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[22023] 黒歴史
Name: 小話◆be027227 ID:8fbdcd62
Date: 2010/12/22 19:31
チラ裏でも恥ずかしい黒歴史を曝してみる。
そのうち改訂版、書ければ良いなあ。
何かあれば消します。


勇者王ガオガイガー DESTINY

予告

君達に最新情報を公開しよう
三重連太陽系にてソール11遊星主を辛くも打ち破ったGGG
しかし、パスキューマシンを失い収縮を続ける宇宙から脱出する術は無い
この最大の危機に彼らの勇気はどう立ち向かうのか
新番組 勇者王ガオガイガー DESTINY
第1話 『脱出 三重連太陽系』 にFINAL FUSION承認
これが勝利の鍵だ 《ブラックホール&ホワイトホール》



[22023] 第1話 脱出 三重連太陽系
Name: 小話◆be027227 ID:8fbdcd62
Date: 2010/09/20 10:32

西暦2007年。機界文明《ゾンダー》との戦いに勝利してから2年後、新たなる敵《ソール11遊星主》が現れる。
三重連太陽系の守護プログラムとして造られた彼らは、当時地球上から相次いで発見された《Qパーツ》を強奪し三重連太陽系の復活を目指す。
しかし、その原料は地球が存在する宇宙の暗黒物質であった。
宇宙を構成するこの物質を吸い上げられたことにより始まった宇宙収縮現象を止めるべく、ガッツィー・ギャラクシー・ガード(Gutsy Galaxy Guard)通称GGGはシャッセールのルネ・カーディフ・獅子王を始めとする新たな仲間を加え、再生された三重連太陽系を目指したのであった。
復活した三重連太陽系のレプリ地球においてソール11遊星主と戦った勇者王ガオガイガーと最強勇者ロボ軍団であったが、ピサソールが持つ無限再生の力にかつて無い窮地に立たされるも凄絶弩級ツール<ゴルディオン・クラッシャー>により辛くも勝利した。
しかしパスキューマシンの本体であるピサソールを失った事で再生された三重連太陽系は収縮を開始。
確実に脱出する方法はESウィンドウを使用する空間転移しかないが、激闘を潜り抜けたGGGには僅かに残ったES爆雷で小さなESウィンドウを開くのが精一杯であった。
その為に幼い子供でありGGGの勇気を受け継ぐ天海護と戒道幾巳の二人を地球に向けて送り出したのだった。

しかし、彼らはこの空間からの脱出を決して諦めてはいない、そう彼らの辞書には不可能や諦観という文字は存在しないのだ。
その最後の一瞬、いや死した後でも彼らの勇気を挫くことなど出来はしない。
世界十大頭脳たる獅子王雷牙博士を初めとする、GGG科学班のメンバーは情報の分析を開始、そして遂にこの宇宙から脱出するための一つの回答を得たのであった。
GGGメンバー全員の注目の中、長官大河幸太郎より口火が切られた。

「諸君、我々は今未曾有の危機に晒されている。しかし雷牙博士達の懸命の調査の結果、脱出方法が判明した。では博士、説明をお願いする」

長官より説明を促された世界十大頭脳の一人であり、GGG科学部の誇るスーパーバイザーでもある獅子王雷牙博士が神妙な顔で語り始めた。

「うむ、まずはこの宇宙収縮現象はこの宇宙の中心に向かって空間そのものが縮んでいっておるのはみんなも知っておる通りだ、そして最終的には消滅するのだがその一瞬前にブラックホール化することが判明した」
「ブラックホールだとぉ、まずいじゃねえか」

ブラックホールと聞き参謀である火麻激が、その筋肉質で大柄な体格には似合わない頓狂な声を上げた。

「うむ、しかし今の場合はそれこそが肝心なんじゃよ、普通ブラックホールと聞いて何を思いつくかね?参謀」

雷牙博士の質問の意図が判らないものの火麻参謀は手をあご先にあて、首を傾げつつも口を開いた。

「あん、そうだなぁ光も逃がさない超重力とか、吸い込まれたら終わりだ、とかか」
「ふむ、大体そんなもんだろう、ではホワイトホールというものについては知っておるかね」
「たしか、ブラックホールに吸い込まれたものが出てくる穴がホワイトホールって、まさか!」

今回はなにかに思い当たったらしく驚きと同時に目を剥くが、すぐに理解を示す。
彼はその言動から誤解されがちだがGGGにおいて作戦参謀の立場にあるのは伊達ではないのだ。

「そう、そのまさかじゃ、我々はホワイトホールを通って脱出を試みるという訳だ」

その答えを聞いた全員が長官に注目した。最終的な決定権は彼にある。
視線が向けられたことに気づいた大河長官は力強く語った。

「しかし、現状それしか脱出の手段が無い以上は、なんとしてでもやらなければならん」

その言葉を受けた猿頭寺耕助が、この戦いの中で命を落とした恋人パピヨン・ノワールの形見である可愛らしいリボンをつけた頭を掻きながら説明を始める。
その頬には涙の後が残っていたが、語る言葉に淀みは無い。彼もまた悲しみを力に変えられる男なのだ。

「では、作戦の詳細について説明します。さきほど博士がいった通り我々はホワイトホールを使って脱出を試みる訳ですが、その入口となるブラックホールが発生する頃には次元境界線の崩壊と重力圧で全滅します。
そこで耐えられるギリギリまで収縮現象を観測し限界を迎えたところで、最後の一押しを<ガトリング・ドライバー>の空間圧縮機能を使い超弦圧縮を行い、人工的にブラックホールを発生させます。」

金髪碧眼の青年スタリオン・ホワイトがその後を次ぎ説明を続ける。

「計算上、作り出せるBlack holeの直径は4m~5mでしかアリマセーン。そこで<ディバイディング・ドライバー>を使用して直径の拡大と固定、更にWhite holeへの接続を行いマース」

最後はもう一度、雷牙博士が引き取り話を終えた。

「以上の方法で擬似的なESウィンドウを作るっちゅー乱暴極まりない手じゃな、しかも座標の指定も出来ん以上は何処に飛ばされるかもわからん。
まあ、この宇宙を支えとった暗黒物質はわしらの世界から流入しておったからこちらから暗黒物質が流出するのも暗黒物質が減少しておる世界の公算が高いと言う予測はある。どちらにしろ分の悪い賭けではあるがの」
「分が悪いという事ですが、どの位悪いんでしょうか?」

質問を出したのはメカニックオペレーターの牛山一男だ、腹が決まってしまえば頼りになる男だが少々気弱な面があるために聞いてみたいようだ。質問をされた博士は殊更に軽い調子で答えた。

「成功確率は約7%、成功したとして、更に元の世界へと無事に帰還できる確率は~そうだな30いや20%といった所か」

幸太郎は深く頷くと全員に聞こえるように静かに語りだす。

「今、博士から聞いた通りこの作戦は非常に困難なものとなるだろう、私としてももっと確実な方法があれば良いとは思う。しかし我々には時間が残されておらず、他の方策を採りうる状況に無い、だが我々はこのような困難に幾度も勝利してきた。
今回もまた皆の知恵と勇気を結集すれば必ずやこの状況を打破し元の世界へと帰れると信じている。では、以後本作戦をオペレーション・アリアドネと呼称する」

一旦言葉を切った長官は一息ついて両目を見開くとオーケストラの指揮者よろしく右腕を振り、腹の底から開始の号令をかけた。

「オペレーション・アリアドネ、承認!」

こうなればGGG隊員には一切の迷いは無い、作戦の遂行に全精力を傾けるのが隊員としての矜持なのだ。
ハンガーでは牛山が整備班に激を飛ばしながら額に汗を流し、雷牙博士、猿頭寺、スタリオンは更に解析を進め0.1%でも成功確率を高めんと計算を繰り返す。
そんな最中に凱は自分の最愛の人である、卯都木命の元に居た。
彼女は先の戦いの最中、凱の窮地を救うべくジェネシックマシンの封印を解く為に宇宙空間へとその身を踊らせたのだ。
ゾンダーとの戦いにおいてセミ・エヴォリュダーへと進化していた彼女は幸いにも一命を取り留めてはいたものの未だに意識は回復していなかった、そんな彼女の髪を優しく撫でながら語りかけていた。

「命、俺たちは必ずこの空間から脱出してみせる。だからお前も頑張ってくれ」

凱が救命室から出てくると扉の脇に緑の鎧を着込み、その左腕に赤く輝く宝石Jジュエルを持つ男、キングジェイダーを駆る凱最大のライバルたるソルダートJ002、赤き星のソルダート師団でも最強の名を受けた漢が壁に寄かかって立っていた。
この男がこんな場所に居るのも珍しいが、その鎧は彼方此方が破壊されている。怪我の手当てにでも来たのかとそのまま離れようとしたとき、Jから話しかけてきた。

「作戦内容は聞いた、ガトリング・ドライバーを私に寄越せ。私の疾さならば刻一刻と変化する超弦重力核を確実に捉えることが出来る、そのあと貴様は私が作り出したブラックホールに向かって来れば良い」

その申し出に少なからず驚く凱、この孤高の戦士が協力を申し出てくるのは非常に珍しいのだ、なにやらルネとあったようだがその影響かもしれない。
なんとなく二人が並んでいるところを想像して吹き出しそうになったが寸出でこらえ、笑みを浮かべて答えた。

「ああ、その申し出ありがたく受けさせてもらう」

Jとの共闘を全員に話すと共闘自体は受け入れらたが、オペレーターであるスワン・ホワイト とから質問が出た。

「デモ、そうなるとJアークの操縦はどうするのですカ?」

たしかにジェイアーク級超弩級戦艦には生体メインコンピュータであるトモロ0117が搭載されており、通常状態での航行ならばなんら支障は無い。
しかしながら今回はジェイアーク自体かなりの損傷を受けているばかりかジェイダーが分離してはパワー不足に陥り活動不能になる恐れすらあるが、その指摘にJは返答した

「それならば問題は無い、トモロ、ジェイアークの指揮権限を一時的にルネへと移す。それと同時にパワーリンクを私のJジュエルからルネのGストーンへと移行しろ」
「了解、搭乗者にルネ・カーディフ・獅子王を登録、指揮権限の一時委譲及びパワーリンクの変更を確認、これより本艦の航行はルネ・カーディフ・獅子王に委託されます」

これは通常なら不可能なことである、いかにJジュエルがGストーンを基に作られているとはいえ、その技術は赤の星のものである。
当然のことだが、同じ赤の星の技術で建造されたJアークはGストーンに対応するようには作られていない。
しかし、先のピア・デケムとの戦いにおいてルネのGストーンはJのJジュエルと共鳴したのだ。
これは青の星(地球)でGストーンを分割した際にルネが持つGストーンの固有振動数がJのJジュエルの固有振動数に類似した極めて珍しい例であり、更にあの戦いの最中でJとルネの二人の魂が起こした奇跡でもある。

「よろしく頼むよ、トモロ」
「こちらこそ、獅子の女王<リオン・レーヌ>」

これですべての準備は整った。
巨大戦艦Jアークの船先にジェネシック・ガオガイガーそしてJアークより分離したジェイダーが並んでいる。その姿は2体共に満身創痍だ。
しかしその身に宿る勇気に陰りは無い、準備の整ったツールを装着しようと動き出した時にガオガイガーの隣に並んだジェイダーから通信が入ってきた。
この期に及んで怖気づくなど有り得ない、一瞬の沈黙の後Jは決然と語りかけて来た。

「貴様との結着はまだ着いていないのだからな、こんな所で留まっている訳にはいかん」

あまりに不敵な、すでにこの作戦は成功したとでも言うような口ぶりである。対する凱も同様の笑みを浮かべて答えた。

「ああ、その為にも必ず成功させる、いくぞJ!」
「応っ!」

そこに雷牙博士から通信が入る。

「よいかJ、ブラックホールを作る為に必要な超弦重力核は複数が、この空間を楕円軌道で飛び回っておる。しかしガトリング・ドライバーでブラックホールを作る為には最低でも8個の超弦重力核を同時に起動せねばならん。」

通信ともにジェイダーにポイント座標と時間の情報が転送されてきた。
情報によると8個の超弦重力核が重なるのは64分の1秒間である、まさに刹那の瞬間だ。

「承知」

続いて凱に向かって

「そして凱、ガトリング・ドライバーでブラックホールを制御していられる時間は13秒じゃ、その時間内でディバイディング・ドライバーを使ってホワイトホールへの扉を開かなければならん。出来なければブラックホールは暴走して僕等は一巻の終わりと言う訳だ」

この超演算は超進化人類・エヴォリュダーとなった凱にのみ可能な離れ業だ。

「了解」

そして遂にGGG長官、大河幸太郎の言葉と共にその瞬間が訪れた。

「オペレーション・アリアドネ、発動!」

同時にGGG研究開発部オペレーターであるスワン・ホワイトのカウントダウンが始まる。
力強い言葉と共に二人の勇者が宇宙を翔る。

「クラッッシャー」
「プラズマ」
「「コネクトォ!」」

それぞれの左腕にツールを装着した2体の巨人、まずはガトリング・ドライバーを持つジェイダーがブラックホールを作る為に飛び立った。

「ガトリング・ドライバー!」

虚空へと突き出しガトリング・ドライバーを作動させるJ、一瞬の沈黙の後ツールヘッド部に重力湾曲が発生する、この瞬間にJは実は12個の超弦重力核を同時に捉えていたのだ。
これは264分の1秒という瞬間を見切った神業中の神業であった。

「輝け、我がJジュエルよ!」

傷ついた機体のあちこちから小爆発が起こすのも構わずに全ての力をガトリング・ドライバーに集中させ12の超弦重力核を圧縮し始めると、ついに直径5m程のブラックホールが出現した。
僅かに遅れて飛び立っていたガオガイガーはジェイダーがブラックホールを出現させた直後にディバイディング・ドライバーを突き刺した。

「ディバイディング・ドライバー!」

凱はブラックホールに突き刺したディバイディング・ドライバーによって、直径を50m程に拡大した黒穴に向かって更にディバイディングフィールドとアレスティングフィールドを展開させホワイトホールへと直結させる作業を行なっていた。
しかしその時スタリオンの悲鳴が響き渡った。

「No―、空間が消滅を始めました。我々が脱出の為に作ったBlack hole が原因と思われマース。完全消滅まで後37秒デース」

報告を受けたその瞬間、ブラックホールの向こう側に宇宙が見えた。
ホワイトホールとの接続が成ったのだ。
直後に全員から歓声が上がるがまだ脱出に成功したわけではない。
長官から即座に指示が飛ぶ。

「よし、Jアーク、発艦!」
「全速前進だ、振り落とされんようにどっかに捕まってろぉ!」
「Gパワー全開!トモロ、オーバーロードしても構わないから臨界まで回せ!」
「了解、ウイィィィィ!」

全速で脱出口に向かうJアークだが、傷ついたままではその速度にも限界がある。
事実、スワンの口から無情な叫びが上がる。

「だめデース、このままでは脱出する前に消滅に巻き込まれマース!」
「万事休すか!」

Jアークは全速で進行しているが、わずかに速度が足りない。このままでは間に合わないと思われたその時、ガクンという衝撃があったのち急に速度が上がった。

「なんだ、急に速度が上がった?」
「みんな、外を見てください!」

牛山に言われて外をみた者は全員が息を呑んだ。
それは傷つき、ボロボロな姿でJアークに取り付き必死にバーニアスラスターを噴かす勇者ロボ達であった。

「こんな私たちにだって出来ることは有ります」
「補助ブースターの代わりぐらいは」
「勤めて見せるぜ」
「たとえこの身が砕けようとも」
「皆さんは脱出させます」
「なぜならあたしたちは」
「勇者だから」
「マイク、バリバリーンが無いから役立たずダモンネー」
「チクショウ、おれにも身体があればなぁ」

勇者ロボの決死の努力により速度を増すJアークが遂にブッラクホールの中に飛び込んだ瞬間、ガオガイガーとジェイダーに装着されていた2つのドライバーが限界を迎えて爆散した。
衝撃で弾き飛ばされる両機、このままでは崩壊する宇宙に取り残されるかと思われたその時マイクの腕がそれぞれの腕を捕まえた。

「大丈夫二人とも、マイクこの手は絶対に離さないモンネー」
「助かったぜマイク」
「すまん、恩にきる」

ディバイディング・ドライバーを失ったことでいつこのディバイディングフィールドが崩壊するか予想が付かない状況の中でブラックホール内を突き進むGGG一行であったが遂に出口にたどり着く。

「「やったあ!」」

しかし全員が喜びに沸いた瞬間、空間維持が出来なくなったディバイディングフィールドが崩壊しブラックホールの重力圧が襲い掛かる。

「「うわあぁぁぁぁ!」」

これまでの戦いで傷ついていたマイクの腕がこの圧力に耐えきれずに千切れ飛ぶ、更に間が悪いことに此処まで酷使し続けたJアークのエンジンが限界を向かえて爆発をおこしてしまったのだ、衝撃で吹き飛ばされるガオガイガー、ジェイダーそしてJアーク。
凱が最後に見た光景は吹き飛ばされながらも出口へと吸い込まれてゆく仲間の姿だった。
凱がうっすらと意識を取り戻した場所は何処とも知れない宇宙空間であったが、目の前に見えるのは紛れも無い地球である。

「俺は帰って来たのか、命、みんな」

そこで凱は再び意識を失った、少し後に宇宙を漂うガオガイガーに近づく影がある。
それは鮮やかなトリコロールカラーをした一機の機動兵器であった。



君達に最新情報を公開しよう
収縮する三重連太陽系からの脱出に成功したガオガイガーとGGGであったが、その衝撃により別の場所へと飛ばされてしまう
謎の戦艦に救助された凱
彼らはいったい何者なのか?
次回 勇者王ガオガイガー DESTINY
第2話 異なる世界 にFINAL FUSION承認
これが勝利の鍵だ ZGMF-X56Sインパルス



[22023] 第2話 異なる世界
Name: 小話◆be027227 ID:8fbdcd62
Date: 2010/09/20 10:34
 
C.E(コズミック・イラ)73年
コペルニクスの惨劇から始まったプラントと地中連合の大戦よりヤキン・ドゥーエの戦いにて停戦を迎えて、2年が経ち世界は一応の平和を迎えていた。
しかしコーディネイター国家であるプラント、その軍事工廠があるアーモリー1でセカンドシリーズの新型試作MS(モビルスーツ)3機が何者かによって奪取される事件が発生する。
視察に訪れていたプラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルは明日に進水式を迎える筈であった戦艦ミネルバに議長自身も同乗した上で追撃を指示、現在作戦行動中である。
ミネルバが追撃対象である所属不明の戦闘艦(コードネーム=ボギー1)を追跡中、ブリッジオペレーターであるメイリン・ホークより奇妙な報告がもたらされた。
前大戦時に使用されたNJ(ニュートロンジャマー)の影響で支障があるとはいえ観測機器に異常が見られたという物であった。
「それはどういうことかしら」
艦長であるタリア・グラディスの質問に対してメイリンはたどたどしくもあるが報告を続ける。
「ハ、ハイ つまり全ての探査数値が一瞬マイナスを示した箇所が在ります。通常このような反応は在り得ませんので、もしかしたら」
如何に最新鋭艦の専属オペレーターとして配属されたとはいえ、今期卒業の新兵であるメイリンは最後に言いよどんでしまったが何かあると言いたいのであろう。
この報告にタリアは逡巡した、全ての探査数値が一瞬とはいえマイナスを示す等隠蔽技術としては破格を誇るミラージュコロイドを以ってしても在り得ない。
あるとするならば機械の故障か新技術か、それともなにか未知の自然現象以外には無い。
しばし黙考したのち、この追撃戦を指示し同乗している人間に向かって問いかける。
「どう思われますか、議長」
話を振られたプラント最高評議会議長 ギルバート・デュランダルは遺伝子工学が専門とはいえ優秀な科学者でもある、なにかしらの助言でも得られるかと期待したのだが
「私は軍事に関しては素人だ、君の判断にまかせるよ。ただ気にはなるね」
との返答が帰ってきた、浅からぬ付き合いのある人間の性格くらいは解るこれは調査しろと言っている様な物だ。
タリアはそう判断して副長であるアーサー・トラインに指示を出す。
「分かりました、本艦はこれよりそのポイントの調査に向かいます。アーサー」
「はっ、ミネルバはこれよりポイント308を調査に向かう、転舵面舵13、仰角21機関最大、それとMS部隊は発進の準備を整えておけ」
タリアの指示を受けたアーサーが補足をつけて命令を下しミネルバは調査に向かった。

同時刻ミネルバにおいてボギー1と呼称された特務部隊ファントムペインの旗艦ガーティ・ルーの中でタリアと同様の報告を受けた部隊指揮官ネオ・ロアノーク大佐もまた同じ指示を下していた。
その指示に対して副官であるイアン・リーは確認を取る。
「よろしいのですか? ザフトから追撃も出ているでしょうし、一戦交える可能性もありますが、それに上の指示は襲撃後速やかに帰還せよとの事でしたが」
「ん、さてな妙に気になるんだ。こういう勘は馬鹿にならんのは分かるだろ」
確かに長く軍人などやっていれば勘というものが馬鹿に出来ない物なのは理解できる。
しかしここで危険を冒す価値があるかどうかは分からない。
ザフトの追撃部隊が調査に行ってくれればこちらは安全に離脱できるのだが、指揮官であるネオは危険を冒してでも正体を知りたいらしい。
ならば副官としてやるべき事をすればいい。
「了解です。艦回頭120度、ミラージュコロイド起動、全艦に戦闘態勢を発令」
「すまんな、それとあいつらの準備はどうだ」
「いまは安定している様ですね、問題ないと報告が来ています。使うお積もりですか?」
「自前のMS使ってこっちの正体晒す訳にもいかんだろ…さて何かなこのプレッシャーは」

先んじて当該宙域に到着したミネルバは調査の為にMSを発艦させた。
調査に出たシン達であったがまだ何も発見できずにいた。
「レイ、ルナなにか見つけたか?」
「いや、此方は何も無いな」
「こっちもよ、シンの方は?」
「こっちも何も、ん、10時方向に金属反応と熱源がある。先行するから合流してくれ」
「「了解」」
インパルスのスラスターを吹かせて移動した先でシンが発見したのは破壊されたMSのような機体であった、のようなと言う形容詞が付く理由はその機体の大きさが従来のMSより巨大であったからだ、インパルスの全高は18.41mであるがこの機体はその1.5倍の30m程は有る、また形状が独特であった、胸にはライオンの顔がレリーフされており、顔に鼻と口が有るのだ。
「何だこのMSは見たこと無いぞ」
外見から判断するとなにかしら激しい戦闘をした痕がある、動かないのを見て取ったシンはゆっくりと近づいて機体に触れると接触回線を開いた。
「おい、このMSのパイロット無事ですか? 無事なら返事をしてくれ」
何度か呼びかけてみるが応答は無い。
諦めて離れようとした時、胸のライオンの口が開いて中から人間が浮かび上がって来た。
「う、うわっ」
これに慌てたのはシンだ、咄嗟にインパルスの手の中にパイロットを収めると沈痛な表情を浮かべる。
「死んじゃってたのか」
なにしろ乗っていた人間はパイロットスーツどころかノーマルスーツすら身に着けていない上に傷だらけである。
しかも生身で宇宙空間に放り出されてしまった、シンがそう判断したのも無理は無い。
だが、ここでシンは計器の一つが反応していることに気が付いて驚愕した。
「この人、生命反応がある。生きてるのか!?」
このあとのシンの行動は素早かった、救助した人間をインパルスのコクピットに入れて踵を返しミネルバに向かう。
途中擦れ違ったレイとルナマリアに巨大MSの回収を頼んで全速で帰還した。

一方ガーティ・ルーでは望遠でミネルバの様子を確認していた。
「こりゃ出遅れたな」
「のようですな、如何しますか大佐」
イアンの問いに対してネオは
「船足はあっちのが早そうだし、此処まできて手ぶらってのもアレだろう。右の岩塊に罠を張って仕掛けるぞ」
そう指示を出すと自分も出撃の準備をするためにハンガーへ降りていった。

帰還したシンはパイロット控え室で先ほど見た信じられない事実に対して物思いに耽っていた。
そこに、巨大MSの回収を終えた、レイとルナマリアが戻って来て会話が始まる。
「お疲れ~シン、パイロットの人大丈夫だった?それにしても大きいMSよね。見た感じザフトじゃ無いみたいだし連合のかな」
「どうかな、連合の物とも系統が違うようだ。あんがいジャンク屋か傭兵ギルドの試作機かも知れん」
確かにMSも気にはなる、しかしあの光景はさらに衝撃的だった。シンは恐る恐る口を開いて問いかける。
「なあ二人とも、人間てさ生身で宇宙に出ても平気かな?」
あまりな質問に思わず顔を見合わせる二人、次に口から出た言葉はシンを気遣う物だった。
「大丈夫シン医務室行く? 付いてってあげようか」
「疲れているなら今日はもう休め、艦長には俺から言っておく」
そのような会話が交わされている頃、艦長であるタリア、副長アーサーそして議長デュランダルはメカニックチーフであるマッド・エイブスと船医のドクターから受けた報告を聞き困惑を顕にしていた。
「つまり彼は普通の人間ではなく、あのMSも我々の知らない未知の技術で作られているということね」
タリアの確認に対してまず答えたのはマッドである。
「はい、コクピットに入れないもんで簡単に調べたかぎりですが材質不明のうえに動力もバッテリーじゃなさそうでして、かといって核動力とも違います。構造については20mクラスのMSに外装パーツが付いてあの大きさになっていました」
構造の解析については格納庫に搬入すると自然に外装パーツが外れたのであってメカニックが何かしたわけではない。しかも、MSはライオンの形に外装パーツも鳥、魚、モグラに変形してしまった。
シンの報告でパイロットはライオンの口から出てきたと聞いたので調べようとしたが微動だにせず、開ける為のスイッチも見当たらない。
現状では打つ手無し、詳しく調べるなら本国に戻ってからというのが結論である。
続いてドクターが話し始める。
「パイロットの怪我は見た目より軽いものでしたので通常の治療を施して医務室に寝かせています。ただ彼の体のサンプルを調べたのですがちょっと信じられない事実が判りました」
たしかに彼は生身の人間なのだが、人間であると同時に機械でもあるのだと言う。
体の一部をサイバネティクスに変えたサイボーグなどでは無く、生身と機械が完全に融合した存在であるとの事であった。
「ふむ、あの機体にしろ彼の正体にしろ、結局のところ自身の口で語ってもらう以外無いと言うことだね」
その報告を受けたデュランダルは興味深げな顔を浮かべて見せた。

ちょうどそのころ凱は医務室のベッドで目を覚ました所であった。
「ここは? 俺はいったい?」
上半身を起こして体を見ると包帯が巻いてある、どうやら治療をして貰ったらしい。
ぐるりと辺りを見回すと見たことも無い部屋だ、ただ周りの様子と独特の臭気から医務室だろうと推測して誰か居ないか声を掛けてみるが返事が無い。
「まいったな、誰も居ないのか」
このままでは何も分からない、誰か捕まえて話を聞こうとベッドを下りようとしたときに丁度扉が開いて黒髪と金髪の少年と赤毛の少女が入ってきた。
これは幸いと話しかける凱。
「君達、ここは何処なのか教えてくれないか」
横手から声を掛けられて驚く三人、なにしろ医務室までの間散々この謎の人物について話しながら来たのだ。
まさかもう気が付いているとは思わなかった、絶句して立ち竦む三人を見た凱は驚かせたかと思い立ち上がって言葉を続ける。
「ああ、すまない。驚かせてしまったか、俺の名前は獅子王凱、GGGの隊員だ。」
前に立った凱の身長は2mに近いだろう長身である、シンよりも頭一つ分高い。
それでいて鈍重さを感じさせないのは鍛え抜かれた体と腰まで届く長い髪、そして何より強い意志を秘めたその眼差し故だろう。
気さくに話しかけてくる謎の人物、どうやらガイ・シシオウと言うらしい、名前からすると東アジアの一地方である日本かオーブの出身のようだ。
GGGという組織は知らないが、あんなMSを持つ以上は何らかの軍事組織なのだと見当をつける。返答には気をつける必要がありそうだ。
「シン、俺は艦長達にこの事を報告してくる。ここは頼んだぞ」
そう言ってレイは部屋から出ていってしまった、残された二人は当たり障りの無い事ならかまわないだろうと確認してから凱と話し始めた。
「えっと、俺いや自分はシン・アスカと言います、今出て行ったのがレイ・ザ・バレル、でこっちのが」
「ルナマリア・ホークです。ミスターシシオウで宜しいですか」
「堅苦しいのは苦手なんだ、凱で構わないよ」
「じゃあ凱さんで」
その後軽く挨拶を交わすと二人はここまでの経緯を話し始めた。
このミネルバはプラントのザフトに所属する軍艦であり、詳細は話せないが現在作戦行動中であること、その任務の途中で凱の乗っていたMSを発見し救助したことなどを簡単に説明する。
大人しく説明を聞いていた凱だが、聞き終わるとなにやら困惑した表情を浮かべている。
「あの、なにか解らない事でも有りますか機密に触れない程度になら質問にも答えますけど」
「ああ、幾つか解らない単語があるんだ。話からするとプラントは国、ザフトは軍隊みたいだけどそれにMSってなんだい?」
この台詞に驚愕する二人、およそどんな人間でもプラント、ザフトを知らないなど在りえない。しかも凱自身MSに乗っていたではないか、その事を指摘すると。
「ガオガイガーの事かい、あれは緑の星で作られたジェネシックメカノイドだよ。ガオファイガーなら地球製だけどね」
今度はシン達が頭を捻る、緑の星って何処だ?話からするとどうも地球では無いようだが火星は赤いし、木星はオレンジのような気がする、大体いまだに人類は木星より先に行ってはいない筈だ。
難しい顔をしている二人に対して、現状をより詳しく知りたいと考えた凱はコンピューターの端末からデータを調べてみようと質問する。
「すまない、コンピューターはあるかな。一寸調べてみたい」
「それなら机の上に端末が有りますけど」
凱は机まで近寄り画面に手を触れてシステムを起動させるとあっという間に情報を検索し始める。
この光景にシンとルナマリアはギョッとする、なにしろ凱は画面に手を触れているだけだ。
なんの操作もしていないのに画面には次々と情報がしかもとてもじゃないが読んでいるとは思えないスピードでスクロールしてゆく、ほんの3分程で作業を終えると腕を組んで右手を顎に当てると二人に向き直った。
凱が口を開こうとした瞬間、ミネルバの船体が激しく揺れ轟音が響いた。
衝撃で倒れかけたルナマリアを凱が受け止める。
「大丈夫か」
「は、ハイすみません」
ちょっと顔を赤らめたルナマリアはいそいそと凱から離れるとシンに向き直って叫んだ。
「シン! これって」
「ああ、敵襲かもしれないMSデッキへ急ぐぞ!」
飛び出す二人のあとを追って凱が廊下へ出たところにレイから連絡を受けて医務室に向かって来ていたタリア達と鉢合わせた。
凱を見つけたタリアは立ち止まりアーサーに先に艦橋に行く様に指示を出すと凱に向かって話しだす。
「あなたがミスターシシオウですね、私はタリア・グラディスこの船の艦長を務めています。お分かりかと思いますが本艦は戦闘状態になりました。
したがってあなたへの事情聴取は後に行いますので医務室で待っていて貰えるかしら」
これは軍艦に民間人が収容された場合は妥当な判断といえる、通常なら凱もこの指示に従うのだが今は少なくとも詳しい状況について聞きたい、出来れば艦橋に入らせて欲しい旨を伝える。
さすがにそれは聞き入れられないと押し問答になりそうなところでデュランダルから声がかかった。
「いいではないかタリア、彼もここに居るのは不安だろう。それに目の届く所に居てもらうのも悪くない」
後半は声を潜めての会話だが、確かに先ほどの報告の事もある。下手に一人にしておくよりはこちらも安心できるかもしれない。
「わかりました、議長の口添えで特例として許可します。では急いでついて来てちょうだい」
艦橋に到着した三人に(凱が居ることに驚いたが)状況を説明するアーサー。
敵は奪取されたセカンドシリーズ3機と機種不明のMA(モビルアーマー)1機、対してこちらはインパルスとザクを5機出撃させたがすでにザク1機がやられていた。
戦闘をみるに双方動きは悪くない特にインパルスと紅白のザクは相手のMSと互角に戦っているようだが紫のMAの動きは更に良い。
このMAが牽制に入るおかげで連係が上手く行っていない様だ。
そこにレーダー手からタリアに報告が入る。
「左方向の岩塊に感有り!ボギー1と確認しました」
左方向に見える資源衛星の残骸にボギー1が居る、MS戦ではこちらの不利を見て取ったタリアは逆転の手を打たんと新たな指示を出す。
「本艦はこれよりボギー1を直接叩きます、ヒットリーとショーンのザクを直援に戻して」
ここまでの戦闘の経緯を凱は黙って見ていた、ジレンマに悩んでいたといっても良い。
GGGはその活動をゾンダーの様な侵略者やバイオネットに代表される国際犯罪組織のような一国家では対処できない人類共通の脅威に対してのみ活動が認められている。
いかにここは凱が居た世界では無いとはいえ国家間の戦争行為に加担することは出来ない、それに戦争ならば相手は人間だ。
自分に人を殺すことが出来るのか?いや俺はすでに戦闘用のメタルサイボーグに改造されたとはいえ犯罪者達をその手にかけている。
それにはぐれた仲間達の安否も気にかかる、全員で帰る為にもここで黙って討たれる訳にはいかない。
暫しの逡巡と葛藤の末に凱はこの世界で戦うことを決意した。
「グラディス艦長、俺も出る!」
言うが早いか止める間も無く飛び出す凱、タリアが振り返った時にはもう姿は見えない、思わずデュランダルの方を向くと苦笑しながら肩をすくめていた。
MSデッキ前のエアロックから直接デッキに出るとハンガーに固定されたジェネシックマシンとギャレオンが居た、自身の半身ともいえる相棒に近づくと手を触れて様子を見る。
いかにギャレオンが緑の星でGクリスタルの力によってジェネシックギャレオンに生まれ変わったとはいえソール11遊星主との戦いで受けた傷は深刻だ。
このままでは戦うことはおろか満足に動くことも出来ない、凱は周りを見渡すと緑色のザクと呼ばれているMSを見つけた。
さっそく飛び移りコクピットに乗り込むとコンソールに手を触れシステムを起動させる。
エヴォリュダーの能力を以ってザクを完全に掌握すると機体を操り宇宙へと飛び出す、直援に戻ってきた2機のザクと擦れ違い戦場へと駆けつける。
戦況を見ると1機だけ動きの違う紫のMAがこちら側の3機を分断して各個撃破を狙っている様だ、踏ん張ってはいるが徐々に追い込まれている。
不利を見て取った凱はインパルスの後ろから襲い掛かるガイアを横から蹴り飛ばすとカオスの機動兵装ポッドを捕まえ、遠心力を加えて胸のカリドゥス複相ビーム砲を打つ寸前だったアビスの方向へぶん投げる。
「うおりゃあ!」
投げられた機動兵装ポッドはそのままアビスのカリドゥスに貫かれて爆発した、思わぬ増援に相手が態勢を立て直そうとするのを見た凱はシン達3人に向けて通信を開いた。
「一度態勢を立て直すぞ、シンお前の機体が一番機動力に優れている、中に入ってかき回せ。それからルナマリア、君の装備は射撃特化だ、後方に位置を取って狙撃に徹しろ。
それからレイだったな、動きを見ると君が一番視野が広い、二人の間に入って両方のフォローに回れ。
いいか連携を崩すなよ、それとあの厄介な紫の相手は俺に任せろ」
指示を出すとすぐさま紫のMAに向かって飛び出す凱、後に残された3機はいきなりの凱の出現と指示に戸惑う。
「なんで凱さんがここにいるのよ」
「そんなの分かるかよ、それよりどうする?」
「指示は的確だ、それにあのMAが居なければやり易い」
「じゃあ決まりだ。いくぞ!」
「「了解」」
凱に指示された通りのフォーメーションを組んでカオス達と対峙するシン達3人、3対3の状況でMSの性能はセカンドシリーズ3機の向こうが上だが腕はほぼ互角、後は戦ってみるだけだ。
まず、シンが吶喊する、中に入り込んだことで同士撃ちを警戒して動きの鈍る3機を無理に落としに行くのではなく牽制と分断に主眼を置いて動き回る。
この動きを援護するのはレイだ、インパルスの後ろに回り込もうとする敵機の邪魔をしながら連携から外れた機体を撃ち落そうと攻撃を仕掛ける。
仕上げはルナマリアだ、シンとレイによって孤立、あるいは動きの鈍った機体に遠距離から高エネルギービーム砲オルトロスを撃ちこむ、この威力なら多少外れた所でダメージは与えられる。
自分たちはザフトレッドだ。それにアカデミー時代からチームを組んで来たのだ、負ける訳が無い。いつしかシン達が優位に戦いを進めて始めていた。
そのころ凱はネオ・ロノークの操る紫のMAエグザスと戦っていた、スピードで勝るエグザスが撹乱しようと飛び回り、無線式のガンバレルと本体の2連装リニアガンで四方八方から攻撃を加えるが凱はその全ての攻撃を避けてしまう。
もっとも凱もフュージョンせずに戦うのはいかにシステムに直接介入しているとはいえ勝手が違う、未だに有効な攻撃を加えられずにいた。
「やるなあのMS、生半可な攻撃は通用せんか」
業を煮やしたネオがガンバレルのフィールドエッジ、ホーニッドムーンを展開しザクを両断しようと吶喊させてきたのを紙一重でかわして捕まえると瞬時にハッキングを開始、システムを掌握する。
「この武器のシステムは全て掌握した!」
凱が手を離すとガンバレルは猟犬の如くエグザムに襲い掛かる。
「なんだとぉ!?」
これには流石のネオも驚愕した、何をどうやったのか理解出来ないが自分の武器があっという間に奪われたのだ。
驚きながらもこれを他のガンバレルで撃ち落した瞬間の隙を狙って、凱は左肩のビームトマホークを引き抜いて切りかかる。
「ビィムトマホークゥ、でやあぁぁ!」
これを何とかかわしたネオは残りのガンバレルを呼び戻すと高速で離脱して状況を確認する、ステラたちは向こうの3機と交戦中だが押されているようだ。
大したダメージは無いようだがアビスにレイが撃ったファイヤビーミサイルが被弾した所だった。
こちらもガンバレルが封じられて決め手にかける、今はスピードで撹乱しているが相手が悪い。どうやらこの相手こそ自分が感じたプレッシャーの正体のようだ、正直何時まで持つか分からない。
だが相手の船はこちらの罠に嵌まってくれたようだ、もう少し持たせれば勝てるか?そこまで考えたときにイアンから通信が入った。
「申し訳ありません大佐、こちらは最後の詰めを誤りました。ダメージは与えましたが撃沈なりませんでした」
報告を受けたネオは舌打ちをすると矢継ぎ早に指示を出す。
「わかったガーティ・ルーは離脱しろ、こちらも合流する。お前ら引き上げるぞ」
「帰るのネオ?」
「まだ敵がいるってのに」
「せめて1機だけでも落とさせろ」
「だまれ! これは命令だ。そのうち再戦させてやる」
文句を言ってくるスティングとアウルを一喝して黙らせると3機を連れて戦場から離脱し始めた。
「待てっ!」
エヴォリュダーである凱は空間を飛び回る電波等を自分の耳で聞いて解析出来る、通信を聞いた凱が逃がしてなるかと追いかけようとしたその時ザクのバッテリー残量のアラームが鳴った。
システムを掌握した時にザクのエネルギーに限りがあるのは分かっていたのだが、いざ戦いになった時にはつい失念してしまっていた。
これは凱の単純なミスだが、今まで使っていたのは自分の勇気をエネルギーにするガオガイガーだ、責めるのは酷だろう。
「くっ」
追撃を諦めた凱の下にシン達が集ってくると何やかやと通信を送ってくるが今はミネルバの状況を確認するのが先だと伝える。
そこにタリアから通信が入ってきた。
「そこまでよ、各機ミネルバに帰還なさい。それとミスターシシオウ、彼方には聞きたい事のほかに言いたい事が出来ました。覚悟していただきます」
それを聞いた凱はしまったという顔をした後で苦笑を浮かべてから、丁度船体が見えてきたミネルバに向かって進路を取った。

君達に最新情報を公開しよう
からくもファントムペインの攻撃を退けたミネルバ隊と凱
その凱の元に宇宙コロニー<ユニウス7>が地球に落下中との情報が入る
ミネルバと共に落下を阻止しようとする凱の前に敵のMSが現れる
次回 勇者王ガオガイガー DESTINY
第3話 落ちる大地 にFINAL FUSION承認
これが勝利の鍵だ ZGMF-1000ザクウォーリア

実はエヴォリュダーの力を持つ凱にとって無線兵器は著しく不利だ、なぜならば凱は空間を飛び回る電波等を自分の耳で聞いて解析出来るのだ。
いかに量子通信といえども無線式で空間中に発信している限り、どう動くか、何時どんな攻撃をしてくるか凱には筒抜けなのだ。




[22023] 第3話 落ちる大地
Name: 小話◆be027227 ID:8fbdcd62
Date: 2010/09/20 10:35
ミネルバのMSデッキに帰還してザクのコクピットから飛び降りた凱は無数の視線が自分に集っているのを感じた。
急に現れて勝手にこの機体に乗って行ってしまったのだから当然メカニックとしては文句の一つも言いたいだろう。
そう考えた凱は整備主任であると思われる男のもとに歩いてゆくと謝る為に声をかけた。
「勝手にMSを持ち出してしまってすまない、ギャレオンはあの通りの状態だから許してもらえないだろうか」
声を掛けられたマッドはヘルメットのバイザーの奥にある目を白黒させ、口を開けたまましばらく呆然としていた。
いぶかしんだ凱がもう一度声を掛けるとようやく正気に戻ったのか口を開く、もっともそれはMSに関する事では無かった。
「あ、あんたノーマルスーツも無しで、なんで宇宙に居られるんだ?」
ここはMSデッキである、もちろん気密すれば生身で活動することは出来るが、今はレイとルナマリアのザクを収容する為にハッチが開放されている以上は宇宙空間と同じなのだ。
それなのに今目の前に居る男は医務室に備え付けの上着を着ているだけだ、もちろんヘルメットも付けていない。
凱本人は何を言われたのか解らなかったのか、ちょっと考えてようやく気が付いたのか胸の前で手を打った。
周りを見ると整備員達が呆然とした表情でこちらを見ていた。なるほど、さっきからの視線はそういう意味か。
これは凱のうっかりだった、自分やGGGの中では最早当たり前の事になっていたためについ何時も通りの行動を採ってしまっていた。
たしかに知らない人間から見れば信じられないだろうが、凱にとっては特に隠すような話でもないので素直に答える
「ああ、俺はエヴォリュダーだから、問題ない」
エヴォリュダーってなんだ? そう言えばドクターが彼は普通の人間じゃ無いとか話していたし、とにかく大丈夫らしい。
というか大丈夫じゃなければ今目の前で快活に笑ってはいないはずだ。気を取り直したマッドは気にしない事にした、現実逃避とも言う。
「とにかく、大丈夫なら艦橋に行って下せぇ議長と艦長が話があるってんで呼んでます。それとエアロックはちゃんと使って下さいよ」
「わかっている、そこまで間抜けじゃあない」
そう言ってエアロックの方に流れていく凱。
ちなみにその光景をザクのコクピットから見ていたレイとルナマリアは頭を抱えて悶絶していた。
「なんで? どうして? さっきシンが言ってたのこれの事?」
「俺も疲れているのかもしれん、今日は早く寝よう」

「獅子王凱、到着しました」
艦橋に到着した凱は出頭したこと艦長に告げると、そこにさっきまでは居なかった紺色の髪の青年と金髪の女性が増えているのに気が付いた、私服を着ているところを見ると二人とも艦のクルーでは無いのだろう。
気にはなったが部外者はこちらも同じだ、なにやら議長を睨んでいたかと思うと出て行った、なにかあったのかも知れない。
そんなことを考えていると艦長であるタリアから声が掛かる。
「ミスターシシオウ、助力には感謝します。ですが彼方が勝手に乗っていった機体は我がザフトのものです、その点はお忘れなき様に。
それと彼方に関する事情聴取ですが、問題が無ければすぐに行ないたいのだけれどよろしい?」
この申し出にはすぐに了承を伝える、どのような形にしろ話し合いの場が出来るのは良い事だ。
ここではこれ以上の会話は不味いと言う事なので場所を変えることとなり作戦会議室に移動することになった。
事情聴取に参加したのはデュランダル議長、グラディス艦長、マッド整備主任、ドクターに当事者である凱の5人である。
まず凱は自分が何者でどうしてこの世界に来たのかを話した。
ゾンダーとの戦いに始まり、バイオネットとの抗争、ソール11遊星主との決戦を経てこの宇宙に脱出して来た経緯を説明する。
一通りの話が終わると凱を除いた全員が難しい顔をしていた。
「信じられませんか?」
「いや君とあの機体、たしかガオガイガーだったね、が現実に存在する以上は信じざるを得ないだろう」
「そうね、嘘を吐くにしてもこんなコミックムービーの様な話はしないでしょうし」
責任者二人の言葉に残りの二人も賛意を示す。
多分に達観が含まれているようだがどうやら信じてくれたらしい事に胸を撫で下ろす凱に議長から質問が出された。
「それで凱君はこれからどうするつもりかな?」
この質問には、仲間を見つけ出し元の世界に帰還すると即答する。
「しかし現状何の情報も無いのだろう。どうだろうか君さえ良ければプラントに来ないかね? それにガオガイガーの修理も行おう、悪い話ではないと思うが」
寄る辺の無い現在はありがたい話だが、一国の指導者が善意からこの様な事を提案する訳は無い。
そのことを指摘すると議長は悪びれる様子も無く笑いながら答える。
「ハハハハ、確かにその通りだ。私はガオガイガーにそして君自身に興味がある。我々コーディネイターは自らを進化した人類と称しているが、実際のところは多少優れた遺伝特性を持って生まれるだけの人間に過ぎない」
この台詞を聞いた凱を除いた全員が驚く、それはプラントの一部では言われている事ではあるが議長たるデュランダルが言ってよい言葉ではあるまい。
「しかし君は違う、明らかに人類を超越した存在だ。どうだろうその力をプラントの為に使ってくれないか。
それにこう言っては何だが君はすでに我がザフトの機体で一度戦っている、今更躊躇する理由も無いと思うが」
さすがに痛いところ付いてくる、先ほどの戦闘に関しては自衛の為と言い逃れることも出来るだろうが、凱が自分で戦うことを決めたことに変わりない。
ただプラントという一国家の為だけに自分の力を使うことに抵抗があるのだ。
凱の沈黙を見て取ったデュランダルは更に言葉を続ける。
「ではこうしよう、まずプラントに来て貰いたい。そして我々と我々を取り巻く現状を知って欲しい、その上で答えを聞かせてくれるかな?」
まず難しい事を提案しておいて相手が考えると譲歩を示してみせる、実際は譲歩した条件が初めからの狙いという訳だ。
もちろん凱にもそれは分かっているのだが、いまの自分の状況ではこの提案を断る理由が無いのも事実だ。
「分かりました、その提案お受けします。ただプラントに協力するかは」
「うむ分かっている、まずは色々とこの世界のことを知ってから決めてくれたまえ」
こうして凱のプラント行きが決まった。
次は凱が質問をしたい旨を言い出す、もっとも医務室でデータを検索したため基本的な知識は得ているので、現在の状況やこれからの行動方針についての話となった。
議長と凱、それに同乗しているオーブの人間は別の艦でプラントに向かい、ミネルバは現在の任務であるアーモリー1襲撃犯を追撃するという事になった。
ついでにさっきの二人が気になったので誰かと尋ねると議長から説明された。
なんでもアーモリー1襲撃の際にミネルバに収容した非公式の会談に来ていたオーブ首長国の代表とその護衛との事であった。
先程の戦闘でミネルバが危機に陥った時にさっきのアスランと言う青年の機転で窮地を脱したらしい。
先程の態度も代表首長の護衛ということならわかる、多分そのようなVIPが乗っているのに戦闘になったことに抗議でもしに来たのだろう。
とりあえず話が落ち着いたので、ここからは雑談混じりの会話になった。
やはり凱の話はこの世界の住人からすると突拍子の無いものらしくずいぶんと驚かれた。
議長はGGGに興味を持ったらしく組織の理念や活動方針などを盛んに尋ねてきた、マッドはガオガイガーの事を聞きたがったし、ドクターは凱の能力が気になって仕方が無いらしい。
また凱も前の戦いの経緯などデータからは分からない情報を得ることが出来た、もっともプラント側から見た情報である事は頭に入れておく、比較対象が無い以上一方的な物の見方は危険だからだ。
小一時間ほど話し合いが過ぎた頃、副長のアーサーから緊急連絡が入った。
「か、艦長プラント本国より緊急入電ユニウスが、ユニウス7が地球に向けて落下を開始していると!」
報告を受けたタリア、デュランダル、凱の三人はすぐさま艦橋に到達すると状況の把握に努めようと情報の整理に掛かる。
「現状はどうなっているの」
「すでにプラント本国からメテオブレイカーを積んだ工作部隊がボルテールとルソーにて出発、近隣のザフト艦は支援の為に集結されたし、との事です」
タリアの問いにメイリンが声を震わせながらもきびきびと答える。
それを聞いたデュランダルはボギー1追撃の指令を取り消すと次の指示を出す。
「タリア、至急ユニウスへ向かってくれ。あんな物が落ちればエイプリル・フール・クライシスの二の舞だ、再び世界を争乱へ向かわせる訳にはいかん」
「わかっています、ミネルバ回頭、我々は至急ユニウス7破砕作業の支援に向かう」
こうしてミネルバはユニウス7破砕作業に向かうことになったのだが、凱は自分に湧き上がる戦いの予感に胸騒ぎを感じていた。
ミネルバが進路を変更して暫く過ぎた頃、与えられた一室でこの異変を知らされたオーブの代表カガリ・ユラ・アスハとアスラン・ザラはこれからの方針についてデュランダルと会話を交わしていた。
「これは如何いう事だか説明を願いたい。なぜ静止軌道にあったユニウス7が地球落下など起こす」
オーブは地球に存在する国であるこのままではどれほどの被害を受けるのか予想が付かないので心配なのだろう。議長に食い下がるカガリだがデュランダルは平静を保ったまま応答をする。
「ですから代表、先程から言っている通り原因は不明、しかしながらすでにプラント本国より工作部隊は出撃を終えています、また本艦も現場へ向かっています」
現在取りうる方策は取っていると言うことである。
アスランに諭されたことで落ち着きを取り戻したカガリは失礼を詫びた後でここまで大事になれば事はプラントだけの問題ではないのだからオーブの代表たる自分がここで事実を見極めたいと申しでる。
この申し出に議長はカガリを艦橋への入室を許可するようにタリアに指示を出す、この件についてプラント政府は最大限の努力をしたのだと証言してもらう為である。
もっとも先の凱の事があったためタリアは好い顔をしなかったのだがこれは仕方が無い、話し合いはここまでとして艦橋へと移動する。
全員が艦橋へ上がったところで先行部隊との連絡を取っていたメイリンが通信を受け取って叫ぶ。
「艦長、先行部隊より入電、ユニウス7に正体不明のMS部隊が展開しており現在交戦中、至急応援を求む。以上です」
「どういうことか、これは」
この通信を聞いたカガリが叫ぶが答えるものは無い、替わりにタリアの指示が飛び最後になおざりに付け加えられた。
「コンディションレッド発令、本艦はこれより戦闘体制に移行、MS部隊発進準備、インパルスは先行させなさい。代表つまりユニウスに敵がいるという事です」
先に艦橋へと来ていた凱は今の通信について考えていた。
現場に作業を邪魔する敵がいる、つまり事故ではなく、人の意思が係わっているという事だ。
そしてその連中のやろうとしている事は戦争では無い。何の関係も無い人間を大量に巻き込んだ只の虐殺だ。
凱の胸にこの事件を起こした連中に対する怒りが込み上げて来る。
凱はEI-01との接触で一度死んだ自分がGストーンサイボーグとして生まれ変わった時にこの命の限り世界の為に戦うことを誓ったのだ。
たとえ世界が変わろうともその勇気ある誓いを覆すことは無い、ならば自分に出来ることをやるだけだ。
「艦長、ザクを貸してくれ。こんな暴挙を黙って見ていることなど絶対に出来ない」
左手にあるGストーンを輝かせながら宣言する凱の静かな気迫に艦橋にいたもの全員が息を呑んだ。
タリアは唾を飲み込み、平静を取り戻すと了承の意を告げる。するとそこにカガリの護衛であるアスランもMSを借り受けたいと申し出てきた。
議長から戦力は多いほうが良いと言われ、タリアは渋々とこれにも了承する、凱は先程使った機体(実はこの機体はアーモリー1でアスランがカガリを避難させる為に使った機体である)を、アスランには先の戦闘で負傷したヒットリーの代わりにその機体を使って貰うことになった。
MSデッキに出た凱はザクに乗り込み、戦いの為に精神を集中させて出撃のときを待つ。
ミネルバがユニウス7に到着した時にはそこかしこで戦闘による光と怒号が響き渡っており、先行したシンもすでに戦いに加わっているようだった。
レイ、ルナマリア、ショーンそしてアスランのザクが次々と発艦し戦場へと向かう、凱もまたザクを発進させると周辺を確認し戦闘の激しい所へと向かった。
敵のMSはザフトの量産型MSでZGMF-1017M2ジンハイマニューバ2型と呼ばれているものが大半であった、これは先の大戦で使用されたZGMF-1017ジンのカスタムタイプでビームカービンや斬機刀を装備した機体である。
それなりの数が配置されていたらしく工作隊やその護衛部隊のザクと互角以上に渡り合っているようだった。
また、なぜか奪われたカオス、ガイア、アビスの3機も戦闘に参加しているらしい。もっとも工作部隊と敵の部隊の区別無く破壊して回っているようだ。
その3機の相手はシン達が受け持っているようなので凱は自分のやるべきことに専念する。
右手にビームトマホーク、左手にビーム突撃銃を持ち、工作部隊の邪魔をする敵を次々と撃破していく。
4機のジンM2を撃墜しユニウス7の地表部分へと着陸して周辺を見渡せば、すでにメテオブレイカーは稼動を始めているようだったが工作部隊はテロリストのジンによってかなりの被害を出したようだ。
そこに青いザクから通信が入ってくる。
「こちらはジュール隊隊長イザーク・ジュール救援感謝する」
モニターに移ったイザークがこちらを見て怪訝な表情を浮かべる、ザフトの制服(Pスーツ)を着ていないのを不振に思ったのだろう、凱も通信に答える。
「俺はGGG所属、機動部隊隊長 獅子王凱 今は訳があってミネルバに世話になっている。こんな事は見過ごせないからな、手伝わせてもらう」
「む、GGGと言うのは知らんがありがたい。ここのメテオブレイカーは作動した、俺は南へ行くから北へ回ってくれ」
「了解だ」
北に進路を取った凱が次のポイントに到着した時、メテオブレイカーを設置していた1機のザクが上空より踊りかかったジンの斬機刀によって真っ二つに切り裂かれようとしたところであった。
「あぶないっ! ビームマシンガン」
ジンに向かってビーム突撃銃を撃ち間一髪で刀を引かせるとザクに向かって作業を続けるように通信を送り、斬機刀を構えるジンM2に対峙した。
「さあ来い、お前の相手はこの俺だ」
そこにジンからオープンチャンネルで通信が入ってくる。
「貴様、なぜ邪魔をするかぁ」
「そっちこそ、何故こんなものを地球に落とす!どれほどの被害が出るのか分かっているのか!」
お互いに牽制を賭けながら対峙する凱とジン。
「このユニウス7は我らの墓標、落として焼かねば世界は変わらん」
いまの言い分だとこのユニウス7に近親者でも居たのであろう。
この男の悲しみ、憤りは分からなくも無いしデータで見た限りだが連合宗主国のしてきた事も許しがたいものがある。しかしプラントもまた地球に対して大きな災害を引き起こしたのだ。
その事実を忘れ、自分達だけが被害者だと語り、その怒りの矛先を向けているのは当事者ではなくナチュラルという一括りにした不特定多数の誰かだ。
凱にとって力とは世界を誰かを守る為のものだ。それを自分勝手な理屈で復讐に走る、そんな人間を許すことなど出来ない。
雄叫びを上げて真っ向から斬機刀で挑むジン、から竹割の如くザクを両断しようと振るう斬機刀、それを迎え撃つ凱はビームトマホークで受け止めて鍔迫り合いになる。
「貴様らこそ、この地で無残に散った命の嘆きを忘れて討った者らとなぜ偽りの世界で笑い会える、我らの家族の仇と手を取り合うなど俺には出来ん」
自らの戦う理由を声高に叫ぶ敵MSのパイロット。
「パトリック・ザラの道こそが我等コーディネイターにとって唯一の正しき道だと何故分からん」
パトリック・ザラの名を聞いたアスランの動きが鈍る、対する凱は先程検索した情報を思い出していた。
たしかパトリック・ザラは前大戦開始時の国防委員長であり、また後半は議長も兼任した人間だ、その思想は極端なタカ派であり大戦末期ジェネシスという兵器をもって地球人類の殲滅を画策したとも言われている。
ならば、ソレが正しいと語るこの男の目的は人類の殲滅なのか、凱は声を荒げていた。
「ふざけるなあぁぁぁ!!」
凱の怒りに火が点いた。
「お前達のやっている事はただの八つ当たりだ、自分達を棚に上げ何の罪も無い人々を滅ぼすなど決して許しはしない」
斬機刀を弾き飛ばし、その渾身の左拳をジンの顔面に叩き込む。
「ふんっ! はあっ! でやあっ!」
そのまま体制を崩したジンに連続攻撃を繰り出す、止めの踵落しを叩き込むがこれは両腕で受け止められた。
「何の罪も無いだと、奴らナチュラルは我らコーディネイターを排斥したのだ。それでも罪がないと言うか」
足を払われ凱が体勢を崩したところに殴りかかるジンだが、凱は機体を沈めてかわし、アッパーカットで吹き飛ばす。
「地球に住む総ての人間がそうだとでも言うつもりか貴様は、お前こそ解り合おうとする事を止めた。臆病者だぁ!」
凱の一撃を受けたジンが動きを止めたときに地響きが響きユニウス7が二つに割れた、半分は落下を止めたが、残りの半分はそのまま落下軌道に入ってしまう。
このままでは地球に甚大な被害が出るがすでにMSの稼動限界領域が迫っている、いかにMSと云えども大気圏突入に耐えられる機体は多くない。
「ふははは、我等の勝ちだ、このまま地球へ落ちるがいい」
ジンのパイロットが目的の達成を確信して笑うが凱は諦めてなどいない。
「まだだ、まだ諦めるかぁ! こんな残骸一つ押し戻してやる」
凱はザクを飛ばすとユニウス7の下に潜り込ませて押し上げようとスラスターを全力で吹かす。
シンが近寄って来て通信を送ってきた。
「凱さん、幾らなんでも押し返そうなんて無茶ですよ」
「シンか、ここは俺に任せてお前達はミネルバに戻れ」
「なんでそんなに・・・」
「俺は世界を、命を護ることを決して諦めない。なぜなら俺は勇者だからだぁ!!」
この叫びにシンは衝撃を受けた、そうだ自分だってあの時に誓ったはずだ。あの全てを失った日から力を求め続けたのはこれ以上自分と同じ悲しみを持つ人を出したくないからだ。
インパルスをザクの脇に並べて共にユニウス7を押し返し始めるシン
「くっそおう、凱さんが頑張ってるのに逃げられるもんかよ! もう嫌なんだ誰かが泣くのは! 守りたいんだ今度こそ!」
その光景を見た他のMSも次々とユニウス7に取り付き始める。シンの両脇にもレイとルナマリアが並ぶ。
「レイ、ルナ何やってんだ、とっととミネルバに行けよ」
「俺達はチームだ、お前が残るのに先に行く訳にはいかんな」
「そーゆーこと、最後まで付き合うわよ。さっさとこんな物押し返しちゃいましょ」
「ひよっこ共が踏ん張っているんだぞ。俺たちが引くわけにいくかぁ」
「グゥレイトォ」
「うおぉぉぉぉ!」
「そうだ私だって、私達だって守りたいんです。諦めて堪るもんですかぁ」
懸命にユニウス7を押し返すMS郡だがバッテリーが切れ次々と離脱してゆく。遂に凱のザクもバッテリーがエンプティを示す。
「くそっ、もうエネルギーが… それならぁ」
凱は左手を引き絞るとコンソールに向かって叩きつける、手首までめり込んだ左手のGストーンが輝きを増す。
「エネルギーバイパス接続、制御プログラム変更完了、各種パラメーター修正完了、パワーリンクをバッテリーから俺のGストーンへ接続完了。よっしゃあー」
エンプティを示していたエネルギーがMAXを超えて上がっていく。
ノズルから一際大きいバックファイヤを噴出す凱のザク、しかし凱のパワーにザクが耐えられず小爆発を起こす。
やはり奇跡は起きないのか、凱以外の全員が諦めかけたその時、ミネルバのハンガーでもう一人の勇者が目覚めた。凱の半身ともいうべきギャレオンである。
「GAOOOOON」
ギャレオンの咆哮に呼応するようにジェネシックマシンもまた次々と息を吹き返し、外へ出ようと動き出す。
それを見たマッドは咄嗟の判断でカタパルトハッチを開放するとギャレオンたちは次々と宇宙へと飛び立った。
緑の光を身に纏い凱の元へと集ってくるギャレオンとジェネシックマシン達その姿をみた凱は思わず叫んでいた。
「ギャレオンそれにジェネシックマシンまで! お前たちその傷ついた体で来たのか、自分たちを使えとそう言うのか」
ギャレオンもジェネシックマシンも傷だらけだ、この状態では戦えないと考えたからこそザクを借りてきたのだ。
それなのにこの未曾有の惨事に対して自分たちを使えと言うが如く凱の周囲を回る。その勇気に応えないのは勇者では無い。
「お前たちの勇気、しかと受け取ったぁ! フュージョン!」
ザクのコクピットから飛び出しギャレオンとフュージョンする凱。
「ガイッガー!」
ギャレオンは凱とフュージョンすることでメカノイドガイガーへとその姿を変え、さらに魂の叫びが宇宙に木霊する。
「ファイナル フュージョン!」
ガイガーの腰より電磁嵐が吹き出しその姿を隠す、その電磁嵐の中に傷ついたジェネシックマシンが飛び込みファイナル・フュージョン体勢へと入る。
ガイガーの腰が180度反転しモグラの形のスパイラルガオーが右足にストレイトガオーが左足に、続いてガイガーの両腕が肩の部分から背中に回り鮫の形のブロウクンガオーが右肩にイルカの形のプロテクトガオーが左肩に、鳥の姿をしたガジェットガオーが背中に合体し一部が前腕部になり掌が飛び出す。
ブレストガードが展開されて、最後にヘッドパーツが装着、本来ならここでフェイスガードが下りるのだが現在はフェイスガードの部分は破損している。
獅子の鬣のごときエネルギーアキュメーターがたなびき、いまこのCE世界に勇者王が降臨した。
「ガオッ ガイッ ガー!」
それは勇気の究極なる姿
それは最強の破壊神
その名もジェネシック ガオガイガー
ソール11遊星主との戦いの傷はいまだ癒えずともその勇姿に些かの衰えも無い。
「いまのガオガイガーでは一撃が勝負、みんな退けぇぇ!!」
ガジェットツールを装着した両腕を大きく広げ最強の一撃を放つための構えを取る。
「ヘル アンド へヴン!」
右手に絶対破壊の力ブロウクンエネルギーを集約、左手に完全防御の力プロテクトエネルギーを集約。
「ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ」
両手を組み合わせ、相反する二つの力を一つにして
「ウィータァァァァ!!」
ユニウス7の基底部その中心に叩きつけるとその一点から一気に放射状にひび割れが走り大地を覆ってゆく。
「うおぉぉぉぉ!!」
雄叫びを上げる凱が遂に基底部から大地を突き抜けると要を失ったかのように瓦解し崩れ去ってゆくユニウス7。
その光景を目撃した者達は驚愕を、畏怖を、そして恐怖を覚えて暫くの間、その雄雄しき姿を呆然と眺め声も無く立ち竦んでいた。

