

《高畑先生!?》

《そ……そうです。奴らが話している間に先を急ぎなさい。ネギ先生と最も相性が良いのは犬上小太郎、あなたです》

《先生達の言うとおりでござる。奴らは拙者達人間の殺害はやはり禁止されておるようだ。多少の怪我はあっても死にはせぬ》

《ネギ先生、コタロー君、先を急ぐんだ。ここにいても無駄に消耗するだけ。私も本気を出すから後のことは考えず先を進め》

《ネギ坊主、コタロ、私達はそう簡単にはやられはしないアルよ!》

《ネギ!ここでアレ使う訳にもいかん!先生と姉ちゃん達信じるしかないで!》

《くっ……わ、分かりました。アスナさんと最後の鍵の確保を優先します。行こう、コタロー!》

《おうっ!》

こうしてネギと小太郎は残り6人を残し、先を急ぐべくその場から離脱したのであった。

「小癪な!行かせはせぬぞ!」

           ―虚空影爪貫手八殺!!!―

「みすみす逃がすとでも?」     「…………」     「お待ちなさい」

  ―紅蓮蜂!!―           ―白雷閃!!―      ―雹散花!!―

上層部に向けて離脱した2人に対し、デュナミスは切り落とされて地に落ちていた腕を再び転移させ空間跳躍刺突攻撃を、クウァルトゥム、クウィントゥム、セクストゥムはそれぞれ無詠唱で先ほどと同じ魔法を放つ。
空中にネギ達を包囲するように8本の腕が現れ魔法領域にそれぞれ別方向から突貫し、真下からは3属性の集中砲火が迫り来る。

       「くッ!」―短縮術式「双腕」封印!!―
              ―双腕・断罪の剣!!―
   「邪魔やッ!」―双腕解放!!大神・断罪の爪!!!
            ―ラス・テル・マ・スキル・マギステルー
        ―光の精霊1001柱 集い来たりて 敵を射て―
          ―魔法の射手 連弾・光の1001矢!!―

ネギと小太郎はそれぞれ断罪の剣を思いっきり振りかざし、行く手を阻む闇の魔素でできたデュナミスの腕を消滅させ、真下から迫る砲火に対しては大量の魔法の射手を放ってその攻撃を相殺し、相殺しきれなかったものに関しては魔法領域での防御で切り抜ける。
その後デュナミス達の攻撃が止んだのは高畑達が彼らに必死に攻撃をしかけ注意を引いたからである。
当然ながら、残った6人の戦況はといえば芳しく無かった。
その中でネギと小太郎が去ったと同時に、自らに眠る力を呼び覚まさせた人物がいた。
左目を最初に光らせたと思えば、自らの身体から魔力を迸らせ、黒い髪色はみるみる白銀色に光りながら変化し、背中には漆黒の翼が顕現する。

「全解放は5年ぶりだが……。こいつら相手なら不足はあるまい」

「真名……その姿は……」

既に本気になり両目を開眼していた長瀬楓がその姿を横目に見て、更に目を見開いて呟く。

「ああ、半魔族さ。自分で言うが結構強いぞ」

「ははは、ひ弱な小娘が多いかと思えば意外と骨のある奴もいるみたいじゃないか。逃げた小僧を追いかけてもいいが、先に貴様を送ってからとしよう!」

「そう簡単にはやられはしないさ」

龍宮真名の変化した姿を見てクウァルトゥムは自身に纏う炎の勢いを増し、燃え盛る炎の神剣を担ぎ、中空から勢いをつけて高速で接近し焼き斬りにかかった。
しかし、それを甘んじて受ける筈もなく、龍宮真名は誘うように牽制射撃をしながら翼での浮遊術で後方に下がり、1対1に持ち込んだ。

「真名!」

それを見た古菲は思わず声を上げるが、よそ見をしている場合ではなかった。

「よそ見をしていると怪我しますよ」

         ―凍て貫く氷矢!!!―

セクストゥムは容赦なく中空から、かなり後方に下がっていた古菲に向けて澄み渡る水の神弓を引き絞り、驚異的な速度で槍と言っても過言では無い長さの鋭い氷矢を放つ。

「させぬッ!ぐっ!」

「楓ッ!?」

咄嗟に長瀬楓が氷矢の斜線軸上に飛び出しその身を挺して防ごうとするが、氷矢はその身体をも容易く貫通し、古菲にもつき刺さろうかとしたが、長瀬楓が作った一瞬の間のお陰で、古菲は避ける事ができた。

「分身でござるよ」

その一撃で長瀬楓の分身は消滅する。

「あなたの相手は……私がしますッ!」―斬魔剣弐の太刀!!!―

矢を放ったセクストゥムに対し、未だ吐血している葛葉が遠距離から弐の太刀を振るいその片腕を斬り落とす。

「!……私の身体に傷をつけるとは……身の程を知りなさい。しかし私は水のアーウェルンクス。この程度何の意味も持ちません」

         ―完全再生!!!―

常に落ち着いているかに見えたセクストゥムは腕を切り落とされた瞬間言い知れないプレッシャーを葛葉に顔を向けながら放つが、それと並行して水を用いた高度な治癒魔法を使用し、造物主の掟によるリロードを使わずして、みるみるうちに腕の完全再生をして元通りになる。

「……人体再生治癒魔法ッ……それでもッ!」

「致し方ありません。かかってくるというならお相手しましょう」

葛葉は部分再生ができるなら、再生が追いつくよりも連続で損傷を与えるか、一度に滅殺する以外に方法は無いと踏み、氷の矢を放つという特性上、浮術場魔方陣を足場に展開して近距離戦に持ち込むべく即座に動いた。
その場に残ったのは前回完全敗北を喫し、デュナミスの障壁を突破できないとしても手を休める事無く無音拳を既に放ち続け交戦している高畑以外で手の空いているのは長瀬楓と古菲、対するはクウィントゥムであった。

「…………」

クウィントゥムは沈黙を保ったままであったが、不意にネギと小太郎が向かった方向に顔を上げた為、動かれる前に長瀬楓は咄嗟に巨大手裏剣を右手に抱え、それの刃の一つを腹部に刺すように瞬動で突撃した。
押し出される形でその場から引き剥がされたクウィントゥムは、一旦召喚した轟き渡る雷の神槍を造物主の掟と似たような要領で虚空にしまう。
長瀬楓は、ここ3日障壁破壊忍術の改良もしたが、自身がアーウェルンクスの積層多重障壁を抜くには複数の影分身の同時攻撃で破り切るのが、一番可能性があるという結論に至り、1体を既にクルトの方に回してしまっているものの15の分身をクウィントゥムの周囲に出現させ一斉攻撃を仕掛けた。

        ―楓忍法・朧十字!!!―

それぞれの分身が気を纏わせた左手の苦無と右手に構えた忍刀で障壁を破壊し、結果クウィントゥム本体に裂傷をわずかながらも与え、血のようなものが吹き出した。

「行けるかッ!」

その衝撃によりクウィントゥムは声を上げることなく空中に投げだされる。
更に手を休めることなく畳み掛けるように長瀬楓は攻撃をしかけようとするが、クウィントゥムの身体全体に変化が生じた。

          ―雷精霊化!!!―

クウィントゥムはその身体を上位の雷精、つまり雷そのものと化して受けた裂傷を無かった事にし、即座に雷速で反撃を開始する。

「!?」

長瀬楓はそれによってあっという間に攻勢から一転、防戦一方にならざるを得なくなり、クウィントゥムの雷速で放たれる体術を、己の持つ陰陽術を源流とする対魔攻撃の技術により全力で捌くも、余りの速度の違いから、ついに一度直撃を受けて体勢を崩された瞬間から一方的に全方位からの連続攻撃をその身に喰らい始めた。
対応不可能な速度による攻撃に対して為す術も無く、今度は長瀬楓が空に無造作に投げ出される。
そして止めにクウィントゥムが轟き渡る雷の神槍を取り出して投擲すると思われた瞬間。

「はぁッ!」―斬魔剣弐の太刀・連閃!!!―

「!」

クウィントゥムの雷化した片腕片足が斬り飛び、胴体からは盛大に血のようなものが吹き出した。
そう、この攻撃を放ったのはこのクウィントゥムに電撃を浴びせられたクルトであった。
僅かに時間を遡れば、中心部から長距離瞬動で一旦離れ、気絶したクルトを背負っていた長瀬楓の分身は、落ち着いた所でクルトの気を取り戻させるべく身体のツボを突いたのであった。

「!?ぐ……はっ……くっ……なるほど、どうやら……してやられたようですね。助かりましたよ、お嬢さん」

「新たな敵はフェイト・アーウェルンクスとやらの別バージョンのようでござる。それぞれ炎、雷、水のようだが、クルト総督がやられたのは雷の者でござるよ」

「……そうとなれば、なんとしても私が戦線に復帰しない訳にはいきませんね」

「すぐに戻るでござるよ。手を」

「かたじけない。頼みます」

分身はクルトの手をしっかり掴み直ぐ様戦線に戻ろうとするが、丁度その時分身が本体の危機を察知した。

「!!拙者の本体が危ない!」

「ではそちらに!」

「済まぬでござる!」

          ―縮地无疆!!!―

高畑と古菲がいる場所ではなく、長瀬楓本体がいる地点に行き先を変更し長距離瞬動をかけた所目に入ったのは、丁度クウィントゥムが長瀬楓本体に轟き渡る雷の神槍を投擲しようかという光景であった。
それを認識したクルトはすかさず百花繚乱の簡易版であるが、一瞬で複数回、斬魔剣弐の太刀を振るったのである。
弐の太刀とは気を自由に扱う事で斬る対象の選択を可能にする技術であり、また、斬魔剣とは物質的な物にも効果はあるが、その本質は非物質的なもの、霊体を滅ぼすのに特化した技である。
故に雷の上位精霊、霊体と化したクウィントゥムには斬魔剣弐の太刀はまさに効果抜群であった。
すぐに分身は長瀬楓本体が重力にしたがって落ちる所を空中で受け止めに動いたが、ダメージを負ったクウィントゥムはそうではなかった。

          ―造物主の掟―
           ―リロード―

クウィントゥムは身体から出血と思われる現象がおきていようと気にすることなく造物主の掟を取り出すと同時にリロードを発動し、すぐに元通りになったのだ。

「それが例のッ!」―斬魔剣弐の太刀!!!―

クルトは再生を果たした傍から続けて太刀を振るう。

           ―リロケート―

「貴様……やはり……」

しかし、クウィントゥムはそのままリロケートで一度死角に転移しその斬撃を避け、クルトに電撃を浴びせた時点で止めを差しておくべきだったと呟く。

「斬撃で意味が無いのならば!」

         ―雷鳴剣弐の太刀!!!―

           ―リロケート―

クルトはすぐに振り返りながら短い溜めではあるが、霊体を滅ぼす電気エネルギーを直接クウィントゥムに叩き込もうとするも、再び転移で回避される。

         ―轟き渡る雷の神槍!!!―

転移先はクルトの背後至近距離、更に轟き渡る雷の神槍を持って直撃を狙う。

「くッ!」    ―斬魔剣弐の太刀!!!―

クルトはそれを再び死角に現れると予め念頭に置いていた為になんとかそれを察知してギリギリで避け、太刀を振るえる適正距離に後退して斬撃で反撃する。
前大戦時、当時の青山詠春の相手をしたのはクウィントゥムと同じく風を司る者であり、その前例を安易に適用すればクルトに勝ち目がない訳ではないが、此度の戦いに於いては造物主の掟が存在し、それだけに留まらず実際の所風のアーウェルンクスは前大戦の風を司る者よりも性能は上であるため、相当状況はキツい。
電気エネルギーを用いる雷鳴剣、雷光剣等は分類では雷系と言えるが、それよりもその本質は霊体を滅ぼす事を主眼とした技であるため、クウィントゥムが用いる攻撃系魔法が雷系に偏っていたとしても効果があるというのはせめてもの救いであった。
ただ、雷鳴剣系の技は他の斬撃系の技と比較すると溜めに時間を要する為、当てるのはかなり難しい。
クルトは長瀬楓に代わり、クウィントゥムとの本格的戦闘にそのまま突入したが、分身が受け止めてそのまま一旦場を離れた長瀬楓本体もかなりダメージを受けたものの未だ行動可能であった。

「楓さん!大丈夫ですかっ?」

物陰で休んでいた長瀬楓に、天狗之隠蓑から宮崎のどかが顔だけ出して問いかける。

「のどか殿……ぐっ……まだ動けはするが大分やられたでござる……」

宮崎のどかに対しまだ大丈夫だというように安心させようと片目で軽くサインするが我慢しているようにしか見えなかった。

「血が出ていますっ、治療に隠蓑で休んだ方が」

「そうしている場合では最早ないようでござる。危ないところを助けられた恩を返しに総督の加勢に向かっても良いが……今の拙者では足手纒いになるであろう」

「せ……せめて造物主の掟さえあれば私も……」

「うむ……その造物主の掟というあの杖を奪う事が出来ればよいが、先程見た限りああも素早く自由に出し入れされてはそれも難しかろう。のどか殿が気負う事ではないでござるよ。恐らく古も高畑先生と共にデュナミスとやらと交戦しているであろう事は気になるが、何よりアスナ殿と最後の鍵が重要となれば、ここは一つネギ坊主が向かった上層部へ隠密行動で後を追った方が良いか……しかし何と劣勢の状況……皆もそう長くは持たなかろう……。のどか殿、まだしばし中に隠れているでござる」

「……わ、分かりました。気を付けてください」

切迫した状況を感じ取り宮崎のどかは、なんとか力になろうにも戦闘に関しては足手纒いにしかならないのを重々自覚していた為、真剣な顔で素直に頷き、それを了承する他無かった。

「上手くやるでござるよ」

長瀬楓は口元の血を拭い、望みは薄くとも己の出来る事を果たす為、忍としての本来最も得意とする、床抜け等を始めとする技術、隠密行動に移行したのだった。
かくしてネギ達のうち殆どの者はかなりの劣勢とも言える状況にて、ほぼ1対1でそれぞれの敵を少しでも長く足止め時間を稼ぎ、あわよくば撃破するべく全身全霊をかけて戦いを始めた。
そして墓守り人の宮殿中層部には激しい戦闘がそこかしこで繰り広げられている事を示す音が鳴り響き始めるのだった……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月11日、4時57分、墓守り人の宮殿上層大祭壇、儀式完了迄1時間3分―

ネギと小太郎が先行、やや遅れて長瀬楓が隠密状態で大祭殿に丁度接近し始めたその頃、大祭殿ではある異変が起きていた。

「フェイト様。予定よりもゲートポートからの魔力反応が少し強くなっているようなのですが……いかがなさいますか?」

オペレーターとして作業を続けていた調がその変化にフェイトに報告をする。

「ん……見せて……なんだろうね……これは」

フェイトは調が操作していたモニターを自ら操り始めその現象を確認する。

「魔力が予想以上よりもあちら側に多く流出しているのか……あちらのゲートで何かあったか……」

「魔力の総量から言って儀式の発動は問題ありません。それどころか、流出している以上の魔力が現在よりも広範囲から集まって来る模様です」

「あちらがこちらの行動に気づいて何らかの方法で魔力を吸い出して邪魔をしようとしているのだとしたら逆効果だったね……。しかも魔法世界の崩壊がこれでは更に早まる。儀式最適座標の変更は無い……だろうね」

「ゲートポートの位置が変わる訳ではありませんので……そうですね。……あれは!……フェイト様……先ほどまで上層部外壁を駆け上がっていたネギ・スプリングフィールドと犬上小太郎、墓所の主様が上層部中層内部におられる事に構うことなく東通路外壁を破壊して突入し、高速でこちらに向かっている模様です」

ネギと小太郎が墓守り人の宮殿が大祭殿に向かう通路の自動人形を断罪の剣で通り抜け様に切り裂き、猛烈な勢いで進んでいる映像が映る。

「彼らも急いでいるという事か……。先ほどの事を考えると正々堂々というよりは着いてすぐ直接ここを破壊しにきそうだから出迎えないといけないね……。ここを空けることになるけど……」

[[私がそちらで直接支えよう]]

「……お好きにどうぞ」

         ―リロケート―

墓所の主はリロケートで大祭殿に転移し現れる。
そして直ぐ様、場所が悪いため今までよりも負担は大きくなるが、上層部を支える力場を倒れ始める前に再び展開し始めた。

「来たのはいいけどその状態でもしもの時戦闘できるのかい?」

「今……は無理じゃ。しかしそれも、そなたがあ奴らの相手をすれば良いこと」

「言われるまでもないね。さて……僕は行こう……。調、作業を続けて」

「ハッ!」

          ―リロケート―

フェイトはネギと小太郎が進む天井までの高さ十数mはあろうかという通路の前方に転移する。

「さあ、さっきのお返しといこうか」

       ―ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト―
      ―おお 地の底に眠る死者の宮殿よ―
        ―我らの下に姿を現せ―
            ―冥府の石柱―

詠唱に従い通路一杯に広がった空間の歪みから通路とほぼ同サイズの巨大な石柱が召喚され、自動人形をも破壊してしまうが、そのままネギ達に向けて射出された。
1本に留まらず、続けて2本目、3本目と次々に石柱が放たれネギ達の行く手を塞ぎにかかる。
ネギと小太郎はその高速移動中いきなり目の前に自動人形も巻き込まれている石柱が迫り即座に対応に動いた。

「「フェイトかッ!」」

ネギを乗せた小太郎は急停止出来ないことから一旦石柱にあえて足を着け、それを足場に力を溜めて、後方に勢い良く跳ぶ。

「でやっ!!」

        ―魔法領域解除!!―

「カァッ!!」 ―大神・戦吼砲!!!―

後ろに跳び切り替えしてすぐ、ネギが魔法領域を解除し、小太郎は即座に自分達と同程度の大きさの光球を口元に形成し、石柱に通れるだけの穴を穿つべく光線を放つ。
契約執行を受けた状態での小太郎の獣化最終奥義形態の出力は高く、長く硬い石柱も2秒で反対側まで穴が開き、再び虚空瞬動で前方に切り替えし、その穴に突入する。
          ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
        ―契約により 我に従え 破壊の王―
   ―来れ終末の輝き 薄明の光芒 満ちれ エアロゾルよ―
   ―収束魔方陣展開!!! 集え 我が手に 域内精霊加圧!!!―
     ―第1から第12 臨界圧縮!!! 第0へ解放!!!―
その間ネギも小太郎の背中の上で両手を前に向けて収束魔方陣を展開し、前方にいるであろうフェイトに向けて攻撃を放つ準備をしていた。
しかし、その先に見えたのはフェイトではなく更に新たな石柱であった。

「連発かっ!」

   ―降臨し 全ての命ある者に 等しき死を 其は安らぎ也―
           ―然して 死を記憶せよ―
            ―大天使の降臨!!!―

いずれにせよネギは新たな石柱にも通れる穴を穿つべく両手からそのまま極光を放つ。
小太郎はそれによってできた道に飛び込み、続けて3本目、4本目と石柱を切り抜けた。
しかし、いつまでも石柱ばかりではなく、突然フェイトの攻撃は高速高密度の砂塵攻撃に切り替わり、ネギ達の視界を遮った。

「一旦外に!」

「分かっとるッ!」―大神・戦吼弾!!!―

小太郎は通路右手に見える壁を即座に破壊し、そこから外に脱出を図った。
しかしそれでも砂塵攻撃は止まず、開けた穴を更に大きく広げるが如く爆散させて砂塵の量を更に増やし、2人の追跡を開始した。
外に出た途端、背後からは迎撃兵器の針と砂塵が襲いかかり、足元からも砂塵が穴を開けて噴出する。

          ―リロケート―

2人は全速力で一気にそれを避けて進もうとしたが、目の前にフェイトが転移して現れ、2人の行く手を阻んだ。

「これ以上壊す事になるのは少し困るからね」

          ―造物主の掟!!!―

「しまっ!?」

フェイトの持つ造物主の掟が僅かに発光した瞬間、3人はその場から消え去った。
ジャック・ラカンを閉鎖空間から更に異なる空間に閉じ込めた時と同様、造物主の掟による空間操作系の力である。
そして2人が取り込まれて移動した所は何も無い、ただただ白い空間であった。

「場所を変えさせて貰ったよ。風情が無くて悪いね」

そう言いながらフェイトは造物主の掟を虚空にしまう。

「フェイトッ……」

ネギは小太郎の背から離れ浮遊術に移行し、小太郎の横に並ぶ。

「前と同じでお前を倒さんとここから出れん言う訳や」

「そういう事だ。この時を待っていたよ。一つサービスで教えてあげよう。随分急いでいるようだけど君達にとってはまだタイムリミットまでおよそ1時間あるよ」

フェイトはネギと小太郎、特にネギとの戦いが出来る事に、単純に嬉しい、というような感情をその無表情の中に垣間見せる。

「1……時間……」

「どういうつもりや……」

「この戦いこそ、この戦いこそが僕の望み。人形である僕が唯一僕自身の感情で臨むものだ。ネギ君……前回のような戦いではなく……ジャック・ラカンのように……ジャック・ラカンよりも……僕を楽しませてくれ。さあ始めよう!」

       ―ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト―
      ―おお 地の底に眠る死者の宮殿よ―
        ―我らの下に姿を現せ―
            ―冥府の石柱!!!―

「ネギッ!」

「分かってるッ。使わないよ。今は……前2人でフェイトと戦った時とは……ラカンさんと戦った時とも……違う。今の僕達でッ……」

「「倒すッ!!」」

ネギは己の相棒がいる今、2人で力を合わせ、太陽道をこの場で使わない事を決めた。
実際、ザジの姉の幻灯のサーカス下での完全なる世界で1日休み、太陽道の限界使用時間が回復しているとしても、この場で今限界まで使ってフェイトを倒せたとしても、ネギはそこで終わってしまう可能性が高い上、新たに現れたアーウェルンクス達の事を鑑みれば、戦闘の場が大祭殿であるならともかく、まだ、使うべきではないのは明白であった。
そして巨大な石柱を前に、2人は目の前ただ1人の相手、フェイト・アーウェルンクスとの激しい戦闘へと突入し、大祭殿へと急ぐ者はついに長瀬楓、その天狗之隠蓑の中にいる宮崎のどかとなったのだった……。



[21907] 60話 フィリウス(魔法世界編20)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/02/09 13:28
―10月11日、5時7分、墓守り人の宮殿上層大祭殿、儀式完了迄53分―

刻々と時間は過ぎ、世界の終りと始まりの魔法の儀式完成までとうとう1時間を切っていた。
祭殿中央、火星を模したかのようにやや傾いた頂点から4方向に伸びるフレームに囲われた巨大な透明球体内には黄昏の姫御子、アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシアが浮かび、その更に奥の幾分離れた空中には最後の鍵が浮かんでいた。
フェイト・アーウェルンクスが大祭殿を去り、球体の前、魔方陣が描かれた円状の足場で調は観測を続け、フードを深く被ったままの墓所の主は力場を展開し続け上層部の姿勢を維持していた。

「急いだ甲斐があった。……今こそ……時は満ちた」

ずっと沈黙していた墓所の主が突如呟き、その雰囲気がみるみるうちに変化を始める。

「……ぼ、墓所の主様?いかがなさいましたか?」

その威圧感と意味深な発言に調は思わず振り返って聞き返すが、墓所の主はそれに構わず魔力を解放し出し、造物主の掟を頭上に掲げ呪文の詠唱を始めた。

         ―おお 死者の宮殿よ 眠りから覚め―
           ―我の下にその姿を現せ―
            ―来たれ 永久の水晶―
           ―彼の者達を呼び醒まさん―

円陣が夥しく輝き出し、その中心から2つの巨大な水晶が並んで現れる。

「い、一体これは!?」

全く予想だにしない現象に調は驚きの声を上げる。
その全貌が顕になった水晶の中には両目を閉じた2人の人間の姿があった。

           ―時を超え 依代の躰となれ―
            ―今此処に降臨せよ―
            ― 封 印 解 放 !!!!―

「キャァァッ!」

瞬間、水晶が甲高い音と共に勢い良く弾け、その影響で調は魔方陣の端に吹き飛ばされ、墓所の主はその場に力を失ったかのように倒れ伏す。
造物主の掟はそのまま光を放ち続け、力場の発生を続ける。
そして……水晶から解き放たれた2人の人間は静かにその場に降り立ち……ゆっくりと両目を開けた。

「…………永い間眠りについていたようだな……」

赤髪の男性が呟く。

「……そう……永い間眠っていたのです」

隣の金髪の女性がそれに答える。

「…………アマテル……」

「時を超え……再び巡り逢う」

「……我らの悲願は」

「すぐそこに……」

現れたのは……世界最古の王国、ウェスペルタティア王国の始祖達であった。

「あ……あなた方は一体……」

調は上体だけを起こし2人の姿を見て思わず声を上げる。

「調……先に旅立つが良い」

        ―リライト―

「……え……そん……」

金髪の女性は空に浮いていた筈の造物主の掟を気がつくと手にし、調に躊躇なくリライトを放ち花弁と化して消滅させた……。

「……ぬぅ……造物主め……。む……ここは……お主ら成長して……いや、その様子!馬鹿弟子とアリカの身体を乗っ取りおったか!!」

倒れていた墓所の主は意識を取り戻し、記憶に混乱が見られるような発言をしつつも立ち上がり、2人に対峙する。

「フィリウス……乗っ取った訳ではない。彼らは我らと共に在る」

金髪の女性が無表情でそれに答える。

「戯言を……ッ!」

「仕方ない……自我を持った人形は壊さねば」

金髪の女性がそう言った途端、赤髪の男性が全身に膨大な魔力を纏い、フードが取れて白髪が顕になった子供のような体格をしたフィリウスに襲いかかる。

「はっ!」―最強防護!!!―

フィリウスは後方に退避し浮遊術に移行しながら即座に非常に強力な対物対魔法障壁を幾重にも展開しその攻撃を凌ぐ。
しかし、特段何らかの詠唱魔法を使っている訳でも無いにも関わらず赤髪の男性はその障壁を驚異的な速度で次々と破り、あっという間に残すは身体に直接展開させている積層多重障壁のみとなり、その拳がフィリウスの眼前に迫る。

「ッ!」

フィリウスの頭部を粉砕するかと思われた拳は赤髪の男性の意に反し、ギリギリで停止し、フィリウスはその隙に退避して難を逃れる。

「ナギッ!」

          ―縮地无疆!!!―    ―縮地无疆!!!―

その瞬間、この時ばかりと大祭殿の下部の岩場に隠密行動で到着していた長瀬楓が分身と共に長距離瞬動で祭殿中央、球体の中に浮かんでいるアスナ、離れた所に見える最後の鍵を奪取しようと飛び出した。
同時に赤髪の男性は再び身体の自由を取り戻し、こちらも分身を出現させ目標を長瀬楓に反射的に切り替え驚異的な速度で接近し、先に動いた筈の長瀬楓が目的の物を抱えようとした所にあろうことか間に合い、そのまま打撃を入れる、寸前。

「!」―瞬時強制転移!!!―

フィリウスが長瀬楓と自身に転移魔法をかけ大祭殿から墓守り人の宮殿最下層へと脱出した。

「!?」

「はぁっ……はっ……間に合ったか」

フィリウスは僅か1秒にも満たない刹那の間に転移魔法を間に合わせるという荒業をやってのけ瞬間的な疲労に陥り息を切らせる。

「こ……ここは……いや、お主はどなたでござるか?先ほどまで奴らと行動を共にしていたように思ったが……しかし後一瞬遅ければ拙者はやられていたでござる。かたじけない」

長瀬楓は一瞬で居た場所が変化したことに驚くが、目の前にへたりこんでいるフィリウスに礼を述べる。

「ワシか……ワシはゼクトじゃ。突然意識を取り戻した故状況が掴めぬが少なくともお主の敵ではない」

「楓さん……一体誰と……?」

宮崎のどかが長瀬楓が何者かと会話しているところに天狗之隠蓑から顔だけ出して問いかける。

「のどか殿、この御仁に助けられたでござるよ。最後の鍵とアスナ殿を連れてこられなかったのは失態でござるが……。ゼクト殿、時間は惜しいが一先ずこの隠蓑の中へ」

「アーティファクトか」

長瀬楓は首に巻いていた隠蓑を広げゼクトと自身もその中に入る。
今までの殺伐とした状況とは打って変わり、落ち着いた和室に場所は移る。

「もう一度名乗るがワシはゼクトじゃ。細かいことは省くが、紅き翼の1人として完全なる世界と戦った際今まで意識を乗っ取られていたようじゃ」

「ネギ坊主の父上やラカン殿の仲間……でござるか」

「ね、ネギ先生のお父さんの仲間ですか……」

長瀬楓と宮崎のどかは突然の展開に聞きたいことは山ほどあったが、ゼクトが質問するほうが先であった。

「そのネギというのはナギの息子か?む……その前に今何年か確認して良いか?」

「今は2003年でネギ先生は……この赤髪の人です」

宮崎のどかは端末を操作して、ネギの写真を出してゼクトに見せる。

「ふむ、ナギに似とるの……しかしあれから20年も経っておったか。道理でナギに子供がおってあの2人の身体も成長しておった訳じゃな……。して今は奴らが2人の身体を最適な依代として乗っ取り、更には黄昏の姫御子があそこにおった事を考えると性懲りも無くあの儀式をまた行おうとしているといった所か」

「儀式が行われるというのはその通りでござる。しかし、あの横目に見えた2人の人物はやはり……」

「あれはナギとアリカ姫の身体じゃが、今乗っ取られておる。ワシだけでは奴ら2人をどうすることもできぬ」

「ふむ……そうでござったか……ネギ坊主の父上の行方が掴めなかった理由はそのような事であったか……」

「ね……ネギ先生のお父さんとお母さんが……こ……ここに……?」

宮崎のどかは元々ネギの父親を探すための旅行だった筈がいつのまにか完全なる世界との戦いに突入し、皮肉にもこの最終決戦の場にネギの両親がいるという話に目を白黒させるが、ゼクトは構わず質問を続けた。

「して、他に仲間はおるか?」

「拙者とのどか殿を除き9人にござる。ゼクト殿が知っておられる仲間であれば高畑・T・タカミチ先生、クルト総督がおられる」

「タカミチとクルトか、あの子供らも来ておったか。とするともしや今は交戦中か?」

「今は子供ではござらぬが……。3人……ネギ坊主が途中におらなかったことを考えると4人のフェイト・アーウェルンクスにデュナミス達とそれぞれ交戦中でござろう。既に15分以上経って連絡が入って来ない事からして状況はかなり悪いと思われるが……」

「アーウェルンクスが4体にデュナミスじゃと……?それは厄介じゃな……奴らも造物主の掟を持っておるか?」

「その通りでござる。障壁を抜いて攻撃を与えてもすぐに元に戻る不可思議な技を用いる」

「奴らを倒すには核である頭部を完全に潰すしか確実な方法は無い。一つ……途中にいなかったというネギは恐らく造物主の掟の閉鎖空間に閉じ込められている可能性が高いが……どれほど強いのじゃ?」

「……通常時もなかなかであるが、太陽道という技法使用時は、限界時間は短いがラカン殿をも一瞬で戦闘不能にし、造物主の掟にも対抗出来るようでござる」

「あの馬鹿を一瞬とな……。異常なものを使えるようじゃが……それならば大祭殿のあの2人をもなんとかできるかもしれぬな……。閉じ込められているならばやはり1本造物主の掟を奪って干渉する他あるまい。今ワシが大祭殿に戻ってもすぐに返り討ちにあうのは明らかじゃ。まずはお主達の仲間の元に向かおう。お主達の仲間が1人でも多くやられればますます手がつけられなくなる。転移で行く故、お主達はこの中におると良い。ワシがこのアーティファクト、運んでも良いか?」

「頼むでござる。皆がいるのは中層部。ご助力かたじけない」

「分かった。見たところ魔法薬もあるようじゃが怪我をしているなら手当すると良い」

「回復次第拙者も出るでござる」

「分かった。では行く」

ゼクトは1人天狗之隠蓑から出て、首に巻き付け高畑達の加勢に向かう。

「まずは自力で回復魔法が使える水からじゃな……アーウェルンクスとなると強くなっておるじゃろうが……目覚めてすぐにまたアレの相手とは。水の反応……探知…………………特定した」

         ―転移門―

ゼクトは探知魔法を使ってセクストゥムの居場所を割り出し、目の前に光り輝く扉を作成し、そこからセクストゥムと葛葉の戦闘中の場所に転移していった。
ゼクトが転移する前、セクストゥムと戦い続けていた葛葉は終始圧倒的劣勢でありながらも、全身全霊を尽くし、未だ倒れてはいなかった。
あちこち凍傷が目立つが気による身体保護によってそれらを軽減し、攻撃は全て弐の太刀で行い常に障壁を無視し続けた。
その度に腕や足は斬り飛び、胴からは血のようなものが吹出すが、首の切断を狙った場合だけはどうあっても回避されてしまうのであった。
少なくとも切断しやすい腕を片方排除するだけでも、澄み渡る水の神弓は封じる事ができ、魔法の発動も主に片腕からだけにすることができ気勢を削ぐ事ができた。
当然葛葉は攻撃も受け、大量の追尾型無詠唱氷の矢や氷槍弾雨で追い詰められながら、凍てつく氷柩という指定した座標に巨大な氷柱を発生させ、その中に閉じ込める封印魔法は、セクストゥムの手の向く方向と、周囲の一瞬の温度変化に神経を研ぎ澄ませて集中しなければ避けられず、直撃を喰らえば一撃で終了する上、避けても氷の矢によって身体を傷つけられるという、常にギリギリかつジリ貧の状態であった。

「ここまで持つとは……評価を改めたい所ですが、もう一思いに楽にして差し上げます。そのまま死なれると私が困ります」

葛葉は出血を身体保護でできるだけ軽減し、ペイという陰陽術による自己回復も隙を見ては使用していたが、セクストゥムの攻撃の前には焼け石に水、先に出血多量で生命の危機に瀕していた。

「うっ……がふっ…………まだ……先に行かせる訳にはっ……。フッ……ハァァ――ッ!!!」

          ― 雷 光 剣 弐 の 太 刀 !!! ―

葛葉は再び盛大に口から吐血し、限界が近いのを自身で悟りながらも太刀に高密度の電気エネルギーを収束させ、決死の攻撃を仕掛ける。
その気迫の篭った渾身の一撃に、セクストゥムは一瞬避けるのが遅れ、右半身丸ごと吹き飛ばされる。

               ―リロード―

「いい加減に……」

         ―ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト―
    ―契約に従い 我に従え 氷の女王 来れ 永久の闇―
            ―永遠の氷河!!!―
    ―全ての 命ある者に 等しき眠りを 其は 安らぎ也―

セクストゥムはこの時ばかりは造物主の掟による再生を選び、続けて葛葉の周囲150フィート、およそ46m四方を絶対零度に変え逃げ場を無くし、そのまま止めに入った。

「ッ!足がッ!」

             ―凍る世界!!!!―

「――――!」

葛葉はこの攻撃を即座に理解し範囲外に逃げようとしたが、雷光剣による反動で足が思うとおりに動かず……それは叶わなかった。
瞬時に一帯の空間が巨大な氷塊で埋め尽くされ、葛葉はその中に敢え無く凍結封印された。
……ようやくその場に静寂が訪れる。

「……最初から手負いだったというに……始めからこうすべきでしたね……。送りましょう」

セクストゥムは虚空から再び造物主の掟を取り出し最後の作業にかかる。

     ―灰は灰に 塵は塵に 夢は夢に 幻は幻に―
        ―全ての者に永遠の安らぎを―
             ―リライト―

造物主の掟が僅かに光りを放ち、氷塊に閉じ込められた葛葉はその魂のみを完全なる世界に送られた。

「……これでもう身体は意味を為しません……もう……砕いても構いませんね……」

セクストゥムは無駄な時間を取らされたという風体で表情を僅かに歪ませ、造物主の掟を虚空に戻し、氷塊を粉砕すべく腕をゆっくり頭上へと上げそのまま指を弾こうとする。

「良い夢を」

          ―新 星 の 煌 き !!!―

しかし、そう言ってセクストゥムが指を弾く寸前、セクストゥムの頭部が内部から輝きを放ち瞬間的に広がった強烈な光に飲まれ消滅した。
首から下の残った身体はそのまま崩れ落ち、ドサリと音を立て、完全に沈黙する。

「間に合った……。完全に油断していたとはいえ……同じ手に2度もかかるとは学習しとらんの……6。しかしこの詠春と同じ流派と思われる剣士の女性は送られ……造物主の掟は既にしまわれた後じゃったか……。じゃがこのままここに放置してはおけぬ」

ゼクトはセクストゥムが葛葉を送った時に転移でその死角に現れ、その場から殆ど動かず葛葉の身体をも処理しようとした隙だらけの所を座標指定型の光系内部拡散消滅魔法によって、積層多重障壁を無視しセクストゥムの頭部に致命的な一撃を与えたのである。
いくらアーウェルンクス達が人形で痛みも感じず、リロードによる再生が可能とはいっても頭部をやられればそもそも思考が出来なくなる時点であらゆる行動は不可能となり残った身体はただの肉塊と化す。
残った身体から頭部までもが再生するのであれば倒すのは身体全体を消滅させない限りは不可能であったが、流石にそういう仕様ではなかった。

「ゼクト殿、葛葉先生は……」

魔法治療薬を服用して身体の内の傷に応急処置を丁度施した所長瀬楓はゼクトが何やら呟いているのを聞きつけ、隠蓑から顔だけを出しその光景を自身の目で確認した。

「済まぬ、送られた後じゃった……」

そう言いながらゼクトは巨大な氷塊を無詠唱光系の魔法を用い葛葉が閉じ込められている部分だけを手早く切り出して行く。

「……そうで……ござるかッ……」

長瀬楓はその完全に見開いた両目を閉じ、苦悶の表情を浮かべるも、隠蓑から再び出て、ゼクトが切り出した葛葉の入った氷塊を自らの手で丁重に収容した。
宮崎のどかは傷だらけの状態で封印された葛葉の氷塊を見て、直接身体に触れることは叶わないがその氷塊に抱きつき我慢できず泣き出した。

「く……葛葉先生……くずはせんせーっ……うぅっ……うっ……」

「……それは最上級の氷結系封印魔法じゃが必ず解ける。楓よ、危ないと思われる者の相手は誰がしておるか。探知でアーウェルンクスらの位置ならば分かる」

「皆危ないが……障壁を突破する手段を持たぬ高畑先生と古は2人という点でも特に危ない。相手はデュナミス。影のような魔法を使う輩でござるよ」

「デュナミス……アレなら真っ向からでも五分五分じゃ」

「拙者も次は協力するでござる。動きを封じるぐらいはできよう」

「うむ……7秒間封じられるならば仕留められるぞ」

「……あい分かった。この長瀬楓……なんとかしてみせよう」

そして直ぐ様ゼクトは隠蓑から再び出て探知魔法を行使し、デュナミスの闇の反応を辿り始めた。
デュナミスと高畑、古菲の戦いは長瀬楓がゼクトに述べるだけあって葛葉とセクストゥムの戦いよりも戦況は終始悪かった。
何より高畑の無音拳の威力がいくら高かろうと、どこまで行っても純粋な拳圧であるため物体を消滅させるのとは性質が完全に異なるのである。
古菲も己の最も得意とする八極拳は超近接戦闘であり、デュナミスの闇の魔素によって腕を構築できるという能力の前には迂闊に近づけば直ちに戦闘不能に陥るのは目に見えていた上、近づいては高畑の攻撃の邪魔にもなるため、神珍鉄自在棍の伸縮を活用した叩きつけ等だけがまともな攻撃手段であった。
しかし、それらではどうあっても積層多重障壁を破る事は叶わず2人がデュナミスを倒すのは絶対に、不可能であった。
2人は常に空間跳躍攻撃に警戒を怠らず、地に落ちている腕はできるだけ破壊しつつ、デュナミスの身体からは目を離さないようにし、腕が跳んだ、と気づいたらすぐに後方へと退避する事で、空間跳躍攻撃の射程範囲から逃れるようパターンを組み、互いの背後に現れるのがもし見えた場合は端末で、後ろ、と短く伝える事で注意を促し回避を可能としていた。
しかしそれも最初の数分は上手くいっていたが、デュナミスが己の肉体からの攻撃だけでなく、更に巨大召喚魔を部分的に召喚するという事を始めた途端窮地に陥った。
巨大召喚魔の硬さは通常の傀儡悪魔の比ではなく、長大な触手や巨大な腕は2人の逃げ場を塞ぎ、デュナミス本体からの攻撃の回避が格段に困難になったからである。
更に咸卦法で強化している高畑と、気による強化だけを行っている古菲では耐久力に歴然とした差があり、避けきれずに攻撃がかする度に古菲の方がいち早くダメージが蓄積していき急速に動きが鈍くなっていった。
それに気づいた高畑が古菲に戦線から離脱するよう促そうとした丁度その時、古菲の足元が僅かにふらついてしまい、そこを巨大召喚魔の腕に完璧に捕捉され、更には神珍鉄自在根が手から離れ落ち、身動きをとれないよう絞めつけられてしまったのである。
高畑は腕の付け根に向けて攻撃を放つがその前に巨大召喚魔の他の部位が出現してそれを遮られ、逆に古菲を捕らえた事でデュナミスは高畑に標的を絞って攻撃ができるようになり、ついに戦況はデュナミスに完全に傾いた。
高畑は接近して戦えない為、あっという間に後方に退避せざるを得なくなり、一方でデュナミスは捕まえた古菲を更に強く締め付けて意識を飛ばそうとしながら近くに移動させ、更に造物主の掟を取り出しリライトの準備にかかった。

「うぐあぁぁぁッ!」

古菲はその攻撃に苦痛の声を上げる。

「古菲君ッ!」

            ―七条大槍無音拳!!!―

高畑はそれに焦り最も威力の高い無音拳を放って目の前の触手群を吹き飛ばし、中空から一気に接近する。

「自ら寄ってくるとはなんと愚かな」

            ―虚空影拳貫手八殺!!!―

「ぐあッ!!」

しかし、それをほぼ誘われた形になり高畑は8本の腕の空間跳躍攻撃に全方位を囲まれどうあっても避ける事ができず、一撃を貰った後連続して残り7発の直撃を喰らい地に叩きつけられる。
古菲はとうとう痛みに耐え切れずに気を失い、満身創痍の高畑はすぐに起き上がる事ができない。

     ―灰は灰に 塵は塵に 夢は夢に 幻は幻に―
        ―全ての者に永遠の安らぎを―
              ―リライト―

デュナミスは古菲が気絶したと同時にリライトを発動し古菲の肉体を残し、魂だけを完全なる世界に送り、造物主の掟を前回の反省からすぐに虚空に戻す。
古菲の身体からは今まで感じられていた筈の生気があからさまに失せ、最早魂がここに無くなったことを高畑は実感せざるを得なかった。

「貴様ーッ!!」

高畑は元教え子が目の前でリライトされるという他者からすれば厳然たるただ一つの事実に完全に激昂し、受けたダメージを忘れたかの如く再び立ち上がった。

「動くな!」

デュナミスが高畑に更に大きな声で勧告する。

「……動けばこの小娘の身体をこのまま粉砕する。魂は救済され最早抜け殻となった今、これがどうなろうと我らには関係の無い事」

「くっ……」

高畑はデュナミス達が人間を殺せないというルールが、リライトする前にしか原則適用されないという事をようやく認識した。

「貴様らは我らの計画を阻止しようとするつもりのようだが……万一にもそうはならないが、阻止するというのが前提の貴様らはこの小娘の身体を見捨てることは絶対にできない。高畑・T・タカミチ、降伏しろ。その傷では貴様も危うい。死なれては、困るのだよ」

「……くっ……ここまで……かッ……」

高畑は実際デュナミスの言うとおり、絶対に古菲の身体を見捨ててまで戦闘を続けるという選択肢はどうあってもとれはしない。
戦わないにしてもこの場から逃げきる事も今の高畑では不可能であり、先の直撃により端末も壊れ連絡も叶わず、最早選択肢はただ一つしか残っていなかった。
高畑はまだ残っている仲間達に詫びるような表情、悔しい表情、ネギ達に望みをかけるような入り交じった複雑な表情を浮かべ、口を開いた。

「……分かった。降参し」

            ―楓忍法・対魔巨大手裏剣!!!―

「何ッ!」

高畑が降伏しようとした瞬間、頭上から4枚刃の巨大手裏剣が古菲の身体を掴んでいた巨大召喚魔の腕を一刀両断し、地面スレスレを目立たないように駆け抜け接近していた分身がそれによって解放された古菲の身体をキャッチし、そのまま離れた。

「楓君ッ!?」

     ―影縫い!!― ―影縫い!!― ―影縫い!!― ―影縫い!!― ―影縫い!!―

     ―影縫い!!―    ―楓忍法・天魔覆滅縛鎖地網陣!!!!― ―影縫い!!―

     ―影縫い!!― ―影縫い!!― ―影縫い!!― ―影縫い!!― ―影縫い!!―

間髪おかず、長瀬楓は本体と残りの分身総出でデュナミスの身体を鎖で雁字搦めにして縛り、闇を操る事から効果は余り得られないだろうと踏み、それならば物量作戦として分身達が一斉に苦無をデュナミスの影に投擲し、その動きを全力で封じ、投擲し終わった分身は本体が放った鎖をそれぞれ全力で引き絞りその場に抑えこむ。

「何の真似だ貴様ァッ!!」

「「「「「はぁぁぁ――ッ!!!」」」」」

限界まで力を己から引き出し、この一度限りの作戦を成功させようと長瀬楓はその両目に恐るべき執念を宿していた。

「!!まさかッ!?貴様ァァァ!!!」

デュナミスは自分の頭部の座標に何の魔法が発動されるのかを対極の属性を司る者として直ぐ様察知し、縛りから逃れようと渾身の力を振り絞る。
周囲に蠢いていた触手群が長瀬楓達に纏わり、引き剥がしにかかり、1人、また1人と排除されようとも一切諦める事なく彼女達はその体勢を維持し続けた。

「おのれえええ――ッ!!」

「「「ゼクト殿ッ!!」」」

           ―新 星 の 煌 き !!!―

そして、デュナミスの頭部は内部から輝きを放ち瞬間的に広がった強烈な光に飲まれ完全に消滅した。
影縫いの効果はすぐに失われ、最終的に本体含め3人だけしが残らなかったが、7秒間、約束通り長瀬楓はデュナミスの動きを封じきったのだ。
デュナミスの身体が第一形態に戻り、首から下が力を失い崩れ落ちると同時に、周囲の召喚魔の触手や部位は塵となって大気に消えた。

「はっ……はっ……負担が大きい。見事じゃった、楓。ワシだけでは確実に避けられておったがお主のお陰じゃ」

隠れていたゼクトは不意にその姿を現し、息を切らせる。

「あ奴が最初に油断しておらなければ間に合わなかったでござるよ……」

「か……楓君……それに……あなたは……!?」

高畑は立っているだけでも驚きという怪我の状態であり、今にも再び倒れようかと言わんばかりに膝がガクガク言っていた。

「お主タカミチか。久しぶりじゃの。大きくなった……というよりは老けたか。まるでガトーのようじゃ」

「ぜ、ゼクトさん!?一体何がどう……して……」

「高畑先生!」

気が抜けて倒れた高畑を長瀬楓が支える。
古菲の身体を確保した分身も戻ってきた為、再び隠蓑の中に入り状況整理に移った。

「くーふぇ!くーふぇまでっ!そんなっ……そんなっ……」

宮崎のどかは一切動かなくなった古菲の腕を両手で包み涙を見せる。

「古までもが送られるとはッ……」

「古菲君を守れず……済まない……」

高畑は和室に横たわったまま、やりきれない声で詫びる。

「高畑先生だけの責任ではござらぬ。あ奴らの強さを考えれば仕方ない。軽くは考えていたが……皆それも覚悟の上でござった……。なんとしてもアスナ殿と最後の鍵を奪取せねば……」

「せめて奴らを倒せておるのは良いが大祭殿の2人に対抗出来る戦力は相変わらず無く、造物主の掟もまたしても奪えなかったの……」

「葛葉先生までもが封印された上でやられては……今頃クルト達もッ……」

「真名はそれなりに自信があったようだが、総督は最初に直撃を受けている上、雷速を相手では危うかろう。ゼクト殿」

「分かっておる。時間が惜しい。じゃがワシを潰しに奴がいつ来るかわからぬ。ここではなく戦闘不能者を送れる場所はあるか?」

「そういう事なら混成艦隊ならば……茶々丸殿に連絡を入れるでござる。ゼクト殿もこれに手を。念じればよいでござるよ」

「うむ」

《茶々丸殿、戦闘不能者をそちらに転送したい》

《楓さん!……そちらの状況が気になりますが……転送といってもどのように?》

《ワシの転移魔法で送る。魔法世界基準の座標を口頭で良い。急ぎで頼む》

《……了解しました。現在の座標は…………》

茶々丸は口頭でフレスヴェルグの、それもデッキの座標を知らない人物ではあるがゼクトに伝えた。

《転送した後、すぐに医療室に運ぶのじゃ》

《見たら驚くが、葛葉先生と古は下手に弄らず絶対安静で頼むでござる》

《了解》

「では届けるぞ。のどかは良いのか?」

「私は……造物主の掟の使い方が分かるので……いさせて下さい!」

「仔細は分からぬがそれならば」

           ―遠距離強制転移!!!―

葛葉が閉じ込められた氷塊、古菲の身体、重傷の高畑の下に魔方陣が展開され発光と共にフレスヴェルグに転送された。
詳しい説明は高畑が行う事になったため通信はそれまでとなった。

「次の場所に移動する前に……役に立つかもしれぬから聞くが、のどかは何故造物主の掟の使い方を知っておるのじゃ?」

ゼクトは隠蓑から出る前に、宮崎のどかが造物主の掟を使えると言った事について確認を取る。

「アデアット!……私のこのいどのえにっきでデュナミスの心を読んで知りました」

宮崎のどかはアデアットし、いどのえにっきを出す。

「いどのえにっき!?なんと珍しいものを……それならば納得じゃ。全部分かっておるのか?」

「いえ……全部は読む前に中断させられてしまったので……」

「ならばワシの名、フィリウス・ゼクトを呼び、造物主の掟の使い方を聞くのじゃ」

「え?」

「何をしておるか。ワシは乗っ取られておったがアレの使い方は知っておる。お主が造物主の掟を使うというなら、ワシがやられるかもしれぬ事を考えれば今のうちに知っておいたほうがよかろう」

「は……はいっ!フィリウス・ゼクトさん、造物主の掟の仕組みと使い方を全て、教えてください!」

宮崎のどかはゼクトに造物主の掟の使い方を全て、と言う事でいどのえにっきにその情報を得た。

「よし……長々説明しなくて済むのは便利じゃ。さて……風は機動性から言って先の手は無理じゃ。正直ワシも勝てるか分からぬが……やるだけじゃ。探知に出る」

「……頼むでござる」

ゼクトは再び隠蓑から出て風のアーウェルンクス、クウィントゥムの反応を探知し始めた。

「反応が……無い……。閉鎖空間に移動しとるのか……それとももしやクルトが……やむを得ん、火を探知する他無いか」

そう、クウィントゥムの反応は探知できなかったのであった……。
長瀬楓と入れ替わりにクウィントゥムと戦闘になったクルトは攻撃は最大の防御と言わんばかりに攻撃の手を一切休める事無く太刀を振るい続けた。
クルトは政治家になった関係で長らく戦いからは退いていたが、全身の神経を極限まで研ぎ澄まし、この僅かな間にいち早く戦いの勘を取り戻していった。
クウィントゥムはリロケートを頻繁に使用してくるため、クルトは絶対に足の動きを止めないという事を心がけ、死角からの転移攻撃に対処していた。
驚くべきは自由に雷精霊化の切り替えができるクウィントゥムの雷速の機動性をも捉え切るクルトの剣速であり、逆にこれほどの剣の腕がなければ一瞬でやられていた。
クウィントゥムは終始攻撃を受けても無言を貫き、最初の2分は単身の直接攻撃で一撃で沈める手段に出ていたが、それを過ぎると攻撃方法に変化を加え、大量の雷の矢、白雷閃、雷の投擲を無詠唱で囲むように放ち、クルトの移動先を制限した上で、転移併用の轟き渡る雷の神槍による一撃必殺を繰り出し、あえて雷の矢の雨の中にクルトを追い込みジワジワと削っていった。
しかし、クルトが習得している技術は剣術だけではなく、サポート系の魔法もあり、予め電撃に対する耐性を上げる事で痺れて動きが鈍ることは無かった。
クルトにとって幸運だったのは、人間殺害不可というルールのためにクウィントゥムが雷の暴風や雷系最大規模の千の雷等の対象を根こそぎ消滅させる強力な放出系魔法を使わなかった事である。
だからこそ、クウィントゥムは、威力を調整した上で、対象を貫けば必ず一撃で余程高度な回復魔法でも無い限り、2度と戦線に復帰できない重傷を与える事の可能な轟き渡る雷の神槍による攻撃を繰り返し試みたのである。
とは言っても、いつまでもその一撃を避け続けるということが不可能だというのは両者共に分かっていた。
クルトは常に斬魔剣弐の太刀や雷鳴剣弐の太刀で葛葉と同じく腕を切り飛ばす、消滅させる事でクウィントゥムの攻撃の手数を減らしていたが、神経を最高に張り詰め続けるにも数分経って限界を感じ始めた。
クルト自身ができる、すべき事とは、自分が戦闘不能になるにしても少なくともクウィントゥムが他の仲間の所に加勢に行かないようにするという事であった。
既に何度も轟き渡る雷の神槍をギリギリで回避した事で、タイミングを掴んだクルトは意を決してある行動に出た。

「ハァッ!」―斬魔剣弐の太刀・連閃!!!―

クルトはクウィントゥムが再び雷化した所を捉え数度斬りつけその手足を切り飛ばし再生を敢えて行わせる。

           ―リロード―
           ―リロケート―

再生を行うと同時にクウィントゥムは転移を行いクルトの正面から消える。

「そこだッ!」  ―雷鳴剣弐の太刀!!!―

消えると同時にクルトはその場で回避を取らず、今までの経験から狙った位置に向けて背後を振り返らずそのまま雷鳴剣弐の太刀を放った。

           ―轟き渡る雷の神槍―

「がぁぁッ!」

刹那、クウィントゥムが出現した瞬間、轟き渡る雷の神槍がクルトの胴体を背後から完全に刺し貫いた。
強烈な電撃が身体を駆け巡りクルトはその衝撃で吹き飛び、手からは太刀が離れ、数回転がった後その勢いを止め、身体からは煙が上がり、うつ伏せの状態で一切動かなくなる。
しかし……そこにリライトをかけられる者はいなかった。
空間そのものを斬る対象として選択して放たれたクルトの雷鳴剣は、クウィントゥムが転移して現れた丁度その頭部の位置と完全に重なったのだ。
クルトは自身の確実な戦闘不能と引換にクウィントゥムを戦闘不能に至らしめ、見事相討ちを果たした。
しかし、結果を見てみれば単純な相討ちではない。
クルトは完全なる世界に送られてはいない上にクウィントゥムがリロケートで転移して現れた所を狙い撃ちした為、造物主の掟が虚空にしまわれることなくクウィントゥムの手から離れその場に無造作に転がっていたのである。
空気の流れによってクルトの髪が微かに揺らぎ、その場には最早戦闘の音が響く事は無く、あるのは静寂だけだった。
これはゼクトがクウィントゥムの風の反応を探知を試みる数分前の出来事である。
そんな所へ程なくして偶然現れたのは、服がボロボロになり、体中に切り傷を作り、額から血が流れた痕も残るが未だ健在の桜咲刹那であった。
彼女はさっきまでは持っていなかった筈の見事に黒一色の太刀を背中に背負っていた。

「そ、総督ッ!お怪我は……ッ!これは酷い重傷……」

桜咲刹那はクルトの身体を上体に戻し、怪我の程度を確認するが、パッと見ても感電による火傷が見受けられ、見えない身体の内部の火傷も考慮すればこのまま処置しなければ命に関わるというのをすぐに理解した。

「一体誰と戦闘を……端末を月詠に早々壊され念話も妨害されていては……。なッ!この首から下だけの身体にこの服装!フェイト・アーウェルンクスか!!流石長の弟子であられる……まさか倒されるとは……。それにこれは造物主の掟……。まさか月詠が持っているとは思っていなかったが奪取できなかった所をここで見つけるなんて……。こうしている場合ではない。奴らがここにいつ回収しに来ないとも限らない。急いでここから離れ式神を飛ばさねば……」

桜咲刹那はクルトが相討ちという形であれ、フェイト・アーウェルンクスと思われる敵を倒したという事に驚くが、それも束の間、すぐに背中に造物主の掟を黒い刀と共に背負い、クルトは肩に担ぎ、無事に残っていた5枚の紙型を懐から出し自身の式神を出現させて周囲に飛ばした。
クルトを担ぎ、身長程の大きさもある造物主の掟を持った状況では戦闘は困難であり、上層に向かっても身動きがとれない今、桜咲刹那は式神に期待しつつ、小型強襲用艦の方向に戻る事に決めて移動しだしたのだった……。
一方、大祭殿直前の閉鎖空間内ではネギと小太郎がフェイト・アーウェルンクスと十数分に渡り激しい戦闘を繰り広げていた。
小太郎はネギからの最大効率契約執行の咸卦法かつ獣化奥義の白狼状態で、ネギは魔法領域を球体状ではなく、身体を直接鎧のように纏っていた。
ネギと小太郎はお互いの隙を互いに補い合い、フェイトに肉薄し、実際に2人の同時攻撃により、決定打には至らないものの、積層多重障壁を突破することもできた。
戦っている最中のフェイトは今までになく楽しいという表情を浮かべ、ネギと小太郎はそれに何か鬼気迫る物と同時に何か違和感を覚えつつも、それでも進まなければならないため戦いを続けた。

「良いよ、こうでなくてはッ!」

フェイトは左右に掲げた両の手の上に石の短剣群を出現させ2人に向けて飛ばす。

「はぁァッ!」―双腕連装・断罪の剣!!!―

「でやッ!」  ―大神・白狼襲爪!!!―

ネギと小太郎は寸前で見切って躱し、一定の斜線軸上に留まらずにジクザクに虚空瞬動を連発してフェイトの懐に潜り込み左右から同時に直接攻撃を叩き込む。
両の掌を合わせて連続発動させる断罪の剣は片手だけの時よりも威力は両手になった分高く、小太郎の出力も最高状態、積層多重障壁を以前とは比べ物にならない速度で破り、フェイトの身体に傷を付ける。
しかしフェイトはそれに痛がる様子も見せず石の剣を腕に作り出して切りつけ、また回避した所をそのまま投擲し、外れればそれを砂塵に分解して操作し2人の追跡を行う。
フェイトはいつまでもこの戦いが続けば良い、というかの如く、現在の状況を続け、できる筈にも関わらずネギの魔力切れを狙える冥府の石柱を連発した攻撃を戦闘開幕以降取っていなかった。
しかし、それもネギ達からしてみればフェイトの時間稼ぎのようにしか思えず、焦りが募る一方であった。

「この戦いがいつまでも続けばいいのにね」

「願い下げだッ!」

「さっさと道を開けや!」

互いに目から血を流し、再び剣と爪を交え空中で高速で何度もぶつかりながら言葉を放つ。
しかし、フェイトが願ったいつまでも続くというのはフェイト自身に異変が見られた事で終りを迎えた。

「ぐ……あぁ……これは……僕の意思だ……手を出さないで……欲しいね」

フェイトは突然頭を両手で抱え出し呻き声を上げ始める。
丁度フェイトによって猛烈に攻め立てられていた所であった為2人は攻撃の手が緩むどころかそのフェイトの反応に驚く。

「はぁっ……はぁっ……一体何だ」

「何や……あいつ初めて苦しんどるな……」

「……これはまさに人間のッ……人形の分際で……それと……逆らうなど……同じ感情だッ!……あぁぁ!!」

明らかに攻撃の好機であったが、ネギと小太郎はどうにも身体が動かずその様子を見続けてしまったが、フェイトは目を見開いて叫び声を上げた途端、下を向き完全に沈黙した。
そして再び声を上げた時そのフェイトは既に別の何かに操られているという様子がはっきりと分かった。

「…………ネギ・スプリングフィールド、貴様は危険だ……」

フェイトの雰囲気がガラリと変わり、次の瞬間ネギのすぐ目の前に知覚できない速度で迫り、左手でネギの首を異常な力で掴んで固定し、右手人差し指と中指の間から覗かせた左目を怪しく光らせた。

         ― 永 久 封 印 !!!! ―

「ッ!」

ネギは咄嗟に断罪の剣でフェイト左腕を切り払おうとするが再展開された積層多重障壁に阻まれ脱出ができない。
フェイトの目からキィィンという音が鳴り始めネギの足が先端から水晶で覆われ始める。

「ネギッ!!」

そこへ小太郎はネギにかけられた魔法を即座に察知し、攻撃して引き剥がすのは無理だと直感的に思い至り、やむを得ずネギとフェイトの間に無理矢理割って入り、ネギの身代わりにその魔法を受けながらもフェイトの腕にその強靭な牙で噛み付いて引きちぎろうとする。
魔法が本格的に発動しだし至近距離の小太郎はみるみるうちに水晶に囚われ始め、ネギも小太郎が間にいるにも関わらずその水晶の侵食が止まらない。

「脱出しぃや!!」

「くっ!!」

        ―森羅万象・太陽道!!!―
        ―空間掌握・万象転移!!!―

ネギは何を思うよりも咄嗟に太陽道を発動し粒子分解でその場から転移する。

《コタローッ!!!》

        ―統合・終末之剣!!!―

次の瞬間、フェイトの放った魔法は完了し、フェイトもろとも小太郎のいた範囲十数m四方は水晶で埋め尽くされ完全に封印された。
ネギはそれを破壊しようと終末之剣を形成して貫こうとしたが、僅かに遅く水晶が目の前から消え去った。
実際には封印と消失は同時であったが、ネギの超加速状態ではギリギリでそれの差が感じられ攻撃できたのであり、寧ろその反応ができた事の方が異常であった。
フェイトが消え去ると共に閉鎖空間も崩れ、ネギは元の場所に戻った。

         ―太陽道・解除―

「はっ……はっ……一体今のは何だ……。さっきのあの感覚は……ザジさんのお姉さんに現れる前の声が聞こえた時と同じ……いや、先に行けば分かる事だ!」

ネギは考えるよりも先に身体を動かし、下の外壁に穴を開け通路に再び潜り大祭殿へ自身の最速を以て急いだ。
光りが隙間から漏れている大きな扉を突き破り、その空中回廊の先の祭殿に見えたのは2人の人影と半分に割られた先程の水晶であった。
ネギが動こうとした丁度その時、水晶は下に投げ捨てられ落下した。

「コタロ――ッ!!」

ネギは浮遊術で空中回廊から飛び降りその水晶を追いかけようとしたが、その頭上には遠くに人影として見えていた筈の赤髪の男性がネギを一撃で戦闘不能にするべく既に目前に迫り拳を振り下ろそうとしていた。

         ―リロケート―
      ― 絶 対 防 護 !!! ―

「!?」

ネギは知覚範囲外からの攻撃と同時に、自分との間に展開された強力な防御障壁に驚く。
反射的に瞬動で退避しながら上方を確認し、その驚きは更に増した。

「父……さん……?」

障壁に拳を阻まれていたのは幻灯のサーカスの中で夢に見たナギ・スプリングフィールドその人であった。

「そ奴は今乗っ取られておる!奥の女性も同じじゃ!黄昏の姫御子は祭壇中央の球体の中!最後の鍵は更に奥じゃ!」

「え?」

ネギは思わず抜けた声を上げるが、その隣から聞こえた声の主に視線を移した。
そこにいたのは造物主の掟を両手に持ち、首に布を巻きつけたゼクトであった。

「お主がネギじゃな」

「は……あ、ぜ、ゼクトさん!?」

クルトに見せられた映画の中でそのゼクトの顔に覚えがあったネギはまたしても驚きの声を上げる。

「ぬ、ワシを知っておるか。くっ……今それは良い。あ奴らは両方共本来の実体は魂を核とした高魔力源体じゃ。特にアリカに取り付いておる方が性質が悪い。お主何か凄い技を持っとるらしいが、なんとかできるか!済まぬがワシは長くは持たぬ」

ゼクトは造物主の掟の力を引き出して最高レベルの防御障壁を展開し赤髪の男性の攻撃を阻みながら早口でネギに畳み掛けるように言葉をかける。
当のネギはその言葉を聞いた途端、全てを見通すかの如く、虹彩が煌めいた。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月11日、5時21分、連合・帝国・アリアドネー混成艦隊、儀式完了迄時間39分―

数分前、高畑、葛葉、古が送られてきてからというもの、フレスヴェルグ内救護室は混乱に見舞われていた。
高畑が担架に乗せられて最初に救護室に入った途端叫び声を上げたのは近衛木乃香であったが、有無を言わさず続け様に葛葉の入った氷塊と古菲の身体が運び込まれ、春日美空共々言葉を失った。
葛葉の入った氷塊は救護室端に丁重に安置され、その横に古菲の身体が安置された。
その光景にショックを受け、2人は身体が全く動かなくなってしまったが、重傷ながら高畑が搾り出した言葉のお陰で我に返る事ができた。

「葛葉先生と古菲君は必ず助かる。大丈夫だ。治療……お願いできるかい?」

治療を頼むという言葉で近衛木乃香は深呼吸を数回繰り返し、気合を入れるかのように自分の頬を両手で軽く叩き春日美空に言った。

「美空ちゃん、頑張ろな!」

しかし、その顔は今にも泣き出しそうなのを我慢しているのが丸変わりの表情であり、春日美空は一瞬間を置いて返答した。

「……このか……分かった。できる事とか、必要な物あったらどんどん言ってよ。可能な限りやるからさ」

「うん、やるえ!」

間もなく、重傷の高畑から近衛このかを含む治癒術師数人総出で治療が行われ一先ず命の危機からは脱した。
そして、安置されていた古菲の身体も外傷がある為治療が施されようとしたが、魂が既に無く死体と言っても過言でない古菲の身体には一切の治癒魔法が効かず、その事で動揺が巻き起こったが、高畑がせめて怪我の縫合を行って欲しいという発言によって速やかに処置が施された。
明らかに脈が無い為死亡しているのではないかという思考がその場の者達の脳裏によぎり、とりわけ近衛木乃香は再び取り乱しそうになった。
しかし、そうこうしているうちに新たに運び込まれて来た者達が現れ、それどころではなくなった。
それはクルトと龍宮真名の2名であった。
クルトは感電による火傷が著しく、高畑に続き速やかに集中治療に入り、龍宮真名はあちこち火傷はあるものの比較的安定してはいるが、意識不明の状態であった。
しかし一番目立ったのは、龍宮真名のその背中まで伸びていた漆黒の髪は今や先端は焼け焦げ肩までに短くなった上で真っ白に脱色していた事であった。
半魔族化の状態での激しい戦闘によって、消耗しすぎた影響であった。
5名が転送されて来た事は、外に出て長時間に渡る戦闘を続けるか、もしくは魔力切れに近くなり仕方無しに休息を取っていた者達関係者にすぐに伝わり、高畑からある程度の状況説明はされたが、墓守り人の宮殿に未だ残っているネギ達の安否を心配せずにはいられず、ひたすらに無事を祈るばかりであった。
紅き翼のゼクトが突然現れた事により、少なくとも味方であるにせよ、いよいよ墓守り人の宮殿の状況は混迷を極め出した。
そんな折、観測班から報告が入り、それは事態が佳境に入った事を意味していた。

[[報告!墓守り人の宮殿上層部から高魔力源体の出現を確認!]]

「本当に出やがったか!!こりゃいよいよマズいぜ……。タカミチ達があのゼクトに転送されて来てから何だってんだ」

「混成艦隊の現在位置、勢力からして反魔法場の展開は不可能です!」

「そりゃ分かってるが……」

リカードが打つ手なしという状況に強く拳を握りしめるが、更に新たな報告が入る。

[[さ、更に別の高魔力源体反応!?あ、現れました!!]]

「何!?2体目だと!一体何が起こってんだ」

『恐らくその高魔力源体の一つは……ネギ君だ』

高畑が救護室からデッキに通信を入れモニターに現れる。

「タカミチ……なるほど。ってこたぁネギは戦闘を始めたって訳か」

[[墓守り人の宮殿上層部から断続的な魔力暴走に近い爆発現象を観測!]]

報告の通り、墓守り人の宮殿上層部で爆発現象が起き始めたが、その様子は依然として蔓延る召喚魔の軍勢によって視界を遮られた混成艦隊からは見る事はできなかった。
世界の命運が決まるまで……後僅か。



[21907] 61話 伝える力(魔法世界編21)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/02/09 13:46
―10月11日、5時22分、墓守り人の宮殿上層大祭壇、儀式完了迄38分―

混成艦隊から高魔力源体の反応が確認された丁度その時、ネギは太陽道を躊躇なく発動し、ゼクトの援護の元、赤髪の男性と超光速で戦闘を繰り広げていた。
赤髪の男性の打撃全てにはリライトの効果が付与されており、それが直撃した部位が消滅してからは、ネギは反転詠唱を即座に行い魔法領域を極大出力で常時展開して対応しだした。
また、金髪の女性からも直撃を狙った跳躍型リライトが連射され、視野拡張効果によってそれを察知し粒子転移でネギはその大部分の回避を可能としていた。
ネギと赤髪の男性、金髪の女性にしてみればたった1秒間ですら体感ではそれを遥かに超える時間であった。
ゼクトがそれになんとか対応してネギの援護ができているのは、ここに来て完全に覚醒したネギの意識拡張効果による粒子通信で随時擬似時間停止を繰り返し、視える相手の動きを予測した情報を伝えられていたからであった。
ゼクトは自身に襲いかかってくる赤髪の男性の直接打撃を造物主の掟の力を借りた絶対防護で防ぎ、金髪の女性が執拗にネギを狙って放つリライトにも同じく造物主の掟の力を用い反転魔法で相殺していた。
この状況下で天狗之隠蓑の中に控えている長瀬楓、桜咲刹那、宮崎のどかはこの超高速での戦闘に参戦できる訳も無かった。
とりわけ、長瀬楓はゼクトと共に、龍宮真名とクウァルトゥムの戦闘に参戦した際に更に負傷し、桜咲刹那も消耗が激しくいずれにせよネギ達のそもそも次元の異なる戦闘に参加することは不可能であった。
ネギは下の岩場に落とされたものの頑丈である為無事な小太郎の封印水晶や、アスナが囚われている球体を傷つけないように、隙を見ては長大に形成した終末之剣で大祭殿を破壊しようとしたが、金髪の女性の展開する障壁に阻まれ、場合によっては斜線軸に敢えて2人が入ってくる為に身体は両親の物であるため迂闊に攻撃ができなかった。
実際のところ、ネギが赤髪の男性に対してできる攻撃も今までに覚えた魔法等を使う事もできず、ある意味非常に原始的かつ根源的な純粋魔力を操る攻撃によってその身体を乗っ取っている高魔力源体の意識を乱し身体から無理矢理追い出すというものだけであった。
加速した無数の魔力の流れと光線が大祭殿の中に飛び交い続けネギの太陽道も30秒台後半に入り限界が刻々と近づいた時、ネギは意を決し赤髪の男性に対して既に自身も高魔力源体と化した上での特攻を仕掛けた。

《あぁぁぁぁぁぁ――ッ!!!》

単純な体当たり、ただそれだけであるが、憑依している魂を追い出すには一番であった。

《お……のれぇぇ――ッ!!》

不意にナギの身体から幽霊のようなものの一部が飛び出した途端、そのまま一気に押し出される。

「今じゃッ!!」

        ― 永 久 封 印 !!!! ―

ゼクトはその時を待っていたかのように天狗之隠蓑を岩場に投げ、ナギの身体へと接近し、自身と共に造物主の掟で一瞬で水晶と化し封印を完了する。
一方ナギの身体から追い出された高魔力源体はネギによって拡散させられ消滅しかけるも、金髪の女性の魔法によって保護されそれを免れた。
そしてナギとゼクトの入った水晶はそのまま岩場へと落下しだした。
……ゼクトが自身をまとめて封印する方法を取った理由は再び両者の身体のいずれかを乗っ取られる事を防ぐ為であった。
ネギは間髪おかず金髪の女性にも同じ攻撃を仕掛け、その女性の左手の上の魔力で覆われた男性の魂の核もろとも決着をつけようとした。

《愚かな……》

しかし、金髪の女性は自身の背後に漆黒で異様に巨大な魔方陣をいくつも展開し、そこから黒いリライト光線を無数に放ち応戦を始めた。

         ―再構築!!!―

光線に貫かれた部位は次々に消滅させられその度にネギは消耗するも、粒子転移と再構築を繰り返しながら純粋魔力攻撃を敢行する。
突破できないまま数秒経ち太陽道の限界時間が経過したがネギは最終手段に出た。

    ―此処に誓約を為し 真理之扉に捧ぐ―
      ―右脚分離!!!追加7秒!!!―
      ―左脚分離!!!追加7秒!!!―
      ―右腕分離!!!追加7秒!!!―
      ―左腕分離!!!追加7秒!!!―

ネギはその四肢を絶対的な代償として世界に捧げ、太陽道の限界時間を28秒間延長する。
そしてネギは残った胴体のみを最大加速させ再度純粋魔力攻撃を行い、激しい衝突を繰り返す。
魔力と魔力の塊が意思を持ちお互いを削りあい続け、ネギが決死の覚悟で延長した28秒間も残り僅かという時、一際大きな衝突が起きた、その時であった。
ネギと金髪の女性の意識は白く輝く魔力粒子で満ちた意識の共有を可能とする領域へと跳んだ……。
……ネギがその目の前に感じた金髪の女性の姿はアリカ・アナルキア・エンテオフュシアとは似ているが少し容姿が異なり、特に美しい夕焼けのような色をした髪が目立つ、涙は枯れ尽くしているようであったが、尚悲しみに満ち満ちた表情の女性であった。

《あなたが……始まりの魔法使い……アマテルさんですね……》

《ネギ・スプリングフィールド……武の英雄の息子よ。何故そうまでして我らの悲願を妨げようとする……》

今までの凄惨なぶつかり合いが行われていた現実とは打って変わり穏やかな空間で2人は向かい合い話を始めた。

《僕は僕です。僕があなたの儀式を妨げる一番の理由はアスナさんです。逆に聞きます。アマテルさんは何故そこまでして世界の終りと始まりの魔法を発動させようとするんです》

《ネギ・スプリングフィールド……そなたのような生まれて間もない子供に我らの何も理解できはしない》

《この力の本質は争う事ではなく、互いを理解しあう、伝え合う力だと……あなたも既にわかっている筈です。教えてください。話そうとしなければ、互いに知ろうとしなければ、理解できる訳ありません》

《戯言を……。そなたが今ここで……手を引けば全て救われるのだ……》

《絶対に引きません。僕はアスナさんをもう一人にさせたりしません。それに、救われると言うなら、どうしてあなたはそんなにも辛そうで悲しみに満ちているんです。自分のやろうとしている事にそんな感情を抱いている人を黙って見過ごす訳には行きません》

《……そなたに私の絶望が如何ほど分かろうか……。完全なる世界に全てを封じる。これこそが次善解にして唯一取るべき選択》

《あなたにとってはそうかもしれない。でも僕は違います。いくら……いくら現実が理不尽なものであっても、それでも、僕はありのまま、ありのままの現実で生きたいんです》

《……ならばそなたはこの世界がこのまま滅びるのを受け入れるべきだとでもいうのか》

《どうして……滅びると決めつけるんですか。ギリギリまで崩壊しないよう努力すべきですし、実際に動いている人達がいます。いえ、それ以前に、あなたが一番気にしているのは世界の崩壊そのものではなく人類そのものの事でしょう》

《既に刻々と時は過ぎて行くというに……今更違う方法を探せ等とましてやそなたのような子供の言葉……どうして受け入れられようか。私が他の道を模索したことがないとでも思うか。この儀式こそ、永きに渡り私がたどり着いた究極の結論。人類は愚かな間違いを繰り返す。私は人類に絶望した。もはやこの愚かな繰り返しの連鎖を止めるには永遠の園へと移り住む他ない》

《人類は間違いを繰り返す……。確かにそうかもしれない、そうかもしれないけどッ……それを悲しく思って……どうしてあなたが全部抱え込む必要があるんです。他の人達に任せても良かった筈です。これまでの永い時をその姿で……そんなに辛い思いをしなくても良かったでしょう……》

直感的にアマテルの感情を共感し始めネギはその余りの悲しさに涙を浮かべ問いかける。
それにようやく答えるかのようにアマテルが語り出した。

《私が……私が最も悔いているのは……私自身の愚かな興味が招いた罪……。この世界は元々何処とも繋がってはいなかった……。私はその理を乱した。世界を弄んだ愚かな行為は他の誰でもない、私自身の手によって清算せねばならないのだ……》

《……僕には……一体昔何があったのか、詳しい事は分かりません。分からないですが、アマテルさんのしたことを誰も間違っていたと断言することはできません。……僕はこのとても美しい魔法世界の事、この短い間で好きになりました。アマテルさんは永い間この世界を見てこんなにも鮮やかで美しい、そう、思いませんでしたか?僕の答えはこうです。アマテルさんが後悔していたとしても、僕は、それを決して責めたりしません。こんなにも素敵な世界に生きている人達は日々色々あるけれど、それでも皆生き生きと日々を生き抜いています》

《……思わない……思わない訳が無かろう……。そなたに言われなくとも、最も永い間この世界を見てきた私が、この世界がいかに美しいか、同時にいかに理不尽であるか……一番良く知っておる……。それを私が道を開き、同時に滅びへの道を開いてしまった……。しかしこれはとても誰かに押し付けて良いものでも、ましてや償いきれるものでは無い……》

《なら……なら……僕が、それを引き継ぎます。僕はあなたの、末裔です。あなたの悲しみを、苦しみを、僕に引き受けさせて下さい》

ネギはまっすぐアマテルを見据え、笑顔で言い切った。

《馬鹿な……。そなたは……どこまで……どこまで愚かなのだ……》

アマテルは枯れていた筈の目に涙を浮かべて答える。

《きっと……アマテルさんに似たんです》

《私は……私は眠りにつくことを……許されるのか……?》

《……はい。例え誰かが許さないとしても……僕は……僕が必ず許します。だから……休んで下さい。アマテルさん》

ネギはこの空間ではある両手で、アマテルの震えるその両手を取り、心を込めて答える。

《そうか……そうか……そなたは……私を許してくれるか……ネギ・スプリングフィールド……我が末裔よ》

《はい、ご先祖様》

《私にもそなたの愚かさが移ったようだ……不思議と……そなたを……信じても良い気がしてきた》

アマテルは今までの悲しみに満ちた表情から救われたかのような、満ち足りた微笑みを浮かべる。

《僕を信じて、任せてください。その笑顔の方が……素敵ですよ》

《ああ、任せよう、我が末裔よ。しかし……そなた……やはり愚かだ……。その様子では助からないだろうに……》

《……それでも……僕はあなたと……こうして分かり合えました。正直、思い残す事は一杯ありますが……これは自分で納得した事なので……だから、僕は満足です》

《そうか……。私も……伝えられて良かった……。私がそなたにできるのは少し時間を与える事ぐらいだが許せ……。私はイザナギと共に眠りにつこう……。さらばだ、我が末裔、ネギ・スプリングフィールド》

《……お休みなさい、アマテルさん》

ネギの両手からアマテルの両手が離れた瞬間、白く輝く空間は現実へと戻った。
ネギに見えたのはアリカの身体から抜け出たアマテルとイザナギの2つの白く丸い魂が天へと昇り、掻き消えて行く様であった。

《お休みなさい……。いきなり約束守れなくなりそうですけど……僕は皆を信じていますから……》

当のネギは、それを見届け、天に向けて言葉を呟いた。
アマテルの持っていた造物主の掟は僅かに光を発しながらも頭上で力場の発生を尚も続け、辺りは静寂に満たされた。
ネギは目の前で気を失い倒れているアリカを穏やかな表情でしばし見つめ、そのまま球体の中に浮かんでいるアスナへと視線を移した。

「ネギ坊主!」  「ネギ先生!」  「ネギ先生!」

丁度そこへ長瀬楓、桜咲刹那、分身に抱えられた宮崎のどかがネギの目の前に現れる。
最早胴体しか残っておらず、その薄くなっているネギのその姿からは魔力の粒子があちこちから細々と煙が上がるように抜け出し始め、今にも大気に溶けて消えかけそうであった。
それにも関わらず、ネギは微笑み満ち足り安堵したような表情を浮かべていた。
そのネギの姿を見て3人はハッとした顔になり、どういう状態かをほぼ悟ってしまった。
そして長瀬楓の分身達が遅れてその場に集合し、それぞれアスナ、最後の鍵、ゼクトとナギの封印水晶、小太郎の封印水晶を抱えていた。

《楓さん、刹那さん、のどかさん……》 

「ネギ坊主……アスナ殿、最後の鍵共にここに。のどか殿、これを」

「はいっ」

長瀬楓は開ける時は真剣なその両目を今ばかりは穏やかにしてネギに話しかけながら、宮崎のどかに最後の鍵を渡した。
宮崎のどかは早速何やら最後の鍵で行おうとし始める。

《ありがとうございます……楓さん》

「ネギ先生……小太郎君もゼクトさんもネギ先生の父上も水晶の中ですが……無事です。こちらの母上も見ての通りですよ」

桜咲刹那は横たわっていたアリカの身体をその両手で抱え、敢えてもう一度ネギによく見せるようにする。

《刹那さん……ありがとうございます》

「そんな……っ……ネギ……せんせい、最後の鍵で先生を……助けられると思ったんですが……ごめん……なさいっ……」

試行錯誤していた宮崎のどかは最後の鍵でネギを元に戻そうとしたが、それができないと悟りみるみるうちに涙を流し始める。

《のどかさん……。最後の鍵でもどうにもならないのは分かっていたので気にしてません。のどかさん、それよりも皆さんを……お願いします》

「……は……はいっ……必ず皆さんを元に戻します。あの……あの、ネギせんせー、私先生の事好きです。ずっと好きですからっ……」

《のどかさん……ありがとうございます。凄く……嬉しいです。でも……結局僕恋愛の事まだよくわからないままで……ごめんなさい。僕、のどかさんの事好きで……楓さんも……刹那さんも……皆好きなんです》

「はいっ……分かってます。ネギ先生」  「ネギ坊主……拙者もでござるよ」  「ネギ先生……私もですっ」

宮崎のどかは止まらない涙を空いている右手で拭い、無理に笑顔を作って答える。

《あの……皆に約束守れなくてごめんなさいと……伝えてもらえますか?》

「……嫌です……と言いたい所ですがっ……任せて……下さい……」

《すいません、ありがとうございます。きっとこのかさんには怒られてしまいますね》

「当たり前……ですっ!」

桜咲刹那はとうとう堪え切れなくなり、全身を震わせながら答える。
そこへ長瀬楓の腕の中にいたアスナが意識を取り戻す様子を見せる。

「う……ん……ネ……ギ……?」

アスナは瞼を僅かに開け、その視界に入ったネギの朧気な姿を見て疑問を浮かべる。

「アスナ殿……」  「アスナさん……」  「アスナさん……」

《あ……アスナさん……良かった……本当に良かった……です……》

ネギは薄くなった姿でもアスナが無事に目を覚ました事に思わず魔力でできた涙を流す。

「ネ……ギ……?ネギッ!?どうしたのよ……それっ!!」

アスナはそのネギの異常な状態の姿を見てすぐに意識をはっきりと取り戻し、長瀬楓の腕の中から飛び出して、ネギに両手で触れようとする。
しかし……それは虚しくも全て通り抜けてしまう。

「何よ……一体どうしたのよ……」

《少し……無茶してしまいました。アスナさん……アスナさんをこの世界に縛っていた鎖はもうありません。安心して下さい》

「安心って何よ!あんた触れないし……消えそうじゃないのよっ……!安心なんて……できる訳ないでしょっ!!」

アスナはネギに触れる事ができないと分かっていても尚、それでも必死に触れようと両手を動かす。

《そうですね………ごめんなさい、最後の最後で僕……またアスナさんに心配かけちゃいました。時間が残っていないのでこうして直接言えて良かった……。アスナさん……アスナさんはいつも元気で、まっすぐで、明るくて、ちょっとアホっぽくて、少し乱暴だけど、でも凄く優しい僕の、大事な……大事な人なん……ですよ?》

「褒めるなら……ちゃんと……褒めなさいよっ……。私にとって、ネギは……大切な、大切な……大切……なのよ?」

《アスナさん……ちゃんと……言えてないですよ。でも……気持ちは凄く嬉しいです。僕は……皆と出会えて凄く楽しくて、凄く幸せでした。絶対に今までの事、忘れません》

「ネギ……?」  「ネギ坊主……」  「ネギ先生……」  「ネギせんせー……」

《父さんと母さんが目を醒ましたら……僕は生まれてきて幸せだったと……そう……伝えて下さい。もう……時間が無いみたいなので……最後に僕、やる事があるので行きますね》

短い会話の間に一段と薄くなったネギは4人が返事をする間もなく、微笑みながら、そのまま空へと一気に上昇していった。

「ちょっと……ネギッ!?嫌、行っちゃ駄目よ!」

アスナは不意にネギが天へと上がって行った事に嫌な予感がよぎる。

《今まで、ありがとうございました!!》

ネギはそう最後に呼び掛けると共にその姿を一瞬煌かせた途端、全方位へと自身の魔力の粒子を散らし……光の残滓を残しながら大気に消え去った。
……すると墓守り人の宮殿に集中していた魔力の渦はそれを発端とするかのように集まり出し、そこから360度全方向に向けて一斉に無数の流れ星となり世界中へ飛び散り出した。
その流星現象はアスナ達はもとより、混成艦隊のみならず、魔法世界各地で見る事ができた。
魔力が集まってできた流れ星一つ一つが減衰し自然消滅していく様は非常に幻想的で、見る者全てが手を止めその光景に心を奪われた。

「ね、ネギ――ッ!!!」

アスナはネギの行動によってこの現象が起きた事を悟り、それと同時にネギが居なくなってしまったことに耐え切れず思わずその名を叫び、そのままショックで気を失い倒れかける。

「アスナ殿!」

咄嗟に長瀬楓がその身体を支え、倒れるのを防ぐ。
墓守り人の宮殿の周辺に形成された余りにも膨大な魔力溜りは、まるで命を最後に華々しく散らせるかのような最後のネギの行動によって導かれ、反魔法場を展開して封印しなければ飽和して暴発するという最悪の事態は回避された。

「ネギ坊主……」  「ネギっ……先生……」  「ネギせんせい……」

アスナに続き他の者達もネギの名を天に向かって呟くがそれも虚しく返事が来る事はありはしなかった。
流星現象に暫くの間放心状態であったが、ある決定的な異変に3人は気づく。

「天狗之隠蓑が仮契約カードに……」

「い、いどのえにっきも……」

「これは……仮契約カードの文字が消えて……」

長瀬楓の天狗之隠蓑、宮崎のどかのいどのえにっきは強制的に仮契約カードへと戻り、桜咲刹那が言った通り全て文字が消え、失効したことを意味していた。
仮契約カードの文字が消えるということ、それはすなわち須らく契約主の絶対的死亡を意味する。
ネギの死亡、という事実に3人は再び呆然としてその場に立ち尽くしたままになり、しばらく時間が経つが、そんな中、宮崎のどかはグレート・グランド・マスターキーを握っていた左手を更に一段と強く握り締め、言った。

「ネギ先生が私に頼んだ通り、リライトで完全なる世界に送られてしまった皆を……元に戻しますっ」

「のどか殿……」  「のどかさん……」

のどかは涙を流し続けながらも真剣な表情をして左手に造物主の掟、グレート・グランド・マスターキーを構え静かに目を閉じて詠唱を始める。

     ―灰は元に 塵は元に 夢は現に 幻は現に―
        ―全ての者に現実への帰還を―
             ―リザレクション―

詠唱が行われた瞬間、造物主の掟が機械的な音を発しながら徐々に輝きを増し始め、宮崎のどかの足元に展開された魔方陣からは魔力の泡のようなものが沸き出し始めた。
そのまま宮崎のどかは集中を解く事なく、造物主の掟を握り締めてその作業を続け、その輝きが勢いを増し最高潮に達しようかという時であった。
造物主の掟は宮崎のどかの左手から離れ浮き上がり、頭上で一際強く輝きを放ち、大祭殿はその明るさで目が見えなくなる程であった。
その輝きが収まった時、リライトによって送られた者が元に戻った事がはっきりと示された。

「こ……ここは……大祭殿……?」

アマテルによってリライトされた調が元の場に戻ってきたのである。

「……これで、皆、元に戻りました」

宮崎のどかは目を開き2人に伝える。

「のどか殿、どうやらそのようでござるな」

「彼女は……」

「あ、あなた達はッ!最後の鍵と黄昏の姫御子を!」

「悪いが……もう儀式は成立しない。上を見れば分かる。あなたの仲間2名は中層部で気絶、フェイト・アーウェルンクスは下の岩場に落ちている水晶の中に封印された状態だ。それでも戦うというのなら相手をしましょう」

桜咲刹那は咄嗟にアリカの身体を長瀬楓に預け、調の戦闘の意思を挫くべく瞬動で接近し、太刀を突きつけた。
調は一先ず言われた通り上を見上げ、流星現象を目の当たりにする。

「これでは魔力が……それにフェイト様が下に……?」

「どうする。こちらに手出しをしないならば止めないが……敢えて争うというのであれば、この場丸ごと破壊しつくすぞッ!!」

桜咲刹那は完全に散ったネギの事が脳裏に浮かび、調に対し強烈なプレッシャーを浴びせる。

「くっ……分かり……ました。手出しはしません。フェイト様を優先させて貰います」

「…………」

桜咲刹那は調の言葉に従い、そのまま太刀をゆっくりとおろす。

「それでは」

調は警戒しながらも下の岩場に降り、フェイト・アーウェルンクスが封印されている水晶へと向かった。

「のどかさん、リロケート……だったと思いますがそれで混成艦隊までは……?」

「はいっ。このままリロケートで……皆の元に戻れます……」

「この上層部を支えている鍵もいつまで持つかは分からぬからして移動した方が良かろう」

「楓、ネギ先生の母上の顔をフードで隠した方が良い」

「あい、分かった。確か世間では処刑された事になっていたでござるな」

長瀬楓はアリカにフードを深く被せ、金髪を隠す。
準備ができた所で宮崎のどかは2人とアイコンタクトを取り、最後の鍵を用いた。

―リロケート 宮崎のどか!! 長瀬楓!! 桜咲刹那!!―

長瀬楓の分身を含む計6人は墓守り人の宮殿上層大祭殿からフレスヴェルグの甲板へと転移した。
アマテルが消え去った時点で召喚魔の軍勢は突如として全て消え去っており、戦闘は終了し、続けざまに墓守り人の宮殿の魔力の渦の頂点から流星現象が起き、更にはこの戦闘の中リライトで消滅させられた者達も戻ってきた事で、混成艦隊は喜びに満ち溢れると共に突然の状況の変化によって混乱に見舞われていた。
依然として続く流星現象の最中、白んでいた空に朝日が顔を覗かせ、人々は皆新たな日を迎えられた事を互いに喜び合っていた。
そんな混乱の中紛れるようにフレスヴェルグの甲板に転移してきた宮崎のどか達は、ナギとゼクトの封印水晶が通路ギリギリであったもののなんとか通り、そのまますぐに長瀬楓の分身を除いてデッキに向かい、リカード、茶々丸、ドネットに詳しい話はともかく、関係者全員に貴賓室の中にあるダイオラマ魔法球の中に集まるように伝え、有無を言わさずに貴賓室へと先に向かった。
既に茶々丸もネギとの仮契約カードが失効している事に気づいており、古菲はその体に魂が戻って勢い良く復活して起き上がり救護室で騒ぎになっていたが、そこへ真相を知る長瀬楓達が戻ったため、その周知は非常に迅速に行われた。
重傷ながら意識のある高畑、短時間の中での集中治療によって危険な状態を脱したクルトも奇跡的に目を覚まし両者共に担架でダイオラマ魔法球へと運ばれ、リカード、テオドラ第三皇女、セラス総長も艦をそれぞれ部下に一時的に任せて集合した。
時は儀式完了6時十数分前程の事であった。
続々と集まって来た者達が最初に目にして驚いたのはナギ・スプリングフィールドとゼクトの封印水晶、まだ目覚めてはいないがアリカ・アナルキア・エンテオフュシアがその場にいた事である。
中でもアリカを目にしたクルトは非常に動揺し、思わず担架から起き上がろうとしたが、それは痛みですぐに断念せざるを得なかった。

「……ただでさえ混乱してるってのにこいつぁどういう状況だよ……。聞きてぇ事は山ほどあるが墓守り人の宮殿の中で何があったか説明してもらえるか、嬢ちゃん……」

全員予想だにしない状況に言いたい事がありすぎ、逆に何から聞いていいか分からないという有様であった。

「では……ゼクト殿と最初に行動を共にした拙者から何があったか説明致そう……」

長瀬楓、桜咲刹那、宮崎のどかの3名のうち長瀬楓が沈黙を破り切り出した。

「……大祭殿と呼ばれる場所に拙者は隠密行動で向かい、最後の鍵とアスナ殿を発見し、奪取しようとした折、ネギ坊主の父上の身体を乗っ取った者によって致命的な一撃を受けそうになった所をゼクト殿の転移魔法で逃れられたのが発端でござる。ゼクト殿の協力の元、アーウェルンクス達を退け高畑先生達を始め真名までをここに転送する事ができた。ゼクト殿もこの20年の間乗っ取られていたらしく、更にはネギ坊主の父上と母上も恐らく、長らくあの場に封印されていた上で今回身体を乗っ取られたようでござる。そして刹那の入手していた造物主の掟を得、ネギ坊主の位置をゼクト殿が探知した時には恐らくネギ坊主が閉鎖空間から脱し、丁度自力で大祭殿に着く直前であった。その為、拙者達は天狗之隠蓑に急ぎ入り、ネギ坊主とネギ坊主の父上と母上の身体を乗っ取った者達との戦いにゼクト殿が転移で加勢したのでござる。たった1分程の非常に短くはあるが拙者達に手出しできる次元ではない戦闘を繰り広げた結果……ゼクト殿とネギ坊主の父上の水晶、コタローの水晶、ネギ坊主の母上、アスナ殿、最後の鍵を確保できた。ここに転移する前、のどか殿が最後の鍵を行使し皆を元に戻したのでござる。皆も気づいているであろう……ここにおらぬネギ坊主であるが……例の太陽道の超過使用により……元に戻れなくなり……最後にあの流れ星の現象を引き起こし拙者達の目の前で散ったでござる……。仮契約カードの文字が消え、失効したのがその証拠でござろう……」

一同はアスナと最後の鍵を手に入れるという目的を達成し、リライトで消された者達も元に戻った事に素直に喜び、ゼクト、ナギ、アリカの3人が乗っ取られていた件には非常に驚いたが、どこまでも脳裏で引っかかり一番心配していたネギが死亡したという長瀬楓の沈痛な締めくくりによって言葉を失った。

「ネギ……君……」   「ネギ先生……」   「ネギが……?もう……いない……?」

  「ネギ坊主……」    「…………」   「ネギ様……」   「ネギ先生……」

近衛木乃香達は堪えきれず涙を流しながらネギの名を呼んだ。

「ネギ先生が……消える前に言っていた事があります。聞いてください。……約束守れなくてごめんなさい。僕は……皆と出会えて凄く楽しくて、凄く幸せでした。絶対に今までの事、忘れません……。こう最後までネギ先生は笑って……言っていましたっ……」

宮崎のどかが声を絞り出し、ネギが最後に残した言葉を皆に伝えた。

「うちらとの約束ちゃんと守ってくれなあかんよ……。ホントに流れ星になってもうて……ほんま……ネギ君……仕方ない子やなぁっ……」

「お嬢様……」

桜咲刹那がスッと近づき、反射的に近衛木乃香は胸に飛び込んで泣き始める。
それに釣られるように他の少女達も皆泣き始め、世界が終わるのは免れたが魔法球は悲しみで満ち溢れた。
しばらくの間啜り泣く音がこだましていたが、ナギとアリカは無事に戻ってきたにも関わらず、守るべきその子供のネギが戻って来なかった事に強い後悔の念を抱いていたクルトが上を向いたまま顔を横に向け、先へと進むべく宮崎のどかに切り出した。

「お嬢さん、そのグレート・グランド・マスターキーで……水晶の封印を解くことはできますか?」

「……はい、できます」

「では……」

「はい。任せてください」

宮崎のどかはゼクトとナギ、小太郎の封印水晶に向き合い、左手に造物主の掟を構え、それを用いた。

          ― 封 印 解 放 ―

造物主の掟が光り、ガラスの割れるような音と共に水晶は粉々に砕け散り、封印が解かれた。
3名はすぐに運ばれ、目を覚ますのを待つのみとなったが、封印解放に際しゼクトの有していた造物主の掟が無造作に投げ出された事に長瀬楓と桜咲刹那がある指摘をした。

「のどか殿、造物主の掟、グランド・マスターキー以下の封印は……」

「月詠があそこで気を取り戻したら何をしでかすか分かりません」

「そうですね。最後の鍵以外は使えなくしないと……。やります」

宮崎のどかは残された造物主の掟、グランド・マスターキー7本の危険性から封印作業を行った。
その後も悲しみに暮れた少女達はそのまま魔法球の中で過ごし、リカードを始めとする大人達は外の時間ではまだ数分も経っていないが、指揮しなければならない事があり、それぞれ持ち場へと戻っていった。
また、宮崎のどかは最後の鍵を持ち、近衛木乃香と共に救護室へと向かい、葛葉の入った氷塊の封印を解き、そのまま外傷の治療に移った。
グランド・マスターキーの封印がされた事によって墓守り人の宮殿を支えていた力場も効力を失い、上層部は中層部へと倒壊していった。
30分以上も続いて尚、朝を迎えても流星現象は終わる兆しを見せず、まるでネギがまだそこにいるかのように世界へと降り注ぎ続けていた。
因みに、オスティア総督府にてフェイト・アーウェルンクスにリライトされたジャック・ラカンが元に戻った事について連絡が入り、それにはテオドラ第三皇女が真っ先に返答していた。
そして戦いも終わった為、消耗した艦隊は一部を残して順次新オスティアへと帰還し始めた。
一方、外ではいよいよ6時になろうかという頃、再び魔法球の中では目を覚まし始めた者達がいた。

「ぬ……ここは……何処じゃ……?」

最初にゆっくりと瞼を開けて目覚めたのはアリカであった。

「……あ、ネギ君のお母さん……目覚ましたえ!」

葛葉の治療を他の治癒術師達に任せ再び魔法球に戻り、アスナの傍に控えていた近衛木乃香がそれに気づいて声を上げ、アリカは視界に入った見知らぬ人物を怪訝に思いながらも上体を起こし、尋ねる。

「主らは……誰じゃ?」

「うちは近衛木乃香や」

「私は桜咲刹那と申します。アリカ様。ここはテオドラ第三皇女からお貸し頂いているダイオラマ魔法球の中です」

2人は席から立ち上がりそれぞれ挨拶をする。

「これは済まぬ、私はアリカ・すぷ……いや、知っておったか。しかし……む!ナギ!!どれだけ心配したと……」

アリカは横でまだ目覚めないナギの姿を確認し、ベッドから降りて近くに寄る。
2人もそこへ近づこうとした、その時。

「駄目よ……行っちゃ駄目……ね……ぎ……。ネギ――ッ!!」

そこへ完全に気絶していたアスナが魘され始め、ネギの名を叫びながら勢い良く飛び起きた。

「アスナっ!」  「アスナさん!」

「はぁっ……はぁっ……ここ……は……?魔法球……?」

アスナは周りを見渡し、見覚えのあるその場が魔法球だと気づく。

「アスナっ!アスナっ!良かった……良かったえ……」

近衛木乃香は思わずアスナに飛びつく。

「こ、このか!」

「アスナ……?……確かにアスナの面影が……」

アリカは取ったナギの手を一旦放し、アスナの近くにおずおずと寄る。

「あ……アリカ……」

アスナは近衛木乃香に視界を塞がれながらもアリカの姿を見てその名を呟く。

「アスナなのじゃな……?」

「ど……どうしてここに……?」

「アスナさん……それは……」

墓守り人の宮殿で一旦目を覚ましてからすぐに気絶した為アスナはアリカがいることに混乱するが桜咲刹那が割り込みをかけネギの事には触れないように気をつけながら簡単に説明を行った。

「そうだったの……だからナギもいるのね……。それで……ね……ネギは……何処?私が見たのは夢……夢なのよね?そうでしょ……刹那さん?」

「…………」

問われた桜咲刹那は先の現象を目の当たりにしたが、ショックの余り夢だったのだと言うアスナに言葉を失う。

「先も聞いたがそのネギとは……ネギなのか?」

丁度そこへ声がしているのを聞きつけ、部屋の外にいた者達がかけつけてきた。

「アスナ!」  「アスナ殿!」  「アスナさん!」  「アスナ!」

「皆!?」

少女達の乱入によりアリカの確認を取る質問は有耶無耶になりひとまず、各々泣き止んではいたものの目には泣いた跡をはっきりと残しながら互いの再会を喜び合い、アリカに対しては矢継ぎ早にそれぞれ自己紹介を行った。
ようやく収まった所で、アリカが再度聞き直した。

「先のネギとは……我が息子、ネギの事か?……今、近くに居るのか?」

「そうよ……楓ちゃん……刹那さん……ネギは……?」

「…………」

その話題が出た途端再び少女達はそれまでの明るさを失い沈黙する。

「アリカ殿……ネギ坊主はアリカ殿、ナギ殿の息子で間違いないでござる」

「さ……左様か。しかしその様子……何か問題があるのか……?」

アリカは少女達の様子に気づかない訳もなく、深刻な表情をする。

「ネギ……先生はっ……亡くなりました……」

長瀬楓から引き継ぐように宮崎のどかが意を決し、震えながら自身も絶対に言いたくない言葉を述べた。

「な……に……?」

「そ……そんな……じゃあ……あれは現実なの……」

亡くなったという言葉を、一瞬間を置き理解してしまったアリカとアスナの顔は見る見るうちに血の気が引き、青ざめていった。

「アリカ様……。ネギ先生が最後にご両親に伝えて欲しいと言っていた事が……あります」

「な……なん……じゃ?」

ネギに出会えるかと思った矢先、受け入れ難いが厳然たる事実に、ガタガタと震えながらもアリカは確認を取る。

「僕は生まれてきて幸せだった……とそう最後に笑顔で言っていました……」

「…………幸せ……であったかっ……。気がつけば私はネギを産んだ後……姿を見るどころか……何もしてやれなかったというにっ……。ね……ネギはいくつになった?」

アリカもすぐに涙を流し始め、息子が何歳であったかを問う。

「魔法球で修行を重ねていたので正確には分かりませんが……凡そ11歳です」

「11……そんなにも時が……過ぎていたか……」

現実の時間にしておよそ10年という歳月、子の成長を見ることもできず、果ては先に逝ってしまった事にアリカは手をきつく握り締めやりきれない表情で遠くを見つめる。

「アリカ殿、アスナ殿……ネギ坊主が最後に残した命の輝き、まだ……外で見える筈でござる。分身!失礼するでござる」

「何?」

「楓ちゃん!?」

長瀬楓は思いついたかのように分身を1体出し、アリカとアスナをそれぞれ抱え魔法球の出口へと向かった。
残りの少女達も一斉に後を追い、十数人が一斉にフレスヴェルグの甲板へとかけ出して行った。
そこには、朝日によって地平線は照らされ、墓守り人の宮殿の上空から流星が降り注ぎ続ける幻想的な光景が広がっていた。

「あの流れ星が……ネギ坊主でござる」

「あれが……ネギの命の輝きなのか……?……なんと……美しい……」

「あそこに……ネギがっ……いるのね……?」

長瀬楓によって運ばれたアリカとアスナは甲板に足を降ろし、その光景を見続けた。
……そして刻々と時間が過ぎ、6時を迎えたその時異変が起こった。
流星現象により辺り一帯は充分に眩しかったが、太陽の光量が落ちた上に太陽そのものが小さくなったとしか見えなくなったのである。

「太陽が……?」

「小さくなった……」

呆然とその光景を見つめていた人々はこの後更に太陽に起きる異変を目の当たりにする事となる……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―地球暦日本時間2003年8月27日18時51分5秒、北極圏、神木・扶桑―

場所は火星、もとい魔法世界の人の住まない北極圏、龍山山脈を隔てた所。
私とサヨは神木の出力を落とさず警戒状態を維持しながら感情抑制を切った。

《……完璧に成功しました》

《ああ……よく外の景色が視えるヨ。間違いなく、これは魔法世界の景色ネ》

軽く観測しただけでも高くそびえる中国のお伽話に出てくるような山脈が、その反対には雪に包まれた一面の銀世界が火星の時と同じく広がっていた。
また、こちらとしては今まで通りだが、火星と魔法世界を同調させたのであって、太陽はどうもしていないので恐らく光量が減り、大きさも小さくなっている筈である。

《私もそっちに行きたいですよー!》

《その前に完全に固定した神木管理権限を一度共有状態に戻して下さい》

《……了解です》

―神木・扶桑の管理権限を共有状態に移行―

《サヨ、こちらは終わりましたよ》

《こっちも終わりました》

《共有に変更した所悪いですが、通信が一旦終わるまで待って下さいね》

《はい!》

《さて……私はゲートを使わずして魔法世界の、それも神木の中にいる訳だが……。最高加速状態でまだ色々話す事があるネ》

そう、最高加速状態、現在時間の流れとは無縁での会話を行っている。
何よりもまずは、初めての試みにしてほぼ、もう2度と無いであろう事を行ったのだから現状を把握しなければならない。
特にミッションを開始するほんの数分前にザジ・レイニーデイが神木見学会でもかなり目立つ場所に現れ、ネギ少年を助けてと他人には聞こえないように呟いて知らせて来た事も非常に気になる……というか嫌な予感しかしない……。

《ええ、まずは一体魔法世界が今どういう状況にあるかですが……。隔地観測によると……どうやらオスティアの位置から高魔分体が飛散しているようですね……》

要するに流れ星だ。

《止まて視えるから何だが、数も凄いナ》

墓守り人の宮殿に集中した危険な水準の魔分を拡散させているのだと思うが……。

《サヨ、そのまま麻帆良のゲートを通して蟠桃に魔分の吸収を続け、そのまま扶桑に転送して下さい。魔分濃度を安定させる必要があります》

《任せて下さい!》

《ザジサンが直前に言ていた事からするにネギ坊主が危険らしいナ》

《確認しに行った方が良さそうですね。どうにも樹齢1003年の神木ではスペック的に精霊体活動範囲限界も2000kmともの凄く狭い上、更には重力やら幻術やらをかけているので隔地観測が意外に面倒です。オスティアは丁度南半球ですし》

《ネギ先生達は……ラスボスと戦っているところなんですかね?》

ラスボスって……いくらなんでも俗すぎる……。

《いえ……既に終わっているようです。超鈴音、優曇華で海中を進んでオスティア付近に行って貰えませんか?それなら私達も範囲限界を無視できるので》

軌道上だと多分……優曇華を確認される可能性がある……。

《私も丁度そう思ていた所ネ。魔法世界には人工衛星は無いが、レーダーの性能は高いからナ。海底を進むのがいいだろうネ》

《いきなり自由に空飛べなくなっちゃいましたね……》

《仕方無いですよ。まあ正直な所この際このまま宇宙に打ち上げてしまっても魔分供給できるので一向に構わないんですけどね》

後千年経たなければ扶桑で優曇華2号付きの新たな種子が作られる事も無いから特に急ぐ必要は無いが。

《まあそれは追々だナ。それでは翆坊主、1分強でオスティア近海には着くだろうが行くとするネ》

《分かりました。お願いします。有機結晶型外宇宙航行船・優曇華、射出シークエンスを開始。射出タイミングを超鈴音に譲渡します》

《優曇華のコントロール、掌握。カウント3……2……1……射出。行てくるヨ!》

《了解です》

《鈴音さん行ってらっしゃい!》

秒速100kmという激速で一旦人のいない北極を跨ぎその向かい側の陸地の終わりから海中へと突入し、北極大陸を迂回しオスティア近海に向けて超鈴音の操る優曇華は飛んで……潜っていった。
サヨは魔法世界に来るのは一先ず見送り、魔分の吸収とこちらの扶桑への転送を続け、私は転送されてきた魔分を再吸収は後回しにし、まずは濃度を安定させる作業を行った。
そして予定通り1分強程で優曇華はオスティア近海に到着し観測をし始めた。

《…………翆坊主、明日菜サン達は戦艦の甲板の上、高畑先生達も怪我をしているが戦艦の中ネ。魔法球もあるようだが流石に観測はできない……少なくともここ一帯外にネギ坊主はいないヨ》

ザジ・レイニーデイが言った事からすると単純に魔法球の中で無事休んでいるとは考えにくいが……。

《そうですか……。茶々丸姉さんに粒子通信をかけて聞いてみた方が良さそうですね》

《うむ……そうだナ。では私が繋げるヨ》

《お願いします》

2ヶ月程過ごして無事……の茶々丸姉さんは……。

《茶々丸、私だ。超鈴音ネ。火星と魔法世界を同調させたヨ。そちらの状況報告を頼むヨ》

端末による通信ではなく、純粋な粒子通信なので茶々丸姉さんが驚いて声を上げたりはしない。

《超!!計画は今日だったのですか。太陽が小さくなったのはそれが原因ですか》

《その通りです。茶々丸姉さん。ネギ少年が危ないという情報を得たのですが……魔法球の中ですか?》

《……ネギ先生は……亡くなりました……》

……はい?

《ネギ坊主が……?》

流石にこれには超鈴音も動揺しているようだが……アーティファクトの精神力強化でどうとでもなるだろう……それよりもまずは原因である。

《茶々丸姉さん、詳しく経緯を説明して下さい。何が原因でネギ少年が死亡したのですか?》

《はい……。ネギ先生はご自分で太陽道と名付けられた技法の限界を超えた使用によって墓守り人の宮殿で戦闘を行い、最後の力で集中していた魔力を拡散させる導きをして……消滅しました。また以前左腕がを失った際には世界、大気に引きこまれて溶けたと言っていました……》

《茶々丸、仮契約カードはどうなたネ?》

《失効……しています……》

……やはりネギ少年が開発していた新術はどうやら完成に至り、純粋魔分粒子体化した……という所か。

《……その件についてはこちらで全力で調査します。その前に、グレート・グランド・マスターキーというものは確保できていますか?》

《はい、のどかさんがグレート・グランド・マスターキーを用いリライトと呼ばれる魔法によって消された魔法世界の人々を元に戻しました。今は魔法球の中に置いてあります》

グレート・グランド・マスターキーは確保できている……か。
もう一つ……確認しておこう。

《分かりました。茶々丸姉さん、私達に関連する事を……誰かに話したりしましたか?》

情報制限を……ある意味敢えてしなかったし、例の時にネギ少年には敢えて魔法世界の問題について刷り込みをかけたから、もし辿り着いた時ならば構わないというつもりではあったが……。
最悪記憶の封印処理をすれば良いだけではあるが。

《も……申し訳ありません。茶々円、超、ネギ先生と高畑先生、クルト・ゲーデル総督の3名には神木の精霊の事と2本目の神木が火星に打ち上げられた事を伝えてしまいました……》

やはり……そうか。

《ふむ……経緯が分からないが自分から積極的に言た訳ではないのだろう?》

《それは……はい、ネギ先生が魔力の流出が原因で魔法世界が崩壊する事に気づき、後はどうやら高畑先生が以前茶々円を見たこと、神木の精霊の噂を知っていた事を加味し私に確認を取られたので……それにネギ先生がどうしても知りたいとおっしゃるので……すいません……どんな罰でも受けます……》

……バラしてしまったようではあるが……最後の方思考が完全に人間的になっているので成長の証……という事で……それにたった3人のようだし、なんとか許容範囲内……か。

《まあ……その3人なら良いですよ。私達も茶々丸姉さんに制限をかけなかった訳ですし。罰とは言いませんが、先程言った通りこれから私達はネギ少年の調査に入りますので、その事についてと私達が火星と魔法世界の同調を果たした事、そして私達が魔法世界にいる事はこの後茶々丸姉さんの口からは誰にも言わないで貰えますか?》

《ネギ坊主の件で皆落ち込んでいるようだが……調査してみないことにはどうにもならないヨ。変な期待は持たせたくは無いからネ》

《はい……分かりました。茶々円、超。ネギ先生を……お願いします》

茶々丸姉さんの感情の篭った頼みであるし、そもそも私達が魔法世界に手出しできない代わりと言わんばかりに頑張ってくれたネギ少年には正直感謝しても感謝しきれないのだから、全力で取り組む他無い。

《とにかく、全力でネギ少年の件に取り組みます》

《粒子分解の系統なのだとしたら希望はまだあるヨ。私達でできる限りの事はしてみせるネ》

これにて茶々丸姉さんとの通信を終え、サヨにもネギ少年の件について説明を行い、3人含め早速ネギ少年の詳細調査に入った。

《ネギ少年が使用した技法はほぼ間違いなく純粋魔分粒子体化、私達神木の精霊に近い状態だと思われますが、茶々丸姉さんの話しからするにバックアップを大気中の魔分に頼るものだと思われます》

《うむ、そうだろうナ……。私もやろうと思えばアーティファクトで出来ないことも無いだろうが、魔分容量を無視できる時点でその必要は無いネ》

《大気中の魔分にネギ先生がいるってことですよね?》

ただ……バラバラになっているから色々と問題があるだろうが……。

《そうなるでしょうね……。しかしながら、ここでまさかのあの出来事が役に立つ事になりますね》

《ネギ坊主が火星に飛び出して来た時の事カ?》

《ええ、あの時一瞬ではありましたが、これまでに無いほど精細にネギ少年の霊体解析を行いましたので、データは揃っています》

《都合が良いというか……なるべくしてなたという所かナ》

《全く……そんな気がしますね》

《えっと……じゃあ、私はこのまま魔分吸収を続けながらネギ先生の霊体反応の含まれる魔分を収集、保管すれば良いんですよね?》

《その通りです。可能な限り100%収集しきりたい所ですが、ネギ少年の左腕は今日消滅した訳ではないようで、ともすると既に再吸収して放出した可能性もあるので捜索範囲は広く地球にも及ぶ事になります》

《左腕以外も魔分溜りを拡散させる導きをしたという事はよりにもよて魔法世界全体に満遍なく溶けているのだろうナ……》

《間違いなく非常に地道かつ虱潰しの作業になりますね。ある意味私達向けではありますが》

《そうだナ。……後は霊体そのものを確保できたとしても肉体そのものを用意しないといけないネ》

《鈴音さんが鑑定したネギ先生のDNA情報を神木のインターフェイスで再現すればそれは用意できそうですよね?》

《本当の身体……ではなくなってしまいますが、それはもう集まった霊体との整合性を取り可能なかぎり適切なものをカスタマイズするしかないでしょう。ではネギ少年の霊体データを転送しますので、作業開始と行きましょう》

《了解です!》

《ネギ坊主がいなくなると私も含め皆悲しむからネ。全力で掛かるヨ》

《ええ、勿論です》

魔法世界と火星が同調した所で、完全なる世界ではなく、新たなる世界となった訳であるが、ネギ少年の問題は勿論、早めに取り組むべき事には他にも色々ある。
例えば太陽光不足の問題、そして今まで1年周期であった季節が火星に出てきた事でそれが1.88年に伸び、確実に環境に変化が出てしまうであろう事、未だ地球比1.1倍の放射線量をなんとか1倍に持って行きたい事等が挙げられる。
間もなく太陽の運行が反対になることで明らかに世界に変化が生じたのを魔法世界に住む全ての人々が気づくであろうし、扶桑が北極にある事が確認されれば安全を取る作業にまたしても認識阻害をかけなければいけない事や、メセンブリーナ連合領とは言え領有権争いにも発展しかねないかもしれない。
茶々丸姉さんの言っていたクルト・ゲーデル総督とタカミチ君にはなんらかの方法で接触しなければならないだろう……いや、こちらから接触しなくとも恐らくオスティアのゲートから麻帆良にやってくる可能性が高いが。
……崩壊は回避したものの抱える問題は色々あり、寧ろまだ同調等しなければ良かったのに……と誰かに批判されそうではあるが、正直今回程の絶好のタイミングは後にも先にも2度と無かったのであるから残酷なようではあるが、何を言われようと今更詮ない事である。
エヴァンジェリンお嬢さんにはネギ少年達が麻帆良に戻ってくると言ってしまったが……ネギ少年は元より、他の面々も実際今日戻ることはないから……恐らく文句を言われそうではあるが、サヨに任せるか……もしくは然程手間でも無いし、サヨと木を代わった方が早そうだ。
いずれにせよ、特に急を要するのがネギ少年の件であり、超鈴音、サヨ、私はそれぞれ優曇華、蟠桃、扶桑をフル稼働させ霊体反応の含まれる魔分の捜索及び保存を開始した。
しかし、それだけを行えばよいか……と言えばそうでもなく、もう一つ急を要する事に非常に危険……というよりもまさにオーバーテクノロジーに等しいグレート・グランド・マスターキーという究極魔法具をどうにかしないといけない。
信用していないという事になるが、どうあっても人間……それも特に個人に持たせておくのは非常に問題があるので正直奪取して誰にも届かないところ、例えば神木の中に保管するか……もしくは完全破壊した方が良い。

《翆坊主、一度私は明日菜サン達の所に行て来ていいカ?》

と、そんなところに丁度超鈴音から通信。

《急いだほうが良い事に越したことはないですが、とても1日で収集できるようなものではないですし、それにどうするかは超鈴音に任せますよ。向かうのであれば私も頼みたい事があるのですが……》

《グレート・グランド・マスターキーの事カ?》

《正解です。アレはどうにかしないといけません。メガロメセンブリア上層部が保管する事にでもなれば何が起こるかわかりませんから》

《確かにその可能性は否定できないナ。私の用事は龍宮サンの事ネ。観測した所どうにも消耗が激しい上に通常の治癒魔法では治らないみたいネ。報酬という訳ではないが、私も出来る事はしたいからナ。今回ばかりは習得した転移魔法の出番となりそうだヨ。グレート・グランド・マスターキーは盗む訳にもいかないが、まずは麻帆良のゲートポートから来たとでもしてなんとか接触を図るヨ。色々聞かれるだろうがうまくやるネ》

《分かりました。私もサヨと木を交代して一旦麻帆良に戻り状況を近衛門殿達に説明をします。ゲートポートが起動した件もありますし》

《やる事が多いが一つずつ解決していくヨ》

《ええ、ここからは私達の仕事ですからね》



[21907] 62話 真・新世界
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/02/09 14:31
茶々丸からネギ坊主の死亡について聞いた瞬間は流石に驚いたが、思わずアーティファクトの補正を高めて落ち着いて対応して通信を終え、現在は目下優曇華で地道な作業中ネ。
翆坊主に明日菜サン達のいる戦艦へと向かう予定を伝えたものの、いつ行くかというタイミングだが……もうそろそろかナ。
それにしても流星現象をまだ見続けている明日菜サン達に混ざているあの女性は……アリカ・アナルキア・エンテオフュシア……ネギ坊主の母カ……。
私も全てを知ていた訳ではないのだが……恐らく墓守り人の宮殿から救出されたという所なのだろうナ。
となると……ナギ・スプリングフィールドもいるかもしれないナ。

《実際に来てみると魔法世界ってこんな所だったんですね!》

翆坊主と入れ替わりで扶桑に移動してきたサヨは楽しそうだネ。

《飛空艇や浮遊岩、様々な魔法生物達がいるから魔法世界が地球よりも狭いとはいえ見所は沢山あるヨ》

まあ私も未来の資料でしか知らなかたからこうして今実際に確認できているのだが……。
しかし、海中から観測というのは飛空艇が主流な魔法世界では邪道な気がするネ。

《落ち着いたら身体に入ってあちこち周りたいです》

《優曇華は……宇宙用の筈だがこうして海中に隠しておくならさよも好きに使えばいいと思うネ》

《ありがとうございます、鈴音さん!でもまずはネギ先生を集めないと!》

《まさか世界に散り散りになたネギ坊主を集めるなんてことになるとは思わなかたヨ》

《それにしても1人が散り散りになるなんて滅多に無いことですよね》

個人が散り散りという表現自体そもそもおかしいカ。

《こんな特殊なケースはネギ坊主だけで良いヨ》

《どれぐらいで集められるか分からないですけど……下手すると夏休み終わってしまいますね》

《魔法世界の総魔分量は地球の比ではないからあと4日では……相当難しいと思うヨ》

それこそ明日菜サン達にはネギ坊主が必ず助かる等とは断言はできないナ。

《新学期早々ネギ先生不在なんて……》

《3-Aの皆がどうなるか目に浮かぶようだナ……。だが、完全なる世界と渡り合たネギ坊主は最早これ以上魔法使いの修行として後半年ですら無理に教師を続ける必要も無いと思うネ……》

《そう……ですね……。ネギ先生は……色々背負い過ぎですからね……》

《確率に偏りがありすぎるといくら言ても言い過ぎる事はない程にネギ坊主は1個人にしては非常に重要な存在でありすぎる》

《そのネギ先生、なんとしても助けないと!引き続き作業しますね!》

《私は一度明日菜サン達の所へ向かうが、できるだけ早く戻るネ》

明日菜サン達には会わないようにするけどナ……。

《了解です!》

よし……虹彩の輝きを隠す為のコンタクト、姿そのものを消す光学迷彩コートもあるし、龍宮サンの治療は転移魔法で直接部屋に飛べば良いだけネ。
問題は翆坊主に頼まれたグレート・グランド・マスターキーの件と高畑先生とクルト・ゲーデル総督が、私が現れる事でどう反応するかだナ……。
最悪サヨか翆坊主に記憶改竄による強行手段があるから私は上手くやるよう心掛けるのみネ。
戦闘する訳でもないから高速転移魔法ではなく転移門で行くとするヨ。

―転移門―

行き先は……龍宮サン1人だけの個室ネ。
うむ……問題なく到着したヨ。
視野情報からも特に艦内の誰かが私の侵入に気づいた訳でもないようだし手早く龍宮サンの解析と応急処置を済ませるネ。
髪の毛が白く脱色し、見たところ魔分を激しく消耗したような症状だが……解析をしてひとまずは魔分供給で様子を見るとしよう。

  ―対象解析 龍宮真名―
―魔分供給 開始 龍宮真名―

む……龍宮サンは純粋な人間ではないのカ。
魔眼がどうのとは知ていたがまた知らされていな……いや、知ていてもどうともしないカ。
……これまでは魔法世界ではアーティファクトは恐らく使えなかた筈だが、特に違和感無く使えるのだから助かるナ。
しかしこの症状は……少なくとも意識は取り戻すだろうが寿命が短くなっている可能性があるネ……。
私ではなく翆坊主かサヨの精細治療を受けさせた方が良いかもしれないナ。
さて、次にどう動くかだが……翆坊主の口癖ではないが遅かれ早かれ私もネギ坊主……はいないが高畑先生達に色々聞かれる事になるだろうからそれなりに話をしてしまても変わらないかナ。
光学迷彩コートは被たからこのまますぐ近くにあるまだ横になている高畑先生の部屋に行くカ。
部屋を出て……と……戦艦の中はどこも慌ただしいネ。
視えているから走り回ている人達にぶつかりはしないが……ドアの前に着いた所で周囲にこちらを見ている人がいないのを確認して……今だナ。
スライド式……この辺りは地球と同じネ。

「ん……?誰かいるのかい?わざわざここに来なくても通信でも構わないが……」

独りでにドアが開けば気づくのも当然だナ。
コートを取てと……。

「!」

「高畑先生、久しぶりネ」

「超君!?ッ!」

私を見て驚くのも無理ないが、怪我をしているのに上体を起こそうとするから痛そうだネ。
ただの外傷は私が全部治してしまうという手もあるが……麻帆良側に戻ればクウネルサンもいるし下手に手出しする必要も無いカ。

「怪我をしているのなら無理に身体を起こす事無いヨ。分かているネ。話すヨ」

「……ああ……頼むよ」

「一つ、クルト・ゲーデル総督もこの場に呼んでもらえないかナ?先程確認を取たが、茶々丸から例の事、聞いたらしいネ?」

「じゃあネギ君の事も既に……。いや、分かった。クルトもここに呼ぼう。……通信するが」

「この通り、光学迷彩コートをもう一度被るから大丈夫ネ」

『クルト、こっちの部屋に来てもらえないか。直接話したい事ができた』

『こちらはまだ忙しいのですが……タカミチ、できたというからには重要な事なのか』

『勿論だ』

『……分かりました。すぐ部下に頼んでそちらに向かう』

『頼む』

後は総督が来るのを待つだけネ。

「超君、一つ聞かせて欲しい。今回どうなるか全て分かっていたのかい?」

色々端末等渡していたからそう思われても仕方ないナ。

「知ていた事は知ていたが、当然全てでは無い。特に魔法世界でこの地球で2週間の間に起きていた事については寧ろ私も実際どうなるかは、なてみなければ分からなかたヨ。端末しか渡さなかたのが、この分を見るに少し手抜きだたと思うぐらいにはネ」

でも、下手に武装を持たせては、何か起こると最初から言ているようなものだからそれはまず無かたけどナ。

「正確な事は分からない……という事か」

「その通りネ。おや、そろそろ総督が来るから少し黙らせてもらうヨ」

担架で運ばれてくるみたいだから少し壁際に離れておくカ。
……ドアが開く音がして総督が部下に運ばれてやてきたヨ。

「タカミチ、来たぞ」

「悪いが人払いを頼む」

「……後で呼びますので一旦下がりなさい」

「「はっ!失礼します」」

部下の人達が出ていたネ。

「これでいいでしょう。この短時間の間に何かあったとは思えないが何の話しだ?墓守り人の宮殿の注視もそうだが、突然太陽が小さくなった上、更には再び沈み始めた原因の確認もしなければいけないのですが……」

「多分……それの原因を説明できる人物が来ている。合っているかな、超君」

「何!?」

再び光学迷彩コートを取てと……。

「まあ、そんな所かナ。初めまして、クルト・ゲーデル総督。超鈴音ネ」

「なっ!?あなたが例の!」

「そう、きっとその例の人だヨ。まずは私が地球からどうやて来たかだが、既にゲートも起動しているからそこからだヨ。……反応からして素直に信用できないみたいだが……そういう事にしてもらえると、助かるネ」

ある意味地球から火星まで宇宙旅行してきたと説明する事もできそうだナ。

「……分かった。それについてはゲートからという事にしよう」

「助かるヨ。茶々丸から聞いたらしいが……魔法世界の崩壊の件はほんの先ほど、解決した。太陽の異常はそれが原因ネ」

「火星に2本目の神木が定着している……とは茶々丸君から聞いたが……まさか魔法世界は旧世界の火星へと……」

「しかし……そんな無茶な事が」

「その通り。全く、無茶な事だヨ。様々な問題を抱えていたが、それを可能とするだけの能力があたから実際にできた。高畑先生の考えている通り、今や魔法世界は旧世界、無限に広がる宇宙空間に存在する地球、その隣の惑星、火星と完全に同化したネ。正直これからが一番大変なのだが、少なくとも根本的な問題は取り去られたヨ」

「魔法世界が……本当に火星に」

「ありえない……と言いたいところですが、太陽の異常は魔法世界が火星になったからと考えれば……説明はつきますね……」

2人とも驚きを通り越して呆然としているナ。

「因みに重力に関する諸問題は解消されているから安心して欲しいネ」

「たっ……確かに……重力に変化は感じられませんがそんな事まで……。超鈴音さん、一体その神木のある場所は何処なのかお聞きしても……?」

予想通りの反応だナ。

「探せばいずれ分かる事ではあるが、ここに来て神木の重要性が露呈したからには所有権争いに発展するのが目に見えるからそれは教えにくいヨ。確かに麻帆良の神木は一応人間の間では、メガロメセンブリアの管轄という事になているから火星の神木もそうなるのは避けられない事ではありそうだけれどネ。総督は神木の場所を知たらどうするネ?」

「国際問題どころか世界そのものに関わる事ですから調査しない訳には……」

「火星だけの問題で済めばいいが……火星になった、という事は地球から魔法世界の存在を知られる事も考慮しなければならない……かな?超君」

「尤もなことネ。今はまだ、地球からは火星の地表変化を確認できないようにしてあるヨ。だが後5ヶ月で地球から打ち上げられた火星探査機が到着するネ。撃ち落とす事は簡単だが……それはある意味未知との遭遇として考えると対応としては適切ではないだろうネ。ましてや同じ人類なのだから」

「魔法世界そのものにとっても重要であり、星間規模の問題という事ですか……。それは慎重を期さなくてはなりませんね。もしその神木が害されでもすれば……」

「魔法世界は悲惨な事になるヨ。ゲートが1つしか無い今、絶対に星間戦争等に発展させては駄目ネ」

まさか真面目に星間戦争なんてファンタジーな事を実際に言うとは思わなかたネ……。

「せ、星間戦争……」

実際に言葉で言てみると高畑先生も壮大すぎて違和感を覚えているみたいだナ。

「十分ありえる……事でしょうね。特に亜人類に対して誤解を地球人に抱かれればその可能性は否定できません……」

「全世界にでも認識阻害をすればそれで終わりだが、これはある意味全人類の転換点、試されているとも言えるネ。精霊の話も聞いていると思うが、実際彼らに認識阻害を行うのは不可能ではない筈だヨ。だがそれで良いのか、という究極的な問題が付き纏うネ」

翆坊主は強制認識魔法には否定的だから尚更だナ。
翆坊主達は決して人類の完全な味方でもなければ、世界の味方でも、ましてや神でも無い。
毛頭、神木と呼ばれているとしても神、だ等とあの翆坊主達は思てはいないが。
純粋に魔法を残す、魔分を生産し続け、数千年かけて新たな神木を増やす事が目的なのだから、その点は実に一般的な種の繁栄と何ら変わりは無いネ。

「認識阻害……魔法世界にこんな奇跡を起こすのですから……できて当然ですか……。超鈴音さん、その……神木の精霊の意思は一体……それに何故あなたがその彼らと……?」

「相坂君もそうらしいが……こんな計画を行ったのだから絶対に人間の敵ではないだろうが……目的は何なんだい?」

「そうだナ。彼らの立ち位置、目的については理解して貰ておいた方がいいネ。……彼らの究極的な目的はほぼ全ての生命に共通する一般的な種の繁栄と全く変わらないヨ」

「それは……種子を残すという事かい?」

「その通りネ。数千年単位の次元の話らしいけどネ。彼らは人類と敵対する気は、本気で木を害したりでもしない限りは一切無いヨ。逆に完全に全人類、全ての生命の味方という訳でも無いネ。これは彼らの究極的目的から考えれば道理だヨ。ただ、今回魔法世界が崩壊する原因である魔力の枯渇という問題の解決に踏み切ったのは、間違いなく彼らの積極的な意思のお陰ネ。一つ、翆色の精霊が私に何と前に言た事があるか言おう。……魔法世界は本来的に異界ですからそれがこちらの世界に出てくるというのは非常に夢があると思いませんか?……とこう言ていたネ」

「夢……?そう言われれば……僕も否定はしないが」

「精霊とはそういう思考をするものなのですか……」

「ハハハ、信じられないという顔をしているけど、神木の精霊は完全に人類の味方という訳ではないが、間違いなく彼らは人間に限りなく近い感性を持ち合わせているヨ。そして何故、彼らと関わりを持ているのが私なのか、という問題だがこれは彼らにとて、私が最も裏切る可能性の少ない人間だから、というのが選定理由らしいヨ。まあ今更この点について追求されても困るからそういう事で納得して貰いたいネ」

色々事情を考え出すと私の生まれた未来の時間軸、私が跳んだ過去そしてその未来の時間軸の2つを経た上で、更にどういう訳かこの私が鍵となて翆坊主が数千年前に現れたのだから、私、には確かめる術は無いが今現在はこれで3つ目の時間軸という事になる。
世界に意思があてそれが原因で翆坊主が……現れたのかもしれない……と、これはどうも俄には信じがたい事だけどネ。

「……説明してくれてありがとう。ある程度分かったよ、超君。正直僕は今まで超君や相坂君を不審に思う事が多かったが……その神木の精霊に協力していたとは……とんだ間違いだったようだね」

「私も……それなりに分かりました。神木の精霊の目的がそういう事であれば共生関係を築くのが良さそうですね。話も通じそうですから私も実際に話してみたいのですが」

「認識を改めて貰えて助かるヨ、高畑先生。総督の言うとおり、共生関係が適しているだろうネ。この世界にとて魔法、魔力は必要だろうし、彼らにとても魔法世界が存続することは良いことだからナ。彼らと話すなら……まずは一度直接麻帆良に足を運ぶといいヨ。彼らも高畑先生と総督が必ず接触してくるのは間違いないと分かているからネ。私は彼らの代理というつもりはないが、先に先入観を取ておいた方が円滑に進むと思てこうして高畑先生と総督に会いに来たんだヨ。それと、一つだけ欲しい……というよりも渡して欲しい物があるネ」

翆坊主達と話すだけならもう世界の何処でも可能なのだけれどネ。

「……なるほど、分かりました。この後治癒術師に本格的治療を済ませ、すぐにでも起動したというゲートから一度麻帆良に向かう事にしましょう。渡して欲しい物とは……グレート・グランド・マスターキーの事ですか?」

「……ネギ……君がグレート・グランド・マスターキーの事を恐らくその神木の精霊から聞いた事があると言っていたが……」

「ッ……」

ネギ坊主の話題は相当なタブーだナ……。
先程から異様にこの2人が前向きなのもそれが理由なのだろうネ……。

「グレート・グランド・マスターキー、私も見たことは無いしそんなに詳しい事も知らないが、アレはどうにかしないといけない、と翆色の精霊が言ていてネ。できれば無条件で渡して貰いたい。1個人にしろ、組織にしろ、こればかりは人間が持ているのは争いの種にしかならないという事だと思うネ」

「……リライトされた人々も戻ってきた今、僕個人は渡して構わないと言いたい。このままだと高確率でメガロメセンブリア上層部が接収する形になりかねない」

「あの未知の力……腐敗した元老院が何をしでかすか分からないのは間違いありませんね……。以前なら渡すつもりは無かったでしょうが……今回ばかりは私個人の感情としてもグレート・グランド・マスターキーは誰の手にも届かない所へとやってしまいたいと、切に思います……」

「クルト……そうだな……」

何だか拍子抜けするぐらいすんなり交渉がうまく行たが……これはどうもまたネギ坊主の件が尾を引いているみたいだナ……。

「ネギ坊主は……どうだたネ?」

「とても……立派……だった。英雄の息子、ではなく、ネギ君は最後までネギ君だったさ……」

「余りにも……報われないっ……。最初私が考えていた事は余りにも愚かとしか言いようがない。たった10歳の少年が私達大人よりも先に命を賭して散る等……悔やんでも悔やみきれません。正直、神木の精霊にそれほどの力があったのなら何とかして欲しかったと例え恨んででも願いたい程ですよ……。アリカ様とナギが戻って来たのにこれではッ……」

高畑先生はやりきれないという表情、総督は後悔に埋め尽くされているという様子だネ……。

「そうか……ネギ坊主は……やり遂げたカ……。一応説明すると、神木の精霊は火星が魔法世界と同化するまでは一切魔法世界には手出しすることができなかたネ……」

「そう……だったのかい……」

「…………」

明日菜サン達にはともかくこの2人に伝えておくのは悪くないカ……。

「期待を持たせるようなことを言うが……ネギ坊主の葬式を上げるのは、まだ早いヨ」

「!超君……それはっ……」

「仮契約カードで死亡が確定したというのに……助かるとでも……!?」

大の大人ながら食付きが早いネ。

「まだ……分からない。ネギ坊主の使た技法というのを茶々丸から聞いたのだが、現在調査中ネ。ただ一つ確かに言えるのは、見込みはゼロではない、という事だけだヨ。彼らはネギ坊主に感謝しているからネ。2人なら分かるだろうと思て言たが……私のクラスメイト達に下手な期待を持たせるのはやめて欲しい。余計に傷付く事になる」

「……見込みはゼロでは……ない……。正直……それができたら奇跡としか思えないが……僕は信じるよ。分かった。アスナ君達には言わないと約束しよう」

「そうですか……ネギ君は……アリカ様とナギの子供は……まだ助かるかもしれないのですねっ……。分かりました。……ならば私達は前へと、進みましょう。まずはグレート・グランド・マスターキー、貴女に託して良いのですね?」

「ああ、任せるネ。必ず彼らに送り届けるヨ。最初するつもりは無かたが……私からも餞別を送ろう。楽にして欲しい」

「超君?」

―契約執行をオンに変更 出力制御―
 ―ラスト・テイル・マイ・マジックスキル・マギステル―
 ―彼の者達に清らかなる癒しを―
     ―完全快癒!!!―

こうして私が外で魔法を使う事になるとはネ……。
いや、自分でやておいて何を今更という所だナ。

「こ……これは……怪我が全部治って……」

「これは……驚きましたね……」

このアーティファクトで行う限り不可能な魔法は殆ど無いネ。

「これは秘密で頼むヨ。私は魔法を使えない事になているからネ。私が去るまではまだそのまま怪我をしているフリでもしてもらえると助かるヨ。今この魔法世界……いや、新世界で神木の秘密を知ているのは高畑先生と総督だけネ。分かていると思うが、はっきり言てこの世界にはこれから大規模な混乱が巻き起こるヨ。太陽の運行は逆になり、その光量は従来よりも減り、1年の周期も1.88年に伸びて季節もズレる。これによて環境変化はどうしても起きるし、その社会的な影響は計り知れない。しかし、彼らの計画は今回のタイミング以外に実行する機会はあり得なかた以上、総督の言うとおり我々人類は前へと進むしか無い」

「ああ……全力を尽くそう」

「ええ、当然、私も全力を尽くします。言い訳が面倒ですが、治療、感謝します」

「では、グレート・グランド・マスターキーは引き取らせて貰うヨ。茶々丸から魔法球に置いてあると聞いているから、このコートと、魔法で手早く済ますネ。それと一度麻帆良の地下に繋がるオスティアのゲートを通て地球に明日菜サン達皆で帰る事を勧めておくヨ。ネギ坊主はいなくとも、あちらで待ている人達も大勢いるからネ」

「……分かった。一度神木の精霊にも会う必要があるし、必ず皆で戻るよ」

「分かりました。グレート・グランド・マスターキーの件は私達で説明をつけておきますので」

「また近いうちすぐに会う事になるだろうが、それでは失礼するヨ」

光学迷彩コートを被て……。

―瞬時転移―

場所は魔法球の前ネ。
中に入て……モデルは南国か……。
加速しつつ視野拡張を最大にして……おや、部屋で寝ているのは……小太郎君と……やはりと言うべきかナギ・スプリングフィールド……後も一人は……知らないナ。
水晶が割れている所から考えるとどうやら高度な封印魔法のようなものから脱したようだネ……。
逆に今私の目的は達し易い。
グレート・グランド・マスターキー、それらしいのは……見つけた。
身長程の長さのある火星儀の付いた杖カ……。

―瞬時転移―

うむ、手に入れた……これで後は戻るだけネ。

―瞬時転移―

―ダイオラマ魔法球出入制限時間の特定選択除外を実行―

元々この魔法球、出入り制限はかなり緩いようだが流石に一瞬だけというのは認められないネ。
しかし、ものの5秒程で一連の作業は終了ネ。

―転移門―

……ダイオラマ魔法球からでてすぐに優曇華に帰還したヨ。

《さよ、グレート・グランド・マスターキーは確保したネ。翆坊主に繋げられるカ?》

《はい!任せて下さい。キノ、鈴音さんがグレート・グランド・マスターキー確保したそうです》

《……随分スムーズに行ったように思えるんですが……》

《ああ、高畑先生とクルト・ゲーデル総督に接触して話を付けて来たからネ。結局盗み出すような形にはなたが、ちゃんと許可は取たからアリだと思うヨ》

《了解しました、ありがとうございます、超鈴音。すぐに神木に入れる必要もありませんので、そのまま優曇華のアーチにでも入れておいて下さい》

《分かたネ。接触して改めて分かたが、ネギ坊主は魔法世界であの大人2人に強烈な影響を与えたようだヨ。正しくは周囲の者全てに、かもしれないが》

《2ヶ月ぐらい……だったみたいですけど……ネギ先生は……頑張ったという言葉では表しきれない程頑張ったんですね……》

《……少なくとも、このままでは終わらせる気はありませんので作業を続けましょう。こちらも話をして来た所です》

《エヴァンジェリンがどう反応したか予想できるが……翆坊主になんとかしろと言てきたのだろう?》

《ええ、全くその通りです。魔分粒子分解を知っているのでエヴァンジェリンお嬢さんは私達がなんとかするだろうと確信して待つそうです。ある意味脅迫じみていましたけどね……当然言われなくても進んでやる訳ですが》

《エヴァンジェリンさんらしいですね》

あれでエヴァンジェリンはネギ坊主を溺愛していたからネ……。
そもそも死亡というのを私達がいる時点で認めようともしないだろうから当然の反応だナ。

《エヴァンジェリンも待ている事だし、始めたばかりにしても予想以上に回収が進まないから続けるしかないネ》

優曇華だから……というのもあるが、墓守り人の宮殿のあるオスティア近海に溶けたのでこの分だとそれこそ日単位で普通にかかるだろうネ……。
魔分も常に一定の場所に留まている訳ではないから結局神木で直接回収するのが一番早いカ。

《こちらも回収速度は芳しく無いですが、集まっているには集まっています》

《こっちも同じです、まだまだ頑張ります!》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

超鈴音が新世界で動いていた間私が何をしていたか少し遡ろう。
地球、麻帆良に戻ってきてすぐ、近衛門殿達に事情説明をする前に寸前までサヨが管理していたこちらの状況を改めて確認した。
ネットに介入して走査してみれば、火星観測の生中継番組は、火星の接近中に超発光現象が起き、更には火星のフォボスとダイモスまでが発光した事でアナウンサー含めカメラマンまでもがやたら興奮して映像に映り何か騒いでいたりとちゃんと仕事しろという有様であった。
いや、寧ろ全人類が一体何が起こったのかと混乱と共に興奮状態であり、とある掲示板の書き込みでは

「世界終わるんじゃね?」
「ねーよ」
「ちょっと今から全財産下ろしてくるわ」
「目が、目がぁー!!」
「大予言遅れて実現キター?」
「誰か説明よろ」
「説明しよう!あれは日本に隠されたアルテマウェポンだ!」
「な、何だってー!?」

等とほぼネタだろうが、完全に祭りモードを楽しんでいるようである。
いや、何やら目をバルスされた方もいるようだが……大丈夫だろうか、非常に申し訳ない。
とりあえず、こういうもの程度なら本当に好きにして欲しい。
超鈴音の作り上げたSNSのネットワークにはそれはもう驚くべき速度で様々な情報が飛び交い、写真やら撮影映像がアップロードされたり、物好きな人達が前述のようなネタではなく真面目に色々談義していたりと活気に満ち溢れている。
麻帆良内を観測すれば、神木について何やかんやリサーチをやっている複数のサークルは、位相同調の直前、当たり前の様に神木の前に集結して超常現象を目の当たりにし、余りの感情の昂りから謎の踊りをしだすという奇行が視界に入った……。
天文部の一部の集団は無駄に望遠鏡のいくつかを神木を見るのに使っているが、そこは落ち着いて双眼鏡に切り替えるべきだ。
更に本当に因みに、であるが、朝倉和美はこの超常現象に、入用な物だけ持ち、麻帆良報道部へと一目散に向かった。
多分部員が集結して無理矢理部室を開けるのだろうと思う。
そんな中余程今重大なのは、日本政府に対し各国から麻帆良に11にも及ぶ光の河が集まり更には光の柱が神木に落ちたことについての説明を求める連絡が続々入っている事である。
中には日本が何らかの新兵器を隠していてそれを使うつもりなのではないか、という……ある程度予想はしていたが、まさしく一触即発レベルのものまであり、既に空母が臨戦体勢に入っている国まで出てきているという危険な状況に陥っている。
……これには日本政府に所属して働いている魔法使い達が情報処理に四苦八苦しており、関東魔法協会理事である近衛門の元にも説明要求をすぐにして来た。
今更であるが基本的に魔法協会の拠点がある国家ほぼ全ての政府には必ずと言って良い程優秀な魔法使い達、基本的に彼らは魔法自体を上手く扱えるかや、戦闘力の高さは然程要求はされないが、彼らが所属しており、日々隠れた努力を行い、国家規模の情報統制を行っているのである。
でなければ、NGOとして活動するに際して、秘匿に気を付けているとはいえ魔法を使って世界を股にかけて活動する等不可能である。
例を挙げれば、銃器・刀剣類等を持って飛行機に乗るというもの一つを取っても、そもそも銃刀法を乗り越え、空港での持ち物検査等をスルーし、そのままスムーズに出入国できるのはまさしく彼らのお陰なのである。
メガロメセンブリア本国と連絡が取れない今、結果として暫定的最高指揮権は近衛門が執る他無い。
勿論表の政府機関だけではなく、各国の魔法協会も説明を要求してきている。
管理していた11箇所のゲートにあった魔分溜りがほぼ全て消失し、それが麻帆良に集まったのだから当然の対応ではあるが。
正直これから情報処理やら報告書作成等、激務続きになる事間違いなしである。
現在当然の事ながら麻帆良の表明としては、詳細については依然調査中であり、それを待っていられない日本政府が発した声明の第一報は、戦闘の意思は一切無く、日本政府としても今回の現象は真っ先に調査を行う方針である、というものになった。
反応としては世界11箇所から光の河が発生した事に関し、既に日本だけの問題ではなく、各国による共同調査に乗り出すべきだというものまで挙がっている。
流石に今回の現象は、私達の計画に利用したものであり、使うものが強制認識魔法であれば余り混乱は起きはしなかったあろうが、残念ながらそうではないので国際問題にあっという間に発展した。
しかもまだ知られていないとは言え、火星が第二のそれはもう美しき青い星となった事までがこの状況に加われば、世界そのものが革新の時を迎える事間違いなしであろう。
何はともあれ、戦争等起こらない……何かの拍子で核が飛んできたりしない事を祈るばかりである。
少なくとも明日地球がどうなるという事は一切無いのだから落ち着きを取り戻して欲しい。
さて、近衛門はと言えば、報告を待つまでもなく、自力で超高速転移魔法を駆使し、実際に麻帆良地下のゲートを確認しては学園長室にまた戻り連絡を行っては、次に明石教授と弐集院先生が忙しなく作業中である麻帆良教会、日本魔法協会支部の管制室へと転移を繰り返している。
要するに、私が精霊体で実際に会って話をしている場合ではないのだ。
となればコンタクトを取る方法は一つしかない。

《近衛門殿、お忙しい所失礼します。こちらの計画は完全に成功しました。これはちょっとした加速通信のようなもので時間は殆ど取りませんので、念じて頂くだけで構いません》

《おお、キノ殿、待っておった。なんとも時間が止まったような感覚がするが……これはちと頭が痛いの》

《ええ、そういう訳で手早く済ませましょう。先日ゲートポートが破壊された事によって起きる魔力の対流を利用すると少し話しましたが、予定通りと言いますか、完全なる世界が各地のゲートポートを破壊し、あちらのオスティアに膨大な魔力溜りを形成し世界の終りと始まりの魔法を発動させる算段の所を私達が便乗して逆に利用し、火星と魔法世界の位相を完全に同調させる事に成功しました。実際、魔法世界、火星側の完全なる世界の計画がネギ少年達によって阻止された事が非常に大きいですが》

《ぬぅ……なるほど……今になってよく分かったがキノ殿にとってゲートポートが破壊される事はその計画に必要だったのじゃな》

《ええ、申し訳ないですが、正直口が裂けても近衛門殿達にゲートの要石を破壊することを頼む訳にも行きませんでしたからあの時は事後確認という形を取りました》

《うむ……儂らが要石を壊すのはあり得ないからの……。しかし火星が魔法世界となったというのは……真に驚きじゃな。これから大変じゃわい。ネギ君達が上手くやったのは良いことなのじゃろうが……儂がネギ君達の旅行を認めたのは勘じゃったから複雑じゃな……。して……無事なのかの?》

《ここから先は私としてもどうなるか全く分からない未知の世界になりますから大変なのは間違いないですが、是非、頑張って欲しいとしか言えません。ですが近衛門殿の勘は正直信じられない程の精度なのでこれからもなんとかなる筈ですよ。ネギ少年達の安否ですが、隠しても仕方がありませんのでお教えします。ネギ少年を除き、他の者は大なり小なり怪我はありますが、全員命に別状はありません。ネギ少年に限って言えば、今現在この地球、火星の両方から消えている状態です。それ以上に関してはこちらも色々事情があるので答えるのは難しいです》

《人間の問題は儂らでなんとかするよう努力しよう。じゃがネギ君が……おらぬのか……。キノ殿のその言いようならば手遅れという訳ではないようじゃが》

《まあ……そういう事です。楽観視は一切できないのですが……。それで地下ゲートの件ですが、お分かりの通り繋がっている先は廃都オスティア……旧ウェスペルタティア王国の空中王宮内になります。使用するなとは言うつもりは全くありませんが、前大戦で崩落したと言われる浮遊大陸は全て再浮遊を完了している上、竜種を始めとする強力な魔獣がいることに変わりはありませんので細心の注意を払ってください。今日中という事は無いでしょうが、木乃香お嬢さん達もできるだけ早くゲートを通って戻ってくる筈ですので出迎えの用意もどうぞ。私はこれでクウネル殿とエヴァンジェリンお嬢さんがいるいつもの図書館島に参りますので》

《あい分かった。情報感謝しますぞ、キノ殿。そろそろ儂も頭が痛いでの》

《はい、今日はお忙しいでしょうが、身体にはお気を付けて。失礼します》

……さて、クウネル殿と、私が言った通りそこに向かっていたお嬢さんの所に向かおう。
お嬢さんにネギ少年の話をするのは気が引けるのだが……隠していても碌な事にならない。
司書殿もお嬢さんもゲートの調査を魔法先生達が忙しくやってる所に首をつっこむきは無いらしく、落ち着いていつもの滝に囲まれた空中庭園で待機中であった。

《どうも、クウネル殿、エヴァンジェリンお嬢さん。計画は完全に成功しました》

「やっと来たか茶々円。相坂から少し聞いたがそうらしいな。ここ以外は騒がしくてかなわん」

「おや、キノ殿、上手く行ったようで何よりです。しかし、驚くべき魔力でしたね。私ももうここから出られる程です」

この2人は……まあどうなるか分かってたのだからこれぐらいの反応で正しいのだろう。
相変わらずの司書殿の表情はいつも通りだが……。

《少し新世界の状況確認に手間取りまして。クウネル殿は研究兼……休養は、もう、宜しいのですね》

「ええ……そんな所です」

少し真剣な表情になったな。

《そうですか。……深く聞くのはよしておきますよ。……それで、ネギ少年達の件ですが、正直に申し上げると、問題が発生しました》

「……何だ?」

《ネギ少年を除いた者は皆怪我の大小の差はあれど無事なのですが……ネギ少年は今両世界のどちらにもおらず、ゲートからは戻ってきません》

近衛門に対しても言い方はアレだったが、実際には世界そのものに含まれているという言い方が正しい。

「おい……茶々円。原因はまさか……」

さっき会話したばかりだからすぐにお嬢さんは気づいたらしい。

《例の新術、技法はあちらで完成したようで、それを行使したようです。代償はネギ少年自身……でしょう》

「流石に無理だと思っていたが……ぼーやの奴め……ッ」

「ネギ君が……ですか……」

予想通りではあるがお嬢さんの雰囲気がガラリと変わった……。

「茶々円……詳しい事情は分かるのか……」

《詳しい経緯は……今頃超鈴音が把握しているかもしれませんが……私はまだ確認していません。また後で連絡か……あるいは、それについてはタカミチ君達が戻ってから実際に聞かれるのが良いと思います》

「……分かった。だが、茶々円、アレなら、お前達なら、なんとかできるだろう……。いや、なんとかしろ。……絶対だからな……」

……さもなければという言葉が今にも続きそうな無言の圧力が……。

《ええ、勿論です。既に動いています》

「……悪い。お前達がやるなら必ずなんとかなるな。……私は……塞ぎ込んでいそうなアスナ達を迎えるとするよ」

「キノ殿、私もネギ君が戻ってくる事、願っていますよ」

すぐにお嬢さんは落ち着きを取り戻してくれた。
信用してもらえるようで助かる……いや、確かに私達なら可能であり、私達でなければ不可能なのだから冷静に考えれば……道理だろう。

《分かりました。……それでは、私は作業に戻りますので失礼します》

……そういう事があり、サヨから超鈴音の連絡を繋がれ、グレート・グランド・マスターキーが無事確保され、タカミチ君とクルト・ゲーデル総督には必ず会うことになるであろう事が分かり今に至る。
今私が出来る事と言えば、ネギ少年の霊体反応のある魔分を回収し続け、一方で直接の手出しはほぼ不可能ではあるが、世界情勢を注視し観測し続ける事、そして世界11箇所に再び魔分を供給し、魔分溜りを形成する事である。
この後も作業を行っていたが不意に超鈴音から通信が入り、あちらにネギ少年の両親ともう一人知らない人物がいた事を伝えられた。
……やはりと言うべきか、全て帰結したようで、以前お嬢さんにナギが見つかるかもしれないとは言ったが実際に戻ってくるとなると……どうなるだろうか。
こればかりはなってみないと分からない。
お嬢さんに伝えた方がいい気がするが話しかけている暇があるならさっさとやれと言われそうだし、それこそお楽しみという事で良いと思う。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

超鈴音に治療を施された高畑とクルトは少しの間を置いて、超鈴音がフレスヴェルグから去ったであろう事を待ち、そのまま担架生活を終え、怪我が無くなった事を隠す事なく2人でデッキへと戻りその場にいた者達を驚かせた。
酷い怪我をしていた筈にも関わらず平然として現れた為、クルトの部下は大いに慌てたが、実際に怪我が無くなっていたのでその場はなんとか落ち着いた。
しかし、どうして急に治ったのかについて全員が疑問に思ったが、2人は一切その疑問にまともに答える事はなく「治ったものは治った」の一点張りであった。
デッキに戻った2人は傷が不可解にも治ったばかりで魔法世界が火星になった事を説明する訳にもいかない為、引き続きそのまま部下には異変の調査を特に指示する事無く行わせつつ、墓守り人の宮殿の状態が安定し始めたのを確認し、残る艦隊も最低限にするべく艦隊を指揮し新オスティアへと下がらせた。
そんな中、太陽の観測から離れ、他の宇宙空間にも異変が無いかと望遠で観測され始め、驚愕の事実が報告された。
その事実とは勿論、紛れもなく地球が確認できた事である。
その情報はスヴァンフヴィートに戻っていたリカードを始めとし、セラス、テオドラにもすぐに伝わり通信が行われた。

『つまり何だ、魔法世界は火星に出たとでも言うのかよ?』

『完全なる世界の儀式はまさか成功しておったのか……?』

『いいえ……それは無いわ。あのリライトという魔法を考えれば全く別の要素が原因の筈よ。関連が無いとは言い切れないけれど』

『セラス総長の仰る通りです。完全なる世界の計画は阻止したのですから』

『完全なる世界の他に魔法世界で世界規模の魔法が行われていない以上、旧世界側に原因がある可能性が高いだろう』

『空中王宮にあるゲートからどこに繋がってるかは分かんねぇけどあっちに行けるようになってんだったら確認しに行きゃ分かるだろ。その時はついでに嬢ちゃん達も一旦帰るといいと思うぜ』

『それについては迅速に動いた方がいいですね。しかし消耗と日が再び沈み始めている事を考えれば、一度明日……朝になるのを待った方が良いでしょう』

『墓守り人の宮殿も落ち着いて来たのじゃから、もう艦隊を全部下がらせて一度新オスティアに戻っても良いのではないか?色々話もし辛いしの』

『そうね。そちらの艦にまた移るのは面倒よ』

ナギやアリカがいるという事もあり、実際内密な話をしにくい状況であった。

『……観測班、墓守り人の宮殿の安定状況は?』

[[ハッ、流星現象により墓守り人の宮殿付近の魔力溜りは急速に安定状態に入り、2度と勢いを盛り返す事は無いと思われます]]

『……分かりました。では旗艦も新オスティアへと進路を取りましょう』

『よぅし、そんじゃ戻るとするか』

『そうするのじゃ』

こうして、アスナ達が未だ甲板で流星現象を見続けている最中、連合・帝国・アリアドネーの旗艦も新オスティアへと帰還ルートを取る事となった。
グッドマン一族達を始めとして殆どの者は長時間の戦闘による疲労の為先んじて新オスティアへと戻って休息を取っており、そこに4つの旗艦も遅れて到着し、その乗組員達も同様に休息に入ったのだった。
丁度その頃、魔法球の中では大分時間が経過しており、遅れて3名が目を覚ました。

「ん……何処だここ……いや何で俺ここにいんだ……?俺は奴に……。ってお師匠!?お師匠じゃねぇか!」

ナギもやはり記憶に混乱があり、ふと横にゼクトが寝ていた事に驚き大声を上げる。

「……むぅ……騒がしいと思えば……。ナギ……なるほど、解決したようじゃな」

ゼクトは突然耳元で騒がしい音がしたため目を開け、むくりと起き上がり、状況を理解した。

「お師匠!お師匠!何かよく分かんねぇけどお師匠なんだな!」

ナギは思わずゼクトの頭を右手で鷲掴みわしゃわしゃと撫で始めた。

「そんなに何度も呼ばずともワシはワシじゃ。無駄に力を込めて頭を鷲掴みにするのをやめんか、馬鹿弟子」

「ああ、悪い悪い。つい癖で」

「…………う……何や……?ハッ!?ネギッ!!」

ほぼ時を同じくして小太郎も目を覚まし、最初にネギの名を呼ぶ。

「……ここはテオドラ姫さんの魔法きゅ」

「お前今ネギつったか!?ネギの事知ってんのか?」

ナギはゼクトから瞬時に離れ今度は小太郎のすぐ目の前に移動して言葉を畳み掛ける。

「誰や……!!……兄さんは……ネギの……ナギ……スプリングフィールド……」

「ネギの事、知ってんだな?」

「ああ、良う知っとる。知っとるで。俺は犬上小太郎。ネギの相棒や」

「コタロー、コタローか。俺は知っての通り、ナギ・スプリングフィールドだ」

「ワシはゼクトじゃ。コタローよ。墓守り人の宮殿でお主の仲間の楓達に協力した者じゃ」

「楓姉ちゃんの……知り合いなんか」

「お師匠?墓守り人の宮殿って……」

「その話は……他の者の方が知っておる筈じゃ」

「何やよう分からんけど……そやアーティファクトは……戻っとるか……ん……無い、無い!!姉ちゃん達が持っとるんか。そや、外に出れば分かる。ナギさんにゼクトの……お師匠さんも魔法球から一旦出んか?」

「……そうだな、外に出っか。お師匠も行こうぜ」

「うむ」

小太郎の提案によって3人は部屋から出て魔法球の出口のある桟橋へと向かった。

「コタロー、お前さっきネギの相棒とかアーティファクトって言ってたがネギと仮契約したのか?」

「おう、そうやで。にしてもナギさんおるっちゅう事はきっとネギは喜んどるやろな」

「お?そうなの?」

ナギはその言葉に興味を持つ。

「そりゃそうや、俺達は元々ナギさん探す為に旧世界から魔法世界に来たんやし」

「…………そうか。わざわざ俺を探しにな……」

ナギはその返答に一瞬表情に曇りを見せる。

「ま、その途中でフェイト・アーウェルンクスっちゅう奴らにアスナ姉ちゃん攫われてそれは後回しになったんやけどな」

「アスナ?アスナもいんのか?」

「おう、こうして無事っちゅう事はアスナ姉ちゃんもおるやろ」

ゼクトはその会話に入ろうかと一瞬口を開きかけるが後回しにする事にした。
すぐに桟橋に着き、3人は魔法球から出て、フレスヴェルグの貴賓室へと移動した。
その場には新オスティアに到着し、再び一同が集まっている所であり、3人はそこに鉢合わせた。

「な……ナギッ!!」

誰よりも先に気づいたアリカはすぐにナギに抱きつきその胸に顔を埋める。

「おおっ?アリカ!?」

それを反射的に受け止めるも、ナギはアリカだと気づきまたしても驚く。

「ナギ!」  「コタロー!」  「ゼクトさん!」  「ナギ!」

「コタ君!」  「ナギ様!」  「ゼクト殿!」  「ナギ殿!」  「コタロ!」

更に他の面々もそれぞれ3人を見て声を上げ落ち着くのにしばしかかった。

「よぉアスナ……大きくなったな」

「ナギ……」

ナギは成長したアスナの姿を見て頭を撫でる。
アスナはさっきまで泣いていたばかりであったが再び目に涙を浮かべる。

「姉ちゃん達……ネギは……どうしたんや……?」

「そうだ、ネギはいないのか?」

「………………」

再びそのタブーの言葉により場が静まり返る。

「…………その様子じゃと……ネギはあのまま逝ってしまったのじゃな……」

誰かが重い口を開いて言う前に、ゼクトが敢えて口を開く。

「お師匠……?」

「それは……ほんまなんか……?」

「コタロー、ネギ坊主は……最後まで……やり遂げたでござる」

「…………あの……馬鹿ネギっ……」

小太郎は長瀬楓の答えを聞きその場に座り込み拳で床を殴り付けた。

「そりゃ本当……なのか」

ナギも一旦アリカから離れ、両手でその両肩を掴んで問いかける。

「本当の……ようじゃっ。私とナギの子供は……先に……先に逝ってしまったのじゃっ……」

顔を俯かせたままアリカは再び震えながらナギに答える。

「俺は……ネギにもう、何もしてやれないのか……。あの時杖だけ渡して……それだけ……それだけかよッ!!ちくしょうッ!!」

ナギは何もできなかった自分自身に怒り、悔しさを顕にして怒鳴り声を上げた。
室内にはその余韻が響き再び場が静まり返り、そこへアリカが更に口を開いた。

「ネギは……生まれてきて幸せだったと、そう言ったそうじゃっ」

「…………そっか……ネギは……アリカに似てたんだな……」

ナギはアリカの言葉から悟るようにネギに思いを馳せた。

「私に……?」

「はい、ネギ君は……アリカ様に良く似ていました。守ることができず……申し訳、ありませんッ……」

そこへクルトがナギの言葉を肯定しながら2人に深く頭を下げて謝った。

「クルト、お主のせいではない……。それにお主が風のアーウェルンクスを倒し造物主の掟を残させておらなければ奴らの計画は今頃成っていたじゃろう」

「例えそうだとしてもッ……」

「クルト……頭上げろ。お師匠の言うとおりお前のせいじゃない」

「…………」

クルトは無言でゆっくりと頭を戻した。

「クルト、今後の動きについての提案を」

堂々巡りになりそうな空気を絶ち切るべく高畑がクルトに話を切り出すよう促した。

「……分かりました。皆さん、今後の予定を提案させて貰います。まず……旧世界から来た方々には空中王宮のゲートから旧世界に一度お帰り頂いた方が良いでしょう」

元々麻帆良学園の生徒である者達はクルトの発言にハッとした。

「帰る……?い……嫌よ、この世界にネギが……戻りたくないわっ……」

しかしアスナはネギが散ったこの世界から離れる事を拒絶する。

「いいや、アスナ君、僕達は戻るべきだ」

「特に貴女は絶対です、お嬢さん。今回の事件の中心人物である貴女がこのまま魔法世界にいればメガロメセンブリア上層部が必ず動きます」

「ま……また私の……魔法無効化能力……」

「クルトの言うとおりだ。このまま長居するのは危険なんだ。それに麻帆良で僕達を待っている人達もいる」

「ナギとアリカ様も旧世界にご同行願いたい」

「……理由は分かっておる」

「……俺もいいぜ」

「感謝します」

「タカミチ、アルはあちらにおるのか?」

ゼクトが不意に高畑に尋ねる。

「はい、アルは旧世界の麻帆良にいます」

「ならワシも行こう」

「分かりました。私も魔法世界の異変について調査する為同行します。出発は今日再び日が昇ってからの予定としますのでよろしくお願いします」

「唐突で悪いけど、この後ホテルに戻って皆各自荷物の用意を頼むよ。また機会はあるだろうけど、それぞれ挨拶しておくと良い」

……この後も高畑とクルトの2人は他の面々が今回の事件を引きずっている中、目の前のやるべき事を見据え、ゲートから地球への帰還作戦を主導した。
リライトで消されていたジャック・ラカンやクレイグ達、ここで別れざるを得ないエミリィ達、セラス、テオドラや、高音ならグッドマン家と言ったように一同はそれぞれ関係のある者と挨拶を交わし、準備を進めたのだった。
皆ラカン達に再会できた事は喜んだが、事情を説明した際にもう何度目かというような気まずい沈黙が再び繰り返され、何も気にせず心から喜べるという事は残念ながら無かった。
それでも宮崎のどかはクレイグ達が無事に戻ってきた事に感極まり、嬉し涙を流していた。
途中葛葉と龍宮真名も目を覚まし、同じく簡単に事情が説明された後、2人も地球に戻るべく荷造りを開始した。
因みにテオドラ第三皇女が用意した魔法球の中にはその後入る者は殆どおらず、更には忙しかった為、グレート・グランド・マスターキーが既に超鈴音によって回収されているという事に誰かが気がつき追求する事も無く刻々と時は過ぎて行った……。



[21907] 63話 空白期間
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/02/09 14:49
はぁぁぁ~、いやもう今日は、うんにゃ、今日は昨日?
要するに、朝になったらすぐまた夜に戻るとか訳分かんない現象起きた。
強制時差ボケ状態だわ。
日食じゃないらしい。
それどころか、こっちから地球が見えるらしい……どういうことスか。
…………そんな事の前にネギ君スよ……。
このかも言ってたけど前思ったみたいに本当に流れ星になっちゃってさ……やっと麻帆良に帰れるってのに、これじゃ嬉しくなんてないスよ……。
ネギ君の両親にそのお師匠さん?は無事戻ってきたのに……何でネギ君、ネギ君じゃなきゃ駄目だったんだろ……運命って言ったら簡単だけど……そんなの認めたく無いよ。

「リンさん、クリスティンさん、きっとまたこっちに皆で来るんで、その時はまたスよ」

「ミソラちゃん、事情こっそり聞いたけど元気出してね。次会う時楽しみにしてるからさ」

「ミソラ、元気出すんだよ。また一緒にご飯食べよう」

「はいっ!勿論ッス!」

リライトの魔法かけられてたリンさん達は皆戻ってきて本当良かった。
それもこれもネギ君達が皆あんな大怪我して頑張ったからスけど……。
エミリィさん達ともこれで別れる事になっちゃうけどまた会おうって挨拶した。
ネギ君のお父さんがここにいるのは何か信じられないけど、流石のエミリィさん達もこの状況じゃサインだ何だって口が裂けても言えなかったスね。
愛衣ちゃんと高音さんはそれぞれ家族に挨拶してたけど……わざわざそんな自由にもどってこれるか分かんないのに戻る必要も無い気がするんだけど……ネギ君を考えると余計にな……。
で、そのタブーすぎるからそっとしておこうという暗黙の了解でアスナとネギ君の両親は3人一緒に席に座って静かにしてる。
戻ってきたラカンさんが入ってきた時はそういう雰囲気ぶち壊しになったんだけど、あの人シリアスにどうしても耐えられないみたいだわ。
弱点あるじゃんか……。
普通に再会の挨拶を皆にして、ネギ君の両親とも最初はやりとりしてた……と思ったのに突然余計な事盛大に言ったもんだからテオドラ皇女殿下に背後から猿轡されてズルズル引っ張られてった。
今までになく明るく言ってた感じ、ありゃラカンさんも相当ショック受けてるんだろうけどね……。
ナギさんもそれ分かってるのか「悪ぃな、ジャック」って引っ張られてく時に言ってたな。
ショートカットかつ脱色した髪になったたつみーと、救護室に運び込まれてきた時は氷に閉じ込められてて死んでるんじゃないかって思った葛葉先生も丁度さっき起きてきて、高畑先生が事を荒立てないように事情を説明してた。
たつみーはそういう事があっても仕方ないか……って感じの雰囲気だったけど、葛葉先生は拳強く握りすぎて、掌から出血してたよ。
心が重傷なのは皆だけどいつも元気だったアーニャちゃんは尚更その差が酷くてネギ君の件が分かってから一切喋らなくなったのは……本当、辛いね。
一つ怪我の功名って言うのはアレだけどゆえ吉の記憶がとうとう完全に戻った。
ここ数日辺りから結構戻ってたみたいなんだけど、最後の最後に思い出せた原因が多分ネギ君が帰ってこないっていうショックからみたいだから本人は凄く言いにくいみたいだったんだけどね……。
怪我した人は沢山いたけど、この戦いで亡くなったのはネギ君だけとか……やるせなさ過ぎる。
対照的に高畑先生と総督は休んでる場合じゃないって凄い働いている。
2人の怪我が何故か治ってから……いや、怪我が治ってなかったら動けもしないんだけど……何があったんだ一体……。
でも2人のお陰でこの閉塞感から脱せそうなのは良いことなんだろうな。
本当は朝、の筈なんだけど、夜になったもんだから私も疲れてたし少し仮眠して起きたら、もう一回朝日が登りかけだった。
小さくなってるけど、太陽。
火星から地球見えてるって事は地球からも火星見えてる気がするんだけど……あっちは大丈夫なのか……?
とにかく、皆荷造りは済んでたから前高畑先生が用意してた小型飛空艇ともう一隻用意されたのに乗り込んで、オスティアの空中王宮にあるゲートに向かう事になった。
例によって空域には竜種が生息してるから戦闘員は甲板に出たんスよ。
その時なんだけどアスナがネギ君の杖をナギさんに渡したんだ。

「ナギ……これ杖……」

「…………俺の形見だって言ってネギに渡したってのに……ネギの形見になっちまったな……。アスナ、ありがとな。…………行ってくるぜ」

「うん」

「気をつけるのじゃぞ、ナギ」

ナギさんは目を閉じてその杖をしっかり握り締めて、もう一度ゆっくり目を開けたら雰囲気が変わってそのまま甲板に上がっていった。
結果はナギさんと見送るって付いてきたラカンさんの2人が出てきた竜種全部片付けたスよ。
これが生ける大戦の英雄達かって言うのがよーく分かった。
2人とも超速で接近して一発殴っただけ竜種がそのままあさっての方向にぶっ飛んで2度と戻ってこないとか、極大ビーム放って終わりとか……何だあの万国ビックリ人間。
ネギ君も時間かけて修行してれば……あんな技使わなくても済んだのかもしれないスね……。
そもそも10……11歳ぐらいで世界を終わらせようとするラスボスを倒すってのがアレなんだけど……。
ネギ君の事何も知らない人達がネギ君を適当に今回の話捏造して英雄に祭り上げるなんて事あったらマジ嫌すぎる……。
実際最後に世界救って散るとか題材として、話としてもお約束的なもんだから余計に美談にされそうだし……。
メガロメセンブリア上層部が腐敗してるっつーのは総督とリカードさんの話で分かってるけどホントどうなるか分かったもんじゃないね。
その総督だけど、今回付いて来るのは当然極秘で表の設定は未だ重傷で動けず入院中って事らしい。
ま、本来ならその通りだしね。
道中オスティアの落ちてた大陸は全部元通り再浮上してるから、どこも霧はもうかかってなくて空中王宮に行くのは一直線だったから、目的地にはすぐ着いたスよ。
こっちが起動してるんだったら地球の繋がってる何処かも起動してる筈だと思うんだけど……まだ誰も出てきてないらしい。
火星が見えちゃっててそれどころじゃないって事なのかもしれないけど。
誰もいないで長いこと放置されてた王宮ってのは当たり前だけど閑散としてる。
太陽が小さく……遠くなったせいで光が入ってくる構造になってるのに結構薄暗い。
高畑先生達が要石を調べ始めたんだけど……任意で転移なんて無理なのかー?って思ってたけど凄い人いた。

「ワシが強制的に動かそう」

「ゼクトさん、そんな事できるんですか?」

「できるのであれば是非お願いしたいですが……」

ゼクトさんって子供……じゃないんだろうなぁ……人はみかけによらないっていうか、そもそも言葉遣いとか明らかに年寄りだし、つか強制的に動かせるとかスゲー。

「流石お師匠だな」

「これだけ魔力に満ちておれば容易じゃ」

ナギさんのお師匠ってんだから相当高位の魔法使い……どころか聞いた話だと完全なる世界のヤベー奴らを3人近く葬ったってんだから超強いんだろうな。
そういえば紅き翼の伝記にも故人って事になってたけどゼクトさんの事載ってたし。

「見送りの者は円に入らぬように気をつけるのじゃ」

「そんじゃ、俺達はここまでだ。また来いよ」

「そなたらがおらなかったらこの世界は終わっておった。感謝しておる。また来る時は歓迎するぞ」

「その時はアリアドネーでも歓迎します」

ラカンさん、テオドラ皇女殿下、セラス総長の3人はここまで見送りに来てくれたけど、ここでお別れスね。

「ああ、ジャック、また必ずな」

「おう。いつまでも湿気た面してんじゃねぇぞ」

「テオ、ネギが……色々と世話になったようじゃな、感謝するぞ」

「アリカ、気を確かに持つのじゃぞ。……それで、急ぎで用意したものなのじゃが、これを」

お?テオドラ皇女殿下が出したアレは……。

「こ……これは……」

「……映像じゃ。ネギの拳闘士の映像と妾の記憶から作ったものじゃが……せめてもと思ってな」

「テオ……済まぬ、ありがとう」

ネギ君の勇姿を記録した映像か……。
きっと笑ってる姿も映ってるんだろうな……。

「ゼクトさん、お願いします」

「任せるのじゃ」

ゼクトさんが要石に触って念じ始めた……。
おお、カラーン、カラーンって音してるけど、そういえばそう、この音スよこの音。
こうなると……うおっ一瞬光って……。

……着いた所は……どこだーって……見覚えのある人達が……。

「お、おじいちゃん!?」  「エヴァンジェリンさん!」  「エヴァンジェリン殿!」  「学園長!」

「アル!」  「エヴァンジェリン姉ちゃん!」 「神多羅木先生!」

「シスターシャークティッ!?」

いやー!どう見ても麻帆良の人達じゃんか!
何でか私の目に最初に入ったのはシスターシャークティで名前呼んじゃったけどさ!
当然、状況が分かんないーってなんやかんやしたら、どうもここは麻帆良の地下に埋まって隠されてたゲートだったとの事。
こっちではこのゲートがオスティアに繋がってるだろうってのは分かってたらしんだけど、外が色々ゴタゴタしてて人手が足りなさすぎで、ゲートを通ってオスティアに送る人数的、魔獣とかがいる事を考えても戦力的に来る余裕は無かったらしい。
つー訳で私は帰ってきた!!
……駄目だ……テンション上がらないわ。
そんな中エヴァンジェリンさんはナギさん見て超驚いてた。

「ナギ!!」

「よぉ……エヴァ」

「貴様今まで一体魔法世界で何を!」

「…………」

「…………まあ良い。じじぃ、アル、上に行くぞ」

「そうじゃな。積もる話は移動してからとしよう」

「では私の住処へ皆さんどうぞいらして下さい」

この人がアルさんか……紅き翼じゃんか。
高畑先生言ってたけどマジで麻帆良にいたんスか……相変わらず謎ばっかりスねここは……。
埋まってたんだから当然だけどここのゲート瓦礫多いなー、と思いつつ上に続く道に案内されてしばらく移動したらデケー扉の前に着いた。
こういう時私はそのまま地上に上がるんじゃないかなーと思ったけど、完全に成り行きだった。
中は周りが滝の空中庭園でマジ何処って感じ。
皆驚いていると思いきや、エヴァンジェリンさん所の関係者は反応が普通すぎる感じ皆知ってたらしい。
ってか茶々丸が2人いるんだけど……突っ込んだら負けか。
で、始まったのはやっぱり互いの状況報告で、殆どは魔法世界でこの2ヶ月で一体何があったのか、簡単にしか言ってなかったナギさん達にも改めて詳細に確認しあった。
それには私がネギ君を南極に助けに行ったりした事も含められてたもんだから……アリカ様に手を取られてめっちゃ感謝されて……無性に気まずかった!
シスターシャークティが驚いた目して「それホント?」みたいな顔してたのは……予想通りというか分かってたさ!!
柄じゃないって自分でもあの時思ったもの!
ゲートポートテロ以降ネギ君達を皆救助した後アリアドネーと帝国で生活した話は平和そのものだったからかなりあっさり飛ばされて、オスティアでのフェイト・アーウェルンクスの急襲と総督府でのテロ、最後に昨日の今日の墓守り人の宮殿での最終決戦の話だった。
大体楓がザックリ話してくれたのと同じ感じで、何でゼクトさんやネギ君の両親があそこにいたかは……触れにくい……というかそこは私達があんまり知って良い事じゃないんだろうな。
にしてもネギ君が亡くなった事に学園長もエヴァンジェリンさんもアルさ……「クウネルとお呼び下さい」と言い出したクウネルさんはそんなに驚いてなかった気がする。
シスターシャークティ達はショック受けてたけど。
で、地球側は世界11箇所のゲートがある場所から光の河が発生してそれが全部麻帆良の神木があり得ない超発光して現在進行形でずっと混乱してたらしい。
しかも穏やかじゃない事態になる一歩手前ぐらいにはなったらしい。
その事について、総督が、魔法世界が火星になってそこから地球が観測できたって話になってようやく繋がった。
つか神木、お前のせいか!何やってんの!
説明しろ!
木に話しかけても答えなんか返って来ないだろうけどさ!
でも地球からは火星の衛星が光ったのは分かったけど、地表に変化は見られてないんだってさ。
というより、火星がどうやって魔法世界として維持されてるのかマジ謎すぎるんだけど……。
重力って月が地球の6分の1である事を考えたら……魔法世界だった時は全然気にしてなかったけど、火星って事になったら色々問題あるだろー……。
特に変化一切感じ無かったのは不思議でならないけど。
で……そんな所へ扉を開けてやって来たのがいて……。

「皆お帰り。久しぶりネ」  「これはどうも」

超り――ん!!!
超りん謎すぎるんだよ!
端末とかさ!
どう考えても用意周到すぎるし!
しかも何かこのかのお父さんも来てるし!!

「超さん!」   「父様!?」   「超姉ちゃん!」   「超!」

「詠春さん!」   「超りん!」   「超君!」   「長!?」   「詠春!」

「皆聞きたい事があるという顔をしているようだが……学園長、頼むネ」

「ふむ、そうじゃな。このか達は地上に戻ってもらえるかの」

ここでようやく人払いスかー。
超りんの謎はもの凄い気になるんスけど……仕方ないスね。

「おじいちゃん!?」

「シスターシャークティ、神多羅木先生は報告書を。葛葉先生、怪我をしておるじゃろうが、悪いが呪術協会を頼めるかの。ドネットさん、上に明石教授がおる、メルディアナに連絡を繋ぐと良い」

「分かりました。学園長」

「了解です。学園長」

「怪我は大体治りましたので問題ありません。承知しました」

「手配ありがとございます。そうさせて頂きます、学園長」

「済まんの、頼むぞい」

「このか、ここは下がりなさい」

「父様!」

……で、私は言うまでもなくシスターシャークティにココネと一緒にズルズル連れていかれて、このかは粘ったけど、桜咲さんと葛葉先生が戻るよう促して、アスナと超りん、茶々丸を除く皆もそれに続いて地上に戻る事になった。
こんな所にエレベーターが!って感じだったけど麻帆良も朝方みたいで、いやホント、実感沸かないけど戻ってきたんだなー。
一体残ったあの人達は何を話してるんだろーな。
超りんがいるって事はこの大異変関連な気がするけど。
私達が何処向かうかって言ったらそりゃそれぞれ女子寮で、皆で帰ってきたもんだから3-Aの皆がすーぐ寄ってきて絡まれまくった。
超懐かしいのは懐かしいし、嬉しくないって事は無いんだけど、テンション上がらないから今日ばっかりは勘弁して欲しいスよ……。
大体どこ行ってたなんて話せないし。
でもさよは出てこなかったなー。
また見えない姿で浮遊してるのかもしれないけど。
夏休みの宿題……なんてものがある気がするけど……無いよね……というかそんな気分じゃないスし。
で、絡まれるのがアレすぎるから私は速攻で教会に退避、そんで今ばかりは真面目に祈りたいんだよ……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

満を持して役者は全て揃い、図書館島に集結した。
因みに詠春殿は魔法転移符による緊急転移に近い形で到着した。
超鈴音、近衛近衛門、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル、アルビレオ・イマ、近衛詠春、高畑・T・タカミチ、クルト・ゲーデル、ナギ・スプリングフィールド、アリカ・アナルキア・エンテオフュシア、フィリウス・ゼクト、神楽坂明日菜、絡繰茶々丸2名、計13名である。

「先程は機会を逃しましたが、ナギ、アリカ様、ゼクト殿ご無事でしたか……再びこうして会う事ができ嬉しいです。クルトも、元気そうですね」

「詠春こそ……老けたなぁ。タカミチもそうだけど」

「ご無沙汰しています、詠春さん。その節はお世話になりました」

「ナギ……その発言前にも聞いたぞ……」

「僕もデジャブを覚えますよ……」

忘れはしないまほら武道会、あの時のイノチノシヘン版のナギの発言とテンションは違うが同じであった。

「前っていつだよ!」

「フフ……私のアーティファクトですよ。ナギ」

「あー……じゃあアル、俺の頼み律儀に守ってくれたのか?」

「ええ、友の頼みですからね。約束は守りましたよ」

「……そっか……ありがとな、アル」

「どういたしまして。……無事戻られて良かったです、ナギ、陛下……いえ、アリカ様、ゼクト」

「アルビレオ・イマ、主も変わらぬようじゃな」

「うむ」

「……さて、何から話したものかの?」

近衛門が何から話すべきかと言い出したが……この状況からして2つぐらいしか話題はないだろう。

「では……この住処の主として最初の話題を提供させて頂きましょう。凡そ10年程前、一体何があり、今に至るのか。先程の話では触れることはありませんでしたからね」

「そうだな……もう話してもいいか……。だけどよ……そっちの少しお師匠に似てる感じがする超って子は……」

「む?」

「ふむ、私の事は気にしなくていいヨ。そのまま話を進めて貰いたい」

「ナギ、超さんの事は気にしなくて結構ですから」

クウネル殿ナイス。

「あー、何だ、良く分かんねぇけど、まーいいや。まずは……墓守り人の宮殿の最奥部に反魔法場ごと封印することになっちまったアスナを助けられるようになるまで数年待った、のはアル達も知ってると思うが、アリカからその行き方と封印の解き方を聞いて俺とガトーでちょっくら助けに行った所からだな」

深く考えないでくれて助かる。

「フフフ……ナギからこんな風に話を聞くのは初めてかもしれませんね」

「そうか?で、港町で皆と一度集合した後アスナをガトーに託した俺は京都でアルと研究したりたまに故郷に戻ってアリカの所に行ったり来たりしながら世界の秘密をぶっ潰す為に生活してた中……できた」

「できたとか言うな馬鹿者!」

「いだぁッ!?」

アリカ様の反射的平手打ちがナギに直撃した。
痛そうだ……。

「…………」

まあ、要するにネギ少年の事だが……自然の摂理なのだから仕方ないだろう。
黙って聞いてはいるがエヴァンジェリンお嬢さんはこれには分かってはいても少し不機嫌そうだ……。

「その後じゃ……。ネギを身篭って間もなく私は何者かに強力な遅延封印系の魔法を受けた」

「それに気づいた俺は解除しようと思ったが……超ヤバイもので故郷でも対処法が見つからなくてな……そんな時奴からわざわざこれ見よがしな知らせがきやがったんだよ。倒した筈のフェイト・アーウェルンクスだ。直感的にヤバイと思った俺はアルに例の頼みごとをしたって訳だ」

「……私もその時ついて行けば良かったのですがね……」

「知らせの内容からそうする訳にはいかなかった。正直内容自体キナ臭かったけどな。それで、イスタンブールにいやがる奴をボコボコにしに行くつもりだったんだが……俺としたことがしくじって逆に奴諸共俺が封印されちまった……封印される直前の事は良く覚えてるぜ」

「そうであったか……。ナギが失踪したという情報が入った私はその後ネギをウェールズで無事産む事はできたのじゃが……その後魔法が発動して、それまでじゃった……。私も水晶に包まれた時村の者達は皆助けようとしてくれたのは覚えておるのじゃがな……」

「全部奴のせいだぜ……全く」

「……その間、私もナギの後を一度追い、魔法世界にも行きました。その時私も念の為一度ラカンに連絡をしてから動いたのですが……結局返り討ちにあいましてね……その後は学園長とタカミチ君の知っている通りここで暮らしていたのです」

「な……じゃあアルもフェイト・アーウェルンクスにやられたのか……?」

「いいえ。その時私に攻撃を仕掛けてきたのは違いましたよ」

「ワシ……じゃろうな。正確にはワシの身体を乗っ取った造物主じゃろうが。そうじゃろ、アル?」

「お師匠!?」

「ええ……正解です」

「ワシは前大戦後20年間造物主に乗っ取られておった。今の話からするに、恐らくアリカに遅延封印魔法をかけたのもワシじゃ。理由は依代としての身体を狙ったものじゃろう」

「俺とアリカを封印して捕まえたのはそんな事が理由か……」

「何と……」

「ナギ達の身に起きた事がそんなに繋がっていたなんて……」

「ナギ、6年前のウェールズの村が悪魔に襲われた事件というのは説明できるのか?」

エヴァンジェリンお嬢さんの言うとおりあと残す謎はそれだけだ。

「ああ……気がついたら山奥に杖を持って俺がいてな。すぐに故郷の村へ向かえって誰かから……ここまで来るとお師匠乗っ取ってた造物主だろうけど、そう頭に言葉が響いたんだよ。んで急いで向かってみれば村は既に火の海だったって訳だ。悪魔全部ぶっ飛ばして、終わってみれば小さいネギが片足が石化したネカネを守っていたんだよ。ネカネの石化の侵蝕を止める処置をした所で時間切れだというのが分かってネギに杖だけ形見に渡してそのまま強制転移、再封印ってオチだ」

「そういう事か……造物主というのは碌でも無いな。身体を乗っ取れるというのに今回は……」

「間違いなく今回で終わった。ワシには分かる」

「私にも、分かります」

アリカ様がハッとした表情になった。

「……ゼクト、アルビレオ・イマ、主らそれはどういう事じゃ」

「では最後に……私達の正体を明かしてこの話は終わりですね、フィリウス」

「……そうじゃな……アルビレオ」

「お師匠、アル、正体って何だよ!」

「ナギ、お主は詠春と共に魔法世界でワシとアルビレオに会った時本当に偶然だと思ったか?そして幻想種でもないワシらがどうして長い時を生きておると思う?」

「どういう事だよ……」

「ぜ、ゼクト殿……?」

これはナギ少年(10)が日本に上陸した際会った事があり、その後例の微妙な理由で魔法世界に行ったらまたナギに会った……詠春殿も驚いている。

「アルが長命の理由、という事か……。ヘラス族でも無ければ、真祖の吸血鬼でもない」

「そういう事です、エヴァ」

クウネル殿の目がいつもよりしっかり開いている。
これは真面目モードだ。

「ワシは始まりの魔法使いによって造られた最初の人形……息子、フィリウスじゃ」

「私はその対人形……二重星、アルビレオです。この通り、似てはいませんがね」

……いやはや、これはまた壮大なネタバレだ。
クウネル殿が重力魔法を扱う理由は恐らく二重星が互いを引力、で引き合う事が関係しているのだろうか。

「お師匠とアルが人形……?」

「勿論、私達自身人形だというつもりはありませんよ。自我は持っていますので」

「ワシらは数百年生きておるが最初こそ始まりの魔法使い、アマテルの元で生活していたが……ある時、いつか世界を終わらせると言い出してな。世界を見て過ごしたワシらはそれに賛同できずその元を去ったのじゃ。後は放浪の旅を永きに渡り続け、世界情勢がいつしか完全なる世界によって不穏な状況になり始める頃、ナギと詠春を見つけたワシらは主らならアマテルを止められるかもしれぬと思ったのじゃ」

「ぜ……ゼクト殿とアルにそんな事情が……」

「……お師匠とアルが時々意味深な事を言ってたのはそのせいだったのかよ……」

「ある意味で私とゼクトもウェスペルタティアの一族、と呼べるかもしれませんね……」

「……どこまで魔法世界は……ウェスペルタティアに始まりウェスペルタティアに終わるというのじゃ……」

「じゃがそれもネギによって今度こそ終わった。アマテルはもうおらぬ。ネギの使った技法はアマテルの技法とほぼ近しいものじゃった。どうしてそんなものを使えたのかは……ワシには分からぬがな」

「……私がぼーやの魔法の師匠をした。それが原因だよ。皮肉なことにな……」

「エヴァンジェリンさんのせいじゃないわよ……。私が捕まらなければ……」

「アスナ、そういうのはもうやめにしとけ……。エヴァ、お前がネギの師匠やってくれたんだな……ありがとよ……」

「私の好きでやったことだから気にするな。しかし……アルのアーティファクトで分かっていた事だが……私にかけた登校地獄の事完全に忘れてるだろ」

「あー!あれな!……ホント悪ぃ、マジで忘れてた……。ってことはお前まさか……えーっと……じゅう……15年近く中学生のままだったのか……?」

まほら武道会の時と展開が似すぎていてなんというか……。

「ナギ!主はそんな呪いをネギの師匠になってくれた者にかけたのか!」

アリカ様は反射的にナギを怒ったが……出来事の順番的にズレがあるからそれは少しどうかと……。

「いや、それはもういい。私にも原因はある。呪いは緩めたから進級し続けて大学院まで行った。今もう一度中学生やってるがな」

「緩めて大学院までって……エヴァ、お前すげーな。学校楽しかったか」

……緩められたのが凄いのではなく、大学院まで行った事がナギにとっては凄い、のだろう。

「そもそも魔法学校中退しているお前に言われる筋合いは無いんだがな……まあ、私は平和に過ごせたし、かけがえの無い友人達もできた。自分のやりたい事も見つけて好きにやっている。緩められなかったらと思うとゾッとするが麻帆良に来る最初のきっかけを与えてくれた事には感謝している」

「充実した生活、送れたみたいだな」

「ああ、後はきちんと術をかけたナギ自身の手で術の解除をしてくれれば良いさ。その為に緩めるだけにしたんだからな」

「……分かったぜ。ちゃんと俺の手で解いてやるよ」

……おや、超鈴音が上を見てエアー・アイコンタクトをしているのは……。

《通信開きましたよ》

《アデアットしてなかたからナ。エヴァンジェリンにも繋いで欲しい》

《了解です。お嬢さん、超鈴音が話があるそうです》

《……何だ?》

《既にエヴァンジェリンの話になているが、ここまでで歴史に隠れていた話は終りネ。エヴァンジェリン、明日菜サンとネギ坊主の両親をエヴァンジェリンの自宅にでも連れて行てもらえないかナ?この後例の話をするからネ》

《茶々円はナギに知られるのは困る……という事か》

《今ならもう構わない……という気はするんですけどね……。それでも神木の事はできるだけ思慮深く口の硬い人だけに秘密にしておきたいんですよ。ほら、ナギだとポロリと誰かに言ってしまいそうですし》

《ああ……それは十分あるな……確かに駄目だな。アリカの方はまだしも……そうなると今は塞ぎこんでるが根は口の軽いアスナも駄目だな。分かった》

《信用が無いものだネ》

一応超鈴音の先祖だろうに……。

《まあいい。超鈴音の言うとおり私の家に招待するよ。ぼーやの使っていた物や茶々丸の記録していた映像もあるから時間を潰すには困らないからな》

《先に切り出すのは私がやるネ》

「どうやら、ここまでで大体その話は終わりのようだネ。明日菜サンとスプリングフィールド夫妻はエヴァンジェリンの家に今からでも行てはどうかナ?」

スプリングフィールド夫妻とはまた何と新鮮味のある呼び方だろうか。
超鈴音が切り出した、という事でこの後いよいよ本題に入るという事に近衛門やクウネル殿、詠春殿、タカミチ君にクルト総督は気づいたようだ。

「私は構わんぞ」

「そうですね。この後の話は我々でもできますのでナギとアリカ様は休まれてはいかがですか?」

クルト総督がすぐに乗ってきた。

「えー、火星が魔法世界になったとか俺も気になるぜ?これでも研究してたしよ。それ言い出したら何で超の嬢ちゃんはここにいるんだ?」

「私はこう見えて科学技術力が売りでネ。何か協力できると思うんだヨ」

一切バラす気ないなー。

「政治的な話も絡みますし、お3方は病み上がりに近いでしょう」

「ナギ、また後で話しますから。エヴァも構わないと言っていますし、ここは好意に素直に従ってはいかがですか?」

「んー……分かった。じゃあエヴァ、いいのか?」

一瞬思案した後すぐに気にするのをやめたようだ。

「ああ、構わん。色々見せられるものもある。アスナも今日は私の家に泊まっていくといい。女子寮に戻ると何かと喧しいだろう」

「エヴァンジェリンさん……ありがとっ……」

仕方ないとは思うが神楽坂明日菜は2ヶ月前地球を出発する前と比べると全く元気が無い。
しかも何か思わずお嬢さんに近づいて抱きついた。

「アスナ、前みたいに落ち着くまで別荘にいて構わんからな」

「うん……」

「茶々丸、行くぞ」

「「はい、マスター」」

茶々丸姉さん2人、わざわざシンクロしなくても……。

「じゃあ、また後でな」

「先に失礼するぞ」

こうしてエヴァンジェリンお嬢さんの案内に従い6人は図書館島を後にして、目的地へと向かっていった。
一方図書館島に残ったのは7人、超鈴音、近衛門、クウネル殿、詠春殿、タカミチ君、クルト総督、ゼクト殿である。
私も最大隠蔽モードで神木から出て地中をすり抜けて図書館島へ移動をしよう。

「ナギ達は行ったが……ワシはいてもいいのか?どうも何か裏を合わせていたようじゃが」

ゼクト殿が空気を感じ取って気にするのも尤もな事だ。

「構いませんよ、ゼクト。どうですか、超さん」

「私も先程事情を聞かせて貰た身だしネ。問題ないヨ」

「なら良い」

「超君……まだ1日も経っていない上にゲートを使ったのは僕達が初めてという事なんだが……本当にこうしてまたすぐ会うとは驚いたよ」

「……全くです。気になるところではありますがそれは今は置いておきましょう。超鈴音さん、呼んで頂けるのですか?」

「私が呼ぶまでもない事だけどネ。そうだろう、翆坊主」

この場の最後の登場者は……私だ。
別に緊張はしない。
こういうまともな集まりは久しぶりも良い所かもしれない。

《そうですね。全部聞かせて頂きましたから。これはどうも、近衛門殿、クウネル殿、詠春殿。そして……初めまして、高畑先生、クルト・ゲーデル総督、ゼクト殿。私は神木・蟠桃の精霊にして、神木・扶桑の精霊をしています。キノとお呼び下さい》

庭園の床から沸いて出るのはどうだったろうか。

「これで全員揃ったの、キノ殿」

「ようこそ、キノ殿」

「キノ殿、お久しぶりです」

そう言えば詠春殿は数ヶ月振りか。

「し、神木の精霊……。初めまして、高畑・T・タカミチです」

「……初めまして、オスティア総督、クルト・ゲーデルです」

「……これはお初にお目にかかる、ゼクトじゃ」

《高畑先生と会うのは久しぶり、というのが正しいかもしれませんね。私は茶々円でもありましたから》

「あ……ああ、そうでした」

何やら畏まられているが……初めて近衛門に会った時を思い出す。

「木に純粋な人型を持った精霊がおったとはな……。アルは前から知っていたのか?」

呪文詠唱で言う通常の木精とは私達は違う。

「いいえ、誰かがついたホラのような噂だけは聞いた事ならありましたが私がキノ殿に初めて会ったのはここに定住するようになってからですよ」

まあ……初代学園長のウィリアムさんは一般人だし、酔った酒の席での話だからホラと思われていても仕方ない。

「左様か」

「では……本題に入らせて頂きましょう。キノ殿……と私も呼ばせて頂きます。超鈴音さんから神木の精霊の目的については聞きました」

《はい、私もその話は超鈴音から聞きました。グレート・グランド・マスターキーの件、感謝します。確かに受け取りました》

「いえ、こちらこそ。管理をお願いします」

「む?クルト、渡したのか?あれはこちらに持ってくる訳にもいかぬからテオドラの魔法球の地面深くに埋めたと言っておったが……」

埋めたことになってるのか……。
掘り返して見つからないとしても見つけ方が悪いの一点張りで……なんとかゴリ押しできそうではあるが……。
まあクルト総督も長居する訳ではないだろうからできるだけ急いで戻ればいいだけではある。

「昨日私達は超鈴音さんに会いまして、その時に渡したのです。先程の話口を出さずに聞かせて頂きましたが……ゼクトさんが管理すべきものでしたか?」

「いいや、ワシがアレを使うことは無い。寧ろ2度と用いられぬよう破壊するべきじゃとワシは思っておる。ワシには破壊できぬのじゃがな。キノ殿が管理すると言うならばワシが言う事は無い」

ゼクト殿は初対面だというのに信じてくれるようだ。

《そう言って頂けるとありがたいです。ゼクト殿。それではここは一つ、私から今回何を私達がしたのか改めて説明しましょう。それからで宜しいですか、クルト総督》

「はい、構いません」

《私、私達が初めて大々的な計画を実行したのは2001年8月16日未明の事でした。二本目の神木の若木……現在扶桑と私達の間で呼称していますが、当時樹齢が1001年のそれを宇宙空間に直接打ち上げ火星へ向けて飛ばし地表に定着させたのです。その後超鈴音、クウネル……いえ、クウネル殿とエヴァンジェリンお嬢さんの3名の協力の元、重力問題、地球から火星の変化がわからないように地表に幻術をかける等、付随する問題を解決しながら昨日まで凡そ2年間密かに活動を行ってきました。位相の同調に際しては完全なる世界側の動向をある程度予期していたため、地下ゲートポートからの魔法世界の魔力流出を利用しました。また、呪術協会の支部を麻帆良に建てるよう近衛門殿と詠春殿に動いて頂いたのは今起きている混乱が、もし支部が立っていなかった場合、それよりも混乱を抑え、更には今後の問題を円滑に進められるように、という意図でした。以上が大体のあらすじです》

「改めて聞くと……驚きですね」

「…………魔法世界と火星の位相を同調させるという話だけで驚きだが……呪術協会支部は今回の事を考えての事とは……」

クルト総督とタカミチ君は正直信じ難いらしい。

「今私もどういう事なのか知りましたが……驚きました。しかし、実際、呪術協会の支部が建っていなければ今頃大変でしたね、お義父さん」

「その通りじゃな、婿殿。この1年と半年程で国内東西の軋轢を減らしておく事ができたのは実に大きい。これから国外から麻帆良へ入ってくる者達が増えるからの、せめて国内は纏まっておく必要があった」

既に国外周囲は動きを見せている為、こちらもただ黙っている訳にはいかない。

「ふむ……真に驚きじゃ。殆どが魔法世界におったワシらにしてみれば知らなくても詮ない事じゃな」

「何故このタイミングだたのか等疑問に思う事は色々あるだろうが、答えられない事が多い。できればこれからの問題の事を中心に話をしてもらえると助かるヨ」

……実際超鈴音の言うとおり何故今回のタイミングなのか聞かれると時間軸云々の問題になってしまうので非常に話しづらい……というかこればかりは話す必要もないだろうし、私も話したくはない。

「……分かりました。ただ、神木について一つお聞きしたいのですが火星を維持するのに限界年数はあるのですか?」

《それはほぼあり得ません。幻術を解けば神木の負担も減りますし、年数を重ねれば重ねるほど火星の神木はまだまだ成長します。神木・蟠桃の樹齢は5003年ですからまず後4000年は問題ありません。……もしその時に問題が起きるとしてもそれはその時の人々の問題でしょう。それ以前にその間どうなるのかも全く未知の領域ですが》

「……そうですか。樹齢5003年とは初めて知りましたが……数千年単位となれば、我々が心がけるべき事はその火星の神木を害されないよう守れば良いのですね」

クルト総督にとって樹齢が5000年超えている事は眼鏡が思わずズリ落ちる程の衝撃らしい……ズリ落ちて今指で位置を直した。
守ってもらう……というのは当然の流れであり、私としても願ってもない事だが、サヨが観測した所桃源には面倒な組織があるらしい。
神木の位置は伝えても良いものだろうか、実際伝えたとして後でどうして北極にあると分かったのかなんてことになると……私が困る訳ではないがそれもまた面倒だ……。
しかし、やむを得ないだろう。
超鈴音が昨日伝えなかったのは自分が教えるものではないという配慮なのだろうし。

《ここで火星の神木・扶桑の位置をお教えしましょう。……場所は桃源から見て龍山山脈の裏側です。まず人が普通に生活するような場所ではありません》

「教えて頂けるとはありがたいです。しかし南極ですか……」

「因みに地球と同じ方向で合わせるなら龍山山脈があるのは今となては北極だヨ。ただどちらを南極北極と呼ぶかだけの違いだけれどネ」

「なるほど……太陽の運行が逆になったのですからそうですね」

《このまま放置してもすぐには見つからないとは思います。極論を言えば神木・蟠桃は無くなっても地球はそのままですが、火星の神木・扶桑は無くなればそれで終わりです。メガロメセンブリア元老院にどういう対応をされるかがかなり問題ですが接収して移し替えるのは絶対に駄目ですのでくれぐれもお願いします》

地面から引っこ抜かれた瞬間重力は元に戻ってしまうので非常に危険である。

「重力が戻ってしまう……という事ですか」

《そういう事です。瞬間的に大気圧も変化するので魔法球にでも入っていない限り全滅しかねません》

「それは大きな問題だな……」

「火星の神木はできるならば、見つからないほうがいいのじゃろうな、キノ殿」

《ええ、近衛門殿、そうであるなら良いのですがそういう訳にも行きませんので。方法は取れるでしょうがどうしてもただのその場凌ぎにしかなりえません》

同調する寸前までは海の中だった訳だがその後数千年も海の中というのは流石にキツイからどうしても陸地である必要があった。
その場凌ぎの方法として、光学迷彩を木にもなんとかしてかけるという方法や超鈴音の科学迷宮ワイヤーを敷設するという方法もあるだろうが、できれば世界の共通認識として神木には手を出さないという事でお願いしたいものだ。

「問題は山積みですが、我々の手で安全が確保できるよう全力を尽くします」

「キノ殿、僕も全力を尽くしますので」

《クルト総督、高畑先生、ありがとうございます。今すぐにどうするとは決められないでしょうがよろしくお願いします。いきなりですが、一つ今頼んでおきたい事に、桃源に黒幇という組織があるそうですがそれをなんとかできないものかと……》

「ご存知でしたか」

「黒幇組織は確かマフィアだったな……。あれは完全に犯罪組織ですから潰す事は可能です、任せて下さい」

タカミチ君なら組織の1つや2つ潰した事があるから単独でも実際余裕だろう。

「今の状況で突然実行部隊を出すのは逆に怪しまれるでしょうからそのタイミングは図りますので」

《では、よろしくお願いします。次の話なのですが、今火星にかけている幻術を私はできるだけ早く解除したいと思っています。元々今回の計画を達成する為に幻術を今までかけていましたので解除するのが妥当です。火星から地球が確認できているのにいつまでも地球から火星が確認できないのはおかしいでしょう。遅くなれば遅くなるほどそれが顕著になってしまいますから正直これは決定事項としたいのですが》

「我々としては待って欲しいですが……超鈴音さんから聞いたものの数ヶ月で火星探査機が到着する話を鑑みても、仕方ないでしょう。私個人が止める事でもありません」

「そうなると……僕達魔法使いの秘匿は終わりを迎える事になりそうだね……」

「時代の変わり目じゃろうて。それも含めて呪術協会の支部を麻帆良に建てたのじゃからな、キノ殿」

「今なら分かりますがこれが前、ある事情から東と西で争うのをやめて欲しいとキノ殿が言われた丁度その時なのですね」

《ええ、流派は違えど同じ魔法関係同士がいがみ合っている所に更に今まで魔法を知らなかった一般、という存在が新たに混ざる事になっては大変です。勿論世界的な混乱になるでしょうが、少なくとも日本国内の西洋魔法と東洋呪術には一致団結して貰いたいです》

「正式な魔法世界の存在の公表やその住む住人達の内訳、地球とのゲートを通じた交流に関しても近いうちに公開して行かざるを得ないでしょう。その為にはまず魔法世界側でも足並みを揃える必要がありますが、それは我々の仕事ですね」

「ゲーデル総督、本国からの許可も無く、地球にある魔法協会の独断で魔法世界の存在の公表を世間にする訳には行かない故、仕事は多いじゃろうが見解を早めにまとめて欲しい。そうでないとこちらが説明に窮して押しつぶされてしまいかねん。しかも地球の裏の者達は引き続き秘匿を続けるじゃろうし真に問題は山積みじゃな」

「承知しました、近衛理事。元老院は今も地球からの孤立主義の傾向が強いですから議会が紛糾するのは間違いないですが、リカードとも協力して手を打ちます」

「地球に関しては私の構築した情報網で一括して情報を全世界に発信する事ができるから機会があれば任せて欲しいネ。火星の方は太陽光不足や未だに放射線が地球よりも1.1倍高い事の解決に関しての技術協力の構想と用意もあるヨ。季節の延長で植物の植生に環境変化が起き食糧事情にも問題が起きる可能性があるだろうが、それについても魔法球で生産するか、地球でもまだ普及も殆ど始まていないが植物工場を作り安定した供給ラインを取るといた方法があるネ。私はこれから技術屋として活動する事が多くなりそうだが、何か要求があれば可能なかぎり成果を出して見せるヨ」

「そんな問題まで……超君には解決の手段があるのかい……。どうもキノ殿が超君に協力を頼んだ理由が分かった気がするな」

《その通りです、高畑先生。超鈴音の技術力を以てすればこれらの問題は、時間はかかるとしても努力した分緩和、解消できます》

「しかし、そうは言いますが太陽光不足の問題一つとっても……魔法球なら人工太陽が使えますが外の空間でそれは……」

「ふむ、説明しておこう。私が使うのは魔法ではなく科学ネ。例えば太陽光不足の問題は火星の軌道上にプリズム・ミラー方式による太陽光を集光する人工衛星を飛ばすという方法がある。光センサーを取り付けて常時太陽の追尾を可能にしたり、太陽の運行を計算して軌道をプログラムで自動制御する事も可能ネ。因みに作る技術は揃ているからそれこそ作成を加速させた魔法球内でオートメーション化しさえすれば急ピッチで作業は進められる筈だヨ。放射線も以前ある物質を用いた事があるがそれを再び量産すればいいネ」

流石オーバーテクノロジーの塊をお持ちな事で……。
実際そんな人工衛星をホイホイ作れたら地球の各国宇宙開発組織が皆泣くだろうが……。

「「「「…………」」」」

ほら、案の定何言ってるのって感じで皆ドン引いてるから。

「ハハハ、声も出なくなるほど驚かれても困るナ」

「あー……一つ聞いていいかい、超君」

高畑先生が眉間に皺寄せて悩んでる……。

「何かナ?高畑先生」

「以前火星人という言葉ですべて説明できると言っていたが……君は魔法世界出身という事なのかい?」

「うーむ、そうとも言えるが同時にそうでは無いとも言えるヨ。私が火星人なのは紛れもない事実だけどネ」

この言い方相変わらずだな。

「異常な技術力といい……超鈴音さん、貴女まさか未来人という事はないですよね……。いえ、時間跳躍等不可能とされてますから……ありえないですが……。私も馬鹿な事を言いました」

クルト総督は察しが良い。
まあ、今の超鈴音の発言はヒントだらけだったからそれを考えついてもおかしくはないが。

「おお!良く分かたネ。総督、正解だヨ」

「……は?」

「な……何だって……」

「何ぃ!?」

「未来人じゃと……」

「ふぉっふぉっふぉ」

「フフフ……」

地味に詠春殿が一番驚いた。
近衛門は勘で大体そうだと分かってたのだろう。

「詳しい事を言うとタイムパトロールに捕まてしまうから言えないが、私の技術力はそういう事で全部説明できるネ。高畑先生はここ2年超の謎が解けたかナ?」

タイムパトロールなんていないけどね。
もしいたら今頃私が伐採されてる……だろう……いや、そんなことは無いか。

「信じられないが……どうもそう考えた方がすんなり理解できてしまう辺り……そうなんだね……」

「先程から驚いてばかりなのですが……流石に驚くのにも飽きてきたぐらいですよ……」

「慣れればそのうち驚く事もなくなるヨ。まあ……大体こんな所でいいかナ。余りこちらに時間をかけているとある人を助けられなくなてしまうネ」

「ネギ君か!」

「それはネギ君の!?」

「む……ネギは助けられるのか?」

「ナギ達が聞いたら……」

《詠春殿、それはまだやめておいて下さい。こちらとしても可能性の段階でして、現在目下作業中の状況ですので絶対とは言えないのです》

「一つ言えるのはできるだけ急いだ方が良いと言う事ネ」

《その通り。近衛門殿とクルト総督はまだ話す事があるでしょうが私達はこの辺で失礼しても宜しいでしょうか?》

「も……勿論です。ネギ君を、お願いします……」

「キノ殿、超君、ネギ君を頼みます」

《頭を上げて下さい。私達もネギ少年には感謝しても感謝しきれない程ですから必ず最善を尽くします。皆さんもこれから恐ろしく忙しいでしょうがよろしくお願いします。それでは皆さん、失礼します》

「また近いうちに会う事になるだろうが私もこれで失礼するネ」

……こうして近衛門+紅き翼の面々との会談を私達は終えた。
とにかく、まだ今は話をしただけに過ぎない、という最初の段階でしかない。
全てはこれから、である。



[21907] 64話 姉妹喧嘩
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/01/27 14:34
私は神木・蟠桃へと戻りネギ少年の霊体収集の作業を自動モードから私自身による管制モードで再度始め、超鈴音も女子寮へと戻っていった。
超鈴音は自室の魔法球のポートから神木・蟠桃を経由して扶桑は経由する事無く、直接優曇華へと再び転移するのである……が、その自室のある女子寮では近衛木乃香達が戻ってきた事で騒ぎになっていた。
超鈴音は持ち歩いていた光学迷彩コートでスルーしたが、状況としては近衛木乃香達のテンションと帰りを待っていた雪広あやか達のテンションがあまりにも違いすぎていたのである。
最初はきちんと帰ってきた事に関して近衛木乃香達はクラスメイト達に挨拶をしたが、どこへ行っていたのか、何だか2週間前よりもずっと大人っぽくなっている等、立て続けに色々聞かれて困っていた上に、神楽坂明日菜は実際戻ってきてはいるからまだしも、ネギ少年がいないことに関して言及された面々は酷く気まずい顔をして適当にはぐらかしつつ一切答えようとはしなかった。
因みにアーニャはドネットさんに連れられて麻帆良教会に向かったので女子寮には行っていない。
超鈴音から解析したデータを、優曇華を通して渡されたが、龍宮真名の症状は例の魔族の力の解放の反動によるものであるのは明らかであった。
彼女は髪色が脱色していたようなのだがどうやら既に魔法薬で着色していたらしくそこをクラスメイト達に突っ込まれる事は無かった。
寿命に影響しているので、私達の精細治療を施したほうが良いのは良いのだが……そうすると恐らく小太郎君にもするべきであろう。
……改めて言うが特定の個人に対して私達が見ようによっては善意、という形で直接手を気軽に出すのは全く良くない。
もしそれをやりだすなら例えば末期癌患者や治療法がまだ無い病気にかかっている患者であろうと全員治療すべきという事になってしまう。
しかしながら、今回は私達の実行する計画の範囲内には十分入るであろうし、私達にも礼をするだけの理由があるので、その点は目を瞑っても許されるものとしたい。
とはいったものの今すぐという訳にもいかないので、まずは、さっき簡単に流してしまったが、一つ重要な事を行う必要がある。

《サヨ、火星にかけている幻術迷彩魔法の解除をお願いします。まだ1日として経っていませんが、後々引きずって問題が大きくなるより早いほうが良いので》

《はい、分かりました!そうすればネギ先生の収集も早められますね》

《収集にあたってやはり火星が肝ですからね》

《はい!》

まだ同調から半日程度ではあるが、ぐずぐずしてはいられない。
本当に最初から解除しておけば良かった……のかもしれないが、神木の大発光だけで地球はこの大混乱なので時間差攻撃という訳ではないが……そんなところだ。
宣言通り、これからネギ少年の収集作業を続けながら、並行して観測も引き続き行う。
……観測というのには局地的すぎてアレなのだが、エヴァンジェリンお嬢さんの家の状況も気になるので少し確認しておこう。
招かれた3人はそのまま魔法球の中に入るという事はなく、客間でもてなしを受けていた。
エヴァンジェリンお嬢さんは茶々丸姉さんが記録した映像を見るかどうかナギとアリカ様に聞いたが、それについてアリカ様がテオドラ皇女殿下から受け取った映像があると言い出したのでそれを先に再生する事になったようだ。
私も魔法世界の同調以前の詳細は知らないので助かる……いや、勢いで少しの確認では全く済まなくなりそうだが……麻帆良内の観測は常日頃行っていることであるし気にしなくていいだろうか。
アリカ様がおずおずと茶々丸姉さんに映像を渡していざ再生が始まったが、内容はどうやらネギ少年が小太郎君と2人が幻術で姿を青年に変えて出場した拳闘大会の試合の数々であった。
いきなり分かった事だが、やはり南極以降魔法領域を始め断罪の剣の出力は上がっていた。
アリカ様はネギ少年達が鮮やかに勝利を決めてはいるもののナギの袖を掴んでハラハラしながら見ていたが映像とは言えネギ少年が動いているのを見れただけで余程嬉しかったのだろう、目にすぐに涙を浮かべ始めた。

「これがネギかっ……。幻術で姿を変えておるとしても……ナギに良く似ておるな……」

「私も……この時はまだ攫われてなかったから一緒で……ネギはナギの名前のついた大会に出る事楽しみにしてたわ……」

「そうなのか……本当にネギは俺の事探してたんだな……。戦い方は似てないが……俺の息子なんだなぁ……」

試合時間それぞれが殆どがとても短い為ヘラス帝国での地方大会はインタビューを含めても2時間程度であった。
未だ図書館島の地下では近衛門達も話を進めている所である。

「この子らは11歳であるのにこんなにも落ち着いておるとは……」

「子供らしくないでしょ……?」

「この姿が本当の姿に思えてくるな……」

「麻帆良に来たばかりの頃は子供そのものだったさ……しかし、ぼーや達は先を急ぐように成長した。私が指導した影響というのもあるだろうがな……」

実際麻帆良でネギ少年と過ごした時間はエヴァンジェリンお嬢さんがダントツで一番長い為、その影響がネギ少年に色濃く出ているのは事実であろう。
魔法には精神力が不可欠であるためその辺りの普段からの心構えや、どこか抜けている常識等も教えていたのだからそれが身になっていたという事の証明である。
そして映像はいよいよナギ・スプリングフィールド杯へと突入しここから更に加速度的にネギ少年と小太郎君は実力が上昇し、拳闘大会の予選も難なく勝利を勝ち取っていった。
そしてその拳闘大会決勝、対戦相手はジャック・ラカンとカゲタロウであった。
開幕からして収束大呪文、そして先にカゲタロウを2人は見事な連携で退け、そこからのジャック・ラカンとの出力比べの融合オリジナル魔法はもう何と言っていいやら……インフレしすぎかと思いきやジャック・ラカンも大概だった……一瞬で2人が倒されたのだ。

「あ……あの筋肉ダルマめ……なんという事を……」

その前のネギ少年達のジャック・ラカンに対する容赦ない追い打ちも大概なのだが、アリカ様はネギ少年が酷い攻撃を受けた事に思わず怒りを覚えたらしい。

「こりゃ驚いたぜ……ジャックに本気の本気出させるなんて……しかもあんな魔法よくまぁできるな」

そのまま先に小太郎君が獣化奥義を使った事で分かったのだが、やはりアレは少なからず寿命を削っていると見て間違いない。
小太郎君も頑張ったが敢え無く倒され試合終了の合図がそのまま告げられそうであったのだが。

「は?」

「何じゃこれは……」

「何よこれ……」

「ぼーやの奴……本当に完成させたのか……」

……私達精霊は今の今までまともに戦った事はそもそも無いが、もし本気を出したらこんな感じであろうというのを体現したネギ少年の姿がそこにはあった。
目の虹彩が輝いている辺り完璧に革新している……。

「ジャックのヤローが一瞬かよ……」

「先にアーウェルンクスからアスナを守る為とは聞いたが……こんな技を……」

「ネギは私の為に……どうして……こんなにっ……こんなに頑張るのよっ……」

「………………」

《見ているか、茶々円、決定的だな……》

《はい……全くですね。ですがその映像からどういうものなのかよく分かりました。しかしながら、私達の予想は当たっているようなのである意味寧ろ安心しましたよ。これで全然違ったら手がつけられない所でした》

《まあ……そうだな。だが茶々円、一つ隠している事があるんじゃないのか?ぼーやの魔法領域と断罪の剣の出力が私の元で直前まで修行していた時と比べてこの地方大会初戦の出力が不自然に上がっている。南極でぼーやが死にかけたというのもそうだ、普通は魔力切れからいきなり魔力が溢れたり等ありえない》

《ご明察です。ネギ少年が魔法世界に旅立った次の日、私達は火星に行っていたのですが、どういう訳かネギ少年の微弱な霊体が魔法世界と火星の位相を飛び越えて出てきたんですよ》

《はぁ……なんだそれは……信じられんな……》

《私も信じられませんでしたよ……。その際ネギ少年を火星に戻す為に魔分を投射せざるを得なかったのでほぼ間違いなくその影響です。私も今はっきり分かりました》

《それが影響して魔分を感覚的に操れるようになったという事か……。なるほど、ならぼーやが名付けたという太陽道という技法が出来た事にも納得がいったよ。茶々円……まさか以前闇の魔法がどうとか言っていたのは、ぼーやの基礎力ではアーウェルンクスやあの筋肉馬鹿には時間的に追いつけないから……だったのか》

《ええ……お嬢さんの考えられた通りです。まあお嬢さんがネギ少年に魔法領域や断罪の剣を教え始め実際にネギ少年が身にし始めた時点で無くてもなんとかなるかもしれないと楽観視していましたので……私も全てが予知できる訳ではありませんし、絶対に必要とも限らないだろう……と言った所です》

《は……今更考えても仕方ない事だな。少なくともぼーやは人間の中で前人未到の領域に到達したのは間違いない。それにしても映像で見た所、ぼーやの目が超鈴音のアーティファクト使用時と同じだったな》

《あれは革新者の証……とでもいいますか、簡単に言うと人間として進化した状態です。既に今私達が使っているこの通信法も最大加速で時間をかけること無く会話するというのは、ある意味他者との瞬時の意思疎通のようなものです。それが超鈴音と違ってアーティファクト無しで、自力でできるというのはまさしく人間としては革新した、という他ありません。これはまた壮大なネタバレなのですが……私達にはこの通信法の最終形態とでも言うものがありまして、それは意識の拡張を行い他者と一瞬で思考を共有し、相互理解を果たす事ができるのです。ネギ少年のこの太陽道に今のこの通信に加えそれももし可能であったとしたら完全にネギ少年は人間の枠を飛び出しているでしょうね》

《確かにこの通信、瞬時の意思疎通だな。意識の拡張をして思考の共有ができる……進化した人類か……なるほどな。とすれば私はこの通信だけだが差し詰め人為的……いや、茶々円がやったのだから人ではないが……とにかく外的要因で進化した存在といった所か》

《はい、そんな所でしょうかね。いずれにせよ意識の拡張については何か本当に誤解を解きたい時や、相手に自身の全てを明かす事も辞さない時でないなら特に使う必要は無いですから気にする必要は無いです》

《プライバシーも何も無い能力のようだしな》

《そういう事です。慣れてしまえばそれはそれで常に情報が共有できて楽なのかもしれませんが、こうしてやりとりする事もまた一興ですから》

《は、そんな能力があるからこそ言える事だろうが、一興か。そうだな》

《まだ1日も経過していませんが、先にお伝えしておくと、このままの進捗度であれば十数日は確実にかかると思います》

《世界中に散ったのだとしたらそれぐらいはかかるか……》

《それと、一応報告ですが、火星の幻術を解きましたのでニュースを見るとまた騒ぎになっていると思います》

《いつ解くかと思ったが、確かに早いほうが良いか。いよいよ、魔法の存在の秘匿の終わりという訳だな》

《一応私の存在意義は世界で魔法の行使を可能としそれを維持する為ですからね。ずっとこそこそ使われていても……という所です。無駄に超大規模魔法を使われるのは困りますが、こちらの科学技術と魔法を完全に融合させて魔法工学なんて分野でも新たに開拓されれば色々と面白いと思いますよ》

《……まるで超鈴音の独壇場そのものになりそうだな……タカミチではないが茶々円がぼーやに接触するのではなく超鈴音に接触した理由がよくわかるな》

《ははは、まあそういう事です。しかしネギ少年の新魔法開発能力も映像からして大概だと思いますよ。あの収束魔方陣一つとっても魔法球の中でまとまった時間を確保したとはいえ普通はできないでしょう》

《そもそも千の雷や天使の梯子レベルを収束させなければ倒せない相手というのがおかしいんだがな……やはりあの筋肉馬鹿にしろアーウェルンクスにしろ大概だよ》

《流石にあんなのはもう終わりでしょう。またジャック・ラカンがネギ少年と戦いでもしない限りは》

《はっきり言ってあの筋肉馬鹿の相手をもう一度でもぼーやにさせるのも馬鹿らしいな。無駄な力の発散でしかない》

酷い言いようだが……否定出来ない……。
特撮映画とかが本当にリアルになるなんてのはアリかもしれないが……。

《そうですね……普通に修行をするのは別に悪いことではないと思いますが、ジャック・ラカンは常に素でアレですから考慮に入れる事自体が……という気がします》

もし今後まほら武道会にでも来たらお帰り願いたい……というか何でもアリではなく、きちんとルールを決めるべきだろう。

《ま……様子からして横のアリカがただでは黙っておらんだろう》

《ですね……一応そういう試合なので怒るのは少し違うとは思うのですが……気持ちは分かりますよ。しかし、そういうお嬢さんも……》

《当たり前だろう。私が手を掛けた弟子のぼーやが魔力切れの状態であんな攻撃されたら怒らないほうがどうかしている。がさつな奴はこれだから……あー……柄にも無いな》

あージャック・ラカン……これは地球には来ないほうがいいですよ。

《お嬢さんの気持ちは良くわかりました》

《茶々円に文句言っても意味がなかったな。……それにしてもナギからは千の雷だとしたら私からは光魔法を教えて欲しいと言い出したのが始まりだったが意外と使用頻度が多くて嬉しいものだな》

天使の梯子の収束呪文の使用頻度は確かに高かったと思う。

《威力が高いですしね》

《実際筋肉馬鹿ぐらいでないと……後は何か破壊する以外使いどころは無さそうだがな……。私なら面倒だから凍る世界で封印を選ぶな……そもそもあの馬鹿とやりあうつもりも毛頭無いが。茶々円もまず立場からして力を使う事はないだろうが奴の相手なんぞしたくないだろう?》

《全力で肯定させて貰います。私達の存在すら彼にはバレて欲しくありませんよ》

ナギなら使うのが魔法だからまだしも、気を使うジャック・ラカンは本当に御免被りたい。

《ハハハ、私達の生けるバグに対する認識も大概だな》

《ええ、そうですね》

《これぐらいにしておくか》

《はい》

……そしてエヴァンジェリンお嬢さんとの会話は終了し、時間は再び流れ出した。
続けてテオドラ皇女殿下自身の記憶から取り出したネギ少年の本来の姿での映像は拳闘大会とは分けてあるのか微笑ましい物だった。
皆で食事や会話をしている所等はアスナは思い出すように見て、アリカ様とナギはしみじみと見ていた。
しかしながら初めてジャック・ラカンが現れてからのやりとり、魔法球内での修行開始、とりわけ強さ表なるものの紹介部分はジャック・ラカンも涙目な感じであった。

「テオも言っておるが本当に馬鹿じゃな……」

「奴は馬鹿だからな……」

「私ラカンさんにセクハラされた覚えばっかりよ……」

「あーでも俺もこれ書いたことあるぜ?」

あーここにも馬鹿がいた……。

「ナギ……」

「…………ナギ……」

「……筋肉馬鹿も仲間がいて良かったな」

「いや寧ろ何でネギとコタローはこんなにスレた考えなんだよ!男ならこういうのは憧れるだろ」

「それはじじぃのスクロールのせいだ」

「じじぃってここのか?」

「そうだ。お前の親も使ったらしいぞ」

「親父が?」

「あの時はクリスマス直前で4日も寝こんでたのよね……ネギ」

なんだか懐かしいな……。

「時間差72倍、288日間だったな」

「なっ!?そんなものをネギにやらせたのかッ!」

またアリカ様が……これは……何としてでもネギ少年を助けたい所だ……。
そもそも私が鍛えたほうが良いと言い出した事も関係しているので近衛門のせいだけという訳ではない。

「なんだそりゃ……俺知らねーぞそんなスクロール」

「全ては今だから言えることだがアレが無ければ先の映像での懸命な姿のぼーやも無かっただろう。あれで大きく成長したのは事実だ」

「そうね……。あれでネギは子供っぽさが少し抜けて雰囲気がスッキリした感じになったわ……」

「内容はどんなんだったんだ?」

「理不尽な現実……現象に対する理解と実際に失敗する事で対処法を学べるものだったよ。極寒や極暑、洞窟、ダンジョン、普通の生活では縁はないだろうが、そういう状況下での対処、ダンジョン等なら罠に対する注意力、対処能力を伸ばせられるものだ。えげつない罠が多かった分油断と慢心に対する自制が付いた。筋肉馬鹿の強さ表なんてものに対しての意見もその経験での視点が生きているのだろう」

「へぇ……ま、いきなり現実に放り込まれるよりはマシだな……それに付き添いにアスナがいたんだしな……」

「そう……であったか……。子供らしく育つ事をさせられなかったのは寂しいが……私の言えた義理ではない……か……」

「アリカ……」

「ネギが最後に言っていたのは全部心の底からの気持ちだったわ……ネギは幸せだったって……」

「……テオがくれたこの映像の笑っておるネギを見ればそう……思えるな……」

《茶々円……》

《あー、空気がアレなのは分かりますが、まだ絶対ではないですからね》

《はぁ……分かっている》

《最善を尽くしますので》

《ああ》

既に故人を偲ぶ会話になりつつある空気は、ネギ少年がまだ終わってはいない事を知っているお嬢さんとしては複雑なのは分かる……。

「茶々丸、麻帆良でのぼーやの映像を出せるか」

「はい、マスター、少々お待ち下さい」

「済まぬなエヴァンジェリン殿……感謝する」

そして魔法世界の生活から遡るようにネギ少年が麻帆良に来た2002年の夏頃からの映像を茶々丸姉さんが断片的に見せ始めた。
途中昼食を挟みながらも、日々の生活から、別荘での修行風景、体育祭・ウルティマホラ、修学旅行と続いていった。
京都への小旅行には茶々丸姉さんは同行していないので映像は無く、あるとしてもお嬢さんの発表会の映像のみであるため省かれた。
特に修学旅行の行き先がイギリス・ウェールズであった事にはナギは思わず突っ込みを入れた。

「日本の中学なのによくイギリスが行き先になったな」

「これもじじぃ達が噛んでるんだよ。職権乱用と言えばそれまでだが」

「京都でも良かったけど普通に楽しかったわ……襲われたあの時を除けば」

「安全な麻帆良から出たせいかフェイト・アーウェルンクスが絡んできたのはあの時だったな……。ぼーやの故郷を焼き払った上級悪魔の一体まで封印から解放して利用していた」

「そりゃマジか……ホントにイラつく奴だぜ……」

「それが私の一族の始祖の手の者なのじゃから皮肉なものじゃ……」

「結局あれがきっかけで私も魔法関係者になったのよね……あれで私が裏に関わらなければもしかしたら……」

「アスナ……お前にとってあれ以降の生活は全て後悔するようなものだったか?」

「そんな事ない……そんな事無いわ。充実してたし皆とも仲良くなれた。修行は辛かったけどなんだか家族ぐるみって感じで楽しかったわ」

こういうのも何だが、神楽坂明日菜が魔法世界に一緒に行かなければナギとアリカ様、そしてゼクト殿も今回戻ってこなかったかもしれない……全ては今となっては後の祭りであるが。

「きっとぼーやも同じだったろうさ」

「そうね……きっとそうね」

「旅行っていうと……アリカとは行ったが……結局アスナ連れて京都には行ってないんだよな……」

「そうじゃな……」

「え……?」

「あぁ、アスナには言ってなかったが、俺とアリカとアスナの3人で詠春の所にいつか旅行しようって決めてたんだぜ」

「そ……そうなの……」

「ぼーやは京都には行った事はあるがな」

「お?そうなの?」

「私のサークルの関係のイベントついでにその詠春の所に行く為だ」

「じゃあ詠春ともネギは面識あんだな」

「修学旅行の後の麻帆良祭で私もこのかのお父さんには会ったわ」

「ん、詠春の奴麻帆良祭にも来たのか」

「それは実際後で見たほうが早いだろうさ。茶々丸、アレを奥から出してきておいてくれ」

「はい、マスター」

そのまま確認するように修学旅行の映像の続きが飛び飛びに流され、とうとう麻帆良祭の映像に突入した。
ごたごたしたお化け屋敷の準備や前夜祭もそこそこに、麻帆良祭の開幕。
ここで茶々丸姉さんが奥から出してきた三次元映像再生機を起動して映像はいよいよまほら武道会の開会式のものが映しだされた。
龍宮神社会場内には大量の選手関係者が集まっている所であった。
因みに実際の所この映像に関しては私達が保存した物である。
試合の各映像に関しては麻帆良祭終了と同時に確かに全破棄が行われたのであるが、まほら武道会にとって必要不可欠だった魔法球の件で超鈴音から一応礼とでも言うか暇つぶしにでもどうぞと言う風に、映像資料を贈呈してあったのだ。
当然オール三次元映像である。
容量が莫大になりすぎるのと、人間らしさの為に茶々丸姉さんのアイセンサーは三次元仕様ではなく、今までの映像は二次元である。

「へ?なんだコレ、スゲー。それにまほら武道会って廃止したんじゃなかったのか」

「ナギが10の時に優勝したという大会か」

「あれ?エヴァンジェリンさん試合の映像って全部……」

「私があの魔法球を用意しただろう。それの一応の礼のつもりだろうが超鈴音が暇つぶしにでもと言って渡して来てな。あくまで私に向けてのものだからそれ以降は見せなかった」

「そうだったんだ……」

「いやー?何でこんなのが開催できてんの?」

「さっきあそこにいた超鈴音が全ての仕掛け人で、今年復活させたんだよ。外部に漏れないよう徹底的に配慮がしてある。これだけ三次元なのも超鈴音が開発したものだからだ」

「はー、あの嬢ちゃんスゲーな。お、詠春いるな。そういう事か」

魔法世界であれば例の魔法郵便や相当な金額はかかるらしいが、部屋全体を幻術空間に変えたある意味三次元の映像技術もあるがそれよりはこちらの三次元映像は実用性が高い。

「アスナも出ておるのじゃな」

「そう、皆で出たの」

そして早速映像はネギ少年に絞られ、タカミチ君との試合、高音・D・グッドマンとの試合、葛葉先生との試合、甲賀中忍の市さんとの試合等々が見られた。

「……ルールがあるってのもあるがやっぱり魔法世界に来る前は違うな」

「ネギが成長したのが良く分かるのじゃ」

「この大会はぼーや達にとっては良いバネになった」

そして閉会式の映像に移りナギは驚いた。

「タカミチより強い大学教授って誰だこりゃ。夫婦揃って強いみたいだけどよ」

ナギが失踪してから瀬田教授はフィールドワークで活躍しだしたので知らなくて当然か。
……そういえば桜咲刹那が予想通りというか、例の妖刀ひなを持って帰って来ていたのだが近いうちにひなた荘に住む青山素子さんの元に返しに行くことになるのだろう。

「ナギのようにかなりでたらめな教授だったよ。まあそれも先の魔法世界での拳闘大会では通じないだろうが」

それはそうだ……あんな殲滅を意図した魔法や訳分からない気のビーム相手に主に近接格闘術だけでどうしろと。

「そっかー、何か俺が参加したときより盛り上がってる気がするぜ」

「本当のメインは次さ」

そしていよいよ映像はまほら武道会閉幕後に行われたネギ少年とクウネル殿の試合に移った。
現在クウネル殿がネギ少年にイノチノシヘンの説明をしている所である。

「お、これがさっきアルが言ってた奴か」

そしてクウネル殿がイノチノシヘンを使用し、ナギの完全人格再生を始め姿が変わった……のだが、当然ナギはネギ少年をデコピンで吹き飛ばすという暴挙にでた訳だ。

「おいーッ!?俺何やってんだよッ!アホか!」

自身を客観的に省みるとはこれ如何に。

「こ……こんな事あったわね……」

「今更言わなくてもアホだろう……」

「ナギ……主何やっとるのじゃ。ほれ、ネギが泣いておろう!」

会えた感動で涙を流すネギ少年の姿が映っていた。

「俺じゃねぇよ!?いや、俺なんだろうけどさ!?お、しかも俺本当に詠春とタカミチに本当に老けてるって言ったのか!」

こうして見ている面々に構わず映像は進んで試合という名の稽古が開始され、ネギ少年に対しナギが「虚空瞬動に浮遊術!できるじゃねえか!もしかしてちゃんとお前も魔法学校中退したのか?」と言った。

「あー、確かにいきなり拳闘大会の映像見てたがネギできてたもんな……。流石俺の息子だなぁ……」

「教えてくれたのはエヴァンジェリン殿じゃろうが」

「あー、ありがとな、エヴァ」

「礼には及ばんさ」

ただ……この後お嬢さんにとって少し気まずい映像があるような……。
そんな事はともかくナギが当時のネギ少年の魔法領域を安々と破り強烈な蹴りをいれたりするシーンへと移った。

「手加減はしとるようじゃが……筋肉ダルマだけではなかったか……」

アリカ様は額をピクピク言わせながら頭を抑える。

「もう少し優しくしてやれよ俺……」

まあナギがクウネル殿に人格の保存を頼んだ時と今のナギは状況が違うからこの反応はおかしくはないが……。
そして時間が無くなりかける中エヴァンジェリンお嬢さんが試合を中断させに入った。
地上に戻りナギが「おっと、それはいいとして。ネギ、ここでこうやってお前と話してるってことは俺は死んだっつーことだな……」と言い出しネギ少年がそれを否定する件に入った。

「つか、アルに記録しておいて貰っても俺が死んでたらそもそもアーティファクト使えなかったんじゃねぇか……。そうはならなかったけどよ……」

ある意味発想が単純で良かったとも言える。
そしてお嬢さんの呪いについて突然話が振られ……。

「罰として私を抱きしめろ!」

が流れた。

「…………悪い、今のは無かったことにしてくれっ……」

そう言えばという風で思い出したお嬢さんは寸前で映像を止める事叶わずソファーから転げ落ち両手を床につけ下を向いたまま呟いた。

「エヴァンジェリン殿……薄々思っておったが……ナギの事……その……す、好きなのかの?」

凄くアリカ様が初初しい訳だが……。
え?修羅場?修羅場なの?……なんてことにはならない……だろうと思いたい。

「へ?へ?」

「…………」

ナギはアホ面でアリカ様と下を向いたままのお嬢さんを交互に見て、これには神楽坂明日菜は気まずそうな表情をしつつも、どうも自身もナギが好きである事が思い出され恥ずかしくなったのか沈黙を貫いた。
そしてエヴァンジェリンお嬢さんは大きく深呼吸をして立ち上がりソファーに戻って言った。

「ああ、好きだったさ。私が崖から落ちた所を助けられた時からな。……だが今はもう心の整理はついている、アリカ・スプリングフィールド」

アリカ・スプリングフィールド、と呼ぶ、それはお嬢さんとアリカ様の間で一瞬でその意味を理解しあえるものだった。

「左様か……。ナギが呪いなど迷惑をかけたようで済まぬな……」

「それは先程終わった話だ、気にする事はない。私にも原因があるさ……」

と言いながら2人はペコペコしあうという現象を起こした。

「この馬鹿者が何も考えず素で誤解を与える真似をしたのじゃろう」

「お、俺?」

「……そ……それは否定できないな……。私も長生きではあったがあの頃は初心で……」

「ほれ、ナギ、主も謝らんか!」

アリカ様はナギをド突き謝るように促す。

「いだっ!?ああ……俺が悪かった。エヴァ、この通りだ」

ナギも謝罪表明をし、頭を下げた。

「ナギの気持ちは分かった。分かったから……もうこの話は手打ちにしないか……。少し心の古傷が抉られるんだよ……」

お嬢さんが辛そうである。

「そ……そうか……分かった……」

互いに間を起き、落ち着いた所で完全に放置状態に入っていた映像を巻き戻し、お嬢さんの発言以降、ナギがお嬢さんを撫でながらネギ少年に話かける所に再び移る。
色々過剰な発言がなされるもネギ少年は涙を流しながら「僕は……僕自身になります!」という所で映像を終えた。

「ネギ……」

「ネギ……」

「ネギは言ったとおり……俺を探しに魔法世界に来たものの、ネギはネギ自身ちゃんと成長してたな……」

結果としてナギと同じく魔法世界の危機を救ったネギ少年であるが、ナギとの違いで言えば、前大戦では最後に大量の艦隊による反魔法場を展開して世界の終りと始まりの魔法を阻止したのと、今回はネギ少年自身が導きとなってオスティア一帯が塵と化すのを防いだという所だろうか。

「エヴァンジェリン殿、ネギの映像を見せてくれた事、感謝するぞっ……」

「ああ、ネギの生き様を今になってだがせめて見られて良かったぜ……。ありがとな、エヴァ」

「見せないほうが良いかもしれないとは思ったが、それならこちらも見せて良かった」

「俺も……約束は果たさねぇとな。エヴァ、登校地獄、解くぜ」

「……ああ、頼む」

……ナギはお嬢さんの頭に手を置き、もう高位の術者でなくとも解除できる水準に緩めた呪いを……解いた。
エヴァンジェリンお嬢さんはある意味ナギとの一つの繋がりであるこの呪いが解かれる事に色々混じり合った感情を覚えながらも、一筋の涙を流した。

「……確かに呪いが解けた事、確認したよ。ナギ」

「12年も待たせて済まなかったな」

「一生解きにこないよりマシさ」

エヴァンジェリンお嬢さんはようやく吹っ切れたというべきか、非常に凛々しい顔をして答えた。
これで前に進める、と言ったところであろう。
……これにてエヴァンジェリンお嬢さんは近衛門の作成する証明書無しにもう自由に麻帆良から出ることが可能になったのだった。
結局一日中ネギ少年の映像を観ている事になってしまい、既に時刻は夕方もすぎ今日も日が落ちていた。
寝る場所ならば別荘があるものの、24倍では問題があるだろうと言う事でナギ達をそのまま客間で待たせる間、エヴァンジェリンお嬢さんは少し調整に時間をかけたものの城のある魔法球の時間差を1倍に変更して3人を中に招いた。
ネギ少年の映像を粗方見せ終えた状態でネギ少年が使った物を見せるというのもどうかと……という事でそれはそこそこに留められた。
とは言ったものの神楽坂明日菜はネギ少年がよく座っていたテラスの椅子や魔法書を広げていた机などに触れるという行動をしきりにし続けていたが……要するに私達の責任重大である。
結局この日近衛門殿達がナギ達に何かを頼むべく連絡をすること等無く、それどころか数時間に渡る打ち合わせを済ませたクルト総督は、サヨが火星の幻術を解いた事を入ってきた情報で知り、ゼクト殿による強制的なゲートの発動によって再び魔法世界の廃都オスティアへと戻り、そのまま強制転移魔法で新オスティアへと戻り、早速仕事を開始したそうだ。
一方ゼクト殿は再び強制的にゲートを発動させて図書館島地下に戻ってきた。
この日だけで総移動距離がなんと1億6千万kmというのは……正直何といっていいのやらという所であるが、これからは常にそうなっていくのだからそのうちこの距離感にも慣れるだろうか。
クウネル殿は言わずもがな、ゼクト殿も完全に図書館島に居つく体勢に入っている。
詠春殿はまだこちらに滞在するらしく、今日のところは呪術協会に足を運び仕事を夜遅くまで続けるらしい。
近衛門も……申し訳ないが言うまでもない。
一番長い付き合いでお世話になっているし、いつものことであるので落ち着いたら体調を整えておこう。
タカミチ君は地球側のAAAと連絡を取ってクルト総督と同じく仕事を開始した。
ドネットさんはメルディアナに帰還した事を連絡し、そのまま校長に取りつぎ、ネギ少年が亡くなった事を伝えると共に、ナギとアリカ様が帰還した事を伝えたそうだ。
ネットならともかく、流石にウェールズまで観測の手を今伸ばしはしないのでどういう反応をしたのか正確な事はわからないが、ネカネさんにはとてもでないが伝える事はできないであろう。
そしていよいよ明日には各国政府調査機関が日本に上陸し、同じく各国の魔法協会の人々も日本に上陸し、両者共に一路麻帆良を目指してくるようだ。
そんな折、火星の幻術が解け、火星が第二の青い星へと変貌した情報に彼らは再び混乱したのだが、それでもきっと一連の事は麻帆良と関係がある可能性は高いだろうという事で予定に変更は無くやってくる。
しかし私が姿を現す予定は一切無い。
無いったら無い。
さて、言うまでもなく第二の青い星、火星は地球にその姿を顕にした為、再び地球の世論はその事で持ち切りとなった。
因みに一番最初に経済的効果が出たのはどこであろうか。
そう、それは光学機器メーカーである。
火星大接近から1日経ったが、今になって飛ぶように望遠鏡が売れ始めたらしい。
それはもうお隣りの星が青くなったらテレビによる映像ではなく、自身のその目でレンズを通して見てみたいのだろう。
実際ニュース速報で火星が青くなった写真が放送された瞬間、各テレビ局には「捏造映像を堂々と流すな」と大量のクレームが殺到したそうな。
それから数時間して、実際に各国政府が「確かに火星が青い星になっている」という事を公式見解で認めてからというもの、望遠鏡は飛ぶように売れたそうだ。
どこでどう経済効果が出るかは分からないものである。
名波千鶴が所属する天文部も体験入部というか見学者が引きも切らず、麻帆良祭でもないのに大盛況であったらしい。
それ以外にも当然世論では色々な憶測が飛び交い「火星に宇宙人がいるとしたら今まで隠れていた分非常に高度な文明を持っている可能性がある」であるとかいった議論の一方では「いたとしたらきっとこんな姿をしてるのではないか」と画像をアップロードしだすのが起き始めたのだがどれもどう見ても人以外の何かであったり……いや実際魔法世界にはイルカさんがいたりするので間違ってはいないのだろうが、そんなにドロドロはしていないと一言いっておきたい。
しかし、そんな中日本人は病気なのか、勘が良いのか知らないが、ネコミミがついた人間やら角が生えた人間やらを、ただし、女性限定ではあるがそんな画像を空気を読まず世界に向けてバンバン投稿し始めたのだが、大正解である。
一番近い。
なるほど、日本に神木が生えた理由は火星人に対する適応能力が日本人は高いからなのかも……しれない……そんな事は無いか……。
下手すると地球と火星で行き来が頻繁にできるようになったら日本人の一部の男性は皆ロマンを求めて火星へと旅立ってしまう可能性がある。
これは日本という国家にしてみれば人的損失が著しくなるであろうか。
因みに長谷川千雨が麻帆良の外でもとうとう非常識な事が起こってしまったからなのか、女子寮で「ありえねぇぇぇよッ!!」とパソコンのキーボードをガタガタ叩き高速で書き込みをしながら叫び声を上げたのは余談である。
しかしながら、彼女も認識阻害が効かないという体質で困るのもそろそろ終わりであろう。
なんと言っても魔法が公に世界に出てくる日も近いのであるから。
そういう騒ぎの一方で宇宙開発関連企業の株価も鰻登りに上がりに上がり「目指せ!有人探査!」といった勢いで投資があちこちから舞い込んでいたり、現在目下火星へと飛行を続けているアメリカ合衆国の火星探査機スピリットとオポチュニティに「頑張れ!」という声援が送られたり「火星一番乗りはアメリカだ!」等と国の人々が非常に喜んでいるそうな。
……これで火星側が探査機を撃ち落としでもしたら本当に星間戦争が起きそうで非常に怖い。
だが、非常に残念ながら、宇宙開発関連の景気上昇は長い目で見れば良いことなのだろうが間違いなく一過性であり必ずバブるのでご愁傷様としか言いようがない。
宇宙開発関連で無くとも、理系は大体盛り上がっていて、それに従うかのように麻帆良大工学部も無駄にテンションが全体的に上がっており、葉加瀬聡美は超鈴音とサヨがいない……まあ魔法球の中にいるのだろうと思っているのだろうが、そんな事にも何のその、研究室に入り浸っている。
……まあ、そんなこんなであるが超鈴音から通信である。

《翆坊主、一旦そちらに戻るから転移とポートの用意頼むネ》

《分かりました》

超鈴音は優曇華から蟠桃へと転移し、ポートを通り魔法球へと無事戻った。

《ふむ、収集し続けつつ観測もしたが、あちらも酷く混乱しているネ》

《こちらもですよ。一つ分かった事ですが、やはりネギ少年の使ったものは私達のものと同種でした。目の虹彩が明らかな証拠です》

《おお、それは良いことだナ。それなら不確定要素は無さそうだネ》

《ええ、その通りです》

《火星については後でさよに聞くと良いと思うが……どちらかというと私は雪広グループにまた早めに出向しておく必要があるネ。だが、一番今私が効率的にできそうなのはネギ坊主の素体作成の為のデータを整理する事だと思うネ》

《優曇華による収集も非常に効果があるんですけどね。確かにネギ少年の素体の方も必要です。しかしできなくはないとは思いますが、成長もする素体……というのはやってみないことには分かりませんね。元々あるDNAに従ってというのも初めての試みです。超鈴音には蟠桃の下層の素体作成に携われるようアクセス権を許可しますよ》

《それは助かるネ。やろうとしていることを考えると色々思うところもあるが……ネギ坊主の霊体、魂はあるのだから器を作成すると考えればそこまで抵抗は無いナ》

《一から生命を創造する訳では……ないですからね。一度今日集まった分の魔分から情報を引き出す作業もしておきましょうか。その辺の擦り合わせも必要でしょうし》

《そうだナ。できるだけあるべき姿に近づけたいからネ。翆坊主、必須ではないが、参考にはなりそうだし、ゼクトサンの髪の毛を採取したいと思うのだがどう思う?》

《あーはい、そういう事ですか。確かにゼクト殿はあの話からするに、始まりの魔法使いとの適合率が高いというのは丸分かりですからね。今回私達がやるのは憑依では無く完全な定着ですが、ええ、参考になりそうですね。私は良いと思いますよ。きっとゼクト殿も快諾してくれる筈です》

《そういうと思ていたネ。なら早速今から図書館島に行こうと思うのだが……他に誰かいるカ?》

《いえ、今はクウネル殿とゼクト殿が2人でゆっくりしているだけです》

《それは好都合だナ。そういえばクウネルサンは私が唯一ネギ坊主の子孫だという事を翆坊主が勝手に知らせた人物だが……あの話からして本当に遠い親戚のようなものだたらしいネ。当然ゼクトサンともそういう事になるカ》

《クウネル殿が他人の秘密をペラペラ話すタイプどころか一人で隠して楽しむ人種というのは明らかでしたからね……しかしあの時の事は軽率だったと思っています。すいません》

実際かなり軽率ではあった……が、クウネル殿がかなり積極的になったのも事実。
まあ……クウネル殿は魔法世界の事については殆どの事を知っていたのだから、今までのやりとりを思い出すに壮絶な狸なのだが……それを含めて口が硬いと言える。

《過ぎた事だし、今更もう気にしなくて良いヨ。朝ナギ・スプリングフィールドは私がゼクトサンに似ていると言たが彼の勘も大した物ネ。きっとクウネルサンは内心面白がていた筈だヨ》

《ありがとうございます。ええ、そうでしょうね、きっと》

《ゼクトサンとも少し話しても良いかもしれないネ。遠い遠い親戚なのだしナ》

《お好きにどうぞ》

《では肉まん用意してから行くヨ。今度はここから転移魔法で直接行くネ。反応があちらに出ないようにして貰えるカ?》

《あちこち魔法先生達が走り回ってますからね、分かりました。結界を張っておきます》

そして超鈴音は女子寮に戻りいつも常備している肉まんを携えた所で科学迷宮の中から私に通信を行った上で、転移門を使い、図書館島地下に直接跳んだ。

―転移門―

「む?」

「おやおや、朝方振りですね、超さん。キノ殿が結界を張ったのだと思ったらそういう事でしたか」

「また来たヨ。クウネルサン、ゼクトサン。肉まん持て来たから食べるといいネ」

空中庭園の長テーブルの席についていたクウネル殿とゼクト殿に近づき超鈴音はセイロにいれて持ってきた温かい肉まんを出した。

「ゼクト、これは地球で最も美味しい肉まんですよ」

「ほう、そうなのか。ありがたく頂こう」

「食べながら聞いて欲しいのだが、ゼクトサンは始まりの魔法使いとの適合性が高いと考えて良いのかナ?」

「ふむ……むぐ……何じゃ。高いと言われれば高いじゃろうな。おお、この肉まん美味しいのじゃ」

えー、ゼクト殿食べるのに夢中でかなり適当な返答してくれました。
齢数百で小動物のよう……あれ?
私も類似している気はするが……年齢の桁が違うな……。

「そう言て貰えると嬉しいネ」

「超さん、それを聞くという事はネギ君と関係がありそうに思えますが……それとも朝ナギが言っていた事ですか?あれは私もどうしようかと思いましたよ、フフフ」

今更笑い出したよ、この司書殿は……。

「やはりそう思ているだろうと思たヨ。実に鋭い勘だと思たネ」

「アル、何の話じゃ?ワシが超に似ておるとナギが言っておった事か?」

「そうですよ。超さん、話す気なのですか?」

「クウネルサンが知ているのだから良いかなと思てネ。それに用事もあるしナ。ゼクトサン、実は私もウェスペルタティアの末裔なんだヨ」

何でもないことのように切り出すのものどうかと……。

「む……それは真か?」

ゼクト殿は肉まんにかぶりつこうとした直前で止まった。

「正確にはネギ坊主の未来の子孫なのだけれどネ。だから私も遠い遠い親戚のようなものという事になるヨ」

「ほう、未来でのネギの子孫という事か。世の中まだまだ知らぬことも多いの。ナギの奴は勘だけは良いが正解じゃったか」

「以前ここには来たい時にいつでも来て構わないと私が言ったのも理解して貰えましたか?」

「ハハハ、今更アレにそんな意味があると思う事になるとは流石の私も思わなかたが、クウネルサンは本当に性格が悪いナ」

「いえいえ、それ程でも」

本当に、性格悪いと思う。
良い意味でも悪い意味でも。

「まあ私はいつも好きな時に来ているヨ。……本題に入るが、ゼクトサンの髪の毛が欲しいのだが貰ても良いカ?」

「ふむ、髪の一本ぐらい好きにすると良い。ネギを助けるのに使えるのか?」

「参考にはなる筈ネ。ネギ坊主が使た技法が始まりの魔法使いが使たものに近いなら尚更その手がかりになる筈だヨ。コンタクトをしていたが……ネギ坊主はこんな目をしていなかたかナ?」

超鈴音はコンタクトを外しアーティファクト使用中の証である目の虹彩をゼクト殿に見せた。

「おお、それじゃ!ネギはその目をしてよく分からぬ通信をして来て頭痛はしたがお陰でワシも最後の戦いであ奴らに対応できた」

「やはりそうカ。ネギ坊主はこれを自力でやるなど本当に大したものネ。確認も取れた所で髪の毛一本貰えるかナ?」

「勿論じゃ。……これで良いじゃろう」

「確かに受け取たネ。……私が聞くことではないかもしれないがこれからクウネルサンとゼクトサンはどうするネ?今クウネルサンはここに来たい時に来れば良いと言たがここにいる理由も無いのではないカ?」

「確かにそうです……ですが、そうは言いましても、どこか行くあてがあるかといえば無いですし、ここにいた方が世界のどこよりも面白そうです。それにこれで私は弟子もいますのでね」

「ワシも同じじゃ。またゲートを通ってあちらでフラフラしても良いのじゃがアルと同じで特に行くあても無いからの。それにワシはまだこの麻帆良とやらの都市の事をよく知らぬ。アルに話を聞いておった所じゃが中々面白いようじゃな。旧世界の食事にも前から興味があったしの、この肉まんもその一つじゃな」

「フフフ、ゼクトは詠春の出した鍋を気に入っていましたね。トカゲ肉を入れようとする程でしたし」

トカゲ肉?
どんなトカゲかによるが……まさか竜種の事じゃ……。

「トカゲというのは竜種の事カ?」

はい、聞いたほうが早かったですね。

「そうじゃ。アレはモノによるが美味いぞ」

真顔で言い切ったよ……。

「ゼクト、こちらでトカゲというと、小さいものが普通ですから。普通は食べるという習慣は無いですよ」

「む?そうなのか?」

「むむ……なるほど、ゼクトサン、良いことを聞いたヨ。これは新たな食材へと道が開けそうネ。これは互いに商機に違いないヨ!」

超鈴音の目が……何かを征服しようとする目になっているような……。
確かに、火星の食事を地球に、地球の食事を火星にとするだけでもかなり化学反応が起きそうではある。
……気になるのは竜種の肉に反応している辺りなのだが……竜種逃げて!
と、いつかそう言う日が来てしまうだろうか……。

「何だか閃いたようじゃが好きにすると良い」

「竜種の肉に興味は出てきたが……それは今は後回しにするネ。髪の毛調べさせてもらうヨ。来てすぐだがこれで失礼するネ。また来るヨ」

「お好きなときにどうぞ」

「うむ、またじゃ」

―転移門―

そう言って超鈴音は女子寮に戻り、そのまま魔法球でDNA鑑定を開始した。

「アル、外におるあのトカゲは?」

「あれは駄目ですよ」

「……仕方ないの」

門番の彼女が一番危険らしい……。
竜種をトカゲと呼べるゼクト殿の感性は何というか……要するに強いという事なのだろう。
……これで今日も終わりかと思ったのだが……超鈴音の部屋に一人の来訪者が現れた。

《超鈴音、客人ですよ。割と重要な》

《分かたネ》

超鈴音は作業を一旦中止し、魔法球から出て自室の玄関を開いた。

「………………」

「こんばんは、ザジサン。上がるといいヨ。ハカセは今日帰て来ないからネ」

「………………」

ザジ・レイニーデイであった。
相変わらず一切声を出さないが頷いて上がる事にしたらしい。
自室の座布団に両者座り、超鈴音はザジにも肉まんを出して話……が始まった。

「ネギ先生は助かりますか?」

超鈴音に向かって言った後、上を見上げるのは私にも聞いているという事だろうか。

「翆坊主も聞いているヨ。ネギ坊主は私達が助けるネ。すぐにとは行かないが凡そ見積もって20日……という所が目安だろうと思うヨ」

「……そうですか。姉を呼んでもいいですか?」

はい?

「ん……?ザジサンの姉カ……。まあ別にいいヨ」

「結界、張れる?」

また上を向いて……頼まれたとあっては……張るか。

「張れたみたいだヨ」

「ありがとう」

そう言ってザジは何やら大層な魔方陣を展開し召喚魔法を発動し始め……。
……服まで同じ、瓜二つの人物が出た……が。

「ザジッ!何嘘教えたポョ!」

何か……ザジがザジにつかみかかっている……。
超鈴音は面白そうに見ているが……。

「隠し事はしたけど嘘はついていないポョ」

何そのとってつけたような語尾。

「その語尾ポョ!付けてないらしいポョね?お陰ですぐにバレたポョ!」

何か互いにビシバシやっているが要するに、姉妹喧嘩らしい。

「あー、用件は何かナ?」

「紹介……です」

取っ組み合いながらわざわざ……その微妙に視線を上にズラして……了解です。
……パッと地中を通って到着。

《……これはどうも、初めまして。神木の精霊をやっています。キノとお呼び下さい》

「……本物のようポョね。私はザジ・レイニーデイ……ポョ」

ようやくザジ姉は……ザジだった……そしてザジから離れた。

「私もザジ・レイニーデイ」

いやー同じ名前と来たかー……。

「私は超鈴音ネ。魔界というのは双子には同じ名前をつけるという風習なのカ?」

「そうだポョ、超鈴音」

その前にその語尾をつける風習は何なのだろうか……。

「姉さん、話は何ポョ?」

「力ある者の責務としての確認ポョ。あの火星の木は魔法世界との位相を完全に同調させたと見て良いポョか?」

《はい、その通りです。木が引っこ抜かれでもしない限り、火星は間違いなく数千年は持ちます》

「そうポョか。……しかし、いつからいたポョか?何かがおかしいポョ」

《5003年前からずっとですよ。貴女なら大丈夫だと思って説明しましょう。これは壮大なネタバレなのですが、私も時間旅行者のようなものなのです。あまり詳しい事は言えませんが》

実際4900年近く殆ど神木の中で時間を加速して過ごしたから存在がバレているというのはまずありえない。

「信じがたい事だが……嘘を付く理由も無いポョね。目的は魔法世界の崩壊を阻止する事ポョか?」

《正しくは魔法をこの世界で使えるようにし続ける為に種子を残す事です》

「……そうポョか。我々もこちらの世界で魔法が使い続けられれば魔界から出てくる事ができるから阻む理由は一切無いポョ。魔界に来る気はあるポョか?」

ああ……そういう見方もあるのか。
確かにどの世界も星ならばこちらに位相を同調できると思われてもおかしくはないが。

《いえ、その気は一切無いですし、もし可能になるとしても再び数千年先の話です》

「それならば良いポョ。こちらも木には手を出さない事を約束するポョ」

《そういう事なら、分かりました》

「これで確認は取れたポョ。ザジ、まだこちらにいるポョか?アマテルはようやく安らかな眠りに着くことができたがネギ・スプリングフィールドも逝くとは思わなかったポョ」

「姉さん、ネギ先生は逝っていないポョ」

姉妹で会話する時はザジ妹もポョを付けるのか……全く良くわからない。

「何?助けられるとでも言うポョか?」

《そのつもりです。ネギ少年には感謝していますので》

「そうポョか。私もネギ・スプリングフィールドが逝った事は少し残念に思っていたからそれは期待するポョ」

私としては残念極まりないのだが、ザジ姉にとってどう残念なのだろうか。

《ええ、現在作業中ですので》

「姉さん、ネギ先生が戻ってきたらプレゼントをしても良いポョ?」

「ネギ坊主にプレゼント?」

なんだろう……一体。

「まさかザジ……」

「駄目ポョ?」

《何の話か聞いても宜しいですか?》

「……石化魔法の解呪です」

おお、なるほど。

「ネギ坊主の故郷の村の人々の事カ」

《……これを言うのも何ですが、私にも解呪は恐らくできます。ですが人間同士の間で起きた事なので手出しはしないつもりだったのですが……それでザジさんは良いのですか?》

「プレゼントなら……」

「人間達の愚行に手を出す必要は一切無いが……あれはネギ・スプリングフィールドの境遇が原因だが存在が悪い訳でも無いポョね……」

「姉さん」

「……分かったポョ。好きにすると良いポョ。……ただし帰ってきたら今までの分を含めて……おしおきポョョ?」

オーラが漏れててアレなんですが……。

「……………ポョ」

ザジ妹……下を向いて呟くそれが返事……そうですか……。

「……ならば話はついたポョ。邪魔したポョね。さらばだポョ」

「さよならネ」

《さようなら、また機会があれば》

「その時はいつかまたポョ」

「姉さん……またポョ……」

……そう言ってザジ姉はまたしてもご大層な魔方陣を展開してその中に沈んで恐らく魔界へと去っていった。
嵐のようだった気がする。

「私もお邪魔しました……ネギ先生をお願いします」

「ネギ坊主に良いプレゼントを渡せるようにしないとネ」

《全力を尽くしますので》

「はい……それでは」

ザジ妹は普通に部屋の玄関から出て行った。

「翆坊主、後半この部屋で話をする必要はあまり無かた気がするのだが……」

《……私もそう思いました。多分今ごたごたしてますし結界が好都合だったんじゃないですか?》

「魔族の人の感性は良くわからないネ。そういう事にしておくカ」

《実際突込みどころ多かったですからね》

「さ、作業に戻るヨ」

《了解です》



[21907] 65話 サイカイ。サイアイ (ネギま本編完結)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/01/27 14:42
……火星が魔法世界と同調してから、神楽坂さん達が帰ってきてから、というもの、時は誰かを待つ事もなく毎日慌ただしく過ぎていき、残り少ない夏休みの数日も終わり9月に入り私達は2学期を迎えてから2週間程が経ちました。
火星が青い星になる……私が幻術を解除したんですけど、という世界の誰もが驚く現象が起き、その鍵となるのではないかと目された麻帆良もまた混乱に包まれ様々な国の人達が入ってきました。
その関係で未だ公にはされないものの地球と火星との関係の間には少なからず進展がありましたが……それはまた追々としておきましょう。
……麻帆良女子中等部は2学期の始業式は問題なく行われたものの、一部の先生達が不在で自習や、代理の先生が来て授業が行われるという事が起きました。
特に3-Aでの大異変と言えば「ネギ先生は一身上の都合で退職されました」と副担任の源先生が残念そうに一言述べて以降、先生が担任になってホームルームを行うようになった事です。
3-Aの皆はネギ先生が皆に挨拶も無く退職したという話に大騒ぎし、気になって仕方がありませんでしたがそれ以外には何も分かることはありませんでした。
近衛さん達が帰ってきた時に女子寮に残っていた3-Aの皆はネギ先生の事をしきりに聞き出そうとしましたが、近衛さん達が口を開く事は一切無く、それどころか近衛さん達の元気が余りに無い事の方が心配になりました。
実際学校が始まっても、エヴァンジェリンさんはいつもの事ですが、神楽坂さんは全く、近衛さん、宮崎さん、綾瀬さんもたまにしか学校に出てこなくなりました。
それ以外の皆は出ているのですがやはり様子がおかしかったです。
美空さんは元気に話したりはしないものの陸上部で今までになく一心に短距離に打ち込むようになり、古さん、桜咲さんは一切部活には顔を出さず、エヴァンジェリンさんの家に通っています。
楓さんもさんぽ部には出ずに、エヴァンジェリンさんの家に向かうか、麻帆良郊外の山に修行に出たりして過ごしています。
龍宮さんは平静を装ってはいますが、バイアスロン部は休みがちになりました。
あからさまな様子の変化と言えば、いいんちょさんが一番取り乱し方が酷かったのですが、神楽坂さんが帰ってきている筈にも関わらず未だに女子寮に戻ってこない事で、エヴァンジェリンさんの家にあたりをつけて訪問した事がありました。
そこで魔法球の中に入ることを許されたものの、その中で見た神楽坂さんは夏休みに出かける直前の元気だったあの神楽坂さんの姿は一切無く、声を掛けようとした所を「しばらくそっとしておいてやってくれないか」とエヴァンジェリンさんに言われてそのまま帰ったそうです。
……実は魔法球の速度を1倍に変えた後、エヴァンジェリンさんは更に魔法球の速度を0,7倍ぐらいにこっそり下げていたらしいので神楽坂さんにとってはまだ外と同じ時間は経過していなかったりします。
エヴァンジェリンさんの家に招かれていたネギ先生のご両親と、ドネットさんとアーニャちゃんは9月に入るとほぼ同時にネギ先生が魔法世界で使っていた遺品と共に一度ウェールズへと飛行機で渡っていった為今はいません。
ネギ先生のお葬式はいつ上げるのか……という事も話しに行ったのかもしれませんが少なくとも神楽坂さんは麻帆良にいるままなのであちらですぐに取り行われる事はないでしょう。
さて……今まで見てきたように言いましたが、これは観測した事実であって、実は一番怪しいのは私と鈴音さんで学校にも全く顔を出していません。
計画が成って以降外界との関わりを殆ど絶ち、一応葉加瀬さんには夏休みが明けても当分学校は休みますと連絡して自室にも書置きを残した後、私達は学校はおろか女子寮の中でさえ一切姿を見かけられる事はありませんでした。
私の身体も女子寮のベッドに放置ではなく片付け、自室に仕掛けてある科学迷宮も訪ねて来る人を想定して、もし部屋に入られても見つけられる事は無く、当然入り込む事はできないようにしておきました。
葉加瀬さんもそういう事ならと軽く返信を残した後は麻帆良大工学部の研究室にずっと入り浸っているようなので私達の自室はほぼ完全放置となりました。
実際私は一切戻ることは無かったのですが、鈴音さんは女子寮に戻る事はあり、その時は光学迷彩コートを常に被り、用のある場所の近くまでそれで移動した為、殆どその足取りを掴まれることもありませんでした。
因みに向かった先は図書館島地下や雪広グループの本社であったりしました。
予想通りというべきか、私達の自室には近衛さん達が最初は頻繁に訪れ、インターホンを鳴らしていたりしたのですが、鈴音さんが魔法球の中にいて出ようと思えば出られる時も悪いとは思いましたが一切応対しませんでした。
ですが、それもエヴァンジェリンさんが私と、特に鈴音さんには構うなと近衛さん達に伝えたらしく、それからは下火になりました。
端末を渡していた事や、神楽坂さん達が帰ってきた時に鈴音さんが図書館島の地下に姿を現した事で、鈴音さんに聞きたい事が一杯あるだろうというのは容易に想像ができます。
さて、そんな私達が何をしていたかと言えば、それは当然、ネギ先生の事です。
私はキノと神木を何度か交代しながら世界に散らばったネギ先生を収集し、鈴音さんは余裕があれば優曇華で火星の海中をあちらこちらへと動いて回り、基本的には以前入手したネギ先生のDNAと新たに入手したゼクトさんの髪の毛を詳細に調査し、神木・蟠桃の下層でネギ先生専用の身体を用意すべく研究を進めていました。
常にアーティファクトを使い続けている為、思考速度は超高速なので普通なら気が遠くなるような年数がかかりそうな研究にも関わらず元々の鈴音さんのポテンシャルと相まって少し難航はしたものの、インターフェイスの作成に一番慣れているキノと情報のやりとりも交えた試行錯誤の末、一部の魔分から読み取った情報から導き出した外見年齢およそ11歳のネギ先生のDNAを持った人体の用意は見事、できました。
ただ、初日に得られた収集速度から計算して目処が立つであろう20日も超えてネギ先生を収集し続けたのですが、残念ながら全ては集まり切りませんでした。
どうも、該当魔分が消費されて変質したりする事で収集不可能になるという現象が不幸にも起きたようで、十数日を境にしてから徐々に収集率も落ちていき、今はめっきり収集率も下がり全くと言っていいほど集まらなくなってしまいました。
元々こうなることはある程度予想はしていて、ネギ先生の情報を含んだ魔分というのはネギ先生が一般人よりも遥かに魔分容量が多いとは言え、当然人一人分の量だけなのでとにかく収集を急いでなんとかするしかないというのは覚悟していました。
手足、胴体、首元等あちこち、特に左腕はごっそり揃わない部分もあったのですが、一部の霊体に欠損は起きたものの、それでも、奇跡的に一番大事な記憶や人格に影響の出る脳の部位は一切欠ける事無く全て集める事ができました。
つまり、ほぼネギ先生は助けられたんです!
今言った通り、バラバラになった魔分はネギ先生の霊体を象るように正しく並べ、今まさにネギ先生を、意識を持った霊体に再生する所です。
場所は神木・蟠桃の下層、余計な素体は全て片付けました。

《ようやく、拡散したネギ少年の意識を元に戻せますね》

《本当に良かったです!》

《全部集める事はできなかたが、一番重要な部分は集またから最低ラインは達せられたかナ》

《ええ、もし数日収集が難航していたらと思うと……ですが、集まって本当に、何よりです》

《欠損部分はそのまま……ですか?》

治せる筈……なんですけど。

《欠損部分は私達で霊体再生治療という形で近くの部位から補完する事ができますが……実際それが必要かどうかは疑問です。分かっているでしょうが、霊体とは魂の塊、肉体に定着すれば寿命をも意味します》

《そうですね》

《それについて私はここずっと驚く事ばかりだたネ》

《ここで重要なのは、ネギ少年が果たして未だ通常の人類なのか、という事です。エヴァンジェリンお嬢さんに先日説明した後超鈴音とサヨにも話しましたが、ネギ少年は革新している可能性が高いです。ここからはサヨにも見せていないレベル……実際見せる必要も無かったレベルの情報なのですが、革新した者……革新者は理論上寿命が常人の倍近いのです。情報にはありますが、勿論実例は今までに無いので実際なってみないと分からない未知の領域ではありますが》

《また随分な情報を隠していたものだネ……。ふむ……常人の倍カ……》

常人の倍ですか……でもそんなにおかしくないと思うんですけど……。

《エヴァンジェリンさんや、火星のヘラスの人達がいることを考えたら別におかしくは無いんじゃないですか?》

《まあ……それを言われるとそうです。ですが、ネギ少年が今後日常、人々の間に戻る事を考えれば欠損した霊体で減少した寿命の分を相殺して余りある寿命を獲得するならば、ここで霊体の治療を施す必要があるかどうかと言えば疑問が残ります》

《なるほどナ。ネギ坊主が長生きする内に同じ時を生きる皆との間に隔たりができてしまうという事カ》

《そういう事です。ようやくネギ少年も運命と言ったらそれまでですが、それでも世界との関わりから解き放たれたのですからその辺は配慮したい所です。長くなってしまいましたが、後からでも治療はできる事ですし、ネギ少年を元に戻す作業を早速行いましょうか》

《そうだナ。ネギ坊主とも話をする必要があるしネ》

《はい!》

「アベアット」

空中に浮いているネギ先生の魔分の集合体にキノが干渉を開始しました。

―対象魔分を結合、霊体情報を復元―
 ―ネギ・スプリングフィールド―

……それぞれの魔分が次々結合しながら霊体を形成して行き……。
欠損はありますが、前に火星に出てきた時よりもはっきりしたネギ先生の霊体が復活……しました。

《完了です……》

「ネギ坊主、お帰りネ」

《ネギ先生、お帰りなさい》

霊体のネギ先生がゆっくり目を開けて……。
あれ……少し霊体の質が違うような気が……。

《……あ……あれ?僕は……どうして……世界の一部になって意識は無くなった……。ちょ、超さん!相坂さん!それに……》

《初めまして、ネギ・スプリングフィールド殿。私は神木の精霊、キノとお呼び下さい》

キノがネギ先生を殿を付けて呼びました。

《は、初めまして……キノさん。ネギ・スプリングフィールドです》

《ネギ先生、良かったです》

《ええ、本当に良かったです。ネギ少年》

あ……最初だけなんですね。

《あ……あの……これはどういう……》

「説明するヨ、ネギ坊主。ネギ坊主は魔法世界のオスティアで最後に確かに散った。だが、私達は世界に散ったネギ坊主を収集し、今丁度意識を呼び戻したんだヨ」

《僕を集めた……そんな事が……》

《できるんです。ネギ少年の師匠はエヴァンジェリンお嬢さんなのですから》

《ま……マスター……。そうだ、茶々丸さんから聞いたんでした。マスターと相坂さんも精霊だって……》

どうでもいいことですけど火星の水面で幽霊と教えた時の記憶封印はまだ維持されてるみたいですね。

《はい、そうですよ。因みに今ここは神木の中です》

《こ……ここが神木の中?じゃ、じゃあここは麻帆良なんですか?》

「ネギ坊主、落ち着くネ。ここは確かに麻帆良だヨ」

《……そ……そうなんですか》

《色々聞きたい事はあると思いますが、そうですね。私から先に幾つか話しておきましょう。まずは、ネギ少年、魔法世界での一件、ありがとうございました。あの時までは私達は魔法世界に干渉する事はできなかったもので本当に助かりました。グレート・グランド・マスターキーも既に受け取らせて頂き、人の手に届かない所に保管させて貰いました。ネギ少年達が完全なる世界の計画を阻止してくれたお陰で、無事魔法世界は2本目の神木によって火星との同調を行う事ができ、数年内の魔法世界の崩壊の危機も去りました》

《僕はお礼を言われることなんてそんな……あれは自分で決めてやったことです。でも、魔法世界の崩壊はもう解決したんですね……良かった……。あの……意識が戻ったのは凄く嬉しいんですけど……僕は一体……》

「ネギ坊主、安心するネ。身体なら用意してあるヨ。翆坊主」

《分かっています。今出しますので》

そして格納していたネギ先生の身体をキノが呼び出しました。

《こ……この身体は……》

《残念ながらネギ先生の元の肉体までは呼び戻せませんでした》

「だが、この身体は正真正銘ネギ坊主の元の肉体と寸分の狂いも無い物だヨ」

《怪しいと思うかもしれませんが、その点については保証します。ネギ少年との適合率は100%です》

《じゃ……じゃあ……僕は……僕はっ……》

ネギ先生が霊体の状態で泣きはじめそうです。

《そうです。ネギ先生はまた皆の元に戻れるんですよ》

《僕は……皆の元に……あ……ありがとうございますっ……。超さん、相坂さん、キノさん……》

《今言った通り、私達も感謝していますので、礼には及びません。大事な人達に、その姿を見せて下さい》

《はっ……はいっ!》

《まずは身体にこのまま同調して貰って構いません。ですが、分かると思いますが、ネギ少年の霊体のあちこちには欠損があります。特に左腕が顕著です》

《はい……分かってます。左腕が酷いのは失ったタイミングが違うから……ですね》

《……その欠損は寿命に影響しますが、治療、できます》

《ほ……本当ですか?》

《本当ですよ、ネギ先生》

《更にもう一つ、一応確認したい事があるのですが、霊体の状態だと確証がとれないので……先に身体と同調して下さい。霊体の補完は身体と同調してからでもできるので》

あー、魂の質が変わっているみたいなのでキノもほぼ確認するだけみたいですね。
ネギ先生の霊体が火星に出てきた時は、加速はしてなかったですけど粒子通信に近い事もしていまし、試したほうが早そうです。

《……分かりました。このまま重なれば良いですか?》

《はい、定着はこちらで行いますから楽にしてください》

《……はい、分かりました》

ネギ先生は特別仕様のネギ先生の新しい身体に重なりました。

―身体に対する霊体の完全定着を開始―

欠損している部分は仕方ないですが、それ以外の部分は全て身体と同調し、脳にも記憶と人格が再び完全に刻まれました。

《……終了です。まだ馴染みが薄いせいで少し違和感はあるかもしれませんが問題なく動かせる筈ですよ》

「……ほ……本当だ……動かせる……凄い……」

欠損部分は寿命に関係しますが、動かす分には問題無いので、ネギ先生は手足を動かせることを確かめています。

「うむ、うまく行たようで良かたネ」

《上手く行った所悪いのですが、早速確認させて下さい。ネギ少年、粒子加速通信、エヴァンジェリンお嬢さんとよく行っていた通信をその状態で自分から行えますか?》

「ふむ……今はこの通り普通に会話している状態で加速はしていないからネ。できるなら試しに通信を開いてみると良いヨ」

「や……やってみます」

ネギ先生が目を瞑り……再び目を開けました。

《…………これで……どうでしょうか》

ほ、本当にできてます!
しかも、紛れもなく虹彩が輝いてます!

《分かりました。予想通り……ですね》

《本当にできるとはネ……。ネギ坊主、視野はどうかナ?》

《えっと……そんなに遠くまでは分かりませんが、後ろも把握できます》

《ネギ少年、もう良いですよ》

《は、はい》

ネギ先生から開いた加速通信を終えました。

《今その力を行使して何か変化があったのが分かったと思うのですが、少し説明しましょう》

「……この力ですか……」

《はっきり言うと、ネギ少年は革新し、進化した人類になりました》

「僕が……進化?」

《本来加速通信、それに付随する高速思考や視野拡張、空間認識能力の上昇等は、私達精霊は神木によるバックアップがあればこそできるのですが、ネギ少年はそれが自力でできる訳です》

「は……はぁ……」

良くわからないって顔してますけど……いきなり言われても困りますよね。

《続けます。それはネギ少年が自力で獲得したものなので一向に構わないのですが、それは身体にも影響が出ます。実際には霊体、魂自体も進化して強靭になったとも言えるのですが、今言うべき事は、ネギ少年は既に寿命が常人の倍に伸びている、という事です》

「寿命が……倍……?」

《つまり、魔法世界、火星で言うヘラス族の人達と同じような寿命だと考えて貰って良いです。ここからはネギ少年の意思次第なのですが……欠損した霊体によって寿命は縮んでいますが、進化した事で寿命はそれを相殺しても余るぐらいでしょう。ここで霊体の欠損を治せば相殺する事も無くなり、純粋に倍になります。長く生きたければ霊体の欠損も治しますが……どうしますか?今すぐに決める必要もありませんが……》

「……そういう事ですか。……分かりました。僕は霊体の欠損の治療を遠慮します。元々左腕を諦めた時から覚悟はできていました。自力で治すという方法は模索したいと思ってはいましたが寿命が既に倍になっているなら気にしません。進化した……らしいですが、僕はできるなら皆と同じ時を生きたいです。これが僕の、答えです」

ネギ先生……夏休みに麻帆良から出発する時よりも雰囲気……いえ、全部が成長しましたね。

「ふむ、ネギ坊主がそう言うならそれでいいだろうネ」

《そういう事であれば構いません。ネギ少年の意思、確かに良くわかりました》

「はい!」

《最後に忠告なのですが、革新したからと言って、ネギ少年が編みだした例の技法、アレを使う時のリスクはほぼ恐らく、一切今までと変わらないので気をつけてください》

「忠告ありがとうございます。余程の事が無い限り……できれば太陽道は……もう使わないので大丈夫です」

《分かりました。……それで作業的で申し訳ないのですが、見ての通りここを含めて私達は色々と機密に溢れているので、くれぐれも口外しないようにお願いしたいのです》

「わ、分かりました。でも木の中がこんな風になってるなんて言っても誰も信じなさそうですけど……口外しないと約束します」

「ハハハ、確かにそうだナ。まさかこんな風になているなんて誰も信じないだろうネ」

《では……お願いします》

「さ、長居していても何だからネ。私の魔法球に行くとしようカ。そこで軽くリハビリをしながら外の状況を教えるヨ、ネギ坊主」

「はい、ありがとうございます。超さん」

《ではポートを開きますので、ネギ少年、私はここで失礼します》

「キノさん、ありがとうございました」

《こちらこそ、助かりましたよ》

《キノ、私も身体に入って行きますね》

《どうぞ、サヨ》

……こうしてネギ先生と鈴音さん、私は女子寮の魔法球に移動しました。
そこでネギ先生にさっき話さなかった事を色々伝えました。
少し私達の事を話して、あれから何日経過して今がいつなのかから始まり、ネギ先生にとって重要な神楽坂さん達の状態、ネギ先生のご両親の事、それと火星と魔法世界の件についても説明をしておきました。
既に学校が始まってしまっていた上に、神楽坂さん達に元気が無い事を知ったネギ先生は会いに行きたいと言い出しましたが、やっぱりこういう時はタイミングが大事だと思います。
それにネギ先生のご両親をイギリスからまた呼ばないといけないですからね。

「驚かせる……というのもアレだが、ネギ坊主、両親をイギリスから呼ぶからここで後2、3日過ごして貰えないかナ?こういう時、会う順番というのは大事だと思うネ」

鈴音さんが人差し指を立てながら片目を閉じてネギ先生に言いました。

「そう……ですね。僕一番最初にアスナさんに会いたいですけど……あの時話す事もできなかった父さんと母さんにも……同じぐらい会いたいです。できれば3人一緒に会えると……嬉しいです。勿論マスターやこのかさん達、皆にも会いたいです」

「ふむ、ならば決まりだナ」

「……ふふ、決まりですね」

「あはは、こういうの少し不思議な感じがします。なんだかこうして今ここにいるのが……夢みたいです」

「夢ではないヨ、ネギ坊主。ネギ坊主はまだまだこれからネ」

「ネギ先生の事、これから毎日が待ってますよ」

「……ありがとうっ……ございますっ……」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

……地球の暦で2003年9月も後半に入ろうかという、ある日の平日、気温も夏が終わり少し肌寒くなり始めた頃であった。
世界樹前広場は平日にも関わらずいまだ人々で溢れかえっていたが、その裏手に広がる人気の無い草原の古い石柱が数本立ち並ぶ所に2つの人の姿があった。

「エヴァンジェリンさん……どうして急にここへ?」

「ここに集まれ……と言われてな」

「……誰に?」

「それは……きっと誰でもいいだろうさ」

「何それ……エヴァンジェリンさん変よ?」

エヴァンジェリンによって突然その場に連れてこられたアスナだったが、疑問に思った事を聞いてもまともに取り合わないエヴァンジェリンを不思議に思い首をかしげた。
……そこに更に遠くから4人の人物が遅れて現れた。

「おーい!アスナ!エヴァ!来たぜ!」

右手を振りながら2人に大声で呼びかけたその人物はナギ・スプリングフィールドであった。

「ナギ、アリカ、アーニャちゃんにネカネさん!」

「ナギ達も来たか」

「呼んだのってもしかしてナギだったの?」

「いや……違うさ。ナギ達も呼ばれたんだよ」

緩やかな起伏のある草原をゆっくり遠くから歩いて4人は2人の元へと辿りついた。

「アスナ、エヴァ、ウェールズからまた戻ってきたぜ」

「アスナ、エヴァンジェリン殿しばらく振りであったな」

「アスナさん、エヴァンジェリンさん……お久しぶりです」

「…………アスナ……エヴァンジェリンさん……お久しぶり……です」

ネカネとアーニャの様子は酷く落ち込んでおり、疲れが見受けられる。

「ナギ、アリカ、ネカネさん、アーニャちゃん……久しぶり」

「しばらく振りだな」

「……親父とも会って話しをしてきたし故郷も色々回ってきた。大分経っちまってるけど……日取りも近いうちに……しないとな」

「日取り……そうよね……いつかはしないと駄目よね……」

「まさかあのネギが……魔法世界に行ったきりになってしまうなんて……あれほど危険だと止めたのに……あの時止めれば……止めていればっ……」

「ネカネ……主のせいでは無い」

「アリカお姉様!どうして……どうしてアリカお姉様とナギは帰ってきて下さったのにネギがっ……ネギがっ……」

ネカネはネギ達がウェールズから魔法世界へと旅だった日の事を思い出し、既に何度目かという涙を再び流し、アリカに抱きしめられたまま言葉を紡ぐ。

「………………」

その様子を横目にアーニャは下を向いて完全に沈黙する。

「あー……元々戻って来る予定だったけどよ、何で俺達また急に麻帆良に来いって呼ばれたんだ?ここのじじぃから親父にそう連絡が来たから来たんだが……じじぃに会ってみればじじぃの奴全然説明もしないでここに行けって言ってよ。来てみればアスナとエヴァがいたんだが」

「呼んだのはじじぃでもないから……だろうよ」

「は?どういう事だ?」

「さっきから……どういう事なの?エヴァンジェリンさん」

「ようやくか……。ネカネ、泣くのを止めて落ち着け、顔を上げろ」

「エヴァンジェリン殿……それは……」

「エヴァンジェリン……さん?」

泣いているのを止めて顔を上げろと突然言うエヴァンジェリンにアリカが怪訝な顔をし、ネカネは呼ばれた事で顔だけは上げた。

「ほら……あっちを見てみろ」

エヴァンジェリンはナギ達が現れた方向とはまた違う方向を見るように5人を促した。
そこには2人の人影があったが、その両方ともフードを深く被っており、その顔は分からなかった。
遠目にははっきりとは分からなかったが片方はアスナと同程度、もう一人はアーニャより少しばかり高いかという背丈であった。

「え……だ……れ……?」

その2人の人影はゆっくりとその歩みを進め、アスナ達の元へと一直線に近づいて来る。
はっきりと肉眼でその姿を捉えられるか……という程近づいた時、背の高い方の人物が先にフードを取って正体を見せた。

「超……さん……?」

「超の嬢ちゃん……」

超鈴音は穏やかにアスナ達に微笑みかけ、隣の小柄な人物の背中を軽くその左手で押し出した。

「……ま……まさか……?」

その小柄な人物は超鈴音に背中を押し出されると共に下を向いて顔を隠しながらも小走りになり、その足は一直線にアスナへと向かい出した。
それに釣られるようにアスナも一歩、二歩と足を踏み出し始め、その両手をゆっくりと腰の高さ程に上げ広げた。
……あと、少し大きくふみ出せば届く、そんな距離に近づいた時であった。

「アスナさ―――んっ!!!」

小柄な人物は不意に頭を上げた勢いでそのフードが取れ、その顔を顕にした。

「ね……ネギ――っ!!」

アスナがその名を呼ぶと同時にネギはアスナに飛びつき、アスナはそれをしっかりと抱きとめた。

「ネギ?」  「ね……ネギ?」  「ネ……ギ?」  「な……何で」  「フ……」

ナギ達はその人物の顔がはっきり見えなかったがアスナがその名を呼んだ事に思わず反応し、おずおずと歩みを進める。

「ネギ!ネギ!ネギなのね?ネギ……なのねっ……?」

「はい……アスナさん、間違いなく、僕です」

アスナは涙を流しながら胸に抱きしめていたネギの頬あたりに両手を移し、少しだけ引き離してその顔をよく確かめる。

「間違いなく、ネギ坊主だヨ。保証するネ、明日菜サン」

遅れて到着した超鈴音もネギの言葉を肯定し、アスナに向けて言う。

「あ……あ……本当なのねっ……本当なのねっ」

「本当ですよっ……アスナさんっ……」

涙を流していたアスナに釣られるようにネギもようやく再会できた感動で目に涙を浮かべて答える。

「うわぁぁん!!……もうっ……勝手に行っちゃ……駄目よっ……」

とうとう我慢できず、アスナはネギを再度強烈に抱きしめそのまま草原に倒れこみ二転三転する。

「く……苦しいです……アスナさん」

「これぐらい全然……平気でしょっ……どれだけ……どれだけ心配したと……」

「……ごめんなさい、アスナさん……ただいま戻りました……」

「おかえりっ……なさい、ネギっ!」

草原でゴロゴロしながら2人の世界に入ってしまっている所に、残りの面々はすぐ近くでソワソワしていた。
……そして落ち着いたのか、アスナはネギから離れその手を取って立ち上がらせた。

「あぁっ!本当にネギなのねっ!」

「ネカネお姉ちゃ!」

「ネギ!ネギ!」

瞬間、誰もが驚く勢いでネカネがネギに飛びつき再びネギは草原に押し倒され二転三転する。
アスナとネギで交わされたのとほぼ似たようなやりとりが再び繰り返され、また、ネギとネカネは立ち上がった。
そんなネギの視界にようやく入ったのはナギとアリカであった。

「ね……ネギなのじゃな?」

「よぉ……お前がネギなんだな?」

「はい……僕がネギです。母さん、父さん」

アリカとナギの2人は少し屈み、揃って手をネギに伸ばしその頬に、そっと触れた。

「もっと……よく、顔を見せてくれるか?」

「はいっ……」

おずおずとしながらもアリカはネギが答える前にしゃがんで自身の顔をネギの目の前へと近づけた。

「真に……ネギなのじゃなっ……会えて……会えて良かったっ……良かったのじゃっ」

心の底から目の前にいる人物がネギであるのを理解したアリカは膝を草原につけ、ゆっくりとそのままネギを抱きよせた。

「母さんっ……母さんっ……僕もですっ……」

「ネギ……」

その2人に加わるようにナギはネギの頭に右手を乗せながら2人まとめて抱きしめた。

「父さんっ…………」

「ネギっ……」  「ネギ……」

……しばらく時間が止まったか……のようであったが、そんな場に秋を知らせる風がそっと吹きつけた。
それを合図とするかのように、ナギとアリカはネギから離れた。
そして次にネギの目の前に立ったのはエヴァンジェリンであった。

「ぼーや、帰りが少し遅いぞ。心配しただろうに」

「マスター……遅くなってすいません……。ただいま戻りました」

「ああ、おかえり。よく、頑張ったな。……ネギ」

エヴァンジェリンはネギの頭に手を置き優しく撫で、そっと抱きしめた。

「マスター……」

「そうだよ……ネギぼーや」

ネギはその名を呼ばれた事にすぐ色々な思いを馳せ……その意味を理解した。
……そして次にネギの目の前に立ったのはアーニャであった。

「………………」

「アーニャ……」

アーニャは何と言っていいか分からず、どうしていいかも分からず、ネギの前に立ち尽くしたままであったが、小刻みに震えながらその顔は涙で酷い顔になっており、ネギにはどれだけ心配をかけたのかを悟らせるには充分すぎる程であった。

「アーニャ……ただいま」

「……お……遅いのよっ……馬鹿ネギっ!」

アーニャが頑張って搾り出した言葉は、馬鹿ネギ……であった。
その場の6人と再会を終え、ある程度落ち着いた所、突然どうしたのかアスナは再びネギの身体をあちこち触り始めた。

「あ、アスナさん、くすぐったいですよ」

「だ……だって本当なのは分かったけど何か夢みたいで……触ってないと落ち着かないのよ……」

「私も……良いか?……アスナ?」

「うん」

「か、母さん?」

アスナを羨ましく思ったのかアリカは、アスナに了解を得てネギに触れるのに加わり始めた。

「で……どういう事なんだ?超の嬢ちゃん」

そんな奇行に及んでいる3人を傍目に見ながら、ようやく気になった事をナギは超鈴音に問うた。

「どういう事、と言われても、ネギ坊主は戻てきた。ただ、それだけネ。それ以外に何か必要かナ?気になるのは分かるが、それは野暮だと思うヨ」

「あー……ま、そうだな。じゃ、俺も混ぜろっ!」

ポリポリと頬を掻いたナギは、納得はしなかったもののすぐにカラリとした表情になり、3人の戯れに自身も飛び込んだ。

「と、父さん!?」

……草原で楽しそうに声を上げながらゴロゴロ転げ回る4人の姿は……。
それは間違いなく誰が見ても、家族……と答えるであろう、そんな、姿であった。

「……おや、ようやく団体が来たようだネ」

そんな所へ、世界樹広場の方角からもの凄い音を立てて走ってくる一団が現れた。

「ネギくーん!!」  「わ、私が一番乗りですわ!」  「済まぬが拙者が先でござる、ニン!」

  「俺が先やで楓姉ちゃん!」  「あ、2人共抜け駆けは!」  「私が一番アル!」  「陸上部舐めんな!」

「せっちゃん待って~!」  「やれやれ、騒がしいものだな」  「のどか、行くです!」  「うん、ゆえ!」

「あのネギ先生が戻っていらしたとか!」  「はい、お姉様!」

「ネギ君が帰ってきたんだって?」  「そうらしいよー!」

「ネギ君が帰ってきたと聞いたら事情を聞きに行かないわけにはいかないねっ!」

「何で私まで走ってんだ……」  「いいじゃないですか、楽しくて!」

「そういう問題かよ。ま、いいけどよ」

草原を駆け抜けるのは佐々木まき絵と雪広あやかを先頭にした主に3-Aの一団であったが……そこから異常な速度で抜け駆けをする者達が続々現れ、てんやわんやの騒ぎになった。

「コタロー!楓さん!刹那さん!くーふぇさん!のどかさん!夕映さん!春日さん!龍宮さん!高音さん!佐倉さん!……皆さんっ!!」

転がった状態からネギはその集団を目にし、それぞれの名を心の底から呼び……。
そして、心待ちにしていた皆と無事再会を果たす事が……できたのだった。



[21907] ネギま本編完結・後書き(65話・2011/1/21)【ネタバレ注意】
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/11 19:13
ネギま本編完結・後書き(65話・2011/1/21)【ネタバレ注意】(4/11転生版)

2010年9/14日から投稿を開始し、2011年1/21日、計130日、字数に換算して凡そ100万字、これにてネギま本編は、65話サイカイ。サイアイ を以て一応完結となります。
ネギまがネギまたる所以のネギ先生のハッピーエンドと共に、既に火星が魔法世界となった事はやはり一つの区切りであると思います。
チラシの裏から、赤松健版から、ここまでお付き合い頂いた皆様、本当にありがとうございます。
一重にここまで書き進めることができたのも、既に正確な値は一切わかりませんが……投稿するごとに一定量のPV数を頂き、感想も頂けた事は非常に大きかったと思います。
誤字に関しましても、皆様、特にKOU様には度々ご指摘頂き、その度、修正を行うことができました。
本当に、ありがとうございます。
これにて、ネギま本編は完結……ですので、後は原作から完全に乖離し、私の妄想が繰り広げられる事になります(何処が完結だ、と言われそうではありますが……)。
そのため、ネギまの二次創作、として読んでいた方はここで読むのを止められた方が色々とキリが良いのではないか、という事を一応提案させて頂きます。
勿論、これ以降も先がどうなるのか気になる、という方がいらっしゃれば、引き続きお付き合い頂ければと思います。
火星が魔法世界に出てきたというのは夢が広がりますので、それを前提とした上でこんな事はありえそうだ、という形で続けていきたいと考えています。
……しかしながら、私自身大分疲れたと言いますか、今後は更新の速度を隔日レベルではなく、それなりに空けての更新にしたいと思っておりますので、ご了承下さい。(4/11ある程度は空けてますがそこまで空けはしませんでした)

ここで一応今思いつく限りでの完全に投げ捨てた、整合性的に放棄した、考えるのも放棄した原作の設定を列挙してみたいと思います。

・アルビレオのネカネ・アーニャの人生収集
・ココネの帝国移民計画実験体18号という肩書き(飛空艇の時速を決定した時点でどこがココネの故郷かは分かりませんが、5日間では到底帝国まで往復というのはありえなさそうです)
・ガトウは誰に殺されたのか
・ラカンの10年前の行動
・ナギ達が具体的にどうして魔法世界の真実を知ったのか
・月詠の「お姉様」という発言の意味(4/11 単行本では修正されており、誤植だったようですね)
・悪魔や鬼達の異界はどこを触媒にしているのか、そもそも何なのか、悪魔が住む場所と魔界は同じなのかどうか
・近衛木乃香の旧世界の姫という存在の謎

……等々まだまだあると思いますがこんな所でしょうか。
続きまして前書きに書けない壮大なネタバレ、オリジナル設定も今思いつく限り列挙してみたいと思います。

・墓所の主=ゼクト(これは完全に違いましたね)
・ナギとアリカは墓守り人の宮殿に封印されていた(年齢は封印当時に固定、故に10年分は年を取っていない)
・ゼクトとアルビレオもアマテル、造物主の作った人形
・ナギに憑依していたのはアマテルの従者
・ナギが生まれたウェールズの隠れ村はウェスペルタティアの傍系
・ネギ先生がアマテルさんと戦っている時は大祭殿の常時魔法無効化フィールドを王家の魔力で無視していた(4/11マガジンで連載している原作で、余裕で皆さん魔法使っているので黄昏の姫御子の無効化は何の影響も無かったようです。デュナミスさんがその事を分かっててわざと警戒させるような発言をしていたのであれば中々の策士)

……とりあえず今思いついたのは大体これぐらいでしょうか、まだまだある筈です。

続きまして、私自身ここまで書いてみて思った、ふと本作をここまで書けた事を思い返しての個人的な感想を述べさせていただきたいと思います。
私自身ネギまSSは色々読み、作品は色々、それぞれの形がありますが、一応の終わり、というのが見える物はどうも少ないような気がしました。
完結するものが見たいと思っていた中、無いなら待っていても出てこないのだから書くしか無いと、現在ネギまの原作の根幹にある問題は魔法世界の崩壊というこの一点であると思い、麻帆良に世界樹があるという事からテイルズオブファンタジア的世界樹を持ち込んで解決させればオリジナルではあるものの一応の終わりまで至れるだろうと脳裏によぎった事がそもそもの本作の始まりであったと思います。
感想掲示板でも何度も述べたことではありますが

神木転生→魔法世界に植樹→終わり

で終わるであろうと思った短編の筈で、当初長々書くつもりは毛頭無かったのですが、意外と書いてみるとハマッてしまいまして、あれよあれよと言う間に結局100万字というかなり長いものとなりました。
長いことが良いか……と言えば、本作は裏を返せば短くコンパクトに収める事ができなかったという事の証明でもあるでしょう。
そんな大分長い作品になったにも関わらず、ここまでお付き合い頂いた皆様、本当にありがとうございます。
文章力という点でははっきり言って私自身描写の仕方から始まり文章作法(結局一行毎に改行しかしないという手抜き、「!?」のマークの後に、一マス最後まで空けませんでした)等色々駄目な方だと思っていますが、ここまで読んで頂けたのは話しの流れとしてはそれなりに楽しんで頂けるものであったから、またやはり、完結しそうな匂いがしたから……なのではないかと、自分で言ったらそれまでですが、その点についてはそうなのではないか、と思っています。
とは言ったものの、火星が魔法世界になった事で新たにまた色々展開でき、ネギ先生達のその後についても妄想が広がるところであり、ここまでを一つの完結とするにはなんだかんだ「俺達の戦いはこれからだ!」と結局なってしまったような気がします。

更に個人的な意見となりますが、ネギまSSでの人型オリ主(本作もオリ主の要素を孕んでいますが)物というのは、原作のイベントを入れる限り、ネギ先生がどうしても障害になるという要素を孕んでいるように思えてきました。
ネギ先生の面倒を見るタイプの物にしても、アンチ物にしても、ネギまの魔法世界編はそもそも存在しない、そもそもそこまでやらないという設定、あるいは全く関係ない日常風景でもない限り、私にはどうにもエンディングが見えないように思えてなりません。
少し、IFの場合を考えてみますと、本作は原作知識を持ちあわせているという設定ですので、原作知識持ちの場合について言及するならば、私が書いた場合、ですが、ナギ達の仲間として大戦前から活躍するタイプであれば、ナギが失踪する前にそれこそ墓守り人の宮殿を破壊しておくべき、魔法世界の崩壊を止める方法をナギと一緒に探す等とすると……不思議なことにネギまそのものが崩壊して、そこで2003年の麻帆良を迎えるまでもなく話が終了します。
……ネギま!である必要がなく、ナギま!となります。
大戦後に現れるタイプであれば、ネギ先生のイベントに介入するにしても、魔法世界編に入るにあたりかなり面倒な気がします。
原作知識持ちなら危険だからという理由で勝手に付いていく事もできるでしょうが、このタイプで原作知識無しの場合は、ネギ先生の個人的な旅行についていくには、3-Aの魔法バレした女子生徒の仲間か、男ならば小太郎君では無いですがネギ先生と相当仲良くなっている必要があると思います。
原作通り進めるのであれば、魔法世界の崩壊という壁がやはり大きく立ちふさがり、尻尾巻いてゲートから帰るならそれまででしょう。
ネギ先生の代わりに魔法世界の崩壊を防ぐ方法を思いつくというのも……普通に考えたら、やはり異常ですよね……。
気を使うならともかく、墓守り人の宮殿では魔法が無効化される事を考えても魔法使いであれば、最終的に戦闘は参加できなさそう……等とネガティブな妄想が膨らみます。
結局、オリジナル主人公である筈にも関わらず、どこまでいってもネギ先生が主人公であるというこの一点は究極的な壁となる気がしてなりません。
更には、もしそれでも書くというのなら、私は多分書くテンションが持たずに投げ出すという根本的な問題が立ちはだかることでしょう。
前述したとおり、終わる事をそもそも目的としなければ何ら問題は無い事なのですが……。
……と、本作を書いてみて個人的にこのような事(色々考察の足りない部分も多いですが)を思った次第でして、勿論特にこうあるべきだ、と言うつもりも毛頭ありません。
……何やらごちゃごちゃ述べてしましましたが、先に述べました通り、確実に更新はする予定ですので今後新規投稿によって投稿板の上に不意に上がってきた時に、引き続きお付き合い頂ければ幸いです。



[21907] 1話 超鈴音が来るまでの5000年(自然発生版)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/11 12:52
認識の枠外の話であるが、多元宇宙……可能性のある複数の宇宙の集合というものが存在するとしたらどうであろうか。
空間、時間、物質、およびあらゆるエネルギーの全体……多元宇宙はこの全ての存在を含む。
……時として、ある一つの宇宙と、もうある一つの宇宙が局所的に非常に似通っているという事があるかもしれない。
また、非常に似通ってはいても、ある一つの宇宙には、もう一方の宇宙には存在しないものが、存在しているかもしれない。
更に、一つ一つの宇宙には言ってみれば、縦横無尽に無数に並んで存在する時間の流れというものも存在するかもしれない。
ある一つの時間の流れからすれば、あるもう一つの時間の流れは相対的に「IF」と呼べるものでもあるかもしれない。
そしてこれは……ある一つの宇宙では存在しない多様変異性素粒子エネルギーが奇跡的に自然発生したとある宇宙……人類という知的生命体によってある一時期、局部銀河群銀河系太陽系と呼称された場所での事。
その宇宙……その多くの時間の流れではその多様変異性素粒子はどれも一定の期間以上存在し続けるという事は各々に差はあれど、存在しない。
しかし、中には例外的に平均よりも遥かにその多様変異性素粒子が長く存在し続ける時間の流れもありえるかもしれない。
この宇宙の各時間の多くの流れでは、時間跳躍という技術が人類という知的生命体の存在によって生み出され、元々存在していた時間の流れは彼らの「認識」によって更に広がりを見せた。
通常の宇宙よりも多くの時間の流れが発生した影響か、はたまた宇宙……自然に意思が芽生えたのか、ある一つの時間の流れにおいて、同じく一つの生命体に激しい影響が起き、ある特殊な知的生命体までもが自然発生した……これはそんな話。
しかしながら、最大の謎は、その知的生命体が人類という存在に似通う点を少なからず持ち、しかも人類からすれば発生当初はまだしも徐々に何とも言い難い「性格」になり、極めつけには他の時間の流れで「起きている」、「起き得る」、「起きた」事を知っていた事かもしれない……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

             ……気がついたらそこにいた。

……「私」という存在は何者なのか、そしてここはどこなのか……それは……分かる。
分かるというよりは、気がついた瞬間から、知っていると言った方が正しいかもしれない。
「私」の存在意義は簡潔に言うと、この星の存在する宇宙で、存在し続ける事。
なぜなら、そうであるという本能的自覚と呼べる……確信がある。
現在小さな芽を出しているだけに過ぎない、しかし、いずれは巨木へと成長するであろう、そんな植物に私は存在している。
植物……私は時間の流れと共に、多様変異性素粒子を生成し続ける。
これが私の存在意義が存在し続ける事である、最大の理由。
そしてどういう訳か、この世界の時空連続体で起こり得る事象・情報を局所的に偏りすぎている所まで、しかし、全てではないが、私は、やはり気がついた瞬間から知っている。
この生成している多様変異性素粒子は後に人類から魔力と呼ばれるエネルギーの源になる。
そして、この世界……この星は、異界という位相を異にする空間と、多様変異性素粒子が原因で繋がりが発生する。
その異界の中でも、後に隣の惑星と位相を異にする事となる世界は、かなりの短命で滅ぶことになってしまうようだ。
理由は、その異界が保持する多様変異性素粒子の総量減少であり、結果として異界としての形を維持できずに崩壊し、隣の惑星と歪んだ形で同化してズタズタになり、この星との繋がりも絶たれてしまう。
そしていずれは私が存在するこの植物も、寿命を迎え枯れる事になる……筈であるが、どうも、違う。
というのも、世界の歴史とでも言うべき、この世界の時空連続体で起こり得る現象、情報の中には私は存在しないし、更にはこの植物……後に人類から神木・蟠桃と呼ばれる木にも元来存在していない筈のモノが存在しているからだ。
「私」という存在、「私」という存在から周囲を前後左右関係なく「観測」とでもいうように知覚する能力を始めとするこの木の能力、その一つには現在私が多様変異性素粒子で半透明な身体を形成している状態から実体を得る為の素体とでも言うべきものの作成能力などもあり、そして最も重要なのが、種子の生成能力である。
最も重要な種子の生成が可能になるまでに木が成長するのにかかるのは凡そ2000年を要するというのは分かるが、今現在この時間は後に人類の暦で言うところの、紀元前3000年のようだ。
その後、紀元前617年という年に、隣の惑星に異界が……やってくる。
原因は始まりの魔法使いと呼ばれる者の儀式。
その凡そ2600年の後、隣の惑星の異界、魔法世界と呼ばれる異界は、多様変異性素粒子の減少で崩壊する事になるが……。
幾つかの情報からするに、その佳境に入る段階で、様々な事が起こる。
とりわけ、未来から時間を跳躍してその時期にやってくる少女がいるそうだ。
その彼女は為すことを為して時間の流れに影響を与えた後、未来に帰る……が、死亡するらしい。
そして、今はまだ、現れもしないが、この木が枯れる時間の流れでは、鬼や悪魔などと人類から呼ばれるような異界に住まう存在は現れる事ができなくなる。
ただ、彼らの異界、世界は多様変異性素粒子の枯渇自体はありえない造りであり、そもそも世界が異なれば法則も異なる、という物らしい。
ただ、魔法世界だけはその法則が乱れた為に、崩壊する事になったようだ。
ところで、この多様変異性素粒子、何となくで呼んでいるが、はっきり言って長い。
後に魔力や魔素などと人類にはそう呼ばれるらしいが……それもどうも違う。
魔法は魔法として受け入れるとして、魔法の素粒子、分子……魔分とでも略す。
木で生成する魔分は地中に浸透、大気中には打ち上げる形で星にあまねく広がっていく。
さて、そろそろ、私……いわば木の精霊としての時間を過ごそうと思う。
……時間経過に対する感覚を相対的に極小化し、木の生育を見守り続ける。

周囲の景色が、目まぐるしく変化すること、この星……地球が太陽を回る事凡そ、2000回。
芽に過ぎなかったものは、ある程度の樹高になり、根も深く張り、木の幹も太くなり、種子の形成が可能になった。
更には、毎年初夏頃に僅かに発光し、一定周期で大発光もするようになっているが……これは実際の所、発光しないこともできる。
また、地球の魔分濃度も以前に比べると上昇し、所謂私以外の精霊と呼べる存在も自然発生してから久しく、相当数に増えてきている。
場所によっては……木の周囲6ヶ所には実際に、そして恐らくは世界他11ヶ所には魔分が溜り始めてもいるだろう。

そして……更に地球が太陽を回る事483回、紀元前617年。
私が生成しているのとは異質な、多様変異性素粒子、魔分が地球へ流入してきたのを感知した。
これは、魔法世界が隣の星、火星を触媒とした異界として成立する事になったのを示す決定的な事象足りえるだろう。

……その後世界の歴史の通り、1017年後、西暦400年に、この地から西の方角にてリョウメンスクナと呼ばれる鬼神が現れ、最終的には打ち倒されて自ら眠りについたのはさておき、来る西暦1000年。
木の種子が充分に形成され、その完成の際には、種子を亜空間内部で育成してきた巨大な淡い桃色をした華のような有機結晶殻が夥しく光り輝いた。
……どうやら、この華のような有機結晶殻は宇宙空間に打ち上げる事もできるらしい。
さて、ここからが問題。
ここで、このままどこかへ打ち上げてしまっても究極的には構わないし、すぐ近くに植えてしまっても問題は無い、と言えば無い。
しかしながら、それは今近くに湖と見渡す限りの山々があるだけに過ぎず、人々がそれぞれの暮らしをしていても、この木を害するような事を……認識を阻害している為、誤って切られたり等という、そういった不測の事態は無いのであるが、これからどうなるかは分からない。
1000年経った後に麻帆良学園都市というものがこの木の周辺に建設される……筈なのであるが、2本目の木を考え無しに植えるのは極めて短絡的だろう。
重ねて、私、この木の、存在意義は存在し続ける事。
ただ、知的生命体として人類との意思疎通も可能な私が自然発生したからには、人間との接触を持ち、協力者さえ選べば、この木の存在の保守を他の世界の歴史よりも良い状況にする事も不可能ではない筈だ。
その協力者は誰が適切か、であるが……命をかけて、過去を変えに来る未来人が一番裏切る可能性が少ないのではないだろうか。
彼女の目的は魔法世界の崩壊する未来の阻止に繋げる事を為す事であり、私としても魔法世界の崩壊を阻止するのは、その後の地球での混乱を考慮するとやぶさかではない。
いくら私が存在し続ける事に意義があると言っても、魔分を活用する存在が他にいてくれなくては、正直な所その意義も半減してしまう。
また、彼女に私は個人的に非常に興味もある。
たった1人で、しかも年端も行かない少女が未来から命をかけてやってくる……本人は知らないであろうが、その信念とはどのようなものであろうか。
ただ、魔法世界に種子を持って行くという手段は、取る気は無い。
2000年に一度しか生成不可能な、それもまだただの種子の状態のものを、おいそれと、この地球の存在する宇宙空間以外に持っていくのは、そこで種子を増やしてまた持ってくるという選択は絶対に無いとは言いがたいが、逆にそれで本当に上手くいくかどうかも未知数である以上、微妙である。
魔法世界の崩壊阻止と、この宇宙空間での木の植生……この2つを両立する方法は、火星に種子を飛ばし、異界としての位相のズレを無くし、完全に同調させてしまう、という事であろう。
その為には実体として存在する火星の環境を予め同調に耐えうる状態にしておく必要がある。
世界の歴史からすると、この前紀元前617年に地球と魔法世界との繋がりを築いた当の始まりの魔法使いも、魔法世界の崩壊について、解決にその終わり方とでもいうべき方法を取ろうとするに至るのだろうが、今私が魔法世界へと種子を持って旅立てば、それも考えを改めて、魔法世界としてはめでたしめでたしとなる可能性はある。
しかし……それではやはり、後者の条件が満たせない。
未来人の技術力というのは事態が佳境に入る頃の時代においては当然驚異的である筈で、そもそも火星出身であるという点を鑑みれば、協力者としての選定としては、これ以外にはありえないと言える程であろう。
いずれにせよ、確実とは言いがたいが……今後の動きは決まりだ。

……何にせよ、人がいなければ始まらない。
種子はこのまま華の中で育てておけば事態が佳境に入る頃には樹齢1000年の木に生育する事になる。
種子から始めるよりは苗木という形で始めた方がよほど良い。
世の中を眺めて時間を過ごすのには主観時間を変化させて行っているというのもあって何ら辛いという事も無く、既に充分慣れたが、これからの1000年でいよいよどうなっていくかという事には興味がある。
そして……世界の歴史の通り、この日本と呼ばれる国で、江戸幕府が誕生し、そして明治維新。
西暦1890年、ある一団と、その中の特にある人物がやってきた。
既に人間の尺度で言うと高さ250mの大樹ではあるが、認識疎外を行っていたも関わらず、これをすり抜ける人間がいた。
明らかに木の周りだけ他の地域より開けすぎていて、ある程度周りも水源で囲まれているとは言っても、未だ大して日本人も住んでおらず、一応は神木・蟠桃という名でもとうとう本当に呼ばれるようになってもきているようだが、このあたりは本当に何も無い。
これまで誰もこれを疑問に思って来なかったのは認識疎外の結果だ。

「西洋式の学園を建設する場所を探しにやってきたが何故ここは不可解に何もないのか。しかし何故調査に着いて来た誰もこの木を疑問に思わない……?」

認識阻害が効いていないというのが驚きであるが……どうするべきか。
未来人だけと接触しておけばいいと言う訳でもない。
彼と一緒に来ている魔法使いと今接触するのは危険過ぎるが、この人物は一般人だ。
木に精霊……が存在する事など、今まで気づかれた事は無いが、一般人に敢えて接触し、噂話程度に精霊の存在が知られるぐらいならば、後々信用できる魔法使いと接触する際に、私の存在の裏付け的な意味を持たせられるかもしれない。
私の半透明な姿……精霊体とでも言えばいいのか、現在の見た目は髪と目の色が木の葉と同じ翠色で性別のよくわからない人間からすれば10歳程度の子供の姿だ。
4890歳ではあるが……。
見えるか……と、とりあえず彼の目の前に降下して出現する。

「………………」

驚いている。
初の人類との接触……自己紹介をするか。

《ようこそ外来人、見たところ拝みに来たわけではなさそうですが、用があれば聞きましょう。申し遅れましたが私はこの木の精霊です》

この際何を考えているのか多様変異性粒子の操作で思考を読んでも構わないがそこまでの必要は無いだろうか。

「こ……これは。……わ……私はヨーロッパから来たウィリアム・バークレーです。学術機関を設立する土地の視察に来ました」

先程独り言聞いていたので2度目。
引き続き驚いているが、彼……ウィリアムさんは認識疎外が効かない体質に間違いない。
学園都市自体の建設は今の計画上必須であるから拒否するような回答は論外。

《この地は不思議な力に満ちています。学園を開けば様々な才能に開華した優秀な人材が育つかもしれません。もしその学術機関をこの地に建てるのならば見栄えある立派なものにして下さい。長いこと精霊をやっていますがいささかこの地は殺風景ですので。ただこの木を傷つける行動はやめて頂きたいものですが》

……上から目線と暗に勝手にしろと言った訳だが、こう言った所、ウィリアムさんは精霊に許可を得たと言って嬉しそうに感謝して戻って行った。
一応、私の存在については秘密にしておいてもらうようにも念を押しておいたが……どう出るか。
この辺りは一部既に神社になっていたりもするが、それ以外は本当に何も無いのでやりたい放題できるだろう。
人間の間である、土地の権利の問題など、という事もありそうだが神木が切られることは認識疎外のお陰でないから問題は無い。
……それからというもの、瞬く間に数年でいくつかの機関ができ、そんな中魔法使い達が建てた、地上からは見事な西洋風の麻帆良教会、実態は地下の魔法使い人間界日本支部ができていた。
地下にするのは彼らの秘匿という意味で分からなくもないが……何というか、怪しい教団のようである。
因みに、ここは敢えてもう神木と自称すれば、その周辺にある6ヶ所の魔力溜りの1つでもある。

……更に4年経って1894年6月、予定通り大発光をした。
この4年で、人間の生活を以前よりもかなり近くで観測するようになったが、見ているだけでもかなり興味深い。
もっと砕けた言い方をすれば面白い、という所だろうか。
その後、学校令というものが暫くするうちに色々改正されたが麻帆良学園内でも特に問題はない。
魔法関係者が関与しているのは当然だが6ヶ所の魔分溜りの地点が全て調べられた。
魔法使い人間界日本支部、世界樹前広場、恐らく後に大学になるであろう麻帆良高等学校の中央公園、女子校の礼拝堂、龍宮神社の門、大層な名前のフィアテル・アム・ゼー広場である。
また、麻帆良の地下も図書館島と呼ばれる場所から深く深くと掘られ始め、その空間も広がりつつある。
……そして1903年、この麻帆良に武田惣角という人物が東北地方を中心に大東流合気柔術というものを広めていた所、ここまでやってきた。
彼はすぐに麻帆良の施設内に道場を開いたのであるが……そのやる気は凄かった。
武田惣角というと……ある人物の関連について知っている為、私は打算ついでに精霊体の隠蔽力を極限まで高めた状態で、彼の動きを見よう見真似で習得することにした。
正直、何の意味もないかもしれないが……。
いつの日にか、素体に入る時にでも、役立つかもしれないと期待しておくことする。
それから……1ヶ月程して、他と比較すれば非常に大きな魔分容量を有する、見た目は幻術で変身した、人間の一般的な感覚で言えば美人と言えるであろう金髪の女性がやってきた。
間違いなく、真祖の吸血鬼であろう。
身体に掛けられて馴染み切っているその術式に、私は妙な不快感を感じるが……。
魔分の隠蔽も完璧で麻帆良の魔法使い達も気づかない程の技量である。
彼女は武田惣角の開いた道場に門下生入りした。
金髪の美人……この日本という国を考えると浮いているようではあるが、麻帆良はもう外国人もそれほど珍しく無い為、そういう事も無かった。
彼女が門下生として、合気柔術を習い始め、実際に道場で修練に励む傍ら、私も精霊体で引き続き、その動きを真似したのだが、やはり彼女は私に気づいた。
人間の感情というものは私にも分からなくはないが、そういった感情の制御というのは精霊としての私はいくら永い間生き続けても殆ど苦にならない精神力を持ちあわせている。
とりあえず、彼女の視線には気付かない振りをしつつ、無心でその日の道場の鍛錬をこなした。
去る時には粒子状に霧散するようにして消えたが……場合によっては成仏したようにも思えるかもしれない。
……彼女との遭遇初日をこなし、次の日、また次の日……と彼女とはやや離れた位置で鍛練した。
驚くべきは彼女の熟達速度である。
日を追う毎に技量が上がっていった。
結果として、3週間程経った頃彼女に敵う門下生はいなかった。
しかし、武田惣角は負けなかったのは流石である。
……その後半年もしないうちに彼女は合気柔術の達人になり麻帆良を去る事になった。
別れ際の武田惣角はこんな才能のある真面目な弟子を得られて良かったといって喜んでいた。
しかも、彼女が外国人だけに海外にも広めてくれと何度も念を押す姿が、やる気に溢れていたのが印象的だ。
彼女はこちらの存在には最初こそ気にしていたが暫くしたら気にしなくなっていた。
……さて、去ってしまう前に、ある意味、長命種の誼みと打算の布石の回収のため、彼女にも挨拶をしておこう。
追跡していた彼女の魔分反応の動きが止まったのを確認して精霊体の隠蔽度合いを下げて降下。

「…………」

不審な目で見られた。
が……気にしない。

《初めまして、ごきげんようお嬢さん。私は麻帆良の神木・蟠桃と呼ばれている木の精霊です。今日はお嬢さんが道場を去るということで挨拶に来ました》

柔術に執着のある幽霊だと勘違いされていた可能性もあるが……。
一心不乱に鍛練に励む子供の幽霊……のようなものが毎日成仏するように去っていたらありえなくはない。

「……精霊だと?いつもいつも、てっきり暑苦しい武芸の幽霊だと思っていたが……何か証拠はあるのか」

やはり手遅れだった。
外国人であるにも関わらず、わざわざ高圧的な日本語で腕を組みながら会話してくれているのは彼女なりの優しさなのかもしれない。
しかしそれにしても道場で話していた時と口調が違いすぎる。

《証拠になるかはわかりませんがお嬢さんが見た目以上に長生きしており、今の姿すらも偽っているというのがわかる、というのはいかがでしょうか》

「……ふん、確かにただの幽霊ではなさそうだな。まぁいいだろう、その精霊とやらがこの私に何の用だ」

完全にこれが素の人物のようだ。
しかし、用はもう挨拶だと言ったのだが。

《長生きの方にお会いしたのはこれが初めてでして、またいつかこの地に来る事があったらと思い挨拶しに参りました。一つ、その長命化の術式に第三者の悪意が感じられるのが気にかかるのですが、お嬢さんの意思次第ではありますが清浄なものに修正する事もできますがいかがでしょうか》

出過ぎた真似かもしれないが、私にできるのはそれぐらいしかない。
長命である事を考えれば、付き合いも長くなるかもしれず、関係としては可能な限り友好的な関係を築くべきであろう。

「ほう、この身体に刻まれた忌々しい真祖化の術式がよくわかったな。修正……果たしてそんな事ができるのか私の身体に術をかけるというリスクを初対面の相手にさせるのは癪だが……あの大層な木の精霊というならば、なるほど面白い、試しにやってみるといい。少なくとも悪霊の類ではないのは分かる。ただ、怪しい事をしたと感じたらこちらにもそれなりの対応をさせて貰うぞ」

地球の魔分を用いて行われた術であれば、その調整に失敗するという事はありえない。

《ひとまずは、信じて頂けるとあれば、確実に成功させて頂きます。……それでは始めます》

術式の構成魔分を精製したばかりの魔分と交換、旧い魔分は再吸収。
歪んだ部分をできるだけ自然な流れに変更。
絶対に成功する自信はあるが、初めて弄る魔法が真祖化の術式とは、やや豪華すぎるきらいもあるが、多様変異性素粒子こと魔分を生成している私であれば、地球の魔法に関しては殆ど対応できる。
因みに魔法世界から地球に流入している、魔法世界の魔分は先程と同じく時間はかかるもののいつも再吸収して精製しなおしている。
……時間にして僅か数秒といったところだろう。

《処置完了致しました。気分はいかがでしょうかお嬢さん》

治ったのは間違いないと思うがやりすぎた感も否めない、終着点を特に考慮もしなかった為、最早吸血鬼からずれて根本から違う存在にしてしまった気もする。
世界の歴史と誤差が生じすぎると問題が起こり得る可能性があるが、彼女が再びこの地にやってきた時に初めて顔を会わせる事になるよりは、精霊の存在としての事情説明も含め、面倒なことにならずに済めばいいと思いたい。

「な……なんだ、これは。身体を縛っていた鎖が感じられない。まさか人間に戻れたとでもいうのか」

彼女は思わず両手を自分の目で見て驚いている。
……人間に戻った訳ではないが、やはり吸血鬼は廃業……か。

《いえ、長い間定着し続けた術式に処置を加えただけですので人間になったということはありませんが、確かに以前とは違う存在になったのもまた事実だと思います。申し訳ありません、余計な事をしてしまったかもしれません》 

初めて調整する魔法なものだから、手加減できず可能な限り改変してしまった。

「人間に戻ったわけではないのか……。まあ良い、お前はどうやら本当に大層な精霊のようだが、その割に随分丁寧な奴だな。別に怒ってはいない。特に気にするな。明日には私はこの国を出て行くが……お前の名は何だ」

……どうも、最初に会話した時よりも穏やかになってくれたようだ。
しかし名……か。
そういえば木の精霊、木の精霊と自覚はあったものの名前などあってもその名を呼ぶ存在がいないのだから何も考えて来なかった。
あるとしたら勝手に人間が呼び始めた神木・蟠桃……であるが。
しかし、これは木の名前であって精霊の名前ではない。
いずれにせよ……呼び方は彼女の好きにしてもらえば良いか。

《何分今年で4903年目に到達するのですが、こうして真面目に人類と会話するのはこれで史上2人目でして、最初の1人目はこの学園の創設者の方です。しかしながら木の精霊だと名乗っただけですので木としての蟠桃という名前は人間が呼んでいますが精霊としての名はありません。私もお嬢さんの名前はまだお聞きしていないのですが》

木の精霊だから名前はキノ……でも構わないが。
安易すぎる気もするが……別にいいか。
名前は聞かなくても知っているが。

「お前そんなに生きていたのか。それなのに名前がないとはとんだ奴だな……精霊なら普通名ぐらいあるだろう。私の名前はエヴァンジェリン・A・K・マグダウェルだ」

魔法行使の際には確かに名前は無いと使う側は困るか。
といっても、私の存在はそう公にする等ありえないので、何も問題はない。
こちらも名前は……先程ので良いか。

《エヴァンジェリン・A・K・マグダウェルさんですね、よろしくお願いします。私も名前を今考えたのですが、木の精霊なのでキノとでも呼んでください》

「キノ……か。木の精霊だから……いくらなんでも安易過ぎはしないか。やっつけもいい所だろう。まあ……好きにしろ。また気が向いたらこの国にも来るとするよ。その時はまた会おう、キノ」

安易すぎる事に自覚はある。
さて、別れの挨拶だ。

《またこの地にいらしたら歓迎しますよ。エヴァンジェリン・A・K・マグダウェルさん。それではまた会う日までごきげんよう》

こうして、彼女はその後日本を離れまた海外の向こうへと去って行った。
エヴァンジェリン・A・K・マグダウェルは2つ名である闇の福音と呼ばれていたのだが、身体の術式を私が調整して以降相性良く使える属性の魔法が闇から光になったという事で、少々悩むことになったそうだ。
何だか申し訳ない。

……あれから更に時間が経ち1916年に大発光した。
麻帆良学園も創設26年を数えるがここに魔法使いが本格的な拠点を構えてからというもの、今までは全然と言った筈が、この土地に興味を持つものが増えてきている。
それは人間にも限らず、どこからか情報を得たのか妖の類も現れるようになった。
人間に関しては、この地で育つとかなりの人々が、それぞれ何らかの才能に目覚めるという事が増えてきたのもその一つの要因であろう。
ここ最近一部の魔法使いの中に、この神木の地下に何やら造り始めたりもしていて怪しいのだが……特に木に影響が出るという事も無いので、問題は無いだろう。
実際、木を傷つけるなかれという認識阻害のお陰で、偶然根に行きあたっても、傷を付けたりということは起きていない。
認識阻害の効かないウィリアムさんにはごくたまに姿を見せては、麻帆良の街並みなどを褒めつつ少々話も交わすぐらいはしていたのだが、彼もかなり良い中年になっていた。
因みにこの時期世界では第一次世界大戦が勃発していた。
……そして元号が大正から昭和に代わり1938年にまた大発光。
この22年の間に図書館島の地下にゲートポートができたのであるが……繋がっている先が問題の場所である。
今の麻帆良の魔法使いの一部……彼らの所属が何処なのかというのも視て見れば、大分怪しい。
さて、もう900年を越えた2本目の苗木の方の成長は順調で、樹高ももう50mに到達するかという状態である。
神木・蟠桃との繋がりも考慮すれば、予定している計画の通り、火星の荒野への定着も不可能では無い筈だ。
時に、エヴァンジェリンお嬢さんの噂を魔法使い支部から得た。
そう、魔分溜りに支部を作った気持ちは分かるが、私にとっては全て筒抜けだった。
彼女は真祖の吸血鬼ということで……もう違うのだが、魔法使いからは賞金首の扱いを受けている。
最近では彼女を見つけて追った魔法使いが「この吸血鬼が!」と言うと「私は吸血鬼ではない、闇の福音でもない!」と訳の分からない事を言いだし、交戦する間も無く、転移で姿をあっさり暗ますようになった……との事。
彼女が最初こちらを全然信用していない冷たい表情をしていたのは、吸血鬼というだけで追いかけてくる魔法使いのせいで疑心暗鬼になったからなのだと思う。
恐らく……50年したらまたこの地に足を運んで貰える事に……なってしまうと思う……思うのだが、その時は暖かく歓迎しようと思う。

1940年に高等女学校で連続殺人事件という麻帆良にしては珍しく随分過激な事件が起きたのだが、その中の被害者がどうやら地縛霊になったのがわかった。
正直な所、全然平気ではあるが、私も暇であるし、霊体の誼で相手をしようかとも思ったのだが……見送った。
最初こそ情緒不安定だったがいつの間にか鉛筆バトントワリング、所謂ペン回しなるものを彼女は、一心不乱にポルターガイスト現象の応用で練習したり、図書室や近くの書店の本を読んだりして過ごしていた。
ともあれ……それはそれで意外と楽しそうだったのでしばらく放っておくことにした。
どうやら死ぬ前の記憶が殆ど残っていないらしい。
助けようと思えばできなくはないが……まだ時期的に考えても先送りした方が良いだろう。

……世界情勢も大分不穏になってきており、第二次世界大戦も近い。
麻帆良の地に対する外国人への感覚が悪い方へ向かっているか……と思いつつも、魔法使い達が大分前に麻帆良の土地の異常性から、独自に魔力溜りを利用して展開した認識阻害のお陰で陸の孤島状態になっていたため、かなり平和だった。
ウィリアムさんも、もう年になり学園長を退くことになったので、労いの言葉を伝えておいた。
会話回数が一番多いのが彼……いや会話した相手は未だ2人だけだが、もうすぐウィリアムさんも亡くなるであろうから、知り合いがあのお嬢さんだけとなる。
木の精霊の交友関係は乏しい。
さて……日本が降伏し戦後と呼ばれる時代に突入である。
戦争も終わり、折角日本は安定し始めたかと思えば今度は麻帆良の地を狙った侵入者達がそれなりの頻度で現れるようになった。
狙いは図書館島の蔵書であったり、麻帆良の有する技術や人そのものを狙ってきたり、この神木に妖の類の間では有名になったのか興味を持ってやってきたり、関西呪術協会という京都を鎌倉時代の頃から守護するのを行っていた人達の中の過激派との抗争などなど……。
麻帆良でのこの手の出来事は全て魔法使い達が内々に処理するようにと裏で決まりごとができている。
注目すべきは近衛近衛門という麻帆良側の迎撃する若者……元は関西呪術協会の宗家の出なのであるが、彼は幼くして周囲の反対を押し切り、西洋魔法使いとやらの事を自ら実際に知るべきと麻帆良にやってきて、数年前からここの生徒もしていたのであるが……とにかく、今のこの話の中として重要なのは、彼が異様に強いということだ。
その甲斐もあって、純日本人でありながらも、西洋の魔法使い達が創設した麻帆良の魔法協会の中でも既に欠かせない存在となっている。
個人的には近衛近衛門という名前が、コノエコノエと繋がっていて、その語呂がとても気に入った。
戦後に入り、科学というものも発達してきている為、麻帆良の技術力を結集し電力と魔分溜りを利用した対侵入者用の結界が整備されることとなった。
既に広がりに広がった麻帆良は随分大きな都市になったのだがこれを覆うだけの結界を、魔分溜りを利用するとはいえ、実際に作成するとは、人間は逞しい。
世界の歴史からするに、近衛近衛門は後に麻帆良最強の魔法使いで学園長にもなる、その人のようだった。
思い立ったが吉日、近衛門には挨拶する事に決めた。
先日ウィリアムさんも亡くなったので本当に話す相手がいなくなっていた。
彼は自分の夢見た学園がまさかここまで大層なものになるとは思わなかったようでかなり満足して旅立たれた。
私もそれには同意である。
……そういう訳で、近衛門に話しかけたのだが夜の対侵入者の番の後に部屋で休もうというところに会いに行ったのが悪かったのか、いきなり魔法の射手という矢という割には細めの……西洋的に言えば、ビーム、にしか見えないものを数本放たれた。
騒ぎになっても困るため、放たれた瞬間即座に全て分解させて貰った。
部屋の壁に当たって損害を出すような事もなく処理することができた。
音を出されるというのが最も困るというのと、形あるものはというが、壊れないにこしたことはないと思う。

《驚かせて申し訳ありません、落ち着いてもらえないでしょうか。私は神木・蟠桃の精霊で名前はキノと申します。今宵は近衛門殿の無双の侵入者撃退に感謝と挨拶に参りました。亡くなった先代のウィリアム学園長にしか姿を見せたことはなかったので、神木に精霊がいるなどとは聞いたこともないかもしれませんが、信用して頂けるでしょうか》

しかし、見敵必殺とは若いからなのか随分血気盛んである。
日本男児恐るべし。
彼は第二次世界大戦にも行ったのでそういう意味でも、普通の人とは貫禄が違う。
魔法使いでありながらも質量兵器の戦争に参加しつつ魔法を秘匿して戦ったのであるから……凄まじい。
……ともあれ、近衛門は意外と素直なのか魔法の射手が消滅したことに怪訝そうにしながらも、とりあえずは臨戦態勢を解いてくれた。

「……こちらもいきない攻撃を仕掛けて申し訳なかった。蟠桃の精霊の噂は少しではあるが、小耳に挟んだことがあります。しかし……俺の名をご存知とは光栄です」

良い人だった。
3人目が彼で良かったと思う。
名前を呼んだのがむしろ褒め言葉になったのも良かったかもしれない。

《どういう噂か興味がありますが信用して頂けたよう安心しました。以前はこれ程あからさまな侵入はなかったのですが。色々な勢力が侵入してくるだけに大変かとは思いますが、私の立場上介入するわけにもいきませんので陰ながら見守らせて頂きます。近衛門殿は今後もこの地にいるのですか?……この国も安定してきて50年ほど前に魔法世界との繋がりとなる世界に点在する11箇所でゲートも公的に作動するようになったようですが、あちらに行かれる予定等はあるのですか》

この50年で魔法世界から地球側に対する魔分の流出速度がゲートの増加で以前よりも加速しているのは間違いない。

「噂の話というのは、現在の学園長は魔法関係者なのですが、先代のウィリアム学園長が翆色の精霊は小さくて丁寧だと酒の席で述べていたことがあると、それを少々。侵入者に関しては我々も最近では慣れてきていますが、全く迷惑な話です。俺には精霊の立場はよく分かりませんが、この地にいる限りはこの地の守護は任せてください。短期間魔法世界に行くことはあるでしょうが基本的には地球の魔法関係の施設のある場所に上司と向かうのが多くなるでしょう」

酒の席というのがまた上手く……噂な感じになってくれていて助かる。
確かに、以前魔法使いに神木の周りをうろうろされた事があるが一切姿を見せた事もないので、信用に値しない眉唾物の話になっていると思われる。
……その後少々世間話を続けつつ、重ねて守護の件に感謝を述べて、私の存在については口外しないで欲しいと頼んでおいた。
一つ魔法使いと真面目に話をしたのもこれが初めてであったのだが、その際直接興味深い話を聞くことができた。
少し魔法も実演して貰い「どんな感覚で使っているのか」と尋ねた所「体内に取り込まれている大気に満ちる自然エネルギーを、精神力と言霊で統べている」と答えてくれた。
しかしながら、魔力は魔力、魔素も魔素で、魔法で利用される際に変質して使用された状態の認識しかしていないらしく、魔法の本当の根源が神木の生成している多様変異性素粒子……その「粒」である素粒子として認識されていないという事が話を聞いていてはっきりした。
そういう経緯から、神木・蟠桃は膨大な「魔力を内包している」のは分かっていても、魔分そのものまでも神木・蟠桃が生成しているという事は一切判明していないというのが分かった。
今まで、世の中を眺めてはいたが、基本的に風景のように眺めていたので、そういう事まで一つ一つ詳しくは視ていなかったので、本当に今更である。

……それからというもの、ウィリアムさんの時と同じくたまに近衛門に会いに行ったり、例の地縛霊のお嬢さんがここ最近で書店に並ぶようになった日本の所謂漫画を気に入って読んだり、相変わらずペン回ししたりしているのを見かけたりもした。
彼女、記憶があいまいなせいでいつまでも成仏せず時折悲しそうにしているのが……放っている立場とは言え、少々辛いと感じる所がある。
そこで近衛門に地縛霊が、女子中学にいるという話をしたのだが、当時近衛門も同時期に学校に通っていたため、連続殺人事件の事も聞いたことがあるらしい。
しかし、近衛門に私の隠蔽度合いを落とした精霊体は見えるものの、地縛霊が見えるかどうかはわからないと言われた通り、後日侵入者撃退の際にその学校に寄った所、いなかっただけなのかどうかから分からないが見えなかったという事を言われた。
再び時が流れ近衛門は時折海外に出張したりしながらも基本的に麻帆良が拠点として活動するうちに結婚した。
そして1960年に大分遅れはしているが……ということで再び大発光した。
その際、とうとう、科学的映像媒体も実用化しているという事で記録もされた。
いつの日にか、良い映像資料になるだろう。
映像資料といえば、麻帆良一帯の景色は私の記憶というと変であるが、昔も昔から神木に記録されているので、最も良い映像資料というと、神木かもしれない。
少し話がそれたが、近衛門も中年入りしていて落ち着き始め、結婚した影響なのか段々性格も堅物から柔らかくなった気がする。
相変わらず防衛能力は恐ろしく高かったが、むしろ守るべき家族ができたからか更に強くなった気がしないでもない。
守るのは攻めるより難しい、という話があるそうだが近衛門に関しては当てはまらないらしい。
そして……ある時娘も誕生した。
しかしながら発光は大分先でできないので言葉で祝っておいた。
近衛門は私に祝って貰えるなら必ず健やかに成長するだろうとしみじみとしていた。
更に時間が経過するうちに現学園長が健康上の都合で……多分麻帆良防衛の黎明期で頑張った為精神的に疲れていたのだろう、退職して故郷へ帰って行った。
新たな学園長に任命されたのはそう、近衛門であった。
初代学園長は創設者であったため若い頃からずっとやっていたという例外だが、先代が学園長就任した年齢と比べると大分早い。
ただ前から思っていたが何故学園長室が、もともと高等学校ではあったが……女子中学に設置されているのかは謎だった。
多分建築計画唯一の間違いだと思う。
またしても話が逸れたが近衛門の防衛能力の高さはもちろんとして、元々関西呪術協会の総本家の出身ということもあって西との関係からも適任として、色々とあっという間だった。
いきなり偉くなって戸惑ってもいたが、周囲の反対を押し切ってまで敢えて西洋魔法に首を出し、ようやくその成果と言える成果が実った為、近衛門はかなりのやる気であった。
私からも麻帆良をもっと人材的に発展させたらどうかとも言っておいた。
ここ最近の唯一の交遊関係がある近衛門が最高責任者になって間接的にという訳でもないが人脈を広げてもらおうという作戦である。
実際元々広かったものだから鼠算的に拡大していった。
中でも雪広グループは発展が著しいものの一つで裏の処理で相当金がかかるのを上回る、表の凄まじさを見せた。
雪広グループは麻帆良でも人気の就職先に入ったらしい。
麻帆良は以前から年1回の学園祭が最も大きな目玉なのであるが……1978年の学園祭の折に開催されている伝統的裏関係者も集う武道会での、ある少年の突然の出現は衝撃だった。
彼の名はナギ・スプリングフィールド(10)。
近衛門のイギリスの友人の子供、しかも魔法学校から飛び出して来た……とんだ少年であった。
故に近衛門は前に会った事があるらしいのだが、近衛門も突然謎の少年が現れたという情報を得たときは驚いていた。
更に驚くべき事に彼の魔分容量は懐かしいあのお嬢さんを超えていた。
トトカルチョがこういった折には必ず付き物なのが、麻帆良が麻帆良たる所以なのだが、ナギ少年は10歳にしてその武道会部に参加するものだから混乱がおこった。
当然麻帆良の人達は流石に大人が勝つだろうと思っていたが、その予想を完全に裏切り、近衛門の戦闘能力も人外じみていたが、10才であれは……私も初めて見た。
魔分で身体能力を向上させているのはわかるが麻帆良の大人達を一方的に圧倒したのである。
麻帆良の地で長年修練を積むと一部人外な感じの人々が量産されるのだが、そういった人達がいるにも関わらず、優勝までいった。
一つ述べておくと、18世紀から19世紀にかけて中国拳法では八極拳、八卦掌、形意拳が順に成立しており気の存在に関しては知っている人は知っているというものになっていて、大人達も十分強い人々がいるのにも関わらずこの結果である。
この年の武道会のトトカルチョはどちらが勝つかというものから始まってすぐにナギ少年がいる所はどこまで「その謎の少年」が勝ち上がるかというものに変化していた。
ナギ少年の犠牲になった大人達の存在感はとても薄かった。
……その後本人は麻帆良を気に入ったらしいが、嵐のように去って行ったのだった。
……彼がこの後あちらの世界で起きる事件での中心的人物になるであろうというのは分かっているが実際に見て、なるほど、と実感した。
ナギによって掻き回された武道会であったが、その後、映像機材が本格的に登場するようになり、裏の関係者達の一般常識では信じられないような戦いは、技の自粛により大会の規模がこの年を最後にして縮小の一途を辿ることになった。
世界樹が発光する事や、そもそも写真に映った時に大きすぎる異常性については、麻帆良の専門の人々が処理してくれている。
人工衛星というものも、もう既に地球の軌道上に幾つも打ち上がっていて映っている筈なのであるが、そういう問題も表沙汰になる事は起こっていない。

……ナギ少年が麻帆良から去って行ったのを期にして、いよいよ今度は魔法世界が戦乱の世に突入して行った。
地球側の魔法使い達も魔法世界の戦いに参戦する事になり、少なくない数の人々が亡くなった。
こちらの魔法使いは地球の大戦が終わったのを見ているからこそ黙っていられなかったのだろう。
近衛門もこの事については嘆いていた。
後にこの影響が麻帆良防衛の人員不足に繋がり、腕に覚えのある生徒まで狩り出す事になるのは皮肉な話である。
大戦が経過していくにつれ、近衛門が完全に実権を掌握した麻帆良もある一つの動きに出た。
それというのも、図書館島地下のゲートポートが不穏な反応を見せた為に、そのゲートの要石の稼働を完全停止させ、世界間移動を不可能にし、廃棄という形で完全立ち入り禁止としたのである。
そんな1982年の大発光は……ある程度控えめなものにした。
そして、1983年、魔法世界側の強力な魔分減衰が地球側でさえ感知できた。
途中で止まったようだが、ナギ少年達がうまくやったのだろう。
ここまで、完全なる世界の真の目的の解決策を有している私が彼らに接触しなかった事は、ある意味、魔法世界での大戦での犠牲者を見す見す見逃していたようなものなので……複雑ではある。
……とにかく終戦を迎えたのは何より。
近衛門も疲れていたので、こっそり魔分で体調を整えておいた。
今までの防衛の感謝の意味も含めてようやく実のある事ができた気がする。

終戦終わってすぐ、1985年にリョウメンスクナが力を付けて目覚めた。
だが運の悪いことに青山詠春の要請によりナギ少年とその仲間達によって……1500年前のほうが余程善戦していたという気がする。
そんな中、近衛門は何を思ったかナギはともかく「詠春殿を婿に取る」と言いだした。
確かに娘さんの近衛木乃葉さんは間違いなく美人で、詠春さんの抱いている理想の女性人物像とやらの話からするに、一撃だろうと思う。
間違いなく上手くいく。
これで関西呪術協会の過激派の行動が麻帆良にまで及ぶのを減らせれば御の字だろう。
ところで実は最近近衛門の後頭部に異変が起きそうだったのだがこの前の魔分体調管理の結果なのか、以後、後頭部の変は無かった。
わかりやすい見た目になる機会を潰した気もするが、これは何も問題無いと思う。
……その後詠春さんは、木乃葉さんと上手く、ある意味計画通りという形に落ち着いた。
おめでとうございます。

そして1988年。
懐かしいと同時に、85年振りに本当にエヴァンジェリンお嬢さんが麻帆良にやってきてくれた。
ただ、でたらめな呪いが付いていたが……。
主犯はナギであるのは間違いないが、少なくとも賞金首からお嬢さんを除籍してくれるのは評価に値する。
とはいえ……まだそうなってはいないが。
ただ1つナギとは関係ない変化があったようで、原因は85年前の術式改変のせいで幻術、魔法薬無しでやや成長していた。
身長が……150にギリギリ届くか……というぐらい。
不老は……。
因みに木から観測して視ているだけなので直接お嬢さんと会っているのは近衛門とナギしょう……もうナギだ。

「久しぶりだな、じじい。10年経ったがあんま変わってないなー」

「久しいのナギよ、魔法世界の方ではよくやった。本当のじいさんになるのはまだだが。孫の顔を見るのが待ち遠しいわ。……して、こちらの美しいお嬢さんの説明をしてくれんかの」

「ああ、こいつはエヴァンジェリン・A・K・マグダウェル、闇の福音だ。何か闇の福音には見えねーけど、間違いない。でもまあ、それはどうでもいいな。学校に通った事がないからじいさんの学園のどっかに入れてやってくれ、警備員足りてないみたいだし丁度良いと思うぞ」

恐ろしい強引さだ。
ナギは自分から学校を中退しているから、説得力がない。

「ちょっと待てナギ、この訳の分からない呪いをどうしてくれるつもりださっさと解け。大体何勝手に話を進めている。光に生きてみろというのが学校に通うことに何故なるんだっ!」

お嬢さんが両手を上げて喚いている。

「まあ心配すんなって、お前が卒業する頃にはまた帰ってきてやるからさ。それまで試しに学校通ってみろよ、友達できるかもしれないぜ。ああ、それとエヴァンジェリンお前は俺が倒したことにしとくから賞金首のリストから消しとく。それじゃ俺は行くからまたな」

ナギはエヴァンジェリンお嬢さんの頭をとりあえず軽く撫で、かなり軽くそのまま風のように去っていった……。
近衛門とお嬢さんが展開の速さに置いて行かれたぐらいである。
さて、外部の人間がいない状態で2人が揃っているという瞬間なのだから混ざらないわけにはいかない。

「して、エヴァンジェリン君よ、ナギの奴は前にここに来た時もあんな感じだったのじゃが、どうするか。呪いを解くことはワシにはできんし。学校の件は直ぐに手配できるがどうするかの」

近衛門も微妙な顔をしているがこの状況ならばいつ混ざっても同じ。

《エヴァンジェリンお嬢さん、お久しぶりです。麻帆良へようこそ、お帰りなさい。歓迎します。近衛門殿、実は85年前にお嬢さんは麻帆良に来たことがあるのです》

「おお、キノ殿このお嬢さんをご存知でしたかの。以前ワシが三人目と言っていたということは二人目がエヴァンジェリン君だったのじゃな」

近衛門も私が突然現れる事にはもう完全に慣れている。

「……久しぶりだなキノ、不本意な形でこの地に来ることになったが、3年ぐらい私にとってどうという事もない。しばらくはこの地にいることにするよ。少なくとも賞金が取り消されるのを確認するまではいるさ」

《そう言って頂けるとありがたいです。私としては、ここ数十年は近衛門殿しか話す相手がいませんでしたので話し相手ができて嬉しいです。ところでエヴァンジェリンお嬢さん、以前よりも成長しているように見えるのですが……それは一体……》

「そうだ。キノ、よく気づいたな。お前の術式改変のお陰か肉体年齢の固定化にある程度介入できた。その甲斐あってなんとか3、4年分の成長ができたんだよ。あの時は言えなかったが感謝している」

どうやら本当に肉体的に成長したらしい。
見た感じ不老でなくなった訳ではない。

《それは良かったです。ところで以前知り得たのですが、お嬢さんの使用する魔法の属性が変わったとか》

「ああ、それもお前の術式改変の副作用で私が使える属性が闇から光になったからだ。しかも闇の眷属だった筈が違う存在になったためか闇の魔法が使いにくくなったと来ている。メリットもあったがデメリットもあったな。……まあ私の使う魔法は基本的に大体氷だから気にしなくていいさ」

きちんと調べなかったとはいえ、やはり改変はやりすぎだったかもしれない。
とはいえ、実際に来てくれたのは、打算的には非常に助かる。

《85年前やりすぎたかもしれないと思いましたが、そのような影響が出ていたのですね。私としては以前の術式は妙な不快感があったのですが、今のお嬢さんはそれどころか逆の感覚があって好ましいものです。ナギ少年にかけられた出鱈目な呪いは少々難ですが。……ところで近衛門殿、エヴァンジェリンお嬢さんの魔力は強大ですし、魔法先生達からしてみれば残念ながら脅威の的のようなものになりかねませんから、なんらかの対策を取るべきだと思うのですがいかかでしょう。……因みにその呪いは解けますのでもしもの時も安心してください》

お嬢さんは3年経ったらナギが来て呪いを解いてくれると言う事を信じているので、今すぐには解けなくて構わないと返して来た。
……この後事務的な近衛門との会話を通し、お嬢さんの魔力を麻帆良の防衛結界に利用し、直接戦闘に出るのではなく侵入者の探知を主に行うことになった。
私の存在によって微妙に歴史と差が生じて来ているが許容範囲内。
少なくともお嬢さんの麻帆良に対する感情は悪い方に行っていないのは良い事だと思う。
ただ、私がある打算を抱えている面は否定できないが。

エヴァンジェリンお嬢さんは麻帆良学園都市桜ヶ丘4丁目の一戸建てログハウスに住むことになった。
しばらくして内装はファンシーな感じになり、そういうところは好きに楽しんで生活しているようだった。
また、チャチャゼロという緑色の髪の毛の身長70センチぐらいの戦闘人形にも、お目にかかったのだが「半透明ジャ切リガイガネェナ」などと訳の分からないことを言われた。
ご遠慮願いたい。
彼女が動けるだけの魔力は確保されているので、良く動く。
これで私の知り合いもようやく4人……4体目、である。
因みに、この年ナギ少年属する赤き翼のメンバーの高畑・T・タカミチ少年が麻帆良学園に通っていたのは余談である。

……そして時は流れ平成の時代へと突入した。
この年、近衛門に孫娘が誕生し、本当の意味でお祖父さんに晴れてなった。
その孫娘を観測した所、やはり魔分容量がナギよりも大きく将来遅かれ早かれ魔法関係に足を踏み込むのは避けられない事態だろうと思う。
エヴァンジェリンお嬢さんは、初年度は中学3年の途中からだったので呪いが発動してやり直しになったが「まだ良い」と許容範囲内だったらしく、改めての中等部の3年間の生活はそれなりに楽しそうに生活していた。
そして見事3年が経過したのだがナギ少年は現れることはなかった。
お嬢さんはナギの安否を心配していたが私としては仮にも2人目の話し相手がこのまま心に傷を残してまたやり直しというのはいくらなんでも……と思い登校地獄の亜種のような呪いと化している術式をものに少し調整を加え、そのままお嬢さんには高等部に上がってもらうことにした。
ここで、身長が伸びていたのが物理的に幸いしたように思うのだが、やりすぎとはいえ、間違いではなかったと言いたい。

……そして1993年、ナギは世界を飛び回ってはいたが、頻繁に京都の別荘で麻帆良学園の研究と火星の研究をして……そんな中、イスタンブールで行方不明になったという噂が入ってきた。
結果……まもなく公式記録でナギ少年は死亡扱いになった。
エヴァンジェリンお嬢さんにはナギ少年が京都にいた事は秘密である。
死亡の知らせについては、近衛門と共に「あれが死んでいるわけがない絶対嵐のように沸いて出ると思う」と言っておいた。
同時に初代学園長の時代から建設された麻帆良湖にある図書館島に、以前から姿を見せていた事もあったが、ある人物が近衛門の便宜もあって住み着いたのを確認した。
アルビレオ・イマことクウネル・サンダースである。
彼は年齢不詳……つまり長命……なのと、諸所の事情から接触することにした。
図書館島は10年程前にゲートの完全停止の一件があって以来特に何事もなかったのであるが……やはり地下施設の広がりが異様だった。
魔法的処理をしているとはいえ、よくこんな無茶な増改築ができたものだと感心する。
アルビレオ・イマはが、住んでいる場所は随分、らしい場所だった。

《ごきげんよう。私は麻帆良の神木・蟠桃の精霊をやっています。私自身は木の精霊なのでキノとでも呼んでください。あなたは恐らく赤き翼のアルビレオ・イマ殿だとお見受けするのですが、この度は挨拶に参りました》

これでやっと5人目。

「……風の噂で神木には精霊がいるかもしれないとは聞いたことがありましたが、本当にいたとは……。しかしこうして、会えるとは光栄ですね。私をご存知とは意外ですが、こちらこそ宜しくお願いしますよ」

余り表情を変えない落ち着いた人物だ。

《自己紹介でここまで落ち着いて反応を返してくれた方はアルビレオ殿が初めてです。接触した理由ですがどうも長命な気がしましたので長い付き合いができるかもしれないと思いまして。……ところで、つかぬことをお伺いしますがアルビレオ殿の持つイノチノシヘンというアーティファクトは人間でなくても記録できるのですか?》

彼のアーティファクトの事はもともと知っていたが、少なくとも所謂記憶のみなら最初の4千年近くは延々と続く麻帆良の古代の自然の四季とでもいうような気の遠くなるものであり、木の最重要機密の種子や華、自分の発言等危ない記憶に関しては読み取られないようにすればいいだけの事である。

「私のアーティファクトをご存知とは、精霊だから、でしょうか。……随分積極的ですが精霊の記憶を読めるとはまたとない機会ですから試しにやってみましょうか」

迂闊……という程の事でもないだろう。

《よろしくお願いします。大分長いかもしれませんがやってみてください》

アルビレオ・イマはそう返答する早速収集してくれた。
すると本が無駄に増えた、凄く。

「……驚きましたね、まさか5冊になるとは思いませんでした。何人かいるのですか?」

5冊ということは記録可能な年数が1冊千年ということなのだろう。
アーティファクトとは不思議なものだ。
エヴァンジェリンお嬢さんも、ダイオラマ魔法球を使用したことがあるとはいえ、1000を越えてはいないから初めての事なのだろう。

《恐らく1冊千年分だと思います。5冊目のみ890年目あたりから麻帆良の記録が見られると思いますから楽しめるのではないですか。それ以外は大自然の繰り返ししか無いので……真面目に見ると精神が壊れるかもしれません。気をつけてください》

「……まさか5千年近い樹齢とはよく今まで無事でしたね」

流石にこれには彼も目を少し見開いて驚いた。

《ご心配ありがとうございます。……ところで、どういうつもりかは詮索しませんが、時空間系の魔法を使用して篭るのであればその本は暇つぶしにどうぞ。今度また来たときに感想でも聞かせて頂けると良いです。……それでは失礼します》

……彼には色々事情がありすぎるとしか言いようがないが、無理に追求する必要もない。

「……随分変わった精霊なのですね、私も当分暇ですから遊びに来てくださって結構ですよ。できれば私がここにいることは言わないでもらえると助かります」

《いえ、今まであなたを含めて5人しか話したことはありません。ですので、まず話す相手もいないですから安心して下さい。寧ろ私の存在も他人に口外しないでもらえると助かります》

……こうして互いに口外しない約束を取り付けて一先ず邂逅を終えた。
その後、1995年になる間にアルビレオ・イマに会いに行った所クウネル・サンダースと呼ぶように言われ、随分気に入っているようであった。
イノチノシヘンに記録された本の感想を貰ったが「やはり真面目に見たら自然編は気が遠くなりそうだ」と言っていた。
ただ、やはり歴史的価値は凄いとのこと。
人間にとって歴史的価値がいくら高くても私にしてみれば殆ど意味が無い。
ところで、エヴァンジェリンお嬢さんの方はもうそのまま大学まで上がってもらうことになった。
身長的な問題は……まあ別におかしくはないという事でどうにでもなった。
学部の方はお嬢さんが機械に弱いため文系の芸術系に進み、過去に習得した合気鉄扇術も生かした舞を始めとする日本の文化が、前々から茶道部と囲碁部に入っていた時からそうなのであるが、かなり気に入ったようだ。
お嬢さんは6年一緒に過ごした同級生との仲も良く、その生活は生き生きとしているように私には見える。

赤き翼のメンバー、最近ではNGO団体悠久の風で活動している高畑・T・タカミチ君が神楽坂明日菜……という少女を連れて来て、しばし面倒を見つつ初等部に入学させた。
彼も麻帆良で学生をして落ち着いていた頃もあったがそれでも、その頃からして一般人と比較するとかなり頻繁に外部に出かける事が良くあった。
一方、その少女と言えば、その実態は黄昏の姫御子という存在であり……1983年の強力な魔力減衰反応には彼女が利用された……と色々どころでは到底済まない話ではあるが……いずれにせよ今後なるようにしかならないだろう。
タカミチ君は近衛門を通して、エヴァンジェリンお嬢さんからダイオラマ魔法球の使用許可を得て、修行を本格的に始めたが、私は普通の人間が使うと確実に老けるからやめておいたほうがいいと思う。
……近衛門の方はといえば定期的に体内魔分管理はこちらが勝手にこっそり行っているのでボケたりすることもなく徐々に老化は進んでいるが基本的に健康そのものである。

……その後も順調に時が経ち、1999年お嬢さんは大学院に進学した。
学費は麻帆良学園……もとい、近衛門が全額負担なので悠々自適な生活である。
しかし、タカミチ君はやはり急速に年齢を重ねて老けた。
君付けで呼んでいる場合ではないかもしれない。
近衛門もあまり修行で魔法球を使いすぎるなとタカミチ君に言ったのだがかなり頑固な部分があるのかやめる気配が無いそうだ。
……本人が納得していて、私が口を出す訳にもいかないし、それならそれで傍観に徹するのみである。
ここ数年は、麻帆良祭の形骸化した武道会の代わりと言っては何だが、平成に入って営利活動が活発化した麻帆良学園祭の全体が異様な盛り上がりを見せている。
いつの間にか巨大な電光掲示板付きの飛行船が飛んだりと科学技術の進歩は凄い。
ある時龍宮神社のお嬢さんに少し外を浮遊中に、いつも通り隠蔽していた筈なのだが特殊な目なのか見られたようで、気がつかないふりをして成仏する感じで消えておいた。
因みに彼女は少女ながらNGO団体四音階の組み鈴に所属し、度々世界中の紛争地域で活動しているそうだ。
幼少からNGOに所属とはこの神社は何を祭っているのかと思わなくも無い。

……2000年も終りに近づく頃から近衛門の孫娘の麻帆良学園の女子中等部への進学が決まり、その準備が始まったが、どうやら神楽坂明日菜と同居することになるらしい。
そういえば、数年前にエヴァンジェリンお嬢さんに女子中等部でお前と同じような幽霊を見たと冗談交じりに言われた事があるのであるが……その幽霊の彼女の件である。
このまま行けば間違いなく、2001年度の1-A組の女子中学生生徒達のクラスは、かなり癖のあるものになるに違いない。
ここで、幽霊の彼女、相坂さよが実体を持って中等部に同時に入学しても別に問題はないのではないだろうか。
気がつけば彼女はもう60年も幽霊家業をやっている訳で、例の芸はこれ以上極める必要もないぐらい達人の地縛霊になっていた。
しかも精神年齢は15歳のままという反応をしており以前気にかけていた時よりも、悲しげな表情を見せるようになっていた。
そこで、いつかは果たそうと思っていた同じ霊体の誼を、打算はあるが実行に移すに至った。

……某日、麻帆良学園女子中等部の放課後……を過ぎ、生徒たちが皆寮に戻り彼女が1人になったとき接触を試みた。

《こんばんは。私は麻帆良の神木・蟠桃の精霊です。木の精霊なのでキノとでも呼んでください。相坂さよお嬢さんですね。お話があるのですが聞いてもらえるでしょうか?》

……正直、今まで散々放置していたから人間にしてみれば白々しいと思われても仕方ないが、普通に挨拶を試みる。
この名乗り方も定着してきたが未だ6人目である上に、相手は正真正銘の幽霊である。
知り合いに純粋な人間の数が少ない。

《こ、こ、こんばんは。……まさか私に気づける人がいるとは思いませんでした。地縛霊になってから今まで見えていそうな人もいたけど誰も話し相手にはなってくれなかったので……何だか嬉しいです》

……とにかく、彼女は話せる相手がいて単純に嬉しいらしい。
霊体の想いというのは意外に真っ直ぐ伝わってくるが……自分もそうなのだろうか。
そんなに……黒い事は考えていないから大丈夫だろう。

《そう素直に言ってもらえると助かります。単刀直入に言うと、お嬢さんには来年度にこの女子中等部一年生に入学して頂こうと思っています。その際、魂の入っていない完璧な身体に入ってもらおうと考えています。それに当たり、私の機密に触れる部分があるので、魂に強力な制約をかけて情報を外部に漏らさないように刷り込みをかけることになるのですがいかがでしょうか。場合によってはもしもの時のために私を手伝って頂くことになるかもしれませんが》

場合によっては、等と言ったが、それが本命。
そう、この5000年をかけて、待つ事にした未来人の到着も近く、計画のために独立で動ける霊体の仲間が入れば心強いのである。
どう見てもこのお嬢さんは気弱な感じであり、霊体生活も長いため人間の俗物的欲望もかなり薄いであろうから人材……もとい霊材としてはなかなかの逸材である。

《えっと……あの、私もう一度人間になれるんですか?このままいつか成仏するのだと思っていました。そんな機会をくれるなら是非お願いします。ありがとうございますキノさん》

いつか成仏する……と言っているが実際には成仏できない原因は記憶が無い事だというのは分かっていないらしい。

《こちらこそ、どうも。……受け入れて下さるという事で、まずは相坂さよお嬢さんを地縛霊から精霊に変えさせて頂きます》

まずは局所的な土地から開放することであるが浮遊霊に格上げしても神木には入れないし、仲間が必要なので精霊になってもらう以外には無い。
魂の情報を解析し魔分で地縛霊に関する部分を変更する。
魔分で情報改変というのも多様変異性素粒子が為せる事の一つだろう。

《……全て終了しました。続いて精霊体としての活動の為の最適化を行ないます》

神木の精霊である私は、単純に言ってみれば、思考可能な知的生命体の1つにすぎず、その力の源泉は全て神木に由来する。
地縛霊から精霊として活動するにあたり、今までと違う部分があるので、その情報改変も行う。

《……ようこそ精霊の世界へ。まずは木の内部を紹介するのでどうぞ》

《ほ、本当にありがとうございます。凄く身体が軽くなったような気がします。あ、待ってくださーい》

身体……と言っても相変わらず半透明のあままだし、まだ人間の身体を得てもいないというのに、喜ぶのが早いのではないだろうか。
兎にも角にも、相坂さよを神木に案内。

《……ここが神木の内部です。まさか中がこのようになっているとは思わないでしょうが、そこそこに驚いてくれればと思います。では、約束通り制約をかけていないのでその処理をさせて貰います》

神木の内部は木の年輪がぎっしり詰まっている訳ではなく、列記とした亜空間になっている。
一応壁は木の幹にあった形で円形を描いてはいるが、その壁は木というには、かなりかけ離れたものになるであろう……不規則に緑色の光が縦横無尽に走っている。
また神木の亜空間は大まかに分けて3層から成り、上層が2本目神木を同じく亜空間に保管している華のある場所。
中層が今いる壁面があるだけではあるが、周囲の観測を始めとして、西洋的に言えば、リンクすれば様々な事ができる、言わば神木の中枢。
下層が、精霊用の素体を作成し、その保管が主な場所である。

《は……はい……。とても驚きました。木の内部がこんなに植物とは思えないような空間が広がっているなんて誰かが知ったら大変ですねー。あ、私が知ってしまいました。そうでした、制約でしたっけ。どうぞお願いします》

……微妙に、落ち着かない様子だ。
魂に制約といったものの、単純に神木の能力行使について一定の制限を課すだけであり、そう言ったのは木の内部がこのようになっている事を実際に見なければわからないからである。
……等と言っているうちに制限の設定も無事に完了した。
今まで制限などという事も私しか存在しなかったので考える必要もなかったが、これからはそうはいかない。

《……無事に終りました。制約と言いましたが私を神木の上位利用権の保持者とすると相坂さよはそれよりも相対的に下位利用権があります。こちらで利用できるものに関しては取捨選択しておいたのでこの木の記録に関して閲覧できる情報は自由に見て構いません。また私達は基本的に神木の補助を受ける結果として多様変異性素粒子を利用した……そうですね、言ってみれば人間でいう所のコンピュータのような能力を有します。その為演算能力と言ったようなものに関しては相当高い筈です。今はまだ明かせませんが、最重要機密に関しても近いうちに話す事になるかもしれませんので、それは楽しみにしていて下さい。続いて約束通り、入る身体を見せるので下層に付いてきてください》

周囲の観測というのは曖昧なようで、かなり複雑にその光景を音も含め、捉えている。
その為、逆に演算能力がこれには必要不可欠と言っても過言ではない。
下層に降りてみれば、用意しておいた相坂さよの素体が、置いてある。

《わー!私によく似た身体がありますね!》

《ええ、良く似たどころか今の霊体そのままの素体の筈です。私自身は一度もこれらを使ったことはありませんが。相坂さよにはこれを使ってもらいます。……一応何故既に用意しているか先に説明しておきます》

《は……はい》

《……あなたが1940年に高等女学校で連続殺人事件に巻き込まれてから地縛霊になっていたのを私は知っていました。その点については後で木の周辺観測の記録を遡ればわかると思います。今ので分かると思いますが、私はあなたを助けようと思えばいつでも助けられたのですが、今まで60年間見て見ぬ振りをしていたことになるのです。その点は謝らせてください》

実際地縛霊になったのはこちらの責任ではないのだが、やはり助けられる力がありながら見過ごす……しかも意図的にというのは謝る以外に他無い。
助けられる、というと、例えば病気にかかっている人々の殆ども私は助けられるので、そういう意味では寧ろ私は一切の干渉をしないというのを貫くのが、本来あるべき姿なのかもしれない。

《いえ……謝る必要なんてないです。長い間1人でしたけど今こうして助けてくれたので、それで充分です。キノさんは私よりも凄いって言うんですかね、そういう精霊なのに私をフルネームで呼んでくれますが……これからは私の事はサヨと呼んでください。ほら、私ももう精霊なんですよね?》

……彼女が怒らないのは最初から予想できてはいたことだが、ありがたい。
しかし、精霊になると名前が2文字のカタカナになるということは知らなかった。

《ありがとうございます、サヨ。これからよろしくお願いします。私のこともキノとそのまま呼んでくれて結構です。早速身体に入ってみてください。思う通りに身体を動かすことができると思いますよ。ただ、一度身体に入って木から出た身体は人間と同じように生体活動が起きますから、その後神木に再び戻らない限りは水分や食事というのも必要になります。もちろん、身体から再び離脱して精霊体になることもできますが、身体の状態には気をつけてください。神木からの補助の効果でその情報もすぐに分かるので、もしもということは殆どないと思いますが。……とりあえず、この空間では好きなように動いても問題ありません》

素体の作成には身体以外にも衣服まで構成できるのであるが……彼女のそれには生前の物そのものを構成したので、制服を用意する必要がある。
流石に服を作るのに神木を乱用するというのも無しだと思う。
因みに当時の女学生はドロワーズを履いていたのであるが……今となっては生ける化石である。
図書館島の司書殿はこういう話をすると面倒な反応を返してきそうなのであるが……。

《凄いです!違和感ありません。これならすぐにでも生活できそうです。身体を用意してくれてありがとうございます、キノ》

《それはどうも。ところで、サヨは護身術を習った事はないと思いますが以前私は合気柔術というものを記憶したことがあるので、恐らくその記録は問題なく使えると思いますよ。……まあ、もう大分古い型ではありますが。……私は今から近衛門、学園長の所と恐らくエヴァンジェリンお嬢さんの所に寄って話をしてくるので今はそのまま木からは出ずに適当に過ごしていてください》

《はい、分かりました!》

……かくして、私の計画はここからようやく本格的に動き始める事となる。



[21907] 2話 未来人地球に立つ
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/11 12:52
……近衛門に相坂さよに身体を用意したと話したら驚いていたが、あまり深く追求はしてくれなくて助かった。
サヨの戸籍や寮の部屋は上手く用意してくれるらしい。
エヴァンジェリンお嬢さんは今年で大学院も卒業である。
そこで来年度からもう一度だけ女子中学に入ってもらうように頼んでおいたが、怪訝な顔をしながらも「久しぶりに自分より身長の低い奴らを見られるのは悪くない」などと、正直よくわからないことにこだわりを見せたが了承してくれた。
同時に例の地縛霊の問題が解決して彼女も通学することになる旨を伝えておいた。
身体をどう用意したのかといったことは近衛門との口裏合わせでごまかしておいた。
……実はもうお嬢さんの登校地獄の呪いは殆ど残っていないので、本人の意思次第なのであるが、麻帆良の地に対する印象はかなり良いらしくまだ残ってくれている。
ただ残念ながら新たに入るクラスは癖が強すぎるので身長の件については、微妙な部分があると思われる。

……それから明けて2001年。
とうとう、未来人の来訪である。
未来人……彼女の名は超鈴音、発音でチャオ・リンシェン。
能力は非常に高く、勉強、スポーツ、料理を始めとしてできないことを上げたほうが早いであろう人物。
程なくして、麻帆良最強頭脳と呼ばれ、勉強の成績も同じクラス、かつ同じ天才である葉加瀬聡美を抑え常に学年1位。
100年先の未来の科学技術に合わせ、豊富な資金力も持ち、マッドサイエンティストでもある。
多くの研究会……お料理研究会、中国武術研究会、ロボット工学研究会、東洋医学研究会、生物工学研究会、量子力学研究会に所属し、中でも東洋医学研究会では会長の任も務める事となる。
目標は「世界征服」であり嫌いな物は戦争、憎悪の連鎖、大国による世界の一極支配。
極めつけには彼女が未来人たる所以となるカシオペアという航時機による時間跳躍が可能であり、本人には魔分容量は存在しないが、その肉体と魂を代償に魔法の行使を可能にする呪紋回路が体表に刻まれている。
最後に、彼女がカシオペアで未来に帰った時には死亡した……という事だが、やってきた彼女を視てその理由も分かった。
本人は気づいていないのだろうが、既に身体にかなりのガタが現れている。

彼女の目的は魔法をこの時代において世界に公表する……ということだが、その真の目的は、魔法世界の崩壊によって来る未来の回避。
対して私の目的は存在し続ける事であり、魔法世界の崩壊によって起こる影響は、その目的に高確率で大きな負の影響を及ぼす事になるであろう。
単純に種子を打ち上げるだけならば何ら問題は無いが、1000年前、彼女に接触を試みる事を明確に決めた事には変更はない。
彼女と私の目的が完全に合致する事は無いが、魔法の公表という歴史に影響を与える程度から更に一歩進んで、自身の手で全てを解決できるとなれば、協力をしてくれる可能性は充分にあるだろう。

現代の魔法使い達にすれば魔法を公表するということは禁忌であり、そういう意味では近衛門達に迷惑をかける事になるので、やや難があるが、今更後には引けない。
実際既にサヨを仲間にしたのも、彼女との接触を試みる事が1つの目的だ。
未来人がどこまでこの時代の事を知っているのかまでは定かではないが、もし知っていれば、相坂さよが肉体を持って活動しているのは確実に何かが起きていると思うのは間違いない。
そうなれば、遅かれ早かれ彼女の方から接触してくる事もあるであろう。
それに、手札と人材は揃ったとは言え、ここからは時間との勝負でもある。

未来から忽然と彼女が神木の裏手の空き地の石柱が立ち並ぶ場所に現れてからというもの……その動向を観測し続けた。
彼女は麻帆良女子中等部が始まるまでにかなりの過密スケジュールで、活動を日夜行い始め、ハッキングと呼ばれる方法で中華人民共和国と日本に手を出し、中国人留学生としての女子中等部への入学手続きを済ませる傍ら、麻帆良の研究会各所に乗り込んで、必ず成果を残し人脈を広げていった。
その活動が酷く目立った為に、麻帆良学園の魔法先生達にとっては中国人留学生という事以外の情報は完全に不明という事も相まって、要注意人物の中に入られるのも時間の問題だった。
そして、彼女は小学生の頃から麻帆良大学工学部に入り浸っていた葉加瀬聡美に接触し、その葉加瀬聡美が作成を夢見たロボットの作成に革新的技術をちらつかせ、更にはエヴァンジェリンお嬢さんの元に、接触しその作成にも取り掛かった。
お嬢さんには「ある人物が現れたら詮索も深くしないで可能なかぎり協力して欲しい」と伝え、その了承も得ていたので、3人の接触には障害は無かった。
しかしながら、超鈴音はというと、エヴァンジェリンお嬢さんが明らかに変だという事に気づいたようであった。
実際、変である。
というのも……エヴァンジェリンお嬢さんは真祖の吸血鬼ではなく、ごく僅か部分的に私達と同じ存在になっていたのである。
術式改変の際に、色々やりすぎたのは私であったが、そのやりすぎた結果がコレであった。
精霊化……その割合は数厘程度であるが、それでも神木の補助を受け、真祖化の術式が元であるので、不老不死の存在にも変わりはない。
彼女が肉体的成長をする事ができたのは、介入できたというよりは、神木の補助の届く範囲から遠く離れた……魔法世界に行っていたからだという可能性が非常に高いと考えられる。
本人も成長ができた事には喜んでいて、それならそれで構わないが、自身の口から「介入できた」と話していた割には、その根本的な原因をはっきりとは理解していないようだ。
この事はお嬢さんが麻帆良に落ち着いてから程なくして分かった事であったが、未だに話してはいない。

サヨの入居する女子寮の部屋であるが近衛門に予てより頼んでおいた通り3人部屋になった。
女子寮は基本的に2人部屋というのが通例であるが、今年は雪広あやか、という例外もいるし、無理矢理超鈴音と葉加瀬聡美の部屋へと送り込んだ訳だ。
そのサヨであるが、この3ヶ月程の間何をしていたのかといえば、始めは何よりも神木内部の空間を満喫し、過去の歴史を遡ったりとして、過ごしていた。
クウネル・サンダースもイノチノシヘンに情報を渡した際、過去の麻帆良祭はもちろん、まほら武道会はとりわけ興味深いと感想を述べていたので、サヨも同様に歴史に興味があるのも、過去に本人自身が麻帆良女学校に通っていたこともあって思い入れ……というべきものがあったようだ。
相坂さよ、としての生前の記憶は以前殆ど残っていなかったが、情報を探索し、その両親の墓を探し出し、墓参りにも行っていた。
サヨも神木の精霊となった事で、説明するまでもなく、私達の目的が存在し続ける事であり、それが存在意義であることも本能的に理解してくれているので殆どの説明はする必要もなく済んでいる。
魔分の生成については、サヨとしては流石に驚いたようではあったが、当然だ、と思う部分もあり、その理解には何ら問題は無かった。
サヨは地縛霊の時、書店に夜な夜な潜りこんでは、本や雑誌を読んだりしていたが、精霊になっている今もやっている。
別に咎めたりはしないが、好きにして欲しい。

それと……この春、長谷川千雨というサヨと同じく麻帆良女子中等部への入学に当たって麻帆良にやってきた彼女は認識阻害の一切効かない体質の人物であった。
その為、麻帆良に入学した当初、強烈な違和感を覚え続ける事になったのだが、私が直接どうこうする義理も無いと言えば一切無く、近衛門にそういう体質であることを伝えるのも、余りにも私の目的の一部にも関わらない一般個人へのお節介を、これまで他多数の人々をただ眺めるだけで過ごしてきた私が突然するというのもありえない話なので、いつも通り、放置する事に決めた。
本当に我慢できなくなったら、自分から転校を望むか、先生達に相談する手段に出る筈である。

……そして、いよいよ超鈴音の元に送り込んだ、サヨの接触行動開始である。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

えー……私は元人間で元地縛霊で……今は神木の精霊でありながら、素体も得て、人間に戻ってもいるような、相坂さよです。
ややこしいです。
折角身体を貰い、キノからも基本的に好きに生活して構わないと言われているので、人間らしく何を頑張ろうか考えた所思いつきました。
友達を作ることです。
そして、まずその第一歩として、私はここ3ヶ月で麻帆良でも有名になった超鈴音さんと葉加瀬聡美さんと同じ女子寮への引越しの作業中です。
実は女子寮ではなく、エヴァンジェリンさんのところに住まわせてもらう予定もあったらしいのですが、エヴァンジェリンさんも普通に生活している人なので、そこにお邪魔になるよりは女子寮に住んだ方が良く、それ以外に私には接触する必要があるのでこれが最善とも言えます。
今かなり緊張しているのですが……それというのも「幽霊でしたが復活しました」と先手を打って自己紹介して欲しいとキノに言われたのが原因です。
冗談のつもりなのか……と思ったのですが、本気らしいです。
何でも、私がまだ知らない情報の中に、超鈴音さんは未来人だという話があるそうなので、先方は私がいる事自体に警戒する筈だから敢えてそう言う事で、その警戒を解いて欲しいということらしいです。

……と、女子寮についてしまいました。
ま、まだ建物の前なのですが、相変わらず麻帆良はなんでも規模が凄いです。
確かに女子中学だけで一学年700人超ですから三学年合わせれば2000人を越え、なおかつ中学からは全寮制なのですから当然かも知れません。
私の60年前のおぼろげな記憶ではこの寮はなかったと思います。
精霊になっている事を差し引いても普通とは違いますけど、これからの生活、わくわくします。
……分かっていましたがロビーも広く、私と同じ今年入寮の皆さんも続々と入っています。
私は6階の部屋になりました。
麻帆良女子中等部は一度クラスが決定すると3学年ずっと同じ教室を使うのですが、それは女子寮も同じです。
よほど問題がない限り原則部屋も3年間一緒という事です。

……今のところ私が話をしたことがあるのはキノと戸籍などを便宜して下さった学園長先生と、必要なものを買う時に店員さんと少しやりとりをした程度で、まだそれ以外の人達と会話をしていないので、緊張してきました。
エレベーターを上がり、廊下を進み……部屋の前に到着しました。
身体に入っている状態でも周囲全方位の空間認識はできるのですが、いくらなんでも人間離れしすぎているので、それはせずに今日はここまで来ました。
キノも通信をして教えてくれたりもしないので、なるようになるだけです。
期待しただけで、中には誰もいないという事もあるかもしれません。
手を、ドアノブにかけて……鍵はかかっていない……という事は。
回します。

あわわっ!