オーブ連合首長国の海岸で一人の男が夜空を見上げていた、その男の風貌は譬えるならば猛禽とでも言うべきか、2mを超える長身、鶏冠の如く逆立った髪、切れ長の鋭いそれでいて微かな優しさを感じさせる眼差し。戦士のような求道者のようなそんな雰囲気を全身に纏った男である。
その男の背後から近づく影があった、こちらも男性だが先の男とはまるで違う。茶色の髪の優しげな雰囲気の青年であった。
「Jさん」
後から来た青年が声を掛ける
「如何したんですか、こんな所で空を見上げているなんて」
Jと呼ばれた男も先程纏っていた戦士の気配を消し、気さくに返答を返す。
「キラか、いや空がざわめいていると感じてな」
そういってもう一度空を見上げた、キラと呼ばれた青年も釣られて見上げると夜空の中に走る光の帯を見つけた。

君達に最新情報を公開しよう
<ユニウス7>の地球落下をかろうじて食い止めたミネルバ隊に新たな任務が下される
その時プラント本国にある脅威が迫っていた。
その脅威を目の当たりにして帰趨を決定する凱
次回 勇者王ガオガイガー DESTINY
第4話 決意 にFINAL FUSION承認
これが勝利の鍵だ ニュートロン・スタンピーダー




[22023] 第4話 決意
Name: 小話◆be027227 ID:8fbdcd62
Date: 2010/09/20 10:36
オーブ首長国は太平洋上に存在する国家である、そのオーブの海岸で佇むJに「空がざわめいている」と言われたキラは夜空を見上げるとその中に走る光の帯を見つけた。
「流星群? 違うよな、そんなニュースやってなかったし。何だろう?」
「それよりどうした、なにか用事でも有ったのか」
「ああ、そろそろ食事だからラクスが呼んできてくれって」
「そうか。すまんな、こんな誰とも分からん人間の為に迷惑だろう」
「そんな、Jさんは記憶喪失なんですから気にしないで下さい。それに手がかりだって有りますよ」
そういうとキラはJの左腕に視線を向ける、Jの左腕には赤く光る宝石が埋まっており、Jという呼び方もその宝石に浮かんだ文字から呼んでいるのだ。
Jも己の左腕を見ると怪訝そうに呟いた。
「これか、確かにこれが私自身の記憶の鍵を握っているという確信はある。だがなぜ私にこのような物があるのか」
「今は気にしても仕方がありませんよ、ゆっくり思い出せば良いじゃないですか。さあ皆待ってますから」
キラはそう言うと家のほうへ足を向けた、Jも続いて歩き出したその時、JのJジュエルが微かに輝いた事に二人は気づかなかった。
家へと向かって歩いてくるキラとJを窓から見つめる視線がある、前大戦後にこのオーブへと身を寄せた元連合軍人アークエンジェル艦長マリュー・ラミアスと元ザフト兵にして砂漠の虎と謳われたアンドリュー・バルドフェルドの二人である。
「彼の事どう思うかね」
「そうね、不思議な人ではあるわね。彼自身もそしてあのMSも」
Jは一ヶ月ほど前にオーブの海岸に倒れていたところを子供たちと散歩をしていたラクスが見つけた人物であった。
報せを受けたバルドフェルドが現場に行ってみると緑の鎧を着た男と、見たことも無い壊れたMSが砂浜に打ち揚げられていたのだ。
直ぐにマリューに連絡を入れ、救急車とMS搬送車を寄越してもらい収容されて病院に担ぎ込まれたJだが、傷そのものは大した事は無かったのだが検査の結果、サイボーグであることが判明した。
しかもバルドフェルドのような既存のサイバネティクスで手足を補うといった治療では無く、完全な人機融合のサイボーグだと言う。
このような技術は、オーブはもちろんの事二人の知る限りプラントにだって無いはずだ。男の回復を待って聞き取り調査を行なおうとしたのだが、ここで更に不測の事態に直面する。それは男が記憶を失っていた事だった。
便宜上、男の左腕に埋め込まれていた赤い宝石に浮かんだ文字からJと呼ばれる事になったソルダートJ-002はそれ以来発見者であるラクスの家に厄介になっている。
さらに謎の壊れたMSに到っては運び込んだモルゲンレーテで解析の為に解体に当たろうとしたマリューとエリカ・シモンズの前で自己修復してしまった。
これにはモルゲンレーテの全社員が色めきたった、自己修復等という破格の技術を自分達の物に出来ると思われたのだが結果的に徒労に終わる。
なにしろ、調査しようにも装甲に傷の一つも付けられないのだ、外部からの調査でPS(フェイズシフト)装甲に似た感じで装甲表面に何かしらのエネルギーを回し強度を高めている事は判明したものの其処から先は完全にお手上げ状態であった。
そんな会話を続けている所に二人が帰ってきたようだ、玄関まで出迎えに行くマリュー。
「お帰りなさい二人とも、さっきJさんは何を見ていたの?」
屈託無い笑顔を振りまきながら尋ねるとJも答える。
「いや、なにか空が騒がしい感じがしてな」
「空? 雨でも降るのかしら」
いまだユニウスの事件を知らぬのんきな会話だった。

ネオ・ロアノークはガーティ・ルーの艦橋から目の前で崩れ去るユニウス7とそのユニウス7を破壊したガオガイガーを見て叫んだ。
「何なんだあの黒いMSは、ユニウス7を砕くだと冗談じゃあない」
正気に返ったネオはスティングたちをすぐさま帰還させると、当該宙域からの離脱を指示して歯噛みした、汗でべとつく手を握り締めると指揮官席の肘掛を力任せに叩いて先程の出来事に思いを馳せる。
くそったれ俺は勘違いをしていたあの嫌な予感の正体はコイツだ、あんな物がザフトに在ると言うなら我々が奪ったMSなど何の意味も価値も無い。
この情報は直ぐにでも本部に届けて対策を取らなければならない事だ、月面アルザッヘル基地への帰還を指示すると大きく息をついた。

凱はガオガイガーの中で荒い息を吐いていた、なんとかユニウス7を破砕する事が出来たものの、今の傷ついた状態でのヘル&ヘヴンでガオガイガーは更にダメージを負ってしまった。
それを裏付けるようにファイナルフュージョンどころかギャレオンとのフュージョンも解除されて外へと出された。
振り返ってみればギャレオンもジェネシックマシンも動物形態に戻っており、目から光が失われている。
もっともGストーンに反応はある事から休眠状態に陥ったものと分かったので一先ず胸を撫で下ろす凱。
そこにインパルスが近づいて来るのが見えたので此方からも向かい、コクピット脇に立ち接触回線を開くとシンの焦った声が聞こえてきた。
「凱さん、大丈夫ですか」
「俺は大丈夫だ、そんな事よりユニウス7はどうなった」
周辺ではようやく動き始めたMSが作業の続きを開始した所だった。
「凱さんが砕いてくれたから殆んどが大気圏で燃え尽きて、地上に落ちるものは少ないだろうって事です。いまは比較的大きい奴の処理とテロリストの確保に動いてます」
シンからの報告を聞いてホッとする凱、完全にとは行かないが最悪の被害は免れそうだ。
「そうか、シンお前も作業に戻れ。俺の回収は全て終わってからでいい」
凱に言われて戻ろうとするシンだが、もう一度通信を送ってきた。
「あの凱さん、俺」
何か言いたいけど言葉にならない、そんな様子を見て取った凱は親指を立ててサムズアップすると太陽のような笑顔を見せて言った。
「シン、良い勇気だったぜ」
その言葉を聞いたシンは嬉しくなった、落下するユニウス7をMSで押し返し、最後には砕いてしまった。あれが落ちれば間違いなくまた戦争になっていただろう。
それを止めた男に褒められたのだ。
「ハイ!」
返事を一つするとシンはインパルスを発進させた。
ガオガイガーの一撃で砕け散ったユニウス7の光景に敵味方無く放心状態に陥っていたが冷静さを取り戻した議長の一喝で混乱から立ち直ったザフトが押し切った。
テロリスト達は最後まで抵抗した為に撃墜され、僅かに生き残った者達も自害してしまって、犯人は確保出来なかったがそれ以外の事後処理は滞り無く進んだ。
ユニウス7の残った破片は後から来る艦艇が回収、破砕作業を行なう事が決まり、現在この宙域にはミネルバ、ルソー、ボルテールの3隻が後続の到着を待っていた。
周辺の哨戒をルソーに任せるとミネルバにジュール隊の隊長であるイザーク・ジュール、副隊長のディアッカ・エルスマンがデュランダル議長に呼ばれて乗船してきた。
「イザーク・ジュール並びにディアッカ・エルスマン出頭しました」
「やあ、よく来てくれたね。態々呼びたててしまってすまない」
温和な態度で接してくるデュランダルだがイザーク達の態度は硬い、もっともここに居るのはプラントの指導者、オーブの代表等、自分たちより立場が上の人間ばかりだ。下手な態度は取れないのでこれは仕方が無いだろう。
議長の話はこれからの行動についてのものであった、ここにルソーを残し、ボルテールにて自分と代表、その護衛官それにあの黒いMSガオガイガーとそのパイロットをプラント本国へ、ミネルバはこのままボギー1の追撃をという話になったのだがここでカガリが議長に頼みを申し出た。
「すまない議長、ここから直ぐにオーブに戻りたい。よかったら大気圏突入用のシャトルを借りられないだろうか」
この依頼に難色を示す一同、一国の代表の依頼とはいえ国の財産である戦闘艦に搭載されたシャトルをいかにオーブに戻った後で使用料の支払いと現物の返却を約束されても一応は軍事に係わる物である以上ほいほい貸せるものではない。
確かにこの地点からプラント本国に戻り、更に今回は非公式での入国である為に民間のシャトルを使うとなればそれなりのタイムラグが生じるのは仕方が無い。
とは言うもののいかにユニウスが破壊されたとはいえ、一大事件であることには変らないのだから急ぎオーブへ戻りたい気持ちも理解できる。
少しの間議長は考えた末に同席していたタリアに声を掛ける。
「ふむ、艦長ボギー1の所在は掴めているかね」
「いえ残念ながらユニウス7の後始末に忙殺されている間にロストしました。現在情報の洗い出しを急がせています」
タリアのこの返答によって考えが纏まったのだろう。
「ではミネルバは代表とアスラン君をオーブへ送ってくれたまえ、ここにある艦で大気圏に降りられるのはこの船だけだ。オーブ寄港後はカーペンタリアへ行ってこの事件で被害を受けた地域の支援に回って欲しい」
「了解しました。ボギー1は如何なさるおつもりですか」
「引継ぎが終わったあとでルソーを回す、どちらにしろ逃げられた後だ期待はしないがね」
これでこれからの行動が決定した、凱は議長、ジュール隊と共にプラント本国首都アプリリウス1へ向かうことになる。
ミネルバを離れボルテールへと移動した凱は議長共にジュール隊の面々と挨拶を交わしていた。
「獅子王凱だ、よろしく頼む」
簡単な自己紹介とともに右手を差し出す。
「また会ったな、改めて俺が隊長のイザーク・ジュールだ」
がっちりと握手して挨拶するイザーク、銀髪をオカッパ頭にした精悍そうな青年だ、その後は金髪に褐色の肌の青年、長い黒髪の少女と続く。
「グゥレイトォ、あんたがあの黒いMSのパイロットか、ユニウスをぶっ壊したときはさすがに腰が抜けたぜ」
「ちょっとディアッカさん、それ自己紹介になってませんよ。こっちの色黒炒飯は副隊長のディアッカ・エルスマン、私がMS部隊のシホ・ハーネンフースです」
ディアッカという人物はなかなか愉快な人間らしい、またシホという少女は生真面目さが見て取れる。
この二人とも握手を交わす、イザークが言うにはディアッカの炒飯は絶品らしい。後でご馳走してくれるそうだ、ちなみに凱の好物は紅生姜たっぷりの牛丼である。
凱達が挨拶を交わし終わった頃にはギャレオンとジェネシックマシンがハンガーに運び込まれ固定作業を終えていた。
凱と議長を除いた全員からため息が漏れる、ユニウス7を砕くなどという離れ業を見せたのだから当然かもしれない。
特にシホなどは元が技術畑の人間だ、興味津々の目である。
「何と言うか凄いですよね、これが合体しておっきなMSに成るんですもん。それにしてもどうして動物の形なんでしょうね? 可愛いですけど」
シホは変な所で感心しているようだが、イザーク達は違う。この機体は何時ごろ量産化されるのかという話になった。
幾らザフト驚異の科学力とはいえども、凱の世界では世界十大頭脳を以ってしてもついに完全解明には到らなかった緑の星の技術である。
細かいことは省いて単に量産化など不可能だと告げるとシホの口からつい言葉が零れた。
「残念ですね、この機体が量産されればプラントは無敵ですよ、連合だってあっと言う間に叩けます」
この台詞を聞きとがめた凱はシホ、というよりも其処に居た全員に聞こえるように言った。
「ちょっと待ってくれ、君達はまだ連合と戦争をするつもりなのか」
もちろんデータで見た限りだが、たった2年前にあれだけの戦禍を起こしておいて、まだ戦おうというのか、先程の作戦では地球に住む人達を守るために頑張ったじゃないか。
そういった事を話しているとイザークが横から声を挟んだ。
「お説ご尤もだがな、連合が我々プラントの敵国であるのは変らん事実だ、貴様もプラントの一員なら其れぐらい分かるだろう」
「悪いが俺はプラントの人間じゃあない」
凱の発言に途端にざわつく周囲の人間達、これはある意味当然だろう。今までは同じプラントの仲間だと考えていたのが実は違うという。
なら、このMSは自分達の敵に成るかも知れないのだ。ユニウス7を破壊したことをみればこれはコロニー国家であるプラントを単機で殲滅出来る可能性すら持った機体だ。
さすがに不味いと思った議長が間に入って執り成した。
「すまない凱君、彼女もそんなつもりで言った訳では無いと思う、気分を害したなら私から謝ろう」
「そんな、議長に謝ってもらうことじゃありません、私が軽率でした。御免なさい」
「いや、俺もつい言い過ぎた。こちらこそすまない」
さすがに本人や議長に頭を下げられては凱もこれ以上なにか言うつもりは無い。しかしイザーク達の意見が大半を占めるというならプラントと地球の対立は根が深いのだと感じた。
その後場所を変えてこれまでの経緯を話すことになったのだが、話し終わった後の表情は微妙なものであった。特にイザークなどあからさまに不審顔である。
「議長はこんな与太話を信じたのですか?」
「では君達は凱君の力とあのガオガイガーを如何説明するかね」
「そ、それはアレです。我々よりも高度なコーディネイト措置を…」
言っていて自分でも分かる。どんなコーディネイトをした所で人間が宇宙で活動できるようになる訳が無いし、あのガオガイガーの力は桁が違う。
つまりこの二人が言っていることは事実という事だ。
正直信じられない、いや信じたくない。プラントのコーディネイターは教育方針のおかげか自分達は進化した人類だと幼少期から刷り込まれるのだが、凱から見ればどちらも只の人間に変わらないという事だ。
「しかし自分は信じられません、本当に人類を超えた超進化人類だというのなら証拠を見せてもらいたい」
証拠と言われて議長が凱に顔を向ける「頼めるかね」と言われて少し考えると、コンピューターの端末に近寄ると手を触れた。
すると画面にデータが流れ出す、イザーク達は目を見開いた、どう見ても手を触れているだけなのに次々とデータを呼び出している、5分程たって手を離した凱は顔を向けて宣言した。
「この艦のシステムは完全に掌握した」
凱が言うといきなりエマージェンシーが作動し同時にブリッジから通信が入ってきた、艦のコントロールが奪われた、艦内通信もここにしか繋がらないという。
「驚いたな、君はそんな事も出来るのか」
感心する議長の言葉におもわず凱の方を振り向くと何でもないと肩を竦めて見せた、この短時間にしかも手を触れただけで艦のシステムを乗っ取ったと言うのか、驚愕を顔に出すイザーク達。
艦のシステムを元に戻してから話をすると大方の機械なら触れただけで直接リンクが可能だと言う、流石にそんな離れ業を目の前で見せられては納得するしかない。
横を向けばディアッカとシホが口を開けて馬鹿みたいな顔をしていた。
「グゥレイトォ、とか言うレベルじゃないねここまで来ると」
「でも凱さんがプラントに来て下さるってことは、私達に力を貸してくれるって事ですよね」
ディアッカが呆れた様に口に出し、続いてシホも声を掛けるが、凱の返答は違った。
「まずは自分でプラントを見てみたい、協力するかどうかはそれから決めようと思う」
シホなどは落胆するが他の二人はそうでもない。
「ふん、まあ道理だな」
「じゃあ精一杯持て成さないとな」
これでプラントでの案内にこの二人が付くことに決まった。

プラントに着いたディランダルはすぐさま会見を開き、事の顛末(ガオガイガーの事は機密事項とした)を最大限語った上で、犯人グループは全員が死亡、また再発の防止と更なる支援を約束したが地上ではユニウス7の破砕作業時の映像と、ユニウスの地上落下を起こしたのはコーディネイターであるとのニュースが地球全てに放送されていた。
如何に被害が軽微だったとはいえ被災者にはショックだろうし、地上の国家からすれば是ほどの事件を起こしたものが自分達の頭上にいるというのは恐怖でもある。
また、ガオガイガーの映像も流れこれほどの破壊兵器をプラントが所有しているのは問題だと締めくくられていた。
これを受けた連合はプラントに対して新たな通達を送ってくる。
その内容は賠償金、武装解除、現政権の解体、連合理事国からの最高評議院への監視員の派遣という事実上のプラントの国家としての解体要求である。
プラント側としては到底承諾出来る内容ではない、最高評議会は連日の会議と連合への会談要求を打診するものの双方の歩みよりは見られなかった。
そんな情勢の中凱がプラントに来てから1週間が経った、この1週間はプラントの中を歩き回り、図書館や各種施設を巡って自分なりにこの世界の事を調べていた。
その結果凱が出した結論はこの世界はとても危ういというものであった。
プラントではコーディネイターはナチュラルから進化した優れた人類と教育している、これは容易く選民思想に変化する。
そのことについてコーディネイターはナチュラルを下として見ているのかと質問すると
「まあ、軍に長くいれば奴らとの差などそれ程無いのは分かるが、それでも認めたくは無いな」
「あーまあなあ、俺なんか惚れた女がナチュラルだったから今更コーディネイターだナチュラルだってのは無いけど、プラントの大多数はそう思ってるよ」
と答えが返ってきた。
なるほどこれでは諍いが絶えることは無いだろう。
そもそも前の戦争の原因からして無茶苦茶だ、大本はナチュラルによるコーディネイターの排斥にあるのだろうが、資源採掘と工業に主眼をおいて連合が建造したプラントを不当に占拠して建国、もっともプラント住民から見れば連合からの搾取に対する独立である。
これはいわゆる植民地が宗主国からの独立を目指したもので理解はできるのだが、コロニーは連合が建設したものである以上は始めから占拠するのではなく金銭による買収等によるプラントの譲渡と以後の独立を提案するべきだったと思う。
この件に関して連合、プラント双方で会談の場が設けられたがプラント過激派の爆弾テロによって連合側の代表が全員死亡、プラント側に被害は無しという事件が起こった。
恐らくはこれが直接の原因だろうが、この後の連合の報復も理解に苦しむ、なにしろ農業施設であったユニウス7に核攻撃を仕掛けて住民ごと破壊するという暴挙にでる。
これに対してプラント側も報復を行なうのだが相手である連合のみならず、なぜか地球全土にNJ(ニュートロンジャマー)を投下、これによるエネルギー不足により地球人口のうち10億人が死亡という未曾有の惨事を惹き起こす。
全面戦争に突入した後もプラントの居住コロニーへの核攻撃や実行はされなかったがヤキン・ドゥーエのジェネシスによる地上の殲滅など通常の戦争とはかけ離れた行為が目に付く。
戦争とは行き過ぎた外交の手段であり、話し合いで解決出来ない事を武力でもって解決する事だ。
どちらかの勝利が決まらなければ、ある程度の被害が双方に出たところで再び話し合いで落とし所を探ることになる。
しかしこの世界の戦争はいわゆる宗教戦争や民族紛争に代表される他者の存在そのものが許せないという感情論にたった完全な殲滅戦である。
だいたい前の戦争の帰趨でいえばプラントは勝利したといって良い、なぜなら宗主国からの独立という目標をほぼ完璧な形で達成しているからだ。
これ以上の戦争行為の継続は連合に比べて国力で完全に劣るプラントにとって自殺行為でしかないはずだが、先のユニウス7襲撃犯のような連中がまだ多く居るとの事である。
事実、地球の各地で散発的にではあるがコーディネイターによるテロ行為が発生しているようだ、まるで何者かに踊らされているような印象を受ける。
その事を議長に話して見ると、ここだけの話だと前置きした上で話し始めた。
「やはり気が付いたかね。そうだ、このプラントにも連合にも居るのだよ敵を滅ぼすまで戦いを続けたいという愚かな人間がね。しかも連合では軍の上層部に食い込み、このプラントでは結社という形で存在するのだ」
「ブルーコスモスですか?」
「正確にはその一派だね、そもそもブルーコスモスはコーディネイターの排斥を訴えるものではない。遺伝子のコーディネイトが流行したことによるデザインチルドレン問題や幼少期の能力格差を始めとする諸問題に対して先天的な遺伝病等の医療行為以外のコーディネイトを禁止する運動が大本だ、これに限って言えばナチュラルとの融和による自然回帰を挙げている私も思想的にはブルーコスモスと言える」
なるほど、言われればその通りだ。
「連合側に巣食うものをロゴスという」
ロゴスは本来軍需産業複合体を基にする企業の集り、いわゆる死の商人である。これだけならばまだ良いのだが、問題は今のロゴスの中心人物であるロード・ジブリールは極端なコーディネイター排斥主義者であり、つねづねプラントは滅ぼすべきと語るタカ派の人間であるということだ。
しかも経済団体連合会の顔を持つロゴスの支持者は連合各国の上層部、特に政治家や軍部には多いという。
「そして我々プラントの中に存在するのがクライン派だ」
これには凱も違和感を覚える、議長もクライン派では無いのかという事だが、このクライン派は政治的な派閥ではなく、ある種の秘密結社のような存在だと言う。
詳細は完全に謎に包まれておりながらも、全大戦時には戦艦エターナル及び核搭載型MSフリーダムの強奪事件を起こし、ヤキン攻防戦ではなぜかオーブの戦艦と共に参戦、ザフト、連合双方に多大な被害を与えた。
その中心人物がシーゲル・クラインの娘であるラクス・クラインであった事から俗にクライン派と呼ばれる事になったと言う。
またこの件に関しては緘口令が布かれたためにラクスは未だプラントでは平和の歌姫として絶大な支持があるという。
「そして厄介なのがこのクライン派の目的が皆目判らないという事だ」
プラントや世界をどうにかしたいのならば、ヤキン戦後に表舞台に立てばいいのだが当のラクスは逸れもせずに姿を隠してしまったという。
そんな会話を交わしていると議長の秘書官から緊急連絡が入ってきた、すぐにニュースを見て欲しいとの事だったのでモニターを点けると大西洋連合大統領ジョセフ・コープランドがプラントに対して宣戦を布告する会見を開いていた。
月面アルザッヘルより進発した連合宇宙軍とプラント防衛に出撃したザフトは2年の時を経て再びに戦端を開いた。
一進一退を繰り返す両軍だが、極点方向より、連合の特殊部隊がプラントに襲い掛かる、この部隊は核ミサイルが搭載されたコロニー殲滅用の攻撃部隊だ。
これに気が付いたイザーク達が迎撃に入るも間に合わず、遂に核ミサイルがプラントに着弾しようとするとき、プラント側の新兵器ニュートロン・スタンピーダーによってミサイルと核搭載部隊の迎撃に成功する。
これを指揮所で見ていた凱は拳を震わせていた。
「こんな、こんな事をするのか。ここにはテロとは何の関係も無い人が大勢住んでいるんだぞ。それを!」
凱の叫びにディランダルは眼を伏せて答える。
「これをやるのが今の連合とロゴスなのだよ、悲しいことだがね」
「議長、俺は人々を守る為に戦ってきた。だからこんな事を繰りかえすと言うなら俺はロゴスと連合を叩く」
遂に凱は戦争に介入することを決断した。

「バカな! 失敗しただと」
報告を受けたロゴスの盟主ロード・ジブリールは叫んでいた。
ファントムペインの報告にあった黒いMSあれは脅威になる。今作っている新型でも相手になるとは思えないからこそ虎の子の核を使って一気に片を付けようとしたのだが、それがザフトの新兵器によって失敗したと言う。
どこまでも忌々しい化け物共め、まあいい、ならば正攻法で葬ってやる。如何に強力な機体でも数には勝てまい。
これからの戦局に考えを巡らせながらジブリールは笑っていた。

そのころ凱はディランダル、それと議長の部屋にいたアスランと共にMSハンガーにやって来ていた。
聞くところによるとアスランは元々ザフトのパイロットであり、あのパトリック・ザラの息子であると言う。戦後思うところあってプラントを出国、オーブで名を変えて生活していたがこの状況をみてザフトに復隊することにしたと言うことだ。
そこで二人に新しいMSを用立てたと、このハンガーまで連れてこられたのだ。
そこには2機の同型MSが並んでいた。
「このMSは」
「ZGMF-X23Sセイバーその正式採用型とプロトタイプを凱君専用にカスタマイズしたものだよ。二人にはこのセイバー2機を託そうと思う」
目の前にある灰色の機体は可変機構を持ったセカンドシリーズの機体であり、凱がユニウス7破砕作業時に乗っていたザクから取ったデータを使って改修した機体だということであった。
回収したザクを解体、分析した処エネルギーがコクピットから流れた形跡があった為に凱に事情を聞くと自分でエネルギーを生み出せる(GSライドが無いために増幅は出来ない)という、そこで凱をバッテリーの代わりにすることでバッテリーを取り外した。
またオーバーロードの痕跡も視られたために開放弁をもうけて余剰エネルギーの逃げ道を確保した。
最大の変更点はコクピットだ、通常のレイアウトは全て廃止しダイレクトリンクシステムを採用する事になった。
「それと二人にはFAITH(フェイス)になってもらいたい」
そういって二人に小箱を差し出すデュランダル、小箱の中には羽を象った徽章が入っており、FAITHとは議長直属の特務兵でザフト内ではかなりの権限が与えられると言う事だ。
凱は階級などには興味ないがもし民間人を巻き込みそうな作戦があった場合等に介入することも出来るかと考えてありがたく受け取ることにした。
「君達の所属だがいまカーペンタリアに向かっているミネルバに合流して貰いたい、グラディス艦長なら君達二人に面識もあるし丁度いいだろう。到着後は艦長の指揮下に入ってくれたまえ」
凱とアスランが自分の機体へと向かって歩くその後姿を見ながらデュランダルは薄く笑みを浮かべた。
『ジブリール、君は良い事をしてくれた。君のおかげで私は最強の男を味方にすることが出来たよ』
その冷笑はいったい誰に向けられたものだろうか。

君達に最新情報を公開しよう
ミネルバに連合の脅威がせまるなかシンは自分の力を開花させ始める
そしてオーブに住むキラ達に謎の部隊が襲い掛かるとき
ついに戦士は空へと飛び立つ
次回 勇者王ガオガイガー DESTINY
第5話 羽ばたく翼 にFINAL FUSION承認
これが勝利の鍵だ ジェイダー



[22023] 第5話 羽ばたく翼 
Name: 小話◆be027227 ID:8fbdcd62
Date: 2010/09/20 10:37
ミネルバの娯楽室でその大西洋連合大統領ジョセフ・コープランドの政見放送を見たシンは悔しさに唇をかみ締めていた。
『なんで なんでだ なんで戦争になんかなるんだ』
こうならない様に皆で頑張ったのに、開戦の口実にユニウス7を使わせない為に、いやそれよりも力の無い誰かを守りたかったから戦ったのに、結局また戦争になってしまった。
「そんなに戦争がしたいのか、おまえらは!」
何処の誰とも知れないこの戦争を望むものに対して叫びを上げるしか出来ない自分が堪らなく悔しかった。
こんな状況になってあの勇気の塊のような男なら如何するだろうと考えた。
オーブに寄航中のザフト艦ミネルバ艦長タリア・グラディスはこれからの事に考えを巡らせていた。
先程このオーブの代表首長であるカガリ・ユラ・アスハの訪問を受けてオーブが大西洋連合との同盟を締結することになった、ついては早急にオーブより出港してもらいたいとの要請を受けたのだ。
もっともこの同盟に関して自分は反対だが、宰相であるウナト・エマ・セイランを始めとする氏族達に押し切られたと言うことらしい。
ここまで世話になったミネルバを追い出すような形になって申し訳ないと言っていた。
後者に関しては好感がもてるが、前者に関しては何を甘いことをと思う、政治の舞台に立つなら清濁併せ呑むしたたかさが必要なのは判りきった事だ。
だがあの子はオーブの姫として我侭に育ったのだろう、自分の力が及ばない等考えなかったに違いない。
だからこそ、今まで自分の足場を固める事が出来ていないのだ、すなわち見た目と血筋で担ぎ上げられたお人形と言うことだ。
ならば、このオーブを出てザフト基地であるカーペンタリアに到着するまでは一時も気を抜けない。
ミネルバが修理を受けているドックに通じるエレベーター内で考えに没頭していると肉感的な女性が乗り込んできて、挨拶をしてきた。
確かマリア・ベルネスと言う名のモルゲンレーテのメカニックだ。
「この度は大変な事になりましたね、まさかまた戦争になるなんて思いもよらなかったです」
「そうね、ユニウスの破砕には成功したし、破片による被害もそれ程では無かったそうだから正直連合がここまで強硬姿勢を採って来るとは思わなかったわ」
その後は修理の進行状況など細々とした事務連絡を交わした後でちょっとした雑談が始まった。
もっとも今の情勢下では雑談と云えども油断は出来ないのだが、案の定話題はユニウス7の話になった。
「ところでグラディス艦長もあのユニウス7の破砕作業に従事されたそうですけど、あの映像に出ていた黒いMS凄いですね」
「来たな」と思う。およそMSや艦船を扱う技術者ならばあの映像を見ただけであのガオガイガーの異常さには気が付くだろう。
映像にはミネルバも映っていた以上は誤魔化すことも出来ない、したがってタリアに出来るのはしらばっくれる事だ。
「そうね、私も詳しくは知らないのだけど確かに凄い機体ね」
マリア女史はスペックだのなんだの自分の推量を交えてカマを掛けてくる。ついぽろっと出てくるのを期待したのだろうが、タリア自身何も判っていないも同然だ。
まさか異世界からきた勇者だとは言えない、というか言ったら生暖かい眼で見られそうだ。
エレベーターが到着を報せ、タリアが降りるときマリアから右手が差し出された。
「またお会いできると良いですね」
「そうね」
友人になれるかも知れない女性の手を握り返し、それは本心から返事を返した。
オーブを出国したミネルバが領海を出たところで前方に艦隊を発見して緊張が走る。その緊張を裏付ける報告がレーダー手よりもたらされた。
「前方の艦隊、連合のものと確認」
「ええ~なんで連合の艦隊がこんな所にいるんですか」
「アーサー泣き言言わないでちょうだい、恐らく手土産にでもされたんでしょう」
そこに更に悪い知らせが重なる、後方からオーブの艦隊が接近しているという。
「後方のオーブ艦、砲塔をこちらに向けています」
「オーブの領海には戻らせないと言う事ね、いいわコンディションレッド発令、全艦戦闘態勢に移行、MS隊発進準備急がせ」
艦橋からタリアは艦内放送でクルー全員に呼びかけを行う。これから戦闘に突入する、現状は厳しいが突破を図るというものだ。
「シン・アスカ、コアスプレンダー行きます」
シンの乗るコアスプレンダーが発艦しフォースインパルスへと換装を済ませたところで戦端が開かれた。
連合の空母から発進したMSウィンダムがミネルバを囲むがインパルスとミネルバの上に陣取ったレイとルナマリアのザクによる迎撃で容易には近づけない。
連合艦隊の左舷を突破しようとするミネルバだが包囲されている現在それも儘ならない。
徐々に押され始めるミネルバ、そこに止めを刺すが如く現れる連合の新型MAザムザザー、この新型に対してミネルバは艦首に実装された陽電子砲タンホイザーを起動させ迎撃に当たるが陽電子リフレクターによって防がれてしまう。
「そんな、タンホイザーを跳ね返すなんて」
アーサーの呆然とした呟きが艦橋に零れた、これにより更に形勢が不利になりオーブの領海に近づいてしまったミネルバにオーブの戦艦より通信が入る。
「ミネルバに告ぐ、我々は貴艦のオーブ領海への侵入を認めない」
通告と同時にミネルバの周囲に水柱が立つ、オーブ艦からの威嚇射撃だ、その光景を見たシンの動きが一瞬止まる。
戦闘中に動きの止まったインパルスを見逃さずに襲い掛かるザムザザー、超振動クラッシャーヴァリシエフに右足を捕らえられ動けなくなるインパルス。
ついにエネルギー切れを起こしVPS(ヴァリアブルフェイズシフト)装甲もダウンして機体色もトリコロールから灰色に変わり、右足を破壊されてしまう。
「ちっくしょおう」
悪態をつくシンの目に窮地に落ちるミネルバと仲間達の姿が映る。
その時シンの脳裏に様々な光景が過ぎった、オーブで家族を失った瞬間、右手だけの妹、アーモリー1で破壊される基地、宇宙で戦った時に撃墜されたザク、ユニウス7の落下。
そしてユニウス7を破壊したガオガイガーとそのパイロットの言葉。
「俺は世界を、命を護ることを決して諦めない。なぜなら俺は勇者だからだぁ!!」
彼はあの絶望的な状況で欠片も諦めていなかった、そしてあの時に掛けてくれた言葉。
「シン、良い勇気だったぜ」
そうだ自分も大切なものを護りたいから頑張れたのだ、そしてあの男に認めてもらったではないか、こんな所で諦めるものか。凱に見せてもらった勇気がシンを後押しする。
「俺は、俺はみんなを守るんだぁ!」
その瞬間シンは自分の中で何かが弾けた感覚を覚えた、いきなり意識がクリアになり周りが見え始める。自分が何をすべきかが分かる。
「メイリン、デュートリオンビームを、それからレッグフライヤーとソードシルエットを出してくれ」
矢継ぎ早に指示を出し、デュートリオンビームでインパルスのエネルギーの回復をするとすぐさま反転しザムザザーに吶喊する。
その勢いを警戒したのかザムザザーが陽電子リフレクターを展開させる。
「そのバリアは前にしか張れないだろうがぁ!」
小回りで勝るインパルスは急な機動変更でザムザザーを振り回して陽電子リフレクターの効果が及ばない箇所にビームサーベルを突き立てるとそのまま両断する。
無敵と思われたザムザザーの轟沈に浮き足立った連合軍の隙を突き、フォースシルエットからソードシルエットに空中で換装を済ませると、
真下にいたスピングラー級空母の甲板に着地するとレーザー対艦刀MMI-710エクスカリバーを両手に構えて突き立てる。
そのままエクスカリバーで艦橋を両断すると近くの艦へと身を躍らせ次々と切り伏せる、まるで義経の八艘跳びもかくやという活躍である。
空母2隻、ダリノヴ級戦艦4隻を撃沈したところで連合の艦隊は後退を開始した。
戦闘が一応の終結を見せてシンがミネルバに帰艦すると、クルーから手荒い歓迎を受けた後でルナマリアが聞いてきた。
「急にどうしちゃったの、いきなりエース級の活躍じゃない。火事場の馬鹿力ってやつ?」
「そんなんじゃないよ、なんかこんな所で諦めるかって思ったら頭の中がクリアになって、後は無我夢中だった」
「なんにせよ、お前が船を守った。生きてる事はそれだけで価値がある、明日があるって事だからな」
レイからも言われ一先ず生き残った事を喜び合う、シンは決して諦めなった勇者の背中を思い出していた。

オーブ領に存在する島の一つアカツキ島、ここはアスハの所有地であり、一般人は立ち入りが制限されている。
連合との同盟がオーブ国内に向けて公表されたのを受けて、情勢不安な中コーディネイターである自分達はプラントへ移住した方がよさそうだとベランダでコーヒーを飲みながら話すバルドフェルド、マリューにも一緒に来ないかと誘いをかける。
しかしながら現在は問題も抱えている、そう言って視線を海へ向けると、海岸で子供達に囲まれて困っているJの姿を見つめるバルドフェルド。
自分達はプラントへ行くことは可能だろうしかしJは違う。彼には戸籍もないし、なによりも彼自身がサイボーグという規格外の存在であり、謎のMSの事もある。
今は記憶喪失でありカガリの保護下にあるため比較的自由を与えられてはいるが、プラントへ移住するとなると如何とも成るまい。
万が一に備えて対策だけは取っておくべきか、この島の地下にはアスハ独自の地下基地が建設されており、戦争終結後にオーブに亡命したアークエンジェルとフリーダムが極秘に運び込まれていた。
なにがあっても良い様に現在モルゲンレーテにて保管してあるあの謎のMSも隠してあるアークエンジェルに搭載しておこうと話を締めくくった。

夜、Jは不穏な気配で目を覚ました。いかに記憶を失おうともJは生まれながらの生粋の戦士だ、隣の部屋のバルドフェルドを起こして様子を見る。
窓から外を見ると黒装束の一団が家の周りを囲んでいるのに気が付いた。
「泥棒にしては物々しいいでたちだね、Jはキラ達を起こして地下のシェルターに避難してくれ」
バルドフェルドはJに避難をまかせて臨戦態勢を取った。
Jは不思議と恐怖を感じない自分に驚きながらも、ほかの者たちを避難させるべく行動を開始する。
寝ているものを起こし急ぎシェルターの入口であるエレベーターホールに向かう途中で侵入した賊と撃ちあっているだろう銃声が聞こえてきた。
危険を察したJが安全を確認する為に先行したところ階段を降りた所で賊と出くわしてしまった。
黒装束の一団の前に進み出て誰何の声を上げるJ。
「何者かは知らんが、なにが狙いか」
返答の声は銃声であった、降り注ぐ銃弾の軌道が何故か見える。そのことに自分も驚愕するが咄嗟に床を蹴るJ、鳥の如く飛翔すると壁、天井と三段飛びで相手との距離を詰めると腕を振るって昏倒させる。
自らの腕を見つめて自分に何故こんな事が出来るのか不思議に思うが今は考えている暇は無い。
「急ぐぞ」
今のJの動きを、驚きをこめて見つめる一同を急かしてエレベーターホールへと向かう。
そのころバルドフェルドはリビングでの防戦を切り上げて避難を急いでいた、銃撃から身をかわし地下へと続くエレベーター前に辿り着く。
全員が合流したことに安堵の息が漏れたその時、空気ダクトからラクスを狙う銃口に気付いたキラが叫ぶ。
「ラクス!」
咄嗟にキラがラクスへと跳び付くが間に合わない、放たれ銃弾がラクスを貫こうとした。
「はあっ」
その時白い影が飛び込んで放たれた銃弾を弾き飛ばす、銃弾を弾き飛ばしたJはキラとラクスを庇うように前に立つ。
ダクトに向けてバルドフェルド達が銃撃を叩き込んで襲撃者を沈黙させると、Jに向き直る。
「ラクス無事か。まずはシェルターに避難するぞ。エレベーターに早く」
合流した全員がエレベーター内へ退避したのを確認すると扉を閉めてマリューがへたり込み愚痴をこぼすのにバルドフェルドも続いた。
「コーディネイターだわ」
「ああ、しかも素人じゃない。ちゃんと戦闘訓練を積んだ連中だ」
これを聞いたキラが驚きの声を上げる。
「ザフト軍ってことですか」
「コーディネイターの特殊部隊なんて、最低」
マリューの呟きにJは違和感を覚えた、正直Jには外見でナチュラルとコーディネイターの区別は付かないのだが彼らは判るのだろうか。
「やつらの正体が分かるのか?」
Jは自分には区別がつかないのだがと付け加えて疑問を口にした、
「あ、ああまあ装備とかでね。あれは僕がザフトにいた頃から使っているスニーキングスーツだし、それよりJは大丈夫なのか」
さっきは銃弾を素手で弾いた様に見えた、いかにサイボーグといえどもそんな事が可能なのか、気遣いとともに訝しげな問いを返すバルドフェルド。
自分は問題無いと告げて更に質問を重ねるJ。
「バルドフェルドはザフトに居たのか、では奴らの狙いはお前か? 私の過去に関係のある者達かとも思ったが」
「さあどうかね、Jには話していなかったが此処に居る人間は皆結構な有名人でね」
そう言って2年前の顛末を簡単に説明し始めるバルドフェルドとマリューの二人、説明が一通り終わる頃にはエレベーターは停止しシェルターへと到着していた。
なんでもラクスは平和の歌姫と呼ばれる存在であり、キラと偶に来ていたアスランの二人はCE最強とも呼ばれるMSパイロット、そして自分達を中心にした歌姫の騎士団が前の戦争を終結に導いたと言う。
そしてこの襲撃は我々の力を恐れた者達の刺客ではないか、という事だった。
そこまで話して気を抜いた一同にドンという振動が襲い掛かった。
「くっ、この衝撃はどうやらMSで攻撃を掛けているらしいな、いくらシェルターでも保たないぞ。ラクスあれを出すぞ、鍵は持っているな」
バルドフェルドに言われピンクのハロを握り締めるラクス。
その後キラを交えてちょっとした話し合いがあり扉が開かれた。
そこに存在したのは、Jは知らなかったが2年前に最強の名を欲しいままにしたMSフリーダムとこの日の昼間に極秘裏にモルゲンレーテより運び込まれたジェイダーであった。
「これは」
言葉を失うJなぜか奥にある緑と黒を基調にした機体から眼が離せない、近寄って手を触れてみると左手のJジュエルがまばゆい光を放った。
光の中でJは幻視した、赤い星、神殿に佇む影、緑の星、蒼い髪の少年、白い船団、敗北、青の星、赤い髪の男、赤い髪の少女、黒い船、そして獅子の…。
様々な光景がJの脳裏を過ぎ去っていく、Jジュエルの光が収まり片膝を着いて荒い息を吐くJに気が付いた面々が駆け寄ってきた。
「大丈夫J」
声を掛けてくるマリューを制すると顔を上げて今見た光景を語りだす。
「思い出したのか?」
「全てでは無い、だが思い出した事もある。このジェイダーは確かに私だ。そして私が戦士であることも思い出した」
「お前達には命を救われた、ならばこの窮地に私がお前達を助けよう」
ジェイダーに向かって歩を進めるJに向かってマリューが声を掛ける。
「でもそのMS、えっとジェイダーにはコクピットが無いわよ」
歩みを止めぬままJは
「言ったはずだ、このジェイダーは私だと。フュージョン!」
掛け声とともに飛び上がると左腕のJジュエルが赤く輝きJの姿を変えてゆく。海岸で倒れていた時に着ていた緑の鎧が形成されJに装着された。
鎧を着たJがジェイダーに吸い込まれて姿が消えたと思うと今までなにをしても反応のなかったジェイダーが起動した。
「ジェイッ ダー!」
言うが早いか飛び立つジェイダー、その勇姿をぽかーんと見上げるキラ達、なにしろJが変身した上にジェイダーに吸い込まれたとしか見えなかったのだ。
そこに歓声が上がる、放心状態のキラ達と違い子供からすれば自分達のピンチに変身ヒーローが助けに来たように見えるのだろう大喜びである。
その声を背に受けてあっと言う間に大空へと躍りだしたJは感慨深く呟く。
「空はいい」
いきなり登場したジェイダーに驚いていた敵のMS郡から上空に留まるJに攻撃が加えられる。
「無粋な連中め、だが私は戦士、我が記憶は戦いの中に有り。ゆくぞぉ!」
急降下で地上に降りると近くに居たMSを力任せに殴りつける、吹き飛ぶMSは後ろに居た味方を巻き込み転倒する。
そこにジェイダーの足に装備された砲塔が向き火を噴いた。
「反中間子砲、発射ぁ」
諸共に爆散する敵MS、しかし動きの止まったジェイダーの後ろから別の機体が襲い掛かる。
これを後ろ回し蹴りで吹き飛ばすと地を蹴って肉薄する。
戦い方は本能が教えてくれる、自分の中から湧き上がるままに力を奮うJ。
「プラズマッソード」
両腕から生み出したプラズマソードで敵機を両断し夜空へ飛翔する、上空から睥睨し次の敵を見定めるJだがこの戦いはJが望む戦いでは無く一方的な蹂躙でしかなかった。

「僕は大丈夫、このまま君たちのことすら守れずに、そんな事に成る方がずっと辛い」
「キラ」
キラとラクスがメロドラマを終えて出撃した時には全てが終わっていた。

「失敗した? 何をやっているのかね彼等は、何のためにアッシュなんて持ち込んだのか判らないじゃない。ああもう良いよ、証拠は残してないだろうね」
報告に来た男を下がらせると神経質そうに指を絡めて考えに没頭する。
このオーブに置いてアスハの名前は強力だ、なにしろ国民の90%以上の支持がある。あいつらが何時までも此処に居てはまたカガリを担ぎ出して馬鹿なことをやりかねん。
その前に始末をつけて置きたかったのだがあのコーディネイターめ、でかい口を叩いておいてこのざまか。
まあいいか、フリーダムとアークエンジェルの解析も終わっているしザフトに疑念を持ってくれるように仕向けられれば良しとしよう。
「使えないねまったく、明日の式の前に憂いは断って措きたかったんだけどね」
ユウナ・ロマ・セイランは暗い部屋の中で一人悪態をついた。

一夜が明けて家の跡地に来ていたキラ達は残された品から調査を行なっていた。
「あのMSはアッシュだな、ザフトの最新鋭機でまだ正規軍にも少数しか配備されて無いはずだ」
MSの残骸を調べたバルドフェルドが機種を特定する。
「じゃあやっぱりザフトが」
キラが結論を出そうとするがJが早急な判断に釘を刺し疑問を口にする。
「結論を出すのは早いのでは無いか、なにより…」
なにより可笑しな所が沢山ある。まずザフト製の最新鋭MSそしてスニーキングスーツ、
これだけ見ればザフトの仕業に見えるが特殊部隊に態々所属を特定させるような装備をさせるのか。
また特殊部隊という割には行動がおかしい。制圧するつもりならスタン・グレネードやガス弾を使用してもいいはずだし、暗殺目的ならば技術仕官のマリューや義手義足のバルドフェルドに遇われる程度の連中などを使うのか。
それにMS同士の戦闘があったにも拘らずオーブの防衛部隊は出撃してこなかったし、一夜明けた今になっても警察も消防も全く姿を見せない。
「まさかオーブの仕業なんて言わないで下さいよ、カガリはそんな事しません」
確かにカガリはしないだろう、キラとは姉弟らしいし一度話した限りではこんな事を考え付くような少女では無い。
ではやはりザフトが怪しいと言い出すバルドフェルドとマリューに納得するキラ。
そんな会話を横目で見ているとカガリの乳母であるマーナがやって来た、この惨状に驚くが自分の仕事を思い出しキラに手紙を渡す。
手紙の内容は掻い摘めば「オーブの為にユウナと結婚する、アスランから貰った指輪を同封するからキラから返してくれ」というものだった。
手紙を読んだキラは驚いた後に行動に移る。
「カガリを助けなきゃ」
そう言うと善は急げと走り出す。その後をラクス達が追うのをみてJも歩を進めた。

「そうですか成功しましたか、で隊長達にも怪我は無かったんですね」
アッシュ10機は惜しかったが、これでデュランダルに疑念を抱いてくれればラクス様もお立ちになるだろう。
まったく本来なら2年前のヤキン攻防戦のあと我々クライン派がプラントを導くはずが、キラ・ヤマトになどかまけて無為に過ごされるとは何をお考えか。
そのおかげでアイリーン・カナーバやギルバート・デュランダルのようなナチュラルとの融和などと言い出す愚物がのさばる事態になるのだ。
我等クライン派こそ、この地球圏を真に支配し愚かな人類を導くことが出来るのだ。
「さあ、これからは忙しくなるぞ。全てはラクス様の為に」
まずはターミナルとファクトリーの進捗状況を見なくては、これからの予定を頭の中で組み上げながらマーチン・ダコスタは嬉しそうに自分の部屋を出て行った。

式場へと向かう車の中でユウナ・ロマ・セイランはため息をついた。
ユウナにとってカガリとの結婚は自分の政治的足場を強固にする以上の意味は無い。
もちろん幼い頃からの許婚である以上、好意は持っているが愛かと聞かれれば違うと言うだろう。
本来ならばこの感情的で可愛らしい少女のささやかな夢くらい叶えてやりたいとも思う。
しかし今のオーブの現状ではそれは不可能だ、なにしろ先代ウズミ・ナラ・アスハは自ら掲げた理念のために2年前に国を焼き、自身もまた後を当時16歳のカガリに任せて自害してしまった。
それだけならまだしもその戦いでセイランを始めとしたトキノ、マシマ、キオウ家の他の氏族の軍閥は全滅に近い被害を出し、本来オーブの軍を束ねるサハクが天空の宣言とやらを発表してオーブ本国と一線を引きアメノミラシラを占拠するにいたる。
連合の進行を許したオーブ国軍は壊滅的な打撃を受けたのだが、アスハ派の軍閥はカガリと共に宇宙に脱出、3隻同盟なるものを組織し連合とプラントの争いに武力介入を行い両軍に多大な被害を出している。
オーブは代表首長が軍の最高責任者を兼ねるために文民統制が働かない完全な独裁国家だが、そんな状況において現在のオーブ軍は3隻同盟に参加したアスハの私兵が上層部を牛耳っているといってよい。
しかも終戦後、国内の復興と安定に主眼を置いて政治を取り仕切ってきた四氏族と軍部は確執が深まっていった上に元来外交筋で力を発揮してきたセイランは軍閥には受けが悪いことも手伝って、現在軍に対して有効な手札が無いのだ。
そこに今回のユニウス7落下から連合、プラントの再びの開戦が重なり、早急に国内を纏める必要が出てきたがために今回の結婚となった次第である。
そんな事情で結婚を迫られたカガリに不満が無い訳ではなかろう、あからさまに消沈した様子を見て取ったユウナは辛らつな言葉を投げかける。
「しっかりしろよ、マスコミも来てるんだ。嘘でいいから笑いたまえ」
「ユウナ、お前」
「僕だって君の気持ちは判っている、アスラン君の事でも考えていたんだろう。だが君はオーブの為にこの結婚を決めたんだ、ならそんな顔をするんじゃない」
「分かっている」
「分かって無いから言っているんだ、はっきり言おう。君が代表に選ばれたのはアスハの家名の為だ。このオーブと国民を守る為の人身御供だ、君も僕もね」
「分かっている!」
これ以上は今話しても無駄か、まあいい結婚すれば時間はタップリとある、この先のことも踏まえてゆっくりと話し合おう。
「式場に着いたら笑いたまえよ」
最後にそれだけを付け足した。

アークエンジェル、この大天使の名前を頂く戦艦はこのCE世界において軍関係者には特別な意味を持つ。
前大戦では不沈艦とも呼ばれ、ヘリオポリス崩壊からアラスカで連合を離脱、その後3隻同盟の中核としてヤキン・ドゥーエまでを戦った、歴戦の船である。
その艦はいまアカツキ島の地下ドックにてキラの言うカガリ救出の為に出撃の時を待っていた。
「本当にこれで良いのかしら?」
アークエンジェルの艦橋でマリューが漏らした一言に対してキラは語っていた。
「ええ、てかもうそうするしかないし、本当は何が正しいのかなんて僕達にもまだ全然分からないけど、でも諦めちゃったらダメでしょ。分かっているのに黙っているのもダメでしょ」
この混迷する世界で僕達に出来ることをするべきだ、2年前はそれで全部上手くいった。

そのころJは一人格納庫でジェイダーと向かい合っていた。そこにキラがフリーダムに搭乗するためにやってきて話しかけてきた。
どうやらJに援護を頼みたいらしい。キラによるとカガリの手紙にはむりやり結婚させられるから助けに来て欲しいと書いてあったと言う。
Jにとってキラ達は命の恩人である。またカガリはキラの姉で自分を匿ってくれた人物だ。
どのような理由かは知らぬが己の意に沿わぬ結婚をさせられそうになっており、助けを求めていると言うなら救援に赴かねばなるまい。
また、あの夜に自分が戦士だと自覚してからは、己の記憶を取り戻す為には戦いが必要だと感じていた、渡りに船とはこのことか。
「分かった、手伝おう」
了承するとジェイダーへと向かった。

結婚式は粛々と進み、誓いの言葉を述べる段になって俄かに周りが騒ぎ始めた。あのアークエンジェルが出現、しかもフリーダムと謎のMSがこの式場に向かって来ているという。
報告に空を見上げると迎撃にでたM1アストレイの両腕が謎の機体ジェイダーによって切り飛ばされた瞬間であった。
Jが踊るように全ての護衛MSの腕だけを切り落とし戦闘不能にすると後方からフリーダムがユウナとカガリの下へと舞い降りる。
ユウナはカガリの手を引いて逃走しようとするが、なれないドレスをハイヒールで踏んでしまったカガリが倒れて手を離してしまう。
急いで駆け寄って起こそうとするが直前でフリーダムの手に捕らえられるカガリ。
そのまま空へ飛び上がりアークエンジェルへ逃走を開始する2機のMSをみてユウナは叫び声を上げる。
「アークエンジェルを逃がすな、カガリを救出するんだ」
しかしこの命令は遂行されなかった、アークエンジェルは多数のオーブ護衛艦に囲まれながらも傷一つ負わずに海の中へと消えたのだ。
後日、事情聴取を行なったところ、「カガリ様の安全を優先しました」と判で押した答えが返ってきた、カガリを押さえて軍の実権を握ろうとした意趣返しのつもりのようだ。
そこまでアスハに尻尾を振るか馬鹿者共め、忌々しいがアスハ派の軍人を沿岸警備に回していたのが仇になったか、しかしあの連中がこれほどまでの馬鹿騒ぎを起こすとは考えていなかった。
オーブのことなど考えていない、自分達の感情だけでああも軽率な行動に出る。もしかすとこの混迷する世界で最悪の存在となるかもしれない。
嫌な予感を抱えつつもユウナはオーブの首長代理としてこれから先の事に考えを巡らせる事にした。

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ミネルバ隊と合流した凱とアスラン
カーペンタリアを出港した彼らの前に姿を現す連合艦隊と奪われたセカンドシリーズ
戦いの最中、連合軍の基地を発見したシンの行動とは
次回 勇者王ガオガイガー DESTINY
第6話 守るべきモノ にFINAL FUSION承認
これが勝利の鍵だ ZGMF-X23Sセイバー