「きゃっ」

痛いです……力入れすぎて回して入ったら転んでしまいました。
幽霊の時も足が無いのによく転んだことがあるのですが、神木の補助を最低限にするとすぐコレです……。

「入ってくると同時に転ぶなんて初めて見たネ。大丈夫カ?」

顔を上げるとそこには頭にお団子をした中華風の女の子がいました。
間違いありません、この人が超鈴音さんです。

「あ、はい、大丈夫です。みっともないところを見せてしまいました。そうだ、わ、私……私、幽霊でしたが復活しました。相坂さよと言います、同じ部屋になったのでよろしくお願いしま……す」

よく顔も見ずにとりあえず頭を下げて挨拶をしました。
だ……大丈夫かな。

「……何か今変なこと聞こえた気がするが私は超鈴音だ。よろしく相坂サン」

幽霊発言は……なかったことにされました。
……何か納得いかないので、やり直します。

「聞き間違いじゃないです。幽霊でしたが復活しました」

両手に力を込めて、きちんと言いました。

「……そんなに強く言わなくても聞こえたからいいヨ。そうだナ、私も火星人だから気にしなくていいネ」

……幽霊と火星人は似たようなものらしいです。

「わかって貰えて良かったです。私も火星人でも気にしません。……ところでもう一人部屋には来ていないんですか?3人部屋だと聞いていたんですが」

葉加瀬聡美さんがいないです。
もう今日も大学の研究室に篭っているのかもしれません。
何か凄いロボットを作っているらしいです。

「もう1人はハカセだが、ハカセは今大学の研究室に泊まりこみしているから帰てこないかもしれないネ。会った時に挨拶するといいヨ」

やはり研究室だったようです。
とにかくこうしてしっかり自己紹介もできて超鈴音さんとの邂逅を終えたのでした。
……学校が始まるのは3日後なのですが、超鈴音さんそのまま「出かけて来るネ」と言って出ていってしまったので私は寮の部屋で荷物の整頓を済ませ、ゆっくりする事にしました。
……やることも終わり、その辺りをぶらつこうかな、と思ったのですが、葉加瀬聡美さんの研究室に、もういきなり身体を出て、行ってみることにしました。
麻帆良大学は麻帆良中等部とは違ってかなり近代的建物が多く、工学部のある一番高い建物は30階近くあります。
そういう訳で、ほぼ浮遊霊と同じ状態でここまで来たもののどこに葉加瀬聡美さんの研究室があるのかわかりません……。
地道に探してもいいのですが、もうこの際早いか遅いかの違いなので、観測をする事にします。
……無事、研究室が見つかりました。
何となく予想はしていたんですが、さっき別れたばかりの超鈴音さんもいました。
何やら緑色の髪で、耳の所にアンテナのような機械のついた、ガイノイドと呼ぶらしいですが、そのガイノイドさんがどうやら今日初めて起動するようです。
超鈴音さんが葉加瀬聡美さんらしき人と話しているのですがものすごく早口で会話しています。
所謂マッドサイエンティストというものなのでしょうか。
……あ、ガイノイドさんが目をあけました、凄いです。
関節などは機械だということがよく分かりますが完全に人形ですね。
ガイノイドさんの名前は茶々丸さんというそうです、なんだか変わった名前です。
あれ……私は最大隠蔽モードの筈なんですが、どうもこちらが見えているような気がします……。
超鈴音さんにはばれていないようですが……うーん、どうしましょう。
キノから通信が……正体現して見せていい……分かりました。
こうなったら超鈴音さんに幽霊で復活したことを証明するいい機会ですし頑張ります。

《す、すいません……。超さん、追いかけてきてしまいました。茶々丸さんが私に気づいているようで隠す必要ないと思ったので……このとおりさっきの発言は嘘ではないと信じてもらえました……か?》

「……あ……あぁ、相坂サン。本当に幽霊だたのカ。……驚いたナ」

本当に目を丸くして驚いています。
葉加瀬さんは何か凄く変なものを見たような目で見てきます。

「超さん……全然分かりません。あれ……いえ、彼女は一体誰で何者なんですか?幽霊なんて非学的なもの信じられないんですが」

「超、ハカセ、彼女は幽霊ではありません。私に幽霊を探知する機能はついていません。幽霊とは違う何かです」

消去法で幽霊を否定されました。
これって……かなりマズくないですか。

葉加瀬さんは完全に停止しているんですが……。
《驚かせてごめんなさい。葉加瀬聡美さん、初めまして。女子寮でこれから同じ部屋になるなった相坂さよといいます。茶々丸さんも初めまして。よろしくお願いします。幽霊ではないということでしたが、元幽霊だったのは本当なんです。調べてくれればわかると思います》

「……よ……よろしくお願いします……相坂さん。正直科学に魂を売ったものとしては未だに信じられないんですが……もしかしてその半透明なまま一緒に生活するんですか?」

《女子寮に身体を置いてきたのでこのままということはないです。今は信じられなくてもいいですけどいつか信じてもらえると嬉しいです》

「…………は、はぁ……」

「あー、相坂サン、エヴァンジェリンという人物を呼んであるのだが、彼女ももう来ると頃だとおもうがいいのカ?」

《……大丈夫です》

それから間もなくエヴァンジェリンさんもやってきたのですが……。

「茶々丸が生まれたと聞いてきたぞ……いや、何故あの時の幽霊がここに……。いや、お前は……そういう事か……」

えー、昔エヴァンジェリンさん私のこと見えてたんですか。
話しかけて欲しかったです。

《今から12年前から9年前に女子中等部のA組のクラスです。エヴァンジェリンさん、あの時見えてたんですね……》

「ああ……まあな……。それにしても……まあいい。しかし、せっかく身体を得たのになんでまた浮遊しているんだ」

《すいません、随分長いこと幽霊やっているので慣れてしまっているだけです》

「エヴァンジェリン、茶々丸が相坂サンは幽霊とは違う何かだと言ているがどういうことかわかるカ。今日は茶々丸の起動日なのに幽霊事件とはネ」

「マスター、初めまして、私は絡繰茶々丸です。魔法動力を提供して頂きありがとうございます」

「ああ、茶々丸、これからよろしく頼むぞ」

「はい。それで、マスター、私には幽霊を探知する機能はないので相坂さんは違う何かだと思うのですが」

「……そうだな、相坂さよは幽霊とは違う何かだろう。しかし……ただの幽霊から昇格という割には出世しすぎじゃないのか」

《そ、そうかもしれません》

「……ふむ、私もハカセではないが予想外の出来事で少し混乱して来たヨ」

同室の2人には混乱を与える事になってしまいましたが、とにかく、私はこうして一度に4人も知り合いが増えて嬉しいです。
……そしてその後、学校が始まるまでの3日は、非科学アレルギーの葉加瀬さんと仲良くなるために邪魔にならないように精霊体で研究中の資料を見たり、神木の補助のお陰による演算能力を駆使して、葉加瀬さんが研究中に計算する機会があった所、それを手伝ったら計算速度に驚いてくれて、便利な人を見つけた……というような表情をしていたのは気にかかりますが「たまに手伝ってくれると助かります」と言ってくれました。
超鈴音さんは、2日目にして、真剣な顔付きで話を聞いてくれないか頼まれました。
この点はキノも予想外だったらしく、それでも、それならそうと、そのまま協力して構わないと了解も得たので、その話を聞かせて貰いました。
その計画は魔法の事を世間に公表するという話など、キノから明かされていた通りでしたが……その後すぐ、超鈴音さんは「本当に相坂サンは何者ネ?」とそれ以外にも聞きたい事は山ほどあるというような、かなり怖い表情で尋ねられました。
結局私は、幽霊ではなく神木・蟠桃の精霊である事を話し「敢えて言うなら、超鈴音さんの仲間になりに来ました」という事も伝えました。
それを言った瞬間、超鈴音さんは神木に精霊がいたなんてと目を丸くして驚き「しかし……仲間になりたいとは本気カ?」と尋ねてきました。
本気であるのを伝え、私からも、何故怪しい私に計画の事を話したのか尋ねてみた所「相坂サンがもしスパイだたら、同じ部屋である以上、私の動きは全てバレているも同然。だが、違う方法を模索する前に、カマをかけてみるのも一興だと思たネ」とやれやれ、という表情をして答えてくれました。
超鈴音さんは私が神木・蟠桃の精霊である事については「とても不可解ネ……」と呟いていたのですが、超鈴音さんが独自に調べてみた所「確かに精霊の噂は……昔からあったらしいナ」と確認もして、一応その存在は納得してくれたみたいです。
しかもその後、超鈴音さんは、自分が火星人であるのが事実で、しかも未来人である事も明かしてくれました。
まだ私に対して怪しさが残っているのも無理はないですが、毒を食らわば皿までという風で、私とはかなり親密に接してくれるようになりました。

……そんな嬉しい事もあった矢先、来る麻帆良女子中等部入学式兼始業式。
入学式を終え、1-Aの教室で自己紹介という名の事故紹介が起きました。
正しく自己紹介をしたところ高畑先生が、質問があったら聞くといいと言った矢先、朝倉和美さんという人が私の席の隣にいるのですが、何か面白い物を見つけたような顔をして、

「相坂さんは生き返ったんですか!?」

と尋ねられたんです。
高畑先生がフォローしてくれるのかと思ったら、実は学園長先生から話を聞かされていないのか先生も物凄く驚いていて、教室の空気が死にました。
仕方なく私は……。

「は、はい!私、生き返りました!」

と、勇気を出して本当の事を言いました……が、聞いてきた本人も微妙に引いているんですが……余計にクラスの空気が凍りつきました。
……事故紹介です。

「せ、先生までそんな顔しないで下さい!差別みたいな事は良くないと思います!」

と、とりあえずキラーパスを先生にぶつけてやりました。
これでもくらえ!

「あ、ああ……悪かったね。相坂さん、席に戻っていいですよ」

……スルーされました。
個人的な場だと信じてもらえるのに公の場になるとこういう反応をされるというのは全くもって集団の心理というのは嫌なものです。
まあ、敢えてこう言えば誰も信じないというのも分かっていた事なのですが。
でも、ここでまさかの超鈴音さんから反応がありました。

「皆私も火星人だから気にすることないネ。生き返ったならそれでいいじゃないカ」

火星人と生き返ったのは同じらしいです。
その後冗談だったのかという声が聞こえて教室の空気が回復しました。
超さん、ありがとうございます。
席に座る時「ブラックジョークだったんだね……」と隣の席の朝倉さんが微妙に顔を青くしながら話しかけてきたのですが、どうやら彼女は、情報はつかんでいてもまさかという感じだったようです。
酷い目にあいました。
……その後の自己紹介は順調に進み、忍ばない忍者がいたり、シスターがいたり中学生に見えないプロポーションの人がいる一方小学生のような双子がいたり、随分ピリピリしたサイドポニーのかっこいい人がいたりしました。
一番ありえなかったのが茶々丸さんでした。
誰も耳の機械を不思議に思っていないのか何事も無く通過しました。
認識阻害という魔法ですね……何か差を感じました。
エヴァンジェリンさんの番になった時、また朝倉さんが「何故中学に戻ってきたんですか?」ときついところを聞いたのですが「ああ、暇だったからな」と一言で済ませました。
見習いたいです。
……最後のザジ・レイニーデイさんは一言も話しませんでした。
何だか、凄く癖のありすぎるクラスだと、キノも言っていましたが、本当にそうだと実感しました。
初日は授業がない為そのまま解散で、皆それぞれ、入る部活探しに行ったり、麻帆良の街に出かけて行ったりと、それぞれ動き出しました。
私は今日も超さん、葉加瀬さんと工学部に行くことになり、4日目だから慣れたのもありますが一旦私は先に寮に身体を置いてから後で合流するという事で活動開始しました。
葉加瀬さんは4日目にして、便利な計算器の役目も担っている私がもう何者でもいいようです。
慣れって凄いですね。
その日、途中でお料理研究会にも向かった超さんは、寮に遅れて帰ってきて、中華屋台を開くという計画を聞かせてくれました。
「開店したら一緒に働いてくれると助かるネ」と頼まれたので私も「是非やらせてください」と了承しました。
超さんといると、やることに尽きが来ることは無いという感じがしますが、そういう訳で新たな身体を得た私の再度学園生活が始まったのでした。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

サヨに超鈴音との接触を頼んだが、かなり微妙な部分もありながらも、基本的にこちらの情報は正体も含め彼女には素直に伝えるようにしたので、何とか上手く落ち着いて良かった。
……因みにこちら、神木の方は何も無かったのかというと、忍んでいない普段糸目長身の忍者、長瀬楓が神木の木登りを始め……何故登れるのかは知らないが270メートルある頂上まで登りきった。
これで13歳というのは人間の一般常識からするとおかしい。
木はビルではないが、高所の特徴として、その外側は風圧の危険というものがある。
神木・蟠桃は270mの巨木であるが……登るという事自体がいかに凄い事か。
彼女が登り切った後に呟いた言葉は「いい景色でござる。またさんぽにくるでござるよ」であった。
木登りが散歩に入るらしい。
そもそも木を傷つけない認識阻害は働いているのだが、それにも関わらず登ってくるというのは、害するといったそういう意思は一切なく純粋に登りたかっただけで、かつそれが実現可能だったという事の証明になる訳で、その点でも大した人間だと思う。
そして……後日、彼女は小学生の双子とさんぽ部に所属したそうだ。
また「拙者は忍者ではないでござる」と忍者であることを否定しつつも小学生に忍術を教えることもあったのだが……完全に矛盾しているのに気づいているだろうか。
どこか抜けているらしい。

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……あれから毎日を楽しく過ごしています。
中でも学園祭に向けて同じクラスの四葉五月さんと超さんの移動中華屋台「超包子」の出店に向けて活動するのが充実しています。
もちろん、工学部で発表するロボットの制作も順調です。
エヴァンジェリンさんはわざわざ中学生をもう一回やってくれる事になったのですが、大学の生活感が抜けていないのか、自主休講というもので、よく学校に来ません。
それはともかく、ある日の夜精霊体でふらついた帰りなのですが、龍宮真名さんという褐色のかっこいい同じクラスの人に、隠蔽モードなのに姿を見られてしまい、何故か空間から突然銃を取り出して構えられてしまいました。
瞬間的にキノと通信をし「龍宮神社のお嬢さんは修羅場をくぐっている」などと情報を教えられ、そのまま対応方法も考慮した結果「害は無い幽霊である事を主張してごまかす」事に決めました。
そういえば、龍宮といえば、あの神社と名前が同じでした。
龍宮さんが私を見えたのは片目が特殊な魔眼というものだからだそうです。
精霊体の状態で両手を上げ害意が無い事を伝えます。

《龍宮さん、撃たないでください!相坂さよです、何も悪いことしてません。夜中に書店に入って漫画を読んだり映画館に入ったりすることぐらいしかしてません!》

あれ、意外と悪いことしてるのかな。
いえ、何にせよ一方的に成仏させられるのなんて酷い話です。
成仏しないですけど。

「む……あ……相坂か。まさか……本当に幽霊だったとはな。済まない、悪霊か何かかと思ってとっさに撃とうとしてしまった。許してくれ。……しかしそこそこ悪いことしてるな」

《ありがとうございます。大丈夫です、幽霊は逮捕できないですから》

これなら文句はありませんよね。

「ああ、わかった。気をつけて帰れよ。確かにそれはそれで便利だな。私は映画館に行くと大人の料金をいつも取られそうになるから困っているぐらいだ」

身体があるというのも、不便なようです。

《それじゃあ、私のおすすめの映画を見つけたら教えるので期待してて下さい》

「はは、そうか。それは、わざわざありがとう。楽しみに待っているよ」

龍宮さんはなんだか凄く大人な女性という感じの大人でした。
私は75歳なんですけどそれよりも大人って凄いです。

その後も、相変わらず充実した人間の身体の生活と精霊体での生活を繰り返し……。
どうやら葉加瀬さんの手伝いをする日などに寮に戻って身体を放置して生活するのが原因で最近「私は凄く身体が弱い」らしいというイメージがクラスで定着しつつあるようです。
地味に事故紹介の影響を引きずっていて、復活ネタが横行しています。
復活した事自体は本当なので私としては複雑なのですが、そのせいで皆結構怖がっています。
それに関連してかまた怖いことがありました。
龍宮さんが多分教えたのだと思うのですがサイドポニーのかっこいい桜咲刹那さんが、私が1人で身体に入っていて周りにも誰もいない時に接触してきたのです。
恐らく付けられていたのだと思いますが観測していないので気づきませんでした。
なんと今度は竹刀袋の中に竹刀……ではなくやたら長い真剣が視えるのですが、私の前に立って話しかけてきました。

「相坂さん、龍宮から聞いたが本当に幽霊らしいですね。一体その身体は誰のものなのか答えてもらいたい」

「は……はい、確かに私は本当に幽霊です。ですが、この身体は正真正銘私のために学園長先生が用意してくれたものです。嘘だと思うなら学園長先生に尋ねてみて……下さい」

どんどん桜咲さんの気配が張り詰めていくのですが、及び腰かつ両手で抑えるようにして、またも害意は無いのを強調するように、きちんと説明しました。

「そうか……申し訳ない、学園長が用意したのですか。分かりました、一応学園長にも確認を取らせてもらいます。突然失礼しました」

「わー……わかってもらえたようで良かったです」

話し合いで無事解決です。
キノとその後桜咲さんの事を話したら、桜咲さんは同じクラスの近衛木乃香さんという学園長先生の孫娘でもある彼女を、護衛するためにやってきたそうです。
何故護衛が必要かというと、近衛さんは極東……日本一の魔分容量の持ち主で狙われやすいからなのだそうです。
そのため、桜咲さんが接触して来たのは自称幽霊の私が近衛さんに何かをしないかと牽制のつもりだろう、ということです。
……私達は魔分生成を行っている神木の精霊のため、無尽蔵……あるだけある魔分を利用できるのですが、この素体の魔分容量は一般人の水準に留めてあるので目立つことはありません。
時に、桜咲さんが使用する神鳴流という剣術には弐の太刀と呼ばれる技術があり、それは切る対象を自由に選ぶ事ができるという恐るべき技で、障壁を張ったとしても意味が無く、神木に対してそれをもし使われた場合かなり危険だそうです。
ですが、少なくとも私達としては戦闘をするという事自体がありえないので、大人しくしていれば大丈夫のはずです。
……何にしても次から次へと出来事の付きないクラスです。
ところで、超鈴音さんですが、私含む四葉五月さんを筆頭にしてお料理研究会の人達と進めている超包子の出店計画ばかりをしているという訳ではなく、周知の通り他にも様々な研究会に所属しています。
その中に同じクラスの古菲さんが所属している中国武術研究会もあり、2人は同じ中国人留学生……実は違いますが、中国拳法家同士仲良くなっていました。
そのため超包子の開店の際には私と同じでウェイターをやるかもしれないそうです。
とても明る……明るすぎるぐらいの女の子なので一緒に働けると思うと楽しみです。
拳法つながりで……ではないですが、私はキノの言っていた合気柔術というのが使え……ます。
そこで超鈴音さんに頼んで少し相手をしてもらったのですが「まさか日本の大東流合気柔術のここまで綺麗な型を見るとは思わなかたナ。これなら超包子の店員で困った客にからまれても大丈夫ネ」と誉められました。
どこで覚えたのかも聞かれましたが、幽霊の時に見て覚えましたと答えておきました。
地縛霊だったので、道場に行けはする筈もなかったのですが。

そして4月が過ぎ5月も下旬、中間テストがありました。
60年間授業を幽霊として受けてきた私ですが中学の学力には自身がありますし、今は神木からの補助もあるので計算系科目はあってないようなものです。
間違って記述しない限りミスはありません。
……テストの結果は737人中超鈴音さんが1位、葉加瀬さんが2位、私が3位という一つの寮の部屋に学年の最高学力が揃うという快挙を成し遂げ、注目を集めました。
私が3位になった理由はうっかりしてやっぱり書き間違いをいくつかしていた……と言い訳したいです。
一方でこのクラスには致命的に点が悪い人もいて平均点自体は大したことないという結果に終わっています。
こうして無事にテストも終り、6月に入り麻帆良学園祭の準備も本格的に始まりました。
1-Aでは何をやるかということであれやこれやと意見が出ましたが、超鈴音さんが温めてきた超包子の支店を出すことを条件に喫茶店をやってくれれば資金を拠出するということ決定しました。
その際、それならと「この雪広あやかも協力することをお約束しますわ」といいんちょ、こと雪広あやかさんも俄然やる気を出して見事決定したのでした。
いいんちょさんは麻帆良ではとても有名な雪広グループのお嬢さんなので超鈴音さんがやるなら自分もやらなくてはということなのでしょう。

正式名称、移動式中華屋台「超包子」ですが、何が移動かといえば、麻帆良の地に走っている路面電車の一部車両をそれなりの手段で買収し、改装することになっているのです。
当然葉加瀬さんの協力のもとただの改装には済まず、ほぼその車両だけで製造から販売まで可能な上、極めつけに飛行モードも付けてみる、という科学者精神旺盛な、何だか路面電車の枠を飛び越えたものになる予定です。
超鈴音さんが「五月、この店飛ぶからよろしくネ」と言った時の料理担当の四葉五月さんは「え?飛ぶ?」という反応には私も深く共感しました。
古菲さんの反応は「飛ぶのか、それは面白いアル」と純粋でした。

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……麻帆良祭、それは毎年驚くべき盛り上がりを見せ、前夜祭を含め3日間開催され、1日に2億6千万もの金額が動くと言われ、東京の方面で年2回開催されている催し物にも勝るとも劣らない経済規模であり、また発表される技術力の高さから……色々な対策はされているものの関東、少なくとも埼玉県ではかなり有名である。
私にとって学園創設から毎年見てきた光景であるが今年は決定的に一つ違う点がある。
超鈴音が今年はいるという事である。
今まで私は素体を使用したことはなかったが、5000年掛け、特にこの1000年本気で待っていた。
今回、私は初めて実体のある身体に入り、彼女の経営する超包子の肉まんを、素体を通して初めて口にしようと思うのである。
そもそも食事をするという事自体がこの5000年で初めての事だ。
何だか感慨深いものがあるが、超鈴音との接触の機会としては麻帆良に人が溢れ返るという点でも最高の状態とは言えないが……悪くはない。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

前夜祭も盛り上がり、今日は麻帆良祭初日です。
今は「超包子」メンバー全員、超鈴音さん、四葉五月さん、古菲さん、絡繰茶々丸さん、そして私の5人で移動型中華屋台の記念すべき開店の瞬間です。
1-Aの教室の方はクラスの皆が頑張ってくれているので私たちはこちらに集まっています。

「今日から超包子開店だよ。皆よろしく頼むネ。世界に肉まんを届けるヨ!」

「……調理は任せてください。私の夢である店を出すこともできました、必ず成功させてみせます」

「任せるアル!」

「超、私も協力します」

「私も任せてください!」

……こうして超鈴音さんの挨拶とともに私達の忙しい、けれど充実した3日間が始まったのでした。
元々朝倉さんにお願いして麻帆良新聞でも宣伝を行って貰っていた上、例の飛ぶ路面電車という話題性も相まって大盛況になりました。
途中高畑先生と弐集院先生が店に来てくれて、「凄く美味しい」と褒めてくれ、特に弐集院先生は肉まん全種を制覇し「明日も来るよ」と幸せそうに帰って行きました。
それを高畑先生は「相変わらず本当に肉まん好きですね」と苦笑していました。
途中、1日の中であちこち地上を走って移動したり、お客さんを乗せながら飛行して驚かせつつ、定期的に1-A支店に肉まんの補充をしながら大成功の内に見事初日を無事終えることができました。
因みに1-Aは皆素敵な衣装を来て喫茶店を盛り上げていました。

……そうして迎えた二日目、とうとうキノが現れたのでした。

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用意していた素体に入り、向かうは超包子ただそれだけである。
実際に歩くと、麻帆良は非常に広く、店の位置の観測を続けるが……たまに飛んで移動してしまうのが10歳程度の身体には少々辛い。
精霊体と同じではなく、もう少し大きめの素体を用意すれば良かった。
普段なら壁は無いし、何より重力がある……人間の身体はなんと不便だろうか。
ただ一つ、敢えて怪我の功名と言えるとしたら、それは小柄な身体のために人と人の間を通り抜けやすいということであった。
しかし、一苦労してやっと目的の店についた時……日本円というものを持ちあわせていないのに気づいた。
肉まんが買えない。
と、困っていた所、そんな事は露知らず、サヨが話しかけてきた。

「あー、いらっしゃい!」

「どうも、こんにちは」

肉声を初めて出す。

「おや、坊主、1人で良く来たネ。注文は何がいいかナ?」

 未 来 人 が あ ら わ れ た。

……直接素体の身体を通してその肉眼から見ると、勝手に1人感慨深くなってしまう。
が、いきなり言う言葉はこれしかない……。

「注文なのですが……お金を持ってなくて……。いわゆるサービスというものをしてはもらえないでしょうか?」

「確かに着のみ着のまま来たという感じだが……坊主、働かざるもの食うべからずネ」

やや上から諭されるように言われた。

「……では、私を臨時の店員として雇ってはもらませんか?これでも働ける自信はあります」

自分から働くことになった。
サヨは……頑張って下さいと通信してきた。
その結果……現在明らかに浮いている。
いつも浮いているといったらそれまでだが、今日は存在が、である。
私の見た目は緑色の髪の毛が目立つぐらいで、その服装はというと、特に考えもなく上下共に白い服を着て来てしまった為に、意外に目立つというのもあり、かといって超包子の定員用の服に10歳時用の物なんてある訳もなく、首から「超包子」と書かれた店員用のプレートを下げられているだけという、やっつけ感が溢れている。
ともあれ、少し目立ちはしたものの、目まぐるしく人々が入れ替わるこの屋台では、そんな事を気にしている程暇ではなく、忙しく働いているうちに……閉店である。
客の中には魔法先生達もおり、その中でもとりわけ注文数がとても多かったのが弐集院光というふくよかな男性教諭であった。
彼の始動キーはニクマン・ピザマン・フカヒレマンであるが、韻を踏むのが大切というのは知っているが、これは中々粋だと私は思う。
変えたほうが良いと言われているらしいが、分かりやすくて良いと思うし、変える必要なんて無いと思う。
何はともあれ、無事に閉店し終わった所、調理を担当していた四葉五月がおもむろに微笑みながら肉まんを一つ差出してくれた。
優しい。
ありがたく受け取り、カウンターの席に座って食べさせて貰った。
5000年史上初の食事……こんなに美味しいとは思わなかった。
そんな所、不思議そうな顔で古菲が尋ねてきた。

「坊主、美味しすぎて泣いてるアルか」

素体で泣く事になるとは思わなかったが、確かに紛れもない感動があった。

「はい、美味しいです」

四葉五月さんは微笑ましい顔をしている。

「翆坊主に、そう言てもらえるとは光栄だネ」

海坊主のような呼び方だが……超鈴音はやはり私の正体に気づいていた。

「それはどうも。今日のアルバイト代はいらないので今度話を聞いてください。私はいつでも大丈夫なので、日時は、言っておいてくれれば構いません」

サヨの方に一瞬視線を逸らして見せたが、伝わった。

「……それなら学園祭が終わったら連絡するヨ」

こうして超鈴音との流れ作業的ではあったが、とにかく初対面を終えた。
そして、神木の中に誰かに気づかれる事もなく戻り、来る日を待つのみであるが……。
今日の超包子には絡繰茶々丸がいなかった。
というのも、彼女はマスターであるエヴァンジェリンお嬢さんが所属するサークルの発表会に一日中付いていたからである。
ここ6年程、麻帆良大学でお嬢さんは永遠の美少女として大学で有名になっている。
事情を知る一部の魔法使いの先生達からすればあまりいい印象を持たれていないようであるが、そういった裏の人達の想いなど霞むぐらいに、表で人気を得ているのである。
基本的に日本の伝統芸能を好む傾向にあるお嬢さんは茶道や囲碁を初めとし、大学からは舞などにも手をつけ、少し大学生としては身長が低くはあるが、その大人びた振る舞いと、金髪の外国人がひたむきに練習する姿に誰もが心を打たれたという。
そういう訳で、近衛門に近しい魔法先生の殆どは彼女のこの12年間の行動で、闇の福音という二つ名は、そもそも最初からそんな風に見えないというのもあって、どこへやら、とても安全で大人しい人物として定着しているのである。
外部から来る魔法使いの目に止まることもあるが、誰もその周りの空気からまさか闇の福音だとは思わず、大事には至らない。
魔法を使わずしてある意味認識阻害を展開しているようなものだ。
以前、朝倉和美が自己紹介の時に質問していたのは彼女にとって当然の疑問と言えよう。
世界の歴史では中学を卒業する度に周囲の人物の記憶を処理して、再び中学1年からやり直しであったのであるから、その時間の流れのお嬢さん達はどのような心持ちだったのだろうか。
また、毎年学園祭の時期には図書館島に住まうクウネル・サンダースが分身をだしてそれを密かに鑑賞し、その後は私がイノチノシヘンの応用で彼にそれを記録として渡したりもしており、それを彼は勝手にニコニコと微笑みながら復習し続けているのが若干微妙であったりするというのは余談である。

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3日目の学園祭も相変わらず勢いがとどまることはなく、最後に向けていっそう盛り上がり、私達は学園祭を終えました。
空飛ぶ屋台で料理も美味しいということで学園祭後も営業を続けていく予定です。
そんな時超鈴音さんに、一言伝えられました。

「さよ、あの翆坊主に明日のクラスの打ち上げが終わったあと話を聞くと伝えておいて欲しいネ」

確かに明日は振替休日なので打ち上げが終わったら時間がありますしね。

「わかりました、超さん」

いよいよ、明日。



[21907] 3話 精霊と超鈴音
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 18:47
約束通り、超鈴音の元に会いに行き、結界を完璧に張った上、話しを始めた。

《超鈴音、この先、このまま未来に帰ると死ぬ事になります。自覚は無いかもしれませんが、長期間の時空連続体の跳躍による反動で、もう1度飛べば確実にそれは避けられません》

「キノ、いきなり何を!」

「は……精霊だからと何故そんな起きていないことがわかる。しかもその言い方……私はここに来て神木に精霊が存在する事を知たときも驚いたが、一体どうなているか説明して欲しいネ」

《サヨ、今から最重要機密への接続権限を許可しますので、確認して下さい。後で説明し直すよりは、今ここで必要な事は全て説明しましょう。私は超鈴音の生まれた時間軸の出来事を知っています。また、超鈴音が2001年に来て影響を与えた時間軸の結末も知っています。私は言ってみれば、更にそれよりも外側の時間軸から紀元前3000年にこの地に自然発生した、ある意味時間旅行者のような存在と捉える事もできます。異なる時間の流れで起きた各時期における事象・情報を発生した瞬間から知り得ている理由は私にも分かりません。これで今の質問には答えました》

「……俄には信じがたいが……分かった。今はそういう事で話を進めるネ。質問は後にして先に話を聞こう」

《私からも一つ質問をしますが……魔法を恨んでいますか?》

「……魔法を恨んでいる、カ。そう尋ねられると、私は……故郷が苦しむ原因となったのが、魔法が原因である以上少なからずそういう感情を抱いてはいるヨ。だが、あくまでも魔法は技術の一つにすぎない、恨んでも何の意味も無い事ぐらいは理解しているヨ」

《……分かりました。続けます。私の究極的な目的は、存在し続ける事であり、それが私、私達の存在意義。人間にとって意味ある言い方で言い換えれば、魔法を存続させ続けるのが目的という事です。超鈴音の計画は全世界に神木・蟠桃の魔力を利用した大規模強制認識魔法による公表だと既に知っていますが、それは超鈴音にとって次善策ではありませんか?》

「……質問に答えるならば、そうだネ。世界樹、神木・蟠桃を魔法世界に移植させるのが最善ではあるが、流石にそれは難しいし、それを行うと私が未来に帰れなくなる……というのもある。どうやら死んでしまうという話のようだけど。それで、その話をしてくるという事は、その次が重要のようだネ。続けて貰えるカ?」

《……来る魔法世界の未来を回避し、私の目的も達成する為に、協力者を探して待っていました。それが、超鈴音、あなたです。そして、手札も揃っています。神木・蟠桃の2本目の若木、それを宇宙空間に飛ばす殻。……察しはついたようですが、本来神木・蟠桃には種子など無い筈……でした。ですが私が自然発生したのが、認識は叶いませんが無数に存在する時間の流れの中でも極めて希少な確率で起こり得た例と捉えれば、有り得ないとは断言できません。そして、現にこうして存在もしています。超鈴音の究極的な目的は私とは完全に合致はしないでしょうが、方向は同じ筈です。そこで……協力してもらえるでしょうか……いえ、こちらから言い直せば、超鈴音に私から協力を頼みたいのです》

「…………少し考えたい……というところだが、強制認識魔法はどう考えてもやらせてもらえないようだし、それどころか……はは……どうもこの『私』は相当運が良いらしいネ。その確率とやらの巡り合わせに感謝したいぐらいだナ。世界樹についての情報は故郷でもそこまで多くは得られていなかたが……種子がある……カ。一つ質問するが……私に協力など頼まなくとも、若木があるなら魔法世界に植えればいいだけなのでは無いのカ?」

《その選択肢も絶対に無いとは言えない……正確には、言えなかったというのが正しいです。世界樹は、可能な限り、異界ではなく、この地球の存在する宇宙空間で、植生させるのが最善の希望です。魔法世界の崩壊とこの宇宙空間での世界樹の植生……この2つを両立するには、魔法世界に持っていくという選択は最後も最後の最終手段にとっておきたいのです。……これが理由です》

「……人間の感覚で思考を要求するのは意味の無い話だろうから思うところは言わないでおくが、つまり、荒野の火星に世界樹を植えるつもりという事カ?」

《その通りです。火星の環境を可能な限り整え、異界である魔法世界と実体のある火星の位相のズレを世界樹の位相同調魔法に耐えうる状態にするのが私の計画です》

「…………随分、簡単に言うネ。だが、なるほど、火星の荒野の環境を整えるカ……私は、それに、1人の火星人として個人的な感情も抱くナ。……ふむ、今更私の以前の計画も実行できそうにない以上……それに、そちらの計画の方が私としても、やれるならやりたい、いや、必ずやってみせるヨ。……これが私の答えネ。満足かナ?」

《ええ、ありがとうございます》

「しかし、火星人に火星のテラフォーミングのような事をさせるというのは、適役だと私も自分で思わないことは無いが、神木の精霊が選ぶ協力者が何故この『私』なのか、それも聞いていいカ?」

《超鈴音、あなたが一番裏切る可能性が低いからです。そして、未来の技術力、そして超鈴音、あなた自身の能力、それらがあれば、確実に他の時間の流れではありえない、全く新たな世界がやってくる可能性が充分にあると私は思うのです。それに、私は個人的に超鈴音という人物に興味があります。それもあって数千年待ちました》

「…………随分評価されているようだネ。私が一番裏切る可能性が低いから……カ。私に興味を持つのは勝手だけれど、余り人は信用しない方がいいヨ?」

《もしそうだとしたら……それはその時、私が後悔するだけです》

「はは、それもその通りだネ。いいよ、スケールもこれ以上ない程に大きいし、やてみせるヨ。翆坊主。それとも、キノと呼んだ方がいいかナ?」

《翆坊主で結構です。意外にその響きも悪くありませんので。キノと名乗った時もとっさの事で、木の精霊だから……という安易なものでしたし》

「それは安易すぎるナ」

《やはりそうですか。……さて、私に協力してくれると受け入れてもらえたので、私からも。超鈴音、私、私達はここで、あなたに積極的な協力をする事を約束します》

「はい、私も超さんに協力します!」

「ああ、分かったネ。この超鈴音、神木の精霊との約束を果たそう」



[21907] 4話 電撃作戦
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/24 22:01
昨日の超鈴音との対面の結果としてはようやく、始まりの地点に立ったという所であろう。
最重要機密情報を視たサヨは、他の時間の流れで「起きている」「起き得る」「起きた」といった表現のどれがあてはまるかというと難しいが、その全部ではない部分的な情報に驚いていた。
当然、超鈴音の考えていた計画というのは根本的変更を要する事となった。
そして、あの後、まず第二世代神木の火星への打ち上げ計画について内容を詰めた。
私達神木の能力について超鈴音に説明をした結果、超鈴音の100年先の未来科学技術力と魔分によるあらゆる電子ネットワーク介入能力を合わせて、麻帆良の発電所を初めとし関東地方全域を完全に制圧、学園都市結界もろとも落とし、並行して探知魔法の使用を不可能にする事となった。
完全に関東地方全域から照明が失われた段階で、時機を合わせて、地球の人工衛星、映る可能性のある日本に存在する米軍基地や自衛隊のレーダーに「ハッキング」をかけ関東地方の情報を改竄する。
改竄している間、華を最短距離で茨城県沖に一旦射出し、関東地方全域の状態を直ちに復旧。
その際、発電所のシステムに不備が元からあったように偽装するのを忘れない。
日取りは天候が非常に重要。
曇が空の8割近く占めているか同じような条件で雨が降っている夜中を狙いたい。
そして、茨城県沖への射出完了までを10秒以内で終わらせたい。
私達の勝手とはいえ、明確に動く以上、この作戦で死人が出るような真似は避ける必要があるからだ。
自家発電などには対処できないだろうが、病院施設に執拗に攻撃を加える訳にはいかないので仕方がない。
以上、これらの条件が満たされた後は、華を、太平洋深海を移動させ南極に近いところからの大気圏突破を試みる。
この際にも時機を合わせて人工衛星の情報を改竄する予定だ。
こちらも天候の条件は同じである。
この計画は、近衛門はともかく、魔法使い達はもちろん、世界に知られる訳にはいかない。
日本から謎の飛行物体が射出されたなどという事となると魔法だけの問題には済まないからだ。
後処理として、この事件を起こしたら地球のネットワーク回線、及びまほネットと呼ばれる魔法使い達のインターネットに電子精霊まがいの事を行い、情報操作を行う必要もあるだろう。

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さよがいて、神木に精霊がいるということを知った時から何かおかしいとは思ってはいたが、精霊自体が私と同じように時間跳躍に似たような存在として自然発生していた存在とは思わなかたヨ。
しかも数千年……話に聞けば5000年にも遡る所から始またなど、正気の沙汰ではないネ。
精霊だから問題はないのだろうが。
神木に精霊がいるからなのか、それとも、別の理由なのかは分からないと嘘か本当か、本人達もそう言っているが、神木の精霊に可能な事の説明をされた所、いかに驚異的な性能を持ているかが分かった。
火星と魔法世界の位相を同調させる事……その為の火星のテラフォーミング。
強制認識魔法で魔法を公表するだけよりは余程効果があるだろうナ。
しかも、火星に位相を同調させるという事は、結果として魔法を世界に公表するのと同義。
それを翆坊主も理解しての事だろう。
それにあたっては、まず私はその既にあるという第二世代の神木を火星に打ち上げるために私の持ている技術を利用したハッキングプログラムの整理からはじめないといけないネ。
しかし、植物であるというのに、魔力……翆坊主は魔分と呼んでいるが、その魔分で私の用意したプログラムを電子精霊と同じ要領で行使する事ができるというのは、電子精霊があるから有りだとは思うがかなり違和感があるネ。
神木が存在し続ける事が存在意義という事はつまり、魔力……魔分の生成をし続ける、ひいては魔法を残す事が目的とも取れるが、今科学の方が必要にされているのは皮肉な話だナ。
まあ100年前の防衛システムなんてザルのようなものネ。
この超鈴音が完璧な仕事をしてみせるヨ。
ただ……今は、私が未来に帰ると死ぬという件については……考えないでおこう。

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超鈴音との通信は魔分で脳に直接言葉を伝える方法で行っている。
念話……に近いようでそれとは明確に違う。
というのも、魔分による通信は魔分を加速させて行う事ができ、体感時間は加速の速度にもよるが、長く話しをしても、現実時間での一瞬しか時間を要しないからだ。
脳内に直接響くため超鈴音は少し辛いと言っていたが我慢してもらうしか無い。
しかし、今までに前例が無いとはいえ、魔分の加速した状態での会話に超鈴音はすぐに対応してきたあたりその能力の高さが伺える。
因みにこの会話にはサヨも作戦に参加する以上参加している。
……着々と100年先の技術と木の能力との収斂を行っていく日々を続けていく一方、超鈴音とサヨ達の日常生活はというと、魔法関係者に怪しまれないよう今まで通り日々を過ごしている。
麻帆良祭が終わり、超包子は平常営業するようになり、四葉五月、古菲、絡繰茶々丸達とも働きながら資金を稼いでいる。
その店には先生達も良くやってくるようになり、とりわけ弐集院先生はその頻度は多いが、タカミチ君や新田先生、瀬流彦先生なども度々顔を出している。
四葉五月は先生達の間ではさっちゃんと呼ばれる人気者となっているほどである。
彼女には人徳があるのだろう。
ところで、麻帆良祭ではエヴァンジェリンお嬢さんが大学のサークルで発表会をしたが、お嬢さんが今麻帆良女子中等部に在籍しているという事で、新聞部の記事にその事も載っており、撮影された写真が掲示されていた。
それが素敵だったことで、1-Aの生徒達の間では話題になったのだが、お嬢さんは相変わらず休みが多く、その時はいなかった。
麻帆良祭も終わり次に彼女達に何があるかと言えば、それは期末考査。
中間考査の時と同じく、超鈴音達はまた1位2位3位を独占するのではないか、と思っていたところ、結果は見事にその通りであった。
しかし、今回新たな変化というと、雪広あやかは前回5位であったのが僅差の点数争いの中で4位に食い込んだ事だろう。
彼女はなかなかの努力家である。
そういえば彼女は華道を嗜むようで、学園祭でエヴァンジェリンお嬢さんにいたく感銘を受けたらしいが、休みの多さもあって評価は微妙らしい。
そう、雪広グループの財力とその情報網と手を組めば、これからの計画においてかなり有効なものとなるのではないだろうか。

……そんな事を考えつつ、期末考査が終わった7月下旬。
超鈴音の仕事は早く、ハッキングプログラムという……予定していたものが完成し、私達はそれを電子精霊の応用で神木に取り込み、既にハッキング準備も完了、後は天候待ちという状態に入った。
作業を終えた超鈴音は魔分通信のやり過ぎの結果、脳にかなりの疲労が起きてしまい、頭痛を癒すべく、じっくり休み始めた。
超鈴音がプログラムを完成させた時にはまず一仕事やり遂げたという達成感溢れた顔をしていたように思うのだが、どうもアレはマッドサイエンティストのソレに近いような気もした。
ともあれ、天候待ちであるが、台風が発生するものの中国大陸の方にそれていくことが多く中々上手い日取りが訪れなかった。
昼はよく曇って後少しと思ったら夜には月が見えていてしまっているという形で惜しい日もあったが、そのまま7月の末も過ぎ8月、本格的な夏期休業に入った。

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夏も本番ということで夏季休業ですが、幽霊やっていた期間が長すぎて、やっぱり人間の身体は不便だと感じます。
外が暑すぎて干からびそうです……一応植物の仲間ですし。
魔分を使って保護すればいいのですが、私が魔法使うのも魔法使い達の人達に知られる訳にもいかないので、そうすることもできず、結局夏場は寮に身体を放置してばかりいました。
ある時3人共出かけていて寮室に冷房をかけておかなかった時が一度あったのですが、あともうちょっとで素体が熱中症になりそうな健康状態になって警告が出たのには焦りました。
身体は大事ですけど暑いのは嫌です。
私は精霊ですが、悩み多き年頃というやつです。
真夏だとこの熱い中、肉まんを食べに来る人も少なくなりましたが、例の先生は例外でした。
汗をかきながら幸せそうに食べる姿が印象的です。
溜まっていた映画を映画館で全部、一銭も払うこと無く精霊体で見て、そのまま龍宮さんに報告しに行ったのですが、ついつい寮の部屋をすり抜けて会いに行ったのでびっくりしていました。
隠蔽度合いの問題で桜咲さんは気づいていなかったので龍宮さんの様子を見て「龍宮、突然変な動きをするな」と言っていました。
ごめんなさい。
その後桜咲さんにも見えるようにしたのですが「1-Aは最初からおかしいクラスだとは思っていたが、平然とその姿を見せられると現実感が逆にないな」と、しかも仕事モードの口調かつやや諦めモードにコメントしてくれました。
とりあえず、気にしても仕方ないです。
とにかく映画の評価をしっかり龍宮さんに報告した所、龍宮さんが少し興味を持っていた映画は「ハズレだったのか、それは助かったよ」と言っていました。
人の役に立つというのは良いことだと思います。

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相変わらず精霊というより幽霊としての方が板についているサヨは好きにしてもらうとして打ち上げの日取りが決まった。
結局プログラムの完成から3週間かかってしまったがこうして実行に移せるので問題は無い。
超鈴音は頭痛もすっかり治り、どうなったかというと、副作用があった。
葉加瀬聡美は元々マッドサイエンティストモードに切り替わると高速で話すが、それを超える速度で口が練習してもいないのに動くようになったのである。
というのは、まず聞き取れる人間がいそうにないので何の意味も無いし、語弊もあるが、言霊としては完璧に成立しているので、魔法を使う事になれば、その際詠唱速度がおかしくなる可能性が見えてきた。

……そして、その打ち上げ予定日の2001年8月16日午前1時半。
天候は関東地方全域を覆う雲によって良好。
役割分担は私が魔法対策と華の射出シークエンス……超鈴音と会話していると横文字がどんどん増えていくのだがそれはともかくとして、サヨが広域ハッキング担当である。
正味数秒間に渡る電撃作戦の幕開けである。

《では開始しますよ》

《はい!》

神木中層でサヨと共に、プログラムをただ只管純粋に実行する状態に移行した。

《関東地方全域に電力を送電する可能性のある水力、火力、原子力発電所を規模にかかわらず推定200箇所にハッキングプログラムによる介入を開始。2秒で制圧完了》

《並行して探知魔法の使用を全域に渡り使用不可状態へ移行、学園都市結界の解除を実行。2…1…》

《2…1…関東全域の照明の無力化を確認、暗度良好。第一段階完了。続けて軌道衛星上の人工衛星の映像の改竄、軍関連のレーダー機器類の情報の改竄開始。推定2秒で制圧完了》

関東全域から送電線からの供給を受けている証明という証明が全て消え、闇に包まれる。

《有機結晶型外宇宙航行外殻の茨城県沖への射出シークエンスを開始。力場展開準備》

《2…1。制圧、第二段階完了。全ての映像、その他関連機器の情報改竄を確認》

華を記録する可能性のある電子機器類も全て無力化。
射出準備は整った。

《力場展開完了。華の射出開始。3秒で目的地に到着。3…2…1…茨城県沖への着水を確認。力場展開によりソニックブームの無効化を確認、地上に被害は発生せず。着水による津波の発生は許容範囲内、付近に船舶の存在は無し》

暗闇の中を華は一気に駆け抜け、茨城県沖の海の中へと突入した。

《続けてハッキングの最終段階に移行》

《学園都市結界の復旧、探知魔法を使用可能状態へ移行。2…》

《1…システム不備の偽装を完了》

《以上、全工程の完了を確認。作戦終了》

情報を改竄した電子機器類、発電所各所、学園都市結界の復旧……全て無事完了。

《はぁー、上手くいきましたね》

《ええ、そうでないと困りますが》

《流石鈴音さんの渾身の作ですね。完璧でした。何か機械みたいになるのって変な感じもしましたけど》

《実際実行するだけで、感情は不要ですからね》

超鈴音の未来技術は期待していた以上に凄いが、超鈴音自身も適切な形でそれを纏め上げる能力があるというのはそれ以上に凄い。
本人が現代の防衛システムなどザルと言っていた通り、本当にザルのようだったが、それもプログラムの恩恵である。
いくら私達に能力があるとはいえ、技術を開発する能力があるわけでも無く、こういう所は人間の凄さを実感せずにはいられない。
この後は、ネットワークの情報監視をしつつ適宜情報操作、そして華の南極到着次第、今回と同様に天候の確認を待って、今度こそ、大気圏突破を行う。

さて……この電撃作戦による日本政府の対応は発電所全域の一斉停止という事態を重く見て、何者かからハッキング攻撃を受けた事を公表しないというものであった。
そして、国防の問題点として全電力会社にハッキング対策の強化に対する通達が裏でなされもした。
一方、麻帆良学園都市では近衛門達の緊急招集があったが、探知魔法の無効化は学園都市結界の崩壊による影響だろうという結論がなされ、学園都市結界の崩壊は発電施設の停止の影響であるとも考えられた。
因みに超鈴音は当夜、麻帆良大工学部で葉加瀬聡美達と共に徹夜していたため、魔法使い達が彼女を疑うことはなかった、最初から無かった。
ただ、ネットワークに介入した所、その掲示板なるものでは、毎晩夜遅くまでパソコンを起動している人たちの嘆きの声が書き込まれていた。
突然の停電の影響で環境が悪かった人のデータがお釈迦になったとか。
それに伴い、日本政府はサイバーテロを受けた事実を隠しているのではないかという憶測が飛び交ったが、規模があまりに大きすぎるため真相は迷宮入りであった。
犯人は私達だが、捕まる事は有り得ない。
まほネットの方は「流石旧世界の防衛網は大したことない」などと勝手に話が違う方に向かっていったので特に問題は起きなかった。
ただ、麻帆良の学園都市結界もあっさり落ちたことに対して改善するべきだろうという意見もあり、この後麻帆良学園都市内の電力システムの強化が図られる事にもなった。

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……翆坊主とさよは盛大にやったようだネ。
私の技術を使っているのだから当然の結果だが。
魔分通信というのは加速しているという説明を受けたが、実際の通信中はカシオペアによる擬似時間停止に似た状態になるのが新感覚だたナ。
魔分魔分と言ているが、魔法の分子として捉えると量子力学にも通ずる所があると思うネ。
魔法の念話とは違う形で通信技術に応用できそうにも思えるナ。
しかし、あの通信のお陰で前よりも思考速度が格段に早くなり、その副作用なのか、無意識のうちに高速で言葉の音の羅列のようなものを話している……実際大いに話しているつもりなのだが、あれには驚いたネ。
ハカセと会話した時私自身、若干引いてしまたヨ。
ハカセが「超さん何言ってるか全然わかりませんよ」と言ったからわかったのだけどネ。
しかし、2本目の神木を保管している華という外殻……要するに宇宙船のようなものなのだろうが……流石に驚きの連続もここまで来ると感覚が麻痺してきそうだヨ。
だが、それゆえに、飽きないからよしとしておくカ。

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さて、後は華の大気圏突破であるが、遅くてもいいわけではないがそこまで心配する必要もない。
地球が火星に最も接近した日は今年2001年においては6月21日であり丁度麻帆良学園祭の開催時であったが、その際の直線距離は6734万㎞である。
この話は世間でも話題になり当日は観測を行った人が多々いただろう。
故にその付近で華を飛ばすことが不可能だったのも事実。
既に8月となっているが、地球と火星はおよそ780日の周期で接近を繰り返す。
8月18日の今日はそこから59日が経過している。
時に華の最高速度は、km換算に直すと、秒速100km程度という出力が出せる。
もし力場展開できずソニックブームを無効化する機能がついていなかったら、秒速300mの音速の壁を越えるだけで地上のガラスに影響がでるのであるから、今頃途方も無い被害が地上に出ていたと思われる。
絶対に日本にそんなものがあるなどと知られる訳にはいかない。
同時に、その出力があるからこそ、茨木県沖までほぼ最速の速度で射出できたのであるが……。
華の移動可能距離は1日につき864万kmであり、今から打ち上げれば遅くても10日程度で到着である。
地球の現在の化学燃料を利用した技術では数ヶ月を要するとの事だが、その距離もあっという間である。
ネットワークに介入して調べてみると、ある研究機関の発表によると、比推力可変型プラズマ推進機(VASIMR)であるとか原子力ロケットなどというものが実現すれば……という仮定の話であるが、火星には2週間程度で着くことが出来るであろうとされている。
……が、これは先の話であろう。
宇宙開発も大いに結構だが、魔法世界と火星は同調させる予定なので星間移動ならばゲートポートが主流になり、どこまで必要とされるのかは分からない。
いずれにせよ、華は学校が始まる9月には着く。

超鈴音には華がどれぐらいの速度で火星に辿り着くのか教えていないのだが……教えたらどうも興味があるから見せて欲しいと言ってきたかもしれない。
これだけ、性能が高いと呼べる華であるが、周囲の風景と同化する、光学迷彩などという事はできない。
……正確には姿を消して飛ぶ事自体を予定していないから、そういう風にできているだけの話なのであるが。
光に照らされれば華は夥しく輝くので、目立つのは間違い無く……結果として曇りの日をわざわざ選んだ。
また、直接打ち上げると雲がどうしても吹き飛んでしまい、人工衛星の改竄を長時間続けなければいけなくなるので、海に一旦射出するという方法を取った。
単純に打ち上げるだけなら大気圏およそ500kmの突破まで5秒で済むが大気圏突破の際、力場で摩擦を無効化するといっても、突破するときにはある程度光ってしまうと思われるのでこの作戦もやはり取れなかった。
力場力場と言っているが、これに近いものは魔法使い達も使っている。
浮遊術とよばれる、その名の通り空中を浮遊する技術がその典型だ。
さて……南極近くからの大気圏突破であるが、天候を同じ雲りの状態を狙いつつ今度はまず雲の高さまで一旦上昇した後、雲を四散させないように突破、そして再加速するという方法をとる予定である。
これで南極の観測者達に仮に見つかってもあきらめるしかない。
国籍不明の謎の巨大な華が飛んでいったという事が南極から報告されたとしても、捏造映像、捏造写真などと言われるのが先の山だと思うのだが……実際の所、祈るのみである。

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早足ですが、その後、華の打ち上げは成功しました。
大気圏を突破する瞬間の華の姿は幻想的でした。
人工衛星の映像は改竄しましたが、南極地上の一部の人に発見されてしまったのは痛手でしたが各国政府の見解は「どこの国でもない上そもそも人工衛星に写っていないのでコメントは控える」というものでした。
世論とネット上では人間はやはりこういう話題が好きなのか、色々ありましたが、9月になって学校が始まってすぐ、朝倉さんの属する新聞部の記事には今回の事が書かれました。

[サイバーテロの犯人は地球外生命体か]
数日前の関東地方全域で起きたサイバーテロと思われる大規模停電と南極での謎の飛行物体の目撃情報は果たして関連性があるのだろうか。仮に地球外生命体がいるとして、日本を襲ったのは地球の技術力の高さを確かめるものだったのだろうか。南極での謎の飛行物体は空に飛んでいったという情報だが、もしかしたら地球に興味を失って帰っていったのかもしれない。真実がいずれ明らかになることを期待したい。

……という内容で、記事自体も憶測ばかりで書かれていて、信憑性が薄いとクラスの皆さんは言っていましたが私達としてはこういう勘違いをしてくれて助かりました。
後で鈴音さんに部屋で「サヨ達は私と同じ宇宙人らしいネ」と初めて知ったよ、そんなこと、というような表情で言われました。
……鈴音さんの技術がなければこうして華をうまく打ち上げて、火星に到着させることもできませんでしたから、何かお礼がしたいです。
できるとしたら華から観測された宇宙空間の移動映像なんかが良い気がしますが……そもそも、見せられるのでしょうか。
神木・蟠桃から離れても華との繋がりは深いもので周囲の映像も逐一共有することができています。
この10日間は本当に楽しかったです。
やろうと思えば精霊体ならあちらに転送させられるみたいで直に宇宙空間を見に行く事もできるみたいですけど、情報共有はできているのであまり意味はないかもしれません。

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来る某日、華は凡そ10日間の旅を終え、火星へ到着し、今は既に神木を定着させる場所を探している。
火星に接近して改めて分かったが、魔法世界と火星の地形は非常に似ている。
魔法世界の地図はまほネットに介入できるので見たことがある。
ただ、地球から見れば、この魔法世界の地図は上下反転する必要がある。
魔法世界と位相を同調した場合北極と南極が逆になるため魔法世界の地図は方角が改められることになるだろう。
位相を同調したら、これまで資金を投資して過去に火星探査機を到着させたソビエト連邦共和国とアメリカ合衆国は、今までの苦労は……と思うかもしれないが……関係ない。
場所を検討し続け……どこに神木を定着させるか考えた所、魔法世界でいう龍山山脈のあるあたり、火星では北極洋に決定した。
そうする理由はメガロメセンブリアのある南半球に近いのは危険性が高いからである。
遠いと言っても残念ながらこの地域、そもそもメセンブリーナ連合領でもあるので、そういう意味ではそれほどの効果は無いかもしれない。
しかし、海を挟んでいるだけまだ良い方であろう。
位相が同調した時には、現在北極洋である所も魔法世界側の地形がそのまま反映されることを予定しているので、沈んだままと言った事にはならない筈だ。

何はともあれ、いよいよ超鈴音風に言えばテラフォーミングの始まりである。
華を大地に着陸させた後、華から亜空間内で今まで育成していた若木を魔分で保護しながら不毛の大地に根付かせる。
同時に華から余裕がある分だけ一気に大気中に向けて魔分を放出する作業を開始した。
とりあえず、数ヶ月を要するので随時観察が必要である。
位相が神木によって同調できるなら、単独で魔法世界側から火星の大地へと位相を突き破って向こうの住人がやってくることはまずない。
そもそも、魔法世界が火星を触媒にしていることを知っている人間の数が余りにも少ない上、そもそもからして、テラフォーミングを開始したこの事実にまだ気づかないだろうし、仮にやってきたとしても人類なら今の状態の火星に生身ならば酸素不足で死亡する。
現在酸素は火星の大気中では0.13%しか含まれていない。
大気組成の95%が二酸化炭素である状態で、難なく成長できるのは仮にも植物である神木のみ。
豊富な水分と地中活性のためのバクテリアは、同じく華の亜空間内に積載してきているのでこれらを利用しつつ、5000年前の地球と同じく地下への魔分散布を行うが、今回は気合を入れて強制的にテラフォーミングを敢行する。
楽なのは火星が地球に比べて表面積が1/4であること。
魔分が行き渡るのには貯蔵してきている分も含めて数ヶ月で完了するだろう。
問題は重力が地球の4割……40%程度しかないことだが、これについてはある知り合いの力を借りたいと思う。
度々交流を持ってきたし協力はしてくれる筈だ。

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……ここ最近、私は随時逐一入ってくる火星の情報を視るという楽しいことが日課に加わりました。
第二世代の神木の様子です。
魔分を元々大量に込めている上、樹高50m程で、出力も充分、早送りなのではないかという速度で大地に、目には見えない異変を起こしています。
日常生活は人外魔境の巣窟と最近呼んでも構わない気がしてきた1-Aとしての平均では平和な部類に入ると思います。
秋と言えば体育祭であり格闘大会ウルティマホラの時期。
私は過去の麻帆良武道会の映像を見たことがあるので、確かにそれと比べるとそれほど大した内容ではない、ということになってしまいます。
でも魔法を使うような試合ではなく、純粋な格闘技としての大会なので比較の対象にすること自体が間違いなのかもしれません。
実は、私、例の合気柔術が使えるので出ようかと思っています。
身体が弱いという噂が定着しているのを払拭するいい機会になる筈です。
この大会の良いところは、怪我はあっても大事には至らないというところが安全で、私向きだと思います。
古さんも、鈴音さんも中国武術研究会の一員として出場するので、どうせなら便乗して一緒にということです。
そのため大分、麻帆良も気候的に涼しくなってきて、また人気が上昇中の超包子の営業が終わった後、頻繁に2人に相手をしてもらっています。

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凡そ、1年ぶりにクウネル・サンダースが住まう図書館島にやってきた。

《ごきげんよう、クウネル殿。およそ一年ぶりですが相変わらずのようですね。今年の分のエヴァンジェリンお嬢さんの学園祭の映像をと思って来ました》

「……おや、学園祭が終わったらいつも間もなくやってくるので今年はこないのかと思って心配していましたよ。キティの記録を……ですが」

このやりとりも大分慣れたものであるが、性格が悪いと言われるのも無理は無いと思う。

《暇だからといって若干拗ねないで下さい。ここ最近少し忙しかったもので、勘弁して頂きたいです》

「おや……精霊の仕事なんてただ視ているだけだと思っていましたが、そんなこともあるのですね」

《……不毛なので、早速イノチノシヘンをどうぞ》

「失礼しました。では早速頂きますよ。キノ殿も以前に比べると大分私に対して対応が軽くなりましたね」

《私は元々ですが、お互い一箇所に閉じこもっているというのは似たようなものですからね。……今回はこれだけではなくある頼みがあるのですが聞いて頂けますか?》

「ええ、話す相手も門番の彼女ぐらいしかいませんからいいですよ」

門番の彼女というのは司書殿の住まう場所の入り口あたりを徘徊し続けている守護竜の事である。

《……知能があるからいいとは思いますが、いわゆるペット相手の老後のような生活ですよね。いえ……なんでもありません。頼みというのは重力魔法に関する情報の提供なのですが》

「……精霊であるあなたが魔法を使う必要があるとは意外ですね。最近忙しいというのはどうやら、その辺りと関係がありそうですね。……いいでしょう、この数年の暇つぶしにわざわざ付き合って貰っていますので協力しますよ」

《そう言ってもらえると信じていました。感謝します、クウネル・サンダース殿》

「はて……もしかして先日大停電を引き起こしたのはキノ殿の仕業ですか。私のパソコンのデータが一部飛んでしまって困ったのですが……」

《……そう疑われると否定しても意味が無さそうですから、好きに判断してください》

司書殿も被害を受けているとは、そこまで把握はしていなかった。
……今回は目的があるので、重力魔法に関する情報を手に入れるまでは発言には注意しよう。
ともあれ……こうして最後に核心をつかれるも、重力魔法に関しての情報を得られることになった。
火星の重力不足を解決するための足掛かりとなれば幸いである。



[21907] 5話 図書館島の司書
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 18:49
私は2つ寄る必要のあるところのまず1つ目、近衛門のいる女子中等部にある学園長室に来た。

《近衛門殿、お元気ですか。この前の大停電の収拾は大変だったと思いますが……》

主犯は私達だから、何を知らない振りをと言ったところだが、魔法先生の総意はともかく、近衛門個人は気づいてると思う。
あの司書殿もそう思うのだから、我々の存在を実際に見て知っている人間はそうであって何らおかしくない。

「キノ殿、また突然ですな。確かに色々後始末が大変だったが、あの停電の『お陰』で学園結界が強化されることになったのも悪いことではなかったの」

はっきり気づいているとは答えないがお陰でというあたりの言い方からして気づいているのだろう。
いつもこういう事に関して私には深く聞いてこないところが近衛門の良いところである。

《最近は麻帆良の警備も今でこそエヴァンジェリンお嬢さんが居ますが、昔のあの輝かしい全盛期の頃のようにとは言えませんね。一部十分に実力があるとは言え年端もいかない学生の手を借りなければギリギリというのは見ていて私も思う所あります。……今回はその辺りで話があるので聞いてください》

「キノ殿に、それを言われると恥ずかしいものじゃな。麻帆良も表が豊かになって来た一方、裏がこの様というのは皮肉なものじゃ。話というのはもしや手伝って頂けるということですかな?」

《ええ、精霊としてはおいたが過ぎたと反省していまして……。それにそろそろせめて西洋魔法と東洋呪術の間だけでも争うのをやめて頂かないと、中に困ったものがいつの間にか紛れ込んでいる……ということになってしまいそうなので》

「ふむ、やはりあの停電はキノ殿の仕業だったのじゃな。いつか真相を教えてもらえると信じておりますぞ。……儂も曾孫の顔を見るまでは死ぬつもりはないでの。西と東はもう長年争っておるが……婿殿がいるといってもなかなかままならないものじゃ」

今70代半ばの近衛門ならなんとか曾孫の顔も早ければ80代には見られるかもしれない。

《近衛門殿には言っていませんでしたが、私はそれなりに自由に飛んでいけるので、近いうちに、その関西呪術協会の長である詠春殿に会いに行こうと思っています》

「キノ殿にしては珍しい。……やはりこの先何か動きがあるのですかな。……そういえば特に興味を持っておられた超君の屋台で今のキノ殿によく似た容姿をした子供を見たという魔法先生がいましたぞ」

分かってはいたが……問題はない。

《これはお恥ずかしい。それで、話ですが、麻帆良防衛の警備として相坂さよの時と同じく身体の用意がありますので、直接参加させてもらいます》

「ああ、その相坂君じゃったが、学園側としてもあれには助かりましたぞ。長年座らずの席として残しておくことになったのが解決できたのは良いことじゃった。うっかりタカミチ君には伝えてなかったせいで始業式の初日にはどういう事かと聞かれて困ったが」

違う方に話が飛んだ。

《何にせよまた彼女が生活できることになって良かったということです》

「そうですな。おっと警備に参加して頂けるのはありがたいですが、まさか戦闘に直接すると……?」

《私が相手をしようと考えているのは、召喚術師全般です。彼等の魔力封印処理を行ないたいと考えています。直接戦闘はしませんので、できれば誰か、できるだけ、いわゆるマイペースな魔法先生と一緒に行動させてもらいたいですが》

「なるほど……意図は分からなくはないですが、いや、キノ殿が封印処理をしてくれるならば防衛もかなり楽になるじゃろう。して、魔力封印をされた噂も捕まえて送り返し、広めさせれば迂闊に手を出せなくなるという訳じゃな。……その魔法先生ならちと強面じゃが神多羅木先生がいいかもしれんの」

常に黒スーツにサングラスのあの先生か。

《……大体そんなところです。行動する際の身体ですが、今のこの見た目よりもっと小さいもの、お嬢さんのチャチャゼロぐらいの大きさですかね、頭にでも乗せてもらえれば構いません。勿論私の存在は近衛門殿とお嬢さんの合作とでもしておいてください。解けない魔力封印なんて出処が気になるはずですから。普段は……そうですね、身体の安全が気になりますがお嬢さんの家の何処かに放置しておこうと思います》

「ふむ、あい分かりましたぞ。エヴァにも儂から言っておくが、キノ殿もこれから会いにいくのじゃろ?」

《ええ、そのつもりです。そういう訳でこれからは今までより、頻繁に会うことになりますが、よろしくお願いします》

「こちらこそ心強い味方ができて助かりますぞ。一応……報酬はどうするかの?」

《情報隠蔽だけで結構です。お金なんてもらっても私に使い道も無いですから》

こうして、まずは近衛門への話を済ませた。
……一緒に行動する魔法先生がマイペースな方がいいのは、魔分容量の封印処理自体は別におかしいものではないが、私がやるものは、解けはしない、とあまりにも異端なので、そういうものを気にしない、人間の方が一緒に行動するなら尚更都合が良いからだ。
次のエヴァンジェリンお嬢さんの元には精霊体で会いに行っても良いが……既に身体は、チャチャゼロサイズを一体用意してあるので直接訪ねる事にする。
……人間の家の玄関に立ってインターホンを鳴らすのも初めて。
小さくしすぎて手は届いたもののギリギリだった。
背伸びしたい年頃では……もうない。

「こんな時間にどちら様でしょうか」

出てきたのは絡繰茶々丸だった。
そういえば、私がここに来ると緑色の髪の毛の率3/4になる上……この身体の名前も近衛門との合作という事でお嬢さんに付けてもらう事になるのだが……どういう名前を付けてくれるだろうか。

「翆色の幽霊……と言ってわかると思います、茶々丸さん」

「マスターに伝えて参りますので少々お待ちください」

そうして戻っていった絡繰茶々丸がまたすぐに出てきて、招き入れてくれた。
場はエヴァンジェリンお嬢さんの前へと移る。

「……既に近衛門殿には話してありますが、これからこの身体をエヴァンジェリンお嬢さんの家に置いて頂きたいのですが」

「いつもの姿よりも更に小さくなってどうしたかと思えばいきなりなんだ?」

「ええ、麻帆良の警備に個人的に参加しようと思いまして、身体を用意してきたのですが、直接戦うわけではありませんので、ある魔法先生の頭の上に肩車のような形で張り付こうと思ってこうなりました」

「マスター、お茶が入りました、お客様もどうぞお召し上がり下さい」

絡繰茶々丸がお茶を入れてくれたが、肉まんという食べ物らしい食べ物を食べたのも先日が5000年史上初だったが、水分の摂取もこれが初めてだ。

「お茶を飲むのは初めてです、ありがとうございます茶々丸さん。……美味しいですね」

「しかし、そのサイズだと本当にチャチャゼロみたいだな。で、精霊が人間同士の争いに介入だなど、どういう風の吹き回しなんだ?」

そこへチャチャゼロがやってきた……。

「ケケケ、御主人ナンダソノ俺ミタイナチッコイ奴」

「これはただの容器に過ぎません。切っても面白くないです。……お嬢さん、私の個人的思惑もありますがこれから何かが起こるかもしれないのでそのため……という事です。そこで、この身体はお嬢さんと近衛門殿の合作ということにして警備の方々に紹介することになるので名前を付けて頂きたいのですが」

「……なるほどな、まあ好きにするといい。それより私が名前を付けていいのか。……いいだろう。そうだな、チャチャゼロ、茶々丸と来たから……次は茶々円だな。これでお前は2人の妹だな」

楽しそうな顔をして実にしてやった、という満足感を醸しだしてくれたのは良いが……。
茶々シリーズという事で、ゼロ、丸と来て円とは……中々お嬢さんも安易だと思う。
麻帆良の高級学食焼肉屋のJoJo苑というものがあるが響きが似ている。

「ケケケ、マタ妹ガ増エタナ」

「マスター、私も妹ができたのですね」

因みに、私にそもそも最初から性別など無いが、この身体はお嬢さんの家の構成を考えて一応性別は女性になっている。

「お嬢さん……とてもいい名前をありがとうございます。大事にします。……つきましてはこの身体を放置できる手頃なマットでも用意してもらえるとありがたいです」

何とも言い難いが、チャチャゼロと絡繰茶々丸は「もう妹」という反応をしていて……正直反論する必要も無いし、好きにして欲しい。

「そのあたりは茶々丸、頼んだぞ」

絡繰茶々丸がこの家にやってきたのは良かったらしい。

「わかりましたマスター。茶々円、ついてきてください」

こうして警備用素体はエヴァンジェリンお嬢さんの家に放置される事になるのだった。
……それから3日後。
夜、近衛門とお嬢さんの口裏合わせも済み、警備の人々との顔合わせとなった。

「じじぃ、こいつを紹介してやれ」

「先生方、この小さな子は茶々円君じゃ。エヴァンジェリンと儂の作った傑作だから能力に関しては心配しなくて良いぞ。基本的に直接戦闘はしないが、主に召喚術師を相手にすることを想定しておる。警備の際には神多羅木先生に預けるので、先生はよろしく頼むの」

近衛門も名前が茶々円になった時は、名前に思うところあるようで、微妙な顔をしていたが、もう慣れたらしい。
実はこの3日で私自身もやっぱり意外と悪くないかもしれないと思い始めた。

「紹介頂いた茶々円です。皆様の日頃の負担を減らす為に頑張りますのでよろしくお願いします。神多羅木先生は私を頭の上に乗せて下さい。邪魔かもしれませんがどうぞよろしくお願いします。また、私の身体は壊れても修復可能ですので、さほど気にしなくて結構です」

どうも、小さすぎる子供の姿をしているので視線が痛いが、気にしない。

「学園長、私が責任を持って警備をしますので任せてください」

神多羅木先生はサングラスと髭のお陰で本当に強面であるが、サングラスを取ると、そうでもない。

「それでは今日の警備も皆頼むの」

そして、私のある打算を抱えた計画を伴って、強面の先生が頭に子供を乗せて警備するという光景が麻帆良の夜にそれなりの頻度で加わる事になったのだった。

「神多羅木先生、前方200mに呪符使いと思われる反応があります。どうやら鬼を召喚するつもりのようです」

「分かった。茶々円君。確かに完全にサポート型のようだな」

「ええ、その代わり直接戦闘能力はほとんどないですが。しかし麻帆良は意外とタバコを吸う先生が多いんですね」

「スーツに匂いが付いているのがわかるのか」

「これだけ近ければ。もちろん、気になさらないで結構です」

少しだけ会話を交わし……程なく。

《そろそろ近いですが、お任せします》

標的が近くにいるので念話を使用する。
20体近い鬼が確認できる。
神多羅木先生は射程範囲内の中距離から両腕を高速で動かし、気を次々に放っていく。
先生の動きに対して鬼の動きが鈍い。
一匹倒しきれずに懐に潜り込んできたが、面倒なので召喚による繋がりそのものを絶ち切った。

《今のは君がやったのか》

《召喚術師対策というのは伊達ではないということです。神多羅木先生の実力なら今のもなんなく回避できたと思いますが。呪符使いは右前方10mの木の影に隠れています》

そう伝えた先生は瞬間、一気に距離を詰め同じように気を放った。
術者が張った防御も抜き、鮮やかに気絶させて終了。

《終わりですね。まずは1人目……》

―個人情報解析・魔分容量完全封印処理を実行―

この術者が今後一切魔分を用いた魔法を行使できないように処理をする。

「終わりです」

「それが君の役目か。どれほどの封印処理かは分からないが、これからこれを続けていけば良い訳だな」

「そういうことです」

「……さっさと捕縛して次へ行こう」

……この後、直接1人の召喚術師の封印処理を施し、そうでない相手は神多羅木先生が早業で倒し、他の魔法先生達が捕まえてきた召喚術師1名については同様の処理をした。

「学園長先生、この子は召喚術師しか封印処理できないのですか」

高音・D・グッドマンという聖ウルスラ女子中等部3年に通う魔法生徒が言った。
金髪の映える、影使い一族の出身であり、魔法世界生まれ、12歳まであちらで過ごし、2年前まではアメリカにいた。

「高音君、その子のする封印処理は召喚術師に対してのみ特殊な効果を持つものじゃからその話はあまり意味が無いのう」

……実際には誰でも可能であるが、やりすぎるのも問題なので、1人で何体も呼び出して仕事を増やす相手のみ、できれば関西呪術協会から勝手に飛び出して西洋魔法使い相手に実力を試したくて仕方ない人達の相手が一番良い。
麻帆良にも魔法使いの人員的問題もあり、表立って争うのも無益すぎであり、そういう事を分かっている上でこうしてあちらから仕掛けてくる者達がいるのだが、基本的に面倒事にする訳にも行かず、毎回あちらに、しかもこっそり送り返している。

「学園長の言うとおりです、私の封印処理はそれ以外の人物に対しては並以下の効力しかありません。普通に封印処理をした方が良いです」

「……失礼しましたわ。学園長先生、茶々円さん」

彼女は……多分、強力な封印処理ができるというのなら全部やったほうが良いと思っているのだろう。

「それでは皆様今夜はこれで失礼します。マスター、参りましょう」

このようにエヴァンジェリンお嬢さんの事は茶々丸さんと同じくマスターと呼ぶことになっている。
同時に緑色の方々も姉と呼ぶことになったのだが……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

火星の様子は順調です。
ウルティマホラに向けての練習も、順調です。
私は合気柔術の技や動きは使うことはできても、対人戦の経験がないのでそれを学習することが必要です。
ある時女子寮の裏庭で鈴音さんに相手をしてもらった事があるのですが、いいんちょさんにその様子を見られていたらしく、学校で話しかけられました。

「相坂さんも合気柔術を嗜んでいるのでわすね。身体が弱いと聞いていたので意外でしたが本当に大丈夫ですか?」

……心配されたのですがどうやらいいんちょさんも、合気柔術を含め色々使えるらしく、そういう事ならと。

「いいんちょさん、私はまだ中国拳法しか相手にしたことがないんですが、違う流派の武術で相手をしてもらえませんか?」

「ええ、そういう事であれば、もちろんですわ」

……そういう訳で、あれよあれよという間に何故か大規模な施設で練習できるようになってしまい、古さんや鈴音さんは「なんとゆーか凄く広いアル」「流石雪広財閥ネ」と素直な反応をしていました。
ただ、成り行きで長瀬さんやなんだか面白そうという理由で腕に覚えがある人達も混じったりするようになっていましたが……。
その過程で、私の身体が弱いという印象は何処かへ吹き飛んでいったみたいで、ウルティマホラも関係なく目的はほぼ達成されてしまいました。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

司書殿から重力魔法の情報について得るようになったのは良かったが問題があった。
彼は重力球を発生させて対象を押しつぶすというものを得意としているのだが、これは物を引きつけるのとは形態が違うため、転用が難しい。
精霊は基本的にいるだけなので、魔法を使ったりはそもそもしないが、魔法の開発というのは専ら人間達の行う事である。

《重力球を使う魔法は分かりましたが、対象に対して重力を発生させるか、地球の重力加速度を増幅させる魔法というのは無いのですか?》

「……大戦を生き残ってきた私としてはそういった使い方ばかりだったのですが……なるほど、いいでしょう。少し工夫してみましょうか」

《お願いします。……一つ聞いておきますが、魔法世界と地球の重力は同じですよね》

「……私は違和感を感じたことはありませんので同じだと思いますよ」

怪訝な顔をされた。

《それにも関わらず……魔法世界のある星は地球よりも小さいのですよね?》

「そんなに喋ってしまっても宜しいのですか?なんとなくキノ殿が何を気にしているのか分かって来てしまいますよ」

分かられた所で……そもそもお互い様なのでは。

《そんなに時間もないと言いますか、方法が早めに見つかるに越したことはないので。私はクウネル殿を少なくとも善き知り合いだとは思っていますし》

「私も同じですよ。キノ殿がそれで良いなら」

既にもうある程度感づかれたと思うが、この際今後も考えて、超鈴音の協力も得たほうがいいかもしれない。
火星にやむなく投げ出された人類が科学技術で重力を人工的に発生できたであろう事も考えれば、やはりいた方が良い。

《クウネル殿、私が興味を持っている自称火星人の超鈴音という人物がいるのですが、彼女の技術は凄いものですので一度会ってはもらえませんか》

「キノ殿は先程から恐ろしい程厳重な結界を張っているようですが、どうやら私は既に巻き込まれているようですし、いいですよ。彼女の事は私も耳に挟んだ事があります。会えるなら是非」

《分かりました。それでは後日、超鈴音を連れてきますので》

「ええ、お待ちしていますよ」

一旦司書殿に挨拶をしてその場を去り、神木へと戻った。
超鈴音は魔法を使うとしたら、魔分容量が一切無いので、呪紋回路を解放するしかないが、方法はある。

《超鈴音、2ヶ月振りですが話を聞いて下さい》

《この感覚も久しぶりネ、翆坊主》

《最近は日中も夜も忙しいようで、個人的には働きすぎ……というと語弊がありますが、健康状態がやや心配でした。ですが、超鈴音にはどうということもないようですね》

《当然ネ。この超鈴音、自分の健康状態ぐらい管理できているヨ。話は何かナ?》

《はい、紅き翼のアルビレオ・イマに興味はありませんか?今はクウネル・サンダースと名乗っているのでそう呼ばないと反応してくれませんが。個人的にまた新たに協力して欲しいことがあるので会ってもらいたいのです》

《翆坊主、私がこちらでいつか調査しようとも思ていた相手に会わせたいとは、また驚かせられるヨ》

《……そうなのですか。調査しようと思っていたとは、そこまでは知りませんでした。……その日取りですが、私と彼はいつでも良いので都合の良い日に図書館島に来て下さい》

《ああ、分かたネ。明日にでも行くヨ。アルビレオ・イマという事は重力魔法、火星の重力の件の話と見た》

《ご明察です。では》

……そして、翌日。
超鈴音は橋を渡って図書館島に1人で足を運んだ。

《超鈴音、ようこそ。まずは普通に入ってください。クウネル殿も近道を開けてくれるようですから》

《わかたヨ》

遠隔から通信で話しかけ、進路を指示していくつもりだった……のだが。
そう言えばここには麻帆良学園図書館探検部という部活が常駐していた。

「あれ、超りんやー。珍しいなぁ。図書館探険部にも入りに来たんか?」

超鈴音に気づき声をかけて来たのは近衛門の孫娘だった。

《ここで彼女とその仲間に遭遇するとかなりまずいですよ》

《わかてるヨ。私はうまくやるネ》

私ができるのは……注意がそれた時にそれを教えるぐらい。

「近衛サン、私でもこれ以上所属する所を増やしても時間が無いネ。今日は少しここがどんなところか見に来ただけだヨ」

「それなら私達図書館探険部が案内するよ!」

 孫 娘 の 仲 間 が 現 れ た 。

《超鈴音、いよいよ面倒な事になりましたね》

《……隙を見て逃げ出すネ。誘導は頼んだ、翆坊主》

《分かりました》

そんなやりとりを図書館探検部の彼女達が知る由も無く、それからというもの超鈴音は地下ではなくわざわざ彼女たちによって地上の建物から案内され始めた……。

《何というか、実は彼女達、分かっていてやっているのでしょうかね》

《わざわざ地上の方を案内するとは……私も思わなかたネ》

「……と、こんな感じが地上なんやけど、超りん、この図書館島は地下の方が実は深いんよ」

仕事をして充実感溢れている彼女達を見ていると、意図的ではないのは分かるが……今は必要としていない。
……何にせよ、地下にようやく突入。

《あと地下に2階分進んだら近道があるのでそれまで辛抱して下さい》

《……突然消えたら心配しそうだナ》

《その時は彼女達がこの図書館島により興味を持つということで》

「……そういう訳で私達図書館探検部をー、ってあれ?超りんいない?消えちゃったよ」

「あれ、ほんまやなー。迷子になってしまったかもしれんな。探さないとやな」

……丁度頃合いを見計らって超鈴音は彼女達から逃れた。

《……思いの他隙だらけでしたね》

《意外と勝手に消えても軽い声が聞こえてきたぐらいだたネ。……大分時間が取られたがまだまだ大丈夫だナ。翆坊主案内頼むヨ》

《任せてください》

そして、進む事しばらく……そういえば、こんな面倒な方法とらなくてもすぐ近くにもっと根本的な近道があった……。
それはともかく。

《クウネル殿、やっと着きました。やはり身体があるというのは不便なものですね。彼女が超鈴音です》

「あなたが超鈴音さんですか。頭にお団子ではなくネコミミなんていかがですか」

どこから出したんだろう。

「超包子の肉まん買てくれたら考えてもいいヨ」

……話が進みそうにない。

《時間も予想外に削られていますし、本題に入りましょう》

「……そうだナ。隣の星の重力の話だろうというのは分かるが、何か進展はあたネ?」

《クウネル殿は重力魔法に造詣が深いというのはご存知の通りですが……今の所、あまりうまく行っていません。なんとかできないものかと、超鈴音にもやはり協力してもらいたいと思いまして。私としては重力を増やすには、質量を擬似的に増加させるという方法しか思いつかないのですが……》

「その対応……火星人というのはあながち間違いではないようですね。……人は見かけによらないというか、そのままだと普通の美少女にしか見えませんね」

普通の美少女とはどういう表現か。

「ただの普通の美少女では無いネ。私は麻帆良最強頭脳、超鈴音だヨ。赤き翼のメンバーに会えて光栄だナ」

この数ヶ月で、もう超鈴音は麻帆良において麻帆良最強頭脳と呼ばれるようになっている。

「こちらこそ、私の事を知っているとは光栄です。今はクウネル・サンダースとお呼び下さい」

「よろしくネ。……それで、私はこう見えて、魔法にも理解が無いわけではないから、クウネルサンの重力魔法からまず少し教えて貰えるかナ?」

「……ええ、構いませんよ」

……この日、随分と長く2人は重力魔法について話し、超鈴音も未来技術を元に色々案を出したりと、それぞれの技術の収斂を図ったが、完璧な解決には至らなかったため、また次回、ということになった。
それでも、この2人が出会う事には今後の事も考えれば意味があると思われる。



[21907] 6話 年寄り達が未来に向けて
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 18:50
「ハッ」

雪広あやか流という合気柔術なのですが、武芸百般というのは本当の事のようで、

「やっ」

いいんちょさんオリジナルの技まで開発しているんですから凄いです。

「相坂さん、なかなかやりますわね」

古さんとの相手をしてもらうのと違って私が怖がって防戦一方になることはありません。

「いいんちょさんが相手の練習は楽しいです」

「さよ、ワタシとやるのは楽しくないアルか?」

「古さん、そんなことはないです。けど、私の実力だとまだまだ古さんの相手をするには早いと思うんです」

「それなら良かたアル。もっと修行すると良いアルね」

ウルティマホラが開催される時は体育祭の時期と重なります。
麻帆良の体育祭は麻帆良学園都市にある全学校が同時期に一斉に行われます。
その為、施設の都合上と、人数の多さの問題のために、各生徒は自分の出場する競技をクラス内で決める必要があります。
ただ学年毎に参加できる競技に割り振りがあるので、得意な競技があるとは限りません。
例えば徒競走では1-Aからは陸上部の春日さんか、毎朝新聞配達をしている神楽坂さんが出るといったような形です。
基本的にウルティマホラが開催される日は一般の競技は行われないので気兼ねなく参加したい人は参加できます。
ウルティマホラの予選は年齢の近い者同士行われていき、勝ち残って行けば徐々に年齢が離れた人達との相手となるのですが……つまり、今この施設で練習している人同士で本選のための予選を行わなければならなくなるということです。

「いいんちょさん達はウルティマホラに出るんですか?」

「武芸は護身術として嗜んでおりますので大会には出ませんわ」

「拙者も修行ができるだけで結構でござるよ」

意外にも楓さんも出ないそうです。
忍者ですか、と聞くと「拙者は忍者ではないでござる」といつも言っていますから一応隠すつもりなのでしょうか。
こうなってくると結局出場するのは古さんと鈴音さんと私の3人ということになります。
鈴音さんはここでの練習に毎日来てはいないのですが。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

先日、帰りに、図書館島から超鈴音を案内して再び帰る時、地上への直通エレベーターを使ったら「何故最初からそれを行きで使わなかたネ?」と指摘された。
当然、忘れていたとしか言いようがなかったのだが、一応「一度ぐらいは……と思ってですね」と言い訳をするも「必要ないネ」と一蹴されたのは……置いておいて。
司書殿にある事を話しに来た。

《私から言うのはどうかと思うこともありますが、実は超鈴音は魔法を世界に公表しようとする計画を持っていたのです。クウネル殿とこうして会うということも場合によっては無かった可能性もあったのですが。代替案が見つかって現在進行形でその計画も変更です》

「……魔法を世界に公表ですか……それはなかなか面白いですね。しかし、代替案が見つかったのは良いことですね。しかし、私にそんな事を話して良かったのですか?」

《……真面目に協力してもらいたいというのもありますが、実は、超鈴音はかのナギ・スプリングフィールドの子孫でして……クウネル殿もそれを知れば何か思うところがあるのではないか……と》

「ほほう……それまたまた面白い話ですね。……私がここで果たす約束よりも先に更にその先の血縁者ということですか。少々信じがたいですが、嘘ではないのでしょう。火星人は火星人でも、未来人ということですか」

《お察しの通りです。私もナギを視た事はありますが、10歳当時のまほら武道会の時を想うと、あの行動力の高さなど似ている所はあると思います》

「あのナギの頭の良さや話し方……姓からして似ているかと言われると同意できかねますが、確かにたまに仕草も似ているかもしれませんね。しかし、私はタイムパラドックスという事までに詳しくはありませんが、未来を変えてしまえば彼女は結局……」

《それはありえません。既にこの時代にやってきている時点で、未来が変わったからと言って身体が例えば、私のように薄くなって消滅などということはありえません。ただ……》

「彼女は未来には戻らないのですか」

目を細めて尋ねてきた。

《よくお分かりですね。ですが……私としては戻らせるわけには行きません。超鈴音が未来に戻る……往復の復の時間跳躍を行うには彼女の身体はもう耐えられません。跳躍して辿り着いたとしても、死亡してしまいます。時間軸を考えずに……安全に未来に送るだけならば100年封印でもさせる……という方法はありますけどね》

「それはそれは……どこかで聞いたような話ですね、また」

何やら被るらしく、自嘲染みた笑いを浮かべて司書殿は言った。

《ええ、全く》

「地球の精霊かと思えば……随分物知りのようで。ですが、大体何を意図して私にその話をしたのかは……分かりました」

《私が考えている事と同じだと信じています。……そろそろ超鈴音が図書館島に着くので一度私も上に上がります》

「どうぞ。……私としても今の雑談で彼女とはただの赤の他人という訳ではなくなりましたし、楽しみにしていますよ」

そういう事だ。
……一度上に上がり、超鈴音に声を掛け、再び直通エレベーターで地下へと向かった。

「クウネルサン、前回来た時も思たが滝が周りにある空中庭園というのは風流なものだナ」

「そう言ってもらえたのは数年振りになります、超さん。キノ殿はこれよりずっと良いものを見すぎているので大した事も無いようですが」

《それを言われると、否定はしません》

「翆坊主、後でその話を少し聞かせて欲しいナ。火星は荒野だたから興味あるヨ」

《分かりました。またそれは後ほど。超鈴音、クウネル殿、少し先に私の報告といきます。……クウネル殿に直接話すのは初めてですが、既に2本目の神木は火星に到着し、テラフォーミング、というものを開始しています。しかし、重力、大気組成などなど他幾つか問題がありますから、それぞれを片付けて行ったとして、最速でも1年以上はかかるというところです》

「2本目の神木とは豪華ですね。……しかし、キノ殿、早い方が良いとは言っていましたが既に始まっているのですね」

「あの外殻、使い終わたのなら研究させて欲しいナ」

《ええ、始めています。超鈴音、あれは一段落終わったら好きに使っていいですが、地球に戻すのが今は面倒なので当分お預けです》

「おお、ならやりきらないと駄目だネ」

「その通りです。さて、魔法世界を火星に出す計画が現実化してきましたが、お分かりのとおりそれは人間と亜人との接触という新たな問題が起き、結果として魔法が世界に公表されるのも近いということです》

「……フフ、本当にこれからそうなるのだと思うと、面白い事が増えそうですが……しかし、こちら側に同調させる必要はあるのですか?」

《クウネル殿は魔法世界の抱えている問題は知っていると思いますが、詳細な年数で行けば魔法世界はこのまま行くと今から11年程で崩壊します。それが……例の完全なる世界やメガロメセンブリアが動いている理由でもありますが》

「11年……そうでしたか。意外に先は短かったのですね。それに懐かしい組織の名前が出てきましたね」

「翆坊主、クウネルサンを信用しているならそれで良いが、良く話すナ。完全なる世界もそういえばいたカ」

《知るのは遅かれ早かれ。大差ありませんから。それで、クウネル殿の質問の答えですが、それは私の個人的な事情です。ご不満ですか?》

「……いえ、私は特にそれの良し悪しについてはどうとも」

《ありがとうございます。……ところで、超鈴音、1人で大抵何でもできる無敵の超人であっても、私は、味方は多いにこした事は無いと思います》

「突然何の話かナ?」

表情が消えた。

《敢えて言うなら、お節介です。超鈴音、あなたを視ていて思いましたが、たまには誰かを頼る事も覚えてはいかがですか?言い換えれば、此処で生きてみてはどうか、という事なのですが》

「何を言い出すかと思えば……」

《……納得できるかどうかはともかくとして、私は超鈴音がそう決意してくれる事を歓迎します》

「……失礼ながら、先程超さんはナギ・スプリングフィールドの遠い血縁者だと聞かせてもらいました。まだ、私にも言う時ではない事がありますが……超さん、今の私からは一言、ここには来たい時にいつでも来て構いません、と言っておきます」

「………………」

超鈴音は……少しだけ眉間に皺を寄せて完全に黙った。
これまで数ヶ月、超鈴音を視ていて他の人間と特に違うと感じたのは、その能力でも技術でもなく、この世界を視ている目だというのが私には分かった。
普段、明るくしているが、どこか目の焦点は目の前の現実に定まってはいない、心はまだ未来の火星にある……という印象を受ける。
私という存在が、超鈴音と出会った時からというもの、その目にはたまに揺らぎのようなものも視えた。
未来を変えるという事がどういう事か分かっていて尚、超鈴音はこの時代にやってきたのであろうが、送り出して来た側の者達はどのようなことを思ったのだろうか。
私にはどうも、超鈴音にこの時代で生きて欲しいと、そういう意図があったのではないかと思うのは……行き過ぎであろうか。
今年13歳になる超鈴音が、確かにその能力は破格、しかし子供を送り出すということにはそういう事が無いとは言い切れない……と思う。

《超鈴音……返答を求めはしません。少し考えてみてはどうか、と私は思ったのです。私にとっては、超鈴音は今、ここ、にいるんです。実際1-Aというクラスは超鈴音にとってどういう存在ですか?……と、ここまでにしておきます》

「…………わかたヨ。その言葉は、受けとておくネ。翆坊主、クウネルサン」

「……そうするのが今は良いでしょう」

《後は、お任せします》

「…………ふむ。さて、前回の続きと行こうカ。翆坊主、クウネルサン」

切り替えが早いのも、想いの強さか。
超鈴音が自ら明るさを絞り出して、場の雰囲気が一応は元に戻った……ようであった。
私も司書殿もそう言うことならと気にせず、重力についての研究を続けたのだった。
……そして今日はこれまでという所、クウネル殿が徐に再び口を開いた。

「蒸し返すようですが、超さん。あなたの名前は、本当はスズネ・スプリングフィールドなのではないですか?音をシェンと読むのが、敢えて『音』という漢字を『イン』と中国語の『おと』という意味で読みたくないから……というように私には思えるのですが」

これは……。

「……ははは、勘が良いネ。クウネルサン。……本当に、予想外な事が起きすぎだナ。真相は……好きに考えてくれて構わないが、実際故郷でも私は超鈴音だたから、そこまでの馴染みは無いヨ」

「これは出過ぎた事を聞いてしまったようで……。私はこれまで通り、超さんと呼ばせて貰います」

《私もこれまで通り超鈴音と呼ばせて貰います》

「それならそれで良いヨ。……しかし、翆坊主、私のプライバシーを勝手に話すというのは頂け無いナ。血縁関係についても知ている事に予想は付いていたが」

《その点については謝ります。……申し訳ありません》

「……は……素直なのは良いことだナ。まあ、私も考える機会を貰たし……今回は許しておくヨ」

《……ありがとうございます》

この後、超鈴音は図書館島を後にして戻っていったが、その雰囲気は普段とは違うものになっていた……。
本人の問題には今これ以上の手出しは無用。
私は私の今日のやることをやる。
エヴァンジェリンお嬢さんの家へと夜に向かい、茶々円の素体に入る。
時間になった所、茶々丸姉さんに運んでもらう。

「茶々丸姉さん、運搬ありがとうございます」

「妹の為ですから」

こうして、警備の仕事に手出しをするようになってからの運搬は茶々丸姉さんが行ってくれるのが通例となっている。
身体を小さくしすぎたせいで、この身体でそのまま集合場所まで行くのは、物理的に遠い。
しかし、素体を置いておく場所を用意して欲しいと言ったのは確かだが、あれから用意されたのは、大きめの猫用の丸い寝床であった。
そして普段使っていない時はそこに素体が小動物のように寝かせられている。
茶々丸さんの認識では……妹は猫のようなもの、という事なのだろうか。
しかしながら、エヴァンジェリンお嬢さんはその辺り全く興味ないらしい。
……2週間程、毎日という訳ではないものの、一定の周期で警備に参加しているが、狙い通り召喚術師の数が劇的に減少傾向にある。
裏は裏で情報が流れるのは早いということだ。
関西呪術協会に接触するのももう少しという所だろうか。
……そうこうしている間に神多羅木先生の所に到着である。

「神多羅木先生、茶々円を連れて参りました。よろしくお願いします」

「ああ、いつも悪いな。それでは、行くぞ」

「神多羅木先生、今日もよろしくお願いします」

神多羅木先生も私には大分慣れて、自然な動作で頭に乗せてくれる。
それに茶々円君と呼んでいたのもわざわざ戦闘中に念話する際に君を付けるのも無駄という事で取れた。

《噂が広がったのかわかりませんが、最近私の担当の侵入者が少なくなりましたね》

《数自体が減少しているからな。効果が出ているというなら良いことだろう》

《巡回場所を見る限り……隣の葛葉先生の所には来客はいませんが、その反対で葛葉先生の剣術の生徒さんが少々突出していて囲まれていますから行ったほうが良いかもしれません》

《良く分かるな。……分かった、そちらに誘導を頼む》

《了解です》

そういう事で、神多羅木先生を桜咲刹那のいる方角へと誘導し出したのだが……今回の術師は無駄に位の低い鬼を召喚しすぎである。

《数だけは多いですね》

《動くから落ちないようにな》

そう言っていつものように射程圏内に距離を詰め、神多羅木先生は無詠唱の気の衝撃波を死角から打ち出した……のだが……。

「「「「例の奴が出たぞ!!!!」」」」

と何度も喚ばれている鬼達にとって顔なじみになっている……訳ではないが、特徴を知られているらしい。
恐らく、彼らの住まう世界で、召喚の頻度が少なくなっている事で、暴れ足りないからとか、そういう事が原因なのではないだろうか。

《少し有名になったようですね》

《……片付ける》

それからは一瞬であった。
神多羅木先生は冷静に次々と彼らを還して行き……それに従い孫娘の護衛も数に翻弄されていた所、体勢を立て直した。
更に龍宮神社のお嬢さんからと思われる援護射撃もやってきたとなっては一方的なものだった。
術師の方はというとこれまで、と見て逃げたし始めたのであるが、私がその場を伝え、きっちり捕獲し、一先ず気絶処理をした。

「神多羅木先生、封印処理実行します」

―個人情報解析・魔分容量完全封印処理を実行―

「ああ、頼む。桜咲、いくら神鳴流が前衛だからと言って突出して窮地に入ってしまっては意味が無いぞ。葛葉にその辺りも鍛えてもらうんだな」

「はい……ご迷惑をお掛けしました。精進します」

龍宮神社のお嬢さんがこっちを凝視しているが……どういう意図だろうか。

「龍宮神社のお嬢さん、お疲れ様です。……何か私にご用でしょうか?」

「いや、済まない。何でもないさ」

魔眼でもこの素体の事に気づかれる事は無い……筈だが。

「神多羅木先生、封印処理は終りました。行きましょう」

「ああ、分かった。2人は戻れ」

……神多羅木先生と私は後少しだけ、周辺を巡回することになった。
少し気になったので私達が去った後、孫娘の護衛と龍宮神社のお嬢さんが話をしているのを視た。

「刹那、あの光景は最近よく見るようになったがどう思う」

「さっき注意されたが……笑いそうになって大変だった。真面目に先生が話かけてくる一方で、頭にしっかり掴まって一緒にこっちを見てくるのは……」

堅物の印象のある彼女が口を抑えている……。

「……だろうな。私も頭に乗せてみたいよ。いや、しかし注意されていたこと自体は心に留めて置いたほうがいい、私もはぐれた時は肝を冷やした」

「分かっている。済まない龍宮」

「次から気をつければ良いだけだ。やれやれ、肩車している親子が少し過激な散歩をしているようにしか見えないな」

……という事で、龍宮神社のお嬢さんは単純に自分もこの素体を乗せてみたいと少し思っただけだった。
そして、明けて翌日。
今度は近衛門の所に来ている。
司書殿に話しているし、近衛門に話す分にも問題はない。

《近衛門殿、二つほどお話があります》

「おおキノ殿、警備に参加してもらえるお陰で大分件数が減ってきて助かっとるよ。……して、今日は何かの?」

《先に口外して欲しくない事から言いますので結界を張らせて頂きます。超鈴音ですが……結果から言えば彼女の当初、の計画は中止になりました》

「ふむ、儂は超君の計画がなんじゃったのかも良く解らんが、その代わり違う計画があるという事かの?」

《その通りです。ですがその計画は私から頼んだものでもあるので、もう監視の目は緩めて頂ければと思います。とはいっても、その計画は広い目で見れば最善なのですが、やはり近衛門殿達、魔法使いの立場からすれば異端かもしれません》

「……監視の目を他に回せと言うのは分かった。キノ殿が言うなら儂と同じで何か意味があるのじゃろう。じゃが、その計画とやらを少しは聞かせて貰えるのかの?」

《……分かりました。計画は話せませんが、一つ重要な事を。……魔法世界は後11年程で世界を維持できずに消滅し、火星に地球出身の純粋な人間、が投げ出されます》

「…………そ、それは本当……いや、キノ殿が嘘をついてもそれは意味の無い事じゃな。しかし……本国からはそのような知らせは受けておらんぞ」

《知らなくても無理はありません。私も偶然知っているようなものですので。この事実を知っているのは前大戦を起こした完全なる世界の『残党』と、本国の一部の人間です。私としてはとりわけ本国というのとこちらの繋がりが問題なのでこうして結界を張っているわけです》

「また本国の秘匿じゃな……。ふむ、本国での極秘情報がこちらに漏れていたとは知られる訳にはいかないの」

《はい。そして、超鈴音について近衛門殿にも理解して頂く為に、端的に説明すると、超鈴音は未来の火星から時間を跳躍してやってきたのです》

「未来から時間跳躍……なるほどのぅ。時間跳躍など現状不可能とされておるが、未来となればそれもできるようになっていてもおかしくはない。逆に未来人じゃと考えれば……超君の技術力が高い理由の説明には合点がいくの」

《そういう事です。今はこれぐらい……とは言え、以上がほぼ核心と言えます。因みに新たな計画には既に図書館島のアルビレオ・イマ殿にも協力頂いています》

「何じゃ、アルも協力しておるのか。ふむ、そういう事か。図書館島に超君が行くのにも監視が強いと確かに困るじゃろうな。あい、分かった。その辺りはなんとかしておこう」

理解が早くて助かる。

《ありがとうございます。……くれぐれも口外しないように願います。事態が本格的に動き出すのは早くても1年、もしくはそれ以上かかると思います。それと、私の予想から言うと、1-A組に端を発する事から色々と絡み合う事になると思います》

「ふぉっふぉ、あの子達は歴代の中でも恐ろしいほどに濃いからの。儂としてはクラスを決める際に反対されたが、いつもの勘が働いて1つにまとめたんじゃ。キノ殿も何か起こると思うという事は、間違いではなかったんじゃな」

《私は人間ではありませんから、近衛門殿が多少いたずら好きで、たまに問題を起こすのも気にしません。……大体何か起きても最後は丸く収まるのですし。あのクラス編成は本当に、昔からの事ですが近衛門殿の勘の良さと言いますか、人を見る目がどれほどなのか分かりますね。しかし残念ながら、他人には全く理解できないと思いますが》

「……そう言ってくれるのはキノ殿だけじゃよ。最近はしずな君やタカミチ君が厳しくてのぉ」

《時に席についているだけになっているのが知らず知らずのうちにいわゆるストレスという物になっているのでは無いですか?……近衛門殿の昔を思えば、もっと自分から動く印象がありました。そのストレス解消というのは何ですが、警備でまたたまに前線で暴れてみてはいかがですか?》

「ほう!それは自覚しとらんかったかもしれん。……確かに久しぶりに動いてみるのも悪くないかもしれんな」

《是非そうすると良いかと》

「ふむ……して、2つ目というのを聞き忘れそうなのじゃが」

《……失礼しました。1つめの口外できない事の問題から、前回も言いましたが東と西の争いをやめて貰い問題を一気に減らしてしまおうというのが目標です。現在私が警備で行っている封印処理を受けた関西呪術協会の術師も増えてきている事ですから、時期を見て、この封印を解くという条件から麻帆良の手出しを控えて貰うように……と思っています。しかし、依然として当然あちらはそれを無視して攻撃するという手段がありますが、この際それを切り口にして、この麻帆良に呪術協会支部を何らかの条件付きで建てさせてしまえば良いのでは、というのが私の思う1つの着地点です。……実際この地に対する興味を諦めさせるというのも無理な話なのですから》

「そういう思惑じゃったか……。確かにここ数日あの封印処理は一体何だと裏では情報が出まわっとるから切り口としては充分じゃろうし、絶対に無理とはいわんが……。キノ殿は普通に言うが、かなり難しいじゃろう」

《……それでも、近衛門殿なら不可能ではないのでしょう?私も詠春殿には近いうちに会いに行きますし。それに……例えば超鈴音なら『麻帆良最強頭脳のこの私に任せるネ』と必ず言いますよ》

「……キノ殿は本当に超君を気に入ったのじゃな」

《……待っていましたからね。ですが、近衛門殿にも同じような人物が少ししたらきっと現れますよ》

「……ふむ、分かったわい。若い者にはまだ負けるのは早い。この近衛近衛門、一肌脱ぐとしようぞ」

《久しぶりにその生き生きとした姿が見られて嬉しいです。ご協力感謝します》



[21907] 7話 体育祭
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 18:50
鈴音さんが3日前図書館島からふらりと帰ってきた時様子がおかしかったのです。
「何かあったんですか」と葉加瀬さんと一緒に聞いたのですが、

「気にしなくていいよ。少し思うところがあるだけね」

と喋り方にも元気が無く、珍しくそのまま直ぐ寝てしまいました。
なんだか儚げな話し方で普段見ない、鈴音さんを見た気がしました。
しかも2日続けて同じような状態だったので昨日クラスの皆も、

「超りん、元気ないけどどうしたの?」

と心配していたのですが、何か思いつめたような顔をして塞ぎ込んでいました。
これには古さんも声をかけにくかったらしく2人で話したのですが、

「超はすぐに元気になるアルよ。私は信じてるアル」

古さんは何か思うところあるらしいみたいでした。

「そうですね、私も信じます!」

私もそう答えて信じる事にして……そして、今朝。
寝て起きた鈴音さんは何だかスッキリしたような表情をして、

「さよ、ハカセ、私は今此処にいるよ」

と一言。
……しかも以前にも増して明るい魅力的な笑顔でした。
ただ明るくなっただけじゃないみたいですね。
なんというか無理をしていない自然な印象がありました。
……それから鈴音さんは学校に着いた途端、古さんに宣戦布告をしたんです。

「クー!ウルティマホラは絶対に負けないネ!」

教室の入り口で堂々と宣言したその表情は凄く嬉しそうでした。

「超、元気になたアルか!その勝負受けて立つアルよ!」

古さんもそれに熱く返し、クラスの皆もそれに合わせて声援を送っていました。
……とにかく、鈴音さんが元気になって本当に良かったです。

そして、10月10日。
ここから3日間の体育祭の始まり。
また……実は超包子の稼ぎ時でもあるのです。
なんといっても小腹が空いた時に肉まんを片手に食べられるのですから、昼時の人気は凄いものです。
勿論クラスの競技にはしっかり参加しますし、その中で私は一応バレーボールに参加しています。
今はクラスの皆と徒競走系の種目の応援に来ています。
はっきり言って1-A強し!です。
短距離走は春日さん、長距離走は神楽坂さんの独壇場。
軽く計測しても何かの新記録だと思います。
2人3脚は鈴音さんと古さんが本当に足に紐付けているのかな……という速度で爆走。
息が合いすぎです。
障害物競走は楓さんが、気がついたらゴールにいるという有様でした。
流石忍者です。
応援している私達のテンションも異常な盛り上がりで若干他のクラスの人たちが引いていましたが今更気にしません。
そしてバレーボールも容赦ありません。
1-Aは龍宮さんを始めとして身長が年齢の割に高いのですが、それを他クラスと行うと一方的でした。
相手のスパイクは全てブロック、しかしこちらのスパイクはザルのようにコートに吸い込まれていくのです。
バトミントンも同じ体育館で行われたのですが桜咲さんがラケットを振るのが早すぎて普通の人には見えないと思います……。

「このクラスなんなんだよ、ありえねぇ……」

という長谷川さんの呟きも周りからすれば当然かも知れませんが、残念ながら同じクラスなんです、諦めてください。
……あっと言う間に1日目が過ぎ、2日目に突入しましたがエヴァンジェリンさんが大将をする騎馬戦はギャラリーが多すぎでした。
大学の方から本格的な機材で撮影されていたのは凄いを通り越してやりすぎのようにも思います。
さながら戦場を駆け抜ける戦女神のようで通り抜けた後には鉢巻は一切残っていませんでした。
そういう意味では良い映像だったかもしれません。
……2日目が終わった後、超包子を1-Aで貸切り、打ち上げをしました。

「いやー、私達のクラスは凄いアル」

「皆さん凄い勢いでしたからね」

葉加瀬さんは、運動は得意ではないので応援していることが多かったですが、1-Aの皆には感動していました。

「まさかこんなにトロフィーが一箇所に集まることになるとは思いませんでしたね」

「1-Aなら十分にありえることネ。皆、今日は超包子からのサービスだからどんどん食べていいヨ!」

「ちゃおちゃおありがとー」

「四葉さん、料理美味しいよっ!」

皆幸せそうで良かったです。
高畑先生も呼んだので途中から打ち上げに参加してくれたのですが、トロフィーを皆からプレゼントされて大変そうでした。
はっきり言って、多すぎるんですよね。

……そして3日目、ウルティマホラ当日です。
場所はまほら武道会と同じく龍宮神社にある会場で行われます。

「昔のまほら武道会とはやっぱり雰囲気が違いますね」

「さよは幽霊の時に見たのカ?」

「えっと、あっちの関連で見せて貰ったことがあるんです。活気が違います。なんというか今がある程度落ち着きがあるとしたら、アレはなんでも有りという感じです」

「……また翆坊主カ。前に凄い映像がある、とは聞いたが見せて欲しいネ」

「私も鈴音さんに見せたい映像があるんです。けど、どうやって見せればいいかわからないんです」

「なら、方法は私が考えるヨ。なんとかしてみせるネ」

神木の記録を渡す……見せる方法……。

「その事、伝えておきますね。……そろそろ私達の予選始まりますね。古さんはもう始まってるみたいですし」

「枠の数から見ても午後の本選で当たる事になるかもしれないネ。古も待てるヨ」

「はい!」

午前で一気に人数を減らすものの本選の枠は東西の1から32までのトーナメント2つで構成されていて、その総数は64。
ベスト8までを決定するため総試合数は67に登ります。
実際これでも少ないぐらいかもしれません。
3万人が通っていると言われる麻帆良学園都市ですからそのうち武術を嗜んでいる人口は千人単位になるのは間違い有りません。
ここまで言って本選に残れるのか心配になってきました。
良いことなのか悪いことなのか、どうも私が勝ち抜いていく必要のある地区は古さんとも鈴音さんとも違うので頑張って残らないといけないようです。
予選自体は大きく4地区で年齢は中学生から始まり徐々に混合して行き16ある枠まで残れれば本選出場です。
しかしそのため予選は迅速さの観点から1試合3分のみという超短期決戦で、不当に動かない場合は判定で不利になります。
また、勝敗に関しては使用する格闘技の何らかの技が決まった段階で勝ちとなり、その判断の難しい打撃技に関しては審判の判定で決定されます。
因みに私はいいんちょさんから大会に出るならばどうぞと貰った道着を来ています。
とてもデザインが良く着心地もぴったりでなんだか頑張れそうな気がします。
……そうこうしているうちに私の試合の番がやってきました。

「両者共に礼!」

審判の人たちも沢山居ますが麻帆良各地にある道場の人達や学校の武術系の部活の先生が担当しています。

「「よろしくお願いします!」」

「試合始め!」

さて始まりました、相手は男子でどうやら中国武術の使い手のようです。
はっきり言って、いつも2人に相手してもらっている私にとっては何ということもありません。

「せいっ!」

掌底を叩き込んできましたが逆にそのまま勢いを利用し投げ飛ばします。

「やあ!」

床に落ちる音とともに間違いなく決まった筈です。

「勝負有り!勝者相坂さよ!」

……少し緊張しましたが、予選で落ちるのは残念すぎるので、今回は危なくなったら神木の補助を使って切り抜けようと思います。
と思った矢先……やはり1-Aは異端です。
気がつかないうちに一般人の枠を殆ど飛び出しているのがよく分かりました。
相手が突っ込んできた場合は冷静に受け流してそのまま技を決めて終了。
相手も様子を見るタイプの場合はいいんちょさんに習った、踏み込みと同時に相手の顎に向けて掌底を放ち、そのまま突き上げるようにする「天地分断拳」で一発ダウン。
いいんちょさん、一般人相手にはとても使い勝手が良いです。
この技を楽々避けるのがあの2人ですからここまでうまく決まるとなんだか楽しいです。
残念ながら予選なのでこの様子をクラスの皆に見せることはできませんが。
途中生理的な壁としてレスリングの使い手の男性等が立ちふさがりましたが……そういう脅威も何とか乗り越え、16枠の1つを無事獲得することができました。
本戦出場が決定してから、同じ合気柔術の使い手さん達から応援されたり、何処の道場に通っているのかと聞かれたりして少し困りました。
古さんの方も決着が着いていたようですが、聞こえてきた話では1発打ち込むと試合が終わるという事で、本人は全く満足できていなさそうな内容でした。
正直あの威力の打ち込みを喰らった人たちの安否が気になりますが……。
私も思い出すとあの恐怖はなんともいえないです。
鈴音さんの場合は加減するのでもう1つの地区は大丈夫だと思いますけど。

「古さん!私も本選出場まで行きましたよ!」

やっと見つけたので声をかけて報告です。

「おお!さよも本戦出場アルか!あまり手応えのある相手見つからなかたよ」

「さっき話しが聞こえてきたんですけど全部一発で終わったらしいですね」

「その通りよ。少し寂しいアル」

そこへ鈴音さんもやってきました。

「やはり二人共本選出場したカ。あまり強い相手がいなかたから当然ではあるが」

「超!待てたアルよ。これで三人揃ったな」

「本選の組み合わせが決まるまで時間がありますし、近くに四葉さんが超包子を構えてるので、行きましょう」

「腹がへては、戦はできないからネ」

……超包子でお昼ごはんを食べている途中、鈴音さんによると私たちがいなかった地区にかなり強い大学生がいるという事がわかりました。
要注意です。
……食べ終わって時間も丁度という所で、いいんちょさん達が応援に来てくれました。
私はいいんちょさんに練習に付き合ってくれたお礼を言って「本選も頑張ります」と伝えました。
……本選は予選と異なりベスト16までは、3分3ラウンドで2本先取した段階で勝利、それ以降は5分3ラウンドとなり少し余裕ができます。
これはあまり長引くことによる疲労を考慮しての事らしいです。

「超、さよ、組み合わせが決またみたいアル!」

あ、本当です。
係員の人達が組み合わせを貼り出していますね。

「私は古とは3回勝ち上がればあたるナ。さよは東側のトーナメントだが例の大学生がいるようだから気をつけるネ」

「超、正々堂々決着を付けるアル!」

「全力を尽くすヨ!」

私は2人と当たるとするなら1番上まで上がらないといけませんね……。
でも、頑張ります!
ここからは神木の補助はうけずに頑張ります。
その例の大学生の名前は三谷さんというらしいです。
……そして、いよいよ本選の始まりです。

……とはいったものの東トーナメントでの初戦もやはり大したことがなく、最初に突っ込んできたので軽く見切ってぽいっとして、次は様子を見ていたようですが隙をついて「天地分断拳」で見事に勝利です。
……なんというか全体的に動きに速さが足りません。
順調に勝ち上がった鈴音さんと古さんですが、とうとう約束通り向かい合う事になりました。
クラスの皆も引き続き見に来ています。

「クー、この時を待てたネ!私の全力を受けるヨ!」

「超!いつもより良い顔してるアル!楽しくなて来たアル!」

「試合始めッ!」

普段では見ない程、鈴音さんが積極的です。
いつも武術では古さんが一歩上を行くところですが、今日の鈴音さんの気迫は観客からも簡単に感じられる程です。

「超りん達の試合見るの始めてやけどすごいなぁ」

近衛さんはいつもポワポワしています。

「ここ最近、修行で良く見ていたが今の超殿は輝いているでござるな」

「楓さんもそう思いますか?」

「これなら拙者も出てみても良かったかもしれないでござるよ」

か、楓さんの目が開いています!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

……後足の踏み込みから、掌底を繰り出し古の腹部を捉えたかと思たが、一瞬で後退するカ。
しかし、すかさず追い打ちを掛け回し蹴り!

「くぅッ」

避けきれず左腕でガードされたがダメージは通たネ。

ッ!右手が瞬時に足を掴もうとしてくるあたり反応が早いヨ!

「させないネ!」

足を戻しながら左で手刀を腕に向けて放つがこれは体勢が悪いナ。

「甘いアルッ」

動作を中断し咄嗟に身を屈めて足払いとくるカ。
しかしまだだヨ!
敢えて体勢を崩させバク転の要領で初期位置に戻るネ。

「隙有りアル!」

早い!もう突きが来るのカ!
一度場外に出るッ

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

一度鈴音さんが場外に出るまでの一連の流れは一瞬でした。

「瞬きしていたら見逃してしまいますわね」

やっぱりいいんちょさんも非一般人です。
目で追えてる時点で十分凄いですよ。
……反対側の方で既に鈴音さん達に負けた人達も見ていますが、どうにも視線が追いついていません。

「いやー肉眼だとよくわからないけど、ビデオカメラ持ってきて良かったね。これは良い映像になるよ」

朝倉さんも動体視力が追いついてないみたいですが、カメラに収めているので報道関係者としては嬉しそうです。
最初の3分間を制したのは判定勝ちで鈴音さんでした。

「私としてはクーには一本決めたかたヨ」

「今日の超はやはりいつもと違う。さっきの蹴りは効いたネ。でも次は私の番アル!」

2ラウンド目に入ったら一転、古さんの猛攻が始まりました。
鈴音さんが反撃する隙が無く、あっても牽制程度という所ですがッ!

……見事に古さんの掌底が入りこれで一本。
一対一となり次で決着です。
他でも試合が行われていますが、ここの空気だけが一層際立った緊張に包まれています。
気がついたら見ているだけなのに手に汗をかいていました。

「く……クーは本当に強いナ。一体故郷でどんな修行したのか気になるヨ。……しかし、まだ、まだ終わらぬヨ!」

ゆっくりと立ち上がりながら話す鈴音さん。
物凄い気迫に審判の先生も思わず後ずさりしています。
でも、さっきの古さんの一撃がかなり効いているようです。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

2ラウンド目の古の一撃は直撃だたから立ているのも辛いが、まだ終われないネ。
様子見で既に軽く打ち合ているが埒が開かないヨ。
……仕掛けるしか無いッ!
下段に右で蹴り、身体を捻って左回し蹴り、そのまま背を向けた体勢から当て身!

……クーの捌く技術は高いナ、蹴りも威力を殺され当て身も後一歩というところで身体を引かれたヨ。

一旦距離を取り直すカ。
しかし、やはり辛いナ。

「クー、次で決めるネ」

「私の一撃を受けてみるアル!」

……恐らくこれで最後。
練り上げた気と共に足を踏み抜き全身の力を……。

右腕に乗せて突くッ!

ハハ……古の奴、わざわざ寸勁を私の拳にぶつけて来たネ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

拳と拳がぶつかり合うという漫画のような展開が起きましたが……一瞬間を置いて鈴音さんが膝を着いて崩れ落ちました。
古さんの寸勁が全身に伝わったようです。

「超、とても良い試合だたアル。今のは効いたネ」

崩れ落ちた鈴音さんを咄嗟に支えた古さんが言いました。

「……クー。……私は此処に居るヨ」

「超、何をいっている。そんなの当たり前アル。私達は善き友ね!」

「……そうカ。そうだナ。ありがとう、クー」

試合中の張り詰めた空気は一転し、2人共清々しい表情をしています。

「お疲れ様です!鈴音さん!古さん!とても想いの伝わる良い試合でしたっ!」

……応援に来ていた皆も何だか感動して一帯が拍手に包まれました。
今のがベスト8の戦いで行われていたらもっと盛り上がっていたかもしれません。
でもそんなのは2人にはどうでも良い事だったようですけどね。
私はベスト16まで上がって来たところなのですがとうとう例の三谷さんと当たる事になりました。
割と小柄ですがどうやら合気道を使うらしいです。
……私の使う合気柔術は正式には大東流合気柔術と言い、合気道との相違点は合気道の方がより大きな円の動きで技を掛けるという点にあります。
あとは武道の思想が異なり、その影響で合気柔術にある危険な技が合気道では省かれている傾向にあります。
と言っても私も使えはしてもそういう技は使わないので、ある意味合気道の方が向いているんですけどね。
……そうこうしている内に試合が始まります。

「よろしくお願いします!」

「こちらこそよろしくお願いします」

「試合始めッ!」

三谷さんはとても落ち着いていてそれでいて自然体でありながら全く隙がありません。
困りました。
うーん、いいんちょさんも見ていますし、行きますッ!

―天地分断拳!!!―

「ハッ」

と思ったんですが、あれ!?

「ひゃあっ?」

空中が見えます……。
い……いたた……完全に受け流されてやられていまいました。

「一本!」

あっさり一本とられてしまいました。
何ですか、物凄く強いですよ、なかなか強いとか大嘘ですよ!
……2ラウンド目はさっきの失敗を活かしてじりじり距離を縮めて様子を見ます。
はっきり言って近づいたら気づいた瞬間に投げ飛ばされているんですから近接技は自殺行為です。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「かえでサン、先程のあれは見えたカ」

「拙者も驚いたでござる。合気道は和の武道と申すがあれほどの達人なら下手に手を出せば一瞬で決まってしまうでござるな」

「私もあの方の噂を聞いたことはありましたが、あれ程とは思いませんでしたわ」

あやかサンはあの三谷サンという人の事を聞いた事があるのカ。

「相坂が苦戦しているようだな」

「龍宮サンも来たのカ」

「……ここは私の実家だからな。しかしあの分だと三谷さんの方が実力、経験共に上。古の相手になるとしたら天敵になるだろう」

「確かに古の攻撃力は麻帆良一と言ても過言ではないが受け流されてしまえば辛いネ」

「あ!三谷さんが動きましたわ!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「わぁっ!」

早すぎます。
地面を滑るように目の前に現れたかと思ったら少し肩をぶつけられただけで吹き飛んでしまいました。
起き上がろうとしたら続けて投げられます!
本当に一般人ですか!

「一本!勝負有り!」

……ああ、古さんと当たるという夢は儚くも潰えました。

「ありがとうございました」

「こちらこそ楽しい試合でした。ありがとうございます」

あまりにもにこやかな笑顔で挨拶を返されました。
負けたのですが、あまりにあっさりしすぎていて全く根に持てません。
でも、これだけ強い相手と当たれた事にも充分意味があったと、そう思います。

「さよ、お疲れ様だたネ。あの三谷サンは仙人みたいなものだネ。極地に到達していると言てもいいヨ」

「気にすることはないさ、相坂。ここまで上がって来ただけでも凄いことだろう。トーナメントだとこういう事はよくある。恐らく彼が相手では今回は古も勝てないだろう」

「私もあの方を見てまだまだ精進が足りないと思い知らされましたわ」

「拙者もいいものが見れたでござるよ」

「皆さん、ありがとうございます。古さんの試合を応援しに行きましょう」

何だか皆にフォローされましたが、これも学校に通えているお陰だと思うと、本当に良かったです。
……結果として古さんは頂上まで上がって行きましたが、やはり相手として立ちふさがったのは三谷さんでした。

「さよの代わりに私が倒すアル!」

と物凄い勢いで突撃したのですが、

「おろ!?」

と一瞬にして投げられてしまいました。
2ラウンド目も体良く投げられてしまいましたが、今度は空中で体勢を立て直すという離れ業をやってのけ、そのまま一撃を加えることに成功しました。
古さん凄い!
……が、その一撃はどうやらわざと受けたらしく、カウンターを放たれあえなく2連取されてしまいました。
相性が悪すぎますね。
魔法、気有りの勝負であれば間違いなく倒せる筈ですが、こういう所が、武術大会が武術大会である所以なのでしょう。
……それでも古さんはウルティマホラ初出場にして、2位という快挙です。

「三谷さんの詳細が分かりましたわ。今年で大学を卒業され麻帆良から出て就職されるそうですわ」

となると来年は古さんの優勝は固いかもしれませんね。

「皆、負けてしまたアルよ」

そういいながらも楽しそうな古さん。

「「くーふぇ惜しかったねー!でも2位だよ2位凄いよ!」」

鳴滝姉妹が大騒ぎです。

「古さん、2位おめでとうございます!」

「クー、おめでとうネ。来年は私と優勝を争うヨ!」

そのまま古さんの胴上げをして1-Aのテンションが上がりまくりの所、表彰式だから場所を開けて欲しいと係の人達に言われるまで、賑やかな空間が形成されていました。
……こうしてこの後表彰式を迎え、1-Aのクラスに昨日に引き続きメダルが更に増えました。
その後古さんの知名度は一気に上がり、色々な武術系の部活やサークルからのスカウトが朝の日常に加わる事になったのです。
また、朝倉さんはインタビュー記事を担当することになり、撮影していた映像と合わせてかなり気合の入った記事を掲載していました。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

……無事にウルティマホラも終わった。
直接話してはいないが、このウルティマホラが1つのきっかけとして超鈴音の心境に何らかの変化を与えたのは間違いない。
そういう意味では良い舞台となったようで、良かった。
因みに、サヨが一瞬でやられた、ウルティマホラで一位を取った麻帆良大4年の三谷祐介さんは、武田惣角の弟子でもある植芝盛平が開いた合気道の門下の中では史上2人目と呼ばれる程の達人だそうだ。
しかも、ウルティマホラ出場は今回が始めてであった。
麻帆良にはこういう人がいるのは往々にしているのはいつもの事である。
……この後、超鈴音達はまた日常に戻り、次は中間試験に突入することになる。

……火星の様子といえば、地下にある氷の塊の対応が難航している。
確実に数ヶ月を要するのは避けられない。
火星の大きさと第二世代の神木の大きさの関係も、地球と神木・蟠桃と同じような釣り合いが取れてはいるが、環境自体あちらは過酷であるため時間がかかる。
超鈴音の重力技術も、部分的に発生させるならば、という条件での側面が強く、星全体に張り巡らせる重力魔法となると、新たな試みになりそうだ。
……とにかく、まずは出来ることから潰していく。



[21907] 8話 重力問題
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 18:51
学生達の中間テストも終り既に11月に入った。
相変わらず4位までは独占できているが、1-Aは下に偏りが多すぎてクラス全体は相変わらず最下位のままである。
ともあれ、そんな事は当人達の問題である。

《超鈴音、1ヶ月振りですが、その後調子はどうですか?》

《少し久々だネ。……翆坊主達が言てた言葉だが、私自身完全にとは言えないが納得できたヨ。以前よりも世界が色付いて見える》

《そうですか……それは良かったです》

《ああ。重力魔法の件だけど、機械で発動させる訳ではないからなかなか進まないヨ。私自身も魔法を試して研究してみた方が早いだろうナ》

やはり……魔法が必要か。

《そうですか……。まだ火星の方も重力を変更する準備が万端という訳ではありませんから、そこまで焦る必要はありません。魔法の件ですが、2つ、簡単な方法があります》

《何かナ?》

《1つは直接私が処置をすれば魔分容量の形成も可能です。当然これなら魔法を使えるようになりますが、これは魔法先生達からすると、突然超鈴音から魔分が感知できるようになってしまうのでお勧めはできません。もう1つ、別の手段として契約執行とアーティファクト狙いでパクティオーする方法があります。恐らくそれで解決できるかと》

《なるほど、確かに前者は厄介だネ。……後者は神木からの契約執行を利用しての魔力供給。しかし翆坊主とパクティオーなど可能なのカ?》

《問題無く可能です。パクティオーというと口づけかもう一つの時間のかかる方法がありますが、そちらも身体も用意できるので一応血による契約も可能です》

《ははは、あの茶々円という小さい奴カ。茶々丸から少し見せて貰たが、神多羅木先生の頭の上に乗っているのは本当に面白かたヨ》

あの光景は面白いらしい。

《面白いとあれば。方法はどうしますか?》

《……そうだナ。煩雑だし前者の方法でいいヨ。そもそも翆坊主に性別も何も関係無いしネ》

《分かりました》

《ところで、サヨから聞いてもいると思うが映像について興味がある件についてまだ話していなかたが、どうネ?クウネルサンにはどのように見せたのかナ?》

《先に後者の質問から。……彼のアーティファクトは他人の半生を記録するという代物でして、要するに視る事が出来ます。無論、その内容については選択除外してありますが》

《……そういう事カ。ふむ、プログラムの一種である電子精霊の真似事ができるということは、神木は植物でありながらもそういう面にも対応できるのは前回の一件で分かたが、とすれば、逆に翆坊主達の方から、私達が普段使ているパソコンのようなものにデータを送る事もできるのではないカ?》

《なるほど……できない事は無いでしょうね。ただ、問題はどう接続するかという事でしょうか》

《……そういう事なら、翆坊主達が用意するあの身体ではなく、茶々丸のような電子機器にも接続できる身体ならば解決できるのではないカ?》

《その動力部と接続……入れば出来るかもしれませんね。しかし、葉加瀬聡美にはどう説明するのですか?サヨは彼女にはまだ一応幽霊のような物という解釈がなされていて精霊だとは知らないと思うのですが……》

《その辺りは幽霊のような物で通せばいいネ》

……そういう事なら。

《それに上手くいけば、その身体にさよが入て神木の演算能力というのを様々な研究に活かす事も不可能ではないという狙いも……あるヨ》

《……まあ、超鈴音なら良いでしょう。個人に傾倒しすぎな面はありますが。普段特にどうという事もしていませんし。精霊を計算器替わりに使うというのは些か微妙ですが、構いません》

《……それならありがたくその身体の作成にとりかかるヨ》

《分かりました。完成できると良いですね。パクティオーですが、この際都合の良い時にクウネル殿の所で行いましょう》

《ああ、分かたネ》

実際にはどこでもできるが、アーティファクトがどんなものが出るかは未知数であり、使えるものであったら司書殿の前で結局使う事になる以上、その場でパクティオーしてしまうのが合理的だろう。
……そんな11月も半ば、茶々円として魔力封印処理を始めておよそ2ヶ月強。
そろそろ時期だと思うので、詠春殿の所に行く。

《サヨ、少し遠出して来ますね》

《了解です。キノ、どこまで行くんですか?》

《京都まで、木乃香お嬢さんの父親に会いに行くのです。すぐ戻って来ますから特に問題ありませんよ》

《えー、なんか羨ましいですね。お土産は……?》

サヨは素体があるからそうだが……私は半透明。

《物を持てない身体では無理ですし、お金もないですから諦めてください》

《そうでした……。私身体がある事に慣れてきてて混乱してました。あ、木は任せてください》

《はい、よろしくお願いしますね》

……では、いざ出発。
精霊体のまま、遠出といえるような遠出をするのは珍しいが、飛翔速度も充分、場合によっては魔分でそのまま転移しても構わないが、かかる時間は殆ど変わらない。
飛んで見えるのは……関西呪術協会総本山。
詠春殿は何処だろうか。
木乃葉さんの結婚式の時に見て以来だが……随分巫女さんが多い。
そういうところなのだとして、それはそうと……発見。
執務室で仕事中であった。
丁度処理している書面の内容は……なるほど、好都合。
隠蔽度合いを下げて話しかける。

《近衛詠春殿、初めまして、麻帆良の神木・蟠桃の精霊、キノとお呼び下さい。以後お見知りおきを》

この方法の自己紹介も久しい……司書殿振りか。

「ん、空耳が聞こえたような……。おお!坊や誰だい……って幽霊か!?」

仕事に熱中すると声が聞こえなくなる……という人種だろうか。

《もう一度名乗ります。私は麻帆良の神木・蟠桃の精霊、キノとお呼び下さい。幽霊ではありません。近衛門殿から小耳に挟んだ事はありませんか?因みに詠春殿のお嬢さんは元気ですよ》

「こ……これは失礼しました。あなたが麻帆良の神木の精霊でしたか。……それに木乃香も元気なのですか、ありがとうございます」

近衛門に行くという話をしておいたので、きちんと遠まわしに伝わっていたようだ。

《お仕事中ですが失礼します。……それと既に結界を張らせて頂いていますので、ここの話はむやみに口外しないということでお願いします》

「……はい、分かりました。それでどのようなご要件ですか?」

《今処理してらっしゃる書類ですが、根本的な原因は私です》

「そ……それはどういうことですか?」

《呪術協会も1枚岩では無く、勝手に過激な行動を取る者達がいるのは当然ご存知かと思います。その者達に、解けない魔力封印をかけたのが、この私です》

「ああ、それでしたか。……話では緑色の幼児によくわからないうちに封印をされて一切魔力を用いる術が使えなくなったと聞いていたのですが」

陰陽術は気で発動する事が可能なものもあるため、完全に術を封じるというのは不可能である。
それが彼らのメリットでもあるが、気の扱いと魔分の扱いの修行を両方行わなければいけないため習得に困難を要するというデメリットもある。
少なくとも鬼の召喚には必ず魔力が使われる。

《少し話をしますと、ある事情から東と西で争うのを私がやめて頂きたいので、問題の術師の魔力封印をして麻帆良の負担を減らしつつ、この封印処理を解く事を条件に麻帆良へ仕掛けるのをやめて欲しい、という交渉に来たのです》

「それは私も山々ですが……それは私がここの長であっても難しいことです」

《もう1つ手札がありまして、この際、呪術協会の支部を麻帆良内に建てると言う案があります》

「……そんな事が可能なの……いや……いくら東の長といえど本国がそれを認めるでしょうか」

《そう言われればそうですが、私は近衛門殿を信じています。本国が認めないとしても、なんとかやってくれると期待しています。孤立主義が台頭している時代ですから、こちらのいわゆる旧世界とやらに本国がそれほど文句を言ってくるという事も無いのではないでしょうか。それに……木乃香お嬢さんを中心に一悶着起きる可能性を未然に防ぐなら早い方が良いでしょう》

「それは……木乃香が危険な目に会うという事ですか?」

娘の事となると真剣な顔になった。

《いえ、麻帆良にいる限りは安全です。……そもそも、仕掛けてくる彼ら個々人の心中はさておき、やはり関西呪術協会の長の娘でありながら、その彼女を何故西洋魔法の本拠地に送るのかというのが潜在的不満の種、何か起こってもおかしくはありません。とすれば、麻帆良に呪術協会の支部が置かれていれば文句は無いでしょう、という事なのです》

「……確かに、その件ではかなり揉めましたからね」

《揉めたということは解決していないという事ですから、災の種は生えないようにするべきです。あと1つ、これは絶対に口外しないで欲しいのですが、後11年程でこのまま行くと魔法世界は崩壊し消滅します》

「それは……本当なのですか……?私もあちらには馴染みがありますがそのような事は……」

詠春殿は紅き翼の中でもこの情報を知らない人の1人……か。

《続けます。私としてはこれを防ぐ用意を現在行っているのでご心配なく。詳細については詮索無用でお願いします。ただ……その結果として、この私からしてみれば、今のこの程度の低い対立……を終わらせる事に尽力して欲しいのです。つきましては、詠春殿には近いうちに近衛門殿から来る交渉への下準備をお願いしたいのです》

「…………そう……ですか。分かりました、詳しいことは尋ねません。……東の長が動くのであれば西の長である私が動かない訳には行きません。いいでしょう、やってみましょう」

《ご協力感謝します。今はまだ……その時ではありませんが、いずれわかると思います。私は人間ではないですが、大人の役目とは次世代の者達の生きる世界を一時的に預かる事と捉える事ができなくはない……自信を持って引き継がせられるような物にするべきかと》

「……全く、その通りですね」

《最後に、報告に上がっている緑色の幼児は近衛門殿の作品という事になっていますので、精霊だなどと口から漏らさないように念を押しておきます》

「はは……安心して下さい、漏らしたりはしません」

《ご協力感謝します》

……これで、詠春殿にも直接伝える事ができた。
そのまますぐに麻帆良へと戻り、再び日常へ……。
2週間程がまた経過しサヨ、超鈴音、葉加瀬聡美の最近の活動といえば、私達が入る身体作成である。

《超鈴音、例の身体はできますか?》

《翆坊主カ。あと少しという所ネ。茶々丸のケースがあるお陰でかなり楽にできるヨ。ああ、仮契約だけど、今日学校が終わたらで構わないネ。ついでに重力魔法の研究も進めるとしよう》

《完成を期待しています。データ、で保存できるという事であれば、好きに使ってくれて構いません。例えば……上手く編集して販売する、とかでしょうか。麻帆良の歴史や大自然の四季など……用途はお任せします。サヨが見せたいと言っていたのは火星へ飛ばした外殻から観測された宇宙空間の記録だと思いますが》

《聞いているだけで楽しみになて来るネ。それに販売……はは、精霊が言う言葉ではないナ》

《同意しておきましょう。ただ、葉加瀬聡美もいることですし、その辺りは》

《わかてるヨ。それでは後でまた会おう》

記録など販売しなくとも既に超鈴音の財力は相当な物であり、実際に必要があるかは分からない。
最も多いのが投資関連、次が麻帆良内に限定されるが、その様々な特許、そしてまだ僅かだが超包子の営業収入。
一方で、研究費用等も莫大な金額がかかっていることがしばしばではあるが、麻帆良大の研究資金も降りてくる為、全額負担している訳でもない。
あとは裏の事情にも一部繋がりのある雪広グループと直接手を組めば、地球での金銭面で解決できることは、ほぼ問題無くなるだろう。

……そして場所は約束通り、図書館島。

「クウネルサン、久しぶりだネ」

《今日は少しこの場所を借りさせてもらいます》

「ええ、どうぞ。私も重力魔法の件は、色々と発想は出てくるのですが、なかなかこれと言ったものが得られませんでしたからね。何をするのか知りませんが気分転換がてら見物させて貰いましょう」

《見物……という事ですが、できれば協力して頂きたく。今から超鈴音とパクティオーを行い、超鈴音にも魔法を限定的に使えるようにしますので》

「おや、フフ。なるほどなるほど、そういう事ですか。いいでしょう。キノ殿ではチョークもありませんし、魔法陣を書けば良いのですね」

魔分で陣を刻んでもいいが、その方法で充分。

《お願いします》

「しかし、神木の精霊とパクティオーとはまた豪華ですね」

「はは、それは否定しないヨ。だが、私には魔力容量が一切存在しないからネ。契約執行とアーティファクト狙いヨ。重力魔法の研究に私も実際に魔法で実験をしたほうが、その糸口を見つけやすくなるネ」

司書殿が床に魔法陣を素早く書きながら、言葉を返す。

「そうですね……超さんが魔法を使えれば研究も捗るでしょう。……さて、書けましたよ。キノ殿はご高齢ですし……本契約の陣にしておきましたが、どうされますか?」

《構いません。その方が、アーティファクトも善きものが出るかもしれません》

「私もそれで良いヨ。魔法使いの慣習など、火星人には関係無いネ。できるだけ使い勝手の良いものが出ると良いのだけど」


《理想のアーティファクトを想うなどすれば良いかと。……それでは超鈴音を従者とする契約を行ないましょう》

「ああ」

……精霊体で超鈴音に口付けを行った。
当然透明なので、感覚というものは一切無い。
しかし、従者契約としての繋がりができたのは間違いない。
出現した契約カードのオリジナルとコピーを司書殿が取る。

《完了しましたね。契約カード自体は……なるほど》

アーティファクトも……完璧か。

「フフ、カード自体、実に興味深い。どうぞ、お2方」

楽しそうに笑う司書殿は私と超鈴音に契約カードを差し出した。

《オリジナルの方は神木に送っておきましょう》

オリジナルを使う事はまず無い為、神木へと転送。
さて、カードの色調は翆色を基調とした虹色。
輝きは抑えられてはいるが……派手という言葉が一番合うだろうか。

「ふむ……称号は時をかける征服者……カ。皮肉なものだナ」

《アーティファクトもどういうものが出るかわかりましたので、アデアットしてみて下さい。結界は張ってあります》

「……わかたネ。アデアット!」

一切魔法具は出ない。
ただ、目の虹彩だけが静かに不規則な周期で輝くのみ。

「超さん、目の色だけに変化がある……という訳ではないようですが。どのような効果でしたか。魔法具ではないタイプとは珍しいですが」

「これは……翆坊主、他の人間とは無闇に契約……本契約だたナ」

《ご心配なく、超鈴音以外と契約するつもりは無いですから。アーティファクト、説明しましょうか?》

「私は是非効果を説明して貰いたいですね」

「いや、分かるから私が説明するヨ。……アーティファクトの名は『世界樹の加護』。魔法具ではなく、見た目としてはどうやら目の色に変化があるだけの物だネ。効果は複数……というと難だが、分かりやすく言えば時間無制限の契約執行が従者側から任意に発動可能、精神力の増大、空間認識力の上昇、演算能力の上昇……思考速度の上昇、脳波の強化とでも言い換えられるカ。……とこんな感じだヨ、クウネルサン」

《要は、神木の補助をそのまま、純粋ではないですが、言ってみれば劣化版で受ける事ができると言った所です》

「随分な事ですが……ともあれ、狙い通りに落ち着いたようで、良かったですね。フフフ」

「良かたどころではないナ。ここまでは要求するつもりは無かたのだけど。……大は小を兼ねるし、歓迎だけどネ。翆坊主、精霊というのは常にこういう感覚なのカ?」

《そうですよ。もちろん補助の程度を変更するぐらいはできますが》

「今一番驚きなのは空間認識力……視野の拡張、解りやすく言えば千里眼だけど、これはまるで新世界ネ。ここにいるようで、周囲が全て把握できるというのは不思議な感覚がするヨ」

「ほほう、どのような世界が視ているのか気になりますね」

《時に、超鈴音、契約執行をして、心の中に自然に思い描ける魔法障壁を張ってみると良いですよ》

「……?……ふむ、そういう事ネ。やてみるカ」

―契約執行実行―
―魔法領域展開―

「なんとなくでやてみたけど……こういう事かナ?」

《そういう事ですね》

超鈴音の身体の周囲を高密度圧縮加速した魔分が球体状に覆い、その言わば層のようなものが障壁と同じ役目を果たしている。
ほぼ無色透明ながら極僅かに翆色をしている。
ただ、普通魔法使いが常時展開しているような魔法障壁と違って目に視えるので、そういう意味では原始的でもあり、根源的でもあると言えるだろう。

「面白い障壁……ではなく強靭な魔力の層とでも言ったような感じですね。結界を張った意味も分かります」

「面白いには面白いが、いずれにせよ外でこれを使う事はまず無理だナ。それこそダイオラマ魔法球でも無い限りは。普通にアデアットするぐらいは問題ないが」

―契約執行切断―

《でしたら、研究用にダイオラマ魔法球を購入してはいかがですか?とはいえ、元々私の頼みですから、このような提案自体おかしな話ですが》

「キティは持っていますがね。まほネットでも相当高いですが、売っていますよ」

「ふむ……まほネットに少し仕掛けてみるカ。これからあると便利そうだしネ」

《その際、私からのお願いですが、時間設定は現実の時間とできる限り同じにして下さい。タカミチ君と同じようになるのは……勧められません。計画の為にわざわざ時間設定を変える必要もありません》

「フフ、そういえば、学園祭で見かけるタカミチ君は、随分老けて……まるでおっさんでしたね」

《……その代償に強くなったのも事実ですが。超鈴音の場合研究に没頭して、時間設定を変更していると取り返しの付かないことになりかねないので、釘を刺しておこうと》

「ははは、そう言われると……魔法球があるとそうする可能性も否定できないナ。大丈夫、私も年を重ねすぎるのは勘弁だヨ。高畑先生が戸籍上の年齢の割に、老けているのを実際に見ているからナ」

戸籍上の年齢……事実。

《それなら安心です。……さて、まだまだ時間ありますし重力魔法の研究を……。結界は貼っていますから、今は好きに契約執行もして下さい。契約執行自体の供給量の調整も覚えておくと良いと思います》

「分かたネ。なら、初の実験といこうカ」

……こうして理想のアーティファクトを手に入れた超鈴音は無事に魔分容量を操作しなくても魔法を使えるようになった。
呪紋回路でどれほど魔法の訓練を積んだかまでは定かではないが、負荷無しに魔法が使えるとあって、超鈴音が年相応の少女らしく、それなりに楽しそうだったのが印象的であった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

最近私……実験動物……というと何か変ですがそういうものに近いです。
それよりも変なのは葉加瀬さんと鈴音さんの目つきです。
特に葉加瀬さんの眼鏡が怪しげに光り過ぎです。
なぜなら、とうとう昨日、私達が入れる身体が完成し……してしまい……早速パソコンとこの身体に搭載されている指先の端子とを接続しています。

「ハカセ、まず円周率の計算からやてみるカ」

「はい!相坂さんがどれぐらいの速度で計算できるのか気になっていたんですよ!もしかしたら茶々丸より早いかも……と、凄く今期待してます!」

どう考えても、計算器扱いですよねー。

「さよ、本気で頼むネ!」

そんなに期待した目で見ないでください。

「わ、分かりました……。頑張ります。計算開始です」

でも……私はこれをやっても全く疲れというものとは精霊体だと無縁なので、構わないといえば構わないですけど、精霊の人権というか精霊権が害されているような気がします。
あ……意識しないで円周率だしてました。

「す、凄いですよ、これはっ!!こちらのパソコンの性能と計算に使用するプログラムから考えても驚異的速度です!わざわざ旧式の物を選んだのに!」

葉加瀬さん、こっちの世界に戻ってくださーい。
しかも、わざわざ旧いの使ってたんですか……。

「まさか数秒で桁が兆に届くとは思わなかたヨ。幽霊のような何かというのは凄いネ、さよ。私も驚きネ」

鈴音さん、白々しすぎますし、しかも幽霊のような何かって全然意味分かりませんよね?

「超さん、これなら私オカルトも信じられる気がしてきました!」

葉加瀬さんは落ち着いてください。
何気に誤魔化されている事に気づいてください!
非科学アレルギーも、幽霊は実は科学だったと納得しないでくださいね!

「これだけ異常だと記録の更新の申請はやめておいた方がいいナ……」

電子精霊の真似事でこの有様です。
何だか、これから計算器としての生活が増えそうです。

「私はこれから毎日計算することになるんですか?」

多分、限りなく、死活問題です。

「無理強いはしないから安心するネ。しかし、とりあえず今日は記念に色々データを収集してみたいからお願いするヨ」

……どこまで意思が尊重されるかやや怪しいですが信じることにしましょう。
これも鈴音さんに神木の記録を見せる為と思えば……仕方ないかなという感じです。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

契約から1週間程して、カードの機能を通して超鈴音から連絡があったが、念話は傍受される可能性があるので、魔分通信に切り替えた。

《超鈴音、例の身体が完成したそうですが……わざわざ記録のために三次元映像技術まで用意をするのはやりすぎではないのですか?》

《翆坊主、精霊が体験しているあの感覚を体感した私からすれば、この用意は当然ネ。二次元では感動も半減してしまうヨ》

充実しているなら何より。

《それで……なるほど、寮の部屋にその身体を持ち込んであり、葉加瀬聡美もいない今のうちにという事ですか》

《その通り、ハカセはこの数日で得られた計算結果で大学に泊まりこみ中だからネ。今のうちに見せてもらいたいヨ》

《……分かりました。ただ次からこちらに通信する方法ですが、アデアットした状態でなら私達がやっている通信が超鈴音にもできる筈ですから、カードを使った念話は控えてくださいね》

《……なるほど、確かにできそうだネ。翆坊主、一旦通信を中断して欲しい。こちらから実験してみるネ》

―アデアット―

《……翆坊主、これでいいのかナ?》

お見事。

《はい、完璧です。これでいわゆる双方向通信ができるようになりましたね。サヨとも離れていても、いつでも話し掛けられますよ》

《これは本当に便利だナ》

《一般的なアーティファクトとは全然違うものですからね。それでは一瞬だけ待っていてください》

さて、超鈴音の女子寮に出発。
寮に来るのは2度目だが収容人数の分、非常に大きな建物だ。

《超鈴音、着きましたよ》

「見た目はさよに似せているが早速入るネ」

この例の身体というのは、サヨの見た目に茶々丸姉さんのように頭部に2本のアンテナがついているという物。

「……なるほど、無理矢理動力部に入るのは若干の難がありますが問題はありませんね。では接続しましょう。ところでそちらに大量に用意してある……ハードディスクは……保存用ですか?」

「念の為ネ。数千年分も歴史があるのだから、できるだけ多く用意したヨ。ついでに三次元映像が表示されるようにも調整するネ。規格は合わせられるかナ?」

余程見てみたいらしい。
……興味があるというのは良いことであろう。
電子精霊の真似事をして……三次元映像の規格を解析……変換はできる……か。

「できます。……では適当に見繕って行きますよ」

……華の誕生、麻帆良の歴史を催し物中心に、地下施設の発展の様、数千年昔の自然……と受ける側の容量がすぐ限界を向かえるので、その都度超鈴音が取り替えながらデータ化して転送した。

「……翆坊主、まさに生ける化石だナ」

「ある程度、選定はしましたが、記録の管理はお願いします」

と……言ったのだが。

「………………」

既に見入っていて全く聞こえていなかった。
特に華の誕生の記録は気に入ったらしい。

《超鈴音。今言った事、聞こえていましたか?》

《……!翆坊主、何か言たのカ》

《記録の選定はある程度しましたが、その管理はお願いします、と》

《安心して大丈夫、この超鈴音に任せるネ。通信切てくれないかナ?》

……先に見る方が優先らしい。
超鈴音自身、自分の情報については気を使っているし、管理は大丈夫だろう。
サヨにも連絡しよう。
身体がベットに放置されているから……また幽霊をやっているようだが。

《サヨ、超鈴音にある程度映像を渡しましたが、宇宙の方は自分で渡して下さいね?》

《あ、もう、渡しちゃったんですか?はい、宇宙の記録は私が渡します!》

《はい、それでは。……今どこに……また映画館ですか、相変わらず好きですね。今超鈴音が記録を鑑賞している所ですので、一緒にいかがですか?》

《分かりました。今からすぐ戻ります!》

「サヨも呼びましたので、もう間もなく来るかと」

……この後サヨは自分のいつもの身体に戻って鑑賞することになり、似たような容姿が2人揃う事になった。
この日、葉加瀬聡美が帰ってくることは無く、夜遅くまで、記録を延々と見ていたのだった。
途中サヨに入っていた身体を任せ、自分で宇宙の記録を渡していた。
何にせよ一番満足そうだったのは超鈴音であった。

「……翆坊主、是非昔のようなまほら武道会をもう一度開いてみたいネ。当時10歳のご先祖様の映像は圧巻の一言だヨ」

ナギ・スプリングフィールド。
浮遊術、虚空瞬動が10歳で使えて当たり前の、当時、少年。

「私も直に見てみたいです。……って誰が鈴音さんのご先祖様なんですか?」

サヨには詳細な個人情報までは接続させなかったので、知らない。
最早精霊ではあるが、素体を得て今生活しているのは人間として……計算器は除くとしても……であり、全てを知る必要も無い。

《先程の赤毛の少年、ナギ・スプリングフィールドですよ。サヨには見せていませんでしたが、これはいつも通り絶対に口外しないように。ところで……大会を開くだけであれば、財力と技術力で外部に情報を漏らさないようにできるでしょう》

「あの男の子ですか!……でも髪の毛の色が違いますね」

赤毛続きとなる方が、珍しいだろう。

「……ふむ、実現に向けて準備してもいいナ。今の私も航時機を使えばアレぐらいの動きはできると思うネ」

《超鈴音、分かっていますか?》

「……ああ、使わないから安心するネ。それにこれからの私はアーティファクトもあるしネ」

《それならば》

「鈴音さんとも鈴音さんからできるようになったのは便利になりましたよね」

「うむ、そうだネ。……ダイオラマ魔法球が手元に来たら、私も研究の合間に訓練してみるかナ」

「他人に『世界樹の加護』を早々見せられはしないですが、訓練自体は良いことだと思いますよ」

こうして、映像鑑賞の結果、超鈴音はまほら武道会に対して興味を強く抱いたのであった。

……そして季節はいよいよ寒さが本格的になる冬。
学生達は期末テストも無事かどうかは人それぞれだが終り、今は冬休み。
この間、超鈴音はダイオラマ魔法球をまほネットをどうにかして入手し、寮の部屋から出たり入ったりを繰り返しながらも重力魔法の研究と、その合間に訓練も宣言通り行っている。
他にも、記録について販売をどうしようか、とも画策しているようだ。
一方、近衛門は本国と麻帆良内に呪術協会の支部を建てる事の交渉を本格的に行い始め、詠春殿とも秘密裏に連絡を取り合っている。
茶々円としての立場でも相変わらず、召喚術師限定で封印するという作業を続けているが、その数もめっきり減り、侵入者の割合の多くが単独型の者達ばかりとなりつつあった。
狙い通りといえば狙い通りで、召喚が無いだけに、総数で見れば減った。
サヨは相変わらずの生活パターンを繰り返しているが、寒さも本格化し人気を再び博している超包子で、学生のアルバイト収入としてはかなりの額を稼いでいる。
これには超鈴音が色を付けた事が起因しているようだが、計算器としての労働等を考えての事なのだろう。

……最近の私達の精霊としての仕事といえばいつも変わらず観測を行い、火星のテラフォーミングを徐々に進行させている。
大きな成果としては、過酷な環境にありながらも神木を全力で稼働させた事により大気組成に占める酸素の割合が3%を超えたことだ。
また、司書殿と超鈴音の考えたこれはと思えるような重力魔法の術式を試しに火星の一部での実験も行っており……そろそろ確実な成果が出そうではある。
麻帆良の木は神木・蟠桃と呼ばれているが、第二世代の神木にはどういう名前が付くのだろうか。
……さて、ここで難航している地下の氷の問題を例に取る。
魔分を反応させて溶かす事はできるが、火星の平均表面温度は-63度、平均気温は-43度と極寒。
神木は平均どころか北極圏に定着させる事に意図的にしたが、その過酷な環境でも生き抜いている。
神木付近は、常に魔分保護を行っているので、生き抜けている。
魔分で同じようにそれより更に遠い地中も活性化させてはいるが、その末端では、溶かしても活性を止めれば、すぐにまた再び地下の氷は凍ってしまうのである。
……これを根本的に解決するためには、火星自体の重力を底上げすることによって、大気圧の大幅な上昇と、スケールハイトと呼ばれる大気の厚さ自体を現在の11kmから半分近くに持っていく必要がある。
また、他の大きな問題として火星の磁気圏というものは微弱であるため太陽風を防ぐのが困難。
そのため、これは先の薄い大気とも関連して、火星地表に到達する電離放射線と呼ばれるものの増加を引き起こし、生物が健康に生きていくという点では障害となる。
その有害さは地球と火星の軌道上での値を比較すれば2.5倍を越える。
こちらの解決策としては磁気圏自体の強化があり、星の核に存在する金属物質の量を増やすことが単純な策だが、これはいくら火星の地表が赤い原因である鉄分が豊富にあるからと言っても、それを地下に送る事は現実的ではない。
違う取り組みの方法として火星地下奥深くの冷えているマントル層を強制的に活性化させマントル対流が安定するまで持っていくという方法があり、取るならこちらの方法しかない。
……いずれにせよ、まずは重力である程度解決ができる。
また放射線に対する対策はこのようなものがあるが、保険として役に立つ物として華の外殻が期待できる。
華の外殻を構成する物質……有機結晶は外宇宙に飛ばせる以上、あらゆる放射線の遮蔽能力がある。
有機結晶とは言え、神木から作り出した以上、魔分の結晶体でもある。
敢えて呼ぶなら、魔分有機結晶……長い。
それはともかく、つまり、これと同等とは言えなくとも限りなく近いものを精製し、粒子状にして神木から魔分と同じように打ち上げて、それを軌道上辺りで滞留させるという方法も副次的に放射線の緩和に役立つ筈である。
魔分有機結晶の情報自体は神木から作られたものなので、成分は人間の理解が及ぶように対応させれば、きちんと伝えられる。
そのため、超鈴音には重力問題が解決を見せたら、次に忙しくさせてしまうがこの物質の研究を行ってもらいたいと思っている。

……そして冬の日々が刻々と過ぎ、年末を迎え年越し。
そんな年明けを迎えた瞬間、超鈴音の叫び……声が通信で入ってきた。

《これで重力の問題は解決したも同然ネ!根本的に重力という所から少し離れて発想の転換が必要だたが、素晴らしいブレイクスルーを達成できたヨ!》

大晦日にも関わらずダイオラマ魔法球の中で過ごしていたのであるが、頼んだこちらが言うのも何であるが、ありがたいと同時にその研究への集中力を賞賛したい。
しかし、超鈴音は年末年始という年の区切りは一切無視のようである。
しかも、また横文字が増えた。

《鈴音さん!とうとう完成したんですか?今もう年明けて、蕎麦食べていたんですが、一度出てきて葉加瀬さんと一緒に食べませんか?》

サヨは素体を得て初めての年越しということもあり、日本人らしく蕎麦を食べていた。

《超鈴音、重力の件、解決したようで、本当にありがとうございます。今日は休んではいかがですか?》

《サヨ、翆坊主。思わず通信を繋いでしまたネ。そうだナ、積もる話は後にしよう》

……そして超鈴音はダイオラマ魔法球から出る準備を始めた、一方。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「相坂さん、突然びっくりしたようでしたけど、どうしたんですか。蕎麦が喉に詰まったりしたんですか?」

鈴音さんが通信で叫んできたのでちょっと驚いてしまいました。

「葉加瀬さん、大丈夫です。もうすぐ鈴音さんが出てきますから一緒に食べましょう」

「超さんやっと出てくるんですね。今日も出てこないかと思いましたよ。それにしても魔法は私にとってはオカルトのようなものではありますが、あの魔法球という技術は一度入ってみましたが凄いですね」

そこへ丁度良く鈴音さんが出てきました。

「いやー、いい成果が出たネ。さよ、ハカセ、あけましておめでとう。私も蕎麦を食べさせてもらうとするヨ」

「あけましておめでとうございます、超さん」

「あけましておめでとうございます、鈴音さん。蕎麦はもうありますからどうぞ」

「これは美味しいネ。日本の伝統とは良いものだナ」

私達は蕎麦を食べた後、龍宮神社に初詣に行きました。

「2人は何をお願いしました?」

「私はロボットの進歩で心おどるような成果が出るようにですかね」

いつも通りの葉加瀬さんらしいです。

「野望の成就と世界平和を願たネ」

とても壮大です。

「あ!超さん達も初詣来てたんだねー!」

……とクラスの皆さんも後からやってきました。
いつも寮の食堂や大浴場で会いますからさっき会ったばかりという感じではあるのですが。
……皆と少し話をした後一緒に寮に戻りました。

……明けて朝、寮の食堂ではおせち料理が出て感動して、その後皆で改めて龍宮神社に行き、おみくじを引いたり、お守りを買ったり絵馬を書いたりとやることはやりました。
なんといっても私には60年ぶりのお正月ですから。
引いたおみくじの結果は小吉でしたが、体調に気をつけるべし、なんて言われてもこの身体に体調も何も無いです。
お守りは巫女さんをやっている龍宮さんに勧められてなんだか色々買わされた気がします。
早乙女さんの絵馬に文字や絵を書く速度が物凄く早い上に、その一緒に書いていた絵も上手かったです。
いいんちょさんや近衛さん達が着ていた着物姿はとても様になっていました。
……そして午後、葉加瀬さんは新年早々大学の研究室に行ってしまい、私達は鈴音さんからの報告を受けることになりました。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

超鈴音の研究成果の発表。

《では重力の件の報告を始めるヨ。以前に翆坊主が考えた星の質量を擬似的に上げるというものだたが、これは維持のために魔分の無駄遣いでしかなかたから却下だたネ》

《そもそも無い質量を増やすというのは人間の一般的な生活規模であればなんとかなりますが惑星規模になると困難でしたね》

《加えてクウネルサンと共に研究した重力魔法を地表に張り巡らさせるというものだたが、術式に範囲指定が必要で大気の層を引き寄せるほどの出力は得られなかたナ。しかしこれは組み合わせには使えるヨ》

《何度も図書館島に篭った甲斐があるならば嬉しいですね》

《今回私が考えた方法はズバリ変身魔法ネ》

《鈴音さん突然違う魔法ですね》

《変身魔法という言い方は語弊があるが……もう少し正しく言えば幻術魔法。しかし別に実際に見た目が変わるわけではないヨ。正しくは惑星そのものにあたかも大きさが変わるかのような術式をかけて、惑星自体を錯覚させるものだ。人間には見てもわからない、星の自己催眠……これも語弊はあるけどそういう事なのだけどわかるかナ。先の質量操作の方は無いものをあるようにするのは魔分の無駄遣いがあたが、逆に星の大きさを擬似的に小さくするような方法ならば魔分効率も良く、火星の半径が幻術で短くなる偽装の結果、重力加速度を増加させられるヨ》

《その術式……随分無理がありそうですが、よく開発できましたね。発想力という点では流石人間、それも超鈴音ならではと言った所でしょうか》

《お褒めに預かり光栄だナ。続けるが計算の結果、火星の半径約3397.2kmを約2084kmになるような術式で解決するネ。因みに、この術式は弄られたら終りという危険性があるだろうから強力なプロテクトをつけておくヨ。電子精霊の真似事ができるということは神木に対して、同じく電子精霊で攻撃ができなくも無いだろうからネ。不要だたかナ?》

《いえ、それならそれで全く構いません。なるほど、逆に神木がハッキングされる可能性も、絶対に無いとは言い切れないですね》

そういう事も絶対に無いとは……言えない。

《うむ。それで、プロテクトにはアーティファクトの効果で得られた演算速度を参考にして断続的に変化する乱数を鍵にしたヨ。これなら神木レベルの性能が無い限りは誰にも介入不可能だろう。後は組み合わせる重力魔法だがこれはそのまま外側に向けて保険として発動するタイプのものにしたヨ。2つある月の軌道が万が一にもズレてこないとも限らないからネ。実際試さないとわからないが、少なくとも公転軌道に大きな変化はないだろうからその点は安心だネ》

《月が落ちてきたら大変ですよね》

《しかし、解決できるとあれば本当に良かったです。気になるのは魔分使用量ですが、地球の大きさを神木・蟠桃一本で支えられていますから……恐らく大丈夫だと思います》

《これで未来の故郷の悲劇が回避できるならば……私としても努力している甲斐があるネ》

《超鈴音、重力の件だけでも感謝していますが。次は……》

《分かているヨ。私は実際に火星に住んでいたのだから。次の問題は宇宙放射線の事だろうが、神木でやているという地中活性で地磁気も強化できるのではないカ?》

《未来では放射線に対する対策が確立していたのですね。私達の知る情報ではそこまで詳細な技術までは知らないもので》

《故郷ではマントル対流を直接活性化させるための大規模な装置を地下に向けて放ち、強力なエネルギーをぶつけてある程度地磁気を強化する事ができたヨ。ただその装置は生き残りをかけて資源、時間的にもギリギリだたから複数作ることが不可能でネ。徐々に効果が失われていたヨ。勿論この装置もある程度の改善程度だたから、足りない分は専用の服で防護していたネ。そういう事情を含めて私がここにいる訳だナ》

《なるほど、そうでしたか。確かに神木で地中活性は可能ですがやはり万全とはいかないと思います。そのため私の考える案に火星の軌道上に、神木で創られた華の外殻の素材を粒子状にして散布するというものがあります。あの物質ならほぼ完璧な放射線耐性がありますので保険としては充分だと思います》

《翆坊主、それならこの私に任せるヨ!その物質に興味があるネ》

《そういえば華に興味をお持ちでしたね。有機結晶……神木で作ったものですので、魔分有機結晶とでも呼べますが、その成分情報に関しては既にあります。ですのでサヨに例の身体に入ってもらって受け取って下さい。情報自体は科学に対応するよう変換しておきます。……恐らく超鈴音なら解決できると期待しています》

《研究対象が次から次へと飽きることが無くて良いネ。しかしその物質を精製するのは良いがどうやて火星に送るんだ、翆坊主?》

元々精霊体は神木同士で転送が可能であるが、麻帆良の地下にあるゲートを参考に、物理的にも神木同士を完全に繋げてしまえば問題無い。
合わせて、超鈴音のダイオラマ魔法球とも同じように、転送できるようにしておけば今後の事も考えれば便利になる。

《そのあたりはゲートを参考にして神木同士を繋ぐことにします。準備ができたら超鈴音のダイオラマ魔法球とも繋げさせて貰いますよ》

《簡単に言うけど……参考にするものがあるなら、できるカ。そもそも地球と魔法世界を人間が繋ぐ事ができているのだしネ。そうと分かれば確実に仕事は完遂してみせるヨ》

《今の発言はしかと耳に入れたヨ。故郷では安全に宇宙に出られる高速船までは流石になかたから楽しみにしてるネ》

《以前話しましたが、繋がったあかつきには華の中に乗ってみますか?興味があったようですし》

《おお!それは良いネ!是非お願いするヨ!》

……そうとなれば、やることを始めよう。

……その後、年末年始は開いていない図書館島に行き、司書殿に超鈴音の解決策ができたことを伝え、手伝ってくれたことに感謝した。
超鈴音が次に来たときにネコミミをつけてもらうなどと言っていたが、本人に聞いて欲しい。
さて、実際に重力の解決策が完成した所で、早速大規模術式を火星で実行した。
……結果、およそ1日で重力、大気圧、スケールハイトは理想の状態に安定。
月の軌道は観測しているが、もし問題があればすぐに分かる。
重力が地球と同等になった事に伴い火星の平均気温、地表温度も徐々に上昇する。
それからならば、氷を溶かしても、再び凍りついてしまうのも避けられるようになるだろう。
ただ火星は地球に比べると太陽光が半分程度しか届かないので数日で完了……と勢い良く変化が起きるわけではない。
また、地下マントルの活性も行っているが効果が出始めるのはまだ先。
今後の魔分有機結晶の精製、その粒子化したものに関しては、麻帆良最強頭脳超鈴音の本人の能力、技術力、財力を結集させた実力が発揮されるであろう。



[21907] 9話 商談交渉
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/24 22:01
火星の重力の問題が解決したと思えば次は宇宙放射線対策だというのだから忙しいネ。
今日は正月が終わて図書館島に入れるようになてからクウネルサンの所にお礼を言いに来たところ。
行きがけに五月の作たばかりの超包子の肉まんをお土産に持て来たヨ。
……翆坊主達の記録で図書館島の地下もくまなく分かったが、魔法的処理がされていなければここが崩落しておかしくない。
直通エレベーターがあるにしても、若干の距離を歩く必要があるから、慣れてはきたが少し面倒ネ。

「クウネルサン、翆坊主から聞いてると思うが火星の重力は片が付いたヨ」

空中庭園のテーブルで紅茶を飲んでいるようネ。

「おや、超さん、待っていましたよ。精霊殿に聞きましたが流石は麻帆良最強頭脳というところでしょうか」

爽やかに挨拶をしてくるのはいいが何故ネコミミを持ているネ。

「クウネルサンの重力魔法も私にとてはいい勉強になたからお礼に来たヨ」

「それはそれは、では是非このネコミミを付けて貰えませんか」

…………。
初めて会た時も同じようなことを言ていた気がするが冗談では無かたのカ。
なんだか紅き翼のイメージが崩れるネ。

「ふむ、ネコミミ付けても構わないヨ。その代わりお礼として持て来た肉まん一つ1000円で買うネ。しめて6000円ヨ」

私のネコミミ姿は安くない。
定価の数倍の値段で手を打つネ。

「わざわざ貴重な肉まんをありがとうございます。私はここにいるものですからあまりお金の使い道もないので喜んで買わせて頂きますよ」

……特にダメージはないらしいナ。
多分1個1万でもこの人買いそうな気がするネ。
価格設定を間違えたか。
貴重というのも皮肉なのか本心なのか読めない人だナ。

「お買い上げありがとネ。約束通りネコミミ付けるヨ」

「ではこれをどうぞ」

しかし私が髪を下ろした状態で日中いるというのは相当珍しいネ。
こういうのを付けるのは、1-Aならともかく、なんだか恥ずかしいネ。

「ご要望通り付けたが感想もらえるのカ?」

「ええ、大変お似合いだと思います。良い物を見れましたよ」

普通に誉められたヨ。

「満足頂けたようで良かたネ。五月が作た肉まんも温かいうちに食べるといいヨ」

「今年の学園祭で分身を出していたのですが、超包子には寄らなかったもので、この肉まん食べてみたかったのですよ。ありがたく頂きます。ついついキティの所ばかりにいてしまいまして」

本心だたのカ。
キティとは誰かの愛称なのだろうナ。

「肉まん買いに外に出たいだけなら翆坊主に言えば魔力提供してくれるのではないカ?協力に対する礼はしてくれるから重力魔法の対価として手を打てると思うネ」

「私としても出たいといえば出たいのですが、他人に私がここに居る事が知られるのはまだ困るのですよ。確かに私がここを出るためにはキノ殿による世界樹の発光時、学園祭の時期のような魔力が満ちている必要があるのは事実なのですがね。それに今回の協力は私の方も、礼を返しているものですから良いのですよ」

「そういう事情があたのカ。まだというのはご先祖様……いや、時が来たらわかるネ」

「ええ、数年間待っていますがそろそろ近いと思いますね」

「クウネルサンもある程度どうなるか分かているようだナ」

「その辺りは秘密ですよ」

「フフ……詮索はやめておくヨ。また今度肉まん届けにくるから期待するネ」

「ええ、好きなときに来てください。お茶ぐらいは出せますので」

クウネルサンの元をこれで後にした。
ネコミミはきちんと返したネ。
……それにしてもサヨから受け取た魔分有機結晶という物質の情報は凄い。
確かにこれなら宇宙放射線に対する抵抗その他があるのは頷けるネ。
人類が宇宙空間に安全に出ていけるようになりそうだし、そういう点でもやりがいがあるヨ。
しかし宇宙放射線対策を行わなければいけない優先度と期限を考えれば地道に進めても問題ないだろうナ。
本物と完全に同等の精製は無理だろうがこれに限りなく近いものならば私の技術と組み合わせれば実現も可能だと、何となく現実感もあるのは良いことだ。
原料には純粋な魔分を内包した物質が必要だからアーティファクトでそこは処理をするとして、色々用意する必要があるネ。
有機的部分は成分を見る限り、複数の素材が必要になるから……安定した仕入れルートを確立したいナ。
……麻帆良で作業するのだから雪広グループに協力を頼むカ。
まほら武道会も実現してみたいから、その辺りも含めて接触してみるのも良いナ。
クラスの雪広サンを切り口に交渉してみよう。
例の記録映像を活用してみたいと思う所もあたが、売りつける先がなかなか難しいものの、この際それもまとめてやてみるカ。

《超鈴音、この前記録を渡しましたが、容量不足で結局無理だったものがあるのです。それは麻帆良の警備の記録なのですが興味ありますか?近衛門殿の戦闘はナギ少年とは違った見所があると思いますよ》

突然通信が来たが翆坊主は……私に甘々だネ。
まあ何か別の意図があるのかもしれないナ。

《メモリーをまた用意したらサヨに頼むヨ。言われてみれば学園長の魔法にも興味があるネ》

エヴァンジェリンを除外すれば、学園最強の魔法使いというのだから興味は尽きないネ。

《……だそうですよ。サヨ、後でよろしくお願いしますね》

《はい!鈴音さん、私に任せてください》

……さよにも繋がていたのカ。
この通信方法は便利なのは便利だが用途によては能力の無駄使いだナ。
最近サヨも雑談をしてくるようになたからただ通信料と時間のかからない電話みたいなものネ。

……有言実行、今日の授業が終わたから二つ前の席の雪広サンに交渉する。

「あやかサン、雪広グループに幾つか交渉したいことがあるのだが時間を貰えないかナ?」

「珍しいですわね。……ええ構いませんわ。超さんがグループに直接問い合わせるのではなく私に話を持ちかけるということは時間をかけたくないという事ですわね」

「話が早くて助かるヨ」

「ここでそういった話というのも場所が悪いですから、今からグループの者に連絡して場所を用意させましょう」

「雪広グループにとっても悪い話ではないから期待してくれていいネ」

「超さんの噂はグループでも有名ですから社員たちも興味を持つ筈ですわ」

「それは光栄だネ」

流石雪広グループ……迎えに来たのはやはり黒くて長い車。
そのままビルに到着して、案内されたのは応接室。
あやかサンと縁が深そうな社員の人もいるしここまですぐに進むというのは助かるネ。
この商談成功させるヨ。
例の記録映像とこれを映す三次元映像再生機も用意してきたから必ず食いつく筈ネ。

「まずはこれを見て欲しいネ」

さあ、記録が写真でしか残ていない第一回麻帆良学園祭をフルカラーで見るといいヨ。
どう手に入れたか気になるだろうがそこは企業秘密でいくヨ。

「まあ三次元映像!流石超さんですわね。でもこの映像は……麻帆良学園かしら」

「あやかお嬢様!こ、これを見てください!第一回の麻帆良学園祭の映像ですよ。何故このような映像が……?」

ふむ、印象は悪くないが、やはり入手経路を聞いてくるか。

「落ち着いて欲しいネ。映像技術は私が開発したものだが、残念ながら映像の出所については企業秘密だヨ」

ここにいる人達全員に不思議な顔をされたネ。

「……分かりましたわ。映像の入手方法については詮索致しません。超さんがこれを見せるという事は買い取って欲しいという事ですか?」

「その通りネ。なんとか活用する方法を探していたところだたが、やはり麻帆良でも影響力の強い雪広グループに頼むのが一番良いと思てネ。当然三次元映像技術の売り込みも兼ねているヨ」

「あやかお嬢様、ここは社長もお呼びしましょう。今の時間ならこの本社にいらっしゃいます」

これは随分早く大物が釣れたナ。

「ええ、そうですわね。お願いしますわ」

それから社長サンが来るまで映像を見てもらていたが、昔の麻帆良の映像に完全に見入ていたヨ。
私も翆坊主に渡された時は長いこと見たから気持ちはわかるネ。

「あやかお嬢様、社長がいらっしゃいました」

「あやか、そちらのお嬢さんが噂の超鈴音さんかな?」

あやかサンもだが社長さんも有名な俳優のような人だネ。

「ええお父様、私の学友の超鈴音さんですわ」

「初めまして、超鈴音です。失礼ながら正規の方法ではなく、あやかサンに直接話を通して頂きました」

私がいつもの口調でしか話せないと思たら大間違いネ。

「私が雪広グループの社長であり、あやかの父です。あやかに話をしたのはその方が早いからだろう。私も今年の学園祭で有名になった超包子の肉まんは社員に買いに行かせて頂いたよ。とても美味しかった。屋台も飛行機能付きだというのを知って驚いたものだ」

超包子の肉まんがここまで浸透しているとは嬉しい誤算だネ。

「お褒めに預かり光栄です。本日は幾つか交渉したい事があり伺いました。まずはこちらを御覧ください」

「ほう、これが先程連絡で聞いた麻帆良の昔の映像か。しかも三次元映像技術とは超さんの引き出しはどれだけあるんだい?感心するよ」

「私の発明は友人と協力して行っておりますのでこれからまだまだ実力をお見せできるでしょう。つきましては、今回これらの映像の買取りをお願いしたく思います」

「なるほど、これ程貴重なものはなかなかないだろう。買取りは前向きに検討させて貰うとして……詳細は後で担当に来させよう。幾つかという事だったが他の要件を聞かせてもらおうか」

突然真剣な空気に変わたがビジネスに対する嗅覚が鋭いネ。

「今度はこちらの依頼なのですが、今までの研究とは違う分野にも手を出そうと考えています。そこで必要な物資を安定して得られるルートを確保したいのですが、雪広グループに依頼するだけにその内容は多岐に渡ります。更に、個人的に噂に聞く昔のまほら武道会というものを復活させたいと考えていまして、雪広グループの協力を頂きたいです」

「物資の継続購入とまほら武道会の復活……か。あやか、済まないが席を外してもらえないか?」

「え……いえ……分かりましたわ、お父様。超さん、私は先に失礼させて貰います、明日学校でお会いしましょう」

この辺りの暗黙の了解が徹底しているのはありがたいネ。
しかしやはり社長サンは当然裏の事は知ている。
社員も何人か出て行たが残ている人もいるということはそういうことなのだろうナ。

「超さん済まないね。あやかに聞かれる訳にはいかない話になりそうなので席を外してもらったよ」

「いえ、これで私も先程言えない事が言えます。まほら武道会に関しては協力頂けなくても構いません。少なくとも物資の買い入れは確実にお願いしたいです」

「こちらとしても、既に対価は頂いたような物だから物資の件は約束しよう。まほら武道会の復活だがその様子だと裏の事を知っているのかな?」

「約束感謝します。裏についてはそう考えて頂いて構いません」

「なるほど、しかし復活させるとなると学園長に話を一度通さないと難しいだろう。確かに我々の組織ならば情報操作も可能だが」

ここで学園長が来るカ。

「情報操作は私の方でも対策方法を考えているのでその点は万全にできる自身があります」

「なるほど……私も興味がない訳ではないからね。この件は学園長に打診をしてみよう。その時に超さんの名前を出させてもらうが構わないだろうか?ただ色よい返事がもらえない場合は諦めてもらうしか無い」

この人も興味あるとは都合がいいネ。
雪広グループから打診して貰えるというならそれだけでも僥倖だナ。

「ご協力ありがとうございます。名前は出して構いません。お願いします」

この後、持てきた映像の査定をして貰い、仕入れる材料の方のリストは見せたらやや驚かれたが仕方ないネ。
地球で手に入る地域が国をまたいでいるからこそ雪広グループに頼んだのだからネ。
売却価格は手付金として買い付けにかかる費用である程度相殺されたが今後続けていけば総額では赤字になるかもしれないナ。
だが、これで色々と目処が付いたし、明日も頑張るヨ。
しかし口調を変えるというのはなかなか辛いものだたネ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

超鈴音は順調として……私達と言えば、サヨから第二弾の映像を渡して貰った。
そして……今晩も茶々円で活動を行う。
しかも今日は特筆すべき点がある。
近衛門も警備に参加するというのである。
西洋魔法使いでありながら、着ている服は関西呪術協会の白い和服であり、基本的に手は腰の後ろで組んでいるのが近衛門の歩くときの常。
しかし、今日は、全身から活力が漲っている。

「学園長……今日は突然どうしたんですか?いつもと様子が違いますよ」

タカミチ君がかなりの動揺を見せ、後ろの方の今日の番の魔法先生達の中にはとうとうボケがここまで来たかなどと、聞こえない声で呟いているが、私には聞こえている。
ボケというよりは……寧ろその逆。

「今晩は儂も警備に参加するのじゃよ。ただそれだけじゃ。他は皆いつも通りで構わん」

「しかし……どうして急に自ら出られるんですか?」

「何、準備運動じゃよ」

普通に答えているが威圧感が溢れている。
丁度来ていた魔法生徒が興味津々のようだ。
エヴァンジェリンお嬢さんを除けば学園最強の魔法使いが戦いに出るというのだから当然といえば当然ではある。
今日たまたま連れてこられたシスターの春日美空が目を輝かせている。
シスターシャークティは学園長ではなくそちらに驚いている。

「じじぃ、無理するなよ」

エヴァンジェリンお嬢さんはほぼ不在だが、今日は出てきた。
やはり興味があるのだろう。

「今日の儂はいつもとは違うでの。安心せい。では今日の警備を始めるとしよう。皆、よろしく頼むの」

と言った途端、近衛門の姿が消えた。
瞬間転移魔法だ。
今日の番の人達が唖然としている。

「神多羅木先生、私達も行きましょう」

「あ、ああ、そうだな」

ところで、神多羅木先生のフィンガースナップと呼ばれる技は近衛門が昔使っていたある技を個人的に変化させ速射性に特化させたもののようである。

「神多羅木先生の魔法は学園長の魔法を参考にしているのですか?」

「茶々円は学園長の魔法も知っているのか?」

見たことがあるから。

「私は学園長の作品でもありますから」

「……そうだったな。私は学園長が執筆した本を参考にしたんだ」

そういう事か。
出版物にまで、いちいち観測はしていないが、近衛門は関東魔法協会の理事長であるのだから当然ではある。

「そういう事ですか。フィンガースナップ自体を個別の始動キーにするというのは威力と速射性から考えても良いですね」

無詠唱魔法と言われているが、単体魔法に対応する唯一の発動始動キーを付けたものである。
指を弾くこと自体をキーとすることで無詠唱により起きやすい威力低下を防ぎ速射性も実現している。

「よくわかるな」

「はい、分かったもので」



[21907] 10話 素体処分
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/24 22:05
この日かなり早く警備終了となり、神多羅木先生と共に戻ってきた。
原因はやはり近衛門だった。
総評すれば、今日の警備は大変皆さんにとって楽だったということだ。

「ふぉっふぉっふぉ、久しぶりに身体を動かしたがいい運動になったわい」

とても元気そうである。
魔法先生達のヒソヒソ話によると、警備担当の場所で侵入者が気絶しているか、着いてみれば何もいなかったかのどちらかであったという話だそうだ。
流石近衛門。

「おお、そうじゃ茶々円はこの後話があるから残ってくれんか」

ああ……恐らく何か動きがあったのだろう。

「分かりました学園長、参りましょう」

「皆、今日は解散して構わんぞ」

「じじぃ、私もその話を聞いてもいいか」

おや、エヴァンジェリンお嬢さんも察したわけか。

「……ふむ、構わんぞい。それでは行こうかの」

タカミチ君が自分も参加したほうがいいのだろうかと、判断に困っていたが、さっさと私達は移動を開始した。
……場所は近衛門の自宅。
麻帆良の中心部からはやや離れているが和風の落ち着いた家だ。
和風だからこそ西洋風な街並みから離れた場所にあるとも言える。

「近衛門殿、話を伺いましょう」

「うむ、呪術協会の支部を麻帆良に受け入れる目処が立った。後は建設をするだけじゃな」

……予想以上に早い。
早過ぎると言っても良い。
まだ半年も経っていない。

「近衛門殿、それは早かったですね。どんな交渉をしたのか気になりますが」

「じじぃ、ついてきて良いとは言っていたが話が読めん。説明しろ」

「エヴァンジェリンお嬢さん、私が説明します。詳しい事情は省きますが、茶々円として活動していた狙いは呪術協会の支部を麻帆良に建てさせ、東と西の対立を緩和させる事にあったのです」

「は……なるほどな。あの魔力封印とも呼べないような処理を呪符使いに対して徹底していたのはそういう事だったか」

ご理解頂けた。

「先方としては外面上難色を示していたようじゃったが、封印処理の解除と支部の建設には旨味しかないからの。西の長が根回しをしていたのも効いたようじゃ。体裁として木乃香を呪術協会で護衛するという形を取れるのもあちらの面子を立てる事になるわけじゃ」

「なるほど……その辺りは計画通りと言ったところですか。準備した甲斐がありましたね。……しかし問題の本国の許可はどうされたのですか?」

「一部からは強硬に反対されたのじゃが、大勢としては旧世界の呪術等大したことが無いと見下す傾向じゃからの。大した脅威でもないと判断されたようじゃ。本国としても旧世界との繋がりを軽視する孤立主義の傾向が強くなってきておるのも効いた。地元でのいざこざを本国に持ち込まなければ問題なしと言う事のようじゃ。実際本国側も麻帆良の守備の状況を報告してもこちらに回す人員を渋るぐらいじゃしの」

孤立主義の傾向につけこめればというのは考えていたが、実際その通りか。
一部の反対勢力が気になるが、多数決である以上今更結論は覆らなければそれで良い。

「一枚岩でないのが有利に働きましたね。その反対勢力が大勢を占めていなくて助かりました」

「それでも無条件にとは行かなかったがの。何か問題が起きたら儂が責任を取ることになっておるよ。注視すべき対象が本国の反対勢力と呪術協会とは手間が増えたの」

「それはまた……辛い……仕方ない条件ですね。ですがそのような事にならないよう私も視ていますので任せてください。近衛門殿、この短期間でこの案件を実現に持ち込めるようにしてくれたこと感謝します」

「キノ殿、これは儂らにとってもいつかは通らなければならない道だったのじゃ。これからが大変じゃが、きっかけを与えてくれた事こちらからも感謝しますぞ」

「……茶々円、前に保険と言っていて大して気にかけなかったが、その内容とは何だ?聞いていれば寧ろ面倒になったように思えるが、お前がじじぃに感謝するということは何かしらメリットがあるという事なのだろう?」

……エヴァンジェリンお嬢さんにもそろそろ話しても良い頃合か。
いつの間にか茶々円で名前が定着しているのは置いておく。

「エヴァンジェリンお嬢さん、説明しますが、他言無用で。……一番大きな問題は後11年程度で魔法世界が消滅し、純粋な人間が火星に投げ出される事なのです」

「……それは本当なのか?」

「それは間違いありません。ただそれ自体は回避する用意がこちらにあるので問題ないのですが……その結果として今までにない問題が浮上するので、この小さな日本で争いを続けるのを、早急にやめて欲しかったということです」

「……裏でコソコソとそんな事をやっていたのか」

「はい。……ところで、近衛門殿、今日警備に参加して、準備運動と言っていましたが、もしやこの前私が言ったことと関係はありますか?」

今は大陸を越えた先にいる少年が、彼の地で学校を卒業するのは今年2002年の7月。
後半年程度。

「ふぉっふぉ、あの時はいつになる事かと思っておったが、あっという間じゃったの」

情報が既に回っているという事か。

「もしや、近衛門殿が直々に手を出すつもりなのですか?」

知っている事と異なる流れになりそうなのは……私がそもそもの原因。
近衛門に直接指導でもされれば、成長するのは間違いないし……それにここはお嬢さんもいる。
魔法使いの慣習が日本の社会に適応するかどうかは度外視すれば、単純に修行環境としては充分。

「おい、また何を勝手に話しているんだ?」

これは……私が話す事でも無い。

「ふぉっふぉっふぉ、エヴァや、その時になるまでの秘密じゃよ。キノ殿の言葉がなければ傍観していただけかもしれんが儂も一仕事したくなっての」

近衛門が自ら動く事になるとは……。
少なくとも正の面での変化だろうか。

「じじぃじゃ埒があかない。茶々円、説明しろ」

「……分かりました。全てを明かすのも何ですので……赤毛の人物とでも言えば良いでしょうか」

「な、何だと!それを早く言え!そうか……こうしてはおれんな、ハハハハ!楽しくなってきたぞ!」

ああ……勘違いしてしまったらしい。
しかし、そう取ったのはお嬢さんの問題
随分、いわゆるテンションが高くなっていた。

……そして、麻帆良都市に新たな勢力が加わることが明らかになってから数日。
再び、記録鑑賞会。

《翆坊主、学園長はこんなに強かたのカ》

《昔から凄かったですよ。ナギ少年は10歳であの強さという点で異常でしたが》

《初めて見たら確かに驚きますよね》

近衛門の活躍の記録である。

《今貰た先日の学園長の映像も年を取ている割には衰えていないナ》

《攻撃は無詠唱、魔法の射手闇の矢限定でやっている所からすると、本当に準備運動だったのかと。……実際、それ以上のものを使うまでもなかっただけではありますが》

《あれで遊んでいるのカ……。虚空瞬動する度に魔法の射手を遅れて発動させる光球を残すだけでなく敵を正確に追い込んで捕縛する技術には驚かされるネ。スローで見なければ何が起きているのかわからない程の早業だナ》

《キノ、学園長先生自身で放つ、この射程と貫通力が他のものに比べて高いのも全部魔法の射手なんですか?》

《ああ、それは近衛門殿がロシアの魔法協会に昔出張した時の事らしいのですが、戦時中に狙撃手をやっていた魔法使いの方にライフル……ライフリングでしたか、その弾丸を模した魔法の射手を見せてもらったことがあるそうです。螺旋回転の力を付加しているので通常より大幅に威力が高いですね》

《戦時中魔法使いは魔法使わなかったんですか?》

《もしこちら側で大々的に魔法を使っていたら、未だに戦争中だったと思いますよ。本当に危ない時は魔法障壁の1つぐらいは発動させていたと思いますが》

《学園長は質量兵器の戦争の経験もあるという事カ》

《近衛門殿の能力としては驚きなのは戦術眼とでも言うのか、それと、その戦闘感覚の高さですね。相手が気づかない内に戦闘の運びが近衛門殿に常に掌握されているというのは相手側にとっては大変でしょう》

《……学園最強と言われる理由もわかるナ。高畑先生の攻撃はこれだと当たらないネ。……しかし全ての映像を通して時々空中から真下に移動しているが……これは転移魔法カ》

《その通りですね》

《魔法陣も展開しない転移魔法とは、これではまるでカシオペアを使った戦いのようだヨ》

《そうなのですか。カシオペアでどのようになるのか見たことが無いので分かりかねますが、近衛門殿は転移魔法の特筆すべき点は発動速度と移動距離ですね。そもそも転移魔法を扱える術者自体が極僅かですが、その中でも普通はあれだけ広範囲に渡っての縦横無尽の移動はできませんから》

《ふむ、流石の私も学園長に興味を持つネ》

《例の人物の来訪に向けて近衛門殿は準備運動するそうですよ》

《例の人物って近いうちに来るらしいという男の子の事ですか?》

《そうですよ。会ってみてのお楽しみという事です》

《私も手合わせしてみたいものだナ》

ウルティマホラの一件以来超鈴音は、中国拳法の修練を怠ってはいないが、アーティファクトとダイオラマ魔法球がある事で、魔法の訓練もするようになった。
とはいえ、相手がいないのである。

《今の近衛門殿なら訓練がてら相手をしてくれそうですが、超鈴音の場合アーティファクトの問題がありますからね》

《そこは諦めるとするヨ。でもこの映像記録で転移魔法を研究するネ。あとはまほネットを少しハッキングして魔法自体の資料も集めてみるカ》

《鈴音さん、頑張ってください!》

《堂々と犯罪発言ですが、私は咎めません。どうぞ頑張ってください》

捕まることは無い。

……しばらくして、呪術協会の支部建設予定場所が決まり、実際に建設も始まった。
麻帆良の建築技術にかかれば、かなりの速度で建つ。
まだ建ってはいないが、建設開始と同時に警備の際に、関西呪術協会の過激派の勝手な手出しが一切無くなった。
それというのも呪術協会から先遣隊がやってきた為に、仲間がいる所に攻撃を仕掛けるわけにもいかないからである。
ただ、支部が建てられるからと言って東と西の関係がいきなり改善する事もなく、大体の東洋呪術師の人々は西洋魔術師が嫌いだ。
しかしながら彼らは自尊心が高いので西洋魔術師が警備をやっている中で、自分達が守られるというのは癪に触るとの事で、警備に参加してくれるそうだ。
動機は素直ではないが今まで攻撃を仕掛けてきた側の攻撃が無くなり、それどころか味方になるというのだから、これほど心強いことはない。
ただ今まで顔を合わせた事もある、魔法先生達と彼らの間で軋轢が生まれる要因にもなっているが……今のところ直接争うようなことは起きていない。
西洋魔法使いが嫌いである割に、東洋呪術師の人々は昔の近衛門ではないが、まず相手を知るとでもいうのか、西洋魔法自体には興味がある様子なのは関係改善の切り口になるかもしれない。
因みに先遣隊の人数は非戦闘員を含めおよそ30人程度であり後から後発隊が来るかというとそこまでの余裕もないらしく、増えても数人という所。
その中に天ヶ崎千草、犬上小太郎の2人もいるのだが……さて、特に前者に関しては今後どう転ぶかは注視する必要があるかもしれない。
天ヶ崎千草は先の大戦で両親を失い、そのため西洋魔術師を嫌うだけには済まず恨んでいる。
復讐のような行動にでるかどうかは未知数。
犬上小太郎はまだ10代に手が届くかどうかという年齢で狗族と人間の、いわゆるハーフの少年である。
まだ子供であるため単純に、西洋魔法使いが従者を前衛にして戦う、それも男性の場合女性の従者が前衛になるというのが、格好悪いと思っているらしい。
耳と尻尾があるものの麻帆良には認識阻害がある為、普通に街中を歩いていても誰も違和感を覚えたりはしないので、その辺りは寧ろ関西より生活しやすいだろう。

……さて、件の魔力封印の解除であるが、とうとう茶々円の仕事も終わり。
先日の近衛門の戦闘の後、呪術協会の件が発表され、魔法使い達の間で動揺も起きたが今更反対しても遅いということで無理やり丸く収められた。
続けて茶々円を関西呪術協会の術師の魔力封印を解除する事を最後にして、処分する事も発表した。
しかし、こちらで少し問題があった。

「先生方、もう一つ伝えることがあるで聞いてくれんかの。近日中に茶々円を西に送って魔力封印の解除を行った後、その場で言い方は悪いが処分することが決定しておる。誰かその仕事をやってもらいたいのじゃが……どうかの?」

初めて自己紹介した時よりも……空気が重い。
警備で馴染みができてしまい、魔法使い達にとって処分は忍びないと思う所があるようだ。
しかし茶々円の存在をこのままに残しておく訳にも行かない。
後々問題になる火種は潰さなければいけない。

「学園長。茶々円ちゃんは、しっかりとした人格があるというのに殺すとおっしゃるのですか!?」

ちゃん付けで呼ばれるとは……初めてである。
高音・D・グッドマンの癇に障ったらしい。
処分と聞いて良い気分の人は多く無いのも無理はないかもしれないが。

「私の存在は東と西の関係にとってはこれ以上存在している事は新たな火種にしかなりません。高音さん、心配して下さりありがとうございます。確かに私のこの体は消えますが魂のようなものは残りますので気にしないでください。皆様、今までありがとうございました」

……そう言いながら頭を下げた。
エヴァンジェリンお嬢さんと近衛門の作品という設定自体が嘘ではあるが、実際そうだと思っている人達がいるというこの関係は何とも言いがたいものがある。

「皆が思う気持ちも儂もわかるが、これは必要なことなのじゃよ」

「………………ですが!」

「高音。これは仕方ないことだ。学園長、茶々円を西に送る任、私にやらせてください」

順当に名乗りを上げたのは神多羅木先生だった。

「学園長、茶々円は私の妹です。私にも是非行かせてください」

おや、茶々丸姉さんも来るつもりですか。
この1年で以前より人間……らしく、なっただろうか。
エヴァンジェリンお嬢さんもやや驚いている。

「人数はこれ以上増やせんからの。それでは神多羅木先生、茶々丸君、茶々円を頼むぞい」

……まだ素体の処分は終わっていないながらも、いわば葬式のような空気が広がっていたが、ひとまず話はついたのだった。
そして、出発当日。

「神多羅木先生、茶々丸姉さん、私の同伴ありがとうございます」

「いや、これまでサポートしてくれていたんだから当然だ」

「私の初めての妹ですから」

茶々丸姉さんは事情を知っているが……お世話になった神多羅木先生には最後に言っておいても……問題はないだろう。

「神多羅木先生、私がこの前言った魂が残るというのは本当ですから安心してください。今日最後の仕事が終わったらわかりますから気に病んだりしないで下さい」

「そう……なのか、俄に信じがたいが……その時になれば分かるか。いや、少しは気が楽になった」

新幹線にのってわざわざ時間をかけて関西まで行く。
そもそも車両に乗るというのが初めてであった。
茶々丸姉さんには強力な認識阻害魔法がかけられているので人目についても問題はない。
……午前に出発して総本山に着いたのは昼を大分過ぎた頃。
係の人に従い詠春殿の所に向かう。
近衛門と詠春殿の間で既に処分の話は通っているので準備は万端。

「「「この度は東からようこそおこし下さいました」」」

変わらず巫女さんの率が高い。
通された場所は広い庭であり、封印処理を私がした術者の人々が茣蓙に正座という、そういえば江戸の時代に見たような光景であった。
その総数30人程度という所。
そこそこの人数である。
偉いと思われる人達は封印解除を見届ける証人のようで、上座の席に座っている。
そこに詠春殿もいて、こちらにやってきた。

「東の長から話は聞いています、ようこそおこし下さいました。神多羅木さんと茶々丸さん、それに茶々円さんですね」

「近衛詠春様……長々した挨拶も不要かと存じますので、早速解除を始めたいと思います」

「……それもそうですね、ではお願いします」

術師達のいる所に向かい端から封印解除を開始する。

「魔力封印の解除を行わせて頂きます」

―個人情報解析・魔分容量完全復元処理を実行―

……突然解除した所、恨みで襲い掛かられるか……という事も流石に無かった。
大抵解除された術師はすぐさま使えるようになったかどうか確認するために、簡単な火を灯す「ラン」という陰陽術を気ではなく魔力を用いて試し、無事成功して喜んでいた。
術師生命の半分を失う瀬戸際だった訳で、その感動もそれなりであったようだ。
……滞りなく全ての術師の封印解除を終了し、いよいよ私……茶々円の番。
魔力封印の恨みがある事もあり、この場で処分を行ったほうが心象的に良い。
方法は呪符での火葬との事。
詠春殿ではなく、他の偉い方が直々にやってくれる。
実際詠春殿にやらせると近衛門との関係で実は死んでないのではないかなど疑われる可能性を作るだけであり、こちらとしては構わない。

「茶々円、私は忘れませんから」

茶々丸姉さん、分かっていますよね。

「茶々円、今まで助かった。ありがとう」

神多羅木先生はそう言うのも分からなくはない。

「……麻帆良の方々にはお世話になりました。別れの挨拶も済んだので、よろしくお願いします」

―三枚符術・京都大文字焼!!!―

その術の名の通り、大文字焼き。
素体の魔分保護の一切を抜いた為、跡形もなく素体は灰になった。
焼かれる前に一応精霊体で地中に退避はした。
封印処理を受けていた術師達は見た目には幼児処分とは言っても、概ね気が晴れたような表情だった。
神多羅木先生と呪術協会の面々の皆さんの挨拶も済み、これにて今日の見た目に分かる仕事は終わり。
……そのまま神多羅木先生と茶々丸姉さんは詠春殿に連れられ執務室に通された。
結界を張りつつ、私の再登場。

《神多羅木先生、少し姿が大きくなっていますが茶々円です。詠春殿、滞りなく終了して安心しました》

「…………おお。そうか……茶々円なのか。噂程度に聞く……翠色の精霊のようだな」

一応伝わってはいるようで。

「キノ殿、神多羅木先生には伝えていなかったのですか?」

《神多羅木先生、その通りです。詠春殿、私が精霊だという事実を知っているのは魔法先生の中では近衛門殿だけです。神多羅木先生、こうしてまた会えましたが、私の事は口外しないでください。それが近衛門殿の意思でもあります》

「……本物なのか。……私にとってはさっきまで茶々円だったんだが……キノ殿と呼んだほうがいいのか。学園長直属の部下であるし精霊の話については口外しないと約束しよう」

お好きにどうぞ。

《神多羅木先生も茶々丸姉さんも茶々円と呼んでくれて構いません。約束感謝します。詠春殿、この度はこの短期間で支部の建設を進めてくださってありがとうございました。派遣されてきた先遣隊の中に過激派と見られる方達も見受けましたが、大事には至らないでしょう》

「キノ殿、こちらも東と西の関係改善の足がかりができて前進できました。これからが大変ですが引き続き尽力します。先遣隊の人選を全て私が行うということはできませんでした。迷惑をかけるかもしれませんがよろしくお願いします」

《近衛門殿も言っていましたが、いずれは避けて通れぬ道です》

……この後、事務的な事を行った後、私は長居無用であるため先に麻帆良に帰った。
茶々丸姉さんは別れ際にまたお茶と肉まんを食べに……遊びに来て良いと言ってくれた。
優しい。
因みに、茶々円のこれまでの主な栄養源は殆ど茶々丸姉さんが買ってくる超包子の肉まんだった。
神多羅木先生が帰ってきた後、葛葉先生が「あまり気を落とさないでください」などと声をかけていたが、事実を知った神多羅木先生としては「問題ない」と冷静に返していたが、逆に他の先生達にしてみれば微妙だったかもしれない。

……そして2月も半ばという頃、超鈴音の擬似……であるが、魔分有機結晶の精製も雪広グループの協力のもと材料の入手と、機材等の条件も超鈴音がその技術を以てしてようやく整い、超鈴音魔法球の中の一角は小さな工場と化している。
魔分有機結晶の精製の光景は、淡い桃色の輝きを常に放っている。

《キノ、私達また中間テストでトップ3を独占しましたよ!》

……と、こういう報告も最近ではよく突然入るようになった。

《これで通算5度目ですね、おめでとうございます。相変わらず上位とそれ以外で随分成績に差があるクラスだと思いますが。……今回はそれだけではないようですね》

《よく分かりましたね!最近麻帆良に今までいなかった人達が入ってきましたけどその中にコスプレしている男の子がいるんですよ!》

コスチューム・プレイ、略してコスプレ。
犬上小太郎の事であろう。

《そうだ翆坊主、あの団体は一体何ネ》

《超鈴音には言ってなかったかもしれませんが、あの人達は関西呪術協会からやってきた先遣隊です。茶々円の件で私が少し手を出して始まった計画でしたが、上手くまとまり支部を麻帆良に現在建築中です》

《茶々円はそういう事だたのカ。ここ2ヶ月茶々丸のメンテナンスやていなかたから知らなかたネ》

《はい。……サヨ、先程の男の子の話ですが名前は犬上小太郎という人間と狗族のハーフの少年です。コスプレではありません》

《なんだ、コスプレじゃなかったんですね》

サヨは認識阻害の影響は受けていないものの、普段神木の補助を弱めているから見かけても本物であるかどうかが分からない。

《麻帆良の認識阻害が効いていますから特に問題にはならないでしょう。彼は初等部に入学したので……元気にやっているといいですが》

《その小太郎君だがあちこちで割と有名になてるヨ》

それはそれは。
記録を確認すると……なるほど。

《……どうやらそのようですね》

《中国武術研究会に突然やてきて『勝負頼むわ!』だからネ。古と気を纏て戦ていたが、及ばなかたからまた来ると言てたネ。後はそのまま超包子の肉まん食べて『これはうまいわ!」と満足そうだたヨ》

《私も夜中飛んでる時に森で楓さんと修行しているの見ましたよ》

元気そうだ。

《随分順応性は高いようで。彼は裏でも警備にたまに参加するようになりましたが……なかなか年にしては強いですね。しかし……1-Aの武道四天王と呼ばれる4人に既に接触があるのは凄く運が良いのかもしれませんね》

《桜咲さんと龍宮さんとも何かあったんですか?》

《その警備で2人に普通に接触したということです》

《そういう事カ》

《……ところで超鈴音、まだ時間は大分ありますが、火星の地下水を地上に出す事が現実的になってきました》

《それは良いことなのだろうが、また大変だナ、翆坊主。地球から倍率150倍、口径100mmを越えていれば普通に火星を観測することができるのだから問題だナ》

《また規模の大きな話になってきましたね》

《神木自体が生えているのはまだ点が増えたぐらいにしか観測できない筈ですからある程度安心ですが。……そういう訳で、魔分有機結晶の精製もお願いしますが、そろそろ地球側から観測できる範囲に、火星の姿が変わっていないように見せかける大規模魔法を新たに開発してもらいたいのです。……魔分量の問題と最終的には必ず使わなくなることになりますが、やはり必要です》

《重力、宇宙放射線の次は……つまり、光学迷彩と来るカ。重力の件はクウネルサンがいたから早めに解決したが、幻術魔法が得意な魔法使いに協力してもらた方がいいかもしれないネ。まほネットをハッキングしても良いが》

《……既に火星重力の解決に常駐魔法を発動させている上に地下マントルの活性化、氷の融解まで行っている所に、更に光学迷彩の魔法なんて魔分量は大丈夫なんですか?》

《それは問題ですが、解決方法はあります。地球の神木・蟠桃が生成する魔分を精霊体を転送する方法とは別に、神木内に用意するゲートで効率良く第二世代の神木に転送すれば一時的に魔分量、出力共に足ります。地下マントルは一度安定したら魔分を消費しなくて済みますし、氷の融解も終了すればその光学迷彩だけでよくなりますから。……ただ同時に複数の問題にあたる必要があるのはやはり負担はありますが》

《何だか大変そうなので、キノ、私もこれから神木の管理と火星の観測しっかり協力しますよ》

《……では、よろしくお願いします、サヨ。超鈴音、幻術魔法の件ですが今回もクウネル殿かあるいはエヴァンジェリンお嬢さんという手もあります。場合によっては2人に頼むというのも手ではあるでしょうが》

《普段図書館島から出られないクウネルサンにもまた会いに行かないと悪いからネ。ふむ、エヴァンジェリンと来るカ。学園長相手は無理だがエヴァンジェリンなら……戦闘の相手もしてくれそうだネ》

《試してみたいのですね。そうであれば、接触してみるのが良いかと》



[21907] 11話 麻帆良は概ね平和
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/13 19:09
火星のテラフォーミングを始めたものの、当然だが環境が過酷だネ。
クウネルサンにももう2ヶ月以上会ていないから行くとしよう。

「クウネルサン、久しぶりにまた来たネ。肉まんも持て来たヨ」

「これはこれは超さん久しぶりですね。もっと頻繁に来てくれても構わないんですよ。肉まんも、ありがとうございます」

凄く嬉しそうな顔してるネ。
余程暇なのだろうカ。

「今日来たのはまた新魔法の開発だヨ」

「おや、キノ殿がいないので会いに来てくれただけかと思いました。それで今回は何の魔法ですか?」

「翆坊主は今、第二世代の神木の管理、神木・蟠桃の調整とその他諸々を視るのに手が空いてないからネ。本題だが、重力の次は光学迷彩だヨ。火星に海を作るために地球から隠すのに必要だからネ」

「またもや規模の大きい話ですね。私もその辺りの魔法には協力できると思いますが、丁度良くキティがいますし彼女にも手伝ってもらったらどうです?」

またキティと言ているが誰の事かナ。

「クウネルサン、そのキティというのは誰の事ネ」

「おや、超さんは精霊殿に聞いていないのですか、キティというのはエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルのKの事ですよ」

ふむ、キティというのはエヴァンジェリンの事カ。
翆坊主は全く話していないナ。
エヴァンジェリンにも茶々丸の件でお互い様という所だが協力してくれるのか気になるネ。

「しかし、何も無しに協力してくれるとは思えないナ。クウネルサンが一筆書いてくれるのカ?」

茶々丸の件もエヴァンジェリンに預けるからという理由があたしナ。
印象と違て、かなり穏やかな方ではあるけれど。
クウネルサンは愛称で呼ぶぐらいだから頼みぐらい聞いてくれそうだナ。

「キティにラブレターですか。それは面白いかもしれませんね。ただ時期が……いえ、この際だからいいでしょう。超さん、エヴァンジェリンに今から手紙を書きますから渡してください」

ラブレターと言ているが……冗談なのか本気なのカ。
……とにかくチケットのようなものが手に入るから良いネ。

「分かたヨ。待てる間に暇だから少し翆坊主と通信するネ。アデアット」

このアーティファクトにも慣れたものだナ。

《翆坊主、図書館島に来ているがクウネルサンもエヴァンジェリンを紹介してきたヨ。それで聞きたいのだが、キティという呼び名は何か問題があるのカ。言い方に何か含みを感じるネ》

《超鈴音……その名でエヴァンジェリンお嬢さんを呼ぶのは止めておくことをお勧めします》

《……やはりそうカ。元々呼ぶ気はないが気になたネ。しかしその危険な名前で呼ぶクウネルサンは大丈夫なのカ》

《大丈夫だからそう呼ぶつもりなのでしょう。こんな事で超鈴音が連絡してくるとなると……なるほど、今クウネル殿が行動を起こしているわけですね》

《私がただ暇だというのもあるけど、クウネルサンに、エヴァンジェリンにラブレターという招待状を書くから渡してくれと言われたネ》

《……そうですか、性格が悪いと評されるのも無理はありませんね。一つ、その手紙は茶々丸姉さんに一旦渡したほうがいいと言っておきましょう》

《素直に従ておくネ。……それにしても翆坊主、茶々丸が完全に姉として定着してるヨ》

《もう茶々丸姉さんで良いですよ。私に食事とお茶を提供してくれた回数は世界1です》

餌付けされたカ。

《翆坊主の言う通り一度茶々丸に手紙を渡す事にするヨ》

「アベアット」

「おや、もういいんですか。まだ書き終わっていませんから少し待って下さい」

魔分通信は一瞬で終わるからナ。
暇は潰せない。
……肉まん食べるネ。
五月の肉まんはいつ食べても美味しいネ。
茶々丸は超包子にいるかナ。

「お待たせしました。これをエヴァンジェリンに渡してください」

封筒の見た目は普通だネ……。

「分かたネ。エヴァンジェリンに渡したらまた近いうちに来るヨ。肉まんは今日は差し入れネ」

さて、茶々丸を探すカ。
この時間だと先生達が多いところに屋台はありそうだナ。

「茶々丸、今日の仕事が終わて帰た時、この手紙をエヴァンジェリンに渡してくれないカ?私もエヴァンジェリンに用があるから後で行くからよろしくネ」

「超、確かにマスターに渡しておきます。それでこれからどうするのですか」

「寮に戻て作業の続きをするヨ」

魔分有機結晶の精製は引き続きやらないといけないからネ。
機材を組み立ててある程度自動化できるようになたが魔法的処理の部分は未だにアーティファクトで一気にやるしかないからナ。
サヨも手伝てくれる事はあるが、常に一定の生産量だからそこまで負担は変わらない。

……さて、丁度良い時間だからエヴァンジェリンの家に向かおう。
この辺りは林に囲まれていて良い空気。
インターホンを押すが……面倒な事が起きないといいナ。

「どちら様でしょうか」

「茶々丸、来たヨ」

そのまま茶々丸が出てきて通されたが、エヴァンジェリンは少し不機嫌なようだナ。
翆坊主の言うことは正しかたようだ。

「エヴァンジェリン、茶々丸に持たせた手紙は読んだみたいだネ」

「超鈴音か……この手紙にはお前が来ると書いてあったがどうして茶々丸に渡したんだ?」

「翆坊主のアドバイスに従ただけネ」

「ん、何だと?……この手紙で久々にイラついたが……超鈴音、どうして翠色の事を知っているんだ?相坂さよがばらしたのか……いや、元々そういう予定だったのか」

手紙の件から違う方向に興味が向いたようで考え始めたネ。
しかし大分時間が経ているが翆坊主は自分で紹介した割にエヴァンジェリンには私の事は何も伝えていないのカ。

「さよが精霊だと言て来たのは確かだが、大分前に翆坊主自身が直接私に接触してきたネ。今回エヴァンジェリンを訪ねた理由は翆坊主の頼みごとでもあるヨ」

「……奴にしろ茶々円にしろ何のつもりだ。手紙によると超鈴音に図書館島の案内をしてもらえとあるが、アルビレオ・イマはあそこにいるのか?」

やはりあの手紙、まともな内容が書いてないようだナ。
結局最初からエヴァンジェリンに直接接触したほうがましだたかもしれないネ……。

「今はクウネル・サンダースと名乗ているが、図書館島の奥にある施設に住んでいるヨ。説明すると、ある魔法の開発に協力して欲しいから訪ねに来たんだヨ」

「なんだその名前は……。まあいい、明日連れていけ、奴に少し仕返ししてやりたい。……だが……魔力も無いお前が魔法を研究するのは難しいのではないのか?」

ネーミングに呆れているようだネ。

「ある裏技で使えるようになたヨ」

「それも奴らが手出ししたのか。魔力容量が一切無いが……どれぐらい使えるのか知らないが、今からそれを私の別荘で見せてみるか?最近茶々円から赤毛が来る情報を得たものの、丁度相手もいなかった。腕に自信があるなら……だが」

これは早い対戦だネ。
魔法の開発の前に相手をして貰うのも悪くないカ。
真祖の吸血鬼……にはどうも見えないが、エヴァンジェリン相手にどこまでこのアーティファクトで戦えるのかも実験してみたいからネ。
アーティファクト自体がばれるのは結局明日分かる事だから構わないナ。
しかし赤毛という情報でここまでテンションが上がるのはおかしくないカ?
エヴァンジェリンは一度も会た事がない筈……ああ、赤毛だけだとすると……翆坊主、わざとだろうが情報が少なすぎるヨ。

「最強と呼べる魔法使いと手合わせできるとは光栄だナ。どこまで通じるかも一度試してみたいからネ。その話受けるヨ」

「ケケケ、御主人ニ挑ムナンテモノ好キダナ」

「超、無理はしないでください」

こうして見るとやはり2人共どこか……色が翆坊主に似ているナ。

「自信はそれなりにあるようだな。いいだろう、この私に見せてみるがいい。……付いてこい」

そのまま案内されたネ。
……エヴァンジェリンの別荘に入ったのは初めてだが私の買たダイオラマ魔法球より豪華だナ。
巨大な城な上に施設も充実している。
今度私の方も内装を変えてみるカ。
まだ土地ばかりがあるだけの殺風景なものだけど。

「超鈴音、その裏技とやらを見せてみろ」

「分かると思うがパクティオーカードだヨ。アデアット」

―契約執行実行―

魔分の供給量を調整して見せる。

「……そうだろうと思ったよ。なるほど、契約執行ができるのか。しかし……魔法具が出ないというのは地味だな」

普通にアデアットしただけでは地味なアーティファクトだからナ。
光の加減で虹彩の輝きは見えていないようだネ。

「魔法が使えるようになただけましだヨ」

「まあそうだな。いや……その魔力反応、私と似ているがどういう……」

魔力が似ている……なるほど……似ているどころか殆ど同じ。
エヴァンジェリンを翆坊主は知っている……という事はつまり。

「翆坊主に何か直接された事があるのカ?」

「……良く分かるな。真祖化の術式を100年前あの精霊に弄られてな、少なくとも吸血鬼ではなくなった。まて……そういう事か……。契約者はアルビレオかと思えば翆色か。それは豪華なものだな」

やはりそうカ。
しかし、真祖の吸血鬼でもなくなているとは。
どうやら同じ力の源同士であるようだけど、こうして戦うというのは、翆坊主達にしてみればただの魔分の無駄遣いだナ。

「その通りネ。私も大体分かて来たヨ」

《翆坊主、さよ、今からエヴァンジェリンに相手してもらうのだが直に見に来るカ?》

《おや、もうお嬢さんと相手をするのですか。……まあ好きにしてくれて結構ですが……そうですね、見に行きましょう。24倍ですし、時間もかかりはしませんし》

《鈴音さん、エヴァンジェリンさんと戦うんですか!?じゃあ……私も見に行きます!》

何が「じゃあ」なのかは良くわからないネ。

「今翆坊主達呼んだからそのうち来るヨ」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

超鈴音からエヴァンジェリンお嬢さんと相手をしてもらう通信がきた。
一部精霊になっているお嬢さんと擬似神木補助効果のアーティファクト……何の生産性も無い。
私にしてみれば戦闘に使う事自体がそもそも生産的ではないとも言い換えられるが。
ともあれ、別荘にお邪魔する。
お嬢さんの家の魔法球の中に侵入し……場所は建物の下の砂浜でやっていた。
力場展開も容易のはずであり、浮遊術も難なくできる筈だが。
超鈴音が放った魔法を後打ちでお嬢さんが相殺している。

     ―ラスト・テイル・マイマジック・スキル・マギステル―                ―リク・ラク・ラ・ラック・ライラック―
 ―炎の精霊 来たりて 67柱 魔法の射手 連弾・炎の67矢!!― ―光の精霊 来たりて 67柱 魔法の射手 連弾・光の67矢!!―

一斉に放たれた67本の炎の矢と光の矢が相殺しあい一瞬閃光が起こる様は、日本の夏の風物詩、花火のよう。
始動キー詠唱開始は同じだが超鈴音の方が先に発動させているところを見るとお嬢さんは余裕がある。
しかし実際超鈴音が神木の補助を全開で使用したら詠唱速度諸々ではどうなるだろうか。
余り熱くなられても困るが、滅多に無い事ではある。
茶々丸姉さんは、しっかり記録してるようだ。

「来たか翆坊主、エヴァンジェリンに相手をしてもらてるヨ。まだまだ実験したい魔法あるネ」

「茶々円、人間と仮契約するとは、超鈴音にはそんなに興味があったのか?」

《そう考えてくれて結構です。実際前回も超鈴音の協力がなければ解決できない問題でした》

「……そして今回は私の協力も借りたいと言うわけか。私も色々用事があるから、頻繁には協力できんぞ」

《それで構いません、よろしくお願いします。茶々丸姉さん、隣失礼します》

お嬢さんは大学のサークルが忙しい。

「次行くネ!心配いらないと思うけど避けるといいヨ!」

     ―ラスト・テイル・マイマジック・スキル・マギステル―
      ―来たれ 火精 土の精!!―
       ―劫火を従え 噴出せよ―       「その規模の魔法も使えるのか、面白い」
                               ―リク・ラク・ラ・ラック・ライラック 来れ氷精 大気に満ちよ―
                                  ―白夜の国の 凍土と氷河を―
        ―爆ぜる大地!!!―                     ―凍る大地!!!―
                                            
超鈴音が先に詠唱を完成させ火柱が複数本地面から噴出。
しかし、お嬢さんは世界最強水準の魔法使い、凍る大地の詠唱も後からでもお手の物。
氷の柱が火柱のすぐ近くから出現し、互いを消滅させ合う。

《うわー、何か芸術的ですねー》

遅れて到着。

《サヨ、来ましたか。今のところは落ち着いています》

「詠唱早いネ、流石不死の魔法使いの名は伊達ではないカ。私も少し本気でやらせてもらうヨ!」

超鈴音の神木の補助の使用度が上昇。

                                   「まだ上があるのか。いいだろう、この際最後まで相手してやる」
      ―ラスト・テイル・マイマジック・スキル・マギステル―                  ―リク・ラク・ラ・ラック・ライラック―
―来たれ火精 風の精!! 大気を制し 薙ぎ払え 灼熱の嵐―          ―来たれ氷精 光の精!! 光を従え―
           ―炎の豪風!!!―                           ―吹雪け 白夜の氷雪―
                                                   ―輝く息吹!!!―

以前の件の時と同じく高速で口を動かし、それでも尚言霊は成立しているため、呪文詠唱が成立。
お嬢さんも慣れた風に素早く呪文詠唱。
炎の竜巻と白く輝く吹雪ぶつかり合い強烈な閃光と轟音が辺りに鳴り響く。
しかし……それにしても、相性の合う属性が闇ではなく光になっただけあって闇の吹雪ではなくなっていた。
互換魔法をきちんと習得している……のではなく開発か。
抜け目が無い。

《だ、大丈夫なんですか?あんなの出して!?》

《大分派手になってきましたが、多分次の方がもっとです。急速に互いに距離を空けていますから》

        ―ラスト・テイル・マイマジック・スキル・マギステル―                     ―リク・ラク・ラ・ラック・ライラック―
―契約に従い 我に従え 炎の覇王 来れ 浄化の炎 燃え盛る大剣!!―  ―契約に従い 我に従え 氷の女王 来れ 終焉の光!―
―ほとばしれよ ソドムを 焼きし 火と硫黄 罪ありし者を 死の塵に―              ―永遠の氷河!!―
             ―燃える天空!!!―                    ―全ての 命ある者に 等しき眠りを 其は 安らぎ也―
                                                       ―凍る世界!!!―

先の竜巻の衝突を遙かに超える広範囲で豪炎と瞬時に発生した刺のある巨大な氷塊が衝突し合い、その中心では一瞬にして大量の煙が立ち昇った。
魔法の分類で言えば、広範囲焚焼殲滅魔法の燃える天空と広範囲完全凍結魔法の凍る世界。
別荘でなければ今の世の中地球の何処で使うにしても場所には相当配慮しない限り使えない。

《……なんていうか魔法使いの戦いって秘匿と言っている割に派手ですね》

魔法世界では秘匿する必要が無いから仕方がない。

《魔法世界の前大戦では大体こんな感じのようです。私達としてはこういった方向に魔法の技術を向けられると微妙なのですが。しかしながら、大規模火災を鎮火する、木造家屋のある一体を全て取り壊すなどであるなら、役立つかもしれませんが。それでも地球の核兵器よりはましですよ。土地に住めなくなるわけではないですし》

《要は使い方次第ということですね》

その通り。
しかし、そう上手く行かないというのが現実。
丁度2人は降りてきた。

「いやー、ここまで盛大に魔法使たのは初めてだヨ。調節して相手をしてくれて助かたネ」

「超鈴音……古代の魔法まで使えるのはどういう事だ。仮契約したのがいつかは知らないし、そのアーティファクトがどれほどの物かは知らないが魔法の扱いに慣れ過ぎてはいないか?」

《その辺りは少々複雑な事情がありまして》

「そういう事ネ。今日はこれぐらいにてしてもらえると助かるナ」

「合わせて魔法を発動させていただけあって私は物足りない部分があるが……まあいいだろう。だがこの別荘にから出るにはあと丸一日経たないと出れないぞ」

《……そういう訳でやはり時間の流れは現実と同じ方が出入りにも便利です》

「エヴァンジェリン感謝するヨ。アベアット。確かに翆坊主の言うとおりだネ。同じ流れに設定してるからいつでも出入りできるのは便利だヨ」

「超鈴音も別荘を持っているのか」

「かなり高かたけどなんとか入手したヨ。今やてる作業はあそこでないとできないからネ。こちらの方が施設は素晴らしいけど」

「数百年の歴史でもあるから当然だな。時間もある事だ……茶々円、色々説明しろ」

《説明と言っても何からにしますか?》

「私が超鈴音に聞いていた計画だと世界に魔法を公表するという物の筈だったと思うが、魔法世界の消滅を止めようとしている精霊との繋がりだな」

《その2つの話は繋がりが密接なので結局同じ結末になります。……超鈴音、私が話しても構いませんか?》

「……ふむ、構わないヨ」

《では私から説明します。超鈴音は今から100年先の未来の魔法世界が崩壊した後の火星から時間跳躍をし、昨年の冬に到着しました。当初の目的はお嬢さんが聞いた通りですが、結局魔法世界という名の火星の未来を回避するという目的で、私達精霊と超鈴音は進む方向が同じです。しかも100年先の技術というのはお分かりだと思いますが驚異的なもので、昨年の夏の大停電に始まり……今回お嬢さんにも頼みたい事と関係の深い、火星の重力強化などはそのお陰で実現できた事です。……そして今回は地球からは不毛の赤い大地に見え続けるように、火星全体に光学迷彩の魔法をかける必要があり……今にここに至るという訳です》

「……当たり前のように言うな。まずそもそも私は魔法世界が火星だという事を知らない」

《魔法世界は火星が触媒に成り立っている異界です。事実ですので》

「……次だ。前にじじぃの所で魔法世界の消滅を止める為に動いているとは聞いていたが直接火星を改造しているのとは聞いていない。火星自体の改造の為のエネルギーは何処から出ているんだ?まさかあの停電で何かやったのか?」

《はい、その通りです。夏の大停電の時、神木には二代目の木がありましてそれを火星に打ち上げました。そのエネルギーはそれで解決です。今ので分かると思いますが、神木・蟠桃は魔力を生成しています》

「……な……あっさり話しすぎだろう……。理解はできたが……」

《それならば》

「……疑問が解決したところで翆坊主、何故エヴァンジェリンの魔力反応とこのアーティファクトを使た時と同じなのか、答え合わせをして欲しいネ」

この際、エヴァンジェリンお嬢さんにも話しても問題無いか。

《分かりました。……今までお嬢さんには話していませんでしたが、失礼ながら今言わせてもらいます。エヴァンジェリンお嬢さんは既に吸血鬼の特徴の殆どを失っていますが、今一体どういう存在なのかというと割合で言うと数厘程、私達と同じ神木の精霊と同一の存在になっています》

《えっ?キノ、エヴァンジェリンさんも精霊なんですか?》

エヴァンジェリンお嬢さんが頭に手を当てて悩んでいる。

「あー、茶々円。……次から次へと隠し事が多い。その微妙な精霊化は一体何だ?」

《私が98年前、お嬢さんの真祖化の術式を弄った時の影響です。当時私も改変の終着点を考えずにできるだけ自然になるようにした所そうなりました。不老不死の特性は元々の術式の効果が維持されているため問題ありません。ただ……どうやら不老の部分に関しては神木の影響範囲外であると効果が薄くなるようです。恐らくお嬢さんは術式を弄った時、それ以前より強くなったと思いますが、それは魔力供給が神木から行われているからです。ただし、魔力量自体の限界は増えていませんので一気に使えば供給が追いつかず、空になる事はあります》

「……そういう事か。……100年前もそうだったが……忌み嫌われる吸血鬼でなくなっただけましとするか……。それで影響範囲外というのは魔法世界の事か?」

《そうですね。お嬢さんが成長した理由の原因はそこだと思います》

「一時的に旅をしていた期間の分成長が進んだという事か。つまり魔法世界に行けば成長できる訳だな……それは良いな。……いや待て、そんな術式の変更ができるならば人間に戻る事もできるのではないのか?」

《……大変残念ですが、それは不可能かと。お嬢さんの体には長年その術式が既に馴染みすぎていて、元に戻る為に無理に再度術式に介入しようとすれば、言い方に問題がありますが、即座に死に至ると思います》

《……そんな》

「マスター……」

お嬢さんに少し精神的動揺が見える。

「……そうか……いや、気にしなくていい。茶々円がいなければ私の今の生活も無い。身体の成長に興味もあるが麻帆良からはまだ離れんよ。それに、話を聞いていれば近いうちに魔法世界でも成長できなくなるのだろう?」

《……ええ、それが私達の目的ですから。今まで黙っていて申し訳ありませんでした》

「……私も興味本位で聞いてしまたがあまりいい話ではなかたナ。エヴァンジェリン済まないネ」

「……元気を出してください、マスター」

「……ははは、私も丸くなったものだな。茶々丸、茶を入れてくれるか。少し落ち着きたい」

……言葉通り、落ち着かせておくのが良いだろう。

《私達はこれで失礼させて貰います。サヨ、行きましょう、観測を続けないといけません》

《……そうですね、鈴音さん、エヴァンジェリンさん、茶々丸さんまた明日会いましょう》

ダイオラマ魔法球の制限には私達は縛られる事はない。
……超鈴音がここで一日過ごしても出る時にはまた夜という事になる訳だが、やはり不便な部分があるだろう。

……そして観測に戻り、1時間程した後、超鈴音達は別荘から出てきて元の生活に戻った。
視た所、エヴァンジェリンお嬢さんは以前よりも更に雰囲気が丸くなっていた。
何か思うところがあったのだろう。
それに比例してお嬢さんの主に大学界隈での人気が更に増えそうではあるが、同時にそれを少し残念に思う人もいるかもしれない。
超鈴音は別荘の中で久しぶりに良く寝たようで、戻ってきた後朝まで起きたまま研究と粒子精製と少々の訓練を行ったのだった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

昨日から1日なのにほぼ2日という感じになてしまたが、エヴァンジェリンと図書館島に向かている。
途中図書館探検部の4人組が追い越していく時、私達の組み合わせの珍しさに驚いていたが今回は面倒な事にはならなかたヨ。
その原因は後ろにいるエヴァンジェリンなのだが、昨日の別荘から急にしおらしくなたからだナ。
道行く男子共もエヴァンジェリンの様子を見ると思わず動きが停止するあたり破壊力が凄いネ。
これはクウネルサンに合わせるのはいいが、昨日とは状況が違いすぎるのではないカ。
一般人は知らない入り口からエレベーターに乗て少し歩いた所で到着。

「エヴァンジェリン、着いたヨ」

「ああ、案内済まない」

……この反応のエヴァンジェリンは普段から考えると珍しすぎるネ。

「クウネルサン、エヴァンジェリン連れて来たネ」

「超さん、ありがとうございます。これは、久しぶりですね、エヴァンジェリン。私の手紙読んで貰えましたか」

「手紙か……ああ、読んだぞ。……アル、久しぶりに会えて良かった」

クウネルサン、エヴァンジェリンの様子に気づいたようだナ。
驚いてるヨ。
昨日は仕返ししてやると言ていたのを聞いていた私としてもこれは予想外だからナ。

「どうしたのですかキティ、こんなに可愛らしい様子をするなんて。予想と違いましたが……これはこれで良いですね」

最後ぶつぶつ言ているが幸せそうだナ。
余程会えたのが嬉しいみたいだネ。

「……不死について考えていてな。変わらないアルを見て少し安心した」

私はお邪魔な空気になているような気がするヨ……。
しかもキティという危険な名前で呼んだのに無反応だナ。
昨日の流れから行くとやはり不死のあたりの事カ。
昔までは不可能だた安らかな死が翆坊主達には可能であり、同時に永い時を生き続ける事も可能という事だからナ……。

「不死……ですか。私は完全な不死という訳ではありませんが、何かあればできる限り協力しますよ」

「……お邪魔の用なら今日は、私はこれで失礼するヨ」

「……待て、超鈴音。例の魔法とやら、私にも手伝わせろ」

勢いを取り戻したようだが不安定だナ。

「超さん、幻術魔法の開発も早いほうがいいのでしょう」

「そうだネ。クウネルサン、エヴァンジェリンよろしく頼むヨ」

こうして、2人の魔法使いと私は本格的に幻術魔法の開発を進める事になたネ。

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司書殿は毎年学園祭でエヴァンジェリンお嬢さんの発表会を見に行ってはいたが、その事をお嬢さんに知られた事は無かったので、司書殿の久しぶりというのは実際には少し違う。
司書殿の書いた手紙にはお嬢さんの事がそのまま見たように書いてあり、お嬢さんとしてはいわゆるストーカーされていたのかと思ったのだろう。
実際見ていたのではあるが……。
私もイノチノシヘンに色々渡しているが、それで充分かと思えば、司書殿はサークルで販売されている発表会の映像をきちんと買ってもしている辺り、相当お嬢さんが気に入っているらしい。
本心はよく分かりかねるが……。

……さて、あれから時は流れ学生達の期末考査も終わり、突入するは短い春休み。
光学迷彩の幻術魔法の研究も進行中であり、計画に向けて確実に進展している。
神木自体にもゲートを参考にして、転送する機構を備える為の調整をした所、要石などは勿論使わず、全部魔分で解決したものが完成した。
結果、普通のゲートは定期的にしか開かないが、神木のものは任意に開通ができるようになった。
一方で、サヨは何をするようになったかというと精霊体で火星を飛んだりしている。
勿論私もいつも行っているが、何も無い……どこまでも赤い大地と二酸化炭素の固まったドライアイスなるものしかない。
サヨはそういう何も無いところを高速で飛ぶのが面白いと言っている。
私としてもその気持ちが分からない訳ではないが、ともかく新しい趣味ができて良かったのだろう。

現在は神木のゲートと似たような方法で超鈴音のダイオラマ魔法球との間に、転送用の……超鈴音風に言えばポートの設置作業を行っている。
……とは言っても、超鈴音が作成中である装置が完成した際に空間を繋ぐところだけが私達の仕事である。
数日前、超鈴音が再度雪広グループに出向いて例のまほら武道会の復活の件が近衛門を通して回答を得られたという事だったが、2002年度は無理だが2003年度は開催して構わないということになった。
恐らく赤毛の少年の事を想定しての事だろう。
超鈴音はその回答で今年は先送りだが開催する事ができるようになっただけで収穫はあったとその辺りは気にしていない。
寧ろ今身近であるのは、例の記録映像を今年度の麻帆良祭で、雪広グループが設置する特別展示施設で上映する事が決まり、それに併せて編集された映像の販売がなされる事であろう。
麻帆良の歴史は、超鈴音が奇跡的に保存されていた映像を発見し、カラーでおこし三次元にまで昇華させたという事で済ますつもりらしい。
それで通るあたり、認識阻害は便利である。
認識阻害の効かない件の少女が見たら「ありえねぇ……」と言うに違いないが。
逆に自然や宇宙の映像の方が、超鈴音が作成したコンピュータ・グラフィクス、略称CGという事で難なく通せるそうで、要するに現実感の無い映像の方が、扱いが楽だそうだ。
映像だけではなく、同時に超鈴音の三次元映像技術が発表される舞台にもなるので今年度の麻帆良祭の動員数は例年より更に多くなるであろう。

……もう1つ進展があったのは、麻帆良の外れにある呪術協会支部であるり、短期間で建設が完了した。
表向きは地上部分が教会である魔法協会と似たようなもので、日本、主に京都の文化振興の施設という扱いになっている。
龍宮神社とも呪符関係で手を結んだりとしっかりやる所はやっているようで彼らも麻帆良に慣れてきたようではある。
一応注視していた天ヶ崎千草は何か不穏な動きを見せているかというと、そもそもその暇が今のところないぐらい忙しく、そういう事には至っていない。
というのも、前の一件でより丸くなったエヴァンジェリンお嬢さんが先日あちこちのサークルの1年のまとめとしての発表に参加した結果、余りにも絵になりすぎていたため男女問わず強烈な衝撃を与え、丁度そんな所に先の施設ができたということが重なった為に着物、茶、日本舞踊などが、ブームとやらになったからである。
本当は裏の施設の筈であるが表で儲かるというのは皮肉な気がしないでもないが、時機には恵まれているだろう。
しかも輪をかけて皮肉であるのが、その原因が、今は闇という文字のかけらも見えないエヴァンジェリンお嬢さんだという事だ。
一方、犬上小太郎、小太郎君の方は、忍者と双子の小学生が所属するさんぽ部に頻繁に参加するようになり、小学生が3人になったようにも傍からはそう見える。
ただ、またこの神木に何処吹く風という様子で上まで登れる人数が2人になったのは微笑ましいと言えば微笑ましいが……微妙である。

「今日もここから見える夕日は綺麗でござるな」

「めっちゃいい眺めやわー。また来るで」

「うむ、またさんぽに来るでござるよ、コタロー」

……と至近距離でこんな会話が、その後の日常に頻繁に加わるようになった。
何はともあれ、概ね麻帆良は平和。



[21907] 12話 全人類肉饅補完計画
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 18:53
まほら武道会を今年度復活させることは学園長が認めなかたが、翆坊主の話から考えるとご先祖様の到着を待ちたいという事なのだろうナ。
それでも今年は雪広グループとの協同展示の方での資料作成が忙しいからネ。
私の信念には世界に肉まんをという標語があるが、有言実行に限るネ。
五月達で運営している屋台だけではなく、更に2号店、3号店と出店計画をしなければいつまで経ても野望は成就できないからネ。
そこで、この前の会合で雪広グループの社長が超包子の肉まんを好きだというのだから、麻帆良の外への出店計画についての協力を申し込んでみたヨ。
その時出席していた社員の人達は、なんと皆超包子の肉まんを気に入てくれているようで「超包子はブランド化できる!」という事で話はあという間に進んだ。
まず最初の足がかりとしてインターネットで超包子の肉まんを味を落とす事なく瞬間冷凍したものを、4個を目安に箱詰めして通信販売という方法を取る事になたネ。
流通経路の確保、販売促進は両方とも雪広グループに協力してもらう事になり、麻帆良祭では超包子の常駐支店を雪広特別展示会場のすぐ近くに建てる事も視野に入れるようになたヨ。
いくら麻帆良最強頭脳であても、麻帆良を出てしまえば科学系はともかく食品業界にツテは無い。
まだ気が早いかもしれないけど、ハカセとロボット工学研究会にも五月の調理技術を模倣できる設備を作ることを頼むことにしようと思ているヨ。
五月は自分で作たものを他人に食べてその日を元気に過ごしてもらえれば良いという考えだから店舗拡大という事には興味はないかもしれないが。
……しかし私の生活も毎日毎日予定が詰まているものだナ。
魔法球で魔分有機結晶、その粒子の精製、ポート作成、訓練、新型魔法の開発。
図書館島で二人と光学迷彩魔法の研究。
中国武術研究会で古と小太郎君の相手。
ロボット工学研究会でハカセとさよと研究。
お料理研究会で五月と地道に人材の育成。
東洋医学研究会での会長業務。
生物工学研究会で例の魔分有機結晶の有機部分の情報を小出しにした研究。
量子力学研究会で現行技術に基づく新型通信技術と量子コンピューターの研究。
そして雪広グループとの提携。
1週間ではとても回らない生活パターンだヨ。
翆坊主の言う魔法球の時間を変更しない方が良いというのは分かるが、現実の時間は増やせないから、そもそもこちらは解決しないネ。
通常時から高速思考が可能になたとは言え、まさに時は金なりという事だナ。
疲労感が溜まるかというと、仮契約する前と違て世界樹の加護の効果で神木の補助を受ける為に寧ろ以前より頑張れるヨ。
因みに何故東洋医学研究会で会長職までやているかと言う事だが、西洋医学で治せない事も私の知識でなら治る事があるからだ。
日々健やかに過ごす事を助ける事ができるならささやかでも私は労力を惜しまないネ。
他に外科はともかくとして医学方面にも関係を広げておきたいという事もあるが。

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この秋から冬にかけて私は超包子で五月さん達と働きに働いて中学生にしてはかなりの額を稼ぎました。
なんとなく高畑先生と新田先生と特に弐集院先生の財布の中身が流れて来たという感覚が強いですが、私が幽霊になったばかりの頃に比べると洋服を始めとして色々充実しています。
今までできなかった事をしっかり実現できていて楽しいです。
最近エヴァンジェリンさんが火をつけた日本文化がブームになっていて奮発して着物を買ってしまいました。
衝動買いができるというのもやはり生きている醍醐味の様に思います。
この買った着物を実際に着てみたのですが、身体が覚えている、というのも変ですが意外と普通に着られました。
少し生前の事も覚えていることがあるんだなと嬉しいような少し寂しいような気がします。
一方、鈴音さんと葉加瀬さんはそれどころではないという感じでいつも大忙しですけどね。
ここ数ヶ月キノの暗躍が激しかったですがあえて私のこれは!と言えるような活躍を思い出してみます。
去年の秋のウルティマホラである程度……勝ち進んだ事……。
鈴音さん達に身体を作ってもらって新開発のための計算、いえ、辛くなんかない……です。
しっかり対価を貰いましたからね。
龍宮さんへの映画の報告だって役だっています。
そしてなんといっても神木からの観測、火星の探査です。
今の火星環境ではまだ生身の人間であればすぐに死んでしまうような状況ですが精霊体である私は一定の範囲内ならしっかり見て回れます。
夜になると一切地上の光が無い世界ですから星空がとても綺麗なんです。
たまに強烈な嵐が起きるんですが、なんていうか雨の日や台風が来ている時にあえて走りまわりたくなるような感覚と同じで無性に楽しくて、それでいて地球のものとは比べ物にならない……そんな光景です。
今までも記録映像が送られてきたというのは確かですが直に空を飛んで見渡すというのはまた違います。
環境が改善されて魔法世界と同調してしまえば、なかなかこうして今この時に感じるという事はできませんから得した気分です。
人間が住んでいない原始的惑星から見える世界とはかくあるのか、というのを、身をもって知ることができる私は全人類……既に人ではないですが、人だとすれば初めての経験をしているに違い有りません。
別に哲学的な事がどうとか言うのは綾瀬さんではないのでわかりませんが、ありのままに感じることは私にもできます。
そういえば鈴音さんが新型魔法を開発していたのですが、その中にテレビアニメにある機動戦士シリーズの宇宙空間を飛ぶ奴みたいのに近いものがありました。
鈴音さんに聞いたところ演算能力で管理した方が効率がいいらしいんですが、指で操った方がそれらしいと言っていました。
こだわりですね。
自然体でかつ目の虹彩が輝いたまま十数本の光の刃を飛ばしているという姿は漫画や映画だとどちらかというと敵側の強いキャラクターの一人という感じですが、私達精霊にとっては、鈴音さんは主人公側なのです。
因みに「ビームサーベルみたいなのは無いんですか」と聞いてみたところ、「さよ、そんなこともあろうかと!」と両腕から魔力剣が出現しました。
しかも今度は足にも形成してみたいんだそうです。
ただ、まだ完璧とは言えず未完成の状態との事です。
寧ろもう鈴音さんで映画が作れそうですね。

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ここ最近で一気に忙しくなった超鈴音であるが、高速思考を使いこなせるようになり、アーティファクトもあるとは言え、日々を変わらず確実にこなすのだから、本当に大したものだ。
表でかなり目立ち始めた超鈴音が、魔法関係の裏よりも、表で何か起きるのではないかと思う事があるが、どうであろうか。
ここで火星の様子の確認を行おう。
前回年末の時点では酸素の大気組成は3%だったが更に4月現在の今ではあと少しで6%という所になっている。
酸素の組成は上げすぎる必要もないがあと丁度1年程度は上げていく予定。
前回よりも上昇率が下がっているのは他所に出力を回していたから。
これからは地球側からも魔分供給を行うのでまた上昇率も元に戻る。
また、火星の平均表面温度及び平均気温も以前より大分上がってきているため、いずれは嵐になっても二酸化炭素がドライアイスになる、という事も減っていく筈だ。
……とはいっても0度を安定して越えるのはまだ先だが。
今回の大きな成果といえば4ヶ月近く地中活性を行ってきた事もあり、ようやくマントルに第一歩というべき対流が発生した事だ。
一度動きだしたからには徐々に流れを活発にしていく必要がある。
……このような状況で着実に成果を上げているので問題なし。

《翆坊主、さよは既に受けてくれたが、特設展示施設での職員として働いてもらいたいのだが良いカ》

突然何の話か。

《私が素体に入って麻帆良の説明をするのですか?……確かに麻帆良で知らない事はほぼないですから適役ですが。……しかしサヨならいいかもしれませんが、いきなり戸籍不明の謎の翆色の人物が学園祭の期間中だけ現れたとなっては怪しすぎませんか?》

《そう言うだろうと思たけど、前に例の体や、翆坊主の大小の身体を使た事があるのだから、改めて全然違う素体を用意すれば済むのではないカ?戸籍不明に関しては私と雪広グループの手にかかればどうということはないヨ》

……そういわれれば、そうだ。

《そう言われればそうですね。……ですが、人の出入りが激しくなる時間帯は観測をしっかりしますから一日中という訳には行きませんよ》

《分かたネ。その辺りは配慮するから安心するヨ。終わたら肉まん用意しておくから好きに食べていいネ》

茶々円の身体が関西で最後を迎えて以降、以来物を食べてはいない。
茶々丸姉さんには誘われたがいざ行くとなると……という所だ。

《……では、是非手配お願いします》

《翠坊主、一足先にその超包子の肉まんが麻帆良を飛び出して世界への道が開ける事になたのは知ているナ?》

《はい》

《一つ確認するけどさよの合気柔術の型が見事なのは幽霊の時に覚えたのではなく、精霊の能力の一つなのではないカ?》

その事は……話していない。

《ええ、そうです。動きを模倣する事をしっかり繰り返せばその行動を習得できます。サヨが合気柔術を使えるのは昔私が記録したものです。演算能力の応用ですね》

《そうと分かれば話は早いネ。これで開発が短期間で済むヨ。少しさよに力を貸して貰うネ》

……つまり、動作をまた逆に電子精霊の真似事でプログラム……にしてしまうという事だろうか。

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春休みもあっという間に終わり私達は中学2年生に上がりました。
今年も担任の先生は高畑先生で副担任の先生は源先生です。
この2人が付き合っているのではないかという噂があるのですが、これをとうとう神楽坂さんが聞いてしまいました。
真っ白に燃え尽きたというのはああいう状態を言うに違いないです。
同時にそのあと近衛さんのフォローを受けてからの立ち直りも早かったですが。
去年に引き続き身体測定もありましたが私の身体は一切変化がありませんでした……。
改めてこの体が作り物であるというのがよく分かります。
でも一応15歳の身体なのでまだそんなに気になりません。
一方鈴音さん達はしっかり身長が伸びていました。
一部去年の時点でおかしな人達もいましたが深く考えてはいけないと思います。
ところで、今日も超包子で働く筈だったのですが、鈴音さんと五月さんに連れられてお料理研究会に行く事になりました。
……どうも鈴音さんの様子が若干マッドサイエンティストモードのようで嫌な予感がします。
五月さんも正直何をするのかよくわかっていないみたいなので不安です。

「さよ、五月の肉まん調理技術を習得するネ!」

あれ、私が料理する側に回るだけですか。
でもそんな筈は……。

《サヨ、何をするのか聞かされずに連れて来られたようですが……私の推測を言えば、私が合気柔術を習得した要領で、肉まんの調理技術を習得して欲しいと言う事だと思います。後は例の身体で電子精霊の真似事と超鈴音が好きにする……と言えば分かりますよね。では、そういう事です》

……突然お告げが聞こえました。
料理の練習という名のロボット開発のためのデータ作成ということですか。
何だか便利家扱いされてますが、それでも、あえてこの任務やり遂げて見せます!

「今お告げもあったので、料理頑張ります!」

「相坂さん、お告げはよく分かりませんが……しっかり練習しましょう!」

鈴音さん以外の皆さんはお告げって何という様子でしたが、こうして肉まん調理の特訓が始まりました。
超包子の肉まんは皮も独自の物を使っているため1から生地をこねて作る必要があります。
今まではなんとなく五月さんと時々鈴音さんが作る所を見ていただけでした。
でも、いざやってみると本当に中学生なのかという程なめらかな動きで2人が料理しているというのがよく分かります。
それぞれの材料の分量と比率に始まり、生地のこね方とその時力加減、肉まんの具に適したサイズにするための材料の切り方、しかも特に重要な肉については細かい決まりがあり、更に蒸した時に具と皮の間に空洞ができないようにする工夫、蒸す時の肉まんの配置、時間、水分、温度の調節と極めつけに五月さんの一般人よりも温かい手の温度であるとか、他にもあるんですけど省略します……。
とにかくこれらの動きを全て覚える訳で目標は学園祭の前には完全な状態にするということなのであまり時間がありません。
こういう時は気合いです、多分。
実地でやっているだけでは時間が足りないので夜も木の中で五月さんの観測記録を見ながらその動きを精霊体の状態で、ですがなぞって行きます。
キノが言うには動作の習得、しかも料理となると精霊体よりも実際の力加減がわかる素体の方が早いだろうと言うことで、この状態の時は力があまり関係の無いものを学習することにしています。
最初は良かったですけど、なんだかキノの近くで練習するのは変な感じがしてきてしまい、気分を変えて火星で練習したりもしました。
それについて何故わざわざ火星でやるのかと聞かれましたが「好きにしていい」です、と言ってくれたので問題はありません。
日に日に上達して行くので五月さんからは「筋が良いですよ」と褒められましたが……たゆまぬ努力の結晶です。

……5月下旬の中間テストもなんのその、いつも通り2-Aで4位までを独占し6月頭、ほぼ完璧な肉まん調理技術を習得しました。
お披露目にクラスの皆に食べてもらった所「いつ食べても美味しいね!」というある意味至上の評価が貰えたのでこの難度の高いミッションを達成できました!

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さよが全人類肉饅補完計画の第一段階を進めている間、私はエヴァンジェリンとの光学迷彩魔法の合間にある興味深い事に気付いたネ。
焦点は神木の精霊の力を借りた魔法は一体何に分類されるかという事だヨ。
結論から言えば、基本魔法は全て神木の精霊の力にあてはまるという事がわかたネ。
精霊の目的が存在し続ける事、つまり世界に魔法を残す事と言い換えるならば、それを実現するかのように、万人向けが売りなのだろうナ。
ただ魔法世界ではその辺りはどうなているかは試してみないとわからないネ。
攻撃性のある魔法に転換できるかもやてみた所、魔分を使て色々できる事が分かたヨ。
防御魔法の方ではアーティファクトのあの魔分の層を鑑みるに少しあれをエヴァンジェリンに見せた所「展開しているのを隠せないのはデメリットだが防御面ではその方が優れているだろう」と通常の魔法障壁よりも単純な防御力では、あの障壁の方が上手だというのは互いに納得する所だたネ。
エヴァンジェリンも一部精霊という事は同じ物が展開できるとだろうという話をした所、魔分の概念について翆坊主から聞かされていない事が分かり「違和感そういう事だったのか」とこれまでの100年近くで何か思うところがあったのが解決したらしいヨ。
一方、魔法球でもきちんと粒子の精製も進めて、併せてポートも翆坊主から提供された情報を基に完成させたネ。
また新しく次にやるべき事が増えるのだろうが一つやるべき事が終わただけでも楽になるナ。

……回想はここまでにして、今はさよが努力して記録した肉まん調理の技術を例の身体に入て貰て、電子精霊の真似事でプロウグラム化して貰ている所ネ。
ハカセにはさよの幽霊みたいなものの能力で人体の行動パターンをプログラム化できるか実験してみるネ!と、完全に騙すような真似をしたがいつも通りテンション上がて来たみたいで気にしてはいなかたから良かたネ。
実際私も今画面に表示されている複雑なプログラムに感動してるヨ。
今は全然理解できないネ。
どうしてこうなるのだろうナ。

「相坂さん、前回の計算能力も驚きでしたが今回も凄いですね!まだ良くわからないですが、人体の動きをこんな行動プログラムで表せるなんて幽霊というのはオカルト等ではなく情報生命体なのかもしれません!」

ふむ、情報生命体というのはある点では的を射てるかもしれないナ。

「私も結構適当でしたがこんな風に表現されるとは思いませんでした」

適当だたのカ。

「このプログラム、解析すれば今までできなかた事も実現できるかもしれないヨ」

「次はこれを再度ロボットアームなどにインストールして最適化する作業ですね!いえ、茶々丸タイプのボディにそのままの方がいいでしょうか、しかしそれでは大量生産が達成できませんか……。そもそも、このプログラムを再現出来るだけのスペックが機械側にあるかどうかの確認をしないといけませんし……」

完全にスイッチが入てしまたようだナ……。

「さよ、これからは超包子で調理と配膳の両方を店の状況を見て切り替えたら良いヨ。データを取る為だけにやた訳では無いからネ」

「そうですね。五月さんに任せきりの料理の手伝いがこれでできます!」

「頼むネ、さよ。ハカセ、どちらも試してみたい所だが、まずプログラムの解析と分割をして理想の動きを再現させられるよう大量生産型の機械を開発するとしよう!」

私も考え出したらワクワクしてきたヨ!

「こんなに研究対象として凄いプログラムはなかなかありません。ええ、きっと解析が完了すれば人間の動作だけではなく動物の動きも忠実に再現できるようになるかもしれません、なんて素晴らしいのでしょうか!!」

その気持わかるネ、ハカセ!!
科学の発展のために完璧な動作を再現してみせるヨ!!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

いつになく慌ただしい2ヶ月であった。
というのも、夜になるとサヨが神木の中で肉まんの調理の動きをこなし、突然火星でやると言い出し、勝手に始めたが、そもそもいずれにせよどちらでも観測しているせいで止む無く視えていた為である。
そして……そろそろ麻帆良祭も近いので新たな素体も用意した。
歴史を説明するという事で、適当に老人風にしておいた。
……さて、今何をしているかと言えば、見事完成した神木と超鈴音の魔法球を繋げるポートの開通式である。

《超鈴音、接続処理を行いますよ》

「いつでもいいヨ。翠坊主の提供してくれたゲートの情報を参考にしているから性能には問題は無い筈ネ」

「いよいよですね」

―接続開始―

……状況は……良好。
神木・蟠桃と繋げたので、そこから更に神木のゲートで二代目に転送する事ができる。

《成功しました。これなら実体のある物質も転送できます》

「これで貯めに貯めた魔分有機結晶粒子もようやく役に立つナ。それで……実体があても転送できるという事は、私も木の中に入て実際に見ても良いと言うことになるのカ?」

記録で木の中で生まれた華については見せた以上中に興味があるという事か。

《一応華を置いていた亜空間にゲートを構築しているので今は何も無いですが……第二世代の神木から華を転送させましょうか?》

第二世代の神木の中に今度は収納されている華であるがあれもゲートを使えば移動もできる。

「おお、宇宙船見せてくれるのカ!それはすぐ行くネ!」

《分かりました、今手配します。…………それでは準備できたので、どうぞ》

「人類初、木の中に入るネ!」

そうして、超鈴音とサヨはポートから神木・蟠桃の上層に転移した。
華が誕生した空間に実際に入れ、更には実際に華が見れた喜びに超鈴音は気分が高揚している。

「映像では見ていたが華というものがこんなに美しいというのは生命の神秘だヨ!人間の想像ではもとこう金属の塊だたりする筈なのだが、これはなんと言ても全体のバランスの良さといいこの手触りといい素晴らしいネ!」

《そんなに手触り良いのですか?》

「キノ、私も触ったことなかったですけどこれはなんとも言えない良さです!」

それは初めて知った。

《そうなのですか。それで……華の中に入ってみますか?》

……ともあれ、中は人間が入れるように調整した方が良いかもしれない。
亜空間が……説明し難い。

「是非乗てみたいネ!……と言いたいところだが、まだ色々が終わていないから今日はまだやめておくヨ」

それならばこちらとしても都合は良い。

《分かりました。その気になったら言ってください》

「感謝するネ、翆坊主、さよ」

さて……そうこうして、いよいよ2002年度の学園祭の幕開け。



[21907] 13話 赤毛の少年 1人! 来りて 大志を抱け 魔法の先生 2A・31人!!
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 18:54
麻帆良祭の前に少し遡ると、麻帆良の歴史説明用に素体を作り、周囲にはその出現が怪しまれないように周囲に結界を張った上で転移させ、そのまま超鈴音と雪広グループが指定したホテルに向かったのであった。
そこで麻帆良祭の前に予め泊まり、主に何を説明するのかなどを超鈴音、サヨ、社員さん達と話しあい、身体を放置するという予定であった。
ホテルの入り口辺りで2人に接触した。

「済まないが、お爺さんは誰ネ」

「私もこのお爺さん知りませんよ」

確かに……老人で来るとは伝えていなかった。

《これが今回用の素体です》

《……翆坊主、違う素体を用意すれば良いとは言たが何故わざわざ年寄りにしたネ》

《歴史の説明ならそれらしいのは分かりますよ》

《そういう事です。名前、どうしましょうか?この身体の》

《伊織修平で良いヨ》

《どこから来たんですか?》

《今思いついたネ》

《そうですか、別に構いません。では口調も近衛門殿を意識して老人の話し方らしくしますよ》

《うむ……その話し方だとアレだからネ。変えられるなら変えた方がいいナ》

《承知致した》

《旧い時代の話し方にもしすぎるのもどうかと思うネ》

《分かりました、適度にやりますので、気になさらず》

通信を終了。

「中に入らせても、よろしいか?」

「もうそれでいいヨ。安定しないよりはマシだからネ。着いて来るヨ」

……こうして、麻帆良祭前、少しやりとりがあった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

鈴音さん率いる私達超包子関係者は今年のクラスの出し物には殆ど参加する時間がなくて申し訳なかったのですが、そこはいいんちょさんが「数人減ったところでなんとかしてみせますわ」とまとめてくれたので好意に甘える事にしました。
もしかするといいんちょさんは雪広グループのお父さんから何か言われたのかもしれませんね。
今回は超包子の麻帆良外への展開の為の大事な機会であり、飛べる超包子の屋台も特別展示施設の近くに用意されたスペースに常駐することになりました。
恐らくあちこち飛びまわるよりもあそこが一番宣伝になりそうだからです。
6月頭に収集した肉まんの調理技術のデータは鈴音さんと葉加瀬さんが工学部の人達と共に研究室で徹夜をひたすら敢行した結果、その解析も終わり実用段階にこぎつけ、およそ2週間でひとまず一定量生産可能な設備が完成しました。
その完成した瞬間には強烈な雄叫びが外からでも工学部棟から聞こえる程で余程限界だったのかその後は屍累々の地獄絵図でした。
床に倒れたままでぶつぶつと新たなロボットの開発について呟いている人達は不気味なのであまり見たくはないものでした……。
この設備はしっかり屋台の近くに突貫工事で建設された建物で稼働させ、できたものは冷凍のお持ち帰り用と、その場で食べる用として売りに出します。
そして、とうとう私が復活してから2度目の麻帆良祭が始まります!
今年の超包子開店式in麻帆良祭では鈴音さん、五月さん、古さん、茶々丸さん、葉加瀬さん、そして私に、雪広グループから派遣されてきた綺麗なお姉さん達が加わっています。
万全の布陣です。

「去年に引き続き今年も超包子で世界に肉まんを届けるネ!」

「「「「「「世界に肉まんを!」」」」」」

……こうして開店式で気合が入ったところでお客さんに売って売って売りまくります!
見て下さい、この料理の鮮やかな動きを!
この3ヶ月近くの間に洗練された私の料理の腕はかなりのものです。
肉まんの調理技術習得後は他の料理も短い期間でしたが練習しました。
麻帆良祭開始早々に三次元映像技術の噂で持ちきりの特別展示施設は既に長蛇の列を成し、そこから並ぶのも面倒という事でまだ昼前に関わらず超包子に人々が流れてきます。
どこの席が最初に埋まるかと言えばそれはカウンターです!
五月さん、私、そしてたまに鈴音さんの3人体勢で繰り広げられる厨房はカウンターから見ることができるので人気の席となっています。
予想以上の混雑で今からこの状況では、昼時には一体どういう事になるのかと気が遠くなりそうな所、鈴音さんがお料理研究会の腕利きに電話し始め、直ぐに応援に来てもらえることになりました。
そうでないと私と鈴音さんは特別展示施設での仕事もありますから大変です。
一方ウェイターの仕事をしている古さんの動きは曲芸のようですが、社員のお姉さん達の動きも無駄がありません。
必ずお持ち帰り用の肉まんの宣伝をしているようで葉加瀬さんが販売をしている肉まん専用窓口にも列が出来始めました。
従業員は女性一色で構成されている華々しい空間もあって、お客さんの構成人数の多くは男性という有様ですが、実にわかりやすいですね。
今回は去年とは違い材料の補充はグループの協力のお陰でほぼ無尽蔵ですから驚異的売上を記録するはずです。
程なくして高畑先生達も来てくれて、余りの人数の多さに驚いていましたが「頑張ってね」と少し声を掛けてくれた後その場で肉まんを買って行ってくれました。
いつもお世話になっている先生達にはゆっくりしていって貰いたかったですが、割り切るしか有りません。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

麻帆良の歴史説明の仕事……も打ち合わせ通り始まった。
社員さん達は私の存在については疑問に思うところばかりだったが、深いところまで聞いてくることもなかった。
逆に何故それほどに詳しいのかとしつこい人達が現われると直ちに彼らは現れては「それ以上は正規の手続を行って下さい」とどこかに連れていってしまう。
人間の組織力というのは大したものだと思う。
その連れていかれた中には超鈴音達のクラスに在籍する朝倉和美も含まれている。

「失礼ですがお爺さんは何故そんなに麻帆良に詳しいんですか?私も情報に詳しい者ですが伊織修平さんという方の名前を聞いたことがありません。詳しくお話聞かせてください!」

……と去年から1年経って報道関係者としての技量が増したのか、目の光り方が怪しくなっている彼女は早々に退場させられた。
そもそも、この施設に入るための長蛇の列に並ぶ必要があり、それだけで時間がかかる。
つまりクラスの方はいいのか、という事なのであるが、2-Aの今年の出し物のお陰であった。
雪広あやかがエヴァンジェリンお嬢さんに是非是非と頼み込んで着物の着付け処……というものをクラスでやる事になり、その為分担は順に回せば良く、一時に人員を必要としないからというのが、朝倉和美が来られた理由である。
春にブームになったのがまだ続いているのか、普段は高くて手が出ないような着物を着れるとあって、2-Aの生徒達自身と客達にも好評だったとか。
しかし、お嬢さんが了承したのが何より大きいだろう。
因みに、その噂を聞きつけた大学生達が女子中等部に麻帆良祭2日目以降、流れこむようになったそうだ。

……午後に突入し、また2-Aのお嬢さんがやってきた。
図書館探検部の綾瀬夕映。
超鈴音を図書館島に連れていったあの時は孫娘の仲間達の中にもいた。
彼女は神社や仏閣のマニアと呼ばれる人種であり、今回麻帆良の詳しい建設の歴史がわかると聞いてやってきたとの事。

「お爺さん、麻帆良の詳しい歴史を教えて下さいです」

朝倉和美とはまた違った目の輝き方であるが、こちらは私にではなく歴史に純粋に興味があるという様子だ。

「良かろうお嬢さん、儂の知る範囲で答えるぞい。まず何時の頃を知りたいかの。この機械で映像も好きな物を選べるから言うてみると良い」

「……この映像技術は凄いです。あ……ではまず、麻帆良発祥当時の事をお願いするです。当時の資料は殆ど概要程度しか残っていないので興味があります」

麻帆良学園都市発祥当時の資料で公的に知ることができるものは恣意的に削られている事が多い。
初代学園長は一般人であったが、それ以外の魔法使い達の手によってその後魔法世界のメガロメセンブリア、上部組織との繋がりができ徐々に勢力を伸ばし今に至る。
この関係が影響している。
これが良いか悪いかという評価はともかく、今は伝統ある近衛家の現最有力者である近衛門の影響力もあり、中身が真っ黒という事はない。

「分かったぞい。まず建築のモデルとなった……」

……長々と30分程説明に費やしたが、少女の目は真剣そのものだった。
図書館島について聞かれたが、図書館探検部をやっているのだったら自分で究明した方が面白いだろうと言った所「それは一理あるです」と理解してくれた。
何故図書館探検部か分かったのか聞かれたがあからさまな腕章しているからという説明で納得してくれたが、前から知っていたのも事実。
この後彼女はサヨも歴史に詳しいという事を知ることになり詳しくサヨに追求する事になったのはすぐ後の話。

……午後3時に施設の一角で、超鈴音と雪広グループ社長と傘下の電機メーカーの方々が出る説明会と引き続き記者会見が行われ、麻帆良の歴史云々よりも異常な技術力の塊である三次元映像装置の発表が行われた。
任意に座標指定した視点から自由に映像を見ることができる訳で撮影機器の方も超鈴音が近いうちにやってのけるそうなので、そういった説明の場となり超満員だった。
席に集まっている殆どがマスコミと国内含め、各国の同業他社、警察機関の人々で構成されていた。
警察というと、おかしいように思える、視点の自由度という発生により、今まで証拠が曖昧だった防犯カメラ等の新たな段階という事で視察に来たらしい。
そこで超鈴音は檀にあがり、説明をしていたが、その口調はいつものとは異なっていた。
公的な場では、という事なのだろう。

……次の日、テレビ放送で超鈴音が麻帆良の枠を飛び出し全国に顔が出たかというと、その辺りは配慮がなされていてとりあえずは名前が小さく出るだけという事になった。
当然それでも直接取材にくる人々もいたが雪広グループのエージェトはパーフェクトと、横文字三連続で、抜かりは無かった。
超鈴音も今の生活周期に更に連日取材を加えるという事になったら流石に限界だろう。
普段の麻帆良であれば、この手の事は専門機関の暗躍によってニュースになったりすることはないのだが、今回は超鈴音の超包子の展開や雪広グループにとっての利益等、諸処の事情により珍しく意図的に外部に情報を流す事になったのである。
麻帆良の外部からしてみれば、今回の事よりも麻帆良どこもかしこもが、特ダネのようなものなのであるが。

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3日間の学園祭もあっという間に過ぎ動員人数も数年連続で記録を突破するという全体としても華々しい成果に終わりました。
素体の身体は疲れが殆ど溜まらないのですが、この3日は生き抜いたという実感が強いです。
朝から始まり夜まで営業し続け、五月さんも途中何度も休憩を挟みましたが1日が終わるたびに寮で爆睡する、の繰り返しでした。
一方古さんの体力が無尽蔵なのは社員のお姉さん共々唖然とするしかありませんでしたが。
安くて美味しい!が売りである超包子の3日間での売上は肉まんだけで300万円を記録、通常の料理200万との売上を併せて約500万円となりました。
低価格設定と販売の規模からすると大成功としか言いようがありません。
ここまでできた大きな原因は営業時間の長さ、材料が尽きないのと、初稼働であるにも関わらず、1日1万個もの大量生産が可能であった機械の働きが大きいです。
もし手作りでこの数を生産となれば過労で五月さんも元の私のように幽霊になってしまったかもしれません。
それでも単純計算すれば1人4個詰めで1日2500人にしか売り切ることができなかった、と麻帆良祭動員人数から考えればもっと売れた可能性はあるかもしれませんが時間的、人員的制約から見れば仕方なかったかもしれません。
食べてみたかったけど食べれなかったという人達は通信販売でも買えますという宣伝のみになってしまいましたが、口コミでおいしさは浸透しているはずなのでこれからが楽しみです。

……そして、私の麻帆良の説明の仕事もしっかりこなす事ができた筈なのですが、朝倉さんと綾瀬さんという変わった組み合わせでの追求がクラスの打ち上げで発生し逃げまわるのが大変でした……。
宮崎さんと同じく本好きというイメージの強い綾瀬さんが意外に走るのが早く、図書館探検部という名前だけでは判断不可能なポテンシャルだったのは脅威でした。
というか高畑先生は笑って見てないで助けてください!

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……麻帆良祭が無事に終わって7月上旬。
図書館島に集まり、光学迷彩魔法も完成を迎えた。

《クウネル殿、今年の学園祭はいかがでしたか?》

「ええ、今年も楽しめましたよ。エヴァンジェリンの晴れ舞台もいつも通り見られました。しかしまた超包子の方は混みすぎていて諦めましたけどね」

「肉まん食べたかたらまた今度持てくるから任せるネ」

「アル、私についての感想を聞こうか」

「それはもう、とても見目麗しくて心が洗われるようでしたね。……ただネコミミをつけたりスクール水着を着たりするのも私は良いと思いますよ」

舞にそれは……無い。

「クウネルサン、それはいくらなんでも日本の文化には場違いだヨ……」

「……では今この場でつけて貰いましょう」

司書殿の目が怪しく光輝いた。

「いい加減にそういうのやめろ!褒めるなら褒めるだけにしておけ!一発殴らせろ!」

「こらこら、暴れてはいけませんよ、キティ」

「その名前で呼ぶなと何度言ったら!」

お嬢さんが殴りかかるも身長差で一撃も当たらないという流れは予想できたが……要するにからかうのが好きらしい。
2人が落ち着くまでしばらくかかったが、そこで本題に入れた。

「翆坊主、まずこの魔力を込めてある球体で実演してみせるヨ。アデアット。幻術迷彩魔法起動」

光学……という言葉は何処へやら。
球体を見ると……確かに半球に偽装がされている。

《半球だけであればコストも少なくて済みますね》

「地球側に面してる公転面に常に発動させる計算もきちんとしてあるから万全だヨ」

抜かりはないと。

「そんなに急いでいないと聞いていましたから完成までに重力魔法の時よりは大分かかりましたがこれでまた解決ですね」

「茶々円、この魔法を開発したのは良いが今火星がどうなっているのか見せる事はできないのか。開発に携わってどう使われているか確かめたい」

お嬢さんも大分興味をお持ちになったようで。

「そんな事もあろうかと!……そういう事で以前の映像だが持てきたネ」

「荷物が多いと思ったら用意していたのか」

《クウネル殿もご覧下さい……と言いたい所ですが、実際何もありません。激しい天候変化と星が見える映像という感じです》

「用意できたヨ。上映開始ネ」

お嬢さんは意外と喜んでいるように見える。
司書殿も興味ありというところ。

《超鈴音、例の映像技術の公表でしたがあれからどうですか?》

「特許は取得してあるからナ。まだ映像を映す技術だけだから撮影する方も直ぐに実現したいところだネ」

実際すぐに実現できるのだろう。

《普通は両方一緒にできるものだと思いますがその辺り不思議に思われないのが凄いですよね》

「両方の技術をあの場で公表したらもと騒ぎが大きくなてたヨ。開発の予定で済ませたから、協力させて欲しいとか資金提供する等のメールが沢山来たネ」

《それはまた大変ですね》

「この映像技術なら何処かで数年したら開発されただろうから特許が取れて良かたヨ。他にも日の目を浴びるのを待機している技術もまだまだあるからネ」

《当分資金源には困る事は無さそうですね。しかし、警察が来たのには私は少し驚きました。意図は分かりますが》

超鈴音が逮捕されるという事は……無い。

「うむ……警察機関が来たのは良い事もあるが、悪いこともありそうだナ」

《国家権力ですからね。国の上部組織にも魔法使いは在籍していますからどう転ぶか》

「そうだ、数日前ちうサンからハッキング攻撃を受けたヨ」

被害報告。
ちう……というと、例の認識阻害の効かない少女。
本名長谷川千雨。

《認識阻害の効いてない彼女ですか。意外にも長い列に並び展示施設に来て『ありえねぇ……』と呟いていましたね。不満の発散と腕試しに超鈴音の部屋にハッキング、ですか》

「こちらの普通のパソコンを使ている割には、かなり技術力は高かかたヨ。重要なものはネットに繋いでないから問題はないけどネ」

《意外な人物に明確な攻撃を受ける事になるとは》

「まさかのクラスメイトだからネ」

《……ところでいかがですかお2人は》

完全に魅入っている。
おや……華の映像が映っている。
確かに飛ばしていたから、あるか。

「茶々円、なんだこの巨大な華は」

「私も気になりますね」

《それが打ち上げに使用したそのまま華、です》

「はぁ……こんなもの神木が作るなんてどうかしていないか」

それは……作れたのだから、今更意味のない話。

「いつか乗ってみたいですね」

《その是非については考える必要は無いかと。……今日はこんなところで早速幻術迷彩魔法を使わせて頂きます。今回もお3方、ご協力ありがとうございました》

こうして、幻術迷彩魔法と名付けられた魔法の完成を受け、私は早速火星の神木へと飛んだ。
魔法を実行した結果は流石、あの3人が開発しただけあってその効果、効率は非常に良かった。
それでも地球側から超鈴音が精製した粒子と共に魔分供給を行わないと少々難があるが……許容範囲内。
今までよりもテラフォーミングの速度が若干遅くなるかもしれないが安全に行うためには必要な対価。
去年の6月の接近から1年程経っているため火星は今かなり遠い位置にあるが、海が発生する頃にはまた近づき始める事になる。

……その後、超包子の肉まんのインターネット販売はかなり順調に注文数が増え、麻帆良祭の宣伝効果はやはり大きかったそうだ。
そのうち雪広グループ協力のもと支店がいくつかできる事になるのも近い。
超包子のブランド化とやらの計画に動く社員達は皆女性という状況であり、このまま行くと味と安さだけでなくそういう方面でも有名になるのかもしれない。
三次元映像技術の情報は瞬く間に世界に浸透し、人々は新たな映像表現の可能性がどうなるか、と言った事で盛り上がったりしているが、更に撮影技術が完成すればその盛り上がりも本格的になるだろう。
一方、サヨはしばらくの間朝倉和美と綾瀬夕映に追いかけ回される事になっていたが……次第にそのなりも影を潜めて平穏な生活に戻って一安心できた。
そのために、学校が終わるとすぐに寮に戻って身体を放置したりと苦労もったようであるが。
葉加瀬聡美は解析した動作プログラムという名前に落ち着いたものを利用し茶々丸姉さんの性能を上げる事に情熱を燃やしている
驚きなのは、電子精霊の真似事でサヨが適当に変換した、あの文字の羅列を実用に、しかも短期間で漕ぎ着けた事であろう。
……そしてそんな3人と雪広あやかで期末テストをまたしても4位までを独占し、その連続記録も引き続き更新中である。

……そうこうしているうちに動きがあったのは近衛門の所。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

もう夏休みかという7月の末、放課後に高畑先生から言われてさよと一緒に学園長先生に呼ばれたネ。
色々思い当たる節はあるが新たな動きという事かナ。

「高畑先生、二人を連れてきてくれて済まんの」

「学園長、僕はこれで失礼します」

「超君、相坂君、わざわざ呼んで済まんかった。随分有名になったようだが調子はどうかの?」

「学園長とこうして直接話すのは初めてだネ。雪広グループとはうまくやれているヨ。まだまだ忙しいけど調子は順調ネ」

「学園長先生、もう1年半ぐらいになりますがまたこうして生活できて良かったです。色々手配して下さりありがとうございます!」

「ふぉっふぉ、二人共充実しておるようじゃな。して、超君は最近女子寮に侵入者が出るようになったのに気がついておるかの」

まずそこからカ。

「ふむ、あれは困るネ。私の部屋には人には見せられない大事なものが沢山あるからネ。そのためだと思うが監視がまた付き始めたのは諦めるしかないなと思てるがやりにくいヨ」

「あー、やっぱりあれ侵入者だったんですね」

「厄介な事に超君は表で狙われるようになっているものじゃから、気をつけるようにするのじゃぞ。監視の方は付けんと色々大変じゃから勘弁して欲しいの」

表の人達は銃という質量兵器なものだたりナイフでザックリだたりするから危険極まりないネ。
裏の人間なら魔力や気の反応で寧ろ対処が取りやすいのだが。
しかし、麻帆良には銃器の類は探知する機構が備わているから、早々中に入り込んで、穏便でないことを成功させるのは相当難しいのだけとネ。

「木乃香サンの侵入者が裏で私が表という訳カ。せつなサンの機嫌が悪そうなのも無理ないナ。しかし表で狙われると一発で命を落とすから怖いネ。ところで、表裏の話をするという事は翆色の精霊を呼んだ方がいいのかナ?」

「察しが早くて助かるの。儂から話かけるのはできんからな」

この珍しい状況だとすぐあちらから現れそうではあるナ。

「そういう事なら、分かりました。学園長先生は私が幽霊でないのを分かってますよね?」

「直接は聞いとらんが、そうだろうとは思っておったぞ」

翆坊主の情報伝達はある所で伝わているものが別の場所で同じように伝わているかというとそうでもないネ。

「ああ、やっぱりそうですよね。すぐ呼びます」

《キノ、学園長先生が呼んでますよ》

《分かりました。……今行きますと伝えておいてください》

「すぐ来るそうです」

「念話とは全く違うもののようじゃが、便利そうじゃの」

学園長も気になるらしいネ。

「私が今度機械で似たようなものを実現してみせるヨ」

「ほう、超君は麻帆良最強頭脳と言われるだけはあるの。世間で話題になっとる映像技術も期待しとるよ」

「お褒めに預かり光栄だネ」

……翆坊主が来た。

《お待たせしました、近衛門殿この組み合わせはなかなか珍しいですが何かあったようですね。私も結界張らせてもらいます》

呼んだらすぐ来るあたり全然待てはいないけどネ。

「キノ殿、今日は2人に呼んで貰ったが済まんの。相坂君が精霊になっとる件は今聞かせてもらったわい。今は女子寮への表の侵入者の件を話していたのじゃが」

《その件ですか……。私達としても裏の人間ならば意外とすぐわかるのですが表の人間はただ確認しただけではわからないのが困りますね。それに結局人間同士のそういった事にあまり介入しないのが精霊としての自然な形です》

心配しなくても十分対処できているから今のところは大した脅威でもないネ。

「うむ……木乃香の事もあるし、何より他の生徒に危険が及ぶ事があるかもしれんのが問題じゃな」

「学園長、それなら私とハカセで警備システムの強化と警備ロボットを作るという事もできるヨ」

「ふぉっふぉ、超君は逞しいの。ならば、超君、その作業頼みたいの。キノ殿ももしもの時は……頼んでもよろしいかな?」

《勿論です》

「その依頼受けさせてもらうヨ、守れるなら自分の身は自分で守りたいからネ」

「2人共、感謝するぞい」

「……ところで私からも1つあるが、まほら武道会の来年度の開催を了承してくれて感謝するヨ」

「……超君から言われるとはの。実はそれと少なからず関係ある事が本題じゃったのじゃが……。まほら武道会は時間的に余裕が無かったもので今年は許可できず済まんの」

「その分来年全力でやらせてもらうネ」

《近衛門殿……ということは何か動きがあったのですか?》

「キノ殿だけに話したいことではあったのじゃが、どうも今更のようじゃな……。機密情報に触れるのじゃが3人ともそれ以上の機密じゃし良いじゃろう。イギリスの9歳の少年があちらの学校を卒業して今年の3学期にこの学園に教師として赴任する事が決まっておる」

その話だろうとは思ていたが生憎全員知てるネ。

《……やはりその件ですか。それでわざわざ私達、いえ私の予定だったようですがそれを話す理由というのは?3学期といえばまだ数ヶ月あると思いますが》

「そうなのじゃが、儂の強い要望で8月には彼に来てもらう事にしたのじゃよ」

それは面白いナ!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

なるほど……早めに来ると。

《キノ、あの情報と違ってませんか?》

《全くその通りです。全部私の影響です》

《私としては面白いからいいが、翆坊主、本当は来る時期は3学期だと言う事なのカ?そこは私も知らないネ》

《そういう事になります》

近衛門との話に戻る。

《近衛門殿、いきなり日本に呼んでも言葉が通じないのでは?》

「ふむ、それもそうじゃが、英語を話せる人間は儂を含めても麻帆良におるし、ネイティブスピーカーで通せばよかろう」

そうしたいなら。
学校の授業でも1人の日本人英語教師と殆ど日本語の通じないその、ネイティブスピーカーの2人で行われる授業というのも無くはない。
寧ろ彼の少年が流暢な日本語を話せてしまうと2-Aの生徒達にしてみればイギリスから来たという割には、普段通りになるだけで、それどころか子供だからという理由で舐められずに済む……かもしれない。

「私も英語話せるヨ」

流石は超鈴音。

「キノ殿、ほらすぐ側に良い例がおるじゃろう」

楽しそうですね、近衛門。

《……話が進まなさそうなので単刀直入に聞きますが、精霊の私、私達に何をして欲しいのですか?》

「言わなくてもキノ殿ならやってくれるとは思うのじゃが、儂から改めてお願いしたいんじゃ。彼の少年を見守ってやってくれんか?」

それは……無論。

《ええ、もちろんです。私もそうするつもりでした。近衛門殿からの正式な依頼とあればしっかり見守ることにしましょう》

「学園長先生、私にも任せてください!」

「おお、キノ殿、相坂君、感謝するぞい。では、よろしく頼もう」

状況が大分変わってしまっているが……果たしてどうなるだろうか。
大元の問題は変わっていない以上、多少の程度の差こそあれ、なるようになるであろう。
魔法世界には神木が無い以上、私達は手出しできないので、彼ら……の存在について考えると、彼の少年に期待をかけたい。

「学園長、それでその少年は何処に住むネ。小太郎君が呪術教会支部で生活しているのと同じように魔法協会で生活するのカ?」

「その事を聞いてくるとはの。その件じゃが……儂は反対されるのはわかっておるが、超君達の女子寮に住ませるべきだと思っておる……」

自分でも困った顔をして、しかし、そうしなければいけないと観が働いていると見た。
接点という意味では、周りの被害を無視すればそれが良いと言えば良い。

《また素晴らしい勘ですね。私はそれを人間の一般的常識を度外視すればその選択で良いと思いますよ》

「学園長先生がよく根拠の無い事をするのは全部勘だったんですか?」

《サヨ、そう言いますが大体うまく行きますから。下手な占いより確実です》

「翆坊主、大体というのは信用できないヨ……。私の寮の部屋は既に3人いるから先に断わておくネ」

どの部屋になるかまでは知らないようで。

「やはりそう言うか……。こうなると住ませられるのが木乃香の部屋になってしまうのじゃが、婿殿に悪いの……。超君、どうしてもダメかの。いや、分かっておるんじゃがな、超君の部屋が一番駄目じゃというのは」

開き直った

「最初から聞かないで欲しいネ」

「冗談じゃよ、冗談」

常識で見ればありえない行動も、それよりも最善の勘が働き、それを無意識でやらないと困った結果、近衛門は周囲の反対を押し切って、彼の少年を何処の部屋に住まわせるか考えると……身内の部屋であり、彼女がいる部屋以外にない、という事だ。
詠春殿の意向は完全無視となってしまうが……やむを得ないのだろう。

《近衛門殿、周囲から酷い反対受けること請け合いですが勘に従って身体が勝手に動く限り選択肢はもう一つしかないですね》

「……ああ、タカミチ君達がまたうるさくなるのう。木乃香もまたトンカチで殴るんじゃろうな……」

近衛門、頑張れ。

《それで、精霊のお告げとでも言いますか、そのような事を敢えていうなら、その少年を鍛えた方がいいと思うのですがいかがですか?》

「翆坊主、それは面白そうだネ」

先に超鈴音が反応した。

「それは儂が……襲いかかろう……かと思っておるよ……」

以前本気で警備に参加していたから、真っ向から指導するのかと思えば……そうではなかった。

「学園長先生最後もごもご何言ってるんですか。私は面白そうなので賛成ですけど」

「学園長、それ私もやていいカ。古と小太郎君のところに連れていけば強くなるヨ」

しかし、別に悪いことではない。
中国武術研究会に連れて行くのは悪く無いし、最近では小太郎君もいる。
少なくとも正の面で条件は揃っている。

「超君、随分楽しそうじゃの。まあ表でやってくれる分には構わんよ」

《お分かりだと思いますが、下手するとエヴァンジェリンお嬢さんも出てきますからね。この前変に勘違いさせていまいましたが》

「じゃろうな……。とても教師だけでは済まない生活環境になりそうじゃの……」

近衛門が遠い目になった。

《その辺りも含めて見守りましょう。大分話が飛んでしまいましたが、近衛門殿がまほら武道会に関係あるというのは図書島の司書殿との事なのでしょう?》

「おお、忘れておった。まあ今の話でわかると思うがまほら武道会でその少年と彼に戦う場所をと思っての。超君には儂からもその件で改めて手配を頼みたいのじゃよ」

「それは私としても復活第1回目のまほら武道会が素晴らしい物になりそうだから完璧に仕事してみせるヨ。任せるネ!」

「雪広グループには儂からも頼んでおくからよろしく頼むぞい。事はついでなのじゃが、学園祭のあの特別展示施設の映像は超君、いや、キノ殿の物ではないのかの?」

《ええ、そうですね。あのように映像として保存できるに至ったのは超鈴音のお陰ですが。その先の質問に答えましょう、ナギ少年の映像があるのかという事ですが、答えは有ります》

「話が早くて助かるわい……。その映像じゃが、近いうちに儂にくれんかの?」

「確かにあのまほら武道会は素晴らしいものだたネ。学園長、借りが私に大分できたが返せる時に返してくれればいいヨ」

凄く楽しそうな笑みを超鈴音が浮かべている。

「ふぉっふぉ、あいわかった。借りは必ず返すとしよう」

……こうして赤毛の少年の環境は、知っている物よりも安全なのかもしれないが……それと同時に、最初から過酷なものになるのかもしれない。
少年よ、大志を抱け。
精霊の私からは頑張れと応援を一言。



[21907] 14話 ネギ少年の4日間in麻帆良
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 18:54
アーニャはさっき空港で別れる最後までずっとうるさかった……。
でも、細かい事はネカネお姉ちゃん達が準備してくれたけど日本語も憶えていないのに日本に行って本当に大丈夫かな。
おじいちゃんは向こうの学園長先生がなんとかしてくれるって言ってたけど。
向こうにも英語を話せる人がいるから大丈夫って聞いてるからなんとかなるかな。
時間が無かったから知ってるのは、ネカネお姉ちゃんと一緒に見た学園のお祭の映像を見たぐらいだったけど、日本の伝統芸能という物の映像は綺麗だったなぁ。
エヴァンジェリンさんって言ったと思うけど、僕と同じ外国人なのに凄く馴染んでたし、あんな風になれたらいいな。

……ふぅ、初めての長旅になった。
初めて飛行機に乗ったけど意外と乗り心地が良かったな。
少し身体が痛いけど。
空港にタカミチが待っててくれるって聞いたけど人が多いから見つかるかな。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

肉まんが大量生産できるようになた訳だが、これを期に麻帆良内での店舗も増やす事にしたネ。
これから夏本番だが、それを過ぎればすぐに寒くなるからネ。
肉まんの製法には色々こだわりがあたが、一定の品質で届けられるようになたからお料理研究会で各々が出している店に置いてもらう事にするネ。
できれば店の名前に超包子と入れて宣伝してもらえると助かるナ。
そうだ、今まで超包子には特にロゴが無かたけど、翆坊主達が見せてくれた華をモチーフに看板に加えるネ!
どこかのチェーン店が桃のマークなら超包子は華のマークだヨ。
……良い思いつきができたが、今はちうサンの所に行く。
ハッキングするのいい加減やめて欲しいネ。
回数を重ねる度に手際が良くなていくものだから一度本当に破られた時は驚いたネ。
さよに視てもらた所、部屋にいるようだから丁度良い。

「長谷川サン、話があるネ」

…………。
居留守を決め込むつもりカ。

「ちうサン!話があ」

「その名前を何故知ってる!もう分かったから入れよ!」

フフ……うまく釣れるものだナ。
ちうサンと呼んだだけでこの反応は分かりやすくていいネ。
思わずいつもの口調が崩れてるヨ。

「ちうサン、まずは肉まんを食べて気分を落ち着けるネ」

「超……その名前で呼ぶのをやめろ」

嫌そうな顔してるナ。

「分かたネ。その代わりハッキングするのやめて欲しいナ。一度破られたのは驚いたネ」

「やっぱりバレてたか……。学園祭のあの施設やら映像やら極めつけにテレビに名前が出たら一体寮の部屋に何があるのか気になったからな。悪かったよ」

「私の部屋は秘密が一杯ネ。ハッキングやめてくれれば特に通報したりはしないから安心するといいヨ。その代わり腕を見込んで依頼したいことがあるのだが聞くカ?」

「体の良い脅迫って所か……。まあ聞いてやるよ」

「ありがとネ。実は最近この女子寮は外部者から狙われていてネ。警備システムの強化を私が主導でやることになたのだヨ」

「はぁ……なんで住人が警備の強化するんだよ……。それでその強化を私にも手伝えってのか?」

「そういう事ネ。ネット回線のハッキングに対する強化を手伝てもらいたいヨ。長谷川サンのノウハウがあれば大抵のハッキングは退けられる筈ネ。報酬も払うから悪い話ではないと思うヨ」

「超……お前……ありえないだろ……。どこの中学生が中学生を雇うんだよ……」

「ここの中学生ネ。超包子は大体そんな感じだヨ」

「ああもう分かった。詳しい話を頼む」

私がやても良かたけど餅は餅屋に、だナ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

8月3日麻帆良に彼の少年が到着。
前回の近衛門との話から1週間と少し。
かなり急に来させたのだとか。

《超鈴音、サヨ、麻帆良に例の少年がタカミチ君と共に入りました。一度学園長室に寄ってから来ると思いますが、まだ英語しか話せないので接触するならどうぞ。あと私が言うのも何ですが雪広あやかに寮の入り口で待つと良いと伝えておいてはどうかと》

《はは……見守るどころか情報が筒抜けだナ。分かたネ、面白そうだから言葉を学習する時間を取らせずに古達の所に連れてくネ。明日菜サンと木乃香サンが女子寮に戻て来たら、さも偶然を装うヨ》

言語の習得を妨害するとは……。

《なんとなく分かりますけど、いいんちょさんは私が用意します!》

用意するそうだ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

タカミチと一緒に学園長室に来たけど心配になってきた……。
最初は英語で立派な魔法使いになるための僕の教師をやるという課題について話をしたけど、その後……。
二人のお姉さんが何か話してて、まだ日本語はよくわからないから困るな、早く勉強しないと大変だ。
アスナさんとこのかさんという名前は分かったけどアスナさんの方は凄く怒ってて、このかさんの方はにこにこしてるから大丈夫そう……かな。

「(ネギ君、そういう訳じゃからこの2人と同じ寮の部屋に住んでもらうが悪いの)」

「学園長先生!なんでこんなガキと一緒に住まなきゃいけないんですか!?他に部屋があるでしょ!」

「まあまあ、アスナ落ち着き。この子まだ言葉も通じんしかわいいからええやん」

「このかは物分りが良くて助かるの。(言葉は今夏休みじゃし、2人と話して覚えたらええからの)」

「(分かりました学園長先生!ありがとうございます)」

「(ネギ君、困ったことがあったら言うんだよ)」

「(タカミチもありがとう!夏休みの間に言葉は覚えるよ!)」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ふむ、肉まんで翆坊主のように餌付けの準備もしたし後は待つだけネ。

《鈴音さん、いいんちょさんはいつでも良いですよ!用意はできてます!》

《了解ネ!》

《なんか待ち伏せって楽しいですね》

《楽しそうなところいいですけど目標3名まもなく到着です。言葉が通じずお嬢さん2人と単語で英会話をしてる模様》

《単語で英会話て何の番組ネ。右手に肉まんの用意があるヨ。いつでも来るネ》

《私は左手にいいんちょさんですね!》

何か究極技法が起きるのかもしれないナ。

《何故いきなり餌付けのような事をしているのですか?》

《教師ということは給料が入るからネ。学生より財布に余裕ができる筈だヨ》

間違いないネ。
……話し通り、向こうから歩いてきたナ。

「(教師、大変、一人?)」

「(はい、一人です)」

「なんでこんな子供が2学期から私達の教師になるのよ……」

さて期は熟した!
いざいくネ!

《ミッションスタートですね!》

《うむ!》

「やあ明日菜サン、このかサン、その坊主は弟かナ」

「あ、超さん!英語しゃべれる?この子供は弟じゃなくて2学期から私達の教師やるんだって!しかも私達の部屋に泊めることになったの!」

明日菜サンは元気一杯だネ。

「ふむ、色々事情がありそうだネ。(初めまして、私は明日菜サンとこのかサンと同じクラスの超鈴音だ。英語が話せるから協力するネ)」

「(うわー!本当に英語話せる人いるんですね。良かったー。あ、僕は2学期から女子中等部で英語の教師をすることになったネギ・スプリングフィールドと言います。超さん!よろしくお願いします)」

ご先祖様との初の会話だがこちらも元気がいい。
まだまだ子供という感じだが、鍛えた方がいいというのは確かかもしれないネ。
常に魔分で身体強化しているようでは元の肉体が強くならない。

「(ネギ先生だネ、よろしく。丁度肉まんという食べ物があるが食べるカ)」

「(あ、これお姉ちゃんと見た映像にあった肉まんですね!頂きます!)」

持ていたものを渡すと、両手できちんと受け取たネ。

「(一応麻帆良の勉強してきたのカ?)」

「(は、はい。あまり時間無かったですけど学園長先生が送ってきてくれた学園祭の映像を見てきたんです。…………うわーこれ美味しいですよ!)」

本当に美味しそうに食べてくれるナ。
その姿はまるで小動物のようネ。

「(そう言てもらえるとありがたいネ。その肉まんは私がオーナーをやている超包子の定番だから食べたくなたら買いに来るといいヨ)」

「何のんきに肉まん食べてるのよ……」

「超りん、何話してるん?」

「ネギ坊主は超包子の肉まんを、故郷で学園祭の映像を見て見た事があると言う話ネ」

「そうなんかー。この子英語で話せる人に会えてさっきよりも喜んでるなぁ。うちも英語話せるようになりたいわー」

「鈴音さん、その子誰ですかー?」

打ち合わせ通りだが白々しいやりとりだナ……。
しかも、声が棒ネ。

「まあ、どなたですか、その男の子は。とてもかわいいですわね」

あやかサン、目がもう既に来てるヨ……。
翆坊主、良くあやかサンの事を考えたナ。

「(えっネカネお姉ちゃんどうしてここに!)」

「わ、私がお姉さんですって!いえ、悪く有りませんわね……是非お姉さんになりますわ!」

翆坊主が考えたのはこちらの事カ。

「げっ、いいんちょ!なんであんたがこんな丁度良く来るのよ!?」

「げっとは何ですか!相坂さんが私に買い物に付き合ってほしいというものですから出てきただけですのよ」

買い物に行く事で話を通したのカ。
無難だナ。

《鈴音さん、ミッションコンプリート!》

《さよ、よくやたネ!》

《でも……いつもの二人が言い合ってるだけになってますね……》

《いや、ここからだヨ》

「あやかサン、この少年はネギ・スプリングフィールドと言て2学期から私達の英語の教師をやるそうだヨ。来たばかりでまだ日本語が通じないらしいネ」

「まあ!こんなに小さいのに私達の先生になられるんですか?……言葉が通じないとは不自由でしょう、私も英語は話せますから協力しますわ。(初めましてネギ先生、私は雪広あやかと言います。是非お姉ちゃんとお呼び下さい!超さん達とは同じクラスですからよろしくお願いします)」

「(す、すいません、ネカネお姉ちゃんに似てるものだから間違えてしまいました。でもまた英語が話せる人に会えるなんて良かったです!僕はネギ・スプリングフィールドと言って2学期から英語の教師をすることになりました。よろしくお願いします!)」

「あ~なんてかわいいんでしょう!」

「超さんと言いいいんちょと言い立て続けに英語が話せるとは……ここは日本じゃなかったの……」

「アスナ、うちらも英語勉強してネギ君と話せるようになろ!」

「明日菜サン、ネギ坊主に英語を教えてもらいながら日本語を教えたらいいネ。そしたら成績も上がるヨ」

「(初めまして、相坂さよと言います。私も皆と同じクラスなのでよろしくお願いします、ネギ先生)」

さよも話せたのカ……。
元からなのか、精霊だからかのどちらかだナ。

「(3人目ですね!相坂さん、よろしくお願いします!)」

「……超さん、言うとおりにするわ……。なんでこんなに英語皆話せるのよ……」

なんだかトドメを刺せたようだナ。

「(ところでネギ坊主、荷物を置いたら少し運動しないカ。長旅で身体が鈍ってるだろう。子供は元気が一番ネ)」

「(超さん、何処に連れて行く気ですか?)」

「(中国武術研究会を紹介するネ)」

「(そ、それでは今度私は馬術部を紹介しますわ!)」

「(いいんちょさん合気柔術でもいいんじゃないですか?)」

「(まぁ!それもいいですわね!)」

「(……なんだかよくわからないですけどよろしくお願いします!)」

「英語もっと勉強しといたら良かったな~、アスナ」

「なんだかこれから苦労しそうだわ……」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

女3人寄れば姦しいとはこの事。
実際には5人だが。
ネカネ・スプリングフィールドと雪広あやかが似ているというのは知っていたが……しかし、特に意味は無い……とは思う。
本人は嬉しそうであり、英語も話せる雪広あやかに会うのは悪くない筈だ。

《キノ、いいんちょさんはネギ先生のお姉さんにそんなに似てるんですか?》

《それは私も気になたネ》

《見ればすぐ分かる程度ですが、物腰は似ていると思いますよ》

《あやかサンはいつになく幸せそうだたネ》

《小太郎君と遭遇した時は『なんて野蛮なのかしら!』と言ってた気がしますがタイプがあるんでしょうねきっと》

小太郎君は2-Aに遭遇する率が相変わらず高い。

《人それぞれという事でしょう。今日は長そうですが……次はいよいよ中国武術研究会へ連れ込む予定ですか?》

《フフ、ネギ坊主が予想通りなら言葉をすぐに覚えてしまうからネ》

《そういう意味ではやはり超鈴音の先祖と言った所でしょうか》

《それは褒め言葉と受け取ておくネ》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ネギ坊主に荷物を置かせてそのまま連れだしたヨ。
あやかサンは約束通りさよと買い物に行ったネ。

「(ネギ坊主、ここが、私が所属している中国武術研究会だヨ。同じクラスの古菲もいるから挨拶するといいネ)」

「(はい!超さんありがとうございます)」

「古!今日は飛び入り参加の少年を連れてきたヨ!小太郎君と同じぐらいの年ネ!」

「おお、超!その坊主も小太郎と同じぐらい強いアルか?」

「それは試してみてのお楽しみネ。あまり本気でやてはだめヨ」

「なんやそのチビ助、超ねーちゃんの弟か」

小太郎君、自分の姿をよく見て言うネ。

「この坊主はネギ・スプリングフィールドと言うネ。2学期から私達の英語の教師をやることになたらしいヨ」

「俺と同じ子供やのに先生やるやて!冗談ちゃうんか!?」

「超、それはホントアルか?」

「本当らしいネ。生憎まだ日本語通じないから、拳で語り合うといいヨ」

「(2人に自己紹介して手合わせするといいネ)」

「(はい!僕はネギ・スプリングフィールドと言います、よろしくお願いします)」

「ほんまに外国人なんやな!」

「コタロー、私も外国人アル」

「くー姉ちゃんはエセ中国人みたいな話し方やろ」

「小太郎君、それは私にも言てるのカ?相手するヨ。なら古はネギ坊主の相手するといいネ」

「それ怒るような事か。でもええわ!今日こそ勝ったるからな!」

「望むところネ」

中国拳法ならまだ私も負けてないネ。

「ネギ坊主、私が相手するアル。かかてくるといいよ」

「(ネギ坊主古はいつでもかかってきて良いと言てるネ)」

「(分かりました!こういうのは初めてですけど、行きます!)」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ネギ少年を見守る……という近衛門との約束通り視ている。
古菲との初めての手合わせは当然ではあるがネギ少年の完敗に終わったものの、意外としつこく頑張るうちに動きをかなりの勢いで吸収していったのは目を見張るものがある。
その後小太郎君とも戦ったが流石に優位があちらにあり、こちらでもネギ少年の完敗。
しかし超鈴音は途中でネギ少年を意図的に放置し、ロボット工学研究会に途中で移動していった。

《ネギ少年を置いてきて大丈夫なのですか?道もまだ分からないでしょうし、寮に戻るのにも一応電車に乗る距離でしょう》

《古もいるから多分大丈夫ネ。もし駄目だたら翆坊主が見つけて私が回収すればいいだけネ。見守るのが仕事だろう?》

そう言われてしまえばそれまで。

《そういう事なら。実際に動きを見てどうでしたか?》

《それ私も気になります!》

《うむ、ネギ坊主はあまり、運動はしていなかたようだネ。常に魔法で身体強化しているのは身体が強くならないヨ。でもあの短時間での吸収力は目を見張る物があたネ》

《やはりそういった所ですか》

《今度私もいいんちょさんと合気柔術に連れていこうかな》

しかし……全く日本語を覚える暇がなさそうだ。

《鍛えた方が良いと言いましたが……この際龍宮神社のお嬢さんのバイアスロン部、木乃香お嬢さんの護衛の桜咲刹那の剣道部、全て連れて行ってみてはいかがですか?》

《それも面白そうだが、私も毎日暇な訳ではないからネ》

《龍宮さんと桜咲さんの所なら私が連れて行きますよ》

《それは丁度いいネ。中国拳法に合気柔術、射撃に剣道、あとありそうなのは楓サンの修行に加わる事カ。夏休みに来たというのは意外と良かたかもネ》

超鈴音も考える事は同じ。
元々2月に来るという事だったが3学期も半ばからよりは、そもそも時間がある。

《学園長先生が襲いかかるのがいつかは知りませんけど、育成ゲームみたいで面白いですね》

……ゲームではない。

《……ところで小太郎君は裏の人間でもありますが、気づいてるようでしたか?》

《ふむ、最初見た時に一瞬顔が変わてたから気づいてると思うネ。でも、あの2人は言葉は通じてないが仲良くなれそうかもしれないネ》

《そうですか》

それは良い事だ。
身近な好敵手……がいれば切磋琢磨できるというものだろう。

……その後ネギ少年は中国武術研究会の終りの時間まで粘り、それをサヨに知らせて古菲、雪広あやかと共に女子寮に戻っていった。
ネギ少年が帰ってきた所、雪広あやかが非常に心配していたが、手当できるとあって嬉しそうだった。
無事に孫娘達の部屋に戻ったネギ少年だが、神楽坂明日菜に見事……に、くしゃみを当て服がはじけ飛んだ。
あれは武装解除。
……その事で一悶着あったが、英語で必死に謝られ、言葉の壁に苦慮したのか彼女は意外とすぐに怒りを収めた。
夕飯を食べながら英会話と日本語のいわゆるギブアンドテイクな関係がこの夏3週間程続くのだが、そういう事でネギ少年の1日は終わった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

はあ、昨日は麻帆良に来てすぐだけど凄く疲れた。
それに超さんが連れていってくれた中国武術研究会だけど、運動すると言われて行ってみたら身体をほぐすなんていうものじゃなかった……。
でも、イギリスにいた時に1ヶ月タカミチに相手してもらったから少しは頑張れたかな。
古菲さんに僕と同い年ぐらいのコタロー君はすっごく強かった。
もしあれが本当の戦いだったら魔法を唱えている前にやられちゃう。
それに魔力で身体を強化してるのに2人はそれ以上に強かったしあれはタカミチが使ってる気と同じみたいだった。
それでも僕はサウザンドマスターの父さんのような立派な魔法使いになるんだからあの2人に簡単に負けていられない。
でもその前に日本語を勉強しないと不便だからこっちも頑張らないと。
結局昨日は夕方帰ってきた後少しぐらいしか日本語勉強できなかった……。
しかもアスナさんの服をくしゃみで吹き飛ばしちゃって謝ったけどちゃんと伝わってるかな……。
……あれ!?何故かアスナさんの布団で寝てる!?

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

……何故か、ソファーで寝ていたのに2段ベッドの上に上がっていた。
それを思わず抱きしめている神楽坂明日菜も何だか……起きたら面倒な事になるに違いない。
……さて、ネギ少年が昨日到着した訳だが、エヴァンジェリンお嬢さんが気づいていないという事はなかった。

「おい……そこにいるのは分かってる。さっさと出てこい、さもないと凍らすぞ?」

脅迫を行う人物が1名。
早朝この時間帯には誰もこの神木付近にはいない。

「ああ、あくまでだんまりを決め込む気か。いいだろう、リク・ラク・ラ」

《やめてください。話はしますので……とりあえず家に戻ってはいかがですか?》

「寝てたなどと言い訳するんじゃないだろうな?」

《……精霊は基本的に起床という概念は存在しません。少し反応が遅れただけです。こうして少しだけ姿を現して、話すのをまず、止めたいです。ここで話す事自体が困るので一度お戻りください》

「……そう言われても、こちらから茶々円を呼ぶ方法がないだろう」

家の中で大きな声で叫ぶなどすれば気がつくかもしれない……。
はて、エヴァンジェリンお嬢さんは一部精霊化している事を考慮すれば、魔分通信もできるのではないだろうか。
……一度精霊体を神木の中に戻す。

「おい!なんでまた引きこもるんだ!」

《エヴァンジェリンお嬢さん、聞こえるでしょうか。口で話さず、念じてください。念話とは違いますがそういうようなものです》

《こんな方法があるなら最初からやればいいだろう!……あ?これはアレと同じ感覚がするな》

《すいません。少々失念していました。しかし……アレとは?》

《魔分とかいう話だ。超鈴音に話は聞いた。それの操作でやっている通信だろう?》

《その通りです》

《はぁ……いや、それより話を戻すぞ。……まず昨日タカミチと入ってきたあのガキは誰だ?赤毛というのはナギの事ではなかったのか、思い過ごして馬鹿みたいだろうに》

《あの赤毛の少年はネギ・スプリングフィールド。予想がつくと思いますがナギ少年の息子です。2学期から英語の教師として麻帆良の女子中等部に赴任する事が決まっています。当初の予定ではもっと後に来る筈だったのですが……近衛門殿の積極的な働きかけによりもう到着したという事です。因みにまだ英語しか通じません》

《……それは、本当……なのか……?》

エヴァンジェリンお嬢さんはナギに思い入れがあるので、思うところは複雑であろう。

《……ええ、あの時は最初から明かす必要もないと思いましたので近衛門殿の所では赤毛と伝えましたが……数ヶ月期待させるような真似をして、申し訳ありません》

《……ハハハ、興味を持って無理やり聞きだしてみれば結局自分に返ってくるとはな……。つい最近も似たような目にあったな……》

《……時に、これで元気になられるかは分かりかねますが、クウネル殿のアーティファクトが使用可能なのは知っていますか?》

ナギの生存の確認ができるだけでも……と。

《そうか。そういえばアルの奴その事は一言も言っていなかったな……む、という事はナギが生きていると言いたいのか?》

《そういう事です。クウネル殿に聞けば、彼なりの返答をするでしょう》

《奴が生きているのは本当だったのか……。分かった、それは早いうちにアルに確認に行くとするよ……。茶々円……また湿っぽくなって悪かったな》

《いえ、こちらこそ》

《……それで、じじぃは何をするつもりなんだ?直々に指導するつもりなのか?》

《近衛門殿は……時期を見てネギ少年に襲いかかるそうです。……目的は少年を鍛える事なので、その話を聞いた超鈴音含め、私は視ているだけですが……私達が昨日彼を中国武術研究会に連れ込んだのはその為です》

《鍛えるというのはわからなくもないが……教師として生活するのに必要なのか?》

《必要あるか無いかで言うと、有ります。……1年以内に、そうする必要が訪れる可能性が高まります》

《ほう……》

《私にも今後の事は定かではありませんが》

《ほう、全てが分かっている訳ではない……か。じじぃが襲うと言ったが、私があのぼーやをじじぃに、一泡吹かせる為に強くしても構わないんだな?》

それは寧ろ、大いにどうぞ。

《動機は聞かなかった事にしますが、まさかお嬢さんから言い出すとは》

《奴の息子なら鍛えがいがありそうだからな。暇つぶしにもなるだろう》

暇つぶし……か。

《こんな事を言うのは野暮かもしれませんが……魔力……魔分量こそ劣るものの、ネギ少年はナギ少年を越える可能性は充分にあると私は思います。……今の彼を見てもそうは思わないかもしれませんが》

《……どうやら強さだけの事を言っているのではなさそうだな》

《……それはお嬢さん自身の目で見て直接感じるほうが良いかと》

《フ……それもそうか》

《ところで、この通信法ですが、お嬢さんからも話しかける事は恐らく可能です。……因みに、この方法を続けると思考速度が格段に早くなり……その副次的に魔法の詠唱速度も言霊が成立するので……便利になりますね》

《それは超鈴音の事か……。燃える天空の発動速度はその為と言うわけだな》

《……実際、超鈴音以外に使った人間がいないので分かりませんが、この会話法に耐えられる事自体が凄いと言えば凄いのですが、お嬢さんはまだ平気のようですね》

《ああ、私は全く問題ないな》

そうならば。

《一部精霊化している為でしょう。人間であれば頭痛がします。……繋ぎ方は理解されましたか?》

《それが原因か……。ああ、通信方法は掴めた。これから利用させてもらうとするよ》

《好きに話しかけてくれて構いませんので》

会話終了後、お嬢さんは時間が殆ど経っていないのを改めて理解しやや驚いていた。
……いつ指導し始めるか知らないが、厳しくも優しい先生になりそうだ。
闇の魔法というものは果たして必要か……というと、今の状態からならその必要も無い可能性は……充分ありえる。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

夜が明けて翌朝。
今日はネギ先生に合気柔術をいいんちょさんと教えますよ!
キノは一度やらせたら何かしら効果はあるだろう、と言っていましたし、何より面白そうなのでやります。
……と、思っていた所、部屋のドアをドンドンと叩く音が。

「超りん、相坂さん、ちょっと来てほしいんやわ」

神楽坂さんが絡んでいるに違いないです。

「さよ、通訳のお出ましネ」

「そうみたいですね」

……状況としてはソファーに寝ていたはずのネギ先生が2段ベッドの上にある神楽坂さんの所に潜り込んでいたところ両者目を覚ましたものの言葉が通じず、ジェスチャーで意思疎通を図るものの断念したとのことです。
神楽坂さんがなんだか朝から疲れてますね……。
確か今日は新聞おやすみの日ですからバイトと関係なくて良かったですね。

「(ネギ先生、どうして神楽坂さんのベッドに入っちゃったんですか)」

「(ネギ坊主、乙女のベッドに勝手に潜り込むのは英国紳士としては失格だヨ)」

ご先祖様を叱る子孫というのはなんとも言えませんね……。

「(はい……反省してます。僕イギリスにいた頃はいつもネカネお姉ちゃんと一緒に寝てもらって気がつかないうちについ癖で潜り込んでました……)」

寝ているうちに移動できるって凄いですね。

「(でもどうしてわざわざ2段ベッドの上の神楽坂さんの所なんですか)」

「(そうだナ。木乃香サンの所の方が近い筈だヨ)」

「(……それは多分……アスナさんの匂いがお姉ちゃんと似てるからかもしれません)」

……匂い、ですか。
嗅覚が凄いのかもしれません。

「明日菜サン、ネギ坊主が入り込んだのは故郷で普段お姉さんと一緒に寝ていて、そのお姉さんの匂いが明日菜サンにそっくりだからだそうだヨ」

「ほうかー。まだやっぱり子供なんやな」

「理由は分かったわ。さっき怒り過ぎてもう一度怒る気にはならないし……。気をつけてと言って欲しいんだけど……」

神楽坂さんは少し困ったような表情です。
言葉が通じませんからね。

「(ネギ先生、神楽坂さんはもう怒るのはやめたそうですけど気をつけてと言ってますよ」

「(はい、アスナさん、ごめんなさい。気をつけます……)」

そう言いながら頭を下げた所でこの話はお開きとなりました。

「(ネギ坊主、そんな事では教師をやては行けないヨ。これを小太郎君に知られたら笑われてしまうネ。身体も鍛えた方がいいが心も鍛えたほうがいいネ)」

す、凄く厳しい事言いますね。
9歳なんですけど……。
まあ……鈴音さんも火星にいたときはもっと苦労したのかもしれませんね。

「(鈴音さんの言うことは尤もですよ、ネギ先生。でも一度失敗したぐらいでクヨクヨしてはいけません、しっかり前を向いてください。今日は私が、ネギ先生が身も心も強くなる場所に連れていきますよ)」

「(そ、そうですね……。こんな事では教師なんて勤まらないしコタロー君に笑われても仕方ないや……。超さん、相坂さんありがとうございます。今日もよろしくお願いします!)」

悲しそうな顔から一転明るくなりました。

「(うむ、元気が一番ネ)」

「(では準備ができたら私の部屋の前に来てくださいね)」

「ネギ君落ち込んだり明るくなったりしとるけど大丈夫なん?」

話が全然分からないって感じですね。

「ネギ坊主は強い子だヨ。大丈夫ネ」

こうして正直不自然な流れに誘導している気がしないでもないですが、今日はいいんちょさんと合気柔術の道場に連れていくことになりました。

「(ネギ先生、今日は私と相坂さんで合気柔術をお教えしますわ。怪我をしないように最初は基本から始めましょう)」

「(合気柔術は相手の力を逆に利用するのが基本ですから心を落ち着ちつける事が大事ですよ)」

あれ……全く日本語の勉強にならない空間が広がっていますね……。

「(はい!今日はよろしくお願いします、あやかさん、相坂さん!)」

元気が良くて良いですね。
いいんちょさんがとてつもなく幸せそうな顔をしていますが、合気柔術の腕前は申し分ないですから手取り足取りしっかり教えていきます。
……しかし、ネギ先生の飲み込みの良さには2人で驚きました、これは凄いです!
いいんちょさんのテンションが更に上がって行きますがそんな時でした。

《相坂さよ、今ぼーやに合気柔術を教えていると茶々円から聞いたが今何処にいる?私もそれに参加させてもらおう》

えっ!どういう事ですかこれ。

《エヴァンジェリンさん一体どうしたんですか?今は雪広の合気柔術の道場なんですが……わかりますか?》

《……ああ、あの100年近く前から変わっていない所か、すぐに行くよ》

というかこの通信方法エヴァンジェリンさんもできるんですか。
あれ……どうしようこれいいんちょさんに言うの不自然すぎるんですけど。
絶対キノが原因ですね。

《キノ、今エヴァンジェリンさんから合気柔術の練習に参加すると通信入ったんですけど説明を要求します!》

《翆坊主、それは気になるネ》

《言っていませんでしたね……。今日の明け方お嬢さんが神木の目の前に直接やってきて少々。結論としてはお嬢さんもネギ少年を鍛えるのに参加するそうです。動機は近衛門殿に一泡吹かせるとのこと。合気柔術の話は私からしましたが、まさかもう行動するとは思いませんでしたね》

《大体分かたが……英語の教師とは何のことだろうナ。私も加担しているとは言え昨日からネギ坊主はまだ運動しかしていないネ》

教師らしい事は一切してませんが……。

《私達は今ネギ先生とちゃんと英会話してますよ》

《雪広あやかに説明が難しいかもしれませんが……頑張ってください》

頑張ってって……。
なんとかするしかありません!

《エヴァンジェリンさん、来る時の理由は鈴音さんに用があって電話したら私達がやってることをついでに聞いたということにして下さい。いいんちょさんがいるので説明しないといけませんし》

《委員長がいるのか。だから雪広の道場という訳か。分かった、説明は任せておけ》

……少なくともこれで私がおかしいと思われることは回避しました。
あれ、正直何もしなくてもなんとかなったかもしれません。
……しばらくしてエヴァンジェリンさんが来ました。

「委員長、超鈴音に用があって電話してみれば新しく先生になる子供に合気柔術を教えているそうじゃないか」

「まあ、エヴァンジェリンさん、珍しいですわね。このネギ先生が2学期から新しい先生になられるんです」

「(え……エヴァンジェリンさんって本物のエヴァンジェリンさんですか!?わぁー!2日目でもう会えるなんて凄いです!握手して下さい!)」

ネギ先生……何故エヴァンジェリンさんを知ってるんですか。
エヴァンジェリンさんも一瞬厳しい顔をしましたがすぐに微妙な表情に戻ってされるがままに握手されています。
多分裏の方の存在だと気づかれたのかと思ったのでしょうが……どうもそうではないみたいで。
なんだか嬉しそうな顔してますね。

「(ね、ネギ先生、エヴァンジェリンさんとお知りあいなのですか?)」

「(いえ、日本に来る前に学園のお祭の映像で見たことがあるんです。その時映ってたのがエヴァンジェリンさんでお姉ちゃんと一緒に凄く綺麗だなって思ったんです)」

その映像送ったのは学園長先生ですか。
今の発言でエヴァンジェリンさんが顔を俯かせていますが少し恥ずかしそうですがもっと嬉しそうです。
って、いいんちょさんの雰囲気が黒くなっているような……。

「(ね、ネギ先生!私の事はどう思われますか!?)」

「(あやかさんですか?とても親切な良い人だと思います!)」

「ああ!もう幸せです!」

子供だと思って油断しているととんでもない男の子かもしれません……。

「(ぼーや、私を前から知っていたとは嬉しいことを言ってくれるじゃないか。今日は私も合気柔術を教えてやろうと思ってな)」

「(ほ、本当ですか!ありがとうございます、エヴァンジェリンさん!)」

「(そ、そんなに嬉しいのか……いいだろう。だが私は甘くはないから覚悟しておけよ)」

「(ちょっとエヴァンジェリンさん!手荒な真似は許しませんわよ!)」

私は幽霊の頃から存在感が薄かったですが、この空間だと思わず成仏してしまいそうです……。
……それからの1日でしたが、いいんちょさんの懇切丁寧な優しい指導とエヴァンジェリンさんの実践的指導と、とてもうまく行きました。
ただ……技を掛けられて投げられる所を実際に見せる役は私が必死にやりました。
これが適材適所と言う奴なのでしょうか。
しかしエヴァンジェリンさんの映像を予めネギ先生に渡していたのが学園長先生だとしたらとんだ策士です。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

近衛門が映像を渡したとか。
多分……面白いからというつもりだったのだろうが、第一印象がとても良くなるという物で、凄く良い役目を果たしたらしい。
……という訳で実際に会うとしよう。

《近衛門殿、遠見の魔法で見ているのはネギ少年達ですか?》

「おお、キノ殿。その通りじゃよ」

《会話を聞きましたが、学園祭の映像を送ったのは近衛門殿ですか?》

「ふぉっふぉ、まさかああなるとは思わんかったの」

《ええ、エヴァンジェリンお嬢さんがこんなに楽しそうな顔をするのは久しぶりですね。元の狙いが違ったとは言えこれは良かったと思いますよ》

「まあ送った映像は殆どアルが選別したんじゃがの。それを儂も面白いと思っての」

ああ……なるほど司書殿か。
だからあんなに褒める反応になるのか……。
イノチノシヘンで記録もされているが、サークルの映像も全部入手しているから、とっておき……を選んだのだろう。
司書殿は……よくやった。
後であの様子を見せに行こうか。

《なるほど、クウネル殿が選別したらそうなるでしょうね。多分彼に並ぶ程お嬢さんに詳しい人は大学サークルの通でもなかなかいなさそうですし》

「あの2人の初対面があんなに穏やかになるとは予想外じゃな」

《……全くです。それと、お嬢さんが近衛門殿に一泡吹かせる為にネギ少年を鍛えるそうですから、魔法の関係もありますし時期は見てください》

「なんじゃと?エヴァの目的は儂への当てつけか……。こうなればどちらが上手か勝負じゃの……。これは楽しみじゃわい」

近衛門の存在感が増した。

《しかし……ネギ少年は英語の教師の筈だったと思いますが、完全に何処へやら……ですね。この夏だけでも心身共に成長すると良いですが》

「教師は学校が始まったら頑張れば良いじゃろうて」

《そうですね。日本語の勉強する時間が殆ど無いですがネギ少年の学習能力に期待です》

「大丈夫じゃよ。あちらの学校の成績を見る限り飛び抜けた天才のようじゃし、特に基本魔法の扱いに関してはここ近年歴代一の才能じゃから言語の習得はなんとかなるじゃろう」

《くしゃみの威力からすると風の魔法も相当でしょうが、基本魔法の方が……適正あるのですよね》

基本魔法……。

「ふむ、キノ殿は何か思うところあるようじゃな」

《もしかしたら……という憶測程度ですが結局頑張るのは本人ですから》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

昨日も夕方に帰てきたネギ坊主だが一昨日に比べればボロボロにはなていなかたネ。
それどころか嬉しそうな顔をしていたが、さよと翆坊主から聞くにエヴァンジェリンに会えたのが相当良かたらしいナ。
大分前にエヴァンジェリンに手合わせという名の魔法の威力実験をさせてもらたが……あの時の様子から考えると友好的な出会いになるのはありえないと思ていたのだけどナ。
しかし今日で3日目だがまだ朝倉サンに見つかていないのは奇跡のようなものだが、小太郎君といれば見つかるのは時間の問題だネ。

私が何をしていたかと言えばハカセと一緒に警備ロボットの作成。
侵入者が女子寮に出没している話をしたらロボット工学研究会の大学生のお兄さん達は俄然やる気が出てたが、やることは複雑でも思考回路は単純で助かるネ。
モデルはどこかの外国の州知事さんが出ている映画を意識しているヨ。
量産型として作れば人員的、地理的にカバーする事が不可能だた範囲の警備もそのうち可能になるだろうナ。
開発シリーズ名はT-ANK-α、田中サンと呼ぶヨ。
侵入者が思わず後ろを向いて両手を必死に振りながら走り出したくなるようなものを作成してやるネ!
また赤外線センサーを寮の周りに敷き詰める計画、三次元映像監視機器の作成も早々に進めた方が良さそうだネ。
ここで実験してデータを収集すれば警察機関に説明する時にも説得力が増すナ。
全体の監視を翆坊主達に常に行なてもらう訳にも行かないからネ。
後は……ちうサンにこちらで用意した端末をどのレベルまで渡すかだが、あまり良いのを渡しすぎるとハッキングの技術が危険な段階まで上がる危険があり、大したものでなければシステムの強化の本来の目的からも外れてしまうからバランスが重要だナ。
……うむ、この麻帆良最強頭脳の私が暇になるのは遠い先の話になりそうだネ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

これでネギ先生が来てから3日目、鈴音さんから指令を受けている肉まんによる餌付け作戦は続行中です。
確実にこのまま行けば肉まん依存症になることは間違いありません。
私が最近超包子で働いていないと思われてしまいそうですが、夏なのでそんなにお客さんは来ませんし、葉加瀬さんの計算の手伝いも部屋でもできるので大丈夫です。

「(ネギ先生、今日はバイアスロン部にいる龍宮さんのところに行って射撃を体験してみましょう!本当はスキーも行うんですが今は夏ですからね)小太郎君も龍宮さんは知っていますよね。今日は射撃訓練ですよ」

昨日いいんちょさんはネギ先生分を補充しすぎて放心状態なので放置です。
ご覧の通りですが小太郎君も途中で拾ってきました。
まあ観測しながら偶然を装って遭遇しただけなんですけど。

「(はい、相坂さん、色々な事を体験させてくれてありがとうございます!)」

「たつみー姉ちゃんの事は知っとるで!俺は格闘が好きなんやけどネギもやるんなら負けられんわ!」

「(小太郎君も射撃は初めてだそうですけど負けないって言ってますから頑張ってくださいね)」

「(はい!コタロー君、一昨日は敵わなかったけど今日は僕も負けないよ!)」

実に良いライバルになってますね。
まだ会うのは2回目なんですが言葉が通じないだけに感情でぶつかり合いやすいみたいですね。

「(ネギ先生、一度バイアスロンの競技の説明をしましょう。バイアスロンとは、クロスカントリースキーと、ライフル射撃を組み合わせた競技で元々はスキーをしながら銃で獲物を狩猟するのが発展したものだそうです。1861年からノルウェーで本格的にスポーツとして広まったようですが、麻帆良学園より歴史は古いですね。スキーについては省きますがライフル射撃は本来スキーで走り込んでから行う為、心拍、呼吸が乱れた中での精密射撃が要求されるのがポイントですから何か得るものがあると良いですね)」

お分かりの通り銃を扱いますが、麻帆良では認可がしっかりされているので使われる銃弾は全てゴム弾と言う事になっています。
恐らく龍宮さんの私物には物騒な物が大量にあるはずですが細かいことは気にしてはいけません。

「(相坂さんは物知りなんですね!)」

まあインターネットに介入して昨日の夜便利なサイトの情報を覚えてきただけなんですけど……。

「何長くネギに説明してるんや、さよ姉ちゃん!不公平だから俺にも教えてーな!」

「はいはい、バイアスロンの説明をしただけですよ。小太郎君に言う必要があるのは、ライフル射撃は本来スキーで走り込んでから行うから、心拍、呼吸が乱れた中でも精密射撃がうまくできるように、という事ですかね」

「俺はちょっとやそっとの運動ぐらいじゃ息が切れたりはせんから大丈夫やな!」

……賑やかに会話をしているうちに目的地に到着です。

「龍宮さーん、来ましたよ!今日はよろしくお願いします」

「相坂か、話は聞いていたから準備はできているぞ。コタロー君も一緒か、なるほど……はは、ライバルという訳だな。で、そっちの少年がそのネギ・スプリングフィールド君かな」

昨日の晩、予め龍宮さんの部屋にお邪魔してお願いしておいたんです。
報酬として超包子の肉まんの無料券と餡蜜をご馳走するということになりましたが、相変わらず裏で報酬を貰っている割には金銭にはシビアな人です。

「よっ、たつみー姉ちゃん。今日は俺も参加させてもらうで!」

「言うのを忘れていましたがネギ先生はまだ英語しか話せません。(ネギ先生このお姉さんが私と同じクラスの龍宮真名さんでバイアスロン部でもトップの腕前を持っているんですよ)」

「(初めましてネギ・スプリングフィールドです。2学期からこの麻帆良学園に英語の教師として赴任することになりました。よろしくお願いします龍宮さん!)」

「(おや、年の割には落ち着いてて礼儀正しいな。私が紹介に預かった龍宮真名だ。よろしく)」

「(龍宮さんも英語話せるんですね!日本って凄いなー)」

そうでした、龍宮さんも英語話せるんですね。
まあ確かに実際日本人には見えませんし、四音階の組み鈴に属していたのですから当然ですか。
それに神社の巫女さんをやっていますがはっきり言ってイロモノ過ぎますよね……。
褐色系、凄腕スナイパー、魔眼、巫女さん……。
あ、なんかマズイ殺気が。

「相坂……今変な事思わなかったか?」

「いえ!今日の餡蜜はどこがいいかなーと思っただけですよ!あ、映画のチケットもあるんで良かったら貰って下さい!」

「焦り過ぎだろう。落ち着け。映画のチケットは貰っておこう」

「は、はい。では早速二人にバイアスロン部を体験させて上げてください、お願いします」

「分かった。コタロー君付いて来い。(ネギ先生も付いてきてくれ)」

「負けんでネギ!」

「(コタロー君、頑張ろう!)」

宣戦布告なんですが、微妙にかみ合ってません……けど、まあいいですよね。
……あれ、右手に出した映画のチケット本当に無くなってます!
こ……これはまた完全透明状態で侵入するしかありません。

それからの射撃訓練でしたが小太郎君も力はあるので射撃をした時の反動で銃身がブレる事が殆どありません。
ネギ先生も魔分で身体強化しているので似たようなものですが、端からみると10歳ぐらいの子どもの身長で長いライフルを普通に構えて撃ってるあたり異常ですね……。
周りの部活の人達は大した坊主だな、流石龍宮が見込んだだけはある等と麻帆良らしい反応で済ませてます。
……結局2人は完全にハマってしまい、長時間続けることになりましたが随分上達しました。
私も龍宮さんの動きを真似て結構上達したんですが……これは神木の補助で実現している訳で……一方でこの2人はどういう事なのでしょうか……。

「相坂、コタロー君がこういったものに強いのは知っているんだが、ネギ先生のこの上達の速さは何だ?」

「ネギ先生は何と言うか……天才で、古さんが言うには覚えるのに1ヶ月はかかる技を数時間でものにしてしまうらしいです。昨日私も合気柔術を教えたんですが面白いぐらいに吸収が早くて早くて」

「あの古までそう言うのか。少し落ち着きのある子供ぐらいかと思っていたらとんでもないな。確かに鍛え甲斐があるとは思うが」

「昨日いいんちょさんなんてそのせいもあって、ずっと付きっきりでしたよ」

「……ゆ、雪広に会わせて大丈夫だったのか?」

委員長なのにこの辺りの信用が殆ど無いですね……。

「少し……怪しかったですけど大丈夫でした。エヴァンジェリンさんもいましたし」

「ああ……少し話についていけんな。それで明日は刹那の剣道部にも連れて行く気なのか?」

遠い目してますね。

「その予定ですけど、桜咲さんは最近機嫌悪いからどうかなーって少し心配です」

「それなら一つ良い事を教えておこう。明日もコタロー君を連れて行くと良い。それに私からも刹那に伝えておくよ」

「龍宮さん、ありがとうございます」

「しかし……不自然に連れ回しているようだが誰かの差金なのか?」

「それは……秘密です。それに教師にもなりますから予めこの夏生徒と知り合っていた方が9歳の先生にとっては良いでしょう?」

「まあ、大体分かるが……そういう事にしておこう」

龍宮さんは楽しげな笑みを浮かべていました。
夕方部活が終わるまで続き、その後餡蜜を皆で食べに行ったのですが、龍宮さんと小太郎君は自重して下さい。
ご馳走するとは言いましたが何杯も頼むのはおかしいでしょう!
龍宮さん!
一番高いの頼むのもうやめて!
小太郎君も俺の方が沢山食べるとか言って同じの頼むのやめて下さい!
それに引き換えネギ先生の大人しいこと大人しいこと、これは……いいんちょさんが溺愛したくなる気持ちもわかります。
……い、一時的ですが財布の中身が空になりましたよ……。
超包子で働いていなければ大変でした……。
いえ、龍宮さんは私が稼いでいることを知っていてこんな事をしたに違いないです。
今度映画の内容で嘘教えましょうか……。

……この日、帰り際に小太郎君に明日は桜咲さんの剣道部に行くから付いてきませんか?と言ったらネギが行くなら俺も行くと凄い単純に釣れました。
子供の扱いはこういう時楽です。
そしてその後桜咲さんに、お願いしておいたんですが、相変わらずピリピリしてました……。
多分精霊体で部屋に入ったら斬られてたんじゃないでしょうか。
小太郎君も一緒に行くという話をしたら一瞬目が大きくなりましたがやはり何かあるらしいですね。
結果、無事了承を得られたので良かったです。

「(おはようございますネギ先生)」

「相坂さん、おはようございます!今日もよろしくお願いします!」

あれ……日本語の発音完璧……。

「(ネギ先生日本語話せるようになったんですか?)」

「(この3日で挨拶はきちんとできるようにこのかさんとアスナさんに教わったんです!)」

確かに、自己紹介ができるようになるのは重要ですね。
だからと言って一切違和感のない日本語が話せる理由にはならないと思いますが……。

「(それは良い事ですね。早速小太郎君を連れて行きましょう。はい、今日も肉まんどうぞ)」

「(今日はコタロー君にもちゃんと挨拶します!肉まんありがとうございます。本当に美味しいです)」

食べ歩きは行儀が悪い気がしますがまあいいでしょう。
小太郎君とは女子校エリアの前で待ち合わせになってます。

「小太郎君おはようございます」

「さよ姉ちゃん、おはよう!今日は刹那姉ちゃんの所やろ!ネギ!昨日は射撃で最後負けたけど今日はそうはいかんで!」

そうです、昨日最後厳密に勝負したらネギ先生の勝ちでした。
スーパー小学生、いえ子供先生ですか。

「こ、コタロー君おはよう!今日も僕負けないよ!」

言いたい事から覚えてきたという訳ですか。
ちゃんと言えて凄く嬉しそうですね。

「おうネギ!日本語もうそんな話せるようになったんか。先生するだけあってほんまに頭良いんやな」

「まだ少ししか話せないけど頑張ってすぐ話せるようになるよ!」

お互い同じぐらいの身長なので、こうして見ると完全に子供同士の会話……いや、実際その通りなんですけど。

「それでは早速剣道部に行きましょう」

桜咲さんが夜に振るう刀は太刀なので剣道の竹刀とは長さが異なりますが、あまり得物には拘らないらしいですね。

「桜咲さん!おはようございます。今日はよろしくお願いします」

「相坂さん、おはようございます。小太郎君もおはよう。そちらが話に聞いたネギ先生ですか」

桜咲さんは龍宮さんと一緒に話すときは仕事人モードな口調なんですが、普段話しかけると丁寧な口調になるんですよね。
まあ口数は物凄く少ないですが。
それにしても小太郎君を見る目がなんだか優しいですね。
龍宮さんが言っていたのはこの事だったんでしょう。

「刹那姉ちゃんおはよう!今日はよろしく頼むで!」

「初めまして、ネギ・スプリングフィールドです。2学期から英語の教師として赴任することになりました。今日はよろしくお願いします」

「初めまして、桜咲刹那です。英語しか話せないと聞いていたんですが話せるようになったんですか?」

「基本的な挨拶だけはこの3日で覚えました」

「……そうなんですか。とても流暢な日本語なので驚きました。……それでは早速剣道着の着用から始めましょう」

やはり剣道ならでは、道場は独特の匂いがしますね。
私はやっぱり……合気柔術の方が好きですね。
この剣道のビシッっていう竹刀の音が耳に聞こえる度身体のどこかが痛い気がします。
……稽古が始まったんですが、ネギ先生は1日目の中国拳法、2日目の合気柔術、3日目の射撃訓練の相乗効果により呼吸と精神が凄く落ち着いてるみたいで、見た目に見える体格よりも大きな存在感を放っているように思えます。
面を着けているので表情はよくわかりませんが、桜咲さんも多分驚いていると思います。
2人の足さばきの上達が早すぎる上、面、小手、胴の動きも綺麗な物です……。
既に今年入部した中学1年生を遥かに越える状態で剣道部の先生も驚いてますね。
最初は小学生に少し体験させようぐらいに思ってたんだと思いますが……。
なんでも一度やらせてみれば……の筈が、どう考えても一度やった程度のレベルアップではありません。
桜咲さんの指導もなんだか熱が入り始めてあっと言う間に時間が過ぎていきました。

「桜咲さん、お疲れ様です。さっき超包子で肉まん買ってきたのでどうぞ。小太郎君とネギ先生もお腹すいたと思うので食べてください」

「ありがとうございます、相坂さん」

「何度食べても美味いな、この肉まん!」

「うん、4日間毎日食べさせてもらってるけど美味しいね」

まあこの暑い夏に肉まんはどうなのという気もしますが、美味しいならいいですよね。
因みにこの4日間、サービス期間です。

「小太郎君もネギ先生もこんなに上達するとは思いませんでした。相坂さん、2人は昨日もこんな風だったんですか」

「龍宮さんも昨日同じこと聞いてきましたよ。ちょっと信じられない上達速度ですよね」

「……帰ったら龍宮に聞いてみます」

……その帰り道でしたが小太郎君に一つ聞いておきました。

「小太郎君は携帯電話持ってますか?」

「持っとるで」

「私にアドレスと電話番号教えてください。ネギ先生の携帯電話が今日には用意できるらしいので連絡取り合えた方が良いでしょう」

実は鈴音さんが完全自主制作の廃スペックな携帯をロボット開発の合間に作り出したと連絡があったのです。
意外とやさしいですよね。
というかこう言うのは学園側が用意するのではと思いますがどうなんでしょう。
この3日の間に私が知らないところで話が進んだのでしょうか。

「おお、ネギも携帯電話持つのか!なら教えたるわ」

「(相坂さん、一体どうしたんですか)」

「(ネギ先生の携帯電話が今日にはできるので小太郎君の携帯のアドレスと電話番号を教えてもらっているんですよ。ネギ先生もその方が良いでしょう)」

「(本当ですか!お世話になりっぱなしでなんだかすいません。ありがとうございます!)」

……この後途中で小太郎君と別れて、桜咲さんとネギ先生と一緒に寮まで帰りました。

「桜咲さんは小太郎君を見るとき優しそうですけど、あ……これは聞かない方が良いですか?」

「いえ……ただ少し羨ましいなと思っています」

「細かいことは聞かないでおきますね。元気だしてください、桜咲さん」

「(どうかしたんですか?)」

ネギ先生が不思議そうな顔でこちらを見てきました。

「(何でもありませんよ。大丈夫です)」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ふむ、ロボット開発の合間に、学園長に少し連絡してネギ坊主の携帯電話作てやたネ。
契約の処理はあちらに任せたが、午前中に作って午後にはもう手続きは済んだようだナ。
高畑先生に微妙な顔で見られたが、多分怪しんでいるのだろう。

《超鈴音、一昨日の朝は厳しかったのになんだかんだネギ少年に優しいですね。サヨ達はもう帰ってきますよ》

《ご先祖様だからネ。敬うのは当然だヨ》

《そういう事にしておきましょうか》

翆坊主の言た通りすぐ帰て来たネ。

「さよ、せつなサン、ネギ坊主お帰りだネ。(それでこれがネギ坊主の携帯だ。既製品の性能を遥かに凌駕した操作性と機能を備えているから存分に使うといいヨ。既に何人かアドレス帳に登録されているから確認するといいネ)」

「(超さん、ありがとうございます。相坂さん、アスナさん、古菲さん、学園長先生、このかさん、タカミチ、龍宮さん、超さん、エヴァンジェリンさん、あやかさん、昨日までにあった人が殆ど入ってますね!)」

「(これで小太郎君を入れれば後は桜咲さんだけですね)桜咲さんもネギ先生の携帯に登録してもらってはいかがですか。この夏時間があればまた剣術をするのも良いと思いますよ」

「え……はい、そういう事ならお教えします」

「(桜咲さんも教えてくれるんですか。ありがとうございます!)」

「(ネギ坊主、この4日間で私達が紹介できる運動はこれで大体終りネ。後は好きなものに取り組むといいヨ。そこに登録されている人達は皆歓迎するらしいから遠慮せずに連絡するといい。もちろん小太郎君に違う所に連れて行てもらうのも良いだろうナ)」

「(皆さんいつでも都合が合うということはないかもしれませんが、気にせず連絡してくださいね。夏が終わったらいよいよ先生になるんですから、それまで麻帆良をじっくり見るのもいいかもしれませんよ)」

「(はい!超さん、相坂さん、桜咲さん、ありがとうございます)」

……これで大体一段落だネ。



[21907] 15話 夏の終わり
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 18:55
4日目にして言語の壁を突破し始めたネギ少年だったが完璧に話せるようになったのは8月の末になった。
予想通り朝倉和美がネギ少年に気づき突撃、その騒ぎで他の寮室の2-A達にも伝染するも、まだ言葉があまり通じていなかったため雪広あやかが仕切るという結果に終わった。
その後朝倉和美がネタを求める為英会話に熱を入れるようになったが先にネギ少年の日本語マスターの方が早かった。
無駄な努力とは言わないが天才少年には勝てないようだ。
神楽坂明日菜は夏休みの宿題をまさかのネギ少年に「先生になるんだからそれぐらいわかるんでしょ!服吹き飛ばしたんだから手伝いなさいよ!」と言葉が通じるようになったのを良いことに強引に手伝わせるという暴挙に出たが、冷静になって流石に恥ずかしくなったのかその後英語だけは真面目に勉強するようになったそうな。

……夏の彼の生活であったが、小太郎君に早速電話してやはり忍ばない忍者とさんぽ部に参加しだし、見た目小学生が4人に増えた。
そして夕日に照らされながら木に並ぶのも3人に増えた。
また、逆に小太郎君の強引な勧めにより忍者と山で修行する事になり、その結果その日帰ってこなかった為に寮で騒ぎになり、雪広あやかが失神しかけたが、サヨが呪術協会支部、もとい日本文化振興施設に電話し、山に行ったんだろうという情報を得て事なきを得た。
2人が寮に戻ってきたとき小太郎君と雪広あやかの喧嘩のようなものが発生したのは……最早言うまでもない。
忍者の方は流石に忍びらしく一足先に何食わぬ顔で寮に戻りネギ少年を出迎えていた。
まともに忍んだように思う。

呪術協会所属の犬上小太郎君とサウザンドマスターの息子であるネギ少年が仲良くする事自体に裏でどういう動きがあったかと言えば、若い世代同士東と西の垣根を越えるのにもってこいだろうという事で知る人達は微笑ましく静観するという態度を決め込んでいる。
ただ小太郎君が狗族と人間のハーフであり、元々厄介払いのつもりでこちらに連れてきたという意図も呪術協会としては無いでは無いので微妙な部分もあるだろう。

……それ以外は今までに回った運動を周回しつつ、違う2-A生徒に遭遇する度にラクロス部やらバスケ部などなど色々体験したようだ。
一つ、それはどうか、というような女子中等部の新体操までやったが佐々木まき絵のリボン技能はネギ少年でも習得できなかったのは最大の謎だった。
木乃香お嬢さんも言葉が通じる事を良いことに、自慢げに図書館探険部に連れて行き、その仲間達と共に地下3階まで潜るという冒険を達成した。
ネギ少年はあの広大な図書館島に驚きの連続であったが、あまりにも他の面々が普通の様なので深く突っ込むことはできなかったようだ。

……一方でエヴァンジェリンお嬢さんの高速思考習得のついでに、夏休み中、魔分通信を頻繁に行なっていた。

《エヴァンジェリンお嬢さん、合気柔術を教えるだけでも楽しそうですけど魔法はどうするのですか?》

《あのぼーやはまだ身体ができていないからな、今のところは普通に運動するだけでも良いだろう》

《そういう割に日常的に魔法で身体能力を強化してますよね……彼は》

《それは私が魔法を教える時に言うしか無いだろうな》

……と、どういう切り口で魔法を教える時機を得るのか、良く分からないが教えるつもりらしい。
また、別の日に確認がてら、聞いた。

《闇の魔法をこの100年の間に誰かに教えた事はあるのですか?》

《ああ、あれは私が忌々しいことに真祖の吸血鬼になってから生きていく為に10年程度の歳月をかけて完成させた技法だからな。はっきり言ってあれは使い勝手が悪い。だから誰にも教えていないが……どうかしたのか?》

……なるほど。
お嬢さんが、10年程度と言うことはそこまで……でも無いのだろう。
確かに500年近く真祖の吸血鬼でありながら始めの10年に習得した技というのはそのようなものなのかもしれない。

《いえ……特には。ところで、何か必殺技のようなものはあるのですか?》

《そんな事をしなくても私は強いからな、必殺技など必要ない。大体絶対に勝たなければいけないという場合に出くわした事がないし……あったとしてもここ最近は転移して終わりだった》

非常に合理的である。

《お嬢さんの考え方には私も賛同です。ただ……ネギ少年は男の子というものですので、例えば、負けられない戦いがあり、尚且つその相手が強敵だった場合はどうされるのですか?》

《フフ……茶々円、ここ最近既に私はどれぐらい別荘に入っていたと思う?》

……この半年で……なるほど、少なくとも1年は入っている。

《ここ半年で1年は超えていますね。タカミチ君ではないですが、私はお嬢さんならダイオラマ魔法球をどれだけ使おうと気にしません》

24倍魔法球といえば、休日に15回丸々入るだけで1年。
タカミチ君も長期休業に入ったせいで年も取った。

《ここ最近に限った話ではないが……ここ100年を含め研究はしていたからな。この前私が一部精霊化していたのが分かる前から、それが何かは分からなかったが、ある違和感について思うところはあった。それがこの前超鈴音から聞いた魔分の概念ではっきりした》

《魔力……ではなく魔分という粒子に基づいて、という事ですか?》

《……そういう事だ。特に、あの超鈴音がアーティファクトでやってみせた障壁は良い。私も試してみればできるようにすぐなった。しかもだ、じじぃの所に行ってぼーやの成績表を拝借して見てみれば基本魔法の扱いに関しては特に天才だそうじゃないか》

話す必要もなく、分かっていてくれるというのならば、問題はなさそうだ。
しかし、流石は過ごした年数分の経験がある。

《ええ、そのようですね……。時に、大体意図は分かりましたし、特に口出しもしませんが……魔分の概念については口外しないで下さい。また、お嬢さんが一部精霊である事も……》

《分かっている。誰も気づいていない概念だからな。お前たちにとっては都合が悪いのだろう。ぼーやに教えるとするなら……そうだな、浮遊術にでも似ているとでも言えばいいのだろう?私が精霊であることも言わんさ。その必要もないしな》

《それならば、構わないのですが》

《……まあまず、私や超鈴音のような精霊の力を直接借りずに、ぼーやにできるか、という問題がある。それ以前に魔法を使った戦闘訓練もまだ基本すら確立していない》

《そうですね。……お嬢さんに任せれば全ては上手くいきそうですから、安心しました》

《じじぃに目にもの見せてやらんとな。……まあ、断罪の剣ぐらいは一発喰らわせてやりたい》

断罪の剣。
強制的に気体に変化させる基本性能に加え、それを回避しても融解熱と気化熱の吸収で強烈な低温状態に相手を晒す2段構えの代物。
だが……魔分を使った場合、そういうのとはまた違ったものになる可能性が高い。

《その断罪の剣ですが、どうされるのですか?》

《属性の話か?私は今まで氷と火の複合でやっていたが……魔分でやればまた別だと言いたいんだろう?》

《お察しの通りです》

《気にするな。両方でやれば良い。複数の属性を調整するのもいい修行になるさ》

《……そういう考えであれば何ら問題はありませんね》

……こうしてお嬢さんと内容のある会話もしつつ、お嬢さん自身の能力を開花させる事も行っていた。
……そして、次に図書館島。

《クウネル殿、近衛門殿にエヴァンジェリンお嬢さんの映像を送らせたようですね》

「おや、お知りになりましたか。そうですよ。効果の程はどうでしたか?」

《非常に良かったと。ネギ少年とお嬢さんの初接触が思いの外うまく行きました。その時の記録……収集しますか?》

「なるほど、ご褒美ですか。頂きましょう」

《それとお嬢さんがナギ少年の生存について聞きに来ませんでしたか?》

「……来ましたね。強引に見せろと言ってくるものですからからかうのが楽しかったですよ。……おや、この顔はとても良いですね。感謝しますよ」

相変わらずからかっているのは変わらない。

《それはどうも。……来年の麻帆良祭が楽しみですね》

「ええ、機会としても最高の場所でやっと約束を叶えられますからね」

《しかも……既に呪術協会の方もいますから、なかなか面白くなるかもしれませんね》

「そんなにトーナメント組めるのですか?」

《超鈴音次第ですが。裏関係者のみでやるならば3日間やっても良いかもしれませんし》

「フフ、主催者側というのは便利ですね」

《その代わりそれだけやることがあり、大変でもありますが》

「でも……キノ殿はそんな超さんを見るのが楽しみなのでは?」

否定はしない。

《クウネル殿にとってのお嬢さんには負けますよ》

「そこは勝ちを宣言しておきましょう」

こういったやりとりも司書殿ならでは。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「千雨サン調子はどうかナ?」

「お前の渡してきた端末だがなんだよこれ、どうして市販の一番良い製品を軽く超えてんだ?」

「お褒めに預かり光栄だネ。それは私が開発したヨ!」

「本当に火星人だったりすんのか……?」

「オオ!千雨サン良く分かたネ!」

「冗談はやめろよ……。あぁもう……本題に入るがプログラムは完成した」

「ふむ、確認するヨ。肉まん食べるといいネ」

「この肉まんもだが、なんで1個100円なのにこんなに美味いんだよ……。しかもインターネット販売始めて明らかに他所の営業妨害になるだろ」

投げやりに受け取りながらも普通に食べてくれるネ。
ため息多いナ。

「それは私と五月の肉まんに対する愛の結晶が為せる技ネ。営業妨害については他人のサイトをハッキングで攻撃してるちうサンに言われたくないぴょん」

「超!お前!いい加減にしろよ!」

跳びかかって来たネ。
普段学校では人付き合いが悪いイメージだたが話してみるとからかい甲斐がある。
気がつけば呼び方も長谷川さんから千雨さんに自然になてたヨ。

「千雨サンの運動不足の身体で私に一発入れるなんて甘いネ。当たらなければどうということはないヨ」

全部避けてやたネ。

「はぁ……はぁ……無駄に疲れる……。いつも学校で古達と馬鹿な事やってる癖に底の知れない奴だな……」

「私の秘密はこの世界にも匹敵する機密事項ネ。人間の尺度で図ろうなどというのが間違いだヨ」

「調子に乗りすぎだろ……」

「ハハハ、そこは否定しないヨ。おお、流石だナ、こんなプログラム到底普通の中学生の物とは思えない出来だネ!ハカセも驚くヨ!」

「お前にだけは言われたくねぇよ……。大体何なんだよそのハカセが弄ってるあのロボは。どうして授業に出てても誰も不思議に思わないんだよ」

実際、千雨サンの作たものは、一般の水準を遥かに凌駕しているネ。
おやおや、随分溜まているネ。

「茶々丸はガイノイドだヨ。不思議に思わない理由は、千雨サンが不思議に思う方が此処ではおかしいだけだから安心するといいネ。イライラが溜まるなら休日に部屋にいないで麻帆良の外に出てみるといいネ」

「説明になってねーよ。で、それは何か、私が不思議に思わないのが不思議だと言いたいのか?」

「……そういう事だネ。ここはある意味夢の楽園のような場所で生活するには便利だと思わないカ?」

「それはそうだろうけど……。っていうかさっきの発言だと超は不思議だと思っても仕方ないと思ってんのか」

「私にとてはまだまだ不思議でも何でもないけどネ。行き過ぎた科学は魔法のような物だという事かナ」

「言ってる事はわかるがわかりたくねぇな……」

「割り切るしかないネ。仕事の方は助かたヨ。報酬は千雨サンの銀行に振りこんでおいたから確認するといいネ」

「もう報酬払ってあんのか……って何で私の銀行口座知ってんだ!」

「フフ、麻帆良最強頭脳である私に不可能なことはあまりないネ。ではまた会おう」

……私が何を言ても最後に判断するのは自分自身だからナ。
さて、田中サンことT-ANK-αシリーズはα2まで進化が進んだ。
まだ微調整が必要だがこの分なら9月には完成形がロールアウトできる。
それとまほら武道会の開催は確実だが……その前に、ネギ坊主と小太郎君がウルティマホラに出ると当面の目標としては面白いから勧めてみるカ。
明らかに年齢制限に引かかてるがなんとかするネ。

……超包子の肉まんはお料理研究会の他の店でも置いてもらう事が決定したから麻帆良内で製造設備をフル稼働した生産量を無駄なく届ける事ができるようになたネ。
ロゴの方は社員さん達からの賛成を貰たから商標登録した後袋や箱に印刷を加えて浸透を図るネ。
また新店舗の計画だたが世界に広めるという事を見据えて日本の空港に店を出す方向で話が進んでいて出店は冬前にはできるヨ。
海外に出すにはまずその国の特徴を抑えないと失敗する可能性があるからその市場調査も行う必要があるナ。
宗教的にあまり気にならない国ならすぐにでも出せるとは思うが、技術漏洩の恐れがあるから治安も考えないとだめだネ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

8月29日僕もあと少しでとうとう英語の教師になる日も近くなった時あのエヴァンジェリンさんから電話が来た。

「ぼーや、今日は暇か?」

2学期の為に準備する時間は充分あったし……大丈夫。

「はい!今日は空いてます」

「そうか。なら私の家に来ると良い。茶々丸が迎えに行くから寮で待っていろ」

「あ、エヴァンジェリンさんは茶々丸さんと住んでいるんですよね。分かりました」

「それではまた後でな」

「はい、また後でよろしくお願いします」

エヴァンジェリンさんの家って何処にあるんだろう。
麻帆良女子中等部の皆さんは全寮制だからここにいないということは家の事情でもあるのかな。
茶々丸さんと一緒に住んでるらしいけど、クラスの名簿でまだ見ただけなんだよな……。

「ネギ、エヴァンジェリンさんから電話?」

「はい、家に招待してくれるらしいです。茶々丸さんが迎えに来てくれるのでそれまでここにいますよ」

「ネギ君エヴァンジェリンさんから気に入られたんやねー」

「エヴァンジェリンさんが招待するなんて珍しい事もあるのね」

「えっそうなんですか?」

「エヴァンジェリンさんは大学院を卒業してるんやけど、何故かうちらと同じ中等部にいるんよ。そやからあんまりうちらとは仲良うないんよ」

なんで大学院まで出てるのに中学生やってるんだろう……。

「でもこの前の学園祭の時は凄く一生懸命着付けを指導してくれて良い人だったわ」

「あの時は厳しかったけどお陰でしっかり着れるようになったんやわ。あの時着た着物良かったなぁ」

「私達のお金じゃちょっと買えない物だったよね」

やっぱり2人も同じようなイメージなのか。
……そこへ、部屋に訪れた人が。

『おはようございます』

「あ、相坂さんかな」

アスナさんが玄関に出て扉を開けた。
……入ってきたのはやっぱり相坂さん。

「朝から失礼します、ネギ先生、茶々丸さんが寮の前に待ってますよ。それでこの手紙を読んで来て欲しいそうです。また読んだら手紙は返して下さいと言ってました」

手紙……?

「もう迎えに来たんか。アスナみたいに足はやいんやね」

アスナさんの足の速さは新聞配達に一度付き合ったけど魔力で身体強化してるのと同じぐらいだったから麻帆良って凄い人ばかりみたい。
箒で空を飛んだりしたら駄目と学園長先生に言われているからこの1月近くは身体強化以外にほとんど使ってないや。
あ、でも使う暇がないぐらい忙しかったのもあるかな……。
日本語の習得にはアスナさん達に隠れて基本魔法を使ったけど2学期に間に合わないよりはいいよね。

「秘密の手紙なんて怪しいわね」

「駄目ですよ、神楽坂さん。女性のプライバジーは守らないといけません。エヴァンジェリンさんは私達よりも年上なんですし。はい、これをどうぞ」

「ちょっと言ってみただけだって」

相坂さんからその手紙を受け取った。

「ありがとうございます」

ん……何故か魔力の痕跡があるな……。
開けてみて……。
……えっ、サウザンドマスターの事が知りたければ杖を持って来いってあるけど……。

「あ……相坂さん、エヴァンジェリンさんはどんな人だと思いますか?」

「ネギ先生、焦らなくても大丈夫です。手紙の通りにすればきっと大丈夫です」

相坂さんは嘘を言うような人じゃないし、それどころか凄く優しい顔をしているし……よし、行ってみよう。

「ちょっとネギ君様子おかしいけど大丈夫なん?」

「手紙を貰ったくらいで動揺してはいけませんよ。この夏でネギ先生は身も心も成長したじゃないですか」

このかさんに心配されちゃった……。

「は、はい!このかさん、僕は大丈夫です」

そうだ、この夏コタロー君と一緒に頑張ったんだ。
そのお陰で、1人でちゃんと寝れるようになったし、前より身体も強くなった。

「それではまた会いましょう、ネギ先生」

……そのまま相坂さんは出て行った。

「相坂さんも英語が話せたのもあるけどこんなにネギの面倒を見るとは思わなかったわ……」

「そやなぁ、いつも超包子で肉まん売ったり違う時は学校が終わったらすぐに寮に篭ったりしてたもんなぁ」

「体調が悪いのかと思えば去年はウルティマホラで凄いところまで行ったし少しよく分からないわよね」

聞いてると相坂さんも良くわからない人だな……。

「そのウルティマホラって何ですか?」

「ウルティマホラ言うんは10月にある格闘大会の事や。去年うちのクラスでは超さん、くーちゃん、相坂さんが出たんよ。くーちゃんは去年2位やったんやけど、今年は1位になるだろうって皆言っとるよ」

そうなんだぁ。

「面白そうですね!でもくーふぇさんより強い人なんているんですね。コタロー君もまだ勝てないのに」

「その人は去年で麻帆良から出て就職していったんよ」

……やっぱり麻帆良って凄いな。

「そうだったんですか」

話しながら父さんの杖を持って……。

「ってネギその長いだけの杖持ってくの?」

「えっ駄目ですか?」

「べ、別に駄目じゃないわよ。気をつけてね」

「では行ってきますね、アスナさん、このかさん」

2人とも手を振って見送ってくれた。
寮を出てみたら、茶々丸さんがいて、言われたとおり手紙を渡した。
そうしたら「マスターの家に参りましょう」と言われたけどマスターってエヴァンジェリンさんの事なのかな。

「茶々丸さん、エヴァンジェリンさんって……魔法使いなんですか?」

「私からは申し上げられませんが道端でその言葉はよく有りませんよ、ネギ先生」

あ、そうだった……。

「す、すいません」

……周りに人がいなくて良かった。
林道を歩いていたら……。

「着きましたよ。このログハウスがマスターの家です」

「ここがエヴァンジェリンさんの家……」

そのまま茶々丸さんに招かれるように玄関の中に入って……。

「マスター、ネギ先生をお連れしました」

「茶々丸、ご苦労だったな。我が家へようこそ、ぼーや」

席に座ってエヴァンジェリンさんが落ち着いている。

「おはようございます、エヴァンジェリンさん。お邪魔します」

「……日本語が上手くなったようだな、それにすぐに質問してこないで落ち着いているのも良い。……では本題に入るか。手紙にはサウザンドマスターの事を知りたければと書いたから約束通り話そう。話せることにも限りがあるが聞きたい事を言ってみると良い。まあ、まずは座れ」

き、来た……。
言われたとおり席について……。

「し、失礼します。……と、父さんとはいつ出会ったんですか?」

「……もう15年以上前になる。私が崖から落ちたときに助けられた」

助けられたんだ……。

「父さんはやっぱり良い魔法使いなんですね」

「……それは一概には言えないな。確かに助けてくれたがその後私をこの麻帆良に封印する呪いをかけた」

えっ!?

「えっ、父さんがそんな事する筈がありません!」

「落ち着け。ぼーやはサウザンドマスターを詳しくは知らないのだろう。奴がそうした理由は私が闇の福音だというのもあるが……突然学校に通ってみろと言い出してな。いきなり罠に嵌められてこの地にいる」

「闇の福音……って何ですか?」

どこが闇なんだろう……全然そうは見えないし……。

「ハハハ、そうか、ぼーやは何も知らないんだな。私は14年前までは600万ドルの賞金首だったんだよ」

し、信じられない……。

「え……えっと、じゃあ……エヴァンジェリンさんは悪い人……なんですか?」

「悪いというのも色々あると思うが、人を殺したことがあるかという事か。それなら私はあるよ。それも随分沢山な……」

悲しそうな目をしてる……。

「殺したくなかったのに殺したように聞こえるんですが……」

「はは。ぼーや、短い間に成長したようだな。初めて見た時はただの子供かと思ったが、元賞金首だと言ったら、正直怖がって逃げ出すかと思ったぞ」

怖くないって言ったら嘘だけど……僕には全然エヴァンジェリンさんの言っている事が信じられないし……それに……。

「……エヴァンジェリンさんに初めて会って合気柔術を教えて貰って、厳しいけど優しい人だなって思ったんです」

僕の目にはそうとしか見えない。

「私が優しい……か」

「アスナさんやこのかさんもエヴァンジェリンさんは良い人だって言ってましたよ」

「フッ……この地にいる間に随分丸くなってしまったものだ。これも最近言ったばかりだが。……さっきの質問だがぼーやの言ってる事は合っている。ただ1人目だけは自分の意思で殺したがな」

遠い目をしてるな……。

「そ、その1人目の人はエヴァンジェリンさんに酷い事をしたんですか?」

「……こんな事をぼーやに話すのはどうかと思うが……まあいいだろう。昔話と思って聞くと良い。600年ほど前その一人目の男は私を真祖の吸血鬼にする呪いをかけたんだよ。その時私は10歳だった。後は吸血鬼という理由だけで追われる日々という訳だ」

10歳……殆ど僕と変わらない……。

「そんな……どうしてそんな酷いことを……」

「さあ、ただ単に開発した魔法を試したかっただけなのだろう」

「それだけの理由で、ですか……。そ……それで今も吸血鬼なんですか?全くそういう感じがしないですけど」

「ああ、今は違うものになった。それは……そうだな、ぼーやの色違いみたいな幽霊……にやって貰ったんだがな。そのお陰で昔はその呪いでイライラする事も多かったが今は気分がかなり落ち着いている」

幽霊ってなんだろう?

「違う物ってなんですか?」

「それは教えられない。ぼーやが頑張ればもしかしたらその幽霊が会いに来るかもしれんが」

「頑張るって……。その幽霊ってどんな幽霊なんですか?」

「どんな、と言われれば言い難いな。言ってみれば、私の数倍長生きだが、普段はずっと引き篭っているような奴だ」

600年の数倍……?

「変わった……幽霊なんですね。そんなに長生きなのに成仏しないのも変です……」

「ハハハ、まあそうだろうな。……それで頑張るというのはぼーやが強くなりたいか、という事だよ」

「ぼ、僕はサウザンドマスターのような魔法使いになりたいんです!」

「ぼーやが目指すのはサウザンドマスターなのか?……それを越えてみたいとは思わないのか?」

「僕が父さんを越える……。それは越えられるなら越えたいですけど、まだくーふぇさんや小太郎君にも勝てないので……」

どこまで行っても背中しかまだ見えない感じしかしない……。

「ハハハハ、とんだ欲張りだな。まだ1ヶ月もしていないのに勝とうと思っているのか。あいつらがどれだけ今まで鍛錬を積んでいると思っているんだ」

そ……そっか。

「そ、そうですね……。くーふぇさん達に失礼な事を言ってしましました」

「ぼーやは……今が見えていない。もうすぐ学校が始まるが、秋にはウルティマホラもある。ぼーやも出てみればいいじゃないか。丁度ライバルもいるんだろう?」

今……か。

「は、はい!そうですね、頑張ります!」

「……それはそうとして、私はぼーやに魔法を教えるつもりがあるが、それを受けてみる気はあるか?」

え!?

「ほ、本当ですか!や、やります!魔法を、教えてください!」

「良い反応だ。……その為に杖を持ってこさせたんだがな。私の指導は厳しいぞ、それでもいいんだな?」

厳しいなら厳しいできっと……強くなれる。

「はい!厳しくても必ずやり遂げてみせます!」

「その言葉を忘れるなよ。……なら条件がある、まず弟子入りするなら私の事はマスターと呼べ。次にウルティマホラの為の鍛錬では魔力で身体強化をするのは禁止だ。地力でなんとかしろ。ずっとそれに頼っているとちゃんと身体が強くならない」

身体強化の禁止……。

「はい、分かりました!マスター!」

「それでは今から修行場に連れていってやる。杖を持って付いて来い」

「はい!」

そのままエヴァンジェリンさん……マスターの後についていった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

丸くなっただけはあるのか……エヴァンジェリンお嬢さんが優しい。
あれだけ過去についても話すとは思わなかったが……一時の気の迷いかもしれないし、そうでなくても、知られたとしても、どうということもないという事か。

《サヨ、手紙を配達した後の木乃香お嬢さん達の会話ですが……面倒見がいいとは意外で、しかも普段は超包子か引きこもってるかの印象が強いそうですね》

これだけ個人を見続けるというのも珍しいが、つい。

《あーもううるさいですよ》

《気にすることないネ。人に対する印象なんて一人一人違うのだからナ。ところで翆坊主、最近火星の様子を聞いていないが調子はどうなんだ。海はできたカ?》

丁度4月から5ヶ月近く経っている。

《酸素の組成は順調に増加し10%を記録しました。平均気温も上昇してようやく0度付近を上がり下がりしていますので場所によっては地下水も視えています。魔分有機結晶粒子の散布状況も良好ですが、マントル対流がまだ完璧に稼働していないので正確な地磁気の状態は測りかねます》

《それでも、来年にはなんとかなりそうですね》

《ええ、そうなるかと》

《私がコツコツ精製しているのも意味があるようだネ》

それは大いに。

《今火星の軌道上に打ち上げている様子は凄く綺麗ですからまた渡しますね》

《おお、頼むネ》

《超鈴音、強制認識魔法というものの術式は既に持っているのですか?》

《ん?あるヨ?麻帆良と他11ヶ所の魔分溜りを利用するネ。火星から持てきた資料だとそういう事になているヨ。でも魔分溜りを使うのは、世界にあまねく認識させる時の補助的な役割だネ》

補助……と言えば都合が良い。

《それですが……強制認識魔法の応用というと語弊がありそうですが、魔分溜りからこの神木への補助というのは可能でしょうか?要するに魔分溜りから魔分を引き出したいのですが。確実性を高める為に手段は多い方が良いので》

《ふむ、出力上昇の為のブースターにしたいのか》

《ええ、火星と魔法世界の同調の際には地球からもその補助を行うことになるので。魔分溜りなら、使っても問題は無いかと》

《それはゲートが使えなくなるんじゃないカ?》

それも……計算のうちではある。

《終わったらまた供給すればいいだけです。……あくまでも一時的なものです》

《それならいいカ。1から調べる必要がなくて大分楽だからなんとかなると思うヨ。また新しい仕事だナ》

《次から次へと、頼んでしまいまして》

《まあいいヨ。色々対価も貰てるからネ》

《それならば》

《しかし、エヴァンジェリンの家にネギ坊主が呼ばれたということは、師匠関係でも結んだのかナ?》

察しのとおり。

《その通りです》


《……ふむ、となるとネギ坊主がエヴァンジェリンの別荘に入る事になるが……それはいいのカ?私には現実と同じ時間の流れを勧めているが》

《……1年程度なら許容範囲内でしょう。必要もありますし》

《まあ……そうだネ。ネギ坊主の場合あそこほど最適な修行場も無いだろう。しかし普通そもそも、24倍の魔法球など普通市場に存在しないのだけどネ》

その通りだ。

《自作という点では流石という他ないでしょう》

《えっと、ダイオラマ魔法球って普通いくらぐらいするんですか?私確認してないんですけど》

《日本円だと億はかかりますよ》

《億……ですかぁ。鈴音さんのは……?》

《4億だたネ。便利さを考えれば、良い買い物だヨ》

数倍程度でこの値段であり、24倍となると……際限が無い。

《そうですよね。鈴音さんの場合回収手段はいくらでもありますし》

《うむ、出してない技術を始めとして色々あるからネ。最近だと特に、魔分有機結晶は……もし魔法関係で特許でも取れるようになれば、凄い事になると思うヨ》

《あの結晶ってそんなに凄いんですか?》

サヨは余り深く考えてはいないようだ。

《さよ、宇宙にあれ程安全に出れるものはなかなか無いヨ。地上でも遮蔽物質として普及すれば万一事故が起きても被害を防げる確率が現状とは比較する必要も無いぐらいネ。しかも魔法さえあれば割とあちこち材料は必要だが意外と簡単に作れるというのもポイントが高いナ》

《はぁーそうなんですか。それで、確か今雪広グループに払ってるのは輸送費が多いんでしたっけ?》

《そうだヨ。それが大半と言ても良いネ。もしこれで金とかプラチナが必要だたら匙を投げていたヨ》

希少金属か……。

《希少金属と言うと少し違いますが……重力魔法でダイヤモンドの作成というのは可能なのでは?》

《おお、翆坊主、それはなかなか良い案だナ。炭素だけでできるんだから悪くないネ。フフフ……》

《鈴音さん、なんか黒いですよ》

《市場に流すのは危険ですから、やるなら気をつけてどうぞ》

《大丈夫ネ。だが、実際工作機械用にあると便利だから作成を試みるヨ。最初はまた圧力の問題になるナ》

魔法の平和利用というのはこう言うのが1つの例であろうか。



[21907] 16話 2学期開始
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 18:56
いよいよ9月になり2学期が始まりました。
皆すでにわかっていますがネギ先生が教育実習生という形で私達のクラスの担任になります。
神楽坂さんは高畑先生が担任から外れるということにショックを受けているのは言うまでもありません。
隣の朝倉さんはこの夏ネギ先生が、言葉が通じないのを知って英会話を勉強するという事をしていたそうですが、結局ネギ先生は8月の末には発音も完璧な状態でマスターしていたのでその事実を知って、

「こ、この夏休みもっと違う事をしていればもっと良いネタが手に入ったかもしれないのに……」

と微妙に燃え尽きています。
2-Aでネギ先生の事を知らない人は殆どいないので鳴滝姉妹がいたずらをしたりという事もありません。
さんぽ部という名前に似合わずハードに麻帆良を見て回ったようなので先生というよりは友達という感覚が強くなっていて開口一番「「ネギ君おはよー」」と言うだろうと思いますが……。
……とガラガラという音を立て教室のドアが空いたところでネギ先生と源先生が入ってきました。

「今日から2-Aの担任を受け持つ事になりました、ネギ・スプリングフィールドです。担当教科は英語です。皆さんこれからよろしくお願いします」

落ち着いて自己紹介ができていますね。
私が去年皆の前で行った事故紹介とは似て非なる物です。
皆日本語うまくなったねー、とかネギ先生頑張ってー、と歓迎ムードが広がっています。
ネギ先生の目の前の席のいいんちょさんの目がキラキラ光ってて心配になりますが……。
……その後の英語の授業も準備はできているようで教え方もなかなかだと思います。
原因は夏休みに神楽坂さんの宿題を手伝ったりしていたという情報を得ていますが、恐らくそれで間違いありません。
それでも私語が飛び交ったりするのは……いつもの2-Aならではの光景ですね。
心配なのは8月の末にネギ先生がエヴァンジェリンさんの家に招かれてから3日連続で通っているという情報が、既に皆に浸透していていつ誰かが尾行を始めてもおかしくないという事です。
キノ達としては仮にそうなったとしたらそれで良いという静観の構えを貫くようです。
魔法の秘匿義務を破ればオコジョ刑というなんとも間の抜けた刑罰も魔法世界が火星と同調してしまえば……いずれ無意味な事になるはずです。
それはそれで違う事が問題となるのでしょうが。

《鈴音さん、そういえばネギ先生と小太郎君のウルティマホラ出場の手配ってどうするんですか?学園祭と違って独自の大会でもないし、そんなに簡単に特別ルールを認められませんよね?》

《確かにそう言われるとそうだナ。魔法と気に関してはウルティマホラでは身体強化にしか使えないから諦めて貰た方が楽と言えば楽だネ》

《しかし、そういうからに超鈴音には何か策があるのですよね?》

《今までのウルティマホラと言ても私は去年が始めてだたが、予選と優勝者決定までを1日で一気に終わらせるというのは忙しないと思たネ。今回はその辺りを改善するための費用をこちらで負担しようと思ているんだヨ》

《つまり複数日に分けて龍宮神社を借りるのを口実にという事ですか?》

《3日間に分けるついでに一緒にルールも少し変えてしまて、できるだけ自然にするつもりだヨ。例えば小学生の部を先に開催して上位3名は任意で中・高・大生の部にも参加できる等とすればいいだろう》

《確かにそれなら許容範囲内ですね》

《親御さん達も子供の勇姿を見たいって思うでしょうし、良いかもしれないですね》

《初等部となればそこまで参加者も期待できないから10月12日の土曜日一日で済ませて、13日に予選、14日体育の日に本選にすれば良いネ。麻帆良の人は結構タフだから13日に予選でも文句は言わないだろう。それに疲労回復を促進する施設でも用意すれば良いネ。更に今回中・高・大それぞれで本選の枠を完璧に決めてしまえば学校単位での競技と被らない工夫もしやすくなるからネ》

《随分熱心ですね。まほら武道会の予行演習という所ですか?》

《そういう事だネ。段取りもあるし、裏表関係なくまほら武道会を開くかどうかの実力を観るのにも使えるから結構重要だヨ》

《ネギ少年達の為だけに動くのではない辺り抜かりはないようですね。……ところでその疲労回復ですが龍宮神社の南門付近の魔分溜りを丁度利用してみてはいかがですか。認識阻害もありますし》

《ふむ、特製疲労回復飲料を東洋医学で作ても良いのだがそちらも研究になりそうだナ。期間は短いが良いだろう》

《流石私達の鈴音さんはパーフェクトですね》

《フフ、麻帆良最強頭脳を名乗るからにはそれぐらい当然ネ》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

火星の様子も順調であり、ネギ少年を見守ると称して、観測し続けるのが最近定着している。

《ぼーや、この通信方法は念話と違うんだがまだ付いてこられるか?》

《は、はい、まだなんとか大丈夫です。マスターは……頭が痛くならないんですか?》

早速魔分通信を魔分という概念は教えずに、超鈴音と同じ強化が図られている。

《私は魔法世界でも幻想種に分類される生物のようなものだから、全く問題ない。……これに付いてこられるようになれば、思考速度が上がる上、呪文詠唱も高速で行う可能になるから頑張るんだな》

一部精霊化していたお嬢さん自身はすぐに魔分通信には対応し、その恩恵も得られている。

《ほ、本当ですか!頑張りますマスター!あれ……でもそんなに凄いのにどうして父さんの罠に……?》

《詳しいことは言えないが、この方法を会得したのは私も最近なんだよ》

《……そんな簡単に僕に教えていいんですか?》

《私が口を動かして会話するより楽なのもあるが、これは現実の時間で長時間話せるようなものだから長くなりがちな魔法の理論講義にうってつけ、実際に魔法を発動させた後に利用すればその場で改善点を指摘する事もできる。頭を使うのが得意なぼーやには向いているだろう。これ自体で魔法の扱いがうまくなるわけではないから今の活用法は学習効率を高めるといったところだな。この先ぼーやがどう利用するかは好きにすればいいさ》

単純に楽という事に落ち着くようだ。
ネギ少年にとってはある意味ただでさえ1時間が24時間の空間で、更に時間を極大化させているようなものであり……そう考えると地獄の特訓と呼んでも……おかしくはない。
しかし、習得できてしまえばネギ少年自身から通信はできないものの思考限定で、時が止めるような感覚を得る事ができるので、強力な武器になるのは間違いない。

《分かりましたマスター!》

ネギ少年をだしに近衛門とお嬢さんの争い……という裏事情があるが、ネギ少年は知る由もない。
純粋さというのも大事だろう。

《ああ、ただこれを習得してもウルティマホラでは使うなよ。あの大会は同じ土俵で戦う事に意味があるからな》

《はい、そうですね。ズルしてるみたいで良くないですよね。あ、でもウルティマホラは13歳以上じゃないと駄目だって聞きました》

《その辺りはなんとかなるから練習に専念しておけ。しかしぼーやが覚えている戦闘に使える魔法が魔法の射手、風花武装解除、風精召喚、眠りの霧、風花風塵乱舞、雷の暴風だけ……しかも実際には魔法の射手までだけとは魔法学校というのは戦闘面に関しては最低限だけだな》

《はい……。魔法の射手以外の他の魔法は学校の書庫に潜り込んで僕は覚えました》

《書庫で独学か……まあ私も独学だが、ここには収集した魔法書やスクロールもあるからぼーや向けのを選んでやるよ》

既に覚えているからどうという事はないのかもしれないが気前が良い。
書庫に潜り込んで……という事にお嬢さんは特に追求もしなかったが、今更と思っているのだろう。

《わー、マスターありがとうございます!こっちに来る前に古代語の魔法も禁書庫に入って覚えようと思ってたけど時間が無かったんです!》

《はは……まあいい……興味があるなら古代語の魔法も教えてやるよ。ただぼーやは基本魔法の適正が一番高い。そのため前人未到の領域に自力で辿りつけるかもしれんから面倒な古代語魔法はいらないかもしれんがな》

流石に禁書庫に潜り込む件はお嬢さんもどうかと思ったらしい。

《えっ、マスター、基本魔法って戦闘で戦力として使えるんですか?そんなこと聞いたことないですよ》

《今のぼーやが知るのはまだまだ早い。……この会話法を会得できればある程度掴めるかもしれん。頑張ることだ。そろそろ頭も辛いだろう。今日は術式の効率化と精神力の増加をやるからな》

《はい、大分痛い……です》

超鈴音でさえ痛みが治り、慣れるのに大分時間を要し、更にネギ少年の場合当分は筋肉痛もある。
……この後魔力が底を付くまで魔法の射手を打ち続け、その度に修正を受けるという地道な訓練が続いた。
しかし、授業料はそもそも取る必要もない……と思っていたのだが、お嬢さんは面白そうな顔をしてある事を要求した。

「ところでぼーやが私に払える魔法の授業料には何がある?」

「僕がマスターに払う授業料ですか。……教師として貰えるお金ぐらいしかないですね……」

「ほう、でも金が無くなっては困ることもあるだろう。……こうしよう、私がぼーやに魔法を教える代わり、私は何と言われようと学校を好きなときに休み早退もするというのはどうだ?」

……教師に不登校を要求。
お嬢さんに中学は最早何の意味も無いのは重々承知ではある。

「ぼ、僕はマスターの担任です!しっかり学校には来てください、お願いします!」

「ぼーや、そんなに私に会いたいのか!それなら毎日ここに来ればいいだろう、何なら寂しい夜一緒に添い寝してやってもいいぞ」

「えっど、どどどうしてその事知ってるんですか!」

「ハハハハ、なんだ図星かぼーや、恥ずかしがらなくてもいいぞ」

……堂々巡りが始まった。
どうも司書殿にやられている分それをネギ少年にやっている気がするが……。
因みに神楽坂明日菜のベッドに潜り混んでいた件は、暇なときに超鈴音たちから聞いたそうだ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

毎日ネギ坊主は早朝に武術の練習をしたり、学校が終われば長いだけの杖を持ってエヴァンジェリンの家に行き、授業中には頻繁に頭を押さえるものだからそろそろ、2-Aの皆が後を付けるのも時間の問題だろうナ。
正直我慢できそうにないあやかサンとなんだかんだ興味津々な明日菜サンが一番危ないネ。
仮契約なんてことはしないだろうから無駄にバレる事もないだろうがネギ坊主はボケボケしてるところがあるからナ。

9月も半ば、田中サンもT-ANK-α3までできたところで完成したヨ。
田中サンは秘密的にも面倒な魔力炉を入れる訳にはいかないから全部電気で動くネ。
充電は専用のポッドに立てば自動的に行われるようにしているから手間要らずだヨ。
早速女子寮に持ていて配備するネ!

「まず今回は始めてだから15体配備するヨ!」

工学部のお兄さん達は女子寮に来れただけで喜んでるからとても助かるネ。
コンテナから続々起動して降りてくるのはまさに映画のようだナ。

「ブッ、超!なんだよその怖いロボットは!」

おお、今お帰りのちうサンじゃないか。

「千雨サン、怖く無いと意味ないだろう。これは最近女子寮をうろつく不埒な輩を撃退するためのものなのだから可愛かたら逆に持ていかれてしまうネ」

「別に可愛くしろなんて言ってねーよ!ここに住んでる奴らが怖がるだろ!」

「そうでもないようだヨ。あちらを見ると良いネ」

あちらの方に見えるのは田中サンに話かけるここの住人ネ。

「何このロボット、映画みたーい。何、寮守ってくれるの。頑張ってねー」

「ねーあのロボット話せるの?」

「うん、警備頑張りますとか言ってたわよ」

「男子中等部の奴らより絶対頼りになるね」

……隊列を組んでザッザッザと歩いていく田中サンは壮観だナ。

「千雨サン、感想貰えるカ?」

「なんで私が悪いみたいになるんだよ……」

「元気だすネ。銀行の口座見たらそんなの吹き飛ぶ筈ヨ!」

「ってそうだ!脅迫じみてたからやった仕事だったがなんだよあの謝礼は!0の桁が多すぎだろ!なんでサラリーマンの平均年収超えてんだ!怖くて銀行から下ろせなくなっただろ!」

「まあまあ落ち着くネ。ハッキリ言てあのプログラムを破れる人類は麻帆良にはいないから当然の対価だヨ。ちゃんと源泉徴収もしてあるからそのうち紙が届くし安心するネ」

「そういう処理の事を言ってるんじゃねーよ!最初は表示のエラーかと思ったのに銀行員に聞いたら正規の手続はされてるだとかそういうのを求めてるんじゃないんだよ!」

「ほら、カルシウム入りの肉まんを用意してあるから食べるといいネ」

「お前はネコ型ロボットか!」

いつの間にかクウネルサンではないがからかう癖が感染してる気がするナ……。
因みに千雨サンの作たプログラムに少し手を加えた物はギリギリオーバーテクノジーでは無いから外部に出しても問題ないので雪広グループに試算してもらたのだがまたおかしな額になたネ。
そしてそれはパソコンのOSを作てる小さなソフト会社の日本支部に持ち込んで提供する方向で決またヨ。
千雨サンの謝礼に大分払たように思うかもしれないが、微々たるものネ。
交渉条件に超包子の支店をアメリカのワシントン州に出す便宜を雪広グループと共同でしてくれる事になたがそんな事お安い御用という感じだたネ。
フフ、アメリカのファストフード業界を甘く見るなというつもりなのだろうが、こちらは安い、美味いを完璧に実現しているから勝機はあるネ。
雪広グループも世界的に広がているが、本拠地は日本だしあまり1つに肩入れしすぎると危ないからナ。
こんな所で足踏みするようでは世界を肉まんで征服なんてできはしないヨ!

……一方並行してウルティマホラの準備を進めてもいるネ。

「龍宮サン、神社の娘サンとして交渉したい事があるのだがいいカ?」

「超か、巫女のバイトでもやりたいのか?」

生憎これ以上属性を増やすつもりはないヨ。

「ウルティマホラの開催期間を3日に伸ばそうと思ていてネ。神社の使用料はこちらで負担するからその約束を取り付けたいと思て来たヨ」

「誰の差金かは知らないがあの子の為に頑張るものだな」

「……これは私の意思だヨ。来年形骸化したまほら武道会を学園祭でもう一度復活させるための予行演習のつもりネ。ネギ坊主に関係がないというのは嘘になるけどネ」

「まほら武道会か。確かに私も親からその話は聞かされた事があるが今とは比べるまでもないらしいな。……良いだろう、私も協力させてもらうとするよ。できるだけ報酬は弾んでくれると助かる」

「報酬に関しては確実に満足できる額を用意できるから期待して欲しいネ。協力感謝するヨ」

……次は実行委員会だネ。
体育祭の実行委員会は麻帆良祭実行委員会の一部組織と中・高・大の大規模な運動系の部活に有力な格闘団体の上層部を加えて構成されているからどちらかというと血の気が多いのが問題だが、深く考えない人達だからいつもより良い条件でウルティマホラができると言えば分かてくれるはずネ。
まあ古の名前でも出せばなんとかなるヨ。

「中国武術研究会の超鈴音だがお邪魔するネ。今日は話があて来たヨ」

「おう!古菲と一緒の嬢ちゃんじゃねぇか。最近テレビで名前も出てたが話って何だ?俺たちには科学とかそういうのはわかんねぇぞ」

「別に科学の話をするつもりは無いヨ。ウルティマホラを3日間にする交渉をしに来たネ」

「み、3日間だと!?どうやってそんなスケジュール合わせるんだ。龍宮神社を借りる費用も審判員を用意するのも1日ならなんとかできるがよ」

「落ち着いて話を聞いて欲しいネ。まずはこの肉まんでも皆で食べるといいヨ」

「……おお、嬢ちゃんとこの超包子の肉まんじゃねぇか。……しかし相変わらずうめぇな」

右手で鷲掴みペロっと食べてしまうとはネ。
これだけ豪快に食べてもらえれば肉まんも本望だナ。

「龍宮神社を借りる費用に関しては私のクラスに神社の娘サンがいるから話を付けてもらうことにしたから解決するヨ。審判員については3日に分けることで人数を少なく済ませられるようになるから大丈夫ネ。スケジュール管理は麻帆良祭のエキスパート達で協力するから任せて欲しいネ。3日でやるから今まで一発で終わていた予選でも時間が取れるようになるし、本選を翌日にすれば疲れも取れるから悪くない提案だと思うがどうかナ?この際運の要素の強くなるトーナメントも予選ぐらいは総当り戦にしても良いのではないカ」

そこへ現れたのが……。

「流石超鈴音さんですね、今日は会議だと来てみれば今年の体育祭は少々大変ですがやりがいのあるものになりそうではないですか?」

「麻帆良祭の実行委員長じゃねぇか。今この嬢ちゃんの話聞いてたが、俺たちはこれができるっていうなら賛成だぜ」

「委員長サン、お邪魔してるネ。賛成してくれるようだが良いのカ?」

「我々としても麻帆良祭はあれだけ盛り上がるのが外部の人間も来るからとはいえ、体育祭だって盛り上げたいと思うのは道理です」

理解の良い人で助かるナ。

「ふむ、賛成してくれると期待していたがこうも歓迎されるとは助かるネ。1つ、3日間とは言たが初日に小学生の部を開催したいと思てるのだが了承して貰えないかナ。そこで決定した上位3人はウルティマホラの中学生の部にエントリーする権利を与えて欲しいネ」

「小学生の部?どうしてまたそんな事をしたいなんて言い出すんだ。大人の部に参加しても怪我するだけだろう」

「中国武術研究会に良く殴りこみを掛けてくる小学生がいてね、これがかなり強いんだヨ。特別ルールで入れるというのも不可能では無いと思うができるだけ正規の手続を踏みたくてネ。それに面倒なだけと思うかもしれないが、全寮制ではない初等部の親御さん達を呼びつつ各道場の宣伝をするいい機会にもなると思わないカ?」

「本音はその小学生を出してあげたいという事で建前の方はついでですか。分かりやすくて良いですね。実際道場の宣伝になるのは間違いないと思いますよ、会長さんはどうですか?」

「その小学生ってのはあれだろ、今年の冬頃に突然やってきてあちこちでやんちゃしてるコタローって奴の事か。俺たちは強い奴が参加してくれるんなら寧ろ盛り上がるから歓迎するぜ。伝説の三谷さんもいねぇし、古菲に勝ちをストレートに譲らせるのも面白くねぇしな」

「会長サンも小太郎君の事を知てるのカ。どれだけこの短期間で目立つ事をやたんだろうな、あの坊主は。……まあ、どうやら賛成してくれるようだし後はスケジュールを詰めるだけだネ。委員長サン、スケジュール管理の最新ツールも用意してあるから協力するヨ」

「麻帆良最強頭脳というのは活躍の場を選ばない元気な女子中学生なんですね。いいでしょう、我々もやる気が出てきましたからね。今年は前年よりもウルティマホラだけでなく他の面でも改善を行っていきましょう」

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9月も末、朝倉さんの所属する報道部からの積極的な広報活動により今年の体育祭の大きな変更点が周知され、ウルティマホラが3日間で行われその初日は小学生の部が開催されるという事もあっという間に麻帆良に広まっていきました。
最初は3日間の体育祭にウルティマホラを完璧にはめる筈だったらしいのですが、麻帆良祭が前夜祭含めて4日間なら体育祭だって4日やってもいいだろうという事になり、最初の1日は通常の体育祭の競技をガンガン行い、2、3、4日目は中・高・大でスケジュールを組んでうまくウルティマホラを楽しめるように工夫したそうです。

ここ最近の鈴音さんは以前よりもハードな生活になっています。
なんといっても3万人以上を越える人数の学生がいる麻帆良学園の体育祭の競技のスケジュールを把握し、場所の移動距離や効率を考えて最適化する作業は、資料集めから始める必要があり大変で、たまに申請競技に漏れがあったりするなど大規模化した結果起きるアクシデント等も仕事量を増やしているそうです。
いつもの私達のように身内だけで済ませられるなら驚きの速度でそういった事務処理は終わるんですが、初の試みですし仕方ないですね。

因みに今年のウルティマホラには……私は出場する予定はありません。
去年あっさり本選でやられたとはいえ、私が不健康で虚弱なイメージは既に吹き飛んでいま……まあ微妙な誤解を受けている事もあるのですがそういう訳です。
そんな所へ尋ねに来たのはネギ先生。

「相坂さん、あの……今日も超さんは出かけてるんですか?」

「ネギ先生、鈴音さんに用ですか」

「ウルティマホラは年齢制限があると聞いていたのに急に今年規定が変更されて、その実行委員の名前に超さんが入っているので……お礼が言いたいんです。でも、休み時間中もすぐに何処かに連絡したり出て行ったりしてしまって言う機会が無くて」

《……鈴音さん、ネギ先生がウルティマホラに出られるようにしてくれた事にお礼が言いたいそうです》

《ほう、ネギ坊主は礼儀正しいネ。今日はちゃんと寮に戻るからその時に時間を作るヨ》

帰ってこないで徹夜してる時もあるんですが……葉加瀬さんみたいですよね。

《ネギ先生にそう伝えておきますね》

「鈴音さん、今日は寮に戻るそうなのでその時に直接言えば良いと思いますよ」

「ありがとうございます。後でお礼言いに行きますね」

「はい、また後で会いましょう、ネギ先生」

ネギ先生といえば魔分通信のせいで相変わらず頭痛を抱えているように見えるんですが鈴音さんも1ヶ月間粒子通信を続けた後完全に治るまでには更に1ヶ月弱要したのでそれぐらいは必要かもしれませんね。
頭痛のする状態でウルティマホラに臨むというのはハンデな気がしますが、いずれは越えなければいけないですから頑張って欲しいですね。
小太郎君も小学生の部でウルティマホラ、3位以内に入れば大人の部で出場が出来る事が分かってから修行により身を入れているみたいで、帰りがけに超包子に寄って今日は何をしたとか肉まんを食べながら詳しく教えてくれます。
1回ぽろっと「ネギと一緒にネギの先生のとこいったら、その姉ちゃん俺が住んどるとこで凄い有名やけどめっちゃおっかなかったわ!」等と言っていたのですが、後で確認したところエヴァンジェリンさんの別荘に小太郎君も招かれたそうです。
動機はぼーやの相手としては好都合だからという事らしいです。
当然その際ネギ先生が魔法使いの試験で麻帆良に来て教師をしている事、小太郎君も呪術協会所属というのがお互い分かり更に仲良くなったそうです。
それにしてもやっぱりエヴァンジェリンさんは呪術協会で有名なんですね。
あの春から長く続いた日本文化ブームは凄かったのがよく分かります。
そういう理由もあって裏の人が誰も干渉しないのかもしれません。

古さんが2人の成長速度が前よりも更に反則気味に早いと言い始めていて、エヴァンジェリンさんの家に潜入しそうな人物にまた1人追加されました。
魔法球を使えば一時間入れば1日が2日になるので当然修行量も増えるので仕方ないですね。
心配なのは小学生の部でのウルティマホラで二人にケガをさせられる小学生が増えるのではないかという事なのですが、小学生の部では気と魔力を纏わないという事で取り決めしたらしいです。
ただ、決勝戦で2人が戦う場合はもちろん使用OKだそうです。

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魔分溜りから疲労回復を促す術式を発動させるという事で、元々私が言い出した事ではあるが、超鈴音の魔法球で素体による実験が行われている。

「翆坊主、これはなかなか素晴らしい実験だヨ。普通なら絶対に捕まるからネ」

何をしているかというと、損傷を与えた素体に怪我、疲労度その他諸々身体の調子を計測する機器をとりつけて術式の成果を見るというものなのだ。

「いくら痛みであるとかそういったものを全て遮断できるからといって、このような実験ができるのは超鈴音の特権のようなものですね」

「多少の非人道的な行為も科学の発展の為にはやむなしだヨ」

今回のこれは魔法の発展。

「……そういう考えも有りですね。素体自体は作ればいくらでもありますので、好きなだけ実験すれば良いかと」

―魔法の射手 光の1矢!!―


「いやー、うまく魔分で身体強化してくれて丁度いい怪我の具合を再現できて便利だヨ」

「しかしポートを繋いでおいてこんな利用法があるとは盲点でした。逆に素体を転送できる訳ですからね」

「……もうこの魔法球は世界で一番機密情報が一杯だナ」

「本当に誰かに入られたら終わりですね」

「そこは抜かりないから安心するネ」

それは大丈夫だろう。

「他にも、科学だそうですがよく寮の部屋一部を改造できますね。中に下手に入ると迷子というのはまるでゲートの付近のようです」

超鈴音のダイオラマ魔法球はもし、誰かが部屋に入り込んだ時に困る為、足の踏み出し方間違うと魔法球に辿り着けない空間が科学で形成されている。
間違えるとしばらくした後弾き出される。

「まさに無限回廊という奴だヨ。学校の怪談ではなく寮室の怪談だナ。次はアキレス健行くよヨ」

―魔法の射手 光の2矢!!―

「寮の部屋が3年間同じで良かったですね」

「本当に生活には殆ど困らない都市だヨ」

……ネギ少年が来たか。

「おや、ネギ少年が部屋の前に来るようですよ」

「ああ、ウルティマホラ出場のお礼とか言ていたナ。律儀な事だヨ。少し出てくるがまだまだ実験する部位があるから素体の準備頼むネ」

超鈴音は一旦魔法球から出て玄関へ向かい、扉を開けた。

「おお、ネギ坊主何の用かナ。肉まん食べたいならあるヨ」

いつも開口一番肉まんというのは癖になっているようだ。

「こんばんは超さん。今日はウルティマホラに僕とコタロー君が出れるように動いてくれた事にお礼を言いに来たんです」

「ふむ、私がネギ坊主達の為に動いたというのは理由の一つなんだが礼儀正しいのは良い事だネ」

「超さん、ありがとうございます!僕教師も頑張りますけどウルティマホラもコタロー君と頑張ります!小学生の部の応援是非来てくれると嬉しいです」

「どういたしまして。ネギ坊主は先生だがウルティマホラに出場する時はスーパー小学生として頑張るといいヨ。2-Aが応援に行けるようにスケジュールを組んであるから見に行かせて貰うヨ。これはネタバレだが、小学生の部のトーナメントは東と西に小太郎君とネギ坊主が分かれるように細工しておくから頂上決戦でもするといいネ」

「ほ、本当ですか!何から何までありがとうございます!」

「小太郎君にメールするといいヨ。ほら、今日の餞別の肉まん部屋に持て帰て明日菜サン達と食べるといいネ」

「はい、頂きます!ではまた明日学校でお会いしましょう!」

「また明日なネギ坊主」

そして、ネギ少年は軽く一礼した後そのまま部屋へと戻っていった。
以前よりもどんどん礼儀正しくなっていくが、エヴァンジェリンお嬢さんが、ネギ少年の常識が無い辺りも教育している影響であろう。

「しかしネギ少年は生き生きとしていますね」

「翆坊主や学園長がある程度お膳立てしているのもあるが、ああいうのも悪くはないと思うヨ。いきなり戦場の中に放り出されるのと比べるまでもないからネ」

「さて……使われるかはともかく、治療技術の発展の為にも実験を続けるとしましょうか?」

「ああ、頼むネ」

素体であると割りきって攻撃を仕掛けると言っても、流石に超鈴音も精神的に来るものがあるようだが、神木の補助のお陰で、特に負担という負担にも……なっていない。



[21907] 17話 新生体育祭1日目
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 18:57
10月に入り、いよいよ体育祭も後1週間程で始まるかという頃、とうとう痺れを切らした2-Aの女子中学生達がエヴァンジェリン邸に潜入を開始するという事態になった。
発端は古菲の「あそこに行けばなんか強くなれそーアル」というごく単純な物であったが、それをきっかけにして雪広あやか、神楽坂明日菜、それを「やめといたほうがええよ」等と言いながらついていく気が大いにある孫娘、大分離れた地点にその護衛が後をつけるという……尾行に尾行が付くという状況ができた。
朝倉和美は危険なのでサヨが不自然な流れ満載でありながら「朝倉さん!体育祭の広報で超包子の宣伝を掲載して欲しいんです!」とある程度意味ある動機で何処かへ連れ去っていった。
他の面々は運動部系に関しては大会なども近いので、先の1人を除いて参加する事はなかった。

……そして、ネギ少年と小太郎君が家に入った後、茶々丸姉さんが買い物に行くのを見計らって4人が無断で家に入ろうとしたところ、突然突風が吹いたと思えば孫娘は護衛に何処かに連れ去られた。
脱落者1名。
詠春殿の意思を尊重して妨害したのは彼の部下として良くやり遂げたというべきだろう。
連れ去る瞬間に対象を眠らせる陰陽術を放ったのであるが、悲しそうな顔と嬉しそうな顔を繰り返していたその心中はいかに。
孫娘に魔法の事が知られるのは呪術協会支部があるため防ぐのは当然の流れ、もし護衛が動かなくても誰かしらが処理したのは間違いない。
一方孫娘がいなくなった残りの3人は、

「このかさん気がついたらいませんけどどうされたのかしら」

「このかならやめたほうが良いって言ってたから帰ったんじゃないかな?」

彼女達が不自然に思うことは……無かった。
チャチャゼロはどうしたのかというと魔法球の中で暴れているので、家の中は空。
そして、3人は普通に扉を開けて堂々と家の中に侵入した。

「ネギ坊主とコタローが入ったのにいないアルな」

「ま、まさかエヴァンジェリンさんがネギ先生と隠れてとんでもないことをしているかもしれませんわ!」

「落ち着きなさいよ、いいんちょ。ちゃんと探せばいるわよ」

雪広あやかがこんな事をするのは仮にも財閥の令嬢としておかしい気がしないでもないが……度々ネギ少年を視ている時に視える彼女の目は大体いつもおかしいのでどうしようもない。
ネギ少年達が魔法球に入ってから10分程経過してから3人はとうとう念願の魔法球を発見した。
加速空間内での進行時間は既に4時間。

「何アルかこの水晶玉みたいなものは?」

「中身の造形がとても細かいですわね。一体どうなっているのかしら。ってあら!」

魔法陣が上手く発動し、雪広あやかが先に入った。

「いいんちょいきなり消えてどこ行ったのよ!」

「いいんちょが消えたアル。きっとこの水晶玉に何かアルよ。アスナも調べるよ」

雪広あやかが2-Aで魔法球に一番乗り。
当の入った本人はというと……。

「な、ななな、何ですのここは!……手すりもないこんな場所に出てくるだなんて。アスナさん達もいませんし……。はっ、ここにネギ先生の匂いがしますわ!

ネギ少年もネカネ・スプリングフィールドの匂いにつられるという事はあるようだが、雪広あやかも同類なのかもしれない。
最高に気分が高揚した状態で手すりの無い渡りを走り、ネギ少年達が修行している屋上に彼女は突撃していった。
……遅れて魔法球に古菲と神楽坂明日菜が突入したのは魔法球内時間でおよそ10分後、現実時間で大体30秒。
その前に雪広あやかが問題の場所にたどり着く。

「ネ、ネギ先生それにエヴァンジェリンさんここで一体何を!何ですかその光っているのは!」

「あ、あやかさん!」

「なんでここにあやか姉ちゃんがおるんや」

「ケケケ、侵入者ダゼ御主人。殺ッチマッテイイノカ」

「やめろチャチャゼロ、あれはただの迷子だ。一体茶々丸は……そうか買い物に行っていたか。委員長、1人で来たのか?」

「い、いえm私とアスナさん、くーふぇさんで来ましたわ」

「いつかついてくるかとは思っていたが……なんだその人選は……。それで委員長はどうしたいんだ?悪いがここに一度入ると出るのに丸1日かかるぞ」

「あぁ……一体どうなっているんでしょう。ま、まずはネギ先生とコタローさんと一緒に何をしていたのか聞いてもよろしいですか?」

「ぼーや達、もう4時間以上経っているから1度休憩していいぞ。今日はもう組み手だけだな。私はぼーや達がウルティマホラで頑張れるように教育しているんだよ」

「隠れて個人指導だなんて、私もやらせて頂きますわ!」

「おいぼーや達、委員長に普通の組み手でも見せてやれ」

そう言って、お嬢さんは2人に組み手を実演させた。
実際の所、お嬢さんの合気柔術は達人級であり雪広あやかにできる事というのはあまりない。
当然、その組み手は雪広あやかにとっては衝撃であった。

「な……なんですかこの動きは!?」

「見ての通り委員長では付いていくのがやっとという状態だろう。出来る事と言ったらぼーや達のけがの手当ぐらいか」

「それなら私が是非やらせて頂きます!」

食いつきが……早い。

「そうか。委員長に二人は頼むとしよう。ぼーやは休憩しながら授業だからな」

「はい!マスター!」

「あやか姉ちゃん入ってこんならもっと修行できた言うのに。まあええわ。喉渇いたし」

「委員長、先に言っておくが、さっき見たという光について他人に言ったら、ぼーやはイギリスに帰る事になるかもしれんから気をつけるんだな」

「それはどういうことですか?」

「そういう暗黙の決まりがあるんだよ。ぼーやがここで先生をしているのもその一環だ」

「……分かりましたわ。お父様が隠しているのと同じような事ですわね」

「……まあ入ってきたのが物分りの良い委員長で良かったよ。チャチャゼロ、後数分で入ってくる迷子が人いるから武器を置いて奥に案内してやれ」

「タダノ迷子ハツマンネェナ」

……それから数分、現実で数十秒、残り2名が到着。
出入口にてチャチャゼロが2人を待ち伏せしていた。

「ヤット来タナ。迷子二人到着ダナ。付イテ来イヨ」

「え、ちょっとあんた誰よ」

「小さい人形がしゃべってるアル」

「説明スルノハ面倒ダ。付イテ来ナイト置イテクゼ」

……そのまま2人が案内される一方。

「うーん、まだ慣れないなぁ……」

「個人差があるから慣れるまで頑張るんだな」

「ネギ先生の頭が痛そうなのはエヴァンジェリンさんのせいなんですか!?」

「頭が痛くなるのは副作用にすぎんよ。それを越えるだけの授業はしてるつもりだからな」

「あやかさん、心配しなくて大丈夫です。まだ時間はかかるかもしれませんがそのうち痛くなくなります」

「……授業と言ってもさっきから殆ど時間は経っていませんわよ」

不可解な顔をするのも無理はない。

「あやか姉ちゃん、それは俺も良く分からんから気にすんなや」

「コタローさんには聞いてません」

「なんやてー!」

「暴れるなら外でやってくれ……」

「ケケケ、御主人迷子ヲ連レテ来タゼ」

そこへ到着。

「神楽坂明日菜に古菲か。よくも他人の家に勝手に上がり込んだものだな」

「そ、それはごめんなさい」

「ごめんなさいアル」

「お前たち、ここに入って来たからには後丸1日経たないと出られんからな」

「ちょっとそれどういうこと。1日経ったら明日学校サボる事になっちゃうじゃない」

「アスナ姉ちゃん、ここは外での1時間が1日になっとるから大丈夫や」

「それは先程私も聞かされましたが、ネギ先生が数時間でいつも寮に戻られますから多分正しいと思いますわ」

「……そういう事だ。まあここで1日ゆっくりしていくんだな。丁度古菲もいるからぼーやと小太郎の相手でもしてれば良いだろう」

「ここの1日が外での1時間アルか。最近坊主達の成長が早いのはそれが理由だたアルか」

「マスター、なんで僕はぼーやなのにコタロー君は名前で呼ぶんですか?」

「ぼーやはまだまだぼーやだからだ。小太郎は私がぼーやの相手の為に呼んだからな。それだけだよ」

エヴァンジェリンお嬢さんの拘りである。

「俺はエヴァンジェリンの姉ちゃんに弟子入りしとる訳やないって事やな」

「……分かりました。1人前になれるように頑張ります!」

「ちょっとネギ、1時間が1日っていうのも信じられないけどマスターとか弟子って何よ?」

「僕がエヴァンジェリンさんに弟子入りしているので……マスターと呼んでいるんです」

「何の弟子なのよ……」

「当面はウルティマホラに向けての教師というところだな。もう一度説明するのは面倒だ。……委員長説明頼んだ」

「……分かりましたわ。アスナさん、ここはエヴァンジェリンさんの家なんですからもう少し落ち着きなさい」

その後、深入りするとネギ少年が面倒な事になるという事が簡単に説明された。

「要するにここの事を他人に話したりするとネギがイギリスに帰らないといけなくなるから言うなって言いたいのね」

「……言いふらしても構わないが、その時は神楽坂明日菜の良心がその程度だったという事になるな」

良心をつく言い方。

「分かったわよ!ここの事言わなきゃいいんでしょ。それぐらいできるわよ」

「私も口固いから安心するアルね」

「嘘言うなや、くー姉ちゃん口軽すぎるから心配やわ」

「私嘘つかないアル!そこまで言うならコタロ勝負するアルよ」

「おお、ええで!ここならいつもと違うてぎょうさん修行できるからな」

嘘は言うつもりはないかもしれないが、うっかりという事は充分ありえそうだ。

「……お前たちやるなら下の砂浜でやってこい。近くでやられたらうるさくて休憩にならないからな」

「分かったで。くー姉ちゃん付いてきいや!」

「修行付けてやるアルね!」

そのまま2人は勢い良く螺旋階段を降りて砂浜へ向かった。

「行ったか……。ぼーやはそうだな、この本でも読んでると良い」

「何それ英語の本?」

「アスナさん、これはラテン語の本です」

「あんた英語と日本語も話せるのにそんな本まで読めるの……」

「アスナさんはもう少し勉強をした方がよろしくてよ」

「うるさいわよいいんちょ!」

「なんですって、本当の事を言っただけでしょう!」

「お前たちも外に出てるか」

「「失礼しました……」」

……と、こうして魔法球は知られてしまったものの、魔法自体が知られる事はありそうで……なかった。
ただ、テスト前に神楽坂明日菜がここを使いたいと言い出して却下されていたが……当然であろう。
使わせてくれなければ「ここの事ばらしても……」などとも一瞬言いかけたが、言い終わる前に白い目で見られて小さくなっていた。
古菲はウルティマホラまで魔法球を使うことを許されたようで、その結果後1週間程はネギ少年は魔法の訓練は一旦停止して武術に専念するようである。
ネギ少年の扱う武術であるが、中国武術が主でありながらも、合気柔術が混ざったりと、良く組み合わせられている。
そのウルティマホラにてギ少年が着る道着は雪広あやかが用意する事が勝手に決まった。
小太郎君は学ランが戦闘服との事で拘りだそうだ。

……さて、素体で実験を重ねデータを得て進んだ魔分溜りを利用しての疲労回復魔法の研究であったが、結局……疲労のみならず外傷、火傷、打撲など色々試し、疲労以外の物にも対応できるものとなった。
しかしながら、ウルティマホラではそこまでは必要ではない為、程度を収めた術式を使用する事となった。
また、この研究で、私が提案したのは元々その事も考慮しての事であったが、魔分溜りから魔分を引き出す方法に関して、ある程度見地が得られ、火星と魔法世界の同調の際に役立てられる。

超鈴音と葉加瀬聡美が配備した田中さん軍団であるが、夜中にずっと警備を行っている事もあって表の人間が不用意に近づいてくる事は殆ど無くなった。
その事実を知らない侵入者が無謀にも潜入しようとした所、必死ないわゆる鬼ごっこのようなものが垣間見え、1人が必死に逃げ惑うのを、5人の目が赤く発光する田中さんが両腕を全力で振って集団で追い回していた。
田中さん達の調整上、わざわざ全力で捕まえずに恐怖心を与えてから……という事になっているらしく、実際その通り下手人は恐怖を植え付けられたが、何はともあれ捕まって終わりとなった。
正体はどこかに属している訳でもない単独で情報を盗んで売るスパイだったとの事。

田中さんは警備だけをプログラムされているのではなく、寮の食堂に届く食材を運んだり、重いものを持ち帰ってきた場合に頼めば部屋まで運んでくれたりと、非常に実用的なロボットでもある。
流石に茶々丸姉さんのようにMIT産のAIを搭載してはいないので、猫に餌をやるなどという人間性の一種のようなものは一切備えてはいない。
その実用性から、田中さんの噂が他の寮にも広がり「うちにも欲しい」と工学部に依頼が入るようになり田中さん程見た目が怖くない鈴木さんや佐藤さんというものも作るかどうか超鈴音と葉加瀬聡美は、目を輝かせて話しに華を咲かせている。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

そしてようやく10月11日、初の4日間の体育祭の始まりです。
要項が発表された時に皆で驚いたのですが、種目が増えていました。
当然年齢制限や一定の要件などを満たしていないと出場できないのですが、水泳が室内プールが使用になり解禁、麻帆良湖でのボート競技、絶対に一部の人しか出ないであろう重量挙げと砲丸投げ、三段跳び、棒高跳び等が追加になっているんです。
今までは体育祭というイメージで構成されていた筈なんですが、既にウルティマホラという格闘系競技がある為、どちらかというとオリンピックに近くなってきていて、「実行委員会やりすぎだろ……」と長谷川さんの嘆きが聞こえました。
ちゃっかり棒高跳びと三段跳びに出場が決定している楓さんは忍んで下さい。
そんな初日である今日は水陸系個人種目と個人、団体球技がメインの日となります。

「皆さん今日から四日間体育祭なので怪我をしたり体調を崩さないように気をつけてください。水分の摂取も欠かさないようにしましょう」

「ネギ先生もウルティマホラ頑張ってねー!」

「是非私達の応援にも来て下さい!」

と朝早くから元気なのですが残念ながらネギ先生は教師という事もあって、常に私達の応援に来られる訳ではないです。
でもウルティマホラの出場は学園長先生達の配慮があったようで、こは問題なくて良かったですね。
種目が多くなったからと言って沢山の種目に出れるようになったとは一概には言えないので、移動をテキパキしさえすればあちこちを見て回る事ができるようになっています。
何故か移動用に突然飛行しだす小型の建物があるのですがどうやら超鈴音さんと工学部の仕業のようです。
既成概念なんてものは打ち壊すべしと体育祭の面影を失いつつありますが、綱引きとかリレーとか騎馬戦やったりするのを応援するというイベントはしっかり3日目に残っているので安心しました。
2-Aは皆相変わらずです!
今年も短距離走は春日さん、長距離走を神楽坂さんが爆走。
体育祭らしさを残している二人三脚は今年は鳴滝姉妹が出ましたがさんぽ部で1年の間に鍛えられすぎて優勝。
その師匠の楓さんは先のちゃっかり申請してたでござる競技で人外の記録を弾きだしました。
大体助走をつけなくても異様な跳躍力で棒高跳すら棒を必要としないレベルなのはもうメダルが取れます。
新たに追加された競泳では早速大河内さんが惜しくも1位を逃し2位でしたがこういうのが普通だと思います。
話題になった砲丸投げを試しに皆で見に行ってみたんですが、流石に異色すぎてすぐに帰りたくなりました。
巨人のような身体の大さの人達がズラリと勢揃いしていて、どの辺が小学生も楽しめる体育祭になっているのか異議を申し立てたいと思います。

団体球技は午後に始まるので皆でお昼を食べに行く事になり、さて何処へ行くかという所でやはり超包子となりました。
今回超包子で私も古さんも茶々丸さんも五月さんも働かなくていいという事で聞いていました。
その理由は8号店までが体育祭に出店されているからであり、その従業員は学園祭でもお世話になった雪広グループのお姉さん達とお料理研究会の競技そっちのけの大学生さん達でした。
もう運動していつもよりお腹が空いた人が3万人以上なので売れに売れているのは間違いないです。
鈴音さんとしてはこの体育祭にかかった費用を回収しようという発想なのでしょうが順調に超包子での征服が進んでいます。
席は一切空きそうになかったので大量生産している肉まんを皆で大量に買って学園祭の後夜祭が行われる草原の広場で、皆で食べる事になりました。
丁度午後から私が参加する団体球技のソフトボールの会場にもなっているので都合が良いです。
他にも参加できる球技はあったんですが、なんといっても神木の補助を使用するとボールが投げられた瞬間に軌道を知る事もできるので、その通り思いっきり振り抜けばホームランが狙えそうなので一度やってみたかったんです。
まあソフトボールと言っても9回の裏までやることは無く30分の試合時間でその間に交代が行われるのは何度でも構わなく表に入ったら必ず裏には入るというルールになっています。
交代要員を入れて10人まで参加できるソフトボールですが2-Aからは私、綾瀬さん、神楽坂さん、茶々丸さん、近衛さん、早乙女さん、桜咲さん、長谷川さん、エヴァンジェリンさん、宮崎さん、という図書館探険部のメンバーの占める割合が多い構成です。
多分長谷川さんとエヴァンジェリンさんが参加してる動機は他の球技に比べると楽そうだったからと言い出しそうなのであまり深く考えないことにします。
長谷川さんはこのメンバーで忍者と中国人がいなくて良かった……と安心していますが私と神楽坂さん、茶々丸さんあたりは自重しない筈なので2-Aで安心できる場所なんてありませんよ。
確かに楓さんがいると打ち上げられたボールを空中に飛び上がってキャッチしそうなので相手側がげんなりしないのは良いかも知れません。

「2-A対2-Jの試合を始めます両クラス共に礼!」

「「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」」

さあ記念すべき初戦の開幕です。

「みんなー後攻になったわ。エヴァンジェリンさんピッチャーお願いね」

神楽坂さんが一応キャプテンとなっていて、このメンバーだと正しい人選だと思います。

「ああ分かった。茶々丸はキャッチャーを頼む」

「はい、マスター」

エヴァンジェリンさんの顔は涼しげですがどうやら全力で投げるようです。
因みに女子中学生の試合でありながらウインドミル投法が認められています。
エヴァンジェリンさんが涼しい顔をしながらも……思いっきりボールを投球。
……物凄い良い音がしましたが、いくらなんでも早過ぎると思います。

「マスター、良い球です。この調子でどうぞ」

バシッっていう音なら分かるんですけどミットに入った音がどう聞いてもパァン!という感じでした……まるで銃弾です。
完全にバッターの子が怯えてるのであっさり三振です。
9回投げたらチェンジ。

「エヴァンジェリンさん凄ーい!初回から三者凡退なんて絶好調じゃない!」

「こんなものだとあっけないな。次は神楽坂明日菜が投げたらどうだ?」

「よーし、次は私に任せて。このかキャッチャーやってくれる?」

「ええよ、アスナ」

長谷川さんの身体が震えていますがまた例の異常を見ると寒気がするという奴でしょうか。

「長谷川さん、大丈夫ですよ。落ち着いてください」

「心配しないで大丈夫です……相坂さん」

鈴音さんから聞いているのとはやはり態度が違いますが、学校では大人しくしているんですよね……。

「相坂さん一番バッターよ!」

「はい!分かりました!」

やってきました、打順は出席番号順という芸の無い並びですが最初にランニングホームランで決めます!
相手のピッチャーが投げて……。

―軌道予測算出―

振り抜きますッ!

……ああ、今凄く良い音が……。
凄く……よく飛びました。
後は走り抜くだけです!
ホームの方では皆歓声を上げて喜んでくれています!

1塁……2塁……3塁……振り返ってみても全然余裕ですね。
1点!

「ランニングホームラン達成です!」

一度やってみたかったんです。

「相坂さんも凄いえ!」

「凄いです、相坂さん」

「もう一点目が入るなんて、この試合勝ったわ!」

「ありがとうございます。皆も頑張って下さい!」

《相坂さよ、少しやりすぎじゃないか》

《あはは……エヴァンジェリンさんもピッチャーやりすぎだと思いますよ》

《神木の補助を使用するのはいかがなものかと。一回やってみたかったという事なのでしょうが》

《さよ、何したか大体分かるがズルは良くないネ》

《……分かってますよ。キノの言うとおり一度やってみたかっただけですから、次からは普通にやるので安心してください》

《私もピッチャーで少し本気を出したらこれだからな、神楽坂明日菜に譲ったよ》

《エヴァンジェリンお嬢さん、それは多分大して結果は変わらないかと》

私もそこは間違いないと思います。
……その後は綾瀬さんが打ち上げてしまいアウト。
それでも長谷川さんまで回って交代となりましたが、何の戦略性もないのに4点普通に取れたあたりやはり2-Aはズバ抜けています。
2回目の表は予想通り神楽坂さんが豪速球を投げ三振を連発で交代、大量得点の繰り返しで圧勝でした。

……順調に準決勝にまで進出し試合も終わりという時。

「エヴァ!ピッチャー頑張って!」

「エヴァちゃん相変わらず可愛い!」

と、信じられないぐらい親しい呼び方をする集団が現れどんな人達かと思ったら超包子で働いている社員さんの一部と知らないお姉さんの集まりでした。
私はサードを担当していてエヴァンジェリンさんの顔が見えたんですが、凄く嬉しそうな顔をしていて驚きました。
あっという間に6回投げて人をアウトにして試合終了でした。

「応援来てくれてありがとう。この前美幸達に会ったのは学園祭振りだな」

「エヴァの勇姿が見れるならどこにでも現れるに決まってるじゃない」

「ちゃんと録画してるからね後で家に送るから」

「ねぇ、久しぶりに抱きついても良い?」

「ああいいぞ、学園祭の時は着物が崩れるといけなかったからな」

「それでは失礼して……う~ん、この感触はやっぱり忘れられないな」

エヴァンジェリンさんに躊躇いもせずに抱きつきました。
抱きつかれているエヴァンジェリンさんの方も全然気にしていないようです。

「それにしても雪広グループに就職していたと聞いてたが何故超包子で働いてるんだ?」

「それはね……超ちゃんっていう子が本社に大分前来てそこから超包子のブランド化を進めたいっていう計画を頼まれて私達がそれに参加することになったのよ」

鈴音さん、世界は狭いですね。
どうやらエヴァンジェリンさんと12年近く同期だった人達のようです。

「超鈴音か、今私と同じクラスだよ」

「えーそれ本当なの!世の中意外と狭いものねぇ」

麻帆良の中にいれば仕方ないかもしれません。

「超ちゃんはソフトボールじゃないのね」

「バスケットボールだったと思うぞ」

「まあいいわ。優勝したら皆でまた記念写真取ろうね」

「……まだ優勝と決まった訳ではないぞ」

「さっきエヴァの2-Aのスコア確認したけど圧倒的なんだから優勝確実でしょ」

「……それもそうだな」

そんな会話の応酬へと現れたのは……。

「皆さん!応援来ましたよ!」

ネギ先生ですが……これは火に油を注ぐ事態になります。

「キャー!エヴァちゃんこの男の子誰なの!弟!?」

「わっ、す、すいません放して下さい!」

あっという間にネギ先生はお姉さん達に確保されてしまいました。

「弟じゃなくてそのぼーやは2-Aの担任だよ」

「じゃあこの子が噂の子供先生なのね!」

「超ちゃんから聞いてたけど相変わらず変な学校よね。子どもでも先生できるんだから」

鈴音さん、超包子企画部でどんな会話してるんですか。

「あら、暴れちゃだめよ坊や」

慌ててネギ先生が振り切ろうとしていますが、下手に力を出すわけにもいかず困っています。

「お、降ろしてください!」

ネギ先生、助けられなくてごめんなさい。

「あれ、そっちにいるのさよちゃんじゃない」

やっと私に気づいたみたいですね。

「こんにちは、西川さん超包子で今日は私達働けなくてすいません」

「体育祭なんだから中学生はしっかり運動してればいいのよ。私達も今日だけで随分稼いだから仕事として当然ね」

「ありがとうございます。それでそろそろネギ先生を降ろして上げた方がいいと思いますよ。周りの人達も皆見てるみたいですし……」

「あらそうね。美幸、ネギ君降ろして上げなよ。ほら、恥ずかしがってるから」

「えーいいじゃない別に。次いつ会えるか分からないのよ」

「美幸ばっかりずるいぞ、ほれ、こっちにも回しなさいな」

……流石にこの状況には神楽坂さんも唖然として手出しできないとは思わぬ強敵がいたものです。
早乙女さんの目が怪しく光ってるんですが何か創作のインスピレーションでも湧いたのでしょうか。
長谷川さんが微妙な顔でその早乙女さん見てますけど……。
宮崎さんが顔を赤くしてますが……そういえばネギ先生が好きみたいですね。

この後この賑やかな空間が収拾したのは次の試合が始まるから移動して欲しいと係の人達から言われてからでした。
決勝戦もネギ先生はお姉さん達にガッチリ捕まえられた状態で応援してくれることになり、私達もなんとなく恥ずかしくなったので本気で相手チームと試合してしまい凄くスカッとする圧勝っぷりでした。
生きてるっていうのはこういう時右手を握り締めて実感できる瞬間だと思います。
お姉さん達の言うとおり優勝したので皆で写真を撮り続け、ネギ先生がエヴァンジェリンさんをマスターなんて呼ぶものだからまた騒ぎになったりして大変でしたが楽しかったです。
すぐその後に鈴音さん達のバスケットボールのグループも到着して去年より1日早いですが打ち上げを、超包子を貸切りでやりました。
どうやらバスケットボールの方も圧勝だったみたいです。
クラスの31人に更にネギ先生、お姉さん達を合わせて50人近くなりましたが何処からともなく朝倉さんが本格的カメラを用意して皆で写真をもう一度撮りました。
最初は体育祭の面影が失せつつありどうかと思いましたがとても良い1日目の体育祭になったと思います。



[21907] 18話 ウルティマホラ
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 18:57
昨日の1日早い打ち上げには雪広の社員サン達も加わったがエヴァンジェリンの同期のお姉サン達だという所までは知らなかたネ。
流石にあの場で商売の話をあまりするのは良くないから1日の売上だけ聞いておいたが、いつもの激安価格設定で1000万に達したのだから上々だナ。
恐らく4日で4000万越えにはなると思うが原価が結構占めてるから今回あちこちに支払った費用を少し回収できた程度に過ぎないネ。
まあ肉まんは世界征服の手段の一つと考えれば超包子自体で赤字にならなければそれでいいヨ。

「実行委員長サン、初日の運営と反応はどうただかナ」

「今まで使えなかった施設を開放して種目数が増えて人を分散させる事ができましたし、あの飛行機能付きの建物のお陰で端から端までの緊急輸送も助かりました。反応としては体育祭らしさがなくなったという声と大学の部活系からはマイナー競技も申請許可に感謝しているという声が来ていますね。前者については3日目で解決しますからおおむねこの1ヶ月苦労した結果が実ったと思います」

「急な変化には反発する声もあて当然ネ。私自信も昨日は体育祭を楽しめたし良かたヨ。今日はいよいよウルティマホラ小学生の部だが仕込みの方は要望通りしてもらえたかナ」

「噂の子供先生と会長さんすら知っているという小学生の東と西への配置、大人の部出場の場合の予選参加グループの分散ですね。心配しないで大丈夫です。超さんと古さんとその二人はバラバラですから当たるとするなら本選になります。またその本選すらも今回は東西南北の四つになっていますから抜かりはありません」

「職権乱用の気がするが感謝するヨ。予選よりもやはり本選というちゃんとした舞台でのほうが緊張感が出るからネ。古もあの子達もそういう場所の方が本気が出せるヨ」

結局中・高・大それぞれで枠を決める事は決定したが、前年までと同じくそれぞれを更に4つのグループに分割して枠を争うというのは引き継いだから都合が良かたネ。
予選でも当たておきながら本選でもまた当たるというのは一度きりという稀少性が失われるからナ。
予選が総当り戦だから互いにどこまで白星を作れるかで競えそうだが結果は手加減でもしない限り中学生同士なら負けはしないカ。
本選の枠も東西南北で24づつに増やして去年のベスト8からベスト16まで決定させるから総試合数も67から107まで40試合も増やせたのは苦労の賜物だネ。

「これだけ費用を負担して貰いましたしそれぐらいお安い御用ですよ。こちらとしてもその方がウルティマホラが盛り上がりますしね。トトカルチョも我々が全て一括管理させてもらうというのも運営資金の足しになりますから十分な対価も得られますから」

「毎年勝手なトトカルチョを開く人達がいるぐらいだから正式に電光掲示板で一括管理した方が観客側でのいざこざも減るだろうからナ」

「血の気が多いのはいつもの事ですね。下手な人達がトトカルチョを行なおうとすると例年金銭トラブルになりますからね」

「この交渉を生活指導委員会と行た時は負担が減るから助かると言われた時は拍子抜けだたネ」

「トトカルチョがどこでも行われる風潮はもう麻帆良では今更ですからね」

「うむ、ところで疲労回復施設を龍宮神社の南門の場所に設置させてもらたが説明は行き届いているかナ」

「……また不思議な装置ですねあれは。あの場所にいるだけで疲れが取れたり身体の痛みが引くというのは驚きましたよ。お陰でここ連日の肩こりやら寝不足が解消されて助かりました。選手の誘導のパターンは完璧ですから任せてください」

一応それらしい機器を置いてあるが実際には全く意味が無いのだけどネ。
魔分溜りを使用するという事については予め学園長に伝えておいたから、それとなく根回しされている筈で、私がまた魔法先生達から不審な目で見られたりということはそこまで無いとは思うが、一部の頑固な人達は仕方ないナ。

「それを聞いて安心したネ。私は純粋にウルティマホラを楽しませてもらうとするヨ」

「今年は古菲さんとの勝算はいかがですか」

「古は去年よりも更に強くなているからナ。全力でぶつかり合えればそれでいいヨ。坊主達にはまだまだ負ける気は無いがネ」

「彼女に追いついていけるだけでも我々としては驚きですよ」

「そろそろ今日のメインが始まるし私は行かせてもらうネ。朝のホームルームも昨日も今日も出ていないからナ」

「実行委員会に名を連ねているのですからホームルームに出ない事ぐらい当然でしょう」

「まさに役得だネ」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「楓姉、そろそろネギ先生達の小学生の部始まるよね」

「そうでござるな。さよ殿予定はどうなっているでござるかな」

「午後からですけどもう始まってますね。選手の保護者は客席に優先で入れるそうですけど小太郎君は楓さんが保護者になってるんですよね」

「よく知っているでござるな。山での修行の時に頼まれたのでござるよ。そういうネギ坊主は誰が保護者かな」

「いいんちょさんです。保護者制度が発表された瞬間に申請しに行ってましたからね。なんだかんだ神楽坂さんと争って獲得したらしいです」

神楽坂さんが姉として主張したところそれなら私は母親でも構いませんわ!と親権まで主張し始めたので神楽坂さんがこれは付いていけないという状況になり折れたんですが。

「そうであったか。いいんちょは相変わらずでござるな」

「さよー、私達は一緒に入れないの。早くいかないと終わっちゃうよ!」

小太郎君とネギ先生なら負けませんから安心してください。

「任せてください!2-Aで見たい人は特等席とは言いませんがその用意がありますから」

「「わーい!」」

両手を上げでジャンプする鳴滝姉妹は本当に小学生にしか見えませんね……。

「それにしても楓さんは今年もウルティマホラ出場しないんですか?」

「そういうさよ殿も今年は出ていないでござらぬか」

「私は去年出て満足していますから。これは私の予言みたいなものですけど、来年は楓さんも実力を出せる大会が開かれると思いますから楽しみにしてくださいね」

「ほう、それは良い予言でござるな。コタローの師匠としての見せ場も欲しかったでござるからな」

「さんぽ部っていつのまに忍術学校になったんですか?」

「拙者は忍者ではござらんよ。ニンニン」

「僕とふみかは甲賀忍軍なんだよ!」

隠す気全く無いですよね!
まあオープン過ぎて逆に信じてない人が多いんですけど。
……気を取りなおしていいんちょさんを除いた皆で龍宮神社の会場に向かいました。
着いてみると鈴音さん達から聞いていたとおり南門にあからさまな休憩室がありますが……どう見てもお爺さんお婆さんも席に座ってるんですけどなんですかこれ。

「お爺さん、ここで休んどると気分が楽になるのう」

「婆さんもリウマチが良くなるとええの」

…………いいんですかこれで。
実際キノと鈴音さんの絶対に外部には知られたら駄目な実験のお陰で痛みであるとかピンポイントに良くなるそうなので利用してもらえる分には役に立っているとは思うんですがね。
小学生の部なので温かい空間ということで放っておきましょう。
明日からは巨人みたいな人達が座ると思うと激変に着いていけません……。
去年の生理的に立ちふさがった相手の人達を思い出しそうです……。
っていうか鈴音さんと朝倉さんが司会やってるんですか!
どおりで今日見かけないと思ったら……「やあよく来たね」みたいな反応して軽くスルーしようとしてますし。
小学生の部で集まったのは大体100人ぐらいだったようですが一度に4試合ずつ進めていたので大分試合は消化されてますね。

「「ネギ先生!応援に来たよ!」」

「あ、皆さん来てくれてありがとうございます!」

「あら皆さん遅いですわね」

いいんちょさんはネギ先生が絡むと色々スイッチを入れるの控えた方がいいですよ……。

「いいんちょが早すぎんのよ……」

「最初の方の試合は俺達にとっては大したことあらへんから丁度良いと思うで」

「コタローも順調のようでござるな」

「俺の本命はネギとの真剣勝負と明日からの大人の部やからな」

「あー!その子がコタロー君なの!?」

そういえば小太郎君の事はクラスの全員が知ってるわけでは無かったですね。

「そうや!俺が犬上小太郎やで」

何やら普通に話しだしましたが会話で相手を選ばないタイプなので放っておいても大丈夫そうです。
この後二人が順調にトーナメントを勝ち上がって行き、その度に圧倒的な強さから皆「かっこいい!」とか「ネギ先生あんなに強かったんだね」と予想通りの反応をしてました。
まだ魔分と気を使っていないので決勝戦でどうなるかやや心配ですが。
実際相手の子供達があっけなく二回投げられてストレート勝ちというのは若干可哀想な気がしますが。
まあ手加減してるのは良いことだと思います。
何故か小太郎君が背負い投げにハマってるみたいなんですが「派手でええやん」だそうです。
まあ床が木で出来ている訳ではないですから危険な怪我には至らないと思います。

「やあ皆、担任から外れたけど元気にしてるかい」

「高畑先生!」

神楽坂さんのこの反応の早さは久しぶりですね。

「高畑先生もネギ先生を見に来たんですか」

「ああ、超君からネギ先生が出場しているから見に来たらどうかと言われてね」

鈴音さんはあちこち気が回りますね。
多分明後日の本選は混む事を予想して呼んだのだと思いますが。

「これがネギ先生の今の戦績ですよ」

「おお、全部ストレート勝ちか。ん、どうやら本命はコタロー君かな」

「その通りです。2人で真剣勝負して大人の部にも出場ということです」

「うん……良くできているね」

それはその通りですけど先生が言うのはどうなんですかね。
予想通り2二人の決勝戦と相成りました。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ここまで勝ち上がって来たのは今までの修行から考えれば当然だ。
いつもの会話法で頭が痛いのは乗り越えるしかない。
まだ本気で武術で戦ってコタロー君に勝ったのは一度もないけど頑張ろう。

「よっしゃ!ネギ!やっと決勝やな!本気で行くで!」

コタロー君が気で強化した。

「僕も今日は本気で行くよ!」

マスター達に言われて普段の修行の時は魔力で身体強化をしないでやってきたから最初はうまく身体が動かなくて大変だった。
でも今なら、強化しないで訓練した意味が分かる。
日常的に強化してた頃よりも改めて強化すると更に身体がよく動くようになったから。

「犬上小太郎対ネギ・スプリングフィールドの決勝戦を始めます!両者共に礼!」

「「よろしくお願いします!!」」

「試合始めッ!」

構えから一歩で接近、そのまま突きッ!

―箭疾歩!!―

後ろに下がられたッ!

「ネギの得意技やからな!」

連続瞬動か!

ならこっちも!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「ねー!あれ一体どういう事なの!?ネギ先生達瞬間移動してるよ!」

「ネギ坊主も箭疾歩が得意技とは八極拳の秘伝も安いものアル」

「い、いつの間にこんなにネギ先生達は強くなってるんだい」

「というかあれはルール違反に近い筈なんですが……」

一応格闘大会だから連続で瞬動するのは無しですよ、無し!
後ろ取り合って狙い撃つんじゃないんですから。
エヴァンジェリンさんもちゃんとその辺伝えてなかったみたいですね。

[[おーっと小太郎選手とネギ選手の動きが突然早くなったーッ!これはどういう事なのでしょうか!、超さん解説お願いします]]

[[あー、小太郎選手、ネギ選手、その歩法の2回以上の連続使用はウルティマホラではルール違反とするネ。即刻やめるように]]

「そんなん聞いてへんよ!」

「ご、ごめんなさい!」

[[審判の先生、もう一度仕切りなおし頼むネ]]

「両者共に一度位置に戻りなさい!……試合再開ッ!」

[[解説の超さん、何故ルール違反なんでしょうか。これはなかなか見られるものではないと思いますが]]

[[ウルティマホラは純粋な格闘大会ネ。先のような足の早さを競うのとはそもそも趣旨が違うからルール違反とすることにしたヨ]]

去年の古さんと鈴音さんの試合でも高速で移動し続けながら戦うということはしてませんでしたからね……。
まあ打ち合い自体は高速でしたが。
単純に気や魔力を足に貯めないとできないので一般に余り知られる訳にはいかないだけなのですが。

「広域指導員の時に似たような事やってる高畑先生は、意外そうな顔するのやめた方がいいですよ」

「……あ、ああ、済まない相坂君。ついいつもの癖でね」

指摘されてから、そういえばという顔をしました。

「高畑先生もあんなことできるんですか!?凄い!」

「ア、アスナ君落ち着いて」

そういえば神楽坂さんは別荘に入ったらしいですがキノの話ではなんだかんだ別荘の色々な施設を堪能して過ごしたそうで修行自体を見た訳ではないらしいです。

「ぼーや達のいつもの癖が出たな」

「確かにああいう事が単純にできるだけで楽しそうだとは思います」

「ネギ坊主もコタローも腕を上げたでござるな。古はあの二人にまだ勝てるでござるか」

「仮にもあの坊主達の中国拳法の師匠アルからまだまだ負けないアルよ。超でもまだ負けないアルね」

「それでも成長速度が異常だと思いますよ」

「それは否定しないアル……」

ネギ先生の対処が冷静ですね。

「あっネギ君が一本取ったよ!すごーい!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ネギ坊主のカウンターで転身胯打からうまく裏拳が決またナ。

「やるやないかネギ!でもこの勝負絶対負けへんで!」

「両者位置に戻って!……第二ラウンド試合始めッ!」

しかし先の瞬動連発はどうしようかと思たヨ。
周りの小学生達の事も少し考えて上げた方がいいネ。
あまりに差がありすぎてショックを受けてる子もいるようだからナ。
小太郎君も一本取られたからかなりキツイ所に打ち込んでるネ。

[[超さん、今度は小太郎選手が優勢のようですがどうですか]]

朝倉サンもノリノリだナ。

[[先程よりも小太郎選手の動きが鋭くなているからこのままだと判定勝ちもあり得るヨ]]

[[なるほど、判定勝ちは今まで両選手はストレート勝ちでしたがその可能性もありますか]]

[[小太郎選手はあちこちの道場で色々体験しているから繰り出す技が変速的で読みにくいネ]]

[[中国拳法、柔道、空手、ボクシング、ムエタイ等々、調べた所によるとここ数ヶ月で門戸を叩いたのは数しれないようですね]]

[[門戸を叩いたというよりは殴りこみをかけたのが正しいネ]]

[[元気な小学生ですね。何故学ランなんでしょうか]]

[[小太郎選手にとて学ランは戦闘服らしいヨ]]

基本的にパンチよりも蹴り技の方が突然出てくる上威力が高いから一度見せられた上でペースを取られると消極的になりやすいナ。
ネギ坊主は蹴り技はあまり使わないから余計に意識してるようだネ。

[[どうやらこだわりもあるようですね。おおっとここで強烈な回し蹴りがネギ選手の脇腹にクリーンヒット!]]

「犬上小太郎選手!一本!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ネギ先生が肘鉄を当てようとしたところを小太郎君が体勢を低くして回避しながら回し蹴りを放ったのが決まりましたね。

「ああ!ネギ先生がお怪我を!あの野生児は手加減というものを知らないんですから!」

「いいんちょさん落ち着いてください」

「綺麗に入ったがネギ坊主は大丈夫でござるよ」

魔分で身体強化してますからちょっとやそっとでは怪我にはなりません。

「第三ラウンド始めッ!」

「相坂君、ネギ君も夏休みに色々体験していたんだっけ」

私に尋ねてくるということは、動きについては一応の把握はされているようです。

「中国拳法、合気柔術、バイアスロン、剣道、山篭もりが主なので小太郎君よりはバリエーションは少ないですよ」

「格闘じゃないのも混ざってるんだね……。その内容からすると皆2-Aのクラス関連かな」

「はい、古さん、鈴音さん、いいんちょさん、私、エヴァンジェリンさん、龍宮さん、桜咲さん、楓さんです」

「ははは、随分豪華だね。そんなに連れ回したのは一体誰だい」

分かっていて地味に不審そうな顔でこっちみるのやめて下さい。

「あー、それは私です、高畑先生。学園長先生から聞いてないんですか?」

やりとりが白々しいです。

「相坂君なのか。ここ3ヶ月近く出張が多くてね。学園長とも仕事の話しかしていなかったからね」

学園長先生も高畑先生に多くは話していないようですね……。
伝達内容が少ないのはいつもの事かもしれませんが。

「丁度クラスの皆に慣れる事もできて良かったと私は思います」

「……そうだね。僕もいつでも頼って良いと言っておきながら時間が取れなかったからな」

話によると1ヶ月間戦いの基礎をネギ先生に教えたのが高畑先生だそうで、自分で教えられなかったことに責任を感じているのかもしれませんね。
2人の試合の方はというと基本的に距離を取り合って両者タイミングを図るという事がなく、常にどちらかが攻撃すれば、ガードかカウンターに入るのを交互に繰り返すという状況で、未だ練度では上である小太郎君の方が優勢です。
さっきの蹴り技を受けたのが精神的に効いているらしく今一歩ネギ先生は攻め手に欠けますね。
そういえば鈴音さんも足に断罪の剣というのを出す練習をしていましたが確かに意表を突かれると厄介なのは違いないですね。

[[おっとネギ選手が小太郎選手を投げた!]]

[[まだだ、無茶な状態だが身体を捻って一本入るのを回避したヨ]]

[[とても小学生の動きとは思えません!後1分程で試合が終了になろうとしていますが、今回も判定では小太郎選手の方が優勢でしょうか]]

[[ヒット数からすれば小太郎選手の勝ちだナ]]

[[ネギ選手が最後に仕掛けたッ!]]

焦ったネギ先生でしたが、それを引き出すのを待っていたかの如く小太郎君が突き出された腕をつかんでそのまま背負い投げをしました。
さっきの仕返しですがこれは回避できないでしょう。

[[綺麗な背負い投げが決またネ]]

「一本!勝者犬上小太郎!両者共に礼ッ!」

「「ありがとうございました!」」

「ネギ!今回は俺の勝ちやな!」

「コタロー君優勝おめでとう!」

「ネギせんせーい!惜しかったよー!」

「コタロー優勝おめでとうアル!ネギ坊主は惜しかったアルな」

[[今年初めての小学生の部でしたが優勝者は犬上小太郎選手に決定しました!会場の皆様、両選手に拍手をお願いします!]]

[[犬上小太郎選手にはトロフィーの贈呈だヨ!保護者の長瀬楓さんは壇上に上がって選手に渡して欲しいネ]]

ああ、そういうイベントなんですかこれ。

「拙者がトロフィーを渡す事になろうとは思わなかったでござるよ」

「楓姉いいなー!」

「小学生の部らしい配慮ですね」

「ネギ君がここまで強くなっていることには驚いたけどコタロー君にはまだ及ばないか」

裏で実際に戦闘している分やはり差が出ますね。

「この短期間であれだけ強くなったんですもの、次にやったらネギ先生が勝ちますわ!」

楓さんが鈴音さんからトロフィーを受け取り壇上に上がって小太郎君に授与します。

「コタロー良くやったでござるよ。優勝おめでとう」

「楓姉ちゃんおおきに!弟子としてしっかり結果を出したで!」

本来保護者は呪術協会の人がやっても良いとも思いますがそのあたりは複雑なんでしょう。
皆拍手を続けたり歓声を挙げたりしていますが保護者の人達が多いので温かい空気広がってます。

[[上位3名までは明日から予選が行われる大人の部に参加する事ができます。手続きは受付で行って下さい]]


「皆さん僕2位でしたけど明日からの大人の部の予選も頑張ります!」

「明日も応援に行くよネギ先生!」

小太郎君とこの場で本気で勝負できて良かったですね。
きっと大人の部から始まったならお互い決勝で会おうと言い出しそうな子達ですから。
因みに優勝者の小太郎君には超包子から食券が300枚贈呈されました。
運動してお腹がすく小太郎君には丁度良いですね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

惜しくも小太郎君に勝利できなかったネギ少年だったが、頭痛持ちの状態という事を鑑みれば、寧ろあれだけ戦えただけでも上出来と言えるだろう。
3日目のウルティマホラ予選はネギ少年、小太郎君、古菲、超鈴音の4人は全員別々のリーグに振り分けになり、各々白星を重ねて見事本戦出場となったが、総当たり戦で行われる、麻帆良では馴染みのトトカルチョとはどういったものになっただろうか。

《超鈴音、トトカルチョがどちらが勝つではなくどの選手がどれだけ白星を上げるか、とそのリーグから誰が本選出場するかという組み合わせを対象にするのは、なかなか面白いですね》

《予選というと観客としては単純に本選までの情報集めという側面が強かたからネ。例年だと誰が勝つ……で終わてしまうが、総当り戦なら強くない選手がどれだけ勝てるかも賭けの対象にする事ができて、観客も積極的に楽しめるようになてるからネ。胴元を実行委員会で独占して、今までに集めた詳細な事前情報で倍率も全部決めたから最終的には委員会側が儲かるように出来ているヨ》

《古菲と超鈴音の倍率が極端に低いのはそれが原因ですか》

《まさかの単純倍率1倍未満というのは賭けようと思っていた皆若干引いてましたね。勝利数の予想まで含めなければ1倍を越えないと分かってクラスの皆は専ら比較的倍率が高く設定されているネギ先生達に賭けてましたからね》

《フフ、当然じゃないカ。まあ私に賭けた連中は痛い目を見ただろうナ》

《最後に一度わざと負けた事ですか。作戦といえば作戦ではありますが》

《賭けた人達は大抵何も考えずに全勝で出してたみたいですからね……》

《思わず昨日終わた後は実行委員長と会長サンで大笑したヨ。天才頭脳はえげつない等と言われたが仮にも私は委員会側の人間だからネ。一般人の期待通りの行動をする筈無いヨ》

《ネギ少年も予選を身体強化無しでやる時とやらない時があるせいで2回ほど負けてましたが、あれはエヴァンジェリンお嬢さんの命令ですか》

《ネギ坊主は純粋だからネ。まあ丁度良い相手には身体強化を使わなくても良さそうだと判断したらエヴァンジェリンが指示していたようだヨ》

《……そうなると複合倍率が最高で1.00倍の古菲も除外するとして唯一の良心とも言えるのは小太郎君だけでしたか。古菲の熱狂的なファン達が増えはしなくとも買うという暴挙に出ていましたが》

《昨日の試合を見に来ていた人達しか殆ど知りませんから小太郎君は穴場でしたよ》

《途中から俺も倍率下げてくれやと言われたときは困たがネ》

《倍率が低いほうが強いと言うのを楓さんが言うものだから俺はもっと強いわ!ですからね》

《小太郎君の強さはあの年ではかなりの物ですがその辺りがまだ子供と言った所でしょうか》

《委員会側の認識としてはあまり日の目見なかた格闘大会の予選が総当たり戦という形式のお陰でかなり凄い盛り上がりを見せて来年も是非という事になたヨ》

《これで来年の麻帆良祭の下地も着々と進んでいると。……ところで疲労回復の術式はかなり評判が良かったようですが?》

《一昨日行った人の噂を聞きつけてやってきてたお年寄りの集団は異色でした》

《あれは私も予想外だたヨ。確かに痛みが引くから関節痛に良く効くのは間違いないからナ。仕方が無いから試合中は体調が良くなたお年寄りから順に特製疲労回復ドリンクを安く売てお帰り頂いたネ。結局試合終了後に再度現れたのには何かの執念を感じたけどネ》

《3日間自動発動ですから……仕方ないでしょう》

《生活指導と言う名目で先生達まで試合終了後に来たのは職権を行使しているとしか言えませでしたね。にこにこしながら肩凝りが楽になって良かったと言ってましたけど》

盛り上がったのはウルティマホラだけではなく、身体の痛みに悩む人々も……という事であった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

昨日の予選はマスターに言われて身体強化をしなかった時に負けちゃったらクラスの皆に泣かれたのは困ったな。
皆チケットを握りしめていたけど、あれがトトカルチョっていう奴なのか。
一昨日コタロー君に負けたのは悔しかったけどコタロー君が呪術協会のメンバーで麻帆良に来る前も来た後も修行してたんだからそう簡単には勝てないよね。
マスターも頭痛がある割りにはよく頑張ったって言ってくれたし、何より魔法も含めればどうなるかはわからないっていうのは自信になった。
最近魔法の射手の効率が上がって無詠唱でも3矢までなら出せるようになったし威力と飛距離、精度も龍宮さんの所で射撃訓練したのが良かったかな。
元々僕はイギリスで射的は得意だったけど射程距離が伸びたのはこっちに来てからだ。
……ウルティマホラだけじゃなくて日本の伝統的な体育祭の競技に皆が参加しているのも応援できたし、しかも学年優勝までして楽しかった!
さて、今日は本選だしホームルームもある!頑張るぞ!

「きりーつ!れーっ!」

「皆さん、おはようございます!昨日の綱引きや騎馬戦は僕初めて見たので凄く楽しかったです。学年優勝もおめでとうございます!」

「ネギ先生おはよう!優勝は皆の頑張りだよ!今日の本選頑張ってね!」

「「「今日は昨日みたいにうっかり負けたりしたら駄目だよ!」」」

「ゆーな達は先生に沢山賭けてたからね……」

「だってあんだけ強かったら予選も全勝だと思うにゃー!」

「あれで私のお小遣いが……」

「皆さん元気だして下さい!今日は僕しっかり勝ち進みますから!くーふぇさんと超さんと当たったら辛いかもしれませんが頑張ります!」

「良いこと教えてあげるよ。本選もネギ君は小太郎君、くーちゃん、超りんとはベスト4まで上がらないと当たらないという確定情報が入っているのさ。情報元は実行委員会の超りん自身だけどね」

「本当ですか、朝倉さん!ありがとうございます!それで今日はもう殆ど競技もなく振替休日に近いかもしれませんが体育祭が終わるまで怪我なく過ごしてください!」

小学生の部も予選も当たらないようになってたけど超さんがそういう風にしてくれたのかな。
超さんは今日もホームルームは出てないけど色々やってて凄い人だなぁ。
超包子を経営してたり、携帯電話を作ってくれたり、寮の警備ロボットもそうだし、実行委員会にも参加してるし、あの会場の疲労回復施設では魔力の反応があったけどあれも作ったのは超さんなのかな。
でも超さんからは魔力を感じ無いしそれは無いか……。

《ぼーや、今日の本選は最初から最後まで身体強化していいからな。行けるところまで行って来い》

《分かりました!マスター!》

マスターの許可も出たし頑張ろう!

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昨日はウルティマホラの予選がとても白熱しましたが、中学生の部のウルティマホラ予選は午前中だったので午後は当然伝統的体育祭としての綱引きや玉入れ、棒倒し、騎馬戦、リレー等も行われこちらも大盛り上がりでした。
騎馬戦は前年通りエヴァンジェリンさんの無双が起こり、大学生の熱狂的集団に更に超包子グループのお姉さん達が加わり大混乱でした。
大量の鉢巻を手にしてお姉さん達の方に優しく微笑かける姿を射線軸上にいて直視してしまった男性の一部はその場で倒れたので、視界が開けてよかったと思います。
綱引きは神楽坂さんがいるとただ手を添えるだけのようになり、リレーも神楽坂さんと春日さんで後は適当にして学年優勝が取れるのは2-Aの凄さを実感する瞬間です。

私達中学生の競技はもう無いので本選のトトカルチョにまた皆が燃えています。
本選のトトカルチョのルールはどちらが勝つかだけでなく勝負の内容までが範囲になっているのでこれまた賭ける側としては面白みがあります。
ストレート勝ちになるかどうか、また任意で倍率を上げるために判定勝ちが試合に含まれるかどうかも選択できます。
はっきり言って引き続き実行委員会がボロ儲けする企画でしかないのですが、昨日とはまた違ったルールに皆興味があるみたいですね。
流石に今回は鈴音さんも酷い事をしないと思いますが、その代わり倍率がまた物凄く下がり、トーナメント最初の単純倍率は1倍未満で内容の分を賭けても丁度1倍という恐ろしさ……。
古さんの熱狂的ファンは相変わらずそんな事をものともせず買いまくってるようですが古さんに何かが還元されるわけではないのでそろそろ目を覚ましてもいい筈です。

……全107試合全てに付き合っていられないので結果から言えば頂上あたりで古さんと鈴音さん、また小太郎君とネギ先生があたる事になりました。
やっとこの段階になって4人の倍率がまともな水準に復活しましたが、正直勝負の内容まで当てるというのは至難ですよ……。
同時にこの二つの試合が行われる事となりましたが、ネギ先生達の方は小太郎君が全く油断しなかった為ストレート勝ちとなりました。
古さんと鈴音さんの友情熱い戦いは今回も手に汗握るものでした。

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こちらに来て後2ヶ月もすれば2年が経つが当時よりも身長も伸びた私は古よりも手足の長さでもリーチがあるから有利ネ。
……とは言たものの、毎日長時間修行している古に比べて私は毎日必ず少しは鍛錬して時々中国武術研究会で活動するぐらいだから大分差が付けられてしまたヨ。
今回もなんとか一勝一敗の状況には持ち込めているが、エヴァンジェリンの別荘で古は修行したからか気の扱いが格段に上手くなているナ。

「最近更に強くなたな!クー!」

「超こそ蹴りが強烈になたアルよ!」

どうしても火星生まれの弊害のせいで気が地球生まれの人類よりも小さいのは分かていたが、やはりこういう時軍用強化服がなければこの時代の達人とやりあうのは辛いと感じるヨ。
それでも私は今ここでこうして毎日を生きている。

「試合始め!」

古の腕から繰り出される打撃には常に良く練られた気が込められているからまともにあたるのは勘弁したいネッ!
右上、左下、左上、右下、中央……次々と打ち合いをするが。
古が勢い良く踏み込みを入れて高速で散打を仕掛けてくると一手一手が微妙に遅れ、じわじわ削られるッ!
……一旦後ろに引いて間合いを取りなおし蹴り主体で攻めるネッ!
アーティファクトを使ての浮遊術の状態で蹴りの訓練をかなり積んでいるからこっちならまだ勝機がある!
まあ今は浮いてなどいないがナッ!
……静止状態から蹴りを放っても硬気功を使って防がれるから離れた所からの踏み込みが必要!

……狙いは腹当たりに飛び蹴りッ!

「ハァッ!」

両腕でガードされたが読んでるネ!
既に腕は封じているッ!
そのまま足場に利用して無理やり身体を捻り首筋に回し蹴りッ!

「フッ!」

……!この一瞬で身体を反らすかッ!
体勢を崩されるネッ!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

僕は今日コタロー君にストレートで負けちゃって今まだ終わってないくーふぇさん達の試合を見てる。

「ネギ!姉ちゃん達の本気の勝負見たの久々やけどやっぱ強いな!」

「うん!次にどちらかと試合だと思うとドキドキするよ!」

「ここだけ空気がピリピリしとるで!」

超さんはいつも飄々としてるように見えるけど今は一心にくーふぇさんと戦ってる。

「おお!超姉ちゃん大胆な蹴りに出るで!」

「あっ!くーふぇさんの方が反応が早い!」

体勢を崩した状態で超さんが着地したところをくーふぇさんが身体の反りを一瞬で戻し強烈な追い打ち!
綺麗に掌底が入った。

「勝負有り!勝者古菲!」

「やっぱくー姉ちゃんの方が強いんか。超姉ちゃんにもまだ俺勝てへんけどこれは決勝辛いわ」

「コタロー君が超さんに勝てないなら僕も3位決定戦は辛いよ」

「ま!それでもここまで来たんやから本気ださなあかんな!」

「うん!」

「くーちゃんおめでとう!超りんお疲れ!」

「古さん、鈴音さんお疲れ様です、今年も良い試合でした!タオル使ってください」

「二人は仲良しでござるな」

「古はこの1週間で急激に強くなてるものだから困たネ」

「私はもう少し身長が欲しいアルよ」

「くーふぇさん、超さん、凄く良い試合でした!」

「姉ちゃん達研究会でやっとる時よりも真剣さが違うわ!」

「おや、ネギ坊主達は試合終わていたのカ。次はどちらと3位決定するのかナ」

「僕が超さんの次の相手です!よろしくお願いします!」

「ふむ、ネギ坊主が相手カ。今までの成果を見せてもらうとするヨ」

「くー姉ちゃんの相手は俺やで!」

「コタロには負けないから今年の優勝こそ私が頂きネ!」

「くうっ!せめてストレート勝ちにはさせへん!」

「大きく出たアルな!」

「まあまず休憩所に行くネ。3位決定も優勝決定もベスト5以下が決定されるまでは時間があるヨ」

そうか、次は超さんと試合するのか。
8月に少し相手してもらった時は型を教えてもらったりばかりだったから本気で試合するのは初めてだ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

鈴音さん達が4人とも休憩所に向かいましたが、かなり倍率の高い試合が同時に2試合行われて受付は大混乱でした。

「ベスト4からトトカルチョの内容が強制で判定有りの判断なんて宝くじみたいだったねー」

実力がある程度拮抗している状態でのルール適用は実行委員会の悪意を感じます。
私は賭けてませんけど、性懲りも無くクラスの一部は賭けていましたね。

「ネギ先生達の方はまた一本づつ取るかと思ったらストレートだもん。当てるの凄く難しいよ~」

と、そこへ突然。

《超鈴音、今年の試合も結果はどうあれ良い試合ができましたか?》

《そうだナ。古とは大分実力で差を付けられてしまたが……良い試合だたヨ。私の想いは古には伝わた筈ネ。……しかし火星生まれを恨むのは筋違いだがやはり惜しいとは思うナ》

《鈴音さん、どういう事ですか?》

《翆坊主は分かているかもしれないが、私は火星生まれで地球生まれの人間よりも根本的に身体が弱く、分かりやすいのが『気』そのものが小さいんだヨ》

《……やはりそうでしたか。専用の服というのはその点を補っていた、という事ですか》

《その通りネ。強化服を装着すれば動く時に機械音がするが、こちらの達人レベルと遜色ない動きができるネ。ま、私が直接戦う必要のある機会というものはそうないだろうから気にする事でもないヨ。勝てはしないもののこうして精一杯全力を出すことはできるからネ》

《私から見ても鈴音さんは今年のウルティマホラも輝いてましたよ》

《さよ、ありがとう。まだこの後ネギ坊主の相手が残ているし、来年はまほら武道会もあるからネ》

《先祖との真剣勝負ですね》

《魔法球を使ているものの、この短期間でどれぐらい強くなたか直接見てくるヨ》

《鈴音さん、頑張ってください》

《うむ、ネギ坊主にはまだ勝ちは譲れないヨ》

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自分で用意しておいてなんだが、この疲労回復術式は少し効果を高め過ぎたかナ。
20分もするとほぼ疲れが取れるのはやりすぎたかもしれないネ。
お年寄り達がやてくるのも分かるナ。

「ネギ坊主、麻帆良の生活には慣れたカ」

「はい!8月に来た時は言葉が話せなくて大変でしたけど超さん達が英語で通訳してくれましたし、何より僕がイギリスにいた時には知らない事が一杯あって充実してます!」

「それは良かたナ。私も麻帆良に来たときは最初は大変だたが友達や、やるべき事も見つけられたからここはいい場所だヨ。月に一度ぐらいは故郷のお姉サンに手紙は送ているのカ?」

「あー!!忙しくて忘れてた!」

「ネギ、どうしたんや。何か忘れものか?」

「故郷に手紙を出すのを忘れてたんだ!」

「ネギ坊主、私も故郷には時々手紙は出すアルが忘れてたなら後ですぐに出すといい」

「帰るべき場所があるならば大事にした方がいいヨ」

「そうやでネギ!帰る場所も無い奴もおんねんから!」

そういえば小太郎君も狗族とのハーフで色々あるんだたナ。

「うん!今日ウルティマホラが終わったら手紙出すよ」

「その前にそろそろネギ坊主は私と試合だヨ」

「……そうですね。移動しましょう」

ネギ坊主はどれくらい強くなただろうカ。
一昨日の小学生の部で瞬動がある程度できるようになたのは分かているが連続で瞬動するのはルール違反だと分かているだろうから、初手箭疾歩に気をつけてカウンターを狙うのがいいだろうナ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

スプリングフィールドの血族、先祖対子孫という状況がナギの登場を待たずして行われたがこの試合の結果は明らかだった。
まずネギ少年の思い切った箭疾歩が初手で繰り出されたものの超鈴音が鋭いカウンターを放ち開始早々に1本を取った。
その後もネギ少年が魔分で身体強化しているとはいえ、身体強化魔法の戦いの歌と呼ばれる状態程強くなっていた訳ではないので、超鈴音としても打たれても古菲程の重みは無かった。
ネギ少年は一昨日小太郎君の蹴り技に翻弄されただけあって、先の戦いで見た超鈴音の蹴りをかなり警戒していたが、当然腕から繰り出される打撃も射程がありそれどころではなかった。
超鈴音は最初様子を見ていたが、3分経過したあたりから見切りを付け猛攻、一瞬わざと手を緩めた所で攻撃を引き出し投げ技で一本を決めストレート勝ちとなった。
ネギ少年はまだ、この辺りは精進するしかないだろう。
近衛門やナギの戦闘感覚は驚異的な面があるがそれでも最初から強かった訳ではない。
ましてや故郷では座学中心に勉強ばかりしていたネギ少年では尚更。

「大分強くなたし、型も綺麗に再現できているが根本的に戦いの経験が少ないようだネ。これでウルティマホラは終わりだが、来年の学園祭で私はある大会を開くからこれからも修行は続けるといいヨ」

「はい!超さん、ありがとうございます。僕もっともっと強くなります!」

「その意気だヨ、ネギ坊主。次は古達の決勝戦だから見に行くとしようカ」

そう言いながら、ネギ少年の頭を穏やかに撫でる超鈴音に周りの2-Aの中学生達は賑やかなものだった。
ネギ少年と超鈴音の試合はストレートで勝敗が決したが、その後の決勝戦も古菲という中国拳法に関して達人の前では小太郎君も勝つことはできなかった。
狗神や気弾を放つならば話は別であるが、そういう試合は来年まで待つしかない。
両方の少年共、年上の2人には負けたが規則の範囲内で全力で戦い、その結果清々しい顔をしていた事は良かったと言えるだろう。
……去年優勝を合気道の仙人によって逃した古菲は見事優勝を手にし、その後更に朝の登校時間に挑む格闘家の数が増えた。
そして、今回のウルティマホラを期に中国武術研究会の現部長は古菲にその座を譲ったのであった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

長かたようで短かた4日間の体育祭だたが、色々収穫はあたナ。
まず、ウルティマホラで気の扱いに長けた人間は数人しかいなかたから来年は表裏を混ぜてまほら武道会を開く必要は無いネ。
事前にその道のルートで情報を流して極秘で開催した方が観客は少なくなるが質の高い大会が開ける筈だヨ。
それ以降のまほら武道会は翆坊主達との計画がうまく行けば大分変わて来ると思うがまだ先の話ネ。
その時はその時でまた違う事で忙しくなるだろうからナ。
トトカルチョによる収益も実行委員会からの収支報告が出たが予想以上に儲かたから今回私が負担した費用の一部も返て来たネ。
一番儲かたのが実は予選の大学生の部だたのはまあ当然といえば当然だが金があるところからはきちんと集めないとネ。
来年も是非協力をお願いすると言われたから、来年は更なる充実と、麻帆良祭での便宜を図て貰うことで交渉成立したヨ。

……超包子を8号店まで稼働させたが売上高は初日に予想した通り4000万を超えたネ。
今年の学園祭で1店舗しか出さなたのが悔やまれる成果だが来年は必ずこれ以上を弾きだすヨ。
赤字にならなければ良いから通常営業もこのままやて行けるネ。
疲労回復の術式は3日間自動発動だから、特に解除の処理も必要無いから楽だたヨ。
その時一緒に工学部のお兄さん達を呼んで一般人対策にカモフラージュとして置いてあっただけの機材を運びだしてもらたネ。
今回の術式は科学で再現するのはそもそも無理な部分が多いが、流石は魔法という所かナ。少なくともウルティマホラ自体にはかなり役に立たのは間違いない。

……随分忙しかたが、これでまた一つ仕事が解決したナ。
この後は超包子の麻帆良外出店の計画、世界11箇所の魔分溜りをリンクさせるための研究と引き続き魔分有機結晶の粒子精製、田中サンシリーズの別バージョンの制作等やることは尽きないナ。
流石に学園長がネギ坊主を襲う事には手出しする必要は無いし、用意しておくべき映像もいつでも渡せるから問題ないだろう。



[21907] 19話 冬目前の長い1日・前編
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 18:58
9月の半ばから稼働させ続け今は中間テストも終わり11月初頭、田中サン達のデータが1ヶ月半以上は溜またネ。
麻帆良祭で発表した三次元映像の撮影する技術は出すタイミングがなかなか無くて困ていたが、あれから4ヶ月ぐらい経ているから世間のほとぼりも沈静化して来ているから丁度良いだろう。
田中サンは侵入者を発見すると捕獲モードに入り無意味に目が赤く光るようになているが、普段から三次元映像が撮影できる機能も搭載しておいたネ。
翆坊主達のように麻帆良全体を常に視るほどの範囲が撮影できる訳ではないが、全方位半径25メートル程度の視界は三次元で確保している。
もちろん前方のみに限ればもと先まで視認はできるようにしてあるがナ。
この事を知ているのは田中サンを作たハカセと私だけで、工学部の人達には教えていないヨ。
三次元映像は犯罪の減少に役立つと同時に犯罪を増やす可能性を持つ諸刃の剣のようなものだから、きちんとしたガイドラインを作成しないと世の中にホイホイ出せるものではないネ。
撮影技術自体の完成については契約に従て雪広グループには既に話を通してあるから、あちらに利用の準備ができさえすれば開放という事になるだろうナ。
聞いた限りだと、どうやら警察機関や警備会社系の監視カメラでの使用が一番最初に導入されるようだネ。
その為には一応世間にもその使用を告知する必要があるから結局マスコミを通してすぐ情報が広がるのは間違いないが、恐らく「新時代の映像技術の光と闇」等という安易なタイトルの討論番組などで議論が始まるだろうネ。
あまり社会的善悪の事について開発者である私が首を出してもただ目立つだけだから何か要請でも無い限りは動く必要は無い。

それよりも、私にとての大きな進歩と言えば、冬を目前に控えて羽田空港、成田空港、関西国際空港、中部国際空港の日本の国際空港で同時に超包子の肉まんを扱て貰うことが実現した事だ。
羽田空港はこの当時国際便は出ていないのだけど、どうせならとネ。
雪広グループの協力のもと、各空港の近くに大規模では決してないが超包子の工場をそれぞれ建設したからターミナルのゲートのあちこちで取り扱てもらえるようになたネ。
工場が別にあるから製造技術の情報漏洩の危険性も少ないし、とにかく数を売るという超包子の趣旨には非常に適しているヨ。
今日は丁度学校も休日で一番近場の羽田空港に視察に来ている。

「鈴音さん、やっと麻帆良の外にも直に超包子の肉まんを進出させられましたね」

「いよいよだヨ。いきなり空港からスタートとというのはかなり良い。空港を利用するビジネスマン達が帰りがけにでも買て行てくれれば国内外の各地の茶の間にお届けできるからネ」

「私は超包子の味を再現した肉まんがこうしてあちこちに届けられるのは嬉しい反面、自分で直に料理していないので少し寂しいです」

「五月の気持ちも分かるが、元の味は去年の麻帆良祭から出店したあの超包子の物には変わりはない。今まで育ててきた超包子は麻帆良だけに留まらず外へと飛び出していくに値すると私は思うネ。ここで買てくれる人達は安くてとても美味しい肉まんと喜ぶだけもかもしれないが、私達の想いが詰また肉まんである事に疑いの余地はないヨ」

「そう……ですね。私は料理人ですからこれからも超包子の味を更に良くするために精進します。それで私の知らない何処かで誰かが美味しいと言って笑顔になってくれる助けに、と頑張りますね」

「五月の味を越える味を出せるのは五月しかいないヨ。まだ学生でもあるから先の話だが、社会人になた時五月が自分の店を出す時にどうするかは私が口出しする領分ではないが、今しばらくよろしく頼むネ」

「こちらこそよろしくお願いします、超さん」

「話がついたところで超ちゃん達、せっかくだから記念に肉まんここで食べていきましょうよ」

「そうですね。西川さん、私買って来ますね」

「悪いわね、さよちゃん、よろしく頼むわ」

「西川サンは雪広グループの社員として他にやりたいことがあたのではないカ」

「私としては丁度新しいプロジェクトに参加できたらな、と思っていたから超包子のブランド化メンバーの募集があった時にはすぐに応募したのよ。それに超ちゃんはこの計画は世界まで広げるつもりなんでしょ?そうとなればなかなか他を探しても同じような企画はないから寧ろ感謝してるのよ。他の皆も大体同じだから安心してね」

「そう言てもらえると嬉しいネ。世間から見れば大それた事をと思われるかもしれないが私は必ず世界に超包子を広めてみせるネ。絶対に途中で諦めたりはしないと約束するヨ」

「本当に中学生とは思えないやる気ね。私達が本校女子中等部にいた頃はまだ麻帆良祭で営利活動が盛んになり始めた黎明期だったから気楽なものだったわ」

「その頃のエヴァンジェリンはどういう感じだたのか教えてもらいたいネ」

「エヴァ?うん、エヴァは……最初は私達と初めて会った時はなんだかツンツンしてたりやる気のない感じで関わり辛かったけど、私達が高等部の先輩達から屋上の使用権で文句をつけられて喧嘩になった時に割り込んできてその場を一発で黙らせたのよ。あれがもうカッコ良くてカッコ良くて、しかもその後少し恥ずかしそうに怖がらせて悪かったななんて言う姿も凄い可愛くてあれは今でも覚えているわ」

「それは面白い話を聞いたナ。その喧嘩の時割り込んで来たというのは実は屋上で昼寝を邪魔されただけじゃないのカ?」

「おお、良く分かったわね。流石同じクラスか。まあその後とぼとぼ昼寝に戻ろうとするものだから私達がエヴァを捕獲して一緒にバレーボールしたのよ。そしたら最初は嫌々やっているような感じだったけど運動神経が凄く良いのが分かってなんで茶道部入ってるのかとか色々聞いたりしているうちにエヴァからも話すようになって仲良くなったわね」

「今のエヴァンジェリンは早退したり自主休講ばかりしているが当時は初々しかたのだナ」

「そうなのよ。エヴァって年頃の女の子とは違う口調で話すでしょ、でもそれが妙に貫禄があって、逆に恥ずかしがると何とも表現しにくい良さがあって。ついちょっかいを出して遊んだものよ」

とても600万ドルの賞金首とは思えない逸話ネ。

「この話を聞いたなんてエヴァンジェリンに言たら大変な事になりそうだから心に留めておくとするヨ」

「あら、ポカポカ叩いてくるの可愛いじゃない。ちゃんと手加減してくれるし」

叩かれたいみたいな顔してるナ。

「それは友達で、身長差もあればの話だネ」

「そうかそうか、私達はここ数年身長差に慣れちゃってるからね。確かにまだ中学生ぐらいならそうかもね」

「肉まん買ってきましたよ!結構並んでて驚きました」

「1人で並ばせちゃてごめんね。超包子の肉まんは値段も味も最高で今回は宣伝をしておいた上での取り扱い初日だから混んでるのも無理ないわね」

「それだけ人気が出てくれるなら本望ネ」

結局視察と言いながら皆で話しながら肉まんを空港で買て食べるという休日を過ごしたようなものだたネ。

「今日はこの後もう麻帆良に帰るだけですよね」

「ああ、そうだネ。さよは何処か寄りたい所あるのカ」

「はい、そういえば麻帆良の外に出たのって凄く珍しいなと思って」

「おお、私も麻帆良の外に出るのは珍しいネ」

「超さん達は休暇中すら実家に帰ったりしないですからね」

まあ実家は遠い遠い場所だから安安帰れるものでは無いヨ。

「超ちゃん達って麻帆良にいつもずっといるの?」

「……忙しくてそうでしたね」

「毎日スケジュールが詰まているからナ」

「信じられない中学生ね……。東京に買い物に出たりしないの?お金あるんでしょ」

「まあそうなんですけど、大体麻帆良って何でも揃ってるじゃないですか」

「ああ……それは雪広グループのせいね……。確かにあそこで生活に不自由なんてしないわね」

「生活するには楽園みたいなものだヨ」

少し話をして、その後普通に帰路につこうとタクシー乗り場へ歩いて行たヨ。
しかし、突然さよが私に突っ込んできて、身体を押された私は……体勢が崩れた。

「!」

瞬間、何か嫌な音がして、振り返りながら後ろを見ようとすれば時間の流れが遅くなったかのような錯覚に陥り、視界に入ってくる周囲の動きもスローモーションのようになった。
……視界に見えたのはさよが両手を前に突き出したまま地面に倒れていく姿。
さよが完全に倒れかかるというその時、更に遠くで強烈な爆発音が聞こえた。

「……鈴音さん、怪我は……ない……ですか……?」

鈍い音を立ててさよは倒れながら私の安否を確認して来た。
同時に、私の体感時間は急速に元に戻った。

「さよちゃんどうしたの!?え、ち、血が出てるじゃない!」

「相坂さんしっかりして下さい!」

これは……完全に麻帆良の外だというのに油断していた。
翆坊主に通信を取て手遅れになる前にまず犯人の特定を頼むか……手早く済ませる!

―アデアット―

懐の仮契約カードに手を添えて無詠唱発動、通信を最大加速で開始。

《翆坊主!犯人の観測はできるかッ!》

《……時機が悪いですね。今火星の方に精霊体で移動している為地球に戻るのに数秒要します》

それは運が悪いネ!

《恐らく対象は自爆したヨ!》

《それは用意周到な犯人ですね……サヨ。応答して下さい》

さよが反応しない……くっ……視える限りこれは致命傷!

《さよは身体に受けた傷の程度はまた運悪く致命傷ネ!とにかく、翆坊主がこちらにいない事で状況が良くわからないがこちらも人目があるから行動に移るヨ!》

《分かりました。行動開始します》

―アベアット―

ここは麻帆良外でアーティファクトの一瞬の使用程度なら問題無いとは思うが、この反応を誰も感じなければ良いが……。
とにかく実際に至近距離でさよの状況を確認する。

「さよ!怪我は……ッ!西川サン!悪いがさよを乗せてくれる車を見つけて欲しい!それと搬送先は近くの雪広の病院でお願いするヨ!」

これだと血が出すぎる……空港にも医療施設はあるがこれだと間違いなくさよはここで死亡認定される!
幸か不幸か雪広傘下の病院はすぐ近くにあった筈。

「わ、分かったわ!……すぐ戻るからね!」

「さよ!さよ!しっかりするネ!」

「相坂さん!」

しかしこんな空港から出てすぐに銃撃されるとは相手は一体何処の人間だ。

「どうしましたか!……怪我人ッ!?救急車手配します!」

空港の職員に見られたネ。
やはりこの衆目のある状態だと面倒だナ。

「超ちゃん!こっちのタクシーの人が乗せてくれるからさよちゃん運びましょう!」

「あ、あの、こちらで搬送しますが……」

「厚意は感謝するが複雑な事情があるから遠慮するヨ。五月もこのままだと危ないからタクシーに乗て麻帆良まで戻るネ!」

「で、でも超さん!」

「さよは大丈夫だ!私を信じろ!」

「……分かりました!超さん相坂さんをお願いします」

「ああ、任せるネ!」

……この後五月は先に麻帆良にタクシーで帰らせ、私と西川サンでさよを雪広の病院まで搬送した。
当然既にさよの身体自体はもう危険な状態だたがとにかく出血が酷いから止血をして見た目から分かる状態を隠すぐらいしかできなかたネ。
ここで治癒魔法を使う訳にも行かない。
とにかく電話をするヨ。

「……超鈴音です、雪広の社長さんに繋いで欲しいのですが……はい、お願いします。…………社長さん、超包子の空港支店の視察に来ていたら友達が銃撃を受けたヨ。今雪広の病院に向かている所だがその病院のオペ室の……特別な用意を頼むネ」

『特別な用意か……。分かった、手配しておくから任せて欲しい。今回護衛を付けなかったのは失態だった。謝罪する』

「私もいつも麻帆良にいたから油断していたネ。2度と同じことは起こさせないヨ。手配感謝するネ」

搬送先の病院の名前を告げ電話を切たネ。

「超ちゃん、特別な用意って……?」

「特別な用意は特別な用意だヨ。さよは酷い傷だが死んだりはしないから安心して欲しいネ」

「……どっちが大人だかわからないわね。普通友達が銃撃されてこんな酷い出血していたら落ち着いてなんていられないわよ」

「血も涙も無い友達などでは決してないから誤解しないでくれると助かるヨ」

「そこは大丈夫よ。そんな風には思っていないから安心して」

運転手さんはただひたすら沈黙したまま法定速度を明らかに無視していたが車を走らせてくれたヨ。

《超鈴音、サヨが応答しないのは痛覚を遮断する前に素体のまま気を失い一時的に繋がりが切れている為です。時間が経てば精霊体の方は意識を取り戻す筈です。公的な処理が面倒でしょうが、申し訳ないですが私は力になれません。ただ、サヨの行動からすると、寸前で銃撃を察知したと思われます。爆発があった地点の観測を行ないましたが死体が無い事からすると恐らく長距離用魔法転移符を予め銃撃をした後、すぐ発動するよう設定した上で証拠隠滅に現場も爆破……したようです。既に追跡も不可能です。警察機関も現場に移動しているようですが、証拠は何も出てこないでしょう》

《さよについては了解したネ。その面倒な処理は私がなんとかするからいいヨ。何と言てもこの『もしも』の時にサヨは身を張て助けてくれたのだから。しかし、移動方法が裏で攻撃方法が表の質量兵器とは手の込んだ真似をする奴がいたものだナ》

《少なくとも裏が関係しているのが明らかなだけ良い方かと》

《私を狙たのがどこの組織なのかというのも気になるが、ありえる可能性はいくつもあるが……憶測では良くわからないナ。国内のみならず海外の組織……のようなものの可能性もある》

《ええ、手際が良い事からすると、組織だっているのは間違いありませんが、確かに組織が国内の物と断定するのも早いでしょう。超鈴音の予想のように海外……世界規模という可能性も否定できません》

《翆坊主が火星にいた時と重なたというのも……それを感づかれていた可能性はありえないだろうから相手側は相当運が良かたナ》

《偶然が重なったとしか言いようがありませんね》

《それでも、こちらはさよのお陰で私の死は回避できたから半々だろう。これで借りができたネ、翆坊主》

《借り貸し……と思うのは勝手ですが今回はサヨの機転のお陰です。私達は超鈴音を全力で補助するのみです》

《さよが目を覚ましたら礼を言うとするヨ。通信を一旦切るネ》

間もなく病院に到着し、担架にさよを移しオペ室に移動したヨ。
私も入る必要があるネ。

「超ちゃん、オペが始まるからここで待ってないと!」

「西川サン、これが特別な用意だヨ。後は任せて欲しいネ。……空港の後始末やらがあると思うが頼んでも良いかナ」

「それは……もちろんよ!これでも雪広のエージェントだから任せて!」

「頼もしいネ。では……行てくるヨ」

西川サンを後ろにオペ室の中に私も入らせて貰たネ。
さて、さよの身体の状況だが……。

「私が超鈴音ネ。ここに居る先生達は裏を知ているという事でいいかナ?」

「私が執刀医の石田です。ここにいる5人は全員裏を知っています」

「さよの状態は見てわかる……だろうネ」

「……残念ながら……既に間違いなく死亡です。銃弾は心臓部を完全に貫通。……しかし、上からの連絡であなたの判断に従うようにと指示を受けています」

身体自体が死亡しているから治癒魔法も既に効果が無い。

「ふぅ……流石社長さんだね。話が早い。まずはとにかくできるだけ身体を正常な状態にするように外傷の縫合を頼みたい。次に怪しくない程度に時間を取ってオペをしたように見せかけてさよを個室に入れて欲しいネ。当然相坂さよの死亡認定はしないようにお願いするヨ」

「……裏の人間でなければ、単純に現実を受け入れられないだけの発言にしか聞こえないでしょうね。分かりました、その要望は全て叶えます。……ではまず外傷の縫合を開始します」

縫合自体にもそれなりに時間を要したが、残り数時間はやはり待機したヨ。
オペ室から出る時に偽装した心電図モニタを備え付けて生きているようにみせかけたネ。
私の服もさよの血が着いていたから着替えさせて貰た。
個室に移動させてからさよの精霊体の意識が戻るのを待たが反応が出たのは深夜になてからだたヨ。
その間できる限りの対策は打っておいたネ。

《はっ!ここはどこですか!あ、鈴音さん!怪我は無いですか!》

なんだか身体は死んでいるというのに第一声がここはどこかだなんて元気だナ。

《さよのお陰で私は銃撃されなかたネ。感謝するヨ。その代わり今のさよの身体は完全に死体になているから処理が大分面倒になるだろうが心配しなくて良いヨ》

《え!私死んじゃったんですか!なんでそんな当たり所悪いんですか!》

それは私も聞きたいネ……。

《それは私も運が悪いとしか言いようが無いヨ……》

《ああ、でも代わりの素体なら作ればあるので大丈夫です!鈴音さんが無事ならそれで良いですよ!》

《テンション高いようだが大丈夫なのカ?》

《サヨ、意識が戻ったようですね。何か思い出しましたか……例えば生前の記憶……など》

生前の記憶……。

《……………………そうですね。思い出しました。でも私成仏できない事も分かりました》

《……それは聞いてもいいのカ?》

《……はい、誰かに聞いて欲しいですし、話します。……鈴音さんは私がどう死んだのか知らないと思いますが62年前現在の女子中等部、当時高等女学校で連続殺人事件があったんです》

《……麻帆良にしては物騒な事件だネ》

《私も被害者ですが、その前に一緒に仲が良かった友達も殺されてしまって私は犯人を捕まえようと一人で犯行が行われた場所に何度か足を運んだんです。そして足を運んだ最後に同じ学校の生徒が私の後に入ってきて、その人が犯人だとはその場で思い至りませんでした。反応が遅れた時には既に刃物が刺さっていて私も何もできないまま殺されてしまったんです。その時の意識を失う前最後の私の願いはその犯人に必ず復讐をするという、今の私から考えると違和感のあるものだったんですが……結局その記憶が今まで吹き飛んでいました》

……記憶を失たために犯人に呪う等の方法で復讐することも叶わなかたのカ……。
突然重い話しになたネ……。

《サヨ……私に何か言いたいことは?》

《それは殺人事件が起きないように防いでくれれば良かったのに、ですか。それは……全く思わないと言えば嘘になりますけど、大分人格自体に齟齬があるみたいなので恨んだりはしないです。少なくとも今はこうして生きてますし》

いや……また死んだけどネ……。

《2度も死なせるような事になってしまいすいません。私からは超鈴音を守ってくれた事に感謝します》

《なんて事ないですよ!私も鈴音さんが怪我しなくて良かったです!一応記憶も戻りましたし怪我の功名ですね!》

怪我で済んでないヨ……。

《サヨがそれでいいなら……そうしましょう。本題ですが、銃撃される前に犯人は視たのですか?》

《いえ……物々しい鉄の筒だけが観測できたので咄嗟に鈴音さんを突き飛ばしただけで犯人までは視てません……》

《……そうですか。これで情報が裏に関係ある人間の仕業のみ……という事。対策自体は保留として……これからの動きはどうするのですか?明日から学校もありますが》

《それは休むしかないヨ。まあ何もなかたというのは流石にないが五月にはさよは無事だと連絡したから間違ても死んだなんていう情報は伝わらないヨ》

《五月さん私が撃たれたの見て大丈夫だったんですか?》

《当然ショックは受けていたけど五月は心がとても強いから大丈夫だヨ。最後には私を信じて任せてくれたからネ》

《幸せの化身の五月さんをこんな事に巻き込むなんて……》

《過ぎた事を考えても仕方ないヨ。明日高畑先生がここに来る事になているから事情を説明するネ。予定としては1週間程入院した後怪しまれないように退院して、麻帆良の女子寮に生徒のいない日中に戻て魔法球を介して身体の交換を行うネ》

《……それが妥当ですね》

《私1週間暇になりますね》

《サヨは神木に戻ってくれば済む話でしょう》

《なら今すぐ素体に入ってすり替え……という訳にはいかないんですか?》

《リスクが高いから駄目だネ。ここは魔法先生達の力を借りたほうが安全だヨ。……それと今日は私もあちこち連絡して大分疲れたから寝てもいいかナ?》

実際……疲れたネ。

《こういう事になると私達は力になれなくて申し訳ない》

《鈴音さん、私の処理の為にありがとうございます》

《お互い様だヨ。それではしばしおやすみネ》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

朝になるまで私は鈴音さんが病室で寝ている姿を見守りながら周囲を視る……いえ、観測とでも言うべききちんとしたものを続けました。

「良く寝たネ。おお!さよの身体は完全に見た目からとても生きているようには見えない状態だナ」

身体機能が完全に停止しているので放置していても維持される機能も当然動いていません。
起きるまで随分かかりましたが今午前10時ぐらいなんですよね。

《鈴音さんおはようございます。昨日は余程疲れてたみたいですね。よく寝てましたよ》

「もう10時なのカ。おはようネ」

《翆坊主、高畑先生はもう学校を出ているカ?昨日学園長にも連絡したが》

《タカミチ君ならもうすぐ着く筈です。私から今朝近衛門殿にも頼んでおきましたので大丈夫かと》

《そうか、そういえば翆坊主と学園長は普通に会えるんだたナ。電話を使うより余程安全だたのに昨日は少し焦ていたヨ》

《私も昨日は普段観測しない他県の地域まで魔法転移符を観測していました。結局見つかりはせよ、犯人のものかどうかはわからないという有様ですが》

《どうせ多重転移を繰り返しているだろうし場合によては実行犯は既に処分されているかもしれないから黒幕に辿りつくのは難しいだろうナ》

物騒な会話が始まりましたよ……。

《そうですね。とりあえずこのまま通信を続けてもタカミチ君が来ないので切ります》

翆坊主との通信を終えたネ。

「さよは高畑先生に精霊体の状態を見られた事はあるのか?」

《んー、分からないですけどほぼありえないですね。基本的に隠蔽レベルは最大で活動してましたから》

「それなら高畑先生が私達を不審に今まで思ていたのは無理もないネ。学園長は知ているがほぼ情報を知らされていないようだし」

《それ分かります。ウルティマホラの時に不審げな目で見られましたから。ポケットに手突っ込むんですよ》

「ハハハ、別に取り憑くわけでもないのに警戒しているんだナ」

《失礼しちゃいますよね。麻帆良祭の時も私が朝倉さんと綾瀬さんから逃げまわってる時は笑って見てただけだというのに》

「あれは逆に強く止めると先生に質問が行きそうだから自分の身を守たのだろうネ」

《……考えても無駄ですね。あ、もう先生来るみたいです。あれ、高畑先生だけじゃない。あれは……葛葉先生でしたっけ……。護衛かもしれませんね》

「一応幽霊の設定なのに魔を払う神鳴流を連れてくるとは皮肉だナ」

成仏させられないように気をつけないと……。
それからすぐに病室に先生達が入ってきました。

「失礼するよ、超君」

「失礼します」

「高畑先生に葛葉先生か、麻帆良の外まで来てくれて助かるヨ」

私も早いうちに自己紹介しておきましょう。
姿を現して……。

《こんにちは高畑先生、葛葉先生。すいません、私また死んじゃいました》

「「………………」」

完全に固まった上、葛葉先生は戦闘体勢に入りそうな勢いです。

「……それではただのホラーだヨ」

《べ、別に怖がらせるつもりなんてないですよ!ただ私の身体が駄目になったせいでこうして先生たちが来ることになったので謝っておいたほうがいいと思っただけです》

「やあ……相坂君、学園長から銃撃を受けたとは聞いたけど死んだとは聞いていなかったよ……。一般生徒が銃撃を受けるなんて麻帆良学園では前代未聞だから驚いたよ」

また情報ちゃんと教えてもらってないんですか!

「学園長から座らずの席の生徒が通うことになったとは聞いていましたが……その姿は初めて見ましたね。無事……ではないようですが……元気そうですね」

《はい、また幽霊に逆戻りしただけです》

「……どうやら騒ぎにしないために学園長が情報を絞たみたいだが、早速詳しい報告をするネ。その前に葛葉先生は結界を張てもらえるのかナ?」

「私が、裏の人間だと知っているのですか」

「今まで裏で目立つような事はあまりしていないが……茶々丸の制作者の一人だから知ているヨ」

「そうか……超君はエヴァの所の茶々丸君の制作者だったね。葛葉先生結界をお願いします」

「分かりました」

いつもだとキノが張ってますがやっぱりお札を貼るんですね。

「本題に入るネ。昨日の午後4時頃超包子の羽田空港内への肉まん販売の開始の視察に行た帰り空港から出た瞬間に長距離からの射撃を受けたヨ。狙いは私のようだたがさよが庇てくれたから私に怪我は無いネ。その代わりこの有様だヨ。犯人は銃撃後長距離魔法転移符の類を利用して逃げた後、時限式の爆弾で現場を爆破したと思われるネ。理由は表の人間にしては証拠が殆どゼロに近い事からそう考えるのが妥当だヨ」

「色々聞きたいことがあるが一つずつ聞いていいかな?」

「答えられる範囲で答えるネ」

「長距離射撃なのに何故相坂君は気づけたんだい?」

《それは私はこう見えて目が良いんです!》

目の所に手を丸くしてあてて、分かりやすく伝えました。

「そ、そうか。それで銃弾や血痕等の処理は大丈夫なのかい?」

「雪広のエージェントに頼んでいるから抜かりは無い筈だヨ」

「雪広ですって!」

一瞬形相が変わったんですけど大丈夫ですか……。

「葛葉先生、どうしたんですか?」

「……い、いえ、なんでもありません」

んーどういう事なんでしょうか。
ああ、そういえば。

《葛葉先生がお付き合いしている男性が雪広の社員さんなんですよね》

「ど……どうしてそれを!」

《この体でぶらぶらしてる時に相手の方が社員証を首から下げているのを見たことあるので》

「え……学園長が用意した身体というのは出たり入ったりできたのかい?」

《そうですよ?》

機密情報みたいなものですから知らないのも当然かもしれませんね。

「学園長は相坂さよの問題が解決したとしか言ってませんでしたから詳しいことは……私達も知りません」

「一緒の寮の部屋の人間の方が詳しいとはナ」

「……続けて質問だけど犯人の動きについて情報を知り得たのも相坂君のお陰という事でいいんだね?」

「そう考えてくれて構わないネ。現場の検証情報は雪広から聞いたけどネ。資料がまとまたら学園側に送ると聞いているヨ」

「細かいことはそちらの情報が届くのを待った方が良いようだね。それでこれからどうする予定なんだい?」

「私はさよの身体を見張る必要があるから1週間ここで生活するネ。私もここから出るとまた撃たれる可能性があるから丁度良い。必要な物は用意してもらうから気にしなくていいヨ。それで1週間経たらまたここまで来て車を用意して欲しいネ。一応それでさよを退院という事にして私の女子寮の部屋に運んでもらえばそれで解決するから。最後の部分はどうしてと聞かれても答えられないから予め言ておくネ」

「……そういう事か。最後が確かに一番気になるが葛葉先生が荷物を持ってここに来たのはその為だね」

「私は学園長から超鈴音を護衛するように言われています。そのため今日から私もここで生活します」

「なるほど、てっきり高畑先生に経緯を報告すれば良いかと思たが確かに護衛がいてくれると助かるネ。同性となれば尚更。まあその割には、先生達は私の事をいつも不審に思ているから少し居心地が悪い。ある程度誤解を解いておきたい所だが機密情報が多すぎてネ」

《高畑先生もウルティマホラの時は私を見てポケットに手入れてましたからね!私知ってますからね!》

「……僕の技も知ってるのかい。それは済まない事をしたよ。つい警戒してしまってね」

《そんなに私は信用できませんか……》

「不審がるなと言われても超鈴音もです。あなたは去年以前の情報が全くわからない上に次から次へと目立つ行動をするのですから当然です」

「目立つ行動をしなければ肉まんで世界征服なんてできないヨ……。最近の怪しまれる行動だと麻帆良祭での麻帆良の歴史映像やネギ坊主のウルティマホラ出場への手配が当たるカ」

「……肉まんは好きにしてくれていいよ。僕もそれは応援しているからね。超君は少し信じられない技術を持っていたり……ネギ先生に何をしようと考えているんだい?」

よほど銃撃なんかしてくる連中よりもマシな事やってますよ!

「是非帰りに肉まん買ていてくれると嬉しいネ。しかし……やはり答えられるのは初めて自己紹介した時の私は火星人だというので殆ど説明できるのだけどネ。前者は私の頭脳の賜物、後者は……言うなれば可愛い子には旅をさせよという感じだナ。1つ迷惑をかけたから先生達には今後の予定を教えるが来年麻帆良祭で形骸化する前のまほら武道会を復活させる予定だヨ。そんなに怪しいことは計画していないネ」

《私もネギ先生をあちこち連れ回したのは少し強くなってもらいたいなと思っただけですよ。なんでそう思ったのか、は秘密ですけどね》

「2人共理由はわからないがネギ先生には強くなって欲しいだけなんだね。今まで特にネギ先生に害はないようだしそれは信じる事にするよ。でも、まほら武道会を開くというのはできるのかい。一般人にバレる訳にはいかないんだよ」

「そうです!ネギ先生を鍛えるというのとまほら武道会の関係は分からなくはないですがあんなに人の出入りの多い麻帆良祭の何処で武道会をやるというんです」

「まほら武道会の開催の許可は学園長からも得ているし、雪広グループからの協力、龍宮神社へのお布施、体育祭で麻帆良祭実行委員会からの便宜も得たし、最後に私の技術で外部への情報漏れは完全に防ぐヨ。今年の春から温めて来た計画だから必ず実現させるネ」

「……それは凄いな超君……いつの間にそんなに用意していたんだい。それにどうしてそこまで僕も知らない過去のまほら武道会を開きたいと思うんだ」

《私が60年幽霊やっていて知っているので鈴音さんに話したんです!》

と、言うことにしておきましょう。
実際殆ど正解みたいなものですし。

「いつの間にと言われれば地道な努力の積み重ねネ。さよから聞いたが、まほら武道会が形骸化したのは映像機器の登場というただそれだけの理由だそうだ。それにウルティマホラよりも賑やかで皆盛り上がたと聞いているヨ。そんな面白そうなものを科学技術の弊害程度で開催を断念するなんてやる気が足りないヨ。やろうと思えばできるのにやらないというなら私がやるしかないネ!」

「そうか……超君にとってはそう思えるのかい。僕はそういう事なら否定はしない。開催することになったら是非出場させてもらうよ。これからはあまり危険視するのを控えるよ」

「未だに怪しい事ばかりですが、あなたの気持ちは分かりました。麻帆良学園は生徒の自主性を尊重します。問題にならないという自信があるなら邪魔はしません。頑張りなさい。私も実現したら出ても良いですね」

「おお!先生達が出てくれるなら盛り上がるヨ!開催が実現したら招待するネ」

《少し先生達も信用してくれたみたいで良かったです》

「昨日銃撃を受けたというのに色々疲れさせて済まなかったね。1週間休むといいよ。僕は処理された現場を一度見に行ってから学園に戻ります。葛葉先生は後をお願いします」

「分かりました高畑先生。後は任せてください」

そう言って高畑先生は出て行きました。

《あ、因みに葛葉先生がお付き合いしてる男性は裏の事知りませんよ》

「何を藪から棒に言い出すんですか!」

先生面白いですね。

「うむ、葛葉先生としては相手の男性が裏の事を知ている方が都合が良いだろうナ」

「なんであなた達はその事ばかり!」

《そうですよね。隠し事が無くて済む方が精神的に楽ですよね。でも、女性なら秘密の1つや2つあったほうが魅力的かもしれませんね》

「葛葉先生は美人だからそれぐらいが丁度いいカ」

「何なんですか!褒めても何も出しませんよ!」

《太刀が出そうですね》

「太刀が出るネ」

「はぁ……無駄に疲れますね」

「肉まんあるから食べるといいネ」

「気が効きますね。では頂きます……」

《鈴音さん、2-Aの事だとお見舞いとかに来そうですけど大丈夫なんでしょうか》

「さよは面会できる程元気ではないという事にしてあるからナ。来ても面会謝絶で押し通すしか無いヨ。雪広の社長さんにも頼んでおいたからあやかサンと五月がなんとかしてくれる筈ネ」

《私は良いですけど鈴音さんはどういう理由で1週間休む事にしたんですか?》

「…………さよが撃たれたショックで立ち直れず自主休講でいいヨ」

《そんな理由で良いんですか……》

「さて……そろそろさよの身体を低温で保存する装置を運んで貰た方がいいネ。腐敗が進んでしまうヨ」

《それは勘弁したいです……》

「貰った私が言うのも何ですが……物を口にしている時にその会話やめて貰えませんか。……ですが、この肉まんが美味しいのは認めます」

「これは失礼したネ。肉まんを気にいて貰えて光栄だヨ。………………済まない、また疲れて来たから少し寝るネ」

《鈴音さん、しっかり休んでください》

あっという間に寝てしまいましたが髪の毛を纏めていない鈴音さんの姿は普段の活発そうなイメージとは違いますね。
きっと心労が溜まったのだと思います。
私が昨日気がついたのは昨日というより午前2時頃でしたから当然ですね。

「……あなたは学園長に折角身体を貰ったというのによく超鈴音をその身を投げ出して庇えましたね?」

突然葛葉先生が私に尋ねてきました。

《当然です。私にとって鈴音さんは誰よりも大事なんですから。例え何度身体を失おうとも守ってみせます》

「……少し羨ましい。私は結婚していた魔法使いがいましたが、命を賭けて彼を守れるかというと今ではそう簡単に……はい、とは言えないでしょう」

《葛葉先生の新しい相手はそうなると良いですね》

私の場合は身体自体に大した重要性が無いので人間程1度きりの命に賭けるというのがそもそもできないというのがありますけどね……。
その分思い切りの良さは誰にも負けないですけど。



[21907] 20話 冬目前の長い1日・後編
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 18:58
一週間入院のフリをしているだけでは時間の無駄だネ。
さよの身体は低温保存してもらえるようにできたし、これからを考えると何がいいだろうカ。
私の世界征服というのは肉まんは当然としても、後は別に私自信の手で世界を操ろうという訳ではないのだが、翆坊主との計画が成立した際には世界の大混乱をどうにかする必要があるネ。
雪広グループに頼ているだけではなく、全世界の人々から情報を収拾するというのが良いかも知れないナ。
三次元映像技術が出るとなれば、個人の利用は先であろうとも、開発者である私が一番詳しいのだからあえて率先して統一規格を作てしまた方が混乱しないで済むだろう。
動画をやりとりするネット上の手段は今のところ直接ダウンロードするタイプかファイル共有ソフトを使たグレーな部分のあるものが主流だし、個人が情報を公開するサイトと言ても千雨サンのようなブログやそのポータルサイトが殆どで、リアルタイムで情報を共有できているとは言いがたいナ。
翆坊主達が全てを観測する余裕が無いのなら、人々の方から情報を提供させ、あわよくば私達からの情報発信の場とする事もできる筈ネ。
2002年の今はまだSNSが試験運用され始めたばかりで、しかもアメリカやオーストラリアでの運営が主流で、日本ではついこの間9月に期間限定でサービス実験が始またばかりで言葉自体まだ広まっていないけどネ。

《翆坊主、地球上全てを観測するのと一元化されたネット上のサイトを電子精霊の真似事で視るのとを比較すると後者の方が負担は少ないのカ?》

《休んでおけば……と言いたい所ですが、超鈴音らしい。……質問の答えですが、その通りです。地球上全てを同時に観測するのはそもそも距離に比例して情報量が自乗化……と言えば分かると思いますが困難です。そうであれば、軌道上を飛んでいる人工衛星やインターネットへの介入の方が効率的です。麻帆良の範囲の観測は常々行って記録もしていますが、それ以上範囲を広げても空、海、山であったりする場合もあり合理的ではありません》

なるほどナ。

《鈴音さん何か新しいことでも考えたんですか?》

《今回の事件もあた事だし、情報収拾を何もかも雪広に頼るというのは得策ではないネ。三次元映像技術のこれからの展望もあるし、情報共有サイトと銘打た私設情報収拾兼発信網を構築しようと思うネ。この時期にはまだ普及していないが……ソーシャル・ネットワーキング・サービスと言う。略称SNSネ》

《なんですかその長い名前のサービス?》

サヨは……翆坊主も知らないかナ。

《SNS、これを大規模に構築すれば翆坊主達はそれを観測すれば今までより楽に情報収拾ができるだろう。情報を発信する側が地球に住む人類なのだからナ。それに運営する側ならば情報を瞬時に世界に発信する事もできるヨ》

《超包子の宣伝をする……と聞こえますね。しかし文字や写真……話からするに映像となると費用は莫大にかかるように思われますが……ほぼ確実に赤字では?その他諸々の社会的問題も絡んでくるでしょう。……それでも構築できたら相当情報収拾が楽になるのは間違いないですが》

《超包子の宣伝については否定しないヨ。赤字になるのは覚悟の上ネ。私は今後も保有技術から資金は捻り出せるし、贅沢をして暮らしたいと思てもいないからナ。私の世界征服に大いに役立ちそうだから他の企業が乱立する前に主導権を握た方が後手に回らなくて済むだろう》

《私達にとって人間の貨幣は意味もない物ですから深くは言いません。それより超鈴音が体調を崩して倒れる方が……心配です》

《そうですよ、鈴音さん!毎日毎日働き詰めじゃないですか。今はアーティファクトを長時間使える状況でも無いんですから無理しないでください》

《分かているヨ。昨日も今も良く寝たから疲れは取れているネ。逆に何かしていないと落ち着かなくてネ》

《完全にいわゆる仕事中毒というもののようですね》

それは最高の褒め言葉かナ。

《その上今の状況の原因が私なんですから早く身体を交換したいです……》

《さよが気に病む必要は無いネ。聞きたいことの確認も終わたし行動に移すヨ》

雪広に頼てばかりでは駄目だと言たばかりだが、子会社として設立したほうが早いだろうから結局頼らざるを得ないナ。
機密情報に近いから粒子通信しに早く切り替えたいがまだ普通の電話で我慢するとしよう。

「……超鈴音です。……新しい企画があるので端末を用意して欲しいのですが……。……はい……助かります」

「あなたこんな状況でも何かやるんですか?」

「葛葉先生、こんな状況だからこそ出来ることはどんどんやて行かないと駄目ネ」

《ショックで入院という理由とはかけ離れてますね……》

端末を社員サンに持て来て貰てこの1週間は過ごしたヨ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

私は葉加瀬さんを心配させるのも悪いので入院3日目、葛葉先生に鈴音さんをお願いして一度女子寮に戻りました。

《葉加瀬さん、私だけ一度戻ってきました。皆の様子はどうですか》

「うわっ!びっくりした!あ、相坂さんお帰りなさい。2人共大丈夫なんですか?入院先の病院もわからないので皆お見舞いに行けないと言っていましたよ」

なるほど、その情報伏せてたら来られないですね。

《えーと、私達どういう症状で入院しているか伝わってますか?》

「出かけた帰りにちょっとした事故にあって入院とは聞いてます」

雪広のエージェント恐るべし……空港であんな酷いことになったのにニュースにならないとは……。

《正しく伝わってるみたいで良かったです。変に心配しないでも大丈夫です。鈴音さんも病室で仕事してるぐらい元気ですから。五月さんの様子はどうですか?》

「超さん入院しても何かやってるんですか。……なら私も鈴木さんと佐藤さんの開発進めていると伝えてください。四葉さんは少し落ち込んでますけど詳しいことは何も言わないで、ただ2人は大丈夫ですと言ったきり、超包子で料理に没頭してますよ。でも2人が休んだ初日に古さんに問い詰められて困ってました」

流石五月さんは強いですね、古さんが心配するのも分かりますが我慢して下さい。

《葉加瀬さん、色々教えてくれてありがとうございます。私達は後4日したら女子寮に戻るのでもう少し待ってて下さい。鈴木さんと佐藤さんの事は伝えておきます》

「分かりました。2人が帰ってくるまでこの部屋は私が守ってるので安心して下さい」

改造の施された部屋を深く追求することもない葉加瀬さんはありがたいです。
女子寮のセキュリティは田中さん達が守ってますから大丈夫でしょう。
……その後病院にすぐ戻り、鈴音さんに葉加瀬さんのロボット開発について伝え、鈴音さんも企画の用意をしていました。
やはり病院は暇で、葛葉先生とも話しましたが、幽霊のようには見えないと言われてかなり焦りました……。
桜咲さんにはあまり半透明の姿を見せていないので今まで何も言われませんでしたが、長時間一緒にいると幽霊との違いが分かってくるみたいですね……。
そんなごまかしをしたりしながら4日が過ぎ麻帆良に戻る日がやってきました。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

高畑先生が手筈通り車椅子を載せることができる自動車に乗て病院の裏口に来たネ。

「高畑先生、車の手配助かたネ。さよの身体をこのまま車椅子に乗せて麻帆良に戻るヨ」

「超君、入院中なのに仕事してたと葛葉先生から聞いたけど大丈夫なのかい」

「心配ご無用ネ。時は金なりと言うからナ。1週間寝ているのは勿体ないヨ」

「その真面目さを2-A の元気な子達にも少し分けたいね」

「遅くなると女子寮に誰か戻て来てしまうかもしれないから行動するネ」

「よし、早速麻帆良に戻ろうか」

予定通り裏口から車椅子でさよの身体を運んで高畑先生の車に載せ、1週間ぶりの麻帆良へ戻たネ。
女子寮に到着した後はさよの観測の元女子寮に誰かが見張ていないことを確認して部屋に戻たヨ。
最後の最後に不審な顔で見られたが「学園長が話さないなら諦めるネ」と言ておいたヨ。
きちんと部屋の鍵を閉めた後、私がさよの身体を背負って魔法球へ移動し、ポートに乗せるのはもう簡単だたネ。

《これで晴れてさよは元通りだナ》

《この身体は修復に少し時間がかかりますから用意しておいたもう一つの身体を使ってください》

《身体の新調ですね!ああ、やっとまた元の身体です!》

《喜んでいるところですが、素体に戻ったので魔法球に転送します》

《よろしくお願いします!》

素体の出入りには疲労回復術式の実験で見慣れたものだが、無事に帰て来たネ。

「これでやっと落ち着いて生活できますね」

《まだ部屋の前に先生が2人います。戻ったほうがいいですよ》

解決したのを見なければ納得できないカ。
魔法球からすぐに戻り、玄関へ。

「この通りさよの身体は無事に元に戻たから安心して欲しいネ」

「詳しいことはやっぱり秘密ですけどね。このまま午後の授業に私達出る事にします」

「修復可能とは驚いたな……。学園長が手配しているのか」

学園長の技術という事になたヨ……。
そういえば茶々円も学園長が作たということになている筈だしそれでいいカ。

「あなた達がまた狙われないよう学園側でも警戒は怠らないようにします。……この1週間で少しあなた達への認識が変わりました。やりたい事はとことんやってみなさい」

「葛葉先生1週間の護衛をしてくれて感謝するネ」

「葛葉先生、ありがとうございました」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ようやくいつもどおりの生活に戻る一歩として、電車に乗って女子中等部に向かいました。
到着したのは丁度昼休みの時間でした。

「長期休暇で学校に来ないことはあるが、こうして1週間ぶりに来ると新鮮だネ」

「そうですね。きっと教室に入ったら古さんが突っ込んでくると思いますよ」

「うむ、古ならあり得るな、いざ2-Aの扉を開かん!」

ガラガラと音を立てて開けたところ。

「あ、二人戻ってきたえ!」

「二人共怪我もう大丈夫なの!?」

「お帰りなさい!」

そんな中机をいくつか飛び越え古さんが飛来してきました。

「超!さよ!戻てきたアルか!」

目の前にうまく着地してくれました。

「古!退院したばかりなのだからもう少し大人しくするネ。心配かけたな、私達は二人共健康そのものだヨ」

「私も大丈夫ですよ」

「相坂さん!……本当に……無事で良かったです。葉加瀬さんから、今日戻ってくると聞いて肉まん用意してきました、……良かったら食べてください」

「五月さん、心配かけてごめんなさい。肉まんありがとうございます!泣かないで下さい、もう大丈夫ですから」

「五月、私を信じろと言ただろう。泣かれると皆が余計に心配するネ。肉まんはありがたく頂くヨ」

「やはり2人の怪我は酷かったアルか?」

「大したことないですよ。どこももう痛くないですから」

「この話は終わりだヨ、古。ハカセ、新シリーズの開発は進んだカ。私も新しい企画はまた工学部の力が必要ネ」

「鈴木さんも佐藤さんもバッチリですよ!2人がいない間に田中さん達の受注依頼も溜まってます」

「それは順調だネ。古もまた後で手合わせするヨ」

この後事ある度に皆から心配されて大変でした。
ネギ先生が教室に走ってきて驚きましたが、高畑先生達が何一つ詳しいことを教えてくれなかったそうで心配してくれました。
一応エヴァンジェリンさんには通信で状況を伝えておきましたが、当然ネギ先生に教えたりはしていないですからね。
……この後放課後まで授業を受けたのですが、学園長先生に呼ばれました。

「失礼します」

「失礼するネ」

「わざわざ呼んで済まんな。大体の処理は雪広グループがやってくれたようじゃが、情報は言われたとおりに出来る限り伏せておいたわい」

「それには感謝するヨ」

「しかし儂も学園の生徒を守れんで面目無い。して、雪広から提出された報告書じゃが犯人は現場を爆破して逃走したようじゃな」

《それについては私からも話しましょう》

「おお、キノ殿か。この前来た時はまとめて話すという事じゃったからもう良いのじゃな」

《ええ、今回犯人は超鈴音を長距離から銃撃、同時に長距離用魔法転移符を発動、時限式爆弾で現場を爆破したと思われます。こちらで犯人の追跡を試みましたが失敗に終わりました》

「転移符を使ているからと言て、必ず裏に関係があるとも限らないが組織的犯行なのは間違いないヨ」

《正直な所今回の犯人を捕まえる為に人員を割くのであれば別に回したほうが得です。証拠が銃弾しか残っていないので、もう一度わざとおびき出すでもしない限り尻尾を掴むのは難しいでしょう》

「私も麻帆良からは極力でないようにするから学園長は今まで通りにしていると良いネ。少なくとも魔法転移符についてはしてくれても良いが、呪術協会を探るのは良くないだとうナ。下手に溝を作ることになりかねないし」

「私が鈴音さんを助けるために銃弾に当たった部分もかなり運が悪かったからこんなに面倒な事になってしまいました」

「なるほどのう……。せめて裏か表かはっきりしてくれればいいんじゃが。表の人間が偶然魔法転移符を入手しただけかもしれないのじゃな。あいわかった、学園でも警備は強化するようにしよう。雪広も謝ったかもしれんが、学園側からも護衛をつけないで済まなかったの」

「何度も言てる気がするがさよのお陰で大事には至らなかたから良いヨ。次から気を付けるネ」

「私が鈴音さんを側で守りますから任せてください」

「相坂君も身体に替えが効くとは言え超君を助けてくれて感謝するぞい」

《あまりここで考えても埒があきません。……話題転換を図るとして、近衛門殿はいつネギ少年にしかけるのですか?》

「そうだヨ、すっかり忘れていたネ。ナギ・スプリングフィールドのまほら武道会での映像ならいつでも渡せるヨ。当然だが私が狙われた後にそういう事をするのが不謹慎だ等と思うのは筋違いだからナ」

《そうですね。そのためにネギ少年には今回の事を完全に伏せたのですし》

「ネギ先生が魔法をエヴァンジェリンさんから習い始めたのってまだ3ヶ月ぐらいですよね」

「……気を使わせて済まんの。決行は冬休みのつもりじゃよ、じゃから映像は冬休みまでに渡してもらえると助かるわい」

《通常授業期間中は避けますか。冬休みとなれば大体4ヶ月分ぐらいの修行になる筈ですから丁度良い頃合いかもしれませんね》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

超鈴音とサヨは通常の生活にようやく戻った。
すぐ次の日に雪広の社員である西川さんが、サヨが超包子で働いている所にやって来て涙を浮かべながら抱きついていたのは人目を引いたが、彼女にしてみればどうみても致命傷だったのに無事でいるサヨを見たらそう思ったとしても仕方がないかもしれない。
麻帆良の警備水準は裏関連に関しては呪術協会もいることでかなり強化されていたが、表の方も超鈴音と葉加瀬聡美が鈴木さん、佐藤さん……シリーズ……を完成させ順次出荷させていった事と、雪広グループの陰ながらの超鈴音の身辺警護の強化も加わり少なくとも麻帆良にいる限り無抵抗にやられたりはしない万全の水準になったと言える。
工学部は大量のロボットを製造可能な施設がある事は一般からすれば驚きであろうが予算の額についてはほぼ糸目は無い。
田中さんは西洋人風であった鈴木さんは東洋人で、アメリカにいる野球選手に似ている。
佐藤さんは女性型であり、超鈴音曰く「世の中の居るだけで癒される寮母さん」を平均化させたような容姿にしたそうだ。
しかし、どれも敵対行動を取るとその潜在能力は目を見張るものがある。

超鈴音のSNSとやらのサービス提供も1週間の間に企画書が雪広グループに提出され、子会社として立ち上げることが決定した。
直ぐに認可が降りたのは銃撃事件を防げなかった事への負い目もあるのだろうが、出資の殆どは超鈴音の自費で行われ持分会社適用限度寸前の額を雪広グループが持つことになった。
その自費の中に以前提案したダイヤモンドの製造が上手くいき、工作機械用として使用されているものも元手になっている。
今は通常のダイヤモンドよりも硬いハイパーダイヤモンドの作成や、ダイヤモンド半導体への転用も視野に入れているらしく、銃撃されたものの例のマッドサイエンティスト化とは、「それはソレ、これはコレだヨ」と一向に気落ちしている様子はない。
特にダイヤモンド半導体の方はSNS計画の為、パソコンの処理速度の向上の強化等に役立つ事になるため真面目に作成に取り組むつもりらしい。
因みに、茶々丸姉さんには量子コンピュータ……神木に似ているがそういうものが組み込まれている。
しかし、今回は全世界に広げる技術なので、そのオーバーテクノロジー化しやすいものは控えるそうだ。
超鈴音は量子力学研究会で量子コンピュータの研究を続けているが、既に作れる以上何の意味があるのか尋ねた所「現行技術でどこまで作れるかやってみたい」という趣味の部分があるのと、個人で技術を保有しているのが知られた時に隠れ蓑になるから……だそうだ。
良く考えてあるが……大分私も超鈴音の影響であるが、科学の情報を収集する傾向が高くなってきている。

超鈴音が想定しているSNSは、総称と呼べるものであるそうで、超鈴音の知識にある色々なSNSサービスを混ぜたようなものにする……そうだが、どのようなものだろうか。
試験的に作った、そのサーバーで2-Aの女子中学生達でコミュニティサイトなるものの実験なども始めたようだが好評との事。
彼女達にとってはパソコンよりも携帯電話の方が使用頻度が高く、モバイル用の対策もするそうだ。
どうやら会員登録をすればそれ相応の、コンテンツを利用することができるらしいが、しかしながら会員登録をしなくても一般公開用のコンテンツは全て利用出来るというものを……予定しているらしい。
最終的に全世界でそのような事ができるのか気になるところだが、超鈴音がプログラムを売り込んだアメリカに本社があるOS制作会社も資本参加するそうであり、問題はないとか。
そのうちハッキングや問題の有るコンテンツのアップロードというものが起こると見て間違いないとの事だが、超鈴音、葉加瀬聡美、長谷川千雨にかかればそれらも何の障害にもならないと思われる。
場合によっては私達精霊が電子精霊の真似事をすればそれで一発でもあるので、深く考える必要も無い。

ところで、仮にも魔分を生成し続けるのが存在意義である私が科学の事ばかり見ているわけにも行かない。
ネギ少年の方はといえば、9月から始まった魔分通信による高速思考の訓練による頭痛がほぼ完治した。
小太郎君と模擬戦をする際に本気で高速思考を利用すると身体の動きさえ間に合えば先読みに近い行動が可能になったのは大きな進歩。
だが、戦闘中というのはただ物思いにふけるのとは異なり、頼りすぎると軽度の頭痛が再発するが……そこは許容範囲内であろう。
ウルティマホラの時点で瞬動ができるようになっていたネギ少年は銃撃事件の時には虚空瞬動までできるようになり、冬休みに向けて目下浮遊術の習得を目指している。
達人級に瞬動術が上手いかと言うと……そこまでではないが十分な成長速度。
小太郎君の方は相変わらず休日に忍者の修行に同行、分身の数を増やしつつ実体の密度の上昇を図る修行、そしてこちらも虚空瞬動の練度上げる修行を続けており、両少年とも戦闘能力に関してはその向上が着々と進行中である。

さて、ネギ少年の攻撃魔法はどうなったのかといえば……。

「ぼーやが使える魔法も大分増えてきたな。ウルティマホラではただの身体強化だったが戦いの歌が使えるようになって効率も上がっただろう」

「はい!白き雷、雷の斧は使い易いですし、魔法の射手も無詠唱で7本まで出せるようになりました」

「その魔法の射手を収束させて腕に絡ませて放つ打撃技も何か名前を付けると良いだろうな。無詠唱となら相性も良い。遅延魔法を使う必要がないならその方が楽だ」

「名前はコタロー君と一緒に考える事にします。確かに遅延魔法はマスターとの通信訓練で詠唱速度も早くなって来たので必要があんまりないですね。でもまだなかなか断罪の剣はうまく構成できません」

「未完成といえど一応形だけでもできているだけマシだよ。相転移が少しだけでも発生しているだけ筋は良い。まあ私がやるように基本魔法でさっとできるようになれば簡単なんだがな」

お嬢さんは腕に断罪の剣を魔分で構成して見せた。

「マスターのその断罪の剣全然わかりません……。前に見せてくれた属性がある方の物の方が理解できました」

「まだ分からないか……。こんなに簡単なんだがな、ほら!」

「うわぁ!あ、危ないですよ!」

至近距離で振り回してみせるのは危険。

「時間はあるから徐々に感覚をつかんでいけばいいさ。ああ、それと風精召喚の囮は瞬間で出せるように訓練しておけ。使い慣れれば相手の判断を一瞬遅らせる事ができる。模擬戦で積極的に練度を上げていけ」

「分かりました。それでマスター、防御魔法は訓練しないんですか。今のところ風楯と風花風障壁ばかり使っていますけど、風楯はマスターやコタロー君の場合突破されるので心もとないです」

「魔法障壁か……。私は不死身だから攻撃は最大の防御といえるんだが、……そうだなこれを見せてやろう」

そう言って発動させたのは例の魔法障壁であった。

「な、何ですかそれ!魔力の塊、いや魔力の層のようなものができてます!」

「移動するぞ、付いてこい。これの性能を見せてやろう」

浮遊術で空中に移動するお嬢さん。

「マスター!まだ浮遊術使えません!」

「ああ、まあそこからでいい、雷の暴風を全力で私に撃ってみろ」

「確かにその力場帯は凄いですけど大丈夫ですか?」

「問題ない、もし突破されても死なないから安心しろ」

「……分かりました」

      ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―来れ雷精 風の精!! 雷を纏いて 吹きすさべ 南洋の嵐―
        ―雷の暴風!!―

雷の竜巻がお嬢さんを直撃して爆風が発生……しない。

「雷の暴風が掻き消えた!?」

「分かったかぼーや、これに雷の暴風程度では当たった所で煙すら出ないんだよ」

「凄いです……。それも基本魔法なんですか」

一部精霊であるために魔分操作能力が極めてお嬢さんは高く、その高密度圧縮速度は最高峰である。

「そうだ。薄い魔法障壁を何重にするよりよほど頼りがいがある。あえて呼ぶとしたら魔法領域とでも、いや……安易すぎるか……まあいい。とりあえず今からそう呼ぶ事にしよう」

意外に良い名前。

「それを覚えれば良いんですか?」

「覚えられるかはぼーや次第だがな。浮遊術の理論も遡れば魔法領域と似ている部分があるからこれからは浮遊術を練習しながら魔法領域のコツも身につけろ。そうすれば断罪の剣もできるようになるかもしれん。それにヒントをやるが今までやってきた通信の感覚は私の言う基本魔法の根幹を担っている。頑張って感覚を掴め」

「あの感覚が基本魔法……。分かりました、絶対にその魔法領域を会得します!」

「ああ、その意気だ。更にやる気が出るように教えてやるが、魔法領域は展開している時にも攻撃は放てるし、逆に相手と接近戦になっても相手の攻撃は領域を突破できなければ届かないという優れものだ。ただ、展開している事が相手にバレバレだがな。どうだ、やる気になったか?」

「本当ですか!?やる気出ました!よーし!頑張るぞ!」

ネギ少年は心が純粋である。

「それはそうとぼーや、また手紙を故郷に出さないのか。1月に1度出すと言っていたと思うが前回からもう1ヶ月以上は過ぎているぞ。どうせ女子寮で魔法の手紙は隠れてやらないと書けないだろう、ここで書いていったらどうだ」

「あっ!また忘れてた!ここで書いていきます。それでマスターも一緒に手紙に出ませんか?この前ネカネお姉ちゃんにマスターに魔法を教わってるって送ったら紹介して欲しいって言われたんです」

元賞金首……一方的に付けられたものだが、今や人気者である。
時代は変わった。

「前に言ったと思うが私は闇の福音だぞ……。しかし、ぼーやが一緒に映像を見たという姉なら良いか。どうせなら着物を着るがどうする?」

「マスター着物着てくれるんですか!?ありがとうございます!きっとお姉ちゃんも喜びます」

「そんなにはしゃぐものなのか……。ぼーやは手紙の用意でもしていろ、私は着物を着てくるから少し時間がかかる」

「はい!先に報告していますね!」

ネギ少年がネカネ・スプリングフィールドに先に手紙の内容を吹き込み始めてからしばらくして、エヴァンジェリンお嬢さんが登場し、軽く自己紹介をしてネギ少年の魔法の師匠をしていることなどを簡単に述べて手紙は締め括られた。
その後、返信が来た時、まだ修行中ではないアンナ・ユーリエウナ・ココロウァ、愛称アーニャという少女がその手紙に乱入し「ガミガミとうるさかった」とネギ少年は語った。
その際、彼女はお嬢さんの映像を見ていなかった為に自己紹介でお嬢さんの本名を聞いた時に震え上がり、その反動で件の手紙では「さっさとその人から離れなさい!」とうるさかったのだ……そうだ。
日本に乗り込んで来るかもしれないが……果たしてどうだろうか。



[21907] 21話 少年達の試練
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 18:59
12月に入り寒さもいよいよ本番を向かえるという頃、警察機関が来たネ。
当然女子寮に突然やてきたのではなく、雪広グループを介して話が来たのだがナ。
多分三次元映像の試験運用の件だと思うが一応開発者に話しを通すという所カ。
既に田中サン達と後発で稼働している鈴木サンと佐藤サンでもデータは収拾できているから提出する資料に不足は無いナ。

「社長、超鈴音さんをお連れしました」

「失礼するネ。……失礼しました」

いくらなんでも警察の人が多すぎるヨ。
これはいつもどおりの口調だとマズいネ。

「超さん、よく来てくれました。紹介します、こちらから順に埼玉県警の篠田本部長、鉄道警察隊の根岸管理官と金子捜査官、そして科学捜査研究所の榊原所長です」

………埼玉県警のとても偉い人達ばかりだネ。
紹介されてない人もいるみたいだが話には参加しないという事カ。
おや、麻帆良祭で見た方もいるナ。

「初めまして、私が超鈴音です」

「おお、麻帆良祭でも発表に出席させてもらったが本当に若いですな。今日は三次元映像技術の開発者として話がしたく社長さんに頼んだのです」

本部長さんは縦と横に幅が広いががっしりしているナ。

「お会いできて光栄です。本日は映像技術に関する資料も持参しているので詳細な説明ができます」

「それでは超さん、早速こちらの席にどうぞ」

「失礼します」

「警察の皆様にはまず、撮影技術のシステムから説明しましょう。超さん、お願いします」

「分かりました。まず三次元映像撮影の為の機器がこちらになります。見ての通りそこまで大きくは無いので監視カメラとしてもそのまま使えます。もちろん通常の監視カメラとしても使用できるようになっていますので、導入には困らないと思います。但し、保存の際に必要となる容量が現状よりも大分増えるのでそちらで費用がかさむでしょう。説明するだけでは分かりにくいと思いますので実際に撮影しながら投影機器に映したいと思います」

ゴツい人達が真剣に見ているのは居心地が悪いナ……。
撮影機器と投影機器を接続して録画開始。

「この通り、現在のこの部屋の撮影映像が縮小化されてこちらに映し出されています。有効半径は25メートルなので一つだけでもこの部屋なら全て賄う事ができます。視点の変更もできるので是非試してみて下さい。空間に繋がりがありさえすれば全て撮影できます」

今のこの部屋の縮小映像が映ているから誰かの身体が動くとそれもリアルタイムで反映されるので反応は上々だネ。

「榊原所長、いかがですかな」

「これ程の技術が世の中に既にあるというのは驚きです。これが監視カメラの主流になれば、監視映像が証拠不十分になる事も解決できるでしょうな」

「監視カメラを設置しても証拠が得にくい満員電車内での犯罪もこれが導入されれば大幅に検挙率が上がるでしょう」

「これだけの物を見れば申し分ないですな。本題に入りますが、我々が今回依頼したいのは電車内での犯罪の抑止と撲滅の為にこの技術を試験運用させて頂きたいという事なのです」

鉄道警察隊を呼んでいるのだから当然だろうナ。
痴漢は滅びるといいネ。

「我が社としても映像技術があっても社会的問題から公開するタイミングを図りかねていましたが、その試験運用を足場にガイドラインの作成まで進められそうですから是非協力しましょう」

「開発者である私も監視カメラの取り付けから映像の保存まで全て賄う用意がありますので導入に際しての障害についてはカバーできます」

国家権力に対して拒否するのは有り得ないのだがナ。

「それはありがたい。詳しい説明は根岸管理官と金子捜査官にお願いしたい」

「それでは金子捜査官、試験運用の予定についてお願いします」

「はい、それでは説明に入らせて頂きます。まず……」

この後導入する列車とその区間と運用期間の説明等を受けた後、それに要するカメラの数、対応する保存用メモリーの必要数について話し合い、撮影した映像の取り扱い、技術の漏洩防止の契約等色々取り決めがなされたヨ。
導入に際しては私と雪広の社員と鉄道警察隊共同で行われる事になり、運用期間終了後はカメラについては全て回収という事になたネ。
収集した映像はガイドライン作成の為の資料として活用された後一定期間が過ぎたら順次処分していくことになるだろうナ。
告知無しで監視カメラの設置を行う訳にもいかないから当然事前に運用区間での周知を徹底した上で行われるヨ。
これに反発が起きる事はあるだろうが、少数派に当たるだろう。
視点移動によるアングルの問題があるが、これが三次元映像技術の真骨頂なのだから使用禁止とはいかないが、撮影された映像の確認をする人の人選は配慮する必要があるネ。
そしてこの話し合いも終わりとなり、警察の方達が退出した後社長さんと話をしたヨ。

「今回先月の銃撃事件に触れられなかったが、東京空港署の所長から埼玉県警には話が通っていてね。本当はこの後事情聴取に移る予定だったのだがお断りしておいたよ」

そういう意味でも全面協力する事になたのカ。

「銃撃された相坂さよの事は学園長から聞いていますか?」

「ああ、聞かざるを得なかった。手術を行ったことになっている病院では医者達から搬送されていた時に既に死亡していたと報告も受けていたからね。まさか幽霊で身体を与えていたなんて表で話せるような事ではない」

「裏でさえ珍しい事例です。怪我の痕を見せろと言われても既に一切傷は残っていませんから事情聴取をされると都合が悪いです。この度のご配慮感謝します」

「社員一人だけを付き添いに行かせたのが失態でした。当然の配慮です。エージェントの調査でも犯人を割り出す事はできなかった。大変申し訳ない」

互いに頭を下げ合たネ。

「犯人は相当警戒感が強いようでしたから仕方がありません。そのためにもガイドラインの作成とSNSの拡大を進めたいと思います」

「こちらでも全面的に協力させて貰うよ。提携したいという企業はあちこちあるから必ず上手く行くでしょう。まだ実験段階で小規模にしか行われていないSNSですが、超さんからの企画書を見て将来的に大きな波になると確信しました」

この後どうせならと超包子ブランド化企画の社員さん達との会議もまた行ってから女子寮に帰宅したネ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

その後の12月と言えば、2学期の期末考査を残すのみであったがネギ少年に対して2-Aを学年最下位から脱出させるなど……という課題は出されていない。
まだ2学期という事もあり時期的に半端である。
近衛門からの要請でナギ少年が優勝した時のまほら武道会の映像の受け渡しも超鈴音から無事に行われた。
襲うなどと7月の末から近衛門は言っていたが、ようやくどうするのか詳しく教えてくれた。
その実態はというと……。

12月20日。
2学期の終業式もつつがなく行われ、ネギ少年はその日教師としての仕事を終えるのに大分時間がかかり、夕方を過ぎたという頃女子寮の中に入る寸前だった。

「これは結界!?しまっ!」

一瞬にして首筋に手刀を叩き込まれ、気絶させられた。
近衛門の高速転移には一切反撃できなかった。

「ふぉっふぉ、反応が良くなっとるがまだまだじゃの。儂が昔使ったこのスクロールを1年かけて改造したがとうとう使うときが来たわい。ネギ君、頑張ってこの試練を切り抜けるんじゃぞ」

近衛門はなかなかに分厚い魔法のスクロール……巻物を広げネギ少年の手をそれに当てさせた。
淡く一瞬だけ発光した後、ネギ少年の身体を女子寮入って直ぐのロビーに寝かせ、スクロールだけ回収して転移魔法で学園長室に戻っていった。
その学園長室に陣取っていたお嬢さんの目の前に。

「襲うと言っていたがもう終わりか。折角断罪の剣を直接ぶつけてやろうと思っていたというに……。あ……待て……じじぃなんだそれは」

「物騒じゃのうエヴァ。この巻物にはネギ君の精神だけを取り込んであるのじゃよ」

「はぁ……茶々円が闇の魔法について一度言及してきたが、じじぃが似たような真似をするとはな。それで脱出条件は何なんだ?」

「最後に儂のコピーに勝てたら脱出じゃの。当然見た目は儂とは違うんじゃが」

《近衛門殿、先程ご自分も昔使ったと言いましたが……随分昔の物を引き出して来たようですね》

主観時間差72倍の魔法のスクロールであった筈。

「キノ殿も来とったのか。知っとるかもしれんが、このスクロールはスタートから徐々に敵が強くなっていくようになっていての。ある時油断するとポックリいくわけじゃ。時間もこちらの72倍で進むものじゃから試練としては好都合じゃろうて」

「なるほどな、そのスクロールもやはり精神的に死ぬのか。襲うと言うよりは捕まえて谷に落とすようなものだな」

《ネギ少年は無事に……と言えるかどうかわかりませんがロビーで倒れている所、部屋まで運ばれたようです。しかしスクロールを使うのでしたら近衛門殿がわざわざ警備に参加したりした理由はあったのですか?》

「儂も若い頃よりは魔法の熟練度自体は上がっておるからの、情報の更新じゃよ。最後に相手をするのは儂の若い頃にその情報を上書きしたコピーじゃからの」

なるほど……と言いたい所ではあるが、近衛門が相手となるとネギ少年の安否が心配ではある。

《それ……脱出させるつもりはあるのですか?》

「ふぉっふぉ、ネギ君次第じゃろ。儂にもどうなるかわからんが、最悪24日の同じ時刻には自動的に解除されるわい」

《72倍速の4日間と言えば288日。随分長いですね》

「私がこれまで指導した時間の数倍だな……。ああ……ぼーやの試練が終わったら寮のクリスマスパーティが待っているのか。とんだサンタクロースだな。しかし死にすぎると本体の身体の方がまずくなると思うが大丈夫なのか」

お嬢さんはかなり冷めているが……不死であるし、そういった事はあまり気にならないようで。

「ふぉっふぉ、それは予め分かっているからの。好きな時に覗けるから安心するがええ」

普通に仕掛けてその日だけ叩きのめす……というようなものよりも遥かに性質の悪いとも呼べるものである。
わざわざこのような物まで持ち出している辺り、贔屓しているとも言えるが。

《しかしネギ少年だけかと思えば……小太郎君にも同じような事をさせるとは分かっておられますね》

現在同じスクロールが呪術協会に向けて運ばれているのが視える。

「その通りじゃ。呪術協会支部は儂が直接言うと大体話は聞いてくれるからの、コタロー君にも似たようなものをプレゼントしておいた。巻物もすぐ届く筈じゃ」

職権乱用と私は呼ばない。

「小太郎にも渡してあるのか……あのガキなら絶対やるだろうな」

《近衛門殿にとってはネギ少年を鍛えるだけかと思えば……小太郎君も計画にいつの間に考慮にいれていたのですか?》

「ついでといえばそれまでじゃがの。警備でも良い働きをしとるし、ネギ君の相手としては申し分ないからの。複製して少し弄っただけじゃし」

「てっきり私はぼーやをじじぃの孫のパートナーにでもするのかと思っていたがな。先にぼーや達の方が仮契約でもしたほうが余程すんなり行きそうだな」

それは……有りか。
司書殿もナギと仮契約していたのだから十分あり得る。

「ふぉっふぉ、このかとネギ君がそうなったら儂は歓迎じゃよ。確かにあの少年達が相棒になるというのも悪くないの」

「このスクロールが終わったら一度話してみるか。……それで覗いても構わないのか?」

「そうじゃの、一度覗いてみるとしよう」

《私も付いて行きましょう》

近衛門とエヴァンジェリンお嬢さんに付いて行ったがスクロールの中身は実に面白いと共に過酷なものであった。
ネギ少年は気絶させられた瞬間にこの中に精神だけ移動させられ、近衛門のコピーに、

「我が貴様の父親を封印した。仇を取りたくば我の元まで来るが良い、それまでに何度も死ぬだろうが、ここでは死ぬことも許されん。永遠に苦しむが良い!ハハハハハ!!」

と、茶番そのものの台詞を述べられたらしい。
しかし、当のネギ少年は純粋であり、襲われた状況から意外と信じたそうな。
お嬢さんにしろ、近衛門にしろ少年は上手く言いくるめられている事が多いが、その辺りの勉強もこれからであろう。
一方小太郎君の方はと言えば、

「時間は気にする必要はない、進めば進むほど敵が強くなる。最後まで倒せたら褒美をやろう」

と、実に端的で解りやすい導入であったそうだ。
しかし、内容は大体同じであり何ら問題はない。
褒美というのはその中で強くなった自分自身なのは、スクロールを見て丸分かりであるが、人生というものを悟らせるような必要性があるかどうかの、善悪判断はしかねる。
開始からして小太郎君……ネギ少年は必死であろうが……にとっては面白いものであり、最初は下級の鬼、低級の魔獣などが襲いかかってくるのを倒し、先へ進むのに一定の地点で巨大な番人……所謂中ボスなるものを倒す必要がある作りになっていた。
順調に行くかと思われれば、罠が各所に設置してあり、それが作動すると大量の矢が飛んでくる状況にもなっており、その中で襲いかかってくる同じく大量の飛行タイプの魔獣であるとか……油断すれば簡単に死ぬようにできていた。
原始時代……そこまで私に歴史はないが、そのような場所のように、恐竜が闊歩していたりと子供心にそれなりに見るだけなら楽しめるようにもなっていたが……気温が極めて高かったり、その逆もあり手放しに喜べる程優しい場所ではなかった。
死亡した場合、狭い部屋に移され、しばらくすると死亡したすぐ前の場所に強制的に戻されるという仕組みになっており、断続的に死を体験するわけではないものの、厳しいものであった。

《ぼーやはもう3回死んだか。模擬戦ばかりやっていたから実際に油断するとあっさり死ぬという事が理解できていないようだな》

《それでも、死角からの攻撃を受けて失敗した後は全方位に障壁を張るようになって学習しているようですね》

《麻帆良は安全な場所じゃが、魔法世界での未開地帯なんてこんなものじゃよ。トレジャーハントでもやっとれば、罠で死ぬことも当然あるからの》

《そういう世界だから図書館島を魔法使い達はあのように改造したのでしょうね》

《じじぃも昔これで鍛えた事があったとはな。他に今まで誰か使った奴はいるのか?》

《ふむ、ネギ君の祖父であるメルディアナの学園長も使ったの。しかし麻帆良の魔法先生では儂もついこの間まで存在自体忘れとって使わせたことなんてなかったの》

ナギの父親……彼も相当高位の魔法使いである。

《ぼーやのじじぃか…》

《このスクロールもまだまだ始まったばかりじゃの。最短で終わるまででも後2日はかかる筈じゃ》

《おや……女子寮の方も大変そうですね》

《このか達かの》

《私もずっと見ているのも飽きるから家に戻るとするよ》

今日の覗き見は終わりとなり、現実に戻った。
どこ吹く風という様子で近衛門は遠見の魔法を使ってネギ少年の様子を観察するのだが、女子中学生が見るにはネギ少年が時々苦悶の表情を浮かべる事から、多分あちら……で死亡したのであろう。
スクロールの最初の方……とはいえ、72倍速であり苦しそうにする感覚は短くはない。
見ている側としては心配になるのも無理は無い。

「このか達の部屋に2-Aの子達が集まっとるの」

《超鈴音の部屋の3人はいないですがね》

何処にいるかと言えば工学部でまだ何やら作業中。

「龍宮君と刹那君は精神だけが違うところにあるのが分かったようじゃが……」

《木乃香お嬢様に泣き付かれて困っていますね》

神楽坂明日菜と雪広あやかがせっせと汗を拭いたりしているが……後者は今回は嬉しそうではない。

「刹那君もこのかともっと仲良くしてもええんじゃがのう……」

とそのような事を話しているうちに学園長室に近づく人影。

《葛葉先生が到着したようなので》

一旦退避。

「コタロー君の巻物じゃな」

「失礼します学園長」

「入って構わんぞ」

「呪術協会の犬上小太郎の巻物を持ってきました」

「届けてくれて助かったわい、葛葉先生」

「学園長、そちらにも同じものがありますがまさか……」

「そのまさかじゃよ」

「この巻物を使った彼を見ましたが一体どういう事ですか。苦痛を与えるのが目的なのですか」

葛葉先生はどういう巻物であるかは知らないようだ。

「安心せい、儂も昔使ったことがあるで死にはせんよ」

「……そうですか。学園長はいつも説明もなしに勝手に行動するのは分かっていますが…。それでは失礼します」

葛葉先生は半ば諦めた顔で戻っていった。

《ネギ少年の方は襲ったなどと言えませんから……仕方ないですね。それにしても小太郎君の方の看病はどうなっているのかと思えば……点滴ですか》

「ネギ君の方にも超君に連絡して恐らく持っとるじゃろうから点滴を用意してもらおうと思っとるよ。コタロー君は明日エヴァの家に移動じゃな。面倒は茶々丸君にみてもらうとしよう」

小太郎君の呪術協会内での立場は未だに微妙だ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

工学部でオーバーテクノロジーではない高性能サーバ等を制作していたが今日は泊り込みまではしないからここまでだナ。
先日の警察からの依頼も大体済んだから今はこちらに集中できるネ。
電車への三次元監視カメラの設置も急ピッチで進み、麻帆良沿線の車両に備え付けられたし、同時進行でそれの周知も行われ、実際に試験運用が始まるのは後数日という所カ。
全ての車両に取り付ける程カメラの製造が間に合わなかたがそれは追々だナ。
学園長から点滴をネギ坊主に与えてくれとメールが来たが襲うというのはとうとう今日からだたようだネ。

《翆坊主、点滴が必要になた経緯について一応説明を頼むネ》

《それはネギ少年が予告通り近衛門殿に襲われて精神だけが魔法のスクロールに取り込まれ、身体だけが放置となっているので、衰弱するのを防ぐためです》

魔法のスクロール等というものがあるのカ。

《理由は分かたがよく学園長は私が点滴持ていると知ていたな》

《東洋医学研究会会長で、ウルティマホラの疲労回復魔法を見ていればそう思っても不思議はないでしょう。実際あの時色々実験しましたし事実でしょう》

《そうだナ。しかし、そのスクロールというのは少し入ただけで衰弱するものなのカ?》

《簡単に説明すると、その中では現実の72倍速の時間で一番遅くても24日までは起きません。また精神だけが取り込まれているといっても精神の死があるので放っておくと場合によっては熱が出ます》

単純に襲われるよりも辛い試練カ。
72倍とはふざけたスクロールもあるものだな。
最長で288日間とは私達がネギ坊主と生活した時間よりも圧倒的に長いヨ。

《24日には起きるというのは学園長も寮のスケジュールは把握しているらしいナ。分かたネ。魔法球に点滴はまだあるから出してくるとするヨ》

《因みに小太郎君もほぼ同じスクロールに入っています。彼の場合は自分から面白そうという理由で飛び込んだようですが》

《2人共仲の良いことだナ》

翆坊主と通信を切たネ。

「コミュニティで皆ネギ先生が大変って言ってますね。こうしてみると……作ったクラスのネットワークは便利ですね。ネギ先生が眠ったまま起きないそうですけど魔法関連ですか?」

「恐らくそうだろうナ。昏睡状態なら点滴でもネギ坊主に付けてやるカ。しかし携帯自体の性能がもう少し上がた方がいいナ……」

「処理速度が遅いですからね。超さんが作った携帯なら問題ないでしょう」

「うむ、現行のと最新のとを比較しているが天と地程の差があるヨ」

「私も鈴音さんにこの携帯貰いましたけど便利ですよね」

「千雨サンにも渡したら下手なノートパソコンから更新するより早いと言われたからネ。性能は申し分ないヨ」

ネギ坊主の心配をあまりしない私達は冷めているナ。
女子寮に戻たがこのかサン達の部屋の前に皆群がてるネ。

「あ、超りん!携帯見た?ネギ君が大変なんだよ!どうにかならない?」

早乙女サンか。

「見たヨ。私の医学で少しは楽になるネ。まず一旦部屋に戻て必要な物を取てくるヨ」

魔法球の中は物置場としての役目を果たし始めているが、まだまだ空間は広いから問題ないネ。

「皆ネギ坊主が起きないと聞いたから点滴持てきたネ」

「超さん素晴らしいタイミングですわ!ネギ先生汗をかかれていたので直接水を飲ませようと思っていたところでした」

あやかサンが飛び出してきたヨ。
口移しでもする……なんて騒いでいる声もするナ。

「超の部屋は何でも揃ってるアルな!」

「失礼するヨ。おお、ネギ坊主もこれでは肉まん食べられないナ…。明日菜サンこのパックをこっちに吊り下げて欲しいネ」

「分かったわ。……もうネギったら女子寮のロビーで倒れてたし、起きないし、うなされてるし全く心配ばかりかけて……」

「超りん、ネギ君の症状は何かわかるん?病院に連れて行った方がええんか?」

ネギ坊主の腕に点滴を付けて……。

「よし、これで点滴は入ったネ。ネギ坊主のこの症状……そうだナ、遅くとも4日したら治るヨ。でも、それまでは絶対に起きないと思うネ。大事なのは献身的な看病だナ!」

明るく言ておけば皆深く考えないネ!

「看病なら私がやりますわ!」

「ネギは私の部屋に住んでんのよ!私とこのかでやるわよ!」

「病人の前で喧嘩するんはよくないえ」

「ネギ坊主が起きる時に丁度クリスマスパーティで迎えてやると良いヨ」

「「「「それだっ!!」」」」

うまく誘導できたネ。

「きっと起きたら喜んでくれるよ、ネギ君!」

しかし誰も具体的に起きる日を指定した事を聞いてこないナ……。
先に失礼するとするカ。

「点滴が終わたら様子を見て連絡くれれば良いネ。コミュニティで更新するのでも構わないヨ。私はこれで失礼するネ」

「超さんありがとう」

「超りんありがとうな」

さて部屋に戻て夕飯を食べるとするカ。
寮の夕飯には間にあわなかたから五月が作てくれた昨日の残りがあるネ。
そのまま……かと思えばそうも行かなかた。

「超さん、少しいいでしょうか」

「超、私もいいか」

せつなサンに龍宮サン……2人はネギ坊主の状態に気づいているようだネ。
先生達に不審がられたら次は裏関係の生徒から目を付けられるとはナ。
美空は全く気づいてなかたみたいだが……。

「廊下というのも何だから2人の部屋で良いカ?」

「……はい、そうしましょう」

2人の部屋に来たはいいが、このかサンの部屋に比べると殺風景だナ。

「ネギ先生を襲ったのは超さんですか?」

せつなサンはそうくるカ。

「刹那、それは早計だろう」

「先生達に不審がられるならまだしも同じクラスからそう思われるのとはネ。質問の答えだが私は襲てはいないヨ。2人は魔法生徒だから見せてもいいカ。これは学園長からのメールだヨ」

携帯を2人に見えるようにしてみせたネ。

「学園長からの直接のメール?ネギ君に点滴を付けて欲しい……これだけ?」

「ははは、ネギ先生が夏に来てからの相坂や超の行動はやはり学園長のせいか」

「龍宮サンは理解してもらえたようだナ」

「……超さん疑ってすいませんでした」

せつなサンはこういう時素直に申し訳なさそうな顔をするが、葛葉先生と似ていて堅いナ。

「気にしなくていいヨ。肉まん買てくれればそれでいいネ。ネギ坊主は精神だけ別の場所で修行しているヨ」

「なるほどな。しかし相坂が幽霊だから色々知っているのは分かるが超はどこまで知っているんだ?」

「それなりに……知ているヨ」

「深く語る気はないか。……今回と関係はないが、先月2人が入院したのは本当にちょっとした事故だったのか?四葉の様子は明らかにおかしかったぞ」

「……私もそう思います」

「どう……おかしかたのかナ」

「死への恐怖が見えた、とでも言えばいいのか」

流石プロは違うネ。

「……ふむ、龍宮サンは報酬を払えば護衛してくれるカ?」

「……ああ、報酬次第だがな」

「それなら期待に答えられるヨ。麻帆良内では必要としていないが、麻帆良の外に出る時は依頼するかもしれないネ」

すぐに良い顔をしたナ。

「そうか、これから依頼人予定のプライバシーを深く追求するつもりはないさ。必要な時には協力しよう。ウルティマホラではお布施も随分貰ったことだしな」

そういえば3日間で大分払たからナ……。
その大部分は実行委員会から返て来たが。

「よろしく頼むヨ。因みに小太郎君もネギ坊主と同じ状態らしいから見舞いに行くといいかもネ」

私は呪術協会に入た事はないがせつなサンはあるだろうな。

「小太郎君もですか!?」

「2人はライバルだからネ。せつなサンはそんなに心配なら手でも握て来てあげるといいヨ」

「そ、そんな事は!」

「恥ずかしがる事はないだろう。私も明日見に行くとしようか」

「そろそろ私はこれで失礼するネ」

お腹も減たし部屋に戻るとしよう。
後でこのかサンがネギ坊主の容態が少し良くなたと更新していたがやはりこちらから確認しなくてもリアルタイムに情報が入てくるのは便利だ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

次の日、近衛門の予定通り早々に小太郎君は茶々丸姉さんによって必要なもの共々エヴァンジェリン邸へと移され、面倒を見られることになった。
桜咲刹那と龍宮真名が呪術協会に向かったが、既に移されていることがわかり、彼女達にとって初めてエヴァンジェリンお嬢さんの家に向かうという事になった。
小太郎君の場合存分に力を出す事ができるので辛そうにしながらも、満足したような顔になるため、見舞いに来た2人は予想よりも落ち着いた状況に安堵していた。
確かにネギ少年程深刻な状況ではないが、いくらスクロールを調整してあるとは言え、砲台としての魔法使いの……広範囲殲滅魔法を持たない彼にとってはかなりきつい修行になっている。
ただネギ少年、小太郎君共に浮遊術と気を車輪のようにして飛ぶ技術をこの1ヶ月強で完全とは言えないながらも身につけているので何処かに追い込まれてそのままみすみすやられたりということはあまりない。
しかし、誰がこのスクロールの原型を作ったのかは知らないが、とにかく長い。
既に1日が経過して72日間が経過しているが、ネギ少年はまだ大丈夫なようだ。

「奴は一体どこにいるんだ……。もう長いこと皆の元に帰っていないけど、もしかしてここもマスターの別荘みたいに時間の流れが早いのか。何度死を体験してもあの部屋に戻るからここが実体のある場所ではないのは分かる……」

そう言いながらネギ少年が進んでいるのは現在狭い洞窟だが、いつ敵が出てくるかわからない状態。

「……………」

無闇に明かりを点けなくなった辺り魔法使いとしてよりも段々と違う方向に経験が積まれて行っているが、あらゆる地形に対応できるようにという配慮なのだろう……。
常に戦う場所がウルティマホラの時のような決められた範囲内で整った場所でも、別荘の冬山版のような寒くて開けている場所とは限らない。

「ッ!」

―魔法の射手!!雷の9矢!!―

洞窟の僅かな音と共に無詠唱で攻撃をしかける少年は神経が研ぎ澄まされていた。
破壊属性の光の矢を使わないのも狭い場所では正しい判断。
このスクロール内では、一定以上の衝撃を与えると建物が崩れるという箇所が存在し、攻撃に際しての手段は的確に選ぶ必要がる。
果たして実践にこれがどれほど役に立つかはわからないが……。
地味な状況だけでなく、例えば図体の大きな番人を相手にする際には速攻で確実に潰していく戦法をとりつつある。
初手で魔法の射手を連射、通りの良い場所を見つければ、雷の斧を唱えるか虚空瞬動で接近し未完成・断罪の剣を容赦なく当てるようになっている。
一方人型大の相手の場合には動きが素早い事が多いため、敵の手札が2、3わかるまでは迂闊に近づかず、回避と防御を基本にして、切り口を見つければ捕縛属性の風の矢を使って行動不能にした上でとどめを刺すのがある程度決まった流れとなりつつある。
一度接近した瞬間に石化攻撃を受け、そのまま……となったのは相当堪えたようだ。
そういう、精神的に死ぬだけでなく心を挫く仕掛けが数限りなくある。
一方小太郎君は面白いもの……に参加する感覚に近いのか失敗すると当然痛いので辛そうではあるが「くっそー!もう一回やったるで!」と前向きであった。
彼らの身体の方の配慮は充実しているので命の危険が迫るほど衰弱する事はなく刻々と時間が過ぎて行き、3日目を越し4日目に突入した。

「このスクロール長すぎないか。まだじじぃのコピーに辿り着いてないじゃないか」

「そうじゃのう……でもネギ君はもう後1時間もすれば辿り着くじゃろうな」

《小太郎君はまだしばらくかかりますか》

「ふむ……元が魔法使い用じゃから、弄ったには弄ったが相手の数が多すぎたりする場合にはネギ君のように雷の暴風で薙ぎ払ったりできんし、基本魔法で罠の探知などができるネギ君とも違うから後7時間はかかるの……。それでも戦闘の時に分身で頭数を増やしてそれぞれ気弾を放つという作戦は良い」

「小太郎はその場その場を楽しんでいる傾向があるからな。ぼーや程最後まで絶対に到達という目標が明確になっていない」

「2人共儂の所までは辿り着くようじゃから問題ないじゃろ」

《どちらかは精神的に参って離脱することになるかと思えば……意外や意外。ネギ少年は空間の異常性に気づいたとはいえ200日を越えているのに続けられるとは大したものです。前も聞きましたが、近衛門殿のコピーは倒させるつもりはあるのですか?》

一切無いと思われる。

「じじぃのコピーが手抜きでもしない限りはまずないだろうな」

「もしも勝ったらそれで十分じゃが、儂としては、ネギ君は一度絶対的な壁に当たった方が良いと思うんじゃよ。あの子は天才的な学習能力で大体乗り越えてしまうから何かにぶつかって長いこと苦労した事がないじゃろう。エヴァが指導して模擬戦で力の差は分かっておっても明確な挫折を味わったことはまだないじゃろ」

やはり。
だからこそ4日後に自動で解除される仕掛けがあるのだろう。

「……そうだな。あのぼーやは小利口だから何でもすぐに吸収してしまう。一般人が長いこと伸び悩んでからある時急激に伸び始める事がないのはぼーやにとっての欠点でもある」

《ネギ少年の成長を線で表すと常に直角に近い右肩上がり……ですからね。一般人の感覚を学ぶというのも教師として役に立つという事ですか》

「若いうちは何事も経験しておくに限るの」

初日にネギ少年の様子を見て動揺した孫娘達も今はただひたすら少年が無事に起きるのを待っている。
一方で特に直接何かできるわけではない2-Aの中学生達はクリスマスパーティを盛大にやろうと忙しく動いている。
……そんな中、いよいよネギ少年は近衛門の複製の元へと辿り着こうとしていたのだった。



[21907] 22話 超部活設立
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 19:00
《それにしてもネギ君の詠唱速度は早いもんじゃの》

《そうなるように鍛えたからな》

《本気でやると雷の斧なら質は低くなるものの連射できるのは凄いですね。それでも近衛門殿も極めて早い上、無詠唱で発動できる魔法が多すぎるでしょう》

《ふぉっふぉ、年の功じゃて。して、この3日間でネギ君が使っとる魔法障壁のようなものもエヴァが教えたのかの》

《完成形には程遠いがな。本当はもっと強度があるが、ぼーやのは密度が薄いからすぐ貫通する》

《掴みだけでもできているだけで充分かと。この3日間で最初よりは密度も濃くなっているようですし》

《なるほど、新魔法のようじゃな》

《そんなところだ。そろそろじじぃのところに着きそうだが戦場はどんな場所だ。まさか洞窟だなんて言わないだろうな》

《どこまでいっても地面も壁もない、あるのは空のみじゃよ》

《空間認識能力が試されますね》

《最後の最後も初めての場所か。じじぃの転移魔法が一番有効に使えるだろうな》

《最初は何秒持つかの》

瞬殺が予定されている。

《ここまで来るのにぼーや達の浮遊術はほぼ完璧になっている。せめて1分は持たせて欲しいものだな》

そして、とうとうネギ少年は近衛門のコピーの元に辿り着いた。

わざわざ近衛門の複製が「ここまで来れたのは褒めてやろう、だがここで終わりだ!」などという挑発を言い放ち開幕。
近衛門の複製は最初から潰しにかかり高速転移で死角に回り込み魔法領域を容易く貫通する魔法の射手の雨を乱射。
少年は早速深手を負いながらも風精囮を出現させ虚空瞬動で移動するが、囮にも移動先にも魔法の射手が同時に着弾し一度目は為すすべなく撃墜。
これ全て魔法の射手。
いかに少年が高速思考、詠唱ができても攻撃に対処できなければ意味が無い。

《近衛門殿、流石ですね》

《手加減したら意味ないからの》

《これを見ると私の訓練も甘いものだな……。そもそも本当に殺すつもりでいつもやっていないから仕方がないが。しかし5秒も持たんとはな》

《貫通した数が多い上、大体急所狙いですから》

《戦争じゃとこんなもんじゃよ。一瞬で復活はせんから少しばかり時間がかかるの》

《お優しい事に精神のダメージを緩和させるために間を置いているんだな。これが昔の私の闇の魔法のスクロールならじわじわ傷めつけて遊ぶだろうが、これはあっさりいくな》

……その後意識を一旦現実に戻し、2分、つまり1時間程時間を早送りし、また戻るというここ数日で慣れた行動を繰り返す事になった。

《2度目は開幕から浮遊術で高速移動しつつ風花風障壁を自分の死角に連続発動か。大方威力を見極めるつもりだな》

威力を見せつけるが如くわざわざ魔法の射手を障壁に向けて放つ複製。
結果はその魔法の射手が継ぎ矢の容量で同じ箇所に放たれており、容易に貫通、急所に命中。

《確かに風花風障壁は防御力が高いが面ではなく点で突破すれば紙のようなもんじゃよ》

《首筋と心臓、頭にまで撃つとはな……》

全ての急所から華が咲くという少年が体験するには衝撃的なものであった。
一発当たれば、それまで。

《こう何度もすぐにやられるとスクロール内で復活に数時間かかる為些か視るのも手間ですね》

現実で数分落ち着くのも……と小太郎君のスクロールも覗いたが、まだ最後まで到達していないものの分身の密度上昇著しく、順調に攻略中であった。
寧ろ分身に実体が出せる小太郎君の方が複製と当たった場合耐久時間は長いかもしれない。
見られているとも知らず獣化も頻繁に使用している。
……ネギ少年の方に戻ると、すぐさま部屋から出ていくか……というと今回は悩んでいた。

「風花風障壁をあんなに簡単に破られた。一方向に障壁を何重にして守ってもすぐにまた死角から魔法の射手が飛んでくる。せめて急所に直撃するのは防がないと……。そもそもあれは虚空瞬動なのか?転移魔法……にしては反応がなさ過ぎる。でも……厄介な瞬間移動に対応できない限り勝機が見えない。奴が魔法の射手なら僕もこの長い間に本数も増えた無詠唱魔法の射手で対抗するしかない……か」

……まもなく強制的に移動させられ戦闘再開。

《ぼーやも今回は厳しいだろうな》

《まだ挫けていないようですからどこまで伸びるかですね》

《ほう、ネギ君も魔法の射手で来るかの。じゃが威力がまだまだじゃの》

それは魔法障壁があってない貫通する威力を持つ魔法の射手に簡単に対抗出来る訳もない。
……今回も駄目かと思われた矢先。

《ぼーやの奴雷の斧を身体全体に振り回し始めたぞ。連続詠唱のお出ましか》

《面白い事をしますね。……確かに雷の斧の水準であれば近衛門殿の魔法の射手の軌道を少なくとも急所からは反らせられますね》

……それでも少年は少なくない数を身体に被弾した。

《斧より鞭に近いのう。ふぉっ、左手にも出して攻撃しおったか》

右手で防御、左手からの雷の斧で防御の隙間から攻撃。
右手の雷の斧の持続効果がきつくなると無詠唱魔法の射手に移行。
しかし攻撃は一切当たらない……。

《複数の魔法をこの年で同時に行使できるとは大したもんじゃな。じゃがもう限界じゃの》

既に急所以外の部分の身体が傷つきすぎたため力尽き、あえなく3度目はそれまでとなった。
……その次は防御するのを捨て、回避に専念する事にしたようだが連続の虚空瞬動は近衛門には禁忌である。

《ぼーやも分かってるだろうがどこまで機動力に差があるかの確認のつもりだろうな》

《まだ戦闘経験が甘いから何処に移動するか簡単にわかってしまうの》

《避けていると思わせてやはり誘導ですか。時間は10秒でしたね》

《これはしばらく試行錯誤が続くだろうな。普通子供相手に最初から本気でかかる相手なんてあまりいないが》

《初見の相手の力を見誤り油断することの愚かさは叩き込まんとな。最初から本気でなくとも後から突然強くなられれば同じことじゃよ》

夜9時頃に複製との戦いに突入したネギ少年だったが、その7時間後の午前4時頃小太郎君が追いついた時には、スクロール内時間で21日後、死亡回数も100を超えていた。
何度も試行錯誤を、持てる魔法を駆使して実験したネギ少年の結論としては、強力な詠唱魔法で対抗したところで、相手は必ず回避し、攻撃手段が相変わらず無詠唱の魔法の射手のみという速射性の違いから一瞬で削られていまう為、魔法領域の強化と少年自身も同じく魔法の射手の威力を近衛門に近づけ相殺を狙うという事を何度も何度も実戦の中で繰り返すようになったのだった。
螺旋回転を早々に取り入れ、練度を着実に上昇させていった。
精神死……これを繰り返すとその度に徐々に精神力が高まっていくので実際飛躍的な効果が得られた。
少年の魔法の射手1矢は9月に修行を始めた当時魔力を込めた、ボクシングでいうストレートパンチ1発の威力程度しかなかった。
それも今では、死亡すると移動する部屋の壁に、螺旋回転を加え威力が拡散すること無く罅が一切入らず綺麗に穴が開くようになった。
それでも近衛門の魔法の射手には届かないが、無詠唱と最も基本的な攻撃魔法の延々とした訓練のお陰で、魔分の運用効率が上昇した結果魔法領域の出力も上がってきた。
矢が着弾すると貫通までに一瞬の余裕が発生し、根本的に大分慣れてきたのもあってその瞬間にわずかに虚空瞬動することで何割かの確率で回避もできるようになったのである。

《後十数時間ですね。ところでこのスクロールは1箇所で長時間滞在していられない理由はやはりできるだけ今持てる力のみで戦えるようにという配慮ですか》

しかし近衛門は寝ていた。
お嬢さんも一旦帰っていた。
結局……見守るのは本当に私の役目らしい。
ところで経過時間の割に死亡回数が少なくなっているのは、損傷の受け方によって復活までにかかる時間の長短が決定されるため、大分粘るようになってきた少年はその度に復活までの時間も伸びてきているからだ。
成長してきたとは言うものの、戦闘で持つ時間はようやく秒の域を脱し、分の階段にようやく足を踏み出した程度。
まず今回そもそも勝たせる気はない試練であり、時間が伸びればそれだけでも十分とは言えるだろうが。
それから更に3時間、9日が経過した小太郎君も結果は最初のネギ少年と同じ。
少し違うのは小太郎君の方が野生の勘……とでもいうのか反応が良い時があり、また、やはり実体のある分身が出せる上、狗族の生命力の高さから攻撃を受けても撃墜されるまでの時間が始めからやや長い事である。

……ようやく朝7時、近衛門が起きた。
先程ともう一度同じ質問をした。

《その通りじゃ。スクロールで数日時間があれば新魔法でも開発できてしまうかもしれんがそれはちと趣旨が違う。あくまでも戦闘の度に持てる力のみで対処する経験は多い方がええじゃろ。その為にも何度もやり直せておるんじゃからな。これで1箇所におる時間がたっぷりあったら勝てそうになるまでネギ君の場合修行し続けそうじゃろ》

言われればその通り。
いわゆるゲーム用語で言うならばラスボス……の一歩手前で引き返し、修行し始めたら4日間という時間制限が存在するこの試練の趣旨が削がれてしまい、何の意味もない。
現実はそのようには……なっていない。
魔法球というものは、確かにあるが。

《朝になってきてみればまだ3分も持たないか》

お嬢さんも現れた。

《近衛門殿の瞬間移動を攻略するのはほぼ無理かと。先読みができない限り攻撃も当たりません。しかしネギ少年は随分成長しましたよ》

《ふむ、ぼーやの奴じじぃと同じ技術を磨く事にしたのか》

《ふぉっふぉ、これでネギ君は儂の弟子でもあるの》

《何言ってる。努力してるのはぼーや自身だろうに》

お嬢さんは少し嫉妬……しているようだ。

《近衛門殿、ここでの空間の経験は肉体が無いですが現実に戻った場合は、記憶はあるもののやり直しですよね?》

《そうじゃな。経験と記憶はしっかり残っとるからその後の本人の修行次第じゃろ》

《スクロールに入ればすぐに誰でも強くなれるのならば魔法学校などいらんしな》

《エヴァは厳しいこと言うの》

《現実はいつでも甘くないという事だよ。それにしても後から追いついた小太郎の方が最初は善戦しているな》

《生命力と分身、勘がありますからね》

《長瀬君との修行は効果あったようじゃの》

近衛門も知っていたようで。

《彼女もあの年にしては相当な手練です。瞬動術に関してはほぼ完成形と言って良い上、気の扱いもかなりのものです》

《私は直接見たことはないが、体育の時の身のこなしを見る限り、下手な魔法先生より強いだろうな》

《そうじゃな。長瀬君が山奥からわざわざ出てこの学園に入った理由は一般人の生活を学ぶ修行だそうじゃがな》

そういう意味で一応は「忍者ではござらんよ」と言うのだろう。
麻帆良学園の外だったら、今より更に浮いていたであろうが、そこは逆に修行の場としては温いのかもしれず……どうだろうか。

《昔からたまに忍者が学園に入ってくることもありましたが、入学時点でこれだけ強いのは彼女が初めてでしょうね》

《入ってくるにしてもある程度都会慣れしとる忍者が多かったがの。長瀬君は珍しい例じゃよ》

本当に珍し例である。
……そんな話をしながらも刻々と時間が過ぎていく中で、ネギ少年は最近練習していなかった遅延呪文にも手を出し始めた。
どうやら解放しながら同時に高速詠唱を行うつもりのようだ。

《頭の回るぼーやはまた遅延呪文をやり始めたか。まあ否定はしないから好きにすればいいがな》

《ふぉっふぉ、あれもこれもとやってはどっちつかずになると思うがの。ネギ君の才能に期待じゃな》

《高速で詠唱が行えますからそこまで必要かというと疑問もありますが、一度に発動させれば……火力は上がりますね》

《断罪の剣を遅延呪文で貯めておくのは今のぼーやには防御としても利用できるな》

攻撃を防御にも利用するというのは常套手段ではある。
しかし、高速移動、魔法領域、無詠唱魔法の射手、その他の高速詠唱、更に遅延呪文が並行して使えるのは……流石ネギ少年と言うべきなのか才能に溢れている。
最初の3つが最終的には完全に無意識でできるようになるのだろうが、まだそこまで熟達していない。
対して、今の近衛門の複製は攻撃を喰らわないという前提のため、高速移動、無詠唱転移魔法及び魔法の射手だけで対処している。
非常に単純であるがそれ故に強い。
近衛門を完全に倒すならば、どうにかして捕獲するか、一点を爆心地とした広域殲滅魔法で消し飛ばすなどが有効手段であろう。
しかし生半可な広範囲魔法では相殺するか防がれるか、はたまた完全に一旦退避する可能性もあり、それも難しい。
……長くなったがネギ少年の、時間制限的な意味で最後になった戦いは良くやったと思う。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「うわぁっ!!」

「ぐっ……はぁっ……はぁっ……またやられたのか」

もうこの起きた瞬間の激痛も数百回は超えた。
それでも父さんの仇なら負けるわけにはいかない。
もう一度だ。
移動する前にいくつかの魔法は発動しておけるから準備しよう。
まずは浮遊術から……。

    ―戦いの歌!!―
   ―魔法領域展開―
―断罪の剣・未完成 術式封印!!―

……扉を開ける前に。

  ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
 ―来れ 虚空の雷 薙ぎ払え―
 
……さあ行くぞ!

    ―雷の斧!!!―
奴は予想通り転移、次は今まで通りなら続けて魔法の射手が死角の斜め上か下から飛んでくる筈。
    ―風精召喚―

マスターの教え通り一箇所に留まらず踵に魔力を貯め虚空瞬動。
上方に移動しながら上下反転で後方視認!

攻撃は下から!追尾式魔法の射手が来る!
ここで相殺っ―解放!!―全弾撃破!
続けて―光の17矢!!―

どうせ通ってない!背後の急所の射線上に
 ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―来れ 虚空の雷 薙ぎ払え―
振り返って―雷の斧!!!―

……今度も撃破、次はどっちだ。
移動して離れようにも奴の瞬間移動できる距離は底が知れない。
とにかく―未完成・断罪の剣 術式封印!!―
再度右手に―未完成・断罪の剣!!―

左手で避けられない―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
     ―雷の精霊199柱!!集い来りて 敵を射て―
       ―魔法の射手 連弾・雷の199矢!!―攻撃!

奴に魔法障壁を張る気がないのは分かってるけど、前方180度に向けて多弾頭で放っても倒せはしない!
どこに反応が……左上かっ!
断罪の剣で吹き……飛べっ!

「はぁっ!!」

全力で投げつけるっ!
……やっぱり回避されるか……もっと全然、速度が足りてない。
奴と対等に戦うなら転移魔法がないと駄目だし、雷系最大呪文の千の雷も覚えないと……!
……まだ、まだ、始まってもいないのに!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

《今回で終わりでしょうが、集中力は大した物ですね》

《ああ、最後の最後で7分経っても未だまともに被弾していない》

《ふぉっふぉ、ここまで来れば合格じゃろうて》

―出力最大!!―

大分高水準の魔法領域。

《ぼーやの奴、一応の理解はできたか》

《こりゃ驚いたわい。あそこまで硬くなるのかの》

既にあちこちに滞空している光球から放たれる無数の魔法の矢を未完成断罪の剣で吹き飛ばすネギ少年。
同時に魔法の射手で応戦し、相殺しきれず突破してくる矢は魔法領域着弾後、2秒かけて突き進みながら減衰、消滅に至るようになった。
もうすぐ現実に戻ってくるとして、再現が難しくなるというのが惜しい。
流石にお嬢さんの雷の暴風を一瞬で霧散させてしまうのと比べるべくもないが、戦闘訓練を本格的に始めて4ヶ月程度の子供が到達する水準は遥かに超えている。

《このままだと魔力が完全に尽きるまで続く持久戦になるな。小太郎のようにこちらも行動パターンが変わるのか?》

《そうじゃな。もうそろそろじゃろう》

近衛門の複製の行動の規則は、現状の戦法……で、速攻で倒す事が第一。
当然現状で倒せないと判断すればすぐさま攻撃方法が変わる。
……近衛門の宣言通りすぐに複製の様子が変わり、空を縦横無尽に埋め尽くす大量の槍が出現した。
少年はそれを見た瞬間の表情は絶望に満ちていたが……そろそろ身体も限界に達しそうな所、まもなくそれらが全方位から殺到した。

《まともな対抗手段も無くここまで出させたなら良くやったよ、ぼーや》

《ええ、ここでの経験は後で成長につながると思います》

《10分を越すとは儂も思わなんだ。ナギとはスタイルは違うが、片鱗を見たの》

《ああ、ぼーやなりの進む道の始まりかもしれんな》

さて、小太郎君の方はどうなったかだが……。
実体のある分身2体と共にお互いに攻撃と護衛を補い合うという戦法で善戦していた。
1人が防御に全力を注ぎ、1人が攻撃に、もう1人は両方の補助をしながら視野の確保で死角を潰す。
うまくできていたため、耐久時間は長かったが、攻撃が本体に当たるとなると一気にやられてしまう弱点があった。
極めて殺傷性の高い威力の魔法の射手を見てやはり彼も気弾1発ずつの威力を上げるようになり、2発なら1矢を越える威力にまで上がった。
結果この地道な気の扱いの訓練お陰で全身の気での強化も遥かに効率が上昇し、獣化するとその伸びが実にはっきりした。
その水準に達したのはネギ少年の最後の戦いよりも数十分、つまり1日と少し早かった。
しかし先の通り、早々に攻撃方法が変わった近衛門の複製によりそれもあえなく撃墜された。
ネギ少年よりも到着は遅くなったが視野の問題を解決できるという点は、ネギ少年よりも遥かに有利。
スクロール内の2人が戦ったら先に近衛門に攻撃手段を変えさせた小太郎君が勝つかと言えば、ネギ少年の魔法領域の頑丈さ、未完成断罪の剣の危険性も考えると、どうなるかはわからない。
何より、今回は終始遠距離戦であり、接近戦を考慮していないので比較が難しい。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「うわぁぁっ!!」

最後にあんな攻撃に移ってくるなんて!
天井が……違う。

「ぐっ……はぁ……はぁっ……あれ!?ここは?」

「ネギ!気がついたのね!」

「ネギ君起きたんやね!」

「ネギ先生!よくご無事で!」

ああ、やっと……やっと戻ってきたのか……。

「うっ……うっ……うっ……」

「ネギどうしていきなり泣き出すのよ」

「いえ……戻ってこれたのが嬉しくて……。凄く……長い間ずっと寝ていた気がします」

「ネギ君な、4日間ずっと寝てたんよ」

あんなに長かったのにたったの4日間!?
マスターの別荘の比じゃない……。

「たったの4日間……」

「たったって何よ!ずっと苦しそうにしてるし、汗はかくわ……心配してたんだからね!」

そうか、アスナさん達は僕の事をずっと看病してくれてたのか……。
少し泣きそうな顔してるぐらい……心配かけちゃったな……。

「……アスナさん、このかさん、あやかさん、心配かけてごめんなさい。寝ている間にご迷惑をおかけしました」

身体を起こして……。

「ネギ先生、そんなにすぐ動かれて大丈夫なのですか?」

「そうやよ、ずっと寝てたんやからゆっくり起きんと身体に悪いえ」

「大丈夫です」

「ネギ……何か雰囲気変わったわね」

そう……かな……ずっと1人で生活してたからかも。
前より精神的に強くなったのはわかる。

「アスナさん、僕は僕のままですよ」

「何だかネギ先生が凛々しくなられましたわ!」

「そうけ?……う~ん……よく見ると顔つきが変わったような気がするなぁ」

「ま、それは良いとして今から寮の食堂でクリスマスパーティやるから行きましょう」

そっか……もうクリスマスなんだ……。

「そうやね!ネギ君の為にクラスの皆も張り切ったんやよ!」

「では早速私がネギ先生のお着替えを……」

「いいんちょ!それぐらいネギなら一人でできるわよ!」

ふふ、この二人は変わらないな。
久しぶりに現実に戻ってきて、起きてみればクリスマスパーティを皆が準備してくれているらしい。
食堂に向かう途中の廊下で。

「ネギ、さっきたったの4日って言ってたけどまさかエヴァンジェリンさんのアレみたいな感じだったの?」

アスナさんが耳元に頭を寄せながら小声で話しかけてきた。

「確信はないですけど、4日間は僕にとっては数ヶ月間の時間だったと思います」

「数ヶ月!?何よそれ!」

「アスナさん、声が大きいですよ」

「わ、悪かったわね。でもただの夢じゃなかったのね……」

「はい、全部覚えてます。だからアスナさん達に会えて嬉しいです」

「ば、馬鹿ね。同じ部屋に住んでるんだから当たり前じゃない」

……アスナさんはこう言ってるけど、少し喜んでるみたいだった。
そんな事を話しながら食堂についた。

「「「「ネギ先生復活おめでとう!!!」」」」

クラスの皆さんがクラッカーを一斉に引っ張ってくれた。

「ほらネギ、皆あんたのこと心配してたんだからお礼ぐらい言いなさい」

「……はい!皆さん心配かけてごめんなさい!こんな綺麗な飾り付け見たこと無いです、ありがとうございます!」

「硬いことはいいからネギ君の席はこっちだよー!」

まき絵さんが飛び掛ってきた。

「そんなに引っ張らなくて大丈夫ですよっ!」

「恥ずかしがらないくていいよー!」

そうだ……これが2-Aだったな。
クリスマスイブっていうと落ち着いて過ごすものだったと思うけどここでは関係ないみたい。

《ぼーや、起きたようだな》

マスター!

《マスター、心配かけてごめんなさい》

《気にすることはない、ぼーやの体験の原因は学園長からの試練だからな》

学園長先生の試練!?
じゃあ最初に襲って来たのも学園長先生だったって事……なのか。

《じゃあ父さんを封印したっていうのは嘘なんですか!?》

《ああ、そうだ。ぼーやに本気を出させる為の口実だろう》

《そうだったんですか……。でも僕、最後の相手を倒すことはできませんでした……》

《当然だよ。あれは姿は異なっても学園長なんだからな。それに元々倒させる気は無かったようだ》

《あの最後の相手は学園長先生だったんですか……》

あれが学園長先生……強い……どころじゃない……。

《私も何度か覗いたが、まあ新型の基本魔法もまだ不完全な状態で良くやったよ。あれでぼーやに新魔法でもじっくり開発する暇があればもう少し健闘できただろうな》

《はい、落ち着いていられる時間が殆ど無かったのはきつかったです》

《それでも戦闘中での地道な工夫と発想は良かったぞ。特に最後の集中力と、魔法領域の完成度は目を見張ったよ。浮遊術も最初と比べると自然になった》

《ありがとうございます!》

《……それと、あの空間だが、学園長もぼーやのじじぃも経験済みだそうだ》

《おじいちゃんが!?》

《小太郎もぼーやと同じ日からやっていたよ。結果はぼーやと同じで最後の相手を倒すことはできなかったがな》

《コタロー君も!?》

そうか……おじいちゃん達もコタロー君も同じことやったのか。

《明日学園長の所に行くと良い。一応試練に耐え切ったご褒美をくれるらしいからな》

ご褒美ってなんだろう……。

《はい、分かりました、マスター》

《今日は楽しむ事だな。それでは通信を切るからな》

うーん……なんだかずっと騙されてた気がするんだけどなぁ……。
でも、今日は言われたとおり、皆に会うのも久しぶりだし楽しもう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ネギ少年と小太郎君は両者共に288日間の長きに渡る精神空間を途中で離脱することなく過ごし切った。
小太郎君は近衛門の複製を倒すことができなかった事を悔しがっていたが、勝てたら勝てたで近衛門よりも強い事になってしまう。
あの空間では肉体的成長は一切しないものの、精神力、反射神経、戦闘技術やこれらの積み重ねの中での勘については飛躍的に伸びたと言える。
スクロール内で全く新しい新技を開発するだけの安全な時間が無かったものの、その場の発想の中での技の昇華は著しいものだった。
……ネギ少年と小太郎君は次の日、言われたとおりに近衛門の元に向かった。

「ネギ君、コタロー君4日間よく頑張ったの」

「へっ、学園長も乗り切った言うんやから当たり前やで!」

「僕は少し騙された気がしました……。でも途中で挫けそうになっても頑張りました」

ネギ少年はやや疲れ気味。

「して、2人は凄く強くなったと思っとるかの」

「おう、数倍は強くなった気がするで!」

「僕もそう思います」

「そういうと思っとったが、あのスクロールは精神だけを取り込んどるから、現実で同じ事を再現しようとすると劣化するんじゃよ」

「えー!?そんなアホな!折角あないに強うなったと思うとったのに」

「そうだったんですか……。でも出来事はしっかり覚えてます」

「その通りじゃ。経験と記憶は残っとるからそのイメージに近づくのは修行次第でじゃから努力すればええ」

「意味無かったんやないんか。よっしゃ!それならまた修行や!」

「あのイメージか……忘れないようにしないと」

「しかしネギ君には何も伝えずスクロールに放り込んで悪かったの。恨まれても文句は言えんのじゃが、このプレゼントで我慢してもらえると助かるの」

近衛門は件の物を取り出してみせた。

「おじいちゃんもやったと聞いたのであまり気にしてません。それでこれってニュースでやっていた三次元映像ですか?」

「なんで学園長が持っとんのや」

「それは色々秘密があるんじゃよ。大事なのはこの映像の内容じゃ。確かこの辺じゃったの」

「ここ龍宮神社やないか」

「うん、ウルティマホラの時とは少し舞台が違うけど…」

「これはの、今は形だけ行われておるまほら武道会の昔の映像じゃよ」

「おっこの赤毛の奴ネギによう似とるな!」

「え、ナギ・スプリングフィールド!?学園長先生、これって?」

「ネギ君の思った通りじゃよ。これはネギ君の父親が10歳で、まほら武道会に突然参加した時の映像じゃ」

「これがネギの父ちゃんか!」

「これが父さんの小さい時……こんなに強かったんだ……」

「なんやホンマめっちゃ強いな!……でもあの学園長の偽物に比べるとまだ戦えそうやで」

「そりゃそうじゃろう。この大会では地面があるからの。それに色々ルールもあるものじゃから2人が戦った儂の偽物とはそもそもスタイルが違うんじゃよ」

「ウルティマホラみたいなもんなんか」

「近接戦闘がなんだか懐かしいや」

「ナギの話じゃが、当時既に浮遊術は完璧にできおったし使える魔法は少ないものの体術のセンスは誰に教わるでもなくとにかく強かったの」

「父さんはどこまで……勝ち残ったんですか?」

「最後まで見てのお楽しみじゃよ。全試合揃っとるからじっくり見ていくとええ」

「学園長先生、ありがとうございます!」

「昔はこんな凄い大会あったんやな」

「実は来年の麻帆良祭では当時と同じまほら武道会を開催する予定なんじゃよ」

「本当ですか!?」

「一般人対策はどうするんや?」

「それはしっかり対策を用意しとるから気にせんで良いぞ。2人とも出場する気があるならこれからも修行を続けるとええじゃろ」

「当たり前や!ウルティマホラと違うて気を隠さず使えるんなら絶対出場するわ!ネギもそうやろ?」

「うん、僕も絶対に出場するよ!」

「特別企画もあるようじゃから楽しみにしておくといいじゃろ」

ナギ少年が優勝まで行くまでの映像を真剣に見続けていた少年達の目は輝いていた。
その後の少年達にまずは魔法のスクロール内での自分の理想の状態に追いつくこと、そして目指すは10歳の時のナギ少年を越すという明確な目標ができ、より修行に打ち込むようになったのだった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ネギ先生達の試練も終わり、年末年始となりました。
テレビのニュースではとうとう麻帆良沿線での監視カメラの試験運用が始まったと報道され、試験運用期間の間に犯罪発生率がどれだけ減少するかのサンプルが集められるそうです。

「今年も無事に年末を迎えられましたね」

「そうだナ。私にとても日本での2度目の年末になたヨ」

「去年は年を越してから蕎麦を食べましたが、今年こそ正しく食べられましたね」

「そういえば鈴音さんも葉加瀬さんも去年は年末年始関係なく研究ばっかりでしたね」

「そう言われると、まだまだ研究することは尽きないのだけどナ」

「私も相坂さんが収集した行動プログラムで新型ロボットの新たな可能性を模索したいです」

「あのプログラムに従えば人型に限らず4足歩行でも昆虫の動きも再現できるだろうからネ」

「昆虫の動きはちょっとやめて欲しいです……」

「何言ってるんですか、相坂さん!昆虫の動きからはまだまだ学ぶべきところが限り無くあるんですよ!例えばムカデの足の動きが精密に再現できれば新しい自動車ができるかもしれませんし他には……」

なんでムカデとかそういう考えたくないものをいきなり例に上げるんですか!
そんな見た目の乗り物乗りたくないですよ!
……というか折角年末でほっと一息かと思えば結局マッドサイエンティスト化するんですね……。
鈴音さんも生物工学的には……と葉加瀬さんとそのまま話だしてしまいました。

……せめてもの癒しと言えば、日本での年末年始が初めてのネギ先生が初詣やおせち料理にどれぐらい感動するのかというところですが、きっと目を輝かせてくれると思います。
でも、今回の試練を乗り越えてなんだか顔つきが変わってただのかわいいからカッコイイにもなったと皆言っています。
コミュニティの方の情報もそういう書き込みで盛り上がったりしてますけど凄い内輪にしか役に立たない内容ですね。
連絡網としてもかなり役に立っているみたいでカラオケに行こうとか、近いうちに服を買いに行く予定があるけど誰か一緒に行かないなんていうのを書き込むと同じ寮の部屋でなくてもすぐに伝わるので便利といえば便利です。
長谷川さんは未だに積極的にコミュニティでは情報を出していませんが、自分のブログでは相変わらずのようです。
SNSの制作には協力を得ているので規模が大きくなれば飛躍的に会員が増える事につながると思います。
……と、ぼーっと考え事をしていたら鈴音さんと葉加瀬さんの白熱した会話はまだ続いていたみたいです。

「2人共もう後10秒で新年ですよ!」

「おお、そうだナ」

「カウントダウンですね」

6……5……4。

「「「3!……2!……1!……あけましておめでとう!!」」」

3人でお祝いです!

「……それにしても皆すっかり携帯の更新にも慣れましたね」

「予想通りだが、大量のあけましておめでとうだネ」

「やってみて思いましたがこれは絶対流行りますね」

「うむ、間違いないヨ。さて、皆で初詣に行くみたいだから用意しようカ」

「はい!」

女子寮の前で皆と合流し、ネギ先生も引っ張って龍宮神社に行き初詣をしました。
綾瀬さんがネギ先生に詳しく参拝の方法とそれにまつわるうんちくを長々と講釈していて、流石神社仏閣マニアだと再認識しました。
去年しつこく追い掛け回されたのも良い思い出です。

……次の日去年と同じく朝食堂でおせち料理を食べた後、改めて神社に向かい、おみくじを引いたり絵馬を書いたりというのは伝統通りというのか去年と違いありません。
しかし今年は私に違いがあります!
それは私も着物を着ているということです。
ネギ先生が似合ってますねと褒めてくれて着て来て本当に良かったです!
それを聞いた着物を来ていなかった人達は私達も買っておけば良かった!と騒ぎになり、結局ネギ先生が全員に似合ってますと言う羽目になりました。
龍宮さんに私と鈴音さんは猛烈に安全関連のお守りを進められ、良いようにお金を消費させられたのです。
後で確認しましたが流石に安産祈願は余計ですよ!
語感的に似てますけどそういうことじゃないです!

そして、そこそこに解散となり、予想通りというか昨晩2人が熱く新型の制作について語っていたため工学部に半ば強引に連れていかれ、計算に付き合うこととなりました……。
いつの間にか工学部の直ぐ横に体育館のようなものが出来始めているのですが、どうやらSNS関連の為のもののようです。
見た感じ今月中には容易に完成しそうなあたり、どういう建築技術なのか気になります。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

1月も今までと変りなく忙しい日々を過ごしたが、試験運用している監視カメラがあるのにもかかわらず電車で犯罪におよぶ不届き者が次々に検挙されたり、1週間毎に犯罪発生率が激減していくのが報道されているのは爽快だたネ。
運用期間はまだあるが、既に人口の密集している東京の路線からも導入したいという話が上がて来ていると雪広から知らされたヨ。
近いうちに個人的な表彰状が渡されるという話もあるらしいが、目立つのは御免だネ。

11月から空港で販売し続けた超包子の肉まんも世界に届けられていて、とうとう来月にアメリカで支店を出す件が実現することが決また。
実際国内に店舗数を増やしてもよかたのだが、各空港店からもインターネット販売を行ているから無闇に情報漏えいの確率を上げる必要も無いネ。

《翆坊主、来月アメリカに出店する超包子にまた視察に行こうかと思うのだがどうネ?前銃撃犯はもう一度おびきだすでもしない限り尻尾を掴めないと言ていたが、国外にあえて出てまた似たような事があれば国内組織なのか国外組織なのかも判断できるヨ》

《わざわざ囮になるということですか》

《鈴音さん危ないですよ!行くなら私もまた付いていきます!》

《サヨが付いていくというなら……構いませんが、プロの護衛はしっかり連れていった方が良いでしょう》

《それなら丁度龍宮サンがいるネ。この前約束もしたから丁度いいヨ》

《また随分用意周到ですが想定の範囲内ですか。……一応確認ですがどこの州ですか》

《ワシントン州だヨ。それがどうかしたのカ》

ワシントン州と言えば、例のOS会社があり、アメリカのアラスカを除外した一番北西の位置で美しい風景が広がている西海岸の州。
鈴木サンのモデルになた野球の選手の所属するチームの本拠地でもあるネ。

《いえ……都合がいいと思いまして。アメリカにはジョンソン魔法学校があるのですが、そのワシントン州にあります。そしてその魔法学校出身の生徒が超鈴音達の1つ下の学年にいます。名前は佐倉愛衣と言いまして案内でも頼むと良いかもしれません。次が重要ですが彼女は探知能力が高いです》

確かに都合の良い事だナ……。
無理に連れて行く必要もないが面白そうではあるネ。
地理に詳しいならまずマイナスに働くこともないし英語も話せるカ。

《ふむ、面白そうだナ。適当に部活でも設立してアメリカに行てくるカ。人数は私、さよ、佐倉サン、龍宮サン、あと1人足りないネ》

《わー、なんか確かに面白そうですね!危険がまた一杯そうですけど》

《あと1人であれば春日美空と初等部ですがそのマスターのココネ・ファティマ・ロザでもどうですか?ただの人数合わせですが、ココネの方は微弱な念話を聞き取る能力があります。私が仮契約カードでの通信を拒否したのは実は彼女が原因です》

《こういう時色々知ている翆坊主の能力は便利ネ。しかし美空について触れないのは人数合わせだと言うにしても……なんとも失礼だと思うヨ》

《では敢えて少し……春日美空はココネを肩車して早く走れます。イタズラ魔法が得意です。超鈴音と同じクラスですから巻き込むのは意外と簡単です》

そんなところだろうと思たヨ。

《キノ、棒読みですよ……》

《ふむ、一足先に部活を設立しておくカ。ネギ坊主達もいずれ部活を設立して魔法世界に行くのだろう?》

《……その通りです》

だろうナ……。

《私海外行くの初めてなので楽しみです!》

《さよ、まだ決また訳ではないが……学園長には多大な貸しがあるからほぼ確実に実現できるネ。早速授業が終わたら交渉開始ネ》

《えっ鈴音さんもう動くんですか!?》

《視察まで時間がないから急がないとナ》

《設立頑張ってください。今回は私もサヨから補助を行ないますから観測は遠隔地でも麻帆良と同じ水準で行けます》

《それって私……どうなるんですか?》

《ご心配無く。サヨが知覚してい無くともこちらで知覚できるようになるだけです。いざとなれば……強制的に身体を動かすかもしれませんが》

《さよは海外旅行を愉しめばいいネ。今回は私達の方が先手を打てる状況になるからナ。通信終わりだヨ》

この日授業が終わった瞬間から行動を開始したネ。
まずは隣の席からだヨ。

「美空、私が作る部活に入るネ」

コソコソ話しかけると何か企んでる感じがするナ。

「ほ……超りん今なんと?」

虚を突かれた表情だネ。

「私が作る部活に入るともれなく海外旅行がタダでできるヨ」

「おおっそれはいいな、何処に行くのさ」

フフ、簡単に釣れるものだナ。

「ワシントン州だヨ。西海岸だから期待しておくと良いヨ」

「おっけー、何かよく分かんないけど私はいいよ」

何も考えてないナ。

「交渉成立だナ」

次は龍宮サン。

「龍宮サン、護衛の依頼だヨ。私が作る部活を隠れ蓑にアメリカまで来月着いてきてもらいたいネ」

「アメリカまでか……。来月とは急にどうしたんだ?」

「超包子のアメリカ支店が出店するから視察だヨ。費用は全額負担に報酬は払うから任せるネ」

「本当の狙いはそれではないようだな……。護衛のついでにタダで久しぶりに海外に行けるようだしその依頼受けよう」

「話が早くて助かるネ」

次は佐倉サンか。

《翆坊主、佐倉サンは何組で、もしくはもう何処かに移動しているカ?》

《ホームルームが長いのでまだ大丈夫なようです。クラスは1-Dです》

《情報提供感謝するネ》

《サヨを含めてもう4人とは早業ですね》

1-Dは2階だたナ……。
ホームルームが終わたようだネ。
顔がイマイチ分からないが、お料理研究会の後輩がいたから聞けばいいナ。

「超先輩!どうしたんですか?」

「少し聞きたい事があてネ。佐倉愛衣サンはどの子か教えてもらえるカ?」

「それならあそこの端の席の赤い髪の毛の子です」

「教えてくれてありがとネ」

そういえば翆坊主の映像で見た事あたナ。

「佐倉愛衣サンだネ。初めまして私は2-Aの超鈴音だ」

「は、初めまして。はい、私が佐倉愛衣です。あの……超先輩が私に何かご用ですか?」

「知てもらえているようで光栄だネ。詳しい話は省くが、海外に行く部活を設立するつもりでネ。まず来月アメリカに行く予定なんだヨ。それで私のクラスの情報通から佐倉サンがアメリカに留学していたと聞いて案内を頼みたいと思たネ」

朝倉サンから聞いた事にしておくネ。

「か、海外に行く部活ですか!?私アメリカには詳しいですから構いません!」

海外に行く部活と言た瞬間随分テンション上がたナ。

「協力感謝するネ。海外旅行の費用は全額タダになるから安心するといいヨ。書類の手続きは後になるから携帯のアドレスを教えて欲しいネ」

「全額タダになるんですか!?アドレスは、ちょっと待ってください携帯を……あ、はい、ありました、これです」

赤外線で受信して……。

「これでいいナ、また後ですぐ連絡すると思うからよろしく頼むネ」

「はい、連絡お待ちしてます!」

もう少し疑われるかと思たのだがタダとか海外に行く部活と聞いただけで釣れるあたり美空と同じようなものカ。
最後は学園長室だナ。

「学園長、失礼するヨ」

「超君か、入って構わんよ。今日は何の用かの。結界は張っておくぞい」

「助かるネ。私の超包子のアメリカ進出の視察とこの前の事件の犯人を炙り出すのを兼ねて部活を設立したいと思うネ」

「随分危ない橋を渡ろうとするものじゃな。一応話を聞くが部員はどうなっとるんじゃ?」

「私、さよ、龍宮サン、美空、1-Dの佐倉サンだヨ。できれば美空のマスターも連れていけると助かるネ」

「ふぉっふぉっふぉ、その情報を提供したのはキノ殿かの」

「そうだヨ。丁度ワシントン州に行くから佐倉サンは適任だろう。学園長は許可したくないかもしれないが、これは私に借りを返す良いチャンスだと思うネ」

「ジョンソン魔法学校の事も聞いたのか。ふむ……また危ない目に合わせるのは借りを返せるとは言えないと思うんじゃが、超君には借りが溜まっとるからの…。よし、分かった、部活の内容は外国文化研究とでもするといいじゃろうて」

「フフ、部活の設立の許可感謝するヨ。顧問の先生は葛葉先生が良いと思うネ」

「……それはまた適任じゃな。神鳴流には基本的に飛び道具は効かんからの。手配しておこう」

私も一応の馴染みがあるしネ。

「部活にかかる費用は全て私が負担するから金銭で迷惑をかけることは無いから安心して欲しいネ」

「麻帆良最強頭脳は逞しいの。無事に帰って来ることを祈っとるよ」

「大丈夫ネ。今回は私が先手を打てるからナ。ココネ・ファティマ・ロザは初等部だが手配してもらえると助かるヨ」

「分かっとるよ。シスターシャークティには儂から伝えておこう。春日君はあまり戦力にはならんと思うがの……」

「人数合わせは十分戦力になているヨ」

「それは大した戦力じゃ」

こういう時本当に貸しを作ておいて良かたと思えるナ。
部活申請用紙を事務室で受け取て埋められる場所は全て埋めたから寮で名前を書いてもらうとしよう。
学校でやると朝倉サンに嗅ぎつけられるからナ。
……結局この日中に全員の署名が得られて、すぐ次の日に学園長に提出、ココネも特例で部員追加が認められ、葛葉先生も顧問になてくれたヨ。
そして今は部員全員が学園長室に集合となているネ。

「まさかたったの2日で部活が設立されるとは思わんかったの」

「それは学園長が許可したからでしょう」

葛葉先生がツッコミを入れたネ。

「超りん、呼ばれてみればこの人選は何……?」

「美空、この部活の真の目的を教えよう。来月ワシントン州に出店する超包子の視察と危険な犯罪者の燻り出しが目的だヨ」

「そうなのかー。ってなんだよそれ!?」

ノリツッコミだナ。

「まあ落ち着くネ。費用は全てこちらで負担、数日滞在もするから観光もできるし安心するネ。危険になるかどうかも実際には分からないヨ」

「学園長、超先輩は……」

「超君と相坂君は魔法生徒ではないが、裏の事をある理由で知っとるんじゃよ。超君、一応危険性についてしっかり話してもらえんか。ここにいる全員には情報を漏らさせないと約束させよう」

「分かたネ。ここからは秘密で頼むヨ。今回の設立の理由の一つである危険な犯罪者の炙り出しだが、11月に私を庇てさよが銃撃された事が発端ネ」

「超、やはりただのちょっとした事故ではなかったのか」

美空が引いているナ。

「龍宮サン、この前は話さなかたがその通りだヨ。美空、面倒そうな顔するナ。特典も沢山あるネ」

「げっ顔に出てたか。相坂さんが銃撃されたなんて……大丈夫なのか」

シスター服でも着て顔隠すといいヨ。

「春日さん、私は大丈夫です」

「この前銃撃されたのは完全に油断していたのが原因ネ。犯人の炙り出しと言ても国外犯かどうかはわからないからただの海外旅行になるかもしれないし、実際に襲われるかもしれないが今回のこのメンバーなら大丈夫だヨ」

「それについては儂から説明しよう。葛葉先生は神鳴流じゃから飛び道具は効かんし、龍宮君はプロ、佐倉君は探知能力に優れている上ジョンソン魔法学校出身、ココネ君は念話の傍受ができるじゃろ」

「学園長せんせー!私足手まといじゃありません?」

「春日君はココネ君の従者じゃろ。シスターシャークティからはしっかり使ってやってくれと言われとる」

「その通りでございます……。し、シスターシャークティ……図ったな……」

図たのは私だけどネ。

「学園長……私はジョンソン魔法学校に連絡した方が良いのでしょうか?」

「それには及ばんよ。儂の方から佐倉君が行くことをあらかじめ伝えておくから気にせんで良い」

「分かりました、学園長」

「この部活の趣旨は分かてもらえたようだネ。明るい話をすると、出発は2月8土曜日から1週間だヨ。勿論学校は正規の手続で休みネ。泊まる所も雪広グループからの手配で文句無しの場所だから期待するネ」

「マジ!?一週間もいけんの、超りん!?」

「久しぶりにアメリカに行けます」

「たまには麻帆良の外で仕事をするのも悪くない」

「もし本当に仕事になたら後で報酬もきちんと払うから任せるネ」

「超鈴音あなた相変わらずですね……。私も顧問として引率はしっかりやります」

呆れているナ。

「葛葉先生、よろしくお願いするヨ。そしてこれで最後だが今回部活のメンバーに特別な携帯電話を支給するネ」

「おっこれ超りん達が持ってる凄い携帯か」

「海外でも使えるようになているが、本邦初公開の技術があるヨ。皆携帯持てるだけでいいネ」

魔分通信を応用して……名づけて粒子通信の起動を開始。

《皆聞こえるカ》

《なんですかこれは》

《おおっ凄いよこれ!超りん口動かしてないのに聞こえるけどこれ念話か!?》

《ミソラ、念話じゃない……》

《ココネ、これ念話じゃないの》

《超先輩すごいです!》

《これは私が開発した新技術の通信方法ネ。誰にも傍受されないから情報の安全性は最高峰だヨ。もし単独で危険になても、スイッチを押して起動させておけば身体に当てておくだけで通信ができる優れものネ。圏外は考える必要ないから安心してほしいネ》

《超の発明は全く役に立たないものもあるが、これは便利だな。起動方法はどうするんだ?》

背を伸ばす機械とかは確かにギャグだと認めるヨ……。

《起動方法はこの通信が終わたら携帯に表示されるからそれに従て欲しいネ。悪いがこの機能はアメリカから戻てきたらまた使えなくするヨ。まだ万人が利用できる程実用的ではないからナ》

「儂一人だけ何しとるかわからんのじゃが……」

「この携帯の通信方法を試してただけネ。出発まで余り時間はないけど、ここでの話はくれぐれも他言無用だヨ。詳しい連絡はこの携帯で行うからよろしくネ」

これで後は実際にアメリカに飛ぶだけだナ。

《鈴音さん、あの機能教えて良かったんですか》

《一度ぐらい試しておかないとネ。理論は並の科学者では到底理解できないから大丈夫だヨ》

《あるのに使わないよりは……ですね》

《翆坊主、その通りネ》

《私が提案しておいて何ですが……異色な面子になりましたね》

《面白くなりそうだしいいと思うヨ》

《高音・D・グッドマンも佐倉愛衣につられて出て来るかと思いましたが……それは無かったようで。能力からすると当然ですが》

《今回探知系の能力が必要だからナ。映像で見た高音サンの派手な操影術は普通の街中ではとても使えないヨ》

《あれ脱げるんですよね……》

《あれは無いヨ》



[21907] 23話 2月の始まり
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 19:00
1月中に手早く決定されたアメリカへの1週間の海外旅行の一方、その間のネギ少年はというと……。

「ぼーや達、仮契約は知っているか?」

「西洋魔術師のアレやろ?何やかっこわるいやん」

「それは小太郎の偏見だろう。別に契約相手は異性とは限らん。ぼーやの父親達も仲間で契約はしていたぞ」

「父さんもですか!?」

「そうだ。契約の主の資質が高ければアーティファクトという魔法具が出る。ナギと契約したジャック・ラカンという馬鹿のアーティファクトは宝具と言えるような代物だったな」

「あのめっちゃ強いネギの父親も契約しとったんか。そんでアーティファクトいうんはそんなに凄いんか?」

「個人によるよ。その馬鹿のものは如何なる武具にも変幻自在になるものだったな」

「どんな武器にでもなるんですか!?」

「そら凄いな!」

少年達は目の輝きが良い。

「ぼーや達が興味を持ちそうな説明は大体こんなところだ。他にもパクティオーカード自体にも遠隔地から召喚できたり、念話、魔力供給、ついでに服装も登録しておける」

「マスターそれを僕達に話すということは……?」

「ああ、無理にとは言わないがぼーや達は契約するのは悪くないだろうと思ってな」

「俺がネギの前衛の前衛でネギが前衛なんやな!」

「コタロー君それちょっとおかしいよ……」

意味は分からなくは無い。

「意外と乗り気のようだな。ならやってみるか?」

「なんや面白そうやし俺は構へんで」

「僕も興味あります」

「それなら魔法陣を用意するから少し待っていろ」

「どんな魔法具出るんやろな」

「コタロー君はそれが楽しみなんだね」

特別な道具が手に入ると聞いて子供なら喜ぶのは無理もない。

「ほら、魔法陣は書けたから2人でその中に立って私の言うとおりに言葉を続けろ」

「なんや面倒やな……」

「口づけなら一発で終わるがどうする?」

「ブッ!そらお断りや!」

盛大に吹き出した。
しかしながらこうなると……とある魔法生物の立場は……皆無。

「マスター、続きをお願いします」

そのまま長々とした言葉を続けた後、指を少し切って血を媒介とした契約が行われ、カードも無事に出現した。
オリジナルはネギ少年に、コピーカードは小太郎君へと渡された。
そして満を持して小太郎君は声を上げた。

「アデアット!」

「……マスター、魔法具出ませんけどもしかして僕の資質が低いんでしょうか」

「何も出ないやんか!」

何も出なかった。
だが……その効果は……なるほど。

「そんな事はないだろう。小太郎、しっかり確認してみろ。なんという名前のアーティファクトだ」

「やってみるで。……んー、千の共闘やて」

概念系アーティファクト。

「馬鹿のアーティファクトも千の顔を持つ英雄という名だったからな。千というからにはなかなかの魔法具の筈だが……。共闘か、ぼーや達一度模擬戦してみろ」

「分かりました、マスター」

「効果がわからんと使えへんな。……おっなんとなく分かったで!こら面白いな!模擬戦やるで!」

小太郎君は早速その効果が分かったらしい。
が……実際にはそれだけではない。

「コタロー君効果分かったのに模擬戦するの!?」

「効果はやってみてのお楽しみや!」

「小太郎の奴いきなり楽しそうになったな」

模擬戦の結果、小太郎君が信じられない程ネギ少年の動きを読むようになり、ネギ少年は負けた。

「僕の攻撃が全部読まれた気がするんだけどそういうアーティファクトなの?」

「これはな、ネギの動きが感覚でわかるもんなんや!」

「僕の動きがわかる?」

「なるほどな、共闘とはそういう事か。考えている事まではわからないのか?」

「考えとる事まではわからんけど、言葉よりも瞬時にわかるから言ってみれば阿吽の呼吸やな」

非常に自慢げな様子。

「ハハハ、小太郎には丁度良いじゃないか。武器なんてお前使わないだろう。タッグで組んで戦うなら相手にしてみればぼーや達が強くなればなるほど脅威になるだろうな」

「それってコタロー君が僕の動きに合わせて戦えるって事?」

「そういう事や。ネギが魔法を唱えればいつどこに放つかもなんとなくわかるんや」

「それ凄いよ!」

ネギ少年も喜んでいる。

「ぼーやがいなければ意味が無いが、従者としては悪くないアーティファクトだろうよ」

……その後、小太郎君は度々、隙を見てアデアットしてはネギ少年の動きを読むという遊び……をするようになり、それに対しネギ少年がむきになって戦うという事があったが、避けられないような攻撃をするという修行には非常に役に立った。
しかしながら、全く従者らしい使い方ではない。

……2月に入り、超鈴音達のアメリカへの旅行が裏で着々と進む頃、同じように着々と進んでいる火星の状況はと言えば……前回の9月の頭に確認した時からさらに丁度5ヶ月が経ち、酸素の組成は15%に到達している。
魔法で力場を作らない限りこの濃度では酸素欠乏症になるのは間違いないが、場所さえ選べば以前に比べてすぐに意識不明になったりはしない水準にまで上がった。
春休み頃には17%程度には上昇するので超鈴音ならばアーティファクトを発動させていれば火星に降り立つこともできるだろう。
平均気温も北極と南極を除外すれば比較的まともな水準に上昇し、赤道なら氷点下になることも殆ど無くなった。
原因としては大気組成の殆どが温室効果ガスである二酸化炭素を含んでいるためだ。
地下水も既に地上に出始めており、全体から見れば海とはまだ……言えないが、巨大な湖があちこちに出来始めている。
水が湧き出しているのが星規模で起きるといよいよ大変動と呼べる。
マントル対流の動きも活発になってきて、地磁気も安定してきたが、まだ活性化する余地もあり、魔分有機結晶粒子の散布も引き続き行った方がいいのは変わらない。
既に火星が再び地球に接近しつつあるので地球からの火星観測もまた、所によっては熱心に行われるようになり、幻術魔法を火星にかけておいたのが役に立っている。
火星の改造自体は上手くいっているが……まだ魔法世界との同調の際に必要となる魔分の総量に不安が残る。
もし私の想定している通りに進むならば、相手側としては皮肉な結果となるだろうが、その時には上手く利用出来る。
実際にその時になってみなければわからないが、手段の1つとしては高確率で考慮に入れておく価値はある。

……さて、今となっては今更、他の時間の流れで本来ネギ少年が麻帆良学園にやってくる時期が来た訳だったのだが……。
2月5日、女子中等部の屋外で、宮崎のどかが1人で運ぶには分けて運んだ方が良いような量の本を抱え、階段を降りようという時、体勢を崩し階段の無い場所から落ちる……という危険な状況になった。
そして、丁度ある2人少し離れた所にいた。

「ネギ、あれ本屋ちゃんじゃない」

「本当ですね。1人であんなに本を持つのは危なっ!」

「えっ、落ちるわ!」

―戦いの歌!!―

目視できるとは言えかなり離れている状況から距離を詰めるもわずかに間に合わず。

―風よ!―

「ふぅ、間に合った」

しかし、風で保護する対象を絞らなかった為落ちてきた本まで浮いてしまっていた。

「しまった!」

魔法の発動媒体は杖ではなくエヴァンジェリンお嬢さんから貰った指輪を使っているが、それでも神楽坂明日菜の目には完璧に映った。

「ちょっとネギ!本屋ちゃん助かったのは良いとして、あんた前からおかしいとは思ってたけどやっぱり超能力者だったの!?」

かなりの速度で走って追いつき、直ちにネギ少年を問い詰めにかかった。

「いえ、これはその違うんですよ!ほら、そんな事言ってる場合じゃないですよ。のどかさん気を失ってますし保健室に運ばないと!」

今までもたまに危ない事はあったが、今回は久しぶりでうまい言い訳が思いつかず少年は完全に焦っていた。

「……それはそうだけど本屋ちゃん運んだらこの際きっちり白状してもらうわよ。この前あんなに心配かけたんだから言い逃れは許さないわ!」

若干心配しているらしいがこれは……もう限界だった。
終始訝しげな目で見られながら保健室まで宮崎のどかを運んだ後、ネギ少年は首根っこを掴まれ人気の無いところで正座させられた。
残念ながらネギ少年の方から私達がいつも使っている通信をすることはできないので……エヴァンジェリンお嬢さんに救いを求める事もできない。

「大体初めて会った初日に服を吹き飛ばしたり、子供の癖に私と同じ速度で走れるわ、エヴァンジェリンさんの家の変な別荘やら、ウルティマホラではおかしい動きをするわ、ついこの間はずっと寝込むわ、ネギ!あんた一体何者なのよ!頭が良いのはわかるけど子供が教師やるのはやっぱり変よ!」

物凄い剣幕でまくし立てながら、勢い良く肩をゆする気の強い少女の前に少年は為す術がなかった。
そして都合よく小太郎君のカードが落ちた。

「って何よこれ。コタロー君が描いてあるカード?」

「ちょっとそれ返してください!」

ネギ少年が慌てて取り返そうとする。

「返してあげてもいいけど、その代わり洗いざらい話しなさい!」

こちらとしてはいつ少年が記憶を消そうという手段に出ないか……と心配でもあるが、麻帆良に来てから近衛門の試練の時までずっとお世話になっている分そのつもりはないらしい。
こういう時残念ながら純粋な心だと、そのまま「僕は超能力者なんです」などと嘘も言えかった。
近衛門の試練で大量に性質の悪い罠を体験しているのに、性格に歪みが出ていないのは……それはそれで大したものではある。

「僕は一人前の魔法使いになるためにここに修行に来てるんです」

「超能力じゃなくて魔法だったの!?」

お嬢さんの別荘を超能力の成せる技と考えられるのもそれはそれで不思議だ。

「あ、しまった!」

「い い か ら!続けなさい!」

この後順調に魔法使いの事について……いわゆる魔法バレして行き、他人にバレると故郷に戻されるという、前にも話したことと最悪オコジョにされるという、処罰についてまで話がなされた。
神楽坂明日菜も別にいじめるつもりがあった訳ではないようであったが、魔法と聞いて目を輝かせていた為その追求は甘くは無かった。
小太郎君のカードが質になっているのでやむなく魔法で何ができるか言ってしまい、占いのあたりで神楽坂明日菜の恋愛について試したところ……非常に気まずい空気になった。
ネギ少年もこれまでの経験からこれを言うのはマズいと思ったのか口ごもったのだが、もったいぶらずに教えろと強く言われ……仕方がなく「失恋の相が出てます」と答えたのだった。
神楽坂は頭を抱え、更に一悶着あったが、その後惚れ薬を作るなどという暴挙には起こらなかった。
その理由としては、その日いつものようにお嬢さんの家に向かい修行をする前にネギ少年ががっかりした顔で「マスター、アスナさんに魔法の事がバレてしまいました」と経緯を信頼できる師匠、エヴァンジェリンお嬢さんに打ち明け「抜けてるぼーやもとうとう魔法がばれたか、ハハハハ!」と大笑いされるも「だからといって神楽坂明日菜に要求された事を魔法ではするなよ」としっかり念を押されたからである。
……しかしその夜寮の部屋で神楽坂明日菜が小太郎君のカードをネギ少年の目を盗んで孫娘に見せるという行為をし、再び騒動が起きたのは余談である。

助けられた宮崎のどかはと言えば、保健室の先生にネギ少年がここまで運んできたというのを聞き……完全に惚れてしまったらしい。
その後寮の部屋に戻ろうとした彼女だったが早乙女ハルナに本人曰くラブ臭なるものを検知されて部屋に乗り込まれ、こちらも洗いざらい吐かされ果てには「告白しろ!」という流れになった。
次の日、ネギ少年は図書館探険部の3人に呼び出され「後は頑張れ」と言いながらネギ少年と宮崎のどかを残し、早乙女ハルナと綾瀬夕映はその場を離れて行ったが、そうは言うものの成り行きを全部見ていた。
早乙女ハルナの目は爛々と輝いていた。
当の本人は意外と勇気があったのか……それとも今までの想いを溜め込んでおけなかったのかはともかく、本当に告白することができたので良かったと言えば良かったの……だろう。
……告白された方の少年は常に忙しい毎日を送っている中で、今までに無い経験をした為にとうとう知恵熱を起こしかけ、その日のお嬢さんとの訓練ですぐに、

「どうしたぼーや!今日は不抜けているぞ!」

と模擬戦の集中力がないのが丸分かりで、2日続けて人生相談をお嬢さんにすることになった。

「人間の一生は短い。ぼーやは後悔しないよう自分でどうするか決めることだな」

結局決めるのは自分次第だと言う結論を突きつけられたが、ネギ少年はこれまでの修行で精神的にも成長していたのですぐに立ち直った。
しかし、宮崎のどかが見事告白した後すぐに早乙女ハルナが例のコミュニティに、

「のどかネギ君に告白一番乗りおめでとう!」

などと更新していたものだから2-Aは祭りであったとか。
サヨが言うには皆更新履歴がネギ先生一色だったそうだ。
ある一幕では丁度、超鈴音が長谷川千雨の部屋に赴きSNSの機能性向上の件で意見を求めていたところであり、一体何事かと彼女が茶を飲みながら確認した際「ブハッ!」と口にしていたものを吹き出したらしい。
「防水仕様も完璧だから安心するネ」
という超鈴音はあくまでも科学者だった。
……そんな事も露知らず、女子寮に戻ってきたネギ少年はまたもや女子中学生達にしつこく絡まれる事になった。
雪広あやかは「私は好きどころかネギ先生の事を愛してやみませんわ!」と宣言したが、軽くと流されていた。
見慣れた光景には意外と冷たいようである。
朝倉和美は「これは!」とネギ少年の部屋に突撃したが神楽坂明日菜の「い い 加 減 に し な さ い !」という怒りにより閉めだされ、そんな慌ただしい2月6日も……終りを迎えた。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

翆坊主からとうとうネギ坊主が魔法使いであることが明日菜サンにバレたというのを聞いたヨ。
ボケボケしてるネギ坊主にしては今までよく頑張た方だネ。
あやかサンには既にバレているのだが、深く追求しないのは流石雪広だナ。
それよりも皆は昨日本屋がネギ坊主に告白した話の方が一大事のようだけどナ。
このドサクサに紛れて明日からアメリカに出発だヨ。
一応担任のネギ坊主にはクラス4人で来週の金曜まで学校を休むと書面で伝える必要があるがどうなるかナ。
情報は提出したらすぐに漏れそうだが今更誰かが私も連れていけと言われても遅いから土産でも買てくることにするネ。
既に携帯の通信は何度も試しているが、その内容の1つに戻てきたらすぐに中間テストがあるのはどうするのかという話になたが、私とさよでカバーできるから安心しろと言ておいたネ。
愛衣サンは1つ下の学年だが去年とカリキュラムは変わらないから問題無いと言ておいたら感謝していたナ。
翆坊主達ともそうだが、あまり重要な話に結局使わないというのは皮肉な事だナ。
……昨日の今日で一段と騒がしい2-Aだたが帰りのホームルームも終わたネ。

「ネギ坊主、大事な提出物だ」

「ネギ君、私もー!」

「ネギ先生、私もです」

「ネギ先生、私もだ」

こんなに4人で動いたら怪しいだろう……美空、調子に乗るのをやめるネ。

「まさか4人はネギ君にラブレターを渡すつもりか!?」

なんて早乙女サンの言葉が聞こえるのだが違うからナ。

「超さん達4人もどうしたんですか。えっと……公欠届ですか。部活でアメリカに1週間!?」

ここで開ける必要は無いだろうネギ坊主。

「ネギ坊主、声が大きいヨ」

「す、すいません」

「何だって!超りん達アメリカ行くの!?今日はネタが多いぞ!」

朝倉サンに目を付けられた。

「その通りだヨ。明日から1週間行てくるネ」

開き直るしかないネ。

「そんな部活の情報私は知らないなぁ。一体どういう部活なんだい?」

「朝倉さん、私達は外国文化研究会の正式な活動でアメリカに行くんです。許可も学園長先生から取ってあるので間違いありませんよ」

冷静にさよが答えてくれたナ。

「ふむふむ、それでなんでこんな人選なんだい?春日がいるのは意外だと思うんだけどな」

「朝倉、私がいたっていーじゃんか!」

やはり美空は違和感があるカ。

「特に意味は無いヨ。お土産は買てくるからそれで勘弁して欲しいナ。それでは私達は明日からの準備があるから失礼するヨ」

「5日間学校休みますけどコミュニティにあっちの写真を上げるので待ってて下さい」

「そんじゃ2-Aの皆また会おう!」

美空、自信満々で言わなくていいネ。

「仕方がない……ここは学園長に取材するしかないね」

朝倉サン、頑張るネ。

「えー学校休んでアメリカ行けるなんて私も入りたーい!」

後ろから椎名サンの予想通りの声が聞こえるが今回は諦めて貰うネ。
すぐに寮に戻て最後の荷造りを始めたネ。

《超りん、私のパスポートはどうなってんの?》

《明日空港で渡すから安心するヨ》

《全自動って楽だー!危ないとは聞いてるけど、普通に旅行っぽいじゃん》

《危なくなるとは限らないからナ。ココネの面倒をきちんと見るネ》

《あったり前!ココネ今日は私の部屋で寝て一緒に行くし》

《皆明日朝7時に女子寮の前に集合だから忘れないようにネ》

《おっけー》

《了解だ》

《分かりました超先輩!》

《葛葉先生は自宅に直接お迎えが来るから楽しみにするといいネ!》

《なんであなたはまたそんなに楽しそうなんですか……》

《これは!というような私服を着る事をオススメするネ》

《ま、まさか!》

《なになに!超りんどういう事?》

《大人の事情という奴ネ》

これはサービスだナ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

そして2月8日朝7時です。
土曜の朝ですが一部見送りに起きてきています。
外には既に雪広グループの黒くて長い例の車が止まっています。

「全員揃たネ。荷物は社員サンに任せるヨ。龍宮サンの特別な荷物はきちんと手配しておくから大丈夫ネ」

「超りんのコネ凄いなぁ……」

「面倒な処理をしなくて済むのは助かるよ。……これをお願いする」

「私の荷物もお願いします」

「先輩、こんな車に乗れるなんて凄いです!」

「この後も雪広の自家用機で飛ぶからこれぐらい驚いていては大変だヨ」

「ま、マジか……」

「鈴音さん、葛葉先生はいつ合流するんですか?」

「成田空港で直接集合になているヨ。少しは楽しんでもらわないとネ。それでは出発しよう!」

鈴音さんが楽しそうですけどどういうことなんでしょうか。

「超さん達気をつけて行ってきてください!」

「お土産待っとるえ。気いつけてな」

「気をつけて行ってきてね!」

「ネギ坊主達もしっかりやるヨ!帰てきたらすぐ中間テストだからネ!」

「ぐっ……超さん……嫌な事を考えさせないでっ……」

神楽坂さんダメージ受けすぎですよ。

「アスナ勉強しておきなよ!私達もアメリカでテスト対策はしてくるからさ!」

「大きなお世話よ!美空ちゃん!」

もう出発する時になって寮から皆飛び出してきましたが、既に車に乗っていたので口の動きから判断するに「行ってらっしゃい!」と「羨ましい!」の大体二種類でした。
そして車内ですが……。

「予め言ておくが今から出発して飛行機で大体9時間程でシアトルに着く時にはあちらで今日と同じ2月8日の深夜1時から2時頃になる予定ネ。飛行機で寝続けると着いた途端生活リズムが崩れるから気をつけるネ」

「おっけー。なんか時差考えるのは面倒だな」

「着いたらいきなり夜景が楽しめると思うヨ」

「それは写真に取らないとね!」

「そういえば飛行機で映画なんかも見れるんですよね?」

「さよちゃん、その通りよ!」

って仕切りを突然空けて西川さんが出てきました。

「西川さんまた着いてきてくれるんですか!」

「当たり前よ!2度と前回のような事は繰り返したりしないわよ!」

西川さんには前回凄く心配かけたので今回も来るとは思ってませんでした。

「皆、こちらは雪広の社員サンの西川サンだヨ。1週間ずっと一緒という訳ではないがお世話になるネ」

「超ちゃん達の友人の皆ね。よろしくお願いするわ」

「「「よろしくお願いします」」」

「で、話は飛んだけど、飛行機の中のサービスは充実しているから期待していいわよ。予定通り行けば9時前に成田でそのまま飛行機に乗り換えて後は超ちゃんの言った通りになるわ。シアトル・タコマ国際空港に到着する頃には夜になるけれどそのままホテルにチェックインする手筈になっているわ」

「手配してくれて感謝するネ」

「当然よ。でも聞いたわよ、超ちゃん今回の費用全額負担するんですって?」

「ハハハ、知ているのカ。対価はきちんと払わないと駄目だからネ」

「げっ、超りん本当に全額負担なのか。いくら持ってんだ……」

春日さんが驚いてますがほぼ無尽蔵にありますからね。

「その割にはあんまり買い物とかしないんだから。アメリカに着いたら観光の時に色々買ったらいいじゃない」

「そのつもりだヨ。お土産も買わないといけないしネ」

「超包子がアメリカに出店するとは驚きだな。一昨年までは1店舗しかなかったのに成長が著しい」

「お褒めに預かり光栄だヨ、龍宮サン。海外に広める事を視野に入れて日本の空港に出店したからネ。成田に着いたら買ていくヨ」

「超先輩、視察って言ってましたけどそれ以外には何か予定はあるんですか?」

「んー、他にもあるけど完全に私の仕事だから皆は自由行動だヨ。葛葉先生は付いて来てくれるけどネ」

例のOS会社のあるレドモンドに行くらしいですが、私はギリギリまで着いていきますが仕事の話には参加しません。
恐らく超包子関連と本題のSNSの方でしょうね。

「中学生で仕事なんて尊敬します!」

異色空間ですけど佐倉さんも普通に馴染んできましたね。
鈴音さんが渡した携帯に凄く感動していましたが、流行といったものに目がないようです。
ココネちゃんは無口な子ですが、春日さんと一緒にいるのに慣れているみたいです。
そのまま話ながら車で移動し成田に着きました。
今回羽田にしなかった理由は前回を考慮した上での選択だと思います。
既に葛葉先生は到着していたみたいですが、あ!あの一緒にいる男性は……。
鈴音さんが仕組んだのでしょうね。
かなりいい雰囲気だと思いますが、出発の手続きもあるのでこの辺でストップです。

「葛葉先生、楽しんでもらえたかナ。日本に帰ってくる時も期待しておくといいヨ」

「あなたにこんな配慮をされると思いませんでしたが、楽しめました。ありがとう」

少し顔が赤い私服の先生はいい感じです。

「おおっ、葛葉先生の彼氏がエスコートしていたのかっ」

「春日美空、シスターシャークティからは私が監督するように言われているので言動には注意した方がいいですよ」

黒いオーラが出てます!

「はっ!はいっ!失礼しました!」

春日さんは戦力にならないという話ですが、その分ムードメーカーですね。
海外行きの飛行機に乗るのが初めてなのは私と鈴音さん、春日さんだけでした。
その場でパスポートを貰い、雪広の自家用機に乗ったのですが、ファーストクラスという次元を超えていました……。
いいんちょさんはこれに毎年乗って南の島に旅行しているそうですが、お金持ちというのはスケールが違いますね。
機内では皆思い思いの過ごし方をしていました。
龍宮さんは大量にある映画でどれを見るか時計を見ながらしばらく考えて、3本をきっちり決めていました。
春日さんとココネちゃんは操舵室に入れてもらったりしてましたが、後で葛葉先生に引っ張って行かれました。
佐倉さんはあちこち写真を撮ったり、機内食を頼んでそれも写真を撮ったりと充実してそうでした。
誰かに送っているようでしたが、高音さんの可能性が強いですね。
葛葉先生は備え付けのワインを頼もうか頼むまいか悩んでいましたが、勧められて結局飲んでましたね。
一方鈴音さんは機内で合流した社員さん達と会議会議の連続でした。
私は西川さんとその様子を見ながら、「休めと言ってもあの子は変わらないわね」と半ば諦めながらものんびりしていました。
また「撃たれた傷は大丈夫なの?」とこっそりこの前も心配されたことを確認してくれるんですが、私の身体は特殊ですから騙してる感じがしますね…。

予定通り9時間程度の空の旅も終わりいよいよアメリカに上陸するのでした。
鈴音さんが言っていた通りシアトルの夜景は麻帆良では見られない美しいものでした。
しっかり携帯のカメラに収めてコミュニティに上げておきました。
日本では丁度午後6時頃なのですがやっぱり、「付いて行きたかったー!」という反応が多かったです。
それでも観光に来ただけでは当然ありません。
龍宮さんの荷物の物々しさがそれを物語っています。
この前の犯人が燻り出せるかはわかりませんが、今回は準備万端なのでどっからでもかかってこいという感じです!



[21907] 24話 外国文化研究会inシアトル・前編
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 19:01
シアトル・タコマ国際空港に到着した私たちは夜景の撮影もそこそこに、雪広グループが手配してくれたホテルに移動することになりました。
車で北に20分程の道程でシアトルのダウンタウンの中心にある巨大なホテル。
名前をグラン・ハイアットと言い一昨年建築したばかりで、近代的な外観とは裏腹に内装は木や石の素材を活かしてありますが、日本人の私達からすると照明がやや暗いかなという雰囲気がします。
春日さんが凄く小さくなってますが、私も緊張してます。
部屋は最上階の30階で部屋の窓からはシアトルの街はもちろん、ユニオン湖を一望する事ができます。
でも湖がはっきり見えるのは明日の朝ですね。
感覚では今午後7時ぐらいの感覚なのですが、深夜なので不思議な感覚がします。
私は精霊なので眠る必要はないですが……。
因みに今まで試したこともありませんでしたが、私達の精霊体の自由活動範囲は樹齢の丁度2倍の訳10000kmなので直線距離7700kmのシアトルはカバーできています。
ニューヨークまでは残念ながら行くことはできません。
でもネギ先生の故郷のウェールズはギリギリ範囲内です。
ちょっとふらふら出ていきたい衝動に駆られますが誰かに見られてしまうかもしれないのでやめておきます。
私達の一応部活の上での部屋割りは3人部屋2つで片方はココネちゃんを含めて4人になりました。
私の部屋は鈴音さんと葛葉先生と一緒です。

「さよ、葛葉先生、私は今日はもう休ませてもらうヨ」

「鈴音さん飛行機でずっと仕事してましたからね。おやすみなさい」

「私も明日に備えて休みます。おやすみなさい」

……私も今日は人間らしく寝ようかな。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

春日美空ッス。
超りんの口車に乗せられてホイホイ付いていったら面倒な事になったじゃんか……。
気がついたら飛行機に乗って豪華なホテルに付いて寝て、朝適当に起きてレストランで朝ごはん食べてうまかったのは認めるよ。
なんで超りんは私に最初から部活に入れと言ってきたんだ……魔法生徒だとバレてた?
そんなバカな、クラスではいつも目立たないようにして、気楽に生きていた筈。
火星人とか1年の時に自己紹介してたけど何かの超能力者なのか?
相坂さんも幽霊がどうとかいう話だし、銃撃されたっていうのは実は本当に死んだんじゃないかと思うんスけど怖くて聞けないね。
エヴァンジェリンさんなんてアレだよ、魔法世界でナマハゲ扱いの人じゃないスか。
命が危ねー。
あのクラスの人選おかしいだろ。
今まで魔法関連に見て見ぬフリを決めこんできたつもりがなんでこんな事に……。
隣のたつみーの荷物ヤバイっすよ、マジモンの銃と弾丸じゃんか。
海外旅行行けると喜んで来たものの日本語しか話せないのに不安になってくるし、あー面倒だー。
こうなったら楽しいところだけ楽しむっきゃない!

「さて、我が部活の初日は超包子のシアトル工場の様子を見た後支店の視察をしてその後すぐに観光に移るネ」

超りんの肉まんうまいのはマジっすけど世界に飛び出すとは思ってなかった。
工場まで車でススーっと移動して、内部見学して、肉まんが大量に生産されてるのは驚きだー。
いつ建てたんだろ。
というか、この今の状況もどっからか狙われてんスかね?
私だけ特殊能力何もないっつーかお荷物だよ!
いざとなったら走るぐらいしかできないよ。

「工場は問題無いネ、次はダウンタウンにまた戻るから期待するといいヨ」

麻帆良に長いこといると日本ていうよりヨーロッパの感覚がするけど、大分違うッスね。

「超りん、外国文化研究って部活だと一応活動報告なんてことするのかい?」

「ふむ、美空、そんなにやりたいのカ?」

やりたくねー!

「ハハハハ、遠慮するよー」

「安心するネ、私が即効で作て提出して終わりだヨ」

スゲーよ超りん。
麻帆良最強頭脳ってのは機械の開発ばっかかと思ってたけどまじで万能だな。

「超ちゃん達、ほらあそこが超包子支店よ」

「おお、馴染んでいるネ。開店したばかりで人も並んでいるナ」

凄い行列じゃんか。
って開店初日は肉まん一つ50セントみたいな事書いてあるっぽいな。
麻帆良でも思ってたけど安すぎだよ。

「それで隣にあるSTARBOOKS COFFEEは麻帆良にもあるけどここシアトルの店が記念すべき1号店なのよ」

ブッ!あの有名チェーン店の1号店の隣に開店とかどんな裏技ッスか。

「これで超包子の視察は終わりネ。皆観光に移るヨ」

え?終わり?もうスか。
はえーな。
まだ11時前じゃん。
1週間長っ!
超包子の視察に来たのに入る店はSTARBOOKSかい。
ん?マグカップがここ限定?
それは買うしかないッスね。

「あ、私人数分買っておきますね」

相坂さん行動早っ。
お金はどうなってるんだ?
ココネ、解説してくれー。
……そのまま皆で店の前で写真撮影した。
2-Aも変だけどこの7人のメンバーも変だー。
西川さんが撮ってくれたけどカメラじゃなくてやっぱその携帯かー。
うおっ、メール来たかと思ったら今撮ったばっかの写真かい。
手際良すぎる。
ロゴが違うのを後で確認するといい?
おおっ緑色じゃなくて茶色という事ね。
……工場からここに戻ってくる時は車で移動したけどこの後は徒歩でダウンタウンを散策するみたいだね。

《車で移動しないのはその方が街を楽しめるというのもあるが、危険人物を釣り上げるのも含まれているから頼むヨ》

そんなこと言われてもなー。
それにしてもこの携帯の通信不思議だな。
ま、便利なのは間違いないね。

《了解だ》

《分かっています》

《はい!》

《おーけーっす》

《……分かった》

佐倉さんめっちゃ気合入ってるけど、高音さんの影響スかね。
偉大な魔法使いを目指そう!てな感じか。
地味に今回悪の組織潰すような話だしやる気が出てるんだろうな。
そんなこと言った割には普通に街並みを楽しみながら歩いて東京タワーのシアトル版の、スペースニードルとゆータワーに着いた。

「昼ごはんはここの360度回転する展望レストランで食べるヨ」

座ってるだけで景色変わるとか便利だねぇ。
上がるためのエレベーターに行列できてるから随分待つかと思ったら、私達は先に行っていいって?
入場の手続きもいつのまにか済んでるし。
なんか目立つ行動ばかりしてるのは狙ってんのか。
超りんの髪型は相変わらず中華風だしわざわざ超包子の制服着てるんだよな。
それはさておき何なに、高さは184mで展望台は159mとな。
あの馬鹿でかい木よりも100mは低いのか。
たいしたことないのか感覚がおかしくなってるだけか……。
ホテルからもかなり見えたけどこれまた絶景ッスね。
佐倉さんは携帯の録画機能で360度撮り切るつもりか。
しっかしこれ電池の持つ時間もやたら長いし、画質も高すぎるような気がするんだけどねぇ。
今200万画素なんてのが凄いとか巷で言ってる筈がこれなんか遥かに越えてるだろ。
何頼もうかと思ったらたつみーデザートなんかもガンガン頼んでるし、いいのか?
費用全額負担ってどのレベルなのか実感ないよなー。

「超りん、いくらまでとか決まってる?」

「遠慮することは無いヨ。好きなものを食べるといいネ。ただお腹を壊さないように気をつけて欲しいかナ」

太っ腹だよ。
庶民的発想で考えてるのが小さく見えるね。
食べ過ぎっていうと肉まんどれぐらい食べれるかなんて事やったけど、あれは最後の方肉まんの味しなかったからなー。

「まじかー感謝感謝。ならこれと……」

昼だからそんなにかからないだろうけど食べてみたいのは頼んだよ。
やっぱ来て良かったー!
1時間よりちょい少ない時間でレストランは一回転して佐倉さんの撮影も終わったな。
丁度食べ終わって、レストランを利用したら展望台にも入れるっつーか、利用しなくても入っただろうけどまたもや景色を見た。
流石にエメラルドシティっていうだけあって自然が多いねー。
天候が良かったみたいで山脈もよく見えたし満足だ。
さんぽ部の連中は神木に登ったり登らなかったりって聞くッスけどあぶねーよ。

地上を眺めるのも飽きてきたと思ったら、また地上に降りてさっき登る時はスルーした土産屋でこれまた好きなもの買っていいっていうもんだからテンション上がったんスけどね。
ほら、やっぱキーホルダーとかそんな感じで、持って帰っても1週間もしないうちになんだっけかーってなるじゃんか。
だからスペースニードルが柄になってるスプーン買っといた。
そんで他の皆は何にしたのかと思ったらお土産って言ってんのにエメラルドのジュエリー買ってんスか!
金銭感覚麻痺し過ぎじゃないのか。
でもココネはスノーボール買ったよ。
子供らしくてちょっと安心した。

あっさりスペースニードル来たけどここシアトルセンターっていう色々な施設がある場所の一部何スね。
その後この辺りにある建物を巡る話になって超りんがどっか行ったかと思ったら雪広の社員さんと荷物をどっからかゴロゴロ引っ張ってきてパシフィック・サイエンス・センターてとこに連れてかれたよ。
中の展示物はそれなりに面白かったけど、なんつーか麻帆良祭のロボット見てるからこのロボット恐竜あんま凄くないなーと思ったり。
でも他の動物やら昆虫やら自然やら、個人的にはバタフライウスなる蝶の展示は良かった。
こればっかりは麻帆良じゃ見れないッスよ。

で、またもや超りんどっか消えたかと思ったらブース開設してのかよ!
例の3Dで映像が見れる奴の実演始め出してしかも英語うまっ!
子供が寄ってくるかと思ったらここの施設の職員まで見に来てるっぽくないか?
あっという間に超満員だよ。
流してる映像がどういうCGなのかわかんねーけどリアルな宇宙空間のものだな。
何か都合よくラジオ局来てるし、インタビューされてペラペラしゃべってるよ。
超包子がシアトルに開店したからよろしくってそれがやりたかっただけかい!
ん?そういえば日本のテレビのニュースでも顔は出してなかったけど、もしかして全部仕込んでんのか?
何考えてるかわかんねースよ。
相坂さんはたまにぼーっとしたりしてるけど実は何かやってんのかな?

その後もあちこち回って、やたら金のかかってそうな音楽に対する情熱が伝わってきそうな博物館だとかバレエの公演とか、評価の高い陶器、彫刻、絵画、宝石なんかを見たりして過ごしてたらもう夕方になったし。
こりゃ1週間長いとか思ったけどあっという間っぽいな。
帰りに超包子の視察にまた行くなんて事になって行ってみたら猛烈に人気が出てて驚いたわ。
さっきのラジオどんだけ効果あったんスか。

……ホテルの部屋に戻ってきたら超りんの部屋で会議だとさ。

「皆何か怪しげな動きは感知したカ」

「鈴音さんがラジオでインタビューを受けた後から接近してくる割には超包子にもよらずシアトルセンターにも入ってこない人はそれなりにいました。でも、ただの偶然のかもしれないですしまだわかりませんね」

えーっ、相坂さんやっぱ何かの能力者だったんスか。

「まあ餌は撒けたという所だネ」

「相坂、お前が本当にアレだというのは話さないのか」

「う~ん、見せてもいいんですか?」

「いいと思うヨ。このメンバーでも半分は知ているしネ」

「分かりました」

ってベッドに寝っ転がるんかい!
およ?何だソレ!

《春日さんと佐倉さんとココネちゃんは知らないと思いますけど私本当に幽霊だったんです。それでちょっと目が良いので周りも観察できるんです》

は?
ま、マジもんの幽霊ッスよスゲースゲー。
しかも千里眼能力持ちとな。

「……ゆ、幽霊なんて初めて見ました」

《皆最初は必ずそういう反応するんですよね》

そりゃするわ。

「あー、相坂さんが今日たまにぼーっとしてたのは遠く見てたんスか?」

《えっ良く気が付きましたね。そんなに長い時間見てないんですけど》

「美空は意外と観察力が高いのかもしれないネ」

意外とってなんだよ!
ま、ほんとに観察力があるんならいつも隣の席の超りんが何者かわかるっつの。

「それ多分偶然だなー。うん」

「話を戻しますが、私は特に殺気は感じませんでした」

「私も感じなかったな」

「誰かに見られているのかどうかは今日人が多かったので少しわかりづらかったです」

「念話は聞こえなかった……」

葛葉先生達全員仕事してたのか……。
ココネが迷子にならないように手繋いでるぐらいしかやってねー。

「ふむ、一日目から襲われても折角の旅行が台無しだからナ、皆協力感謝するヨ。明日と明後日の予定だがスキーに行く事になてるネ」

つか、なんで全部予定を前もって教えてくれないんだ。
超りんが思いついたかのように言ってるけど仕込んでんのは今日でわかったからな。

「私スキー久しぶりです!」

《スキーは一度もしたこと無いので楽しみです》

「合宿で冬休みに行ったばかりだが外国のスキー場も悪くないな」

合宿?
たつみーってバイアスロンとかいうよくわかんない競技入ってるらしいけどスキーもやってんのか?

「美空、バイアスロンはクロスカントリースキーと射撃の複合競技ネ」

「なんで思ってること分かった?」

「顔に書いてあるヨ」

「マジかー。そんで何で前もって予定を全部教えてくれないのさ?」

「それは予め教えておくと面白く無いからネ」

そんだけかー。
何か嘘っぽいけどな。

「そうかー。ならそれ以降も楽しみにしとくよ」

「明日の予定も話たから、今から中間テストの勉強するヨ。直前の授業受けて無いからネ」

な、なんですとー!

「えー、初日からやるんスか?」

「まさか帰りの飛行機だけでやるとでも思たのカ?佐倉サンも興味なさそうな顔するのはよくないネ」

いや、その通りでございます……。

「い、いえ、別にそんなことは……」

仲間がいたっ!

「安心するネ。要点を押さえた教材でパッと終わるから手間はかからないヨ」

渋々始めた勉強だったけど超りんの用意してきた教材スゲーよ。
なんかテストに出そうな感じがバリバリするね。
葛葉先生も教えるのに混ざるのかと思ったらそんな事なかった。
てか私とたつみーてテストの順位中間ぐらいなんだけどなー。
バカレンジャーに比べるまでも無いッスよ。
佐倉さん最初やる気ないかと思ってたらサクサク進んでるし、何やら感動してるな。
おや、その脇に積んであるのはノートか!
その賄賂はズルい。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

昨日はきちんと超包子の宣伝と、ある程度餌を撒くことができたネ。
色々準備していた甲斐もあて、スムーズにできたナ。
予定通りの時間に雪広から荷物が届いたりするのは助かたネ。
放送するメディアがテレビ局ではなくラジオ局だたという配慮には感謝する他ないナ。
翆坊主達から火星のドライアイスの山は見せてもらたことあるが、実際のスキーをするのは私も初めてだネ。
色々今回楽しめるようにワシントン州で最大のスキー場、クリスタルマウンテンに行くヨ。
週末はナイトスキーもできる上に宿泊施設も完備だから2日間使ても問題ないネ。
スキーウェアもボードも全部現地でレンタルではなく、予め雪広で用意してくれるから本当にありがたいナ。
まあその分料金を払ているのだから当然だが。

朝皆で起きて用意してくれたスキー用具でサイズを合わせてどれにするか決めた後、車に乗てホテルから大体2時間の道のりになたヨ。

「それでは!外国文化研究会の皆さんに今日の分のリフト1日券をお渡しします。葛葉先生はこちらをどうぞ、超ちゃん達も一つずつ取ってね」

西川サンは完全に専属になりつつあるけど一緒にスキーするみたいだナ。

「葛葉先生と愛衣ちゃんはスノーボードなんスね」

「さっき選ぶまではスキーにしようかと思ったんですけど葛葉先生がスノーボード上手いと聞いて挑戦したくなったんです!」

「私は上手いとは言ってません。経験があるだけです」

その割には格好がビシッと決まているナ。

「私、さよ、美空とココネはスキーの経験が無いから龍宮サンと西川サンに教えてもらうヨ」

「インストラクターは任せて!」

「運動神経はあるからすぐ滑れるようになるだろうな」

「よろしくお願いします!」

「たつみーお手柔らかに頼むよ」

「よろしく頼むネ!」

早速インスタントスキー講習が始まり、転び方と立ち上がり方、スキーを履いた状態で平地を歩く、緩い斜面の登り降り、エッジの扱い方、ブレーキのコツ、膝の使い方を学び、大体合計で1時間強かかたネ。

「にしても皆慣れるの早いわね。普通は2時間ぐらいかかるんだけどなー」

「麻帆良の住人はこんなものだろうな」

「やっぱりそうなるのか。つくづく変なとこよね!」

「軽いッスねー」

「そろそろ本格的に滑るヨ!」

さよの習得速度が異様に早かたが多分また動作のトレースしたんだろうナ。

最初は緩やかなコースからだたけど、私達の上達速度は早かたヨ。
一度昼食を葛葉先生達とも合流してとった後皆でどうせならと山の頂上までリフトで移動したヨ。
愛衣サンも元々スキーの経験あたから直ぐにスノーボードには慣れたみたいだネ。

「ここの頂上から見えるあっちの山がレイニー山よ。今日は天気が良くて良かったわね!」

「スゲー!マジこんな景色直に見れるとは思わなかったー」

「一面煌く白銀の世界、絶景です!」

「携帯持ってきたんで写真撮ってもいいですか?」

「愛衣サンその携帯気に入ってもらえたようで良かたヨ。どんどん撮るといいネ」

「はい、ありがとうございます!」

「私もここのスキー場は初めてですが、素晴らしい眺めですね」

「わざわざ来た甲斐があたヨ」

ふかふかのパウダースノーが積もてるからすぐに飛び出していきたいネ。

「それでは私から滑らせてもらうよ」

「次は私が行くネ!」

「あっ待ってくださーい、私も行きますよ!」

「ココネ、はぐれるなよ!」

「大丈夫、ミソラの後に続く」

龍宮サンはクロスカントリースキーが得意かと思てたけど鮮やかな滑降を決めてるし別に関係ないみたいだネ。
美空は……ココネに付いてこいと言ておきながらブレーキ一切かけず直滑降で物凄いスピードで降りて行ったヨ。
誰にもぶつからなくて良かたナ。
そのアホを追いかけて葛葉先生がプロ顔負けの風格で見事捕獲してくれたヨ。
これはシスターシャークティに報告されるナ。
愛衣サンもその後追いかけて降りて行たが、お姉さんタイプの人に付いていくのに慣れているのだろうカ。

いちいち考えても仕方がないから1日中滑てはリフトで登り、また滑りを繰り返し途中休憩をはさみながらナイトスキーまで楽しんだヨ。
私も1日で随分慣れたから火星に降り立つ時にはドライアイスの雪山で滑るのも面白そうだナ。
翆坊主から聞く限りだとアーティファクトを使ていれば春休み頃までにはなんとかなるようだしネ。
今までテラフォーミングに貢献してきた役得だナ。

この日はスキー場の宿泊施設で泊まて、疲れをとたネ。
翌朝日の出を山の頂上から見たのだが、昨日の昼過ぎに見た景色とはまた違た趣があて良かたヨ。
頂上から見える川が朝日に照らされて輝いているのも印象的だたネ。
引き続き午前中から滑り続けて、午後丁度良い頃にスキーにも満足した所でシアトルに戻たヨ。
長時間滑ていて足が張てるものだから市内のスパでマッサージをしに皆で行たヨ。
終始テンションの高い美空もこの時ばかりは至福の表情をしていたナ。
葛葉先生と龍宮サン、西川サンは大人の雰囲気が出ていたネ。
1人違うけどナ。
これだけ純粋に遊んだのも私にとてはかなり珍しい事だヨ。
……明日からは完全別行動で私はOSの会社で超包子の出店の際の便宜の感謝と新技術の売り込みとSNSを世界に広めるための交渉をかけにレドモンドまで行かないといけない。

《超先輩、ホテルの方から私宛に連絡がきてました。ジョンソン魔法学校から母校に顔を出さないかという内容なんですけど、明日はどうされるんですか?》

《明日から私の個人的な仕事をするから愛衣サンは美空でも連れて魔法学校に行てくるといいヨ。ついでに怪しい連中がいないかどうかも情報収集してもらえるとありがたいネ》

《はい、分かりました!任せてください!》

《えっ、何私も行くんスか?》

《私の護衛でもしているのでも構わないヨ?》

《いやぁ!それなら魔法学校付いていくよ!英語うまく話せないけど》

《国際交流という奴だナ。明日行くところは身の安全性は高いから私の心配はしなくても大丈夫だヨ》

《春日先輩、ジョンソン魔法学校も自然が一杯の所なので良い旅行になりますよ!》

《おおっマジかー。それは期待》

ジョンソン魔法学校は国立保養地としての皮を被たシアトルの北東に位置するがとにかく緑の多いところらしいネ。
魔法使いというのは自然の間に学校を作て外界からの隠匿を図るつもりなんだろうナ。
麻帆良の場合は神木の裏側は森と草地が広がているものの、認識阻害による恩恵が大きいだろうナ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

超鈴音達がアメリカに旅立っている間の少年達の修行には、ある変化が生じていた。

「コタロー君ちょっと腕貸して」

「なんやネギ、なんか付いとるか?」

「違うよ。学園長先生の試練で遅延呪文を練習したんだけど、コタロー君のアーティファクトならきっとできると思うんだ。行くよ」

   ―特殊術式 再発動用鍵設定キーワード「右腕」!!―
―魔法の射手 収束・光の9矢!! 対象・犬上小太郎!! 術式封印!!―

「って魔法の射手やないか!俺に封印してどないすんねん!」

「右腕解放って言って使ってみてよ。多分発動するから」

「多分ってなぁ。まあええわ!」

―右腕!!解放!!―

「あれっ!?何か僕がやるよりも強そうだよ?」

「おおっ、俺の右腕でネギの桜華崩拳ができるんやな!砂浜覚悟!でりゃぁぁぁっ!」

爆発音と共に砂浜に穴が空く。

「こらおもろいな!」

「凄いよコタロー君!溜めが長いから実戦向きじゃないけど、改善して101矢ぐらいでやれば連携技として使えるんじゃないかな」

「連携技か。アーティファクト使うてればネギがいつこれをやるかわかるんやしできそうやな」

「おーい、ぼーや達何やっているんだ」

「あ、マスター。遅延呪文をコタロー君に試してました」

「小太郎に遅延呪文だと?」

「おう!この穴がその証拠や!」

「……小太郎、気を練った状態でやったのか」

「当然や。いつもそうしとるで」

「話だけではわからん、もう一度やってみろ」

「はい、分かりました」

また先と同じ工程を繰り返し小太郎君の腕に光の9矢が封印された。

「何故封印できるんだ」

「なんでって言われてもなんとなくやで」

―右腕!!解放!!―

「もう一発や!」

「なんだその威力は……。ぼーや、小太郎に契約執行した事はあったか?」

今まで契約執行をしたことはなかったが……とうとう。

「そういえば……無いです」

「ならやってみろ」

―契約執行180秒間 ネギの従者 犬上小太郎―

普通の契約執行とは思えない現象が小太郎君に起きた。

「なんやめっちゃ身体が軽くなったで!」

途端に砂浜を今までと比較にならない速度で走ったり跳ねたりする小太郎君。

「ハッハッハッハ!そのアーティファクトはやはり宝具だよ!」

「マスターどうしたんですか。何がそんなにおかしいんですか」

「ああ、どうやら千の共闘を使用している状態で契約執行すると自動的に咸卦法が発動するようだな。だから術式封印もできるんだろう」

「咸卦法?」

「そのカンカホー言うんはこないに身体が強くなるんか?」

「難しい説明をしても意味がなさそうだが話しておこう。咸卦法とは相反する陰の気と陽の魔力を融合し、身体の内外に纏い強大な力を得る高難度技法の事だ。咸卦法を使うと肉体強化・加速・物理防御・魔法防御・鼓舞・耐熱・耐寒・耐毒その他諸々のオマケが付く」

「反則みたいな技ですね……」

「発動しとるだけでそないになるんか!?」

「だから宝具だと言ってるんだ。何の努力も無しに使えるのだから反則だろう。タカミチはそれを習得するのに数年かかったんだ」

「タカミチが!?」

「ポケットに手突っ込んどるあのおっさんか」

「そうだよ。そもそも、なんとなく、ぐらいで出来る筈が無いんだが、ぼーやが世界だとすると小太郎が自分自身、それを繋ぐのがアーティファクトと言ったところか」

「なんやそれ?全然言っとる意味わからんな」

「……分からなくてもいいか。とにかくそのアーティファクトは凄いという事だ。その連携技も好きに試したらいいだろう。だが砂浜に穴を空けるのはやめろ。2つ空いているのも埋めておけ」

「僕の動きがわかるだけかと思ってたら凄い物だったんだね」

「でもやっぱネギがおらんと意味ないやん!」

千の共闘とは、通常の契約執行が自動的に咸卦法になるというアーティファクト。
その名の通り主が死なない限り千回でも共に戦えそうではある。
とりあえず少年達にしてみれば小太郎君が非常に強くなるアーティファクトという認識で終わった。
それからというもの別荘の中では1日中エヴァンジェリンお嬢さんと修行している訳ではなく、2人は合間に連携技を開発するようになり、組んで戦った場合、相手側にとってはかなりの脅威になる事が予想される。



[21907] 25話 外国文化研究会inシアトル・後編
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 19:01
アメリカへの旅行もとうとう今日で4日目となった2月11日、私達は別行動を取ることになりました。
鈴音さん、葛葉先生と私はホテルから車で30分程度行ったレドモンドにある小さなソフト会社の本社に来ています。
後の4人は車で2時間半程にあるジョンソン魔法学校に行きました。
龍宮さんも最初は鈴音さんの護衛に入るのかと思っていたんですが、葛葉先生がいるし、逆に春日さん達が狙われる可能性もあるので3人の護衛という形で一緒に付いて行きました。
当然車を運転するのは雪広の社員さんで裏の事情を知っている人が担当しているんだそうです。
さて、この本社なのですが、所謂巨大な本社ビルが建っているのではなく、広大な敷地内のあちこちに100近い建物が建っていることからキャンパスと呼ばれています。
一体どれぐらいの人達が働いているのかというと、係の人に説明してもらったところおよそ3万人の従業員さん達がいるそうです。
麻帆良の学生だけの人数にはまだ及びませんが相当な数の人達が働いているのはわかります。
鈴音さんと雪広の社員さん達は皆本社の人達と会議室に移動して行きましたが私と葛葉先生はここの社員さんと一緒にいればある程度見学して構わないという許可を頂きました。
セキュリティチェックの厳しさは葛葉先生も感心していました。
環境も良く、建物の外は自然が多いですし、備え付けの飲み物は自由に飲んでいいし従業員さん達のためにカファテリアもいくつもあるそうです。
超包子もこの中で売り出したら面白そうですね。
ちらっと覗かせてもらった電子機器があったのですが、葛葉先生は割と興味深そうに見ていましたが、私は葉加瀬さんと鈴音さん、工学部のお兄さん達との開発に携わったり、鈴音さんの魔法球内はもっとおかしな事になっているのでそんなに驚けなかったです。
待っているだけというのも暇なのでコミュニティをしっかり確認していたのですが、皆から「できればこれの写真を取って欲しい」とか、「お土産は是非アレが良いよ」なんていう話がなされていたり、まあ既に個人的にメッセージも受け取っているのでわかってはいたんですが本当に皆付いてきたかったみたいですね。
龍宮さんはこの件については鈴音さんに言って欲しいという表明をしていて、春日さんはぽつぽつ撮っていた写真なんかを上げていたみたいで盛り上がってました。
鈴音さんのページは連れていけという要望以外なら受け付けるという事で、先のお願いが大量に殺到してました。
初日はしっかり勉強した私達でしたが、2日目のスキーの後は疲れてやらず、昨日は少しだけやりました。
まあ私と鈴音さんに関しては必要ないんですけどね。
そんな事を考えながら携帯を見ていたのですが、付き添いでいた本社の社員さんが興味を持ってくれたようなのでしっかり英語で説明しました。

「(これは何処の製品ですか?)」

「(私達と別れて会議に参加している超鈴音さんが個人的に開発したものなんです)」

「(おお、それは凄いですね。彼女の話は去年の夏頃から届いていましたが、私達の間でもよく話題になっています)」

やっぱり有名になってますね。
三次元映像もそうですけど確か長谷川さんとの合作で作った防衛プログラムなんかも提供してた筈です。
その後もいくつか会話しましたがあまり当たり障りの無い内容にとどめておきました。
流石にここの中まで怪しげな人たちが入ってくることはないですから安心です。

《サヨ、こちらでも観測は行っていますがワシントン州では拳銃に関しては携帯許可が必要ですから警察官でなく持っている場合はすぐにわかりますが、街中で持ち歩いている人間はそうそういないにしても、ライフルに関しては難しい所ですね》

《初日に動きのあった人たちも偶然だったのかもしれないし、ただの偵察のだったのかもしれないですからね。転移符は見つけられないんですか?》

《今回も転移符を使ってくるかどうかはわからないですが、そもそも転移符は使用するか予め貼りつけでもしておかなければただの紙でしかありませんので観測で見つけるのもそれなりに困難が伴います》

《でも今回の場合は前回と同じ射程距離ならなんとかなるんじゃないですか?》

《ええ、数百mならば問題はありません。今のところ特に動きが見られない辺り、11月の時と同じように帰る時を狙ってくる可能性が高いかも知れません》

《それなら帰る前にしっかり見とけばこんどこそ大丈夫ですね!》

《犯人が待ち構えている所を先に抑えてしまうのが最善でしょう》

《なんか映画みたいですね!それにしてもキノ、全然連絡して来なかったですね》

《珍しく超鈴音が遊んでいる旅行ですから…………邪魔するのもどうかと》

私もそれは同感です。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

いや~もう2日間スキー行ったかと思ったらまたとんでも大自然に囲まれた魔法学校行きよ。
既にこれまでの3日間でとても私の小遣いじゃ払えないような金額を消費してる筈なんスけど、未だに何も自腹切ってないんだよなー。
ま、大分前のウルティマホラのトトカルチョで損した分は遥かに越えたからホント来て良かった。

「たつみーって報酬いくらぐらい超りんから貰ったんスか?」

「そんなに気になるのか?」

「愛衣ちゃんも気になるよね?」

「わ、私ですか!?え、えーとちょっと気になります」

「……まあゼロが後ろに6つは付くような金額だな」

「6つ?……ってええ!?」

百万超えてんのかい!
そんなポンポン払える超りんやべーよ。

「……超先輩って何者なんですか……」

「隣に一昨年から長いこと座ってるのにわかんないなー」

「意外と火星人というのは本当なのかもしれないな」

たつみーまでそう思うんスか。

「見た目ただの中国人にしか見えないって」

「夢は世界征服かもしれんな」

ブッ!世界征服って何スか!

「でも超先輩ならやりかねないですよね」

「……そう言われると超りんの奴ならやりそうだな。ところでたつみーはいつから相坂さんが本物の幽霊だって知ってたのさ?」

「入学してすぐの頃からだな」

「ちょっ!そんな重大なことそんな前から知ってたのか!」

「半透明の身体は便利らしいぞ。映画館は無料で見放題、夜中に書店でポルターガイストを起こして本を読むこともできるらしい」

なんて俗物的な幽霊……。
いや、映画全部無料で見れるのはズルいな。

「それは羨ましいな……。でもそんなに頻繁にうろついてたなら私だって一度ぐらい見ててもおかしくない気がするんだけどなー」

「初日のあの姿は濃かったからな。普段は存在感が希薄で普通の人間には見えないだろうな。私は目がいいから見えるが」

一般人には見えないなんて便利すぎるだろ。

「スパイとかやったら儲かりそうだな」

「でも身体から出たり入ったりできるなんて変わってますよね」

「刹那が言うには学園長が身体を用意したらしい」

「私は幽霊見たのが初めてだからそういう身体が変なのかもちょっとわかんないわ」

「そういえば去年の冬に茶々円という子が警備の時にいたがあの子と同じ身体かもしれないな」

あー、いたな。
なんか緑色の小さいの。
私はたまーに、シスターシャークティに無理やり伝令に駆り出されるだけだから2回しか見てないな。

「あ、去年の春から麻帆良に来たので私は見てないですが、お姉様から話だけは聞いたことあります」

「あの子2回ぐらいしか見てないけど、どうなったんスか?」

「そうか、2人共あの時いなかったか。呪術協会の建設の為に処分されたそうだ」

えっ!重っ!?

「お姉様その話をしてくれた時悲しそうでした……」

「神多羅木先生付きのマスコットとして定着していたんだがな」

「裏が安全じゃないのはわかってるスけど、重いなー」

「……そうか、確か茶々円の身体は傷ついても修復できると言っていた。11月に銃撃された相坂の身体も同じように治したのかもしれん。撃たれた傷は1週間入院したところで治らないから辻褄は合う」

なんか車での移動時間に推理の話になってるなーなんか面白いけど。
ってあれ?

「それだとその処分された子も実は幽霊なんじゃないスか?」

「じゃ、じゃあお姉様が言ってた魂は残りますって言ってたのはやっぱり……?」

「もしかしたら茶々円の中身は相坂だった……いや、魔法は使えなさそうだからそれはないか」

うわーなんかどんどん学園長の怪しい部分に踏み込んでる感じじゃんか。
絶対こういうの2-Aの奴らは好きだろうな。

「封魔の瓶みたいに封印してあるのかもしれないですね」

それが一番ありそうだな。

「学園長も謎が多いッスね」

「まあ今の話で茶々円の魂か霊体が残っているのが本当である可能性が高いのは間違いないな」

「それならお姉様に私」

「佐倉、それはやめておけ。この旅行はその学園長から無闇に情報を口外するなと言われているだろう。超だけでなく相坂まで狙われる事になるかもしれない。私も珍しく少し話しすぎた」

おおお、マジこえーよたつみー。
そうか、相坂さんもレアな存在って事だもんな。

「そ、そうでした。わー何か今までお姉様に送ったメールに変なこと書いてないか心配になってきました。確認しないと」

バンバン写真撮って送ってたもんな。

「気になる事もあるけどこの話は深入りしない方が身の為ッスね」

「春日のその身の引き際の良さは戦場で生き延びるのには悪くないな。仲間を見捨てる事になるかもしれないが」

「いやいやいや、私が戦場に出るとか考えられないッスよ。それにココネなら抱えて逃げるわ」

「ミソラにそんな任務は与えられない」

ってココネー!
確かに私のマスターだけど評価低いぞ!
この車内の会話は運転席とは完全に遮断されてるらしいから他には漏れてないだろ。
私にしては珍しく危険な事に首突っ込みかけたなー。

今すぐ怪しい雰囲気から脱するには携帯で2-Aの皆の脳天気なコミュニティ見るのが一番ッスね。
あ、これも超りん作ったんだよな。
聞いた時はふーんって感じだったけど使い出すと止まんないわーこれ便利だし絶対流行るわ。
そういや今日仕事でレドモンド行くって言ってたけど具体的に何処行くか聞いてないな。
何か有名な企業を検索しーのと……。
ってこの企業もまたデカイっつの!
うわーこの州に本社あったのかー。
マジ経済的に世界征服しそうだな。
隣の席の中学生がいよいよ常識から吹き飛んでるのがわかったわ。
もう考えるのやめよ。

私もジョンソン魔法学校付いてったのはいいいけど英語そんなにうまく話せないから大人しくしてたッスよ。
麻帆良学園とはまた違った学校の造りだけどどっかの古城かって言う程のもんじゃなかった。
ちょい古めの大学のキャンパスみたいなもんだな。
愛衣ちゃんの事知ってるっぽい魔法先生達が話かけてきて、紹介される度にそれなりに挨拶しといた。
たつみーの事を知ってる人もいたみたいで何か話してたな。
裏で有名なスナイパーっていう噂、いや間違いなく事実だろうから知ってても不思議じゃないッスね。
愛衣ちゃんが丁度魔法演習の授業に誘われて私達も付いてったけど、愛衣ちゃんスゲー。
私よか年下なのに、無詠唱魔法できるんかい。
もしかしてシスターシャークティこの事知ってんのか?
だったら、しごかれても仕方ないのはなんとなく理解できるわ。
あれ、それ考えたらネギ君とそのライバルも半端なくないか。
ウルティマホラで瞬動連発した時は空いた口が塞がらなかったわー。
なんかネギ君はエヴァンジェリンさんの家に毎日通ってるらしいし弟子入りでもしてんのか。
それなら絶対私よりもう強いんじゃ?
最近の子供スゲー。
超りんも瞬動見た時何食わぬ顔で普通に禁止にしてたからきっと瞬動できるんだろーな。
ま、私は私でいいんスよ。

ここの学園長にも会ったけどやっぱりじじぃだった。
若い学園長って何だって話だけどさ。
まともな情報得られたのが裏から表に一部魔法具が流出してて、特に多いのが転移符だとか。
たつみーがぼそっと一枚80万はするとか言ってるのが聞こえたけど、そんなもん扱ってるなんてどこのマフィアだよ。
他にも流出してる魔法具って何だ?
結界の札とかそういうのか。
そりゃ秘密の会合なんかには便利だもんなー。
もし犯罪組織に流出とか一番駄目なパターンじゃんか。
でもそれが普通の魔法世界よかましか。

結局魔法学校の見学会ツアーになったし。
学校の周りの自然風景とか写真家がいたら絶対うまく撮るまで粘りそうな湖畔もあったし何しろ今冬だから空が澄んでるし山も白くなってていいわー。
夕方ぐらいまでぶらぶらしてそのまま、また2時間半かけてホテルまで戻ったッスよ。
超りん達戻ってきてなかったけどまだあの有名企業で仕事してんのか?

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

昨日までの三日は遊び疲れたが、今日は仕事で疲れたナ。
先方との交渉もうまく行たし、いくつか組んだプログラムを提供しつつ、SNSの件でも実際にその場で利用してもらて使い勝手を理解して貰えたから普及に関してのサーバーの用意等、全面協力をしてくれることになたネ。
プログラムを見せたら就職しないかと冗談のつもりだろうが言われたのは丁重にお断りしておいたヨ。
まあある意味千雨サンの未来の就職先は引く手あまたということの証拠だネ。

「鈴音さん、それにしても朝からこの遅くまで大分長かったですね」

「実際に体験してもらたりしているのに時間がかかたりしたからネ。後は権利関係の手続きなんかで随分時間がかかたヨ。私的独占に近くなる可能性も問題だたが、営利でやるつもりがあまり無いから利用者から不満が出ないように努力するヨ。その辺りはのらりくらりと避けていくしかないだろうナ」

「全く、とても中学生がやることではありませんね。私も大概慣れてきましたが」

「中学生と言ても後ほんの数年もしたらすぐ大人になるからナ。少し始めるのが早い程度の事ネ」

「くっ……後数年もしたら……」

……しまたナ。
年数関係の話は葛葉先生にはタブーだたネ。
でも気の扱いに長けている人は若さを保つ事も一般人に比べれば容易だからあまり気にする事ではないヨ。
美空達からメールが来てもうジョンソン魔法学校から無事に戻ているようだし、後数分でホテルに私達も戻れるし今日も何事もなく終了だネ。
さよと翆坊主からの話だと銃撃犯は今回も帰りがけを狙てくる可能性が十分ありえそうだからそろそろ警戒した方がいいのは間違いないネ。
ホテルで食事をした後、魔法学校組からの情報で裏の道具が表の組織に流れている事がわかたヨ。
結局どんなものも使う人次第という事になるが、本当の平和等というものが世界に訪れるのは永い永い夢のようなものだろうネ。
それでも、諦めてしまうより少しでも願ているほうがマシだナ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

どっからか狙われてんのかと思ったけど、そんな事もなく旅行5日目も普通に観光してあちこち見て回ったわー。
初日は見なかったパイク・プレイス・マーケットっていう生鮮野菜・魚介類の通りに行けば、日本で買う場合パックになってる事が多い魚がそのまま並べてあってサーモンはスゲー迫力。
しかも注文すると魚を投げて渡すパフォーマンスなんてのは観光としちゃいいけど、落としたらどーすんのさって思うわ。
他には豪華客船みたいな船に乗って遊覧しつつ、コースに入っている例の有名企業の豪邸を外側からだとよくわかんないッスけど見たり、海かと思えば今度はヘリコプターで空から街並みを見下ろしたりちょっとどんだけ金かかってんのか気になるわー。
ちょい残念なのは野球はシーズンじゃないからやってないのと、ワインの祭典もあったらしいんだけど未成年だから却下だった事かねぇ。
その後は大体買い物買い物の連続だったね。
泊まってるホテルからでて少し歩くといくらでも店があって買い物できるのは便利だったわ。
2-Aの皆が送ってくる買ってきて欲しい物リストとか写真に撮って欲しいものとかもこなしつつ、次の日も似たように過ごしてテストの勉強もして寝て大体もう旅行も終わりかーと思ってたらそんな事なかった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

《サヨ、今回は直接狙ってくるようです。かなりの速度でホテルに接近する車両が2台あります。中は銃器が積み込まれているので一度起きるべきです》

《そんな車両は……あ!本当です!わかりました、一旦皆起こします》

帰りがけを狙ってくるかと思いましたが、寝込みを直接襲ってくるとは思いませんでした。
確かに寝る前にホテルの受付から私たちが今宿泊している部屋がいつ予約できるか聞かれたらしいので、狙うなら今日しかありません。

「鈴音さん、葛葉先生起きてください!銃器を積んだ不審車両がホテルに向かって2台接近してます!」

「……寝たと思た矢先にとうとう来たカ。しかも随分直接的な手段に出たナ。そんなに恨みを買た覚えはあるようで無いけどネ」

「直接ホテルに乗り込むのか、向かいの建物から銃撃してくるのか知りませんがすぐに動けるように荷物を整理しておいて正解でした。ホテルに到達するのにどれくらいかかりそうなのですか」

「後……4分ぐらいですね」

「あまり時間が無いナ。さよは霊体で隣の4人に知らせてくるヨ。私と葛葉先生は雪広の社員さん達を起こしてくるネ」

《わかりました!》

30階の部屋を私達意外にも社員さん達でいくつも借りているので確かに上まで上がってこられると厄介です!

《龍宮さん!もう起きてたんですか》

「ああ、隣の部屋で動きがあったようだからな。春日、佐倉、ココネ起きろ!」

《3人とも起きて下さい!》

「……ん?もう食えないッスよ?」

何寝ぼけてんですか!
龍宮さんが強行手段にでてチョップしました。

「うぉっ!イテテ、何、何あったの?マジで狙われたり?」

「ど、どうしたんですか?」

「どうやらその通りのようだ。動きやすい服に着替えろ。魔法障壁の1枚ぐらいは予め張っておけ」

「うわー、人間コエー。毎回馬鹿の一つ覚えみたいに麻帆良に侵入する鬼とかよりコエー」

《あれ?シスター服着るんですか?》

「いや、そりゃ私達の専用服だからね!」

小太郎君も学ランがどうのと言ってましたが魔法使いはよくわかりません。
佐倉さんは普通の服でした。
私も身体にすぐ入り直しました。
急いで準備をしましたが、犯行グループが到着するのもすぐという状況でした。
このホテルに一緒に泊まっている人数は、西川さん達を始めとする社員さん15人に私たちを含めて22人です。
鈴音さんと葛葉先生は4分の間に手分けして部屋に行き、起こした社員さんと共に違う部屋にと、手際良く状態を整え、向かいにビルが無い部屋に全員移動した後、フロントに連絡したようです。

「鈴音さん、葛葉先生、準備できました!」

「さよ、まだフロントには何も来てないようだが」

「待ってください!丁度6人入ってきたようです。チェックインしていた客らしく、2人が大きな荷物を持ったままエレベーターに乗り込む模様です」

観測状況も同じです!
2台とも運転手だけ残しています。

「フロントの人には声をかけないように伝えて下さい」

「分かりました。(そのまま声をかけずに通して下さい)……伝えました」

「ありがとうございます。龍宮真名と私以外はこの部屋でドアと窓からできるだけ離れた場所で待機していて下さい。龍宮真名、行きますよ」

「了解だ」

《全員携帯を身体から離さないようにするネ》

「葛葉先生、2人で6人なんて危険では?」

「大丈夫です、西川さん。私たちは麻帆良の人間ですから。それでは」

結局戦闘員は2人だけなんですよね……。
西川さんは龍宮さんと葛葉先生のあからさまな武装を見て驚いていますが、裏を知っている社員さんは何も言わずに頭を軽く下げていました。
私は観測で状況を伝えるだけです。

《葛葉先生、6人は30階で降りるようですが、エレベーターに乗った途端荷物を開けて武装し始めました、気をつけてください。3列に2人ずつ並んでいます。後10秒程です》

《時間がありません、エレベーターまで一気に距離を詰めます》

《了解だ》

観測してる私だけが見えてますが二人共走るの早いですね!

《あ!ガスマスク付けました!》

《配置に着いた、変な物を撒かれる前に無力化する》

《2……1……開きます!》

龍宮さんと葛葉先生は扉の横にピッタリ待機し、エレベーター特有のチーンという音と共に扉が開きました。
準備万端という用意で先頭の2人が一歩外に踏み出した瞬間。葛葉先生が敵の武器を一刀両断、峰打ちし、龍宮さんが麻酔弾と思われるものを的確に当て、そのまま首を出さずに続けて2発発射。
突然の事に驚いた一番後ろの二人が声を上げた瞬間、その二人もあえなく無力化されました。
相手の行動が予め読めるというのはここまで対処が楽になるんですね。

《サヨ。転移符が発動します》

えっ?