[22023] 第6話 守るべきモノ
Name: 小話◆be027227 ID:8fbdcd62
Date: 2010/09/20 10:38
 
結婚式の会場から拉致されたオーブ連邦首長国代表カガリ・ユラ・アスハは怒っていた、しかも自分を拉致したのは弟であるキラ・ヤマトとその仲間達である。
「いったいどういうことなんだ、こんな馬鹿な事をして 彼方方まで一緒になって
 結婚式場から国家元首を誘拐するなど国際手配の犯罪者だぞ 正気の沙汰か」
確かにこの結婚はオーブ国内を纏める為の政略結婚であり、自分で望んだ結婚ではない。
だからと言って国家元首の結婚式に乱入して花嫁を拉致するなどオーブの威信に係わる重大事だ、やって良い事と悪いことの区別ぐらい付くだろう。
ヒートアップするカガリを見て、この戦艦アークエンジェルの艦長であるマリュー・ラミアスが形の良い鼻梁を顰めながら申し訳なさげな声を出す。
「それは…ねえ」
「こんな事をしてくれと誰が頼んだ!」
もう一度カガリが怒鳴ると首謀者のキラが話しかけてきた。
「でも仕方ないじゃない、こんな時にカガリにまで馬鹿なことをされたらもう世界中がどうしようもなくなっちゃうじゃない」
「なにが馬鹿なことだと言うんだ、私はオーブの代表だぞ。私だって悩んだ末の決断だ」
そうだ、色々と悩んだのだ。オーブの代表として国と民を守らなければならない、そのための最善を考えた末の決断だ。
「それで決めた大西洋連合との同盟やセイランさんとの結婚は本当にオーブのためになるとカガリは本気で思ってるの?」
「当たり前だ、でなきゃ誰が結婚なんかするか。もう仕方が無いだろうがオーブを2度と焼くわけにはいかないんだ。その為には今はこれしか道は無いじゃないか」
確かに今回の開戦は大西洋連合の強硬姿勢が問題だがここでプラントに同調して連合を敵に回すことは地球の中で孤立を意味する。
ようやく復興してきたオーブの国内事情ではそれは避けねばならない。
「オーブが焼かれなければ他の国はどうでもいいの、いつかオーブが他の国を焼くことになってもそれは良いの?」
「いや、それはでも」
「ウズミさんの言ったことは」
「でも」
オーブの理念である『他国を侵略せず、他国の侵攻を許さず、他国の争いに介入しない』お父様が云わんとした事は敵と味方の2極分化を憂いたものだが2年前はこの理念こそが国を焼いたのだ。
「カガリが大変なことは分かってる、今まで何も助けて挙げられなくてごめん。でも今なら間に合うと思ったから、僕たちにもまだ色々な事は分からない。でもだからまだ今なら間に合うと思ったから」
そう言ってカガリへ指輪を差し出すキラ、その指輪を見た途端に涙が溢れてくる。オーブの為に殺した一人のカガリという少女が顔を出してくる。
恐る恐る指輪に手を伸ばす、理性は「受け取るな、受け取ればオーブを裏切ることになる」と警鐘を鳴らす。
しかし此処にいるのは自分の身内だ、その甘えが理性を押しのけてしまった、指輪を手に取った瞬間、愛しい男の顔が浮かんで涙が溢れてくる。
「みんな同じだよ、選ぶ道を間違えたら行きたい所へは行けないよ、だからカガリも一緒に行こう」
「キラ」
「僕達は今度こそ正しい答えを見つけなきゃいけないんだ。今度こそね」
「如何しようと言うんだ、お前は」
「それを一緒に探していこう、カガリ」
泣き崩れるカガリ、その肩を抱いて子供でもあやす様に頭を撫でるキラ。
カガリはオーブの国家元首としての不甲斐なさと一人の女としての安堵でただ泣き続けているしかなかった。

そのころJは一人格納庫で物思いに耽っていた。自分が戦士だと自覚してからは、どうにかそのあたりを切っ掛けに、記憶が戻らないかと色々と思い出そうとしているのだが、上手くいかない。
やはり戦場の命を懸けた空気の中でしか伝わらぬ、あの緊張感が無ければ駄目なのかもしれない、そう思い悩むJにラクスが話しかけてきた。
カガリ救出への礼と自分達はこれから世界を平和にする為の活動を開始するつもりだ、ついてはJにも力を貸して欲しいということだった。
「私達はこの世界の自由と平和の為に戦うつもりです、しかし想いだけでは駄目なのです。
Jさん、彼方の力をお貸し頂けませんか」
「良いだろう、お前達の想いが本物ならば、そしてそこが私の求める戦場であるならば力を貸そう」
暫くの逡巡のあとJは協力を約束した。

ミネルバがオーブ沖で連合の艦隊から脱し、カーペンタリアに寄港して修理を受けている最中、艦長であるタリア・グラディスは基地司令の執務室に呼び出されていた。
「タリア・グラディス出頭しました」
声を掛けて部屋へ入ると其処には司令以外に二人の人物が待っていた。
一人は鍛え上げられた肉体、腰まで届く長い髪、瞳は熱く燃え、2m近い長身に勇気が漲っている、我等が勇者王、獅子王凱。
もう一人は憂いを秘めた瞳、きりっとした顔立ち、無駄に広い凸、ヤキンの英雄、アスラン・ザラであった。
思いも寄らぬ人物たちとの再開に面食らうタリアだが二人の服の襟元にFAITH(フェイス)の徽章が付いているのに気が付いて直ぐに居住まいを正して礼を取る。
議長直属のフェイスには部隊指揮官である白服の自分よりも権限が与えられている。
それを見て取った基地司令は苦笑いを浮かべて楽にするように伝えるとタリアの前に小箱を差し出した。
訝しげな表情を浮かべてから箱を手にして開けて見ると其処には二人と同じフェイスの徽章が入っていた。
「これは如何いう事でしょうか?」
尋ねるタリアに司令は任命書と命令書を渡してから、肩を竦めておどけてみせると凱たちに一瞥をくれてから口を開く。
「知らんよ、理由はそっちの二人と話してくれ。用件は以上だ、全員退出していいぞ」
これを受けて三人が部屋を出て基地内を移動、休憩室に到着して話の口火を切ったのはやはりタリアだった。なんとなく眼が冷たいのは勘違いだと思いたい。
「で、これは如何いう事かしら」
これに答えるのはアスラン、続いて凱である。
「いえ、自分達はグラディス艦長の所へ行って任務に就くよう言われただけですので」
「艦長なら面識があるから丁度良いだろうって議長がな」
「じゃあ彼方達二人が補充のパイロットなのね、あの人も何を考えているのかしらね」
それを聞いて一つ大きな溜息をつくと命令書に眼を通すタリア、その顔がすぐに真剣なものに変わり、再び二人に視線を向ける。
「彼方達、命令のこと知ってる?」
「いや、なにも聞いていないな。アスランはどうなんだ」
「いえ、自分もなにも聞いておりません」
「そう、ミネルバはジブラルタルへ向かいスエズ攻略中の友軍を支援せよ。これが命令の内容よ」
スエズ、ユーラシア西側に位置する連合の要衝である。またこの地域は現在内戦状態に陥っている。
前の戦争の頃からつねに大西洋連邦に言いなりにされている感のある一部の地域が分離独立を叫んで揉め出したのだ。
それがこの度のプラントとの開戦で一気に火が付いた。徴兵されたり、制限されたり、もうそんな事は御免だと言うのが抵抗している地域の言い分であり、それを連合軍側が力で制圧しようとしてかなり酷いことに成っている。
「そこへ行けという事でしょつまり、我々の戦いはあくまでも積極的自衛権の行使である。プラントに領土的野心は無い、そう言っている以上下手に介入は出来ないでしょうけど行かなくては成らないのはそういう場所よ。覚えておいてね」
連合はいくつかの自治国の集合体だ、その連合を構成する国の上層部は連合から離脱したくない、しかし国民は前回と今回の戦争で連合軍のやりように嫌気が差して、自治独立を言い出した。
無論、独立を認めてしまえば領土が縮小する連合としては認めるわけにはいかない。よって軍による鎮圧となったがこれが内乱にまで発展してしまった。
そこに行けと言うことはこの分離独立運動を支援して連合の力を削ごうという事である。
凱としてはこういう国家間の揉め事や内乱に介入するのは違う気がするが一番苦しんでいるのは力を持たない民間人であり、
連合軍のプラントへの無差別な核攻撃も然る事ながら、この戦争事態、半ば連合側の言い掛かり染みた強硬姿勢で開戦に到ったものである。
その上に戦争継続の為に強引な徴兵や徴発を行なっているなど許しがたいという思いの方が勝る。
「つまり連合の基地を叩く事が結果的に独立運動の支援になるという訳か」
「そういう事ね、そしてそれがプラントの為になるという事よ」
タリアと凱のやり取りに口を挟まなかったアスランだが話が一段落したところで提案をだす。
「MS部隊のことなのですが、自分と凱さんはフェイスです。どちらかが隊長に就任するのが適当かと思いますが」
これにはタリアも「そうね」と言いよどむ。この世界におけるネームバリューならヤキンの英雄であるアスランだろうが、実績は凱も負けない、というよりミネルバのクルーはユニウス7を破壊したあの光景を忘れないだろう。
正直どちらにするか迷うところだ、そうなれば後は本人の意思と資質だ。
「彼方達、現場指揮の経験はあるのかしら」
この質問に対する答えはそれぞれの返答はこうである。
「自分は前の戦争の時一隊を率いたことがあります、もっとも同期ばかりの隊でしたが」
「俺はGGGでは機動部隊の隊長を務めていた。隊員達は優秀な連中だったから特に部隊運営で苦労した覚えは無い」
この答えを聞いてタリアは少しの間目をつぶって考えた。
アスランには殆んど指揮経験が無いということだが、凱の仲間は、皆あのガオガイガーみたいな機体に乗っていたのだとしたら、MSに慣れているほうが良いかもしれない。
「そうね、アスランお願いできるかしら。凱は色々と規格外だから通常の指揮系統には組み込まずに、独立で動いてもらうほうがいいかしらね」
最後に「どう」と付け加えると二人ともがそれを了承した。

シンは基地内のPXで買い物を終えてミネルバへ帰ってきたところで見慣れない同型のMSが2機ハンガーに搬入されてくるのを見た。
そういえばここでパイロットが補充されると言っていた、ここは一つ挨拶でもと思いハンガーへ直接行ってみると意外な顔に出くわした。
「ようシン、また宜しくな」
「凱さん、何で此処に。それに宜しくって如何いうことですか。え、まさか補充って凱さんなんですか」
捲くし立てるシンに先にその場に来ていたルナマリアが肘鉄を入れて耳打ちする。
「バカ、凱さんはフェイスになったのよ。言葉には気を付けなさい」
そう言われて改めて凱を見ると襟のところにフェイスの徽章が見て取れる、慌てて身だしなみを整えて敬礼するシン達一同に向かって笑いかける凱。
「ハハハ、前と同じで構わないさ、正直よく分かって無いしな。それにこのフェイスだっけ? 俺だけじゃないぞ艦長とアスランもだ」
「えっ」という顔をするクルー一同、そこに先程搬入されたもう一機のセイバーからパイロットが降りてくると凱の隣に並んで挨拶をしてきた。
「特務隊フェイス所属、アスラン・ザラだ。今日からこのミネルバのMS隊の隊長を務める事になった、よろしく頼む」
その後控え室でミネルバのMSパイロット達は自己紹介をかねて別れてからの事を話し合っていた。
シン達の話がオーブでの事になり、そこからカガリ誘拐の話に飛んだところで事を知らなかったアスランが立ち上がって大声を出した。
「カガリが誘拐された? そんな馬鹿な、いったい誰がやった? 何でそんなことに成る!」
「フリーダムとアークエンジェルが代表を攫ったって話です。何が如何なっているのかなんて分かんないですよ」
「しかも、なんか結婚式の最中に攫われたらしいですしね」
「けっ結婚!?」
「報道では代表とセイラン家の某かとの結婚式の最中にフリーダムと機種不明のMSが乱入し代表を拉致したそうです」
さらに大声を上げるアスランにレイが感情を交えず肯定を返すと、アスランは一言謝ってから座りなおした。
「アスランは代表の護衛をしていたな、代表とは個人的にも親しかったのか」
この凱の質問に対して答えに窮するアスラン。正直に恋人ですとは言えない、かと言って単なる仕事上の付き合いですとも先程の狼狽振りを見せた後では信じてもらえないだろう。
「あ、はい年齢も近かったですからプライベートでも多少は親しくさせて貰っていました」
と嘘ではないが本当でもないあたりの無難な答えをするに留める、
それを聞いて凱はアークエンジェルとは前の戦争の時に活躍した連合の船だ、連合との同盟が成ったというのにそれがどうしてオーブの国家元首を攫うのかと疑問を投げかける。
確かにアークエンジェルの元々の所属は連合だが最終的にはプラントのエターナル、オーブのクサナギと共に3隻同盟なるものを組みプラント、連合の双方に攻撃を仕掛けてきた、詳しくは同盟に参加していたアスランに聞いて下さいとレイが答える。
話を振られたアスランは、自分達はただ戦いを止めたかった。だから敵とか味方とかでは無く全ての戦いを生み出す者達と戦ったと答えると凱は難しい顔をして口を開いた。
「それは力で全てを解決したということかい、だとしたら危ないな。今回の代表の拉致も力さえあれば如何にでも出来ると考えての行動かもしれない」
もちろん戦争が終わったのは良いことだ、しかしその力で解決出来た、出来てしまったのはその3隻同盟に参加した者の心に力に頼り、自分達の意見を押し通そうとする驕りが芽生えたのではないかと締めた。
凱の言葉を聞いた全員が一様に何かを考え始めてしまった、その中でもアスランは遠く離れた仲間たちに思いを馳せていた。
『キラ、ラクスそれにカガリお前達は何をしようとしているんだ』

ユウナ・ロマ・セイランは連合より送られてきた書状を読んで頭を悩ませていた。
内容はザフトを討つために戦力を提供しろということだが、今の情勢下で早々軍の派遣はしたくないのだが同盟を結んでいる以上拒否は難しい。
このような属国じみた同盟などユウナとしても結びたくは無かったのだが現在のところオーブには外交で切れるカードが無いのも事実なのだ。
これが2年前ならばモルゲンレーテの技術やマスドライバーの優先使用権などで交渉を行うことも出来たのだが、
モルゲンレーテは稼動を始めてようやく新型MSムラサメの量産体制に入ったところである、こちらの技術優位性確保を考えれば次世代機が出来ていない現状で他国に対しての技術供与に踏み切るには時期尚早。
マスドライバーは現在再建中で完成まであと数ヶ月は架かるため交渉には使えない。
しかもこの二つの再建を優先させた為にいまだに仮設住宅で暮らしている国民もいる、そのおかげでセイランは国民受けが悪いのだ。
つくづく2年前に前首長ウズミ・ナラ・アスハを説得出来なかったことが痛い。
じつの所ユウナはウズミを尊敬していた、ウズミの治世でオーブは発展していたし、国民も大過なく生活が出来ていた、だからこそ2年前の暴挙が許せなかった。
それまで賢人として国を治めていたのが連合、プラント間で開戦の気運が高まると行き成りにオーブの理念なるものを標榜し始めておかしくなっていった。
『他国を侵略せず、他国に侵略を許さず、他国の争いに介入しない』
いわゆるアスハの中立宣言である、これも初めは良かった。父ウナトも支持したし、自分も賛同した。
しかし情勢が変化するにつれて前二つの文言はともかく最後の一つは邪魔だった。せめて『他国の戦闘には中立を貫く』あたりにしておけば交渉のしようもある。
連合、プラントの双方に対してオーブを攻めるより味方につけた方が得だと思わせることも出来たのだ。
事実2年前の連合の協力要請の通達があった時は、父や自分を始め何人もが考え直すように進言したのだ、しかし結局受け入れられずに国を焼く所まで行ってしまった。
しかも父を始めとしてウズミを諌めたものは政治犯扱いで、自宅に軟禁される始末である、更にサハクの離反も国を焼いたウズミに対する反感が元になっている。
考えるにウズミは治世にあっては能吏であったのだろうが、乱世においては時勢の読めぬ凡人か、争いに巻き込まれる恐怖に負けた小人であったのだろう。
「そうだ、国とは理念でも我々氏族でも無い、国土と国民こそが国なのだ」
氏族と理念とは国土と国民のために存在する。ならばこのオーブを2度と焼かない為に今は連合に逆らう訳にはいかない。
自分の力で国を守れない悔しさを噛み締めながらユウナは次の手を考え始めていた。

カーペンタリア基地を出港したミネルバとボズゴロフ級潜水艦ニーラボンゴはインド洋沖を次の寄港地である、マハムール基地に向かって航行しているなかで凱が甲板に出て海を見ていると後ろからシンが声を掛けてきた。
雑談に応じる凱とシン、その中でシンは凱が戦う理由を聞いてみたくなった。
「凱さんは、如何して戦うんですか」
凱の戦う理由、それは力の無い人を助ける為だ。
だからこそユニウス7のテロリストやプラント市民への核攻撃などという虐殺行為を容認するような連合軍の裏に存在するというロゴスと戦うと決めた。
凱にとってそのような連中は許すことが出来ない、凱は人を守るからこそ人を傷つける人間は許せないのだ。
バイオネットにもメタルサイボークやハイブリットヒューマン以外の普通の構成員もいたし、パスキューマシンを奪いパピヨンの命を奪ったレプリ護も、本物と思ったままでその手に掛けた。
本当なら命は命だ、奪うことなどしたくはない。だが他者に対して害意を以って脅かすというなら、戦う事でしか守れないものがあるなら容赦はしない。
「俺は人を守りたい、その為に戦う事を選択した。本当はもっと違う方法があるとは思うけどな」
「違う方法ですか、それってどんな方法ですか」
その質問には凱もまだ分からないと答えてからシンの目を見て続ける。
「シン俺達は戦う力を持っている、でもそれは同時に奪う力でもあるんだ。自分が何のために何と戦うのか良く考えないとな」
シンは家族を戦禍で奪われている。家族を亡くした悲しみが、守れなかった力の無い自分が許せなかった、それがシンの戦う理由だ。
「俺も人を守りたいから、戦う事を決めました」
何と戦うか、何のために戦うかと聞かれたシンはそう答えた時にミネルバにエマージェンシーコールが鳴り響いた。
すぐにハンガーへ急ぐ二人、先に来ていたアスランに話を聞くと連合軍の空母を含む艦隊が接近中との事である。
各々は自分の機体に乗り込み出撃を待つ。
「コントロールより各MS、敵機は連合のMSウィンダム多数、またカオスが存在していることが確認されました。発進どうぞ」
メイリン・ホークより出撃のアナウンスが流れ次々とミネルバを発進していくMS。
「シン・アスカ、コアスプレンダー行きます」
「アスラン・ザラ、セイバー発進する」
「レイ・ザ・バレル、ザク発進する」
「ルナマリア・ホーク、ザク出るわよ」
「フュージョン」
掛け声と共にコクピットハッチが開き自分のセイバーへ跳びこみフュージョンする凱、コクピットのレイアウトは凱の説明からガオファーの物を若干違うが再現したものである。
「セイッバァー!」
発進した凱たちの前に連合軍が展開していた、ざっと見ただけで30機はいるだろう。
「レイとルナマリアはミネルバの護衛につけ、撃ち洩らした奴らは頼んだぞ」
海上での接敵を予想してカーペンタリアで積み込んだSFS(サブフライトシステム)グゥルに乗ったザク2機を直援に回し、前方のMS群に吶喊する三人。
それぞれに敵機に向かうシンのインパルスとアスランのセイバーだったが紫色のウィンダムとカオスに張り付かれた形になってしまう。
カオスが居る以上はアーモリー1を襲撃したあの謎の部隊の人間だろう、それが連合軍と行動を共にしている。
つまり連合は開戦前からプラントに対して戦闘を仕掛けていた事になる。そういう事ならばユニウス7の件は口実でどちらにせよ近いうちに開戦していただろう。
「始めからそのつもりだったか、アムッフォルッタス!」
力強い声と共に凱のセイバーが放ったプラズマビーム砲が中央にいた数機をまとめて撃破する。
凱の一撃で口火を切った戦いはMSの戦力比が10:1でありながら、凱とシンの活躍もあってミネルバ勢が優勢となっていた。
凱のセイバーがビームライフルとアムフォルタスを駆使して敵を次々と落とす中、アスランはカオスとの戦いの場を上空へと移し、シンのインパルスはネオの操るウィンダムを追ってミネルバから離れてしまった。
それを見咎めたアスランが戻るように通信を送るがシンは敵を落とすことに夢中で聞いていない。
それを見た凱は4分の1まで減った残りの敵機をミネルバの護衛に専念していたレイ達に任せるとシンを追っていく。
追った先でガイアとネオのウィンダムに挟まれて苦戦するインパルスを発見して援護に入る凱。
ウィンダムがビームライフルを撃ってくるのをかわしながらビームサーベルを引き抜き切りつけるが紙一重でかわされる、擦れ違いざまにウィンダムがセイバーを蹴り飛ばす。
「ぐうっ」
衝撃に声を上げる凱、フィージョンは凱と機体を直接繋ぐ操縦方法なので通常の操縦システムに比べて反応速度が格段に上がるが機体に負ったダメージが痛みとなって凱に伝わるのだ。
油断のならない相手と見て取り、気を引き締める凱にウィンダムのネオから通信が入ってきた。
「お前さん、宇宙で俺とやりあったパイロットだな。て事はあの黒いMSに乗っていた奴だろう。」
どうやらこの世界で初めて戦ったMAのパイロットのようだ。
「こんな所でまた会えるとはな、あの時の借りを返させてもらう」
「そう簡単にはいかないぜ、来いっ」
激しい戦いを繰り広げる凱とネオだが、ネオの元に用意したMSが全滅したことが知らされる。
「数はこっちが上だろが、なにやってんだか」
不甲斐ない味方に悪態を吐くとステラ、スティング、アウルの三人に撤退を促して離脱を試みるネオ。
「今回は逃がさん」
それを見咎めて追いかける凱だが視界の端に建物を攻撃するインパルスが映る。
「シンが攻撃しているあれは連合の基地か」
よく見るとただ攻撃をかけているだけではない、どうやら逃げ回る連合兵を追い回しているようだ。
「あいつ、何をしているんだ」

ガイアとの戦いのさなか横から攻撃を受けたシンはそこに連合軍の基地が存在することに気がついた。
しかも戦場となった基地であるにも拘らず土木作業に従事していたらしい民間人がフェンスに向かって走っていくのが見えた。
これだけなら戦いの後に対処すれば良いだけなのだが、シンの目に衝撃的な光景が飛び込んできた。逃げる民間人に向かって連合兵が発砲したのだ。
次々と倒れる人々がシンのトラウマを刺激する。
「なにやってんだ、お前らはぁ!」
感情のままに基地を攻撃し始めるシン、粗方の施設を破壊して基地の周囲に張り巡らされたフェンスを引き抜き市民に向けて声を掛ける。
「さあ、みんな逃げて」
そこから逃げ出す人々と逆になだれ込んで来る人を見ながら、シンは人を助けられたと思っていた。

シンの行動を見てウィンダムの追撃を止めて基地に下りる凱。
その凱の目に基地の倉庫から物資略奪に走る者や、降伏したり怪我をした兵士に暴行を加える人々の姿が飛び込んでくる。
セイバーとのフュージョンを解除して飛び降りる凱、地面に着地すると連合兵に暴行を加えている市民を力尽くで引き剥がしていく。
「止めろ! 何をやっているお前達は」
救出した連合兵たちを背中に庇いながら集った人間を前に怒声を浴びせて一喝する、その迫力に驚いたのか静まり返る群衆。
それでも収まらないのか何人かの男達から声が上がる。
「そいつらを引き渡せ、今迄の恨みを晴らすんだ」
その声を境に再び勢いづく人々、それでも退こうとしない凱に向かって何処からか石が投げつけられる。
その内の一つが凱の額に当たり血が流れるが、凱は血を拭う事もせずに立ちはだかる。
「ここに居るのはあんた達と変わらないただの人間だ、一つの命なんだ。恨みがあるのは分かる、それを許せとは言わない。だが、私刑を見過ごすことは出来ない」
凱の説得にも激昂する群集からの投擲が止むことはなく、次々とその身に石が投げつけられるがそれでも説得を続ける凱。
「ここでこの連中をあんた達が討てば、今度はあんた達がその恨みを受けることになるんだぞ。その覚悟があるのか」
そう言われて怯む群集から中から離脱する者が出始めると、解散まではそう時間は掛からなかった。
その光景を見ていたシンは凱の行動が理解出来ずに目を丸くしていた。

ミネルバに戻ったシンはアスランに平手打ちを食らった、
「なんで命令に従わなかった、それに連合の基地に勝手に攻撃を仕掛けるなんて何を考えてる。戦争はヒーローごっこじゃないんだぞ」
「殴りたければ殴れば良い。でもね俺はなにも悪いことはしてませんよ、あれで皆が助かったんだ」
叱責されたシンは悪びれることなく反論するが、そこに凱も加わった。
「歯ぁ食い縛れぇ!」
足早に近づくと右の拳を振り上げてシンの左頬に炸裂させる。
もんどりうって吹き飛ぶシン。さすがに其処にいた全員、先にシンに平手をみまったアスランですらギョっとした。
シンの前に仁王立ちで陣取ると静かな声で語り始める。
「シン、命令違反のことは良い、現場の判断とかもあるだろう。それにあの人達を助けたのも問題無い、だがな略奪や連合の兵士が私刑を受けるのをなぜ黙って見ていた」
真っ直ぐにシンの目を見つめて問いかける凱。
「気づいていなかったとは言わせないぞ。何故だ」
「そ、それはだってあの人達は連合に苦しめられていたんですよ、仕返しくらい当然じゃないですか」
この言い分に凱はシンを怒鳴りつける。
「バカ野郎! お前は分かっていない。いいか、どんな理由だろうが捕虜への過剰な暴力や虐待は国際法で禁止された行為というだけじゃない。
あの人達が激情にまかせて連合の兵士を殺してしまったら、後で正気に戻った時にどれ程苦しむか解らないか」
自分達のように人を守るために人を討つ事、そして討つ覚悟を決めると同じように討たれる覚悟をしていない人間が周囲の熱に浮かされたような暴走に酔ったあげく、勢いで凶行に走って命をその手に掛けてしまえば、正気に戻った後でどれ程苦しむのか。
だからこそ、軍隊や警察という組織が必要なのだ。シンは今まで敵はただ倒せば良いと思っていた。
肉親を奪われる悲しみはシンには良くわかる、自分も家族を奪われたからこそザフトに入ったのだ。しかし討つ苦しみまでは考えていなかった、というよりも討つことは当然のことだと思っていたのだ。
「いいかシン敵を討つのは間違いじゃない、そうしなければ守れないモノはある。だがな敵だからといって全てを討てば良いなんて考え方は絶対に間違いだ。俺達がなんの為に戦っているのか、もう一度よく考えろ」
凱に言われて人を守る事の難しさを痛感する。それだけを言って踵を返し去っていく凱、その背中を見つめながら近づきたいと思った男を遠くに感じるシンだった。

ちなみに言わんとした事を否定された上に説教まで凱に取られたアスランは、横から意見を言おうか迷っているうちに全て終わってしまって途方にくれていた。

君達に最新情報を公開しよう
インド洋で死闘を繰り広げたミネルバ隊はガルナハンに到達した
一人の少女に救援を要請された凱達はガルナハンにある連合基地の破壊を決定する
鉄壁の防御を誇る基地の防衛網を破るためシンは一人危険な作戦に挑む
次回 勇者王ガオガイガー DESTINY
第7話 信頼 にFINAL FUSION承認
これが勝利の鍵だ コアスプレンダー



[22023] 第7話 信頼
Name: 小話◆be027227 ID:8fbdcd62
Date: 2010/09/20 10:39

インド洋での戦いから一日、ミネルバは連合の基地跡に停泊していた。
この戦闘でミネルバには目立った損傷は無かったのだが、カーペンタリア基地から同行していたボズゴロフ級潜水艦ニーラボンゴがアビスによって撃沈され、
またこの基地の存在を報告したところ、処理の為の援軍が到着するまで現場で待機するように命じられたのであった。
この命令でスエズ侵攻の為にイラク北部のザフト軍マハムール基地に急いでいたミネルバにはしばしの足止めとなったのだが、
艦長のタリア・グラディスや副長のアーサー・トラインは事後報告書の作成や近隣住民との事前折衝で奔走しているし、
メカニックチーフのマッド・エイブスを始めとした整備班は戦闘後の機体チェックと修理、メンテナンスに忙しい。
MSパイロットも撃沈されたニーラボンゴのクルーの捜索と周辺警戒に飛び回り、医療班、生活班も周辺の住民ケアに従事、陸戦隊は連合の捕虜の監視、尋問とやらなければならないことが多い。
そんな中ルナマリア・ホークは偵察任務を終えたところでブリッジオペレーターの妹メイリン・ホークと連れ立ちシャワールームへと足を運んでいた。
「も~せっかく停泊してるのに、全然休めないじゃない」
後ろで服を脱いでいるメイリンが愚痴を溢しているのを、体を洗いながら聞く。
「仕方ないでしょ、お仕事なんだから。あんたはまだ良いわよ、あたし達なんか捜索、休憩、捜索、休憩の繰り返しなんだから」
「そんな事言ったってさ、もうちょっとこう」
「愚痴らないでよ、よけい疲れる」
「ぶ~」
ようやく服を脱いだメイリンが隣のシャワーブースに入り、頭を洗いながら姉妹のたわいの無い会話は続く。
「でもこうやって毎日シャワーが使えるのはいいよね」
「そうね~、宇宙だと水は貴重だから」
ミネルバは宇宙艦であるために水などの生活物資は余裕をもって積むのだが、流石にシャワーなどは排水を濾過して繰り返し使う事になる。
勿論水の濾過にも限界がある以上は余裕が無くなれば、除菌タオル等で体を拭くに留まる場合もある、年頃の少女達には毎日を清潔に過ごせるのはありがたいだろう。
「そういえば聞いたよ~ シン、凱さんに殴られたって」
「あ~ あれはねえ」
あの時の状況を思い返して見ると凱の言い分からすれば、偶々シンが殴られただけで自分やレイ、いやMS部隊の隊長であるアスランでも殴られた可能性がある。
心の中で言動には気をつけようと固く誓うルナマリア、口が止まった姉に対してメイリンは続ける。
「なに、もしかして尾を引いてんの?」
「あ、うん、シンのやつあれから凱さんと喋らないのよ。たく子供なんだから」
「あ~だよねえ、シンてば私から見ても子供っぽいもん」
「ま、実際のとこ話しかけたいけど話しかけられないで困ってる感じかな。その点凱さんは大人よね、余裕があるっていうか」
このあたりから青春真っ只中の乙女の定番会話に話題がシフトして行く。
「格好いいよね、凱さん。背も高いし逞しいし、しかも超人エヴォリュダー憧れるな~」
凱がエヴォリュダーである事はミネルバ内では周知の事実である、初めてザクで出撃したときに宇宙空間を生身でうろついていたのをメカニックに目撃されているし。
ガオガイガーでユニウス7を破壊するなど、とんでもないことをやってのけている為にクルー内での凱の評価は、エヴォリュダーは良く分からないがとにかく凄いという認識である。
「あんたね、その惚れっぽいとこ治しなさい」
「い~じゃん、お姉ちゃんに迷惑掛けてないし。あ、でもアスランさんも格好いいよね」
問われて自分達の隊長たる人物アスラン・ザラについて考えるルナマリア、確かに顔は悪くない、いや美男子といっていいだろう。
また話を聞くに優秀な人物であるのは間違いあるまい、しかし何というか影が薄い。
隣にいるのが存在感の塊みたいな凱だからしょうがないかもしれないが、評価は保留したほうがよさそうだ。
体の隅々まで綺麗にしたルナマリアはメイリンに一声掛けてシャワールームを後にした。

そのころシンは凱の後を付けていた、捜索から戻ってきて休憩室に行く途中、警備の兵士に先導されて歩いていく凱を見つけて思わず隠れてしまった。
先日の一件以来どうにも凱と顔を合わせ難いので、つい逃げ回ってしまっていたのだが、どうにも気になって仕方が無い。
どうやら基地の外へ向かっているようだ、基地との境界まで歩いてくると何人かの現地民が凱に気付いて近寄ってくる。
昨日の騒動の事もある、もし何かあるようなら凱に加勢しなければと考えてこそこそと近寄ると会話が聞こえてきた。
「昨日はすまんかったな、あん時は頭に血が上っちまって酷いことしちまって」
「ああ、一晩たって落ち着いたら、えらい事するとこだったと反省したんだ」
「まだ連合に復讐するって息巻いてる連中もおるが、なに、すぐに大人しくなるじゃろ」
会話の内容は穏やかなものだった、この分なら心配は無いだろう。物陰から見ていると父親だろう男の影に小さな女の子がいるのが分かった。
凱も気がついていたらしく、しゃがんで目線を合わせて話しかける。おずおずとした様子で前に出ると小さな手に握った何かを差し出した。
「こ、これバンソーコー。おじちゃん昨日怪我してたから」
怪我の治療は済んでいるのだが、凱はお礼を言って女の子から絆創膏を受け取って、頭を撫でながら笑って続ける。
「おじさんは勘弁して欲しいな。俺はまだ23歳なんだ」
和やかな雰囲気で会話が進むのを物陰から見ているシンの後ろから声がかかる。
「なにしてるのシン?」
驚いて振り向くとルナマリアが立っていた、風呂上りなのか石鹸の良い匂いを放っている。
「静かにしろ、見つかっちゃうだろ」
小声で注意して、視線を戻すとルナマリアもシンと一緒になって覗き込む。凱と住民のやり取りを見て意地の悪い笑顔を浮かべてシンに話しかける。
「な~に悔しいの、自分が助けたのにって」
「そんなんじゃないよ、たださ何が違うのかなって」
ルナマリアの言い方が気に入らなかったのか一寸むっとした口調で言い返すシン。ルナマリアは口元に指を当て「ん~」という顔をして考え込んでからシンに答えた。
「助けたのはシンだけど、救ったのは凱さんって事じゃないかな」
「何が違うんだよ、それ」
「そのくらい自分で考えなさいよ」
そういって去ってゆくルナマリアを見送って「なんだよそれ」と悪態を吐いてから、言われた事を考え始めた。

引継ぎを終えたミネルバはマハムール基地へ向かって航行していた、その中の士官室で凱とアスランが話し合っていた。話が一段落したところで凱が頭を下げた。
「この間はすまなかった、MS隊の隊長は君なのに差し出がましい真似をしてしまって」
頭を下げられたアスランは驚き、慌てて頭を上げるように促す。シンに対して行った行為を言っているのは分かったので気にしていない事を伝えた。
顔を上げた凱はアスランの顔をみつめて少し考えたあとに「不躾ですまないが」と前置きしてから口を開く。
「アスラン、言いたい事があるならきちんと言って欲しい。なにか君には遠慮というか、壁みたいな物を感じるんだが」
凱の指摘に口を閉じて暫く瞑目してから手を組んでポツポツと放し始めた。
「そう、かも知れません、俺は後ろめたい気がするんです。俺が前の戦争が終わった時にプラントに残ってザラの名前を継いでいればユニウス7の事件や今回の戦争も止められたんじゃないかって、他にも出戻りの俺がフェイスに任命されて偉そうにするのも如何かと考えてしまったりで」
言葉を続けようとするアスランを手で制してから凱が口を開く。
「アスラン、君が前の議長の息子なのは聞いている、でも君がいれば何もかも旨くいった訳じゃない。それに出来ることをしようとザフトに戻ったんだろう、君がフェイスに任命されたのも議長が相応しいと思ったからだ、胸を張れ」
アスランの話聞きながら、この青年は繊細な感性の持ち主だと分かった。こんなに悩んでいては将来が心配だ。そう思ってみるとなにか前髪の生え際が気になる。
「それは分かっています、でもなにか此処のところ後悔ばかりで」
父親の亡霊ともとれる人間がユニウス7の事件を起こし、なにかしなければと考えてザフトに戻った途端にカガリがキラに攫われるなど、行動が裏目に出てばかりだ。
この間の戦闘でも2年間のブランクがあるとはいえども、カオスに張り付かれて満足のいく結果を出せなかった。
思い悩むアスランの肩に手をかけて凱は言葉をかける。
「そう悩むな、上手くいかない時はあるさ。それに自分一人で出来ないなら仲間を頼ってくれ。俺だってあいつらだって力に成る」
「そうですね、ありがとうございます。頼りにさせてもらいますよ」
凱の言葉を受けたアスランは微かに笑うと返事をした。

マハムール基地に到着したミネルバ艦長のタリアと副長のアーサーは基地指令であるヨアヒム・ラドルと次の作戦のためにブリーフィングを行っていた。
ガルナハンローエングリンゲートと呼ばれる連合軍の基地がある渓谷の状況は、断崖の向こうに町があり、その奥に火力プラントがある。
マハムール側からガルナハンの町にアプローチ可能な地上ルートは渓谷内に伸びる一本のみだが、この渓谷を望む高台に設置されている連合軍基地の陽電子砲台が渓谷全体をカバーしており何処を行こうが射程内に入り隠れる場所は無い。
この砲台に対してラドルも攻略作戦をおこなったが砲台に接近することは叶わず、超長距離から砲台または下の台座部分を狙っても配備された陽電子リフレクター装備のMAによって有効的な打撃は与えられなかった。
ここまでの話し合いでタリアが口を開く。
「つまり現状では打つ手がないということかしら」
ミネルバのタンホイザーでもMAの陽電子リフレクターに通用しないのはオーブ沖の戦闘で実証されてしまった。
こちら側に盾が無い以上は撃ち合いでは勝てない。
「そうなるな、そこで現地協力員を取り付けた」
ガルナハンの町では駐留の連合軍が好き勝手にやっているようで、反連合のレジスタンスが組織された。
前回のローエングリンゲート侵攻時に呼応して蜂起したが失敗。多数の死者とその後の更なる弾圧を生む結果となった。
この状態を受け、現地人でもあまり知らないルートを提供するので町の開放に協力してほしい、開放の暁にはプラントへの支援を約束するとの申し出があった。
「その情報は確かなんでしょうか、使えないルートを提供されても困りますよ」
アーサーが怪訝な表情を浮かべながら疑問をだす。
「それは信用するしかないわね。どのみち今の状況では他に打つ手も無いわ」
「そういう事だな、議長が進める反連合勢力との協力体制の確立を考えれば手を引く訳にもいかんという事だ」
上位者二人の意見が一致した以上この作戦は実行される。ならばあとはベストを尽くすだけだ。
アーサーは敬礼をして準備のために作戦室を退出した。

一方オーブを脱出したアークエンジェルはスカンジナビア王国に身を寄せていた。
ブリッジで一行はこれからの活動方針で話し合いをしており、モニターに映し出された画面には各国の情勢が映し出されていた、そのほとんどは連合軍の非道な行いを報道するものとプラント、ザフトの整然とした振る舞いが喧伝されていた。
それを見ていたマリューがぽつりと洩らす。
「こういう報道を見ちゃうとザフトと一緒になって連合を叩きたくなるわね」
「そうだな、しかしプラントの方もどうもね」
バルドフェルドが言葉を続けながら、一つのモニターに目を向ける。そこには画面の中で歌い踊るラクス・クラインの姿が映っていた。
「とっても楽しそうですわね」
「あんな偽者を用意しているんです、僕はプラントいやデュランダル議長を信用できません」
それに目を向けたラクスとキラはそう言った。

ローエングリンゲート攻略に向かったミネルバの面々は一人の少女の訪問を受けた、この少女の持つ情報が今回のラドル隊と共同で進めるローエングリン砲台基地攻略の要だという。
MS部隊のブリーフィングルームでアスランからそのコニール・アルメタという少女を紹介され、続いて基地の概要を説明された。
「なるほど、難攻不落とはよく言ったものだな」
凱が感想を洩らすとシンはちらりと視線を向けてから自分を鼓舞するように声をあげる。
「要はそのMAをぶっ飛ばして砲台をぶっ壊して、ガルナハンに入ればいいんでしょ」
「俺達は今どうやって、そう出来るかを話しているんだぞ」
「やれますよ、やる気になれば」
「じゃあやってくれるか、俺達は後方で待っていればいいんだな、突破できたら知らせてもらおう」
アスランに一人で行けといわれて慌てるシン、それは軽く流して作戦詳細の説明に入った、スクリーンに新しいデータが映し出され、コニールから説明がされる。
「ここに地元の人もあまり知らない坑道があるんだ、中はそんなに広くないからMSなんか通れない。でもこれは丁度砲台のすぐ傍に抜けていて、出口は塞がっているけどちょっと爆破すれば抜けられる」
アスランから補足説明が加えられる、MSは無理でも分離状態のインパルスなら抜けられるだけのスペースはある。
そこでこの作戦はこの坑道を利用して敵陽電子砲に接近、破壊を行なおうというものである。
インパルスが坑道に突入するのに合わせて本隊であるミネルバ、ラドルの乗艦するコンプトン級陸上戦艦ユーレンベック、その他レセップス級陸上戦艦とMSで正面攻勢をかけ、MA及びMSの敵機動兵器を惹きつけて基地と砲台から引き剥がす。
敵戦力を基地から引き剥がしたところで、インパルスが坑道を抜けて直接砲台を攻撃するというものだった。
「お前が遅すぎればこちらは追い込まれる、早すぎてもだめだ。敵を基地から引き剥がしきれないからな、データの通りに飛べばいい。わかったな」
シンに言い含めるとコニールにデータを渡すように促す。促されたコニールはシンとアスランを交互に見ると怪訝な顔をしてアスランに確認をとる。
「こいつに?」
「そうです」
「なんだよ」
「この作戦が成功するかどうかはそのパイロットに懸かっているんだろ、大丈夫なのか。隊長はあんたなんだろ、じゃああんたがやったほうが良いんじゃないのか。失敗したら町の皆だってマジ終わりなんだから」
アスランに対して、まるで自分を信用していない言い草を続けるコニールにシンは激昂して席を立つ。
「なんだと!」
「シン座れ、彼ならやれますよ。だからデータを」
アスランに言われて憮然としながらも椅子に座り直すシン。
「データをこちらへ」
再度言われたコニールはアスランにデータが入ったカードを差し出しながら話はじめた。
「まえにザフトが砲台を攻めたあと町は大変だったんだ。それと同時に町でも抵抗運動が起きたから連合軍に逆らった人達は殺された人が大勢いる。
その後で逆らわなかった人達も、お前らも同罪だって言われてめちゃくちゃ酷い目に遭わされた。
今度だって失敗すればどんなことになるか分からない、だから絶対やっつけて欲しいんだ。頼んだぞ」
目に涙を溜めながら切々と訴えてくるコニールの横に、いつの間にか進み出ていた凱が頭を撫でながら約束する。
「まかせておけ、俺達が絶対に砲台を壊して町を開放してやる」
「おっさん」
涙を袖で拭って顔を上げたコニールのおっさん発言に凱は苦笑しながら訂正する。
「おっさんは止めてくれ、俺はまだ23歳なんだぜ」
部屋にちょっとした笑いが起こった後で作戦の説明を終えたアスランは、凱になにかあるか促すが特にないとの事であった。
解散を告げられ各員が部署へと散ってゆくなか、データを受け取ったシンもコアスプレンダーへ向かおうと席を立ったところで凱とアスランから声が掛けられた。
「この作戦はシンお前が要だ、任せたぞ」
「自信を持て、お前なら上手くやれる」
二人に見つめられて視線を外すと、コニールも真っ直ぐに見つめてきていた。その少女の必死な顔を見たシンは一度顔を伏せてから、上げた表情は決意に満ちていた。
「任せてください。必ずやり遂げます」

ブリーフィングも終わり、凱はアスランと連れ立って艦橋に向かって歩いていた。道中凱が疑問を口にする。
「なんで連合は制圧地域の弾圧なんてするんだろうな、始めは兎も角徐々に懐柔政策にシフトするのが当たり前だと思うが」
「それは反抗する気を無くさせる為にも、力を誇示したいのでは無いでしょうか」
凱の疑問に自分なりの答えを返すアスランだが、次に凱の口から出た台詞に足が止まってしまう。
「実はな、俺はこの作戦には参加しないつもりでいた。でも彼女の話を聞いて考えを改めたよ」
もちろん向こうから仕掛けてくるなら容赦しないが、軍同士の単純な攻略戦には参加する気が無かった。
抵抗運動に参加した人間が命を落とすのは当然とは言わないが、ある意味で仕方の無いことだと思う。しかしその裏で罪も無い民衆が苦しめられているなら助けたい。
元々、凱がザフトに入ったのはプラントの市民に向けて核攻撃を行なうなどという連合軍の無差別な蛮行を許せなかったからだ。
「だから俺は何の罪も無い人を巻き込むような作戦を採った者が許せない、連合軍が同じような暴挙を繰り返すなら裏にいる連中を引きずり出して叩き潰す」
その言葉には人を守る絶対の意志が感じられる。
もしもザフトがシーゲル・クラインや父パトリックのような無差別な攻撃を行なえば凱は即座に敵に回るということなのだろう。
「まずはこの作戦を成功させて、ガルナハンの町を開放しないとな」
凱にそう締められて「そうですね」と答えたアスランだったが気が付けば、いつの間にか汗を掻いた手を握り締めていた。
微かに震えるその拳ははたして何かの予感なのだろうか。

シンはレイ達と共に格納庫に向かっていた、その途中ルナマリアがシンに話しかける。
「シンてば、凱さんとかの言う事は割りと素直に聞くよね、アカデミーの頃なんか上級生とか教官とかとぶつかってばかりだったのに」
「確かにな、この間殴られた時など、すぐにお礼参りに掛かっていくかと思ったが」
レイも口元を緩めて後に続く、二人の言いように憮然とした様子で答えるシン。
「なんだよそれ、それじゃあ俺がはねっかえりの馬鹿みたいじゃんか」
あの頃のシンは家族を失って間も無く、自分に力が無いのが堪らなく嫌だった。だから実力も無いくせにやたら威張り散らす連中が気に入らなかったのだ。
そんな連中には自分から突っかかっていったものだが、この船には幸いそんな人間は居ない様であった。
また凱に関しては憧れのような思いがある、初めて目の当たりにしたガオガイガーの姿はしっかりと覚えているし、そのパイロットである凱も自分を勇者というだけあって実力、人格ともに尊敬すら感じる人物だ。
殴られたことも、確かにその場では腹が立ったが数日を経てなんとなく凱が言っていた事も理解できたような気もする。
だがそんなことを口にするのは恥ずかしいし、照れくさいので別の理由を口にする。
「だいたい、凱さんに掛かっていって勝てると思うか」
問われた二人は凱の姿を思い出した。MSに乗り込むときも自分達はタラップを使うが、凱は約9mの高さを跳躍してコクピットにフュージョンする。
偵察に出たときもコクピット内ではなく飛行形態のセイバーの上に足をかけて立っている等々もはや人類の常識を超えている、さすが超人エヴォリュダー。
そこまで考えて顔を見合わせてお互いに同じ結論に到達したのを確認してから即答する。
「無理ね」
「無理だな」
そんな人間に頼むと言われたからには張り切らないわけが無い。同僚二人と話して落ち着いたのか、確かな足取りでコアスプレンダーのコクピットに向かった。

ついにローエングリンゲート攻略戦が開始された。まずはシンの乗るコアスプレンダー、続いてチェストフライヤー、レッグフライヤーが坑道に飛び込む。
坑道に飛び込んだシンは悪態を吐いていた。
「真っ暗じゃないか、マジでデータだけが頼りかよ」
全く視界が利かない以上、貰ったデータを基にした画面に映るCGだけを頼りにした高速飛行である
「何がお前なら出来るだ。あの野郎、自分でやりたく無かっただけじゃないのか」
この任務を命じたアスランに対して恨み言を言いながら狭い坑道内を飛び続ける。
「やってやるさ、畜生ー!」
暗い坑道内にシンの叫び声だけが木霊していた。

シンが叫んでいるころ本隊もまた戦いの渦中にあった、このままシンが砲台下に到達したとしても、そこに敵機がいれば撃墜されるだけである。しかも通常砲台は地下に収納されている為、地上に出ていてもらわねばならない。
開戦直後、ミネルバのタンホイザーにて砲台を直接狙ったものの、案の定敵MAゲルズゲーの陽電子レフレクターに阻まれた。
この直後、連合側の陽電子砲ローエングリンが火を噴きミネルバを強襲するが間一髪、地面擦れ擦れまで降下してやり過ごした。
ここからは陽電子砲のエネルギー充填に時間がかかる関係上、互いのMSでの交戦になる。むろん、戦艦の一武装よりは基地の固定砲台の方が射程、威力、充填速度で上回っているため、それも攻め手側である凱達は考慮しなければならない。
当然MSの数も連合側のほうが優勢だ、MS戦に移行してから15分程が過ぎて、凱達は敵に倍する損害を与えているが、こちらも疲弊の色は隠せない。
「きゃあ! シンはまだ着かないの」
「予定では後2分だ」
近くに着弾した榴弾の衝撃にザクをふらつかせたルナマリアが叫び、レイが榴弾を撃った連合軍のダガーLを撃ち落して答える。
会話の合間に連合側の陽電子砲ローエングリンが脇をかすめて通り過ぎ展開していたバクゥとガズゥートの何機かを塵に変えた。
凱とアスランは上空を飛び回りMAゲルズゲーと対峙していた。当初1機だけが配備されていると思われたゲルズゲーであったが、実際は相互にカバーが出来るように2機が配備されていたのだ。
「アムッ フォルッ タスッ!」
凱の声と共に通常よりも強力なアムフォルタスプラズマビームが放たれるが、ゲルズゲーの陽電子リフレクターに阻まれる。
ならばと、ビームサーベルに変えて肉薄しようとしても護衛のダガー部隊が邪魔をする、アスランも同様にゲルズゲーに手こずっている様だ。
予定時間まで残り僅か、しかし自分たちを囮にするという勝手の違う戦いに徐々に押され始める凱達であったが、シンを信じて戦い続ける。
そして遂に予定の時間を迎えたが、砲台には変化はない。それを見たアスランは現れないシンに業を煮やし、セイバーで砲台の撃破に飛び立とうとするが、そこに凱から通信が入る。
「待つんだアスラン、持ち場を離れるな!」
「しかし作戦は失敗しました、このままではジリ貧です。一か八か俺が突っ込んで」
砲台を潰します。と言う前に凱から怒鳴られた。
「隊長のお前が隊員を信じてやらなくてどうする。シンなら出来ると思ったから任せたんだろう。なら俺達はあいつを信じて待つんだ」
この作戦を取ったのは自分だ。だから失敗したのなら自分が挽回しなければと反論しようとするアスラン。
凱が見る限りアスランは優秀である。ゆえに大抵の事は一人で出来てしまうし、他人との係わりでも自然に面倒を看るほうになっているように感じた。
そのおかげで他人を信用しない訳ではないのだが、どうも他人に頼ることが下手になっているようだ。
ここら辺で他人に頼ることを覚えなければ、悩んだ挙句に暴走しそうだと感じた凱はあえてきつい言葉をぶつけることにした。
「人を信じられない人間が、人から信頼されると思うな。一人で何でも出来る訳じゃない、俺たちを頼れと言ったはずだぞ」
この言葉で飛び込むのは思いとどまったようだ。それを見て取った凱は全員に通信を送る。
「ここが正念場だ、シンは必ずやってくれる。だからここから一歩も引くな!」
凱の激に全員が「応」と答えるのと同時に地下から飛翔するコアスプレンダーが見えた。

地下から現れたコアスプレンダーはインパルスに合体すると砲台を撃破した。さらに砲台の誘爆は基地機能を麻痺させる事になった。
なすすべなく破壊されたローエングリンゲートを見て交戦中の連合軍の戦意は著しく低下した。
そのおかげかラドルによる降伏勧告に従うものが多く、むろん最後まで徹底抗戦を貫いた者もいたがそれらは撃破され程なく戦闘は終結した。
開放されたガルナハンの町に降り立ったシンは住民から手荒い歓迎を受けて笑っていたが一発の銃声に顔色を変えた。
人ごみを掻き分けて銃声がした方に向かうと広場で連合兵が射殺されている現場に出くわす。
「やめろっ! なにしてんだ、あんた達はぁ!」
おもわず飛び出して、銃を構える人間から取り上げる。すると一斉に周囲の人間から罵声が飛んでくる。
今まで自分を褒め称えてくれていた人達までが一緒になって口々に非難の声を上げ始めているのだ。
曰く「連合は皆殺しだ」「奪われた報いを知らしめるのだ」「やり返してなにが悪い」等々幼い子供や女性までが叫んでいる。
暴徒と化す寸前の人々の前に立ってシンは恐怖を覚えた、純粋な悪意をそのままぶつけられているのだ。
これが復讐に狂うという事か、いかに兵士として鍛えてきたとはいえども、初めて感じるこの生の感情の圧力は凄まじい。
凱はこんな圧力に一人で立ち向かい、しかも眼力だけで収めてしまった。自分にはそこまでの力は無いのは分かっている。
でもここで引けば二度と凱の前に顔を出せない。自分の憧れた男に無様な真似は見せられない。精一杯の勇気を持って視線と言葉に力を込める。
「あんた達は人殺しがしたいのか、違うだろう。ただ平和に暮らしたいんじゃないのか。ここでこの人達を殺しても後で後悔するだけだ」
やはり何処からか石が飛んできてシンを傷つけたが、それにも負けずに必死に叫び続けた。
この騒ぎを聞きつけたアスランがセイバーを広場に向かわせ、MSから声を張り上げる。
「なにをしている。ここに駐留していた連合の兵士は我々ザフトが国際条約に基づき捕虜として扱う。したがって諸君ら町の住民が勝手に処断することは許されない。
これ以上の暴挙に及ぶというのなら治安維持の対象となる。繰り返す…」
アスランが勧告をおこなっているともう一機、今度は凱のセイバーがやって来た。
流石にMS2機を相手にする気はないのだろう。連合兵は縛られたまま放置され住民は三々五々に散ってゆく、そこかしこで開放を祝っているのだ、そちらに合流して騒ぐのだろう。
住民が解散すると凱はセイバーを広場に着陸させて飛び降りシンの所へ歩いていく。
前まで進み出た凱は、いつの間にかへたり込んでいたシンに右手を差し出すと引っ張り上げて立たせ、背中を引っ叩いた。
叩かれて背筋に力の戻ったシンが文句を付けようと口を開くが、言葉が出るより先に凱が声をかける。
「良くやったな」
何という事はない一言だ、でもなぜか嬉しかった。勿論素直には言えないので憎まれ口を叩いてやった。
「当然ですよ、任されましたからね。それにまた殴られたくないですから」
それを聞いた凱は大声で笑い出し、続いてシンも笑い出した。そしてセイバーに乗っていたアスランの顔にも笑みが浮かんでいた。

プラント首都、アプリリウス1にある最高評議会議院、その一室で執務を行っていた現評議会議長ギルバート・デュランダルの元に一つの報告が届いた。
「ほう、ミネルバがガルナハンを抜いたか。これは出迎えに行かねばならないね」
そこで顔を上げて部屋にいたもう一人の人物に声を掛ける。
「君も地球に降りる準備をしたまえ、彼らと正式に引き合わせよう」
「は~い、うふ、アスランも居るんですよね。楽しみ~」
可愛らしい返事をして準備の為に出て行ったのはもう一人のラクス・クラインであった。

君達に最新情報を公開しよう
ローエングリン砲台基地を陥落させたミネルバ隊
ディオキアに上陸した凱達にデュランダルが引き合わせた人物は
そしてシンは不思議な少女ステラと出会う
次回 勇者王ガオガイガー DESTINY
第8話 錯綜する人々 にFINAL FUSION承認
これが勝利の鍵だ 赤いハロ



[22023] 第8話 錯綜する人々
Name: 小話◆be027227 ID:8fbdcd62
Date: 2010/09/20 10:40
ガルナハンローエングリンゲートを攻略したミネルバは事後処理をマハムール基地のラドル隊に任せ、一路黒海沿岸のディオキア基地に向かった。
到着したミネルバを出迎えたのは大きな歓声であったが、その歓声はミネルバではなく基地にて歌うラクス・クラインに向けられたものであった。
急遽設営されたステージにピンク色に塗装されたザクが上り、その手の平で歌い踊るラクス、ミネルバから降りたヨウラン、ヴィーノ等は既に駆け出して少しでも近くに行こうと必死だ。
そんな慰問コンサートの光景をミネルバから降りたアスランは複雑な気持ちで見つめていた。
今目の前で歌っているのはラクスでは無いと知っているからである、彼女の名前はミーア・キャンベル、デュランダル議長が用意したもう一人のラクスである。
そんなアスランにルナマリアとメイリンが話しかけてきた。
「聞いていなかったんですか、ラクス様が此方にいらっしゃること」
勿論聞いていない、大体ミーアどころか本物のラクスとも連絡がつかないのだ。生返事を返すアスラン。
「でもラクス様、歌の感じ変わりましたよね。前は大人しい感じだったのに」
あそこに居るのはラクスじゃないから、とは当然言えない。メイリンにも生返事を返す。
話していると道の真ん中で立ち止まっていたのが悪かったのだろう、走ってきた人間がメイリンにぶつかってアスランの方に突き飛ばす形になってしまった。
「きゃ」
咄嗟にアスランの腕を抱え込んで謝るメイリン、それを見て此処に立っているのは危ないと思い、宿舎の方へ移動しようと二人を促す。
無自覚に女性をエスコートする要領でメイリンの腰に手を回すアスラン、その光景を後ろから見たルナマリアは、今晩はメイリンがこのことで騒ぐんだろうなと苦笑がもれた。
「どうしたの」
笑っているルナマリアの後ろからシンが声を掛けてきたが、それにはなんでもないと答えてから、シンを見ると特に騒ぐでもなく平然としている。
「あんた、ラクス様を見てなんも感じないわけ」
女の自分でもプラントの歌姫ラクス・クラインを見れば憧れと一寸の嫉妬を感じる、それなのにこの朴念仁は女に興味ないのかしらと逆に聞くが返ってきたのは何とも詰まらないものだ。
「へ? あーちょっとは可愛いと思うけど。それだけかな」
駄目だこいつ、シンの彼女になる人はきっと大変な苦労をするだろうなと未来の誰かに向かって同情した。

そのころ凱はプラント議長であるギルバート・デュランダルと差し向かいで話をしていた。
「如何いうことだか、話してもらえるんでしょうね」
「あのラクスのことかね」
凱は議長からラクス・クラインは行方不明と聞いていた、それがこんな所でコンサートを開いていればおかしくも思う。
彼女のことを話す前にと言って書類を手渡す議長、訝しながらも目を通すと凱は驚愕に目を丸くした。
それはユニウス7落下事件の調査報告書であった、しかし実行犯は全員が死亡しているのは凱も承知していたが、テロリスト達の個人情報やMSや武器弾薬、燃料それにユニウス7に取り付けられたフレアモーターの入手経路、その他の調査結果が全て不明で終わっている。
こんな馬鹿な調査結果が在るわけが無い、なんの冗談なのかと聞くがデュランダルは深く頭を振って嘆息する。
「残念ながら、それが私に上がってきた最終的な報告書だ。可笑しいだろう、あれだけの事件を起こした者達の証拠や痕跡が一切無い等、常識では考えられん。だがプラントにはそれをやってしまう組織がある。覚えているかね」
前に話した内容の中に思い当たる組織がある。たしか『クライン派』と言っていたはずだ。
そしてその旗頭がラクス・クラインであり、現在までその行方が分かっていない。
ここで凱は一つの結論に達した。その凱の顔を見てミーアが何故用意されたか察しがついたのが分かったのだろう。
「軽蔑してくれて構わんよ。そう君の想像通り彼女は本物のラクス・クラインを釣る餌になってもらう。もっとも彼女にはもう一つ役割を期待しているがね」
そう言って彼女、ミーア・キャンベルの話を始めた。ミーアは歌手を夢見る人間であり、路上で歌を歌っている所を議長が見つけたという事であった。
歌自体は技術的には未熟ながらも一生懸命さに溢れていた、しかしこう言ってはなんだが美男美女が多いコーディネイターとしては見た目がパッとしなかった。
そのために周囲に埋もれがちだったのだが、議長は彼女の声に注目した。ラクスと良く似た歌声だったのだ。
本人に聞くと友人にも良く似ていると言われると話していた、そこで議長はラクス本人が帰還するまでプラント市民の為にラクスとして歌って欲しいと頼み込んだ。
むろん、彼女も始めは難色を示したが何とか口説き落とし、整形と教育を経て開戦した当初から活動を始めてもらい現在に至ると締めくくった。
「彼女は囮の事を知っているのか」
「いや、話していない。あくまでも本物がプラントに戻ってくるまで、代わりにプラントと地球の和平の為に活動して欲しいと言ってある」
「騙しているのか!」
デュランダルの胸倉を掴み上げて詰問する凱に、議長はその凱の目を真っ直ぐに見つめて答える。
「敵は強大だ、正攻法だけでは勝てないと踏んだからこその策だ。むろん彼女の身辺には信用の置ける者を付けてある。それに彼女には本当にプラントを救って欲しいのだ」
「プラントを救う?」
随分と大仰な物言いである。胸を摑まれながらも話を続ける議長。
クライン派と一口にいってもこれ程大きい組織が存在するのは信じがたい、つまりプラントの市民が知らず知らずのうちにクライン派に加担しているのではないか。
そしてそのアドバルーンがラクスだというのが議長の推測である、ミーアを使うことで何も知らない市民達の意識を変えられれば、間接的にでも奴らの力を削ぐことが出来るのではないか。
だが彼女にそれを教えることは出来ない、なぜなら彼女もまたラクス・クラインを信奉するファンだからだ、そのラクスを倒すために力を貸してくれとは口が裂けても言えないし、言ったところで拒否されるのが落ちだ。
「凱君、君がこういった手段を好まないのは私も分かっている。しかしプラントの、いや世界の為には必要な事なのだ。
私は議長としてプラントを預かる以上、たとえ悪と言われ様と打てる手は全て打つつもりだ」
ここまで話す中で議長は一片たりとも凱から目を逸らさなかった。
「俺はこんなやりかたを認めるつもりは無い。だが議長の決意は分かった」
この件に関しては議長に任せる、ただし彼女に危険が及ばないように配慮するように釘を刺してから手を離した。
「この事は他言無用に頼む、それとミーアの事はアスランも知っている」
ここで凱は前に聞いた内容の中でラクスの動向に対しての事を思い出した。
たしかヤキン攻防戦の後ラクスと共に姿を消していたアスランはオーブにいた。それにアークエンジェルもオーブから飛び立ったと聞いている。
この二つの事を考えればラクスもオーブに居たのであろう事は想像に難くない。
だからアスランなら本物の居場所を知っているのではないかと議長に言うと、後でそれとなく聞いてみようという事になった。

その後、場所を移すとタリア、アスラン、レイ、ルナマリアそしてシンがテーブルに座っていた。
議長が入室すると慌てて席を立つ一同を片手で制すると一人一人に労いの言葉を掛けて席に着く。
「ユニウス7の件から君達には苦労の掛け通しだね、短い間だがこのディオキアでの休暇を楽しんでくれたまえ」
この言葉から議長と会談が始まった。レイと議長が前からの知り合いだと判明したり、ラクスの慰問コンサートは聞いたのか等、始めのうちは和やかに話が進んだ。
もっとも戦時下でのこと自然と話はこの度の戦争の話になって行く。
「そう言えば議長、宇宙の方はあの後どうなったのですか」
タリアが宇宙の動向について質問すると、ユニウス7はあんな事件があった以上はモニュメントとしてそのまま置いて置く訳にもいかない。スペースデブリとして解体、リサイクルする事になった。
また月に在る連合軍のアルザッヘル基地とは小規模な小競り合いに終始して大規模会戦にはいたっておらず、小康状態を保っているとの返答であった。
その他では、これまでの功績に対してシンに対して叙勲の申請が来ていた、それは認められたので程なくネビュラ勲章が授与されるだろうとの事や、
この辺りのようにプラントに救援を求めてくる場所もあれば、その逆にオーブのように敵対する場所もある。
また停戦、終戦に向けての交渉は打診しているものの連合からは音沙汰が無く、戦火は拡大するばかりで、戦いを終わらせるのは始めるよりも遥かに難しい事だ。
「有史以来、人間は戦争を繰り返してきた。その度に反省し二度と悲劇は繰り返さないと誓うのだがね、なぜか争いは無くならん。本当は誰も戦いたくなど無いはずなのにね」
悲しい事だが、と続けるデュランダル、その言葉にシンが言葉を返した。
「もちろん戦わないのは大切です、でも戦わないと守れないモノが有るなら俺は戦いたいと思います」
「俺は前の戦争のときに、殺されたから殺して、殺したから殺されて。それで最後は本当に平和になるのかと、ある人から言われました」
続いてアスランが口を開き、また凱も先程の事があるので幾分声は低かったが意見を表す。
「罪も無く平和に暮らしている人達は守られるべきだ、それを脅かすモノが有るならば俺も戦う事に躊躇いは無い。しかし本当は戦う前に問題を解決できるように、一人一人が努力するべきだろうな」
シンの発言から黙って聞いていた議長が、すこし逡巡してから口を開いた。
人は自分達と違うものを恐れる、前世紀の宗教戦争や民族紛争等がいい例だ。話してみれば自分達と何も変わらない只の人間だと判るのにそれをしようともしない。
誰かの持ち物が欲しい、自分達と違う、憎い、怖い、間違っている、そんな理由で戦っているのも確かだ。
しかしもっとどうしようもない、救いようの無い一面も戦争にはあるのだ、戦場では様々なものが壊れる。
武器、弾薬が絶えず消費され、ゆえに工場では生産が追いつかない程だ。これを産業として見るならば、これほど回転が良く利益が上がる商売は無い。
戦争で儲かる事を知ってしまうと人というものは産業としての戦争を考えるのだ。
この話を聞いた凱とタリア以外の全員の顔色が変わる。
長く軍務に服していれば、この辺りは嫌でも分かることなのでタリアは平然としたものだし、凱は自分達の世界で国際的な犯罪組織バイオネットと戦っていた。バイオネットには死の商人としての顔もあったので驚くに値しない。
「あれは敵だ、危険だ、討たれた、許せない、戦おう、人類の歴史にはずっとそう叫び常に産業として戦争を考え作ってきた者たちがいるのだよ」
今度の戦争の裏にも間違いなくかれらロゴスがいるだろう、そしてロゴスがブルーコスモスの母体でもあると話を締めくくったが凱が口を挟む。
「だがロゴスそのものが悪い訳じゃない、ロゴスは企業の集合体だから戦争に関係無い人も多く係わっているだろう。問題は戦争を起こす一握りの連中だ、そしてそういった連中が現在のロゴスを支配している状況こそが問題なんだ」
この凱の発言でまた難しい顔をする面々、議長から明確な敵が提示されたと思えば、凱から否定ではないものの判断に迷うような話が出てくる。
「すまない、君達に話すような事ではなかったね」
悩み始めたシン達に向かって今日の話は楽しかった、皆には悩ませるような事を言って申し訳ない。日も暮れるから今日はホテルに泊まって行くようにとの議長の言葉で席を立つ一同。
しかしタリアと凱、アスランが呼び止められた。これからのミネルバの行動に際しての話らしい、三人は席に座りなおし、シン達は退出した。

議長との会談を終えてホテル内を移動しているとシンの足元に何かが転がってきた、拾って見るとそれは小さな羽をパタパタと動かす、赤くて丸いペットロボットであった。
何処からか「ハロ」と言う声が聞こえてくる、どうやらこれはハロと言うらしい。
声のするほうに向かうと、其処に居たのはきょろきょろと辺りを見回すラクスであった、ルナマリアはあからさまに吃驚したようだが、シンは相手がラクスだとしても物怖じしない、レイも同様だ。
「あの、探しているのはコレですか」
シンが進み出てハロを差し出すと、パッと花が開くような笑顔を見せてから受け取り、礼を返してきた。
「ありがとうございます。この子すぐ何処かに行ってしまうので、見つけてくれて助かりましたわ」
そこでザフトの制服に気がついたのだろう、今日のライブは見てくれたか、感想はどうですかと質問が飛んできた。
あまり良く見てなかった自分達としてはどう答えようか迷うところだが、ルナマリアがとても良かったと答え、ついで歌の感じが昔はもっと落ち着いた感じだったのが変わった気がすると続ける。
「私、プラントの人だけではなくて、地球の皆様にも元気を出して貰いたいのです」
だからかしらと答えを返してくれた。

凱達三人と議長の話は開戦から現在までの状況の確認から始まった。
ユニウス7の破片はユーラシア南部からアフリカ中部までの範囲で落下、この被災地域にザフトが復興支援として参加した。
この後、連合から宣戦布告があり開戦となったのだが、直接な交戦国は大西洋連合とそれに同調した国家群であり、けして全地球規模で反プラント行動が興った訳ではない。
そのためザフトは大西洋連邦の支配地域である西ユーラシアから中東地域に軌道上からの降下作戦を実施、支援に降下していたザフトと連携し幾つかの連合基地を壊滅させ橋頭堡を築くことに成功する。
但しプラント側の領土的野心は無い、あくまでも積極的自衛権の行使であるとの宣言によって支配地域に関して友好的に接する。軍事関係以外の行政は地元に最大限有利に採る事とされた。
これは後のコーディネイターとナチュラルの融和政策を実施する上での土台としようとしたのであるが、問題が発生したというものである。
「まずはこれを見てくれ」
手元にポータブルモニターを渡され流される映像を見る三人、その映像にはジンやディン、バクゥ等のザフトMSが連合の基地を襲っている映像だった。
その後は復興作業を行なっている連合兵を攻撃している映像、逃げ惑う市民を追い回し虐殺している映像と続き、この映像をみた凱は激昂する。
激昂する凱をなだめ説明を始める議長。
「この映像に映っているのはザフトではない。いや、それも正確ではないな。正確にはザフトを離反した者達、つまりユニウス7のテロリスト達と同じ存在だ」
あのユニウス7の事件の後、前述の通りプラントは被災地域に対してザフトを派遣し復興支援に乗り出したのだが、この部隊の一部にテロリストの仲間が混じっていた、もしくはナチュラル憎しでテロリストの仲間になった連中らしい。
地上に降りた彼らは活動を開始、各地で破壊活動や虐殺行為を行なっているという。
この事もあり、もともとプラントよりの南アメリカやオーストラリア、この度の戦争で連合から離反しようとする西ユーラシア地区以外でのプラントの評判はすこぶる悪い。
このままでは何時親プラントを標榜する地域も反プラントに回るか知れたものではないし、そしてこのテロリストの行為をザフトの仕業と主張することで、連合が継戦を主張する一因となっている。
そこでミネルバにはこのテロリスト達を追いかけてもらうというのが新しい任務だ、ここで凱に視線を向けタリアとアスランには聞こえないように小声で話しかける。
「彼らを追えばクライン派の尻尾を掴めるかも知れない」
ここでタリアが顔を上げて確認をとる。
「では私達は何処へ向かえばよろしいのでしょうか」
「差し当たり補給と修理が終わるまではここに居てもらうことになるが、現在彼らに関してはほとんど情報が無いのでね、取りあえずロドニア方面に進んでくれ。何か情報が入り次第指示を出そう」
これでミネルバの今後の行動は連合との戦闘にも駆り出されるが、主な任務は無差別なテロ行為の抑制に注力するという方向に決定された。
「ところでアスラン、アークエンジェルの話は聞いているね。あの船がオーブを出た後どこへ行ったのか君なら知っているのではないかと思ってね、聞きたいと思っていたのだ」
この質問にアスランは自分もずっと気に掛かっているが、何も知らない。自分も議長に聞いてみたいと思っていた、と答える。
「では今後アークエンジェルからから連絡があったら知らせてくれないか、あの船の動向は私も気に掛かっていてね。タリアと凱君もよろしく頼む」
この後アークエンジェルの行方については相互に連絡を取ろうという事に落ち着き、話し合いが終了した。

ミーアと喋っていると奥から議長たちが歩いてくるのが見て取れた、どうやら話は終わったらしい。その後ろにアスランの姿が見えるとミーアが走っていってアスランに抱きついた。
「アスラ~ン」
慌てるアスランを尻目にこの後の予定は、一緒に食事をと矢継ぎ早に話しかける、とにかく会えたのが嬉しくて堪らない。そんな表情がありありと見て取れる。
あっけに取られるその他の面々だが、そこは議長であるデュランダルが口を挟んだ。
「皆さんが驚かれていますよ」
議長の言葉で周りを見渡し「オホホ」と笑ってから、凱とタリアに向き直ると居住まいを正すミーア。
「始めまして御二方、私はラクス・クラインです。お恥ずかしいところを見せてしまって申しわけありませんでした」
ここで議長に向き直り、話は終わったのかと尋ねるミーア。その質問に対して議長は、終わりましたから御二人で食事でも行って下さいと続けた。
これでアスランがミーアに引っ張って行かれ、議長は町の有力者と会食があると居なくなり、タリアとレイは万が一の為もあるからとミネルバに戻った。
「せっかくの休暇ですもの彼方達は楽しんでらっしゃい」
タリアにそう言われて残された凱、シンそれにルナマリアは顔を見合わせてから、その言葉に甘えることにして晩御飯を何にするか話し合う事になった。

翌朝アスランがまどろんでいると何か柔らかい物を掴んだ、ポニョポニョとして暖かい気持ちのよい感触が掌に広がる。もう少しその感触を味わいたくて揉んでみると「あん」と言う声がした。
この声で段々と意識が覚醒してくる、恐る恐る目を開くとピンクの髪が目に飛び込んでくる。
「うわあっ」
驚愕を顔と声に乗せながら後ろに跳び下がるとベッドから落ちる。腰に手を当てながら起き上がると丁度ミーアも目を擦りながら起きだす。
確か昨夜はミーアにせがまれるままディナーを一緒にとって別れたはずだ。なんで自分の部屋に居るのか半分怒りながら尋ねるとキョトンとした顔で無邪気に答えられた
「久しぶりに婚約者に会ったんだからするでしょ」
アスランは頭を抱えながら、ミーアにラクスはそんな事はしないと答えたのだが逆に驚かれた。
「しないの? なんで?」
まさかアスラン女に興味ないのと返される始末である。
そうこうしていると扉がノックされルナマリアが朝食に誘いに来た。慌てて着替えるアスランを尻目にミーアが扉を開けるとルナマリアと凱が驚いた顔で立っていた。
「すまん、朝飯でも一緒に摂ろうかと思ったんだが邪魔したな」
「あ、では隊長ごゆっくり~」
それだけの言葉を残して閉まる扉を見てアスランはうな垂れた。

「なんか驚きましたね、でも婚約者だし久しぶりの逢瀬だったのかしら」
「あ、ああそうだな」
ルナマリアが先程のセンセーショナルな光景について話している。もっとも凱はあれが婚約者のラクスでは無くミーアであることを知っているために、アスランは案外手が早かったんだな。それとも女性にだらしがないのか?
だとしたら少々これからの付き合い方を考えなければならない。もし艦内の女性を手当たりしだいに口説くようなら説教してやらねば等と考えていた。
エレベーターホールでシンと合流し食堂に到着すると、コーヒーを飲んでいたオレンジ色の髪をした赤服を着た男が話しかけてきた。
「よう、あんた達がミネルバのクルーだろ。俺はハイネ・ヴェステンフルスよろしくな」
気さくに声を掛けてくるハイネに対して凱たちも挨拶を返す。
「あんたが獅子王凱か噂は色々聞いてるぜ、勇者だってな」
そこにミーアを連れたアスランがやってきた、開口一番の台詞は「あれは違いますから」である。ちなみにシンは何のことだか分からないので頭の上に?マークが飛んでいる。
「仲良いな、あんた達」
苦笑気味に言うハイネにやっと気付いたのかアスランとミーアも挨拶を返す。ミーアはハイネの事を知っているのか随分と親しげだ。
「ミ、ラクスはハイネの事を知っているのか」
アスランがミーアに問いかけるとハイネがミーアの護衛を勤めていると言うことであった、どうやら彼が議長の言っていた信用の置ける人間らしい。
朝食をハイネと一緒に摂ることにした凱たちは四方山話に興じる、ハイネとミーアは朝食が終われば次の現場に移動しなければならないという事だった。
「今日は休暇だろう、どうやって過ごすんだ」
ハイネの質問に対してアスランはミーアを見送った後はミネルバに戻ると答える、折角の休暇なのに出かけないのかと凱が問うと、昨日はレイに任せてしまったので交代して書類整理でもしますとの事であった。
朝食が終わり、ミーア達と見送りにいったアスランと別れた凱たち三人の所に私服のメイリン、ヨウラン、ヴィーノの三人が向こうから走ってきた。
町に遊びに出ようと誘いに来たらしい。軽くOKする凱とルナマリア、シンがそれならレイも誘おう、一寸迎えに行って来るとミネルバに向かった。
凱がルナマリア、メイリン他二人と町に出てみると活気に溢れていた。物資も潤沢に供給されているようだし、特に騒ぎも起きていない。
プラントというよりもコーディネイターの評判も悪くないようだ、聞き耳を立ててみると前までこの町を占拠していた連合兵は乱暴な振る舞いが目立っていたが、ザフトは紳士的で好感が持てる。
付き合ってみればコーディネイターも普通の人とどこも変わらない、必要以上に怖がっていたのが馬鹿みたいだと概ね好評だ。
もちろん油断させて寝首を掻くんじゃないかといった声もある、これらが普通に聞こえてくるのだから言論統制などはされていないのだろう。
「こんな戦争なんか速く終わらせて、お互いがゆっくりでも良いから理解を深めていければ、ナチュラルとコーディネイターの垣根を越えて仲良く出来るはずだ」
町の様子を見ながら凱が語ると両脇に居たホーク姉妹が「今日はせっかくの休みですから難しい話は無しです」と言って両手を引っ張って、次の店へと走り始めた。
後に残された整備員二人は両手に抱えた荷物に悲鳴を上げながらもその後を追いかける、戦いの合間に訪れた一時の平和な時間であった。

シンは一旦ミネルバに戻ってレイも町に出ないかと誘ったのだが、実は予定があるのでメイリン達の誘いは断ったのだと言われた。
そういうことなら仕方が無い、先に行った凱達に合流しようと連絡を取ると携帯電話の向こうからヨウラン、ヴィーノの悲鳴が聞こえてきた。
どうやら女子二人の荷物持ちとして扱き使われているようだ。それを察したシンは電話相手のルナマリアにこれから合流するのは大変だから別行動を取ると伝えて慌てて電話を切った。
さてレイも居ないし一人で何をするべきか悩むシンの目に、赤いレンタルバイクが飛び込んできた。久しぶりにツーリングでも行こうかと店の扉をくぐった。
暫く海岸線を走っていると良い感じに道路脇に張り出した場所があったのでバイクを止めて休憩する。
すると何処からか楽しげな声が聞こえてくる、興味をそそられて辺りを見回すと少し離れた崖の上で金髪に青い服の少女が楽しげに鼻歌を歌いながらクルクルと回っていた、その様子に目を細めてから海の方へ顔を向けて景色を楽しんでいると、「ひゃ」と言う声とドボンと何かが水に落ちる音がした。
慌てて崖の下を見ると先程の少女が溺れている、すぐに上着を脱いで海に飛び込むシン。海面でもがく少女に近寄るが錯乱しているのか、声を掛けても暴れるばかりだ。助けようと近くによるシンも顔を引っ掻かれて頬を切ってしまう。
無理に正面から助けに行くとしがみつかれて一緒に溺れてしまう、相手が疲れるのを待って後ろに回り、脇の下から胴に手を回して仰向けに引き上げる。
海面に顔が出て呼吸が出来るようになれば十分だ、その後落ち着くのを待ってから海岸までラッコ宜しく引っ張って、なんとか海岸まで泳ぎきり少女を岩場に引き上げる。
「死ぬ気かこの馬鹿! 泳げもしないのにあんな場所であんな事、なにぼっとしてたんだ」
シンの剣幕に後ずさり、怯えた表情を見せると突然立ち上がり海の方へ走り出す。これに驚いたシンは後ろから羽交い絞めにして止めると少女は怖がった様子で口走る。
「死ぬの嫌、死ぬのダメ、怖い」
少女の様子を見ると明らかに様子がおかしい、どうやら少女の触れてはいけない部分に触れてしまったらしい。
恐らく自分と同じように親しい人が亡くなる場面にでも遭遇したのだろう、この子も戦争の被害者だ。シンは前に回って力一杯抱き留めて何度も怒鳴る。
「君は死なない、俺がちゃんと守るから!」
この言葉で落ち着いたのか少しずつ落ち着きを取り戻す少女。
「ま も る、ステラの事守る?」
「ああ、大丈夫。君は俺が守るよ」
そのあとは岩場に上がって救援を呼ぶために電話を掛けようとするが、携帯は脱いだ上着の中だ。しかたが無いので少女ステラという名前らしいに、この場所から動かないように言って離れようとすると、服の端を掴まれた。
ずぶ濡れの姿とあいまって雨の中の子犬のように見える。ここから離れることは諦めて後で怒られるかな、と考えつつ肌身離さず持っているエマージェンシーコールを送った。
救援を待つ間に服を乾かすことにして火を熾してから、少女をよく見ると足から血が流れている。先程岩場で暴れた時にでも切ったのだろう、応急処置として自分のハンカチを傷に巻くシン。
「これ、あげる」
そのお礼なのか自分の服を探るとポケットに入っていた桜貝をシンに差し出すステラ。仕草や口ぶりが外見からすると一々幼い感じがする。
先程の暴れぶりと関係があるのだろうか、家族の事を聞くと両親は居ない、スティング、アウル、ネオという人達と一緒にいると答えが返ってきた。
やはり自分と同じ洋に戦争で家族を失ったのだろうと結論をだし、幼い仕草のせいかステラの姿に今は亡き妹のマユを思い出したシンだった。
しばらくするとボートに乗った凱とアスランが迎えに来た、救出要請を出した理由を説明すると納得され、とりあえず町まで連れて行こうとなった。
「あ、バイクどうしよう」
乗ってきたバイクを返さないとならないがステラはシンの傍から離れない。それなら俺が返しておこうと凱が崖を一足飛び駆け上がり崖上に消えると顔を出し、シンの上着を放ってよこしてからバイクが走り去る音が聞こえた。
町へ戻る途中に擦れ違った車を運転している人をみて声を上げるステラに確認を取ると彼がスティングと言うらしい。
その車も停車して淡い緑髪の青年と青い髪の少年がこちらに歩いてくる。嬉しそうな顔を見せて走り寄るステラを止めて話を聞くとシン達に向かって礼をいうスティング。
「ザフトの方ですか、ステラを助けて頂いた様でありがとうございます」
後ろにいたアウルと呼ばれた少年も口は悪いが心配させるなとステラに言っている。お互いに簡単な挨拶を交わして別れる時にステラがシンに話しかけてきた。
「シン行っちゃうの?」
「うん、仕事に戻らなきゃならないから、お兄さん達も見つかったし大丈夫だよ」
「でも」
「大丈夫だよ、また会えるから」
「本当?」
「必ず会いに来るから」
「うん」
こうしてシンはステラと別れた、そして彼らは約束とは違った形で再会する事になるのだが、それはもう少し後の話である。

ステラはシンから貰ったハンカチを見つめていた、それに気がついたアウルが話しかけてくる。
「なんだ、そのハンカチ」
「シンがくれた」
シンというのはさっきの赤目のザフト兵だったはずだ、そんなもの持っていたってしょうがないだろとステラに言うがステラは首を振って嫌々をすると一寸睨んで言って来る。
「シン、ステラを守るって」
「はぁ、あのなぁ、あいつらは敵なの。てーき」
「シン敵?」
「そうだよ、ザフトは俺達の敵なの。あいつらを倒さなきゃ俺達がヤバイんだよ」
「でもぉ」
アウルの言うことは正しい、俺達エクステンデッドは戦って勝つことだけが存在意義だ。ステラを助けてもらったことは感謝してもいいが戦うならば必ず殺す。
「お前ら、いい加減にしとけよ。もう帰るんだからな」
後ろでまだ何か言い合っている二人に向かってたしなめるスティングの運転する車の前から赤い髪をした女が運転する紫色のフェラーリF50が走ってきて擦れ違った。

君達に最新情報を公開しよう
新たな任務に赴くミネルバの前に連合軍とオーブの共同艦隊が待ち受ける
戦いの最中突如現れた白い戦艦とは
嘗て無い危機を前に凱達はどう立ち向かうのか
次回 勇者王ガオガイガー DESTINY
第9話 新生 勇者王 にFINAL FUSION承認
これが勝利の鍵だ ガオーシルエット



[22023] 第9話 新生 勇者王
Name: 小話◆be027227 ID:8fbdcd62
Date: 2010/09/20 10:41
 
夜の街道を走る紫のフェラーリF50がディオキアの繁華街まで来て停車すると、赤い髪をした淡いピンクのコートを着た女が運転席から下りた。
辺りをぐるりと見渡すとフンと鼻を鳴らしてから歩き始める、向かった先は酒場のようだスイングドアを開けて店内に入るとカウンターに腰掛けて飲み物を注文する。
静かにグラスを傾けて喉を潤す彼女の両脇に、ほろ酔い加減のザフト兵が陣取り声を掛けてくるが、一瞥すると切って捨てる。
「しつっこいわね、興味無いって言ってるでしょ」
この言い分に一人が手を挙げようとするがもう一人が止めに入る。同僚を止める時に「議長が居る時に問題を起こすな」と言うのが聞こえた。
その言葉には目を細めて流し目を送ってから、テーブルに代金を置いて立ち去り、自分の車に乗り込んだ女は携帯電話も使わずに一人で何事か喋りだす。
「プラントの議長が此処にいるみたいだね。そっちは何か分かった?」
まるで誰かが傍にいるような口振りだが、車内には彼女一人だ。しかし何処からか声が聞こえてくる。
「ハイ、ですが少々拙い事態になりそうです。ダーダネルス海峡に連合軍の艦隊が集結中との通信を傍受しました。それと凱機動隊長の反応が在ります」
それを聞いた女、ルネ・カーディフ・獅子王は吃驚した顔をすると凱が何処にいるか尋ねる。
「凱が何処にいるか分かる? ボルフォック」
尋ねられたルネが乗るパトカー型のビークルロボGBR-4ボルフォックが質問に答える。
「反応は移動中、現在地は港に停泊しているザフトの戦艦ミネルバ内と思われます」
ルネは如何するべきか思案する、忍び込めないことはないが今は調査任務の最中だ。
ボルフォックの話だと拘束などはされていない様だし、危険は犯さないほうが良いと判断する。
「いいわ、連絡取れるようなら呼び出してちょうだい」
ボルフォックはGGGの秘密コードでこちらの場所と一人で来るようにとの暗号文を、指向性の電波に乗せて凱が居る方向に送る。
凱であればエヴォリュダーの能力で通信機が無くても受け取って解析出来るはずだ。
程なく凱がこちらに向かってきているとボルフォックが言うので、そのまま待機していると目の前に当人が現れた。
「ボルフォック、それにルネ! 無事だったか」
大声でこちらを呼ぶ凱に対して、黙ったまま助手席に乗るように片手で指し示すルネ。それを見て大人しく助手席に座る凱にルネから話しかける。
「そっちこそね、なぁに凱。あんた今ザフトにいるの?」
相変わらずの従兄弟の態度に苦笑しながら、凱は今までの顛末を話す。全て聞き終えたルネは「ふうん」と詰まらなそうに相槌を打った。
「今度はコッチの番ね」
ルネが此方に来た時の状況から説明を始める。ルネ達は約四ヶ月前に木星近くの宇宙に放り出されたとの事であった。
そしてある恐るべき敵の存在を知り、この危機を伝えるべく地球への進路を取ったGGGだったのだが、ここで誤算が生じた。
「まさか、地球に着いたらあたし達の知ってる地球じゃないなんてね」
その後GGGは廃棄された資源衛星基地に身を潜め、ルネとボルフォックは各地を回り、地球の情報をGGGに送っているという事だ。
そして情報を基に協議した結果GGGはDSSD(Deep Space Survey and Development Organization=深宇宙探査開発機構)と国際緊急事態管理機構の二つと接触しようとしているはずと答えるルネとボルフォック。
一通りの話を聞き終わった凱は労いを口にする。
「苦労したな。で、皆は無事なんだな」
「卯都木はまだ寝てるけど、それ以外は皆無事よ」
それを聞いた凱は表情こそ変えなかったが、車内に拳を握る音が微かに響いた。それにはルネもボルフォックも気がつかないフリをした。
「これから如何する? なんなら俺から議長に話しても良いが」
「悪いけどもう少し世の中を見てみたいからね。私らだけで色んな所を回って調査を続けるよ」
そう言うルネに、それならついでに「ロゴス」と「クライン派」について調査してくれと頼み、二つの組織について知っていることを全て話す凱。
ルネとボルフォックが今まで調査したかぎりではロゴスの名前は出てきていたが、クライン派というとは初めて耳にするものだった。
凱の話によると今回の戦争の裏には、この二つの組織が関係しているらしい。
「もっともロゴスは兎も角として、クライン派については俺も議長に聞いただけだ。本当に存在しているのかは分からない」
凱の話ではプラント議長のギルバート・デュランダルはこの世界を本気で憂いているのは間違いないとの事だが、同時に腹に一物ありそうな人物でもあるという。
「隊長はデュランダル議長を疑っているのですか?」
「信頼はしている。でも油断のならない人物だとも思っている」
ボルフォックの質問に答える凱。その後はプラントにガオガイガーが在る事、GGGで動けるのは現在ルネとボルフォックだけだという事、定期的に情報交換をする事等細かい打ち合わせを終えて、ボルフォックから下りた凱にルネが声をかける。
「あんたはこれから如何するの?」
「ミネルバと議長には世話になっているからな、気になる連中も居るし暫くは付き合うさ。もちろんGGGが活動を始めればそちらに合流する」
「お気をつけて、凱隊長」
此方に、向かって手を振って姿を消す凱を見送った後、ルネは一息吐いてから出発を告げる。
「次に行くわよ。それと今の気分は赤のポルシェね」
言われたボルフォックはホログラフィックカモフラージュを稼動させて、自分本来の車体の上に展開させていた紫のフェラーリの像を赤のポルシェに変化させて走り出した。

時間は少し巻き戻る、オーブ行政府の一室でユウナ・ロマ・セイランはオーブ国防軍のトダカ一佐、アマギ一尉、ババ一尉を呼び出していた。
この度、連合軍の援軍要請に応えて黒海に派遣軍として行く、その派遣艦隊の総司令官としてはユウナが指揮を取るということを告げる。
「色々あって代表が不在という我が国の状況だからこそ、姿勢ははっきりと示さねばならない。しっかりと頼むよ、今度こそ」
あのカガリの拉致を見逃した事に対する嫌みを込めて言ってやると、形容しがたい表情を浮かべた後で了解と敬礼を返してきた。
それを見て退出を命じると今回の派兵について思いを巡らす。一当たりしてある程度の損害が出れば引き上げる積もりなのだ。
ついでに言えば今回の派兵に連れて行くのは所謂アスハ派の人間だけである、ユウナからすればどれだけ死んでも構わないとすら考えていた。
「さてと、この反抗作戦が失敗すれば連合というよりも彼が終戦に傾くかが問題かな、それなら情勢しだいではプラントとも国交の回復交渉を始めないとならないし、上手く立ち回らないとね」
すでにユウナの頭はこの戦争が終結した後のことに飛んでいた。

ユウナから連合の援軍に向かうことを知らされたトダカ達は今回の派兵について話していた。
アマギがオーブの理念が軍の理念でもあったはず、今回の派兵は疑問ですと、訊ねてくるのにトダカは顔を曇らせながらも一応答える。
「これも国を守る為といえば守る為なのだろうな、本当は如何なることがあろうとオーブの理念は守られて欲しい。
その為にアークエンジェルとカガリ様に願いを賭けたのだが、間に合わぬならばせめてどこかで見ていて下さる事を祈ろう」
アークエンジェルにカガリを渡したのは他ならぬトダカ達アスハ派の軍人達である。
彼らの頭にはアークエンジェルやカガリに対する妄信というべき2年前の3隻同盟が残っていた。

ファントムペインが使用するスティングラー級MS搭載型強襲揚陸艦の中に設置された、ゆりかごと呼ばれる機器がある部屋で、部隊指揮官であるネオ・ロアノーク大佐が白衣を着た人間と話していた。
なんでも戦闘用強化人間エクステンデッドの一人、ステラ・ルーシェがゆりかごによる調整を受ける際、持っていたハンカチを取ったら暴れだしたと言うことだ。
現在はネオがステラを落ち着かせたので大人しくゆりかごによる調整(記憶の改ざん等)を受けながら眠っている。
「我ながら悪いおじさんになった気がするよ、あれだけ騒ぐって事はよっぽど何かあったって事だろうしな」
「戦闘マシーンに余計な感情は邪魔ですよ、効率も悪くなりますしね」
「ま、そうだな。数日後にはオーブからの派遣軍と一緒に黒海まで攻め込まなきゃならん、その時に使い物になりませんじゃ話にならないからな、ステラの調整は念入りに頼む」
「分かっています、メンテナンスは明日の朝には終わりますよ」
「しかし俺達もここの所負け続けだからな、そろそろ手柄を立てんとどうなるかわからんし、せいぜいオーブ軍には役に立ってもらおう」
仮面の奥から調整を受けるエクステンデッドの三人を見ながら次の反抗作戦に思いを飛ばしていた。

ディオキアに置かれた司令部は慌ただしい雰囲気に包まれていた。地中海に連合軍の艦隊が集結しているという。
位置的に見てザフトの要衝ジブラルタルか黒海沿岸に位置するこのディオキアに対しての攻勢の為に集結しているのは間違いない。
この状況にプラント議長ギルバート・デュランダルは黒海沿岸のザフトに対しダーダネルス海峡の前にあるマルマラ海に展開して迎撃するように指示した。
当然、ディオキアに寄航中のミネルバにも出撃要請が下りる。今回の作戦に対して副長のアーサーが疑問を呈するのに艦長であるタリア、MS隊長のアスランそれに凱が話し合う。
「この位置だとジブラルタルか黒海のどちらに来ますかね」
「数からしてジブラルタルを抑えられる程の戦力はありません、十中八九こちらに来るでしょう」
「それだと、ジブラルタルから援軍を回して貰えばダーダネルス海峡で挟撃できるな」
「どうかしらね、ジブラルタルには常に連合の圧力が掛かっているから、援軍は期待しないほうがいいわね」
問題は数もそうだが敵軍の中に強奪機体を使っている部隊がいるという事、そして本日未明、連合に援軍が到着したという事の2つである。
「アスラン、援軍はオーブと言うことよ」
「そんな、オーブが」
援軍がオーブ艦隊と聞いて顔色が変わるアスラン、ザフトに復帰するまでオーブで暮らしていたアスランにはショックだったようだ。
「オーブは理念によって他国の争いに介入しないはずです」
そう言ったところで、オーブ軍が援軍に来ているのは事実だ。このまま行けば明日には戦闘に突入する。
「今はオーブも連合の一員よ、戦いまでに覚悟は決めておいてね」
動揺するアスランにタリアが掛ける声には冷徹な響きが含まれていた。

艦長たちとの話し合いが終わった後、アスランは一人甲板に出ていた。そこに凱がやって来て話しかける。
「オーブとは戦いたくないか?」
答えに窮するアスラン、頭ではオーブが敵になった以上は戦わなければならないのは分かる、しかし感情がそれを否定する。
カガリやキラと2年を過ごした土地だ、思い入れもある。もっともアスランは2年前オーブに協力して故国であるプラントに弓を引いた身だ、いまさらそんな事を悩むのもおかしな話なのだが。
これは本人も分かっていないだろうが、多分に親友であるキラや恋人のカガリの事を気にしているに過ぎないだろう。
「俺はどうすればいいんでしょうか?」
「さあな、艦長はああ言ったが、俺は戦いたくなければ戦わなくて良いと思う。中途半端な気持ちで戦場に立たれても回りに迷惑だろうからな」
凱の言葉にまた悩み始めるアスラン、そこに更に言葉を続ける凱。
「こればかりは自分で考えて自分で決めるしかないだろうな、俺に言えるのはどちらに決めても後悔するなって事だけだ」
言いたい事を言ったのか踵を返して艦内に戻る凱を見送ったアスランは、自分が何の為に戦うのかもう一度考え始めた。

シンとルナマリアは並んで食事を取っていた。明日にはダーダネルス海峡で戦闘に入る事になる以上は、自然と話はそちらに流れてゆく。
「連合の援軍オーブですって、あの国も今は連合軍の一員だもんね。そうゆう事もあるか、やっぱり気になる?」
シンに尋ねるルナマリア、一方のシンは話を聞いて動揺した。理念、理念と騒いでおいて2年前は国を焼き、今度は連合に援軍を送るなんて、いい加減な事ばっかりだ。
「関係ないよ、敵なら叩くだけだ」
なにかを吹っ切るように語気荒く言い切った。

ファントムペイン指揮官ネオ・ロアノーク大佐とオーブ派遣艦隊総司令ユウナ・ロマ・セイランはオーブ旗艦空母タケミカズチの艦橋で作戦を練っていた。
「当然ザフトはダーダネルス海峡の出口に陣取って迎撃態勢を整えているでしょうね」
ユウナはマルマラ海の入り口を指し示しながら、ここなら海峡を抜ける我々の頭を叩けますからと続ける。
ザフト側の戦力は如何程ですかとの質問にはネオが答える。
「ミネルバを筆頭に戦艦2、護衛艦7、潜水艦は不明ですね。MSは多く見ても20~30機といった所かと」
此方の戦力の約5分の1と推定されるがミネルバには散々にやられている以上油断は出来ない。
「オーブ軍には先鋒を務めて頂きたいのですが」
ネオの言葉に微かに眉を顰めるユウナ、先鋒などといえば聞こえは良いがこちらを盾にして実だけ持っていく腹か。もっとも援軍要請の時からこちらが使い潰されるのは織り込み済みであり、その為の装備と人選だ。
「分かりました。オーブの実力ご覧にいれましょう」
こうしてダーダネルス海峡攻防戦が開始された。

ダーダネルスを進軍してくる連合とオーブの派遣艦隊を視界に納めて、アスランは苦々しい思いをしていた。
先頭で進んでくるのはオーブの艦であるのが判ったからだ、連合艦隊相手なら何時も通りに戦えると出撃したのだが、初めからオーブが相手とは思わなかった。
「カガリが居れば、軍の派遣などさせなかったものを」
カガリを攫ったキラ達と行方不明のカガリに苛立つアスランであったが、既に戦端が開かれた以上、逃げ出す事は出来ない。苦悩を抱えながら迎撃に向かった。
凱はこの戦いはプラント、連合のどちらが勝利しても民間人に被害が出なければ良い。しかし、あの強奪機体を使っている部隊は恐らくどんな犠牲も気にしないだろう。ならばこの海上で進軍を止めると考えて戦う事にした。
シンはただ我武者羅に戦っていた、自分で自分の感情が解らない。
ただこのまま連合を進ませればまた大勢の人が死ぬ、それだけは許せない。今はそれだけを考えて敵を落としていた。
レイは落ち着いて、冷静に敵機を撃ち落していく。自分の、そしてあの人の理想を叶える為に今は戦う事だけが自分に出来る事だと信じて戦い続ける。
ルナマリアは自分の守りたい物の為に戦う、それはシン、レイといったミネルバの仲間達であり、なによりも妹のメイリンだ。皆を守りたいその思いで生き抜こうと決めた。

開戦から暫く経ちオーブのMSが30機程落とされて被害が拡大してきた。それを旗艦タケミカズチのブリッジで見ていたユウナは薄く笑う。
「さすがにザフトもやるね、特にミネルバとそのMSが素晴らしい活躍じゃないか。しかし残念だね、戦いは数なのだよ」
相手は少数、ならば戦力の逐次投入は各個撃破のチャンスを与えるだけだ、1対3で勝てたとしても1対10では勝てないだろう。
いやMS戦で勝つ必要など無いのだ、数で囲んでMSの足を止めているうちに別働隊で艦船を叩けば電池が切れて勝手に落ちる。
「残存のMS隊で敵MSを囲んで足を止めろ、余剰戦力も全て出せ。連合にも通達、出し惜しみさせるな」
この連絡を受けたネオは部隊の3分の1とスティングのカオス、アウルのアビスに出撃を命じながらユウナに対して持っていた認識を多少修正した。
もっとも全軍をここで出せというのは戦いを知らん、ここが終われば次は黒海沿岸地域の再占領の為の戦力が必要なんだよ。
「ただのお坊ちゃまでは無いようだが、まだまだだ」

凱達ははっきりと苦戦していた。ザフト側の護衛艦は全滅し現在はミネルバと戦艦2隻、潜水艦1隻を残し、共に戦っていたMSも半数が撃墜または戦闘不能に陥っていた。
アスランは今回の戦いでは精彩を欠いていた上に現在はカオスに張り付かれて思うように動けていない。
シン達3人には連携を重視してミネルバの援護に回って貰っている。たとえMSが無事でも戦艦が落ちれば防衛作戦は失敗なのだ。
凱は今一人で敵陣の中に飛び込み戦っているのだが、流石に四方八方から攻撃されては対処にも限界がある。
ビームライフルでM1アストレイを落とした瞬間、背後からウィンダムの強襲を受けてしまった。
「うわあぁぁぁ!」
スラスターが破壊され推力が落ちるセイバー、かろうじて飛行能力は失っていないがこのままではいずれ落とされるかもしれない。
その時一際大きな水柱が上がり、海面にアビスが現れる。今の爆発で潜水艦は全滅したのだろう。
海上に出たアビスがミネルバに攻撃を仕掛けている。レイのザクが手持ち火器を実体弾のバズーカに換装して水中へと逃げるアビスへ撃ち込むのが見えたが、当てることは困難だろう。
「くそっこのままでは、ならばアレを使うしかない!」
ディオキアで補給を受けた際にミネルバに搬入された、ガオガイガーのデータを基にして開発された凱のセイバー専用のシルエット。
「艦長、ガオーシルエットを出してくれ!」
これを聞いたタリアは眉をひそめる。
「あの装備は、テストはおろか機体とのマッチングもしていないのよ。許可出来ないわ」
しかし引き下がる凱ではない。
「このままでは皆やられるぞ、今はアレに賭けるしかないんだ」
「でも成功の確率は低いのよ。失敗すれば貴方も無事には済まないわ」
「確率なんてものは目安にすぎない、後は勇気で補ってみせる!」
凱とタリアの間で視線が交錯する。一瞬の沈黙がミネルバのブリッジを支配したあとタリアは高らかに宣言した。
「メイリン、ガオーシルエット射出急いで!」
「了解! システム、オールグリーン。ガオーシルエット発進どうぞ」
メイリンのコールを受けてミネルバからガオーシルエットが射出され凱の下へと飛んでゆく。
その姿はマンタ(オニイトマキエイ)のような形状をしており、翼の戦端(ステルスガオーⅡのウルテクエンジン部分に相当する場所)にドリルが取り付けられている。
「よっしゃぁー! ファイナルッフュージョン!」
左右のドリルが外れ、回転部分がスライドして合体の為の穴が現れセイバーの両足に装着される。
本体の頭の部分が前方にスライドして出来たスペースにセイバーの頭から合体してエイの頭部がブレストガードに、更に翼部分が左右に開きアムフォルタスとセイバーの翼の稼動を邪魔しない背中の位置に装着される。
続いてセイバーの前腕部が上腕部にスライドし一回り太い上腕部が形成されるとガオーシルエットにマウントされていた円筒形のエンジン部が新しい前腕部となって掌が出てくる。
最後に背中の一部がヘッドガードに変形、PS装甲の色が黒を基調にしたものへと変化して完成する。
「ガオッ セイッ バー!」
それは勇気の新しき姿
それは悪を絶つ剣
その名は勇者王、ガオセイバー
「この世界の技術が生み出した、新しい勇者王の力みせてやる!」
「フェイズシフトォ マグナァァーム!」
右腕を天に掲げると前腕部が激しい回転を始める、右前腕のフェイズシフトにエネルギーを集中させて回転が頂点に達したとき、右ストレートを繰り出すと前腕が弾頭と化して飛び立ち次々と敵MSを粉砕していく。
この攻撃で10数機のMSを撃墜された上にガオガイガーに似たガオセイバーの異形に浮き足立つ連合、オーブ軍にユウナからの叱責が飛ぶ。
「なにやってる! 良く見ろ、あれはユニウスを落とした機体じゃない。囲んで撃ち落せ!」
この指令を受けて離れたところから反撃に移る各機、20以上のビームライフルをガオセイバーに向けて一斉に撃ち込んで来る。
「リフレクト シェードォ!」
左腕を飛来するビームの方向に伸ばして陽電子リフレクターを展開させる、展開されたリフレクターは全てのビームを反射して次々とMSを落としてゆく。
「ははっ凄いじゃんあのMS、でもさぁー!」
その光景をみたアウルはアビスを急速浮上させてリフレクトシェードを展開しているガオセイバーの後ろから攻撃をしかけようとする。
「読んでいるぞ!」
真後ろに浮上してきたアビスに向かって背中のアムフォルタスを叩き込むガオセイバー。
「なっ? しまった!」
かろうじて直撃は避けたアビスだったが、そこにレイが撃ったバズーカが当たってしまう。
「甘いな、敵は凱さんだけではないぞ」
撃破こそ免れたものの損傷を負って後退するアビスだが、レイは追撃ではなくミネルバの護衛を優先させる。
「チクショウ、チクショウ、チクショウ。余裕のつもりかあの白いの、今度会ったら絶対に落としてやるからなぁ」
MSでは埒が明かないと悟ったか、艦砲射撃をガオセイバーに集中させる敵艦隊。
「プラズマホールドォ!」
飛来するミサイル群に対して左腕を掲げると放たれた電磁波がミサイルを次々と誘爆させて行く。
「むんっ!」
構えを取るガオセイバーの姿に対して、シン達が歓声を、逆にネオ達は喚声を上げる。
「さすが凱さんだぜ、これなら勝てる!」
「本当にあの人には驚かされてばかりだな」
「あんなMSが在るなんて聞いてないぞ、反則じゃないか!」
「くそっ、おそらくあの黒いMSの廉価版だろうがこれ程の性能とは」
ガオセイバーの圧倒的な力を前にして度肝を抜かれ、動きの止まった連合、オーブ艦隊。その好機を見逃すタリアではなかった。
「タンホイザー起動。射線軸を海上にとって一気に敵を殲滅します」
タリアの指示に従ってタンホンザーを起動させたミネルバはその射線にオーブ旗艦タケミカズチを捕らえる。
「タンホイザー 撃てーっ!」
アーサーの号令でタンホイザーが発射される。その一瞬前に上空より一筋のビームが撃たれてミネルバの艦首を貫いた。
発射寸前であったタンホイザーが爆発し、船体に損傷を受けた衝撃で態勢を崩すミネルバ。
「戦いを止めてください!」
攻撃と共に戦場に響き渡る若い男の声、その声を聞いた全員が新たな来訪者に向かって視線を送る。
そこにいたのはこの世界では有名すぎる存在であった。白の大天使アークエンジェル、自由の名を持つ最強のMSフリーダム、そして黒と緑を基調にした謎の機体、いやこの場で凱だけはその機体を知っている。
なぜならばその機体を見た瞬間に、凱は己の宿命のライバルが駆るその機体の名を叫んでいた。
「ジェイダー!」

君達に最新情報を公開しよう
ガオセイバーの力で窮地を脱したミネルバだが
突如現れたフリーダムに傷を負わされてしまう
戦場に現れた彼らは敵か味方か、そして目的はいったいなんなのか
次回 勇者王ガオガイガー DESTINY
第10話 混迷の序曲 にFINAL FUSION承認
これが勝利の鍵だ ガオセイバー



[22023] 第10話 混迷の序曲 
Name: 小話◆be027227 ID:8fbdcd62
Date: 2010/09/20 10:42

ダーダネルス海峡で戦っていた凱達の前に突如現れたアークエンジェル、フリーダムそしてジェイダー。
いきなり現れた第三者である彼らに対して視線が集中し、戦闘が一時的に中断された。
タンホイザー発射直前に受けた先程の攻撃によって、タンホイザーは破壊され艦自体にも相当の被害が出たミネルバが、海上に着水した音を最後に一瞬の静けさが戦場にもたらされた時、アークエンジェルから1機のMSが飛び出してきた。
「私はオーブ連合首長国代表、カガリ・ユラ・アスハ。オーブ軍直ちに戦闘を停止せよ」
フリーダムの横に並んだそのMSは確かにカガリの乗機であるストライクルージュであり、戦場全てに語りかける声もカガリのそれだ。
声は浪々と続ける、現在訳あって国許を離れているが、ウズミ・ナラ・アスハの子である自分がオーブ連合首長国代表首長である。その名において、オーブ軍は理念に遭わぬ戦闘を直ちに停止し軍を引けと命ずる。
この宣言をタケミカズチの艦橋でユウナ・ロマ・セイランは苦々しげに聞いていた、余計な事をしてくれる。
すでにこの艦隊派遣と戦闘は代表首長会で正式に決定された事だ、しかもオーブの復興に一番援助してくれたのは大西洋連合である。
だからこそ義理を返さねばならないし、どんな形であろうと同盟国からの救援要請に応えない国など国際社会で通用する物か。
2年間にオーブを焼いた時に中立国家軍がオーブを擁護しなかった理由がその理念にあるとまだ気がつかないのか。
苛立たしげにマイクを取るとユウナは戦場全てに聞こえるように話し始めた。
「私はオーブ首長国、派遣軍艦隊司令ユウナ・ロマ・セイランだ」
この声を聞いたカガリは直ぐに反応して通信をタケミカズチに開く。
「ユウナ! これは如何いうことだ。オーブの理念を忘れたか」
しかしこの問いかけに帰ってきたのは返答では無かった。
「我々は君が我がオーブの国家元首カガリ・ユラ・アスハであることを認めない。
なぜなら代表は我が国での式典の最中にそこにいるアークエンジェルとフリーダムに無法にも拉致されたからだ。
したがって我々にとって憎きテロリストであるアークエンジェルと行動を共にする者は同じテロリストであり、そして我がオーブはテロリズムには屈しない。
しかし君が直ちに武装解除をして投降するのであれば、君が何者であろうとも我が軍は君を保護すると約束しよう」
投降すれば良し、カガリを保護しておけば世論と軍部も抑えられる。拒否するのも良い仮にここで死んでも、その罪はアークエンジェルに被ってもらう。
さあカガリ、君が国と自分のどちらを選ぶか見せてもらおう
「な、そんな事出来る訳ないだろう」
やれやれ僕は最後のチャンスをあげたのに、結局君はオーブよりも身内を取ったね。なら仕方が無い、これ以上勝手をされては国の立場を危うくするだけだ。
ならここで死んで貰う事にしよう、後釜にはサハクを復帰させてミナ辺りを担ぎ出すか。
そう判断するとユウナはトダカに対して命令を下す。
「第一戦術目標をアークエンジェル及びその僚機に変更する。叩き落せ」
この命令にトダカは異を唱える。
「しかし、あのストライクルージュにはカガリ様が乗っています」
「さてルージュにカガリが乗っているかは判らないが、僕は投降を呼びかけたよ。それを突っぱねたのは向こうだ」
撃墜したまえと言うユウナを中心に空気が固まる、誰も行動を起こさない。このままでは埒が明かないとみたユウナは彼らが行動できるように大義名分を与えてやる。
「わかったよ、ルージュとアークエンジェルは拿捕してカガリをテロリストから助け出そう。そのかわりフリーダムとあの妙なMSは間違いなく落としてくれ」
なにか文句でもと続けると艦長のトダカが頷くと命令を発する。
「オーブ全軍はアークエンジェルと敵MSに攻撃を開始せよ、ストライクルージュとアークエンジェルにはカガリ様が捕らわれている可能性があるため拿捕に勤めよ」
この命令に反応したオーブ軍はミネルバから離れアークエンジェルに向かうが、行く手に立ち塞がるのはフリーダムとジェイダーだ。次々と戦闘能力を奪われ海に叩き落されて行く。
「戦いを止めてください、カガリの言葉が聞こえないんですか」
戦いを止めろと叫びつつ連合、オーブ、ザフトの機体に攻撃を加え始めるフリーダムとジェイダー。
「オーブ軍は戦闘を止めろ、私の声が聞こえないのか!」
戦場にカガリの悲鳴が木霊するが正式な命令では無く、またそれをいっているのがカガリでは無いと、現在の指揮官であるユウナとその下にいるトダカに言われては、戦闘行為を中止する理由は無い。
棒立ちで戦いを見ているしか出来ないルージュに向かってM1アストレイが突っ込んでくる。
その光景を信じられない思いで迎撃できずにいると、新たにアークエンジェルから飛び出してきた黄色のムラサメが横からM1アストレイをビームライフルで撃墜した。
「戦えないなら引っ込んでいろ!」
迎撃に出たバルドフェルドから、カガリに向かって叱責が跳ぶ。
「後は僕達が何とかするから、カガリは下がってて。こんな所で君がやられたら世界はもっと酷い事になっちゃう」
キラにも言われ、自分の力の無さに泣きながらアークエンジェルに後退するカガリ。
それを横で見ながらJは驚いていた。なにしろカガリがオーブの国家元首というのを聞いたのも、自分達が要人誘拐のテロリストというのも始めて聞いた。
「なにが、どうなっている?」
困惑しながらも襲い来る敵MSを叩き落してゆくジェイダーの前に、凱の乗るガオセイバーが立ち塞がる。
プラズマソードをリフレクトシェードで真っ向から受け止めながら叫ぶ凱。
「やめろJ! いったい何のつもりだ!」
こちらに呼びかけてくる声に応えるJ。
「私の事をJと呼ぶ、どうやら貴様、私の事を知っているようだな」
「なに、なにを言っているんだJ?」
この男と話をすれば自分の失われた記憶が戻るかも知れない、自分の記憶を取り戻すのはもちろん大切だ、Jにとって現在最大の問題でもある。
しかし今は戦闘中であり、こちらは自分も含めて3機しか居ない。自分の事にかまけてキラ達を危険に晒すことも躊躇われる。
しかも今の一撃を止める相手ならば手加減して戦いながら、他の機体の相手を出来るとは思えない。
「悪いが今はゆっくりと相手をしていられん。落とさせてもらおう」
一旦距離を取り、両手のプラズマソードを構えるジェイダー。それに対してガオセイバーもまたビームサーベルを抜き放ち対峙する。
「Jは俺がわかっていないのか?」
連続攻撃を仕掛けてくるジェイダーのプラズマソードをなんとか裁きながら呼びかけを行なうが返答は帰ってこない。
何撃目かの攻撃でサーベルをはじかれてしまうガオセイバー。
「ちいっ、フェイズシフトマグナーム」
咄嗟に右拳を打ち出すガオセイバー、虚を疲れたのか避けきれずに両腕を交差させて受け止めるジェイダー。
 「くっやるしかないのか、Jが相手では手加減できない」
右腕を戻して構えをとるガオセイバーにJの声が聞こえてきた。
Jは今の一撃が頭の中でフラッシュバックしていた。この一撃には覚えがある、そう何度も見た、そして受けた一撃だ、自覚すると一つの記憶が蘇る。
「思い出したぞ、私の名はソルダートJ。そしてお前は獅子王凱」
「思い出したかJ」
喜びの声を上げる凱だが、Jの言葉はその期待をある意味正しく、ある意味で裏切る物だった。
「ああ、貴様は私が倒すべき宿敵だという事をな!」
先程に倍する攻撃を繰り出すジェイダー、その苛烈さは初めて会った時を思い出す。そうJがまだピッツァと呼ばれていた頃のようだ。
「くそっ中途半端に思い出しやがって!」
凱はジェイダーと交差する瞬間にドリルニーを叩き込みながら悪態をついた。

フリーダムを見たシンの目が驚愕に開かれる。2年前のあの運命の日、そうオーブが連合に攻め込まれた時に見た機体だ。
あの姿を忘れる事など無い、自分達家族を含めた民間人が避難しているところへ飛んできた。
それを追ってきた両肩にキャノン砲を背負ったMSと戦っていて、そして空から降ってきた弾が一緒に非難してきた人達を、自分の家族を、マユを殺したのだ。
「きっさま―!」
獣のような咆哮を上げてフリーダムへと吶喊するシン。
「シン、持ち場を離れるな!」
「ちょっと、どうしちゃったの?」
レイとルナマリアが静止を掛けるが、そんな言葉など今のシンには聞こえていなかった。
遮二無二突っ込んでいくインパルスを見たレイは周囲の状況を確認する、一番数が多かったオーブ軍はアークエンジェル勢に掛かっていっているし、友軍機も防衛に入ってくれている。
これならシンとルナマリアが多少持ち場を離れても大丈夫だと判断してルナマリアに向かってシンの援護に向かうよう通信を送る。
「ルナマリア此処は俺が支える。お前はシンの援護に行け」
「わかった、すぐにあの馬鹿引っ張って来るからそれまで頼んだわ」
ルナマリアの赤いザクを乗せたSFSがインパルスの救援に向かって飛んでいった。
スラスターを全開にしてフリーダムへ迫るシンのインパルス、前方に居るM1アストレイやムラサメ、ウィンダムを撃破して肉薄すると斬りかかる。
「フリーダムゥ!」
ビームサーベルで斬りかかってくるインパルスを視界の端に収めたキラは、その一撃をシールドで受け止めると落ち着いて蹴り飛ばす。
こっちは数が少ないのだ1機1機に係わっていられないと判断したキラは、SEEDを発動させる。
周りの景色も敵の動きもよく見える、フリーダムのマルチロックオンを起動させてフルバーストで一気に敵対するMSの四肢を破壊して落としていく。
蹴り飛ばされたインパルスを海面すれすれで立て直したシンが上空を見ると、フリーダムはマルチロックフルバーストを乱射しながら連合、オーブ艦隊に向かって飛んでいくところだった。
「逃がすかよっ」
気合の声を上げるとその後を追った。

アスランは突如現れたアークエンジェルとフリーダムに動揺していた、更にカガリからの停戦勧告、これでオーブは停戦に応じるかと思えばそのオーブからアークエンジェルに対して明確な敵対意思が表明された。
再び戦闘に突入する連合、オーブ、ザフト更に陣営不明のアークエンジェルまで加わり戦況は混乱の度合いを増してゆく。
「キラ、カガリお前達はしたい。いや何をするつもりなんだ!」
カオスと連合の機体を相手取りながら通信を送ろうとするが上手く繋がらない。
「くそっ答えてくれキラ!」
アスランはそれに苛立ちながら戦い続けた。