《犯人達が持ってた転移符が発動するみたいです!》

《なんですって!》

《しまった》

どうやらホテルの下で待機していた運転手が通信機で音声を拾っていたらしく声を上げた瞬間、異常を察知して元々そういう計画だったのか遠隔操作したようです。
……見事にエレベーターの中には大きなトランク2つと銃器だけが残りました。
 
《相坂、何処に移動したかわかるか》

《下に待機していた運転手が呼び戻したようです。既に車は発車して南に抜けていきます。でもピンポイントで追跡はできるので任せてください》

《撃退しただけとはとんだ失態です。それにしても少し目がいいどころか透視までできたのですか》

あはははー、それを言われると困りますね。

《そ、それは幽霊の秘密ということでお願いします》

《うはーホントの戦闘なんて起きるもん何スね》

《状況が詳しくわかりませんでしたが、葛葉先生達凄いです!》

《相手の動きが分かてて良かたネ》

《全くだな。相坂の能力は大したものだ》

《まず奴らが残していったこの荷物をなんとかしないといけませんね》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

その後は色々処理が面倒だたヨ。
犯人の荷物の片付けに、事情を知ている社員さんへの説明に始まり、ジョンソン魔法学校への転移符が使用された件の連絡と、さよの観測での完全追跡を利用しての逃走した犯人達の捕獲要請、ホテル側への情報操作等、旅行最後の夜にしては慌ただしいものだたネ。
明朝にジョンソン魔法学校の職員と葛葉先生達がやりとりした後、さよが捕捉したシアトルから離れたかなり南部にあるアジト、まあただの普通の建物だたらしいのだが追撃が行われたようだヨ。
どういう手段で追跡したのかは龍宮さんが発信器をつけたという事でかなりキツかたがなんとかごまかしたネ。
追撃の結果は着いた時には幹部の連中と思われる奴らは転移符で多重転移を繰り返したらしく既に逃げていて、龍宮さんが撃ち込んだ麻酔弾を喰らて1日は全く動く事ができない奴らだけが捕またらしいヨ。
この先はもう私達の管轄外だたから、それで話は終わりなのだが、さよと翆坊主の観測で逃げた奴らが持ていた資料から世界の各地に既に拠点がいくつもあるだろうという事がわかたネ。
犯行組織全貌を捉える事はできなかたが、少なくとも前回の銃撃は国内犯ではなく世界規模の連中の仕業だというのは明らかになたヨ。
余程魔法世界にいる下手な魔獣よりも全て潰すのは骨が折れるのは間違いないネ。
アジトの場所も大体わかたのだが、その情報を公開するのは入手手段の問題で明かせないから魔法使いのNGO組織に頑張てもらうしかないという結論に落ち着いたヨ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

昨日?いや今日か、の夜中にマジで襲撃を受けたのをたつみーと先生が一瞬で返り討ちにするなんてのがホントに起きたッスよ。
バタバタしてたのと妙に興奮して全ッ然寝れ無かったけど、今はもう明けて朝8時過ぎに帰りの飛行機に皆で乗って空の上だわ。
なんてゆーかやっぱり相坂さんの千里眼凄すぎだろ。
そりゃたつみーが発信器つけた事にするわな。
バレたら確実に今度は誘拐の対象……?
浮ついてるから捕獲できないか。
ま、面倒な事を考えるのはやめた方がいいな。
最後の最後でそんな感じでも、もう死ぬわーって状態になったのでもないから、総合的に今回の旅行を評価すると……また何度でも学校休んでどっか行きたい!まさに優先順位堂々の1位だね。
途中から金銭のことなんて考えるのやめたけど確実に十数万だか数十万だかは消費した気がする。
いいんちょみたいにリアルに金持ちでもないのにこの生活は無いわ。
仮にもシスターらしい生活とはかけ離れてたッスね。
清貧?何だそれって感じ。
シスターシャークティにはとても自慢できねー。
今更眠くなってきたから一眠りするか。
今日金曜だから戻っても、しっかり毎晩対策したから余裕で中間テストなんて攻略できんじゃん。

……って起きて、もうすぐ着くと思ったら何?
朝出たのに土曜の昼だって?
あー!時差か、忘れてたわ。
超りん成田に到着して麻帆良へ帰る車に乗ろうとした時またかなり警戒してたけど11月の事件ってのはかなりヤバかったぽいな。
お土産大量に買ったけど自分で運ぶ必要なく、女子寮に届けてくれるらしい。
絶対個人旅行とか友達同士で行ったらこれも無いわ。
魔法世界にも前行った事あるッスけどここまで完全におんぶに抱っこなのは初めてだったな。
3年になったらすぐに修学旅行だけどどこ行くんだろ。
うちの学校外じゃありえないけどクラス単位で旅行だからなー、ハワイとかか?
今回ほどはっちゃけられないだろーけど2-Aで馬鹿やるのはそれはそれで楽しいだろ。



[21907] 26話 フライング京都
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 19:02
葛葉先生と龍宮サンのお陰で怪我なく麻帆良に帰て来る事もでき、女子寮に戻てきたらわらわらと沸いて出てきた皆にたかられたヨ。
そういえば2-Aとはこんな感じだたネ。
全員用のはもちろん頼まれていたお土産をそれぞれ配て、朝倉サンから取材させろと迫られたが主に美空に押し付けて部屋に戻たヨ。

「ハカセ、留守の間部屋を見ていてくれた助かたネ」

「おかえりなさい、超さん。私以外はこの1週間いつもどおりこの部屋には入ってないですよ」

魔法球に侵入されるのが一番困るからナ。
その点は翆坊主も見てるからもしそんな事が起きたらすぐわかるのだけどネ。

「ハカセ達と用意した資料はあちらでは好評だたヨ」

「それは張り切った甲斐ありました。ギリギリまで徹夜して作成したのでどこかにミスがないか心配でしたけど」

「あー、ミスは結構あたが、行きの飛行機で直しておいたネ」

「やっぱり……」

「まあ影響は特に無かたからいいヨ」

「しっかり確認しないと駄目ですね。……それより少し大変だったのは授業で超さんと相坂さんがいないせいでまた私といいんちょさんに集中的に当たった事ですよ」

入院のフリをしていた時もそうだたらしいがまたカ。
先生たちもバカレンジャーに当ててどうしようもないと私達に回すからナ。
ネギ坊主はお世話になているという理由で明日菜サンによく当てるが、意外と英語はできるようになているからあの二人は割と仲がいいネ。

「それは悪かたネ。授業中に次のロボットの構想も進まなかたのではないカ」

「そうなんですよ。後もう少しで出てきそうっ!っていう時に限ってあたったりするとアイデアが吹き飛んじゃって」

「飛行機の中で休んできたから今日は開発のアイデアでも練るカ?」

「やっぱり超さんが一番理解してくれるのが早いので助かります」

ハカセは過程が飛躍する事が多いからナ。
やはりこれが日常だネ。
……さよはまだ皆と話てる所カ。
しかし、帰りの飛行機で捕まえた犯人達から得られた情報が届いたが、予想通りというか末端の人間だたヨ。
単純に私達を狙うように指示を受けていただけのようだネ。
そんな連中でも麻帆良にまでは入てこれないから、そこまで厄介ではないが地味に行動を制限されているみたいで不快だナ。
釣り上げて潰すつもりだたが思いの外組織が大きいものだから私の命が外で常に安全になるのは当分先か、もう無いかのどちらかだろうナ……。

《翆坊主、この1週間殆ど連絡してこなかたがこちらの様子は変わりなかたカ?》

《おかえりなさい。最後だけ慌ただしかったですが1週間、超鈴音にしては伸び伸びできたようですね。こちらは11月の時と同じく各研究会の人達が多少困る程度です》

他の皆もハカセと似たような状態カ。

《うむ、スキーをマスターして来たから火星でもこれで楽しめるヨ。各所には後で顔を出して置くネ》

《分かりました。4月の頭にはアーティファクトがあれば問題なく過ごせるようになりますので》

《二酸化炭素の固まりでスキーはどんな感触だろうナ》

《それはやってみてのお楽しみという所でしょうか。アーティファクトと言えば小太郎君のものも前回少し話しをしたのとは別の能力があるのですが聞きますか?》

ネギ坊主と小太郎君が仮契約して、出たアーティファクトは小太郎君がネギ坊主の動きがわかるという使用用途に幅が無いものだと聞いたが。

《聞こうカ》

《小太郎君のアーティファクトは契約執行すると自動で咸卦法が発動するものなのです》

《それはとんでもなくズルいネ》

《タカミチ少年が知ったらと思う所はあります》

《リスクが殆ど無い上にメリットばかりあるというのは本当に仮契約はバランスがおかしいネ》

《それでも……契約主の資質次第ですから周りに特異な人間がいない限り縁の無い話です。例えば佐倉愛衣のアーティファクトは性能もそれほど高くないホウキですし》

《それでバランスを取ているのかもしれないが、選ばれた者だけが更に優遇されるというのはあまり愉快ではないネ》

《それは仮契約の魔法を最初に発案した人間の欲望の現れとでも言えるでしょう》

《昔から人間は変わらないネ》

他に何か動きがあた事と言えば丁度昨日バレンタインデーでネギ坊主があちこちからチョコレートを貰たり、押し付けられたりしてたらしいネ。
途中からどれが誰のかなんてわからないなんてオチになてるんじゃないかナ。
きちんと覚えておかないと英国紳士は失格だヨ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

超鈴音達が帰国してすぐの中間考査も終わった。
結果は超鈴音部屋の3人と雪広あやかで4位までを取るのはいつもと同じであったが、異なったのは春日美空の順位が丁度中間あたりから200位前半へ、龍宮神社のお嬢さんも400台から300番台の前半まで上がった事である。
原因は日本史の暗記物や、古文の重要部分、数学の公式等を旅行中に効果的学習をしたお陰で簡単に点数が稼げたから。
英語は問題無し佐倉愛衣も日本史と古文の点数が飛躍的に伸びたようで、超鈴音をより尊敬するようになった。
……と、2人程順位が上昇したため、2-Aは僅差ながらも下から数えて2番目にクラス順位が上がり最下位からの脱出を果たした。
これに伴い今回のトトカルチョで2-A最下位安定と思っていた多くの生徒達は食券被害を受けたとか。

……そして2月も末という頃、エヴァンジェリンお嬢さんのもとに表の京都の人達からの強い要望が届いた。
というのも、この1年の売上が例年よりも数十%も高くなり、その原因を詳しく調査したところ、元を辿ればエヴァンジェリンお嬢さんに端を発した日本文化ブームだったというのが判明したのだそうだ。
要するに是非お嬢さんを本場に招待して色々やりたいという事らしい。

「じじぃ、沢山手紙が届いているし久しぶりに学業の一環証明書を作れ」

「儂の所にも要望が来とるしそれはいいんじゃが、最後に作ったのはいつだったかの?」

「大学の4年の時だから……5年近く前か」

「もうそんなになるかの。5年前じゃと確かこっちの棚じゃったような……」

ナギがかけた登校地獄は限りなく緩くしているので、麻帆良内なら自由に行動できるようになってはいるが、外に出るとなると処理が必要だ。
完全解除すればそれで終わりだがお嬢さん自身がそれを望んでいない為こうなる。

「確かあの時はエヴァの友人達と旅行に行ったんじゃったか」

「サークルでも度々誘われたが、あの旅行だけは行きたかったからな」

その前が高校の修学旅行の時。
中学の修学旅行の時はまだ信用が得られていなかった為許可されなかったので、これで通算3度目。

「おお、あったあった、キノ殿が呪いを緩めたお陰で条件をきちんと付ければちと分厚いが手書きで証書を作れば外に出られるからの」

「全部解かせないのは私の未練だがな。一応私の立場もあるし仕方ないだろう。出発は28日の金曜の午後からで帰ってくるのは3月3日の月曜だな」

「あい分かった。それまでに用意しておくわい。……ついでと言ってはなんじゃがこのかも連れて行っても構わんかの?」

「ああ、別に今更人数が1人増えても困らない。元々サークル規模の人数だからな」

「婿殿もこのかに会いたがっとるからの」

「寂しいなら麻帆良に入れなければいいのにな。そうだ、このかを里帰りさせるならぼーやも連れていったらどうだ?」

「……それはどういう事かの?」

「確か赤き翼の隠れ家があっただろう。ぼーやにここ数ヶ月のご褒美でもやったらどうだ?」

「褒美はついこの間も与えたのじゃが……」

「ナギが10歳の時の映像はあの試練の褒美だろうに」

「エヴァも情が移っとるの。ふむ、足跡を辿らせるのも悪くないか」

「一応私の優秀な弟子だからな」

「気にかかるのは2-Aの子達に情報が漏れないかじゃろうな。朝倉君がこの前からしつこくて適わん」

「超鈴音に借りを作った代償だろう。しっかり払え」

「わかっておるよ。この際、ネギ君に改めて西への親書でも持たせるとしようかの」

「念押しのつもりか。好きにしろ」

こうして近衛門とエヴァンジェリンお嬢さんのとの間で秘密裏に旅行計画が成された。
孫娘も連れて行くにあたり護衛には桜咲刹那、葛葉先生、呪術協会から数人、そして特別に小太郎君が付くことになった。
葛葉先生が今回も選ばれた理由は魔法協会の所属でありながらも神鳴流という事もあって呪術協会と関わりが強いから。
小太郎君までも特別に護衛入りした理由はネギ少年もいるから東と西の架け橋の象徴にでも、というつもりとのこと。
エヴァンジェリンお嬢さんがいるため今回の護衛はほぼ形だけの存在であるが、体裁は重要。
次の日すぐに近衛門から孫娘に里帰りの話が伝えられ、また改めてネギ少年に親書の件を種に京都に行って来るように伝えられたのだった。

そして28日金曜。
学校が終わってすぐ、京都行きの面々が駅に集合したが、一部互いの存在を確認して驚いた。

「あれ?せっちゃん!せっちゃんも一緒に帰るん?」

「お嬢様、私の事はお気になさらず」

そう言って素っ気なく孫娘の近くから素早く去って距離を取る桜咲刹那だった。

「……せっちゃん……」

「あれ?このかさんも京都に行くんですか?」

「よう!このか姉ちゃん!」

「えっ!?なんでネギ君とコタ君もおんの?」

「僕は学園長先生に頼まれごとをされたので」

「俺はその付き添いや」

「へーそうなんか。ほな、せっちゃんも同じ理由なんかな?」

「そうなの?コタロー君?」

「あー、それは俺も知らんへんな」

「コタロー君その顔何か知ってるでしょ」

「いや、何も知らんて!」

小太郎君は寧ろ分かり安い反応で手を振り…………隠し事が下手だ。

「コタ君教えてくれへん?」

そこへ今までサークルの人々に囲まれて姿が見えなかったお嬢さんが現れる。

「ぼーや達も来たか」

「ま、マスターまで!?そんな事聞いてないですよ?」

「じじぃから聞いてないのか。元々私達が京都から招待されたのが今回の旅行の発端だ」

「そうだったんですか」

「知らない人がぎょうさんおると思うたらそういう事なんか」

「まあぼーや達と近衛木乃香はそれぞれやることやればいいさ」

《ぼーや、じじぃが説明してないようだから先に言っておくが近衛木乃香は学園長の孫で極東一魔力量も多いから桜咲刹那や小太郎達呪術協会が護衛についているんだ。少なくともぼーやがこの旅行中にさっき小太郎に迫ったような近衛木乃香に魔法の事をバラしかねん真似をすると故郷に戻されるかもしれんから気をつけろよ》

《は、はい!分かりました、マスター!あ……危なかった。でも刹那さんも護衛だったんですね》

《やはり知らなかったか。まあ小太郎もあまり呪術協会の事は話さないようにしてるからな》

「エヴァンジェリンさんはせっちゃんが来とる理由知らへん?」

「あの剣道部の先生と用事でもあるんじゃないか」

「あ、ほんまや。葛葉先生もいたんか。せっちゃん剣道強いからそうかもしれへんね。おおきに」

「私も詳しくは知らんからな。本当に気になるなら本人に付き纏ってでも聞き出せばいいだろう」

「なんやうちせっちゃんに避けられとるみたいやからそれはしとうないな……」

「……ま、好きにすると良い。そろそろ時間だ。それではな。ぼーや達も用事が被らなければ私達の発表でも見に来ると良い」

「はい!時間があったら是非行きます!」

適当にお嬢さんが桜咲刹那と葛葉先生の関係を仄めかして孫娘の興味を適度に削いだことで小太郎君へ及びかけた追求の手は収まった。
こうしてお嬢さん率いる大学サークル、ネギ少年親書任務、孫娘帰郷、ネギ少年の監視も兼ねた主に孫娘の護衛団という団体旅行客が結成された。
埼京線麻帆良学園中央駅から東京まで出た後新幹線に乗っておよそ2時間半程で京都に到着。
……京都駅に迎えに来ていた詠春殿直属の関西呪術協会の人達が孫娘を誘導し本山に連れていった。
その後間を置いてネギ少年と護衛達も後を追ったが、サークルの人達は招待を受けている宿へ泊まる事になり早くも別行動となった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

このかさんだけ先に行ったけどそこまでして魔法の事を隠さないといけなかったのか。
今までこのかさんにはバレなくて良かったー。
アスナさんが話しちゃうんじゃないかとハラハラしたけど本当に良かった。
刹那さんがこのかさんを避けてるっていうのもこれが原因なのかな。
小太郎君が刹那さん達をすぐ紹介してくれたけど皆護衛なのか。

「あのー、刹那さんは護衛だからこのかさんから離れているんですか?」

「そうです、ネギ先生。今まで隠していてすいません」

それなら仕方ないのかもしれないけど、このかさんさっき悲しそうな顔してたな。

「いえ、隠していたのは僕もですし。……でも、折角クラスメイト同士なんですから仲良くした方がいいと思います!」

「し、しかし……」

「ネギ、それはお節介やないか」

「でも、僕は刹那さん達の担任だから生徒の関係はちゃんとしないと」

「はぁ……ネギはたまに頑固になるんやもんな」

「刹那さんはこのかさんと仲良くできないんですか?」

「い、いえ、そんな事はないですが……」

「なら仲良くした方がいいですよ!」

「俺は強うは言わんけど刹那姉ちゃん少しこのか姉ちゃんに冷たいと思うで」

「小太郎君まで……。分かりました、考えておきます。それでは失礼します」

あ、また行っちゃった……。

「俺はネギの担任の仕事はようわからんけど、俺が通っとる小学校は生徒が喧嘩してるのは先生が止めさせて仲直りさせる事はあっても、喧嘩もしてへんのに無理やり仲良うさせたりはせえへんで」

「無理やりっていうつもりはないんだけどな……」

「なんや魔法使いになる修行言うんは面倒やな」

「それでも僕は絶対この修業をやり通すよ」

「ネギならそう言うと思ったで。そうや、教師としての悩みならあの葛葉先生に聞いたらええんちゃうか?」

「あ、そうか!ありがとうコタロー君。本山の行きに聞いてみるよ」

丁度他の先生が居て良かった。
もう出発するみたいだし聞きに行ってみよう。

「あ、あの、葛葉先生、こうして話すのは初めてですけど話を聞いてもらえますか?」

葛葉先生ってちょっと怖そう。

「はい、構いません。なんでしょうか?」

「葛葉先生は、一人の生徒に仲良くしたいクラスメイトがいて、そのクラスメイトの方はその生徒を嫌いではないけど避けてる状況を見て仲良くさせようと思いますか?」

「あぁ……刹那の事ですか。普通であれば状況によるでしょう。避けている方が単純に恥ずかしがり屋で周りに誰も力を貸すような人間がいないならば少し背を押してあげるぐらいはして良いと思います。刹那の場合は恥ずかしいというのもあるでしょうが、立場が絡んでいるので難しいですね」

「立場……というとやっぱり護衛の事ですか?」

「木乃香お嬢様は近衛家の大切な一人娘です。対して私達護衛は命を賭けてでも守らねばなりません。そして護衛には替えが効きます。その為無闇に仲良くして結果悲しませるような事になっては護衛としては失格なのです」

命を賭ける……か。
スタンさんも僕の事をあの時身体を張って守ってくれたな……。
でもやっぱり残った方は悲しいし、悔しい。

「僕は守られて残された側の気持ちがわかります。でも、やっぱりそれは悲しすぎると思うんです」

「いいですか、ネギ先生。私は一般的な護衛としての立場を言っただけです。刹那は護衛でありながら幼少の頃からの木乃香お嬢様の幼馴染でもあります。その点をどう考えるかはネギ先生の自由です。私から個人的な意見を言うのは簡単ですが、教師としてのあり方もその人の数の分だけあります。ここからはネギ先生がネギ先生としてのやり方で、どう手を出すか出さないかは決めるべきでしょう」

僕の教師としてのあり方か……。
魔法使いになるための課題で始まった僕の今の生活はこういう事を経験する為なのかな。

「葛葉先生、ありがとうございます!僕は僕自身の答えを見つけるように頑張ります!」

「どういたしまして。良い答えが見つけられると良いですね」

よし、頑張るぞ!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

午後7時を過ぎたという頃、孫娘は無事に本山に到着し詠春殿と木乃葉さんと久々に一時の再会を果たした。
しばしの団欒の後、母と娘とその他の巫女さん達はそのまま一緒に温泉にでもと移動していった。
その後詠春殿の所に今度はネギ少年の到着。

「初めまして、ネギ・スプリングフィールドです。関東魔法協会から親書を届けに参りました」

「ネギ・スプリングフィールド君、遠路遥々ようこそ。私が関西呪術協会の長の近衛詠春です。楽にして結構ですよ」

「近衛……という事はもしかしてこのかさんのお父さんですか?」

「ええ、そうです。このかと同じ部屋に住んでいると聞きましたが今まで魔法の事を隠し続けられたとは大したものですね」

その発言はいかに。

「え?あ、はい、ありがとうございます。あの、これが親書になります」

「はい、確かに受け取りました。…………なるほど、分かりました。明日は何か予定はありますか」

「いえ、特には……あ、でもマスターの発表会が午後からあるのでそれは見に行きたいです」

「それなら明日の午前、赤き翼、ナギ・スプリングフィールドも使った事がある京都にある隠れ家を見てみますか?」

「え、父さんの隠れ家があるんですか!?」

「はい、昔のまま残っていますよ」

「是非お願いします!」

「分かりました。今日は疲れているでしょう。ここには温泉もありますから今晩はゆっくり休んで下さい」

「ありがとうございます」

こうして無事に親書を届ける仕事も難なく終わったネギ少年。
近衛門が書いた親書の中身は3種類、1つは真面目な内容の親書、そしてネギ少年を別荘に案内する便宜、最後に孫娘に裏のことを教えてはどうかというものだった。
特に最後の内容は近衛門からの私見だが、ネギ少年が冬休みに4日間昏睡していた時に僅かに回復術が孫娘から発動していた事と裏の事を孫娘にこれからも秘匿し続けながら護衛を陰ながらつける事の効率の悪さについてであった。
前者についてはあの時の小太郎君とネギ少年の状態を比較して分かったことだが、偶然だった。
ネギ少年の方がスクロールへの最初の参加環境が精神衛生上悪かったにも関わらず小太郎君と体調が大して変わらなかったのだ。
後者については超鈴音の前例で孫娘が攫われて利用されるどころか……場合によっては、排除対象になり銃撃1発という事も可能性としてありえると近衛門が考慮したからである。
また、桜咲刹那の事も少しは含んでいるのかもしれない。
ここで久しぶりに今後の事を考えて手出しをしようと思う。

《サヨ、ちょっとまた関西まで行ってきます。すぐ戻ります》

《珍しいですね。行ってらっしゃい》

ネギ少年が執務室から退出し、麻帆良から付いてきた護衛とのやりとりも終え、詠春殿が1人でいるところ。
いつもどおり結界を張り。

《詠春殿、お久しぶりです》

「うおっ!これはこれは、キノ殿ですか。少し驚きました。今日は何のご用ですか?」

《私は近衛門殿からネギ少年を見守って欲しいと頼まれていまして、今までのやりとりは全て視ていました。その手紙の内容についてもです。今回は少し……お節介に来ました》

「全部筒抜けですか、となるとこの手紙の件ですか?」

《ええ、木乃香お嬢様に裏を教えるべきかという事です》

「……やはり親としては、このかを裏に巻き込みたくは無いですね」

《1つ、私がネギ少年と別に気にかけている人物がいるのですが、麻帆良を出た途端に命を日常で普通に狙われます》

「それは表で、ですか?」

《裏と関係のある表です。つい最近判明したのですが世界中に拠点を持った裏の道具を活用する表の組織があります》

「……それは厄介ですね」

《恐らくその組織は裏からの依頼も表からの依頼も料金次第で請け負います。つまり、木乃香お嬢様を単純な依頼で殺害対象にされる事もこの先あるかもしれません》

「……学園長にしては珍しく警戒していると思えば非効率とはそういう事ですか」

《娘を守るのであれば、表も裏も無いのではないですか?》

「キノ殿はこのかにはこの際裏を教えた方が良いと思われるのですか?」

《結論を言えばそうです。呪術協会支部も麻帆良に建った今、以前ほど関係がまずい訳ではありません。この際、木乃香お嬢様は自分の持つ力についてしっかり自覚しておいた方が良いかと。つい先日優秀な治癒術師としての片鱗も垣間見えました。総合的には負の面よりも正の面の方が多いでしょう。最後に……私にしてはお節介も極まれりですが、大事な幼馴染と公然と仲良く出来るようにもなるでしょうね》

「……キノ殿はこのかの事も見守ってくれていたのですか。私も分かってはいましたがそう精霊に言われるとお告げに従った方が良さそうですね」

魔法について明かされるならば親からの方が余程良い。

《最後にどうするかは詠春殿次第ですが、この休みにでもじっくり話されるといいでしょう》

「こちらこそ……決心が固まりました。またいつでも……と言っても見ているんでしたね」

《そう言われると……その通りです。それではこれにて失礼します》

孫娘は近衛門の孫娘。
命の危険が複数の意味であるとしても、私としても近衛門との関係を考えればこの行為は有り……であろうか。
……その夜、詠春殿は孫娘に裏……魔法の事を話し、更に陰陽術や魔法の訓練をするかどうかについても意思を尋ね、孫娘の返答は予想通りではあるが「やるえ!」と答えたのだった。
簡単な陰陽術は気を用いる事が多いので、孫娘の魔分容量を考えれば、西洋魔法の方が適正はある。
続けて詠春殿は桜咲刹那についても彼女の事情についても話し、それを聞いた瞬間彼女が何処にいるかを聞き返し、寝間着の姿のまますぐ様向かっていった。
その姿を見て詠春殿はひとまず話して良かったのだろうという顔をしていた。

「せっちゃん!せっちゃん!」

「お、おおお、お嬢様!?どうしてここに?」

「うち父様から裏の事聞いたんや!」

「長が話されたのですか?」

「そうや!せっちゃん今までうちの事守ってくれてたんやろ?」

「は、はい、微力ですが陰ながらお守りしておりました」

「やっぱりな!それでな、うちせっちゃんがハーフやて言う事も聞いたんよ」

「……そ……そんな……」

「逃げんでええ!うちはせっちゃんが人と少し違うてもそんなんどうでもええ!うちにとってはせっちゃんはせっちゃんや!」

ハーフである事を知られた瞬間に慌てて飛び出そうとした桜咲刹那だが、その前に孫娘に抱きつかれて身動きがとれなかった。

「お、お……この…ちゃん」

怯えるように震え目に微かに涙を浮かべる桜咲刹那であったが……。

「せっちゃんやっとその名前で呼んでくれた!うちせっちゃんと昔みたいに仲良うしたいんよ!駄目なんて言いひんよね?」

孫娘は非常に嬉しそうな顔をして言い、それにて、桜咲刹那は落ち着いた。

「……はい、お嬢様」

「またその呼び方!今晩うちここで一緒に寝てもええ?」

「え!?そ、そそ、それは!?」

「せっちゃん恥ずかしがらんでええよ。眠くなるまで今夜は一杯せっちゃん話してな!」

桜咲刹那の武勇伝が子守唄代わり。
そうこうして……この夜関西呪術協会の一室は孫娘に強く言われると断ることができない桜咲刹那によって、日付が変わっても尚話し声が続いたのであった。

……次の日、ネギ少年は朝食の際に2人に話をしようと考えていたようなのだが、当の本人達はまだ寝ていたため会えなかった。
詠春殿はその事を尋ねられて、適当に笑って濁しつつ、約束通り隠れ家にネギ少年を案内し、赤き翼の写真を見せ、ナギの残した資料をネギ少年に渡した。
それは麻帆良の地下施設の見取り図で、ナギの適当な絵付きで「オレノテガカリ」などと書いてあるものだったが、それは司書殿の所を指し示していた。
1人で行けば門番の彼女に酷い目に遭わされるのだが……先にエヴァンジェリンお嬢さんに見せたら果たしてそれも解決するのだろうか。
昼頃に本山に戻った少年は孫娘と桜咲刹那が大変仲良くしているのを見て、唖然としたが気を取りなおし「仲良くなって良かったです」と声を掛けていた。
しかし……。

「ネギ君は魔法使いなん?」

「ど、どうして知ってるんですか!?」

昨日孫娘に魔法の事が知られるのは駄目だというのを実感した矢先だったので、衝撃が強くネギ少年の顔が一瞬で青ざめた。
そこへ、

「ネギ君、安心してください。私が教えたのです」

という詠春殿の一言で一安心、落ち着きを取り戻した。
ネギ少年の魔法使いとしての事情についても説明がされた。
午前中には孫娘が裏の事を知らされた事については護衛達にも伝わっていたので抜かりはなかった。
そして…………午後にネギ少年がエヴァンジェリンお嬢さんの発表会を見に行く事になり、それに参加する人達が本山入り口に集まった。

「あ、コタロー君!」

「ようネギ!おお、姉ちゃん達仲良うなったみたいやな!」

「そうやよ!」

「はい、昨日はどうも」

「んー、ほな、そのうちこのか姉ちゃん達も仮契約するんか?」

「仮契約て何なん?」

「仮契約というのは魔法使いの主従契約をする事です」

「それでどうなるん?」

「それをやるとこのカードが出るんや!」

自慢気に小太郎君が掲げて見せた。

「コタロー君、そんな見せびらかさなくても!」

「あー!それアスナに前見せてもらったえ!その仮契約言うんするとそのカードが出るん?」

「そうやで。しかも凄い魔法具も出るんや!」

「それ以上はコタロー君、マスターが言っちゃ駄目って!」

小太郎君のアーティファクトは効果が特殊な為、エヴァンジェリンお嬢さんから2人には他人には意味もなく教えたりしないようにと念が押されている。

「分かっとるって。俺のは見せられんけど、そういう事や」

「へー、ほんなら、うちがせっちゃんと仮契約したらせっちゃんのカードが出るんやね」

「お、お嬢様!」

孫娘には占い関係のような見た目をしたカードの話は禁忌。
目を輝かせて話に首を突っ込み、契約陣を描く必要があるとわかるところまで話が済んだところで……結局今すぐにはできない事がわかり保留となった。
そして、そろそろ時間となり4人はもちろん、エヴァンジェリンお嬢さんが来ているという事もあり、詠春殿は昔の誼で、葛葉先生達護衛は勿論、立場的にも、一同で車に乗り込み出発した。
……その発表会はと言えば素晴らしい出来であり、大好評を受けた後、その場でエヴァンジェリンお嬢さんは、写真会、サイン会、握手会などなどが行われた。
元賞金首とは何処へやら。
一般人で気にする人間などいなかった。
しかしそれもずっと……という訳ではなく、お嬢さんも京都の観光をそこそこする事ができて楽しめたようだ。
2日に渡る催し物であるため、次の日曜には前日とはまた違う場所で内容も変えて行われたが、その反響については大体同じ。
その間何かあったかといえば、詠春殿とお嬢さんが少し話をしたり、ネギ少年がお嬢さんに例の地図を見せて「あーそれだけか」と冷めた反応をされたり、孫娘もお嬢さんに仮契約の事を早速聞き「せめて少しはまともな魔法使いになってからにしろ」と一蹴した事ぐらいである。
そこへネギ少年が「僕は少しはまともになりましたか?」と真面目に尋ねた所「最初に比べれば……だがな」とお嬢さんは返していた。
……月曜、一行は朝早くに新幹線でまた麻帆良に戻っていき、午後に授業に戻った際2-Aが騒がしかったのは無理もなかった。
孫娘が携帯から「京都の実家行って来るえ」と情報を上げていたのと、朝倉和美も元々サークルでお嬢さんが招待されていた情報を掴んでおり、更にはネギ少年も同じ所に行っていたとなっては……である。
また早乙女ハルナが女子中学生2名からまたもやラブ臭とやらに……近しいものを察知したそうであるが、役には立たないだろう。
今回の小旅行に仕掛ける勢力は皆無であり、実に平和そのものであった。



[21907] 27話 孫娘の秘密
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 19:02
時は再び日常の麻帆良。
……とは言え少し状況は変化していた。
孫娘は帰ってきてから近衛門に「父様が全部教えてくれたえ」と報告し、近衛門が散々周りの人間にその事実を言いふらさらないように念を押した上で、孫娘も魔法生徒の新入りとなった。
そこで誰かに師事する必要があったが、そこに少し問題があった。
西洋魔法と東洋呪術どちらを学ぶかである。
当然呪術協会からすれば、孫娘が西洋魔法ばかり学ぶのは気に入らない。
しかし、そうは言っても気を扱うのを会得するにはかなりの時間がかかる上、やはり孫娘の優位性と言えばその魔分容量。
結果として、陰陽術については気の扱いを覚える事を全くしない訳にはいかないので、週に1回など定期的に呪術協会支部で孫娘は授業を受けることになった。
孫娘は日本文化振興施設が呪術協会の支部だったとはまさか思いもしなかったらしく、大層驚いていたが「そういうこともあるんやねー」と最後には簡単に一言述べていた。
さて、西洋魔法は誰から学ぶかとなれば近衛門がやれば済む話ではあったが、麻帆良で優秀な治癒術が使える人物とは誰か。
そう、図書館島の司書殿、クウネル・サンダースこと本名アルビレオ・イマ。
公的には、彼の存在は魔法先生達も知らず、呪術協会の人達も当然知らないが、師は優秀であるのに越したことはない。
西洋魔法の担当は、表向きは近衛門で、秘密裏にクウネル・サンダースとなった。
司書殿としてはこの依頼は仮にも色々生活で便宜を図ってもらっている近衛門からのものであるため、断るという選択肢は存在せず、それどころか暇そうであり順調に話は進んだが、連れて行く少し前に1つあった。

「あのな、私は麻帆良で確かに今はそこそこ楽に生活しているが、積極的にその触れてはいけない暗黙の了解の塊とやらになりたくはないんだが」

「そこをなんとかしてくれんかの。エヴァの所ならネギ君が行こうがコタロー君が行こうが、この際このかが行こうが刹那君が行こうが人数がちと増えるだけじゃろ」

触れてはいけない暗黙の了解とは「エヴァンジェリンお嬢さんがあの闇の福音である事を分かっていても気にしない」に端を発し「ネギ少年と小太郎君が去年の夏の終わり頃から頻繁にお嬢さんの家に通っていても害は無いのでやはり気にしない」を期に一気に麻帆良に浸透していった言わば規則……のようなものの事。
つまり、基本的にお嬢さんが関係することには周りは不干渉を貫くというもの。

「私にメリットは何かあるのか?」

「……それを言われるときついんじゃが、金銭はいらんだろうし、何か要望があれば聞くわい」

「そうだな……といってももうあまり要求する事など無いが、ならせめて頻繁に外に出れるように証明書をもっと用意しておけ」

「それだけでいいのかの?」

「じじぃから何か毟り取っても大して面白くもないからな。あー、あえて言うなら、私の好きに刹那と木乃香は使わせてもらうぞ。もうじじぃに一泡吹かせるのはどうでも良くなったが、ぼーや達を鍛えるのは最近の趣味の一つだからな」

「刹那君を訓練に参加させ、まだ先じゃろうがこのかに怪我を治させるという事かの?」

「大体そんな所だ。木乃香の才能はよく知らんがな。今は私とぼーやが適当な治癒魔法で訓練の怪我を治しているがやはり面倒だ」

「それはこのかにとっても経験になるじゃろうから構わんがの。しかしエヴァにあまりメリット無いの」

「欲が無くなってくるとそんなものだろう。適当にこじつけでもしておくに限る。後で何か要求ができたら遠慮せず言うさ」

「面倒をかけてすまんの」

「一応私はじじぃよりも年長者だからな。たまには頼ればいいさ。……だがアルの所にはじじぃが木乃香を連れていけよ。一応ぼーやが京都でアルのいる場所を示す雑な地図を手に入れたからな。泳がせてみると面白い」

「そんなものしか無かったとはの。知っとる側としてはつまらないものじゃな。分かったぞい」

一部精霊化しているからだろうか……お嬢さんは落ち着きと無欲さを身につけている。
もし金が欲しければ、例のダイオラマ魔法球を作って売れば良いだけであり、人間の通貨などに頓着もしていない。

……そして近衛門がお嬢さんに言われたとおり図書館島の地下に孫娘と散歩をしに来た。

「おじいちゃんと一緒に図書館島に来るなんて思わなかったえ」

「ふぉっふぉっ、儂もじゃよ。じゃがちと図書館探検部はこのかには面白くなくなるかもしれんの」

「それどういう事なん?」

「すぐわかるぞい。ほれ、こっちじゃよ」

「え、そっちに何かあるん?」

一般人は予め知っていないと見つけられない、以前超鈴音やお嬢さんも利用した地下への直通通路。

「ここじゃよ」

「あれ?こんな所に入り口あったなんてうち今まで知らんかったなぁ」

「これも魔法じゃからな。誰かに見られるといかんから行くぞい」

「面白くなくなる言うんはそういう事なんか」

祖父と孫娘が仲良く普通は歩かないような場所を進み続け、エレベーターに乗り更に進み門へ到着した。

「おじいちゃん!あの大きい生き物竜なんか?」

門の前に待機していたのは彼女である。

「竜であり、ここの門番じゃよ。通行許可証を見せれば通してくれるからの。ほれ」

許可証を見せると、一つ鳴き声をあげて翼をはためかせ、彼女は飛んで行った。

「変な所やね」

「慣れれば普通じゃて」

そして、2人は中へと入った。

「アル……いや、今はクウネルじゃったか。元気にしていたかの?」

「ええ、それはもう。いつもと変わりありませんよ。学園長、ようこそ。そちらが聞いていたこのかさんですね。初めまして。クウネル・サンダースと申します」

「こちらこそ初めまして。うちは近衛木乃香や。その名前がほんまですか?」

「ええ、本名ですよ。クウネルとお呼び下さい」

いつもどおり意味深な顔……真顔とも呼べるが、普通に嘘を付く司書殿は相当にクウネル・サンダースという偽名を気に入っているようだ。

「分かったえ!くーねるはんやね」

「……あまり儂の孫に変な事を教えんように頼むぞい」

「それはご安心下さい」

この言葉は信用できないが……全体として見れば問題は無いだろう。
孫娘だと自分から楽しそうに、例のネコミミなどを付けそうであり、意外と息は合うかもしない。

「おじいちゃん、ほな、くーねるはんがうちに魔法教えてくれるんか?」

「そうじゃ。呪術協会と同じで定期的にじゃがの。普段は儂の用意する場所か、また後で行くことになる場所で練習すればいいからの」

「分かったえ。これからよろしゅうお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします。ここまで来るのに少々時間がかかりますが我慢してもらえると助かります」

「うち図書館探検部で鍛えとるから大丈夫やよ」

「それは良かったです」

「このか、分かっておると思うが、ここの事もクウネルの事も他人には話してはいかんぞ」

「おじいちゃんうちを信じてや」

「おお、信じとるよ。刹那君なら連れてきても構わんがの」

「ほんま!?あ、でもせっちゃん剣道部あるから邪魔はできんひんな」

「たまに一緒に来るといいですよ」

「そうやね。都合がおうたらせっちゃんも連れて来るえ」

「そろそろ勉強を始めるとするかの」

「そうしましょうか」

……と、初めての孫娘西洋魔法の講習は保護者同伴で行われた。
近衛門もやはり祖父、孫娘に付きっきりで教えていた。
……最初はプラクテ・ビギナル火よ灯れから始まるが……一朝一夕にできるようになるでもないので座学が主だった。
そんな中司書殿は初めて、かつ近衛門がいるにも関わらず、本当に「ネコミミを付けると魔法が上手く使えるようになりますよ」などと嘘をついてのけ、孫娘は「ほな、うち自分で今度選んでくるえ!」と返していた。
近衛門は「本人の同意もあるならいいか……」と微妙な顔をしたが、司書殿から念話で「きっと似合いますよ」などと褒められ「このかには大抵何でも似合うからの」と孫自慢を返していた。

……そして、近衛門が孫娘に言っていたまた後で行くことになる場所の件。
場所について近衛門から直接言われた孫娘はどういう事か殆ど分かっていた為「やっぱりなー」と反応し、それからすぐの休日、桜咲刹那と共にエヴァンジェリン邸を訪れた。
その道中以前孫娘が神楽坂明日菜達と一緒に忍び込もうとした時気がついたら寮の部屋で寝ていた……という話をし「あの時はすいませんでした」と桜咲刹那が謝っていた。
玄関の呼び鈴を鳴らし出てきたのは……葉加瀬聡美。

「あれ?ハカセちゃんがなんでおんの?」

「どうも、近衛さん、桜咲さんこんにちは。私はちょっと今茶々丸の出張メンテナンスに来てただけです。それで茶々丸が今動けないので私が代わりに出てきました、上がって大丈夫ですよ」

「葉加瀬さんこんにちは、失礼します」

「おおきにー。せや、茶々丸さんのメンテナンスって?」

「あ~、そう言えば皆さんは知らないんでしたね。茶々丸は私が主導で開発したガイノイドなんです。……ちょっとタイミング悪かったなぁ……」

少しばかり情報がしっかりやりとりされていなかったために起きた鉢合わせであった。

「ほうか~、今まで知らんかったなぁ」

……家の中に入った所。

「近衛さん、桜咲さんこんにちは。……ハカセ、一度私を動けるようにして下さい」

「ちょっと待ってね。すぐ動けるようにするから」

その葉加瀬聡美の手早い作業を孫娘と桜咲刹那はしばし眺めていたが、間もなく終わった。

「はい、これでいいよ」

「ありがとうございます。お待たせしました、マスターの元へご案内します」

「ほんまにガイノイドやったんやね」

「あの、葉加瀬さん、私達がここへ来たことは」

「大丈夫です。私がここに来たこともあまり誰かに言わないでもらえますか?近衛さん達に事情があるように私も事情がありますから」

葉加瀬聡美は茶々丸姉さんの制作を通して魔法の事は知っていて、ネギ少年が魔法使いであることも知っている。
ただ、茶々丸姉さんが保存した記録で私とサヨが精霊である事、神木の話などの情報については超鈴音が処理してある。
結局、互いに見なかったことにしようという了解の元、孫娘達は茶々丸姉さんに連れられて別荘のある場所へ案内された。

「お2人ともこちらへどうぞ。この中に移動されたら手すりがありませんが橋を渡って中央にお進み下さい」

……という指示を受け、場所は魔法球。
移動した瞬間ここは何処か……というような反応を2人は見せたが、言われたとおり橋を通って、周りを見回しながら中央に到着。

「木乃香と刹那か、よく来たな。まあ今日は見学程度だがここで1日ゆっくりしていくと良い」

「「こんにちはエヴァンジェリンさん、お邪魔します」」

「……あの、それで、ネギ先生と小太郎君はいつもあんな事をやっているんですか?」

既にネギ少年と小太郎君が空中で訓練をしている所であった。

「何や音が凄いと思うたら空で戦うとるん?」

「ん、まあそうだ。冬に完全に浮遊術を会得したからな。地上でやられてもこの石畳が壊れるだけだ」

「いえ、そうではなくて……」

「ああ、そうだった、私は慣れているがぼーや達は少し成長がおかしいからな。驚いたか?」

現在の状況と言えば、ネギ少年の魔法領域の訓練の為に、小太郎君がアデアット、更に契約執行を受けて、万全の状態にて、あらゆる角度から無数の気弾を徐々に威力を上げながら防ぎ続けるという訓練をしている所。
ネギ少年の動きが感覚で分かる小太郎君が魔法領域の薄くなっている場所目がけて気弾を叩き込んでいる。
近衛門の試練から早3ヶ月が経過し、スクロール内でできた理想の状態に近づきつつある。

「小太郎君の動きも信じられませんが、ネギ先生のあの魔法障壁は一体何ですか?」

「あれ、やっぱりコタ君なんか?全然見えへんよ」

孫娘は目が追いつかず残像にしか見えない。

「企業秘密、と言いたいところだがお前達が敵対する事もないだろう。小太郎は咸卦法、ぼーやは私が魔法領域と呼んでいる防御魔法を使っている」

「か!?咸卦法ですか!?小太郎君の普段の警備では一度も見たことありませんが」

「木乃香、先に言っておくが咸卦法というのはとりあえず凄く強くなる技の事だからな。でだ、ついこの間の旅行で小太郎が仮契約の事をベラベラと話したようだが、あの咸卦法はあいつのアーティファクトの効果だから勘違いするなよ」

「ほうかー、仮契約って凄いんやね」

「す、凄いどころの話では……」

「それは良いとしてだ、まずそこに座れ」

少年達の訓練はまだ続く為、2人は席に座らされた。

「さて……私が言うことでもないかもしれんが、桜咲刹那、お嬢様と別け隔てなく過ごせるようになったからと言って、ゆめゆめ己の剣が鈍るような事は無いように気をつけろよ」

「ッ!!……はい……心得ておきます」

「え、エヴァンジェリンさん!?そん」

「木乃香もだ。刹那と仲良くなれたからと言って、いつもベタベタしている訳にもいかないだろう。詠春から自分の立場についてもしっかり聞かされたのではないのか?」

「そ……そうやね。うち少し舞い上がっとったかもしれへん」

「まあそんなに露骨に気を落とすことはない。今のは忠告だ。気がついたときには手遅れだったなんてことがないようにな」

「な、なるほど。わざわざ私のような者にご忠告して頂いたとは恐縮です。エヴァンジェリンさん、ありがとうございます。自分を見失わないように精進します!」

桜咲刹那は目を輝かせてお嬢さんの片手をその身を乗り出して両手で握った。

「そうやったんか!おおきにエヴァンジェリンさん!」

「……ああ、自覚できたならそれでいい。刹那、手を握ってまで感謝しなくていいぞ。顔が近い」

「し、失礼しました!」

「全く、こういうことは本来じじぃ達がやるべきだろうに。しかし、あいつらは甘いからな。……ま、それを言えば私も甘くなったか」

「……あの、今まで伺った事はありませんでしたが、エヴァンジェリンさんは今は一体……?」

桜咲刹那がエヴァンジェリンお嬢さんを見る目が尊敬に染まっているように見える。

「やはり私が何者か気になるか。……今からもう100年近く前になるが、その時から少なくとも私は真祖の吸血鬼ではなくなった。今がどういう存在なのかは話すことはできないが」

「……そうだったのですか。不躾な質問をしてすいません」

「ほんまに長生きやったんやね」

「少し話が逸れたが本題に戻ろう。木乃香は魔法と気の扱いを学ぶのに時間がないだろうからたまにここに来て練習するといい。今はまだ無理だろうが、治癒魔法が使えるようになったらぼーや達の怪我を治療すれば実地訓練になるだろう」

「分かったえ。ありがたく使わせてもらうな。早く治癒魔法使えるように頑張らんと」

「だからと言って毎日来るような事をしているとぼーや達はともかく年をとるから程々にな。今のタカミチみたいになっても知らんぞ。奴は数年間ここで修行したからな」

「そ……それは気をつけるけど、高畑先生が年齢の割に老けとるのってここ使うとったからなんか」

「す、数年間ですか……」

年を取ると聞いて少し思うところはあるようだ。

「次は刹那だが、今日は早速後でぼーや達に混ざるといいだろうが、たまに訓練の相手になれ。これは私がじじぃと交渉した結果だから断られても困るが」

「いえ、こんな修行場を使わせて頂けるなら文句等ありません」

「まあ、大体話しはこんなところだ。ぼーやもそろそろ限界だろう。お互い適当に挨拶でもすると良い」

《おい、ぼーや、もうそろそろ終りにしていいぞ》

《わ、分かりましたマスター》

「おっと、これまでやな。終わるタイミングも分かって本当に便利やで。アベアット」

「はぁ……はぁ……コタロー君ありがとう。良い訓練になったよ。特に薄い所ばっかり狙ってくるところとか」

「ははは!そら分かるからな!俺も咸卦法状態の感覚を実感して普段の目標にできるからお互い様やで」

「普段のコタロー君が咸卦法モードになったらとんでもないね」

普通に会話し続けそうな所。

「おい、ぼーや達!いつまでそこで話してるんだ。一応今日は新入りが来てるから降りて来い!」

「あ、はい!」

「新入り?ああ、このか姉ちゃん達やな」

十数分間の耐久訓練が終了、少年達は孫娘達と挨拶を交わし、孫娘と桜咲刹那は2人に対して驚きの言葉を述べ、孫娘が治癒魔法の習得を頑張る話、桜咲刹那もこの後修行に参加する旨について……相互に理解がなされた。
お嬢さんからこの件については口外しないように厳重に注意もなされた。
早速孫娘が火よ灯れの練習をし、気の扱いについて桜咲刹那から教えられた所「それが甘いんだ」とお嬢さんから檄が飛んだり、小太郎君が「こう力入れてガッっとやるんやで!」と適当な助言をされていた。
実際小太郎君は気の感覚については詳しいのできちんと指導しようと思えばできるのだが。
しかしながら、孫娘については始まったばかり。
桜咲刹那と少年達がそれぞれ時間を置いて模擬戦を行なったが、少年達は近衛門のスクロールの経験のためか、相手の武器破壊攻撃に出ようとすることが多く、神鳴流は武器を選ばないと言っても「卑怯ではないですか?」と愛刀が危険な目にあった為に、彼女は少々青筋を浮かべた。
しかし、そういう事を気にした為に幾度と無く精神死を経験した2人としては「今の模擬戦は実戦を想定しているので不確定要素はできるだけ排除するに限ります」と言い、続けて「仮にルール有りでの武道会だとしてもやはり同じ行動に出ることはあると思います」と何の迷いもなく答えた。
それを聞いた桜咲刹那は10歳の子供の思考回路とは、信じられなかったようでどうしてそう考えるのか逆に聞き返していた。
すると2人から冬休みに4日間寝てた間の結果だと言われ、桜咲刹那も近衛門にスクロールを使わせてもらおうかと真剣に彼女は悩みだした。
ネギ少年は「意見が合わないとしても僕は僕ですし、刹那さんは刹那さん自身の考えで構わないと思います。どちらが正しいかは簡単には決められません。そこから悩み抜いて自分の答えを見つけて下さい」と葛葉先生の助言がここで生きたのか、10歳の少年が14歳に語る出来事があった。

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ふむ、麻帆良にいると本当に安全だネ。
2月の中間テストでは美空はかなり手応えがあたと喜んでいた癖に食券トトカルチョで安定とされていた2-A最下位に賭けていたとはドジだナ。
工学部の隣にSNS用の巨大な施設も建設が完了して、麻帆良全体での運用、そして外部へと広がり始めたネ。
2-Aの皆があちこちで「こんなのがあるんだよ」と他の女子中学生に話を広めてくれていたお陰で爆発的に人気が出たのは私の学校が一番早かたヨ。
アメリカで交渉した結果が出始めるのはもう少し先かナ。

三次元映像撮影監視カメラの埼京線での試験運用ももう2ヶ月が経過しているが、車内での驚異的な犯罪率の低さと検挙率の高さを弾きだし、更に冤罪の撲滅にも役立たネ。
順次他路線でも導入の要求が来ているから試験運用どころかそのまま本採用に漕ぎ着けるにあたり、三次元映像技術の取り扱いに関するガイドラインの作成も急ピッチで進んで、見事この3月に完成したヨ。
去年の6月に発表してから10ヶ月近くかかたがようやく日の下に出せるようになたネ。
映像再生機については、販売は自由となたが、撮影機には製造した全てに固有のシリアルナンバーが登録され警察機関にその情報が伝わる事となたヨ。
購入に際しては手続きがかなり厄介だが、審査を受けて無事に通れば問題無しとなり、当然もし盗撮のような悪用をする事があれば極端に重い罰則が課されるようになたネ。
勿論、撮影機を違法製造した場合も同様だヨ。
まあ個人で認められるのは先になるだろうがまずは企業レベル、特に映画会社や警備会社等が先を争て購入申請をするだろうナ。
後は公共機関で例えば水道管の状態の調査等にも使われるだろうネ。
今のところ完全に雪広グループで技術を独占しているから法律に触れていると判断されるのも遅くないヨ。
その為他電機会社への共通規格作成で話が進む予定ネ。
これに関してはもう私は一介の開発者として手を出すつもりは無いヨ。
どんどん普及して、普通の撮影機も一緒に売上が伸びればSNSの方での情報収集にも役立つようになる筈だと信じるのみネ。

これからの予定と言えば、諸々の機器の製造は勿論だが、ダイヤモンド半導体の作成を詰めたり、まほら武道会の為の用意、ハカセ達といつも通りロマン溢れる新型ロボットの開発を進めるネ。
ロボットと言えば田中サン達の事だが、流石に麻帆良の外に普及させるのは無理があたから市場にはもうそろそろ限界が見えてもおかしく無いだろうナ。
もう少し外のロボット開発会社には気合を入れて貰わないと無駄にオーバーテクノロジー化したままになるネ。
追いつかれる事もありえないけど……それでも頑張てもらいたいナ。
資金もあるから投資するかナ。

後はSNSの基盤が固また所で今度は新型携帯の普及を進めたいが、携帯電話事業にまで手を無闇に伸ばすといよいよ命の危険が迫りそうだから、携帯本体の製造を行ている企業とうまく付き合うようにする。
流石に粒子通信は搭載するつもりは無いが、性能はもう少し高い方がいいからネ。
この前の旅行が終わてすぐ皆の粒子通信は起動禁止にして、便利さを実感した皆は「普及させると良い」と言てくれたが、もしそうしたら先の電話事業そのものが潰れかねないから無理だナ。
大体科学面はこんな感じだネ。

一方相変わらず魔分有機結晶の精製はやているが4月頭の春休みになたら火星に行くつもりだからその際放射線レベルをきちんと計測した方がいいかもしれない。
魔法関連で言えば最近2ヶ月に一度ぐらいしか肉まんの差し入れしていなかたクウネルサンのところにこのかサンが弟子入りしたと翆坊主から聞いたヨ。
間違てもハカセのように鉢合わせしないようにしないといけないネ。
これから春が過ぎれば本格的にまほら武道会の準備を始めるから、翆坊主に聞かされたクウネルサンのネギ坊主の為のお膳立てをどうするか考え、直接話しておく必要があるヨ。
あの人の事だからネギ坊主に「決勝までこれたら戦わせてあげます」なんてニコニコしながら言いそうだからナ。
どうやら分身で出場する予定の割には、その分身半分無敵みたいなものらしいから通常の選手登録をさせたくは無いネ。
いくらクウネルサンが果たしたい約束だからと言てもそこまで個人を優遇したいとは思わないからナ。
私は純粋に在りし日のまほら武道会を復活させたいだけネ。

最後に、麻帆良以外の世界11箇所の聖地、これを神木の出力上昇のブースターへ転用する為の計算をする事が課題カ。
引き出す事自体はウルティマホラの回復魔法術式で基礎理論はできているから後少し

……そういえばネギ坊主はまだ正式な教員ではなかた気がするが、学園長はどうするつもりなのかナ。

《翆坊主、学園長はネギ坊主を正式な教員として認めるのはどうするつもりネ?》

《2-Aの考査でのクラス順位を最下位から脱出させる事だったようですが、超鈴音が春日美空と龍宮神社のお嬢さんの成績を上げた為に破綻したようです》

それは学園長も残念だたナ。

《まあ高畑先生にできなかたのにネギ坊主にやらせるというのは高畑先生が後で責任問題を取らされそうだし良いのではないカ?》

《ええ、その通りかと》

《それで代替案はどうなたのかナ?》

《2-Aの底辺5人とそれぞれ面談を行い、学習意欲を向上……期末考査の結果がこれまでの統計的順位から相対的に上昇したと判断できたら合格……だそうです。ただ、解決手段に魔法を使ったり、試験を合格しないと正式な教員になれないという情報がどういう形であってもその5人の耳に入ったら即終了というものにしたそうです。当然分からなければ良いという逃げ道を根絶するために常に監視が付いていると念も押されています。私の事ですが》

……何かきつくなていないカ。
しかも監視者が翆坊主では言い逃れできないネ。

《ハハハ、新田先生にネギ坊主が相談しに行く姿が目に浮かぶようだナ。それでも正式な教員になれないだけで故郷へ即帰還ではないのだろう?》

《当然そういう事です。無理であれば続けて3年の中間で追試か、あるいはその間の彼女達の学習態度が改善されたと各先生が判断したらそれでも合格にするそうです。課題自体詳しく伝えれていないので、追試はあるが諦めずに頑張れ……程度に収められています》

《年上の生徒に根気よく当たる10歳という構図からバカレンジャーに自身を理解させるのが手だろうネ。ま、ネギ坊主は天才だからで逃げられるのが難点だナ》

《果たしてどうなるでしょうか》

《私も他人の事は言えないが、ネギ坊主もなかなか多忙な生活を送ているから大変だナ》

《私には縁の無い話ですが……そもそも労働基本法から問題がありますから。若くして過労のような状態なのはネギ少年と超鈴音ぐらいなものかと。葉加瀬聡美も近いですが彼女は個人的に好きなことをところんやっている訳で》

《別に私は嫌々やている訳ではないから日々充実しているヨ。ハカセと似たようなものネ》

《……それなら構いませんが。春休みの火星探査でも楽しみにしていて下さい》

《ああ、それは楽しみにしているヨ。結局華にはお手付きする事になるがナ》

《気にする必要はありませんよ。華の用意もできていますので》

《なんというか私の矜持が素直に許さなくてネ。翆坊主が気にする必要は無いヨ》

《分かりました。体調には気をつけてください》

《大丈夫ネ。それとも何か気になる事があるのカ?》

《あると言えばあります。……超鈴音がアーティファクトで神木の補助を受ける量が以前より若干増えています。……11月からの件が効いているのかと》

病は気からというが、ストレスは現代人には付き物だナ。

《私の願いの成就の為に必要な対価だと割り切るヨ》

《……そうであれば、積極的にアーティファクトを使って体調を整えて下さい》

《ありがたく使わせて貰うネ》



[21907] 28話 アドバイザー美空
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 19:03
時期を見て、エヴェンジェリンお嬢さんに「あーそれだけか」と言われたものの、京都で折角詠春殿に貰ってきた地図に書いてある場所に行ってみようと思っていたネギ少年だったが、その前に近衛門から「一応試験はしなければいけないから」と、2-A底辺5人の学習意欲を向上させる課題が出された為その計画は後回しになった。
課題が出されたのは3月7日の金曜日であり京都小旅行からすぐの事。
その翌日の土曜日に少年達と孫娘達は魔法球で遭遇した。
そして来るべき期末考査の日は3月17日の月曜日。
今日の日曜から数えて勉強できるのは8日間しか時間がなく、考査対策は一週間前前後からするのが女子中学生達の平均である為、ネギ少年は、女子寮にいる事を利用して早急に動く必要があった。
ネギ少年はこれまでの2-Aの生徒達の順位を一覧にして見た所、目についたのは春日美空と龍宮神社のお嬢さんだった。
先月の中間考査の前1週間もアメリカに行っていたのにも関わらず順位が急激に上がったのは何か秘訣があるのだろうと思い至るのも……無理はない。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

また期末テスト近いッスねー。
先月は超りんのすげぇ教材のお陰で点数上がったけど今回は無理っぽいな。
寮の部屋は五月と同じだけど、いつも店で働いてるから大体休日でもいないんだよなー。
勉強しよかとも思うけどやる気起きねーわ。
……お?インターホンの音が。
……誰スかね?

「はーい、今出るよ」

扉を開けたけど誰もいなって下か!

「春日さん、少しお話を聞かせて欲しいんですが今良いですか?」

なんでネギ君来るし。
えーまさかネギ君にも私が魔法生徒ってバレた?
いやいやいや、訳の分からん超りんはともかくそこまでマヌケじゃないッスよ!
ま、不自然に断るのも悪いし、いっか。

「おお、ネギ君ッスか。何?別に構わないけど、何なら上がるかい?」

「はい、ありがとうございます。お邪魔します」

アスナ達の部屋に行ったりしたことはあってもネギ君が私の部屋来たことなんてなかったな!
だってほら、目立たないようにしてるからクラスで割と空気だし。
……自分で言っといて辛くなって来たッスよ。

「んで、何の話が聞きたいんだい?」

「えーと、春日さん前回の中間テストで急に順位が上がったので何か心境の変化があったのかな、と気になったんですが……」

うぇっ!?何?私が勉強できるようになるとアレか、槍が降るとでも言いたいんスか?
そんで心配になって様子見に来た?
……んーでも、この様子だと違うか。

「まーぶっちゃけると心境は一切変化してないけど、単純に超りんの教材が凄かっだだけだね」

「あ……そうなんですか。超さん……教材か……いやでも……どうしよう」

何か悩みだしたなー。
適当に懺悔室でシスターシャークティの目を盗んで神父さんの代わりとかしたら面白そうだ。

「ネギ君、実は私これでも一応シスターなんで悩みとか聞きますよ?」

「え、そうなんですか?……それでは、春日さん僕が今から言う話を……口外しないでもらえますか?」

微妙に重い話か?でもテスト関係っぽいから大した事じゃないだろ。
少年のプライバシーの一つぐらい守れるしいいか。

「それはもちろん、口外しないって誓うから安心してよ」

「ありがとうございます。実は……」

語り出した内容は、もう来週の月曜の期末までによりにもよってバカレンジャーの学習意欲向上させて期末テストの順位をそれなりに上げなきゃいけなくて、しかもこれが最後じゃないけど達成できないと正式な教員になれないとな。
そんでもってこの話がその5人の耳に入ったら失格ねぇ……。
もしかしてその監視は相坂さんか。
今も見られてたりすんのか?それはやべーよ。
あの千里眼半端ないからなー。
なんつっても密閉空間まで覗けるらしいし。
しまった、興味本位で軽く聞いてみたらまた面倒な事に巻き込まれたかっ!
でもまあここは真面目にアドバイスでもするか。

「んー学習意欲向上させるって事は今回の期末テストだけ点数が高ければ良いってもんじゃないんだよね?」

「それは聞いてないんですが、僕がさっき迷ったのは単純に順位を上げればそれでいいのか、と思ったからです」

「そうだなー、点数上げるだけだったら超りんの教材でも借りてくればそれで終わりッスからね。先生としてなら大変だろうけどやっぱ学習意欲を上げた方がいいんじゃ?」

「やっぱりそうですよね。あぁ、答えは最初から一つしか無かったのに迷うなんて……」

いきなり落ち込んでるが大丈夫か?

「どうしたんスか?落ち込んで」

「ちょっと前に自分の答えを見つけて下さいってある人に言ったんですが、その僕がこの体たらくじゃ顔向けできないなと」

げー私が10歳の時とかそんな事で悩んだりしたことないわー。
魔法使いの試験めんどくさいねぇ。

「自覚してるだけいいじゃないッスか。それより今は先に5人の問題を解決しないと」

「ありがとうございます、春日さん。でも学習意欲って言っても僕少し読めば大体本何かだと覚えてしまうので、あまり皆さんの苦労がわからないんですよね……」

うはー天才少年贅沢な悩みだなぁ。

「ネギ君頭良いからねー。一応私の感覚で学習意欲がわかない感覚を言うと、勉強を始めても集中力が続かない、やる気が余り出ない、苦手な歴史とかに手を出そうとすると突然アレルギー反応が起きるとかそんなんッスね」

「それって勉強自体がつまらないって事ですか?」

「まあスゴーく楽しいなんて事は胸張って言えないね。簡単にやる気を出させるなら動機付けでもするしかないんじゃないか?例えば順位が上がると何か良い事があるとかさ」

「動機付け、ですか。うーん、金銭は駄目だし何かあるかな……」

「あの5人じゃ全員一人づつ対処法は変えないと駄目だろうね。あんま良い例じゃないけどアスナの場合順位が低いままだとバイトは禁止とか。これは窮地に追い込むタイプで脅しみたいだからオススメしないけど」

「僕そんな事アスナさんに言えないです……」

そらそうだろうな、結構迷惑かけてるみたいだし。

「ゆえ吉は本自体は好きだし哲学っ子だからとにかくやればすぐ点数は上がるだろうね。どうやらせるかだけど」

「春日さんってクラスの皆さんの事良く見てるんですね!良かったら他の3人のことも教えてくれませんか?」

んー乗りかかった船だし私見で良ければだな。

「まき絵って新体操であんな複雑な事できる割に勉強ができないのはじっとした状態だと頭に入ってこないタイプなんじゃないかと」

「うんうん」

この子真面目にメモし出したよ。

「楓はあれだ、単純に勉強してないだけでしかも、どう見ても忍者で洞察力はありそうだからそこを突けばなんとかなるんじゃ?」

「やっぱり楓さんって忍者ですよね……。それでくーふぇさんはどうですか?」

ほんっと全く忍んでないよなー。
山から帰ってきたときの格好一度みたけどすぐ分かるっての。

「くーちゃんは、英語は無理だし、強い奴が好きみたいだし、昔の中国の武人とかさそういう歴史上の偉人伝とか意外と興味もったりしない……かなー?それに楓と同じで単純に勉強全くしてないだけだ」

「なるほど……確かにくーふぇさんは既に強い人ですからそういう歴史上の伝説なんかでも興味持つかもしれませんね」

まーそこは流石に適当だわ。

「改めてアスナについて言っとくと、あいつは高畑先生の補習授業を受けたいが為にネギ君が来るまで勉強してこなかったからツケが回ってるんだわ。逆にネギ君が先生同士っつー事で高畑先生にこれからアスナのテストの順位が毎回上がったらデートと言わないまでも散歩でもするように約束させればいいんでない?ま、ある意味高畑先生がちゃんとアスナにきつく注意しなかったからこれまで改善してこなかったんだしその辺つつけば先生も無碍にはできんしょ」

あれ、めっちゃ語ってるわー。
つかマジいつも人間鑑賞してると意外と気づいてることあんだな。
でも隣の超りんわっかんねー。

「す、凄いですよ春日さん!色々ありがとうございます!僕自分なりにも頑張ってみます!」

何か尊敬されてんだけど、まずった。
これで私の順位また下がったらネギ君じゃないけど、顔向けできないわー。
マジ自分の首締めた、アホだ……。

「いや~なんか力になれたみたいで良かったッス。そんじゃ、まあ頑張ってみなよ」

「はい!失礼しました!」

はぁ……年下の子供先生がこんなに頑張ってるつーのに年上の女子中学生が頑張らないってのは何だし、いっちょやりますかね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

《翆坊主。面白い事でもあたカ?》

《……春日美空の所にネギ少年が例の課題について相談しに行ったのですが、シスターらしからぬ口調でしたが彼女にしては意外と真面目に回答していました》

《ははは、ネギ坊主の奴美空のとこに行たのカ。私の教材でも貰いに、というのでもなさそうだネ》

《ええ、単純に試験の点を向上させれば良いという結論ではなく、学習意欲の向上を図る方向で頑張るようです》

《しかし美空そんな事ネギ坊主にアドバイスして成績がまた下がるなんてできなさそうだナ》

《その彼女ですが、やる気なく部屋でだらけていましたが……今は勉強してます》

《どうせ、首絞めたと思てるんだろうナ》

《その通りです》

《ドジだナ》

《彼女らしいと言えば彼女らしいかと》

《ふむ、後で少し援護射撃でもしてやるカ。SNSの効果の程を見せつけてやるネ》

《それは……ネギ少年というより春日美空への報酬のようなものですか》

《まあそんな所だヨ。美空には、アメリカには連れていたが、追加報酬払ていないからネ。中間テスト対策もしたがあれはあの旅のサービスの一環だからナ》

《律儀ですね》

《火星人は義理堅いネ。ここが今回の期末のポイントだ、講座でもコミュニティに上げるとするヨ》

《……それならそれで、試験問題を盗み見てる訳でもないので、許容範囲内ですね》

《監視役のお墨付きも得て何も問題ないナ》

そして、その後のネギ少年の行動は迅速であった。
まずタカミチ少年に連絡し、助言通りに痛い所を突いた所、上手くかわされそうであったが、懸命にお願いし続け、かつ、少し純粋さも失ったのか「僕がタカミチの代わりに解決するなんて事でいいの!?」と言った事が致命傷となり、神楽坂明日菜の動機付けは獲得できた。
それから立て続けに面談をし、忍者には一緒に山篭りした経験から生物に関しては寧ろ文献よりも詳しいだろう……と、そこから理科を、古菲には「昔はこんな凄い人がいたんですよ!?興味ありませんか?」と宣伝しつつ、話して聞かせ始めたら、彼女は肉まんを片手に食べながら「面白いアル」と少しは興味を持ったらしい。
佐々木まき絵には「身体を動かしながらならすんなり覚えられるんじゃないですか?一度やってみましょうよ!」と新体操の為の曲ではなく、英語の曲をかけたり、2人でランニングしながら問題を出してみたりと実験して効果がそこそこ出たため「ネギ君!私ちょっと頑張ってみるよ!」と本人の目が輝いたので確かに意欲は向上した。
綾瀬夕映には口論では彼女のお祖父さんの哲学で押されそうだったが、「何事もまずやってみませんか?」と問いかけ、彼女は唸りながらも「……一理あるです。分かりました今回は頑張ってみるです」と……5人とも効果の程はわからないがやるだけの事はやったのだった。

更に2-Aコミュニティに4日程してから超鈴音による今回の試験のポイント講座というものが上げられ、春日美空は「監視してんのホントに相坂さんっぽいなー。超りん達神だわ」と……監視している人物は違うが核心には限りなく近いことを呟いていた。
また、それ以外の生徒達も「マジ神来た」などと言っていた。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

3月17日月曜日いざ期末テストを終え、2-Aの皆は「いつもよりできた!」と言っている反面「今回トトカルチョ全く期待できないね」と2-A最下位安定の方が食券が確実に稼げたと言う声もありましたがネギ先生の秘密課題がかかってますからね。
それにしても神楽坂さんがニコニコしているのが端から見てわかるレベルです。
「どうしたのアスナ、そんなにテストできたのうれしかったの?」と皆に聞かれてますが、「えっ、別にそんな事ないわよ!」とあからさまに顔を赤くして否定していますが、それではただの肯定ですよ。
また、春日さんがチラチラ私の事を見るようになったんですが、そのうち話付けておきましょうか、残念ながら精霊違いなので。
別に悪いように思われているわけではないから気にしなければいいだけでもありますが。

鈴音さんの講座が上がっていたという情報は他クラスにも漏れていて、今後の定期テストはクラス対抗の叡智をかけた総力戦みたいな事になりそうです。
そのうち的中率とかもトトカルチョ対象になりそうですね。
色々何か見つけてはすぐに活用するというのは人間が人間らしいところでしょうか。
まあ、なんだかんだ鈴音さんの情報が一番人気が出るでしょうから2-Aの皆と何か部活が一緒だったりした場合は漏れそうですね。
そのうちエスカレートして先生から苦情が来たらどうするのか聞いてみたところ「そしたらテスト期間中にはオープンでのテスト関連情報の書き込みはできなくすればいいと思うヨ」と開発者らしい発言をしてました。
ネット系は流行り廃りが早いからずっと同じことが続けられる必要もないし、時間が経てば似たような事を繰り返す事もあるでしょうね。

さて、次の日、期末テストの結果が出ました。
先生達は採点お疲れ様です。
結果は上位4位までを2-Aで独占するのはいつもどおりで、頑張って欲しい5人は全部の教科の成績が向上した訳ではないですが、特定の教科に関して順位が上昇し十分学習意欲が向上したと言えるものになったと思います。
逆に全教科の点数が軒並み上昇したらその場限りの付け焼刃と判断されたかもしれませんから、これぐらいで丁度良かったのではないでしょうか。
何事も程々にと言いますし。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

うーん学園長先生に呼ばれたけどどうなるかな。

「失礼します、学園長先生」

「ネギ君、入って構わんぞい」

「はい」

ふぅ……緊張する。

「ふむ、生徒の特性を見極めて伸ばせるところを伸ばしたようじゃな。これはネギ君が一人で考えたのかの?」

「いえ、正直に言うと、春日美空さんから色々アドバイスを貰って、僕なりに実行しただけです。だから今回は一人の力だけでやりきったとは言えません」

「何、儂も一人でやれ等最初から言っとらんから良いのじゃよ。ネギ君は自分で考えて春日君に相談したんじゃろ?生徒の目線から見えるクラスとネギ君から見えるものとは違ったのではないかの?」

「はい、僕一人では見えなかった事が、相談することで見えました」

「よかろう、この通りあの子達の成績も上がっとるし、見事合格じゃよ」

……はぁ、良かったぁ。

「学園長先生、ありがとうございます!」

「それでは次年度からは正式な教員として頑張るんじゃぞ」

「はい、頑張ります!」

良し、これで最初の課題は乗り越えた。
すぐに春休みになるからこれでやっと地図の場所にも行ってみることができる。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

見事ネギ少年は課題に合格。
2-Aのクラス順位も前回の中間より更に上がり全体で10位ぐらいにまで上昇。
しかし、ネギ少年は近衛門の課題に没頭していたためホワイトデーというものの事を完全に忘れていた。
その点について、突っ込まれ慌てたネギ少年は正直に「忘れててすいません」とかなりの人数に対して謝罪しながらお返しをして回っていた。
……いわゆる3倍返しというものであろう。
10歳の少年がそれぐらい忘れていたからといって誰も怒ったりはしない筈だが、英国紳士……なのかどうかはさておき、懇切丁寧に方々に出向いていた。
無理やりチョコレートを先月押し付けた人々の中には罪悪感を感じた者もいたかもしれない。
一方神楽坂明日菜はタカミチ君と買い物に付き合ってもらうことにし、鈴の髪飾りの別種を買って貰い、それなりに嬉しそうであった。
タカミチ君はというと「アスナ君、そんなに嬉しいのかい?」と苦笑しながら尋ねていた。

その後無事に3月25日に終業式を迎え、学年一位を取った訳ではないが、祭りの類が好きな2-Aの少女達は打ち上げを行う事となった。
しかしネギ少年はその催し物に長谷川千雨が参加せずにそのまま寮に戻っていったのを見た気になったのだった。
ネギ少年は、呼び鈴を押し、しばらくしても反応が無くとも、彼女が出てくるまでじっと待っていた。
それを扉の穴から見た長谷川千雨は「今回ぐらい仕方ねーか」といわゆるコスプレ衣装から着替え直しネギ少年の前に出たのだが……眼鏡を忘れていた。

「長谷川さん、メガネ無い方があってると思いますよ。凄く綺麗です!」

その姿をネギ少年は普通に褒めた。

「!」

言われた本人は眼鏡無しの顔を直接他人に見られた為大層恥ずかしがったが、褒められたのは悪い気はしなかったらしく、落ち着いて眼鏡を取りに戻り、そして姦しい2-Aの宴会に参加したのだった。
ネットアイドル、ちう……である彼女だが超鈴音によりSNSが広がり始め、その結果旧来のブログの順位をまとめたポータルサイトなるものの重要性が急速に薄れつつあるため、長谷川千雨は自分のコミュニティと今までのブログを合併するかどうかという瀬戸際に立っているようだが……自分の趣味を公開する事になるのは……と悩んでいた。
ブログのコメントに「ちう様はSNSはやらないのですか?」と誘いが大量に来ているので断り続けるのも、心苦しいようではある。
個人による複数アカウント作成は今のところ超鈴音が認めていないので、なかなか難しい。
それが可能なのもSNS内の巡回プログラムが非常に優秀であることに起因するが、実際利用者からはネットとしての仮想現実を楽しみたいという声もあるのでそのうち対応する……かもしれない。
本当に横文字が増える。

……そしていよいよ、短い春休みの始まり。
ネギ少年と一緒に行ってみないか誘われた小太郎君は春休みに入ってすぐ、図書館島であるが特に重装備もせず詠春殿から貰った地図の場所へ向かった。
今の2人が司書殿の所に行くと門番の彼女とどのような事になるか……心配にもなるのだが、予めエヴァンジェリンお嬢さんが孫娘にその事を伝える手紙をクウネル殿に渡す……という事は無かった。
その代わり「どうせ奴の事だ、ラブレターだなんだと面倒だから直接伝えておけ」と口伝になった。

地図には便利なエレベーターの事が全く書いていない為2人は図書館島にそのまま突入したが、冬のスクロールで充分な経験をしていた為、それと比較すると図書館島の罠は非常に程度の低いものであった。
踏むと発動する罠に関しては常に浮遊術で無視するので罠自体が発動しないというのも、その困難が無くなる事を加速させた。
……そうこうして彼女の所に到着である。

「そろそろ地図の位置なんやないか?」

「うん、そうだね。えーっとそこを右か」

「よっしゃ!」

「別に急いでないから確実に行こう」

「分かってるて」

曲がり角で小太郎君が分身を出して先行させ、彼女に気づかれないよう視認させすぐに戻ってきて報告。

「腕が翼になっとる巨大な竜がおるで」

「なんや、最後はやっぱり学園長のアレと同じようなもんなんか」

「うーん、精神空間で戦った竜種とは耐久力も違うだろうから下手に怒らせる前に速攻で角があれば折った方がいいね」

「角の数は短いのが5本や」

「5本か……。何本かまとめて折らないと駄目かな」

「角同士は離れとるんか?」

「威力さえあれば2本ぐらいいけそうやったけどな」

「実際頭に近づけそうなの?」

「それは分身で陽動しといて背後から奇襲かければいけそうや」

「どれぐらい耐久力があるかわからないけど、予め溜めといて一気に行こうか」

「ああ、現実の竜は初めてやからな。油断せんと最初から本気で行くで。アデアット!両腕に術式封印頼むわ、分身!」

偵察に出た分身を含め密度の薄い3体を出現。

「うん!僕は両腕に断罪の剣と遅延呪文で三回出せるようにしておくけど、小太郎君余裕あったらよろしく!」

「アーティファクトですぐ分かるから安心しい!」

      ―契約執行 300秒間!! ネギの従者 犬上小太郎!!―
            ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―光の精霊101柱! 集い来たりて 敵を射て!! 魔法の射手 収束・光の101矢!!―
           ―短縮術式「右腕」封印!!―
            ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―光の精霊101柱! 集い来たりて 敵を射て!! 魔法の射手 収束・光の101矢!!―
           ―短縮術式「左腕」封印!!―
              ―戦いの歌!!―
         ―未完成・断罪の剣・術式封印!!―
          ―双腕・未完成・断罪の剣!!―

「おっしゃ!陽動出した後一気に背後に回って決めるで!」

「もちろん!」

万全の状態での出撃であった。
分身3体を囮に出し、作戦通り彼女にあえて発見させ興味を引きつけた隙にお互い目立たないよう端を虚空瞬動で駆け抜け、背後に回り込み飛び上がって急接近。
彼女は緩い気弾を次々撃ち出す分身に、怒りを覚えたのか炎を吐いた時。

        ―右腕解放!!桜華狗音崩拳!!―
        ―双腕・未完成・断罪の剣!!―
「もう一発や!」―左腕解放!!桜華狗音崩拳!!―
     「こっちも!」―解放!!―

少年達は死角から角を爆発音と共に一瞬にして5本刈り取った。
彼女がこれで魔法障壁を張るタイプの竜種であれば苦労しただろうが、そうではなかった。
続けざまに小太郎君が高速でネギ少年の腕を掴み一旦距離を取った。
様子を見ていた所、気がついたら角を全部折られてしまった彼女は「キュキュキュー!!」と大層な鳴き声を上げ、嫌そうにその場から逃げていった。
……どうやら翼竜が、それ以上戦いたくないと感じたらすぐ逃げるように司書殿が言い聞かせておいたようだ。
2人は確実な戦法を取り、模擬戦でもない今回の実戦では、早速惜しげもなく小太郎君が咸卦法を使用した成果がこれである。

「あー、300秒もいらんかったな」

「まあこんなものだよ。今のでやれてなかったらきっと泥沼だったし」

「そうやな、ここで怪我なんてしとないしな。アベアット。殺さなくて済んでよかったわ、これ現実やし」

「うん、そうだね。この角もらっていっていいかな」

「あんまでかくない角やけど、エヴァンジェリンの姉ちゃん驚くやろな」

「……でもマスターこの地図見せたらなんか知ってそうだったからどうかなぁ」

「ま、勿体ないし、貰うとこうや」

「そうだね、コタロー君威力高すぎたね」

「そら通常の俺の数倍の力みたいなもんやからな」

……と、2人は角を採取して軽く荷物にしまい始めたが、扉が開いた。

「……お2人とも初めまして。私はクウネル・サンダースと申します、以後お見知りおきを」

「おわっ!まだボスが出てくるんか!アデアット!」

「……いえいえ、私に攻撃の意思はありませんよ。少しここまで来るのに疲れたでしょう、お茶などいかがですか?」

「あ!父さんと一緒に写真に写ってた人だ!」

「なんやて?」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

詠春さんに見せてもらった写真に写っていた、クウネルさんという人に案内された空中庭園は凄い場所だった。
色々話したらさっき僕達が奇襲をかけた竜はここの門番だったらしくて、「ごめんなさい」と謝った。
「まさかあんな方法で角だけ折ってしまうとは思いませんでした」と驚いてたけど、実際小太郎君と一緒じゃなかったら無理だったなぁ。
凄くアーティファクトに興味持ってたけど効果について他人に話してはいけないと言われている事を伝えたら「そうですか、分かりました。少々残念ですね」と諦めてくれた。

「あの、僕この地図を詠春さんから貰ってきてここに来たんですがクウネルさんは父さんの居場所を知っているんですか?」

「おや、どれどれ。……なるほど、ナギが書いたオレノテガカリというのは確かに私ですが、残念ながら私もナギの居場所はわかりません。ただ確実に生きているのはわかりますよ」

「何や、こうなることエヴァンジェリンの姉ちゃん知っとったんか」

そうみたいだな……。

「僕も数年前故郷が襲われた時に父さんを見たので生きていると信じているんですが、確実な証拠って何ですか?」

「契約カードですよ。契約者が死ぬとこうなりますが、私とナギの物は、ほら、こうです」

死んだカードは生きているカードに比べて文字が沢山消えてるのか……。
それに本当にマスターが言ってた通り父さんも契約してたんだ。

「父さんが生きてるのは分かりました、ありがとうございます」

「はー、死ぬとそんなに寂しいカードになるんか」

「私もこれぐらいしか協力できなくてすいません。少々事情があってここから出られないものですから」

「いえ、隠れていたのに門番の翼竜さんを酷い目に合わせてごめんなさい」

「俺もやりすぎたわ、悪かったわ」

「あれは私も油断していましたか良いですよ。隠れていると言ってもあまり人も来ませんからね」

「クウネルの兄さんの事は口外しない方がええんか?」

「隠れてるからにはそうですよね?最近秘密にしないといけないことが多くて」

「物分りの良い少年達で助かります。失礼ながらできればここにはしばらく来ないでもらえるとありがたいですね」

「おう、分かったで!」

「はい、約束します!」

「ありがとうございます。少しナギの話でもしてあげたい所なのですが、詠春から聞きましたか?」

「はい、それなりに父さんの小さい頃については」

「そうですか、なら似たような事を話かねませんから今回はやめておきましょう。少し私も昔を思い出しておくことにしますよ。こちらからそのうち何らかの方法でまた招待しますから」

その後、あまり長居するのも悪いし、昼過ぎに出発してそろそろ夕方だからクウネルさんに別れの挨拶をして戻る事にした。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

司書殿はこの時機でネギ少年と出会ったが、魔法世界の事については一切言及せず、学園祭についても触れていなければ、孫娘についても話さずに、そのまま返したのは落ち着いた対応であった。
一方竜の角を獲得した2人は、そrを寮に持って帰る訳にもいかないのでエヴァンジェリンお嬢さんの家に預けに行き「まさか折ってくるとはな、正攻法か?」と聞かれたので「「奇襲をかけました」」と堂々と発言していた。
「……まあ、大怪我をしないようにするのだったらそれが正しい選択だよ」とお嬢さんも一応その攻略方法を認めていた。
完全討伐ならもっと苦労しただろうが、彼女が自分から撤退したので今回少年達も楽であっただろう。
何はともあれ……2人の図書館島地下探検はスクロールでの経験を実際に活かすのには、良い場……になったとは言えるであろう。



[21907] 29話 名付け親
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 19:03
少年達が翼竜の角を全て刈り取った日から2日後の29日の土曜日。
孫娘が司書殿の元に訪れた際、角が折れている彼女を発見し何やら会話し始め「うちが頑張って治したげるからな!」と言いながら鼻先を撫でていた。
その際同行した桜咲刹那は「一体誰が……」と驚いていたが、更に次の日エヴァンジェリンお嬢さんの家に向かった所、一部砕けているものの5本角が置いてあり「「え?」」となり少しあった。
しかし、孫娘達は少年達にその件を触れられないので、エヴァンジェリンお嬢さんから時機を見計らって「少々行き違いがあってな、ぼーや達もわざとじゃなかったんだよ、反省はしているさ」と一言伝えられた。
……いずれにせよ門番の彼女には養生してもらいたい。
因みに孫娘が司書殿の元を訪れた日にはネギ少年は雪広あやかの実家に神楽坂明日菜と共に家庭訪問したとの事。

……そして4月に入ってすぐ、場所は超鈴音のダイオラマ魔法球。

「うむ、翆坊主、さよ、この万全の装備なら問題ないネ」

「私も身体有りで行くのは初めてです!」

《随分色々持ち込むようですね》

スキーに必要な道具は勿論、軍用強化服、地質調査用の精密機器、放射線を計測する機材など色々ある。

「華に積みこんであちこち実際に見て回る必要があるからナ。では早速転送頼むヨ」

《分かりました》

ポートに全ての機材を載せて神木内部、華のある亜空間に転送。

「翆坊主、前回華には触ただけだが、入るのはどうするネ?」

《特に何も、入れると思って入れば入れますよ》

「外壁の一部が開くのではないのカ」

「私も中に入るのは初めてです!」

「ふむ、それでは人類初の乗船だヨ!」

華の内部は解りやすいように調整したので……理解してもらえるといいが。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

初めて華に入たが、内部はとても変わていたヨ。
壁面は全て私がアーティファクトを使た時の目の虹彩と同じように不規則に輝き、華の中心には大きな球体が浮かんでいる。
そのすぐ隣には、どこか全く違う草原に繋がるアーチ状の門のようなものが正直場違いでは無いかと思えるように無造作にそこにあたネ。

「さよ、この華はどういう事ネ?」

「えーと、どういう事なんでしょう」

《質問を受付けましょう》

《まずあの球体は何ネ?》

《華の操作用の球体です。超鈴音……つまり、人間でも使えるようにあれに乗り込めば、神木の中枢と同じ感覚で操作ができます》

《次ネ。あの門……アーチのようなものが例の亜空間なのカ?》

《そうですね》

《あの中に神木の若木が今まで入ていたのカ?》

《いえ、元々はあちらの亜空間がそのまま今この華の空間に混ざるような形になっていました。しかし、超鈴音が華を操作する事を考えてあのような形にしました。亜空間と操作用の球体、解りやすいですよね?》

《キノ、何でどこにでもいけるドアみたいになってるんですか?》

《サヨが言うとおり、そのままです。例のドアを参考にしつらえてみました。ご不満ですか?》

《そんな事は……ないですよ》

《ふむ……要するにこれが翆坊主の用意という奴カ》

謎の感性だナ。

《そういう事です》

《……なるほどナ。まあこのほうが宇宙船みたいで面白いネ》

《そうであれば、このように調整して良かったです。超鈴音、華を操作してみたければ、あの球体の中にも華に入る時と同じように入れますので。ただ、機能がいくつか感覚で理解できると思いますが、操作する前に事前に確認して下さい》

《分かたネ》

華に入るのと同じ感覚カ。

「よし、少し入てみるネ」

「じゃあ私は先に荷物を亜空間……アーチ!に運んでおきますね」

さよもアーチと呼ぶことにしたのカ。

「よろしく頼むヨ」

手を当てて入れる、と思う。
……おお!
アーティファクトを使た時と似たような感覚だが、情報が流れこんできて操作の方法から全部わかるようになるのカ。
これは……魔分が加速しているがまるで茶々丸に搭載している量子コンピュータのイメージのようだナ。
それを意識して翆坊主が調整したのかもしれないが。
しかし、これだと機材を持ち込む必要はあまり無かたかもしれないナ。
華で色々な事ができそうネ。
機能の一つに……相対時間を操作する機能と理解できるものがあるのだが確認しろとはこういう事カ。
操作した瞬間危険な事になりそうだネ。
……まだ色々気になる事もあるがさよに全て運ばせるのも悪いから一旦出るカ。

「あ、鈴音さんどうかしたんですか?すぐ出てきて」

おや?

「さよ、どれくらい私は入ていたネ」

「よろしく頼むヨと言って手を当てて入ったらすぐに出てきましたよ」

ふむ、この中での思考中無意識ではあたが粒子通信と同じ状態だたのカ。
相対時間操作はそういう事ネ。

「この中に入ると調整しない限り時間が経過しないみたいだネ」

「そういう事ですか」

「とにかく……まず先に機材を運んでしまおう」

「はい!」

とにかくスキー板用具だけは持ていきたいネ。
アーチ状の亜空間内はやはり見た通り草原だたヨ。
水源もあるようだし一体どこの異界なのかと言いたいが、食料の自給自足もやろうと思えばできそうだし、家も建てられそうだネ。
まさに華という見た目を偽装した方舟のようだナ。
……間違いなくここも相対時間操作ができそうだからわざわざ生活する必要もないかもしれないけどネ。
途中から往復するのが面倒になて、アデアットして物を浮かせる魔法で一気に運んだらさよが「最初からそれで良かったんじゃ……」と言われたネ。
でも何でも魔法に頼るのは良くないヨ。

《準備できたようですので華を火星側に転送します》

《頼むネ》

第二世代に来たのも初めてだが全く同じだたヨ。

《続けて華を木から射出するのでそのまま中で待機していてください。その後は自由に操作して良いです。それでは……。有機結晶型外宇宙航行外殻、射出準備開始……3……2……1……射出。遠隔操作状態に移行》

地球のロケットのように爆音は無く気がつけば飛んでいたようネ。
騒音対策も完璧とは大したものだナ。

《翆坊主、この華の名前は付けていないのカ?》

《有機結晶型外宇宙航行外殻以外に存在しません。超鈴音が好きに命名するならばどうぞ》

《鈴音さん何か良い名前付けてください!》

精霊にとては名前は何でもいいというのは翆坊主が「木の精霊だからキノ」からしてなんとなく分かるが……第二世代の木にも未だに名前は無いしネ……。

《ありがたく名前は考えさせてもらうヨ。……確か木の位置は魔法世界の龍山山脈のあたりだたナ》

《そうです》

《付近にある都市の名前は北に桃源と西に盧遮那だたかナ。多分このまま行くと第二世代も蟠桃で決まてしまうかもしれないネ。ふむ……》

《メガロメセンブリアからは離しておきたかったもので。中国風の場所です》

《桃の次だったら栗ですか?》

《柿かもしれませんよ》

この二人は駄目だヨ……。
神木・甘栗や神木・渋柿なんてあまりにも締まらなさすぎるネ。
エヴァンジェリンだと神木・茶々になりそうだし……しかし私もロボットに田中サン、鈴木サン、佐藤サンと安易に付けたから他人の事は言えないカ。
クウネルサンもあの人自身ネタに走ているし、どうも私の周りはそんな感じばかりネ。
中国の伝説であれば、山海経によると、東方の海中に黒歯国があり、その北に扶桑(ふそう)という巨木が立ており、そこから太陽が昇ると言われている。
扶桑自体が東方の島国、つまり日本を指してもいるが。
神木・扶桑……ネタな名前より余程マシだナ。
後は仏教経典から、3000年に一度咲く際に金輪王が現世に出現すると言われる花があるのだがその名前が優曇華だたネ。
実物は花というよりもやしみたいな見た目をしているのだが、3000年に一度というあたりぴったりだと思うヨ。
無理やり解釈すれば、「優」れているが、「曇」りでないと飛ばせない「華」と、なんとも一昨年の夏の逸話そのままだネ。

《……決めさせてもらたネ。第二世代の木は中国の伝説から、神木・扶桑。華の名前は仏教経典から3000年に一度咲くと言われる花、優曇華。特に優曇華の方は打ち上げの時の出来事そのものを1つずつ漢字で表せていると思うヨ》

《超鈴音、それは……ええ、良いですね》

《この華は優曇華ちゃんですか!おいしそうですね!》

好評で良かたネ。
自分達でもう少しまともなものを考えたらどうかと思うけどナ。
さよ、何故ちゃん付けなのかは知らないが食べられないヨ。

《喜んでもらえたようで良かたヨ》

《今度からは名づけに関しては超鈴音に一任しましょうか》

《それがいいです!》

話が進みそうに無かたから、早々に話題を転換してドライアイスの山に向かたネ。
スキー用具を装着、アデアットしてエヴァンジェリンが名付けたという魔法領域を展開しながら外に出たヨ。
アーティファクトの視野拡張効果を極限まで伸ばして今更神木・扶桑を確認したが……。

《扶桑は既に水に浸かてるようだが大丈夫なのカ?》

《大丈夫です。問題有りません》

《きっと水生植物にもなれますよ!》

一応私の故郷なのだが、変にテラフォーミングが進んでいるから違和感しか無いヨ。
多分あちこちで妙な海ができているのだろうナ。
……それは……今は置いておくとして、さよもスキー用具を装着してどうするのかと思たが、魔法領域出せたみたいだネ。

「さよも魔法使えたんだナ」

「んーでも勝手に出てる感覚がして、自分で使っているという実感があまり無いんですよね。これを銃撃の時に使っておけば死体にならなくて済んだかなぁ……」

「あの時は衆目もあたし、魔法を使う訳にはいかなかたからナ。過ぎたことは仕方ないネ。それではスキーを楽しむヨ!」

「はい!」

うまく滑れる場所とどちらかというとスケートの方が滑れたかもしれない場所もあたが、地球には無い規模の一面ドライアイスの空間を堪能して、ある程度滑り降りたら、優曇華に乗てもう一度と繰り返したヨ。
浮遊術でも良かたのだがリフトの代わりに優曇華を使うというのは贅沢だナ。
途中で炭酸飲料をばら撒きたくもなたが、環境破壊になりそうだたからやめておいたネ。
なんと言ても雪状のドライアイスを精製するには普通機械が必要なのが場所によっては天然で存在するというのは、やはり遊びに来た甲斐があたヨ。

「この映像は優曇華ちゃんが全部記録しているので後で渡しますね」

「思い出の1シーンだネ。誰にも見せられないけど。さて、そろそろ、次の作業を始めるカ」

「了解です」

《翆坊主、北半球側の地下の氷はよく溶けているようだが、南半球はどうネ?》

《北半球にある地下の氷やクレーターの氷の湖は地上に出てきていたり、既にただの湖になっています。一方南半球の北側はある程度大丈夫ですが南極となるとあまり進んでいません》

《ふむ、それなら重力魔法で一気に穴を空けて燃える天空をやてもいいのカ?南極の極冠には全部溶ければ火星表面を単純計算で10m一気に水深を増やせる量の氷があた筈ネ》

《そうですね。全部の場所を面倒見きれていませんので……少しでも早くなりますし、お願いします》

《任せるネ!》

火星の表面積は1億4400平方kmで10mの水深になるのだから、体積で言えば144万立方kmの水になるヨ。
比較の対象として平均水深が1752mの日本海が丁度136万立方kmだから、それよりも多いぐらいの量になるネ。
地球で考えると微々たるものだが、火星の表面積は地球の1/4の上、同調する魔法世界の地図には南半球つまり、火星で言う北半球にも大陸があるのだから、海の面積はその更に半分程度で構わない事を考えるときちんと効果はあるヨ。
それに翆坊主の話だと、あくまでもできるだけ同調の際に火星と魔法世界の間でその同調に耐えられるだけのテラフォーミングをしているから、完璧な海を用意しなければいけない訳でも無いらしいネ。

「さよ、南極まで飛ぶヨ」

「南極まで大体1万kmですから優曇華で1分ちょっとですね」

……本当にありえないぐらい優秀な華だナ。
地球でさえ1周するのに6分強しかかからないのだから、この前アメリカまで行くのに9時間飛行機に乗たのと比べるまでも無いネ。
折角だから翆坊主に話をして操作球に私自ら入て火星を飛んでみたヨ。
思うように動かせるというのは面白いネ。
無音だから迫力に欠けるが、穏やかな生活がしたい人には向いているナ。

「鈴音さん、極冠到着です」

「では一暴れしてくるヨ」

「気をつけてください!」

「アーティファクトがある限り大丈夫ネ!」

クウネルサンから教わた重力魔法を出力最大にして邪魔な地層を圧縮して吹き飛ばしつつ、氷の層を発見だヨ。

       ―ラスト・テイル・マイ・マジックスキル・マギステル―
―契約に従い 我に従え 炎の覇王 来れ 浄化の炎 燃え盛る大剣―
―ほとばしれよ ソドムを 焼きし 火と硫黄 罪ありし者を 死の塵に―
            ―燃える天空!!!―

       ―ラスト・テイル・マイ・マジックスキル・マギステル―
―契約に従い 我に従え 炎の覇王 来れ 浄化の炎 燃え盛る大剣―
―ほとばしれよ ソドムを 焼きし 火と硫黄 罪ありし者を 死の塵に―
            ―燃える天空!!!―

       ―ラスト・テイル・マイ・マジックスキル・マギステル―
―契約に従い 我に従え 炎の覇王 来れ 浄化の炎 燃え盛る大剣―
―ほとばしれよ ソドムを 焼きし 火と硫黄 罪ありし者を 死の塵に―
            ―燃える天空!!!―

       ―吹け 一陣の風 風花 風塵乱舞!!!―

……と高速詠唱で同じ事を連発し続け、蒸発したそばからまた南極の気温で凍らないようにできるだけ吹き飛ばすという派手だが地道な作業を続けたネ。

《鈴音さん、水蒸気が地上で氷に戻らないように優曇華で辺り一体の気温を魔分で強制的に常温にしますから気にせず続けてください》

テラフォーミングに関しては木や華の方が上手だたナ。

《分かたヨ。上空で雲になたらそれもなんとかできるか?》

《はい!雲には優曇華を操作してアーチの中に吸収するので大丈夫です!》

       ―ラスト・テイル・マイ・マジックスキル・マギステル―
―契約に従い 我に従え 炎の覇王 来れ 浄化の炎 燃え盛る大剣―
―ほとばしれよ ソドムを 焼きし 火と硫黄 罪ありし者を 死の塵に―
            ―燃える天空!!!―

地球では南極の氷が温暖化で溶ける事が問題になているのにこうも火星で溶かすというのは何とも言えないが、地球でもエヴァンジェリンのように凍る世界でも使えば氷は復活させられるし、温室効果ガスの二酸化炭素も翆坊主が本気を出せばすぐに酸素にでもできるからナ。

       ―ラスト・テイル・マイ・マジックスキル・マギステル―
―契約に従い 我に従え 炎の覇王 来れ 浄化の炎 燃え盛る大剣―
―ほとばしれよ ソドムを 焼きし 火と硫黄 罪ありし者を 死の塵に―
            ―燃える天空!!!―

なんて恵まれた星々だろうネ!
……途中何度か休止して持てきた肉まんで腹を足しながら数時間作業を続けたヨ。
こういうのも神木の補助が無ければここまでやり続けるだけの集中力もやる気も起こらないが、全て解決できるとはやはり、信用できない人間には絶対に翆坊主達の秘密は明かすわけにはいかないナ。

「突発的に氷を溶かしたけど、ここまで上手くいくとはネ」

「回収した雲は全て赤道付近に放出しましたからそのうち地上に落ちますね」

「今地球で午後7時になるところだナ。ここにいると昼夜関係ないから感覚がネ」

「オリンポス山で地質調査と放射線測定しますか?」

「そうだネ。全部やてしまおうカ」

地質調査自体は私の個人的な趣味だが放射線の量は地球の1.4倍ぐらいだたヨ。
かなり効果は出ているようだがもう少しだネ。

《翆坊主、まだマントル対流は活発化するのカ?》

《はい。しかし後3ヶ月、6月ぐらいには上限になるでしょう》

《分かたネ、後もう少し粒子精製を続けるヨ》

《手間を取らせますが、お願いします》

《今日の事は今までの人生でも屈指の経験だたから気にしなくていいヨ。もうかなり長い間精製をしているが、自動化に自動化が進んで最後にまとめてアーティファクトで一発だから時間も少ししかかからないネ》

生産量が一定だからさよ達にやてもらう必要も無いぐらいだナ。

《感謝します。計画がこのまま完遂されたなら、優曇華もどうぞ自由に使って下さい》

《それはありがたいネ。しかしこの優曇華……外殻と言ていたがまるで宇宙船……もし作るとしても、これ以上優曇華を改造するならともかく、1から作てもここまでおかしな性能にはできないから大した貰い物ネ》

《えっ?鈴音さん、改造できるんですか?》

《操作球に入て思たが、色々できそうだたネ。ワープ航法ぐらい実現したいヨ》

《ワープ航法……ですか。いわゆるSF的なものに聞こえますが……できるなら是非実現して欲しいですね。来る第三世代の事も一応あります》

《転移魔法があるのだから不可能ではないだろうナ。そんな事を言うからには翆坊主は第三世代を飛ばす予定もあるのカ?》

《転移魔法……確かにワープですね。更に次の神木飛ばす予定が無い訳ではありません。そうですね……超鈴音なら知っていると思いますが、てんびん座の方面20光年の位置には地球によく似た環境の星があるらしいという情報を介入して得まして、そういう所などどうかと。……今の優曇華にもその改造ではないですが、ゲートを設置して多量の魔分を供給し続けて飛ばした場合でも6万年ぐらいかかりますから》

今の優曇華で片道6万年とはまたスケールの大きな話ネ。
でも夢はあるナ。

《それは有名だから私も知ているネ。翆坊主がそんな離れた場所に飛ばしたいのはもし枯れたら、悪用されたら、を心配しているのかナ?》

《いつ枯れるかは私もわかりませんが神木・蟠桃もしばらく経てば……とは言え千年単位ですが、また新たな華と共に種子ができます。その為心配する必要はそこまでは無いですが1本程度人間の住まない星や、遠い遠い星で保険にしておくのは悪くないかと》

翆坊主にとって存在し続けるというのはやり続けられるならまさに延々とという事カ。
穿た見方をすれば、精霊による宇宙征服とも見られるが、翆坊主の場合私利私欲というより、その存在意義を全うするだけなのだろうナ。

《そういう事カ。……今更聞くのも野暮だが、やはり魔法世界を放置してどこか別の衛星にでも飛ばして、そこで新たな木でも増やした方が良かたのでは無いカ?》

《それはそうですが……何も無い所に送り出してもその存在意義も半減していまいます。やはり魔分を生成するからには利用する者達がいなければ……と。それに、魔法世界を放置すれば、確実に地球の状態は混乱します。それに前にも言いましたが、私達の今進めている計画は他の時間の流れでは起こりえない、全く新たな世界がやってくる可能性……というのに私は個人的に興味があります。敢えて私からも超鈴音に問いかけるならば……魔法世界は本来的に異界ですからそれがこちらの世界に出てくるというのは非常に夢があると思いませんか?……と言うところでしょうか》

……夢……カ。
精霊という存在自体がファンタジーとも呼べるが……悪くないネ。
翆坊主が私を待ていた……待てくれていたというのだから、もしも……の事を今更考えても意味の無い事。

《……そうだネ。翆坊主の言う、これから来る未来には夢はあると私も思うヨ。さ……そろそろ夜も遅いし優曇華で扶桑に戻るから地球への転送頼むネ》

《……分かりました》

「さよ、そろそろ戻るネ」

「はい、そうしましょう。それにしても空が綺麗ですね」

火星でも空が青いのは変わらないネ。

「ああ、また見に来たいナ」

「時間さえあればいつでも来られますよ」

「はは、そうだたネ」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

第二世代の神木と華の命名も鈴音さんにより扶桑と優曇華に無事決まり、無理やり南極の氷を溶かしたりと頑張ってから、残りの春休みもあっという間に過ぎて行き4月8日新学期を迎え私たちも3-Aに進級しました。

「「「「3年A組!ネギせんせーい!!」」」」

と進級しても引き続き私達のクラスの担任になったネギ先生はいつもの賑やかな皆に迎えられました。

「皆さんおはようございます!今学期から正式な教員として担任を勤めることになりました。よろしくお願いします」

「そうなの!?」

「「「正式採用おめでとう!ネギ君!」」」

「………?」

そもそも正式教員とそうでない事の区別すら付いてない人もいたみたいです。

「ありがとうございます!今日は身体測定ですから、皆さん用意して下さい」

「「「はーい!」」」

「ネギ君いたら着替えられないよー!」

「それとも着替える所見たい、ネ ギ 先 生 ?」

柿崎さんが挑発してます……。

「し、失礼しました!ではまた後で!ホームルームはこれで終わりです」

素早く教室から逃げ出していったネギ先生でした。
今年で3回目の身体測定でしたが……私はまたもや一切変化ありませんでした。
当たり前なんですけど。
身体測定のカードに3回分全部同じ数値が付いたので流石に係の先生に驚かれたので適当に変えたほうが良かったかなと思いました。
それはエヴァンジェリンさんも同じですが。

《鈴音さんはどうでしたか?》

《普通に成長していたネ。……さよは成長させた身体に変えないのカ?》

《うーん、一応これ既に私の15歳の時の身体なので来年こそは!です》

《1年の頃は少しさよより背は小さかたが今では10cmぐらい追い抜かしたネ》

《こうしてみるともう3年目なんだなって思います》

《日々一日確実に時間は過ぎていくからネ》

それにしても184cmの龍宮さんと181cm楓さんは本当に背が高いです。
まあプロポーションも凄いですが……。
そういえば私って死んだの63年前ですが当時の日本人の平均身長と現在の日本人の平均身長って昔より高くなってる筈ですから……しまったー!!
もう少し鯖読んでも良かったじゃないですか!
……そんな事を悩みながら新学期初日は終わったのですが、翌日4月9日夜、飼い主不明の小動物が麻帆良に侵入してきてあろう事か女子寮に忍び込もうとしたんです。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

存在意義皆無の魔法生物が現れた。

《ハハハ!面白いネ!田中サンに追い掛け回されているヨ!》

《田中さんは鼠一匹通しませんからね》

《少し過剰なのでは?》

《そろそろフェイズを上げて楽にしてあげるネ》

楽しそうだ。

「フェイズ4に移行!」

フェイズとやらにどう違いがあるのかは謎だが、これで魔法生物は捕獲される。
女子寮に配備されている田中さんのカメラアイの映像は全て超鈴音の部屋で同時並行して確認されており、高みの見物。
魔法生物が「この死角ならわからないだろっ!」などと言いながら逃げようとしたが、閉鎖空間以外なら死角の無いカメラを搭載されている田中さんには何の意味も無かった。

「ギャーッ!!」

汚い鳴き声である。
そのまますぐに意識を失い、田中さんの右手に捕獲された。

「さよ、回収しに行くネ」

「えっ、麻帆良の外に捨てるんじゃないんですか?」

捨てても構わないが……手出ししておこう。

《気絶している間にやりたい事があるのですが、いいですか?》

《何がしたいネ?》

《契約魔法陣を書いても発動しなくなるように調整します》

これで後々問題が起こる事も無い。

《あの小動物は魔法生物なのカ。ふむ、確かに契約魔法陣を書く能力はさよに危険が及ぶからその方がいいナ》

《鈴音さん以外と万一仮契約することになったら大変ですしね》

《そういう訳で手配お願いします》

《分かたネ》

そうして、魔法生物を捕獲した田中さんが超鈴音部屋にすぐに届けに来た。
私も既に部屋に来て……。

《では行います。指定魔法封印開始……》

―対象・アルベール・カモミール―
    ―契約魔法陣封印―

「翆坊主、そういえば、オコジョ妖精は仮契約を成功させると仲介料が入るのでは無かたカ?」

《そうです》

「これでこのオコジョさんは無能になるんですね」

《……一応他の魔法は使えます》

「何があるネ?」

《念話妨害など》

「私達には関係ないですね」

「全くだナ」

《あとは……ある特定の人物に対する好意度の計測……この魔法生物の場合パソコンを通してまほネットが使えたり、知識はあったり……そのような所です》

「オコジョって随分人間の文化に詳しいんですね」

魔法生物それも妖精の割には……俗物的。

《では私はこれで戻ります》

「私もこの部屋を魔法生物に知られる訳にはいかないから、田中サンにまた渡して放置してくるヨ」

それが良い。

「今度からネズミ取りしかけておきましょうか」

それもしておくと……良いだろう。
泥棒するらしいので。
そのまますぐに部屋の前で待機していた田中さんにまた渡して魔法生物は女子寮の外に放置された。
大分時間が経ってから復活した魔法生物だったが相変わらず強行突破を試みるも、田中さんにその度に気絶させられ……朝になった。
その執念深さについて翌朝映像を確認した超鈴音は「これは何か犯罪を犯して、その後釈放されても確実に再犯するタイプの奴だネ」と評した。
とりあえずは動物1匹すら入らせない女子寮の防衛能力を賞賛しよう。

……その朝、女子中学生達が皆一斉に寮から出て登校の時間となった時、魔法生物はネギ少年に会うことができた。
しかし、道端で話すわけにもいかないのでネギ少年は鞄の中に入ってもらい学校に連れて行く事になった。
その日の昼休み、屋上にて会話する機会があった。
「前に見たときよりも成長したね」や「兄貴を追ってここまで来たんすよ」と再会の挨拶を軽く交わしたネギ少年と一匹であったが……。

「カモ君僕を追って何しに来たの?」

「俺っちは兄貴のパートナー探しの協力に来たんすよ。使い魔として仕えるなら兄貴しかいないって思うんでさ」

「パートナーって契約の事?」

「兄貴知ってるんすか?」

「ほら、僕もう仮契約してるんだよ」

そう言って小太郎君のカードを見せるネギ少年。

「えーっ!?これ男じゃないすか!普通兄貴のパートナーって言ったら相手は女と決まってますぜ!」

「何でそんなに焦ってるの?僕の父さんも男の仲間と契約してたからおかしくないよ。それに小太郎君は僕の一番の相棒なんだよ」

「俺っちいないのに兄貴仮契約できたんすか……。はっ!兄貴どうやって仮契約したんすか!?」

そこへ現れるのが……。

「どうやって?それは私が用意したからに決まっているだろう侵入者」

……お嬢さんは魔法生物の侵入を当然感知していたのでネギ少年と何か怪しいことをしていないか見に来たようだ。

「マスター!僕がここにいるのがよくわかりましたね」

「へ?マスター?」

「ぼーやの師匠だから当然だよ。小動物、昨日は見逃してやったつもりだが直接話をした方が早そうだな。オコジョ妖精……大方仮契約で金を稼ぎに来たという所か。……純粋なぼーやをそそのかしにでも来たか?」

「お、俺っちがそそのかすだなんて変な事言うな!姉ちゃんこそ一体何者だ?」

「私が何者かだと?フッ……いいだろう、この際せいぜい怖がるがいい。私はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル、闇の福音、不死の魔法使いだ」

「なっ!?し、しし、真祖の吸血鬼か!?兄貴やばいっすよ!騙されちゃだめっす!」

「……これが外部の魔法関係者からの私の認識だよ」

「マスター……。カモ君、今の言葉は取り消してね。僕はマスターの事をカモ君の知ってる知識より、正しく知ってる」

「………へ?」

「ぼーや、先に言っておくがそいつを女子寮に入れるな。どうせぼーやに仮契約をさせて金を稼ごうと魔法関係者かどうか関係なくどこにでも仮契約魔法陣を書くから魔法の事が周囲にバレるぞ」

「カモ君……僕に協力って言っておいて実際はそうなの?」

「い、いや!そんなことないですぜ!」

しかし汗を書いているので丸分かり。

「図星みたいな反応して言われても信じられないよ。カモ君どうするの?女子寮には入れられないけど」

ネギ少年が魔法生物に対して冷たい……のも、お嬢さんを悪く言ったので無理もない。

「……昨日も女子寮にロボのせいで入れなかったっていうのに……」

「ん、それでいいか……小動物、私が雇ってやろうか?」

「え?」

「マスター、何を?」

「ただの気まぐれだよ。外の裏の情報を集めてきたら報酬をやっても良いと言っているんだ。小動物なら監視の目も緩いだろう。いいか……誘っているがお前に選択肢が残っているかよく考えるんだな」

魔法生物はしばし完全硬直をしたが程なくして言葉を発した。

「分かった……その条件飲むぜ。それで俺っちに何の情報を集めろって言うんですかい?」

諦め顔である。

「その話はまた後でだ。ぼーやにはまだ聞かせられない。ぼーやは今日も修行に来るだろうからその時に話すとしよう」

「分かりました、マスター」

そしてその場は解散となったのだが、一体どういう事かというと……。

《エヴァンジェリンお嬢さん、今のはどういう事ですか》

敢えて確認。

《ああ、その話は相坂と超鈴音から聞いた方が早い。超鈴音、説明しておけ》

繋がった。

《翆坊主、少し前さよに、エヴァンジェリンにあの魔法生物を使て魔法転移符の流通経路を捜すようにしてもらえないか頼んだんだヨ》

《私はアーティファクトを発動していない鈴音さんの仲介しただけです》

《それで私から小動物を雇う事にして、実際の報酬は超鈴音が払うという訳だ。まあ私も何か面白い情報を拾ってくるならそれで構わんがな。少なくとも麻帆良にいてもぼーやに何か吹き込みかねんだろう》

そういう事だそうだ。
魔法生物のせめてもの有効活用。
わざわざ麻帆良まで来たのも何の意味も無かった。

《事情はよくわかりました。確かに裏に手を出している表の人間ならば、オコジョがうろついていても本当に鼠程度にしか思わないでしょう》

《私から直接雇うのは無理だたが、エヴァンジェリンが雇うということならあの魔法生物も有効利用できるだろう?》

《その言い方もなかなかですね。利用法としては良い案かと》

《話がついたようだから私は切るぞ》

《お嬢さん、お手数かけました》

《キノ、仮契約魔法陣封印した意味あんまり無かったみたいですね》

《ええ、まあ超鈴音の依頼なら仮契約ができようができまいがどちらでもいいでしょう》

《オコジョは人件費が低くて楽そうだナ》

それは安く済むだろう。
この日、ネギ少年がお嬢さんの家にいつも通り修行に向かい、小太郎君とのいつもの訓練内容こなしている間、エヴァンジェリンお嬢さんが魔法生物に依頼内容を話した。
その際依頼内容をネギ少年他に「口外したらどうなるかわかってるだろうな?」と脅してもいた。
そのまま修行風景を見ていた魔法生物だったが、魔法領域や小太郎君のアーティファクトの性能を見て大層驚きつつも、仮契約がこれ以上ネギ少年に必要がなさそうなのは理解したらしい。
……適当な旅費を渡してそのまま妖精は麻帆良から旅立った。
非常に短い滞在期間だった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ネギ坊主の所にやてきた魔法生物は3日目にして去て行たネ。
そろそろ6月の麻帆良祭に向けてまほら武道会の準備を水面下で進める必要があるからあちこち向かう必要があるヨ。

「学園長、直前になてからまほら武道会の告知をしても裏の人間が集まらないから情報の周知はそろそろ始めてもらえるかナ?」

「そうじゃのう、もうそんな時期になったのか。あい分かった、魔法先生、魔法生徒、呪術協会、京都神鳴流にも情報を流しておくからの」

神鳴流は神鳴流で別枠なのカ。

「感謝するネ」

「おお、そうじゃった。キノ殿に伝えておいて欲しいんじゃが、月詠という神鳴流剣士が脱走したそうなのじゃよ」

何やら不穏な動きがあるようだネ。

「分かたネ。もし日本に怪しい連中が潜伏しているようなら今回の修学旅行も場所を考えた直した方が良さそうだネ。特に京都はやめた方がいいかもしれないナ。リョウメンスクナの件は私も知ているが、このかサンの魔力なら恐らく復活させられのだろう?」

「う~む、そうじゃな。しかし16日には何処にするか確定せんといかんのじゃが、できれば魔法協会がある場所の方がいいのう……」

規模としても関西術協会よりも魔法協会の方が大きいからナ。

「ふむ、ハワイも悪くないが、この際ネギ坊主の故郷なんかどうネ?ネギ坊主が引率なら地理も詳しいし魔法学校もある、一応島国だからアメリカの時のように例の組織の多重転移にもそれなりに制限できるし、何より3-Aの皆ならネギ坊主の故郷だと聞けば行きたがるに決まてるヨ」

移動手段が飛行機だが、メリットは意外と多いネ。
海外に修学旅行になると付き添いの先生の数も増えるからナ。

「ふぉっふぉっふぉ、奇遇じゃな。儂も選択肢の1つに思うとったよ。ネギ君も長い事故郷に帰っとらんし一度里帰りも悪くなかろう。超君はまたイギリスに超包子でも出すのかの?」

それは実現したいが今回は少し時間が無いナ。

「流石に3週間も無いから超包子は無理だヨ。今のは私の意見だから気にしなくていいけど、まほら武道会の方も頼むネ」

「分かっとるよ」

さて、次は……。
その前に翆坊主カ。

《翆坊主、月詠という神鳴流剣士が脱走したらしいヨ》

《月詠……ですか。了解しました》

《少し解説してもらえるカ?》

《……一言で言えば、戦闘狂です。血さえあればどこでも良いというような》

《戦闘狂なのカ……。学園長から伝えてくれと言われたのはこれだけネ。翆坊主が観測で探し出すかどうかは決めると良いネ》

《分かりました。一応探してはみます》

《私もまだ行くところがあるからナ。今日はこのかサンはクウネルサンの所に行くのカ?》

《……行かないですね》

《分かたネ》

クウネルサンに相談しに図書館島に行くが久しぶりだナ。
道順は慣れたものだが、何度来ても変な所ネ。
門番の翼竜の角をネギ坊主達が全部折たと聞いたが、討伐していないとは言え随分腕を上げたナ。

「クウネルサン、久しぶりだネ。肉まん持て来たから食べるといいヨ」

「超さん、お久しぶりですね、ようこそ。そろそろ来るかと思っていましたが、今日でしたか」

「肉まん食べながらでいいけど、最近このかサンの調子はどうネ?」

「本題はそちらではないと思いますがいいでしょう。……このかさんはとても筋がいいですし、熱心に魔法の練習をしていますから今月には初級の治癒魔法は習得できるでしょう」

「全く魔法に触れていないのにその習得速度はなかなかだネ。……でも石化魔法の解除までは程遠いカ」

「フフ、もしかして修学旅行の場所が決まったのですか?」

私がネギ坊主の子孫だと知ているからできる会話だが……確かに楽だナ。
翆坊主が勝手に話さなければこの会話は無理だたネ。

「まだ完全に決まてはいないが、今日ここに来る前学園長にネギ坊主の故郷を修学旅行の場所として上げておいたヨ」

「それは殆ど決定のようですね。石化魔法は程度にもよりますが上級悪魔のものは非常に厄介です。キノ殿なら解除できそうですがね」

「できたとしても誰が解除したかが問題になるからそれは難しいだろうナ」

「……そうですね。結局醜い人間の思惑の結果ですから精霊の立場でなら不干渉が正しいでしょう」

「……ふむ、そろそろ本題に入るが、まほら武道会でクウネルサンはどうしたいネ?」

「できるだけ良い舞台で友との約束は果たしたいですね」

「やはりそうカ。クウネルサンが反則気味の分身で出場となるとトーナメントを採用した場合、ネギ坊主と戦うまでに当たる人達はどうしようも無いから少し考えたくてネ」

「私の分身は……そうですね。しかし、決勝でとなれば当然なんとしてでも勝ち進みたいところですね」

「そう言うだろうと思ていたヨ。まあこれはあくまでも確認ネ。実は今回トーナメント方式をやめてランダムな総当りに近いものをやろうかと思ているヨ」

「昔ながらのまほら武道会をそのまま、とはいきませんか」

「折角科学技術と魔法があるからネ。色々やてみたいじゃないカ。龍宮神社は会場にはするが、実際に戦う場所にはしない予定ネ」

「それは異空間でも使うのですか?」

「そんなところだヨ。使い手によては観客席に配慮もしなければいけないだろう?それに確実に舞台が毎回壊れるから、木の板の床は修理するだけ時間の無駄だし土が良いと思てネ。エヴァンジェリンに協力でも頼もうかと思ているヨ」

「なるほど、ダイオラマ魔法球ですか」

「その予定だヨ。応じてくれるかはわからないけどネ」

「確かにタカミチ君の本気の攻撃や詠春の剣技で普通の舞台は壊れるでしょうし、観客席への被害も考慮しなければなりませんからね」

「龍宮神社の備品をいちいち破壊するのは無駄な費用がかかるネ。それに試合数を増やせるからトーナメントである必要も無いヨ」

「それは私としては困るような困らないような気がしますね」

「ネギ坊主にサプライズとして戦う機会ぐらいは用意するヨ。それに戦うのはクウネルサン自身ではなくそのアーティファクトの人なのだろう?」

「……まあ、私の友ならどこでも良いといいそうですね。個人的にはできるだけ雰囲気のある場所でお願いしたいですが」

「……それは任せるネ。一応合意も取れたところで今日はこれで失礼するヨ」

「予め教えてくれてありがとうございます」

「何、当然ネ。私もクウネルサンには色々教わたからナ。特に重力魔法は良かたヨ」

「そんなに使えますか?そう言われると嬉しいですが」

「ただの炭素に超高圧力をかけてダイヤモンドにできるからネ!実験材料が安上がりで手に入るヨ!」

「フフフ、それはまた平和的な利用法ですね」

「何事も使い方次第ネ」

さて、最後にエヴァンジェリンかナ。

―アデアット―

《エヴァンジェリン、昨日の魔法生物の件は助かたネ。今度は別件で依頼があるのだが聞いてもらえるカ?》

《私も暇つぶしになりそうだからな。依頼とやらは内容を判断してからだ》

《まほら武道会の為に特殊なダイオラマ魔法球の作成をして欲しいのだがどうネ?》

《続けろ》

《時間差はせいぜい数倍で、短時間の経過で出入可能かつ、外から中の様子を見られるようにしたい》

《前者は相関関係にあるから調整次第で可能だろう。外から中を見るというのは夢見の魔法の感覚でいいのか?》

《できるならそれが一番いいネ。その応用で中継もさせて貰う予定ヨ》

《まあ面白そうだからやってもいいが、1から作ると学園祭まで少し時間が足りんぞ?》

《協力してもらえるようで感謝するネ。それならば魔法世界の何の変哲もない魔法球を用意すればいいカ?》

《幾つ用意するが知らないが高いだろうに》

《十数億程度なら私のこの願いを成就させるのには障害にはならないヨ》

《……分かった。好きにしろ。用意できたら私の所に持って来い。調整してやるよ》

《ありがとネ》

《調整するだけなら少しの手間で済むさ。一応ぼーや達のお披露目会のようなものになるだろうし、私もやぶさかではない》

皆協力的で助かるネ。
私も専用の端末やらスクリーンやら部屋にある科学迷宮空間の武道会の為の用意をしないといけないから忙しくなるナ。
その前に修学旅行だけどネ。



[21907] 30話 修学旅行
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 19:04
超鈴音が来るまほら武道会開催に向けても動き出し、こちらも月詠の脱走情報を元に観測し始めた。
脱走というと聞こえは悪いが、単純に戦いを求めて勝手に飛び出して言ったという方が正しいのだろう。
問題はその先で誰に出会ってしまうか、が最大の焦点。
神鳴流で飛び出したと言えば、神奈川県日向市という所にこれまた変わった人達の住まう女子寮かつ旅館であるひなた荘という場所がある。
そこの住人に神鳴流宗家であり師範としても腕の確かで、3-Aの1人の女子中学生に非常に良く似ている青山素子という、この春東京大学1年法学部に入学した人物がいる。
彼女が元々ひなた荘に来た理由は地元京都での諸々、主に姉等が原因だろうが、逃避もとい修行と称してやってきた。
何故この人を例に出すかというと、青山素子の持つ刀と、既に完全なる世界の残党、フェイト・アーウェルンクスが先月には日本に潜伏している可能性がある事とのか関わりが原因。
全てが分かっている訳でもない私としては、ひなた荘を観測することにはそれなりの意味があるように思う。
また、近衛門は京都神鳴流にもまほら武道会の情報を流すらしいが、実際どうなるかはともかく、ここの住人達も参加すれば良いと思う。
超鈴音達と同じようなマッドサイエンティスト……でもないが、様々な武装を開発、所持している太平洋に浮かぶモルモル王国出身の人物はまほら武道会に参加はしないだろうが……その超鈴音と葉加瀬聡美と会ったら何かが起きそうではある。

さて……例年通り麻帆良学園都市の調整に伴う停電も行われ、その翌日16日、修学旅行先が決定した。
女子中学生達は修学旅行といえば京都、とそう思っていたのだが……。

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今、朝のホームルームですがとうとう修学旅行先が確定します。

「皆さん、修学旅行の行き先は京都ではなくなりました」

予想はしてましたが、やっぱりそうなりましたか。
少し後ろを振り返ってみると神社仏閣マニアの綾瀬さんがショックで石化してます。

「「「「えーっ!?京都じゃないの!?」」」

「残念な人もいるかもしれませんが、事情があってイギリスになりました」

「イギリス?もしやネギ先生の故郷でありませんこと!?」

食いつきの早いいいんちょさんでした。

「そ、そうだよ!ウェールズ行くか知らないけどさ!」

「丁度私達海外旅行この前行けなかったしいいじゃん!」

「わーネギ君の故郷見に行こうよ!!」

こうなる事は予想出来ていましたが鈴音さんが学園長に言ったとおり誰も反対しませんでしたね。
春日さんが鈴音さんを微妙な表情で見ていますが、何となく感づいたのでしょうか。
誰も気にしていませんがパスポートを持っていない場合来週出発するには、普通発行までの時間が無いんですが……その辺りは麻帆良なので基本的に無視というかあっさり解決するので大丈夫です。
かくいう私もこの前自分から何も申請していませんが、きちんとパスポートは雪広グループから受け取ったのでどうなっているのかは気になりますが、気にする必要も無いでしょう。
この日、修学旅行の班分けも決めました。
普通5人班5つに1つ6人班という形なのですが、今回は海外という事で6人班4つに一つ7人班となり内訳は
1班はチア3人組+鳴滝姉妹+龍宮さん
2班が私含めた超包子組+春日さん、楓さんで7人
3班はいいんちょさん部屋3人+エヴァンジェリンさん、茶々丸さん、ザジさん
4班は明石さん、和泉さん、大河内さん、佐々木さん、朝倉さん、長谷川さん
5班は図書館島探検部4人+神楽坂さん+桜咲さん
となりました。
1班の鳴滝姉妹が楓さんと同じ班ではないのは、「楓姉がいなくても自立できるよ!」とアピールするためだそうです。
そのため龍宮さんが楓さんの代わりではないですが入っています。
1班の護衛は龍宮さん、2班はそうは思っていないかもしれませんが楓さん、3班はいいんちょさんがいるのでエヴァンジェリンさんという豪華キャスト、5班は桜咲さんという調整が一応なされています。ただ、4班は完全に一般人……明石さんは微妙に違いますけど護衛なしなのが不安ですが多分大丈夫でしょう。
龍宮さんから「前回も旅行だったが、護衛の面も強かったし今回は気軽に旅行するよ」と後で聞きました。

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何でこんなことになってんのかなー。
同じ班になったから何かあるだろうとは思ってたけどさ。
超りんの前でおしとやか決め込む必要はもう無いとは思ってたけど、なんで私の部屋使うんスか。
五月の部屋でもあるからまあいいけど……。

「さて、皆もう来週に迫たイギリスへの修学旅行だが渡しておくものがあるネ」

「超さん、班長を呼んだというのでもなさそうですわね?」

集まってんのは2班の私と超りん、相坂さんに楓と他班からたつみー、いいんちょ、長谷川さん、桜咲さんなんだわ。

「私にとて都合が良さそうな人を選んだだけネ。早速だがこれを1人1つずつ修学旅行に持ていて欲しいヨ」

お?この前とはまたちょい違う携帯?
端末なのか?

「超、これで緊急時に通信を取れということか?」

「龍宮サンは話が早くて助かるネ。海外だから皆の携帯も全員使えるとは限らないだろう?それはトランシーバー、と言うと語弊があるが確実に連絡が取れるようになているから、迷子やもしもの時にでも使うといいヨ。何故?と聞かれても私の実験の1つだと思てもらえればいい」

これには不思議通信ついてんのかな?
というか私は超りんからアメリカ行った時貰った携帯そのまま使ってるし必要なのか?

「やはりそういう事か。分かった、借りさせてもらう」

「流石超さんですわね。ありがたく使わせて頂きますわ」

「超さん、お借りします」

「うむ、この後は私達の班で予定を立てるからあやかサン達は自分達の用意をするといいネ。時間を取らせて済まなかたナ」

で2班一部だけが残ったんスけど……。

「楓サン、悪いが私の班は誰かから襲われるかもしれないからよろしくネ」

やっぱまたそうなるんスね……。
くーちゃんに言わない理由はあれか、頭の問題か。

「ほう、襲われるとは穏やかではないでござるな」

片目開いたー!!

「行てみないと分からないが、その為楓サンにもこの端末を渡しておこうと思てネ」

「超殿、先程の真名の物言いにさよ殿と美空殿がいるのは、2年の時の旅行に似ているとお見受けするが関係あるのかな?」

「そう考えてもらうのは自由ネ。甲賀の中忍長瀬楓サン」

やっぱマジの忍かー、てか中忍?上忍まであんの?

「拙者は忍者ではない。……とは言えないようでござるな。子細は分からぬが心得ておこう」

両目開いたー!!

「甲賀最上位の中忍にそう言てもらえると助かるヨ」

また顔読まれた?中忍までしかないのかー。
ってその年で最強!?

「しかし拙者このような機械の使い方は詳しくないでござるよ」

「そうだろうと思ていたから必要な機能については説明しておくネ」

「これはかたじけない」

突然端末の使い方講座始まったし……。
ん、不思議通信はついてないのか。
本当にトランシーバーみたいだな。
緊急時には互いの現在位置がわかるのか、いや、どういう原理かは知らないけどGPSみたいなもんスか。
うーん、前回の旅行は本当に贅沢の限りを尽くしたけど流石に修学旅行だから全てが豪華って訳じゃないんだよなー。
飛行機はファーストクラスではないし、宿泊施設を調べてみたらアホみたいに高いところでもないみたいね、部屋によるけど。
ま、後半でウェールズに行くみたいだし別にいいか。
ネギ君の母校の魔法学校は流石に行かんだろうなー、もしかしたら普通の学校と騙して行くのかもしれないけど。
それより今回付き添いの先生は、新田が来ない!
夜これは遅くまで起きてられるわ!
その代わり葛葉先生が入って、ネギ君、しずな先生、瀬流彦先生、神多羅木先生って厳重だな。
あれ……どうなるんだろう。
ま、なるようになるか!

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旅行の前日にネギ先生と近衛さん、桜咲さんが東京に出て何かを買ったかと思えば神楽坂さんの誕生日プレゼントだったりと言う事があったようですが、遂に修学旅行出発当日です!
修学旅行は4月22日に出発してから4月27日の朝飛行機に乗って4月28日の朝に帰ってくる予定です。
8時に皆で駅から成田空港まで行き、飛行機の出発は10時から少し時間があり、超包子の支店でしっかり皆腹ごしらえをしていました。
皆は初めて超包子の支店が麻帆良の外にあるのを見て驚いていましたが、今更なんですよね。
既にアメリカではシアトル支店が出てからすぐに人気が出て店舗数も順調に増加して、工場から迅速に運べる範囲内ですが4店舗までに増えています。
そんなことはさておき、飛行機自体には何か不審な事はないかと目下観測中ですが、流石に爆弾やら武器を持ち込んでる人はいま……いますね。
上手く収納してあるみたいですけど、龍宮さん、桜咲さん、楓さん、あと先生達です。
少なくとも私達に害はないので一安心です。
因みに10時に出発するとイギリスまで12時間強飛行しても、またもや時差の関係で到着するのは同日の昼午後1時台になるんです。
当然皆機内では話したりしてますが、とにかく長い時間です。
着いた時の感覚では夜10時なのに昼に戻るので仮眠を取るなり我慢するなりしないと普通は大変でしょうね。
私はあまり関係ないですが。
最初は皆どこを班の自由行動で見てまわるかで雑誌を見ていたりしていたのですが次第に飽きてきたり、体中が痛くなってきて身体を少し動かしたりと大変そうです。
数時間が経過して完全に皆沈黙したようで、我慢して起きている人はいず、皆昼寝してました。
私もこればっかりは暇だったので時間感覚を小さくして飛ばしておきました。

……無事ロンドン・ヒースロー空港に到着し、体中が痛い皆は思いっきり伸びをして、柔軟体操を行ないました。
そのまま、まずはホテルに向かう事になり、用意されていたバスに乗って30分ほど行ったところでリージェントストリートにあるザ・ラムガンに到着です。
外観はとにかく大きな建物で、日本によくあるビルとは正反対の貫禄あるヴィクトリア調の建物です。
来て早速写真を撮ろうとしている人がいますが、すぐ玄関の所から撮ってもうまく全体は収まりませんよ。
因みに私達が宿泊するのは基本的に2人部屋で、31人のため3人部屋が一つですね。
早速荷物を置いてどうするかと言えば、遅めの夕飯という名のお昼ごはんを食べて一先ず今日は周囲の散策となりました。

「くーふぇさんどっち行きますか?」

「古が班長だから決めるといいヨ」

「うーむ、あっちアル!」

適当に決まりました!

「ここの通りの曲線美は日本じゃなかなか無いね」

ストリートは南北に2km程の長さなので散歩には丁度良いです。
ホテルのすぐ近くには教会もあります。

「それに色んな種類のお店がズラっと並んでます」

本屋、ベーカリー、何種類もの服飾ブランド点の数々、化粧品、雑貨、アウトドア、ジュエリー、玩具店、F1の自動車の展示、小さなOS会社とパソコンのシェアを二分する林檎社の直営店等々歩いて回るだけでもなかなか楽しいです。

「楓さん何か考え事ですか?」

「いや、鉄の塊が飛んだりするとは思いもよらなかったもので……」

え?今更?山奥で育つと飛行機が飛ぶとも思えなかったんですか……。
私としては自力で空中ジャンプしたり、1km近く一瞬で移動したり分身する方が思いもよらないですけどね!

「楓は乗るときも同じ事言てたアルね」

「飛行機っていうからには飛ぶよ、うん」

「意外でござるな……人が自力で飛ぶ方がまだ信じられるでござる」

「それは無いヨ」

くーふぇさん、春日さん、止めの鈴音さん3連弾でした。
そんなこんなで裏通りにも行ってみたら占いをやっている女の子を発見しました。

「占いかーイギリスらしいなー。魔法使いみたいな格好だね」

なんて春日さんがぼそっと言ったんですがもの凄くビクッと女の子はしました。

「いえ、占い師はこの格好と決まってますので。外国から来た方達のようですがどなたか占いをしましょうか?」

精霊に占いって効くんでしょうか。

「あ、はい、私お願いします!」

「ではお名前と生年月日をお願いします」

生年月日……。

「相坂さよ、1925年10月4日です!」

「さよ、それ冗談アルか?」

「さよ、からかては駄目ネ」

し、しまったー!!
調子に乗りました!
生きてたら既に今年で78歳ぐらいですよ!

「あ、冗談ですよ、あははは」

「……死相?違う、既に死人?ええええ!?ハッ!いえ、なんでもないです!!ごめんなさい!」

占い師って私が死んでること分かるんですか……。

「さよ、身の回りには気をつけるネ」

「さよ殿、拙者がついているからこの修学旅行は安全でござるよ」

「ありがとうございます。あの今の気にして無いので大丈夫です。次くーふぇさんやってもらうといいですよ」

「うむ、よろしくアル」

春日さんが何か気づいたみたいなんですけど、苦笑いしてますね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

あーこの子あれだ、魔法使いだわ。
占い魔法普通に使ってるね。
しかもなんで相坂さん自爆した。
知らない人間にはブラックジョークだけど、知ってる人間としてはなー、複雑すぎるだろ!!
まあ、くーちゃんなら普通の占いになるっしょ。

「古菲1989年3月16日生まれアル」

「はい、分かりました。…………少年と仲間たちとの仲が困難な旅の中で良くなるそうです」

ピンポイントすぎるーっ!!
どう考えてもネギ君しかいないじゃん!

「それネギ坊主かもしれないナ。仲良くなれるらしいヨ」

「もうネギ坊主とは私は仲良いアル!困難な旅ってこの修学旅行の事アルか?」

「……ネギ?」

この子もしかしてネギ君知ってんのかな。
何か面白くなってきたッス。

「次楓やってもらいなよ」

「拙者占いというものは初めてでござるよ。よろしく頼むでござる」

それにしても葉加瀬は全く占い興味無しだなーどこ見てんだろ。
流石科学者。

「長瀬楓1988年11月12日生まれでござる」

「は、はい。…………え、少年の面倒を見る中で困難な旅の支えになるそうです」

「やはりネギ坊主は困難な旅をするでござるか。人生とは常に旅のようなものであるからな。占い感謝するでござるよ」

そう解釈するか。

「ネギ坊主は大変アルね」

「かわいい子には旅をさせよというからナ」

ネギ君って何、何か旅すんの?
もしマジだとしても巻き込まれたくないなー、超りん達よりも面倒そうだ。
占い魔法の有効期間ってどれくらいだったかな。
何かこの子ネギ君の名前出るたびに反応してるけどなんか知ってるっぽいな。
ここは一つ。

「お嬢ちゃん、この写真に写ってる少年にもしかして心当たりある?」

携帯に保存してある集合写真見せてみた。

「な、な、なんでネギが!?ま、まさかあなた達ネギの生徒なの!?」

「ネギ君は私達の担任だね。で、ネギっていうのはネギ・スプリングフィールド君でいいのかな?」

「そ、そう、そのネギ・スプリングフィールドよ!」

食いつき方半端無いなー。

「今ね、私達修学旅行でイギリスに来てるんだ。良かったらネギ君呼んでこようか?まだまだ時間あるし」

「え!?え、えーと、それならお願いします」

ネギ君を知っていて魔法使いの修行っぽい事で占い師となると……幼馴染で同級生って所か。

「ネギ坊主呼ぶのは任せるネ!……あ、もしもし、ネギ坊主か、今リージェント通りの裏通りに来ているのだがネギ坊主を知ている女の子がいてネ。是非会いたいと言てるネ。……ん、名前?そうか、お嬢さんの名前は何と言うのかナ?」

「アンナ・ユーリエウナ・ココロウァです」

「分かたネ。ネギ坊主、アンナ・ユーリエウナ・ココロウァだそうだヨ。おおっ、いきなり大きな声出されると驚くネ。場所はメールで送るから少し待つといいヨ。それではナ」

「超りん、ネギ君何だって?」

「アーニャがこの近くに!?って驚いていたヨ」

「ほほう、アーニャとは愛称かな。アーニャちゃん、ネギ君とどんな関係?」

「ど、どんな関係って別にただの幼馴染です!」

顔が赤いから何かどう取ったらいいかよく分かんないけど、会えるのは嬉しいんだろな。
ネギ君来るまで五月も占いやってもらったよ。
未来は明るいって言われてたからそのまま夢に向かってまっしぐらだな。
私と超りん、葉加瀬はやらなかった。
何かマズい気がしたし。
しばらくしてネギ君だけかと思ったら大量に皆が寄ってきたわ。
全部班揃ってんじゃないか?

「あっ本当にネギじゃない!」

「ほ、本当にアーニャだ!久しぶり!ロンドンで占いやるって聞いてたけどここでやってたんだね!」

「そ、そうよ!ってかネギ!こっちに来るなら来るって予め手紙の一つぐらい送って来なさいよ!」

おお、さっきまでとは一転お転婆少女になった感じだな。

「ごめんごめん、でも急に決まったから送っても間に合わなかったよ。僕は今日から数日こっちで皆の修学旅行なんだ。ウェールズにも行くんだけどアーニャも一緒に来ない?」

ネギ君それ何かのデートのお誘いかい?

「え?でも修行があるし……」

「でもずっとやってなくちゃいけないんじゃないでしょ?」

「そ、それはそうだけど……」

「そんなに嫌だったら、別に無理にとは言わなけど」

「い、嫌じゃないわよ!行くわ!行くったら行く!」

微笑ましい子供の言い合いッスねぇ。

「ネギ、その子あんたの知り合いなの?」

「アスナさん、アーニャは僕の幼馴染なんです」

「へー、ネギ君幼馴染いたんかー」

「まあ、ネギ先生の幼馴染ですって!?」

「なになに?これは何か面白いネタのニオイがするよ!」

朝倉は変わらんなー。

「ハッ!ネギ!エヴァンジェリンさんって言う人も来てるの?」

「マスター?うん、マスターなら……後ろにいるけど呼ぶ?」

おおっとこれは泥沼か!?

「おや、なんだぼーやの幼馴染か。ほう、それなりの水晶を使っているようだな」

流石エヴァンジェリンさん、貫禄が違うッスね。
出てくる時のオーラが輝いてるし、何がどう悪しき訪れだとか闇の福音なのか教えて欲しいわ。
どちらかって言うと神々しいの間違いだわな。
ってあれ?
一応封印されてんじゃなかったっけ?
あーでも京都行ってたし学園長がまた何かやったのか。

「あ、あ、あなたがあ、あ、あの有名な!?」

「……有名かどうかは知らんが落ち着いたらどうだ」

「そうだよ、アーニャ、落ち着きなよ」

「う……うん、分かったわ」

今皆、ネギ君の幼馴染という登場に物凄い注目してるから結局エヴァンジェリンさんの話は適当に終わったわ。
それより騒々しい3-Aの連中がよってたかってネギ君とアーニャちゃんに色々聞いてるし。
ここ一応裏通りなんだけどうるさいわー。
たまに通る人がめっちゃ見てるよ。
つかアーニャちゃん会話する時皆の胸見すぎ。
千鶴、楓、たつみーあたりはもうどんだけって感じだけど、朝倉、パル、アキラ、いいんちょ、ゆーなあたりも女子中学生の次元超えてるからなー。
ゆーなの奴なんか最近ブラがきついとかほざいてたし、何だ即席ホルスタイン。
成長期自重しろ。
……それを苦々しい顔をして見ているかと思えば、私以下ゆえ吉あたりまで見て安心したような顔すんのやめないか。
大体アーニャちゃんネギ君と同じでまだ二次性徴も始まるか始まらないかぐらいだろ。
そんでもってこんな所で一人で占い師やって何処に住んでんのかと思ったら近くで下宿してるらしい。
流石にウェールズにいちいち帰ったりしてられないもんね。
何か明日にでもネギだけじゃ頼りないからロンドンの案内手伝ってくれるって言ってるんだけどどう考えても心配なだけだろー。
占い師っての聞いて興味ある皆順にやってもらったけど、妙にピンポイントだったりするんだけど何なんスかね。
このかは占い研の部長だから、占いって聞いた瞬間に目光ってガンガン絡んでるわ、急に仲良くなった桜咲さん巻き込んでるし、何か二人もネギ君と旅に出るような結果だった。
聞いてないけどこのか京都行って魔法の事知ったのかな。
地味に他の皆もかすってる感じだから何とも言えないわ。
困難な旅がこの修学旅行なのかそれとも別なのかもよく分かんないし。
ただアスナだけ占いができなかったみたいなんだけどなんでかね。

そんなこんな気がついたらぶらぶらしてたのも結構長かったのもあってかもう夕方だったからホテルに皆で帰還したわ。
私もだけど微妙に皆眠そうだよなー、すんごい長い時間飛行機乗ってて夜だろって感覚なのに着いたら昼だし仕方ないか。
超りんの部屋3人は全く眠そうじゃないけど、いつも夜更かしどころか徹夜してるからだな。
私の部屋は相坂さんと一緒でくーちゃん、超りん、楓が唯一の3人部屋だったな。

「相坂さん超りんと一緒じゃなくて良かったの?」

「すぐ隣の部屋なので大丈夫ですよ。あの、春日さんの事これから美空さんって呼んでいいですか?」

ほっ、なんか初々しいなこういうやりとり。

「いいよー。じゃあ私もさよって呼ぶからよろしくね」

「この前の旅行から言おうかと思ってたんですけど機会が無いというか私が幽霊だっていうのでひかれちゃったかなーと心配で」

さよも悩みぐらいあるんだな。
そういや髪の毛の色とかも日本人というには青白いよな。
まあ私としては綺麗だとは思うな。

「正直あれには驚いたよ。さっきの占いもだけど」

「さっきはうっかりしてて本当の事を言っちゃいました」

たまに何も無いところで転んでるのもうっかりか。

「やっぱりそうかー。ところでまたホテル狙われたりするのかな?」

「うーん、どうでしょう。目立つ行動をしたら寄ってくる可能性はありますけど明後日から2日間ウェールズに移動するからそこまで心配する必要はないと思いますよ。私も一応視てますし」

やっぱ千里眼便利そうだなー。

「目立つ行動って言っても3-Aだとどこでも目立つよね……。超りん自身が目立つ行動しなければ大丈夫か。それで聞いていいかわからないスけど、2年の学期末にネギ君の正式教員採用の監視って学園長から頼まれてたり?」

「んー、残念ながら私じゃないです。遠見の魔法ってありますし」

なるほど……でもそれで四六時中ネギ君監視してる学園長もどうかと……。
麻帆良の幽霊やってると、魔法も相当詳しいのか。

「そうかー。正直あの後偶然か超りんがピンポイント講座上げてきたから見てたのかなと思ってさ」

「鈴音さんはSNSの効果を見たかっただけみたいですよ」

超りんは常に実験の感覚なのか。

「超りんらしいね。それにしてもSNSあっという間に流行ったよねー。もう中等部どころか大学まで広がったみたいだし。私の陸上部なんかあれでスケジュール管理もするようになったし」

ツールも豊富で便利なんだよなー。
皆で書き込めるカレンダーみたいのもあるし。

「たくさん使ってくれると嬉しいですね。麻帆良の外にも広がってますし、来月にはアメリカで使われ始めるでしょうから世界規模になりますよ」

アメリカに行った時の有名企業かー。
あれ?

「さよも開発したの?」

「私計算は得意中の得意なのでその方面で手伝いました」

そういやさよの数学のテストの終わる速度異常だもんな。
60分のテスト時間なのに物によっては10分ぐらいで終わってるみたいだし。
超りんと葉加瀬より早いのは凄いと思う。

「超りんのとこの部屋は凄いね。普段からだけどテストも今年また3位までずっと独占したら伝説になるよ」

「そう言えば12回連続でしたね」

「もうそんな回数になってたかーマジ凄いな。おっともうこんな時間か、そろそろ私は寝るよ、さよおやすみー」

「はい、美空さんおやすみなさい」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

昨日は無事に終わたネ。
2日目の今日はいよいよロンドンの自由観光ネ。
基本的には地下鉄とバスをうまく利用して好きなところを見る事になているヨ。
でも出発前に葛葉先生に呼ばれたネ。

「超鈴音、私達引率の教員がそれぞれの班に護衛につくのは無理ですから注意は怠らないように」

「一応皆との中学の修学旅行だからそういう事を考えずに済ませたいナ。護衛には私の班の楓サンという忍としての能力は随一の人がいるから大丈夫ネ。それに今回は無闇に目立たりもしないヨ。それより4班だけは見ておいた方がいいネ。誰も戦力がいない」

「それは私達も心得ています。安心しなさい。私は立場上5班について行きます」

「分かたネ。特殊通信を起動しておくからもしもの時は携帯で連絡するヨ」

「分かりました。気をつけて楽しんできなさい」

「忠告感謝するネ」

さて、出発するヨ。
オックスフォード・サーカス駅からあちこちに行く事になたが最初は世界最大の観覧車ロンドン・アイからロンドンを見渡す事にしたネ。
最高で地上135mに達し30分間で一周する上その高さからロンドンの有名な建築物がいくつも見られるヨ。
今は午前だから普通だけど、夜になたら夜景が綺麗だろうネ。

「テムズ河に架かってる橋なんかも壮観だねぇ。そういや楓は麻帆良の木のてっぺんまで登ったことあると思うけどこのくらい大した事無い?」

「そうでござるな。神木の半分ぐらいの高さであろう。わざわざこの箱に入らなくても大丈夫でござるよ」

一般人にはありえない感性だが五月もハカセも超包子の屋台は飛んでたりするし別に驚かないカ。

「は、箱かー」

「これだけ見晴らしがいいなら私も麻帆良に帰たら木登りするアル!」

「ネギ坊主達と共に登るのは良いでござるよ」

美空、自分で話題に出しておいて微妙な顔するナ。
箒に乗れば似たようなものだろう。
次はテート・モダンというピカソやダリのような有名なアーティスト達の美術作品が置いてあるところが近いのだが、このメンバーはあまり芸術には深くないからパスだたヨ。
古が見ても「うー良く分からないアル」で終わりそうだしナ。
どちらかというと最近古は歴史には興味があるみたいネ。
これもネギ坊主の努力のお陰だナ。
続けて少しロンドン中心部から離れるのだけどグリニッジに向かたネ。
世界標準時間の都市として有名だが、ここ一帯だけでも歴史的建造物が多くあるし、その美しさは素晴らしいヨ。
今は稼働していないが天文台の周りは穏やかな緑の多い公園にもなているし少し落ち着くネ。

「おお、凄く広い公園アル!美空、あの建物まで競争するアル!」

「え?うん、よーし陸上部エースの名にかけて負けないよ!」

公園を爆走していく二人だがアホだナ……。

「超さん、私も行ってきますっ!」

「ハカセ?」

まさかハカセが走ていくとは思わなかたネ。
確かに科学者としても何か感じるところがあるのだろうナ。

「何やら面白そうでござるな。拙者も行って来るでござるよ」

「皆元気ですね」

「元気すぎる気もするけどネ」

結局天文台までの競争は美空の勝ちだたナ。
気がつくと楓サンが天文台の上に登ているのだが一応世界遺産だからやめるネ。
そのまま国立海洋博物館を見て大英帝国時代の海洋帝国として栄えた頃を少し感じたり、公園にある昔の海洋都市時代に世界最速を誇った帆船カティーサーク号を見たヨ。

「お昼はどこで食べますか?」

「サウス・バンク・センターでテムズ河を眺めながら食事が取れますよ」

流石イギリスの食事にも興味を持ている五月だネ。

「またロンドン中心部に戻るネ」

着いてみれば食事も勿論したが総合芸術施設でもあり、またもやモダンアートが見れたり、コンサートも行われているようだがそれはやはりパスして施設を見る程度にとどめておいたネ。

午後一番は今度は大きく西に移動してキュー・ガーデンという今年2003年に世界遺産登録された植物園に行たヨ。
とにかく広いと言えば広く、東京ドーム数十個分の広さはあるのだがつい春休みに火星の極冠を蒸発させたのを思い出すとさほどでも無いと思えてしまうナ。

「ここも広いでござるな」

「世界遺産になているから競争は駄目ネ」

「そうだったアルか。危なかったよ」

元気が良すぎるのも考えものネ。

「あっちに見える温室でかいなー」

集まっている植物は5万種近く世界的な植物研究機関としても機能している場所だヨ。
イギリスでも熱帯雨林の植物があて少し場所を錯覚しそうネ。
グリニッジが美しいとしたらこちらは華やかな感じだナ。
大温室を見て周り、古が反応する建物があたヨ。

「超、何故中国の建物がある?」

10階建ての細長い中華風の塔ネ。
パゴダというが要するに仏塔、ストゥーパだナ。

「あれはウィリアム・チェンバーズという人が250年前に建てたパゴダたヨ」

「中国の建築を真似したアルか。見事ね」

「意外と馴染んでいるでござるな」

外国の文化を好き好んで取り入れるとこういうこともあるネ。
丁度午後のお茶を飲みたい時間になたから園内のティールームで一息ついたヨ。
五月は飲み物にも興味を持たようだが、向上心があるのは良い事ネ。

時間に限りがあるからまたロンドン中心部に一気に戻り、午前にロンドン・アイから見えたが、またもや世界遺産のウェストミンスターに行たヨ。
寺院の方は立派なゴシック建築だと思たらそれで終わりだが歴史的有名人が多数埋葬されている場所でもあるネ。
万有引力を発見したアイザック・ニュートンも眠ている。

「ここに眠ってるんですか」

感慨深げだが、さよ、埋まりたいのカ?
またその隣には現在も議事堂として使用されている議会政治発祥のウェストミンスター宮殿があるネ。
南北の長さは265m敷地面積は3万平方mを超える中には多数の部屋、階段、中庭もある。
更にその隣には聖マーガレット教会と世界遺産のオンパレードだナ。
実際2月に外国文化研究会で飛び出したのはこういう有名建築のある場所の方が適していたとは思うが今更ネ。
そのまま更にロンドン中心部へと進み、真っ白い外壁のバッキンガム宮殿を背景に皆で写真を取り、ビックベンを背景にまた写真を取りと思い出を増やしたネ。
時間が押して来たがドーム型をした塔が特徴的なバロック建築のセント・ポール大聖堂を周たヨ。
最後に無数の立派な柱で支えられ、700万点ものコレクションを有する大英博物館は入場は無料だからギリギリまで興味のある美術品や遺跡の品を見たり、レプリカグッズのコーナーでお土産を買ておいたヨ。
一日で大体ロンドンをテムズ河を中心ラインとして一周したと思うネ。
何より良かたのは誰も緊急連絡をしてこなかた事だナ。
ホテルに戻て夕飯をクラスの皆と食べたがそれぞれの班は何処に行って何をしたと話すのに夢中だたヨ。
ネギ坊主とアーニャは明日菜サン達の班と行動していたみたいだが、案内している筈が子守のようになていなかたか気になるネ。

「しかし今日は平和でござったなぁ」

「何も起きなくて良かたヨ。修学旅行が台無しでは寂しいからネ」

「超何の話アルか?」

「うむ、今日は楽しかたという話ネ」

「そうアルか!私も今日は皆とたくさん周れて楽しかったアルよ」

古には危険性を知らせなくて良かたナ。
明日は朝からウェールズまでバスで移動して2日間滞在する予定だから早めに寝ておこう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

昨日は超りん達が綿密に建てた計画通りあちこち見て回れた。
こうイギリスらしいなーっていう写真とか沢山取れたし、これが修学旅行京都とかハワイだったらそれはそれで楽しかったろうけどこれはなかなか良かった。
朝早く8時前には用意されてたバスに乗っていざウェールズへ出発よ。
一応修学旅行って事で直接ネギ君の故郷に向かうのではなくウェールズの首都カーディフに行ってお城を見るんだとさ。
でも、移動に3時間かかるってんだからなっがいわー、バスの中で企画やらないとやってられないね。
そういや、いつのまにやらアーニャちゃんがバスに混ざって馴染んでるねぇ。
ゆえ吉達のところが落ち着いたか。
なんで言葉通じてるの?とか不思議に思ったら負けだから。
なんかカラオケ始まったら、どうも日本の曲ばっかで、なんで?と思ったら超りんの持ってきてためっちゃ小さい端末でやってるらしい。
色々機能搭載する実験でもやってんのか。
神多羅木先生の顔が見えねースけどどんな顔してんだろな。
長いバス移動も一旦終わってようやくカーディフ到着。
でっかい城壁だなーと思ったらここが城か。
何やら説明を受けたところ、内部では写真撮影禁止だから気をつけろとの事。
城壁内は石畳がズバーっと走ってて、中心の古墳みたいの上にうまくそのサイズレベルの城が建ってた。
昨日からだけどあちこち緑が多いねぇ。
石畳以外は全部草地だし。
そこそこブラブラしたところで昼になったから食事してまた出発。
カーディフがロンドンからそのまんま西にズズーっと進んだところだけど、今度は北の方に向かってくみたいね。
しばらく進んだら道の右も左も前も後ろも山、山、山のラッシュ。
なんか方向感覚を狂わせようとしてるんじゃないかとも思うような走り方してんだけどネギ君の故郷って言うか一応メルディアナ魔法学校近いから秘匿か何かの関係か。

「ネギ達の故郷ってどんなところなの?」

「えーと、特にこれといって特徴は無いですけどとにかく山ばっかりの所です」

「もう山しかあらへんよ?」

「……そろそろ着くと思うわ」

午後も午後って時、やっとこさ到着したわ。
やっぱ長閑なケルト的田舎風景がどっこまでも広がってる場所だった。
シアトルのスキー行った時の雪山とかジョンソン魔法学校の周辺もかなり良かったけどこういうのも良いねぇ。
誰か女の人いんなーと思ったらアスナといいんちょになんとなく似てるっつーか、3人並べたら親戚で通りそうだな。

「お姉ちゃーん!!」

「ネギ!ああ、会いたかったわ!」

ネギ君が飛び込んでったかと思ったら振り回されてんのはお姉さんの方かい。
普通逆だろ。
感動の再会ってところ、ネギ君が私達クラスの事紹介してくれたわ。
話し方はなんとなくいいんちょに似ているがそこまでお嬢様的でもないね。
すんごい美人のお姉さんだけど何歳だろ。
私達よりは年上なのは分かるけどな。

「あれがネカネサンか」

「ネギ先生が初めていいんちょさんに会った時に言ってましたね」

もう去年の夏だもんなー。
そろそろ一年じゃんか。
時間立つのはえーわ。

「明日菜サンともどことなく似てるネ」

「ニオイが似てるって話ですけど嗅がせてもらいますか?」

「DNA的に近いかもしれないから髪の毛のサンプルでも貰えると本格的に研究できるヨ!」

おいおい……。

「ほう、ネカネ殿とアスナ殿のニオイが似ているのでござるか……どれ」

犬でもないのにクンクンしてんだけど分かんのか?
忍者ならなんでもOKって訳じゃないだろーに。

「楓サン結果はどうネ?」

「こ……これは。そっくりとは驚いたでござるな、まことに親戚なのではござらんか」

両目開いたよ!
そんなに驚いたんスか。
両親いないアスナにとっちゃそれ重大発言だろ。

「ふむ、楓サンの嗅覚でそうなのだとしたらこれは確かめてみた方が面白そうだネ。……採取しに行くヨ……」

あ、やべースよ。
超りんの目がマッド化してる、あれは実験動物を見つけたような目だわ。
じりじり距離詰めてるし。

「さよあれほっといていいの?」

「欲望の赴くがままに対象を研究しつくすことこそ真理にたどり着く近道だそうです」

それっぽいこと言ってごまかしてるだけだろ。

「はははー、もう好きにすればいいスよー」

「超さんの研究分野はロボットだけではないですからね」

中学生で本格的どころかマジもんのロボット研究してる葉加瀬も変わんないスよ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ふむ、触れてはいけないパンドラの箱のような感覚がひしひしと伝わてくるが髪の毛の一本ぐらい採取してもどうという事は無いネ。
ネギ坊主の髪の毛は今までに採取するタイミングはいくらでもあたから持ているし、ここは一つミッションをやり遂げるヨ!
どう怪しまれないように髪の毛に触らせてもらうかだが……。

「ネカネサン、初めまして。私は超鈴音ネ。いきなりで済まないのだけど、髪型を明日菜サンみたいにしてくれないかナ?」

「あらまあ、あなたが超さんですか。ネギからの手紙で色々お世話になったと聞いています。面倒を見ていただきありがとうございます。髪型をアスナさんのようにですか、ええ、構いませんわ」

よりお淑やかなあやかサンのような感じだナ。

「これからもネギ坊主を陰ながら支えるヨ。髪型は私が言い出したから私が結いてもいいかナ?」

「結いてくださるんですか?ではお願いいたします」

少し腰を屈めてくれたネ。
フフ、これで後は髪を結いでいる間に仕込み刃で一本拝借するだけだヨ。
なんとも綺麗な金髪で良い髪質しているネ。

「手入れが行き届いているいい髪だネ」

「そうですか?嬉しいですわ」

サッと一本削てと……。
できたネ。

「結いたヨ。明日菜サン!少しこっちに来てくれないカ?」

「超さん何ー?ってお姉さんの髪型!」

「アスナどうしたん?あー、ネギ君のお姉ちゃんの髪型アスナと一緒にしたんか。アスナ並んでみたらええよ」

「う、うん」

「おーいネギ坊主!少し二人を見るネ!」

離れたところで何やら話こんでいるから振り返らせないとナ。

「超さん?ええっ!?アスナさんが2人!?ってネカネお姉ちゃん!?」

「何なにー。あー!凄い似てるよアスナ!」

「頭の良さは似て無さそうだけどなー」

「うるさいわよ!!」

皆でバシバシ写真に撮て保存しておいたネ。
髪の色は違うが誰が見ても似ている以外の言葉はありえないナ。

「ネカネサン、ご協力感謝するネ。もう解いてくれていいヨ」

「そんなに似ていましたか?私も楽しかったです。紐ありがとうございました」

「手間をとらせたネ」

さて、目標も達成できたし面白いものも見れたヨ。
戻ろうかと思たら今度はエヴァンジェリンか。

「手紙でやりとりした事があるがこうして会うのは初めてだな。……私がエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだ」

「まあ!初めまして!ネギの姉のネカネ・スプリングフィールドです。素敵な映像たくさん拝見しました!握手して頂いて構いませんか?」

どれだけ気に入たのだろうナ。

「ああ、こちらこそ挨拶しておこうと思っていた」

エヴァンジェリンの右手を両手で包んで握手してるヨ。

「あの……それで……」

「細かい話はまた後にしよう、ここでは場が悪いからな」

「ええ、分かりましたわ」

魔法関連だろうナ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

この後野原でバーベキューしたりして過ごし、班分けがあんまり意味なくなりましたが、かなり楽しかったです。
食べ物もイギリスはどうのと聞きますがそんな事なく美味しかったです。
今日は皆でレンガ造りの大きな宿?
なんですかね、そこで泊まりました。
明日はネギ先生の母校を見に行けるという事なんですが、認識阻害全開にするんでしょう。

《もしかするとウェールズ滞在中に何か起きるかもしれませんから気をつけてください》

これはキノから通信ですね。

《キノ、どういう事ですか?》

《日本で完全なる世界の残党、フェイト・アーウェルンクスを探しているのですが見当たらない……ので、もしかしたらそちらに行ってるいかもしれない、という事です》

《ふむ、フェイト・アーウェルンクスか……。しかし、私が直接戦うという選択肢はありえないのだがここの警備は厳重だろう?心配する必要あるのカ?》

《エヴァンジェリンお嬢さん並に高位の術者ですから、結界程度簡単に破ると思います》

面倒な敵ですね……。

《今日来たばかりでここがバレているなんて事あるんですか?》

《可能性は十分あります。一応大分前にイスタンブールの魔法協会を調べましたが、偽造だとは思いますが名前だけは記されていたので地球にいるのは間違いありません。彼の者は、ネギ少年の故郷での出来事も超鈴音と同様知っている筈です》

《ネギ坊主の幼少に住んでいた村一つが全滅したという話カ》

《石化した村の人々はメルディアナ魔法学校の魔法的処理をされた地下に安置されていますが》

《……それって治せないんですか?》

《私やさよなら術式を解析して反転させる事で治せるでしょう。方法としては精霊体で直接乗り込んで解除して逃げるだけでもいいですが、この旅行中にそれをやるのは禁忌です。それにそもそも私達が手を出すのはこの問題に関してはよく有りません》

《怪しまれるというのもあるしやめた方がいいナ。後者の言いたい事は分かるヨ》

《……そうですよね》

《そういえばネギ坊主は攻撃系の魔法ばかり習得しているようだが、石化解除の方法を探ろうとはしていないナ》

《それはネギ少年が村の人達が石化したのは知っていても、その後無事に保管されている事を知らされていないので、全員死んだのだと思っているからです》

《それが理由でネギ坊主はどこまでも強くなろうとしているのカ》

《どこまでもと言っても……まだ当時のナギ少年程強くもないですから、間違っている訳でも正しい訳でもないでしょう》

《つくづく困た一族だネ》

《鈴音さんも同じじゃないですか》

《はは……それを言われると困るナ》

《しかし、今晩は大丈夫だと思います。起きるなら明日でしょう》

《一般人のフリしているに限るナ。ネカネサンの髪の毛も手に入れたし無くさないようにしないとネ》

《それはまた……私も知り得ていない世界の謎の1つに触れていますね》

《フフ……私は興味が尽きなくてワクワクするヨ》

《鈴音さん、採集しているようには見えませんでしたけど髪の毛結っている時ですか?》

《そうネ。あの時仕込み刃でパッと採集したネ》

楓さんみたいな仕込みですか。

《あれは違和感なかったですねー》

《怪しまれたら大変だからネ。しかし襲われると言てもエヴァンジェリンがいるから何も問題なさそうだナ》

《京都の時とは違い、立場的に一応強力な魔力制限をかけてますので戦力にはなりません》

《そうなんですか!?》

《ただ危なくなったら近衛門殿が判子を押すと解除できますので大丈夫です》

《その伝令は私がやればいいんですね》

《そうならないことを祈りたいですが》

《さよ、頼むネ》

《はい、分かりました!》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ネギ君の故郷で一晩寝て次の日、ネギ君の母校に行かせてもらえる事になったんだけどきっとあらかじめ処理してんだろな。
だって今日金曜だけど誰も生徒はいないし、先生っぽい人もいないし。
いいんちょなんかここが「ネギ先生の勉強された場所ですの!感激ですわぁ」なんて舞い上がってるし、ここがどこかの針のポッター的学校でも構わないんスね。
皆物珍しそうに天井の高い廊下だとか見てるけど、麻帆良の麻帆良教会も似たようなもんスよ。
まあ一般人はあそこに積極的に寄り付かないようになってるから仕方ないか。
葛葉先生と神多羅木先生がいないけどここの校長にでも会いに行ってんのかな。
ネギ君のお姉さんがガイドさん化してるし。
ネギ君とアーニャちゃんの背比べの跡まで説明してるけど、自分たちも印付けようとすんな鳴滝姉妹!
普通こんな子供の頃の跡なんて観光スポットにならない筈なんだけどそのままネギ君達が小さな時に遊んだ山だとか川だとか滝だとか見たよ。
「タカミチがこの滝を素手で割った」って何の伝説ですか。
海が割れるよりはマシだけどさ。
アスナはそれで感動してるし調子いいなー。
およ?

「さよ、どうかしたの?また視てるみたいだけど」

「美空さん、ちょっと気になってるだけです」

「今回は大丈夫だと思うけどねー。アーニャちゃんの占いはともかく」

「そうですね。でも……私の占いは酷かったです……」

「あー掘り返してごめん」

そら幽霊でも死相とか既に死人とか言われたら嫌だよなー。
大自然を堪能して疲れたところでまた宴会始まったわ。
気をそらすつもりなんだろうけど、VIP待遇っぽい感じ。
ネギ君は先生としてアーニャちゃんと学校に行くみたいね。
エヴァンジェリンさんの姿がいつの間にか消えてるけど同じ用事か?
にしても今回は巻き込まれなくて良かったわー。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ネカネお姉ちゃんに予め言われたとおりメルディアナ魔法学校にもどってきておじいちゃん達のところへ来た。

「おじいちゃん!久しぶりです、帰ってきました!」

「よう戻った。……中国では男子三日会わざれば刮目して見よというが、見違えたぞネギ!」

「はい!ありがとうございます!」

「ぼーやも故郷へ戻ってきて元気そうだな」

「マスター!それにお姉ちゃん!」

「だからネギ!そのマスターってのは何なのよ!」

「あれ……おじいちゃん、マスターが居てもその……大丈夫なんですか?」

「コノエモンから聞いておるから大丈夫だ」

「まあ私も出てくるのに今は魔力に制限をかけているし、それに私は既に死亡したことになっているから誰に見られてもさほど問題ではない」

「そうですか……良かったぁ」

「おじーちゃん!ネギの魔法の先生が……や……え、え、エヴァンジェリンさんでいいの!?」

「私は別に良いと思うぞ。ネカネもそう思わんか?」

「ええ、私はこんな素敵な方にネギが魔法を教えて頂けるなら賛成です」

おじいちゃんもお姉ちゃんも賛成してくれるのか。

「な……な……はぁ……もういいわ……」

アーニャもやっと納得……してくれたみたい。

「して、ネギ、父の跡を追い続けるのか?」

それは……僕の目標だから!

「はい!僕がいつか探し出して追いついて見せます!」

「……ネギ、今度の夏休みになったらまたここに来なさい」

「それは……どういう?」

「その時になったら教えるから待っておれ」

夏休みか……その時には丁度一年経つなぁ。
でもマスターの別荘で訓練してるから1年は既に経ってるか。

「分かりました。そうだ、僕おじいちゃんも使ったことがあるスクロールを乗り越えたんです!」

「おお、あれか、コノエモンの奴それは言っていなかったな。どうだ、大変じゃったじゃろ?」

「大変でしたが、とてもいい経験になりました。それに僕の仲間も一緒に乗り越えたんです」

「仲間とな?」

「はい!これが契約カードです」

「ちょっと聞いてないわよ!見せなさい!誰よ相手って!女なの!?」

「アーニャ、犬上コタロー君、男の子だよ」

「へ?じゃあ、ま、ま、まさかキキキキ、キスしたの!?」

「キスじゃない方法だよっ!」

「っはぁ……はぁ……なんだ」

「ネギにも相棒ができたか。それは良いことじゃがちゃんとしたパートナーも探してはどうじゃ?」

「校長!」

「冗談じゃよ、ネカネ」

「パートナー候補になりそうな女子なら生徒達皆そうだがな」

「マスターまで!」

「事実じゃないか。まあぼーやはまだ子供だか……っ!!どうやら侵入者が団体でお出ましだな」

「マスター?ッ!!」

この気配は!

「何者かが入り込んだか!すぐ総員に連絡じゃ!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「!!美空さん、野菜は一度ここまでにして洗った分だけ持って宿に戻りましょう」

「さよ、どうしたの?」

「作戦は落ち着いて一般人のフリです。行きましょう!」

「一般人のフリ?」

いきなりさよが宿に向かって洗った分の野菜持って移動しだしたんスけど何?
一般人のフリってまさか敵襲?
……仕方ないからそのまま付いて行ったんだけど。

「ってええっ!?」

皆でここウェールズの美味しい郷土料理を作ろうって、役割分担で野菜洗いに行って戻ってみたらなんで皆石化?
これやべースよ!!
残ってんのは楓とたつみーだけスか!
アスナ達は違うとこ行ってるからいないけどさ!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

皆と郷土料理をしているところネ。

《鈴音さん!キノ!》

《分かっています。最大加速でやりとりしますから落ち着いてください》

《さよ、どうした?》

《……はい、はぁ……今にも宿から何か出ます》

《侵入者カ?》

《そのようです。1秒後には水の転移門から出現すると思います》

《私としては鈴音さんには逃げて欲しいんですが……》

《いえ、水の転移門である事からするとフェイト・アーウェルンクスの筈ですから、使ってくるのは普通の石化魔法でしょう。逆に不用意に反応した場合もっと酷い攻撃を受ける可能性があります》

《分かたネ。さよ、私は軽く石化するかもしれないがバレる訳にはいかないから落ち着くネ》

《……分かりました。でも今からそっちに向かいます》

《私はエヴァンジェリンお嬢さんの制限を解除してもらうように近衛門殿に連絡してきます》

《作戦はとにかく一般人のフリだナ》

さて、いつ出てくるかナ……。
ここには、龍宮サン、楓サンぐらいしか反応できそうなのはいないネ。

        ―ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト―
―小さき王 八つ足の蜥蜴 邪眼の主よ 時を奪う 毒の吐息を―
            ―石の息吹!!―

「キャッ!!」

「何この煙!」

全体を石化する煙カ。
確かにこの程度なら後で治るネ。
普段は魔力が無いからレジストもできないナ。

「この煙は何でござるか!」

「楓!一旦退避だ!」

流石二人だナ。
後は任せるネ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

瞬間移動はズルすぎます……。
観測した感じもう皆石化してます。
気がついて魔分通信で状況を伝えられても、結局さっき話したように下手に反応したり、精霊体を見せる訳にもいきません。
って鈴音さんの石像に向かって攻撃しかけようとしてませんか!?
……何か呟いてますね。

「あるルートで優先目標になっていてもこの程度か。それともわざとかな。……まあいい」

……あ、危なかった!!
絶対鈴音さんが反応してたらもっと酷い事になってましたよ!!
楓さんが襲いかかりましたが水で転移しましたね。
……歩いて宿に戻ったんですが。
案の定皆の石像がズラリ。

「ってええっ!?」

私も一応驚いておいた方が良かったですかね。
楓さんと龍宮さんの2人が私達に気づきました。

「2人とも無事でござったか!」

「……済まない相坂、一瞬にして煙が飛び出してきたから避けるだけで精一杯だった。敵は超が石化した後に何か呟いていたが消えたよ。それとも見ていたか?」

「あー、まあそうですね。気づいたんですけど過剰反応すると碌な事がなさそうだったのでそこそこに戻ってきました」

「やはりそうか。まあその対処で正しかっただろう」

本当に鈴音さんは軽く石化しただけみたいですね。

「うわーマジかー」

「相坂、敵の目的は何だと思う?」

「ここはただの陽動です」

「陽動か……場合によっては麻帆良の安全管理の脆さを露呈させるのが目的かもしれんが、他に何か見えるのか?」

「神楽坂さん達の方が危ないかもしれません。少し離れた山林から大量の悪魔……みたいなのが出現してます」

「アスナ達もか……。しかしなんつー厄介事……」

「アスナ殿達でござるか」

「先生達が抜けているこのタイミングを狙ってくるとはな」

「先生達といえば、ちょっと待ってて下さい。連絡しておきます」

「アメリカの時のあれか」

粒子通信の起動をして……。

《葛葉先生!宿にいる皆石化されました!源先生もです。残っているのは私と龍宮さん、春日さん、長瀬楓さんです!》

《相坂さよですか。超鈴音も石化してしまったのですか?》

《石化してますが、治癒術師がいれば解除できるレベルの筈なので大丈夫です。それよりも別の場所にいる戦えそうな桜咲さんと古菲さん含む神楽坂さん達が危険です。大量の飛行型の悪魔が出現していて神楽坂さん達の方とこちらにも向かっているみたいです》

《そうですか……。召喚の反応はこちらでも感知しました。少しゴタゴタしていますが今から安全の確保に私達も動きます》

《よろしくお願いします》

《あー葛葉先生?私も防衛した方がいいですか?》

《春日美空、十字架があるなら出しておきなさい》

《了解です……》

「ただ握っていただけのようだが終わったでござるか?」

「はい、終わりました。それで多分こっちに向かっている連中は足止めのつもりだと思います。最悪石像を破壊するつもりかもしれませんけど」

「刹那と古もいるが神楽坂達を助けに行った方がいいのか?……距離的にはどうなんだ?」

「村の人が運転しているトラックに乗ってるみたいなので追いつくのは徒歩だとちょっと……。接敵まで向こうが後2分ぐらいでこの宿の方は先生たちがもうすぐ来ますけど、敵も後もうすぐで見える筈です。数は数百に上がってます……どう召喚したかはしらないですけど」

「数百!?無いわー」

美空さん、それは私も思います。

「弾丸もそんなに持たんな。エヴァンジェリンはどうしている?」

「魔力制限解除が行われ次第出てくれそうです」

「楓、どうするかは貴様次第だが私はここを守る」

「先生たちが来るならば拙者はアスナ殿達に加勢するでござるよ。真名、皆を頼む」

「ああ、石化には気をつけろよ」

「じゃあ私は適当に障壁張るとしますわ」

「さよ殿、アスナ殿達はどちらの方角でござるか?」

「丁度あの道なりに、西ですね10kmぐらい離れてます」

「10km!?楓行けんの?」

「拙者なら問題ないでござる、いざ!」

―縮地无疆!!―

地面にありえない衝撃が出て大穴開いたんですけど見事に長距離移動していきましたね……。

「楓スゲー!何あれ、忍者凄っ!」

「春日、驚いているのはいいが、どうやら敵のお出ましだな」

とうとう空を埋め尽くす黒い影が見え始めました……。

「美空さん、皆の石像を壊さないように安定させておきましょう」

「……それなら私でもできるね、走るしか能が無いのに戦う事になったらやべースよ」

「先生達の方が先に付きますから大丈夫ですよ」

さて、常時観測しているので龍宮さんの状況は見ているのですが、宿屋の屋根から長距離射撃で敵の数を地道に減らしていますが、広範囲殲滅魔法の方がこういう時は早いですね。
そこへ麻帆良の先生達が戻ってきました。

「遅れて済まなかった、少しの間だけと思って宿を離れたのが悪かった。我々で結界を今から張るから中にいなさい。龍宮は防衛感謝する」

神多羅木先生と瀬流彦先生それに葛葉先生でした。

「ああ、報酬は学園に請求させてもらうよ」

「神多羅木先生、あの悪魔の量は何ですか!?」

「瀬流彦、落ち着け。お前は結界に専念していろ」

「は、はい!」

瀬流彦先生冷汗かいているところからするとこの手のゴタゴタはあまり経験が無いんでしょうね。

「神多羅木先生、私はこのかお嬢様の元にいかなければなりませんので、よろしくお願いします」

「分かってる、行って来い。石化には気をつけろよ」

「魔を断つ神鳴流に悪魔等とは……笑わせます」

葛葉先生の目が白黒反転してて怖いんですけど……。

《相坂さよ、お嬢様はどちらの方角ですか?》

《西の方角です、行けば悪魔が大量にいるので分かる筈です。楓さんも追いついていますが一般生徒の護衛の関係で乱戦状態になってます》

《分かりました、あなたはそこで目立たないようにしていなさい》

《はい!》

物凄い勢いで陸上を突っ切っていく姿、神鳴流凄すぎます。

       ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―来れ雷精 風の精!! 雷を纏いて 吹きすさべ 南洋の嵐―
         ―雷の暴風!!―

ネギ先生来ないなーと思ったら派手な竜巻魔法と共にようやく来ました。
制限が解除されたエヴァンジェリンさんと一緒です。
その後ろにはメルディアナの魔法使いの皆さんが群を成しています。
人数が多いと言える程多くないのは麻帆良と似たようなものですね。
なんと言うか悪魔達の進行ルートが複数あるせいでメルディアナ自体も防衛しないといけない状態とは手間どらせますね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

これは一体何が……。
被害はそこまで出ていないけどこれじゃまるで6年前の再現だ!

「ケケケ、少しデカイ魔法を撃つかと思ったらただのガキ共か!」

邪魔だ!

  ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―来れ 虚空の雷 薙ぎ払え 雷の斧!!!―

「ギャァァァ!!」

「カカカ、後ろがお留守だな!」

―解放!!未完成・断罪の剣!!―

「ナンダトォ!?」

……あちこちに飛んでる悪魔達はそこまで強くないけど、バラつきはあるみたいだ。

《その調子だぼーや、反応がいいぞ。神楽坂明日菜達が劣勢だそうだ、助けに行って来い。ここの道は私が開けてやる。ついこの間覚えた魔法でも試してこい!》

《はい!分かりました、マスター!》

「麻帆良とは違い動きが良いとは言っても、この私がいるところに群れでこんな有象無象共が蔓延るとは大した身の程知らずだな!魔界にさっさと還れッ!!」

         ―リク・ラク・ラ・ラック・ライラック―
―契約に従い 我に従え 氷の女王 来れ終焉の光 永遠の氷河!!―
    ―全ての 命ある者に 等しき死を 其は 安らぎ也―
           ―終わる世界!!!―

マスターの広範囲凍結粉砕魔法!
この前見せてもらったばかりだけどやっぱり凄い!
前方に大きく道が開いた!

《マスター、ありがとうございます。では行ってきます!》

《ここ一帯の敵を片付けたら私も手伝ってやる、後の事は考えずにまず頑張ってみろ、弟子》

《はい!》

「ネカネお姉ちゃん、龍宮さん、行ってきます!」

「ネギ!大丈夫なの!?」

「僕を信じて!」

「ネギ先生、気をつけてな」

「はい!」

龍宮さんは皆が来るまで宿を守ってくれていたみたいだし僕も頑張らないと!

―最大加速!!―

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

なんか戦争っぽくなってるけどマジやばいスよ。

「ネギ君いきなり出てきて凄い魔法出したかと思ったら何か剣とか斧とかも出してるし、ってエヴァンジェリンさんも半端無いわー」

なんだあの広範囲魔法……私いわゆる大戦期後の世代ッスからあんなん見たことないし。

「美空さん、安心するなとは言わないですけど窓からもう少し顔離した方がいいですよ」

いやいや、怖いもの見たさって奴だよ。

「だってさよ見えてんでしょ?」

「それは否定できないですね」

「おおっネギ君行っちゃったよ!?何?確かに悪魔倒せるみたいだけど、天才少年って凄いなー」

「ええ、まさか……あんなにネギが成長しているなんて思いませんでした」

うわっ、ネギ君のお姉さんじゃん。
何か失神しそうな勢いに見えるけど、心配なのか。

「ネカネさん、ネギ君って卒業した時はあそこまで強くなかったんですか?」

「ええ、メルディアナは魔法の射手までしか教えませんし、あの子が隠れて何か魔法を勉強しているとは知ってましたが見たことはありませんでしたわ……」

いやいや、仮に魔法の射手だけだとしても卒業から1年も経ってないのにアレはおかしいだろ。

「ところでネカネさんはここに何しに来たんですか?」

「あなたは春日さんでしたね。魔法を知っているようですが魔法生徒の方ですか?」

あの適当な自己紹介で覚えてくれてたの!?

「あ、はい、一応見習いシスターやってます」

「私は一般人です」

さよ、嘘つかなきゃいけないのは分かるけど、ブラックボックスすぎるよ。

「そうでしたか。一応私は治癒術師なので皆さんの石化を診に来ました」

おお、確かにそんな感じはするね。

「さよは治るって言ってるんですけど」

「美空さんっ!」

「げっごめん!」

マズったわー、一般人って言った矢先じゃんか。

「相坂さんも何か事情がおありのようですが、ネギの生徒の皆さんの石化は解除できそうですから安心して下さい」

「良かったです。でもこの騒動が終わるまでは治せませんね」

さよは結局開き直ったか。

「石化が治ると聞いて安心しました」

「はい、治療の手筈は私達でしっかり行ないます」

アメリカで普通の人間も怖いとは思ったけど数だけは多い悪魔の群れも怖いわなー。
地味に割と強めっぽいのも混ざってるけどエヴァンジェリンさんが滅多打ちにしてるから大丈夫だろ。
しっかしこんな大量に召喚した奴は一体何がしたいんだ?
ここが陽動だってのはさよが言ってたけど、狙いはアスナ達っていうか近衛のお嬢様のこのかか。
だとすると状況は分かんないけど今回これで桜咲さんが近くにいなかったら今頃終わってたんじゃないか?

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

エヴァンジェリンさんが主力で宿周辺の敵を薙ぎ払い、漏れた敵を龍宮さんと神多羅木先生が撃ち落とし、残りは魔法学校の方へ抜かれないように防衛ラインを張ってますが、たまに攻撃を受けている魔法使いの人達がいて心配ですね……。

一方神楽坂さん達が接敵してからずっと視ていましたがどうなっていたかというと……。
メンバーは神楽坂さん、桜咲さん、近衛さん、くーふぇさん、綾瀬さん、宮崎さんと運転手さんでした。
車の形状は前に2人が乗れ、後ろに荷台がついてそこに乗れるタイプのものです。

「あ、あの数の魔物は!運転手さん!車を戻してください!」

「おお、分かってるさ!あれはマズいね!」

引き返そうとしたところでしたが、悪魔からの攻撃で車のタイヤがパンク、走行不能になってしまいました。

「タイヤをやられたね!」

「「「きゃあっ!」」」

綾瀬さんと宮崎さん、近衛さんの3人が完全に怖がっています。

「あれ一体何なのよ!」

「せっちゃん!あれ何や?」

「間違いなく敵です。お嬢様はアスナさん達と下がっていて下さい。私が抑えてきます!」

桜咲さんが竹刀袋から太刀を取り出しました。

「刹那、私も戦うアルよ!」

「すいません、古さんはお嬢様達をお願いします!お嬢様……この姿を他の皆様の前で晒すことをお許し下さい」

桜咲さんは近衛さんに謝りました。

「せっちゃん、気にせんでええよ」

「……行って参ります!」

そう言った桜咲さんは烏族の白い翼を出してゆっくり空中に飛び上がりました。

「桜咲さん何その天使みたいね羽!綺麗!」

「……綺麗です」

「羽があったアルか!」

神楽坂さん、綾瀬さん、くーふぇさんは全然気にしてないですね。

「せっちゃん、気いつけてな!」

「はい!」

―四天結界守護方陣!!―

「その中から出ないで下さい!」

「お嬢ちゃん力にならなくて悪いね、私も障壁は張れるからこの子達は任せておくれ」

「よろしくお願いします!」

そのまま猛烈な勢いで空を飛び常に持ち歩いていた夕凪を抜いて大量の敵に桜咲さんは立ち向かいました。

―真・雷光剣!!―

神鳴流の中でも決戦奥義と呼ばれる剣に強烈に帯電させ爆発させる、広範囲破壊技を放ち大軍に攻撃。
しかし直ぐ様に悪魔達は散開し、神楽坂さん達を守っている結界に集中攻撃をし始めたため、あっという間に破壊されてしまいました。

「しまった!もう破壊されたか!お嬢様っ!」

隙をついて人型をした二本角の生えている悪魔が口を開け石化光線を放とうとしましたが。

「させぬでござるよッ!」

「ガァッ!!」

とてつもない気の塊を右手に形成している楓さんが長距離瞬動のまま突撃して間に合いました。
悪魔は後方に弾き飛ばされ、楓さんはそのまま近くに着地。

「楓、加勢に来てくれたアルか!」

「楓!手助け感謝します!」

「刹那!古、安心していられる状況ではござらん。救援が来るまで持ちこたえねばならぬ」

「ただの小娘達かと思ってみれば、なかなかやる……。私はヘルマン卿、悪いがそこの娘に用があるので手加減はしないぞ」

楓さんに吹き飛ばされた悪魔でしたがどうやら爵位持ちのようですし、ここは麻帆良ではないので力に制限は何もかかっていないので耐久力は相当です。

「……悪いがそれは拙者を倒してからにしてもらうでござるよ!分身!」

4人に分身して、ヘルマンと名乗る悪魔と高速で戦い始めた楓さん、近づく下位悪魔を弾き飛ばすくーふぇさん、空を飛び周る敵を切り飛ばす桜咲さんで非戦闘員の4人と実は魔法使いだった運転手の叔母さんの攻防が始まりました。
数の多さでジリジリ追い詰められていた皆さんでしたが、そこへ更にゴスロリの服を着た二刀の剣士が桜咲さんに飛びかかりました。

「おはつですぅー。……刹那センパイの相手はウチがやらせてもらいます」

「貴様何者だっ!」

「月詠言います、ほな……よろしゅう……」

げっ、あれが月詠ですか!
何か顔が恍惚とした表情を浮かべていて気持ち悪いです!
ただ名前を名乗っただけでそのまま2人は乱戦状態に入りましたが、空を飛んでいる筈の桜咲さんが押され始めました。
一方その一瞬の隙をついて転移魔法でまたあのフェイトが地面から飛び出し、くーふぇさんを何かの拳法で弾き飛ばしつつ、指先から石化魔法を発動させてしまいました。

「くーふぇっ!」

            ―ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト―
―小さき王 八つ足の蜥蜴 邪眼の主よ その光 我が手に宿し 災いなる 眼差しで射よ―
               ―石化の邪眼!!―

今度はヘルマンと同じく光線が飛び出し、それを浴びてしまった近衛さんが手と足の先から一部ずつ石化が始まり、あえなく叔母さんは石化、後ろにいた綾瀬さんと宮崎さんはお陰で無事でしたが……神楽坂さんは服が石化して砕けただけでした。

「やはり……君は魔法無効化能力の持ち主か。そしてレジストの高さからするとそちらの君は旧世界の姫のようだね」

「一体何なのよ!このかと叔母さんを元に戻しなさいよ!」

「指が……石化しとる……」

「命までは取らないけどそのまま石化するといい。情報収集のつもりだったけど、そうだ、このまま君には来てもらうか」

「そうは、させないアルッ!」

地面に叩きつけらたくーふぇさんが活歩で急速接近しフェイトに拳を叩き込みましたが、軽くいなされ、続けて打ち込み続けるも、一瞬の隙を疲れ強烈な打撃を腹部に入れられてしまい。

「かはっ!」

さっきと同じく地面に叩きつけられ、2、3回転げた後……動かなくなってしまいました。

「古!大丈夫でござるか!」

「お嬢さん、よそ見はよくないね」

「しまっ!」

ヘルマンの攻撃が楓さんに完全に入って……。

「そちらは分身でござるよ。悪いが貴殿との戦いは後にしてもらおう!分身!」

楓さんは凄かったです。
人数が16人に増えたかと思えば1人は地面に転がったくーふぇさんを抱え、8人でフェイトに接近しつつ、残りはどこからか巨大な手裏剣やクナイを出して空中で何やら待機状態に入った下級悪魔に投げつけました。
綾瀬さんと宮崎さんは抱えることに成功しましたが、神楽坂さんと近衛さんに近づいた分身はなんと全て弾かれてしまいました。
どれだけ強いんですか!
ひどく劣勢の状態に入りましたが、そこへ遅れて杖に乗って飛んできたネギ先生と葛葉先生がやってきたんです。
葛葉先生は陸上を走ってる時にネギ先生に拾ってもらったようです。

「ネギ先生運んでくれてありがとうございます。それでは私はここで降りますので」

「はい!空には飛び上がらないでくださいね!」

そう言ってかなりの高さから葛葉先生が飛び降りた途端。

             ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
  ―契約により 我に従え 高殿の王 来れ巨神を滅ぼす 燃ゆる立つ雷霆―
―遠隔補助魔法陣展開!! 範囲固定!! 域内全雷精霊加圧!! 3…2…全力解放!!―
           ―百重千重と 重なりて 走れよ稲妻―
                 ― 千の雷!!! ―

呪文の長さを高速詠唱で補い、実質カウントが最大の時間を喰いましたが、広範囲雷撃殲滅魔法を完成させ。
ネギ先生の指先から強力な雷撃が放射状に轟音を鳴り響かせ、辺りの空中で待機していた下級悪魔達を一掃しました!

「この魔法は……あれはネギ坊主でござるか!」

「ネギなのっ!?」

因みに空中戦を行っていた筈の桜咲さんは月詠の攻撃で地面に落とされていたので大丈夫ですが、大丈夫ではないです……。
飛び降りた葛葉先生は桜咲さんを助けるかと思えば楓さんと交代するかのようにフェイトに攻撃をしかけました。

「相手を変わりなさい!あなたはお嬢様を安全なところへ!」

「承知した!見た目に惑わされるがその子供厄介でござるよ!」

「やれやれ……人が増えてきてしまったね」

「お嬢様から離れなさい!」

斬りかかった葛葉先生でしたが水の分身が壊れただけで終わり、突然現れたと思えば、近衛さんはもういいのか神楽坂さんだけを水で捕縛して浮遊術で空中に飛び上がりました。

「分身ッ………その生徒をどうするつもりですか!」

「そう怒ると皺が増えるよ。どうってあなたに教える必要は無い」

「何ですって!」

年齢発言をされて葛葉先生の目が白黒反転しましたが、その話している状態の所へネギ先生が虚空瞬動から断罪の剣を背後の死角から打ち込みました!

「手応えが無いッ!」

やはりまた水の分身で、本体がいるのかいよいよ怪しくなってきましたが、そのまま水の捕縛術は葛葉先生が切り裂いて神楽坂さんは解放されました。

「きゃっ」

「いきなり攻撃を仕掛けるとは物騒だね。そうか、君が……ネギ・スプリングフィールド、情報よりも成長が著しいね。ここで少し叩いておこうか」

突然現れて石化魔法を飛ばす奴に言われたくないセリフですね。

―障壁突破 石の槍!!―

突然地面から石でできた槍が飛び出しネギ先生に襲いかかりました。

「くっ」

―魔法領域 出力最大!!―

ギリギリで展開できた魔法領域に甲高い音を立てながら複数本の石の槍がめり込んで行き、その瞬間に横に移動してネギ先生は回避しました。

「なんだいそれは?まさか……似ているけど……何故君がそれを使えるんだろうね」

フェイトは魔法領域を知っているんでしょうか……。

「君に教える必要は無いよ!」

―双腕・未完成・断罪の剣!!―

魔法領域を展開したまま高速で斬りかかるネギ先生でしたが切っても水分身、そうでなければ回避される始末……。

「不死の魔法使いの得意技か……あっちで暴れているのもそろそろ終わるようだ。厄介だね。仕方ない……今回は深入りはよそう、置き土産を置いて行かせてもらおうか」

―召喚―

周囲から突然また大量の悪魔を召喚し、瞬間移動したかと思えば月詠の側に移動しました。

「月詠、今日はこれで終わりにしよう。ヘルマン卿は……頑張ってね」

「もう終わりですか~。翼が出とる刹那センパイはまだまだのようですし分かりました」

―ひゃっきやこ~う!!―

「き……貴様ッ!!」

桜咲さんは消耗した様子で月詠に声を上げましたが、その月詠の抜けた掛け声と共にイギリスなのにも関わらず大量の妖怪が飛び出しました。
置き土産邪魔すぎます。
そのまま転移門で2人は去っていきました。
残った強い相手といえば……。

「……ヘルマン殿でござったか、どうされるのかな?」

「私はここで朽ち果てるまで戦わせてもらおう、そこの少年、私に見覚えは無いかね?」

「ネギ坊主?」

「……お……前はッ!楓さん!僕に相手を代わって下さい!皆さんは他をお願いします!」

突然ネギ先生の魔分出力が上昇しました。

「ははは、いい眼だ。私もここでなら全力が出せる。いざ尋常に勝負といこうじゃないか」

確かにここに学園結界は無いです。

「石化攻撃を使う相手にそんな勝負があるかっ!」

―未完成・断罪の剣 術式封印!!―
―双腕・未完成・断罪の剣!!―

言われてみればもっともな発言で切り替えしたネギ先生はそのままヘルマン卿に向かって行きました。
悪魔の力で放たれる強い衝撃波を魔法領域で緩和しては断罪の剣で吹き飛ばし、貫通力の高い無詠唱魔法の射手を乱射、並列して高速詠唱で雷の斧、等多彩な手段で戦いながらどんどん空中に上がって行きました。
度々石化光線が飛びますが虚空瞬動で回避し、押している雰囲気がありますがヘルマン卿が本気を出しているかどうかが微妙なところです。
一方地上は、ボロボロになってはいるもののまだ戦える桜咲さん、分身の数を最低限に戻した楓さん、最高にイラついていながらもその狂気を刃に変えている葛葉先生により残りの雑魚の一掃はすぐに終わりました。
それよりも問題は近衛さんでした。

「せっちゃん……うち……うち、まだ簡単な怪我治す事しかできへんのに石化なんて無理やよ……」

もう駄目だといった風に近衛さんの目には涙が浮かんでいます。

「お嬢様!」

「刹那、落ち着きなさい、ここはメルディアナですから高位の治癒術師もいます。お嬢様の石化はまだ本格的には進行していません。今から衝撃を与えないように運べば大丈夫です」

「は、はい」

「葛葉先生、拙者が分身でここの皆は運ぶがネギ坊主はどうするでござるか?あそこまで高いところでは加勢も難しいでござるよ」

「よく分かりませんがあの悪魔は本気ではないようです……。間もなく加勢が来ますから大丈夫でしょう。言ってる側から到着のようです」

エヴァンジェリンさんでした。
空中戦を繰り広げている2人に向けて、同じく空中に滞空し、話かけました。

「ぼーや、面倒な騒ぎはなんとかしたようだが今加勢は必要か?」

「マスター……そこで見ていてください。僕がやります」

「不死の魔法使いがお目見えとは豪華なギャラリーではないか。……では続きを始めようか?」

「話をする気があるなら質問する。6年前村を襲ったのは……お前でいいのか?」

「特別に質問に答えよう。……ああ、その通りだ。これで満足かね?」

「何のために村を襲った!」

ネギ先生が凄い目付きで問いかけました。

「依頼を受けただけだ。悪魔はそういうものなのだよ」

「誰に依頼された!」

「それは契約違反になるから話すことはできないな」

「……そうか。もういいよ、村の皆は還ってこないけど黒幕がいるのは分かった。質問に答えてくれて……ありがとう」

純粋で優しげなネギ先生は何処へ行ってしまったのか、微妙な焦燥感を表情に見せながらも落ち着いた状態で断罪の剣を装備し、また戦闘を開始しました。
もう既にかなりの魔力を消耗している筈なのでそろそろ限界に近い気がするのですが、エヴァンジェリンさんもいるし大丈夫ですね。

地上の葛葉先生達はその状況を見て、メルディアナの方角に向かう事にしたようです。
怪我をしたくーふぇさん、綾瀬さん、宮崎さんと石化してしまった叔母さんを楓さんの分身で、葛葉先生と桜咲さんで近衛さんを慎重に運び、神楽坂さんは自力で空の様子を心配そうに見つめながら移動していきました。

……その後、ネギ先生の戦闘はどうなったかというと、何度も激しいぶつかり合いをしましたが、最終的に3発の呪文を遅延させ、捕縛属性の風の矢で隙をついて動きを封じた瞬間に一気に連続で解放しヘルマン卿のこちらでの実体を保つ力の限界に至り、魔界に還っていきました。
その際少し会話があったのですが……。

「……少年、私は依頼されたとはいえ君の村の人々を石化させた。完全に滅ぼしたいとは思わないのかね?」

「そう思う気持ちは無いと言ったら嘘になるけど、あなたを滅ぼしても僕には何も残らない。ただ虚しくなるだけだよ。僕はさっき聞いた黒幕を暴きだすだけだ」

「そうか……。君には堕ちる才能があると思うのだがね。それではありがたく魔界に帰らせてもらおう。……さらばだ」

そのまま空気に溶けこんでヘルマン卿はネギ先生とエヴァンジェリンさんに見送られて還っていきました。

「……ぼーや、気分はどうだ?」

「マスター、あいつは最後まで本気ではありませんでした。……倒せても晴れ晴れした気持ちなんかじゃ無いですけど……とにかく今日はこれで終わりです。それにアスナさん達クラスの皆の所に戻らないといけません」

「復讐まがいの事をしても落ち着いているようだが、少しは成長したな。魔力も限界だろうから肩を貸してやろうか?」

「いえ、大丈…夫…で……す。あ……れ?」

ネギ先生は気が抜けたのか地面に向けて落ちかけました。

「身体は正直なようだな、見栄を張ることはないさ。さて戻るぞ」

「ありがとうございます。マスター」

そこをエヴァンジェリンさんが支えました。

「全く厄介な日になったな」

「白髪の少年には逃げられましたし、謎ばかりが残りました」

「白髪の少年……か。後で引きこもりにでも聞いておくか」

「え?前に言ってた幽霊さんは知ってるんですか?」

「さあな……まあそういう事もあるだろうよ」

「僕が一人前になったら姿を見せてくれるかもしれないって言ってましたけど、いつになるんだろう……」

「まだまだぼーやは一人前には程遠いさ。その軽くあしらわれた小僧に次会ったときにでも鼻の穴を空かせてやれ」

「……そうですね。まだまだ頑張ります!」

そのまま師匠とそのお弟子さんはちょっとキノの話をしながら仲良く空を飛んで宿に戻ってきました。
長かったようでそんなに長くもなく、およそ十数分の激闘はこうして終わりました。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ふむ、気がついたら少し時間が経ていたネ。
皆で料理をしていた筈なのだが……。
何か忘れているナ。
周りの皆も似たような感覚のようだが聞いてみるカ。
さよの方を見て通信を繋いで貰たネ。

《繋ぎました》

《ありがとネ。翆坊主、さよ、何か違和感があるが何かあたのカ?》

《鈴音さんは今フェイト・アーウェルンスクの石化魔法から回復して記憶を少し消去されてるだけです》

《おお、石化されていたのカ。あまり覚えていないが何も反応せず石化されて結局は良かたのかナ?》

《はい、それは間違い有りませんでした。フェイト・アーウェルンスクは超鈴音があるルートで優先目標になっているのがどう……と話していたので、無闇に反応すれば一般的には解除できない永久石化をやられていたかもしれません》

《なるほどナ。今回は甘んじて弱い魔法を受けた訳カ。2人だけが色々と知ているのはなんだかズルいネ。どうなたか教えて欲しいナ》

《私が話します!宿の皆が……》

そのままさよから話を聞かされたが……なるほど、宿はすぐに安全が確保されて、明日菜サン達の方が乱戦だたが、ネギ坊主と葛葉先生が加勢したら大体終わたのカ。
その過程でフェイト・アーウェルンスクと学園長から聞いた月詠を確認できたとはなんとも言えないネ。
しかもやはり私の知ていた通り明日菜サンは魔法無効化体質で、それが原因で攫われそうになたりして、このかサンは石化を受けたがレジストが強く……2人とも結局大事には至らなかたようだネ。
古と本屋達の記憶は紆余曲折あって消さなかたというのは驚きだナ。
ついでにかなり活躍した楓サンも記憶処理は無しのようだたネ。
まあ明日菜サンは体質のせいで消せないというのはわかるが。
もともと彼女には魔法の事はバレていたしあまり変わりはないが、何やら鍛錬をしようと思たらしいネ。
良くはわからないが、ネギ坊主が覚えたばかりの千の雷を振るう瞬間に何か感じたようだた……と翆坊主は明日菜サンについて言て来たが、これ以上は歴史に関わるというか、明日菜サンはある意味鍵のような存在だからネ。
さよは一般生徒扱いで記憶処理かと思えば、葛葉先生のお陰で……もしやられても効かないだろうし助かたネ。
30分にも満たない短い間だたようだが、当事者の皆にとてはひどく疲れる出来事だたようだナ。
麻帆良に戻たら改めて映像をさよに見せてもらうとしよう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

はー、なんか窓から覗いてだけだけど割とあっという間に終わって、周りは嘘みたいに平和に戻ったな。
記憶処理とか色々先生たちにしつこく言われたりしたけど、自分からバラしたりしないから安心して欲しいスよ。
もう今はゴタゴタは終わって、アスナ達が持ってくる予定の材料は中止になったけど普通にまた料理作って、楽しんだわ。
ゆえ吉達がげっそりしてたけど私よりも修羅場だったんだからそら仕方ないか。
ネギ君は疲れたからそのまますぐ寝たみたいだし、話によるとエヴァンジェリンさん並の広範囲殲滅魔法使ったらしいし、マジありえん。
ネギ君お疲れ様。

……そんなこんなで知らない人は普通に過ごして次の日朝からまたロンドンに戻って、班ごとの自由行動かと思いきや、土産限定でストリートを周る計画に変わった。
襲われたからこうなるのは予想できたさ。
とりあえず自分のお小遣いで土産買うと金銭の大事さが分かる。
シアトル観光カムバック!

そんでもって更に翌日曜日朝からヒースロー空港から日本に向けてまた戻り時差の関係で成田に着いたのは午前6時、麻帆良の女子寮に戻ったのは9時近かった。
私は面倒な事には関わりたくないスけど、ネギ君達はどんどん面倒な方向に進んでそうだわ。
ウェールズ出発する前に何かメルディアナの校長と色々話してたみたいだし、今回の事件処理とかもあるんだろうな。
主に葛葉先生がキリキリしてたからそれがいかに面倒かはわかるわ。
責任問題とかどーなるんだろ?
私が考えても仕方ないッスよ。
2回の旅行で得た教訓はあんまもう麻帆良から出たくない、以上。
ココネ肩車しないと落ち着かないわー。
シスターシャークティのお叱りはごめんだけどね……。



[21907] 31話 DNA
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 19:04
さて、とうとうフェイト・アーウェルンクスが情報収集を目的で出現したが、メルディアナにわざわざ現れた理由はあの場所にあるゲート周辺の結界の水準を図るため……という事もあったのかもしれない。
恐らく今から結界を強化したところで来る日には対策は間に合わないであろうから情報は彼にとっては収集できたのではないかと思われる。
ヘルマン卿はメルディアナの一角に厳重に封印されていた筈だったが、事前に封魔の瓶が盗まれていた為に今回現れた。
結界をあってないようなものとして通過する彼にとってはそれすら造作もない事だったのだろう。
彼の逃げた行方を探知できたかどうかだが、多重転移が国をまたぎ続け追跡しても生産性が無いのでやめた。
彼は脅威ではあるが、超鈴音とサヨのことが知られた訳ではない。
それに餌というと言い方が悪いが……それこそネギ少年や神楽坂明日菜に興味を持ったので、なるように後はなるだろう。
その神楽坂明日菜であるが、とうとう魔法無効化能力を露呈した上、ネギ少年が千の雷を放つ姿にナギ少年の面影を感じたように見えた。
因みに彼女にアーニャの占いができなかった理由は正しい本名ではなく、生年月日が正しくもないから……であろう。

修学旅行が終わる少し前……どうなったのかと言えば……。
忍者と古菲が記憶処理を受けなかった理由は生徒でありながらも悪魔達と渡り合った為、忘れるかどうかの意思を確認したところ口外はしないという約束を行ったから。
綾瀬夕映は魔法の存在を見たことから麻帆良学園全てのおかしさの説明が付くことがわかり、宮崎のどかは年下にも関わらず惚れてしまっているネギ少年の事もあってか、前述の2人と一緒に説明を受けた時に……かなり言い訳じみてはいたが要するにゴネて記憶処理をまぬがれた。
理由としては古菲が心配だから日常で話を漏らしそうになったら止めるようにするなど……という事を言っていたが、実際その虞はあり一概に否定はできない。
しかし……意外と古菲に信用が無い。
また、強制的に記憶処理に動かなかった理由としては、この二人はフェイト・アーウェルンクスと月詠の姿をはっきりと見てしまっているため、記憶を消したところでそのような事関係無しに口封じに狙われる可能性が残ってしまう……という事も関係している。
実際には殺害する意思は彼には無いのであるが……。
神楽坂明日菜は、神多羅木先生が近衛門直属の部下である事から彼女の体質については理解しており本人が有害だと思う限り記憶消去ができないと知っていたため、とりあえず口外しない事に釘をさされた上で麻帆良に戻ってからどうするか決めるという事になった。

一方で、ウェールズからロンドンに戻る前、ネギ少年とエヴァンジェリンお嬢さんは改めてメルディアナ魔法学校に呼ばれた。
その際あちこちの魔法先生からその戦功について絶賛を受けていたが、エヴァンジェリンお嬢さんがネギ少年に魔分通信で「ぼーや、ナギもこれと似たような評価を受けただろうが、調子に乗ったらそれまでだぞ」と伝え「分かっています。こんな評価を受けたくて戦ったんじゃないです。他人がどう見ようと僕は僕です」とフェイト・アーウェルンクスの事が念頭にあるため外面上は適当に挨拶していたが、10歳にして他人をあしらうという事をやっていた。
ネカネ・スプリングフィールドはその姿を見て「私の知っているネギは一体どこに行ってしまったのかしら……」と悲しそうで、ともすれば失神しそうだった。
アーニャはネギ少年の戦闘を直接見たわけではないが、話は聞いたらしくとんでもない差が付いていると実感したとの事。
……その後地下に、ネギ少年の村の住人が石化したままではあるが安置されているのを明かされてネギ少年は治癒魔法についても学ぼうかと思ったようだが、そこでお嬢さんがネギ少年の治癒魔法の才能の無さと孫娘の方向性について言及していた。
それでも他人任せはどうかと思ったようなのだが、既にメルディアナにいる高位の治癒術師ですら戻せないという現実を突きつけられ一応納得したのだった。
その部屋を去る際、スタン氏の石像に向けて墓参りではないがネギ少年は自分の成長と決意を報告した。
一方お嬢さんに言及された孫娘の方は、実際に石化した事から「うち、怪我だけやなく、なんでも治せるようになるえ!」と決意を新たにしていた。
桜咲刹那は葛葉先生から月詠が神鳴流の脱走者だと聞き、以前お嬢さんから忠告を受けていたことが身にしみたのか、己の未熟さを実感しより鍛錬を積むことを決意したらしい。
再び神楽坂明日菜だが、襲われた際に、今回の戦闘を見せつけられた上、どうしても気になることだらけで、桜咲刹那、古菲、忍者に、何やらこっそり話しかけ……何か鍛錬をしようと心に決めたようだ。
また、同室の孫娘がいつの間にか魔法生徒入りしていたのを知った事で魔法の事を身近に感じたらしい。

総合的にメルディアナの対応としては、完全に油断していたことを麻帆良学園に対して謝罪していたが、エヴァンジェリンお嬢さんが一応「術者のレベルからすると麻帆良でも似たような事は十分にありえただろう」という発言や引率の魔法先生3人も油断していたというのもあって詳しい処理については麻帆良に戻ってからということになったのだった。

……このような所で修学旅行の出来事は終わりであるが今度は戻ってきての麻帆良。
麻帆良に戻っての報告では虚偽を報告するわけにもいかず、呪術教会に孫娘が実際に石化魔法を受けた事について情報が伝わって一悶着あったが、この点に関しては私も少し手出しをした。
近衛門にフェイト・アーウェルンクスについて、術の水準から言って世界のどこでも確実に安心と言える場所など無い上、公表できない事ではあるが、彼が完全なる世界の残党でナギとも因縁があり、月詠がいたことから日本でも同じ事が起きる可能性が十分あったであろう事を伝えておいた。
それを聞いた近衛門は結局、仮定の話にしかならないが京都への旅行にしていたとしても、メルディアナの結界が破られるならば、関西呪術協会の総本山の結界もただでは済まなかったであろう事を遠まわしに関係者には伝えた。
また、メルディアナのすぐ側ですらその有様だったのに関わらず、京都旅行の場合宿泊施設は呪術教会からは離れていて、より護衛は困難であったであろうこと、神鳴流の月詠が脱走していた不備について色々相殺して面倒な問題についてはどうにか抑えつける事ができた。
今回の問題を収める事ができたのは、関東魔法協会理事であり、近衛家の当主であり、メルディアナの校長と仲が良い近衛門ならでは。
今回引率で事後処理に一番苦労したのは魔法協会にも呪術協会にも関わりのある葛葉先生であった。
双方の勢力から挟まれて、かつ間をつなぐ伝令もしていたのだから心労が溜ったた事であろう。
しかもすぐに自分の授業を始めなくてはいけないので……教職でもある先生というのは大変である。

……さて、出来事はこれだけには留まらない。
修学旅行から戻り落ち着いて5月に入った頃、神楽坂明日菜の事である。
同室3人共が魔法関係者になった事で裏関連の会話に自重が外れた面があり、神楽坂明日菜はネギ少年を無性に心配し始め、しつこく話かけるようになった。
ネギ少年は仕方ないという事で自分に深く関わるといかに危険な問題に巻き込まれる可能性があるかについて説明するつもりで、孫娘も纏めて夢見の魔法を使った。
内容は6年前のネギ少年の幼少の頃から村が滅ぶまでのもので、自分がいつか父親を見つけ出す事、修学旅行で戦ったヘルマンが言っていた黒幕を探し出さないといけない事について話して聞かせてこれで大丈夫だろうと思ったのだが……逆効果。
どうもナギの姿とネギ少年の姿が被って仕方が無いのか「ネギ一人でやるなんて危ないことはさせられないわ、私も協力する!」と……心境は分かりかねるがこう言い出したのだった。
折角数年前にタカミチ少年が本心ではやりたくもない記憶封印の処理をしてまで日常生活をさせていたにも関わらず、曖昧な幻影の影響なのか、怒涛の勢いでこのまま魔法関係に向かっていくという様相であった。
周囲からするとその行動は不自然であったが、その後彼女はタカミチ少年と近衛門に学園長室に呼ばれ話をすることになった。
しかし「どうしても私も何かしないと駄目な気がするんです!」とそれが運命だとでも言う発言をして2人を困らせ、最終的には「大丈夫!」という根拠がないが……何故か信じてみたくなる雰囲気を出して驚かせた。
2人はいずれにせよ何を言っても駄目そうであり、記憶も本人が少しでも抵抗する意識を持っていれば消せないという事で、今すぐ問題になる訳でもないので何をするのかはともかく鍛錬をすることには許可をした。
その許可を得た神楽坂明日菜はネギ少年を守れるぐらい強くなる事が目標になったらしく、ネギ少年に鍛錬することに決めた事も伝えた。
そもそもなんで鍛錬するのかというと、自分の身体能力の高さには自覚があるので……それならできそうという事らしい。
ネギ少年は神楽坂明日菜の底抜けに前向きな勢いに押されて、真剣な雰囲気に一気に変わりエヴァンジェリンお嬢さんの別荘に彼女を連れて行くという行動に出た。

「で、ぼーや、神楽坂明日菜を連れてきて何をするつもりなんだ?」

「マスター、少し場所をお借りします。アスナさん……アスナさんの言葉は嬉しいですが僕はアスナさんが……どこまで本気なのか分かりません。ただ鍛錬するというなら止めはしませんが……魔法関連に関わるというのなら、覚悟を見せてください」

「私は本気よ!ネギ、その覚悟っていうのはここに連れてきたからには相手して見せればいいんでしょ?」

「僕はアスナさんと戦うなんて嫌ですけど……こうしましょう。僕にどういう形でも一本入れて見せてください。時間は限定しません」

「ネギ、あんた偉そうなこと言うようになったわね。いいわよ。やってやるわ!」

神楽坂明日菜は俄然やる気。

「ほう……ぼーやが神楽坂明日菜を試すというのか。お前達の問題だから私が口出しをする気はないが、どういうつもりだ。結果はみえているだろう」

「コタロー君やくーふぇさん、超さんとで得た経験ですが……こうしてぶつかった方が相手の考えている事が素直にわかると思うんです」

「ほう……なるほどな。神楽坂明日菜、せいぜいぼーやにお前の想いを伝えると良い」

「なんか良くわからないけど、分かったわ!行くわよネギ!」

「どこからでもどうぞ!」

こうして始まったネギ少年と神楽坂明日菜の模擬戦であったが、ネギ少年は戦いの歌も使わないただの魔分による身体強化のみで彼女を圧倒した。
当然といえば当然の結果ではあるが、合気柔術で覚えた技で受け流したり、投げ技で対応し続けた。
すぐ諦めるかと思われたが、1時間を経過してもなお続ける神楽坂明日菜にエヴァンジェリンお嬢さんは見ているのも飽きて城に戻っていった。
続けて観察していようと思った矢先。

《茶々円、見ているなら返事しろ》

勘がいい。

《何でしょうか、お嬢さん》

《聞いてなかったが、修学旅行で出たという白髪の小僧と神楽坂明日菜には何か関係があるのか》

《……お嬢さんなら下手な事は口外しないでしょうし良いでしょう。……白髪の子供は魔法世界の前大戦の黒幕、完全なる世界の強力な残党です。広域魔力消失現象と魔法無効化能力、そしてタカミチ少年が数年前に彼女を連れてきた……わかりますか?》

《……おい……そんな事今まで隠していたのか》

言う必要が無かった。

《隠していた……というよりは、正しくは言う必要が無かったという事です。麻帆良にはそのような秘密はあちこちに埋もれています。今更です》

サヨは初めての自己紹介の時に少し何か感じたようだが……ネギ少年のクラスには今の今まで全く目立ってないながら、まだ……1人いる。

《はぁ……分かった。たまたま修学旅行がそのきっかけだったというだけか。茶々円の話からすると神楽坂明日菜は黄昏の姫御子なんだな?》

《そういう事です》

《……あのクラスはおかしな奴が多いとは思っていたが、じじぃも大概だな。……それでフェイトとやらは今後神楽坂明日菜を狙ってくる可能性があるのか?》

《絶対とは言えませんがその可能性が無いという方が少ないでしょう》

《……そうか。神楽坂明日菜がぼーやにやたらと構う理由はナギに姿を重ねているという所か》

《よく分かりますね》

《あんな自分でも理解できていないような不自然な動機でこちらに顔を突っ込むのだから今の話と合わせてもそうとしか考えられないだろう》

《説明の手間が省けました》

《あー、またここに入り浸る奴が増えそうだな》

《まだまだ増えそうですが》

《古菲あたりか……》

忍者も……か。

《私が言う事ではありませんが、朝倉和美や早乙女ハルナに入り込まれたら始末に終えないので気をつけてください》

《……奴らは確かにまずいな……もし入られたら問答無用で記憶を消すよ》

強硬手段……それが良い。

《どうぞご自由に。女子中学生にしてみるとアーティファクトの事は知られないようにした方がよいでしょうね》

《……それはこのかを見てなんとなくわかるさ。まあ火種になるオコジョは今はどこかに行っているし問題ないだろう》

《あの魔法生物……どうなっているでしょうかね》

《さてな、ハードボイルドがどうとか言ってノリノリだったが知らん》

漢の中の漢などと確か言っていたが……好きにして欲しい。

《……恐らく大丈夫でしょう》

《死んでも構わんがな。アーティファクトと言えば神楽坂明日菜は魔法無効化系の魔法具でも出そうだな》

アーティファクトについては……予想できるか。

《その可能性は高いでしょうね》

《まあ……ぼーやと仮契約なんてやるかどうかも分からんがいずれにせよ先の話だ》

《そのような事を言うからには彼女も育てるつもりですか?》

《下手に外で目立たれてもかなわん。大体ぼーやがいるところについてくるんだから付き物みたいなものだろう》

《でしたら……一つお教えしますが、彼女は咸卦法が使えます。今……は忘れていますが》

《……は?何だと?》

《小太郎君とは違い自力で発動できる筈です》

《良くそんな事まで知っているな》

《知っているものは知っています。知らない事は知りません。クウネル殿にも聞いてみたらどうですか?》

《……お前達性格悪いな》

《私はただ話していなかった……だけです》

《もういい……。しかし咸卦法が使えるという事は他の技術もすぐに習得できる可能性が高いな。……面白い、鍛えても無駄かと思えば意外と脈はあるようじゃないか。剣でも持たせてチャチャゼロに相手でもさせるか》

流れとしては……悪くない。

《それでは私はこれで失礼します》

《どうせ視ているのだろう?》

《そう言われると……そうですね》

エヴァンジェリンお嬢さんとの会話も終わった所で、ネギ少年達はというと……。
そのまま2時間が経過するかという状態に入った。

「アスナさんッ!どうしてそこまで頑張れるんですかッ!」

神楽坂明日菜は既に幾度となく膝をついても尚、またすぐに起き上がる。
その様子にネギ少年は涙腺が緩みそうになりながら尋ねた。

「はぁ……はぁ……そんなの……私にもよくわからないけど、諦められないのよ!それにネギだっていつも……頑張ってるじゃない!」

「説明になってないですよ!アスナさん!……あれ……なんで涙が……出てくるんだろ……」

「どうしてネギが泣き出すのよ!私が泣きたいぐらいよ!もう……やだ、私も何か涙出てきたじゃない」

いわゆる熱い汗と涙の青春とは大分……違うが2人は涙が止まらなくなった。
勝手に目元からこぼれ出続ける涙が落ち着いたところ。

「……理由はともかくアスナさんの気持ちはなんとなくわかった気がします。ありがとうございます、アスナさん」

ネギ少年は頭を下げた。

「……なんでお礼するのよ」

「アスナさんからは……どこまでも優しさ、それしか伝わってこないんです。だから……ありがとうございます」

「……優しさ?もう……よく分かんないけどネギが何かわかったならそれでいいわ。にしてもどれだけ強くなってるのよ。10歳の子供の癖に」

「年は関係ないです。僕は……僕の道を進むだけです」

「全く……そんな事言う割には心配でみてられないんだから、このっ」

ネギ少年の頭の上に手を置いて雑ながらも……まるで姉……のような態度で撫でるのだった。

「アスナさん、ちょっと痛いですよ」

「私がさっきどれだけ痛い思いしたと思ってんのよ!」

「ちゃんと調節してたんですよ!それに大体アスナさんが……」

雰囲気が良くなったかと思えばすぐに言い合いが始まった。
そんな所、エヴァンジェリンお嬢さんが戻ってきた。

「何やってるんだお前達……神楽坂明日菜、随分ボロボロじゃないか。私も一応治癒魔法は使えるから手当してやる。それで話はついたのか?」

「えっ!?ホント?」

「マスター、話がついたとは言えないですけど、アスナさんが一生懸命だっていうのは分かりました」

「拳で語り合うなんて本当にやるとはな……。ほら、傷を見せろ」

お嬢さんは手で招いて近くに神楽坂明日菜を寄せた。

「あ、お願いします」

―治癒―

「はぁ……神楽坂明日菜、お前は自分の特殊体質を理解しているか?」

「……石化魔法だっけ?あれが効かなかったと思ったらあの白髪の子供に攫われかけた事?それってそんなに重大なの?」

「あの小僧はかなり手強い。それが攫おうとするのだから重要なんだろうさ」

「……アスナさん……やっぱり危ないですよ」

「ネギ!さっき分かったっていったばっかりじゃない!」

治癒の手を当てているところがズレる。

「おい、暴れるな……」

「ご、ごめんなさい」

「ぼーやは心配だろうが自衛手段ぐらい持っていてもいいだろう。刹那にでも剣を習うといい」

「刹那さんに剣を?」

「そうだ。古菲のように武術を学びたいならそれでもいいがな。一応説明しておくが刹那の京都神鳴流は武器を選ばんから素手でも戦えるぞ」

「そうなの!?刹那さんならこのかと最近仲いいし頼んでみようかな」

「マスター、どうしてそんなに積極的に?」

「……何、ただの気まぐれさ。それにぼーやも神楽坂明日菜が一般人とは思えない身体能力をしているのは分かっているだろう?」

「それは……僕も何度も見ているので分かります」

「え?私そんなに変じゃないわよ!」

「アスナさん、自動車と同じ速度で走れるのは普通じゃないですよ」

「普通は綱引きで1人が引っ張っただけで勝敗はつかんだろう」

「ぐ……私普通じゃなかったの……」

「……いいじゃないか、それだけ見込みがあるという事さ」

「確かにアスナさん凄い才能あると思います!」

「今更何褒めてんのよネギ!何も出ないわよ!」

神楽坂明日菜がネギ少年の頭を叩く。

「痛いですよ!手が出てるじゃないですか!」

「そういう事を言ってるんじゃないの!」

「そういうところは子供だな……」

そうこうして話がなかなか進まなかったが、神楽坂明日菜は桜咲刹那に剣術諸々を教えてもらう事を……勝手に決めた。
2時間程度しか経っていなかったのでその後ネギ少年とエヴァンジェリンお嬢さんの模擬戦を神楽坂明日菜は見ることになったが……本人は驚きの連続であった。
とにかくネギ少年とお嬢さんの動きが速すぎるから仕方はないが、それでも動体視力は追いついているのは目を見張るものがある。
お嬢さんは流石に咸卦法をいきなり試させようということにはならなかったがそのうちそうなるであろう。
しかし、何はともあれ、全てはお嬢さんの懐の広さが効いている。
……その後すぐ神楽坂明日菜から直接鍛えて欲しいと頼まれた桜咲刹那は当初良くわからない風だったが、お嬢さんの元に出向いた時に話を聞かされ「はぁ……そうですか。わかりました。私もまだまだ修行中の身ですがそれで良ければ」と律儀なのは変わらなかった。
他の面々は一体どうなっているかと言えば、古菲はフェイトに完敗した経験から武術の修行に何か物足りなさを感じていたところ、忍者の凄さを見た事から小太郎君もついていく山篭りの修行に「私も行くアル!」と忍者の部屋に張り付いて離れず、山篭りの人数が増えた。
気の扱いに関しては達人級である忍者からは古菲も小太郎君も学ぶことがまだまだ多いようだ。
特に瞬動術は古菲にはかなり役立ったらしい。
しかしその後……麻帆良郊外の岩山が砕け散る現象がそこかしこで観測されるようになったのは余談。
……程なくしてお嬢さんの魔法球にも混ざるようにもなるのがそれもまた別の話。

さて、図書館探検部の綾瀬夕映と宮崎のどかはどうか……というとかなり迷っていた。
宮崎のどかは前から、綾瀬夕映は2年の期末テストの一件からネギ少年に熱心に勉強をしようと勧められた経緯もあって彼女もその気はあったようだが、修学旅行の一件でネギ少年の千の雷での派手な登場からの活躍を見てしまい何か憧れのようなものとネギ少年がどこか遠く離れた存在のように感じられたようだ。
それと魔法に興味が尽きなくて仕方ないらしい。
地球での魔法を行使することを可能にしている私としては精霊冥利に尽きる……と言えばそれまでだが、そんな事は露知らず意を決した2人は5月も半ばという頃、ネギ少年の部屋に訪れた。
部屋の呼び鈴を鳴らして出てきたのは神楽坂明日菜だったが。

「あれ、夕映ちゃんに本屋ちゃんじゃない。どうしたの?」

「ネギ先生に話があって来たのですが上がらせてもらってもいいですか?」

「うん、いいわよ。いらっしゃい」

「失礼するです」

「失礼します」

2人は部屋の中に通される。

「ゆえ、のどかいらっしゃい。どうしたん?」

「あれ、のどかさんに夕映さん、こんばんは。話というのは何ですか」

ロフトから気づいたようにネギ少年が声をかけ、そのまますぐに下に降り、2人に向かい合った。

「あ……あの!私達に魔法を教えて欲しいのです!」

……と、綾瀬夕映は勇気を振り絞って言った。
ネギ少年にしてみれば、神楽坂明日菜はあのやりとりで納得できた所更に2人、しかも取り柄は図書館探険部である程度鍛えている体力あたりぐらいが、戦闘面では評価できる人達の登場。
ネギ少年はどうにかして魔法に関わろうとするのを思いとどまらせようと危険性を説いて聞かせたのだが、いわゆる恋する中学生は手ごわかった。
しかも近衛門に色々言い聞かせられている筈の孫娘までもが応援したくなったのか火よ灯れぐらい挑戦してもいいのではないか……と言い出した。
更に神楽坂明日菜は「なんとかなるわ、大丈夫よ」と自分の経験から2人に割と肯定的だったのはネギ少年の味方が誰もいないという事を意味していた。
結局考えさせて欲しいと一旦何とか2人を部屋に帰したネギ少年だったが、つい最近まで佐々木まき絵の新体操部の夏の大会の選抜試験の為に、朝一緒に特訓に付き合ったりという事もしていたのだが……次から次へと問題が尽きず苦労が絶えない。
就労制限のみならず勤務時間外の労働もあるという有様。
……次の日ネギ少年はエヴァンジェリンお嬢さんにその出来事について話し、お嬢さんは酷く苦い顔をしたが、自分もナギに惚れた経験からか……絶対に駄目とは言わず「好きにしろ」で終わった。
ネギ少年は魔法のことが他人に露呈するとオコジョになるというのは忘れたことは無かったが、順調に裏の関係を知る人物が3-Aに増えていく事に疑問を感じざるを得ず、自分のどこに問題があるか真剣に悩んでいた。
修学旅行が不可抗力だったから仕方ないとは……確かにネギ少年にとっては悩ましい問題であろう。
結局、折れに折れ「他の人にバレたらそこで終わりにします。それでもいいですか?」という条件を付けた上で、手持ちの初心者用の短い杖を2人に渡し、火よ灯れ、物を動かす魔法、未来を占う魔法の魔法学校で最初に必ず習う基本的な魔法の練習法について教えたのだった。
その際孫娘が実演してみせたのは2人のやる気を大層上げたのであるが、あまり自慢するべき所ではない。
本当に心配なのは度々2人の部屋に強引に突入する早乙女ハルナであるが、彼女はその点でかなりの強敵。
全く役に立たないラブ臭なるものを検知する事ができる彼女はまるで埋まっている地雷ですら安々と探し当てるのではないかという程、その臭いについては嗅ぎつける事ができるようだ。
結局一番厄介なのが身近な人間とは皮肉なものであるが、約束したからには何としてでも2人は頑張るとのこと。
……修学旅行に端を発した結末は大体このような所である。
一方この間、超鈴音はというと自分のやるべき事を着々と進行させていた。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

いやー魔法球を2年前と同じようにまほネットで個人情報を適当に偽造して注文し、届く荷物としては地球の普通の家具として来るように手配したのだが、5つとなると部屋のスペース的に邪魔で仕方が無かたヨ。
流石に20億近くかかたのは怪しまれる事請け合いだから近いうちに記録をまた改竄しておいた方がいいだろうネ。
届いたのは修学旅行から帰てきてすぐの5月の頭だたが丁度間に合いそうだナ。
早速田中サンにエヴァンジェリンの家まで運搬をお願いしておいたが届いた筈ネ。
一応付属した手紙に詳細を書いておいたから大丈夫だとは思うヨ。
科学迷宮用の敷設ワイヤーも龍宮神社の周りを囲うだけの長さも取れそうだし、端末の数も余りそうなぐらいには用意したネ。
後はメインの総合管理用のプログラムとスクリーン等が必要だナ。
ネットワークはSNSの特設コミュニティで間に合わせればいいしネ。
SNSと言えばとうとうアメリカでの導入も完了し世界規模で運用がスタートし始め、今まで主要な使用言語は日本語が多かたが、英語の使用率が急速に伸び始めたヨ。
学園長からの話だと武道会の参加者数はかなりの数に登るようで、京都神鳴流の宗家も来ると聞いているのだが最強の剣客集団が参加とはこれは主催者としての腕がなるネ。
刹那サンにとては最高峰の技を見るのにいい機会になるのではないかナ。
まほら武道会の準備はこの通り順調に進んでいるヨ。
そして今は……DNA鑑定の真最中ネ。
修学旅行で手に入れたネカネサンの髪の毛と明日菜サンの髪の毛とネギ坊主の髪の毛の比較の結果がそろそろ出るヨ。
教室では私のすぐ後ろの席に明日菜サンは座ているから髪の毛は簡単に採取できたネ。
結果はどうかナ……。
これは……。

《翆坊主、さよ、DNA鑑定の結果が出たヨ》

《……聞きましょう》

《ドキドキしますね》

《簡単に言えば三人共親戚だたヨ》

《……なるほど》

《えっ、ってことはネギ先生達は神楽坂さんの家族みたいなものなんですか?》

《ここからが怖いところなのだが……遺伝的には明日菜サンが一番古いようネ》

《とすれば……神楽坂明日菜が先祖という事になりますね》

《えええええ!?》

《当然私も遠い親戚ということになるのだが、流石に私まで来るともう関係は薄いネ。実に歴史的価値ある資料を手に入れた気がするのだがとてもではないが公表できないナ》

《……本当に魔法世界の尻拭いをしているだけなのかもしれませんね……》

《始まりの魔法使い、アマテルという女の人だたという伝説だがどうなのだろうナ》

《残念ながらそこまでは私は視ていない……いえ、きちんと視なかったというのが正しいかもしれません。ですから2600年前のローマ帝国は謎ばかりです。……それに彼女が実在したとしてもたった1人だけ魔法使いだった訳ではないでしょう》

《ふむ、そうだネ》

《しかし……ある意味髪の毛の色である程度判断できますね》

《キノ、どういう事ですか?》

《明日菜サンは黄昏の姫御子というその名の通り黄昏時つまり美しい夕焼けの髪の色をしていると言いたいのかナ?》

《そういう事です。髪の色の濃さから言っても神楽坂明日菜の方が上代の存在である証明になります》

《……なるほど、だからネカネさんは金髪に近くなって少し薄いんですか。いいんちょさんにも似てるのは遠縁だったりするんですかね?》

《大体予想できるが多分その可能性は高いナ》

《大方神楽坂明日菜の身体能力が異常に高い理由も血が濃いからという事かと》

《生ける化石みたいなものだネ》

《神楽坂さんって実は私よりお年寄りなのかもしれないんですね……》

《多分長期間封印されていたと考えるのが正しいヨ》

《……そのようですね》

……当然、知ていたようだナ。

《ふむ……だとすれば一応明日菜サンがネギ坊主に構う理由は子孫を守るという本能だと分析できるナ》

《本人がよく理解していないにも関わらず勝手に……というのは確かに本能と言っても良いですね》

《何だか複雑なのに私達3-Aと合わさるともう、混沌としてる気がします……》

《3-Aだからこそ混ざていられるとも言えるヨ。報告はこれで終わりネ》

《興味深い事が分かりました。そういえば警察から表彰状を授与される日取りが決まったそうですね》

その話カ。

《……思い出したくなかたのだが、出たくないヨ》

《私達ハッキング普通にしてますもんね》

いつもの事だナ。

《確実に新聞に乗りそうなのだがどう回避したものカ……》

《超鈴音、髪型から色々変えてみてはどうですか?》

うむ、一応パッと見は変わるナ。

《鈴音さんのお団子下ろして出るだけでも大分印象違うと思いますよ!》

《ふむ、後はハカセから度の強い眼鏡でも借りるとするかナ》

《突然仮装とは……有名になると大変ですね》

《命が懸かているからやるしかないヨ》

6月頭にその予定らしいがやはり遠慮したいネ……。
折角ダイヤモンド半導体も完成したというのに気分は微妙だヨ。



[21907] 32話 まほら武道会要綱
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 19:05
気がつけば3-Aの中でも裏及び魔法関係に関わっている人数が15人もいるという状況になっていますが、これからも増えていくかどうかは謎です。
少なくともネギ先生が油断して直接バラしてしまったのは神楽坂さんただ1人だけです。
いいんちょさんなんかは魔法球に勝手に入ってきたのが悪いですしね。
そういう訳で新たに裏に関わった人達の生活もそこそこに始まり5月26日に今年最初の中間テストがありましたが相変わらず4位までは独占しているのは変わりありません。
神楽坂さんの順位は前回よりも更に上がっているようで、きっちり高畑先生に時間を取ってもらう約束は継続中です。
当たり障りの無い会話をしただけかと思えば、裏に関わっただけあってその話も少ししたみたいですが、高畑先生は神楽坂さんが咸卦法がどうとか言い出した為冷や汗をかいていたそうです。
そして6月2日新聞に普段とは違う姿の鈴音さんが新聞の紙面にそこまで大きくはないですが写真が載りました。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

埼玉県警まで出向くことになて、出発する前に予め雪広グループとも打ち合わせをしてできるだけ普段の格好とは異なるような化粧に始まり変装を頼んだヨ。
髪はさよに言われたとおり下ろした状態にして、いつもは全然考えていない化粧もして目の周りも原型が残らないようにし、眼鏡をかけて準備万端となたネ。
西川サンが言うにはその方が美人に見える等と言われたが違和感があるから微妙だヨ。
麻帆良の外にある埼玉県警まで厳重な警備の元移動はうまくいたが、逆に目立ちすぎたとしか思えないネ。
報道関係者が大量に待機しているものだから雪広のエージェントを突破してマイクが飛び出たりシャッターが切られたりと有名人になるのは私は御免だヨ。
署の中に入た後も署内の職員の人が皆見てくるから手早く移動を済ませ、ようやく署長室に到着したネ。
12月に会て以来の篠田本部長以下見た人達が勢揃いしていたが、最初入た時「お嬢さんはどなたかな?」と聞かれたが「超鈴音です、篠田本部長。この度はお招きいただきありがとうございます」と答えておいたヨ。
そしたら「眼鏡は伊達だと思うがとても良く似合っていますね」と褒めてくれたのは慣例だと思いたいナ。
そもそも、表彰状、私の場合は民間人だから感謝状という事になるのだが、功績としては三次元映像関係の技術の開発によって犯罪率が激減、残った映像が証拠としてフルに機能するなど、世間の役に立つ働きをしたからという事ネ。
三次元映像撮影機を開発したのにも関わらず、感謝状の授与の際に取られる写真やら映像は一般的なもので行うというのは少々おかしいと思うヨ。

乗り気では無かたもののその後は流れ作業だたから打ち合わせ通りに感謝状を受け取て、その瞬間をきちんと写真に納められ、鉄警隊の根岸管理官やら科捜研の榊原所長に絶賛され、挨拶を交わしたネ。
相当効果があたようでこれなら私もニアオーバーテクノロジーを放出した甲斐があたナ。
そこでまた私が構築したSNSの件についても言及されたが、違法コンテンツに関しては巡回プログラムに即座に潰されるようになていて健全性について評価を受けたヨ。
多分この振りは、サイバー犯罪も近年増加傾向にあるから、これだけの技術を持ているのだから協力して欲しいと暗に言ているのだろうナ。
好きなことだけやていればそれでいいという程完全に自由な環境から離れていくのも近いかもしれないネ。
結構気になていたのは私は一応中国からの留学生という事になている上、戸籍は偽造だから、その辺りの追求が一切無いのは何かうすら寒いものを感じるが雪広が手を回したのだと信じたい。

……無駄に肩の凝る空間から解放されたと思えば翌日予想していた通り朝刊に変装した写真が載ていたヨ。
学校に行くために女子寮を出た瞬間麻帆良の独自メディアが大量に待機していてあしらうのに苦労したと思えば、学校につけば皆からは「新聞は白黒だけどあの写真の超りん綺麗だったね」とまた褒められるし、極めつけはネギ坊主も「超さん凄いです!写真も綺麗でした!たまに髪下ろすのもいいと思いますよ!」と満面の笑顔で言われたのだが私のご先祖様にも困たものネ。
恥ずかしいイベントもあたが、これから20日までの学園祭に向けて本格的に準備をしなければいけないし、また3-Aの皆の事だとアホな案ばかり出して決まるまでにかなり揉める筈ネ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

今年の麻帆良祭の3-Aの出し物は決定までに難航を極めています……。
金儲けに皆走り始めたため今年は喫茶店関係から出し物が出始めましたが1年の時に似たような事やってますし、段々破廉恥な出し物でふざけ始めた極めつけにはあの那波さんが「素直にノーパン喫茶でいいんじゃないかしら?」ってそれ昔の風俗業の店ですよ!
私達、いえ私は幽霊でしたけど88、89年代生まれで知っているということは実は年齢詐称疑わ!?
マズイです!
とんでも無く黒い気配を感じるんですが右後方を直視したら成仏する気がします!
私そんな変な事考えてません!
どちらかというと私が年齢詐称してました、ごめんなさい!

……結局この日は決まらずネギ先生が全然まとめられなかったとショックを受けていましたが、先生のせいではないですから元気だしてください。
そういう時に五月さんの常駐する超包子によくネギ先生はよく寄るのですが、今回も同じで偶然来ていた新田先生の隣の席に座り3-Aについての悩みを吐き出していました。
10歳にしてそんな心労がたまるなんて麻帆良は本当におかしいですね。
私も店員として丁度働いていたのでネギ先生に声をかけておきました。

「ネギ先生、3-Aの出し物今日は決まりませんでしたけど気にしないで大丈夫ですよ」

「え?相坂さん、でももうそろそろ他のクラスは準備始めてますよね?」

「そうなんですけど、大体いつもA組はギリギリまで出し物が決まりません。でも決まる前兆があって絶対にありえない出し物が案に出た後次の日ぐらいに皆一致団結してあっという間に決まるんです!だから安心して下さい!今日決まらなかったのは先生のせいじゃないですよ」

「ほ、本当ですか!?うわー、未だに皆さんについていけない時があって困ります。僕もう少し皆さんの事が理解できるように頑張ります。相坂さん、ありがとうございます!」

3-Aの事を完全に理解してしまったら麻帆良の外で逆にやっていけないと思いますから頑張らなくていいですよ。

「どういたしまして。ネギ先生も五月さんの料理で元気つけてくださいね」

「はい!いつも美味しく食べさせて貰ってます!」

やっぱりネギ先生は元気なのが一番ですね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

まほら武道会に向けてネギ少年、小太郎君、サヨから話を去年のウルティマホラでその存在を聞かされていた忍者を始めとし、古菲、桜咲刹那、まだ1ヶ月と少し程度しか鍛錬していない神楽坂明日菜は日々精進し続けている。
そして超鈴音と直接交渉された龍宮神社のお嬢さん……は特に元々生粋のスナイパーなのでその場で出場するようだが、とうとう6月6日、裏でまほら武道会の公式要綱が発表され各所に通達された。
無事に3-Aで揉めた出し物の内容もお化け屋敷に決定したその当日6月7日。
丁度麻帆良祭から2週間前の事。

まず主催者と協賛の内訳が超鈴音であったことに、彼女を知る一部の人達は大いに驚いた。
更に麻帆良学園そのものと雪広グループによる協賛がされている事から、いかに大きな催し物であるのかがわかるだろう。
そのまほら武道会のやる気の高さを表すものの1つとして、出場者登録をする選手及びその付添は雪広グループ提供で宿泊施設の3日間の無料使用権が与えられている。
1日で終わりなどではなく3日間行われる知る人のみぞ知る極秘の大会になった。
近衛門が流した情報の範囲は広く、西に関西呪術協会、京都神鳴流、忍の里、東に関東魔法協会そして各地の独自流派で気を扱う道場関係者、個人的に知っている使い手等にあまねく知らされるという徹底ぶりであった。
当然、誰にも見せられず秘匿しなければいけという事で出場できない方々も多いであろうが。
……その中には例のひなた荘の住人関係者も含まれていた。
東京大学法学部1年青山素子、同大3年の浦島兄とその妹、瀬田夫妻と見た感じでは良く分からないであろうが、その実、神鳴流宗家最強一角の使い手、それの鍛錬に付き合い瀬田教授から武術を指導されていた所随分強くなった上に不死身のような身体をしている浦島兄、忍者かと思えるようなその妹、中国武術で達人級の夫妻と麻帆良並の濃さがある。
……出場予定の人は予め麻帆良学園の特別窓口に連絡先の住所を申請する必要があり、その後順次専用端末が配達されるという仕組み。
選手登録者にとってはそれが龍宮神社へ入るための許可証となる。
付き添いの人物は選手が端末で人数を申請しておけばしっかり宿泊施設を利用でき、専用の出入り可能になるチケットが間もなく届く。
そういう事で一応遠隔地に住む裏と関わりのある人間も参加がしやすい仕組みになっている。

超鈴音が復活させるまほら武道会であるが、まず龍宮神社の一帯の完全貸切、周囲に特殊科学迷宮ワイヤー敷設が対一般人工作、これを突破するためには前述の端末かチケットが必要。
次にエヴァンジェリンお嬢さん完全監修の元に調整が加えられた超特殊魔法球5つが舞台として用意されており、その性能は時間の流れを等倍から最大5倍まで自由に変更ができ、かつ短時間で出入りを可能にする事ができる上、外部からの観戦が可能というものだ。
お嬢さんから聞いたことだが、一部精霊化してから魔法球を調整するのはこれが始めてだったとの事で、時間を24倍までにはしない代わりに通常のものとはかなり別の方向で高性能にできてしまったそうだ。
それを龍宮神社会場内の巨大スクリーンで、等倍速で試合が行われるものについては夢見の魔法の応用で映像が映し出され、倍速で行われている試合を等速で見たい人は個人的に夢見の魔法が使えるならば覗く事ができ、それができなくても全ての試合を後から端末で映像を見られるようにもなっている。
当然その魔法球と全般的システム……が極めて異常な事自体を認識阻害する魔法が龍宮神社全体にかけられるのは抜かり無い。
更に、ウルティマホラでも効果を発揮した、魔分溜りを利用した回復術式の調整を骨折だろうと治る水準にまで高めたものが用意されているので棄権で出場できなくなるという事も起きないように……という配慮もなされているがこれは流石に要綱には記載されてはいない。

大会の試合形式であるが、これも端末を余すこと無く生かした便利なものとなっている。
超鈴音によると方式名は長いが……ポイント獲得型ランダムリーグ方式というそうだ。
トーナメントではなく、ランダムな擬似総当り形式、勝敗によって選手の持ち点が増加して行き、その総合ポイントで順位を決める……というものらしい。
ランダムとはどういう事かといえば、試合を組む前段階で端末に表示される選手登録者一覧から各選手は対戦してみたい相手を優先度順に5人まで申請する事で、その際に集計された結果から人気度順に倍率が順位化されるとの事。
この倍率こそがポイント獲得の鍵になるそうで、例えば係数が3倍に設定されている選手に勝てば自分の持ち点が3倍になる。
負ければ相手のポイントが無条件2倍になるだけで対戦を申請した選手の得点には影響はない。
次に改めてそのランキングを参考にした上で対戦相手の申請を同じく5人まで行い対戦相手がプログラムに従って確定される。
当然被ることがあれば抽選が行われるが、何度も高い優先度で申請を重ねていけばその分申請が通る確率が上がる仕組みになっている。
5人目まで申請した相手が全滅だった場合は完全にランダムになるがそれは止むを得ない。
ただ、一定以上倍率が高い選手側には対戦相手の申請権が無くなるので基本的には挑戦を受ける側に徹する事になる。
それとは別に彼らには対戦相手の確定個別指名権が与えられ、例えばタカミチ君の人気が高くなったとしても、タカミチ君が権利を行使さえすればネギ少年との対戦が別個成立するという仕組みだ。

……以後これを3日間、午前10時から午後6時まで何度も繰り返すことで持ち点がどんどん加速度的に増えていき最終的な得点を争う訳だが、太っ腹な事にそれが賞金に繋がるとの事で動機付けとしてもなかなかのものであろう。
賞金の出元は主に超鈴音の自費が大半を占めるだろうが。
また、完全貸切という事から大会と関係なしに選手同士で直接交渉するなどして午後6時以降に勝手に試合を行うことも可能であるので、大会というより技の祭典というものに近い。

3日間と言っても当然途中で棄権しても構わない制度になっていて、試合時間も申請しておけば、双方の都合が合う時間になるようにできるだけうまく自動的に決定され端末に試合時間一覧が並ぶようになっているので自由度が高い。
その為途中で龍宮神社から出てまほら祭を楽しめるようにもできている。
恐らく選手は100人ぐらいになると思われるが、そうなる場合大体1日に選手1人あたり4試合程度までが目安となるので最大で試合の間隔は4時間程度、十分麻帆良祭自体を楽しむ事ができると思われる。
リーグ方式と言っても全ての総当り戦を行う訳ではないので1200試合ぐらいが限界だろう。
それでも十分多すぎると言える試合数ではあるが。
3日目が終わった段階で端末の情報は自動で全て削除されるようになっているとの事。

試合そのもののルールであるが、基本的には飛び道具や刃物は禁止で木刀や投石については可で呪文詠唱は禁止(広範囲魔法は武道会に即していないから)但し技名は可。
その他に真剣勝負を行う事も双方の同意があれば可能となるが寸止めは絶対条件。
舞台は15m×15mで制限時間は15分、10カウントのリングアウト及び気絶で敗北、ギブアップ有り。
判定は茶々丸姉さんの妹達による厳正な科学判定とそれぞれに人間の審判が5人付くことになっているが基本的に雪広グループのエージェントや麻帆良学園の魔法先生が行う予定。
舞台はいくら破壊しても構わないように土でできており、修繕は苗字さんシリーズのロボット達が活躍する。
ここまで来ると昔の原型を全く止めていないが、超鈴音がどれほどまほら武道会に思い入れがあるのかという事がそれなりに分かる所であり、何にせよ、原動力というのは凄いものだ。

そして現在、ネギ少年の部屋が混沌としている。
原因は主催者が超鈴音であることだ。

「皆明日菜サンの部屋に集まてくれたようだが大分狭いネ」

部屋に集まっている人はネギ少年、神楽坂明日菜、孫娘、桜咲刹那、古菲、忍者、龍宮神社のお嬢さん、サヨ、そして超鈴音、計9人である。

「あの、超さんと相坂さんは裏……の事をしっているんですか?」

サヨと春日美空は修学旅行での出来事の際、ネギ少年には見られていない。

「そうだヨ、ネギ坊主。驚いたかナ?でも私は茶々丸の開発に携わているのだから不思議では無いだろう?」

「私の部屋3人は大分前から事情があってその辺の事を知っていたんですよ」

「そうか……茶々丸さんってガイノイドだったんですよね」

「どうして知ているのかと聞かれても困るから単刀直入に聞くが、ここにいる皆はこのかサンは除くとしてもまほら武道会には出てくれるのかナ?」

「こんな面白そうなの出るに決まているアルよ!」

「古はそう言うと思ていたネ。刹那サンも出るといいネ。京都神鳴流の宗家の人が来るヨ」

「ええええっ!?宗家の方がいらっしゃるんですか!?」

黙っていたところ突然の振りに大いに桜咲刹那は驚いた。

「ここで敬語を使ても仕方がないヨ、刹那サン」

「ハッ……そうですね。いえ、宗家の方がいらっしゃるというのであればこの私も是非研鑽の為に参加したいと思います」

「せっちゃん、そんなに宗家の人って凄いん?」

「お嬢様、凄いどころではないですよ!もう、何といいますか、こう、ああ……うまく言い表せません」

目が輝いている。

「刹那サン、落ち着くネ。楓サンは前にもさよが少し話した事があたと思うがどうかナ?」

「拙者も修行ばかりでござったが、力を見せても構わぬ大会があるならば出場するでござるよ」

「ありがとネ」

「超、私も興味があるから出させてもらうよ。一応場所を提供しているしな」

「私もまだ1月ちょっとぐらいだけど出てみるわ!」

「アスナさんも!?ぼ、僕も絶対出ます!」

「鈴音さん、全員出てくれるみたいで良かったですね」

「うむ、今まで数ヶ月苦労した甲斐があたヨ。……では先に大会専用の端末を渡しておくから個人情報の登録を済ませておいて欲しいネ。ネギ坊主、明日小太郎君にも渡しておいて貰えるカ?」

「は、はい、勿論です!」

「では1人1つずつどうぞ」

サヨが孫娘以外に渡し終え作業は完了。

「これが出入りするためのチケットの役目も果たすので無くさないようにして下さい」

「このかサンには観戦用チケットを後で用意するから待ていて欲しいネ」

「うちにもあるんか。超りんありがとう」

「それでは大会まで2週間程だが修行頑張てネ」

「皆さん、失礼します」

「あ、あの!超さん達は魔法を使えるんですか?」

「私には科学があるヨ」

「私は知っているだけです、ネギ先生」

はっきりとは答えなかったが2人は飄々とネギ少年の部屋から先に退出した。
残った者達はというと。

「して、この端末はどう使うでござるか?」

「んーわからないアル」

この2人は説明が必要であった。

「楓、古、私が教えてやろう。ネギ先生達も一緒に登録するか?」

「はい、そうしましょう!」

その後しばし時間をかけて選手登録を無事済ませたのだった。
それにしても……。

《超鈴音、随分大会の用意、頑張りましたね》

《エヴァンジェリンの用意する魔法球が凄いからナ。それに予想だとかなり人数が集まるみたいだから沢山試合を見てみたいしネ。トーナメントで起きやすい相性の問題もこれで解決できるし悪くはないと思うヨ》

まるで生きた標本でも記録してみたいという様子だ。

《楽しそうであれば何よりです。認識阻害をかけるので何の問題も無いでしょうが、気と魔法が普通に使われる大会というのは認識阻害を受けない私達としては違和感がありますね》


《あくまでも大会関係者達の為のものだからネ。魔法が派手かと言えば、分身も派手だし、神鳴流は特に派手。どちらもお互い様ネ》

《そうでしょうね》

《ところで……ネギ坊主はまだ断罪の剣の完成には時間がかかるのカ?》

《相転移の方もまだ未完成、魔分での構築も含め、もう少し時間がかかりそうです》

《まだか……でも生身にしては頑張ているナ。ネギ坊主がどこまで成長するか分からないが断罪の剣を完全に魔分で行えるようになたら分解をマスターした事になるネ》

多様変異性素粒子の極端な使用法の1つ。

《1か0の世界に突入ですか》

《1か0と言ても結局は出力の問題になるけどナ》

《その通りですね。再構成はどうなるでしょうか》

《私はできるようになたが、アーティファクトの恩恵が強すぎるネ。しかし、分解と再構成を突き詰めるとこれが異界と空間を繋げるという事との繋がりがあるだろうというのがなんとなく分かるナ》

《……始まりの魔法使いも基本魔法の扱いには長けていたという事なのでしょう》

《しかも特殊体質だたというオチ付きだろうネ》

《世界とは興味深い事が起きますね》

《だから面白いんじゃないカ》

《全くです》

《……まほら武道会だが、全試合を見れるようにしたと言ても選手は大体100人ぐらいになるだろうから一回毎、全試合等倍速で見るだけでも最大で24時間かかるだろうというのは少し騙している気がするヨ》

《好きなものだけ見ればいいのだと思いますよ》

《トーナメントではない事の弊害でもありメリットでもあるネ》

《昔ながらというより記念すべき超鈴音式まほら武道会の開催ですね》

《どうせやるなら盛大な方がいいネ。表でも田中サン達で超包子主催イベントやるしイベントは尽きないナ》

《鬼ごっこ……でしたか》

《それなりに参加者は出ると思うヨ。とりあえず頑張れば商品券だからネ》

《弐集院先生が頑張りそうですね》

《あの先生はまほら武道会では観戦側の人間だろうナ。魔法先生なのに表で頑張るとは面白いネ》

《私はあの先生の始動キーを高く評価しています》

《翆坊主の趣味は時々謎だナ》

《お気になさらず。……私は魔分溜りの補充をしておきます》

《そうしておいてくれると助かるヨ。回復術式に認識阻害の2つを使うからネ》

《任せてください》

《審判もやるカ?》

《それは遠慮させて貰いましょう》

《ふむ、そうだナ。でもせめてさよには会場で管制をやてもらうとするヨ》

《分かってはいますが、そういう超鈴音は出場しなのですか?》

《小太郎君ではないがやはり世界樹の加護は他人には見せられないネ。それに主催者だから色々と忙しいヨ》

《……そうするのがやはり安全ですね。忙しいといえば3-Aのお化け屋敷は準備間に合うのでしょうか》

《どこまで凝るかによるが、皆は際限なくやりそうだから泊り込みなんて事しそうだナ》

《新田先生が大変ですね》

《3-Aについてはもう諦めてもらた方がいいヨ》

祭りが好きな女子中学生達は留まる所を知らないようだ。

……その後、出場を決めた選手達からまほら武道会運営本部に次々に申請が届き、その都度専用端末が送られて行った。
予想通り合計人数は100人より少し少ない94人。
内訳はネギ少年達のグループ含め魔法生徒、魔法協会、呪術協会、京都神鳴流、ひなた荘関係者、忍、中国及び日本等の拳法の達人達そして雪広グループのエージェントなどである。
京都神鳴流には近衛門から個人的に詠春殿が誘われて参加表明したのだが、他の宗家のお姉さん達も参加するという事は詠春殿には伏せられているので混沌とするであろうし、忍達の申請は長瀬楓にとっては驚く事になると思われる。
ひなた荘関係者には中国拳法の達人がいるので古菲にとっては手応えがあるだろうし、忍者に近い人もいるのでこちらも長瀬楓にとっては何かしらあるかもしれない。
……付き添いには南の島の王国の人が超鈴音の端末を見たのも関係有るかは分かりかねるが、付き添いでくるだろうと思われる。

《翆坊主、麻帆良には温泉はあるかというのはどういう事だろうネ?》

そのような事を大会本部に問い合わせてくるのは。

《留守番させておいておけば良いと思うのですが。多分とあるカメの為だと思いますよ》

《変わたカメて何ネ?》

《時速60kmで空を飛びます》

《南の方に生息する珍しい温泉ガメの事カ》

《知っているのですか?》

《私は麻帆良最強頭脳ネ》

流石である。

《どう返信を?》

《女子寮の浴場の一部も温泉だからネ。雪広に繋いでおけば問題ないヨ》

《……そのようですね》

麻帆良に無い物は余り……無い。



[21907] 33話 2003年度麻帆良祭開幕
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 19:05
3-Aの出し物はお化け屋敷ですが、クラスの皆は結局普通の中学の学園祭ではここまでやらないレベルのセットを作るのに何の迷いもなく頑張り始めたので、やっぱり時間が足りなくなって学校にこっそり……はしてなかったですが泊まりこんで間に合いました。
新田先生がクラスにしっかり入ってきて確認していたら終わってました……。
ネギ先生人気は相変わらずで、麻帆良祭直前では皆からあちこちのイベントに参加する事を誘われていて、日程と時間を聞いてはメモしていましたが全部回れるのでしょうか。
軽い気持ちで変に期待させるような約束をしてはいけませんよ。
まほら武道会にはエヴァンジェリンさんも出るのかなと思っていたのですが、特別参戦ぐらいはあるかもしれませんが基本的には出ないそうです。
実際エヴァンジェリンさんは今年も相変わらずサークルの発表等が忙しいですから、まほら武道会には、魔法球の開発者として大会運営本部に出入り自由という待遇に留まっています。
鈴音さんの話によると私は未だに直接あったことがないクウネルさんは今年も麻帆良祭を分身体で見て周り、龍宮神社にも出入り自由という事になっているそうです。
今年の超包子は五月さんを筆頭にお料理研究会と雪広グループに丸投げな感じになって申し訳ないんですが、私はクラスでの仕事以外では多分プログラムの管制を主に鈴音さんと葉加瀬さんとやると思います。

そして前夜祭も盛大に行われ……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

いよいよ、6月20日金曜日から3日間、2003年度麻帆良祭の開催。
初日は、生徒たちは8時頃に最終準備を行い、9時から本格的に外部から人々が入ってきた。
サヨ達はまほら武道会の開催式が10時からある為、クラスとの折り合いをつけ龍宮神社へと向かっていった。
その際、朝倉和美が、龍宮神社周辺一帯が完全占拠されている事に特ダネだと察知していたため関係者の中学生達は「これは良くない」と逃げるように彼女の近くから消えていった。

龍宮神社会場内に入る際に佐藤さんシリーズに端末又はチケットを見せて入場したところ、そこは既にネギ少年達にしてみれば予想以上の人々の数で混雑していた。
出場選手96人に加え、関東魔法協会及び呪術協会の非戦闘型の人々の観戦者用チケット申請、各極秘流派道場の関係者などなどのため人数が非常に多く揃っていたからである。

「ネギ!姉ちゃん達おはよう!凄い人数やな!」

「コタロー君おはよう!うん、本当に凄い人数だね。こんなに裏の関係者の人達いたんだ」

「おはようでござるコタロー」

「コタ君おはよう」

「コタロー君おはよう」

「コタローおはようアル!」

「小太郎君おはようございます」

「おう!しっかし学園長に見せてもろた映像と同じぐらいはおるで」

「マスターの話だとここ最近は小規模の大会だったって聞いてたけど本当に復活したみたいだね」

神社境内に集まった人々で混雑している中。

「せっちゃん、あれ?父様やない?」

「お嬢様?あ、はい、間違いありません!」

「あ、詠春さんですね!」

「皆ちょっと待っててな、うちの父様紹介するえ!」

「私もお供します!」

そう言って元気に走って行き、詠春殿に後ろから飛びかかった孫娘とそれを見て少々慌てた桜咲刹那は、挨拶を交わし3人でネギ少年達の所に戻ってきた。

「皆、うちの父様や!」

「これはどうも、皆さん、このかがお世話になっています」

「「「こんにちは!」」」

詠春殿は律儀にネギ少年、桜咲刹那、長瀬楓、古菲に修学旅行の件で孫娘を守ってくれた事についてお礼を述べ始めたところ……。

「……なかなかいいおじ様ね」

「アスナ、父様もタイプなんか?父様結婚しとるよ」

当然。

「えっ?ち、違うわよ!どっちかっていうとあっちにいる人みたいな」

「えーどれどれ?あーあのさっきから笑い声が耐えない人やな。でも隣に付きおうてそうな人おるよ?」

「だから!そうじゃなくて!」

「あ!あの人殴られたえ!」

「え!?ほんとだ!凄い吹き飛んだけど……あ、頭から血が出てるのにまだ笑ってる!」

「丈夫な身体なんやね、あ!カメさん飛んどるよ!せっちゃん、あのカメ何かな?」

「お嬢様どうされま……何でしょうかあれは……」

「何なのあの人達……」

殴られても軽く笑っているのは東大の考古学教授瀬田記康、そして殴ったのは奥さん、近くでその光景を見ていつもの事だと笑っているのはひなた荘の住人、飛んでいるのは温泉たまご、愛称たまちゃん。
ただの一般人ではないか……と思わなくもないが、瀬田教授はあちこちの遺跡を掘り返したりする過程で表裏問わず修羅場慣れしているので問題はない。
そして神楽坂明日菜が呆れているのは現在浦島景太郎を巡り小規模な争いが勃発しているから。
発端はその妹浦島可奈子が久しぶりに兄に会ったからであるが。

「あの女の人中国拳法できるアルね!」

「殴られた御仁もかなりの使い手のようでござるな」

「ん?どうしたんだい……おお、あれは。素子君も来ていたんだね」

「長、知っているんですか?」

「あの男性は有名な教授ですよ。そして、近くにいるあの黒髪の女性は現在神鳴流で1、2位を争う師範の青山素子君、私の親戚です。もちろんこのかにとってもですが。……彼女は長い事関東に修行しに出ていたからこのかも刹那君も知らなかったね。鶴子君は知ってると思いますが彼女の妹さんですよ」

「ええ!?あの方が噂に聞く!?わ……若い……」

「へー、あの素子はん言う人はうちの親戚でせっちゃんと同じ神鳴流なんか」

「少しアキラに似てるね」

「おおっ似てるアルな!」

「ほんとだ、似てますね!」

そこへ現れたのが……。

「ほう、素子はんが誰に似とるんどすか?」

「!?だ、誰でござるか……気配が全く無かったが……」

袴に蓑笠で顔を隠し、ネギ少年達の輪に混ざっていた……。

「げっ!?鶴子君!?来ていたのか!……皆さん私はこれで失礼するよ」

詠春殿は突然挨拶も無しにそそくさと去ろうとする。

「お、長!?」

「と、父様?」

「詠春はん、げっとはなんどすか?待ちなさい」

鶴子さんは素早く移動し詠春殿の首を片手で掴み、そのまま戻ってきた。

「……いや、何も言ってませんよ。ちょっと用事がありまして」

「そうどすか……。後でお話を……いえ、大会で指名しましょうか」

鶴子さんは片手で詠春殿の首を徐々に締め始め空中に吊り上げ始めた。
その光景は先程の瀬田教授を彷彿とさせるが、ネギ少年達は鶴子さんの出す空気が酷く声が出なかった。

「それは勘弁願えないかな……私も若くなくてね。首、首が締まってるから、いだだだ!ほら、鶴子君、刹那君ですよ」

詠春殿は孫娘の護衛を手で示し注意を逸らした。
その言葉に反応し、鶴子さんはすぐに詠春殿を地上に落とし、首をぐるりと桜咲刹那の方に向けた。

「あら、これは刹那はん、お久しゅう」

「鶴子様!お久しぶりでございます。その度はありがとうございました」

桜咲刹那は突如背筋が強ばりそのまま深々とお辞儀をする。

「刹那はん、堅苦しい挨拶はいれへん。頭をお上げなさい。詠春はんに預けたきりどしたが修行は続けとるようどすな」

「はい、まだまだ未熟ですが……」

「そうや、うちが稽古つけましょか?」

「え!?そ、そんな私のような者に、滅相もない!」

「……うちの誘いが気に入りまへんか?」

真剣な空気が張り詰め広がり、急激に周囲の温度が下がり始めたかのよう。

「い、いえ!そんな事ありません!ありがたくお受け致します!」

拒否する筈もなかった。
地面ではその間、孫娘が詠春殿に「父様大丈夫?うち治癒魔法使えるようになったえ」と囁き「さすが私のこのかです。私は大丈夫ですよ」とやっていた。

「よろしい。うちだけやなく姉様達も来とりますから楽しみにしときなさい」

その言葉を聞いた瞬間、詠春殿の顔が更に青ざめ「お義父さん……騙しましたね」と呟いていた。
詠春殿が若い頃1人で魔法世界に行った最初の単純な理由は、既に腕は当時最強だったにも関わらず日々襲いかかってくる神鳴流の女性達が恐ろしい……言い換えれば心的負担から、世のためと大義名分を掲げ逃げ出したのが始まりだったとか。
大戦が終わり戻ってきてみれば孫娘と同じようないわゆる癒し系の木乃葉さんと即座に結婚し、関西呪術協会の長にもなり巫女さん達を周囲に集めたのは……それと関係は浅くはないかもしれない。

「鶴子……気を抑えなさい、子供たちが怖がっている」

鶴子さんと同様全く気配なく現れたのは……。

「蘇芳はん……皆さん、怖がらせるつもりはおまへんどした。ほな、失礼」

「長、また後で挨拶に上がります、鶴子が迷惑をおかけしました。失礼します」

鶴子さんの旦那であった。
突如鶴子さんは気配を抑え、2人はそのまま移動していったが……程なくして次は素子さんが被害者になるようであった。

「息がつまりそうでした……」

「今の御仁も……一体何者でござるか……?」

「……彼は鶴子君の夫です。いつも西の遠征に出て妖魔の討伐を行なってくれている上、礼儀正しいですよ」

「相当できるようでござるな」

「……しかも凄いイケメンだったわね」

「アスナには渋さが足りんかなぁ?」

「そうね……ってそういう話じゃないわよ!」

「あー今の兄ちゃん呪術協会で昔見たことあるで。ごっつ強いらしいわ、あの人ともやってみたいわ!」

「その通りですよ、小太郎君。本当に、鶴子君が彼と結婚してくれて助かりました……」

凄く遠い目をしているのだが大丈夫なのだろうか。

「この大会本当に面白そうアル!」

「宗家の方の技が見られるなんて……」

「せっちゃん何や上の空やよ?」

「ハッ!お嬢様!?そんな事は……」

「各地の手練がこれだけ揃うとは超殿が開いたこの大会凄いでござるな」

「超はこのために一年近く準備していたらしいからな」

……とそのように話を始めたところ。

「「「「お嬢!!」」」」

着地する音と共に長瀬楓の前に並んで現れたのは……。

「お主達!」

「お嬢!ご健在のようで何よりでございます!」

「わー、楓この人達の知り合いなん?」

「に、忍者……」

「忍者ではござらぬよ。拙者の故郷の者達でござる。市、父上と母上の様子はどうでござるか?」

「はっ!頭領はご健在です。椛様はまた旅に出られていますが……」

頭領と言ってしまうか。

「母上ならば問題なかろう。お主達も大会に参加するのでござるか?」

「お嬢の勇姿を確認するのが我らの任務ですが、頭領から我らも出場せよと承りました」

「そうでござるか。この大会では我々の力も見せても問題ない。良い試合を期待するでござる」

「はっ!それではこれにて!」

そのまま音もなく一同は消えた。
本当に忍なのか……時と場所を考えた方が良い。

「か、楓さんの家族って一体……」

「ネギ坊主、普段は皆都会で暮らしているでござるよ」

「そ、そうですか……」

「椛……というのは楓の母親か?」

「そうでござるよ真名。拙者は今は亡くなった祖父母に山奥で育てられた上あちこち放蕩している故あまり会ったことはないでござるが。父上は都会にいるでござるよ」

長瀬楓の家庭事情。
元々小学校卒業近い年齢の時に彼女の祖父母は亡くなったそうでそれを期に父親が麻帆良学園への入学手続きをしたそうだ。
それまでは祖父母と一部のお付きの忍び達と共に山奥で生活していたとの事。
先程頭領だと平然と言っていたのはそのお付きの人であるが……常識が欠落している。
彼ら、彼女達は大体都会に出て生活しているが、雪広のエージェントになったりする事もあり、今回割合忍者の率は高い。
一方このやりとりの別の場所では葛葉先生と鶴子さんが出会い、鶴子さんがそれとなく夫自慢をした為、葛葉先生の表情が僅かに動いた。
その心中はいかに。
元々葛葉先生の方が結婚は早かったが離婚した今となっては立場が逆転していると言えるだろうか。
その後他の神鳴流のお姉さん達が次々現れ更に混沌としたのだが……。
……しかし、人々は皆。仮装しているつもりはないのにも関わらず会場が仮装大会と呼んでも良い程に服装が違う。
それぞれ知り合いに会い、談笑を交わしているうちに大会の開会式の始まり。

[[皆様、これよりまほら武道会開会式を行ないます。この度の大会を実現に導いた雪広グループ社長の雪広義國様、超鈴音様、麻帆良学園学園長の近衛近衛門様から開会の挨拶を頂きます。お三方は壇上にお上がり下さい]]

「超さんです!」

「おじいちゃんや!」

「それにあれいいんちょのお父さん!?」

[[紹介に預かた超鈴音ネ。25年前実質最後となたと言われているまほら武道会の復活を実現出来た事を嬉しく思うネ。詳しい事は後にして挨拶を代わるヨ]]

[[紹介に預かりました、雪広義國です。こちらの超鈴音さんから今回の企画を打診されたのは1年以上前になりますがようやく実現に至りました。我々グループからは全力でサポートを行いますので良い大会になるよう祈っております。気になることがあれば、近くの係員にお申し付け下さい。それでは学園長どうぞ]]

[[紹介に預かった近衛近衛門じゃ。25年振りに本来のまほら武道会の復活になった。皆互いの力を競い合い活気ある大会を作り上げて欲しい。新生まほら武道会の開催をここに宣言する!]]

近衛門の開催宣言により大層盛り上がる龍宮神社会場内。
そのまま詳細情報の確認に移行し再び超鈴音にマイクが移った。

[[復活最初の大会として、より多くの試合がとり行えるように配慮をしたヨ。こちらの映像を見て欲しいネ]]

巨大スクリーンに龍宮神社の周りが水に囲まれた能舞台が映り、そこにある5つの覆いを係員が取り去った。

[[この水晶球は中に入れるようにできている上、その中ではなんと時間が通常の5倍にまで加速設定できるようになているヨ。選手の皆さんにはこの中で試合を行てもらうネ]]

魔法球の話は要綱には記載されていなかったので会場は時間が伸びるという発言に驚いたが認識阻害のお陰で「そんな物があるのか」と、ただそれだけ。
そしてスクリーンの映像が切り替わり……。

[[この映像が水晶球の中ネ。見ての通り試合の為の舞台が用意してあるヨ。土で作てあるから試合でいくら壊しても構わないネ。修繕の用意もあるから安心して欲しい。試合の観戦はスクリーンでも行えるが直接見たい人は試合の前に予め申請してもらえれば水晶球の中に入れるヨ。その代わり何が起きるか分からないので舞台からはできるだけ離れてもらう事になるネ。次に休憩施設の説明に移るヨ]]

更にスクリーンの映像が南門の休憩室に移り。

[[選手の皆さんは試合後には必ず、試合前には任意でここに寄てもらいたい。特別な用意の為に疲労、怪我の治りが早くなるように処置がしてあるネ。続けて詳細な試合のルールに移るが、要綱に記載したものと同じだからスクリーンで再確認して欲しい。書いてある内容の一部が通じない人もいるかもしれないが気にしなくて大丈夫ネ。試合の判定は各審判と厳密な映像で行うヨ。但し勝負が制限時間内につかない場合は引き分けとなるから注意して欲しいネ]]

その後少々細かいルールについて説明が続いた後、いよいよ武道会最初の試合決定。

[[それでは第一試合の組み合わせを決定する前段階として今から端末に送られる情報を参考にして選手の皆さんは申請を済ませて貰いたい。登録方法が分からない場合は速やかに係員に言て欲しいネ]]

事務的な作業が開始されたが、タッチパネル式で感覚的な操作が可能で、それに説明書も付属されていても……使い方が良くわからないという人もちらほら。
大抵近くに知り合いがいれば教えて貰う……という事で済んだが、ひなた荘関係者はそもそもからして、そうはいかなかった。
カオラ・スゥという見た目はインド人のよう、口調は関西弁、謎のメカを所持しているモルモル国出身の女性……何はともあれ、非常に軽い性格で「けーたろ、ウチが登録したるで!」と本人が頼んでもいないのに、端末を奪いとり勝手に操作し始めたりと個人の意思で対戦相手を選べる制度の筈が……どこへやら。
素子さんは青山某と名前が並ぶ一帯付近を見て青ざめ、そこは無かった物として適当に登録していた。
しかし、そのような事関係なくお姉さん達は素子さんや詠春殿を狙い撃ちにするに違いない。
浦島可奈子は「お兄ちゃんと……」と小さく呟きながらパネルを高速で操作していた。
大会よりも兄が全て……のようだ。
基本的に一番最初は、互いに情報が少ないので戦いたいと思った相手が被る可能性が少なく相手を指名する格好の機会。
……そんな所、更に超鈴音からの全体連絡が入った。

[[そろそろ一回目の参考倍率が表示されるが待ている間観客の皆さんはスクリーンに表示しているアドレスのSNSコミュニティに登録して貰えれば、トトカルチョに参加可能、そして投票でリアルタイムで見たい試合を決める事ができるから奮て登録して欲しいネ。詳しい事は当該サイトを見てもらえればわかるヨ]]

このトトカルチョは選手に設定される倍率にも影響が出るのだが、この連絡により暇だった観客の皆さんは携帯を一心に操作し始めた。
程なくして参考倍率が表示されたがかなり分散していた。
古菲と瀬田教授の倍率が目立って高かったが、それは各道場に2人の情報が伝わっているからであろう。
瀬田教授は截拳道の達人という事になっているが、そもそも截拳道とは中国武術に他の様々な格闘技を取り入れて行くようなもの、結果特定の型がある訳ではなく、1人1人異なる戦闘の型になるため、あくまでも総称のようなものだ。
一応原型があるとは言え、そこまで明確に拘らないという点では、ナギに近いとも言えるだろう。
基本的に近接格闘戦闘が主体の瀬田教授であるが、投石の技術も高く遠距離でも戦える。
その技量は小石を投げて当てるだけで飛行中のヘリコプターを落とすことができる程。
もう2人倍率が高いのは狙い撃ちをされた詠春殿と素子さん。
元々詠春殿は魔法協会でも知らない人はいない赤き翼の一員という事で人気がでるのは当然だったが。
そして再度戦いたい相手の申請を済ませ、一回目の試合の組み合わせが決定した。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

プログラムで自動的にはじき出された試合だが記念すべき初戦はなかなか面白そうな組み合わせになたネ。
早速確定指名権を獲得した古は、例のカメが飛んでいる所にいる瀬田はるかサンという人に名前を聞いて試合を申し込んでいたヨ。

「私は古菲アル!お姉さんの名前はなんていうね?さっきの拳凄かたから試合を申し込みたいアルよ!」

「私は瀬田はるかだ。こいつを殴った時を見たのか」

「はっはっは、はるかの拳は強烈だからね」

「教えてくれてありがとアル!試合申し込むね!」

古の一回目の相手は中国拳法の使い手に決まているが、確定指名戦の方が面白いだろうナ。
ネギ坊主は高畑先生といきなり当たる事になた上魔法先生達の熱烈な投票により等倍速試合になたネ。
刹那サンは最初は明日菜サン、楓サンは龍宮サンと小太郎君はランダムになたが浦島景太郎という人とやることになているヨ。
他はなんとなく魔法関係者組と武術関係者組で二極化しているナ。
一番人気の試合はこのかサンのお父さんと青山鶴子サンの試合になているネ。
後は割と人気の高かた瀬田記康サンの相手は抽選で明石サンのお父さんに決またヨ。
他には愛衣サンが雪広のエージェントと当たているのだが、選手登録をしていたのには驚いたヨ。
この前動機を聞いてみたらアメリカの旅で実戦経験をした方がいいと思たらしいというのだから真面目だネ。
因みに高音サンも出場しているヨ。
美空は出てないけどネ。
……それで今、暇をもてあましたのか来客が来ているのだが武道会の為のプログラムを一緒に組んだハカセを交えて話をずっとしているヨ。
茶々丸の妹機の作成等でも協力してもらたからハカセがいるのは当然ネ。
しかし性格は絶対に合いそうにないのだがカメのロボットをいじっているヨ。

「こ、この浮遊システムは一体どうなっているんですか!?」

「これはたまの浮遊理論を応用して実現したんや!」

どうも魔法の浮遊術のシステムを再現しているようなのだが、アンチグラビティシステムをこの時代に開発できる人間がいたとはネ。
流石にこれが火星技術の源流ではない筈だが世の中探せば意外と凄い技術を持ている人というのはいるみたいだナ。
もし私の当初の計画での強制認識魔法を実行する場合だたならハカセにもアンチグラビティシステムを見せたかもしれないが、実際そこまではやていなかたネ。

「アンチグラビティシステムだネ」

「超さん知っているんですか?」

「ハカセ、私もこれは実現できるヨ」

「チャオが送ってきおった端末は凄かったで!ウチのハッキングが通じんかったのには驚いたわ!」

他人の事は言えないが普通にハッキングて言たナ。

「スゥさん、他には何がついてるんですか?」

「プラズマ爆弾に光学兵器、探知レーダーが付いとるで!」

使うかどうかはともかく、武装好きとは話が合いそうだネ。

「鈴音さん、そろそろ最初の試合始まりますよ」

「おお、一応最初だから試合開始の音頭を取らないとネ」

[[これより記念すべきまほら武道会第一試合を開始するヨ!選手の人は能舞台に移動して貰いたい!]]

最初の等速試合はこのかサンのお父さんと青山鶴子サンだナ。

「スゥさん、この後工学部に来ませんか?いろいろ見て欲しいものがあります!」

ハカセ、それは面白そうだネ!

「ハカセ、楽しみは後にとておくものネ。今日の分の試合が終わたらいくらでも話せるヨ!」

「ほんまか?ウチここの学園の事知らんかったけど面白いな!よっしゃまた後でな!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

……予想していたとおりカオラ・スゥが超鈴音と接触した。
カオラ・スゥは戸籍を普通に偽造しているので色々と超鈴音に共通している部分がある。
……それはさておき詠春殿の試合。

「せっちゃん、父様勝てるんかな?」

「長も鶴子様もお強いですからね……」

「逃げようとしてたからこのかのお父さん勝てないんじゃない?」

「アスナ、うちの父様やのに酷いえ」

「ごめんごめん」

外野は気楽。

「詠春はん、おなごに囲まれて鈍っとらんかうちが試して差し上げますえ」

「ははは、お手柔らかに頼みます、鶴子君」

「真剣でやりますかえ?」

「木刀でお願いします」

詠春殿は冷や汗が良く出ていた。
娘どころか皆が見ている中、仮にも赤き翼の最強剣士が簡単に負けるわけにはいかない。

「……試合を開始しても宜しいでしょうか?」

審判の人が完全に怯えているが毎回こうなりそうだ。

「いつでもええどす」

「お願いします」

「分かりました。制限時間15分。試合、開始ッ!」

鶴子さんが開始の合図の瞬間に斬りかかり、警戒していた詠春殿は寸前で受け止めたが危なかった。

「やはり鈍っとりますな」

「……これからですよ」

木刀と木刀が軋む音を立てる度に周囲には衝撃波が発生して舞台にはその余波で次々罅が入っていき……審判の人は身の危険を感じて既に遠くに離れている。
茶々丸姉さんの妹機は更に遠距離から試合状況を見ているので巻き込まれることはない。

鍔迫り合いが終わったと思えば鶴子さんの猛攻が始まり、詠春殿は防戦一方で攻撃に移る隙が無かった。
そうは言っても非常に高水準の戦いであり、2人は結局舞台を完全に無視してあちこち駆けまわり出した。
審判がたまに飛んでくる気弾に怯えながら地面に身を伏せながらもカウントを律儀に数え、そのカウントが寸前になったと思えば瞬動で即座に一旦戻ってはまた再び……という有様。
その度に舞台関係なく至る所の地面が割れ、爆発し……と数分もしないうちに地形が変化した。
詠春殿の作戦は15分間捌き切るという物のようだ。
確かに勝つことが難しくても捌く事ができるならば引き分けに持ち込む事ができる。

「父様達強いなあ!」

「す、凄い!凄いですよ!このちゃん!」

桜咲刹那は気分が高揚し孫娘の呼び方が素に戻っていた。

「審判の人かわいそうね……」

「アスナさん、僕もそう思います……」

「怖い姉ちゃんやな……俺、女相手にすんの苦手やけどあんなんに襲われたらそれどころやないで……」

「姉上……」

「素子ちゃん……当たらないように気をつけてね」

「あれ……アキラ……じゃない。あ、あの青山素子さんですか?」

観戦していたら偶然隣に素子さん達が居合わせた。

「ん?そうだ。どうして私の名前を?」

「このかのお父さ……近衛詠春さんから聞いたんです。このか!刹那さん!試合もいいけどこっちこっち!」

「アスナさん?はッ!こ、これは素子様!お噂は伺っております!桜咲刹那と申します!」

「父様の言っとった人やね。うちは近衛このかや」

「ああ、詠春さんの娘さんか、これはどうも。私は青山素子だ。刹那さんはもしかして……神鳴流かな?」

「はい!腕はまだまだ未熟ですが……。あの、宜しければ修行の方法を教えていただけませんか?」

「ああ、構わないが」

「素子ちゃん、知り合いなの?」

「浦島、こちらは私の親戚の娘さんだ」

「素子ちゃんの親戚に会うのって始めてだね。僕は浦島景太郎って言うんだ、よろしく」

「あ!その名前!兄ちゃん俺の相手やないか!」

「おおっ、じゃあ君が犬上小太郎君か!試合ではよろしく」

こうして成り行きでネギ少年達とひなた荘住人の交流が始まり、互いに自己紹介と挨拶を交わした。
小太郎君が浦島兄に強いのか、と聞いた際「んーどうだろう。素子ちゃん相手だと数回に一度は勝てるぐらいかな」と答えた為、そこから相当強いという事が分かり、小太郎君はやる気が出ていた。
それを聞いて桜咲刹那も驚いていた。
一見普通の外見に眼鏡をしているだけで、そこまで強そうには見えないのだが、人は見かけによらない。
彼は被弾無効化能力とでも言える程体が丈夫なので普通でないのは間違いない。
素子さんの訓練方法の一つに訓練用の刀に数百kgの重りを付けて素振りというものがあるそうで、それを聞いたネギ少年達は「凄い!」と口を揃えて言っていた。
桜咲刹那は伝説でしか聞かされた事が無かったが、素子さんによって完全に調服されている妖刀ひなを見せて貰いもし、終始興奮気味であった。
……会話に華が咲いていたが……詠春殿はというと懸命に捌き続けていた。

「大分勘が戻ってきたようどすな」

「お陰様で」

最初冷や汗を掻いていた詠春殿は急速に動きに対応し始め、時間を追う事に対応力が上がっていった。
簡単に地面が割れる斬岩剣に強力な気弾が飛ぶ斬鉄閃、広範囲を破壊する雷光剣と……試合開始時に場外と段差を付けてあった舞台は既にその名残もない。
周りを気にしないで済むという点ではやる方もやり易いであろう。
既に他4つの魔法球の試合は3度目の試合に入っており順調に試合数が消化されている。
観客は神鳴流の派手な戦いに大いに盛り上がったが、とうとう15分が経過して引き分けとなった。

「流石詠春はん、神鳴流剣士らしゅうなりましたな」

「私もいい運動になりました。多少手加減してくれて助かりました、鶴子君」

「ほな次は本気でやらせてもらいましょか?」

「いや……それは結構です」

2人が魔法球から出てきた時には観客達は一層の盛り上がりを見せ、会場内は拍手喝采。
詠春殿は試合開始前と開始後で比較すると顔が全然違うのがよく分かる。

「父様かっこ良かったえ!」

「このか、ありがとう」

詠春殿にしてみれば娘からのこの言葉が一番嬉しかったのではなかろうか。

「「「「詠春はん、次はうちらのお相手してもらいますえ」」」」

そこへ他のお姉さん達が颯爽登場してしまった。
しかし、この後超鈴音の回復施設で休んだ所みるみるうちに疲労が回復したので「意外といけそうだ」と詠春殿は呟いていたが、穿った見方をすると……どう表現したらいいものか。
因みに破壊の限りを尽くされた等速魔法球からは苦労した審判も出た上で、設定を5倍速にして、遠くに配備されていた田中さん達が高速で舞台の修繕が行われた。
試合はまだまだこれから。



[21907] 34話 それぞれの試合
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 19:06
大変疲れる試合をこなした詠春殿が回復施設で休んでいた時、詠春殿にとって懐かしい来客があった。

「詠春、お久しぶりです。先程の試合は実戦から離れていたにしてはなかなかのものでしたね」

「ん?おおっ、ア」

「詠春!クウネルとお呼び下さいッ!」

強調する司書殿。

「クウネルって……分かりました。ともあれ久しぶりです。麻帆良にいたのか」

「ええ、ナギとの約束を果たすため……だけではないのですがそうです」

「ネギ君か……」

「タカミチ君と最初に試合するそうですよ」

「私はネギ君がどれ程の腕なのか見ていないがどうだろうな」

「かなりいい線いく筈ですよ。タカミチ君も油断しているとまずいぐらいには」

「ナギとは正反対かと思っていたがあまり変わらないか……。楽しみだな」

「フフ、詠春が神鳴流の女性達に追い回されるのも楽しいですよ」

「……さっきのトラウマが……。クウネルは試合には出ないのか?無詠唱魔法なら得意だったろう」

「実は私の今のこの身体は本体ではないので、半分無敵なのです。それを知られている大会主催者には釘を刺されていましてね」

「学園長か」

「……そんな所です。ところでこのかさんの魔法の才能は素晴らしいものですよ」

「私の娘に変な事してないだろうな?」

「ネコミミを付けてもらっていますよ」

「何ぃ!?」

「ほら、これが写真です」

紅き翼の面々の再会も真面目なものになるかと思えば、そうはならないらしい。
司書殿が色々なネコミミ、尻尾の有り無しなど……色々所持していたため傍から見ればどう見えただろうか。
対戦相手だった鶴子さんは離れた所で旦那さんと仲良くしていたのでお構いなし。

……一方数分おきに着々と試合が消化されていく。
それに伴い端末で見ることができる映像も増えているため、手の空いている選手は確認作業に忙しい。
これによって互い情報が少なくとも相手の力量がある程度図れる為、最初の確認作業は重要。
殆どの試合が加速魔法球で行われる中、佐倉愛衣と、黒服にサングラスをかけていながらもいわゆるスタイリッシュな雪広のエージェントとの戦いも行われていた。
オソウジダイスキという箒のアーティファクトを出し、続けて炎の魔法の射手を撃ち出すものの相手は実際に裏で働いている人間であり、中学生の年で無詠唱が使えるだけでも充分だがそれと試合とは関係がない。
彼女は瞬動術に対して免疫が無く、懐に入られると一瞬で勝負が付く。
エージェントは基本的にパーフェクトなので華麗に佐倉愛衣の背後に接近し、首筋に軽く手刀を放ち、スマートに試合を終わらせた。
横文字が多い。
そのまま回復施設に運ぶのも欠かさない。
佐倉愛衣が起きたところで、試合について色々と配慮した助言もし、無詠唱魔法が運用できるぐらい魔力の扱いに長けているならば瞬動術もすぐに習得できるであろう事や、魔法球は本日分の試合が終われば自由に使える事、既に達人達の試合のデータが集まっているため参考資料は山のようにある事を伝え、元気付けていた。
中々に魔法について詳しい上に紳士であった。
佐倉愛衣は元々実戦経験を積むために出場を決意したので勝敗にはそこまで拘ってはいないようだが、次の試合に向けて助言通り蓄積されつつある試合記録の確認をし始めたのだった。
高音・D・グッドマンも試合を終え、こちらは勝っていた。
気絶して負けると脱げるので是非勝ったほうがいいのだが……映像に残るというのは彼女にとって大変であろう。
操影術は影という陰気な印象はあるが、実体はそれとは逆に派手で、かつ防御力、攻撃力共にかなりのものなので油断しなければ強いのは間違いない。
佐倉愛衣に会いに来て「愛衣!次は頑張りなさい!」「お姉様!」という会話を繰り広げていた。

一回戦目の試合を終始観戦している超鈴音達であるが、神楽坂明日菜と桜咲刹那の試合も回ってきた。
魔法球の中に入ってネギ少年と孫娘は直接観戦する事にしたのだが、入る人はそれだけでは無かった。
神鳴流のお姉さん達が大量発生した。

「刹那さん……なんだか緊張するわね」

「は、はい……」

「アスナさん、刹那さん!頑張ってください!」

「せっちゃん!アスナ!頑張りや!」

「刹那はん、修行の成果見せてもらいますえ」

最後の発言が一番心的負担である。

「試合開始ッ!」

2人の得物は両者共木刀。
衆人監視の中で緊張もしている。
その中で神楽坂明日菜に気の扱いは果たしてできるのかという事だが……。

「右腕に気、左腕に魔力……合成!!」

―咸卦法!!―

そう、神楽坂明日菜は既に物に気を纏わせるどころか、ものの1ヶ月と少し程度で咸卦法を発動可能になり、瞬動術も出来るようになっていた。
昔覚えたことを忘れてはいても思い出すだけの作業であるので不思議ではないが、彼女の成長速度を見ている側としては人によってはその才能に目が眩みそうではある。
これには小太郎君も大いに驚いていたが、千の共闘で得られる咸卦法の効率は自動で最高水準になるので、まだまだそれ自体に差はある。
しかしながら小太郎君としてはネギ少年から契約執行を受けないと咸卦法状態になれないのに対して、自力でできてしまう神楽坂明日菜を見て負けた気がしたのか「俺もやったるで!」と千の共闘での感覚を頼りに自力での咸卦法習得を地道に始めたりもしているようだ。
少なくともアーティファクトのお陰でタカミチ少年が習得にかかった時間より遥かに短い時間で習得できるであろう。
……元々身体能力の高い神楽坂明日菜が咸卦法を使用すると身体の基本的な動きという点では桜咲刹那とも張り合えるぐらいになるので後は……実戦経験と練度の差。

「刹那さん、行くわよ!」

「アスナさんこそ、行きます!」

多少叩いたぐらいで咸卦法状態の肉体にはその威力は通らないので桜咲刹那としてもそれなりの手加減をするという手間を掛ける必要がなくその点では楽。
これまで神楽坂明日菜の鍛錬に一番時間を割いてきたのは桜咲刹那であり、戦法や癖についてもかなり理解をしているため攻撃を捌くのは容易であった。

「あの年で咸卦法……。坊や、刹那はんの相手の神楽坂はんは何や裏の仕事をしとるんどすか?」

「いえ……アスナさんは先月から鍛え始めたばかりなんですが成長速度が少し早いんです」

ネギ少年も他人の事は言えない。

「そうどすか。あの子あれだけ才能があるなら神鳴流で鍛えたら……」

神楽坂明日菜も行く行くはお姉さん達の仲間入りをするのであろうか。
鶴子さん達の口元がわずかに歪んだのを見たネギ少年は悪寒を感じずにはいられなかったようだ。

「あ、あの刹那さんはどうですか?」

「刹那はんも既にあの腕なら神鳴流剣士としては前途有望やろうな。しっかりとした目標もあるようやし真っ直ぐな心しとる。それに神楽坂はんが咸卦法なら刹那はんにも霊格高い力がありますえ」

「せっちゃんの羽やね!」

「綺麗ですよね」

「このかはん達は見たことあるんどすな」

試合と言えば咸卦法で加速した神楽坂明日菜と桜咲刹那は高速で打ち合いを続けているものの、詠春殿達のような戦いにはならない。

「アスナさんのここ1月の成長は素晴らしいです!」

「刹那さんの指導がいいからね!」

「本当にこのまま鍛えていけばかなり強くなれますよ!でもまだ私は負けませんよ」

動きにまだまだ斑ある神楽坂明日菜の隙をついて、桜咲刹那は浮雲・旋一閃という回転しながら相手を地面に叩きつける投げ技を放ち、そのまま固め技に入りダウン状態を維持させカウントが数えられ始めた。

「咸卦法でいくら力が強くても、力の使い方次第で抑えつける事は可能です」

「6、7、8」

「……う!うーっ!力入れてるのに立ち上がれない!」

「……カウント10!勝者桜咲刹那選手!」

決着。

「あー負けちゃったわ!刹那さんありがとう!」

「こちらこそアスナさん、ありがとうございました」

握手を交わし良い試合をしたという風体で2人はネギ少年達の元へ近づいていった。

「刹那さんおめでとうございます!アスナさんも惜しかったですね!」

「せっちゃんおめでとう!アスナも頑張ったで!」

「ありがとう、次はネギも頑張りなさいよ」

「お嬢様、ネギ先生、ありがとうございます」

しかし……。

「刹那はん、神楽坂はん。良い試合どした。……時に二人共うちらの指導を後で受けてみまへんか?仙子姉上もそう思いますやろ?」

「え?」

「そうどすな、鶴子はん。神楽坂はんは刹那はんから神鳴流を齧っとるようやし鍛えれば必ず強うなりますえ」

神楽坂明日菜の抜けた声は無視された。

「うちは刹那はんに斬魔剣弐の太刀を教えたい思いますわ」

「え!?斬魔剣弐の太刀を宗家で無い私のような末席の者にですか!?め、滅相もありません!」

「そうやな、月詠のように歪んどる訳やなし、見て盗まれるより余程ええ思いますえ」

桜咲刹那も同様。

「葉子はん、それはええどすな。月詠も才能は確かどしたが、飛び出したしな」

「刹那はん、宗家の伝統かて必ず守らなあかん訳やおまへん。それに刹那はんは身も心もうちらと同じ神鳴流。何も問題おまへん」

「詠春はんかて魔法世界言うところで神鳴流ですらない男に技を教えたそうどすからな」

何故その事知っているかといえば、詠春殿が木乃葉さんに武勇伝を語った時に漏れたのが原因。
そこから後は伝わるのみ。
情報網とはSNSで分かったが偉大だ。
「指導を受けて見まへんか?」と聞いた割には2人の少女の意思も聞かず勝手に話が進み、3日間暇があれば18時以降に魔法球を借りて指導する事になったが、借りるというより貸さざるを得ない空気を醸しだして占領すると言ったほうが正しいかもしれない。
このお姉さん達がいるところにあえて突っ込んでいきたいという稀有な趣向の持ち主……というと失礼にあたりそうだが、少なくとも魔法球の棲み分け……が出来る事だろう。
実際桜咲刹那は斬魔剣弐の太刀を教えてもらえるということで感激しており、その事自体は非常に良い。
5倍魔法球、中から出れば時間は3分程度の経過。

……続けて魔法先生達から猛烈な人気が出ているネギ少年のタカミチ君との試合開始。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「ネギ君、前にした約束通り腕試しをしよう」

「うん!タカミチ!僕の成果を見せるよ!」

タカミチが僕に戦闘の基礎を教えてくれた時は普通の体術だったけど、素手で滝を割ったのはそれとは違う物だった……。
マスターの話だとタカミチは咸卦法が使えるからまずは少しぐらい本気を出してもらうように頑張ろう!

「制限時間15分!試合開始ッ!」

「ネギ君最初からかかってきて構わないよ」

うーん……誘われているのかな。
タカミチはポケットに手を突っ込んでいるから用意は万端みたいだ。
いつかかっても良いというのは既に射程範囲内に入っているからその代わりって事なのかも。
それなら!

 ―戦いの歌!!―
―魔法領域展開―

僕の今の無詠唱魔法の射手の一度の最大本数は29本まで!

―収束・光の29矢!!―

ポケットを使って発射する技なら完全に真上からの攻撃には対処できない筈!
2連虚空瞬動で肩口を狙う!

―桜華崩拳!!!―

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ネギ坊主の分析能力も魔法の運用能力も上がたものだナ。
試合開始に高畑先生に誘われたが、その次の瞬間にほぼ並列して魔法を3つ行使するとはネ。
準備が出来た瞬間に、爪先により多くの魔分を集め、高畑先生の頭上に虚空瞬動で上半身を下に向けて回転させながらを飛び上がり、続けて直角に右腕で崩拳。
落下速度と組み合わせて威力も上げる作戦カ。
高畑先生はギリギリで肩口に当たるのを逸らしたけど舞台には綺麗に穴が空いた上、接近された事には変わらずそのまま更に連弾・雷の29矢をネギ坊主は左手で発動。
高畑先生も瞬動で下がりながら本気で障壁を張ていなかたら危なかたネ。
早めに咸卦法使うといいヨ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

等速で行われているためネギ少年の試合はスクリーンで生中継されているが会場は、開始直前は子どもが格付けAA+のタカミチ君にどこまで頑張れるかという話題で持ち切りであった開始直後の一瞬で完全に観客は声を失った。
まず目を見張るのはネギ少年の身体を完全に球状で覆っている淡く光る高密度加速した魔分の層、魔法領域。
会場にいる魔法先生では近衛門と葛葉先生しか見たことがない特殊技術であるため「なんだアレは……」と数人が呟いたが、次の瞬間見事な虚空瞬動で頭上で切り返しを行い、直下降、光の29矢桜華崩拳を放ち寸前で回避されたものの、舞台に鮮明に穴が空きどれほどの威力なのかが明らかになった。
終わりかと思えば左手からも拡散型の魔法の射手をタカミチ君に逃げ場が無くなるように放ち例えば「ネギ君今の動きは凄かったよ」などという甘い感想を言わせる暇も無いまま、タカミチ君は後ろに下がりながら魔法障壁で威力を減衰させ、数本は本気でレジストした。
たった1秒弱の早業を終え、しゃがんでいた状態から静かに立ち上がるネギ少年の雰囲気は魔法領域と相まって、ただの子供魔法使いではないのをはっきりと示していた。

「タカミチとの腕試しだからこそ、僕は本気でやるよ」

熱いと形容するには、それ以上に冷静に宣言した。
対するタカミチ君は予想外のネギ少年の実力を見て額に汗が浮かんでいる。

「ははは、まさかここまで成長していたとはね……。悪かったネギ君。僕も真面目にやらせてもらうよ。右腕に気、左腕に魔力……合成」

―咸卦法!!―

開始数秒でタカミチ君に咸卦法を使わせるに至ったネギ少年の姿をようやく観客も現実のものとして認識出来るようになり歓声が飛び始めた。
しかしタカミチ君は小手調べに普通の無音拳をまだ1発として放っていない。
ネギ少年と小太郎君の戦闘理念は、不確定事項は早期に潰すというものの為、可能ならば速攻をかけるので、殺伐としたものになりがちである。
全ては近衛門のせいではあるが。

「ありがとうタカミチ!」

「ああ、今度は僕からも行かせてもらうよ」

拳法の構えを取ったネギ少年にタカミチ君は今度は自分からも仕掛けるという発言をした瞬間、ようやく一発無音拳が飛び出した。
既に咸卦法で強化されている無音拳であり、通常のものに比べると威力も段違いなので、タカミチ君の戦闘技術を知っている魔法先生にしてみればこれは終わった思われた……のだが。
魔法領域に当たった無音拳は確かにかなり奥まで削ったがネギ少年本体には届かなかった。

「やっぱりタカミチは凄いよ!こんなに削られるなんて!」

ネギ少年は突如声を上げたが、観客との間には温度差が発生。
フェイト・アーウェルンクスの障壁突破石の槍を一瞬留める事ができるのだから当然の防御力ではあるがまたもやタカミチ君の無音拳の威力を知っている魔法先生達は「は?」と口を開けざるを得なかった。

「咸卦法を使った状態での無音拳を常時展開の障壁で防げるなんてね……」

タカミチ君も大いに驚いている。

「でも2発連続で撃たれたら突破されたよ。それじゃ、もう止まらないで行くからね!」

発言と同時に浮遊術で丁度良い高さまで飛び上がり、舞台無視の戦闘が始まった。

  ―魔法領域 出力最大!!―
―光の7矢!―雷の7矢!―風の7矢!―
   ―双掌底・断罪の剣!!―

並列魔法運用にしては技量が高いが最後のものは特別。
ついに断罪の剣相転移版をまほら武道会にあわせてなんとか間に合う形で習得できたネギ少年であるが、剣として実体化させる事はできず、手の周りに展開するに留まっている。
しかし当たったら相転移する掌底。
地面にかすればその部分の土が消失する。
ネギ少年としても咸卦法を使ってもらわないと迂闊に使えない。
浮遊するネギ少年の周りを3種合計21本の滞空する魔法の射手が循環している光景に更に緊張の走ったタカミチ君は上空に向けて容赦なく無音拳を放った。
ネギ少年も同時に魔法の射手を、タカミチ君を囲むように放ち、無音拳を虚空瞬動で回避、または直接当たる軌道から避けるように移動しては、その反撃に魔法の射手を連射し始めた。
ネギ少年はそんな弾幕戦の中、右へ左へと高速移動しながらタカミチ君の懐に近づいていき掌の断罪の剣をそのポケットに向けて投擲した。

「もらった!」

武器破壊……ではなくポケット破壊。
狙いを理解したタカミチ少年はその戦法にまたもや驚き身体を横に捻って全力で回避したが、その際上着の袖が消滅した。
実際上着の防御は大した事はないが、手をいれている方のポケットを相転移させるのは難しい。
というのも、咸卦法のエネルギーでポケット自体も強化されているからである。
……状況を戻れば、ネギ少年はそれだけで終わる事無く、破壊属性の光の矢29矢をポケットに向けて放ち、タカミチ君もとうとう地上で戦うのが窮屈になったのか虚空瞬動で空中に飛び上がって回避し、魔法陣が描かる足場を作って空中戦へと突入した。
審判の人は「カウント……どうすれば」となったが場外に足が着いた訳でもなく問題はない。
1番最初の詠春殿対鶴子さん、2番目の古菲対中国拳法家で武道らしい戦いと思える等速試合になったと思えば、3番目のネギ少年対タカミチ君でまたもや派手なものになった。
古菲は少し時間がかかったもののしっかり相手をダウンさせて勝利。
ネギ少年達が観戦していなかった理由は「瀬田はるかさんとゆー人との試合の方が面白い筈アル」と本人が言ったからである。
……段々試合が激化し始め、風精召喚の囮による分身が大量出現したと思えば、それを全部一気に吹き飛ばす対軍用の技の縮小版とも言えるような放射状に一斉に飛ぶ無音拳が出始めた。
ネギ少年に、どこまで引き出しがあるのかと心踊るような表情を浮かべるタカミチ君は、ネギ少年の腕試しをするどころか、会話なんてする暇は無いものの完全に試合を楽しんでいた。
一方観客はというと……。

「明石、高畑の奴やりすぎじゃないか?」

「ああ……刀子さんから聞いてはいたもののネギ君もここまで強かったのか。僕も瀬田教授との試合が終わったら申し込んでみようか」

「教授、程々にして下さい。ネギ先生は千の雷をあの年で既に使えますし、修学旅行では強敵を退けましたから」

「俺もネギ君がエヴァンジェリンの断罪の剣をあの時使っているのを見たが成長がな……。葛葉、ネギ君のあの障壁は何だ?」

「私は実際に見ましたが詳しいことは分かりません。私の私見では障壁を解除して突破するタイプの攻撃にすら有効なようです」

「……万能だな」

「神多羅木先生、僕もうネギ君に勝てないですよ」

「瀬流彦、お前はお前で頑張れ」

「……はい」

「それにしてもよくポケットを狙うなんて手段に出るな」

「ネギ先生はあの年にして完全な敵に向かっては急所を狙う攻撃を躊躇無くしますよ」

「いつそんな風に育ったんですか」

「恐らく学園長が去年の冬に使ったスクロールが原因だと思います」

「スクロール?」

「詳しい事は聞いてませんが4日間スクロール内に精神だけ取り込んで何かをさせていたようです」

「学園長か……相変わらず情報を殆ど出さない方だな」

魔法先生たちは思い思いの感想を述べていたり、瀬流彦先生は自信を喪失していたりするが頑張れ。
3-A関係者の反応はと言えば……。

「か、かっこいい!!このか!今の高畑先生見た!?凄いわよ!!」

「アスナ……気持ちは分かるけど、ネギ君も凄いえ」

「あの先生と俺も戦うてみたいな!タッグでも面白そうやけど」

「小太郎君、それだと流石の高畑先生にも組む相手がいないと……」

「ネギ坊主よくやるアルね!」

「けーたろ!ネギ凄いな!」

「空飛んでるもんなー」

驚くのは飛んでいる事。

「はっはっは、良い功夫だね!」

「景太郎兄ちゃん、俺も飛べるで!ほら!」

小太郎君も浮遊しだした。

「おおっ凄いよ小太郎君!」

「はー最近の子供は飛べるんだな」

タカミチ君も飛んでいます。

「たまも飛んどるからな!」

「浦島も空飛んでみろ」

「ええ!?素子ちゃん、それ無理だよ!」

「お兄ちゃんならきっと飛べます」

「なる先輩達も祭りもいいがこっちを先に見に来れば良かったのにな」

「ウチが呼んだろか?」

「っておい、カナコ!どさくさに紛れて浦島に抱きついて持ち上げようとするな!むしろ私がやる!」

「ちょっとちょっとここで俺投げられても飛べないよ!?」

「モトコねーちゃんやれー!」

「問答無用!はぁっ!」

「えええええええ!?」

浦島景太郎は素子さんに投げ飛ばされていった。
確かに滞空時間は数秒あったがするがそれは飛んだとは言わない。
ひなた荘関係者は常にいつも通りを崩さない。
……試合の方であるが、5分程空中戦を繰り広げた上で再度会話の機会が出来た。

「ネギ君、もしあの舞台上で戦い続けたなら僕の戦場として有利だったんだけど今は空中戦だから本気で行くよ。まだ負ける訳にはいかないからね」

「タカミチ……うん……分かった!僕も精一杯やるよ!」

「よし、行くよ!」

全力無音拳、射程距離も飛躍的に伸びる豪殺居合い拳の登場。
確かに魔法領域を突破かつダウンを狙うならその威力が必要。
巨大なレーザーのようにも見える無音拳が一発発射されたかと思えばネギ少年は回避……するも、続けて5発同時に同規模の豪殺居合い拳が飛んできたうちの1つにネギ少年はあえなく被弾した。
近衛門だと完全に移動先を読むが、タカミチ君の場合は移動しそうな場所に決めて放った。
見事に魔法領域を吹き飛ばし角度も上手く顎に入りネギ少年を気絶させた。
しかしそれでもタカミチ君の攻撃を軽減できるようになったのは評価に値する。
墜落していくネギ少年をしっかり空中で受け止めたタカミチ君は地上の舞台へ降り、ゆっくり舞台に寝かせてカウントの開始。

「8、9、カウント10!勝者高畑・T・タカミチ選手!」

上着が完全に駄目になっているタカミチ君はそのままネギ少年を抱えて魔法球から出てきた。
当然観客は大歓声を上げてネギ少年を労ったり、タカミチ君に流石だ、という声が飛んだりした。
呪術協会との折り合いもあるので、ネギ少年が浮遊術を使えなかったならともかく、近衛門を除けば学園最強のタカミチ君が下手に手加減してネギ少年に負けるわけには行かない。
この辺りは詠春殿と同じ。

「詠春、ネギ君はどうでしたか?」

「ははは、大したものです。これならナギの遺言体とやらも喜ぶだろう」

「ええ、いつやるかが問題ですがやはり最終日がいいですね。まだ成長しそうですし」

「しかしタカミチ君にあの技を使わせるとは……」

「ガトウが懐かしいですね……」

「そうだな……」

「私達もタカミチ君に会いに行きましょうか」

「また休憩室ですか」

そう言って紅き翼の2人はタカミチ君とネギ少年が多数の知人に囲まれながら移動していった回復施設に向かっていった。
一方、2人の試合が終る直前に長瀬楓と龍宮神社のお嬢さんの試合も加速魔法球で開始されていた。

「真名とこうして戦うのは初めてでござるな」

「楓とは私も一度やってみたかったから丁度いいさ」

「制限時間15分。試合開始ッ!」

実はこの2人双方の同意の元装備有り。
クナイに巨大手裏剣それに対して実弾銃である。
どう寸止めするのかは分かりかねるが、同意は取れているから問題……仕方がない。
ここの審判は加速魔法球だから等倍速より楽だろうと思っていたようだが、殺伐とする試合を担当することになるとは期待外れであっただろう。
彼は真剣勝負すると聞いて、その字の通り真剣を使うのかと思っていたようだが実弾銃は危険すぎるで試合開始早々、茶々丸姉さんの妹機と一緒に遠隔地からの審判となった。

「真名、銃弾の費用は良いのでござるか?」

「超からのお布施の一部は私個人当てだから構わん。貴様相手なら惜しくない」

実弾を撃って長瀬楓は大丈夫なのかというと神鳴流の件がある。
飛び道具は彼等には不意打ち気味に撃っても弾くが、忍者も同様。
少し会話をした所、すぐに真剣勝負に突入した。
長瀬楓が分身して4人になり各々気を纏わせたクナイを投げつければ、龍宮神社のお嬢さんが回避できないものについては二丁拳銃で撃ち落とし、魔眼でどれが分身かわかるためそれに対しては躊躇なく急所に弾丸を撃ちこむという応酬。
分身もレバーを引いて巨大手裏剣を高速回転させ銃弾を弾き、そのまま投げつけ追い打ち、気弾も連射とこれが3-Aに所属する武道四天王の2人。
後にこの2人の試合映像を確認したどちらかというと一般人寄りの選手の人々は、2人の個人情報に中学生と書いてあるのが信じられず、その危険さに閲覧中は青ざめていたが、終わってみると「その辺の下手な映画より迫力があった」などと感想を漏らしていた。
物は捉え方次第。
ネギ少年達が見た時には「2人共真剣勝負なんて危ないですよ!やめて下さい!」と注意したのだが、断罪の剣で相転移させる技を使ったネギ少年が言っても実はあまり説得力がないのではないか。
実際の所気で本気で身体強化すれば銃弾の一発、当たっても意外となんとかなるのでそこまで問題は無い。

龍宮神社のお嬢さんには最終奥義があるもののそれは流石に出せないため、長瀬楓に分身という手段がある点で分が悪い戦いであったものの本体の右肩、左足に銃弾を命中させる事ができた。
足に当てた方法は地面に突き刺さった銃弾に角度をあわせて撃ち弾丸を跳弾させるという物だった。
しかしそれと引換えに片腕一本骨折を喰らい、攻撃手段半減の結果、首筋にクナイを突き付けられ龍宮神社のお嬢さんは降参することになった。
見た目にして、怪我が痛そうである。

「勝者長瀬楓選手!治療室に急いで下さい!」

「流石だな。本気でやると私の方が劣るか」

「真名には少しこの舞台は狭いでござろう」

「貴様も同じ事だろう。銃弾はどうするんだ?」

「こうするでござるよ」

普通に細いクナイを使って長瀬楓は縦断を抉り出し始めた。

「ひいっ!は、早く治療室に移動してください!」

審判が引いていた。

「おお、これは済まないでござる」

「足をやったからな……左肩なら空いているから掴まれ」

「かたじけない。しかしこれはすぐに治るのであろうか」

「すぐに治るらしいぞ。既に骨折した選手もいるようだが完治しているそうだ」

「それは凄いでござるな」

出血、盛大に骨折しているにも関わらず平然と会話している女子中学生。

……そのようなやりとりが行われていた間、ネギ少年は休憩室に運ばれ数分間気絶していたが目を覚ましたところ丁度周りには皆が集まっていた。

「ん……ここは」

「あ、ネギ君起きたえ」

「ネギ!目覚めたんか!」

「ネギ!もう起きて大丈夫なの?」

「はい、大丈夫です。……あれ、僕タカミチと試合してて凄いのを喰らった気がするんだけど負けたのか」

そこへタカミチ君登場。

「ネギ君、本気の一撃を当ててしまって悪かったね」

「大丈夫だよ、タカミチが強いのはよく分かった。いつか追いついて見せるよ!」

「ははは、ネギ君ならもう1年もしないうちに僕は追い抜かされてしまいそうだけどね」

「……そうかな?」

そこへ更に顔を出すのは……。

「ネギ君、先程の試合は見事でした」

「お久しぶりです、ネギ君」

「あ、詠春さんにクウネルさん!どうしてここに?」

「学園祭を回りに出てきたついでにタカミチ君に会いに来ました。詠春もいますし紅き翼が3人揃いましたよ」

「あ、本当ですね!」

「あまり大きな声で言わない方がいいですがね」

「詠春、あなたはもう十分目立っているではないですか」

「そうやよ父様!」

「……これはお恥ずかしい」

更にそこにやってきたのは……。

「真名との真剣勝負はなかなかでござったな」

「ああ、私も久々に骨のある戦いができたよ」

普通に出血しているが、ネギ少年達がいる所に平然とやってきて椅子に座り2人は休み始めた。
2人の銃創と骨折を見て「何やってたんですか!」という話になり端末で映像を確認してみれば真剣勝負であった事がわかりネギ少年が先生として注意し、騒ぎになったが実際みるみるうちに2人の怪我は治り……有耶無耶になった。

そのような事が休憩室で繰り広げられている一方4番目の等速試合も始まろうとしていた。
試合の組み合わせは明石教授と瀬田教授という教授対決。
教授同士であるのにその舞台が武道会。

「瀬田教授、お会いできて光栄です。私も麻帆良大で教授をやっています。後でよければサインを貰えませんか?」

「おおっ、そうですか!僕のサインで良ければどうぞ」

サイン要求が先であった。

「ありがとうございます。それでは試合の方もお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」

ネクタイ無しの黒服を着ている飄々とした瀬田教授とワイシャツネクタイにベストを着用している明石教授の試合。
武道会らしからぬ服装ではあるが彼等の正装。
瀬田教授は素子さんと相手をすれば負けない程の截拳道の達人であるものの、奥さんには勝てない……がこれは相性の問題であろう。
さて、明石教授は今となっては普段魔法協会管制を担当することばかりだが、実は戦闘の実力はそれなりに高い。
何故警備で前線に出ていないかと言えば奥さんが魔法世界での任務に出た際に亡くなってしまい、これで明石教授にまで何かあれば娘の明石裕奈が1人きりになってしまうからという近衛門の配慮がある。
元々1993年にその任務に立候補した明石夕子さんをエージェントに最終決定したのが近衛門だったというのも大きな理由である。
その任務というのはナギ失踪の後すぐの調査のためのものであり、任務中に何らかの情報を掴んでしまったかどうかは分かりかねるが殉職している。
この事件は麻帆良にとっては魔法世界での大戦以来の悲しい出来事であり、しかも任務に関する詳細情報が一切降りてこなかった為、近衛門はメガロメセンブリアの一部が臭いと睨んでいたが、それよりも麻帆良を守らなければならなかったため深入りはできなかった。
話を戻すと明石教授は魔法世界にいた時にはメガロメセンブリア正規軍武装隊で部隊長を務めていた事もあり、普段の娘曰くだらしない生活からはあまり想像しにくいが近接格闘戦においてはそれ相応の実力がある。

「試合開始ッ」

―戦いの旋律!!―

明石教授はやはり白兵戦には欠かせない戦いの歌、その上位版を使用し身体に対物魔法障壁を纏い、身体能力及び反射神経を上昇させる。

「僕から行きます明石教授!」

……と一応年齢的に若い瀬田教授が先に仕掛け開幕となった。
格闘戦の様相はウルティマホラでの古菲対超鈴音戦を超える高水準なものとなり、観客は大いに盛り上がりだした。
瀬田教授は爽やかに笑いながら一切焦る様子も見せず次々に散打を打ち込み、明石教授としては気の扱いに長けているどころか凄い達人だと実感せざるをえなかったであろう。
戦いの旋律を使用している魔法使いの動きに余裕の表情で対応できる東大教授とは一体何ぞや、と少々言いたい所ではあるが……そのような事も露知らず、打撃のみかと思えば突然バク宙から蹴り技を繰り出したりと終始……いわゆるトリッキーな動きをしていた。

「明石教授、いい功夫ですね!」

「瀬田教授もお強いですね!」

……と真剣勝負をしながらも仲良くなりつつあり、互いに挨拶を欠かさず、積極的にぶつかり合っている。
2人共手足が長いためスタイリッシュな格闘とでも言えばいいのか、神楽坂明日菜がこの2人の試合を見たらきっと気に入るであろう。
一応は互角かと思えば瀬田教授の攻撃はクリーンヒットすることがあるが、明石教授の攻撃は常に寸前で華麗に完全に防御、逸らされ、回避されるかして防がれているため一方的な試合であった。
数分間の戦闘の結果気がつくと膝が笑い出したのは明石教授で降参宣言をしたのであった。

「いやー、参りました瀬田教授」

「はっはっは、明石教授も良い試合でしたよ」

お互い爽やかな表情のまま固い握手をして試合を終えた。
この試合映像を娘の明石裕奈が見たら負けはしたものの父親の格好良さにまたもや「結婚しよう!」と言い出しそうである。

「瀬田やん強いな!」

「相手の人も強かったが……この大会は凄い。今まで開かれていなかったのが惜しいぐらいだ。次は浦島の試合か、子供に負けるなよ」

「瀬田教授みたいに勝てるかなー。俺飛べないし」

ネギ少年のいる休憩所から先に飛び出してきて会話を聞きつけたのは。

「おう、景太郎兄ちゃん!飛ばないから安心してや!俺は地上戦も得意やで!」

「それは助かるよ。流石に飛ばれたらどうしようもないからさ」

「浦島、木刀使うか?」

「んー、小太郎君が素手なら俺も素手だね。それじゃ行こうか」

「よっしゃ、よろしく頼むで!」

引き続き倍速魔法球で小太郎君と浦島兄の試合。
一緒に魔法球に入った観客はひなた荘関係者の人達と飛び出していった小太郎君の後を追うようにやってきたネギ少年達である。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

コタロー君の初戦の相手の浦島景太郎さんは強そうに見えないんだけど……。

「よーし、やるぞ」

あれ!?突然構えた途端見ててわかるぐらい凄い気だ!

「何や景太郎兄ちゃん本気出すとそないになるんか!面白いな!」

「制限時間15分試合開始ッ!」

「ハッ!」

あの構えは箭疾歩!
この人瞬動術ができるッ!
当たる寸前でコタロー君も後方に瞬動で回避したけど鋭い!

「ッ!?ネギの得意技やないか!慣れとらんかったら危なかったわ。俺からも行くで」

―狗音爆砕拳!!―

「うわッ!何だその不思議パンチ!」

コタロー君の動きに対応した!?
寸前で腕の軌道を逸らして避けるなんて!

「避けるんか!やっぱ面白いわ!ガンガン行くで!」

コタロー君も景太郎さんがどれぐらい強いのかわかったみたいで殆どいつも通り戦ってるけど景太郎さんの避ける時の声でなんだか気が抜けるな……。

「浦島は避けるのは上手いな……」

「素子が景太郎に長い事散々襲いかかったからだろうに」

景太郎さんって……。

「よう避けるな!でもこれならどうや!分身!」

「ぶ、分身!?忍者か!?」

「忍者ではないでござるよ」

楓さんに言ってるんじゃないですよ!

―疾空黒狼牙!!―

3体で一斉に狗神を飛ばして攻撃だけど……凄い!
避け方はなんかその場繋ぎだけど捌いてる!
あっ当たった!

「あぷろっ!」

あぷろ……?

「いやー、びっくりしたよ。何か飛んできたし、ははは」

何事も無く起き上がったしまだ全然ピンピンしてる!?

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

何か決まった型で動くというより、相手の動きを真剣に見て気合いで避け、隙を見て反撃を仕掛けたりする浦島兄であるが、攻撃を喰らうと謎の声をあげるのは……触れない方がいいのだろう。
最初は面白がっていた小太郎君であるが、何度攻撃を当てても「ははは」と言いながらまるで無傷の状態で起き上がってくるのを見て段々気味が悪くなってきたのか、非常に嫌そうな表情をしだした。
一応武道会なので春休みの翼竜の角を折るような人間に対して致命傷級の攻撃をする訳にも行かず、延々と打ち合いを続けるものの相手は元気そのものであるのに反撃は痛いという小太郎君にとっては困った戦いになった。
獣化すればすぐに怪我は治るのだがそれはそれで何か負けた気がするので嫌なのだろう。
軽い笑いを発しながら戦っている相手に本気を出すには気分も乗らないのは……分からなくもない。
途中素子さんが「浦島!気合が足りんぞ!」などと言ってたが彼は窮地に追い込まれると鋭くなる人種だと思われ、真剣で斬りかかったりしない限り本領は発揮されないのだろう。
総評としては気の抜けた高水準な戦い。
殴られるたびに「けーたろやられたー!」などとひなた荘の住人が囃し立てるものだからそれを更に増長させた。
結局15分間やり続けて引き分けである。

「景太郎兄ちゃん身体どうなってんのや……」

「あー俺不死身だからさ」

「何やて!?」

「「「不死身!?」」」

流石にこの発言には3-Aの皆さんも驚いたようだ。
ネギ少年の身近で不死身といえばエヴァンジェリンお嬢さんしかいないのだが、比較対象としては何かが違う。
日本武道館の頂上についている高さ3.35m、直径5.15mの擬宝珠という、玉ねぎのような見た目をしているものが、どういう訳か飛んできて彼に直撃してもただの足の骨折だけで済むのは不死身と判断してもよさそうではあるがやはり何かが違う。
深く突っ込んではいけないという空気が広がり、とりあえず小太郎君は浦島兄と握手をして初戦を終えた。
何やら古菲は「強い男……アルか?」と呟いていたが強いには強いが分類するなら「打たれ強い」だろうが、それで気に入ったのなら好きにすれば良い。

その次の等速試合6戦目は素子さんと鶴子さんではなく、違うお姉さんの仙子さんとの試合であった。
この試合は初っ端から本気で行われ、素子さんは長引かせるのが嫌で嫌でたまらなかったのか本気で攻め真剣でないものの帯電している状態での寸止めになったが「素子はんと試合できて楽しかったどす」とにこやか感想を言われていた。
その際言われた素子さんの額の辺りが引き攣っていたが、それもまだ後に数人控えているから。
数年間関東に出て割と平穏に好きなように修行していたところ麻帆良に来てみればこの様である。
早期に終わったとは言え、舞台はやはり跡形もなく消滅することとなり、観戦していた男性選手は美人のお姉さんと戦ってみたいと一度でも思ったことを「なんて愚かだったんだ」と悟ったとか。
それでもその更に一部の人達に回復施設の効果を知った上で「切られる瞬間を脳裏に刻んでみたい」などという稀有な趣味の持ち主もいたようで2戦目の試合に早くも申請していたそうな。
重要なのは需要と供給の釣り合い。

さて、ようやく1戦目が一周したところで、いよいよ古菲の確定指名戦。

「はるかさんよろしくアル!」

「ああ、よろしくな」

「試合開始ッ!」

夫婦そろって飄々としているが瀬田はるかさんは八極拳の達人であり、一方古菲の主体は形意拳と八卦掌であるが八極拳に関しても他人に伝授出来るほど熟達している。
そもそも八極拳とは超近接戦闘を得意とする拳法であり、2人の試合では周囲に莫大な被害が出たりはしないが、観戦する側としては全く目が離せない試合内容となった。

「くーふぇさんもはるかさんも凄い……」

「はるかの姉ちゃん古姉ちゃんより強いで!」

「古は一般人では最強の部類に入ると思っていたが世界は広いな」

「拙者も驚いたでござるよ。近頃気の扱いについて共に修行して相当成長したがそれを超えているとは……」

「はっはっは、あんなに若いのにはるかと張り合うなんて将来凄いだろうね!」

被弾する度に辛そうな表情を浮かべる古菲に対して表情に特に変化もなく黙々と打撃を繰り出すはるかさんはまさに達人。

「はるかさんは誰か師匠がいたアルか?」

「あー、義母と相手をしたり、瀬田を殴っていたら自然とな」

……全ては環境と慣れ。
浦島ひなたという現在世界中飛び回っているお婆さんも相当強いので自然と……というのは別に冗談ではない。
実際浦島妹もそのお婆さんから鍛えられていて強い。
全体的にひなた荘関係者は主に男性が殴られるのが常。
ウルティマホラの普通の一般人同士の試合であれば、間合いを読んでしばしにらみ合ったりする時間があったり、打撃が直撃すればそれだけで一度仕切りなおしという事も多いのだが、この気の達人達は身体全体を鎧のような硬さにあげる上、更に硬気功という一般的に実戦ではとても使えはしないようなものを普通に使用する。
例えば肘打ちをまともに受けて一般人がそのまま立っていられるだろうか……と言えば普通は痛みでその場に倒れるものだ。
こういう人種を見るというのは実に興味深くはあるが、世界全体62億人の総数からみればそれもほんの一握りにしか過ぎない。
そう考えれば超鈴音がこうしてまほら武道会という場を設けることによって各地に散らばる人々を集合させるというのは確かに苦労して実現するだけの価値があるというのもだろう。
2人の試合で先に倒れてダウンしたのは古菲であった。
それまでの数分間の中で何度か膝を地面に付くことがあったがその度に不屈の闘志で再び立ち上がり、果敢に立ち向かっていく姿は実に生き生きとしていた。
古菲にとっては同じ中国拳法の使い手でここまで強い相手に会ったのは久々としか言いようがなく、受けたダメージに辛そうであるものの楽しくて仕方がないという顔であった。

「……私こんなに強い八極拳の達人を見たのは故郷の両親以来アル」

舞台に寝転がったまま話し始め。

「私も驚いたよ。その年でそこまで強いなら私の年齢……には遥かに強くなっているだろう。今回のはただの年齢の差だな」

年齢の件を自分で言って詰まったようだ。

「試合受けてくれてありがとアル!楽しかったね」

「それはどうも。たまには知らない相手とやるのも悪くないな。自分で起きれるか、ほら手を出しな」

「ありがとアル!握手するネ!」

「ああ」

手を出されてそのまま起き上がり握手となった。
魔法球から出てきた2人は温かい拍手に包まれ、それぞれネギ少年達の所、ひなた荘関係者の所へと移動していった。
そのままはるかさんは速攻でタバコを吸い始め、瀬田教授もつられて吸い始めた。
因みにタカミチ君や神多羅木先生も吸っている。

……とにもかくにも、1戦目がようやく終りを迎えたわけだが、未だ、まだまだまほら武道会も麻帆良祭も始まったばかり、時間は丁度昼少し前。



[21907] 35話 アーティファクト発動
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 19:06
これでとうとうA組の麻帆良祭も3回目だわ。
シスターシャークティから聞いてたけど龍宮神社で超りんが開いたまほら武道会ってのやってるんスよ。
で、私は観に行かないのかってそんな面白いこと見に行かないわけない……んだけどさ、ほらネギ君いるから会ったら困るなーという事でね。
超りんから端末もらっちゃってんのさ。
これ元々選手用の端末らしいんだけど、少しデチューンして試合映像だけ見れるようにしてくれたみたいね。
やっと1戦目ってのが終わったみたいなんだけど全部見ると5、6時間かかるんだけど何これ。
ダイオラマ魔法球ってので試合やってるからなんだろうけど確かこれまほネットで見た時とんでもない額してた筈だし、そもそもこんなホイホイ出たり入ったり出来なかったと思うんスけどね。
後でどうなってんのかちょっくら見にくかー。
とりあえず見てみたい試合は周りに3-Aの皆がいないところでいくつか見てみたんスけど、このかのお父さん?の試合やべースよ。
相手の女の人怖すぎだろ。
選手の個人情報のところに青山鶴子:主婦ってなってるんだけどお前のような主婦がいるか!ってね……。
マジ無いわー。
たつみーと楓の試合も気になりすぎて見たけど両方共通すんのは審判の人が一番かわいそうだわ。
私だったら審判なんてやらん。
流石にこれは朝倉でも嫌がるよ。
てかなんでたつみー達真剣勝負してんのさ。
明らかに楓銃弾受けてたしそれアリなのか?
怪我はすぐ治るとかそういう問題なのかね……。
愛衣ちゃんの試合も見たけどこういうのが普通ッスよ。
私も、もし……もしだけど出てたら確実にこんな感じになるね。

で、今丁度昼で五月と西川さんのいる超包子で昼飯食べた訳さ。
そしたら超包子主催の

「激走鬼ごっこ~麻帆良を駆け抜けろ~」

なんていう適当な副題まで付いてる「イベントやるからよかったら出てみてね」なんて言われたんだけど無駄に凝ってるよ、コレ。
超包子は今年の麻帆良祭に10店舗まで出てるんだけど、それに合わせて同時刻から10店舗で同時に鬼ごっこやるんだとさ。
で、鬼の役は誰かっていうと私達の女子寮を去年から守ってる田中さんと別シリーズの鈴木さんと佐藤さんが参加者数にあわせて1店舗につき数体……人か?が最初鬼として1号店なら1号店のゼッケン付けて麻帆良をうろつくらしいのさ。
イベントに参加する側は当然逃げる側で、登録をした店舗の番号付きのゼッケンを貸し出されて対応する店舗の鬼から逃げるって訳。
因みにゼッケンって言う割には雪広グループも監修してるだけあって相変わらずセンスがいいから着てもいいじゃんって感じだから別に気にならないね。
でもって対応する店舗の鬼だけに見つからなければいいのかっていうと、他店舗の鬼の視界に入ると追いかけてはこないけどそこに居るっていう情報がすぐ伝わる仕組みみたいで油断できないわ。
しかも時間がある程度経過すると田中さん達の数が増えるのね。
そんでタッチされればゼッケンのセンサーから情報が店舗に飛んでアウトになると。
あとまた別に端末があって、超包子からイベント中の情報を受信したり、時間表示、全参加者の現在位置色別でわかる麻帆良のGPS地図機能、参加者同士でメールをやりとりできる機能が搭載されてるのが配られるのね。
他にも特殊な機能がついてて、長時間屋内に隠れているようだと失格の判定がされるらしい。
これ絶対開発したの超りんだろ。
妙なものよく作るよなー。
ここまで見ると人によっては簡単そうとか難しそうとか思うけど、出場を決意させる餌がね……。
賞金が毎秒200円ずつ増加していって90分間逃げ切れば108万円の賞金か超包子の商品券200万円分を選べるんだってさ!
まあ多分こんだけ高いって事は相当難しいんだろうと思うけど参加するだけでも超包子の商品券1000円分は確実に貰えるし、45分逃げ切った段階で5000円、75分で5万円の商品券は確定するんだと。
時給換算すると高すぎだろ。
いや、ってか商品券200万円分を選ぶにしても誰が使い切るんスか。
毎日三個肉まん買い続けても10万もいかんでしょ。
五月の本格的高級中華料理のコースでも頼んだら……ってそんなのあったか?
先着順に1店舗50人までで最大で一度に合計500人までだけど十分多いね。
普通鬼ごっこなんて数人でやるもんだろ。
でもってこんだけ真面目にルール見たからには私は出るに決まってるッスよ!
これはアーティファクト使ってもよさそうだなー。
逃げるだけしか能が無い私のアーティファクトだけどこれはいける。

「美空ちゃん出るの?」

「はい、面白そうなんで」

「じゃあこれがゼッケンと端末ね。美空ちゃんは大丈夫だと思うけど端末持ち帰ろうとしても発信器付いてるから気をつけてね」

「大丈夫です。確かにこれだけ高機能だと持ち帰りそうな人いそうですもんね」

「流石超ちゃんよねー。それで開始時刻は13時丁度からだから頑張ってね。それまではどこに行ってても大丈夫よ」

「但しその時に屋内にはいないようにって事ですか?」

「そう、それよ!まあちょっとぐらいなら大丈夫だけどね」

「分かりました。西川さんも仕事頑張ってください。五月も頑張ってね」

「行ってらっしゃーい」

忙しそうな五月は何も言わなかったけどこっちみて微笑んでくれたわー。
そんじゃちょいと本格的鬼ごっこやってみるか!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

まほら武道会も一戦目が終わたけどかなり盛り上がたネ。

「魔法をこうして見ると凄いですねー」

「科学でも似たような事ができるけどネ。こういう戦いだけでなく日常生活にも役だてられるヨ」

「鈴音さん、魔力炉の安全性ってどうなんですか?」

「ふむ、基本的に暴走させない限り危険ではないのだが当然強い衝撃を与えれば爆弾のようになるのは科学と同じだヨ」

「茶々丸を開発して思いましたがそれでもかなりクリーンなエネルギーではありますね」

「クリーンと言えばクリーンだが反応のさせ方次第ではあるヨ」

「いつか魔法世界行ってみたいですねー」

「今すぐには無理だがそのうち楽に行き来できるようになるかもしれないネ」

1戦目で目立た試合が魔法かというとこのかサンのお父さんと青山鶴子サンの試合が最初の試合にして一番迫力があたナ。
あれが気でできるというのだから神鳴流は凄いネ。
2戦目も既に始まているが、流れ自体はうまくいているし途中で抜けても大丈夫そうだナ。
翆坊主によるとクウネルサンも来ているようだがネギ坊主の下見という所だろうネ。
やはり最終日に試合をセッティングする事になるだろうが恐らく空中戦を普通にするだろうし魔法球の中で全く問題無いだろうナ。
しかし少し前神鳴流のお姉サン達が18時以降に魔法球を貸して欲しいと言てきたがニコニコしている割にはプレッシャーしか感じ無いのだからあれは脅迫に近いヨ。
西川サンからの連絡で超包子の鬼ごっこ企画ももうすぐ始まるようけどどうなるだろうナ。
今年の麻帆良祭では広域指導員の先生は一般の先生が殆どで、魔法先生はまほら武道会の合間に交代でという感じだが、それで足りない分は雪広グループの社員サン達が腕章つけて表で色々サポートしてくれているヨ。
基本的に麻帆良祭でははっきりとした死者が出るという事が無いのだがそれは麻帆良の異常性の賜物でもあるナ。
外でやったらプロペラ機の試験飛行なんてどこかに墜落するかもしれないのだからネ。
さて、一度クラスに戻てお化け屋敷の客寄せもしておかないとネ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

よーしもうそろそろ13時だね。
端末確認する500人全員参加か。
田中さん達の数は100人……1体あたり5人の計算ねぇ……少なくとも私は1号店の10体から確実に逃げればいいと。
丁度龍宮神社の付近に来たんだけどここ佐藤さん多すぎだろ……。
あれ?何あの飛んでるカメ。
こっち来たし。

「みゅ~」

なにこれ可愛い。
おっ小さいネームプレート付けてる。
温泉たまご……何だそれ。
ペット買うにしてもなそんな明らかに商品名っぽいのは無いだろー。

「たまごちゃん……たまちゃんってとこか」

「みゅ、みゅ~」

うわー何言ってんのかはっきり分かんないけど頷いてるから多分それでいいみたいだな。
実は頭いいのか?
ってか飛ぶカメなんてどこぞの映画じゃないんだから……龍宮神社付近にいるあたり魔法生物かな。

「私今から鬼ごっこやるんだけど何か用かい?」

「みゅ~?」

質問を質問で返されてもなー。

「とりあえず時間だし固まってると危ないから移動するか。じゃあたまちゃんまたね」

さてと……アーティファクト使っとくか。

「アデアット!」

特に麻帆良祭だからって私みたいな魔法生徒に何か役目が回ってくる事なんてないんだけどどうすっかなー。
桜子でもいたら運で切り抜けられそうなんだけど……。
ちょっと麻帆良教会の上にでも登ってまほら武道会の試合でも見るかな。

一気に走って……え!?なんでたまちゃんついてきてんの!?
時速何km出てると思って……。

「たまちゃん、どうしてそんなに速く飛べるんだい?」

「みゅみゅみゅー」

ヒレでジェスチャーすんのうまいなー。
任せろ!ってとこか。

「分かったわ。たまちゃんいつまで一緒にいるか知らないけど付いてきていいよ。後で龍宮神社に……って自分で戻れるか」

「みゅう!」

賢いな。
あれ、でも龍宮神社入るのってこっちの端末必要なんじゃなかったかな……。
ま、いっか。

「まあ飛ぶの大変だろうし頭の上に乗る?」

「みゅ」

実は今シスター服着ちゃってるから直接の感触は無いけどね。

「よし、乗ったね。そんじゃ出発!」

このアーティファクト脚力も上昇する上、とにかく足場がある限り直角だろうとなんだろうと走り続けている限りは落ちないっていう代物だから逃げるという点では相当有利だよなー。
適当に建物の屋根に飛び上がってと……後は屋根伝いに麻帆良教会まで一直線よ。

ほっ、そっ、よっ、はっ、とっ!そいっ!
……よーし到着、ここならしっかり屋外だし問題ないだろ。
見晴らしもいいしさ。
GPSで居場所がわかるからちょいマズい気もするけどいいよね。
端末一応確認するかー、どれどれ……げっもう人数減ってんじゃんか。
早過ぎるだろ。
……また減ったな。
実際鬼ごっこって言っても大通りなんかはそんなあちこち走り回れるほど道空いてないし鉢合わせしたら終わりだもんなー。
おっ何か麻帆良大の中央公園に集まってる人達いるみたいだけど何やってんだろ。
集団戦もできるみたいだから協力は確かに有効だけど。
メールも確認しとくか。

13:06to全体[双眼鏡貸出]
麻帆良大学工学部キャンパス中央公園で双眼鏡の貸出を行っています。
数に限りがありますがよければ是非。

はー多分大学生だろうけど、真面目にそんな事すんのか。
多分個人の携帯同士で常に通話状態にするのもありだろうから360度視界を確保できれば強いっちゃ強いだろうな。
このメール情報田中さん達に漏れてたりしたら一網打尽にならんのかね。

ん、個人メール来た。

13:12fromキツネto謎のシスター
シスターさんでええのかな。
ウチ近くにいるんやけど、そこにいるとアウトになるで。

いやー、わざわざありがたいけど、ここ屋上だからさ、大丈夫だわ。
ってか何で登録名が……地図、これ人の位置タッチすると個人情報出るのか!
どんだけ高機能なんスか。

「みゅ~」

「ん?たまちゃん何?」

ヒレで指し示してるけど……ああ。

「ゼッケン付けてる……あれがキツネさんっていうか何人かいるね。一応メール返しとくか」

全員私より年上っぽいなー。

13:15toキツネ
ご忠告どうもー。
実は屋根の上にいるんで多分大丈夫です。

しかも同じ1号店の登録者の人か。

「みゅっ!」

お、たまちゃん飛んでったな。
キツネさんとこか……飼い主なのか?
何か知ってるっぽいな。
おっこっちにヒレ指してアピールしてるし。
気づいたみたいね。
やっぱ驚いてるけど手振ってくれてるわ。
私も振っとこう。
どうもー。
たまちゃんももう終わりかー……ってまた飛んできた!

「みゅう!」

「どうしたのさ、飼い主じゃないの?」

「みゅー」

飼い主だけど、また後で会えるから大丈夫?
なんとなく意思疎通できるのはなんでかね。

「まー、たまちゃんがそれでいいって言うならいいよ」

また頭に乗ってくれたけどこの子人の頭乗るの慣れてるっぽいね。
さてと……ネギ君と高畑先生の試合でも見るかな。
うわーもうデータ100試合超えてんのか。
超りんが開催したって話だけど凄いな。
おっとまたメール来た。
今握ってたからわかるけど、これメール受信したのわかるように変えた方がいいかな……。

13:17fromキツネto謎のシスター
たま頭いいから大丈夫やと思うけどよろしく頼むわ!

13:17fromなるto謎のシスター
落ちないように気をつけてねー。
たまちゃんお願いします。

13:17fromしのぶto謎のシスター
どうやってそこに登ったんですか?

あそこにいる人3人か。
やっぱたまちゃんでいいのか。
だったら「温泉たまご」じゃなくて「温泉たま」でいいじゃんか!
なんか語呂悪いけどさ……。
とりあえず一括送信はと。

13:18toキツネ,なる,しのぶ
途中どっか行ってしまうかもしれませんけどたまちゃんは任せてください。
登った方法は企業秘密でお願いします。

これでよし。
ネギ君の試合は……これだこれ。
いざ、映像再生!
なるほど、高畑先生の接待試合……じゃ無いっ!?
ネギ君コエーよ!
なんだこれ!
舞台に穴空きすぎ!
いやいやいや、修学旅行で何か凄い強いのは少し見たけどさ、どんだけ強くなってんのさ……。
楓の長距離瞬動見た時も驚いたけど、虚空瞬動なんて前パラパラ見た上級教本にすら載ってないかったような……。
まー魔法使い全員が瞬間移動しなけりゃいけない訳でもないから必須技能でもないし。
あっちの拳闘大会とかだと使えて当たり前だったりするらしいけど、進む方向性が違うからね。
しかもよく分かんない障壁張ってるし、魔法の射手も20本以上出たけど全部無詠唱ってことか……愛衣ちゃんで驚いてたけどそれどころじゃないわな。

「みゅ~」

「ん、何?鬼ごっこの端末?いいよ、ほら」

たまちゃんって何のカメなんだろ。
機械扱えるとか凄いわ。
試合の方はもうね……さっきお前のような主婦がいるか!って思ったばかりだったけど、お前のような子供がいるか!って感じだわ。
ネギ君のお父さんも強かったってのはあっちで有名だけど大概だな。
こうして端末でみると何かのCGだと思えてこなくもないんだけど実際の試合なんだもんね……。
アーニャちゃんの占いで出てたネギ君と一緒の旅ってこんなに強くても困難だなんて、もしかして社会的に大変って事なんスかね……。
そりゃナギ・スプリングフィールドの息子だなんて知られれば社会的に大変だろうけどさ。
最終的には高畑先生の勝ちか。
なんつービーム放ってんだよ!
次はアスナと桜咲さんの試合……って何でアスナ!?
いつ魔法生徒になったし……。
修学旅行でどうなったか詳しく知らないけど記憶消せなかったのか?
しかも何でアスナも高畑先生と同じ事できてんのさ。
前から身体能力おかしかったけどもう私より強いだろー。
絶対ネギ君の周りって何かおかしいよな。
ふぅ……もうそろそろ1時40分ぐらいか。
もう後半分ちょい粘ればいいだけって余裕じゃないか?

「たまちゃん端末いい?」

「みゅー」

何いじってたんだろ……ってえええええええ!?
メール打っとるよこの子!

13:24toなる
景太郎 武道会 一試合目 引き分け
ニ試合目 勝ち

13:26fromなるto謎のシスター
たまちゃん?分かった、ありがとう。

13:27toキツネ
世界樹広場 安全

13:28fromキツネto謎のシスター
たまちゃんありがとな!

13:31fromしのぶto謎のシスター
たまちゃん私には何か無い?

13:33toしのぶ
しのぶ 頑張って

13:34fromしのぶto謎のシスター
たまちゃん、ありがと!

13:37toキツネ
神社 安全

13:38fromキツネto謎のシスター
分かったで!

……えーと、この人達何スか。
普通にこのメール送ったのがたまちゃんだって分かって対応してるこの人達もそうだけど、文字理解して単語だけどそれだけでもわかるメール打つカメって何さ。

「たまちゃんって頭いいの?」

「みゅう!」

「そうかそうかーえらいなー」

どうも景太郎って人もたまちゃん達の知り合いってみたいだしキツネさん達も裏関係なのかなー。
って45分経過きたわーこれで5000円ゲット!
うますぎる!

13:45from超包子to全体[フェイズ2移行のお知らせ]
参加者の皆様、当イベントも残すところ半分の時間となりました。
つきましては鬼の機動性能が向上します。
残りの参加者の皆様のご健闘をお祈りしております。
尚今まで安全であった場所にいた方も油断なさらぬようお気を付け下さい。
脱落者数345人
残存者数155人

げっなんじゃこりゃ。
しっかし随分脱落者でたなー。
田中さんの機動性向上ってあれか、何かスーパーになる奴か。
もしやここも危ないのか。

「たまちゃんどう思う?って何その縄どっから出したの?持ってろ?」

「みゅっみゅ!」

「後ろ?……って出たああああ!」

田中さん出たわー!!
登ってくんな!
はい上がってくんの怖いから!
これは難易度高すぎるだろ!

「逃げるッスよおおおお!!」

つかもう一人につき1体レベルの比率になってるしこっからは体力勝負なのか?
あ……でも脚力だけ上昇で走る速度はセーブしてあんのか。
普通に振り切ったし。
キツネさん達まだ無事みたいだけど、運良いのか?

「みゅい!」

またヒレのジェスチャーですか。

「たまちゃんそっち?GPS的にキツネさん達の方だね。ま、いいよー」

屋根の上もそろそろ駄目つっても自動車ぐらいの速度なら問題ないね。
風を受けながら走るのはやっぱいいねー。
やっとっ、ほいっ!
なんつーかあちこち佐藤さんとか鈴木さんもいるなー。
7、9、4、2うーん全部違う。
向かってる方向がたまちゃんがメールで送ってた神社なんだけどなんで安全って分かんのかね。
そういう場所が時間で変化すんのかな。
あーいたいた。
……着地と。

「あーどうも、謎のシスターです。たまちゃんがこっちってジェスチャーしてくれたんで来ました」

「こんにちはー、私がなるよ」

「こんにちは、しのぶです」

「お!よう来たな!ウチがキツネや。さっき遠くでよう見えんかったけど中学生ぐらいか?」

なるさんスゲー美人、どことなく長谷川さんに似てる……ような気もする。
しのぶさんは麗しの高校生って感じか。
キツネさんは一番年上みたいだけど多分キツネってのは本名じゃないな。
目元の特徴的なもんだろ。

「あ、はい、そうです」

「みゅー」

「たま、楽しかったか?」

「みゅう!」

「よかったね、たまちゃん」

私の頭の上にいただけの気がするんだけどね……。

「あの、たまちゃんがメール打てたのも驚きなんですけど鬼には会わなかったんですか?」

「そうやな、なんでかわからんかったけど会わなかったな」

「近くに違う店舗の鬼は来たんですけど、すぐ違うところ行っちゃいました」

「あ!またメールよ」

13:50from超包子to全体[鬼の人数増加のお知らせ]
これより各店舗の鬼の数が5体ずつ増加します。
残っている参加者の皆様のご健闘をお祈りします。
脱落者数382人
残存者数118人

「まだ増えるんか」

このまま時間が経つ度条件が変わってったらほんと全然人残らないだろ。

「で、たまちゃん、この縄は何だい?」

「みゅいっ!」

おお、しのぶさんに巻きつけ始めたんだけど何の真似だ?

「あー懐かしい、たまちゃん一人ぐらいなら持ち上げられたわね」

「えっ!?」

どんな力持ち何スか。

「わー、たまちゃん飛ばせてくれるの?」

「みゅっみゅ」

痛くないようにうまく取り付けて……?
飛んだー!!

「凄いよたまちゃん!」

「空中飛ぶのってまあ屋外だからいいと思いますけどたまちゃんって何のカメなんですか?」

「温泉ガメの女の子よ」

聞いたことねースよ。
あ、だから温泉たまごなのか。
にしても安易だな……。

「初めて聞きました」

「珍しいカメやからな」

「……そうなんですかー。ところであんなに高くまで飛んでますけど大丈夫なんですか?」

『成瀬川先輩ー!キツネさん!高いですよー!』

なんか神木の方に飛んでってる気がするんだけど……。

「たまちゃんならしのぶちゃん落としたりしないから大丈夫よ」

この人達麻帆良の人じゃなさそうだけど絶対どっかおかしいな……。

「あ!鬼が来おったで!」

「うわっマジかー!」

「でもしのぶちゃんは生き残るわ!」

そりゃ飛んでるからな……。

「それじゃ私足には自信あるんでここでっ!」

「ほな、頑張りや!」

「失礼しまーす!」

そろそろ真面目に端末確認しないとマズいね。
大分前に双眼鏡配ってた麻帆良大にもう人誰もいないしなー。
逆に狙い目かね。
時速60kmぐらいで走れるから移動するのに数分だしすれ違い様にタッチされなきゃいけるいける!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

2戦目も後半に突入し始めたぐらいなのですが、私は超包子に鬼ごっこの状況を確認しに来ています。

「西川さん、こんにちは!」

「こんにちは、さよちゃん」

「ちょっと鬼ごっこの状況を見に来たんですけど管制室見せてもらっていいですか?」

「もちろん!今結構面白いのよ。美空ちゃんなんか特に」

美空さん何やってんですか……。
超包子特設管制室のモニターを確認してみたところ、美空さんが凄い速さで走って逃げているみたいです。

「どう?美空ちゃん陸上部入ってるのは聞いてたけどこんなに足速かったのね」

多分アーティファクトでしょうね。

「ほんとに点の移動速度おかしいですね……。あれ、こっちの点は?」

「ああ、それね。さっき他の店舗から確認してもらったんだけどカメが女の子を縄につないで飛んでるのよ」

カメ?ってまたあのたまちゃんですか?
観測してみましょう。

……ほ、本当でした。
凄く一生懸命にヒレをパタパタさせているのが可愛らしいんですけど飛んでます。
神木にもうすぐ着きそうなんですけど確かに木を傷つける訳にはいかないですから、田中さん達も迂闊に追いかけられないでしょうね。

《超鈴音、サヨ、カメ凄いですね》

《キノ、神木に女の人が飛んでいきますね》

《翆坊主、神社に姿が見えないと思たら例のタマというカメか?》

《余程この前麻帆良に入ってきた魔法生物よりも良いですね》

《飛べるからってだけじゃないんですか?》

《後でサヨも確認するといいですが、春日美空と一緒にしばらく行動してまして、その際端末を使ってメール打ったりもしていました》

え?何ですかそれ、欲しい。

《あのタマちゃんという魔法生物はメールも打てるのカ》

《一家に一匹欲しいですね》

《美空と居たというのは何なのだろうネ。後で映像見せて欲しいナ》

《鈴音さん、任せてください!》

結局女の人は神木の太い枝のかなり高いところに着地したみたいですがこのままだと確実に逃げ切れますね。

「この分だといきなり2人も賞金獲得者出るわねー」

神木に登って追いかけるという思考が普通の人にできないのは認識阻害のせいなんですが、たまに洗脳じゃないかと思うときがあります。
でも無理に田中さん達に登らせて傷でもつけられても嫌ですしね。

「まあ楽しんでもらうイベントですから、賞金獲得者は出てもいいと思います!」

「そうねー。これも超ちゃんから資金出てるから超包子が赤字になる訳じゃないし仕方ないかしらね。本当に太っ腹だわー」

ダイオラマ魔法球で既に20億ですから今更108万、商品券飛んだところで大したこと無いですし。

「それにしてもさっきまでこのしのぶさんと一緒にいた2人は全然田中さん達に出会わなかったのよね」

「勘が良いんでしょうか」

しばらくモニターの管制を続けていたところ。

「そろそろ次の全体送信ね」

14:15from超包子to全体[フェイズ3移行のお知らせ]
参加者の皆様、当イベントも残すところ15分となりました。
つきましては更に鬼の機動性能が向上します。
残りの参加者の皆様のご健闘をお祈りしております。
尚、足に自信が無い方以外は迂闊な行動は控えた方がよいでしょう。
脱落者数482人
残存者数18人

もうここまでくるとダンボールに入って隠れるのに近い事をやるかとにかく逃げまわるかの二択しかないでしょうね。
もう殆ど人数も残っていませんが、ここで脱落しても5万円の商品券ですから75分で稼ぐ額にしては十分だと思います。

「送信したけどもう2、4、5、7、8号店は全滅ねー」

「一部体力とチームワークのいい人達だけが残ってるみたいですね。全滅した店舗の田中さん達って一定範囲内しか動かないんですね」

「圧倒的に鬼の方が多いようだと流石に酷いもの。それぐらいのハンデはないとね」

その代わり機動力が上がっているのでハンデというには全然足りてないですが……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

よーしあと4分!
これは108万貰った!
煩悩の数なのは何か気になるけど私は宗派っていうかそもそも違うんで!
1号店で残ってんのは私としのぶさんだけになったみたいで15体のうち10体がかなりの速度で追いかけてきてるけどなんとかなる!
残り5体は神木の下でうろちょろしてるけどわざわざ近づきたくないッス。
機動力がまた上がったっていうのはどうも時速が私の半分ぐらい?……大体30kmぐらいになって、行動が集団で追い込むパターンに切り替わる感じみたいっ!
3体後ろから追いかけてくるかと思えば残り7体が左右に散開して囲んでくるんスよ!
今どこで本気の鬼ごっこしてるかっていうと神木の裏側の草地ッス。
田中さんが走ってくんのはなんとなくわかるんだけど佐藤さんがニコニコしながら本気で走ってくんのは別の意味で怖い!
ここ何も無いかっていうと普通に屋台でてるから逃げにくいけど他に比べれば走りやすい!

うおっ!
マズイ追い込まれっ……ターンで切り返し!
脚力舐めんな!
ジャンプで飛び越えてやるさ!
フフッこの春日美空、お前達よりも2倍以上の速度で走れるのだから捕まる訳がないッ!

ん?
メール来た?
つかそんな確認する暇なんて無いッ!

……凄い音するんだけど何この駆動音?
げっフェイズ4とやらにでも上がったのか!?
速っ!
後1分だっつの!
ぬおおおおおっ!
ここまできて108万諦められるかー!!
つか私のこの足で逃げ切れ無いんだったらこの企画賞金払う気なんてないだろ!

草地から脱出して神社の方にまた行くか!
もう後はジグザグ走るより一直線に走ったほうが確実だし!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

春日美空は……こういう場合流れ的にアウト……になりそうであるが、見事逃げ切った。
実は春日美空を追いかけていた田中さん達のみ最後にフェイズ4とやらに移行させたらしいのだが対超人用になっているだけあってかなり追い詰めていたが、速さが僅かに及ばなかった。
春日美空は逃げ切った際はやり遂げたという表情と嬉しさに満ちていて「108万とったりー!!」と盛大に叫んでいた。
まさに賞金額と同じく煩悩の為せる業とでも言えようか。

もう1人、素敵な亀、温泉たまごの手助けにより見事逃げ切ったのは前原しのぶさん。
これ以降亀での飛行禁止というお触れが鬼ごっこのルールに記載されたそうだが2度とない。
「みゅうー!!」と鳴き声を上げながら必死に飛んでいた努力を無碍にもできないのでたまちゃんに免じて、その反則気味な方法も許されよう。

この催し物には春日美空以外の3-A生徒達も参加していたがある程度粘ってすぐに捕まった。
そんな中、弐集院先生は75分まで生き残っていた。
45分間までは普通に逃げていたが機動力の上昇により場所によっては頭上から飛んでくる田中さん達が現れるようになってからが見物。
普段細目で長瀬楓のような感じなのだが完全に開眼していた上、あのふくよかな体型にして背後に佐藤さんが接近すれば寸前で瞬動し……技術の無駄使いではないのであろう。
戦いの歌までは流石に使っていなかったものの生命体としての気の無い田中さん達の接近を勘で「ハッこの感じはッ!」と気づいたりしていたのは電子精霊なのか、それとも何らかの電波を自力で受信していたのかもしれない。
少なくとも5万円分の商品券を獲得した時点で先生は十分この催し物で勝利していたと言える。

第1回目の鬼ごっこ企画の後、この催し物は相当難易度は高いものの、最初から2人の逃走完了者が出たという情報がネットワークに瞬く間に広がりこの後も申込者が後を立たず、むしろ参加する事自体が大変になるという有様だった。
……さて、春日美空はそのまま無事に賞金を獲得できたかというと……落ちがあった。
残念ながら後に教会の礼拝堂で、掃除中に浮かれた勢いでココネに「ココネのアーティファクトのお陰で賞金とれたよ!」と言ってしまったため、アーティファクトを使っていたことがシスターシャークティに漏れ、大量の十字架が舞う空間でお仕置きをされた上、その賞金の小切手は大人になるまで使えないように春日美空の両親のもとに送られてしまったのである。
流石に教会に寄付ということにはならなかったが「お……おのれシスターシャークティ……」と黒いシスター服にも関わらず真っ白になっている春日美空が見られた。
数年後使えばいい……残っているかは分からないが。
その次の日学校で春日美空の隣の超鈴音が事情を泣きつかれたものの「美空、ドジだナ」だそうだ。



[21907] 36話 ネギ少年の学祭巡り・前編
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 19:07
2戦目の申請を済ませたら次の試合までに皆1時間以上時間がある事が分かったから僕はコタロー君と昼前に一旦3-Aに寄ることにした。
アスナさん達はそれぞれの部活や研究会に行った。

「コタロー君は学園祭前にまわったことあるんだよね?」

「ああ、そうやで。俺も麻帆良に来たのは去年の2月ぐらいやからな。去年初めて学園の祭り見た時は驚いたで。ただでさえ人が多いのがこないにもっと増えるんやからな」

「僕が来たのはコタロー君の半年ぐらい後だもんなー。僕も去年の学園祭も見てみたかったな」

「何言っとんのやネギ、まだ始まったばかりやで」

「あはは、そうだね」

「せや、ネギ、お前俺の事君付けて呼ぶのそろそろやめんか?」

「コタロー君……じゃなくてコタローって呼べって事?」

「そう!それや!」

「うわ!びっくりした!」

いきなり大きな声出すんだから。

「なんで俺ももっと早う言わんかったかな。どうせネギの事やから慣れたら外すと変な感じする言いそうやったのに」

「……そんなに君付け嫌なの?」

「当たり前やろ!いつまでもよそよそしそうにコタロー君コタロー君って。俺はすぐ会った時からネギって呼んでたやろ」

うーんでも初めて会ったときは日本語でいう敬称の感覚あんまりよく分かってなかったんだけどな。
確かあの時はKotaroって呼んでた筈なんだけどネカネお姉ちゃんに言われたとおりできるだけ丁寧な言葉遣い覚えたのが原因かな。

「気づかなくてごめん、コタロー」

「おう、それでええで!」

そんなに嬉しいのか。
こんな事ならもっと早く外しておけばよかった。

「去年初めてあった時はちゃんとKotaroって呼んでたのに日本語覚えたら君付けしてたや」

「そういやネギ日本語話せんかったな。すぐ話せるようになっとったから忘れてたわ」

「うん、でもあの時もう少し日本語話せない振りしてた方がアスナさん達の英語はもう少しうまくなったかもしれないんだよね」

「そんなん言うたら俺かて英語なんて話せんからな」

「いざとなったら言葉が通じなくても会話できるようになるまほ……えっとまあなんとかできるからね」

「ははっ!まほ……は便利やな」

そんなわざとらしく言わないくてもいいよ……。
危ない危ないさっきまほら武道会で魔法なんて単語何度も言ってたからつい外でも言いそうになっちゃったよ。
話してたらそろそろ女子校エリアに到着。

「ネギのクラスはお化け屋敷やったか」

「うん、ギリギリで出し物決まったんだけどね」

あれ……あそこにいるのは……。

「あ!ネギ君!どうしたの?」

「まき絵さん!一応クラスの担任として3-Aを見に来たんですけど僕も何か手伝えることありますか?」

「おっネギ君じゃん!ならこれ着てよ、ドラキュラの格好!」

後ろから!?

「裕奈さん!後ろからいきなり驚かさないでください」

「ごめんごめん、それじゃこれよろしくね。あ、コタロー君のもあるからちょっと待ってて」

「何や俺も着るんか」

「巻き込んでごめんコタロー」

「まあええで。小学校の出し物よか面白そうやし」

「コタローの小学校の出し物って何?」

「姉ちゃん達みたいに金儲けるような事せんから教室全体にテーマ決めて図工の一環で作品一つ作るだけやで」

「へーそうなんだ。見てみたいな」

「俺は天井に色々つけるのばっかりやったけどな」

「少しジャンプするだけで届くもんね。小学校の友達とはどこか行かないの?」

「んー、仲悪い訳やないんやけど俺にはあんま馴染めんのや。ネギ程マセてる訳やないつもりやけど会話合わん事多いし」

「でもライダーの話は通じるんでしょ?」

「そりゃそうや!万人共通やからな!」

僕もコタローに言われて一緒にやったりするけど日本のテレビ番組っていうのは凄いよなー。
僕の故郷にそういう娯楽が少なかったっていうのもあるのかもしれないけど。

「ほら、コタロー君持ってきたよ!」

「何やこれ犬の着ぐるみやないか!」

「似合ってるじゃん!」

「コタロー君、似合うよきっと。お姉ちゃんが保証するよ!」

うーん、まき絵さんはお姉ちゃんっていうにはちょっと違う気がするけど。

「ああ、分かった分かった。ネギ、はよ着るで」

「あ、うん」

僕がドラキュラ少年の格好、コタローが犬の……あれ?別にお化け関係ないような……着ぐるみを着て3-Aのお化け屋敷の呼び込みを手伝った。
その途中から柿崎さんが来て違う衣装着せられたんだけど……。

「ギャハハハ!ネギ何やそれ!女装か!」

「ネギ君似合ってるよ!」

「柿崎さんなんでこんな格好なんですか!」

「柿崎、それネギ君の集められる客層狭めてるよ!でも狐娘のその格好、イイね!」

「まあネギ先生が一体どうなされた……ブハッ!!」

!?凄い鼻血出て倒れた!