先程の一撃で海に着水したミネルバも応戦している、もっとも立体機動を取れなくなって特に回避行動には大きな支障が出てしまった以上更なる苦戦は避けられない。
「右舷よりミサイル多数接近!」
「パルジファル1番から4番 ってー!」
メイリンの声に応えてブリッジに火器管制を行なうアーサーの声が木霊する。40mmCIWSも稼動しているが全てを迎撃は出来ない。
「全員耐ショック姿勢!」
タリアの号令が掛かった瞬間、残ったミサイルがミネルバの後方から撃たれたエネルギーの奔流に消え去った。
後ろを見るとアークエンジェルがゴットフリートMk.71の発射体勢を取っていた。
今の一撃はミネルバを狙ったものなのか、こちらを助けてくれたのか判断がつかないが射角からすると後者のような気がする。
「あの船はいったい何をしたいの、さっきはこちらを攻撃しておいて今度は助けるですって?」
見ればオーブや連合の艦隊に攻撃をしかける時も撃沈させないようにしている。まさか本当にただこの戦闘を止めたいだけの行動だとでもいうのか。だとすれば命の掛かる戦場で手加減をされている事になる。
「屈辱だわ、これは」
軍人としての矜持を否定された気がしてタリアはそう吐き捨てた。

ネオは戦艦の艦橋でこの事態を見ていた。アークエンジェルが出てくるまでは勝ち戦だと思っていたがどうもそうは行かなくなってきた。
さっきのユウナの言い分はまあ見事と言っても良い、政治家としては合格だろう。しかし今のオーブの動きを見ているともう一押しでミネルバを落とせたところだったのだが、どうやら目標を変更したらしいとわかる。
「やれやれ、なんだか滅茶苦茶だな。オーブは天使に突っかかっていっちまうし、乱戦の所為で部隊は分断されちまうし。引き上げ退きかねこれは」
フリーダムが好き勝手に暴れているおかげで、敵味方関係なく被害が拡大している。しかも元々の数が違うので連合側、特にオーブ軍が一番被害を受けている。
今ならまだ傷口も浅いし、ミネルバを叩けなかったものの黒海のザフトにはダメージを与えられた。ここは一旦引いて体制を立て直すべきか。
そう一人ごちると撤退信号を挙げるように指示をだした。

連合軍の奥深くまで単機で入り込んだフリーダムに向かって、甲板上に迎撃のために急遽出撃していたステラの操るガイアからビームライフルで攻撃が加えられる。
それを左右に動いてかわし、逆にビームライフルを撃ち抜いて破壊するフリーダム。
ライフルを壊されたガイアは四足獣形体に変形すると背中のMR-Q17Xグリフォン2ビームブレイドを起動させて襲い掛かってくる。
その攻撃をいなしていると後方から先程叩き落したインパルスが迫ってくるのが見える。
「しつこいっ」
キラはそう言うとすり抜けざまにラケルタビームサーベルを抜いて、インパルスの右腕を斬り飛ばす。
バランスを崩すインパルスを援護するように滑り込んでくるルナマリアのザク、しかしその位置は丁度地上のガイアと空中のフリーダムの間だった。
「おまえぇー、邪魔だぁー!」
叫び声と共に突っ込んでくガイア、インパルスとフリーダムに注意がいっていたルナマリアは、背後から迫るガイアに気がついた時にはもう遅い。
攻撃を避けられないと悟ったルナマリアの脳裏にメイリンの顔が浮かぶ。
「ごめんメイリン」
「ルナァー!」
ザクに迫るガイアを見たシンの中で何かが弾けると意識がクリアになり、瞬間機体を立て直して胴を両断される寸前で横から蹴り出し、間一髪でルナマリアのザクを助けるシンのインパルス。
ただしインパルスの足はガイアのビームブレイドで破壊され、そのガイアもフリーダムに迎撃されて海へと落ちてゆくが、落下途中で態勢を立て直して空母の甲板へ着地するのが見えた。
この一連の結果で冷静さを取り戻したシンはザクの手を引き、コントロールを失い空中を漂っていたSFSに着地するとミネルバに向かう。
「大丈夫かルナ! ごめん俺が先走ったばっかりに」
「本当よもう、注意してよね! …助けてくれてアリガト」
「ん、なんか言ったか?」
「何にも」
ミネルバに向かう途中で連合が撤退信号を挙げるのが見えた。

戦い続けるガオセイバーとジェイダーが距離を取って対峙すると二人の間で緊張が高まっていく。
「J、この俺の最大の技でその寝ぼけた頭をたたき起こしてやる」
「よかろう、ならば私もその意気に応じよう」
二人が激突しようとするその時、連合から撤退信号が挙がるのをみて取ったアークエンジェル艦長マリュー・ラミアスは、これ以上の戦闘は不要と判断出撃中の各機に帰艦を指示した。
その指示に対して凱と交戦中であったJは僅かながら不満を覚える。
「撤収か。凱よ、決着は次に持ち越しだ」
その言葉に凱も反応する。
「待てっJ、お前達は何が目的だ」
「彼らはこの世界の自由と平和の為に戦うと言った。私はその志に応えたのだ」
もっともJ自身も今回のやりようは理解しがたいものがあるが、それは口には出さなかった。
飛び去るジェイダーを見送りながら凱は今のJの言葉に、それが本当なら俺達が争うことなんて無いはずだと考えていた。

アークエンジェルに戻ったJは先程の戦いに思いを馳せていた。凱との戦いで取り戻した記憶、そしてあの高揚感あれこそ自分の記憶を取り戻す鍵と確信する。
そしてもう一つカガリの素性や自分達の立場など何も聞いていなかったのを思い出した。
もっともJ自身あまりそういった事に興味を示さなかったのも問題だといえるのだが、いまさら言っても仕方が無いだろう。
休憩室にいたJの下へラクスがやって来た、Jの知る限りラクス一人でいるのは珍しい大概はキラと一緒だった。
そう言えば少し前にもこんな事があったなと思い返しながらラクスに対して問いかけるJ。
「どうした、何か用か」
「はい、戻られた時の様子が気になったものですから」
この言葉には少々驚かされた、Jは特に普段と態度を変えた積もりは無かったが観察眼が優れているのだろうと多少記憶が戻ったことを伝える。
ついでに先の戦いにおいてキラのやった戦い方はいつもの事なのか質問してみることした。
Jは生粋の戦士である、記憶を失おうとも戦いそのものに対して矜持がある。キラのような猫が鼠をいたぶるような戦い方には不快感が出るのだ。
「お前達には命を救われた。そして平和と自由の為に戦うという理想にも賛同した。しかし私は戦士だ、キラのあのような戦い振りはどうもな」
むろん人を殺めたくないというキラの言い分は分からないでも無いが戦場での無用の情けは時に味方を窮地に陥れる。
甘ったれるなと2、3発殴りたいところだが、バルドフェルドもマリューもそれで良いと思っているらしく窘める様子も無い。
「キラはあれで良いのです。あの戦いかたはキラの優しさの表れですから」
そういうものか、私には理解出来ん事だと思いつつ、ついでにカガリやそれにまつわる疑問を重ねる。
「それに私はカガリがオーブの代表だとは知らなかったぞ」
キラの言葉が正しければカガリが助けを求めてきたのだろう、ここに居る様子を見てもオーブに戻ろうという意志が見えなかったのでそう判断していたが、先程の行動でそれも怪しくなってきた。
言いようからすると自分が国家の代表であると言っていた以上、その代表を拉致した行動は重大な問題だ。その意識はあるのかと問いかけるJ。
「いいえ、あの時のカガリさんはご自分を見失っておられたのです。でもこの船に来てキラや私達と話し合い、行動を共にすることで今自分が何をすべきなのか、何が出来るのかを理解し代表としての行動にでたのですわ」
それが先程の行為であり、彼女が自分で決めた事だと続ける。しかしカガリからオーブを簒奪した非道の輩の為に説得は失敗し、結果我々はオーブとも戦う事になってしまった。
でも自分達がこの世界の自由と平和の為に戦う事はこれからも変わらない、これからも力を貸してくださいと言うラクス。
「力を貸すと約束した以上は違えたりはせん。しかし全ての事情を知り、全ての記憶が戻った時には私はお前達の敵になるかもしれんぞ」
「そうはなりませんわ、だって私達は正しいことをしているのですもの」
応じるラクスの言葉を聞いた瞬間、なにか背筋に怖気が走る感覚を味わうJ。
正面に向き直り彼女の表情を見るといつも通りの優しく儚げな雰囲気を放っている。今の感覚は気のせいだったかと思い直した。

ミネルバに戻ったシンはレイ達に先程の行動を咎められていた。
「持ち場を離れるなんて何を考えている。シン」
「迷惑掛けてごめんレイ、ルナ。でもフリーダムを見たら頭の中がカッとなっちまって」
「なにかあるの フリーダムと?」
俯きながら口にするシンに対して話してくれなきゃ分からないよとルナマリアが聞くと、少しの間考えてから重い口を開いた
「あいつは、あいつは俺の家族の仇なんだ」
そしてシンは2年前のあの運命の日のことを二人に話し始めた。

アスランは今回のアークエンジェルの行動を考えていた、おそらくオーブが戦いに巻き込まれるのを避けようとしたのだろう。しかしあんなやり方では上手くいくはずも無いのは分かるだろう。
「それとも凱さんが言ったとおり、力で全てを決するつもりなのか」
キラ達となんとか連絡が取れないものかと思案し始めた。

凱は艦長質でタリアと話していた、ミネルバはポートタルキウスに向かうということだったので一人でディオキアに戻りたいと伝える。
「なにかあるのかしら」
ディオキアにはまだプラント議長であるデュランダルが滞在している。
ダーダネルス戦前で話す機会がなかったが、ルネから貰った敵の情報に関して彼に伝えなければ成らないことがあると話す。
「これはプラントとか連合とか言う話じゃない、人類全てに係わる話だ」
凱の真剣な様子にタリアも居住まいを正して会話が始まった。

君達に最新情報を公開しよう
ダーダルネスの戦いは混乱のうちに終結した
寄港したポートタルキウスでキラ達との接触に成功するアスラン
ロドニアの調査を行なう凱達にガイアが迫る
次回 勇者王ガオガイガー DESTINY
第11話 世界の闇 にFINAL FUSION承認
これが勝利の鍵だ ZGMF-X88Sガイア



[22023] 第11話 『世界の闇』
Name: 小話◆be027227 ID:8fbdcd62
Date: 2010/09/20 10:43
 
ディオキアに滞在中のプラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルの下へやって来た獅子王凱は話したいことがあると面会を申し込んだ。
議長の部屋へと迎え入れられ、凱は自分の仲間と連絡がついた事、仲間と合流する事、最後に木星に人類に敵対する存在があり、今はまだ活動を開始していないが間違いなく近く動き出して地球へと向かってくるだろう事を知らせた。
「それは本当の事なのだね」
いささか懐疑的に聞きなおすデュランダルに対して、凱は真剣な面持ちのままで肯定の言葉を返す。
「本当です、地球は嘗て無い危機に陥るでしょう」
それまでに人類が一丸となって対抗するように出来ないかということを付け足す凱。
デュランダルは凱の言葉は疑ってはいない。なぜなら彼の気性は短い付き合いだが良く解っているし、第一に自分に嘘を吐く理由も思いつかない。
しかも彼にとってザフトに在籍していた大きな理由である、仲間の安否が確認されたにも関わらずに情報を持ってきてくれたのだ、信頼には応えたい。
「しかし、現在の状況では難しい。君も解ると思うが戦争は始めるよりも終わらせるほうがずっと難しいのだ」
もし共通の目に見える敵がいれば可能だろうが現在はただの話に過ぎず、この話をもって連合と交渉しても終戦どころか停戦にも応じないだろう。
むろん、自分としては最大限協力する。DSSDを始めとした各機関や友好国に連絡を取りできる限りの協力体制を作るように働きかけると約束してから凱に尋ねる。
「君はこれから如何するかね、仲間が見つかったのだから直ぐにザフトを離れても構わんよ」
むろんガオガイガーも返却すると続けるが、それを聞いた凱は少し考え込んだ後で答えを出した。
「よければもう少しミネルバに置いて欲しい」
ミネルバと行動を共にすれば再びJに会える気がする。今度こそあの尖がり頭を打ん殴って元に戻してやる。そう決意する凱であった。

ダーダネルスで少なからず損傷を負ったミネルバはポートタルキウスの港に停泊し、修理と補給を行なっていた。
先の戦闘で亡くなったミネルバのクルーがボディバッグに収められて収容されていく、連合との戦いで犠牲になった人間よりもタンホイザーの誘爆に巻き込まれた人間の方が多いのが皮肉である。
個人の遺品を載せた車が走り去るのを見送って、アスラン・ザラは艦長室へと向かった。
艦長室でタリア・グラディスと向き合ったアスランは、艦長も知っての通り自分とアークエンジェルはヤキン攻防戦で共に戦った仲であり、恐らく今乗っているのも当時の仲間であると思う。
ならば彼らの真意を取り正さればならない、ついてはその為に一時的に艦を降りたいと申し出る。
「この事態が理解できない、というより納得できません」
彼らの目的は連合に与したオーブ軍の戦闘停止及び撤退である、それはカガリの勧告からも明らかだ。
もっともなぜあんなやり方ではなく、犠牲の出ないやり方を選択しなかったのか。
どんな言い分があるにせよ彼らの行動でザフトが被害を受けたのは事実だ。ならば当然プラント本国や司令部も動くだろう。
しかも場合によっては敵と認定される最悪の事態も予想される、ならその前に彼らとの解決の道を探すのは自分の仕事であるとアスランは考える。
この申し出にタリアは考えを巡らせる。アスランはフェイスである以上、自らの判断で行動する資格が与えられている、いかに同じフェイスのタリアにも止める権限は無い。
「それはフェイスとしての判断かしら」
先のアークエンジェルとの戦闘は無駄な戦いであり犠牲だ、連合とあのまま戦っていれば、どっちが勝ったかは分からない。
もしかすればミネルバは沈められ全滅もありえた事は判る、しかしあのように横から出てきた訳の判らない連中に訳の判らないまま蹂躙されるなど許容できるものではない。
少なくともアスランが彼らに接触できれば敵か味方の判断は付くかもしれない、そう考えたタリアは許可を出す事にした。
アスランが退出したあとで昨日凱から聞かされた話に思考が飛ぶ、戦争だけでも頭が痛いと言うのに宇宙からの脅威が迫っているときた。
子供が好きなコミックを思い出すが凱が言う以上は現実だろう。
「まったく、この世界は呪われているのかしら」
この時代宗教は廃れているが、もし神様がいれば悪態の一つも吐きたいところだと溜息を吐いた。

ミネルバを発ったアスランはギリシャの町に来ていた、何の手がかりも無い以上取りあえず大きな町で情報収集を行なおうと考えただけなのだが、ここで偶然にもミリアリア・ハウを見つける。
ミリアリアに声をかけてオープンカフェに誘い、まずは近況報告からする。確かにアスランとミリアリアはアークエンジェルに乗っていたが短い期間だったしそれ程話した事も無い。
どちらかというとディアッカが親しかった感じだったので、話を振ると露骨にいやな顔をされた、どうやら地雷だったらしい。
これ以上気分を損ねると不味いと思い、自分がザフトに戻った事、マルマラ海でアークエンジェルが戦闘に介入したおかげで大分混乱した等の事情を説明するアスラン。
「君はたしかジャーナリストだったろう、何か知らないか」
どんな事でも構わないというアスランにミリアリアは会って如何したいのかと問いかけた、それには兎に角会って話がしたいとうアスラン。
「いいわ、伝が無いわけじゃないからアスラン個人になら繋いで上げる」
ミリアリアはアスランの必死な様子に何とか連絡をつけてみると請合った。

一方カガリ・ユラ・アスハとラクス・クラインはアークエンジェル内に作られた天使湯と名前の岩風呂風に設えた大浴場に浸かっていた。
まあ壮絶に無駄な設備である事は想像に難くないがとりあえずいまは関係がない。
考え込むカガリに向かってラクスが何を考えているのかと問いかける、カガリの口から出てきたのは自分の決断に対する迷いであった。
「これで良かったのかなって」
国家元首である自分が一言言えば戦闘は終わると思っていた、でも実際はどうだ、自分は何も出来ずに只うろたえていただけではないか。
いや、あそこでユウナの所に行っていればオーブには戻れた、それなら代表として派兵を取り下げる事も出来たのではないのか。そんな事ばかり頭の中をグルグルと回る。
「まず決める、そしてやり遂げる。それが何かをなす時の唯一の方法ですわ。きっと」
途端にラクスがそんな事を言い出した、見ればこちらを慈しむような表情で見ていた。
その顔を見ていると心が軽くなってくる。そうだ、自分で決めた事を最後までやり遂げる事が出来ればいいだけだ、その為にアークエンジェルの仲間も力を貸してくれている。
そんな会話を隣の男湯でキラ・ヤマトが聞いていた。

風呂から上がったラクス、カガリ、ついでにキラがブリッジに来るとターミナルからミリがキラ達に会いたいとの連絡を貰ったと報告があった。
ターミナルとはクライン派の組織にあって情報を司る部署である。その構成員は近所の井戸端会議から国家の中枢にまで及び、プラントのみならず地球にも浸透している。
特にプラントには多く、石を投げればクライン派に当たるとまで揶揄される程である。
この連絡もこの地中海沿岸で活動しているターミナルの一つからもたらされたものである。
「ダーダネルスで天使を見ました、赤のナイトも一緒です。連絡願います」
赤のナイトとは誰のことかと話し合うとカガリがアスランだと言い出す、なるほど彼が乗っていたMSはイージスもジャスティスも赤かった。
相談の結果キラとカガリが会いに行くことに決まった。

ギリシャ湾沖にある小さな岩場にてキラとカガリ、ミリアリアが揃って待っているとセイバーに乗ったアスランが現れた。
久々の再開となったがアスランがザフトに戻ったと聞くと途端に大声で問い詰め始めるカガリ。
「どういうことだお前、ずっと心配していたんだぞ。あんなことになって連絡も取れなかったけど、でもなんでザフトに戻ったりなんかしたんだ!」
あんな事というのは自分がオーブから連れ出されたことを指している、またこの問いかけに対してアスランの返答は自分もまた色々と考えた結果だと告げる。
「そのほうが良いと思ったからだ。自分の為にもオーブの為にも」
「そんな、なにがオーブの!」
更に言い募ろうとするカガリを制止するキラ、傍らに鎮座するセイバーを見上げ見た事がある機体だと思いながら静かに口を開く。
「あれは君の機体? じゃあこの間の戦闘も」
「ああ、俺も居た。今はミネルバに乗っているからな。お前を見て話そうとしたが通じなくて、だが何であんなことをした? あんな馬鹿なことを、おかげで戦場は混乱し要らぬ犠牲も出た」
強い語調でキラの採った行動を非難するアスランだが、それに反応したのはカガリの方だった。
「馬鹿なことだと! ザフトが戦っていたのはオーブ軍だったんだぞ。私達はそれを止めようと」
「あそこで君が出て行って、素直にオーブが撤退するとでも思ったか! 君がしなけりゃいけなかったのはそんな事じゃ無いだろう。戦場に出てあんな事を言う前にオーブを同盟になんか参加させるべきじゃ無かったんだ」
感情のままに叫ぶカガリについ怒鳴り返してしまうアスランに向かってキラは感情を交えずに語りかける。
「でもそれで今は君がザフト軍だって言うならこれから如何するの、僕達を探していたのは何で?」
この質問に対してアスランは、あんな馬鹿な真似は止めさせたいと思ったから話に来た、お前達のやっている事はただ状況を混乱させているだけだ。
この戦争は確かにユニウス7の事件が切欠だが、その後の混乱はどう見たって連合が悪い。
それでもプラントはこんな戦争を一日でも早く終結させようと頑張っていると続ける。
「本当にそう? プラントは本当にそう思っているの。あのデュランダル議長って人は本当に戦争を早く終わらせて平和にしたいって」
「お前だって議長のしている事は見てるだろ、言葉だって聞いたろ。議長は本当に」
世界の事を考えて行動していると続けようとしたがキラの言葉に声が詰まる。
「じゃあ、あのラクス・クラインは? いまプラントに居るあのラクスはなんなの。それでなんで本物の彼女はコーディネイターに殺されそうになるの」
なんだ、それはそんな事は初めて聞いた。いやミーアの事は知っている、行方が分からないラクスの代わりに平和の歌姫という看板を使用する為に議長が用意した影武者だ。
しかしディオキアで議長は本物のラクスにプラントに戻って欲しいと言っていたではないか、それが何でラクスが襲われる事態になる。
混乱するアスランに更にキラから声が掛けられる。
「オーブで僕はコーディネイターの特殊部隊とMSに襲撃された。狙いはラクスだった、だから僕はまたフリーダムに乗ったんだ。
彼女も皆も、もう誰も死なせたくなかったから。彼女は誰で、なんで狙われなくちゃならないんだ。それがハッキリしないうちは、僕はプラントも信じられない」
もっとも特殊部隊を撃退したのはバルドフェルドとマリューであり、MSを破壊したのはジェイダーである、実際のところこの事件ではキラは何もしていない。
しかも襲ってきたのは何処の所属か判別していないし、思い込みは危険だとJに言われたのだが、キラはプラントの仕業だと思っていた。
アスランはキラの言葉を聞きながらも先日夕食を供にした時のミーアの姿を思い出す。
「今だけで良いんです。今いらっしゃらないラクス様の代わりに議長や皆さんのお手伝いが出来たらそれだけで嬉しい。アスランと会えて本当に嬉しい」
自分が偽者であっても、求められているのはミーア・キャンベルでは無くラクス・クラインだとしても自分に出来る事がある事が嬉しいと、そう言った彼女の顔は本当に嬉しそうだった。
「戦いを終わらせる。戦わない道を選ぶということは戦うと決めるより遥かに難しい事さ」
また議長が言っていた言葉も脳裏に蘇る。その言葉の通りに彼は行動しているではないか、
たしかにラクスが狙われたというなら大変な事だ、だがその一事を持って議長やプラントが信じられないと言うのは早計過ぎるのではないか。
プラントにも色々な考えの人間達がいる、ユニウス7の犯人達がいい例だ。その襲撃だって議長の知らない連中が勝手にやった事ではないのか。
「そんな事くらい分からないお前じゃないだろ、その件は俺も艦に戻ったら調べてみるから、だからお前達は今はオーブに戻れ。
戦闘を止めたい、オーブを戦わせたくないというなら、まず連合との条約から何とかしろ。
戦場に出てからじゃ遅いんだ」
「それは、解ってはいるけど」
キラとカガリに向かって自分の考えを話すアスランに対して、キラの態度は理解しているけど認められないという感じだ。
「じゃあお前は戻らないのかアークエンジェルにもオーブにも」
言葉を濁すキラに代わってカガリがアスランに対してこれから如何するつもりなのかを尋ねる。
「オーブが今までどおりの国であれば行く道は同じはずだ。俺は複隊したんだ、いまさら戻れない」
「でもそれじゃ、君はザフトでこれからも連合と戦っていくと言うの。じゃあこの間みたいにオーブとも」
アスランの答えにキラが更に同じ質問を重ねるが答えは変わらない。
今は戦争中で戦争が終わるまでは仕方ない。自分としても出来れば討ちたくは無い、でも連合と共に攻めて来るのでは戦うしかない。
連合が今この西ユーラシアで何をしているのかキラ達だって解っている筈だ、それは止めなくてはならない。
だから連合との条約を何とかしてオーブを戦闘に参加させるなと言っているのが分からないのかと繰り返して続ける。
「それも分かっているけど、それでも僕達はオーブを討たせたくないんだ。本当はオーブだけじゃない、戦って討たれて失ったものはもう二度と戻らないから」
この言い分にアスランは自分の中で何かがキレた気がした。気が付けばキラに対して怒鳴っている。
「自分だけわかったような奇麗事を言うな! お前の手だって既に何人もの命を奪っているんだぞ!」
「知ってる。だからもう本当に嫌なんだ、こんな事は討ちたくない、討たせないで」
自ら勝手に戦闘に介入しておいて自分達はそんな積もりでは無かった、こんな事はしたくないのだと言っている。
「なら尚のことだ、あんな事はもう止めてオーブに戻れ。俺にだって理解は出来ても、納得出来ないこともある」
そう言ってその場を立ち去るアスランだが、彼は大きな間違いを犯してしまった。本当にキラ達を戦わせたくないと思うならカガリを連れて帰るべきであった。
これは彼個人があまりにもキラ達に近すぎた事が原因であろう、これだけ言葉を尽くせば納得して帰ってくれると思ってしまった。
またカガリに対して自分の知らないところで結婚を決めたりした事など、その場に自分が居られなかった事等があり、一緒の時間を過ごすのが気まずかったのも災いした。
それが最後の言葉に表れてしまったのであろう、なぜならその一瞬カガリが嵌めていた自分が送った指輪に視線が向かっていたのだから。

その頃シン達はミネルバが停泊中のポートタルキウスから北に行ったロドニアという場所にある連合が使用していた施設の探索任務を命じられていた。
もっともザフトが此処に駐留するようになってから、廃棄されたらしく今は誰も居ないということだ。
「なんでそんな場所を調査に行くんですか」
副長のアーサー・トラインから伝えられた命令に不満を覚えるシン、嗜めるレイ。
「武装勢力が立て篭もっていたりしたら大変だろ、それに施設事態の調査も兼ねてるんだよ」
連合が撤退してもゲリラや傭兵崩れの盗賊などがいた場合、治安上の問題だけでなくプラントの評判にも係わるから大切な仕事だと言われて了解を返す。
「私は行かなくても良いんですか?」
ルナマリアがアーサーに尋ねると、今は凱とアスランが別件で出かけているから残るようにとの事だ。
明朝、シンとレイは若干名の陸戦隊を伴って調査に向かった、其処は事前に聞いていた通り何らかの研究施設のようであった。
施設内の調査は基本的に陸戦隊が行なう、シン達は万が一MSが居た場合の保険としてこの調査に加わったのだ。
敵のMSがいないのでは周辺警戒しかやる事が無い、確かに重要な任務ではあるがシンはこういった忍耐が必要な事は苦手だった。
「なあレイ、ちょっと中見に行かない」
案の定暫くするとシンがそんな事を言い出した。当然レイはバカな事言ってないで仕事しろと嗜めるのだが、今回はやけにしつこい。
凱もアスランも居ない状況で気持ちが緩んでいるのだろう、戦果も出しているが16歳の少年である、好奇心に負けてしまっても仕方が無いだろう。
このままでは仕事に支障が出るかもしれないと判断したレイは、ベースにいる兵に外の空気を吸ってくると言い訳して二人で中を覗く事にした。
そこは確かに何かの研究所であった、薄れてはいるが様々な薬品が混じった独特の臭い、何に使うか分からない器具。
その一つ一つがレイに幼い頃の記憶を思い出させる、白い研究所でデュランダルと金髪の男が話している、自分はその男の顔を見て聞かされた言葉は自分の……
「うおえっぇぇぇぇっ」
「レイ! どうした大丈夫か。すぐに外に連れて行くからしっかりしろレーイ!」
研究施設内で突然苦しみ吐き出すレイを見て、シンは大声で助けを呼んだ。

大西洋連合軍黒海派遣艦隊は先のマルマラ海で破壊されたMSの修理と補給を行なっていたネオ・ロアノークは頭を捻っていた。
なぜなら多くのMSの破壊箇所がどういう訳か手足に集中していたからだ、特にフリーダムと謎のMSに撃墜された機体はほぼ全てがそうである為にニコイチ、サンコイチにすることで比較的簡単に戦力を整える事が出来た。
これはオーブ軍のほうも同じであるらしい、もっともオーブはその前にザフトと戦っているので撃墜された機体も多く消耗度は此方よりも激しいと言っていた。
そんな状況で次の攻勢について思案しているネオに一つの報告が届く、なんでもロドニアにあったエクステンデッドの研究施設にザフトの調査が入ったという事だ。
証拠の隠滅はしなかったのか尋ねるネオに対して、残された被検体と共に基地施設を爆破しようとしたのだが失敗したとの事ですと続ける。
「そりゃ面白くないな、ロドニアのラボにゃ色々と表ざたに出来んもんがあるでしょ」
ついては施設を破壊する為に戦力を回して欲しいと言う事だが、今回の出撃では海上戦闘を想定していたので、対基地用のナパームやバンカーバスターのような武器が無いと話すのをステラ・ルーシェが聞いていた。

凱が議長と話し合いを終えて翌日、昼過ぎにミネルバに戻ってくると随分と慌しい雰囲気に包まれていた。
走り回っているヨウラン・ケントを捕まえて話を聞くとなんでも廃棄された連合の研究施設に向かうという事だと知らされた。
何事かあったのか急いでブリッジに向かい艦長のタリアに詳しい事情を聞く、なんでも調査の為に向かったシン達だが、レイが調査中に突然倒れてしまったという。
「失敗しました、廃棄された研究施設に残党か武装勢力が居てはいけないと調査に出したんですが、BC兵器や細菌の可能性も視野に入れるべきでした」
副長のアーサーがそう言って悔やむが今は一刻も早く現地に向かい適切な処理を行なうべきだ。
「ミネルバ発艦」
タリアの声を共にミネルバがロドニアに向かって発進した。

パイロット控え室へ歩いていたステラは前を歩いていたスティング・オークレーとアウル・ニーダに向かって先程聞いた事を尋ねてみることにした。
「ロドニアのラボってなに?」
尋ねられた二人が顔を見合わせる、ロドニアのラボといえば三人が育てられた場所である。
「俺達が前に居たとこじゃん」
「なんだ、行き成り?」
「悪い事にザフトがってネオが」
たどたどしくもネオが話していていた事を二人に説明するステラ、話を聞いたスティングとアウルが驚愕する。
咄嗟に走り出そうとするアウルをスティングが止める。
「落ち着けアウル」
「なんで落ちついていられんだよ。ラボには母さんが、母さんが死んじゃうじゃないか!」
母親が危険だと取り乱すアウルだが、実際はラボに母親などは居ない。アウルが母親だと思っているのはそう刷り込まれた研究員の女性職員だ。
不安定になり暴れまわるアウルを落ち着かせようとするスティングをしり目に、ステラはふらふらと歩き出す。
「死んじゃう? 死んじゃうはダメ、怖い」
ステラは当ても無く歩きながら、ブツブツと呟いている。その時脳裏にディオキアで溺れた時の光景が蘇る。
自分を助けてくれたシンの顔を思い出すステラ、あの男の子は何か言っていた。なんと言っていたのだろう?
「君は死なない、俺がちゃんと守るから! ああ、大丈夫。君は俺が守るよ」
そうだ、そう言っていた、怖い物から守るって。
「守る、守る!」
だからアウルの怖い物から私が守る。そう決めて走り出してガイアに乗り込むとステラは機体を起動させて叫ぶ。
「ハッチ開けて、開けないなら吹き飛ばす!」
空母のハッチから飛び出して四足獣形体に変形し、北を目指して走り出すガイアの中でステラは繰り返していた。
「ロドニア、ラボ、母さん、守る!」

ロドニアに着いたミネルバは研究施設内の本格的な調査を開始していた。敷地にテントが張られ、専門の調査員も導入されている。
先行したシン達の身体検査も行なわれ異常無しとの検査結果が出た、レイの体調不良は精神的な問題であり、少し休めば大丈夫だということだ。
現在凱はタリア、アーサーと一緒に施設内部に入っていた。そこかしこに折り重なる死体の様子は銃創や切創などが目立つ。
明らかに対人戦闘が行われた後だが、職員と子供達の死体しか見受けられない。その惨状からタリアはこれが外敵の仕業では無いと判断する。
「内乱と言うことでしょうね、自爆しようとして恐らくは」
反対する人間たちと交戦状態に陥ったという事だろう、しかも叛乱を起こしたのは子供達に違いない。
先に進むとシリンダーの中に飾られる子供の死体が浮かんでいた。その光景を見たアーサーが叫ぶ。
「これは一体、何なんですか一体此処は!?」
その声に応える者はいなかったが唇を噛み締めるシン、帽子を目深に下げるタリア、目は冷静に辺りを見回すが握った拳が震えている凱。
更に奥へ進むと人間の脳が収められたケースが並んでいる部屋へと辿り着いた、そこで電気が復旧したのかコンピューターの端末に光が点る、凱が手を触れて起動させデータを呼び出す。
「CE64年7月11廃棄処分3入所、8月7廃棄処分5入所…」
淡々と読み上げる凱にそれは何の事か尋ねるアーサーにタリアが推量を交えて説明する。
「被研体、つまり子供の入出記録ってことかしらね、連合のエクステンデッド、あなただって聞いているでしょ」
エクステンデッドとは遺伝子操作を忌み嫌う連合やブルーコスモスが、薬やその他の手段を使って作り上げている生きた兵器、戦う為だけの人間である。
ここはその実験、製造施設と言うことだろう、コーディネイターに対抗出来る様に薬や何かで強化され、ただ只管に戦闘訓練だけを施される。
そして適応出来ない、また付いて来られない者は容赦無く淘汰され、次の子供が送り込まれて来る、此処はそういう場所なのだ。
先程のシリンダー内の死体やここにある脳髄はその残滓であり、連合が廃棄を決定した時に残っていたエクステンデッドと研究所職員の間で起こった戦闘が施設内の惨状だと結論づけた。

施設内から戻ると既に夜の帳が降りていた、あの光景を見た者は多分に消耗していたがやらなければならない事は多い。
タリアは基地に連絡を入れて専門の調査団の派遣を要請し、アーサーはレーダー手へ周辺警戒を厳重にするよう通達を出した。
凱達はテントで小休止を取っていた、この後はMSで警戒に付く予定である。施設内へは立ち入らなかったルナマリアも話を聞いて憤慨している。
「本当にもう信じられませんよ、コーディネイターは自然に逆らった間違った存在とか言っておきながら、自分達は何をしているんだか」
それを受けたシンも同じように、いや現場を見たぶん余計に憤っている。
コーディネイターを散々に化け物扱いしておいて、自分達のやっている事はもっと非人道的な、ただ戦う為だけの生きた機械を生み出す事ではないか。
「遺伝子いじるのは間違っていて、これは有りなんですか良いんですか! 一体何なんですブルーコスモスってのは!?」
凱も大声こそ上げないが怒っているのは明白だ、あの所業は詰るところバイオネットのハイブリットヒューマンやメタルサイボーグを生み出すのとなんら変わりが無い。
無論、生まれる前に遺伝子を操作するコーディネイターは正しいのかと問われれば、凱も即答は出来ないだろう。
だが少なくともコーディネイターは自分で自分の生き方を決められる、しかし連合のエクステンデッドは戦いの為だけに生み出され、消耗されるだけの存在だ。
「こんな事は許せない、いや許してはいけない」
凱が持っていたスチール缶を握りつぶした丁度その時、辺りにサイレンが鳴り響いた。
連絡によると1機のMSが此方に向かって来ているようだ、タリアはシンに出撃命令を出す。
凱も出撃すると言うが、1機だけで来るのはおかしい、陽動の可能性もあるので残るように言われた。

その頃アスランはロドニアへ向かって飛行中であった、本来なら暫くの間キラ達を追いかけるつもりだったのだが、思いがけずに接触が早かった為ミネルバに合流しようと考えたのだ。
その途上で同様にロドニア方面へ向かう反応を発見したため、そちら側へ機首を向けると前方に疾走するガイアの姿が見えてきた。
「ガイア、なぜこんな所に?」
取りあえず足を止めようとマウントしてあるビームライフルを放つ、その一撃はガイアの足元に着弾するがガイアは一跳びするとこちらに向きを変えて迎撃態勢をとった。
「おまえー、邪魔するなぁー!」
背中のMA-81R≪ビーム突撃銃≫砲を撃ちまくり、アスランのセイバーを落とそうとするガイアに、その攻撃をガイアの周囲を高速で飛びかわすセイバー。
其処へシンの操るフォースインパルスが参戦する。
「隊長、どうして此処に? それにあれはガイアか」
「シンか、合流途中にガイアと遭遇して戦闘状態になった。手を貸せ」
「っ了解!」
2対1になり余裕の出たアスランは事の次第をシンに尋ねると、この先には連合の研究施設が存在すると返答があった。
この機体1機で来た場合、何らかの大規模殲滅兵器が搭載されている可能性もある。
「気をつけろ、施設の破壊が目的なら特殊な装備を持っているかもしれない。爆散させずに倒すんだ」
「ええー!?」
行き成りそんな事を言われたシンが悲鳴を上げる、その一瞬の隙にガイアの体当たりを食らって吹き飛ぶインパルス。
地面に叩きつけられる直前スラスターを吹かせ背面飛行しながら態勢を立て直して着地するインパルス。
そこへ翼のMR-Q17X≪グリフォン2ビームブレイド≫で突進してくるガイア、シンはそれを見てかわすのでは無く、逆に前へ出た。
間合いを潰してガイアの頭を膝蹴りでカチ上げるとすかさずビームサーベルでコクピットを薙ぎにかかる。
吹き飛ばした勢いが付きすぎていたのかこの一撃はガイアのコクピットカバーを破壊するに留まった。
ガイアはそのまま仰向けに倒れると活動を停止させる、どうやらパイロットが今の衝撃で気を失ったようだ。
カバーが破壊された為にコクピットの内部が露出している。パイロットの様子を見るシンの目に驚きの光景が飛び込んできた。
「あの子、ステラ?」
ガイアのコクピットに乗っていたのはディオキアで会った不思議な少女ステラ・ルーシェであった。

アスランと分かれたキラはアークエンジェルの展望室でラクスと語り合っていた。
「なにが本当か彼の言うことも分かるから、また良く分からなくて」
「そうですわね」
「プラントが本当にアスランの言う通りなら僕達は、オーブにも問題は在るけど、じゃあ僕達は如何するのが一番いいのか」
「分かりませんわね。ですから私見てまいりますわ。プラントの様子を、道を探すにも手掛かりは必要ですわ」
「それはダメだ、君はプラントには」
「大丈夫ですキラ、行くべき時なのです。行かせて下さいなキラ」
プラントへ向かうと言うラクスをキラは止めるが彼女の意思は固かった、こうしてラクスは宇宙へ上がる事になる。

翌日、ニュースでミーアがプラントに帰るのをみたバルドフェルドがやはり宇宙に向かうと言い出したラクスに対して提案した。
「それならラクス・クラインの為に用意されたシャトルを僕達が使わせてもらおうじゃないか」
ターミナルの情報網を駆使してミーアのスケジュールを調べ上げると、彼女が到着する少し前に基地へ乗り込み、即席のサイン会を行なった後でシャトルへ搭乗した。
ようやく到着したミーアは、今にも発進しようとするシャトルを見て声を上げそうになる。
あの中に本物のラクス様がいらっしゃる、なら自分の役目は終わりなのだろうか。アスランにはラクスの代わりで良いとも言った、それが本心だったはずだ。
しかし、いざ本物が現れると途端に怖くなってくる。また昔と同じ誰からも注目されない只のミーア・キャンベルに戻ってしまう。
「あれは私の偽者です、逃がしてはなりません!」
知らずミーアは大声で叫んでいた。
ミーアの護衛として一緒に行動していたハイネ・ヴェステンフルスの行動は素早かった、すぐさま自分のグフ・イグナイテッドに乗り込むとシャトルの発進を止めるように指示を出す。
「シャトルを止めろ、発進停止!」
フェイスであるハイネの言葉で一斉に動き出すザフト兵、ハンガーから次々とAMA-953バビとTFA-4DEガズウートがシャトルの追撃に出る。
飛行能力を有するバビが飛び立ちシャトルを追撃する、しかし大気圏内飛行が可能なバビと大気圏離脱を仕様とするシャトルでは推力に大きな開きがある。
徐々に離れて行くシャトルを見たハイネは撃墜を決める。
「かまわん、撃ち落せ!」
地上のガズウートと空中のバビからミサイルがシャトル目掛けて発射される。
シャトルにミサイルが命中しようとした瞬間、横から光が延びて一瞬で全てのミサイルが落とされた。
「なにいっ!?」
驚愕するハイネの目に翼を広げたフリーダムの姿が飛び込んできた。
フリーダムはそのままハイマットフルバーストを連発し、近くにいる機体にはラケルタビームサーベルで斬りかかると面白いようにバビの両手両足が無くなり地上に向かって落ちてゆく。
「ええいっ、フリーダムは化け物か」
悪態を吐いてフリーダムへと吶喊するハイネのグフ、流石にフェイスのハイネ相手では一撃で仕留めることは出来ない様で位置取りを変えながら相対する両機。
「ザクとは違うんだよっ、ザクとはっ!」
右手に内蔵されたスレイヤーウィップをフリーダムのビームライフルに絡みつけ叫ぶハイネ。
電撃をウィップに流しビームライフルを破壊する事に成功するが、油断したハイネはライフルの爆発に隠れて突っ込んできたフリーダムにグフの両手を切り飛ばされてしまう。
これで攻撃手段を失ったハイネは距離を取る。するとフリーダムは地上に向けて背中にあるバラエーナビーム砲を構えた。
その先にあるのは燃料タンクである、恐らく追撃が掛からないように基地機能を麻痺させるつもりだろう。
「なに考えていやがるっ?!」
燃料タンクなど吹き飛ばしたら、下手をすれば誘爆を起こし基地そのものが吹き飛びかねない。
咄嗟にグフを射線上に滑り込ませるハイネ、自分に迫って来るビームの光が最後に見た光景となった。
キラは困惑していた、最後の一撃は基地のタンクを壊して撹乱する積もりだったのだが、なぜか先程戦闘能力を奪った機体が割り込んできた。
そのお陰で殺したくないのに殺してしまったではないか、しかし充分時間は稼げたようで既に追撃は無い。
これで一安心だと胸を撫で下ろすキラにバルドフェルドから通信が入る。
「助かったよキラ、これで一安心かな」
今回は大丈夫だがプラントに行けば何が起こるか判らない、心配したキラがラクスに話しかける。
「やっぱり心配だラクス、僕も一緒に」
「いえ、それはいけませんキラ、彼方がアークエンジェルに居なければマリューさんやカガリさんはどうなりますか」
「でも、今ならJさんも居るし」
やっぱり僕は君と一緒に行くと言うキラにラクスは幼子を安心させるように語り掛ける。
「私なら大丈夫ですわ、必ず帰ってきます彼方の下へ」
「心配するなお前の代わりに俺が守る」
「バルドフェルドさん、お願いします。本当に気をつけてラクス」
バルドフェルドに念を押すとキラはラクスを見送ってアークエンジェルに帰艦した。
宇宙に出たラクス達は飛行を続けていた、追跡も無く航行は順調だ。操縦するバルドフェルドにラクスは目的地を訪ねる。
「それでバルドフェルドさん、これから真っ直ぐにプラントへ向かうのですか?」
このラクスの質問には、流石に真っ直ぐプラントに向かってはすぐに捕捉されてしまう、まずはファクトリーに向かうと答えた。
それに今ファクトリーにはあの御方がいる、ラクスが来るのを心待ちにしているだろう。
「総統がお待ちですよ」
「そうですか、お会いするのも久しぶりですわね」
ラクスは久方ぶりに会う人の事を思い出して顔を綻ばせた。

君達に最新情報を公開しよう
ロドニアでの衝撃も覚めやらぬなか
クレタ島沖で再び連合、オーブと戦う事になったミネルバ隊
そこに現れるアークエンジェルとジェイダー
次回 勇者王ガオガイガー DESTINY
第12話 激突 GとJ にFINAL FUSION承認
これが勝利の鍵だ ≪ルネ・カーディフ・獅子王≫



[22023] 第12話 激突 GとJ 
Name: 小話◆be027227 ID:8fbdcd62
Date: 2010/09/20 10:44

オーブ軍派遣艦隊の旗艦の空母タケミカズチのなかでユウナ・ロマ・セイランは一通の書簡を受け取っていた。
その書簡を開いて目を通すと、俄かには信じられない内容が記されている。まさか悪ふざけでこんな物を送ってくるとは思えないが真意が掴めない。
なら直接会って確かめるしかない、どうせ何時かは会わねばならない相手だし、自分は軍人ではなく政治家だ。交渉、腹芸、騙しあいが本領発揮の場だ。
そう結論付けるとトダカ一佐を呼び出して、艦を降りる為の準備を始めた。
「人と会う約束が出来てね、艦隊の指揮はトダカに一任するからしっかり頼むよ」
そう言い残してユウナはタケミカズチを降りて、一路イスタンブールへ向かった。

連合の研究施設を調査するミネルバ隊に、ガイア接近の知らせがもたらされた。迎撃に出たシン・アスカのインパルスはロドニア郊外にてガイアと交戦、参戦したアスラン・ザラのセイバーと共にガイアを行動不能にする事に成功した。
破壊されたガイアのコクピットに座っていたのは、かつてディオキアの海で助けた少女ステラ・ルーシェの姿であった。
思わずインパルスを降りて駆け寄るシン、コクピットに到達するとステラは頭に怪我をしており、うなされている。
「なんで、なんで君がこれに乗っているんだ?」
感情が理性に追いつかない。アスランからの何をしているとの呼びかけを無視して、ステラをインパルスのコクピットへ運びミネルバへ向かうシン。
インパルスがミネルバの格納庫へ到達するやいなや、ステラを抱えて医務室へと走り出す。
「大丈夫、君は俺がちゃんと守るから。約束したから」
自分は彼女に守ると約束したのだ、だから絶対助けるから。医務室のドアが開くと同時に叫ぶ。
「先生、この子を早く!」
駆けつけたシンが抱えているのはどうやら連合の女性兵士のようだ。それを見て取ったドクターは怪訝そうな顔で尋ねる。
「いったいなんだね、その子は。それにその軍服、連合の兵士じゃないか」
「でも怪我してるんです、だから」
「敵兵の治療など艦長の許可なしで出来るか、私は何も聞いていないぞ」
「そんなのすぐ取るから」
「俺からも頼む、見てやってくれ」
いつの間にかシンの後ろに立っていた凱も手当てするように頼み込む。それでも難色を示すドクターの態度にシンが怒鳴る。
「死んじゃったら如何するんだよ!」
うなされながらも死ぬとう言葉を聞いて、途端に暴れだしたステラがシンを跳ね除けて、女性メディックに襲い掛かる。
「うわあぁぁっ! 死ぬのダメ! 死ぬの怖い!」
相手構わず暴れだしたステラが、メディックの首を締め上げるのを凱が咄嗟に引き剥がすと、後ろからシンが羽交い絞めにして抑えこむ。
「ゴメン、ステラ。俺が悪かった、大丈夫、君は絶対守るから!」
耳元でシンがステラに言い聞かせると、次第に大人しくなって気を失った。
「彼女はまさか」
その光景を見た凱は誰知らず呟いていた。

シンと凱はミネルバの艦長室に呼び出されていた、当然先程ステラを艦内に運び込んだ件について艦長であるタリア・グラディスから叱責を受けている。
「敵兵の艦内への搬送など誰が許可しましたか。彼方達のやったことは軍法第4条2項に違反、11条6項に抵触。途轍もなく馬鹿げた重大な軍機違反なのよ。これで艦内に重大な被害が出ていたら如何する積もりだったの!」
「「申し訳ありません」」
二人揃ってタリアに謝罪する。ちなみに凱が救助された時もシンは同様の行動を起こしている。勝手に凱をミネルバに運び入れたのだが、この時は所属、正体共に不明な上に大怪我を負っている様に見えたので救助行動と認めてお咎めなしだった。
しかしステラは完全に連合の兵士、しかもガイアのパイロットである。タリアが怒るのもある意味当然だろう。
凱はそれを理解している為に素直に謝罪しているのだが、自分がシンの立場でも助けるだろうなと内心考えていた。
「ふうっ、知っている子だという事だけど、ステラだったかしら? いったい何時何処で知り合ったの」
盛大に溜息をついてからシンを睨みつけ事情を問いただすタリアに対して、ステラと知り合った状況を説明するシン。
「ディオキアの海で溺れているところを助けて、なんか良く分かんない子で自分はその時は戦争の被害にあった子だと」
単にそう思っていた、凱も救助に向かった時に話はしなかったが見た顔だと補足する。その説明に対して事情は分かったと言うタリアが言葉を重ねる。
「でもあれはガイアのパイロットだわ、それに乗っていたんだから分かるでしょ、それにもしかしたら」
連合の兵士は当然ナチュラルが多い、勿論中にはコーディネイターも居るが数は少ないはずだ。だというのにまだ少女と言える年齢であれだけ戦えるならば彼女の正体とは。
そこまで考えて言葉が止まったタリアに凱が、とにかく一度様子を見に行こうと提案した。

医務室に入った凱達一行が見たのは拘束具でベッドに縛り付けられたステラの姿であった、それを見たシンが早速食って掛かる。
「なんでこんなこと、怪我人なんですよ彼女! さっきは興奮して暴れたけど」
言い募るシンに対してドクターは取りあえず落ち着けと言い渡し、一同に説明を始める。
「そういう問題ではない、どうやらこの子はあの連合のエクステンデッドのようなのでね」
それを聞いて吃驚するシン、予想が付いていた凱とタリアは、表面上は落ち着いていたが改めて聞くと複雑な心境だ。
「今は薬で眠らせてありますが、それも正直何処まで効くか分かりません、治療前に行なった簡単な検査だけでも実に驚くような結果ばかり出ましてね。
様々な体内物質の数値がとにかく異常です、また本来なら人が体内に持たない物質も多数検出されています」
流石に凱を調べた時ほどの驚きは無かったが、と軽口を聞くドクター。彼もそんな冗談を言わなければ平静を保てないのだろうと思いながらタリアは先を促す。
「人為的にということね、薬?」
「恐らくは、詳しいことはもっと専門の機関で調べてみないことには分かりませんが、ちらっと見た限りではあの研究所のデータにも似たようなものが有りましたね。
戦闘での外傷もかなりのものがありますが、ともかくそんな状況ですので、治療といってもあまり強い薬は何がどう作用するのか分かりませんし」
一同の話し合いを横で聞きながらシンがステラの様子を見ていると、微かに身じろぎした後で気がつき、辺りをきょろきょろと見回すステラ。
そんなステラの様子に顔を覗き込んで名前を呼び、大丈夫だからと声を掛けるシンに対しての返答はシンを驚愕させた。
「なんだお前は?ここは何処だ」
そう答えて自分が拘束されていることに気が付き、暴れだすステラ。拘束された手首や足首、また力いっぱい握られた手の平から血が滲む。
「落ちついてステラ、大丈夫だよ。僕だよ、分かるだろシンだよ」
「知らない、お前なんか知らない! ネオ! 助けてネオ!」
暴れるステラに覆いかぶさって声をかけるシンだが、当のステラはシンの顔など知らないと言い、仲間であろうネオなる人間に助けを求めて暴れ続ける。
「彼女には脳波にもおかしなパターンがあるんだ、もしかすると意識や記憶も操作されている可能性がある。無駄だよ、やめなさい」
ドクターは淡々と語りながら、睡眠薬を準備し無針注射器をステラの腕に押し当てて注入する。すると薬が効いたのだろうガクリと眠りに落ちるステラ。
その場に居た全員が複雑な表情を浮かべて、その光景を見ていた。

ファントムペイン指揮官ネオ・ロアノークは、無断で出撃して撃墜されたステラの事で頭をなやませていた。しばし考えた後で残された二人の処置を含めて決断を下す。
「ステラは損失扱いにするしかあるまい、それと二人からステラの記憶を消しといてくれ」
これにエクステンデッドのメンテナンス技師は時間がかかりますと答える。
「構わん、下手に憶えていても辛いだけだろう」
そう答えるがネオ自身、ステラの記憶を持っているのと奪われるのでは、果たしてどちらが辛いのかと思うが、憶えていないものに辛いも何も無いなと結論付けた。

凱はミネルバの医務室でドクターと話していた。ステラの状態を出来る限り詳しく教えてほしい。出来れば全てのデータを渡してくれと言うが、流石にそれは出来ないと断られた。
もっとも凱がどうしてもデータが欲しければミネルバ自体をハッキングしてしまえば事はすむのだが、世話になっている人達に対して其処まで強行に事を進めたくは無い。
「わかった、それならフェイスとしてデータの提供を求める」
この言葉にドクターは詰まってしまう、フェイスはザフト内でかなりの権限を認められている上に議長直属の特務隊である、これを断れるはずがない。
「ずるいね、君は」
そう言って全てのデータを纏めたディスクを凱に手渡すドクター。もっとも直ぐに出てくるあたり元々渡す気であったのかもしれない。
「すまない、でもこうでも言わないと渡してくれないだろう?」
「違いない」
データを受け取った凱はミネルバの外に出るとルネから貰った通信機でルネとボルフォッグの二人を呼び出した。

凱が医務室から出て少しの時間が過ぎた頃、今度はシンがやって来た。ドクターはおらずメディック一人が詰めている、軽く会釈してステラが拘束されたベッドの脇にしゃがみこむ。
「くそっなにも覚えてないなんて、君がガイアのパイロットだなんて、あんな所に居た子だなんて」
そう言いながらステラの髪を優しく撫でるシン、僅かな時間そうしているとステラの声が聞こえた。
「シン?」
顔を上げるとステラがシンの顔をみて微かに微笑を浮かべている。
「シン、会いに来た?」
相変わらず、何を言いたいのか良く分からないが、今の落ち着いた状態のステラはディオキアの海で出会った時の彼女のようだ。
「俺のこと分かる?」
恐る恐る尋ねるシンに対して、ゆっくりとコクリと頷くステラにシンの胸は熱くなり、涙が込み上げてきた。

それから数日が過ぎ、ロドニアの研究施設には専門の調査チームが入り、ミネルバはポートタルキウスの町に戻って修理と補給を終えていた。
もっとも艦首のタンホイザーに関しては、ジブラルタルで全交換を行なうまで使用不可能である。
ステラは現在ミネルバに預かりの身である、これは単純に彼女をジブラルタルへ移送する任務にそのままミネルバが指名された為である。
もっともポートタルキウスからジブラルタルへ向かうにはクレタ島沖に展開しているオーブ、連合の合同艦隊を抜かなければならない、その戦力があるのが単純にミネルバだという事だ。
ブリッジでタリアが副長のアーサーと話していると凱がアスランと連れ立ってやって来た。
クレタ沖に展開している艦隊と戦闘になれば、先日同様アークエンジェルが介入してくる可能性が高い、その場合どう対応するのか協議したいということだ。
タリアの話ではマルマラの戦闘の後、ディオキアに現れ基地を襲撃、シャトル1機を強奪、多数の死傷者を出した、その中にはあのハイネも居たという。
此方にこれだけ被害を出された以上は敵として対応するとザフトの上層部は決定を下した、ならばミネルバの対応もそれに倣うものだ。
「その積もりで対応してちょうだい」
その回答にアスランは悔しそうな顔を浮かべていた。

ブリッジを退出した凱は、アスランの様子がおかしい事に気がついた。なにか悩み事があるなら遠慮なく話してくれと声を掛ける。
暫し逡巡したアスランは意を決して話し始める。実はあの戦闘の後アークエンジェルに乗っている友人に会って話をする事が出来た。
その時に馬鹿なことは止めてオーブに帰るように説得したのだが、結局分かってもらえなかった、自分は彼らと遭った時に戦えるか自信が無いと言うことだった。
それを聞いた凱は自分の事を踏まえて語りかける。
「アスラン、君はあのフリーダムのパイロットとは知り合いか?」
「ハイあいつは、キラは俺の親友なんです。あいつ戦いたくないって言ってたのに。帰れって言ったのに。なんでザフトの基地を襲うなんてまねを」
「彼のやっている事を正しいと思うか?」
「いえ、それは思いません。あのやり方では状況を混乱させて被害を増やすだけです」
「親友が間違った道を歩いているのなら、たとえ憎まれてでも止めてやるのが本当の友情じゃないのか。今の君にはそういう気概が足りないように見えるな」
その言葉に声を無くすアスラン、それを見ながら言葉を続ける凱。
「かつて俺にも共に競い、切磋琢磨した友がいた」
鰐淵シュウ、凱の高校の同級生にしてライバルだった男である。勉強、スポーツ等あらゆる分野で凱と競い合いながらも凱に勝つ事が出来なかった彼は、卒業式の日に最後の結着をつけるべく凱に決闘を挑んできた。
しかし凱は宇宙飛行士となっており、初フライトから戻った後に決着を着けようと約束したのだが、その初フライトでEI-01と接触、瀕死の重傷を負ってしまう。
その後Gストーンサイボーグとして生まれ変わった凱は、機械文明ゾンダーと戦う勇者となり決着は流れたと思われていた。
しかしシュウは諦めていなかった。数々の戦いを経てエヴォリュダーとなった凱の前に、対抗するべくバイオネットのメタルサイボーグとなって現れたのだ。
そして数度に渡る戦いを経て、シュウはガオファイガーのファイナルフュージョンに失敗、凱の目の前で砕け散ってしまった。
「苦い記憶の一つだ。俺はこの事件で言葉だけでは伝わらない事もあると、改めて思い知らされたよ」
凱の話を聞いたアスランは、言葉を失っていた。その様子を見た凱は余計なことを言ったかと思い。
「君がどんな道を選ぼうとも、決して後悔だけはしないことを願うよ」
それだけを言ってアスランの肩を叩いて促すと、ブリーフィングルームへと向かった。

ブリーフィングルームで凱はシン達を前にして次の作戦について説明をした。クレタ島沖に展開する連合、オーブの両艦隊を叩くことになる。
基本的なフォーメーションは今までと変更は無い、ただしアークエンジェルが出てきた場合の対応を協議すると話すとシンが勢い込んで言って来た。
「フリーダムの相手は俺にさせて下さい!」
かなりの剣幕で訴えかけてくるシンに、その理由を尋ねるとフリーダムは家族の仇なんですと言い出した。それを聞いて愕然とするアスランを横に凱は如何いうことかとシンに尋ねる。
詳しい話を聞くと2年前の連合軍のオーブ侵攻の時、フリーダムが撃った流れ弾が避難中の家族の命を奪ったとの話だった。
「避難勧告だって、戦闘が始まる当日まで出されなかった。すぐに市外戦になって山まで逃げた所で避難船に乗るように言われて、避難途中に俺の家族は。だからアスハとフリーダムは仇なんです、俺にやらせて下さい」
シンの気持ちは解らないでもない、凱も父である獅子王麗雄をゾンダーとの戦いで失っている。しかし今のシンにはフリーダムの相手は任せられないと判断した凱は却下する。
「駄目だ、シンはレイ達と艦隊戦力に当たれ」
「なんでですか! あいつは俺が!」
さらに言い募るシンに対して、凱は静かに判断した理由を語る。
「いいかシン。怒りも悲しみもお前の中にあるものだ、それを捨てろとか忘れろとは言わない。だが憎しみだけで戦おうとするな、お前は守りたいから戦うんだと俺に言ったな、ならその気持ちを乗り越えて自分の力にしてみせろ」
それが出来ないうちは、自分だけではなく味方も巻き込んで自滅するだけだ、前回の戦いでは危なかっただろうとシンに言い聞かせた。
そこまで言われて、自分が前回暴走してミネルバとルナマリアを危険に晒した事を思い出したシンも渋々にだが引き下がった。
態度から内心納得していないのは見て取れるが、了解した以上は命令に従うだろう。
「アスラン、俺はジェイダーを相手にするから、フリーダムは君に任せる」
Jの相手は凱以外には無理だろう、またJも凱と闘おうと動くはずだ。そうなると自然フリーダムの相手はアスランになる。
Jが居なければ自分が、またシンが感情的になり過ぎないなら任せたい所だが、此処はアークエンジェルに対して複雑な感情を持つアスランが、どういう結論を出すにせよ任せた方が良いだろうと判断する。
「これで決まりだ、アスランもそれで良いな。俺とアスランはアークエンジェル側の対応に向かうから、お前達三人の連携が要だぞ」
最後にアスランが、明日ミネルバはジブラルタルに向けて出港する。と締めて解散となった。

オーブ軍空母タケミカズチのブリッジでユウナより全権を任されたトダカ一佐がネオと次の作戦に関して話し合っていた。ネオは地図の一点を指し示し、概要を説明する。
「明日ミネルバはこのルートでジブラルタルへ向かう、で作戦はいたって単純、網を張って待ち構えると、なにか質問は」
「その情報は確実なのですかな、それと連合の艦艇が貴君の艦一隻しか参加しない理由をお伺いしたい」
「情報に関しては、信用してもらうしか無いですな。それと連合側の艦艇の出撃に関しては申し訳ないとしか言いようがありません。なにしろ戦力の引き上げに関しては私の及ばない話でして」
ファントムペインは連合軍の軍籍は持つものの実体はロゴスの盟主ロード・ジブリールの私兵である。
散々自分の邪魔をしてくれたミネルバを落とすのはジブリールの私怨に近い、確かに大西洋連合に強い影響力を持つジブリールではあったが、正規軍はミネルバ一隻にばかり構っていられる訳ではない。
よって連合軍の艦艇はスエズへ引き上げとなり、ネオ達ファントムペインのみの参戦となった次第であるが、そんな事情を説明する理由など無い。
オーブ軍は完全に貧乏くじを引かされた形だが、そんな事はおくびにも出さずにネオは話を続ける。
「なに、これでザフト最強とも言われるミネルバを討てば、オーブの力を世界に示す事が出来るでしょうし、我々も面目が立ちます。
ああ、それと今度、あの妙な船が出てきても大丈夫でしょうね、ユウナ様は代表と名乗る人物も偽者と仰っていましたし」
ネオの言う妙な船とはアークエンジェルの事である、あの船にカガリを渡したトダカとしては、討ちたくなど無い。しかし正規の命令を受けて此処に居る以上は従うしかない。
「分かっています、アークエンジェルは敵艦として対処するよう代表代行からも言われています」
「なら結構」
苦々しげに答えるトダカをネオは冷めた目で見つめていた。

地中海をジブラルタルに向けて航行中の、ミネルバのブリッジに敵艦発見の声が上がる。
「前方に艦影、空母1護衛艦3、これはオーブ軍です。連合の艦は確認できません」
前回のマルマラ海では、合同で攻めて来た。なら今回も同様のはず、数が少ないのは此方を包囲しようとしていると判断したタリアは前方の艦隊を中央突破して離脱すると決める。
「オーブ軍だけという事は無いはずよ、索敵は厳にして。本艦は包囲される前に前方の艦隊を突破します。コンディションレッド発令、MS隊発進用意」
オーブ艦より出撃したMS隊はまるで道を開けるかの様に左右に別れる、この動きを包囲行動とみたタリアは開いた中央に吶喊するよう指示をだす。
当然、正面突破を図るミネルバに対して、オーブ艦隊から艦砲射撃が加えられるが、それ程の数では無い、余裕を以って迎撃すると破壊した榴弾から散弾状に鍛造弾のシャワーがミネルバに降り注ぐ。
最大船速で航行していたのが幸いして、艦中央部から後部の上面装甲が第二層まで貫通するに留まり、兵装には致命的なダメージは無い。
そこに襲い掛かるオーブ軍のMVF-M11C《ムラサメ》とそれを迎撃に出る凱達。今回はシン達を先行させて凱はミネルバの防御に回る。
先程の艦砲攻撃をもう一度して来られても、ガオセイバーのリフレクトシェードでミネルバを守る為である。
しかしこれではガオセイバーの攻撃力がスポイルされてしまう為に、正面突破を図るには決め手に欠ける。
また敵MSの総数では前回のほうが数は多かったのだが、今度は此方側に味方がいないので、相対的に相手にする数が増えている。
「くそっ、こうも数が多いと」
シン達が撃ち漏らしたムラサメをフェイズシフトマグナムで落としながら毒づく凱。
戦況は一進一退といった所だが、アスランはなんとか武装だけ破壊しようとしている様で、動きに精彩が無い。そこに新たに敵出現の報が入る。
「9時方向よりオーブ護衛艦3、2時方向よりムラサメ9!」
左方向から艦砲射撃を加えてくる艦隊に向いていたガオセイバーの隙を縫って右方向から迫るムラサメ部隊。
粗方は迎撃されたが、最後に残った1機がミネルバのブリッジにビームライフルを突きつけた。このタイミングでは迎撃が間に合わないと、ブリッジに恐怖が走ったその瞬間。
「プラズマソード!」
叫びと共に紫電が走り、ムラサメの右腕が破壊される。またシン達が相手取っていた周囲のムラサメも上空より飛来したビームで武装と四肢を破壊されて落ちていく。
全員の視線が上空に移ると、そこに居たのはアークエンジェルとフリーダム、そしてジェイダーであった。
アークエンジェル一行の登場で、戦闘は更に混乱の度合いを増して行く。
アークエンジェルのカタパルトが開くと、ストライクルージュが飛び出し、オーブ連合首長国代表カガリ・ユラ・アスハを名乗り、先日と同様の勧告を繰り返す。
「オーブ軍、直ちに軍を引け、オーブはこんな戦いをしてはいけない。これでは何も守れはしない、連合の言いなりになるな。オーブの理念を思い出せ、それ無くして何の為の軍か!」
戦場において、理念など何の役にも立ちはしない。それに拘り続けるカガリの場違いな演説にシンの不快感が増す。
「なんであんたは、そんな奇麗事をいつまでも!」
既にアークエンジェルに関しては敵として対処すると決まっている以上、空中に止まっているルージュに向けて、ブラストシルエットのGMF39《4連装ミサイルランチャー》を撃つインパルス。
攻撃されるとは思っていなかったのだろう、カガリが迫るミサイルを前に棒立ちで何も出来ずにいると、その前にキラのフリーダムが割って入り、ハイマットフルバーストで迎撃する。
そのままルージュを狙ったインパルスに、ビームサーベルで切りかかるキラ。咄嗟にスラスターの推力をカットして海面に落下して攻撃をかわすシン。
「お前もふざけるなぁ!」
自信を持って繰り出した一撃をかわされて驚くキラに、すかさず下方からMA-M80《デファイアントビームジャベリン》を突き出すが、この攻撃はフリーダムが上空に逃れた為に空振りに終わる。
ブリーフィングでは、フリーダムの相手はアスランがする筈だったが向こうから掛かってくるなら関係ない。
M2000F《ケルベロス》高エネルギー長射程ビーム砲をフリーダムに向ける、其処にアスランのセイバーが飛び込んできた。これで事前の作戦通りの配置になった。
しかしフリーダムは自分が落とすと思い、向きを変えた瞬間にレイのザクが被弾するのが視界の端に映った。
何とか致命傷を避けた様だが、左腕が無くなっている。ルナマリアのザクもシンがルージュやフリーダムを相手にしていた間に攻め込まれていた。
チームを組んでいた二人が、次々と飛来するムラサメに苦戦している状況を見て、シンは凱に言われた事を思い出した。
「くそっ、凱さんに言われただろ。俺の勝手が仲間を危険に晒すって」
頭を振って、今自分のするべき事を自覚すると、窮地にいる仲間を助ける為に向かって行った。

数に勝るオーブ軍はミネルバに攻撃を集中し始めるが、ガオセイバーが陣取っている為に、有効的な攻撃が加えられずにいた。
しかも、現在は何故かジェイダーまでミネルバの防衛に当たっている。雑魚など失せろと言わんばかりにムラサメを破壊して回るジェイダーをみて、オーブ軍のババ一尉は一つの覚悟を決める。
このままではミネルバを落とすのは不可能、これを打破する為には真に命を捨てねば成らぬ、我に続けと吶喊するババの前にルージュが現れて戦闘停止を求めてくる。
「止めろ、ミネルバを討つ理由がオーブの何処にある。討ってはならない、自身の敵では無いものをオーブは討ってはならない」
「そこを退け、これは命令なのだ。今のわが国の指導者ユウナ・ロマ・セイランの、ならばそれが国の意思であり、我らオーブの軍人はそれに従うのが務め。その道如何に違おうとも難くとも、我らそれだけは守らねばならん。お分かりか!」
呼びかけに答えるババの気迫に、何も言えなくなるカガリ。
「お下がり下さい。国を出た時より我ら此処が死に場所と当に覚悟は出来ております。下がらぬというなら力を持って排除させていただく」
動かないルージュの腕を取り、投げ飛ばすババのムラサメ。投げられたカガリは体勢を整えるので精一杯である。ようやく正面を向いた時には、すでに遅かった。
「我らの涙と意地、特とご覧あれ!」
特攻を仕掛けるババ率いるムラサメ部隊9機、凱とJがそれぞれ4機を止めるが最後に残ったババのムラサメがミネルバの中央甲板に到達する。
爆炎と共に砕け散るムラサメと、炎上するミネルバを見たカガリは自分の言葉が通じない不甲斐なさに泣き叫んだ。

フリーダムと対峙したアスランはキラに向かって呼びかける。
「止めろ、キラ!」
「アスラン」
今回はセイバーに乗っているのが、アスランだと分かっている為キラも返事をする。
「こんな事は止めろと、オーブへ戻れと言ったはずだ」
「下がれキラ、お前の力はただ戦場を混乱させるだけだ」
キラに話しかけながら、周囲のムラサメを撃墜するアスランと同様にアスランと会話を続けながらムラサメの戦闘力を奪っていくキラ。
「アスラン、僕たちはただ戦って欲しくないんだ」
「仕掛けてきているのは連合だ、じゃあお前はミネルバに沈めというのか!」
「どうして君は」
「だから戻れと言った、討ちたくないと言いながら、何なんだお前は!」
「解るけど、君の言うことも解るけど。でもカガリは今泣いているんだ。こんな事になるのが嫌で今泣いているんだぞ」
二人の話は平行線を辿るだけだ、しかしカガリが泣いていると言われ動揺を表すアスラン。
「なぜ君はそれが解らない。この戦闘もこの犠牲も仕方が無い事だって、全てオーブとカガリのせいだって、そう言って君は討つのか。今カガリが守ろうとしているものを。なら僕は君を討つ」
キラはここでSEEDを発動させて、セイバーに襲い掛かった。いきなりフリーダムから攻撃されて、四肢と頭を破壊されてしまうセイバー。
「キラァー!」
アスランの叫びもむなしくセイバーは海中へ没し、フリーダムは次の目標へ向かった。

ミネルバが爆発炎上するのを見て、動揺したルナマリアが敵の攻撃を避けられずにSFSを撃墜されてしまう。咄嗟に空中に跳びあがったものの後は自由落下で落ちるだけのザクに攻撃が集中する。
「きゃあああっ!」
この攻撃でルナマリアのザクは頭部から胸部を大破させ、左腕と右足を失ってしまう。
「ルナ!」
落下するザクを見たシンのSEEDが発動し、ザクに攻撃を加えていたムラサメをケルベロスでなぎ払い、ザクを海面ギリギリで回収する。
シンはルナマリアへ呼びかけるが応答は無い。そこにレイから通信が入る。
「シン、一旦引くぞ。このままでは俺達もやられる」
「レイ、ルナを頼む。俺はソードシルエットに換装して、あいつ等全艦叩き斬ってやる!」
シンは近寄ってきたレイのSFSにルナマリアのザクを乗せ、メイリンにソードシルエットを要求した。

その頃、被害著しいオーブ軍の状況を見たタケミカズチのブリッジでは、トダカが前に出るように指示を下した。通常なら空母が前に出るなど常軌を逸した行動だ。
ブリッジにトダカの声が響き渡る。
「総員退艦、ミネルバを落とせという命令は最後まで私が守る、艦及び将兵を失った責任も全て私が、これでオーブの勇猛も世界中に轟くことだろう」
これでブリッジにいる人間全てが、トダカが特攻をするつもりだと気が付いた。アマギが自分も残ると言い出すが、トダカに殴られて諭される。
「だめだ、これまでの責めは私が負う、貴様はこの後だ。すでに無い命と思うのなら思いを同じくする者を集めてアークエンジェルへ行け。それが何時かきっと道を開く、頼む私と今日無念に散った者達の為にも」
この説得でアマギは現在稼動中のムラサメ全機に戦闘停止を命じると、アークエンジェルへ投降せよと発令しタケミカズチを退艦した。
波を切ってミネルバへ進むタケミカズチに、トダカの行動を察したカガリが止めようとするが、最早止まらない。
しかし、ソードシルエットに換装したシンのインパルスがその行く手を遮った。オーブ沖で連合の艦隊を相手にした時と同様に、オーブの護衛艦のブリッジを破壊したシンがタケミカズチの甲板に着地する。
「みんなをやらせるかぁぁー!」
叫びとともにブリッジにMMI-710《エクスカリバー》レーザー対艦刀を叩きつける。この一撃を持ってオーブ艦隊は全滅、クレタ島沖会戦は終結した。

戦場から一歩引いた位置に居るネオ達ファントムペイン。彼らのこの戦闘に対する役割は軍監である為、戦闘には参加していなかった。戦艦の艦橋から戦況を見ていたネオが呟く。
「良くやったと言いたいが、目標を落とせなきゃ話にならんだろ。それにバンザイアタックなんぞ自己満足も良いとこだ」
武人としては玉砕もいいだろうが、軍人としては下だったなとネオは評価を下す。
「これなら、あのお坊ちゃまの方が良い戦いをしたかもな。さてオーブ軍も全滅したし、俺達は引き上げだ」
生き残ったムラサメは何故かザフトでは無く、アークエンジェルに投降した。この事実を使えばオーブから更に戦力を引き出せるかもと思案しながら、甲板上にスタンバイさせていたスティングとアウルを艦内に呼び戻して、戦場を離脱した。

全ての戦闘が一応の終結を見せ、アークエンジェルがこの海域を離脱しようとした頃、ガオセイバーとジェイダーが対峙していた。
そこへキラがやって来てJに離脱するように言うが、ジェイダーは動かない。
「キラか、その話は聞けんな。私は私の為にこの男と戦わねばならん」
その申し出を受けて立つ凱。
「ああ、此処でこの間の決着を付けるぞ。J!」
「望む所だ。凱!」
凱はシンとミネルバに、Jはキラとアークエンジェルに決して手出ししないように告げると遂に激突した。
まず先手を取ったのは凱だ、右拳をジェイダーに向けて撃ち込む。
「フェイズシフト・マグナームゥ!」
「プラズマソードォ!」
これをJは左手のプラズマソードで切り払うと同時に、右のプラズマソードで襲い掛かる。
「なんのおっ!」
この一撃を左手に持っていた、ビームサーベルで受け止めるガオセイバー。動きの止まったジェイダーにすかさず次の攻撃を叩き込む。
「ドリルニー!」
下から突き上げるガオセイバーのドリルニーを紙一重でかわすジェイダー。そのまま距離を取った所で足の砲塔を向けてガオセイバーに砲撃を加える。
「反中間子砲、発射ぁ!」
「リフレクト・シェードォ!」
膝蹴りで体勢が不安定だったところに撃ちこまれた反中間子砲の一撃を、リフレクト・シェードで受け止めて反射するガオセイバー。
だが反射したエネルギーが巨大だった為、あさっての方向に跳んでしまい、巨大な水柱を上げるに留まる。
ここで再び距離を置く、ガオセイバーとジェイダー。
「フ、フフフフ」
「ハ、ハハハハ」
「「ワハハハハハ」」
凱とJ二人の笑い声が天地に木霊する。
「どうやら小手先の攻撃は通用しないようだな」
「ああ、お互いにな」
「ならば」
「我が最強の一撃で」
「「勝負をつける!!」」
互いに次の一撃が今のお互いに出せる最強の一撃である。否応無しに緊張が高まってゆく。その緊張が極限まで高まったとき、両者は同時に動いていた。
ガオセイバーは背中のアムフォルタスに両手をまわす、すると銃床部分にグリップが出現する。
そのグリップを握ってアムフォルタスを引き抜いて前方に突き出すと、砲身が展開し銃身同士の間にプラズマ光球が出現し巨大化していく。
「いくぞぉっ! プゥラズゥマァー、ヘルアンドヘヴン!!」
掛け声ともに吶喊するガオセイバー
対するジェイダーは両手にプラズマソードを生み出して、それを合掌させて一つにすると、体全体を回転させ一本の光の矢となって正面から迎え撃つ。
「応っ! スクリューパルパライザー!!」
中間地点で激突するガオセイバーとジェイダー。
「はああああぁ!」
「ぬううううぅ!」
「「でりゃああああぁ!!」」
己が最高の一撃を叩き込もうと双方ともに気合の声を上げる、しかしてこの勝負に競り勝ったのはジェイダーであった。
「プラズマソード二刀流で攻撃力は2倍! さらに2倍の速度と3倍の回転で我が一撃の威力は通常の12倍だ!」
光の矢と化したジェイダーがガオセイバーのプラズマ光球を粉砕し、そのままアムフォルタスを、両腕を、そして胸から上を破壊する。
「うわあぁぁっ!」
ギリギリでコクピットの上部を通過した為に凱には目立った傷は無い、しかし機体を破壊された時に感じるダメージに悲鳴を上げる。
また同時に剥き出しになったコクピットから空中へ投げ出されてしまった。
「しまったぁっ!」
如何に超人エヴォリュダーといえども空は飛べない、この高さから海に叩きつけられれば凱とて無事ではすまない。
グングンと迫る海面、だが落下する凱を目指して走ってくる一つの影があった。

その決戦をモニターしていたミネルバのブリッジに、オペレーターのメイリンから状況を知らせる声が響き渡る。
「ガオセイバー大破、同時に4時方向からunknown接近! こ、これは?」
接近するunknownの映像を見たメイリンが思わず口を閉ざしてしまう、それにタリアは何事が起こったのか報告するよう怒鳴る。
「す、済みません。unknownはパ、パトカーです。パトカーが海面上を走ってきます!」
そんな馬鹿な話があるものか、そう思うブリッジクルーの目に波をジャンプ台にして海面から大空へ飛び立つパトカーの姿が正面モニターに大写しにされていた。

「システムチェーンジ! ボルフォーッグ」
海上を疾走してきたGBR-4ボルフォッグはジャンプ一番システムチェンジをしてビークルモードからロボット形態へ変形すると、落下中の凱を目掛けて手錠を飛ばす。
「ジェットワッパー!」
ボルフォッグが飛ばしたジェットワッパーに凱が摑まるのを確認すると手元に引き寄せる、引き寄せられた凱はそのまま体勢を立て直し、ボルフォッグの肩に着地して礼を言う。
「よく来てくれた。助かったぜ、ボルフォッグ」
「いえ、隊長もご無事で何よりです」
そこで辺りを見渡すとジェイダーの姿が見当たらない。
「ボルフォッグ、ジェイダーは何処へ行ったかわかるか?」
「ハイ、ここから南西に向かった小島に着地したようです」
ならば其処へ向かってくれという凱に対して、ボルフォッグは
「いえ、あそこには彼女が向かいました。お任せしたほうがよろしいかと」
その返答に凱はそういえば、あいつの姿が見えないのはそういう理由かと得心しミネルバに降ろしてくれるように改めて頼んだ。

そのころジェイダーは近くの小島に着地していた。なんとか競り勝ったがジェイダー自体勝利の為にかなりの無茶をした。
その証拠に両腕はひび割れ動かない、更にかなりのエネルギーを消耗した為ジェイダーの起動にも事欠く有様だ。
このままでの戦闘継続は困難と見たJはフュージョンを解除し地面へ降りる、フュージョンを解除した事で疲労が体に襲い掛かり、方膝を付き荒い息を吐くJ。
そこへ前の茂みから赤い髪にピンクのコートを着た女が現れてJに声を掛かる。
「ようやく見つけたよJ」
自分の名前を呼ぶという事は知り合いなのかも知れないが、今のJには覚えが無い。
「何者だ女?」
誰何するJの声には何も答えなかったが、明らかにこめかみに青筋が立っているのが判る。
「はあっ、凱から聞いていたけど、本当に忘れてるのね。いいわ、その鳥頭打ん殴って思い出させてあげる」
盛大に溜息を吐くとJを睨みつける赤毛の女、その眼差しは何処か先程戦った好敵手を思い起こさせる。
「イークイーップ!」
掛け声とともに着ていたコートが放射状に広がり鼻に架けていた丸メガネがモノクル状のゴーグルに変化する。
それだけではない、明らかに雰囲気が変わった。先程までは雌鹿のような躍動感を持っていたが現在は獲物を前にした雌獅子のそれだ。
「ハイパーモードォ!」
更に声を上げて尋常ならざる速度で突っ込んでくる女を前にしてJは反応が遅れた、常ならば如何に速い動きであってもJを捉えることは困難だったろう。
しかし、凱と戦った直後で疲労し、また見知らぬ女という不確定要素がいきなりハイパーモードで襲い掛かってくるという事態に驚愕したJは僅かな隙を見せてしまう。
この隙を見逃すようなルネではない、右腕に宿るGストーンを輝かせJの頭に全体重を乗せたチョッピングライトを叩き込む。
「はああああぁーっ!」
頭を覆うバイザーが砕け散り後ろへと吹き飛ぶJだが、流石に生粋の戦士である。すぐさま態勢を立て直して両足で着地する。
「もう一発ゥ!」
そこへ勢いのまま再び右拳を振りかぶったルネが繰り出した右ストレートを左掌で受け止め、握りこむJ。
「くっ」
痛みに声を上げるルネにJが声を掛ける。
「もう少しましな方法は思いつかなかったのか? ルネ」
この言葉を聞いたルネは不敵に笑って答える。
「あんたが惚けてるのが悪いのよ」
握り締められたルネの右腕のGストーンと握っているJのJジュエルが共に輝きを放っていた。

君達に最新情報を公開しよう
クレタ島沖会戦に辛うじて生き残ったミネルバ隊
そして凱とルネによって、遂に記憶を取り戻したJ
その喜びも束の間に、世界は新たな流れを迎えようとしていた
次回 勇者王ガオガイガー DESTINY
第13話 新たなる潮流 にFINAL FUSION承認
これが勝利の鍵だ 《大河幸太郎》



[22023] 第13話 新たなる潮流
Name: 小話◆be027227 ID:8fbdcd62
Date: 2010/09/20 10:45

クレタ島沖会戦が集結し、一息吐いたミネルバ艦長タリア・グラディスの下に凱から着艦許可を求める通信が入った。モニターに目を移すと見慣れない紫色のMSらしき機体の肩に乗った凱の姿が映っていた。
許可を出して無事な左舷デッキに誘導、着艦を確認する。ガオセイバーは大破したようだが、凱本人は無事のようだ。
デッキに降り立った凱とボルフォッグは、ミネルバの惨状に目を覆う。
「だいぶやられたな」
「救援が遅くなって、申し訳ありません」
凱の感想にボルフォッグが答えるが、勇者ロボ達はロボット三原則によって人間(ギムレットに代表されるような重犯罪者に対する例外はある)を攻撃出来ない。
それが分かっているので気にするなと伝え、ルネに連絡を取るとJと合流できたと言うのでソードシルエットからフォースシルエットに換装し直して、上空で警戒しているシンに向かって迎えに行ってくれるように頼んだ。
「シン、あっちの小島に俺の仲間が二人居る。行ってジェイダーと一緒に回収してきてくれ」
「え、でもあそこに居るのはさっき凱さんと戦った奴ですよね?」
シンの疑問に対して、話がついたから大丈夫だと答えた。

Jはルネと共に小島にいた。ルネが凱と連絡を取っているのを待っていると、そこへキラのフリーダムがやって来る。Jと隣に立つ見知らぬ女性を発見したキラは声を掛ける。
「Jさん、無事ですか?」
「キラか、私は無事だ。お前はアークエンジェルへ戻れ、それと今まで世話になったと皆に伝えてくれ」
Jから別れを言い出されたキラが戸惑うが、Jは記憶が戻った事と隣にいるのは自分の知り合いだという事を告げ、彼女と行動を共にする旨を伝える。
「なら、僕と一緒にアークエンジェルへ行きましょう。そちらの女の人も歓迎します」
キラはそう言うが、ルネはやる事があるので合流する気は無いと告げ、Jもルネと共に行くので此処で別れる事にすると言う。
突然の別れに戸惑うキラに対して、Jは自分が感じていた違和感に対してキラへ忠告を送る。
「キラ、友人として一つ忠告をしておこう。お前達の自由と平和への思いは正しい、だが自分達だけが正しいと思うな」
Jの言葉にキラは怪訝な表情を浮かべ、どういう意味なのか尋ねようとするが、此方にインパルスが向かって来ているのを確認すると、Jの言葉に従って離脱した。

小島の上空に居たフリーダムは、インパルスが近寄ると急速離脱していった。
シンとしては追いかけたい所だが、自分のやるべき事を自覚すると膝を着いているジェイダーの脇に着地する。
モニター越しに外をみれば、尖がり頭で鎧を着た男とピンクのコートの赤い髪の女の二人が居る。
「凱さんの仲間の方ですか? 迎えに来ました」
外部スピーカーで話しかけると女の方が手を振ってきたので、コクピットを開けて話しかける。
「済みません、コクピットが狭いんで男性の方、手に乗ってもらって良いですか」
「それには及ばん。ルネは私が連れて行くから、ジェイダーを運んでくれればいい」
男の方がそう言うと、ルネと呼ばれた女の脇に手を回すと襟巻がウイング状に変形し、空高く飛び上がり、海上のミネルバへ向かって飛んでいった。
「…嘘」
しばし呆然とするシンだが、凱の仲間なら空ぐらい飛ぶなと考え直して、ジェイダーの回収を始めた。

ミネルバの甲板で凱が待っていると、Jがルネを脇に抱えて飛んできた。危なげ無く着地して凱と向き合うJ。
「記憶は戻ったようだな」
「おかげさまでな」
その言葉にちらりとルネを見る凱とJだが、当のルネは涼しい顔だ。
「まず、この船の艦長に会ってくれ、その後は今迄の事とこれからの事を話そう」
「良いだろう、今はジェイダーも動けんしな」
「ボルフォッグ、お前はこれから如何する」
「私は先程、新たな任務を受けましたので、そちらへ向かいます」
これはボルフォッグだ、詳細は明かせないと言うので任務に関しては聞かない事にする。
「では私はこれで、システムチェンジ。ウルテクエンジン全開!」
そう言い残して、ボルフォッグはロボットからパトカーに姿を変えると南西に向かって海上を走っていった。

展望ブリッジが戦闘で破壊された為、戦闘用のブリッジに居たタリアに凱から会ってもらいたい人間がいる、ついては艦内に入れても構わないかと通信があった。
流石にブリッジには入れられないので、会議室に入れて良いと許可を出し、後事を副長のアーサー・トラインに任せてタリアはその場へと向かった。
会議室に着いたタリアを待っていたのは凱の他に鎧を着た男と赤い髪の女が居た。この二人が、凱が会って欲しいといった人物であるらしい。女の方はともかく、男の格好はかなり胡散臭い。
「紹介したい人が居るという事だけど、この二人の事ね。どういった関係?」
尋ねるタリアに対して、ルネが進み出る。
「初めまして、私はフランス対特殊犯罪組織「シャッセール」所属のエージェントで名前はルネ・カーディフ・獅子王です」
獅子王という名前に凱を見ると、彼女は従兄弟に当たると説明してくれた。その後もう一人男の方も名乗りを上げる。
「私の名はソルダートJ。赤の星の戦士だ」
それだけを言い、後はだんまりである。
ルネとJを紹介されたタリアは、凱に説明を求める。ルネとはディオキアで再会したとの事で一時ミネルバを離れて議長に会いに行ったのはそれが理由の一つだと説明された。
また、Jは先程凱と戦ったジェイダーのパイロットだそうだ。何故仲間で戦う事になったのか尋ねると何でも記憶を失くしていたらしい。
お互いに今迄の事を大雑把に説明し、説明されたあとで、これから如何するのかとタリアが尋ねる。
「ミネルバはナポリに寄港して応急処置を施した後、ジブラルタルへ向かいます。あなた方は如何されますか」
「あたしとJは、ジェイダーの自己修復が終われば、宇宙に上がるわ」
ジェイダーが直れば単独で大気圏を離脱出来る。ただ、今の状態では動けないので、それまでミネルバに乗せてほしいと凱が言う。
Jはこの件に関しては何も言わない、完全に凱とルネに丸投げである。
Jに対しては色々と複雑な感情があるが、凱の仲間だそうだし行動に制限を掛けて良いならと許可を出す。
「俺も一旦GGGに戻ろうと思う。構わないか?」
凱も二人と一緒に宇宙に上がると言い出すとは思っていなかったタリアが驚くが、凱は元々イレギュラーである上にフェイスの資格も有する以上、行動を制限する理由にはならない。
これでジェイダーの修復が完了すれば、凱とこの二人がミネルバを離れる事になった。

帰艦したシンは怪我をしているルナマリアの所にレイとメイリンを連れ立って見舞いに訪れた。
「お疲れー、ホント今回は大変だったわね」
ベッドから起き上がり、挨拶をするルナマリアは右腕を吊っており、頭に包帯を巻いている痛々しい姿だ。
「怪我は大丈夫なのか、ルナマリア」
レイがルナマリアの体を労わるが、熱が出たけどもう大丈夫だと言う事だ。
「お姉ちゃんが落とされたって聞いて、すごく心配したんだよ」
「その割に今まで来なかったじゃない」
心配するメイリンに対して意地の悪い事を言うが、顔は笑っている。メイリンも色々と忙しいのは解っているので他愛無いじゃれあいだ。
喋っているルナと二人の会話が途切れた時、シンが声を出した。
「ゴメン、俺がもっとしっかりしてればこんな事に成らなかったのに」
謝るシンに対して、ルナマリアは平手で答える。
「頭冷えた? 確かにあんたが暴走したのは頭に来たけど、怪我したのを人にせいになんかしないわよ」
自分も戦場に出ている以上、不測の事態は常にあるし、当然覚悟はある。今回の怪我は自分の未熟が招いた結果だ。
「だからシンが責任を感じる必要は無いし、お互い生き残ったのを喜ぼうよ」
ルナマリアの態度に、シンは一寸困った顔をした後でレイとメイリンの顔を見ると、二人は無言で頷いた。
「じゃあ、ありがとう」
行き成り、礼を言い出したシンに他の三人は顔を見合わせて、なんで礼を言い出すのかと笑い出した。

イスタンブールにある、マルマライスタンブールホテルの一室でユウナ・ロマ・セイランは人を待っていた。
もっとも呼び出したのは向こうの方だが、場所と時間を指定したのはユウナである。
ルームサービスでノンアルコールのシャンパンを頼み、その人物の到着を待つ。
程無くして、ドアがノックされ、来客が告げられた。直ぐに扉が開き、二人の人物が部屋へ入ってくる。
一人はユウナを呼び出した人物、もう一人は知らない顔だが、あの書簡に書かれていた事に関係する人物だろうと当たりをつける。ならDSSD関連の人間かもしれない。
「ようこそ、いらっしゃいました。こんな機会を設けて頂いて感謝しています。プラント最高評議会議長ギルバート・ディランダル殿」
人当たりの良い笑顔を浮かべて、歓迎を表すユウナに対して入室してきた人物のデュランダル議長も右手を差し出す。
「此方こそ、突然の会談要求を受諾していただいて感謝しております。オーブ連合首長国代表ユウナ・ロマ・セイラン殿」
握手を交わした後、議長は脇に立っている人物をユウナに紹介する。紹介された人物は金の髪を逆立てた大柄な男性である。
同じように右手を差し出し深いバリトンの声で挨拶をする。
「只今、ご紹介に預かりました。ガッツィー・ギャラクシー・ガード(Gutsy Galaxy Guard)の長官を務めております、大河幸太郎と申します。ユウナ代表にお会いできて光栄です」
こうして三者会談が秘密裏に開催された。
まずはオーブ、プラントの戦闘状態を如何にするかの問題が話し合われた、この事項に関しては大河に口を出す権利は無い。
ただ合意が成されれば、第三者としてそれを見届ける事になるし、結果次第では大河が二人に持ってきた事案に対してアプローチを変えねば成らない。
「我々としてはプラントと事を構えたくは無い、しかし今現在大西洋連合と同盟関係にあるオーブとしては、勝手に終戦という訳にも行きません」
ユウナの先制に、デュランダルは慌てることも無い。
「それは当然でしょう、しかしオーブは立派な主権国家です。なら我らプラントとも同盟を結ぶ事も可能なのではありませんか」
「確かに可能です、しかしそれでは連合が納得しません」
ユウナとしてはオーブが生き残るには、こうして対立する両国家に対して、積極的中立の立場を取る事でオーブの価値を高めてゆく事が必要だと考えていた。
そのためにも軽々に承諾する訳には行かない。
「無論、それも理解しているつもりです。しかしこう言っては何ですが、オーブはクレタ沖で艦隊を失っている。充分に連合に対する義理は果されたのではないですか」
「なるほど、確かにその通りです。ですが艦隊の犠牲を持って、プラントと講和をしたとあっては、今度は国民が納得しません。なぜなら」
「そうですね、その艦隊を撃破したのが、他ならぬ我がザフトのミネルバですからね」
実際のところオーブは連合首長国の名が示すとおり、代表首長が国家運営を担っている為国民には選挙権すらない完全な独裁国家だ。
ユウナが言う国民云々は方便に過ぎず、議長もそれは承知している。
「では、プラントから停戦に向けての賠償として、採掘用の資源衛星1基を譲渡致しましょう」
オーブは資源採掘コロニーのヘリオポリスを前の大戦で失っている為、これは破格の条件だ。
「大判振る舞いですね、そうまでして終戦を急がれるとは、プラントも危ないという事ですかな」
であれば、このまま連合と一緒にプラントを潰す方が得策かと、勘定を巡らせるユウナに対して、横に居た大河が声を掛ける。
「失礼ながら代表、もはやそんな場合では無いのです。両国の関係を進める為にも、一先ず私の話を聞いていただきたい」
ユウナは確かに政治家の家に生まれて育ってきた。幼い頃からの教育と接してきた大人達からある程度の胆力は備えている。
それでも本物の修羅場を潜ってきた大河の静かな迫力に思わず、居住まいを正していた。

話は遡る。それは三重連太陽系より大河達が脱出して、この世界の木星軌道上で気が付いた時であった。全員の無事を確認するが、凱とJの反応が見つからない。
「どうする、長官?」
GGG参謀火麻激が長官である大河に、これからの方針を尋ねる。少し悩んで、大河は雷牙博士に尋ねる。
「博士、凱達が何処にいるか見当が付きますか?」
尋ねられた獅子王雷牙博士は首を振る。
「皆目見当も付かん。ブラックホールもホワイトホールも解析が終っとる訳では無いしの」
ただ、あのタイミングなら確実に脱出は出来ているはずだと続ける。見つかるまで捜索を続けたいが、Jアークはともかくや脱出艇のクシナダは燃料と空気が持たない。
「ギリギリまで捜索を続けてくれたまえ、その後探知を続けながら地球へと帰路を取る」
そう決定したGGGは木星周辺の探索を続けるが、そこで猿頭寺耕助がある反応を見つけた。
反応発見に沸く一同だが、次に出た言葉に顔色を失くす。
「違います、ガオガイガーでもジェイダーでも有りません。この反応は間違い無く!…」
「間違いないのだね、猿頭寺君」
何かの間違いであって欲しい、しかしその願いは叶えられない。
「はい、木星重力圏の奥深くで確認されました。生きています」
その報告に大河は決断を下した。
「諸君、今の我々の状態ではヤツに勝つことは出来ない。ここは最大速を以って地球に帰還し、迎撃態勢を整える」
凱とJの捜索は如何するのかと牛山一男が問いただすが、二人は勇者だ、だから彼らは無事だと信じると語るに留まる。
噛み締められた唇の端から血が滲んでいるのをみて、全員が大河長官の決意に従った。
その後火星まで来た一行はマーシャンと接触、ここが自分達の知らない世界である事を知らされるが、やるべき事に変わりは無い、
マーシャンの協力を取り付けてDSSDに接触、外宇宙探査用のMSに積載する超AI技術の提供と協力の変わりに、廃棄された資源衛星基地を譲渡してもらった。
ジャンク部品を利用して小数のカーペンターズを作成、この世界での活動拠点を作り上げて、同時に情報収集の為、いち早く修復を終えたボルフォッグとルネを地球に送り込んだ。
そして先日、ルネからの情報を受け取った凱が、GGGと木星の事をディランダルに話した事で、デュランダルからGGGへ会談要請が出され、極秘に会談を行い、プラント(議長)の協力を取り付ける事に成功し現在に至る。

ユウナは渡された資料と映像を見て、顔を青くしていた。この後、二人は親ザフトの国を回り同様に話をする予定だと言う。
これが本当ならば地球での小競り合いなど無意味だ。しかしこんな馬鹿げた話を信用しろと言うのか。仮にこれが真実であった場合、対抗など出来るのか。そんな考えが頭の中を回る。
「これに対抗しようと言うのか、彼方方は」
「その為のGGGであり、彼方の協力が必要です」
「しかし、これを倒せる者など何処に」
在ると言いかけて、一つの事に思い当たる。そうだあのユニウス7を破壊した機体ならば、顔を上げたユウナに対して無言で頷く大河とデュランダル。
なるほど希望はある、ならば自分のすることは何も変わらない。
「分かりました、オーブは全面的にGGGに協力しましょう。またプラントとも単独講和の準備を進めます。ただし」
後をデュランダルが次ぐ。
「理解しています、資源衛星の譲渡と技術交流ですね。しかしGGGの技術は私の管轄ではないので」
そこで大河の方に目線を向ける、デュランダルとユウナ。男二人に見つめられた大河は咳払いをする。
「我々の技術は無制限に拡散させる訳には行きません。しかし防衛行動には期待して頂きたい。またDSSDに譲渡した技術に関してはオーブにも公開しましょう」
ここまで来れば、細かい条項と発表日程などの調整は事務方の仕事である。こうして三者会談は終了した。

ナポリに寄港したミネルバの被害報告がタリアの下に上がってくる。実に散々な有様だ。
今回の戦闘前から使用不可能だった艦首陽電子砲QZX-1《タンホイザー》に加え、艦中央の42cm実体弾砲《イゾルデ》が使用不能。中央甲板及び右舷MSデッキ大破、各種弾頭の7割を消耗。
またMS部隊に関しても、撃墜されたルナマリアが右腕骨折、肋骨にヒビが入ったが幸いパイロットに欠員は居ないものの、
凱のガオセイバーを始めとして、アスランのセイバー、ルナマリアのザクウォーリアが大破、レイのザクファントムが中破、無事なのはシンのインパルスのみという有様である。
「参ったわね」
ナポリの基地にMSの補充を頼んでみたが、回って来たのは旧式のZGMF-1017《ジン》が2機とTMF/A-802《バクゥ》1機であった。後はロドニアで回収したガイアがあるが修理に必要なパーツが無い。
「この先、何事も無くジブラルタルまで行ければ良いけど、無理でしょうね」
嘆息して、スケジュールの調整を始めたところで、そう言えば回収したガイアのパイロットの事で話があるとドクターが言っていたのを思い出した。
碌な話ではないだろうが、一寸行って聞いてこようと席を立った。

シンは、報告書の提出を終えた足でステラを見舞う為に、医務室へ向かっていた。ドアの前に着くと中から苦しんでいるステラの声と、ドクターと話すタリアの声が聞こえてきた。
「ジブラルタルまで持ちそう?」
「厳しいですね。それより下手に処置を施すと、後でデータに齟齬が出る可能性があります」
「出来れば、生きたまま引き渡したいのだけど」
そんな会話がシンの耳に飛び込んできた。内容に愕然とするシンだが、一息ついて今の会話は聞かなかった振りをして、来室を告げてから医務室の中へ入ると、ベッドの上で荒い息を吐き憔悴した様子のステラの横へ行く。
昨日、見舞った時には落ち着いていたのに、なぜこんな事態に成っているのか問いただすシンにドクターは処置を施しながら答える。
「どうもこうも私にだって解らんよ、薬で様々な影響を受けていて、まるで解らん体だと言っただろう、一定期間内になにか特殊な措置を施さないと身体機能を維持できないようでもある、それが何なのか、何故急にこうなるのか現状ではまるで解らんさ」
コーディネイターは遺伝子レベルで病気に強い処置を施される。その為に風邪位しか病気に罹らないので、こういった薬の研究に関してはナチュラルの方が遥かに進んでいる。
苦しみ続けるステラの手を握ると、シンに向かって弱々しく訴えかけて来た。
「シン、怖い。助けてネオ」
そんな様子のステラにシンは、大丈夫だとおれが守ると、気休めだと思う言葉しか掛けられない自分が情けなかった。
ドクターに医務室を追い出されたシンは、自分に何が出来るだろうかと考えながらミネルバの廊下を歩いていた。そこへ丁度通りがかった凱が声を掛けるが、その声には気が付かずに行ってしまった。
凱は何か思いつめた様子のシンのその姿を見て、微かな不安を感じた。

その日の深夜シンは一人、人目を忍んで医務室へ向かっていた。今日のタリアとドクターの会話からすると、ステラの事は検体としてしか考えていない様だ。
確かにステラと自分の接点など、無いに等しい。でも仮にも彼女に守ると約束したのだ、このまま黙って見殺しになど出来ない。
シンは悩んだ結果、現状ではステラを連合に帰す事が、彼女の命を救う唯一の方法だと結論を出した。
医務室の中には当直のメディックが一人詰めているが、トイレに立った隙にステラを連れ出し、インパルスの格納庫へと急ぐ。
途中でレイに見つかったが、ステラを見ると事情を察したのか、何も聞かずに手伝うと言ってくれたので、そのまま甘える事にした。
「此処まで来れば、もう大丈夫だな」
「ハッチは俺が開ける、シンは早く彼女を連れて乗り込め」
インパルスの格納庫に到達した二人であったが、其処に制止の声が掛かる。
「そこまでだ」
慌てて振り向いた二人の前には凱が立っていた。
「彼女を連れ出して何処へ行く積もりだった?」
誰何の声を上げる凱に対して、無言のシン。強い語調で答えるように促すと話し出した。
「昼間、艦長とドクターがステラをまるでモルモットみたいに話していたんです。しかもこのままでは彼女は死んでしまう。だから考えた末に連合に帰すのが、彼女の命を助ける唯一の方法だって、お願いします。行かせて下さい!」
シンの告白に対して、凱は黙って聞いていた。聞き終わった後で逆に問いかける。
「それは本当に彼女の為になるのか、仮に今連合に帰したとして、境遇を考えれば再び戦場に送り込まれるだろう。それは如何する」
「約束してもらいます。もうステラを二度と戦わせないって、平和で優しい場所に帰すって」
少年らしい純粋さで訴えるが、凱はそう甘いものでは無い事は分かっている。それにシンの言い分と行動には違和感がある。
「シン、本当にそんな事が出来ると考えているのか。それともただ苦しむ彼女を見たくないから、そう思い込もうとしているのか」
凱に言われ、言葉を失くすシンに、更に追い討ちをかけるような言葉を続ける。
「お前は彼女を守ると約束したんだろう。それなのに自分の手の届かない所へ送り帰すことで本当に守れると思っているのか」
「それは、でも今、ステラの命を助けるには、これしか無いじゃないですか!」
「確かにな、今の俺達に彼女を救う術は無い。だが本当にもう俺達が出来ることは何も無いのか?」
凱は既にGGGにステラのデータを送って解析を依頼している。だが例えGGG科学班といえども、彼女を救えると決まった訳では無いので、それを口に出すような事はしない。
「無いからステラは苦しんでいるんです。だから!」
言い募るシンに対して凱は諭すような口調で会話を続ける
「だとしても俺は連合に彼女を帰すのが正しいとは思えない。分かったら戻れ、今なら何も見なかった事に出来る」
「凱さんの言う事は分かります。それでも、それでも俺は!」
「そうか、なら此処を通りたければ、自分が正しいと思うなら、俺を倒してから行け!」
仁王立ちする凱に対して、シンは怯む。普通に考えれば自分が凱に勝てるとは思えない。それに、凱に言われる間でも無く自分の行為が正しいなんて思っていない。
それでも今ステラを助けるにはこれしかないと一歩を踏み出た、その横にレイも進み出るが、これはシンが静止する。
「レイは下がっててくれ。これは俺の我が儘なんだ」
「気にするな、お前のフォローはアカデミー時代から俺の役目だ」
「済まない、ありがとう。でも、それでも頼む」
こう言われてはレイも引き下がらざるを得ない。
「いいのか、俺は二人掛かりでも構わないぞ」
徴発する凱に対して雄叫びを上げて突っ込むシン。
「舐めるなぁー!」
シンはザフトのアカデミーでは格闘、ナイフ戦でトップの成績を取っていた。凱がいかに超人エヴォリュダーといえども人間であることに変わりは無い。
ならやりかたによっては勝機があると、突っ込んだ勢いのままに攻めるシンだが、凱は見るからに余裕を持って対応している。
無論、エヴォリュダーの超身体能力もあるが、なにより戦闘経験による洞察力の差が歴然としている、シンの攻撃は悉く受けられ、逆に的確に攻撃を当ててくる。
それに対して、シンも凱の攻撃を受けた所から間接技に移行しようとしても逆に決められ投げられる。
「如何したシン、お前の力はそんなものかぁ!」
「くそっ」
致命的な一撃を与えてこない凱に対して苛立つが、それでも諦める訳にはいかない。それだけを支えにして、もう何度目か分からなくなったが震える足で立ち上がるシン。
「シン、お前にも分かっているはずだ。人は生まれを選べやしない。それでも人は自分の意思で自分の生き方を決める事が出来る。だがステラを連合に帰せば、お前の言うとおり今は助かっても、自分の意思とは関係無く戦いを強要される事になる」
凱が語りかける言葉をかみ締めるシン。
「それでもステラは、今苦しんでいるんだ!」
叫ぶシンに対して凱は静かに続ける。
「そして再び俺たちの前にステラが現れたら、お前は如何するつもりだ」
「そ、それは…」
二人の動きが止まった時、寝ていると思っていたステラが声を上げた。
「止めて、シン。大丈夫、わたし大丈夫だから」
力を振り絞った声だったのだろう、その声は其処にいた人間の耳に小さいがハッキリと聞こえた。
「シンが私の事守るって言ってくれたから、だから大丈夫」
弱々しくも毅然とした口調で、シンに話しかけるステラ。その声で緊張の糸が切れたのか膝から崩れ落ちるシンを抱きとめるとレイに託して、凱はステラを連れて医務室へと向かう。
凱が格納庫を出た所にルネとJが壁を背にして立っていた。
「お疲れさん」
「見てたのか、趣味が悪いな」
からかってくるルネに対して、軽口を叩くとベッドを押しながら歩き出す。
「その子も連れて行く? そうすれば治療も何とかなるかも」
凱としてもそれは考えたのだが、幾つか問題がある。基本的にステラはザフト、ミネルバの捕虜であり、いかにフェイスといえども凱に如何こうする権利は無い。
まあいざとなれば考慮に入れるが、一番の問題が残る。それはJの口から発せられた。
「無理だな、普通の状態ならいざ知らず。いまの状態では大気圏突破のGに耐えられまい」
凱達が宇宙にいるGGGへ行く為に使用するのはジェイダーだ、当然医療用の設備など無い。
結局のところ、ステラの容態がもう少し安定しなければ、如何ともしがたいという事だ。

格納庫に残されたシンは、床に寝転がり腕で顔を覆っていた。その脇にはレイが壁を背にして座っている。しばし無言の時間が過ぎ去りシンが重い口を開いた。
「分かってたんだ、凱さんに言われるまでも無く、ステラを連合に帰せば如何なるか。でも俺は彼女を助けたかった、だから無理な幻想に縋って」
じんわりと涙が浮かんでくる。そうだ分かっていた、それでも自分に出来る事はこれしかなかった。あの連合軍のオーブ侵攻の時、自分に力が無いから家族を失った。
だから必死になって力を得た。それなのに今また、自分にステラを助ける力が無いのが悔しかった。だから無謀な賭けに出ようとしたのだろうか。
自問するシンの耳にレイの言葉が届いた。
「シン、凱さんがさっき人は生まれを選ぶ事が出来ない、その代りに生き方を選ぶと言っていたな。それは自分で運命を切り開くという事だ」
シンはレイの言葉に静かに耳を傾ける。
「ならば、自分の生き方を選べない人間はどうすればいいんだろうか、ただある目的の為に生み出され、命をすり減らすだけの存在はどう生きていけばいい」
レイが言うのはステラのようなエクステンデッドの事だろうか、それにしては何か実感が篭っているように感じる。
「俺も良く分かんないけどさ、きっと凱さんが言った事は、もし生き方を選べないんだとしても諦めないで、その中で自分のやれる事をやれって事なんだと思う」
そう答えたあと、シンはむっくりと起き上がる。顔も腫れているし、体中痛そうに顔を顰めるが、表情は晴れやかだ。
「俺やっぱり、ステラを助けたい」
「では、如何する。やはり連れ出すか」
レイの言葉に首を振るシン。
「そうじゃない、自分の出来る事をする。確かに連合に連れ出せば、今は助かるかもしれない。けどそれは本当にステラを助ける事にはならないだろう」
誰かに任せきりにしない、自分でも色々と調べる。専門家が気づかない事も素人なら気づくかも知れない。もちろん間に合わない可能性のほうが高い、でも諦めない限り希望は残っている。
「そうか、なら俺も手伝おう。お前一人では気がつく事も気がつかないからな」
「なんだよそれ、酷いな」
「気にするな、俺は気にしない」
何かが解決したわけではない、しかしシンの表情は先程ステラを連れ出そうとした時に見せたような、悲壮感は消えていた。

凱はステラを医務室へ戻すと、艦長とドクターを呼び出した、ステラの処遇について問い質す為である。
事の顛末を聞かされた二人はばつの悪い表情を浮かべる、あのときの会話をシンに聞かれていたとは思わなかった。それにステラを連れ出そうとしていたとは、実際そんな事をされれば懲罰ものだ。
呆れるタリアだが、凱が言いたいのは違う。彼女を検体扱いしていた事こそが問題だと話す、それには素直に謝罪する二人。
「ごめんなさい。言い訳になるけど、そんな積もりでは無かったのよ」
「私も申し訳無かった、医師として人命こそ守るべきであるのを忘れていたようだ」
ステラに対してもキチンと調べたうえで治療する事を約束した。

数日が過ぎ、ジェイダーの自己修復が終了した。凱もルネ、Jと共に宇宙へと上がる、見送りに来たシンは、凱の前に進み出る。
「俺、諦めません。自分に出来ること探して、それでステラを助けます」
シンの言葉に凱は笑顔を返して口を開く。
「GGG憲章第5条125項、GGG隊員はいかに困難な状況にあろうとも、決して諦めてはならない!」
大音声で告げる凱に、シンも負けずに大声で返す。
「ハイ!」
シンの返事を聞いた凱は、背を向けて右手を上げるとGGGの仲間が待つ宇宙へと飛び立った。
それから一週間がたった。格納庫での騒動があった日から自分なりにレイにも手伝って貰って調べていたシンの下に、宇宙にいる凱からある薬の処方箋がもたらされた。
この薬はステラの体を治せるものでは無かったが、容態を安定させる事は出来た。一先ず安心するシンだった。

ラクス・クラインとアンドリュー・バルドフェルドは《ファクトリー》に到着していた、シャトルを降りてクライン派の党首たる総統の下へ向かっている途中である。
ファクトリーとは通常は資源採掘衛星の管理、運営を行う中継基地として存在している小惑星を改造した衛星基地である。
しかし、実態はクライン派が秘密裏に所有する大規模工廠であり、中に作られた工場ではMS、艦艇の修理、改造は勿論のこと新型機の開発、その他様々な施設と機能が併設された一大軍事基地である。
現在はクライン派の独自戦力としてプラントの次期主力MSの座をZGMF-2000《グフイグナイテッド》と争ったZGMF-XX09T《ドムトルーパー》の生産に入っていた。
その光景を横に見ながらラクスとバルドフェルドは奥へと進む、だいぶ奥まった部屋に到達した二人は身形を整えて入室する。
「総統、アンドリュー・バルドフェルド帰還いたしました」
そう声を掛けられた人物が腰掛けていた椅子ごと此方に振り向く、金の髪に美髯を蓄えた壮年の男性である。
「お帰りラクス、我が娘よ」
「ただいま帰りましたわ、お父様」
それは2年前にパトリック・ザラによって殺されたはずのシーゲル・クラインであった。
久方ぶりに対面する親子は軽く抱擁を交わすと、この2年間の事を話し始める。
クライン邸の襲撃はターミナルの情報網から筒抜けであり、襲われたときにはすでに影武者に入れ替わっていた。
その後シーゲルはファクトリーに居を移し、自分は表舞台に立つことなくクラインの地球圏支配の為に、また娘であるラクスを地球の女王とするべく準備を整えていたのだ。
「まったくパトリックの奴がトチ狂った時はどうなるかと思ったが、ヤキンの時は良くやってくれた。ジェネシスなど撃たれては私の農場も駄目になる所だったからな」
農場とは地球にシーゲルが作った隠れ里である、此処にはコーディネイターとナチュラルが共に生活しており、融和を謳っている為にコーディネイターとナチュラルの結婚を奨励している。
それはハーフコーディネイターが生まれる事を意味する、シーゲルはこのハーフコーディネイターを使ってコーディネイターの出産率を改善出来ないかを模索していた。
「あんな出来損ない共でも実験の役には立つ、また一から作り直すのは手間が掛かる。それに地球はいずれ我等が支配するのだ、悪戯に傷を付けては詰まらんからな」
本当に良くやってくれた、と続けて今度はラクスの話を聞く。
ラクスも2年間遊んでいた訳では無い。オーブにてキラ達との生活を続けながら、地球に浸透しているターミナルの情報を統括し、ファクトリーに送っていたのである。
「ユウナさんが私達を亡き者にしようと画策していると判った時には助かりましたわ」
いち早くその情報を手に入れたラクスは襲撃の人選に此方の息の掛かった人間を手配した、そのおかげで、何の被害も出さずにキラを戦場へ戻す口実が出来た。
本来ならサトー達ザラ派のテロを契機に戻る積もりだったが、ユニウス7の地球落下などという大事件を惹き起こすとは思わなかった。
ちなみに彼らへの支援はパトリック・ザラの息子であるアスランの名前を使っている、ザラの名前を使うことで相対的にクラインの名前を高めようという魂胆である。
すなわち強硬派のザラ、穏健派のクラインである。
「アプリリウスにちょっとした混乱を惹き起こしてくれれば良かったものを、やはりパトリックのシンパは駄目だな。ナチュラル憎しで過激な事しかせん」
地球に住む人間達もまた新人類たる我等が支配するべき者だというのに、もっともあまり詰まらん人間が多いのも考え物だ、その為にNJを使って間引きを行なったのだ。
談笑を続けるラクスとシーゲルだが、ふと会話が止まった時にシーゲルが何かを思い出した。
「そうだラクス、面白い物を見せよう」
そう言って向かった先は生体研究施設があるブロックであった、部屋にあるのは2つのシリンダーであり、その中に浮かんでいるのは12歳位の二人の男の子であった。
「この二人は半年程前に見つけたのだ、なんと宇宙に漂っていたミサイルの中に入っていたんだよ」
しかも研究の結果二人とも地球人では無いと判明した、超能力も持っていると続ける。
「彼らの力を我らコーディネイターが手に入れれば、更に超人に近づけよう。一番の候補はやはりお前と最高のコーディネイターであるキラ君との子供がよかろうな」
「まあお父様、それはとても良い考えですわ。今からキラとの子供を生むのが楽しみです」
「おいおい気が早いな、その処置にはもう少し実験をして安全性と確実性を高めてからだ」
話を続ける二人はシリンダーの中に浮かぶ天海護と戒道幾巳の目が薄っすらと開いた事に気が付かなかった。

戦艦の自室でネオ・ロアノークはロード・ジブリールからの通信を受け取っていた。
「今回もミネルバを沈められなかったようだな」
「申し訳ありません、ですが」
「言い訳はいい、私とて戦場が生き物である事ぐらい理解している。しかしこうも失態続きでは、厳しくもなろうというものだ」
確かにミネルバに係わってからケチが着いている。確たる戦果を出せていない現状では何も言えない。
「まあいい、そちらに新型を送った。それを使って次の作戦は必ず完遂してくれ」
通信にて送られてきた命令書に目をとおすネオが言葉を失う。
「何事も見せしめは必要なのだよ。ククククク」
画面の中で笑うジブリールの顔は醜く歪んでいた。

休憩室でコーヒーを飲んでいたアウル・ニーダが、難しい顔をしてスティング・オークレーに話しかける。
「なあ、何か忘れてる様な気がすんだけど」
「あー、何だそりゃ。何かって何だよ」
ソファーに横になって雑誌を読んでいたスティングが顔を上げて返事をする。
「判んねえけど、何か大事な事、忘れてるような気がすんだよな」
「判んねえなら、大した事でも無いんだろ。気にすんな」
アウルはスティングの言い分に首を傾げながら、お前如何思うと話を振ろうと横を向いた、当然そこには誰も居ない。当たり前だ、自分達は始めから二人だったじゃないか。
「なーんか、連敗続きで疲れてんのかな」
微かな違和感を、無理矢理納得させてアウルはコーヒーを啜った。
そこにネオがやって来て次の作戦を告げる。
「喜べお前ら、新しいおもちゃが届くぞ」

君達に最新情報を公開しよう
都市を蹂躙する巨大MS
逃げ惑う人々を守るため奮闘するミネルバ隊
苦戦する彼らの前に現れたのは、はたして
次回 勇者王ガオガイガー DESTINY
第14話 『燃える町』 にFINAL FUSION承認
これが勝利の鍵だ 《最強勇者ロボ軍団》



[22023] 第14話 『燃える町』
Name: 小話◆be027227 ID:8fbdcd62
Date: 2010/09/20 10:46
 
宇宙へと上がった凱達一行は、GGGの仲間が待つ衛星基地コメット・ベース(Comet.Base)(オービット・ベースに変わるGGGの基地)に到着していた。
凱は出迎えに出てきた、火麻参謀とメインオーダールームへ足を向けた。
「じゃあ、長官は今居ないのか」
「ああ、色々と忙しくてな。彼方此方に、交渉だの折衝だのに動き回ってるよ」
途中で格納庫に寄るとギャレオンとジェネシックマシンが置いてあり、メカニックオペレーターである牛山の指揮によって修理が進められていた。
「こっちに戻って来ていたのか」
「プラントが協力してくれるって話になってな、DSSD経由で返却された」
結局プラントでは修理が完了しなかった、もっともGGGにしてもギャレオンの出現から10年の蓄積があってようやく何とかなっている状態だ。
「修理の完了まではまだ暫くかかるな、悪いがそれまではお前さんの機体は無いぞ」
作業の進行具合を見ながら、火麻が凱に告げる。
その他にも話をしながら、メインオーダールームへ到着すると懐かしい面々が揃っていた。
「よー、やっと帰ってきおったか」
「オカエリナサイデース、凱」
「HAHAHA、meは何も心配していませんでしたヨー」
「隊長、お久しぶりです」
「僕達もすっかり直りました」
口々に凱の帰りを喜び、久しぶりの再会に盛り上がる仲間達。手荒い歓迎を受けながら、凱もまた仲間との再会に笑顔を返す。
「獅子王凱、ただ今帰還しました」
帰還の挨拶をする凱と無事を喜ぶGGGの仲間達だが、凱は本当なら此処に居るべき恋人の姿が無いことに一抹の寂しさを感じていた。