「あやかさん!!どうしたんですか、しっかりして下さい!」

コタローまだ笑ってるし、あのままだと笑い死にそう。

「こ……ここは天国でしょうか」

「あやかさん!まだ逝くのは早いですよ!」

3-Aに来て客寄せにはなったみたいなんだけどやっぱりいつも通り何か起きるのは変わらなかった。
回復したところであやかさんと一緒に学祭を回ることにした。

「ネギ先生と学園祭をご一緒できるなんて!……一人余計なのがいますが」

「あやか姉ちゃん俺目の敵にすんのやめ!」

「だって……あなたネギ先生にまだ傷を付けたりしているのでしょう?」

「そら仕方ないやん!少しぐらい怪我するで」

「あやかさん、心配してくれるのはありがたいんですがその話はあまり外でしないでもらえますか」

「ね……ネギ先生……失礼いたしました」

「それでどこ回るんや?古姉ちゃん何や昼にやる言うてたな」

「カンフースクールだったと思うよ」

「まあくーふぇさんの所ですか」

「地図見ると近そうやし行ってみようや」

「そうだね」

くーふぇさんのカンフースクールに行ってみたらあの人達がいた。

「ネギ坊主にコタロ、それにいいんちょ!良く来たアルな。二人も套路見せてやって欲しいね」

「はっはっは、さっきは凄かったねネギ君。はるかと一緒に古菲君に誘われてね。今截拳道見せてるけどサラもいるよ」

「瀬田さん、はるかさんにサラさん!」

「ああ、飛ぶ少年達か」

それ言われるとちょっと……。

「ネギ先生、この方達はお知り合いなのですか?」

「えーっと、さっき知り合ったんです。お二人とも拳法の達人なんですよ」

「そうなのですか。あら、瀬田とおっしゃいますとあの瀬田記康教授でいらっしゃいますか?」

「僕を知っているのかい。お嬢さんの言うとおり僕は瀬田記康。東大で考古学の教授をやっているよ」

「光栄ですわ。フィールドワークの実績は素晴らしいものとお伺いしております。一昨年のモルモル王国の遺跡ではご活躍だったとか」

「いやー詳しいね」

「お前の研究も最近は女子中学生も知ってるんだな」

「結婚式の事はさすがにしらないだろうけどね。はっはっはっは」

「黙れ」

あっ!

「ぐはっ!!」

「「「「あー!またあのおじさん飛んだ!!」」」」

「はるかさんいい拳アル!」

「よう飛んだな。はるかの姉ちゃんやっぱ凄いわ」

「私をそう呼んでくれる君はなかなか見込みがあるよ」

「あの……大丈夫なのですか」

「あーいつものことだから問題ない」

景太郎さんもそうだけど何で不死身なんだろ……。
僕もコタローと套路を一緒に披露したよ。
くーふぇさんは僕たち2人とも上手くなったと褒めてくれた。
この後あやかさんの馬術部にも寄って馬に乗せてもらったりしていたらそろそろお腹が空いて来たから五月さんのいる超包子でお昼を食べていたら。

「何やこれ、激走鬼ごっこ~麻帆良を駆け抜けろ~っちゅうんは」

「ふふ、それはね、超包子主催の本気鬼ごっこイベントなのよ」

そこへ来たのは……。

「あ、西川さん!」

「はーい正解。ネギ君、小太郎君にあやかお嬢様いらっしゃい」

いつもって訳じゃないけどよく超包子で見るマスターの同級生の人だ。

「よう!みのり姉ちゃん!」

「小太郎君はお姉ちゃんって呼んでくれるから嬉しいわー」

「西川さん、こんにちは。ここでは普通にしてくださって結構ですわ」

「はい、それでは。で、3人も鬼ごっこ出てみるって言いたいところなんだけどもう始まっちゃってるのよ。あ、ネギ君が知ってる子だと美空ちゃんは出てるわね」

「え?春日さん参加してるんですか?」

「ええ、この1号店で参加申請してくれたわ」

「おー90分逃げ切れば108万なんか。俺とネギならいけそうやけど」

「もう少し早く来てくれれば良かったんだけどね」

「ま、どっちにしろ俺らも用あるしな」

「そうだね。それでその次は4時からかー。ちょっと分からないね」

「ネギ先生、何かこの後ご用があるのですか?」

「そうなんです、あやかさん」

「はい、それじゃしっかり食べていってね!」

「ありがとうございます!五月さん!今日も美味しいです!」

五月さんは厨房で忙しそうだけどちゃんと聞こえたみたいで笑ってくれた。
あやかさん付いてくるんだけどどうしようかな……僕たちの事知ってるのにチケット持ってないから入れないだろうし……。

「この方向は龍宮神社ですわね」

「あはは……そうですね」

「(おいネギ、あやか姉ちゃん連れてきてええんか)」

「(端末もチケットも無かったら入れないからいざとなれば大丈夫だよ)」

「(そうやったな)」

「あら……あそこにいるのはお父様では?」

え?あ、ほんとださっき開会式で壇に上ってたあやかさんのお父さんだ!
何かまた起きそうな予感が……。

「お父様!どうしてここにいらっしゃるのですか」

「お!……おお、あやか……それにネギ君か。いや、少し人の少ない所で休憩をと思ってね」

「もしやお父様が龍宮神社を貸しきったのではありませんこと?」

「それは違うよ」

「いいえ、お父様嘘ですわね。ここ最近グループの宿泊施設が3日間貸切になっていますし無関係でないとは思えませんわ」

「(あーこりゃまずいで)」

「(どうしよう……魔法がバレてるのがバレるかも……)」

「(あやかの姉ちゃんがネギに都合悪くなる事はせんと思うけど)」

「(……う……何か罪悪感が……)」

「あやかの情報網もなかなかものになったようだね。お付きに調べさせたのかな?」

「いいえ、お教えできませんと言われましたから。私のクラスには情報に強い方がおりまして独自に調べたのですわ」

朝倉さんだな……。

「……そうか。あやか、中に入るか?」

「……よろしいのですか?言い方が悪かったですが私は別に責めるつもりはありませんわ」

「あやかならこれまで分かっていても対応してくれたからね。それに来月すぐあやかの誕生日だ」

「ふふ、それではお言葉に甘えて」

「分かった。あやか、入ってから少し話すことがあるがいいね」

「もちろんですわ」

「これがチケットだ。無くさないように持っていなさい。ネギ君達はそろそろ時間でしょう。先に入って下さい」

「あ、はい、ありがとうございます」

「おおきに!」

「あやかさん、またすぐ後で!」

あやかさんもこの分だとすぐ入ってくるだろうけど魔法がバレていたのはなんとかなる……と思う。
それより2戦目の試合はコタローが浦島可奈子さんで僕が高音・D・グッドマンさん。
聖ウルスラ女子高等学校2年生って事で魔法生徒の人みたいだ。
前の試合を確認してみたら影精を使った格闘型の魔法を使うみたい。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

さよが超包子の鬼ごっこ企画の様子を見に行たけどすぐその後ネギ坊主と小太郎君の試合だヨ。
ネギ坊主は一戦目の等速試合で人気が随分上がて申し込みが絶えなかたが相手は高音サンだネ。
小太郎君は浦島可奈子サンとだヨ。
浦島可奈子サンも前の試合からすると楓サン達忍に近い上に瞬動術は完全な縮地だたのだから驚いたネ。
浦島流柔術は表には滅多に出てこない流派らしいが日本にはまだまだ東洋の神秘というだけの秘密が一杯のようだナ。

おや、社長さんと一緒にあやかサンも神社に入て来たがいいのカ?
親の同意があるならいいけどやはりあやかサンは驚いているネ。
ネギ坊主の試合はまた等速で行われるからスクリーンで見ていくといい。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「ネギ先生、先程の高畑先生との試合お見事でした」

「あ、ありがとうございます」

「高畑先生とあれほど渡り合えるのであれば私、最初から全力で参りますわ」

「はい、僕も全力でやらせて頂きます」

「ネギ選手、注意事項のメモがあります、先にお読みください。これを」

なんだろう。

「注意事項?はい……えーと……え?……わ、分かりました」

気絶させると全裸になるから気をつけるようにって……。
全力って言ったばかりだけど、これが本当だったら……もし下手に気絶させたりしたらアスナさんに絶対後で怒られる!

「審判さん、注意事項とはなんですか?」

「私から申し上げる事はできませんが、不利になるようなものではございませんので。それでは試合を開始したいと思います。制限時間15分試合開始ッ!」

「参りますわ!」

―黒衣の夜想曲―

実際に見ると、は、派手だ。

  ―影よ―

続けて影の使い魔を操る術か。
こっちも―戦いの歌!―
    ―魔法領域展開―

気絶させるのがマズイとするとギブアップを狙うしかない!
左右から使い魔がそれぞれ2体ずつ攻撃をしかけてくるけど。

「不思議な魔法障壁のようですがこれはいかがですか!」

……ぶつかって来たけど威力不足だな。
ジリジリ音が言う場合は結構あるんだけどもっと静かな音が出てる。
やっぱりタカミチ程の威力はないだろうし突破はできないから無視して大丈夫だ。

「なっ!?」

―双腕・未完成・断罪の剣!!―

これで一気に自動防御する影ごと吹き飛ばしてギブアップしてもらう!
瞬動で懐にもぐり込む!

「させませんわ!」

やはり目の前に自動防御!まず左腕!

「はあっ!」

よし砕けた!
未完成だと破壊範囲が拡散しちゃうけど刃自体は伸ばせるからこういう時便利だ。

「私の影がっ!?うっ!」

もう首筋に右腕の剣をつきつけたし……。

「首元に影は装着していないようですがどうしますか?」

「つ、強い……ギブアップ致しますわ」

「ギブアップにより勝者、ネギ・スプリングフィールド選手!」

右腕解除……と。

「高音さん、ありがとうございました!」

「いえ、こちらこそ。私もまだまだ未熟だと思い知らされました。ありがとうございます、ネギ先生。それで……先程の注意事項のメモとは?」

あ、マズイ……。

―火よ灯れ!―よし、証拠隠滅……。

「あっどうして燃やすんですか!」

「き、気にしないでください!何でもありません!」

「やはり何か不利になるような事が書いてあったのでは!?」

「そ、そんな事無いですよ!た、ただ」

「ただ、何ですか?」

高音さん怒ると怖い……。

「あ、あの、とりあえずここの外で話しましょう!」

「いいでしょう……分かりました」

いつまでスクリーンに出てるかここからだとわからないから迂闊に話せないや。
転移魔法陣から能舞台に戻って拍手受けてそこそこに挨拶した後規定通りに休憩施設で……。

「どういう事だったのですか!?」

「えーと、メモには高音さんが気絶すると裸になるから気をつけるようにって書いてあったんです」

「なっ!?どうしてそれを!?」

「いえ、僕も元々知らなかったんです!メモの差出人もよく分からなかったですし」

「そ、それでは私の事を考えてあのような方法で?」

「……はい。でも僕いつもできるだけ短期決戦に持ち込むようにしてるのでメモが無くても同じだったかもしれません」

だからやっぱりタカミチは強かったな。
虚空瞬動で接近しても魔法領域を無理やり素手で突破しようとしてきたぐらい近接戦闘の技術も凄かったからあの拳圧出せない位置にずっといるのもきつかったし。
それで避けるまでに時間の余裕ができる離れた所から魔法の射手を連射したりしたんだけど。

「これは責めるような真似をしてしまい失礼しました。そのような配慮までされるとは教員を勤めているだけありますわね」

「お姉様、お疲れ様です!ネギ先生こんにちは」

「愛衣!」

この人は確か……超さん達とアメリカに一緒に行った時にいた……。

「こんにちは……確か……」

「2-Dの佐倉愛衣です、よろしくお願いします」

「佐倉愛衣さんですね。学校で何度か見かけたことがありましたが名前まで覚えてませんでした、すいません」

「気にしなくて結構ですよ。高畑先生との試合も見ましたけどお姉様まであんなに早く……ネギ先生ってお強いんですね」

「強くなれたのは周りの皆のお陰ですし、まだまだマスターには遠く及ばないです」

「マスター、ということはネギ先生には師匠がいらっしゃるのですか?」

「あ、えーと……」

うう、言わない方がいいに決まってるよ……。

「すいません、他人に言うと怒られるので誰とは言えないんですけど師匠はいます」

「そうですか……それは素晴らしい方なのでしょうね」

「はい、それはもう!」

「いいですねー、私ももっと頑張らないと」

「愛衣、私達もこの大会で精進しましょう」

「はい、お姉様!」

2人とはこれで別れたけど魔法生徒って意外といたんだな……。
3-Aはちょっと多すぎる気がするけど。

「ネギ先生!お怪我はありませんか!?」

「あやかさん!それで……お父さんは?」

「お父様から色々伺いました。少々信じがたいですがネギ先生は魔法使い……という方だったのですね」

「あ……はい、隠していたみたいですいません」

「ネギ先生の秘密がこうして分かっただけでも十分ですわ。……それに調べてみればあのアスナさんまでこの武道会に出場しているとか」

「そうなんです。アスナさんは先月から鍛錬し始めたばかりなんですけど成長が凄く早くて」

「せ、先月から!?映像も見ましたけどそれだけであんなに身体が光ったりするようになるのですか」

咸卦法の事かな。

「あれはなんていうかアスナさんの元々の才能だったみたいなんです」

「才能……私も多少武術は嗜んでいたのですけれどあんな動きはいくらなんでも……」

あやかさんも一般人としては合気柔術の腕は凄いと思う。

「おっネギも終わっとったんか!等速やからもう少しかかってる思ったんやけど」

「コタロー!試合どうだったの?」

「……負けたで。怖い姉ちゃんやった」

「なんか顔色悪いよ?」

「試合もう見れるようになっとるみたいやから確認すればええで」

「あ、うん」

あやかさんと一緒に見たんだけど浦島可奈子さんが開始から「お兄ちゃんに痛い目あわせた罰です」って言った途端、楓さんより凄い縮地で畳み掛け、コタローが狗神で応戦したら足を一閃しただけで全部跳ね返してそのまま可奈子さんも更に凄い気弾を放ったり凄い。
怖いっていうのは表情が一切変化していないところだなきっと……。
最終的にコタローがどこから出したのかわからない縄で縛られて終わったんだけどどうして破れないんだろ。

「こんな女性がいるんですわね……」

「この最後の縄何だったの?」

「よう分からん。何故か破れんかった。エヴァンジェリンの姉ちゃんの魔力の糸とは違う筈なんやけどな。景太郎兄ちゃんに思い入れあるみたいやわ。ネギも気をつけや」

「う……うん」

「ま、楓姉ちゃんより凄い瞬動直に見れたから収穫はあったわ」

「まるで学園長先生の瞬間移動みたいだね」

「1戦目確認したら普段からずっとあんな動きする訳やないみたいやけどな」

景太郎さんと当たらないようにしよう……。

「そんなに簡単に連勝ってできないね」

「ネギは一回目の相手悪いだけやで。俺も不死身相手はやる気削がれたしな」

「でも普段知らない人と試合するのっていい経験になるね。次の試合登録しておこうか」

「よっしゃ。次こそ蘇芳の兄ちゃんに当たれや!」

「間違って鶴子さん達には当たりたくないね……」

「……そうやな」

神鳴流の宗家の人達に会えて刹那さんは目が輝いてたけど僕たちはちょっと……。
この後僕とコタローは希望試合時刻を早めに設定して更にその次の試合との間隔を空けることにしたら相手はそれぞれ葛葉先生と忍者の人だった。

「楓姉ちゃんの知り合いやんか」

「僕は葛葉先生だ」

宗家の人達みたいに舞台が消滅するような事にならなければいいけど……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

春日美空の鬼ごっこも佳境に入っていた頃、ネギ少年達の3戦目は2戦目の後すぐに開始された。
今回は2人共加速魔法球で同時に試合が行われる事になったが1つずつどうなったか見てみよう。

ネギ少年と葛葉先生の試合はタカミチ君との試合程派手にはならなかったものの一応教師同士の良い試合だった。
ネギ少年の掌底・断罪の剣を葛葉先生が切り込んだ所を逸らして刃の腹に当てたところ気が通っているものの強力な相転移で一部分解されたのだ。
寸前で葛葉先生が刀を戻して回避したが、もう一度振り抜いたところ丁度展開し直した魔法領域に当たった瞬間、折れた。
あっという間に武器となる木刀を排除したネギ少年であったが、これが真剣で無くてよかったと安心すべきかもしれない。
神鳴流で使われる野太刀は気を効率的に通す事ができるという特殊な処理に必要な製法にかかる手間だけでなく、刀剣としてのそれ自体の価値もかなり高い為実際もし折れたら、場合によっては修理出来る事もあるだろうが損害額はかなりのものになる。
主要な攻撃手段を失った葛葉先生であったが「流石はネギ先生、高畑先生の時もポケットを狙っていたのですから……当然私も予想しておくべきでした」と冷静に無手で構え直し試合続行となった。
ネギ少年はどういうつもりか「葛葉先生とはこれ無しで行きたいと思います」と言いそのまま魔法領域の使用をやめて双方純粋な格闘戦へと突入した。
手抜きという訳ではないのだろうが、いつも魔法領域ばかり使っていては折角の武道会なのに体術を活かす機会が勿体無いという事なのだろう。
それに青山鶴子さんが相手でもないので少しは安心できるからというのもあるだろうか。
ネギ少年は雷華崩拳を主体に無詠唱魔法の射手を、葛葉先生は神鳴流の打撃技および柔術に、手から気弾を放つ斬空掌系や脚からも裂蹴斬が飛び出したりと見事な中・近接戦闘を繰り広げた。
試合の結果自体としては15分丸々続いたのだが直前で葛葉先生が「武器を折られた時点で私が油断していました」と降参をしてネギ少年の勝利となった。
どうも葛葉先生は全力ではあったが、できるだけ長く試合をしてみたかったようで手抜きをしたのとは違うが……別に構わないであろう。
ネギ少年は勝ちを譲ってもらった形になって少し抗議しようとしたが「私がこれでいいと言ったら良いんです」と普段の堅い印象はどこへやら、10歳程度の子どもが一生懸命なのが気に入ったらしく、結果、うっかり頭を撫でていた。
その光景も映像に収録されており「あの刀子さんが……」「葛葉がな……」と後で映像を確認した魔法先生達にとっての葛葉先生の姿が少し崩れたのだが……これは余談。
その後葛葉先生は青山のお姉さん達に「刀子はん、ちょっと」と呼ばれ止む無く会話をしていたのだが、葛葉先生も桜咲刹那の訓練に加わる話が進んだ上、何やらお姉さん達の標的にネギ少年も入ったらしい。

一方小太郎君はというと忍者と一切忍びはしない分身対決を繰り広げ、舞台1つに常時合計8人近くいて、それぞれ殴りあうという……お嬢さん風に言えば……タッグではないがそのようなものが展開され窮屈であった。
たまに普通に場外して戦う分身なのか本体なのかもしれない事があり審判の人は非常にカウントに困っていた。
小太郎君は2戦目に運悪くまたしてもひなた荘関係者との戦いになってしまって負けたが、完璧な縮地を連発されただけあってこの戦いはそれよりも楽だったのかようやく一勝できた。
相手の人は忍軍でもそれほど戦闘が得意ではなくどちらかと言えば補助系の人であり、その力量の幅を言えば忍軍の市という頭領発言をした女性は今の長瀬楓よりも強い。
最強は長瀬楓の母親なのだろうが……だからこそ長瀬楓は麻帆良に来ても「拙者もまだまだ修行中の身でござれば」と言うのだろう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

僕とコタローは試合が終わった所で次の4試合目までに大分時間が作れたからあやかさんと三人でまた学園祭を見て回ることにして龍宮神社から出た。

「ネギ先生達お怪我や疲れたりはしませんの?」

「休憩所には仕掛けが施してあるらしくて疲労も怪我もすぐ治るんですよ」

「まあそうなのですか、便利ですわね」

「あれウルティマホラの時の強化版やな」

「多分マスターがやったのかもしれないけどどうだろう」

「あの別荘もそうやしな」

「僕もそういう技術も少しは勉強させてもらってるんだけどね……。あ、ハルナさんだ」

「似顔絵を描いているようですわね。ネギ先生描いてもらってはいかがですか?」

「3人で描いてもらいましょう。ハルナさん描くの凄く早いですし。ハルナさん!こんにちは」

「やあネギ君にいいんちょそれにコタロー君。似顔絵興味ある?」

「はい、お願いします」

「ハルナさん、ネギ先生はできるだけ丁寧にお願いしますわ」

「はいはいー分かったよ。それじゃ3人そこ座って」

やっぱりハルナさん描く速度が凄かった。
あっという間にできあがったし、似顔絵はそっくりだった。

「あの料金は?」

「ネギ君達は別にいいよ。いいんちょはもう一枚ネギ君描いたら買う?」

「もちろんですわ!」

次に絵画つながりでアスナさんの美術部の展示作品を見に行ったんだけどアスナさんは丁度いなかったや。

「アスナさん本当に高畑先生好きですわね」

「アスナ姉ちゃんわざわざ作品で先生書くんやな」

「でも凄くタカミチを上手く書けてると思うよ」

アスナさんの美術部の作品はタカミチの肖像画で良く特徴が捉えられてた。
そういえばタカミチが美術部の顧問だからアスナさん美術部入ってるらしいんだよね。

「ネギ先生、そろそろ3時前ですが、何か屋台で食べません?」

「そうですね。確かアキラさんがいる屋台があった筈ですよ」

「まあ、流石ネギ先生生徒の事もしっかり把握してらっしゃいますのね」

それで少し何かお腹にいれようと思って、アキラさんがいる屋台に行ったらたこ焼き屋さんだった。

「ネギ先生来てくれたのか」

「はい!丁度お腹も空いてたので。たこ焼き美味しいです」

「祭りはやっぱ屋台やな」

アキラさんはよく喋るタイプの人じゃないけど僕が指輪の魔法発動媒体落とした時は一緒に探してくれたし良い人。
それにいざとなると凄い力持ち。

「コタロー、やっぱり素子さんに似てるね」

「ああ、そうやな。髪型はちゃうけど似とるな」

「素子さんって?」

「ちょっと学園祭で知り合った人なんですけどアキラさんによく似てるんです」

「へー、そうなのか」

「あ、小太郎君!」

この声は……?

「景太郎兄ちゃん!……に可奈子の姉ちゃん、素子の姉ちゃんにカオラ姉ちゃんもおるやないか。後知らない姉ちゃん達も」

瀬田さん達以外全員……かな?
眼鏡外した長谷川さんに似てる人もいるな。

「こっちの四人は成瀬川なる、紺野みつねさん、乙姫むつみさんそれに前原しのぶちゃん。全員ひなた荘の住人だよ」

「こんにちは」

「みゅー」

また挨拶とか色々して龍宮神社にいなかった四人は学園祭をまわってたみたい。
むつみさんは参加しなかったらしいけどしのぶさんは超包子の鬼ごっこで逃げ切って108万取ったんだって。
見かけによらず足早いのかな。
コタローが可奈子さんから距離取ってるけどそんなに怖いのか……。
それでやっぱりアキラさんと素子さんの話になった。

「いやー昔の素子ちゃんに似てるね!」

「そ、それはどうも」

「浦島、それは私が老けたとでもいいたいのか?」

「え?そんなつもりで言ってるんじゃないよ!」

「じゃあ一体どういうつもりだ」

もめ始めたんだけど景太郎さん殴られそうだな……。

「あぷろぱぁっ!!」

「あ、やっぱり」

うまく人のいない所に吹き飛んでった……。

「……ネギ先生、あの人大丈夫なのか」

「景太郎さんは不死身らしいので大丈夫だそうです」

「不死身って……。私に似てるっていうのは本当だね。驚いたよ」

「若いモトコや!!」

「スゥ!!」

「モトコが怒ったで!」

「……賑やかな人達だね」

3-Aも賑やかだけどこの人達も負けてないな。
この後まき絵さんの新体操の発表会を見たけど、確か夏に県大会があるんだよな。
これだけ凄いけどどうなるんだろう。
そういう評価は僕にはちょっと分からないな。

「ネギ君見に来てくれてありがとー!」

「はい!新体操綺麗でした!」

「まき絵さん新体操素敵ですわ」

「そのリボンどうなっとんのか不思議やな」

僕もそれ気になる……。
魔法みたいに物理法則無視してる時あるし、耐久力もおかしいんだよね。
まあ、それはいいとして次近そうなのは……。

「ネギ先生、ちづるさんの天文部でプラネタリウムを見てみません?」

「プラネタリウムは俺も見たことないな」

「僕も見たことないです。いいですね、行きましょう」

そういえばあやかさんと千鶴さん、夏美さんの部屋に入れてもらったことあるけど天体の地図が一杯張ってあったな。

「まあ私のあやか、来てくれたのね」

「私のあやかって何ですのちづるさん」

「恥ずかしがらなくてもいいのに。ふふふ。ネギ先生達もいらっしゃい」

「こんにちは千鶴さん」

「よっ!千鶴姉ちゃん」

「どうかしら、天文部が総力を上げて作ったプラネタリウムは?」

「これ学祭前だけでよく作れますねー」

「山奥で夜空見た時と同じやな」

「ネギ先生達は楓さんと山篭りしてらっしゃるんでしたわね」

「そうやで」

「千鶴さん、普段天文部ってどんな事してるんですか?」

「普段?恒星に惑星、色々観測してるわよー。あ、最近だと火星が良いわね。予定だと8月27日になるけど21世紀でその日火星が最も接近する日になるわね。今年の大接近は過去6万年で一番近くなるそうよ」

「へー火星ですか」

「どれくらい近くなるんや?」

「5600万kmより近くなるそうよ」

「ちょっと数字が大きすぎて実感沸かないですね」

「ロケットでどれぐらいかかるんやろ」

「んー、いつか行ってみたいな」

「雪広グループでもロケット開発に資金は提供していますが有人探査はずっと先になりますわね」

「どう?ネギ先生達も天体に興味出たかしら?」

「はい!またお部屋で地図とか見せてもらってもいいですか?」

「いつでもいらっしゃい」

「ネギ先生でしたらいつ入って来ても構いませんわよ。いっその事私の部屋で泊まってもいいですわ!」

「あはは、ありがとうございます」

千鶴さんの天文部を後にして次は何処へ行こう。
あと今日は、朝突然まほら武道会が始まる前にザジさんからナイトメア・サーカスのチケット貰ったからそれに行こうと思ってるけど、他の3-A皆の出し物明日の予定にしてあるからこの後は自由にしててもいいんだよなー。
あれ、それにしてもザジさんが喋ったのって初めて見たような……。

「ネギ、図書館島に何や人集まっとるみたいやで」

「図書館島探検大会は明日だった筈なんだけどなんだろうね、行ってみようか」

「あー!ネギ君みっけー!」

「まき絵さん!どうしてここに」

「えへへ、ちょっとネギ君達見かけたから追いかけてきちゃった」

「あやかさんも図書館島行っても良いですか?」

「ええ、もちろんですわ。……邪魔なのが増えてきましたが」

何かボソッと言ってるんだけど……。
図書館島の人が集まっている所に行ってみたら極秘コスプレイベントっていう幕が張ってあった。

「何やここもお化け屋敷みたいに仮装しとるんか」

「結構人いるねー。あれ、あそこにいるのは……千雨さん?」

「あら、長谷川さんですわね」

「千雨ちゃんだ!」

あ、気づいたみたい。
っていきなり引っ張られた!?

「なんで先生がここに来てるんだ……ですか?」

「たまたま人が集まってたので……千雨さんその格好ってちう」

「ブッ!!……なんでその名前知ってんだよ!」

「超さんから千雨さんがブログやってるって聞いたので調べてからずっと見てますよ」

「超の奴……後で会ったら……。ってずっと見てんのかよ!」

「はい、SNSには入らないんですか?沢山コメントあるのに、僕も書き込んだんですよ」

「ネギ先生もあの中のコメントの一人かよ……」

「それでこのイベントって例のブログでも話題になってたやつですか?」

「そうですが……私は出ません」

「え?どうしてですか?その格好してるのに?」

「どうしても何も」

「ネギ先生!見て見てーここの貸衣装屋さんで着替えてみたよ!」

「どうですか、ネギ先生?」

まき絵さんとあやかさんが何でか分かんないけどナースの格好を……。

「似合ってると思いますよ」

「わー、じゃあいいんちょ、これでこのイベント出てみようよー!」

「そ、そうですか?」

あれ、千雨さんの雰囲気が……。

「ちょっと待てお前ら、そんな格好で出たら恥かくだけだ。私が用意した衣装貸してやるからそっち着ろ」

突然プロデューサー風になったんだけど……やっぱり衣装持ってきてたって事は千雨さんも出るつもりだったんじゃ……。

「何や、あの姉ちゃんも出るつもりやったんやないか」

「そうみたいだけど端にいたってことは迷ってたのかもしれないよ」

「ほら、できたぞ」

「「魔法少女ビブリオン!」」

って何でポーズまで取ってるんだろ。

「えーこのポーズも取らないとダメなの?ちょっと恥ずかしいけど……ま、いっか。いいんちょ行こうよー!」

「まき絵さん、引っ張らなくてもいいですわよ!」

行っちゃった……。
2人はそのまま出場して出たら凄い好評だった。

「あいつら人の領域にまで入ってくるのに適応力高すぎるだろ……」

「ネギ君、ウケたよ!次千雨ちゃんの番だよ!」

「え?ちょ!待て!私はそんなつもり!おいっ!」

「長谷川さんも出場なさるべきですわ」

千雨さん連れていかれた。

「賑やかな姉ちゃん達やけど、景太郎兄ちゃんと一緒にいる姉ちゃんみたいに殴られなくてええな」

「いや……あれと比較するのはちょっと……」

そのまま千雨さんを2人が強制的にイベントに参加登録を済まさせて出させたんだけど……。
緊張したあまり舞台に座り込んじゃって……って凄い会場盛り上がってる!

[[素晴らしい演技です!魔法少女ビブリオン敵幹部の特徴をよく捉えています!皆さん盛大な拍手を!]]

「何やキャラクターわからんとピンとこんな」

「そうだね、でも千雨さん賞取れるみたいだし良かったと思うよ。これでクラスの皆とも積極的に仲良くしてくれるといいんだけど」

「先生って大変やな……」

「あ、優勝決定した!凄いね」

「俺もライダーで出たらどうやったかな」

「お客さんが男の人多いからどうかな……」

最初ここで合った時の千雨さんは少し不機嫌そうだったけどまき絵さん達にイベントに連れていかれた後は誰が見てもわかるぐらい嬉しそうだった。

「そろそろ次だね」

「そうやな」

「私もまたご一緒しても宜しいですか?」

「はい!」

「なになに?ネギ君何か用あるの?」

「えーと、このイベントが極秘だったみたいに僕とコタローも似たようなのに参加してるんです」

「えー!何それ!いいんちょ入れるの!?」

「私にはチケットがありますわ」

「へーこれの事か。何々、まほら武道会……龍宮神社?」

「長谷川さん!いつの間に私のチケットを!?」

「いや、ほらさっき着替えてたときに落としてたろ」

「返してくださいませ!」

「分かった分かった、ほらよ」

「ありがとうございます。危ないところでしたわ」

「僕達も無くさないようにしないとね」

「3日間やもんな」

「あやかさん、行きましょう。まき絵さん、千雨さんごめんなさい。チケット余ってないんです」

「いいんちょちょっと私にもチケット貸してよー!」

「だ、駄目ですわ!」

追いかけっこ始まっちゃった……。

「ネギ先生、龍宮神社に入ろうとした奴らが入っても入れないってのはその武道会のせいなのか?朝倉も何か言ってたし」

「そ、そうなんです」

「ネギ、ちょい時間マズイで。あやか姉ちゃん俺捕まえてくるわ」

「あ、ごめん。お願い」

「先生、ウルティマホラみたいなもんだろうけど頑張りな」

「千雨さん、ありがとうございます!それじゃ」

コタローがあやかさんを捕まえてそのままもう走って行ってる。

「コタロー君走るのはやっ!ずるいよー!私も見たいー!」

「まき絵さんごめんなさい!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

5時半過ぎ、ネギ少年と小太郎君、雪広あやかが急ぎ龍宮神社に戻ってきて今日最後の4戦目。
相手はそれぞれ気の扱いを心得ている拳法家であるが、ネギ少年達にとってみれば相手としてはかなり楽な方で簡単に勝利した。
……さて、その場には既に本日分の試合を終えるのを待ち構えていた集団があった。
青山宗家のお姉さん達、青山素子さん、桜咲刹那、孫娘、神楽坂明日菜、葛葉先生、古菲、長瀬楓とくノ一、佐倉愛衣、高音・D・グッドマンそして呪術協会の協力者の方である。
充分強い女性とまだまだ強くなりたい女性の園と化しそうな状況。

「アスナさん!あなたいつの間にこの武道会に出てたのです!」

「い、いいんちょ!どうしてあんたがここにいんのよ!」

「それはお父様にチケットを貰って色々話も聞かせてもらったからですわ」

「いいんちょのお父さんが直接話したのね……。てっきりネギが連れてきちゃったのかと思ったわ」

「ざ、残念ながら私を連れてきたのはコタローさんでしたが……」

「コタロ君が!?」

……そして訓練するという話になった所、何故か雪広あやかもその集団に加わってしまった。
青山素子さんはほぼ渋々参加している形になっているが桜咲刹那から壮絶に尊敬の眼差しで見られた為生真面目さが仇になったか期待を裏切ることはできなかったようだ。
他魔法生徒2人は何かその場の流れでお姉さん達によって「まとめて指導しますえ」となり、古菲達は「面白そーアル」という理由で参加する訳だが、洗脳のような雰囲気が広がっているような気がしなくも……無い。
まあ佐倉愛衣あたりにとっては多分良い……先生になる。
映像を記録の中止を超鈴音にさせた後、そのまま彼女達は魔法球の1つに順に入っていった。
早速中で何が始まったかといえば、一角でまずはお姉さん達による神楽坂明日菜と桜咲刹那に対する優しい指導が行われ始めた。
優しいといってもお姉さん達の基準で、である。
桜咲刹那は緊張のあまり正気の判断ができていなかった一方、神楽坂明日菜は目の前の光景に唖然と、素子さんは嫌そうな顔をしていた。
鬼が召喚されては消滅を繰り返すのは……いわゆる無限ループ。
お姉さん達が呪術協会の人に頼んで、快い返事……を頂いた……客観的に見れば半強制的に訓練に協力させられていたのだが、その協力内容とは鬼を召喚する事。
召喚した傍から「ほな、よう見ておきなはれ」と言いながら。

―斬魔剣弍の太刀!!―

……をわざわざ術者の方を間に挟んで連発しているのである。
因みにこの協力している術者は長い事出番が無かった天ヶ崎千草さんであり、とてもかわいいらしい猿鬼や熊鬼が虐殺……されていた。
善意……かどうかはともかく間に挟まりながら斬魔剣弍の太刀を放たれる気分とはいかようなものなだろうか。
この後桜咲刹那は自分の斬魔剣を披露し、弐の太刀習得への絶対条件、気を自在に扱える事、の指導が始まった。
孫娘はマイペース……であるため、この空間でも「せっちゃん頑張りやー」と応援していた。
勿論全員が桜咲刹那についていた訳ではないので、魔力と気で違いはあるものの瞬動術の講習諸々が佐倉愛衣らに行われていた。
葛葉先生も弐の太刀を成り行きで練習する事になっていたのも……多分良い事であろう。
そのまた別の場所では松葉市さんという例のお付きの人その他と長瀬楓の気の扱い方講習も行われていた。
平和そうに言えばワークショップと横文字で言うの合っているが……合っているかもしれないが、なかなかきついかもしれない。
当然1時間が5時間になるので時間的余裕は充分にある。
他の4つの魔法球では自由に流派を超えて鍛錬に打ち込む人達や、軽く模擬戦を行なったり、試合の映像を確認したいものの試合数が多すぎて時間が無い人達が利用していた。

そんな魔法球が自由に使えるようになったすぐの頃、外ではエヴァンジェリンお嬢さんが様子を見に来ていた。

「ぼーや達今日はどうだった」

「マスター!タカミチには負けちゃいましたけど結構頑張れたと思います。僕もまだまだです」

「俺も変な兄ちゃんに変な姉ちゃんやら面白かったで。本命には当たっとらんけどな」

「まあ後でぼーや達の勇姿とやらを確認するよ」

「マスター、この後ナイトメア・サーカス一緒に見にいきませんか?」

「サーカスか。まさか保護者同伴じゃないと入れないのか?」

「そんな事ないですよ!マスターそれ分かってて言ってますよね!」

「ははは、少しからかっただけだ。行くのは構わんがアスナ達はいいのか?」

「アスナ姉ちゃん達には手出しせんほうがええで。まだあそこから出てこんから」

「ほう、訓練しているのか。ぼーや達は参加しないのか?」

「いえ……女性限定みたいなので……それに怖いですし」

「俺も嫌やで……」

「修行好きの小太郎にしては珍しいな」

「青山鶴子っちゅう姉ちゃんの試合見りゃわかるで」

「青山?……神鳴流か。あれは強くなりすぎると暗黒面に引き込まれやすいからな」

「そ、それじゃあアスナさんや刹那さんもそのうち……」

「嫌やな……」

「数時間程度でそんなに変わらんだろう。サーカスの時間はいいのか?」

「あ、今から行けば大丈夫です。3日間18時半からやってるそうですから。それじゃあ行きましょう」

ネギ少年達はエヴァンジェリンお嬢さんを先導する形でサジ・レイニーデイのナイトメア・サーカスに向かっていったのだった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「ほう、普段一切話さないザジがぼーやに喋ってまで誘ったのか」

「僕も驚きましたよ。今まで一度も喋ったことなかったですからね」

「俺もそのザジっちゅう姉ちゃんはあんま見んな」

「あいつは何かある筈なんだがな……イマイチよくわからん」

「何かっていうのは?」

「関係者ではない……とは言い切れそうにないという事さ」

「ザジさんも!?」

「まあ害は無いだろうさ」

「そ、そうですか。良かった」

「お、ここやで」

「丁度10分前ぐらいだね。曲芸手品部って事は外部サークルか」

受付の人にチケットを見せて通った先は……。

「うわぁ、僕サーカスって見たこと無いんですけど会場内って少し暗いんですね」

「スポットが当たるんだから客席側は暗くないとな」

「席はどの辺りや」

「これ指定になってるんだけど一番前の方みたいだね」

「特等席じゃないか。近くでよく見えるだろうさ」

僕が真ん中、左がマスター、右にコタローで座って18時半になっていよいよショーの始まり。

[[皆様、本日は当ナイトメア・サーカスにようこそおいで下さいました!大変長らくお待たせいたしました!これより記念すべき第一回目公演を開始致します!]]

会場全体が拍手の渦に包まれた!

「わー、本当のサーカスみたい!」

「ネギ、本物やで」

「そ、そうだった」

最初は動物の曲芸なんだけど何がでるかと思ったら5頭の馬に乗った人達が出てきたと思ったらステージを旋回しながら疾走して舞台の中心にある的に向けて矢を射った!

「凄い!全部命中したよ!」

魔法の射手だったらできるだろうけど、普通の矢でできるなんて!
しかも一定間隔でグルグル回ってるんだけどスピードはかなり速いし芸術的だ!

「こないによう動物ぎょうさんおるな。馬にライオン、熊、トラ、象までおるで!」

「象なんて初めてみたよ!凄く大きい!」

「このサーカス予算はどうなっているんだ……」

動物達が火の輪をくぐったり自転車に乗ったりしてるけどよく言う事聞いてくれるなー。
あれ……舞台の端にいるのはザジさん……何か動物に話かけてる?……あ、こっちみて笑った。

次は手品部ってだけあってマジックをやるみたいなんだけど人体切断!?

[[このようにもし失敗すれば間違いなく重症になります]]

重症どころじゃないよ!?

「ぼーやは純粋だな。あれにはタネがあるんだよ」

「マスター、こういうのは心から楽しいって前向きな気持ちで見た方がより楽しめるんですよ」

「ネギ、それ俺もわかるで!どうなってんのか考えるぐらいやったらずっとワクワクしとる方が楽しいで!」

「……ひねくれた見方だとうまく楽しめない……か。なるほどな」

人体切断マジックは派手にノコギリ入れてたけどちゃんと無事だったし、大きな箱に団員の人が入ってそこに槍をどんどん刺して行くのは心配になったけど気がついたら中にいた人は客席の後ろの方に移動してた!

「瞬間移動やで!一般人にもできるんやな!」

「コタロー、この人達はもう一般人じゃないよ!既に達人の筈だよ!」

「そう言われるとそうやな!」

「ぼーや、小太郎の事を呼び捨てするようになったのか」

「今日からそうする事にしました!」

「ま、いつまでも他人行儀なのもな」

「はい!」

「……それどころじゃないか……」

[[次は当サーカスの目玉、高さ12メートルからの空中ブランコです!]]

「あ、ザジさんだ!」

[[まずは当サーカスの寡黙なピエロことザジ・レイニーデイ!!]]

「目隠ししとらんか!?」

「心眼かも!?」

「お前達楽しそうだな」

ザジさんは空中ブランコで二つあるブランコのタイミングをどうやって図ってるのかわからないけど目隠ししたまま右に行ったり左に移ったり、次第に飛び移る時に2回転、3回転、2回転半で足で逆さまに掴まったりしてるのに全てが滑らかな動きで少しも目が離せない!

「俺も挑戦してみたいな!」

「僕もやってみたいよ!」

「ザジ降りてくるみたいだぞ」

「ほんとだ……」

ザジさんが重力を感じさせない動きで12mの高さのブランコから回転しながらマットに降り立った。

「……ネギ先生、どうぞ。お友達も」

くるりと回して手が差し出された。

「え?」

「俺も?」

[[ここでザジ・レイニーデイから観客に誘いが入りました!空中ブランコを初心者がやるのは危険ですが……おーっと少年達は参加するそうです!観客の皆様拍手で二人の少年を応援下さい!]]

成り行きで空中ブランコやらせてもらえることになったんだけどいいのかな。

「ザジさん、良いんですか?」

「…………」

コクッとうなずいてくれたって事はいいんだろうけどなんでまた話さなくなっちゃうんだろ?

「よっしゃ俺から行くで!でやっ!」

流石コタロー、この程度の高さなんてことないみたい!

[[いきなり少年が飛び出したが凄い!御覧ください見事なパフォーマンスです!]]

あ、ザジさんが続けて行った……コタローの足に捕まった!

「ネギ先生、このまま私の足に掴まってください」

えええ!?
喋った……のはいいとして……まあ落ちてもマットあるしそもそも身体強化しておけば大丈夫だから落ち着いてやろう。
1、2、3……1、2、3……今だっ!

「それっ!」

……よし!掴まった!

[[まさかの三人連続で掴まっていますが、だ、大丈夫なのか?ザジ・レイニーデイ!信じていいんですね!]]

司会の人も困ってるみたいだ。

「ネギ先生そのままま身体に力をいれずしっかり私の足だけ掴んでいて下さい」

「は、はい!」

ってうわぁ!?
僕がザジさんの足に掴まったまま反対側のブランコに移った!

[[す、凄い!流石はザジ・レイニーデイ!観客の皆様盛大な拍手をっおお!?最初の少年がまた移ったー!!]]

「俺もこっち!」

「すき放題やってるんだけどこれでいいのかな!」

「細かいこと気にすんなや!ネギもやりたかったんやろ!」

「う、うん!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ナイトメア・サーカス、安全管理は……大丈夫なのだろう。
確かに少年達は大丈夫だが、やはり麻帆良。
そのまま少年達とザジ・レイニーデイは軽々とブランコを行ったり来たりして観客を沸かせた。
うっかり手が滑ったら一般人の感覚としてはそれだけで「あ、危ない!」という感じだが、そのような失敗は起きる様子は無かった。
客席に取り残されたエヴァンジェリンお嬢さんは微笑を浮かべて少年達の奇行を楽しんでいた。
散々ブランコを堪能したところでようやく地上に戻った少年達は再度客席から盛大な拍手を送られながら客席に戻っていった。
ザジ・レイニーデイの好きなものは人間であるが……食べ物という意味ではない。
恐らく人間鑑賞、生態調査の類だと思われるがサーカスとは別に関わりはないであろう。
私は彼女の正体を知っているが、驚くべきことに修学旅行では普通に石の息吹を受けていて……能力の隠し方は大したもの。

空中ブランコで終わりかと言えばそうでもなく、そのまま綱渡りに移ったと思えばトランポリン、そして続けて団員2人の合計10本のクラブを投げ合うジャグリングや団員全員による人間ピラミッドなど、曲芸手品部という地味な名前のサークルからは全く思いもよらないハイクオリティな内容であった。
横文字が多い。
終始ネギ少年達は目を輝かせていたが、やはりまだ肉体年齢で10歳を少し過ぎた程度の子供である。
エヴァンジェリンお嬢さんの保護者同伴という言葉はあながち間違ってはいなかったかもしれない。

一方男子禁制の魔法球内の件のワークショップは魔法球内時間で5時間が経過する頃には混沌そのものだった。
環境の影響……という話があるが、当空間は人類としての平均水準が非常に高かったため、最初は驚いてばかりの生徒達も1時間する頃には目の前で起きる現象にどんどん慣れて行き、それまでの常識は消えた。
そのお陰で彼女達は非常に短期間で成長を果たしたのだが。
特に成長したのは佐倉愛衣と高音・D・グッドマンであるが瞬動術は……練度は度外視しても普通に習得していた。
神楽坂明日菜は神鳴流の技が複数使えるようになり、桜咲刹那は気を自由に扱うというものの掴みは会得した。
孫娘も苦手だった気の扱いについても魔法球に入る前と出た後でかなり上達。
雪広あやかも気を扱えるようになると若さを保てると聞いたら俄然やる気になっていて、元々武芸に秀でていただけあって孫娘より寧ろ早く気を扱えるようになりそうではある。
華々しい空間であったため全くむさ苦しさはなかったものの、これ程までに常に凛とした空気が張り詰めていた魔法球は滅多に無い。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

まほら武道会1日目も終わり、自由に魔法球を利用したりしている所私達は管理を雪広グループに任せて中夜祭に行きました。
3-Aがお化け屋敷なのはもう今更ですが、実は営利活動もしていてしっかり売上があったそうです。
佐々木まき絵さんが「こんなに儲かったよー!」と喜んでいたんですが何故ドル袋なんでしょうか。
ここは日本ですよ。
鈴音さんに突如長谷川さんが襲いかかりましたがサッと避けられて2人でコソコソ話していましたが大体の内容としては「なんでネギ先生に私がブログやってること教えたんだよ」「千雨サンの事を知りたいというネギ坊主の健気な姿を見てナ」とのらりくらりやってました。
鈴音さんは他にも武道会組がボロを出す前に神楽坂さん達の端末での映像検索、再生を完全停止させて裏の事がバレるのを予め防止していました。
美空さんには1号店で2時半ちょっと過ぎぐらいに「逃走完了おめでとうございます」ってお祝いしましたがまだ嬉しそうですね。
最後に田中さん達のフェイズを特別に4に上げた事を教えたら「私だけスか!?」って予想通りの反応してましたけどスイッチ押したのは西川さんです。
16時からも2回目をやりましたが、逃走完了者はおらず全滅でした。
明日からは少しずつルールを変化させて、途中でメールを全体に送信して「先着順で規定の時間内に超包子の登録店のスイッチを押して自首したらその時点の額までの賞金を獲得できる。その代わり自首者が出た時点で鬼の数が増える」というのもやるそうです。
善良的な気がしますが、店舗に自首する事自体が結構難しいですし、鬼の数が増えれば結局払う額もタイミング次第ですが問題ありません。
回復術式でしっかり休んでいるだけあって、神楽坂さん達は元気でしたがこのまま3-Aは次の日回って午前4時まで騒いでました。
途中朝倉さんが龍宮神社で行われている秘密イベントがどうのという話になって佐々木まき絵さんが「いいんちょチケット持ってるんだよー!」と言った為に大変な事になりましたがいいんちょさんの体術が明らかに上達していて飛びかかった皆して投げられてました。
既に麻帆良祭2日目に突入していますが麻帆良祭はまだまだ続きます。



[21907] 37話 ネギ少年の学祭巡り・後編
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/13 19:09
ネギ少年達は朝まで騒いだ中夜祭で、肉体的疲労感は無いもののエヴァンジェリンお嬢さんの勧めで、別荘で寝るように言われ現実時間で1時間を過ごした。
疲れていないとは言え、経験したことや記憶の整理には睡眠がやはり大事であるからという事なのだろうが……気の利いた配慮。
それに試合の映像を、人目を気にせず鑑賞できる時間も得られるというのがあるだろうし、ネギ少年達にとっては願ってもないことだった。
エヴァンジェリンお嬢さんは別荘でネギ少年達が寝ている間に試合の映像を確認し、起床した所で、ネギ少年達自身での分析等も言わせ、それについての一言やお嬢さんからした良かった点と反省点の指摘をしたり、まほら武道会という貴重な実践の場での経験をできるだけ多く吸収できるようにさせていた。

ところで、昨日1日目で4戦全勝した人には青山素子さん、瀬田夫妻、タカミチ君、松葉市さん、鶴子さんの旦那さんの蘇芳さんを筆頭に実力がある人達が揃っている。
皆さん全員持ち点は既に基本で16倍、そこに更に補正が掛かってそれ以上に膨れ上がっているので今日も勝ち続ければ256倍、明日も勝てば4096倍で初期持ち点1000点に単純にかけるだけで最低409万は賞金が得られる事になる。
引き分けも一応1.2倍ぐらいに増えるのだがやはり勝利するのが一番稼げる。

……そうこうして麻帆良祭もいよいよ2日目に突入。
この日も10時からまほら武道会が行われる事には変わりないが、2日目、3日目は朝早くから学園祭はやっており、そんな中超鈴音、葉加瀬聡美、カオラ・スゥはロボット工学研究会で色々やっていた。
昨日、後で紹介するという割にはお互い中夜祭とひなた荘住人で祭りを見物するのに忙しかった為、こうして朝連絡を取り合って集まって好き放題やっているのだが睡眠時間も短い割には非常に元気。

「スゥさん、この技術力はどこの物なんですか?」

「ウチの実家モルモル王国やねん。そこの科学力やな」

「まさかこんなにオーバーテクノロジーに近いものがあるとはネ」

紛れもなくオーバーテクノロジー。

「モルモル王国ですか……こんな技術があるなんて行ってみたいですね」

「気に入ったらウチの国来るか?二人の技術力ならウチの国でも歓迎やで。世界征服も早まりそうやし!」

「スゥサンの目標も世界征服なのカ?」

「もしかしてチャオも世界征服なん?」

「話が会うようだナ!ははは!」

「そうやな!あははは!」

……世界征服を真面目にやりたがる人間はここにいた。
このような明るい世界征服の話が行われている一方ネギ少年は引き続きまほら武道会をうまくこなしながら、まだ回っていない生徒達の所に行くのを欠かさなかった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

よし、疲労感は無かったけどマスターの別荘で休ませてもらったらやっぱり少しスッキリした気がする。
今日も10時からまほら武道会の2日目があるけど僕の試合は12時少し前だからまだ4時間はあるし昨日回れなかった所に行こう。
さっき急いでこのかさんが先にマスターの家から出ていったけど多分占い研かな。

「ぼーや、今日は私の所にも寄るのか?」

「えーっと午後からですよね?絶対見に行きます!」

「それは良い心がけだ。あー、それと茶々丸の野点も近くでやっているからな」

「分かりました!ではまた後で!行ってきます!」

「ああ、行って来い」

コタローは今日午前中楓さんとさんぽ部で走りまわるって言って先にいっちゃったけど、どうも普通に見てまわるみたいだったな。
女子校エリアは麻帆良でも奥の方だから少し遠いんだよね。
皆さっき朝まで騒いでたのに今日も客寄せやってるけどよく疲れないなー。
えーっと占い研は三階か……。
ああ、あったあった。
何かお化け屋敷みたいに凄い薄暗いな。

「こんに……おはようございます」

「あ、ネギ君来てくれたんか!?」

「はい!このかさん、占いお願いできますか?」

「もちろんや!せや、本当の占いやろうか?杖もあるんよ」

そういえばこのかさん占い魔法は凄いハマってたんだった。

「このかさん、杖持ってきて大丈夫なんですか?」

「占いの小道具ってことにすれば大丈夫や」

「あはは、ではお願いします」

「うちにまかしとき」

そろそろこのかさんも始動キー決めてもいい気がするんだけどどうだろうな。

「ネギ君今日きっと素敵な出会いがあるえ」

「素敵な出会いですか?」

「実はそれうちかもしれんよ」

「な、何言ってるんですか!?」

「冗談やよ、ネギ君慌ててかわいいなぁ」

「からかわないで下さい……」

「ネギ君、人の言うこと真に受けすぎやよ」

「それは……そうかも」

「んでも、そこがネギ君のいいとこでもあるんやけどな」

うーん、直した方がいいのかな……。

「今日の試合も応援しとるよ」

「はい、今日も頑張ります」

「あ、今日図書館島探険大会もあるから良かったら来てな」

「はい!それでは占いありがとうございました!」

次は夕映さんの哲学研究会のクイズか。
でも僕哲学者は詳しくないんだけど、それは関係ないし、行ってみよう。

「夕映さん!おはようございます!」

「ね、ネギ先生、わざわざ来てくれてありがとうです」

「いえ、皆の所をまわるのは僕も楽しいです」

「あの、昨日のいいんちょさんがまき絵さんに追求されていた武道会というのにはネギ先生も出られているのですか?」

「はい、そうです。チケット持ってなくてごめんなさい」

「やはりアレが関係しているのですね」

「……そうなんです」

「私も特別に知ることを許されているだけですから我侭は言わないです。ネギ先生、頑張ってください」

「ありがとうございます、夕映さん」

「それではクイズ良かったらどうぞ」

「はい!」

……と頑張ってみたんだけど難しかった。

「ネギ先生、気にしなくて大丈夫です。ここに集まっている人達は皆哲学に詳しいので仕方ないです」

「ははは、皆凄いですね」

クイズの早押しでボタン押すだけならできるけど他の参加者の人達ちゃんと答えられているから凄いや。

「このかさんにも誘われましたけど後で図書館島探険大会も行くのでまた後で!」

「お待ちしてるです!」

夕映さんこの前魔法見せてもらったときもう火よ灯れも小物を動かす魔法もできてたしどれぐらい魔法練習してるのか聞いたら一日3時間もやってたらしい。
本が好きっていうのは変わってないけど魔法使いにもなりたいみたいだし実際夕映さんには才能があると思う。
まだ大分時間あるんだけど……マスターも茶々丸さんも午後、探険大会も午後、桜子さんのライブも夜だし後は……あった!
麻帆良学園大学第三演劇部、夏美さんの発表が丁度10時からだし、行ってみよう!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

今丁度龍宮さんと高畑先生の試合が行われているのですが……。

「龍宮サンは昨日から良い試合だたが相手が高畑先生だとこうなるとはネ」

鈴音さんの話では昨日龍宮さんは最初500円玉を使おうと思っていたらしいのですが、雪広グループのツテでスロットのコインを使う事になってコインの消費に糸目がなくなりました。

「あれってパチンコの玉じゃ駄目だったんですか?」

「駄目ではないと思うがコインなら隙間なく重ねておけるからネ」

「なるほど。貫通力だとパチンコ玉の方が良さそうだと思いましたけどそういう事ですか」

「龍宮サンのレベルになると玉でもコインでも威力は十分だヨ」

―異空弾倉―

「あの異空間に弾丸隠しておくの便利ですねー」

「この前の旅行でも胸に機関銃すら入れてあたらしいヨ」

「魔法の谷間ですか……」

龍宮さんは高畑先生の無音拳を全て見切ってコインを弾き飛ばして相殺させていますが一体どういう目……魔眼をしているのでしょうか。

「普通はただの拳圧なんて見きれるものではないのだけどネ」

「龍宮さんには見えるんですねー」

「なんというか相性の良くない試合だナ」

高畑先生が咸卦法を使ってビームを出し始めたらコインは流石に役にたたなくなると思いますが使う気配が無いですね。
しばらく激しい銃声……コイン声?が続きましたが龍宮さんが無音拳を見切って鮮やかな身体捌きで接近していき近接格闘戦に持ちこまれましたが、高畑先生が無音拳を距離の関係で使えないのに対して、ゼロ距離でも数枚まとめて発射できる龍宮さんは、攻撃手段は減っていません。

「やはり龍宮サンが護衛だと心強いのが分かるネ」

「あの時も一瞬でしたしね」

押しているかに見えた龍宮さんでしたが

「高畑先生、やはり強いな」

「龍宮君もその年でこれだけなら本当に凄いよ」

「それはどうも。しかしこれ以上続けると弾丸の処理が面倒だ」

突然距離を取って龍宮さんは腕を下ろし、

「終わりかい?」

「ああ、ギブアップだ。高畑先生とは試合より仕事で組む方が合っているだろうな」

「確かにその方が僕も助かるよ」

「もし機会があれば」

「勝者高畑・T・タカミチ選手!」

これでまた連勝記録を高畑先生は更新しました。

「2人共本気では無かたがお互いの力量はわかるのだろうナ」

「龍宮さんが本気だとまず武装が違いますもんね」

「元教え子相手に真剣勝負という訳にもいかないネ」

仕事人風の龍宮さんが潔く負けを認めて能舞台に戻って休憩室に行く姿はカッコイイです。
散らばった弾丸は毎回必死に田中さん達が集めているんですけどね……。

「昨日の青山サン達に貸し切られた魔法球で修行した成果なのか愛衣サンは動きが良くなたネ」

「そうですね、佐倉さんは瞬動を使い始めてますし昨日より確実に伸びてます」

「私も今日も引き続き指導が行われるなら参加してみようかナ」

「鈴音さんも参加するなら私もやってみたいです。いいんちょさんも昨日混ざってましたし」

「一緒に運動するカ」

「はい!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

超鈴音達もあの魔法球で修行する事にしたのはさておき、ネギ少年の本日最初の相手は松葉市さん。

「お嬢の先生と聞いてみれば、若すぎると思っておりましたが昨日の試合拝見致しました。私も本気でお相手致しましょう」

「よろしくお願いします!」

「制限時間15分試合開始ッ!」

市さんは本体と同密度の分身を本体含め8体も出せる上、途中で突然そのうちの一体が舞台に同化して消えたかと思えば気配を一切感じさせず縮地で接近する事ができるなど初日に長瀬楓の前に現れた時の頭領発言に忍んでいる要素は失礼ながら感じられなかったが、……忍としての能力は高い。
いくら全方位防御の魔法領域と言えど、タカミチ君との試合のように目の前に集中していれば良い訳ではないので全8方向から迫るのは脅威としか言いようがなかった。
風精の囮とは訳が違う東洋の神秘は大した物だ。

「囲まれたッ!」

―雷の29矢!!―
―光の29矢!!―

「これでは軌道が読めますね」

牽制に一斉発射した魔法の射手もむなしく完璧に見切られ懐に入られてしまい、

「くっ!」

回避を試みて空中に向けて虚空瞬動をするが、

「まだ我らが残っています」

「なっ!?」

空中に予めいたかのように忽然と4体の分身が現れ、

「空中には上げさせません」

三体がそれぞれネギ少年の斜め頭上から魔法領域に殴り込みをかけ、残りの一体が膨大な気の塊を溜めも殆ど無く瞬時に腕に形成したかと思えば完全な真上からそれを猛烈な勢いで投げつけ、ネギ少年は空中に逃げようとするも虚しく地上に叩きつけられた。

「こうなったら……」

ネギ少年は通常時は普通に反射で戦うようにしている為まほら武道会でも強力な手札になりえる高速思考はタカミチ君との試合以外では使っていなかったのだが、ここで再度解禁した。
これによってネギ少年の視界範囲内の攻撃に対する反射が極限まで高くなり魔法領域にかかる強烈な衝撃を、僅かに体勢をずらす事で緩和しだした。

「動きが良くなりましたね」

「楓さんより凄いなんて……」

「お嬢の才能はそれは素晴らしいものですがまだ修行中の身です。上には上がいるという事をお忘れなく」

「勉強になります!」

しかし8体のうちどれが本体なのか全く分からないという状況下では完全に不利であった。

「なかなか固い防御ですが……」

―甲賀77式刺突―

「これは流石に耐えられないでしょう」

気の激しく燃焼するような音と共に指先から肘にかけて目に見える水準の鋭い気の刃が発生し8体同時に刺突をかけた。
剣のように伸びてはいないが、断罪の剣・気版とでもいうような威力だった。

「がはッ!」

狙ったのは全てネギ少年の四肢の関節であり、そして完全に全て外してしまった。
そのまま立つ事も腕を振るう事もできなくなり魔法領域は展開していてもダウンと相成った。

「ご安心下さい、痛みなく元に戻せますので」

「す、凄い……。ありがとうございました」

「カウント10!勝者松葉市選手!」

勝利が決定し直ぐ様各分身が所定の位置に付き、

「力を抜いてください、参ります」

……すると一瞬にして関節が全て元に戻った。

「ほ、本当に全然痛くなかった……」

「お疲れでしょう、私がお運びいたします」

「い、いえ、そんな!」

「私も子供相手に少々本気を出してしまいましたからせめてものお詫びでございます」

ネギ少年は流れるような無駄の無い動作で、抱っこされる形でそのまま休憩室に連れていかれて行った。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

あーびっくりした。
関節ってあんなに簡単に外れるんだ……。
このかさん達が心配して皆来てくれたけどあっさり無力化されただけで痛みがあったのは関節外された時だけだったんだよね。

「ネギ坊主、大丈夫でござるか?」

「楓さん、全然大丈夫です!忍者って凄いですね!感動しました!僕も分身してみたいです!」

「拙者は忍者ではないでござる」

「楓姉ちゃん、あの市の姉ちゃんのやったあの技できるんか!?」

「コタローも落ち着くでござるよ」

驚きっぱなしで僕もコタローと同じようにどんな事ができるのかしばらくずっと聞いてたら楓さん少し困ってた。
詠春さんが言うには父さんも分身できたって話だし東洋の神秘なんてできないなんて言ってる場合じゃないよ!
気で分身が作れるって事は精霊召喚じゃなくて純粋な魔力でできる筈。
……少し興奮しちゃったけど、続けて2戦目をやった。
今度の相手はそんなに強くなかったから高音さんの時と同じ方法で勝ったよ。
マスターの舞台もあるからお昼ごはんは超包子で肉まんを買って食べて済ませて茶々丸さんの野点もある場所に移動した。

「茶々丸さん、こんにちは!」

「ネギ先生、ようこそお越し下さいました」

「お茶を貰えますか?少し喉も渇いてて」

「抹茶と緑茶がありますがどちらに?」

「えっと、緑茶でお願いします」

「分かりました、少々お待ちください」

ふー、ここは少し落ち着くな。
マスターの舞台は……あそこか。

「ネギ先生、お待たせしました。どうぞ」

「ありがとうございます!頂きます」

「ネギ先生、試合はいかがでしたか?」

「とても良い実戦経験になりました。楓さんの知り合いの人が凄かったです」

「楽しそうですね」

「はい!」

茶々丸さんにはマスターの別荘でもいつもお世話になってるし、一緒に買物行ったら街の人達の人気者だし、猫にも餌をやってたり良い人だなぁ。
少しゆっくりしてマスターの舞台もそろそろ時間になるから茶々丸さんと一緒に席で待機したよ。
この舞台で発表されたのが、後で映像として販売されるんだけどネカネお姉ちゃん喜ぶかな。
マスターが入っているサークルは日本舞踊ならジャンルを問わず舞い、踊り、振り三種を全部やってるけど、厳密に格式に拘ってもいないから舞台がそれぞれで違くてもうまくやってるんだよね。

「ネギ先生、始まりますよ」

「春にも見ましたけど楽しみです」

あ、マスター出てきた。
最初は雅楽からみたい。
珍しい楽器もたくさん揃ってるしこのサークルは凄い!
マスターが人目を引くのはあやかさんと同じ金髪だけどいつもどことなく輝いてて、ゆっくりした動作で舞をすると、通った後にその残滓が感じられる事だと思うんだ。
これは他のメンバーの人には感じられない大きな差だ。
顔を仮面で覆う舞も女舞っていう白塗りの厚化粧で演技をする時もそれが見てわかる。
僕はでもやっぱり薄化粧か素顔の方がいいけどな。
見に来てる人達も「神々しい……」って言ってる通りマスターは綺麗っていう言葉で言うには少し違う雰囲気。
近くを道行く人も必ず足を止めるような魅力がある。
あ、これで一旦終わりか。

「エヴァンジェリン様!!」

「エヴァちゃーん!!こっち向いてー!!」

「女神が降臨したぞーッ!!」

わー凄い人気。
落ち着いた雰囲気だったのが完全にテレビでやってる歌手のライブみたいな盛り上がりになっちゃってるけどいつもこうらしくてネカネお姉ちゃんと一緒にイギリスで映像見た時もそうだった。

「マスターの得意は扇を用いた神楽ですからまたすぐ後で出て来られます」

「茶々丸さん、このサークルの楽器や衣装にかかっている費用っていくらぐらいするんでしょうか」

「とても高いですよ。一つ駄目にしてしまえば青ざめるぐらいには」

「あはは……それがこんなにあるって凄いなー」

「今年で9年目ですから最初はここまで充実していなかったそうです」

それがここまで……。

「マスターはこの舞台で披露する以外に断絶しそうな伝統芸能を多数習得しているので、人間国宝に認定されるのも近いかもしれません」

マスターって何でもマスターできるんだなぁ。
サークルの他の人達による各種舞が披露された後またマスターが巫女服を着てでてきた。

「おや、ネギ君も来ていましたか」

「え!?クウネルさん、いつのまに隣に!?」

「丁度今です」

いきなり現れるからびっくりした……。

「クウネルさんもマスターを見に?」

「フフフ、キティの合法的かつコスプレ用ではなく本物の巫女服姿が見られるのはここだけですからね」

凄く目が光ってるー!!

「ネギ君、そういえば聞いていませんでしたが学園長が送ったエヴァの映像は全て見ましたか?」

「あ、はい!全部ネカネお姉ちゃんと見ました」

「あれは実は私が全て選別したものだったのですがお楽しみいただけましたか?」

「え?あれクウネルさんが選んだものだったんですか?……それはもちろん素敵でした」

「それは良かった。それではエヴァの演技を見るとしましょう」

「はい」

マスターの扇の所作一つ一つが流れるような動きをさっきまで歓声を上げていた観客の人達も息を飲んで真剣に舞台を見つめている。
凄くゆっくりした動きだけど、何故か飽きが来ないからちょっと時間が長くても見ていられるな。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

広域指導員の仕事で笑う死神、デスメガネなどと学園の血の気の荒い学生達に恐れられているタカミチ君だが、今まさに相対するのは笑う教授こと瀬田記康。
2人とも全勝中であるが、瀬田教授が確定指名権を行使しタカミチ君との試合を申し込んだ。
理由は、あの無音拳と咸卦法に興味があるからと、ただそれだけらしい。
ヘビースモーカー同士仲良くできそうな感じであるが、この試合、まさに衝撃の一言。

「瀬田さん、よろしくお願いします」

「高畑さん、こちらこそよろしくお願いします」

双方穏やかに挨拶を済ませたのだがお互い微笑を浮かべていている割には、舞台は強烈な圧迫感に覆われている。
タカミチ君も明石教授を始めとした完全な裏関係者を制している瀬田教授に油断はしていないのだが、無音拳を使っていいのかは微妙に戸惑っていた。
しかしそこへ先に一石を投じたのは、

「ではこちらから」

瀬田教授この武道会初の投擲攻撃の始まりである。
投げる物は龍宮神社のお嬢さんと異なり普通のパチンコ玉である。
しかし、密度の濃い気が通してあり威力は高い。

「投擲!」

弾丸が跳弾するような音が聞こえたと思えばタカミチ君の咄嗟の反応での無音拳で相殺された。

「いやー、はっはっは、とても興味深い。それでは」

言葉だけがその場に残り、忽然と姿を消したかに思われた瀬田教授は既に空高く飛び上がっており頭上から投擲を仕掛けながら飛びかかった。
計算されつくしたかのようにパチンコ玉が全て弾かれた所、無音拳を放つ事ができない距離に瀬田教授が接近、得意の截拳道が猛威を振るう。
等速魔法球で行われている試合に観客は目が釘付けであったが……素性を振り返れば、瀬田記康はあくまでも東大教授であり、世界に飛び出しあちこち飛び回るまでは長い事裏も知らなかった一般人。
それが仮にも悠久の風通称AAAのタカミチ・T・高畑を押している。
笑いながら。
魔法使いの方々は驚いていたが、一番驚いているのはタカミチ君本人。

「ほ、本当に大学教授とは思えない腕前ですね」

「はっはっは、荒事には慣れていまして。遺跡発掘作業中に襲われた所を返り討ちにしているうちに自然と」

「一昨年一機のプロペラ機だけで多数の追っ手を蹴散らしたとは聞いていましたが……」

「いやーあれもなかなか大変でした。懐かしい」

意外にも会話する余裕がある2人だが目にも留まらぬ動きで瀬田教授風にいうと功夫を繰り広げていた。

「まだ本気では無いようですが……咸卦法をお見せしましょう」

「それはありがたい!是非実際に目で見たかった所です」

「右腕に気、左腕に魔力……合成」

―咸卦法!―

その状況を見た観客と言えば……。

「あの高畑先生に咸卦法を使わせるとは大した御仁でござるな」

「私も瀬田さんと相手してもらったけどはるかさん並に強かったアルよ。しかも笑いながらアル」

「いい!凄くいいわ!」

神楽坂明日菜はタカミチ君の本気をまた見れるとあって大喜び。
後でデートする約束をしたからというのもあるのだろうが……。
再び試合の方に戻れば……怪奇現象。

「咸卦法とは興味深い、こうですかね。……合成」

―咸卦法!―

「何だって!?」

まさかの見様見真似咸卦法。

「しかし、あまり持ちそうにないですね。あっはっはっは!」

「これはまるでジャック・ラカン……」

とうとう魔法世界伝説の最強傭兵剣士ジャック・ラカンと同列に扱われた瀬田教授。
とはいえ瀬田教授とその弟子は戦いとは本質的に無関係であちこち世界を飛んで回っては掘り返すのが専らであるが。
気が扱えるのは、武術の修練によって自然と身につくからおかしなことではないが魔分まで扱う事ができるのは、魔分の集積しやすい遺跡などに長期間いたりしたからなのかもしれない。
さて、試合の結果はまさかの瀬田教授の勝利で終わり、まほら武道会で全勝同士の間に明確な力量差が出た。
勿論あくまでも一対一の個人戦に限った結果であり、タカミチ君には対軍用の技もあるのだから完全な比較はできない。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

マスターの舞台も全部終わったけど、やっぱり本当に良かった。

「直に見るのは良いものですね」

「はい!」

「ところでネギ君、明日私と試合しませんか?」

「えっ?いきなりどうしたんですか?」

「戦うのは私では無いのですが、是非相手をしたいと言っている人物がいましてね」

「そ、そうなんですか?……はい、わかりました」

「それでは明日全試合終了後18時に龍宮神社でお待ちしています」

「はい……ってあれ!消えちゃった」

僕と戦いたい相手だけどクウネルさんと試合するって……どういうことだろう。
不思議な人だとは思ってたけど……まあ明日後夜祭の前に特に予定も無いから大丈夫だ。
マスターに挨拶しておきたいけど……凄いファンの人達に囲まれてるし、図書館島探険大会もそろそろ近いし後にしておこう。

「茶々丸さん、僕も図書館島に用があるのでこれで失礼します」

「はい、ネギ先生、お気をつけて」

ちょっと時間があるからまほら武道会の試合結果を確認してみようかな。
……え!?タカミチが負けた!?
相手は……瀬田さんだ!
凄く強いのは分かってたけどタカミチよりも強いなんて……後で確認しておこう。
まずは図書館島探険大会だけどどこまで潜るんだろう。
浮遊術は使えないから無視できた罠も……矢が飛んで来る所とか一般人の人がいきなり参加しても大丈夫なのかな……。

「このかさん、のどかさん、夕映さん、ハルナさん、こんにちは!」

「あ、ネギ君来たえ!」

「ネギ先生こんにちはです」

「ね、ネギ先生こんにちは……」

「ネギ君よく来たね」

「それで今日はどういった内容なんですか?」

「まずは地上部分を回った後地下4階までやね」

「4階ですか。あの、罠はどうなっているんですか?」

「それはうちの部員が先回りして解除してあるから大丈夫だよ!」

「それなら安心ですね!」

「ほな、出発するえ!」

地上部分は図書館らしいツアーになったけどやっぱり地下部分は探険だった。
去年の夏にも地下3階まで潜った事があったけど1階と呼ぶには天井と床の高低差がおかしかったりする場所だから多分空間を広げる魔法が使われているんだろうな。

「ねえねえ、ネギ君が参加してる格闘大会ってなんなの?」

「えーっとウルティマホラみたいな感じです」

「それなら他の場所でもいくつも大会やってるじゃん」

「僕が参加しているのはくーふぇさんみたいな人が沢山出ているもので……」

「ふむふむ、ハイレベルな大会かー。ってくーふぇも出てたとはね……これは後でとっちめるか」

「ハルナ、そういうの良くないえ」

「だって極秘の大会だよ?気になるに決まってるじゃん!今年変わった人達が多くて、アキラに似た人が野菜をシュバババッって切る曲芸とか路上でやってるしさ。絶対凄いよ!ってかネギ君どんなの?教えて!」

マズい……なんとかしないと。
アキラさんに似た人って素子さんかな。

「ごめんなさい、それを言ってしまうと選手権が剥奪されてしまうので……」

嘘って辛いなぁ。

「あーそれは駄目だね。私ネギ君の試合見てみたいし。こうなったらいいんちょからチケットを掻っ攫うしかないかー?」

全然諦めてないみたい……。
ハルナさんの口撃が凄かったけどこのかさんがそれとなくフォローしてくれたからなんとかなった……。

「ネギ君来てくれてありがとな!」

「ほら、のどか、ネギ先生に言う事あるんじゃないの?」

「え……う、うん」

「のどかさん?」

「……ね、ネギ先生!今日この後良かったら私とデートして下さい!」

で、デート!?

「あ、え、えと、はい!喜んで!」

「おおっ、やったじゃんのどか!」

「あ、ありがとうございます、ネギ先生」

「のどかさん、時間は4時過ぎぐらいからでもいいですか?」

「は、はい!」

「ちょっと僕また用事があるのでメールしますね!」

「お待ちしてます!」

デートってデート……か。
なんだか緊張するなぁ。
でも、まずその前に試合だ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

まほら武道会では引き続き試合が消化されていき、楓さんと浦島可奈子さんの試合も終わりました。
相手が女性だと本気を出すのに躊躇するという欠点を抱えている小太郎君とは違い分身をフルに使う事のできた楓さんの方が優勢でした。
途中楓さんそっくりに変装して分身同士見分けがつかないという驚きの瞬間もありましたが楓さんはそれに対して「これほどの身体操術に変装……可奈子殿、どこでそんな技術を?」と尋ねた所「おばあ様に教わりました」と言い、「祖母がいるでござるか……」と楓さんは少し懐かしげでした。

「次は刹那サンと青山鶴子サンの試合だネ」

「神鳴流の戦いは奥義を使い出した途端にすぐ災害になりますけど今度はどうなるでしょうか」

ところで鶴子さんの妹の素子さんはこれまで全勝ですがたまに二刀流?なのかシャーペンが飛び出します。
そのシャーペン気を通しているというにはどこにも刃が付いてる訳でもないのに異常に固いんですが一体どこの特注なんでしょう……。

桜咲さんの試合は「昨日の修行の成果を見せてみなはれ」という鶴子さんが言ったのに対し「はい、鶴子様、よろしくお願いしたします!」と礼儀正しく挨拶を交わして始まりました。
最初は単純ながら超人的な速度で剣戟が繰り広げられ、その内容は鶴子さんが桜咲さんを軽くあしらうというものでした。
普通に見ているだけだと桜咲さんも十分強いと思うのですがこうして二人が相対すると歴然とした差が分かります。

「少し成長したようどすが、まだまだ。ハッ!」

「え?」

木刀と木刀がぶつかった瞬間桜咲さんの方の木刀が半ばでスッパリ切れてしまいました。

「無手で続けましょか?」

「い、いえ、滅相もありません。お相手頂きありがとうございました!」

「ほな、今日も18時から」

「お願いします!」

鶴子さんの言葉、やさしそうに聞こえますが実際凄く怖いです。
なんでも、普段主婦をやっている時はいつも包丁を片時も離さないなんて逸話もあるらしいんですがなんていうか猟奇的な感じがしますね……。

「気をあれだけ自由に扱えるというのだから達人は凄いネ」

「生命の神秘ですね」

試合を終えた桜咲さんはその後木刀が真っ二つにされた瞬間を振り返り「もし真剣だとしても確実に折られていた……」と戦慄していたそうです。
素子さんはこの試合を見て「止水……」と呟いていましたが似たような経験があるのかもしれませんね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

試合があるからとまほら武道会に戻ってきたネギ少年であったが、相手は雪広のエージェントの戦闘が専門ではない人だったため、雷の29矢雷華崩拳を叩き込んだ所レジストしきれずそのまま相手がダウンという形で速攻。

他に行われた試合では古菲対龍宮神社のお嬢さん戦は言うなれば異空コイン弾倉の前に古菲が苦戦、大量に被弾するが布棍術で応戦し出し、攻撃を受けること覚悟で接近し浸透勁を決めたがダウンさせるに至らなかった。
そこへ反撃とばかりに「私に苦手な距離は無い」と言い放ちながら両手に握りこまれたコイン数十発が古菲の顎に全弾命中、これで古菲がダウンに至った。

また、瀬田教授の奥さんの瀬田はるかさんは小太郎君と当たった。
小太郎君としては蘇芳さんか瀬田教授の方が良かったのだが、自分の持ち得る近接格闘の技術で挑むも、はるかさんはタバコを口に咥えているかのような余裕さで滅多打ちにし「小太郎君、なかなかいい試合だった」とさばさばした台詞を最後に述べるという相変わらずその振る舞いが常に一貫してぶれず、拳法家の選手の人達の憧れの的となっていた。
小太郎君は「女殴るの趣味やないけど、時と場合によっちゃこだわってられへんな」と少し認識が改まったらしい。
しかしひなた荘関係者にあたるたびに小太郎君は勝てていないが……頑張って。

一方ネギ少年は再び龍宮神社を飛び出し、宮崎のどかとデートに出かけて行った。
この日あったベストカップルコンテストは既に16時には終わっており出場は残念ながら……一応教師と生徒と禁断の愛などとなりかねない為そういう事でもないが、出場はできなかった。
一番の問題は早乙女ハルナが今年の2月の時と同じように2人の様子を尾行するという褒められた行為ではないことをしていた事だが、綾瀬夕映と孫娘も興味が尽きずそれに追従していた。
そうこうしている所その様子を途中見かけた野次馬精神旺盛な3-Aの生徒が後ろに次々増えていった。
ネギ少年は流石にその尾行には気づいていて、せめて宮崎のどかが緊張しないようにと常に尾行がいない方向に目が向くように配慮していた……偉い。
18時過ぎにライブ会場で、でこぴんロケットというバンドを組んだ3-Aの和泉亜子、柿崎美砂、釘宮円、椎名桜子の4人の演奏を聞き、そのままフィアテル・アム・ゼー広場の近くにある屋上喫茶で一息ついたりと英国紳士の横文字でエスコートはなかなかだった。
当然これも少し離れた席で下手な変装をした3-A生徒達が興味津々で見ていたのだが……。
デートもそろそろ終わりかという時。

「ネギ先生、今日は一緒に学園祭をまわってくれてありがとうございました」

「僕ものどかさんと学園祭まわれて楽しかったです」

「それでこれは今日の私のお礼……みたいなものなんですけど……ネギ先生、目を閉じて貰えませんか?」

「え?はい!いいですよ。閉じました」

宮崎のどかは大胆にもネギ少年と互いに初の口付けをしてしまう事になりそうだった……のだが……。

「ちょぉぉっとおおおお!お、お、お待ちなさい、のどかさん!きょ、教師と生徒がそんな行為に及ぶのはいけませんわ!」

中断。
音を出すかのように人差し指で指し示す雪広あやかの特攻を皮切りに他の尾行集団も姿をあらわし、騒ぎになった。
実際この雪広あやかの行動を止めようとした生徒達が沢山いたが、昨日の修行に参加した結果一般人ではとても相手にできず振り切られてしまったのである。
これによって皆に見られている事に気がついて宮崎のどかは恥ずかしさのあまり逃げ出そうとしたが、それを阻止され失敗、そのあたりは3-Aの底抜けな明るさでフォローというものをされていた。
件の一件で宮崎のどかがネギ少年を好きだということは3-Aで知らない人間はおらず、それを言い出すと雪広あやかも「愛しております!」など、佐々木まき絵も「私ネギ君の事結構好きなんだよねー」などと言っているので……今更。
いずれにせよ、逆・光源氏計画なる、邪心を抱いている者達より余程純粋な心を持っている事は良いことであろう。

こちらのデートが終わった一方では神楽坂明日菜が今日の5時間分の修行を終えてからタカミチ君と、散歩……ではなくやはりデートをしていたのだがこちらは神楽坂明日菜が告白するに至るも、タカミチ君に……予想通りの返答をされていた。
心のどこかで分かってはいても実際に口に出して言われたのはやはり来るものがあったようでその後神楽坂明日菜はエヴァンジェリンお嬢さんの家、目的は別荘へと一目散に逃げこんでいった。
その中で長い事延々と泣いていたかと思えば、突然咸卦法を発動して、砂浜があるのをいいことに、覚えたばかりの斬岩剣を放ち「う、海のバカー!!」と叫んでいた。
しかし、すぐに虚しくなり気分が最低に落ち込めば、屋上のプールで死んだように長い事停止していたりと……実に彼女らしいと言えば彼女らしかった。
因みに海は割れていた。

さて、時間を18時に遡れば超鈴音とサヨまでもが例の魔法球に入っていった訳だが、その2人を含め昨日よりも更に女性の数が増えていて、間違って男性が入るのは危険な場所となっていた。
その妙な人気を博している魔法球を精神的に疲れた表情で目をやった人物の中には既に8戦中5戦の相手の内訳が青山のお姉さん達だった詠春殿がいた。
お疲れ様です。
もう青山のお姉さん達は全て終わり。
この疲れきった人をよそに、ネギ少年もおらず小太郎君はどうしていたかと言えば瀬田教授と浦島景太郎がいるところを見つけ、不死身のなり方について割と本気で弟子入りしようとしたり、19時になって松葉市さんが出てきたところを捕まえ、例の甲賀式刺突や分身について真剣に教えを請っていた。
実際小太郎君は狗族であるため爪を自由に伸縮させることができるので刺突というのは相性が良いだろう。
各々やりたいことを自由にでき、充実していたことだけは共通していたと言えるだろうか。
かくして、学園祭2日目も無事に幕を閉じた。



[21907] 38話 まほら武道会閉幕
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 19:08
昨日は私とさよも修行に参加させてもらたがなかなか良かたネ。
私は気弾の形成というのはできなかたのだが、コツさえ分かれば意外にできるものだナ。
さよの身体では気が使えない訳ではないが、魔分を使える立場にある時点で覚える必要も無かたから専ら柔術の習得を一生懸命やていたヨ。
それにしても明日菜サンの成長速度には驚いたネ。
神鳴流の奥義でも難易度があるとは言えあんなに早く習得できるとは到底信じられないヨ。

「超さん、おはようございます」

「おお、クウネルサン、ネギ坊主に何か言てきたのかナ?」

「ええ、今日の18時という事でお願いしておきました」

「それは何も問題無いネ。しかしこれだけ関係者がいる前でやる訳にもいかないと思うがどうネ?」

「私としましては多くの方に見てもらっても構わないのですが……私自身がここにいると知られるのも少々困りますからね」

「分かたヨ。一つ貸切にしておくネ」

「頼みます。それにしても私もこの大会出てみたかったですね」

「ネギ坊主以外に誰かめぼしい相手でもいたかナ?」

「旧世界にも探せばこれだけいるものなのだとは」

「それでもかのナギ・スプリングフィールドを超える者はいないだろう?」

「フフ、まあそうですね」

「そうだ、試合してみたいというなら私とやてみるカ?」

「超さんとですか?それは確かに面白そうですがあのアーティファクトでは勝ち目が無さそうですね」

「クウネルサンも半分無敵なのだろう?」

「お互いルール違反ですね」

「だから出てないんだヨ」

「しかしそれはまた追々という事で」

「分かているネ。何も本気ではないからナ」

「フフ、それでは」

既に保存試合数は384試合に確定指名戦を足して400超だが、あまりリタイアする人がいなかたのは良かたネ。
やはり骨折まで治るというのは大きいナ。
さて、今日でこのまほら武道会も終わりだが普通なら1日目が予選2日目が本選で終わるのがこれだけできているのだからもう望みはほぼ達成されているヨ。
賞金は全ての参加者に払うが貴重な映像資料の対価という所だネ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

麻帆良祭3日目、各サークル、部活、クラスは最後の稼ぎ時と、猛烈な追い込みをかけていた。
麻帆良中どこもかしこも睡眠不足も気にする事無く、客引きの声が飛び交う中、まほら武道会最終日はと言えば……。

「コタロー、頑張ってね」

「おう、やっと本命との試合通ったんやからな」

「この試合は本気の本気や。俺も出し惜しみはせえへん」

「うん、そうか」

「ほな、行ってくるで」

小太郎君の相手は進藤蘇芳、鶴子さんの旦那さんであるが鶴子さんの姓は仕事の関係で基本的に青山のまま。
等速魔法球での試合、スクリーンで生中継映像が流れている。

「関西呪術協会所属陰陽師、進藤蘇芳です。どうぞよろしく」

「関西呪術協会所属狗神使い、犬上小太郎や。よろしゅう!」

「それでは制限時間15分、試合開始ッ!」

―狗族獣化!!―

小太郎君は開幕初手早くも獣化を使い。

「分身!」

本体含めて3体に分身し。

「元気が良いですね。私も全力でお相手致しましょう!」

「「「そうこないとな!行くで!」」」

さて、無詠唱陰陽師とは一体どのような戦闘をするのか。
実際陰陽術では広範囲殲滅魔法や召喚術系には必ずと言っていいほど魔分が使われるが、それ以外は気で行使する事ができる。
当然気の扱いに長けている人間が格闘戦に長けていない筈がない。
神鳴流と呪符使いは、魔法使いと魔法使いの従者のような深い関係があるとは言われるが、それはやはり所謂一般的砲台としての場合だけ。
大体そんな守って貰う必要がある……などという相手と鶴子さんが結婚する訳がない。

3方向から小太郎君が取り囲み狗音爆砕拳で仕掛ければ、蘇芳さんは一体に接近、手首を掴み、そのまま残る二体の接近に合わせて投げ返し軽く脱出。
当然小太郎君もただ投げられた訳ではなく投げられる直前に蹴り技に移行したのだが、無詠唱陰陽術で触れられた瞬間金縛りを喰らい完全停止、反撃できなかった。
投げ飛ばされた分身は残る2体にキャッチされ、衝撃を与えられた事で金縛りも解けた。

「やっぱこれ金縛りやったんか」

「はい、続きを行きましょう」

「おっしゃ!」

既にこれまでの10戦近くで度々、この金縛りは使われており、抵抗力の無い人がこれをうけると10カウントダウンというのは普通にあり、このまほら武道会のルールではかなり有利な術。
分身のような回避手段がない場合、一度うければそれだけで終わる可能性がある。
当然それだけではなく、無詠唱魔法の射手一発が0.3秒で出せるというのと張り合うかのような速度で空や地面に魔方陣を描く事ができ、それを任意の時機で発動させることまでできるのである。
描かれる物には、星型の五行魔法陣、
子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥の十二支、
甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸の十干、
九星図という一から九までの数字で構成される魔方陣、
爻と呼ばれるいわゆるバーコードのような記号3つを組み合わせてできる乾・兌・離・震・巽・坎・艮・坤の八卦文字、それを更に2つずつ組み合わせた六十四卦などがある。
西洋魔法と東洋魔法どちらが優れているかというのはよく衝突の種になるが、やはり使い手次第。

小太郎君が地面から疾空黒狼牙を発動し、多数の狗神を放とうとすれば、同じ地面から即座にフェイト・アーウェルンクスの使うような石の槍が飛び出し全て貫かれるという早業。
しかも属性に拘らず、火、水、土、木の精等、無数に使えるというのは手札を探る意味を相手に失わせる。

最初舞台上で真面目に戦っていた小太郎君だったが、開始2分にして空中、地面問わずあちこち敷設魔方陣が描かれ、まるで地雷原に取り囲まれてしまい、浮遊術で空中に逃げるしかなくなってしまった。

「映像で見たことある言うてもなんちゅう速さや。学園長の魔法の射手よりタチ悪いわ。うおっ!また石の槍か!これなら避け、ッ!?分岐するやと!」

同時に小太郎君目がけて3本突き出しだけに終わらず、石の槍半ばで木の枝が伸びるかのように追尾し続ける。

「空中に逃げられると些か厄介ですね。ハッ!」

舞台上、空中問わずおよそニ十数カ所が光ったと思えば強烈な熱線が一斉発射され、

「くそっ、どこまで追尾すんのや!がぁッ!」

石の槍は注意を逸らすための攻撃にすぎず、槍ごと貫く熱線が小太郎君達に直撃し、地面に落下。
同時に分身2体も消滅。

「これで終わりです」

獣化の本領はその生命力の高さ、少し怪我した程度すぐに自己再生できる点にあるが、被弾して受けて落ちてきた直後首を捕まれ、再び金縛りが決まった。

「カウント5、6」

「まだ……や」

「あまり獣化を続けないほうがいい、身体に良くないでしょう。ハッ!」

再度解けかけた金縛りを決められた。
純粋狗族でもない小太郎君が無理に獣化し続ける事に危険性が無いという事はない。
少なくとも寿命が僅かに縮む程度の代償はある。

「ぐっ……」

「カウント10、勝者進藤蘇芳選手!」

「同じ関西呪術協会所属の者としては君のような将来有望な少年がいる事を嬉しく思います。立てますか?」

「ああ……蘇芳の兄ちゃんほんま強いな。……俺、昔兄ちゃんの事見たことあんのやけど覚えとるか?」

「あれは……島根の妖怪退治の時でしたか。私も管轄が違うというだけで他の班に口出しできず歯がゆい思いをしたのを覚えています。戦場に駆り出すにはあの時の小太郎君は今よりも年端もいかない子供でしたね」

「記憶力ええな。俺は別に自分の生まれの事にぐずぐず悩んだりしてへん。考えても意味もない事やしな。俺、もっと強うなるで」

「そうですか。犬上小太郎君、期待しています」

「おう!またいつか相手してや!」

「はい、その時は今回と同じく手は抜きませんよ」

「望むところや!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

小太郎君の本命の相手との試合はこれからの小太郎君にとって良い方向に働くと良いですね。

「東洋呪術も無詠唱であれだけ自由自在に扱われたら、向かうところ殆どの妖魔は大した敵ではないだろうナ」

「普通呪符使うと思ってたんですけど無詠唱でできるものなんですね」

「便利な道具があると頼てしまいがちだがあの人はそれを自力で行えるように血の滲むような努力をしたのだろうネ」

「はー、凄いですねぇ」

「……でなければ鶴子サンの相手等務まらないと思うヨ」

突然小声で会話ですか。

「……私もそう思います」

不意を突かれて包丁が刺さってたなんて事も進藤さんなら無さそうです。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

まほら武道会最終日も恙無く全試合が終了したところ、とうとう閉会式。

[[この3日間、選手の皆サン、実に素晴らしい試合の数々だたネ。日本を中心に探してもこれだけの手練が集またのだ、主催者としてはこれほど嬉しい事は無い。感謝するヨ]]

[[儂からも礼を述べさせてもらおう。今年突然急な呼びかけに応じてくれたこと、心より感謝する。この25年間ももし開催していたらと思うような良い武道会じゃった]]

[[雪広グループを代表して、私からも一言述べさせていただきます。皆様の試合、真に賞賛に値するものでした。我々グループ一同この大会のサポートを務められたことを嬉しく思います。それでは司会の方、お願いします]]

[[選手の皆様、お待ちかねの表彰に移らせて頂きます。まずは総合ポイントベスト5までの発表です。
5位主婦、瀬田はるか選手596万7400ポイント
4位関西山奥の村民、松葉市選手658万9400ポイント
3位関西呪術協会所属陰陽師、進藤蘇芳選手792万5600ポイント
2位関東魔法協会、悠久の風(AAA)所属、高畑・T・タカミチ選手793万1800ポイント
1位東京大学考古学教授、瀬田記康選手901万2300ポイント
以上がトップ5までの順位でございます。各選手の皆様に盛大な拍手を!]]

素子さんはどうか……というと1度浦島景太郎と試合して負け、全勝でなくなった為、点数が跳ね上がらず一回り低いポイントとなった。
瀬田夫妻は3日の間に合わせて1802万円を稼いだ訳だが、使い道は何度も壊れる瀬田カーの修理費用に消えて行くのかもしれない。
各々5人の選手は壇上に上がってトロフィーとポイント分の額の巨大小切手を渡され、軽くコメントをしていたがそれぞれよく性格が出ていた。
はるかさんは「まさか全勝できるとは思っていなかった」
松葉市さんは「このような人前に出るなどと恐縮の極み」
進藤蘇芳さんは「皆様と良い試合が出来たこと、嬉しく思います」
タカミチ君は「世界は広いと思い知らされました」
瀬田教授は「はっはっは、良い功夫でした」
との事。

6位以降の人達は大体200万前後、100万前後と下がったあたりで後は団子状態になるというのは超鈴音曰く大体予定通り。
そして、また自由に選手同士や観客同士で会話を楽しむというのが夜10時ぐらいまで行われたのだが、能舞台、中央の魔法球だけは最初のわずかな間だけ完全貸切だった。
5倍加速空間の中にいたのはネギ・スプリングフィールド、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル、アルビレオ・イマ、近衛詠春、高畑・T・タカミチ、そして神楽坂明日菜達。

「ネギ君、昨日の約束通り試合したいという相手の紹介をしたいと思います」

「紹介というのは……?」

「まあ見ていて下さい、アデアット」

「アーティファクトカード!」

アルビレオ・イマの周りを無数の本がとりかこみ、徐ろにそのうちの一冊を手にとり、栞を本の該当ページに挟みこみ引き抜いた。
その姿は、

「詠春の姿をとり」

―雷光剣!!―

をあさっての方向に向けて試演がてらに放つ。
遠くで大規模な爆発が起きる。

「このように特定人物の身体能力と外見的特徴の再生ができます。これは私のアーティファクトの一つ目の能力ですが、二つ目の能力はこれら、『半生の書』を作成した時点での特定人物の全人格の完全再生なのです」

話しているうちに元の姿にアルビレオ・イマは戻った。
舞台袖で孫娘が「若い時の父様かっこええな」と言い詠春殿が「このか……今は……」とやっているがそれはそれとして。

「……という事はもしかして」

「ええ、ネギ君の父親であり私達の友であるナギ・スプリングフィールドの人格を再生することができます」

「と……うさんを……」

「但し、この再生を一度行えば半生の書は魔力を失い2度と再生することはできません。再生時間も10分間だけです。……どうしますか?」

「……お、お願いします!」

「よい返事です。それでは始めましょう」

そしてナギ・スプリングフィールドの半生の書を手に取ったアルビレオ・イマは栞を挟み……再び引き抜いた。
……一瞬の静寂のあと、白い鳩が大量に大空に飛び立って行った。
魔法球ではあるが。

「よぉ、お前がネギか?」

長身の赤髪の男性がネギ少年に気さくに呼びかける。

「とう……さん」

「うぷ、ぺっぺっ、何だよこの大量の鳥は。……またアルのヤローの過剰演出か?」

「と……父さんっ!!」

「ハッハッハッハ」

ネギ少年は表面上は輝いた笑みを浮かべているナギに向かって飛び込んでいき、親子感動の対面になるかと思えば……デコピン……でネギ少年が吹き飛んでいった。

「へぷっ!?」

そのまま地を転がりネギ少年は舞台端に戻される。

「なんだここ……まほら武道会じゃなさそうだが。わざわざ舞台は用意してあんのか。相変わらずマメな奴だな。って詠春にタカミチか?お前ら老けたな!なんだそれ!!」

「「余計なお世話だッ!!」」

鳥の演出など必要なかったかもしれない。

「おい、ナギ私を忘れるな!」

そこへ無視されたエヴァンジェリンお嬢さんも叫んだが、舞台上でネギ少年が涙を流しており。

「あーあーあー情けねーな、我が息子よ。男のくせにポロポロ泣いてんじゃねーぞ」

「だ、だって……」

「来い、ネギ。稽古つけてやるぜ」

「は、はい!」

目に涙の跡が残っているも、袖でそれをいそいそと拭い、中国拳法の構えをとるネギ少年。

「お、なんだその構え。おもしれーな」

「行きます!」

     ―魔法領域展開!!―
      ―戦いの歌!!―
―連弾・雷の29矢!!―連弾・光の29矢!!

「やっ!」

即座にネギ少年は魔法領域と戦いの歌を発動させながら2種無詠唱魔法の射手で牽制射撃を放つ。

「おおっなんだそりゃ!はははっ流石俺の息子だな!いいぜ!ハッ!」

ナギも瞬時に大量の魔法の射手を放ち相殺どころか、完全に飲み込みネギ少年に攻撃が通ったかに思われたが。

―特殊術式 無詠唱用鍵設定キーワード「双腕」!!―
    ―双掌底・断罪の剣!!術式封印!!―
―特殊術式 無詠唱用鍵設定キーワード「右腕」!!―
    ―収束・光の29矢!!術式封印!!―
―特殊術式 無詠唱用鍵設定キーワード「左腕」!!―
    ―収束・雷の29矢!!術式封印!!―
―滞空・光の29矢!!―滞空・雷の29矢!!―
      ―双掌底・断罪の剣!!―

煙が晴れたところ、虚空瞬動で空中に回避し飛び上がり、浮遊術に移行、1秒半で遅延呪文3発を貯め、臨戦状態の為に魔法の射手と断罪の剣を再度発動。

「虚空瞬動に浮遊術!できるじゃねえか!もしかしてちゃんとお前も魔法学校中退したのか?」

それはない。
その発言は魔法学校の存在意義が危ぶまれる。

「してないです!ちゃんと卒業しました!」

「なんだ、そうか」

ナギは微妙に残念そうな顔しながら飛んでいる。

「ま、いいぜ。稽古の付けがいがあるってもんだ、なッ!」

語尾に力が入った瞬間、右手を軽く振りかぶるのみ極太の魔法の射手がネギ少年に向けて襲いかかり、

「これぐらいなら!」

対してネギ少年は虚空瞬動で落ち着いて回避し

―連弾・光の29矢!!―

その返しに滞空させていた魔法の射手を放ち、それに乗じて至近距離に近づき空中格闘戦にもつれこんだ。
魔法領域の真骨頂、発動している術者は自由に攻撃できるが、反撃する側は常に魔分の層を突き破らないといけないという特性にここで始めて気づいたナギは、

「変わった障壁だな!でもまだ柔らかいぜ!」

と褒めるも、尋常ではない魔分による身体強化と自由自在に身体に雷や光の属性の魔法を強靭に纏うナギの前には、攻撃を一瞬留める程度の強度だった。

「くっ!はッ!」

掌底・断罪の剣でナギの正拳を寸前で防いだところ、

「おお、いてえな」

相転移する拳に、少しだけ痛かったという感想を漏らした。

「やっぱり父さんは凄い!右腕!!左腕!!」

ネギ少年はそのデタラメさでも充分喜んでいた。

―解放!!桜華・雷華崩拳!!―

「さっき溜めといたやつか?」

ネギ少年オリジナル技をナギは口元を少しばかりつりあげ、余裕の表情で捌く。
ナギはネギ少年の右手首をいとも簡単に左素手で捕まえ、魔法の射手は全てレジスト。
続けて右腕をネギ少年の腹に向かって打ち込んだところ、咄嗟に高速思考を働かせたネギ少年が左手の雷華崩拳をナギの右ストレートにぶつけるが、

「威力が足りねーぜ」

「うわっ」

左手が打ち負けあさっての方向に逸れたところ、ナギの左回し蹴りが突如、右腕を捕まれて完全に空いていた右脇腹にめり込む。

「かはッ!」

一瞬の停止の後、ネギ少年は一気に真横に吹き飛ぶ。

「わりー、ちょっと力入れすぎた、大丈夫か。でも右腕に反応するとは思わなかったぜ」

「だ……大丈夫です!」

ネギ少年はとても痛そうな顔しながら右脇腹を左手で抑えて答える。

「へっ、その意気だ!」

その後、遠くからだと、度々空中に極太のビーム、無数の矢、投擲した断罪の剣が飛び交う……表現すれば派手な親子の戯れが見られた。
そのまま数分間ナギが言うには稽古……をネギ少年がつけてもらっていたところ、エヴァンジェリンお嬢さんも空中に飛んで行き、

「おいナギ!ぼーや!もう後2分もないぞ!」

「あ?あー、そうだ、これ時間切れあんのか。ネギ、よく持ったな」

「は、はい」

……という半端な幕切れだったがこれにて稽古終了。
結局全然使われなかった舞台に2人とお嬢さんが舞い戻りしばしの会話となった。

「ネギ、怪我は後でアルにでも治してもらえよ」

「はい」

「それならうちが治すえ!」

「お、誰だ?」

「私の娘ですよ」

「詠春の娘か!そりゃ老けるわ!」

「うっさいわ!」

「じゃタカミチの子供は?」

「いません!」

「それと、アスナ、でかくなったな」

「……え?」

「おっと、それはいいとして。ネギ、ここでこうやってお前と話してるってことは俺は死んだっつーことだな……」

「いえ、父さんは死んでない!生きてるんです!6年前の雪の日父さんは僕を助けてくれました」

「お?そうなの?」

「それにアーティファクトが使えるって事は父さんが生きてるっていう何よりの証拠です!」

「あー、そっかそっか。これアルのアーティファクトだったな。んー……でもってエヴァ、俺ちゃんと呪い解いたんだな」

「解いてないわバカめ!」

「え?だって解けてんじゃないのか、それ」

「緩めただけだ!」

「あー、じゃあ解きに行けてないのか俺」

「どうせ忘れてたんだろーが!」

「そりゃ悪ぃな」

「罰として私を抱きしめろ!」

「えー、やだ」

「だったらせめて頭を撫でろ!」

「なんだ、それだけでいいのか、ほらよ」

「心を込めて……撫でろよ」

「ネギ、お前が今までどう生きてきてお前に何があったのか……俺のその後に何があったのか……幻にすぎない今の俺には分からない」

しんみりして少し目に涙を浮かべるエヴァンジェリンお嬢さんを撫でながら、ナギはネギ少年に話しかけだした。

「…………」

「けどな、この若くして英雄ともなった偉大かつ超クールな天才最強無敵のお父様に憧れる気持ちはわかるが……俺の跡を追うのはそこそこにしてやめておけよ」

「……うっ……うっ……」

「いいか、お前はお前自身になりな。……ほら、もうあんまり泣くんじゃねえぞ」

「は……はい!僕は……僕自身になります!」

「フッそれでいい……じゃあな」

……こうしてナギの10分間の完全人格再生は終わった……が。

「いつまで撫でている!手を離せっ!」

「フフフフフ」

少し良い空気になったかと思えば……これだ。

「はぁ……。ぼーや、どうだった」

「父さんは……僕の、思ったとおりの人でした」

「デタラメだったがな」

「あはは」

「私……ネギのお父さんと会ったことあったのかな?」

「アスナ君には……そろそろ教えてもいいのかな……。アスナ君は覚えてないかもしれないけど麻帆良に来る前の頃ナギに会ったことがあるんだよ」

「そう……だったんですか……」

「タカミチ!それほんとなの!?」

「ネギ君、隠していたみたいでごめんね」

「ううん、別に気にしてないよ。ただ驚いただけ」

「なら尚更、ネギのお父さん捜さないとね!私もお世話になったみたいだし!」

「あ、アスナさん!」

「うちも捜すの手伝うえ!父様、ええよね?」

「こ、このか」

「ダメなんていうたらうち父様嫌いになるえ」

「ええ!?そんなッ!?」

詠春殿に強烈な精神的衝撃。
……と、しばらく内輪で話が盛り上がったのだった。

「皆さん、私のお茶会に招待しましょう。この招待状を渡しておきます。明後日にでも図書館島の地下に来ると良いでしょう。ネギ君のここにいないもう2人の生徒さんも一緒にいかがですか?」

「え?」

「新米魔法使い見習いの2人ですよ。フフフ」

「ど、ど……わかりました」

いつの間にか図書館島の2人の女子中学生の事を知っていた司書殿。
良かったのは雪広あやかがこの場にいなかったことであろうか。
彼女は超鈴音や雪広義國さん達と外で、色々話していたようで、ネギ少年達が現実時間の僅かな間だけ魔法球の中にいた事を知る由も無かった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

後夜祭で3-Aの皆と馬鹿騒ぎをした後、深夜、龍宮神社に戻て会場の撤収にとりかかたヨ。
基本的には田中サン達が物資は運んでくれるから力仕事は一切無いけどネ。

「さて、最後の仕上げだナ。全端末保存映像の自動削除と端末自体のシステムダウンを実行するネ」

「超さん、了解です!」

「ハカセ、嬉しそうだナ。まあ主催者側はデータを保存できるのだからまさに役得だネ」

「もちろんです。これだけの試合数の戦闘データを動作プログラムに反映すれば、茶々丸の機動性能はもとより、これからのロボットの発展にとっては宝の山です!」

「私にとてもロボットにも役立てば、人間の神秘を解き明かすのにもまたとない有益な資料だヨ」

「もう早く撤収してデータの研究を始めたくてたまりません!」

「後は夏休みまでたっぷり時間はあるネ!」

「はい!やる気でてきたぞー!」

ハカセのテンションも深夜になてくるのと合わさて完全にハイだネ。
この後も田中サン達に敷設科学迷宮ワイヤーの回収、魔法球をエヴァンジェリンの家の倉庫への移送を済ませ、自動で認識阻害魔法と回復術式が停止するのを確認して終わりネ。

「超さん、こんばんは」

「おや、クウネルサン、まだ表に出ていたのカ」

「ええ、この通り」

「それで何の用かナ?」

「……用が無くても話したい所なのですがね。明後日私の住処でお茶会を開くことになりまして、その招待状を超さんにも渡しに来たのですよ」

「ネギ坊主達も来るお茶会カ。するとアチラの話をするのかナ?」

「……そのつもりです」

「分かたヨ。私もネギ坊主達に渡すものがあるし好都合ネ」

「それは良かったです」

「それでクウネルサンの約束とやらは果たせたのかナ?」

「はい、この武道会のお陰で詠春やタカミチ君にも会わせる事ができましたし、本当に良い場でした」

「それはまほら武道会を実現に導いた甲斐があたヨ」

「フフ、次はあなたがどんな事をするのかも楽しみにしていますよ」

「ふむ、割とすぐだと思うヨ。期待するといいネ」

「ではその時まで私はまた隠れさせてもらうとしましょう。それでは」

「ああ、また肉まん持て行くネ」

……長いようで短い3日間だたナ。
まあ全ての試合を合計するととんでもない長さになるのだけどネ。
保存しなかた映像に関しては翆坊主達に見せてもらうとするカ。
ふむ、来年のまほら武道会は果たしてどういう形になるかナ。
それは私もまだ見ぬ世界、楽しみは後にとておくものだネ。
その前に、まずは撤収して古達と騒ぎに戻るとしよう。



[21907] 39話 新たなる未来へ向けて
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 19:09
麻帆良祭も終わり、場所は司書殿の住まう図書館島深部の庭園。
集まったのはそのクウネル殿、エヴァンジェリンお嬢さん、茶々丸姉さん、チャチャゼロ……、ネギ少年、小太郎君、神楽坂明日菜、孫娘、桜咲刹那、古菲、長瀬楓、綾瀬夕映、宮崎のどか、そして……。

「ようこそ私のお茶会へ。お待ちしていましたよ」

「ぼーや達、遅かったな」

「クウネルさん、こんにちは。お邪魔します」

「クウネルの兄さん、来たで!」

「くーねるはん、こんにちは」

「クウネルさん、こんにちは」

少々人数が多いものの挨拶を交わしたところ
司書殿が虚空に向かって話しかけた。

「そろそろ出てきてはいかがですか?」

「え?クウネルさん、まだ誰か来るんですか?」

「ふむ……そうだネ」

わざわざこの時のために光学迷彩コートを用意して、それを着用して予め隠れていた超鈴音の登場。

「超!」

「超姉ちゃん!」

「超さん!どうしてここに?」

「どうしてここに、と言てもまほら武道会の時の事を思い出せば私がクウネルサンと知り合いであることは何ら不思議では無いと思わないカ?」

「あ……た、確かにそうですね」

「気になる事もあるでしょうが、皆さん、まずはお茶とお菓子がありますからどうぞ席に座ってはいかがですか?」

という司書殿の一声でひとまずはお茶会を楽しむ事となり、ネギ少年は色々な種類の紅茶に感動しつつ非常に詳しい批評をしたりする一方女子中学生達は複数種類のスイーツを食べては「おいしいねー」と感想を漏らしていた。

「ネギ君、あなたのお祖父さんから夏にまたウェールズに戻るように言われていませんか?」

「ど、どうしてその事を?」

「学園長から聞いたのです」

「学園長先生が?」

「ええ、そうです。以前ナギが生きていることについて契約カードで見せたと思いますが、ネギ君がナギの事そのもの、行方を知りたいのであれば英国はウェールズへ戻るといいでしょう。あそこには魔法世界……ムンドゥス・マギクスへの扉があります。恐らくネギ君のお祖父さんもそのような意図があるのだと思いますよ」

「魔法世界……」

「ネギ坊主、行く気はあるのかナ?」

「そうですね……はい、是非行きたいです」

「ぼーやの為にわざわざゲートを用意してくれるんだ、夏休みの旅行にしてはやや遠出だが行ってみるのもいいだろう」

「ネギ、私も付いて行くわよ!」

「ネギ君、アレを見たからにはうちも行くえ!」

「ネギ先生、私も行きましょう」

「俺も当然行くで!ネギの相棒やからな!」

「これが……もしや旅でござるか。ならば拙者も参るでごさるよ」

「楓、そうみたいアルね!ネギ坊主、私も行くアル!」

「ね……ネギ先生!私も行かせて下さい!」

「ネギ先生、私も行くです」

「……皆さん。……でも……いえ……分かりました。教師としても引率はしっかりやります。夏休みを利用してですから情報収集程度になると思いますがよろしくお願いします」

「話はまとまたようだネ。私からも少し手助けをするヨ。これをネギ坊主に渡しておくネ」

超鈴音が取り出したのは……。

「これは超さんの部活の書類?」

「外国文化研究会。生徒を引き連れて公的に海外に行くというのならば部活が良いだろう?後は顧問にネギ坊主が登録して皆が部員になるだけネ」

「超さん、もしかしてこのために……?」

「元々私の用事で設立した部活なのだけどネ。年内に使う予定は特に考えていないから設立した時の状態に戻してあるヨ」

「そう……ですか。でも……あれ?そういえば相坂さんと春日さんと龍宮さんもいたと思いますが2月の旅行は一体何を……?」

「ただ観光をして超包子の支店を視察、それに少しビジネスをしに行ただけネ。きちんと部活としてのレポートも提出してあるヨ。予め言ておくが詳しい事については教えられないネ」

「……そうですか。分かりました。深くは聞きませんが、超さん、ありがとうございます」

「どういたしまして。私は付いていかないけど魔法世界に行くなら気をつけてナ。ここから先はネギ坊主達の話になるだろうし私は退席させてもらうネ。それではまた」

そう言って庭園から去っていった超鈴音であるが、ネギ少年達からすると今までよりも更に謎が深まったに違いない。

「まるで超さんはこの事を知っていた上で部活を作ったかのような気がするのですが……」

「刹那さん、僕もなんだかそんな気がします」

「ネギ坊主、超はたまに良くわからないけどあれでも協力しているアルよ」

「……そうですね、ありがたくこの部活の書類は使わせてもらいます」

「それじゃ部員の役職決めたりしないと駄目ね!」

「ほな、うちは書記がええな!」

「私は肉まん大臣アル!」

「古姉ちゃん、肉まん大臣って何や?」

「肉まん大臣は肉まん大臣アルよ!」

超鈴音の謎はすぐに流れていった。

《茶々円、ぼーや達は本当に魔法世界に行っても大丈夫なのか?》

《心配なら付いていかれては?》

《……そこまで私も過保護ではないさ。それにしても超鈴音の部活の書類とやらは用意が良すぎると思うがどういう事なんだ》

《超鈴音……私もですが、ある程度どうなるか分かった上で、ついでという形で部活を作ったのです。実際2月の時には必要でした》

《わざわざそこまでお膳立てしてやる必要は無いと思うがな》

《超鈴音がネギ少年達に手を貸せる事はもうあまりありませんから……言わば駄目押しのようなものでしょうか》

《ふ……そうか。それにしても茶々円はぼーやを魔法世界に行かせたがっているように感じるがそうしようとする意図は一体何だ?例の魔法世界の崩壊とやらは解決するのだろう?》

《確かにネギ少年達が魔法世界に行かなくてもその意味では問題は無いです。……個人的な事情としましては、それでも恐らくネギ少年達が魔法世界に旅に出た方が魔法世界の崩壊の件が非常に上手く解決する事になる可能性が高いのです。実に身勝手極まりないと思われるかも知れませんが勘弁して欲しい所です》

《……足りないピースが揃った方が噛み合うのは当然という所か……。問い詰めたところでお前の言うとおり本当に気になるなら私も行けばいいという話にしかならんか》

《私にも本当の所これからどうなるかは正確には分かりかねます。ただ、やるべき事をやって問題が起きるなら……予め対処するなり起きてしまったなら解決させるだけです。……とは言っても直接関わる事は殆どできませんが》

《間接的には既に十分関わっているだろうに》

《たった数人と、だけですが》

《……それは茶々円の事情を考えれば仕方ないだろう。諦めてその数人で頑張るんだな》

《それでも心強い数人ですから、問題はありません》

《当たり前だ。私を誰だと思っている》

エヴァンジェリンお嬢さんです。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

早くも7月に入りましたが学園祭が終わって大分皆気が抜けた感じになっています。
そこへ更にいよいよ夏に突入するため暑さが追い打ちをかけてきていてだるい空気が教室に広がっています。

鈴音さんがネギ先生に外国文化研究会の書類を渡した後、ネギ先生達は必要事項を書き込みしっかり事務手続きを行って手続きを済ませた後は、相変わらず修行をしたりして過ごしています。
真面目に修行する必要があるの?という疑問も湧きますが、くーふぇさん、楓さん、小太郎君と桜咲さんは今更ですから。
それにしても綾瀬さんと宮崎さんがもう初級魔法については扱えるようになったというのには驚きましたが、本来魔法生徒が学ぶのは魔法の運用だけではなく歴史、魔法薬の知識、魔法に関する一般常識、ラテン語や古代ギリシア語の解釈そのものの勉強等が必要なんだそうです。
つまり綾瀬さん達は初級魔法の本をネギ先生から借りていたとはいえ、基本的には発動させる魔法の呪文をそのまま発動できるように運用の練習のみを大量に積み重ねただけという事になるので、魔法使いと名乗るにはあまりにも偏りがあるでしょう。
近衛さんはその点についての座学も行っていますが。
ただ、どうやら綾瀬さんには魔法の才能はかなりあるようなのですが、宮崎さんはそれほど魔法の才能が無いようです。
でも、高畑先生のように呪文詠唱が元からできない訳でもないですから、もう努力の問題でしょう。

火星の方はと言えばもう春休みから3ヶ月が経ち、大気組成も酸素が20%になりとうとう地球とほぼ同じ濃さになりました。
放射線レベルも地球の1.1倍程度となり若干惜しい気がしますがこれなら許容範囲内だそうです。
南極の極冠を全部溶かした時点で海になるべき部分には全て水が行き渡っていますし、その後もしっかり地下の氷を溶かしたので、水深に少し物足りなさはあるものの誰がどこから見ても海だとしか思わない筈です。
それに同調すれば今はもう海に浸かっている神木・扶桑も龍山山脈の付近に重なって陸上に戻る上、その大陸の分さらに水深が上がりますしね。
平均気温も15度前後になり快適な状況になりましたが、これは二酸化炭素の影響でまだまだ勝手に上がり続ける可能性があるものの、元々太陽から遠いのもあって急激に上昇することはなさそうです。

それで同調の際の増幅魔法はどうなったかというと丁度鈴音さんの魔法球で最終実験で今にも結果がでるんです。
そこそこの大きさの球体を浮かせ、その球体に地球の11箇所の聖地と対応する場所に魔分溜りを、麻帆良の位置にも神木とそれを囲む6つの魔分溜りを模した物を用意してあり、既に11箇所それぞれから魔分の流れが神木に集中するという状況ができています。

「うむ、星と月の座標の計算を考慮していないもののこれでほぼ完成だろうネ」

「キノ、これ実際にやったら目立ちますね」

《それは……止むを得ません。いずれにせよ超鈴音のお陰でこうして同調の目処が立ちました。星と月の座標の計算は私達が行いますし、問題はありません。ありがとうございます、超鈴音》

「ああ……思えば2年半こうしてやてきたが私の本来の予定よりも1年早く目的が達成できたナ」

少し遠い目をしている鈴音さんはなんだかどこか遠くに行ってしまいそうな雰囲気です……。

「……鈴音さんはどうするんですか」

《…………》

「……それは私が未来に帰るかという事かな」

「鈴音さんは帰りたいですか……?」

「そうだね……帰りたいと言えば帰りたいよ。私を送り出した故郷の皆に会いたいと思わないわけがない。できるならば皆にもこちらに来て欲しいぐらいね」

《……そうですか》

「……元々私、私達は過去を変えれば未来が変わる……けれど変えたところで私達のいる未来が変わるのでは無く違う未来の分岐が生まれるだけで解決にはならないという矛盾をはらんでいたのは理解していたよ。……翆坊主、そもそも私が未来に戻ると死ぬというのは……つまり私は強制認識魔法の発動に完全に失敗したか、あるいは発動に成功した未来と失敗した大きく未来が変わりはしなかった未来の2つの分岐を作り後者からそのままあるべき場所に戻ったという事なのか?」

《……ええ……その通りです》

「やはりそうか……。翆坊主と話した時から薄々そうではないかと思っていたがあえて考えないように日々を過ごしていたのだけどね。失敗していなければ私が未来に帰るという選択自体取る筈無いものな。それが私が『未来に帰ると死ぬ』と、それはそれなりに近いうちに起きる事だと暗に翆坊主が言った理由なのだろう。少なくともカシオペアを使って戻ったという事は何らかの資料は持ち帰ったもののその際死亡したという所か」

「鈴音さん……」

「……翆坊主とさよは歴史を知っていると言う話だけど私が故郷からこちらへ来る時に故郷の皆に一体何と言われたか聞くか?」

鈴音さん今まで泣いた事なんて一度も無いんですけど目元が……。

《……聞きましょう》

「私も……聞きます」

「ああ……聞くね。……『スズネ、体に気をつけなさい。しっかり睡眠はとるネ。ご飯はあちらにはいいものがあるだろうけれど必ず食べるんだヨ。ここより風邪も多いから気をつけるネ』なんてそんな心配ばかりだった」

《…………》

「最後に『私達はこれからも頑張るけれどスズネも頑張ってきなさい、達者でネ』……だよ。皆笑顔で送り出してくれたがどう考えても……別れの挨拶にしか……聞こえないだろう?……悪い、少し思い出して……しまったよ……」

「鈴音さん……泣きたい時は泣いていいんですよ」

《……サヨの言うとおりです》

「済まないな……さよ、少し胸を借りてもいいか?」

「もちろんですよ」

「……ありがとう」

鈴音さんは今まで一度も見せた事が無かったですが、初めて涙を流しました。
泣いてもいいと言ったのに、私に顔を見せないようしがみつき、少し震えながら我慢して声を押し殺し泣いていたのは鈴音さんとしてもやりきれない思いがあったからなのでしょうね。
しばらく小さな音が魔法球の中に響き続けました。
キノは精霊体だったので鈴音さんに触れる事はありませんでしたが表情には哀愁が漂っていたように思います。
それでも、泣き止んで顔を伏せたまま深呼吸して息を整えて顔を上げた鈴音さんはいつもの元気な鈴音さんに変わりありませんでした。

「ん……少し情けない所を見せたナ。私が肉まんを世界に広めるのは故郷で一番お世話になた人、母の好物だたからネ」

「鈴音さんのお母さんの好物だったんですか……」

「もちろん私の好物でもあるけどネ。超というのはクウネルサンが言ていた通り所属機関の名前ネ。超機関のメンバーは人種、出自を問わずとにかく火星で生き抜くための研究をし続ける所だたヨ。私が超という苗字を使うのは皆に共通する名を名乗ろうと思たからネ」

《超には故郷の願い、想いが詰まっているのですね》

「一つ聞くが……翆坊主にとて……これからも……私には興味があるのカ?」

《ええ、それは勿論です。超鈴音のこれから……そうですね……。超鈴音そのものが私にとっての願い。私にとっての興味……というのは言い換えれば願望そのものです》

「はは……そうカ。……まるで私は願いの塊だナ。うむ、だからこそ、やはりそう簡単に死ぬわけにはいかないネ。まだまだやることはいくらでもあるのだからナ」

「私にも手伝えることは言って下さい!」

《……私もできることがあれば協力しますし、これからも応援し続けます》

「……少し私らしくもなく話すぎたかナ。さあ、そうと決まればこうしてはいられないネ!次のプランをどんどんたてるヨ!」

「はい!」

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超鈴音が真面目に自分の話をしたのはこれが初めてであった。
今回が気まぐれなのか、それとも信用した証なのか……少なくとも私は後者だという確信がある。

……それからというもの、超鈴音は更に新たな研究に手をつけ始めた。
目新しいのは今まで東洋医学研究会で会長職を勤めていても、魔法球で薬草を栽培するという事はしていなかったのだが、突然「優曇華のアーチを貸すネ」と言いだし、雪広グループを通して古今東西の植物を集めて栽培する事にしたのである。
優曇華のアーチはあのように調整したのであるが、これからは相対時間の操作も自由にできるので魔法球と同等……それ以上の使用もできる。
どうして薬草に手を出すことにしたのか聞いてみたところ「優曇華の有効利用法としては良いし、科学ばかりやりすぎるとオーバーテクノロジーだらけになるからネ」との事。
私もサヨも特にアーチは使わないので、好きなように使ってもらえればそれで構わない。
しかし、その割には魔法世界と火星が同調するのを見越して、魔分を反応させる半永久魔力炉なるもの作ろうと考えているようでその開発意欲は留まるところを知らない。
茶々丸姉さんの魔力炉すら一日一回ゼンマイ……を巻く必要があるが、完成すれば画期的という言葉では済まない。

……ネギ少年達の方はといえば外国文化研究会という部活名だけでなく、一応対外的な名前としてナギ達の赤き翼に因んで白き翼と団体名を付けたそうだ。
それを示す物としてエヴァンジェリンお嬢さんがバッジを作るという事になったのだが、もうあまりネギ少年達には関わらないかと思われた超鈴音にその話を少ししてみた所興味が出たようで、

《エヴァンジェリン、その作る予定のバッジにはどういう機能を付けるネ?》

《茶々丸には付いて行かせようと思っているから位置を把握できるセンサーぐらいは付けるつもりだ》

《茶々丸姉さんも行くんですか?》

《茶々円、寂しいなら付いていったらどうだ?》

それは無い。

《……遠慮しておきます》

《……茶々丸頼みのセンサーか……エヴァンジェリン、原型ができたら私に回して貰えないカ?少し改良するネ》

《好きにしろ。私は機械には強くないからな。もともと科学と魔法の両方を利用するつもりだったから超鈴音かハカセにでも頼もうかと思っていたところだが丁度いい》

《そういう事なら任せるネ。……ここは一つ私からもネギ坊主達に何か作てやるかナ》

そうこうして超鈴音がバッジの改造ともう一つ餞別を作成する事にした。
一応、尋ねてみた。

《どのような物を作る予定ですか?》

《あちらで使うにしても色々困るだろうからソーラー発電装置と誰でもできる魔力注入で動く端末を作る事にするネ。まあやはりまた携帯電話だナ》

《もう例の端末の通信を教えても良いのでは?》

《うむ、エヴァンジェリンと共同で作たという事にすれば私が翆坊主達と関わりがあるというのにも早々行き着かないしそれでいいだろうナ》

《助かりますね。お嬢さんを介すと》

《うむ。……そうだ、あの魔法生物はまだ戻て来ないのカ?》

《はい、一体どこを歩いているのかは知りませんけど戻って来ていません。もう今月で4ヶ月ぐらい経ちますが》

《少しぐらいまともな情報を持ち帰て来るのを期待したいナ》

《ケット・シーと並ぶ由緒正しき妖精という事ですが果たしてどうでしょうか》

《実際転移魔法符のルートはきちんと把握しておかないと下手なテログループに渡れば過激な所なら毒ガスや爆弾を直接転移させるなんて手段にも出かねないからナ》

《魔法使いのNGO達も例の組織の捜索にかかっているようですから彼等の活躍に期待したい所です》

《世の中ままならないものだネ。人間も怖ければウイルスのような極小微生物もどんどん進化を続けるしナ》

《ウイルスと言えば障壁を張っていれば遮断できますよね》

《それはエヴァンジェリンのような相当高位の魔法使いに限るネ》

《それもそうですが……ええ、エヴァンジェリンお嬢さんにウイルスはそもそも意味がないですね》

《全くだナ》

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そのまま、あっという間に7月も半ばになり期末テストを迎え私たちはいつも通り乗り越えそのまま念願の夏休みに突入しました。
これでネギ先生もほぼ1年間教師をした事になりますが、去年来た時よりも大分身長が伸びています。
魔法球にもうそろそろ1年近くは入っている事になるので実年齢で10歳後半ぐらいにはなっていると思います。
小太郎君はネギ先生よりも少しだけ年上だったと思いますが、ネギ先生程魔法球に毎日入っていた訳ではないので誕生日の差が違う程度でもう殆ど同年齢と考えていいでしょうね。

ところで今、茶々丸さんの性能向上を兼ねて新しいボディへの換装を終え、実際に実験しているところなのですが凄い事になっています……。
原因はまほら武道会で数百試合分の戦闘データが蓄積されたからなのですが……。

「茶々丸もあの瞬動術ができるようになるとはねー」

「ハカセは前から実現したいと言ていたからナ」

「茶々丸さん、凄いですね」

実際に瞬動やら虚空瞬動を使っているのは驚きなんですが、いずれ田中さん達も使えるようになるのでしょうか……なんだか麻帆良はどんどんおかしな都市になっていきそうです……。

「ありがとうございます。ただ……ハカセ、何故こんなに武装があるのですか?」

「それはね茶々丸、科学者のロマンだよ!」

産みの親というだけあって茶々丸さんと話す時の葉加瀬さんのは丁寧口調ではなくなるんですよね。

「そうネ茶々丸。ロケットパンチはその最たる物にして最も基本的な物だヨ!それ無しには話すら始まらないネ!」

「……そうですか」

そんなに嬉しくないのは何となくわかりますけど、強く要らないとも言えないですよね……。
魔法関係の武装だけならまだ良かった気がするのですが、カオラ・スゥさんと技術の擦り合わせをしたらプラズマ火球や完全なレーザー兵器も搭載されたようなんです……。

「新しいボディはなかなかのできだと思うんだけどどんな感じ?」

「見た目はより人間らしくなったようでそれはうれ……しいです」

「うん、良かったね。ネギ先生もその方がいいでしょ」

「なっ!ハカセ、その話はもうしないと!」

茶々丸さんの表情がっ!

「あーごめんごめん。もうしないからさ、今度の旅行楽しんで行ってきなよ」

以前茶々丸さんのデータを確認した時にネギ先生の画像の比率がおかしく葉加瀬さんが気になって色々調べた時一悶着あったんですよね。

「うむ、茶々丸もこの2年の間に人間らしくなたネ」

「それでも、私には心があるのでしょうか。自分でもよく分からないのです」

「茶々丸、心はあると思えばあるし無いと思えば無い!そういう事だよ」

「ハカセ……」

「今すぐに答えを出す必要も無いヨ。もしかしたらこの旅行で何かのキッカケぐらいにはなるかもしれないネ」

「……分かりました」

私からすればもう茶々丸さんにはしっかりとした人格があると思うんですよね。

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嵐の前の静けさ、とでも言うべきか7月は特に何か問題が起こることもなく順調に日々がすぎていく。
……かと思われたが、ひなた荘で動きがあった。
住人達が暑い中出払っている時に窃盗事件が発生した。
盗まれた物は青山素子さんの所持している妖刀ひな。
犯人はあの月詠だが、フェイト・アーウェルンクスも彼女の侵入と逃走に水の転移門で一役買っていた。
ひなた荘自体が荒らされた訳でもなく忽然と妖刀ひなだけが無くなっていたので住人が月詠の姿を見る事もなく、見事な手際だった。
たまちゃんは「みゅー?」と侵入に気づいた節もあったが特にどうこうできはしなかった。
素子さんも普段から妖刀ひなだけを振り回している訳でもないので刀が無くなっているのに気付いたのは……すぐとはいかなかった。
ひなた荘自体あまりそういったまともな事件……度々おかしな事ばかり住人達自体がやっているが……そのためか無くなっているのをそれ程重要視せず、「いつか戻ってくるだろう」程度に考えたようなのだが、実際その予想は正しいかもしれない。
妖刀ひなが無くなったのを素子さんが鶴子さんに連絡したりするか……と言えば「姉上に……やめておこう」とそのような面倒事を報告するような真似はする訳も無かったのであるが。

一方麻帆良ではそのような時に合わせたのかどうかは分かりかねるがメルディアナからドネット・マクギネスさんというネギ少年達も既に修学旅行で会った事のある女性が遠いところやってきて明石教授と対談していた。
話し合われたのは例のフェイト・アーウェルンクスの事について。
彼はやはりイスタンブールの魔法協会から日本に派遣されたと書類上の処理がなされていて、それにも関わらず修学旅行で月詠を伴ってメルディアナに現れた事についてメルディアナと麻帆良でそれぞれ独自に調査を行っていたためそれの情報の擦り合わせをするという訳だ。
一番の問題はどこから3-Aの生徒達の修学旅行の行き先がイギリスに決まったという情報が漏れていたのかという事であるが実際航空チケットの予約から分かってもおかしくはないので双方の魔法学校に内通者がいるとは早急には考えがたいのだが、ここで浮上してくるのが例の魔法具に手を付けている組織の存在。
例の組織は裏のルートに手を付けていると言っても一般社会への溶けこみ方にかけては元々表が主なだけあり怪しいとめぼしをつけてもどこまでも憶測でしか判断がつかなかったりと決め手にかける事が多く非常に厄介……との事。
2人の元々の目的は情報交換であったので特に結論が出た訳ではないものの、会話をしている2人には下手な尾行がついていた。
それは明石教授の娘、明石裕奈とそれに付いて行った佐々木まき絵他クラスメイト。
彼女達はドネットさんを知っていたので「えー、まさか遠距離恋愛!?」などと言っていたが声が大きすぎて明らかに聞こえていた為ドネットさんはやれやれという体で、少女達を手で招いて事情を……嘘を交えて話しだした。
それによって明石教授が娘本人からすると浮気だなどと思われていた誤解も解け、明石教授とドネットさんが旧知の仲であり、更に明石裕奈の母の友人であったという事を明かされしばし話をしたのだった。
「夕子にとてもよく似ているわ」と評された明石裕奈は、実際遺伝的に魔法の才能は一般人に比べれば遥かに適正があるであろうが果たしてどうなるであろうか。

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7月の終わりは毎年夏祭りがあるのだがこの日その前にエヴァンジェリンの家に全員集合してもらたヨ。

「皆に集まてもらたのは他でもない、あまりお節介を焼くつもりも無かたのだが乗りかかた船でネ。1つ餞別を私から渡しておこうと思てナ」

「私からもあるぞ。お前達一応対外的に白き翼と名乗るからには何か証になるものでもあった方が良いと思ってな。ほら1人1つずつとれ」

「バッジですか?」

「何や皆お揃いでええね」

「ありがとうございます、マスター」

「ありがとう、エヴァンジェリンさん」

バッジ自体にも私が改造を加えたのだが、端末の方でほぼ代用できてしまたから茶々丸のセンサーで互いの位置が数千キロの範囲でわかるようにしておいたヨ。

「次は私からネ。皆1つずつ取て欲しい」

「超さん、ありがとうございます」

「超りん、ありがとな」

「超殿、かたじけない」

「超、また端末アルか?」

「古、使い方は全て端末で調べて分かるようにしてあるから慣れてくれると助かるネ。それでは機能の説明をするヨ。まず、一番凄いのはどこでも、どれだけ離れていてもほぼ確実に通信ができる事ネ。これはエヴァンジェリンと協力して作たのだが是非今試してみるといいヨ。エヴァンジェリン頼むネ」

「ああ、それでは起動するぞ」

《聞こえるか?》

《皆聞こえるかナ?》

《ま、マスター!この感覚は!?》

《何これ、不思議な感じね》

《テレパシーみたいやね》

《念話……とは違うのですか》

《ぼーや、これは加速はしないがアレと同じだ》

《そ、そんな事ができるんですか……》

《ネギ、知ってるの?》

《はい、一応》

皆この新感覚にそれぞれ驚いて心の声を念じたりしていたが、そのまま太陽エネルギーでの発電と側面につけたスイッチを押すと出てくるレバーを回すことで魔力注入が出来る事を教えておいたヨ。
魔力注入については不思議に思われたが元々これはエヴァンジェリンの技術だからそこまでおかしくは無いネ。

「大体こんな所だネ。今日は夏祭りがあるがネギ坊主は去年8月に来たから知らないだろう?皆で行くといいヨ。3-Aの皆もこの通り行くみたいだしネ」

SNSにはもう鳴滝姉妹の偵察で屋台の構成についての情報が書き込まれているが特にいつもと変わりは無いナ。

「お祭りですか、是非行きましょう!」

「よっしゃネギ!金魚掬いに射的で勝負や!」

「うん!」

「うちも金魚掬いやるえ!」

「私もやるアル!」

「拙者も挑戦するでござるよ」

楓サンがやると水槽の金魚が全ていなくなりそうだけどネ……。
私もいつもの楽な服装ではなくさよから着物でも借りてみるかナ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「鈴音さん着物にあってますよ」

「そうかナ?何だか自分で買えばいいのにさよの着物借りて悪いネ」

「一度に何着も着れませんし、お祭りですから雰囲気楽しんだほうがいいですよ」

「うむ、そうだナ。ありがたく着させてもらうネ」

「それじゃあ出発しましょう!」

既に夕方を回ってお祭りの屋台が並ぶ通りにも灯りが灯り始めた頃に丁度着きました。

「ネギ先生達はもう金魚掬いやってますね」

「元気なことだネ」

ネギ先生と小太郎君、楓さんがピタリと水槽の前で動きを止めたままタイミングを伺っているのですが、何でこんなに真剣なんですか!

「ッ!今でござる!」

「「了解!」」

金魚掬いに使われるポイを3人が一斉に水面に振りかざした瞬間、何がどうなったのかわかりませんが水槽の中の金魚さん達が全部水から飛び出し、そこをボールで一気に回収されてしまいました……。

「絶滅したナ」

「生態系は大事にしないと」

店主のおじさんが凄く間の抜けた顔をしていたのですが、なんとか正気に戻り「1人3匹までしか持って帰れないよ」と注意を促したところネギ先生達もやってみたかっただけで「飼う余裕もないからいいです」という事になりお祭りが始まったばかりで金魚すくいの屋台が一軒終了するのは免れました。

「ネギ君達、今の何なん?」

「このかさん、これは楓さんと山篭りした時に川の魚を効率的にとるために身につけたものなんです」

「このか姉ちゃんも覚えてみるとええで」

効率的どころか下手すると絶滅ですよ!
何でもやってみたいという割には普段の生活がハイレベルな状況において童心でお祭りをこのまま楽しめるのか気になりますね。

「よっしゃ、次は射的や!」

「うん!」

……そんな事心配しなくても大丈夫そうです。

「龍宮サンのバイアスロン部で鍛えてるから店の人も困るだろうナ」

「商売上がったりですね」

射的の屋台に走っていったネギ先生達はすぐ様お金を出して銃を渡してもらっていましたが、10才の子供達には少し台自体が高く店の人が「届くように踏み台用意してやろうか?」と言うと同時にジャンプしては景品を撃ち落とし、弾を再度詰めてはジャンプして撃ち落としを繰り返し、どう考えても倒せないようになっているものは2人が息をあわせてネギ先生が撃った所へ小太郎君が続けて撃つことで衝撃を増幅させ無理やり落としていました。

「ネギ坊主達にかかるとどこも絶滅は免れないようだナ」

「ネギ先生達には射程距離数百メートルぐらいが丁度いいかもしれませんね」

その後も回転する的にダーツを投げて当てる店でも猛威を振るい一番細い枠の所に何発も当てたりしていて店の人がかわいそうでした。
この子達に難しいお祭りの屋台なんて無さそうです。
景品はどうなっているかというと気に入ったものを神楽坂さん達が好きなように貰っていったり、途中から合流してきた明石さん達によって全て消費されています。
来年?ネギ先生が夏祭り出入り禁止なんて事になりかねませんね。

「ネギ坊主達を見ているのも飽きなくていいが、綿飴を食べるのは欠かせないナ」

「ちょっと口元のパチパチした感じがなんともいえなく良いですね」

「後はチョコバナナにたこ焼き、焼きそばかナ」

「たこ焼きなんかはどの店のが美味しいか食べ比べるのも楽しいですよね」

「しかし誰が何と言おうと肉まんは超包子以外はありえないヨ!」

「もちろんです!」

「たこ焼き味の肉まん……流石に無いかナ」

たこ焼き味の肉まんってどうなるんでしょう……。
たこを肉まんに入れるだけだと……。

「ただの海鮮風肉まんになるんじゃないですか?」

「そういうのも今度メニューに考えて見るカ」

「五月さんならきっといいアイデア出してくれますよ」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

2003年8月3日ネギ少年が日本に来て現実時間でとうとう1年が経った日のエヴァンジェリンお嬢さんの別荘では魔法世界への出発もあとわずかとなり、荷物の用意などが徐々に始められていた。

「マスター、いくらなんでも夏休みに入ってからこんなに修行する必要あるんですか?」

7月21日からおよそ2週間を毎日4日に増やして修行を重ねているため既に夏休みだけで2ヶ月が経過しようとしている。
当然ネギ少年の修行期間も1年を軽く越えた。

「嫌だと言うなら構わんが、魔法世界で合流する事になっているのがあのラカンなのだろう?信用できたものじゃない」

「え、どういうことですか?」

「あいつは金にうるさい上、自分勝手な奴なんだ。予定では迎えに来ることになっていても来ない可能性の方が高い」

「ええええ!?そんな!?」

「それにだ、ぼーやがナギの息子というのが公的に伏せられているとは言え、どんな輩がぼーや達に近づいてくるかわからん。性質の悪い奴らだと相手の立場によっては事情はどうあれ先に攻撃を仕掛けた時点で法的に嵌めようとしてくる可能性もある。まあこれは修行でどうこうというものでもないがな」

「僕が利用されるかもしれないって事ですか」

「それは十分にありえるだろう。アスナのような単純な奴がそういう奴らに煽られて少しでも攻撃してみろ、大変だぞ」

「アスナさんなら……なくは……無いですね」

「ネギー!何か言ったー?」

「いえ、大丈夫です!気にせず続けて下さい!」

離れたところで訓練していながらにして僅かな音声を拾う神楽坂明日菜。

「地獄耳だな……。とにかくだ、メガロメセンブリア首都が治安的には辺境に比べれば一番安全なのは確かだが、あそこはぼーやにとっては政治的に一番危険な場所でもある。甘い言葉には常に何か裏があると思え。ナギの捜索は以前行われても行方が掴めなかったような情報だ、ぼーやは情報収集程度と言ったがある意味でそれを調べるのは一番難しいぞ。下手に顔を突っ込めば藪から蛇をだしかねん」

「は、はい。分かりました、マスター。……それって学園祭でクウネルさんが会わせてくれた父さんが『俺は死んだって事か』と言っていたのとやっぱり関係があるんでしょうか」

「ナギは世界最強の魔法使いと呼ばれていた。それが行方不明になるという事は何らかの情報を掴んだが、結果それは相当マズイものだった、という可能性が高い。一体何があったのかは分からないがな」

「…………。少し今回の旅行を甘く見ていました。備えあれば憂いなし、ですね。改めてマスター、後数日間の修行をお願いします」

「ぼーや、今まさにぼーやが修行をするよう誘導した形になったのを分かっているか?」

「あ……」

「いいか、ぼーやの純粋さ、真面目さは美点だ。だがな、こういうのは往々にして気がついたときには既に手遅れになっている事が多い。気をつけろよ」

「……はい!気をつけます!」

「あと1ヶ月ぐらい時間があるが戦闘技術かどうか問わず引き続き教えるからしっかり覚えていけ」

「はい!よろしくお願いします!」

「元気な返事でよろしい。と、言ってもまだ休憩中だから適当に魔法世界の地図でも見ておくといい。行く割にはまだ見てもいないだろう。茶々丸!端末に魔法世界の地図を入れてくれ!」

「了解しました、マスター」

「そうですね、行くからには地図ぐらい見ておいた方が良いですよね」

「データの転送終わりました」

「しかし超鈴音の技術はどうなってのか良くわからんが便利ならまあいいだろう」

「この立体映像なんて魔法の映像付きの手紙の比じゃ……あれ?魔法世界ってなんか火星に似てますね」

「……ぼーや、どうしてそう思うんだ」

「千鶴さんの部屋にお邪魔して火星儀見せてもらったからなんですけど……ほらこうして魔法世界の地図をひっくり返すとここの龍山大陸はないですけどそれ以外は良く似てると思うんです。マリネリス渓谷の形はそっくりですしエリジウム大陸も……あれ、エリシウム島にヘカテ……何ですかこれ!!そんなまさか!!」

城のテラスでゆっくり会話していた所突然椅子からネギ少年は立ち上がった。
この段階でネギ少年が気づいてしまうのは予想外。
那波千鶴が天文部であった事が運命か。

「はっはっはっは!!ぼーや、良い生徒を持ったな!」

「ま……マスターは魔法世界が火星を触媒にして成り立っている異界だと前から……?」

「ぼーやはこれをどう考える?」

「……人工的に造られた世界だとしか」

「つまり誰かの手によって全て造られた世界だと、そうぼーやは思うのか?」

「はい、とてもじゃないですけど信じられませんが……」

「火星の地名が命名されたのは私からすればつい最近なのは知っているか?」

ヘラス、エリシウム等といった地名をつけたのは1877年に火星の大接近を口径22cmの屈折望遠鏡で観測したジョヴァンニ・ヴィルジニオ・スキアパレッリというイタリアの天文学者、実は魔法使いの方である。
魔法世界ではあまり天体に興味は持たれていなかったが地球側では広大に広がる宇宙に興味を持つ魔法使いもいた。
因みに人造異界の存在限界・崩壊の不可避性についての論文が出されたのは1908年であり、彼はその2年後に亡くなっている。
単純に老衰だったのかまでは分からないが衝撃の事実に気づいた事が祟ったのかもしれない。
崩壊するのは間違いないが、ただ人造と彼等は考えているがそれは違う。
考える事自体あまり意味もないが、もし仮に人造異界だとするならば、直接その土地に魔法処理を行う必要がある。
しかし地球と火星という優曇華でも無ければ気が遠くなるような距離にいくら魔法が使えるといっても紀元前の人類に出来る訳がない。
単純に土地があればいいだけならば、一番近い月か、せめて地球との平均距離が火星に比べて半分の4000万kmで済み、表面積も地球の90%もある金星に普通は造るだろう。
仮に人造異界だとしたら何故魔法世界の方が全体の魔分量が地球よりも遥かに多いのかという問題もある。
人造ならば元になる魔分が必要になる。
要するに魔法世界の成り立ちは世界各地のゲート周辺や地球と繋がっている他の一般的な異界とは全く異なる。

「え……じゃあ先に魔法世界の方ができていて……その名前に因んで?という事は火星の地名の命名には魔法使いが関与していることに……」

「ぼーやの気になる事はまほネットでジョヴァンニ・ヴィルジニオ・スキアパレッリという人物を検索すればいいだろう。……まあまず本当に人工的に造られたのかどうかから考えるべきだろうがな」

お嬢さんには魔法世界が火星だとは大分前に言ったものの人造かどうかまでは話していない……が、その認識がどうあれ問題はただ1つ。

「マスターは自然発生的なものだと思うんですか?」

「ぼーやもとても信じられないと言ったばかりだろう」

「それはそうですけど……人造異界の存在限界・崩壊の不可避性についての論文がありますし」

「お?読んだことがあったのか、ぼーや」

「えっと、詳しい事は知らないんですけどタイトルは知ってます」

「それで人造だと先入観があるのか……まあ通説だと言われたらそう思っても仕方ないか。1つ考えてみろ、仮に造る手段があったとして実行する際に必要な魔力はどこから来る?」

「普通はその場にある魔……そんな大量の魔力なんて一体どこから……」

「これの答えは奴なら……知ってるかもしれんがどうだかな……」

「それってまたマスターがたまに言う幽霊さんの事ですか?」

「……そうだ。どうせ現れんだろうが」

ここまで来た場合……。
一言。

《グレート・グランド・マスターキー》

通信終了。

《おいっ!》

《え、この声は一体!?》

《チッ……奴め、通信を切ったか》

「マスター、今の声が?」

「そうだ、訳の分からない単語だけ言いよって……。マスターキー、か」

「何の鍵なんでしょう……」

「奴が今の話を聞いていたのだとしたら魔法世界の謎に関係する事だろうな」

「魔法世界に行く前に大きな謎が増えましたね」

「今の単語は頭の片隅にでも置いておけ。さあ休憩は終わりだ、続きをやるぞ」

「……はい!」

その後、エヴァンジェリンお嬢さんに通信不能を解除した途端問い詰められたが「それには答えません」で押し通した。

ネギ少年の主な修行はエヴァンジェリンお嬢さん指導による戦闘訓練とサポート系の魔法、魔法薬の授業とそれ以外の時間は学園祭でナギの遺言体に「お前はお前自身になりな」と言われた事からその一つの取り組みとしてオリジナル魔法を目下開発中である。
その詳細は把握しかねるが……もしかしたら……というような可能性がある。
陰陽術に手をだしている辺り……否定はできない。
それに、超鈴音のDNA鑑定によりネギ少年も黄昏の姫御子の系譜であるのが間違いないのは科学的にも明らかになったが……とすれば、時々妙な攻撃が出るのはその影響なのかもしれない。
オリジナル魔法ばかり開発中かといえばそうでもなく、これまでの期間でネギ少年はかなりの新魔法を習得した。
風系、雷系の魔法は勿論、エヴァンジェリンお嬢さんから光系の魔法も教わった。
果たして使い所にはかなり問題がある大規模な魔法もあり実際使うのかどうかは分からないが……手札は多いほうがいいのだろう。
魔分の操作も上手くなり、断罪の剣も魔分で短時間であれば構築もできるようになった。

さて、大分遡るが宮崎のどかと綾瀬夕映も必死に修行に参加して魔法の練習をしていた訳だが、綾瀬夕映の方は、成長はかなりのものであった。
魔分量的には一般水準であるのは間違いないが威力はともかく、白き雷が使えるようになったのは驚きである。
実際これには孫娘がかなり衝撃を受けていた。
しかし、すぐ「うちには治癒魔法あるえ!」と気を取りなおしたが、それでも魔法の射手を練習したりと対抗意識はあるようだ。
宮崎のどかは魔法使いの資質としては平均より僅かに低いぐらいであるが使えない訳ではなく、ネギ少年達の人外訓練を目の当たりにして、「夕映程うまく魔法使えないけど」と、せめて機動力だけでもと魔力での身体強化に関する教えを請って、それなりに物になり始めていた。
とりあえず図書館探険部3人は仲良く箒で飛ぶ練習をしていたりと微笑ましい限りである。

小太郎君はと言えば地道な訓練の甲斐あって真面目に咸卦法の練習を始めて4ヶ月程度で1秒間なら咸卦法を発動させることができるようになった。
……が、実用にはまだまだ時間がかかりそうであり、それ以上続けようとすると咸卦法どころか気での強化すら解除されてしまったり、場合によっては力を入れすぎて掌で爆発が起きたりと大変である。
そんな時は孫娘の治癒魔法の被験体として役だっている為それも無駄ではない……だろう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

どうもー、108万の小切手をシスターシャークティに取り上げられて親に送られたのが懐かしいと感じられる春日美空ッス。
もうこの暑いっつうのに黒いシスター服は辛いわー。
そんな感じでダラダラ夏休みを過ごしてたりしたんスけど学園長から呼ばれたわ。

「暑い中よく集まってくれた。4人には麻帆良代表でメガロメセンブリアに行ってもらおうと思っとる。任務は一応旧世界と新世界の交流という事なんじゃが、2、3挨拶する所に行ってもらう以外は特にこれと言った仕事はないから安心して良い。ま、夏休みを楽しんでくればよかろう」

お?これってもしかしてサマーバケーションですか?

「学園長、この高音・D・グッドマンにお任せくださいませ」

「学園長先生、私も是非行って参ります」

「学園長、私も行きまーす」

「春日さん、もう少しシャキっとできないのですか?」

「ほら、学園長も夏休み楽しんでこい行って言ってるじゃないですか」

「少なくともそれはまず先に交流を済ませてからです!」

やっぱお堅い人ッスねー。

「はい、肝に銘じておきます……」

……てな訳で数日間魔法世界行ってきてOKになったんだけど、旅費は全部麻帆良学園持ちらしい上、VIP待遇を受けられるらしいわ。
なんつーか最近私旅行に恵まれているような……あ?何かマズくない?
大体麻帆良から離れるとここ最近妙に面倒な事に巻き込まれてるんだけど今回は……三度目の正直って言葉もあるし、大丈夫だよな……うん。
きっとそーだなー。

……気を取りなおして、魔法世界に行くためのゲートはまた愛衣ちゃんのジョンソン魔法学校の近くにあるのを使うから8月の週末にまた飛行機でシアトルに飛んでいくんだそうで、2度目だから大丈夫だろ。
あと3日ぐらいしかないからまた荷造りするかなー。
何持っていったらいいんだろ……十字架は必須としても金とか?
そういやドラクマと日本円ってどんなレートなんだっけか。
まほネット見た時は何も考えずにドラクマで見てたけど詳しく憶えてないわー。

「高音さん、ドラクマのレートって日本円でどれくらい何スか?」

「そんな事も知らずに行くつもりだったのですか?」

「いやー、お恥ずかしい」

「1ドラクマが16アスというのはご存知だと思いますが、あちらとこちらではそもそも貨幣価値が違います。大体の目安としては日本の100円で買えるものがあちらでは10円で買えると考えればいいでしょう」

100円のおにぎりが10円で買える感覚かー。
安ッ!

「安いッスねー」

「基準自体違いますから。1アスが10円で、例えば有名なナギ・スプリングフィールド杯のチケットは12アスですから日本円だと120円で買えます」

ネギ君のお父さんの大会のチケット安ッ!マジやっす!
あ!だからVIP待遇にできるのか。
そら10倍の貨幣価値だったら余裕だわ。
1万が10万の感覚だったらそらな。

「日本に住んでて良かったー!」

「それは確かにそうですわね。他国の魔法協会だと所によってはそうはいきませんし」

日本の高度経済成長もこういう時役に立つとは……。
ブレトンウッズなんちゃらとかいう金本位制の時は1ドルが360円だったんだもんなー。
あのエヴァンジェリンさんが600万ドルの賞金首になったのって大分昔だから……当時の貨幣価値だとえーと携帯の電卓で……ほいほいっと……おお……21億6千万……魔法世界の感覚に直すならこれに更に10倍をかけてと……216億……なんだそれ。
とんでもない金の塊だな……。

とりあえず整理すると1ドラクマは160円だけど日本人の感覚だと1600円てなもんか。
たつみーがボソッと言ってた魔法転移符が80万だから……800万を1600円で割ると5000ドラクマか。
魔法具はやっぱ高いなー。
確かにレート的に考えれば、国を選べば地球で転移符が裏で回ってるっぽいのも仕方ないなこりゃ。
あと覚えてんのは……結構良い認識阻害魔法付きメガネが確か2万9800ドラクマだから……476万8千円か……。
ダイオラマ魔法球の一番安いのなんて250万ドラクマだったから……4億……。
はー!超りんあれ5つ用意するとかやっぱおかしい!
まあさっきのエヴァンジェリンさんの賞金をドラクマに換算しなおすと……1350万ドラクマ?
幻想種って凄いわ……。
しっかし誰がこんなレートに設定したんだ?
こんだけ差があると魔法世界からこっち来るのって相当金銭的に辛いだろ。
新世界と旧世界で孤立主義がどうのっていう話だけどなんか意図的っぽいような気がするな。
ま、そんなのはさておき私は安い金で贅沢ができるって事で!
で……寮に戻って荷造りしてたらさ。
なんで情報掴んでんのかしらないけども、超りん訪ねて来たわー。

「やあ美空、魔法世界に行くそうだネ」

「ど、どうしてそれを?まさか一緒に行くとか?ちょっとそれ」

「安心するネ。私は行かないヨ。ただ渡しておくものがあてナ。ほら、魔法世界用端末だヨ。使い勝手を後で教えて貰いたいネ」

「お?あー確かにこっちの携帯使えないもんね。4つって事は全員に渡せって事スか?」

「愛衣サンの所はともかく高音サンの所に行くのは面倒だからネ。動力のシステムは端末の説明書を読んでくれればいいヨ。因みに例の通信装置も起動してあるからネ」

「そりゃー助かるわ。んー、ソーラー式と……おお?このボタンで……レバー出しーの回しーので、これでも充電できると。ありがたい、超りん、戻ってきたら感想言うよ!」

「いずれ商品化したいと思ているからどんどん使て欲しいネ」

「おっけー!高音さん達にも渡しとくよ!」

「頼んだヨ。それではナ」

これ商品化かー、つか半永久じゃんこれ。
エコって奴だな。
不思議通信も付いてるって事はどこでもまた使えるんだろうな。
念話はココネみたいな能力者だと聞き取れるらしいけどこれなら安心だもんね。
超りんもうまいよなー、これ買ってくれと言われたら手が出ないけど試用してくれって事だし。
うん、使おう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

……そして8月8日に飛行機でアメリカに飛んだ春日美空達は、ゲートを使って魔法世界にネギ少年達よりも一足先に出発していった。
因みに一応春日美空達が魔法世界に行く情報は近衛門から超鈴音に知らせてあったという事で口裏を合わせた上で端末を渡してある。

《美空達がネギ坊主達に会うかどうかはわからないがもしもの時は役に立つだろうネ》

《世界一の技術力を持った超鈴音の完全監修ですから、それはもう》

《ふむ、まあ美空ならなんとかなるヨ。それで翆坊主こちらの予定はいつになるネ。やはり出力が一番高くなる火星の大接近に合わせるのカ?》

あの事件が起きて予定通り行けば……いかなくても近いのを利用して無理やりなんとかするしかないが。

《その予定です。8月27日、日本時間18時51分、丁度太陽が落ちた後です》

《直線距離5575万0006km、6万年来の大接近カ。さよも言ていたが目立つだろうナ》

《ええ、1年早めの大発光になります。火星を観測している方達には明るくなって申し訳ないですが、諦めてもらいましょう》

《単純な接近なら2年2ヶ月毎にあるからナ。余程世界12箇所が同時に光る方が興味あると思うネ》

《綺麗だと思ってくれるだけならば良いのですが》

《問題が無数に沸く事は間違いないがそれよりも新たな何かも同じぐらい得られる筈だヨ》

《私もそれを期待しています》

《まさに新世界の幕開けだナ》

……そろそろ新たな未来へのカウントダウンも開始。



[21907] 40話 旅立ち直前
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 19:09
ネギ少年達がいよいよウェールズへ飛行機で出発する前日の事。
エヴァンジェリン邸別荘に部員全員集合。

「何だぼーや、全員わざわざ集めて」

「なんなのネギ?円陣でも組むつもり?後ここに3日はいるでしょ?」

「違いますよアスナさん。マスター、確認したい事があるんですが仮契約って後で解除はできるんですよね?」

「……そういうことか。そうだな、所定の手続きを踏めばできるぞ」

「ネギ、姉ちゃん達と仮契約するつもりなんか?」

「……うん、マスターとこの前話して、備えあれば憂いなしと思ってさ。念には念を入れてこの旅行の間だけ仮契約した方がいいかなと思ってさ」

「ネギは心配性やな。まあカードの召喚機能は前に試した時便利やったし、そういうつもりなら俺も悪うない思うで」

「もしもの時の魔力供給もできるからな。まあ、ぼーやと仮契約すると全員アーティファクトが出るだろうが。さて、どうする、お前達。ぼーやと仮契約するかしないかは自由だぞ」

「はい、もちろん強制ではありません」

「なんといっても異性と仮契約となると最近は結婚相手探しのネタにも使われるからな」

「結婚!?ネギとコタロが!?」

話はきちんと聞いておくべき。

「アスナさん!異性って言ったの聞いてましたか!」

「ほんま、アスナ姉ちゃん、よう人の話聞かんとあかんで。変な想像させんなや」

「き、聞いてたわよ!今のはわざとよ、わざと!」

「アスナ、嘘はあかんえ」

「アスナ、嘘はだめアル」

全員が訝しい目で神楽坂明日菜を見た。

「ぐっ……。聞いてなくて悪かったわよ……」

「おい、話が進まない。それでどうするんだ」

「うちはやりたいえ!できればせっちゃんともな!」

「お、お嬢様!」

「えーせっちゃんはネギ君と仮契約するの嫌なん?」

「そっちの話じゃありません!はぁ……いえ、ネギ先生の提案は良いと思います。私も仮契約は構いません」

「コタロみたいなスゴイのでるなら私もいいわよ」

「言うだろうと思っていたが、アスナ、せめて欲にまみれたような発言は思っても言うな……」

「よ、欲にまみれてなんか無いわよ!それだったらコタロなんか何よ、いつも契約執行した時の俺の咸卦法の方が凄いとかいっちゃって」

「まあぼーやと小太郎に仮契約を勧めた時は私も魔法具で釣ったんだが、前例がある上で露骨に物が欲しいと言われるとな……」

「俺も魔法具に憧れたんは認めるで……。せやけどな、アスナ姉ちゃん、俺のアーティファクトはネギがおらんと何も意味ないんやで」

「普通は何かしら武器やらアイテムが出るんだが、小太郎のアーティファクトは相当珍しいんだよ。まさに相棒と共にあるためだけのようなアーティファクトだからな」

「どうや、カッコええやろ!」

「はいはい、分かったわよー」

「あの、また話が進んでないです……。他の皆さんはどうですか」

「拙者は構わぬでござるよ」

「私もお願いするです」

「私も構いません」

「くーふぇさんと茶々丸さんは……?」

「マスター、私に仮契約はできるのでしょうか?」

「多分大丈夫だろう。ただ、茶々丸の場合は……あーなんでもない」

口付け発言をすると面倒になる事請け合いの為お嬢さんは回避した。

「あ、そうか……」

「ま、マスター?」

「安心しろ、茶々丸、大丈夫だ」

「は、はい、マスター」

「その結婚がどーとゆーのが気になるが私もいいアルよ。それで仮契約とゆーのはどうやってするアルか?」

「契約陣を書いて、10分ぐらい言葉を並べて最後に血を契約陣に双方垂らすだけだ。少し長いが我慢しろ」

「しゃべるだけアルか」

「途中で言葉間違ったらどうするの?」

「……やり直しだな。しかし、まあ、ゆっくりやって10分だ」

「俺にもできたんやから大丈夫やで。もし無理やったらアスナ姉ちゃんだけキ」

「黙れッ!小太郎!」

突如大きな声を出すエヴァンジェリンお嬢さん。

「ヒッ!?びっくりさせんなや!」

他の面々も驚いたが……。

「いいか。それ以上言うなよ。面倒事を増やさせるな」

「……あー、分かったで……。このか姉ちゃんにあの方法言わんで良かったわ」

ネギ少年に遅れて気づいた小太郎君であった。

「どうしたん?」

「コタロ、今何言いかけたのよ」

「いいから小太郎、あっちの山まで30往復してこい」

「げっ!」

「げっ、じゃない、さっさと行ってこんか!」

「お、おう、分かったで!修行や修行!はははは!」

そそくさと神楽坂明日菜達の追求を逃れた小太郎君であった。

「さて、仮契約陣は書いてやるが、呪文詠唱はぼーや達でやれよ。呪文を書いた紙を用意してやるからなんとかしろ」

「はい、マスター、ありがとうございます」

「茶々丸、ついてこい、呪文の該当箇所のコピーを頼む」

「分かりました、マスター」

そう言ってテラスから城の奥にお嬢さんと茶々丸姉さんは入っていったが、その間ネギ少年は小太郎君が何を言おうとしたのか聞かれ、「何でもないです」と連呼しつづけた。
仮契約する前から喉が枯れそうであった。
……程なくして、お嬢さんと茶々丸姉さんがわざわざ呪文にカタカナでフリガナも振った紙を数部持って戻ってきた。

「それでは契約陣を書くから少し待ってろ……陣は少し大きめにしておくか」

呟きながら割と大きめの魔法陣が書かれた。

「よし、これでいいだろう。後は自分たちでやれよ。終わったらコピーカードは纏めて後で作ってやる」

「はい!ありがとうございます!」

この後ネギ少年は7人の女子中学生と1時間以上の時間をかけて仮契約を終えた。
途中詠唱に神楽坂明日菜と古菲が見事失敗して無駄な時間がかかったのは仕方ない。
オリジナルカード7枚が出現したところでネギ少年はエヴァンジェリンお嬢さんの元へ届けに行き。

「マスター、終わりました!」

「ああ、分かった、オリジナルカードを渡せ。ぼーや、茶々丸と仮契約をさっさと済ませろ。もうそこに陣は書いてあるからな」

「お願いします。それでやっぱりキス……ですよね」

「ん、当たり前だろう。茶々丸には血がないのだから仕方がない」

「ネギ先生……私とのキスは嫌ですか?」

「そんな事はないです!……けど……なんていうか……」

「なんだ、ぼーやはファーストキスに拘りでもあるのか」

「ち、違いますよ!」

「分かった分かった。ぼーやが今からするのはノーカウントだ。ぼーや、力を抜いて後ろを向け」

「え?あ、はい……」

「よし」

「ッ!?」

ネギ少年がお嬢さんに背を向けた瞬間に首筋に強烈な手刀を叩き込み、倒れた身体を茶々丸姉さんが支えた。

「ま、マスター、こんな手荒真似をされては……」

「いいから」

「わ……分かりました。ネギ先生……失礼します」

「茶々丸……恥ずかしそうな顔をされるとこちらが恥ずかしい……」

「そ、そんなことは……」

「あーいいから早くしろー」

気絶したネギ少年の前で一騒動あったが茶々丸姉さんの仮契約も、茶々丸姉さんは「もし仮契約カードが出なかったら……」と心配になりながらも試したところ……実際無事に済んだ……が……。

「アーティファクトカードでは無いな」

「普通のパクティオーカードという事ですか」

「……気にする事はないだろう。いいじゃないか、茶々丸、アーティファクトが出ないとしても、これでお前にも魂はあるという一つの証明になったんだからな」

「マスター……。はい、ありがとうございます」

そしてまた全員が集合したところで……。

「「「「アデアット!!」」」」

アーティファクト召喚祭り。

「剣が出たわよ!」

「うちは扇と衣が出たえ!」

「私は複数の小刀ですね」

「拙者は布が出たでござる」

「私は棍棒アル!」

「本が出ました」

「私も本です」

「……よくもまあゾロゾロ出るものだな」

「……そうですね」

「何や姉ちゃん達皆アイテムやないか。欲が出とるな!」

「コタロー、少し羨ましいでしょ……」

「……そら俺だって何か欲しいで」

「コタローは僕の相棒だよ」

「へっ!当たり前や」

そして各々出たアーティファクトの性能を試す事となり。

「これでアスナに真剣を渡す必要も無くなったな」

「都合よく出るんですね……」

「ねー、これ何か特殊能力とかないの?」

「あるだろうな、ほら」

―火よ灯れ―

火よ灯れにしては巨大な炎がお嬢さんの指から出て神楽坂明日菜の剣を焼いた。

「何するのよ!ってあれ、消えちゃった」

「分かったか、魔法無効……小太郎、気弾をアスナの剣に向かって撃て」

「おう!」

―空牙!!―

「ちょっと!ってこれも!?」

「おおっ!気も無効化するんか!」

「まあ予想の範囲内だな」

「びっくりさせないでよ……ってなんでハリセンになってんのよ!」

いつの間にか見事な大剣がハリセンに退化していた。

「ほんとだ……」

「気が抜けたんちゃうか」

「形態が変化する事はアーティファクトではよくある。ま、慣れる事だな。で、このかのはどうやら治癒系、刹那と古は見ての通りか。楓は……隠密用の布の中と言ったところか」

まほら武道会を思い出すとわざわざアーティファクトでやらなくとも、地面に同化するぐらい忍者なら大体できる隠密技術である……が。

「いや驚いた。中にキッチン付きのウチがあったでござるよ」

「何ぃ!?」

流石にお嬢さんもこれには驚いた。

「家が入ってるんですか!?」

「宿いらずやないか!」

「楓、うち入りたいえ!」

「楓、私も入るアル!」

「ずるいわよ!私も入るわ!」

「楓姉ちゃん俺も入りたいで!」

「ならば一緒に入るでござるよ」

家が付いているとあって物件的にも一番人気。

「……次、ゆえとのどかの本は何だ」

「私のは世界図絵、魔法学大全のようです」

「……ほう、ならそれで色々学習できるだろうな」

「夕映さんに合ってますね。のどかさんのは何でしたか?」

「私の本はいどのえにっき……というらしいです」

「……魔導士シャントトが1469年に作ったというマスターピースとも呼べる魔法書だな。効果は……」

「相手の思考が読める……みたいです」

「ま、マスター……」

「ああ、危険だな」

「え?危険って?」

「ぼーやの父親探しに役立つ可能性が高いが、相手に読心の事が知られれば下手すると命の危険が生じるだろうな。仮契約を解除しろとは言わないが使い方には気をつけろよ」

「のどかさん、無闇な使用、特に知らない人に対しては使わないでくださいね」

「は……はい、ネギ先生」

「まあ、ちょっと見せてみろ」

「あ、どうぞ」

「…………ふむ、濫用を考える者の手元には召喚されない……か。なるほど、今ののどかは濫用はしないと認定されたからこのアーティファクトが授与されたという事か。どちらにしろ使い過ぎると場合によってはそのうちアデアットできなくなる可能性が高いな。返すぞ」

「マスター、そんな事あるんですか?」

「さっき形態変化する事があると言っただろう。似たようなものだ。茶々丸のカードだって今はただの仮契約カードだがそのうちアーティファクトカードに変わるかもしれん」

「な、なるほど」

「まあ召喚機能ともしもの契約執行をうまく使うことだな」

「そうですね」

本のアーティファクトが出た2人について一段落ついたところ。

「和室だったわねー」

「はー、ほんまに家あったな!」

「食料なんか入れておいたらきっと便利やね」

続々と残りの面々が布から飛び出してきた。
恐らく他人にも利用出来るという点で長瀬楓のアーティファクト、天狗之隠蓑はなかなかに活用頻度が高くなりそうである。

「マスター、こんなにポンポンアーティファクト出ましたけど、実際一体どこから出てくるんですか?」

実に真っ当な疑問ではある。

「……世界パクティオー協会、だそうだ。人間は誰も行けない所にあるらしい。好き勝手な精霊達が趣味でやっているなんて言われているな。それに全てのアーティファクトを管理しているかというと、今までに確認されたものだけらしい。だから精霊達としてもたまに新しいものが出たら面白いという事なのだろうよ」

「へー、そうなんですか」

協会というにはあまりにも気まぐれなもの。

「詳しい事は例の魔法生物にでも聞いた方がいいだろう。あれも一応妖精だからな」

「そういえばカモ君、帰ってきませんね」

「知らん、そのうち帰ってくるだろ」

「あはは……」

「……それとこのか、仮契約はこちらに戻ってきたら必ず解除するからな」

「なんで?……あー!そやな」

「すいません、このかさん、呪術協会の兼ね合いもあるんですよね……」

「少し真面目な書類でも書いておくといいだろう。この際それも用意してやる。それ以外はまだ出発まで時間がある事だ。今のうちにある程度アーティファクトの使い方には慣れておけ」

「「「「はい!」」」」

「よし。ぼーやとこのかは付いてこい。さっさと終わらせてお前達も最終調整だ」

「はい、マスター!」

「分かったえ」

……こうしてネギ少年達が出発する前の限定期間付きのつもりでの仮契約も終わり、その後ネギ少年達はしっかりと最終調整を各自行った。
この夏だけで相当な時間数修行しており、ネギ少年単体ではこの1年で確実に2歳以上年を取ったが……許容範囲内としておきたい。
ネギ少年の新術はやはり完成には至らなかったがあちらに行ってから完成するかもしれないし……しないかもしれない。
当然他の面々も大分強くなっているので、戦力面ではあまり心配は無いが、こうなると話す前にすぐ……手、が出てしまわないかが心配の種だ。

……そして8月12日、ネギ少年達は修学旅行から3ヶ月超で再び成田空港から英国はウェールズへと再び旅立っていった。
因みに今回のネギ少年達の魔法世界行きの情報は厳重な配慮がなされ、本当に一部の人間しか知らない極秘事項となっているため、孫娘の立場的に呪術協会系で揉め事が起きる事も最初から無い。
それが良いか悪いかはともかく……後はなるようにしかならない。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

美空達に続き、ネギ坊主達も魔法世界へと向かて飛行機に乗て旅だた後間もなく、私達はクウネウサンの所に集またネ。
目的は……まあ答え合わせという所かナ。

「ネギ君達はとうとう旅立って行きましたか」

「何か起こると分かっていながらぼーや達を送り出したがどうなることやら」

「ネギ坊主達なら大丈夫ネ」

《何かに巻き込まれるのは間違いでしょうが、何とかなります。きっと……》

「おい、その自信の無い言い方はなんだ」

「ならエヴァも付いていけば良かったのではないですか?」

「ふん、私が付いていかなくてもぼーや達なら……大丈夫だろうさ」

エヴァンジェリンも思うことは同じカ。

「フフフフ」

さてと……。

「ところでクウネルサン、10年来の約束の為だけにネギ坊主をここで待ていた訳ではないのだろう」

「……はて?何のことでしょう」

とぼけるのカ。

《クウネル殿がわざわざこの麻帆良、そしてこの場にいる理由です。例えば……クウネル殿は魔法世界の事情を知っているのは私も承知の上ですが、私達の計画が無かった場合……いえ、現在進行中のその術……の件と言えば良いでしょうか》

……答え合わせかと思えば……翆坊主はそれも知ているようだナ。

「……ええ、ご存知の通り、私は例の件を以前から知っていました。そしてキノ殿の言うとおり、突然具体的に重力魔法について尋ねて来た上、超さんまで連れてきてくれ、計画と言えば非常に興味深いものです。理由ですが、想像されている通りです。……わざわざ私の遅々として進まない研究をしなくて済みました。本当に感謝しています」

《その状態を維持する必要も……最早ないのでは?》

「……それもそうですが……まだ結構です」

「……話が読めんぞ。なんだ、アルも魔法世界の崩壊とやらを解決するための研究をしていたとでも言うのか」

「キティ、正解です。えらいですね」

「嬉しくないわ!」

「フフフ、ところでこれを知ってどうするつもりなのですか?」

「何、ただの答え合わせのようなものネ。とはいえ、翆坊主も知ているみたいで拍子抜けだけどナ……。直接聞くという事に意味があると思うのだが、クウネルサン、実際どういう術だた……なのかナ?」

「……ほほう、答え合わせですか。……そういう事ならいいでしょう。……世界樹の魔力についてはナギも注目していました。……魔法世界人は例えゲートを使ってコチラ側に逃げてきたとしても……魔法世界が崩壊すれば結局は消えてしまうという事実。そこで私は世界樹の魔力を利用して……身体を維持するという実験を行っていたのです。これで、よろしいですか?」

「……なるほどナ」

大体予想は当たていたネ。

《ナギが京都で行っていた研究はそれが関係していた……と》

翆坊主は完全に確認だナ。

「……はい。昔の魔法使い達の遺跡について調べれば何かわかるかもしれないと一生懸命でしたね……」

「ナギはそれをやっていて私の事をすっかり忘れていたのか……」

「……ナギは目の前の事に集中すると周りが見えなくなる事が多いですからね。まあただ単にバカだっただけかもしれませんが」

「……アンチョコ見ながらでないと長い詠唱などできないような奴だったな……。記憶力に難がありすぎだろう……」

「……その分、魔法の扱いの才能、魔力、戦闘センスにかけてはまさに並ぶ物無しの最強無敵。……それにアンチョコさえ見れば深い理解が無くとも大体魔法が使えるという有様でしたからね。普通呪文だけ見ても簡単には使えないものなのですが」

《それが由来で、更に得意の千の雷とかけて、千の呪文の男、サウザンドマスターなどとは実に言い得て妙です》

「本当にデタラメな奴だよ……。そんな最強が今は一体どこにいるんだか……」

「イスタンブールで何かがあったのは間違いないのですがね……」

この言葉もエヴァンジェリンがいる事を考えると……どうだろうナ。

《……それに関係するとネギ少年の生まれも少々複雑ですが》

「ナギ・スプリングフィールドが失踪したのが1993年、ネギ坊主が生まれたのは1994年、少なくともその間母親は無事だたという事カ」

エヴァンジェリンの為に言ているような感じになているかもナ。

「そうだ!一体奴はいつ誰と結婚していたんだ!」

「……フフフ、いつ、誰とでしょうね」

「古本、燃やすぞ」

「キティの得意魔法は氷では?」

「だからその名で呼ぶなと……もういい、茶々円、知ってるだろ」

《1985年、アリカ・アナルキア・エンテオフュシア、ウェスペルタティア王国……王女様》

「あー?」

エヴァンジェリン、不良のような顔するのはやめるネ……。

「はぁ……つまり私と出会った15年前には既に婚姻していたという訳か。なるほど……私になびかぬ道理よ。……そういえばアスナがナギと知り合いなのだから当然…………おい、茶々円、だとすると何だ、アスナがぼーやに拘っているのは血縁関係もあるとでもいうのか?」

《それは……超鈴音、いかがですか?》

私に振てくるカ。

「ふむ、私の出番だネ。……実は修学旅行の時、ネカネサンの髪の毛を採取して明日菜サン、ネギ坊主のDNAと一緒に鑑定したんだヨ。結果は……まあ血縁関係は見事にあたヨ。しかも……アスナさんが一番古かたネ」

「そうか……ってアスナが一番古いだと。そうか……なるほどな……大方血が濃いのを利用されて長い事封印でもされていたという所か」

エヴァンジェリンもそう思うカ。
クウネルサンは静かに沈黙を保ているナ。

《……その可能性が高いでしょうね》

「……しかしアスナが黄昏の姫御子であるなら尚更、魔法にあえて関わる方向に進んだのは、まさに全てを犠牲にして得た平穏を自ら捨てたようなものだな」

《そう言われる割にはしっかり自衛手段を持たせられるようにと訓練させていましたが》

「フッ……まあなかなか見込みはあったからな」

「キティは素直ではありませんね」

「……うるさいぞ」

「それで……ネギ坊主のその母はどうなのたのだろうネ」

「それは私もこの地下に篭った後の事ですから正直な所は……。陛下も恐らく……失踪されたのでしょう」

「その点はぼーやのじじぃに聞くのが早そうだな」

《…………場合によっては石になっている村民の方々というのも選択肢かもしれませんね》

翆坊主もこの事は知ているのか……知らないのカ……。
私の考えを言うカ。

「置き手紙と幼いネギ坊主だけ残して消えたなんてまるでお伽話のような事もありそうだネ」

「……後は想像にお任せ……ですね。ところで、こんな話をするという事はもう目処は立ったのですか?」

「まほら武道会の時にクウネルサンに言た通りネ」

《……おかげ様で、今月の末には魔法世界の一番の問題は解決します。……その後はその後で面倒でしょうが》

「……おや、もう今月には解決するのですか」

《……はい、十中八九そうなる予定です》

「翆坊主、詳しい事は後でちゃんと話すネ」

《勿論です》

「茶々円、私が手伝うことはないのか?」

《エヴァンジェリンお嬢さん、お心遣い感謝します。この件は特に問題なく行くと思いますから……もし頼むとすれば解決した後になるでしょうね》

「……まあ無理にとは言わんさ」

「……ふむ、そろそろ私は作業に戻るかナ」

「私も久しぶりにゆっくり家で過ごすとするか」

「これから暑くなりますが、お菓子とお茶は出しますからいつでもいらしてください」

「分かてるヨ」

「ああ、気が向いたらな」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

……私が観測できる最後の最後であるが、ネギ少年達がウェールズに到着し、一泊するのを視ていた所、あるものに気がついた。
彼がウェールズに出現していた。
これは確実に何かが起こると見て間違いない。

《翆坊主、ネギ坊主達に何かが起こるというのはもうすぐなのカ?》

《楽しみは取っておくもの……と今回は言えませんが、恐らくもう後数時間という所です》

《しかしそれは私達の計画には必要なことなのだろう》

《そう言われると……そうですね。非常に上手く利用できると思います。しかし……まだ起きると決まったわけではありませんよ》

《どうだかナ。……私はネギ坊主達がそれに巻き込まれても無事に済むことを祈るヨ》

《そうですね。……ネギ少年達が無事に帰ってくることを願いましょう》

ネギ少年達にとっては超鈴音の祈りというよりも既に渡した物が一番のお守りになるであろう。



[21907] 41話 2003年8月27日火星大接近(魔法世界編1)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 19:10
2003年8月27日日本時間18時36分00秒、地球麻帆良、神木・蟠桃。

太陽は地平線に沈み、1年早い超大発光の中心、世界樹は麻帆良のいかなる場所よりも明るく明滅していた。
魔法世界強制位相同調まで後15分、既に麻帆良地下に存在していたゲートポートは再起動を果たしていた。
ここでまず、かねてより用意していた術式を実行し世界に存在する魔分溜りの吸い上げ、ゲートポートから麻帆良に流れこんでくる魔分の吸収を開始。

《星座標、月運行との同期、世界11箇所の聖地からの魔分河流形成および接近を確認、到着まで600…599…598…597…596…595…594…》

《並行して地下ゲートポートからの魔分流入の吸収を開始。蟠桃出力順次上昇。暫定最高出力見込みまで144…143…142…141…》

《神木・扶桑内、優曇華による魔分展開補助プログラムの起動を開始するネ》

《了解。魔分河流到着まで560…559…558…557…556…555。続けて蟠桃・扶桑間ゲート開門用意、開通まで15…14…13…》

2003年8月27日日本時間18時36分59秒、地球麻帆良、神木・蟠桃。

《カウント1…0…。蟠桃・扶桑間ゲート開門完了。蟠桃管理権限を精霊体個別識別名:SAYOへ譲渡及び精霊体個別識別名:KINO、扶桑へ転送》

《管理権限の譲受を確認。吸収済地下ゲートポート魔分の暫定出力範囲内での転送開始》

2003年8月27日日本時間18時37分01秒、火星北極圏、神木・扶桑。

《精霊体個別識別名:KINO、扶桑の統制掌握。転送済魔分の軌道上への打上開始。星座標、フォボス、ダイモスの運行計算、強制位相同調の準備開始。扶桑出力順次上昇。暫定最高出力見込みまで150…149…148…147…146…145…》

《優曇華、アーチ開放。魔分打上援護を行うヨ》

《了解》

火星では依然として幻術魔法が行使されていたが、神木・扶桑からの魔分打上はまるで天に向けて伸びる光の柱の様だった。

2003年8月27日日本時間18時38分20秒、地球麻帆良、神木・蟠桃。

《蟠桃暫定最高出力まで10…9…8…7…6…5…4…3…2…1…上昇完了。魔分河流到着まで449…448…447…446》

《暫定最高速での魔分転送を確認。扶桑暫定最高出力まで57…56…55…54…》

2003年8月27日日本時間18時39分21秒、火星北極圏、神木・扶桑。

《扶桑暫定最高出力まで10…9…8…7…6…5…4…3…2…1…上昇完了。魔分打上暫定最高速に到達》

《魔分河流到着まで379…378…376…375…374…》

北半球11箇所の魔分溜りからそれぞれ光の河が発生し、その全てが一路麻帆良上空を目指していた。

2003年8月27日日本時間18時45分50秒、地球麻帆良、神木・蟠桃。

《魔分河流到着まで10…9…8…7…6…5…4…3…4…1…蟠桃上空に魔分渦確認。対星魔分供給反転まで4…3…2…1…蟠桃出力増加。暫定最高値比105%…111%…118%…126%…135%…145%依然増加中》

《扶桑出力も遅れて増加103%…107%…115%…121%。並行して魔分打上速度最大加速》

神木・蟠桃上空1万kmを越す地点に集まった魔分は巨大な渦を巻いて集積、直後、神木蟠桃に向かって空から巨大な光の柱が落ちた。

2003年8月27日日本時間18時50分00秒、火星北極圏、神木・扶桑。

《星座標、フォボス、ダイモスの運行の計算及び強制位相同調準備完了。起動まであと60…59…58…57…。扶桑出力177%…174%…176%…》

《蟠桃出力189%…192%…193%…。200%を超えると危険域に到達する可能性アリ》

《扶桑出力は概ね安定。蟠桃の出力は200%未満を維持すべし》

《了解》

麻帆良では、神木・蟠桃を直視すれば超大発光のために眩しくて何も見えず、火星でも神木・扶桑は勿論、二つの月も淡く発光し始めた。

2003年8月27日日本時間18時50分50秒。

残すはカウントダウンのみ。

《地球と火星の最大接近まで10…9…8…》

《強制位相同調発動まで7…6…5…》

《《《4…3…2…1…》》》

2003年8月27日日本時間18時51分00秒。

―火星北極圏、神木・扶桑―        ―地球麻帆良、神木・蟠桃―
 《強制位相同調発動!!》       《火星最大接近、直線距離5575万0006km!!》


……2003年魔法世界暦にして10月某日。

地球との時間の流れの差にして4倍以上の開きができていた魔法世界は、この日時空間の壁を突き破る神木の強制位相同調によって火星との完全な同調を果たした。
時間にしてわずかに瞬きする間に火星の大地は魔法世界側の物に瞬時に同化、エリジウム大陸、龍山大陸等元々火星に無かった地形も即座に隆起、海水面も津波無く上昇した。
この同調による地形変化での動植物、無機物への被害はまさに奇跡の如くゼロ。
幻想的世界の象徴とも言える多数の浮遊岩、浮遊大陸も健在である。
直ぐ様同調したと気づいた魔法世界の人類は果たしていたのだろうか。

その答えは……地球の暦でおよそ2週間を遡る所から始めよう。



[21907] 42話 ゲートポート事件(魔法世界編2)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 19:10
―2003年8月13日英国時間、5時36分、ウェールズ、宿―

ネギ一行はゲートへ向かう前に荷物整理をしていた。

「みんな、杖・刀剣類等は全てこの箱の中にしまう必要があるから出してもらえるかしら」

「分かりました、ドネットさん」

「もし隠し持ってたのがバレたらどうなるんや?」

「メガロメセンブリアはそういう規制が厳しいから、もし隠し持っていたとなるといきなり屯所行きね」

「マスターが言ってた法的にってそういうものなのかな」

「拙者常にあちこちに武器を隠しているが全部出すのは面倒でござるな……」

そういいながら隠し持っているにしても体積が合わない武器類がゾロゾロ出始める。

「楓さんいつもどこに巨大手裏剣しまってるんですか?」

「これでござるか。4枚に分解して背中にいれているでござるよ」

「……意外と普通なんですね」

「何も臓物の中に隠したりはしないでござる」

「そんなこと期待してないですよ!」

殆どが長瀬楓の忍具で埋め尽くされたがなんとか終わりである。

「そういえば修学旅行の時ネギ先生仮契約したって言っていたけれど、仮契約カードのコピーカードはこの中にしまってね」

「あ、仮契約カードも含まれるんですか?」

「ええ、武器の場合もあるから一括して全てカードも入れる決まりになっているわ」

「分かりました」

「俺の武器やないんやけどな」

「うちのも違うえ」

「え?ちょっとネギ!このかとも仮契約したの!?」

「私もよ、アーニャちゃん」

「拙者もでござる」

「私もアルよ」

「私もです」

「な、な、な、なんて事!!あんた……そんなにキスしたかったの!?」

ワナワナ震えながらネギに指をさすアーニャ。

「……アーニャ、キスじゃない方法だし、この旅行期間限定なんだよ」

「ほ ん と に ?」

大変胡散臭そうな目である。

「本当だよ!」

「ちょっとネギ、キスって何よ」

「えー、キスでも仮契約ってできるん?」

「く、くく、口付けアルか?」

「あら、キス以外の方法でやるなんて珍しいわね。時間かかるのに」

「あーあー、折角エヴァンジェリン姉ちゃんが面倒いうて隠してたのが台無しやな。ええやん、姉ちゃん達みんな呪文唱えるのでやったんやし」

「キスねぇ……だから結婚のネタなんて言ってたのね……」

「キスの方法があったんかー。ほな、せっちゃん、せっちゃんとする時はキスでええ?」

「お、お嬢様!な、何を!」

「……いいかしら、まだ時間は大丈夫だけれどそろそろ出発した方がいいわ」

「皆さん!仮契約カードを全て出してください!」

出発前も騒ぎが絶えない団体である。

「それでこの箱はどうなるんですか?」

「ゲートで転移する時に自動でゲートポート内に届けられるわ。その後受付で入国手続をして、また受け取る事ができるの。その時はこんなに大きい箱ではなくてもっと小さな封印箱に変わってるわ」

「厳重なんですね」

「その通りよ。ゲートポート内での魔法使用は厳禁だからその一貫ね」

「空港の荷物検査みたいなもんなんやね」

「僕達普通に刃物もって来ちゃいましたけど……」

深いことは気にしてはいけない。

「さあ、ゲートに向かうわよ。皆コートを着て付いて来てね」

「「「「はい!」」」」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

途中はぐれたりしないように気をつけるようにと、ドネットさんがゲートへの道案内をしてくれた。
意外だったのは昨日メルディアナに着いたときにアーニャも行くって言い出した事なんだよね。
おじいちゃんから聞いてたみたいだから前から準備してたみたいだけど……。

「さあ、着いたわよ」

霧が晴れてきて……。
凄い、ストーンヘンジだ!

「わー、結構人いるんですね」

「これでも少ない方よ。ゲートが開くのは一週間に一度、酷いときは一ヶ月に一度なんて時もあるわ」

孤立主義っていうのもその間隔だと仕方ないのかな。

「ドネットはん、ここに誰か紛れ込んだりせえへんの?」

「それはまずありえないわ。もしいるとしたらそれは世界最強クラスの魔法使いか、あるいは人間じゃないわね」

「世界最強クラス……」

「エヴァンジェリン姉ちゃんならできるんやろな」

「さ、まだ時間はあるけれど第一サークルの中に入って待ちましょう」

「はい!」

……あれ?ここ何か魔力の質が違うような……。
……なんだろう。

「ドネットさん、ここって何か変な感じしませんか?」

「変な感じって?」

「いえ、その、魔力の質が他と違うような気がして」

「私にはそんな事は感じられないけど、ネギ君何か感じるの?」

「あ、いえ、ただ何となくそんな気がしただけです、あははは」

……なんだろう、地球の魔力とは色が違うようなのがこのゲートから僅かに漏れてきている気が……。
漏れて……?
……まさかそんな筈は……。

「ネギ!肉まんたべんか?」

「ネギ坊主も食べるアルか?」

ほんとに肉まん大臣……。

「はい、僕も食べます!」

「サンドウィッチもうまいで」

「ちょっとコタロ、そのサンドウィッチは!あ、ごめんなさい!」

アーニャが誰かにぶつかった。
顔は見えないけど背丈は僕と同じくらいか。
なんだか変な予感がするんだけど大丈夫かな。
それに詠春さんに写真を見せてもらったラカンさんは……マスターが言うように来なかったらどうしよう……。
しばらく時間になるまで待っている間、夕映さんが持ってきた魔法世界に関する話を聞いたりしているうちに時間になった。

「いよいよ出発よ」

地面が光りだしてゲートが開く……。
やっぱり、魔力が違う気がする!
うっ眩しいっ!

……光が収まったたように思うけど……。

「着いたわよ」

「わー、サークルが一杯あるんね」

星型の魔方陣が書いてある台がいくつもある。
行き先別なのかな?

「空港のターミナルのようなものね。ネギ先生、このかさん、受付で入国手続きをしましょう」

「そうや、近衛名義だったんやね」

「はい」

「他の皆さんは先にあそこから外を見ることができるわよ」

「おっしゃ!一足先に外を見てくるで!」

「コタロ!待ちなさいよ!」

コタロー達は元気だな。
……ん、なんだ!?
これは!足元に、巨大な魔方陣!?
どんどん広がっていく!

「ドネットさん!!」

「こ、これはまさか強制転移魔法!?こんな全体に一体どうやって!?」

まずい!
杖も武器も無い!
あるのは荷物だけだ!

「ネギ!一体どうなって!?わぁぁっ!?」

もう発動したッ!?

「あ、アスナさん!手を!」

「ネギー!!」

「アスナさーん!!」

あぁ届か……ないッ!
凄い勢いで吸い込まれる!
このままどこかに飛ばされる!!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月13日メガロメセンブリア、ホテル、深夜―

いやー、高級ホテルに豪華な食事、まさに夢の国だな気に入った!
麻帆良の魔法生徒やってるだけでこの待遇はいいね!
まあ物価のせいもあるだろうけどさ。
にしても超りんとの旅行も良かったけどこっちの夜景もスゲーわ。
ココネの故郷も見てこれたし満足満足。
にしてももう明日帰るんだよなー。
1週間ぐらいいたっていいのに。
あーこの飲み物も美味いなー。
ま、とりあえずテレビでも見るか……。

[只今入りました緊急ニュースをお送りします。世界各地のゲートポートで同時多発テロが発生し、世界を繋ぐ楔が破壊されました]

「ブッー!!って帰れねえぇーッ!?」

誰だよそんないらんことしたのは!
いやーマジもう日本戻れねー。
骨でも埋めんのこれ?
結局三度目の正直も裏切られたわ!!

[尚、ゲートポート内にいた利用者、職員全てが消え去るという異常事態も起きており、現在大変な混乱が起きている模様です。新たな情報が入り次第引き続き報道をしていく予定です]

何?全員死亡?それとも失踪?

「おいおい、神隠しって何スか!」

「ミソラ……」

「なんですか春日さん、大きな声を出して」

「高音さん!ニュースニュース!ゲートポートでテロで帰れない上、神隠しッス!!」

「何ですって!?」

「お姉様一体……?」

違うチャンネルでもニュースやってたから高音さん達も見て分かってくれたわ。

「で、高音さん私達これからどうするんスか?」

「……まずは私の両親に連絡しますわ」

「あー!高音さんの親御さん魔法世界にいるんスね!」

「私も連絡します、お姉様!」

愛衣ちゃんもかい。

「確かゲートって直すのに数年かかるんじゃ?」

「当分はこちらで過ごす事になるでしょうね……」

「……学校帰れないなー。卒業式は……出れんなこりゃ」

高音さんがいるからって理由で葛葉先生ついて来るかと思ったらこなかったし……って葛葉先生的には来なくてよかったか。
彼氏と世界隔絶して恋愛とか無いもんなー。
一体どこのどいつだよゲートポート破壊なんて……。
……まぁ、金の心配ならなんとかなるだろ。
高音さんとこに厄介になるだろうけど、あれだよ、鬼ごっこの賞金とかあるしさ……今手元に無いけど……。

「あのー、携帯みて下さい。表示されている名前があるんですが……」

「え?」

まさかこの事件は超りんの仕業……なんてことはないだろう……けど、あ?
ネギ君の名前が何で表示されてんの?

「これ不思議通信用のアレじゃ?」

「まあ、ネギ先生ですわね。一体どうして……」

「とりあえず通信かけてみればいいッスよ」

そいっ!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

わぁぁぁぁ!!!

着いたみたいだけど……ここは一体……?
夜のような昼のような微妙な明るさ……それに寒い!
一面雪と氷ばっかりだ!
とにかく魔力で身体保護をしないと……。
荷物はあるから食料もあるしすぐには死んだりはしないけど……なんでこんな事に……。
……あれ、あそこに場違いなお姉さんがいる……あ、倒れた!
まずい、助けないと!
……少し離れてたけど見えて良かった。
楓さん達と遠くをみる訓練したお陰だな。
あ……この人魔力で身体保護ができないみたい。
どうしよう、杖も一切ないし……。
発動媒体無しで使える魔法は……いつものあれだ!

―魔法領域 展開!!―

あれ……少しいつもと感覚が違う気がする……。
いや、でもとにかくこれが浮遊術と同じで杖なしでできてよかった……。
防御用だけど誰か特定の人を中にいれて保護することもできるように練習しておいた甲斐があったな。
この人、僕が着いてすぐ倒れたって事は、僕が到着したのとは少しタイムラグがあるのかもしれない。

「大丈夫ですか!」

身体中が冷え切ってる!

―魔法領域 出力最大!!―

これで体温を上げさせてなんとかしよう。

《ネギ!皆!聞こえる!》

あ、これは超さんのくれた端末の通信!

《アスナさん!大丈夫ですか!》

《ネギ!あんた大丈夫なの?今どこ?私どこかの山林の中でそろそろ日が落ちるみたいなんだけど一体どうなってるのよ!》

《アスナ!ネギ君!うちは暑い砂漠や!》

《お嬢様!私も砂漠です!ですが……夜なので寒いです……》

《僕は雪山だと思います!太陽の位置的に昼なのか夜なのかはわかりません。今僕と同じように飛ばされたように思える女性が冷え切ってて大変なんです!》

《ネギ!俺も似たような雪山や!気で保護せんとすぐやられるで!》

《拙者は密林で恐らく昼ごろでござるよ、何やら巨大な生物がいるでござる》

《私は高い山アルが、雪はない所アル!朝日が見えるアルよ!》

《ネギ先生……私はどこかの遺跡の中みたいです……》

《のどかさん!》

《ネギ先生、私は今ドネットさんと一緒にいますが、恐らく楓さんと同じ密林にいるようです》

《茶々丸殿もでござるか》

《ドネットさんもいるんですか!》

よく近くにいれたな……。
ドネットさんは端末持ってないから茶々丸さんが近くにいて良かった。

《はい、白き翼のバッジには私のセンサーで位置がわかる機能がついますので範囲内ならば、時間をかければ皆さんの位置がわかると思います。まずはドネットさんにも会話に参加して頂きます。ドネットさん、手を当てて下さい》

《こ、これでいいのかしら。皆大丈夫?茶々丸さんが今会話を説明してくれていたから大体聞いていたけれど》

《ドネットさん、今会話していた皆は大丈夫です!でも夕映さんが反応しませんし、アーニャは場所自体が分かりません》

《……そう、分かったわ。でもこの端末は凄いわね。こうしてかなり離れている筈なのに会話できるなんて。さっきのは恐らく何者かが強制転移魔法であの場にいた全員を世界各地に飛ばしたようね。いいかしら、まずは各自の身の安全を最優先してちょうだい》

僕のせい……じゃないだろうけどいきなりこんな目にあうなんて……。

《《《《分かりました!》》》》

《皆さん、超の端末から写真が送れます。もし星が見れるならば私に送ってください、星の位置から場所が割り出せます。他の皆さんも景色を撮ってもらえれば場所が分かる可能性があります》

そうか!
サーバーとかどうなってるかわからないけど写真が送れるのは助かる!

《茶々丸さんお願いします!太陽が変な位置にいますけど星もみえてます!》

《俺もや!》

《砂漠の夜で星はよく見えていますので送ります》

《私も日が落ちたら写真送るわ!》

《アスナさん、夜の山は危険ですからできるだけ早めに寝床の用意をして下さいね》

《分かってるわよ!エヴァンジェリンさんの所でどれだけ修行したと思ってるの?》

《あはは、そうでした》

《せっちゃーん!砂漠暑いえー》

《お嬢様!?ご無事ですか!》

《うん、遠くやけど街みえとるから多分大丈夫やよ。箒あったらええのになー》

《このかさん、蜃気楼には気をつけてください》

《分かったえー》

《のどかさんは大丈夫ですか?》

《は……はい。とにかく外に出てみるようにします。もし無理でも雨風はしのげますし、命に別状はありません。それよりゆえはどうして反応しないんでしょうか?》

《……分かりません、持続的に話しかけ続けるしかない……と思います》

《ネギ、一緒にいる女の人ちゃんと助けるのよ!》

《はい、勿論です!それではまた何かあったらお互い必ず連絡をして下さい!》

《分かったえ。離れててもこうして皆と話せて良かったなぁ》

それは本当に間違いない、超さんには感謝しないと。
どうも一応陸地に転移させられているみたいだし、だとすると海に投げ出されたりって事はないみたいだから夕映さんもアーニャも多分大丈夫かな……。
落ち込んでいられない、まずは写真を撮って茶々丸さんに送ろう。
折角仮契約したのにカードは全部ゲートにあるままなんて……。

「ん……何だか温かい……」

「あ!目が覚めましたか!」

「んん……坊やは一体誰?」

「僕は……ネギ・スプリングフィールドです。まずは身体を起こしてください。地面は雪で寒いですから」

「あ、ありがとう。スプリングフィールド……ああ!ネギ・スプリングフィールド様ですか!?」

「え?あ、はいそうですけど」

「私メガロメセンブリアゲートポート受付のミリア・パーシヴァルと申します。ネギ・スプリングフィールド様がいらっしゃると存じておりました」

……凄く自然に握手された。
場違いな格好だと思ったらゲートの受付の人だったのか……確かに胸の所にネームプレートもついてる。

「いえ、そんなに畏まらなくて結構ですよ」

「し、失礼しました。それにしてもここは一体何処なのでしょうか……。いきなり足元が光ったと思えば雪山に投げ出されて寒さで倒れたのですが……」

「僕もまだ分かりませんが安心して下さい、場所はもうすぐ判明すると思います。あの、ミリアさんは身体保護できますか?」

多分太陽の位置と明るさからいって極地に近い気がするんだけど……。

「魔力でですか?……残念ながら……」

どうしよう……魔法領域もずっと展開していると効率が悪いし……。
何か手は……魔法発動媒体も無いし、アレしかないかな……。

「ちょっと待ってて下さい」

「ネギ・スプリングフィールド様?一体何を書かれているのですか?」

「ミリアさん、ネギでいいですよ」

「それでは……ネギ君とおよびしてもいいですか?」

「はい!」

「承知しました」

えーっと確か魔方陣はこうだった筈……。
ずっとこの前見ていたから覚えているし、大丈夫。

「できた!ミリアさん、僕と仮契約しませんか?」

「ええ!?いきなりそんなことを申されましても……」

やっぱり恥ずかしがるのか……。
あ、今のは僕の言い方が悪かったのか。

「あの、そういう意味ではなくて、ミリアさんに僕が魔力供給できるようにする目的で言っています」

「ま、まあ、わざわざ私を助けるためだったのですね……つい勘違いしてしまいました」

この人……意外とマイペースみたい。
周りは一面の雪なんだけど……。

「気にしないで下さい。仮契約の方法ですが呪文詠唱の方がいいですよね?」

「あら、キスではないのですか?」

「それは……キスでもできると思いますけど、僕はこの方法で覚えたので……お互い唱える言葉は同じですから僕に続いて言ってくれれば大丈夫です」

何回もやって覚えといて良かった……。
コピーカードは作れないけど、契約執行だけでもできれば大丈夫だ。

「……分かりましたわ。お願い致します。ネギ君」

「はい!それでは始めましょう」

この後10分ぐらいでなんとか仮契約は一発で終えられた。

「これで終わりでしょうか?」

「はい、それでは契約執行に切り替えますね」

「そういえば、この障壁のようなものは杖無しでできるのですか?」

「浮遊術の一種みたいなものです」

「その年で浮遊術ができるなんて、流石はナギ・スプリングフィールド様のご子息ですね」

「あ、ありがとうございます。でも僕は、僕ですから」

「これは失礼を……。比べるつもりではなかったのですが申し訳ありません」

「そ、そんなに謝らなくて結構です!頭を上げてください」

「……ネギ君、ありがとう……ございます」

ええ!?泣き出した!?

「ど、どど、どうして泣くんですか?」

「ようやく……現実が理解できて、ネギ君が助けてくれていなければ今頃私は死んでいたと……。助けていただきありがとうございます、小さなマギステル・マギ様」

立派な魔法使い……か。
マスター、父さん、僕が目指す僕にとっての立派な魔法使いにはこう言う在り方もきっとありますよね。

「ありがとうございます、もう泣かないで下さい。絶対安全な場所まで連れていきますから」

「……はいっ、お願いします!」

―魔法領域 解除―

―出力調整 契約執行 3600秒間!! ネギの従者 ミリア・パーシヴァル!!―

「い、一時間もですか?」

「大丈夫です、戦闘用とは違いますから身体保護程度の契約執行なら長い間持ちます。寒くありませんか?」

「はい、温かいです」

「はぁ……良かったです」

《ネギ先生、場所が特定できました。ネギ先生のいらっしゃる場所は……南極です。一番近い街は盧遮那と桃源がありますが位置から考えるとどちらも2000km程の距離があります。まずは寒冷地帯を抜ける事を優先して下さい。今からメルカトル図法ではなく心射方位図法での地図を転送致します》

やっぱりそうか……。

《な、南極……。ちゃ、茶々丸さん、すいません、地図をお願いします》

《南極ですって!?ネギ!大丈夫なの?》

《アスナさん、今のところ大丈夫です。助けた女性の人はメガロメセンブリアゲートポートの受付のミリアさんという方でした。今仮契約をして契約執行で身体保護をしています》

《受付の人も飛ばされてたのね……。それで、ま、まさかキスしたの?》

《アスナ姉ちゃん、それどころやないやろ!》

《ご、ごめん……》

《はぁ……一応呪文は散々唱えて覚えていたので、呪文詠唱で行いました。茶々丸さん、コタローの位置は……?》

《北極です……。小太郎さんにも今から地図を送りますので》

《何やて!?バラバラに転移させるにも程があるやろ!地図よろしく頼むわ!どっちに街あるんや?》

《一番近いのはヘラス帝国領首都、ヘラスです》

《ヘラス帝国?何やそれ》

《小太郎君、首都だったらこのゲートポートの事件も伝わっている筈だから、元々私達は入国手続もしていないけれど、不法入国になってもいいからそちらへ向かいなさい》

そうか……僕達入国手続もしてないのか……。

《要するに違う国なんやな。まあええで、とにかくまずは楓姉ちゃんと特訓したサバイバル技術でなんとか北極切り抜けたるで!》

《コタロー、ネギ坊主、頑張るでござるよ。まだ茶々丸殿と合流できていないがこちらもなかなか危険な場所のようでござる。図書館島の竜とは違うタイプのものまでいるようでござる。いやはや、武器がないというのは辛いでござるな》

《りゅ、竜種……。楓さん、絶対生きて合流しましょう!》

《約束でござるよ》

《……続けて刹那さんの位置がわかりました。テンペテルラ大陸の砂漠のようです。一番近くにテンペというオアシス街がありますのでそこに向かうことを推奨します》

《わかりました、ありがとうございます。ネギ先生達もお気をつけて》

《古さんは時間帯、景観から言ってタルシス山脈だと思われます。まずは南下してタンタルスという街を目指してください》

《分かったアル!ネギ坊主達も気をつけるアルよ!》

《はい!》

《古姉ちゃんは地図間違えんようにな》

僕もそれが心配。

《それと私の半径3000kmのセンサーで夕映さんとこのかさんの居場所がわかりました。それぞれアリアドネー首都、セブレイニア大陸の砂漠のようです》

《それなら多分一番今夕映さんが安全ね。世界最大の独立学術都市国家アリアドネーは学ぼうとする意志と意欲を持つ者なら、たとえ死神でも受け入れると言われている場所よ。通信が取れないと言っても命に危険は無いわ》

《ドネットさん、そうなんですか。良かった……》

《ゆえの場所分かったんですね。良かったです……》

《茶々丸さん、うちは進んどる方向あっとるのかな?》

《はい、合っています。そのまま東に進んでいけば一番大きい所でケフィッススという街につきます》

《分かったえ。ネギ君達が頑張っとるならうちも頑張らんとな!》

《これで後は私とのどかの場所とアーニャちゃんだけね。私はさっき起きたばかりだけどもう寝る所作ったから大丈夫よ!》

《はー、超さんの端末には感謝しないと……》

《そうね、超さんにこれ貰ってなかったら大変だったわ》

《学校戻ったらお礼言わんとな》

《その超さんって三次元映像技術やSNSを広めたっていう超鈴音さん?》

《ドネットさん、その通りです》

《ネギ君達はたくましいわね……。私にはあなた達が北極や南極にいても大丈夫だというのに驚いたわ。この端末にしても距離を完全に無視しているのは画期的発明よ》

《あはは、どうなっているのか全然わからないんですけどね……。それでは僕とミリアさんはまだ移動するのでまた後で》

こんなに早く皆の居場所がわかるなんてなぁ。

「ネギ君、その端末は一体どのようなものなのですか?」

「これは僕の凄い発明家である生徒の超鈴音さんという人が魔法世界に来る時の為にってくれたものなんです。今はぐれてしまったみんなと念話みたいな感じで通信してました」

「こんな寒冷地で山に囲まれていても使えるなんて凄いですね」

「ただどこかに電話することはできないみたいなんですけどね。基本的にはこの端末同士でしかやりとりできないみたいです。あの……それでこの場所が分かったんですが聞きますか?」

「分かったのですか!?はい、聞かせてください」

「南極だそうです……」

「そ、そんな……」

「だ、大丈夫です!絶対無事に街まで行けますよ!」

「うぅ……ありがとうございます」

「さあ、先を急ぎましょう」

「はい、私の方が大人なのに恥ずかしいですね……」

「そんな、気にしないで下さい」

方向がわかるお陰で完全に遭難する事もないし、とりあえずはまだ……大丈夫。
しばらく歩いていたら……。

《あー、テステス、ネギ君……かな?聞こえるかい?》

ええ!?この声は!

《春日さん!?どうして!?》

《うおっ、マジでネギ君か!あー、いや私、実は魔法生徒なんだよ》

《し、知らなかったです……》

《言わなくてごめんね》

《い、いえ》

《ネギ先生、こんにちは!》

《ネギ先生、魔法世界にいらしているのですか?》

《その声は……佐倉さんに高音さん!一体どうして?まさか春日さん達もゲートポートで強制転移魔法を喰らったんですか!?》

《へ?ちょっとネギ君今なんと?》

《ゲートポートで強制転移魔法を喰らったって……》

《うわー、ネギ君達例の事件の被害者か。あーちょい待ち、最初から整理するとさ、何故か突然私達が超りんから貰ってた端末にネギ君の通信情報が表示されたんだよ。もしやネギ君以外にも来てる……というか飛ばされたり?》

《そうだったんですか……。はい、皆飛ばされてしまいました》

《ネギ先生今どこにいらっしゃるのですか?》

《えーっと南極です……》

《それほんと?いや……ネギ君そんな冗談いわないもんな》

《大丈夫では……なさそうですね》

《……今はなんとか大丈夫です。それでアスナさん達も来たんですが全員飛ばされてしまいました……》

《おおぅ、アスナ達って事は……》

《アスナさん、このかさん、刹那さん、楓さん、くーふぇさん、コタロー、のどかさん、夕映さん、茶々丸さん、アーニャそれとドネットさんです》

《そ……そんなに……。アーニャちゃんとドネットさんも来てんのかい。場所はわかってるの?》

《大体分かってます、アスナさんはまだ分からないんですけどこのかさんは……》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

軽い気持ちでポチっとなしたらこのザマだよ……。
とうとうネギ君に私が魔法生徒だっつーのを言う事になった訳だけど事態はそれどころじゃないな。
なんで南極と北極に一人ずついる上受付のお姉さんも一緒にいたり、よりにもよって超危険地帯のケルベラス大樹林なんかに飛ばされてんのさ……。
そんな辺境に飛空艇飛んでないっつーの。

《なんてゆーか、ファンタジーもいいとこだね》

《春日さん、私達で捜索隊を結成致しましょう》

《お姉様、仕事ですね!》

《ほ、本当ですか?ありがとうございます!》

いや、まあ……助けないほうがどうかしてるわな。

《あの、できれば僕達の杖類をゲートポートから持ってこられませんか?封印箱に入ったままらしいんですが……》

《げっもしや杖無しで南極いんの!?》

《は、はい……》

無いわー。
それでなんとか大丈夫って言ってるネギ君凄過ぎるだろ……。
杖無しでどうやって受付の人助けてんの?
普通逆じゃないか……。

《なんて事ですか!分かりましたわ、この高音・D・グッドマン、必ず助けだして見せます。ゲートポートの荷物はお任せ下さい!》

《ありがとうございます!》

《それとさ……気落ちさせるかもしれないんだけど、ゲートポート全部破壊されたみたいで日本に帰れなくなったんだよ》

《えええ!?そんな!一体誰が!?》

《……今調査中だそうです》

《……分かりました。とにかく僕はまず南極を抜けるよう努力します。今からアスナさん達の通信情報も送りますね》

《了解ッス。ネギ君頑張ってね》

《ネギ先生、お気を確かに》

《ネギ先生、待ってて下さいね》

《ありがとうございます、春日さん、佐倉さん、高音さん!》

さーてと、どうするよ。

「高音さん、捜索隊ってもどうするんスか?非常事態宣言が発令されちゃったみたいだから渡航許可も1週間は取るのは難しいんじゃ?」

「確かにそうですが、少なくともまずはゲートポートでネギ先生達の杖類を受け取る事ですわね。その後はなんとかしてメセンブリーナ連合を中心に散らばった皆さんを拾っていきましょう。両親にもまだ連絡していませんし」

「助けるって言ったからには動かないとスね。しかし流石に南極と北極、それとケルベラス大樹林は洒落になってないスよ……」

「飛行艇はどこもそんな所通りませんものね……」

「いずれにせよ、まずは朝になるまで待ちましょう。私は今から両親に連絡してきますわ」

ネギ君達はあちこち飛ばされてるから、また時差で色々面倒なんだろうな……。

「お姉様、私も行きます!」

「それじゃ私はネギ君から来たアスナ達と連絡取っとくんで」

おお、通信情報来た来た。
うん、全員分だね。
とりあえず一番元気そうに思えるアスナにでも連絡するか。

《あーアスナ?聞こえるかなー?》

《ちょっと、その声美空ちゃん!?どうして!?》

《いやー私実は魔法生徒だからさ》

《そうだったの!?》

《あー、そんで高音さんと愛衣ちゃん、ココネと一緒に来てるんだよ》

《美空ちゃんどこにいるの?もしかして飛ばされた?》

《飛ばされてないよ!メガロメセンブリアにいるよ。何故かネギ君の通信情報が超りんに貰った私達の端末に表示されたから試しに通信しみたらこうなった訳よ》

《わー、やっぱり超さんのお陰ね》

正直ネギ君の通信情報が出てきたのは一体どういうつもりなのか分かんないけど、超りんの奴、ネギ君達も魔法世界来るの知っててイタズラのつもりか、あるいはこうなることを知ってた……とか。
……いくら火星人でもそりゃないか。

《超りんの発明は一般人には構造は理解できんけど便利だから助かるよ。そんでアスナどこにいんの?》

《どこかの山奥よ。もうすぐ茶々丸さんに夜空の星を写真に撮って場所を特定してもらうわ》

なんで妙に適応能力高いんだ……。

《逞しいな、アスナ……。まあそれはともかく、私達で皆の事捜索するからさ。無理しないように気をつけなよ》

《ホント?ありがと、美空ちゃん!でも無理しないようにっていうのはまずネギに言いたいわよ。あの子ゲートの受付のお姉さんと仮契約して今ずっと契約執行してるのよ》

《は?マジすか?どんだけ優しいんだよ、10歳にして涙ぐましすぎるわ!》

つか仮契約ってキスですか……?
いやいや、ネギ君にそんなバカな事聞けるかっての。

《ほんとよ、もう!美空ちゃんもネギに言ってやってよ!一番近い街まで2000kmもあるっていうのに大丈夫ですっていうのよ。何が大丈夫なのよ!!》

アスナめっちゃ心配してんなー。

《アスナ、気持ちはよくわかったけど、めっちゃ頭に響く……》

《ご、ごめん……》

《うん、そんでさ、ネギ君にもさっき言ったんだけど、ゲートポート全部破壊されちゃって日本に帰れないんだわ》

《えー!?何よそれ!》

《私も明日には帰るっつー時にこれですよ》

《お互い災難ね……》

《まあ起きたもんは仕方ないし、とりあえずネギ君達の杖やらは私達が朝になったらゲートポート行って引き取れるように交渉するからさ》

《ありがとね》

《アスナ達も本当は観光する感じだったんでしょ?》

《そうよ、ちゃんと宿も取ってあったらしいのに……》

《当分帰れないからさ、観光はいくらでもできるよ。できるだけ早く迎えに行くからさ》

《うん!それじゃあ場所分かったら連絡するわね》

《連絡待ってるわー》

何にしても、せめてもの救いはバラバラでも居場所が分かってるって事だな。
楓はケルベラス大樹林だろ……話しかけたら、丁度魔獣に襲われてましたーなんて怖くて無理だな……。

……で、この後分かったのはアスナのいる場所がヘラス帝国の領地に近いか、あるいは既に入っているかのノアキス地方みたいだな。
とんだ山奥だわ。
しかも国境線近いと碌な事にならんだろうな……。
とりあえず一番楽に迎えに行けそうなのはメガロから南東に飛んだ桜咲さんのテンペと更に東に行ったくーちゃんのタンタルスかね。
あとはアーニャちゃんが行方不明と……。
これが一番まず……小太郎君と特にネギ君も相当マズイよな……荷物に食料が入っているって言っても2000kmってどう踏破するよ。
……何にせよ興奮して目が覚めちゃったけど朝になるまで動けないから頑張って寝とくか。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月13日、南極、契約執行から1時間が経過―

「そろそろ一時間ですね……。ミリアさん、疲れはありませんか?」

「ネギ君の魔力供給のお陰で身体は楽です」

雪の照り返しで目が焼けるのは魔力で保護してるからサングラスが無くても進める。

「それは良かったです。契約執行更新しますね」

―契約続行追加 3600秒間!! ネギの従者 ミリア・パーシヴァル!!―

「ほ、本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫です。僕を信じてください」

「……ええ、分かりました。ネギ君、信じますね」

「それでは進みましょう」

少ない魔力供給だけどこんなに長時間するのは初めてだな……。
そのうち危なくなるかもしれないけどなんとかしないと。
でもまだあと数時間はいけると思う。

「ミリアさん、メガロメセンブリアって僕達が着いた時何時だったんですか?」

「丁度日をまたいで8月13日になった深夜ですね」

夜か……。

「雪だらけですが契約執行してるので寝る事もできますが休憩しましょうか?」

「ネギ君、心配してくれてありがとう。私夜勤なのでしっかり寝てあります」

「……そうですか、辛いですけどできるだけ早くこの氷雪地帯から抜けてしまいましょう」

「はい。……あっ!」

「どうしました!?ってそうか!ごめんなさい、ハイヒールだと気づかなくて……足は……」

「捻ったりはしてないから大丈夫です。ただ、ハイヒールの踵が折れてしまいました……」

どうしよう……。
ミリアさんが歩くのが遅いと言っても無理に走ってもらうわけにもいかないし……僕が運べれば……運べばいいのか!
こんな時の為にマスター直伝の年齢詐称薬の出番だ!

「ミリアさん、魔法薬を飲んでもらえませんか?」

杖がないから調合できないけど、最初からいくつか持ってきておいて助かったな。

「魔法薬っていうのは?」

「僕の師匠から習った年齢詐称薬です。ミリアさんは僕が背負って運びますので」

「えっ!?」

「これでも僕修行したので体力には自信あるんです!靴の持ち合わせは無いので嫌かもしれませんがお願いします」

「そんな……嫌なんてことは……でも運んでいただくなんて……」

「遠慮しないで下さい。恐らくこれが一番効率よく移動できます」

「……何から何まで迷惑をかけてごめんなさい、ネギ君」

「ミリアさんは何も悪くないじゃないですか!悪いのはゲートポートで皆を強制転移させた連中です。こんな理不尽には僕は絶対負けません。はい、これをどうぞ」

「……ありがとうございます。それでは頂きますね」

ボンッっていう音と共にミリアさんは小さくなった。
一応幻術なんだけど実体もあるっていう不思議な年齢詐称薬だから便利だ。

リュックは前に抱えてと……。
端末も身体に密着させているし……これでよし。

「ミリアさん、背中にどうぞ」

「す、凄い魔法薬ですね。失礼します」

「では出発しましょう」

これなら魔力消耗は早くなるけど、一気に速めの自転車ぐらいの速度で持続的に移動できるぞ。
平地なら3、4時間で50kmはいける。

「は……速いですね」

「酔わないように目を瞑って寝て貰っても大丈夫です」

「こんな事言うのは不謹慎なのですが、南極の景色を見るのは初めてなので……」

「あはは、自然観光っていう気分でいた方が気持ち楽になりますよね」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8/12日、14時頃、アリアドネー魔法騎士団候補学校、コレット・ファランドールの寮室―

あーなんとかなった……。
昼休みに箒乗って移動中、課題に夢中でよそ見してた私が突然道に現れたっぽいユエに激突……。
そのままその場で気絶したからとりあえず急いでユエのだと思われる荷物を全部寮室に運び、医務室にユエを連れて行って先生に事情を話しつつ、ユエが目覚めるのを待った。
目覚めて話してみたら名前しか覚えてないって事になって、先生が検査精霊でユエの頭を走査したんだけど記憶喪失が確定。
どうもその原因はやっぱ私にあるっぽい……。
あまつさえ課題の初級忘却呪文が充填された杖が暴発したみたいでユエの記憶喪失の原因は頭部打撲と私の未熟な忘却呪文のせいで間違いなさそう。
先生にバレたら大変と思ってごまかして……、先生がユエという名前を検索したんだけどどこにも該当する情報は見つからなかった。
それでユエにどうするか聞いたら私の魔法騎士団候補学校で勉強できないかって言い出したから驚いたよ。
これには先生も、アリアドネーの学ぼうとする意志と意欲を持つものなら例え死神でも受け入れるという思想に則って、ユエの記憶が治るまでここにいるように手配までしてくれた。
どこに泊めるか言われたけど私の寮の部屋で泊めようという事にしたんだけど……。
そう、ユエの荷物あったんだよ!
私も記憶喪失にかかっているなんてことはないんだけど忘れてた……。
さっきごまかしたけどここはちゃんとユエに謝ったほうがいいね。

「ユエ!ほんっとうにごめん!ユエの記憶喪失は私の未熟な忘却呪文が暴発したのが突然現れたユエにあたったせいなの!」

……うぅ、何も言ってこない……。

「……コレットはドジですね」

ええええー!?

「えーっとそれだけ?」

「記憶が無いので怒りようが無いです」

あーそっか……。

「それがね、ユエの荷物結構あったんだよ。急いでて忘れてたんだけど」

「コレットはドジですか?」

今度は疑問形!?
こ、これは……。

「はい、ドジです……。あの、荷物の事隠してたって思わないの?」

「隠せてないではないですか。それにコレットの顔からしてわざとやったとは到底思えないです」

ガーン!
……こ、これでも魔法騎士団候補生の一人……ハッ!私落ちこぼれだった……。

「…………」

「コレット、何を落ち込んでるですか」

「いや、なんでもないよ。そうだ!とにかくユエの荷物確認しようよ!何か思い出せるかもしれないよ!」

「は、はいです。突然元気になられると驚くです……」

「ははは、ごめんごめん」

ユエの荷物を確認してみたら……。

「ユエ、この文字何だかわかる?」

「日本語ですね……」

「ニホンゴ?」

「私の出身の国の言葉だと思うです。……どうやら私の名前は綾瀬夕映というようですね」

「アヤセ・ユエ?じゃあアヤセが名前?」

「いえ、ユエ・アヤセと言い換えるべきです」

「苗字が最初に来る国なのね。あれ、この本に地図が……あああ!!」

「どうしたです?」

「ユエは旧世界人だったんだよ!こんな地図が載っている上、知らない文字が書いてある本を持っているということは旧世界人に違いないッ!」

「コレット、そんなに自慢気にポーズ取りながら言わなくていいです」

ユエ……もう少し自分の事がわかるんだからテンション上げないの?

「でも一体どうしてあんな道に突然ユエは現れたんだろう……何かの事故かな?」

「何か大きな事件があったならわかるですよ」

「そ、そうだね。後は……この本は魔法書みたいだね。ユエは旧世界の魔法使いだったんじゃない?そうだ、私の杖と箒あるからやってみなよ!」

「は、はいです」

―プラクテ・ビギ・ナル―
―火よ灯れ―

「うん、呪文は使えるみたいだね。次は箒ね」

「はいです」

―飛行!―

「おおっ箒も使えるじゃん!ユエは魔法使いで間違いないよ!」

「むむ、確かにそうかもしれないです」

「うん、あ、ごめん、まだ荷物あるから見てみようよ」

「そうですね」

次は服…服……下着……紐!?

「ユエ、紐だよ紐!」

「コレット、掲げなくていいです。……でもなんだか懐かしい気がするです」

「下着が記憶回復の手がかりになるとは……」

あれ、底に何かある……。

「あれ、この機械は一体……。ユエこれ何かわかる?はい、どうぞ」

てのひらぐらいの大きさで殆どボタンは付いてない。

「画面が真っ暗ですがどこかに電源があるのでしょうか……。えっと……あったです」

お、電源入ったみたい。

「わー綺麗なスクリーンだね」

「タッチパネル式の操作……ですね。写真がありますが……」

「どれどれ?わー、たくさんいるね。誰か覚えてる?」

「いえ……何となく引っ掛かる人物はいるですが……」

「そ、そう……。記憶消しちゃってごめんね」

「次は忘却呪文を道で練習しないように気をつけるです。コレットの話だと私が突然現れたのも原因のようですし」

「ユエ、ありがと。よそ見しないように気をつけるよ……あ、何か画面に文字が出てるよ!」

「こ、声が聞こえるです!」

「え?」

「コレットもこれに手を当てるですよ」

「う、うん」

《今夕映さんの声聞こえませんでしたか!?》

「ほ、ほんとだ、しかもユエの事何か知ってるみたいだよ!」

《知らない声も聞こえたでござるな》

「一体これはどういう機械なのでしょうか」

「念話みたいなもの……じゃないかな?」

《ゆえ!うちやよ、近衛このかや!》

《ゆえ、ゆえ!私、宮崎のどかだよ!携帯の事忘れちゃったの?》

《このか……のどか》

《すいません、夕映さんと一緒にいるのはアリアドネーの関係者の方ですか?端末の通信方法は心で念じるだけで大丈夫ですので》

念じるだけでいいのね。

《えっと初めまして私はコレット・ファランドールと言います。アリアドネー魔法騎士団候補学校の生徒です》

《コレットさんですね。初めまして。僕はネギ・スプリングフィールドと言います。日本の麻帆良学園で夕映さんのクラスの担任をやっています》

教師?
子供みたいな声だけど……。
それにスプリングフィールド?

《な、なんだか聞き覚えのある声の気がするです……》

《えっと、経緯を説明すると私が練習中だった初級忘却呪文が突然道に現れたユエにあたってしまって記憶が一時的に消えてしまったみたいなんです、ごめんなさい》

《そ、そうだったんですか……。だから1時間以上も反応が無かったんですね……》

《ゆえ……記憶が消えちゃったの……》

《のどか、大丈夫やよ、一時的言うてるし》

《少し良いかしら、コレットさん、私はドネット・マクギネスと言うわ。夕映さんは今どういう扱いになっているのかしら?》

《えっと、この端末を確認する前に気絶したユエを医務室の先生の所へ連れて行ってしまい、その時のユエの意志で私と同じ魔法騎士団候補学校の生徒になる準備ができてます》

《あら……記憶が消えているのに身の安全は完璧のようね》

《それは大丈夫です!……それでユエはドネットさんの元に連れて行った方がいいでしょうか?》

《いえ、それはいいわ。信じられないかもしれないけれど、私達はゲートポートのテロに巻き込まれて世界各地に飛ばされてしまったのよ。特に私が今いる場所はケルベラス大樹林、コレットさんならわかるかしら?》

《け、けけけ、ケルベラス大樹林ってあの危険極まり無いって言われているあそこですか!?》

《……そうよ、私も信じたくないことなのだけれど。それでも夕映さんに一番近いのは私達なの》

し、信じられないようなことにユエは巻き込まれてたんだ……。
あ!それにゲートポートでテロって事は、ニュース見れば分かるかな。

《あの、夕映さん。夕映さんは記憶が消えているという事ですがそのままアリアドネーにいますか?》

《私は……できれば勉強してみたいです。でも助けに行った方がいいのであれば……》

《いえ、記憶喪失では危険ですし、折角安全なアリアドネーにいるのであれば、僕としてはその場にいてくれた方が助かります。ドネットさん、ケルベラス大樹林を抜けたらどうされますか?》

《そうね、まずは抜けた先のヘカテスを通ってグラニクスに行くわ。まずはそこで本国と連絡を取る予定よ。いずれにしてもまだ数日はかかるわね》

《……分かりました。そういう事もありますし、夕映さんはアリアドネーで待っていてもらえませんか?僕も今南極にいますし、独立都市国家であれば僕達のもしもの時の集合地点にもなります》

な、南極!?

《ネギ君、それは一体?》

《僕の憶測ですが……今回の事件、メガロメセンブリアのどこかが絡んでいるのかもしれません。すいません、ドネットさんを疑っているわけでもないですし、本国を疑いたくはないのですが……》

《そうね……これほど鮮やかに各地のゲートポートの人間を各地に転送し、しかも破壊までしたというあたり確かに何者かが内部で手引きしていたという可能性も否定出来ないわね……。夕映さん、どうするかしら?最後に決めるのはあなたなのだけれど》

な、何か凄く重大な話になってる!?

《……分かったです。どうなるか分からないですが、しばらくはアリアドネーにいるです》

《ゆ、ユエのことは私に任せてください!》

《コレットさん、ゆえをお願いします!》

《コレットはん、ゆえをお願いするえ》

《コレット殿、夕映殿をお願いするでござる》

《コレットさん、夕映さんをお願いします》

《はい!分かりました!》

《コレットはドジですから私も努力するです。このアリアドネーで調べられる事があれば連絡して欲しいです》

《夕映さん、ありがとうございます!》

《……えっと、あのー、それで、さっきネギ・スプリングフィールドって聞こえたんですけど、ナギ・スプリングフィールドとの関係はもしやおありですか?》

《あ、はい、僕は……あーこれは言わないほうがいいんでしょうか》

《そうね……。コレットさん、今ので大体分かってしまったかもしれないけれどネギ君の事は口外しないでもらえるかしら》

これは間違いなくナギの子供!?

《は、はい!もちろんです!》

《コレットさん、助かります。それでは僕もまだ移動を続けるので通信を一旦切りますね。夕映さん、頑張ってください》

《ネギ……先生も頑張ってくださいです》

《ゆえ、私も後でまた連絡するね》

《うちもするからな》

《のどか、このか、ありがとうです》

これで一旦通信は終わったけど今の声の人達は多分さっきの写真に写ってた人達だろうね。

「ユエ、何か思い出した?」

「声に覚えはある気がしますが完全には思い出せないです」

「でも、ユエを知ってる人がいてよかったよ!」

「はいです!」

「きっとこの写真の……赤毛の子だね、先生っていってたけど、ネギ・スプリングフィールド君!あの有名な英雄ナギ・スプリングフィールドの子供だよ!」

「コレット、その話は口外しないと先ほど約束したですよ」

「あ……ごめん。でも、ほらほら、これとかこれとかぜーんぶナギグッズなんだよ!それにほら、ジャジャーン!ナギファンクラブ会員証!」

「そんなにナギ・スプリングフィールドとは有名なのですか?」

「それは有名だよ!ナギの事ならそれだけで私3時間は語れるよ!」

「むむ3時間……、いいでしょう聞くです」

「え?聞くの?よーしいいよ!今日は語って語り尽くすよ!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―2003年8月13日日本時間、17時43分、麻帆良―

やはり予想通り各地のゲートが全て壊れた。
既にこの情報は地球のまほネットに大きな衝撃を与えた。
そして今、私は近衛門のいる学園長室に来ている。

《近衛門殿、ゲートが壊されましたね》

「おお、キノ殿もやはり気づいておったか。して、高畑君、葛葉君と龍宮君をまだ僅かに動いとるゲートから魔法世界に行ってもらおうと思っとるんじゃが……キノ殿はどう思うかの?」

《はい、それが良いと思います。そして近衛門殿達にとっては困った事態でしょうが、私としてはゲートが壊れたのは想定の範囲内です》

「ふむ、理由は教えて貰えるのかの?」

《ええ、先に伝えておかないと大変ですから。今月の末に魔法世界の崩壊をいよいよ解決する計画を実行に移します。それにあたりゲートポートが壊れたことによって起きる、魔法世界から地球側に流れこむ魔力の対流全てが麻帆良地下にある廃棄されたゲートポートに集中するのを利用するつもりです》

「……なんと、もう解決するのかの」

《……と、言いましても、もう2年半経っています》

「ふむ、精霊殿にとっても2年半が長いと言われると違和感があるんじゃが……まあよい。キノ殿はゲートポートを破壊した実行犯がやったことを逆に利用するつもりなのじゃな?」

《その通りです。犯人は確実にフェイト・アーウェルンクスらですが、奴らはもう地球にはいません。地球側に完全なる世界の連中が誰1人としていないこの時を逃す訳にはいきませんので》

「またアーウェルンクスか……。なるほどのう……しかしやはりここのゲートポートがのぉ……」

《お気持ちはわかります》

「しかし魔力が集中するということは、こちら側は勿論じゃがあちら側は……特にあの場がそれ以上に相当危険な事になるのではないのかの?」

《ええ、そうですね。廃都オスティア》

「20年前の再現じゃな……。あいわかった、それで他に儂がキノ殿に協力する事はあるかな?」

《運命の日に史上最大の発光をすることになりますので、関係者の方々が慌てないようにして頂ければと思います》

「いつもの大発光には1年ばかり早いの」

《異常気象の影響ということにでもして頂けると。神木の発光自体は上手くいくと願って静観してもらう他ありませんが……恐らく世界中にこの現象が知れ渡ってしまいますので、その後すぐの情報や物理的対処が一番大変だと思います》

「麻帆良に世界各国が入ってくる可能性があるという事じゃな」

《その可能性は高いでしょう。もし最悪武力が出てきた場合にはエヴァンジェリンお嬢さんに直ぐ様連絡し防衛を頼もうかとも思っていますが》

魔分通信で呼べばお嬢さんはすぐに臨戦態勢が取れるし、いざとなれば私達も抵抗はする……核兵器でも出てこない限りはなんとかなるだろう……。

「ふむ……魔法世界の問題が解決するそばから人間自身でまた新たな問題を起こすとはのう……。じゃが、魔力が流入するとなると……麻帆良の地下のゲートが起動する事になるが……本国からも人が入ってくることになるじゃろうな」

《……そうですね。外と内両方からの板挟みになると思います。個人的には私達の計画が成功した段階で麻帆良の地下のゲートポートの楔も一旦完全破壊してしまった方が良いとは思うのですが……しかしそれは魔力暴走が起きますから取れない手段ではあります……》

「……どうやら儂の最後の大仕事になるようじゃな」

《最後とは言いませんが、歴史でも稀に見る出来事になるのは間違いないですね》

「ふぉっふぉ、責任重大じゃな」

《近衛門殿の体調管理は私がやっておきますから任せてください》

「……やはりたまに調子がよくなっておったのはキノ殿のお陰じゃったのか」

《はい、その通りです。近衛門殿にはお世話になっていますからね》

「金銭等もらうより余程助かるわい。しかしキノ殿が儂に感謝する事も結局儂らにとって利益となるのじゃから、全く人間とはままならぬものじゃな」

《……私も決して人間だけの味方ではないですから。例えば魔法生物達もそうですし、結果として……そうなるだけです》

「キノ殿、それでも感謝するぞい。……ふむ、高畑君達は送るにしても、その後の事はなってみないとわからんの」

《そうですね、良いか悪いかはわかりませんが、この先は完全に未知の世界ですから》

完全なる世界どころか、どういう世界になるであろうか。

「この年になってもまだ為さねばならぬ事があるとは生きてきた甲斐もあったもんじゃ」

《曾孫の顔を見るのが一番の大切な仕事でしょう》

「ふぉっふぉ、そうじゃった」

魔法世界では何が起こっているのか、もう私にも詳しくはわからないが、ネギ少年達、頑張れと私からは一言。



[21907] 43話 春日美空バカンスの終わり(魔法世界編3)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/11 00:50
―8月13日午前7時前、メガロメセンブリア―

いやー4時間ぐらいはぐっすり眠れたんだけど高音さんに叩き起されたわ。
ネギ君達の杖類の回収だけど名義が学園長の近衛名義になってるみたいで、ネギ君自身の情報は伏せられてるらしい。
これなら麻帆良学園の魔法生徒って事で私達でも多分引き取れるね。

[依然ゲートポートでの魔力暴走は止まっておらず復旧の目処も立っていません。旅行者の足に影響が出ると思われます。また、消えた利用者、職員の一部と思われる人物からメガロ当局に連絡があったという情報が入っています。専門家によると高度な強制転移魔法を無差別に発動させたのではないかと見られています]

ですよねー。

「さあ、春日さん、ココネさん、愛衣、行きますわよ」

「はい、お姉様!」

「了解ッスー」

「了解」

そういう訳で朝っぱらからゲートポートに向かったんだわ。

「高音さん結局ご両親は何と?」

「当然、ネギ先生達をお助けしなさいと言われましたわ。旅費に関しても払って頂けるようですし、渡航許可も明日か、遅くても明後日には取って頂けるようです」

明後日って早っ!

「高音さんの家って凄いんスか?」

「お姉様のご実家はメガロの北ボスポラス地方の由緒正しき影使い一族、グッドマン家なんですよ」

あれか、もしかしてあの自己主張の激しい影の仮面が家紋だったりすんのかな……。

「おお、詳しいことは良くわからないスけど名家なのは分かったよ」

「時間があれば実家に招待致しますわ」

「その時は……お世話になります」

「ゲートポートが見えてきましたわ、麻帆良学園の魔法生徒証明証を用意しなさい」

屋根に大穴開いててめっちゃ魔力の柱っぽいのが噴出してんなー。
お、警備の人近づいてきた。

「申し訳ありませんが、これより先、現在立ち入り禁止となっております」

「失礼ですが、これをご覧下さいませ。知人の荷物を引き取りに参りましたわ」

4人でこうやって証明証見せつけるとか何か私に合ってねー。
どこの刑事ドラマよ……。
こりゃテロ事件だけどさ……。
ココネ妙に貫禄あるんだけど身体交代するか?

「こ……これは、少々お待ち下さい。……はい……麻帆良学園関係者、グッドマン家の方です。…………要件は知人の荷物を引取りに来られたという事です。…………はい、了解しました。大変お待たせしました、どうぞゲートポート内にお入り下さい」

スゲーよこの権力的何か!
しかも高音さんの家マジ効果あるな。
高音さんの証明書見た時だけ目がカッ!て開いたもんなー。
お堅いのも分かる気がする……。

「ありがとうございます。それでは失礼しますわ」

「失礼します」

「どうも、失礼します」

腕章付けた職員やらフード被った魔法使いっぽい人達がせわしなく動いてんだけど、テロあったつーのにフードはどうよ?
受付自体は……すぐそこだな。

「あの、一体どういうご用件でしょうか?」

「麻帆良学園生徒、高音・D・グッドマンと申します。近衛近衛門学園長の荷物を引取りに参りましたわ」

「これは失礼しました、先ほど警備から連絡があった方ですね。封印箱を持ってまいりますので少々お待ち下さい」

これで名義がネギ・スプリングフィールドなんてなってたら多分ややこしーことになってただろうな……。

「麻帆良学園って凄いんスね」

「上部組織が本国とは言いましても世界を隔てているだけあってある程度独立していますから」

いちいち意見は聞かなくても自己裁量でおっけーって事か、まあ、時々学園長の無茶ぶりからすると十分ありえるな。

「お待たせいたしました、こちらでお間違いないでしょうか?」

「……はい、間違い有りませんわ」

「それではこちらにご署名をお願い致します」

「分かりましたわ」

「申し訳ありませんが、麻帆良学園関係者証明証の写しを取らせて頂いてもよろしいでしょうか?」

一応その辺は厳重なのね……テロられたけど……。

「ええ、これをお願いしますわ」

「はい、確かにお預かりしました。少々お待ち下さい」

高音さんが書類に魔法世界での署名法で名前書いてる間に、すぐに証明証の写しも取り終わった。

「書類のサイン終わりましたわ」

「ありがとうございます。それでは証明書をお返しします。そしてこちらが封印箱となります。尚、中身が杖刀剣類なので開封する場合には携帯許可を当局で必ず取ってください」

「分かりましたわ。ありがとうございました」

「「「ありがとうございました」」」

本当にあっさりだったなー。
もう少しゴネるかと思ったけど。
実際のところ本人確認とかしてないし後でやっぱ返せとか言われたら面倒だわ……。
しっかし回収できたのは良かったけど、開けられんなこりゃ。
絶対巨大手裏剣出てくんだろ。
邪魔すぎる……。
そんでもってこの後一旦またホテルに戻ってきて、ついでに明後日までの宿泊期間延長もしておいた。
宿移動するのも億劫だしね。

「お姉様、やっぱり開けてみる訳には……」

「愛衣、それはできませんし、まずは後にしなさい」

「愛衣ちゃん、絶対楓の手裏剣とかクナイ入ってるから気持ちはわかるけどただ邪魔なだけだと思うよ」

「あ、そ、そうですね」

「それではネギ先生達にご報告致しましょう」

「ほーい」

《ネギ先生方、杖刀剣類の入った封印箱は回収できましたわ。名義が学園長になっていて助かりました》

《ネギ君の名前とかだったら大変だったよ》

《本当ですか!?ありがとうございます!》

《わー、良かったなぁ》

皆喜んでくれて、アスナだけ反応しなかったけど、多分まだ頑張って寝てんだろうな。

《飛空艇での捜索ですが早くて明日、遅くて明後日から出発致します。桜咲さんから助けるルートと、臨機応変にオスティアを経由してニャンドマ方面に出てアスナさんを、そして南下して桃源に向いネギ先生からお助けする二つのルートで参りたいと思います》

な、なんですとー!?
二手に別れんのかい!
オスティアからニャンドマ行く場合は飛空艇の正規渡航ルート存在しないから大変だわ。
大体ノアキスってめっちゃ広いし、かなり時間喰うな……ネギ君の方がやば気だけど桃源に行ったところで山脈越えて南極に乗り込むのもありえんし。
いや、ネギ君は迂回するかマジで越えないとこっちこれないけどさ……。
小太郎君はヘラス帝国向かうらしいけどアリアドネーからしか手が出んし、許可取るのもなぁ……。
ボスポラスに南下すれば良かったのに。
まあ元々北極は帝国領みたいなもんか。
確かに臨機応変だなこりゃ。
いずれにせよ各都市間で3日前後は毎回かかるから今から最速で回収できる桜咲さんですら4日か5日だな。

《わ、私より先にお嬢様をお願いします!》

《あー桜咲さん、どっち回ってもケフィッススまでは10日以上はかかるから同じなんだよ》

《そ、そ、そうですか……》

《せっちゃん!うちは大丈夫やよ!大分歩いたけど身体強化できとるからもうすぐ小さなオアシス街着きそうなんよ》

このかも逞しくなってんなー。
何その身体強化って……エヴァンジェリンさんとこの修行って都会生活で大して意味なさそうだけどこういう時役立つな……。

《わ、悪い人に騙されないように気をつけてください!》

《せっちゃんもな!》

《……いいかしら、私たちもケルベラス大樹林を抜けるのに後数日はかかるから救出方法は任せるわ。状況次第でうまく動いていきましょう。協力感謝するわ》

《いえ、当然の事です。一刻も早くネギ先生達を救出できるよう努力しますわ》

《高音さん、ありがとうございます》

《ネギ先生も無理はなさらないで下さい》

《ネギ君まだ契約執行してるんだったらそろそろ7時間ぐらいいくでしょ。早めに休んだほうがいいよ、でないとアスナが起きたら怒り出すよ》

7時間契約執行っていくらなんでも長すぎる……。
契約執行25200秒間!!とかやれるなら私も言ってみたいわ。
マスターはココネだけど。

《あはは、そうですね。分かりました、ありがとうございます》

そんでもって大体通信は一旦終わって二手に分かれるのをどうするか決めることになったわけだけど……。

「高音さん、どう二手に分かれるんスか」

「私と愛衣で桜咲さんを回収するルート、春日さんとココネさんでまずはオスティアに向かい状況を見て行動するルートにしましょう。もし何かあれば私が高速艇の渡航許可をなんとかしてとって追いつきますから」

高速艇ってめっちゃ金かかるよなー。
つか魔法世界って進んでるっちゃ進んでるけど地球の飛行機より圧倒的に遅いんだよなー。
何か飛行途中の音もゴゥンゴゥン言うし。
要するに空も日本でいう普通の道路みたいな感じなんだろな。
こっちに地球の飛行機もってきたらほんと数時間で行けるんだけどな……。
私がアスナんとこのルートか。

「高音さん直々にネギ君助けなくていいんスか?」

「春日さん、あなたは正真正銘ネギ先生の生徒でしょう。私は最も確実に助けられる所から回っていきます」

あー、気を回してくれてんスね。

「それに、新オスティアの治安は良いですから春日さんでも大丈夫でしょう」

そういうことね……。
確かに郊外行くと治安が激悪になるのはココネの故郷行った時実感したもんな。

「そういう事ならありがたく西ルート行きます。高音さん、了解しました。あ、でも二手って事はやっぱいつか封印箱開けないとだめッスね」

「いえ、それはやはり携帯許可の問題がありますから今は無理です。春日さんは予備用の杖と箒を余分に持って行きなさい」

「あー、そうすれば確かに大丈夫スね」

杖が無くて困ってんのはネギ君とあとこのかぐらいだもんなー。
アスナはあの高畑先生ができる咸卦法があるからとりあえずはなんとかなるって言ってたしな。
アスナから寝る前に聞いて驚いたのはもし武器が無くてもその辺に落ちてる枝に気を通せば良いだけよって言ってた事だな……。
のどかの場所がまだわからんのはアレだけど……。

「早くても出発までに1日以上は時間がありますから、その準備と情報収集をしておきましょう」

「了解ッス」

「はい、お姉様!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月13日、南極、契約執行から8時間が経過―

まずい……流石にそろそろ契約執行し続けて移動するのも限界だ……。
夕映さんが数時間前にアリアドネーで保護されて無事だっていうのには安心できたけどこっちは油断できない。
高音さんや春日さんが助けに来てくれるみたいだけど数日はかかるらしいから自力で南極圏はなんとしてでも脱出しないと……。
浮遊術を覚えてなかったら崖と崖の切れ目なんかは危なくて迂回するしかなかったかもしれないけど、実際使えて本当に良かった。
一応ミリアさんとの仮契約カードがあるから5km~10kmごとに僕が先に進んで召喚を繰り返すという方法もあるんだろうけど何があるかわからないからそんな事はできない。
茶々丸さんから通信で聞いた話だと、ケルベラスのあちこちには天然の魔力妨害岩があったりするらしいから、もしかしたら南極にもあるかもしれないし、下手なことはできない。
何よりそんな妨害岩があっても通信ができるのは助かる。

……このままだと突然気絶するかもしれないから、そろそろどこかで休まないと……。

「ネギ君、息が速くなっていますが大丈夫ですか。小休止を挟んでいてももう数時間走りっぱなしですよ」

「ミリアさんにもわかるぐらいだとそろそろ危ないかもしれませんね。幸いこのあたりは開けている上、近くに雪崩が起きそうな山も無いですし、カマクラという物を作って休みましょう」

「カマクラ……ですか?」

「僕が旧世界の日本で修行していた時に作った事があるんです。遊びなんかで作ったりもするようですが、今回は風と雪を防ぐ用にちゃんとしたものを作ろうと思います」

マスターの雪山エリアだと崖に穴を開けたりして洞窟にしたこともあるけど、詠唱魔法が使えない今、それは難しい。

「あの、私にも手伝えますか?」

「はい!お願いします」

「お世話になりっぱなしでしたから私頑張りますね」

「ありがとうございます。まず、僕が丁度良い大きさの円形を描きますから、その円の中の雪を足で踏んで圧雪してもらえますか?」

「ふふ、なんだか工作みたいですね」

「楽しんで作ったりするものらしいですし、そういう気持ちで良いと思いますよ。それでは……えーと大きさはこれぐらいで……」

二人の子供用でいいからそこまで大きい必要もないかな。

「はい、こんなもので良いと思います」

「わかりました、しっかり踏み固めますね」

「はい、二人でやればきっとすぐ終わります」

その後にやる雪の積み上げはスコップが無いから大変だけど頑張るしかない。
元々積雪もあるから地下に広げてもいいだろうし、背丈分積み上げなくても大丈夫。
しばらく一緒に足踏みして地固めが終わった。

「次は周りの雪をこの円内に圧雪しながら積み上げてドーム状にしましょう」

「ふー……はい、分かりました」

手で積み上げるものだから1時間も積み上げにかかったけど、契約執行の時間はこれで9時間……急がないと。
のどかさんはまだ遺跡から出てないみたいなんだけど大丈夫かな……。

「ネギ君、後は掘るだけ、ですか?」

「そうです。スコップがあればいいんですけど魔力保護した素手で掘るしかありません。最初は僕が入り口を作るのでミリアさんは少し休憩していて下さい」

「ありがとう……ネギ君」

「任せてください」

アスナさんやコタローみたいに咸卦法ぐらいのポテンシャルがあれば素手でも簡単に掘れるんだけど……。

《ネギ、春日の姉ちゃんも言っとったように大分時間経っとるけど契約執行やら身体は大丈夫なんか?》

コタローからの個人通信かな。

《うん……そろそろギリギリだから今カマクラ作ってる所だよ》

《おお、役に立ったな。俺は丁度ええ洞窟見つけたで》

《明日は僕も洞窟見つけられるといいな……。コタローはどれぐらい進んだ?》

《百数十km以上は行ったで。俺半分狗族やから元々寒さには結構強いしな。密度薄い分身出してルート探索もできるで》

《あ、そうか、分身あったんだった!》

僕は大体100kmがいいとこだな。
大きな街まで残り1900km……。
途中でどこかに村があるのを期待するしか無い。

《ネギの場合は魔力無駄遣いする訳にはいかんやろ。さっきギリギリ言うてたやないか》

《そ、そうだね……》

《助けたっちゅう姉ちゃんの事優先して共倒れせんように気をつけや》

《うん、ありがとう、コタロー》

《極地同士頑張ろうや》

《境遇同じだね》

《ネギには咸卦法無いし、姉ちゃんもおるから大変やろうけど、いつでも連絡するんやで》

《分かってるよ》

《しっかし、ネギの新術完成しとれば良かったのにな》

《あはは、新術っていうには夢みたいなものだから実際できるかどうかも怪しいよ》

《俺はできるんやないかと思っとるで。ま、そこでじっくり修行する訳にもいかんやろ。ほな、また後でな》

《うん、また後で》

「ミリアさん、ちょっと狭いですけど中も一緒に掘れるようになったので良かったらどうぞ」

「はい、休ませてくれてありがとうございました、ネギ君」

「もう後は掘るだけで寝床が確保できますから頑張りましょう」

「はいっ!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月13日、14時頃、ノクティス・ラビリントゥス地方、某遺跡内地下階層―

一体どうなってるのかな……。
遺跡の中は地下みたいで真っ暗だけど端末の光がライト替わりになるから足元は見える。
図書館島で日常的に罠を発見してたから、もうこの数時間でいくつも回避できているけど……あまり進めてないみたい……。
階段があったと思っても地上まで続く階段が無いから1階1階慎重に進まないと。
ネギ先生達も頑張ってるんだし、私も頑張ろう!

あっ……私以外の足音が聞こえる。
一人……二人……それ以上いるの……かな。
怖い人達だったらどうしよう……。

『ねえ、クリス、罠発見したのに何でまたわざわざ作動させちゃうのよ!』

『悪い悪い、まあただの矢だったし気にしないでさ』

『もっと罠探知能力の高い奴がいると助かるんだがな……』

『同感……』

『えー酷いよ、三人とも!』

女の人の声が聞こえる。
それに罠がどうって言ってる……。
……うん、ここで一人でいても心細いだけだし会ってみよう!
多分通路を左に曲がったところ……。

『おい、何か足音がするぞ。気をつけろよ』

『りょうかーい』

『遺跡に隠れてる魔物かしら』

ま、魔物じゃないです……。

「あの!私魔物じゃありません!助けてください!」

勇気をだして大きな声で叫んだ。

『うおっ、女の子の声じゃないか?』

『こんな所に女の子が一人でいるなんてありえないでしょ』

『でも今声が聞こえたのは間違いないんじゃないかなー』

『近いぞ』

もうすぐそこの角。

「灯りが見えるわ。って……ほんとに女の子いるわよ」

「おぉ……」

「ホントだ」

4人……耳が人間と違う人がいる……もしかして小太郎君みたいな人達なの……かな。

「あ、あ……あの……その」

き、緊張して声がうまく出ないよ……。

「嬢ちゃん、どうしてこんな所に一人でいるんだ、探険にしちゃ危ないだろ」

「クレイグ、さっきこの子助けてって言ってたじゃん」

「落ち着いて。私はアイシャ。アイシャ・コリエルよ。あなたの名前は?」

あ、アイシャさん……。

「私、私は宮崎のどか……です」

「ノドカね。一つずつ聞いていいかしら。ノドカはどうしてここに?」

「は……はい。ゲートポートで魔法世界に来た時に強制転移魔法っていうらしいものでここに飛ばされてしまったみたいなんです」

「おいおい、嬢ちゃんそれは本当かよ。さっき朝、街中のニュースでやってたアレか?」

春日さんがニュースになってるって言ってたけどもう伝わってるんだ……。
さっき朝なら今は昼ぐらい……かな。

「あの事件本当だったんだ……。人がいなくなったっていうから消されたんじゃなくて飛ばされてたんだねぇ。ノドカちゃんここにどれくらいいたの?」

「えっと……9時間ぐらいだと思います」

「9時間!?ノドカ、そんな長い間こんな所に一人でいたの!?怪我は?」

「怪我はありません、大丈夫です」

「もしかしてここにずっといた?罠があるから迂闊に動くと危ないし」

「5階ぐらいは……上がってきました」

しばらくは気を紛らわせるためにこのか達と話してたから時間を潰してたけど……。

「ええ!?下から!?罠は?」

「私罠を見つけるのは得意なので……」

「嬢ちゃんそりゃ凄いな。で、お前達どうする。一旦地上に出るか?」

「そうね、ノドカをこのまままた奥に連れていく訳にもいかないし……。私は今日の遺跡探索は中止でいいわよ」

「僕もいいよ」

「私も構わない」

「なら決まりだな。嬢ちゃん、地上まで送って行ってやるよ」

「あ、ありがとうございます!見ず知らずなのに助けていただいて……」

「ノドカ、当たり前よ。女の子一人残して置いていけないでしょ」

「そうだぜ、それに嬢ちゃんが最初に助けてくれっていったんじゃねぇか」

優しい人達で良かった……。

「うっ……うっ……」

「おいおい、泣かれると困るぜ」

「クレイグ、一人でノドカちゃんずっといたんだから心細かったんだよ」

「さあ、ほら、ノドカ、地上に戻りましょう!」

「うぅ……はい、ありがとうございます」

はぁ……良かった。
落ち着いたらちゃんとネギ先生達に連絡しよう。
地上に出るのにはそんなに時間はかからなかったから、結構上の階まで上がってこれてたみたい。
太陽はもう下がり始めてるから午後……かなぁ。
元気な女の人がアイシャさん、もう一人無口な女の人がリンさん、大剣持っている男の人がクレイグさん、短剣を持ってる明るい人がクリスティンさん。

「地上まで連れてきてくれてありがとうございます!」

「いいってことよ」

「それじゃあ、一度街に戻りましょ」

「よーし、街に戻ろー!」

「戻る……」

「あの、ここってどのあたりなんでしょうか?」

「ノクティス・ラビリントゥスって所よ。このあたりは遺跡が沢山あるから私達みたいなトレジャーハンターの稼ぎ場所なのよ」

トレジャーハンター……。
本当に夢の話みたい……。

「あー、嬢ちゃんどこのゲートポートから飛ばされたんだ?」

「メガロメセンブリアっていう所です」

「それは一番最初に被害にあったゲートだねぇ」

「首都か……大分離れてんな……」

「あの、具体的にどれくらい離れているか教えてもらえませんか?」

「ノドカ、聞きたいことあるならなんでも遠慮せず言いなよ。ここはそうね、ノクティス・ラビリントゥスでも北部だから4000km以上は離れてるわ」

よ……4000km……。

「そ、そんなに……」

「ノドカちゃんはメガロメセンブリアに戻りたいの?」

「えっと……それが一緒に来た皆もあちこちに飛ばされてしまったので特に集合場所も決まってないんです……。一応メガロメセンブリアにも知り合いはいるんですけど」

「皆って事は団体で来たのか?」

「はい、あと11人います」

「連絡先は無いの?」

「それは……皆とはこの端末同士でやりとりできるんです」

「あ、それさっきノドカが灯りにしてた奴ね。でも通信できるって事はそんなに離れてないんじゃないの?」

「いえ、私にもどうして離れていても通信できるのかはわからないんですけど、これは私のクラスメイトの人から貰ったものなんです。飛ばされた皆の場所で分かっている所だと、ケルベラス大樹林に3人、南極、北極、セブレイニア大陸の砂漠、テンペテルラの砂漠、タルシス山脈、ノアキス地方、アリアドネー、あと一人は行方不明なんです」

「……そりゃあ本当か……」

「ちょっとちょっと、ケルベラス大樹林なんて絶望的じゃない」

「そ、そうなんですか!?」

「魔法は使えなかったりする上に出るのは魔獣に竜種だろ……。今の中でまともなのはアリアドネーだけだな。一体そんなにバラバラにする強制転移呪文なんてどこのどいつがやったんだ」

「ノドカちゃん、端末同士やりとりって事はもしかして写真なんてある?」

「あ、はい……。えっと……これがケルベラス大樹林を崖から見渡した景色、写ってるのが一緒に来た人で、次が私の先生の南極の写真、その次が砂漠の写真、タルシス山脈の朝日を撮った写真だそうです」

「うわっ、これほんとに本物だよ!」

「確かにこのアングル……資料映像じゃないわね」

「こりゃ酷ぇな……。嬢ちゃん、このあたりは飛空艇飛んでないんだがどうする?」

飛んで無い地域ってあるんだ……。

「できれば、クレイグさん達一緒に通信に参加してもらえませんか?」

「そりゃいいが……どうすりゃいいんだ?」

「これに手を当ててもらえればできます。声に出してもいいですけど、心で念じるだけで大丈夫です」

「それじゃ、手置くわね」

「ノドカちゃん、僕も置くね」

「なんだか、円陣組むみたいだな」

「私も……」

「ありがとうございます。始めます」

《ネギ先生、ドネットさん、私の居場所がわかりました》

《の……のどかさん、地上に出れたんですか?》

ネギ先生疲れてるみたい……。
クレイグさん達は声が聞こえてことに驚いてるけどじっとしてくれてる。

《のどかさん、ドネットさんに今繋ぐので少しお待ちください》

《のどか殿、場所がわかって良かったでござるな》

《のどかさん、良かったです》

《これで後はアーニャだけアルね》

《おおっ、のどか場所分かったんだ。メガロに近い?》

《はい、遺跡の中でトレジャーハンターの方に助けて貰いました。場所はノクティス・ラビリントゥスという所で4000km以上は離れているそうです》

《うはー、遺跡地帯か、そりゃまた飛空艇飛んでないねぇ……》

《のどかさん?場所はノクティス・ラビリントゥスだそうだけどそのトレジャーハンターの方達はどうしてるのかしら?》

《あ、今会話聞いてて貰ってたんですけど、クレイグさんお願いします》

《あぁ、この機械驚いたな。悪い、俺はクレイグ・コールドウェル、トレジャーハンターをやっているもんだ》

《私はアイシャ・コリエルよ》

《僕はクリスティン・ダンチェッカーさ》

《私はリン・ガランド》

《僕はネギ・スプリングフィールドです。クレイグさん、アイシャさん、クリスティンさん、リンさん、のどかさんを助けて下さりありがとうございます!》

《のどか姉ちゃん良かったな!》

《のどか、助かって良かったえ》

《おう……そりゃ何よりだ。んで俺たち嬢ちゃんをさっき遺跡で見つけてこうしているんだがどうする?メガロまで連れて行ってもいいが時間かかるぜ》

《私はドネット・マクギネスよ。のどかさんを助けてくれてありがとう。クレイグさんがリーダーで良いのかしら。ノクティス・ラビリントゥスからだと徒歩で10日以上はかかるでしょうし私達もまだ動きが取れないのだけれど、のどかさんを任せても良いかしら?》

《あ、あの、その話なんですけど、クレイグさん、私クレイグさん達と一緒にしばらく居てもいいですか?》

《の、のどかさん?》

《嬢ちゃんそれはどういう事だ?》

《私、罠は発見できますし、少しなら魔法も使えます、ただ送ってもらうだけでは悪いですし協力したいんです。ネギ先生達が頑張っているなら私もって……》

《ノドカ、それ本気なの?遺跡って危ないのよ?》

《でもノドカちゃんあの遺跡を下から上がってきたって事は相当罠見つける能力高いよね》

《嬢ちゃんはこう言ってるんだが……どうするよ》

《僕は遺跡の探索には賛成できないんですが……》

《うちものどかの事心配やけど、のどかなら図書館探検部でうちらとぎょうさん罠は見つけてきたからきっと大丈夫や。それにクレイグはん達は凄く良い人や》

このか……。

《おいおい、会ってもないのにそんなに信用されても困るぜ》

《信じられるえ。クレイグはんさっき聞いてもないのにのどかを連れて行っても良いって言ったやん。それで十分やよ!》

《お、お嬢様……》

《こ、このかさん……。そうです……ね……のどかさんの実力なら魔獣が出るような危険な場所でない限りは大丈夫だと思います。僕は南極にいる限り今からのどかさんの元にすぐ行って止めることもできません。最終的に決めるのはのどかさんの意志次第です……どうしますか?》

《ネギ先生……私、頑張ります。絶対に皆の元にも合流すると約束します。……だけど、それまではクレイグさん達といさせて下さい。お願いします》

《……分かりました。クレイグさん、のどかさんをお願いできますか?》

《はぁ……あんたら凄いな。南極やら樹林やらにいるっていうのに……。ああ、こうなりゃ乗りかかった船だ、俺は嬢ちゃんが危険な目に会わないように面倒みるぜ》

《私もよ》

《僕も》

《私もだ》

《クレイグさん、アイシャさん、クリスティンさん、リンさん……》

《……ネギ先生がそういうなら私が出る幕ではないわね。クレイグさん達、私からもお願いするわ。具体的にどうするかはまた定期的に連絡を取合えばいいでしょう》

《ああ、分かったぜ。そういうことなら嬢ちゃんは任せな。あんた達も無事に街までたどり着けるよう祈ってるぜ》

……こうして私はクレイグさん達とトレジャーハントの手伝いをしながら状況を見て動くことになったのでした。

「ねぇノドカ、さっき勢いで忘れてたけど男の子を先生って呼んでたり、男の子もネギ・スプリングフィールドって名乗ってたけれど……」

「それ僕も気になったよ、スプリングフィールドって言ったらあのナギ・スプリングフィールドが思いつくけどさ」

な、ナギさんってネギ先生のお父さん……。

「あの英雄な」

「え、英雄……?あの、クレイグさん達はナギ・スプリングフィールドさんを知ってるんですか?」

「そりゃあ、この世界で知らない奴はいねぇよ。もしいたらモグリだな」

ゆ、有名人だったんだ……。
あ……夕映の時は話さないように言っていたから言わないほうがいいんだよね……。
でも……このかも言ってたけどクレイグさん達は良い人達だと思う……。

「そう……なんですか。あの、実はネギ先生は私達とナギ・スプリングフィールドさんを探しにこっちへ来たんです」

「探しにって……じゃあまさか!」

「おいおい、そりゃ驚くってもんじゃ無ぇぞ。凄ぇ事だが……当の本人はそれどころじゃねぇか……」

「ノドカちゃん今こっちって言ったけどやっぱりゲートポート使ってたって事は旧世界から来たの?」

「は、はい、そうです」

「そうじゃないかとは思ってたけど本当に旧世界人だったのね。それなのにいきなり皆あちこち飛ばされちゃったのね……。偶然にしては……できすぎてるんじゃないかしら。何か……誰かの悪意を感じるわね」

「断言はできねぇが、俺もそう思うぜ。嬢ちゃん、俺たちを丸っ切り信じろとは言わねぇが任せとけ。一緒にいる間は守ってやる」

「アイシャさん、クレイグさん……ありがとうございます……」

「ノドカちゃん、僕も結構強いから任せといて」

「ノドカ、私も」

「クリスさん、リンさん、ありがとうございます」

「流石に南極まで嬢ちゃんの先生を助けに行くことはできねぇが我慢してくれよ」

「いえ、そこまでは……それにネギ先生ならきっと南極を抜けられると思います」

「そうか、信じてんだな」

「は、はいっ……」

「ところでノドカ、さっき魔法使えるって言ってたけど、どれぐらいできるの?」

「あ、えっと、基本魔法は全部使えます。だから罠の解除も少しぐらい離れたところでもできます。身体強化もできるのでいざとなったら走るのも大丈夫です。あと箒があったら遅いですけど飛ぶこともできます」

「ノドカちゃん、その年でそれは凄いよー」

「はー、ノドカの先生が言ってたのは本当だったのね。いいわ、後で私の予備の杖と箒も出してあげる」

「こりゃきっと罠の発見もクリスよりうめぇな」

「ちょっとクレイグ、それ酷いよー」

「そういうのはまず自分でわざわざ発動させたりするのをやめてからにしろよ。嬢ちゃんでそれなら他の仲間はもっと凄いのか?」

「えっといくつか挙げると、虚空瞬動、浮遊術、分身、咸卦法なんかだと思います」

「なんだぁそりゃ……だからケルベラス大樹林にいても割と落ち着いてられんのか。咸卦法なんて伝説だと思ってたぜ……」

そ、そんなに凄いんだ……。
アスナさんと小太郎君もできてたんだけど……。

「虚空瞬動なんて僕うまくできないんだけどなー!」

「クリスが遺跡で虚空瞬動なんてしたら遺跡が崩れるからやめとけ」

「えー!僕さっきから扱い悪いよ?」

うん……クレイグさん達ならきっと大丈夫。
しばらくの間……私も頑張ろう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―時は数時間遡り8月12日、17時頃、ヘラス帝国首都ヘラス、城内某所―

な、な、一体ここどこよ!
コタロを追いかけて外に出ようとしたらいきなりここに飛ばされたと思ったら、なんなのよ!
どこか建物の部屋みたいだけど凄く豪華……一体どこに来ちゃったのかしら。
ネギ達とメガロメセンブリアに着いたと途端はぐれちゃうし散々だわ!
まずはドアから外に……。
あれ、捻ってないのに勝手にあい……?

「お?なんじゃ、そなた、どうやってここに潜り込んだのじゃ?」

あ、あ、頭に角が生えてるわ!
あ、あれよ、おじーちゃんに聞いたことあるわ、きっとヘラス帝国の人ね!
どうしよう!

「わ、わわわ、私はその!」

「暗殺者にしては間抜けじゃし……」

暗殺者!?

「ふむ、迷子か」

「そう、迷子です!ってちが!違くないです……」

「姫様!一体どうされまし……曲者!?姫様、危険です!お下がりください!」

「良い、ぬしの目は節穴か。ただの娘子ではないか」

「し、しかし!」

「頑固じゃのう、妾が良いと言っておろう。そこにおれ。娘子よ、妾はテオドラ、ヘラス帝国第三皇女じゃ。そなた名は何ともうす?」

「こ、皇女様!?わ、わ、私は、あ、アンにゃ・ユーリエウにゃ・ココろわぁです」

「何じゃ、緊張してうまく言えとらんな、まあよい、アンにゃ・ユーリエウにゃ……アーニャで良いか」

え!?なんで私の愛称が分かるの?

「アーニャよ、そなたどうしてここにおったか説明できるか?まずは落ち着くのじゃ。ほら、ユリア、茶を持ってこい」

「ひ、姫様!?良いのですか?」

「何じゃ、どこかこのアーニャに不審なところは……不審じゃが……危険ではなかろう」

不審よね……。

「はぁ……分かりました。只今お持ち致します」

「ほれ、アーニャ、そこの椅子に座ったらどうじゃ?」

「は、はい!ありがとうございましゅ」

「噛んどるの……」

はぁ……はぁ……落ち着くのよ私!
顔を叩いて気をしっかりもちなさい!
いたっ!

「アーニャ、いきなり顔を叩いては……見事に赤く腫れたの。はっはっは傑作じゃ!」

「ふぅ……はぁ……。皇女様、私がどうしてここにいるかですが、メガロメセンブリアのゲートポートに着いた途端すぐにここにいたのでどうしてかは良く分かりません……」

「ゲートポートのう。となると、アーニャは旧世界から一人で来たのか?」

「いえ……ネギ達と…えっと…私含めて12人で来ました」

「ふぅむ……ならば12人とも全員どこかに散らばった可能性がありそうじゃな。アーニャがここに来たのも何かの縁じゃ。丁度妾も暇じゃったから良い。残りの者達の顔が分かるようなものはあるか?」

写真……えっとネギ達が修学旅行に来て一緒に撮った時のなら……。

「こ、これです」

「む?どうも人数が多いが……アーニャ、アーニャの隣におるこの赤毛の子供の名は何という?」

「それがネギです、ネギ・スプリングフィールド」

「スプリングフィールドじゃと!?ま……まさかナギの子供か?」

「は、はい……それが何か?」

「アーニャ、良くここへ来たの!これは面白くなってきたわ……」

な、なんでいきなり頭を撫でられるの!?

「ひ、姫様!はしたないですよ!」

「ここは妾の部屋じゃ。ユリア、それより茶を」

「……分かりました。お待ちください」

「アーニャ、それ以外の者でこの写真に写っておる者を名前と一緒に上げてみよ」

「は、はい。カグラザカアスナ、コノエコノカ、サクラザキセツナ、ナガセカエデ、クーフェイ、ミヤザキノドカ、アヤセユエ、カラクリチャチャマルそれとここの端に写っているドネット・マクギネスさん、あともう一人イヌガミコタロっていうネギと同じぐらいの犬耳のついてる男の子がいます」

「ふむふむ、アスナに近衛か……良いぞ。後でこの写真コピーさせてもらってもよいか?」

「か、か、構いません!」

「よし、後でまた名前も照合させてもらうとしよう」

「あ、あの、ネギ達の事探してくれるんですか?」

「ヘラス帝国領内じゃがの。アーニャがおるという事はまだ他にもおるかもしれんじゃろ。アーニャ、仲間が見つかるまでしばらくここにいてよいぞ」

「え?そ、そんな滅相もありません!」

「いや何じゃ、アーニャは見たところこのネギの幼なじみなのじゃろう?」

「は、はい」

「ならば妾にネギの話をしてくれれば良い。それが宿泊料じゃ」

「え!」

「姫様!」

「ユリア、お主もナギの息子の話を聞きたくはないのか?」

「ぐっ……そ、それは……」

「くっくっく……さすがのお主もこの誘惑には勝てぬようじゃの。はっはっは、良い弱点を見つけた!」

「ひ、姫様!」

「アーニャ、まずは茶を飲むと良い。それからゆっくり話してもらえるか?」

「は……はい、分かりました」

皇女様が探してくれるなら……きっと無闇に私が探しに行くよりうまく見つかるわ。
それに皇女様はネギのお父さんの事を知ってるみたいだし、きっと良い情報がつかめる筈よ。
一時はどうなることかと思ったけどなんとかなりそうだわ!



[21907] 44話 それぞれの地にて・前編(魔法世界編4)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 20:12
―8月13日、南極、契約執行から10時間が経過―

のどかさんも無事場所が分かって良かった……。
トレジャーハンターの人達と一緒に遺跡を探索するって言い出した時には驚いたけど、助けてくれた事に対して恩返しをしたいっていうのはのどかさんらしい。
クレイグさん達も、このかさんが言うとおり良い人達そうだしきっと大丈夫。
このかさんは何とか一つ目のオアシス街についてうまく冒険者がいるところの宿屋で交渉して泊めてもらえたみたい。
杖で治癒魔法が使えるだけあって、危険はあるかもしれないけど、実演したらなんとかなったんだって。
くーふぇさんはタルシス山脈に何故か丁度建物があったらしくて少し早いけどそこに今日は泊まることにしたらしい。
マスターの所で修行してた時からそうだったけどくーふぇさんは崖で先に足場がなくて降りるのが危険な場合、自分の足場を寸勁で破壊して、壊れた瓦礫をそれぞれ伝って瞬動を繰り返して降りたりするから凄い高低差があるのにやっぱり100km以上は進んだみたい。
刹那さんも同じぐらい進んでるみたいだけどまだ昼頃らしいから頑張って進むって言ってた。
楓さんは茶々丸さんとドネットさんとも合流できたみたいで今は真夜中らしいから丁度良い洞窟もあったからもうすぐ寝るって話だった。
あとはアーニャだけだけど今頃どうしてるかな……。
早く無事を確かめたいけど、僕ももう10時間目にして契約執行は限界。
かまくらの穴も掘り終わって今日はもう休んでいる。
分厚くないけど一応身体にかけられるものもあって良かった。
食料は……あと携帯食料が2日分……どこかで採集しないと駄目だな……。

「ミリアさん、大丈夫ですか?」

「はい、私はネギ君の背中にずっといただけですから大丈夫ですよ」

「良かったです……。すいません、僕そろそろ限界みたいなので契約執行続けられないかもしれません。一応それなりの温度があるから寝ても大丈夫だとは思います」

「ネギ君、ありがとう。もっと近づいてもいいですか?」

「え?ど、どうしてですか?」

「それは……かまくらの中がそんなに寒くないとは言っても人肌の方がやっぱり温かいですから。ずっと契約執行し続けてくれましたから寝るときぐらい私が温めます」

「そ……そんな、あの」

「ネギ君、これでも私何歳だと思っているんですか。大人なんですよ。子供なら、それもネギ君のような子なら尚更、たまには私のような大人にも頼ってください」

そう言ってミリアさん……身体は年齢詐称薬で僕より少し小さいぐらいになっているけど背中に抱きついてきた。

「あ……温かいです。ミリアさん、ありがとうございます。僕、少し眠りますね」

「はい、ゆっくり休んでください」

《皆さん、僕今から寝ます。アスナさんが起きたらちゃんと休んでますって伝えてもらえると助かります》

《ネギ先生、それは私がやりますので任せて下さい》

《ありがとうございます、刹那さん》

…………う……ん……疲れた……な。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月13日、5時頃、ヘラス帝国領、ノアキス地方山林―

ふぁー、よく寝たわ。
ちょっと早いかもしれないけど、少し空が白みがかっているしちょっと立てばもう朝ね。

《起きてる皆おはよう、アスナよ》

《アスナさんおはようございます》

《アスナおはようアル》

《アスナさん、おはようございます》

《ア……スナさん、こんばんはで……おはようです》

《アスナ起きたかー、おはよ!》

《刹那さん、くーふぇ、のどかちゃん、夕映ちゃん、美空ちゃんおはよう。ネギは……寝てる?》

記憶飛んじゃってるらしいけど夕映ちゃんの所は丁度夜頃なのね。

《ネギ先生は丁度1時間前程に休んだそうです》

《ネギ君マジ凄いわ、契約執行10時間って異常すぎ》

《え!?あの子10時間もやってたの!?全くもう!》

《まあまあ、お陰でミリアさんって人は全くの無事らしいしさ》

《それはそうだけど……》

《そんでもってアスナ、私早くて4日後にはオスティアってとこに行くんだけど多分間に合わないよなー……》

《オスティア……?》

《そう、まあオスティア着いたからっていってもアスナいるとこに一番近いメセンブリーナの街のニャンドマまで行っても、個人チャーターの飛空艇か何かで1日ぐらいだからそれなりに遠いんだけどね。つかやっぱそこ確実に帝国領だよ》

《帝国って……コタロが向かうって言ってた所?》

《そうそう。アスナが国境をヘラス帝国国境警備隊に見つからずメセンブリーナ側に越えられれば良いんだけどさ……っても下手に無理やり抜けるとお尋ね者になるから気を付けないと駄目だよ》

《えー、美空ちゃん、どうすればいいのよ!》

《説明しよう!と言ってもまあ私も出発まで時間があって暇だからネット使って調べてるだけなんだけどさ。そんで、超単純に距離に換算して2000kmぐらい東に移動すればメセンブリーナのニャンドマ、西に同じぐらいで帝国領首都ヘラスがあるけど、くーちゃんや桜咲さんで一日150kmがいいとこらしいからどっちも10日はかかる。ぶっちゃけ私は一応オスティア経由してネギ君目指して行く桃源、盧遮那に行くルートなもんで、遅くても5日後にはオスティアを後にするから、アスナがヘラス帝国側に進んだ方が小太郎君とも会えるかもしれないし、悪手ではないと思うよ。まあドネットさんに相談した方がいいかもしれないけど……》

ネギより私を優先するとネギを助けるのに余計に時間がかかっちゃうって事ね……。

《つまり、国境を越える危険な真似をするか越えずにそのまま西に進んでヘラス帝国を目指した方が良いってこと?》

私昨日いきなり山奥で日が沈んじゃっててかなり長いこと寝てたからまだ殆ど移動してないのよね。

《そういう事だね。ヘラスまで着いて、そのままなんとかして飛空艇に乗れればゆえ吉のアリアドネーまで行けるよ。不法入国でも勉強しまッス!って言えば大丈夫だから》

《ねぇ……美空ちゃんそれ私にわざと言ってる?》

《いや……まぁ……細かいことは気にすんな!》

《気にするわよ!》

《アスナ、気にしないほうがいいアル!》

《くーふぇまで!》

《アリアドネーならば受け入れると思うですよ。記憶喪失の私でもすぐに受け入れてくれたですから》

《夕映ちゃん……まともな事言ってくれるのは夕映ちゃんだけよ!ありがとう!》

《アスナ!私真面目な話してたろ!》

《い……いえ、私は当然の事をしただけです……》

《ゆえのそういう性格的な所は変わってないんだね》

《のどか……そうなのでしょうか?》

《夕映ちゃん語尾にですが付くのは今まで通りよ》

《そうなのです……ですか。本当ですね》

《ふふふ……》

《きっとすぐ記憶も戻るわよ》

《そうだと良いです》

《あ、それで私は結局どっちに進めばいいのよ。何か見た感じヘラス遠くない?》

《アスナ、それメルカトル図法って地図だから極地側に近い所は縦に長くなってるんだけど実際はそんなに遠くないんだよ。ネギ君と小太郎君も心射方位図法の地図使ってるらしいからそっちの方が分かりやすいね。それにニャンドマの方は頑張って出てきても結局メセンブリーナの辺境も辺境の片田舎だし、どちらかっていうと近づけば近づくほど首都に近くなる帝国のほうが良いんじゃないかな?》

《うーん、コタロ一人だけ帝国向かうっていうのも心細いだろうし……それでいいかなぁ……》

《多分でかい湖が3つぐらいあったりするからそれも目印になるよ。渡し船もあるからなんとか乗せてもらえればすぐ着くだろうし》

《いいわ、美空ちゃんを私信じるわよ!》

《お、おう!信じてみろ!》

《それで、途中で帝国の人に会ったらどうすればいいの?》

《挨拶すればいいんじゃ?もし警邏の人いるなら一度不法入国扱いでも首都に護送してもらった方が徒歩より早く着くだろうし身の安全は取れると思うよ。多分小太郎君もそうなるだろうし。つかアスナ達皆不法入国扱いなんだけどさ……》

《私達のせいじゃないわよー!》

《分かってるよ。とにかく、アスナ、下手に逃げたり、人を攻撃したりすんのはやめなよ》

《私そんなに乱暴じゃないわよ》

《いやいやいや、咸卦法なんてのできる時点で次元が違うからさ。自分は大丈夫と思ってちょっと力入れたら予想以上に相手の人吹っ飛んだりするよ?》

《そ……それはなんとなくわかるわ……》

《あー、あれか、まほら武道会の雪広のエージェント吹き飛ばしてた時の事か?》

《そうそう……って美空ちゃんまほら武道会の時いたっけ!?》

《いやー、超りんから映像だけ見れる用の端末貰ってたからそれで》

《超さんかー。超さんも一緒に来てくれたら今頃凄い発明で皆すぐ集まってそうなのにね……》

《超りんだと……地球の時速数百キロが余裕で出るような飛行機作っちゃいそうだからな……下手するとロケットとか……》

《そうよ!どうして魔法世界の乗り物って空飛んでる……まだ見てないけど、そんなに遅いのよ!》

《それはエンジンに地球のガソリンとかじゃなくて祈祷精霊エンジンっての使ってるからだと思うよ。私も気になって調べたし。何でこんなに遅いのかと》

《何よその祈祷精霊エンジンって……祈りながら運転するの?》

《んにゃ、そりゃ無いわ。下位から良くても中位精霊っていう割とどこにでもいる精霊を利用してる汎用エンジンだからもともと最大でそこそこは出ても地球の科学のような際限のない馬鹿みたいな出力は得られ無いらしいんだよ》

《へー、やっぱり全然違う世界なのね》

《まーそういうこったな。貨幣価値もおかしいし》

《私一銭も持ってないわよ……》

《春日さん、私もです……》

《美空、私もアル》

《うわー、マジかー。ってそりゃそうだよな……。入国する前にそれじゃーな。日本円160円が1ドラクマ相当なんだけど、この1ドラクマは大体日本人の感覚で1600円なんだわ》

《何よそれ!10倍も差があるじゃない》

《そういうことー。まあこっちで稼いでもあっちに戻ったら10分の1になっちゃうって訳だな》

《働く気が無くなるわね……。まぁいいわ、私そろそろ出発するわね》

《気をつけてね、アスナ》

《大丈夫よ、いざとなったら咸卦法使って斬空掌で戦うから》

近づかれる前に気弾で倒してやるわ!

《そういう喧嘩っ早いのも含めて気をつけてね……》

《アスナさん、ガラの悪い人を見かけても不用意に咸卦法で斬空掌使うのはやめたほうがいいですよ》

《せ、刹那さんまで……。分かったわ、危険な動物追い払うぐらいにしか使わないわよ》

《危険な動物っても竜種は見たら攻撃せず速攻逃げなよ》

《え?この辺竜なんて出るの?》

《その辺は一定のテリトリーに竜種いるっぽいよ。何でもニャンドマの方は今黒いのと青い竜がいるらしいからやっぱ近づかないほうがいいかも》

《あー、うん、決めたわ、私ヘラス帝国行くわ。それじゃあ出発よ!》

《行ってらー!》

《アスナさん、お気をつけて》

《アスナ、気をつけるアル》

《アスナさん気をつけてです》

《アスナさん、気をつけてください》

《皆ありがと!右腕に気、左腕に魔力……合成!!》

―咸卦法!!―

よーし、頑張って湖目指すわよー!
私走るのは前から速かったけど咸卦法を使えば一気に進めるわ!
木にぶつかりそうになっても瞬動で切り返せばいいだけだし!
もし当たっても痛くないし、全然行けるわ!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月13日16時頃、メガロメセンブリア―

アスナがヘラスに移動し始めてから6時間ぐらい経過した。
何か別にニャンドマに行っても良かったんじゃない?って速度で進んでるっぽい気がするけど気にしたら負けだな……。
出発する瞬間に明らかに咸卦法使ってたから山の中でもかなり速い自転車ぐらいの速度は出てそうだよな……。
走ってただけで偶然いた通りすがりの人を轢いたりしないか心配だわ……。
んでくーちゃんとゆえ吉は寝てるけど丁度皆起きてきた。
ネギ君、小太郎君、楓達とこのかね。

《おはようございます、皆さん》

《あ!ネギ!おはよう!》

《よう、アスナ姉ちゃん、俺も起きたで!》

《ネギ先生、小太郎君、お、おはようございます……》

のどかはネギ君無事起きて一安心ってとこか。
トレジャーハンターやるって言い出したときは驚いたけどネギ君達はもう何か普通の常識じゃ図れんから私が口出す領分でもないけど。
周りにいんのがマジもんのトレジャーハンターなら大丈夫だろ……多分。

《ネギ坊主、コタローおはようでござる》

《ネギ先生、小太郎さん、おはようございます》

《ネギ君、小太郎君おはよう》

《皆おはようさん~》

《皆さん、お嬢様、おはようございます》

桜咲さんはそろそろ丁度砂漠でどうにかして寝る感じらしい。
呪符があるお陰で結界は張れるんだとさ。
便利だよなぁ。

《ネギ君達おはよう。アスナ、移動先の事について話しとかないと》

《そうね》

《アスナさんどうかしたんですか?》

《私もヘラス帝国の首都に向かってるからそれを伝えようと思って》

《何や、アスナ姉ちゃんも俺と同じ所なんか》

《それを勧めたのは……?》

《あー私です、ドネットさん》

《春日さんね。理由は国境越えがあまり良くないからかしら?》

《そうですね。後は私が飛空艇でオスティアまで飛んでもその時には合流は間に合いそうにないからって事だったんですけど、どうも今アスナ相当速い速度で走ってるからどっちでも良かったかもしれないんですよね……》

《速いって言うほどじゃないと思うわよ》

《時速30kmぐらいは出てるんじゃないの?》

《うーん、時速なんて言われてもよくわからないわ。あ、咸卦法切れそう。右腕に気、左腕に魔力……合成!!》

だめだこりゃ……。

《あはは……さすがアスナさんですね》

《そう……もう進んでいるなら仕方ないわね。確かに国境越えと不法入国二つだったら不法入国だけの方がいいわ。小太郎君とも合流できるかもしれないでしょうし。このままうまく集まるなら今のところアリアドネーがいいかもしれないわね》

強力な武装中立国だし、ゆえ吉もいるしな。

《ドネットさん、分かりました。私ヘラス帝国にこのまま進みます。ネギ!美空ちゃんがネギの方にすぐ行ってくれるから無理するんじゃないわよ!》

《え……アスナさん、もしかして僕のためにヘラスに向かうんですか……?》

《あんたは自分の事だけ心配してればいいの!分かった!?》

《……は、はい……》

あー、まあそういう意図も無かったというと嘘になるけど、実際アスナが国境で捕まったり、ニャンドマに出たとしても迎えに行くのにオスティアから北上しないといけなくなるから時間かかるのは事実なんだよな……。

《よっしゃ、そんならアスナ姉ちゃん俺とヘラスで合流や!》

小太郎君とヘラス盆地最端までの距離は元々1700km強ぐらいだったらしいし昨日それなりに進んだっぽいから距離的には今だけに限定すればアスナよか近い距離のところに到着してるだろうな。
それに首都がヘラスなもんだから少し離れた所にも街やら村やらある筈だしネギ君よかやっぱ環境はいいわな。
超巨大盆地にこれまた大きな湖がいくつもある麗しの水の都らしいから観光にもなるんじゃないかね。

《コタロ、約束よ!》

《おう!》

にしても小太郎君元気だな……。
杖なんか無しでガチで戦えるとこういうときゃ強いよな。

《分かりました。皆さん、今日も頑張りましょう!それでは僕もこれから出発します》

ネギ君のまとめで一旦解散になった。
私はまだ情報収集を続けるけどどっかに残ってるゲートとか無いんかね。
ゲートを破壊するってことは孤立主義を物理的に加速させるためなのか何なのかはわからんけど。
元々一部の超急いでる人達が各都市間を一瞬で移動するためのテレポート用の役目も果たしてたんだけどこれで空路が余計に混むこと間違いない。
ニュースも相変わらずどこの局もゲートポートから噴出してる魔力暴走の映像ばっか放送してるしなぁ……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月13日6時頃、セブレイニア大陸某オアシス村―

ほな、朝の仕度はできたえ。
昨日は村の宿の女将はんに頼んでとめてもろたけどええ人でよかったな。
少しびっくりしたのは動物の耳がコタ君みたいに付いとる人や、身体全体がイルカだったりする人がいたことやね。

「女将はん昨日は良う眠れました。おおきに」

「おお、お嬢ちゃん早いね。昨日ここ着いたの夜遅かったじゃないか、あの時は驚いたよ。あんなに砂被って一人で砂漠越えてきたなんてさ」

もう女将さんは厨房で食事作っとるね。

「驚かせてもうてすいません。うち、ただで泊めさせてもろたから何や手伝いさせて欲しいんです。もちろん今日冒険者の皆さんの怪我を治すのもやるえ!」

「なんだか悪いねぇ……だってお嬢ちゃんあれだろ、こんな辺境にはニュースはまだ届いてこないけど、お嬢ちゃんが言うにはゲートポートのテロっていうのに巻き込まれちまって一緒に来た仲間ともはぐれちまっただけなんだろ?ケフィッススに行くっていうのは私も賛成だけどさ」

「うち、はぐれてしもた皆とは連絡とれとるんで、皆が頑張ってるからうちも頑張らんとあかんのや。それに女将さんうちに杖と箒もくれる言うし、その分しっかり働くえ」

「連絡が取れてるっていうならいいんだけどねぇ。それに杖と箒は大分前の誰かの忘れ物だしさ。分かったよ、それじゃ野菜洗うの手伝ってもらえるかい?」

「分かったえ!うちこう見えて家事は得意なんや!」

「お嬢ちゃんがいてくれたら冒険者もきっと癒されるよ。今日は頼むね」

「はい!」

それから野菜洗うて、それを女将さんの言うとおり切ったりして手伝ってたんや。

「お嬢ちゃん、手際いいねぇ。それで魔法で火はつけられるかい?」

「できるえ!」

「ま、箒に乗れるってんだからそれぐらいできるさね。なら私の隣のコンロで使い方は教えるから一緒に野菜炒めてもらえるかい?」

「分かったえ!」

「それじゃよろしく頼むよ」

―プラクテ・ビギ・ナル― ―プラクテ・ビギ・ナル―
 ―火よ灯れ―    ―火よ灯れ―

「そうそう、そうすりゃすぐにフライパンがあったまるからね」

「こっちは料理にも魔法使うんやねぇ」

日本だとコンロのノブを回して調節するだけやからなぁ。
日常的に魔法使うなんて思わんかったえ。

「そうか、お嬢ちゃんゲートから来たってことは本当に旧世界人なんだねぇ。ここ最近まで伝説だなんて言われてたからね」

「そんなに珍しいんですか?」

「滅多に旧世界の人なんてこんなとこ来やしないよ」

「そうなんか……。あ、そうや、香りの良い花ってありますか?」

「ん、そうだねぇ、オアシスだから一応あるさね」

「ほな、後で冒険者の人達が起きてきたら貰えませんか?」

「何か魔法使ってくれるのかい?」

「はい、そのつもりや」

「嬉しそうな顔してるねぇ。いいよ、料理が終わったら持ってくるからさ」

「おおきに」

日本で魔法練習しとっても生活で普通に使うことできんかったからなぁ。
女将さんと一緒に料理して30分ぐらいしたら冒険者さんら起きて2階から降りてきたえ。

「それじゃお嬢ちゃん朝食を配膳してもらえるかい?」

「任せてや!」

砂漠でもオアシスのある村には2日に一回は定期的に行商が来て食材や日用品を売りに来るんやて。
そやから、結構朝食もあるみたいなんや。

「ほな、どうぞお召し上がり下さい」

「お、それじゃ頂くぜ。……あ?嬢ちゃん見かけない顔だなぁ。どうしたんだ?」

「ダンさん!その子は昨日夜砂漠から一人で長いこと歩いてきて私の所を頼ってきたんだよ。ゲートポートって奴の事故でこの辺に飛ばされちまったんだってさ」

「へぇ!そうか!良く解らんがそりゃ大変だな。元気だせよ、嬢ちゃん」

「おおきに、ダンはん!」

「名前はなんていうんだ?」

「近衛木乃香や」

「このか嬢ちゃんか、がんばれよ」

「はい!」

ここに泊まっとったのはうち含めて10人やったよ。

「お嬢ちゃん、花持ってきたよ」

「女将さん、ありがとう。ほな、やるえ」

        ―オン・ハラハラ・オンキリ・ソワカ―
―花の香りよ 彼の者達に元気を活力を 健やかな風を refectio!!―

「ほー、花の香りを使った気付けの魔法かい」

「そうや、うちの専門は治癒やからね」

「このか嬢ちゃん、気分がスッキリしたぜ。ありがとな!」

「へー、これこのかちゃんがやったの。ありがと」

「どういたしましてや!」

ゆえやのどかもそれぞれ頑張っとるんやからうちも今日頑張るえ!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月13日日本時間、20時52分、麻帆良―

《超鈴音、用意はできましたか?》

《翆坊主が予想した通りになたネ。端末の用意はできているから龍宮サンに渡してくるヨ。丁度龍宮サンも準備ができたところなのだろう?》

《観測した所そうですね。もうすぐ寮の部屋から出るはずです》

《分かたネ。しかしゲートポートの破壊とはよくやるヨ》

《私達にとっては麻帆良地下の封印されているゲートポートに魔力が集中することになりますから好都合なのですが》

《ふむ、ネギ坊主達は無事だといいがナ》

《あれだけ修行してましたから……大丈夫ですよ。一番怖いのは司法機関でしょう》

《例のフェイト・アーウェルンクスがネギ坊主達にマイナスになるような罠を仕掛けていたらその可能性は高くなるナ》

《……せめて私達にできるのはネギ少年達が、無事に夏休みが終わる頃に帰ってくるのを祈るだけです》

《麻帆良の地下のゲートポートから帰てくるということカ》

《何分、世界が隔絶されてしまいましたから詳しいことはわかりませんが》

《そうだナ。恐らく美空達の端末には自動でネギ坊主の通信情報が表示されるように仕掛けをしておいたからゲートで何かがあたとしても連絡は取れるようにしているから大丈夫だとは思うヨ》

《恐らくネギ少年達にとってはかなり役に立つか、既に立っていると思いますよ》

《当然ネ。もしこれが公的に広がれば世界中常に会話が絶えないなんてことになるからナ。3-Aに広めたりすれば授業中にしゃべり続けるだろうというのが目に浮かぶようネ》

《目の見えないところで授業崩壊と》

《そういう事だから、まだ世界には出せないナ》

《電話業界が滅びるのが視えますよ》

《私もそれは前に思たヨ。さて、それでは龍宮サンに渡してくるネ》

《はい》

翆坊主の話だとこの数時間であちらは既に数倍の時間が流れているそうだからもう間もなく1日近くは経つことになるだろうナ。
おや、女子寮の前に高畑先生のと思われる車が止まているネ。

「お、まさか超も行くのか?」

これは私の方が先に寮から出ていたようだナ。

「いや、この軽装を見ればわかるだろう?龍宮サンにいつものを渡しておこうと思てナ」

「……端末か?」

「そうネ。ほぼ確実にネギ坊主達、美空達と連絡が取れるようになるヨ」

「なるほどな、超がどれぐらい今回の件を予想していたかは知らないがありがたく受け取っておくよ」

「高畑先生と葛葉先生の分もあるから頼むネ」

「ああ、分かった。高畑先生に会わなくていいのか?」

「また変に疑われそうだからネ。後でそれとなく渡しておいてもらえると助かるヨ」

「超は謎が多いからな。仕方ないさ。端末は後で必ず渡しておくよ」

「ふむ、それでは龍宮サン気をつけてナ」

「ああ、私はあちらにも行った事があるから大丈夫だ。帰って来られるかどうかは知らんがな」

「それで良くこの依頼を引き受けたネ」

「私達の担任の先生がいないようでは2学期からの授業も退屈になるからな。それに2年もあれば戻ってこられるさ」

「2年を軽く言えるとはナ……。報酬はツケで……という事のようだネ」

「そんな所だ。まあ超がこうしてこれを渡したという事はどうなるかはわからんが意外とすぐ戻ってこられるんじゃないかと今思ったよ」

「私をそんなに信用されても困るヨ。でもネギ坊主たちと一緒に2学期までに帰てくることを祈ているネ」

「ああ、そうなるといいな。それでは行くよ。端末感謝する、仕事が楽になりそうだ」

これで私がネギ坊主達にできることは、運命の日まで2週間しかないが、それまではもう殆ど無いナ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月14日、メガロメセンブリア時間4時、南極、2度目の長時間契約執行から10時間が経過―

これでようやく総時間数で1日と数時間が経過したけど合計200kmぐらいは進めたと思う。
食料は早めに消費すると後がなくなるから今日は空腹の状態で我慢してたけど頑張るしか無い。

「ネギ君、今日は洞窟があってよかったですね」

「はい、助かりました。ミリアさん携帯食料食べますか?」

「いえ、私はネギ君の背中にいるだけでしたから必要ありません。少しダイエットと思えば大丈夫です」

「すいません……まだ後数日は我慢しないといけないと思います……」

「ネギ君が謝らなくていいですよ。雪がありますから水には困りませんし」

「そうですね……これで本当にどこまでも何も無い砂漠だったら大変だったかもしれません」

「魔法世界の砂漠には定期的にオアシスがありますから意外となんとかなるそうですよ」

「そうなんですか……だからこのかさんも村でうまくやってるって言ってたんですね」

「ネギ君と一緒に来た方達は皆さん凄いですね」

「サバイバル技術はかなり鍛えてますから少しぐらいなら大丈夫です。あの、昨日壊れたゲートの事を話しましたけど、どこか残っているゲートってありませんか?」

「そうですね……確か……今はなき麗しの千塔の都オスティア、廃都オスティアに昔廃棄された休止中のゲートポートがあると言われていますが……」

ま、まだ地球に戻る方法は残ってるんだ!

「じゃ、じゃあゲートは残ってるかもしれない……あ……それも壊されているかもしれませんね……」

「私には詳しくは分かりませんが、廃都オスティアは今では魔獣蠢く危険地帯なので許可を受けた冒険者以外は立ち入り禁止になっているので容易に入ることはできないと思います」

魔獣蠢く危険地帯……?
ゲートポートを全て壊した奴らが、魔獣がいるからといって壊しに行かないということはあるんだろうか……。
あれほどの魔法が使えるなら魔獣だって強制転移でもさせてしまえばいいだけだろうし……。
それともそこに何かがあるのか?

「その廃都っていうのは……?」

「今から丁度20年前に終結した大分裂戦争で、最後に広域魔力消失現象と呼ばれるものがその旧オスティアで起きたのです。それを抑えるためにネギ君のお父様、ナギ・スプリングフィールド率いる紅き翼を始めとして、戦争をしていた連合、帝国とアリアドネーが協力してその現象を食い止めて世界を救った代償に、大小100を越す浮遊島が全て地上に落ちてしまったんです。その落ちた浮遊都市郡を廃都オスティアと呼びます」

「父さん達が……世界を救った……」

「そうです。そのため紅き翼は当時の少年少女の憧れでした。……恥ずかしながら私も……その一人です」

「そ、そうだったんですか」

「ネギ君は知らないのですか?」

「はい、僕は殆ど魔法世界の事を聞いていませんし教えてもらってもいないんです」

「それは……そういう風にネギ君の周りで決めてあったのかもしれませんね。私の口から言って良いような事ではなかったかもしれません……ごめんなさい」

「そんな、謝らないでください。僕が魔法世界に来たのは父さんを探しに来たのが目的なので、当然普通にメガロメセンブリアに着いていたら今頃知っていたかもしれませんから」

「え……ナギ・スプリングフィールド様は亡くなったと……あ、も、申し訳あり」

「いえ、必ず父さんは世界のどこかで生きているんです」

「そ、そうなのですか!?」

「確証もあります。地球にいないのであれば残るは魔法世界しかない筈なんです」

「それでわざわざ魔法世界にいらしたんですか……」

「はい、今回の旅行だけで見つけられるとは思っていませんが……」

今回のこのゲートポートの破壊事件、廃都オスティアにあるという休止中のゲート、20年前の戦争の最後の舞台となったその廃都オスティア、そして広域魔力消失現象……もしかしたら何か繋がりがあるのかも。
ゲートで気になった事といえば質の違う魔力の流れ……。
ゲートを破壊すれば当然その流れは止まる筈……。
もしかして止める事が目的だった……何故……?
マスターと話した火星を触媒にして魔法世界が成り立っているという事。
人造異界、人造でないかもしれないけどその存在限界・崩壊の不可避性の論文……原因はまさか魔力の流出……?
だとするとこのゲートポートを破壊した奴らは崩壊を遅らせるためにこんな事をしたのか?
いや、全ては憶測にすぎない……けど全く関係が無いとは言い切れない。
ここで知らないだけで調べれば分かるのは僕が題名しか知らない論文の内容、そしてオスティアの事……。

「ミリアさん、崩壊する前のオスティアにまつわる話ってありませんか?例えば、伝説とかそういうのでも構わないんですが」

「旧オスティア・ウェスペリタティア王国の伝説ですか……そうですね、例えば魔法世界の文明発祥の聖地であるとか世界最古の王国だと言われていますよ」

「魔法世界の文明発祥……の聖地……世界最古の……王国……?」

「ね、ネギ君どうしたんですか?急に悩んだような顔をされて」

「あ、ミリアさん、大丈夫です。少し気になることがあったので。教えてくれてありがとうございます」

「それなら良いのですが……。私にはこれぐらいしかネギ君にできることはありませんから」

「そんな事ありません、これからも気になる事があったら聞いても良いですか?」

「それは勿論いつでもどうぞ」

「ありがとうございます」

「人造」異界……オスティア……魔法世界の文明発祥の聖地……世界最古の王国……。
魔法世界の文明発祥であるならば詳しく調べれば人造なのかどうかもわかるのか……?
そもそも魔法世界が人造であるならば、魔法の発祥自体は魔法世界である筈がない。
なら魔法自体の発祥は一体……?
魔法の呪文がラテン語や上位古代ギリシャ語であるのはどこも共通している……これが源流だとするなら魔法自体は地球が発祥ということになる……でも文明は魔法世界が発祥……一体どういう事だ。
マスターのいう人造かどうかという事、作り出す際の魔力自体の問題色々気になるけど情報が足りないな……ここは調べてもらった方が早いかもしれない。
それより僕はなんとしてでも南極を抜けないといけないけれど……頼んでおくだけ頼んでおこう。

《春日さん、聞こえますか?》

《ネギ先生、春日さんは今寝ています》

《茶々丸さん、そうですか……》

《どうされたのですか?もうお休みなると先ほど言っておられたと思うのですが》

《あ、もう今休む所です。ただ、少し調べたい事があって……》

《調べたいこと……ですか?》

《ね、ネギ先……生、私でよければアリアドネーの蔵書で調べるですよ。丁度授業も終わった所です》

《ゆ、夕映さん!それでは一つお願いしても良いですか?》

そうか、今日からもう学校で勉強してるのか。
どんな感じか感想聞いてみたいけどそんなに余裕は無いなぁ……。

《はいです》

《人造異界の崩壊・存在限界の不可避性の論文というものがあると思うんですが、それの内容を知りたいんですがお願いできますか?》

《わ、分かったです。コレットにも手伝ってもらうです》

《ありがとうございます、夕映さん》

《任せて下さいです》

《ね、ネギ君?その、どうしていきなりそんな昔の論文を……?》

《あ、ドネットさんもしかして内容知っているんですか?》

《いえ……私も少ししか知らないわね。昔は話題になったそうだけど……今では取り組む人も少ない領域の研究分野ね》

《そうですか……。動機としては各地のゲートポート事件がただのテロではなく、何らかの意図があったと思えるからなんです》

《意図……というのは?》

《僕の憶測でしかありませんが、魔法世界の……崩壊を防ぐ為……かもしれません》

《魔法世界の崩壊ですって?》

《ドネットさんにウェールズから移動するときにゲート周辺の魔力の質が他と違うように感じるって言いましたよね?》

《ええ、言っていたわね。私には全くわからなかったけれど……》

《今ならなんとなくわかるんですが、あの時感じた魔力というのはこの今いる魔法世界の魔力なんです。つまり、ゲートからは魔法世界の魔力が地球側に流出している可能性があるんです。結果そのゲートを破壊するということは魔力の流出を絶つ事になると考えられます。ここで気になるのがさっきの論文の内容なんです》

僕が魔力の質を朧げに自覚できるようになったのはマスターとの加速通信法を習得してからの事だけど……。
マスターも最近覚えたって言っていたから気づいた人あんまりいないのかな……。

《も、もしそれが本当なら大変な事ね……。私も詳しくは知らないけれど元々あの論文はダイオラマ魔法球のようなものも含む人工的な異界、異空間に焦点を当てて説明したもので結論はかなり漠然としたものだったんじゃないかしら。内容は確かに通説にはなっているけれど、題名だけで内容を鵜呑みにして勘違いする人もいるらしいわね》

《あ……それ僕もです。前魔法世界が人造異界だと勝手に思い込んだ事があって……》

マスターも僕があの論文の話をした時詳しく知ってるのかと思ったけど、後で聞いたら「昔の人間が書いた論文だからな」って言ってて詳しく読んだことは無いみたいだから確かにそうかもしれない……。
何しろ古いのは確かだし……。
それにマスターはそれ以外にもっと重要な何かを知ってそうだったんだよなぁ……。

《それはまた突飛な説ね……。まあネギ君が異質な魔力を感じたというのが、他の人には気付けないとしても、詳しく調べてみる価値はありそうね》

《そう言ってもらえると嬉しいです。それでは僕そろそろ今日は休みますね》

《ええ、引き止めてごめんなさいね》

《いえ、まだまだ知らないことが多いなってわかりました。おやすみなさい》

皆からお休みなさいと挨拶をされて今日もこれで移動は終わり。
明日も頑張って100kmは進むようにしよう。
できれば明日もまた丁度良い洞窟が見つけられると願って……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月13日、16時頃、アリアドネー魔法騎士団候補学校、図書室―

突然ユエが「コレット、もう一度図書室に調べ物に行くです!手伝って欲しいです」って言い出したから何かと思ったよ。
今日、一応転校初日で名前も私の親戚という事で「ユエ・ファランドール」って名乗ったのは昨日決めた通り。
ユエは薬学や歴史を始めとした分野の知識が殆ど無かったけど実技の方はかなりすごかった。
知識面については一杯本を図書室から授業の合間に借りてきて勉強してるから問題ないかなーと思う。
ただ、能力のアンバランスさから委員長に目をつけられてたような気がするけど気のせいだといいなぁ……。
それにしても昨日本当に世界各地のゲートポートでテロがあって、職員と利用者が全員行方不明になったっていう事件あったのは驚いたよ……アリアドネーに情報が届くまでは数時間差があったみたいだけど。
今日クラスでもその話が結構出てたね。

「それでユエ、一体何を調べるの?」

「人造異界の崩壊・存在限界の不可避性の論文の詳しい内容です」

「なにそれ?人造異界?」

「私も分からないから調べるです。ネギ……先生が調べて欲しいと頼んできたのですよ」

おおっあのネギ君が調べて欲しいって頼んできたのね!
それは協力しない訳にはいかないよっ!

「それを早く言ってよー。よーし、探そう!」

「はいです」

魔法騎士団候補学校の図書室はすっごく広いからきっとある筈だね。
人造異界……人造異界……。

あれー……見つからない……。

「ユエ、見つかった?」

「いえ、見つからないです。そもそも論文ということは本ではないかもしれません」

「そ、そうか!じゃあもう司書の先生に聞いた方が早いよ」

「怪しまれないでしょうか……」

「死神でも学べるんだから大丈夫だよ!きっと!」

「それは物の例えであってですね……」

「はいはい、さっさと行こうよ~」

「そんなに押さないで良いですよ、コレット。わっ!」

「きゃっ!」

ユエを本棚の通りから押してたら誰かに当たった!?

「あ、ごめんユエ!それと……い、委員長!?」

あと委員長の後ろにいつものベアトリクス・モンロー、ビーさんもいるけど……。

「痛いですわね、図書室ではもう少し落ち着いて行動しなさい」

「ごめん委員長……」

「ごめんなさいです……」

「分かったならよろしいですわ。……それで一体何を調べていましたの?」

え……何でここで委員長が絡んでくる?

「そ、そそ、それは……」

「委員長、論文というのはどこで調べられるでしょうか?」

ユエ!ナイス!題名言わなきゃいいのか!

「論文?転校生、あなた一時的とはいえ記憶喪失なのではないのですか?」

あちゃー、自己紹介の時に先生がわざわざそういう事を言ったから……。

「覚えていない事と覚えている事があるです」

「そ、そうなんだよ!」

「……そうですか、いいでしょう。私もその調べ物協力しますわ」

「ゑ?」

「コレット……その間抜けな顔をやめるです」

「何ですコレットさん、私が協力するのがお嫌なのですか?」

そんな間抜けな顔してたかなぁ……。

「そ、そそ、そんな事ないけどさ。どうしてわざわざ?」

「同じクラスの委員長として、記憶喪失で困っている学友、それも転校生とあれば協力するのは道理。何か問題でもおありですか?」

「流石お嬢様です」

これぞ委員長の鏡!みたいなオーラを出されても。

「いや、何も問題ないよ。流石委員長、頼りになるね」

あ、私もなに口滑ってんだろ……。

「そうでしょう!……それで論文でしたがこの魔法騎士団候補学校では論文は置いていませんから、学校の外にある総合図書館に行くべきですね。案内しましょう」

「委員長、ありがとうです」

「礼には及びませんわ」

委員長がユエの事を見る目がどんなものか実力を図ってるような感じの気がするんだけどなー。
実際戦闘魔法に箒の実技はクラスで委員長の次ぐらい上手かったからライバル視してるのかも。
まあそれは置いといて……委員長とビーさんの後を付いてアリアドネー総合図書館に向かった。
私基本的にわざわざここまで来ないんだけど外から見ると、でかい……。
中もやっぱり広いねぇ……見つかるのかな。

「蔵書等はこの機械で検索すれば、書架にある場合は本のコードとその本のある階棚番が表示されますし、書庫に入っている場合は書庫とそのコードが表示されますわ」

「むむ……委員長、この機械使い方がわからないです」

「仕方ありませんわね、私が検索して差し上げますわ。その論文のタイトルは何ですか?」

意外と……いつもだけど委員長面倒見は良いなぁ。
結局何調べるか言わないといけなくなっちゃったけど。

「人造異界の崩壊・存在限界の不可避性というものです」

「……本当に変わった記憶喪失ですわね。分かりましたわ、少しお待ちなさい」

あっさりした反応で良かったー。
いきなり人造異界の崩壊・存在限界の不可避性なんてタイトル言われたら確かに変わった記憶喪失に思えるよね。

「ありましたわ……やはり書庫にあるようですわね。受付に参りましょう」

「はいです」

そのまま受付に行って委員長が率先して借りる手続きをしてくれて、少し待たされたけど出てきて……。
どうせだからって皆で机を囲んで……それなりに時間かかったけど読み終わった。
何だか不可避性なんていうタイトルが付いているから完璧な結論まで出てるのかと思ったんだけどその辺が有耶無耶であんまりパッとしない内容だった。
殆どの庶民には関係ないダイオラマ魔法球等の構造とその製造の難しさの話とかは詳しく書いてあったからそれはそれで面白かったけど……。

「これは……本物の論文ではないのではないでしょうか。あまりにも内容のバランスが悪い気がするです」

「バランス……そう言われると不自然ですわね。これだけ最初の方で細かいダイオラマ魔法球の説明までしてあるのに結論はなんというか尻切れトンボのようですし。しかしユエさん、あなたどうしてこの論文を?」

「理由は言えないです……。でも委員長……私はどうしてもこの論文の本物、もしくは削られているかもしれない部分に書かれてある事が知りたいです。どうにかして調べる方法はありませんか!?」

おおっユエが委員長に縋りついた!?

「お、落ち着きなさい、ユエさん。……理由が言えないというのはやましい事でもあるのですか?」

「そんな事は無いです。誓っても良いです!いつか必ず理由は話すです!」

「…………分かりました。そこまでいうなら……実家に頼んでみても構いませんわ」

「お嬢様?」

「でも、まずは魔法騎士団候補学校の先生達にも聞いてみた方が良いでしょう」

「委員長、ありがとうです!」

「別にあなたのためだけに協力する訳ではありませんわ。ただ、この論文の事が私も気になっただけですっ」

こ、この反応の仕方は……。
委員長、素直じゃないなぁ……。

「しかし、いいですか、私達の本分は魔法騎士団候補学校の学業をきちんとこなすことです。あなたのような薬学も歴史もその他諸々知識のないのにこの論文の事ばかりにかまけていてはいけませんわよ」

「わ、分かったです」

「……分かったなら良いですわ。しかし、寮の門限もあります。今日は戻って授業の復習をするべきでしょう」

「はいです」

委員長の発言で今日はネギ君から頼まれた論文を調べる作業は終わったけれど明日も先生達に聞いたりする所から動く事にしたよ。

「コレットはあの論文どう思ったですか」

「どうって……タイトルの割には結局あんまり要領を得ないような内容だったなって」

「私が思うに、意図的に結論が削られているか、差し替えられているならば、どこかの誰かにとってマズい情報だったのではないかと思えるですよ」

「じゃ、じゃあもしかして誰かの陰謀って事?」

「陰謀というのは言い方が悪いかもしれませんが、何らかの問題があるのではないかと思うです」

「何らかの問題って?」

「大きな社会問題になる……とかですよ。例えば先程の論文で説明されていた物であれば、ダイオラマ魔法球の中で生活していたら突然ある日何も無い大地に気がついたら立っていた……というような」

「なにそのお伽話みたいな例」

「いえ……私もこのような事は言いたくないのですが、ネギ先生は魔法世界が崩壊するかもしれないと言っていたのですよ……」

「えっ!そんなまっさかぁ!それが本当なら今頃大きな社会……問題……に……」

「分かったですか?」

「な、な、何か凄い危ない事に足を突っ込んでいるような気がするよ!?」

「ネギ先生も憶測でしかないと言っていましたが、その可能性もあるものとして調べる価値はあるです」

「……そ……そうだね。でも勉強もちゃんとしようね」

「コレットもですよ」

「分かってるよー!」

この怪しい論文の事、グランドマスターに聞いたらきっと分かるんじゃないかなーと思うんだけどどうだろう……。
とりあえず今日は、うん、寝よう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月14日7時頃、メガロメセンブリア―

世界各地に飛ばされたネギ君達で起きている人達と朝また定期連絡を済ませた後。

「春日さん、愛衣、予定通り渡航許可が取れましたわ。既に便も確保してあります。出発は9時からですから準備なさい」

「うおっ早ければ今日って言ってたけど本当にもう取れたんスか!?」

「この通りホテルの受付に、実家から自由渡航許可証が届きましたわ」

そ、それはアレだ。
正規ルートが通ってるなら基本的にどこでも自由に行き来できるっつーやたら金のかかるチケットじゃんか!

「高音さんの家凄いッスねー」

「お姉様、私準備してきますっ!」

「私も準備しまーす」

「お待ちなさい、春日さんにはこのクレジットカードを渡しておきます」

「え?おお、助かります」

「基本的にいくら使ったか、何を買ったかはわかりますからあまり変なモノを買わないようにして下さい」

「そりゃあ勿論ですよ!で、これ使った請求ってどこに行くんスか?」

まぁクレジットカードが使えない場合もあるから現金もそこそこ持ってるけどさ。

「私の実家ですが、連絡が取れれば後で麻帆良学園にきちんと請求しますから安心なさい」

うはー、肩代わりする訳ね。

「了解です、自由渡航許可証と現金もそれなりにあるんで大丈夫だとは思うけど、もしもの時は使わせてもらいます」

「はい、それで良いです。それでは私も出発の準備をしますので」

えーっと昨日のうちに準備した予備用の箒と杖もあるし、携帯許可も取った。
そんでもってこの自由渡航許可証にクレジットカードそれと端末、この3つをもしなくしたら積むな。
気をつけよう。
サクサク荷造りを済ませてホテルの今日の分の朝食を取って、明日の分までホテルを予約していたのをキャンセルしてチェックアウト。
そのまま飛空艇発着所に向かった。

「いいですか春日さん、何かわからないことがあればすぐに連絡なさい」

「了解です!」

「それでは出発しますわよ。オスティア行きは西ポートです。私と愛衣は東ポートですがからここで別れる事になりますから気をつけるように」

「分かりましたー。それじゃ臨機応変に周るんで」

「定期連絡はこちらからもします。それでは」

「よし、ココネ行くよ」

「分かった」

西ポートに移動して……と。
やっぱクジラだよなーどこからどうみても。
帝国はなんていうかシャチみたいなインペリアルシップっていう奴らしいんだけど、まあどっちも共通してんのはデカイって事だな。
とにかく自由渡航許可証を見せて係員に驚かれたりしたけどそれは置いといて個室に到着と。
まあ普通のビジネスホテルみたいな感じだな。
オスティアに着くのは3日後の8月16日午前8時頃の予定。
それまで暇だけどまほネットは繋げるし、基本メガロメセンブリアのニュースは逐一入ってくるから大丈夫だろ。
一旦部屋から出て遊覧飛行を救出作戦中ながら楽しんだり、軽い飲み物を1アスで買ったり、昼時になって機内のレストランでココネと一緒に8アスのラーメンの親戚みたいの食べてまた部屋で休憩。
……にしても日本円でいう1円なんていう細かい貨幣も無く安けりゃなんでも1アスっていうのはざっくりしすぎだと思うんだけどねぇ。
それはともかく、時間はメセンブリア時間で13時。
この間ネギ君達とも色々不思議通信したから一旦状況を整理するか。

魔法世界地図で一番西側にいるゆえ吉はアリアドネーで今は丁度深夜で寝てる。
私達が寝てた間にネギ君から人造異界の崩壊・存在限界の不可避性っつー論文を調べて欲しいって言われたらしく早速アリアドネーの総合図書館で調べたそうな。
でもどうも臭い資料だったらしく肝心な部分が書いてないなんて事言ってたな。
さっきまた起きてまた3度目の長距離移動に入りだしたネギ君がその事について軽く説明してくれたんだけど、今回のゲートポートテロは魔法世界から地球に魔力が流出するのを防ぐ目的で行われた可能性があるって話らしい。
ついでに私が今向かってる新オスティアの地上郊外にある廃都オスティアに休止中のゲートがあるらしんだけどそこも破壊されてたらほぼその線で確定&私達が戻る手段が2年は本当に無くなるみたい。
かといって潜り込めるかっつーと魔獣が蠢いてるから許可のない冒険者以外ははいっちゃいけないって事で私は今回は全力でスルーする事に決定。
そんでいつかはわからないけど魔法世界が崩壊するかもしれないと聞いてマジびびったけどネギ君はそんなブラックジョーク言う子じゃないしな。
しっかし南極にいんのに事件の分析してるネギ君マジネギ君だわ。
あからさまに元気が無くなっているように聞こえるんだよな……仕方ないだろうけど。

それで丁度1時間前に今日も元気に山奥で起きたアスナはそのネギ君の様子を感じて流石に直接怒れず私に爆走しながら愚痴ったりしてる訳だ。
アスナの端末の活用法がなかなかアレでさ、木の実の写真撮って送ってきては食べれるかどうか聞いてきたり、多分デカイ湖が源流の川を見つけては、泳いでた魚に斬空掌なる気弾ぶつけて狩猟しては「美空ちゃん、この魚も食べれるか教えて!」だもんなー。
私が協力できんのはそれぐらいっちゃそれぐらいだからまほネットで魚一生懸命検索してわざわざ美味しい焼き方なんてもんまで調べて教えたりしたよ。
実際食べてみて美味しいとわかったら何匹か余分に狩猟してその後の食事用にもゲットしたらしいし。
とにかくアスナは逞しすぎる。
多分進み方次第によってはもしかすれば今日には湖にある村ぐらいには着くんじゃないかと思うんだけどね。

テンペ南の砂漠で相変わらず強行軍で進んでる桜咲さんはあんまり自分の事報告しないけど、大丈夫そう。
つか飛ばされた初日に18時間近く移動し続けてたから徒歩での移動距離が相当長い。
もう300kmぐらい移動してきてるからもしかしたら明日にはもうテンペまで自力で到着できるかもしれない。
ただ問題は水だろうけど気力でなんとかするそうな。
高音さん達がテンペに向けて出発したって聞いたから一気に駆け抜けるって言ってたな。

くーちゃんは例の山脈にあった古ぼけた建物に井戸があったり、キッチンあったりしたらしく水の安全面はあれだけど沸かして消毒しといたから桜咲さんより状況は良い。
つかその写真で送ってきた建物なんだけど結構でかかったんだよな……。
いつ使われなくなったか知らんけど誰かの別荘だったのかもね。
今日はガンガン足場破壊しながら降りてきたらしく、海が見える崖まで出てこれてその辺で野宿するってさ。
その海多分タンタルスとの間を挟んだ湾の入り口みたいなところだからそこに沿っていけば多分崖がいつかは砂浜に変わる筈。
まあその前に丁度運送屋やら飛空艇のルートに入っているから運が良ければ前者だと乗せてってもらえるかもしんないね。

3-Aの武道四天王は強いなーと言いたいところあと一人の楓は茶々丸とドネットさんと一緒にケルベラスを抜けるのに苦労してて今は午前3時ぐらいだから寝てんな。
竜種見つけてやべー時は楓の分身でわざと怒らせて撒いたりしてるらしい。
トレジャーハンターの人が驚いてた気がするけどなんつーかケルベラス組は命の危険があるようで全くその危険がなさそう。
ドネットさんも結構な魔法使いみたいだから身体強化はできるし、もし危なくなっても楓と茶々丸がいるなら余裕だろ。

のどかは今日初めてそのトレジャーハントに参加して、罠発見と解除が神だったらしい。
クリスティンさんがのどかの端末から私達に「僕罠発見するの下手だったからノドカちゃんの手際見て驚いたよー。これからもいて欲しいぐらいね」って感動したような、自分の立場が無くなったような感じで語りかけてきたからよう分かった。
アイシャさんの話だと「ノドカ箒で浮いてられるから設置型トラップは全部あっさり突破できて進むのが凄く早かったわ」って喜んでた。
クレイグさんは「嬢ちゃんの腕には驚いたが、怪我は一つもしてねぇから安心してくれ。あんたらも頑張れよ」ってマジ良い人。
このかの目じゃなくて耳というか心には狂いは無かったな。
多分一番明るい気分になるのはトレジャーハンターの人達だわ。
のどか自身は「私そんなに役に立ってません」とか常に謙虚だからなー。
今更ながら図書館探険部ってそんなに凄い部活だったのかと、魔法世界でも通用するレベルの罠が普通にある図書館島を有する麻帆良はやっぱりどうかしてるとしか思えん。

もう一人の図書館探険部のこのかは既に深夜で寝てるけど私が出発した9時頃に連絡して来た時に聞いた話だと、セブレイニアのオアシス村で一日働いたそうな。
小さい宿屋の女将さんから杖貸してもらって料理の手伝いしたり冒険者の怪我治したりかなりまともな日常生活を送ったらしいわ。
あと数時間でまた起きたら次の村に向けて貰った箒で飛んでいくってさ。
これで一緒に荷物を届ければ魔女宅的何かができそうな気がする……。

最後小太郎君は「この辺北極いうても何や食べられる動物ぐらいおらんのか」って聞いてきたけど、まだ北極圏真っ只中だから流石に出てこんだろ。
ヘラス鹿ってのが美味しいらしいから見つけたら狩猟すればとは言っておいたんだけどね……。
肉まん大臣っていう謎の役職についてるらしいくーちゃんと一緒に肉まん運んでたらしいからまだ食料に困ってはないみたい、凍ってるらしいけど。

結局一番ヤバイのが安否の完全にわからんアーニャちゃんを除けばネギ君だというオチだな……。
皆あんまり触れたりはしてないけど、多分全員ネギ君が一番危ないっていうのは分かってると思う。
……そういう訳で私の責任滅茶苦茶重大だー!!
アスナが私に愚痴ってくんのは多分それもあるね。
何気にこのかはケフィッススまでつきゃ私と大して変わることなく盧遮那あたりまでは行けるかもしれないけど金が無いからキツイだろな。
誰かヘリコプター持って遭難者二名救出してこいって感じ。

…………あー、真面目にオスティアから高速艇に乗り換えるか。
装備整えてアーティファクトフルスロットルで爆走すれば地面さえあり続ければどんな崖だろう谷だろうと地面と足が密着してさえいれば時速100kmは出るし箒とうまく併用すればなんとかなるんじゃないか?
少なくとも食料やら防寒具、それに杖ぐらいは届けたりできるかもしれないし。
流石に麻帆良祭の鬼ごっこの時はそんな非常識な速度では走らなかったけどさ……田中さんは地味にトラウマだけど。
捜索隊を組んでもらった所で動き出すのにどうせ時間かかるからそれじゃ遅いし私が行った方がまだマシだな。
とりあえず高音さんに連絡しよう。
柄にもなく私が頑張るって珍しいけど、たまには役に立つとしますか。



[21907] 45話 それぞれの地にて・後編(魔法世界編5)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/11 00:52
―8月14日、17時頃、ヘラス帝国領、ノアキス西部地方湖畔目前―

このかも貰った箒で次のオアシス目指してるみたいだし、私は美空ちゃんによればもうすぐ大きな湖に着くはずよ!
美空ちゃんには何としてでもネギを最優先で救出してもらわないと!
ん……咸卦法が切れるわ。
右腕に気、左腕に魔力……合成!!

―咸卦法!!―

結構この辺でも咸卦法が切れると少し寒く感じるけどエヴァンジェリンさんの別荘で咸卦法の修行しまくったから寒さ、暑さには滅法強いわよ。

……あっ林が終わりそう……そしたらきっと村がどこかに見える筈……。
もうすぐ今日も日が落ちそうだけど……やったわ、一つ目の巨大湖とうちゃーく!!

《美空ちゃん、湖着いたわよ!》

《んー!?予想はしてたけど本当に移動はやすぎだろ!》

《だって全然疲れないんだもん》

《……そりゃ元気なことだな。そうそう私さっき高音さんに伝えてオスティア着いたら高速艇に乗り換えて桃源まで行くことにしたからさ。順調に行ってオスティアから1日と十数時間で着く計算》

《美空ちゃんネギの所に急いでくれるの?》

《まぁそんな所だよ。私の柄じゃないんだけど走るだけならアスナにも負けないアーティファクト持ってるからさ。ネギ君がもし今のペースで移動し続けたとしても1000kmはいかないだろうからそれだと未だ寒冷地帯抜けきらないからね。装備整えて私から助けに行くつもり。そしたら本気出して十数時間走れば一気に近くまでいける……と思う》

《えっ!?一体美空ちゃんどれぐらい早く走れるのよ!》

《時速100kmは行けるぜ!飛空艇より早いぞ!》

《そんなに長時間走って疲れないの?》

《いやー私も陸上部の短距離専門なもんだからそんなに走り続けた事ないんだけどさ、アーティファクトだからそんなに疲れないんじゃないかと思うよ。おまけに高低差数十メートルの着地も余裕だし。あと箒も持って行くから力場帯で寒さも高地の低酸素現象も軽減できるしさ。まあ私も初めての試みだからやってみなきゃわかんないけど、もし長時間走れないなら走れないで休憩しながら行けばなんとかなるっしょ》

《ありがとう美空ちゃん!ネギを助けてあげて!》

《任せとけ!……とは胸を張って言えないけどまだネギ君には言わないでおいてね》

《なんで?》

《そりゃネギ君私が南極に特攻するなんて聞いたらやめてください!って言うに決まってるじゃん》

《そ、そうね……。分かったわ。ネギには伝えないでおくわ。でも美空ちゃんも気をつけないと駄目だからね!》

《はいはい、私も決死の覚悟って訳でもないから助ける範囲内で、安全第一で行くつもりだよ》

《それでも何があるかわからないんだからしっかり連絡はしてよね。で……どっちに村があるのかしら……って、んー?んー!あったわ!》

ちょっと煙突のようなものから煙が上がってるわね。
それにボートのようなものが湖に浮いてるのも見えるし。

《見えるんかい!》

《それじゃあちょっと行ってくるわね》

こうして湖畔に沿って進むのも結構いい景色ね。

《おっけー。多分ヘラスの人は褐色系で頭に角生えてるけど驚かないようにね》

《そうなの?》

《そうです。しかも長命で見た目より全員年上だから基本敬語がいいよ》

《分かったわ。忠告ありがとう》

《それじゃこっちは一応夜中なんだけど明日明後日と飛空艇の中だからまだ起きてるつもりだし、何かあったら連絡しなよ》

《うん!》

このかも宿屋に泊めて貰ってたぐらいだから私もまともな寝床が欲しいわ。
一応獲った魚もあるしなんとかなるといいんだけど……。
日がもう落ちてきてるから急がないとね。

……20分ぐらい移動し続けて着いたわ。
村の人も私に気がついたみたい。
女の人みたいね、良かった……本当に角が生えてるけど。

「あのー!すいませーん!ここに宿屋ってありますか?」

「その前にあんた見たところ人間みたいだけど、それにその格好に荷物、一体どっから来たんだい?」

「えっと、最初から説明します。私は神楽坂明日菜と言います。丁度一昨日ぐらいにあったゲートポートのテロ事件でここから東の山の中に飛ばされてしまって二日かけてここまで来ました」

「ゲートポートで事故ねぇ……誰か知ってるのは……通信機がある村長のところにいけば分かるかもしれないね。ま、それはいいさね。私はハンナだ。ここには宿屋なんてものはないから村長の所に案内してあげるよ」

「あ、ありがとうございます!」

「小さい村だしすぐ着くからそんなお礼なんていいよ。ついてきな」

「はい!お願いします!」

ハンナさんの後について村長さんの家の所まで連れて行ってもらう途中

「ハンナさん、その子一体どうしたんだ?」

男の人がハンナさんに話しかけてきて

「ああ、何かこの辺に飛ばされてきたって言ってるよ。詳しいことは村長の所に着いてからだね」

「そうかい、こんな村じゃ面白い話も少ないから後で教えてくれよ」

「気が向いたらね!」

……何か特別っていうのでもなくただの田舎って感じね。
移動するまでに似たような反応を3人ぐらいにされたけど不法入国なんて誰も言わないわね。
気にしてないだけかしら。
村長さんの家についてハンナさんが扉を叩いたら、また女の人が出てきてそのまま私は案内されたわ。
村長さんっていうからよぼよぼのお爺さんかと予想してたんだけど……ちょっと年を取ってるぐらいのオジ様って感じね。
悪く無いわ!

「儂がこの村の村長じゃ。話を聞かせてもらえるかな、お嬢さん」

喋り方とギャップがあるわよ!
まだその話し方は早いと思うわ!

「……え、あ、はい、私は神楽坂明日菜と言います。一昨日ゲートポートで起きた事故に巻き込まれて気がついたらここから東の山の中に飛ばされてしまって、二日かけてここまで来ました」

「ほう……ゲートポートの事故のう。……ゲートポート……アスナ嬢さん、ちと街に連絡を入れるから待っとくれんか」

「はい、構いません」

村長さんは今の日本からすると古そうな電話のようなもので街に連絡をしてくれて、事件の確認から始まり、人が飛ばされたかどうかについても話がチラっと聞こえた感じどうもヘラス帝国にも情報は伝わっていたみたい。

「……ふむ、どうやら本当のようじゃな。ここへ来たということは、アスナ嬢さんは首都に向かうつもりなのかな?」

「はい、そのつもりです」

「そうかそうか。ならば今日はここに泊まっていくといい。渡し船も毎日動かしとるから明日一緒に乗って行くとええ」

「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!」

「特に何もない村じゃが、一人娘さんが増えたところで何も変わらんから気にすることはない」

「ありがとうございます!あの、良かったら今日ここまで来る途中川で魚を獲ってきたのでどうぞ」

えーっとビニール袋に入れてあるんだけど……。

「……そんな気遣いせんでええんじゃが……」

「これです!」

「おぉ!これは立派なノアキストラウトじゃな」

これ昨日も食べたんだけど美味しかった。
美空ちゃんには寄生虫に気をつけるように散々言われて、指示通り処理をした後よく焼いて食べたから大丈夫だとおもうけど。
それにしても塩あったら良かったのになぁ。

「是非受け取って下さい!」

「ほっほ、ならばありがたく頂こう。丁度夕飯も近いから一緒にうちの者に調理してもらうとするかの」

この後村長さんのご家族と一緒に、私が獲ってきた魚の料理含む夕飯を食べさせてもらったわ。
なんていうか日本の料理とは大分違ったけど新しい味って感じね!
見たことない野菜一杯あったし。
私がゲートポートから来たっていう事で旧世界、地球の事を聞かれたから話をしたんだけど皆興味津々で聞いてくれたわ。
このかも言ってたけど旧世界人って相当珍しいらしいわ。
聞いた話だと飛空艇は村長さんが連絡した街に行けば飛んでるらしいんだけどまだしばらくは普通に行くしかないみたいね。
首都は凄く綺麗なところだから期待するといいって言われたわ。
二日ぶりぐらいにまともな寝床につかせてもらえて助かった……けどネギはまだずっとここよりも寒い寒い所で食料も少ないのに頑張ってるのよね……。
美空ちゃん……できれば私が直接行きたかったけど……頼むわよ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月15日、15時頃、テンペテルラ大陸、オアシス街テンペ目前―

はぁ……はぁ……お嬢様……やっと……最初の目的の街まで……辿り着き……ました……。
お嬢様……申し訳ありません……もう……歩けません……あと少しだったのですが……一旦……ここで……休みます……。
み……水……。
…………。


『おーい!誰かあそこに倒れてるぞ!街のすぐ外だ!』

『なんだって?』

『誰か手の空いてる奴、休んでないでちょっと手伝え!』

『おう、俺がいってやる!』

……何か街の人の叫んでいる声が……。

「女の子じゃねぇか、一体どうしてこんな所で倒れてんだ」

「分かんねぇがとにかく運ぶぞ」

「ああ」

……どうやら街の中まで運んでもらえるようです……感謝しなければ……。


…………うぅ……涼しい……。

「ほら、しっかりしな!大丈夫かい嬢ちゃん」

「……こ……ここは……」

「お!気がついたよ!」

……目を開けたらそこには猫の……人がいた。

「嬢ちゃん、まずは水でも飲むかい?」

「あり……がとうございます。頂きます」

……ひ、久しぶりの水だ……。
生き返る……。

「どうだい、落ち着いたかい?」

「はい、助けて頂きありがとうございます」

ここはどこかの部屋のようだが……。

「それならジョニーさん達に言いなよ。嬢ちゃん運んできたのは運送屋の人達だからね。ちょっと待っておいで、呼んでくるからさ」

「あ、ありがとうございます」

猫の女性は部屋から出て行った。
恐らくここはテンペの筈……。
そうだ、荷物は……。
あった、ベッドのすぐそばに置いてある。
……端末もポケットの中に入っているし大丈夫だ。

『さっきの女の子起きたのか』

『ああ、さっき目を覚ましたばかりだよ』

『しっかし、街の外で倒れてるから何事かと思ったぜ』

「嬢ちゃん入るよ」

「あ、はい、どうぞ」

扉を開けて新たに入ってきたのは目が少し細い男性と……虎の人だった。

「あの、先程は助けて頂きありがとうございましたっ!」

「そんな仰々しくお礼されるような事してないから顔を上げてくれ。とにかく助かって良かったじゃねぇか」

「そうだぜ、俺たちほんのちょっと運んだだけだからな。空を飛ぶより容易いぜ」

「は……はい、ありがとうございます」

空を飛ぶって事は飛空艇で運送屋をやっている人達なのか。

「それで嬢ちゃんは一体どうしたんだい?」

「先日のゲートポートのテロ事件でここより南の砂漠に飛ばされてここまで歩いてきました」

「ゲートポートの事件つったら2日も前の話じゃねぇか。南の砂漠なんて言ったらどこにもオアシスも無いだろうに、よく頑張ったな」

「ああ!あのニュースか!運送屋仲間が場違いな所で人拾ったって話してたの聞いたな。てことはお嬢ちゃんもその一人か。そりゃ大変だったろう」

「はい……それなりに」

「何より無事で良かったね。あたしゃここの食堂の女将やってるもんだよ。何かあったら言ってごらん」

「あ、これは申し遅れました。私は桜咲刹那と申します。あの……できれば1泊か2泊程泊まれる場所を教えてもらえないでしょうか。連絡だけは知り合いと取れていて、ここに迎えに来てくれる事になっているのですが……残念ながら一銭も持ち合わせがなくて」

「ああ、それならうちに泊まって行きなよ。それぐらいお安い御用だよ」

「あ、ありがとうございます!泊めていただく代わりと言っては何ですが、それまでの間是非ここの食堂を手伝わせて下さい!」

「それは刹那ちゃんみたいな可愛い子に店手伝ってもらえると嬉しいんだけどね……だけど体は大丈夫なのかい?かなり疲れているみたいだけど……」

「大丈夫です!身体は鍛えているのですぐに元通りの体調になりますから。あともう1時間程休めば問題ありません」

「そうかい……?無理するんじゃないよ。思ったよりも脱水症状が酷いこともあるからね」

「はい、お心遣いありがとうございます」

「随分礼儀正しい子だなぁ。俺はジョニーってんだが何かできることがあれば遠慮せず言ってくれよ刹那ちゃん」

「俺はトラゴローだ。よろしくな」

「ありがとうございます、ジョニーさん、トラゴローさん」

この後女将さんに言ったとおり1時間程休んでいる間にネギ先生達、高音さん達への連絡も終えた。
高音さん達が飛空艇で迎えに来て下さるのは8月17日の未明の予定のようだ。
お嬢様は箒を現地の方から貰ったことで一日置きに村から村へ移動されており、今は丁度寝ておられるが起きたら今日はまたケフィッススに向かって移動されるそうだ。
早く……合流しなければ……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月16日、メガロメセンブリア時間、午前1時頃、オスティア行飛空艇内―

長い……ってかやっぱ飛空艇めっちゃ遅いわ!
飛行機持ってこいよー!
ロンドンやらアメリカとか数千km離れてても数時間寝たら着く距離だったじゃんか!
あれだよ、地球の豪華客船で世界一周の旅とかいうならこれぐらいでいいんだろうけどさ、私は現代人でしかもかなり急いでんですよこっちは!
やっとオスティアまで残り半分ぐらいの時間になったけどイライラするわー。
ココネ肩車してウロウロしてたら「ミソラ、降ろして」って言われたもんなー。
あー落ち着かねーの何のって。

良い感じなのは、とにかく安全な学校の勉強が好きになったゆえ吉、トレジャーハンターのどか、箒でガンガン魔法少女このか、二つ目の巨大湖&次の村に到着した逞しいアスナ、それと数時間前にテンペに到着したっていう連絡が入った桜咲さんぐらいだな。
楓達とくーちゃんは相変わらずだけど……ネギ君に続き小太郎君も少し元気が無くなってきてて、更にその当のネギ君は今まで結構通信会話の主導を握ってまとめてたんだけど、それすらも余裕が無くなってきた感じなんだよな。
そもそもおかしいのは、朝と夜がよくわからない極地だからって、10時間契約執行活動した後6-7時間睡眠のサイクルを既に4回はやってるって事だよ。
その10時間でしっかり100km進めてるのかっていうとそれもはっきり言わないから予想するしかないんだけど平地じゃない所も頻繁に出てきてるみたいだし、寝るときにかまくら作ったりだとか、洞窟見つける作業で結構時間くわれてるから難航してるとしか思えないわ。
大体6-7時間寒い中寝た程度で魔力って全快すんのかっていうのが一番気になる……。
ネギ君に大丈夫か聞いたところで大丈夫ですって元気なく返してくるだけだからマジで上辺だけなんだよなぁ……。
それに反比例するようにアスナが異様に元気振るから逆にわかりやすすぎて痛々しい……こういう時離れている相手の状況がわかるだけっていうのは悩みの種にしかならねー。
本当に単純に考えると1ヶ月から2ヶ月は何も食べなくても水さえあれば生きていけるってことだけど……これは極地を想定してないデータだろうしなぁ……大体魔力使い続けて精神的披露もかなりアレだから全然アテにならんし、私が桃源につく約4日後にどうなってることやら……。
あーもう頑張って寝よう……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月15日、18時頃、ヘラス帝国首都ヘラス、城内某所―

「アーニャ、ここの生活は慣れたか?」

「は、はい、こんなに良くして頂いてありがとうございます」

もうここに滞在して4日目、慣れたかと言われたら慣れたわ!
飛ばされた瞬間から城内だったけど外から一度城を見せてもらったらメルディアナ魔法学校の比じゃないわよ。
周りは綺麗な湖で囲まれてて夢みたいなお城ね!
凄く大きな龍樹っていう龍なんかもいるし魔法世界ってどこもこんな感じなのかしら。

「ネギ達の捜索の手配はちと手間取ってしもうたがようやく各所には連絡を回せたからもう少し待っておれ」

「ありがとうございます。でも何故ニュースで流さないんですか?」

「それはじゃな……仮にもネギはナギの息子で帝国の中には恨みを持っている者もおるから名前と写真を公表して帝国内で捜索するのは良くないからじゃ。それとアーニャの話を聞いた上での妾の勘なのじゃがゲートポートの事件は何やら臭うから下手にニュースで流すとマズいと思ったのじゃ」

「……そうなんですか……」

「それに基本的にニュースで顔が出るのは指名手配の場合が多いから勘違いされてネギ達が不埒な輩に襲われるのを防ぐというのもある。賞金稼ぎがその辺ウロウロしとる世界じゃからな」

「……そ、そんな事あるんですか……」

「よくあることじゃ」

ロンドンで占いやっててもそんな危険な人達なんてどこにもいなかったわよ。

「……それにしても……アーニャとネギの故郷が悪魔の襲撃にあったというのは、あの腐ったメガロメセンブリア上層部から嫌な臭いがプンプンしおる……」

「え……?」

メガロメセンブリアってネギ達が行くところだったじゃない……。

「おっと、済まぬ、今のは忘れてくれ。妾の思い過ごしじゃ」

「は……はい」

「しかしネギの師匠があの闇の福音というのは世の中面白いものじゃな」

「私は離れなさいって言ったんですけど実際会ってみたら闇っぽさはどこにも無いし、ネギは本当に強くなってて驚きました」

「千の雷を使ったというのが本当ならまさに二代目と言ったところじゃな」

「私その時のことは直接見ていないからよくわからないんですけど……」

「ふむ……ネギが強いなら丁度10月にオスティア記念式典で大拳闘大会もあるし変装でもして出てみたら面白いと思うんじゃが……どこにおるか分からないのではな……」

「大拳闘大会っていうのは……?」

「ナギ・スプリングフィールド杯という名を冠した年に一度最強の拳闘士を決める大会の事じゃ」

「な、ナギ・スプリングフィールド杯!?」

なんでネギのお父さんの名前そのままなのよ!

「アーニャが知らないなら無理ないが、実にそのままの大会名じゃろ?」

「もっと別の名前があっても良さそうですが……」

「ま、それはあのバカに言えばいいんじゃが一体どこにいるんだか……来いと言っておるというに音沙汰も無いし……」

「あのバ……カ……?」

「ナギの事ではないぞ。どちらもバカじゃがな。はっはっは!」

「あ、私達がメガロメセンブリアに行く時に迎えに来てくれる人がジャック・ラカンっていう」

「なんじゃと!それでは、あやつメガロに行っておったのか……。ああ、済まぬ、バカというのはそのジャック・ラカンの事じゃ」

「そうなんですか。出発前ネギはラカンさんは来ない可能性が高いって不死の魔法使いから言われたって言ってました」

「おー、信用されとらんな。確かにジャックの事じゃと約束すっぽかしそうじゃな。どうにか燻りだせないものか……」

こんな感じで私のメガロメセンブリアの首都じゃなくて帝国の首都での生活は過ぎていくけど一体ネギ達はいつ見つかるのかしら……無事だといいけど……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月16日、22時頃、テンペテルラ大陸、オアシス街テンペ、食堂―

あと数時間で高音さん達が迎えに来てくださるが、ここで私は役に立てたのだろうか……。
昨日助けてもらってから、その日の夕方から食堂を手伝っているが……。

「はい、刹那ちゃん、これで今日の店はしまいだよ。それで今晩は泊まっていくのかい?」

「あと数時間で飛空艇発着所に迎えが来るのでお構い無く。女将さん、少ししか手伝えませんでしたが、ありがとうございました」

「いやいや、そんないいって。ここに可愛い子がいるってすぐ昨日噂が広まったみたいで今日はいつもより客が多かったからね。運送屋の人達も喜んでたよ」

「いえ、そんな……恐縮です」

「刹那ちゃんは謙虚だねぇ。ま、お仲間と合流しないといけないんだろ?発着所までの行き方はわかるかい?」

「はい、ジョニーさんに教えてもらったので大丈夫です」

「そうかい。それなら大丈夫そうだね。気をつけていくんだよ」

「はい、お世話になりました」

「また機会があったらここにおいでよ。特にこれといってもてなしもできないけどさ」

「それは機会があれば是非伺います。ありがとうございました」

丸1日と少しだけ食堂で手伝うだけだったが、かといってこれ以上ここに長居しては本末転倒だ。
忘れ物が無いか確認し、荷物を整えて飛空艇発着所へ向かった。

《高音さん、私はテンペのポートに待機していますので到着したら連絡お願いします》

《桜咲さん、わかりましたわ。こちらは東ポートにテンペ時間で3時に到着予定です》

《分かりました。東ポートの待合室でお待ちしています》

《それでは、あと3時間後に》

《はい》

東ポート一般旅客用の待合室で日付が16日から17日になり、3時間が経過するのを待った。
しかし、私達の中で一番酷い状態なのはネギ先生だ……春日さんが桃源という所に向かうそうだが間に合うだろうか……。
お嬢様は今日も無事次の村に着かれてケフィッススに順調に近付いているようで安心できたが……。

[間もなく、3065便タンタルス行き、メガロメセンブリアからの直通便が東ポートに到着致します。6時間程のメンテナンスを行った後9時にタンタルスへ向けて出発する予定でございます]

ようやく到着だが、メンテナンスが入るか……。
放送通りすぐに高音さんと佐倉さんの乗る便……見た目は大きなクジラが東ポートに入ってくるのが見え、乗客達が降りてゲートを通ってきた。
それをしばらく見ていたら高音さんと佐倉さんがゲートを同じように通ってくるのが見えた。

「桜咲さん!お待たせいたしました」

「桜咲先輩、こんばんは!ようやく会えましたね」

「高音さん、佐倉さん、迎えに来て頂きありがとうございます」

「当然の事です、同じ麻帆良の生徒なのですから。今から桜咲さんの渡航許可証の発行手続きを行って来ますから待っていて下さい」

「ありがとうございます」

高音さんは受付に向かって私の分の渡航許可証を発行する手続きを始めてくださった。
他人が発行できるのか気になったがどうやら顔写真は必要ではなく名前さえあれば良いようだ。
危機管理が緩い気がするが、佐倉さんの話によると元々渡航者は幻術や変装、認識阻害を使用している事は日常茶飯事でわざわざ写真登録をする方が煩雑だからという理由らしい。
地球とは大違いだ……。

「桜咲先輩、私達、ネギ先生達も魔法世界にいらっしゃる事を全く知らなかったんですが、極秘だったんですか?」

「極秘……だったかどうかは分かりませんが、学園長に手回しして頂いたので情報管理はかなり厳重だったかと思います。特にネギ先生の情報はマズいですから……」

「そうですよね。私も麻帆良でネギ先生の事に気づいたのは大分時間が経ってからでした」

「それがあのまほら武道会で認識阻害がかかっていたという話であっても地球では派手に目立ってしまったが……」

「魔法世界側には大会の情報は流れてなかったようですし、多分大丈夫ですよ。あ、それともう首都メガロメセンブリアではないので封印箱開けられますよ」

ようやく夕凪……と仮契約カードを受け取れるのか……。
あ……高音さんと佐倉さんは仮契約カードの事を知らない……。
ここは私がなんとかフォローしなければ!

「ありがとうございます」

「桜咲さん、発行手続き終わりました。それでは飛空艇に戻ってから話の続きをしましょう」

「はい、お姉様」

手続きを終えて戻ってきた高音さんの発言により私も飛空艇の中に初めて入る事になった。
飛空艇自体移動するホテルのようで、主な食事をする場所だけは広い食堂だがそれ以外は個室に大体の機能がついているようだ。
高音さん達の部屋は元々私と古の事を考えて4人部屋を取っていたらしくかなり広い。

「桜咲さん、それでは封印箱をどうぞ。首都メガロメセンブリアに戻るか、アリアドネーの場合許可証が必要ですが、当分は必要ありません」

「ありがとうございます。それでは開けます」

「何かドキドキします」

「ただの武器類ですから面白くはないと思いますが……」

封印箱をこうして見るのは初めてだが、確かにウェールズの宿で詰めた時よりも遙かに小さい。
開けたらどうなるのだろうか……。
封印に張ってある紙を剥がし両開きにしたら……。
机の上、近くのベッド等、空間のある場所にどんどん並んでいった……。

「わー、本当にクナイや手裏剣入ってたんですね。確かに邪魔ですけど……私達が来た時は杖と契約カードしか入れてませんでしたし大分違いますね」

「こんなに沢山あったんですわね……」

殆ど楓の物だが……。

「……あれ、仮契約カードがありますね……」

「あら、本当ですわね」

「あの……それは私達とネギ先生との間でこの旅行期間中だけ限定での仮契約カードなんです」

「ええ!?その為にわざわざキ、キスなさったんですか!?」

やはり一般的にはキスの方法が普通なのか……お、お嬢様とは一体どうしたら……いや、そんな滅相もない……でも……あぁ……うーん……。
ハッ!そんな事考えてる場合じゃない!