クレタ島沖会戦が終了して、アークエンジェルに合流したアマギ一尉達オーブの軍人を前にしてカガリ・ユラ・アスハは自身の決意を語っていた。
「私を慕ってこのアークエンジェルに来てくれた事嬉しく思う、まだ間に合うと云うのなら、お父様のように常に諦めぬ良き為政者と成る事で、この恩を返そうと思う」
自分を慕ってアークエンジェルに来てくれた人間の為にもしっかりしなくてはならないと考えていた。
この決意表明に集った者達は感嘆の声を漏らす。その中から代表してアマギがカガリにオーブへの帰参を進める。
「オーブ国内にはセイランのやり方に反対しカガリ様のお戻りを心待ちにしている者も多くおります」
カガリは国民に人気がある、これはオーブの復興に当たって、名君と謳われたウズミ・ナラ・アスハの子であるカガリを担ぎ上げた事が大きな理由である。
父親を失いながらも国の為に尽くす少女という看板を持って、当時の国民感情を国を焼いた代表首長という本質から逸らす為に利用したのだ。
そしてカガリは復興事業の中でも、特に被災した国民の救済を行なっている(ように見える)為にオーブ国民の多くはカガリを慕っている。
代わりにセイランは、国民生活の救済よりも国営企業のモルゲンレーテやマスドライバーの修復を先行させたと思われている。
尤もこの二つの施設が無ければ、オーブには主たる産業が無く、国民の救済活動も儘ならぬのであるが、納得は出来ないのだろう。
「自分には政治向きの事は良く分かりませんが、此度の戦争は連合側に非があるように思えてなりません、となれば今やその一陣営であるオーブもこのままでは、セイランは馬鹿だ」
ムラサメ隊の一人であるイケヤが吐き捨てる。確かにこの言には一理在るのだが、それは一面から見たものでしかない。
セイランとしては無論、大西洋連合に近い自家の足場を固めるという意味もあるが、復興に際して大西洋連合から多くの支援をもらったオーブとしては、その借りを返さなければ国際社会での信用を失う事に成りかねない。
そして、現段階では連合と同盟組む以外に交渉に使えるカードが無かった為に他に選択の余地は無かったのが真相である。
企業再建策の事もそうだが、その辺りの事情に考えが及ばないのは、氏族以外の人間が政治に参加出来ないオーブと言う国の皮肉であろう。
「分かっている、分かっているから少し待ってくれ、私もオーブに戻りたいと思っている。彼方方やクレタで死んでいった者達の為にも、だからいま少し待って欲しい。そして時が来たら私に力を貸してくれ。オーブの為に頼む」
カガリは確かにオーブの事を想っている、しかし本当にオーブを何とかしたいと考えるならば、キラに誘拐された直後に何としてでも国へと戻るべきであった。
またその後でも戻る機会は多々在ったのだが、いずれも彼女はアークエンジェルに残る事を選択してしまった。
なぜならアークエンジェルに居る人間はカガリを肯定してくれたからだ、国家元首の重圧の中で仕事をしてきたカガリにとって、自分を全肯定してくれるこの場所は居心地が良さ過ぎた。
また、カガリに賛同するようにアマギ達が合流したのも、自分の考えは間違っていない、間違っているのはユウナ達の方だという思いに拍車を駆けてしまった。
しかし、彼らアークエンジェルに来た者達は何を考えていたのであろうか、常識で考えれば如何に前代表とはいえども19歳の少女である。
政治的な才能があったとしても大成には遠く、なればこそ戦場に身を置く事など許されないはずだ、それを彼らはまるでこのアークエンジェルにいる事が正しいと言わんばかりに集ってしまった。
自刃したトダカの言葉があったとはいえども、余りにも盲目的に“アスハ”に従ってしまった、この選択が後の運命を決めたと言って良い。

カガリがアマギ達と話しているその頃、キラ・ヤマトは一人物思いに耽っていた。そこへアークエンジェル艦長、マリュー・ラミアスがやってくる。
「大丈夫? 彼方一人で本当に良くがんばっているもの」
考えに沈みこむキラを労わるように声を掛けるマリューに対してキラは自分が今考えていた事を話し出す。
「何でまたこんな事になっちゃったのかなって、何でまたアスランと戦うような事に、僕達が間違ってるんですか? アスランの言う通り議長は良い人で、ラクスが狙われたのも何かの間違いで、僕達のやっている事の方が何か馬鹿げた、間違った事だとしたら」
これまでの行いをアスランに否定され、Jもまたアークエンジェルを去った。キラの言葉にマリューもまた難しい顔をして言葉を選ぶ。
「でも大切な誰かを守ろうとするのは決して馬鹿げた事でも、間違った事でもないわ。
世界のことは確かに分からないけど、でもね大切な人が居るから世界も愛せるんじゃないかって私は思うの、きっと皆そうなのよ。
だから頑張るの、そうでしょ。ただやり方が、と言うか思うことが違っちゃう事はあるわ。その誰かが居てこその世界なのにね。
アスラン君もきっと、守りたいと思った気持ちは一緒のはずよ。だから余計に難しいのだと思うけど、いつかきっとまた手を取り合える日が来るわ。彼方達は、だから諦めないで彼方は彼方で頑張って」
確かに愛する人を守る事を間違いだと言う人間は居ない、当然である。しかし問題になっているのは、そんな感情で場当たり的にフリーダムやアークエンジェルという武力を持って行動してきた現在の状況である。
この返答はキラの疑問に対する答えではない、しかしキラの気持ちを肯定する答えではあった。
マリューの言葉で、キラは自分の思いは決して間違っていない、ならいつか皆が自分の思いを、行動を理解してくれる。それまで頑張れば良いと思い直した。

連合軍の地上空母ボナパルトにネオ・ロアノーク率いる第81独立機動軍、ファントムペインが到着した。
そのボナパルトの格納庫内に在る新型MSを受領し、新たな作戦に従事するためである。
新型を見て駆け寄るアウル・ニーダとそんなアウルを窘めながら、自分もその威容から目を離さないスティング・オークレー。
「ははっ、スゲーじゃん。これ俺達にくれんだろネオ」
喜色を浮かべながらネオに聞いてくるアウルに答えるネオ。
「ああ、これがお前達の新しいおもちゃだ。これで戦力は整った、直ぐに出るぞ、コイツで全てを蹂躙して来い!」
「りょーかい」
「ハイよ」
遂に全てを破壊するGFAS‐X1《デストロイ》が起動した。ボナパルトから出撃したデストロイ2機とスティングの代わりにネオが駆るカオス、
そしてファントムペインに補充されたGAT‐04《ウィンダム》12機にて、西ユーラシアにおけるザフトの軍を悉く平らげるのだ。まずは目の前の小さな駐屯地から始めよう、その町の名はリューベック。
ファントムペインが上陸して1時間後、駐屯地のザフト部隊の全てとリューベックの町は焦土と化した。
そこに存在するのはただの瓦礫の山と燃え盛る炎、そして動かぬ躯だけである。
「ひゅうー、最高だぜ」
「まだ暴れ足らないってぇの」
意気上がるスティングとアウルをよそに焼け野原と化した光景を見たネオは、無感動に呟いた。
「これも仕事とはいえ、喃々だかな。しかしやらなきゃ俺達がお払い箱になりかねん」
仮面の下のネオの顔には諦観が浮かんでいた。

モニターに映る光景にロード・ジブリールは狂喜していた。
「ハハハハハ、圧倒的じゃないですかデストロイは」
笑うジブリールに、モニターに映るロゴスのメンバーの一人が、吐き棄てるように問いかける。
「確かにの全て焦土と化して何も残らんわ、これで何処まで焼き払うつもりなのだ」
町が燃え行く様子に嫌悪感を隠さぬ様子の人間達を前にジブリールは続ける。
「其処にザフトがいる限り何処まででもですよ、変に馴れ合う連中には、はっきりと教えてやりませんとね。我らナチュラルとコーディネーターは違うのだと、それを裏切るような真似をすれば地獄に落ちるという事をね」
得意げに語るジブリールの様子に、冷めた目を向けるとモニターから消えてゆくロゴスメンバーであったが、デストロイの力に魅了されたジブリールは、その眼差しが何を意味しているか気が付いていなかった。

キラとマリューが話していると通信士のチャンドラから、ターミナルのエマージェンシーが入っていると連絡があったのでブリッジへと急いで向かう。
其処に映し出されたのは、破壊されつくした町とそれを行なった巨大なMAであった。その光景を見たアークエンジェルの一同は、皆言葉を失い立ち尽くす。
「行きます、マリューさん」
ブリッジにキラの声が響いた、キラはこのMAを止める為に立ち向かう事を決めた。

ミネルバはナポリに停泊していた、主武装のタンホイザー、イゾルデの2つは使用不能だが、外装の修理は8割完了、代替のMSの搬入も終わりようやく航行出来る状態まで回復した所で今回の騒動である。
司令部からの通達は、ドイツ北岸のリューベックより連合軍が侵攻を開始、リューベックの駐屯部隊と都市が壊滅、真っ直ぐベルリンに向かって進軍中。
これに伴い近郊のザフト全軍は非常体制を取れ、また都市駐留の部隊以外は全てベルリン郊外に集結、敵戦力の殲滅に当たれとの事であった。
この指令に直ちにミネルバを発進させたタリア・グラディスは道中、情報収集に努めていた。
「リューベックならハンブルグの部隊が近いわね、そちらはどう」
「リューベックの援護に向かいましたが、全滅だそうです。それにも係わらず近郊のハンブルグではなくベルリンを目指しているのは、やはり」
タリアの質問に答えているのは、アーサー・トラインである。
「ええ、ベルリンはこの辺りで一番大きいザフトの駐屯地ですからね、そこを叩いてしまおうという事でしょうね」
「しかし可能なんですか、そんな事」
ベルリンは西ユーラシアに置けるザフトの活動拠点の一つだ、当然それなりの戦力が常駐している。
「出来る自信が有るから攻めてくるのよ、楽観論はお止めなさい」
「はっ、失礼しました」
いかに巨大なMAを有するとはいえども、そう簡単に駐留軍を倒せる訳が無い。そう考えるアーサーに油断しないように釘を刺すタリアであった。

侵攻してくるファントムペインに対して、ベルリンの駐屯部隊はコンプトン級やレセップス級の陸上戦艦を中核とした部隊戦力の6割を郊外に展開し迎撃行動に移った。
全戦力を傾けないのは別働隊に対しての備え、また市民の避難誘導と護衛に割いたからである。
これに対して侵攻を続けるファントムペイン側はデストロイ2機を先行、その後ろにネオのカオスが率いるウィンダム隊、最後尾にボナパルトとその他の陸上艦を配置させて、正面より戦端を開いた。
先行するデストロイへ向けてディン、ガズゥート、バクゥ等が一斉に攻撃を開始する。しかしその攻撃は全てがデストロイの前面に張られた陽電子リフレクターシールド《シュナイドシュッツSX1021》によって防がれる。
攻撃が通じなかった事に驚愕して動きの止まるザフトのMS郡に対して、機体周囲に搭載された熱プラズマ複合砲《ネフェルテム503》を放つデストロイ。
「吹き飛びなぁ!」
「消ぃえろぉ!」
ビームの直撃をくらい次々と爆散するザフトのMSを横にして進み続けるデストロイに陸上戦艦の主砲が火を噴く。
しかし陽電子砲すら弾く、シュナイドシュッツには通用しない。
「あーっはっはっはぁ! 無駄なんだよー!」
「いい加減に諦めて、くたばりなぁ!」
デストロイの背中にある主砲たる高エネルギー砲《アウフプラール・ドライツェーン》が撃たれると、その威力により地面が抉れコンプトン級陸上戦艦は周囲にいたMSと共に轟沈した。
接敵から僅か45分余りの攻防でベルリン駐屯軍は壊滅した。
この事態を受けてベルリン市長は、住民の安全に配慮し連合への降伏と侵攻の停止を申し出たが、その返答は砲声によって答えられた。
ベルリンもまた炎に包まれたのである。

同時刻、ザフト軍事ステーション内ではこの事態を前に緊急閣議が開かれていた。
「どういう事です、なんの勧告も無いままでこのような」
「無差別に町ごと焼き払うとは、正気か奴らは」
プラント評議会の面々が口々に、連合の所業に対し怒りを顕にする。その中で国防委員長タカオ・シュライバーが議長たるギルバート・デュランダルに進言する。
「都市駐留軍は殆どが壊滅状態です。議長、ここは一時撤退を」
撤退を促されるデュランダルだが、それには異を唱える。
「だが下がって如何する、下がれば解決するのかね。誰かが止めねば奴らは図に乗って都市を焼き続けるだろう、そんな物は決して許される物ではない」
今回の侵攻によって最も被害を受けているのは、ザフトでもプラントでもなく、侵攻を受けた町の人達である。
人道的支援を名目に駐留しているザフトとしては、これを放置する事は出来ない。
「ジブラルタルの戦力は回せないのかね」
「無理です、この侵攻に呼応してスエズの艦隊が地中海に出てきています」
「ならば、どこでも構わん回せる戦力は無いのか」
そう尋ねるデュランダルに国防委員であるアラン・クラーゼクやエドアルド・リーは黙るのみだ、彼等の表情からはナチュラルの市民の為に、これ以上の出血を強いられたくないとの感情が見て取れる。
それを咎めようとデュランダルが声を張り上げようとした時、部屋の扉を開いて一人の逞しい男が風を切って入ってきた。
「その救援には、我々が参りましょう!」
男の名はGGG長官大河幸太郎、今デュランダルにとって、最も信頼できる人物であった。

デストロイがベルリン市内に侵入して間も無く、キラの駆るフリーダムとアークエンジェルが現れた。
フリーダムはデストロイに対してビームライフルを撃つものの、全てのビームが全前に張られたシュナイドシュッツによって弾かれてしまう。
「なんだぁ、そりゃ?」
「はっ、今まで散々好き勝手してくれた分、纏めて返してやらぁ!」
フリーダムとアークエンジェルを見た、スティングとアウルは今迄のお礼参りとばかりに、フリーダムに対してネフェルテムのプラズマビームの雨を降らせる。
しかしキラはその攻撃を、SEEDを発動させて悉く切り抜けて、逆にフルバーストで反撃に移る。
しかし先程と同様にシュナイドシュッツによってフリーダムの攻撃は全て無効化されてしまう、それどころか弾かれたビームが更に町を破壊し、住民を巻き込んでしまう有様だ。
それでもデストロイを倒そうとフルバーストを連発するフリーダムに対してデストロイは遂に封印を解き真の姿を現した。
「こいつっ!」
「チョロチョロとウザイんだよー!」
腰が180度回転し、上部の円盤状の部分がせり上がり中に隠された上半身が出現する。
MA形態からMS形態へと変形したデストロイの威容と巨大さに驚愕を表すキラとアークエンジェルのクルー。
「そ、そんな」
「あんな、巨大なMSなんて」
MSとなったデストロイは両腕を肘から切り離すと《シュトゥルムファウスト》と指先に搭載されたMJ‐1703、5連装《スプリットビームガン》でオールレンジ攻撃を開始する。
その攻撃を回避しながら邪魔な腕を破壊しようと、またもフルバーストで攻撃を仕掛けるフリーダム。
しかしその攻撃も先程までと同様に前腕部に搭載されたシュナイドシュッツで反射されてしまう。
「キラ君下がって、ゴットフリート1番2番、ってぇー!」
マリューの声と共にアークエンジェルの主砲である225センチ2連装高エネルギー収束火線砲《ゴットフリートMk.71》がデストロイを襲うがこれもまた弾かれる。
「そんな馬鹿な」
よもや戦艦の主砲まで弾かれるとは考えていなかった一同が、驚愕を顕にする。その光景を見た中で、カガリが最も早く自分を取り戻した。
「私も出る、これではキラが」
自分も出撃すると言い出したカガリに対して、アマギ達もまた同様に出撃を口にする。
「カガリ様我らも出撃を、この戦いオーブの為のものではありませんが、これを只見ている事等出来ません」
「よし、行くぞ! これを放っておけるか」
この市民を救済しようという行動は個人としては正しいのだが、オーブという国の立場から見た場合には、カガリが常々標榜する理念を自ら反故にした上で、
同盟国である大西洋連合の作戦行動を妨害すると言うことなのだが、彼等はそれを理解していなかった。
勇躍飛び出したムラサメ隊が飛び回るフリーダムに通信を送る。
「キラ様、ここは我らが!」
「大丈夫です。お任せ下さい!」
「行くぞ!」
ファントムペインのウィンダム部隊と戦闘を開始するアークエンジェルのムラサメ隊、それを見たネオもカオスを飛び上がらせて迎撃に向かう。
「フン、クレタの生き残りか。何を考えているやら」
ネオはウィンダムとデストロイに向かってくるムラサメを見て、呆れた調子で呟いた。

ベルリンの救援に急いでいたミネルバは、戦況の確認の為に前線司令部へ通信を送るが応答が無い。
目標を工学映像に入れた所で熱紋による状況確認を行なった所、戦闘中の機体はカオス、ウィンダムにunknownとフリーダム、ムラサメ、ルージュ、アークエンジェルと判明した。
アークエンジェルが町の防衛を行なっているらしいが、何故か連合と同盟を結んでいるオーブのムラサメまでがウィンダムと戦闘を行なっている。
「さすが正義の味方の大天使ね、助けを求める声あればって事かしら」
戦闘の様子を見たタリアが、苦々しげに言葉を出すと、MS部隊に通信を送る。
「情勢は思ったより混乱してるわ、既に前線の友軍とは連絡が取れず、敵軍とは今、フリーダムとアークエンジェルが戦っています」
その声を聞いた面々が思わず怪訝な声を上げるがタリアは構わずに続ける。
「彼らの思惑は分からないけど、敵を間違えないで、戦力が苦しいのは承知しているけど、本艦はなんとしても連合を止めなければなりません」
タリアの言わんとする所は、現在の状況を鑑みてアークエンジェルには手を出さずに、連合を叩けという事だ、もっともタリアとてアークエンジェルが味方だなどとは思っていない。
「MS各機発進、状況は此方に不利だが各員の健闘に期待する。共闘出来ればと思うけど難しいわね、今となっては」
発進命令を受けてシンのインパルス、アスランとレイのジン、ルナマリアのバクゥが次々と飛び出して戦場へと向かった。
インパルスを全力でベルリン市内まで飛ばしたシンは、その惨状を見て思わずうめき声を上げた。
「なんだよコレ、まだ避難も済んでないじゃないか!?」
逃げ惑う人々や怪我をした人が其処彼処に居る。インパルスから見た限りでも、相当の人間が避難出来ずにいるようだと報告を入れる。
「わかったわ、でも今は市民の安全を確保する余裕は無いの。兎に角あのMSを止める事を考えて」
タリアからの指示は現段階では救助を行なう事は出来ない、先ずは連合の侵攻を止める事が先決だという事だ。
悔しいが確かにその通りである、一刻も早く連合を倒しその後で出来る限りの救助活動を行なうしか無いと頭を切り替えてデストロイへと向かうシン達。
遠間からビームライフルを撃つと空中を飛び回る腕に陽電子リフレクターが現れビームを弾いてしまった。
「皆、コイツはあのカニと同じだ! 正面からビームを撃っても弾かれて、無駄に被害を増やすだけだ!」
シンからの連絡を貰ったアスランは、攻撃を回避して腕に機斬刀を叩きつけるが、フェイズシフト装甲に阻まれ傷を付ける事が出来ない。それを見て直ぐに作戦を変更する。
「くそPS装甲か、ならレイと俺が動き回って隙を作る。そこへシン、お前が飛び込め。悔しいがジンの武装ではヤツを倒せん。それとルナマリア、市街戦ではバクゥの機動力を生かせない。君はミネルバの援護と侵攻してくるウィンダムを叩く事に徹しろ」
「「「了解!」」」
シンを中心にしたフォーメーションを構築してデストロイ1機を足止めすることに成功するが、もう1機は遠くからフルバーストを連発しながら飛び回るフリーダムを追い回して先へと進んでしまう。
「くそっ、キラの奴何を考えているんだ!」
被害を拡大するようなキラの戦いかたに思わず悪態が出るアスランだった。そのキラの戦い方に気を取られたのか、デストロイの頭部から撃たれた200ミリエネルギー砲《ツォーンmk2》の光が機体を掠める。
「ちいっ、惜っしい!」
アスランのジンに意識が行っていたアウルの隙を縫って、インパルスが迫る。
「はあぁぁぁ!」
地面すれすれの低空を飛んでいたインパルスは急上昇してシュナイドシュッツを展開していた右腕を盾の死角からビームサーベルで切り裂いた。
「まず一つ!」
「しまった!? こんのぉー!」
右前腕を壊されたアウルはシンを追いかける、これによってアウルのデストロイをベルリンの中心部から引き剥がす事に成功した。

手を拱いていたキラも、シン達の戦い方を見て接近戦に切り替える。フリーダムのスピードを利用して、すり抜けざまに切りつける得意の戦法である。
攻撃の中を潜りぬけて一撃を入れるようとするが、ネフェルテスやスプリットビームガンに加えて《マーク62》6連装多目的ミサイルランチャーから撃たれる弾幕の激しさに近寄る事が出来ない。
「こうも、攻撃が激しくちゃ」
「落ちろぉ、フリーダムゥ!」
しかし、デストロイの攻撃もフリーダムには中らない。此方も膠着状態に陥るがフリーダムが彼方此方に動き回る所為で市街の被害が拡大していくがキラはそれには気が付かなかった。

ネオ率いるウィンダム部隊はムラサメ隊と戦っていた、戦局は五分五分と言いたい所だが、流石にネオの操るカオスの動きが抜きん出ている。
「ったく、クレタの亡霊とでも言うのかね。お前らはあそこで死んでりゃ良かったものを」
今も1機のムラサメを撃墜して愚痴るネオの上空からニシザワ率いる3機のムラサメが強襲する。
「ゴウ、イケヤ突っ込むぞ!」
「「承知!」」
高高度から吶喊してくるムラサメに対して、ネオは慌てる事無く対処する。
「見えてるってぇの!」
背中のEQFU‐5X《機動兵装ポッド》を開放し、充分に引き付けてからAGM141《ファイヤーフライ》誘導ミサイルを発射。速度の上がっていたムラサメは回避しきれずに被弾してしまう。
「ぐっ」
其処へ《MA‐BAR721高エネルギービームライフル》を撃ち込み難なく1機を撃破すると、すれ違い様に脚部のMA‐XM434《ビームクロー》を展開し翼を切り裂いた。翼を失った機体はそのまま地上へと落下して炎に変わる。
「ゴウー、イケヤー!」
「おいおい、お友達を気にしてる場合じゃ、ないだろ」
僚機2機を撃墜されたニシザワが叫ぶが、ニシザワのムラサメも何時の間にか分離していた機動兵装ポッドに挟み込まれており、MA‐81R《ビーム突撃砲》によって火球へと変じた。
推力が足りなくなって自由落下に移っていたカオスは撃墜を確認すると兵装ポッドを戻して、飛行状態に戻ると次の指示をだす。
「スティング、フリーダムの相手は俺がする。お前はあのデカイ建物をやれ」
指示されたスティングの目には多数の市民が避難しているシェルターがある市庁舎が映った。
「ハイよぉ」
胸部の1580ミリ複列位相エネルギー砲《スーパースキュラ》を市庁舎に向けてトリガーを引く、撃ちだされた光の奔流が遂に建造物に届こうとしたその時上空から躍り出た影があった。
「「ミラーシールド!!」」
掛け声と共にデストロイのビームが反射されて大空高く消えてゆく。
「なにっ!」
「えっ!」
「あれは」
驚きの声と共に目を見張る面々、そして破壊を免れた市庁舎の前に視線を移すと、そこには赤と黒の見慣れない機体が盾を構えていた。
「なに、なんなの?」
「味方なのか?」
キラとアスランが呆けたように呟く。そこへ上空から声が響く。
「待たせたな皆!」
「この声は!」
シンが視線を上空へと向けると其処には黄金に輝く船が滞空していた、GGGが誇るディビジョンⅦ超翼射出司令艦《ツクヨミ》、そしてツクヨミの上部に颯爽と赤い鬣を靡かせて立っているのは、誰あろう獅子王凱である。
「いかに戦争とはいえ、戦いとは無関係の市民を虐殺するなど、決して許さん!」
無差別に町を焼く連合に対して、凱は怒りの雄叫びを上げる。
「イーックイーップゥ!」
イクイップした凱の体に戦装束である黄金の鎧IDアーマーが装着される。
「GGG機動部隊出動だ!」
『了解!』
ツクヨミから次々と飛び出す色とりどりの機体が、先に地上に降りていた2機の周囲に着地する。
衝撃で舞い上がった煙が晴れると、市庁舎の屋根に立つ凱を中心にしてGBR-2《氷竜》GBR-3《炎竜》GBR-6《風龍》GBR-7《雷龍》GMX-GH101《ゴルディマーグ》XCR-13《マイクサウンダース13世》GBR-8《光竜》GBR-9《闇竜》が集っていた。
『GGG機動部隊、此処に参上!』
勇ましい声と共に、GGGの勇者達が此処に完全復活を遂げた。

君達に最新情報を公開しよう
燃え盛るベルリンの町に立つ我らが勇者達
町を破壊するデストロイの脅威の前に
一人の少女が立ち塞がる
次回 勇者王ガオガイガー DESTINY
第15話 『引き裂かれる思い』 にFINAL FUSION承認
これが勝利の鍵だ 《ステラ・ルーシェ》



[22023] 第15話 『引き裂かれる思い』
Name: 小話◆be027227 ID:8fbdcd62
Date: 2010/09/20 10:47

ベルリンで破壊を続けるデストロイと連合軍、それを阻止すべく現れたアークエンジェルとフリーダム。
両者の戦いで被害が広がるベルリン市街、そのベルリン救援の指令を受けたミネルバ隊もデストロイを倒すべく、戦いを開始する。
三つ巴の戦いの最中に、市民が避難している市庁舎に向けてデストロイの胸からスーパースキュラが放たれた。
誰もが市庁舎が炎上する光景を想像して目をそむけた瞬間、天空より救援に現れた者たちがいた。
『GGG機動部隊、此処に参上!』
上空に浮かぶGGGのディビジョンⅦ超翼射出司令艦《ツクヨミ》から町を守る為に地上に降り立った黄金の鎧を纏った勇者、GGG機動隊長の獅子王凱を始めとした、
GBR-2《氷竜》GBR-3《炎竜》GBR-6《風龍》GBR-7《雷龍》GMX-GH101《ゴルディマーグ》XCR-13《マイクサウンダース13世》GBR-8《光竜》GBR-9《闇竜》のGGG機動部隊の面々である。
GBR-4《ボルフォッグ》が居ないもののGGG機動部隊のそろい踏みの迫力に気圧される連合の将兵達。
「ゴルディマーグ!」
「おうよっ!」
凱の声にゴルディマーグが、フリーダムを追い回して町の中心部まで来ていたスティングのデストロイに吶喊すると組み付いて町の外へと押し戻す。
「このデストロイとパワー比べしようってかぁ!」
攻撃の為に飛ばしていた腕を元に戻してゴルディマーグと相撲を取るかのようにがっぷり組むデストロイ、双方の大きさはデストロイ38.07m、ゴルディマーグ25.5mである。しかしパワーの桁が違う。
「どおうりゃあぁぁぁ!」
「なっなあにぃ!」
電車道の如く一気に押され、そのまま侵攻してきたベルリン郊外まで押し戻されるデストロイ。
「こっ、このおぉ!」
ゴルディマーグを押し返そうとスラスターを噴かすスティングだが、僅かに後退速度を弛めるに過ぎない。
「無駄だぜ、俺のパワーを舐めるんじゃねえ!」
「何だ、コイツはぁ!」
組み合って押し返すがビクともしないゴルディマーグに苛立つスティング、状況を変えられるものは無いかとは周りに視線を送ると、シン達に誘導されたアウルが近寄って来るのが見えた。
それを見たスティングはうっちゃりの要領でゴルディマーグをいなすと、アウルに通信を送る。
「手伝えアウル、どうやら今までの雑魚とは違うらしい」
「なんだよ情けねえなぁ、でも了解ぃ。こいつらウザイから、さっさとぶっ飛ばす」
対峙するデストロイ2機とゴルディマーグとシン、レイ、アスラン。そして遅ればせながら、そこへやってきたキラのフリーダムとネオのカオス。
戦いは次の局面へと移っていく。

「GGGはこれより救助活動に入る! 頼んだぞ、お前達!」
『了解!』
凱の支持で先ずは氷竜が火災現場へと向かって消火活動を開始する。
「まずは火災がこれ以上広がらないように消火活動を開始します。フリージングガン! チェストスリラー!」
氷竜の活躍で激しく燃える炎があっと言う間に鎮圧されてゆく。
「消火効率120%、間も無く火災の鎮圧が完了。続いて救助に入る」
「被害の激しいところから優先するぞ。最優先目標は」
『生命!』
炎竜の掛け声に唱和して答える勇者ロボ。言うが早いか、我先に町の中へと果敢に突入して、市民の救助活動を開始する。
「私が瓦礫を退かします、危険ですので下がっていて下さい。パワークレーン!」
氷竜がパワークレーンを使って倒壊した建物等の下敷きになった人を助けようと、瓦礫の撤去を開始する。
「僕が来たからにはもう大丈夫だ、パワーラダー! さあ早く避難を」
炎竜はパワーラダーを伸ばして、高層ビルに取り残された人の救出をする。
「さあ皆、俺の背中に乗ってくれ、まだまだ余裕はあるぜ」
「怪我人や子供が優先ダモンネ、ダイジョウブ、皆マイク達が助けるモンネー」
二人が救助した人々を運ぶのは雷龍とマイクの役目だ。ビークル形態の雷龍のダンプカーのバケット部分とマイクのバリバリーンの中に逃げ遅れた人々を乗せて避難を開始する。
救助作業を行う勇者達に向かって、ウィンダムからミサイルが放たれた。グングンと迫るミサイルを前に救助活動中の機体は防御も回避も取れない。いやそれどころか自らの身を盾にして市民を守ろうとする。
「これ以上誰も傷つけさせはしない。ティガオ2風道弾!(フォンダオダン)」
「そんなミサイル撃ち落しちゃうから、プライムローズの月!」
「ビームだって撥ね返します、ミラーシールド!」
直撃かと思われた其の時、全ての攻撃が撃ち落された。仲間を襲うミサイルやビームから守るのは風龍、光竜、闇竜の3名だ、雨霰と降り注ぐ攻撃の全てを撃ち落し弾き返す。
「僕達が攻撃を防ぎます。皆さんは救助の優先を!」
「でも風龍兄ちゃん、このままあの人達を放って置いたら、他の場所にも被害が出るよ!」
飛行しながら攻撃を加えてくるウィンダム、そのウィンダムと空中で交戦しているせいで地上に被害を広げるムラサメ隊を見た光竜が悲鳴を上げるが凱に一喝される。
「ここで俺達が踏ん張らなくてどうする!」
凱はギャレオンが修理中でMSも無い現在では満足な戦闘行動を行なえない、その代わりに救助作業のサポート全般を受け持っている。
如何に自分達を助けようとしてくれていても、ロボットである彼らに恐怖感を抱く人間も多いので、凱が間に入る事で円滑に回るようにするのだ。
その他でも狭い場所での救助や、自力で避難出来ない人間の介助など、戦う事以外にやれる事は沢山ある。
「住民の避難状況はどうだ」
「ハイ、約70%が避難を完了。しかし市街地の被害が想定より大きいようで、退避行動に13%の遅れが見えています」
凱の質問に風龍が答える。ベルリンは歴史ある街である為に古い建物か多い、その為に衝撃でも壊れた建物が多く彼方此方で道路が封鎖されているようだ。
「そうか、状況を打開する為にもシン達に頑張って貰わないとな」
町の北側に視線を送る凱の側に、ルナマリアが駆るバクゥが近寄ってきて、外部スピーカーで話しかける。
「凱さん、どうして此処に? それにこの人達は」
凱に話しかけるルナマリアのバクゥの背後に、ウィンダムが急降下して来てビームライフルを向ける。
「ウィルッナーイフッ!」
それを見た凱はウィルナイフを引き抜くと、バクゥを足場に跳び上がりビームライフルの砲身を切断する。
「こんのおっ!」
思わぬ攻撃でビームライフルを失ったウィンダムが棒立ちになった所に、背中のビームキャノンを撃ち込んで破壊するルナマリア。
「助かりました、凱さん」
「ルナマリア詳しい話は後だ。俺達は引き続き住民の救助に当たる、奴らの相手は任せるぞ」
凱に言われて、戦闘に戻ったルナマリアは、ウィンダムの攻撃を迎撃している風龍達の前に出て背中のビームキャノンを撃って撃墜する。
「そっちの相手は私に任せて! え、ええっ!?」
ルナマリアがウィンダムを落として叫ぶが、地上へ落下するウィンダムを受け止めた風龍の姿を見て驚きの声を上げる。
「パイロットは無事の様ですね、このままでは爆発します。急いで脱出を」
敵ですら助けようとする姿に驚くが、動きを止めたりはしない。ウィンダム、ムラサメの区別無く撃ち落としていく。
その横で自らも相手の攻撃を捌きながら、落下してくる敵のMSの救助活動を行なう風龍達。
「あの人達がなに考えているか分かんないけど、私は私で出来ることをしなきゃね」
自分が撃ち落した機体を保護するGGGの機体を横目で見ながら、ルナマリアは自分のするべき事を行なう為に機体を走らせた。

ミネルバのブリッジでは、艦長のタリアがツクヨミからの通信を受け取っていた。
「では、あなた方GGGはプラントの要請を受けて我々の救援に来てくれた。と言う事で宜しいかしら」
「いや~、僕としては彼方のような美しい女性の味方するのは臨む所なんだがね。あくまでも我々GGGはベルリン市民の救助活動が優先されると考えてほしい」
モニターに映っているのは、奇抜な髪型(譬えるならピンクのカリフラワー)で鷲鼻の初老の男性GGG技術部のトップである獅子王雷牙博士だ。
雷牙博士がツクヨミに乗っているのは、長官が不在である現在、参謀である火麻が基地を離れるのは如何なものかという話があったからである。
「承知しました、ではミネルバは郊外に出た連合のMSを叩きます」
「うむ、ベルリンの事は万事、我々に任せてもらおう」
力強い言葉に頷き、町と住民の事を任せてミネルバはデストロイへと向かう。
「戦線を押し上げて、連合のMS隊を引き付けます。シン達と合流してあのMSを倒すわよ」
ミネルバは後の事をGGGに任せるとウィンダムの攻撃で彼方此方から煙を上げながらもシン達の援護へと向かった。

ベルリン郊外に戦いの場を移した一同は、2機のデストロイによる凄まじい火線に晒されて膠着状態に陥っていた。
もっともゴルディマーグは直撃を受けても大したダメージは無いので、避ける事をしない。
しかし如何に攻撃を仕掛けてくるMSと云えども人間が搭乗しているのでは破壊する訳にもいかない、自分の後ろにあるベルリンへと進もうとするデストロイに組み付いて押し戻すだけだ。
「ちっ、それにしても頑丈だな、コイツ!」
「ふんっ、そんな攻撃、蚊に刺されたようなもんだぜ。とはいえこっちも手詰りかよ」
アウルはデストロイにダメージを与えられるのはインパルスだけと見て、攻撃を集中させていた、シンは町に攻撃が広がらないようにデストロイの上空でその猛攻撃をかわし続ける。
「オラオラオラオラ、さっきまでの勢いは如何した!」
「くそっ、このままじゃジリ貧だ。何とか成んないのかよ」
アスランとレイが牽制に動くが、ジンの武装ではPS装甲に通用しない。そこへ漸くウィンダム部隊を撃退したムラサメ隊とカガリの乗るルージュが救援に訪れた。
「なにやってる! さっさとコイツを何とかしろ」
言うが早いかビームライフルをデストロイに向けて放つルージュだが、その攻撃も当然の如く弾かれる。
「ああん、雑魚は死んどけっつの!」
この攻撃で目標を変更したアウルが、周囲を飛び回るムラサメに対してネフェルテムを撃ち込む。その一つがルージュのエールストライカーに直撃した。
「きゃああああ!」
「カガリ!」
錐揉み状態で落下するルージュを間一髪で捕まえて、自分のSFSへと乗せるアスラン。
「す、済まないアスラン。助かった」
「バカ野郎、なんでこんな事をする。オーブを戦わせたく無いんじゃないのか君は!」
助けてもらった礼を言ったら、いきなり怒鳴られたカガリは、初め面食らったが直ぐに反論する。
「な、そんな事、でもこんな酷い事、黙っていられる訳無いだろう!」
「それでも、ここでオーブを戦わせるのは、オーブの理念に反する事じゃないのか!」
「そうかもしれない。でも!」
「でもじゃない!」
二人は今の状況では、場違いな口論を始めてしまったが、そこへデストロイがツォーンを撃って来る。
「くっ、カガリは降りて隠れていろ。君の腕では足手まといになるだけだ」
「えっ、アスラン何を!」
この攻撃を擦れ擦れで攻撃をかわしたアスランは、低空飛行に移ってルージュを降ろすとデストロイを止めるべく戦線に復帰した。

キラは、ネオの操るカオスと交戦していた。動き回るカオスに対して攻撃を仕掛けるものの悉くかわされる。
「攻撃がワンパターンなんだよ、フリーダム!」
「こっちの攻撃が読まれてるの? それにこの動きには覚えがあるような」
ドックファイトを繰り広げる両機の間をビームが抜けていった、ビームの来た方向に視線を向けるとミネルバが接近してくるのが見て取れる。
「ちっ、ウィンダム部隊が落とされたか。また面倒な相手が増えたな」
GGGが現れてから不利になる戦況に舌打ちをするネオであった。

この戦闘をステラ・ルーシェは医務室のベッドで聞いていた。全てでは無いが在る程度の戦況は此処へ運ばれてくる人間の話し声から判る。
どうやら、今ミネルバが戦っているのは連合軍で、その中にカオスが居る事。ならその部隊は自分が居たファントムペインだと判断する。
ステラにとって、シンは自分を守ってくれる人だ、そしてそれはネオも同じだと思っている。それにスティングやアウルだって大切な仲間だ。
「行かなきゃ、シンがステラを守ってくれるなら、ステラも大切な人を守らなきゃ」
体の調子は万全とは言い難いが、一時期に比べればまだ動く。幸いかどうか今ならドクター達は他の人の治療で忙しい、隙をみつけてステラはMSデッキへと頼りない足取りで向かった。
運良く途中では誰にも見つからずにMSデッキに辿りついたステラは、周りを見回すと奥に修理中のガイアが在るのを見つけた。
コクピットに入り状態を確認すると、コクピットのカバーが壊れたままではあるが、幸い動かす事はできるようだ。
四足獣形態に変形さえしなければ、そうそうコクピットから投げ出される事もないだろうと判断してシートベルトを着けてシステムを起動させる。
「皆を守りに行く、ハッチ開けて! 開けなきゃぶっ壊す!」
この物言いと剣幕に驚いたヨウランは味方が乗っていると勘違いして、ハッチを開けてしまう。完全に開ききる前にデッキから飛び出してゆくガイア。
「待ってて、今ステラが行くから!」
今までの戦いとは違う決意を持って、ステラが再び戦場へと向かった。

相手の戦力が整ってくるのを見たネオは、周辺を見回してある事に気が付いた。途中で現れた謎の部隊は、此方からの攻撃に対して迎撃や防御は行なうが、攻撃を仕掛けて来ない。
何をしているのかと見て見れば救助活動に動き回っているだけだ。その動きを確認する為に指示を出す。
「スティング、町に向かって一発ぶち込め。人がいる所を狙ってな」
ネオの指示を受けた二人は背中のアウフプラール・ドライツェーンを町に向けて放つ。
「危ない!」
それに気が付いた闇竜がミラーシールドを掲げて防御するが、流石に一人では防ぎきれない。
「闇竜、大丈夫?」
隣に炎竜からミラーシールドを借り受けた光竜が並び、何とかビームを弾く事に成功する。
その光景を見たネオはある考えを持って指示を出す。
「そう言う事か? お前ら、まともに相手するんじゃない。町に向けて適当にばら撒けば勝手に当たりに来てくれる!」
ネオの指示を受けたスティングが試しに指先のスプリットビームガンを放つと、先程と同様にシールドで攻撃を防ぐ。
「こっ、この野郎。お前の相手は俺だろうが」
腰にガッチリと組み付いて、デストロイの動きを止めていたゴルディマーグが焦った声を出すのをみてスティングは酷薄な笑みを浮かべる。
「なるほどな。馬鹿な連中だぜ、態々身代わりになってくれんだとよ」
「ははっ、そういう事ならぁー!」
シンを追い掛け回していたアウルも砲口を町へと向けて撃つ。
「やらせるかぁー!」
気合の声と共にSEEDを発動させて防御に入るシン、SEEDを発動させると人機一体となった感覚によってまるで機体性能すら上がったかのように感じる。
縦横無尽に動き回りミサイルは撃ち落し、ビームは盾で弾く。それでも可也の攻撃が町に降り注ぎ建物を瓦礫に変えてゆく。
町が炎に炙られる光景は、シンに家族を失ったあの時を思い出させる。こんな事は許してはいけない、その思いを叩きつけるシン。
「お前の相手は俺だろ、間違えんな!」
「違うね、俺達の仕事は町を灰にする事なんだよ!」
再び攻撃態勢に入るデストロイと攻撃を止める為に特攻しようと構えるシン。その両者の間にミネルバから飛び出したガイアが両手を広げて立ち塞がる。
「もう止めてー! こんな事もう止めてぇ!」
そのガイアから全周波数と外部スピーカーを使った悲痛な叫び声が放たれた。
「今の声、ステラ!?」
「何故彼女がガイアに乗っている?」
単純に驚くシンとレイ。
「ああん、なんだコイツ?」
「なんだ、この声覚えがあるような?」
消え去った記憶の残滓によって、違和感を覚えるスティングとアウル。
「ガイアだと、それにさっきの声は、まさかステラなのか」
ロドニアに無断で出撃して撃墜された事で、損失扱いにしたステラが生きていた事に驚いたネオの動きが一瞬止まる。その隙を見逃すキラでは無い。
「動きが止まった? 今だ!」
ラケルタビームサーベルで斬りかかるフリーダム、しかし間一髪の所で直撃は回避するカオスだが、回避しきれずにコクピットのカバーが壊れて内部が剥き出しに成ってしまう。
コクピットを破壊された破片と衝撃によって、ネオが被っていた仮面に亀裂が入り二つに割れてしまう、その仮面の下から出てきた素顔を見たキラは、驚愕して動きを止めてしまった。
「そ、そんな、まさかムウさん?」
今度は逆に動きの止まったフリーダムを見逃すネオではない。
「動きが止まったな、フリーダム!」
全部の兵装を一斉射撃するカオス、キラは咄嗟に回避運動に入るがビーム突撃砲の一撃を避けきれずに背中の《バラエーナ》ビーム砲を放熱用のウイングごと破壊された。
「しまった、バラエーナが死んだ」
これではフルバーストが使えなくなって戦闘が苦しくなる、それにカオスに乗っているのが本当にムウなら連れ戻さなければ成らないと判断したキラは、攻撃を躊躇うようになった。

呼びかけによって、動きの止まったアウルのデストロイに取り付き、再度呼びかけるステラ。
「シン守るって言った、だから守りたいだけなの。だから!」
「守る、守るって何言ってやがる!」
接触回線でアウルの声を聞いたステラが更に呼びかける。
「この声、アウル。アウル、ステラ守るよ、だからもう止めよう」
「なんだよ、なんなんだよお前、なんで俺の知らないヤツが、俺の事知ってんだよ!」
その声に消された記憶が何かを訴えてくる。その奇妙な感覚に我を忘れて暴れまくるアウル。
「きゃああああっ」
振り回された勢いで弾き飛ばされたガイアを、咄嗟に受け止めるインパルス。
「どうしてステラが、ガイアに乗ってるんだ」
通信を送ると医療用のガウンを着てコクピットに座るステラの姿が映った。
「シン守るって言ってくれたから、ステラも守るの。それにスティングとアウルもネオも」
ステラが言った事をそのまま受け取れば、つまり自分が守ると言ったから同じように自分の事も守ろうと言う事だろう。それに話に出た人達はステラの仲間だったはずだ。
「じゃあ、あのデカイMSに乗っているのは、ステラの仲間なのか!?」
そうだとすればエクステンデッドに違いない、他人によってその人生を、在り方を歪まされたステラと同じ存在。そう考えた瞬間、シンは叫んでいた。
「お前達もエクステンデッドか、ならこんな事はもう止めろ。無理矢理戦う必要なんか無いんだ」
ステラと一緒に叫ぶシンだが、返ってきたのは砲声だった。
「五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い。気持ち悪いんだよお前ら、消えろぉ!」
無差別に暴れまわるアウルは辺りに破壊を撒き散らす。それを見たステラがシンを振り切って飛び出した。再び正面で相対するデストロイとガイア。目の前に飛び出してきたガイアを見たアウルが叫ぶ。
「この気持ち悪いのは、お前だぁー!」
デストロイの胸からスーパースキュラが放たれ、巨大なビーム光線がガイアを飲み込もうとする。
「うおおおおっ! 絶対に守ってみせる!」
その瞬間、突っ込んだインパルスがガイアを弾き飛ばして助けるが自身は攻撃を避けきれない、咄嗟にシールドを翳すのが精一杯である。
ガイアの代わりに攻撃を受けたインパルスであったが、何とか原型は留めているものの、頭部と両足は千切れ飛び、武装も無くしてしまう。
「メイリン、チェストとレッグ、それにブラストシルエットを出してくれ」
咄嗟にメイリンに指示を出して、コアスプレンダーを分離させようとするが、チェストは外れたが、フレームが歪んだのかレッグが分離できない。上半身をはずした事で推力を失って落下するインパルス。
「なっ、分離出来ない!?」
「換装なんぞさせるか、止め刺してやる」
中途半端に分離したインパルスが地上に落ちるのを見て、踏み潰そうとするデストロイの足にしがみ付くガイア。
「ダメ、シン殺しちゃダメ!」
「さっきから、ウザイんだよ。お前ぇ!」
アウルはデストロイにしがみ付くガイアを蹴り剥がす。蹴り飛ばされたガイアは地面に叩きつけられた。
「きゃああああ! ガッ!」
衝撃で気を失うステラ、動きの止まったガイアを左腕で掴み上げ、今度こそ破壊しようと頭部のツォーンを向けたところで、フリーダムと交戦中のネオから通信が入った。
「よせ、アウル。そいつは回収しろ」
不可解な命令に不服そうな声を上げるが、繰り替えされては従わざるを得ない。
「これで引き上げってこと?」
「そうだ、もっとも帰りの駄賃は貰ってゆくがな。スティング、ミネルバを殺れ」
ネオに言われたスティングはミネルバを観察する。彼の船は続けざまの戦闘で疲弊しており、護衛のMSは居らず、ここに到着してからもウィンダムの攻撃で彼方此方が破壊されている。
スティングのデストロイもゴルディマーグによって、下半身はガッチリと固められて動けないが、攻撃された訳ではないので武装は健在だ。
「OK」
両腕を飛ばしてミネルバに狙いをつける。それを見たアウルのデストロイを牽制していたアスランと、動け無いインパルスの回収に当たっていたレイのジンがカバーに入るが、間に合わない。直後デストロイの指先に装備された10条のスプリットビームがミネルバの船体を貫いた。

直撃を受けたミネルバのブリッジでは怒号が交錯していた。
「ダメージコントロール、両舷隔壁緊急閉鎖!」
「エンジン出力低下、このままでは市街に落着します!」
「町への被害は最小限に止めて! 各員脱出用意!」
「ダメ、落ちる!」
「大丈夫だ、俺達が何とかする!!」
誰の声かは分からなかったが、その声が艦内全てに響いた瞬間全員が希望を取り戻した。
いや誰の声かは直ぐに全員が理解した、なぜならこの頼りがいのある声は共に戦った勇者の声だからだ。
凱の声に呼応して、風龍、雷龍、ゴルディマーグの3人が落下するミネルバを支えていた。
「頼むぞ皆!」
戦艦の一隻くらいならこの3人で郊外まで運ぶことが出来るだろう。
デストロイとカオスの相手は光竜と闇竜に代わっている。二人は飛んでいたデストロイの両腕を早々に撃墜すると本体の足止めに掛かろうとしたが、肝心のデストロイが退却を始めた。

ミネルバの撃墜にまでは到らなかったが、エンジンと船体は破壊した事で航行能力は奪った。それを確信したネオはスティングとアウルに下がるように命令すると次の作戦に移る。
「ボナパルトの乗員は退避しろ、どの道灰にする予定の町だ、あいつ等ごと綺麗サッパリ消えてもらおう」
陸上空母のボナパルトにはいざという時の為に核ミサイルが積んであった。只打ち込むだけでは、この連中なら如何にかしてしまう可能性が高い。
「だが街中で起爆するなら如何するかな、正義の味方さん達」
必死にミネルバを運ぶ勇者達を見ながら、後方で待機している陸上戦艦へと帰還するネオのカオスとスティング、アウルのデストロイ。そしてデストロイの腕に捕らえられたステラの乗るガイア。
「あれはガイア? まさかあいつ等ステラを。くそっ、ステラァー!」
連れ去られるガイアを見たシンは、コクピットの中で叫んでいた。

ミネルバを何とか不時着させた凱は戦闘を行なっている方向へ視線を向ける。するとデストロイが下がるのに代わり後方にいた超大型の陸上艦が突進してくる所であった。
それを見た凱は何か引っかかるものを感じて、咄嗟にスキャンするように指示をだす。
「あの陸上艦から核反応を確認!」
「なんだと! 押し戻せ!」
凱の叫びに勇者達が飛び出し、ボナパルトに取り付き押し返す。しかし流石に大きさと重量の差によってジリジリと押される勇者達。

ボナパルトがGGGによって食い止められている光景を見たキラは、退却するカオスを追いかけるのを止めて、その上空へ飛んでいった。
「これを壊せば、良いんでしょ」
ボナパルトを破壊すれば連合のベルリン侵攻が頓挫すると判断したキラは、ビームライフルの銃口を向ける。引き金を引こうとした直前、目の前にアスランが乗るジンのSFSが割って入ってきた。
「アスラン、邪魔しないで」
「お前こそ何をしようとした。あれには核が積んで在るんだぞ!」
アスランからの通信を受けて慌ててアークエンジェルに連絡を取ると、マリューから今、調べるので待つように言われた。
ボナパルトをスキャンして核反応を確認したアークエンジェルは、即時撤退を決める。
「キラ君、カガリさんを回収して戻って!」
「え、でもこのままじゃベルリンの町が」
「言いたい事は分かるわ。でも此処で彼方やカガリさんに万が一の事があったら、世界はどうなるの。悔しいけれど分かって頂戴」
マリューの説得に納得するキラ、確かにここで自分やカガリに何かあったら、この混乱した世界を正す事が出来なくなってしまう。
「分かりました。悔しいけれど後はザフトに任せて、僕達は離脱しましょう」
キラはアスランの乗っているSFSに近づくと通信を送る。
「アスラン、君も僕たちと一緒に行こう。此処に居てはダメだ」
「そんな訳にいくか、まだミネルバが残っているんだ」
「でも、これ以上は無理だよ。このまま此処に居たら爆発に巻き込まれる、その前に離脱を」
「そうだ、私達と一緒に行こうアスラン」
説得を繰り返すキラとカガリだが、アスランは聞き入れない。
「キラ君、時間が無いわ。急いで!」
ムラサメ隊の回収が終わり、残っているのはフリーダムとルージュだけだ。業を煮やしたキラはアスランを強引に連れて行こうとするが、そこにレイのジンが近寄ってフリーダムに攻撃を仕掛けてくる。その攻撃を避けて反撃するキラ
「レイ止めろ、キラお前もだ。今はそんな場合じゃないだろう」
アスランが叫ぶが、戦いの決着は一瞬で着いた。いかにダメージを負うともフリーダムとジンでは相手にならない。達磨にされてSFSから落下するレイ、そのレイのジンを空中で回収するアスラン。
マリューから再度の撤退を進言されたキラは、その隙に飛行能力を失ったルージュの手を引いてアークエンジェルへ帰還する。
「アスラン、僕達の目指す所はきっと同じなんだ。だからいつか分かり合えるよね。それまで無事で居て」
「待て、キラァー!」
アスランの叫びもキラには届かない、追いかけたい衝動に駆られるが此処で離脱するわけには行かない。
「くそっ、キラ、カガリ何で分かってくれないんだ」
フリーダムとルージュを収容したアークエンジェルが、戦域外へ離脱するのを見送ったアスランの呟きが吐息と共に消えていった。

力自慢のゴルディマーグを中心にしてベルリンへと迫るボナパルトを押し返すが、このままでは町の中に入られてしまう、いや今の場所で爆発してもベルリンは壊滅するだろう。
まだ爆発しないのは単純にネオ達が爆発圏外まで退却中であるからで、退避行動が終れば躊躇無く爆発させるだろう。
それならば相手のタイミングで爆発されるよりは、此方で破壊した方が対処しやすい。爆発の威力と放射能を防ぐ手段は有ると判断した凱が命令を下す。
「頼むぞ、氷竜! 炎竜!」
「了解、行くぞ炎竜!」
「おうっ、氷竜!」
凱の意図を即座に理解した二人が走り出す。
「「シンメトリカル ドッ キンッ グ!!」」
竜型ビークルロボである二人のシンパレートが頂点に達した時、氷竜が右半身、炎竜が左半身に変形して《シンメトリカルドッキング》することによってハイパワーロボット《超竜神》が誕生するのだ。
「超ー竜ー神!」
超竜神に向かって上空のツクヨミから、超振動を発生させて炎や爆発を大気中より瞬時に消す事の出来るメガトンツール《イレイザーヘッド》が射出される。
イレイザーヘッドを受け取ってボナパルトへ向けて構える超竜神。
「隊長、準備完了です」
「俺が撃ち抜くからタイミングは任せたぞ」
超竜神へ告げると走り出す凱。不時着したミネルバの下に到達したところで外部装甲を蹴り上がり、上部にあるXM47《トリスタン》の上に降り立った。
膝立ちになって手を触れると射撃システムに直接介入して射撃体勢を整える。
火器管制を奪われたタリアが慌てる。
「何をするつもりなの! 凱」
「あの戦艦を破壊する」
敵戦艦を破壊する事をブリッジへと告げる凱に対して、タリアは破壊した時の危険性を指摘する。
「正気? あれには核が積んで在るのよ」
「承知の上だ。任せろ、何とかしてみせる!」
自身に満ちた力強い声でそう言われては反論も出来ない。それに彼は今までも奇跡を起こしてきた。その凱が言うのならば否は無い。
「分かったわ、私達の命もベルリンの運命も全て凱、彼方に託します」
「ああ、託された。よし、此方の準備も整った。カウントダウンだ!」
「了解、5!」
凱から破壊のタイミングを任された超竜神が秒読みを開始する。
「4!」
カウントダウンが進むごとに緊張が高まって行く。
「3!」
ボナパルトを抑えこむ勇者達は着弾の一瞬前に離脱する準備を始める。
「2!」
ミネルバのクルーが一瞬たりとも目を離さぬと視線を送る。
「1!」
ベルリンの市民が天に祈る。
「発射ぁ!!」
「イレイザァー ヘェェッドォー!」
凱の声と共にトリスタンのビームがボナパルトへと放たれると同時に、ボナパルトを押さえていた勇者達が一斉に離脱する。
0コンマ数秒の差を持って超竜神がイレイザーヘッドを撃ち込む。
先に到達したビームがボナパルトを火球に変えるのと同時に、イレイザーヘッドによって作り出された超振動力場によって、爆発の衝撃と拡散する炎そして周囲を汚染するはずであった放射能の全てが天高く舞い上げられる。
さながら天地を貫く光の柱のように、全ての力が成層圏へと運ばれ、その光が消えた後に残ったのは、僅かに地面が焦げている痕跡だけであった。

爆発と次に天へと立ち上った光の柱に目を眩ませたタリアであったが、徐々に小さくなっていく光が収まると観測手へと状況を尋ねる。
「どうなったの?」
問われた観測手は自分でも何度か目を擦ると、まるで狐に鼻を抓まれたような表情で返答する。
「観測の結果、被害は敵艦のあった場所の地面のみのようです。爆発エネルギーの殆んどは消失、放射能汚染もほぼ0、レントゲンレベルです」
「ハ、ハハハ本当に何とかしちゃいましたね。艦長」
助かった事に安堵したアーサーが椅子からずり落ちる。どうやら腰を抜かしたらしい。
「本当にね、あの人達が味方で良かったわ」
赤と青の機体の周りに集った勇者ロボ達を見ながらタリアは漸く息を吐いた。

ツクヨミ内で計測していたスワンから、報告が上がる。
「全エネルギーのうち99.99998%の成層圏への放出を確認しました。放射能の汚染レベルも問題アリマセーン」
「うむ、ベルリンは救われたの。ところで攻めてきた連合の部隊はどうしとる?」
報告を受け取った雷牙博士は次の行動を視野に入れて、連合の動きを尋ねた。
「撤退を始めたみたいデース。追いかけマスカ」
「いや、それよりも市民の救助を最優先じゃ。まだまだ休めんぞい」
外に目を向ければ、合体を解いた氷竜と炎竜も加わって救助作業が再開されていた。

凱達がベルリンでの死闘を終えた頃、木星の巨大重力の渦の中である《存在》が目覚めた。
《ソレ》は長い時を眠っていた。遥かな昔自らを生み出したモノが滅び去り、《ソレ》もまた朽ちて逝くだけの存在であった。
だが此処数年で、《ソレ》を蘇らせるに足るエネルギーが届くようになった。
エネルギーとは《ソレ》を生み出したモノが恐怖と、憎悪と、悲哀と、諦観と、嫉妬と、怒りと呼ぶ負の力である。
《ソレ》が生み出された目的は、そういった負のエネルギーを喰らい、浄化する事であった。《ソレ》はその本能に従い、ゆっくりと目を覚ます。
『ZON・DER!』
一つ咆哮を上げて自らの存在を誇示すると、自分の糧となるモノへと向かって動き出した。
木星で目覚めた《機械生命体ゾンダー》が目指す先、それは地球である。

君達に最新情報を公開しよう
遂に姿を現す機械生命体ゾンダー
人類の敵の前にして遂に手を取るプラントと連合各国
しかし、その裏で暗躍する者達がいた
次回 勇者王ガオガイガー DESTINY
第16話 『結成 GGG』 にFINAL FUSION承認
これが勝利の鍵だ 《Gutsy Galaxy Guard》