「あ……いえ……私達全員に聞けばわかりますが、指の血を媒介とした違う方法で行いましたので誤解しないで頂けると……」

「あーそうなんですか、流石ネギ先生ですね!生徒の身の安全の為にわざわざ仮契約までするなんて」

「そ、そうでしたか……まほら武道会の時の私への気遣いもそうでしたが流石ネギ先生ですわね」

ネギ先生、3-Aからだけではなく他の方々からの信用もあるようですね。
私は夕凪と自分の仮契約カードを回収、皆の仮契約カードも無くならないように纏めてホルダーに入れて保管、ネギ先生達の杖と楓の武器類は……なんとかしよう。

「この箱にもう一度残りの武器類を封印するという事はできないのでしょうか?」

「使い捨て用の箱ですからね……それに何度も使える圧縮用の箱となればそれだけで費用がかさみますから一旦開けてしまえばただの箱です。それに高いのはあの封印紙の方ですわ」

「そうなんですか」

「まだ出発まで時間もありますし、保管用に鞄を用意してきましょう」

「高音さん、お願いします」

「愛衣、ネギ先生達と春日さんに合流できたことを連絡しておきなさい」

「分かりました、お姉様!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月17日、4時頃、新オスティア、飛空艇南ポート―

約3日の飛行でやっとこさ新オスティア国際空港の東ポートに到着。
4時間っていう妙な時差が発生してるもんだから起きたら丁度いい感じの朝のつもりが予想以上に早起きだったって感じだな。
昨日寝る直前桜咲さんと高音さん達が合流できたって話を聞いたからやっとこれで一人目と合流……先は長い。
なんか仮契約カードが封印箱の中に大量に入ってて祭りになったみたいだけど、実際のところ全部面倒な契約方法でやったらしい。
ま、その辺突っ込んでもネギ君的に今アレすぎるしどうでもいいスよ。
多分今頃高音さん達はそのままタンタルスに出発してる筈で私はここで一旦降りてどうするかだな。

「ココネ、荷物の準備できたー?」

「出来てる。ミソラは?」

「よーし、おっけーだね。じゃ高速艇に乗り換えよう」

3日間も篭ってた飛空艇ともおさらばして、空港のカウンターで高速艇用の追加チケットを早くも高音さんから貸してもらったクレジットカードで購入、次の出発は8時。
大体4時間ある訳で……高速艇に荷物を置いてからその間にネギ君を救出するための装備で揃えられるものは揃えておくことにした。
オスティアの品揃えはかなりメガロに近いから桃源で揃えるより余程良い。
まほネットで検索したら、一つ2000ドラクマ、32万もするけど、8時間ぐらい持つ使い捨て型サーモスタビライザーなんて便利なものがあるからいくつか買っていこ。
要するに一定空間を設定した温度に保ってられるっていう魔法具ね。
これで自腹だったら死ねるけどクレジットカード助かるわ……。
しっかし魔法具値段たけーつの。
魔法具店は……そんな空港から離れてない筈だけど……。

「ミソラ、あそこ」

「おお、流石ココネ。そんじゃ行くか」

メガロ程日本の高層ビル群は無いけどやっぱ浮遊都市ってだけあって着陸した瞬間は壮観だったわ。
魔法具店はレンガ造りの雰囲気がまさに魔法って感じの場所だった。

「いらっしゃいませ、何かご入用でしょうか?」

入った瞬間あるのはカウンター、んでもって入り口すぐにはお姉さんだよ。
あれか、魔法具店ってだけあって一つでも万引きされると速攻赤字になるから全部品物はカウンター越しの売買なのか。

「サーモスタビライザーをいくつか買いたいんですが」

「サーモスタビライザーですね。少々お待ち下さい」

お姉さんはカウンター奥に入っていって出しに行った。
カウンターにはでけぇおっさんがいるんだけど威圧感スゲー。
主にヒゲとかヒゲとか。
どーみても魔法使いには見えないわー。
何かどこ見るわけでもなくどっしり構えてんなー。

「お待たせ致しました、こちらがサーモスタビライザーα型になります」

ちっちゃ!
まほネットの写真あてにならねー!
何かやたら小さい円盤みたいなんだけど大丈夫なのか……?
てか何だそのαってのは。

「えっとαというのはどういう事ですか?」

「保持時間に違いがありまして、αが4時間、βが6時間、γが8時間になっています。お客様の使用用途をお教え頂ければ適切な時間をお教えできますが」

なんつーゲームのアイテムっぽい製品なんだよ。
いや、アイテムはアイテムだけどさ。

「雪山で使う予定なんですが、途中で休憩するかもしれないですし、何泊かするかもしれないんで……」

「ならαとγ両方だな」

おっさんいきなり喋ったー!

「お客さん、どこの雪山行くんだい?」

「えー、南極です……」

「南極ね……そっちの子とかい?」

「いやー、私だけです。ハハハ」

ココネは連れてけねーよ。
桃源で待っててもらうわ。

「細かい事は聞かんが南極は寒いから気をつけろよ。そうだな、南極行くなら何が起こるか分からんから余分に持っていった方が良い。行きに一日帰りに二日ぐらいで考えるべきだ」

「お客様、マスターは南極に行ったことがありますので信用してくださって大丈夫ですよ」

うはー熊男だからってそのまんまもいいとこすぎるだろー!!
もう少し捻れよ!
つか経験者に語られてんのかこれ。
6日もいらんだろうけど……5でいいか……。

「……分かりました、5日分でお願いします」

「5日ね、予定わからないっていうならそれぐらいがいいだろう。一日にα1つγ1つで15000ドラクマね」

「く、クレジットカードでお願いします……」

「お預かり致します」

げげー、240万?そんな感じか?高ッ!
つかその値段で普通みたいな対応されると引くわー。
まあ……さ、元々魔法具店なんて金ある奴が行くところだから当たり前っちゃ当たり前だろうけど……。

「お客さん、品物はこれね。命は大切にしなよ」

「は、はい、それはもう」

「こちらクレジットカードお返しします」

「どうも」

「お買い上げありがとうございましたー!」

はぁ……カードで買った筈なのに何か抉られた気がする。
とりあえずこれがあれば後は風が防げる簡易テントぐらいで毛布もデカイのはいらんし楽なのは確実だな。
後はドライフードでも買っていくかー。
やたらかさばる食料なんてリュックに入れて持って行く気起きないし。
雪があるなら水がなくても……と言いたいけど無いかもしれないから普通の食料も必要だな。

「ココネ、次行こうか」

「分かった」

続けて必要なものをあらかた買ってから高速艇に戻っていざ桃源へ。
やっぱ高速艇ってだけあって早い。
一般旅客用の2倍の速度は出てるよ。
その分他の飛空艇に比べて飛んでる高度も高いんだけどさ。
私はまたもや、まほネットで桃源から単純に南下し続けた場合のルートを検索しながら過ごしつつ昼飯を食べたりしてたんだけど、アスナから連絡があった。

《さっき丁度お昼に結構大きな街についたんだけど、門番の人に呼び止められたのよ!そしたらヘラス帝国で独自に私達の事探してくれてるみたい!》

なんじゃそりゃ、どーして帝国の方が探してくれんのさ!
丁度私よか東側の皆とネギ君と小太郎君は寝てるから反応はしないだろな。

《アスナ、そりゃ良いけどなんでまた帝国が?》

《なんか軍の人だけに私達の写真と名前が回ってるみたい。コタロは名前だけらしいけど。探してるのは皇女様だってさ》

は?
極秘指名手配ってわけじゃないだろうけど……。

《アスナさん、それはもしかしたらアーニャさんかもしれないわね》

あーそういう可能性もあるか。
いや、にしてもなんでいきなり皇女様が出てくんだよ。

《ドネットさん、確かにアーニャちゃんかもしれませんね!》

《アスナさん、小太郎君が北極にいるの伝えたかしら?》

《あ、はい、伝えます》

《どうやらアーニャ殿も無事であったようで何よりでござるな》

《良かったなぁ。アーニャちゃんもアスナも》

《もしアーニャちゃんが城の中に突然転移してたらどこのお話だって感じだけどさ》

《しかし、城の中にでも転移しなければ皇女と話すのは不可能では?》

茶々丸……なるほど、的確だ。

《た……確かに》

《私このまま首都行きの軍の飛空艇に一緒に乗せてもらえることになったから行くわね!》

アスナが最初に乗るのがクジラじゃなくてシャチのインペリアルシップとは……。

《多分インペリアルシップだな。アスナ、それ滅多に乗れないから後で感想よろしく》

《そうなの?分かったわ》

《小太郎君が起きたら捜索が出ていることを伝えましょう》

《了解です》

ヘラス帝国の方が安全って何だ。
皮肉すぎるわ。
軍用の船なら高速艇より速いから首都までその日のうちに着くだろな。
それに引換えメガロと来たら未だにゲートポート関係で軍関係は動かないしなんて機動力の無い……。
まあテロ受けたんだから仕方ないっちゃ仕方ないけど。
まだ1週間経ってないしね。

《私達も今日には山越えも終わってようやくヘカテスまで出られるわ。その後二日移動してグラニクスに行く予定よ》

《やっと街でござるな》

マジかー!
超危険樹林組もようやっと脱出スか。

《いやー、ドネットさん達が無事にケルベラス大樹林抜けられて良かったです》

一番襲われるっていう点で命が危険なケルベラス大樹林から脱出ってギネス申請できるレベルだろ……。
竜種に襲われてマジやばい時は茶々丸のガチ武装でレーザー撃ったりしたらしい。
流石現代兵器、威力は自重しない。
楓もその辺にあった固めの石加工して武器にしたらしいし、サバイバル本家は伊達じゃないな。
わざわざ高音さん達が手裏剣やらクナイ運ぶ必要があるのか謎だ……。
この調子で行くと19日にはネギ君と、帝国軍次第だけど小太郎君以外は大体みんなどこかしら村か街にはいる感じか。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月17日、20時頃、ヘラス帝国首都ヘラス、帝国直轄飛行場―

門番の人に話かけられて名前名乗ってからはあっという間。
空港に連れて行かれて美空ちゃんが言ってたインペリアルシップっていうのに乗せてもらったわ。
千数百キロぐらいあった筈なのに数時間で着いたから本当に速かった。
それでも飛行機程速くなかったけど……。
首都の景色を上空からも見れて、言ってみれば本当に湖に囲まれた水の都って感じ。
丁度夜で明かりもついてて夜景が綺麗だったわ!
それにしてもここ数日変な夢ばっかり見てる気がするんだけど、私こっちに来たことなんてあったのかしら……。

「どうぞ、カグラザカアスナ様、足元に気をつけてお降り下さい」

「ありがとうございます」

降りてみたら、まーインペリアルシップしかない飛行場ね。

「アスナー!!」

あ、あの手を振っているのは!

「アーニャちゃんっ!!」

思わずかけ出しちゃって周りの人達驚かせちゃったけどそれよりアーニャちゃんよ!

「アーニャちゃん、ヘラスにいたのね!良かったー!」

「アスナこそどこいたのよ!それにネギ達も居場所全然わからないじゃない!」

「それがネギ達の場所は全部分かってるのよ」

「え?」

「そなたがアスナか?」

近くにいた綺麗な女の人で……探してたのは皇女様っていう事は……。

「あ、はい、私が神楽坂明日菜です。もしかして皇女様ですか?」

「そうじゃ。妾はテオドラ、帝国第三皇女じゃ。アーニャが数日前妾の部屋にいきなり現れたでの。捜索の手伝いをしたのじゃ。積もる話も何じゃ、城に戻るぞ」

「え、アーニャちゃんもしかして飛ばされたらお城の中だったの?」

「そうよ」

ほ、本当にどこのお話よ……。
皇女様とその護衛の人達に連れられてお城まで連れていってもらったわ。
徐々に護衛の人達が減っていって案内されたのは皇女様の部屋。

「よし、ここなら話せるぞ。アスナ、コタロとやらが北極にいるという情報だが、状況を整理してから明日、明けてすぐ一番に捜索を出させるからしばし待つと良い」

「あ、ありがとうございます!」

「アスナ、なんでネギ達の場所が全員分かるのよ」

「これよ。アーニャちゃんに見せてなかったけどこの端末で皆とはここ数日通信できてたの」

「何よそれー!私だけ仲間外れ!?」

皇女様の前でこんなにはっちゃけていいのかしら……。

「そんなつもりじゃないけど、人数分しかなかったのよ。ドネットさんの分も無かったし」

「そ、そうだわ、他の皆の場所はどこよ」

「夕映ちゃんはアリアドネー、楓、茶々丸さん、ドネットさんは今日ケルベラス大樹林って所を抜けてヘカテス、このかはケフィッススから離れた村、刹那さんはこっちに来てた麻帆良の魔法生徒の人と一緒にタンタルスに向かう飛空艇の中、くーふぇはタンタルス北のあたり、のどかはノクティス・ラビリントゥスでトレジャーハンターの人達と一緒。それでコタロが北極で……ネギが南極よ」

「場所言われてもちょっと良くわからないけどネギが南極って……」

「ものの見事に……バラバラに飛んだようじゃな。ケルベラス大樹林を抜けてヘカテスにたどり着いたとは驚いたが無事で何より、コタロは明日には捜索が出るから大丈夫じゃろうが……ネギはアスナの言い方からすると良く無いようじゃな」

「はい……しかもネギだけじゃなく、ゲートポートの受付の人も一緒に飛ばされていて食料も殆ど無いのに移動してるんです……。一応今高速艇でオスティアから桃源に向けて麻帆良のもう二人魔法生徒が向かってるんですけど……」

「ネギとその受付の人そんな寒いところでどうやって移動してるのよ……」

「ネギが仮契約して移動中はずっと契約執行してるらしいわ」

「ま、また仮契約!?ってそんな場合じゃないわね……。移動中ずっとって数時間もやってるの?」

「初日は10時間やってたわ」

「じゅ、10時間!?」

「ナギも馬鹿魔力かと思えばネギもか……しかしいくら魔力が多いと言うても限界があるじゃろ。済まぬな、ヘラス帝国は南極に助けをやることはできぬ」

「皇女様、気にしないで下さい。アーニャちゃんと私、コタロをありがとうございます。それで……ネギのお父さんの事を知ってらっしゃるんですか?」

「ああ、妾はナギに会ったことがあるしよく知っておる」

「アスナ、その話はまた後でいいけど、ネギとその端末っていうので通信はできるの?」

「できるわ……丁度今日最後の移動中よ。ちょっと待ってね、アーニャちゃんの声を聞いたらきっとネギも元気になるわ。……はい、これに手を当てて。通信は念じるだけでいいから。良かったら皇女様もどうぞ」

個人通信でいいわよね。
アーニャちゃんの無事は皆と別に話せばいいわ。

「妾も良いのか?それでは遠慮せず」

《ね、ネギ、アーニャちゃんヘラス帝国にいたわ。今一緒で助けてくれた皇女様もいるわ》

《う……アスナさん、ほん……とうですか?アーニャ、無事で良かった……。皇女様、助けて頂きありがとうございます……》

5日間の間なのにもう8回目の移動……だったと思うけどこんなに衰弱して。

《ね、ネギ。私は無事よ、あんたその……大丈夫なの?》

《テオドラじゃ、ネギ、礼には及ばん。身体を大事にせよ》

《アーニャ、僕は……大丈夫……。前よりは……寒くないところにいるし……。テオドラ様、ありがとうございます……。アーニャ、必ず僕……皆と合流するから……ちょっと待っててね……》

《ネギ、もう無理しなくていいわ。また後で連絡しなさいよね》

《はい……アスナさん。また後で……》

あの子本当に大丈夫しか言わないんだから……。

「アーニャちゃん、ネギはこんな感じなの……。でも、美空ちゃんって私の友達が助けに行ってくれるから絶対大丈夫よ」

「わ、私も助けに行くわっ!」

「アーニャよ、落ち着くのじゃ。ここからでもどうあっても南極に行くには数日かかる。アスナの友人の方が早くつくじゃろう」

「そうよ、アーニャちゃん」

「うぅ……だって……」

アーニャちゃんの気持ちも分かるわ。

「アスナ、ネギは杖をやはり持っておらなんだか?」

「はい、私達全員杖武器類は全てゲートポートの封印箱に残したままだったので」

「そうか……祈るしか無いの。妾に協力出来ることは帝国にいる後一人、コタロとやらの捜索じゃな」

今日は私もアーニャちゃんと一緒に城の部屋で泊まらせて貰ったわ。
皇女様がネギのお父さんが活躍した大分裂戦争で関係があったっていう話を聞かせてもらったんだけど、オスティアのあたりの話っていうのが、ネギが言うように少し私も何か引っ掛かる気がするのよね。
私の場合は魔法世界の崩壊とかそういう事とは違うんだけど……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月18日桃源時間0時頃、南極、強制転移から124時間(5日4時間)が経過―

これで8回目の移動も終わり……なんとか今日は洞窟がみつけられたけど……携帯食料はもうないし……救いは雪から水が取れるだけ……。
山が多くなってきたせいで街までの直線距離で700km進めたかどうかっていう距離……これはマズい……。
木でもあればいいんだけどまだどこにも植物は無いし……本当に雪だけだ。
嬉しい情報はアーニャがヘラス帝国の首都にいたって事だ……。
お陰でアスナさんも首都に着けたみたいだし詳しくは聞いてないけどコタローもこのままなら大丈夫だろう。
こっちは春日さんが来てくれるって事だけどまだ時間がかかるだろうな……。

「ネギ君……今日は昨日より休んだほうがいです。いくらネギ君の魔力が多いと言っても6時間ぐらいでは完全に回復したりしないでしょう」

「は……はい、でも大丈夫です」

「ネギ君、大丈夫ばっかり言ってます。どう考えても大丈夫じゃないって言っているようなものです。休んでください」

そういえばアスナさん達にもずっと大丈夫ばかり言ってるな……。

「分かりました、ミリアさん。今日は少し長めに休みますね」

「そうして下さい」

……実際には6時間を超えて契約執行を切っていると凍死しそうだから早めに起きて移動するのを口実に契約執行し続けてるんだけど……これは言えないな……。
食べ物を食べていないからエネルギーが足りないのも問題だ。
多分身体にもともとある脂肪を燃焼させてるだろうけどその実感も無いし、走り続けられる程のエネルギーが得られているとは思えない。
多分あと1日か2日で魔力が回復し切らずに移動中に足りなくなるかもしれない……けど……無理でも……無理を押し通すしかない。
皆と合流するって約束したんだ、絶対にこの約束守ってみせる。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月18日ヘラス時間、8時頃、北極、某所―

アスナ姉ちゃんが言うにはもう捜索が出とるって事なんやけどこの辺山多いからな。
1000km越えたんは間違いないんやけどまだどこにも鹿見つからんな。
凍った肉まんは全部食べ終わっとるし、ハラ減ったわー!
咸卦法覚えといてホンマ良かったわ。
この5日で結構上達したからな。
生き死にかかっとると底力出るもんやで。
待っとってもしゃあない、まだまだ進むで!
右腕に気、左腕に魔力……合成!!

―咸卦法!!―

アスナ姉ちゃんみたいに長時間はずっとやんのは無理やけど5分は必ず越えられるようになったからな。
このか姉ちゃんおったらもっとやってもええのやけど爆発は御免や。
やっとただの何もない雪山からちらほら木も見えるようになったな。

……何やこの音?
ゴゥンゴゥン言っとるな。
お、空に何や浮いとるのが見えるで!
ひぃふぅ……正確にわからんけどいくつか来とるな。

[こちらヘラス帝国軍捜索部隊、イヌガミコタロ、付近にいれば応答されたし、しばらく応答が無ければ移動する]

まーたコタロってアーニャ言うんネギの幼なじみにしろアスナ姉ちゃんにしろあとちょい伸ばせばええだけやないか!
まあええ、荷物あるけど浮遊術で寄っていったるわ。
のろし替わりにこれも見てみろや!

―咸卦・疾空白狼牙!!―

狗神は普段黒いんやけど、前と違うて初速に咸卦法を乗せるんやなくて、狗神自体に咸卦法の力も乗せるようにしたら白く光るようになったわ。
これやと影使い廃業やけどな。
ま、威力は段違いに上がっとるからええ。
ネギと組めばそう簡単に負けはせえへんで。

結構高いところに浮いとるんやな。
真面目に打ち上げたんやけど、届かんわ。
ま、既に空中の高いとこ浮いとるから気づくやろ。

[イヌガミコタロと思われる人物を発見、2番艦高度を下げ救助活動に入る]

おお、下がってきおった。
何や飯食わせてくれると助かるんやけどな。
俺も1000mぐらい上がったところで同じ高度に到着したわ。

[これよりハッチを解放する、入ってこられたし」

アスナ姉ちゃんシャチみたい言う取ったけどサメでもええんちゃうか?
浮遊術でそのまま開けてくれたとこから入らせてもらったわ。

「助かったで、感謝するわ!」

「イヌガミコタロ殿ですか?」

あー、ホンマに角生えとるんやな。

「ああ、犬上小太郎や」

「送られてきた写真の特徴とも合致します。間違いありません。犬上小太郎殿、本艦へようこそ」

「首都まで世話になるで。あー、できればなんやけど、何でもええから食べる物くれへんか?腹減ってかなわんわ」

「それは勿論です。食堂がありますのでご案内します」

「よっしゃ!やっとまともな食事や!」

軍人やっとるのなんて男ばっかりかと思っとったけど女の姉ちゃんもおるんやな。
荷物を預かってもろて食堂に連れてもらって腹が膨れるまで食わせてもらったわ。

「コタロ殿が先程本艦に近づいてきたのは浮遊術ですか?」

「なんで兄ちゃん達俺に敬語使ってるんや?俺どうみてもガキやろ。質問やけど、浮遊術やで」

兄ちゃん達俺の周りに集まっとんのやけど集中して食えへんわ。

「言葉遣いは決まりですので。その年で浮遊術とは素晴らしい。格闘の方も得意なのですか?先ほどの狼煙も変わったものでしたがかなりの威力があったとお見受けしました」

あれ見て威力分かるんか。

「格闘っちゅうか俺普段ずっと修行しとるからな。前より強くなったのは確かやけど、まだまだやな」

まほら武道会は俺やネギでも敵わん相手多かったしな。
楓姉ちゃんより凄い忍びやとか瀬田の教授やとかはるか姉ちゃんやとか蘇芳の兄ちゃんやとか全勝しとった人達には咸卦法使えてもまだ勝てる気がせえへん。
あの教授に至ってはその場で使いおったしな。
ホンマありえへんで。
……おっ、この肉ウマイな!
もしかして鹿か?

「拳闘大会というものがありますが良ければ参加されてはどうですか?ある程度腕が無いと危険ですがコタロ殿なら問題ないかと思います」

「拳闘大会?」

「はい、2ヶ月後にオスティアでナギ・スプリングフィールド杯という大拳闘大会があります」

「ブッ!!ゴホッゴホッ!」

「だ、大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫や。それ俺みたいなガキでも出れるんか?」

驚いたわ。
何やねん、ネギの親の名前そのまんまの大会は。

「年齢は問題ありません。ただ2対2で戦うので一緒に戦うパートナーが必要となりますが」

「へー、それタッグバトルなんか?」

「はい、その通りです」

「ゲートも壊れて帰れへんし、俺の相棒も助かったら出てみたいな!兄ちゃん達は出えへんのか?」

ネギはちとヤバイからな……。
春日の姉ちゃんが行ってくれるゆうたけど間に合うのを祈っとるで。

「我々は軍人ですから。ヘラス族は長命なので参加する者もあまり多くありません」

あー、そう言うことなんか。
大怪我して長い事生きなあかんのは面倒やしな。
こっちの医療がどんなもんかは知らんけど。
ウマイ肉が何か聞いたらやっぱヘラス鹿やったわ。
食いまくって腹いたくなって寝たかったんやけど、その後強制的にシャワーあるとこ引っ張られて身体洗わされた。
ま、臭うんは仕方ないな!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月18日16時頃、アリアドネー魔法騎士団候補学校―

ユエはこの数日でもう結構学校になれたね。
学校にある凄く変な味のするジュースに嵌ってるんだけど味覚大丈夫なのかな……。
それにトイレが近いという弱点があるのがわかった。
これを委員長に「戦場では致命的ですわ!」なんて言われてた。
そういう時は飲まなきゃ大丈夫!
で……今日も先生に例の論文の事を聞きにいったよ。

「あなた達、その論文についてここ数日聞きまわっているようだけど、そんなに気になるならグランドマスターに聞いてみなさい。私からも伝えておくから」

「本当ですか?ありがとうです、先生」

「学校の勉強だけに満足せず他の事にも興味を持つというのは良い事だわ」

「先生、ありがとうございます!」

教員室から失礼して、緊張するけどグランドマスターのいる部屋に向かうことにしたよ。

「にしても先生達にも聞いて回ったけどあんまり知らないみたいだったね」

「はい……。一つわかったのはあの論文が旧世界出身の魔法使いが書いたという事だけです」

「知りたいのはあったとしたら本当の論文、その中身なんだけどね」

……話しながら進んでたら

「お待ちなさいユエさん、コレットさん。何処へ行くのですか?」

委員長、とビーさんなんで都合よく曲がり角から現れる?

「あ、委員長もグランドマスターの所に一緒に行くですか?例の論文の事を先生からグランドマスターに聞いてみるといいと言われたです」

「セラス総長にですか!?……分かりました、私もご一緒しましょう」

委員長も論文の事調べてくれてるから断る理由もないね。
4人で学校最上階にある総長室まで行って……。

「緊張するね……」

「何を言ってるんですか、コレットさん。入りますわよ」

あ、委員長がドアノックした!

「総長失礼致します、3-C、エミリィ・セブンシープです」

『話は聞いているから入っていいわ、エミリィ』

委員長が最初に入って挨拶して

「失礼いたします、ベアトリクス・モンローです」

「失礼するです。ユエ・ファランドールです」

「し、失礼します、コレット・ファランドールです」

総長室って広いなぁ……。
大きめの机にグランドマスターって入った名札が置いてある以外は応接用のソファーと壁際に本棚があるぐらいだけど。
机の前に4人で並ぶのってなんか緊張するよー!
グランドマスターの貫禄は凄いし!

「さ、要件を聞きましょう。ユエ・ファランドール」

「は、はいです。グランドマスターは人造異界の崩壊・存在限界の不可避性の論文で総合図書館に保管されているものとは違うものがあるか知っておられるですか?」

「あなた達がここ数日聞いて回っていたというのはその論文ね。ここの学生が調べるには変わった論文だけれど私も総合図書館のものしか知らないわね。もしかしてあなた達もあの論文に違和感があると感じたのかしら?」

「で、ではグランドマスターもあの論文が第三者によって手を加えられていると思われるのですか?」

「その可能性は否定できないわね。その前にどうしてあの論文に興味を持ったのか聞いていいかしら?」

「はい……。数日前のゲートポートでのテロと関係があるです」

「ユエさん!?それはどうい……総長失礼致しました」

「エミリィ、気にしなくていいわ。ユエ、詳しく聞きましょう。でも、まずは席をあちらのソファーに移動しましょうか」

「「「「はい!」」」」

なんだか4人一緒に総長面談してるみたい……。

「さあ、ユエさっきの続きをお願い」

「はいです。グランドマスター、内容を判断してからでいいのですが先にここでの話は秘密にしてもらえないでしょうか」

ユエ、もしかしてネギ君の事言うのかな?
確かにグランドマスターに約束してもらえれば大丈夫だと思うけど。

「……ええ、いいわよ。盗聴防止の結界も張っておくから安心しなさい。エミリィ、ベアトリクス、コレットもいいかしら?」

「「「はい」」」

「これでいいわね」

「ありがとうです。私の記憶は今一時的に失われているのですが、私を知るという人達と連絡が……この、端末で取れていてその中のある人に頼まれた調べ物なのです」

ユエが端末を机に出した。

「あら、ユエ、あなた身元が分かったの?」

「はいです。しかし、この端末で連絡が取れる人達の事がはっきりと思い出せないのも事実です。どうやら私は旧世界出身で麻帆良学園という学校の生徒だったようです」

「ユエさんが旧世界人!?」

「麻帆良学園……ね。確かに旧世界の日本にその学校はあるわね。私も知っているわ。その連絡が取れる人達とは合流しなくていいの?」

「数日前全員、ゲートで入国手続も終わらないうちにゲートポートのテロに巻き込まれ世界各地に飛ばされしまった事と、集合の順序、固まりから今アリアドネーが集合場所の一つとなっているです」

「そういう事……。ゲートポートのテロに巻き込まれた上記憶が失われているなら無闇に動くより待っていた方がいいわね。安心なさい、人助けもアリアドネーの為すことの一つだから。とりあえずそれはいいわ。続けて頂戴」

「ありがとうです、グランドマスター。話の続きですが、そのある人によると、ゲートポートでのテロ事件は魔法世界から旧世界への魔力流出を防ぎ、ひいては魔法世界の崩壊を防ぐという目的があるのではないか、という話を聞いたのです。その裏付けに人造異界の崩壊・存在限界の不可避性の論文の詳しい内容が知りたいという事なのです」

「ま、魔法世界が崩壊ですって!?」

委員長、その反応は分かるよー。

「それは……壮大な話ね……。あの時の事を思い出しそうだわ……。そのある人というのがそう思った理由は何かあるのかしら?」

「旧世界の魔力と、魔法世界の魔力は質が違うと感じるからだそうです」

「そう……質ね……。これまでそんな事に気づいた人はいなかったのだけれど……。分かりました、私もその論文についてもう一度調べてみましょう」

「グランドマスター、ありがとうです」

「ユエ、そのある人と直接話がしてみたいのだけれどできるかしら?」

「その……もうすぐ起きるかもしれないのですが……その人は今真面目に話せる程元気が無い……かなり衰弱……しているようなのです」

「ユエ、衰弱ってそれ本当!?」

ユエ、その事言ってなかったじゃん!

「コレット、言わないでいてすみません。……既に彼は南極で6日間杖も食料も無く移動しているそうなのです」

「南極!?ユエさん!どうして助けにいかないのですか!?」

「委員長……私も保護して貰っている身ですし、南極はメセンブリーナ連合領です。アリアドネーに救助を頼んでも無理なのです。メセンブリーナ連合自体は今のところ非常事態宣言のままで軍もゲートポートの事件で手一杯で動いていません」

アリアドネーからじゃ助けにいけない……。

「アリアドネーから飛空艇を出すのは確かにユエの言うとおり無理ね。その他に飛ばされた人達というのは大丈夫なの?」

「他の人達はそれぞれ全員どこかしら街には着いたそうで、その中の一人が明日には桃源に高速艇で到着そのまま出発して南極へ救助に向かうそうです」

「分かったわ、ここまで聞いたからにはアリアドネーでその人達を受け入れられるよう準備をしましょう。既にアリアドネーにも何人かゲートポートから飛ばされたという人もいるから大丈夫よ。その端末で他に話が出きる人はいるかしら?」

「ドネットさんという人がいるです、グランドマスター、コレット、委員長、ベアトリクスもこれに手を当てて欲しいです。通信開始」

ユエに言われて端末に皆で手を当てた。

《ドネットさん、夕映です》

《夕映さん、少々お待ち下さい、ドネットさんに繋ぎます》

《この方は茶々丸さんというそうです》

《変わった通信ね。念話とも違うようだけど》

《はい、夕映さん、ドネットよ。何かあったかしら?》

《ドネットさん、魔法騎士団候補学校セラス総長を紹介するです》

《ドネットさん、初めまして。セラスです。ユエさんに話を聞いて通信を繋いで貰いました》

《こ、これはアリアドネーのセラス総長ですか。初めまして、私は旧世界メルディアナ魔法学校所属のドネット・マクギネスです》

《……メルディアナの方でしたか。ユエさんから少し聞きましたが入国手続をする前にゲートポートの事件にあったとか。これよりアリアドネーはあなた方の受け入れに尽力することをお約束します》

《セラス総長……直々のお言葉感謝します》

《他にアリアドネーで協力できることはあるでしょうか?》

《お気遣い感謝します。現状、一人を除いては……順調なので問題ありません。私は現在ヘカテスから自由交易都市グラニクスに向かっており明日には着く予定ですが、そこから本国に連絡をするつもりです》

《分かりました、アリアドネーに寄ることがあればどうぞ》

《ありがとうございます。セラス総長。夕映さんもありがとう。セラス総長であれば彼の事を教えても構わないわよ》

《わ、分かったです……》

これで一旦通信は終わった。

「グランドマスター、彼というのは私も先日調べて驚いた事なのですが、あのナギ・スプリングフィールドの実の子供、ネギ・スプリングフィールドという少年のようです」

「な、ナギ様の子供ですって!?そんな事聞いたことありませんわ!!」

委員長が凄く反応したんだけどもしかしてナギファン!?

「この……写真を見て下さい。麻帆良学園での集合写真だそうです。私も写っていますが、この赤毛の少年がネギ・スプリングフィールドです」

ネギ君と他に私達と同じぐらいの女の子達が写ってる写真。
ネギ君が先生って事だから他は皆生徒なんだね。

「まあ……確かにナギ様の小さいころの面影が……」

委員長、顔が露骨に赤くなってるよ。
ってビーさんも……ってユエもか!
頬が熱くなってるってことはまさか私も!?

「なるほど……8月ということは旧世界の学校でいう夏期休暇ね。旅行に来た途端にゲートポートでテロにあって散り散りになったという訳ね。なんて運が悪い……。ナギ・スプリングフィールドに子供がいるという情報は恐らくメガロメセンブリアでもAランク以上の情報でしょうね。エミリィ、ベアトリクス、コレット、絶対にこの事を口外してはだめよ」

そうか、機密情報なのね。

「「「は、はい」」」

「ユエ、論文から話がそれてしまったけれど調べておくから安心なさい。それに記憶が戻るまでここに居ていいのは変りないわ」

「ありがとうです」

グランドマスターの部屋にこんなに長居したのは初めてだった……。
総長室を出てから寮に戻るまで委員長の顔が喜びと悲しみを交互に繰り返しながら小さくブツブツ呟いているんだけど「ナギ様の子供」って連呼してるみたい。
私も衰弱してるって聞いて心配だけど、救助に行く人がうまくやってくれることを祈るよ。

「委員長もナギ様のファンなの?」

「コレットさん、どうやらあなたもそのようですが、その通り。しかしあなたとは格が違いますわ。これを見なさい!!」

「な、そ、それはっ!?」

なんだか光輝いて見える会員証、しかも!!

「かかかか、会員ナンバー78!?二桁台なんてそんなバニャナニャ!?」

二桁なんてファンクラブが設立された瞬間、その情報を掴んでるでもいない限り持っていないはず!!

「フッ……私こそが真のナギ様のファン。親の代からのファンですわ。し……しかしユエさん……」

「お嬢様、それ以上はダメです」

「ハッ!私としたことが危なかったですわ。ユエさん、総長も言っておられましたが私もあの論文の事、全力で調べますわ。ナギ様がいなくなってしまって久しい今、これは何という天の巡りあわせ!今にも私なん」

「お嬢様、それ以上は危険です」

「ハッ!」

ビーさんの的確なツッコミでトランスする度に現実に戻る委員長は変人に見えた。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月19日1時頃、桃源目前、高速飛空艇内―

眠い……。
けどようやく桃源着くな。
着いたら一旦桃源で宿とってココネと持ってく必要ないものを置いてくる必要があるな。
あーメガロが丁度6時頃だから降りる前にニュース見とくか。
あーでもまた今日も同じかな……。

[6日前世界各地で同時多発的に起こったゲートポートでのテロ事件ですが依然犯行声明もなく背景が全て謎に包まれたままのこの事件ですが、メセンブリア当局より新たな映像が公開され、実行犯の一人とも見られるこの外見上10程度の少年に見える人間に懸賞金付きの国際指名手配がなされました]

は?
何だコレ!!
ちょっと!誰か説明しろ!
なんでネギ君の顔がデカデカと写ってんだよ!
ネギ君系の情報機密はどーした!

[続けてこちらの映像を御覧ください]

おーおーなんだ?
ネギ君が突然ゲートの頭上にあらわれてスゲー魔法でそこにいた人達を全部強制転移……んで、要石に手をあてて……力を入れたら何か一撃で粉砕したし。
よくできてるなー。

ってねーよ!!
どうみても捏造だろーこりゃ!

[またこれら人間の少女にも同様に懸賞金付きの国際指名手配がなされました]

はー、アスナ、このか、桜咲さん、楓、くーちゃん、のどか、ゆえ吉……。
ナニコレ。
茶々丸、小太郎君、アーニャちゃん、ドネットさんが何故いない?
いや、なんつーかこの面子ってあれじゃね?
修学旅行の時のあの一団な気が……。
ってことはあの悪魔召喚の奴らが噛んでるじゃ……。
ネギ君が30万ドラクマ……アスナ、このか、のどか、ゆえ吉が1万5千ドラクマ、他が3万ドラクマってなー。
たけーよ。

[ご乗船ありがとうございました。桃源に到着でございます。荷物をお忘れずにお降りください]

ってそれどころじゃねー!!

「ココネ、とりあえず通信しながら移動するよ!」

「分かった」

ええーい、もう訳わからん。
ネギ君が言ってた「メガロメセンブリアのどこかが絡んでいるかもしれない」ってのはマジ大当たり、それどころか真っ黒じゃんか!
ニュースがリアルタイムで届くには場所によって数時間差があるから早めの行動が肝心。
飛空艇が常にメガロとリンクしてて一番に情報が見れたのは不幸も不幸中の幸いだわ。
とにかくネギ君以外に全員通信。
丁度皆のいる位置だと深夜で寝てる時間帯なのは私から6時間東だから都合よく誰もいない!

《高音さんも見てたかもしれないけど皆、メガロのニュースで酷い事が分かった!》

《春日さん、こちらも見ていましたわ。桜咲さんをすぐに変装させます。幸い不法入国の件を警戒して部屋に居てもらいましたからあまり人の目には触れていません》

それで撒けるのか……?
まあそれはいい。

《春日さん、一体何があったの?》

《ドネットさん、説明します。ネギ君、アスナ、このか、桜咲さん、楓、くーちゃん、のどか、ゆえ吉の顔写真がニュースで出て、名前は付いてないですけど懸賞金付きの指名手配がかけられたんです》

《な、何ですって!?》

《美空ちゃんそれどういう》

《アスナは何とか帝国で匿ってもらえ!今マズいのは、このかとくーちゃん、それとのどか!このか、そこニュース届くの遅いっていってたけどケフィッススには変装無しで近づいちゃだめだ!せめてフード被って》

《美空ちゃん、ここまだ村やから大丈夫や。しっかり変装するえ》

《美空、私もまだタンタルス着いてないから大丈夫アルよ!》

《美空さん、私クレイグさん達に伝えて変装させてもらいます》

《はーそれなら良かった。ただのどかは守ってもらえるとしてくーちゃんは強いけどこのかだな……。楓はプロだろうから大丈夫だろうけど》

ここで忍者って言わなかったことを自分で褒めたいわ。

《そうでござるな。拙者の身体操術ならば子供にもなれるでござるよ》

なんだそれ!
そこまでは求めてないわ!
セルフ年齢詐称薬って何かの宣伝文句みたいじゃんか。

《流石楓だな!ドネットさん、私桃源到着したんで今から宿取って朝まで寝たら南極行きますんで》

《分かったわ。それにしても……ネギ君が言ったとおりになったわね……。これではメガロメセンブリアには戻れないわね。皆アリアドネーに集合で決定よ》

この後私は皆の通信を聞きながら桃源空港を後にして、一番安全そうなホテルでチェックインした。
とりあえず7日分部屋は取っておいたからこれで南極に行っても大丈夫だろ。
ネギ君用の変装用具は……年齢詐称薬があるから用意しなくていいか。
この間皆の通信を聞いてた感じ、アスナまだ情報が回っていないうちに城内で認識阻害メガネ、獣人変装キットを貸してもらったらしいし、皇女様は「メガロメセンブリアは真っ黒じゃな」なんて言ったらしい。
私と同意見だわ。
のどかもクレイグさん達が「偶然にしてはできすぎだったな。ノドカ嬢ちゃんは俺達が必ず守るから任せとけ」って直接通信に参加してきたからこっちも大丈夫だと思う。
つかホント良い人達だな。
メセンブリア当局も見習え。
んで楓はマジで身体操術ってので完璧に化けたらしいし、桜咲さんは高音さん達がなんとかするだろ。
しっかし、このか、くーちゃんは自力で頑張れとしか言いようがない。
一番高額の賞金首のネギ君は誰も捕まえに行くのはありえない南極にいるけど、命が危険だから賞金首どころじゃないわ。
つか、まーその為に私が来たんだけど。
微妙にまた興奮してうまく寝付けないのに同じこと数日前あったなと思うけど、朝一で保存の効く食料手に入れたらアーティファクトと箒で一気に駆け抜けるつもり。
さ、頑張って寝よ。



[21907] 46話 南極(魔法世界編6)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 20:13
―8月19日、某新オスティア浮遊岩地帯―

ネギ一行が懸賞金付きの国際指名手配にされた頃、フードを被った数人が周囲を見渡す限り他に何も無い岩ばかりの場所にいた。
そこへ、桜吹雪とともに新たに現れた人影があった。

「フェイトはん、新世界のお姫様はヘラス帝国に入ってしまいました~」

「ヘラス帝国……。何故だろうね。彼らが地理を把握しているとは思えないんだけど、そういうこともあるのかな」

「フェイトはん、どうしてゲートで突然挨拶も無しにセンパイ達を飛ばしたんどすか?」

「予想以上に厄介になっているかもしれない彼等の足止めと異世界旅行のスパイスにね。いつかは接触しなければいけないがあの時こちらから姿を現す必要もなかったからね」

「え~ウチいつセンパイ食べていいんですか?」

「月詠さん、少し我慢してもらえるかな。時が来たら、お姫様をヘラス帝国から連れ出すその時にでも好きにしていいよ。場所が分かっているならどこにいようと連れ出すのは容易い」

「は~い、分かりました。でも味見ぐらいはええですか?」

「あのね……」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月19日、7時頃、桃源、ホテル―

あー朝だ。
ぐっすり眠れなかったけどまあいいスよ。
今日出発するための荷物は殆どできてるし、後は日持ちの良い食料買っていけばいいだろ。
クレジットカードとか自由渡航許可証は無くすとダメだから置いていってと……。

「ココネ、数日かかるかわかんないけど行ってくるよ。多分5日もかかんないと思うけどさ。アーティファクトは使わせてもらうから」

登山用の本格的リュックに私の箒、ネギ君用の箒、杖、地図その他諸々持ったしおっけー。

「ミソラ、気をつけて」

「ああ、分かってるって。どう?このゴーグル?走ったり、雪の中で視界確保する用に買ったんだけど」

「前のスキーの時と同じ」

そういやシアトルの時と似たようなもんか。

「ははは、そっかそっか。変な人来ても部屋の中いれちゃだめだからね」

「分かってる」

「うん、ココネはしっかりしてるから大丈夫だよね。それじゃ、ちょっくらハードな旅に出てくるからさ」

「いってらっしゃい」

「おう、行ってきます!」

重装備でホテルの部屋から出て1階のフロントを通りすぎようとしたら「お気をつけて」って言われたけど空気読んでるよなー。
近くの食料品店で携帯食料をリュックに入る分だけ買い込んでと……。
よっし、行くか!
箒に乗って……。

―飛行!!―

まずは中心市街から離れたとこまで飛んでかないとな。
進むべき方向は南に進み続ければいいだけだからわかりやすい。
ちょっと……っと久しぶりに箒乗るとバランスがなー。
飛空艇の部屋の中で少し練習しときゃよかった。
さてと、高さも丁度良いし、前方の視界は良好、遠くに龍山山脈が見えるけど今回あれはスルー。
あの馬鹿みたいに高い山脈が途切れてる所に狙いを定めて。

―加速!!―

眼下に見える中華っぽい街並みの桃源の街は10kmちょっと離れたらあっと言う間にあとはもう田園風景。
なんつーか、これで乗ってるのが箒じゃなくて雲だったら、周りの風景的に西遊記の絵本みたいな感じになりそうだ。
そうだ、一応出発したこと高音さんに報告しとくか。
桜咲さんやらくーちゃんどうなったかわからんし。

《高音さん、おはようございまーす。こっちは今南極に向かって飛行開始しました。そっちはどうですか?》

《春日さん、おはようございます。私達の方は3時間程前にタンタルスに飛空艇で無事到着しましたわ。幸い桜咲さんに気づいて騒ぎ立てるような方はいませんでした。既に新たにホテルを取って桜咲さんにはそこで待機してもらい、現在私と愛衣で古菲さんを、春日さんと同じく箒で迎えに飛行中です》

流石高音さんだ。
個人チャーターで飛空艇か単車借りる訳にもいかんしな。
魔法使いならやっぱ箒が一番だろ。
二人ぐらいは余裕で乗せられるし。
くーちゃんの変装って、変装っていうよりチョビ髭付けただけの仮装っぽい気がするから早めに拾わないと面倒そうだ。
ま、賞金稼ぎの人達がくーちゃん狙ったところであの拳を喰らえば大体一撃だろうけど。

《了解スよ。定期連絡するんでまた》

《はい、春日さんも気をつけて》

《重装備だから大丈夫ッス》

うーん、こんだけ周り気にせず箒かっ飛ばすのって結構楽しいな。
麻帆良だと隠れて練習とかやりにくくてしゃーないし。
あと危なそうなのは、このかと今まさに救出中のネギ君か。
小太郎君は帝国の救助部隊であっさり見つかってそのまま城に連れてってもらったらしい。
食べ過ぎで腹壊したとか聞いたんだけど大丈夫か。

おっ、もうそろそろ道が何も無くなってきたな。
それじゃあ、まあ一旦アーティファクトの稼働限界とやらを試してみるか。

―急速停止!!―

箒から降りて……リュックの隙間に挟んで紐で結いて固定してと、もう一度背負ってと、よし。

「アデアット!!かそくそーち!!!」

足に力をめいいっぱい込めて…………スタートッ!!
おっしゃぁぁぁ!!
箒より間違いなく速いぜ!!
いけるいける!
これなら日本の高速道路でも普通に走れるスよ!


―8月19日、11時頃、桃源より南約300km―

麻帆良祭の時の鬼ごっこで30分以上は走ってられるのは実証済みだったけど3時間越えた。
この辺りはもう何も無いな。
ポツポツ謎の桃みたいな木が生えてるだけだわ。
ちょい不気味。
……おっと!?
突然走る速度落ち始めてる気がするんですけどーありゃりゃ……。
あーあー、足から煙出るとか初めてみたわ。
擦り切れた?
エンスト?
まー仕方ない。

「アベアット!」

んー靴底に穴が開いたりとかはしてないし……。

「まー3時間走ってかなり進んだのは間違いないか。元々短距離っぽい仕様を無理した訳だし」

どっちにしろ後でまた使えるようになったらあと3回繰り返せば単純に計算してもネギ君の近くまで行けるか。
ここらで昼飯を食べよう。
で、何食べるかっていうと桃源で売ってた肉まんですよ。
流石中華っぽいだけあるわ。
うまいうまい。
あー、やっぱ南極に近づくと服はスキーウェア的にバッチリだからいいけど顔にあたる空気とか結構肌寒いな。

《高音さん、そっちはもうとっくに夜だと思いますけどどうスか?》

《私と愛衣で野宿することにしました。古菲さんと通信を取ったところタンタルス湾岸がようやく折り返したそうなので、私達からの位置からすると遅くても明後日には合流できそうですわ。春日さんは?》

《私は3時間走り続けて300kmぐらいは進んだと思うんスけど、アーティファクトがエンストして丁度今昼なんで休憩中です》

《足が速くなるだけと聞いていましたが本当に速いですわね。その後は箒で移動ですか?》

《まーその予定スね。適当に折を見て箒とアーティファクトを使い分けるつもりです》

《分かりました。それではまた明日》

《了解しましたー》

高音さんは良いとしてと……。

《アスナー、起きてるかー?》

《ん、美空ちゃん?起きたわよ》

《宣言通り今桃源から南に向かって一直線に進んでるのを伝えようと思ってさ》

《そっか、こっちが寝てる間にもう出発してたのね》

《そうそう。指名手配のニュースは帝国にも届いた?》

《届いたわよ。ついさっきその聞きたくもない情報が流れてきたわ》

《変装は完璧?》

《この私の人間の耳がコタロの耳みたいになるの凄いわね。なんか言葉が通じなくても翻訳できるらしいわ。通じてたけど》

これで英語なんて勉強する必要ないじゃないとか言い出したらアレなんだけどな……。

《まあでも城内にいるんだったら大丈夫でしょ?》

《皇女様が色々やってくれたわよ。それにコタロが実際に北極で特にそれらしい装備も無く食料も殆ど無い状態で移動してきてた話が流れてたお陰で、城の人達も『連合の自作自演だ』なんて言ってるの聞いたわ》

あー、確かに自作自演っぽいスね。
どっからかネギ君が来る情報が漏れてて飛ばした上でゲート破壊、孤立主義加速、ついでに犯人に仕立て上げると。
黒すぎて酷いな。

《帝国の人達の方がメガロよか信用できるなんて皮肉すぎるね。麻帆良学園の魔法生徒証があるとメガロで特権的生活できたんだけど、アスナ達持って無いんでしょ?》

《何それ?そんなもの私達持ってないわよ》

やっぱりかー。

《無いものは仕方ないな。小太郎君は元気なの?》

《食べ過ぎるぐらい元気ね。ナギ・スプリングフィールド杯っていう2ヶ月後にやる大拳闘大会の事聞いて『残ってるゲートもオスティアっちゅうとこでやるんやったらネギが助かったら一緒に出てみたいわ』って言ってたわ》

《小太郎君はネギ君が助かることに何の疑いも持ってないみたいスね》 

《そうなのよ。『ネギなら絶対大丈夫やて、あいつがそんな南極ぐらいで終わったりせえへん』って言うのよ》

《友情って言うかなんていうかだなー。そんな当たり前のように言われてるんなら私もそろそろ箒で移動するかな》

《美空ちゃん、気をつけてね》

《大丈夫、日本円に換算して240万分の気温維持装置買ってあるし、絶対凍死とかしないから。因みにアスナの懸賞金と同じ額ね》

《えっ!?もしかして高音さんが融通してくれたの?》

《そそ、クレジットカードでポンね》

《高いわね……》

でなきゃ私に買えるわきゃないんだけど。

《アスナの懸賞金もな!》

《そ、そうね……そんな額だったら絶対追われる事間違いないわ……》

《それじゃ、また後で通信するわ》

《うん、分かったわ》

よっしゃ、出発するか。
アーティファクトは一時間毎に使用できるか試すって事で。

―飛行!!―
―加速!!―

気分はスキーするつもりで謎のシスター春日美空、行くッスよ!!


―8月19日、12時46分、桃源より南約350km―

ほいっと。

―急速停止!!―

にしてもホントにアーティファクトの方が速いな。
私も箒で加速使って移動すんのはいいけど魔力切れ考えないとマズいか。
今まで生活してきてそんな事気にした試しないスけど。
ま、それはいいとして。

「アデアット!」

調子はどうだー。
ちょっとまだ煙でてるんだけどいけるか?
ま、今のうちに性能試しとかないと後で困るし。


―8月19日、12時54分、桃源より南約360km―

ぎゃぽっ!?
っと、突然エンストすんな!!
どわっ、地面にぶつかる!
イテッ!!

あたたた、駄目だなこりゃ。
数分間はフルスロットルで移動できるところからすると一定時間、間を置くと稼働時間が回復する感じなのか。
こんなこと初めて知ったよ!
新たな発見でも嬉しいような嬉しくないような。
まーいいわ。
これは一日おかないともう一度3時間走るのはまー無理だろな。
しばらく箒で飛ぶっきゃないか。

―飛行!!―
―加速!!―


―8月19日、16時52分、桃源より南約560km―

げー、もうだめだわ。
魔力切れする。

―停止!!―

……はー、疲れたわ。
つか超進んだんじゃね?
って箒から降りたらめっちゃ寒ッ!
こんな状況で寝たら一晩で風邪引く自信があるぞ。
まだこの辺雪無いからいいけど、結構標高、高いとこまで来たな……。
高山病とか怖いスよ。

さーてと、どうせもう移動できないし、テント張ってサーモスタビライザー使おう。
……うーん一応2人用テントなんだけどネギ君達と合流したら狭いかな。
ま、我慢するしかないスね。
おっ魔法世界のテントは設置楽だな。
なになに、「中央のボタンを押すと自動的に広がってテントになります。その後付属の杭で地面と固定して下さい」か。
ポチっとな。
!?うおっいきなり開くな!
びっくりするわ。
……気を取りなおして、杭打つか。
これで土じゃなくて岩だったら刺すの面倒だったろうけど良かった。
4箇所打ってと……はい、おっけー。
寒いからさっさとスタビライザーも起動させよ。
今の時間から休んで明日の朝まで休むと……α1つγ1つって所か。
まずはαから……これも中央のへこみを押すだけでいいのか。
温度メーターが付いてるからノブを合わせればいいのかな。
25度ぐらいで、そいっ。
ブーンって音がしたと思ったらどんどん暖かくなってくるわ。
流石1000ドラクマ。
大した性能スね。

《起きている皆、私達は今グラニクスに到着したからこのまま高速艇に乗ってケフィッススにこのかさんを迎えに行くわ》

順調に到着だな。
流石ドネットさん。
金はあるって訳ね。

《このか殿、しばし待っていて欲しいでござるよ》

って楓の声がめっちゃ子供っぽい!?
忍者の身体操術パネェ。
写真送って欲しいわ。
骨格からどうやって変えるんだよ。
骨とか一旦溶かしたりできんのか?
いやーそりゃないだろーけど考えたらいけない気がする……。

《ドネットはん、楓、ありがとな》

でもってあっちで明日20日の朝8時頃には着く予定らしい。
1週間ぐらいでなんとかそれぞれ固まれたっていうのはもう超りんの端末のお陰としか言いようがないな。
科学に魂売るって言うのもなんか分かる気がしないでもないね。
さてと、使い果たした魔力がどれくらいで全部回復するか自分で実感してみるか。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―3時間程遡り8月19日、7時頃、アリアドネー、魔法騎士団候補学校寮―

昨日グランドマスターと話してから寮に戻った後、ユエからネギ君達がメガロメセンブリアで懸賞金付き指名手配にされたって話を聞いて驚いたよ。
しかもユエも1万5千ドラクマがついたらしいんだ……でもいざ朝のニュースを寮のロビーで見てみたら……。

[6日前世界各地で同時多発的に起こったゲートポートでのテロ事件の続報です。依然犯行声明もなく背景が全て謎に包まれたままのこの事件ですが、メセンブリア当局より新たな映像が公開され、実行犯の一人とも見られるこの外見上10程度の少年に見える人間に懸賞金付きの国際指名手配がなされました]

「コレット……これはメガロメセンブリアに絶対何かあるです」

「うん、間違いないよ」

[続けてこちらの映像を御覧ください]

動いてるネギ君を初めて見るのがこんな形だなんて……。
こんな大規模魔法使えるなら今頃南極なんかにいないよ!

[またこれら人間の少女にも同様に懸賞金付きの国際指名手配がなされました]

ユエに見せてもらった集合写真の子達の中にいた6人の顔写真が映ったよ。
でも、ユエは映ってない!

「ユエ、これって」

「はいです。グランドマスターのお陰かもしれません」

「なら放送自体……」

「それは連合との間で問題になるですよ」

「ちょっと、ユエさん、コレットさんッ!!」

わっ誰!?ってこの声は委員長!
振り返って見て見ればすっごい顔が青ざめてる!

「委員長、顔色悪いよ?」

「お嬢様、お気持ちは分かりますが」

分かるんだ!

「いいえ……私の事など気にかけている場合ではありません。ユエさん、コレットさん端の方へいらして下さい」

って言いながら凄い力で肩つかまれ?ひっぱられって!

「委員長!そんな引っ張らなくても行くから」

仕方なーく、ロビーの端でコソコソ話す事になった。

「ユエさん、あれは一体どういうことですの?」

「メガロメセンブリアの罠のようです。メガロメセンブリアのニュースでは私もあの中に写真が映っていたそうなのですが……恐らくグランドマスターが削除しておいてくださったのかと」

「罠ですって!?全くなんて腐っているのかしら、メガロメセンブリア元老院め、忌々しいッ!」

「お嬢様、発言に気をつけて」

確かに元老院が凄く怪しいのは分かるけど、まだ完全に黒って決まった訳じゃないよ。

「くーっ、こうなったらアリアドネー上層部に報告して国際問題に……」

か、過激だー!!

「委員長、それはグランドマスターに任せるです。ドネットさん達はアリアドネーに集合すると言っていたです」

「アリアドネーに集合?と、いうことは……あぁ、それはいつになるのでしょうか?ハッ!そうではありません!」

委員長昨日からテンションがおかしいね……。
顔が蕩けそうになったり怒りの形相になったり、周りの皆も不思議そうな顔して見てる。
とにかく、学校の時間もあるから話は一旦終わり。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月20日、5時06分、桃源より南約560km―

うおっ!
寒ッ!
びっくりしたー、サーモスタビライザー切れたか。
強制目覚ましの効果もあるとは高性能。
体調は……暖かかったから快調そのものだな。
魔力も大丈夫だと思う。
いや、12時間休んでこれだからな……サーモスタビライザーも食料も何も無くて6時間ぐらいしか寝てないネギ君どんだけヤバいんスか……。
ここで後4時間α使うのも無駄だし出発しよ。
朝食がてら携帯食料を食べ、杭を外してテントを元のコンパクトサイズに戻し片付けて、荷物を整理し直して……と。
よーし行くかー。
遠くに見える南の方はもう真っ白だな……。
流石南極。
地球だと南極大陸はデカイ島だけど、ここはそれ以上でかいわ。

「アデアット!!かそくそーち!!!」

3時間進んで一気に300kmまた詰めるスよ!!
高音さん達も既に今頃くーちゃんと合流するためにまた今日も箒で飛んでる所だろ。


―8月20日、8時22分、桃源より南約860km―

ついさっきから周りは雪だらけになって寒いのなんのって無理すぎるからサーモスタビライザーαをリュックの中で起動しながら移動中スよ!
そろそろ3時間経つんだけど……来たか!!
昨日も見たエンストですよこりゃ。

「アベアット!」

エンジンなんてついてないけどさ。
箒に切り替えだな。

―飛行!!―
―加速!!―

馬鹿みたいに魔力ありゃ長時間かつ超高速で飛んでられるだろうけど私一般魔法使いレベルなんでそこまでできんわ。


―8月20日、9時43分、桃源より南約910km―

そろそろ後2時間で1000km踏破っていうか正しくは踏破&飛破できそう。
気温25度で南極飛んでられるのはマジ画期的。
今日中にネギ君のところ着けるか。
それにはまず連絡しないといけないんだけど……。

《ネギ君が大変です!!》

この声は……数日前に一回ネギ君が紹介してくれた受付のお姉さんのミリアさん?
それに全体通信っぽい。
スゲー嫌な予感が……。

《ミリアさん、ネギがどうしたんですか!!》

最初に気づくのはアスナか。

《今日も移動してたんですが……突然「ごめんなさい」って言った途端倒れてしまったんです。それに倒れる直前に私に契約執行を最後の最後にしてくれたみたいで……。どんどん体温が下がっています……このままだと……》

ちょっとちょっと、最後の力振り絞ってミリアさん優先するってホント子供としてはありえなさすぎるわ!

《そ、そんな……。そうだ、美空ちゃん!》

《アスナ!今日中には合流できると……してみせるけど!まだ時間かかるよ。ミリアさん、なんとか寒さをしのげる場所に移動して下さい。今私そちらに向かってあと5時間ぐらいで着く筈です!できれば目印になるものか何かの写真も送ってください!!》

5時間も魔力持つかわかんないけど……。

《5時間ですか……、分かりました。とにかく移動します。写真も送り……ますね》

そういや凄い年齢詐称薬でミリアさんって縮んでんじゃなかったか?
どの薬が解除薬かわからないとマズいだろ……。

《ミリアの姉ちゃん、ネギにも端末握らせてや!皆で声かけて起こすで!》

それで意味あんのか!?

《わ、分かりました……はい、握らせました》

《ネギ!!起きろ!諦めんなや!》

《ネギ!そのまま寝ちゃだめ!絶対合流するって約束したでしょ!》

《ネギ先生、目を覚まして下さい!》

《ネギ先生、死んじゃ嫌です!!起きて!!》

《ネギ坊主、諦めてはダメアルよ!!》

《ネギ先生、春日さんが参りますから諦めないで下さい!》

《ネギ先生、春日先輩がすぐ行ってくれます。頑張って!!》

《ネギ先生、寝てはダメ》

皆の熱い応援始まったー!
私もここは一つ。

《ネギ君待ってろ!私が今行くから!》

東側で起きてる皆が小太郎君の精神論的発想で一斉に声をかけ始めたんだけどごちゃごちゃしてもう訳わからん。
のどかの「死んじゃ嫌です」ってのはどうも、口に出して言ってるみたいでクレイグさん達も「坊主、頑張れ!嬢ちゃんが待ってるだろ!」って応援してくれるようになって更にカオス!
皆の想い、ネギ君に届けっ!!
つか私の責任重大すぎるわー!!
こうなったらもうヤケだッ!

―最大加速!!―

ゴーグルに雪がぶちあたるのなんのって!
こんの、コントロールが難しいっ!!
うりゃぁぁぁ!!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月20日、13時14分、桃源より南約1200km、某洞窟(強制転移から180時間が経過)―

ネギ・スプリングフィールドが南極から通算11度目の移動中にとうとう体力、精神力、魔力切れを起こし突然倒れてから3時間程。
端末を持つ者は皆ネギ・スプリングフィールドに絶えず呼びかけを続けていた。
アリアドネーからは朝起きた瞬間事態を把握し、学校の事も忘れ、綾瀬夕映、コレット・ファランドール、コレットから話を聞きつけたエミリィ・セブンシープ、ベアトリクス・モンロー。
ケフィッススからは高速艇で丁度到着した、長瀬楓、絡繰茶々丸、ドネット・マクギネス、その迎えを待っていた近衛木乃香。
ヘラス帝国首都ヘラスからは神楽坂明日菜、犬上小太郎、アンナ・ユーリエウナ・ココロウァ、テオドラ・バシレイア・ヘラス・デ・ヴェスペリスジミア。
ノクティス・ラビリントゥスからは宮崎のどか、クレイグ・コールドウェル、アイシャ・コリエル、クリスティン・ダンチェッカー、リン・ガランド。
タンタルスからは桜咲刹那、古菲、高音・D・グッドマン、佐倉愛衣。
桃源からはココネ・ファティマ・ロサ、そして現在箒に乗り最大加速で飛行を続けている春日美空。
ネギ・スプリングフィールドのすぐ側にいるミリア・パーシヴァル含め総勢24人もの心の声が、距離に隔てられる事無く響いていた。
そもそも、ネギの体調は既に2日前には限界を迎えていた筈だったが、これまで彼自身の「絶対に南極から脱出してみせる」という強い信念で無理を通していたのだ。
元々契約執行という魔法は10時間も連続してやるべきものでは無く、術者の身体に大いに負担がかかる。
そこへ更に、氷点下の気温が普通の極地、僅かな睡眠時間、絶食状態、一般人を運ばなければならない、と最悪の環境が重なっていたのだ。
一つネギの周りで誤算があったとすれば、それは春日美空が直接南極に救助に来るという情報が彼には伏せられていた事である。
自力でなんとかしなければという思いからネギは余計な無理をしてでも延々と続く雪山を杖も無く移動し続けたのだ。
実際途中の洞窟で救助が来るのをじっと待っていれば状況はまだマシだったかもしれない。
しかし、もし、の話をしても今更後の祭りである。
そんな心の声を念じ続けていた人達の中、誰かが「もうだめかもしれない」と一瞬思った矢先の事。
人々の想いが為せる奇跡が起きたのか……それは……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―2003年8月14日日本時間、12時58分、火星北極圏―

ネギ少年達が魔法世界に飛び立っていったすぐ次の日、相変わらず暑い夏休み、超鈴音の突然の発案で残り十数日で見納めとなるであろう火星の景色を見ることになった。
私も火星の神木・扶桑の状況を見がてら、こちらに来ている。

《ふむ、原始時代の風景というのは、このような感じなのかもしれないネ》

《神木も完全に浸水してて水棲植物状態ですねー》

藻のように増殖したりはしないが。

《超鈴音、見納めというのはわかりますが……どうして突然ネギ少年達が旅だったあとすぐ今日に火星に来たいと?》

《翆坊主、この海と荒野しかない火星と、位相がズレた所にある自然溢れる魔法世界にネギ坊主達が今いると思うと何だか不思議な気がしないカ?》

《なるほど……そういう物ですか。言うなれば時空間の壁を突き破ってみたいと?》

《例えばこう手を伸ばしたらそこにネギ坊主達がいるかもしれないだろう?これが不思議でなくて何ネ》

全く以て不思議なものだ。

《鈴音さん、確かにこの辺とかもっとあっちの方にネギ先生がいるかもしれないと思うと面白いですね》

《科学者の超鈴音がそのような事に興味を持つとは少し意外です》

《時空間もれっきとした科学の一分野ネ。実際翆坊主に前言たとおり、この点を解明できれば、ワープだて可能になるのは間違いないヨ》

《……なるほど、そういう事ですか。それなら超鈴音が時空間すらも解明するのを期待しています》

《その為には優曇華自体をもっと研究したい所ネ》

私が調整した面はあるが……科学的には良くわからない。

《相対時間と亜空間……確かに解明の糸口になりますね。私達精霊でなくて実際に研究できるのは太陽系では恐らく優曇華ぐらいなものでしょう》

《未知への答えに繋がるかもしれないものがこれ程近くにあるのだから私は当分飽きないヨ》

《いつか長距離ワープできるようになったら本格的な宇宙旅行してみたいです》

《さよ、私に任せるネ!》

実に平和。
アーティファクトを使用し浮遊術で火星を飛び回る超鈴音と、精霊体で似たように飛び回るサヨ。
私は神木・扶桑から観測中……。

《……ア…………さん……皆……》

これは……。

《……アスナ……さん……》

《翆坊主、ネギ坊主の声ではないカ?》

《ネギ先生の声ですね!》

まさか……。

《本当に時空間の壁を破って……ということでしょうか?》

《ネギ坊主!ネギ坊主!いるのか、返事するネ!!》

《ネギ先生!》

超鈴音は単純にこの超常現象に興味を持っている様子。

《……超……さん?……それに……相坂さん?》

この声は……ネギ少年で確定。
昨日まで散々観測していたのだから覚えていない訳無い。

   ―観測開始、霊体反応に限定して走査―
―神木・扶桑から800km東北東の位置に霊体反応有り―

《わかりました、800km東北東のポイントです》

《翆坊主、優曇華使うネ》

《私先に行ってきますね》

サヨが先に一瞬で該当地点に近づき、遅れて超鈴音も浮遊術で優曇華に乗り込み8秒で接近、アーティファクトで供給量を身体保護水準に抑えて到着した。
私は……神木から観測を維持。
仮にネギ少年であれば優曇華の秘匿、サヨの幽霊問題……色々あるが……それを越える重要性があるのもまた事実。
その該当の場所には、ネギ少年の極限まで薄い霊体があった。

《ね、ネギ先生、どうしてここにいるんですか?》

《ネギ坊主、魔法世界からこちらに来てしまたのカ?》

《な……何で相坂さんと超さんが……それにここは一体……?僕は南極で倒れてそのまま……皆の声が聞こえた筈なんですけど……》

昔のサヨのような幽霊に見えるネギ少年とそれに相対するサヨと超鈴音の場違いな場所での会話。
どこまでも広がる海の上。

《翆坊主、少し話していいカ?》

《ええ、流石にどうなってるのか私にも分かりかねますがお好きにどうぞ。処理は何とでもします》

《わかたネ》

個別通信でネギ少年に漏れないようにやりとりを済ませた超鈴音はネギ少年にサヨと共に会話を始めた。

《ネギ坊主、ここは火星だヨ。よく来たネ》

《火星!?》

《ネギ先生、本当ですよ》

《相坂さんその姿は一体……?》

《私幽霊なんですよ。桜咲さんが知ってますから聞いてみてください》

酷くズレのある会話。

《は……はぁ……》

《ネギ坊主、私は火星人ネ》

《火星人!?》

明らかに生命の危機か何か……なのであるが。

《ネギ坊主、南極にいて倒れたと言たからには命の危機なのだろう?》

《はい……もしかして僕死んじゃったんですか?》

……それを魔法世界の南極で言った方がまだそれらしいであろう……ここは三途の川でもなければ三途の海でもない。

《ネギ先生、そんなことないですよ》

《ネギ坊主、皆の声が聞こえたのだろう?きちんと戻らないと駄目ネ》

《で、でもどうやったら……》

これは……どうも魔分で強制的にネギ少年の霊体を活性化させて無理やり送り帰すしかない。

《超鈴音、サヨ、私が今からネギ少年を送り返しますから見送ってあげて下さい。それと面倒な物を見られたので霊体に介入して問題のある記憶を改竄・封印します。……ただ一つ『魔法世界の根本的な問題は解決する』……とだけ伝えておいて下さい》

《分かたネ》

―霊体解析開始―

《ネギ坊主、今から魔法世界に帰すから少し待つネ。それと、伝言ネ。魔法世界の根本的な問題は解決する、だそうだヨ》

《え?それって……?》

《ネギ先生、行ってらっしゃい》

《ネギ坊主、また会おう》

―霊体解析終了、特定の情報を除き、問題のある記憶の改竄と封印を開始―
 ―霊体が時空間を越えた手順を反転、魔分による出力補助を開始―

……すると間もなくネギ少年の霊体は眩く発光し、火星からの反応は完全に消失した。

《……翆坊主、私とサヨ、優曇華の事はネギ坊主の記憶から消したのカ?》

《そうですね。消したというよりは完全な封印ですが似たようなものです。ネギ少年にとっては火星側に出てしまった事がそれとなく……そんな気がすると……認識できる程度の筈です。あとは頭の片隅に超鈴音が伝えてくれた伝言が残るだけですね》

《ま、そんな事だろうと思たヨ》

《多分そうするんだろうなーと思って私も幽霊だって言ったんですけど、別に幽霊の事自体は桜咲さんも知ってるからいいんですけどね》

《それより原因は何だたネ?》

《生命の危機に瀕し、魔法世界との親和性が高すぎたか……それに神木扶桑が割と近い位置にあった事が影響して霊体だけが偶然にもこちらに引き寄せられてしまった……という事だと思います。ネギ少年に死なれるのは大変困るので、戻すついでに霊体に魔分充填もしておきましたから、あちらでどういう状況かは大体検討がつきますが、確実に回復すると思います》

恐らくあちらの南極……こちらの北極で凍死しかけたという所だろう。
何にせよ始まりの魔法使いの系譜の特殊体質なのかどうかは分かりかねるが……これぞ不思議。

《エヴァンジェリンと通信しすぎた影響もあるという事カ》

《それも原因でしょう》

《不思議な事ってあるんですね》

《さよ、世の中は常に不思議な事に満ちているネ》

良いお言葉ありがとうございました。
他に、もしかしたら助かる見込みがある可能性があったからこそ、こちらに無意識に出てきたのかもしれない……とも言える。
しかしながら……戻す際にネギ少年の霊体に神木の魔分を直接投射したことで何か影響が出るかもしれないが悪いものではない……と思いたい。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月20日、13時15分、桃源より南約1200km、某洞窟(強制転移から180時間が経過)―

《ネギ!ネギ!!ネギー!!》

《ネギ!諦めるな!目を覚ませや!》

「ネギ君!しっかりして下さい!」

アスナさん……皆……。
何だか身体に魔力が溢れてくる気がする……。
この魔力は地球の……?
それについさっき……何かがあったような……。

「ミリアさん……」

「ね、ネギ君!良かった!それに急に手も温かくなってきて」

《ネギ!気がついたの!?》

《アスナさん、もう大丈夫です。気を失っている間皆さんの声が聞こえました、ありがとうございました》

《よ、良かったよぉー!!》

《ネギ!心配させんなや!》

《コタロー、声かけてくれてありがとう。聞こえてたよ》

《おう!俺の考えは間違いなかったな!》

《ネギ先生、良かったです……》

《ネギ君、良かったえ!》

《ネギ坊主、目を覚ましたでござるな》

《ネギ坊主、助かったアルね!》

この後凄くたくさんの人から助かって良かったって言ってもらえた。
知らない人がいるなって思ったら夕映さんの学校の同級生の人だった。
会ったことないのに凄く心配されて驚いたよ。
何だかあやかさんみたいな感じの人だった気がする。

《ネギ君、私あともう1時間ちょいぐらいで着くから待っててよ!》

《春日さん!そんなに近くに来てたんですか!?》

かすかにもうすぐ行くから待っててって聞こえたのは覚えてるんだけどもうすぐそこまで来てたんだ。

《杖、箒、食料、テント、気温を保てる魔法具もあるからさ!》

《ほ、本当ですか!ありがとうございます》

《任しといて!》

どうしてか凄く純粋な地球の魔力が身体に溢れてる気がするんだけどお腹が空いてたりするのは変わらないな。

「ネギ君、助かったのは本当に良かったですが何があったんですか?」

「えっと……何だか気を失っている間変わった場所にいた気がするんですが……よく覚えてません。多分夢だと思います」

「身体が突然温かくなったのには驚きました」

「はい、何故か魔力が溢れてきて……あ……」

「ネギ君、どうかしたんですか?」

「いえ……ちょっと……一つ分かったことがあって。気にしないで下さい」

「は、はい……」

魔法を使用するときの魔力と身体に存在する魔力って少し違うんだ……。
何で今まで気づかなかったんだろう……。

―魔法領域展開―

「ね、ネギ君?」

「やっぱり……」

今ならわかる。
マスターにはまだ及ばないけど前よりスムーズに使える。
それに……でも……今はやめておこう。

「ミリアさん、倒れる前に契約執行した気がするんですけど大丈夫でしたか?」

「はい、お陰様で大丈夫でした。でもあんな自分を大事にしないような事はもうしないで下さい」

「……心配かけてごめんなさい」

「ネギ君を心配していた人はあんなにいたんです。これからはその事ちゃんと覚えていて下さいね」

「はい!覚えておきます!」

気分は良いんだけどお腹が空いたなぁ……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月20日、14時41分、桃源より南約1200km―

殆ど死にかけだった感じのネギ君が突然奇跡の復活を遂げてテンション上がったら私も昨日よりガンガン進んでて驚きだわ。
最後の方なんて不思議通信に真面目に心を傾けると頭がおかしくなりそうな感じだった。
今までネギ君が毎日報告してた進路とミリアさんがあちこち周囲の写真を撮って送ってくれたものから見て大体この辺だと思うんスけど。

《ネギ君、多分近くに来てると思うんだけど……何か目印になるような事って……無理か》

杖も魔力もないのに魔法なんて撃てないよな。

《あ、はい、春日さん、分かりました。ちょっと待ってて下さい。浮遊術で空に上がるので》

《なるほど》

あれ、さっきまで死にかけてたのに飛ぶ余裕あるのか?

《上がりました》

ってどこだー?

《春日さん、ちょっと大きめの音を出すので》

《ん、りょうかーい》

―断罪の剣!!―

うおっ左何か溶ける音がした気が……って浮遊術はともかくとして、なんで魔法使える?
雪崩の心配は……大丈夫か。

《ネギ君、方向分かったよ。おっけー》

《はい!》

音がした方向に箒を進めたら都合よく洞窟発見した。

―下降停止―

「ネギ君!色々持ってきたよ!ミリアさんこうして直接会うのは初めま……して」

おーっと凄い脱力感……。
魔力切れだな……。

「春日さん!大丈夫ですか!?」

「いやー、ちょっと無理したからただの魔力切れだよ」

ネギ君手出してくれた。
どっちが助けに来たんだか……。

「あ、何か温かいですね」

「そうそう、これがサーモスタビライザーってやつね。私も洞窟いれてもらうよー」

サーモスタビライザーαも飛んでくる途中に切れたから今日で既に2個目なんだよね。

「はい、どうぞ」

「春日美空さんですね。助けに来て頂きありがとうございます」

凄い年齢詐称薬だな。
完璧に子供にしか見えない。

「どういたしまして。ミリアさんも無事で良かったです」

洞窟の中に私も入って、まず地面が平らな所でテントを広げてから、サーモスタビライザーも3人で中心に置いて囲んだ。

「ネギ君に届け物ね。杖と箒。それでさっきのって杖無くても使えるの?」

「ありがとうございます!それで、えっと……そうですね。使えるようになりました」

「使えるようになった?」

「さっきの魔法は杖が無くても使えるようになった……んです」

なんつー奇跡。

「ま、それならそれでいいスよ。それより携帯食料持ってきたから食べてね」

「わー、お腹すいてたので助かります」

殆ど食べてないでずっと移動してたらそりゃね。
缶詰とか乾パン的な何かとか色々あるけどこれはこれで結構うまい。
ネギ君が一生懸命モキュモキュ食べてるのは小動物みたいだな。

「あー、生き返った気がします」

「それは来た甲斐があったよ。それでネギ君に伝えてない情報があるんだけど……聞く?」

「はい、何ですか?」

「ネギ君とアスナ、このか、楓、くーちゃん、のどか、ゆえ吉が賞金付きの国際指名手配になったんだよ」

「ええええ!?ど、どうして!?」

「そ、そんな……」

「私達もちょっと信じられないんだけど、まだ誰も捕まってないからさ。安心してよ」

「そ、そうですか……」

「伝えてなかったのはネギ君がそれどころじゃなかったからだから許してね」

「気にしてないので大丈夫です」

「ネギ君が前言ってた通りメセンブリア当局がゲートポートの事件には絡んでるかもしれないね」

「メガロメセンブリアが……」

「一応ゆえ吉のお陰でアリアドネーの総長が受け入れしてくれるって話だからとりあえずはアリアドネーに集合する予定ね」

「夕映さん、記憶が無くなってても助けてくれるんですね」

「忘れているって言っても少しは覚えてるんだと思うよ。で、まだいいけど、ネギ君年齢詐称薬で見た目年齢上げるかした方がいいよ」

「はい、年齢詐称薬はまだあるので出発する時に使いますね」

ネギ君魔力切れか何かで倒れた割には本当に大丈夫そうだけど死にかけると突然回復したりするもんなのか……?

「出発は明日まで待ってもらえるかな?私魔力切れだからさ」

「もちろんです。春日さんは箒だけでここまで来たんですか?」

「あー、私のアーティファクトって時速100kmぐらいで3時間は走れるんだよ。それと後は魔力が切れるまで箒で昨日は進んだんだ」

「へー凄いですね。それに春日さんも仮契約してたんですか」

「そう!ココネがマスターなんだ!」

「そういえば佐倉さんも高音さんと仮契約してるんですよね」

「うん、そうそう」

何かどんどん普通の話になって指名手配とかそっちの方の話全然しないで、私が魔法生徒だったのが本当で驚いたとかそんな事ずっと話してたわ。
その途中でαがまた切れて、寒いのやだしサーモスタビライザーγも普通に追加投入した。
何か病み付きになるね。
5日分持ってきて良かった気がする。
ネギ君に値段聞かれて結構アレだったけどごまかしといた。
この間にこのかはドネットさん達と無事合流できたから、桃源の方来るかって話になったんだけど絶対バレない年齢詐称薬あるし、私の自由渡航許可証もあるから大丈夫って事でそのままアリアドネーに向かう方向で落ち着いた。
高音さん達は明日、もうちょい移動すればくーちゃんと合流できるって言ってたな。
賞金稼ぎにまだ出会ってないのは当然っちゃ当然だけどタンタルスへの帰りの変装のレベル次第だと思う。

「春日さんは修学旅行の時の事件って知ってますか?」

とうとう気がついたかー。

「あー、あの時の事ね。うん、知ってるよ。私は宿で待機してて、ネギ君が杖に乗ったまま雷の暴風とか使ってたの見たし」

「春日さんはあの時宿にいたんですか。僕は疲れてそのまますぐ寝ちゃったので詳しく知らなかったです」

「それでネギ君が気になるのは指名手配されたネギ君達7人が修学旅行の時大変な事になってた7人と同じって事でしょ?」

「そ、そうなんです!もしかしたら今回の件にも白髪の少年が関わっているかもしれません」

私その少年知らないスわ。

「私はその白髪の少年の事は知らないんだけど、ドネットさんはメルディアナの人だから何か知ってるんじゃないかな?」

「そうか。ありがとうございます。ちょっと聞いてみますね」

ネギ君がドネットさんに個人通信で聞き始めたらやっぱその白髪の少年の事知ってたらしい。

「どうやら白髪の少年の名前はフェイト・アーウェルンクスというらしいんですが、それ以外は不明だそうです」

「名前だけかー」

「全然分からないですね……」

「まー、ゲートもどこも壊れちゃってて残ってるのが廃都オスティアのだっけ?夏休み中に学校帰れないかもしれないけどネギ君が悪いわけじゃないしさ、10月にオスティアである記念式典でお祭りもあるらしいから楽しんでもいいんじゃないかな?」

「オスティアの記念式典?」

「オスティア記念式典とは前ネギ君に言いました前大戦が終わってから毎年開催されている7日7晩続く終戦記念祭なんですよ」

「そんなお祭りがあるんですか。麻帆良祭みたいで面白そうですね」

「小太郎君はネギ君が助かったら一緒にその祭りで行われるナギ・スプリングフィールド杯っていう拳闘大会に出てみたいって言ってたよ。まあこれは直接聞いてみた方がいいと思うけど」

「父さんの名前の大会?」

「その話は私もしていませんでしたね。年に一度の世界で一番を決める拳闘士の大会なんですよ」

「でもまあ拳闘士ってのは場合によっては試合で死んでも構わないって契約書を書く必要があるから積極的に勧められるものじゃないんだけどね。腕に自信があればって感じだよ」

「あはは、なんだかそれはアスナさんに止められそうですね。コタローには後で聞いてみようかな……。でも僕はどういう訳か一応賞金首だから目立つのもマズいですね」

アスナの影響がかなり出てるなー。
マジで姉弟みたいだ。

「ネギ君は一切悪くないんだけどね……」

「一応例の論文の事もありますし、桃源に戻ったらドネットさん達と同じようにアリアドネーに向かいましょう。ミリアさん、桃源についたらメガロメセンブリアまで戻ることできますか?」

「ええ、はい、一応メセンブリーナの銀行が桃源にもありますからお金は大丈夫です。私は桃源まで送って頂ければ構いませんので」

「はい、ミリアさん、必ず桃源までは送り届けます。でもお別れはまだ少し先ですよ」

「まだ助かった訳ではありませんが、なんだかネギ君と離れるのは名残り惜しい気がします。あと仮契約も解除しないといけませんわね」

吊り橋効果だなー。

「あ、そうでした!でも……そういえば解除魔方陣知らないや……」

「細かい事は桃源のホテルに着いてからで良いんじゃないかな?仮契約の解除はアリアドネーかどこかで調べてもらえばいいと思うよ」

「そうですね。夕映さんにまたお願いしておきますね。僕結構さっき気を取り戻してから調子はいいんですけど明日に備えてそろそろ寝ますね」

「それじゃあ私も休むとするよ」

「それでは私もお休みしますね」

ちょい早いけど明日に備えてだな。
にしても私今日スゲー頑張った。
超頑張った。
魔法生徒として初めてこんな働いた気がする。
シスターシャークティに見せたやりたいスよ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月21日、1時頃、メガロメセンブリアゲートポート―

ゲートポートが破壊された瞬間に既に時差は4倍に膨れ上がっていたため、高畑・T・タカミチ、葛葉刀子、龍宮真名の三人が地球側からギリギリで動いたゲートを使ってやってきた時には8日が過ぎていた。

「ふぅ、着いたね」

「まずは一旦ホテルを取って情報を集める所から始めましょう」

「了解した」

未だ忙しなく現場検証が行われているゲートポート内をよそに、3人は正規の入国手続を行い、そのまま足で春日美空達が泊まっていたホテルに向かい、チェックインを済ませた。
確認したところ、麻帆良の魔法生徒は既にチェックアウトを済ませどこかに移動していた後だというのがわかり、2部屋借りたうちの1部屋に集まり今後の方針を決める所で、龍宮真名がある物を取り出した。

「高畑先生、葛葉先生、これを」

「これは……端末かい?」

「超鈴音……ですか?」

「ああ、一昨日女子寮を出るときに超から持って行けと言われてね。どうやらこれでネギ先生達、春日達と連絡が取れるらしい。あちこちにネギ先生達が賞金付きの指名手配になっているのはここにくるだけでも散々目についたが本人達に話を聞いた方が早いだろう」

「超君がわざわざこんなものを……。彼女は一体何を知っているんだろうね」

「少なくとも私達に協力していると見て間違いないでしょう。しかし一昨日は8月13日だった筈ですが、もうこちらの日付で8月21日です」

「どうやらゲートポートが破壊されたことで時間の流れが変わっているようだね」

「4倍か……超は2学期までに帰ってくることを祈っていると言っていたんだが……これを見越していたのかな」

「超君はそんなことまで……。確かに4倍なら夏が終わるまでにはこちらで後2ヶ月はあるが」

「高畑先生、まずは端末で連絡を取りましょう。起動方法は……」

「前のと同じだな」

「どうすればいいんだい?」

「一緒に起動するよ。……これでいい。心で念じればいいのは念話と大体同じだよ。全体通信を始める」

《ネギ先生達、春日達、聞こえるか?龍宮真名だ》

《ネギ君、春日君、高畑だ》

《葛葉です》

《茶々丸です、今ドネットさんに繋げますので》

《茶々丸君か。ドネットさんもいるのかい》

《高畑先生!?助けに来てくれたんですか!》

《おっ、アスナ君!さっきついたばかりだったんだが何だか変な事になっているようだね》

《高畑先生、どうも、ドネット・マクギネスです。私から詳しく事情を説明します。8月13日にメガロメセンブリアのゲートポートに着いてすぐ、何者かの大規模強制転移魔法を受け私達は全員バラバラに飛ばされました。その後今は各自ある程度固まっていますが、丁度丸1日程前突然ネギ先生達が指名手配にされました。これには確実に何か裏がある筈です。私は現在茶々丸さん、このかさん、楓さんとケフィッススへ戻り、そのままアリアドネーに向かう予定です》

《報告ありがとうございます。ドネットさん、このかお嬢様をお願いします》

《葛葉先生、高畑先生、うちは大丈夫え!》

《無事で良かった。ドネットさん、ネギ君や他の皆はどうなっていますか?》

《ネギ先生とその救出に向かった春日さんは南極、ココネさんは桃源のホテルで今寝ています。のどかさんはノクティス・ラビリントゥスでトレジャーハンターの方達と一緒、夕映さんはアリアドネーの魔法騎士団候補学校、高音さん、佐倉さん、桜咲さん、古菲さんはタンタルスに固まっていて、こちらも現在寝ている所です。また、アスナさん、小太郎君、アーニャさんはヘラス帝国でテオドラ第三皇女様の元、既に保護を受けています》

《情報ありがとうございます。ネギ君が南極とは……。それにテオドラ皇女殿下というのは本当ですか?》

《なんじゃタカミチ、妾がおっては不満か?》

《皇女殿下!こ、これはお久しぶりです》

《テオで良いぞ。まあ、後でまたな。話を進めると良い》

《ありがとうございます。南極には応援は必要ありますか?》

《2日で桃源に自力で戻ってこられるのは確実だそうだから大丈夫だそうよ。それよりできればメセンブリア当局でどうしてネギ先生達が指名手配される事になったのかの調査を頼みます》

《分かりました。それでジャック・ラカン氏との連絡は取れていますか?》

《いいえ、全く取れていないわ。ネギ先生は来ないかもしれないって言っていたからその通りになったわね》

《ははは……頼んでおいたんですがね……。大体分かりました、こちらも夜が明け次第行動します》

《お願いします。私達もケフィッススに移動しますので。後は個人同士での通信にしましょう》

《了解しました》

《龍みー姉ちゃん、よっ!》

《コタロー君、元気そうだな。まあまた後でな》

《分かったで!》

簡単に状況をまとめた通信はこれにて一旦終了した。

「随分変わった事になっていたね……」

「ええ、全くです」

「どうやら指名手配された割にはまだ日も浅いから酷い事にはなっていないようだな」

「不幸中の幸いだね。僕達は明日からドネットさんに頼まれた通りまずはメセンブリア当局の調査からだ」

「分かりました」

「了解した」

……こうして、遅れて魔法世界にやってきた役者もようやく揃い、話はまた新たな動きを見せ始めることとなる。



[21907] 47話 アリアドネー魔法騎士団候補学校(魔法世界編7)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/11 00:54
―8月21日、7時頃、桃源より南約1200km―

はー、良く寝たー!
一度保温が切れた時に起きたりしたり、フカフカのベッドって感覚では全然なかったけど12時間近く寝れたな。

「春日さん、ミリアさんおはようございます」

「ネギ君、ミリアさんおはよーございまーす」

「ネギ君、春日さん、おはようございます」

「起きてる皆さんにも報告しますね」

「そだね」

《おはようございます。昨日は心配かけてすいません、今起きました》

起きてんのは高音さん達ぐらいかな。

《ネギ先生、おはようございます。実はネギ先生達が休んでおられる時に高畑先生達がこちらにいらっしゃりました》

へ?何でこれた?
ゲート壊れてんじゃないの?

《え!?タカミチが!?》

《おはよう、ネギ君、倒れたって聞いて心配したけど元気そうだね。良かったよ。春日君が救出に向かってくれたそうだね、ありがとう》

《葛葉です。ネギ先生、ご無事で何よりです。春日美空、よく頑張りました》

《ネギ先生、春日、おはよう。私も助っ人に来たぞ》

うおっ!
葛葉先生にたつみーも来てんかい!
って端末持ってるってことは超りんの差し金か何かか?
こうなるってマジで知ってたんじゃないだろーな……。
大人率が上昇して何か修学旅行っぽくなってるけど良いことだ。

《タカミチ!葛葉先生に龍宮さん!》

《高畑先生、葛葉先生、どうも。けっこー頑張りました。たつみーもこっち来たのか》

《タカミチは今どこにいるの?》

《メガロメセンブリアだよ。ドネットさんに頼まれてネギ君達が賞金付きの指名手配された理由を調べてるところなんだ》

《そっか、ありがとう!多分修学旅行の時のフェイト・アーウェルンクスっていう少年が絡んでる気がするんだけどドネットさんから聞いた?》

《ああ、既に色々聞かせてもらったよ。それで、ネギ君達自力で南極から出てこられるかい?》

《うん、春日さんが箒持ってきてくれたからすぐ戻れるよ!》

《それなら大丈夫そうだね》

《高畑先生、ゲートってまだ動いてるんですか?》

これが事実なら長居する必要無いし。

《いや……こちらに来ることはできたんだけど、戻る事はできないようだね》

なんて一方通行。

《そーですかー……》

《期待させて悪いね。原因はどうも魔法世界と旧世界で時間差が4倍ぐらいできてるからだと考えられるんだ》

は?4倍?

《え!タカミチ、4倍ってどういう事?》

《僕達が旧世界のゲートでこっちに移動してきたのはゲートが壊れたという情報が分かってから2日経っていたんだが、こちらの日付では21日になっていたんだよ》

《ゲートが壊れた影響……》

げー!
それだと麻帆良の皆より年取るじゃんか!
戻ってみたら浦島美空なんて嫌スよ……。
ゲートが直るのに2年だとするとあっちは半年だけって……。
でも……どーせ千鶴みたいに成長したりはしないな。

《その辺りは追々にして、また後で定期的に報告してくれると助かるよ》

《うん、分かったよ、タカミチ》

帰れるかと思ったらコレだよ……。

「タカミチ達がこっちに来たのは驚いたなぁ」

「戻るアテあるんスかね」

「やっぱり廃都オスティア……でも許可のある冒険者どころか賞金首だからなぁ」

「高畑先生なら顔が効きそうスけどね」

「あの、高畑先生というのは悠久の風の高畑・T・タカミチ様ですか?」

「はい、ミリアさん、そうですよ」

「まあ、それは頼もしいですね」

「タカミチって……まほら武道会で悠久の風に所属してるって分かったけど有名なんですか?」

「それはもう有名ですよ。雑誌の表紙を飾った事があるぐらいです」

「へー、そうだったんですか!僕本当に魔法世界の事知らないな」

「これからお知りになれば良いと思いますよ」

「そうですね!それでは、そろそろ出発しましょうか!」

「箒あるしね。ネギ君どれぐらい速く飛べるの?」

「えっと、最大加速で時速100kmぐらいは」

なにぃぃぃぃ!?
フツーそんな出ねースよ!
地上を走り続ける私より余程色々速いじゃんか。
ま……流石ネギ君だな。
比べても意味ないスよ。

「私そんな箒で速度出ないからさ。途中平地になったらアーティファクトで走ったりするね」

「はい、分かりました!」

「よーし、出発するか!」

「はい!」

ミリアさんとネギ君が一緒に、私は単独で箒に乗って。

―飛行!!― ―飛行!!―
―加速!!― ―加速!!―

……飛び始めてみたらやっぱネギ君が速い速い。
向かい風を避ける為に私がネギ君のすぐ後ろで追走する感じになってるんだけど楽だー。
ついでに残りα2つを起動させながら飛んでるからその点でもかなり楽。
もうγも2つだけだから5日分で丁度良かったかなー……というか私が無駄遣いしただけか。
ま、気にしない。
ネギ君も私に配慮してくれてるからか、最大加速は使ってないからのんびりな感じだ。
飛行しながらさっきあんま話さなかった高音さん達ともう一度連絡を取ったらとっくにくーちゃんと合流し終わってて、タンタルスに引き返し始めてたらしい。
くーちゃんの変装はやっぱりどう見ても仮装だったらしくてマジあぶねーあぶねー。
合流した瞬間ネギ君、小太郎君と同じで持ち合わせの食料を大量に食べて満足したのか箒ではそのまますぐ寝て静かなんだそうな。
くーちゃんやっぱ腹減ってたんスね。
ドネットさん達もケフィッスス朝早々9時の便でグラニクスを経由してアリアドネー行きの飛空艇に乗ったそうな。
到着は8月25日13時現地時間の予定らしい。


んーで、この後は結構あっと言う間だった。
途中昨日私が走りまくった平地でまたアーティファクトに切り替えつつ、すぐ上空をネギ君が最大加速で並飛行。
私が魔力切れしそうになったら、「春日さんも乗ってください」なんてネギ君が言うもんだからお言葉に甘えて私も一緒に乗せてもらった。
3人で一本に乗るのはちょい狭かったけどこの一日で700kmぐらい進んだな。
魔法使いには杖と箒、これぞ真理。
オスティアの熊店長の忠告とは裏腹に帰り道は楽すぎる。
ついさっきゆえ吉が昼休みぐらいの時にネギ君が仮契約の解除魔方陣の書き方を調べて貰もらえるよう頼んだりしたから明日桃源に戻った時には解決するだろ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月22日、16時頃、桃源、ホテル―

昨日は春日さんが持ってきてくれた箒のおかげでかなり進めたから、今日は少しゆっくりめで飛んで来たけどようやく街に着いたな。
初めてみる魔法世界の街が中華風でイメージがちょっと違うんだけど、他の街はそれぞれ全然違うって話をミリアさんから聞いた。
年齢詐称薬を今日出発する時に飲んだら春日さんに「げっ!そっくり!」とかミリアさんに「本当に良く似ていらっしゃいます」って言われたんだけどどうも父さんに結構似ているらしい。
今丁度春日さんが滞在する為に数日間取っていたホテルについた。

「ココネー!!ただいま!」

「ミソラ、おかえり。ネギ先生、ミリアさん無事でよかった」

「ココネさんありがとうございます」

「ココネちゃん、ありがとうございます」

「とりあえず、まずは、この桃源のホテルには温泉があるから久しぶりに入りましょう。ココネちょい早いけど一緒にいく?」

「行く」

「よし。ミリアさんは……先に年齢詐称薬解除してもいいんじゃ?」

「あ、そうですね。ネギ君、お願いできますか?」

そっか、数日間結局小さいままだったんだ。

「ちょっと待って下さい……えーっと、はい、これを飲んでください」

「ありがとうございます。では……」

最初の時と同じで煙と音と共に元の大人の姿に戻った。

「やっぱりこの体が落ち着きますね」

「うおっ、分かってたけどミリアさん凄い美人!」

「どうもありがとう、春日さん」

「それじゃあ、ミリアさんも一緒に温泉入りましょう!」

「はい」

「ネギ君は風呂嫌いだからって言っても流石に入った方がいいよ。アスナが聞いたら怒るし」

「わ、分かってますよ!ただちょっと目に水が入るのが嫌なだけで……」

「うーん、ならばシャンプーハットをオススメするよ」

「あはは……」

「ふふふ」

こうして、僕は数日振りのお風呂、それも温泉に入った。
何だか浴場に行くまでに結構顔見られたんだけどもしかして賞金首ってバレてるのかそれとも父さんと似たような顔してるからなのかな……。
年齢詐称するだけじゃなくて完璧に違う変装した方がいいのかなぁ。
そんな事を考えながら身体を洗ってたら、結構お風呂って気持ちがいいなって思えてきた。
苦手でも必要な時は必要って事なのかな。
去年の夏休みに麻帆良学園のあちこちに連れて行って貰っていつも汗掻いて帰ってきたらアスナさんに無理やり洗われたのがなんだか懐かしいや。
実際には1年以上経ってるんだけど。
コタローとは例の拳闘大会の話をしてたら途中にテオ様が話に入ってきて「腕に覚えがあるならヘラス帝国の闘技場で選手登録してみたらどうじゃ?」って勧めてくれたからそれも良さそうだねって話になった。
ただミリアさんの話だと父さんは帝国からは前大戦で連合の赤い悪魔って恐れられたらしいからヘラスの人達の中には良い感情を持ってない人がいるんじゃないかって話を一応テオ様にしたんだけど、「そなたはナギ本人ではないのじゃから気にするでない。それに拳闘士は拳闘士でそれぞれ誇りがあるから大丈夫じゃ。気になるならアリアドネーの闘技場でもよかろう」って言ってくれた。
なんでも、テオ様は結構拳闘士の話に詳しいみたいでコタローに既に目ぼしい拳闘士の人達の映像を見せたらしい。
僕もちょっと見せて貰いたいと思ったんだけど、コタローの見立てでは「俺とネギなら普通にいけるで。まほら武道会の時と違うて場外無しで武器もアリやけど問題あらへん。まほら武道会で上位の人達よりは強くないと思うで」って言ってたから僕達でもやっていけるみたい。
驚いたのはアスナさんまで「これぐらいだったら私でも行けそうね」って言ってた事だ。
これなら春日さんが言ってたようにアスナさんに強く止められたりもしないんじゃないかなと思う。
拳闘大会に興味はあるし出てもみたい、けど今回のゲートポートの事件の真相、この世界の謎、もちろん父さんの事自体もまだまだ知りたいことはたくさんある。
……はぁー、気持よかった。
こうやってゆっくりできたのも久しぶりな気がする。
後はミリアさんとの仮契約の解除や服には影響しないマスター直伝の完璧な年齢詐称薬用に服も用意した方がいいかな。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月22日、18時頃、桃源―

あー日本人の私がハードな旅をして4日振りに入る風呂が温泉ってのはなかなか気が効いてると思う。
ミリアさんも温泉入れたのがかなり嬉しかったみたい。
丁度ホテルのレストランで今日の夕食、もちろん中華料理を皆で食べてお腹も満たせた所で、ネギ君が大人バージョン用の服を用意したいって話をしてきたから早速街に買いに出た。
今日南極から出発する時からナギ・スプリングフィールドそっくりだったから桃源着いてからは結構人目を引いてて、できればフード被って欲しいかも……っていうのは言ってない。
大人用の服で何買うのかって聞いたら結局普通のワイシャツ、スーツ、ネクタイが欲しいって言うもんだから、いつものネギ君がただ成長しただけって感じ。
スーツとかそういうのには私は詳しくないスけど、一緒に替えの服を持ってないミリアさんもメガロに戻る用の服を買うついでに、ネギ君に「これが似合いますよ」ってガンガン選んでた。
どこから金が出るかっつーと、高音さんから貰ったクレジットカード、それとミリアさん自身がネギ君にお礼の意味も込めてネクタイなんかをプレゼントしてた。
ぶっちゃけ子供にあげるもんじゃないよなー、ネクタイなんて普通は。
まーそれでもネギ君は律儀に「お礼なんていいですよ。当然の事をしただけですから。でもありがとうございます、大切にしますね」って返したんだけど、今確かに姿は大人バージョンになってるけど、まだ私よりも年下の子供じゃんか。
だめだ、3-Aで培った先入観が強すぎてネギ君限定で子供と大人との境界が崩れそうだわ……。
ミリアさんもいるけど誰かここにもう一人ぐらい大人を寄こしてくれ。
そんな感じでここ数日には無かった普通の日常的生活感を醸しながら、またホテルに戻って、ゆえ吉から仮契約の解除魔方陣の情報を受け取って今まさに解除し始めるってとこ。

「ミリアさん、今回も呪文を唱えるだけでいいのでお願いします」

「はい、ネギ君。分かりました」

「では始めましょう」

魔方陣の中に二人で立ってモゴモゴ唱え始めてから数分が経って魔方陣が強く光ったと思ったら終わりっぽい。

「はい、これで仮契約解除ですね」

「私を守ってくれたネギ君との繋がりは終わりですが、この事は忘れません、ありがとう、ネギ君」

「僕も絶対忘れません!何か僕にできる事ってありますか?さっきネクタイを頂いたお礼がしたいんですが……」

「……お礼ですか……さっきのも私からのお礼だったんですが、お礼にお礼をしているとキリがありませんね。……それでは、ネギ・スプリングフィールド様のサインを頂けますか?」

「僕のサインですか?それで良ければもちろんです!」

いやー、それはなかなか貴重だと思うよ。
後で本物だと分かればオークションでもかなり値段が付きそうだし。

「ありがとうございます、ネギ君」

「そんじゃ私ちょっと色紙用意してくるよ!」

「え?春日さん、そんなわざわざ」

「いやいや、別に時間が無いでもないんだしどうせなら形に拘るべきだと思いますよ。止められるとアレなんで行ってきまーす」

こういう時はさっさと行動に移した方がいいスよ。
ホテルのフロント行ったら、たまに有名人がここの温泉に寄ったりするから色紙ならあるって話だったからちょい交渉して分けて貰った。
ネギ君にいざ渡して、書くのか?って時に「ちょっと練習します!」って紙に練習し始めたのは面白かったな。
一枚毎書いてはミリアさんに「こんな感じでどうですか?もっと何か直した方がいいところがあったら言って下さい」なんて見せて、そのミリアさんは最初「ネギ君が書いてくれるものなら何でもかまいませんよ」って言ってたんだけどネギ君が予想以上に拘ってたから、ミリアさんが「では、ここをですね……」とか言いながらどこの親子習字教室ですかって感じになったわ。
うーん超平和。
ある程度落ち着いて英語で遂に色紙にサインして終わりかと思ったらネギ君何を思ったのか「ミリアさんにメッセージも書きますね」って言い出して、実際書き始めたんだけどサインにも確かに少しメッセージぐらいは書く事もあるだろうけど、どーも寄せ書きみたいになった。
書いたのは一人だけど。
ま、子供らしくていい感じではあるね。
英語で書いてあったから大体しかわかんなかったけど南極での事についてなのか「辛い時に一緒に居てくれてありがとう」とか感謝の気持ちを表したみたい。
それでミリアさんの涙腺が緩んで泣いたりしたんだけど、ちょい南極での様を想像したら不覚にも私も貰い泣きしそうになったスよ。


―8月23日、9時頃、桃源国際空港―

いよいよ私達もドネットさん達に遅れてようやくアリアドネーに向けて飛空艇に乗る時がやって来た。
ミリアさんはオスティア経由メガロメセンブリア行きの便に乗るからとうとうここでお別れ。

「ミリアさん、またいつかお会いしましょう!」

「はい、メガロメセンブリアのゲートでお待ちしてますね」

「その時はちゃんと受付に寄りますね」

「最後に握手して貰っても良いですか?」

「はい!」

「ありがとう」

ネギ君が右手を出してミリアさんがそれを両手で優しく包んだ……のが子供と大人なら微笑ましいだけなんだけどー、今のネギ君は姿は大人の紳士モードだから何か違う別れのシーンにしか見えないスよ。

「ミリアさん、メガロメセンブリアのゲートに寄る時はまた私達もッスよ!」

「はい、春日さん、ココネちゃん、またお会いしましょうね」

「ミリアさん、また」

そのままお互い手を振りながらそれぞれの飛空艇に乗船した。
ミリアさんがギリギリまで笑顔で手を振っていたのはグッと来たわ。
……んで、今回部屋2つ借りたりしたかっていうと金もかかるしそんな事はしてない。
とりあえず、今後の予定の確認って事で、部屋で寛いで話すことにした。

「ネギ君、アリアドネーに着くのは8月31日になるみたいだね」

「1週間近くありますね」

「もう少し速いといいんだけどね。高音さん達も明日朝タンタルスからアリアドネーに飛んで着くのは8月30日だよ」

日付変更線をまたぐからあっちの方がちょい早いな。

「はー、いきなり飛ばされてから集まるのに時間かかっちゃいましたね」

「そうだねー。まあ、集合って言ってものどかはまだトレジャーハンターやってるから全員じゃないけど」

のどかは必ずネギ君達と合流するって約束したけどノクティス・ラビリントゥスにいるなら、フォエニクスまで一旦出ればアリアドネーまで2日ちょいでこれるから変装さえうまくいってれば特に問題も無いって事に今のところなってる。
何だか、トレジャーハンターやっているうちに、のどかは探し出したい魔法具があるみたいでまだまだ遺跡に潜る気はあるみたいね。

「のどかさんと通信して感じたんですけど、とても生き生きしていると思うんです」

「それ分かるなー。のどかは周りにトレジャーハンターの人達がいてそれなりに安全だし、図書館探険部での経験も予想以上に役に立ってるみたいだしやり甲斐感じてるんじゃないかな」

「3-Aの担任として生徒が成長するのはなんだか嬉しいです」

あー、ネギ君、君もまだまだ私達より成長する余地残ってるからね。

「ははー、それはネギ君もだと思うよ」

「あはは、そうですね」

「まー、その姿だとアレだけど。本当に凄いねその年齢詐称薬」

「マスター直伝ですから」

「エヴァンジェリン印って訳かー。私エヴァンジェリンさん所詳しく知らないんだけど、夏休みの間結構通ってた感じやっぱり修行してたの?」

「そうですね、1時間が1日になる魔法球で修行してました」

はー!?
なんだそのリアル浦島空間。

「24倍って……。そりゃ驚いた」

「僕もまだあんな空間を作るような大魔法はできません」

「あれ一番フツーので、まほネットでいくらするか知ってる?」

「えっと、知らないです……」

「4億円だよ。ドラクマだと250万ドラクマね」

「よ、4億!?」

ネギ君の驚いた顔面白いなー。

「それも2倍ぐらいでせいぜいだからね。24倍なんて普通市場にまず存在すらしないよ」

「はぁ……分かってはいましたけど僕って恵まれてたんですね……」

「まー恵まれてるっちゃ恵まれてるとも思えるけど、ちゃんと年は喰ってるから人それぞれじゃない?」

「そ、そうですね。でも戻ったらマスターに感謝しないと……」

「良い師匠だねぇ。そうだ、となると私今年のまほら武道会の試合実は見たんだけど、あの時よりも成長してるんでしょ?」

「春日さんもあの時龍宮神社にいたんですか?」

「あーいや、映像が見れる端末だけ持っててさ」

「そうだったんですか。まほら武道会の後はかなり修行したので確実に成長したと思います」

「高畑先生とネギ君の試合見て思ったけど、こっちの拳闘大会がどんなもんか分からないけど十分やっていけそうだよね」

「あ、それはコタローも言ってました」

インフレしてんなー。

「本人がそう言うならそうだろうね。何にしても後8日あるから、まほネットは繋がってるし色々情報も集められるよ」

「そうですね。僕も調べてみたい事が結構あるので使わせてもらいますね」

「どうぞどうぞ。それじゃあちょっと私は展望デッキの方散歩してくるね」

「分かりました。行ってらっしゃい」

さてと後は悠々自適、空の旅って奴だな。

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―8月25日16時、アリアドネー魔法騎士団候補学校―

4日間に及ぶ空の旅の間、ドネットはまほネットで情報収集を行いながら高畑達と連絡を定期的に取り合っていた。
高畑達がメガロメセンブリアで調査を行った結果、ネギ達が懸賞金付きの賞金首になったのは、どういう訳か全てのゲートポートの監視映像のデータに確かに犯行の際の映像が偽造とはいえ残っていたのが理由として一番大きいという事が判明した。
全ゲートポートの破壊となれば重大なテロ行為であるのは紛れもない事実であるため、メセンブリア当局としては指名手配にかけるのは当然の流れであった。
メセンブリア当局で何度調べてもそのフェイト・アーウェルンクスが仕掛けた偽造映像を偽造だと見抜けない、当然偽造であるという確たる証拠も無いというのが問題ではあったが……。
ただ、犯人としてほぼ確定した上で懸賞金まで付ける事を決定したのはメガロメセンブリア元老院であるのは間違いない。
極秘に軍を動かして捜索という手もあった筈だが、国際指名手配という手段を取ったのはヘラス帝国に逃げられた場合を見越しての事であろう。
満場一致で国際指名手配にする事が決まった訳ではないのだが、証拠映像からの判断、そして実際にネギの事を予め昔から知っていた元老議員達の票が合わせて過半数を超えてしまったのである。
こうなってしまっては悠久の風所属、高畑と言えど、いかに声を上げた所で指名手配を取り消すというのは無理な事である。
あるとしたら終戦20周年を記念してのオスティア記念式典で恩赦でも降りるか、又は実際に自首をして裁判を受けて無罪を勝ち取るでもしない限り取り消すのは不可能である。
しかし後者は嵌められる可能性がかなり高くこちらも無理な話である。
高畑の持つツテからジャン=リュック・リカードやクルト・ゲーデルと接触して何かしらの交渉を持ちかける事もできるだろうが、ネギ達の居所を話さなければならなくなるかもしれないという点でリスクの割には成果が見込めない為これは見送りとなった。
ドネット達の現時点での結論としては指名手配に関してはどうしようもなく、まずはやはりアリアドネーやヘラス帝国で秘密裏に保護を受けるのが今のところの次善策であるという所で落ち着いのだった。
いずれにせよ高畑達は調査を始めてまだ4日程度であるため今後も引き続き調査を続ける運びとなった。
ただ、葛葉刀子は元々魔法世界にやってきた経緯が近衛木乃香の護衛であるため、一人メガロメセンブリアからオスティア、モエル、ゼフィーリアと経由してアリアドネーに向かう事になった。
また高畑は他にも、グッドマン家と佐倉家に対して挨拶回り、特にグッドマン家には麻帆良学園代表として今まで肩代わりしていた費用の返済をする必要があり、加えてアリアドネー魔法騎士団候補学校にも奨学金で入学している綾瀬夕映の授業料を返済する必要がある。
更にはメガロメセンブリアゲートポートに現れなかったジャック・ラカン氏と連絡を取る必要もある。

そして今、ドネット、長瀬楓、近衛木乃香、絡繰茶々丸はアリアドネー魔法騎士団候補学校に到着した。
そしてドネットが学校の窓口でセラス総長とのアポイントメントがあることを告げ、確認が取れた後、学校内に入る許可証を受け取った上で校内に入りそのまま総長室に向かったのだった。
職員に案内されて総長室に到着したドネット達をセラス総長が招き入れた所そこにはセラス総長だけではなくある生徒もいた。

「夕映っ!」

「夕映殿!」

セラス総長との先に挨拶する事そっちのけで綾瀬夕映、現在の名でユエ・ファランドールに近衛木乃香と長瀬楓は声を発し、近衛木乃香に至っては綾瀬夕映に飛びついたのだった。

「夕映、うちやよ!近衛木乃香や」

「このか……」

「このかさん、いいかしら」

「ドネットはん、すいません。夕映……ほなあとでな」

ドネットの一声で綾瀬夕映から一旦近衛木乃香は離れ、元の位置に戻った。

「セラス総長、お目にかかれて光栄です。メルディアナ魔法学校所属、ドネット・マクギネスです」

「近衛木乃香です」

「長瀬楓でござる」

「絡繰茶々丸です」

「初めまして、アリアドネー魔法騎士団総長のセラスです。本日は当校へようこそ。まずはあちらの席へおかけください」

「ありがとうございます」

6人が応接用の席に座りいくつか挨拶を交わした後本題に入った。

「セラス総長、国際指名手配されている子達、ここでは長瀬さんとこのかさんが該当しますが、アリアドネーでの扱いについて伺いたいのですが」

「形式通りの説明ですが、アリアドネーはいかなる権力にも屈しない独立学術都市国家であり、犯罪者や魔物であっても、学ぶ意思がある者の逮捕は禁止されています。よって、学ぶ意志表示とその形式さえ満たせばアリアドネーの庇護下においては指名手配から削除をすることをお約束致します」

「ありがとうございます。形式という事は学校に入るという形でよろしいのでしょうか」

「そうして頂けると一番良いです」

「分かりました。そういう話なのだけれど、このかさん、長瀬さん、アリアドネーの学校のどこかに入学する気はあるかしら?」

「ドネットはん、そういう事なんやね。うちも魔法の勉強はしたいからどこかに入学はしたいえ」

「拙者は……魔法は使わぬからなぁ。身体操術で気づかれずに生活ができれば構わないのでござるが……」

「長瀬さんはそうよね……。このかさんは良いのだけれど、この後もあと最大で5人は来る可能性があるのよね……」

形式を満たしさえすればアリアドネーの庇護下にあるという決定的な事実が得られるので指名手配は削除できるが、実際の所拠点としてアリアドネーに滞在するだけでも十分であり絶対に入学しなければいけないという事ではない。

「長瀬楓さんが魔法以外で学びたい事はあるかしら?」

「うーむ、強いて言うならケルベラス大樹林での経験から魔法世界の植物や魔法世界の変わった生物については気になったでござるな」

「ケルベラスでは苦労したわね……」

「……それなら大丈夫です。独立学術都市国家には魔法を扱わない学校も存在するわ。そこに在籍という形さえ取れば問題ありません」

「そうでござるか」

「セラス総長、長期間入る必要も無いですから体験入学という形で手続きをすることはできますか?」

「ええ、もちろんです」

「それではお願いします。このかさんは……夕映さんと同じ学校に入るかしら?」

「そうやな……うちも夕映と同じ学校がええな。夕映の記憶が戻るのも早うなるかもしれんし」

結果近衛木乃香は綾瀬夕映と同じアリアドネー魔法騎士団候補学校に入学する事になり、長瀬楓はほぼ形式だけで別の学校に体験入学という扱いになった。
そのままセラス総長とドネットとの間で手続きが迅速に行われ、まずは二名の指名手配がすぐにアリアドネーからは削除される事が決定した。
当然ある意味アリアドネーにいるということをバラす事になるが、実際に逮捕することはできないので、連合の領地で独自に捕獲でもされない限りは安全である。
交渉を終え、ドネット、長瀬楓、絡繰茶々丸はアリアドネーのホテルにこれからしばらく滞在する事になったが、ただ一人近衛木乃香はアリアドネー魔法騎士団候補学校女子寮に必要な物を持って早速入寮する事になり、獣族の変装キットを使用中のままであるが綾瀬夕映にそのままついていったのだった。

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―8月25日、17時頃、アリアドネー魔法騎士団候補学校、コレット・ファランドールの寮室―

ユエの旧世界での同級生がやってきたんだよー!

「こうして会うのは初めてやな。うちは近衛木乃香、あ、コノカ・コノエの方がええんかな?」

「コノカね!私はコレット・ファランドール。あの、ユエの記憶消しちゃってごめんなさい……」

「コレットそれは前にも謝ったですし、起きてしまったことは仕方ないですよ」

「コレットはん、夕映がこう言っとるし気にせんでええよ。そのうち記憶は戻るんやろうし。ほなよろしゅう」

私の中では尾を引きずってる事なんだよー。

「……うん、よろしくね、コノカ」

「うちもコレットって呼んでええかな?」

「もちろんだよ!」

「うん、ありがとな、コレット」

「それで……このかも魔法使えるんだよね?」

「まだまだ見習いやけどな。うちの専門は治癒魔法なんやよ。そんな酷くない怪我なら簡単に治せるえ」

治癒魔法!?

「えー!凄いよこのか!治癒魔法は専門教育だからここの学校だとあんまり扱ってないんだよ」

「そうなんか。ここに入るからにはうち戦闘魔法もきちんと頑張らんとあかんな。夕映達が受け取る授業も受けてみたいえ」

「明日から早速なんだよね?クラスは?」

「3-Cやよ」

私のクラスだけ転校生が多い!

「それなら私達と同じクラスだよー!」

「セラス総長が便宜を図ってくれたんや」

「流石グランドマスターだね」

「うちの指名手配も解いてくれるらしいえ。それで夕映はここの学校でどうなんかな?」

「うーんとね、実技は凄いし、他の科目は最初全然だったけどこの10日でかなり点数も上がってきてるんだよ」

「コレットも私と一緒に頑張っているです」

ユエにそんな簡単に抜かれるわけにはいかないからね。

「夕映前は学校の勉強嫌いやったんやけど少し変わったんやなぁ」

「やはり……そうでしたか。私も少し違和感があったですよ」

そういえばユエそんな事少し前言ってたなー。

「いいことやと思うえ。ネギ君もきっと良かったっていう筈や」

「そ……そそ……そうですか」

「ユエ、ネギ君の事になると動揺するなー。そうだ、ネギ君ってもうすぐアリアドネーに来るんだって?」

「そうやね。まだアリアドネー行きの飛空艇の中や。着くのは31日言うてたな」

「あともうすぐだね!」

「他にもあと何人か来るえ」

「楽しみだなー。私達こっちで旧世界の勉強はしても殆ど行ったこと無いから詳しい話を聞いてみたいんだよね。ユエの学校の事とかも」

「ほんならうちが説明するえ」

「やったー、ありがとう、コノカ」

「任せてな。夕映には少し通信で話したんやけど今度はもっと詳しく話すな」

「お、お願いするです」

「ほな、まずは……」

コノカから長い事話を聞かせて貰ったんだけど旧世界は科学が発達してて、飛行機っていうのは魔法世界の飛空艇よりもずっと速かったり、電車や新幹線、宇宙に飛んでいけるロケットっていうものまであるんだって。
食べ物の話も聞かせてもらってお寿司とか天ぷら、鍋なんてものがあるらしいんだけどいつか行ってみたいな。
ユエとコノカが旧世界の学校で入ってた図書館探険部は、図書館なのに罠が仕掛けてあったりして迷宮になっている凄く変わっている所の全貌を解明するための部活なんだって。
アリアドネーの図書館だとそういうのは無いし旧世界って面白そう。
ユエも話の途中で少し引っ掛かる事があったりして少しは記憶回復の手がかりにはなったみたいで良かった。
明日からコノカとも一緒に授業を受けられると思うと楽しみだよー。

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―8月30日、16時頃、アリアドネー魔法騎士団候補学校、女子寮―

アリアドネーに到着したすぐその翌日から、新たに近衛木乃香は転校生として魔法騎士団候補学校に迎えられ授業を受け始めたが、地球で学んでいた事と違う分野、教科が多く色々勉強することがあると実感し、その上で綾瀬夕映の適応能力の高さに驚いたのだった。
それでも、近衛木乃香はやはり実技の方はレベルがそれなりに高く、訓練中に怪我をしたクラスメイトがいれば治癒を使ったりもして入学早々人目を引いた。
近衛木乃香のフワフワした雰囲気に当たると仮にも精鋭を目指す魔法騎士団候補学校にはそぐわない緊張感の無い空気が広がったりするが、コレットや綾瀬夕映がいたことや、エミリィ・セブンシープとも既にネギの一件で通信をしていた事と、彼女自身近衛木乃香の写真を見ていた事から、入学したその日に交流をし、馴染むのにさほど時間はかからなかった。
数日が経った8月30日、ようやく高音・D・グッドマン、佐倉愛衣、桜咲刹那、古菲もアリアドネーに到着し、予め予定を伝えてあったドネット達と合流を果たした。
ここに来てようやく高音が運んできた手裏剣やクナイ類の忍具それと仮契約カードは長瀬楓本人の手元に戻った。
そして改めてドネットは桜咲刹那と古菲を伴いセラス総長と再度面会し、流れ作業となりつつあるが、長瀬楓と同じく体験入学という形で形式だけ整え二人のアリアドネー下における指名手配削除が続けて決定された。
まさに「学ぶ意志のあるものは例え犯罪者であっても逮捕する事は禁じる」という独立学術都市国家ならではの裏技であり、この方法はメセンブリーナでもヘラスでもできない事である。
しかし、今回こうも簡単に事が進んだのはアリアドネー魔法騎士団総長であるセラスとの直接の繋がりがあるからこそ可能であり、通常は正真正銘の犯罪者が逮捕されるのを逃れるために来た所で、本人に学ぶ意志がある事を認定するのに厳しい審査があり、そう簡単に庇護を受けることはできはしない。
そうでなければ今頃アリアドネーは犯罪者の巣窟になっているのだから。
まさに特例中の特例であり、この縁を作る原因となった綾瀬夕映がアリアドネーに飛ばされ、コレット・ファランドールと一悶着あったのはある意味幸運であったと言えよう。
この件に関してセラス総長の責任は非常に重く、もし彼女達がテロ行為に及ぶような事があればセラス総長もその総長という地位に揺らぎが出るリスクは必ず付き纏っており、セラス総長自身それを分かった上での協力である。
できた借りには底知れない物があるが、事実ネギ達が無実であるのは自明であり、セラス総長としては毅然とした対応を取るのが神聖なる騎士団として当然の行動だそうだ。
またセラス総長自身、前大戦の最終決戦でも若くしてアリアドネー騎士団部隊の最高指揮官として働いた功績は勿論の事、それに加えて終戦後20年間これまでの働きからもアリアドネー上層部での信用は厚く、今回のセラス総長の処置が決して間違ったものではないだろうと理解が得られているので実際に解任に追い込まれるようなことは早々無い。
アリアドネー上層部でもゲートポートの件は連合の自作自演であると決して公言はしないもののそう見る向きが多いのもその一助になっている。
実際どこのデータにも存在しない赤髪の少年が突如現れ各地のゲートポートで同時多発的にテロを行い、その共犯者としてこれまた身元不明の6人の少女が加担したと誰が心から確信するだろうか。
寧ろ、幻術を使っている可能性があるにしても、見た目年端もいかない数人の子供に厳重な警備が為されている筈のゲートポートがあっという間に全て潰された等という事実そのものが帝国とアリアドネーにしてみればお笑いぐさでしかないのだ。

……そして今女子寮に顔を出しにドネット達に伴われて主に、未だ変装付きだが桜咲刹那と古菲が近衛木乃香と綾瀬夕映に久しぶりに再開を果たした。

「うわぁぁん!!せっちゃん!せっちゃぁぁぁん!!」

「お、おおおおおお、こ、このちゃん!?」

顔を合わせたその一瞬の間を置いて近衛木乃香が桜咲刹那に飛びつくのは必然である。

「会えて良かったえー!!」

「お嬢様もご無事で本当に、本当に良かったです!」

うら若き魔法騎士団候補生が女子寮のロビーの床でゴロゴロしているのは場違いであるのだがドネット達は仕方ないという風で微笑ましくその様子を眺めていた。

「お嬢様、夕映さん、お届けものです」

「あ、うちの仮契約カードと杖やね!せっちゃん、高音さん、ありがとう!」

「礼には及びませんわ」

「こ……これは私の……仮契約カードなのですか?」

「はい……間違いありません。カードの絵柄が消失していますが消去法で夕映さんのものであるのは確実です」

「夕映さん、カードの絵柄が消失しているのは一時的な記憶喪失と関係がある筈よ。そのうち元に戻るでしょう」

「あ……あの、これの契約相手はやはり……」

「夕映、前言ったけどネギ君やよ。魔法世界に来てる時限定の予定やけどな」

「そ、そそそ、そうですか。ありがとうです」

「夕映は本当に記憶が無くなってるアルな」

「のどかやネギ君に会ったらきっと思い出すえ」

「そ……そうだと良いです」

「そんでせっちゃんとくーふぇはどうなったん?」

「私と古も楓と同じく体裁だけ学校に入学した事になっていますが、基本的にはこの女子寮の近くのドネットさん達と同じホテルに滞在する事になりました。葛葉先生も数日中に到着します」

「そうなんかー。明日はネギ君達も来るし、日曜やから皆でアリアドネー見て回りたいな」

「それはいいわね、このかさん」

「ありがとう、ドネットはん」

「それではお嬢様、夕映さん今日はこれで失礼致します。また明日お会いしましょう」

「うん……分かったえ」

「このか、夕映、また明日アルね!」

「このか殿、夕映殿またでござるよ」

「また明日です」

こうしてそれぞれ再会を果たし、仮契約カードも持ち主の元に戻り、残るカードは神楽坂明日菜、宮崎のどかと犬上小太郎のものとなった。
因みに未だ神楽坂明日菜、アーニャ、犬上小太郎の3人はテオドラ皇女の庇護の元、ヘラス帝国首都に滞在している。
これは是非テオドラ皇女がネギと会ってみたい、できればヘラス帝国の闘技場で拳闘大会に参加して欲しいという思惑があるのだが、3人の安全は確保されているし、それぐらいは寧ろ当然だろう。
勿論狙いはネギだけではなくそこから世界のどこかにいる筋肉ダルマを釣り上げるという目的もあるのかもしれないが。
この晩コレットの寮室では近衛木乃香のアデアットを披露という事があったりして盛り上がったのは余談である。

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―8月31日、12時頃、アリアドネー国際空港―

んんー、はぁー!
やっと着いたー。
高速艇を急いで使う必要もないから一般旅客用飛空艇でゴゥンゴゥン来たけど時間かかったスよ。
魔法世界を一周都市を伝って回るだけで5万ドラクマかかるっていうのは常識らしいんだけど既に私達合計すると余裕で超えてるね。
全部高畑先生が立て替えて払うらしいけど、そういや高畑先生ってまほら武道会で800万近い賞金貰ってた気がする上、元々金持ってそうだから問題ないか。
ぶっちゃけネギ君の最大加速の箒で飛べば旅費なんてかからないし、しかも速いけど流石にそんな数千kmも飛べんからね。
で……空港の正面玄関すぐの所にドネットさん達が皆来てるって事なんだけど……。
っておおっ、皆揃ってるな!

「あっちに大勢でお迎えだよ、ネギ君」

「はい!」

こっちに皆まだ気づいてないし、ちょっと驚かせられるか?
つか何人いんだ、知らない人もいるっぽいけどあれだ、多分ゆえ吉のクラスメイトか。
このかも入学したっていうのには驚いたけど、まー指名手配削除するならアリか。
相変わらずの獣族の変装に加えて認識阻害メガネもしてるみたいだけど。
思わず小走りで皆のとこに急いで走ったよ。

「皆さん、お久しぶりです!この前は心配をおかけしました!こうしてやっと会えて嬉しいです」

「やー皆久しぶりッス。高音さんクレジットカードとか色々助かりました」

「………………」

「あのー、皆さんどうしたんですか?」

あはー、ネギ君大人バージョンだもんなー。
ゆえ吉のクラスメイトっぽい人達は完全に石になってるんだけど大丈夫か?

「ネギ君……なん?」

「でかいネギ坊主アルか?」

「ネギ坊主……しばらく見ないうちに大きくなったでござるな」

身体操術とやらを使ってる楓に言われたくねー。
視線がネギ君に釘付けだけど私は空気デスカー?
視界に入らないのかなー。

「いや、皆、年齢詐称薬だからね!」

「あー……。そうや!!ネギ君、無事で良かったえ!美空ちゃんも久しぶり!」

「おおっ!ネギ坊主、美空良かったアル!」

「ネギ先生、春日さん、お久しぶりです」

「ネギ君無事でよかったわ。春日さんも救出本当にありがとう」

思い出したかのようにスイッチが入って畳み掛けられたんだけどなんだかなー。
とりあえずネギ君がもみくちゃになってる間に高音さんに報告だわ。
てか、かわいそうだからネギ君の顔の肉引っ張ったりすんのやめなよ……偽物か確認するんじゃないんだし。

「いやー、高音さんクレジットカード助かりました」

「お役に立ったようですわね。費用は高畑先生が払って下さることになりましたから問題ありません。それより春日さん、よくご無事で。春日さんがわざわざ単独で南極に向かうことは当初考えていませんでしたのに、危険な目にあわせてすいません」

堅っ!
堅いわ!
流石高音さん。
まー確かに当初の予定だと望みは薄くてもなんとかして捜索隊でも出してもらうよう要請するって案も選択肢にあったスからね。
……それがオスティアに着いた段階でネギ君が相当ヤバそうだった上に19日に着いた途端指名手配までかかったらやるっきゃなかったし。

「まー、終わったことだからいいスよ。南極突っ込むのに高い買い物したおかげでかなり楽でしたから」

サーモスタビライザーは神。
まー飛空艇一台でも荒れる可能性ある天候の南極に無理して飛ばせば一発だったかもしれないスけど。

「ええ……良かったです」

「春日先輩お疲れ様です。無事で良かったです」

「愛衣ちゃんもお疲れー。今日はどんな感じなの?」

「今日は皆でアリアドネーを回る事になってますよ」

「なーるほど、日曜だから丁度観光って事ね」

「はい!」

お、ネギ君の方も落ち着いたか。

「ネギ先生、杖と指輪です」

「わー刹那さん、ありがとうございます!」

「ネギ君、うちと夕映のクラスメイト紹介するえ!」

「こ、コレット・ファランドールです!初めまして!」

「え……エミリィ・セブンシープです。ネギ様、お目にかかれて光栄ですわ」

「ベアトリクス・モンローです。ネギ様初めまして」

様付けかーい!
まーミリアさんを思うに生粋の魔法世界人はどこもこんな感じか。

「初めまして、コレットさん、エミリィさん、ベアトリクスさん。ネギ・スプリングフィールドです。夕映さんをありがとうございます」

「…………はぁ、いえ、当然ですわ……」

おおーう、エミリィさん露骨に蕩けてんだけどそこまでいくと流石に重症なんじゃ?

「夕映さん、まだ記憶戻ってないかもしれませんが、色々調べ物を手伝ってくれてありがとうございました」

「は……はいです。でもあまりお役に立てませんでしたが……」

「そんな事ありません。助かりました」

「…………ど……どういたしましてです……」

あー、だめだこりゃ。
ネギ君の大人バージョン紳士スマイルで落ちる女性の数をカウンターで計算すると酷い事になりそうだわー。
多分アスナが見たら「な、何か生意気よ。ネギのくせに!元の姿に戻りなさいよっ!」とかマジ言いそう。
てか言うな、絶対。

まー数えてみたら15人いて、感動の再会もそこそこにアリアドネー巡りをぞーろぞろ揃ってしたんだわ。

「楓、その身体ってどういう仕組み?」

うわー、糸目のちびっこマジ笑えねー。
しかも見た目これで戦闘能力はアレだしな……。

「これでござるか。身体操術に忍術を併用した自前の変化でござるよ」

つーか今明らかにとうとう忍術って言いやがったな。

「あー、骨は?」

「骨は……聞きたいでござるか?美空殿」

そんな高い声とちっさい身体でキリっとした顔されてもなー。

「いや、やめとくよ……」

「フフ……これも秘伝なのでござるよ」

聞いた私が馬鹿だったスよ……。

アリアドネー観光ってどんなんだったかっていうと結局あちこちの歴史ある学術的建物見たりだとか、遊覧飛空艇に乗ってアリアドネーの中でもイチオシのスポット、主に北部の港町を巡ったりとかそんな感じ。
アリアドネー東の郊外にSilva-Monstruosaっていう魔獣の森とかあったけど誰が行くもんかーって……楓、入りたそうな顔するな。
総じてやっぱ学生風の人が多い多い。
それに学術都市国家って言う割りには闘技場も西部にちゃんとあったしちょっと意外。
聞いてみたら戦闘魔法を実戦で使ったり、闘技場付きのヒーラーとして働けば実地訓練にもなるからってのと、単に娯楽が必要だからってのが理由にあるらしい。
その辺で野良箒レースとかもやって賭けしてる風景は麻帆良に似てるっつーか、あ、麻帆良がこっちに似てるだけか。
だから日本の中でかなり浮いてるんスねー、よく分かった。
昼から夕方まであちこち見て回ってかなり楽しかった。
楽しいっていうより幸福感でそのまま昇天しそうなエミリィさんはマジ顔がいいんちょより危ないわ。
クラッと倒れそうになって、都合よくネギ君が「大丈夫ですか、エミリィさん」なんて支えたらもうね。
ネギ君は素だけど、エミリィさんの顔がアレすぎて糖分口から吐けそう。
あまーっ!!
つか、いいんちょよりヤバいっていうかこっちでマジもんの委員長だった。
なーんか話し方も似てるし委員長って言ったらコレ!って決まってんのかね……。
あと「ネギ様……よろしければサインを頂けないでしょうか?」なんてお願いされて、快くネギ君は「はい、構いません。あの、僕の方が年下ですからもっと軽く呼んで良いですよ」って言いながら3人分サイン書いてた。
ミリアさんの分で練習しまくっただけあって「春日さん、練習しておいて良かったです」って言ってきたから「何事も経験スねー」って返しといた。
ついでにちゃっかり愛衣ちゃんもサイン貰ってたのは抜け目無いと思う。
観光を終えて私達はホテルに、このかとゆえ吉とクラスメイト3人は女子寮に戻った。
この後ネギ君はドネットさんとセラス総長に会いに行くらしい。
今後どーする予定なのかさっぱり分からないけど私が南極程超頑張ったりすることは多分……無いだろー……と思いたい、うん。

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―8月31日、20時頃、アリアドネー魔法騎士団候補学校総長室―

今日はやっと皆に会えてすぐ、アリアドネーのあちこちを一緒に見物できて楽しめた。
父さんの杖とマスターの指輪の発動媒体も戻ってきたしやっぱり長い間使ってたからこっちの方が馴染むな。
今、アリアドネーでの皆の指名手配を解除してくれるよう動いてくれたセラス総長にドネットさんと一緒に会いに来て話をする所。

「初めまして、ネギ・スプリングフィールドです。夕映さん達をありがとうございます」

「アリアドネー魔法騎士団総長のセラスよ。初めましてネギ・スプリングフィールド君。その姿だとお父様にそっくりね」

「あはは、やっぱりそうですか」

「ええ、よく似ているわ。それで、ネギ君の指名手配の件ですが……」

「セラス総長、やはり……」

「はい。ドネットさん、ネギ君の指名手配はここでは削除しない方が良いでしょう。ネギ君は恐らくメガロメセンブリアから一番狙われている人物よ。ここで指名手配を解除している事をアピールするのは危険ね。他の子達の懸賞金がそこまで高くないのは、誰か捕まえた上でネギ君をおびき寄せる為の罠かもしれないわ」

「そうですか……」

確かに僕だけ賞金額が他の皆より桁違いだった。
その可能性は十分にある。

「でもネギ君のその年齢詐称薬ならまず気づかれることは無いから大丈夫だと思うわ」

「……そうですね、ドネットさん。ここまで来るのに気づかれなかったのでそれは大丈夫だと思います。……それに、一度僕はヘラス帝国に行く必要があるので指名手配解除の件は結構です」

「申し訳ないわね。あなたが犯人ではないのは間違いないのに」

「容疑をかけられてしまっては仕方ありません、それより他の皆を保護をお願いします」

「それは任せて頂戴。アリアドネーの庇護下では逮捕させたりはさせないから。それと例の論文の件なのだけれど、アリアドネー内でまだ調査中よ。確実にありそうなのはメガロメセンブリアのそれも上層部の可能性が高いけれど」

火中に飛び込まなければ手に入れられないか……。
実際には殆ど確認だけで良い。
ただ魔法世界の崩壊の原因が魔力の流出であると、しっかりした研究、それが理論的にどう裏付けがされた上で書かれているのかが知りたい。

「ご協力ありがとうございます。そうですね……メガロメセンブリアにあるならタカミチ……高畑先生にも頼んでみます」

「それは高畑・T・タカミチかしら?」

「はい。今メガロメセンブリアでゲートポートの事件を調査してます」

「それは心強いわね。魔法世界と旧世界の魔力の質が違うという話をユエから聞いたのだけど説明してもらえるかしら?」

「僕もその時はなんとなく感じただけだったんですけど、やっぱり色が違うと思うんです」

「色?」

「はい……旧世界の魔力が緑色だとするのなら魔法世界の魔力は桃色なんです。もちろん、感覚的なものなので僕に魔力が常に視覚的に色がついているように感じられている訳ではありません」

南極での一件で出力が上がったから一応見せられそうな方法はあるんだけど……。

「変わっているわね、そんな事を感じられるなんて」

「僕も最近気づいた事なんです。一応判断が付くかは分かりませんが実演してみましょうか?」

「そんな事が可能なの?それなら是非お願いするわ」

「はい。少し離れますね。……行きますっ!」

―魔法領域展開 出力最大!!―

こ……これなら、殆ど白く光ってるだけだけど本当に僅かに淡くうっすら桃色、赤色という感じ……かな。
マスターが初めて実演してくれた時も本当に少しだけ緑色に感じられたしやっぱり違う。

「これを少し抑えると」

―魔法領域 出力抑制!!―

もういつも通りの完璧な白色の輝き。

「……少しだけ色に違いがあったと僕は思うんですけどどうですか?」

「…………その前に色々興味が湧いたわ」

「ええ……私もよ……ネギ君、その障壁は一体……?」

そういえばまほら武道会で使った時にも結構驚かれたんだったな。
ドネットさんは修学旅行の時にメルディアナにいたけど……実際には見てなかったか。

「ドネットさん、これは僕の師匠から教わった魔法障壁の一種なんです。障壁というより魔力の層そのものなんですけどね。魔法発動媒体は不要で、特に魔法詠唱をする必要も無く、訓練して念じるだけで発動できます」

「流石はあの魔法使いね……」

ドネットさんが誰か言わないでくれて助かるな……。

―魔法領域解除―

「魔法発動媒体無しでできるというのは凄いわね……。私としては興味が尽きないのだけれど話を戻しましょう。確かに私には先程の障壁の色が前と後で僅かに桃色がかっているものから完全な白色に見えました」

「私もそうね」

「是非旧世界で試した場合との違いを比較したいわね」

「それは機会があれば是非」

「質が違うという意味はなんとなくわかりました。ありがとう」

「いえ、少しでも理解して頂けて良かったです」

「今日の所は一応例の論文のアリアドネーの総合図書館にある物の写しを渡しておきます」

「ありがとうございます。セラス総長」

「どういたしまして」

「セラス総長、今日の所はこれで失礼致します」

「それでは失礼します、セラス総長」

「はい、何かあればまたご連絡下さい、ドネットさん。論文の件で進展があったらこちらからも連絡するわネギ君」

「分かりました、ありがとうございます」

これで次はヘラス帝国か……。
修学旅行の一件で現われたフェイト・アーウェルンクスが今回のゲートポートの事件に関わっているのだとしたら、アスナさんを連れ去ろうとした事、多分魔法無効化能力が原因だろうけど、これが無関係で無いとは言い難い。
それに一度アスナさんに無事な姿を見せないと。

「ドネットさん、できるだけ早く僕はヘラス帝国に向かいたんですが良いでしょうか?」

「そうね、いいわよ。旅費に関しては心配しなくていいわ」

「はい、ありがとうございます」

「ただ、アリアドネーでのその姿のネギ君の正式な滞在許可証とヘラス帝国行きのための渡航許可証の発行に時間がかかるから少し待ってもらえるかしら?」

「それはもちろんです」

「それにしてもネギ君の魔法はセラス総長の言うとおり色々興味深いわ」

「そうですか?」

「無詠唱や浮遊術はともかく魔法発動媒体無しでできるというのは画期的ね」

「それが実は分類で言うならアレは浮遊術の一種なんです」

「あら、そうなの?」

「はい」

「本当に興味深いわ。きっとどこの魔術開発部でも情報が知りたいと思うわよ」

「あはは、そんなにですか」

マスターも僕ができるようになるかはわからないって言ってたぐらいだし……実際あの通信法で感覚が掴めないと無理な気がするからどうかなぁ……。
新しい魔法っていうと理論を作ってそれを実際に術式にすれば良いんだけど……これはマスターが言うようにもっと基本的、根源的なものだ。
とにかく、まずはホテルに帰ったら論文の写しに目を通すところから始めよう。



[21907] 48話 授業参観(魔法世界編8)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/11 00:54
―9月1日、8時30分頃、アリアドネー魔法騎士団候補学校―

昨日の夜ネギ君がアリアドネーの総長さんと話をしてきた結果を皆で聞かせて貰った。
指名手配解除ができないのはまぁ仕方ないかって感じだな。
ネギ君が調べたいっていう論文は高畑先生にも連絡してメガロメセンブリアでも調べてもらえるようすぐ頼んでたし、貰ってきたコピーも昨日の夜早速全部読んでた。
そんでヘラス帝国の首都に行くって言うから今日ドネットさんと茶々丸がアリアドネーの入国管理局で色々事務手続きをして皆の書類作成と、アリアドネーでの長期滞在許可証の発行で大体丸1日潰れるって事になって今どうなってるかっつーと……。
アリアドネー魔法騎士団候補学校の授業の見学会スよ。
参加メンバーは高音さん、愛衣ちゃん、ココネと私と……てか残り全員。
いやー、一応最初から指名手配関係なかった純粋魔法生徒の私達がいるのは交流だとかそういうのでなんとなくわかるんだけどさ。
変装に認識阻害メガネもかけてるからいいっちゃいいだろうけどもうねー。
ネギ君って昨日の件はともかく女子校に入っていいのか?
あれか、麻帆良でも女子中等部だったしアリか、アリ……か。
まあこれ決定したのは突然今日の朝セラス総長から宿に連絡が来て「よかったら魔法騎士団候補学校の授業を見に来ないかしら?」と言う誘いを受けたからなんだけどね。
昨日のアリアドネー巡りでもゆえ吉とこのかのクラスメイト3人とも知り合いになったし、魔法世界のガチな学校がどんなもんなのかは気になるっちゃ気になるのは確か。
それより今の状況スよ。
3-Cの教室の一番後ろにズラっと私達8人がパイプ椅子を用意してもらって並んでんのさ。
エミリィいいんちょとベアトリクスさんが割と前の方の席でゆえ吉とコレットさんが真ん中一番後ろから2番目の列の3人掛けの3人机の席のうちの2つ、でもってこのかが更にその後ろに一人でいる感じ。
4人机あってもいいかもしれないけど、皆スゲー何冊も本机に積んでるから狭いしって事なんだろうけど、羽ペンの動く速度が速すぎるしやべースよ。
どこの受験予備校だっつーの。
いや、シャーペンじゃ無いの?とか思うけど魔法世界の学生が使うペンはこれが普通らしいし、インク瓶必要なくずっと書けるみたいなんだから良いんだろうけど。
これ3-Aが見たら引くわードン引くわー。
ネギ君何か授業風景に超驚いてショック受けてるし。
……まーなんつーかゆえ吉とこのかの授業参観っぽいわー!!
で、アレじゃん、私達端末持ってるからベラベラ授業中でも喋れる訳よ。
このかとゆえ吉には繋いでないけどね!!

《あの……僕の授業ってもしかしてダメでしたか?教室の雰囲気も含めて……》

言うと思ったよー!!

《ネギ坊主、こんなむつかしい話で緊張した中授業されても私わからないアルよ》

いや、くーちゃん今結構面白いだろ。
何か丁度地球の話しててちょっと笑えるし。
つかアレだよ、緊張した雰囲気の方が集中力増して覚えられる筈スよ。

《ネギ坊主、ネギ坊主はネギ坊主でいいでござるよ》

因みに今日の楓は謎の幼児形態じゃなくて普通の変装と認識阻害メガネ付きだから身長に声の高さは元通り。

《ネギ先生、自信を持ってください》

《ネギ君、校風って奴だからさ。気にしなくていいと思うよ》

《私も麻帆良の中等部は中等部で良いところがあると思います》

《皆さん……》

ここまでフォローが入ったんだけど……。

《皆さん何をおっしゃっているんですか。やはり学校とはこう規律あるべきです》

高音さんの反撃来たわー。

《た、高音さん……。僕……麻帆良に戻ったらもう少ししっかりとした授業します!》

《お分かり頂けたようで嬉しいですわ》

《ネギ坊主、今まで通りでいーアルよー!》

あーだめだこりゃ。
でも3-Aをこんな空気にするなら命の危険でも迫らせない限り無理だな、うん。
……流石のエリート養成学校でもクラスの人達が結構こっちチラチラ見てくるねー、しかもネギ君の方に集中して。
まー何の説明もなく、「見学の方です、いつも通りの授業態度を心がけるように」とかで一蹴されてもナギに似てるかどうかは認識阻害がかかってるからはっきり分からんだろうけど、それを別にしても男子がいるんだから無理な話だな。

「つい一世紀前まで民衆の間では伝説かお伽話と思われていたこの『旧世界』ですが、ある面では我々より遥かに進んだ社会形態を持ちながらも、他面ではより深刻な病理を抱えた世界ともいえ数千年にわたって全く異なった道を歩んできました。この二つの世界はまるで鏡のようにお互いを……」

おとぎばなしー?
私は地球生まれ地球育ちだからなー、寧ろ魔法世界の事を親から聞かされた時の方が私にしてみりゃどこのファンタジーって感じだったスよ。

《高音さんと愛衣ちゃんは魔法世界生まれなんスよね?》

《そうですわ》

《はい、私は物心ついた頃にはアメリカのジョンソン魔法学校にいたんですけど》

5、6歳ってとこか。

《地球の事ってやっぱり小さい頃はお伽話とか思ったんスか?》

《ゲートポートの事は教えられていましたからね。このアリアドネーのような説明をされたことはありませんでしたが、初めて麻帆良に来た時には魔法無しで科学が発達していたのには驚きましたわ》

いやー、麻帆良は科学のレベルもどっかおかしいから。
特に最近は超りんとハカセのせいでヤベーよ。

《育った環境って大きいんスねー》

《僕も日本に来た時には驚きました。……今まで聞いてなかったですけど高音さんはどうして麻帆良で魔法生徒を?》

《ネギ先生と同じく修行の一貫ですわ。私は実家から魔法世界だけでなく旧世界でも見聞を広げて来いと言われたのが発端です。私の年齢から丁度受け入れ先に麻帆良学園を紹介されたのですわ》

堅すぎたり偉大なる魔法使い系の発言は根本が魔法世界の感覚だからかー。
でもまーグッドマン家が子供の教育に熱心なのは分かった気がする。

《そうだったんですか》

アリアドネーだから何なのか知らんスけど数千年って言ってるのは何か変じゃね?

《高音さん、より深刻な病理っていうのは地球の現状の事だと思うんスけど、中国とかはアレにしても数千年って言うほど地球の歴史って長くないんじゃ?科学が一気に発達したのはここ数百年が殆どッスし》

5千とか6千とかだったらそれらしいとは思うよ。

《2000年もあれば一応数千年だとは思いますが……》

《それは……タカミチが言っていた時間の流れが違うっていうのが関係しているのかもしれませんね》

《あーなるほど。って事はもしかしたら魔法世界って地球に比べて凄く長い時間が経過してるかもしれないって訳か。例えば4倍ぐらい?》

《……春日さん、その疑問は良いですね》

《え?何?》

《この世界の謎について仮定とは言え新たな情報ですから》

《あー、なんだか分かるようで分からないけどネギ君の役に立ったなら良かったスよ》

もー先生っていうより世界の謎を解き明かす!とか学者っぽいな。
プロフェッサー的な。
でー、何のかんの話が流れていって……。

「……以上のように北の古き民と南の新しき民は古くから様々な確執をもっていた訳ではありますが、20年前の『大分裂戦争』時点においても全面戦争に至るほどの理由はどこにもなかったのであります」

戦争の話になったー。

「この戦争には世界を欺き両者を裏から操って至福を肥やそうとした悪党達の姿があったのです。この彼等こそかの悪名高き秘密結社完全なる世界です」

《完全なる世界……》

《有名ですわね》

「この組織と王都オスティアの犠牲を持って大戦は終りを告げます。そして大戦末期全ての真相を暴き世界を滅亡の危機から救った英雄とまで言われるのが皆さんもよくご存知のナギ・スプリングフィールドと紅き翼なのです」

「「ブハッ!!」」

不意打ちすぎる!
もろ紅き翼の映像出てんじゃん!
超似た人すぐここにいるから我慢できん!!
認識阻害半端ねー!

《春日さん、古菲さん、何を吹き出しているのですか!》

《す、すんませーん!》

《ごめんアル!》

「見学の方どうされましたか?」

「いえ、授業を中断させてしまってすいません。何でもありません。どうぞ授業を続けて下さい……」

《映像のナギにそっくりな姿してるネギ君が近くにいるからつい条件反射で……》

《私もアル……》

《私も春日先輩に釣られて吹き出しそうになりましたよ……》

愛衣ちゃんもか!

《愛衣……》

《あはは、認識阻害メガネしてて良かったです。こうして父さんが魔法世界の授業の映像にまで出てると本当に英雄だったんだなってわかりますね》

《歴史の教科書に載っているぐらいですから》

《僕はそれどころか指名手配犯ですけど……》

重っ!

《ネギ先生のせいではありませんわ》

《ネギ坊主、そうでござるよ》

《ネギ先生、元気だして下さい》

《ネギ君の責任じゃないからさ》

《はぁ……ありがとうございます……》

「……さて大戦末期の巨大な魔法災害によって廃都とも呼ばれるようになったオスティアですが、環境は復活してきています」

《この魔法災害って広域魔力消失現象の事なんですよね?》

《そうですわ、ネギ先生。この後崩落したオスティアを中心とする直径50km圏内はメガロメセンブリアの試算で以後20年間にわたり魔法も使えない地域となったそうです。今説明があったとおり環境は復活しており丁度今年で20年が経ちますから魔法も徐々に使えるようになってきているでしょう》

《丁度20年魔法が使えなかった……ですか……。そうするともう壊されているかもしれませんが例の廃棄されたゲートが稼働する可能性もありそうですが……一度行ってみたいですね》

《しかし侵入許可を取るのはなかなか難しいでしょう……》

《そう……ですよね。麻帆良に戻れるとしたらそこしか無いように思うんですが……》

《確かにそうなりますわね……》

まーたネギ君悩み始めたな。

「来月には戦後20年を期に大祭典が開かれる予定です。このお祭りではこのナギの名を冠した拳闘大会が行われる予定です」

《来月となると高畑先生の言うとおりならば丁度麻帆良は8月の末ぐらいですね》

《夏休みが終わるでござるなぁ……》

全くだなー、まー気にすんな。

《オスティア記念式典にナギ・スプリングフィールド杯、廃都オスティア、色々イベントが詰まってるスね》

《帰れないにしても皆でオスティアのお祭り行ってみたいです、お姉様》

《そうですわね、愛衣》

《ま、どーせなら悩んでるより楽しんだほうが得スね》

《麻帆良祭みたいなら面白そうアル》

《…………僕もコタローとは拳闘大会には出てみたいですから行きたいです》

ちょい考えごとしてたと思ったらネギ君復活したか。

《ネギ坊主とコタローのコンビは厄介でござるからな。良い試合になると思うでござるよ》

《ありがとうございます、楓さん》

《コタロのあの咸卦法はズルいアルよ》

小太郎君も咸卦法使えるっていうのは北極脱出の時に聞いたんだけど……。

《くーちゃん、あの咸卦法って?》

《春日さん、それは僕が説明しますね。コタローのアーティファクトは僕が契約執行するとコタローが自動的に咸卦法の状態になる上、契約執行の魔力供給次第で出力が変わるんです。しかも効率は常に無駄がない状態です》

なんだそれー!?
契約執行が咸卦法!?

《随分変わったアーティファクトッスね……》

《コンビネーションも良くなりますからね。私も相手をした時は大変でした》

《大体はコタローが僕に合わせてくれるんですけどね》

ネギ君との仮契約で授与されるアーティファクトがおかしい事はよく分かった。
愛衣ちゃんのアーティファクトは魔法世界の騎士団で正式採用されている物と同型のモノだっつー話だし、主の資質次第ってマジだな……。
まーアーティファクトが出るだけでも全然マシな訳だけど。
短距離走は自分の足で走るのが当たり前だけど、それに見合ったのが出てるし私も恵まれてる方スね。

1時間目の歴史の授業が終わったーと思ったら次はラテン語と古代ギリシャ語の解釈……3時間目は魔法の術式構成の授業……数学とか普通に混じってるからマジ眠い。
ルートにルートそれに更にルートとか付けんな!!
くーちゃんと楓は速攻ダウンしたし。
桜咲さんは……このかガン見してるな。
どんだけー。
ネギ君はふんふん聞いてるんスけど流石天才。
ま、高音さんと愛衣ちゃんも余裕っぽいし、ゆえ吉とこのか含めたクラスの人達も全員真剣そのもの。
4時間目は魔法薬の調合の授業で……わざわざ私達の分の調合材料も手配してくれたっ!
妙に待遇いいな。

「皆さん、ちょっとやってみますね」

とネギ君が代表でやってくれることになった。
クラスの人達は2人一組なんだけど流石に私達に4組分用意する必要は無いスからね。
ネギ君が手早く、指定の材料を正しく調合して呪文詠唱。

―いざ、生ぜん、癒しの薬よ!―

「はい、できました」

「流石ネギ先生ですわね」

手際良過ぎでクラスの誰よりも早く完成したもんだから授業の先生が近づいて来たわ。

「見学の方、非常に慣れていらっしゃるようですね。良ければ生徒の為にもう一度教壇で実演してもらえませんか?」

こーいう時先生がやれば?って思うのはナシなのか?

「あ……はい、僕で良ければ勿論です」

「ではこちらにどうぞ」

ササーッとクラスの視線がネギ君に集中した。
認識阻害は大丈夫か?

「ネギ君目立つなー」

「流れるような手際でしたから、実演は確かに良いと思いますわ」

高音さんと愛衣ちゃん感心して見てたもんな。

「ネギ坊主は修行の休憩中によく練習していたでござるからなぁ」

「楓……休憩中に練習してたらそれ休憩って言わないんじゃ?」

「激しい運動はしてないアルよ」

「そ、そーかそうかー」

ネギ君達の常識のラインが高すぎてついていけねー。
エヴァンジェリンさん相当スパルタだろ……。

「皆さん、見学の方が良い手本を見せて下さいます。一旦作業を中断して……大丈夫ですね。ではお願いします」

全員既に作業中断してるスね。

「はい。それでは魔法鎮痛薬の調合を行わせて頂きます。まずはウスバサイシンの根と弟切草の葉をすり潰し……」

解説付きで3分調合的な何か始まったー!

「皆さん、しっかり参考になるところを見ておくように」

「「「「「はいっ!!」」」」」

良い返事スねー。
もう一度見るけどすり潰す際の道具の使い方めっちゃ上手くてしかも早っ!
途中からスピードアップして右手ですり潰しながら左手は計量、試験管に入れて分離とか……スゲー。

「……最後に魔法詠唱で完了です」

―いざ、生ぜん、癒しの薬よ!―

音も一切発生せずにドーナツ型の煙だけがゆっくり一つ上がって終わり。
ホントに一切無駄が無いな。
普通はここまで来ても爆発したりするんだけどねー。

「はい、以上で終わりです」

「素晴らしい手際です。皆さん見学者の方に拍手を」

緊張が解けたかのように3-Cの人達が一斉に拍手しだした。
あちこち「すごいわー」とか「ステキ……」だとか「流石ネギ様……」「お嬢様それは」って聞こえるんだけどエミリィ委員長かいっ!
ネギ君は「あはは……どうも」って言いながら戻ってきたけど実体は私達よりも背の低い子供なんスよねー。

「いつも通りやったつもりなんですが……どうもやりすぎだったみたいです……」

今更遅いよー。
高音さんが「やりすぎという事はありませんわ」ってフォローしたけどアレはやりすぎも何も凄すぎるだけスよ。
この4時間目も無事終わったら昼休みになるのは当然で、予想はしてたけど大量にクラスの人達がネギ君に押しかけていった。

「あの、先ほどは素晴らしかったです。お名前はなんとおっしゃるのですか?」

「是非教えてくださいませ!」

「見学というのは講師になられるのですか?」

人気出たー!

「えっと……名前はネギと言います。見学は本当にただの見学です」

スプリングフィールドを名乗らなければいいっちゃ良いのか。

「ネギ様ですって!」

「わーネギ様ですかー!それでは家名はなんとおっしゃるのですか?」

「それは……えっと……」

「皆さん!ネギ様が困ってらっしゃいますわ!少し離れなさい、はしたないですわよ!」

「委員長だってネギ様に興味あるでしょ!」

「そ、それは……そうですけれど」

認めたーっ!
……もーネギ君は助からんな。
昼休みなのを良い事にネギ君はグイグイ食堂に連れてかれてった。
メガネ外れないように気をつけるんスよー。
ゆえ吉とコレットさんも行っちゃったし。
結局3-Aとあんま変わらなかったな。

「せっちゃん達も一緒に食堂行こ?」

「はい、お嬢様」

人の居なくなった教室は静かだ……。
見学っていつまですんのかと思ったら一日中何スね。

「このか、次は何の授業?」

「魔法の実技訓練、その次が体術の訓練で終わりや。違う時は箒で100km飛行訓練なんかもするんやけどね」

こっちも結構スパルタだなー。

「魔法の実技訓練っていうとやっぱり魔法の射手とか?」

「そうや、的に向かってやけどね」

「なーるほど」

「お嬢様、頑張ってください」

「うん、せっちゃんに良いとこ見せるえ!」

皆で3学年が使う超広い食堂で食事したけど、ネギ君がいるところだけガンガン人口密集地帯になっていったよ。
途中からポロポロ「凄いイケメンがいるんだってー!」とかそんなのが聞こえてきたけど完全に野次馬スね。
5時間目の時間が近くなってそれぞれ用意に移ってやっと解放されてからネギ君は「何か色々勧められて食べ過ぎました……」って言ってた。
どうも「これ美味しいですわよ!お食べになってください!」「それよりこちらの方が!」とかそんな感じだったらしい。
異常にモテるっていうのも考えもんだな……。
そんでいよいよ5時間目、闘技場なんかにもある魔法障壁が張ってある施設での実技訓練スね。
ギリシャ語と古代ギリシャ語の解釈の授業の時にも杖持って詠唱したりするんだけどこっちの方が実践的だな。

「皆さん凄いですね」

「魔法の射手だけではなくその上の魔法も使っていますわね」

各種武装解除も使ってたりするなー。

「あ、あれ、私も使える紅き焔です!」

愛衣ちゃん紅き焔使えるんスねー。
まほら武道会の時は詠唱禁止だから使えなかったけど。
ここ数日の飛空艇で移動中暇だったから色々調べてたんだけど、連合艦の一般的な艦載砲にはその紅き焔が搭載されてるらしい。
それより凄いのは精霊砲、要するに魔力ビームとかになるとか。
ゆえ吉とこのかが普通に白き雷使ってるのが結構馴染んでて違和感無いのがアレだな。
30分ぐらいやって一旦休憩になったんだけどその際にまーたネギ君に白羽の矢が立った。
どうも実技の先生が魔法薬の先生から話を聞いてたらしい。
だから先生がやれば?って思ったんだけど「同年代の方がやった方が励みになります」との事。
ネギ君も断るのも悪いしってことで「わかりました、具体的に何が良いでしょうか?」って実技の先生とごちゃごちゃ話し始めて、割とすぐまとまった……みたい。

「それでは休憩中の間ネギさんが皆さんに魔法の実演をして下さいます。よく見ておくように」

今回は一度もまだ魔法使ってる所見せてないんだけどよく見ておくようにってどうよ?

「それでは、いくつか魔法を実演させて頂きます」

「「「「「キャー!!」」」」

いきなり盛り上がる盛り上がる。
障壁から20mぐらい離れた所に書いてある白いラインの側に立ってネギ君の実演開始。
魔法発動媒体は指輪……か。
私もこんだけ近くで、しかも生で見るのは初めてだな。

        ―雷の47矢!!―光の47矢!!―風の47矢!!―

っておーい!!
一瞬で光球がババーっと出たと思ったら3連続無詠唱かい!
まほら武道会の時よりも成長してるってマジかー。
皆それを見て固まった瞬間ネギ君はそのまま次の魔法に……。

             ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
          ―来れ 虚空の雷 薙ぎ払え 雷の斧!!―
                 ―白き雷!!―
             ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―影の地 統ぶる者スカサハの 我が手に授けん 三十の棘もつ 霊しき槍を―
               ―雷の投擲!!―
             ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
      ―来れ雷精 風の精!! 雷を纏いて 吹きすさべ 南洋の嵐―
               ―雷の暴風!!―

え?
何今の?
詠唱速すぎて何使ったか良く解らんわ!
小さい声だったのもあるけど始動キーすら一切聞き取れなかったんスけど……。
とりあえず、最初に斧で最後が雷の暴風で凄い音がしたのだけは理解できた。

「えーっと魔法使うの久しぶりだったんですけど……これでどうでしょうか?」

どうでしょうか?って……ねぇ……。

「み……皆さん、ネギさんに拍手を」

このかが一番最初にマイペースに拍手し始めてそこからエミリィさんも起動して拍手が広がり始めたんだけどかなーりまばらな拍手で、ゆえ吉に至っては唖然としたまま完全に石になってるし。
ネギ君はそのままこっち戻ってきて「少し詠唱の方は鈍っちゃいました」とあれで鈍ってたの!?って思ったら

「ネギ坊主、いつも通りでござるよ」

「うむ、ウォーミングアップには丁度良かったアルね」

「ネギ先生、大丈夫ですよ」

って武道三天王はだーめだー……。
ゆえ吉も多分記憶が無くなってなければ普通の反応したんだろうな。

「あーネギ君、さっきの連続魔法解説してもらって良い?」

「はい、春日さん、もちろんです。最初が各3種魔法の射手47矢から雷の斧、無詠唱白き雷、雷の投擲、雷の暴風までです」

47って……。
あの僅かな時間で141矢も撃ったのか。

「はーそりゃ凄いわ。詠唱も速いし」

「ええ、本当に速いですわね……」

「あの、ネギ先生っていつもどんな修行してたんですか?」

愛衣ちゃん……それ聞くと色々ぶっとんだ事いわれると思うスよ……。

「どんな修行っていうと色々やりましたけど、今ので言えば毎日の訓練の終りには魔力が残らないように使い切る事はやってましたね。さっきのものがそれの雷系で固めたものの一つです」

そ、壮絶だ……。
毎日使い切ってたから契約執行もあんな長時間耐えてられてたのかもな。

「す、凄いですね。私も頑張らないと!」

愛衣ちゃん、頑張れ!
内輪でもこんな感じでネギ君の魔法実演の反応が終わった丁度ぐらいに

「「「「ネギ様!私達に魔法の指導をして頂けませんか!!?」」」」

って10人ぐらいようやく正気取り戻してネギ君に殺到して来たわ。

「え?あ、はい。僕で良かったら」

「「「「キャーッ!!」」」」

「では是非こちらへっ!」

「そ、そんなに引っ張らなくても大丈夫ですよ」

昼休みと同じ状況になった。
ネギ君が魔法の射手について詳しい解説した上で実演。
生徒さん達がそれを見てとりあえずやってみて、一人ずつ改善点を述べるもんだから本当に指導し始めて実技の先生がマジ空気。
解説中は超静かに生徒さん達が皆聞いてるから魔法の射手の話は私にもよく聞こえたんだけど、多弾頭と収束の違いやら、魔力効率の上げ方、1矢自体のバリエーション、例えば、1矢自体の魔力量を増やして極太レーザーみたいにするだとか、螺旋回転を加えたり、先端部分を流線型にして威力を上げるなんていう変化法とかそんなの知らんかったわ。
確かにまほら武道会でやたらギュインギュイン言う感じの魔法の射手乱射してたのは覚えてるんだけどあれってそういう変化加えてたのか……。
収束からそのまま撃つのとか、それを拳に乗せるネギ君の奴とかも説明してたけど、まー生徒さん達もそんなすぐ出来る訳ないから結局光球状態での滞空法から始まって、それを変化させるコツを延々とアドバイスし続けてたら30分なんてあっと言う間に終わった。
何だかんだ実技の先生もネギ君に詳しく色々聞いてたから相当興味あったみたい。
ネギ君に何聞かれたのか後で聞いたら魔法の射手の体系立った練習法についてだったらしい。
愛衣ちゃん曰く普通魔法の射手は、的に当てるコントロール、本数を増やす事、魔力の運用効率を上げる事、そんで無詠唱ができるようにひたすらやるものなんだとさ。
まー普通はそれで精一杯だわな。
常識として、魔法の射手1矢なんて障壁張られてれば簡単に弾かれるから突破するために何発も撃つんだし。
それもエヴァンジェリンさんに教わったの?って聞いたらそれは学園長らしい。
なんでも学園長の魔法の射手は貫通力が異常で風盾なんて1矢で余裕に突き抜けるわ、一瞬の防御力の高さならかなりのものを誇る風花風障壁も2、3発で貫通してくるらしい。
じじい強えーな。
寧ろネギ君と学園長がそんなやりとりした事あったのが驚きだわ。
5時間目が終わってそのまま6時間目が体術の訓練だから体操着に着替えなきゃいけないからって事で流石に休み時間に、ネギ君は一瞬解放された。
でも、拳に乗せる魔法の射手見せた時点で体術出来る事バレてたから今度は生徒さん達から体術の先生に「ネギさんに実演して頂きたいです!!」って皆言うもんだから先生も「ネギさん、生徒達はこう言っていますがお願いできますか?」とまたしても寧ろ歓迎な反応だったよ。
ネギ君は「ええ、構いませんが……組み手の相手はくーふぇさんお願いします!」って妥当な所が来て「ネギ坊主、良いアルよ!」とアリアドネー式体術というより、中国拳法の実演になったわ。
くーちゃんもまほら武道会で結構やらかしてたけどあの時よりも更にキレが増してて二人とも目にも留まらぬ速さって感じだった。
当然生徒さん達からは黄色い歓声が上がってもうこれで何度目って感じ。
で、終わりかと思えば「中国拳法だけでなく他の体術もお見せたした方がいいですよね。楓さんお願いできますか?」と楓にパスが来て「ネギ坊主、久しぶりでござるな。良いでござるよ」と組み手が始まった……んだけどねー。
ネギ君っていつの間に分身できるようになったし?

「ネギ坊主、修行の時間が取れていなかった割には分身の密度が上がっているようでござるな」

「南極の一件で少し魔力の効率が上がったみたいなんです。でもまだまだです。楓さんもやっぱり大樹林で成長したようですね」

「そうでござるか。なるほど、お互い生き抜く上で自然に強くなったようでござるな」

「はいっ!」

会話してるのはいいんだけど、二人とも分身3体ずつで計6人がそれぞれ組んでたと思えば、臨機応変に2体1だとかに変わったりもするし体術から逸れてどちらかっていうと東洋の神秘披露会だから。
分身した時点で先生含め生徒さん達は目が点になったし、体術って言ってんのに虚空瞬動余裕で使うのは場違いスよ。
生徒さん達は揃って「A級以上の達人!?」ってリアクションしたし。
まあ虚空瞬動抜きにしても達人スよ。
どっちが勝つとかじゃないからそこそこで組み手は終わったら今度はくーちゃんと楓にも人気が出た。
因みに桜咲さんはちゃっかり手とり足取りこのかの相手してた。
ネギ君が3人、楓が16人でクラス半分の相手ができるっていうのはカオス。
てか5時間目に最初からネギ君分身してたら楽だったんじゃ?
生徒さん達の実力はっていうとコレットさんとベアトリクスさんが結構強くて、特にベアトリクスさんの方は明らかに何か武術やってる感があったな。
そんな中エミリィ委員長はネギ君に相手してもらったら「あぁ……私もう……」って蕩けて倒れたもんだからそのままネギ君がベアトリクスさんの案内で保健室に運ぶなんて事になって更に症状が悪化、蕩けるどころか、今にも溶けそうだったわ。
幸せだろうから心配する必要はないけど……。
6時間目はこんな感じでこれまたあっと言う間に終わってようやくネギ君に分身の事を聞いた。

「ネギ君分身って忍術も覚えたの?」

「あー、いえ、あれは術式を組んだ上で純粋な魔力で分身体を形成したものなんです。実際にはそんなに使い勝手が良くなくて、分身は時間が経てばどんどん魔力を消耗していく上、分身に割いた分の魔力は本体から分身を解除しないと還元されないので、分身が消滅すれば無駄が多くなり実戦に使うには適していません。なのでまだまだ改良の余地があります」

丁寧に問題点の説明してくれるけど、それより、よくまぁ術式を組んだってあっさり言うな。

「はー、魔力で分身ってできるんスね」

「楓さんやコタローの分身は気で行ってますし魔力でもできるだろうと思って考えました。それに理論は風精召喚の類を流用しているので」

まー詳しい話は良くわからないけど要するに精霊の力を借りないって事なんだろーな。

ホームルームも終わったから帰るかーと思えばクラスに丁度良く「セラス総長!?」って私は初めて見るセラス総長さんがやってきてネギ君にちょっと話があるからって連れてったわ。
一日見学会がネギ君の披露会みたいな感じになった気がするんだけど気にしたら負けだな……。
実際生徒さん達にとっては良い効果あったのは間違いないし。
放課後ネギ君から連絡があるまでゆえ吉達に学校内を案内してもらったり、箒の練習を見せてもらいつつ時間を潰し、ネギ君が戻ってきたらこのかとゆえ吉達に挨拶してホテルに帰還した。
そんでセラス総長にネギ君が呼ばれた理由は

「放課後になったらきっと困るだろうって配慮してセラス総長は僕を呼んで下さったようです。それと今日の授業を遠見の魔法で見ていたらしく、その話を少ししてました」

って事なんだとさ。
まあ確かにあのままネギ君が教室に放課後いたら色々終わってたのは簡単に想像できるわな。
話としちゃ、きっと生徒に良い刺激になって良かったとかそういうことだろ。
夕食を食べにホテルに戻って愛衣ちゃん達と今日の感想を話してたら丁度ドネットさんと茶々丸が帰ってきてヘラス行きの準備が整ったとのこと。

「僕は明日からしばらくヘラス帝国に行ってきます。それで楓さんと茶々丸さんに同行をお願いしたいんですが良いですか?」

「ネギ先生、私は構いません」

「拙者も構わないが、ネギ坊主は仕方ないにしても指名手配中の拙者を連れて行く理由は何でござるかな?」

「アスナさんの護衛をお願いしたいんです」

「アスナ殿でござるか?」

「はい、今回のゲートポートの事件、指名手配の件、そして修学旅行の件からするとアスナさんが狙われる可能性が高いと思うんです」

飛空艇にいる時に修学旅行の事詳しく聞いたんだけど、アスナは例の白髪の少年に攫われそうになったらしい。

「あの白髪の少年、フェイト・アーウェルンクスと言ったでござるか……」

「はい」

「……あい分かった。確かにあの者ならば城の中と言えど並の警備では簡単に侵入してきそうでござるからな。心してアスナ殿の護衛を致そう」

「ありがとうございます。僕も近くにいるように気をつけますが、目を放した隙に転移でアスナさんを攫ってくるかもしれないのでよろしくお願いします」

「任せるでござる」

「ネギ坊主、私は行っては駄目アルか?」

「……できるだけ皆さんには指名手配が解除されているアリアドネーにいて欲しいので、くーふぇさんすいません……」

「……うむ……私は楓のように警護は得意では無いアルからね。分かったアルよ、ネギ坊主」

くーちゃんも行きたがったけどまー仕方ないな。
楓なら身体操術とか自力の変装技術やらまだ隠してる謎の忍術とかありそうだし。
特に分身は警備向きだもんな。
こうして合流すると魔法生徒4人の私達はあんましなきゃいけない事が無いんだけど、学術都市ってだけあって魔法の勉強とかはいくらでもできるのは事実だし環境も整ってるから高音さんと愛衣ちゃんは魔法騎士団候補学校を見学したのもあるのか結構やる気あるみたいスしね。
私もココネと適度に生活するかな。
メガロまで戻るにしても特に今と生活は大して変わらないし、今から戻るとまた10日ぐらい普通にかかるし、どうせならオスティアの祭りの時に行けば無駄も少ないスよ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月5日、7時頃、ヘラス帝国首都ヘラス―

ネギ達3人がヘラス帝国行きの飛空艇に載っている間にはいくつか動きがあった。
まず葛葉刀子がようやく9月4日にアリアドネーに到着し、ドネット達と合流できた。
勿論目的は近衛木乃香の護衛であるが、それによって春日美空の生活態度が多少規律あるものになったのは言うまでもない。
古菲はヘラス帝国について行かなかったが、アリアドネーでの生活で特に問題は無く、修行をしたり、魔法騎士団候補学校での体術を指導した一件から桜咲刹那と共に放課後に呼ばれたりする事もあった。
場所を移せば、しばらくの間トレジャーハンターとして精力的に活動していた宮崎のどかは探して求めていた魔法具「鬼神の童謡」を見事見つける事に成功していた。
未だアーティファクト、いどのえにっきを手元に回収していないが「アナタノオナマエナンデスカ」と唱えなければ真名が分からないというリスクを負うものの二つを組み合わせれば強力なコンボとなるのは間違いない。
宮崎のどかの心理の根底にはネギ・スプリングフィールドの役に立ちたいという想いがやはりあり、読心術によって自分が被る危険性をはっきり理解していないのは問題であるかもしれない。
かといって理解しようにも実際に狙われなければそんな事はどこまで行っても想像でしか補う事ができないので何ともし難い話ではあるが……。
次に宮崎のどかは「読み上げ耳」という、書いてある文字を自動的に読み上げるという魔法具を探すつもりであったのだが、その事をトレジャーハンターの4人に伝えた所、「視覚障害者の為に魔法具店ではある程度の値段で普通に販売している物なのでわざわざ遺跡探索で探す必要もない」と言われたのだった。
そのため、宮崎のどかの目的はほぼ達成されてしまったのだが今しばらくトレジャーハンターを続ける予定のようである。
「鬼神の童謡」は直接相手に問いかけなければ効果を発現しないが、実は伝説的なレア魔法具に「死神の健康診断」という生物なら人間に限らず対象を見るだけでその名前と老衰までの時間が秒数刻みでわかるという、別に違うノートが一緒にあったら非常に怖いモノが存在するという噂があるらしいが、その存在の真偽の程は定かではない。
仮に存在したとしたら医者にしてみればかなり便利ではないだろうか。
しかしながら、いどのえにっきは半径7.4mにいなければ使えない上、詳しい思考を聞くためには結局対面して問いかけなければいけないのであまり意味はないかもしれない。

一方高畑・T・タカミチは、といえばジャック・ラカンと連絡を取ることに成功し、メガロメセンブリアに出てきているどころか自由交易都市グラニクスの郊外に存在する遺跡でまだ隠遁していたというのが発覚して

「お願いしますよ、ジャック!」

「がははは、ま、無事だったんだろ?いーじゃねーか!で、ネギってのはどこにいんだ?」

「ヘラス帝国の首都に向かう予定ですよ」

「何?」

「テオドラ皇女殿下と面会するんです」

「あのじゃじゃ馬皇女とかぁ?どうしてそうなった?」

「それは話すと少々長くなるんですが……」

とやりとりがあったそうだ。
一応その結果、ジャック・ラカンは重い腰を上げ、ヘラス帝国に割と渋々「仕方ねーか」とグラニクスからヘラス帝国まで飛ぶことになったのだった。
その事を高畑・T・タカミチは神楽坂明日菜の端末からテオドラ皇女殿下に報告し「でかしたぞ!タカミチ!」と褒められたようだ。
また挨拶回りに寄った佐倉家は普通の魔法世界の家庭であったが、グッドマン家は屋敷に招き入れられた所、その壁には様々な仮面がズラりと飾ってあり、当主と面会してみれば頭全体にスッポリ仮面を被っていたのだった。
その際高畑は夕食もご馳走になったが、直前まで家の人達は仮面を外さず、食べる時になってようやく仮面に手をかけゆっくりと外し、それぞれ使用人に預けるという光景が見れたそうだ。
因みに全員金髪の美男美女で揃っていたらしい。
ともすると影使い一族であるにも関わらず髪の毛の色が明るいためそれを隠すためというのが仮面を付ける風習に繋がったのかもしれない。
この晩餐中の会話で高音・D・グッドマンの父親の弟、風太郎・D・グッドマンという人物が前大戦以降長い事まさに風のようにどこかを常に放浪しているのでもし会ったら一度連絡を寄こすように高畑に頼んだらしいのだがその放蕩者に果たして会う事はあるのだろうか。
因みに、ネギから頼まれた人造異界の崩壊・存在限界の不可避性の論文の捜索も龍宮真名とのゲートポート事件関連の調査と共に目下進行中である。

さて、ヘラス帝国の城内に滞在中のアーニャ、神楽坂明日菜、そして犬上小太郎は既に2週間以上城に滞在していた。
そのうち犬上小太郎は修行を相変わらず欠かしておらず、神楽坂明日菜と練兵場を借りて咸卦法の修練に励んだり、時には帝国兵を相手に模擬戦をしたりして生活をしていたのだった。
そこへネギ達3人は2時間前にヘラス帝国首都ヘラス国際空港に到着し、その連絡をした上で城門前にやってきた。
そこで門番に名前を問われたネギは「ネギ・スプリングフィールド、長瀬楓、絡繰茶々丸です」と伝え門番はスプリングフィールドの名を聞いて驚いたものの、確認が取れ、入城を果たしそのまま案内を受けた。
ネギと神楽坂明日菜は感動の対面になるかと思われたが、年齢詐称薬をネギが服用していたため「あんたネギなの!?」というツッコミが何よりも先に入り「何その姿ちょっとやめなさいよ!戻れないの!?」と有無を言わさず幻術を解除する事になり服がブカブカになったが再会の挨拶は改めてやり直しとなった。
既に年齢詐称薬を使った状態での姿の写真は神楽坂明日菜達も送られていて見た事があったのだがやはり直接見るのとでは違うらしい。

「アスナさん!」

「ネギ!無事だってわかってたけど……本当に良かったぁ……。ねぇ、どこか身体に悪いところない?大丈夫?」

「僕も会えて良かったです、アスナさん。身体は大丈夫ですよ」

「はぁ……それなら良いわ。皆はアリアドネーで元気?」

「はい、元気です。アーニャも無事で良かった」

「フン、あんたに心配されなくても私は平気よ!」

「アーニャちゃん、折角会えたんだから……」

「う……そ、その、ネギ、南極から無事戻ってきて良かったわ」

「うん、ありがとう、アーニャ」

「ネギ、楓姉ちゃんに茶々丸姉ちゃん、久しぶりやな!」

「コタロー、久しぶり!」

「アスナ殿、アーニャ殿、コタロー、息災のようでござるな」

「アスナさん、アーニャさん、コタローさん、お久しぶりです」

しばらく再会の挨拶を交わし落ち着いた頃にタイミングを見てテオドラ第三皇女の登場である。

「良く来たな、ネギ」

「テオ様、こうしてお会いするのは初めてですね。ネギ・スプリングフィールドです。アスナさん達をありがとうございました」

「礼には及ばぬ。アーニャがここに飛ばされて来たのも何かの縁じゃからな。……積もる話もあるが、拳闘大会はどうするのじゃ?」

「はい、僕はコタローと出たいです」

「おう!俺もや!」

「そう言ってくれて嬉しいぞ。前にも伝えたがあまりナギ・スプリングフィールド杯の出場権の獲得までに時間が無いのじゃ。できるなら今日からでも2試合はこなして貰いたい。そなた達がどれぐらいの実力があるかコタロで大体分かっておる。きっと大丈夫じゃ」

「はい、分かりました」

「ネギ、普通は1日試合したら次の試合までに最低でも3日はあけるのが一般的な拳闘界の常識やけど多分2試合はいけるで」

「コタローがそう言うなら大丈夫だね。しかもこれがあるし!はい!」

「おおっ!俺の仮契約カードか!」

「アスナさんもどうぞ」

「ネギ、ありがとう!折角仮契約したのに使えなかったわねー」

「事故だったから仕方ないですよ」

「まあ、そうね。ネギ、拳闘大会出るのはいいけど、ちゃんと気をつけなさいよ。危なくなったらちゃんとリタイアするのよ?」

「アスナさん、心配してくれてありがとうございます。引き際はちゃんと分かってますから」

「そうやで、俺達なら平気や」

「大丈夫とか平気って言うのが一番心配なのよ」

「ははは、僕達を信じてください、アスナさん」

「もう、信じてるわよ」

「一応話を進めてもよいか。年齢詐称薬を使うのは最初から分かっておったからコタロの服は用意しておる。ネギももう一度例の年齢詐称薬を飲むのじゃぞ」

「はい!」

「コタロ用の服はすぐ持ってこさせるから待っておれ」

「テオドラ姫さんおおきに!」

……こうしてネギはヘラス帝国到着早々に小太郎と共に拳闘士登録をすることになり、年齢詐称薬で姿を青年に変え、テオドラ皇女殿下がネギに見合う拳闘士服を用意したのだった。
因みに小太郎の方はかねてよりの強い要望で学ランが既に用意されていた。
そして直ぐ様ヘラス帝国闘技場へ向かい、特定の拳闘士団への入団は無しに無所属でのエントリーを済ませた。
伏せられている事ではあるが、テオドラ第三皇女が後見人となった事によって後にネギと小太郎に発生するであろう権利関係について、テオドラ皇女殿下は全権を握ったことになり実はかなり色々と良い立場にある。
拳闘士名はネギの顔写真は出ていても名前までは公表されていなかったことから本名のまま「ネギ」と「小太郎」で登録している。
他の拳闘士でも本名と拳闘士名が違う事は良くあるので苗字を入れていないが別に問題は無い。

「ネギ、目指すはナギ・スプリングフィールド杯や!」

「コタロー!もちろんだよ!外部でこうして二人で共闘するのは初めてだから少しワクワクして来たよ」

「俺もや!どこまで通じるかやってやろうや!」

「うん!よし、行こう!」

「おう!」

いざ、記念すべきネギと小太郎コンビの初の拳闘試合の幕開けである。



[21907] 49話 ジャック・ラカン・前編(魔法世界編9)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 20:14
―9月5日、10時30分、ヘラス帝国首都ヘラス闘技場―

[[さあ、ヘラス夏季大会ヴェスペリア杯も後半に差しかかってきておりますが、本日の第3試合、東はあと4試合勝利すればナギ・スプリングフィールド杯予選出場権獲得間近、皆さんお馴染みの『灰音』『店長』ですが西からはここで、新たに先程無所属拳闘士登録をした二名の新米自由拳闘士の登場です!無所属ではバックアップが不安な上、本人達の実力も一切不明ですが、果たしてどのような戦いを見せてくれるのでしょうか?]]

流石はヘラス帝国首都の闘技場と言ったところか、収容人数は10万人、中央アリーナ部分の直径は300mとほぼ最大規模の広さである。
場内はこの時期での新たな参戦者の登場に少しの動揺が起きているが、灰音、店長の実力は大拳闘大会本選レベルであることから、新米自由拳闘士2名に賭けた観客は殆どいなかった。
そんな中ネギと小太郎の出番を今か今かと特等席でテオドラ皇女とそのお付き達、神楽坂明日菜以下数名が待っていた。

「初戦の相手が灰音店長とはちとキツイかもしれんがどうなるじゃろな」

「ネギとコタロならきっといけるわ!」

「落ち着いて見守るでござるよ」

「試合の中継はアリアドネーでもされるのですか?」

「保存映像は後で流れるぞ」

「それなら美空ちゃん達も見れるわね」

[[さあ、双方の選手の入場です!新米自由拳闘士は赤髪と獣族黒髪の青年2名の模様です]]

場内のモニターがネギと小太郎に一瞬ズームし、司会により簡単な特徴の説明が行われる。
ネギと小太郎の最初の相手は灰音と店長という拳闘士名から分かる通り、本名ではない。
ヘラス族の灰音と店長の衣装はそれぞれ、ウェイター服とラフな服装にエプロン、装備は金属のトレー及びその上の10枚重ねの中心に穴が空いた薄い皿、店の前を掃除するためのような箒、という拳闘士というには全くそぐわない格好だが、実力はかなり高い。

「店長、新米二名様来店でーす」

「灰音、初回のお客様には丁重なおもてなしを」

この二人にとっては対戦相手が客であるというスタンスで会話をするがこれも名物であるらしい。
実際に従業員も複数いる喫茶店HINEをヘラス首都で経営しており、この本人達による身体を張った宣伝により結構繁盛しているそうだ。

[[ルールは皆様ご存じの通り、ギブアップ又は戦闘不能で決着。武器魔法の使用制限無しです!]]

一方ネギと小太郎と言えば

「映像で見せてもろた事あるんやけどホンマ拳闘士にはあっとらん格好やな」

「コタローも学ランでしょ」

「俺のは戦闘服やからな。ま、普通にあの二人は強いで」

「うん、分かった」

「でも契約執行まではいらんで」

「コタローは自分でやるんでしょ?」

「そういう事や」

[[それでは試合、開始!]]

とうとう司会からの試合開始宣言である。

「ほな最初は打ち合わせ通りやで、アデアット!」  「店長、いつも通りで?」―戦いの旋律!!―
「うん!」―戦いの旋律!!―                「いつも通りで」―戦いの旋律!!―

早速小太郎のアーティファクト、千の共闘の発動である。対する灰音店長は両者戦いの歌上位の戦いの旋律を発動。因みにトレーと箒が魔法発動媒体である。

[[おっと、新米自由拳闘士、いきなりアーティファクトを使用!しかし特に変化は見られません!]]

「よう見とけや!右腕に気、左腕に魔力……合成!!」
―咸卦法!!―
「ネギ!」                          「あれはまさかっ!?」
                              ―カフェ・ド・ブレンド・メモリード―
「分かった!」                    ―来れ 深淵の闇 燃え盛る大剣!!―
小太郎が少し膝を屈め両手を構えたところにネギが飛び乗り
                           ―闇と影と憎悪と破壊 復讐の大焔!!―
「飛んでいきっ!せやっ!」          ―我を焼け 彼を焼け そはただ焼き尽くす者―     
                                ―奈落の業火!!!―

[[黒髪の選手が突如発光した瞬間赤髪の選手を空に飛ばしましたっ!が、ここで店長の大魔法発動です!!]]

咸卦法を使っての膝をバネにした力を利用してネギを空中に上げ、そこへ小太郎を飲み込む程の業火が迫るが

「この程度っ!」
―咸卦・疾空白狼閃!!―

咸卦法の効果で白く光る狗神を足元から大量に飛ばし主に中央突破で相殺、一方上空に上がっていたネギは

                     ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
                ―光の精霊1357柱 集い来たりて 敵を射て―
                 ―魔法の射手 時差連弾・光の1357矢!!―

空中で優雅に一回転しながら無数の魔法の射手を発動し、まるでようやく開戦の合図であるかのようにフィールド上に千もの光の矢が雨あられのように僅かな時間差を置いて次々と降り注ぐ。

[[花火のような魔法の射手の雨!これは派手です!]]

灰音、店長は何かが来るのは予想していたが、予想以上の量の魔法の射手に一瞬驚くも二人で固まって二重障壁を展開、灰音はそのままトレー上の皿を軽く跳ね上げ人差し指を穴に素早く入れ、まとめて小太郎に投擲する

「来おったな千輪っ!」         「それではディッシュをどうぞ!」
                     「防御を忘れるなよ灰音!ふんっ!」

投擲された皿の千輪は灰音の右手の動きに合わせ空中で変幻自在に飛び回り、小太郎に襲いかかる。
その最中もネギの放った魔法の射手が灰音店長の全力で張る魔法障壁に精密なコントロールで範囲を限定して行きながら次から次へと着弾していく。

「皿なら全部壊したる!」
―双腕・咸卦・狗音爆砕拳!!―        「魔法の射手にしては威力……が高いっ!」

小太郎が両腕に纏った狗神の拳で目の前に飛んできた皿を右腕で、脇腹を狙って飛んできたものを左腕で殴り、足を狙ってくるものを更に右腕でと次々に殴りつけ金属の形を歪ませるも

「壊れても安心、頑丈設計!」

形が歪んだまま依然皿は飛び周り続け

「コタロー!それ、魔力の糸で操作してるっ!今吹き飛ばす!」
  ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
「なるほどな!殴ってもダメな訳や!」
―吹け 一陣の風 風花・風塵乱舞!!―

依然右手で魔法の射手を連射し続けながらネギは左手で風花・風塵乱舞を発動し上空からの激しい強風で小太郎を襲う皿のコントロールを失わせ地に落とす。

「おっしゃ!」             「障壁が……ぐ……持たないっ!」
「今だよっ!」             「店長、ここは散開しやしょう!」
「おうっ!」               「灰音!やられるなよ!」

灰音、店長は2連瞬動で爆撃地点から離脱、足を止めずに二手に分かれて小太郎を挟むように走る。
それに合わせてネギは魔法の射手の対象を店長に絞りながら地上に向かって高度を下げ距離を詰め、アーティファクトで瞬時にそれを理解した小太郎は狙いを灰音に絞り突撃、それぞれ一対一に持ち込む。

[[目まぐるしく4選手、フィールドを動き回っています!特に赤髪の選手は今尚続く魔法の射手のコントロールからすると高位の術師です!]]

皿を再起動し距離をとろうとした灰音に小太郎が咸卦法の速さを活かし急速接近し

「これで終いや!」

―咸卦・狗音爆砕拳!!―

「な!ぐぁっ!!」

鳩尾に強烈な一撃を叩き込み、灰音を闘技場の壁に叩きつける。
一方ネギは魔法の射手も丁度撃ち終わり浮遊術のまま店長の目の前やや上、近接戦の距離に回りこみ

                   「なんという上客っ!しかしっ」
                     ―連弾・火の11矢!!―

                   「無詠唱魔法!でもっ!」
                      ―魔法領域展開!!―
               「これでっ」―双腕・断罪の剣!!ー

店長は咄嗟に無詠唱火の矢を飛ばすもネギの魔法領域に当たった瞬間雲散霧消、その光景に呆気に取られた店長の隙を狙って、箒に断罪の剣を二振りし解体、そのまま更に魔法領域内に取り込み、並の相手では身体が動かない状態にした上で両腕の断罪の剣を首筋に交差して突きつける。

                     「終わりです!」

                   「くっ!へ……閉店ッ!!」

[[こ、これは決まりました!!まさかの店長閉店宣言です!ナギ・スプリングフィールド杯大会本選レベルの猛者が僅か2分も経たずギブアップ!突如流星の如く現われた二名の新米自由拳闘士、一体何者だ!?]]

決着と同時に場内には見物だけの観客達からの歓声と、灰音店長に賭けていた客の札が空にばら撒かれながらブーイングの声が飛び交う。

―解除―

「ネギ、良い手際やな。アベアット」

「コタローお疲れ。つい武器破壊しちゃうのは悪い癖かな。店長さんごめんなさい」

「いや……その剣の威力を理解するには安い物だったさ」

ネギは対戦相手の魔法発動媒体を破壊した事を気にしていた。
そこへ司会の女性がネギと小太郎に近づいてインタビューが始まった。

[[おめでとうございます。初戦にして初勝利ですね。二人のお名前を聞かせて貰えますか?]]

「俺は小太郎や」

「僕はネギです」

[[小太郎選手とネギ選手ですね。お二人ともファミリーネームは秘密ですか?]]

「ええ、秘密です」

「悪いなー」

[[そうですかー。しかし……おおっ、皆様御覧ください!ネギさんは何だかあの、ナギ・スプリングフィールドにとても似ていると思わないでしょうか!?]]

闘技場のモニターにアップでネギが映り、場内にざわめきが広がる。

「えーっと、ただ似ているだけです。気にしないで下さい」

[[本人は非常にあっさりした回答をしております。気になる事もありますが詮索はここまでにして、お二方のこの時期での夏季大会参戦はやはりナギ・スプリングフィールド杯を視野に入れてのものですか?]]

「はい、そのため今日は少なくともあともう1試合は申請します」

[[皆様お聞きになりましたでしょうか!お二人は本日少なくともあともう1試合するそうです!確かに、試合時間も短く、目立った怪我も無いようですから無理ではないでしょう!皆様次のお二人の試合をお楽しみ下さい!]]

「よろしくお願いします」

「よろしゅう!」

観客席から「がんばれよー!」という声援がネギ達に向かって飛び、それを背に二人はフィールドを後にした。

「コタロー、灰音さんは大丈夫なの?」

「鳩尾にうまく当てたからな、骨も折れたりはしてへん筈や」

「内蔵が心配だね」

「ヒーラーおるんやから大丈夫やて」

「まあ……そうか」

「それよかアスナ姉ちゃん達のところ行こうや」

「うん!」


―9月5日、10時45分、ヘラス帝国首都ヘラス闘技場、特等席―

2分も経たずして灰音を戦闘不能、店長にギブアップ宣言をさせて試合終了という早業をやってのけた二人は特に疲れも殆ど無く、次の試合申請を相手はともかく、手続きを済ませ、テオドラ皇女達がいる場所にやってきた。
「初勝利おめでとう」といくつか交わし、テオドラ皇女から話しに入った。

「うむ、見事な試合じゃった。しかし、コタロのアーティファクトは一体何なのじゃ?特に何も変化が無かったようじゃったが」

「それはな……秘密や」

「なんじゃと!コタロ、妾に秘密とは生意気じゃぞ!」

「冗談や。俺のアーティファクトはネギの動きを勘で察知できるものなんや」

「ほほう、変わったアーティファクトじゃな。それで息がピッタリあっておったのか」

「合わせてるのはコタローですけどね」

「最初にネギが魔法の射手を大量に撃ったのも落ちる場所は全部わかっとったから、もし俺の範囲にも撃ったとしても避けられるで」

「なるほど、使い方次第では強力じゃな」

「それより、ネギ!さっきの非常識な魔法の射手に変な障壁とか剣は一体なんなのよ!」

「そうか、アーニャは見たこと無かったんだっけ?」

「見てないわよ!いつの間にあんたそんな超人になってたのよ!浮遊術まで使えてるし!」

「修学旅行の前から結構修行してたんだよ」

「その修学旅行の時も私は学校で留守番だったのよ!」

「そ、そうだったんだっけ?あの時僕すぐ疲れて寝たから事詳しく覚えてないんだ……」

「はぁ……私あの時もう少しあんたに直接聞いておけば良かったわ。修学旅行の時のネギの事は話だけ聞いて、私もちょっと修行したのに全然じゃない」

「ならアーニャちゃんも一緒に修行すればいいわよ」

「アスナみたいな身体中光ったりはしないの!」

「えー簡単よー。右腕に気、左腕に魔力……合成!!」

―咸卦法!!―

「ほら」

「だから無理だってば!」

「咸卦法を使える者が2人もここに居るとは驚きじゃ。それにしても妾が注文した通り派手な開幕じゃったな。あれで良いぞ。一気に注目を浴びた筈じゃ」

「あはは、ありがとうございます。でもあんまり目立ちすぎると困るんですけどね」

「何を言っておる、ナギ・スプリングフィールド杯を目指すのならば目立った方が良いに決まっておろう」

「そうなんか?」

「うむ、妾の予想じゃとそなた達の公式ファンクラブ設立の申し込みがすぐに入ってくる筈じゃし、それにお主達のファイトマネーも増えるぞ」

ファイトマネーが増えるのは事実である。
賭けられる額が多かったり、試合が盛り上がれば盛り上がる程選手の獲得できるファイトマネーは増えるようになっているのだ。
拳闘士の試合で地味なものを広い闘技場でやられても……という訳だ。
もちろん、それはそれで構わないのだが。

「ファンクラブ!?」

「テオ様、そんなものできるんですか?」

「あくまで妾の予想じゃがな。妾が後見人じゃからそなた達に取材の申し込みが来ればきちんと選別するからの」

「色々ありがとうございます」

「礼には及ばぬ。ふふふ、妾もこれでオスティア記念式典までの暇つぶしができるぞ」

「あはは……」

今後あちこちから取材の申し込みやらグッズ作成に公式、非公式ファンクラブができれば、当然後見人であるテオドラ皇女が陣頭に立つため色々とやりやすい立場にある。

「さっきの相手がナギ・スプリングフィールド杯の本選レベルならネギとコタロなら優勝しちゃいそうね」

「それは早急すぎますよ。アスナさん」

「もしそんな楽なら拍子抜けやで。まほら武道会の方がおもろいやないか」

「うーん確かにそうね、あれはお祭りみたいで面白かったし」

「技の祭典のようでござったからなぁ」

一試合だけ見て判断するのは確かに早急だ。
武器魔法に使用制限は無いなので、作戦次第によっては実力的に劣っていても工夫次第でその差を埋める事もできるのが拳闘界の醍醐味である。
もちろん、絶対的な強さを持つ者の爽快な試合を見る、というのが目当ての人もいるだろうが、それは人それぞれであろう。

色々会話をしながらネギ達は時間を潰し、特等席で昼食を取った後ネギと小太郎の本日2度目の試合が始まった。
2度目の試合の相手は重装備の鎧をつけた大剣使いとハンマー使いであった。
大抵大層な鎧やら武器を装備している連中というのは概して弱い。
試合開始早々、小太郎はアーティファクトを使用、更に自力で咸卦法を発動し、ネギはそれに合わせて手早く双腕・断罪の剣を小太郎の腕に術式封印、自身も双腕・断罪の剣を構え二人で突撃した。
そのまま二人は断罪の剣でバターの様に相手の武器をバラバラに切り落とし、とどめに鎧もこれまたバラバラ解体したのだった。
相手としては威力不明でも、魔力の剣と打ち合うぐらいはできると思ったのだろうが、たった1合ぶつかっただけで武器が柄までしか残らず、驚きのあまり声も出なかった。
ギブアップを宣言せざるを得ず、またもや殆ど疲労することなく二人は勝利を納めることができた。
観客側はといえば、ネギと小太郎に賭ける者達が増えていて、鮮やかな速攻に場内には一際大きな歓声が飛び交っていた。
試合終了後、1試合目に引き続き司会がまたしてもインタビューに来た。

[[2試合目も圧勝でしたね。前の試合で使われていた障壁や今回も使われた非常に切れ味の高い剣のようなものは見たことが無いのですがオリジナルの魔法でしょうか?]]

「両方共僕の師匠から教わったものです。先に断っておきますが師匠の名前は言えないので、すいません」

[[な、謎が多いですねー!それに他人に魔法を発動させる事ができるというのは驚きです。コタロー選手の身体が光る技も気になりますし、これから目が離せませんね!今日はもう1試合されるのですか?]]

「そうやな、これならまだいけるやろ」

「25勝しないといけないでしょうから、是非申し込みたいと思います」

[[皆様、お聞きでしょうか?期待の新星2人の試合、なんと本日まだ、観戦する事ができます!試合時間は15時以降になりますので、リアルタイムで試合が見たい方は是非午後の部2回目の観戦チケットもお買い求め下さい!]]

拳闘界の常識から考えれば1日に3試合するなど非常識も良いところであり、これは観客に衝撃を与えた。
1試合目の映像も丁度ヘラスの拳闘専門番組で放送され、順次アリアドネー、連合の拳闘士協会でも流れる予定である。
ナギ・スプリングフィールドに似ているが名乗る名前はネギとだけで使う魔法も謎が多い、一方相棒の小太郎は試合中身体が輝き、その全貌は2試合では未だ明らかになっていない事から注目を浴びるネタには事欠かない。
さて、言うまでもない事だが3試合目も勿論ネギと小太郎は軽く勝利を納め、テオドラ皇女は大層上機嫌であったという。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月6日、18時頃、アリアドネー魔法騎士団候補学校、女子寮ロビー―

今ロビーのテレビで皆一緒にヘラスの闘技場の試合見てるんだけど昨日からすっごいよ!
もうこれで6連勝!
あっと言う間にネギ君、ナギ・スプリングフィールド杯出場決定しちゃうね!

「ユエ、コノカ、凄い、凄いよーっ!」

今日の3試合目もよく分からない剣で相手の武器を簡単に切り裂いて速攻だったり、その前はネギ君が花火みたいに魔法の射手を降らす中コタロ君が上も見ないで走り回ったり鮮やか!

「ほ、本当に凄いです……」

「そやなぁ」

「あぁ!ネギ様、素晴らしいですわ!」

「ここまでとは……」

「それにコタロ君も何これっ!身体中光るし!」

「あれは咸卦法言うんよ」

「あ、あれが咸卦法!あの紅き翼ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグの究極技法ですか!こうして見るのは初めてです……」

ビーさん詳しー!
未だに拳闘放送では何の技法か明言されてないんだけどどうしてだろ。

「咸卦法ってつまり何なの、コノカ?」

「んー、魔力と気を混ぜて……バーンッ!ってなるんよ」

両手を上げるリアクションは何か伝わってくるけど。

「ごめん、全然わからない……。とりあえず凄いのはよく分かったよー」

「むー、うちも聞いてもよく分からないんよ」

使ってる本人じゃないと分からないよねー。

「ネギ様のファンクラブができたら絶対に1桁台を取得してみせますわ!」

委員長のナギの番号が2桁なら今度は1桁かー、ってそれ9人しかいないじゃん!

「あ、私も私も!!」

「お二方合わせた呼び名ももう『流星のジェミニ』と決まって、そのファンクラブもできるそうですよ」

「え、ビーさん何それ?」

「お二人の初試合に実況で流星と形容されたのと容姿は似ていませんが息がピッタリな様からジェミニと付けられたそうです」

うん、確かに二人のコンビネーションは他の拳闘士より数段上で息ピッタリだもんね。

「へー、何か良いね!」

「ネギ君達、今回のナギ・スプリングフィールド杯までしか出んやろうからほんま流れ星みたいやね」

「素敵ですわ……」

「ね、ユエはさっきから画面見て固まってどうしたの?」

「い……いえ、何でも無いです」

ユエ、顔が赤い!

「ネギ君にみとれてたの?」

「な、何を言ってるですか!」

分かりやすい!

「大丈夫、私もだからっ!」

「こ、コレットっ!」

「ネギ君人気者やなー」

コノカは脳天気だねぇ。
にしても私も学生だけどなんとかしてオスティア記念式典でネギ君達の生試合見に行きたいよー!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月7日5時頃、廃都オスティア某所―

雲間から光が覗き今にも朝日が登るという早朝、今は地に落ちた廃都オスティアの陸地末端に数人の人影があった。

「魔力の対流は狙い通り時満ちるまで……約3週間。全て順調だ……」

「当然だね。僕たちはそのために作られたんだ。……でも順調すぎるのもつまらない……かな」

「…………」

そこへまた桜吹雪と共に一人の人物が現われた。

「どぅもー。フェイトはんご報告ですぅ。新世界のお姫様はヘラス帝国の城に入ったままです。旧世界のお姫様はアリアドネーで生徒さんのようですえー。指名手配も意味ないみたいですぅ」

「……わかった。遠くから気づかれないよう諜報を続けて」

「はぁん。遠くから見とるだけなんて殺生やわぁ~」

「もう少しだけ我慢してもらえるかな……。月詠さん」

「予想以上に奴等の動きが良いようだが大丈夫なのか?」

「どうも何らかの通信手段があるようだけど問題ない。ヘラス帝国の警備程度やろうと思えばいつでも突破できる。それに……彼は拳闘大会に出ることにしたようだね……」

「…………」

「フェイトはん、少し楽しそうに見えますえ?」

「……どうだろうね」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月9日18時頃ヘラス帝国首都ヘラス闘技場―

ふぅ、今日も2試合だけだったな。
協会からすぐに25勝しそうだからって一日2試合にしてくれないか頼まれたんだよね……。
もう12勝してるし来週中には予選出場権の25勝規定は満たせる。

「コタロー、お疲れ」

「お疲れさん、って大して疲れとらんやろ?」

「あはは、うん、そうだね」

「何やあっさりしとってて拍子抜けやな」

「いつの間にかそれなりに強くなってたんだね」

「ずっとエヴァンジェリン姉ちゃんに相手してもろうてて、楓姉ちゃん達もいつもいて気づかんかったなぁー」

「うーん、確かに」

マスターは常に最強って感じだったし。
第一雷の暴風が雲散霧消するような魔法領域が展開できるんだから並の突破力じゃ全く効果が無い。
広範囲殲滅呪文の千の雷の出力を一点に収束させるか、後は修学旅行の後にマスターから教わった光系呪文を使うか、はたまた複合させるかって所なんだけどそんなの開発してもなぁ……実際に使う機会なんて殆ど無いだろう。
父さんの魔法が雷中心なら、マスターからは僕が氷は得意じゃないからって光中心に教えてもらった。
一番使ってるのは魔法領域と断罪の剣だけど。
後は僕の新術……みたいなのは感覚が南極の一件で鋭くなったお陰で多分できそうだけど、じっくりやらないと危険だし……できたらできたで画期的だけど色々問題もあると思う。
まあテオ様達の所へ戻ろう。

「張り合いが無いようだな。少年達」

ん、通路の陰に誰かいる。

「誰や?」

「誰と聞かれたら……初回サービスだし答えてやるか」

凄く背が高くて……。

「あ、おっさん!」

「あ、あなたは!」

「お?お?俺の事知ってんの?ねぇ、知ってんの?」

間違いない、写真でも見た!

「筋肉ダルマや!」

「筋肉ダルマのラカンさんですか!」

「ダルマじゃねーよ!!あのじゃじゃ馬何て変な事教えてんだっつーの!」

……仕切り直してちゃんと挨拶したんだけどこの大男の人はジャック・ラカンさん、ゲートポートで本来メガロメセンブリアに来てくれる……筈だった人……。
マスターの予想通り現れなかった……。
凄い背中とか叩かれたんだけどかなり痛い。
とにかくテオ様達のいる特等席に案内した。

「おお、ジャック!」

「うぉっ!?」

「アハハハ!久しぶりじゃなこの筋肉ダルマ!何故顔を見せん」

テオ様がラカンさんに飛びついて肩車状態……。

「オイオイ、じゃじゃ馬第三皇女いきなり会って早々コレか!お前三十路だろ!」

「ヘラスの族は長命だから三十代の女は人間換算でまだ十代じゃ!ミソジゆーな!」

「十代でも肩車で飛びついてくる女はいねぇよ。あー?大丈夫か帝国はこんなんでよ」

「だから普段はしっかり皇女を演じておる」

うーん……あまりそれらしいところをここ数日見てない気が……。
アーニャ達は見たことあるって言ってたけど僕達が拳闘大会に出始めてから結構はっちゃけてるらしい。

「つーかな、俺はお前に会いに来たんじゃなくて、このガキ達に会いに来たんだよ!」

「はぁ?連れないこと言うな!」

「ほらほらとっとと降りろー。皆見てんじゃねぇか。恥ずかしくないのか?」

「この者たちは気にしたりなどせんから良いのじゃ!」

確かにそんなに気にしないけど……。

「ひ……姫様……いくらなんでも」

「ユリアはうるさいのー!」

久しぶりに3-Aの空気を思い出したような気がするなぁ。
今頃地球での日数だと夏休みはとっくに終わって皆とも会ってるんだろうけど……。
テオ様がラカンさんから気がついたら降りてた。

「で、そいつがアスナかぁ?なるほど、こいつぁデカくなったもんだなぁ」

ら……ラカンさん!?何アスナさんの胸触ってるんですか!

「はぁ!?ちょっとどこ触ってんのよ!」

―咸卦法!!―

「このっ変態っ!」

あっ凄いアスナさん!
手使わずに咸卦法発動して殴った!

「げぽあっ!」

錐揉みしながらラカンさんは床に倒れた。

「この筋肉ダルマ!何堂々やっておる!このっ」

続けてテオ様に足蹴にされてる……。
マスターの言うとおり本当に信用できなそう……何かアホっぽい……。

「はー筋は悪かねぇようだな」

突然起き上がった!?
しかも僕達じゃなくてアスナさんに言うの!?
でも……隙が……今アスナさんに殴られたけど……無い気がする。
楓さんもそれには気づいてるみたいだし。

《ネギ、このおっさん見た目通りアホっぽいけどアホみたいに強いな》

個人通信か。
何か酷い言いようだけど。

《う……うん。倒せる気がしないね》

《もうちょい丁度ええ相手おらんのか》

《そんな丁度良い人ってなかなかいないんじゃないかなぁ》

《もうこの際人やなくて魔獣相手でもええわ》

《あはは……それはもう拳闘大会である意味が無いね》

《廃都オスティアっちゅう所はゲートもあって竜種みたいな魔獣がウロウロしとるんやろ?》

《そうらしいね。できれば近いうちに探索に行きたいよ》

《高畑の先生がなんとかしてくれへんのか?有名なんやろ。許可取るぐらいできそうやないか?》

《うーん、どうだろう。タカミチは後数日でメガロメセンブリアの調査もあんまり意味が無くなるだろうって言ってたから近いうちにオスティアに飛ぶみたいだけど現地で許可取ってもらえるように頼んでみようか》

《おお、そうしとき。俺達来週にはナギ・スプリングフィールド杯出場決定やし。一足先に行っても構わんやろ。ネギの幻術もバレとらんし》

《確かに丁度いいね》

「でー、お前らの試合はここに来るまでに飛空艇の中で全部見てたんだが……」

……ちょっと真剣っぽい。

「ナギの奴に似てねぇなー!戦い方とかぜんっぜん!使う魔法は割と似てる癖にどーしてそこまで違うよ」

「え……えーっと」

これは……どういう意味なんだろう。
僕は僕らしい戦い方ができているならそれでいいけど。

「あれだ、師匠とか言ってたが断罪の剣使ってるあたりまさか闇の福音か?」

「そ、そうです!闇じゃなくて光ですけど!」

「やっぱりなぁ。道理で鍛えられてると思ったぜ」

「ネギ、それは真か!?」

「はい、言ってなくてすいません、テオ様。マスターは父さんに倒された事になってるのであんまり言ってはいけなかったので」

「……なるほど、まあそれなら気にせんで良い」

「そんでコタロつったか?お前なんで究極技法の咸卦法できんだ?その年にしちゃいくらなんでも早過ぎるだろ」

「それはな、ネギのアーティファクトとアスナ姉ちゃんのお陰やで!」

「あ?お前のアーティファクト意味わかんねーじゃん。何も出ねえし見た目も変わらねぇし。てかその前にお前らキスしたの?ねぇ、キスしたの?」

このわざとらしい顔、もうさっき見てこれで二度目だなぁ。

「そんなん言うならラカンのおっさんもネギの父親とキスしたんか?」

「してねぇよっ!」

「俺もやっ!」

「ちっ、知ってやがったかぁ……つまらん」

はははー……。

「コタロー、この際だし効果見て貰えば良いよ」

「おう、そうやな。アデアット!」

―契約執行 60秒間!! ネギの従者 犬上小太郎!!―

ある程度供給を抑えたから爆風は出てない。

「因みに俺は何もしとらんからな」

「ほー、それが本来の効果なんじゃな!」

「何だぁそのアーティファクト。契約執行が咸卦法になんのか。ズリーな。そりゃコツがつかめる訳だ」

「ラカンのおっさんのも凄い宝具やって聞いたで」

「俺素手のほうが強いからぶっちゃけイラネーんだよ」

「はぁ!?」

「ええっ!?」

「ま、コタロのネタは分かったとして、ネギの方には何か必殺技とかねーのか?」

「断罪の剣があります!」

断罪の剣には二種類あって一つ目が、物質の構造相転移で、対象を蒸発させて切り裂き、それで詰ませられなかったとしたら超低温攻撃の二段構え、更にその超低温で超伝導状態に近くできるから結果電気抵抗もゼロに近づいて、そこに雷の魔法を複合させると生物にとっては……相当危険な威力になる。
二つ目は完全純粋魔力で原子レベルに分解するもの、南極で死にかけてから魔法発動媒体無しに完璧に使えるようになった。
拳闘大会で使ってるのは後者の方、剣が通った場所だけしっかり切れるから前者みたいに低温攻撃は無いし、人体に当てさえしなければ……大丈夫。

「まあ確かに断罪の剣も必殺技だな。だが俺が言いたいのはそーゆー意味じゃなくてだな。コイツの咸卦法みてーな奴。エヴァンジェリンの奴何か隠してたろ」

「何も聞いてないですよ……」

マスターの別荘の書物庫には大量にスクロールもあったからそういうのもあるかもしれないけど……。

「あー、何だアイツ。そういうのは教えなかったのか。まぁ確かにそのほうがいいかも知れねーが。俺はタカミチに言われて見に来たんだが……なんつーかお前らの試合を見てて俺も興味が出てきてなぁ……」

「…………」

「…………」

な……なんだろうこの沈黙。

「お前ら、ナギ・スプリングフィールド杯、それも決勝で俺が戦ってやるぜ」

「なっ!?ラカンのおっさんも出んのかいな!」

「えええっ!?」

「はー?ジャック、おぬしが出たらネギとコタロでも無理じゃろう」

「まー物は試しだ。それにさっきお前ら試合拍子抜けとか言ってただろ。丁度いいじゃねーか。流石に今じゃ無理だろうが、俺もお前らと良い試合やりてーし少し鍛えてやるよ」

「へっ、まあそれもそやな。ラカンのおっさん出るならやる気出てきたで!」

「……うん!ラカンさん、お願いします!」

「そーだなぁー。じゃあまずは授業料100万ドラクマな」

「高っ!?」

金にうるさいって本当だったんだ……。

「ほんなら、ナギ・スプリングフィールド杯でおっさんに勝ってその優勝賞金100万ドラクマで払ったるで!」

「コタロー!それ意味ないよ!ラカンさんが僕達に勝てばそもそもその賞金ラカンさんのものになるんだし!」

「あー、そやな」

「ガハハハハ!いや、悪くねーな!なら絶対に俺はお前らに負けねぇ。きっちり耳揃えて出世払いで払えや」

何か無茶苦茶だー!!
アスナさんとアーニャの顔が酷い呆れ顔になってるし。

「どっちにしろこんな機会滅多にないで!俺はやれるだけやったるわ!」

「うん、僕もやれるだけやってみます!」

「よーし威勢の良い発言。それでこそ男だ。つかさっきもそうだがお前ら俺の事結構知ってんの?驚かし甲斐がねぇんだが」

「妾が教えたのじゃ」

「あーお前拳闘士に詳しいんだったな。どうせならグラニクスにくりゃよかったのに……。まあいい……とりあえず改めて俺の自己紹介を聞けーいッ!!」

「突然でかい声を出すな!この筋肉ダルマ!!」

「千の刃の男!!伝説の傭兵剣士、自由を掴んだ最強の奴隷剣闘士!!サウザンドマスター唯一にして永遠の好敵手!!勝敗は498対499!!そう!!それがこの俺!!ジャック・ラカンだっ!!!」

ビシバシポーズ決めながら言い切ったー!
マスターから聞いてたけど本当に父さんのライバルなんだ!

「「おー!!」」

「……」

「ほー」

「耳が……」

「うるさいのじゃ……」

「暑苦しい……」

茶々丸さんは静観、楓さんは感心してるけどアスナさん、テオ様、アーニャは……。
ラカンさんが僕達の相手を少ししてくれるって事で場所は何処がいいかって事になったんだけど……。

「城の練兵場使っていいのか?」

「駄目じゃ!おぬしが使ったら更地になるじゃろ!」

どんな核兵器何だろう……。

「えーじゃあ何処だぁー?でけぇ湖の上でやるか?お前ら飛べるし」

「それも駄目じゃ!湖が消し飛ぶ!!魔法球を用意するからその中でやっとれ!」

「テオドラ姫さん魔法球あったんか!」

「それぐらい城にあるぞ。じゃが10倍じゃから妾はあまり入りとうないから、出さんかった」

「三十路だから年齢気にしてんのかー?」

「だからミソジゆーな!!」

「テオ様……魔法球があるのはありがたいんですけど……湖が消し飛んだりするぐらいなのに魔法球は壊れたりしないんですか?」

凄く心配だ……。

「……それは……わからんのじゃ」

「がははは!安心しろ!もし壊れても俺は死なん!」

本当に滅茶苦茶だーっ!!
まあ……落ち着いたらラカンさんにフェイト・アーウェルンクスの事とかもダメ元で聞いてみよう。
何か知ってるかもしれないし。
お金請求されたら出世払いかな……。
でもそれだと最初からタカミチに聞いたほうが早そうだけど……。
……こうして僕達はラカンさんに少しの期間修行を付けてもらえる事になった。
魔法球があるお陰で新術開発も進めたり、魔法世界の崩壊についてじっくり考えられる時間もできるだろうし。
うーん、テオ様には凄くお世話になってるなぁ。
もし賞金取ったらテオ様に渡したり、夕映さんやこのかさんの学費とかタカミチが払ってくれた金額の足しにしてもらおうかなって考えてたんだけど……。

「ところでラカンのおっさん、拳闘大会出るにしても相方おらんのやないか?」

「心配すんな、結構強い奴知ってるから呼んでやるぜ」

「へー、どんな人なんですか?」

「ボスポラスのカゲタロウって奴だ。操影術ってのを使う」

「高音さんと同じ術かな」

「多分そやろうな」

「お、なに、お前らまた知ってんの?」

「麻帆良で生徒をしていて今アリアドネーにいる同じ術を使う人が知り合いにいるんです」

「そりゃ珍しいな、あの地方にしか殆どいないんだが。名前は?」

「高音・D・グッドマンさんです」

「あいつの本名何つったかなー……」

ラカンさんぐらいになると強い人とも知り合いなのかなぁ。
僕も地球にはまほら武道会で強い人達がたくさんいるのはわかって知り合いもできたけど。
魔法世界にも拳闘士として登録はしてなくても本当に強い人達っていうのはきっといるんだろうな。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月20日日本時間、13時24分、麻帆良―

ネギ少年達が魔法世界に旅立ってから早1週間程が経ち、私達の計画も残すところ後1週間という時、侵入者……ではなく帰還者が現われた。
既に5ヶ月近くが経とうとしていたが、そう、魔法生物、本名アルベール・カモミール……捜査官。
随分前に超鈴音がエヴァンジェリンお嬢さんを介して魔法転移符の流通経路を捜すように麻帆良から体よく追い払う形になったが何らかの成果を掴んだのだろうか。
場所はエヴァンジェリン邸だが、その魔法生物は戸惑っていた。

「エヴァンジェリンの姐さん、あー兄貴はどこ行ったんですかい?」

ネギ少年が見当たらないから。
女子寮にも先に来ようとしたが、田中さん達の活躍により侵入は不可能だった。

「あ?何だ、情報を掴んできたんじゃないのか。なら帰れ」

「ちょ!?ちゃんと持ってきやしたよ!」

「……ほう、そうか。ぼーや達なら今頃魔法世界だ」

「でええっ!?全部ゲート壊れてるじゃないすか!」

喋り、その反応……魔法生物にしては可愛げがない。

「お前が心配することでは無いだろう小動物」

「エヴァンジェリンの姐さんは心配じゃないんですかい!?」

「これでも私の一番弟子でな。信用してるんだ。ぼーや達ならなんとかなるだろう。来週には帰ってくるだろうさ」

「ゲートが壊れてるのにそんな無茶な」

「まぁ気にするな」

「はぁ……そうですかい」

「で、ゲートが壊れたのを知っているということは海外にも行ってきたのか?」

「もちろんですぜ。まずは俺っちの報告を聞いて下せえ。ちょっと失礼」

「小動物、この家は禁煙だ。何ならお前を燃やしてみるか?」

魔法生物は良く燃える。

「ヒィッ!じょ、冗談でさぁ。雰囲気が出ると思っただけで……」

ハードボイルドなるものらしい。

「さっさと始めろ。ちゃんとデータもあるのか?」

茶々丸姉さんの複製機、茶々丸’姉さんがその情報は受取る。

「もちろんありますぜ。まずは……」

魔法転移符の流通経路、魔法生物の調べによると実に多岐に渡っていたようだ。
件の経路では東洋呪術系の魔法転移符もあれば、西洋魔術系の魔法転移符の両方を扱っており、サヨが以前撃たれた時の物も追跡が不可能だった時点で出所はわからなかったが、魔法生物の報告によってその区別をする事自体あまり意味が無いというのが判明した。
普及率という点では西洋魔術系転移符の方が多数を占めているが、中国から日本にかけての地域では東洋呪術系魔法転移符も用いられているのでそれぞれの拠点での使用率に特色はある程度出るだろう。
基本的に東洋呪術で良く使われる呪符には魔法的処理を施した特殊紙に、呪術刻印を入れる必要がある。
当然魔法転移符にも同じことが言え、魔法的処理をした特殊紙に、東洋呪術系魔法転移符なら呪術刻印、西洋魔術系魔法転移符なら魔術刻印を入れる必要がある。
この違いは私からすると些細な問題であるが、作る側としてはそれぞれ異なった魔法体系なので西洋魔術師が東洋呪術系魔法転移符に描かれている刻印をそのまま単純に真似して同じ物を作ろうとしたところ、術式に対する理解が無いため上手くいかない。
基本単価1枚日本円で80万する事から複製して大量生産というのは基本的に不可能であるのは自明だが、とすれば一体例の組織はどのように一定量の供給を受けているのか。
魔法生物がオコジョ妖精であるだけに、アルベール・カモミールが鼠のように組織のある拠点に入って得た情報によると、当然組織全ての場所に常に充分な転移符が行き渡っている訳ではなく、請け負った依頼内容の難易度を判断した上で魔法転移符の使用の有無が決定され、実際に魔法転移符が使用される頻度自体は少ないとのこと。
要するに超鈴音が2度も狙われたのは、組織の優先排除対象に入ってしまっているから。
これは組織の事を知っているような事を修学旅行の時に匂わせたフェイト・アーウェルンクスの発言からも明らか。
組織でも末端の人間は魔法転移符そのものの存在を知らないこともあるようで、これが限りなく白に近い灰色で判断が困難である事の元凶。
シアトルでの一件のように列記としたアジトがある場合もあるが、これは所謂実行部隊限定の物であり、それ以外の補助系の組織の構成員は通常、実に普通の企業で社員として働いている事が多いようだ。
羽田空港でのサヨが撃たれた事件にしてみれば完全に、フリーの殺し屋に、組織が接触し魔法転移符の使用方法を説明して持たせただけで、撃った後は自動で多重転移、使い終わった魔法転移符は効力を失いただの紙になる、ただそれだけという可能性が高そうだ。
どうも元々普通の人材派遣会社だったものに組織の人間がその上層部に潜り込み、徐々にその勢力を広げるという場合が悪質で、隠れ蓑に利用される典型のようだ。
性質が悪いのは誰か特定の人物が頂点に立っているという事が無く、組織形態がまるでアメーバのようで、構成員自身も組織の全貌がどうなっているのかは詳しく把握していないという事だ。
この組織自体を潰すのはかなり難しいことであろうが、少なくとも魔法転移符の出元を潰せば余計な技術流出というのは防げる筈。
誰が供給しているかと言えば、現実とは概して陳腐な物で、当然その正体は西洋魔術師、陰陽師崩れ達。
所謂悪い魔法使いとでも言えばいいのだろうか。
いつからなのかは知らないが彼らが組織と接触を持ったことにより、魔法使いの側としては隠れて魔法転移符を日夜かけて作る事で楽に生活できる資金が得られ、組織としては便利な道具があるお陰で仕事がやり易くなるという双方に利益のある関係ができている。
彼らはどのようにして連絡をやりとりしているかと言えば、超鈴音のSNSは当然として使っておらず、それ以外の電子メールやら普通郵便、使い捨て前提での電話番号を利用した通信が基本。
彼らも間抜けではなく、優先排除対象の超鈴音が作りあげたSNSをわざわざ利用したりはしない。
この辺りは既に私達がSNSを電子精霊の真似事で走査した結果でも明らか。
メガロメセンブリア本国に捕まればオコジョ刑どころかそれ以上の刑も必死の魔法使い崩れ達であるが、元々転移魔法符を作成する技術が無い場合、往々にしてアンダーグラウンドなルートで、転移魔法符を作成する技術がある魔法使い崩れと連絡を取り、その技術習得をする為に群れる事があるようだ。
また魔法転移符のみならず、まほネットにハッキングをして、魔法転移符そのものや、その他の魔法具、魔法転移符作成の為の特殊紙を入手するのを生業とする電子精霊使いも存在するらしい。
やっている事は何だか超鈴音と同じようだが、この手の人間は住所を驚く程転々とする。
合わせて一体何人いるのかは正確な人数は不明だが仮に1000人いるとしても、365日間頑張って作成するだけでも魔法転移符は相当数に膨れ上がる。
大体彼等は治安の悪い国や地域の魔法協会出身だったりする事が多いようだが、それだけに高額の報酬が得られるというのは魅力的なものなのだろう。
彼らが捕まらないように組織側も配慮するようで、色々な偽装をする事もあるらしい。
魔法幻術薬ではなくこちらの世界の整形技術で姿を変えてしまえば、魔法協会に名前と顔写真が登録されていても本人かどうかわからなくなるという有様。
場合によっては死亡したように偽装をすることもあるようで……本当に性質が悪い。
作成された魔法転移符は普通に郵送や、コインロッカーなど所定の場所でやりとりされるようだが、この辺りは普通である。
魔法の事など知らない運び屋の人間がその仲介をした場合、地球の立派な魔法使いが地道にそれを捜査するのは人員的に考えて絶望的である。
地球の魔法使いは世界を又にかける場合往々にしてNGOに所属して活動するもので、紛争地域や自然災害で被害を被った地域を飛び回っては限られた範囲内で魔法を行使するのが常であり、もしこの魔法使い崩れ達を捜索するとなると余りにも人員が足りない。
以上、概要はこのような所であり、結局組織の全貌は掴めず、その何処かしらに隠れている魔法使い達の居場所も詳しくはわからず、とりあえず概要が掴めただけ、という歯切れの悪い捜査結果であったが……魔法生物にしてはよくやった方であろう。
一応数ヶ所の組織が関わっている場所の特定はできたようだが、これが魔法使い達の出る幕なのかどうかの境界からして怪しい。
忘れてはならないが基本的にこの組織は、魔法に関わっているかどうかという点で、表であるため魔法云々を抜きにして、寧ろ違う容疑で摘発できるため、普通の警察が出た方が良い場合が多い。

「とまあこんな感じですぜ」

「なるほどな……しかし人間とは俗な生き物だな」

「そうっすね……それで今回の報酬なんすけど……」

「いくら欲しいんだ。まあ50万ぐらいは払うが」

「え!?ホントですかい!?」

因みにオコジョ妖精の1日の生活費用とは人間に比べると大変少ないので月給5000円で充分でもある為50万は破格。
国を渡る際の費用は人間ではないから法は関係ないが、一応人間的に言えば不法に貨物船や飛行機に乗り込んで動き回るのである。
確かに人件費が少なくて済むのは事実。
きちんと電子データも確保できる辺りオコジョ用パソコンというのは意外と優れているようであり、魔法生物……妖精業界は魔法使いに仮契約及び本契約をさせるというのではなくもう少し違う方向性で活躍できるかもしれない。
妖精は妖精で独自の通信網も有しているので更にそれを後押しする事も不可能ではないだろう。

「ああ……。少し待っていろ、出してくる。余計な物に触るなよ」

「俺っち頑張った……漢だぜ……」

捜査期間も定めていない適当な依頼にも関わらず勝手に依頼達成の喜びを噛み締めているならば、それならそれで良い。
エヴァンジェリンお嬢さんが自宅に置いてある現金の入った封筒を妖精に渡して終わり。

「ありがたく頂戴しやす」

「小動物、捜査のついでに何か他に面白い話は掴まなかったのか?」

「あー……一つ、エヴァンジェリンの姐さんが世界で人気だってのはわかりやした」

「ほう、なるほど、それは私のサークル関係のものか」

世界に飛び出すエヴァンジェリンお嬢さん。
既にSNSで専門コミュニティもできており、底堅い人気を誇っている。

「そうみたいっすね。にしても前回エヴァンジェリンの姐さんを見た時は動転してて気が回らなかったすけど真祖の吸血鬼にはとても見えないすね」

「それは、私は真祖の吸血鬼ではないからな」

「ホントですかい!」

「今私が何者なのかは説明できんがな」

「はー、不思議な事もあるもんすね」

「まあそういう事だ。で、お前はどうする?また続けて今度は更に詳しくその魔法使い崩れ共の居場所でも探し当てるか?」

「やっぱり俺っちとしては兄貴のような前途有望な魔法使いの使い魔になるのが真理ですぜ」

無い。

「いや、それは無い」

「そんなぁ!?」

「思うにお前たち妖精は使い魔だ何だとよりも、諜報活動の方が実は向いているだろう?実際人間に見つけられても情報を吐け等と言われないだろう?」

エヴァンジェリンお嬢さんも同感のようだ。

「そりゃあ俺っちが何も言わなきゃそうだが……。なに……つまり俺っちは天性のハードボイルドなのか……何かカッコイイぜ」

「……また何か情報を掴んだら買ってやるさ。好きにしろ」

「おおっ、分かったぜ!燃えてきたっ!!」

人語を解する小動物、私はたまちゃんの方が好みだが俗物的ならば俗物的でこういう事は向いているかもしれない。
早速また旅に出るかと思われたが、とりあえずは受け取った日本円をオコジョ$に独自の方法で換金して好きに使うとの事。
レートまでは把握していないが50万はかなりの高額になる。
今回魔法生物が掴んだ情報の電子データは茶々丸’姉さんが、会話内容は私が超鈴音に伝えた。
そして超鈴音がエヴァンジェリンお嬢さんに50万を払って今回の件は解決。

《ふむ、結局とことん面倒な組織に私は狙われ続けるというのが明らかになたようだネ》

《はい……残念ながら》

《……なんだか本当に宇宙開発したい気分だヨ》

《元々火星人でもありますからね》

《地球系火星人だけどナ》

《……いざとなれば魔法世界……火星側に移動すれば良いかと》

《それもそうだが、どうなるかは世界の動き次第だろう?》

《ええ、もう残り数日ですから》

《正直どうなるか見物だナ》

《良ければ超鈴音にも今回の作戦を優曇華から手伝って貰えると助かるのですが》

《おや、私もそんな大規模な事に参加していいのカ?》

《私が扶桑、サヨが蟠桃を完全に統制するので優曇華の機能で補助してもらえるのならばその方が……ありがたいです》

《ふむ、そんな機会二度と無さそうだし、やらせてもらうヨ。それにしても恐ろしいぐらい加速した魔分を浴びそうだネ》

《アーティファクトを使用しておけば良いかと》

《大丈夫だという訳だナ。分かているヨ》

さて、向こうでは後1ヶ月程であろうが、ネギ少年達……頑張って。
こちらも数日中にある人物が動くのではないか……と見ているが果たして。



[21907] 50話 ジャック・ラカン・後編(魔法世界編10)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/11 00:55
―9月11日、13時頃アリアドネーホテル―

もう大分アリアドネーでそこそこの生活を続けてるけどメガロに居た時ほどVIP生活じゃないけどまぁ……楽な方スね。
数日前にやってきた葛葉先生によって私がゴロゴロすんのが不可能になったのにはちょっとへこんだわ。
高音さんも「春日さん、あなたアリアドネー魔法騎士団候補生の学校の授業を見てもっとやる気をだそうとは思わないんですか?」なんて言ってくるし、微妙に生き辛いスよ。
葛葉先生は桜咲さんと早朝はいつもどっか行くんだけど、多分神鳴流の剣術の訓練か何かかだろ。
それにくーちゃんも付いてくから私はココネと暇を持て余す訳だ。
そんな暇を潰すネタと言えばネギ君と小太郎君の拳闘大会の試合に限る。
どうもテオドラ皇女殿下のお達しで「できるだけ派手に試合しろ」みたいな事言われてるらしく、速攻で決めるにしても何か魅せる試合を二人は心がけてるね。
その分見てる方としては本当に面白い訳だけど。
ネギ君が何故か小太郎君に遅延呪文を封印できたりするもんだからやたら切れる剣とか凄く腕が光るパンチを一緒に繰り出して戦う時はもうシンクロしまくり。
鎧をバラバラに解体するのはもう名物だね。
他には小太郎君が射線軸上にいる状態なのにネギ君が相手に大量の魔法の射手を撃った時「それはマズイだろー!!」と思ったんだけど、当の小太郎君は後ろを見てもいないのに弾幕の中を華麗に縫って進んで相手に突っ込んでいったのは何のサーカスだって感じだった。
それを他の人達はどう思ってるんだろうと気になって、拳闘協会専門サイトの掲示板的なものをまほネットで調べてみたら、ネギ君と小太郎君の謎の多さとその使用技術の異常性についての話題で予想通り超盛り上がってた。
ネギ君達の使う技術は司会の人が毎回聞こうとするんだけどネギ君は大抵「ごめんなさい、教えられないんです」って言うもんだから、そうすると間近で見た当の対戦相手達に毎回試合後のインタビューが入るようになって「あれは間違いなく遅延呪文だろう」「あの魔力の剣相手にもう戦いたくない」「いやあれは信じがたいが原子分解魔法だ」「あれは魔法障壁なんてそんなチャチなもんじゃない」「コタローが使っているのはあの咸卦法じゃないのか」「まさかあの年齢で使える筈が無い」なんて負けた側も意外とノリノリで答えながらメディアに露出できるもんだから満更でも無さそうなのが面白いスよ。
あとそれとは別にネギ君には大量に魔法使い達から使用する魔法についての問い合わせが殺到してるらしい。
余程気になるんだろうな。
2人ともそれぞれファンクラブができて、2人合わせたコンビでのファンクラブも含めて3つあるのは豪華すぎる。
丁度昨日から拳闘協会の公式サイトでファンクラブ参加の為の連絡先が公表されたもんだから、愛衣ちゃんが光速で動き回って宛先に向けて魔法郵便3つ送ってたのはちょっと笑えた。
地味に入会費かかるんだけど気にしてないみたいね。
そんでもって拳闘士のネギ君が9月1日に見学に来たネギ君だってのは皆分かってたから、ゆえ吉とこのかのとこの学校の寮はやっぱ戦争だったらしい。
あの時は一応元々初対面だから狙いとしてはナギと誤認されなきゃいい程度だったし、そもそも認識阻害メガネって映像には効果無いスからね。
箒で飛ぶときに麻帆良で認識阻害かけても写真に撮られればモロに写るのと同じ原理だな。

当のヘラス帝国にいるアスナと端末で会話してみたら、ジャック・ラカンっていうこれまた紅き翼の有名人が一昨日現れたらしく一言で言うと「あの人変態よ!」だってさ。
……変態はともかく、昨日から魔法球でネギ君と小太郎君は生ける伝説にまずは腕試しをしてもらったんだけど、ラカンさんは……もー何でもアリな人だったらしい。
そんでナギ・スプリングフィールド杯の決勝で戦う予定で……って私にはどうしてそういう流れになったのか全然分からんスよ。

他の動きはっていうとのどか達トレジャーハンターの皆さんはこの1月くらいの遺跡探索でかなり稼げたっつー話で、フォエニクスからアリアドネーに皆で来るって話になってて1週間以内には着くらしい。
のどか的には欲しい魔法具が手に入ったみたいで充実してたんだろうと思う。
特に賞金首として追われたりもしなかったらしいしクレイグさん達にはマジ感謝。
アスナ達が賞金首稼ぎ達と戦闘になって返り討ちとかにした事も無いから結局あの最初のニュースで指名手配された後20日ぐらい経ってもうニュースに取り上げられるのも見てないし。
これでもし武道四天王が大暴れしてたらと思うと大分違ったかもスね。
あとは高畑先生とたつみーが明明後日にはオスティアに飛ぶって聞いたな。
ゲートポートの捜査も限界って事でオスティアにいる高畑先生の個人的な知り合いにうまく当たってみるらしい。

……あーヘラス帝国の闘技場でネギ君達に賭けたら相当儲かったんじゃないかなぁとも思うんだけど既に倍率が低くなりすぎて今更遅いスね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月12日、ヘラス帝国首都ヘラス城内、ダイオラマ魔法球内―

ラカンさんに相手してもらい始めてから魔法球内時間で10日、闘技場での1日に2試合こなしてから夜頃に魔法球に8時間ぐらいずつ入るサイクルでやってきた。
初日の一番最初に相手してもらった時「ぼーず達、力試しだ!全力で打ち込んでみろ!」ってラカンさんが言ったから流石に断罪の剣はやめたけど、僕が収束光の505矢桜華崩拳、コタローが咸卦・狗音爆砕拳を叩き込ませて貰ったら全然堪えてなくて驚いた……。
最初僕が構えた瞬間は普通に受け止めるつもりだったみたいなんだけど当てる直前に気合い?で防御されたらそれで簡単に防がれた。
コタローは「ラカンさん……ホンマに人間なんかな?」って悩んでたし……。
咸卦法が気合いに勝てないのは理不尽だと僕も思う。
アスナさん達もそれ見てて呆れてたしなぁ。
僕とコタローの見立てだとあの気合いの防御力を越えるダメージを与えるか、防御する前に隙を突いて一撃入れるぐらいじゃないとまずダメージは入らないっていう結論に落ち着いた。
それで、僕達二人の力を合わせてやってみていいってラカンさんが言ったからあの時本気を出したんだ。

「ネギ!やるで!アデアット!」―狗族獣化!!―

「うん!任せて!行くよっ!」

「おー、やってみろぼーず共!」

    ―契約執行 120秒間!! ネギの従者 犬上小太郎!! 出力最大!!―
              ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―光の精霊505柱! 集い来たりて 敵を射て!! 魔法の射手 収束・光の505矢!!―
             ―短縮術式「右腕」封印!!―

最大出力咸卦法に収束光の505矢、現在の僕達ができる最大のコンビネーション打撃技。

「おっしゃぁぁぁ!!ラカンさん行くで!」

―右腕解放!!咸卦・桜華狗音爆砕拳!!!!―

「おっと」―気合防御!!―

また気合いの防御!

「でりゃあぁぁぁッ!!」

狗族獣化も使ったコタローの全身全霊の現最高打撃、強烈に発光してる拳は確実にラカンさんの腹部に直撃してる!
地面の砂浜にも余波でクレーターができてる!

「ふんっ!!!」

けど!……打撃の効力が終わってもやっぱり……。

「はぁ…………ラカンさんどうなっとんのや……」

腹部から煙が出てるだけだった。

「がはははは!!いやー今のは結構効いたぜ!そうだな……ぼーず達二人の力を合わせると1足す1が2じゃなくて3か4ぐらいにはなってるのは間違いない。その年にしちゃかなりのもんだぜ。でも俺にはまだまだ届かねぇな」

「…………」

「…………」

「ネギ、コタロ、その筋肉ダルマをまともな感覚で図るのは無意味じゃ」

「無茶苦茶ね……」

「真っ向から受けて防ぐとは凄まじいものでござるな……」

「なんといっても俺は最強だからな!よーし、お前達の強さを簡単に表にしてやろう」

「表ですか?」

「そんな簡単に表になんてできるもんなんか?」

「まー見とけぇ」

そう言ってラカンさんは強さ表っていうのを書き始めたんだけど……。
昔の僕達なら単純に信じた可能性は高いんだけど明らかにラカンさんから見た基準で測ってるような表だった。

「なんやねんコレ……。ラカンさんおかしくないか?」

「イージス艦が1500って……これは何処からの接敵開始を想定してるんですか?」

長距離からのミサイル攻撃はそもそも対人を想定してないと思うんだけど……。

「そうや、大体なんで海におる船と戦うんや」

「はぁ?お前達もっと純粋になれよー。障壁ないんだから沈められるだろ?」

「……沈められたとしても接近した距離によっては爆発の余波に巻き込まれて相討ちになりませんか?」

「そこは気合だ!」

「ふーんどれどれ、これだと200の戦車8台用意したらイージス艦に勝てるって事なの?」

アスナさんからも突っ込みが……。

「まず戦車は海で戦えませんから無理だと思いますよ。射程を考えればイージス艦が圧倒的に強いです」

「そうよねーネギ」

「…………」

「なら2800の鬼神兵っちゅうのは海でも戦えるんか?」

「それは無理じゃな」

「ほな海挟んでたら鬼神兵の射程範囲外からイージス艦が攻撃したら鬼神兵は負けるやろ」

「そうじゃな。妾はイージス艦がどんなものか知らぬが陸に船はおらんし逆は考えても意味ないの」

「…………だぁぁぁ!!!なんだぁー!?嫌なガキ共だなぁー!!俺が折角書いてやったって言うのによぉ!!勝負は相性、時の運もあるが細かい事は気にすんなよ!!」

「筋肉ダルマが頭の悪い表など書くからじゃ。ああ、馬鹿じゃったか」

この表そもそも比較対象として適切じゃないんと思うんだよなぁ……。
冬に学園長先生のスクロールを乗り切った後にコタローと話したけど、敵が凄く弱くてあっさり倒せても、その瞬間強力な毒ガスや石化の煙が出てきてやられたりしたから、強さってなんだろうってつくづく思ったんだよなぁ。
結局、常にその場の状況、一定の条件下での自分と相手の比較しかできないんじゃないかな。
だからこそ試合にはルールがあるんだと思う。
もし裕奈さんのバスケ部で浮遊術使って良かったらいくらでも点数なんて取れるだろうし。
でも、それがどういう条件であれ戦わない訳にはいかない状態ならそれはそれで頑張るしか無いのも事実だけど。

「あー、分かった分かった。とりあえず、お前らは俺よりまだ全然弱い、ただそれだけだ!これから修行つけてやるからな!」

「はいっ!」

「おうっ!」

というやりとりがあって10日が経過してるんだけど楓さんもいるし確かに少しは強くなったには強くなったと思うんだけど、あまりにも次元が違う気がする……。
父さんって今の僕より少し上の年齢ぐらいに前大戦で活躍したらしいんだけど、まほら武道会で父さんと試合した時はやっぱり稽古つけてくれてたんだなって思う。
このラカンさんと引き分けたりするぐらい強かったって一体どうなってるんだろう……。
単純に一発の攻撃力が防御力を上回ってたって事なんだろうけど、確かに父さんは常に魔力の塊を身体に纏ってる感じだったから、その点ラカンさんが使ってるのは気だけど、よく似てると思う。
当面の目標としてはアスナさんをフェイト・アーウェルンクスが狙ってきても撃退できるぐらいには強くなりたいから、ラカンさんにもしかして知ってるかどうか試しに聞いてみたんだ。

「ラカンさん、フェイト・アーウェルンクスという白髪の少年を知っていますか?」

「!?……アーウェルンクス……そりゃまた懐かしい名前だな……」

「知ってるんですか?」

「まぁ……な」

何だか因縁があるみたいな感じだけど……。

「聞きたかったら100万」

やっぱりかー……。

「いえ……じゃあ、僕の話を聞くだけ聞いてください」

「あ?なんだ?別に構わねぇが」

「はい。僕が今まで得た情報を上げるとアスナさんの魔法無効化能力、そしてその為にフェイト・アーウェルンクスに修学旅行でアスナさんは攫われそうになった事、前大戦で起きた広域魔力消失現象、フェイト・アーウェルンクスがやったと思われるゲートポート11箇所の破壊、残っているゲートがあるとしたらそれはその現象があった廃都オスティア、そして旧世界の火星の地形が魔法世界によく似ていること、魔法世界から旧世界への魔力の流出、最悪魔法世界の崩壊が起こる可能性があると言った感じなんですが、これらは全て関係があるような気がしてならないんです」

一つずつあげていくうちにどんどんラカンさんの表情が変化していくんだけど……。

「…………おい、ぼーず。特にその最後の方のは誰から聞いた。まさかアルのヤローか?」

ラカンさんが凄く真剣になった……。
しかもクウネルさん?
まさか紅き翼の人達は皆魔法世界が崩壊するかもしれない事を知っていた……?
という事は父さんも……失踪……マスターが言っていた「行方不明になるという事は何らかの情報を掴んだが、結果それは相当マズイものだった」っていうのも何か関係があるかもしれない……。

「いえ……僕が自分でそういう仮説を考えただけです」

「おいおい……マジか。チッ……失言だったな……。しかしナギの息子にしちゃ頭が周りすぎだろ。正直俺は、お前は何も知らずにそのまま麻帆良に帰ればいいと思ったんだがな……」

「え……」

「それでお前はどうしたいんだ、ぼーず」

「僕は……アスナさんがフェイト・アーウェルンクスから狙われても撃退できるぐらいにはせめて強くなりたいです。それにアスナさんと関係していそうなこの世界の謎を知りたいですし、帰還ルートとして廃都オスティアのゲートが残っているのかの確認をしたいです」

「そうか……まあ俺がここでできるのは一つ目の手伝いと少し話をするぐらいか。その前に俺からも一つ聞くが、こっちに来たのもついこないだのお前がどうして魔法世界から旧世界への魔力の流出なんてのが分かる?」

「それはアリアドネーの総長さんにも説明したんですけど……ラカンさんにも説明しますね」

「っておい、アリアドネーの総長ってセラスか?」

「はい、そうですけど」

そういえばその辺の話はラカンさんにはまだしてなかったな……。
テオ様にも論文を探してるぐらいの話はしてたけど……。

「ぼーず、お前賞金首になった割にピンポイントに人脈は広げてんだな」

「えっと……運が良かっただけです」

「大方嵌めようとしたフェイト・アーウェルンクスも予想外だろうぜ、良い気味だ。……話逸らしちまったな、セラスにもした説明ってのをしてみろ」

「はい、まず魔法世界と旧世界では魔力の色が……」

一応魔法領域を展開してセラス総長にした説明と同じことをした。

「そんなの聞いたこともねー。魔力にそんな決まった色なんてあったか?そのエヴァンジェリンから教わったっていうお馴染みの魔法領域とやらも俺があいつに会った時一度も見たこと無いぞ」

「マスターも最近習得したらしいです」

「ふーん。……いつあいつがそんなもんを習得したのかが臭うんだが……絶対何か隠してるな」

「僕もそれは思います。マスターは何か知ってそうでした」

「はー、もう真面目に麻帆良戻って聞いた方が早いんじゃね?」

「そうは言っても廃都オスティアでは……一応タカミチが明後日メガロメセンブリアからオスティアに飛ぶって言ってましたけど……」

「って事はだ。タカミチにもその話はしたのか?」

「は……はい、一応」

「そうか、そういやタカミチは知らなかったんだっけか……。ならタカミチが行くところは一つだろうな」

タカミチが知らなかったって事は紅き翼の全員が知ってた訳じゃないんだ……。

「その行くところっていうのは……?」

「元・紅き翼の仲間の所だ。今はひねくれてやがるだろうけどな。そいつはオスティアの総督なんてクソ面倒なもんをやってる」

元……?

「オスティアの総督!?」

「まー、多分アイツは立場的に大体もう知ってるんじゃねぇか?後はタカミチの手腕に期待ってとこだな」

タカミチがはっきりオスティアの何処に行くって言ってなかったのはそのオスティア総督と個人的に何か話をしに行くからなのかな。

「で、ぼーずは油売ってねぇで修行だ。ぶっちゃけアーウェルンクスはナギが苦戦するような相手だ。その修学旅行で狙われたってんなら今後十中八九絡んでくる可能性が高い。お前はアスナを守るんだろ?なら今は修行に専念しろ」

父さんが苦戦!?

「アーウェルンクスって父さんが苦戦するような相手だったんですか……」

「まー俺が奴とやったら俺が勝つけどな。要するにだ、アーウェルンクスはナギが苦戦する強さ、そのナギと俺は互角、つまりぼーずが俺に絶対勝てねぇなんて言ってるようじゃアスナを守れやしないって事だな」

アスナさんを守れない……。

「……分かりました。ラカンさん、修行をお願いします」

「へっ、ガキの癖にちったあ良い顔するじゃねぇか。よーし、あっちで楓嬢ちゃんとやってるコタロも混ぜてやるぞ。咸卦法が使えてる時点で出力はぼーずよりもコタロの方が上だぜ?頑張れよ」

「はいっ!!!お願いします!!」

……この日の修行を終えてラカンさんが少し話をしてくれた。
タカミチから聞けばアスナさんの事はわかるって言われたんだけど、旧ウェスペルタティア王国の王族の血筋には代々不思議な力を持つ特別な子供が生まれてきたらしい。
この世界が始まったのと同じ力でこの世界に息づく魔法の力を終わらせていくという神代の力。
黄昏の姫御子、完全魔法無効化能力者……。
伝説上の話みたいだけど、ここまでの情報から言ってアスナさんは間違いなく黄昏の姫御子……フェイト・アーウェルンクスが狙うのはそれが理由だと思う。
それでアスナさんが最近変な夢や幻覚を見ていないかどうかそれとなく聞いてもしそうだったらこの薬を飲ませろってラカンさんに渡されたんだけど……もしそうだとしたら飲ませるべきなんだろうか……。
多分変な夢って事は記憶封印系の薬の気がするんだけど。
先にタカミチにも聞いてみようかな……まほら武道会の時タカミチは、アスナさんに「アスナ君には……そろそろ教えてもいいのかな」って言ってたし。
それにアスナさん自身の意思も聞いたほうが良いと思う。
記憶としては何か辛い思い出なのかもしれないけど今のアスナさんならきっと乗り越えられると僕は信じてるから。

……それに引き換えアーニャとテオ様は何か隠しているような気がするんだよなぁ……。
最初に会った時すぐ闘技場に向かってドタバタしてたけど先月からアーニャはテオ様の所にいたんだから色々父さんの話を詳しく聞いていそうなんだけど……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月14日、14時頃、メガロメセンブリア発オスティア行き飛空艇内―

高畑・T・タカミチと龍宮真名はメガロメセンブリアでのゲートポートの調査、論文の調査を打ち切り、オスティアへ向かう飛空艇に乗っていた。

《おはよう、タカミチ。少し話したいことがあるんだけど良い?》

《おおっ、ネギ君そっちは丁度朝かな。おはよう。話したいことっていうのは何だい?》

《アスナさんの事なんだけど……》

《アスナ君か……》

《ラカンさんから少し聞いたんだ。でも今はラカンさんから渡された、アスナさんがここ最近見てるかもしれない夢や幻覚を抑える薬を、もしそれが本当だったら飲ませるべきかっていう事なんだけど……僕はこの薬は多分思い出しそうな記憶を再封印するタイプの物だと思ってる。僕がこう思っているのに何も考えずにアスナさんに飲ませる事はできない。タカミチは前にまほら武道会の時にアスナさんにそろそろ話してもいいかなって言ってたでしょ。それで気になったからタカミチに聞いておこうと思って》

《そうか……ネギ君はその薬が何か殆ど分かっているんだね。その予想で正しいよ。それでネギ君はアスナ君に状態を聞いてもしそうだったらアスナ君自身の意思を確かめるつもりかい?》

《そうしようと思ってるよ。僕には……アスナさんの過去にどんなことがあったかはアスナさんじゃないからわからない……けど、過去に何かがあったとしても今のアスナさんなら乗り越えられると信じてる。何かあっても大丈夫!ってアスナさんなら絶対言うと思うんだ》

《大丈夫……か……。そうだね、アスナ君ならそう言うかもしれないな。その薬をどうするかはネギ君が決めればいいよ。ネギ君、アスナ君の詳しい事を話すのはアスナ君も含めて直接会ってからでいいかな?》

《分かったよ、タカミチ。アスナさんにもし症状があるようだったらそのままでいるかどうか聞いてみるね》

《ああ、それでいいよ》

《うん。じゃあまた連絡するね》

「フ……。ネギ君には……驚かされるな……」

飛空艇の船室の椅子の背もたれに身体を預けて呟く。

「どうしたんだ高畑先生?ネギ先生から通信か?」

「ああ、そうだよ」

「そうか……ネギ先生に何か驚かさせられる事でもまたあったようだな」

「全くだ……。本来僕がやるべき役目すらやっているよ……」

「これから高畑先生も誰かに個人的に会いに行くんだろう?」

「それぐらいは……やらないとね。大人として少しは力にならないと示しがつかないさ」

「良いところを見せてくれる事を期待しているよ」

「ああ、もちろん。教え子の前だしね」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月14日、7時頃、ヘラス帝国首都ヘラス城内某所―

タカミチは絶対飲ませないとダメって言わなかったし多分飲ませる必要はないと思う。
ラカンさんは飲ませるべきだって言ってたけど……。

「アスナさん、最近何か変な事ないですか?変な夢を見たりとか変な幻覚が見えたりとか……」

「へ?な、何の話?」

「いえ……そういう事が無ければ良いんですが……」

「あ……あるわよ、あるある!渋いオジサマとかクウネルさん達とかが周りにいたりして結構チヤホヤされたりする変な夢で……。あれ?……私もしかして欲求不満……そんなまさか……」

どういう記憶処理の魔法だったんだろう……。
魔法世界に来ると思い出すようになってたのかな……。

「やっぱり……そうですか」

「やっぱりって何よ、ネギ」

「僕にも……詳しいことはわかりません。アスナさん、その夢は恐らくアスナさんに実際あった過去の出来事です」

「私の……過去?」

「はい……そのまま放っておけばいつか思い出すかもしれません。それで、ここにその夢を見なくする薬があるんですが……アスナさん、飲みますか?」

「え?……そんな事いきなり言われても……うーん……そうね……私が夕映ちゃんみたいに記憶喪失だっていうならそれは思い出した方がいいに決まってるじゃない!変な夢だけど」

「……分かりました。この薬は無かった事にしておきますね」

「ネギ、その前にその薬一体誰から貰ったのよ」

「ラカンさんです」

「あの変態から!?絶対ダメよ!そんなの飲んじゃ!きっと惚れ薬に決まってるわ!あのおっさん私に会った瞬間胸触ってくるような変態なのよ!」

あーそうか……確かにそんな反応しても仕方ないか……。

「あはは……そうですねー。捨てておきます」

「全くもう!ネギを使ってそんな変なもの飲ませようとするなんて!」

「ラカンさんにはこの事言わないで貰えますか?」

「この事って薬飲まなかった事?」

「……はい。きっとラカンさんとしては飲んで欲しい理由があるんだと思うんです。アスナさんが今言ったようなそういうのとは全く関係なく真面目な意味で」

「うん……別にいいわよ。飲まなかった事わざわざ言ったりしないわ」

「はい。最後に確認ですが、アスナさん……もし思い出した記憶が、いっその事思いださなかった方が良かったものだったとしても大丈夫ですか?」

「何言ってるのよ、そもそもどんな記憶なのかもわからないのにそんな事心配してどうするのよ。嫌な記憶や思い出なんて今の私にだってたくさんあるわよ。今更1つや2つ増えた所でどうってことないわ。大丈夫よ!」

「……アスナさんならそう言うと思いました。大丈夫ですよね。タカミチがオスティアで直接話したい事があるって言ってました。今僕も良くわかってませんがそれまで待ちましょう」

「高畑先生がオスティアで?……うん、いいわよ。皆でどうせお祭りに行くんだし。私は賞金首のままだけど」

「僕もですよ」

のどかさんは明後日にはアリアドネーに着くからドネットさんがセラス総長とまた手配してくれる事になってる。

「そ……そうだったわね。知ってる?美空ちゃんに言われたんだけど私日本円で240万なのよ!?」

「僕は4800万ですよ……」

「う……高いわね……。ネギ、いい?絶対人前であの変装は解いちゃだめよ」

「分かってます。任せてください」

「よろしい!」

やっぱりアスナさんは思った通りだったな。
あんまり考えてないだけかもしれないけど……。
僕も今日と明日の試合が順調に行けば、明後日1勝だけすればそれでナギ・スプリングフィールド杯出場権が確定するから、頑張ろう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月15日、12時頃、アリアドネー魔法騎士団候補学校、廊下―

ネギ君とコタロ君結局未だに一度も負けてないし、それどころかこの数日で何か更に強くなってるし凄い凄い!
明日にはナギ・スプリングフィールド杯の出場権が確定するよ!
3-Cは全員ネギ君があの見学に来たネギ君って分かってたし、そうでなくても人気絶大だったから10日にファンクラブ加入の為の魔法郵便を拳闘協会に送る時女子寮は戦場だったよ……。
私も頑張って送った……でも1桁はどう考えても無理な気がする……。
それ以外だと魔法の実技では皆して魔法の射手のコントロールを真剣にやり始めるようになっちゃったし、完璧にネギ君の影響受けてるねぇ。
放課後にはネギ君の中国拳法の師匠さんの古菲さんが来て教えてくれたりするしアリアドネー魔法騎士団候補学校も少し変わったような。
そんな中……私達寮生が遠い外国のお祭りに行くなんて無理だなぁって思ってたんだけど掲示板にどうも人が集まってるなって気になってみてみたら……。

[オスティア記念式典における栄えある警備任務を諸君らの中から募集する。人数の上限は6名まで。志願者多数の場合は今週末選抜試験を実施する]

ええええ!?
こんなおあつらえ向きな企画が!
一個分隊の人数かな?

「ユエ!コノカ!何か都合良いね!」

「はいです……」

「はーオスティアに行けるんやねぇ」

でもこの2人は……これに志願しなくてもオスティアに多分行くんだよねぇ。
選抜種目はペアでの箒ラリー……一緒に出てくれる人……。

「コレット、一緒に志願するですよ」

「え?ユエ?でもでもっ!」

「コレットにはお世話になっているです。それに一緒に行けた方が良いですよ」

「ユエ……。う、うん、ありがとう!」

「夕映、コレット、頑張りや!」

「おや、ユエさんとコレットさんも出るのですか?」

「委員長!?って事は委員長も?」

「もちろんです。まあ枠が6人分あるのですから私とビーは余裕ですわ」

「お嬢様、油断は厳禁ですよ」

「わ、分かっていますわ」

「た……確かに、委員長達の実力なら余裕そうだぁ……」

で、でもまだ4枠残ってるっ!

「選抜種目は2名のペアでの箒100kmラリーなんやね」

「魔法による妨害自由、但し直接攻撃は厳禁……ですか」

「うーん、基本的に武装解除の撃ち合いになるねぇ。正直凄惨な脱がし合いになりそうだけど!女子校なのを良い事に!」

「何を元気に言っているですか。コレット、これまで通り特訓ですよ!」

「ユエ!うん、頑張ろう!」

「はい!」

私はこの日から時間はもう今日を含めて4日しかないけど箒の飛行訓練と武装解除、障壁の使い方をユエと一緒に頑張ることにした。
実際志願者はすぐたくさん出てきたから放課後は練習する生徒達でいっぱいだったよ。
でも、なんとかして絶対オスティア行きを手にしてみせるよっ!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月16日、13時頃、アリアドネー国際空港―

予想通りっていうかネギ君と小太郎君はさっき午前中最後の1勝を軽く決めてナギ・スプリングフィールド杯予選出場権を獲得したスよ。
何より凄いのが25試合全戦全勝っていう快挙だな。
ま、これで試合も終わりかっていうとこの後も協会からの要望であと何日かは試合するみたいだけど。
……それにしてもラカンさんに修行付けてもらったからなのか、この数日でまた変に強くなってたのには驚いたけど、完璧に発揮してはいなかった感じスね。
実際全力出すほど相手が強くない……いや、ネギ君達がおかしいだけか。
どーせまた常識のラインが異常に高くなってるんだろうなー。
アスナの変態観察記録によるとラカンさんはその場の思いつきの技が酷過ぎるそうで、ラカン適当に右パンチ!とか適当のくせに超巨大クレーターレベルの拳の跡が砂浜に残るとかなんとか……。
ネギ君の新たな必殺技に、ってこれまたてきとーに全身を光らせるエターナルネギフィーバー!ってのはただの超高性能爆弾みたいな感じだったらしい。
……くーちゃんはそんなバグってる人に修行つけてもらってるネギ君達の試合を見て「私もこうしてはいられないアル!」って修行に励んでたのは……いい事なんだろー……なぁ?
かと思えば毎日早朝どっか行ってた桜咲さんと葛葉先生は昨日何故か魔獣の森に入ってちょっくら竜種薙ぎ払ってきたらしいし。
マジ意味わかんねー!!
何そのデケェ角?持って帰ってきてどうすんの?って感じだった。
実際討伐証明に必要なんだろうけど。
……まあアリアドネーでも毎年この時期定期魔獣討伐の為の部隊が結成されるらしく、桜咲さんもなんたら剣弐の太刀とかいう技を実戦で使用してみたかったから丁度良かったって事らしい……マジ神鳴流パネェわ。
下位種だから楽だったって話だけどそういう話じゃねースよ。
本気だしたら森なんてあっという間に焦土にできそうな人達だから分からなくも無いけどさ。
なんていうか結婚できるんスかね……怖くてやだろ、旦那さん。
そりゃあまほら武道会でゾロゾロいた蓑笠集団の人達含めて全員美人だったけど。
このかのお父さんドン引きだったし……。
……にしてもこんな万国びっくり人間達に囲まれてても一般人の感覚を失わない私って意外と頑張ってると思う……いや……特に頑張ってないけどさ……。

と、ぼーっと考え事してたら、丁度のどかとクレイグさん達が乗ってる飛空艇がアリアドネー国際空港に着いたみたい。
桜咲さん達ものどかに直接会うのは丁度1ヶ月振りだろな。
まさか顔が骨格から変わってるって事は無いだろうけど雰囲気は本好きから冒険者の様になってるのかね。
乗客もどんどん降りてきてるからそろそろ来るだろ……って出てきた。
ドネットさんが手を軽く上げてこっちをアピールしたからすぐ気づいてやってきた。
すげーマジもんの冒険者って感じ。
拳闘士の試合とかでも見た事あるけどホントRPG的格好そのものだな。

「ドネットです。皆さん、遠いところわざわざのどかさんとここまで一緒に来てくれてありがとう。感謝するわ」

「クレイグだ。礼には及ばねぇさ。俺達もオスティアの祭りには丁度行きたかったしな。それよりほら、ノドカ嬢ちゃん、皆に挨拶すんだろ?」

「は、はい!皆さん、お久しぶりです!今まで心配かけてごめんなさいっ」

おお、何か本屋というにはアウトドア派な雰囲気があってこれだともうあのネーミングも終わりだなー。
格好は本の中のキャラクターみたいな感じになってるけど。

「元気そうで良かったわ、のどかさん」

「のどか、おかえりー」

あ、おかえりは何か違うか。

「のどかさん、ご無事で何よりです」

「のどか、久しぶりアル!」

そんなこんなクレイグさん達とも挨拶兼自己紹介をしつつ、空港で長話ってのもアレだし、ホテルに一旦戻った。
のどかは着いて早々ドネットさんとまたアリアドネー魔法騎士団候補学校に向ったから適当に手続きして、ネギ君を除けば最後の賞金首からの削除するんだろうな。
んでクレイグさん達はどうなったかっつーと、空港には来ずにホテルで待機していた葛葉先生が部屋を既に取ってて、その部屋の鍵を渡すのと一緒に色々堅い挨拶してた。
高音さんが一緒だと更に堅さが上がるスねぇ……。
そのまま私達が滞在してる一番広い部屋にクレイグさん達を呼んで色々話したわ。

「ほんっとう、ノドカちゃんには助かったよー」

「うん、ノドカの罠発見能力は一級品よ」

「あの年で大したもんだ」

「……普通どんな罠があるんスか?」

「そうね、落とし穴とか天井が落ちてくる罠とか巨大な鉄球が転がってくる罠とか入ったら閉じ込められてしまう罠とか一杯よ!」

はっはー!正直そんなベタな罠冗談にしか聞こえないけど多分マジだから洒落にならねー!!
それを回避できるのどかもどうかしてるけどさ!
つーか昔そんな訳分からん遺跡作った人達って頭おかしーだろー!

「命がけッスねー……」

「いざとなったら無理やり破壊したりするんだけどねぇー。そういうミソラちゃんも南極に行ってきたんでしょ?」

クリスティンさんって軽いテンションだなー。

「あー、まあそうスね。高い魔法具使ってたんで全く寒くなかったスけど」

「そうだとしてもノドカの周りの人達は皆凄いわよー。例のネギ君とコタロ君の試合私達も見たけどあれで10歳なんでしょ?」

「ああ、あれには驚いたぜ……。信じられない子供だな全く」

いや、私もお前達のような子供がいるか!って感じスよ。

「旧世界ってそんな凄い人達ばっかりなのかと思っちゃったよー」

「ネギ先生と小太郎君は成長速度が少し異常ですから……」

桜咲さんに言われてもなー!

「刹那ちゃんも凄く強い剣士なんでしょ?」

「いえ……私はまだまだで……」

そんな桜咲さんは昨日竜種を捌いて来たけどねー。
この場では言わなかったけど後でこっそりクレイグさん達にこの事言ったら超驚いてた。
呆れた顔が拝めたスよ。
ちょい自信失いそうだったから悪いことしたなって反省。
遺跡って潜ればそんな簡単に財宝とか眠ってんのかとか聞いてみたら普通に埋まってるらしいね。
実際金品ゲットしまくったんだと。
こっちじゃ遺跡は潜って探索するもんだけど地球じゃ遺跡なんて文化遺産で保護する対象なんだからマジ文化違いすぎるな。
古墳にふざけた罠とか滅多に無いし保護しやすいってのもあるんだろうけど。
クレイグさん達のこれからの宿泊費やらオスティアまでの旅費は完全に麻帆良で……というか高畑先生が持つことになってて、その話を葛葉先生がしたらクレイグさん達は「そこまでしなくて良い」って言ったけど葛葉先生の堅さの前には無駄だった。
のどかの面倒をここまで無事に見てくれてたんだから当然っちゃ当然スね。
その後も色々話して、ネギ君達の所にラカンさんがいるだとか話したら「あの伝説のラカンさんがっ!?」ってマジ驚いてた。
魔法世界だとそういう認識なんスねー。
高音さんと愛衣ちゃんもラカンさんがネギ君達の所にいるのを知った時似たような反応だったから無理もないけど。
のどかがホテルに帰ってきてみれば、このかとゆえ吉に会ってきたみたいで図書館探険部3人がようやく集合だね。
唯一残ってた仮契約カードものどかの手元に戻ってアデアット披露してくれた……んだけど。
突然慌ててなんか本をパタンと閉じたー!
……のどかによると鬼神の童謡と読み上げ耳っていう魔法具、それにアーティファクトのいどのえにっきを組み合わせてみた……っていどのえにっきってなーに?って私が思ったら高音さんと愛衣ちゃんは知ってたみたいでマジ驚いてた。
相手の心を読める凄く珍しいアーティファクトなんだとさ。
なーんかもう小太郎君ので諦めてるけどネギ君と仮契約すると異様な性能のアーティファクト出すぎだろー。
3-Aだったら……特にハルナとか朝倉が知ったら絶対ネギ君に飛びかかる、間違いない。
今までバレなくて良かったスね、ネギ君。

今後の予定はゆえ吉の学校でオスティア記念式典の警備任務のために100kmの箒競争するイベント……あの学校の制服で街中飛ぶとか羞恥心何処かに吹き飛んでるな……うん。
武装解除使うらしいし。
というか武装解除って実際たつみーに使ったらどうなるんだろーな。
ホルスターにしっかり固定されてたら拳銃吹き飛ばず服だけ吹き飛んで武装解除にならないと思うんスけど……。
絶対武装解除の魔法開発したの男だと思う……それを常識にしたのも然りって感じだなーきっと……。

ま、何にしても最大のイベントはそのオスティア終戦記念祭に皆で行く事スよ!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月18日、18時頃、オスティア総督府総督執務室―

高畑・T・タカミチは新オスティアに龍宮真名と共に9月17日に到着し、ホテルの確保などを迅速に行った後、高畑にとっては旧知の間柄、メガロメセンブリア元老院議員であり、現オスティア総督でもあるクルト・ゲーデルとの面会の為のアポイントメントを取ったのだった。
これは危険性を伴う行動ではあるが、高畑はネギ・スプリングフィールドの名前をまだ出してはいないし、ある意味現状で色々鍵を握っているとしたらそれはやはりクルト・ゲーデルしかいないのだ。
そしてオスティア記念式典も近いにも関わらずたった一日で折り返し連絡をよこして来た事に高畑は

「クルトの策士としての能力には気を付けないとな……」

と呟いたのだった。
そして場所はオスティア総督府総督執務室である。

「久しぶりだな。クルト」

高畑はポケットに手を入れたまま総督執務机に座っているクルトに声をかけた。

「久しぶりですね。突然どうしたのです?タカミチ、珍しいではありませんか」

クルトは仰々しく席から立ち上がり挨拶を返す。

「……要件は大体お前ならもう分かっているんじゃないのか?」

「それはそれは買いかぶりすぎですよ。なんの事やら」

クルトはわざとらしく肩を竦め両手を上げて答える。

「まあ……そういう反応をするだろうな。クルトの話術に嵌められるのは困るが……それをいちいち気をつけるのも面倒だ。はっきり言おう」

「ほう、それは助かります。私も忙しい身なので」

「クルト、ゲートポート破壊容疑で指名手配をかけられている赤毛の少年と7人の少女達が麻帆良学園の出身だと分かっているな?」

「分かっていたとしてどうだというのですか?私だけの意見で指名手配をかけたられはしませんよ」

「それぐらい分かっているさ。……分かっているものとして話を続ける。重要なのはその赤毛の少年が、英雄ナギ・スプリングフィールドとウェスペルタティア王国最後の皇女、アリカ・アナルキア・エンテオフュシアとの間にできた子供、ネギ・スプリングフィールドである事についてだ」

「おお、そうだったのですか?それは知らなかった」

「ああ、そうか。彼がゲートポート破壊の偽造映像を残され犯人に仕立て上げられたのはフェイト・アーウェルンクスの仕業だが、実際に指名手配にしたのはメガロメセンブリア元老院だというのは調べがついている。一つ目の話だが、オスティア記念式典での総督としての権限を行使してネギ・スプリングフィールドと7人の少女達の指名手配を解除して欲しい」

「くっはっはっは!私はあれが偽造だなどという証拠は全く知りませんよ。しかし……タカミチ、お前が来るとはな」

「返答はまだいい。まだ続きがある」

「ええ、どうぞ」

「ネギ・スプリングフィールドは、魔法世界の崩壊の可能性について気がついているぞ」

「!?何だとっ!?この事はメガロメセンブリアでも上層部の中の一部しか知らない……。タカミチ、お前も知らない筈だっ!何故!……まさかアルビレオ・イマがっ……」

ここでクルト・ゲーデルは突然取り乱した反応を顕にした。

「違う……。彼は独力で気がついた。それも全く驚きの方法でな。しかしやはりお前は知っていたんだな……。彼がオスティア終戦記念祭、それもナギ・スプリングフィールド杯に出場をすることはお前なら既に知っているだろう。俺が来たと言うからにはクルト、お前は彼に接触する気があったに違いない」

「フフフ……まさかタカミチ、貴様がわざわざそんな情報を持って出張ってくるとはな」

「教え子の前で少しは良いところを見せないといけないからな。……大方終戦記念祭の最後にでも彼を招待して、メガロメセンブリア元老院の事を教え唆し、仲間という名の傀儡として引き入れ利用しようと思ったんだろう?指名手配されている少女達を交渉材料にしてでも」

「久しぶりに会ったと思えば……随分抜け抜けとそんな根も葉もない勝手な事を言いますね」

「顔に出ているぞクルト」

「ッ!」

「らしくないじゃないか。冗談だ」

「ぐっ……お前に一本とられるとは私も動揺しているようだな……」

「クルト、お前がネギ・スプリングフィールドに今執着するのはタイミングが違う。それよりも廃都オスティアの休止しているゲートポートの確認をするべきだ。フェイト・アーウェルンクスは近いうち……例えばそのオスティア記念式典で各国勢力が集まる事で警備が薄くなる時を狙ってくるかもしれない」

「馬鹿な!?あそこには並の者では入り込めるわけが」

「並の者ではないからゲートポートを全部破壊できたんだろっ!!……お前がオスティア総督としてここの警備の力を充分理解しているだろうが、だからこそ過信するな」

「…………何もオスティアの事を知らないお前に何が分かるッ!!」

「分かるわけがないだろう!!だから確かめに行く!」

「はっ!くはははは!!貴様が確かめに行くだと!?流石は悠久の風の高畑・T・タカミチだなぁ!ふざけるなよっ!!」

「どっちがッ!!」

執務机が吹き飛びクルトと高畑は突如として殴り合いを始め

「私がッ!がぁっ!……どんな思いでッ!」

「ぐぁっ!……それがお前の選んだッ!」

双方会話をしながら強烈なストレートを繰り出し

「やってきたとッ!」

「道だろうッ!!」

……数分間に渡り得意の居合い拳を使うでもなく、神鳴流の剣を振るうでもなく、ただただ殴り合い、そこにあるのは大の大人の喧嘩、それだけだった。
そしてようやく頭に上った血がお互い下がって息が整うまで睨み合いが続いたところ

「クルト様!?一体何事ですか!高畑・T・タカミチ!一体何をッ!」

殴り合いの事態を聞きつけた部下が駆けつけてきたのだった。

「何でも無い!下がっていなさい!誰も入れるな!」

「!?はっ!分かりました!」

クルトが檄を飛ばし、直ちに入ってきた部下は退出し扉を閉めた。

「はぁ……はぁ…………いいだろう。タカミチ、要求はそれで終わりか?」

「はぁ……はぁ……いや、最後にもう一つ、人造異界の崩壊・存在限界の不可避性の論文の原本だ。これは……ネギ・スプリングフィールドから頼まれている資料でね……」

「ほう?……独力で……気がついたにしては順番がおかしいようですが……よく原本がある等と思いましたね。確かに現存するものに違和感を感じてもおかしくはありませんが……どこを探しても見つからない筈ですから」

「やはり……あったか……」

「フッ……なるほどなるほど、オスティア記念式典中の総督権限での彼等の指名手配の解除、廃都オスティアへの探索許可証の発行、人造異界の崩壊・存在限界の不可避性の論文の原本。確かに私でなければどれも不可能でしょうね。但し、私からも条件があります」

「何だ?」

「直接ネギ・スプリングフィールドに私も会わせて貰いましょう」

「その交渉は本人にするといいさ」

「はっ!どうやって!?」

「これだ」

そう言って取り出しで見せたのは超鈴音が作り出した端末である。

「何?そんなものでヘラス帝国と直接通信ができるとでも?」

「ああ、できる。試したほうが早い」

高畑は端末を起動させ、ネギ・スプリングフィールドとの個別通信を開始する。

「クルト、これに手を置け。通信方法は念話と似たようなものだ」

「いいでしょう」

《ネギ君、紹介したい人物がいる。オスティア総督クルト・ゲーデルだ》

《タカミチ?ラカンさんが言ってた通りオスティアの総督さんと会ってたんだね》

「まさか……本当に繋がっているだと……」

《これは失礼……初めまして、オスティア総督クルト・ゲーデルです。ネギ・スプリングフィールド君こんばんは、いえ、ヘラス帝国ならばこんにちはといった所でしょうか》

《初めまして、クルト・ゲーデル総督。ネギ・スプリングフィールドです》

《細かい話をしたい所なのですが、今それは省くとしまして、ネギ君、オスティアに来て私と会っては貰えませんか?直接話したいこと、見せたい事があります》

《……はい、構いません。元々オスティアには行く予定でしたしお願いします》

《ネギ君、指名手配の件、廃都オスティアの探索許可、例の論文の原本、全て解決したよ》

《ほ、本当!?タカミチ!ありがとう!クルト総督もありがとうございます!》

《……まだ指名手配は解除できませんがね……。協力はさせてもらいます》

《ネギ君、ちょっとまだ用があるからまた後で》

《うん、分かった!》

「声を聞いただけだとただの子供といった感じでしたが……本当に気がついているのか?」

「ああ、本当だ。それに話し方は関係無いだろう」

「……それもそうですね。しかしこの端末は何だ?念話のようで念話ではない。異常すぎる」

「詳しい事は分からない。作成者はネギ君の生徒の一人だ。気になるなら旧世界に直接行くといい」

「こんな物をただの女子中学生が?」

「そういう所なんだよ。麻帆良学園はな」

「旧世界とは思えない異常さですね。なるほど、確かにそんな場所なら不思議なことがあってもおかしくはないかもしれませんね」

「クルト、さっきの約束、強制証文で契約しないと駄目なんて事はないだろうな?」

「心配ならしておきましょうか?」

「いや……いいさ。そうだ、クルト、さっき流したが、この世界は本当に人造異界なのか?」

「は?人造異界だと気づいてたのではないのですか?その論文まで読みたいというのですから」

「いや、ネギ君はこの世界が崩壊する可能性はあるとは言ったが、論文の表題が人造とついているが、魔法世界が人造だと決め付けるのは早いと言っていた。驚いた事に彼の師匠もそう言っていたらしい」

「なっ……。子供の戯言ではなくその師匠までだと?それは一体誰ですか、やはりアルビレオ・イマ?」

「エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだ」

「不死の魔法使いだと!?ナギが倒した……はは、倒したのは嘘という事でしたか。流石はナギですね。それに人造ではないですか…………少々麻帆良学園に興味が出てきましたよ」

「クルト、それは重要な事なのか?」

「我々の間ではこの世界に住む人類・亜人間のうちメガロメセンブリア6700万人以外は全て幻想でしかないというこの厳然たる事実の前に為す術は無いという見解でしたが、それが人造でないとするとこの認識自体が根本的に間違っていると言うようなものなのですよ」

「幻想だって!?」

「この際ですから話しておきましょう。……魔法世界が崩壊すれば、仮に旧世界に脱出を図ってもメガロメセンブリア6700万人以外は結局全員消滅する運命にあるのです。これはナギやアルビレオ・イマも知っていた事です。しかしこの20年彼等は解決することはできなかったどころかナギに至っては何処かへ消えてしまった。ここで、かの不死の魔法使いの意味深な発言……重要でないと誰が言えますか」

「そんな事が……。それは重大な事だな……。いずれにせよ一度麻帆良学園に戻れば何か分かるかも知れない」

「完全なる世界の残党であるフェイト・アーウェルンクスらがゲートポートを破壊し尽くしておきながら、あの魔法災害から丁度20年経ち稼働する可能性のある廃都オスティアの休止中ゲートポートを狙わない訳が無いですね……これは私も確かに過信していたようです」

「当面の最大の敵は奴等だな」

「それは魔法世界共通です。ですがその次は……」

「それは後だ、クルト」

「分かっている。もし……この絶望的事実を覆せるというのならば……その後は必ずッ」

クルトは右手の拳をきつく握り締め何処かへの恨みを顕にした。

「クルト……」

「……フッ……それはそうと怪我は大丈夫ですか?」

「お前こそな。今日はこれで俺は一旦戻るとするよ。そうとなれば準備が必要だからな」

「私も記念式典前に仕事が増えた」

「……仮にもまだ子供の彼等に良いところを取られるのはまだ早いさ」

「当たり前だ。たかが10歳の少年に全てを任せられる筈も無い」

そのまま総督執務室を後にした高畑はホテルに戻ったが、激しく殴り合った為戻った瞬間龍宮真名に驚かれたのは余談である。
……こうして気がつけばメガロメセンブリア、アリアドネー、帝国の三大勢力がある一点に向けて動き出すこととなったのだった。



[21907] 51話 麻帆良の謎(魔法世界編11)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 20:15
―9月19日、13時頃、アリアドネー魔法騎士団候補学校―

昨日はマジ驚いた。
高畑先生が個人的に会いに行ったのがなんとオスティア総督だっつー話だからね。
その結果ネギ君達の賞金付きの国際指名手配もオスティア記念式典中に解除できて、ネギ君が読みたがっていた論文の原本もゲット、廃都オスティア探索の許可も取れる事になったらしい。
高畑先生スゲーわ。
アスナは「流石高畑先生ね!美空ちゃんもそう思うでしょ?」って予想通りの事言ってきたから同感つっといた。
で、いつオスティアに行くのかって話になったんだけど超急ぎで明日高速艇に乗って皆で出発スよ。
思い立ったが吉日って奴だな。
流石にテオドラ皇女殿下が一緒にオスティアに行くことはなくラカンさん含むネギ君達だけが個人飛空艇で向かうらしい。
大体明日それで出れば皆9月23日には着く予定。
で、それに当たってこのかはアリアドネー魔法騎士団候補学校を休学っていう形を取って……ゆえ吉はっていうと今まさに箒ラリーに出る所。
ちゃっかり私達、また魔法騎士団候補学校に入れてもらっちゃってラリーの様子をモニターで見れるんスよ。
上位6人までって事らしいからある意味3組目と4組目のペアの凄惨な妨害バトルになること間違いなしだな。

[[それでは栄えあるオスティア記念式典警備隊選抜試験を始めます!ではまず志願者の紹介を!]]

栄えあるのかー。

[[3-C委員長エミリィ・セブンシープと書記ベアトリクス・モンロー!]]

「委員長頑張ってー!!」

エミリィ委員長人気かーってかここもトトカルチョやってんのかい!!
そりゃ頑張れって言うわな……。

[[3-F、J・フォン・カッツェとS・デュ・シャ!]]

[[3-G、マリー・ド・ノワール、ルイーズ・ド・ブラン!]]

[[3-J、メアリー・クロイス、アンナ・ヴァンアイク!]]

この後も何組も点呼が続いて……最初組順に点呼してたのかと思ったらあちこち戻ったりして10を越えた始め最後に……。

[[そして最後に3-C、ユエとコレットのチーム!]]

出てきた出てきた。
何か凄い泥だらけなんだけど今の今まで練習してたのか?

「夕映、コレット!頑張りや~!!」

「ゆえ!コレットさん!頑張ってください!」

のどかはアリアドネー来てすぐゆえ吉の勇姿を見る訳スね。
のどかに会ってもまだ記憶が戻らないあたり、やっぱ少し時間的なものかきっかけが足りないんだろうな。

「ゆえ吉!コレットさん頑張れー!」

「夕映、コレット、頑張るアルよ!」

「はいです!」

「頑張りますっ!」

[[では各選手位置についてっ!…………スタートッ!!]]

レース開始スねー。
皆一気に鳩の群れみたいに飛んでった。
何か見てるとこの前南極に本気で飛んでったの思い出すわー。
ちょっとあの時必死だったのは忘れられない思い出だなー。

[[ご存知のとおりレース中は妨害自由!10箇所のチェックポイントを通過した後、ペアでスタート地点まで帰ってゴールです!!]]

10箇所のチェックポイントがあるってことは、裏を返せばある程度ルート無視してもOKって事なんだろうけど……どうなんだかなー。
魔獣の森はやめといた方がいいだろうけど。
スタートダッシュ決めて最初の順位状況はっていうと……。

[[現在のところ1位はエミリィ&ベアトリクス組、2位フォン・カッツェ&デュ・シャ組そして3位にはコレット&ユエ組!]]

丁度3組目までに入ってるからいけ……おお、4位以下が猛烈に武装解除乱射されてる!
マジコエー!!
なんつーかとりあえずは3位VS以下全員みたいな……。
逃げるに限るだろー。
実際よくまあ箒の上に立った状態でしかも後ろ見て障壁張りながら飛べるなー。

「ゆえ、凄い……」

「夕映は記憶が飛んでしもうてから学校の勉強が好きになったんよ」

「そうなんだぁ……」

親友ののどかは何か感慨染みてるけど、のどかも短期間の冒険で雰囲気少し成長したからなぁ。

……にしても市街に男子共が大量発生してるあたり……下から覗く気か……しょうもないスねー……。
武装解除の飛ぶ方向を注視しまくってるし……。
クレイグさんとクリスティンさんは午前中この事聞いて「ちょっと散歩出てくるわー」って言った瞬間アイシャさんにモロに沈められてたからな……女性ばっかの私達の前でその発言はマジ自業自得スよ……。

ゆえ吉達は結局埒があかないから加速して一気に距離を引き離す作戦にでたわ。
武装解除喰らった所でまー我慢して飛べばいいだけっちゃ飛べばいいだけだからなー。

[[都市外壁を越えた時点で先頭はエミリィ&ベアトリクス組!]]

「流石委員長!」

「よーし絶対1位取ってよー!!」

外野は気楽スねー。
後ろの方がもつれてたもんだから1位2位3位の間がそこそこ空いてる。
まあ数十秒とかそれぐらいの差だろうけど。

[[コースはいつも通り市街を抜けた後魔獣の森を大きく周り再び市街に戻ります!]]

魔獣の森では桜咲さんが鷹竜?の下位種一体を葛葉先生とザックリやって討伐済みらしいけど、別に一体しかいないって事は無いだろうから安全性的にはどうなんだろ。
どういう竜だったのか桜咲さんがあんまり乗り気じゃなかったけど、一応説明してくれた所によると常に風の障壁があるからなんたら剣弐の太刀の使用は必須とか一体どういう事やら……。
ま、要するに障壁を無視して本体を直接切れる攻撃らしい。
ちょいマジで信じられないレベルなんスけど……。
3位のゆえ吉達も加速した効果がようやく出てきて4位以下と少しずつ差が出てきてる。
ま、これなら余裕だろー。
しばらく数分間順位変動無しかと思ってたら……。

[[おおーっと!これはマズくは無いでしょうか!?4位以降が魔獣の森のショートカットを試み始めました!!]]

「げっ!マジかー!」

「危ないえー」

魔獣に出会わなければどうということは無いとか言うのは勝手だろうけど、もし会ったらどうするかとか考えてないだろー!
そんなにオスティア行きたいんスかー!
森の中にまではサーチャーは無いからどうなってんのかサッパリわからんけど変なもんを拾わないことを祈る。
……んで、また数分経ったと思ったら

「あ、あれは!?」

「げげっ!?」

[[これは竜種っ!?なんとチェックポイントを無視して1位のエミリィ・セブンシープ組の所にショートカットを図った集団が竜を連れて乱入したー!!]]

6人ぐらい出てきたけど……後ろにやっぱり変なのいるしー!!
しかもショートカットの仕方がレースの事完全に放置な感じでエミリィ委員長の所かい!

「あれは……この前の翼竜と同種です……」

「桜咲さん、それマジすか……」

「はい……よく覚えていますので」

「せっちゃん、皆危ないえ!」

教員の先生達が一応動くみたいだけど、栄えあるのか何なのか知らんスけど、その魔法騎士団の選抜試験で堂々とショートカット働くようなモラルじゃそもそもアウトだろー!

「あ、委員長!」

おわっエミリィ委員長とベアトリクスさん勇者すぎるっ!
竜種に攻撃魔法放って挑発して逃げてきた6人先に行かせた!?
1分ぐらいで2位はもちろんゆえ吉達もそこに何も知らずに追いついちゃうんだけど……。

「すいません、あなたが桜咲さんでしょうか?」

「あ、はい、そうですが」

「申し訳ないのですが教員の箒と一緒に出て貰えないでしょうか?討伐隊を用意する準備する時間が無くて……」

「せっちゃん!」

「はい、大体わかりました!私でお役に立てるならば!」

「感謝します!」

おおー、桜咲さん行くんだ……。
今日葛葉先生は明日の旅行手配とかでドネットさん達とここにはいないからなー。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月19日、14時13分頃、Silva-Monstruosa外周―

ユエと一緒に箒ラリーに出場して今3位!
この状況なら行けるよー!

「ユエ、これならいけそうだね!」

「はいです!」

……このままいけば大丈夫ーって思ってたら何あれっ!?
委員長にビーさん!?
何で竜種に追われてしかも逆走してこっちに来るの!

「コレット!1位の委員長が竜種に追いかけられている経緯はよく分かりませんが助けるですよっ!」

「う、うんっ!」

―加速!!― ―加速!!―

あっ!風の影響で体勢を崩して箒から落ちた委員長の所に竜種のブレスが飛んでく!

「あれはカマイタチブレス!!逃げて!切り刻まれるよーっ!!」

「キャ――ッ!!」

「お嬢様っ!!」

ビーさんが委員長を守る形で障壁を張って構えた……けどっ……!

「委員長っ!ベアトリクス――ッ!!」

―最大加速!!―

えっ!?

「ユエ――ッ!?」

ユエが最大加速で距離を詰めてビーさんと竜の間に入って白紙のままだった筈のネギ君との仮契約カードを盾にしてる!!

「ユエさん!?何故私達をっ!?いえ、何故あなたが竜種のブレスを防ぐ程の!?それはっ、例の仮契約カード!」

「くっ、ユっ、ユエさん駄目です!盾が持ちませんっ!」

「くぅっ!!」

凄い!防ぎ切れそうっ!
なら私は今のうちに委員長の箒を回収だよっ!

「アデアァ―――ット!!」

ユエ!防ぎきった上アデアットできた!
私も委員長の箒を確保っ!よしっ!
翼竜はブレスが防がれたからか様子見てる!

「魔法使いの従者!ユエ・アヤセ!!委員長!怪我は無いですか!?」

「は、はいっ」

「よかった。それなら行けるです!倒すですよ、この魔獣。いいですねっ!」

「な、何を言っているんですかユエさん!?私達がこんなのに勝てる訳がないでしょう!」

「そうです!下位種とは言え、あれはれっきとした竜種です!私達もショートカットして来た皆さんを逃がすので精一杯でした」

「そ、そうだよ!ユエ!委員長達助けるにしてもなんとかして逃げようよ!委員長、箒!」

「コレットさん!」

ユエがアーティファクトで何か調べてるけど……。

「この時期の鷹竜は凶暴で一度狙われたが最後、ただの箒では逃げ切れません。でも、大丈夫、この四人なら切り抜けられる筈です!今まで授業で特訓して来たですから!!」

うぅ……逃げ切れないっていうなら!

「うんっ!」「はいっ!」「分かりました!」

《また攻撃が来るです!障壁展開で散開退避!通信は念話でするです!》

《《《了解!!》》》

2人ずつに別れて翼竜に狙いを定めさせないようにして一定の距離で飛行して作戦を聞く時間を稼ぐっ。

《奴の特殊攻撃はあのカマイタチのみ。問題なのは常にその身に纏うあの風の障壁。私達程度の魔法では全てあれに弾かれるです。ですが、全方向に纏える訳ではありません。隙を突いて弱点の角に攻撃を与えることができれば一時的に気絶させられるです》

《つまり2手に別れて片方が攻撃を与え注意を逸らしている隙に接近すればいいのですね》

《そういう事です。コレット、ベアトリクスと一緒に障壁を全力展開しながら鷹竜の注意を引いて森の中に一旦入ってあの岩山を目指すです!森の中の木々が盾となるので二人ならなんとかなるです!》

《わかった!》《はいっ!お嬢様、気をつけて!》

《委員長は私と先回りして岩山に向かい氷槍弾雨を鷹竜の頭上から撃ち込むです!私がその中を縫って角に短剣を当てそこに白き雷を流し込むです!》

《分かりましたわ!》

《作戦開始です!!》

それでビーさんと一緒に翼竜に軽く魔法の射手を放って注意を引いて森の中に一旦入ったのは良いんだけど……。
わーわー!!
後ろで凄くたくさん木が吹き飛んでるよー!!

「わー!!なんとかなるって思いたいけど怖いよー!!死んじゃうぅー!!」

「うわぁぁー!!」

い……岩山まで後少し!

《準備OKです!二人とも、光を目指してまっすぐ!私が見えたら散開退避!》

《わ、わかったよ!》《はい!》

ユエが見えたっ!

「「散開退避っ!」」

よっし!

《ユエさん!行きますわよ!》

―氷槍弾雨!!―

《了解です!》

  ―フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ―

委員長が時間をかけて用意してた氷槍の雨が鷹竜の注意を作戦通り上方に逸らして、その中をユエが凄い箒捌きで接近!

 ―闇夜切り裂く 一条の光―
―我が手に宿りて 敵を喰らえ―

そのまま短剣を角に突き刺して!
強風で少し離れちゃったけどっ!

     ―白き雷!!!―

決まった!!
ユエの白き雷が鷹竜の片方の角に刺さった短剣に吸い込まれて直接ダメージ!

「うわっ!」

ユエは体勢を崩して地面に激突!
あ……翼竜の角は……折れたっ!
やったぁ!
翼竜はそのまま地面に倒れた!

「やった!やったよ!」

「いたた……復活までにそんなに時間は無いです。このタカトカゲが倒れてる隙に戻るですよ!」

「う、うん!」「ええ!」「はい!」

……もしあの時1人だけ囮になれば残りの3人は確実に逃げられたと思う。
でも、4人の力を合わせたから全員で逃げれた。
もうレースの方は駄目だろうけど、全員生きて逃げられて良かったー。

「はー、無事に逃げれたのは良かったけど、レースはもう駄目だねぇー」

「仕方ありませんわ」

「コレット、一緒にオスティアに行くと約束したのに……」

「ユエ、気にしなくていいよー。皆無事だったんだしさー」

「……はいです」

「ユエさん、コレットさん加勢して頂いたこと感謝しますわ」

「私からも感謝します。ありがとうございました」

「委員長、ベアトリクス、2人も他の皆を逃がす為に囮になったのですから気にする事はないですよ。無事で良かったです」

「そうだね」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月19日、14時28分頃、Silva-Monstruosa―

桜咲刹那は魔法騎士団候補学校職員の箒に一緒に乗って最大加速で魔獣の森に駆けつけたが……

「え?……はい、翼竜に襲われていた生徒4人はその翼竜を一時的に撃退したですって?」

「え?」

「桜咲さん、どうやら襲われていた4人は無事だったようなのだけれど……」

「いえ……一度撃退したという事は気性が荒くなっている可能性があります。ここまで来たなら討伐します」

「本当に任せて大丈夫?無理にやらなくてもいいのよ?こちらが頼んだのだし」

「大丈夫です。任せてください」

「悪いわね……ありがとう。もう見えたわ、どうやらあの鷹竜で間違いないわね」

「はい、飛べますのでここからは私だけで行きます」

「と、飛べるの?」

「はい!神鳴流剣士、桜咲刹那、参るっ!」

桜咲刹那は烏族のハーフ、白い羽を開放して飛び上がり、角が片方折れて既に目標を失い気性が荒くなっている鷹竜に接近し

「はぁぁぁッ!!」

―斬岩剣弐の太刀!!!―

まず翼竜の羽を狙って障壁無視の物理攻撃を繰り出し斬りつける。

「グォォォ!!」

片方の羽の付け根を切り裂かれうまく飛べなくなった鷹竜だが、攻撃をしかけた桜咲刹那にカマイタチブレスを放つ。

「遅いッ!」

虚空瞬動で簡単にブレスの射程から離れそのまま翼竜の背後に周り

―斬岩剣弐の太刀!!!―

「ガァァァ!!」

もう片方の羽にも斬りつけ、続けてもう一度斬岩剣弐の太刀を飛ばせるように心を研ぎ澄ませ気を練りながら、位置を移動し再度剣を放つ。

―斬岩剣弐の太刀!!!―

続けて素早く前脚と後脚に斬りつけ動きを完全に封じた上で、一点に留まり気を自在に操る感覚を研ぎ澄ませ、次の瞬間トドメを放った。

「この竜に罪はないが……済まないな……」

しばし黙祷を捧げた桜咲刹那は翼竜の血を浴びる事なく魔法騎士団候補学校の職員の元に戻った。

「討伐……完了です」

「ほ……本当に一人で倒せてしまうのね……」

「普段から生きるのに常日頃から他の生命の命を貰っているとはいえ……直接奪うというのはやはり…………」

「申し訳ないわ……」

「いえ……私が自分で決めてやったことですから……きちんと向き合わなければなりません」

桜咲刹那がいくら魔獣討伐に行き、竜種を倒した事を周りから凄いと言われても、手放しに喜べはしないのはこう言う事である。
寧ろあまり話題に出さないで欲しいというのが本音であろう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月19日16時頃、アリアドネー魔法騎士団候補学校―

うーん、とんだアクシデントというか、オスティアに行きたいというあまり危険を冒した数人はきつく説教をされる事になって連れてかれてったわー。
ゆえ吉達4人はうまく翼竜を気絶させて撤退することに成功してさっき戻ってきたんだけどこの4人には皆大歓声だったスよ。
4人は何で?って顔してたけどセラス総長がお出まししてその場を収集させるお言葉を述べた。
この選抜試験で選ばれたのはエミリィ委員長とベアトリクスさんを助けはしなかったものの元々2位だった2人と、翼竜を倒したゆえ吉達4人、あとショートカットを図ってない後続の人達で2位3位に入った4人に決定したわ。
6人までの筈が……10人に増えてるけど……いいのか。
それよか学校の先生と一緒に出撃していった桜咲さんは、翼竜どうしたのか知らないけどこっそり戻ってきてたな。
このかが心配そうに声かけて小さい声で二人して会話してるのが見えたけどちょい悲しそうな顔してた。
……やべースよ、この前多分私かなり空気読んでなかったなー!
竜自体が生きてる事には罪はないってのにそれを討伐した本人が超嬉しいなんて事あるわけないじゃんか……。
竜とかファンタジーって感じだけど、これ現実だからなぁ。
楓達がケルベラス大樹林の道中色々あったのは仕方ないにしてもそれとは少し状況が違うスもんねー。
謝っとくか……気にしてませんって言われそうだけど。

ゆえ吉は白紙だった仮契約カードの絵が復活して元に戻ったらしい。
記憶も少し戻ったような戻らなかったようなって感じだけどのどか達は喜んでたしもう少しで戻りそうスね。
オスティア行きはどうすんのかなーって思ったらゆえ吉はコレットさん達と一緒にアリアドネー魔法騎士団の一員として後から向かうって自分で決めたよ。
まあ端末はあるから連絡はしようと思えばできるし、指名手配が取り下げられるかもしれないとはいってもまだだからアリアドネーの庇護下にいること自体は悪くないだろうし、いいと思うスよ。
ドネットさん達も特にそれについて反対もしなかったし。
にしても1ヶ月ちょいの間に皆それぞれ新たな出会いがあったんだなーと思うと妙に感慨深い。
……さーて、私達はホテルに戻ってさっさと荷造りしないとスね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月23日、14時頃、新オスティア国際空港―

タカミチから連絡を受けた次の日、すぐにオスティアへの出発の準備を始めた。
テオ様にはわざわざその為の個人飛空艇を用意して下さった事と、今までお世話になった事のお礼を言ったんだけど「妾も楽しかったのじゃ。それにオスティア記念式典でまたすぐに会えるのじゃから気にするでない。またすぐに会おうネギ」って言ってくれた。
あとダイオラマ魔法球はオスティア記念式典に合わせて持ってきてくれるって。
まだ全然ラカンさんの領域にはどう考えても届かない。
新術を運用できるレベルまでに持っていくでもしないと今の僕の基礎力じゃ到底無理だ。
タカミチからは飛空艇に乗っている途中に人造異界の崩壊・存在限界の不可避性の論文の原本を送ってもらった。
実際読んでみたら、アリアドネーでセラス総長に貰ったのより遙かに詳しく書いてあった。
人造異界の崩壊についての実験法については魔力が込められているダイオラマ魔法球を魔力の無い空間に置いて放置することで観測した結果が述べられていた。
基本的に常に魔力は多い所から少ない所へ緩やかに流れていくという現象があって、特に周りに全く魔力が無い場合それは加速度的に早くなるらしい。
その現象は基本的に両方が同じ魔力の濃度になるまで続くだろうっていう事なんだけど、両方が近づくにつれて流出は遅くなる。
でも、遅くなったとしても魔力の多いほうが形を維持できなくなれば崩壊する可能性は十分にあるっていう事だった。
実際時間設定を数倍にしてあった筈の魔法球は時間差がどんどん無くなっていったところからもこれはほぼ明らか。
崩壊について決定的だっていうのは何処の資料かはわからないけど魔法世界の魔力の濃度をある一定の場所で調べ続けたデータ……多分オスティアなんじゃないかと思うけど、それがあって本当に僅かに薄くなっているのが数値で示されている事だ。
もちろん魔法世界が人造異界である可能性についてもちゃんと書いてあった。
この論文を書いた人は旧世界の魔法使いだったんだけど、まず魔法世界と旧世界ではあまりにも魔法生物の数、魔法植物について違いがありすぎることが指摘されていた。
次に旧世界よりも魔法世界の方が狭い事からこれがダイオラマ魔法球とその外との関係によく似ている事が指摘されていた。
他にも前に僕が思った最初の魔法の起源が古代ギリシャ語とかから始まっているとか色々な根拠からそれを裏付けるような事が書いてあって、自然発生するにしても旧世界からするとあまりにも異常な事と、例の魔法世界最古の王国旧ウェスペルタティア王国の黄昏の姫御子が「この世界が始まったのと同じ力でこの世界に息づく魔法の力を終わらせていくという神代の力」を持っているという伝説に関係性があると考えれば、魔法世界は人工的に造られたと考えるのが妥当で、当然崩壊する可能性がある筈だっていう結論だった。
確かにここまで読むと人造異界だと考えたほうが妥当だとは思うんだけど、「この世界が始まった力」っていうのが完全魔法無効化能力なのだとしたらそれは変だ。
確かめる術は無いけど、魔法無効化能力で魔力に溢れる世界が作れるとは到底考えられない。
大体それで簡単に世界を始められるなら魔法世界が崩壊する事も簡単に解決できることになる。
でも、それは行われていないんだからそれはできない可能性が高い。
その方法が失われているにしても、魔力のない無の状態から魔力を生み出すのに、魔法の術式も何もある訳が無いから。
少なくともやはり魔法世界崩壊の最も根本的な原因は魔力の枯渇という事でほぼ間違いなく、魔法世界が人造異界かはともかく、これについての裏付けが取れたのは大きい。

これからタカミチと合流して、約束してた話より先にまずはクルト・ゲーデル総督と会う。
オスティア記念式典まで時間はあまり無いから廃都オスティアの探索は始めるとしたら明日すぐ早朝からオスティア記念式典開催までの6日間を予定している。
何かがそこで掴めればいいんだけど……。

「ネギ!そろそろ出るわよ!」

「そこでぼーっとしとらんで、置いていくで!」

「あ、うん!今行くよ!」

個人飛空艇発着所を後にして新オスティア国際空港の出口に向かった。
そこで待っていたのは、タカミチと龍宮さん!

「やあ、皆久しぶりだね」

「ネギ先生達、久しぶりだな」

「タカミチ、龍宮さん、お久しぶりです!」

「高畑先生、迎えに来てくれてありがとうございます!」

「たつみー姉ちゃん、高畑先生久しぶりやな!」

「真名、高畑先生、久しぶりでござる」

「よぉー!タカミチ!老けたな!あっはっは!!」

ラカンさんはやっぱりタカミチの背中バシバシ叩いてる……あれ痛いんだよなぁ。

「ジャック……ナギと第一声が同じですよ……」

うん……クウネルさんのアーティファクトでの父さんも同じこと言ってたな……。

「とりあえず、ホテルまで一旦行こう。その後すぐクルトに会うけどいいかな、ネギ君」

「うん、もちろん!」

新オスティアの地図を一旦確認してみたら、何故か浮遊島なのにナイーカ漁港っていう漁港があったりして一体何なんだろうってちょっと不思議。
凄く広い自然公園や湖があったりと自然にあふれてる。
川もあって浮遊島の端からどんどん流れ落ちてるみたいだけどどうなってるんだろう……いくらでも湧くのかな?

「わー、綺麗な所ねー」

「そうですね。発着所に着く前から景色見て驚きました」

「こんな大陸が浮いてるなんて夢みたいねー」

「地球じゃあり得ないですよね」

アスナさんがこのオスティアで何かを思い出す可能性は高い。
それと同時にここにアスナさんを連れてくる事も危険だとは思う……けど、遠いところに居てもらうより近くにいてくれた方が自分でどうにかできるから安心だし、何より近くにいなかったことで後悔しないで済む気がする。
そのかわりいつフェイト・アーウェルンクスが出てくるか分からないから気は抜けない。
最強のラカンさんがいるとは言ってもそれは同じだ。
タカミチが取っていたホテルは国際空港から丁度正反対の地域にあるリゾートホテルエリアにある所だった。
そのまま部屋に連れて行ってもらって、まずは荷物を置いて、タカミチと同じでスーツに着替えた。

「それじゃ、ネギ君、行こうか」

「うん」

「ここはリゾートホテルエリアだから人目もあまり多く無いけど、アスナ君達はあまり目立たないようにね」

「はいっ!高畑先生!」

「がっはっは、任せとけよっ!」

「ジャックには期待してないです……」

あはは……ラカンさんはそこにいるだけで目立つからなぁ……。

「ネギ、行ってらっしゃい。久しぶりにスーツ……その身体で見るのは初めてだけど……似合ってるわよ」

「はい!アスナさん、ありがとうございます。行ってきます」

タカミチに連れられてリゾートホテルエリアとピンヘ湖を挟んだ所にあるオスティア総督府にやってきた。
行くまでの道は殆どが林道で空気がおいしい。
廃都オスティアとして地に落ちてしまったけど昔はここと似たような大小100の浮遊島があったんだと思うと勿体無い気がするな……。

「……こうしてネギ君と2人でどこかに向かうのはネギ君が去年ウェールズから成田空港に来たとき以来かな」

「そうだね、思い出してみると色々あったけどあっと言う間だった気がする」

「ネギ君もこの1年……エヴァの魔法球にいただろうけど最初に会った時に比べると見違えるようだよ」

「そうかな?」

「ああ、間違いない。さあ、着いたよ」

「……お待ちしておりました。クルト・ゲーデル総督がお待ちです」

係の人に案内されて総督執務室に着いた。
そのまま扉を開けてくれたから通させてもらって……。

「ようこそ、ネギ・スプリングフィールド君。オスティア総督クルト・ゲーデルです」

「初めまして、クルト・ゲーデル総督。ネギ・スプリングフィールドです」

「クルト、何か用意でもしてくるかと思ったら無いのか?」

「ありますよ。しかし最初から起動していたら……また怪我をする事になると思いましたからね」

「それは懸命な判断だな」

タカミチが……何かいつもと違う。

「ネギ君、それでは話の前に少し昔の映像をいくつかお見せしましょう」

「昔の映像?」

「ええ、それでは御覧ください」

そう言って指を鳴らした瞬間部屋の空間全体に映像が投映された。

「こ、これはっ!」

「クルト……」

「わかりますか?6年前の冬の日の出来事です……」

そう……6年前のあの冬の日、僕がピンチになったときには父さんが助けに来てくれるって思ってたから……起きた……罰だとすら思える出来事……。
火に包まれいつもの穏やかな村の姿は一瞬にして消え去った……。

「なっ……何故こんな映像が……」

「ネギ君、何故だと思いますか……?」

修学旅行の時、スタンさんが僕の目の前で封印した筈だったヘルマン卿という悪魔が「依頼を受けた」相手というのは……やはり……。

「クルト……お前まさか……」

「総督がこの映像を持っている……つまり所属から考えてメガロメセンブリアがあの事件の元凶だったと……そういう事ですか」

「おや?10歳の少年が叫び出すでもなく泣き喚くでもなく落ち着いていますね。これは驚きです。もう少し取り乱すかと思ったのですが……」

「賞金首付きの指名手配にされた時点でその可能性は心のどこかで気づいていた事です。そして協力すると言ってくださった総督がこれを僕に見せるということは……あの事件はメガロメセンブリア元老院全体の総意だった訳では無いということですね」

「ネギ君……」

「ほう、本当に物分りが良いようで……。タカミチが私に先に会いに来たことで予定が狂いましたが……。ネギ君、復讐したいとは思いませんか?真の敵に対して!」

「クルトッ!!」

「タカミチ!!……良いよ。僕は大丈夫だから。総督、僕の故郷の村を襲わせた黒幕を教えてくれて……感謝します」

「それでは復讐を?」

「いえ……僕は黒幕を暴きたかった。真実が知りたかった。ただそれだけです。……それに今明らかになりましたが、メガロメセンブリア元老院とは人々の集合体の筈です。特定の人物に直接何かした所で何の解決にもならない。もし、復讐をしたとしても、その後には本当にただ虚しさしか残りません。結局僕の心に刻まれたこの出来事は、どうあっても無かった事になりはしない。僕にできるのはあの出来事を忘れずに向き合い、前に進む事だけです」

……6年間メルディアナのおじいちゃん達でも解除できなかった石化魔法……僕もいつかまとまった時間が取れれば自分で解除の方法を探したい……。
マスターにも言われたとおり僕には治癒魔法の適正は無いけれど……魔法の理論開発だけなら勉強すればできる筈だから……。

「そんなっ!?悔しくはないのですか!」

「それは当然悔しいです!悔しくない訳がない!できればメガロメセンブリア元老院の闇を白日の元に晒せるなら晒したいです!でも、総督はそれができなていないのでしょう!?まだ立派な魔法使いの修行中でしかない身の僕が、ましてや政治家でもないのに今はどうしようもありません!」

「ぐぅっ……君に言われる筋合いはありませんが……私にそれができなかった事は認めましょう……。しかし、それが君ならばできるかもしれないのですよ!?」

「……僕が父さんの子供だからというだけで何ができるんですか!!そんなに甘くはないでしょう!!」

「…………」

「そうですか……しかし、なるほど。タカミチ、ネギ君の母上についてはまだ誰も何も教えていなかったのですか?」

母……さん……?

「ああ……教えていない。ネギ君、悪かったね……これは紅き翼の中での取り決めだったんだ……」

「じゃ、じゃあテオ様が僕に何か隠しているようだったのは……」

「そう、僕からまだ……言わないように伝えておいたんだよ。でも……もう今のネギ君なら大丈夫だとわかった。クルト、用意はあるんだろう?」

「もちろんです。ネギ君、見ますか?あなたの両親にまつわる物語を」

「……はい。お願いします」

「……それでは、始めましょう」

そして……総督が一つの映画を見せてくれた。
父さん達紅き翼が前大戦から活躍し始め……仲間を増やし……黄昏の姫御子……これは小さいころのアスナさん?……との出会い、そして更にその中で帝国と連合、2つの巨大勢力に挟まれて翻弄され続けてきたウェスペルタティア王国の王女、アリカ・アナルキア・エンテオフュシア殿下との出会い。
更なる調査を続けた先に明らかになる秘密結社、完全なる世界の存在。
奴らは連合と帝国の両方の中枢にまで入り込んでいた。
メガロメセンブリアのナンバー2、執行官までもがその手先である事が明らかになり父さん達は接触を図った。
しかし、そこで父さん達が罠に嵌めらる際に出会ったのは……あのフェイト・アーウェルンクスによく似た人物だった。
その後連合からも帝国からも追われる身となった紅き翼は辺境を転戦し、のどかさん達がトレジャーハントをしていた地域、アリカ・アナルキア・エンテオフュシア殿下が帝国の皇女と接触しに行った先で幽閉されていた夜の迷宮に救出に向かい成功。
ってこの人テオ様!?
小さい……しかもじゃじゃ馬っていうのはなんとなくわかる……今もそんな感じだけど……。
場所はタルシス山脈のオリュンポス山にある紅き翼の隠れ家……ここは……くーふぇさんが強制転移魔法で飛ばされた時に泊まった所だ。
小さいテオ様は掘立小屋って言ってるけど……結構大きいと思う……。
……ここからアリカ様は父さん達紅き翼と行動を共にし、反撃を始める。
数ヶ月に及ぶ戦いの後、舞台は世界最古の王都オスティア空中王宮最奥部、墓守り人の宮殿での最終決戦。
これが……例の最終決戦。
世界を無に帰す儀式……黄昏の姫御子……アスナさんは完全なる世界に捕まってたのか……。
帝国・連合・アリアドネー混成部隊が……あれ、この人若い時のセラス総長?……父さんにサイン貰ってる……。
父さん、クウネルさん、詠春さん、ラカンさん、あともう一人詠春さんに写真で見せてもらったことがある父さんの師匠っていうゼクトさんはフェイト・アーウェルンクス達数名の強力な相手……これは映像だけど……どれぐらい実際に近いんだろう……僕だったら相手にできるんだろうか……。
父さんは凄い……あのフェイト・アーウェルンクスを追い詰めて……造物主っていう黒幕の登場。
その一撃で強烈なダメージを父さん達は負った、けど、父さんとゼクトさんだけが造物主に立ち向かって行った……。
突然映像は父さんと造物主っていう大規模な魔方陣を展開した相手と戦って……杖を槍に変えて……凄い、その一撃で倒した。
でも、世界を無に帰す魔法の儀式は既に終わっていて発動してしまった……。
それをテオ様やアリカ様達が率いる艦隊が大規模反転封印術式を展開して封じ込めた。
その際アリカ様は凄く悔しそうな顔をして……どういう状況になっているか良く分からないけど黄昏の姫御子であるアスナさんを封印するからか……。
この辺り詳しくわからないけど……アスナさんが今こうしているって事はタカミチが何か知ってるんだろうな。
場面はすぐに……ここは今僕がいる新オスティア……父さんが「お師匠……」って呟いた所に現われたアリカ様2人の場面に移って……叩かれてるけど仲よさそう……多分この流れだとこの人が母さんなのかな……。
そうすると……僕は……父さんの息子ってだけじゃなくウェスペルタティア王国の末裔って事に……これが総督の言いたい事か……。
また場面が数時間前の父さんの最終決戦に戻って……ってこの掻き消えた人ゼクトさんに似てる……?
2600年の絶望を知れ?どういう事だ……。
もしかして造物主って父さんが完全に倒した訳じゃないのか……?
その後また場面は戻りどこかの酒場……詠春さんがゼクトさんが亡くなった事を言って……クウネルさんが父さんがそれについて言おうとしたのを遮って……。
クウネルさんはゼクトさんと最初から知り合いだったみたいだけど……一体2人は何者何だろう……。
麻帆良に戻ったら色々聞きたい。
マスターにも……。
次の場面はアリカ様の所に移って……報告に現われたのは小さい時の総督ともう一人はガトーさんっていう人……。
アスナ姫封印直後から崩壊が始まるって……とうとう前から聞いていた大小100の浮遊島が崩落を始めるのか……。
アリカ様は指揮を取って市民の避難誘導を始めた。
広域魔力消失現象のせいで、辺り一帯で魔法が使えなくなった……けどアリカ様はその中でも……無効化されない魔法が使える!?
これがウェスペルタティア王国の王家の魔力なのか……。
だとすると僕にも使える可能性があるって事になるけど……。
結局王都を中心とする直径50km圏内は高音さんが説明してくれた通り以後20年間にわたり魔法も使えない不毛の大地と化す事を代償に世界は救われた……。
犠牲者の数は人口の3%……状況的には奇跡的な数値だけど……それでも相当多いだろうな……。
その後アリカ様は汚名を着せられ、メガロメセンブリアに逮捕、裁判にかけられ即座に2年後の処刑が決定っ……。
そのまま父さん達はアリカ様を救い出す事もできずに処刑執行間近に……。
メガロメセンブリア元老院議員が、拘束されているアリカ様に黄昏の姫御子と共に封印された墓所の最奥部への至る方法を聞き出そうとして……世界を滅びから救う為……?アスナさんを救う為……?
この2年の間にメガロメセンブリア元老院は魔法世界の崩壊について気がついたという事なのか……?
だとすると……まさか……人造異界の存在限界・崩壊の不可避性についての論文を書いたのは地球の魔法使いでもありながらオスティアに関係していた人物だったのか……。
そうなら論文の不完全版だけを世に残し……オスティアの上層部に原本を残したと考えると辻褄が合う……。
オスティアがメガロメセンブリア信託統治領になったのは大戦後だから……。
父さんは刑の執行直前までアリカ様に言われた無辜の民を救えというのを実行し続けて……それが地味な活動だって言ってクルトさんが怒ってる……。
そして刑の当日、アリカ様は魔獣蠢くケルベラス渓谷の谷底に落とされる残虐な処刑法で……自分から落ちて……!!
場面は兵士として紛れ込んでたラカンさん達に移って……詠春さんやクウネルさん、ガトーさんも現われた!
ここに父さんがいないって事は落ちたアリカ様を助けたのは……!!
父さん……ちゃんと助けに来たんだね……。
魔力も気も使えない谷の中を走ってアリカ様を抱えたまま魔獣から逃げながら……谷から脱出。
父さんがそこでアリカ様に夕日を背景にプロポーズして……アリカ様もそれを受けた……。
一方処刑に来ていた軍の人達は紅き翼の皆に倒されたのか……。
ガトーさんの技ってタカミチと同じだ……。
最後にタカミチと総督が会話するシーンで終わり……か。

アリカ様…………母さんはとても強い人だった……。
皆教えてくれも良かったのに……僕は母さんが災厄の魔女と呼ばれていても気にしない……。
父さんは……ちゃんと最後に母さんを助けに来たし、やっぱり思ったとおりのヒーローだった。
その二人が結ばれて……。
……それを知れただけでも、良かった。

「いやぁ~、何度見でもこの件はいいですねぇ」

「総督……この映画は……」

「ええ、ご心配なく、この映画はほぼ事実ですよ。ナギとアリカ様、お二人のみの場面も本人達への綿密な取材のもと作りましたから」

「そうですか……」

「俺も見たことが無いシーンが入っていたな……」

「総督、僕が客観的に重要な存在だというのはよく分かりました」

「おわかり頂けたようで何よりです。大英雄の息子であり、世界最古の王国の血を引く最後の末裔の一人ですらある。その2つは対外的に見て大変な価値があります。ネギ君がその気ならば本当は是非仲間になって頂きたい所なのですが……」

旗印になれと……そういう事かな。

「しかし、私からもネギ君に聞きたい事があります。どうして魔法世界の崩壊の危機に、魔法世界に来てから1ヶ月程度のあなたが気づいたのですか?非常に興味があります」

メガロメセンブリア元老院議員でありながらこの事を聞いてくるという事は魔法世界の崩壊についてなんらかの対応をしようとしているのは間違いない。

「……分かりました。説明します。まず魔法世界と旧世界では……魔力の色に違いがあります」

「魔力の色?」

「実演するので見ていて下さい」

―魔法領域展開 出力最大!!―

「……この魔法障壁の一種ですが、本当に僅かに桃色がかっているんですが……」

―魔法領域 出力抑制―

「……これでほぼ白色に戻りました。特に色を付けるとかそういう魔法ではないのは信用してもらうしかありません」

「それが拳闘大会でよく使っている奇妙な障壁ですか……。ええ、色があるという事については分かりました」

「ネギ君、それはエヴァから教わったんだね?」

―魔法領域解除―

「うん、マスターから教わったものだよ。説明を続けると、魔力の色が、魔法世界が桃色だとすると旧世界は緑色をしているんです。この違いからウェールズのゲートからメガロメセンブリアのゲートに移動する時に魔法世界の魔力が旧世界に流出していると感じられたんです。そして、最初こちらへ来てすぐにゲートポートが11箇所破壊された事から、世界と世界の繋がりを絶てば当然魔力流出が止まる、と考えたんです。結局犯人はそれが目的ではないともう分かりましたが。あとは人造異界の存在限界・崩壊の不可避性についての論文がある事を元々知っていた事からそれらの関係性を推測してそう考えました」

「……魔力の流出を独力で感じられる……そんな例は聞いたこともありませんね……。崩壊の可能性について気づいた経緯は分かりました。なるほどなるほど、確かにこれは驚きです。しかし……魔力の枯渇という魔法世界崩壊の根本的原因、これを解決する手立ては流石のネギ君でも無いでしょう?」

何か……今のは引っ掛かるような…………何だ……。

「魔法世界崩壊の根本的原因…………」

思い出せ……思い出せ…………。
根本的……根本的……魔法世界の……根本的な問題は……解決する……?
何故だろう……誰かから最近そんな事をどこか海の上で言われたような……。

「魔法世界の根本的な問題は解決する……」

「何?」

「ね、ネギ君……?」

「つい……最近、魔法世界の根本的な問題は解決すると誰かに言われた気がするんです。唐突にこんな事を言ってすいません……」

「それが本当ならば私も是非信じてみたいものなのですがね。私の計画もそうであるならば最初から練り直さねばなりませんし。それは置いておくとして……もう一つ、魔法世界が人造ではないとネギ君は考えているそうですが、それは一体どういう事ですか?しかもあの不死の魔法使いもそのように言ったそうではありませんか」

「魔法世界が火星に位相を異にして存在する異界というのはほぼ間違いないと思います。ですが、もし人造の場合、それを仮に造る手段があったとして実行するための魔力は一体どこから来るのか?とマスターは言っていたんです。まさか何も無い所から魔力を作り出すなんて言うことが本当に可能なら別ですが……。それに今説明したとおり、魔法世界と旧世界では魔力が違うんです。だから旧世界の魔力で魔法世界を作り出すとは到底考えられません」

マスターとその話をした時確か……。

「確かに……常識的に考えてそれは尤もです。世界の始まりと終わりの魔法でこの世界は始まった……と伝説では言われていますが……」

「…………」

「それと……その話をマスターとしている時にグレート・グランド・マスターキーというこの世界の謎に関係すると思われる単語を幽霊……さんから聞いたんです」

マスターが知ってる幽霊さんって謎が多いような……。

「グレート・グランド・マスターキー……?ネギ君、それは本当にエヴァから聞いたのではないのかい?」

「うん、それは間違いない。マスターがたまに話していたんだけど、マスターより数倍長生きで、僕の色違いみたいな幽霊だって言ってた。それで……これは言わないほうがいいのかもしれないけど……その幽霊さんのお陰でマスターは真祖の吸血鬼じゃなくなったらしいんだ」

「真祖でなくなるだと!?そんな馬鹿な……」

「そ、それは本当かい?」

「本当かって言われても……タカミチはマスターのどの辺が吸血鬼に見えたの?全く闇の気配なんてしなかったでしょ?」

「ああ……僕もエヴァの魔法球でお世話になった事があるから交流はある方だしね……全く闇の気配がしなかったどころかどちらかというと光って感じだったな……。そういえば血も要求された事はなかったし……。ん……ちょっとまったネギ君、その幽霊って本当に幽霊なのかい?」

マスターが光って感じなのはタカミチも同じ意見か。

「うーん、それは分からない。普段はずっと引き篭っているって言ってたし……」

「引き篭っている…………エヴァの皮肉だとすると隠れてるって所か……。クルト、麻帆良学園創設時に現われたという伝説の翠色の精霊の話は知っているか?」

精霊?

「……私はそんな話聞いたことがありませんが……どれどれ、少し調べてみましょうか……」

総督はモニターを開いてどこかに接続し始めた。

「タカミチ、翠色の精霊って?」

「一説には麻帆良の神木の精霊だ……と言われているんだが見た者がいない眉唾ものの噂レベルの話しでね」

「神木の精霊……?神木ってあの高い木の事?」

「ああ、そうだよ。神木・蟠桃、種別、樹齢全て不明、膨大な魔力を内包していると言われ、その証拠にあちこちに魔力溜りを形成し、22年毎に大発光する木だ」

そういえばあの木に登ると何だか新鮮な気分になったような……。
魔力溜りを形成……?

「……分かりました。確かに旧世界麻帆良学園創設時1890年にそのような精霊がいるのではないかという報告があったようですね。ただ、それを見たと言った初代学園長は魔法関係者ではなく一般人でしたが。実際特に神木を調べてもそれらしいものは確認できなかったようですね。ついでに不死の魔法使いについても少し調べてみましょう……」

「確かにネギ君が言うとおりならエヴァの事を調べた方がいいな……。僕が会った時点で既に闇の気配は無かったからね……。もしそのエヴァの言う幽霊というのが精霊で、その謎の単語が魔法世界と関係するのだとすると重要な可能性が。…………それにしても翠色……ん…………まさか」

「タカミチ、どうしたの?」

「いや……ネギ君が麻帆良に来る数ヶ月前に翠色の髪の毛をした小さなホムンクルスをエヴァが夜の警備に連れてきた事があってね……一時期麻帆良に侵入してくる術者達に強力な魔力封印をかけ続けた事があるんだよ……。僕達でそれを調べた事があったんだが、魔力封印にしては何らかの術式をかけた跡も見つからない異常なものだったんだ。エヴァと学園長の合作という事で納得してはいたんだけどね……今思うとあれはおかしいな……」

「な……なにそれ……」

「不死の魔法使いの情報で報告内容が変わった時期がありますね。1903年以降、闇属性の魔法から一転、光属性の魔法を多用するようになった……ようです」

実際マスターは光の魔法が得意だからその通りだけど……。

「エヴァは一度昔麻帆良に来たと聞いた事があったが……麻帆良創設と時期がかなり近いな……」

「その精霊というのが不死の魔法使いに何らかの形で接触した可能性がありますね」

「ああ、いよいよ麻帆良に一度戻ってきちんと調べた方が良さそうだな……」

「もし……もし、この世界の絶望を覆せる手がかりがあるならばそれは確認する価値が十分にありますね………」

「タカミチ、僕が来る数ヶ月前だったら茶々丸さんってその時いるんだよね?マスターと一緒にいたなら何か知ってるんじゃないのかな?」

「!……そ、そうか……そうだね。いつも茶々円君を連れてきたのは茶々丸君だったな……」

「茶々円?」

「それが小さなホムンクルスの名前さ。ホテルの茶々丸君と限定通信をしよう」

「うん、繋ぐね」

「クルト、この前と同じだ」

「それでは失礼して……」

まさか……この通信であんな事が分かるとはこの時思いもしなかった……。

《茶々丸君、君に聞きたい事があるんだがいいかい?》

《茶々丸さん、お願いします》

《高畑先生、ネギ先生、何でしょうか。私に聞きたい事とは》

《……神木の精霊、翠色の精霊の存在、又は……茶々円の正体を知っているかい?》

《申し訳ありません……それについてお答えすることはできません……》

え!?

《茶々丸さん!どうしてですか!?》

《口外しないようにとマスター、それと超から言われているのです》

ここで超さんも!?

《超君も絡んでいたのか……。茶々丸君、答えられないという事は知っているという事だと解釈できるが、どうしても駄目かい?》

《茶々丸さん、教えてください、お願いします!》

《ね……ネギ先生……そんなに……知りたいのですか?》

《はい、知りたいです!魔法世界の崩壊に関係する重要な事かもしれないんです!》

《ど……どうしても……ですか?》

《どうしてもです!》

《う……うぅ……分かり……ました。ネギ先生……そこまでお気づきになられたのならお教えしましょう……マスター、超、許してください……》

凄く悪い気がするんだけど……。
というか茶々丸さん全部知ってたんだ……。
凄く身近にいたのに盲点だった……。

《お願いします!》

《……茶々円の中身は翠色、神木の精霊です。また、相坂さんも精霊です……。更に実は……マスターも一部……精霊なのです……》

《えええええっ!?》

マスターが精霊!?
それに相坂さんも!?
もう何が何だか……。

《な……あ、相坂君は幽霊じゃないのかい?それにエヴァも……何なんだ一体……》

相坂さんが幽霊!?

《失礼、クルト・ゲーデルです。聞いていれば、その神木の精霊とは一体どれ程の力を持っているというのですか?》

《ま……魔法世界の崩壊についての問題がもう既に解決する段階にはあるぐらいかと……》

《そんな馬鹿な!?一体どうやって!?》

《私もそれは聞いただけなのですが……に……2本目の神木が既に……旧世界の火星に定着しているそうです……》

《《《………………》》》

《マスター、超……申し訳ありません……戻ったらどんな罰でも受けます……》

え……えっと?
どういう事なんだろう……火星に2本目を定着ってどうやって?

《あ……あのー、茶々丸さん、2本目の神木が火星に定着って……ど、どういう……?》

《2001年の夏ごろに地球から火星に向かって宇宙空間へ打ち上げたそうです。詳しいことは私にも分からないのですが……》

《ま……まさか……2001年の夏というとあの大停電と南極からの謎の飛行物体の確認情報というのは……》

《あ、それ僕も知ってるかも……。UFOが飛んでったって話》

《ば……馬鹿な……。し……しかし、その木が火星に定着したのを百歩譲って信じるとして、その木に一体何ができると……》

《……半永久的に魔力生産ができるようです……原理は光合成と似たようなものだと思われます。但し今は位相が異なるでしょうが……》

《は、半永久的ってあの神木にそんな効果が……。そ、総督……タカミチ……魔力の枯渇問題ってもしかして……》

だから魔力溜りが形成できるのか……。

《ああ……正直信じられないけれど、誰も知らないうちに魔力の枯渇問題は解決されつつあった……という事になるね……》

《そ、その木が火星に定着している場所は、一体どこなのです!?》

《……申し訳ありません……そこまでは私も知りませんので……。くれぐれもお願い申し上げますが、この事は他言無用でお願いします。事実を知っている人間は地球でもたった数名しかおりませんので……》

《ぐ、具体的には一体誰なのですか!?》

《人間に限定すれば……恐らく……学園長とアルビレオ・イマ……詳しく知っているかどうかわかりませんが近衛詠春……そして一番詳しい超だけかと》

一番詳しいのが……ちょ……超さん……?
それに人間に限定って……。

《たったの4人だと……しかも紅き翼の2人が……。し……しかしさっきからその超というのは一体誰なのですか?》

《……クルト、この端末の製作者だ》

《僕の生徒……です》

《私の生みの親でもあります。……これは恐らく最重要機密です。重ねて申し上げますが、他言しないようお願いします……》

《ああ……大体今ので謎が解けた気がするよ……。ありがとう茶々丸君》

《あ……ありがとうございました、茶々丸さん》

《情報提供感謝します……》

凄く驚きすぎて、寧ろ呆れちゃうぐらいだったけど、魔力の枯渇による魔法世界の崩壊という根本的な問題はどうも解決しそうという事が分かった……。

「いやはや……これは重大という言葉で済むレベルの話ではありませんよ……。私が進めてきた計画はそもそも意味がなかったようなものです……」

「全く驚きだな……。少なくとも今俺達にできる事は……」

「廃都オスティアのゲートポートの確認とフェイト・アーウェルンクスの何らかの計画の阻止……だね。多分精霊さんが僕に言ってきたグレート・グランド・マスターキーもどこかで関わってくるんだと思う……」

「ふむ……そうですね。やはりゲートポートを確認するのは必須のようです。崩壊から免れる可能性があるにも関わらずフェイト・アーウェルンクスら完全なる世界の残党がやる事と言ったら、もう一度世界を滅ぼそうとする事しか考えられません。これは排除しなければならないでしょう」

「明日から探索開始だな」

「タカミチ、探索許可証を渡しておく」

「ありがたく受け取っておくよ、クルト。お前の精鋭部隊で調査隊は組まないのか?」

「それはやまやまですが……オスティア記念式典、それも20周年であるのにかかわらず、その前に要地である廃都オスティアに我々が公的に入るとなると明らかに協定に違反しますし、仮に組むとしても今から魔法世界一の危険地帯へ調査に赴く人員を選抜するだけで時間がかかります。上位種の竜までもが大量にいる所ですからね……」

「そういえばそうだったな……。確かに上位種の竜では並の手練では駄目だろうな。それこそネギ君達並でなければ」

「総督、許可証の手配ありがとうございます!」

「いえいえ、こちらこそネギ君と直接話せたお陰で予想以上どころかこの上なく重要な事が分かりましたから。これくらい安いどころか寧ろ何かお礼をして良いぐらいです。もちろん、オスティア記念式典が始まったらすぐに指名手配を解除することをお約束しましょう」

「お願いします!」

総督の表情がかなり明るくなってる……確かに今までずっと悩んでた事が一つ解決しそうなんだから嬉しいだろうけど。

「クルト、そう露骨に明るい表情になると逆に何か企んでるように見えるぞ」

「失礼な奴だな……タカミチ。お前にもこの重要性が分からないわけではあるまい」

「ああ、分かっているさ。さ、今日はもう映画を見ていたから随分時間が過ぎている。ネギ君、戻ろうか」

「うん!総督、失礼します!」

「クルト、またな」

「ええ、またお会いしましょう。ゲートポートの調査が上手くいくように期待しています。私もフェイト・アーウェルンクスらに備えて警備の強化を進めておきましょう。もちろん今日のことは絶対秘密でお願いしますよ」

「はい、それはもちろん」

「分かっている」

こうして、僕はこの日父さんと母さん、紅き翼の事が分かっただけでなく、とんでも無い事まで分かった。
ホテルに戻ったらドネットさん達も皆既に着いててかなり大人数になってた。
茶々丸さんは僕と視線が合って凄く取り乱してたから、こっそり絶対口外はしない事と、教えてくれた事にありがとうございましたって伝えておいた。
……それでこの後、アスナさんとタカミチの3人で約束通り話をすることになったんだ。

「高畑先生、話っていうのは?」

「今から話すよ。アスナ君落ち着いて聞いて欲しい。まずは少し歴史を話そうか。アスナ君も魔法世界に来て22年前に大戦があったのは知っているかな?」

「はい。大分裂戦争っていう大きな戦があったっていう……」

「そう。その戦争での2つの大きな勢力、帝国と連合その間に挟まれて翻弄され続けた王国がある。その名をウェスペルタティア王国。アスナ君はね、そこのお姫様、黄昏の姫御子なんだ。本名はアスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシアという」

「アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシア……。その名前……夏休みが始まるぐらいの時に夢で……。私が……姫……」

その頃からもう思い出していたんだ……。

「麻帆良にいた時から思い出していたのかい……。最近他にも夢を見たりすることがあるよね?」

「は……はい。小さい私がなんだかネギのお父さんやクウネルさん達と一緒にいる夢です」

「その夢は全て昔アスナ君にあった出来事なんだよ」

「ネギの言った通り……あの夢は全部本当にあったこと……なんですか」

「そう……。一度話を戻そう。アスナ君は大分裂戦争中、ナギ達が向った戦場にいあわせた事があってね。それが最初の出会いなんだよ。僕はその時はまだ一緒ではなかったけれど」

「私が戦場に……?」

「黄昏の姫御子、完全魔法無効化能力、アスナ君自身も体質については知っているよね。それを……言い方は悪いんだけど……戦争中に利用されていたんだ」

「…………」

「その場ですぐにアスナ君を助ける事はナギ達にもできなかった。大分裂戦争の間に、裏から戦争を手引きしていた連中、完全なる世界という組織にアスナ君は捕まってしまったんだ」

「わ……私が捕まった……」

「厳密にはウェスペルタティア王国の上層部が完全なる世界の一派だったからんだけどね……。そこでも最終決戦の際に世界の始まりと終わりの魔法というものの発動に利用されたんだ」

「それで起きたのが……広域魔力消失現象なんだね……」

「そうだ、ネギ君。残念ながらその最終決戦の際、アスナ君は反魔法場ごと封印される事になってしまったんだ」

「私が封印……?」

「助けられたのは……その2年後以降……なの?」

実際2年後すぐだとは……アスナさんの身体年齢を考えるとおかしいからもっと後なのかも……。

「さっきの映画から推測したらそうなるか……流石だね、ネギ君。その通り、アリカ様を助けだしてから、封印されていたアスナ君を助ける事ができるようになった」

映画でメガロメセンブリア元老院議員が墓所の最奥部への行き方を聞いていたからそうじゃないかと思ってたけど……。

「高畑先生、そのアリカ様っていうのは?」

「僕の母さんです」

「ええ!?ネギ、あんたお母さん分かったの!?」

「はい……さっきクルト・ゲーデル総督の所で映画を見せて貰ったんです。それで僕の母さんの名前はアリカ・アナルキア・エンテオフュシアと言います」

「なによーその映画、私も見たいわよ!ってエンテオフュシア……?」

「タカミチ……僕とアスナさんには血縁関係があるって言うことなんだよね?」

「ネギと私に血縁関係!?」

「直接……とは限らないけれどね。その辺りはアリカ様が詳しく知っていらしたんだけど……実際の所良くわかっていないんだ」

「そ……そうなんだ……」

黄昏の姫御子というのがどれ程の重要性がウェスペルタティア王国にあったのかを考えると……あるいは……。

「じゃ、じゃあ……私ってネギと親戚って事なんですか?」

「そう……なるね」

「そう……なんですか……。なんだか不思議……」

「そうですね……アスナさん」

「初めて会った時は赤の他人だと思ってたのに」

「僕も……そう思いましたよ」

「それで、さっきの封印の件だけど……アスナ君、落ち着いて聞いてね」

「は、はい」

「アスナ君が封印されていた期間は1983年から9年を超えていたんだ」

「9……9年も……ですか?」

9年……封印の効力によるけど、だからアスナさんの身体的年齢は成長していないのか……。

「ああ、そうだ。封印から助けだしたのはナギと……ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグという僕の師匠。この写真を見ると良いよ」

「父さんと……ガトウさん……」

「こ……この渋いオジ様夢に出てきたわ……」

「アスナ君が助けられた辺りの話は僕も師匠に聞いただけだから詳しくは知らないんだ。寧ろアスナ君が思い出した方がはっきりした事がわかるかもしれないね……。しばらくは3人で旅をして砂漠なんかで生活したと聞いたよ」

「砂漠……その時の夢も見た気がします……。ネギのお父さんが夜空の星が綺麗だって……。ガトウさんっていう人はネギのお父さんが持ってきたネズミみたいの……を……」

思い出し方が変わってるな……。

「その夢も見ているんだね……。その後僕も高校を卒業して師匠とアスナ君とナギに合流して一時期行動を共にした事があるんだ。ここからは僕も実際に知っている事だよ」

「高畑先生も私と一緒に……」

「タカミチ、高校ってガトウさんのお弟子さんだったのは……」

「僕は大戦が終わった後数年して麻帆良学園に通う生徒だったんだ。師匠の弟子だったのはその大分前からだよ」

「そうなんだ。あ……話の途中でごめん、タカミチ」

大戦期からガトーさんとタカミチは一緒にいたみたいだしやっぱりそうか。
タカミチも生徒だった頃ってあるんだなぁ……。

「いいよ。そんな中、一度ジャックを除く紅き翼の皆、ナギ、詠春さん、アル、師匠と僕である港町に集まった事があるんだよ。そこで僕はアスナ君に咸卦法のコツを教えて貰ったんだ」

「私が高畑先生に咸卦法のコツを!?」

アスナさんが咸卦法を使えたのは昔できたことがあるからだったのか……。

「ああ……そこは少し事情があってね……。その後、ナギ、アル、詠春さんとはそれぞれ別行動になり、師匠とアスナ君と僕とでの3人での行動になった。そしてしばらくして入ってきた情報にナギが行方不明になったという事、ほぼ同時期にアルにも連絡がつかなくなったという出来事があった。1993年の事だよ」

「その時父さんが死んだっていう噂が流れたんだね……。それにクウネルさんにも連絡つかなくなったんだ……」

「アルは結局麻帆良学園の図書館島にいたというのがこの前今更分かったけどね……。当時その事を知った僕達はとてもショックだったよ。まさかナギが消息不明に……ましてや死亡だなんて信じられなかった。その後僕達はナギを探す事を目的の一つに入れて旅を続けたんだ……」

「タカミチも父さんを……」

「結局何もつかめなかったんだけどね……。それから1、2年ぐらいして……アスナ君、もう一度言うけどここからは落ち着いて聞いて欲しい」

「わ……分かりました、高畑先生」

「ああ……今度は目を離した隙に師匠が何者かに襲撃を受けてね……亡くなったんだ……。僕とアスナ君の目の前でね……」

「え……」

タカミチの師匠ってそんな気はしていたけど亡くなってたんだ……。

「そ……そんな……」

「続けるよ。この後僕はアスナ君と共に旅を少し続け、雪の降る冬のある日、日本の麻帆良学園に行くことにしたんだ。当時アスナ君は7歳近かった」

「麻帆良学園に……」

「この時師匠から僕は受けていた遺言があったんだ。アスナ君の記憶を封印するように……と……」

「私の記憶を……封印……?」

「アスナ君はその時まだ幼くてね……精神的ショックが強すぎたんだ……。突然こんな事を言って混乱するかもしれないけれど、僕はそれまでのアスナ君をある意味で殺してしまった……。今まで黙っていて本当に悪かった……アスナ君。許されるような事ではないと分かっている……」

タカミチがアスナさんに頭を下げた……。

「た、高畑先生!そんな……やめて下さい!」

「タカミチ……」

「…………」

「高畑先生、私はちゃんと……今思い出そうとしてます。少し時間がかかっちゃいましたけど、辛い思い出があっても、今なら……大丈夫です。思い出しても私は私のままです」

「アスナさん……」

「アスナ君……。僕を恨んでもいいんだ……今までずっと騙して来たようなものだ……」

「そんな事……無いです!高畑先生は私を麻帆良学園に連れてきてくれた時に面倒見てくれました!この鈴の髪飾りだって……!あれが全部嘘だった訳無いじゃないですか!」

「…………済まない。そうアスナ君に言って貰えると……救われるよ……」

タカミチがたまに寂しそうな顔をしたり、遠くを見るような顔をしていたのはいつもそんな事を考えていたのかな……。

「高畑先生……ありがとう……ございます。私、麻帆良学園に連れてきて貰って本当に良かったです。後悔なんて全然、全く、これっぽっちもしてません。ありがとう。……ありがとう。高畑先生」

アスナさんがタカミチにそっと抱きついた……。
今までじゃ絶対あり得なかったのに……今は凄く自然……。

「アスナ君…………ありがとう」

タカミチも泣いてる……。
……僕も……つられて涙が出てくるな……。
そんなに長い時間じゃないけど落ち着いた所でまた話をした。

「高畑先生、私の苗字の神楽坂って……」

「アスナ君の戸籍を作る時に師匠の名前を借りて来たんだよ。師匠からはアスナ君の師匠についての記憶は念入りに消すように言われていたんだけどね……どうしても僕が……そうしたかったんだ」

「そうなんですか……。じゃあ……私には2つも、本当の名前があるんですね。……大事にします」

「アスナさん……そうですね」

「そうしてもらえると師匠もきっと喜ぶよ」

「はいっ!」

「アスナさん……今の話でアスナさんがこの魔法世界で重要というのは分かりましたか?」

「ネギ、大丈夫よ!ちゃんと分かってるわ!」

「絶対に、オスティアにいる間一人にはならないで下さいね。修学旅行の時のようにフェイト・アーウェルンクスが突然現れるかもしれませんから」

「心配しなくても大丈夫よ。ネギこそ一人で勝手に突っ走っていっちゃ駄目だからね」

そういうのが一番心配なんだけどなぁ……。

「はい、分かってます。僕には皆がいますから大丈夫ですよ」

「そうよね、皆がいるものね」

「僕も力になるよ。……さあ、2人とも、大分時間が経ったし、お腹も空いているだろう。皆と夕飯食べに行こうか」

「はいっ!」「うんっ!」



[21907] 52話 オスティアにて(魔法世界編12)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 20:16
―9月24日、7時36分、新オスティアリゾートホテルエリア―

昨日はゆえ吉以外全員集合したよ。
ネギ君と高畑先生は私達がホテルに着いて寛いでたところに帰ってきたと思ったらすぐアスナ連れて別の部屋に行って何か話してたらしい。
のどかはネギ君が戻ってきたところに居合わせなかったからアレだったけど、夕食の時間になってまたネギ君達が戻ってきた瞬間には、ちゃんと2人で再会の挨拶を微笑ましいぐらい丁寧にやってたよ。
なんか初々しい。
微妙に3人とも泣いてたんじゃないかと思えるんだけど突っ込んだらいけない気がした。
実際スッキリした顔してたしネギ君とアスナに至っては姉弟っぽい空気がいつもよりしてたしまー良かったんじゃ?
一方クレイグさん達はラカンさんに会ってテンション上がりっぱなしでやばかったなー。
それは愛衣ちゃんもだけど……皆やっぱサインですよねー。
で、そのサイン見せてもらったらめちゃめちゃ似顔絵うまくてビビったわ。
「俺に不可能はない!」らしい。
どうも私はアスナの変態発言が地味に頭に残っててテンションがそこまで上がらなかったんだけど……まあいいスよねー。
このかはラカンさんと話して「お前があの詠春の娘か!あいつからどうしてこんな可愛い子が生まれるんだよ!」「ややわー、ラカンはん」とか一瞬で馴染んでで適応能力スゲーわ。
桜咲さんと葛葉先生とくーちゃんはラカンさん見た瞬間驚いてたけど隙が無いとかそんな感じなのかね。
小太郎君もクレイグさん達に咸卦法見せたり、サイン貰われそうになってたんだけど……「俺のサインなんて貰って嬉しいんか?ただのガキやで?」だからなー。
謙遜とかじゃないだろうけど実際子供にしては……あんま調子乗らないよなーネギ君にしろ小太郎君にしろ。
去年は結構単純だったような気がするんだけど……いつの間に成長したんだろーな。
ネギ君と高畑先生戻ってきてからもクレイグさん達がサイン貰ってたのは以下同様。
高畑先生もやっぱ相当な有名人なんスねー。
確かにまほネットで色々検索してたら高畑先生が表紙飾った雑誌のバックナンバーとかあったから分からないでもないけど。
でもって22人もいるごっちゃごちゃした状態で夕飯をホテルのレストランの席の一角を完全占拠して皆で食べたスよ。
さっすがリゾートホテル、うまいっ!!
タダ飯最高ッス!
無口なリンさんもこの点は同意見みたいで私とココネと一緒にガンガン食べたわ。
うーん、1ヶ月前にほぼ通りがかっただけなのが悔やまれる。

それで一晩明けたと思えば、予告通り、ケルベラス大樹林よりも危険な、現在は複雑怪奇なダンジョンと化してる廃都オスティアにあるゲートポート探索に乗り出す訳だ。
リゾートホテルエリアの末端に高畑先生が予め用意しておいた小型飛空艇があるんスよ。
当然私は行くわけ無いんスけど誰が行くかっていうと、ネギ君、小太郎君、楓、くーちゃん、桜咲さん、茶々丸、高畑先生の7人。
ぶっちゃけ魔獣出るならラカンさん行けば終わりじゃ?って思ったら「俺がゲートポート探索?そんなん向いてないぜ!!がっはっは!!」とか豪快に笑ってのけ高畑先生も最初からそう言うだろうと思ってたみたいな顔してたよ。
リゾートホテル居残り組も戦力的には、言わずもがな最強無敵ラカンさん、葛葉先生、たつみー、クレイグさん達、高音さんに愛衣ちゃん?……と……アスナとか後どれくらい強いのか知らないけどドネットさんがいるから多分大丈夫。
私は……走れるだけで戦力にはならないからカウント対象外で。
というよりその前にこんな安全そうな所で狙われる事なんてあんのか?ってのが一番気になるんだけど……葛葉先生がピリピリしてるから多分マジなんだろーな……。
とにかく、ネギ君達の探索が無事に済むよう柄にも無くシスターらしく祈りながら待機組皆で見送りを済ませたよ。
7人が帰ってくる予定は一番遅くて29日、終戦記念祭の前日らしい。
私達は……リゾートホテルで終戦記念祭が始まるまでも始まった後も楽に生活ができるっ!!
あんまり今までと変わらないスねー。
因みにゆえ吉はアリアドネーで夜が明けたら今日から巡洋艦ランドグリーズってのに乗ってエミリィ委員長達分隊の皆とオスティア記念式典の警備にくるらしい。
アリアドネー魔法騎士団だからセラス総長も当然来るみたいスね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月24、7時58分、オスティア雲海、小型飛空艇内―

アスナさんを一番危険な所に連れて行く事はできないから、ラカンさん達に任せる事になった。
葛葉先生と龍宮さんもいるから大丈夫だと信じてる。

「しかし……食料こんなにいるのかい?少し狭いと思うんだけど……」

主にくーふぇさんとコタローが大量に買い込んできた食材のお陰で小型飛空艇の船内が狭い……。

「安心するでござるよ、高畑先生。アデアット」

「それが楓君のアーティファクトかい?」

「この中にはキッチンがあるから冷蔵庫も付いているのでござるよ。古、コタロー、運ぶでござるよ」

「おうっ!楓姉ちゃん!」

「任せるアル!」

「…………変わったアーティファクトだが……キッチンって……」

タカミチも驚くよね……。
最初僕もそんな風になってるの知って驚いたし。

「中が家になってるから飛空艇では探索できない場所でも泊まることができるよ」

「確かに探索に便利だね。でもいくらなんでも多い気が……」

「皆一杯食べるからすぐに無くなるよ」

「ははは、なるほど成長期って事かい」

「ネギ先生、高畑先生、もう間もなく廃都オスティア陸地末端に到着します」

「分かりました、茶々丸さん!」

「了解したよ。探すべきは空中王宮なんだが……それがどの大陸かも霧のせいで視界が悪く分からない。東京都よりも広い場所の末端だ。虱潰しにやっていこう」

「うん!」

大小合わせて100近い陸地が落ちている中、どこも霧だらけで視界が悪いのはタカミチの言ったとおり。
まずは最初に着いた陸地が市街地かどうかを確認し、そこを基点として徐々に地図を作成していく予定。
茶々丸さんがこの仕事に最も適任で、視界が悪くても赤外線センサーで飛行中に竜種が飛んできたとしても察知できるし、タカミチにも白き翼のバッジをのどかさんのを借りて持っててもらっているからそれで皆の場所を把握する事もできる。
タカミチ以外は僕との仮契約カードで召喚機能も使うことができる。

「さ、分身の出番やな。いくで」

「そうでござるな、コタロー」

「僕も分身出すよ」

「私も式神を飛ばしますので」

楓さんが16人、コタローが8人、僕が3人、刹那さんが小さい刹那さんを3体。

「おおっ、皆凄いな」

「「「が、頑張りますっ!」」」

式神は何だか……刹那さんらしくない。

「刹那っぽくないアルねー」

「少し式神は……頭の方が悪いんです……」

「その代わり明るいみたいやなー」

「小太郎君……それは私が暗いと?」

刹那さん……。

「そんな事言ってへんやろ!いつもの刹那姉ちゃんより明るいってだけや!」

「……いえ……あまり気にしてないので……」

結構気にしてるような……。

「それじゃあまずはこの陸地の大きさと内部の状況を簡単に把握しよう。魔獣がいる可能性は十分あるから気をつけて」

「うん。本体は皆で一緒に行動で行きましょう。タカミチとくーふぇさんは飛空艇の護衛でいいよね?」

「ああ、そのつもりだよ。ネギ君達が戻ってきた時に飛空艇が壊れてたじゃ済まないからね。でも危なくなったらすぐに端末で連絡して欲しい」

「うん!」

「任せるアルよ、ネギ坊主。アデアット。この棍で遠距離からでも戦えるアルからね」

「はい!陸の大きさにもよりますけどあまり時間かけずに戻ってきます。コタロー、楓さん、刹那さん、行きましょう」

「おう!」「承知したでござる」「はい、参りましょう」

僕達は最初の陸地に降り立ち、手早く探索を開始した。
魔獣が蠢くというのが一体どれくらいの数いることを言っているのかは実際に体験してみなければわからない。
恐らく厄介なのはこの霧、風向きによって視界が一時的に晴れたりすることもあるけれど気がつくと至近距離に魔獣がいた、なんて事も無いとは限らない。
気になるのは広域魔力消失減少そのものの効果だ。
20年間魔法を使うことのできない不毛の大地という事だけど今年で20年目の今、少し試してみたけれど魔法は使えている。
集中して確認してみたけど、微弱ながら魔力の反応が消失していくのが感じられる。
魔力は多いところから少ない所に流れるという事を考えると、ここ廃都オスティアに魔力が流れこまなかったという事はありえない。
恐らくアスナさんを利用して発動させた魔法の影響で、ここ一帯に魔力が流れこんできても次々消失……過程としては魔力そのものが崩壊して行き魔力として機能しなくなってしまうという物なんだと思う。
王家の魔力というのがこれの無効化現象でも無効化されないというのなら、発動する魔法が、この場の魔力消失の影響を全く受けずに魔法として維持できるという事なんだろう。

「何や森ばっかりやな」

「式神とのリンクで確認しましたが、ここは末端の割と小さな陸地のようです」

「長居する必要は無いでござるな」

「そうですね。一つに時間かけてられませんし次の陸地に行きましょう」

「魔獣っちゅうのがどこから出てくるか知らんけど端にはまだおらんのやな」

「恐らく中心部に近づけば近づく程強力な竜種等が出てくると思います」

「魔法が使えない土地やったのになんで魔獣が巣食っとるんやろな。上位種の竜種いうんは魔法障壁も張るんやろ?そないな所に好き好んで住むんか?」

「……それは魔獣にとって安全だからだと思うよ」

「あー、なるほどな。魔法使いが退治に来ても戦えんちゅう訳か」

「楓さん達がいたケルベラス地方にあるケルベラス渓谷の中は魔力も気も一切使えない環境だけど強力な魔獣が一杯いるらしいんだ」

「魔力も気も使えないってどんな場所やねん……」

「それでは拙者達も一般人になってしまうでござるなぁ」

「ただのガキになってまうで」

強制転移魔法でもしケルベラス渓谷に飛ばされていたら終わってたかも……。
そんな事を話しながら素早く飛空艇に戻りタカミチに報告して次の陸地を目指した。
飛空艇の展望デッキにはもしもの戦闘にすぐ移れるように2人は待機する事にしてて、今はタカミチと刹那さんが出てる。

《右舷前方から2体竜種と思われる生命体が接近してきます。まずは回避を試みますが……もしもの時はお願いします》

《茶々丸君了解したよ。こちらはいつでも迎撃できるようにする》

《了解しました》

「ネギ坊主、拙者達も出るでござるよ。2人なら問題はないと思うが、皆で協力した方が早いでござる」

「はい!」「よっしゃ!」「行くアルよー!」

展望デッキには僕達6人が出る広さは十分あるし、浮遊術も使えるから問題ない。

《右舷前方30度距離200m。恐らく精霊祈祷エンジンの反応に気づいた模様です。引き続き回避パターンを取りますが追いつかれると思われます》

《すぐに反応してくるあたりこの辺りが縄張りのつがいの竜のようだね。了解した》

「皆、2体いるから気を抜かないように」

「うん」

「分かったで。アデアット。右腕に気、左腕に魔力……合成!!」

―咸卦法!!―

「ははは、コタロー君が咸卦法使うのを直に見るのは初めてだな。よし……右腕に気、左腕に魔力……合成!!」

―咸卦法!!―

流石タカミチだ、まほら武道会でも見たけど咸卦法の練度が凄い!

―戦いの旋律!!―
―魔法領域展開―

刹那さんは夕凪をもう構えてるし、くーふぇさんは神珍鉄自在棍を出している。
楓さんは多分……すぐ忍具が出てくると思う。

「コタロー、僕達は飛空艇の壁面に回ろう!」

「おう、任しときや!」

僕とコタローは展望デッキから飛空艇の壁面に備え付けられている手すり目がけて浮遊術を使って飛び移った。

《距離50!》

《ネギ君、視界を晴らしてもらえるかい?》

霧があるから相手も攻撃しにくいだろけど、あっちはエンジンに気づいて追って来てるから確かに視界は晴らした方が良い。

《分かった!》

   ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―吹け 一陣の風 風花・風塵乱舞!!―

強風で霧を一帯吹き飛ばして現われたのは2体の30mはありそうな巨大な黒い竜……。
動きが速いっ!

《助かるよっ》

―七条大槍無音拳!!!!―

飛空艇から凄いビームがっ!!
強烈な打撃音!

「おわっ!?高畑先生の技か!」

接近してた2匹の竜をまとめて吹き飛ばした!
直撃を受けた1匹目の方は角が2本とも折れてる……。

「凄い……」

……これがタカミチの対軍系レベルの攻撃か。

《流石に実体がある分堅いな……。一気に片を付けるよ。いちいち長く相手してられないからね》

《お任せ下さいっ!》

次は刹那さんが飛んで行って……。

―斬岩剣弐の太刀!!!―

タカミチが直撃を与えた1体目の竜の片翼を切り裂いて高度を落とさせた!
後は1体目が盾になって比較的ダメージの軽い2体目だけど……炎を吐きそうな予備動作っ!

      ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―来れ雷精 光の精!! 雷を纏いて 打砕け 閃光の柱―
          ―光の雷撃!!―

「俺も行くで!」

―咸卦・疾空白狼閃!!―

竜巻に雷を乗せる雷の暴風よりも、純粋破壊力の高い光属性魔法の光線に雷を纏わせた一点突破力の高いレーザーのような攻撃魔法。
コタローの攻撃と一緒にきっちり炎を吐いて来るのをキャンセルさせられた。
狙った角にはちゃんと直撃させて折りつつ雷で痺れさせられた……でもタカミチの言うとおりやっぱり堅いな……。

「伸びるアルっ!」

痺れて一時的に麻痺させた所をくーふぇさんの神珍鉄自在棍が巨大化して竜の頭部に強打。
……そのまま気絶したのか落ちて行った……あれだけ強力な竜だから落ちるぐらいでは死なないと思うけど……。
コタローと一緒に展望デッキに戻った。

「ほ、本当に……いつの間に皆こんなに強くなったんだい?」

「マスターの別荘で結構修行してたからね」

「私はまほら武道会で宗家の方々から技を教えて頂きました」

「このアーティファクトが便利なだけアル」

「拙者の出番は無かったでござるなぁ」

楓さんの巨大手裏剣が更に当たってたら流石に翼が切れてたと思うな……。

「そ、そうか……ある程度予想はしていたけど実際に見て驚いたよ」

「高畑先生のさっきの技もまほら武道会では使っとらん規模やったやないか」

「ああ……あれはさっきのような竜種や鬼神兵を相手にある程度距離が空いている時に使うものでね」

ラカンさんの表でタカミチ(本気か怪しい)は2000だったけど……2800の鬼神兵よりやっぱり全然強いんだね。

「居合い拳の射程って10mぐらいやと思ってたんやけどちゃんとそういうのもあるんやな」

「隠し玉の1つや2つぐらいあるものだよ」

「流石高畑先生アル。私も手合わせ願いたいね。しかしあの竜は大丈夫アルか?」

「上位種だからね、障壁は張っているからあれぐらいでは一時的に撃退したぐらいでしかないさ」

「街中で出会ったら大変そーアルね」

「竜種となると逃げるにしても最低限気絶させないと難しいです」

「霧が深い分ケルベラス大樹林より苦労しそうでござるな……」

気を抜かないようにしないと本当に危ない場所だ……。
この後も次の陸地に着いては一体今どの辺りなのかを把握しては再度飛空艇で移動を繰り返した。
その間やっぱり竜種を初めとして、獣のような魔獣にも遭遇して倒さざるを得ないときもあった。
炎を吐くだけじゃなく、2本の角の間に電気エネルギーを溜めて飛ばしてくる竜や、刹那さんがアリアドネーで戦った事があるっていうカマイタチブレスを吐く竜がいたり、獣型の魔獣でも、体毛を針みたいにして飛ばしてきたりと大変だった。
コタローと冬のスクロールとそっくりだって一緒に思ったけど、これは本当の本当に現実だから気が全く抜けない。
でも僕達もこんな中でもやっていけるぐらいのレベルにはあるから大丈夫。
不用意に接近してもしかしたら持ってるかもしれない毒を受けたりしないように基本的に遠距離からの攻撃を心がけるようにしている。
刹那さんは非常に強力な弐の太刀を初めとして遠距離に気を飛ばす技はあるし、楓さんも気弾はもちろん、鎖に繋いだ巨大手裏剣は破壊力、射程距離共に申し分無い。
コタローも咸卦法強化で普通の狗神で十分戦えるし、僕は元々遠距離攻撃を多く持ってるから今のところはなんとかなってる。
茶々丸さんが美味しい昼食と夕飯を用意してくれて外が殺伐とした環境でも凄く落ち着いた気持ちになれた。
タカミチが持ってきてた崩壊する前のオスティアの地図とは大分陸地の位置にズレが生じててやっぱり少しずつ位置関係を把握してくしかなさそう。
市街地のある陸地がいくつもあるから今いる陸地がどこなのかも常にしっかり確認する必要がある。

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―9月25日、18時47分、旧オスティア官庁街―

ネギ達が廃都オスティアのゲートポート探索を初めて2日目の夕方、旧オスティア官庁街のある建物の中に同じデザインの外套を着た5人の少女達の姿があった。

「何者かがこの廃都に侵入しているようですね……数は7と言った所でしょう……」

角が目立つ両目を閉じた人物が言った。

「調、それは本当か?」

ツインテールで釣り目の少女が聞き返す。

「木精の声が聞こえるので間違いありません」

「終戦記念祭前に侵入者……ふぇ、フェイト様に報告しなくてはっ!」

黒髪で猫の耳をした豹族の少女が慌てる。

「暦、落ち着いてください」

それを落ち着かせる声をかけるのはエルフのような耳をした少女。

「…………」

無言を貫くのは頭の横に太めの角が左右にある竜族の少女である。

「少なくとも計画のためには私達の姿が侵入者達に見つかる訳には参りません。3日後フェイト様と合流しますから見つからないよう遠くから監視をしましょう」

調によるまとめによりその場は一旦纏まり、遠距離からネギ達の行動を監視し目的が分かり次第フェイト・アーウェルンクスに報告をする事に落ち着いたのだった……。

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―9月26日、9時頃、新オスティア、リゾートホテルエリア―

ネギ君達が廃都オスティアのゲートポート探索に出てから今日で3日目。
特に目立った怪我も無く派手に……本人達はそんな気ないかもしれないけどやってるらしいスよ。
しつこい竜種を仕方無しに3体完全討伐したらしいけど、マジ常識から考えると異常な気が……。
普通数日がかりで倒したりするもんをどうやって……って言いたい所だけど、ネギ君のやたら切れる剣とか桜咲さんの障壁無視するらしいなんたら弐の太刀だとかあるから急所に攻撃を続ければ確かに倒せそうだと思えるから困る……。
何でも高畑先生がまほら武道会の時よりおかしなビーム放ってるらしく、茶々丸がその瞬間の映像を撮ってアスナに送ってきてくれて、皆で一緒に見たんだけどマジ吹いたわー!
何スかこの展望デッキ固定砲台。
パネェよ。
あの小型飛空艇に武装付いてるのかどうか知らないけどこれじゃ高畑先生が主砲スよ。
って思ってたらラカンさんが「それぐらい俺の右パンチで余裕だ」とか言ってくれた。
なんてゆーか次元が違すぎて私はついて行けんスよ。
一方平和なオスティアに入ってくる飛空艇の数は徐々に増えてきてて、当然観光客もどんどん集まってきててお祭りムードにガンガン近づいてる。
中心街の方にいくつも屋台が組み立てられ始めてて続々出店準備って感じ。
で、クリスティンさんとリンさんがトレジャーハントで稼いだ使う予定も特に無い魔法具を売るからって一緒についてった。
その行き先っていうと先月寄った例の魔法具店な訳だ。
お姉さんは……奥か?

「おや、お客さん、無事のようだな。南極はどうだった?」

おっさん覚えてたかー!

「あー、覚えてて貰って光栄ですー。南極は……例の品物のお陰で寒さに苦しむ事は一切ありませんでした。南極の景色はそれはそれでかなり見ごたえがあったというか自然の厳しさを理解できたって感じスね」

「それは良い事だ。魔法世界は温かい所の方が圧倒的に多いからな。寒い所は良い。龍山山脈越えはしたか?あれは絶景だったろう」

この熊男のおっさんマジでそういう趣味の人かー!!

「い、いやーそれが龍山山脈は避けたんで……」

「……そうかい。ま、どこまで行ったか知らないが命あっての物種だ。もしまた行く機会があれば龍山にも寄ると良い」

「はい、機会があればそうしますわー」

「ミソラちゃん、ここの店長と知り合い?」

「あー、南極行く時にここで魔法具を買ったんですよ」

「そうなんだぁー。店長さん、魔法具の売却お願いできますか?」

「ああ、やってる。品物は?」

「品物は……これと……これと……」

カウンターにゾロゾロ並び始めたー。

「あら、店長、お客様ですか?」

お姉さん奥から出てきた。

「売却の鑑定だ」

「承知しました。そちらのお客様、南極から戻られたようですね。魔法具はいかがでしたか?」

南極行く客なんて珍しいから覚えてるんだなー。

「あーそれはもう。お陰様でとても助かりました」

「それはそれは何よりです。また魔法具を購入する際は当店でどうぞー」

「その時があればそうさせてもらいます」

営業スマイル、これが普通スね。
クリスティンさんが10個近く品物を出したのをおっさんが手袋して真剣に鑑定し始めて……。
おっさん熊っぽいだけに獲物を狩るかのような鋭い眼光に変わってコエーよ。
クリスティンさん微妙に引いてるから。
リンさんは無表情だけどさ……。
一つずつ紙に商品名をサラサラ書いてって横に金額を書き連ね……合計は……。

「…………しめて3万8500ドラクマだな。どれがいくらするかはこの表を見な」

「どうもー。どれどれ……」

リンさんもこれには真剣にリストを見て……一つずつ確認しては頷いてるな……。

「リン、これでいいのー?」

「大丈夫」

えー!?
クリスティンさん人任せかいっ!!
リンさんが親指立てて断言してるから大丈夫なんだろーけど。
……どうも3つぐらい結構高いのあったらしくてこの金額になったらしい。
日本円に換算して……616万……。
まさにトレジャーハントここに極まれり!
って感じの額だなーこうしてみると。
それ言い出すとナギ・スプリングフィールド杯の賞金は1億6千万だけど。
そのままお姉さんがドサッとドラクマ入った袋持ってきてリンさんがきっかり確認したらどことなくホクホク顔になってたような気がする。

金が危ないからって事でホテルにそのまま一旦戻ってきたら……フロントにスゲー存在感の仮面被った人いるー!!
仮装するにはお祭りはまだ早いスよー。
あ?なんか高音さんのアレに似てるよーな……。

「私はボスポラスのカゲタロウ。ジャック・ラカン殿からこのホテルに滞在していると連絡を受け馳せ参じた。取次ぎを願いたい」

何かスゲー堅そう……。
そういやネギ君達が、ラカンさんが一緒に出る相手に強い人呼んだんだって言ってたような……。

「申し訳ありません、そのような事はこちらでは伺っておりませんが……」

「何?」

あちゃー、ラカンさん絶対そんな事忘れてるよ!
しかもコエー!
……コエーけど、どーせラカンさんが悪いんだろコレ。

「ミソラちゃんどうしたのー?エレベーター来たよ」

「あー、クリスティンさん達先行ってて下さい」

……完全に目が釘付けだったわー。

「んー、分かった。じゃあ先行ってるね」

「また後で」

「はい」

で……カゲタロウさんはどうも受付の人にもう一度確認するように頼む……もとい威圧してるんだけど……しゃーない、行くかー。

「あのー、ジャック・ラカンさんの所まで案内しましょうか?」

「……お嬢さんは一体どなたかな?」

めっちゃこっちに顔だけ向いたー!

「私は春日美空って言います」

「私はボスポラスのカゲタロウ。春日殿、ラカン殿を存じているのか?」

殿付けで呼ばれるのは楓以外では初めて……というか楓もあれはあれでおかしいけど……。

「一応近くの部屋に滞在してるというか、大部屋も借りて知ってるんで……」

会議用の大部屋一つに個室複数を普通に借りてるけど一体いくらかかってんだか……。

「そうか。ならば案内願おうか」

「あー、はい。では案内しますんで」

受付の人が軽くこっちに会釈してるし……。
軽く返しとこ。
エレベーターに一緒に乗ったけど……気まずい。

「あのー、ボスポラスって言ってましたけど影使いの方なんですか?」

「春日殿、よく知っておられるな。その通り」

「知り合いに影使いの人がいまして、その人もボスポラス出身の影使いなんで」

「……それは真か?」

エレベーター着いた。

「丁度今同じ部屋です」

廊下で歩きながら話を何故か続けてるし……。

「……その方の名前は何と言うか聞いてもよろしいか?」

「えー、高音・D・グッドマンって言います」

「ぐ……グッドマン!?……しかし……まさか……」

突然動揺したー!?

「グッドマン家の事やっぱボスポラスだと知ってるんですか?」

「あ……ああ、知っている。地元では有名だ……」

微妙に焦ってるような……。

「……えっと着きました。多分ラカンさんはこの大部屋にいると思います」

豪勢な呼び鈴を鳴らして……と。

『はい』

この声は……。

「あ、高音さん、今戻りました」

『開けましたわ、どうぞ』

「どうもー」

ロックが外れたところで扉を開けーのと……。

「カゲタロウさんもどうぞー」

「ああ、かたじけない」

「春日さんその方は……」

「ラカンさんを訪ねて来たボスポラスのカゲタロウさんです。下のフロントで困ってたみたいなんで……」

「……私の一族と同じ仮面ですわね……。私は高音・D・グッドマンです。つかぬことをお伺いしますがカゲタロウさん、家名はおありですか?」

「……その金髪……やはり間違いない。私の本名は……風太郎・D・グッドマン」

カゼタロウ……カゲタロウ……えー安易すぎるわー!!

「風太郎・D・グッドマン!?まさか……まさか叔父……様なのですか?」

「へ?」

何この超展開。

「兄上に娘がいたとは……。仮面を外そう……」

え?外してくれんの?
確かにめっちゃ素顔気になるけど……。
でけぇ右手をゆっくり仮面にあてて……取った。

「…………」

何このスゲー渋い金髪イケメン!?
アスナ見たら絶対反応するね。

「お父様に似ていらっしゃる……」

高音さんの顔が感動に浸ってる感じになったよ!

「しかし……私は叔父等と呼ばれるような事は……」

「叔父様は叔父様です。お父様からは叔父様の事は伺っていました。前大戦後行方不明と聞いていましたが……ご健在だったのですね……」

高音さんの涙腺が緩んでる……。

「心配をかけたようで済まない……」

何か私邪魔だな……そろっと退散しよー。

「おおー?お前その格好カゲタロウか?よく来たな!何で仮面外してんの?てか外していいの?」

おっさん空気読めー!

「ラカン殿、呼びかけに応じ参上した。どうやら高音殿は私の姪のようだ」

「え?それマジ?感動の再会?」

「ラカンさん、少しお待ちいただいてもよろしいですか?」

高音さんの額に青筋浮かんでるし……。
いい感じの雰囲気が一瞬にして崩壊したから当事者としての反応としてはアリだな。

「あー悪ぃな、高音嬢ちゃん。じゃ、また後で。ゆっくりしてけや」

「かたじけない」

ラカンさん一銭も払ってないだろー。

「ねー美空ちゃん、あのオジ様誰?」

こっちも食いつきが早いッスよ……。

「高音さんの本物の叔父さんらしいよ」

「えー本当!?素敵!」

言うだろーと思った。
実際あんな美形なのに仮面で常に顔隠してんだとしたら変わった一族だなー。
高音さんは仮面はしてないけど。
高音さんとカゼ……カゲタロウさんの会話を遠くから見た感じ、高音さんからガンガン話かけてる。
「今までどうしてらしたんですか?」「やはり偉大なる魔法使いとして?」「影使いの技量はお父様より素晴らしいと聞いておりますが……」とかそんな感じで聞かれた方のカゲタロウさんはちょい困ってるね。
カゲタロウさんの発言的に高音さん産まれてたの知らなかったあたり、偉大なる魔法使い云々よりどう考えてもマジ風来坊だったんだろーと思う。
しっかしラカンさんが呼んだってのが高音さんの叔父さんとか世界は狭いなーって魔法世界は元々地球より狭かった。
大部屋の端の方で高音さんが影の使い魔出したりして見せたり、カゲタロウさんが「私が姪にできるのはこれぐらいだが……」とかなんとか呟いて似てるけどもっと強そうな使い魔出したりした。
高音さんはそれ見た瞬間テンション上がってて普段とは違う一面を見た気がする……。
まさかの高音さんの師匠現わるってとこだな。
とりあえずこの日からとんでもなく堅い人が1人増えた。
食事する時以外結局仮面付けるもんだから存在感がスゲー。
違うとこ出かけてた皆も帰ってきては大体カゲタロウさんを2度見するね。
愛衣ちゃんは最初ギョッ!とした反応したんだけど高音さんの叔父さんだとわかるとペコペコ挨拶してたわ。
葛葉先生も麻帆良学園の教師って事で挨拶したけど、当のカゲタロウさんはまさかこんな所に来るとは思ってなかったんじゃないかなー。
仮面で良く分からないけど結構困ってたように見えたし。
ラカンさんとは普通にワイン一緒に飲んで何か話してたよ。
うん、どう見ても堅物な感じな人と適当な感じの人の会話が成立しているのが不思議でならないスね。

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―9月27日、16時頃、旧オスティア空中王宮ゲート―

探索4日目にしてネギ達は端末の撮影機能を利用しながら着実に廃都オスティアのかなり詳細な地図を作り上げていき、また新オスティアへの帰還ルートの確定も行いながら、今となっては横倒しに近い形で傾いている空中王宮のゲートにとうとう到達した。
道中多くの巨大な市街地陸地や旧オスティア空港、旧オスティア官庁街も確認しており、単純にゲートの状態を確かめる事だけが全てではない。
度々遭遇する魔獣は、小型飛空艇での移動中であれば撃退、街中探索での場合には討伐もやむをえないという形であるが、戦力的には常に一瞬本気を出して全員でかかればすぐに片がつくため、メンバーの中で特に大きな怪我などをした者はいない。
ゲートに近づくにつれ、ネギは魔力の流れが僅かながらゲートに向かっているということに気づきやはりゲートに何かあるに違いないと確信していた。
ゲート自体の調査にあたっては、空中王宮に小型飛空艇で入れるところまで侵入し、祈祷精霊エンジンを完全停止させて全員でゲートに向かったのだった。
一方フェイト・アーウェルンクスの部下5人の少女達はそれなりに優秀であるのか、ネギ達に悟られる事無く遠くから監視することができていた。
……ゲート付近には魔獣もおらず、時折空から丁度傾き始めた夕日が差し込み穏やかな雰囲気に包まれている。

「間違いない。休止中のゲートだね。要石は破壊されていないようだが……」

「ここから戻れるんやな」

「ネギ坊主、ゲートは動くアルか?」

「それは少し調べてみないとわかりませんね……。ただ分かるのはフェイト・アーウェルンクス達は意図的にこのゲートを残したのか、それとも破壊する必要が無かったのかどちらかの可能性がある……という事ですね……」

「皆、少々動かないでもらえるでござるかな?」

突然両目を開けて注意を促した。

「楓君?」

「楓さん?」

「いや……ここについ最近誰かが来たような形跡があるのでござるよ……」

「ほ、本当ですか?」

「茶々丸殿は床を見て何か気づかれないかな?」

「……お待ち下さい…………確かに、そこの通路からこのゲートにかけての床に間違いなく私達以外の足跡が複数あり、積もっている埃の量が少ないようです」

「複数……と言う事はやはりフェイト・アーウェルンクス達という線が強いね……。ここで一体何をするつもりだ……禄でも無い事だとは思うが……」

「タカミチ、どうもここに来て、まだ微弱なんだけどこのゲート一帯に魔力が集中しつつあるように感じるんだ。多分魔力をここに集中させるのが狙いなんだと思う……」

「ネギ君がそういうならフェイト・アーウェルンクス達の狙いはそれで間違いなさそうだね……。他の11箇所のゲートを壊した事で行き場を失った魔力がここに集まっているという事かな」

「うん、多分そうだと思う。正直このゲートも破壊してしまえば奴らの計画は阻止できると思うんだけど……」

「2年は戻れない事になってしまいますね……」

「はい……その通りです、刹那さん」

「ここを破壊するのは……まずは調査してからにしよう。要石自体は壊さないで後で利用する事もできるからね」

「あ、そうか。壊れたゲートに移し替えればいいんだね?」

「そういう事さ。さ、本格的に調べようか」

他の既に破壊されたゲートの要石の代わりにここの要石を移し替えれば、わざわざこの危険地帯までやってくる必要が無くなるので重要な事だ。

「ゲートの調査は、拙者は専門ではないから一度飛空艇の様子を見に戻るでござるよ」

「楓姉ちゃん俺も行くで」

「私も行くアル」

「そうして貰えると助かるよ」

「お願いします」

ゲートに残って本格的に調査をするのは主にネギ、高畑、茶々丸の3人で行い、周囲の警戒を兼ねてまずは桜咲刹那が近くで待機することとなった。
破壊されたゲートの調査した経験から高畑が主に分析をし、茶々丸が映像を初めとする科学的データを収集かつオスティアで待機しているドネット達との通信を行い、ネギが魔力反応を、感覚を研ぎ澄ませて辿りながら2人とは違う視点からの意見交換をすること3時間、それなりの結論が出た。

「どうやら一度多量の魔力を注入しないと再起動はせず、強力な攻撃魔法でショックを与えるのは当然駄目……か。更にこのオスティアのゲートは通じる先の指定が旧世界側のゲート既にどこか1つ……麻帆良に指定されている筈だ」

うん……それしかない。

「恐らくそれで間違いないでしょう」

「フェイト・アーウェルンクス達は他のゲートを壊しておきながらここのゲートだけ復旧させたかっただけっていうそんな単純な事が狙いでは無いと思うんだけど……。とにかく、ここの魔力濃度の観測は行ったほうがいいね」

「ああ、クルトにそうするように伝えておこう。魔力がここに集中するとなると一番危険なのはどちらかというと墓守り人の宮殿の可能性が高いんだけどね……」

「20年前の再現……って事?」

「その通り。ネギ君も見た映画だけど、当時の最終決戦の際異常な魔力の光球が発生したからね」

「世界の始まりと終わりの魔法って、やっぱり発動には魔力が必要ってことなんだよね……」

「魔法無効化能力が媒体となるにも関わらず魔力を必要とするその仕組みはよくわかっていないから詳しい事は……」

「それは仕方ないね……。アスナさんが攫われなければ大丈夫だとは思いたいけど……」

「近いうちにフェイト・アーウェルンクス達の方から接触してくる可能性は高いだろう……」

「うん……油断しないようにしないと。タカミチ、一応ゲートの確認でここまで来たけど……墓守り人の宮殿はどうするの?」

「ネギ君達のお陰でここまでのルートはわかったから次来る時から1日で一気に座標を当てにして来ることができるから特に急ぐ必要は無いよ。既にここに侵入された形跡があるから墓守り人の宮殿にも入り込まれている可能性は高いが、相手の戦力が分からない以上、リスクを冒してまで調査に乗り出すより、改めてジャックにも来てもらう方が良いから今回はパスしておこう」

「うん……。もし本当にフェイト・アーウェルンクスと今戦う事になるとしたら……それこそラカンさんの協力が必要だね」

「一度新オスティアに戻ってクルト、もうすぐ到着するセラス総長やテオドラ皇女殿下とも連絡を取り合って体勢を整えよう。茶々丸君、データは良いかな?」

「はい、問題ありません。全て記録しました」

「ありがとう、茶々丸さん」

「い……いえ、当然の事です」

「そんな事ないですよ、茶々丸さんのお陰でこの探索は実のあるものになりました」

「は……はい」

「よし、戻ろうか」

「うん」

「分かりました」

こうしてネギ達は素早く撤収の準備を済ませ、小型飛空艇に全員乗り込み新オスティアへ帰還することになった。
一方5人の少女達と言えば、ネギ達が新オスティアへ戻るルートに入ったのを確認し、ネギ達の目的がゲートを確認し旧世界への帰還ルートの探索に来たのだと判断したのだった。
これでネギ達が墓守り人の宮殿にまで調査の手を伸ばしていた場合かなり違う状況を呈した可能性があるが、高畑の慎重にすすめるべきという意見によって、途中夜になり一泊を安全な所で過ごしつつもネギ達は一路新オスティアへと戻って行ったのだった。

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―9月28日、3時頃、新オスティア、某浮遊岩礁地帯―

浮遊岩礁地帯から見えるオスティアは深夜にも関わらず光々と照明が輝いており、幻想的な夜景である。

「フェイトはん、お祭りは明後日からでしたっけ?」

「そうだよ。興味あるかい?」

「いいえ~。もとより人の間で生きられぬ性なれば……ウチには血と戦いがあれば充分ですえ」

「そうか……!ツクヨミ」

フェイトが反応し月詠のマフラーを引っ張り岩場に隠れると同時に雲海から突如巨大な飛空艇が出現した。

「はわっ?なんですのー。潜水艦おすか~?」

「アリアドネーの特務潜空艦だよ」

「刹那センパイがおったとこですねー。でもどうして北の小さい国がおるんどすかー?ここて一応南の大国はんの領地なんちゃいます?こんなトコにあんなんがいてええんですかー」

「アリアドネーだけじゃない。祭りに乗じて北の帝国の隠密艦も当然、南のも色々うろついてるよ。ここは要地だからね。平和の祭典とは名ばかりということさ」

「ややこしいですねー」

「逆にこの各国勢力が牽制しあっている時期でなければ僕達がオスティアの辺りに近づくのは難しいんだよ」

「へー。それで、アレ切ってもええんですかー?」

脈絡も無く特務潜空艦を切りたいと言い出す月詠。

「話聞いてた?……月詠さんなら切れるだろうけど……」

そう返すと同時に潜空艦はまた雲海に潜っていった。

「……それにしてもお姫様達皆ここに集まってまいましたなぁ」

「わざわざ帝国から運ぶ手間が省けたという所かな……。しかしあのジャック・ラカンが近くにいるというのは想定外だね……。ネギ・スプリングフィールド達は廃都に調査に出たようだけど……」

《フェイト様》

―召喚―

「調、焔、栞、暦、環」

次々と5人の少女達が仮契約カードによって召喚され、全員片膝をついて現われた。

「……早かったね。どうだった?彼らの動向は」

「はっ、ご、ご存知でしたか!ゲートの探索のみを行い今日にはオスティアに戻ってくるかと思われます」

「帰還ルートを探しに行ったか……。調、墓守り人の宮殿には彼らは行っていないんだね?」

「はい、その通りです」

「タイミングは良かったというべきか……魔力の対流は昨日丁度整ったばかり……。魔力が本格的に集中する前に向かってくれてある意味怪しまれずに済んだかな……。そろそろ……作戦を決行するよ」

「「「「「はっ!!」」」」」

「ウチも戦えるんですねー」

「手練が多いようだから一人に固執しすぎないようにね。陽動を頼むよ」

「はいなー。ところで……あんた達の目的はなんですか?」

「……世界を救う」

「ほう……それは」

そしてフェイト・アーウェルンクスらも……いよいよ作戦に取り掛かるのであった……。

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―9月29日、15時頃、新オスティア、中心街―

昨日ネギ君達がゲートの確認をして戻ってきたスよ。
話聞いてて分かってたけど、本当に目立った怪我も無かったし、食事もちゃんと食べてたみたいで全然問題なかったみたいね。
アスナとこのかはそれぞれネギ君と桜咲さんにしつこく怪我無いかどうか聞いてたけど。
とりあえず、ゲートの再起動には現段階では魔力が足りないらしくちゃんとした手続きを踏んで稼働させるようにしないと駄目らしい。
ま、でも最後のゲートは壊されずに残ってただけでも収穫スね。
一応地球に戻れそうで良かったー。
4倍ぐらい時差が本当にあればあっちはまだ8月の末頃だしねー。
戻ってきて早々高畑先生はまたオスティア総督府に出かけて総督さんに報告をしに行ったらしい。
ネギ君と小太郎君はラカンさんと組むのが高音さんの叔父さんだって事に凄く驚いてた。
丁度昨日ホテルの外でカゲタロウさんの影槍の威力とやらをサービスなのか見せてもらって、マジ強いのはよーく分かった。
ちょい腕を動かしただけで何本も影の槍が飛び出して標的として置いといたコンクリが軽くスパスパ切れたし……。
高音さんはそれ見て「流石叔父様、素晴らしい練度ですわね!」って超感動してた。
高音さんもあんな感じになったらと思うとマジこえースよ。
まほら武道会で高音さんの影槍も見たけどこうして比べると実際ホント全然威力違うのが分かる。
ネギ君と小太郎君は「ラカンさんに高音さんの叔父さん……凄い壁だ……」って悩んでた。
ラカンさんはどうもネギ君達に強くなってほしいのかはっぱかけてる節があるんだけどそんなに急ぐ必要あるのかねー。

そんな事考えつつココネと一緒に完全にお祭りモードになった中心街をフラフラしにきてる訳で……。
屋台で売ってるナギまんってネーミング安易だなーと思いつつ、安いもんだからついつい買っちゃったりして食べてみたら何か結構ウマイ。

「ココネ、これ美味しいよね?」

「うん、美味しい」

そりゃ良かった。

「だよねー!安くて美味いとか超りんの肉まん以来だわー」

妙にまほら祭に感じが似てて錯覚しそうだわー。
歩いてる人達が仮装じゃなくて紛れもない本物っていうのは大きく違うけど。
にしても箒レースやら野試合やってたり結構過激スねー。
地球でこの風潮は受け入れにくいと思うわ。
麻帆良ならまーアリかもしれないけどそれでも私闘が多すぎる。
そもそも常識として魔法世界には決闘がちゃんとした制度としてあって、合意の元なら死んでも仕方ないなんていうルールがある時点でどうかしてるんだけど……。
空にアリアドネーでちょい見た記憶のある飛空艇がちらほら見えてるからゆえ吉達が乗ってる巡洋艦ランドグリーズももう着いてる頃かな。

いよいよ明日から7日7晩のなんでもござれの終戦記念祭が始まるけどやっぱ目玉はナギ・スプリングフィールド杯スね。
これは間違いない。
明日から早速予選開始だけど、既に決勝戦の組み合わせはもう分かったようなもんだけどどうなることやら。
テオドラ皇女殿下が今日にはオスティアに着くらしく、つまるところダイオラマ魔法球がまたやってくるみたいで、ネギ君と小太郎君はもうちょい頑張れそう。
何かズルい気もするけど。
ま、ラカンさんは存在がズルい感じだし別にいいんじゃ?と思う。

廃都オスティア探索組を除く、まだ指名手配中のアスナ達はこの数日リゾートホテルから出ないようにしてたけど、明日すぐ式典が始まった瞬間に総督が祭り中の総督権限を行使して皆の指名手配を解除してくれるから晴れて自由の身になれるらしい。
こういう時権力ってスゲーと思う。
職権濫用と言ってもおかしかない感じするけど、元々無罪だし、当然スね。
さて、裏通りに行かないように気をつけてもうちょいココネと散歩すっかなー。

「ココネ次どこ行くー?」

「湖が良い」

「あー、この辺やかましいもんね。おっけー」

ココネは静かな所に行きたいみたいね。
まー、らしいっちゃらしいな。
そうとなれば行くかー!



[21907] 53話 終戦記念祭(魔法世界編13)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/11 01:09
―9月30日、9時頃、新オスティア―

ついに終戦20年を祝う、オスティア終戦記念祭が開催された。
連合からはメガロメセンブリア主力戦略艦隊旗艦スヴァンフヴィートを筆頭にした艦隊とそこから、降下して複数の鬼神兵が姿を現す。
帝国からはインペリアルシップ艦隊と、帝都守護聖獣の一体、古龍龍樹が姿を現す。
そして記念式典中のオスティアの警備を担当するのが強力な独立武装中立国であるアリアドネーのアリアドネー魔法騎士団である。
かつての前大戦が終わり、終戦協定が結ばれた場所と同じ式典会場では、連合からはメガロメセンブリア元老院議員主席外交官ジャン・リュック・リカード、帝国からは第三皇女テオドラの2人が握手を交わし、その後ろではアリアドネー魔法騎士団セラス総長とオスティア総督クルト・ゲーデルがその様子に拍手を送っていた。
それぞれの要人が終戦記念祭についてコメントを述べ、滞り無く祭りの開催が宣言され、周囲は一層の歓声に包まれた。
ネギ達はその式典を少し離れた所から見て、オスティアの祭り一色の熱気に驚いていた。

「いよいよ、終戦記念祭の始まりですね。アスナさん」

「はー、麻帆良祭もびっくりよねー」

「麻帆良祭も僕は驚きましたけど、ここのお祭りも凄いですね」

「仮装行列に見えるけど全部本物なのよねー。それでネギとコタロはこの後すぐ闘技場で予選でしょ?」

「はい、そうです」

「皆で応援するから頑張ってね。でも、無茶はしちゃ駄目よ?」

「ありがとうございます……アスナさん」

「……もー何よその顔は!そんな暗い顔してると私まで暗くなってくるじゃない!」

アスナは突然ネギの頬を両手で引っ張った。

「いたたた!何するんですかアスナさん!痛いですよー」

「よし、それぐらいの顔の方がいいわね。やっぱネギはその姿の方が……あ、ちょっとネギ身長伸びたわね」

「そ、そうですか?」

「そうよー。この前はもうちょっとここぐらいで……」

「あはは、よく覚えてますね」

「おおっ!アスナ!指名手配解除されたよ!」

そこへまほネットを確認していた春日美空が声を上げる。

「ほ、ホント!?美空ちゃん!」

「まほネットで今確認した所。間違いないスよ」

「総督のお陰ですね。良かった……」

「あー良かったー!何もしてないのに指名手配されるなんてたまったもんじゃないわよ!これで自由に行動できるわ」

「あ、でも1人にはならないで下さいね」

「それぐらい気をつけるわよ。いざとなったら私も結構強いんだから」

「そうですけど……相手はどれほどの戦力があるかわかりませんから交戦は控えてください。そもそも街中で戦ったりしたら夕映さん達アリアドネーの警邏の人達に通報されますし」

「え、そうなの?」

「そうですよ。野試合にしても一応決まった所でしかやってはいけないそうです」

「き……気をつけるわよ」

「必ず端末で連絡するか、1人で対応しようとせず、皆がいるところに逃げるように心がけて下さいね」

「ハハハ!アスナ心配されてるなー!」

「もー、何か私が子供みたいじゃない!ネギなんて本当に子供なのに!」

「いや、アスナ、私達皆子供だからね」

「え?」

「え?じゃないよ?大丈夫か?」

開催式典が終わると同時にネギ達にかけられていた指名手配は終戦記念祭期間中の総督権限により恩赦という扱いで解除された。
この情報を知ったフェイト・アーウェルンクスの部下の少女達は少なからず動揺をしたが、フェイト・アーウェルンクス本人は「指名手配が解除されようがされまいが大した問題ではないよ。作戦が成功すればいいだけだ。それよりも遠くから監視していた事で彼らの動きをきちんと把握できなかった事の方が厄介だね……。そういえばオスティアの総督は元紅き翼だったか……」と相変わらずの無表情で答えたのだった。

そして拳闘界の頂点とも言われるナギ・スプリングフィールド杯の決勝トーナメント出場を決めるための予選も初日から行われた。
ネギとコタローは拳闘士団には無所属であるため他の拳闘士達と異なり、闘技場で寝泊りしていない。
そのため、2人は選手専用出入口を通って試合に臨む事になるのだが、その出入口の前には大量の報道関係者及びファンクラブ会員達が待機していたため、2人がゆっくり人ごみをかき分けながら愛想を振りまきつつも、心中は非常に面倒だというものであった。
当の試合と言えば、相手がいわゆる「剣」闘士であったため、観客達はもう名物になっている武器の解体ショーを期待していたのだが、2人はその期待に見事応え、場内は歓声の渦に包まれた。
ネギ達関係者は皆特等席で観戦していたのだが、全員が同じ特等席のある部屋ではなかった。
それというのも、当の特等席には、テオドラ第三皇女、アリアドネー魔法騎士団セラス総長、メガロメセンブリア元老院議員主席外交官ジャン=リュック・リカード、オスティア総督クルト・ゲーデル、高畑・T・タカミチとジャック・ラカンという先の式典のメインであった人物達含め大物が揃っていたという理由が大きい。
何の因果か全ての国家勢力が集結するという様相を呈し、フェイト・アーウェルンクスらの問題について経緯を整理し説明するところから始まり、連合、帝国、アリアドネーの戦力状況を互いに認識するという作業が行われた。
途中ジャン=リュック・リカードが「あの拳闘士のネギって誰?」と聞くという間の抜けた一幕もあったが、ネギがまだ10歳の子供という先入観にとらわれ幻術を使っているという基本的な事に気付かなかったものの、知らなかったものは仕方がない事かもしれない。
因みにジャック・ラカンがそんな政治や軍事的な詳しい話についてはどうでもよく、テオドラ第三皇女から絡まれつつもさっさと隣の部屋に退散していったのは言うまでもない。
そしてその部屋では既に13時を過ぎまだ食べていない昼食をどうするかという話になり、「折角指名手配も解除されて堂々と街中を歩けるようになったのだから祭りの屋台を回りながら適当に食べ歩きがしたい」という一声により、主に指名手配されていた面々はそういう流れになった。
一方既に街中は前日までに見て回っていて、ジャック・ラカンとカゲタロウの試合まではそんなに時間も無く、どちらかというと生ける伝説の試合を直に見たいというクレイグ達と本物の叔父もいる高音・D・グッドマン率いる魔法生徒4人はその場に残る事にした。
街に繰り出したのは、元々リゾートホテルで待機しているドネットと茶々丸を除いたネギ達11人である。
終戦記念祭中のオスティア街中を11人で一緒に回るというのは煩雑であるが、地球では絶対に見ることのない、変わってはいるが美味しい食べ物を販売する屋台を巡りながら腹を満たし、アフタヌーンティーと言う事であるカフェの一角でネギ達は一息ついていた。
……しかし……そこで事件は起こった。


―9月30日、14時43分、オスティアカフェテラス―

―時の回廊―

フェイト・アーウェルンクスは、暦に与えたアーティファクト、時の回廊をネギ達がいるカフェの外から自ら使用し、彼等を除くカフェ内一帯の時間を極限まで遅延させた。
時の回廊とは、任意の効果範囲の時間操作を可能とする魔法具であり、擬似時間停止に近いことも可能である。
ただし、遅延させた効果範囲に範囲外から飛び道具などによる攻撃をしかけてもそれすら遅延してしまうため使い方には注意が必要とされる。

「暦、悪いけどもう少し借りておくよ」

時の回廊、見た目は砂時計をフェイトが暦に渡す。

「は、はい!フェイト様!で、でも……何故私にやらせては頂けないんですか?」

「少し心配だから……かな……」

「そ、そんな~!」

「すぐに任せるよ。悪いね、時間をかけられない」

―無限抱擁―

フェイトはまたしても環に与えていたアーティファクト無限抱擁をネギ達11人と自分達「6人」に直線状に関係ない者を巻き込む事なく発動させた。

「環、これも少し借りておくよ。無限抱擁の事が気づかれれば彼らの戦力から考えると環が危険だからね」

「ハッ!な、なるほど、了解したデス」

その瞬間カフェ内の時間は再度動き出したが、無限抱擁の中に取り込まれたネギ達はカフェの中から忽然と姿を消した。
無限抱擁という名の通り、無限の拡がりを持つ閉鎖結界空間が発生し、大量の巨大な白い柱が空に縦横ランダムに無数に浮かび、底はどこまでも続く雲海という現実離れした光景が広がる。
無限の広がりを持つだけあって、当然底に落ちればどこまでも地面は無くただ落ちていくだけである。

フェイト達は、未だほぼ完全に時間の停止したカフェを切り出したかのような場所のすぐ下に、かねてより用意していた広域遠距離転移魔法陣を完璧に敷設した。

「彼らは何らかの通信装置を持っている筈だ。この後は流れになるけど、壊せるようなら壊して」

「「「「はっ!」」」」

「わかりましたえー。あぁ、センパイ達止まっとるなんて……フェイトはん、まだですのー?」

「もう始めるよ。座っている場所順に1から9まで……。月詠さんの相手は5番だろうけど……好きにしていいよ」

「はーい」

「さあ、始めよう」

―時の回廊解除―

ネギ達はカフェで座った状態のまま無限抱擁に取り込まれた為、突然時間遅延が解かれ周りの光景が変わった事に驚く。

「え?」

「どこ、ここ?」

「何やコレーッ!不思議空間!?」

「お嬢様っ!?」

「こんにちは。数ヶ月振りかな」

最初にいたカフェの床ではなく近くに浮かぶ柱の上からフェイトが話しかける。

「貴様はっ!フェイト・アーウェルンクス!!」

桜咲刹那の発言でネギ達に緊張が走り、即座に構えを取る。

「そう、良く知ってるね。でも、これで2度目だ」

―発動―

「しまっ!!」 「またっ!?」

フェイトが指を弾いた瞬間敷設してあった魔方陣が発動し、その場からネギとアスナ以外は姿を消し、遠距離に飛ばされた。

「はわぁー、うふふ、ウチ、行って来ますぅー!」

月詠は恍惚とした表情を浮かべ、後を追うかの如く桜吹雪に包まれ転移した。
残ったのはフェイト達5人とネギとアスナのみ。

「フェイト……アーウェルンクスッ!」

「あんた達一体なんなのよ!」

「まあ、話をしに来ただけさ」

―時の回廊―

そう言いながらもフェイトはもう一度時の回廊を密かに発動しネギとアスナの時間を止める。

「さて、次の段階だ」

そう言いながらフェイトは続けて懐からスクロールを取り出し封印を解く。
……そこから現われたのは栞であった。

「栞、お姫様を頼むよ」

「はい」

栞は自分が出てきたスクールを懐にしまいながら、すぐにアスナの目の前に向かい時の回廊の効果範囲内に入る。
フェイトはその瞬間時の回廊を再度操り効果範囲をネギだけに絞り、アスナと栞を時間遅延から解放する。

「こんにちは、お姫様」

「ふむっ!?」

アスナは突如目の前に現われた7人目に驚いた隙を突かれ、口付けをされる。
アーティファクトの効果によってかアスナはその場で気絶し、栞は完全に姿をアスナに変える。

「栞、めぼしい荷物を取り替えて」

「はい」

倒れたアスナは特に鞄等を持ってはいなかったが、栞がポケットに端末と白い翼のバッジが入っているのを見つけ、取り替える。

「終わりました。スクロールに封印します」

「それでいいよ」

アスナの身体が光った瞬間スクロールの中に取り込まれる。
偽アスナとなった栞はスクロールを一瞬迷うも、フェイトに向かい投げて渡した。

「スイッチをいれて」

難なくスクロールを受けとったフェイトはそれをしまう。

「はい……スイッチをいれます」

「あとは皆の芝居次第だ。暦はタイミングを合わせてアベアットしてね」

「「「はっ」」」

アスナの姿をした栞から機械音がし……。

「……ん?アレ……私?」

―アベアット―

この間ネギの時の回廊による時間停止時間はおよそ30秒。
飛ばされた9人がいきなり空中に放り出され落下し始めた状態から体勢を整え、周りの景色に愕然としながら見回して丁度という所。

「話をしに来ただって!」

フェイト達5人の立ち位置は時の回廊発動直前から一切変わっておらず、すぐにネギが時間を遅延される前に言おうとしていた言葉をそのまま放つ。

「ハッ!そ、そうよ!あんた達と話す事なんて何もないわよ!」

「君達がそういうつもりでなくてもこっちには用があるんだ。ネギ君、おとなしくお姫様を渡してもらえないかな?」

「なっ!?」

「ありえない……」

―魔法領域展開―
―双腕・断罪の剣―

ネギは完全に戦闘態勢に入り両腕に断罪の剣を構える。

「ネギ・スプリングフィールド、貴様ッ!」

「いいよ、焔。やれやれ、血の気が多いね。人の話は最後まで聞くものだよ?」

「……なら続きを言えばいいだろう」

「お姫様を渡す、それだけで君達全員現実世界に帰れるようにしてあげるよ。悪くない取引だと思うけどね。僕達は彼女を今までやろうと思えばいつでも簡単に奪う事ができた。それをわざわざ紳士的に取引を持ちかけているんだよ?彼女に身寄りはいない。彼女がいなくなって現実世界で困る人間もいないだろう。元々彼女の麻帆良学園での8年間は……偽りの人格。偽りの記憶、人形の上に貼りつけられた薄っぺらな人生に過ぎないのだから……」

「…………言いたい事はそれで終わりか。フェイト・アーウェルンクス」

「偽りの……人格ですって……」

ネギとアスナはフェイトのわざとらしい挑発の数々に拳をきつく握り締める。

「事実だろう」

「違うッ!アスナさんはアスナさんだ。薄っぺらでも何でもない!見てきたように言うのをやめろ!お前に何が分かる!それに身寄りなら僕がいる!タカミチがいる!皆がいる!困らない人なんて、誰もいやしないッ!!」

「ね……ネギ……」

ネギが先に立て続けに言葉を返したため、アスナも怒ろうとした所タイミングを損ね、ネギの言葉で冷静になった。

「へえ……そこで高畑・T・タカミチの名前が出てくるということは全部聞いたのか。お姫様の記憶を消した張本人から」

「高畑先生を悪く言うんじゃないわよ!」

「いい加減にしろ……。そもそも話をしに来たという癖にこんな空間に閉じ込めておいて話も何もないだろう」

「受け入れてくれたら解くことを約束するよ」

この無限抱擁を発動したのはフェイトであり、フェイトが解除しない限りは無限抱擁から逃れる事はできない。

「くっ……」

「悩んでいる暇はあるのかい?君の仲間達で空を飛べない人達は今頃どこまでも落ち続けている所だよ?途中で柱に叩きつけられているかもしれないね」

「あんた達卑怯なのよ!」

「…………」

「お姫様、卑怯だと言われようとこれが仕事だからね。あきらめてもらうしかないよ」

「だが……絶対にアスナさんを渡す訳にはいかない……。この世界にアスナさんが縛られているというのなら……僕がその鎖を絶ち切る。お前達の世界を破滅させる計画もやらせはしない」

「ネギ……その言葉は……」

「確かに……君の言うとおり、ある側面から見れば確かに僕たちの目的は……この世界を破滅させることだ。だがそれも故あっての事だから……何も知らない君達は黙っていてくれないか。それで充分だ」

「始まりと終わりの魔法に一体どういう効果があるのかは知らないけど、魔法世界の崩壊をわざわざ早めるような真似をすると目の前で言われて黙っているわけにはいかない」

「……それはオスティアの総督から聞いたのかい?指名手配を解除してくれるぐらい仲が良いようだけど」

「お前に答える必要はない、フェイト・アーウェルンクス。だけど……やはり寧ろ何も知らないのはお前達の方だ」

「何だとっ!?」

「へえ……君にそんな事を言われるとはね。……でもそれは聞いても教えてはくれないんだろう?」

「この空間から開放して、アスナさんを今後一切諦めるなら……教えてもいい」

「フ……最初から分かっていたけれど、どうやらお互い無理な相談だったようだね。これで晴れて僕達は敵同士だ。しかし、こうなれば力の無い者にはどうすることもできない。焔、暦、環、調、ここは僕がやる。君達は他を協力してあたって」

「「「「はっ!」」」」

次の瞬間4人は転移魔法符で飛ばされた9人のうち、既に月詠の相手をしている桜咲刹那以外の残り8人のうち1人目の元に転移していった。

「さあ、始めようか。ネギ君、修行したんだろう?僕に勝てればここから出られるよ」

「やるしかないか……。アスナさん、皆の話は聞いてましたね?」

「もちろんよ!」

当然と言えば当然だが、端末は万一の時に備えて常に起動してあるのでここまでの会話でネギとアスナはアーニャを除く他7人の無事……を確認していた。
そもそもそれどころではない1名は桜咲刹那である。
これまでフェイトとの会話でネギとアスナが発した会話は性質上8人全員に聞こえていた。

「行きます!」

ネギは両腕に断罪の剣、魔法領域を展開したまま浮遊術で空中に飛び上がり仕掛けた。

             ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
  ―契約により 我に従え 高殿の王 来れ巨神を滅ぼす 燃ゆる立つ雷霆―
           ―百重千重と 重なりて 走れよ稲妻―
                 ― 千の雷!!! ―

「はぁぁッ!」

ネギの本気の魔法詠唱速度は、詠唱自体知覚できないレベルの音の羅列になるため、呪文の長い千の雷ですら2秒強という速さであり、まさに普通の魔法使いが魔法の射手を詠唱するよりも場合によってはそれよりも速い。
欠点は、高速で魔法を連射できても、当然魔力消費量の激しい魔法を何度も使えば、それだけ早く魔力が底をついてしまうという事である。
千の雷はそもそも広範囲殲滅魔法であるため一点に集中する魔力量はさほど多くは無く、放たれた側のフェイトは右手を軽く前に突き出してほぼ常時展開している曼荼羅のような多重障壁であっさり防いだ。
ただ、障壁で防がれなかった場所の柱は跡形もなく消滅し、足場が崩れた事でフェイトも浮遊術で空に上がった。

「……なるほど対軍魔法か。狙いは光と轟音で位置を知らせるという所かな……」

周りから煙が上がる中、フェイト・アーウェルンクスは悠然と宙に浮いていた。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

突然フェイト・アーウェルンクスとその部下と思われる、修学旅行の時に見た神鳴流剣士1人を含む5人が現れて結果的に交戦するしかなくなった。
フェイトと話をしている最中に葛葉先生達から全体通信が入って来たから、皆フェイトが言うようにどこまでも落ち続けているという事は無い。
今僕とアスナさんの位置を知らせるのと攻撃も兼ねて千の雷をフェイトに撃ったけど……。

《ネギが千の雷を放ったわよ!》

《ネギ先生、光、見えました!》

《見えた!今からそちらに向かうでござるよ!》

《ネギ君、見えたえ!》

《見えたで!俺はもう向ってるから待ってろや!》

《ぐっ……私も見えたには見えたが……このフェイトの部下とゆーのは……厄介アルねッ!伸びろッ!一旦通信を切るアルよ!》

……くーふぇさんがマズそうだ。
問題のフェイトは……流石に父さんやラカンさんレベル……全然効いてない……。
コタローはアーティファクトの効果で僕がどの方向にいるのかすぐわかったから影の転移を利用してこっちに来てくれてる。

《ネギ先生、私も見えた。葛葉先生、どう見る?》

《円周を描いて転移させられた可能性があります。ネギ先生は2人に任せ、龍宮真名は私とお嬢様達の回収に》

《了解した》

《真名、葛葉先生、それなら拙者も分身を出すでござるよ》

《……では、長瀬楓もお願いします》

くーふぇさんがフェイトの部下の相手をしているということは……他の皆も狙われる可能性は充分にある……か……。

「いきなり大呪文か。不死の魔法使いの元での修行とジャック・ラカンの元での修行はそれなりに効果があったのかな。まずはウォーミングアップといこうか」

―障壁突破 石の槍―

無詠唱の貫通力が高い石の槍!
フェイト自身は飛んでいるのに右前方の柱から飛び出してくるって事は遠隔発動もできるのか!
修学旅行で使ってきた時よりも規模が大きい!
断罪の剣を投擲して分解するッ!
伸びる速度が速いっ……虚空瞬動で真上に回避!

―双腕・断罪の剣―

右手側だけ身長以上の長さに伸ばして魔法領域の外まで射程を作る。

「流石にそれぐらいは避けられるか。良いよ。そうでなくては。その剣で戦うというなら僕もこれで相手をしよう」

石の剣か!
分解できそうだとは思うけど……多分拳闘大会で使われる金属の剣よりも強度は高い可能性がある。

《ネギ!私も戦うっていったらやっぱり邪魔?》

《はいっ!今ここで入ってこられてもキツいです!柱を足場にしなければいけないアスナさんでは空中戦にはそもそも向いてません!》

「また会話中かい?集中してくれないと困るよ」

《わ……分かったわ……》

左横っ!?こんな近くにっ!!
動きも速い!
石の剣の刺突が魔法領域を突破してくる!

「だぁッ!」

断罪の剣を当てて抑えながら虚空瞬動で上方に回避!
倒さなければ出れないのはわかっているけどウォーミングアップと言ってる時点でまだまだ凶悪な技を持っている可能性が高くて迂闊に攻撃には出られないっ……。

「遅いよ」

上かっ!

「ッ!」

もう一度回避!
……一度のどかさん以外に仮契約カードでの召喚を試したい。
楓さんが召喚できさえすれば天狗之隠蓑でアスナさんを遠くに運ぶ事も可能なんだけど……。
千の雷の音が仮契約カードの召喚可能限界の10kmに届くのは後数秒の筈だ。
もし数十km単位で離れていた場合、雷鳴の届く音の一般的限界距離が15kmだから千の雷でも音が届かない事になるけど。
でも光が見えてくれたのはせめてもの救いだ。

「それにしても気になる障壁だね。似ているけれど、少し違う。それに吹き飛ばすつもりでやっても一瞬止められる瞬間があるというのは興味深い。今度はこれを見せようか」

また別の攻撃かっ!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

さて、ネギとアスナを除く9人が一体どういう配置で転移させられたかと言えば、ネギとアスナのいる位置を基点として半径30kmの円を描き等間隔、各人およそ20km程度となっている。
そんな中、暦、環、調、焔の4人は古菲の前に現われた。

「申し訳ありませんが、しばらく動けなくなって頂きます」

という調の第一声により戦闘が開始された。
まず暦と環の2人が古菲に近接攻撃を左右から仕掛け「行ける」と2人は思ったが、4対1という状況に油断し、本気を出さなかった為、繰り出された2人の攻撃を古菲はギリギリで見切ってかわし、カウンターに腰を落として掌底を2人の鳩尾に叩き込み吹き飛ばした。

「みぎゃっ!」「かはっ!」

「暦!環!」

「油断するなと!アデアット!」

調はアデアットした狂気の提琴で音波攻撃を放ち古菲のいる足場を粉々に砕いた。

「およっ!?」

「1度目はサービスです。2度目はありませんよ。焔」

この時ネギの千の雷の光が届いた。

「分かっている。よくも暦と環を!」

焔は発生した粉塵に向かい睨みつけ、足場が無くなった瞬間そのままバランスを崩し斜めに傾いた場所に落下する古菲を頭上から粉塵爆発が襲いかかる。

「しまッ!!」

―アデアット!!―

爆発によって一気に煙が発生する。

「直撃はしていませんから、命までは失うことはないと思いますが……」

「油断できない、調」

「伸びろッ!」

煙の中から古菲の声がすると同時に神珍鉄自在棍が突如伸び、焔に当たりそうになるが

―炎精霊化!!―

焔は精霊化で物理攻撃の回避を行い、難を逃れた。
煙の中から古菲が飛び出してきたが、背中の服はボロボロ、むき出しになった肌には火傷の跡もあるが、直前のアデアットで召喚した神珍鉄自在棍棒を盾にした上に硬気功を重ねる事でかなり防いでいた。
端末は懐に入れていた為無事である。

「戻るアルッ!凶悪なコンボアルな!それに当てたと思ったら実体が無くなるのは反則アル!」

「粉塵爆発の中でもその程度のダメージとは……そのアーティファクトは!」

神珍鉄自在棍を見て焔が驚く。

「物理攻撃が効かない相手に戦う必要は無いネ!伸びるアルッ!!」

それに対し古菲は神珍鉄自在棍の太さ、長さを自在に変えられるという性質を活かし、棍を通常とは逆の方向に急速に伸ばす事で空中に浮かぶ白い柱を、爆音を上げて次々砕き折りながら、ある意味飛行状態を実現し、その場から逃走した。

「貴様、逃げるのかーッ!!」

「速い……。暦、環、無事ですか?」

「いたた……うぅ……無事です」

「油断……」

強く吹き飛ばされた暦と環だったが特に致命的なダメージを受けた訳ではなかった。
実際足場を粉々に砕いた瞬間に、最初から暦が手元に戻っていた時の回廊を使い古菲の時間を遅延させた上で焔が発火させれば確実に決まっていたであろうが、後の祭りである。

「逃がしたのは失態でしたが、せめて他の者の通信機は破壊しなければ」

「分かっている。次は必ず」

古菲以外にも既に犬上小太郎、長瀬楓はネギの千の雷が光った場所に向かっており、柱から移動できず身動きが取れないのは宮崎のどか、近衛木乃香、そしてそもそも連絡の取れていないアーニャの3名であった。
それの回収に向かう形で葛葉刀子と龍宮真名と長瀬楓の分身2体は先の転移魔法が円周を描いているという仮説を立て光が見えた方角を基点として動き出している。
桜咲刹那も月詠と戦闘を続けながら徐々に光の見えた方向に近づこうとしているが、烏族の羽で桜咲刹那は飛ぶことができるにもかかわらず、飛べない月詠に苦戦し、状況は芳しくなかった。

一方最大の強敵フェイト・アーウェルンクスと戦闘中のネギはと言えば……。

「う……くぅッ!」

「これぐらいでもう防戦一方か。失望させないでくれ」

フェイトが使用するのは石を用いた魔法だけかと思われたが高速高密度の砂塵を操る攻撃を開始し、ネギの魔法領域を全方位から覆い徐々に侵蝕するという窮地に追い詰めていた。

「ネギーッ!!」

アスナはその光景に叫び声を上げ、下から見守っていただけから一転、アデアットし、エンシス・エクソルキザンスをフェイトに向かい投擲する。
しかし、既に偽アスナである彼女のアーティファクトには魔法と気を無効化する能力は無く形だけの剣となっており、フェイトの曼荼羅障壁を突破することなく、片手で簡単に弾かれ、雲海の下に落ちて行った。

「そんな……一体どうしたらいいの……」

跳躍力はあるにしても空高い場所で戦闘を続けているネギとフェイトに介入する余地はアスナにはなかった。

ネギは魔法領域で砂塵の侵入を抑えているがジリ貧の様相を呈していた。
そこへ更にフェイトが空中に石の槍を数十本出現させ、これまた囲むように発射、猛威を振るう砂塵攻撃の上から更に一点突破力の高い槍が魔法領域にあらゆる角度から次々突貫し始める。

「これは……マズいっ!」

   ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―吹け 一陣の風 風花・風塵乱舞!!!―
    ―双腕・断罪の剣―
   ―魔法領域 出力最大!!―

強風を巻き起こすという性質上活用方法として色々な事に応用できる風花・風塵乱舞を上方に向けて発動、真上から突貫してくる石の槍で吹き飛ばなかったものは断罪の剣で薙ぎ払い、砂塵の包囲から脱出する。

「そろそろ出てくる頃かと思ったよ」

     ―ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト―
   ―小さき王 八つ足の蜥蜴 邪眼の主よ―
 ―その光 我が手に宿し 災いなる 眼差しで射よ―
         ―石化の邪眼!!―

「なっ!」―風精召喚!!―

フェイトはネギが飛び出して来た瞬間を狙って石化光線を指先から放ち、ネギは無詠唱風精召喚の囮を残して回避する。
しかし、一度吹き飛ばしただけの砂塵は直ぐ様ネギを追跡しだし、途中柱を粉々に砕いてはそれも砂塵として加えみるみるうちに砂の海のような量に膨れ上がる。

「量が……多すぎる!消滅させるしかないかっ!」

ネギはそう言い放ちながらアスナを巻き込まない位置に向かって飛び続け、上昇し詠唱を始める。

         ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
       ―契約により 我に従え 破壊の王―
  ―来れ終末の輝き 薄明の光芒 満ちれ エアロゾルよ―
ネギの足元にオーロラのような光の膜が広範囲に発生する。
   ―降臨し 全ての命ある者に 等しき死を 其は安らぎ也―
            ―天使の梯子!!!―

詠唱の終わりと同時に千を越えようかという光の破壊光線が放射状に次々と降り注ぎ、砂塵の海のみならず周囲の柱も跡形なく消滅させる。
砂塵自体元々ほぼ極小の粒子であるに関わらずそれすら完全に消し飛ばす光系最大広範囲殲滅呪文。

「はぁっ……はぁっ…………」

一度の魔力消費量が激しく術者本人にも極度の精神疲労による反動が出る。

「千の呪文の男の得意技だけでなく、こんな大呪文も習得していたとはね。今のは驚いたよ。不死の魔法使い直伝と言った所かかな」

周囲に邪魔となる柱は無く、フェイトとネギの2人だけの姿があった。

「砂塵が壁になったにしてもこの魔法でも……駄目なんて……」

持てる最大呪文2つを放っても遠距離からでは大して苦も無く防ぎ切られた事にネギは焦りを隠せない。
そこへ救いの声が届く。

《ネギ坊主、召喚を試せ!》

《ネギ!多分俺も行けるで!》

《わ、わかりました!》

―召喚!! 長瀬楓!! 犬上小太郎!!―

「ネギ坊主、無事でござるか」

「ネギ、怪我は無いみたいやけど消耗しとるな」

「楓さん、コタロー!」

ネギは即座に仮契約カードの召喚機能を使用し長瀬楓と犬上小太郎を呼び出した。
2名はそれぞれ縮地无疆の連用と影を使った連続転移で召喚可能範囲内に到達していた。
空中に召喚された長瀬楓は落ちそうになるが犬上小太郎の分身2体が足場として現れ1対3でフェイトに向きあう。

「へえ、もう近くまできてたんだ。速いね」

「お前がフェイトっちゅう奴やな!」

「楓さん、下にアスナさんがいます。お願いできますか?」

「あい分かった。足場の無いここでは拙者も分が悪いでござるからな」

長瀬楓がアスナの元に向かって下に飛び降りた所。

「そうはさせないよ」

すかさずフェイトが多数の石の槍を長瀬楓に向かって放つ。

「あっ!」

「しもたっ!」

「アデアット!」

刺さるかと思われた瞬間長瀬楓は天狗之隠蓑を使用し、迫り来る石の槍を全て中に取り込んで防ぎ切る。

「あれは……天狗之隠蓑……」

天狗之隠蓑を見たフェイトは一瞬驚きをあらわにして呟く。

「ネギ!こいつを倒さんと出られんのやろ?」

「うん、間違いない。1人は無理でも……」

「2人で抉じ開ける!」

―契約執行 300秒間!! ネギの従者 犬上小太郎!! 最大出力!!―
        ―短縮術式「双腕」封印!!―
         ―双腕・断罪の剣!!―
         ―双腕・断罪の剣!!―

「あぁぁぁッ!!」

「おりゃぁぁッ!!」―双腕解放!!断罪の剣!!―

「君のアーティファクトは見たことも無いね。いいだろう。2人同時に相手してあげるよ」

ネギと小太郎は左右に別れフェイトを挟むように接近し、断罪の剣を振るう。

「なんだこの障壁っ!?」

「固いッ!」

悠然と構えたフェイトに向かって振るった断罪の剣は多重曼荼羅障壁を1枚1枚突き破る度に侵入を阻まれる。
突破力としては断罪の剣で問題は無いが、フェイトが黙ってその攻撃を受けつづける訳も無く

「こちらからも行くよ」

石の剣が一閃、寸前でネギと小太郎は後退してその一撃を避ける。

「何だ……あの曼荼羅みたいな多重高密度の魔法障壁は。これで攻撃を防がれていたのか……。人間技じゃない……!!」

集中してフェイトの張っている障壁を確認したネギは驚きの声を上げる。

「よく言うね。ネギ君、君の障壁も既に人間技じゃないよ」

「へっ、要するに厄介な障壁やから、突破できる攻撃せなあかん言う事やろ!」

「できるならやってみるといいさ」

「上等ッ!!」「やるしかないかっ!!」

―咸卦・影装刺突!!― ―連装・断罪の剣!!―

小太郎は最大効率の咸卦法で強化した狗神を纏い、一本の槍と化した右腕で、ネギは破壊力を最高の状態から落とさないよう断罪の剣を連続発動し続ける右腕で曼荼羅障壁の突破を試みた。
曼荼羅障壁の特徴は通常の魔法障壁と基本は同じで、バリアのように周囲に張りめぐらせる事もできるが、戦いの歌のように対物魔法障壁を身体に直接纏うようにする事もできる。
そのため近接戦になった場合には、いくら打撃を入れようが、吹き飛ばして壁に叩きつけようが、障壁を突破できなければ一切ダメージが入らないという事が起きる。
因みに魔法領域も圧縮して身に纏えば同じ事ができるが、魔法領域内では発動者は自由に攻撃できるが、相手は常に高密度の魔力の層に阻まれ、場合によっては一切身動きを取らせなくさせる事すらできるというメリットを失う事になる。
但し、実際フェイトのような相手が格上の場合は圧縮して身に纏っても大差無いともいえる。
3人が切り結んでいる間、長瀬楓はアスナを発見し、天狗之隠蓑の中に無事に入れ、本体でフェイトとの戦闘に臨む訳にも行かず本体と同レベルの分身をもう一体出しネギと小太郎の加勢に加わった。

一方龍宮真名は移動中に長瀬楓の分身の1体に遭遇し、進む方向を間違えたと分かり、移動速度では最速の縮地无疆を連発できる長瀬楓の分身に運んでもらい逆方向に進み始めていた。
そして長瀬楓のもう1体の分身は気絶して倒れている近衛木乃香を発見した。

「木乃香殿!木乃香殿!」

「…………うぅん……あ……楓!」

「フェイトとやらの部下にやられたでござるか?」

「うーん、一瞬目の前に4人現われたのは覚えとるんやけど……気がついたら楓がおったんよ」

「そうでござるか。木乃香殿、怪我は他にないでござるかな?」

「ふむぅー、特に痛いとこあらんえ。……ん……ああ!ウチの端末が無いー!」

「なるほど、それが狙いでござるか……」

時間をかけていられないと焦ったフェイトの部下4人が現れて早々、時の回廊を暦がフェイトに習って気付かれないようにきちんと使用し、近衛木乃香の時間遅延を行っている間に接近し即効で気絶させられ、端末を回収されていたのだった。
ただ、近衛木乃香は戦闘要員ではないと認識されていたため、無駄に怪我をすることがなくて済んだのは幸運であった。
そのまま分身は近衛木乃香を抱えて次の地点に向かい同じく縮地无疆で移動を開始した。

フェイト達4人の部下はというと1番の古菲の端末破壊に失敗した後2番の近衛木乃香の元に飛び成功し破壊ではなく回収、続けて3番の長瀬楓の元に転移、縮地无疆の影響で陥没している足場を見て追うのは無理だと判断した。
4番の龍宮真名の元へ転移してみれば特に足場が壊れていた訳ではないが、周囲をしばし捜索してみても見つからず、5番の桜咲刹那は月詠が相手をしているので6番の犬上小太郎の元に行くも以下同様であった。
彼女達4人の誤算はネギ達の移動速度は基本的にかなり速い事を考慮に入れず、かつ無限抱擁を発動したのがフェイト・アーウェルンクスであるため、全体を監視する事が出来るはずが今回できないため、捜索する手間が増えていたという事である。
それでも間もなく、7番のアーニャと8番の宮崎のどかに関しては近衛木乃香と同様の手口でうまく行くのは数十秒後の事であった。

転移魔法を受けてすぐに戦い続けていた桜咲刹那は、恍惚とした表情を浮かべる月詠と既に優に200合を越える数、剣を交えていた。

「はぁ……はぁっ……いい加減にしろ、月詠!」

「センパイのいけずぅ~。もっとウチを楽しませて下さいー!」

―にとーれんげきざんてつせーん!!―

神鳴流の技名を間延びした声で放つ月詠にイライラしながらも太刀筋自体は凶悪なので桜咲刹那は真面目に対応せざるを得なかった。
そこへ突如月詠に銃弾が飛び、不意打ち気味であるにも関わらず

「はわっ、なんですのー」

二刀の小太刀をクルっと回して銃弾を弾いた。

「龍宮か!?」

戦いの音を聞きつけて駆けつけた龍宮真名と分身の長瀬楓であった。
桜咲刹那は空中に滞空したまま、月詠は近くの柱の上、そこから20mは離れた柱に2人。

「刹那、加勢はいるか?」

「ウチの戦いを邪魔せんでもらえますかぁー?」

―斬岩剣弐の太刀!!―

戦いを邪魔された事のお返しとでもいうのか月詠の目の色が反転した瞬間龍宮真名の持つ銃が真っ二つになった。
切り落とされた銃身がズリ落ち鈍い音を立てる。

「は、やってくれるじゃないか。酷い出費だ」

「弐の太刀は凶悪でござるなー」

「龍宮、楓、ここは私一人で問題ない。他を当たってくれて構わない」

「うふふ、センパイもウチと戦いたいんですねぇー?」

「断じて違うッ!」

「なるほど、戦闘狂という訳か。面倒だな」

「真名、刹那を信じて先に行くでござるよ」

「ああ」

結局一度桜咲刹那と月詠の戦いを中断させただけで2人は再び縮地无疆で移動を開始した。
丁度その頃近衛木乃香を抱えた長瀬楓のもう1体の分身は途中古菲の神珍鉄自在棍が複数の柱の上に橋のように架かって異様に伸びている光景を途中見つつも、移動を続け葛葉刀子に追いついていた。
分身には端末が無く、近衛木乃香も端末を無くしてしまった為これまで通信ができていなかった。

「葛葉せんせーい!」

「お嬢様、ご無事で」

「葛葉先生、木乃香殿を頼んでも宜しいかな?」

「わかりました。長瀬楓の方が、移動が速いのは間違いありませんね。あなたの分身含むネギ先生達はフェイト・アーウェルンクスと未だ交戦中のようです」

「そうでござるか……」

「葛葉先生、うち、4人の女の子達に気絶させられてもうたんよ」

「え!?お怪我は?」

「いや、どうやら彼女達の目的は端末のようでござる」

「うちはただ少し気を失ってただけや。端末は取られてもうたみたいなんです」

「……分かりました。だとするとこの先にいるであろう2人も気絶させられる可能性がありますが……無闇に危害を与えるつもりが無いのなら……」

「そういう事だから拙者はのどか殿とアーニャ殿を探しに行くでござるよ」

「お願いします」

「楓、気いつけてな」

「大丈夫でござるよ、木乃香殿。ではっ」

―縮地无疆!!―

「あれ速いなぁー」

「流石は甲賀の中忍ですね。では、参りますよ」

「葛葉先生、お願いするえ」

そして葛葉刀子と近衛木乃香はネギ達のいる方向に向かい移動し始めたが、同時に最も危険な戦闘地帯に近づきすぎる訳にもいかないので、その辺りは通信で折り合いをつけるしかなかった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

楓さんがアスナさんをアーティファクトの中に入れてくれたから、これでフェイトとの戦闘にアスナさんが直接巻き込まれる事はなくなった。
刹那さんはまだ戦闘中、このかさんは葛葉先生と一緒で、くーふぇさんが神珍鉄自在棍を使って撒いたフェイトの部下4人の目的は端末だったらしい。
くーふぇさんは未だに神珍鉄自在棍を伸ばしてこっちに来ているみたいだけどまだ数分はかかると思う。
楓さんとコタローぐらいの機動力じゃないと正直すぐに到着っていうには無理がある。
それにしても、僕とコタローが空中戦、楓さんの高密度分身が遠距離攻撃で戦っているけど……決定打が入らない。

  ―ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト―
 ―おお 地の底に眠る死者の宮殿よ―
   ―我らの下に姿を現せ―
       ―冥府の石柱―

「何やっ!?」

一帯の柱をさっき消滅させたのにあんな大質量の石柱を複数召喚できるのか!

   ―障壁突破 石の槍―

石柱から石の槍を伸ばすのが狙いか!!
下から突き上げて来るのを横に避けて回避。
ん、伸びた石の槍から更に追尾式に石の槍が出てくる!
これはコタローがまほら武道会で戦った蘇芳さんと同種の技だ。
……もう一度吹き飛ばすしかない!

             ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
  ―契約により 我に従え 高殿の王 来れ巨神を滅ぼす 燃ゆる立つ雷霆―
           ―百重千重と 重なりて 走れよ稲妻―

コタローはもう退避したっ!

                 ― 千の雷!!! ―

6本の巨大な石柱は千の雷でそれぞれ半分近く吹き飛ばせた。

「はっ……はっ……」

「ネギ、あと2回か3回やられたらキツいな……」

「うん……。今の攻撃から砂塵攻撃にまた発展されたらもっと酷くなっただろうから仕方ないけど」

千の雷級だとコタローが気づいてる通り後2回か3回やられたら魔力切れする……。

「俺達の方は余裕あらへん言うのに、あのフェイトは表情一つ変えへんな……」

「話してる場合なのかい?」

後ろっ!?
間に合わ

「ぐぁっ!!」

「コタローッ!!」

コタローがフェイトの攻撃で吹き飛ばされた。
今のは……八卦掌!
違う、そんな考えてる場合じゃないっ!

―連装・断罪の剣!!―

「はぁッ!!」

「今のでこの石の剣だったら彼は終わってたね」

この剣……分解するのに時間がかかるっ!

「一体どういうつもりだ!」

「それは僕が本気を出していないということかな?」

「ッ!!」

「できれば早く力の差を理解してお姫様を自発的に渡してもらいたいと思っててね。まあネギ君もしばらくすればもうすぐ魔力切れになるだろうけど」

―咸卦・狗音爆砕拳!!―

「でやぁっ!!」

コタローが体勢を整え直して、打撃を入れて吹き飛ばしたッ!!

「不意打ちのお返しや。さっきは結構効いたで」

「やれやれ、それで障壁を突破することはできないと分かっているだろう?」

ほぼ無傷か……。
ラカンさんと同じだと思えば仕方ないとは思うけど……次元が違う……。

「チッ……」

「くっ……」

「「「「フェイト様!」」」」

フェイトの部下4人!?
転移してきたのか!

「こりゃキツいで……」

「…………」

「お帰り、悪いけど下にお姫様を守っている人物がいるから行ってきてもらえるかな?」

「「「「はいっ」」」」

「待てや!!」

「君達の相手は僕だよ」

速いッ!

「だぁっ!……くっ何度も直撃せんで!」

今度はギリギリでコタローはガード。
後ろを向いてる余裕は無い……か……。

「コタロー、楓さんなら」

「大丈夫やな。しゃーない」

僕達が全員集まれば人数ではこっちの方が上の筈なのに……劣勢だとしか感じられない。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月30日、14時47分、新オスティア闘技場―

ネギ君達がオスティアの街中に堂々と出て祭り巡りに行ってた間、私達はラカンさんと高音さんの叔父さんの試合を見た。
クレイグさん達は超テンション上がってて今か今かって試合始まる前はワクワクしまくりだったね。
というかラカンさんとカゲタロウさんはそもそも拳闘大会の地方大会自体出てないのに出場できんのか?って思ったんだけど、それはもう大分前にどーにかなってたらしい。
でも全然告知はされてなかったもんだからいよいよ選手入場してラカンさんが出てきた瞬間観客席が一瞬シーンとなったと思ったらすぐにスゲーうるさくなった。
試合自体は……まー、相手の選手も戦意喪失っていうかその前にサイン欲しい的なアレになったんだけど、問答無用で適当に右パンチ(寸止め)一発だった。
寸止めって何?粉々になってない所?
カゲタロウさん何もしてないスよ?
高音さんは「程度というものがあるでしょう!」って席からガタッって立ち上がって思わず叫んだ辺り、カゲタロウさんの活躍を観たかったらしい。
ま、そりゃそうスよね……。
つーかネギ君達でもアレはいくらなんでも無理だろー。
よくラカンさんに修行つけて貰ってたな……。
まほネットで調べると
「死なない男」
「不死身バカ」
「つかあのおっさん剣が刺さんねーんだけどマジで」
が帝国拳闘界での通り名らしい。
いや、全然呼ばれても嬉しくないだろコレ!
伝説の傭兵剣士とかは除くにしても、千の刃の男ぐらいしかまともなの無いじゃないじゃんか……。
んで「40年以上前、少年奴隷剣士として戦いを重ねていた頃は死に掛けることも多かった。それらを乗り越えて帝国拳闘界の頂点を極め、奴隷身分から解放されて以降、傭兵として幾多の戦場を回るうちに圧倒的な強さが身についた」
とな。
……その圧倒的な強さが身についた辺りの話が端折りすぎだろー!!
戦場回っただけであんな風になるなら今頃世界はどこも世紀末状態スよ!!
死にかけて何度でも乗り越えるとかも、どー考えても何か別の惑星のDNAが混ざってるだろ。
宇宙人なんて……あ、火星人の知り合いはいたわ。
つかネギ君が言うには魔法世界は火星にある異界らしいけど、いやコレもマジ驚きだけど、そう考えると超りんはその事知ってて実は魔法世界生まれだからあーいう事言ってたんじゃ……?
まー、そうだとしても科学技術力の説明にはならないけど。

で、そんな感じで観戦終わってフラフラしてたら茶々丸からの緊急通信でネギ君達の反応がロストしたとの事。
は?
としか言いようがないんだけどオスティアのカフェがある座標で突然消えたらしい。
ドネットさんがそこの店に連絡したら確かに11人いた客が突然消えたとか。
集団神隠し型無銭飲食……じゃなくてこれはもー間違いなく例のゲートポートテロの連中の仕業スね。
すぐ高畑先生が状況を見に出て行ったんだけど……。

「私達も参りますわよ!」

「お姉様!」

「ええ!?」

「春日さん、何を驚いているのですか!当然でしょう!」

「あ、ハイ、そうスねー!」

……てな訳でその怪事件の起きた現場のカフェに急行。
闘技場からは割と近いカフェだったから十数分で着いた。
先に着いてた高畑先生が店の人に11人分の代金払っててネギ君達が指名手配解除された瞬間無銭飲食の罪になるのは回避された。
ネギ君達がいたらしい席は確かに飲みかけのお茶やら食べかけのケーキだけがまだ残ったままでホントに事件現場そのもの。
高音さん達と流れできちゃったけど実際私達ができること何も無いじゃん。
いつまでも店の中にいる訳にもいかないから店の外カフェテラスに出た。

「高畑先生、これからどうされるのですか?」

「困ったね……。茶々丸君によると半径3000km圏内には既にいないらしいんだが……その外側にいるとしても端末で通信してこないのはおかしい」

何だその半径3000kmって……。

「……考えられるとしたら……」

「どこか別空間に閉じ込められたという可能性が高いね……」

いやいやいや別空間って何。
ダイオラマ魔法球じゃないんスから。
まさに迷宮入りって奴スね!
なーんて言ってる場合じゃないけど、どこにあるかわからない別空間をどうやって見つけろと。

「フェイト……アーウェルンクス!!」

へ?
ネギ君の声?
振り返って見てみたら……ネギ君達、そこにいた。

「「はぁっ……はぁっ……」」

しかもネギ君と小太郎君はそのまま倒れた……って何だその怪我!?
槍みたいの刺さってるじゃんか!

「ネギ君!」  「コタロー!」 「ネギッ!?」

  「小太郎君!」   「ネギ先生ッ!」

     「ネギ先生!」   「コタロ!」

       「ネギ―――ッ!!」

楓のスカーフからアスナ飛び出てきて最後に強烈な叫び声上げた。

「……このか姉ちゃん、早うネギの手当してやってや……俺は大丈夫やから」

小太郎君も大丈夫じゃねースよ!!

「わ、分かったえ!楓、ネギ君に刺さっとる槍抜いて!」

「あい分かった!」

「このか君!?ここで抜いたら出血が酷くなるよ」

「まだ3分たってへんから治るんよ!アデアット!」

私たちがいることとか完全スルーで、このかがアデアットして巫女服っぽくなった。
もうここ路上とかどーでもいい。
楓がネギ君の右太腿、左腕、右肺?に刺さってる槍3本をあっと言う間に抜いて、当然……血が出る……いや……ちょっと待てー。

  ―氣吹戸大祓 高天原爾神留坐 神漏伎神漏彌命以 皇神等前爾白久―
―苦患吾友乎 護惠比幸給閉止 藤原朝臣近衛木乃香能 生魂乎宇豆乃幣帛爾―
               ―備奉事乎諸聞食―

「ぐっうわああああぁッ!!」

げげっ!?
ビシビシ音するんだけど大丈夫か!?

「ネギ君、大丈夫」

「はー……はー……」

……このかが長い詠唱してネギ君に抱きついたら怪我全部治った……。
どんな3秒……いや3分ルール……。

「よ、良かったー!!」

「ネギっ……良かったよぉ……」

「ね、ネギは治ったんやな……。ぐっ……俺も……はぁっ……」

小太郎君は自分で槍抜き始めたー!

「コタロー、大丈夫でござるか?」

「俺は獣化で……治るで」

―狗族獣化!!!―

…………はーもう訳わからんスよ。
カフェテラスで騒然とした状態になってネギ君と小太郎君の怪我がとにかく治ったのは良かったけど、そのまますぐ闘技場の救護室に戻った。
特に酷い怪我だったのがネギ君、小太郎君だったけどこの2人は治ったと。
他には楓とくーちゃんは何か火傷の跡が目立って、桜咲さんは切り傷が少しって感じだった。
他の皆はほぼ無傷。
このかが皆に治癒魔法かけてみるみるうちに治したのは驚いた。
いや……何かまほら武道会を思い出すと骨とか普通に折れてたのとかすぐ治ってたからアレかもしれないけど……。
……皆の怪我が治った所でやっとこさ落ち着いて、何があったのか確認を始めた……。



[21907] 54話 究極技法(魔法世界編14)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 20:17
―9月30日、16時頃、オスティア闘技場、救護室―

ネギ達が閉鎖空間から解放され、闘技場備え付けの救護室に移動し、しばらくして落ち着いた所でフェイト・アーウェルンクスらに閉じ込められた空間で何があったのかについて話が始まった。
ネギと小太郎がフェイトと戦闘中に、フェイトの部下4人の少女が現われた後、何があったのかと言えば、変わらず戦い続けた事には相違は無かった。
フェイトの部下4人が現れてから程なくして宮崎のどかは長瀬楓の分身に気絶しているところを発見、アーニャも同じく気絶している所を長瀬楓のもう一体の分身と龍宮真名に発見された。
そのまま彼女達もネギ達のいる中心に向かって再度移動を開始した。
フェイトの部下4人に追われた長瀬楓本体は分身を駆使して対応して逃げ続けるも、調の音波攻撃と焔の発火能力による粉塵爆発を虚空瞬動で避け続ける中、動きを読まれ一度直撃しかけ、古菲と同じく軽い火傷を負った。
その当の古菲はおよそ20kmを10分近くかけ、途中仮契約カードに戻して再アデアットを挟みつつも神珍鉄自在棍を伸ばして移動し続け、ネギに召喚を試すように伝えた。
フェイトの部下が現れてから古菲が通信を入れるまでの間は3分程であったが、その間にフェイトがまた発動させた冥府の石柱から砂塵攻撃への発展を許してしまい、ネギは止む無く3度目の千の雷を放ち相殺せざるを得なかった。
短時間で大呪文を4発、出力最大契約執行、更に断罪の剣と魔法領域の連用によって、魔力切れまで時間が無いという時に古菲の通信が入り、すかさずネギは召喚を行った。
しかしながら、やはり空中戦であったため古菲には分が悪く、仮に離れた足場から跳躍して攻撃を仕掛けたとしてもフェイトの攻撃の餌食になる可能性が高く、結果古菲は長瀬楓の加勢に出る他無かった。
そういう意味では空を飛ぶことができ、障壁を無視できる弐の太刀を扱える桜咲刹那を月詠が嬉々として抑えていたのはフェイト達にしてみれば実に正しい事であった。

「もう10分は超えてるけどよく持ったね。少し見直したよ」

「はぁっ……はぁっ……まだ終わっとらんで!」

「はっ……はっ……そうだ、まだ終わってない!」

酷く消耗したネギと小太郎に対して全く疲れを見せないフェイト。

「いや、これで終わりさ」

そう言い放った瞬間、冥府の石柱一本分と同程度の質量はあろうかという大量の石の槍がネギと小太郎の周囲を埋め尽くして出現し、一斉に襲いかかった。

「この数はッ!!」    「そんなんアリか!」

―双腕・断罪の剣!!―   ―咸卦・疾空白狼閃!!―
―魔法領域 出力最大!!―

即座に迎撃を2人は始め、最初の一瞬だけは完全に対応できたものの、あっと言う間に押されてしまった。
最も離れているところから射出された石の槍は半径から言って、その総数も至近距離に出現した石の槍よりも到達した段階での数は倍以上の差があり、捌ききれなかったものが容赦無くネギと小太郎の身体に突き刺さった。
僅か3秒の出来事である。

「ぐぁぁっ!!」   「がぁぁッ!」

ネギには3本、小太郎には4本が完全に決まる。
攻撃で捌くだけでなく身体を捻り回避したにしても、石の槍の総数から考えれば寧ろこの数で済んだだけマシだったと言えよう。
しかし、そのまま墜落すると思われた2人であったが、突如目を見開いて最後の力を振り絞るかの如く虚空瞬動し、ただの拳による打撃ではあったがフェイトの顔面を殴るという事をやってのけた。
小太郎の拳は障壁に阻まれダメージは一切無かったが、なんとネギが殴った方は確かにダメージになったのだ。

「へえ……この力は……。ハハハハハ、遺伝子のなせる技か、面白い。それでこそだ。ネギ君、敬意を表して今日お姫様を渡してもらうのはやめにしてあげるよ」

「な……何……?」  「何の……つもりや?」

2人は突然のフェイトの発言に驚きを隠せない。

「ただの気まぐれさ。僕には向上の努力の必要はないけれど、せいぜい次は楽しませてくれる事を願っているよ。それではまた会う時まで」

―無限抱擁解除―

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月30日、20時頃、オスティアリゾートホテル―

強敵だっていうのは分かっていたけど……全然フェイト・アーウェルンクスに歯が立たなかった……。
たった……十数分の事だったけど……奴がラカンさんと同じ次元の強さだというのはよく……分かった。
怪我もこのかさんのお陰で僕は治ったけど、コタローは僕を優先してくれて自力で反動覚悟で獣化、くーふぇさんと楓さんと刹那さんも怪我をした……。
それにアスナさんが今回攫われなかったのは本当にフェイトの気まぐれでしかない……。

「ネギ……今日はえらい目におうたな」

「そうだね……コタロー。それより怪我は大丈夫なの?」

「そら大丈夫や。獣化で致命的なとこは治したし、ちゃんとこのか姉ちゃんにも治癒してもろたからな」

「それなら良いんだけど……。何かごめん」

「何言っとんのや。今日の事は一つもネギのせいやないやろ。俺達の力があの白髪に及ばなかっただけの事や」

「本当に……及ばなかったね……」

「それで、ネギ、これからどうすんのや?」

「それは……決まってる」

「ハッ、そうやな」

コタローも同じか。

「次は絶対に負けない」「次は絶対負けへん」

「そうとなれば明日から修行やな」

「うん。折角ラカンさんとカゲタロウさんが拳闘大会で相手をしてくれるんだ。ラカンさんは、ラカンさんに絶対勝てないって言ってるようじゃアスナさんを守れない、フェイトには勝てないって言ってた」

「ああ、これは良い機会やで。あと本当に6日しか無いなら無理やけど、テオドラ姫さんが魔法球持ってきてくれとる」

「2ヶ月ぐらいは……行けそうだね」

「それぐらいあればネギも例のアレどういう形になるかは知らんけどできるならやった方がええな」

「うん……構想はできてるからやってみせるよ。数年あるならそれをしなくても地道に鍛えればいいかもしれないけど、はっきり言って時間が無い今、僕も咸卦法みたいな事ができないとどうあっても基礎力が足りないからね」

「俺の獣化の形態もそれなりにリスク背負っとるから似たようなもんやな」

「お互い出来る限り頑張ろう」

「おう、もちろんや」

僕とコタローはこれから6日間ナギ・スプリングフィールド杯決勝でのラカンさんとカゲタロウさんとの試合を次の目標として修行をすることにした。
さっきタカミチ達に何があったか話をして、フェイト・アーウェルンクスが接触して来た事で、アスナさんの件はもちろん他の面でも警戒を強めるために動く事になった。
そうは言っても連合・帝国・アリアドネーの軍事的な問題は僕1人がどうこうする事じゃないから、その点はタカミチ、総督、テオ様、セラス総長達が動いてくれる。
墓守り人の宮殿にフェイト達が既にいそうだというのは間違いないと思うけど、オスティア記念式典中に迂闊に攻め込めば、今お祭りに来ている人達が被害を受ける可能性があるし、そもそも式典のための艦隊しかいないから戦力的に考えて、増援を集めるのにもしばらく時間がかかるから、今は様子を見るしかないらしい。
アスナさんの警備はどうするのかだけど、恐らく街中だと今日と同じ手口で気づかないうちに閉じ込められる可能性があるから、アスナさんも基本的に魔法球の中で生活する予定だ。
アスナさんには大怪我した事でまた凄く心配かけちゃったけど、それでも僕は今できることをやるだけだ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月2日、12時頃、オスティア闘技場―

ネギ君達が例のゲートポートテロの犯人のフェイト・アーウェルンクスなる白髪の少年に襲われてとんでもない怪我してから3日目。
ここ2日高畑先生は色々対策に乗り出してるみたいでオスティアの総督さんとかの偉い人達と総督府に集まったりしてる。
当のネギ君達はっていうとテオドラ皇女殿下が持ってきたダイオラマ魔法球の中でもうずっと修行中スよ。
10倍の魔法球らしいから昨日の深夜から入り始めて……この時間だともう15日ぐらい経ってるんじゃないかな。
なんでも面倒なことにそのうちまたアスナを狙ってやってくるらしいからその対策だって。
修行すりゃ良いってもんじゃ……と思ったりするけど、実際テロみたいな事してくる連中ならそれぐらいしかネギ君達にはできないスよねー……。
高畑先生達大人はちゃんと動いてるし、いや、ラカンさんは別だけどさ……。
一昨日の一件すぐの時は皆ピリピリしてたけど大体皆魔法球で結構生活してて日数が経過してるからそこそこ落ち着いてる。
そのすぐの時、このかとのどかの端末が奪われ、小太郎君の端末は槍が刺さった時に運悪く大破したって言うもんだから、その日のうちに茶々丸の説明の元、端末からこのかとのどかの端末との接続を完璧に切る作業を皆でやった。
うっかり全体通信でこっちの情報が漏れかねないから仕方ないスね。
……んで、メインイベントのナギ・スプリングフィールド杯の予選は昨日も今日もネギ君と小太郎君は相変わらずあっさり勝ち進んだ。
決勝戦はネギ君達とラカンさん達の試合でほぼ決定になるだろうってその辺でもっぱらの噂になってるけど、拳闘士の試合そのものとして見る分にはちゃんと他の試合も見ごたえはあるんスよ。
力量差がありすぎると、速攻で終わるけど実力が均衡してればしてるだけ白熱するしね。
そんな周りがゴタゴタした中私は何やって生活してんのかっていうとですね……。
よくよく考えると、私は純粋魔法生徒で、今周りには他にココネ、高音さん、愛衣ちゃん、このかとアーニャちゃんがいるじゃん。
そんで、ネギ君達の修行に協力するって形で会議の合間にセラス総長が来ると。
ネギ君が何か魔法開発をしだすもんだから、資料集めとかその研究をセラス総長が手伝う、その更に合間に私達魔法生徒は世界でもトップレベルの魔法使いに魔法を教えてもらえるわけだ。
このか、アーニャちゃん、高音さん、愛衣ちゃんはノリノリで、私はそれに巻き込まれたというかそんな感じ。
因みにアイシャさんとのどかも気がついたら横にいたりする。
まあ実際勉強にはなるっちゃなるんだけど、うちの両親との取引を寧ろ自分から破ってるような気がしてならないスよ……。
まあ私の個人的な事情よりも、まずはこの魔法球のカオスをどうにかして欲しい。
セラス総長の特別講習中は魔法で遮断してるけど、常にあちこちから爆発音が止まないんスよ。
エヴァンジェリンさんとこの魔法球も多分いつもこんな感じだったんだなって今更よーく分かった。
高音さんは昨日カゲタロウさんが1人で影槍ってのを操ってラカンさんじゃないけど速攻で試合終わらせたの見て「流石叔父様ですっ!」って感動した流れで、魔法球が来てからは操影術の指導を受けてて、その爆発音の原因に仲間入りしてるから除くとしても、私とココネ、アーニャちゃん、愛衣ちゃんはこの惨状?に正直最初マジ引いたわー。
セラス総長も流石に最初やってきたときは驚いてたしな……。
まあ、それを言ったらクレイグさん達も見に来た時はドン引きで「旧世界の人達ってやっぱ凄いんだねー」ってクリスティンさんは遠い目してたし。
いやいや、流石に旧世界でもあんな連中がゴロゴロしてる訳じゃないスよ……完全に間違ったイメージを与えてるからねコレ。
ネギ君が開発中と思われる収束大呪文?を海に向かってぶっぱなしてるの見たけど何あの戦艦の主砲みたいなのは……魔法使いは究極的には砲台とか言うけどそれにしても……ねぇ……。
その割に「これじゃまだまだだ……」とか落ち込んでたし、どんだけフェイトってのは異常なんスか。
他にもネギ君がある程度時間かけて雷の投擲の槍を大量に出して、それで小太郎君を囲んで一斉発射、その逆もやってたり修行の割には常に命懸けすぎるだろー。
後は巨大岩を身体に乗せて腕立てとかそんな修行……10歳とかでそんな事して身体が大丈夫なのかって疑問に思わなくもないからちょっと理解に苦しむわ……。
ネギ君と小太郎君はそれ以外に、それぞれ別れて凄い遠くの海に飛んでってその洋上で何かやってるらしいけど、それは秘密らしい。
帰ってきた時にネギ君は髪の毛が一部変に短くなってた事があったんだけど……絶対散髪してたなんて単純な話じゃないんだろーな……。
アスナはまた無茶やってるんじゃないかって心配してるのは、確かに尤もな話。
でも……またっていうか私からみれば全部無茶苦茶スからね。
そんな光景の中ただ変わらないのは、よく食べてよく寝てるとゆー事ぐらいだな。
因みにネギ君達の相手するラカンさん本人はっていうと魔法球にはあんまり入ってないんだよね。
まあ一応対戦相手って事もあるんだろうけどさ。
……それにしても、魔法世界来てからというもの異常事態の連続すぎてもー何がなんだか……。
廃都オスティアにあるっていう要石早くメガロにでも移設しないかなー。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月25日日本時間18時13分、麻帆良―

運命の日まであと丁度2日、ほぼ準備万端の状態。
優曇華内にもゲートを作成した為、魔法世界と火星の同調の際にそのまま宇宙に打ち上げても、魔分供給はゲートを通して行える為半永久稼働可能、加えて転送も可能であり、広大な宇宙空間のどこへとどこまでも飛んでいく事ができるようになっている。
宇宙開発に携わっている人々からすれば方舟ようなものだろうか。
自給自足しようと思えばアーチ内には一般的な魔法球を超える広大な亜空間が広がっている為、作物、薬草は栽培し放題、環境設定は調整可能し、超鈴音の科学技術力を以てすればアーチ内に植物工場を建て工場栽培することも容易。
更に、魔法球の中に魔法球を入れる事はできないが、アーチ内には更に魔法球を持ち込む事ができるため、空間的には無限の広がりを持たせる事も不可能ではない。

……それはさておき、3-Aの生徒達はネギ少年達が2週間近く経っても帰って来ていない事で騒いでいる。
雪広あやかの症状が危険。
エヴァンジェリンお嬢さんの所に訪問し「ネギ先生達がどこにいったかご存知ですか!?」と聞くものだから、お嬢さんは「落ち着け委員長。ちょっとした旅行だよ。もうすぐ帰ってくるさ」と軽く対応されていた。
そのような事よりも、動くのではないか……と見ていた人物が本当に動きを見せ、超鈴音の元にやってきた。
ザジ・レイニーデイである。
普段は寡黙で、意思疎通はジェスチャーで行い、そこから詳しい事を汲み取れるのは先の雪広あやかぐらいなもの。
場所は夕刻の超包子の屋台、超鈴音が珍しくゆっくりしていた所。

「………………」

相変わらずの無表情であり何も話さず、超鈴音の目の前に現れてじっと見つめる。

「おおっ?ザジサン、何か話かナ?」

これには流石の超鈴音も目を少し見開き驚きを隠せない。

「…………」

ザジ・レイニーデイは一つ頷きちょいちょいと指で超鈴音を招く。

「……ふむ……分かたネ。構わないヨ。五月、また明日ナ」

「はい、超さん、また明日」

そのまましばらくザジ・レイニーデイの歩む先に向かい超鈴音もついて行った。
その先とは……神木・蟠桃。
なるほど。
木の根元で終わりかと思えば跳躍して木に登り始め、超鈴音はやれやれという顔をしながらもそれについて登り出した。

《超鈴音、何聞かれるかは分かりませんが適当にどうぞ》

《ザジサンは翆坊主の事を知ていたのカ?》

《分かりません。存在の薄い幽霊でさえも見えるので私とサヨがこの麻帆良学園で浮遊しているのを見たことぐらいはあるかもしれません》

《というか彼女は何者ネ?》

《高位の魔族かと》

それも大変な。
しかしそれでも魔界に関しては、私達の認識測範囲外も良いところであり、異界としての成り立ちが安定して……言わば完成している事を除き詳細は不明。

《ハハハ……3-Aのクラス編成は……何なのだろうナ》

《近衛門殿はザジ・レイニーデイが何者か知らず、勘だけでこのクラス編成にしたのですから驚きです》

別に同じクラスである必要性も絶対という訳でもないのにも関わらず、勘で一箇所に集めてしまった……のである。

《そうか、学園長もそんな事知る由も無いカ。確かに素晴らしい勘だナ。いつになく至近距離だが見ているといいネ》

《そうさせてもらいます》

頂上とはいかないがそれなりに高い位置でザジ・レイニーデイは枝に腰かけた。
それに習って超鈴音も腰をかける。

「……話はここでいいのかナ?」

「…………」

ここに来ても返答は頷きで返すザジ・レイニーデイだった。

「…………ふむ」

「…………」

「…………」

しばし沈黙が続き……。

「……何故、未来に帰らなかったのですか?」

「…………唐突だネ。それより私が何者なのかザジサンは知ているのカ?」

「……100年先の未来の火星から歴史を変えるためにやってきた地球系火星人。魔法を世界に知らせる為の強制認識魔法を発動させ……失敗するはず……でした」

なるほど……同類……とは違うかもしれないが限りなく近いようだ。

「…………ハハハ、実に端的な説明だネ。合ていると言えば合ているヨ。ところでその情報は歴史を知ているかのようだが……一体何ネ?」

「……私は過去と未来を繋ぐ流れをある程度視る事ができました」

過去形であるが……。

「……なるほど、未来視的な物カ。それで、そんな重大な事を明かしてまで私に聞きたいのはどうして未来に帰らなかったという事カ?」

「そう……。視える未来が不安定になりだしたのは2年前から、ついに完全に視えなくなったのは学園祭の時です」

「ふむ……私が未来に帰る筈が帰らなかったのが影響と言いたいのカ」

「そうです……」

「それは迷惑をかけたようだが……私の影響では無いヨ」

「困ってはいません……ただ気になっただけです。……この木の事も」

「…………ならば……そうだネ。時間跳躍をしたのが私だけではないとしたら……と言えば良いかナ?」

それが答え。
私が存在している事は他の時間の流れの中では例外中の例外、視ていた未来というのが同じように他の時間の流れであれば、そういう可能性も絶対にないとは言えない。

「…………分かりました。それで……解決しますか?」

……納得して頂けたようだ。

「もう……間もなくだヨ。そういうからには止めるつもりは無いのかナ?」

「はい……。でも私の姉は……そうではないかもしれません」

《超鈴音、ザジ・レイニーデイの姉は完全なる世界の協賛者です》

《それは……大変だネ》

《ザジ・レイニーデイの態度から考えて一つだけ……聞いてもらえますか?》

《神木が魔界では必要かどうか、かナ?》

《ええ、その通りです。恐らく要らないと言うと思いますが》

「……時に、魔界ではこの木は必要とされているのかナ?」

「……私が何者か知っているのですか?」

「少し聞いたんだヨ」

「……この子からですか……」

敢えていうならば、私は貴女よりは長生きだとは……断言はできない。

「この子……というには……まあそうかもしれないナ」

見た目的にという事か。

「私の故郷では……必要としないでしょう。魔界は完全なる世界ですから」

……やはり。
魔力の枯渇がない安定した世界だから当然ではある。
それにしても魔界を称して完全なる世界とは……。

「それならば……この子も安心すると思うヨ。その完全なる世界のお姉サンは止めないのカ?」

「姉が動いたら……私は少しだけ先生の手助けをします」

姉妹関係までは把握しかねる。

「そうカ……。ネギ坊主達の帰りは皆が待ているからナ」

「その時は皆で一緒に『おかえり』をします」

「……そうだネ」

「……聞きたい事は終わりです」

「ふむ、では帰るとしようカ」

「………………」

ザジ・レイニーデイは再び一つ頷き話すのをやめた、が……。

「………………」

「ザジサン、この木に用かナ?」

大変熱心に見つめられている訳で。

「……おつかれさまです」

そういう事です……か。

《労い感謝します》

「初め……まして」

《こちらこそ、初めまして》

「……あなたは……何が好きですか?」

唐突な質問……。

《……そうですね……簡単な回答であれば……全部でしょうか。人間を含め》

「私も同じです」

《意見があったようですね》

「はい。それでは……また」

《ええ、また》

「ははは、翆坊主、またナ」

《はい》

……こうして超鈴音とザジ・レイニーデイは木から軽々と降りていき女子寮に戻っていった。
少なくとも彼女が邪魔をする、害を為すという事はないので計画の実行に関して何ら問題はない。
とうとう地下ゲートポートから僅かに魔法世界の魔分が漏れ出し始めており、運命の日はもう……間近。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月5日、ダイオラマ魔法球内―

現実時間で明日の15時にはラカンさんとカゲタロウさんとの決勝戦。
もう5日目も終わりそうで、外にいた時間もそれなりにあるからこれで大体45日はぐらいは魔法球内で修行できたかな。
この期間で、必死に修行しただけあってかなり実力が向上したのは間違いない。
技法の完成には一度完全発動させないと駄目だろうけど……リスクが高い……。
失敗したら即死する可能性もある……。
けど……絶対に成功させてみせる。
最初のうちは髪の毛で試してたけど、やっと、体の動きに関係無い箇所で部分的に試しても安定はして来た。
失敗した時はこのかさんのアーティファクトのお世話になって、心配もかけて「危険な事はやめなさい」って言われたけどこれ以外に、リスクを払って今僕が得られる技法は出力的に考えてもこれ以外に無い。
そして今いつも通り魔法球の洋上にいる。

「ネギ、ここに呼んだ言う事はやるんか?」

「うん……」

「引き返すなら今のうち……やないのか」

「それでも……僕はやるよ。自分で決めた事だ」

「……分かったで。もしもの時の為にこのか姉ちゃんはすぐに呼べるようにしてあるで。分身がこのか姉ちゃん連れて影でここに転移してくるからな」

「ありがとう」

「ああ、絶対成功させろや。信じとるからな。アデアット」

「させてみせるよ」

「これで状態は常に把握しとるで」

「うん、じゃあ、始めるよ」

僕がやるのは……自分の中の陰の「気」と陽の「魔力」の合一の咸卦法とは異なり、自分と陽の魔力つまり世界との合一。
自身の肉体と魂を分解し、全てを魔力……魔力の根源で再構築しなおし、森羅万象、万物に宿る自然エネルギー、魔力そのものと自ら同化する事。
失敗すれば世界に引き込まれてそのまま消滅する可能性がある。
一度再構築して安定させた後術を解いて元に戻れれば、成功。
それ以降は色々制約を決めてやれば術のオンオフができるようになる筈だ。
これを考えるに至った発端は刹那さん達神鳴流の人達が扱う弐の太刀と呼ばれる技が気を自由自在に扱える事を前提としているのを知った事から。
陰陽を表す太極図、白黒の勾玉が組み合わさってできる円の形は気と魔力が互いに対立する2つの力であるのを示している。
咸卦法はこれを合一することによって気とも魔力とも異なる3つ目の咸卦のエネルギーを得るものだ。
僕が行うのは太極図の色で言うと黒の陰である「気」の部分を全て白の陽である「魔力」に変えて全てを白い円にするというもの。
相反するものが無くなる事で出力的には咸卦法を超えるポテンシャルが得られる筈だ。
うまくできさえすれば2つの白の陽である「魔力」の勾玉がお互いを飲み込み合う事で流れが発生し、出力の自乗化も夢じゃない。

……さあ、始めよう。

     ―此処に契約を為し 真理之扉を開く―
   ― 一は全に 全は一に 我は世界に 世界は我に ―
―陰之気を捧げ 太極を改め司るは 万物に宿りし陽之気―
     ―始まりは終わりに 終わりは始まりに―
    ―灰は元に 塵は元に 夢は現に 幻は現に―
      ―此処に在りて此処に在らず―
        ―森羅万象・太陽道!!!―

「うぁぁぁぁぁッ!!」

始まったッ!!
強烈に引っ張られるッ!!
精神が持たなければあっという間に消滅してしまうッ!!
まずは分解からだッ!

        ―双腕・分解!!―
        ―双脚・分解!!―

「ぐぁぁぁぁぁッ!!」

手足は出来たッ!!
魔力の根源の感覚を思い出せッ!!
粒子の加速をイメージしろッ!!
次は絶対に失敗できないッ!!
胴体と頭全部は一気にやるッ!!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月5日、ダイオラマ魔法球内―

魂の叫びみたいな声を上げて……ネギの奴マズイんちゃうか……。
それにこんな誰でも分かるような膨大な魔力の流れが渦を巻いてネギに向かって集中するやなんて尋常な事やないで。
これやと陸におる姉ちゃん達も皆気づくレベルや……。
アーティファクトで感じる今のネギは生死の堺を極端に行ったり来たりして彷徨っとる感じや。
既に分かる感じ肉体の分解が終わったようやけど再構築が始まらんッ……。
このか姉ちゃん呼んだ方がええのに変わりあらへんけど……失敗したらこれは肉体的損傷が残るどころでは済みそうにあらへんな……。
まほら武道会の後、刹那姉ちゃんが弐の太刀の修行しとるのをネギが見てから陰陽術の理論にも興味持って勉強しとったのは今更やけど……どうそれ使うかはようわからんかったがここまで不安定な技法とはな……。
俺が寿命をリスクにしとるとしたらネギの奴は自分の存在そのものをリスクにしとるで。

《がぁぁぁぁぁッ!!》

しっかし……それでも俺にはネギが成功することを信じて待つ事しかできん。

「コタ君!」

俺の影から来おったか。

「このか姉ちゃん!」

「ね、ネギ君!?あっちからでも分かったけど何やのこれ!」

「邪魔はできんで……下手に触れればネギは死ぬかもしれん……。今ネギは肉体を分解して、再構築しとる所や」

《あぁぁぁぁぁッ!!》

「分解!?ほな、ネギ君の身体が一部分無くなったような怪我してたんはそのせいなん!?」

「そうや……」

「コタ君はどうして止めへんかったのっ!?」

このか姉ちゃんは俺の分身に抱えられたまま本体の俺に、掴みかかった。

「ネギは自分の為やなくてアスナ姉ちゃん達の為に頑張っとる。これはネギが自分で考えて自分でやると決めた事や。俺に口出しはできん。でも俺は絶対にネギが成功すると信じとる。信じるしか……無いんや」

「む~!!だからってこないな事しなくたってええのにっ!」

「このか姉ちゃんもネギを信じてやってくれへんか?」

「当たり前やよ!うちもネギ君信じとる!」

「ほな、頼むで……」

《なぁぁぁぁッ!!》

存在が薄くなったり強くなったり……ブレが激しすぎるで……。
この感じやと……時間かかりそうやな……。
自分で考えた術やろ、使い方はお前が一番知っとる筈や。
必ず生きて戻れや、ネギ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月5日、ダイオラマ魔法球―

ネギが太陽道を発動させた途端、魔力が渦を巻いてネギに集中しては別の箇所から同じように渦を巻いて放出されるという現象が起き始めてから間もなく、小太郎と近衛木乃香だけだった所に桜咲刹那は翼で飛んで、他の面々は箒で飛び、水面歩行ができる面々はそのまま走って現われた。
到着してみれば、まるで前大戦の墓守り人の宮殿で発生した異常な魔力の集中する現象のようにも見える光景を前に皆絶句し、ネギの状態が感覚でわかる小太郎によって説明が行われたが、人体の分解と再構築という言葉の前に更に絶句するしかなかった。
洋上という関係上アスナが勢い余って魔力の奔流に包まれるネギに不用意に近づいたりという事は無かったが、ネギの魂の叫び声が鳴り響く一帯は心が揺すぶられ、近くにいると辛いものがあった。
魔法球の外にいたジャック・ラカンも呼ばれ、やってきてみれば彼をして「これはやべぇぞ……ぼーず……」とおふざけ無しの本音を言わしめた。
ネギの魔力体が再構築しかけたかと思えば、部分的に消滅したりと不安定な状態を続け、気がつけば10分、30分、1時間と時間が経過して行った。
セラス総長の知見では魔力の奔流が安定して収まった時が分かれ目で、その際に消滅すればそれ切り、再構築できれば成功であろうという事だった。
いずれにせよ全く前例の無い試みでありどれ程の成功率なのかは分からない、そもそも初の例であり成功率そのものを図る事すら意味が無いという状況であり、ただただ、無事に再構築が完了するのを信じ、祈るしかなかった。

……当のネギはと言えば、加速した魔分の粒子の奔流の中で意識も同様に加速しており、現実に経過している時間の何倍どころではなく極大化した時間を体感していた。
魔力は濃い所から薄い所へ流れるという現象に従い、ネギの魔力体はその周りの空間に強烈に引き込まれる為、ネギは消滅しかけるのを精神力で耐え、なんとかして制御し再構築を果たそうと必死であった。
いつ引きこまれて消滅してもおかしくない状況下で、ネギの精神がギリギリで耐え、その場に繋ぎ止められていたのは、意識の端でアスナ達が近くにいてネギの名前を呼び続けていたお陰である。

……そして2時間が経過しようかという時、突如魔力の渦が急速に収束し始めた。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月5日、ダイオラマ魔法球内―

皆の呼ぶ声が聞こえるッ!!
アスナさん達が外で待ってるんだッ!!
絶対に、生きて戻るッ!!
行くぞッ!!

―空間掌握!!!―魔力収束!!!―

あぁぁぁぁぁッ!!

    ―再構築!!!―

…………できた……。
気がついてみたら……アスナさん、コタロー、皆すぐ近くにいてくれたんだ……。
あれ……何か視界がおかしい気が……上、下、後ろまである程度わかる……。

「ネ……ギ……ネギィィッ!!」 「ネギ!やりおったな!」  「ネギ坊主!」

  「ネギ君!」  「ネギ先生!」 「ネギ君!」

  「ネギ坊主!」 「ネギ!!この馬鹿ッ!」  「ネギ君!」

  「ぼーず!!戻ったか!」

「アスナさん……ちゃんと戻ってきました。うっ……ちょっと苦しいですよ」

ここ海の上なのにアスナさん飛びついて来た。

「馬鹿馬鹿、バカネギ!!どうしてこんな危険な事したのよ!心配……したじゃない……」

「心配かけて……ごめんなさい。でもアスナさん達のお陰で戻ってこられた気がします。南極の時と同じですね。もう2度もこんな事やってしまって……」

「ホントよ!麻帆良でもそうだったけど、こっち来て南極で死にかけたかと思ったらまたなんだから!ってちょっと何かネギ目が輝いてるわよ」

「目が輝いてる?」

「言葉の表現とかじゃなくてホントに」

海に顔を映してみてみたら……確かに目の虹彩が不規則に輝いてる……。
あっ……それより一旦、太陽道を解除しないとまだ終わりじゃない……。

―太陽道・解除―

…………はぁ……ちゃんと元の身体に戻れたかな……。
視界も元に戻ったみたいだけど……。
うっ……なんか凄く身体から力が抜けてきた……。

「ちょっとネギ!?沈むわよ!」

「ネギ!反動かっ!」

だめだ……力が入らない……。
それにしても気が異常に少なくなってるのは……太陽道の影響か。
ある意味…………太陽道を解除する時に、気が一切残らなかった場合、問答無用で即死する可能性があるな……。
リスクが高いのは…………分かってたけどちゃんと把握しないと駄目だな……。

「ちょっとネギ!!しっかり!」

うぅ……凄く眠い……。


―10月6日、ダイオラマ魔法球内―

……目が覚めて起きてみたらまたアスナさん達に心配された。
なんでも魔法球の中で2日近くも眠ったままだったらしい……。
丁度日付は現実時間で10月6の午前0時台ぐらいだって。
動いてみたら凄くお腹が空いてて一杯食べ過ぎた……。

「よお、ぼーず、気分はどうだ?」

「ラカンさん!良く寝たのでスッキリしました」

「そりゃぁ良かったな。しっかし、あのやばそうなモンは結局何なんだ?」

「一応太陽道と命名しました。基本的には一時的に魔力容量を無視して魔法が使えるようになるという物です」

「はぁー、魔力容量を無視とは大層なもんだな。その代わり失敗すれば死ぬってか?」

「はい……多分そうです」

「……まぁぼーずが自分で手に入れた力だ。しっかり制御しろよ」

「はい。まだ初期発動に成功しただけなので、調整しないと全然使えないんですが、制御できるように努力します」

「おうよ。そんじゃ外の15時間後、戦ろうぜ、ネギ」

ラカンさん、初めて名前で呼んでくれたような……。

「はいっ!」

この後5日近く魔法球で太陽道の効果を確認した。
と言っても1日に使える限界時間が凄く短いから気を大量に消耗する関係で寝る少し前に確認する以外は殆ど通常の修行をするしかなかったけど……。
とにかく初期発動のお陰で、即時分解・再構築で身体を魔力体に変換する事ができるようになって、予想通りこれでオンオフが切り替えられる。
発動中は目の虹彩が輝くのと、視界が拡張したのは予想してなかったから驚いたけど、後者についてはかなり助かる。
発動前に怪我をしてても、発動後に再構築し直せば損傷を無かった事にできるから治癒魔法がある意味必要無くなったし、当然魔力体なら身体の部位を損傷しても同じように再構築できる。
魔力体ならではだけど、掌握してる空間内なら学園長先生と同じように一瞬で転移もできる。
ダメージ自体を無効化、転移で回避できるからあまり意味がないんだけど、発動中の出力上昇の効果自体は期待した通りで魔法領域の防御力はマスターとほぼ同レベルだと思う。
太陽道とは別に開発した新魔法も発動中ならほぼ完璧に使える。
はっきり言って発動中はほぼ無敵になるっていう感じ。
ただ……本当に限界時間が短い。
本当はもっと行けるのかもしれないけど無理して長時間試した場合本当に死にかねない。
結局の所発動のオンオフをうまく使ってやりくりする最初の合計数十秒間までが普通に運用できる限界だと思う。
それ以降になると発動をやめた途端に脱力感が激しすぎて、戦闘どころか身体を動かす事もままならなくなるから……。
必殺技らしいといえば必殺技らしいけど。
……そして、いよいよナギ・スプリングフィールド杯決勝戦を迎えた……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月6日、14時54分、ナギ・スプリングフィールド杯決勝戦、大闘技場―

ナギ・スプリングフィールド杯決勝を迎え、オスティアの闘技場は模擬戦形式に変化し、収容人数は12万人、中央アリーナ部分の直径は300mと、最大規模の広さである。
まさに拳闘界の頂点を決めるのにふさわしい舞台と言えよう。

[[さぁ、いよいよ決勝戦です!!流星の双子、依然として謎ばかりのネギと小太郎か、はたまた千の刃のラカンとボスポラスのカゲタロウか!?凄まじい激闘が予想されますが最強クラスの戦いを前に観客席は大丈夫なのでしょうか?……それについてはご安心を!]]

―紅き焔!!―

司会の女性が無詠唱紅き焔を観客席に向けて放ち、爆発が起きるが魔法障壁によって防がれる。
目の前で紅き焔を放たれた観客達はそのデモンストレーションに盛り上がり、歓声を上げた。

[[この通り!連合艦艦載砲すら防ぐ魔法障壁によってお客様の安全は完璧に保護されています!!]]

決勝戦とあって、しばし引き伸ばしを行うような説明が続き、会場内では各人が今か今かと試合が始めるのを待ち続けていた。

《会場内の警備シフトになるなんて運が良いのでしょうっ!?》

《日頃の行いが良かったからだよ!委員長!ね、ユエ!》

《は……はいです。ただ……通信で聞きましたが、この場内の何処かにゲートポートテロを行った犯人達も来ている可能性があるです。油断はできません》

《その、怪しい人物がいないか目を光らせるのが私達の仕事です》

《分かってるよ!》

《はいです》

《それにしても、生で試合が見れるのは楽しみだよー!》

《あぁ……紅き翼伝説の英雄の1人ラカン様と正体を隠し続けているナギ様のご子息ネギ様の運命的奇跡の一戦!!》

《お嬢様、その発言はマズいですよ》

《委員長……》

《始まったよ委員長……》

《あああ、一体どちらを応援すべきか。こんな試合が見られるなんて……一体どちらを応援したらいいのでしょう!ラカン様も良いですが……筋肉ですし……やっぱりここは可愛らしい、いえ凛々しいネギ様でしょうか!あー!迷いますわ!》

《お嬢様……筋肉って……ヒドイ……》

筋肉もいける隠れラカンファンのベアトリクス・モンローの呟きであった。

《こんな通信していたのがバレたらマズいのでは……》

《大丈夫……だよ!ユエ!これ会話ログは残さないから!》

《……それはもう委員長の発言のせいでその方が良いですが……それはそれでどうかと思うですよ……》

《一番大事なのはこの奇跡の試合を永久保存することですッ!》

《お嬢様、警備が第一優先では……》

《ビー、どちらが優先ということはありません!どちらも第一優先ですっ!》

もし会場外の警備シフトであれば状況は違ったのだろうが、観客席各ゲート付近で警備を行う4名は試合に対する興味が尽きなかった。

[[流星の双子の勝敗予想は街頭アンケートでは2割と人気の割にはそれ程高くありませんが、それもそのはず。専門家の間ではこれまでの試合から見て、実力的には依然としてラカンが上を行き『ネギ選手があのナギに似ているとしても本物でもない限りラカンが負けることはない』とも囁かれています。早くも何分間流星の双子が持つかが賭けの焦点となっている模様です。しかしながら、この試合の後、流星の双子は『今後地方拳闘大会に引き続き出場する予定は今のところ無い』と宣言しているため名残惜しくはありますが『流れ星のこの終着点はどうなるのか』と期待も持たれています!]]

一方特等席で見ている面々は一般の観客席程盛り上がってはいなかった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月6日、14時58分、ナギ・スプリングフィールド杯決勝戦、大闘技場、特等席―

「ネギ……コタロ……」

「ネギ先生……」

空気が重い……重すぎる……。
何かマジ世界の終わりみたいな空気をアスナが中心になって醸しだしてるせいで、テンション上がらないスよ……。
昨日、魔法球の中の時間で言えば数日前にネギ君がやらかした魔法が殆どの原因。
順調に修行を続けて充実してるなーって矢先、例の洋上で何かやってた実験の成果をネギ君が実行した所、私でも分かる魔力の奔流が発生した。
箒で飛んでってみれば小太郎君が「ネギは自分の身体を分解・再構築しとるんや……」とか言い出して、その話を聞いた私は凄くヤベー感じがする以外はサッパリだったけどセラス総長は「ネギ君……それは人の身にはあまりにも過ぎた力よ……」って青ざめながらボソっと呟いてた。
あのラカンさんでさえもあの時はマジ顔で驚いてたからな……。
物凄い発光する中心でブレまくるネギ君の姿に最初気圧されたけど、アスナが最初にネギ君の名前を呼びだして、それに皆も続いて、南極の時のコール以来またしても似たような展開になった。
1つ違うのは、今回の件はネギ君が自らやったって事で、それもアスナを守るためってんだからなんて10歳……。
私が見てる限り、ここ最近のネギ君の行動原理には自分が払う犠牲はそっちのけで他人を優先する傾向が強すぎる気がする。
2年の夏の時にネギ君来たときはホント、ただの可愛い子供だったんスけどね……何がどうしてこうなったんだか……。
性質悪いのが、ネギ君自身頑固なせいで、周りがやめた方が良いって言っても「自分で決めたんです。お願いします。信じて下さい」って返してくるからどうにもならない事スよ。
まあ、2時間ぐらいしてネギ君が無事に異常な儀式?を完了させた時は本当にホッとした。
それだけで安心して思わず皆声上げて、アスナがすぐに飛びついたもんだから有耶無耶になったけど、そこからネギ君がすぐ倒れるまでの間、ネギ君はそこにいるのに、雰囲気というか存在感が異常に薄かった気がする。
んで、その技が多分使われるんだろう試合が今まさに始まる所。
ネギ君は「大丈夫ですよ」としか言わなかったけど、明らかに常に命の危険が伴いそうな技を使う時点でそれを観る私達は気が気じゃない。
元々拳闘界って試合で命落としても文句は言えない世界だから何言ってんだって話でもあるけどさ……。
それとこれとは別スよ。

[[さぁ、いよいよ選手入場です!!西からは紅き翼千の刃のジャック・ラカーンッ!!ボスポラスのカゲタロウ!!]]

ラカンさんは何かマント着て、一本大剣持ってきてるけど……どうせすぐ脱ぐんスよね。
カゲタロウさんはいつも通り。
観客席はやっぱ超盛り上がってるなー。

[[東からは流星の双子、ネギ!!小太郎!!]]

出てきた出てきた……こっちが問題の……。
うーん?……何か凄い落ち着いてる雰囲気醸し出してるような……。
観客はそんなのそっちのけで騒いでるけど。
あー、始まる前から何かこう変な気分になるわー。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月6日、15時、ナギ・スプリングフィールド杯決勝戦、大闘技場―

両選手が舞台に現れ観客から大歓声が上がる中、ジャック・ラカン、カゲタロウとネギ、小太郎は向かい合い互いに声をかける。

「よぉ、ネギ、コタロー。この舞台で本気で相手してやる。つべこべ言わず、かかって来い!!」

「はいっ!僕達の修行の成果、ここで見せます!それでは行きますッ!」

「おう!行くでっ!」

[[ナギ・スプリングフィールド杯決勝、試合開始!!!]]

「アデアット!」

―契約執行 600秒間!! ネギの従者 犬上小太郎!! 出力最大!!―
       ―魔法領域展開 出力最大!!―
          ―戦いの旋律!!―

ネギが最初から太陽道を発動させない理由は限界時間の問題もあるが、何よりまずは基礎力で勝負という理由からである。

[[おおっと!?小太郎選手の咸卦法、いつもより数段出力が高いようですッ!!]]

「いきなりアレは使わねぇか、行くぜ、おらよっと!!」―アデアット!!―

「手加減する必要無しッ!!」― 千の影槍!!! ―

ラカンはアデアットし一本の槍を出しながら闘技場内上空に飛び上がり、カゲタロウはその場から動かず、影精で編んだ強力な無数の影槍を、ネギと小太郎の前面180度を覆うように放つ。

           ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―契約により 我に従え 高殿の王 来れ巨神を滅ぼす 燃ゆる立つ雷霆―
         ―百重千重と 重なりて 走れよ稲妻―
               ― 千の雷!!! ―

対してネギは即座に詠唱を済ませ千の雷を放ち、それに合わせて小太郎は怯む事なく千の雷の後を高速で追従する。
千の影槍と千の雷は半ばで衝突し相殺、範囲で上回る千の雷が観客席の魔法障壁に当たり轟音が鳴り響く。

「はぁぁッ!!」―咸卦・白狼影槍!!!―

その爆発の煙を小太郎は潜りぬけながら、白い狗神を槍状に変化させて複数飛ばすカゲタロウに類似した技を放つ。

「何と!」―百の影槍!!!―

カゲタロウは煙から飛び出して来た小太郎の攻撃に対し咄嗟に百の影槍を放ちまたしても相殺する。

「まだやッ!!」―咸卦・影装刺突!!!―      「ぬんッ!!」―影布七重対物障壁!!!―

小太郎が一点貫通攻撃の構えに入り、カゲタロウはそれでもその場を動かずに障壁を展開する。

「だりゃぁぁぁぁ!!」                        ―百の影槍!!!―

障壁を突き抜けようという時にカゲタロウは防御中から百の影槍を小太郎の真横を狙って放つ。

―投擲・双腕・断罪の剣!!!―

しかし、控えていたネギが両腕に発動した断罪の剣、相転移版を小太郎の左右に向かって投擲し、周囲の気化による爆散でそれを防ぐ。
小太郎はそれと同時に影の魔法障壁を突き破り、直撃を当てようとする。
が、カゲタロウは真後ろに瞬動して回避する。

「ハッ!……動かせたで!」

「この私を動かすとは、見事な連携!だが、私だけではない!」

この僅か数秒の間、上空に飛び上がり、ラカンは異常な量の気を集中させていた。

「出し惜しみ無しの千の雷かぁ。折角の晴れ舞台だ、俺様も久々に全開を出してやるぜっ!!」

「な……あれはヤバイで!ネギ!」

対するネギは断罪の剣の投擲の後、ラカンの攻撃をほぼ理解し、対応する為両手を頭上に上げながら直ぐ様次の魔法詠唱を開始していた。

      ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
    ―契約により 我に従え 破壊の王―
―来れ終末の輝き 薄明の光芒 満ちれ エアロゾルよ―
―収束魔方陣展開!!! 集え 我が手に 域内精霊加圧!!!―
  ―第1から第12 臨界圧縮!!! 第0へ解放!!!―
ネギの頭上にオーロラが広がるかと思われたが、掲げた両手の上に12の小さめの魔方陣が中心の大きめの0番目の魔方陣を囲むように展開された途端広がるどころか全光精が一点に収束を始める。
―降臨し 全ての命ある者に 等しき死を 其は安らぎ也―

「オラァァァッ!!!!」

ラカンが僅かに槍を先に投擲し、ネギを襲う。

      ―然して 死を記憶せよ―
       ―大天使の降臨!!!―

常人には捉えるのは到底不可能な速度で投げられた槍は、ギリギリ放たれた収束版・天使の梯子の破壊光線とネギの頭上10mの距離で衝突し、周囲に衝撃波を巻き起こす。

「うぉぉぉぉッ!!!!」

大地を破壊しつくす槍から、まるで地上を守るかの如く、ネギは両手を掲げたまま大声をあげながら収束大呪文を放ち続ける。

「キャァァァァッ!!」

ラカンよりも更に上方に退避していたにもかからず、司会の女性が吹き飛ばされる。
更に、槍を放った本人と、魔法で迎え撃った本人に明らかな影響が出るよりも先に、地上12m程度の高さから衝撃波が発生し、闘技場の魔法障壁にダメージを与えすぐにビシビシと軋むような音を立て始める。

[[いかん!緊急障壁を展開せよ!!]]

テオドラ第三皇女の緊急放送により、通常の魔法障壁の後ろに更に予備用の緊急魔法障壁が展開される。
観客席からは爆煙によって衝撃波が発生している以外は何も分からないという状況であり、歓声ではなく純粋な叫び声を上げる者も現れる。
6秒間に渡る大天使の降臨の照射によって、槍は完全消滅し、威力は弱まったものの破壊光線が打ち勝ったが、その射線上からラカンは既に退避していた。
会場外の警備をしていたアリアドネー魔法騎士団員は6秒間の強烈な爆発と最後に打ち上がった光線にテロ攻撃ではないかと勘違いしかける程であった。

「はっ……はっ……」

魔法の発動でネギは息を切らせ、カゲタロウと小太郎は一旦互いに距離を取りなおし、小太郎はネギの近くに戻る。

「よっと!今のを防ぐどころか破るとは大した威力だなぁ!!大呪文を収束させる術式なんて良く考えたもんだ、ホントに器用じゃねぇか」

ラカンも同じくカゲタロウの近くに大ジャンプから戻り着地する。

[[こら!ジャック貴様という奴は後先考えず!客がいるのじゃぞっ!ネギが真っ向から防いだから良いものの!!]]

「いやーハッハッハ、やっぱ最初は全力で相手するってのが礼儀ってもんじゃんよぉ。案外もろいなこの闘技場!うはは!お前もそう思うだろ、ネギ!」

「はぁ…………そういう事ではないと思うんですが……。でも、確かに脆いですね……」

脆いと言うが、確かに強力なエネルギーの2つの衝突によって起きた衝撃は連合艦標準艦載砲である紅き焔の直撃等目ではないのは事実であった。

[[アホかーッ!緊急障壁で威力が弱まったからこの程度で済んだようなものの一つ間違えればふが!!]]

[[姫様口調!全国ネット!]]

テオドラ第三皇女お付きのユリア女史により口を塞がれるが今更遅い。

「すげぇ……今のがホントに個人の技なのかよ。これが世界を救った英雄の力か……」

「それを超える魔法を放ったネギも只者じゃないな」

「こんなの初めてみるよ」

「さすが紅き翼・ナギの盟友ラカンだぜ」

「あのネギってナギ本人だったりすんじゃないのか?」

「馬鹿だな、ナギの魔法つったら雷系って決まってんだろ。さっきのは違ったろ」

「そもそもあの魔法何?またネギの引き出しが増えたぜ」

会場内は先の光景に対するコメントの嵐でざわめき出す。

[[す、すさまじい!!開幕早々なんという光景でしょうか!カゲタロウ選手の影槍に、ラカン選手の渾身の一撃だけでも凄いですが、ネギ選手はかのナギと同じ大呪文の千の雷のみならず、見たこともない光系の大呪文と思われる魔法を、それも両方ありえない詠唱速度で2度も放ちました!!まだまだ試合は始まったばかりですがこれは期待が……おっと緊急障壁の常時展開も完了しました!!仕切り直しとなりましたが、試合再開ですッ!]]

そして再び、司会の宣言により試合が再開する。



[21907] 55話 拳闘大会決勝(魔法世界編15)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/11 00:56
―10月6日15時5分、ナギ・スプリングフィールド杯決勝戦、特等席―

「うぉぉぉ、スゲー!ぼーずの奴あのジャック・ラカンの一撃を打ち破ったぞ!」

「盛り上がって来たねぇー!人数が増えたし!」

「ネギ!コタロ!その調子よ!」

「叔父様!頑張ってください!」

「ネギ君、コタ君頑張り!」

はははは、何スかコレー。
超重い空気が吹き飛んだのは良いよ、良いけどさ。
もう外でやれよってレベルだろー!
ラカンさんの槍とネギ君の収束大呪文はいきなりすぎだよ。
ま、ネギ君は最初から例の技を使う気は無いらしくて一安心したわ。

「おいおい、あの短期間で収束大呪文なんてモン開発するなんて、ネギはどういう頭してんだ。普通なら年単位かかるってのに……うちの魔術開発部に欲しいぜ」

「全くね……ネギ君の才能で最も恐ろしいのは魔法の応用力と開発力よ。特にアレだけは……やってはいけないモノよ……」

「なんだそりゃぁ?」

「あなたはあの時いなかったわね。もしこの試合で使うとしたら……ネギ君が魔力を使い終わったときよ」

「はい?魔力使い終わったら魔法なんて使えないだろ?」

「見てれば分かるわ、私も興味はあるけれど、正直な所使って欲しくないわね」

「あー何か、さっきここの空気が重かったのはそれが原因か!」

「あなたはここでは素なのね……」

「政治家なんて肩が凝るだけだって」

「よく言うわ」

リカードさんの髪の毛どうなってんだろ。
重力に逆らってるよ。
記念式典の開催の時も同じ髪型だったけど、いいのかね。
地球であんな髪型で政治家だったら、一時的に流行になる……ならないな。
それか、ちゃんと固めろって文句言われると思う。
ってどーでもいーわー!!
にしてもカゲタロウさんってやっぱ機敏に動けたのか。
これまでの試合一歩も動いた事なかったけど、あの影槍に加えて、この機動力は凄いな。
しかも高音さんと同じで影の自動防御発動してるし。
グッドマン家事実上の最強ってマジみたいだな。
それに対応してるのは小太郎君とネギ君。
小太郎君はいつもの如くネギ君の剣を腕に発動させて飛んでくる影槍を切り裂き、ネギ君はあの不思議全体障壁に影槍がゴリゴリ言いながらも腕に出した剣と無詠唱魔法の射手を連射して戦ってる。
そんでラカンさんと戦ってるのもネギ君と小太郎君スよ。
どっちに回ってるのが本体なのかは良く分からないけど分身って便利だよなー。

「分身を利用しての各個撃破でござるか。あの2人が相手では消耗は激しくなるが悪くは無いでござるな」

「短期決戦で済めば良いが……」

マジで短期決戦だったらここの闘技場ごと吹き飛ばす攻撃をラカンさんがすれば終わりな気がするって言ったら……元も子も無いか。
カゲタロウさんの方は押してるけど……ラカンさんの方は通ってないスね。
ヒットはしてるけどダメージになってないんだわ。
確かにカゲタロウさんを先に倒せれば、完全2対1でラカンさんと戦えるから2人の連携を活かすという点では良い考えなのかもね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月6日、15時6分、ナギ・スプリングフィールド杯決勝戦、大闘技場―

試合再開の後、ネギと小太郎は高密度分身を1体ずつ出してラカンに回し、本体でカゲタロウの相手をしだした。
ラカンに分身を回した単純な理由は、当然直撃を貰っても分身なら消えるだけなので問題なく、先に「強者」であるカゲタロウの方が倒しやすいからである。

[[ぶ、分身です!!小太郎選手が使うのは以前の試合でもありましたが、ネギ選手が使うのは初めてです!]]

「お前ら分身の方だろ。俺より先にカゲタロウ相手とは考えたな。なら遠慮無く吹き飛ばすぜ?」

「本体と同等の密度はあるで!」

「その通りです!」

ラカンはすぐに相手が分身だと判断したが、こちらに分身を回した理由は他にもあった。
ともあれ、ネギと小太郎の分身はラカン相手にこちらも断罪の剣を用いて千の顔を持つ英雄からいくらでも出てくる武器と剣による試合を行い始める。
一方本体のネギと小太郎は猛烈にカゲタロウを攻めつづけていた。

「でやぁぁッ!」―投擲・双腕・断罪の剣!!―
        ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
   ―影の地 統ぶる者スカサハの 我が手に授けん―
       ―三十の棘もつ 霊しき槍を―
    「はっ!!」―雷の投擲!!!―

小太郎が両腕に纏った断罪の剣の限界時間を察知し投げつけた所にネギが更に追い打ちを掛けるように雷の投擲を発動、5本の雷槍を射出する。

「まだまだッ!」― 千の影槍!!! ―

カゲタロウの自動防御は断罪の剣が吹き飛ばし、無防備になったところを本命の雷の投擲が襲いかかるが、即座にそれを千の影槍が迎え撃つ。

「チィッ!」

相殺どころか完全な反撃に対し小太郎はネギの展開する魔法領域内に虚空瞬動で退避し、小太郎はネギに背を向けたまま両手を差し出しながら千の影槍から身を守る。
そこへ瞬時に影槍が魔法領域に刺さり甲高い音が鳴り響く。

―短縮術式「双腕」封印!!―
 ―双腕・断罪の剣!!―
 ―双腕・断罪の剣!!―

「はぁぁぁッ!」
「よっしゃぁぁっ!」―双腕解放!!断罪の剣!!―

全方位から突き刺さる影槍を2人で手分けして断罪の剣で分解して対応する。
小太郎が自前の技で対応しない理由は他人の特に気弾系は魔法領域内でも外からの攻撃と同じように魔法領域を貫通しないといけないからである。
魔法領域内で自由に使えるのは結果ネギが発動させる断罪の剣となるのは必然である。
フェイトに襲われた時を彷彿とさせるような状況に2人は俄然やる気を出し、高速で剣を振るう。
ネギと小太郎はカゲタロウがお互い横に見える位置に移動し、カゲタロウがいる反対の横に空間ができた瞬間、2人は同時に虚空瞬動で抜ける。
小太郎のアーティファクトがなければ同時に移動する等無理な話である。
突如襲う対象が無くなった影槍は互いにぶつかり合い地に落ちる。

「大した動きだ!」―操影槍・黒雨!!!―

カゲタロウは右腕全体に今までとは桁違いの影精の練りこみをかけた重武装のランスと呼ぶに相応しい槍を纏い、即座にそれを伸ばしてネギと小太郎に仕掛ける。
その密度は広範囲を襲う事のできる千の影槍での1本1本の薄く鋭い刃を全て一つに集中させたもの以上の高さであった。
2人は再度虚空瞬動で左右に分かれ回避するが、それを予め理解していたのかカゲタロウは一瞬にして操影槍を元の長さに縮める。

「次は更に速いぞ少年ッ!」

「上……等ッ!?がぁっ」

「コタローッ!」

カゲタロウが警告した上で、小太郎が啖呵を切り終わる前に操影槍の先端が右上腕、右肩に2撃、突き刺さり、そのまま小太郎を軽く吹き飛ばし、槍は再びすぐ元の長さに戻る。
そのダメージで小太郎の両腕に展開していた断罪の剣は消失する。
秒速544m、マッハ1.6で伸縮する槍は、声が届くよりも速い。
長瀬楓の縮地无疆の移動速度はマッハ3に近いが、特に振りかぶりも無く溜め無しでマッハ1.6というのは驚異である。

「仲間の心配をしている場合か!」

続けてネギに向けて槍が突貫するが、魔法領域で阻んだ一瞬の隙をつきネギは虚空瞬動で回避する。

「つ、強いっ!」―風精召喚!!―

尚も槍の伸縮の嵐が襲い、ネギは回避に専念せざるを得ない。

「うぉぉッ!」―部分狗族獣化!!―

ネギは風精召喚による目眩ましの幻影分身を出現させて対応し、小太郎は右手から槍が刺さった右肩まで獣化させ受けた傷を一気に治す。
浅くもないが深すぎる傷でも無かったのが幸いした。

「いざ、尋常に勝負!」―黒耀の夜想盾!!!―

瞬く間にネギの出現させた風精召喚の囮を消滅させながらカゲタロウは更に身体の90度を覆う影精で編んだ強靭な盾を出現させ、宙に浮かせる。
完全に重武装状態に入ったカゲタロウをネギと小太郎は射線軸上に挟む。

「うらぁッ」―咸卦・影装刺突!!―   「ハァっ!」―双腕・断罪の剣!!―

虚空瞬動で一気に距離を詰めて2方向から攻撃を仕掛けるも、夜想盾にも自動防御が働きネギの断罪の剣をも防ぎ、更に小太郎の右腕獣化状態一点突破の刺突攻撃は七重から数を増やした影布九重対物障壁が自動防御する。

「おぉぉッ!!」           「固いッ!?」

カゲタロウはすかさず小太郎の刺突攻撃に向けて操影槍の狙いを定め放つ。
残り1枚になった影布が解除され突如視界が開けた瞬間、小太郎の右腕の側面に斜めから操影槍が入りその軌道を逸らす。

「ッ!!」

「ふんッ!」―黒雨・五剣閃!!!―

操影槍を以てしても獣化、咸卦、狗神の3種強化を行っている腕にはダメージは入らないが、獣化していない身体部位に操影槍の付け根から5本の剣が飛ぶ。
右腕の軌道を逸らされた影響で小太郎の身体は左側面を5本の剣に向けて顕にする角度であった。

「ぐぁっ!!」

1本は外れるも、残り4本は左上腕、左脇腹、左大腿、左下腿に確実に突き刺さる。
そのままカゲタロウは操影槍を振り抜き、小太郎の身体を吹き飛ばしながら剣を抜く。

「はぁぁぁぁッ!!」―連装・断罪の剣!!!―

小太郎が吹き飛ばされるまでの一連の流れは影布が突破されるのを含め僅か2秒強で、ネギは双腕から右腕のみに絞った連続発動断罪の剣に切り替え攻撃をしかける。
これには流石の鉄壁の盾も貫通を許し、突破される。

―影布九重対物障壁!!―

カゲタロウは直撃する寸前で咄嗟に影布九重対物障壁を再展開し断罪の剣を一瞬阻む。

      ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―来れ雷精 光の精!! 雷を纏いて 打砕け 閃光の柱―
          ―光の雷撃!!―

ネギは完全に空いている左手を断罪の剣が貫いた影布障壁の隙間に向けて光の雷撃を至近距離で放つ。

「ぬぉぉぉッ!!」

確実に光の雷撃がカゲタロウの腹部を打ち砕きにかかるが、カゲタロウは吹き飛ばされながら操影槍の先端を光の雷撃の射線に重ね、その威力を拡散させる。
操影槍の半分が原型を失いながら闘技場壁面にカゲタロウは叩きつけられ、壁には衝撃で円状の窪みができる。

「ぐ……何のッ!」― 千の影槍!!! ―

その状態でも尚、カゲタロウは左腕で千の影槍をネギに向けて放つ。

「俺が……ッ!!」

完全にカゲタロウの意識から外れていた所を体勢を整え直した小太郎がそう小さく呟き高速で移動、最後は瞬動で最接近する。
カゲタロウはその瞬間まで小太郎に気づかなかった。

「いるでぇッ!」―咸卦・狗音爆裂寸勁!!!―

最後に瞬動で発生させた勁を活用し古菲直伝の寸勁をカゲタロウの腹部に炸裂させる。
ほぼゼロ距離から放たれる技に対しては自動防御の発動は不可能であった。

「な……がぁ……」

運動エネルギーがカゲタロウの身体に直に作用する。
既に窪んでいた壁面は爆音を轟かせながら更に窪みを広げ中規模のクレーターと化した。

「ハァ……ハァ……ハァ……やったで」

小太郎は左半身から出血させながら息を切らせて呟く。
ネギに届こうかという千の影槍はカゲタロウのダウンにより魔法領域に当たる寸前で力なく、地に落ちて消滅した。

[[おおーッ!!あのカゲタロウ選手をこれ以上あろうかという素晴らしい連携攻撃で流星の双子、目にもとまらぬ速攻を畳み掛け撃破!!カウント開始です!1……2……3……]]

ラカンと分身の剣戟戦に気を取られていた観客はカゲタロウが撃破された事に驚き歓声を上げる。
元々カゲタロウと本体2人の方を見ていた観客はその鮮やかな攻防の余韻に息を飲んだままだったが、他の観客の歓声で我に返り、つられて歓声を上げる。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉおぉおおおお!!!!」

突如わざわざ反対側で分身と戦っていたラカンが大声を上げると共に膨大な量の気を全身からほとばしらせる。
それに気圧され、分身2人は思わずラカンから距離を取る。

「カゲタロウをマジでやりやがったか。そうかそうか、やりやがったかぁ。ああ……よくやったぜ。……なら、次は俺が相手だぁぁあッ!!!ここからが第2ラウンドだぜぇッ!!」

まさに第2形態かというような雰囲気を纏いラカンは雄叫びを上げる。

「うぉぉぉっ!!行くでラカンさん!!」―狗族獣化!!!―
「行きますっ!ラカンさん!!」

カゲタロウダウンのカウントも無視してラカンの咆哮が試合再開の合図となり、ネギと小太郎の本体、分身、共に構えを取る。
小太郎の本体は左半身に負った傷を急速回復させ臨戦態勢に入り、ネギの本体の近くに移動した。
ラカンからおよそ10m離れた距離に分身2人、100m離れた位置に本体2人の配置である。

「しゃぁッ!!」―咸卦狗神・縛鎖影縛之術!!!―
        ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―               「うおっ!俺の動きを封じる寸法か!」
  ―風の空 統ぶる者 アイギスの 我が手に授けん―
       ―三十の刺もつ 愛しき霊槍を―
  「決めるッ!!」―風戒の投擲!!!―                   「こりゃぁっ!」 

小太郎の分身が、ラカンの足腰を影で、ネギの分身が、ラカンの上半身を全魔力を投入した捕縛属性の風の槍群で、全力全開で動きを封じる。
そして分身は更に生身でラカンの鋼の肉体にしがみつき、自身でも動きを封じにかかる。

[[7……8……。おぉぉぉ!!あのラカンの動きを流星の双子の恐らく分身体が止めています!!]]

「ネギ、アレ行くで!」
「もちろんっ!」

「あぁぁぁぁッ!!!」―咸卦・狗神集中!!!―

小太郎は両手を頭上に掲げ狗神を集中させ始め、ネギは収束・千の雷の詠唱に入る。

           ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
         ―契約により 我に従え 高殿の王―
        ―来れ巨神を滅ぼす 燃ゆる立つ雷霆―
     ―収束魔方陣展開!!! 集え 我が手に 域内精霊加圧!!!―
        ―第1から第12 臨界圧縮!!! 第0へ解放!!!―

「うぉぉりゃぁぁあッ!!」―咸卦・白狼大神槍!!!!―

小太郎の両手の上にギュルギュルと音を立てながら白く輝く狗神でできた巨大な槍が顕現する。

         ―百重千重と 重なりて 走れよ稲妻―
            ―絶千招雷通天炮!!!―
         ―特殊統合!!! 対象・白狼大神槍!!!―

ネギも収束・千の雷の詠唱を終了したが、更にそれを小太郎の掲げた槍と統合しにかかる。

「「ハァアァ――ッ!!!!!」」」           「融合オリジナル技だと!?どこまで器用で息合ってんだてめらはよ!」

ネギと小太郎が共に両手を掲げ、ただでさえ白く輝く槍が収束・千の雷の電撃を纏い超帯電状態に移行し、更に爛々と輝く。

「「完成ッ!!」

[[こ、これは!!とてつもない威力だと予想されますっ!!私は……逃げますッ!!!]]

「コタローッ!!」―契約執行!! 特殊追加 5秒間!!!―            「いいぜ、それなら俺も喜んで付き合ってやるぜ!!」

「うおりゃぁぁぁッ!!!」―咸卦千招・白狼雷天大神槍!!!!!― 

ネギが契約執行の出力を瞬間的に限界を突破させ、小太郎がそのブーストを受けて槍をおもいっきり振り抜いて投擲する。

                 ―ラカン・インパクトォ!!!!!―「ぬおぉぉぉ!!」

小太郎の投擲と同時にラカンは上半身の風戒の槍群を気合いで破り、右腕から渾身のラカン・インパクトを放つ。
ラカンの右腕と巨大な槍は衝突し、その爆心地から球状の光を伴い周囲に衝撃波が巻き起こる。

「あれでは終わらん!!」―咸卦・白狼影槍!!!―

小太郎は投擲した後浮遊術ですかさず飛び上がりラカン・インパクトの集中を削ぐべく複数の槍を放つ。

「うんっ!!」     ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
          ―契約により 我に従え 破壊の王―
      ―来れ終末の輝き 薄明の光芒 満ちれ エアロゾルよ―
      ―収束魔方陣展開!!! 集え 我が手に 域内精霊加圧!!!―
        ―第1から第12 臨界圧縮!!! 第0へ解放!!!―
ネギも同じく浮遊術で飛び上がり、斜め上から両手をラカンに向けて収束魔方陣を展開する。
      ―降臨し 全ての命ある者に 等しき死を 其は安らぎ也―
              ―然して 死を記憶せよ―
               ―大天使の降臨!!!―

ここに来て高速詠唱の技術の甲斐あり、収束魔方陣の為に多少時間はかかるものの未だラカンが白狼雷天大神槍と力比べをしている所にネギは強烈な破壊光線を追い打ちで放つ。
ラカンを一般的常識で図ってはいけないという考えに従い、通常ならオーバーキルであるが、光球が収まる前に追い打ちをかけるというのは、バグとも言える肉体にタメージを与えるには正しい選択であった。
白狼雷天大神槍とラカン・インパクトが衝突する瞬間には観客は沸きに沸いたが、更に爆心地に向かって複数の槍と破壊光線で追撃をかけるネギと小太郎を見て、危険を察知し観客席で伏せる者まで現われた。
浮遊都市オスティアの闘技場にも関わらず大地が揺れるという現象が起き、通常障壁は完全に割れた。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月6日15時9分、ナギ・スプリングフィールド杯決勝戦、特等席―

「きゃぁぁぁあッ!!」     「うわぁぁッ!!」     「うぉぉぉ!」

     「お嬢様ーッ!!」      「アホかー!!」   「姫様ー!!」

「これ程とはっ!」    「やりすぎアル!!」    「もう何なのよー!!」 

 「お姉様ーッ!!」    「叔父様は無事ですのーッ!?」  「死ぬー!!」

「どこが拳闘なのよー!!」    「なんだこりゃぁぁ!!」

   「ありえねースよ!!」     「人間技じゃねぇー!!」

うっさいわーっ!!!
闘技場全体が地震みたいに揺れてるわ、特等席の前の障壁もガラス張りもビシビシ言ってるしモニターも閃光で何も見えんスよ!!
マジ観戦してるこっちが死ぬかと思うわ!
席にしがみついて耐えないと駄目な試合とかなんのアトラクションだっての。
つかあの最初の核兵器みたいな爆発は何さ!!
あー……大分揺れが収まってきたわぁ……。

「くぅー全く、2人とカゲタロウとの試合までは良かったが、あの筋肉ダルマとの試合は魔法球の中でやっとれば良いわ!!」

「ああ……ここじゃ狭すぎる……ってその前に流石にありゃあのラカンも無事じゃないと思うんだが……」

「ネギ君達、分身を特攻のように使うというのはよく考えたね……」

「その間の時間であの高威力の槍と更に追い打ちをかける大呪文……末恐ろしいわね……」

「これは拙者ももう追いぬかれてしまったでござるかなぁ……」

「私もアル……」

「いやいや、楓にくーちゃんそれ比べる事自体間違ってると思うよ?忍者ってあんな戦いしないでしょ?拳法家ってあんな爆弾みたいな攻撃しないでしょ?」

「美空殿、それはそうでござるなぁ」

「美空、それは一理あるアル」

どっか少し頭が弱い2人はコレだから……。
なんつーか、あの3人の戦いは超高性能爆弾を発射するためのスイッチをお互い持ってて、それを押して撃ちあったって感じスね……。
アスナか誰かがさっき言ってたけどどの辺が拳闘なのか教えてほしいわ。
確かにカゲタロウさんとラカンさんが別れてネギ君と小太郎君の相手してる時の戦いは激アツだったよ。
カゲタロウさんが超カッケー槍出して2人相手にしだした時は高音さんテンションあがりまくって「流石叔父様!あんな魔法まであるなんて!」とか尊敬一色に染まってたし。
かと思えばその後のネギ君の暴風っぽい呪文から小太郎君が拳でトドメを入れるまでの一連の流れは何かこうビリビリ来るものがあったな。
それが……高畑先生が言うようにその後の分身が特攻じみた行動に出てからスね……。
ネギ君と小太郎君がド派手な槍を出して投げつけ、それをラカンさんが超光る拳で迎え撃ったあたりだわ。
色々とネギ君達の努力というか技術というかそういう成果が出たのは確かだけど、やっぱここじゃ場違いスよ……。

[[し、試合開始の時の攻撃を遥かに超える凄まじさでしたが、そろそろ煙が晴れてきます!!私も予め離れていなければ命が危ない所でした!]]

司会のお姉さんが一番可哀想スね……。

「おっ状況がわかりそうだぞ!」

「ジャックは無事でしょうか……」

「あの筋肉ダルマもこれは流石にどうじゃろうな……。死ぬとは思えぬが」

テオドラ皇女殿下も結構酷い言いようスね……。
まあ信じてるって事か。

「ってうおおおぉーいッ!!?何かピンピンしてやがるぞ!!あんだけ喰らってそりゃねぇだろ流石にッ!?」

うはーマジかー!!
何か全身から煙が昇って口から少しダボーッて血吐いてるだけだわ。
どこか身体が吹き飛んでもおかしくないのになんで原型とどめてるんスか……ネギ君と小太郎君が追い打ちかけたのは流石に鬼畜すぎると思ったけどそうでもなかったか……。
何か幽鬼みたいなオーラ放ってるんだけど……。

「ネギ君の方は魔力切れのようね……」

確かに小太郎君がネギ君に肩貸してるな……。
大呪文4発に魔力無駄にする分身にその大量の捕縛槍とかそれ以外にも色々やってたしなぁ……こうなってくると……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月6日15時10分、ナギ・スプリングフィールド杯決勝戦、大闘技場―

闘技場内の煙が晴れ、状況がはっきりした所、契約執行が切れた小太郎は通常の獣化状態になり、ネギ自身は魔力切れを起こし、魔法領域の展開もできなくなっていた。
分身を使っていなければ、後大呪文1発分の魔力は残ったのだが仕方の無い事である。
対するラカンは全身から煙を出し、軽く血を口から吐きながらも、広範囲にできたクレーターにゆらりと地に両足をつけ尚健在であった。

「ハはハハはハはハハははハはハはハハはハはハハははハはハハはハハはハはハハははハはハハははハはハはハハはハはハハははハはハハはハハはハはハハははハはハハははハはハはハハはハはハハははハはハハはハハはハはハハははハはハハ!!!」

突如今度は完全に狂ったかのような笑い声をラカンは上げ始める。

「駄目やったか……。なら俺達の通常の実力はやっぱりまだまだ届いとらんな……」

「はぁ……はぁ……はぁ……頑張ったと思うけどここから先はアレしかないかな……」

「ハハ……は」

笑い声を上げるのをやめた瞬間闘技場の空間がギシリと歪むような異常な空気が立ちこめる。
それに伴いラカンの肉体から前よりも重苦しく滲み出すような膨大な気が発生する。

「かは」
「な……」

瞬間、ネギと小太郎の腹部に気がつけばラカンの拳がめり込んでいた。
すぐにその運動量からネギと小太郎は後方に吹き飛ばされるが、それを更に先回りしてラカンが迫る。

―羅漢大暴投!!!―

吹き飛ぶネギを空中で捕まえ飛んでいた方向とは反対側の闘技場の壁に投げつけ、クレーターを発生させる。

―羅漢破裏剣拳!!!―

続け様に未だ滞空中の小太郎の背後を取り、螺旋回転が入った強烈な拳の一撃を入れ、空中高く吹き上げ、小太郎は重力に従いそのまま無造作に地に落ちる。
軽く物理的にありえない行動を一瞬のうちにやってのけるその異常さはまさに第三形態とも言えるような無敵の強さを示していた。

[[で……伝説の英雄、ここに尚健在!!先ほどあれだけの集中砲火を受け弱るどころか、ネギ選手と小太郎選手を一瞬で倒してしまうほどの力を見せつけました!!]]

ラカンのたった一瞬の動きでネギと小太郎が撃破されたことでしばらく闘技場内は静まり変えっていたが、ようやく歓声が上がり始める。

「ふぅー……。あーついやりすぎちまったな。いやー、さっきの融合技、俺でなければ確実に終わってたぜ。その後に更に大呪文で追い打ちをかけてきたのには流石にイラッとしたが。まあアレでも俺はやられたりはしないから悪く無い戦法だがな。落ち込むことはねぇぞ、この俺様に本気の本気を出させたんだ。2人がかりってのはアレだがそんな奴はこの世に5人もいねぇだろうよ。まさかここまでやるとは思わなかった。胸張っていいぜお前ら!」

ラカンの大声が闘技場全体に響き渡る。
未だネギは全く反応せず、小太郎が倒れたまま先に声を上げる。

「がぁ……ほな……ここからは……俺のリスクを取った奥義で相手してもらうで……」

「先にコタローか……。いいぜ、相手してやる。審判!ネギの奴にカウントは無しだ!ネギが復活するまでコタローとサシでやるぜ」

[[こ、ここでラカン選手の宣言が入りました!ネギ選手に対してカウントは行いません。2対に2の拳闘大会ですが、1対1の試合にもつれ込みます!!]]

「右腕に気、左腕に魔力……合成!!」

―咸卦法!!―

倒れたまま両手を合わせ咸卦法の発動を小太郎は試みる。

「ぉぉぉぉ!!」―我流犬上流獣化奥義 大神・狗音白影装!!!―

更に小太郎は身体の形態変化を始めた。
巨大になるかと思われたが、そこに現われたのは体高60cm程度、長い尻尾が3本ある白く輝く狼だった。

「小っさッ!?もっと大きくなんじゃねぇのか普通?それ奥義なのか?」

「へっ、大きさが問題ちゃうわ」

大きさ的にはゴールデンレトリバーと同程度であるが、確かに奥義というにはガラリと変わると期待するのも無理は無い。

「おーやってみろよ、ワンコ!」

「ハッ!」

―大神・戦吼弾!!!―

すぐに小太郎はラカンから一旦距離をとりつつ口元に溜め無しで白く発光する小さな弾丸を9つ形成し、発射する。

「ぬ……溜め無しでこの威力か。結構痛ぇな!このヤロー!!」

サービスのつもりで、腕でガードしつつも直撃を受けてみたラカンだったが気合防御はしていないものの煙が上がっておりダメージにはなっていた。

「ネギの契約執行があればもっと上やったんやけどな!これで我慢や!」

「俺も行くぜぇ!」

ラカンは拳を構え小太郎に突撃する。
その速度は先ほど物理法則を無視した時程速くはなかったがそれでもかなりのものだった。
しかし小太郎は尻尾を素早く伸ばし、その手首に巻きつけ、逆にラカンを投げ飛ばしその巨体を地に叩きつける。

「コォォオオオオッ!!」―大神・戦吼砲!!!―

叩きつける反動でラカンの上空に上がってそのまま浮遊術に移行していた小太郎は口に光球を形成し、そこから一点集中の光線を心臓に向けて放つ。

「なにっ!」―気合防御!!!―

ラカンはその光線を見て咄嗟に気合防御をして防ぐ。
驚くべきはその光線の照射時間であった。
最初の発動には確かに溜めを要したが、その後光線を吐いても光球は小さくなることも、光量が減ることも無かった。

「ぬぉぉぉぉっ!」

先にラカンの気合防御の持続時間が切れ、通常状態でまともに光線を受けラカンは確かにダメージを受けた声を上げる。

「何の……これしき!」―アデアット!!―

光線を急所に受けながらもラカンは再び立ち上がり千の顔を持つ英雄を使用し、大地に剣群を出現させそれを拾っては次々投げつけ始める。
しかし小さい体躯であるのが幸いし、特に巨大な的になることも無く小太郎は縦横無尽に虚空瞬動を繰り返して回避しながら、光線の狙いは心臓から外さず照射を続けた。

「なるほど……派手な攻撃よか全て急所に命中され続ける方が余程やべぇ。ぐぷっ……だがな、まだまだだっ!!」

ラカンに口から血を吐かせる程のダメージを与えた小太郎だが、そこへ再度本気の本気になったラカンがマッハの壁を軽々超えた速度で2振りの大剣を携え跳びかかる。
何を隠そうラカンは足場さえあればマッハ3.2で投げた剣に更に追いつく程の速度で軽々跳躍する事ができ、しかもそれが特に瞬動等という技術でも無く、ただ単純に気を用いた身体の動きなのだ。
長瀬楓のマッハ3を記録する長距離瞬動術、縮地无疆ですら移動の際に足に力をこめて溜める時間を必要とするにも関わらず、である。
流石にこの速度の動きにまで小太郎の光線は急所を追尾することはできず、狙いが外れ舞台の床を破壊するが、そこで初めて威力が明らかになった。
光線が通ったルートは例外なく地面に深い裂け目ができ、常人では少しでも掠ればアウトだというのは観客の誰の目にも自明であった。
逆に言えばラカンの耐久力の異常さが浮き彫りになり、観客からはどよめきと歓声が上がる。
超高速で動きだしたラカンに対応できなくなった小太郎は光線から複数の弾丸を飛ばす攻撃パターンに移行するより他なかったが、この後は一方的であった。
この時点で小太郎は例えラカンに被弾させたとしても行動不能にできる程のダメージを与える事はできないのが明らかであり、勝つ見込みは一切無かった。
それでも、強靭な白い剛毛で身体全体を覆った体躯の耐久力はかなり高く、ラカンの剣戟、拳の直撃を数発受けても、怯むことなく果敢に反撃し続ける事ができた。

「これでシメだッ!!」―羅漢萬烈拳!!!―

「ガァァァァッ!!」

空中で小太郎の背中を取ったラカンは、強烈な一撃で地にたたき落とし、マウントポジションを取った状態で続け様に左右の拳で超高速ラッシュを畳み掛ける。
完全に体を抑えられている状態で全弾被弾し、ここで小太郎も限界となった。
煙を立てて小太郎は元の姿に戻る。

「ふぅー、的が小さい上に結構固いせいでなかなか手こずったな。コタロー、よく頑張ったぜ。お前に足りねぇのは威力と速さ、コレだな」

等とラカンは評したが、それができるなら誰も苦労しはしない。

[[こ、ここで小太郎選手、完全ダウンです!!伝説のラカンの前にはやはり及ばなかったー!!]]

千の顔を持つ英雄の出血サービスを始め、ラカンの目にも留まらぬ打撃技を直に見ることができ非常に満足した観客が多く、歓声が飛び交う。
これにて勝利者はラカン、カゲタロウチームで試合終了となろうかという時、場の空気が一変した。

[[これにて試合しゅ]]

         ―森羅万象・太陽道―
―契約執行 魔力供給無制限 ネギの従者 犬上小太郎―

壁に埋まっていたネギが再起動した瞬間、膨大な魔力の渦が巻き起こる。

[[い、一体これはっ!!?]]

「げほっ!これはネギか!?」

ダウンしたばかりの筈の小太郎が魔力供給を受けて意識を取り戻す。

「とうとうアレが来るかぼーず……」

「いや!マズイで、ラカンさん逃げろ!」

驚愕で両目を見開き小太郎が声を上げる。

「なに?」

      ―空間掌握・万象転移―

粒子分解してラカンの背後にネギの魔力体、しかも10歳形態が音もなく現れる。

        ―終末之剣―

「な」

瞬間、ラカンの最強の右腕が、傷跡の部分で斬り飛ばされる。

「ッこいつぁやべぇ」

流石歴戦の猛者というべきか、ラカンは腕が斬り飛んだ事に呆然とするでもなく即座に退避行動に入り、マッハ3を軽く超える速度でその場から闘技場端に離れる。

      ―空間掌握・万象転移―
       ―双腕・終末之剣―

しかし、ラカンが退避したその足元に再び粒子分解してネギの魔力体が頭と腕だけ地面から出して現れ、2撃目の終末之剣が左足の膝から下を左右の腕で両方から挟んで斬り落とす。

「マジか!」

しかしラカンはそれでも右片足だけで跳躍する。

          ―アデアット!!―
    ―左脚動甲冑!!――右腕動甲冑!!―

右腕と左足を失ったラカンはアーティファクトで無理やり動甲冑を装着し、倒れる事はない。
ここでネギは続けて転移せず、そこでしばらく佇み虚空を見つめ出す。

「おい、ネギ!目ぇ覚ませ!それ以上無意識で行動すんのやめ!!」

千の共闘でネギの状態が分かる小太郎の発言によってネギが現在無意識で活動しているのが明らかになる。

「ぼーずの奴、気ぃ失ってんのか!」

      ―空間掌握・万象転移―

「そう何度も」

ラカンはネギの魔力体が出現する位置を気合で察知し、そこに左腕を振るう。

「喰らうかよッ!」

丁度ネギの魔力体の上半分が桜吹雪のように吹き飛び、下半分だけがそこに残る。

      ―空間掌握・万象転移―
         ―再構築―

下半分が再度粒子分解し、闘技場上空に完全に元の状態でネギは再構築を果たす。

「……マジで無敵モードかよ!つかやっぱりこの感覚、力は……まさか」

ラカンの右腕と左足が斬り飛ぶという光景を前にゾッとする感覚に囚われ司会はおろか観客達すら誰一人声をあげられない。
腕の一本が吹き飛ぶぐらい拳闘界では一定の頻度で起きることであるが、この場には確かにそういうものとは違うと感じられる、異常な空気が満ちていた。

       ―破壊の王 我と共に 力を―
 ―来れ終末の輝き 薄明の光芒 満ちれ エアロゾルよ―
        ―集え 全ては 我が手に―
 ―降臨し 全ての命ある者に 等しき死を 其は安らぎ也―
        ―然して 死を記憶せよ―
          ―大天使の降臨―

静まり返って数秒が経過した後、突如ネギは始動キーを破棄し、大天使の降臨を僅か1秒で詠唱しラカンに向けて放つ。

「この威力はっ!」―全力全開!!ラカン・インパクトォ!!!―

極光がラカンを包み消滅させかかるが、気合全開のラカンは左腕でラカン・インパクトを放ち相殺させにかかる。
防がなければ確実に闘技場の魔力障壁を突き破り、地面を貫通しかねない威力だった。

「カハァ……」

照射が終了し、立ち込める煙からゆらりとラカンは現れ、動甲冑は消滅していたが、他の身体部位も損傷はあるものの原型としては問題なく無事であった。
しかし、そこでラカンはダウンし、ドサリと音を立て地に倒れる。
そんな状況に小太郎が思い立ったように声を上げる。

「アスナ姉ちゃん!ネギに何か言ったれ!!」

小太郎はそう、アスナに呼びかけた。

[[ね、ネギ!馬鹿ネギ!何やってんの!目を覚ましなさい!]]

そこへ直ぐ様アスナの声が放送で場内にこだまする。

《あ……スナ……さん?》

「ネギ!早く術を解けや!戻れなくなるで!」

《コタ……ロー……?》

虹彩は輝くが生気の無い虚ろなネギの目に光が戻る。

「僕は……しまった使い過ぎ……」

         ―太陽道・解除―

「た……」

上空で翼を失った鳥のように、そのままネギは重力に従い落下する。

「ネギッ!」

しかし小太郎がそれをキャッチする。

[[司会!この試合引き分けじゃ!!]]

[[は、はいっ!ナギ・スプリングフィールド杯決勝戦、引き分けです!!な、なんとネギ選手に不思議な現象が起こり伝説のラカンを圧倒するも、力尽きました!!皆様両選手に盛大な拍手を!]]

闘技場内から異常な空気が失せ、観客達は皆我に返り、両選手に歓声と拍手を送る。
超常現象の数々の起きたこの十数分に渡る試合を振り返ってみれば奇跡の一戦とも呼べるような内容であった。
この試合は全国ネットで流れていたが、直に闘技場で見ていない人間はネギの使用した太陽道の異常な空気は伝わらず、何やら凄い技だったというような感想を持っただけだった。
ラカンの身体はもちろん、切り落とされたラカンの右腕と左足は闘技場スタッフが素早く回収し、救護室に運びこみ、そこに先に到着していた近衛木乃香がアーティファクトを発動させる事によってその傷は一瞬で完治した。
カゲタロウもダウンから気を取り戻したが、こちらは闘技場付きのヒーラーによって丁寧に治療された。
小太郎はネギの無制限魔力供給によってか、直前に受けたラカンからの攻撃によるダメージはほぼ無かった事になっており、軽く治療を受けただけで済んだ。
ネギはと言えば、再構築した為、完全無傷であったが、またしても眠りについてしまい、ネギは魔法球の中で休ませる事になった。
この試合でネギが太陽道を無意識に発動させる鍵となったのは皮肉にも、ラカンが小太郎を羅漢萬烈拳でラッシュをかけて撃破した事であった。
大事な仲間を倒されたネギは無意識で契約執行を行い、仲間を傷つけた対象を無力化しに動いた、というのが今回の真相である。
太陽道、それは人の身には余りにも過ぎた力。
そこにあるのは有か無、1か0かの極端な世界。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月6日、15時26分、新オスティア某所―

人気の少ない場所でナギ・スプリングフィールド杯決勝の様子をモニターで観戦していた面々がいた。

「ふぇ、フェイト様、あのラカンを圧倒した技は一体……」

暦が焦るように問いかける。

「正直信じられないが……あれは……本当の意味で僕達に対抗出来うるのはネギ君ただ一人なのかもしれないね……」

「そ、そんなに凄いものなのですか?」

「お姫様の力とほぼ同等、寧ろ干渉すらできると見てもよさそうだ」

「そ、それは……」

「あんな10歳の子供が……」

「ネギ君も凄いが……ジャック・ラカンも大概だよ。3度目には対応してみせたぐらいだ。やはり明日、オスティアの総督府の舞踏会で要人達が集まる所を叩いて戦力を削いでおく……残念ながらこうなればネギ君も無力化しておいた方がいいかもしれないね……」

「フェイト様、連合・帝国・アリアドネーの部隊が集結しつつあるようです」

「分かっているよ、調。デュナミスが数を減らす予定だ」

「ハッ」

「ところでお姫様はどうだい?」

「フェイト様が術をかけてからは塞ぎこんだままです」

次に焔が答える。

「そうか。……最初出したときはとんだお転婆で困ったものだったけど……どちらの人格が残るかな……」

「まさか神鳴流の技を使ってくるとは思いませんでしたね……」

「大人しくしてくれているならそれでいいよ。それと例の端末は気になる事もあるけどもう破壊しておいてね。逆探知されるかもしれない」

「お任せください」

「頼むよ。そろそろ戻ろうか」

「「「「ハッ!」」」」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月6日、22時頃、オスティアリゾートホテル、ダイオラマ魔法球内―

ん……ここは……。

「ネギ!」

「ネギ先生!」

「アスナさん、のどかさん……僕……また寝てしまいましたか?」

「そ、そうよ!3日間ずっとよ!前より酷くなってるんだから!」

「ネギ先生気分はいかがですか?」

「3日ですか……。気分はどちらかというと良いです。お腹は空きましたけど」

前より長くなってるな……。

「もう……ほら、またずっと寝てたんだからゆっくり起きなさいよね」

「あ、はい。ところで……試合はどうなったんですか?」

「一応引き分けということになりました……」

「引き分け……ですか?」

あんまり太陽道を使ってたときの事覚えてないんだよな……。

「ラカンさんもネギも倒れちゃったから引き分けになったの」

「ラカンさんが倒れた!?」

「何驚いてんのよ、あんたがやったのよ、ネギ」

「そ……そうですか……」

ラカンさんを僕が倒させた……?
確かに太陽道なら不可能ではないかもしれないけど……具体的に一体どうやったんだ……。
コタローが危ないって思った事だけはなんとなく覚えているんだけど。

「とりあえず今ご飯用意してくるから待ってなさい」

「ありがとうございます。アスナさん」

アスナさんとのどかさんが朝……ご飯を用意してくれて美味しく食べさせてもらった。
皆魔法球の外にいるみたいで、アスナさんとのどかさんと一緒に魔法球から出た。
大広間についてみたらラカンさん達がいて待っててくれたみたい。

「ネギ、大丈夫か?この時間やと3日は寝とったようやな」

「うん……まさか無意識で使うとは思わなかったよ。あの、ラカンさん倒れたって聞いたんですけど怪我は……?」

椅子に座ったままかなり真剣な顔してるけど……。

「ああ、このか嬢ちゃんのお陰で問題はないぜ。それよりお前の方だ。ネギ」

「はい」

「あの技、アレは確かにスゲェ。俺も正直信じられねぇが、20年前の決戦で造物主を見たときと似たような感覚だった」

え!?
造物主と似たような感覚?

「そ、それって……」

「ジャック、それは本当ですか!?」

「ああ、マジだ。戦って倒せる気がしないと思ったのは久しぶりだぜ。はっきり言うが、アレならフェイトも倒せる」

「ほ、本当ですか!?」

「俺が保証してやる。ただ、使う場合には気を付けろよ。あんな短時間使っただけで数日寝るようじゃ特攻みたいなもんだ」

ラカンさんの言うとおりだ……それにもし、発動限界の時間まで搦手で時間を稼がれて仕留め損なったらそこで終わりだ……。

「はい……気をつけます」

「ジャック、造物主に似ているというのは……」

「それなんだが、俺の勘だと、ネギが開発した太陽道ってのは造物主のデタラメな力に通じる所がある。つまりだ、ある意味ナギに続きネギなら、ま、造物主はナギが倒したが、対抗しうるっつーこったな」

「それに……僕の中に流れている魔力で無効化の中でも無効化されない……ですか」

「おお、分かってるじゃねーか」

今のところはアスナさんが近くにいるから大丈夫だとは思うけど……。

「ネギ君の重要性が更に増す……か」

そう……かな。

「何にせよだ、ネギ、お前は俺やナギのレベルに届いた。いや……寧ろ極限に振り切れた力を手に入れたと言った方がいいか」

「僕が……」

極限に振り切れた力……。

「何しろ俺が油断したとは言え右腕左足切断、全身損傷なんて有様に一瞬でなるぐらいだ。ま、戦りあっても全く面白くねぇがな」

「ラカンさんの腕と足を切断!?」

「本当だよ、ネギ君。僕も驚いた」

タカミチが言うならそうなんだろうけど……。

「元々ネギがフェイトからアスナ姉ちゃん守るために手に入れた力やから無敵ぐらいで丁度ええと思うけどな。あの時のネギはこの5日間の太陽道の修行の時よりも出力が上やったで。無駄に止まっとる時間あったけど全自動モードって感じやった」

「そ……そうなんだ……」

リスク無視、最大出力で動いてしまったって事か……。

「アスナを守るって点じゃお前は1人前だ。紅き翼の俺が保証する。誇れ、胸を張れ!」

うん、僕は……それで良い。
アスナさんを守れる、フェイトにも対抗できるなら充分だ。

「はいっ!ラカンさん、ありがとうございます!」

「おう、それでいい。でだー、授業料の50万ドラクマは出世払いな。きっちり払えよ!ぼーず共!」

「「ああーっ!!!」」

50万ドラクマって……今までのファイトマネーがいくらかある筈だけど……足りない。
日本円で8000万円……気が遠くなりそうだ……。

「忘れたとは言わせねーぞ」

「きっちり払います!」

「約束やからな!払ってみせるで!」

「ジャック……そこは変わらないですね。ところで明日クルトから総督府で舞踏会があるんだけどネギ君とコタロー君はどうするかい?」

「ああ、アスナ姉ちゃん達ドレスがどうのって言っとった奴か。俺ただのガキやのに出る意味あるんか?」

「僕も……特に積極的に出たいとは思わないんだけど……」

「何いってんだよお前ら。ずっと修行ばっかだったんなら少しぐらい楽しんでこいや。つーか、ぶっちゃけるとアスナ達嬢ちゃんのエスコートしてこい。あいつら楽しみにしてるぞ」

「な、なるほど。分かりました!」

「あー、それで姉ちゃん達喜ぶならええけど」

「僕達皆で行くから特に緊張する必要もないよ」

「うん、ありがとう。タカミチ」

太陽道ならフェイトにも打ち勝てるというラカンさんのお墨付きを貰えて良かった。
いつまたフェイトが襲ってくるかはわからないけど、明日は皆で夜に総督府の舞踏会に行くことになった。
詳しく聞いてみたら夕映さん達も来るらしくて、修行してた期間長かったから久しぶりでなんだか楽しみ。

「ネギ……前より少しだけ存在が薄くなっとるのは……自覚しとるか?」

「……やっぱりコタローは気づいてるか。うん……自覚してるよ。僕が少し周囲の空間と同化して溶けてる感じになってるのは分かってる」

やりすぎると二度と戻れなくなるかもしれないのも……。

「ラカンさんも言うとったけど特攻みたいな事は……アカンからな」

「ありがとう、コタロー。肝に……銘じておくよ」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月7日、20時頃、オスティア総督府―

ナギ・スプリングフィールド杯決勝戦が引き分けに終わった事の号外が出てから1日。
ネギが太陽道を試合中に発動したことで姿が縮んだことについても触れられていたが、専門家の間では術の副作用という見解で一致していたためさほど問題にはならなかったが、以前指名手配されていた赤毛の少年によく似ているのでないかという話題も無いでは無かったが、指名手配が解除された今となっては別に逮捕される訳ではないので、特段問題は無かった。
そして、ネギ一行はオスティア総督府で開かれる舞踏会を訪れていた。
ただ一人を除いて。

「あれ、ラカンさんがいないみたいですけど……?」

「ラカンさんならちょっくらトイレ行ってくるぜぇって言ってたわよ」

「あはは、そうですか。アスナさん、そのドレス似合ってますよ」

「む……ちょっと、その姿でそういう事言うの禁止、ダメよ!本当はただの子供なのに全くもう……」

「えー、駄目なんですか?」

「駄目ったら駄目よ!」

「わ、分かりました」

「キーッ!ネギ!あんたなんか本当さっさと元の姿に戻っちゃえばいいのよ!」

「なんでアーニャまでそんな怒ってるの?」

「知らないわよッ!」

「え、えーと……」

「ネギ君は大変スねー。頑張れー。私はタダ飯食べるかー。あ、リンさん!あっちに美味しそうなのがあるッスよ!」

「行こう」

舞踏会でもシスター服を着用している春日美空はそんなネギ達の横で軽く呟き、舞踏会で出されている料理にココネ、リン・ガランドと共に、両手にナイフとフォークを持って一目散に向かっていった。

「美空ちゃんったら……」

「あはは、春日さんらしいですね」

そんな舞踏会も始まったばかりという頃、オスティア総督府の屋根から1人眼下を見下ろす人物の姿があった。

「…………何も知らない、哀れで儚い……木偶人形達。人の自我など錯覚による幻想にすぎない……などと言ったところで慰めにもならないね」

フェイトは舞踏会に向かう人々の姿を見てそうつぶやき始める。

「まあ……僕も大した違いはないけど……今の僕には……」

「ったく、嫌な予感がするかと思えばあたるもんだな。しっかし、頭のいいバカの言う事は敵も味方も訳わかんねぇな」

そこへ対峙するように現われたもう一人の人物。

「……あなたが出てくるとは意外だな。世界のコトなどどーでもいい人だと思っていたけど」

「なぁに、世界はまぁどーでもいいんだが。ガキが頑張ってるのにおっさん世代の俺が何もしてないってんじゃ示しがつかねぇしな。自分のシリは自分で拭きに来たってこった」

「へぇ、あなたのような英雄ともあろう人が彼に感化されるとはね」

「てめぇ……土のアーウェルンクスだったか?20年前に一人目、10年前に二人目をナギの野郎にやられて……何人いんのか知らねぇがてめぇで少なくとも「三番目」以降って訳だ」

「三番目なんて無粋な呼び方をしないで欲しいね」

「あー、フェイトだったか。自分で付けた割にゃ結構いい名前じゃねぇか。しっかし相変わらずお前やることは世界の滅亡なんだよな」

「あなたからすればそう思えるかも知れない。けれど、僕達の方法が最も多くの、弱き者……神に祝福されぬ者達の魂を救う……疑いはない。僕たちは彼の意思を継いでいるからね」

「フン……信念持ってる奴ぁやっかいだねぇ。ま、ここに来たって事は何か悪さしにきたんだろ。何にせよ戦るしかねぇな」

「そうだね」

「ぶっちゃけ、お前も試合見てたんだろ?アイツの最後のあの技ならお前も無力だぜ?その前にお前はここで俺が倒すが」

「それは……どうかな」

「何?」

「試してみれば分かるよ」

「はー、何かお前、昔と違って……なんつーか人間臭いな。戦り辛そうだ」

「その割には楽しそうにみえるけど?」

「当たり前だ。その方が面白いに決まってるじゃねぇか」

そこへバサバサという音と共に更に人数が増える。

「フェイト様――ッ!!ここはひとまずお任せを!!ラカン殿とお見受けします!」

「あん?何だ嬢ちゃん達。迷子なら帰れ」

「迷子じゃないですぅーッ!!」

「あー、ぼーず達が言ってたフェイトの部下って奴か。なに、世界滅ぼそうって奴のとこにはカワイイ子が集まる世の中なのか。かーそりゃ滅ぼしたくもなるわ」

「何言ってるんですかー!!」

「話になりませんね」

「あー、前哨戦すんの?まあカワイイ子と戦るってんならやぶさかじゃねぇけど」

「その減らず口もすぐ叩けなくしてやるですっ!!環!」

―無限抱擁!!―

そしてオスティア総督府の屋根だけが切り出された足場の周囲に無数の白い柱が縦横無尽に浮かぶ空間が広がる。

「何だこの空間。なるほど、これにぼーず達は閉じ込められたっつー訳か。大層なモン持ってんじゃねぇか。いいぜ、もうまとめて掛かって来いよ!」

「言われなくても!」

「参ります」

「行く」

「…………」

こうしてラカンとフェイトの戦いが始まる前に、フェイトの部下4人の少女達との戦いが行われる事となった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月7日、20時頃、オスティア総督府―

タダ飯サイコーッ!!

「いやーこの肉、魚美味いスねー」

「美味しい」

「ミソラ、アレ取って」

ココネはサラダ行くかー。

「はいはーい」

舞踏会とかどーでもいいスよー。
セレブ用の食事出るっつーからキツそうなドレスなんかよかシスター服でおっけおっけー。
んー、幸せだー。
リゾートホテルにずっと泊まってるけど更にグレードが上がってるっつーかそんな感じ。
にしても昨日の決勝戦、最後の小太郎君のワンコ化も驚いたけど、ネギ君の無意識暴走モード?アレは怖かったなー。
最初試合始まる前にアスナ達が出してたのは世界の終りみたいな空気だったけど、あの状態のネギ君が暴れまわったらそれこそ世界の終りみたいな感じだった気がするスよ。
いきなりラカンさんの腕と足一瞬で切り飛ばした上、それまで効いてなかった筈の破壊光線一発でラカンさんダウンとかやばすぎるわ。
ラカンさんが反撃で殴り返しても再生してたし……完全に人外になってるだろありゃ。
一瞬会場騒然としてたし。
そんなネギ君も今はアスナ達と踊ってる訳で。
小太郎君は楓とくーちゃん辺りから踊ってるね。
高畑先生達は微笑ましそうにそれを見てるな。
つーか周りに知らないセレブ大量発生とか何アレ。
ネギ様!とかコタロー様!とか、ネギ君達が移動すれば後を追うようにゾロゾロと……。
中身とゆーか本体は10歳ぐらいの子供だし、そんな相手してられるほどあの子らは今肉体的にも精神的にもそんな余裕ないスよ……。
そろそろネギ君に皆で一言入れておこうみたいな話でてるし。
放っておくと一人でどこまでも進んで、気がついたら誰も手の届かないところに行ってしまいそう、っていうアスナの発言は一理ある。
たまにネギ君と小太郎君が2人が小声でお互い顔を見ずに会話して、その後パッと別れる時の表情何かは特に深刻そう。
あー、困った子供だことで。
カゲタロウさんは相変わらずの仮面の存在感で周囲の空間圧迫してるけど高音さんは無視して何か話してるね。
いつか高音さんもあんな仮面つけて日常的に活動するようになったら……と考えるのはやめとこ。
カゲタロウさんの怪我は闘技場付きの治癒術師でしっかり治ったから良かったスね。
ラカンさんはこのかがやったにしても、寧ろかなり酷い怪我だった筈のネギ君と小太郎君はほぼ治療する必要が無かったっていうのは何だかねー。
って、おっ、ゆえ吉達来た!
あれはアリアドネーの学生服か。
なるほど、警備の立場で来たんじゃなくて学生の立場って事か。
エミリィ委員長の目線が泳いでると思ったらネギ君探してるんスね……。
分かりやすいわー。
丁度ネギ君がアーニャちゃんと踊ってる……所とか……ていうかアーニャちゃんも年齢詐称薬飲めばよかったんじゃ?
あれは何か嫌だろー。
ホントは同じような年齢なのに片方が大きい姿で化けてるとか。
つかラカンさんマジで来ないな。
アスナはトイレ行ってくるとか聞いたらしいけどどうなんだか……面倒だとか言って逃げたんじゃ?
まーそんな事言ったら私もここで好きなだけ食べてるだけなんだけどさ。
気に入った食べ物が少なくなってきたー!と思ったらすぐさま補充入るのはありがたや。
総督府パネェ。



[21907] 56話 オスティア総督府舞踏会(魔法世界編16)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/11 00:57
―10月7日、20時30分頃、オスティア総督府舞踏会会場大広間―

なんだか魔法世界に来てからアスナさんはもちろん皆成長したっていうかそんな気がするなぁ……。
2ヶ月以上もこっちで生活してることになるからそれはそうなんだけどね。
一通り踊り終えたけど……さっき着いて端のほうにいる夕映さん達にやっと挨拶できる。
後ろにまだまだゾロゾロついてきてる人達がいるけど……。

「お久しぶりです!夕映さん!コレットさん、エミリィさん、ベアトリクスさん、こんばんは!」

「こ、こここ、こんばんはです。ネギ……先生」

夕映さんはまだ記憶戻ってないんだったな……。

「こんばんは!ネ、ネギ君!」

「ネギ様!お会いできて光栄ですわ!」

「ネギ様、こんばんは」

皆変わらず元気そうで良かった。

「この式典中警備していたそうで、お疲れ様です」

「い、いえ……当然の事です」

「それが私達の使命ですから!」

「ネギ君こそ、昨日の試合はお疲れ様。凄かったよー!」

「はいです……。あそこまであの伝説のラカンさんを圧倒するとは……驚きました」

「数々の大呪文をあれ程高速で鮮やかに扱えるのはネギ様ぐらいですわ」

「コタロー様との連携も素晴らしいものでした」

「ありがとうございます!」

「……あの、最後のは一体……」

「あの時は意識が無かったんですが……僕の必殺技……といった感じです」

「流石はネギ様!ネギ様の魔法には皆注目していますので話題が絶えません」

「あはは、そうらしいですね。では、皆さん、一曲踊って頂けますか?」

「そ、それはもう喜んで!」

「は、はいです」

「もちろんだよ!」

「恐縮です」

夕映さん達とも踊り始めて、その中で夕映さんと踊りながら話を少しした。

「地球にいた時とやっぱり少し変わりましたね、夕映さん」

「そ、そうなのでしょうか」

「もちろんですよ。雰囲気もそうですけど、まさか一国の騎士団員として、候補生とはいえこうしてその任を全うしているんですから」

「そ、それはセラス総長達の配慮のお陰であり……」

「夕映さん自身の努力の賜物ですよ」

「あ、ありがとうです……」

「もうそろそろ、ゲート確保から……色々と動くそうですから、解決したら一緒に麻帆良学園に帰りましょう」

魔法騎士団、魔法騎士団候補学校の手続きはちゃんと行われるから大丈夫。

「はい……。その時にまで記憶が戻れば良いのですが……」

「大丈夫ですよ。きっと戻りますから」

すぐエミリィさんとも踊ったんだけど……途中で熱が出たみたいで端の方の席で休んでもらった。
何だか前にも同じような事があったような……。
一通り皆と交流を終えたらタカミチが総督室に行くから一緒についていくことになった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月7日、無限抱擁内―

ラカンとフェイトの部下4人との戦闘は、伝説のラカンの前に健闘するもあっけなく終了し、既にフェイトとの戦闘に入っていた。
羅漢萬烈拳で左右の腕で猛ラッシュを決め強力な魔法障壁を3枚割り、螺旋掌で柱を破壊しながら叩きつけそのまま無造作にフェイトを掴んで明後日の方向に投げつける羅漢大暴投で更に柱に叩きつける。

「確かにお前は強い。が、こりゃぁやっぱ俺の勝ちなんじゃねぇか?」

「フ……やはりあなたは何もわかってはいないんだね。……それに僕を倒しても何一つケリなどつきはしない。僕はただの駒……。とても残念だよ、ジャック・ラカン。こんなにも楽しいのに僕はあなたを倒さなければならない。勝敗には関係なく」

フェイトは片目から白い血のような涙を流して答える。

「あん?」

「あなたは僕に絶対に勝てない。僕自身はあなたの力に敬意を表する。その強さを本物と言っていいのかバグなのかわからないけれど……例えそれが幻でも」

立ち上がりながらフェイトが虚空から出したのは火星儀のようなものが先端についいる杖であり鍵のようなもの。

「ハッ、それが切り札って訳か。余計な詮索は無用だ、どっちにしろやるだけだ。行くぜ」

ラカンはそれに気にせずフェイトに攻撃をしかける。
対してフェイトは小規模な魔方陣を複数展開したかと思えば、大量の黒い杭を無数に出現させてラカンを全方位から囲むように放つ。
ラカンは千の顔を持つ英雄で大剣を二振り出し、超高速でそれを捌く。
それでも一本の杭がラカンの右腕の傷跡の部分に刺さる。

「なるほどな、この違和感はその鍵の影響か。ぬんっ!」

腕に刺さった杭でフェイトが出した鍵の火星儀の部分を粉砕し小細工もできないようにラカンは……した。

「ぬぅあああっ!!」

―羅漢萬烈拳!!!―

再び超高速の左右の腕でラッシュを仕掛けフェイトに強烈な打撃を与える。

「これでシメだ!フェイト・アーウェルンクスッ!」

―零距離・全開!!ラカンインパクト!!!―

フェイトの体に掌をあて3秒間溜めて最高出力になった一撃を放つ。
遠くからその様子を心配するように見守るフェイト4人の部下達は、地球の核爆弾に似たような光景に驚きを隠せない。

「ふー、ぼーずの相手を取っちまった気もするが、ま、拭き残しと戦り合うこともあるまい」

完全にフェイトを倒したかのように思われたが……いつの間にか無限抱擁の空間が変化し、花畑の美しい景色が周囲に広がり、暖かな風が吹く。

「ようこそ、ジャック・ラカン。コーヒーでもどうだい?」

フェイトは側がすぐ池の近くにある席についてラカンにコーヒーを勧める。

「アッアレ?ココどこ?」

「フェイト様ッ!?」

「ふ、服まで……?」

「てめぇ……」

「……美しい場所だね。この景色が戦火によってもう存在しないというのは残念だよ。この景色がなくなったのはそう……40年前」

「人の過去を勝手に覗き見るのはいい趣味じゃねぇな」

語り出したフェイトに即座に近づき肩に手を置いた……ラカン。
しかし、ラカンは気がつくとフェイトの向かいの席で、タキシードを着て足を組んだままコーヒーカップを右手で持っているという状況になる。
このとてつもない異常な変わり様に流石のラカンも驚きを禁じえない。

「てめぇ……何をしやがった」

そう言いながらもラカンはこの感覚に覚えがあった。

「……人形は人形師に逆らえない」

―造物主の掟!!―

フェイトの持つ鍵がキィィと音を立てた瞬間ラカンの四肢が花びらのように吹き飛ぶ。

「けっ……ぼーずと似たような攻撃しやがって!!」

―左腕動甲冑!!―右腕動甲冑!!―
―左脚同甲冑!!―右脚動甲冑!!―

「へ……幻?人形だぁ?へへ……それがどうした」

 ― 千の顔を持つ英雄!!! ―

「くだらねぇな!!」

ラカンは額に汗を浮かべながらも両手両足に動甲冑を装着する。

「フ……そう来ると思ったよ」

そして……ラカンは造物主の掟に挑み始める。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月7日、21時頃、オスティア総督府総督執務室―

タカミチと一緒に前と似たような感じで総督に会いに来た。

「昨日の試合は見事でした、ようこそネギ君。今宵ここに来ている賓客達も皆流星の双子が来ることを楽しみにしていました」

「ありがとうございます、総督」

「一つお聞きしたいのですが……最後の技は一体何だったのですか。やはり不死の魔法使いから教わった魔法に関連があるのですか?」

総督も気になるか……皆もそうだったし当然か。

「はい、マスターから学んだ例の魔法障壁の技術を流用しているのは確かです」

「ネギ君の技について……ジャックは造物主に連なる力だと言っていた」

「ジャック・ラカンがそんな事を!?」

「その事ですが……僕の……太陽道と呼んでいるこの技は、僕自身の肉体、魂の情報を術によって世界に同化させ自由に分解・再構築させることを基本としています。ラカンさんがこの力が造物主に連なると言っていた事から考えた仮説ですが、恐らく造物主は魔法によって世界の情報を書き換える能力、世界そのものに干渉、改変する能力を持っている、いたのではないでしょうか?」

「ほう……分解・再構築という話の時点で驚きですが……とにかくネギ君は前人未到の領域に到達したという事ですか……。なるほど、造物主の力が世界に干渉する能力とは……」

「だとすると……伝説でしかないが……造物主と言っても一から世界を造り上げたのではなく魔法世界という異界に干渉しただけ……という可能性もありそうだな」

そうだ……タカミチの言うとおり元々あった異界に何らかの方法で干渉した、という可能性はある。

「うん、タカミチ、その可能性は高いと思う」

「ここまでネギ君が重要な存在になるとは……。ネギ君にはお教えしていなかった情報を……私から明かしましょうか」

何の事だろう……。

「アレの事か、クルト」

「アレって?」

「まず、この魔法世界に住む人間種の総人口は約5億人、亜人間主等を含めればその総数は12億人。ここまではネギ君も知っているでしょう」

「……はい」

「そのうち旧世界が生まれの起源であると確認されている人間はメガロメセンブリア魔法使い市民のおよそ6700万人です」

「ま、まさか!」

「察しが早くて助かりますね。つまり、魔法世界が崩壊すれば、メガロメセンブリア6700万人以外は全員それに伴いどうあっても消滅する、要するに幻想のようなものなのです」

「ということはテオ様やセラス総長達は皆……」

「残念ながら……そういう事になります……が、それもネギ君の持ち得た見地と情報のお陰で少なくとも幻想だ、という認識は間違っている線が濃くなってきました」

「元々そういう存在であって、幻想という認識をする事自体がおかしい、という事だな」

……テオ様、ラカンさん、セラス総長、エミリィさん達が幻想……あんなに人格があって心豊かなのに幻想……そんな馬鹿な事ある筈が無い。
まぎれもなく僕達と同じ人間だ。
造物主によって操られている……だなんて信じられない。

「地球が崩壊……地球がある宇宙がどこまで広がっているかすら分からない、その世界そのものが崩壊すれば、僕達が消えるという逆の現象も起こり得る……かもしれない……ですか」

「ええ、正直それは私達が認識する限りでは到底ありそうにない事ですが……そういう考え方が正しそうです。ただ、魔法世界の崩壊のほうが早い、ただそれだけかもしれません。その真実を知っている人物はどうやら旧世界のそれも麻帆良にいそうですから確認してみたい所ではあります」

「その為にもまずは……」

「完全なる世界、フェイト・アーウェルンクスです」

「タカミチ、墓守り人の宮殿に行く準備出来そうなの?」

確実にフェイト達が潜り込んでいるのは間違いなさそうだけど……。

「後3日って所だね」

「オスティア総督の権限ではメガロメセンブリアの一部の艦隊しか準備できませんが……」

「主力艦隊旗艦スヴァンフヴィートはリカード元老院議員が連れてきているし、テオドラ皇女殿下がインペリアルシップを数隻、アリアドネー魔法騎士団の巡洋艦隊もある」

「備えあれば憂いなしですが……20年前の再現を奴らがしようとしているのであれば、当然の対応です」

「その時は……僕も墓守り人の宮殿に行くよ」

「ネギ君……」

「王家の魔力……無効化現象の中で無効化を受け付けないのは僕だけだから」

「ネギ君自らそう言ってくれるとはありがたいですね。が、本拠地にネギ君のようなまだ子供を単身1人送り込むようでは我々に全く進歩が無いようなものですから、その辺りは配慮させてもらいますよ」

「はい、ありがとうございます」

「それではもうしばらく舞踏会を楽しんッ!?」

「なんだこの揺れは!?」

「外っ!」

突然外から凄い大きな音が聞こえてきた!

「オスティア駐留艦隊、何があった、報告しなさい!……雲海に召喚痕……巨大召喚魔?フリムファクシが操舵不能だと!?精霊砲はどうした!?」

「……どうやら先にあちらが仕掛けてきたようだね……」

「対処するしか……」

「精霊砲が掻き消されるだと!?…………この映像はっ!……どうやら巨大召喚魔は前大戦で投入されたものと同型のようです。触手を伸ばし、付近の飛空艇を大小関係なく破壊しにかかりながら総督府に向かってきています」

精霊砲が!?
掻き消される……まさか!

「ここには要人が……ッ!それが狙いか!」

「タカミチ、戦艦の精霊砲が効かないなら僕がコタローとその召喚魔の足止め……もしくは破壊してくるよ。避難誘導の経路を僕はよく知らないからその方がいいでしょ」

「……ネギ君……。下にいるテオドラ皇女殿下に龍樹を投入してもらえるよう連絡するし、ジャックにも……連絡するから……頼めるかい?」

「もちろん!ここで待ってても皆が危険になるだけだ」

「ただ……あの技の使用は控えるんだよ」

「分かってる」

「ネギ君……頼みますよ。タカミチ、まずは舞踏会の客の避難誘導が優先だ」

「ああ、俺は先に下に降りてるぞ」

―召喚!! 犬上小太郎!!―

「コタロー!」

「ネギ!いきなり呼んだっちゅう事はあのデカブツ相手すんのか?」

フォークと皿持ってるけど……食べてたのか……。

「うん!」

「……なら細かい事は後にして行くで!アデアット!」

―契約執行 600秒間!! ネギの従者 犬上小太郎!!―

「そこの窓から行こう!総督、行ってきます!」

「おうっ!」

「……お願いします。私も後からオスティア艦隊を指揮しに出ますので」

「はいっ!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月7日、21時頃、オスティア総督府付近雲海―

ネギと小太郎は浮遊術で総督執務室を飛び出し、小太郎がネギの手を引っ張る形で巨大召喚魔の元に急いだ。
召喚魔は全長700m破格の大きさ、全身黒色で統一され、左右に3つずつの目に鋭い牙、胸部は骨が露出し、心臓部と言える弱点が見当たらない、まさに巨大悪魔であった。
背中、雲海に隠れた足元からは無数の触手を伸ばすことができ、的が大きいと言っても容易に接近を許しはしなかった。

―短縮術式「双腕」封印!!―
 ―双腕・断罪の剣!!―
 ―双腕・断罪の剣!!―   ―双腕解放!!断罪の剣!!―

ネギは小太郎に断罪の剣の装備を施し、自身も断罪の剣を纏い、左右に別れ、立ちふさがる巨大な触手を切り裂き始めた。

「はぁッ!」      「でやぁっ!」

上から迫り来る触手を身長大の長さの右腕の断罪の剣で切り払えば、雲海の下から迫る触手は同じように身長大の長さの左腕の断罪の剣で一閃。
切断に必要な威力としては申し分ないが如何せん標的があまりにも大きい。
クルト・ゲーデルが連絡を受けたオスティア駐留艦隊所属巡洋艦フリムファクシは触手によって絞めつけられ操舵不能、船体後部についている高出力精霊祈祷エンジンを破壊され既に雲海の底に落ちてしまっていた。
触手はその手を休める事なく次々と周辺に展開している戦艦を絡めとりベキベキと音を立てて破壊しに掛かっていた。
戦艦は精霊砲を放つも全て掻き消されてしまい効果が無い。

「くっ……戦艦の中にはたくさん人がいるっていうのに!ハァッ!」

「本体……多分頭部撃破すればそれで終わらせられるんやないんか?でやぁッ!」

「それしかないかッ!」

「白狼雷天大神槍、アレならいけそうやけど溜める時間は貰えそうにあらへん。ラァッ!」

2人は会話しながら断罪の剣を振り回す。

「そうだね。ハッ!」

「俺が鬱陶しい触手は処理しとくからデカイ収束大呪文当ててやれや!」

「分かった!もう少し接近するよ!」

「おうっ!」

ネギと小太郎の触手との攻防をよそに巨大召喚魔は着実に総督府に近づきつつあった。
2人は大天使の降臨を威力減衰無しで打てる射程範囲に近づこうとするが問題があった。
触手だけではなく今度は巨大な両腕までもが攻撃を阻止しようとして来たのだ。

「デカイ腕やな!」

「くっ……腕の可動範囲から離れよう」

仕方なく2人は遠距離から攻撃をしかけるしか無くなった。

「行くよ!!」     ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
          ―契約により 我に従え 破壊の王―
      ―来れ終末の輝き 薄明の光芒 満ちれ エアロゾルよ―
      ―収束魔方陣展開!!! 集え 我が手に 域内精霊加圧!!!―
        ―第1から第12 臨界圧縮!!! 第0へ解放!!!―

3秒は必要な収束を開始したネギの魔法領域に再び触手が迫る。

「邪魔はさせへんッ!」

それらは小太郎が高速で空中を飛び回り全てを切り払い前衛の前衛としての役目を果たす。

      ―降臨し 全ての命ある者に 等しき死を 其は安らぎ也―
              ―然して 死を記憶せよ―
               ―大天使の降臨!!!―

「あぁぁぁぁッ!!」

ネギの両手から破壊光線が放たれ巨大召喚魔の頭部を消滅させにかかる。
組成が闇の魔素を編んで構成されているものだけあって、光の魔法の効果は高く、安々と頭部は完全に消滅し、それどころか背中まで貫通したのだった。
……しかし、それでは終わらなかった。

「はぁ……はぁ……僕の魔法は効いた……けど、核と呼べる部位が無いのか!?」

「こら性質悪いな!戦艦の破壊に来た理由がよう分かる!」

頭部が無くなっても尚巨大召喚魔は動きを止めなかった。

「だからと言ってここで諦める訳にはッ!やっぱりアレを……」

「ネギ、それは最後にとっとき!最悪姉ちゃん達の避難が終わるまで持ちこたえられればええんや!」

「……分かった、コタロー。少しでも足を止められるように頑張ろう」

「危険やけど背中からいくらでも出とる触手を片っ端から切るだけでも大分違うはずや!」

「うん!……でも召喚だとしたら必ず術師がいるはずだけど……一体何処に……」

そして2人は再び巨大な両腕が振るわれる範囲に飛び込んでいった。
一方遡ることしばし、高畑は総督府から舞踏会のフロアに降りる為、総督府の廊下を移動していたが、こちらにも小型の召喚魔が床という床から溢れ出始めたのだった。

  ―咸卦法!!―

―百条閃鏃無音拳!!―

高畑は一度に百発の無音拳を放射状に弾き出し、目の前に現われた召喚魔を一掃する。

「かなり脆いが……数だけは多いみたいだな」

《葛葉先生!廊下に召喚魔が多数出ています。そちらの様子は!?》

《こちらも同じですッ!烈蹴斬!!床のあちこちから数種の召喚魔が今出現し始めた所です》

《客を避難させたいところだが、廊下にまでいるとなると会場でなんとか守りきるしかない》

《……今のところは風太郎・D・グッドマン氏と私達でほぼ抑えられています。斬鉄閃!!……しかしどうやら、召喚魔に効く魔法と効かない魔法があるようです。斬魔剣!!……会場の客が魔法の射手を打ちましたが掻き消されました》

《それは……外の巨大召喚魔と同じ状況のようだね……。了解した。そちらに急ぐよ》

そして目の前にやや巨大な鬼のような召喚魔が現れるが。

―豪殺居合い拳!!―

一定以上の物理攻撃には非常に弱く、高畑にとって障害にはならなかった。
そのまま咸卦法で加速された身体で廊下を突き進んだが、突如左手の屋外テラスの空間に亀裂が走った。

「何だ!?」

雷撃のような音と共にそこに膝と手を同時について現われたのは両腕両足に動甲冑を装着したジャック・ラカンであった。

「ジャック!?」

「よぉ……ぼーずじゃなくてタカミチかよ。まぁいい、最後に会えて……良かったぜ」

「一体何が!?その動甲冑は!?」

それだけではなくジャック・ラカンの存在感が異様に希薄になっている事を高畑は感じられずにはいられなかった。
そこへ更に空間に亀裂が発生し、またしても雷撃のような音と共にもう1人が現れる。

「お前はッ!フェイト・アーウェルンクスか!」

「へぇ……紅き翼の高畑・T・タカミチか。これはまた意外だね。ここに空間を開いたのは……あなたの意思か、ジャック・ラカン」

「知るかよっ!ぬんっ!!」

― 千の顔を持つ英雄!!! ―

ラカンは余裕のフェイトに構うこと無く千の顔を持つ英雄で大量の剣群を射出する。
しかし、フェイトの持つ造物主の掟の前にはラカンのアーティファクトで構成された剣群は溶けるように形を失う。

「ジャックのアーティファクトが!?」

「何度やっても無駄だよ」

現実空間に飛び出すまでも何度も同じ事を繰り返していたかのようだが、それでもラカンは攻撃をやめはしない。

―斬艦剣!!―

戦艦をも一撃で落とす巨大な剣を両腕動甲冑で担ぎ投げつける。
しかし、またしても溶けるように剣は形を失う。

「無意味だよ、ジャック・ラカン。全てを分っていてなぜ向かってくる?」

―リライト!!―

フェイトは右目を見開き、ラカンの頭部目掛けてその空間に直接魔法を発動させる。

「よっ。どうした?効かねぇぞ?」

目を見開くというだけのほぼノーモーションにも関わらず、ラカンは気合でその攻撃を察知し、一瞬で身体を左にズラして避ける。
それでも、フェイトの放った魔法はラカンの右腕の動甲冑にあたり、花びらのように雲散霧消する。

「今の攻撃はっ!?」

昨日の試合でネギが行った分解と再構築によく似た現象に高畑は驚きを顕にする。

「………やれやれ……頭を狙ったんだけどね。ここまで持つだなんて……あなたには本当に感服するよ。今のあなたと僕には圧倒的な力の差がある。それこそ象と蟻の字義通りに等しい程の力の差が……それを十分に理解している筈なのに……何故だ?」

フェイトは少々呆れた表情を見せ呟くようにラカンに問う。

「あぁん?」

「ジャック!!」

逆に聞き返すように声を上げながらも額に汗を浮かべギリギリの状態に見えるラカンに高畑は思わず加勢しようとする。

「来るな!そこでおとなしく最後まで見とけ!タカミチ!そしてぼーずに伝えろ!」

「くっ……」

― 千の顔を持つ英雄・帝国九七式破城槌型魔道鉄甲!!! ―

ラカンは千の顔を持つ英雄で、消滅した右腕動甲冑に代わる、自身の全身よりも巨大な攻城用と言えるような右腕を装備する。

「……あなたに似合わぬ無様な武器だ。なぜだ……?何故あなたはそんな顔で戦える?全てが無意味だと知らされながら……いや、あなたは既に知っていた。……10年前いや、20年前のあの日から。メガロメセンブリア上層部がひた隠しにするこの世界の秘密に。この世界の無慈悲な真実に。絶望に沈み神を呪うもおかしくはない真実だ。事実これまでに 僕が見てきた者は皆そうだった。真実を知り尚20年前……何故あなたはこの意味なき世界をそんな顔で飄飄と歩み続けられる?」

フェイトはラカンの右腕に現われた無骨でバランスが悪いとも言える装備に、失望の表情を浮かべながらも困惑が入り交じった状態でラカンに問う。

「ほ……なんだ。てめぇ、んなこともわかってなかったのかよ」

一瞬呆気に取られたような表情をラカンはするもニッと笑い言葉を続ける。

「真実?意味?そんなことは俺の生には何の関係もねぇのさ!」

「……ッ!ならば!その真実に焼かれて消え去るがいい!幻よ!!」

フェイトは再び無数の黒い杭を出現させラカンに向けて射出する。

「これはッ!」

―豪殺居合い拳!!―

その余波を喰らいかけそうな所を高畑は無音拳で相殺して回避する。

「ジャック!」

巨大な右腕を装備したままでありながらもラカンは驚異的な移動速度でフェイトに向かって苛烈な攻撃を仕掛ける。
そしてラカンはついに右腕の帝国九七式破城槌型魔道鉄甲でフェイトの身体を床に押えつけ潰しにかかる。

「ぐ……これも無意味だよ。ジャック・ラカン。結果はもう決まっている」

「けど、楽しかったろ?ハッもうちっと楽しめや。フェイト!!」

続けてラカンは帝国九七式破城槌型魔道鉄甲の仕掛けにある、カートリッジを起動し更に出力を増加させ床を割り始める。

「くっ……ジャック!!」

余波が収まった所で高畑がラカンの元に駆けつけるが、ラカンの身体はとうとう限界を迎えたのか、指先から消え始めた。

「……なるほど。限界って訳か……。確かにもう結果は決まってやがったな」

「ジャック……」

「タカミチ……ぼーず共の為におっさん世代の矜持として過去の拭き残しはサッパリ拭ってやりたかったが……どうも全部押しつけることになっちまいそうだ。これが俺の最後の言葉だ。よく聞けよ……奴と戦って分かったが……見ての通り奴らは世界の秘密に繋がる力を得たみてぇだ。お前やクルトならわかってんだろ?「俺」じゃ今の奴らにてんで敵わねぇって訳だ。どうも奴らは既にアスナを手に入れてるみてぇだ。俺ですら気付かなかったが今側にいるのはありゃ偽者だぜ。奴らにまんまと嵌められたって訳だな。でだ、奴らの力に本当の意味で真っ向から対抗しうるのはやっぱネギだけになりそうだ。ネギに伝えろ。奴らを止められるのはお前達だけだ!前を向いて進め。前を見て進み続けるヤツに世界は微笑む。頼んだぞ!……悪ぃ、もう時間がねぇ……後は……任せるぜ……」

そう畳み掛けるようにラカンは言葉を紡ぎ高畑に伝え、最後にニッと笑いながら、全身が花びらと化し、完全に消え去った。

「……ジャック……確かにその言葉、受け取りました。必ず……伝えますッ……」

高畑はラカンが消え去るのを見送りながら右手をきつく握り締めた。

「やれやれ……お姫様の事がバレてしまったか……。仕方ないね……」

「な……無傷だと……。その鍵の効果か!」

床に埋まるような形だった筈のフェイトは何事も無かったかのように造物主の掟を持ってそう話しだす。

「高畑・T・タカミチ、あなたでは僕には敵わない。それでもあなたの相手をしても構わないけれど……僕も用事があるからね。これで失礼するよ」

―転移門―

「フェイト・アーウェルンクスッ!」

―豪殺居合い拳!!―

高畑はフェイトが水の転移門で去る所に渾身の居合い拳を放つが……遅かった。

「……くっ……こうしてはいられない……か」

それでもラカンが目の前で消えたという現実を受け止め、重要な事実を得た高畑は廊下の召喚魔を粉砕しながらも急いで下の舞踏会の会場に向かったのだった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月7日、21時頃、オスティア総督府舞踏会会場大広間―

今の状況を一言で表すと、超イタチごっこ状態。
さっき爆音がしたと思って皆窓の外を注目して見てみたら巨大なバケモンが窓の外からこっち向かって来てんのがわかってパニックになった。
そんで近くでやっとご飯にありつけてた小太郎君が突然消えた後すぐ、出口の近くにいたお客さんが逃げようと廊下に出ようとしたら、突然床やら天井やらあちこちから小型やら中型の気味悪いガイコツやら鬼やら丸っこいのとか棒みたいのに羽生えてる奴とかが一斉に出現して逃げ場なし超ピンチー!って思ったら、コレだよ。

    ― 千の影槍!!! ―百の影槍!!!―斬魔剣!!―斬鉄閃!!―神珍鉄自在棍!!―16分身!!―異空弾倉!!―装剣!!―03式対魔特殊光線!!―

……あーここの戦力マジ忘れてた。

「動くなよ春日!」

「へぁ!?」

っちょ!
足元にも出てくるんスか!
たつみースナイプやべーやべー。
動いたら逆に死ねるって。
っておーい!!機関銃かい!
何物騒なモン出してんスか!
てか何、魔法の谷間か?谷間なのか?
頭上からはカゲタロウさんと高音さんの影槍がザクザク降ってくるグッドマン家無双始まってる!
桜咲さんと葛葉先生は剣圧を飛ばすわ、くーちゃんも棍棒伸ばしたり縮めたり、ゆえ吉達もアリアドネーの装備つけて応戦し出すわ、茶々丸は何か完全科学っぽいレーザーとか……なんてカオス!!
ココネは私にしっかりしがみついてるからいいけど……この状態じゃアデアットしても走るのマジ怖いスよ!
私もだけどお客さん達も皆もう伏せまくってるし。
まーそこん所を楓は16人に増えて、お客さんを誰彼構わず抱えて主にカゲタロウさんの付近に集めてるから待つだけっちゃ待つだけなんだけどさ。
にしても倒した傍から無限沸きってどうなんだ!?
千日手過ぎるわ!

   ―メイプル・ネイプル・アラモード―       ―フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ―        ―フォル・ティス・ラ・ティウス・リリス・リリオス―
―ものみな 焼き尽くす 浄化の炎―    ―闇夜切り裂く一条の光―      ―炎の精霊39柱!! 集い来たりて 敵を射て―
 ―破壊の王にして 再生の徴よ―    ―我が手に宿りて 敵を喰らえ―       ―魔法の射手・連弾・火の39矢!!―
 ―我が手に宿りて 敵を喰らえ―          ―白き雷!!―
       ―紅き焔!!―

最初はてろてろテロですかー?ってオロオロしてた愛衣ちゃんも参戦、ゆえ吉も容赦ないわ、アーニャちゃんも何か逞しいな!

―アネット・ティ・ネット・ガーネット―      ―タロット・キャロット・シャルロット―         ―ミンティル・ミンティス・フリージア―
   ―黒き飛礫!!―       ―魔法の射手・連弾・氷の37矢!!―    ―魔法の射手・連弾・氷の35矢!!―

「また掻き消された!?」    「何故ビーとユエさんの魔法は効くのですか!」

コレットさんとエミリィさんの魔法は何でか効かない現象っていうか。

―対召喚魔用徹甲魔弾一斉発射!!―

「バカな!どうして効かない!」

「警備の者は守りに専念していろッ!」― 千の影槍!!! ―

メガロメセンブリア警備兵のごつい鎧着込んだ人達が、楓が集めたお客さんを守るように並んで壁作って構えた魔法剣から撃った攻撃すらも効かないからなんていうか……どうなってんの?
つかカゲタロウさんこれはマジで絶賛マギステル・マギだわ。
ドネットさんはそれに従って障壁張ってこのか達と待機モード入ってる。
んで、そのすぐ近くでテオドラ皇女殿下は念話が通じないってユリアさんとボヤいてる。
てかそういやアスナとのどかがいないと思ったら、アイシャさんとリンさん含むクレイグさん達4人が護衛って事で一緒にお手洗いに行ってた筈何スけど……。
まー、クレイグさん達もここの柔い魔物なら余裕っぽいだろうし、アスナは何気超強いから余裕か?
あ、でも狙われてるって話だからマズイ気が……。

「春日殿、ココネ殿!」

「おっ楓頼む!」

楓にこうして抱えられるとかぶっちゃけ初めてなんだけど、ちょっと同じ年齢だとは思えんスわ。
つーかこれいつまで続くんだー……。

「ベアトリクス!」  「ユエさん!」

―アリアドネー97式分隊対魔結界!!―

お客さん所に私とココネも混じったらすぐ、ゆえ吉達の結界の重ね掛け来た。

「一体アレは何なのです!?」

「私のアーティファクトで今調べてみるです。……ふむ……アレは召喚された魔族ではないようです。闇の魔素を編んで造った言わば魔物の影。影使いと人形使いの中間のような非常に珍しい魔術です。しかもこれほどの量を一人で操っているとしたら……凄まじい使い手です」

ゆえ吉のアーティファクトって情報系だったのか……。
相変わらずネギ君との仮契約で出るモノは突込みどころしかないなー。

「それに窓の外のあの巨大召喚魔は20年前の大戦で使われたという情報もあるです」

「20年前……ということはやはり完全なる世界ッ!?」

「そんな半端な影など恐るるに足りませんわ!」―百の影槍!!―

高音さん何か叔父さんと共闘できてテンション上がってるだろ……。
まあいいけどさ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月7日、21時頃、オスティア総督府回廊―

お手洗いを済ませ長い廊下を歩いて舞踏会会場に戻ろうとしていたアスナ達6人であったが、こちらも召喚魔に囲まれて足を止められていた。

「なんなんだよコイツらは!」

「わかんないけど、さっきの揺れからするとテロだよ!」

「のどか、アスナ、離れちゃだめよ」

「はい!アイシャさん!」

「……もう、私も戦います!それにこういうのには滅法強いんで!アデアット!」

そう言いながらアスナはエンシス・エクソルキザンスをアデアットし行く手を阻む召喚魔一体にその大剣で斬りかかる。

「おい、嬢ちゃん!」

「ハァァッ!」

鬼のような召喚魔の頭部に思いっきり振り下ろしたアスナだったが、予想とは違う結果に本人も驚いた。

「え?効かない!?」

「呆けるな、嬢ちゃん!オラァッ!」

クレイグはアスナが斬りかかった鬼が、アスナに腕で攻撃を仕掛けようとするのを瞬動で接近してロングソードで防ぐ。

「何故か効かないけど、それでもっ!」―紅き焔!!―

アイシャは無詠唱で紅き焔を放ち召喚魔に当てるが……その魔法は虚しくも、また掻き消えてしまった。

「またっ!」

そして防戦に専念せざるを得なくなりながらも、一行は召喚魔に囲まれながら地道に大広間へと向かおうと進み始めたが、突如周囲の召喚魔が失せた。

「何だ?」

「誰かいるわよ!」

召喚魔の代わりとして現われたのは黒いローブに仮面を被った巨躯の人物だった。

「カグラザカアスナ……」

「てめぇ何者だ?嬢ちゃん達には指一本触れさせねぇぞ!」

「あいつがこの術師なんじゃないの!?」

「…………うるさい木偶共だ。……消しておこう」

「んだてめぇ?頭イカれてんのか」

会話は成立せず、クレイグとクリスティンとリンが前衛に出てそれぞれ構える。

―灰は灰に 塵は塵に 夢は夢に 幻は幻に―
   ―全ての者に永遠の安らぎを―
       ―リライト―

しかしそれより先にローブの人物が造物主の掟を大仰に構え、呪文を唱えた。
そして造物主の掟が静かに音を立てた瞬間、前衛に出た3人の身体が中心から花弁が散るように形を失ってあっという間に消滅する。

「え?」 「そん……な?」 「クレイグ!?」

「人形は人形師に逆らえない」

「あ……あっ……クレイグ……さんっ」

宮崎のどかは目の前の光景に唖然として声は出るが身体が動かない。

―紅き焔!!―

「何してるの!早く逃げるのよ!のどか、アスナ!」

アイシャはローブの人物の顔面に咄嗟に紅き焔を放ち、宮崎のどかとアスナを後ろに押し出して逃げるように促す。

―リライト―

……しかし、ローブの人物は紅き焔を何事も無く無視して、煙から手を伸ばしてリライトをアイシャに放ち、同じように身体の中心から分解するように消滅させる。

「アイシャさん!?」

「この……よ……よくも……ッ!!」

続け様にクレイグ達4人が消滅させられたことにアスナは怒り、ローブの人物に斬りかかる……が。

「フェイトから連絡があった。お前の役目はもうここで終わりだ。栞」

―リライト―

「……そん……な……」

アスナではなく栞、とローブの人物はそう呼び、躊躇すること無くリライトを発動させた。
ローブの人物の魔法が自分には効くはずがないと思い込んでいたアスナは目を見開いて呟く。

「後から皆もすぐに追いつく、案ずることはない」

「フェイ……ト……様」

消滅するその瞬間、アスナの幻術が解け、栞としての本来の姿を表す。
生気の抜けた表情を浮かべながら栞は最後の言葉を呟くも、間もなく全身がリライトの効果を受け花弁のように散った。
そして音を立てて床に落ちて残ったのはアスナの持っていた端末と白き翼のバッジだけだった。
そこには宮崎のどか……ただ1人だけが残る。

「クレイグ……さん……リンさん……クリスティンさん……アイシャさん……あ……あ……アスナ……さん……?」

目の前であっという間に起きた現象に宮崎のどかは腰が砕け、その場に力なくへたり込み、目からは涙がとめどなく溢れる。

「小娘は……確かミヤザキノドカ……。お前も送ってやろう。先に消えた彼らと同じ。永遠の園へと移り住むだけだ」

「どう……して……どう……して……」

「……しかも彼らと違い人間であるお前は肉体も残し逝く。安心して身を委ねるが良い。彼らとも愛する者ともいずれあちらで会えよう」

しばしの沈黙の後、ローブの人物の巨大な右手が迫り、宮崎のどかもそのままリライトを受けようかという時。

―アデアット―

「何?」

挫けるどころか、その目には明らかに生への渇望に溢れる輝きを宿し、宮崎のどかは再び立ち上がり始める。

「…………小娘と思い……油断しましたね。魔術師さん」

宮崎のどかは右手の人差し指につけた鬼神の童謡をローブの人物にスッと向けながら次の言葉を発する。

    ―我汝の真名を問う!!―

「ほう……」

虚空に自動で鬼神の童謡がローブの人物の真名を書き出す。

「デュナ……ミス……」

その現れた文字を宮崎のどかは緊張して冷や汗を書きながらも読み上げる。

「名前が分かった所で…………いや、まさかっ!」

―黒き牢球!!―

デュナミスは複数の黒い剣を宮崎のどかの周囲に突き刺し、それを更に爆発させることで無力化を図る。

「ふ……」

しかし、その一瞬の隙を突き宮崎のどかは魔力で身体強化を施し、見た目には似合わない速度で床を滑るようにデュナミスの背後に回りこんでいた。
その際、なんとデュナミスの造物主の掟までも奪取し、続けて宮崎のどかは言葉を紡ぐ。

「白き翼の一員にして冒険者・宮崎のどか。反撃をさせて頂きます。質問ですデュナミスさん、この杖の使い方と仕組みを教えてください」

「何っ!?」

瞬時に理解したかのように宮崎のどかは目を瞑りながら造物主の掟を左手に取り、それを用いようと試みる。

「小娘……!!」

デュナミスは巨大召喚魔の腕と触手を部分的にその場に召喚し宮崎のどかに攻撃を仕掛ける。
しかし、それらの攻撃は宮崎のどかが持つ造物主の掟によって防がれ、それでも続け様にデュナミスは影で造り上げた巨大な剣を振り下ろす。

「キャァァッ!」

防げると言ってもやはり衝撃は強く、宮崎のどかが持ちこたえるのは辛かった。

―豪殺居合い拳!!!―

と、そこへ突然強烈な拳圧がデュナミスの頭部に直撃する。

「ぬうっ!」

「のどか君ッ!」

そこへ駆けつけたのは先程ラカンの消滅を見届けたばかりの高畑であった。

「た、高畑先生!」

「……おのれ……貴様はっ……Death.MEGANE!!……タカミチィーッ!!!積年の恨み!許さぬ、許さぬぞォォ!!うおおおおっ!!」

デュナミスは高畑を認識した瞬間激昂し、着ていたローブを粉砕し、第二形態へと変化する。
その姿は肩口から2本の巨大な腕と鋭い爪を有し、頭部の仮面と一部尖った棘だけが白く、それ以外は完全に黒色で統一された高位の魔族のような姿であった。

「完全なる世界かッ!!のどか君、下がっていなさい!!」

見た目をガラリと変えたデュナミスは背中から影を大量に高畑に向かって飛ばす。

   ―七条大槍無音拳!!!―

高畑は、キュン、という音と共に、豪殺居合い拳を超える威力を持つ7本の光線のような無音拳を放ち、迫り来る影を吹き飛ばし、余波で周りの廊下の壁には巨大な穴が開く。

「拳で語るッ!」

煙から再び姿を現したデュナミスは両の掌を一旦ピッタリ合わせる構えを取る。

「受けよタカミチ!秒間2千撃、巨龍を葬る重拳の連突!!芥子粒も残さぬ!!!」

「マズいッ!」

   ― 千条閃鏃無音拳!!!! ―

デュナミスの超高速直接打撃を、高畑は咄嗟に千にも及ぶ多数の拳圧を完全に正面にのみ放ち応戦するが、間合いも悪い上、打撃そのものの数と速度が違った。

「―――――!!」

耐え切れずに高畑は、後ろに下がっていた宮崎のどかの更に後ろに声を上げる事もできずに吹き飛び、無造作に床にうつ伏せに崩れ落ちる。
身体の前面は直視すれば酷い打撲傷であり、咸卦法と無詠唱による戦いの旋律による身体強化がなければ、無音拳で相殺していなければ、即死していた。

「高畑先生ーッ!!こ、この状況からの離脱方法があるとしたらそれはっ!?」

「何ッ!?」

―リロケート 宮崎のどか!! 高畑・T・タカミチ!!―

過去の個人的な恨みで高畑に激昂して宮崎のどかを忘れていたデュナミスはリロケートの魔法を読み取られ、宮崎のどかと倒れた高畑に逃げられる。

「……おのれ……小娘ーッ!!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月7日、21時頃、オスティア総督府舞踏会会場大広間―

依然として無限に沸き続ける召喚魔を大広間で殲滅しながら客を一箇所に集めて防衛していた面々の元に、空間に発生した亀裂からガラスが割れるような音と共に、造物主の掟を持った宮崎のどかと高畑が出現する。

     「何事だっ!?」  「何だ?」   「この音は一体!?」

「のどかっ!?」  「高はた……先生ーッ!?」   「のどかさん!」

   「何じゃっ!」  「キャァァッ!」  「血がーッ!!」

「高畑先生!」  「高畑殿ッ!!」  「高畑先生ッ!!」  「タカミチ!」

高畑の惨状を目にした者は叫び声を上げる。

「こ、このかっ!高畑先生を……お願い、治して!!!」

宮崎のどかは近衛木乃香を直視してそう心の叫びを伝える。

「あ……の……のどか。わ……分かったえ!!アデアット!」

近衛木乃香は衣を纏って高畑の元に急ぎすぐ様呪文を唱え始める。

  ―氣吹戸大祓 高天原爾神留坐 神漏伎神漏彌命以 皇神等前爾白久―
―苦患吾友乎 護惠比幸給閉止 藤原朝臣近衛木乃香能 生魂乎宇豆乃幣帛爾―
               ―備奉事乎諸聞食―

「うぐぁぁぁぁっ!!!」

先ほどデュナミスから受けた打撲傷が元々無かった、という状態に回帰するかのような反動により高畑は呻き声を上げる。
……それでも、高畑の傷は無事完全に治った。

「高畑先生……よ……良かった……」

「こ……このか君……済まないね。のどか君も……助かったよ」

そこへ丁度、宮崎のどかの後ろの空間に黒い渦が発生し、そこから巨大な腕が伸び、宮崎のどかの身体全体を造物主の掟ごと締め付け始めた。

「わぁぁぁ!!!」

「ククク……読心術の小娘よ。先ほどの手並みは見事だ。賞賛に値する。仲間の消滅が才能を引き出したか。いずれにせよ貴様のアーティファクトと、その使い手たる貴様にはここで消えてもらう他無い」

腕だけではなく、デュナミスの巨大な身体全体がその姿を大広間に現し、宮崎のどかを絞めつけたまま、その胸に隠して展開されていたアーティファクトを抜き去り焼却する。

   「キャーッ!」   「バケモノよっ!!」   「魔物っ!?」

 「のどかーッ!」       「いやーッ!!」    「のどか!」

   「のどかさん!」   「怖いよー!」    「のどか君ッ!」

「動くな貴様らァッ!我々は人間を殺めることは禁じられているが……この小娘の魂を永遠の園へと連れ去ることはできる。完全なる世界へと」

「くっ……」

デュナミスを取り囲むように高畑、葛葉、長瀬楓、桜咲刹那、龍宮真名、古菲、風太郎・D・グッドマンが構えを取ったまま停止する。

《ネギ君、のどかをそっちに召喚して!》

端末で全体通信が行われた事を露も知らないデュナミスは、高畑達としばし睨み合うも、宮崎のどかがデュナミスの腕の中から消え去った。

「なっ、仮契約カードか!おのれ!」

「今だッ!」

―斬魔剣弐の太刀!!!― ―豪殺居合い拳!!!― ―斬魔剣弐の太刀!!!― ―対魔術弾丸!!!―

「ぐぬぉぉっ!!分が悪いかッ」

デュナミスの巨大な両腕は一刀両断され床に落ち、高畑の無音拳と龍宮真名の魔術弾丸が胴体に飛ぶ。

―リロケート―

デュナミスは切り飛ばされた腕を分離させたままロケットパンチの要領で飛ばして反撃する事もできたが障壁を突破する斬魔剣弐の太刀の2撃目が迫る事を察知しその場から転移したのだった。

「去ったか……」

「まだ召喚魔は終っていない」― 千の影槍!!! ―

新たに沸き出していた召喚魔をカゲタロウが千の影槍で串刺しにして一掃する。

「春日美空、今の機転はなかなかのものでした」

「いやー、それほどでも」

一箇所に固まっていた客達の中に混じっていた春日美空は端末を咄嗟にいじり、ネギが巨大召喚魔と空戦中を行っていながらも、宮崎のどかを召喚するように伝えたのだった。
デュナミスが去り、落ち着いたかのように思われた大広間であったが、そこへ新たな刺客が現れた。

     ―リライト―    ―リライト―    ―リライト―

……仕返しと言わんばかりにデュナミスは、造物主の掟、リライト専用型汎用マスターキーを搭載させた召喚魔を複数同時に送り込んだのである。
丁度死角となる大広間の端から、召喚魔の頭部と腕部分だけが出現すると同時にリライトが薙ぎ払う様に振るわれ、固まっていた客の外側を固めていたメガロメセンブリア重装兵団員達が花弁となって消え去る。

「しまったッ!」

「小賢しいッ」―百の影槍!!―

直ぐ様カゲタロウがリライトを放った召喚魔達を串刺しにする。

「何ですか今の攻撃はっ!?」

「楓君!アーティファクトを!」

「承知したでござる!アデアット!全員は入りきらないとて、最初から使っておけば!」

  ―天狗之隠蓑!!―

長瀬楓は両目を見開き即座に天狗之隠蓑を広げ、固まっている客達に被せ、その中に隠す。
一度では一部の人数しか入りきらないが、中心にいた人物達は被った段階で和室の中に入った。

「皆、その布の中に入るでござる!」

長瀬楓のその言葉を皮切りに、客達は悲鳴を上げながら先を焦るようにして布の中に入り出したのだった。
一軒平屋分しか広さが無いためいずれにせよ全員が入ることは不可能であったが、これ以外に確実にリライトを避ける方法は無かった。

「こ、コレットと委員長も入るです!」

「何を言っているのですか、ユエさん!」

「そ、そうだよユエ!」

「先の攻撃は間違いなく魔法世界人、あの召喚魔達に魔法が通じない者に致命的な効果があると思われるですよ!」

「な!」    「そんな!」

「……その通りだ夕映君。召喚魔に魔法が通じない人達はできるだけ中に入るんだ!あらかた準備が出来次第総督府から離脱を始める!」

高畑がそう宣言し、長瀬楓のアーティファクトの中にできるだけ客を詰め込んだ上で、廊下にまで蔓延る召喚魔を排しながらの総督府からの撤退戦が始まったのだった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月7日、21時頃、オスティア総督府付近雲海―

ハァ……ハァ……まだ動いてるけど、あちこち部位を破壊した巨大召喚魔と戦闘中に春日さんから通信があった。

《ネギ君、のどかをそっちに召喚して!》

どういう状況か分からなかったけどすぐに一旦巨大召喚魔から離れて召喚を行った。

―召喚!! 宮崎のどか!!―

「のどかさん!」

「けほっ……あ……ね……ネギせんせーっ!!」

いきなり涙を目に浮かべてのどかさんが泣きながら飛びついてきた……。

「の、のどかさん、一体何があったんですか?」

「状況がわからんで、あっちで何かあったんか?」

「うっ……うっ……あの……完全なる世界の幹部と思われる人物に襲われて」

「まさかこの召喚の術者か?」

「た……多分そうだと思います」

「そうですか……ならやっぱりこの巨大召喚魔を倒しても……」

だからと言ってこのまま放置することもできないけど……。

「やあ、ネギ君、小太郎君、こんばんは」

「なっ!?フェイト・アーウェルンクスッ!!」

いきなりここで現れるのかっ!?
何か杖……鍵みたいなものを持っているけど……。

「ここで出てくるんかフェイトッ!!」

ど……どうする!

「悪いけど、そのミヤザキノドカにはここで退場してもらうよ」

「何だって?」  「何やと?」

アスナさんじゃなくてのどかさんが狙い!?
まさか読心でのどかさんが知ってはいけない何かを掴んだのか!

「コタローッ!!」

「任せろやッ!!」

今ここで、太陽道で、フェイトを倒すしかない!
のどかさんはコタローに任せてここから退避してもらうッ!!



[21907] 57話 造物主の掟(魔法世界編17)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 20:17
―10月7日、21時頃、オスティア総督府付近雲海―

ネギと小太郎、それに加え召喚によって現れた宮崎のどかの3人が、ボロボロになって尚動く巨大召喚魔から距離を取っていたところ、更にフェイト・アーウェルンクスが現れたのだった。
フェイトが宮崎のどかには退場してもらうという発言をしてすぐに、ネギは小太郎に宮崎のどかを預け退避をさせる形で動いた。
すぐに小太郎は咸卦法で加速した状態で宮崎のどかを抱えフェイトを尻目に戦線から離脱した。

「……まさか彼女が読心に関するアーティファクトを所持しているとは驚いたよ」

「追う……つもりはないのか?」

ネギとフェイトは空中で対峙し、ネギはフェイトが小太郎を追わないことに疑問を呈する。

「探知魔法には抜かりはないからね。それよりネギ君がそうはさせてくれないだろう?」

「その通りだ。フェイト・アーウェルンクス、ここでお前を倒す」

「……フ……是非やってみるといいよ」

そう会話している間にも、依然として動きを止めない巨大召喚魔は触手を伸ばしてあちこちの戦艦を破壊しにかかっているのには変わり無く、ネギは時間をあまりかけていられなかった。
不敵な表情を見せ、造物主の掟を持つフェイトに違和感を覚えながらもネギは行動に出た。

「……行くぞッ!!」

        ―森羅万象・太陽道!!!―

ネギは瞬間、太陽道を発動し、人体組成を純粋魔力に変換する事で一定範囲内の空間に広がる魔力、世界に同化し、数十秒間という僅かの間だけ無限の魔力と極限に振り切れた出力を得る。
ネギは昨日無意識に発動したのとは異なり、普通に発動したため、異常な魔力の渦が発生することは無く一見安定した状態で太陽道に移行した。

        ―空間掌握・万象転移!!―

ネギは即時転移を行いフェイトの背後に移動する。

        ―双腕統合・終末之剣!!!―

出現と同時に両腕を合わせて、一本の終末之剣となるように変化させ、フェイトの胸部に突き刺し、左に振り抜く。
今までは確実に障壁に防ぎ切られていたが、盛大に障壁は割れ、安々とそれを無視する程の威力を呈した。

《通った!》

「なるほど、恐ろしい移動速度と威力だ」

《なっ!?効いてない!?》

明らかに急所を潰し、それだけでなく左肺まで切り裂いた形になり、もう終わったかと思ったネギであったが、振り返りながら何事も無いかのように言葉を発するフェイトに驚愕する。
しかしそれに構わずネギはフェイトの右腕を終末之剣で切り飛ばす。

           ―リロケート―
            ―リロード―

フェイトは損傷に構わず造物主の掟を使用してネギの即時転移と同じ事をリロケートで行い一旦退避、そればかりかリロードで受けた傷も完全修復し、斬りとんだ右腕はその瞬間、元通りになる。

《まさかその鍵の力かッ!ならッ!》

        ―空間掌握・万象転移!!―
          ―終末之剣!!!―

再びネギは即時転移を行い今度はフェイトの左手辺りに滞空する造物主の掟を狙って終末之剣を振るい、フェイトの左腕ごと火星儀の部分で一刀両断する。

《これでその力も終わりッ!》

           ―リロケート―
            ―リロード―

《破壊しても効果が無いッ!?》

確かに造物主の掟は破壊し、フェイトの左腕も切り飛ばしたが、リロケートは使用可能で、その際造物主の掟は何事も無く再生し、そればかりかリロードも問題なく行われてしまった。

「今度はこちらからだよ」

     ―灰は灰に 塵は塵に 夢は夢に 幻は幻に―
        ―全ての者に永遠の安らぎを―
            ―リライト―

フェイトは驚いているネギに対してリライトを躊躇なく放つ。

《その呪文はっ!?》

ネギはリライトが直撃して胴体が花弁のように分解されながらも寧ろフェイトのリライトの際の詠唱に驚いた。

「その状態なら効くだろうとは思ったけど……送れはしないのか。凄い力だね」

《まずッ!》   ―空間掌握・万象転移!!―

しかしネギは魔力体に受けたリライトによる分解の進行状況に焦り、残りの部分を自己分解と即時転移を行い一旦離れる。

            ―再構築!!!―

《これはッ!?》

ネギは自己分解した部分の再構築は成功したが腹部のリライトを受けた箇所の再構築が行われないことに更に驚く。

「へえ、何だ、戻れないんだ」

フェイトはやや興味を失ったかのように目を少しばかり細める。

《くっ!》―灰は元に 塵は元に 夢は現に 幻は現に―
            ―再構築!!!―

ネギは認識不可能な速度でリライトを反転する詠唱を行った。
すると再びネギの消滅していた腹部は再構築を果たし元に戻る。

《……そういう事か。その鍵の力とほぼ同じで少しだけ違う……》

「……やっぱり干渉できたんだね。今ので送られること無くそんな簡単に抗うなんて本当に驚きだよ。そうこなくては。なら……」

フェイトは再び僅かに興味を取り戻したような表情を見せる。

《試すだけだッ!》

       ―リライト―      ―空間掌握・万象転移!!―

フェイトが目を見開きリライトを放つのを粒子加速状態の擬似時間停止に似た能力で寸前に察知すればネギは即時転移で回避しつつフェイトの死角に飛ぶ。

                    ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
                 ―破壊の王 高殿の王 我と共に 力を―
             ―来れ終末の輝き 薄明の光芒 満ちれ エアロゾルよ―
                 ―来れ巨神を滅ぼす 燃ゆる立つ雷霆―
                    ―集え 全ては 我が手に―
ネギは終末之剣で再びフェイトを刺すのではなく、収束大呪文の高速2重並行詠唱という太陽道でなければほぼ不可能な事を実行しだす。
             ―降臨し 全ての命ある者に 等しき死を 其は安らぎ也―
                  ―百重千重と 重なりて 走れよ稲妻―
                     ―然して 死を記憶せよ―
                        ―天の雷!!!―

ネギの両手の前にみるみるうちに収束した大呪文が融合し千の雷を纏う極大の光球が完成し、即座に照射される。

           ―リロケート―

極光に巻き込まれる寸前にフェイトは射線軸上から避けるように転移を行う。

《逃がすかッ!》 ―空間掌握・万象転移!!―

しかし、ネギは照射を続けている状態で即時転移を行い、再びフェイトを射線軸上に捉え、極光を放ち続ける。

           ―リロケート―

尚もフェイトは避けるが次のネギの行動は少し異なった。

          ―空間掌握・万象転移!!―

《先に召喚魔を消すッ!》

避けたフェイトを無視して、総督府に近づいていた巨大召喚魔の完全に真上90度の地点に転移し撃滅する。
既に遠距離からクルト・ゲーデル総督率いるオスティア艦隊も精霊砲ではなく、降魔魚雷に切り替えて主に触手群に対して援護射撃を行っていたが、これは決定的であった。
巨大召喚魔が真上から極光に貫かれ、中心から裂けては焼け爛れてあっという間に形を失う光景が広がり、それを見た人々は、天からの神罰でも下ったのかと見紛うほどであった。
しかし、この時点でネギは太陽道を発動してから40秒が経過、フェイトの造物主の掟の効果を見極めるためと会話で時間を消費しすぎ、限界時間が残り僅かであった。

            ―リライト―

「頭部に当てたら……どうなるかな」

ネギが天の雷の照射を終了し、巨大召喚魔を完全に撃滅し終えた隙にフェイトはリライトでネギの頭部を狙い撃った。
ネギの首から下が残り、首の部分からリライトの侵蝕が徐々に始まり残りも消滅し出したが、太陽道の特性に対しては効果は無かった。
それを理解した上でネギも直撃を受けてまで巨大召喚魔の排除を優先したのだが。

        ―空間掌握・万象転移!!―
     ―灰は元に 塵は元に 夢は現に 幻は現に―
            ―再構築!!!―

掌握した空間の範囲内に自身を同化させることで、魂と肉体の情報をその空間にバックアップとして記録しているため、頭部だろうと心臓部だろうと、再読込という形で再生ができる。
まさに、ネギはそこにいながらにしてそこにいない。
太陽道解除時に魔力体が完全な形で形成されるという要件さえ満たされれば問題ないのである。
ただ、確かに無敵状態ではあるが最大の敵は自分自身であり、空間から情報を再読込できずに逆に空間に引き込まれればそのまま即消滅、空間に溶けてしまうリスクは常に付き纏う。

「本当に効かないんだね……」

        ―空間掌握・万象転移!!―
          ―終末之剣!!!―

《貰ったッ!》

そうフェイトが呟いた瞬間にネギは限界時間数秒の状態であったが、フェイトの傍に現れ、再びその左腕を切り裂き、造物主の掟までも奪って高速でその場から離脱しだす。

《これは分解できなッ》

「無駄だよ」

          ―造物主の掟!!―

ネギが手元に奪った筈の造物主の掟は、瞬間フェイトの手元に戻った。

《やはりそれはッ!》

視界拡張の効果のお陰で振り返る事無くそれにネギは気づく。

           ―リライト―

しかし、フェイトはお返しとばかりにその隙を突いてネギの左腕をリライトで消滅させる。

           ―リロード―

そして切れた左腕も元に戻る。

     ―灰は元に 塵は元に 夢は現に 幻は現に―
《限界ッ――!!》 ―太陽道・解除―

「そん……な……だめ……だ……」

再構築する余裕なく太陽道の限界時間が訪れ、止む無く解除せざるを得なかった。
解除しなければネギそのものの存在が消滅しかねない。
そしてネギは左腕を失い、リライトの侵蝕そのものは反転して抑えたが、そのまま身体が一切動かなくなり雲海の底に落下していった……。
それを見送るようにフェイトはどことなく寂しげな表情を浮かべながら呟く。

「残念だったね……ネギ君。リロケートでも一度発動させたなら……最後の鍵なら別だけどこれは僕の造物主の掟だ。……しかし……これだけ負荷をかけたから……あの消耗なら次で終わりかな……。まあ……努力に免じて読心術師の掴んだ情報ぐらいは渡してあげるよ。……戦艦も落とした、木偶も送った……少なくともこれで混乱は免れない……。大規模反転封印術式はやらせない……」

         ―リロケート―

……そして雲海上空からフェイトは消え去った。

一方この僅か数十秒の間、全力で宮崎のどかを抱えて戦線から離脱した小太郎は、途中高密度分身に宮崎のどかを任せ、再びネギの元に加勢に戻ろうとしていたが、ネギからの契約執行が切れるどころか、ネギが一切動けなくなったのを感知した。
小太郎は急いで自身で咸卦法を行い、全速力で視界の悪い雲海に飛び込み、ネギが落下していく地点に向かっていった。

「ネギ――ッ!!!」

分厚い雲海を弾丸のように突き抜け、地に落ちていくネギの姿を視認した小太郎は声を上げて重力に従うだけでなく更に加速する。

「届けぇぇぇ――ッ!!!」

地上の霧に包まれている地帯に突入するかという所で小太郎がグンと手を伸ばしネギの右腕を掴む。
そのまま加速度がついている関係で尚も落ちるが、地上に激突する寸前で停止する事に成功した。

「ハァッ……ハァッ……間に合ったで……」

「コタ……ロー……ごめん、倒せなかった……」

「……何謝ってるんや。そんなのもうどうでもええ……。それよか……その……左腕はどうしたんや……」

小太郎は柄にも無く目に涙を浮かべ、あえて聞くがほぼ分かっていた。

「……溶けたよ……」

ネギは生気の抜けた虚ろな表情で答える。

「……このっ……馬鹿ネギがっ……」

「ごめん……」

「もう、しゃべらんでええ……。今は休めや……」

「……う……ん……」

……そしてネギは粒子化転移、リライト反転と再構築の連用で酷く消耗していた為、限界時間ほぼ丁度に太陽道を解除したにも関わらず再び眠りについた。

「フェイトッ……アーウェルンクスッ……」

ネギが目を閉じるのを見届けた小太郎は上空を見やりながらフェイトの名を噛み締めるような声で虚空に向けて呟いた。


―10月7日、22時頃、オスティア総督府―

テオドラ第三皇女が足止めされた関係でインペリアルシップを率いて古龍龍樹が投入される前にネギが巨大召喚魔を撃滅し、フェイトが去った後、総督府のあちこちに現れた召喚魔も姿を消した。
本当に短時間であるが、完全なる世界による今回の電撃作戦で急襲を受けた事で、オスティアは甚大な損害を被った。
舞踏会会場で高畑達が護衛した魔法世界人の客達はリライトによる消滅を免れたが、その他の総督府施設の場所にいて防衛の手段を持たなかった魔法世界人達は造物主の掟簡易版を持った召喚魔達によって一掃され、その数を減らしに減らし、静寂と残った僅かな者達の混乱だけがその場に残っていた。
巨大召喚魔によって地上に落とされた戦艦の中にも本来いるべき人数より遥かに少ない人数しか残っておらず、戦艦の中でも召喚魔が現れリライトを放ったのは明白であった。
墓守り人の宮殿に攻めこむ準備を整える矢先に先制攻撃を受け、連合・帝国・アリアドネーは完全に体勢を崩される形になった。
情報連絡系統がズタズタになり、事態が収拾、正確な状態を把握できるまでに日付をまたぎ、朝日が昇るまで一夜を要した。
また朝方になって、廃都オスティア旧ゲートポートの方角では多量の魔力が集中し、発光現象が観測され始め、今まで地に落下していた浮遊岩が浮遊岩としての機能を取り戻し浮き始めていた。
高畑達はその間それらの収拾に追われ、ネギや宮崎のどかの問題はとりあえず後回しとなり、フェイトらの襲撃後小太郎が顔を伏せ、悔し気な表情を覗かせ、左腕を失ったネギを背におぶって戻ってきた時も、深い事情を聞くこともなく、まずはネギをホテルの魔法球の中で休ませる事が優先された。
宮崎のどかは、今になって精神的ショックが襲ってきたのか気を失ってしまいホテルの普通のベッドで休ませられ、他ネギ一行の中で精神的に疲れた者も多く、常に賑やかな筈のホテルの大部屋もこの時ばかりは沈黙に包まれた……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月8日、9時頃、新オスティアリゾートホテル―

目を覚ましたらアスナさんはいなくて、このかさんと刹那さんとアーニャが傍にいた。
起きて挨拶をしたら僕のもう無い左腕の辺りを凄く見られて気まずい空気になった。
それでもこのかさんが無理して笑うような表情で朝御飯を勧めてくれて食べたんだけど僕が聞く質問にはあまり答えてくれなくて、ただ5日間寝ていたというのは教えてもらった。
やっぱりフェイトのあの鍵みたいなもので受けた攻撃を反転するのでかなり消耗したんだと思う……。
再構築はできるからって倒すことを優先して魔法領域を展開しなかったのが悪かったかな……。
あの攻撃を魔法領域で防げるかどうかはわからないけど……。
食べ終わったら刹那さんに「とにかく魔法球から出てから話をしましょう」と言われてそれに従って静かに魔法球から皆で出た。
ホテルの大部屋には今まで無かった筈の会議用の机と人数分の席があってもう皆揃って座っていた。
僕が来たことに皆気づいていつもどおり挨拶したけど……アスナさんとラカンさん、それにクレイグさん達がいない……。
その代わりテオ様とセラス総長と総督にリカードさん、夕映さん達がいる。

「ネギ君、まずは席に座ってもらえるかな」

「ありがとう、タカミチ」

「ネギ君が来たからもう一度簡単に状況を説明するよ」

「うん。でもアスナさんやラカンさんにクレイグさん達は?別の部屋?」

…………え……何で皆何も答えてくれないんだろ……。
まさか……フェイトのあの攻撃……?

「ネギ君……落ち着いて聞いて欲しい。……ジャック、クレイグさん達、アスナ君は完全なる世界の有する鍵のようなもので消滅させられた」

「そ……そんな……。じゃあフェイトのあの攻撃は……。いや、アスナさんが消える筈は!?」

「いいかい。どうやらここ数日の間僕達の傍にいたアスナ君は偽者だったようだ。ジャックが僕の目の前で消える前にそう言っていたよ。のどか君から簡単に聞いた話でもそれは間違いない」

…………え?

「偽……者……?あんなアスナさんそのものだったのに……?」

魔法球で僕とコタローがラカンさんとカゲタロウさんと試合する為に修行する時に協力するって苦手な筈の料理も頑張って練習してくれていたあの……アスナさんが……?

「すり替えられたのはネギ君が恐らく記念式典初日にフェイト・アーウェルンクスに襲われた時だ。本物のアスナ君は既に墓守り人の宮殿に囚われていると見て間違いない」

「…………」

「ジャックからのネギ君達への伝言を言うよ」

「……伝言?」

「奴らを止められるのはお前達だけだ。前を向いて進め。前を見て進み続けるヤツに世界は微笑む。そう言っていた」

前を向いて進め……か。

「ラカンっ……さんっ……くっ……」

多分……あの時僕の前に現れたフェイトは既にラカンさんを消した後だったのか……。

   「ラカンさん……」    「ラカン殿……」   「ラカンさん……」

「馬鹿ジャックめ……」   「ラカンはん……」   「あの生ける伝説がな……」

「完全なる世界の手にしている魔法世界人に対して致命的な効果を持つ鍵のようなものについての説明はのどか君……もういいかな?」

「……はい、任せてください」

……のどかさん?
やっぱり完全なる世界の幹部から何か情報を掴んだのか……。
そんな危ない事をしたなんて…………マスターの言っていた通りだ……危険過ぎる……。
でも……そのお陰で重要な情報が……それにしてもフェイトは何故追撃しなかったんだろう……。

「昨日、完全なる世界の魔術師真名デュナミスの心を読み、彼らがこの世界の秘密に至る力を手に入れたことが判明しました。ここ数日の出来事です。名を造物主の掟。この世界の創造主の力を運用できる魔法具です」

「造物主の掟……」

「創造主……ですか……」

「クルト、その点は後回しだ。のどか君、続けてくれるかな」

創造主……という点についてはやはり総督が思うように疑問がある。

「はい。造物主の掟には大きく3つの種類があり、まず無数のマスターキー、戦闘用の簡易タイプです。簡易と言ってもこれを持つものに魔法世界人は敵いません。次により高度に創造主の力を模した7本のグランド・マスターキー。魔術師デュナミスや恐らくフェイトが持っていたものです。そして最後に1つのグレート・グランド・マスターキー」

「グレート・グランド・マスターキー!!?」  「それはッ!?」  「ここでそれが来るのか!」

ま……まさかここでグレート・グランド・マスターキーが出てくるなんて……。
だとすると本当に、マスターの知り合いの幽霊さん、神木の精霊さんは全部を知っているのか……?
それを僕に教えたっていうのは……。

「どうしたのじゃ3人揃って驚いてからに。何か知っとるのか?のうタカミチ」

「い……いえ……詳細については全く知りません。話の途中で遮って悪かったね、のどか君」

「え……えっと、はい。そのグレート・グランド・マスターキーから引き出せる力はこの世界の創造主と同等とされ、まさに世界の最後の鍵と言えます。この力を用いれば、この世界の最後の鍵を手に入れる事ができれば、恐らく消えてしまった人達を元に戻せるはずなのです」

   「おおっ!」  「それだけの情報をよく!」  「戻せるんか!」

「スゲー」  「のどか凄いえ!」   「尋問拷問いらず……」   「おおー」

龍宮さんが物騒な事を……。

「ありがとう、のどか君。重要な情報が手に入った。感謝するよ」

「いえ……そんな……」

「のどかさん、危険をおかしてまで……すいません、ありがとうございます」

「は……はい」

「ネギ君、ジャックはもう一つ言っていたんだ。その造物主の掟の力に本当の意味で対抗しうるのはネギしかいないと、そうね。昨日のフェイトとの戦闘は……どうだったのか聞いてもいいかい。左腕の……事も」

対抗しうるのは僕だけ……か。

「もちろん、話すよ。……昨日僕はフェイトの持つ造物主の掟で太陽道発動中に3度消滅させられる魔法、リライトと一度だけ唱えているのが聞こえたけどそれの直撃を受けた」

「3度も……」  「驚いたな……」  「本当に対抗できるというの……」  「あの技か……」

「僕の私見だけど、リライトは情報を書き変える、書きなおして何も無い状態に戻す魔法だよ。一帯の空間に肉体と魂の情報をバックアップさせていなければ確かに一撃でも受ければそれで終わりだった。僕はリライトを反転させる事ができる。でも……僕は旧世界人だから通常の状態でリライトの直撃を受けた場合なら恐らく即座に致命的な効果は無いと思う」

ただ、ラカンさんでも無い限り、僕は太陽道の出力でなければ、フェイトの障壁を無視して攻撃を与える事ができないのも事実だ……。

「それで左腕は……3度目のリライトの直撃を受けて消された後再構築をする前に太陽道自体の限界時間が来て、あの魔法の侵食を反転させる事しかできなくて……世界、大気に引きこまれて溶けたんだ……。肩の所の血管については咄嗟に詰まらないように処理したよ」

「ネギ君……」   「ネギ坊主……」   「ネギ……」  「ネギ先生……」

「うちのアーティファクトやったらっ……」

「このかさん、恐らくこのかさんのアーティファクトでも治らないと思うので……気にしないで下さい。タカミチ、魔法世界には義手あるんだよね?ラカンさん……みたいに」

「ああ……そうだよ。馴染むのに時間はかかるが……」

「……義手はまだ……やめた方がええやろ……」

「…………」

コタローはやっぱりまた気づいてるか……。
あの時珍しく泣いていたのが見えたし……。

「ど、どういう事よ、コタロ!」

「コタロー、説明するのじゃ!」

「……ネギの消えた左腕は単純な左腕やない。魂と肉体、命そのもの。義手で補っても左腕に相当する分の寿命は……元に戻らんって事やっ……」

「そんなっ!」  「そういう事か……」  「ネギ坊主……」  「ネギ様……」  「そ、そうなのネギ!?」

「…………数年分。……でも僕は今ちゃんと生きてる。先の事を心配してもいつ何が起こるかわからないんだから考えても仕方ないよ、アーニャ」

麻帆良に戻ってマスターに相談すれば取り戻す事も可能性は低くてもできるかもしれないけど……どうかな……。

「もうっ!!ネギ君!!後でうちらお姉さん達からお話あるからな!!」

「こ、このかさん!?」

頬を膨らませてあのこのかさんが怒ってる……。

「そうです。ネギ先生、覚悟しておいて下さい」

「ネギ坊主、覚悟するでござるよ」

「ネギ坊主、観念するアル」

「皆さんまで……」

「失礼、お嬢さん方、申し訳ありませんが、ネギ君にはまだ聞きたい事がありますので。ネギ君、造物主の掟の魔法には消滅させるリライトというもの以外には他に能力は無かったのですか?」

「それは私が……」

「のどかさん、僕が先に。高速転移と、即死級の傷も無かった事にできる情報改変能力、造物主の掟自体は破壊しても修復する、というのは見てわかりました」

「即死級の傷が治る?」

「はい、というより、正しくはフェイトが少なくとも人間ではないという事です。心臓から左肺にかけて完全に切り裂きましたが何事も無いようでした」

あれには僕も流石に驚いた……。
完全に仕留めたと思ったら普通に言葉を発していたし……。

「そ……それは……」

「常人の手に余るな……」

「あの障壁やっぱ突破できたんか」

「あの、その高速転移の魔法はリロケートと言います。私も使ったので……」

「え!?のどかさん、造物主の掟使えるんですか?」

「は、はい……魔術師デュナミスから隙をついて造物主の掟を奪取して、心を読みその場から脱出する時に使いました」

あれ……?

「あの、そのデュナミスから取り返されはしなかったんですか?……僕がフェイトから奪った時にそのまま持って去ろうとしたら、すぐに僕の手元から消えてフェイトの手元に戻ったんですが……」

「それは所有権のようなものがあるらしいので……一度何らかの魔法を、所有権を持った人物以外が行使すればその所有権が破棄されるらしいです」

「そ、それは凄いですよ、のどかさん!」

「それは……重要ですね……」

「あの、再生する魔法については……?」

「ごめんなさい……全部が読み上げられる前に本を燃やされてしまったので……」

「そう……ですか……。でも奪取できる事がわかっただけでも希望はあります」

「そうだね。しかしグランド・マスターキーが7本あるとなると……フェイトやあのデュナミスといった水準の術者が残り5人近くいる可能性があるが……」

「非常に厄介ですね……」

「その……デュナミスと戦闘した時攻撃って効いたの?フェイトは、僕の魔法領域ではないけど、曼荼羅のような多重高密度魔法障壁を張っていてラカンさん並の出力でなければそれを突破する事はできないと思うんだけど……」

「ああ、その通りだよ。ネギ君。僕の無音拳は殆ど効果が無かった。葛葉先生と刹那君の剣は効いたけどね」

「やっぱり……。でも流石、弐の太刀は効くんだ」

「まだまだ完成には程遠いですが……」

「学園祭の一件で私も少々」

「ほう、お二人も弐の太刀が使えるのですか。確かに神鳴流ならば斬る物、魔の対象の選択は自由ですから障壁は無意味ですが」

「総督も神鳴流なんですか?」

「クルトは詠春さんの弟子だからね」

「そうだったんだ……」

「長が魔法世界で技を教えたというのはゲーデル総督だったのですか……」

「生粋の神鳴流の方にその事を知られるのは私も少々困るものがありますが……。大体情報が出揃った所で今後の予定を詰めて行きたいのですが……ネギ君は墓守り人の宮殿に向かうつもりに変わりはありませんか?」

「はい、それはもちろんです。アスナさんがそこにいる、グレート・グランド・マスターキーがそこにあるならば尚更行かない訳にはいきません。片腕でも……戦えます」

義手の時間が間に合うかはわからないけど、足技を主体に変える方法もある。

「強い信念をお持ちで助かります。お嬢さん方はそれを心良くは思っていないようですが……」

「む~、ネギ君」

このかさんまだ怒ってるな……。

「ネギ、俺も行くで。お前の隣は俺のポジションや。それにアスナ姉ちゃんをあんな奴らに攫われといて助けにいかないのは男やないからな」

「ありがとう、コタロー」

「拙者も加勢するでござるよ。友は助けにいかなくては」

「私も行くアルよ、ネギ坊主。アスナは私達の仲間ね。フェイトの部下にも借りがある」

「ネギ先生、私も微力ながら共に参ります。アスナさんは私の友人であり、弟子です」

「楓さん、くーふぇさん、刹那さん……ありがとうございます」

「あー、いいかい。その詳しい話はまた後にしてもらえるかな」

「ここは一旦大人で別に話を進めた方が良さそうですね。ネギ君はお嬢さん達と話をすると良いでしょう。墓守り人の宮殿への突入の用意については、昨日の一件で戦艦も大分損害を受けましたが、それも含めて私達が万全に準備を進めますので」

「そうするか」

「妾に出来ることはそのリライトとやらでやられそうな龍樹とインペリアルシップを配備するぐらいじゃが、とっておきの小型強襲用艦を用意しよう。魔法球は好きに使うと良い」

「いずれにせよ最悪の事態を想定して反転術式が展開できる戦力は揃えなくてはいけないわね」

反転術式でアスナさんの封印をしなければいけない状態になるのは何としても避けないと……。

「スヴァンフヴィートは健在だから任せとけ」

「廃都オスティアの旧ゲートポートに魔力が集中する現象も朝方から確認されていますから注視する必要もあります」

「ありがとうございます。総督、テオ様、セラス総長、リカードさん。大規模戦力については僕が首を出すことではないので、お願いします」

「なぁに言ってんだこの坊主はよ!俺達お前よりどんだけ長く生きてると思ってんだ!愚痴愚痴考えてねぇでラカンが言った通りお前は前だけ向いとけ!横やら後ろやらの七面倒な事は大人に任せとけ」

「わ、わかりました!い、痛いですよリカードさん!」

いきなりリカードさんがクワッ!って飛び掛ってきて痛い!

「ネギ君は病み上がりなんだから、暑苦しいわよ、リカード」

「これぐらいでいいだろ!わざわざ湿っぽくなる必要ねぇっつの!20年前のナギ達の不敵な様セラスも覚えてんだろ。サインとかな!」

「……人の思い出を弄るのをおやめなさい。無論、私も忘れる訳がありません」

そういえば映画で見たけどセラス総長決戦前に父さんからサイン貰ってたんだったな。

「ほな、ネギ君!お姉さん達のお話聞いてもらうえ!せっちゃん!」

「はい!お嬢様!」

え?え?

「刹那さん?その縄は何ですか?」

「なんとなくです。ネギ先生、失礼します。楓!」

何でなんとなくでもう一本楓さんに渡してるんですか!

「刹那、任せるでござる!ネギ坊主覚悟!」

何で無駄に両目開けてるんですか!

「ええええええ!?」

「問答無用アル!」

何か良くわからないうちに縄で縛られて魔法球にまた連れてかれた……。
後ろにはタカミチ達以外皆ついてきてるけど話って一体……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月8日、新オスティアリゾートホテル、ダイオラマ魔法球内―

いやいやいや、マジ昨日はカオスもいいとこだった。
正直あのラカンさんにクレイグさん達、アスナまで消えたっていうのは私もショックすぎた……。
ま……アスナはちょっと信じられないけど、何故か数日前から偽者だったらしいんだけど……どうなんだ……ただのアホなアスナそのものだったような……違和感なんて欠片もなかったし。
あーあーあー、リンさんとは一緒に直前までタダで美味い飯にありついてたってのに……荷物はホテルに残ってるから……どこかに突然失踪したって感覚しか沸かないスよ……。
早く戻って来て欲しい……ってさっきの話で出てたなんたらキー無いと無理なんだっけか……何で微妙にそういうアイテムが必要とかゲームっぽいんだか……コレ紛れもない現実だよ!
……にしてもネギ君達をゲートポートでふっ飛ばした連中がここまでやべー奴らだとは思いもよらなかったわ。
ただのテロリストじゃなくて、丁度ゆえ吉の学校見学行った時に授業でやってた世界の破滅を企てた黒幕そのものだってんだからな……。
何で私今ここにいるんだ……ホンッとちょい魔法世界に遊びに来ただけの筈だったんスけど……マジでどうしてこうなったー!!
私が旧世界人だから造物主の掟っていう鍵で速攻消滅したりはしないって言っても、所謂ラストダンジョン的な墓守り人の宮殿で、怪しげな儀式ってのを連中がやったら結局同じだからなー。
まー私は走るだけでこれ以上何すんだって、2ヶ月前南極から今超重要人物になってるネギ君救助しただけで相応の役目達成してるだろー……と思うんだけど、とりあえずらしくもなくシスターらしく祈ったりするぐらいだね、うん。
おお、何か今私シスターとしての道しか残ってなくね?
実はマジ天職だったかー盲点だったなこりゃ。
ネギ君筆頭に小太郎君、武道四天王あたりはラストダンジョンに殴りこみかけるらしいから、無事を祈る、マジ祈るよ。
ネギ君のさっきの証言でサラッと流されたけど、フェイトって例の白髪の少年は人外の方らしく、身体が致命傷受けても死なないとか……ラカンさんを今ここに数人ぐらい誰か召喚してって感じだな。
世もマジで本格的世紀末って感じになってきたみたいだけど、この魔法球はただの南国パラダイスなもんだから感覚が狂う狂う。
あー……あちこち遠くの崖がゴッソリ陥没してたり、森林が禿げてる場所があるのは見なかった事にするけど。
そんで今丁度ネギ君を何故か縄で縛って砂浜に正座させてる所。
何やるかっていったらアレだ、アスナ……偽者だったらしい……が前々からネギ君に年上のお姉さんとしてしっかり一言入れておこうってのを実行する訳だ。
本来ならアスナがガツンとやる筈だったんだけど……いなくなったから意外にもこのかが率先して動いたと。
まあ今までネギ君と一番長く生活してたのは同室だったアスナとこのかぐらいなもんだから妥当か。
それにしても、本当にここ、女子率が高いなー。
このか、桜咲さん、楓、くーちゃん、たつみー、のどか、ゆえ吉、茶々丸、アーニャちゃん、高音さん、愛衣ちゃん、コレットさん、エミリィ委員長、ベアトリクスさん、ココネに私を入れて……計16人。
対する男子は縛られたネギ君と私達の横にいる小太郎君2人だけっていう。
まー、そんな事言ったら3-Aなんて1対31人なんだけどね。
……うーん、こうしてマジマジ見ると本当にネギ君の左腕無くなってるなぁ……それを平然と受け止めたようなさっきの「先の事を心配してもいつ何が起こるかわからないんだから考えても仕方ない」ってネギ君の発言もマジどういう精神構造してんだか……。
悟ったような顔で淡々と話すこの子供にこのかが怒りたくなる気持ちもわかるわー。
小太郎君も昨日眠ったネギ君背負って帰ってきた時は完全に沈黙を貫いたまま何があったか言わないわでアレだったけど……相棒としてって奴か。
もーこんな10歳児2人は世の中もうこの2人ぐらいだけで充分だよ!

「ネギ君、何でうちが怒っとるかわかる?」

「……無茶をして皆さんに心配をかけてしまったから……ですか」

「そうやないんよ!ネギ君周りの事は見とるけど自分の事考えてへんでしょ!めっ!これはアスナの代わりや!」

めっ!って……ネギ君のおでこ叩くとか、何かあんまり締まらないのは突っ込んだらだめか。

「!?……じ、自分の事……ですか……」

「ネギ坊主、魔法世界へ来てからいささか自身の身をおろそかにしすぎでござるよ」

「楓の言うとおりアル。ネギ坊主、アスナを守るなら自分の身もきちんと守ってこそ真の強い男アルよ」

くーちゃんはそういう理論か。

「ネギ先生、もう少し私達を頼ってください。共に修行を重ねた仲間であり私達の大事な先生なのですから」

「ネギ先生、楓達の言うとおりだ。昨日の一件にしても偉大な魔法使いとしては既に大したものだが、君はまだ私達より年端もいかない子供なんだ。お姉さん達を頼りなさい」

おお、たつみーまで報酬とか関係無く個人的な意見を言うとは……。
あー、確かに昨日の巨大召喚魔を1人でトドメさしたってのもそうだし、ミリアさんを必死になって南極で助けてたのも完全に偉大なる魔法使いだねぇ。
何でこんなに生き急いでるんだろ……本当に流れ星みたいにあっという間に命消えそうじゃんか……。
てか、マジそうならないように祈るよ?

「ネギ先生……自分の命は大事にして下さい。お願いです」

のどかは素直だなー。

「ネギ先生、私もネギ先生が傷つくのは見たくありません。マスターも戻ったらきっと悲しみます」

「このかさん、楓さん、くーふぇさん、刹那さん、龍宮さん、のどかさん、茶々丸さん……」

「ネギ君、偽者やったらしいけど、アスナが言うとった言葉があるんや」

「…………アスナ……さんが?」

「そうや。放っておくと一人でどこまでも進んで、気がついたら誰も手の届かないところに行ってしまいそうって言っとったんよ。……うちらから見ててもこっち来てからのネギ君は何や凄く危ういんよ」

「誰の手も届かない所……ですか……。僕はここにちゃんといるんですが……そういう事では……無いんですね。あの、皆さんの言葉は凄く……嬉しいです。でも……ごめんなさい。僕はきっと……どこまで行っても僕のままです。無茶をして……皆さんに心配をかけて、それでもまた心配をかけて……きっと……分かってても、それを繰り返します」

ははは、マジ頑固だなー。
まーそんな簡単に変われないのは仕方ないかもしれないけど。
泣いてる感じ、少しは伝わったんじゃないか?

「…………は~、もうネギ君は仕方ないなぁ。うちらの気持ち分かってくれたんなら少しは自分の事大事にしてな」

「ネギ先生が頑固なのは前から分かっていましたが……それならば私達も遠慮せずネギ先生を構いますから覚悟して下さいね」

「全く困った弟子を持ったものアルな。ネギ坊主、嫌とは言わせないよ」

「アーニャ殿の占いはピッタリ的中したでござるな。ネギ坊主の面倒これからも見させてもらうでござるよ」

あーそんな占いあったなー。
確か支えになるとかなんとか。
マジで超的中したな。
うん。

「はいっ!お願いします!」

……まー結局根本的に解決はしそうにないわなこりゃ。
おお、アーニャちゃんがネギ君が縛られてるのをいいことにガクガク揺すって文句言いまくってるなー。
今さっき乗り遅れたからここぞとばかりにって感じだな。
ネギ君困ってる困ってる……元気なこって。
……にしてもネギ君がアスナの事を中心に考えてるのがちょっと常軌を逸してるレベルのような感じがして、理解しがたい部分あるな……。
というかそもそもアスナって何者だって所からなんだけどさ……。
魔法無効化能力があって狙われてるってのは一応前聞いて知ったけど……。

「あのさーネギ君。ネギ君にとってアスナはどんな人か聞いてもいいかな?」

「えっと……それはアスナさんが何者か……という事も含めて……ですか」

「そうや、アスナの魔法無効化能力言うのが希少なのは知っとるえ。でも……ちょっと高畑先生達の様子見とると単純な能力の問題やないみたいやけど……どうなん?」

「それ私も気になるアルね!」

「狙われているのは修学旅行の時から知っていたが、拙者もそれは気になるでござるよ」

「……分かりました。皆さんにもちゃんと説明しますね。アスナさんが何者なのかも含めて」

おっとこれは朝倉がいたら喜びそうなシチュエーション入ったか?

「アスナさんの本名はアスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシアと言います」

「「「「長ッ!?」」」」  「フ……」

え?何その一人余裕のたつみー、まさか知ってる?

「え……エンテオフュシアというとまさか……旧ウェスペルタティア王国ですの?」

「はい、その通りです、エミリィさん。アスナさんは旧ウェスペルタティア王国のお姫様……厳密に言うなら黄昏の姫御子なんです」

これは何か重い話っぽい?
縛られたまま淡々と話出したところ悪いんだけど、何か白状させてるみたいでシュールだ……。

「「「「「お姫様!?」」」」」

「た……黄昏の姫御子というと……前大戦で戦場に投入されたという記録があるです……」

ゆえ吉のアーティファクトも凄いな。

「えっと、その話は僕も詳しくは無いので省きますが、今度は僕とも関係ある話もしますね」

「ネギ君と関係?」

「はい、そうです、このかさん。僕の父さんがナギ・スプリングフィールドだというのは皆さんも知っていると思います」

「そうでござるな。元々ネギ坊主の父親を探しにこちらへ来たのでござるから」

「はい。それで……僕の母さんの話は今まで全く触れてきませんでしたが、ついこの間僕も初めて知ったんです」

「そういえばネギ君のお母さんの話出た事なかったなぁ」

「僕の母さんの名前は……アリカ・アナルキア・エンテオフュシア、旧ウェスペルタティア王国最後の女王、災厄の魔女と世間では呼ばれた、その人なんです」

「「「「「王女様!?」」」」」

何だそりゃ!
あー何か、ネギ君は父親が英雄で母親は女王様と。
いやいやいや、いくらなんでもハマリすぎだろ。
つかそうなるとネギ君マジもんのプリンスかいっ!!

「またエンテオフュシア……という事は!」

「そ……それはとてつもなく重要な意味を持つです……」

「アスナさんとの関連で言えば僕とアスナさんはどこまで近いか詳しいことはわからないんですが、確実に親戚なんです」

「ネギ坊主とアスナは親戚だったアルか!!」

「この魔法世界で非常に重要な存在である上に血縁関係まであったのですね……」

「……親戚て……。あーっ!!そやからうちのお祖父ちゃんネギ君うちらの部屋に住ませたんか!!」

「はい、このかさん。そうだと思います。今思うと僕が女子寮に住む事になったのはそれが関係していたとしか思えません」

「うはー、何か運命の出会いみたいな感じスねー。仕組まれてるっぽいけど……」

流石あの学園長だわ。
謎多すぎで隠し事多かったり……言うのが面倒なだけかもしれないけど相変わらずだな……。

「ネギ先生とアスナさんは姉弟みたいだと前から思ってましたが本当に家族……だったんですね……」

確実に親戚って言い方がアレだから、家族というにはちょい語弊がありそうだけどね。
のどか顔がファンタジーな世界にちょい入りかけてるぞ……大丈夫かー。

「まさかネギとアスナが親戚だったなんて……」

幼馴染みとしちゃ衝撃の事実だよなー。

「うむ、ネカネ殿とアスナ殿の匂いがそっくりでござった時にまさかとは思っていたが、いやはや本当にそうだったとは数奇なものでござるな」

「あー、修学旅行の時か。あの時超りんネカネさんの髪の毛採取してDNA鑑定するとか言ってたけどどうだったんだろうねー。その後一切触れてなかったし」

ん……?
あれ?何かおかしくないか?
ネカネさんはウェスペルタティア関係ない筈……だけど?
まー、細かい事はいいか。

「え!?超さんがネカネお姉ちゃんとアスナさんをDNA鑑定!?」

「超りんそんな事やってたんかー」

「流石超だな……。やることが実に科学的だ」

「超はハカセとさよと怪しげな事ばかりやっているアルからなー。変な新発明はやめて欲しいアル」

「くーちゃん、よく実験台にされてるもんなー。端末は超役立ってるけど」

「たまに私をいじる為だけに作ってると思う時があるね!」

自動肉まん暴飲暴食マシーンとかその典型だったなー。

「………………」

「ネギ君どうしたん?急に思いつめたような顔して」

ホントだ……表情がマジモードになってるよ……。

「…………超さんは一体……何者なんでしょうか……。茶々丸さん……」

それ私も聞きたいわー。

「ネギ先生、それは麻帆良に戻った時に超本人に直接聞かれると良いですよ」

「そう……ですね……」

「超りんの事だと、私はある時は女子中学生、またある時は麻帆良最強頭脳、そしてまたある時は謎の火星人、その名も超鈴音ネ!とか真顔でスルーしそうな気がするね」

「確かに超りんならそう言いそうやなー」

「あの、その火星人って……僕聞いたこと無いんですけど……」

「あれ?そうやったっけ?うちネギ君に言わなかったかなぁ?」

天然だー!!

「はい。変わってる……ぐらいにしか聞いてないです。……いや……それが冗談のようで冗談でないとすると……」

まーたブツブツ言い始めたぞこの子供先生は……。

「何や話が超姉ちゃんの方にズレて来とるな。とにかく……ネギにとっちゃ親戚とかそんな事関係なくてもアスナ姉ちゃんはアスナ姉ちゃんやろ」

うわーごめんね、小太郎君。
かしましいと私達話どんどん関係ない方にズレちゃうんだわ。

「うん、コタロー。そうだ。僕にとってアスナさんはアスナさん。それだけ。いつも元気でまっすぐで明るくて、ちょっとアホっぽくて、少し乱暴だけど、でも凄く優しい僕の、大事な人なんだ」

「へっ、それでええ」

「「「「「………………」」」」」

あまっー!!
ごめん、愛の告白にしか聞こえないよ、ネギ君。
小太郎君もそれで当然みたいな感じ醸して2人だけ勝手に友情モード入ってるけど、私、年の分だけ思考がアレでホント何かごめん。
エミリィ委員長なんてガーン!って顔して露骨にショックうけてるし。
つかそれどころか何か皆顔が微妙に赤いというか……ま、そうだわな……。
本人は心からそう思ってる表情してるから愛で分類するなら家族愛的な何かなんだろーけども……その辺りの境界ちょっと危ういぞ。

「ね……ネギ君、それアスナに言ったらきっと喜ぶえ」

「はいっ!そうします!言葉でしか伝わらないこともありますよね、このかさん!」

あー、マジかー、マジで素だわこの子。
南国パラダイスが桃色パラダイス化してきてるから。
うん、シスターには何か辛いスよ。
……でもって何やかんやあって、ネギ君がようやくお縄から解放されて、真面目な話に移った。

「墓守り人の宮殿に僕は行きます。それで、もう一度皆さんの意思を確認したいのですが……」

「俺は言うまでもないで」   「私も参ります」  「拙者の意思は変わらぬでござる」 

    「私もアル!」  「ネギ先生、私も行こう」  「うちも……行くえ!」

「ネギ先生、私もです」  「ネギ先生私も付いて行くですよ」 「ネギ!あんたが無茶しないか心配だから私も行くわよ!」

「ネギ先生、私も同行致します」   「この高音・D・グッドマンも共に参りますわ」

「わ、わ、私も!」  「わ……私は……」  「お嬢様……」  「私は……」

「皆さん……」

ゆえ吉あたりはその場のノリで行こうとしなくていいんじゃ……。
こういうのを集団心理とゆーんだろうけど、空気を読まないことも大事スよ。

「あー、ネギ君、私はシスターらしくネギ君達がアスナ連れて無事に戻って、ラカンさん達も復活させるの祈ってるからさ!ここで帰りを待ってるよ」

「私もミソラと待ってる」

「春日さん、ココネさん、ありがとうございます。僕もそうして欲しいと思っていました」

こうして改めて言われるとホッとするな。

「いやー、当然スよ。私戦力にならないしさ」

「流石春日だな。こういった場では正しい判断だ」

「似たような事たつみーに言われるの2度目スね。結局私は最初から戦場には行かないよ」

「皆さん、お気持ちはありがたいです。ですが、一緒に墓守り人の宮殿に向かう人は選ばせて下さい。何も墓守り人の宮殿でしか何もできないという訳ではありません。春日さんのように帰りを待ってくれる事で僕も安心して行けますから。……コタロー、楓さん、刹那さん、くーふぇさん、龍宮さん……そしてのどかさん。今ここにいる中ではこのメンバーで行きたいと思います」

「そんな、うちなら怪我も!」 「…………」 「私も力になれますわ!」 「…………」 「ネギ先生、私の武装であれば……」

「俺はそれでええで」  「それが……妥当でござるな」  「お嬢様……待っていて下さい」

「分かったアル」 「ネギ先生……私、行きます」 「正しい判断だな、ネギ先生。だが宮崎は……例の造物主の掟か」

スゲーガチ戦闘組揃いだな。
まーそれで当然か。

「はい、のどかさんは造物主の掟の使い方を知っているので危険ですがお願いしたいと思います。このかさん、負傷の問題は確かに重要な事項ですが、僕の契約執行で回復できます。それに守りながらでは進むのも難しくなってしまいますので……分かってください。高音さん、高音さんの操影術は、混成部隊の艦隊で戦ったほうが有効な筈です。恐らく奴らはまた召喚魔を出してくると見て間違いありません。更に、墓守り人の宮殿では魔法が無効化される可能性があります。それで茶々丸さん、茶々丸さんは例の件から言って連れて行く訳にはいきません。……それよりも茶々丸さん達にはこのどれだけ離れていても通信が可能な端末でのサポートをお願いしたいと思っています」

お?
無効化?
例の件?

「ネギ君……せっちゃん……」  「ネギ先生……分かりました。遠距離からサポートさせて頂きます」 

「ありがとうございます、茶々丸さん」

このかは諦めろー。
茶々丸はちょい例の件ってのが謎だな。

「ネギ先生の仰ること……分かりましたわ。悔しいですが……その通りですわね。しかし無効化というのは……それではネギ先生も」

「無効化というのはアスナさんの能力を利用した現象が発生するかもしれないという事です。先程の話に関連しますが、僕にはウェスペルタティアの魔力があるので詳しいことは省きますが、無効化現象の中でも無効化されないので問題ありません」

「なるほど……王家の魔力か……。ラカン氏がネギ先生だけが対抗しうると言ったのはそれも含めてか」

たつみー何だその謎ワード……。
超不思議パワーみたいなもんか?

「はい、その通りです。それで……このかさん、茶々丸さん、夕映さん、アーニャ、高音さん、佐倉さん、エミリィさん、コレットさん、ベアトリクスさん、僕達の無事を……待っていて下さい」

「は~、分かったえ、ネギ君」     「分かりました」    「分かったです……」

「わ、分かったわよ……私が行っても足手まといになるのは認めるわ」 「私はこちらに残り召喚魔の相手を致します」 「私もお姉様と共に」

「ネギ様、分かりましたわ、お気をつけ下さい」  「ネギ君、ユエ達と一緒に待ってるからね」  「ネギ様、私もお嬢様達とお待ちしています」

「ありがとうございます。皆さん」

なんつーかこのネギ君の雰囲気は子供から逸脱しすぎだなー。
凛々しすぎるわ。
ああ、プリンスか。

「それで……一応僕が考えている墓守り人の宮殿での大まかな作戦を話しますね」

「ハッ、ネギ、俺達の考えやとアレやな」

「うん」

何か今……2人して微妙に黒い笑いしなかったか?

「何でござるか?」  「何ですか?」  「何アルか?」  「何か作戦があるのか?」

…………ネギ君と小太郎君が顔を合わせて何か一緒に言うみたいだけど……。

「「墓守り人の宮殿の破壊」」

「ブハッ!!」  「えー!?何なんソレ!?」  「何だか外道な気がしますわね……」

その発想は無かった。
RPGの法則無視だよ!
ラストダンジョン破壊って……いや、まー現実的にはアリなのか?
ゲームでも確かに最終的にはラストダンジョンが崩壊して脱出ってパターンもあるからおかしかないけど……先に壊しちゃうかーそうかそうかー。
蟻の巣に水流しこむみたいなもんスね。
蛇が出るんじゃ……まあ……どっちにしろ中に入っても襲いかかってくるんだろうから同じか……。

「なるほど、素晴らしいなネギ先生。確かにそれは良い」

たつみーが目を見開いて絶賛してるよ……。
やることテロと変わらないような……ま、お互い様か。

「破壊でござるかー」 「武器破壊の経験から……まさかとは思いましたが……」 「なら私の神珍鉄自在棍でやるアルよ!」

「ネギ君……それアスナが危ないえ?」

「いえ、それも見越してです。アスナさんは完全なる世界にとって絶対に欠かすことのできない存在です。例のリロケートで退避するなりして傷つける真似はしない筈です。僕の太陽道の特性上、振り切れた出力がメリットなので生かさない選択を取る必要はありません。僕の魔法であれば、アスナさん本体なら当たったとしても必ず無効化します。それにアスナさんはあの墓守り人の宮殿の何らかの施設がある限り、世界に縛られたままですし、それこそ破壊してしまえば世界の終わりと始まりの魔法も阻止できる可能性が高いです。造物主の掟自体は破壊しても再生するのは分かっていますからそれも問題無い筈です。また、墓守り人の宮殿はかなり広い筈ですし、当然侵入者用の罠があると考えて間違いないですからそれらを無力化、無視することもできます。と言っても、当然総督達にも相談しないといけませんが……」

あー、パネェ。

「どっちにしろ、アスナ姉ちゃんの近くはフェイト達が守っとるやろうからこっちから行くのも炙り出すのも変わらんしな」

「フ……そうとなれば、テオドラ皇女殿下が用意してくれるという小型強襲用艦に、武装コンテナも搭載して破壊専門の空中魚雷等を大量に積んでもらうよう頼むのがいいだろうな」

たつみー銃器派の人だから微妙にテンション上がってる……か?
えぁー、何かもう地球のミサイル撃ちまくる感じスね……。
確かにそんなカオスな所にこのか以下がついて行った所でどうしろとって感じだよなー。
こんな感じに話が飛躍し始めて、特に話についていけないアリアドネー組のゆえ吉達は唖然としてた。
まーそんな話も長くは続かなくて、完全なる世界の凄い障壁ってのを破壊する方法について、ゆえ吉がアーティファクトで参考になる資料を調べたり、楓の結界破壊忍術だとかそういうのを試行錯誤しだしたよ。
ま、私は……後は祈る……と。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月8日、12時頃、新オスティアリゾートホテル―

このかさん達から自分の事も考えるように言われてから1日近く魔法球の中で過ごした。
……皆が心配してくれているっていうのはよく……分かった。
本当に……嬉しかった。
嬉しかった。
けど……僕は次、本格的に太陽道を使ったらもう持たない可能性が高い……前回よりも更に存在が薄くなってる……。
あの話をしてる時に一切コタローが口を挟まなかったのはそれを分かってるからだろう……。
ラカンさんとコタロー2人に言われたけど、もしフェイト級の奴が本当に7人もいたら多分僕は消滅するとしても限界時間を無視して太陽道を使い続ける特攻以外に取れる方法は無い……。
考えてみれば父さんを探しに来たはずの旅がいつの間にかアスナさんを助けるための旅に変わっていたな……。
父さんもアスナさんを助けようとして……助けて……映画の中では皆で一緒に京都に行きたいって言ってた。
僕は僕の意思でアスナさんを助けたい、助けるし、これは父さんが望んでいた事でもある、きっとラカンさんも、タカミチだってそうだ、皆そう思ってる。
でも、どうなるかはわからないけど……最悪の事態も覚悟した方がいいかもしれない。
現状でフェイト達の障壁を完全に破壊できるのは僕の太陽道、無視できるのは刹那さん達の弐の太刀だけ。
あの再生する魔法の事を考えると……正直絶望的な気がするけど……それでもやるしかない。
とにかくまずはタカミチに僕達のうち誰が墓守り人の宮殿に行くか報告する必要があるし、墓守り人の宮殿の破壊についても相談しないと駄目だ。
義手についてもコタローは反対するだろうけど……魔法球があるんだから早めに馴染ませた方が良い。
もう今更数年の寿命がどうこうって気にしてられない。
2時間強入ってた間に総督とリカードさん、テオ様、セラス総長は戻ったみたい。
部屋に残ってるのはタカミチと葛葉先生、ドネットさん、カゲタロウさんだ。

「おかえりネギ君、他の皆はまだ魔法球かな?」

「うん、そうだよ。タカミチ、僕達の中で墓守り人の宮殿に向かうメンバーを決めたから聞いて欲しい」

楓さん達は障壁破壊の術をまだ試行錯誤してる……。

「…………分かった。ネギ君、聞こう」

「コタロー、楓さん、刹那さん、くーふぇさん、龍宮さん、のどかさん、そして僕の7人だ」

「そうか……確かにそれがいいだろうね。のどか君は造物主の掟関連かな?」

「うん、使い方については感覚的なものらしいからうまく説明はできないって話だから危険に晒してしまうけど、仕方が無い」

「なるほど、分かったよ」

「高音は行かぬか……。正しい判断だな」

「他には何かあるかい?」

「墓守り人の宮殿に向かったら最初に外部から墓守り人の宮殿そのものの破壊を敢行したいと思ってるんだ」

「破壊だって!?」

「ネギ先生それは……」

「また斬新な考えね……」

「ネギ殿、考えをお聞かせ願えるか?」

カゲタロウさんって律儀というか堅い人だよなぁ……試合の時は少年って呼んでたけど。

「はい、もちろんです。まず……」

皆に話したのと同じ事を説明した。

「もちろん、絶対にそれはやってはいけない事情があるならやらないよ」

「うん……なるほど。確かに例の儀式が行われる場所に決まりがあるのなら座標自体をずらせば世界の終りと始まりの魔法も阻止できる可能性はあるね。ただ、墓守り人の宮殿は思っているよりも遥かに大きいよ。それにクルトとしては多分破壊は望まないだろうな。危険な儀式が行われると言っても要地であるのには変わりはない」

「上層の塔部分を倒壊させて中層、下層と分けて真っ二つにするぐらいなら部分的な被害しかでないと思うけど……駄目かな?どっちにしろ中に入ったとしても僕は高出力魔法を使わない訳は無いんだけど……」

「世界が破滅するのを墓守り人の宮殿の破壊で済ませるのなら安いと私は思いますが」

「僕もその点には葛葉先生と同意見だよ。その辺りは政治的問題もあるからクルト達に話をしておくよ。その龍宮君が言ったという武装コンテナももし実行するなら早めに用意しないといけないからね」

「うん、一度お願いしてみて欲しい。それで旧世界人の人達の戦力はどうなの?僕が心配することではないけど……必ず例の召喚魔が出現すると思う。それも簡易タイプの造物主の掟持ちの」

「本国から援軍を招集するよう急ピッチで働きかけている所だよ」

「それについては私が言えた義理ではないが、ボスポラスの影使い一族、我らグッドマン家の系譜の者達は皆緊急集合する事になっている」

「高音・D・グッドマンが以前から私達と行動を共にしていた為グッドマン家からスムーズに了承が得られました」

「そ、そうなんですか!それは凄いです!」

「ああ、非常に強力な戦力になって下さるよ。どうやら昨日の戦闘からすると簡易タイプの造物主の掟持ちは放出系の魔法に対して抵抗値が高いようだが、操影術の直接刺突攻撃はその点非常に有効だからね」

「練度は皆異なるが、高音並の術者ならば100名はいるだろう」

「高音さんレベルが100人……百の影槍で一度に1万の影槍ですか…………」

凄い……僕達、僕を南極から助ける時も間接的に協力してくれたしグッドマン家の人達には感謝しないと。

「後は僕の所属している悠久の風のメンバーと佐倉君の家の方も個人的に来てくれる。万全というにはそれでも不足しているが、少しでも戦力を増やすよう動いているよ。アリアドネーとヘラス帝国の戦力が戦艦の物理武装系以外はほぼ意味を成さないというのは致命的だがね……」

「そっか……うん、きっと20年前の時と同じように阻止できるよ、いや、するんだよね」

「その通りだ。奴らの勝手を許す訳にはいかない」

「ネギ先生、私も墓守り人の宮殿には同行しますので」

「葛葉先生もですか!?」

「こら、何を驚いているのです」

「いたっ!?」

葛葉先生までこのかさんみたいに額を叩いてくるなんて……。

「いいですか。ネギ先生達がこの世界でもかなりの手練だというのは確かな事実です。だからと言ってあなた達子供だけを、それも麻帆良学園の生徒ばかりを危険な場所に送り出す筈がないでしょう」

「ご、ごめんなさい。てっきり僕達だけが突入するものと勝手に思ってました……」

「分かれば良いです。お嬢様達に言われた事は大体見当がつきますが、ネギ先生は1人で先を生き急ぎ過ぎです。大人も頼りなさい!」

「は、はいっ!!」

こうして葛葉先生に言われるのは2回目だな。

「よろしい。では高畑先生、ネギ先生の義手の件ですが……」

「ああ、ネギ君、義手はどうするかい?コタロー君はまだやめた方が良いとは言っていたが不便だろう」

「うん、お願いするよ。足技主体に変えても良かったけど、片手で収束大呪文を通常時放つのは辛いと思うから仕方ない」

「悪いね……ネギ君。君に託すような形になってしまっていて」

「ううん、これも僕自身の意思だから後悔は一切しないよ。アスナさんだったら絶対そういう。最後には大丈夫ってね」

「……そうだね。ネギ君の身体だけど、麻帆良に戻ったらエヴァに診てもらうんだよ」

「うん……そうするよ」

マスター……僕はマスターにもう一度会いたいです。
絶対に……無事に皆で麻帆良に帰るつもりで行きます。
けど……もしもの時は……謝らなくてはいけないかもしれませんが、最善を尽くすので見守っていて下さい。

「僕も作戦決行時、ネギ君と同行するか、戦艦の上で防衛戦を張るかは当日の戦力状況によって決めるから決して自分だけの力で頑張ろうとしないようにね」

「ありがとう……タカミチ。あ、後タカミチが持ってる浮術場魔方陣が展開できる指輪型魔法具って楓さん達用にも用意できる?」

あれがあれば楓さん達も空中戦がしやすくなる。
タカミチのはそれが魔法発動媒体にもなってる特別製らしい。

「ああ、確かにあったほうがいいか。詠春さんも使っていたぐらいだ。葛葉先生も必要だろう」

「そうですね。前回まんまとフェイトアーウェルンクスに閉鎖空間に閉じ込められた時もそれがあれば大分違いました。いいでしょう。ネギ先生の義手を今日中に優先して手配してもらうついでに魔法具店で購入しましょう」

「お願いするよ、葛葉先生。こっちは僕とドネットさんでやっておくから」

「了解しました」

「え?義手って1日でできるの?」

「ネギ君、映画見ただろう。ジャックの腕は決戦の後十数時間後に即席ではあるけど義手がついてたぐらいだ。今は戦争中でもないからきちんとした義手も今日1日かければ夜には縫合までできるよ。馴染ませる件も、作戦決行の予定の明明後日まで、20日間分程は馴染ませられる筈だ」

あ、そういえばそうだった。
時間があまり無い筈だけど魔法球でまだ20日あるなら……なんとかなるかな。

「そっか、うん、分かったよ。葛葉先生、お願いします」

「ではオスティア魔法医療機関、体組織再生科に向かいましょう」

「はい!」

こうして僕は義手の作成、縫合までを1日で一気に行う事になった。
義手の作成に際して、僕の右腕が参考になるから数時間で済んだ。
体組織再生科の医療スタッフの人達は凄く急いでやってくれたみたいで助かった。
受付で葛葉先生が総督の名前を出してたからそれも関係あるんだろうけど。

「ネギ先生、縫合手術の覚悟は良いですか?」

「はい、もちろんです。作ってもらっておいて縫合しない訳にはいきません」

「分かりました。それでは行いましょう」

縫合は完全に外科手術だった。
僕が肩の所の血管を処理したせいで少し手術には手間取ったけど、3時間で手術は完了した。
継ぎ目の所が凄く痛い……よくラカンさんは義手つけてすぐにあんなに元気だったんだなって思う。
正直タカミチの言うとおり馴染ませないととてもじゃないけど戦闘はできない。
リハビリの方法をきちんと指導されて、葛葉先生をホテルに戻った時には10月9日に日付が変わっていた。
葛葉先生は僕の手術中とリハビリの講習中に魔法具店で浮術場魔方陣が展開できる指輪型魔法具を購入して来てくれた。

「義手を馴染ませるのは大事ですが、決して無理はしないように」

「ありがとうございます。葛葉先生。気をつけます。それに魔法球の中だと皆さんがもうそんな事させてくれないと思うので……」

「そうでしたね。刹那には特に見ておくように言っておきますから、目を盗んだりしないように」

「あはは……そこまで疑われますか、僕」

「ネギ先生は今まで無茶しすぎなので早々信用は得られません」

「はい……」

魔法球の中に戻ったら、6日ぐらい過ぎてて、障壁突破法も少し進歩があったみたい。
でも……完全に全部割るというのはとてもじゃないけど難しいだろうな……。
楓さんなら分身の波状攻撃で一気に割るっていう方法もあるかもしれないけど、1度はできても繰り返せる方法じゃない……やっぱり刹那さん達神鳴流の弐の太刀が有効かな。
クウネルさんやゼクトさんは一体どうやって突破してたんだろう……多分映画で出てきたフェイトの仲間もあの多重障壁が使えると考えて間違いないから……。
……それも僕が義手をつけて戻ってきたらそれどころじゃなくなった。
結局義手を付けた事についてコタローは一回だけ溜息ついて、その後は納得してくれた。
それからはリハビリを行う事になったんだけど……何かずっと監視されるような生活になった……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月8日、墓守り人の宮殿某所―

――仕方あるまいまた役立ってもらうしかないようだ。

――このような幼子が……不憫な……。

――愚か者が、姿に惑わされるな。コレは人ではない。兵器と思え。

――この百年で何千何万の命を吸ってきている。

私には何も無い……何者でもない……。

――化け物だよ。

ただ奪い……奪われるだけの日々……。

――そんなガキまでかつぎ出すこたねぇ。後は俺に任せときな。

――アスナか、いい名前だ。よしアスナ、待ってな。

ナギ……嘘つき。

――黄昏の姫御子……我が末裔よ。その本来の役割果たしてもらおう。

始まりの魔法使い……恐ろしい……悲しい人……。
私の力で多くの人が消えていく……。

――悪ぃ……遅くなっちまった。全くいつもいつもヒーロー失格だな。

ナ……ギ……?
おかしな人達……バカばっかり……。
でも……なんかあったかい……。

――これなら将来良い魔法使いの従者になれますね。

――ハハハ……嬢ちゃんおじさんのパートナーになるかい?

ガトーさん……。

――……何だよ、嬢ちゃん。泣いてんのかい?

――涙見せるのは……初めてだな。

やだ……ナギもいなくなって……おじさんまで……。
やだ……。

――幸せになりな嬢ちゃん。あんたにはその権利がある。

ダメッ!ガトーさん……ッ!!
……いなくなっちゃやだ……。
ガトーさん……。
ガトー……さんっ……。
……私は……誰?
私は……何?
…………う……うん……。

「私は……また……」

……全部思い出した。
私が何だったのか……どういう存在だったのかも……。
でも……それでも今の私は私……ナギ……ガトーさん……高畑先生……ネギ……。

「……起きたんだ、お姫様。驚いたよ。過去の記憶に流されることなく薄っぺらな仮人格が自我を取り戻すなんて」

この声は……!!

「……あんたッ!!出たわね悪の親玉!!」

―咸卦法!!―

フェイトなんたら!!

「あんたを倒せば!!」

―斬空掌!!―

「フ……」

弾いたッ!?
なら接近戦でッ!!

「無駄だよ」

投げ返される!?

「痛!!」

……こいつー!!
思いっきり壁にたたきつけて……。

「やれやれ。魔法もリライトも効かないお転婆姫は厄介だね。……君は考え違いをしているよ。神楽坂明日菜。僕を倒しても何一つ解決などしない」

はー、咸卦法のお陰で全然痛くないからいいけど……。

「なんですって?大体あんた達意味わかんないのよ。いきなり人攫って。私使って悪さする奴なんて倒した方がいいにきまってるでしょ!」

「仕方ない……。君には理解してもらった方がいいかもしれないね。僕達の目的を。説明しよう。焔」

「フェイト様、お任せください」

何でこいつと一緒にいる2人はメイド服なのよ……。
それにいきなりホワイトボード?
何か書き出したけど……。

「こういうことです」

魔法世界がBON?

「つ、つまり、ど、どーゆーこと?」

「この世界が滅ぶという事です」

「ほ、本当にそうなの!?」

「彼から聞いていたか……。そうだよ。原因は世界を支える魔法力の枯渇……まあ、君達の世界の環境問題のようなものさ。十年後か百年後か……明日にかもしれないけれど。この世界は滅びの時を迎える。これは避けられない現実だよ。そして……魔法世界という幻想が消え去ればそこに住んでいる全ての人間は……人の生存不可能な火星の荒野に投げ出されることになる」

火星!?
それに魔力の枯渇……流出ってネギの言ってた通りじゃない。

「だからってあんた達はどうしようっていうのよ!!大体滅びるならさっさと地球に皆で移り住めばいいじゃない!」

「随分簡単に言うね……。少しは考えてみなよ。この魔法世界に住む12億もの難民を地球が受け入れるのは不可能だ。可能だとしてもそんなコトを実行すればどうなるか……」

「う……」

「メガロメセンブリア6700万人すら受け入れることは難しいだろう……まあ、いずれにせよ悲惨な事になるだろうね」

「……ち……ちょっと待って。なんでそこでメガロなんちゃらが出てくるの?助けるんなら12億人全員でしょ?特別扱いみたいじゃない」

「……その通りだよ、神楽坂明日菜。特別扱いはいけない。だから……彼らには例外なく世界から消えてもらう。君の力で魔法世界を書き換え、封ずることによってね」

「ちょ……消えてもらうってどーゆー事よ!?ふざけんじゃないわよ!!全員殺しちゃうって事!?許さないわよ!!」

「殺す訳じゃない。書き換えられた世界、完全なる世界に移り住んでもらうだけさ。そこは永遠の園。あらゆる理不尽、アンフェアな不幸のない、楽園だと聞いている」

「……で……でも。何でそんな事……」

「それしかないからさ。れっきとした人間であるメガロメセンブリア市民と違い、それ以外の魔法世界人は現実には、いないんだよ」

「……な?何……言ってんのよアンタ……」

「魔法世界人は魔法世界と同じモノでできている。魔法世界が消え去る時魔法世界人も消え去る……。つまり……彼らは幻想なんだ。彼らをすく方法はない。これがこの世界の謎の最後の1ピース。解決不可能の問題だ」

「そ……ん……な」

皇女様達が皆幻……?
そんなの……何よそれ……。
それ……どうにかできないの?
消すしかないの?
また……私で……?

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月10日、9時頃、新オスティアリゾートホテル―

何だかんだネギ君は義手があっという間に付けられて戻ってきて、ネギ君はこのか達の完全包囲網の中リハビリを行って13日ぐらい。
私はずっと魔法球に入ってる訳じゃないからちょいちょい確認するぐらいだったけど、最初より義手は馴染んでるみたいだった。
それで、例のネギ君と小太郎君の言い出した墓守り人の宮殿破壊作戦は本当にやる事になったんだって。
総督は渋ったらしいけど、高畑先生とリカードさん、テオドラ皇女殿下、セラス総長がそれを賛成する形で押し通す方向になったんだとさ。
一応中層部の一番広い円盤みたいな部分とそのすぐ上層部の付け根から真っ二つにする作戦になったらしい。
特にテオドラ皇女殿下はかなりはっちゃけてて「武装コンテナとな。うむ、良いじゃろ、目一杯魚雷を喰らわせて連中に一泡吹かせてやるのじゃ!」との事。
どことなーく、テオドラ皇女殿下はラカンさんの事好きみたいだったから結構躍起になってる気がする。
インペリアルシップで特攻とかしなきゃいいんだけど……ま、そこは流石に大丈夫か。
そういやネギ君が義手付けて戻ってきた時、葛葉先生が空中に足場作れる魔法具を用意してきて、楓とくーちゃんとたつみーそれにのどかに渡してたな。
確かにそれがあれば地上に落下して大怪我って事も少なくなるだろうから便利だよね。
まー、それ考えるとネギ君と小太郎君が浮遊術使えるのは年齢的に考えてマジ凄いって事になるんだけどさ。
それはともかくとしても、今のこの状況は壮観というか、怖いというか……ねぇ。
気がついたら扉からゾロゾロと集団で何かやってきたっていうか。
完全にこの場から退散するタイミング逃したわー!!

「風太郎、久しいな。何故今まで一度も帰って来なかった」

「父上……久しぶりでございます。私は20年前仲間と共に命を賭す覚悟で戦場に向かったというのに……1人生きながらえたとあっては顔向けもできず……とうの昔に風太郎は死んだものとしておりました」

「馬鹿者が。……言ってやりたいことはまだ山ほどあるがそれは今回の件が片付いてからだ」

「ハッ!」

カゲタロウさんが従順の姿勢見せたー!!
つか何あの超デカイ人達、皆身長平均で180ぐらいあるだろ。
デケーよ!!

「高音よ、息災のようで何より。修行は順調であるか」

「お久しぶりでございます、お祖父様。この高音・D・グッドマン、全身全霊をかけ、修行を重ねております」

「うむ。左様か。旧世界での見聞は広げられているか」

「はい。まだまだ知らないことが多くはありますが、日々精進しております」

「高音、修行ご苦労。後しばしでこちらに戻ってくると良い」

「はい、お父様。必ずこの修業やりとげてみせます」

「高音、元気でしたか。旧世界はこちらとは色々違う事もあるでしょうが、上手くやっていけているようですね」

「お母様、はい。心身共に健康そのものでございます。生活にも慣れましたわ」

「それは良い事です。そうです、愛衣殿も後ほど紹介なさい」

「はい、もちろんですわ」

「高音、大きくなりましたね。後であちらの話を聞かせなさいな」

「お祖母様、お元気でしたか。私のお話で宜しければ是非に」

「楽しみにしていますよ」

「「「「「高音お嬢様、お久しゅうございます」」」」」

そこ集団はグッドマン家侍従軍団かー!!!
つーか何で高音さんは全員判別できてんの?
ここまで全員仮面つけた真っ黒黒尽くめの仮装集団だからね。
ちょっと仮面のデザイン違うのはわかるけどいちいち覚えてんのか……ボスポラスの風習ってのはちょっと理解できないな……。
呼んでる感じお祖父さんとお祖母さんまでいるらしいけど……背筋ピンとしすぎだろ……。
見た目超若かったりして。

「春日美空、キョロキョロするのをやめなさい。失礼ですよ」

「あい、すいませーん、葛葉先生」

いやいや、見るなって言う方が無理だろこれ。
絶対オスティアの空港からここまで来るのにめちゃめちゃ目立っただろ……。

「ふー、大分義手慣れてきたか……な……ッ!?」

「どうしたんネギく……え」

「お嬢様どうされま……」

「姉ちゃん達まで何やね……」

そう!
やっぱその反応スよ!!

「おおー、仮装行列アルか!!」

くーちゃん自重。

「高音、あちらの方達がそうか?」

「はい、お祖父様、あちらがネギ先生達ですわ!」

にこやかな顔して笑って肯定ですかー!
高音さん、空気読んで!
って高音さんの家族の皆さんがV字型の陣形で並んだままネギ君達の方に向かったー!

「ネギ・スプリングフィールド殿、お初にお目にかかる。私はグッドマン家当主、源治・D・グッドマンだ」

源治ってどんな日本人スか。
いや……風太郎っていう時点でなんとなく分かってたけどボスポラスって実は墓巣保羅州とかそういう当て字だったりしないだろうな……。
マジありそうで怖いんだけど……。

「は、初めまして!ネギ・スプリングフィールドです。よろしくお願いします。僕達の捜索の際にはご協力頂きありがとうございました」

「何、当然のことをしたまで。気にする事はない。拳闘大会の試合拝見致した。そちらの小太郎殿共に見事な試合であった」

「おおきに、源治さん。犬上小太郎や」

「ありがとうございます。源治さん」

適応能力高いな少年。
何か順番狂ったけど、その後もグッドマン御一行は高畑先生と葛葉先生にも挨拶してた。
愛衣ちゃんが高音さんにグイグイ引っ張られて御一行の渦中に入っていったのは……まあ害がある訳ないんだけど超テンパってたよ。
その後愛衣ちゃんの両親も来たんだけどお母さんにそっくりだったわー。
きっと大人になったら愛衣ちゃんあーなるんだろうなっていうゴールが見えた気がする。
とりあえず、美人確定。
いや、ぶっちゃけここ私がどうかはともかく、殆ど美人しかいないんスけどね。
「お父さーん、お母さーん!」って愛衣ちゃんが家族やってるのは何かグッと来るものがあったよ。
ぶっちゃけネギ君達の明日の作戦が失敗したら皆終わりだもんな……うちの両親も……数ヶ月は会ってないし……はぁ。
ネギ君はその様子を見て少し羨ましそうな表情を一瞬見せた気がするけど、すぐに真剣な表情に戻って頷いてた。
祈ってるだけってのはやっぱり辛いけど……私にゃどうしようも無い。
そんなに強くなってどうすんだー!!って、前から思ってたけど、こーなってくると凄く意味あったんだなぁと今更思えてくる。
まさに大は小を兼ねるってこういう事を言うのかと。
後ですぐ分かったことなんだけど、グッドマン家の高音さんとこの本家以外の傍系の人達もゾロゾロ来てて、オスティアに黒衣の仮面集団が大量発生したらしい。

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―8月27日日本時間17時3分、麻帆良―

史上最大規模の作戦決行まで後1時間と少しという頃、麻帆良では混乱が生じ始めた。
日が傾き始め日没まで1時間程になった今、ようやく麻帆良の地下ゲートポートに強力な反応があった。
まだ発光するつもりはないが、かなり大量の魔分がこちらに流出してき始めた為、勝手に神木が発光し出した。
わざわざ抑える必要も無い為、これに関しては放置する。
超鈴音はと言えば、既に火星の神木・扶桑内の優曇華の中で嬉々として同調の際の補助プログラムの確認をしている。
予め近衛門には今日事を起こす予定だと伝えておいた為、もう間もなく魔法先生達を集め、さも自分も今知ったと言わんばかりに総員総力即応体勢を発動してくれる筈である。
そして今は自宅のログハウスの屋根の上からこちらを見て通信をかけてきているお嬢さん。

《茶々円、よく光ってるじゃないか。魔分が流れてくるのが丸分かりだな。いよいよという訳か》

お褒め頂き感謝。

《ええ、もう1時間半程です。世の中は火星大接近の天体観測で盛り上がる所なのでしょうが、これから世界のあちこちで光るので、大変恐縮ではありますが……私達がそれを台無しにします》

《茶々円が言うと皮肉にしか聞こえんな……。まあ火星なんて見ようと思えばいつでも見れるだろう》

《それはそうです。……しかし、火星はもう既に以前とは……海があり地表が大きく変わっていますので見ようと思えばというのは……少し語弊があるとは思いますが》

《私も協力した例の幻術を解かない限りは同じ事だろう》

《まあその通りなのですが……今年の6月10日と7月7日にスピリットとオポチュニティなる火星探査機が打ち上げられ、2004年の1月には両方火星表面に到着してしまうという物理的な事も因みに起こります……大気圏で燃え尽きるでしょうが。その前にフォボスとダイモスも星の運行を利用した術式の関係で発光するのでそこからですが……》

《まあやることやるんだな。私は情報規制だとかそういうのに興味はないが、その辺は超鈴音やじじぃ達が主導でどうにかするだろう》

超鈴音というからにはそれに私達も含まれている。

《そう……なるでしょうね、必ず》

《……しかしこの前、もし私が手伝うとしたら解決した後になると言っていたが……要するにもしも、どこかが血迷って馬鹿な攻撃をしかけてきたら防衛すれば良いのだろう?》

《……そういう事です。しかし、ほぼあり得ないでしょう。現実的に確率が高いのは他所の各国機関が麻帆良の調査に乗り出そうと挙ってやってくるぐらいでしょうか》

《何にしても、木をやられると私も困るからな。もしもの時は動くさ》

お嬢さんに限らず魔法生物全ての生命線。

《その時はお願いします、エヴァンジェリンお嬢さん》

《任せておけ。それにしても茶々円の目の前に随分慌てて明石の教授と神多羅木が認識阻害して飛んでるじゃないか》

今発光しているのを確認しに明石教授と神多羅木先生が木の前に浮遊術と箒でやってきている。

《流石に魔法世界がどうこうなるなんて、近衛門殿も口が裂けても事が起きるのを知ってはいても言えませんからね。一応確認は大事ですよ》

《ま、そうだな。しかしその様子だと木の周辺は魔分濃度が濃すぎるから一般人は避難した方がいいな》

《全くもってその通りです。私がいつもの姿で人々に呼びかける訳にもいきませんから……先生達には頑張ってもらうしかありません》

《麻帆良の住人の事だとどうせ、避難しても近くで発光現象見ようだとか言い出すんだろうがな》

それは大いにありえる……というより絶対そうなる。

《目を痛めるどころでは済まない発光をしかねませんので見学の際は遮光具を必携でお願いしたい所です》

《火星の大接近なんてどーでも良くなりそうだな》

《その通りかもしれませんね》

決して見世物のつもりはないのだが……それで楽しめてしまうというならそれで良い。
火星観測派と神木見物派で二分する事はあるだろうが。

《それでだ、ぼーやは帰ってくるのか?》

この前死にかけ、火星に出てきたのが……どうなるか。

《私もあちらの状況は把握できないので断言はできませんが……帰ってくるでしょう。ただネギ少年がやろうとしていた新術がどうなっているか……と》

《ああ、私の別荘で修行していた時は気づいていなかったみたいだが、ぼーやは闇の魔法よりも余程リスクのある新術の構想をしていたからな。だが……人間の身でやるには流石に無理だろう。それにそもそも手をつけるような余程の理由でも無い限りぼーやもやろうとはしないだろうさ》

余程の理由……はある。
あの魔分投射……多様変異性素粒子が生命体に及ぼす進化への道を開いていたとしたら……。

《そうだと良いですね……》

《ん……何だその引っかかる言い方は》

《いえ……ただ少し思うところあるだけです》

《ま……あと少し待てばすぐに分かることか》

《ええ、もう間もなくです。外で発光を見られても構いませんが、図書館島のクウネル殿の元に行って……地下のゲートが起動するのを待っても良いかもしれません》

《やはりこの反応はそうか。ぼーや達が帰ってくると前から言っていた事で大体分かってはいたが……肝心な事をよくまあいつも言わないでいるものだな》

《特に悪気はありません》

《……分かった。気が向いたらアルの所に行くとするよ》

そうこうしてお嬢さんとの会話を終え……近衛門は予定通り魔法先生達を緊急招集し、総員総力即応体勢を発令してくれた。
魔法先生達から魔分の集中について戦闘配置についておくべきではないかと提言があったが、それは最低限に留められ、木の周辺の住民を適当な理由をつけて避難させるのが最優先の運びとなった。
20年程前に廃棄したゲートについて明石教授からも質問があったがその調査隊はある程度に止められた。
神多羅木先生は私の事を知っている為、近衛門が多分何か知っているのだろうというような表情をしていたが、こちらは問題無い。
避難住民は結局お嬢さんの言った通り避難というよりも発光が見られる最適地に移動して行った……というのが正しいかもしれない。
ご老人達は皆揃って公民館……ではなくカフェテラスで夕日と発光を眺めながら一息ついている。
平和だ。

《キノ、もう少しですね》

《はい。ゲートポートから狙ったとおり魔分が流れてきたのでもう確実に成功させられます》

《私達はまた……プログラム実行状態に入るんですよね?》

《その方が全く無駄のなく実行できますから……当然そうです》

《うーん、なんだか全自動で終わっちゃいそうですね》

《私達の方も進化するという事です》

《私も準備万端ネ!翆坊主、サヨ、きちんと記録も抜かりはないカ?》

また楽しそうだ。

《大丈夫ですよ、鈴音さん!必ずビシっと世紀の奇跡の瞬間をとらえてみせます!》

《ええ、抜かりは無いですよ。私は途中で火星を担当しますが、そちらも大丈夫です》

《いやー、こうして直に作業に携われるというのは感慨深いものがあるが科学者としてやはり私も後で何があったか全部確認しないといけないからネ!頼むヨ!》

《はい!》

《了解です》

……楽しそうで何より、超鈴音も手伝うとなれば必ず上手く行く。
……いざ、史上最大規模の作戦の幕開け。



[21907] 58話 墓守り人の宮殿(魔法世界編18)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/06/11 21:16
―10月11日、2時頃、オスティア、連合・帝国・アリアドネー混成艦隊、オスティア艦隊旗艦フレスヴェルグ内格納庫、小型強襲用艦―

 日が昇ってから連合・帝国・アリアドネーは墓守り人の宮殿攻略作戦を実行する予定であったが、未明に廃都オスティアの魔力の集中に更なる異変があったという報告が観測班から入り、事態は急変した。
 幸いだったのは、出撃までに残り4時間という状況で、ほぼ艦隊の準備は整い、当然ネギ達が乗り込む武装コンテナ搭載式特殊小型強襲用艦の準備もできており、ネギ達本人も魔法球で予め睡眠を取った上で待機に入っており体勢が整っていた事であった。
 ネギ達が小型強襲用艦で待機している所へ、艦内放送が入る。
[[緊急報告! 完全なる世界が墓守り人の宮殿で何らかの動きを起こした模様! 尚、廃都オスティアから観測される魔力の総量は現在増加の一途を辿り、このままでは間もなく前大戦時とほぼ同等になると思われます!]]
 それに高畑が頭を上げる。
「奴らのほうが先に動いたのか」
「マズいな……」
「早行かんと」
 ネギと小太郎が続けて言い、
「今すぐ船を出す許可をゲーデル総督達に取りましょう」
 葛葉がそう言って、コンソールを叩き、通信を繋ぐ。
「ゲーデル総督、小型強襲用艦で先行する許可を」
 モニターにクルトの顔が映る。
『……そう、せざるを得ないようですね。先行を許可します。ですが、私も小型強襲用艦で同行します』
 クルトはこめかみに手を当て、眼鏡を押し上げながら言った。
「え!?」
「なんやて?」
 ネギと小太郎が驚きの声を上げ、真名が冷静に目を開く。
「ほう……」
 そこへフレスヴェルグのブリッジ内でクルトのすぐ隣にいた高畑が問いただす姿が映る。
『おい、クルト、それはどういうつもりだ!』
 クルトが高畑の方を向いて言う。
『どうもこうも、艦隊の指揮ならばリカードと提督がおられる。それに恐らく私の剣が今回程意味を為す機会はもう二度と無いだろう。わざわざ出し惜しみする必要もない』
 側に控えていたクルト直属の部下がその発言を諌める。
『総督、危険です! お考え直し下さい』
『危険を承知でネギ君達は先行するのですから条件は同じ。本来の作戦決行時、元々私はネギ君達に同行するつもりでした。奴らが先に動いたとなれば先行できるだけの戦力を持つネギ君達の作戦成功率を少しでも上げるのが道理です』
「そ……総督が……」
「確かに神鳴流である総督も同行するとあれば心強くはありますが……」
 ネギと刹那がそれぞれ呟いた。
 あくまで指揮をオスティア艦隊で続けると思っていたネギ達だったが総督の元々同行する予定だったという発言に更に驚く。
『クルト、ならそれは俺が行く』
『何を言っている。私の方が戦力になる。タカミチはここで戦線を維持しろ』
 クルトは曲げる気は無いというと、高畑が食い下がる。
『お前こそ、ここの指揮をっ!』
 そこへ、ブリッジの貧客席に座っていたグッドマン家当主が割り込む。
『総督、高畑殿、ならば両者共に同行すればよかろう』
『ご当主!?』
 高畑が振り向いた。
『我ら影使い一族の力を見くびってもらっては困る。事態が急を要するというなら尚更、先行する戦力は多い方がよかろう』
 通信用スクリーンが更に増え、テオドラがモニターに現れる。
『おい、タカミチ、クルト、そんな所で言い合いしている場合ではなかろう! リカード、オスティア艦隊の指揮は問題無いのか?』
 更に、話題を振られたメガロメセンブリア艦隊旗艦スヴァンフヴィートのデッキにいるリカードもモニターに映る。
『あったりめぇだ。スヴァンフヴィートは提督にお任せして、俺が移ればいいだけだぜ。さっさと行って来いよ。クルトにタカミチよぉ!』
 リカードがへへっと笑いながら言うと、新たな報告が入る。 
[[続けて報告! 廃都オスティア周辺から先日のものと同型と見られる召喚魔の出現を多数確認。急速に数を増やしている模様!]]
 クルトが舌打ちをする。
『もう来たかっ! これ以上は時間の無駄のようですね。お前が何と言おうと私は格納庫に降りる』
『仕方ない……分かった。ネギ君達、僕も同行する!』
 高畑がモニター越しにネギ達に言った。
「タカミチも!?」
『好きにしろ、タカミチ。ご当主、お願いします。リカード、オスティア艦隊を任せますよ』
『必ずや戦艦の防衛、果たしてみせよう』
『おうよ、任しとけ。それじゃ提督、スヴァンフヴィートは頼みます』
『うむ』
 そして、結局時間も無駄にかけていられず、高畑とクルトは共に小型強襲用艦のある格納庫に向かい出す。
 急ぎ移動している所、高畑がクルトに言う。
「クルト、お前がネギ君達に同行するとは意外だな」
「彼らは旧世界の学生、教師。今回の事も本来魔法世界の中で片付けるべき事だ。それが特にネギ君に頼らなければならない上、彼は……ナギというよりも性格はアリカ様に似ている。みすみす危険な場所に向かうのを黙って見過ごすようではアリカ様に申し訳が立たない」
 クルトはカツカツと急ぎ足のまま言った。
「……クルト……お前。確かに……ネギ君はアリカ様似だな……」
 意外な発言を聞き、高畑の足が一瞬遅くなる。
「タカミチ、今の話は無かった事にしろ」
 クルトは高畑に顔を見せずに前を向いて言った。
「ああ……分かってるさ」
 高畑は自然に頷き、手を握りしめた。
 2人が格納庫に到着してすぐに小型強襲用艦へとネギ達に有無を言わせず乗り込んで言う。
「待たせたね、ネギ君」
「それでは、行きましょう。時間がありませんので」
 クルトはツカツカとコンソールを操作し、ブリッジに通信を入れる。
「フレスヴェルグ! ハッチ開放!」
[[了解。フレスヴェルグ、ハッチ開放します]]
 ゴォォという音と共に、小型強襲用艦の目の前の隔壁が開き始める。
「タカミチ、一緒に付いて来てくれてありがとう」
「ああ、予定と違って成り行きで悪いね」
 高畑がそう言うと、続けてネギがクルトに向く。
「でも総督は……本当に良いんですか?」
 クルトはコンソールから手を離し、ネギ達の方を向いて言う。
「私は紅き翼とは袂を分かった身ですが、目的は同じです。作戦の成功率を上げるのであれば私が参加するほうが良いでしょう」
 ネギは自然に軽く頭を下げる。 
「……そうですね。総督、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
 そこへ、操縦席に座った真名が言う。
「ハッチが完全に開いた。発進させるぞ」
「お願いします、龍宮さん」
「了解した。発進!」
 真名は操縦桿を一気に倒す。
 直ちに小型強襲用艦は特殊精霊祈祷エンジンをフルスロットルで噴かせ、ハッチから飛翔する。
 星々が輝く夜空の中、艦は光球の発生源へ先行を開始した。
 最初の墓守り人の宮殿破壊作戦にあたり、小型強襲用艦の操舵は真名が行い、のどかと共に火器管制を行う。
 その遠隔補助を行うのはフレスヴェルグのデッキで待機している茶々丸。
 小型強襲用艦の映像をリアルタイムで共有することで、遠隔から適切に火器管制を運用できる。
 小型強襲用艦は最高速で闇夜の中を突き抜け光に向かって飛行を続けた。
 視界全てを埋め尽くすような召喚魔が見え始めた辺りで、母艦から通信が入る。
[[ほ、報告! て……敵集団総数計測不能……概算で50万を超えています! 敵集団は主に動く石像タイプ! 依然増加中!]]
 その具体的な数値にネギ達は驚く。
「50万も!?」
「50万ッ……。どうやら一筋縄には通してはいただけないようですね」
「数は多いが……全部が造物主の掟簡易タイプを持っている訳ではないだろう。戦線に関しては……信じるしか無いな」
 クルトと高畑が苦い顔をして言った。
「悪いが、そろそろ接敵のようだぞ」
 続けて真名がそう言い、召喚魔が射程範囲内に入る事を伝える。
「こうなっては迎え撃つ他ないでしょう」
「うん、皆で甲板に出よう」
 ネギがクルトの言葉に頷いて出撃を促す。
「任せるでござる」「やるアルよ!」「行くで!」「参りましょう」
 楓達は準備万端と返事をし、甲板への天井を開く。
「下部の武装コンテナをやられるとこちらが一撃でお陀仏だから頼むぞ」
 真名が操舵し続けるまま、注意する。
 墓守り人の宮殿破壊の為の武装コンテナは小型強襲用艦下部の砲台と接続している。
「ここで爆散する訳にはいきません。何としてでも死守します」
 葛葉がそう返し、甲板に上がり始めていたネギ達に続く。
 皆が甲板に上がった所、真名は隣の補助席に座っているのどかを一瞥する。
「宮崎、緊張しているのはわかるが、今この艦にいる戦力は魔法世界でも最高峰だ。安心しろ」
「は、はい……」
 のどかは緊張して頷いた。
[[報告! 墓守り人の宮殿周辺に魔力の渦のようなものの発生を確認! バリアーとなっている模様! そのまま突入を行うのは危険です!]]
 更なる報告に真名が呟き、確認する。
「防衛機能も備わっているとは厄介だな……。聞こえているか、ネギ先生達」
 真名の目の前に小さくネギの顔が映る。
『はい、聞こえました。ですが、魔力が渦となっているのであれば、僕の太陽道での魔法領域で艦全体を保護すれば無理やり突破できると思います。その際魔力の渦を逆に利用して最大出力で墓守り人の宮殿の上層部破壊を敢行することもできるかもしれません』
 真名が納得する。
「なるほど、逆に利用すると言う訳か」
『ネギ君、その魔法領域で突破できる可能性は?』
 高畑がそれの成功率をネギに尋ねた。
『思う、とは言ったけど、出力はゼロから極大まで自由だから、その渦を超える出力にすれば必ず成功するよ』
 高畑はネギの当然という様子に難しい顔をして言う。
『そうか……。ネギ君を最初から消耗させるのは避けたいが、特に策が無い今はそれに頼るしかない……か。龍宮君、突入前は一度バリアーに沿うよう飛行してもらえるかい?』
「了解した」
 クルトがネギに向かって言う。
『突入口の捜索は引き続き観測班が全力で行っているでしょうから、到着まで見つかればすぐにそちらに変更しますが良いですね?』
『はい、もちろんです。総督』
 そこで通信を切り、真名はのどかに聞こえるように言う。
「フ……去年ネギ先生が麻帆良に来た時の事を思い出すとまるで別人のようだな」
「私もそう思います……」
「あの先生はどんどん先に行ってしまうだろうから、しっかり袖を掴んでおくんだな」
 フッと笑って真名が言った。
「そ! そそそ! そんな事!」
 のどかがわたわたする。
「冗談だよ。少しは緊張がほぐれたか?」
「あ……は、はいっ!」
 のどかは確かに気が紛れた。
 そして間もなく、迎撃の体勢を整えたネギ達は甲板の上でとうとう召喚魔達と接敵する。
 一面空を埋め尽くすような黒い召喚魔の軍勢が目の前に広がっていた。
 艦首に立つネギが宣言する。
「先制攻撃で進行ルートを開けます!」
 即座に呪文詠唱に入り、両手を前に出す。
         ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
       ―契約により 我に従え 破壊の王―
  ―来れ終末の輝き 薄明の光芒 満ちれ エアロゾルよ―
   ―降臨し 全ての命ある者に 等しき死を 其は安らぎ也―
            ―天使の梯子!!!―
 詠唱の完了と同時に、千に及ぶ放射状の破壊光線が眩く輝く。
 眼前に広がる召喚魔の集団の内前方100度近くが次々に強烈な閃光に飲まれ、一掃された。
 負荷の大きい大呪文の為、ネギは義手である左腕を右腕で軽く抑えて言う。
「っく、はぁ……はぁっ……両翼後方の守備をお願いします!」
 道が開いた所目がけ、小型強襲用艦は一気に突き進む。
 しかし、直ぐ様艦艇の左右後方を召喚魔達が包囲する。

               ―光の53矢!!―光の53矢!!―
                    「ハァッ!」

  ―斬鉄閃!!―「はぁっ!」             「ふんっ!」―斬光閃!!―

―神珍鉄自在棍!!―「伸びるアル!」      「うりゃぁッ!」―咸卦・疾空白狼閃!!―

  ―斬空閃!!―「はっ!」              「ハッ!」―楓忍法鎖手裏剣之術!!―
                     「フッ!」
                 ―千条閃鏃無音拳!!!―

 だが、所定の位置に立っていた各自がそれに対しては遠距離攻撃を行い、召喚魔を次々に撃破していく。
 その強度はネギ達にとっては脆く、撃破自体は余裕だったが、数だけは非常に多く、いちいち相手にするのは非常に手間がかかる。
 そこへ混成艦隊のリカードから連絡が入る。
『混成艦隊の配備が整ったぜ! 今からそのザコ共の露払いをするから先に行けや!』
「了解です! リカードさん!」
 ネギは音声だけでそう言った。
『じゃ提督、一発お願いします』
『うむ』
『こちらも準備いいわ』
『こちらもじゃ。カウントするぞ! 3! 2! 1!』
 リカード、提督、セラス、テオドラの四つの顔が真名の目の前のモニターに映る。
『『『『全艦! 主砲一斉射撃!!!』』』』
 瞬間、小型強襲用艦の後方から、艦隊の主砲から放たれた幾つもの極大光線が飛ぶ。
 付近にいる召喚魔は形を失い一掃され、再び墓守り人の宮殿までの道が大きく開く。
 ただ、造物主の掟簡易タイプを装備した召喚魔だけはその攻撃を無効化して残った。
『速度を上げるぞ!』
 言って、真名はアクセルを踏みしめ、小型強襲用艦の速度を上げ距離を詰める。
 残った造物主の掟簡易タイプを持った召喚魔達が接近してくるも、甲板の上に立つ8人の前には為す術も無く撃破されていった。
 小型の物は言うまでもなく、大型の竜型を模したタイプの物が行く手を阻もうとも、高畑の七条大槍無音拳によって胴を貫かれ、神鳴流3名の弐の太刀によって翼、脚、腕を両断され、その損傷に耐え切れず、消滅した。
 そんな中、空いた所を埋めるようにすぐに近寄ってくる召喚魔の大群を切り抜け、魔力が渦巻くバリアーが目前に迫る。
 真名が操縦桿を右に倒し、その軌道に乗るコースを取る。
 観測班からの突入口発見報告は未だ無し。
 しかしそれを待って時間を取る訳にもいかず、止む無くネギが無理やり突破口を切り開く事になる。
『ネギ先生、軌道に乗った! いつでもいいぞ!』
 真名の言葉を聞き、ネギが応答する。
「分かりました! 行きます! 突入してください!」
 ネギの身体が変質し、目の色が金色に輝く。

          ―森羅万象・太陽道!!!―
        ―魔法領域最大展開!!出力極大!!!―

 同時に、小型強襲用艦全体が魔法領域によって夥しく白く輝く魔力で覆われる。
 艦首と左舷前方の出力が特に高められる。
 真名はネギの掛け声と同時に操縦桿を一気に左に倒す。
『了解! 突入するッ!』
 小型強襲用艦の左舷がバリアーに突貫し、強烈な衝撃と共に甲高い音が響き渡る。
「あァぁあァアッ!!!」
 バリアーを超える魔力量を纏った艦は徐々にバリアーの中へとめり込む。
「行けるで!」 「これ程とはっ!」 「行けます!」 「凄いアル!」
 小太郎達が行ける事を確信すると、同時に真名が茶々丸を呼ぶ。
『絡繰!』
『了解! 弾道計算開始します!』
 正味3秒。
 抵抗を受けながらも小型強襲用艦は分厚いバリアーを突き破る。
 突破地点は予定通り墓守り人の宮殿中層部やや上方。
 8方向に伸びる姿勢制御を保つかのような巨大岩と、その上のより長い十字橋。
 中層部には居住空間と思われるドーム状の施設が立ち並ぶのが見える位置。
『突破したッ! 宮崎! 絡繰!』
 真名が叫ぶ。

          ―魔法領域解除!!―
 瞬時にネギが魔法領域を解除する。

『はいっ!』 『了解!』

      ―対物破壊特化型対空魚雷・全弾発射!!!―

 砲台から一斉に対空魚雷が射出される。
 まだかなり離れてはいたが、墓守り人の宮殿中層部居住空間と上層部との境に向かって、間を置くこと無く次々と一斉射出された魚雷群が茶々丸の軌道計算に従って拡散していく。
 その魚雷は小型強襲用艦そのもの、武装コンテナ容量一杯に搭載されていた。
 ほぼ同時に太陽道の限界時間を無駄にしないようにネギの詠唱が開始する。
                    ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
                 ―破壊の王 高殿の王 我と共に 力を―
             ―来れ終末の輝き 薄明の光芒 満ちれ エアロゾルよ―
                 ―来れ巨神を滅ぼす 燃ゆる立つ雷霆―
                    ―集え 全ては 我が手に―
             ―降臨し 全ての命ある者に 等しき死を 其は安らぎ也―
                  ―百重千重と 重なりて 走れよ稲妻―
                     ―然して 死を記憶せよ―
 ネギの両の手の前に青白い電撃を纏う光球がみるみる内に形成され巨大化していく。
 周囲の魔力濃度を逆に利用する為、前回発動時よりも更に膨れ上がり、その膨張が完了した瞬間、

                      ― 天 の 雷 !!!―
《うぉアァアァァアッ!!》
 全てを無に帰す極光が煌いた。
 ソレは射出された対空魚雷の軌道の上から墓守り人の宮殿上層部を右から薙ぎ払う。
 その照射と同時に墓守り人の宮殿の端が即座に消滅し始める。
 全てが上手くいくかと思われたその時、刹那が気づく。
「何か来ます!」
 墓守り人の宮殿上層部から大量の巨大針が飛来してくる。
 配備されていた古代の迎撃兵器。
 それらは着弾する寸前の対空魚雷に向かって襲いかかる。
 小型強襲用艦が上層部が倒れては来ないであろう中層部に接近し続ける中での攻撃。
 そこへ高畑とクルトが艦首に踊り出て、
  「迎撃兵器っ!」   「邪魔を、させるかッ!」
― 千条閃鏃無音拳!!! ― ―斬空閃弐の太刀・百花繚乱!!!―

 魚雷に突撃する針を、無音拳が、高速の太刀による斬撃が、まとめて薙ぎ払う。
 高畑の無音拳の届かない針は対空魚雷を貫き着弾する前に爆破、誘爆も引き起こしてしまう。
 しかし、それでも物量の前に対空魚雷のうち6割は墓守り人の宮殿に着弾し容赦無く破壊をもたらしていく。
 天の雷を遮るものは何も無く、例え極光に針が当たろうとも瞬時に消滅、対空魚雷が着弾する地点より上の上層部を4秒間の照射で6割近く薙ぎ払った。
 それにより上層部は徐々に傾き始め、
《行けるッ!》
 身体の変質が進んでいたネギが叫びながら最後の一振りを行いにかかる。

            ― 絶 対 防 護 !!!!―

 突如、曼荼羅紋様のバリアーが無数に出現する。
《なっ!?》
 全てが消滅していく天の雷と対空魚雷の雨が着弾する中心から一瞬にして一帯広範囲に展開された、極めて強力な積層多重対物対魔法障壁。
 だが、完全に防いでいるという訳ではなく、実際は天の雷によって次々に魔法陣の障壁が1枚1枚破られる傍から、新たに術者により障壁が展開され続けていたのだった。
 2秒間、障壁と天の雷はせめぎ合って、7秒間の天の雷照射が終了。
 魚雷もあと少しを残しほぼ撃ち果たし終えた。

          ―太陽道・解除―

「はぁ……はぁっ、最後防がれたけど倒れるっ!」
 ネギの身体が実体を取り戻した。
 ネギの見立て通り、最後に防がれたものの上層部は音を立ててゆっくり傾き始める。
 天の雷だけが効いていた訳ではなく、魚雷による攻撃は満遍なく破壊をもたらしていたが為。
「防ぎに現れたということは上層部が儀式に重要なようですね!」

       ―斬空閃弐の太刀・百花繚乱!!!―

 クルトはそう言いながら、傾きながらも未だ上層部から迫り来る針を撃ち落とす。
「なればあそこにアスナ殿がいるということ!」
「しかしさっきの障壁は……反撃も来ないようだが……」
 楓と刹那がそれぞれ言い、真名の通信が入る。
『とにかく一度中層部近場のドームに魚雷で穴を空けてそこに着艦する! 楓は宮崎を!』
 真名はすぐに操縦桿を操作し、同時に中層部端のドームに残った魚雷を放ち、壁に穴を開ける。
 楓は真名の呼びかけに応じ直ちに機内に戻り天狗之隠蓑の中にのどかを入れに戻った。
 ネギ達は着艦するまでの数秒、降り注ぐ針を全力で撃ち落とし、被弾するのを防いぎ続けると、倒れかけていた上層部の周りに異変が起こるのを確認した。
「何やあれは!?」
「倒れないアル!」
「あんな広範囲の力場を維持できるなんて!」
 目に見えるレベルの謎の力場帯が上層部半ばで発動し、倒れかけていたソレがその姿勢を取り戻し、みるみるうちに傾く前の位置に戻っていく。
『ネギ先生、着艦する!』
「はい!」
 ネギは真名の声に即座に応じ、艦首に魔法領域を展開、
          ―魔法領域展開!! 出力最大!!―
           ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
             ―風花・風障壁!!―

 風花・風障壁も発動し、着艦の際の衝撃を和らげる。
 小型強襲用艦はドームの中へと飛び込み、床面を擦りながら反対側の壁にぶつかって止まる。
 特殊装甲のため目立った被害なく迎撃兵器の針の山から逃れる事に成功した。
 結果として、ネギ達は魔力の渦のバリアーを無理やり破った途端、墓守り人の宮殿自体を対空魚雷と高出力呪文で急襲するという正味12秒程度の電撃作戦を敢行。
 完全なる世界が明らかな反撃に出てくる前に破壊作戦を見事成功させた。
 ただ、物理的には倒壊してもおかしくない上層部が完全なる世界の術者の1人によってそれを抑えられているという状況だけが誤算だが、それは同時に上層部が重要であるのを露呈した事を意味し、強力な術者1人がそれを行う事で完全なる世界の戦力として外れた事をも意味していた。
 ネギが額を拭う。
「なんとか、侵入できたな……」
「こっからやで」
 刹那が上を見上げる。
「向かうは上層部ですね」
 クルトが太刀を鞘に一旦収める。
「恐らく向かえば連中と必ず戦闘になるでしょうが、止むを得ません」
 そこへ準備を整えた楓と真名が甲板に上がってくる。
「ネギ坊主、のどか殿を隠蓑の中に入れたでござる」
「ネギ先生、私も準備できた。行けるぞ」
 ネギが頷いて両手を掲げる。
「分かりました。どうせ罠があると思いますのでここから中心部まで一気に道を作ります」

       ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―

「ネギ坊主、それは私がやるアルよ。どっちアルか?」
 古がネギが詠唱を始めた途端遮るように言った。
「くーふぇさん? えっと、こっちの方向です」
 ネギは破壊すべき方向を指差す。
「分かった! 伸びるアル!」
 古菲の掛け声に従い神珍鉄自在棍が巨大化しながら伸びる。
 そのまま壁を轟音と共にぶち抜き、その後も共に次々と中層部のドーム群の壁を破壊していった。
「これで解決アル! アベアット!」
 神珍鉄自在棍がカードに戻り、十分な通路が完成した。
「……古は豪快だな」
 皆が驚くなか、真名だけがフッと笑って言った。
 上層部まで完全に道ができた訳ではないが、まずます、充分な距離。
「あはは、ありがとうございます。くーふぇさん」
 ネギは軽く笑ったが、クルトは少し呆れたような、困ったような表情を浮かべる。
「あまり破壊しない……という筈でしたが……もう遅いようですね」
 そこへ突如、空間全体に何者かの声が響く。
[[我が神聖なる墓所を荒らす者に永遠の眠りを]]
「今の声は!?」
「敵か!」
 ネギ達はどこからか敵が現れるかと皆それぞれ構えを取る。
 数秒の静寂の後、忽然とまた異なる声の人物が現れる。
「こんにちは…………ネギ先生」
 それは、ネギ達にとっては知っている人物。
 ネギは信じられない表情で声の主を見る。
「ザ……ザジさん……何故ここに」
「な、何でここにサーカスのザジ姉ちゃんがここにおんのや……」
 ネギに小太郎の2人以外も動揺を隠せないが、ザジと思われる人物が微笑みを浮かべながら発するプレッシャーのあまり、声が出ない。
「っ……いや、世界間移動ができない今、彼女がここにいる筈はない。これは罠だ! 悪いが議論の余地は無い!」
 その沈黙を真名が打ち破り、すかさず銃を構えて引き金を引き、立て続けに3発の弾丸を頭部に放つ。
 しかし、ザジが目を見開くと、その弾丸は当たる寸前で停止し、無力化される。
 クルトが太刀を引きぬく。
「くっ! 何者かは知りませんが道を開けて頂きましょう!」
「ならばっ!」
 その宣言に続き、真名、楓、刹那はそれぞれ接近し銃と剣を突きつけ、クルトは弐の太刀を放とうとする。
「かァっ!」 「ッく!」 「っ!?」 「これはっ!」
 しかし、4名は後方に吹き飛ばされ、更に何かによって空中に縫いとめられた上で動きを拘束される。
「くっ!」
 残りの者が焦って動こうとするが、それもザジと思われる人物が発するプレッシャーが一段と上昇し、気圧される。
「……動くなポョ。……君達を傷つけるつもりはないポョ。……私は君達を、君を止めにきたんだ……ポョ」
 尚もプレッシャーは上昇し、空間全体に語りかけるような声が響く。
「君は間違っているポョ。今や君は危険な存在ポヨ」
 言葉と共に空間が激しく揺らぎ出し、その場を崩壊せしめようかという程の膨大な魔力をザジと思われる人物は純粋に自身の身体からほとばしらせ始める。
「君の進む道は完全なる世界の進む道より多くの血を流すっ……ポイョ。最善とは言えなくとも完全なる世界の進む道こそ次善解。これ以上危険な君達をここに置いておく訳にはいかない……それと……最後の選択肢をあげるポョ」
 ザジと思われる人物から発せられる魔力の奔流が最高潮に達し、その発光が一段と強まった瞬間、周囲の風景が一変した。
 そして……ネギ達は墓守り人の宮殿からその存在を消した。
 蜃気楼のように風景が変わり、そこは暑さが残り、蝉の鳴く声の聞こえる何の変哲もない麻帆良学園。
「君がここで手を引けば、君達はこのままここへ返してあげるよ」
 ザジと思われる人物は両手を広げて言った。
 先程までいた空間を切り取ったかのように小型強襲用艦と割れた地面だけが場違いに麻帆良の街並みに混ざっている。
 そんなネギ達を学生達や会社員達が遠巻きに見て、中には手の込んだイベントなのかと思い携帯で写真を撮り始める者まで現れた。
 ネギは動揺して周囲を見渡す。
「こ……ここは……そんな……麻帆良学園?」
「まさか世界間移動ができるというのか……」
「幻術の類では……」
 ネギ達は目の前の光景があまりにもリアルで、麻帆良学園そのものであっても俄に信じる事はできはしなかった。
 依然として空中に縫いとめられ、絞めつけられていた内のクルトが声を絞り出す。
「ぐっ……馬鹿な……独力で超えるなどそんな話……何だこの見えない力はッ……」

     ―羅漢銭!!!―

 そこへ真名が魔眼でその拘束していた何かを羅漢銭を飛ばし、破壊した。
「はっ……はっ……」 「けほっ」 「し、してやられたでござるな……」
「くっ……解除感謝します、お嬢さん」
 4人はそのまま地に着地し体勢を整えるが、ネギ達は迂闊に動けばまた同じ力で拘束されると警戒し、様子を見る。
 そんな中、冷静になり始めていたネギが沈黙を破ってゆっくり口を開く。
「ここは……僕達の麻帆良学園ではありませんね」
「……何故そう思うポヨ?」
 ネギの確認を求める言葉に、その本人は不敵な笑みを崩さず聞き返した。
 ネギはパカッと口を開き、淡々と説明を始める。
「ゲートポート破壊によって地球と魔法世界の間に生じた時間差は最低でも4倍。ゲートポートが破壊されてから既に59日が経過していますが、単純に計算しても8月13日に15日を足しても28日。まだ夏休みの筈です。更に、時間差がそれ以上なら尚更まだ夏休みである筈。しかし学生達がこうして制服を着て登校しているという事は、ここは確かにリアルですが本当の麻帆良学園ではありえません」
 この混沌とした状況の中でも周囲の情報を汲み取ったネギは、ザジと思われる人物が作りだしたこの麻帆良学園の空間が偽物であるということを、ほぼ確信して実に冷静に語った。
「……ネギ君、確かにそうだね」
 高畑が軽く回りを一瞥して言い、葛葉が眼鏡に触れる。
「今の状況でよくそんな事を……」
「流石ネギやな」
「ネギ坊主、何言ってるか良くわからないアル!」
 小太郎と古が状況に合わない明るさで言ったが、
「古……」
 それに刹那が呆れた。
 他の面々もネギの今までの戦闘体勢に入っていた流れから言って普通は出てこない発言に呆気に取られた。
 ザジと思われる人物はネギの説明にいささか動揺しネギをプルプルと指差す。
「まさか……そんな人間の風習ごときでこの空間が偽物だと見抜かれるとは……盲点だったポョ……。か、確信した。やはり君は危険な存在ポヨ!」
 微妙に逆ギレしている様子。
 対して、ネギも指をさして対抗する。
「大体あなたは誰なんですか。ザジさんは語尾にポヨなんてつけません! 空中ブランコで一緒に遊んだ時は至って普通でした!」
 重ねるように小太郎が叫ぶ。
「そうや! ザジの姉ちゃんは意外と普通の口調やったで!」
 高畑がつい驚いてしまう。 
「ネギ君、ザジ君と話した事……あるのかい?」
「私は一度も見た事ないですが……」
「拙者も無いでござるな」
「私も無いアル!」
 寧ろザジと会話したことがあったという事の方がネギと小太郎以外の面々には驚きだった。
 一瞬動揺するが、 
「ポヨを付けていない……だ……騙された……。いや、語尾程度がどうしたというんだポョ! もういい! もう一度聞くポョ! 君が進む道は完全なる世界の進む道より多くの血を流す。それでも進むのか? ……君が進む道はきっとあの超鈴音の未来に繋がってるんだポョ!」
 完全に開き直って言った。
 それにネギが即座に反論する。
「世界そのものを消すのを現状維持の今の世界と比較して血が流れないのは当たり前です! そもそもそれは比較の対象として成り立っていない! しかもその……超さん……の……未来? どういう……」
 しかし、超の名を聞き言葉が止まる。
「超の……未来だと……」
「超君の……未来?」
「超鈴音の未来?」
 ザジに瓜二つの別人の超鈴音の未来という言葉に皆反応した。
 逆にそれに彼女はしまったという表情をする。
「くっ……そうか……これは起きなかった事かッ……! 深く語る必要はなし! やむを得ないポョ!」
 懐から取り出されたカードが光を放つ。

      ―幻灯のサーカス!!!―

「しまっ!?」
「アーティファク!?」
 ネギ達が反応する前に、全員その光に包まれ、1人として残さずその場で眠りについた……。
 静まり返った場で、彼女は少し安堵して、眠りに落ちたネギ達を見下ろして呟く。
「これで……全てが終わるまで眠っていると良い……ポョ」
 その幻灯のサーカスの影響下、ネギは夏休みが終わり何事も無く麻帆良学園2学期初日の朝に起きた。
 アスナを見た瞬間思わずネギは涙を流し一悶着、ニュースにて謎の飛行物体が発見された事が放送され違和感を感じるも、いつも通り教師として麻帆良学園女子中等部に生徒達と共に登校する生活を始めた。
 そんな中エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルに遭遇し、思わずマスターと呼ぶも「いきなりどうした? 確かに私は人生という点ではぼーやの先生のようなものだが、マスターと呼ばれる覚えはないな。それとも私の舞や茶道、囲碁の生徒でもやってみる気になったか?」と凛としながらも優しげに言われ、その返答にまた微妙な違和感を感じた。
 その日の授業が終わり生徒達と喫茶店に誘われ、何気ない平和な日常を過ごし、それを実感するも、何か大切な事を忘れているのでないか、とネギは思う。
 丁度そう考えていると、ある2人の人物が現れその思考を遮った。
 それはナギ・スプリングフィールドとアリカ・アナルキア・エンテオフュシア、ネギの両親その人。
 2人に話しかけられ、ネギは思わず涙を流し、周囲は慌てふためくも他愛のない会話を交わす。
 そのネギの様子を遠くから見つめるある人物は呟いた。
「……一度。一度堕ちれば二度とは戻れない……。ここは全てを絶ち切る場所……永遠の園、無垢なる楽園。完全なる世界」
 しかし、そんな彼女に気づく事無く、ネギは至福の一幕を過ごした。
 両親が来た事で騒がしい生徒達が皆集まり、お祭り騒ぎになるが、その夜、ネギは両親の泊まる宿で寝ることになり3人で一緒に向かった。
 途中、左右を両親に挟まれて手を繋いで歩き「楽しいか?幸せか?」と問われネギは涙を浮かべ「……はい。今とっても」と心から答えた。
 しかし、その次の瞬間ネギは両親の手を放す。
 両親はそのままネギがいるものとして歩いて行ってしまうが、ネギは歩みを止めて後ろを振り返り、真剣な顔をしてある人物に問いかけた。
「でも……これはホンモノじゃない。そうですね? ザジさん」
 そこにいたのはザジ・レイニーデイ本人。
 その表情は慈愛に満ちていた。
「はい、先生。でも……これもひとつの現実……」
 そして、会話は始まる。
「これが……完全なる世界の実現しようとしている世界だとでも言うんですか?」
 ネギが周囲を見渡して言った。
「……これは彼女のアーティファクトが造りだした幻影です。……ほぼ、同じようなものとは言えますが」
「幻影……?」
「ですが、これが完全なる世界と考えてもらっていいでしょう」
 ネギが手を広げる。
「こんな……こんな都合の良い夢がですか?」
 ザジが首を振る。
「ただの都合の良い夢ではありません。あり得たかもしれない幸福な現実。最善の可能世界……先生の場合は……」
 ザジは一呼吸置き、言葉を続ける。
「もしも20年前フェイト一味が全滅していたら。……こういう世界になります。彼らがいなければナギ・スプリングフィールドが行方不明になることはなく、6年前の先生の村の襲撃もナギ・スプリングフィールドによって未然に回避され、フェイトらの画策による修学旅行での事件も無くなり、先生が魔法世界に危険を冒してナギ・スプリングフィールドを探しに行くこともありません。つまり先生にとっての敵、戦いのない世界、清明で暖かな善意に満ち満ちた争いなき世界です」
 ネギはごくりと喉を鳴らし、尋ねる。
「……僕の場合、と言いましたね?」
「ええ、ネギ先生の仲間にも同じように体験してもらっています。お見せしましょうか」
 そう言ってザジは力を発現し、映像を見せようとするが、ネギが遮る。
「いえ……結構です。大体の想像はつきますし、僕が皆だけの世界を見ていいものではありません」
 それにサジは優しく微笑む。
「……ふふ、懸命な判断ですね。そう……完全なる世界は各人の願望や後悔から計算した、最も幸せな世界を提供します。人生のどの時期であるかも自由……死もなく幸福に満たされた暖かな世界。見方によってはこれを永遠の楽園の実現と捉えることもできますね」
「……でもそれはやはり本物ではありません」
 ザジが頷く。
「そう……一部異なりますが……彼女たちはまだ若い、その多くは……完全なる世界等なくとも、たった一歩のわずかな勇気でつかめる世界でしょう。……ここを抜け出るキーワードはわずかな勇気です」
 そこでネギは何故ザジが協力してくれるのかを疑問に思う。
「あ……あなたは……一体……?」
 ザジはその質問には答えない。
「それより……いいのですか先生? この世界はきっと、今後あなたがどれほどの力を費やしても、もう二度とは手に入らない楽園なのですよ」
 ネギが首を振る。
「いえ……もういいんです」
「……強がりを。せめて一晩……父に甘え、母の膝で眠ることは許されるというのに」
 ネギは視線を下に落とし、
「……これ以上甘えさせてもらったらもう戻ってこれなくなりそうで。それに……今も囚われている大切な人を僕は助けに行きます。だから……ここで立ち止まっている訳にはいかないんです」
 再びザジをしっかりと見て行った。
「……その身体でも、ですか?」
 ザジはおもむろにネギの傍に立ち、自らの顔をネギの顔に近づけながらその頬を両手でゆっくりと触れ、心配そうに問うた。
 そこでネギは確信する。
「やっぱり……あなたが……本物のザジさんなんですね」
「はい……外にいるのは私の姉です」
 冷静な決意を持ってネギは質問に答える。
「僕は……この身体でも、行きます。例えどうなろうとも……。ザジさん……マスターに、皆さんに戻れなかった時はごめんなさい、と伝えて貰えますか?」
「ええ……嫌です」
「え……あ! いたたた!」
 ザジは一瞬肯定するかと思われたが、眉間に皺を寄せ、触れていた指でネギの頬をつねり出した。
「ですが……今の私にはネギ先生を止める事はできません。ネギ先生、世界の崩壊自体は心配しなくて良いそうです。ネギ先生は思うとおりにして下さい」
 ザジはすぐに抓るのを止めて言った。
「それでは……やはり超さんが……」
「それについては答えませんが……ネギ先生がもしもの時……それは私の新しい友達に頼んでおきます。ですから……あと少し、あと少しだけ頑張って。これは……私が先生にできるおまじないです」
 サジはネギの額に右手を当て、両目を閉じて集中を始める。
 ネギはザジの言葉を繰り返す。
「友達……ですか。ザジさん……おまじない……というのは?」
「私の姉は彼らと全く同じ理由、意図で動いている訳ではありません。姉が協力するのは力ある者の責務として。……できました。それで姉に会えば……きっと分かってくれます」
 ザジが手を離すとネギの額には魔族特有の刻印が付いていた。
「あ……ありがとうございます」
 とりあえずネギは感謝し、自分の額に何かついたのはわかったが詳しくは分からず、少し額に触れて確認するに留まった。
「では……ネギ先生」
 ザジがネギから距離を取る。
「はい、僕は前を向いて進みます」
「必ず、またお会いしましょう、ネギ先生」
 ネギが頷く。
「はい、ザジさん。また」

      ―わずかな勇気!!!―

 そしてネギは幻灯のサーカスからの脱出のキーワードを唱え、辺りは再び光に包まれた。
 偽物の麻帆良学園ではしばらく時間が経過しても眠りに落ちたまま全く反応を示さないネギ達の姿があった。
「無理も無い……。満たされぬ想いが多ければ多いほど、心の穴が大きければ大きい者ほど、幸福という甘美な夢……完全なる世界からは逃れられぬポョ。本物の術式ではないが……」
 その様子を眺め、ザジの姉は呟く。
 刻々と時間が過ぎていくかと思われたその時。
 倒れていたネギがスッと立ち上がり一言。
「はじめまして……ザジさんのお姉さん」
 ザジが目を見開き、
「バカな……一体どうやって……。そうか……我が妹の手引きポョね、ネギ先生」
 その事実に一瞬目を疑うが直ぐ様その原因に気づいた。
 蝉の声が鳴り響く中、2人は静かに対峙する。
「ええ、ザジさんのおかげです。それと……ザジさんからおまじないをして貰いました。これです」
 ネギはそう言って自分の前髪を上げて額を見せる。
 ザジの姉が声を上げる。
「……それは、アイオーンの印!」
「これでザジさんのお姉さんに会えばきっと分かってくれるとザジさんは言っていました」
 ザジの姉が立ち上がり、
「……いいだろう……少年。それを確認する前に問おう。どうして完全なる世界を止めようとするポョ。今体験した君の世界をわざわざ捨ててまで」
 落ち着いた様子でそうネギに尋ねた。
 ネギは胸に手を当ててゆっくり話す。
「……僕の大切な人を助けに行くため。これが僕にとっての一番であり、最大の原動力です。勝手な言いようですが、この魔法世界を滅びから救うというのは僕がどうにかできる事ではありません。確かに体験したあの世界は幸福に満ちていたし、僕にとって2度と手に入れる事のできないものだというのも分かっています。ですが、それでも、僕はこちらで前へ進む事を選びます」
 ザジの姉は顔を僅かにしかめる。
「……実に自分勝手な発言。全く以て人間はどこまでも愚かで度し難い……ポョ」
 ザジの姉は表情を緩めて息をつく。
「しかし下手に綺麗事を並べられるよりも余程マシ……ポョか。そう……知っての通りこの世界はいずれ滅びるポョ。その崩壊に巻き込まれて魔法世界12億の民の多くは死に絶え、なんとか生き残り不毛の荒野に取り残された者達も生存をかけて地球人類との100年を超える争いに叩き込まれ……悲惨な歴史を辿る……事になるポョ。……この魔法世界の崩壊というものが解決不可能、避け得ることのできない唯一の未来ポョ。私の研究機関による試算では最低で9年6ヶ月の後に崩壊が始まるポョ」
「そんな未来が……」
 ネギはザジの姉の説明に思わず驚きの声を漏らした。
「これら全ての悲劇を回避するためには完全なる世界の計画通り、この世界全てを完全なる世界に封ずる他ないポョ。私は魔法世界人でも旧世界人でも無いが力ある者の責務としてこれら未曾有の危機を見過ごすことはできないポョ。世界を救った英雄の息子である君がこれまで無謀な行動に出ることがないよう祈って、我が妹の眼を通して監視をしていたポョ」
 そんな事が、とネギは呟く。
「ザジさんの眼を通して……僕を監視……」
 ザジの姉が予め注意するように言う。
「勘違いしないように言っておくが我が妹は自分の好きなように生きているだけポョ。私が旧世界に赴いて直接君を監視しても良かったが……それなら好都合と我が妹が志願しただけの話ポョ」
「そう……ですか」
 ザジの姉は更に質問を重ねる。
「黄昏の姫御子の力はある側面ではこの世界全てを、崩壊どころかあらゆる不条理からも救う為に使われるポョ。それでも君は止めようとするポョか?」
 ネギは即座に首を縦に一度だけ振る。
「はい。僕の決心は変わりません。僕は、僕自身が思うアスナさんの為に、僕自身の為にも、僕の自分勝手で、僕の大切なアスナさんを取り戻します。いくらそれで世界が救われようと黙って見過ごす訳にはいきません」
 は、と息を吐き、ザジの姉が言う。
「……世界と個人を天秤にかけ個人を取るとは、ほとほと自分勝手ポョ。自覚がある上でそういうのだから尚性質が悪い」
 ネギが一歩前に出て訴えるように言う。
「どう言われようと構いません。それと……もし僕だったら崩壊まであなたが言うように、まだ9年6ヶ月あるなら、そのギリギリまで崩壊を回避、解決する方法を探します。それをせずに、今、世界の終わりと始まりの魔法を発動させるのは、未来がどうであれ、実際実現可能か不可能か関係なく、僕からしてみれば、ただ諦めているだけとしか思えません」
「たった1人。ちっぽけな人間の可能性……そんなものを信じて賭けられる程世界は軽くはないポョ……」
 ザジの姉は片手を宙に掲げて見せて言った。
 今度はネギが質問をする。
「一つ聞いてもいいですか。世界の終わりと始まりの魔法……それはアスナさん自身にも有効なんですか? アスナさんの力を使うというならアスナさん自身は完全なる世界には送れないのではありませんか? もしそうだとすれば、全てを救うというのは正しくありません。ただ1人を除いて、他全てを救う、の間違いです」
 ネギが一本だけ指を立てて言った。
 ザジの姉がそれを聞きくつくつと笑い始め、口を開く。
「……その通りポョ。黄昏の姫御子自身には効果は無い、送られる事は無い、救われ無い。しかし多くを救うために少ないもの、小さいものを切り捨てる。これは君達人間の間では日常茶飯事の筈ポョ」
 ネギは思ったとおりと言う。
「……やはり、そうですか。日常茶飯事……その通りかもしれません。でも、そうであっても、そうであるなら尚更今の僕はその少ないものの1人として、たった1人のアスナさんを選びます」
 聞いて、ザジの姉は一歩前に進む。
「……は……君の決心の固さは分かったポョ。話を戻そう。さっき監視していたと言ったが……どうやら君以外の所に重大な漏れがあったらしいポョ。特に君のその常軌を逸した技法の根源に繋がるものなのだと思うポョ。さて、そろそろその印を確認させて貰うポョよ」
「はい。……どうぞ」
「それで……私はどうするか最終判断をするポョ」
 ネギとザジの姉はお互いに歩み寄り距離を詰める。
 そしてザジの姉がネギの額の印に触れる。
 印が光を放ち、徐々にその輝きが失われた時、ネギの額の印は消えていた。
 逆に印を吸収したかのように、ザジの姉の両目にはその印が浮かび上がり、虚空を見つめ、その表情も刻々と変化しながら声を出す。
「…………なっ……まさか……そんな超常現象が起きていたポョとは……。確かにこれは我が妹が印を使うに値する。私の行動原理を理解した上で……と言ったところポョか。しかしこの関連事項だけ隠していたなんて……帰ってきたらお仕置きが必要ポョね……」
 ザジの姉はネギから大きく離れ、語りかける。
「少年、力ある者の責務としては、この魔法世界がこのまま続くとなればこの戦いに私が介入する理由は今やもう無いポョ。古き友に呼ばれて来たが、積極的な協力はここまでとするポョ。既に儀式は始まって時間も残り少ない。儀式が成功するのが先か、君達がそれを防ぐのが先か、その行く末を見届けさせてもらうポョ。さぁ行け!! 人間達よ!!」
 最後にそう高らかに宣言した瞬間、麻帆良学園の風景に雷が落ち、空間がガラスが割れるような音を立てて崩壊する。
 ネギが気がつくと、そこは墓守り人の宮殿中層部、小型強襲用艦が無理矢理着艦した元の場所。
 その場には既にザジの姉の姿は無く、間もなくネギ以外の者達は遅れて眠りから覚め始めた……。


―10月11日、4時11分、連合・帝国・アリアドネー混成艦隊、儀式完了迄1時間49分―

 ネギ達が墓守り人の宮殿のバリアーを突破して破壊作戦もおおよそ成功した事が判明した際、混成艦隊の士気は上がりに上がった。
 しかし、その後ネギ達が中層部に着艦してからすぐにザジの姉が登場した途端小型強襲用艦そのものの反応がロストした事が判明し、その原因不明の事態から後十数分で2時間が経過しようかという頃、その状況を打開しようにも圧倒的な戦力差の前に防戦一方の混成艦隊は手をこまねいていた。
 混成艦隊の総数は53隻。
 先日の完全なる世界の巨大召喚魔の襲撃でかなり数を減らされていたにも関わらず、急を要して遠隔地から戦艦を結集させるのはこれが限界だった。
 実際には作戦開始時刻6時にはメガロメセンブリア本国からも遅れて艦隊が追加で到着する予定であったが、先に完全なる世界の動きが始まってしまった。
 混成艦隊53隻に対し、この2時間近くで40万にまで減らしたものの依然大量の召喚魔との兵力差は圧倒的。
 更に、真正の人間であるメガロセンブリア本国出身の者が少なく、この戦線において生身で直接出撃するも、自分が真正の人間であるのかどうか分かっていない者達は造物主の掟簡易タイプを装備した個体に為す術も無く、容赦なく放たれるリライトの光線によって消滅させられていった。
 その状況でも混成艦隊の戦線維持を可能としていたのは、グッドマン家を筆頭にして今回の戦に集った勇気ある者達の危険を省みない獅子奮迅の活躍だった。
 彼らは各戦艦の上に立ち、また箒で艦隊の弱点の近くを飛行して固めながら、襲い来る動く石像タイプ、黒一色の召喚魔の軍勢の迎撃を行っていた。
 オスティア艦隊旗艦、フレスヴェルグの甲板に両手で杖をつき、どっしりと構えて立つグッドマン家当主、源治・D・グッドマンは全体に指示する。
[[攻撃の手を緩めるな! 世界の命運、この一戦に有り! 影使い一族の力をここに示せ! 味方撃ちに気をつけよ! 総員、放てッ!!]]

     ― 千の影槍!!! ―      ― 千の影槍!!! ―      ― 千の影槍!!! ―      ― 千の影槍!!! ―      ― 千の影槍!!! ―

  ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―

―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―    ―百の影槍!!―     ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―

  ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―

―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―    ―百の影槍!!―     ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―

  ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―   ―百の影槍!!―

 指揮と共に、空を埋め尽くす黒い軍勢に対し、黒衣装に仮面を被った者達が、それぞれ己が立つ戦艦を守るべくして、影槍を一斉に放ち、次々と串刺しにして葬り去る。
 そんな中、ネギ達の中で待機している筈だったが、意を決して戦線に参加している者達の姿もあった。
「お姉様が頑張っているなら私もっ!」

           ―メイプル・ネイプル・アラモード―
―ものみな 焼き尽くす 浄化の炎 破壊の王にして 再生の徴よ―
         ―我が手に宿りて 敵を喰らえ―
              ―紅き焔!!!―

 愛衣は連合艦標準艦載砲に匹敵する紅き焔を自ら放ち密集していた3体の召喚魔を纏めて爆破して消滅させた。
「あの馬鹿ネギ! 反応が消えたってどういう事よ! 全くっ!」
 箒に乗りアーニャが文句を言うところに、召喚魔が接近するが、
「む、邪魔よッ!」

―アーニャ・フレイム・バスターッ!!!―

 アーニャは咄嗟に箒を両手で掴み、軽く逆立ち状態になったかと思えば、炎を纏った脚によるかなりアクロバットな蹴りを放って接近してきた小型召喚魔を倒す。
 そこへ愛衣の母が注意を呼びかける。
「愛衣、アーニャちゃん! そんな前に出ては危険よ! 少し下がりなさい!」

―魔法の射手・連弾・火の57矢!!―

「お母さん!」
 愛衣とその母とアーニャは共に箒で戦艦の周りを飛んで戦っていた。
 その丁度反対側では夕映とベアトリクスもアリアドネー戦乙女騎士団の甲冑を装備し、箒で空を飛びながら、魔法剣を懸命に振い続ける。
「ベアトリクス!」     「ユエさん!」

―雷撃武器強化!!―  ―氷結武器強化!!―

「これ以上こいつらを先に行かせる訳にはいかないです!」
「もちろんです! お嬢様達の為にも、先に行かれたネギ様達の為にも!」
 2人は掛け声と共に召喚魔に斬りかかる。
「「はぁぁぁッ!!」」
 雷と氷の属性魔法で強化を施し威力を底上げした魔法剣は、その召喚魔を両断して消滅させた。
 放出系魔法よりも武器強化の方が魔力の消費量も抑えられ、長時間戦闘に向きである為の戦法であった。
 一方、連合艦隊旗艦スヴァンフヴィートの甲板上で召喚魔を撃破していたのは風太郎・D・グッドマン、その姪の高音、そしてその父親の凛太郎・D・グッドマン。
「高畑殿達はどうしたというのだ!」
 風太郎は言いながら、漆黒の槍を放つ。

― 千の影槍!!! ―

「未だ反応はロストしたままだそうです!」
 高音が答え、同様にその下位魔法を放つ。

―百の影槍!!―

「今は彼らを信じてここを守る事に専念するしかあるまい! 高音、そろそろ疲労が溜まってきた頃だろうがマズいと思ったら下がれ!」

― 千の影槍!!! ―

「分かっていますわ、お父様!」
 高音の返事に加え、風太郎が凛太郎へ言う。 
「私が言えた義理では無いが、兄上も長らく戦いから離れていたならそろそろ休息を取られたほうがよかろう!」

― 千の影槍!!! ―

「何を抜かすかこの風来坊が! 何のまだまだ!」

― 千の影槍!!! ―

 連合艦隊旗艦スヴァンフヴィート。
 53隻の中ではその船体は最も大きく、守りには多くの術者を要したが、とりわけ2人の千の影槍使いと、1人の百の影槍使いが放つ放射状に突き出す影槍によって、召喚魔は近づく事もままならずことごとく撃滅され、依然目立った損傷も無く健在そのものであった。
 特に風太郎の千の影槍1本1本の威力は戦線に出ているグッドマン家の者達の中では最高であり、並の術者が3本の影槍をかけて倒すものも風太郎にかかればたった1本で安々倒すどころか、余裕で貫通し、その後ろに蠢く複数の召喚魔すらもまとめて撃破する事ができる程であった。
 また、直接戦いに出ている者達だけではなく、戦艦内では戦闘による負傷者達の手当をすることで戦線を陰から維持している者達の姿もあった。
「このか! 包帯持ってきたよ!」
 美空は医療物資が置いてある部屋から包帯を抱えて近衛木乃香のいる救護室にココネと共にやってきた。
 すぐに木乃香が返事をする。
「分かったえ! 美空ちゃん! そこに置いといてな! あ! それと新しいお湯貰ってきてくれへん?」

―治癒!!―

 パッと顔を上げて言った木乃香はてきぱきと、戦闘で打撲や切り傷を負った者達の治療を行い続ける。
「あいよー! このか了解! ココネ次行くよ!」
「うん」
 美空とココネはまた指示通り部屋を後にした。
 美空は最初、戦闘に突入してからというもの、仲間達の異様な状況適応能力の高さにまたもや呆れ「付いていけねースよ」とぼやきながらもフレスヴェルグのデッキで茶々丸の近くで共にモニターを見つつ、一応シスターらしくそれなりに祈っていた。
 しかし、そんな暇そうな所を近衛木乃香に引っ張られ、成り行きで働く事になり、なんだかんだ意外と本人も状況に適応していたのだった。
 また、エミリィとコレットと言えば、混成艦隊の中ではかなり後方に展開している、セラス率いるアリアドネー魔法騎士団の戦艦の中で木乃香達と同じように後方支援に回っていた。
《コレットさん! 三番砲塔の魚雷残弾数はどうなっていますの!?》
 エミリィが砲台にいるコレットに念話で呼びかける。
《後5分もしたら尽きるかも! 今から格納庫に補充の連絡を入れるよ!》
《こちらもそろそろ尽きそうですが、格納庫の在庫も残り少なくなって参りましたわね》
《でも、やるっきゃないよ!》
《当然ですわ!》
 亜人種は紛れもなくリライトの餌食になるという現実から、直接戦闘に撃って出ることはできない。
 それでも今自分たちが出来ることを精一杯行っていた。
 問題のロストしたネギ達は、一切目を離さずフレスヴェルグ内デッキでモニターし続けていた茶々丸とドネットが、4時27分に反応が復活したのを確認した。
「リカード指揮官代行! ネギ先生達、小型強襲用艦の反応、復活しました!」
 茶々丸が報告し、ドネットがモニターを見て言う。
「恐らく空間系の術に閉じ込められていたようね」
「おおっ!」  「真か!」  「それはっ!」
 その報告に同じデッキ内で働く者達は希望を取り戻したかのようなどよめきを上げる。
「あいつらやっと戻ってきたか! 全員無事なのか!?」
 遅いぜ、とリカードが拳を握りしめる。
「ここから確認する限りではネギ先生以外が倒れているようですが特に目立った外傷もなく全員無事のようです。先ほど現れた人物も姿がありません」
『茶々丸さん! 心配かけてすいません! 時間をかなり喰ってしまったようなので急ぎます! 皆さん起きてください!』
 茶々丸による状況報告が行われてすぐ、ネギからの音声通信が入った。
 リカードが唸る。
「眠らされてたみたいだが……一体何の罠に嵌ったんだぁ?」
『おお、ネギ達は無事じゃったか!』
『信じるしか無かったけれど、良かったわ。でも依然一切の予断は許さない事に変わり無いわ』
 そこへテオドラとセラスが会話に割り込む。
「ネギ先生、ご無事で何よりです。観測班の情報によると、墓守り人の宮殿上層部中間で左右に伸びる場所の先端に特に魔力が集中している模様です」
 茶々丸がネギにそう伝えると、一つ間を置いてネギが返事をする。
『……分かりました! 皆さんご心配おかけしました! ありがとうございます!』
 言ってネギは時間が惜しいのか通信を切断した。
「あいつらに賭けるしかねぇが……にしても上層部の破壊は大正解だったんだな」
 リカードの言葉に、ドネットが続く。
「以前は中層部最奥という情報があったようですが場所にズレがあったようですね」
「前大戦の時みてぇに突然高魔力源体が現れなけりゃいいんだが……」
「反転封印術式を実行するきっかけとなった現象ですね」
「だが今回はそれができるだけの数の戦艦もなけりゃこの場所じゃ位置的にも無理だ。状況はかなりマズい。だがまぁ、あいつら信じるしかねぇな」
 リカードは腕を組んで言った。
「ネギ先生達ならきっと止めてみせる筈です」
 茶々丸が振り返って言い、ドネットが頷く。
「ええ……そう信じるしかないわ」
 前大戦時は連合・帝国・アリアドネー混成艦隊の総数は今回の数倍が揃っており、墓守り人の宮殿を全方位から囲むことができたが、今回それは絶望的だった。


―10月11日、2時29分、墓守り人の宮殿上層大祭壇―

 時間を遡ることおよそ2時間。
 ネギ達が墓守り人の宮殿のバリアーを予想外にも無理矢理突破し、破壊作戦を敢行するよりも少し前。
 丁度儀式の最終段階に入るまであと30分という頃、上層大祭壇にいたのはフェイト・アーウェルンクス、デュナミス、フェイトの部下4人。
 デュナミスが何やら準備を終えた所フェイトが尋ねる。
「準備は終わったの?」
 デュナミスが答える。
「うむ。後は姫君の力をお借りするのみ。テルティウム、後は任す。調、敵混成艦隊の状況はどうか?」
 そう聞かれ、未だ新オスティアに近い空域に展開している連合・帝国・アリアドネーの混成艦隊の状況を調が報告する

「混成艦隊は艦艇53隻。我が方50万の傀儡悪魔との兵力差は圧倒的。さらに真正の人間であるメガロセンブリア本国出身の兵士が少ないため、多くは我が方の造物主の掟装備の個体には為す術も無いでしょう。混成艦隊はもう間もなく傀儡悪魔と接敵しますが、一隻小型の艦艇が先ほど先行を始め猛スピードでこちらに接近しています」
 デュナミスが満足そうに言う。
「ふむ。こちらはほぼ順調という訳だ。その一隻の小型艦が恐らく例の奴らだと思われるがそれさえ無力化できれば問題ないだろう。墓守り人の宮殿全体の強固なバリアーを抜くことすら叶わぬかもしれぬがな」
「上か下からなら入って来られるだろうから油断はできないよ」
 フェイトが無関心そうな目で言った。
「フ……それでも迎撃兵器を前に虚しく下層以外には行き場もなかろう。しかしやはり例の少年の無力化ができなかったのは痛手だな」
 フェイトは片手を見ながら言う。
「重要な事だったけど……彼の状況から言って次で確実に終わる。脅威ではあるけどリスクが高すぎるあの技法はもう早々使えはしないよ。あの時点では貴方も……さほど重視していなかったろう」
「しかし、来るとなれば排除せねばならん」
「なら、お好きに」
 デュナミスがフェイトを一瞥する。
「良いのか? 貴様は彼の少年に少なからぬ執着を見せていたと思うが」
「……別に。あなたの好きにしたらいいさ、僕はすぐに仕上げに取り掛かるよ」
 言ってフェイトはカツカツと祭壇に近づく。
「それでは我自ら下に降りて出迎えよう……」
 そこに控えていたフェイトの部下3人が前に出て言う。
「「「デュナミス様! 私達もお供致します!」」」
「……好きにするが良い」
 言って、デュナミスは中層部に移動を開始しようとその場をフェイトの部下3人と共に場を後にしてから間もなく。
 彼らの予想だにしない事態が起きる。
「先行する小型艦、最も分厚いバリアーの周囲を旋回して時間を潰していまっ! なっ! 直接バリアーに突撃!?」
 フェイトはその報告に調に振り返り、呆れた顔をして言う。
「馬鹿な事を……大破するよ」
「いえ! 突破! モニターをご覧下さ!? 攻撃!? キャァァッ!!」
 瞬間、宮殿全体が激しく揺れ始める。
 バリアーを突破したばかりの小型強襲用艦から放たれた対空魚雷群と天の雷による衝撃。
「まさか分かっていて使うというのか!? 愚かな!」
 フェイトはまさかネギが太陽道を、しかもこのタイミングで使うとは考えておらず、常の無表情を崩し驚愕した。
 テロ攻撃に近い事をネギが行うとは思っていなかった理由は、フェイトはネギの太陽道を大拳闘大会と自身との戦闘において2度見て、一度発動すれば途中で解除出来ないものと考えていた故の失念だった。
「このままでは、倒壊する可能性がっ!」
 調が動揺して言う。
「たしかにここが倒されれば儀式は……っ!」
 フェイトが動こうかという時。

            ― 絶 対 防 護 !!!!―

 突如、激しい衝撃が止む。
「収まった!? あ、あれは! ぼ、墓所の主様! す、凄い!」
 フードを被って表情は見えない小柄な人物、墓所の主が、造物主の掟を用いながら両手で強固かつ大規模な障壁を展開し、天の雷と対空魚雷の集中砲火の爆心地で完全に守りきっている姿が、爆煙の中、モニターにかすかに映る。
「あの人か……へえ……あれを防げるのか……」
 フェイトは墓所の主が動いた事にもやや驚いたが、寧ろネギの攻撃を防いでいる事により驚く様子を見せた。
 そして間もなく天の雷の照射が終わる。
 小型強襲用艦は迎撃兵器をやりすごしながら無理矢理近場の中層部に着艦を試みて接近する。
「敵小型艦! 中層部に着艦する模様です! し、しかしこのままではやはり倒壊……!?」
 調が幾つもモニターを開き状況を報告し続けるが、そこへ、
[[落ち着くのじゃ。倒れさせぬ]]
 墓所の主が全体に聞こえるような言葉を発し、未だ朦々と上がる煙に包まれる中、上層部中間地点で強大な力場を展開する。 すると倒壊し始めた上層部そのものの位置は元の座標へと戻り出し、更に維持され始めた。
「一体何事だ!」
「「「フェイト様!!」」」
「何ですの~?」
 大祭殿を後にしたばかりのデュナミスとフェイトの部下3人と今まで辺りをふらついていた月詠までが状況を確認しに現れた。
 フェイトがそちらを見て言う。
「彼らが墓守り人の宮殿の破壊攻撃を仕掛けてきたんだよ」
「何だと! バリアーはどうやって抜けた!」
 上から入ってきたのか、とデュナミスが言うと、調が報告する。
「い、異常な魔力で艦そのものを覆い無理矢理突破されました」
「どうやらあの技は任意で解除もできたようだね……。意外と自由が効くのか……それとも改良したのか。何にしてもやられた」
 デュナミスが両手をギリッと握りしめる。
「やはり前回潰しておけばっ……!!」
「敵、中層部に着艦しました!」
 すぐにデュナミスが反応する。
「む! なれば、我が向かおう!」
[[まだ手を出すな。私の旧知の者を呼んだ。間もなく来る]]
 再び墓所の主の声が響き、デュナミスが怪訝な顔をする。
「何だと?」
「敵、続けて中層部居住区の壁を次々破壊していきます!」
 調の報告でデュナミスは気を逸らされ、
「おのれ奴ら……好き勝手しおって……! む、あれはクルト・ゲーデルに高畑・T・タカミチ!! ぐぬぬ、忌々しい!!」
 クルトと高畑の姿に恨みを募らせる。
[[……我が神聖なる墓所を荒らす者に永遠の眠りを]]
 更に墓所の主の声が響き、暦が宙を見上げる。
「ぼ、墓所の主様怒ってるような……」
「し……しかし墓所の主様は一体……」
 焔がそう呟いた。
 2人にとって未だ詳細不明の墓所の主が発言するだけでも珍しいというのに、何やら怒っているというのは少し不気味だった。
「な、謎の人物が現れました!」
 そこへ調が叫ぶ。
「それが墓所の主様のお知り合い!?」
「モニターに出しますか? フェイト様?」
「どうぞ」
 フェイトは軽く肯定し、調はモニターに謎の人物の映像を出す。
 暦がその人物を見て呟く。
「ふぅむ。見覚えがないですね……」
「おぉお!」
 無口な環が珍しく驚きの声を上げたが、謎の人物、ザジの姉が丁度クルト達4人の動きを空中に拘束した所だった。
「つ、強い!」
 しかし、
「……ん……知らぬな」
「僕も知らないね」
 デュナミスとフェイトはザジの姉は知らないと言った。
「あ! き、消えた!?」
 そのままモニターから小型強襲艦もろともネギ達とザジの姉が消失した。
「敵一行、謎の人物との戦闘の末小型艦ごと反応が掻き消えました!」
「空間系か……」
 フェイトが呟くと、墓所の主が呼びかけてくる。
[[……2度とこのような不測の事態が起きない限りあれで奴らは終わりじゃ。デュナミスよ、4、5、6の稼働はどうなっておるか]]
「む……貴様に言われずとも既に済ませた。儀式の30分前には稼働する」
 デュナミスがムッとしながら答えた。
「4、5、6を……? さっきのはそれか……」
 フェイトはその発言に余り良い表情をしない。
[[30分……ならぬ。その稼働、早めよ。奴らは危険じゃ。確実に止めねばならぬ]]
 デュナミスが鼻を鳴らす。
「ふん……貴様に命令されるのは癪だが、奴らがいないのならばする事も無し。いいだろう。奴らは油断できぬからな」
 続けて墓所の主がフェイトに指示を出す。
[[テルティウム、最終段階に入り次第すぐに彼の復活も行うのじゃ。今奴らがいないこの時こそ好機]]
「……構わないよ。あなたはてっきり黙ってみているだけかと思ったけど……それにしてもそのまま維持を任せていいのかい? あなたの役目というのも……」
[[私の事は案ずるな。役目を果たせ]]
「……ならいいけど」
 言われたことはやるよ、とフェイトは動き出す。
 フェイト、デュナミス、墓所の主の会話を聞いていた、フェイトの部下4人と月詠は途中から何のことやらわからない、という体であったが、その場は一先ず収まった。
 そして3時になりフェイトが儀式の最終段階を始め、デュナミスも墓所の主に言われた通り作業を早めるよう動き出した。
 彼らにとって作業を急ぐのは保険でしかなかったが、墓所の主が恐れていた不測の事態は、4時27分……起こるべくして起きた。
「侵入者再探知! 先程の場所から動いていません! 映像回復します!」
 調が偽物の麻帆良学園の空間から墓守り人の宮殿中層部の一角にネギ達が戻ってきた事を報告する。
「彼らは戻ってきたか……」
 それまでつまらなさそうな雰囲気を醸し出していたフェイトはまた少し興味を取り戻したような表情をして呟いた。
 デュナミスが早い、と言う。
「ぬ……まだ稼働にはしばし時間がかかる……」
 そんな中、墓所の主は思う。
 ネギ・スプリングフィールド……。
 まさか本当にレプリカとはいえ完全なる世界から脱出したというのか……?
 調が報告する。
「墓所の主様のお知り合いの姿はありません!」
[[何……? 何があった……まさか倒されたというのか……?]]
 墓所の主の姿は大祭壇には無いが、ザジの姉の姿がネギ達の所に見えない事にかなり動揺した。
 そこでデュナミスが片手を高らかに掲げる。
「……今度こそ我自ら出でようぞ!! あ奴らを止めねば悲願の成就もまた夢の幻! 小娘共も付いてくるなら好きにしろ」
「「「ハッ! デュナミス様!」」」
「ようやっと刹那センパイと戦えますぅー。デュナミスはん、ウチも行きますえ」
 月詠は会う前から恍惚とした表情を浮かべた。
「来るなら来い。貴様のような者の力にも頼らざるを得ないのが我らの現状だ」
 デュナミスがツカツカと進んでいく所、月詠がニコニコする。
「それはもう。お給料分は働かせてもらいますえ」
 そこへフェイトが遠くから声を掛ける。
「暦、環、焔、気をつけてね」
「「「は、はい! フェイト様! 必ずや使命果たしてみせます!」」」
 フェイトに気遣われたことで3人は少し顔を赤らめながらもやる気を見せた。
 かくして、デュナミスとフェイトの部下3人と月詠は、依然作業を続けているフェイトと調、そして既に力場を2時間維持している墓所の主を残し、ネギ達に相見えようと大祭壇を後にしたのだった。



[21907] 59話 戦闘開始(魔法世界編19)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/11 01:14
―10月11日、4時29分、墓守り人の宮殿中層部、小型強襲用艦着艦地点、儀式完了迄1時間31分―

ネギは1人起きた状態で偽物の麻帆良学園からザジの姉の解放により脱出し、茶々丸達に連絡を一旦入れ、進むべき場所を知った後すぐに他の仲間達を起こしにかかった。
何やら皆寝ぼけていた所、1人1人揺する事で全員を起こし、今まで見ていた夢というのが完全なる世界の正体だというのをネギは軽く説明した……のだが。

「ん~死んだジジババと里でのんびり過ごしてしまったでござるよ」

長瀬楓は実際心地良かったと一言。

「「…………」」

古菲と桜咲刹那は黙ってプルプルと震えていた。

「なるほど。あれが、完全なる世界。恐ろしい術だな。……幸せという麻薬はいかなる脅迫にも拷問にも勝る。古、刹那、何を顔を赤くして震えている」

「な、何でもないアル!」

「何でもありません!」

「……何や修行しとる所は俺あんま変わらんかったな。ただ家族がおったのは驚いたで……俺覚えとらん筈なんやけどな」

「家族か……僕もそうだったよ」

因みに長瀬楓の天狗之隠蓑の中に入っているままの宮崎のどかも大体反応は桜咲刹那と古菲と同じであった。

「「「………………」」」

しかし、高畑、クルトは何やら思い出すだけで涙を流すようなギャップがあったらしく、一方で葛葉は思い出すだけでイライラとする様子であり、ネギはうまく声がかけられなかった所、高畑が気を取りなおし、ネギに尋ねた。

「ネギ君、あのザジ君は一体どうなったんだい?」

「う……うん……詳しいことは全部終わってからだよ。とりあえずさっきのザジさんはザジさんのお姉さんだったんだ。僕はあの完全なる世界という夢の中でザジさんに協力してもらったお陰であそこから脱出しできて、ザジさんのお姉さんにもなんとか手を引いてもらえる事になったんだ」

「ザジ君のお姉さん……だったのかい」

「ザジに姉がいたとはな……まあザジは元々一般人でないというのは怪しさからほぼ分かりきっていた事だったが」

龍宮真名は元々ザジが怪しいと前から思っていた。

「全く……とんだモノを見せられました……ッ!」

「くっ……どうあってもあんな都合の良いものを現実として受け入れる訳には行きません。それを皆に同意をとるでもなく勝手に提供しようという形で押し付けようとする等もってのほか。……何はともあれ、今はそれどころではありません。我々がここに到着してから2時間も時間を取られました」

「はい、感傷にひたっている場合ではありません。先ほど通信を受けた結果墓守り人の宮殿上層部、左右に分かれている場所の先端が怪しいそうです。ザジさんのお姉さんは既に儀式は始まって時間も残り少ないと言っていました。もう時間は無駄にできません」

「2時間も潰されたら無理もないでござるな……」

「よし、ならいつまでもここにいられない。先を急ごう。戦力を分散させるのは碌な事にならないだろう。小型強襲用艦はここに置いていくよ」

「うん、そうだね、タカミチ。じゃあ、くーふぇさんがさっき開けてくれた道から中央部に向かおう。さっき破壊した上層部内部に入り込むにしても外壁を伝うにしても最後には飛行して進むしか無いから、迎撃兵器が角度的にやり過ごせる距離まで進まないと」

「では皆さん、先頭は我々3人で行きますので」

「え?」

「え?じゃありません!行きますよ!」

そして高畑、葛葉、クルトはさっさと先陣を切り始める。

「あ、は、はいっ!皆さん行きましょう!」

「参りましょう!」 「行くで!」 「行くアル!」 「進むでござる!」

ネギはクルトと葛葉の発言に一瞬呆けるがすぐにその後を追い、残りの者もそれに続き道を駆け抜け始める。
途中外にむき出しになっている場所に出た際にすかさず迎撃兵器から針が飛んで来たり、中層部を闊歩する大小自動人形、造物主の掟簡易タイプ持ちの召喚魔が行く手を阻んだりするも、それらはほぼ先頭を行く高畑、葛葉、クルトという魔法と関係無いもので戦う3人の手によって早急に処理された。
古菲が開けた穴が終点を迎える度に再び神珍鉄自在根で無理矢理道を作り、進む事を繰り返していった。
ようやく中央部付近、破壊した上層部が依然維持されたまま、ほぼ真上と言っても良い角度で斜め上に見える位置に着いた時、時刻は4時51分、途中戦闘もあるものの、かなり急いで進んでいたにも関わらず中層部端から中央部まで移動するだけで十数分かかるというのはいかに墓守り人の宮殿が広いのかというのをネギ達は実感せずにはいられなかった。
更に進んだ中央部、床は魚雷の影響でズタズタ、本命の上層部は、扉はおろか階段どころか外壁そのものが6割超ごっそり無くなっており、上に見える上層部に入り込むためには浮遊術であがるか長瀬楓の長距離瞬動で真上に飛び上がるか、用意した浮術場魔方陣発動指輪での移動を繰り返すかという方法があり得た。
そこで何も障害がなければそのままネギ達上層部へ上がったのだが、そこには気配を一切隠す事無く、悠然と待ち構えていた者達の姿があった。

「ようこそ諸君。良くぞ来た……と言いたいところだが、貴様らをこれ以上先に通す訳には行かぬ。ここで引導を渡してくれるわ!」

「これ以上先には行かせないです!」

「通さない」

「私達が相手だ!」

「ウフフ……センパイ、この前の続き、ウチとして貰いますえ」

デュナミス、暦、環、焔、月詠の5名。
実際の所戦力差では9対5と圧倒的にネギ達が優勢であった。
対峙する互いの間の距離はおよそ20mと言った所。

「話し合いでどうこうする必要もありません、さっさと先を通させて貰いましょう」

「悪いが、どうあっても通させてもらおう」

「月詠ッ……貴様どこまでも……ここでその歪みきった心、その身体ごと成敗してくれます」

ネギ達の先頭に立つのはやはり大人3人。

「葛葉先生、月詠の相手は私が。先生方はあのデュナミスという人物を」

桜咲刹那が葛葉の発言に割り込みをかける。

「あ~ん、センパイもウチと斬り合いたいんですねぇー?嬉しいですぅー」

「黙れ……その口2度と叩かせるものか」

桜咲刹那は月詠の相変わらず抜けていながらも狂気に満ちた言葉に、一層毅然とした雰囲気を醸しだしてキツく返答するが、この時点でほぼ月詠と桜咲刹那が戦闘に縺れ込むのは誰の目にも明らかであった。
そこへ、クルトは持っていないがネギが端末による通信を始める。
念話では即時盗聴されるおそれがあるので、止むを得ない。
因みに、ここにいる者で小太郎と宮崎のどかは以前端末を失ったが、今回の作戦に際して春日美空、ココネの分を予め2人に回している。

《彼女達はアスナさんを攫った時の事を考えると、なんらかの強力な魔法具、空間、時間操作系の物を持っている可能性があります。気を付けてください》

《分かっているネギ先生、2度とあの閉鎖空間は使わせない。何か使おうとすればすぐに止める》

そう答えながら龍宮真名は銃をいつでも使える体勢に入る。

《あの粉塵を起こす者は今回おらぬからして、フェイトの部下3名の相手はそれさえ気をつければ容易いでござる》

《あの炎になる目付き悪いのは少し面倒アルよ》

《一番はあのデュナミスっちゅう奴が問題や。ネギが言った事からすればあいつも普通は致命傷でも倒せん可能性が高いで》

《まずは一度造物主の掟を使う所を抑えないと駄目だと思う》

《分かった。少女達の方は楓君達に任せるよ。ただ、奴は本当かどうかは怪しいが僕達人間を殺すことは出来ないと言っていた。だから、少なくとも少女達にはそれなりの配慮は頼むよ》

《任せるでござる》   《任せるアル!》   《仕方ないな》

《刹那が月詠の相手をするのは避けられそうにありませんが、私と総督でデュナミスとやらの例の障壁を無視します。では……参ります!》

葛葉の宣言を皮切りにして、とうとう完全なる世界との戦いの火蓋は切って落とされた。
月詠と桜咲刹那の2人は、桜咲刹那が仕方無しに誘う形で一気にその場をあさっての方向に移動することで月詠との一対一になり、長瀬楓、古菲と龍宮真名は暦、環と焔に速攻をかけに、ネギ、小太郎、高畑、葛葉、クルトの5名はデュナミスに完全に標的を絞るべく動いた。
デュナミスに向かう5名は左右に散開し、デュナミスの前に並ぶ暦、環、焔を無視して左右後方背後を囲みに回り、それを阻止しようと暦、環、焔の3名が一瞬遅れて動こうとする所を、同時に突撃していた長瀬楓、古菲、龍宮真名が遮り交戦状態に入った。

「環!」

暦の掛け声と共に環がアーティファクトを発動させようとする。

―時の回―     ―無限抱―

「遅いッ!!」

しかし、仕事人としてプロの龍宮真名の本気の二丁拳銃の早撃ちによって砂時計の形を持つ時の回廊は発動前に撃ちぬかれ、環の無限抱擁は身体全体から発動させるものであるが、動きを見せた途端に弾丸を両腕に喰らいそのショックで2人共発動をキャンセルさせられる。

「みぎゃ!」      「うぐっ!」

2人もやられるだけではなく、瞬間次の行動に出ようと動く。

  ―豹族獣―      ―竜族竜―

―爆裂螺旋勁!!!―  ―楓忍法!!四身分身朧十字!!!―

「!!」          「!?」

しかし、銃撃に間髪おかず、獣化と竜化が行われ面倒な事になる前に、暦は古菲の拳が一瞬めり込んだ後吹き飛び、環は長瀬楓が分身を出現させ四方から強烈な掌底を速攻で叩き込み、声も上げられずにその場で崩れ落ちる。
いくらまだ潜在能力があろうと、先に気絶させてしまえば、それも意味をもたない。

「おのれッ!!」

―炎精霊化!!! 火力最大!!!―

その一瞬の出来事に焔は激昂し、己の身体を炎の精霊と化しその火力を最大に上げて古菲と長瀬楓にお返しとばかりに業火を放つ。

「生憎特殊弾丸でね」

  ―異空弾倉!!―
―装填・対魔特殊弾丸!!!―

しかし、幾多の戦場での経験がある龍宮真名にとって焔のその単純な行動は愚かとしか言いようがなく、予めフェイトの部下に炎と化して実体を無くする能力者がいるという情報から龍宮真名は異空間に特殊弾丸を用意していたのだ。
高畑からの注意により急所は外されるものの、精霊化していても効果を持つ弾丸は焔の四肢、肩に、また胴体で致命傷とならない部位を一切の容赦無く一瞬にして十数箇所も穿つ。

「な……あ……ぁ……」

古菲、長瀬楓を襲おうかという炎は消滅、焔自身も精霊化での物理攻撃無視という効果を無視され、そのダメージによって元の身体に戻りその場に崩れ落ちる。
実際古菲1人だけでも暦と環の相手はできたであろう上に、物理攻撃が効かない筈の焔も龍宮真名に抑えられた上に長瀬楓までいるとなればもののわずかな間に決着がつくのは自明の事であった。
問題はデュナミスであり、すぐに長瀬楓の分身はその場に倒れた環と焔を古菲が吹き飛ばした暦の元に、戦闘に巻き込まれないよう運び出した。
たったこの数秒の間にデュナミスとネギ達5人は激戦を既に繰り広げたかと言えば、そうではなく、一定距離を置き包囲しての睨み合いしか行われていなかった。
というのも、ネギ達としては暦、環、焔は一瞬で無力化できるだろうと踏んでいた事が一つの大きな理由であった。
気がつけば暦、環、焔の3人があっさりやられ、長瀬楓、古菲、龍宮真名もデュナミスの相手に回れる事になり、その戦力差は8対1となる。
8対1という一見圧倒的な状況であるが、確実に障壁を破壊し尽くす攻撃ができるのはネギの太陽道、障壁を無視できるのは葛葉とクルトの弐の太刀のみであり人数が多ければ良いという問題ではなかった。
もちろんデュナミスもそれを当然分かっているからこその囲まれていても尚この余裕である。

「フハハ!流石、真っ向からではあの小娘共は僅かな足止めにもならんか。ならば……ふんッ!」

デュナミスは例によって被っていたローブを粉砕して第二形態に即座に変化し、その存在感を顕にする。
その瞬間であった。

                  ―豪殺居合い拳!!!―

「でやッ!」―咸卦・白狼影槍!!!―         ―投擲・双腕・断罪の剣!!!―「はぁッ!」

   「今ッ!」            「ぬんッ!!!」        「ハッ!」
―斬魔剣弐の太刀!!!―       ― 千の闇槍!!! ―     ―斬魔剣弐の太刀!!!―

     ―苦無手裏剣!!!―                 ―障壁解除弾!!!―

高畑は既に空中に魔方陣を構築し立っていた所から斜め下に見えるデュナミスに向けて無音拳を、小太郎とネギも遠距離から白い槍と断罪の剣を飛ばし、葛葉とクルトは弐の太刀を、長瀬楓は気を纏わせた苦無を、龍宮真名は一般的な障壁なら解除できる弾丸をほぼ同時に放つ。
対してデュナミスは背中から闇の魔素で編んだグッドマン家の技と見た目はほぼ同じ闇槍を大量に放ち応戦、更にそれだけでは済まなかった。

                 ―虚空影拳貫手二十殺!!!!―

葛葉とクルトが弐の太刀を放つ瞬間にデュナミスは20本の巨大な太い腕を闇の魔素で構築し、それをわざと切らせ、それらの腕を空間転移魔法で操り、脅威の空間跳躍パンチとして更なる反撃をして来たのである。
デュナミスの槍はクルトと葛葉以外の攻撃でほぼ相殺されたが、この部位を切り離しての攻撃はネギ達の意表をついた。
空間のどこから跳躍して来てもおかしくないこの攻撃は死角を狙うのにはあまりにも適していたのである。

                    「くッ!」

        「分身!!」             ―魔法領域展開!!―「空間跳躍!?」

「なッ!?」―百烈桜華斬!!!―         ―即時対物対魔守護円陣!!!―「そんな技がッ!」

    「下がれ古!分身!!」             「チッ!」

高畑は死角からも飛んでくる空間跳躍パンチといえど、操作可能範囲があると見て即座に後方に虚空瞬動をかけ後方に退避、もともと無音拳を極めるにあたり動体視力は非常に高いため空間跳躍パンチを無音拳で捌きつつやりすごした。
小太郎は咄嗟に分身を肉壁として防御に出し、ネギは魔法領域、クルトも大きく後ろに後退して片膝を地面に付き強固な半球状の障壁を展開して防御、葛葉も同様に後退して自己の周囲をまとめて薙ぎ払う技で応戦するが、弐の太刀を脅威と判断された事で集中攻撃され一撃を浴びた。
古菲は長瀬楓が後方に大きく突き飛ばし、本人も小太郎と同じく分身を盾に、龍宮真名は己の魔眼で見切ったが、この3人に転移攻撃はいかなかった。
殆どがクルトと葛葉に集中、残りが高畑、ネギと小太郎だったのである。
その転移攻撃の嵐が収まり飛んでいた腕群が一旦地に落ちた時である。

「ぐっ……ごふっ……」

葛葉は一撃を貰った事で思わず左手で口を抑え吐血しながらよろめくも……まだ倒れはしなかった。

「「「「葛葉先生ッ!!」」」」

「まだ……ですッ」

まだ目の前のデュナミスを倒してすらいないのにここで倒れる訳にはいかないと葛葉は痛みを堪え、集中して気を取り直した。
実際いくら敵の腕を一撃で斬り落とす事ができる程の高い破壊性能を持つ攻撃ができるからといって自身の防御力もそれに比例して高い訳ではない。
その両方を異常な水準で兼ね備え、最強無敵として君臨したジャック・ラカンのような人物は、早々おりはしないのだ。
それ故、敵の攻撃とは被弾するだけで重大な損害となるリスクを常にはらんでいる。

「ふむ、刺突にすれば良かったか。殺さないようしなくてはならぬとはいえ加減が難しい。しかし……1対8とはいささか卑怯であろう……なあ?」

今のデュナミスの空間跳躍パンチは拳であったため爪による刺突パンチよりも威力は低く、そう言いながらデュナミスは現状を卑怯だとわざとどこかに語りかけるように漏らした。

「卑怯も何も無い!」            「元より正々堂々等とは毛頭ッ!」
   ―斬魔剣弐の―               ―斬魔剣弐の―

   「――ッ!」               「ぐあァッ!」

瞬間、葛葉がどこからともなく現れた大質量の水に囚われ溺れ始め、クルトは不意に強烈な電撃を浴び、その衝撃で錐揉みしながら吹き飛び、勢いを失った所でそのまま地に倒れ伏す。
2人が言葉を返すとほぼ同時に弐の太刀を振るおうとした、その時であった。

「クルトッ!」    「総督ッ!」   「葛葉先生ッ!」    「葛葉先生ッ!」    「何だッ!?」

残りの者達は突然の事に驚きの声を上げる。

     ―リロケート―                       ―リロケート―                     ―リロケート―
―ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト―           ―ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト―           ―ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト―
  ―契約により 我に従え―                ―契約により 我に従え―                ―契約により 我に従え―
  ―炎の精霊 集い来たりて―               ―雷の精霊 集い来たりて―              ―氷の精霊 集い来たりて―
      ―紅蓮蜂!!―                        ―白雷閃!!―                      ―雹散花!!―

突如、中空に現れた3名が高速詠唱し同時に左腕を振りかざした瞬間、炎を纏った大量の蜂、雷撃の雨、小さな花の形を模してはいるが弾丸のような雹がネギ達に次々爆撃のように降り注ぐ。

「フ……来たか」

デュナミスは一瞬勝ち誇った笑みを浮かべる。

                 「新手かッ!」
               ― 千条閃鏃無音拳!!! ―

  「3人やと!!」                     「フェイトッ!?」
―咸卦・疾空白狼閃!!!―                ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
                            ―光の精霊499柱 集い来たりて 敵を射て―
                             ―魔法の射手 連弾・光の499矢!!― 

―楓忍法・天覆縛鎖爆炎陣!!!―
    「防ぐ!分身!」                 「割りに合わんなッ!」

                 ―神珍鉄自在棍!!!―
                  「ズルいアル!」

葛葉とクルトを欠いた状態でネギ達はその攻撃をそれぞれ迎撃し、防ぎ切る。
龍宮真名は咄嗟に胸元から取り出したマシンガンを連射、長瀬楓は起爆札を取り付けた鎖を渦巻くように中空に投げてすぐさま爆破して応戦しつつ、その隙に水牢に囚われている葛葉を救出、クルトも回収しに分身を瞬動で飛ばす。

「葛葉先生ッ!!」―甲賀崩天気功掌!!!―

長瀬楓の分身は掌に巨大な気弾を作り出しそれを水牢に叩きつけて破壊する。
当たった瞬間水牢は解け、葛葉は口から水を吐き出し呼吸を取り戻す。

「ご……ごはッ!……たっ……助かりました。長瀬楓」

「当然でござる」

一方クルトの回収に向かった分身はクルトを肩に担ぎ一旦その場から長距離瞬動で離れ、移動先付近の建物に退避していた。
弾丸の打ち合いともいえる応酬が終了した所で、新手3名は三角形の頂点を頂く位置に滞空したままそれぞれ同時に言葉を発する。

                    「クウァルトゥム。火のアーウェルンクスを拝命」


「クウィントゥム。風のアーウェルンクスを拝命」            「セクストゥム。水のアーウェルンクスを拝命」

火を司る4、クウァルトゥムは己の背後を炎で覆い、両手を仰々しく戯曲的に胸元辺りで構え、髪の全体も燃え上がるように凶暴で荒々しい印象、風を司る5、クウィントゥムは髪の毛全体が雷で帯電しており、無口な印象、水を司る6、セクストゥムは女性型で両腕を後ろの腰で組み、一切揺れのない水面のように落ち着いた印象があった。

「フハハハ!急ぎ鍵の力を用い3体の稼働も間に合ったようだ。いやはや保険はかけておくものだな!」

8対4と未だネギ達の方が人数は多いが、単純な数での問題ではなく、戦力的にはこの瞬間形成は完全に逆転していた。

  ―リロケート―      ―リロケート―      ―リロケート―

クウァルトゥム、クウィントゥム、セクストゥムの3名は虚空から造物主の掟を取り出してデュナミスの元に転移し、その場で片膝をつく。

「参上した、我が主」   「見参致した、我が主」   「推参しました、我が主」

「良くぞ来た。クウァルトゥム、クウィントゥム、セクストゥム。目覚めさせたのは私だが私はそなたらの主ではない。我らの主は彼ただ一人のみ」

「「「はっ!」」」

「して、目を覚まして最初はあの弱そうな者達の処理をすれば良いので?」

クウァルトゥムが目障りそうにネギ達を一瞥してデュナミスに尋ねる。

「あ奴らは人間だ。人間の殺害はならぬ。無力化してから処理せよ。クウァルトゥム、クウィントゥム、セクストゥム」

「……了解した」

「承りました」

「……殺害不可?……くだらない決まりだね。まあカタチがどうなろうと魂が残っていればいいのでしょう?送れるなら」

クウィントゥムとセクストゥムは即座に了承するが、クウァルトゥムは人間の殺害不可という事に酷く表情を歪めながら答える。

「……過度に抵抗するならそれもやむを得んな」

デュナミスは白い仮面を被っているため特に表情に変化は見られはしないものの、一瞬間を置いて許可をする。

「なら話は早い。手早く済まそう。せいぜい消し炭にならないでくれると助かるね」

「排除しよう」

「降伏するなら今のうちです」

確認が終わった所で3人は後ろを振り返りながら再び空中に飛び上がり詠唱を開始する。

  ―ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト―           ―ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト―           ―ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト―
     ―九つの鍵を開きて―                 ―四つの秘宝を解き放ちて―               ―九つの冥界を統べ―
―レーギャルンの筺より 出で来たれ―          ―ルーの御力より 出で来たれ―          ―エーリューズニルより 出で来たれ―
    ―燃え盛る炎の神剣―                  ―轟き渡る雷の神槍―                 ―澄み渡る水の神弓―

クウァルトゥムは身長の数倍はあろうかという燃え滾る巨大な剣を、クウィントゥムは同じく身長の数倍はあろうかという白く輝く稲妻を纏う巨大な槍を、セクストゥムは身の丈と同じ程の透き通った水でできた弓を召喚した。
しかし、その直前、その場から離脱した者達がいた。

―我流犬上流獣化奥義 大神・狗音白影装!!!!―

小太郎が自らの身体をみるみる形態変化させ、白く輝く狼になる。

「ネギッ!」   「コタローッ!」

―契約続行 追加300秒間!! ネギの従者 犬上小太郎!!―
     ―魔法領域展開 出力最大!!!―

小太郎は最高速でネギの元に向かいその背にネギを乗せ上層部の内部からでは無く、外部を壁伝いに空を駆け抜け、墓守り人の宮殿の宮殿上層部中層の問題の場所を一路目指して突き抜けていったのである。
こうなった経緯はと言えば、クウァルトゥム、クウィントゥム、セクストゥムの3人が名乗りを上げてすぐに行われた通信に遡る。

《ネギ君、コタロー君、2人共先に行くんだ!時間が限られている今、明らかな新手、それも強敵が現れたとなっては各個撃破して進んでいる場合ではない》

《タカミチ!?》

《高畑先生!?》

《そ……そうです。奴らが話している間に先を急ぎなさい。ネギ先生と最も相性が良いのは犬上小太郎、あなたです》

《先生達の言うとおりでござる。奴らは拙者達人間の殺害はやはり禁止されておるようだ。多少の怪我はあっても死にはせぬ》

《ネギ先生、コタロー君、先を急ぐんだ。ここにいても無駄に消耗するだけ。私も本気を出すから後のことは考えず先を進め》

《ネギ坊主、コタロ、私達はそう簡単にはやられはしないアルよ!》

《ネギ!ここでアレ使う訳にもいかん!先生と姉ちゃん達信じるしかないで!》

《くっ……わ、分かりました。アスナさんと最後の鍵の確保を優先します。行こう、コタロー!》

《おうっ!》

こうしてネギと小太郎は残り6人を残し、先を急ぐべくその場から離脱したのであった。

「小癪な!行かせはせぬぞ!」

           ―虚空影爪貫手八殺!!!―

「みすみす逃がすとでも?」     「…………」     「お待ちなさい」

  ―紅蓮蜂!!―           ―白雷閃!!―      ―雹散花!!―

上層部に向けて離脱した2人に対し、デュナミスは切り落とされて地に落ちていた腕を再び転移させ空間跳躍刺突攻撃を、クウァルトゥム、クウィントゥム、セクストゥムはそれぞれ無詠唱で先ほどと同じ魔法を放つ。
空中にネギ達を包囲するように8本の腕が現れ魔法領域にそれぞれ別方向から突貫し、真下からは3属性の集中砲火が迫り来る。

       「くッ!」―短縮術式「双腕」封印!!―
              ―双腕・断罪の剣!!―
   「邪魔やッ!」―双腕解放!!大神・断罪の爪!!!
            ―ラス・テル・マ・スキル・マギステルー
        ―光の精霊1001柱 集い来たりて 敵を射て―
          ―魔法の射手 連弾・光の1001矢!!―

ネギと小太郎はそれぞれ断罪の剣を思いっきり振りかざし、行く手を阻む闇の魔素でできたデュナミスの腕を消滅させ、真下から迫る砲火に対しては大量の魔法の射手を放ってその攻撃を相殺し、相殺しきれなかったものに関しては魔法領域での防御で切り抜ける。
その後デュナミス達の攻撃が止んだのは高畑達が彼らに必死に攻撃をしかけ注意を引いたからである。
当然ながら、残った6人の戦況はといえば芳しく無かった。
その中でネギと小太郎が去ったと同時に、自らに眠る力を呼び覚まさせた人物がいた。
左目を最初に光らせたと思えば、自らの身体から魔力を迸らせ、黒い髪色はみるみる白銀色に光りながら変化し、背中には漆黒の翼が顕現する。

「全解放は5年ぶりだが……。こいつら相手なら不足はあるまい」

「真名……その姿は……」

既に本気になり両目を開眼していた長瀬楓がその姿を横目に見て、更に目を見開いて呟く。

「ああ、半魔族さ。自分で言うが結構強いぞ」

「ははは、ひ弱な小娘が多いかと思えば意外と骨のある奴もいるみたいじゃないか。逃げた小僧を追いかけてもいいが、先に貴様を送ってからとしよう!」

「そう簡単にはやられはしないさ」

龍宮真名の変化した姿を見てクウァルトゥムは自身に纏う炎の勢いを増し、燃え盛る炎の神剣を担ぎ、中空から勢いをつけて高速で接近し焼き斬りにかかった。
しかし、それを甘んじて受ける筈もなく、龍宮真名は誘うように牽制射撃をしながら翼での浮遊術で後方に下がり、1対1に持ち込んだ。

「真名!」

それを見た古菲は思わず声を上げるが、よそ見をしている場合ではなかった。

「よそ見をしていると怪我しますよ」

         ―凍て貫く氷矢!!!―

セクストゥムは容赦なく中空から、かなり後方に下がっていた古菲に向けて澄み渡る水の神弓を引き絞り、驚異的な速度で槍と言っても過言では無い長さの鋭い氷矢を放つ。

「させぬッ!ぐっ!」

「楓ッ!?」

咄嗟に長瀬楓が氷矢の斜線軸上に飛び出しその身を挺して防ごうとするが、氷矢はその身体をも容易く貫通し、古菲にもつき刺さろうかとしたが、長瀬楓が作った一瞬の間のお陰で、古菲は避ける事ができた。

「分身でござるよ」

その一撃で長瀬楓の分身は消滅する。

「あなたの相手は……私がしますッ!」―斬魔剣弐の太刀!!!―

矢を放ったセクストゥムに対し、未だ吐血している葛葉が遠距離から弐の太刀を振るいその片腕を斬り落とす。

「!……私の身体に傷をつけるとは……身の程を知りなさい。しかし私は水のアーウェルンクス。この程度何の意味も持ちません」

         ―完全再生!!!―

常に落ち着いているかに見えたセクストゥムは腕を切り落とされた瞬間言い知れないプレッシャーを葛葉に顔を向けながら放つが、それと並行して水を用いた高度な治癒魔法を使用し、造物主の掟によるリロードを使わずして、みるみるうちに腕の完全再生をして元通りになる。

「……人体再生治癒魔法ッ……それでもッ!」

「致し方ありません。かかってくるというならお相手しましょう」

葛葉は部分再生ができるなら、再生が追いつくよりも連続で損傷を与えるか、一度に滅殺する以外に方法は無いと踏み、氷の矢を放つという特性上、浮術場魔方陣を足場に展開して近距離戦に持ち込むべく即座に動いた。
その場に残ったのは前回完全敗北を喫し、デュナミスの障壁を突破できないとしても手を休める事無く無音拳を既に放ち続け交戦している高畑以外で手の空いているのは長瀬楓と古菲、対するはクウィントゥムであった。

「…………」

クウィントゥムは沈黙を保ったままであったが、不意にネギと小太郎が向かった方向に顔を上げた為、動かれる前に長瀬楓は咄嗟に巨大手裏剣を右手に抱え、それの刃の一つを腹部に刺すように瞬動で突撃した。
押し出される形でその場から引き剥がされたクウィントゥムは、一旦召喚した轟き渡る雷の神槍を造物主の掟と似たような要領で虚空にしまう。
長瀬楓は、ここ3日障壁破壊忍術の改良もしたが、自身がアーウェルンクスの積層多重障壁を抜くには複数の影分身の同時攻撃で破り切るのが、一番可能性があるという結論に至り、1体を既にクルトの方に回してしまっているものの15の分身をクウィントゥムの周囲に出現させ一斉攻撃を仕掛けた。

        ―楓忍法・朧十字!!!―

それぞれの分身が気を纏わせた左手の苦無と右手に構えた忍刀で障壁を破壊し、結果クウィントゥム本体に裂傷をわずかながらも与え、血のようなものが吹き出した。

「行けるかッ!」

その衝撃によりクウィントゥムは声を上げることなく空中に投げだされる。
更に手を休めることなく畳み掛けるように長瀬楓は攻撃をしかけようとするが、クウィントゥムの身体全体に変化が生じた。

          ―雷精霊化!!!―

クウィントゥムはその身体を上位の雷精、つまり雷そのものと化して受けた裂傷を無かった事にし、即座に雷速で反撃を開始する。

「!?」

長瀬楓はそれによってあっという間に攻勢から一転、防戦一方にならざるを得なくなり、クウィントゥムの雷速で放たれる体術を、己の持つ陰陽術を源流とする対魔攻撃の技術により全力で捌くも、余りの速度の違いから、ついに一度直撃を受けて体勢を崩された瞬間から一方的に全方位からの連続攻撃をその身に喰らい始めた。
対応不可能な速度による攻撃に対して為す術も無く、今度は長瀬楓が空に無造作に投げ出される。
そして止めにクウィントゥムが轟き渡る雷の神槍を取り出して投擲すると思われた瞬間。

「はぁッ!」―斬魔剣弐の太刀・連閃!!!―

「!」

クウィントゥムの雷化した片腕片足が斬り飛び、胴体からは盛大に血のようなものが吹き出した。
そう、この攻撃を放ったのはこのクウィントゥムに電撃を浴びせられたクルトであった。
僅かに時間を遡れば、中心部から長距離瞬動で一旦離れ、気絶したクルトを背負っていた長瀬楓の分身は、落ち着いた所でクルトの気を取り戻させるべく身体のツボを突いたのであった。

「!?ぐ……はっ……くっ……なるほど、どうやら……してやられたようですね。助かりましたよ、お嬢さん」

「新たな敵はフェイト・アーウェルンクスとやらの別バージョンのようでござる。それぞれ炎、雷、水のようだが、クルト総督がやられたのは雷の者でござるよ」

「……そうとなれば、なんとしても私が戦線に復帰しない訳にはいきませんね」

「すぐに戻るでござるよ。手を」

「かたじけない。頼みます」

分身はクルトの手をしっかり掴み直ぐ様戦線に戻ろうとするが、丁度その時分身が本体の危機を察知した。

「!!拙者の本体が危ない!」

「ではそちらに!」

「済まぬでござる!」

          ―縮地无疆!!!―

高畑と古菲がいる場所ではなく、長瀬楓本体がいる地点に行き先を変更し長距離瞬動をかけた所目に入ったのは、丁度クウィントゥムが長瀬楓本体に轟き渡る雷の神槍を投擲しようかという光景であった。
それを認識したクルトはすかさず百花繚乱の簡易版であるが、一瞬で複数回、斬魔剣弐の太刀を振るったのである。
弐の太刀とは気を自由に扱う事で斬る対象の選択を可能にする技術であり、また、斬魔剣とは物質的な物にも効果はあるが、その本質は非物質的なもの、霊体を滅ぼすのに特化した技である。
故に雷の上位精霊、霊体と化したクウィントゥムには斬魔剣弐の太刀はまさに効果抜群であった。
すぐに分身は長瀬楓本体が重力にしたがって落ちる所を空中で受け止めに動いたが、ダメージを負ったクウィントゥムはそうではなかった。

          ―造物主の掟―
           ―リロード―

クウィントゥムは身体から出血と思われる現象がおきていようと気にすることなく造物主の掟を取り出すと同時にリロードを発動し、すぐに元通りになったのだ。

「それが例のッ!」―斬魔剣弐の太刀!!!―

クルトは再生を果たした傍から続けて太刀を振るう。

           ―リロケート―

「貴様……やはり……」

しかし、クウィントゥムはそのままリロケートで一度死角に転移しその斬撃を避け、クルトに電撃を浴びせた時点で止めを差しておくべきだったと呟く。

「斬撃で意味が無いのならば!」

         ―雷鳴剣弐の太刀!!!―

           ―リロケート―

クルトはすぐに振り返りながら短い溜めではあるが、霊体を滅ぼす電気エネルギーを直接クウィントゥムに叩き込もうとするも、再び転移で回避される。

         ―轟き渡る雷の神槍!!!―

転移先はクルトの背後至近距離、更に轟き渡る雷の神槍を持って直撃を狙う。

「くッ!」    ―斬魔剣弐の太刀!!!―

クルトはそれを再び死角に現れると予め念頭に置いていた為になんとかそれを察知してギリギリで避け、太刀を振るえる適正距離に後退して斬撃で反撃する。
前大戦時、当時の青山詠春の相手をしたのはクウィントゥムと同じく風を司る者であり、その前例を安易に適用すればクルトに勝ち目がない訳ではないが、此度の戦いに於いては造物主の掟が存在し、それだけに留まらず実際の所風のアーウェルンクスは前大戦の風を司る者よりも性能は上であるため、相当状況はキツい。
電気エネルギーを用いる雷鳴剣、雷光剣等は分類では雷系と言えるが、それよりもその本質は霊体を滅ぼす事を主眼とした技であるため、クウィントゥムが用いる攻撃系魔法が雷系に偏っていたとしても効果があるというのはせめてもの救いであった。
ただ、雷鳴剣系の技は他の斬撃系の技と比較すると溜めに時間を要する為、当てるのはかなり難しい。
クルトは長瀬楓に代わり、クウィントゥムとの本格的戦闘にそのまま突入したが、分身が受け止めてそのまま一旦場を離れた長瀬楓本体もかなりダメージを受けたものの未だ行動可能であった。

「楓さん!大丈夫ですかっ?」

物陰で休んでいた長瀬楓に、天狗之隠蓑から宮崎のどかが顔だけ出して問いかける。

「のどか殿……ぐっ……まだ動けはするが大分やられたでござる……」

宮崎のどかに対しまだ大丈夫だというように安心させようと片目で軽くサインするが我慢しているようにしか見えなかった。

「血が出ていますっ、治療に隠蓑で休んだ方が」

「そうしている場合では最早ないようでござる。危ないところを助けられた恩を返しに総督の加勢に向かっても良いが……今の拙者では足手纒いになるであろう」

「せ……せめて造物主の掟さえあれば私も……」

「うむ……その造物主の掟というあの杖を奪う事が出来ればよいが、先程見た限りああも素早く自由に出し入れされてはそれも難しかろう。のどか殿が気負う事ではないでござるよ。恐らく古も高畑先生と共にデュナミスとやらと交戦しているであろう事は気になるが、何よりアスナ殿と最後の鍵が重要となれば、ここは一つネギ坊主が向かった上層部へ隠密行動で後を追った方が良いか……しかし何と劣勢の状況……皆もそう長くは持たなかろう……。のどか殿、まだしばし中に隠れているでござる」

「……わ、分かりました。気を付けてください」

切迫した状況を感じ取り宮崎のどかは、なんとか力になろうにも戦闘に関しては足手纒いにしかならないのを重々自覚していた為、真剣な顔で素直に頷き、それを了承する他無かった。

「上手くやるでござるよ」

長瀬楓は口元の血を拭い、望みは薄くとも己の出来る事を果たす為、忍としての本来最も得意とする、床抜け等を始めとする技術、隠密行動に移行したのだった。
かくしてネギ達のうち殆どの者はかなりの劣勢とも言える状況にて、ほぼ1対1でそれぞれの敵を少しでも長く足止め時間を稼ぎ、あわよくば撃破するべく全身全霊をかけて戦いを始めた。
そして墓守り人の宮殿中層部には激しい戦闘がそこかしこで繰り広げられている事を示す音が鳴り響き始めるのだった……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月11日、4時57分、墓守り人の宮殿上層大祭壇、儀式完了迄1時間3分―

ネギと小太郎が先行、やや遅れて長瀬楓が隠密状態で大祭殿に丁度接近し始めたその頃、大祭殿ではある異変が起きていた。

「フェイト様。予定よりもゲートポートからの魔力反応が少し強くなっているようなのですが……いかがなさいますか?」

オペレーターとして作業を続けていた調がその変化にフェイトに報告をする。

「ん……見せて……なんだろうね……これは」

フェイトは調が操作していたモニターを自ら操り始めその現象を確認する。

「魔力が予想以上よりもあちら側に多く流出しているのか……あちらのゲートで何かあったか……」

「魔力の総量から言って儀式の発動は問題ありません。それどころか、流出している以上の魔力が現在よりも広範囲から集まって来る模様です」

「あちらがこちらの行動に気づいて何らかの方法で魔力を吸い出して邪魔をしようとしているのだとしたら逆効果だったね……。しかも魔法世界の崩壊がこれでは更に早まる。儀式最適座標の変更は無い……だろうね」

「ゲートポートの位置が変わる訳ではありませんので……そうですね。……あれは!……フェイト様……先ほどまで上層部外壁を駆け上がっていたネギ・スプリングフィールドと犬上小太郎、墓所の主様が上層部中層内部におられる事に構うことなく東通路外壁を破壊して突入し、高速でこちらに向かっている模様です」

ネギと小太郎が墓守り人の宮殿が大祭殿に向かう通路の自動人形を断罪の剣で通り抜け様に切り裂き、猛烈な勢いで進んでいる映像が映る。

「彼らも急いでいるという事か……。先ほどの事を考えると正々堂々というよりは着いてすぐ直接ここを破壊しにきそうだから出迎えないといけないね……。ここを空けることになるけど……」

[[私がそちらで直接支えよう]]

「……お好きにどうぞ」

         ―リロケート―

墓所の主はリロケートで大祭殿に転移し現れる。
そして直ぐ様、場所が悪いため今までよりも負担は大きくなるが、上層部を支える力場を倒れ始める前に再び展開し始めた。

「来たのはいいけどその状態でもしもの時戦闘できるのかい?」

「今……は無理じゃ。しかしそれも、そなたがあ奴らの相手をすれば良いこと」

「言われるまでもないね。さて……僕は行こう……。調、作業を続けて」

「ハッ!」

          ―リロケート―

フェイトはネギと小太郎が進む天井までの高さ十数mはあろうかという通路の前方に転移する。

「さあ、さっきのお返しといこうか」

       ―ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト―
      ―おお 地の底に眠る死者の宮殿よ―
        ―我らの下に姿を現せ―
            ―冥府の石柱―

詠唱に従い通路一杯に広がった空間の歪みから通路とほぼ同サイズの巨大な石柱が召喚され、自動人形をも破壊してしまうが、そのままネギ達に向けて射出された。
1本に留まらず、続けて2本目、3本目と次々に石柱が放たれネギ達の行く手を塞ぎにかかる。
ネギと小太郎はその高速移動中いきなり目の前に自動人形も巻き込まれている石柱が迫り即座に対応に動いた。

「「フェイトかッ!」」

ネギを乗せた小太郎は急停止出来ないことから一旦石柱にあえて足を着け、それを足場に力を溜めて、後方に勢い良く跳ぶ。

「でやっ!!」

        ―魔法領域解除!!―

「カァッ!!」 ―大神・戦吼砲!!!―

後ろに跳び切り替えしてすぐ、ネギが魔法領域を解除し、小太郎は即座に自分達と同程度の大きさの光球を口元に形成し、石柱に通れるだけの穴を穿つべく光線を放つ。
契約執行を受けた状態での小太郎の獣化最終奥義形態の出力は高く、長く硬い石柱も2秒で反対側まで穴が開き、再び虚空瞬動で前方に切り替えし、その穴に突入する。
          ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
        ―契約により 我に従え 破壊の王―
   ―来れ終末の輝き 薄明の光芒 満ちれ エアロゾルよ―
   ―収束魔方陣展開!!! 集え 我が手に 域内精霊加圧!!!―
     ―第1から第12 臨界圧縮!!! 第0へ解放!!!―
その間ネギも小太郎の背中の上で両手を前に向けて収束魔方陣を展開し、前方にいるであろうフェイトに向けて攻撃を放つ準備をしていた。
しかし、その先に見えたのはフェイトではなく更に新たな石柱であった。

「連発かっ!」

   ―降臨し 全ての命ある者に 等しき死を 其は安らぎ也―
           ―然して 死を記憶せよ―
            ―大天使の降臨!!!―

いずれにせよネギは新たな石柱にも通れる穴を穿つべく両手からそのまま極光を放つ。
小太郎はそれによってできた道に飛び込み、続けて3本目、4本目と石柱を切り抜けた。
しかし、いつまでも石柱ばかりではなく、突然フェイトの攻撃は高速高密度の砂塵攻撃に切り替わり、ネギ達の視界を遮った。

「一旦外に!」

「分かっとるッ!」―大神・戦吼弾!!!―

小太郎は通路右手に見える壁を即座に破壊し、そこから外に脱出を図った。
しかしそれでも砂塵攻撃は止まず、開けた穴を更に大きく広げるが如く爆散させて砂塵の量を更に増やし、2人の追跡を開始した。
外に出た途端、背後からは迎撃兵器の針と砂塵が襲いかかり、足元からも砂塵が穴を開けて噴出する。

          ―リロケート―

2人は全速力で一気にそれを避けて進もうとしたが、目の前にフェイトが転移して現れ、2人の行く手を阻んだ。

「これ以上壊す事になるのは少し困るからね」

          ―造物主の掟!!!―

「しまっ!?」

フェイトの持つ造物主の掟が僅かに発光した瞬間、3人はその場から消え去った。
ジャック・ラカンを閉鎖空間から更に異なる空間に閉じ込めた時と同様、造物主の掟による空間操作系の力である。
そして2人が取り込まれて移動した所は何も無い、ただただ白い空間であった。

「場所を変えさせて貰ったよ。風情が無くて悪いね」

そう言いながらフェイトは造物主の掟を虚空にしまう。

「フェイトッ……」

ネギは小太郎の背から離れ浮遊術に移行し、小太郎の横に並ぶ。

「前と同じでお前を倒さんとここから出れん言う訳や」

「そういう事だ。この時を待っていたよ。一つサービスで教えてあげよう。随分急いでいるようだけど君達にとってはまだタイムリミットまでおよそ1時間あるよ」

フェイトはネギと小太郎、特にネギとの戦いが出来る事に、単純に嬉しい、というような感情をその無表情の中に垣間見せる。

「1……時間……」

「どういうつもりや……」

「この戦いこそ、この戦いこそが僕の望み。人形である僕が唯一僕自身の感情で臨むものだ。ネギ君……前回のような戦いではなく……ジャック・ラカンのように……ジャック・ラカンよりも……僕を楽しませてくれ。さあ始めよう!」

       ―ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト―
      ―おお 地の底に眠る死者の宮殿よ―
        ―我らの下に姿を現せ―
            ―冥府の石柱!!!―

「ネギッ!」

「分かってるッ。使わないよ。今は……前2人でフェイトと戦った時とは……ラカンさんと戦った時とも……違う。今の僕達でッ……」

「「倒すッ!!」」

ネギは己の相棒がいる今、2人で力を合わせ、太陽道をこの場で使わない事を決めた。
実際、ザジの姉の幻灯のサーカス下での完全なる世界で1日休み、太陽道の限界使用時間が回復しているとしても、この場で今限界まで使ってフェイトを倒せたとしても、ネギはそこで終わってしまう可能性が高い上、新たに現れたアーウェルンクス達の事を鑑みれば、戦闘の場が大祭殿であるならともかく、まだ、使うべきではないのは明白であった。
そして巨大な石柱を前に、2人は目の前ただ1人の相手、フェイト・アーウェルンクスとの激しい戦闘へと突入し、大祭殿へと急ぐ者はついに長瀬楓、その天狗之隠蓑の中にいる宮崎のどかとなったのだった……。



[21907] 60話 フィリウス(魔法世界編20)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/11 00:59
―10月11日、5時7分、墓守り人の宮殿上層大祭殿、儀式完了迄53分―

刻々と時間は過ぎ、世界の終りと始まりの魔法の儀式完成までとうとう1時間を切っていた。
祭殿中央、火星を模したかのようにやや傾いた頂点から4方向に伸びるフレームに囲われた巨大な透明球体内には黄昏の姫御子、アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシアが浮かび、その更に奥の幾分離れた空中には最後の鍵が浮かんでいた。
フェイト・アーウェルンクスが大祭殿を去り、球体の前、魔方陣が描かれた円状の足場で調は観測を続け、フードを深く被ったままの墓所の主は力場を展開し続け上層部の姿勢を維持していた。

「急いだ甲斐があった。……今こそ……時は満ちた」

ずっと沈黙していた墓所の主が突如呟き、その雰囲気がみるみるうちに変化を始める。

「……ぼ、墓所の主様?いかがなさいましたか?」

その威圧感と意味深な発言に調は思わず振り返って聞き返すが、墓所の主はそれに構わず魔力を解放し出し、造物主の掟を頭上に掲げ呪文の詠唱を始めた。

         ―おお 死者の宮殿よ 眠りから覚め―
           ―我の下にその姿を現せ―
            ―来たれ 永久の水晶―
           ―彼の者達を呼び醒まさん―

円陣が夥しく輝き出し、その中心から2つの巨大な水晶が並んで現れる。

「い、一体これは!?」

全く予想だにしない現象に調は驚きの声を上げる。
その全貌が顕になった水晶の中には両目を閉じた2人の人間の姿があった。

           ―時を超え 依代の躰となれ―
            ―今此処に降臨せよ―
            ― 封 印 解 放 !!!!―

「キャァァッ!」

瞬間、水晶が甲高い音と共に勢い良く弾け、その影響で調は魔方陣の端に吹き飛ばされ、墓所の主はその場に力を失ったかのように倒れ伏す。
造物主の掟はそのまま光を放ち続け、力場の発生を続ける。
そして……水晶から解き放たれた2人の人間は静かにその場に降り立ち……ゆっくりと両目を開けた。

「…………永い間眠りについていたようだな……」

赤髪の男性が呟く。

「……そう……永い間眠っていたのです」

隣の金髪の女性がそれに答える。

「…………アマテル……」

「時を超え……再び巡り逢う」

「……我らの悲願は」

「すぐそこに……」

現れたのは……世界最古の王国、ウェスペルタティア王国の始祖達であった。

「あ……あなた方は一体……」

調は上体だけを起こし2人の姿を見て思わず声を上げる。

「調……先に旅立つが良い」

        ―リライト―

「……え……そん……」

金髪の女性は空に浮いていた筈の造物主の掟を気がつくと手にし、調に躊躇なくリライトを放ち花弁と化して消滅させた……。

「……ぬぅ……造物主め……。む……ここは……お主ら成長して……いや、その様子!馬鹿弟子とアリカの身体を乗っ取りおったか!!」

倒れていた墓所の主は意識を取り戻し、記憶に混乱が見られるような発言をしつつも立ち上がり、2人に対峙する。

「フィリウス……乗っ取った訳ではない。彼らは我らと共に在る」

金髪の女性が無表情でそれに答える。

「戯言を……ッ!」

「仕方ない……自我を持った人形は壊さねば」

金髪の女性がそう言った途端、赤髪の男性が全身に膨大な魔力を纏い、フードが取れて白髪が顕になった子供のような体格をしたフィリウスに襲いかかる。

「はっ!」―最強防護!!!―

フィリウスは後方に退避し浮遊術に移行しながら即座に非常に強力な対物対魔法障壁を幾重にも展開しその攻撃を凌ぐ。
しかし、特段何らかの詠唱魔法を使っている訳でも無いにも関わらず赤髪の男性はその障壁を驚異的な速度で次々と破り、あっという間に残すは身体に直接展開させている積層多重障壁のみとなり、その拳がフィリウスの眼前に迫る。

「ッ!」

フィリウスの頭部を粉砕するかと思われた拳は赤髪の男性の意に反し、ギリギリで停止し、フィリウスはその隙に退避して難を逃れる。

「ナギッ!」

          ―縮地无疆!!!―    ―縮地无疆!!!―

その瞬間、この時ばかりと大祭殿の下部の岩場に隠密行動で到着していた長瀬楓が分身と共に長距離瞬動で祭殿中央、球体の中に浮かんでいるアスナ、離れた所に見える最後の鍵を奪取しようと飛び出した。
同時に赤髪の男性は再び身体の自由を取り戻し、こちらも分身を出現させ目標を長瀬楓に反射的に切り替え驚異的な速度で接近し、先に動いた筈の長瀬楓が目的の物を抱えようとした所にあろうことか間に合い、そのまま打撃を入れる、寸前。

「!」―瞬時強制転移!!!―

フィリウスが長瀬楓と自身に転移魔法をかけ大祭殿から墓守り人の宮殿最下層へと脱出した。

「!?」

「はぁっ……はっ……間に合ったか」

フィリウスは僅か1秒にも満たない刹那の間に転移魔法を間に合わせるという荒業をやってのけ瞬間的な疲労に陥り息を切らせる。

「こ……ここは……いや、お主はどなたでござるか?先ほどまで奴らと行動を共にしていたように思ったが……しかし後一瞬遅ければ拙者はやられていたでござる。かたじけない」

長瀬楓は一瞬で居た場所が変化したことに驚くが、目の前にへたりこんでいるフィリウスに礼を述べる。

「ワシか……ワシはゼクトじゃ。突然意識を取り戻した故状況が掴めぬが少なくともお主の敵ではない」

「楓さん……一体誰と……?」

宮崎のどかが長瀬楓が何者かと会話しているところに天狗之隠蓑から顔だけ出して問いかける。

「のどか殿、この御仁に助けられたでござるよ。最後の鍵とアスナ殿を連れてこられなかったのは失態でござるが……。ゼクト殿、時間は惜しいが一先ずこの隠蓑の中へ」

「アーティファクトか」

長瀬楓は首に巻いていた隠蓑を広げゼクトと自身もその中に入る。
今までの殺伐とした状況とは打って変わり、落ち着いた和室に場所は移る。

「もう一度名乗るがワシはゼクトじゃ。細かいことは省くが、紅き翼の1人として完全なる世界と戦った際今まで意識を乗っ取られていたようじゃ」

「ネギ坊主の父上やラカン殿の仲間……でござるか」

「ね、ネギ先生のお父さんの仲間ですか……」

長瀬楓と宮崎のどかは突然の展開に聞きたいことは山ほどあったが、ゼクトが質問するほうが先であった。

「そのネギというのはナギの息子か?む……その前に今何年か確認して良いか?」

「今は2003年でネギ先生は……この赤髪の人です」

宮崎のどかは端末を操作して、ネギの写真を出してゼクトに見せる。

「ふむ、ナギに似とるの……しかしあれから20年も経っておったか。道理でナギに子供がおってあの2人の身体も成長しておった訳じゃな……。して今は奴らが2人の身体を最適な依代として乗っ取り、更には黄昏の姫御子があそこにおった事を考えると性懲りも無くあの儀式をまた行おうとしているといった所か」

「儀式が行われるというのはその通りでござる。しかし、あの横目に見えた2人の人物はやはり……」

「あれはナギとアリカ姫の身体じゃが、今乗っ取られておる。ワシだけでは奴ら2人をどうすることもできぬ」

「ふむ……そうでござったか……ネギ坊主の父上の行方が掴めなかった理由はそのような事であったか……」

「ね……ネギ先生のお父さんとお母さんが……こ……ここに……?」

宮崎のどかは元々ネギの父親を探すための旅行だった筈がいつのまにか完全なる世界との戦いに突入し、皮肉にもこの最終決戦の場にネギの両親がいるという話に目を白黒させるが、ゼクトは構わず質問を続けた。

「して、他に仲間はおるか?」

「拙者とのどか殿を除き9人にござる。ゼクト殿が知っておられる仲間であれば高畑・T・タカミチ先生、クルト総督がおられる」

「タカミチとクルトか、あの子供らも来ておったか。とするともしや今は交戦中か?」

「今は子供ではござらぬが……。3人……ネギ坊主が途中におらなかったことを考えると4人のフェイト・アーウェルンクスにデュナミス達とそれぞれ交戦中でござろう。既に15分以上経って連絡が入って来ない事からして状況はかなり悪いと思われるが……」

「アーウェルンクスが4体にデュナミスじゃと……?それは厄介じゃな……奴らも造物主の掟を持っておるか?」

「その通りでござる。障壁を抜いて攻撃を与えてもすぐに元に戻る不可思議な技を用いる」

「奴らを倒すには核である頭部を完全に潰すしか確実な方法は無い。一つ……途中にいなかったというネギは恐らく造物主の掟の閉鎖空間に閉じ込められている可能性が高いが……どれほど強いのじゃ?」

「……通常時もなかなかであるが、太陽道という技法使用時は、限界時間は短いがラカン殿をも一瞬で戦闘不能にし、造物主の掟にも対抗出来るようでござる」

「あの馬鹿を一瞬とな……。異常なものを使えるようじゃが……それならば大祭殿のあの2人をもなんとかできるかもしれぬな……。閉じ込められているならばやはり1本造物主の掟を奪って干渉する他あるまい。今ワシが大祭殿に戻ってもすぐに返り討ちにあうのは明らかじゃ。まずはお主達の仲間の元に向かおう。お主達の仲間が1人でも多くやられればますます手がつけられなくなる。転移で行く故、お主達はこの中におると良い。ワシがこのアーティファクト、運んでも良いか?」

「頼むでござる。皆がいるのは中層部。ご助力かたじけない」

「分かった。見たところ魔法薬もあるようじゃが怪我をしているなら手当すると良い」

「回復次第拙者も出るでござる」

「分かった。では行く」

ゼクトは1人天狗之隠蓑から出て、首に巻き付け高畑達の加勢に向かう。

「まずは自力で回復魔法が使える水からじゃな……アーウェルンクスとなると強くなっておるじゃろうが……目覚めてすぐにまたアレの相手とは。水の反応……探知…………………特定した」

         ―転移門―

ゼクトは探知魔法を使ってセクストゥムの居場所を割り出し、目の前に光り輝く扉を作成し、そこからセクストゥムと葛葉の戦闘中の場所に転移していった。
ゼクトが転移する前、セクストゥムと戦い続けていた葛葉は終始圧倒的劣勢でありながらも、全身全霊を尽くし、未だ倒れてはいなかった。
あちこち凍傷が目立つが気による身体保護によってそれらを軽減し、攻撃は全て弐の太刀で行い常に障壁を無視し続けた。
その度に腕や足は斬り飛び、胴からは血のようなものが吹出すが、首の切断を狙った場合だけはどうあっても回避されてしまうのであった。
少なくとも切断しやすい腕を片方排除するだけでも、澄み渡る水の神弓は封じる事ができ、魔法の発動も主に片腕からだけにすることができ気勢を削ぐ事ができた。
当然葛葉は攻撃も受け、大量の追尾型無詠唱氷の矢や氷槍弾雨で追い詰められながら、凍てつく氷柩という指定した座標に巨大な氷柱を発生させ、その中に閉じ込める封印魔法は、セクストゥムの手の向く方向と、周囲の一瞬の温度変化に神経を研ぎ澄ませて集中しなければ避けられず、直撃を喰らえば一撃で終了する上、避けても氷の矢によって身体を傷つけられるという、常にギリギリかつジリ貧の状態であった。

「ここまで持つとは……評価を改めたい所ですが、もう一思いに楽にして差し上げます。そのまま死なれると私が困ります」

葛葉は出血を身体保護でできるだけ軽減し、ペイという陰陽術による自己回復も隙を見ては使用していたが、セクストゥムの攻撃の前には焼け石に水、先に出血多量で生命の危機に瀕していた。

「うっ……がふっ…………まだ……先に行かせる訳にはっ……。フッ……ハァァ――ッ!!!」

          ― 雷 光 剣 弐 の 太 刀 !!! ―

葛葉は再び盛大に口から吐血し、限界が近いのを自身で悟りながらも太刀に高密度の電気エネルギーを収束させ、決死の攻撃を仕掛ける。
その気迫の篭った渾身の一撃に、セクストゥムは一瞬避けるのが遅れ、右半身丸ごと吹き飛ばされる。

               ―リロード―

「いい加減に……」

         ―ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト―
    ―契約に従い 我に従え 氷の女王 来れ 永久の闇―
            ―永遠の氷河!!!―
    ―全ての 命ある者に 等しき眠りを 其は 安らぎ也―

セクストゥムはこの時ばかりは造物主の掟による再生を選び、続けて葛葉の周囲150フィート、およそ46m四方を絶対零度に変え逃げ場を無くし、そのまま止めに入った。

「ッ!足がッ!」

             ―凍る世界!!!!―

「――――!」

葛葉はこの攻撃を即座に理解し範囲外に逃げようとしたが、雷光剣による反動で足が思うとおりに動かず……それは叶わなかった。
瞬時に一帯の空間が巨大な氷塊で埋め尽くされ、葛葉はその中に敢え無く凍結封印された。
……ようやくその場に静寂が訪れる。

「……最初から手負いだったというに……始めからこうすべきでしたね……。送りましょう」

セクストゥムは虚空から再び造物主の掟を取り出し最後の作業にかかる。

     ―灰は灰に 塵は塵に 夢は夢に 幻は幻に―
        ―全ての者に永遠の安らぎを―
             ―リライト―

造物主の掟が僅かに光りを放ち、氷塊に閉じ込められた葛葉はその魂のみを完全なる世界に送られた。

「……これでもう身体は意味を為しません……もう……砕いても構いませんね……」

セクストゥムは無駄な時間を取らされたという風体で表情を僅かに歪ませ、造物主の掟を虚空に戻し、氷塊を粉砕すべく腕をゆっくり頭上へと上げそのまま指を弾こうとする。

「良い夢を」

          ―新 星 の 煌 き !!!―

しかし、そう言ってセクストゥムが指を弾く寸前、セクストゥムの頭部が内部から輝きを放ち瞬間的に広がった強烈な光に飲まれ消滅した。
首から下の残った身体はそのまま崩れ落ち、ドサリと音を立て、完全に沈黙する。

「間に合った……。完全に油断していたとはいえ……同じ手に2度もかかるとは学習しとらんの……6。しかしこの詠春と同じ流派と思われる剣士の女性は送られ……造物主の掟は既にしまわれた後じゃったか……。じゃがこのままここに放置してはおけぬ」

ゼクトはセクストゥムが葛葉を送った時に転移でその死角に現れ、その場から殆ど動かず葛葉の身体をも処理しようとした隙だらけの所を座標指定型の光系内部拡散消滅魔法によって、積層多重障壁を無視しセクストゥムの頭部に致命的な一撃を与えたのである。
いくらアーウェルンクス達が人形で痛みも感じず、リロードによる再生が可能とはいっても頭部をやられればそもそも思考が出来なくなる時点であらゆる行動は不可能となり残った身体はただの肉塊と化す。
残った身体から頭部までもが再生するのであれば倒すのは身体全体を消滅させない限りは不可能であったが、流石にそういう仕様ではなかった。

「ゼクト殿、葛葉先生は……」

魔法治療薬を服用して身体の内の傷に応急処置を丁度施した所長瀬楓はゼクトが何やら呟いているのを聞きつけ、隠蓑から顔だけを出しその光景を自身の目で確認した。

「済まぬ、送られた後じゃった……」

そう言いながらゼクトは巨大な氷塊を無詠唱光系の魔法を用い葛葉が閉じ込められている部分だけを手早く切り出して行く。

「……そうで……ござるかッ……」

長瀬楓はその完全に見開いた両目を閉じ、苦悶の表情を浮かべるも、隠蓑から再び出て、ゼクトが切り出した葛葉の入った氷塊を自らの手で丁重に収容した。
宮崎のどかは傷だらけの状態で封印された葛葉の氷塊を見て、直接身体に触れることは叶わないがその氷塊に抱きつき我慢できず泣き出した。

「く……葛葉先生……くずはせんせーっ……うぅっ……うっ……」

「……それは最上級の氷結系封印魔法じゃが必ず解ける。楓よ、危ないと思われる者の相手は誰がしておるか。探知でアーウェルンクスらの位置ならば分かる」

「皆危ないが……障壁を突破する手段を持たぬ高畑先生と古は2人という点でも特に危ない。相手はデュナミス。影のような魔法を使う輩でござるよ」

「デュナミス……アレなら真っ向からでも五分五分じゃ」

「拙者も次は協力するでござる。動きを封じるぐらいはできよう」

「うむ……7秒間封じられるならば仕留められるぞ」

「……あい分かった。この長瀬楓……なんとかしてみせよう」

そして直ぐ様ゼクトは隠蓑から再び出て探知魔法を行使し、デュナミスの闇の反応を辿り始めた。
デュナミスと高畑、古菲の戦いは長瀬楓がゼクトに述べるだけあって葛葉とセクストゥムの戦いよりも戦況は終始悪かった。
何より高畑の無音拳の威力がいくら高かろうと、どこまで行っても純粋な拳圧であるため物体を消滅させるのとは性質が完全に異なるのである。
古菲も己の最も得意とする八極拳は超近接戦闘であり、デュナミスの闇の魔素によって腕を構築できるという能力の前には迂闊に近づけば直ちに戦闘不能に陥るのは目に見えていた上、近づいては高畑の攻撃の邪魔にもなるため、神珍鉄自在棍の伸縮を活用した叩きつけ等だけがまともな攻撃手段であった。
しかし、それらではどうあっても積層多重障壁を破る事は叶わず2人がデュナミスを倒すのは絶対に、不可能であった。
2人は常に空間跳躍攻撃に警戒を怠らず、地に落ちている腕はできるだけ破壊しつつ、デュナミスの身体からは目を離さないようにし、腕が跳んだ、と気づいたらすぐに後方へと退避する事で、空間跳躍攻撃の射程範囲から逃れるようパターンを組み、互いの背後に現れるのがもし見えた場合は端末で、後ろ、と短く伝える事で注意を促し回避を可能としていた。
しかしそれも最初の数分は上手くいっていたが、デュナミスが己の肉体からの攻撃だけでなく、更に巨大召喚魔を部分的に召喚するという事を始めた途端窮地に陥った。
巨大召喚魔の硬さは通常の傀儡悪魔の比ではなく、長大な触手や巨大な腕は2人の逃げ場を塞ぎ、デュナミス本体からの攻撃の回避が格段に困難になったからである。
更に咸卦法で強化している高畑と、気による強化だけを行っている古菲では耐久力に歴然とした差があり、避けきれずに攻撃がかする度に古菲の方がいち早くダメージが蓄積していき急速に動きが鈍くなっていった。
それに気づいた高畑が古菲に戦線から離脱するよう促そうとした丁度その時、古菲の足元が僅かにふらついてしまい、そこを巨大召喚魔の腕に完璧に捕捉され、更には神珍鉄自在根が手から離れ落ち、身動きをとれないよう絞めつけられてしまったのである。
高畑は腕の付け根に向けて攻撃を放つがその前に巨大召喚魔の他の部位が出現してそれを遮られ、逆に古菲を捕らえた事でデュナミスは高畑に標的を絞って攻撃ができるようになり、ついに戦況はデュナミスに完全に傾いた。
高畑は接近して戦えない為、あっという間に後方に退避せざるを得なくなり、一方でデュナミスは捕まえた古菲を更に強く締め付けて意識を飛ばそうとしながら近くに移動させ、更に造物主の掟を取り出しリライトの準備にかかった。

「うぐあぁぁぁッ!」

古菲はその攻撃に苦痛の声を上げる。

「古菲君ッ!」

            ―七条大槍無音拳!!!―

高畑はそれに焦り最も威力の高い無音拳を放って目の前の触手群を吹き飛ばし、中空から一気に接近する。

「自ら寄ってくるとはなんと愚かな」

            ―虚空影拳貫手八殺!!!―

「ぐあッ!!」

しかし、それをほぼ誘われた形になり高畑は8本の腕の空間跳躍攻撃に全方位を囲まれどうあっても避ける事ができず、一撃を貰った後連続して残り7発の直撃を喰らい地に叩きつけられる。
古菲はとうとう痛みに耐え切れずに気を失い、満身創痍の高畑はすぐに起き上がる事ができない。

     ―灰は灰に 塵は塵に 夢は夢に 幻は幻に―
        ―全ての者に永遠の安らぎを―
              ―リライト―

デュナミスは古菲が気絶したと同時にリライトを発動し古菲の肉体を残し、魂だけを完全なる世界に送り、造物主の掟を前回の反省からすぐに虚空に戻す。
古菲の身体からは今まで感じられていた筈の生気があからさまに失せ、最早魂がここに無くなったことを高畑は実感せざるを得なかった。

「貴様ーッ!!」

高畑は元教え子が目の前でリライトされるという他者からすれば厳然たるただ一つの事実に完全に激昂し、受けたダメージを忘れたかの如く再び立ち上がった。

「動くな!」

デュナミスが高畑に更に大きな声で勧告する。

「……動けばこの小娘の身体をこのまま粉砕する。魂は救済され最早抜け殻となった今、これがどうなろうと我らには関係の無い事」

「くっ……」

高畑はデュナミス達が人間を殺せないというルールが、リライトする前にしか原則適用されないという事をようやく認識した。

「貴様らは我らの計画を阻止しようとするつもりのようだが……万一にもそうはならないが、阻止するというのが前提の貴様らはこの小娘の身体を見捨てることは絶対にできない。高畑・T・タカミチ、降伏しろ。その傷では貴様も危うい。死なれては、困るのだよ」

「……くっ……ここまで……かッ……」

高畑は実際デュナミスの言うとおり、絶対に古菲の身体を見捨ててまで戦闘を続けるという選択肢はどうあってもとれはしない。
戦わないにしてもこの場から逃げきる事も今の高畑では不可能であり、先の直撃により端末も壊れ連絡も叶わず、最早選択肢はただ一つしか残っていなかった。
高畑はまだ残っている仲間達に詫びるような表情、悔しい表情、ネギ達に望みをかけるような入り交じった複雑な表情を浮かべ、口を開いた。

「……分かった。降参し」

            ―楓忍法・対魔巨大手裏剣!!!―

「何ッ!」

高畑が降伏しようとした瞬間、頭上から4枚刃の巨大手裏剣が古菲の身体を掴んでいた巨大召喚魔の腕を一刀両断し、地面スレスレを目立たないように駆け抜け接近していた分身がそれによって解放された古菲の身体をキャッチし、そのまま離れた。

「楓君ッ!?」

     ―影縫い!!― ―影縫い!!― ―影縫い!!― ―影縫い!!― ―影縫い!!―

     ―影縫い!!―    ―楓忍法・天魔覆滅縛鎖地網陣!!!!― ―影縫い!!―

     ―影縫い!!― ―影縫い!!― ―影縫い!!― ―影縫い!!― ―影縫い!!―

間髪おかず、長瀬楓は本体と残りの分身総出でデュナミスの身体を鎖で雁字搦めにして縛り、闇を操る事から効果は余り得られないだろうと踏み、それならば物量作戦として分身達が一斉に苦無をデュナミスの影に投擲し、その動きを全力で封じ、投擲し終わった分身は本体が放った鎖をそれぞれ全力で引き絞りその場に抑えこむ。

「何の真似だ貴様ァッ!!」

「「「「「はぁぁぁ――ッ!!!」」」」」

限界まで力を己から引き出し、この一度限りの作戦を成功させようと長瀬楓はその両目に恐るべき執念を宿していた。

「!!まさかッ!?貴様ァァァ!!!」

デュナミスは自分の頭部の座標に何の魔法が発動されるのかを対極の属性を司る者として直ぐ様察知し、縛りから逃れようと渾身の力を振り絞る。
周囲に蠢いていた触手群が長瀬楓達に纏わり、引き剥がしにかかり、1人、また1人と排除されようとも一切諦める事なく彼女達はその体勢を維持し続けた。

「おのれえええ――ッ!!」

「「「ゼクト殿ッ!!」」」

           ―新 星 の 煌 き !!!―

そして、デュナミスの頭部は内部から輝きを放ち瞬間的に広がった強烈な光に飲まれ完全に消滅した。
影縫いの効果はすぐに失われ、最終的に本体含め3人だけしが残らなかったが、7秒間、約束通り長瀬楓はデュナミスの動きを封じきったのだ。
デュナミスの身体が第一形態に戻り、首から下が力を失い崩れ落ちると同時に、周囲の召喚魔の触手や部位は塵となって大気に消えた。

「はっ……はっ……負担が大きい。見事じゃった、楓。ワシだけでは確実に避けられておったがお主のお陰じゃ」

隠れていたゼクトは不意にその姿を現し、息を切らせる。

「あ奴が最初に油断しておらなければ間に合わなかったでござるよ……」

「か……楓君……それに……あなたは……!?」

高畑は立っているだけでも驚きという怪我の状態であり、今にも再び倒れようかと言わんばかりに膝がガクガク言っていた。

「お主タカミチか。久しぶりじゃの。大きくなった……というよりは老けたか。まるでガトーのようじゃ」

「ぜ、ゼクトさん!?一体何がどう……して……」

「高畑先生!」

気が抜けて倒れた高畑を長瀬楓が支える。
古菲の身体を確保した分身も戻ってきた為、再び隠蓑の中に入り状況整理に移った。

「くーふぇ!くーふぇまでっ!そんなっ……そんなっ……」

宮崎のどかは一切動かなくなった古菲の腕を両手で包み涙を見せる。

「古までもが送られるとはッ……」

「古菲君を守れず……済まない……」

高畑は和室に横たわったまま、やりきれない声で詫びる。

「高畑先生だけの責任ではござらぬ。あ奴らの強さを考えれば仕方ない。軽くは考えていたが……皆それも覚悟の上でござった……。なんとしてもアスナ殿と最後の鍵を奪取せねば……」

「せめて奴らを倒せておるのは良いが大祭殿の2人に対抗出来る戦力は相変わらず無く、造物主の掟もまたしても奪えなかったの……」

「葛葉先生までもが封印された上でやられては……今頃クルト達もッ……」

「真名はそれなりに自信があったようだが、総督は最初に直撃を受けている上、雷速を相手では危うかろう。ゼクト殿」

「分かっておる。時間が惜しい。じゃがワシを潰しに奴がいつ来るかわからぬ。ここではなく戦闘不能者を送れる場所はあるか?」

「そういう事なら混成艦隊ならば……茶々丸殿に連絡を入れるでござる。ゼクト殿もこれに手を。念じればよいでござるよ」

「うむ」

《茶々丸殿、戦闘不能者をそちらに転送したい》

《楓さん!……そちらの状況が気になりますが……転送といってもどのように?》

《ワシの転移魔法で送る。魔法世界基準の座標を口頭で良い。急ぎで頼む》

《……了解しました。現在の座標は…………》

茶々丸は口頭でフレスヴェルグの、それもデッキの座標を知らない人物ではあるがゼクトに伝えた。

《転送した後、すぐに医療室に運ぶのじゃ》

《見たら驚くが、葛葉先生と古は下手に弄らず絶対安静で頼むでござる》

《了解》

「では届けるぞ。のどかは良いのか?」

「私は……造物主の掟の使い方が分かるので……いさせて下さい!」

「仔細は分からぬがそれならば」

           ―遠距離強制転移!!!―

葛葉が閉じ込められた氷塊、古菲の身体、重傷の高畑の下に魔方陣が展開され発光と共にフレスヴェルグに転送された。
詳しい説明は高畑が行う事になったため通信はそれまでとなった。

「次の場所に移動する前に……役に立つかもしれぬから聞くが、のどかは何故造物主の掟の使い方を知っておるのじゃ?」

ゼクトは隠蓑から出る前に、宮崎のどかが造物主の掟を使えると言った事について確認を取る。

「アデアット!……私のこのいどのえにっきでデュナミスの心を読んで知りました」

宮崎のどかはアデアットし、いどのえにっきを出す。

「いどのえにっき!?なんと珍しいものを……それならば納得じゃ。全部分かっておるのか?」

「いえ……全部は読む前に中断させられてしまったので……」

「ならばワシの名、フィリウス・ゼクトを呼び、造物主の掟の使い方を聞くのじゃ」

「え?」

「何をしておるか。ワシは乗っ取られておったがアレの使い方は知っておる。お主が造物主の掟を使うというなら、ワシがやられるかもしれぬ事を考えれば今のうちに知っておいたほうがよかろう」

「は……はいっ!フィリウス・ゼクトさん、造物主の掟の仕組みと使い方を全て、教えてください!」

宮崎のどかはゼクトに造物主の掟の使い方を全て、と言う事でいどのえにっきにその情報を得た。

「よし……長々説明しなくて済むのは便利じゃ。さて……風は機動性から言って先の手は無理じゃ。正直ワシも勝てるか分からぬが……やるだけじゃ。探知に出る」

「……頼むでござる」

ゼクトは再び隠蓑から出て風のアーウェルンクス、クウィントゥムの反応を探知し始めた。

「反応が……無い……。閉鎖空間に移動しとるのか……それとももしやクルトが……やむを得ん、火を探知する他無いか」

そう、クウィントゥムの反応は探知できなかったのであった……。
長瀬楓と入れ替わりにクウィントゥムと戦闘になったクルトは攻撃は最大の防御と言わんばかりに攻撃の手を一切休める事無く太刀を振るい続けた。
クルトは政治家になった関係で長らく戦いからは退いていたが、全身の神経を極限まで研ぎ澄まし、この僅かな間にいち早く戦いの勘を取り戻していった。
クウィントゥムはリロケートを頻繁に使用してくるため、クルトは絶対に足の動きを止めないという事を心がけ、死角からの転移攻撃に対処していた。
驚くべきは自由に雷精霊化の切り替えができるクウィントゥムの雷速の機動性をも捉え切るクルトの剣速であり、逆にこれほどの剣の腕がなければ一瞬でやられていた。
クウィントゥムは終始攻撃を受けても無言を貫き、最初の2分は単身の直接攻撃で一撃で沈める手段に出ていたが、それを過ぎると攻撃方法に変化を加え、大量の雷の矢、白雷閃、雷の投擲を無詠唱で囲むように放ち、クルトの移動先を制限した上で、転移併用の轟き渡る雷の神槍による一撃必殺を繰り出し、あえて雷の矢の雨の中にクルトを追い込みジワジワと削っていった。
しかし、クルトが習得している技術は剣術だけではなく、サポート系の魔法もあり、予め電撃に対する耐性を上げる事で痺れて動きが鈍ることは無かった。
クルトにとって幸運だったのは、人間殺害不可というルールのためにクウィントゥムが雷の暴風や雷系最大規模の千の雷等の対象を根こそぎ消滅させる強力な放出系魔法を使わなかった事である。
だからこそ、クウィントゥムは、威力を調整した上で、対象を貫けば必ず一撃で余程高度な回復魔法でも無い限り、2度と戦線に復帰できない重傷を与える事の可能な轟き渡る雷の神槍による攻撃を繰り返し試みたのである。
とは言っても、いつまでもその一撃を避け続けるということが不可能だというのは両者共に分かっていた。
クルトは常に斬魔剣弐の太刀や雷鳴剣弐の太刀で葛葉と同じく腕を切り飛ばす、消滅させる事でクウィントゥムの攻撃の手数を減らしていたが、神経を最高に張り詰め続けるにも数分経って限界を感じ始めた。
クルト自身ができる、すべき事とは、自分が戦闘不能になるにしても少なくともクウィントゥムが他の仲間の所に加勢に行かないようにするという事であった。
既に何度も轟き渡る雷の神槍をギリギリで回避した事で、タイミングを掴んだクルトは意を決してある行動に出た。

「ハァッ!」―斬魔剣弐の太刀・連閃!!!―

クルトはクウィントゥムが再び雷化した所を捉え数度斬りつけその手足を切り飛ばし再生を敢えて行わせる。

           ―リロード―
           ―リロケート―

再生を行うと同時にクウィントゥムは転移を行いクルトの正面から消える。

「そこだッ!」  ―雷鳴剣弐の太刀!!!―

消えると同時にクルトはその場で回避を取らず、今までの経験から狙った位置に向けて背後を振り返らずそのまま雷鳴剣弐の太刀を放った。

           ―轟き渡る雷の神槍―

「がぁぁッ!」

刹那、クウィントゥムが出現した瞬間、轟き渡る雷の神槍がクルトの胴体を背後から完全に刺し貫いた。
強烈な電撃が身体を駆け巡りクルトはその衝撃で吹き飛び、手からは太刀が離れ、数回転がった後その勢いを止め、身体からは煙が上がり、うつ伏せの状態で一切動かなくなる。
しかし……そこにリライトをかけられる者はいなかった。
空間そのものを斬る対象として選択して放たれたクルトの雷鳴剣は、クウィントゥムが転移して現れた丁度その頭部の位置と完全に重なったのだ。
クルトは自身の確実な戦闘不能と引換にクウィントゥムを戦闘不能に至らしめ、見事相討ちを果たした。
しかし、結果を見てみれば単純な相討ちではない。
クルトは完全なる世界に送られてはいない上にクウィントゥムがリロケートで転移して現れた所を狙い撃ちした為、造物主の掟が虚空にしまわれることなくクウィントゥムの手から離れその場に無造作に転がっていたのである。
空気の流れによってクルトの髪が微かに揺らぎ、その場には最早戦闘の音が響く事は無く、あるのは静寂だけだった。
これはゼクトがクウィントゥムの風の反応を探知を試みる数分前の出来事である。
そんな所へ程なくして偶然現れたのは、服がボロボロになり、体中に切り傷を作り、額から血が流れた痕も残るが未だ健在の桜咲刹那であった。
彼女はさっきまでは持っていなかった筈の見事に黒一色の太刀を背中に背負っていた。

「そ、総督ッ!お怪我は……ッ!これは酷い重傷……」

桜咲刹那はクルトの身体を上体に戻し、怪我の程度を確認するが、パッと見ても感電による火傷が見受けられ、見えない身体の内部の火傷も考慮すればこのまま処置しなければ命に関わるというのをすぐに理解した。

「一体誰と戦闘を……端末を月詠に早々壊され念話も妨害されていては……。なッ!この首から下だけの身体にこの服装!フェイト・アーウェルンクスか!!流石長の弟子であられる……まさか倒されるとは……。それにこれは造物主の掟……。まさか月詠が持っているとは思っていなかったが奪取できなかった所をここで見つけるなんて……。こうしている場合ではない。奴らがここにいつ回収しに来ないとも限らない。急いでここから離れ式神を飛ばさねば……」

桜咲刹那はクルトが相討ちという形であれ、フェイト・アーウェルンクスと思われる敵を倒したという事に驚くが、それも束の間、すぐに背中に造物主の掟を黒い刀と共に背負い、クルトは肩に担ぎ、無事に残っていた5枚の紙型を懐から出し自身の式神を出現させて周囲に飛ばした。
クルトを担ぎ、身長程の大きさもある造物主の掟を持った状況では戦闘は困難であり、上層に向かっても身動きがとれない今、桜咲刹那は式神に期待しつつ、小型強襲用艦の方向に戻る事に決めて移動しだしたのだった……。
一方、大祭殿直前の閉鎖空間内ではネギと小太郎がフェイト・アーウェルンクスと十数分に渡り激しい戦闘を繰り広げていた。
小太郎はネギからの最大効率契約執行の咸卦法かつ獣化奥義の白狼状態で、ネギは魔法領域を球体状ではなく、身体を直接鎧のように纏っていた。
ネギと小太郎はお互いの隙を互いに補い合い、フェイトに肉薄し、実際に2人の同時攻撃により、決定打には至らないものの、積層多重障壁を突破することもできた。
戦っている最中のフェイトは今までになく楽しいという表情を浮かべ、ネギと小太郎はそれに何か鬼気迫る物と同時に何か違和感を覚えつつも、それでも進まなければならないため戦いを続けた。

「良いよ、こうでなくてはッ!」

フェイトは左右に掲げた両の手の上に石の短剣群を出現させ2人に向けて飛ばす。

「はぁァッ!」―双腕連装・断罪の剣!!!―

「でやッ!」  ―大神・白狼襲爪!!!―

ネギと小太郎は寸前で見切って躱し、一定の斜線軸上に留まらずにジクザクに虚空瞬動を連発してフェイトの懐に潜り込み左右から同時に直接攻撃を叩き込む。
両の掌を合わせて連続発動させる断罪の剣は片手だけの時よりも威力は両手になった分高く、小太郎の出力も最高状態、積層多重障壁を以前とは比べ物にならない速度で破り、フェイトの身体に傷を付ける。
しかしフェイトはそれに痛がる様子も見せず石の剣を腕に作り出して切りつけ、また回避した所をそのまま投擲し、外れればそれを砂塵に分解して操作し2人の追跡を行う。
フェイトはいつまでもこの戦いが続けば良い、というかの如く、現在の状況を続け、できる筈にも関わらずネギの魔力切れを狙える冥府の石柱を連発した攻撃を戦闘開幕以降取っていなかった。
しかし、それもネギ達からしてみればフェイトの時間稼ぎのようにしか思えず、焦りが募る一方であった。

「この戦いがいつまでも続けばいいのにね」

「願い下げだッ!」

「さっさと道を開けや!」

互いに目から血を流し、再び剣と爪を交え空中で高速で何度もぶつかりながら言葉を放つ。
しかし、フェイトが願ったいつまでも続くというのはフェイト自身に異変が見られた事で終りを迎えた。

「ぐ……あぁ……これは……僕の意思だ……手を出さないで……欲しいね」

フェイトは突然頭を両手で抱え出し呻き声を上げ始める。
丁度フェイトによって猛烈に攻め立てられていた所であった為2人は攻撃の手が緩むどころかそのフェイトの反応に驚く。

「はぁっ……はぁっ……一体何だ」

「何や……あいつ初めて苦しんどるな……」

「……これはまさに人間のッ……人形の分際で……それと……逆らうなど……同じ感情だッ!……あぁぁ!!」

明らかに攻撃の好機であったが、ネギと小太郎はどうにも身体が動かずその様子を見続けてしまったが、フェイトは目を見開いて叫び声を上げた途端、下を向き完全に沈黙した。
そして再び声を上げた時そのフェイトは既に別の何かに操られているという様子がはっきりと分かった。

「…………ネギ・スプリングフィールド、貴様は危険だ……」

フェイトの雰囲気がガラリと変わり、次の瞬間ネギのすぐ目の前に知覚できない速度で迫り、左手でネギの首を異常な力で掴んで固定し、右手人差し指と中指の間から覗かせた左目を怪しく光らせた。

         ― 永 久 封 印 !!!! ―

「ッ!」

ネギは咄嗟に断罪の剣でフェイト左腕を切り払おうとするが再展開された積層多重障壁に阻まれ脱出ができない。
フェイトの目からキィィンという音が鳴り始めネギの足が先端から水晶で覆われ始める。

「ネギッ!!」

そこへ小太郎はネギにかけられた魔法を即座に察知し、攻撃して引き剥がすのは無理だと直感的に思い至り、やむを得ずネギとフェイトの間に無理矢理割って入り、ネギの身代わりにその魔法を受けながらもフェイトの腕にその強靭な牙で噛み付いて引きちぎろうとする。
魔法が本格的に発動しだし至近距離の小太郎はみるみるうちに水晶に囚われ始め、ネギも小太郎が間にいるにも関わらずその水晶の侵食が止まらない。

「脱出しぃや!!」

「くっ!!」

        ―森羅万象・太陽道!!!―
        ―空間掌握・万象転移!!!―

ネギは何を思うよりも咄嗟に太陽道を発動し粒子分解でその場から転移する。

《コタローッ!!!》

        ―統合・終末之剣!!!―

次の瞬間、フェイトの放った魔法は完了し、フェイトもろとも小太郎のいた範囲十数m四方は水晶で埋め尽くされ完全に封印された。
ネギはそれを破壊しようと終末之剣を形成して貫こうとしたが、僅かに遅く水晶が目の前から消え去った。
実際には封印と消失は同時であったが、ネギの超加速状態ではギリギリでそれの差が感じられ攻撃できたのであり、寧ろその反応ができた事の方が異常であった。
フェイトが消え去ると共に閉鎖空間も崩れ、ネギは元の場所に戻った。

         ―太陽道・解除―

「はっ……はっ……一体今のは何だ……。さっきのあの感覚は……ザジさんのお姉さんに現れる前の声が聞こえた時と同じ……いや、先に行けば分かる事だ!」

ネギは考えるよりも先に身体を動かし、下の外壁に穴を開け通路に再び潜り大祭殿へ自身の最速を以て急いだ。
光りが隙間から漏れている大きな扉を突き破り、その空中回廊の先の祭殿に見えたのは2人の人影と半分に割られた先程の水晶であった。
ネギが動こうとした丁度その時、水晶は下に投げ捨てられ落下した。

「コタロ――ッ!!」

ネギは浮遊術で空中回廊から飛び降りその水晶を追いかけようとしたが、その頭上には遠くに人影として見えていた筈の赤髪の男性がネギを一撃で戦闘不能にするべく既に目前に迫り拳を振り下ろそうとしていた。

         ―リロケート―
      ― 絶 対 防 護 !!! ―

「!?」

ネギは知覚範囲外からの攻撃と同時に、自分との間に展開された強力な防御障壁に驚く。
反射的に瞬動で退避しながら上方を確認し、その驚きは更に増した。

「父……さん……?」

障壁に拳を阻まれていたのは幻灯のサーカスの中で夢に見たナギ・スプリングフィールドその人であった。

「そ奴は今乗っ取られておる!奥の女性も同じじゃ!黄昏の姫御子は祭壇中央の球体の中!最後の鍵は更に奥じゃ!」

「え?」

ネギは思わず抜けた声を上げるが、その隣から聞こえた声の主に視線を移した。
そこにいたのは造物主の掟を両手に持ち、首に布を巻きつけたゼクトであった。

「お主がネギじゃな」

「は……あ、ぜ、ゼクトさん!?」

クルトに見せられた映画の中でそのゼクトの顔に覚えがあったネギはまたしても驚きの声を上げる。

「ぬ、ワシを知っておるか。くっ……今それは良い。あ奴らは両方共本来の実体は魂を核とした高魔力源体じゃ。特にアリカに取り付いておる方が性質が悪い。お主何か凄い技を持っとるらしいが、なんとかできるか!済まぬがワシは長くは持たぬ」

ゼクトは造物主の掟の力を引き出して最高レベルの防御障壁を展開し赤髪の男性の攻撃を阻みながら早口でネギに畳み掛けるように言葉をかける。
当のネギはその言葉を聞いた途端、全てを見通すかの如く、虹彩が煌めいた。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月11日、5時21分、連合・帝国・アリアドネー混成艦隊、儀式完了迄時間39分―

数分前、高畑、葛葉、古が送られてきてからというもの、フレスヴェルグ内救護室は混乱に見舞われていた。
高畑が担架に乗せられて最初に救護室に入った途端叫び声を上げたのは近衛木乃香であったが、有無を言わさず続け様に葛葉の入った氷塊と古菲の身体が運び込まれ、春日美空共々言葉を失った。
葛葉の入った氷塊は救護室端に丁重に安置され、その横に古菲の身体が安置された。
その光景にショックを受け、2人は身体が全く動かなくなってしまったが、重傷ながら高畑が搾り出した言葉のお陰で我に返る事ができた。

「葛葉先生と古菲君は必ず助かる。大丈夫だ。治療……お願いできるかい?」

治療を頼むという言葉で近衛木乃香は深呼吸を数回繰り返し、気合を入れるかのように自分の頬を両手で軽く叩き春日美空に言った。

「美空ちゃん、頑張ろな!」

しかし、その顔は今にも泣き出しそうなのを我慢しているのが丸変わりの表情であり、春日美空は一瞬間を置いて返答した。

「……このか……分かった。できる事とか、必要な物あったらどんどん言ってよ。可能な限りやるからさ」

「うん、やるえ!」

間もなく、重傷の高畑から近衛このかを含む治癒術師数人総出で治療が行われ一先ず命の危機からは脱した。
そして、安置されていた古菲の身体も外傷がある為治療が施されようとしたが、魂が既に無く死体と言っても過言でない古菲の身体には一切の治癒魔法が効かず、その事で動揺が巻き起こったが、高畑がせめて怪我の縫合を行って欲しいという発言によって速やかに処置が施された。
明らかに脈が無い為死亡しているのではないかという思考がその場の者達の脳裏によぎり、とりわけ近衛木乃香は再び取り乱しそうになった。
しかし、そうこうしているうちに新たに運び込まれて来た者達が現れ、それどころではなくなった。
それはクルトと龍宮真名の2名であった。
クルトは感電による火傷が著しく、高畑に続き速やかに集中治療に入り、龍宮真名はあちこち火傷はあるものの比較的安定してはいるが、意識不明の状態であった。
しかし一番目立ったのは、龍宮真名のその背中まで伸びていた漆黒の髪は今や先端は焼け焦げ肩までに短くなった上で真っ白に脱色していた事であった。
半魔族化の状態での激しい戦闘によって、消耗しすぎた影響であった。
5名が転送されて来た事は、外に出て長時間に渡る戦闘を続けるか、もしくは魔力切れに近くなり仕方無しに休息を取っていた者達関係者にすぐに伝わり、高畑からある程度の状況説明はされたが、墓守り人の宮殿に未だ残っているネギ達の安否を心配せずにはいられず、ひたすらに無事を祈るばかりであった。
紅き翼のゼクトが突然現れた事により、少なくとも味方であるにせよ、いよいよ墓守り人の宮殿の状況は混迷を極め出した。
そんな折、観測班から報告が入り、それは事態が佳境に入った事を意味していた。

[[報告!墓守り人の宮殿上層部から高魔力源体の出現を確認!]]

「本当に出やがったか!!こりゃいよいよマズいぜ……。タカミチ達があのゼクトに転送されて来てから何だってんだ」

「混成艦隊の現在位置、勢力からして反魔法場の展開は不可能です!」

「そりゃ分かってるが……」

リカードが打つ手なしという状況に強く拳を握りしめるが、更に新たな報告が入る。

[[さ、更に別の高魔力源体反応!?あ、現れました!!]]

「何!?2体目だと!一体何が起こってんだ」

『恐らくその高魔力源体の一つは……ネギ君だ』

高畑が救護室からデッキに通信を入れモニターに現れる。

「タカミチ……なるほど。ってこたぁネギは戦闘を始めたって訳か」

[[墓守り人の宮殿上層部から断続的な魔力暴走に近い爆発現象を観測!]]

報告の通り、墓守り人の宮殿上層部で爆発現象が起き始めたが、その様子は依然として蔓延る召喚魔の軍勢によって視界を遮られた混成艦隊からは見る事はできなかった。
世界の命運が決まるまで……後僅か。



[21907] 61話 伝える力(魔法世界編21)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 20:20
―10月11日、5時22分、墓守り人の宮殿上層大祭壇、儀式完了迄38分―

混成艦隊から高魔力源体の反応が確認された丁度その時、ネギは太陽道を躊躇なく発動し、ゼクトの援護の元、赤髪の男性と超光速で戦闘を繰り広げていた。
赤髪の男性の打撃全てにはリライトの効果が付与されており、それが直撃した部位が消滅してからは、ネギは反転詠唱を即座に行い魔法領域を極大出力で常時展開して対応しだした。
また、金髪の女性からも直撃を狙った跳躍型リライトが連射され、視野拡張効果によってそれを察知し粒子転移でネギはその大部分の回避を可能としていた。
ネギと赤髪の男性、金髪の女性にしてみればたった1秒間ですら体感ではそれを遥かに超える時間であった。
ゼクトがそれになんとか対応してネギの援護ができているのは、ここに来て完全に覚醒したネギの意識拡張効果による魔分通信で随時擬似時間停止を繰り返し、視える相手の動きを予測した情報を伝えられていたからであった。
ゼクトは自身に襲いかかってくる赤髪の男性の直接打撃を造物主の掟の力を借りた絶対防護で防ぎ、金髪の女性が執拗にネギを狙って放つリライトにも同じく造物主の掟の力を用い反転魔法で相殺していた。
この状況下で天狗之隠蓑の中に控えている長瀬楓、桜咲刹那、宮崎のどかはこの超高速での戦闘に参戦できる訳も無かった。
とりわけ、長瀬楓はゼクトと共に、龍宮真名とクウァルトゥムの戦闘に参戦した際に更に負傷し、桜咲刹那も消耗が激しくいずれにせよネギ達のそもそも次元の異なる戦闘に参加することは不可能であった。
ネギは下の岩場に落とされたものの頑丈である為無事な小太郎の封印水晶や、アスナが囚われている球体を傷つけないように、隙を見ては長大に形成した終末之剣で大祭殿を破壊しようとしたが、金髪の女性の展開する障壁に阻まれ、場合によっては斜線軸に敢えて2人が入ってくる為に身体は両親の物であるため迂闊に攻撃ができなかった。
実際のところ、ネギが赤髪の男性に対してできる攻撃も今までに覚えた魔法等を使う事もできず、ある意味非常に原始的かつ根源的な純粋魔力を操る攻撃によってその身体を乗っ取っている高魔力源体の意識を乱し身体から無理矢理追い出すというものだけであった。
加速した無数の魔力の流れと光線が大祭殿の中に飛び交い続けネギの太陽道も30秒台後半に入り限界が刻々と近づいた時、ネギは意を決し赤髪の男性に対して既に自身も高魔力源体と化した上での特攻を仕掛けた。

《あぁぁぁぁぁぁ――ッ!!!》

単純な体当たり、ただそれだけであるが、憑依している魂を追い出すには一番であった。

《お……のれぇぇ――ッ!!》

不意にナギの身体から幽霊のようなものの一部が飛び出した途端、そのまま一気に押し出される。

「今じゃッ!!」

        ― 永 久 封 印 !!!! ―

ゼクトはその時を待っていたかのように天狗之隠蓑を岩場に投げ、ナギの身体へと接近し、自身と共に造物主の掟で一瞬で水晶と化し封印を完了する。
一方ナギの身体から追い出された高魔力源体はネギによって拡散させられ消滅しかけるも、金髪の女性の魔法によって保護されそれを免れた。
そしてナギとゼクトの入った水晶はそのまま岩場へと落下しだした。
……ゼクトが自身をまとめて封印する方法を取った理由は再び両者の身体のいずれかを乗っ取られる事を防ぐ為であった。
ネギは間髪おかず金髪の女性にも同じ攻撃を仕掛け、その女性の左手の上の魔力で覆われた男性の魂の核もろとも決着をつけようとした。

《愚かな……》

しかし、金髪の女性は自身の背後に漆黒で異様に巨大な魔方陣をいくつも展開し、そこから黒いリライト光線を無数に放ち応戦を始めた。

         ―再構築!!!―

光線に貫かれた部位は次々に消滅させられその度にネギは消耗するも、粒子転移と再構築を繰り返しながら純粋魔力攻撃を敢行する。
突破できないまま数秒経ち太陽道の限界時間が経過したがネギは最終手段に出た。

    ―此処に誓約を為し 真理之扉に捧ぐ―
      ―右脚分離!!!追加7秒!!!―
      ―左脚分離!!!追加7秒!!!―
      ―右腕分離!!!追加7秒!!!―
      ―左腕分離!!!追加7秒!!!―

ネギはその四肢を絶対的な代償として世界に捧げ、太陽道の限界時間を28秒間延長する。
そしてネギは残った胴体のみを最大加速させ再度純粋魔力攻撃を行い、激しい衝突を繰り返す。
魔力と魔力の塊が意思を持ちお互いを削りあい続け、ネギが決死の覚悟で延長した28秒間も残り僅かという時、一際大きな衝突が起きた、その時であった。
ネギと金髪の女性の意識は白く輝く魔力粒子で満ちた意識の共有を可能とする領域へと跳んだ……。
……ネギがその目の前に感じた金髪の女性の姿はアリカ・アナルキア・エンテオフュシアとは似ているが少し容姿が異なり、特に美しい夕焼けのような色をした髪が目立つ、涙は枯れ尽くしているようであったが、尚悲しみに満ち満ちた表情の女性であった。

《あなたが……始まりの魔法使い……アマテルさんですね……》

《ネギ・スプリングフィールド……武の英雄の息子よ。何故そうまでして我らの悲願を妨げようとする……》

今までの凄惨なぶつかり合いが行われていた現実とは打って変わり穏やかな空間で2人は向かい合い話を始めた。

《僕は僕です。僕があなたの儀式を妨げる一番の理由はアスナさんです。逆に聞きます。アマテルさんは何故そこまでして世界の終りと始まりの魔法を発動させようとするんです》

《ネギ・スプリングフィールド……そなたのような生まれて間もない子供に我らの何も理解できはしない》

《この力の本質は争う事ではなく、互いを理解しあう、伝え合う力だと……あなたも既にわかっている筈です。教えてください。話そうとしなければ、互いに知ろうとしなければ、理解できる訳ありません》

《戯言を……。そなたが今ここで……手を引けば全て救われるのだ……》

《絶対に引きません。僕はアスナさんをもう一人にさせたりしません。それに、救われると言うなら、どうしてあなたはそんなにも辛そうで悲しみに満ちているんです。自分のやろうとしている事にそんな感情を抱いている人を黙って見過ごす訳には行きません》

《……そなたに私の絶望が如何ほど分かろうか……。完全なる世界に全てを封じる。これこそが次善解にして唯一取るべき選択》

《あなたにとってはそうかもしれない。でも僕は違います。いくら……いくら現実が理不尽なものであっても、それでも、僕はありのまま、ありのままの現実で生きたいんです》

《……ならばそなたはこの世界がこのまま滅びるのを受け入れるべきだとでもいうのか》

《どうして……滅びると決めつけるんですか。ギリギリまで崩壊しないよう努力すべきですし、実際に動いている人達がいます。いえ、それ以前に、あなたが一番気にしているのは世界の崩壊そのものではなく人類そのものの事でしょう》

《既に刻々と時は過ぎて行くというに……今更違う方法を探せ等とましてやそなたのような子供の言葉……どうして受け入れられようか。私が他の道を模索したことがないとでも思うか。この儀式こそ、永きに渡り私がたどり着いた究極の結論。人類は愚かな間違いを繰り返す。私は人類に絶望した。もはやこの愚かな繰り返しの連鎖を止めるには永遠の園へと移り住む他ない》

《人類は間違いを繰り返す……。確かにそうかもしれない、そうかもしれないけどッ……それを悲しく思って……どうしてあなたが全部抱え込む必要があるんです。他の人達に任せても良かった筈です。これまでの永い時をその姿で……そんなに辛い思いをしなくても良かったでしょう……》

直感的にアマテルの感情を共感し始めネギはその余りの悲しさに涙を浮かべ問いかける。
それにようやく答えるかのようにアマテルが語り出した。

《私が……私が最も悔いているのは……私自身の愚かな興味が招いた罪……。この世界は元々何処とも繋がってはいなかった……。私はその理を乱した。世界を弄んだ愚かな行為は他の誰でもない、私自身の手によって清算せねばならないのだ……》

《……僕には……一体昔何があったのか、詳しい事は分かりません。分からないですが、アマテルさんのしたことを誰も間違っていたと断言することはできません。……僕はこのとても美しい魔法世界の事、この短い間で好きになりました。アマテルさんは永い間この世界を見てこんなにも鮮やかで美しい、そう、思いませんでしたか?僕の答えはこうです。アマテルさんが後悔していたとしても、僕は、それを決して責めたりしません。こんなにも素敵な世界に生きている人達は日々色々あるけれど、それでも皆生き生きと日々を生き抜いています》

《……思わない……思わない訳が無かろう……。そなたに言われなくとも、最も永い間この世界を見てきた私が、この世界がいかに美しいか、同時にいかに理不尽であるか……一番良く知っておる……。それを私が道を開き、同時に滅びへの道を開いてしまった……。しかしこれはとても誰かに押し付けて良いものでも、ましてや償いきれるものでは無い……》

《なら……なら……僕が、それを引き継ぎます。僕はあなたの、末裔です。あなたの悲しみを、苦しみを、僕に引き受けさせて下さい》

ネギはまっすぐアマテルを見据え、笑顔で言い切った。

《馬鹿な……。そなたは……どこまで……どこまで愚かなのだ……》

アマテルは枯れていた筈の目に涙を浮かべて答える。

《きっと……アマテルさんに似たんです》

《私は……私は眠りにつくことを……許されるのか……?》

《……はい。例え誰かが許さないとしても……僕は……僕が必ず許します。だから……休んで下さい。アマテルさん》

ネギはこの空間ではある両手で、アマテルの震えるその両手を取り、心を込めて答える。

《そうか……そうか……そなたは……私を許してくれるか……ネギ・スプリングフィールド……我が末裔よ》

《はい、ご先祖様》

《私にもそなたの愚かさが移ったようだ……不思議と……そなたを……信じても良い気がしてきた》

アマテルは今までの悲しみに満ちた表情から救われたかのような、満ち足りた微笑みを浮かべる。

《僕を信じて、任せてください。その笑顔の方が……素敵ですよ》

《ああ、任せよう、我が末裔よ。しかし……そなた……やはり愚かだ……。その様子では助からないだろうに……》

《……それでも……僕はあなたと……こうして分かり合えました。正直、思い残す事は一杯ありますが……これは自分で納得した事なので……だから、僕は満足です》

《そうか……。私も……伝えられて良かった……。私がそなたにできるのは少し時間を与える事ぐらいだが許せ……。私はイザナギと共に眠りにつこう……。さらばだ、我が末裔、ネギ・スプリングフィールド》

《……お休みなさい、アマテルさん》

ネギの両手からアマテルの両手が離れた瞬間、白く輝く空間は現実へと戻った。
ネギに見えたのはアリカの身体から抜け出たアマテルとイザナギの2つの白く丸い魂が天へと昇り、掻き消えて行く様であった。

《お休みなさい……。いきなり約束守れなくなりそうですけど……僕は皆を信じていますから……》

当のネギは、それを見届け、天に向けて言葉を呟いた。
アマテルの持っていた造物主の掟は僅かに光を発しながらも頭上で力場の発生を尚も続け、辺りは静寂に満たされた。
ネギは目の前で気を失い倒れているアリカを穏やかな表情でしばし見つめ、そのまま球体の中に浮かんでいるアスナへと視線を移した。

「ネギ坊主!」  「ネギ先生!」  「ネギ先生!」

丁度そこへ長瀬楓、桜咲刹那、分身に抱えられた宮崎のどかがネギの目の前に現れる。
最早胴体しか残っておらず、その薄くなっているネギのその姿からは魔力の粒子があちこちから細々と煙が上がるように抜け出し始め、今にも大気に溶けて消えかけそうであった。
それにも関わらず、ネギは微笑み満ち足り安堵したような表情を浮かべていた。
そのネギの姿を見て3人はハッとした顔になり、どういう状態かをほぼ悟ってしまった。
そして長瀬楓の分身達が遅れてその場に集合し、それぞれアスナ、最後の鍵、ゼクトとナギの封印水晶、小太郎の封印水晶を抱えていた。

《楓さん、刹那さん、のどかさん……》 

「ネギ坊主……アスナ殿、最後の鍵共にここに。のどか殿、これを」

「はいっ」

長瀬楓は開ける時は真剣なその両目を今ばかりは穏やかにしてネギに話しかけながら、宮崎のどかに最後の鍵を渡した。
宮崎のどかは早速何やら最後の鍵で行おうとし始める。

《ありがとうございます……楓さん》

「ネギ先生……小太郎君もゼクトさんもネギ先生の父上も水晶の中ですが……無事です。こちらの母上も見ての通りですよ」

桜咲刹那は横たわっていたアリカの身体をその両手で抱え、敢えてもう一度ネギによく見せるようにする。

《刹那さん……ありがとうございます》

「そんな……っ……ネギ……せんせい、最後の鍵で先生を……助けられると思ったんですが……ごめん……なさいっ……」

試行錯誤していた宮崎のどかは最後の鍵でネギを元に戻そうとしたが、それができないと悟りみるみるうちに涙を流し始める。

《のどかさん……。最後の鍵でもどうにもならないのは分かっていたので気にしてません。のどかさん、それよりも皆さんを……お願いします》

「……は……はいっ……必ず皆さんを元に戻します。あの……あの、ネギせんせー、私先生の事好きです。ずっと好きですからっ……」

《のどかさん……ありがとうございます。凄く……嬉しいです。でも……結局僕恋愛の事まだよくわからないままで……ごめんなさい。僕、のどかさんの事好きで……楓さんも……刹那さんも……皆好きなんです》

「はいっ……分かってます。ネギ先生」  「ネギ坊主……拙者もでござるよ」  「ネギ先生……私もですっ」

宮崎のどかは止まらない涙を空いている右手で拭い、無理に笑顔を作って答える。

《あの……皆に約束守れなくてごめんなさいと……伝えてもらえますか?》

「……嫌です……と言いたい所ですがっ……任せて……下さい……」

《すいません、ありがとうございます。きっとこのかさんには怒られてしまいますね》

「当たり前……ですっ!」

桜咲刹那はとうとう堪え切れなくなり、全身を震わせながら答える。
そこへ長瀬楓の腕の中にいたアスナが意識を取り戻す様子を見せる。

「う……ん……ネ……ギ……?」

アスナは瞼を僅かに開け、その視界に入ったネギの朧気な姿を見て疑問を浮かべる。

「アスナ殿……」  「アスナさん……」  「アスナさん……」

《あ……アスナさん……良かった……本当に良かった……です……》

ネギは薄くなった姿でもアスナが無事に目を覚ました事に思わず魔力でできた涙を流す。

「ネ……ギ……?ネギッ!?どうしたのよ……それっ!!」

アスナはそのネギの異常な状態の姿を見てすぐに意識をはっきりと取り戻し、長瀬楓の腕の中から飛び出して、ネギに両手で触れようとする。
しかし……それは虚しくも全て通り抜けてしまう。

「何よ……一体どうしたのよ……」

《少し……無茶してしまいました。アスナさん……アスナさんをこの世界に縛っていた鎖はもうありません。安心して下さい》

「安心って何よ!あんた触れないし……消えそうじゃないのよっ……!安心なんて……できる訳ないでしょっ!!」

アスナはネギに触れる事ができないと分かっていても尚、それでも必死に触れようと両手を動かす。

《そうですね………ごめんなさい、最後の最後で僕……またアスナさんに心配かけちゃいました。時間が残っていないのでこうして直接言えて良かった……。アスナさん……アスナさんはいつも元気で、まっすぐで、明るくて、ちょっとアホっぽくて、少し乱暴だけど、でも凄く優しい僕の、大事な……大事な人なん……ですよ?》

「褒めるなら……ちゃんと……褒めなさいよっ……。私にとって、ネギは……大切な、大切な……大切……なのよ?」

《アスナさん……ちゃんと……言えてないですよ。でも……気持ちは凄く嬉しいです。僕は……皆と出会えて凄く楽しくて、凄く幸せでした。絶対に今までの事、忘れません》

「ネギ……?」  「ネギ坊主……」  「ネギ先生……」  「ネギせんせー……」

《父さんと母さんが目を醒ましたら……僕は生まれてきて幸せだったと……そう……伝えて下さい。もう……時間が無いみたいなので……最後に僕、やる事があるので行きますね》

短い会話の間に一段と薄くなったネギは4人が返事をする間もなく、微笑みながら、そのまま空へと一気に上昇していった。

「ちょっと……ネギッ!?嫌、行っちゃ駄目よ!」

アスナは不意にネギが天へと上がって行った事に嫌な予感がよぎる。

《今まで、ありがとうございました!!》

ネギはそう最後に呼び掛けると共にその姿を一瞬煌かせた途端、全方位へと自身の魔力の粒子を散らし……光の残滓を残しながら大気に消え去った。
……すると墓守り人の宮殿に集中していた魔力の渦はそれを発端とするかのように集まり出し、そこから360度全方向に向けて一斉に無数の流れ星となり世界中へ飛び散り出した。
その流星現象はアスナ達はもとより、混成艦隊のみならず、魔法世界各地で見る事ができた。
魔力が集まってできた流れ星一つ一つが減衰し自然消滅していく様は非常に幻想的で、見る者全てが手を止めその光景に心を奪われた。

「ね、ネギ――ッ!!!」

アスナはネギの行動によってこの現象が起きた事を悟り、それと同時にネギが居なくなってしまったことに耐え切れず思わずその名を叫び、そのままショックで気を失い倒れかける。

「アスナ殿!」

咄嗟に長瀬楓がその身体を支え、倒れるのを防ぐ。
墓守り人の宮殿の周辺に形成された余りにも膨大な魔力溜りは、まるで命を最後に華々しく散らせるかのような最後のネギの行動によって導かれ、反魔法場を展開して封印しなければ飽和して暴発するという最悪の事態は回避された。

「ネギ坊主……」  「ネギっ……先生……」  「ネギせんせい……」

アスナに続き他の者達もネギの名を天に向かって呟くがそれも虚しく返事が来る事はありはしなかった。
流星現象に暫くの間放心状態であったが、ある決定的な異変に3人は気づく。

「天狗之隠蓑が仮契約カードに……」

「い、いどのえにっきも……」

「これは……仮契約カードの文字が消えて……」

長瀬楓の天狗之隠蓑、宮崎のどかのいどのえにっきは強制的に仮契約カードへと戻り、桜咲刹那が言った通り全て文字が消え、失効したことを意味していた。
仮契約カードの文字が消えるということ、それはすなわち須らく契約主の絶対的死亡を意味する。
ネギの死亡、という事実に3人は再び呆然としてその場に立ち尽くしたままになり、しばらく時間が経つが、そんな中、宮崎のどかはグレート・グランド・マスターキーを握っていた左手を更に一段と強く握り締め、言った。

「ネギ先生が私に頼んだ通り、リライトで完全なる世界に送られてしまった皆を……元に戻しますっ」

「のどか殿……」  「のどかさん……」

のどかは涙を流し続けながらも真剣な表情をして左手に造物主の掟、グレート・グランド・マスターキーを構え静かに目を閉じて詠唱を始める。

     ―灰は元に 塵は元に 夢は現に 幻は現に―
        ―全ての者に現実への帰還を―
             ―リザレクション―

詠唱が行われた瞬間、造物主の掟が機械的な音を発しながら徐々に輝きを増し始め、宮崎のどかの足元に展開された魔方陣からは魔力の泡のようなものが沸き出し始めた。
そのまま宮崎のどかは集中を解く事なく、造物主の掟を握り締めてその作業を続け、その輝きが勢いを増し最高潮に達しようかという時であった。
造物主の掟は宮崎のどかの左手から離れ浮き上がり、頭上で一際強く輝きを放ち、大祭殿はその明るさで目が見えなくなる程であった。
その輝きが収まった時、リライトによって送られた者が元に戻った事がはっきりと示された。

「こ……ここは……大祭殿……?」

アマテルによってリライトされた調が元の場に戻ってきたのである。

「……これで、皆、元に戻りました」

宮崎のどかは目を開き2人に伝える。

「のどか殿、どうやらそのようでござるな」

「彼女は……」

「あ、あなた達はッ!最後の鍵と黄昏の姫御子を!」

「悪いが……もう儀式は成立しない。上を見れば分かる。あなたの仲間2名は中層部で気絶、フェイト・アーウェルンクスは下の岩場に落ちている水晶の中に封印された状態だ。それでも戦うというのなら相手をしましょう」

桜咲刹那は咄嗟にアリカの身体を長瀬楓に預け、調の戦闘の意思を挫くべく瞬動で接近し、太刀を突きつけた。
調は一先ず言われた通り上を見上げ、流星現象を目の当たりにする。

「これでは魔力が……それにフェイト様が下に……?」

「どうする。こちらに手出しをしないならば止めないが……敢えて争うというのであれば、この場丸ごと破壊しつくすぞッ!!」

桜咲刹那は完全に散ったネギの事が脳裏に浮かび、調に対し強烈なプレッシャーを浴びせる。

「くっ……分かり……ました。手出しはしません。フェイト様を優先させて貰います」

「…………」

桜咲刹那は調の言葉に従い、そのまま太刀をゆっくりとおろす。

「それでは」

調は警戒しながらも下の岩場に降り、フェイト・アーウェルンクスが封印されている水晶へと向かった。

「のどかさん、リロケート……だったと思いますがそれで混成艦隊までは……?」

「はいっ。このままリロケートで……皆の元に戻れます……」

「この上層部を支えている鍵もいつまで持つかは分からぬからして移動した方が良かろう」

「楓、ネギ先生の母上の顔をフードで隠した方が良い」

「あい、分かった。確か世間では処刑された事になっていたでござるな」

長瀬楓はアリカにフードを深く被せ、金髪を隠す。
準備ができた所で宮崎のどかは2人とアイコンタクトを取り、最後の鍵を用いた。

―リロケート 宮崎のどか!! 長瀬楓!! 桜咲刹那!!―

長瀬楓の分身を含む計6人は墓守り人の宮殿上層大祭殿からフレスヴェルグの甲板へと転移した。
アマテルが消え去った時点で召喚魔の軍勢は突如として全て消え去っており、戦闘は終了し、続けざまに墓守り人の宮殿の魔力の渦の頂点から流星現象が起き、更にはこの戦闘の中リライトで消滅させられた者達も戻ってきた事で、混成艦隊は喜びに満ち溢れると共に突然の状況の変化によって混乱に見舞われていた。
依然として続く流星現象の最中、白んでいた空に朝日が顔を覗かせ、人々は皆新たな日を迎えられた事を互いに喜び合っていた。
そんな混乱の中紛れるようにフレスヴェルグの甲板に転移してきた宮崎のどか達は、ナギとゼクトの封印水晶が通路ギリギリであったもののなんとか通り、そのまますぐに長瀬楓の分身を除いてデッキに向かい、リカード、茶々丸、ドネットに詳しい話はともかく、関係者全員に貴賓室の中にあるダイオラマ魔法球の中に集まるように伝え、有無を言わさずに貴賓室へと先に向かった。
既に茶々丸もネギとの仮契約カードが失効している事に気づいており、古菲はその体に魂が戻って勢い良く復活して起き上がり救護室で騒ぎになっていたが、そこへ真相を知る長瀬楓達が戻ったため、その周知は非常に迅速に行われた。
重傷ながら意識のある高畑、短時間の中での集中治療によって危険な状態を脱したクルトも奇跡的に目を覚まし両者共に担架でダイオラマ魔法球へと運ばれ、リカード、テオドラ第三皇女、セラス総長も艦をそれぞれ部下に一時的に任せて集合した。
時は儀式完了6時十数分前程の事であった。
続々と集まって来た者達が最初に目にして驚いたのはナギ・スプリングフィールドとゼクトの封印水晶、まだ目覚めてはいないがアリカ・アナルキア・エンテオフュシアがその場にいた事である。
中でもアリカを目にしたクルトは非常に動揺し、思わず担架から起き上がろうとしたが、それは痛みですぐに断念せざるを得なかった。

「……ただでさえ混乱してるってのにこいつぁどういう状況だよ……。聞きてぇ事は山ほどあるが墓守り人の宮殿の中で何があったか説明してもらえるか、嬢ちゃん……」

全員予想だにしない状況に言いたい事がありすぎ、逆に何から聞いていいか分からないという有様であった。

「では……ゼクト殿と最初に行動を共にした拙者から何があったか説明致そう……」

長瀬楓、桜咲刹那、宮崎のどかの3名のうち長瀬楓が沈黙を破り切り出した。

「……大祭殿と呼ばれる場所に拙者は隠密行動で向かい、最後の鍵とアスナ殿を発見し、奪取しようとした折、ネギ坊主の父上の身体を乗っ取った者によって致命的な一撃を受けそうになった所をゼクト殿の転移魔法で逃れられたのが発端でござる。ゼクト殿の協力の元、アーウェルンクス達を退け高畑先生達を始め真名までをここに転送する事ができた。ゼクト殿もこの20年の間乗っ取られていたらしく、更にはネギ坊主の父上と母上も恐らく、長らくあの場に封印されていた上で今回身体を乗っ取られたようでござる。そして刹那の入手していた造物主の掟を得、ネギ坊主の位置をゼクト殿が探知した時には恐らくネギ坊主が閉鎖空間から脱し、丁度自力で大祭殿に着く直前であった。その為、拙者達は天狗之隠蓑に急ぎ入り、ネギ坊主とネギ坊主の父上と母上の身体を乗っ取った者達との戦いにゼクト殿が転移で加勢したのでござる。たった1分程の非常に短くはあるが拙者達に手出しできる次元ではない戦闘を繰り広げた結果……ゼクト殿とネギ坊主の父上の水晶、コタローの水晶、ネギ坊主の母上、アスナ殿、最後の鍵を確保できた。ここに転移する前、のどか殿が最後の鍵を行使し皆を元に戻したのでござる。皆も気づいているであろう……ここにおらぬネギ坊主であるが……例の太陽道の超過使用により……元に戻れなくなり……最後にあの流れ星の現象を引き起こし拙者達の目の前で散ったでござる……。仮契約カードの文字が消え、失効したのがその証拠でござろう……」

一同はアスナと最後の鍵を手に入れるという目的を達成し、リライトで消された者達も元に戻った事に素直に喜び、ゼクト、ナギ、アリカの3人が乗っ取られていた件には非常に驚いたが、どこまでも脳裏で引っかかり一番心配していたネギが死亡したという長瀬楓の沈痛な締めくくりによって言葉を失った。

「ネギ……君……」   「ネギ先生……」   「ネギが……?もう……いない……?」

  「ネギ坊主……」    「…………」   「ネギ様……」   「ネギ先生……」

近衛木乃香達は堪えきれず涙を流しながらネギの名を呼んだ。

「ネギ先生が……消える前に言っていた事があります。聞いてください。……約束守れなくてごめんなさい。僕は……皆と出会えて凄く楽しくて、凄く幸せでした。絶対に今までの事、忘れません……。こう最後までネギ先生は笑って……言っていましたっ……」

宮崎のどかが声を絞り出し、ネギが最後に残した言葉を皆に伝えた。

「うちらとの約束ちゃんと守ってくれなあかんよ……。ホントに流れ星になってもうて……ほんま……ネギ君……仕方ない子やなぁっ……」

「お嬢様……」

桜咲刹那がスッと近づき、反射的に近衛木乃香は胸に飛び込んで泣き始める。
それに釣られるように他の少女達も皆泣き始め、世界が終わるのは免れたが魔法球は悲しみで満ち溢れた。
しばらくの間啜り泣く音がこだましていたが、ナギとアリカは無事に戻ってきたにも関わらず、守るべきその子供のネギが戻って来なかった事に強い後悔の念を抱いていたクルトが上を向いたまま顔を横に向け、先へと進むべく宮崎のどかに切り出した。

「お嬢さん、そのグレート・グランド・マスターキーで……水晶の封印を解くことはできますか?」

「……はい、できます」

「では……」

「はい。任せてください」

宮崎のどかはゼクトとナギ、小太郎の封印水晶に向き合い、左手に造物主の掟を構え、それを用いた。

          ― 封 印 解 放 ―

造物主の掟が光り、ガラスの割れるような音と共に水晶は粉々に砕け散り、封印が解かれた。
3名はすぐに運ばれ、目を覚ますのを待つのみとなったが、封印解放に際しゼクトの有していた造物主の掟が無造作に投げ出された事に長瀬楓と桜咲刹那がある指摘をした。

「のどか殿、造物主の掟、グランド・マスターキー以下の封印は……」

「月詠があそこで気を取り戻したら何をしでかすか分かりません」

「そうですね。最後の鍵以外は使えなくしないと……。やります」

宮崎のどかは残された造物主の掟、グランド・マスターキー7本の危険性から封印作業を行った。
その後も悲しみに暮れた少女達はそのまま魔法球の中で過ごし、リカードを始めとする大人達は外の時間ではまだ数分も経っていないが、指揮しなければならない事があり、それぞれ持ち場へと戻っていった。
また、宮崎のどかは最後の鍵を持ち、近衛木乃香と共に救護室へと向かい、葛葉の入った氷塊の封印を解き、そのまま外傷の治療に移った。
グランド・マスターキーの封印がされた事によって墓守り人の宮殿を支えていた力場も効力を失い、上層部は中層部へと倒壊していった。
30分以上も続いて尚、朝を迎えても流星現象は終わる兆しを見せず、まるでネギがまだそこにいるかのように世界へと降り注ぎ続けていた。
因みに、オスティア総督府にてフェイト・アーウェルンクスにリライトされたジャック・ラカンが元に戻った事について連絡が入り、それにはテオドラ第三皇女が真っ先に返答していた。
そして戦いも終わった為、消耗した艦隊は一部を残して順次新オスティアへと帰還し始めた。
一方、外ではいよいよ6時になろうかという頃、再び魔法球の中では目を覚まし始めた者達がいた。

「ぬ……ここは……何処じゃ……?」

最初にゆっくりと瞼を開けて目覚めたのはアリカであった。

「……あ、ネギ君のお母さん……目覚ましたえ!」

葛葉の治療を他の治癒術師達に任せ再び魔法球に戻り、アスナの傍に控えていた近衛木乃香がそれに気づいて声を上げ、アリカは視界に入った見知らぬ人物を怪訝に思いながらも上体を起こし、尋ねる。

「主らは……誰じゃ?」

「うちは近衛木乃香や」

「私は桜咲刹那と申します。アリカ様。ここはテオドラ第三皇女からお貸し頂いているダイオラマ魔法球の中です」

2人は席から立ち上がりそれぞれ挨拶をする。

「これは済まぬ、私はアリカ・すぷ……いや、知っておったか。しかし……む!ナギ!!どれだけ心配したと……」

アリカは横でまだ目覚めないナギの姿を確認し、ベッドから降りて近くに寄る。
2人もそこへ近づこうとした、その時。

「駄目よ……行っちゃ駄目……ね……ぎ……。ネギ――ッ!!」

そこへ完全に気絶していたアスナが魘され始め、ネギの名を叫びながら勢い良く飛び起きた。

「アスナっ!」  「アスナさん!」

「はぁっ……はぁっ……ここ……は……?魔法球……?」

アスナは周りを見渡し、見覚えのあるその場が魔法球だと気づく。

「アスナっ!アスナっ!良かった……良かったえ……」

近衛木乃香は思わずアスナに飛びつく。

「こ、このか!」

「アスナ……?……確かにアスナの面影が……」

アリカは取ったナギの手を一旦放し、アスナの近くにおずおずと寄る。

「あ……アリカ……」

アスナは近衛木乃香に視界を塞がれながらもアリカの姿を見てその名を呟く。

「アスナなのじゃな……?」

「ど……どうしてここに……?」

「アスナさん……それは……」

墓守り人の宮殿で一旦目を覚ましてからすぐに気絶した為アスナはアリカがいることに混乱するが桜咲刹那が割り込みをかけネギの事には触れないように気をつけながら簡単に説明を行った。

「そうだったの……だからナギもいるのね……。それで……ね……ネギは……何処?私が見たのは夢……夢なのよね?そうでしょ……刹那さん?」

「…………」

問われた桜咲刹那は先の現象を目の当たりにしたが、ショックの余り夢だったのだと言うアスナに言葉を失う。

「先も聞いたがそのネギとは……ネギなのか?」

丁度そこへ声がしているのを聞きつけ、部屋の外にいた者達がかけつけてきた。

「アスナ!」  「アスナ殿!」  「アスナさん!」  「アスナ!」

「皆!?」

少女達の乱入によりアリカの確認を取る質問は有耶無耶になりひとまず、各々泣き止んではいたものの目には泣いた跡をはっきりと残しながら互いの再会を喜び合い、アリカに対しては矢継ぎ早にそれぞれ自己紹介を行った。
ようやく収まった所で、アリカが再度聞き直した。

「先のネギとは……我が息子、ネギの事か?……今、近くに居るのか?」

「そうよ……楓ちゃん……刹那さん……ネギは……?」

「…………」

その話題が出た途端再び少女達はそれまでの明るさを失い沈黙する。

「アリカ殿……ネギ坊主はアリカ殿、ナギ殿の息子で間違いないでござる」

「さ……左様か。しかしその様子……何か問題があるのか……?」

アリカは少女達の様子に気づかない訳もなく、深刻な表情をする。

「ネギ……先生はっ……亡くなりました……」

長瀬楓から引き継ぐように宮崎のどかが意を決し、震えながら自身も絶対に言いたくない言葉を述べた。

「な……に……?」

「そ……そんな……じゃあ……あれは現実なの……」

亡くなったという言葉を、一瞬間を置き理解してしまったアリカとアスナの顔は見る見るうちに血の気が引き、青ざめていった。

「アリカ様……。ネギ先生が最後にご両親に伝えて欲しいと言っていた事が……あります」

「な……なん……じゃ?」

ネギに出会えるかと思った矢先、受け入れ難いが厳然たる事実に、ガタガタと震えながらもアリカは確認を取る。

「僕は生まれてきて幸せだった……とそう最後に笑顔で言っていました……」

「…………幸せ……であったかっ……。気がつけば私はネギを産んだ後……姿を見るどころか……何もしてやれなかったというにっ……。ね……ネギはいくつになった?」

アリカもすぐに涙を流し始め、息子が何歳であったかを問う。

「魔法球で修行を重ねていたので正確には分かりませんが……凡そ11歳です」

「11……そんなにも時が……過ぎていたか……」

現実の時間にしておよそ10年という歳月、子の成長を見ることもできず、果ては先に逝ってしまった事にアリカは手をきつく握り締めやりきれない表情で遠くを見つめる。

「アリカ殿、アスナ殿……ネギ坊主が最後に残した命の輝き、まだ……外で見える筈でござる。分身!失礼するでござる」

「何?」

「楓ちゃん!?」

長瀬楓は思いついたかのように分身を1体出し、アリカとアスナをそれぞれ抱え魔法球の出口へと向かった。
残りの少女達も一斉に後を追い、十数人が一斉にフレスヴェルグの甲板へとかけ出して行った。
そこには、朝日によって地平線は照らされ、墓守り人の宮殿の上空から流星が降り注ぎ続ける幻想的な光景が広がっていた。

「あの流れ星が……ネギ坊主でござる」

「あれが……ネギの命の輝きなのか……?……なんと……美しい……」

「あそこに……ネギがっ……いるのね……?」

長瀬楓によって運ばれたアリカとアスナは甲板に足を降ろし、その光景を見続けた。
……そして刻々と時間が過ぎ、6時を迎えたその時異変が起こった。
流星現象により辺り一帯は充分に眩しかったが、太陽の光量が落ちた上に太陽そのものが小さくなったとしか見えなくなったのである。

「太陽が……?」

「小さくなった……」

呆然とその光景を見つめていた人々はこの後更に太陽に起きる異変を目の当たりにする事となる……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―地球暦日本時間2003年8月27日18時51分5秒、北極圏、神木・扶桑―

場所は火星、魔法世界……の人の住まない北極圏、龍山山脈を隔てた所。
私とサヨは神木の出力を落とさず警戒状態を維持したまま作戦の実行を終えた。

《……完璧に成功しました》

《ああ……よく外の景色が視えるヨ。間違いなく、これは魔法世界の景色ネ》

少し観測するだけでも高くそびえる中国の……お伽話に出てくるような山脈が、その反対には雪に包まれた一面の銀世界が火星の時と同じく広がっていた。
また、こちらとしては今まで通りだが……火星と魔法世界を同調させたのであって、太陽に変化は生じていない為、魔法世界側の人々にとっては光量が減り、大きさも小さくなっている。

《私もそっちに行きたいですよー!》

《その前に固定した管理権限を元に戻して下さい》

《……了解です》

―神木・扶桑の固定管理権限を解除―

《サヨ、こちらは終わりました》

《こっちも終わりました》

《共有に変更した所悪いですが……通信が一旦終わるまで待って下さい》

《はい!》

《さて……私はゲートを使わずして魔法世界の、それも神木の中にいる訳だが……。この状態でまだ色々話す事があるネ》

いつも通り時間の経過しない会話。
何よりもまずは、初めての試みにしてほぼ……もう2度と無いであろう事を行ったのだから現状を把握しなければならない。
特に作戦を開始するほんの数分前にザジ・レイニーデイが神木見学会……でもかなり目立つ場所に現れ「ネギ先生を助けて下さい」と他人には聞こえないように呟いて知らせて来た事も非常に気にかかる。

《ええ、まずは一体魔法世界が今どういう状況にあるかですが……。隔地観測すると……どうやらオスティアの位置から高魔分体が無数に飛散しているようですね……》

要するに流れ星。

《止まて視えるから何だが、数も凄いナ》

墓守り人の宮殿に集中した危険な水準の魔分を拡散させているのだと思うが……。

《サヨ、そのまま麻帆良のゲートを通して蟠桃に魔分の吸収を続け、そのまま扶桑に転送して下さい。魔分濃度を安定させる必要があります》

《任せて下さい!》

《ザジサンが直前に言ていた事からするにネギ坊主が危険らしいナ》

《確認しに行った方が良いですね。しかし樹齢1003年のこの神木では火星の大きさには合ってはいますが樹齢の関係で優曇華無しには精霊体活動範囲限界も約2000kmと狭い上、更には重力、幻術魔法をかけているので……精細な観測には負担が少なからずあります。オスティアは丁度南半球でもあります》

《ネギ先生達は……ラスボスと戦っているところなんですかね?》

ラスボスは……いない。

《いえ……既に終わっているようです。超鈴音、優曇華で海中を進みオスティア付近に行って貰えませんか?それなら私達も観測が楽になりますので》

軌道上は……優曇華を確認される可能性がある。

《私も丁度そう思ていた所ネ。魔法世界には人工衛星は無いが、レーダーの性能は高いからナ。海底を進むのがいいだろうネ》

《いきなり自由に空飛べなくなっちゃいましたね……》

予め飛ばしておけばそれも可能であっただろうが……まだまだ使用用途がある。

《仕方無いでしょう》

後千年経たなければ扶桑で優曇華二代目付きの新たな種子が作られる事も無いので特に急ぐ必要も無いが。

《まあそれは追々だナ。それでは翆坊主、1分強でオスティア近海には着くだろうが行くとするネ》

《分かりました。お願いします。有機結晶型外宇宙航行外殻・優曇華、射出シークエンス開始。3…2…1…射出時機を超鈴音に譲渡します》

《優曇華の統制掌握。カウント3…2…1…射出。行てくるヨ!》

《了解です》

《鈴音さん行ってらっしゃい!》

秒速100kmで一旦人のいない北極を跨ぎその向かい側の陸地の終わりから海中へと突入し、北極大陸を迂回しオスティア近海に向けて超鈴音の操る優曇華は飛び込み……潜っていった。
サヨは魔法世界に来るのは一先ず見送り、魔分の吸収とこちらの扶桑への転送を続け、私は転送されてきた魔分を再吸収は後回しにし、まずは濃度を安定させる作業を行った。
そして予定通り1分強程で優曇華はオスティア近海に到着し本格的に観測をし始めた。

《…………翆坊主、明日菜サン達は戦艦の甲板の上、高畑先生達も怪我をしているが戦艦の中ネ。魔法球もあるようだが私には流石に観測はできない……少なくともここ一帯外にネギ坊主はいないヨ》

ザジ・レイニーデイが言った事からすると単純に魔法球の中で無事休んでいるとは考えにくいが……。

《そうですか……。茶々丸姉さんに魔分通信をかけて聞いてみた方が良さそうですね》

《うむ……そうだナ。では私が繋げるヨ》

《お願いします》

2ヶ月程過ごして無事……の茶々丸姉さんは……。

《茶々丸、私だ。超鈴音ネ。火星と魔法世界を同調させたヨ。そちらの状況報告を頼む》

端末による通信ではなく、純粋な魔分通信なので茶々丸姉さんが驚いて声を上げたりはしない。

《超!!計画は今日だったのですか。太陽が小さくなったのはそれが原因ですか》

《その通りです。茶々丸姉さん。ネギ少年が危ないという情報を得たのですが……魔法球の中ですか?》

《……ネギ先生は……亡くなりました……》

……ほう。

《ネギ坊主が……?》

流石にこれには超鈴音も動揺しているようだが……それよりもまずは原因。

《茶々丸姉さん、詳しく経緯を説明して下さい。何が原因でネギ少年が死亡したのですか?》

《はい……。ネギ先生はご自分で太陽道と名付けられた技法の限界を超えた使用によって墓守り人の宮殿で戦闘を行い、最後の力で集中していた魔力を拡散させる導きをして……消滅しました。また以前左腕がを失った際には世界、大気に引きこまれて溶けたと言っていました……》

《茶々丸、仮契約カードはどうなたネ?》

《失効……しています……》

……やはりネギ少年が開発していた新術はどうやら完成に至り、純粋魔分に粒子体化した……という所か。
擬似的に私達と同じになる技法であろう。

《……その件についてはこちらで、全力で調査します。その前に、グレート・グランド・マスターキーというものは確保できていますか?》

《……はい。のどかさんがグレート・グランド・マスターキーを用いリライトと呼ばれる魔法によって消された魔法世界の人々を元に戻しました。今は魔法球の中に置いてあります》

グレート・グランド・マスターキーは確保できている……か。
もう一つ……確認。

《分かりました。茶々丸姉さん、私達に関連する事を……誰かに話したりしましたか?》

情報制限を……ある意味敢えてしなかったし、例の時にネギ少年には敢えて魔法世界の問題について刷り込みをかけたから、もし辿り着いた時ならば構わないというつもりではあったが……。
最悪記憶の封印処理をすれば良いだけではある。

《も……申し訳ありません。茶々円、超、ネギ先生と高畑先生、クルト・ゲーデル総督の3名には神木の精霊の事と2本目の神木が火星に打ち上げられた事を伝えてしまいました……》

やはり……そうか。

《ふむ……経緯が分からないが自分から積極的に言た訳ではないのだろう?》

《それは……はい、ネギ先生が魔力の流出が原因で魔法世界が崩壊する事に気づき、後はどうやら高畑先生が以前茶々円を見たこと、神木の精霊の噂を知っていた事を加味し私に確認を取られたので……それにネギ先生がどうしても知りたいとおっしゃるので……すいません……どんな罰でも受けます……》

……話したようではあるが……聞いてみれば思考が完全に人間的になっているので成長の証……という事で……それにたった3人……許容範囲内……か。

《……その3人なら良いです。私達も茶々丸姉さんに制限をかけなかった訳ですから。罰とは言いませんが……先程言った通りこれから私達はネギ少年の調査に入りますので、その事についてと私達が火星と魔法世界の同調を果たした事、そして私達が魔法世界にいる事はこの後茶々丸姉さんの口からは誰にも言わないで貰えますか?》

《ネギ坊主の件で皆落ち込んでいるようだが……調査してみないことにはどうにもならないヨ。変な期待は持たせたくは無いからネ》

《はい……分かりました。茶々円、超。ネギ先生を……お願いします》

茶々丸姉さんの頼みであるし、そもそも私達が魔法世界に手出しできない代わり……とばかりに、頑張ってくれたネギ少年には正直感謝しても感謝しきれないのだから、全力で取り組む他無い。

《とにかく、全力でネギ少年の件に取り組みます》

《分解の系統なのだとしたら希望はまだあるヨ。私達でできる限りの事はしてみせるネ》

これにて茶々丸姉さんとの通信を終え、サヨにもネギ少年の件について説明を行い、3人含め早速ネギ少年の詳細調査に入った。

《ネギ少年が使用した技法はほぼ間違いなく……そうですね純粋魔分粒子体化とでも呼びましょうか……私達神木の精霊に近い状態だと思われますが、茶々丸姉さんの話しからするに、その補助を大気中の魔分に頼るものだと思われます》

《うむ、そうだろうナ……。私もやろうと思えばアーティファクトで出来ないことも無いだろうが、魔分容量を無視できる時点でその必要は無いネ》

《大気中の魔分にネギ先生がいるってことですよね?》

ただ……完全に四散しているので色々と問題がある。

《そうなるでしょうね……。しかしながら、ここでまさかのあの出来事が役に立つ事になりますね》

《ネギ坊主が火星に飛び出して来た時の事カ?》

《ええ、あの時一瞬ではありましたが、これまでに無いほど精細にネギ少年の霊体解析を行いましたので……手札は揃っています》

《都合が良いというか……なるべくしてなたという所かナ》

《全く……そう捉えると……そんな気がしますね》

《えっと……じゃあ、私はこのまま魔分吸収を続けながらネギ先生の霊体反応の含まれる魔分を収集、保管すれば良いんですよね?》

《その通りです。可能な限り100%収集しきりたい所ですが、ネギ少年の左腕は今日消滅した訳ではないようで……ともすると既に再吸収して放出した可能性もあるので捜索範囲は広く地球にも及ぶ事になります》

《左腕以外も魔分溜りを拡散させる導きをしたという事はよりにもよて魔法世界全体に満遍なく溶けているのだろうナ……》

《間違いなく非常に地道かつ虱潰しの作業になります。ある意味私達向けではありますが》

後は……。

《そうだナ。……後は霊体そのものを確保できたとしても肉体そのものを用意しないといけないネ》

《鈴音さんが鑑定したネギ先生のDNA情報を神木の素体で再現すればそれは用意できそうですよね?》

《本当の身体……ではなくなってしまいますが、それはもう集める霊体との整合性を取り可能な限り適切なものを調整するしかないでしょう。ではネギ少年の霊体情報を転送しますので、作業開始と行きましょう》

《了解です!》

《ネギ坊主がいなくなると私も含め皆悲しむからネ。全力で掛かるヨ》

《ええ、勿論です》

魔法世界と火星が同調した所で、完全なる世界ではなく、新たなる世界となったが、ネギ少年の問題は勿論、早めに取り組むべき事には他にも色々ある。
例えば太陽光不足の問題、そして今まで1年周期であった季節が火星に出てきた事でそれが1.88年に伸び、確実に環境に変化が出てしまうであろう事、未だ地球比1.1倍の放射線量をなんとか1倍に持って行きたい事等が挙げられる。
間もなく太陽の運行が反対になることで明らかに世界に変化が生じたのを魔法世界に住む全ての人々が気づくであろうし、扶桑が北極にある事が確認されるのは遅かれ早かれ、こちらでも神木の認識阻害をかけなければいけない事や、メセンブリーナ連合領とは言え領有権争いにも発展しかねないかもしれない。
茶々丸姉さんの言っていたクルト・ゲーデル総督とタカミチ君には何らかの方法で接触しなければならないだろう……いや、こちらから接触しなくとも恐らくオスティアのゲートから麻帆良にやってくる可能性が高い。
……崩壊は回避したものの抱える問題は色々あり、寧ろまだ同調などしなければ良かったのに……と人々には批判されそうではあるが、今回程の絶好の時機は後にも先にも2度と無かったのであるから……残酷なようではあるが、何を言われようと今更詮ない事である。
エヴァンジェリンお嬢さんにはネギ少年達が麻帆良に戻ってくると言ったが……ネギ少年は元より、他の面々も実際今日戻ることはないであろうから……一応一言説明しに行った方が良さそうだ。
いずれにせよ、特に急を要するのがネギ少年の件であり、超鈴音、サヨ、私はそれぞれ優曇華、蟠桃、扶桑を全力稼働させ霊体反応の含まれる魔分の捜索及び保存を開始した。
しかし、それだけを行えばよいか……と言えばそうでもなく、もう一つ急を要する事に非常に危険……というよりも魔法側でのまさにオーバーテクノロジーにも等しいグレート・グランド・マスターキーという究極魔法具をどうにかしないといけない。
信用していないという事になるが、どうあっても人間……それも特に個人に持たせておくのは非常に問題があるので奪取して誰にも届かないところ、それこそ神木の中に保管するか……もしくは完全破壊した方が良い。

《翆坊主、一度私は明日菜サン達の所に行て来ていいカ?》

……と丁度超鈴音から通信。
厳密には神楽坂明日菜の元ではないだろうが。

《急いだほうが良い事に越したことはないですが、とても1日で収集できるようなものではないですし、それにどうするかは超鈴音に任せますよ。向かうのであれば私も頼みたい事があるのですが……》

《グレート・グランド・マスターキーの事カ?》

《正解です。アレはどうにかしないといけません。メガロメセンブリア上層部が保管する事にでもなれば何が起こるかわかりませんから》

《……確かにその可能性は否定できないナ。私の用事は龍宮サンの事ネ。観測した所どうにも消耗が激しい上に通常の治癒魔法では治らないみたいネ。報酬という訳ではないが、私も出来る事はしたいからナ。今回ばかりは習得した転移魔法の出番となりそうだヨ。グレート・グランド・マスターキーは盗む訳にもいかないが、まずは麻帆良のゲートポートから来たとでもしてなんとか接触を図るヨ。色々聞かれるだろうがうまくやるネ》

《分かりました。私も一旦麻帆良に戻り状況を近衛門殿達に説明をします。ゲートポートが起動した件もあります》

《やる事が多いが一つずつ解決していくヨ》

《ええ、ここからは私達の仕事ですからね》



[21907] 62話 真・新世界
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 20:21
茶々丸からネギ坊主の死亡について聞いた瞬間は流石に驚いたが、落ち着いて対応して通信を終え、現在は目下優曇華で地道な作業中ネ。
翆坊主に明日菜サン達のいる戦艦へと向かう予定を伝えたものの、いつ行くかというタイミングだが……もうそろそろかナ。
それにしても流星現象をまだ見続けている明日菜サン達に混ざているあの女性は……アリカ・アナルキア・エンテオフュシア……ネギ坊主の母カ……。
私も全てを知ていた訳ではないのだが……恐らく墓守り人の宮殿から救出されたという所なのだろうナ。
となると……ナギ・スプリングフィールドもいるかもしれないナ。

《実際に来てみると魔法世界ってこんな所だったんですね!》

翆坊主と入れ替わりで扶桑に移動してきたサヨは楽しそうだネ。

《飛空艇や浮遊岩、様々な魔法生物達がいるから魔法世界が地球よりも狭いとはいえ見所は沢山あるヨ》

まあ私も未来の資料でしか知らなかたからこうして今実際に確認できているのだが……。
しかし、海中から観測というのは飛空艇が主流な魔法世界では邪道な気がするネ。

《落ち着いたら身体に入ってあちこち周りたいです》

《優曇華は……外宇宙というからには宇宙用の筈だがこうして海中に隠しておくならさよも好きに使えばいいと思うネ》

《ありがとうございます、鈴音さん!でもまずはネギ先生を集めないと!》

《まさか世界に散り散りになたネギ坊主を集めるなんてことになるとは思わなかたヨ》

《それにしても1人が散り散りになるなんて滅多に無いことですよね》

個人が散り散りという表現自体そもそもおかしいカ。

《こんな特殊なケースはネギ坊主だけで良いヨ》

《どれぐらいで集められるか分からないですけど……下手すると夏休み終わってしまいますね》

《魔法世界の総魔分量は地球の比ではないからあと4日では……相当難しいと思うヨ》

それこそ明日菜サン達にはネギ坊主が必ず助かる等とは断言はできないナ。

《新学期早々ネギ先生不在なんて……》

《3-Aの皆がどうなるか目に浮かぶようだナ……。だが、完全なる世界と渡り合たネギ坊主は最早これ以上魔法使いの修行として後半年ですら無理に教師を続ける必要も無いと思うネ……》

《そう……ですね……。ネギ先生は……色々背負い過ぎですからね……》

《確率に偏りがありすぎるといくら言ても言い過ぎる事はない程にネギ坊主は1個人にしては非常に重要な存在でありすぎる》

《そのネギ先生、なんとしても助けないと!引き続き作業しますね!》

《私は一度明日菜サン達の所へ向かうが、できるだけ早く戻るネ》

明日菜サン達には会わないようにするけどナ……。

《了解です!》

よし……虹彩の輝きを隠す為のコンタクト、姿そのものを消す光学迷彩コートもあるし、龍宮サンの治療は転移魔法で直接部屋に飛べば良いだけネ。
問題は翆坊主に頼まれたグレート・グランド・マスターキーの件と高畑先生とクルト・ゲーデル総督が、私が現れる事でどう反応するかだナ……。
最悪サヨか翆坊主には記憶改竄による強行手段があるから私は上手くやるよう心掛けるのみネ。
戦闘する訳でもないから高速転移魔法ではなく転移門で行くとするヨ。

―転移門―

行き先は……龍宮サン1人だけの個室ネ。
うむ……問題なく到着したヨ。
視野情報からも特に艦内の誰かが私の侵入に気づいた訳でもないようだし手早く龍宮サンの解析と応急処置を済ませるネ。
髪の毛が白く脱色し、見たところ魔分を激しく消耗したような症状だが……解析をしてひとまずは魔分供給で様子を見るとしよう。

  ―対象解析・龍宮真名―
―魔分供給・開始・龍宮真名―

む……龍宮サンは純粋な人間ではないのカ。
魔眼がどうのとは知ていたがまた知らされていな……いや、知ていてもどうともしないカ。
……これまでは魔法世界ではこのアーティファクトは恐らく使えなかた筈だが、特に違和感無く使えるのだから助かるナ。
しかしこの症状は……少なくとも意識は取り戻すだろうが寿命が短くなっている可能性があるネ……。
私ではなく翆坊主かサヨの精細治療を受けさせた方が良いかもしれないナ。
さて、次にどう動くかだが……私もネギ坊主……はいないが高畑先生達に色々聞かれる事になるだろうからそれなりに話をしてしまても変わらないかナ。
光学迷彩コートは被たからこのまますぐ近くにあるまだ横になている高畑先生の部屋に行くカ。
部屋を出て……と……戦艦の中はどこも慌ただしいネ。
視えているから走り回ている人達にぶつかりはしないが……ドアの前に着いた所で周囲にこちらを見ている人がいないのを確認して……今だナ。
スライド式……この辺りは地球と同じネ。

「ん……?誰かいるのかい?わざわざここに来なくても通信でも構わないが……」

独りでにドアが開けば気づくのも当然だナ。
コートを取てと……。

「!」

「高畑先生、久しぶりネ」

「超君!?ッ!」

私を見て驚くのも無理ないが、怪我をしているのに上体を起こそうとするから痛そうだネ。
ただの外傷は私が全部治してしまうという手もあるが……麻帆良側に戻ればクウネルサンもいるし下手に手出しする必要も無いカ。

「怪我をしているのなら無理に身体を起こす事無いヨ。分かているネ。話すヨ」

「……ああ……頼むよ」

「一つ、クルト・ゲーデル総督もこの場に呼んでもらえないかナ?先程確認を取たが、茶々丸から例の事、聞いたらしいネ?」

「じゃあネギ君の事も既に……。いや、分かった。クルトもここに呼ぼう。……通信するが」

「この通り、光学迷彩コートをもう一度被るから大丈夫ネ」

『クルト、こっちの部屋に来てもらえないか。直接話したい事ができた』

『こちらはまだ忙しいのですが……タカミチ、できたというからには重要な事なのか』

『勿論だ』

『……分かりました。すぐ部下に頼んでそちらに向かう』

『頼む』

後は総督が来るのを待つだけネ。

「超君、一つ聞かせて欲しい。今回どうなるか全て分かっていたのかい?」

色々端末等渡していたからそう思われても仕方ないナ。

「知ていた事は知ていたが、当然全てでは無い。特に魔法世界でこの地球で2週間の間に起きていた事については寧ろ私も実際どうなるかは、なてみなければ分からなかたヨ。端末しか渡さなかたのが、この分を見るに少し手抜きだたと思うぐらいにはネ」

でも、下手に武装を持たせては、何か起こると最初から言ているようなものだからそれはまず無かたけどナ。

「正確な事は分からない……という事か」

「その通りネ。おや、そろそろ総督が来るから少し黙らせてもらうヨ」

担架で運ばれてくるみたいだから少し壁際に離れておくカ。
……ドアが開く音がして総督が部下に運ばれてやてきたヨ。

「タカミチ、来たぞ」

「悪いが人払いを頼む」

「……後で呼びますので一旦下がりなさい」

「「はっ!失礼します」」

部下の人達が出ていたネ。

「これでいいでしょう。この短時間の間に何かあったとは思えないが何の話しだ?墓守り人の宮殿の注視もそうだが、突然太陽が小さくなった上、更には再び沈み始めた原因の確認もしなければいけないのですが……」

「多分……それの原因を説明できる人物が来ている。合っているかな、超君」

「何!?」

再び光学迷彩コートを取てと……。

「まあ、そんな所かナ。初めまして……クルト・ゲーデル総督。超鈴音ネ」

「なっ!?あなたが例の!」

「そう、きっとその例の人だヨ。まずは私が地球からどうやて来たかだが、既にゲートも起動しているからそこからだヨ。……反応からして素直に信用できないみたいだが……そういう事にしてもらえると、助かるネ」

ある意味地球から火星まで宇宙旅行してきたと説明する事もできそうだナ。

「……分かった。それについてはゲートからという事にしよう」

「助かるヨ。茶々丸から聞いたらしいが……魔法世界の崩壊の件はほんの先ほど、解決した。太陽の異常はそれが原因ネ」

「火星に2本目の神木が定着している……とは茶々丸君から聞いたが……まさか魔法世界は旧世界の火星へと……」

「しかし……そんな無茶な事が」

「その通り。全く、無茶な事だヨ。様々な問題を抱えていたが、それを可能とするだけの能力があたから実際にできた。高畑先生の考えている通り、今や魔法世界は旧世界、無限に広がる宇宙空間に存在する地球、その隣の惑星、火星と完全に同化したネ。正直これからが一番大変なのだが、少なくとも根本的な問題は取り去られたヨ」

「魔法世界が……本当に火星に」

「ありえない……と言いたいところですが、太陽の異常は魔法世界が火星になったからと考えれば……説明はつきますね……」

2人とも驚きを通り越して呆然としているナ。

「因みに重力に関する諸問題は解消されているから安心して欲しいネ」

「たっ……確かに……重力に変化は感じられませんがそんな事まで……。超鈴音さん、一体その神木のある場所は何処なのかお聞きしても……?」

予想通りの反応だナ。

「探せばいずれ分かる事ではあるが、ここに来て神木の重要性が露呈したからには所有権争いに発展するのが目に見えるからそれはまだ教えにくいヨ。確かに麻帆良の神木は一応人間の間では、メガロメセンブリアの管轄という事になているから火星の神木もそうなるのは避けられない事ではありそうだけれどネ。総督は神木の場所を知たらどうするネ?」

「国際問題どころか世界そのものに関わる事ですから調査しない訳には……」

「火星だけの問題で済めばいいが……火星になった、という事は地球から魔法世界の存在を知られる事も考慮しなければならない……かな?超君」

「尤もなことネ。今はまだ、地球からは火星の地表変化を確認できないようにしてあるヨ。だが後5ヶ月で地球から打ち上げられた火星探査機が到着するネ。撃ち落とす事……それ以前に燃え尽きる可能性が高いが……その件をある意味未知との遭遇として考えると対応としては適切ではないだろうネ。ましてや同じ人類なのだから」

「魔法世界そのものにとっても重要であり、星間規模の問題という事ですか……。それは慎重を期さなくてはなりませんね。もしその神木が害されでもすれば……」

「魔法世界は悲惨な事になるヨ。ゲートが1つしか無い今、絶対に……そうだネ、星間戦争などに発展させては駄目ネ」

まさか真面目に星間戦争なんてファンタジーな事を実際に言うとは思わなかたネ……。

「せ、星間戦争……」

実際に言葉で言てみると高畑先生も壮大すぎて違和感を覚えているみたいだナ。

「十分ありえる……事でしょうね。特に亜人類に対して誤解を地球人に抱かれればその可能性は否定できません……」

「全世界にでも認識阻害をすればそれで終わりだが、これはある意味全人類の転換点、試されているとも言えるネ。精霊の話も聞いていると思うが、実際彼らに認識阻害を行うのは不可能ではない筈だヨ。そこまでは確認していないけどネ。……だがそれで良いのか、という究極的な問題が付き纏うネ」

翆坊主達は決して人類の完全な味方でもなければ、世界の味方でも、ましてや神でも無い。
毛頭、神木と呼ばれているとしても神、だなどとあの翆坊主達は思てはいないが。
純粋に存在し続ける……魔分を生産し続け、数千年かけて新たな神木を増やす事が目的なのだから、その点は実に一般的な種の繁栄と何ら変わりは無いネ。

「認識阻害……魔法世界にこんな奇跡を起こすのですから……できて当然ですか……。超鈴音さん、その……神木の精霊の意思は一体……それに何故あなたがその彼らと……?」

「相坂君もそうらしいが……こんな計画を行ったのだから絶対に人間の敵ではないだろうが……目的は何なんだい?」

「そうだナ。彼らの立ち位置、目的については理解して貰ておいた方がいいネ。……彼らの究極的な目的はほぼ全ての生命に共通する一般的な種の繁栄と全く変わらないヨ」

「それは……種子を残すという事かい?」

「その通りネ。数千年単位の次元の話らしいけどネ。彼らは人類と敵対する気は、本気で木を害したりでもしない限りは一切無いヨ。逆に完全に全人類、全ての生命の味方という訳でも無いネ。これは彼らの究極的目的から考えれば道理だヨ。ただ、今回魔法世界が崩壊する原因である魔力の枯渇という問題の解決に踏み切ったのは、間違いなく彼らの積極的な意思のお陰ネ。一つ、翆色の精霊が私に何と前に問いかけた事があるか言おう。……魔法世界は本来的に異界ですからそれがこちらの世界に出てくるというのは非常に夢があると思いませんか?……とこう言ていたネ」

「夢……?そう言われれば……僕も否定はしないが」

「精霊とはそういう思考をするものなのですか……」

「ハハハ、信じられないという顔をしているけど、神木の精霊は完全に人類の味方という訳ではないが、それでも間違いなく人間に限りなく近い感性は持ち合わせているヨ。そして何故、彼らと関わりを持ているのが私なのか、という問題だがこれは彼らにとて、私が最も裏切る可能性の少ない人間だから、というのが選定理由らしいヨ。まあ今更この点について追求されても困るからそういう事で納得して貰いたいネ」

色々事情を考え出すとタイムパラドックスの問題が絡んでくるが……ある意味この今は第三の時間軸……と捉える事もできるナ。
世界に意思があてそれが原因で翆坊主が……現れたのかもしれない……と、翆坊主も言ていたが……これはどうも俄には信じがたい事だけどネ。

「……説明してくれてありがとう。ある程度分かったよ、超君。正直僕は今まで超君や相坂君を不審に思う事が多かったが……その神木の精霊に協力していたとは……とんだ間違いだったようだね」

「私も……それなりに分かりました。神木の精霊の目的がそういう事であれば共生関係を築くのが良さそうですね。話も通じそうですから私も実際に話してみたいのですが」

「認識を改めて貰えて助かるヨ、高畑先生。総督の言うとおり、共生関係が適しているだろうネ。この世界にとて魔法、魔力は必要だろうし、彼らにとても魔法世界が存続することは良いことだろうからナ。彼らと話すなら……まずは一度直接麻帆良に足を運ぶといいヨ。彼らも高畑先生と総督が必ず接触してくるのは間違いないと分かているからネ。私は彼らの代理というつもりはないが、先に先入観を取ておいた方が円滑に進むと思てこうして高畑先生と総督に会いに来たんだヨ。それと、一つだけ欲しい……というよりも渡して欲しい物があるネ」

翆坊主達と話すだけならもう世界の何処でも可能なのだけれどネ。

「……なるほど、分かりました。この後治癒術師に本格的治療を済ませ、すぐにでも起動したというゲートから一度麻帆良に向かう事にしましょう。渡して欲しい物とは……グレート・グランド・マスターキーの事ですか?」

「……ネギ……君がグレート・グランド・マスターキーの事を恐らくその神木の精霊から聞いた事があると言っていたが……」

「ッ……」

ネギ坊主の話題は相当なタブーだナ……。
先程から異様にこの2人が前向きなのもそれが理由なのだろうネ……。

「グレート・グランド・マスターキー、私も見たことは無いしそんなに詳しい事も知らないが、アレはどうにかしないといけない、と翆色の精霊が言ていてネ。できれば無条件で渡して貰いたい。1個人にしろ、組織にしろ、こればかりは人間が持ているのは争いの種にしかならないという事だと思うネ」

「……リライトされた人々も戻ってきた今、僕個人は渡して構わないと言いたい。このままだと高確率でメガロメセンブリア上層部が接収する形になりかねない」

「あの未知の力……腐敗した元老院が何をしでかすか分からないのは間違いありませんね……。以前なら渡すつもりは無かったでしょうが……今回ばかりは私個人の感情としてもグレート・グランド・マスターキーは誰の手にも届かない所へとやってしまいたいと、切に思います……」

「クルト……そうだな……」

何だか拍子抜けするぐらいすんなり交渉がうまく行たが……これはどうもまたネギ坊主の件が尾を引いているみたいだナ……。

「ネギ坊主は……どうだたネ?」

「とても……立派……だった。英雄の息子、ではなく、ネギ君は最後までネギ君だったさ……」

「余りにも……報われないっ……。最初私が考えていた事は余りにも愚かとしか言いようがない。たった10歳の少年が私達大人よりも先に命を賭して散る等……悔やんでも悔やみきれません。正直、神木の精霊にそれほどの力があったのなら何とかして欲しかったと例え恨んででも願いたい程ですよ……。アリカ様とナギが戻って来たのにこれではッ……」

高畑先生はやりきれないという表情、総督は後悔に埋め尽くされているという様子だネ……。

「そうか……ネギ坊主は……やり遂げたカ……。一応説明すると、神木の精霊は火星が魔法世界と同化するまでは一切魔法世界には手出しすることができなかたネ……」

「そう……だったのかい……」

「…………」

明日菜サン達にはともかくこの2人に伝えておくのは悪くないカ……。

「期待を持たせるようなことを言うが……ネギ坊主の葬式を上げるのは、まだ早いヨ」

「!超君……それはっ……」

「仮契約カードで死亡が確定したというのに……助かるとでも……!?」

大の大人ながら食付きが早いネ。

「まだ……分からない。ネギ坊主の使た技法というのを茶々丸から聞いたのだが、現在調査中ネ。ただ一つ確かに言えるのは、見込みはゼロではない、という事だけだヨ。彼らはネギ坊主に感謝しているからネ。2人なら分かるだろうと思て言たが……私のクラスメイト達に下手な期待を持たせるのはやめて欲しい。余計に傷付く事になる」

「……見込みはゼロでは……ない……。正直……それができたら奇跡としか思えないが……僕は信じるよ。分かった。アスナ君達には言わないと約束しよう」

「そうですか……ネギ君は……アリカ様とナギの子供は……まだ助かるかもしれないのですねっ……。分かりました。……ならば私達は前へと、進みましょう。まずはグレート・グランド・マスターキー、貴女に託して良いのですね?」

ふむ……この際。

「ああ、任せるネ。必ず彼らに送り届けるヨ。最初するつもりは無かたが……私からも餞別を送ろう。楽にして欲しい」

「超君?」

 ―契約執行実行 供給量増加―
―ラスト・テイル・マイ・マジックスキル・マギステル―
―彼の者達に清らかなる癒しを―
    ―完全快癒!!!―

こうして私が外で魔法を使う事になるとはネ……。
いや、自分でやておいて何を今更という所だナ。

「こ……これは……怪我が全部治って……」

「これは……驚きましたね……」

このアーティファクトで行う限り不可能な魔法は殆ど無いネ。

「これは秘密で頼むヨ。私は魔法を使えない事になているからネ。私が去るまではまだそのまま怪我をしているフリでもしてもらえると助かるヨ。今この魔法世界……いや、新世界で神木の秘密を知ているのは高畑先生と総督だけネ。分かていると思うが、はっきり言てこの世界にはこれから大規模な混乱が巻き起こるヨ。太陽の運行は逆になり、その光量は従来よりも減り、1年の周期も1.88年に伸びて季節もズレる。これによて環境変化はどうしても起きるし、その社会的な影響は計り知れない。しかし、彼らの計画は今回のタイミング以外に実行する機会はあり得なかた以上、総督の言うとおり我々人類は前へと進むしか無い」

「ああ……全力を尽くそう」

「ええ、当然、私も全力を尽くします。言い訳が面倒ですが、治療、感謝します」

「では、グレート・グランド・マスターキーは引き取らせて貰うヨ。茶々丸から魔法球に置いてあると聞いているから、このコートと、魔法で手早く済ますネ。それと一度麻帆良の地下に繋がるオスティアのゲートを通て地球に明日菜サン達皆で帰る事を勧めておくヨ。ネギ坊主はいなくとも、あちらで待ている人達も大勢いるからネ」

「……分かった。一度神木の精霊にも会う必要があるし、必ず皆で戻るよ」

「分かりました。グレート・グランド・マスターキーの件は私達で説明をつけておきますので」

「また近いうちすぐに会う事になるだろうが、それでは失礼するヨ」

光学迷彩コートを被て……。

―瞬時転移―

場所は魔法球の前ネ。
中に入て……モデルは南国か……。
加速しつつ視野拡張を最大にして……おや、部屋で寝ているのは……小太郎君と……やはりと言うべきかナギ・スプリングフィールド……後も一人は……知らないナ。
水晶が割れている所から考えるとどうやら高度な封印魔法のようなものから脱したようだネ……。
逆に今私の目的は達し易い。
グレート・グランド・マスターキー、それらしいのは……見つけた。
身長程の長さのある火星儀の付いた杖カ……。

―瞬時転移―

うむ、手に入れた……これで後は戻るだけネ。

―瞬時転移―

―ダイオラマ魔法球出入制限時間の特定選択除外を実行―

元々この魔法球、出入り制限はかなり緩いようだが流石に一瞬だけというのは認められないネ。
しかし、ものの5秒程で一連の作業は終了ネ。

―転移門―

……ダイオラマ魔法球からでてすぐに優曇華に帰還したヨ。

《さよ、グレート・グランド・マスターキーは確保したネ。翆坊主に繋げられるカ?》

《はい!任せて下さい。キノ、鈴音さんがグレート・グランド・マスターキー確保したそうです》

《……随分順調に運びましたね》

《ああ、高畑先生とクルト・ゲーデル総督に接触して話を付けて来たからネ。結局盗み出すような形にはなたが、ちゃんと許可は取たからアリだと思うヨ》

《了解しました、ありがとうございます、超鈴音。すぐに神木に入れる必要もありませんので、そのまま優曇華のアーチにでも入れておいて下さい》

《分かたネ。接触して改めて分かたが、ネギ坊主は魔法世界であの大人2人に強烈な影響を与えたようだヨ。正しくは周囲の者全てに、かもしれないが》

《2ヶ月ぐらい……だったみたいですけど……ネギ先生は……頑張ったという言葉では表しきれない程頑張ったんですね……》

《……少なくとも、このままでは終わらせる気はありませんので作業を続けましょう。こちらも話をして来た所です》

《エヴァンジェリンがどう反応したか予想できるが……翆坊主になんとかしろと言てきたのだろう?》

《ええ、全くその通りです。魔分の特性について知っているのでエヴァンジェリンお嬢さんは私達がなんとかするだろうと確信して待つそうです。命令じみてはいましたが……当然言われなくても進んでやる訳です》

《エヴァンジェリンさんらしいですね》

あれでエヴァンジェリンはネギ坊主を溺愛していたからネ……。
そもそも死亡というのを私達がいる時点で認めようともしないだろうから当然の反応だナ。

《エヴァンジェリンも待ている事だし、始めたばかりにしても予想以上に回収が進まないから続けるしかないネ》

優曇華だから……というのもあるが、墓守り人の宮殿のあるオスティア近海に溶けたのでこの分だとそれこそ日単位で普通にかかるだろうネ……。
魔分も常に一定の場所に留まている訳ではないから結局神木で直接回収するのが一番早いカ。

《こちらも回収速度は芳しく無いですが、集まっているには集まっています》

《こっちも同じです、まだまだ頑張ります!》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

超鈴音が新世界で動いていた間私が何をしていたか少し遡ろう。
地球、麻帆良に戻ってきてすぐ、近衛門殿達に事情説明をする前に寸前までサヨが管理していたこちらの状況を改めて確認した。
ネットワークに介入して走査してみれば、火星観測の生中継番組は、火星の接近中に超発光現象が起き、更には火星のフォボスとダイモスまでが発光した事でアナウンサー含めカメラマンまでもが大層興奮して映像に映り、何やら騒いでいたりと……それは仕事ができていると言えるのだろうか。
……いや、寧ろ全人類が一体何が起こったのかと混乱と共に興奮状態であり……匿名掲示板なるサイトの書き込みでは

「世界終わるんじゃね?」
「ねーよ」
「ちょっと今から全財産下ろしてくるわ」
「目が、目がぁー!!」
「大予言遅れて実現キター?」
「誰か説明よろ」
「説明しよう!あれは日本に隠されたアルテマウェポンだ!」
「な、何だってー!?」

などとネタなのは分かったが、完全に祭りを楽しんでいるようである。
どうも、目をバルス……された方もいるようだが……大丈夫だろうか。
その点は非常に申し訳ない。
超鈴音の作り上げたSNSのネットワークにはそれは驚異的速度で様々な情報が飛び交い、写真や撮影映像がアップロードされたり、物好きな人達が前述のようなネタではなく真面目に色々談義していたりと活気に満ち溢れている。
麻帆良内を観測すれば、神木について色々調査をやっている複数のサークルは、位相同調の直前、当たり前の様に神木の前に集結して超常現象を目の当たりにし、余りの感情の昂りから……謎の踊りをしだすという奇行が視えた……。
天文部の一部の集団は望遠鏡のいくつかを神木を見るのに使っているが、そこは双眼鏡で足りる。
更に本当に因みに……であるが、朝倉和美はこの超常現象に、入用な物だけ持ち、麻帆良報道部へと一目散に向かった。
多分部員が集結して無理矢理部室を開けるのだろう。
そのような中余程今重大なのは、日本政府に対し各国から麻帆良に11にも及ぶ光の河が集まり更には光の柱が神木に落ちたことについての説明を求める連絡が続々入っている事。
中には日本が何らかの新兵器を隠していてそれを使うつもりなのではないか、という……ある程度予想はしていたが、まさしく一触即発級のものまであり、既に空母が臨戦体勢に入っている国まで出てきているという危険な状況に陥っている。
……これには日本政府に所属して働いている魔法使い達が情報処理に四苦八苦しており、関東魔法協会理事である近衛門の元にも説明要求をすぐにして来た。
今更であるが基本的に魔法協会の拠点がある国家ほぼ全ての政府には必ずと言って良い程優秀な魔法使い達、基本的に彼らは魔法自体を上手く扱えるかや、戦闘力の高さ……じゃ然程要求はされないが、彼らが所属しており、日々隠れた努力を行い、国家規模の情報統制を行っている。
でなければ、NGOとして活動するに際して、秘匿に気を付けているとはいえ魔法を使って世界を股にかけて活動するなど不可能。
例を挙げれば、銃器・刀剣類等を持って飛行機に乗るというもの一つを取っても、そもそも銃刀法を乗り越え、空港での持ち物検査等を通りぬけ、そのまま自由に出入国できるのはまさしく彼らのお陰なのである。
メガロメセンブリア本国と連絡が取れない今、結果として暫定的最高指揮権は近衛門が執る他無い。
勿論表の政府機関だけではなく、各国の魔法協会も説明を要求してきている。
管理していた11箇所のゲートにあった魔分溜りがほぼ全て消失し、それが麻帆良に集まったのだから当然の対応ではあるが。
正直これから情報処理やら報告書作成等、激務続きになる事は間違いない。
現在当然の事ながら麻帆良の表明としては、詳細については依然調査中であり、それを待っていられない日本政府が発した声明の第一報は、戦闘の意思は一切無く、日本政府としても今回の現象は真っ先に調査を行う方針である……というものになった。
反応としては世界11箇所から光の河が発生した事に関し、既に日本だけの問題ではなく、各国による共同調査に乗り出すべきだというものまで挙がっている。
流石に今回の現象は、私達が計画に利用したものであり、使うものが強制認識魔法であれば余り混乱は起きなかったのであろうが、残念ながらそうではないので国際問題に発展した。
しかもまだ知られていないとは言え、火星が第二の美しき青い星となった事までがこの状況に加われば、世界そのものが新たな時代を迎える事は間違いない。
何はともあれ、戦争など起こらない……何かの拍子で核兵器が飛んできたりしない事を祈るばかり。
少なくとも明日地球がどうなるという事は一切無い。
さて、近衛門はと言えば、報告を待つまでもなく、自力で高速転移魔法を駆使し、実際に麻帆良地下のゲートを確認しては学園長室にまた戻り連絡を行っては、次に明石教授と弐集院先生が忙しなく作業中である麻帆良教会、日本魔法協会支部の管制室へと転移を繰り返している。
要するに、私が精霊体で実際に会って話をしている場合ではない。
となれば接触を取る方法は一つ。

《近衛門殿、お忙しい所失礼します。こちらの計画は完全に成功しました。これは……説明は省きますが……加速した通信のようなもので時間は殆ど取りませんので、念じて頂くだけで構いません》

《おお、キノ殿、待っておった。なんとも時間が止まったような感覚がするが……これはちと頭が痛いの》

《ええ、そういう訳で手早く済ませましょう。先日ゲートポートが破壊された事によって起きる魔力の対流を利用すると少し話しましたが、予定通りと言いますか、完全なる世界が各地のゲートポートを破壊したのはご存知かと。そして彼らがあちらのオスティアに膨大な魔力溜りを形成し世界の終りと始まりの魔法を発動させる算段の所を私達が便乗して逆に利用し、火星と魔法世界の位相を完全に同調させる事に成功しました。実際、魔法世界、火星側の完全なる世界の計画がネギ少年達によって阻止された事が非常に大きいですが》

《ぬぅ……なるほど……今になってよく分かったがキノ殿にとってゲートポートが破壊される事はその計画にやはり必要だったのじゃな》

《ええ、申し訳ないですが、正直近衛門殿達にゲートの要石を破壊することを頼む訳にも行きませんでしたからあの時は後で話をするという形を取りました》

《うむ……儂らが要石を壊すのはあり得ないからの……。しかし火星が魔法世界となったというのは……真に驚きじゃな。これから大変じゃわい。ネギ君達が上手くやったのは良いことなのじゃろうが……儂がネギ君達の旅行を認めたのは勘じゃったから複雑じゃな……。して……無事なのかの?》

《ここから先は私としてもどうなるか全く分からない未知の世界になりますから大変なのは間違いないですが、是非、頑張って欲しいとしか言えません。ですが……近衛門殿の勘は素晴らしい精度なのでこれからもどうにかなる筈です。……ネギ少年達の安否ですが、隠しても仕方がありませんのでお教えします。ネギ少年を除き、他の者は大なり小なり怪我はありますが、全員命に別状はありません。……ネギ少年に限って言えば、今現在この地球、火星の両方から消えている状態です。それ以上に関してはこちらも色々事情があるので答えるのは難しいです》

《人間の問題は儂らでなんとかするよう努力しよう。じゃがネギ君が……おらぬのか……。キノ殿のその言いようならば手遅れという訳ではないようじゃが》

《……そういう事です。楽観視は一切できないのですが……。それで地下ゲートの件ですが、ご存知の通り繋がっている先は廃都オスティア……旧ウェスペルタティア王国の空中王宮内になります。使用するなとは言うつもりは全くありませんが、前大戦で崩落したと言われる浮遊大陸は全て再浮遊を完了している上、竜種を始めとする強力な魔獣がいることに変わりはありませんので細心の注意を払ってください。今日中という事は無いでしょうが、木乃香お嬢さん達もできるだけ早くゲートを通って戻ってくる筈ですので出迎えの用意もどうぞ。私はこれでクウネル殿とエヴァンジェリンお嬢さんがいるいつもの図書館島に参りますので》

《あい分かった。情報感謝しますぞ、キノ殿。そろそろ儂も頭が痛いでの》

《はい、今日はお忙しいでしょうが、身体にはお気を付けて。失礼します》

……さて、クウネル殿と、私が言った通りそこに向かっていたお嬢さんの所に向かおう。
お嬢さんにネギ少年の話をするのは気が引けるのだが……隠す必要も無い。
司書殿もお嬢さんもゲートの調査を魔法先生達が忙しくやってる所に首をつっこむきは無いらしく、落ち着いていつもの滝に囲まれた空中庭園で待機中であった。

《どうも、クウネル殿、エヴァンジェリンお嬢さん。計画は完全に成功しました》

「やっと来たか茶々円。相坂から少し聞いたがそうらしいな。ここ以外は騒がしくてかなわん」

「おや、キノ殿、上手く行ったようで何よりです。しかし、驚くべき魔力でしたね。私は……もうここから出られる程です」

この2人はどうなるか分かっていたのだからこれぐらいの反応で正しいのだろう。
相変わらずの司書殿の表情はいつも通りだが。

《少し新世界の状況確認に手間取りまして。クウネル殿は例の研究兼……休養は、もう、宜しいのですね》

「ええ……そんな所です」

少し真剣な表情。

《そうですか。……尋ねる必要はありませんね。……それで、ネギ少年達の件ですが、正直に申し上げると、問題が発生しました》

「……何だ?」

《ネギ少年を除いた者は皆怪我の大小の差はあれど無事なのですが……ネギ少年は今両世界のどちらにもおらず、ゲートからは戻ってきません》

近衛門に対しても話すには難しいものがあったが、実際には世界そのものに含まれているという言い方が正しい。

「おい……茶々円。原因はまさか……」

先程会話したばかりでお嬢さんは気づいたらしい。

《例の新術、技法はあちらで完成したようで、それを行使したようです。代償はネギ少年自身……でしょう》

「流石に無理だと思っていたが……ぼーやの奴め……ッ」

「ネギ君が……ですか……」

予想通りではあるがお嬢さんの雰囲気が随分変わった……。

「茶々円……詳しい事情は分かるのか……」

《詳しい経緯は……今頃超鈴音が把握しているかもしれませんが……私はまだ確認していません。また後で連絡か……あるいは、それについてはタカミチ君達が戻ってから実際に聞かれるのが良いと思います》

「……分かった。だが、茶々円、アレなら、お前達なら、なんとかできるだろう……。いや、なんとかしろ。……絶対だからな……」

……さもなければという言葉が今にも続きそうだ。

《ええ、勿論です。既に動いています》

「……悪い。お前達がやるなら必ずなんとかなるな。……私は……塞ぎ込んでいそうなアスナ達を迎えるとするよ」

「キノ殿、私もネギ君が戻ってくる事、願っていますよ」

すぐにお嬢さんは落ち着きを取り戻してくれた。
信用して貰えているので助かる……実際、確かに私達なら可能であり、私達でなければ不可能。

《分かりました。……それでは、私は作業に戻りますので失礼します》

……そういう事があり、サヨから超鈴音の連絡を繋がれ、グレート・グランド・マスターキーが無事確保され、タカミチ君とクルト・ゲーデル総督には必ず会うことになるであろう事が分かり今に至る。
今私が出来る事と言えば、ネギ少年の霊体反応のある魔分を回収し続け、一方で直接の手出しはほぼ不可能ではあるが、世界情勢を注視し観測し続ける事、そして世界11箇所に再び魔分を少しずつ供給し、魔分溜りを形成する事である。
この後も作業を行っていたが不意に超鈴音から通信が入り、あちらにネギ少年の両親ともう一人知らない人物がいた事を伝えられた。
……やはりと言うべきか、全て帰結したようで、ナギが実際に戻ってくるとなると……どうなるだろうか。
こればかりはなるようにしかならない。
お嬢さんに伝えても良いかもしれないが、今は作業を優先、それこそお楽しみという事で。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

超鈴音に治療を施された高畑とクルトは少しの間を置いて、超鈴音がフレスヴェルグから去ったであろう事を待ち、そのまま担架生活を終え、怪我が無くなった事を隠す事なく2人でデッキへと戻りその場にいた者達を驚かせた。
酷い怪我をしていた筈にも関わらず平然として現れた為、クルトの部下は大いに慌てたが、実際に怪我が無くなっていたのでその場はなんとか落ち着いた。
しかし、どうして急に治ったのかについて全員が疑問に思ったが、2人は一切その疑問にまともに答える事はなく「治ったものは治った」の一点張りであった。
デッキに戻った2人は傷が不可解にも治ったばかりで魔法世界が火星になった事を説明する訳にもいかない為、引き続きそのまま部下には異変の調査を特に指示する事無く行わせつつ、墓守り人の宮殿の状態が安定し始めたのを確認し、残る艦隊も最低限にするべく艦隊を指揮し新オスティアへと下がらせた。
そんな中、太陽の観測から離れ、他の宇宙空間にも異変が無いかと望遠で観測され始め、驚愕の事実が報告された。
その事実とは勿論、紛れもなく地球が確認できた事である。
その情報はスヴァンフヴィートに戻っていたリカードを始めとし、セラス、テオドラにもすぐに伝わり通信が行われた。

『つまり何だ、魔法世界は火星に出たとでも言うのかよ?』

『完全なる世界の儀式はまさか成功しておったのか……?』

『いいえ……それは無いわ。あのリライトという魔法を考えれば全く別の要素が原因の筈よ。関連が無いとは言い切れないけれど』

『セラス総長の仰る通りです。完全なる世界の計画は阻止したのですから』

『完全なる世界の他に魔法世界で世界規模の魔法が行われていない以上、旧世界側に原因がある可能性が高いだろう』

『空中王宮にあるゲートからどこに繋がってるかは分かんねぇけどあっちに行けるようになってんだったら確認しに行きゃ分かるだろ。その時はついでに嬢ちゃん達も一旦帰るといいと思うぜ』

『それについては迅速に動いた方がいいですね。しかし消耗と日が再び沈み始めている事を考えれば、一度明日……朝になるのを待った方が良いでしょう』

『墓守り人の宮殿も落ち着いて来たのじゃから、もう艦隊を全部下がらせて一度新オスティアに戻っても良いのではないか?色々話もし辛いしの』

『そうね。そちらの艦にまた移るのは面倒よ』

ナギやアリカがいるという事もあり、実際内密な話をしにくい状況であった。

『……観測班、墓守り人の宮殿の安定状況は?』

[[ハッ、流星現象により墓守り人の宮殿付近の魔力溜りは急速に安定状態に入り、2度と勢いを盛り返す事は無いと思われます]]

『……分かりました。では旗艦も新オスティアへと進路を取りましょう』

『よぅし、そんじゃ戻るとするか』

『そうするのじゃ』

こうして、アスナ達が未だ甲板で流星現象を見続けている最中、連合・帝国・アリアドネーの旗艦も新オスティアへと帰還ルートを取る事となった。
グッドマン一族達を始めとして殆どの者は長時間の戦闘による疲労の為先んじて新オスティアへと戻って休息を取っており、そこに4つの旗艦も遅れて到着し、その乗組員達も同様に休息に入ったのだった。
丁度その頃、魔法球の中では大分時間が経過しており、遅れて3名が目を覚ました。

「ん……何処だここ……いや何で俺ここにいんだ……?俺は奴に……。ってお師匠!?お師匠じゃねぇか!」

ナギもやはり記憶に混乱があり、ふと横にゼクトが寝ていた事に驚き大声を上げる。

「……むぅ……騒がしいと思えば……。ナギ……なるほど、解決したようじゃな」

ゼクトは突然耳元で騒がしい音がしたため目を開け、むくりと起き上がり、状況を理解した。

「お師匠!お師匠!何かよく分かんねぇけどお師匠なんだな!」

ナギは思わずゼクトの頭を右手で鷲掴みわしゃわしゃと撫で始めた。

「そんなに何度も呼ばずともワシはワシじゃ。無駄に力を込めて頭を鷲掴みにするのをやめんか、馬鹿弟子」

「ああ、悪い悪い。つい癖で」

「…………う……何や……?ハッ!?ネギッ!!」

ほぼ時を同じくして小太郎も目を覚まし、最初にネギの名を呼ぶ。

「……ここはテオドラ姫さんの魔法きゅ」

「お前今ネギつったか!?ネギの事知ってんのか?」

ナギはゼクトから瞬時に離れ今度は小太郎のすぐ目の前に移動して言葉を畳み掛ける。

「誰や……!!……兄さんは……ネギの……ナギ……スプリングフィールド……」

「ネギの事、知ってんだな?」

「ああ、良う知っとる。知っとるで。俺は犬上小太郎。ネギの相棒や」

「コタロー、コタローか。俺は知っての通り、ナギ・スプリングフィールドだ」

「ワシはゼクトじゃ。コタローよ。墓守り人の宮殿でお主の仲間の楓達に協力した者じゃ」

「楓姉ちゃんの……知り合いなんか」

「お師匠?墓守り人の宮殿って……」

「その話は……他の者の方が知っておる筈じゃ」

「何やよう分からんけど……そやアーティファクトは……戻っとるか……ん……無い、無い!!姉ちゃん達が持っとるんか。そや、外に出れば分かる。ナギさんにゼクトの……お師匠さんも魔法球から一旦出んか?」

「……そうだな、外に出っか。お師匠も行こうぜ」

「うむ」

小太郎の提案によって3人は部屋から出て魔法球の出口のある桟橋へと向かった。

「コタロー、お前さっきネギの相棒とかアーティファクトって言ってたがネギと仮契約したのか?」

「おう、そうやで。にしてもナギさんおるっちゅう事はきっとネギは喜んどるやろな」

「お?そうなの?」

ナギはその言葉に興味を持つ。

「そりゃそうや、俺達は元々ナギさん探す為に旧世界から魔法世界に来たんやし」

「…………そうか。わざわざ俺を探しにな……」

ナギはその返答に一瞬表情に曇りを見せる。

「ま、その途中でフェイト・アーウェルンクスっちゅう奴らにアスナ姉ちゃん攫われてそれは後回しになったんやけどな」

「アスナ?アスナもいんのか?」

「おう、こうして無事っちゅう事はアスナ姉ちゃんもおるやろ」

ゼクトはその会話に入ろうかと一瞬口を開きかけるが後回しにする事にした。
すぐに桟橋に着き、3人は魔法球から出て、フレスヴェルグの貴賓室へと移動した。
その場には新オスティアに到着し、再び一同が集まっている所であり、3人はそこに鉢合わせた。

「な……ナギッ!!」

誰よりも先に気づいたアリカはすぐにナギに抱きつきその胸に顔を埋める。

「おおっ?アリカ!?」

それを反射的に受け止めるも、ナギはアリカだと気づきまたしても驚く。

「ナギ!」  「コタロー!」  「ゼクトさん!」  「ナギ!」

「コタ君!」  「ナギ様!」  「ゼクト殿!」  「ナギ殿!」  「コタロ!」

更に他の面々もそれぞれ3人を見て声を上げ落ち着くのにしばしかかった。

「よぉアスナ……大きくなったな」

「ナギ……」

ナギは成長したアスナの姿を見て頭を撫でる。
アスナはさっきまで泣いていたばかりであったが再び目に涙を浮かべる。

「姉ちゃん達……ネギは……どうしたんや……?」

「そうだ、ネギはいないのか?」

「………………」

再びそのタブーの言葉により場が静まり返る。

「…………その様子じゃと……ネギはあのまま逝ってしまったのじゃな……」

誰かが重い口を開いて言う前に、ゼクトが敢えて口を開く。

「お師匠……?」

「それは……ほんまなんか……?」

「コタロー、ネギ坊主は……最後まで……やり遂げたでござる」

「…………あの……馬鹿ネギっ……」

小太郎は長瀬楓の答えを聞きその場に座り込み拳で床を殴り付けた。

「そりゃ本当……なのか」

ナギも一旦アリカから離れ、両手でその両肩を掴んで問いかける。

「本当の……ようじゃっ。私とナギの子供は……先に……先に逝ってしまったのじゃっ……」

顔を俯かせたままアリカは再び震えながらナギに答える。

「俺は……ネギにもう、何もしてやれないのか……。あの時杖だけ渡して……それだけ……それだけかよッ!!ちくしょうッ!!」

ナギは何もできなかった自分自身に怒り、悔しさを顕にして怒鳴り声を上げた。
室内にはその余韻が響き再び場が静まり返り、そこへアリカが更に口を開いた。

「ネギは……生まれてきて幸せだったと、そう言ったそうじゃっ」

「…………そっか……ネギは……アリカに似てたんだな……」

ナギはアリカの言葉から悟るようにネギに思いを馳せた。

「私に……?」

「はい、ネギ君は……アリカ様に良く似ていました。守ることができず……申し訳、ありませんッ……」

そこへクルトがナギの言葉を肯定しながら2人に深く頭を下げて謝った。

「クルト、お主のせいではない……。それにお主が風のアーウェルンクスを倒し造物主の掟を残させておらなければ奴らの計画は今頃成っていたじゃろう」

「例えそうだとしてもッ……」

「クルト……頭上げろ。お師匠の言うとおりお前のせいじゃない」

「…………」

クルトは無言でゆっくりと頭を戻した。

「クルト、今後の動きについての提案を」

堂々巡りになりそうな空気を絶ち切るべく高畑がクルトに話を切り出すよう促した。

「……分かりました。皆さん、今後の予定を提案させて貰います。まず……旧世界から来た方々には空中王宮のゲートから旧世界に一度お帰り頂いた方が良いでしょう」

元々麻帆良学園の生徒である者達はクルトの発言にハッとした。

「帰る……?い……嫌よ、この世界にネギが……戻りたくないわっ……」

しかしアスナはネギが散ったこの世界から離れる事を拒絶する。

「いいや、アスナ君、僕達は戻るべきだ」

「特に貴女は絶対です、お嬢さん。今回の事件の中心人物である貴女がこのまま魔法世界にいればメガロメセンブリア上層部が必ず動きます」

「ま……また私の……魔法無効化能力……」

「クルトの言うとおりだ。このまま長居するのは危険なんだ。それに麻帆良で僕達を待っている人達もいる」

「ナギとアリカ様も旧世界にご同行願いたい」

「……理由は分かっておる」

「……俺もいいぜ」

「感謝します」

「タカミチ、アルはあちらにおるのか?」

ゼクトが不意に高畑に尋ねる。

「はい、アルは旧世界の麻帆良にいます」

「……ならワシも行こう」

「分かりました。私も魔法世界の異変について調査する為同行します。出発は今日再び日が昇ってからの予定としますのでよろしくお願いします」

「唐突で悪いけど、この後ホテルに戻って皆各自荷物の用意を頼むよ。また機会はあるだろうけど、それぞれ挨拶しておくと良い」

……この後も高畑とクルトの2人は他の面々が今回の事件を引きずっている中、目の前のやるべき事を見据え、ゲートから地球への帰還作戦を主導した。
リライトで消されていたジャック・ラカンやクレイグ達、ここで別れざるを得ないエミリィ達、セラス、テオドラや、高音ならグッドマン家と言ったように一同はそれぞれ関係のある者と挨拶を交わし、準備を進めたのだった。
皆ラカン達に再会できた事は喜んだが、事情を説明した際にもう何度目かというような気まずい沈黙が再び繰り返され、何も気にせず心から喜べるという事は残念ながら無かった。
それでも宮崎のどかはクレイグ達が無事に戻ってきた事に感極まり、嬉し涙を流していた。
途中葛葉と龍宮真名も目を覚まし、同じく簡単に事情が説明された後、2人も地球に戻るべく荷造りを開始した。
因みにテオドラ第三皇女が用意した魔法球の中にはその後入る者は殆どおらず、更には忙しかった為、グレート・グランド・マスターキーが既に超鈴音によって回収されているという事に誰かが気がつき追求する事も無く刻々と時は過ぎて行った……。



[21907] 63話 空白期間
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 20:21
はぁぁぁ~、いやもう今日は、うんにゃ、今日は昨日?
要するに、朝になったらすぐまた夜に戻るとか訳分かんない現象起きた。
強制時差ボケ状態だわ。
日食じゃないらしい。
それどころか、こっちから地球が見えるらしい……どういうことスか。
…………そんな事の前にネギ君スよ……。
このかも言ってたけど前思ったみたいに本当に流れ星になっちゃってさ……やっと麻帆良に帰れるってのに、これじゃ嬉しくなんてないスよ……。
ネギ君の両親にそのお師匠さん?は無事戻ってきたのに……何でネギ君、ネギ君じゃなきゃ駄目だったんだろ……運命って言ったら簡単だけど……そんなの認めたく無いよ。

「リンさん、クリスティンさん、きっとまたこっちに皆で来るんで、その時はまたスよ」

「ミソラちゃん、事情こっそり聞いたけど元気出してね。次会う時楽しみにしてるからさ」

「ミソラ、元気出してね。また一緒にご飯食べよう」

「はいっ!勿論ッス!」

リライトの魔法かけられてたリンさん達は皆戻ってきて本当良かった。
それもこれもネギ君達が皆あんな大怪我して頑張ったからスけど……。
エミリィさん達ともこれで別れる事になっちゃうけどまた会おうって挨拶した。
ネギ君のお父さんがここにいるのは何か信じられないけど、流石のエミリィさん達もこの状況じゃサインだ何だって口が裂けても言えなかったスね。
愛衣ちゃんと高音さんはそれぞれ家族に挨拶してたけど……わざわざそんな自由にもどってこれるか分かんないのに戻る必要も無い気がするんだけど……ネギ君を考えると余計にな……。
で、そのタブーすぎるからそっとしておこうという暗黙の了解でアスナとネギ君の両親は3人一緒に席に座って静かにしてる。
戻ってきたラカンさんが入ってきた時はそういう雰囲気ぶち壊しになったんだけど、あの人シリアスにどうしても耐えられないみたいだわ。
弱点あるじゃんか……。
普通に再会の挨拶を皆にして、ネギ君の両親とも最初はやりとりしてた……と思ったのに突然余計な事盛大に言ったもんだからテオドラ皇女殿下に背後から猿轡されてズルズル引っ張られてった。
今までになく明るく言ってた感じ、ありゃラカンさんも相当ショック受けてるんだろうけどね……。
ナギさんもそれ分かってるのか「悪ぃな、ジャック」って引っ張られてく時に言ってたな。
ショートカットかつ脱色した髪になったたつみーと、救護室に運び込まれてきた時は氷に閉じ込められてて死んでるんじゃないかって思った葛葉先生も丁度さっき起きてきて、高畑先生が事を荒立てないように事情を説明してた。
たつみーはそういう事があっても仕方ないか……って感じの雰囲気だったけど、葛葉先生は拳強く握りすぎて、掌から出血してたよ。
心が重傷なのは皆だけどいつも元気だったアーニャちゃんは尚更その差が酷くてネギ君の件が分かってから一切喋らなくなったのは……本当、辛いね。
一つ怪我の功名って言うのはアレだけどゆえ吉の記憶がとうとう完全に戻った。
ここ数日辺りから結構戻ってたみたいなんだけど、最後の最後に思い出せた原因が多分ネギ君が帰ってこないっていうショックからみたいだから本人は凄く言いにくいみたいだったんだけどね……。
怪我した人は沢山いたけど、この戦いで亡くなったのはネギ君だけとか……やるせなさ過ぎる。
対照的に高畑先生と総督は休んでる場合じゃないって凄い働いている。
2人の怪我が何故か治ってから……いや、怪我が治ってなかったら動けもしないんだけど……何があったんだ一体……。
でも2人のお陰でこの閉塞感から脱せそうなのは良いことなんだろうな。
本当は朝、の筈なんだけど、夜になったもんだから私も疲れてたし少し仮眠して起きたら、もう一回朝日が登りかけだった。
小さくなってるけど、太陽。
火星から地球見えてるって事は地球からも火星見えてる気がするんだけど……あっちは大丈夫なのか……?
とにかく、皆荷造りは済んでたから前高畑先生が用意してた小型飛空艇ともう一隻用意されたのに乗り込んで、オスティアの空中王宮にあるゲートに向かう事になった。
例によって空域には竜種が生息してるから戦闘員は甲板に出たんスよ。
その時なんだけどアスナがネギ君の杖をナギさんに渡したんだ。

「ナギ……これ杖……」

「…………俺の形見だって言ってネギに渡したってのに……ネギの形見になっちまったな……。アスナ、ありがとな。…………行ってくるぜ」

「うん」

「気をつけるのじゃぞ、ナギ」

ナギさんは目を閉じてその杖をしっかり握り締めて、もう一度ゆっくり目を開けたら雰囲気が変わってそのまま甲板に上がっていった。
結果はナギさんと見送るって付いてきたラカンさんの2人が出てきた竜種全部片付けたスよ。
これが生ける大戦の英雄達かって言うのがよーく分かった。
2人とも超速で接近して一発殴っただけ竜種がそのままあさっての方向にぶっ飛んで2度と戻ってこないとか、極大ビーム放って終わりとか……何だあの万国ビックリ人間。
ネギ君も時間かけて修行してれば……あんな技使わなくても済んだのかもしれないスね……。
そもそも10……11歳ぐらいで世界を終わらせようとするラスボスを倒すってのがアレなんだけど……。
ネギ君の事何も知らない人達がネギ君を適当に今回の話捏造して英雄に祭り上げるなんて事あったらマジ嫌すぎる……。
実際最後に世界救って散るとか題材として、話としてもお約束的なもんだから余計に美談にされそうだし……。
メガロメセンブリア上層部が腐敗してるっつーのは総督とリカードさんの話で分かってるけどホントどうなるか分かったもんじゃないね。
その総督だけど、今回付いて来るのは当然極秘で表の設定は未だ重傷で動けず入院中って事らしい。
ま、本来ならその通りだしね。
道中オスティアの落ちてた大陸は全部元通り再浮上してるから、どこも霧はもうかかってなくて空中王宮に行くのは一直線だったから、目的地にはすぐ着いたスよ。
こっちが起動してるんだったら地球の繋がってる何処かも起動してる筈だと思うんだけど……まだ誰も出てきてないらしい。
火星が見えちゃっててそれどころじゃないって事なのかもしれないけど。
誰もいないで長いこと放置されてた王宮ってのは当たり前だけど閑散としてる。
太陽が小さく……遠くなったせいで光が入ってくる構造になってるのに結構薄暗い。
高畑先生達が要石を調べ始めたんだけど……任意で転移なんて無理なのかー?って思ってたけど凄い人いた。

「ワシが強制的に動かそう」

「ゼクトさん、そんな事できるんですか?」

「できるのであれば是非お願いしたいですが……」

ゼクトさんって子供……じゃないんだろうなぁ……人はみかけによらないっていうか、そもそも言葉遣いとか明らかに年寄りだし、つか強制的に動かせるとかスゲー。

「流石お師匠だな」

「これだけ魔力に満ちておれば容易じゃ」

ナギさんのお師匠ってんだから相当高位の魔法使い……どころか聞いた話だと完全なる世界のヤベー奴らを3人近く葬ったってんだから超強いんだろうな。
そういえば紅き翼の伝記にも故人って事になってたけどゼクトさんの事載ってたし。

「見送りの者は円に入らぬように気をつけるのじゃ」

「そんじゃ、俺達はここまでだ。また来いよ」

「そなたらがおらなかったらこの世界は終わっておった。感謝しておる。また来る時は歓迎するぞ」

「その時はアリアドネーでも歓迎します」

ラカンさん、テオドラ皇女殿下、セラス総長の3人はここまで見送りに来てくれたけど、ここでお別れスね。

「ああ、ジャック、また必ずな」

「おう。いつまでも湿気た面してんじゃねぇぞ」

「テオ、ネギが……色々と世話になったようじゃな、感謝するぞ」

「アリカ、気を確かに持つのじゃぞ。……それで、急ぎで用意したものなのじゃが、これを」

お?テオドラ皇女殿下が出したアレは……。

「こ……これは……」

「……映像じゃ。ネギの拳闘士の映像と妾の記憶から作ったものじゃが……せめてもと思ってな」

「テオ……済まぬ、ありがとう」

ネギ君の勇姿を記録した映像か……。
きっと笑ってる姿も映ってるんだろうな……。

「ゼクトさん、お願いします」

「任せるのじゃ」

ゼクトさんが要石に触って念じ始めた……。
おお、カラーン、カラーンって音してるけど、そういえばそう、この音スよこの音。
こうなると……うおっ一瞬光って……。

……着いた所は……どこだーって……見覚えのある人達が……。

「お、おじいちゃん!?」  「エヴァンジェリンさん!」  「エヴァンジェリン殿!」  「学園長!」

「アル!」  「エヴァンジェリン姉ちゃん!」 「神多羅木先生!」

「シスターシャークティッ!?」

いやー!どう見ても麻帆良の人達じゃんか!
何でか私の目に最初に入ったのはシスターシャークティで名前呼んじゃったけどさ!
当然、状況が分かんないーってなんやかんやしたら、どうもここは麻帆良の地下にあったゲートだったとの事。
あれー、私……教えられて無かったよ?
まあ……いいけどさ。
とりあえずこっちはゲートを通ってオスティアに送る人数的、魔獣とかがいる事を考えても戦力的に来る余裕は無かったらしい。
つー訳で私は帰ってきた!!
……駄目だ……テンション上がらないわ。
そんな中エヴァンジェリンさんはナギさん見て超驚いてた。

「ナギ!!」

「よぉ……エヴァ」

「貴様今まで一体魔法世界で何を!」

「…………」

「…………まあ良い。じじぃ、アル、上に行くぞ」

「そうじゃな。積もる話は移動してからとしよう」

「では私の住処へ皆さんどうぞいらして下さい」

この人がアルさんか……紅き翼じゃんか。
高畑先生言ってたけどマジで麻帆良にいたんスか……相変わらず謎ばっかりスねここは……。
……なんて思いつつ上に続く道に案内されてしばらく移動したらデケー扉の前に着いた。
こういう時私はそのまま地上に上がるんじゃないかなーと思ったけど、完全に成り行きだった。
中は周りが滝の空中庭園でマジ何処って感じ。
皆驚いていると思いきや、エヴァンジェリンさん所の関係者は反応が普通すぎる感じ皆知ってたらしい。
ってか茶々丸が2人いるんだけど……突っ込んだら負けか。
で、始まったのはやっぱり互いの状況報告で、殆どは魔法世界でこの2ヶ月で一体何があったのか、簡単にしか言ってなかったナギさん達にも改めて詳細に確認しあった。
それには私がネギ君を南極に助けに行ったりした事も含められてたもんだから……アリカ様に手を取られてめっちゃ感謝されて……無性に気まずかった!
シスターシャークティが驚いた目して「それホント?」みたいな顔してたのは……予想通りというか分かってたさ!!
柄じゃないって自分でもあの時思ったもの!
ゲートポートテロ以降ネギ君達を皆救助した後アリアドネーと帝国で生活した話は平和そのものだったからかなりあっさり飛ばされて、オスティアでのフェイト・アーウェルンクスの急襲と総督府でのテロ、最後に昨日の今日の墓守り人の宮殿での最終決戦の話だった。
大体楓がザックリ話してくれたのと同じ感じで、何でゼクトさんやネギ君の両親があそこにいたかは……触れにくい……というかそこは私達があんまり知って良い事じゃないんだろうな。
にしてもネギ君が亡くなった事に学園長もエヴァンジェリンさんもアルさ……「クウネルとお呼び下さい」と言い出したクウネルさん達はそんなに驚いてなかった気がする。
シスターシャークティ達はショック受けてたけど。
で、地球側は世界11箇所のゲートがある場所から光の河が発生してそれが全部麻帆良の神木があり得ない超発光して現在進行形でずっと混乱してたらしい。
しかも穏やかじゃない事態になる一歩手前ぐらいにはなったらしい。
その事について、総督が、魔法世界が火星になってそこから地球が観測できたって話になってようやく繋がった。
つか神木、お前のせいか!何やってんの!
説明しろ!
木に話しかけても答えなんか返って来ないだろうけどさ!
でも地球からは火星の衛星が光ったのは分かったけど、地表に変化は見られてないんだってさ。
というより、火星がどうやって魔法世界として維持されてるのかマジ謎すぎるんだけど……。
重力って月が地球の6分の1である事を考えたら……魔法世界だった時は全然気にしてなかったけど、火星って事になったら色々問題あるだろー……。
特に変化一切感じ無かったのは不思議でならないけど。
で……そんな所へ扉を開けてやって来たのがいて……。

「皆お帰り。久しぶりネ」  「これはどうも」

超り――ん!!!
超りん謎すぎるんだよ!
端末とかさ!
どう考えても用意周到すぎるし!
しかも何かこのかのお父さんも来てるし!!

「超さん!」   「父様!?」   「超姉ちゃん!」   「超!」

「詠春さん!」   「超りん!」   「超君!」   「長!?」   「詠春!」

「皆聞きたい事があるという顔をしているようだが……学園長、頼むネ」

「ふむ、そうじゃな。このか達は地上に戻ってもらえるかの」

ここでようやく人払いスかー。
超りんの謎はもの凄い気になるんスけど……仕方ないスね。

「おじいちゃん!?」

「シスターシャークティ、神多羅木先生は報告書を。葛葉先生、怪我をしておるじゃろうが、悪いが呪術協会を頼めるかの。ドネットさん、上に明石教授がおる、メルディアナに連絡を繋ぐと良い」

「分かりました。学園長」

「了解です。学園長」

「怪我は大体治りましたので問題ありません。承知しました」

「手配ありがとございます。そうさせて頂きます、学園長」

「済まんの、頼むぞい」

「このか、ここは下がりなさい」

「父様!」

……で、私は言うまでもなくシスターシャークティにココネと一緒にズルズル連れていかれて、このかは粘ったけど、桜咲さんと葛葉先生が戻るよう促して、アスナと超りん、茶々丸を除く皆もそれに続いて地上に戻る事になった。
こんな所にエレベーターが!って感じだったけど麻帆良も朝方みたいで、いやホント、実感沸かないけど戻ってきたんだなー。
一体残ったあの人達は何を話してるんだろーな。
超りんがいるって事はこの大異変関連な気がするけど。
私達が何処向かうかって言ったらそりゃそれぞれ女子寮で、皆で帰ってきたもんだから3-Aの皆がすーぐ寄ってきて絡まれまくった。
超懐かしいのは懐かしいし、嬉しくないって事は無いんだけど、テンション上がらないから今日ばっかりは勘弁して欲しいスよ……。
大体どこ行ってたなんて話せないし。
でもさよは出てこなかったなー。
また見えない姿で浮遊してるのかもしれないけど。
夏休みの宿題……なんてものがある気がするけど……無いよね……というかそんな気分じゃないスし。
で、絡まれるのがアレすぎるから私は速攻で教会に退避、そんで今ばかりは真面目に祈りたいんだよ……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

満を持して役者は全て揃い、図書館島に集結した。
因みに詠春殿は魔法転移符による緊急転移に近い形で到着した。
超鈴音、近衛近衛門、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル、アルビレオ・イマ、近衛詠春、高畑・T・タカミチ、クルト・ゲーデル、ナギ・スプリングフィールド、アリカ・アナルキア・エンテオフュシア、フィリウス・ゼクト、神楽坂明日菜、絡繰茶々丸2名、計13名である。

「先程は機会を逃しましたが、ナギ、アリカ様、ゼクト殿ご無事でしたか……再びこうして会う事ができ嬉しいです。クルトも、元気そうですね」

「詠春こそ……老けたなぁ。タカミチもそうだけど」

「ご無沙汰しています、詠春さん。その節はお世話になりました」

「ナギ……その発言前にも聞いたぞ……」

「僕もデジャブを覚えますよ……」

忘れはしないまほら武道会、あの時のイノチノシヘン版のナギの発言と雰囲気は違うが同じであった。

「前っていつだよ!」

「フフ……私のアーティファクトですよ。ナギ」

「あー……じゃあアル、俺の頼み律儀に守ってくれたのか?」

「ええ、友の頼みですからね。約束は守りましたよ」

「……そっか……ありがとな、アル」

「どういたしまして。……無事戻られて良かったです、ナギ、陛下……いえ、アリカ様、ゼクト」

「アルビレオ・イマ、主も変わらぬようじゃな」

「うむ」

「……さて、何から話したものかの?」

近衛門が何から話すべきかと言い出したが……この状況からして2つぐらいしか話題はない。

「では……この住処の主として最初の話題を提供させて頂きましょう。凡そ10年程前、一体何があり、今に至るのか。先程の話では触れることはありませんでしたからね」

「そうだな……もう話してもいいか……。だけどよ……そっちの少しお師匠に似てる感じがする超って子は……」

「む?」

「ふむ、私の事は気にしなくていいヨ。そのまま話を進めて貰いたい」

「ナギ、超さんの事は気にしなくて結構ですから」

クウネル殿良い仕事。

「あー、何だ、良く分かんねぇけど、まーいいや。まずは……墓守り人の宮殿の最奥部に反魔法場ごと封印することになっちまったアスナを助けられるようになるまで数年待った、のはアル達も知ってると思うが、アリカからその行き方と封印の解き方を聞いて俺とガトーでちょっくら助けに行った所からだな」

ナギは深く考えない。

「フフフ……ナギからこんな風に話を聞くのは初めてかもしれませんね」

「そうか?で、港町で皆と一度集合した後アスナをガトーに託した俺は京都でアルと研究したりたまに故郷に戻ってアリカの所に行ったり来たりしながら世界の秘密をぶっ潰す為に生活してた中……できた」

「できたとか言うな馬鹿者!」

「いだぁッ!?」

アリカ様の反射的平手打ちがナギに直撃した。
痛そうだ。

「…………」

要するにネギ少年の事だが……自然の摂理。
黙って聞いてはいるがエヴァンジェリンお嬢さんはこれには分かってはいても少し不機嫌そう。

「その後じゃ……。ネギを身篭って間もなく私は何者かに強力な遅延封印系の魔法を受けた」

「それに気づいた俺は解除しようと思ったが……超ヤバイもので故郷でも対処法が見つからなくてな……そんな時奴からわざわざこれ見よがしな知らせがきやがったんだよ。倒した筈のフェイト・アーウェルンクスだ。直感的にヤバイと思った俺はアルに例の頼みごとをしたって訳だ」

「……私もその時ついて行けば良かったのですがね……」

「知らせの内容からそうする訳にはいかなかった。正直内容自体キナ臭かったけどな。それで、イスタンブールにいやがる奴をボコボコにしに行くつもりだったんだが……俺としたことがしくじって逆に奴諸共俺が封印されちまった……封印される直前の事は良く覚えてるぜ」

「そうであったか……。ナギが失踪したという情報が入った私はその後ネギをウェールズで無事産む事はできたのじゃが……その後魔法が発動して、それまでじゃった……。私も水晶に包まれた時村の者達は皆助けようとしてくれたのは覚えておるのじゃがな……」

「全部奴のせいだぜ……全く」

「……その間、私もナギの後を一度追い、魔法世界にも行きました。その時私も念の為一度ラカンに連絡をしてから動いたのですが……結局返り討ちにあいましてね……その後は学園長とタカミチ君の知っている通りここで暮らしていたのです」

「な……じゃあアルもフェイト・アーウェルンクスにやられたのか……?」

「いいえ。その時私に攻撃を仕掛けてきたのは違いましたよ」

「ワシ……じゃろうな。正確にはワシの身体を乗っ取った造物主じゃろうが。そうじゃろ、アル?」

「お師匠!?」

「ええ……正解です」

「ワシは前大戦後20年間造物主に乗っ取られておった。今の話からするに、恐らくアリカに遅延封印魔法をかけたのもワシじゃ。理由は依代としての身体を狙ったものじゃろう」

「俺とアリカを封印して捕まえたのはそんな事が理由か……」

「何と……」

「ナギ達の身に起きた事がそんなに繋がっていたなんて……」

「ナギ、6年前のウェールズの村が悪魔に襲われた事件というのは説明できるのか?」

エヴァンジェリンお嬢さんの言うとおりあと1つはそれのみ。

「ああ……気がついたら山奥に杖を持って俺がいてな。すぐに故郷の村へ向かえって誰かから……ここまで来るとお師匠乗っ取ってた造物主だろうけど、そう頭に言葉が響いたんだよ。んで急いで向かってみれば村は既に火の海だったって訳だ。悪魔全部ぶっ飛ばして、終わってみれば小さいネギが片足が石化したネカネを守ってたんだよ。ネカネの石化の侵蝕を止める処置をした所で時間切れだというのが分かってネギに杖だけ形見に渡してそのまま強制転移、再封印ってオチだ」

「そういう事か……造物主というのは碌でも無いな。身体を乗っ取れるというのに今回は……」

「間違いなく今回で終わった。ワシには分かる」

「私にも、分かります」

アリカ様が、気がついたような表情になった。

「……ゼクト、アルビレオ・イマ、主らそれはどういう事じゃ」

「では最後に……私達の正体を明かしてこの話は終わりですね、フィリウス」

「……そうじゃな……アルビレオ」

「お師匠、アル、正体って何だよ!」

「ナギ、お主は詠春と共に魔法世界でワシとアルビレオに会った時本当に偶然だと思ったか?……そして幻想種でもないワシらがどうして長い時を生きておると思う?」

「どういう事だよ……」

「ぜ、ゼクト殿……?」

これは当時のナギ少年が日本に上陸した際会った事があり、その後魔法世界に行ったらまたナギに会った……詠春殿も驚いている。

「アルが長命の理由、という事か……。ヘラス族でも無ければ、真祖の吸血鬼でもない」

「そういう事です、エヴァ」

クウネル殿の目がいつもよりしっかり開いている。
真剣。

「ワシは始まりの魔法使いによって造られた最初の人形……息子、フィリウスじゃ」

「私はその対人形……二重星、アルビレオです。この通り、似てはいませんがね」

……本人達の口から直接真実が語られた。
クウネル殿が重力魔法を扱う理由は恐らく二重星が互いを引力、で引き合う事が関係しているのだろう。

「お師匠とアルが人形……?」

「勿論、私達自身人形だというつもりはありませんよ。自我は持っていますので」

「ワシらは数百年生きておるが最初こそ始まりの魔法使い、アマテルの元で生活していたが……ある時、いつか世界を終わらせると言い出してな。世界を見て過ごしたワシらはそれに賛同できずその元を去ったのじゃ。後は放浪の旅を永きに渡り続け、世界情勢がいつしか完全なる世界によって不穏な状況になり始める頃、ナギと詠春を見つけたワシらは主らならアマテルを止められるかもしれぬと思ったのじゃ」

「ぜ……ゼクト殿とアルにそんな事情が……」

「……お師匠とアルが時々意味深な事を言ってたのはそのせいだったのかよ……」

「ある意味で私とゼクトもウェスペルタティアの一族、と呼べるかもしれませんね……」

「……どこまで魔法世界は……ウェスペルタティアに始まりウェスペルタティアに終わるというのじゃ……」

「じゃがそれもネギによって今度こそ終わった。アマテルはもうおらぬ。ネギの使った技法はアマテルの技法とほぼ近しいものじゃった。どうしてそんなものを使えたのかは……ワシには分からぬがな」

「……私がぼーやの魔法の師匠をした。それが原因だよ。皮肉なことにな……」

「エヴァンジェリンさんのせいじゃないわよ……。私が捕まらなければ……」

「アスナ、そういうのはもうやめにしとけ……。エヴァ、お前がネギの師匠やってくれたんだな……ありがとよ……」

「私の好きでやったことだから気にするな。しかし……アルのアーティファクトで分かっていた事だが……私にかけた登校地獄の事完全に忘れてるだろ」

「あー!あれな!……ホント悪ぃ、マジで忘れてた……。ってことはお前まさか……えーっと……じゅう……15年近く中学生のままだったのか……?」

まほら武道会の時と展開が酷似している。

「ナギ!主はそんな呪いをネギの師匠になってくれた者にかけたのか!」

アリカ様は反射的にナギに怒ったが……出来事の順番的にズレがあるからそれは少しどうだろうか。

「いや、それはもういい。私にも原因はある。呪いは緩めたから進級し続けて大学院まで行った。今もう一度中学生やってるがな」

「緩めて大学院までって……エヴァ、お前すげーな。学校楽しかったか」

……緩められたのが凄いのではなく、大学院まで行った事がナギにとっては凄い、のだろう。

「そもそも魔法学校中退しているお前に言われる筋合いは無いんだがな……まあ、私は平和に過ごせたし、かけがえの無い友人達もできた。自分のやりたい事も見つけて好きにやっている。緩められなかったらと思うとゾッとするが麻帆良に来る最初のきっかけを与えてくれた事には感謝している」

「……充実した生活、送れたみたいだな」

「ああ、後はきちんと術をかけたナギ自身の手で術の解除をしてくれれば良いさ。その為に緩めるだけにしたんだからな」

「……分かったぜ。ちゃんと俺の手で解いてやるよ」

……おや、超鈴音が上を見てこちらを視ているようなのは。

《通信開きましたよ》

《アデアットしてなかたからナ。エヴァンジェリンにも繋いで欲しい》

《了解です。超鈴音がお嬢さんに話があるそうです》

《……何だ?》

《既にエヴァンジェリンの話になているが、ここまでで歴史に隠れていた話は終りネ。エヴァンジェリン、明日菜サンとネギ坊主の両親をエヴァンジェリンの自宅にでも連れて行てもらえないかナ?この後例の話をするからネ》

《茶々円はナギに知られるのは困る……という事か》

《今ならもう構わない……という気はしますが……。それでも神木の事はできるだけ思慮深く口の硬い人だけに秘密にしておきたいです。ナギであると……こう》

《ああ……それは十分あるな……確かに駄目だな。アリカの方はまだしも……そうなると今は塞ぎこんでるが根は口の軽いアスナも駄目だな。分かった》

《信用が無いものだネ》

一応超鈴音の先祖なのではあるが。

《まあいい。超鈴音の言うとおり私の家に招待するよ。ぼーやの使っていた物や茶々丸の記録していた映像もあるから時間を潰すには困らないからな》

《先に切り出すのは私がやるネ》

「どうやら、ここまでで大体その話は終わりのようだネ。明日菜サンとスプリングフィールド夫妻はエヴァンジェリンの家に今からでも行てはどうかナ?」

スプリングフィールド夫妻とはなかなかに新鮮味のある呼び方。
超鈴音が切り出した、という事でこの後いよいよ本題に入るという事に近衛門やクウネル殿、詠春殿、タカミチ君にクルト総督は気づいたようだ。

「私は構わんぞ」

「そうですね。この後の話は我々でもできますのでナギとアリカ様は休まれてはいかがですか?」

クルト総督がすぐに乗ってきた。

「えー、火星が魔法世界になったとか俺も気になるぜ?これでも研究してたしよ。それ言い出したら何で超の嬢ちゃんはここにいるんだ?」

「私はこう見えて科学技術力が売りでネ。何か協力できると思うんだヨ」

一切漏らす気はない。

「政治的な話も絡みますし、お3方は病み上がりに近いでしょう」

「ナギ、また後で話しますから。エヴァも構わないと言っていますし、ここは好意に素直に従ってはいかがですか?」

「んー……分かった。じゃあエヴァ、いいのか?」

一瞬思案した後すぐに気にするのをやめたようだ。

「ああ、構わん。色々見せられるものもある。アスナも今日は私の家に泊まっていくといい。女子寮に戻ると何かと喧しいだろう」

「エヴァンジェリンさん……ありがとっ……」

仕方ないとは思うが神楽坂明日菜は2ヶ月前地球を出発する前と比べると全く元気が無い。
しかも思わずお嬢さんに近づいて抱きついた。

「アスナ、前みたいに落ち着くまで別荘にいて構わんからな」

「うん……」

「茶々丸、行くぞ」

「「はい、マスター」」

茶々丸姉さん2人、わざわざ同時に言葉を発さなくても良いのでは。

「じゃあ、また後でな」

「先に失礼するぞ」

こうしてエヴァンジェリンお嬢さんの案内に従い6人は図書館島を後にして、目的地へと向かっていった。
一方図書館島に残ったのは7人、超鈴音、近衛門、クウネル殿、詠春殿、タカミチ君、クルト総督、ゼクト殿。
私も神木から出て図書館島へ移動。

「ナギ達は行ったが……ワシはいてもいいのか?どうも何か裏を合わせていたようじゃが」

ゼクト殿が空気を感じ取って気にするのも尤も。

「構いませんよ、ゼクト。どうですか、超さん」

「私も先程事情を聞かせて貰た身だしネ。問題ないヨ」

「なら良い」

「超君……まだ1日も経っていない上にゲートを使ったのは僕達が初めてという事なんだが……本当にこうしてまたすぐ会うとは驚いたよ」

「……全くです。気になるところではありますがそれは……今は置いておきましょう。超鈴音さん、呼んで頂けるのですか?」

「私が呼ぶまでもない事だけどネ。そうだろう、翆坊主」

この場の最後の登場者は……私。

《……そうですね。全部聞かせて頂きましたから。……これはどうも、近衛門殿、クウネル殿、詠春殿。そして……初めまして、高畑先生、クルト・ゲーデル総督、ゼクト殿。私は神木・蟠桃の精霊にして、神木・扶桑の精霊をしています。キノとお呼び下さい》

庭園の床から沸いて出た。

「これで全員揃ったの、キノ殿」

「ようこそ、キノ殿」

「キノ殿、お久しぶりです」

詠春殿は数ヶ月振りか。

「し、神木の精霊……。初めまして、高畑・T・タカミチです」

「……初めまして、オスティア総督、クルト・ゲーデルです」

「……これはお初にお目にかかる、ゼクトじゃ」

初めての3人はなかなかに驚いている。

《高畑先生と会うのは久しぶり、というのが正しいかもしれませんね。私は茶々円でもありましたから》

「あ……ああ、そうでした」

何やら畏まられているが……初めて近衛門に会った当時のようだ。

「木に純粋な人型を持った精霊がおったとはな……。アルは前から知っていたのか?」

呪文詠唱で言う通常の木精と言ったものとは私達は違う。

「いいえ……誰かがついたホラのような噂だけは聞いた事ならありましたが私がキノ殿に初めて会ったのはここに定住するようになってからですよ」

まあ……初代学園長のウィリアムさんは一般人であり、酔った酒の席での話だからホラと思われていても仕方ない。

「左様か」

「では……本題に入らせて頂きましょう。キノ殿……と私も呼ばせて頂きます。超鈴音さんから神木の精霊の目的については聞きました」

《はい、私もその話は超鈴音から聞きました。グレート・グランド・マスターキーの件、感謝します。確かに受け取りました》

「いえ、こちらこそ。管理をお願いします」

「む?クルト、渡したのか?あれはこちらに持ってくる訳にもいかぬからテオドラの魔法球の地面深くに埋めたと言っておったが……」

埋めたことになっていると。
掘り返して見つからない……としても、そもそも掘り返すなという事であろうが、見つからなかったとしても見つけ方が悪いで済ますのであろう。
クルト総督も長居する訳ではないだろうからできるだけ急いで戻ればいいだけではある。

「昨日私達は超鈴音さんに会いまして、その時に渡したのです。先程の話口を出さずに聞かせて頂きましたが……ゼクトさんが管理すべきものでしたか?」

「いいや、ワシがアレを使うことは無い。寧ろ2度と用いられぬよう破壊するべきじゃとワシは思っておる。ワシには破壊できぬのじゃがな。キノ殿が管理すると言うならばワシが言う事は無い」

ゼクト殿は初対面だというのに信じてくれるようだ。

《そう言って頂けるとありがたいです。ゼクト殿。それではここは一つ、私から今回何を私達がしたのか改めて説明しましょう。それからで宜しいですか、クルト総督》

「はい、構いません」

《私、私達が初めて大々的な計画を実行したのは2001年8月16日未明の事でした。二本目の神木の若木……現在扶桑と私達の間で呼称していますが、当時樹齢が1001年のそれを宇宙空間に直接打ち上げ火星へ向けて飛ばし地表に定着させたのです。その後超鈴音、クウネル……いえ、クウネル殿とエヴァンジェリンお嬢さんの3名の協力の元、重力問題、地球から火星の変化がわからないように地表に幻術をかける等、付随する問題を解決しながら昨日まで凡そ2年間密かに活動を行ってきました。位相の同調に際しては完全なる世界側の動向をある程度予期していたため、地下ゲートポートからの魔法世界の魔力流出を利用しました。また、呪術協会の支部を麻帆良に建てるよう近衛門殿と詠春殿に動いて頂いたのは今起きている混乱が、もし支部が立っていなかった場合、それよりも混乱を抑え、更には今後の問題を円滑に進められるように、という意図でした。……以上が大体のあらすじです》

「改めて聞くと……驚きですね」

「…………魔法世界と火星の位相を同調させるという話だけで驚きだが……呪術協会支部は今回の事を考えての事とは……」

クルト総督とタカミチ君は正直信じ難いらしい。

「今私もどういう事なのか知りましたが……驚きました。しかし、実際、呪術協会の支部が建っていなければ今頃大変でしたね、お義父さん」

「その通りじゃな、婿殿。この1年と半年程で国内東西の軋轢を減らしておく事ができたのは実に大きい。これから国外から麻帆良へ入ってくる者達が増えるからの、せめて国内は纏まっておく必要があった」

既に国外周囲は動きを見せている為、こちらもただ黙っている訳にはいかない。

「ふむ……真に驚きじゃ。殆どが魔法世界におったワシらにしてみれば知らなくても詮ない事じゃな」

「何故このタイミングだたのか疑問に思う事は色々あるだろうが、答えられない事が多い。できればこれからの問題の事を中心に話をしてもらえると助かるヨ」

……実際超鈴音の言うとおり何故今回の時機なのかと聞かれると時間の流れの件が関連して無意味に混乱するだけであり……話す必要もない。

「……分かりました。ただ、神木について一つお聞きしたいのですが火星を維持するのに限界年数はあるのですか?」

《それはほぼあり得ません。幻術を解けば神木の負担も減りますし、年数を重ねれば重ねるほど火星の神木はまだまだ成長します。神木・蟠桃の樹齢は5003年ですからまず後4000年は問題ありません。……もしその時に問題が起きるとしてもそれはその時の人々の問題でしょう。……それ以前にその間どうなるのかも全く未知の領域ですが》

「……そうですか。樹齢5003年とは初めて知りましたが……数千年単位となれば、我々が心がけるべき事はその火星の神木を害されないよう守れば良いのですね」

クルト総督にとって樹齢が5000年超えている事は眼鏡が思わず滑り落ちる程の衝撃らしく……それを指で位置を直した。
守ってもらう……というのは当然の流れであり、私としても願ってもない事だが、サヨが観測した所桃源には少々面倒な組織があるらしい。
神木の位置は伝えても良いものだろうか……実際伝えたとして後でどうして北極にあると分かったのかという事になると……私が困る訳ではないが。
しかし、やむを得ないだろう。
超鈴音が昨日伝えなかったのは自分が教えるものではないという配慮なのだろう。

《ここで火星の神木・扶桑の位置をお教えしましょう。……場所は桃源から見て龍山山脈の裏側です。まず人が普通に生活するような場所ではありません》

「……教えて頂けるとはありがたいです。しかし南極ですか……」

「因みに地球と同じ方向で合わせるなら龍山山脈があるのは今となては北極だヨ。ただどちらを南極北極と呼ぶかだけの違いだけれどネ」

「なるほど……太陽の運行が逆になったのですからそうですね」

《このまま放置してもすぐには見つからないとは思います。極論を言えば神木・蟠桃は無くなっても地球はそのままですが、火星の神木・扶桑は無くなればそれで終わりです。メガロメセンブリア元老院にどういう対応をされるかがかなり問題ですが接収して移し替えるのは絶対に駄目ですのでくれぐれもお願いします》

地面から抜かえるなどされるとその瞬間重力は元に戻ってしまうので非常に危険。

「重力が戻ってしまう……という事ですか」

《そういう事です。瞬間的に大気圧も変化するので魔法球にでも入っているか、または魔法が使える人々で無い限り全滅しかねません》

「それは大きな問題だな……」

「火星の神木はできるならば、見つからないほうがいいのじゃろうな、キノ殿」

《ええ、近衛門殿、そうであるなら良いのですがそういう訳にも行きませんので。方法は取れるでしょうがどうしてもただのその場凌ぎにしかなりえません》

同調する寸前までは海の中だったがその後数千年も海の中というのは流石に無理がある為どうしても陸地である必要があった。
その場凌ぎの方法として、光学迷彩を木にもかけるという方法や超鈴音の例の科学迷宮ワイヤーを敷設するという方法もあるだろうが、できれば世界の共通認識として神木には手を出さないという事でお願いしたい。

「問題は山積みですが、我々の手で安全が確保できるよう全力を尽くします」

「キノ殿、僕も全力を尽くしますので」

《クルト総督、高畑先生、ありがとうございます。今すぐにどうするとは決められないでしょうがよろしくお願いします。いきなりですが、一つ今頼んでおきたい事に、大した脅威では無いでしょうが桃源に黒幇という組織があるそうですがそれをなんとかできないものかと……》

「ご存知でしたか」

「黒幇組織は確かマフィアだったな……。あれは完全に犯罪組織ですから潰す事は可能です、任せて下さい」

タカミチ君なら組織の1つや2つ潰した事があるから単独でも余裕。

「今の状況で突然実行部隊を出すのは逆に怪しまれるでしょうからそのタイミングは図りますので」

《では、よろしくお願いします。次の話なのですが、今火星にかけている幻術を私はできるだけ早く解除したいと思っています。元々今回の計画を達成する為に幻術を今までかけていましたので解除するのが妥当です。火星から地球が確認できているのにいつまでも地球から火星が確認できないのはおかしいでしょう。遅くなれば遅くなるほどそれが顕著になってしまいますから正直これは決定事項としたいのですが》

「我々としては待って欲しいですが……超鈴音さんから聞いたものの数ヶ月で火星探査機が到着する話を鑑みても、仕方ないでしょう。私個人が止める事でもありません」

「そうなると……僕達魔法使いの秘匿は終わりを迎える事になりそうだね……」

「……時代の変わり目じゃろうて。それも含めて呪術協会の支部を麻帆良に建てたのじゃからな、キノ殿」

「今なら分かりますがこれが前、ある事情から東と西で争うのをやめて欲しいとキノ殿が言われた丁度その時なのですね」

《ええ、流派は違えど同じ魔法関係同士がいがみ合っている所に更に今まで魔法を知らなかった一般……という存在が新たに混ざる事になっては大変です。勿論世界的な混乱になるでしょうが、少なくとも日本国内の西洋魔法と東洋呪術には一致団結して貰いたい所です》

「正式な魔法世界の存在の公表やその住む住人達の内訳、地球とのゲートを通じた交流に関しても近いうちに公開して行かざるを得ないでしょう。その為にはまず魔法世界側でも足並みを揃える必要がありますが、それは我々の仕事ですね」

「ゲーデル総督、本国からの許可も無く、地球にある魔法協会の独断で魔法世界の存在の公表を世間にする訳には行かない故、仕事は多いじゃろうが見解を早めにまとめて欲しい。そうでないとこちらが説明に窮して押しつぶされてしまいかねん。しかも地球の裏の者達は引き続き秘匿を続けるじゃろうし真に問題は山積みじゃな」

「承知しました、近衛理事。元老院は今も地球からの孤立主義の傾向が強いですから議会が紛糾するのは間違いないですが、リカードとも協力して手を打ちます」

「地球に関しては私の構築した情報網で一括して情報を全世界に発信する事ができるから機会があれば任せて欲しいネ。火星の方は太陽光不足や未だに放射線が地球よりも1.1倍高い事の解決に関しての技術協力の構想と用意もあるヨ。季節の延長で植物の植生に環境変化が起き食糧事情にも問題が起きる可能性があるだろうが、それについても魔法球で生産するか、地球でもまだ普及も殆ど始まていないが植物工場を作り安定した供給ラインを取るといた方法があるネ。私はこれから技術屋として活動する事が多くなりそうだが、何か要求があれば可能なかぎり成果を出して見せるヨ」

「そんな問題まで……超君には解決の手段があるのかい……。どうもキノ殿が超君に協力を頼んだ理由が分かった気がするな」

《その通りです、高畑先生。超鈴音の技術力を以てすればこれらの問題は、時間はかかるとしても努力した分緩和、解消できます》

「しかし、そうは言いますが太陽光不足の問題一つとっても……魔法球なら人工太陽が使えますが外の空間でそれは……」

「ふむ、説明しておこう。私が使うのは魔法ではなく科学ネ。例えば太陽光不足の問題は火星の軌道上にプリズム・ミラー方式による太陽光を集光する人工衛星を飛ばすという方法がある。光センサーを取り付けて常時太陽の追尾を可能にしたり、太陽の運行を計算して軌道をプログラムで自動制御する事も可能ネ。因みに作る技術は揃ているからそれこそ作成を加速させた魔法球内でオートメーション化しさえすれば急ピッチで作業は進められる筈だヨ。ただ、現行であればまだ人工衛星……が妥当という事だけでもあるのだけどネ。放射線も以前ある物質を用いた事があるがそれを再び量産すればいいネ」

流石超鈴音。
人工衛星を簡単に作られたら地球の各国宇宙開発組織が皆衝撃を受けるだろう。

「「「「…………」」」」

一同かなり引いている。

「ハハハ、声も出なくなるほど驚かれても困るナ」

「あー……一つ聞いていいかい、超君」

高畑先生が眉間に皺寄せて悩んでいる……。

「何かナ?高畑先生」

「以前火星人という言葉ですべて説明できると言っていたが……君は魔法世界出身という事なのかい?」

「うーむ、そうとも言えるが同時にそうでは無いとも言えるヨ。私が火星人なのは紛れもない事実だけどネ」

上手い言い方だ。

「異常な技術力といい……超鈴音さん、貴女まさか未来人という事はないですよね……。いえ、時間跳躍等不可能とされてますから……ありえないですが……。私も馬鹿な事を言いました」

クルト総督は察しが良い。
今の超鈴音の発言は手がかりだらけであったのでそれを考えついてもおかしくはない。

「おお!良く分かたネ。総督、正解だヨ」

「……は?」

「な……何だって……」

「何ぃ!?」

「未来人じゃと……」

「ふぉっふぉっふぉ」

「フフフ……」

詠春殿が一番驚いた。

「詳しい事を言うとタイムパトロールに捕まてしまうから言えないが、私の技術力はそういう事で全部説明できるネ。高畑先生はここ2年超の謎が解けたかナ?」

タイムパトロールなど存在しない。

「信じられないが……どうもそう考えた方がすんなり理解できてしまう辺り……そうなんだね……」

「先程から驚いてばかりなのですが……流石に驚くのにも飽きてきたぐらいですよ……」

「慣れればそのうち驚く事もなくなるヨ。まあ……大体こんな所でいいかナ。余りこちらに時間をかけているとある人を助けられなくなてしまうネ」

「ネギ君か!」

「それはネギ君の!?」

「む……ネギは助けられるのか?」

「ナギ達が聞いたら……」

《詠春殿、それはまだやめておいて下さい。こちらとしても可能性の段階でして、現在目下作業中の状況ですので絶対とは言えないのです》

「一つ言えるのはできるだけ急いだ方が良いと言う事ネ」

《その通り。近衛門殿とクルト総督はまだ話す事があるでしょうが私達はこの辺で失礼しても宜しいでしょうか?》

「も……勿論です。ネギ君を、お願いします……」

「キノ殿、超君、ネギ君を頼みます」

《頭を上げて下さい。私達もネギ少年には感謝しても感謝しきれない程ですから必ず最善を尽くします。皆さんもこれから恐ろしく忙しいでしょうがよろしくお願いします。それでは皆さん、失礼します》

「また近いうちに会う事になるだろうが私もこれで失礼するネ」

……こうして近衛門、加えて紅き翼の面々との会談を私達は終えた。
とにかく、まだ今は話をしただけに過ぎない、という最初の段階。
全てはこれから。



[21907] 64話 姉妹喧嘩
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 20:22
私は神木・蟠桃へと戻りネギ少年の霊体収集の作業を再度始め、超鈴音も女子寮へと戻っていった。
超鈴音は自室の魔法球のポートから神木・蟠桃を経由して扶桑は経由する事無く、直接優曇華へと再び転移するのである……が、その自室のある女子寮では近衛木乃香達が戻ってきた事で騒ぎになっていた。
超鈴音は持ち歩いていた光学迷彩コートで無視したが、状況としては近衛木乃香達のいわゆるテンションと帰りを待っていた雪広あやか達のテンションがあまりにも違いすぎていたのである。
最初はきちんと帰ってきた事に関して近衛木乃香達はクラスメイト達に挨拶をしたが「どこへ行っていたのか」「何だか2週間前よりもずっと大人っぽくなっている」など、立て続けに色々聞かれて困っていた上に、神楽坂明日菜は実際戻ってきてはいるからまだしも、ネギ少年がいないことに関して言及された面々は酷く気まずい顔をして適当にはぐらかしつつ一切答えようとはしなかった。
アーニャはドネットさんに連れられて麻帆良教会に向かったので女子寮には行っていない。
超鈴音から解析情報を、優曇華を通して渡されたが、龍宮真名の症状は例の魔族の力の解放の反動によるものであるのは明らかであった。
彼女は髪色が脱色していたようなのだがどうやら既に魔法薬で着色していたらしくそこをクラスメイト達に指摘される事は無かった。
寿命に影響しているので、私達の精細治療を施したほうが良いのは良いのだが……そうすると恐らく小太郎君にもするべきであろう。
……改めて……特定の個人に対して私達が人間から見ようによっては善意、という形で直接手を気軽に出すのは全く良くない。
もしそれをやりだすなら例えば……末期癌患者や治療法がまだ無い病気にかかっている患者であろうと全員治療すべき……という事にもなりかねない。
しかしながら、今回は私達の実行する計画の範囲内には十分入るであろうし、私達にも礼をするだけの理由がある。
……とはいったものの今すぐという訳にもいかないので、まずは、さっき簡単に流してしまったが、一つ重要な事を行う必要がある。

《サヨ、火星にかけている幻術迷彩魔法の解除をお願いします。まだ1日として経っていませんが、後々引きずって問題が大きくなるより早いほうが良いので》

《はい、分かりました!そうすればネギ先生の収集も早められますね》

《収集にあたってやはり火星が肝ですからね》

《はい!》

まだ同調から半日程度ではあるが、ぐずぐずしてはいられない。
本当は最初から解除しておけば良かった……のかもしれないが、神木の大発光だけで地球はこの大混乱なので時間差攻撃という訳ではないが……そのような所。
宣言通り、これからネギ少年の収集作業を続けながら、並行して観測も引き続き行う。
……観測というのには局地的すぎるきらいはあるが、エヴァンジェリンお嬢さんの家の状況を確認しておこう。
招かれた3人はそのまま魔法球の中に入るという事はなく、客間でもてなしを受けていた。
エヴァンジェリンお嬢さんは茶々丸姉さんが記録した映像を見るかどうかナギとアリカ様に聞いたが、それについてアリカ様がテオドラ皇女殿下から受け取った映像があると言い出したのでそれを先に再生する事になった。
私も魔法世界の同調以前の詳細は知らないので助かる。
アリカ様が丁寧に茶々丸姉さんに映像を渡して再生が始まったが、内容はどうやらネギ少年が小太郎君と2人が幻術で姿を青年に変えて出場した拳闘大会の試合の数々。
いきなり分かった事だが、やはり南極以降魔法領域を始め魔分構築の断罪の剣の出力は上がっていた。
アリカ様はネギ少年達が鮮やかに勝利を決めてはいるもののナギの袖を掴んでハラハラしながら見ていたが映像とは言えネギ少年が動いているのを見る事ができただけで余程嬉しかったのであろう……目にすぐに涙を浮かべ始めた。

「これがネギかっ……。幻術で姿を変えておるとしても……ナギに良く似ておるな……」

「私も……この時はまだ攫われてなかったから一緒で……ネギはナギの名前のついた大会に出る事楽しみにしてたわ……」

「そうなのか……本当にネギは俺の事探してたんだな……。戦い方は似てないが……俺の息子なんだなぁ……」

試合時間それぞれが、殆どがとても短い為ヘラス帝国での地方大会はインタビューを含めても2時間程度。
未だ図書館島の地下では近衛門達も話を進めている所。

「この子らは11歳であるのにこんなにも落ち着いておるとは……」

「子供らしくないでしょ……?」

「この姿が本当の姿に思えてくるな……」

「麻帆良に来たばかりの頃は子供そのものだったさ……しかし、ぼーや達は先を急ぐように成長した。私が指導した影響というのもあるだろうがな……」

実際麻帆良でネギ少年と過ごした時間はエヴァンジェリンお嬢さんが断突で一番長い為、その影響がネギ少年に色濃く出ているのは事実。
魔法には精神力が不可欠であるためその辺りの普段からの心構えや、些か抜けている常識なども教えていたのだからそれが身になっていたという事の証明である。
……そして映像はいよいよナギ・スプリングフィールド杯へと突入しここから更に加速度的にネギ少年と小太郎君は実力を増し、拳闘大会の予選も難なく勝利を勝ち取っていった。
そしてその拳闘大会決勝、対戦相手はジャック・ラカンとカゲタロウ。
開幕からして収束大呪文、そして先にカゲタロウを2人は見事な連携で退け、そこからのジャック・ラカンとの出力比べの融合オリジナル魔法は……習得していた件の魔法が役に立ったというべきか……しかしジャック・ラカンも大概であり……一瞬で2人が倒された。

「あ……あの筋肉ダルマめ……なんという事を……」

その前のネギ少年達のジャック・ラカンに対する容赦ない追い打ちも容赦無いものであったが、アリカ様はネギ少年が酷い攻撃を受けた事に思わず怒りを覚えたらしい。

「こりゃ驚いたぜ……ジャックに本気の本気出させるなんて……しかもあんな魔法よくまぁできるな」

そのまま先に小太郎君が獣化奥義を使った事で分かったが、やはり少なからず寿命を削っている。
小太郎君も頑張ったが敢え無く倒され試合終了の合図がそのまま告げられ……そうであったのだが。

「は?」

「何じゃこれは……」

「何よこれ……」

「ぼーやの奴……本当に完成させたのか……」

……私達精霊は今の今までまともに戦った事はそもそも無いが、もし……本気を出せばこのような感じであろうというのを体現したネギ少年の姿がそこにはあった。
目の虹彩も輝いており……私達とほぼ同じ。

「ジャックのヤローが一瞬かよ……」

「先にアーウェルンクスからアスナを守る為とは聞いたが……こんな技を……」

「ネギは私の為に……どうして……こんなにっ……こんなに頑張るのよっ……」

「………………」

《見ているか、茶々円、決定的だな……》

《はい……全くですね。ですがその映像からどういうものなのかよく分かりました。しかしながら、私達の予想は当たっているようなのである意味寧ろ安心です。これで全く違うものであれば手がつけられなかったかもしれません》

《まあ……そうだな。だが茶々円、一つ隠している事があるんじゃないのか?……ぼーやの魔法領域と断罪の剣の出力が私の元で直前まで修行していた時と比べてこの地方大会初戦の出力が不自然に上がっている。南極でぼーやが死にかけたというのもそうだ、普通は魔力切れからいきなり魔力が溢れたり等ありえない》

《……ご明察です。ネギ少年が魔法世界に旅立った次の日、私達は火星に行っていたのですが、どういう訳かネギ少年の微弱な霊体が魔法世界と火星の位相を飛び越えて出てきたのです》

《はぁ……なんだそれは……信じられんな……》

《私も流石に信じがたい事でした。その際ネギ少年を火星に戻す為に魔分を投射せざるを得なかったのでほぼ間違いなくその影響です》

《それが影響して魔分を感覚的に操れるようになったという事か……。なるほど、ならぼーやが名付けたという太陽道という技法が出来た事にも納得がいったよ。茶々円……まさか以前闇の魔法について一度言及したのは、ぼーやの基礎力ではアーウェルンクスやあの筋肉馬鹿には時間的に追いつけないから……だったのか?》

《ええ……お嬢さんの考えられた通りです。しかし、お嬢さんがネギ少年に魔法領域や断罪の剣を教え始め実際にネギ少年が身にし始めた時点で、それはそれで別の道……と考えていましたので。……私も全てが予知できる訳ではありませんし、絶対に必要とも限らないだろう……と言った所です》

《は……今更考えても仕方ない事だな。少なくともぼーやは人間の中で前人未到の領域に到達したのは間違いない。それにしても映像で見た所、ぼーやの目が超鈴音のアーティファクト使用時と同じだったな》

《あれは……そうですね、簡単に言うと人間として進化した状態です。既に今私達が使っているこの通信法も時間をかけること無く会話するというのは、他者との瞬時の意思疎通と捉えられます。それが超鈴音と違ってアーティファクト無しで、自力でできるというのはまさしく人間としては進化……革新した、という他ありません。……一度も私は使った事はありませんが……魔分高密度分散領域内においては、他者……人間に限定されませんがそれとの瞬時意識共有をする事も可能です。意識の拡張とでも言えば良いでしょうか、要するに深い相互理解を果たす事ができます。説明はここまでですがネギ少年のこの太陽道にそれすらももし可能であったとしたら完全にネギ少年は人間の枠を飛び出している存在となったのでしょう》

《確かにこの通信、瞬時の意思疎通だな。意識の拡張をして深い相互理解……進化した人類……革新か……なるほどな。とすれば私はこの通信だけだが差し詰め人為的……いや、茶々円がやったのだから人ではないが……とにかく外的要因で半ば進化した存在といった所か》

《お嬢さんにつきましては……そのような所でしょうか。いずれにせよ意識共有については……何か本当に誤解を解きたい時、相手に自身の全てを明かす事も辞さない時でないなら……特に使う必要性も無いです。だからこそ私も使った事がないのですが》

《プライバシーも何も無い能力のようだな》

《……そういう事です。慣れてしまえばそれはそれで常に情報が共有できて楽なのかもしれませんが、このやりとりで充分でしょう》

《は……まあそうだな。話が出来る方が面白い》

《そうであれば。……まだ1日も経過していませんが、先にお伝えしておくと、このままの進捗度であれば十数日は確実にかかると思います》

《世界中に散ったのだとしたらそれぐらいはかかるか……》

《それと、一応報告ですが、火星の幻術を解きましたのでニュースを見るとまた騒ぎになっているかと》

《……いつ解くかと思ったが、確かに早いほうが良いか。いよいよ、魔法の存在の秘匿の終わりという訳だな》

《新たな時代の始まりです。私にしてみれば魔法使いの秘匿などどちらでも良い事です。このまま魔法が秘匿され続けられると、地球は今後色々な問題に直面する事になりますし、丁度良い頃合いかと。それに、こちらの科学技術と魔法を融合させて名づけて魔法工学などという分野でも新たに開拓されればなかなか興味深いかと》

《……まるで超鈴音の独壇場そのものになりそうだな……タカミチではないが茶々円がぼーやに接触するのではなく超鈴音に接触した理由がよくわかるな》

《……そういう事です。しかしネギ少年の新魔法開発能力も映像からして相当な物。あの収束魔方陣一つとっても魔法球の中でまとまった時間を確保したとはいえ普通はできないでしょう》

《そもそも千の雷や天使の梯子レベルを収束させなければ倒せない相手というのがおかしいんだがな……やはりあの筋肉馬鹿にしろアーウェルンクスにしろ大概だよ》

《……流石にもう終わりでしょう。またジャック・ラカンがネギ少年と戦いでもしない限りは》

《はっきり言ってあの筋肉馬鹿の相手をもう一度でもぼーやにさせるのも馬鹿らしいな。無駄な力の発散でしかない》

否定はしない。

《そうですね……普通に修行をするのは別に悪いことではないと思いますが、ジャック・ラカンは常に素であのような感じのようですから……気とは恐るべきものですね》

《アレはバグだろう。……ま……様子からして横のアリカがただでは黙っておらんだろう》

《そのようですね……一応試合、なので怒るのは少し筋違いではあるとは思いますが……気持ちは分かります。しかし、そういうお嬢さんも……》

《……当たり前だ。私が手を掛けた弟子のぼーやが魔力切れの状態であんな攻撃されたら怒らないほうがどうかしている。がさつな奴はこれだから……あー……柄にも無いな》

ジャック・ラカン……地球には来ないほうが良い。

《お嬢さんの気持ちは良くわかりました》

《茶々円に文句言っても意味がなかったな。……それにしてもナギからは千の雷だとしたら私からは光魔法を教えて欲しいと言い出したのが始まりだったが意外と使用頻度が多くて嬉しいものだな》

天使の梯子の収束呪文の使用頻度は確かに高かった。

《威力が高いですしね》

《実際筋肉馬鹿ぐらいでないと……後は何か破壊する以外使いどころは無さそうだがな……。私なら面倒だから凍る世界で封印を選ぶ……そもそもあの馬鹿とやりあうつもりも毛頭無いが。茶々円もまず立場からして力を使う事はないだろうが奴の相手なんぞしたくないだろう?》

《全力で肯定します。私達の存在すら彼には知られる事を忌避すべきです》

魔分を操るならまだしも気を扱うジャック・ラカンは御免被りたい。

《ハハハ、私達の生けるバグに対する認識も大概だな》

《ええ、どうやらそのようです》

《これぐらいにしておくか》

《はい》

……そしてエヴァンジェリンお嬢さんとの会話は終了し、時間は再び流れ出した。
続けてテオドラ皇女殿下自身の記憶から取り出したネギ少年の本来の姿での映像は拳闘大会とは分けてあるのか微笑ましい物だった。
皆で食事や会話をしている所などは神楽坂明日菜……敢えてもうアスナは思い出すように見て、アリカ様とナギはしみじみと見ていた。
しかしながら初めてジャック・ラカンが現れてからのやりとり、魔法球内での修行開始、とりわけ強さ表なるものの紹介部分はジャック・ラカンも涙目の有様。

「テオも言っておるが本当に馬鹿じゃな……」

「奴は馬鹿だからな……」

「私ラカンさんにセクハラされた覚えばっかりよ……」

「あーでも俺もこれ書いたことあるぜ?」

馬鹿がもう1人。

「ナギ……」

「…………ナギ……」

「……筋肉馬鹿も仲間がいて良かったな」

「いや寧ろ何でネギとコタローはこんなにスレた考えなんだよ!男ならこういうのは憧れるだろ」

「それはじじぃのスクロールのせいだ」

「じじぃってここのか?」

「そうだ。お前の親も使ったらしいぞ」

「親父が?」

「あの時はクリスマス直前で4日も寝こんでたのよね……ネギ」

懐かしい話。

「時間差72倍、288日間だったな」

「なっ!?そんなものをネギにやらせたのかッ!」

またアリカ様が……これは……ネギ少年を早急に助けたい所。
そもそも私が鍛えたほうが良いと言い出した事も関係しているので近衛門のせいだけという訳ではない。

「なんだそりゃ……俺知らねーぞそんなスクロール」

「全ては今だから言えることだがアレが無ければ先の映像での懸命な姿のぼーやも無かっただろう。あれで大きく成長したのは事実だ」

「そうね……。あれでネギは子供っぽさが少し抜けて雰囲気がスッキリした感じになったわ……」

「内容はどんなんだったんだ?」

「理不尽な現実……現象に対する理解と実際に失敗する事で対処法を学べるものだったよ。極寒や極暑、洞窟、ダンジョン、普通の生活では縁はないだろうが、そういう状況下での対処、ダンジョン等なら罠に対する注意力、対処能力を伸ばせられるものだ。えげつない罠が多かった分油断と慢心に対する自制が付いた。筋肉馬鹿の強さ表なんてものに対しての意見もその経験での視点が生きているのだろう」

「へぇ……ま、いきなり現実に放り込まれるよりはマシだな……それに付き添いにアスナがいたんだしな……」

「そう……であったか……。子供らしく育つ事をさせられなかったのは寂しいが……私の言えた義理ではない……か……」

「アリカ……」

「ネギが最後に言っていたのは全部心の底からの気持ちだったわ……ネギは幸せだったって……」

「……テオがくれたこの映像の笑っておるネギを見ればそう……思えるな……」

《茶々円……》

《空気がもう手遅れになっている感じというのは分かりますが、まだ絶対ではないです》

《はぁ……分かっている》

《最善を尽くしますので》

《ああ》

既に故人を偲ぶ会話になりつつあり、しかしネギ少年がまだ終わってはいない事を知っているお嬢さんとしては複雑。

「茶々丸、麻帆良でのぼーやの映像を出せるか」

「はい、マスター、少々お待ち下さい」

「済まぬなエヴァンジェリン殿……感謝する」

そして魔法世界の生活から遡るようにネギ少年が麻帆良に来た2002年の夏頃からの映像を茶々丸姉さんが断片的に見せ始めた。
途中昼食を挟みながらも、日々の生活から、別荘での修行風景、体育祭・ウルティマホラ、修学旅行と続いていった。
京都への小旅行には茶々丸姉さんは同行していないので映像は無く、あるとしてもお嬢さんの発表会の映像のみであるため省かれた。
特に修学旅行の行き先がイギリス・ウェールズであった事にはナギは思わず突っ込みを入れた。

「日本の中学なのによくイギリスが行き先になったな」

「これもじじぃ達が噛んでるんだよ。職権乱用と言えばそれまでだが」

「京都でも良かったけど普通に楽しかったわ……襲われたあの時を除けば」

「安全な麻帆良から出たせいかフェイト・アーウェルンクスが絡んできたのはあの時だったな……。ぼーやの故郷を焼き払った上級悪魔の一体まで封印から解放して利用していた」

「そりゃマジか……ホントにイラつく奴だぜ……」

「それが私の一族の始祖の手の者なのじゃから皮肉なものじゃ……」

「結局あれがきっかけで私も魔法関係者になったのよね……あれで私が裏に関わらなければもしかしたら……」

「アスナ……お前にとってあれ以降の生活は全て後悔するようなものだったか?」

「そんな事ない……そんな事無いわ。充実してたし皆とも仲良くなれた。修行は辛かったけどなんだか家族ぐるみって感じで楽しかったわ」

こういうのも何だが、神楽坂明日菜が今回魔法世界に一緒に行かなければ完全なる世界の都合としてナギとアリカ様、そしてゼクト殿も戻ってこなかった可能性が非常に高い……が全ては今となっては後の祭り。

「きっとぼーやも同じだったろうさ」

「そうね……きっとそうね」

「旅行っていうと……アリカとは行ったが……結局アスナ連れて京都には行ってないんだよな……」

「そうじゃな……」

「え……?」

「あぁ、アスナには言ってなかったが、俺とアリカとアスナの3人で詠春の所にいつか旅行しようって決めてたんだぜ」

「そ……そうなの……」

「ぼーやは京都には行った事はあるがな」

「お?そうなの?」

「私のサークルの関係のイベントついでにその詠春の所に行く為だ」

「じゃあ詠春ともネギは面識あんだな」

「修学旅行の後の麻帆良祭で私もこのかのお父さんには会ったわ」

「ん、詠春の奴麻帆良祭にも来たのか」

「それは実際後で見たほうが早いだろうさ。茶々丸、アレを奥から出してきておいてくれ」

「はい、マスター」

そのまま確認するように修学旅行の映像の続きが飛び飛びに流され、とうとう麻帆良祭の映像に突入した。
騒ぎのあったお化け屋敷の準備や前夜祭もそこそこに、麻帆良祭の開幕。
ここで茶々丸姉さんが奥から出してきた三次元映像再生機を起動して映像はいよいよまほら武道会の開会式のものが映しだされた。
龍宮神社会場内には大量の選手関係者が集まっている所であった。
因みに実際の所この映像に関しては私達が記録した物である。
試合の各映像に関しては麻帆良祭終了と同時に確かに全破棄が行われたのだが、まほら武道会にとって必要不可欠だった魔法球の件で超鈴音から一応礼、兼暇つぶしにでもと言う風に、映像資料を贈呈してあった。
当然全て三次元映像。
容量が莫大になりすぎるのと、人間らしさの為に茶々丸姉さんのカメラアイは三次元仕様ではなく、今までの映像は一般的な物である。
とはいえ、非常に精細ではあるが。

「へ?なんだコレ、スゲー。それにまほら武道会って廃止したんじゃなかったのか」

「ナギが10の時に優勝したという大会か」

「あれ?エヴァンジェリンさん試合の映像って全部……」

「私があの魔法球を用意しただろう。それの一応の礼のつもりだろうが超鈴音が暇つぶしにでもと言って渡して来てな。あくまで私に向けてのものだからそれ以降は見せなかった」

「そうだったんだ……」

「いやー?何でこんなのが開催できてんの?」

「さっきあそこにいた超鈴音が全ての仕掛け人で、今年復活させたんだよ。外部に漏れないよう徹底的に配慮がしてある。これだけ三次元なのも超鈴音が開発したものだからだ」

「はー、あの嬢ちゃんスゲーな。お、詠春いるな。そういう事か」

魔法世界であれば例の魔法郵便や相当な金額はかかるらしいが、部屋全体を幻術空間に変えた、三次元の映像技術もあるがそれよりはこちらの三次元映像は実用性は高い。

「アスナも出ておるのじゃな」

「そう、皆で出たの」

そして早速映像はネギ少年に絞られ、タカミチ君との試合、高音・D・グッドマンとの試合、葛葉先生との試合、甲賀中忍の市さんとの試合等々が見られた。

「……ルールがあるってのもあるがやっぱり魔法世界に来る前は違うな」

「ネギが成長したのが良く分かる」

「この大会はぼーや達にとっては良いバネになった」

そして閉会式の映像に移りナギは驚いた。

「タカミチより強い大学教授って誰だこりゃ。夫婦揃って強いみたいだけどよ」

ナギが失踪してから瀬田教授はフィールドワークなるもので活躍しだしたので知らなくて当然。
桜咲刹那が予想通り……というか、例の妖刀ひなを持って帰って来ていたが近いうちにひなた荘に住む青山素子さんの元に返しに行くことになるのだろう。

「ナギのようにかなりでたらめな教授だったよ。まあそれも先の魔法世界での拳闘大会では通じないだろうが」

それはそうだ。
殲滅を意図した魔法や気の攻撃に近接格闘術だけではどうにもならない。

「そっかー、何か俺が参加したときより盛り上がってる気がするぜ」

「本当のメインは次さ」

そしていよいよ映像はまほら武道会閉幕後に行われたネギ少年とクウネル殿の試合に移った。
現在クウネル殿がネギ少年にイノチノシヘンの説明をしている所である。

「お、これがさっきアルが言ってた奴か」

そしてクウネル殿がイノチノシヘンを使用し、ナギの完全人格再生を始め姿が変わった……のだが、当然ナギはネギ少年をデコピンで吹き飛ばすという暴挙にでた。

「おいーッ!?俺何やってんだよッ!アホか!」

自身を客観的に省みるとはこれいかに。

「こ……こんな事あったわね……」

「今更言わなくてもアホだろう……」

「ナギ……主何やっとるのじゃ。ほれ、ネギが泣いておろう!」

会えた感動で涙を流すネギ少年の姿が映っていた。

「俺じゃねぇよ!?いや、俺なんだろうけどさ!?お、しかも俺本当に詠春とタカミチに本当に老けてるって言ったのか!」

こうして見ている面々に構わず映像は進み、試合という名の稽古が開始、ネギ少年に対しナギが「虚空瞬動に浮遊術!できるじゃねえか!もしかしてちゃんとお前も魔法学校中退したのか?」と言った。

「あー、確かにいきなり拳闘大会の映像見てたがネギできてたもんな……。流石俺の息子だなぁ……」

「教えてくれたのはエヴァンジェリン殿じゃろうが」

「あー、ありがとな、エヴァ」

「礼には及ばんさ」

ただ……この後お嬢さんにとっては……。
そんな事はともかくナギが当時のネギ少年の魔法領域を安々と破り強烈な蹴りをいれたりする場面へと移った。

「手加減はしとるようじゃが……筋肉ダルマだけではなかったか……」

アリカ様は額を痙攣させながら頭を抑える。

「もう少し優しくしてやれよ俺……」

ナギがクウネル殿に人格の保存を頼んだ時と今のナギは状況が違うからこの反応はおかしくはない。
そして時間が無くなりかける中エヴァンジェリンお嬢さんが試合を中断させに入った。
地上に戻りナギが「おっと、それはいいとして。ネギ、ここでこうやってお前と話してるってことは俺は死んだっつーことだな……」と言い出しネギ少年がそれを否定する件に入った。

「つか、アルに記録しておいて貰っても俺が死んでたらそもそもアーティファクト使えなかったんじゃねぇか……。そうはならなかったけどよ……」

ある意味発想が単純で良かったのだろう。
そしてお嬢さんの呪いについて突然話が振られ……。

「罰として私を抱きしめろ!」

が流れた。

「…………悪い、今のは無かったことにしてくれっ……」

そう言えばという風で思い出したお嬢さんは寸前で映像を止める事叶わずソファーから転げ落ち両手を床につけ下を向いたまま呟いた。

「エヴァンジェリン殿……薄々思っておったが……ナギの事……その……す、好きなのかの?」

凄くアリカ初初しい。
修羅場……にはならないであろう。

「へ?へ?」

「…………」

ナギは阿呆面でアリカ様と下を向いたままのお嬢さんを交互に見て、これにはアスナは気まずそうな表情をしつつも、どうも自身もナギが好きである事が思い出され恥ずかしくなったのか沈黙を貫いた。
そしてエヴァンジェリンお嬢さんは大きく深呼吸をして立ち上がりソファーに戻って言った。

「ああ、好きだったさ。私が崖から落ちた所を助けられた時からな。……だが今はもう心の整理はついている、アリカ・スプリングフィールド」

アリカ・スプリングフィールド、と呼ぶ……それはお嬢さんとアリカ様の間で一瞬でその意味を理解しあえるもの。

「左様か……。ナギが呪いなど迷惑をかけたようで済まぬな……」

「それは先程終わった話だ、気にする事はない。私にも原因があるさ……」

……と言いながら2人は互いに頭を下げあった。

「この馬鹿者が何も考えず素で誤解を与える真似をしたのじゃろう」

「お、俺?」

「……そ……それは否定できないな……。私も長生きではあったがあの頃は初心で……」

「ほれ、ナギ、主も謝らんか!」

アリカ様はナギをド突き謝るように促す。

「いだっ!?ああ……俺が悪かった。エヴァ、この通りだ」

ナギも謝罪表明をし、頭を下げた。

「ナギの気持ちは分かった。分かったから……もうこの話は手打ちにしないか……。少し心の古傷が抉られるんだよ……」

お嬢さんが精神的に辛そうだ。

「そ……そうか……分かった……」

互いに間を起き、落ち着いた所で完全に放置状態に入っていた映像を巻き戻し、お嬢さんの発言以降、ナギがお嬢さんを撫でながらネギ少年に話かける所に再び移る。
色々過剰な発言がなされるもネギ少年は涙を流しながら「僕は……僕自身になります!」という所で映像を終えた。

「ネギ……」

「ネギ……」

「ネギは言ったとおり……俺を探しに魔法世界に来たものの、ネギはネギ自身ちゃんと成長してたな……」

結果としてナギと同じく魔法世界の危機を救ったネギ少年であるが、ナギとの違いで言えば、前大戦では最後に大量の艦隊による反魔法場を展開して世界の終りと始まりの魔法を阻止したのと、今回はネギ少年自身が導きとなってオスティア一帯が塵と化すのを防いだという所。

「エヴァンジェリン殿、ネギの映像を見せてくれた事、感謝するぞっ……」

「ああ、ネギの生き様を今になってだがせめて見られて良かったぜ……。ありがとな、エヴァ」

「見せないほうが良いかもしれないとは思ったが、それならこちらも見せて良かった」

「俺も……約束は果たさねぇとな。エヴァ、登校地獄、解くぜ」

「……ああ、頼む」

……ナギはお嬢さんの頭に手を置き、もう高位の術者でなくとも解除できる水準に緩めた呪いを……解いた。
エヴァンジェリンお嬢さんはある意味ナギとの一つの繋がりであるこの呪いが解かれる事に色々混じり合った感情を覚えながらも、一筋の涙を流した。

「……確かに呪いが解けた事、確認したよ。ナギ」

「12年も待たせて済まなかったな」

「一生解きにこないよりマシさ」

エヴァンジェリンお嬢さんはようやく吹っ切れたのか……非常に凛々しい顔をして答えた。
これで前に進める、と言ったところであろう。
……これにてエヴァンジェリンお嬢さんは近衛門の作成する証明書無しにもう自由に麻帆良から出ることが可能になった。
結局一日中ネギ少年の映像を観ている事になり、既に時刻は夕方もすぎ今日も日が落ちていた。
寝る場所ならば別荘があるものの、24倍では問題があるだろうと言う事でナギ達をそのまま客間で待たせる間、エヴァンジェリンお嬢さんは少し調整に時間をかけたものの城のある魔法球の時間差を1倍に変更して3人を中に招いた。
ネギ少年の映像を粗方見せ終えた状態でネギ少年が使った物を見せるというのもどうかと……という事でそれはそこそこに留められた。
……とは言ったもののアスナはネギ少年がよく座っていたテラスの椅子や魔法書を広げていた机などに触れるという行動をしきりにし続けていたが……完全に故人に対する対応である。
結局この日近衛門殿達がナギ達に何かを頼むべく連絡をすることなど無く、それどころか数時間に渡る打ち合わせを済ませたクルト総督は、サヨが火星の幻術を解いた事を入ってきた情報で知り、ゼクト殿による強制的なゲートの発動によって再び魔法世界の廃都オスティアへと戻り、そのまま強制転移魔法で新オスティアへと戻り、早速仕事を開始したそうだ。
一方ゼクト殿は再び強制的にゲートを発動させて図書館島地下に戻ってきた。
この日だけで総移動距離がなんと1億6千万kmというのは……ゲート技術の凄さというものが分かる所であるが、これからは常にそうなっていくのだからそのうちこの距離感にも人々は慣れるのであろう。
クウネル殿は言わずもがな、ゼクト殿も完全に図書館島に居つく体勢に入った。
詠春殿はまだこちらに滞在するらしく、今日のところは呪術協会に足を運び仕事を夜遅くまで続けるらしい。
近衛門も……申し訳ないが言うまでもない。
一番長い付き合いでお世話になっていて、いつものように落ち着いたら体調を整える。
タカミチ君は地球側のAAAと連絡を取ってクルト総督と同じく仕事を開始した。
ドネットさんはメルディアナに帰還した事を連絡し、そのまま校長に取りつぎ、ネギ少年が亡くなった事を伝えると共に、ナギとアリカ様が帰還した事を伝えたそうだ。
ネットワークならともかく、流石にウェールズまで観測の手を今伸ばしはしないのでどういう反応をしたのか正確な事はわからないが、ネカネさんにはとてもでないが伝える事はできなかったであろう。
そしていよいよ明日には各国政府調査機関が日本に上陸し、同じく各国の魔法協会の人々も日本に上陸し、両者共に一路麻帆良を目指してくる。
そんな折、火星の幻術が解け、火星が第二の青い星へと変貌した情報に彼らは再び混乱したのだが、それでもきっと一連の事は麻帆良と関係がある可能性は高いだろうという事で予定に変更は無くやってくる。
しかし私が姿を現す予定は一切無い。
……さて、言うまでもなく第二の青い星、火星は地球にその姿を顕にした為、再び地球の世論はその事で持ち切りとなった。
因みに一番最初に経済的効果が出たのはどこか。
それは光学機器メーカー。
火星大接近から1日経ったが、今になって飛ぶように望遠鏡が売れ始めたらしい。
隣りの星が青くなったらテレビによる映像ではなく、自身のその目でレンズを通して見てみたいのだろう。
実際ニュース速報で火星が青くなった写真が放送された瞬間、各テレビ局には「捏造映像を堂々と流すな」と大量のクレームが殺到した。
それから数時間して、実際に各国政府が「確かに火星が青い星になっている」という事を公式見解で認めてからというもの、望遠鏡は飛ぶように売れたそうだ。
どこでどう経済効果が出るかは分からないものだ。
名波千鶴が所属する天文部も体験入部というか見学者が引きも切らず、麻帆良祭でもないのに大盛況であった。
それ以外にも当然世論では色々な憶測が飛び交い「火星に宇宙人がいるとしたら今まで隠れていた分非常に高度な文明を持っている可能性がある」であるとかいった議論の一方では「いたとしたらきっとこんな姿をしてるのではないか」と画像をアップロードしだすのが起き始めたのだが……どれもどう見ても人以外の何かであったり……実際魔法世界には亜人種の方々がいるので間違ってはいないのが、そんなグロテスクな形状はしていない。
しかし、そんな中日本人は……そう、いわゆる病気なのか、勘が良いのか知らないが、ネコミミがついた人間やら角が生えた人間やらを、ただし……女性限定ではあるがそのような画像を空気を読まず世界に向けて次々投稿し始めたのだが……大正解と一言。
一番近い。
もしかしたら、日本に神木が自然発生した理由は火星人に対する適応能力が日本人は高いからなのかも……しれない……どうだろうか。
下手をすると地球と火星で行き来が頻繁にできるようになったら日本人の一部の男性は皆ロマンとやらを求めて火星へと旅立ってしまう可能性がある。
これは日本という国家にしてみれば人的損失……いかがなものか。
因みに長谷川千雨が麻帆良の外でもとうとう非常識な事が起こってしまったからなのか、女子寮で「ありえねぇぇぇよッ!!」とパソコンのキーボードを一心不乱に叩き高速で書き込みをしながら叫び声を上げたのは余談。
しかしながら、彼女も認識阻害が効かないという体質で困るのもそろそろ終わる。
魔法が公に世界に出てくる日も近い。
そういう騒ぎの一方で宇宙開発関連企業の株価は鰻登りに上がりに上がり「目指せ!有人探査!」と投資があちこちから舞い込み、現在目下火星へと飛行を続けているアメリカ合衆国の火星探査機スピリットとオポチュニティに「頑張れ!」という声援が送られたり「火星一番乗りはアメリカだ!」などと国の人々が非常に喜んでいるそうな。
……これで火星側が探査機を撃ち落としでもしたら本当に星間戦争が起きそうではあるが……その前に燃える。
彼らにとっては非常に残念ながら、宇宙開発関連の景気上昇は長い目で見れば良いことなのだろうが……間違いなく一過性であり必ず泡となって弾けるので……一時の夢を楽しむと良い。
宇宙開発関連で無くとも、理系は大体盛り上がっており、それに従うかのように麻帆良大工学部も無駄にテンションが全体的に上がっており、葉加瀬聡美は超鈴音とサヨがいない……魔法球の中にいると思っているのだろうが、そのような事にも何のその、研究室に入り浸っている。
……そこへ超鈴音から通信。

《翆坊主、一旦そちらに戻るから転移とポートの用意頼むネ》

《分かりました》

超鈴音は優曇華から蟠桃へと転移し、ポートを通り魔法球へと無事戻った。

《ふむ、収集し続けつつ観測もしたが、あちらも酷く混乱しているネ》

《こちらも同様です。一つ分かった事ですが、やはりネギ少年の使ったものは予想通りでした。超鈴音のアーティファクト使用時と同じく目の虹彩がその証拠かと》

《おお、それは良いことだナ。それなら不確定要素は無さそうだネ》

《ええ、その通りです》

《火星については後でさよに聞くと良いと思うが……どちらかというと私は雪広グループにまた早めに出向しておく必要があるネ。だが、一番今私が効率的にできそうなのはネギ坊主の素体作成の為のデータを整理する事だと思うネ》

《優曇華による収集も非常に効果があるのですが。……確かにネギ少年の素体の方も必要です。しかし……できなくはないとは思いますが、成長もする素体……というものは取り組んでみないことには分かりません。元々あるDNAに従ってというのも初の試み。この度は超鈴音に神木・蟠桃の素体作成の亜空間で作業できるようにしましょうか》

《それは助かるネ。やろうとしていることを考えると色々思うところもあるが……ネギ坊主の霊体、魂はあるのだから器を作成すると考えればそこまで抵抗は無いナ》

《一から生命を創造する訳では……ないですからね。一度今日集まった分の魔分から情報を引き出す作業もしておきましょう。その辺の擦り合わせも必要でしょうし》

《そうだナ。できるだけあるべき姿に近づけたいからネ。翆坊主、必須ではないが、参考にはなりそうだし、ゼクトサンの髪の毛を採取したいと思うのだがどう思う?》

《……そういう事ですか。確かにゼクト殿は話からするに、始まりの魔法使いとの適合率が高いというのは丸分かりです。今回私達がやるのは憑依では無く完全な定着ですが……、ええ、参考になりそうですね。私は良いと思いますよ。きっとゼクト殿も快諾してくれる筈です》

《そういうと思ていたネ。なら早速今から図書館島に行こうと思うのだが……他に誰かいるカ?》

《いえ、今はクウネル殿とゼクト殿が2人でゆっくりしているだけです》

《それは好都合だナ。そういえばクウネルサンは私が唯一ネギ坊主の子孫だという事を翆坊主が勝手に知らせた人物だが……あの話からして本当に遠い親戚のようなものだたらしいネ。当然ゼクトサンともそういう事になるカ》

《クウネル殿が他人の秘密を饒舌に話すどころか1人で隠して楽しむ人種というのは明らかでしたから。……しかしあの時の事は今でも後悔はありませんが悪かったとは思っています。……すいません》

クウネル殿は魔法世界の事については殆どの事を知っていたのだから、今までのやりとりを思い出すに他人の事は言えないが互いに壮絶な狸を貫き……それを含めても口が硬い人物だ。

《過ぎた事だし、今更もう気にしなくて良いヨ。朝ナギ・スプリングフィールドは私がゼクトサンに似ていると言たが彼の勘も大した物ネ。きっとクウネルサンは内心面白がていた筈だヨ》

《ありがとうございます。ええ、そうでしょうね、きっと》

《ゼクトサンとも少し話しても良いかもしれないネ。遠い遠い親戚なのだしナ》

《お好きにどうぞ》

《では肉まん用意してから行くヨ。今度はここから転移魔法で直接行くネ。反応があちらに出ないようにして貰えるカ?》

《あちこち魔法先生達が走り回っていますから……分かりました。結界を張っておきます》

そして超鈴音は女子寮に戻りいつも常備している肉まんを携えた所で科学迷宮の中から私に通信を行った上で、転移門を使い、図書館島地下に直接跳んだ。

―転移門―

「む?」

「おやおや、朝方振りですね、超さん。キノ殿が結界を張ったのだと思ったらそういう事でしたか」

「また来たヨ。クウネルサン、ゼクトサン。肉まん持て来たから食べるといいネ」

空中庭園の長机の席についていたクウネル殿とゼクト殿に近づき超鈴音は蒸篭にいれて持ってきた温かい肉まんを出した。

「ゼクト、これは地球で最も美味しい肉まんですよ」

「ほう、そうなのか。ありがたく頂こう」

2人はそれを素直に受け取った。

「食べながら聞いて欲しいのだが、ゼクトサンは始まりの魔法使いとの適合性が高いと考えて良いのかナ?」

「ふむ……むぐ……何じゃ。高いと言われれば高いじゃろうな。おお、この肉まん美味しいのじゃ」

ゼクト殿は食べるのに夢中のようで、返答はかなり適当。
齢数百で小動物のよう。
私も類似してはいるが、私には関係ない。

「そう言て貰えると嬉しいネ」

「超さん、それを聞くという事はネギ君と関係がありそうに思えますが……それとも朝ナギが言っていた事ですか?あれは私もどうしようかと思いましたよ、フフフ」

司書殿は笑い出した。

「やはりそう思ているだろうと思たヨ。実に鋭い勘だと思たネ」

「アル、何の話じゃ?ワシが超に似ておるとナギが言っておった事か?」

「そうですよ。超さん、話す気なのですか?」

「クウネルサンが知ているのだから良いかなと思てネ。それに用事もあるしナ。ゼクトサン、実は私もウェスペルタティアの末裔なんだヨ」

何でもないことのように切り出した。

「む……それは真か?」

ゼクト殿は肉まんにかぶりつこうとした直前で止まった。

「正確にはネギ坊主の未来の子孫なのだけれどネ。だから私も遠い遠い親戚のようなものという事になるヨ」

「……ほう、未来でのネギの子孫という事か。世の中まだまだ知らぬことも多いの。ナギの奴は勘だけは良いが正解じゃったか」

「以前ここには来たい時にいつでも来て構わないと私が言ったのも理解して貰えましたか?」

「ハハハ、今更アレにそんな意味があると思う事になるとは流石の私も思わなかたが、クウネルサンは本当に性格が悪いナ。翆坊主もだけどネ」

「いえいえ、それ程でも」

いえいえ、それ程でも。

「まあ私はいつも好きな時に来ているヨ。……本題に入るが、ゼクトサンの髪の毛が欲しいのだが貰ても良いカ?」

「ふむ、髪の一本ぐらい好きにすると良い。ネギを助けるのに使えるのか?」

「参考にはなる筈ネ。ネギ坊主が使た技法が始まりの魔法使いが使たものに近いなら尚更その手がかりになる筈だヨ。コンタクトをしていたが……ネギ坊主はこんな目をしていなかたかナ?」

超鈴音はコンタクトを外しアーティファクト使用中の証である目の虹彩をゼクト殿に見せた。

「ほう、それじゃ。……ネギはその目をしてよく分からぬ通信をして来て頭痛はしたがお陰でワシも最後の戦いであ奴らに対応できた」

「やはりそうカ。ネギ坊主はこれを自力でやるなど本当に大したものネ。確認も取れた所で髪の毛一本貰えるかナ?」

「勿論じゃ。……これで良いじゃろう」

「確かに受け取たネ。……私が聞くことではないかもしれないがこれからクウネルサンとゼクトサンはどうするネ?今クウネルサンはここに来たい時に来れば良いと言たがここにいる理由も無いのではないカ?」

「確かにそうです……ですが、そうは言いましても、どこか行くあてがあるかといえば無いですし、ここにいた方が世界のどこよりも面白そうです。それにこれで私は弟子もいますので」

「ワシも同じじゃ。またゲートを通ってあちらでフラフラしても良いのじゃがアルと同じで特に行くあても無いからの。それにワシはまだこの麻帆良とやらの都市の事をよく知らぬ。アルに話を聞いておった所じゃが中々面白いようじゃな。旧世界の食事にも前から興味があったしの、この肉まんもその一つじゃな」

「フフフ、ゼクトは詠春の出した鍋を気に入っていましたね。トカゲ肉を入れようとする程でしたし」

トカゲ肉……もしや竜種の事だろうか。

「トカゲというのは竜種の事カ?」

「そうじゃ。アレはモノによるが美味いぞ」

真顔で言い切った。

「ゼクト、こちらでトカゲというと、小さいものが普通ですから。普通は食べるという習慣は無いですよ」

「む?そうなのか?」

「むむ……なるほど、ゼクトサン、良いことを聞いたヨ。これは新たな食材へと道が開けそうネ。これは互いに商機に違いないヨ!」

超鈴音の目が……何かを良い物を見つけたように輝いている。
確かに、火星の食事を地球に、地球の食事を火星にとするだけでも何かが起きそうだ。
……気になるのは竜種の肉にとりわけ反応している辺りだが……そのうち竜種の生態を心配する日も近いのかもしれない。

「何だか閃いたようじゃが好きにすると良い」

「竜種の肉に興味は出てきたが……それは今は後回しにするネ。髪の毛調べさせてもらうヨ。来てすぐだがこれで失礼するネ。また来るヨ」

「お好きなときにどうぞ」

「うむ、またじゃ」

―転移門―

そう言って超鈴音は女子寮に戻り、そのまま魔法球でDNA鑑定を開始した。

「アル、外におるあのトカゲは?」

「あれは駄目ですよ」

「……仕方ないの」

門番の彼女が一番危険らしい。
竜種をトカゲと呼べるゼクト殿の感性は何というか……要するに強いという事なのだろう。
……これで今日も終わりかと思ったのだが……超鈴音の部屋に一人の来訪者が現れた。

《超鈴音、客人ですよ。割と重要な》

《分かたネ》

超鈴音は作業を一旦中止し、魔法球から出て自室の玄関を開いた。

「………………」

「こんばんは、ザジサン。上がるといいヨ。ハカセは今日帰て来ないからネ」

「………………」

ザジ・レイニーデイ。
相変わらず一切声を出さないが頷いて上がる事にしたらしい。
自室の座布団に両者座り、超鈴音はザジにも肉まんを出して話……が始まった。

「ネギ先生は助かりますか?」

超鈴音に向かって言った後、上を見上げるのは私にも聞いているという事だろうか。

「翆坊主も聞いているヨ。ネギ坊主は私達が助けるネ。すぐにとは行かないが凡そ見積もって20日……という所が目安だろうと思うヨ」

「……そうですか。姉を呼んでもいいですか?」

姉……か。

「ん……?ザジサンの姉カ……。まあ別にいいヨ」

「結界、張れますか?」

また上を向いて頼まれたとあっては……張る。

「張れたみたいだヨ」

「ありがとう」

そう言ってザジ・レイニーデイは何やら大層な魔方陣を展開し召喚魔法を発動し始め……。
……服まで同じ、瓜二つの人物が出た……が。

「ザジッ!何嘘教えたポョ!」

何故か……ザジがザジにつかみかかっている……。
超鈴音は面白そうに見ているが。

「隠し事はしたけど嘘はついていないポョ」

突然語尾がついた。

「その語尾ポョ!付けてないらしいポョね?お陰ですぐにバレたポョ!」

何か互いに殴り合っている要するに……姉妹喧嘩。

「あー、用件は何かナ?」

「紹介……です」

取っ組み合いながらわざわざ……その微妙に視線を上に動かして……了解。
……あちらに移動。

《……これはどうも、初めまして。神木の精霊をやっています。キノとお呼び下さい》

「……本物のようポョね。私はザジ・レイニーデイ……ポョ」

ようやくザジ姉は……ザジであり……そしてザジから離れた。

「私もザジ・レイニーデイ」

同じ名前。

「私は超鈴音ネ。魔界というのは双子には同じ名前をつけるという風習なのカ?」

「そうだポョ、超鈴音」

語尾をつける風習はこれいかに。

「姉さん、話は何ポョ?」

「力ある者の責務としての確認ポョ。あの火星の木は魔法世界との位相を完全に同調させたと見て良いポョか?」

《はい、その通りです。木を抜かれでもしない限り、火星は間違いなくこの先数千年は持ちます》

「そうポョか。……しかし、いつからいたポョか?何かがおかしいポョ」

《5003年前から……最初からです。貴女なら大丈夫だと思って説明しましょう。私もある意味時間旅行者のような存在と捉えられます。他の時間の流れを知っていましたが、それらに私は存在していませんでした。しかし、私はこうして自然発生し、今もここにこうしています。視える未来に変化が起きたのは、その未来視で視ていたものが他の時間の流れのものであったのでしょう》

「信じがたい事だが……嘘を付く理由も無いポョね。目的は魔法世界の崩壊を阻止する事ポョか?」

《正しくは木の種子を残し続け、存在し続ける事です。魔法を行使する事を可能にし続ける……と言い換えた方が良いでしょうか》

「……そうポョか。我々もこちらの世界で魔法が使い続けられれば魔界から出てくる事ができるから阻む理由は一切無いポョ。魔界に来る気はあるポョか?」

……そのような見方か。
確かにどの異界も位相を同調できると思われてもおかしくはないが。

《いえ、その気は一切無いです。それに……もし可能になるとしても再び数千年先の話です》

「……それならば良いポョ。こちらも木には手を出さない事を約束するポョ」

《そういう事なら、分かりました》

「これで確認は取れたポョ。ザジ、まだこちらにいるポョか?アマテルはようやく安らかな眠りに着くことができたがネギ・スプリングフィールドも逝くとは思わなかったポョ」

「姉さん、ネギ先生は逝っていないポョ」

姉妹で会話する時はザジ妹もポョを付けるらしい。

「何?助けられるとでも言うポョか?」

《そのつもりです。ネギ少年には感謝していますので》

「そうポョか。私もネギ・スプリングフィールドが逝った事は少し残念に思っていたからそれは期待するポョ」

ザジ……敢えてサジ姉にとってはどのように残念であろうか。

《ええ、現在作業中ですので》

「姉さん、ネギ先生が戻ってきたらプレゼントをしても良いポョ?」

「ネギ坊主にプレゼント?」

プレゼントとな。

「まさかザジ……」

「駄目ポョ?」

《何の話か聞いても宜しいですか?》

「……石化魔法の解呪です」

なるほど。

「ネギ坊主の故郷の村の人々の事カ」

《……これを言うのも何ですが、私にも解呪は恐らくできます。ですが人間同士の間で起きた事なので手出しはしないつもりだったのですが……それで良いのですか?》

「プレゼントなら」

「人間達の愚行に手を出す必要は一切無いが……あれはネギ・スプリングフィールドの境遇が原因だが存在が悪い訳でも無いポョね……」

「姉さん」

「……分かったポョ。好きにすると良いポョ。……ただし帰ってきたら今までの分を含めて……おしおきポョョ?」

魔分が噴出しそうである。

「……………ポョ」

ザジ妹……下を向いて呟くそれが返事……そうですか。

「……ならば話はついたポョ。邪魔したポョね。さらばだポョ」

「さよならネ」

《さようなら、また機会があれば》

「その時はいつかまたポョ」

「姉さん……またポョ……」

……そう言ってザジ姉は再び大層な魔方陣を展開しその中に沈んで魔界へと去っていった。
嵐のようだった。

「私もお邪魔しました……ネギ先生をお願いします」

「ネギ坊主に良いプレゼントを渡せるようにしないとネ」

《全力を尽くしますので》

「はい……それでは」

ザジ妹は普通に部屋の玄関から出て行った。

「翆坊主、後半この部屋で話をする必要はあまり無かた気がするのだが……」

《……私もそう思いました。多分今この辺りは色々ありますし結界が好都合だったのではないかと》

「魔族の人の感性は良くわからないネ。そういう事にしておくカ」

《実際突っ込み所はありましたね》

「さ、作業に戻るヨ」

《了解です》



[21907] 65話 サイカイ。サイアイ (ネギま本編完結)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/04/09 20:23
……火星が魔法世界と同調してから、神楽坂さん達が帰ってきてから、というもの、時は誰かを待つ事もなく毎日慌ただしく過ぎていき、残り少ない夏休みの数日も終わり9月に入り私達は2学期を迎えてから2週間程が経ちました。
火星が青い星になる……私が幻術を解除したんですけど、という世界の誰もが驚く現象が起き、その鍵となるのではないかと目された麻帆良もまた混乱に包まれ様々な国の人達が入ってきました。
その関係で未だ公にはされないものの地球と火星との関係の間には少なからず進展がありましたが……それはまた追々としておきましょう。
……麻帆良女子中等部は2学期の始業式は問題なく行われたものの、一部の先生達が不在で自習や、代理の先生が来て授業が行われるという事が起きました。
特に3-Aでの大異変と言えば「ネギ先生は一身上の都合で退職されました」と副担任の源先生が残念そうに一言述べて以降、先生が担任になってホームルームを行うようになった事です。
3-Aの皆はネギ先生が皆に挨拶も無く退職したという話に大騒ぎし、気になって仕方がありませんでしたがそれ以外には何も分かることはありませんでした。
近衛さん達が帰ってきた時に女子寮に残っていた3-Aの皆はネギ先生の事をしきりに聞き出そうとしましたが、近衛さん達が口を開く事は一切無く、それどころか近衛さん達の元気が余りに無い事の方が心配になりました。
実際学校が始まっても、エヴァンジェリンさんはいつもの事ですが、神楽坂さんは全く、近衛さん、宮崎さん、綾瀬さんもたまにしか学校に出てこなくなりました。
それ以外の皆は出ているのですがやはり様子がおかしかったです。
美空さんは元気に話したりはしないものの陸上部で今までになく一心に短距離に打ち込むようになり、古さん、桜咲さんは一切部活には顔を出さず、エヴァンジェリンさんの家に通っています。
楓さんもさんぽ部には出ずに、エヴァンジェリンさんの家に向かうか、麻帆良郊外の山に修行に出たりして過ごしています。
龍宮さんは平静を装ってはいますが、バイアスロン部は休みがちになりました。
あからさまな様子の変化と言えば、いいんちょさんが一番取り乱し方が酷かったのですが、神楽坂さんが帰ってきている筈にも関わらず未だに女子寮に戻ってこない事で、エヴァンジェリンさんの家にあたりをつけて訪問した事がありました。
そこで魔法球の中に入ることを許されたものの、その中で見た神楽坂さんは夏休みに出かける直前の元気だったあの神楽坂さんの姿は一切無く、声を掛けようとした所を「しばらくそっとしておいてやってくれないか」とエヴァンジェリンさんに言われてそのまま帰ったそうです。
……実は魔法球の速度を1倍に変えた後、エヴァンジェリンさんは更に魔法球の速度を0,7倍ぐらいにこっそり下げていたらしいので神楽坂さんにとってはまだ外と同じ時間は経過していなかったりします。
エヴァンジェリンさんの家に招かれていたネギ先生のご両親と、ドネットさんとアーニャちゃんは9月に入るとほぼ同時にネギ先生が魔法世界で使っていた遺品と共に一度ウェールズへと飛行機で渡っていった為今はいません。
ネギ先生のお葬式はいつ上げるのか……という事も話しに行ったのかもしれませんが少なくとも神楽坂さんは麻帆良にいるままなのであちらですぐに取り行われる事はないでしょう。
さて……今まで見てきたように言いましたが、これは観測した事実であって、実は一番怪しいのは私と鈴音さんで学校にも全く顔を出していません。
計画が成って以降外界との関わりを殆ど絶ち、一応葉加瀬さんには夏休みが明けても当分学校は休みますと連絡して自室にも書置きを残した後、私達は、学校はおろか女子寮の中でさえ一切姿を見かけられる事はありませんでした。
私の身体も女子寮のベッドに放置ではなく片付け、自室に仕掛けてある科学迷宮も訪ねて来る人を想定して、もし部屋に入られても見つけられる事は無く、当然入り込む事はできないようにしておきました。
葉加瀬さんもそういう事ならと軽く返信を残した後は麻帆良大工学部の研究室にずっと入り浸っているようなので私達の自室はほぼ完全放置となりました。
実際私は一切戻ることは無かったのですが、鈴音さんは女子寮に戻る事はあり、その時は光学迷彩コートを常に被り、用のある場所の近くまでそれで移動した為、殆どその足取りを掴まれることもありませんでした。
因みに向かった先は図書館島地下や雪広グループの本社であったりしました。
予想通りというべきか、私達の自室には近衛さん達が最初は頻繁に訪れ、インターホンを鳴らしていたりしたのですが、鈴音さんが魔法球の中にいて出ようと思えば出られる時も悪いとは思いましたが一切応対しませんでした。
ですが、それもエヴァンジェリンさんが私と、特に鈴音さんには構うなと近衛さん達に伝えたらしく、それからは下火になりました。
端末を渡していた事や、神楽坂さん達が帰ってきた時に鈴音さんが図書館島の地下に姿を現した事で、鈴音さんに聞きたい事が一杯あるだろうというのは容易に想像ができます。
さて、そんな私達が何をしていたかと言えば、それは当然、ネギ先生の事です。
私はキノと神木を何度か交代しながら世界に散らばったネギ先生を収集し、鈴音さんは余裕があれば優曇華で火星の海中をあちらこちらへと動いて回り、基本的には以前入手したネギ先生のDNAと新たに入手したゼクトさんの髪の毛を詳細に調査し、神木・蟠桃の下層亜空間でネギ先生専用の身体を用意すべく研究を進めていました。
常にアーティファクトを使い続けている為、思考速度は超高速なので普通なら気が遠くなるような年数がかかりそうな研究にも関わらず元々の鈴音さんのポテンシャルと相まって少し難航はしたものの、素体の作成に慣れているキノと情報のやりとりも交えた試行錯誤の末、一部の魔分から読み取った情報から導き出した外見年齢およそ11歳のネギ先生のDNAを持った人体の用意は見事、できました。
ただ、初日に得られた収集速度から計算して目処が立つであろう20日も超えてネギ先生を収集し続けたのですが、残念ながら全ては集まり切りませんでした。
どうも、該当魔分が消費されて変質したりする事で収集不可能になるという現象が不幸にも起きたようで、十数日を境にしてから徐々に収集率も落ちていき、今はめっきり収集率も下がり全くと言っていいほど集まらなくなってしまいました。
元々こうなることはある程度予想はしていて、ネギ先生の情報を含んだ魔分というのはネギ先生が一般人よりも遥かに魔分容量が多いとは言え、当然人一人分の量だけなのでとにかく収集を急いでなんとかするしかないというのは覚悟していました。
手足、胴体、首元等あちこち、特に左腕はごっそり揃わない部分もあったのですが、一部の霊体に欠損は起きたものの、それでも、奇跡的に一番大事な記憶や人格に影響の出る脳の部位は一切欠ける事無く全て集める事ができました。
つまり、ほぼネギ先生は助けられたんです!
今言った通り、バラバラになった魔分はネギ先生の霊体を象るように正しく並べ、今まさにネギ先生を、意識を持った霊体に再生する所です。
場所は神木・蟠桃の下層亜空間。

《ようやく、拡散したネギ少年の意識を元に戻せますね》

《本当に良かったです!》

《全部集める事はできなかたが、一番重要な部分は集またから最低ラインは達せられたかナ》

《ええ、もし数日収集が難航していたらと思うと……ですが、集まって本当に、何よりです》

《欠損部分はそのまま……ですか?》

治せる筈……なんですけど。

《欠損部分は私達で言わば霊体再生治療という形で近くの部位から補完する事ができますが……実際それが必要かどうかは疑問です。分かっているでしょうが、霊体とは魂の塊、肉体に定着すれば寿命をも意味します》

《そうですね》

《それについて私はここずっと驚く事ばかりだたネ》

《ここで重要なのは、ネギ少年が果たして未だ通常の人類なのか、という事です。エヴァンジェリンお嬢さんに先日説明した後超鈴音とサヨにも話しましたが、ネギ少年は進化……革新している可能性が高いです。魔法生物を例に取れば分かるかと思いますが、魔分は生命体に影響を色濃く与えます。その影響を受ける環境が、魔分の超高密度圧縮加速した空間であったらどうか……という事です。……可能性としてはネギ少年の変質した魂……まだ復元はしていませんが、それがこの用意した素体……肉体に定着した際、もし細胞変化を起こす事があれば……その寿命は常人を遥かに越える事になるでしょう。勿論実例は今までに無いので実際なってみないと分からない未知の領域ではありますが》

《なるほどナ……それは確かにあり得ないとは言い切れないネ。細胞変化カ……興味深いナ》

寿命が伸びる……ですか。

《つまり、エヴァンジェリンさんや、火星のヘラスの人達みたいな寿命になるかもしれないって事ですか?》

《単純な理解であれば……そうです。さて、ネギ少年が今後日常、人々の間に戻る事を考えれば欠損した霊体で減少した寿命の分を相殺して余りある寿命を獲得するならば、ここで霊体の治療を施す必要があるかどうかと言えば疑問が残るのではないでしょうか》

《なるほどナ。ネギ坊主が長生きする内に同じ時を生きる皆との間に隔たりができてしまうという事カ》

《そういう事です。ようやくネギ少年も運命……と言ったらそれまでですが、それでも世界との関わりから解き放たれたのですからその辺は配慮したい所です。……長くなってしまいましたが、後からでも治療はできる事ですし、ネギ少年を元に戻す作業を早速行いましょうか》

《そうだナ。ネギ坊主とも話をする必要があるしネ》

《はい!》

「アベアット」

空中に浮いているネギ先生の魔分の集合体にキノが干渉を開始しました。

―対象魔分結合・霊体情報を復元―
 ―ネギ・スプリングフィールド―

……それぞれの魔分が次々結合しながら霊体を形成して行き……。
欠損はありますが、前に火星に出てきた時よりもはっきりしたネギ先生の霊体が復活……しました。

《完了です……》

「ネギ坊主、お帰りネ」

《ネギ先生、お帰りなさい》

霊体のネギ先生がゆっくり目を開けて……。
あれ……本当に霊体の質が違いますね。

《……あ……あれ?僕は……どうして……世界の一部になって意識は無くなった……。ちょ、超さん!相坂さん!それに……》

《初めまして、ネギ・スプリングフィールド殿。私は神木の精霊、キノとお呼び下さい》

キノがネギ先生を殿を付けて呼びました。

《は、初めまして……キノさん。ネギ・スプリングフィールドです》

《ネギ先生、良かったです》

《ええ、本当に良かったです。ネギ少年》

あ……最初だけなんですね。

《あ……あの……これはどういう……》

「説明するヨ、ネギ坊主。ネギ坊主は魔法世界のオスティアで最後に確かに散った。だが、私達は世界に散ったネギ坊主を収集し、今丁度意識を呼び戻したんだヨ」

《僕を集めた……そんな事が……》

《できます。ネギ少年の師匠はエヴァンジェリンお嬢さんなのですから》

《ま……マスター……。そうだ、茶々丸さんから聞いたんでした。マスターと相坂さんも精霊だって……》

どうでもいいことですけど火星の水面で幽霊と教えた時の記憶封印はまだ維持されてるみたいですね。

《はい、そうですよ。因みに今ここは神木の中です》

《こ……ここが神木の中?じゃ、じゃあここは麻帆良なんですか?》

「ネギ坊主、落ち着くネ。ここは確かに麻帆良だヨ」

《……そ……そうなんですか》

《色々聞きたい事はあると思いますが、そうですね。私から先に幾つか話しておきましょう。まずは、ネギ少年、魔法世界での一件、ありがとうございました。あの時までは私達は魔法世界に干渉する事はできなかったもので本当に助かりました。グレート・グランド・マスターキーも既に受け取らせて頂き、人の手に届かない所に保管させて貰いました。ネギ少年達が完全なる世界の計画を阻止してくれたお陰で、無事魔法世界は2本目の神木によって火星との同調を行う事ができ、数年内の魔法世界の崩壊の危機も去りました》

《僕はお礼を言われることなんてそんな……あれは自分で決めてやったことです。でも、魔法世界の崩壊はもう解決したんですね……良かった……。あの……意識が戻ったのは凄く嬉しいんですけど……僕は一体……》

「ネギ坊主、安心するネ。身体なら用意してあるヨ。翆坊主」

《分かっています。今出します》

そしてキノがネギ先生の為の新しい身体を呼び出しました。

《こ……この身体は……》

《残念ながらネギ先生の元の肉体までは呼び戻せませんでした》

「だが、この身体は正真正銘ネギ坊主の元の肉体と寸分の狂いも無い物だヨ」

《怪しいと思うかもしれませんが、その点については保証します。ネギ少年との適合率は100%です》

《じゃ……じゃあ……僕は……僕はっ……》

ネギ先生が霊体の状態で泣きはじめそうです。

《そうです。ネギ先生はまた皆の元に戻れるんですよ》

《僕は……皆の元に……あ……ありがとうございますっ……。超さん、相坂さん、キノさん……》

《今言った通り、私達も感謝していますので、礼には及びません。大事な人達に、その姿を見せて下さい》

《はっ……はいっ!》

《まずは身体にこのまま同調して貰って構いません。……ですが、分かると思いますが、ネギ少年の霊体のあちこちには欠損があります。特に左腕が顕著です》

《はい……分かってます。左腕が酷いのは失ったタイミングが違うから……ですね》

《……その欠損は寿命に影響しますが、治療、できます》

《ほ……本当ですか?》

《本当ですよ、ネギ先生》

《更にもう一つ、一応確認したい事があるのですが、霊体の状態であると確証がとれないので……先に身体と同調して下さい。霊体の補完は身体と同調してからでもできるので》

魂の質が変わっているみたいなのでキノはその次の予想の確認をするだけみたいですね。
ネギ先生の霊体が火星に出てきた時は、加速はしてなかったですけど魔分通信に近い事もしていましたし、試したほうが早そうです。

《……分かりました。このまま重なれば良いですか?》

《はい、定着はこちらで行いますから楽にしてください》

《……はい、分かりました》

ネギ先生は特別仕様のネギ先生の新しい身体に重なりました。

―身体に対する霊体の完全定着を開始―

欠損している部分は仕方ないですが、それ以外の部分は全て身体と同調し、脳にも記憶と人格が再び完全に刻まれました。

《……終了です。まだ馴染みが薄いせいで少し違和感はあるかもしれませんが問題なく動かせる筈ですよ》

「……ほ……本当だ……動かせる……凄い……」

欠損部分は寿命に関係しますが、動かす分には問題無いので、ネギ先生は手足を動かせることを確かめています。

「うむ、うまく行たようで良かたネ」

キノがネギ先生の身体を精査し始めたようです。

《………………なるほど、分かりました。やはり変化は……起きているようですね。ネギ少年、試しに、エヴァンジェリンお嬢さんとよく行っていた通信をその状態で自分から行えるかどうか試してみて貰えませんか?》

「えっと……」

「……ふむ……翆坊主……いや、それなら証明になるのカ。ネギ坊主、今はこの通り普通に会話している状態で加速はしていない。もし、できるなら試しに通信を開いてみるネ」

「や……やってみます」

ネギ先生が目を瞑り……再び目を開けました。

《…………これで……どうでしょうか》

ほ、本当にできてます!
しかも、紛れもなく虹彩が輝いてます!

《分かりました。予想通り……ですね》

《本当にできるとはネ……。ネギ坊主、一番解りやすい特徴だが視野はどうかナ?》

《えっと……そんなに遠くまでは分かりませんが、後ろも把握できます。不思議な空間ですけど》

《……ネギ少年、もう良いですよ》

《は、はい》

ネギ先生から開いた加速通信を終えました。

《今その力を行使して何か変化があったのが分かったと思うのですが、少し説明しましょう》

「……この力ですか……」

《はっきり言うと、ネギ少年は進化した人類……そうですね、言うなれば革新者とでも呼べば良いでしょうか。そのような存在になりました》

「僕が……進化?」

《……本来加速通信……私達は魔分通信と呼んでいますが……それに付随する高速思考や、空間認識能力の上昇などは、私達精霊は神木による補助があればこそ何の障害も無くできるのですが、ネギ少年はそれが程度の差こそあれ自力でできる……とりわけ通信ができる訳です》

「は……はぁ……」

良くわからないって顔してますけど……いきなり言われても困りますよね。

《続けます。それはネギ少年が自力で獲得したものなので一向に構わないのですが、それと別に既に身体にも影響が出ています。霊体、魂自体も進化し強靭になっているのですが、今言うべき事は、そのネギ少年の強靭になった魂が、その身体に定着し肉体の細胞変化を起こしたという事です。……失礼ながら調べさせて貰いました。……結論から言えば十中八九ネギ少年の寿命は常人を遥かに越えたものになっています》

「寿命が……常人を越える……?」

《言葉の通りです。ここからはネギ少年の意思次第なのですが……欠損した霊体によってその分の寿命は縮んでいますが、進化した魂の分が起こした肉体的細胞変化はその縮んだ分の寿命を相殺しても確実に余る程度には寿命を伸ばしています。……ここで霊体の欠損を治せば欠損分を相殺する事も無くなり、更に寿命が伸びます。……長く生きたければ霊体の欠損も治しますが……どうしますか?今すぐに決める必要もありませんが……。恐らくヘラス族の人々のような寿命には確実になると思います》

「…………そういう事ですか。……分かりました。僕は霊体の欠損の治療を遠慮します。元々左腕を諦めた時から覚悟はできていました。自力で治すという方法は模索したいと思ってはいましたが寿命が伸びているなら……気にしません。進化した……らしいですが、僕はできるなら皆と同じ時を生きたいです。これが僕の、答えです」

ネギ先生……夏休みに麻帆良から出発する時よりも雰囲気……いえ、全部が成長しましたね。

「ふむ、ネギ坊主がそう言うならそれでいいだろうネ」

《そういう事であれば構いません。ネギ少年の意思、確かに良くわかりました》

「はい」

《最後に忠告ですが、進化したからと言って、ネギ少年が編みだした彼の技法を使う時の危険性はほぼ恐らく、一切今までと変わらないので気をつけてください》

「……忠告ありがとうございます。余程の事が無い限り……できれば太陽道は……もう使わないので大丈夫です」

《分かりました。……それで作業的で申し訳ないのですが、見ての通りここを含めて私達は色々と機密に溢れているので、くれぐれも口外しないようにお願いしたいのですが》

「わ、分かりました。でも木の中がこんな不思議な風になってるなんて言っても誰も信じなさそうですけど……口外しないと約束します」

「ハハハ、確かにそうだナ。まさかこんな風になているなんて誰も信じないだろうネ」

《では……お願いします》

「さ、長居していても何だからネ。私の魔法球に行くとしようカ。そこで軽くリハビリをしながら外の状況を教えるヨ、ネギ坊主」

「はい、ありがとうございます。超さん」

《ではポートを開きますので、ネギ少年、私はここで失礼します》

「キノさん、ありがとうございました」

《こちらこそ、助かりましたよ》

《キノ、私も身体に入って行きますね》

《どうぞ、サヨ》

……こうしてネギ先生と鈴音さん、私は女子寮の魔法球に移動しました。
そこでネギ先生にさっき話さなかった事を色々伝えました。
少し私達の事を話して、あれから何日経過して今がいつなのかから始まり、ネギ先生にとって重要な神楽坂さん達の状態、ネギ先生のご両親の事、それと火星と魔法世界の件についても説明をしておきました。
既に学校が始まってしまっていた上に、神楽坂さん達に元気が無い事を知ったネギ先生は会いに行きたいと言い出しましたが、やっぱりこういう時はタイミングが大事だと思います。
それにネギ先生のご両親をイギリスからまた呼ばないといけないですからね。

「驚かせる……というのもアレだが、ネギ坊主、両親をイギリスから呼ぶからここで後2、3日過ごして貰えないかナ?こういう時、会う順番というのは大事だと思うネ」

鈴音さんが人差し指を立てながら片目を閉じてネギ先生に言いました。

「そう……ですね。僕一番最初にアスナさんに会いたいですけど……あの時話す事もできなかった父さんと母さんにも……同じぐらい会いたいです。できれば3人一緒に会えると……嬉しいです。勿論マスターやこのかさん達、皆にも会いたいです」

「ふむ、ならば決まりだナ」

「……ふふ、決まりですね」

「あはは、こういうの少し不思議な感じがします。なんだかこうして今ここにいるのが……夢みたいです」

「夢ではないヨ、ネギ坊主。ネギ坊主はまだまだこれからネ」

「ネギ先生の事、これから毎日が待ってますよ」

「……ありがとうっ……ございますっ……」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

……地球の暦で2003年9月も後半に入ろうかという、ある日の平日、気温も夏が終わり少し肌寒くなり始めた頃であった。
世界樹前広場は平日にも関わらずいまだ人々で溢れかえっていたが、その裏手に広がる人気の無い草原の古い石柱が数本立ち並ぶ所に2つの人の姿があった。

「エヴァンジェリンさん……どうして急にここへ?」

「ここに集まれ……と言われてな」

「……誰に?」

「それは……きっと誰でもいいだろうさ」

「何それ……エヴァンジェリンさん変よ?」

エヴァンジェリンによって突然その場に連れてこられたアスナだったが、疑問に思った事を聞いてもまともに取り合わないエヴァンジェリンを不思議に思い首をかしげた。
……そこに更に遠くから4人の人物が遅れて現れた。

「おーい!アスナ!エヴァ!来たぜ!」

右手を振りながら2人に大声で呼びかけたその人物はナギ・スプリングフィールドであった。

「ナギ、アリカ、アーニャちゃんにネカネさん!」

「ナギ達も来たか」

「呼んだのってもしかしてナギだったの?」

「いや……違うさ。ナギ達も呼ばれたんだよ」

緩やかな起伏のある草原をゆっくり遠くから歩いて4人は2人の元へと辿りついた。

「アスナ、エヴァ、ウェールズからまた戻ってきたぜ」

「アスナ、エヴァンジェリン殿しばらく振りであったな」

「アスナさん、エヴァンジェリンさん……お久しぶりです」

「…………アスナ……エヴァンジェリンさん……お久しぶり……です」

ネカネとアーニャの様子は酷く落ち込んでおり、疲れが見受けられる。

「ナギ、アリカ、ネカネさん、アーニャちゃん……久しぶり」

「しばらく振りだな」

「……親父とも会って話しをしてきたし故郷も色々回ってきた。大分経っちまってるけど……日取りも近いうちに……しないとな」

「日取り……そうよね……いつかはしないと駄目よね……」

沈んだ雰囲気で交わされる会話。

「まさかあのネギが……魔法世界に行ったきりになってしまうなんて……あれほど危険だと止めたのに……あの時止めれば……止めていればっ……」

「ネカネ……主のせいでは無い」

「アリカお姉様!どうして……どうしてアリカお姉様とナギは帰ってきて下さったのにネギがっ……ネギがっ……」

ネカネはネギ達がウェールズから魔法世界へと旅だった日の事を思い出し、既に何度目かという涙を再び流し、アリカに抱きしめられたまま言葉を紡ぐ。

「………………」

その様子を横目にアーニャは下を向いて完全に沈黙していた。

「あー……元々戻って来る予定だったけどよ、何で俺達また急に麻帆良に来いって呼ばれたんだ?ここのじじぃから親父にそう連絡が来たから来たんだが……じじぃに会ってみればじじぃの奴全然説明もしないでここに行けって言ってよ。来てみればアスナとエヴァがいたんだが」

空気を切り替えようとナギが尋ねる。

「呼んだのはじじぃでもないから……だろうよ」

「は?どういう事だ?」

「さっきから……どういう事なの?エヴァンジェリンさん」

「ようやくか……。ネカネ、泣くのを止めて落ち着け、顔を上げろ」

エヴァンジェリンは何かに勘づいたかのように一つ息をつき言った。

「エヴァンジェリン殿……それは……」

「エヴァンジェリン……さん?」

泣いているのを止めて顔を上げろと突然言うエヴァンジェリンにアリカが怪訝な顔をし、ネカネは呼ばれた事で顔だけは上げた。

「ほら……あっちを見てみろ」

エヴァンジェリンはナギ達が現れた方向とはまた違う方向を見るように5人を促した。
そこには2人の人影があったが、その両方ともフードを深く被っており、その顔は分からなかった。
遠目にははっきりとは分からなかったが片方はアスナと同程度、もう一人はアーニャより少しばかり高いかという背丈であった。

「え……だ……れ……?」

その2人の人影はゆっくりとその歩みを進め、アスナ達の元へと一直線に近づいて来る。
はっきりと肉眼でその姿を捉えられるか……という程近づいた時、背の高い方の人物が先にフードを取って正体を見せた。

「超……さん……?」

「超の嬢ちゃん……」

超鈴音は穏やかにアスナ達に微笑みかけ、隣の小柄な人物の背中を軽くその左手で押し出した。

「……ま……まさか……?」

その小柄な人物は超鈴音に背中を押し出されると共に下を向いて顔を隠しながらも小走りになり、その足は一直線にアスナへと向かい出した。
それに釣られるようにアスナも一歩、二歩と足を踏み出し始め、その両手をゆっくりと腰の高さ程に上げ広げた。
……あと、少し大きくふみ出せば届く、そんな距離に近づいた時であった。

「アスナさ―――んっ!!!」

小柄な人物は不意に頭を上げた勢いでそのフードが取れ、その顔を顕にした。
その人物は。

「ね……ネギ――っ!!」

アスナがその名を呼ぶと同時にネギはアスナに飛びつき、アスナはそれをしっかりと抱きとめた。

「ネギ?」  「ね……ネギ?」  「ネ……ギ?」  「な……何で」  「フ……」

ナギ達はその人物の顔がはっきり見えなかったがアスナがその名を呼んだ事に思わず反応し、おずおずと歩みを進める。

「ネギ!ネギ!ネギなのね?ネギ……なのねっ……?」

「はい……アスナさん、間違いなく、僕です」

アスナは涙を流しながら胸に抱きしめていたネギの頬あたりに両手を移し、少しだけ引き離してその顔をよく確かめる。

「間違いなく、ネギ坊主だヨ。保証するネ、明日菜サン」

遅れて到着した超鈴音もネギの言葉を肯定し、アスナに向けて言う。

「あ……あ……本当なのねっ……本当なのねっ」

「本当ですよっ……アスナさんっ……」

涙を流していたアスナに釣られるようにネギもようやく再会できた感動で目に涙を浮かべて答える。

「うわぁぁん!!……もうっ……勝手に行っちゃ……駄目よっ……」

とうとう我慢できず、アスナはネギを再度強烈に抱きしめそのまま草原に倒れこみそのまま転げる。

「く……苦しいです……アスナさん」

「これぐらい全然……平気でしょっ……どれだけ……どれだけ心配したと……」

アスナはネギを放さないとばかりにきつく抱きしめる。

「……ごめんなさい、アスナさん……ただいま戻りました……」

「おかえりっ……なさい、ネギっ!」

草原でゴロゴロしながら2人の世界に入ってしまっている所に、残りの面々はすぐ近くでソワソワしていた。
……そして落ち着いたのか、アスナはネギから離れその手を取って立ち上がらせた。

「あぁっ!本当にネギなのねっ!」

「ネカネお姉ちゃ!」

「ネギ!ネギ!」

瞬間、誰もが驚く勢いでネカネがネギに飛びつき再びネギは草原に押し倒されまた再び。
アスナとネギで交わされたのとほぼ似たようなやりとりが再び繰り返され、また、ネギとネカネは立ち上がった。
そんなネギの視界にようやく入ったのはナギとアリカであった。

「ね……ネギなのじゃな?」

「よぉ……お前がネギなんだな?」

「はい……僕がネギです。母さん、父さん」

アリカとナギの2人は少し屈み、揃って手をネギに伸ばしその頬に、そっと触れた。

「もっと……よく、顔を見せてくれるか?」

「はいっ……」

おずおずとしながらもアリカはネギが答える前にしゃがんで自身の顔をネギの目の前へと近づけた。

「真に……ネギなのじゃなっ……会えて……会えて良かったっ……良かったっ……」

心の底から目の前にいる人物がネギであるのを理解したアリカは膝を草原につけ、ゆっくりとそのままネギを抱きよせた。

「母さんっ……母さんっ……僕もですっ……」

ネギも目に涙を浮かべ母を呼ぶ。

「ネギ……」

その2人に加わるようにナギはネギの頭に右手を乗せながら2人まとめて抱きしめた。

「父さんっ…………」

「ネギっ……」  「ネギ……」

……しばらく時間が止まったか……のようであったが、そんな場に秋を知らせる風がそっと吹きつけた。
それを合図とするかのように、ナギとアリカはネギからそっと、離れた。
……そして次にネギの目の前に立ったのはエヴァンジェリンであった。

「……ぼーや、帰りが少し遅いぞ。心配しただろうに」

「マスター……遅くなってすいません……。ただいま戻りました」

「ああ、おかえり。よく、頑張ったな。……ネギ」

エヴァンジェリンはネギの頭に手を置き優しく撫で、そっと抱きしめた。

「マスター……」

「そうだよ……ネギぼーや」

ネギはその名を呼ばれた事にすぐ色々な思いを馳せ……その意味を理解した。
……そして次にネギの目の前に立ったのはアーニャであった。

「………………」

「アーニャ……」

アーニャは何と言っていいか分からず、どうしていいかも分からず、ネギの前に立ち尽くしたままであったが、小刻みに震えながらその顔は涙で酷い顔になっており、ネギにはどれだけ心配をかけたのかを悟らせるには充分すぎる程であった。

「アーニャ……ただいま」

「……お……遅いのよっ……馬鹿ネギっ!」

アーニャが頑張って搾り出した言葉は、馬鹿ネギ……であった。
その場の6人と再会を終え、ある程度落ち着いた所、突然どうしたのかアスナは再びネギの身体をあちこち触り始めた。

「あ、アスナさん、くすぐったいですよ」

その触りかたが何かを確かめるようでネギはくすぐったがる。

「だ……だって本当なのは分かったけど何か夢みたいで……触ってないと落ち着かないのよ……」

「私も……良いか?……アスナ?」

「うん」

「か、母さん?」

アスナを羨ましく思ったのかアリカは、アスナに了解を得てネギに触れるのに加わり始めた。

「で……どういう事なんだ?超の嬢ちゃん」

そんな奇行に及んでいる3人を傍目に見ながら、ようやく気になった事をナギは超鈴音に問うた。

「どういう事、と言われても、ネギ坊主は戻てきた。ただ、それだけネ。それ以外に何か必要かナ?気になるのは分かるが、それは野暮だと思うヨ」

「あー……ま、そうだな。じゃ、俺も混ぜろっ!」

ポリポリと頬を掻いたナギは、納得はしなかったもののすぐにカラリとした表情になり、3人の戯れに自身も飛び込んだ。

「と、父さん!?」

……草原で楽しそうに声を上げながらゴロゴロ転げ回る4人の姿は……。
それは間違いなく誰が見ても、家族……と答えるであろう、そんな、姿であった。

「……おや、ようやく団体が来たようだネ」

そんな所へ、世界樹広場の方角からもの凄い音を立てて走ってくる一団が現れた。

「ネギくーん!!」  「わ、私が一番乗りですわ!」  「済まぬが拙者が先でござる、ニン!」

  「俺が先やで楓姉ちゃん!」  「あ、2人共抜け駆けは!」  「私が一番アル!」  「陸上部舐めんな!」

「せっちゃん待って~!」  「やれやれ、騒がしいものだな」  「のどか、行くです!」  「うん、ゆえ!」

「あのネギ先生が戻っていらしたとか!」  「はい、お姉様!」

「ネギ君が帰ってきたんだって?」  「そうらしいよー!」

「ネギ君が帰ってきたと聞いたら事情を聞きに行かないわけにはいかないねっ!」

「何で私まで走ってんだ……」  「いいじゃないですか、楽しくて!」

「そういう問題かよ。ま、いいけどよ」

草原を駆け抜けるのは佐々木まき絵と雪広あやかを先頭にした主に3-Aの一団であったが……そこから異常な速度で抜け駆けをする者達が続々現れ、てんやわんやの騒ぎになった。

「コタロー!楓さん!刹那さん!くーふぇさん!のどかさん!夕映さん!春日さん!龍宮さん!高音さん!佐倉さん!……皆さんっ!!」

転がった状態からネギはその集団を目にし、それぞれの名を心の底から呼び……。
そして、心待ちにしていた皆と無事再会を果たす事が……できたのだった。


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