[22023] 第16話 『結成 GGG』
Name: 小話◆be027227 ID:8fbdcd62
Date: 2010/09/20 10:48
ベルリンでの戦いは一応の終結を見せたものの、都市機能の大半とライフラインが寸断された為に市民の大半は知人を頼って他の町へ疎開することになった。また、町に残り復興を担う人達も暫くは不便な生活を強いられる事になるだろう。
目の前に広がる焼け落ちた光景に、シンはオーブを脱出した時の事を重ねていた。
町を守れなかった悔しさに歯噛みするシンの前を安全な場所へと避難する人の列が通っていく。その中に居た少女が転んだのが見えたので、近寄って声を掛ける。
「大丈夫かい、怪我は無い」
その声に対して少女より幾分年嵩な少年が飛び出してきてシンを突き飛ばし、少女を自分の後ろに庇ってシンを睨みつける。
「お前ザフトだろ、ザフトが此処に居たから俺たちの町が焼かれたんだ!」
顔立ちが良く似ていることからおそらくは兄妹なのだろう、この騒ぎでも親が出てこない事からして、両親はこの戦いで命を落としたのかもしれない。
少年の余りの剣幕に怯むシン。少年の後ろにいた少女は自分の前にいる少年の服の裾を握り締めて震えている。睨みつけて来る少年に対して一歩近づいて話しかける。
「妹かい?」
「だったら何だってんだよ」
「なら、ちゃんと守ってやるんだぞ」
「そんなの当たり前だろ、お前なんかに言われなくたって守るさ」
妹の手を引きながら、捨て台詞を残して列に戻っていく二人を目で追いながら自分の力の無さを改めて自覚する、あの時も連合が市街地へと攻め込んできた。
防衛に当たったオーブ軍も自分達が守るべき町で市街戦を繰り広げて被害を拡大させ、避難する途中で自分の家族はフリーダムの流れ弾に当たって死んだ。
「まるっきり、同じじゃないか」
こんな光景を二度と見たくないから、理不尽から人を守れる力を手に入れようとザフトに入ったのに、結局は守りきれずに自分と同じ境遇の人間が増えてしまった。
さらに守ると約束したステラに助けられた上に、その彼女を連れ去られたことで、後悔に沈むシンであったが、其処へ後ろから声が掛けられる。
「シン、大丈夫だったか」
「凱さん」
シンが振り向くと凱が立っていた。凱はシンの横まで歩いてくると破壊された町の中で黙々と救助活動を続けるGGGの勇者達を見ながら、シンの頭に手を置いて乱暴に撫でた。
「見てたぞ、もっと胸を張れ。少なくともお前達が居なければこの町はもっと酷い事になっていた」
「でもさっきの子の言っていた事も事実です、俺達だけじゃ何も守れませんでした。町の人達だって凱さん達が来てくれなかったら如何なっていたか。それにステラも連れ去られてしまって」
「俺だって悔しいさ。でも俺達は神様じゃ無いんだ、如何したって出来ない事はある。それでも諦めなければ希望は何時だって残されている。そうだろう」
凱も戦いの中で父親である麗雄や同僚であったパピヨンの様に仲間を失っており、またシュウを初めとして助けられなかった人間も存在する。
機械31原種やソール11遊星主と戦った時には敗北を喫した事も在り、決して挫折を味わわなかった訳ではない。だからこそ凱の言葉は人に勇気を与える事が出来るのだ。
凱の言葉を聞いたシンは、自分の顔を両手で叩いて沈んでいた気持ちを奮い立たせる。
「大丈夫ですよ。俺、絶対に諦めませんから《GGG憲章第5条125項、GGG隊員はいかに困難な状況にあろうとも、決して諦めてはならない》ですよね」
奪われたのなら奪い返せば良い、救えなかったものがあるなら次は必ず救ってみせる。今日の自分が出来ない事も、明日の自分になら出来ると信じる事、それも《勇気》だ。
「そうだな、俺達も救助の手伝いに向かうぞ」
「ハイ!」
シンの顔に生気が戻ったのを見て走り出す凱、その背中を追いかけて走り出したシンはこれから自分の進むべき一つの道を見据えていた。

ミネルバのブリッジにて艦長のタリアは整備主任のマッド・エイブスから被害報告を受け取っていた。書類を見ながらマッドに尋ねる。
「どうかしら、直りそう?」
「無理ですね、船体のダメージが半端じゃありませんし。なによりエンジンが完全にお釈迦です。直すぐらいなら新しく作ったほうが早いし安上がりですよ」
今までの激戦を潜り抜けてきたミネルバを修理してきた整備主任のマッドに、そうまで言わせるという事は本当にもう駄目なのだろう。
残念ながらミネルバは放棄せざるを得まい。まさか正式な就航式も行なわないまま、廃艦になるとは想像すらしていなかったタリアは思わず笑ってしまう。
「ご免なさい、笑うことでは無かったわね。でもこの艦は正式に就航していないのにもう廃艦よ。なんだか可笑しくって」
怪訝な顔をする、アーサーとマッドに向けてそう言うと乗組員と現状についてアーサーに尋ねる。
「はっ死者13名、重軽傷者は合わせて48名、既に後送の準備は整っております。MSはアスランのジンとルナマリアのバクゥが健在、インパルスはコアスプレンダーの修理が完了すれば運用できます」
「そう、味方の救援は」
「近隣のザフトは壊滅状態、またジブラルタルも連合の艦隊と一戦交えたそうです。黒海沿岸の駐留部隊が少数と本国からの降下部隊が、支援物資を持って此方に向かっており、合流まで8時間との話ですね」
アーサーの報告を受けてタリアは首を傾げた、司令部からは交代でジブラルタルへ出頭するように通達が出ているが、ミネルバが動けないのでは如何ともしがたい。
「艦長、上空のGGG艦《ツクヨミ》より通信が入っています」
悩むタリアにメイリンから報告が上がる。繋ぐように言って居住まいを正すと正面モニターに先程も話した初老の男性が映る。
「改めまして、ご挨拶させていただきます。ミネルバ艦長のタリア・グラディスです」
「こちらこそ、GGG技術部主任、獅子王雷牙です」
獅子王の名前から凱の関係者とあたりをつけたタリアが尋ねると、雷牙は凱の伯父であり先日会ったルネの父親であるらしい。
見た目の年齢から考えれば祖父と孫ぐらいの年齢差があるようだが、こちらは見た目の印象どおりにバイタリティに溢れているのだろう。
「話と言うのは他でもない、ミネルバのクルーとMS等の機材一式をツクヨミで運んでやろうと思っての。なーに気にする事はありませんぞ、我々は共に戦った中ではないですかな」
妙に爽やかな、言い換えれば胡散臭げな笑顔を向けられ返答に窮するタリア達に対して雷牙は実に嬉しそうだ。
何でもGGGの長官がジブラルタルへと来るので、迎えに行くついでにという事らしい、確かに、現状ではミネルバは動けないし、援軍には自分達をジブラルタルへと送る余裕も無い。
訝しげに聞いていたタリアであったが、協議の結果この申し出を受諾する事にした
数時間の後、ザフトの救援部隊が到着するのと交代にツクヨミはミネルバのクルーを乗せて一路ジブラルタルへと進路を取った。

ファントムペイン指揮官であるネオ・ロアノークは、ロゴスの盟主であるロード・ジブリールに連絡を取っていた。
「デストロイを使ってあの体たらくだと、何をしているのだ貴様は! あの厄介なミネルバを落とした事は評価しよう、しかし手ごわい敵が現れたからといって、おめおめと引き下がるとは如何いう事だ」
「送りました資料映像は」
「無論、見た。その上で言おう、なんの為のデストロイだと思っている」
「そう言われては返す言葉もありませんな」
ジブリールとしても送られてきた映像に映っていた色取り取りの機体の性能には驚いたものの、その機体は直接戦闘に係わっていない。
それどころか市民の救助活動に従事し撃ち落された此方のウィンダムすら助ける間抜けさ加減だ。そんな連中を相手にして虎の子のデストロイが、歯がたたない等とは到底認められない。
「まったく上も下も失敗とはどれ程の損失か。まあ良い、奴らの情報は此方でも集めている。次の作戦まで鋭気を養っておけ」
「ハ、ところで回収したステラの事なのですが」
「ステラ? ああ3号か。それがどうかしたか」
「スタッフの話では衰弱著しく、このままでは戦闘には使えないとの事でして」
詰まらなそうに話を聞いていたジブリールは、そのまま廃棄を告げようとしたが、ふと考え直した。
実の所、今回の作戦はベルリン侵攻だけでは無く、宇宙でもDSSDが開発中の次世代MSの接収計画を並行して進めていたのだが、此方も旗艦である戦艦ナナバルクが中破、MS部隊もほぼ壊滅と散々な結果である。
ステラは使い古しのポンコツとは言えエクステンデッドには違いない。修理が効けば良し、最悪データ取りには使えるだろうと判断して、ヘブンズ・ベースへの後送を命じた。
「了解しました、3号はヘブンズ・ベースへ送ります」
ジブリールとの通信を切ったネオは、ブリッジへと繋ぎステラの後送と情報を集める事を指示する。
「さっきの様子だと宇宙の方も失敗のようだしな。こりゃ益々俺達がこき使われそうだ」
被っていた予備の仮面を脱ぐと、こめかみを揉みながら嘆息した。その傷だらけの顔は嘗てムウ・ラ・フラガと呼ばれた人間と同じ顔をしていた。

プラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルとGGG長官大河幸太郎は、軍事ステーションでの話し合いを終えてジブラルタルへと降下していた。
そこへ東の空からGGGの隊員達とミネルバクルーを乗せたツクヨミが到着して、タラップから凱達が降りてくるのを滑走路上で迎えて、到着した面々を労う幸太郎とデュランダル。
「久しぶりだな凱、無事でなによりだ」
「長官こそ、元気そうで安心しました。ところで此処に議長と二人で来たという事は」
「うむ、その話については場所を変えよう」
GGG側は凱、雷牙、スワンの三人、ミネルバ側はタリア、アーサー、アスランの三人が別室に通され、幸太郎、議長と話し合いを行なう事にした。
滑走路が見える部屋へと通されて席に着くと、先ずはデュランダルが今回のベルリンでの活躍を労った。
「ミネルバにはアーモリー1以来、随分と苦労を掛けてしまった。にもかかわらず良く活躍してくれたね。評議会でも代表して君にネビュラ勲章をという話になっている」
「いえ、自分達は職務を果したに過ぎません。それに今回ミネルバを沈めてしまいました」
「確かにミネルバは今回の戦いで沈んだが、此処までの戦果を考えれば恥じる事も無いだろう」
「そう言っていただけると助かります」
デュランダルに対してタリアは申し訳無さそうに答えた、自分の預かった艦を失った事には、やはり忸怩たる思いがあるようだ。デュランダルは次に凱達に向き直る。
「今回の一件ではGGGの皆さんには大変お世話になりました。それに凱君にはユニウス7以来ずっと助けてもらってすまないと思っている」
「気にしないでくれ、市民の虐殺など絶対に許せる事ではないし、此方も色々と世話になっている」
「凱の言う通りですな、今我々は同じ目的の為に協力しています。ところでグラディス艦長達は、現在我々が置かれている状況をご存知ですかな?」
凱の後を幸太郎が継いで話し出し、現在の情勢を知っているか尋ねる。タリアは以前に凱から少し聞いていたが、アーサーとアスランは何も聞いていない。
「そうですか、ではお話しましょう」
そして大河の口より語られた真実は驚くべき内容であった。木星に存在が確認された《ゾンダー》それは嘗て凱達の地球に来襲した恐るべき敵である。
全宇宙の機械昇華を企む《機械文明》はその尖兵たるゾンダーEI(Extra‐Intelligence)-01を地球へと送り込んできた。
EI-01は配下の《機械生命体ゾンダリアン》である《機械四天王》を使い、マイナスエネルギーを発するストレスを持った人間を《ゾンダーメタル》によって破壊メカである《ゾンダーロボ》へと変えて地球侵攻を開始した。
そしてゾンダーロボが成長する事で生まれる、更なるゾンダーを生み出す苗床《ゾンダーメタルプラント》を使って地球の機械昇華を目論んだ。
その野望に敢然と立ち向かった勇者王ガオガイガーとGGGは、長い戦いの末、東京決戦にてEI-01と機械四天王を、更に現れたZX(Zonder‐Exception) 《機械31原種》を退け、木星にて全ての元凶である《Zマスター》を倒す事に成功、全てのゾンダーは活動を停止した。
「しかし、なぜかこの世界の木星にてゾンダーメタルが発する《素粒子ZO》を確認したのです」
ここでアスランが手を上げた、余りにもとんでもない話に頭がついて行かないが、気に掛かる点がある。
「その、ゾンダーが恐るべき敵というのは理解しますが、しかしその話だけではゾンダーが存在するとは限らないのでは在りませんか?」
「確かにアスラン君の疑問も尤もだ、実の所私はこの話を大河長官より伺った時に外宇宙からの脅威を利用して、終戦協定と新たなる脇組みを作る事が出来ないかと考えたのだよ」
現在のコーディネイターとナチュラルの対立構造に共通の敵を作り出すことで、協力体制を作り出し、更にそこから恒久的な共存関係を模索しようと言うのがデュランダルの考えであった。
「しかし、最悪の事態が起こってしまった。先ずは、この映像を見てくれたまえ」
部屋の明かりが消えて、天井からモニターが降りてくる、そこに映し出されたのは木星の映像であった。
木星の海の中から現れた巨大な姿、それは6枚の翼を持った鯨と表現するのが適当であろうか。
「こ、この映像はいったい」
「およそ2週間に木星において撮影されたものです。監視衛星の情報から、間違い無くゾンダーであると我々は推定しています」
通常のゾンダーや機械四天王に代表されるゾンダリアン、彼らは遠い銀河の星で文明を築き上げた生身の生物だったのだが、
紫の星の機械テクノロジーの結晶が何時の頃からか誤って発展した機械文明ゾンダーによってゾンダーメタルを与えられ、機械昇華の尖兵たる永遠の命を持つ機械生命体へと進化させられた姿である。
本来人間のストレスを糧にして成長するゾンダーではあるが、同様のマイナスエネルギーを発する固体(例:イルカのヴァルナー)ならばゾンダー化する事が確認されている。
「恐らくこの宇宙鯨、たしかエヴィデンスと呼ばれていましたか。この固体も我々と同様の知的生命体なのでしょう。だからこそゾンダー化したか、若しくはこの鯨がZマスターと同等の存在と言う事も考えられます」
活動を開始したゾンダーはその本能である、機械昇華を目的に動き出すだろう、ならばここ数年の間、戦禍に晒されてきた地球はゾンダーによって格好の餌場であるといえる。
そこまで話した所でモニターが消え部屋に灯りが戻った。
「DSSD(Deep Space Survey and Development Organization=深宇宙探査開発機構)からの最新の観測情報では、木星付近に重力振動を感知したらしい。いよいよヤツが動き出したのじゃろう、先ずは近場の火星あたりかの」
ここで沈黙を守っていた雷牙から更に驚愕の情報が語られる、凱などは今すぐにでも火星に向けて出撃しようとしたほどだ。
「落ち着かんか凱。それについては火星に居るマーシャン達にも、決して手出しせずに避難するように警告を送ってある。まあ何だか血の気の多そうな若いのが、後ろで騒いどったがの、無茶せんといいんじゃが」
ついでに言えば既に救出部隊の編成は完了して、2時間前にJアークと共にESウィンドウでランデブーポイントへと向かったとの事を説明される。
「陣頭指揮には火麻君に行ってもらった。ベルリンの作戦では基地に置いて置かれたからな自分が行くと聞かなかったよ」
火麻参謀とJが行ってくれたのなら、一先ずは安心していいだろうと判断して席に座りなおす凱。
「ヤツが何時この地球へと到達するかはDSSDにて観測を継続している。そこで我々は月とプラントの間に絶対防衛線を敷き、何としても宇宙にてゾンダーの侵攻を食い止めねばならない」
「その通りだ、その為に我々は各国を回って協力を募ってきたのだ。見たまえ、この未曾有の危機に際して世界中の国家首脳達が、ここジブラルタルに集って来ている。
そして今回の会議で全員いや過半数の賛同が得られれば、我々の考えを世界に向けて発表する事が出来るだろう」
大河長官の言葉にデュランダル議長が外を示すと外の滑走路には地球の各国から飛来する首脳陣の専用機や軍用機が、次々と着陸して来ていた。沈み行く夕日の中に見えるその光景は、世界の希望に成り得るのか。

ジブラルタルに到着したシンはその日の夜、ある決意を胸にして凱達の下を訪れていた。
「俺をGGGに入れてください!」
部屋を訪れたシンを凱が中に招き入れると、途端に頭を下げて頼み込んでくる。丁度良く部屋には大河長官と雷牙博士が一緒にいたので、二人の意見を聞いてみる。
「だ、そうだが。如何します長官?」
「う~む、行き成り入れてくれと言われてもねぇ」
「止めとけ、止めとけ。小僧では勤まらんじゃろ」
年長二人に難色を示されるが、簡単に諦めるようなシンでは無い。
「お願いします。何でもします。この通りです!」
何を言われても諦めずに何度も頼み込むシンに、大河長官が質問をする。
「どうしてGGGに入りたいのかね。それと君はザフトのパイロットだろう、そちらは如何するつもりだい?」
「ザフトは辞めます、先程グラディス艦長に辞表を渡してから此方に来ました。それとGGGへの入隊を希望するのは俺、いえ自分の理想に近いと考えたからです」
はっきりと答えるシンと、その返答を聞いて顔を見合わせる凱達、そう言えば今の服装はザフトの赤服では無く、私服それもスーツ姿である。リクルートスーツと言う事だろう。
如何したものか一同が考え込み始めると同時に、ドアが勢いよく開けられてルナマリアが顔を出した。
「こんな所に居た! レイ、シンを見つけたわ。艦長に連絡して」
インコムに通信を送ると凱達に向かって一礼してからシンに向かって話し始める。
「ちょっとシン、艦長カンカンよ。いきなり辞表なんか出して何考えてるのよ、そんな事したら敵前逃亡にされちゃうでしょ」
ルナマリアに言われて「あっ」と言う顔をするシン。本人はそんな事は微塵も考えていなかっただけに頭が回らなかったのだろう。
そんな心算では無い事をルナマリアに説明を始めた所で、肩を怒らせたタリアとアスラン、レイそれと何故かデュランダルが到着した。
「これはキチンと話し合った方が良さそうだな」
集った顔ぶれを見て大河長官が苦笑しながらそう提案した事で、場所を移しての話し合いが行なわれる事になった。先ずはシンの真意を確認するべくタリアが問いただす。
「じゃあ、この辞表はザフトを辞めてGGGに入りたかったから提出したものと言う事ね」
「ハイ、そうです」
「彼方ねぇ、今の状況で軍を辞めるなど許される事ではないのよ。たとえそれが…」
「まあ、待ちたまえタリア」
「議長」
タリアがシンに対して小言を言おうとするのをデュランダルが止めた、シンに向き直って何故GGGへ入ろうと思ったのか尋ねる。
「自分はザフトで戦ってきました。でも凱さん達に色々と教わって、自分でも考えてその上で自分の理想はザフトでは無くGGGに在ると思いました。今まで艦長達には大変お世話になりましたけど、でも自分はその理想を追いかけたいのです」
「その理想とは何かね?」
「力の無い全ての人を守ることです」
議長の問いに真っ直ぐな視線で答えるシン、それを見てデュランダルは笑い出した。
「ハハハ、これは駄目だな。男がこういう目をしたら梃子でも動かんよ。しかし平時では無い以上、今ザフトを除隊する事は認められない。それは悪しき前例を作る事になってしまうからね」
此処でシンの除隊を認めれば、有事の際にも私事で除隊するのを認めるという前例を作ってしまう事であり、軍組織の崩壊を意味する。
二の句が告げなくなるシンだが此処で諦めるような性格では無い。シンが口を開きかけた所で片手を上げて制すると、デュランダルは大河長官に話しかけた。
「ところで大河長官、我々はプラントから人員をGGGへと出向させようと考えているのですが、受けていただけますか」
大河は直ぐに議長の意図を悟ったが、それでも確認しなければならない事はある。
「ほう、何故ですかな。理由如何によってはお受け出来かねますが」
「失礼ながら、彼方方はこの世界の住人では無い。ならば何時かは元の世界へとお戻りになられる。そしてこの危機を乗り切り皆さんが帰られた後に、同様のまたは更なる危機が起こる事を否定できません。そこでぜひGGGの後継者を育成して頂きたい」
技術の譲渡等とは言わずに後継者を育ててくれと言うあたりが、議長の狡猾さを現しているような感じがするが、一応は正論である為受け入れざるを得ない。
それに、この世界でGGGの理念が培われて行くのならば、此方としても望む所ではある。苦笑しながらも、承諾する大河長官。
「なるほど、そういうお話であるならば受けない訳にはいきませんな」
「有り難う御座います。グラディス艦長、幸いかどうか微妙だが今ミネルバ隊は船を失って休業状態だ、GGGへの出向人員の選択はミネルバ隊から志願者を募ってくれたまえ」
デュランダルの指示に対して軽く嘆息すると、承知したと伝え、シン達にミネルバのクルーを集めて待機するように命じる。
簡単な話し合いが行なわれ、ザフトからだけ出向者を受け入れる訳にもいかないだろうという事になるが、だからと言って志願してくる人間を無制限に受け入れる訳にもいかない。
人が増えればそれだけ色々と難しい面も出てくるのが当然だからだ、そこで先ず希望者はDSSDに置いて研修期間を受けてもらいGGG隊員に相応しい人物を選抜する形式に決定した。

ジブラルタル基地の大会議場に世界中から各国政府の代表が集った。先ずはデュランダル議長が集ってくれた事に対しての感謝と会議の開始を宣言する。
一番初めに声を上げたのは大西洋連合の国務長官であるクリントである、
「我々大西洋連合はプラントと戦争状態であるにも拘らず、ここに来たのは各国政府よりの要請を受けての事だ、先ずは説明をお願いしたい」
是に対して、デュランダルは一つ頷くと説明を始めた、内容は昨日凱達と話した事と大差は無い。その話を聞いたクリントは鼻で笑うと馬鹿にしたように呟く。
「話になりませんな、此処に居る皆さんは今の話を信じておいでで?」
その台詞に対して、此処には不似合いといってよい若い男が声を挟んだ。
「ええ、私は信じています。だからこそ我がオーブはプラントと単独講和に踏み切ったのですよ、長官殿」
若い男、オーブ連合首長国代表ユウナ・ロマ・セイランが発言したのを皮切りに、彼方此方から賛同の声が上がるが、クリントが待ったをかける。
「そう、それも問題ではありませんかな。オーブは我が大西洋連合との同盟を如何にお考えか。更に言えばオーブの兵が此方の作戦を妨害したという話もある」
「此処で議論すべきは貴国とオーブとの外交問題では無いのですが、そこがネックになるならご説明申し上げましょう。理由は大きく2つ在ります」
そう言ってユウナはオーブの立場と単独講和に踏み切った理由を説明し始めた。
先ずオーブは主権国家であるので、独立国としてプラントと縁を結ぶのはオーブ側の判断により事、無論同盟関係である大西洋連合の立場も承知している。
このまま戦争が続くよりもオーブが仲介となってプラントとの間と取り持つ事が出来ればと世界の安定に貢献出来るとの判断によるものである。
また連合の作戦行動を妨害した部隊にオーブのMSムラサメが存在したのは事実だが、同時にアークエンジェルとフリーダムが確認されており、ムラサメはアークエンジェルに帰還している。
是はムラサメがオーブの所属では無いこと表している、恐らくはクレタ沖辺りで墜落したものをテロリストが回収して使っている物と思われる、最後に真に遺憾だと感想をつけた。
「そしてもう一つは、今から此処で話し合われる事が理由です」
「ではアークエンジェルはテロリストとして、乗員諸共に沈めて構わないと言うことですかな」
「無論です。確かに代表であるアスハが囚われておりますが、テロリズムには屈しないのが国際常識です。代表もそれは理解されているでしょう」
ユウナの答弁はカガリを完全に切り捨てる発言である。オーブ国内で在るならば不遜の謗りを免れないが、此処は世界のパワーバランスと国同士の思惑が支配する場だ。国の利益の為に代表一人見殺しにした所で咎めるような人間は居ない。
此処まで言われてはクリントとしてもこれ以上の発言は引き出せない、何よりもこの場所で話すには話題が違いすぎる。
「ところで連合の部隊が旧ドイツ地区に攻め込んだ際に、市民の虐殺を行なったそうですが」
「それについては、既に部隊は解体され、指揮官の更迭と裁判を行なっている!」
ユウナの反撃と言うほどの物でもないが、先のベルリン侵攻の件は1部隊の独断で行なわれた作戦であり、連合軍が主導したものではないとの発表がなされている。
もっともファントムペインは存在自体が隠されている為に、部隊の処置は適当にでっち上げられた茶番であり、ファントムペインは新たな任務に着いている。
痛いところを突かれたクリントが口を噤んだのを見たユウナはデュランダルを促した。
「議長、我々は事の重大さを認識しています。早速本題に入りましょう」
こうして始まった《ゾンダー対策会議》ではあるが、信じる者、懐疑的な者、傍観を決め込む者等、足並みは揃わない。
会議は最終の5日目となり、物別れになるかと思われたその時DSSDから新たな情報が寄せられた。
その内容は火星のマーシャン基地が壊滅したとの報であった、マーシャンの殆んどの人員は救援に訪れていたジェイ・アークの作り出したESウィンドウにて辛くも脱出には成功したものの、
防衛に当たったMS部隊はゾンダーに有効的なダメージを与える事無く全滅、吸収される様が映像に映っていた。
そしてその映像を見た一堂はその場で凍りついた、今まで話半分に聞いていたが是はその想像を超えている、こんなモノが地球へと来たら我等人間は滅ぶ、それがはっきりと認識できる。
「か、勝てるのかこんなモノに」
誰かが擦れた声を上げるが、答えるものは居ない。否、只一人今まで会議に参加していていながらも只の一言も喋らなかった男が始めてその口を開いた。
「必ずや勝利して見せましょう。その為には世界規模での協力が必要不可欠です。そう勝利の鍵は皆さんの力なのです!」
会議場に響いたGGG長官、大河幸太郎の声に集まった人間達は望みを託す事にした、此処に満場一致で世界共同での対抗策を採る事が決議され、またゾンダーの情報を発表する事も決定した。
これは大西洋連合、プラント双方に存在する対戦争強硬派に対してお互い以上の脅威がある事を知らしめなければ協調出来ないだろうという事と、
不確かな情報で市民の間に不安が広がるくらいなら、正確な情報を此方から発表した方が良いだろうという二つの判断が下された為である。
明けて翌日、各国の代表はこの会議で知りえた事、決定した事を携えて自国の議会や代表を説得する為に、国へと帰っていった。

自らの居城と言っても良い大西洋連合ヘブンズ・ベース基地の中で、大西洋連合大統領ジョセフ・コープランドからの連絡を受けたジブリールは、思わず立ち上がっていた。膝に乗せていた飼い猫が床に落ちて不満の声を上げるが気にも留めない。
「何だと、そんな馬鹿な話。私は承知しておらんぞ!」
激昂して怒鳴りつけ、荒れる気分のモニター越しにジョセフへ当たり散らすが、是は高度な政治的判断であり、覆る事は無いと言い姿を消すジョセフ。
消えたモニター見つめると机の上に有った物を怒りに任せて放り投げ、両手を叩きつけて悪態を吐くジブリール。しばし感情の侭に暴れていると正面に設置された無数のモニターが点灯してロゴスのメンバー達の顔を映し出した。
「久しいな、ジブリール」
「此度の仕儀、さぞ驚いたであろう」
「我らロゴスはこの動きを歓迎しておる」
モニターに映った人間達が皆一様にそんな台詞を、投げかけてくる。先程の醜態を取り繕うと、今彼らが言った台詞が気に掛かり糾弾する。
「何の積もりです。まさかあなた方は此処まで来て私の邪魔をする積もりなのですかな」
それら一人一人の顔を睨みつけて詰問するが、当の本人たちは涼しい顔だ。
ロゴスは企業の集合体だが、メンバーには政治の世界で生きる者もいる、GGGの事も事前に知っていたのだろうし、規模から考えれば創設に係わっている者も少なくないだろう。
「ジブリール、我々ロゴスは商人の集りだ、何よりも経済を優先する。それは理解していよう」
「愚問だな、当然ではないか」
分かりきった事を態々言い募る連中へと、冷めた視線を送りながら答えるジブリール。
「ならば分かろう、お前はやり過ぎたのだ。先のベルリンへの焦土作戦を初めとして、お前のやり方に着いて行けん者が多くなった」
「その通り、悪戯に市民を虐殺するなど愚の骨頂。民衆は生かさず殺さず飼うのが一番です」
「金の卵を産む鶏を殺すなど、一体何をお考えか」
この馬鹿共は何を言っているのか、信じられない面持ちで次々と投げかけられる言葉も聞いているジブリール。確かにロゴスは何十年もの間戦争を裏から操ってきたが、今回の戦争は今までとは違うのだ。
エイプリルフール・クライシスを皮切りにジュネシスの建造、ユニウス7の落下など奴らは地球に住む者達を根絶やしにするつもりなのだ。
例え人類以外の脅威が真実であろうとも、コーディネイターを根絶やしにせねばナチュラルに未来など無いのが理解出来ないのか。
「ここで簡略ながらロード・ジブリールの盟主よりの解任動議を発議する。解任に賛成の者は挙手を」
「賛成」「賛成」「賛成」「賛成」「賛成」「賛成」「賛成」「賛成」…
「賛成多数により、ジブリールの解任は決議された。ジブリールこれに腐ること無く、これからもロゴスの為に働いてくれ」
ジブリールが余りの展開に虚脱している最中も、粛々と話は進んでいった。
口々に勝手な事を言いながら消えてゆくモニター郡を見ながらジブリールは呆然としていた。これでジブリールに残された権限は自分の私財を投じて作り上げたファントムペインと今居るヘブンズ・ベースのみである。
そんなジブリールを見下ろすモニター郡の中で、最後に一つ残されたモニターの向こうに居たのはユウナ・ロマ・セイランである。
「残念でしたねジブリール卿、どうやら彼方は此処までのようだ」
ユウナの相変わらずのにやけ顔を、血走った目で睨みつけるジブリール。
「これを主導したのはお前か、ユウナ・ロマ」
「さて、なんの事ですかね。僕はロゴスの一員として正しい態度を取ったと自負しています。ロゴスにとっては戦争もビジネスですよ、なら殲滅戦など後の旨みが何も無い。軍人や政治家なら意味が在る事も商人では意味が無いと言うことですね」
「貴様は政治家だろうが」
「そうですよ、だからこの混迷する世界でオーブが生き残る道を探しています。では失礼」
喰えない笑顔のまま姿を消したユウナの映っていたモニターを、力任せに殴りつけて破壊すると冬眠前の熊宜しく部屋の中をグルグルと歩き出し、口の中で何かをブツブツと呟きながら考えを纏める。
「良いだろう、此処は大人しく敗北を認めよう。しかし私は決して諦めんぞ」
再び顔を上げたジブリールの両目は憎悪と復讐に爛々と輝いていた。

ベルリンでの会議から一週間、今日は再びジブラルタルへと集った各国政府首脳との全世界に向けて合同記者会見が行なわれる運びと成った。
壇上に並ぶのはプラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルを始めとして、ユーラシア連邦、東アジア共和国、南アメリカ合衆国、南アフリカ統一機構、オーブ連合首長国等の各代表、
そしてなによりもプラントと戦争状態である大西洋連合大統領であるジョセフ・コープランドが並んでいる事に驚きの声が溢れた。
会見時間となり、国際緊急事態管理機構から派遣された弁務官が壇上に立って会見の開始を告げた。
主催したプラントの代表であるデュランダル議長が壇上に進み出ると、この会見の内容を話し始める。
「今日、この日に集って下さった各国首脳の方々に先ずはお礼を申し上げる。皆さんもご存知の通り我々プラントと大西洋連合の間では現在も戦闘が行なわれております。しかし、このような戦争を繰り返した所でいったい何に成ると言うのでしょうか。
そもそもの今回の戦争の発端となったユニウス7落下事件については、我らプラントの落ち度であり、被災した方々にはお詫びの言葉もありません。
しかし、後の戦争へと発展した憎しみの連鎖はコーディネイターとナチュラルの双方に存在する不信感が顕在化したものであります。
我々コーディネイターの祖であるジョージ・グレンは、自らの存在を明かした時にそのような人間同士で憎しみ合う事を願ったでしょうか? 答えは否です。
なぜならばコーディネイターたれとの彼の残した言葉の真の意味は、来るべき宇宙時代に向けて過酷な環境に適応する為に、そしていつか出会う未知なる存在との中を取り持つ架け橋としての「調整者」の役割を我々に託した言葉なのですから。
であるならば、このような憎しみは私達で終わりにしようではありませんか。無論今皆さんが抱いておられる憎しみを捨てろと、悲しみを忘れろ等とは申しません。
ですが、平和を願う想いは誰もが持っているはずです。その想いを強くした私は此処にお出でいただいた各国首脳のお力を借り、本日未明、大西洋連合との停戦条約を結びました」
停戦との言葉に集った記者は一様にドヨメキを上げ、カメラのフラッシュが無数に焚かれる。僅かの時間をかけて記者が沈静化するのを待ってから、再び話し始めるデュランダル。
「これによって両国の戦争は一応の停止を見る事が出来ました。しかしなぜこのタイミングでの停戦に双方が応じたのか疑問に思う方も多いでしょう。その理由を説明する前に、先ずはこの映像をごらん頂きたい」
会見会場が暗くなり、壇上に大型のモニターが現れる。そこに映し出されたのは凱達が見た木星の映像だった。
先程に倍するドヨメキが場を支配する。今度の映像は余りにも衝撃がすぎたのか会場内は驚きと悲鳴に包まれて沈静化する気配を見せない。
「落ち着いて頂きたい、この映像は間違う事なき真実であり、そして残念な報告をしなければなりません。実はこの宇宙鯨が、火星に住むマーシャン達を襲ったとの連絡を受けたのです。
幸いにもマーシャン達は防衛部隊の活躍により脱出に成功しましたが、その防衛部隊は全滅したとの報告も受けております。
この木星において目覚めた敵性存在を我々は《ゾンダー》と名づけました。そしてゾンダーは全ての地球国家に対しての脅威であると判断し、諸国の協力をお願いする為に、国際緊急事態管理機構へと問題の上申を行いました。
その結果が今日の大西洋連合との停戦と、この問題に対応する為の特務機関を設置する事を世界の皆様にお伝えする事が出来るのです。
この特務機関の所属は中立であるDSSDの外部組織となりますが、国際緊急事態管理機構の直属として存在します。
また彼らはゾンダーの迎撃を主任務としますが、その他国際的なテロリスト、及びそれに類する者達への捜査権、鎮圧権を有し、更に紛争地域等での市民への不当な攻撃に対する武力行使を行なう事が可能となります。
国家の垣根を越えて人類共通の敵と戦う特別機関《Gutsy Galaxy Guard》(ガッツィー・ギャラクシー・ガード)通称《GGG》の発足を此処に宣言いたします!」
この宣言の後は、おおわらわであった。この宇宙鯨は本当に人類の敵であるのか。何故この存在を知る事が出来たのか。
またGGGとは一体いかなる組織であるのか、それほどの権限を与える必要が本当に必要なのか等、質問に次ぐ質問が飛び交う中で根源的な質問が飛んだ。
「我々人類はそのゾンダーとやらに勝てるのですか?」
「ご安心下さい、その為のGGGです」
力強く言い切ったデュランダルにGGGの詳細についての質問や疑念等が浴びせられるが、それについては後で資料(GGGのメンバーや戦力等、機密に係わる事は伏せられている)を配る事で何とか落ち着いた。
会見の最後に集った各国首脳が一人一人宣誓して、GGGの発足議定書にサインを入れていくセレモニーが催され、正式に地球防衛組織Gutsy Galaxy Guardが発足した。

スカンジナビア王国の海中に存在する、地下ドック。そこに係留しているアークエンジェルのブリッジでキラ達はこの放送を見ていた。
全てを見終わった後で、ターミナルから上がってきた資料に目を通すキラ、ターミナルの情報網を持ってしてもGGGメンバーや戦力の詳細は不明と言う。
難しい顔を浮かべていると、マリューが心配そうに声を掛けてくれた。
「キラ君、大丈夫」
「ええ、大丈夫です。この放送を見た限りでは、このゾンダーの脅威が現実とは思えません。それに中立のDSSDの外部組織で国際緊急事態管理機構の直属とはいえ、創設にデュランダル議長やセイランが係わっている以上は、僕は彼らを信用出来ません」
自分なりに何か考えていたカガリだったが、キラの言葉で納得したのか話を引き取って追従する。
「そうだな、幾らなんでもエイリアンなんて馬鹿馬鹿しすぎる。それにターミナルの情報網に引っかからないなんて、そんな事があるのか?」
「分からない、ラクスなら何か掴んでいるかもしれないけど。それにGGGと言えば、この間ベルリンに表れた人達ですよね、もし本当にゾンダーが居るとしても、僕は彼らの力はこの世界を混乱させるだけだと思うんです」
「そうね、強い力は更なる混乱を呼ぶわ。それが分かっていながら、例えゾンダーとかが存在するとしても、あんなに凄い機体を作ったということは、何か別の目的もあるかも知れないし。油断は出来ないわ」
キラがGGGを危険視すれば、マリューもそれに追随して強すぎる力を憂いた発言を重ねた。アークエンジェルのブリッジにGGGへの不信感とでも言うべき空気が流れる。
「とにかく情報が足りません。先ずはラクスと連絡を取って次の行動を考えましょう」
「そうね」
穏やかな顔で返事をするマリューの様子を見たキラは、ベルリンで見た謎の人物の事を話しても大丈夫だと判断した。マリューに向き直り、目を見つめながら話しかける。
「それからマリューさん、僕、ベルリンでムウさんに会ったかもしれません」
「えっ、ど、如何言う事キラ君。あの人は私の目の前で…」
「そっくりな人を見たんです、カオスに乗っていました。戦い方もムウさんそっくりで、間違い無いと思うんですけど、答えてくれなくて」
「そんな、あの人が生きている?」
グラリと足元をふらつかせたマリューをキラが咄嗟に支える。マリューの腰を支えながらキラはブリッジに居る全員に告げる。
「とにかく、今は何も分かりません。だから僕達は僕達の信じる事をしましょう」
アークエンジェルは暫らくの間は情報収集に努めて、事の真偽を見定める事となった。

同時刻、宇宙空間に作られたクライン派の拠点ファクトリーの内部でも、この放送は流されていた。自らの執務室で愛娘であるラクスと共に総統シーゲル・クラインは笑いながらこの会見を見ていた。
「デュランダルめ、良くやる」
「お父様、このゾンダーなる世界の敵に対して私たちは如何するべきでしょうか」
ラクス達はゾンダーの存在を知っていた、世界各地に張り巡らされたターミナルの情報網はキチンと機能していたのだ。キラ達が知らないのは単にラクスとシーゲルの考えが纏まるまで伏せているだけに過ぎない。
「ふむ、我等に敗北は許されぬからな、引き続き情報は集めさせている。程無くこのゾンダーの情報も集ろう、我らが事を起こすのはその後で良い。それまではこのGGGなるゴミ共に任せておけば良かろう」
ここで一先ず言葉を切った、シーゲルであったが、少し難しい顔を覗かせた後でもう一つの指示を下した。
「しかし、ベルリンでの戦闘を見たがGGGのMS、素晴らしい性能の機体ではないか。たしかDSSDの外部組織だったな、そちらの線からデータの入手を急がせろ、是で我々の戦力は万全となろう」
「畏まりました。そのように指示いたします」
「うむ、この地球圏に存在する優れた技術は全て我々が保有してこそ、愚昧な民衆の為に成るというものだ」
「はい、クラインは世界の者、世界はクラインの物」
シーゲルに言われた事を実行する為に部屋を出たラクスであったが、ふと後ろを振り返ると口角を吊り上げて誰にも聞こえぬ声で呟いた。
「愚かなお父様、世界はクラインの物では有りません。世界は私達SEEDを持つ者の物ですわ」
語るラクスの表情は、無知な幼子を相手にするような澄んだ笑顔であった。

火星のマーシャン基地を襲ったゾンダーは、その宙域に10日程留まっていた。なぜなら体内で吸収した固体から新たなゾンダリアンを生み出していたからだ。
『心弱き者達よ、私の声に従い永遠の命を持つ者へ生まれ変わりなさい』
優しげな女性の声が響くと、其処彼処に積み上げられたMSがゾンダーロボへと変化してゆく、その中から3つの人影が立ち上がった。
『機械三将レロウル、ここに居るぜ』
一人目は髪を逆立てて顔に赤い隈取と体中に工具類が張り付いている。
『機械三将イグジス、待つのは我慢ならん』
二人目は白目の部分まで真っ赤な目で髪の毛が銀色の鋼出来ており、間接の隙間から炎が吹き上がっている。
『機械三将ナシェイル、呼ばれました?』
三人目は黒曜石のような肌と金の鬣を持った者、ただし顔には下弦の月ような裂け目があるだけだ。
三人はゾンダリアンらしく、そろって機械的な風貌がある。その三人の前方に髪の毛がケーブルで形作られ、閉じた両目の上下に分割線、線の両側にはリベットが打ち込まれている美しい女性の巨大な顔が浮かび上がった。
その顔に向かって跪く機械三将、巨大な顔の目が開くと、その瞳は無数のレンズで構成された複眼のようだ。口を開かぬままに先程聞こえた優しげな声が木霊する。
『機械三将よ、これから向かう先には私達ゾンダーの敵が居ます。かの者達を排し必ずや地球の機械昇華を遂げるのです』
『お任せあれ、《MOTHER》』
三人の声が唱和するのを確認すると、ゾンダーは動き出した。
地球来襲まで、後5日と迫っていた。

君達に最新情報を公開しよう
様々な思惑を持ちながらもゾンダーの前に団結する各国
そんな中で新たな仲間を迎えるGGG
しかし脅威はすぐ其処に迫っていた
次回 勇者王ガオガイガー DESTINY
第17話 『ゾンダー 来襲』 にFINAL FUSION承認
これが勝利の鍵だ 《地球連合軍》



[22023] 第17話 『ゾンダー 来襲』
Name: 小話◆be027227 ID:8fbdcd62
Date: 2010/09/20 10:49

GGGが発足した日の夜、凱は大河長官と雷牙博士の下を訪れていた。
凱から相談があると聞かされた大河長官は何事かと身構える、その話の内容は驚いた事にGGGに自分が居ても良いのかというものだった。
「長官、俺はこの世界に来てから今までザフトに協力して戦ってきた。そんな俺に勇者の名は相応しくないかもしれない」
「凱、君のいう事も分かる。だが君が私利私欲で動くような男ではない事は私も、そしてGGGに居る皆が承知している。そんなに気に病む事もあるまい」
「それでも、俺が戦争に加担して人の命を奪った事は事実だ。それは許される事じゃない」
「それはそうかもしれんが、人間は自分を守るために戦う事は許されてしかるべきじゃと思うぞ、第一それを言い出せばこの世界では我々その物が問題じゃ」
このCE世界においてGGGは一時の異邦人である。それにも係わらずに世界に干渉してきたのは自らの生存と元の世界に帰還する為に最大の努力をしてきたからだ。
現在のGGGならばゾンダーに対抗できるように連合やザフト等に技術供与だけを行い、この世界の騒動には耳と目を瞑り自らの世界へと帰還する事だけを考えて行動する事も出来るのである。
しかしながら、たとえ自分達とは関係の無い世界であったとしても機械昇華されるのをただ見ている事など出来ないが故にGGGの設立と自分達が帰還した後でも、その理念を継いでくれる人間を育てようという事だ。
その中で凱はザフトとして戦ってきた自分がGGGに名を連ねていても良いものかと二人に相談しに来たのだ。
「記録は見たがお前はミネルバの防衛と虐げられた人の為に戦っていたと思う。それとも今迄の行動を後悔しておるのか」
雷牙の疑問にはすぐに首を振って否定する事が出来る、今までの戦いは決して無辜の民を蔑ろにするようなものでは無かったし、自分自身誰かに強制されて戦ってきた訳でもない。凱が自分で考え、自分で決めてきた事だ。
「いや、俺はこの世界で戦い続けてきた事、やってきた事が間違っているとは思わない」
「それが答えだよ、君は我々が認めた勇者だ。そして君は自分のしてきた事を間違っていないという。なら我々もまた同じ判断をしただろう」
「長官」
「それにお前を慕ってこのGGGに志願した者もいるのだ。お前が間違った事をしてきたと言うなら、彼らのように後を続こうとする者も居ないはずではないか、そして彼らを導くのは先達としての使命ではないかな」
「伯父さん」
人生の大先輩である大河長官と雷牙博士、二人の厳しくも暖かい視線の前に凱は自分の心にあった迷いが晴れていくのを感じていた。
「二人とも有り難うございます。俺は勇者としてこれからも戦い続けます。それと俺もまだまだ未熟者ですから、今後とも宜しくお願いします」
立ち上がり深々と頭を下げる凱の肩に、二人の手が優しく置かれた。手の温もりを通じて熱い思いが伝わってくるのが感じられる。
この信頼と期待に応えなければ勇者では無い。凱は命の在る限り戦い抜く事を改めて心に誓った。

凱が二人に相談をしている頃アスランはデュランダル議長に呼び出しを受けていた。アスランが部屋に到着して入室を告げるとデュランダルは話を切り出した。
「やあ、態々呼び出してしまって済まない、実はアスラン君には新しい任務を受けてもらいたいと思ってね」
新しい任務といえば、恐らくはGGGへの出向だろうと中りをつけるアスラン、それならば望むところであるが話は意外な所から始まった。
「アスランはハイネの事は聞いたかね」
「あ、はい。少ししか話しませんでしたが、良い人間だと印象を受けました。残念です」
「うむ、そこで君にミーアの護衛について貰いたい。あの一件以来彼女も塞ぎがちでね、君になら心を開くかもしれない。支えてやってはくれないか」
「あ、いえ、しかし自分では何をしたら良いのか。それにこの危急の折、自分だけが後方に下がるなど承服しかねます」
まさか自分にミーアの護衛などという仕事が回って来るとは考えもしなかったアスランは、しどろもどろになりながらも自分もまたGGGでゾンダーと戦いたいと申し出る。
「そうかも知れない、いやそう言う君だからこそ頼みたいのだ。私には信頼できる人間が少ない、君はその内の一人なのだ。なんとかやっては貰えないか、頼む、この通りだ」
議長が深々と頭を下げたのを見て慌てるアスラン。一介の兵士である自分に対して頭を下げるなどプラントのトップがする事だろうか、それともそれほど自分は頼られているのだろうか。
「顔を上げてください議長。分かりました、不肖アスラン・ザラその任務お受けいたします」
「そうか、やってくれるか。では早速アプリリウスに向かって出発して欲しい、詳細は向こうに居る者に聞いてくれたまえ。それと君のMSだが生憎新しい機体が用意できない、そこでセイバーの改修を指示してある。アーモリー1にて改修後受領してくれ」
「はっ、了解いたしました。アスラン・ザラこれより任務に付きます」
アスランが退出して一人になるとデュランダルは椅子に深く腰掛け直した。手を膝の上で組み目を瞑る。一つ深呼吸をすると自重するように呟いた。
「これで彼と彼女が都合よく動いてくれると良いのだが。ふ、難しいかな」
誰に問うたのかも分からぬ言葉が部屋の空気に溶けていった。

GGGの発足から2日GGGへの転属を願った、若しくは命令された世界中から集まった人達が乗ったシャトルがGGG基地コメット・ベースに到着した。
タラップを降りて係員に案内されて会議室へ通されると、そこへGGG長官である大河と参謀の火麻がやって来る。
「ようこそ諸君、私がGGG長官の大河幸太郎だ、君達は地球防衛の為GGGへと志願してくれた」
本来ならDSSDでの研修期間を経て適正を認められた人間がGGGのスタッフとして働いてもらう事になるのだが、今回はゾンダー襲来に際して時間が足りないが為に研修期間を置かずに雇用する事になった。
「先ず諸君等の肝に銘じて貰いたいのは、我々GGGがその設立理念に置いて個人の主義主張に因らず世界の事を第一に考えなければならない事である。
ここで働く者は皆GGGの隊員であり仲間だ、ナチュラル、コーディネイター等の人種の区別なく、また諸君等の国と国との関係に拘らず、世界全体の利益を第一に考えることを要求される」
鋭い眼光で全員の顔を見回す大河長官と、見つめられて居住まいを正す新隊員の人間達、全員が神妙な顔をしているが何人か居心地が悪そうにしている者もいる。
ここに集った人間は、基本的には世界の為に志願した者達だ、しかしGGGをスパイするように言われて来た者も恐らくは何人か居る筈である。
それに人類の敵はゾンダーだけではない、一国では対処出来ない国際的な犯罪組織やテロリストもGGGの管轄となる。
これはICPOのような組織がここ数年の戦争によって全く機能していない事から、GGGへと事案が回ってきた次第である。
「次に我々は国家間の戦争行為に加担しない、これは中立であると同時に国際緊急事態管理機構の直属として当然である。しかし先のベルリンに見られるような市民の虐殺行為などの著しい非人道的行為に関しては、この限りでは無い」
つまり、軍隊同士で戦っているのなら静観するが、被害が無差別に広げるようならば当該部隊、若しくは双方の軍に対して強権を行使して治安維持活動を行なうということだ。
此処までの事はGGG発足に当たって、ほぼ全世界の国が了承し協力を約束しており、逆に言えばこれで戦争当事国における軍同士の戦闘行為には介入出来なくなった。
「そして、君達に最新情報を教えよう、昨日火星にて活動を休止していたゾンダーが再び動き出した、地球に到達するまで恐らく5日程と思われる」
行き成りの発言に今度は何人かが椅子を蹴って立ち上がるが、火麻の一喝で大人しくなった。
「諸君らはこれより部署ごとに移動してもらい、3日でそれなりの仕事をこなせるようになってもらう」
そうでなければ、次の戦いには単なるお客さんとして此処に居るだけになってしまうだろう。そんな事は望むところではないと張り切る一同だが、その中から一人が手を上げて発言する。
「私はナチュラルです、とても3日では」
その後は無理ですと言う積もりだったのか、難しいと繋げる気だったのか全てをいい終わる前に大河からピシャリと切って捨てられる。
「ならば出て行きたまえ。此処にはそんな事を言う人間は必要ない、それにナチュラルと言うなら此処で働いている人間の9割がそうだ。やりもしないで逃げを打つような者はGGG隊員にはなれん。では、それぞれの担当部署を発表する」
全員の部署が教えられ、部屋の外に案内がいるので着いていくように言われた、そこで先程発言した人間が自分の部署が知らされていないと言い出したが、出て行けといったはずだと、あっさりした大河の態度に場の空気が引き締まる。
各人は支給されたGGGの制服に着替えるとそれぞれの担当部署に案内された。
ジブラルタルでシンがGGGへ入れてくれと言った事から、このような形での人材交流となった訳だが、実は未だにGGGの実力に懐疑的な人間も多い。
特にコーディネイターは、先程大河長官が此処で働いている人間の殆んどがナチュラルだと発言した事から、余裕を見せているが此処はそんなに甘い職場では無い。
当然のように仕事が始まれば、此処に来た全員が元からのGGG隊員の実力と行動力に驚く事になるのだが、それは別の話である。
ミネルバ組でGGGへ来たのはシン、レイ、ルナマリア、メイリン、ヨウラン、ヴィーノの6名である、無論ザフト全体からはもう少しきている。
シン達パイロットは機動部隊、メイリンはオペレーター、ヨウラン達はメカニックにそれぞれ配属された。
オペレーターや特にメカニックには各国からも出向者が多いが、機動部隊に配属されたのは実はシン達だけである。これは隊長の凱が推薦した事も理由の一つだが、その他の勢力の所謂一流のパイロットがGGGへ来なかった事も大きい。
戦争が絶えないこのCE世界の各勢力にとっては、名が知れ渡ったパイロットはそれだけ貴重と言うことで、出向を希望したイザーク等が認められなかった事を考えれば、ザフトを始めとした各勢力のGGGへの期待はさほど高くはない。
先ずはGGGとゾンダーを戦わせて、双方の実力と戦力を確認してから対応を決めようと考えているのが見て取れる。
この点シン達は確かに腕が立つもののデュランダル議長の後押しと、まだ1年目のひよこ扱いと言う事ですんなりとGGGへの出向が認められた。
シン達は案内人の後を着いて行き、到着したのはビッグ・オーダールームと呼ばれる部屋だった。機動部隊のブリーフィングは基本的にこの部屋で行なうとの事である。
部屋に入ったところに凱が居たので、声を掛けると此方に振り返って何時もの笑顔を見せてくれた。
「ようやく来たか。ようこそGGGへ、これから宜しくな」
挨拶を交わした後で、ジブラルタルで一旦別れた後のお互いの近況報告を交換していると、扉が開いて銀髪の青年が入ってきて凱に向かって一礼する。
「ようスウェン丁度いい所にきたな、せっかくだから自己紹介していったらどうだ」
「待ってください隊長、自己紹介なら私達もお願いします」
落ち着いた声と一緒にビッグ・オーダールームの奥にあるシャッターが開かれて、氷竜を先頭に機動部隊の面々が入ってきた。今回はボルフォッグも居るので全員が勢ぞろいだ。
「そうだな、じゃあ先ず氷竜からにするか」
「ハイ、私の名はGBR-2氷竜。竜型ビークロボの・・・」
「ちょっ、一寸待って下さい。あの自己紹介なら機体から降りてから、お願いしたいんですけど」
自己紹介を始めた氷竜の言葉を遮ったルナマリアの言葉に、凱と氷竜達が思わず顔を見合わせる。シンとレイもウンウンと頷いているところを見ると同じ意見のようだ。此処で凱はポンと手を打つと何でも無い事の様に続ける。
「すまん、言って無かったな。彼らは自立思考型の超AIを搭載したロボットなんだ」
この凱の発言に一瞬静まりかえり、次いで驚愕の叫びがビッグ・オーダールームに木霊した。
三人の驚きが落ち着いたところで、改めて氷竜から始まり闇竜まで自己紹介を終えた。
「それから皆も会ったルネと、この間配属になったスターゲイザーがそうだな」
ここでシンがJの名前が出ていない事に気が付いて尋ねるとJは仲間なのは間違いないがGGGの隊員ではない、でも味方だから気にするなと返答された。
「後はスウェンか」
「自分もですか? 自分はスウェン・カル・バヤン。元は連合の兵士だったが、故あってDSSDの所属となった。今は任務の為に此方にお邪魔している」
元連合の兵士だと言うスウェンに一寸引く三人だが、世界中から集っているのだから今日からは仲間である。
更にスウェンもその腕前から、機動部隊に入るように進められたのだがDSSDでやりたい事があるから断ったと聞かされて驚くシン達。
「シン・アスカです。ザフトのミネルバに乗っていました」
「レイ・ザ・バレルです。シンと同じくミネルバのMSパイロットでした」
「ルナマリア・ホークです。二人と同じです、よろしくお願いします」
ミネルバのパイロットと聞いて驚くスウェン、連合に所属していたころはザフト最強とも言われた船のMSパイロットが彼らだと言う事だ。
「君らが、凱隊長が言っていたミネルバのパイロットか。皆素晴らしい腕だと聞いている」
全員一通りの自己紹介を終えた所で、凱が次は格納庫に行こうと言い出したので、スウェンも交えて移動することになった。
「では隊長、新人諸君また後でお会いしましょう」
氷竜達機動部隊の面々に送り出されて移動を始める凱達一行。
元々コメット・ベースは大河長官たちがこの世界での一時的な寄り所として廃棄された資源衛星を改造した物であるが、急遽地球防衛の前線基地となった事で拡張が進められ、今では格納庫だけでも幾つか存在する。
主に使われるのは発進準備が整った機体を置いて置く第一格納庫と整備中の機体が主に取り扱われる第二格納庫、そしてGGG機動部隊の専用格納庫である。
凱達はスウェンの機体と話に出てきたスターゲイザーが第二格納庫に居るとの話を聞いてそちらの方に向かった。
格納庫に到着すると両手両足が取り外されて、胴体部分も内部がむき出しになった1機の白銀のMSの上半身が吊り下げられていた。
「調子は如何だ、スターゲイザー」
タラップについて話しかけると首を此方に向けて返事をする、白銀のMSどうやらスターゲイザーと言うらしい。
「隊長何時此方に? それと修理はGGGの皆のお陰で順調です」
MSが喋る事に又も驚くシンだが、このスターゲイザーにも超AIが搭載されていると聞かされる。今は初の実戦で壊れてしまった体を強化、改修しているとの話だ。
「あらスウェン、それに凱も来てたの。それにその子達はなに?」
スターゲイザーと話していると、そのスターゲイザーの胸部から長い髪をアップに纏めた美女が声を掛けてきた。一寸見惚れるシンと肘鉄を入れるルナマリア。
「やあ、セレーネ修理は順調だそうだな、次の戦いには間に合いそうかい? あと彼らは今日から機動部隊に配属になった連中だよ」
シン達が先程と同じように簡単な自己紹介をすると、セレーネと呼ばれた美女も挨拶を返してきた、纏めていた髪をおろす仕草がかなり色っぽい。
「私はセレーネ・マクグリフ。DSSD所属の研究者よ、今はスターゲイザーの改修と調整に此方に来ているの」
そこにもう一人金髪を短く刈り込んだ端正な男性が話しに加わった。
「僕はソル・リューネ・ランジュ。セレーネとは姉弟みたいなものかな、僕は正式にGGGのメカニックに配属になったから、これから宜しくね」
16歳と言う事なので自分達と変わらない年齢だと聞かされて吃驚のルナマリアとレイ。同じ年のシンと比べるとソルが大人っぽいのか、シンが子供っぽいのか判断に苦しむ所ではある。
「それと、残念だけどスターゲイザーの改修は間に合わないわね、システムチェンジ機構を採用する事になったから基本フレームからの設計見直しになっちゃったし」
「そうか、次の戦いには間に合わないか、まあ修理が完了すればお前にも頑張ってもらうぞ」
セレーネがそう説明すると凱は頼もしい仲間は多い方が良いのだがと、残念そうな顔を見せた。
「申し訳ありません」
「申し訳ない」
凱の呟きに二人同時に謝ってくる、スターゲイザーとスウェン。何でスウェンが誤るのかとシンが尋ねると、何とスターゲイザーを此処まで壊したのはスウェンだと言うことだ。
何でもスウェンの部隊はDSSDの技術を接収しようと攻め寄せて返り討ちになったらしい、その後、紆余曲折を経て仲間になったという事だった。
「なんの話をしているんだい」
そこへ一寸太めの男性から声が掛かった、凱の説明によると彼がGGGのメカニック・オペレーターであり、雷牙博士の下で整備全般を統括していると言うことだ。
「牛山一男です、宜しく頼むね。そうそう君の機体だけど、もう運び込まれてあっちで整備中だよ」
向こうを振り返りって手で指し示す牛山、そちらの方を見れば確かにシンのインパルスが見える。
整備を続けるセレーネとスターゲイザーに挨拶してそちらへ向かう一行、インパルスの側にはヨウランとヴィーノもいて忙しそうに走り回っている。
「このままじゃゾンダーには対抗できんからの、GGG仕様に改修しているところじゃ」
後ろから声を掛けられたシン達が降り向けば、獅子王雷牙博士と金髪の青年が立っていた。
「meの名前はスタリオン・ホワイト。技術部では研究開発部にイマース、よろしくネ」
「GGG仕様って具体的には如何するんですか」
HAHAHAと白い歯を見せて笑うスタリオンと、改修作業を見ている雷牙博士に向かって尋ねるシン。その質問に雷牙博士が説明を始める。
「詳しい事は面倒じゃから省くがな、ゾンダーには機械と融合する能力がある、その為に通常の機械はゾンダーを成長させる餌にしかならん。しかし、ある特殊回路によって融合を防ぐ事が出来るようになるんじゃよ」
今はそのシステムを組み込んでいる所だと説明された。他にも適当な説明を続ける雷牙博士に向かって、レイが手を上げた。
「済みません博士、ここにあるのはスターゲイザーとインパルス、それにあの機体だけですか、自分達が使うMSが無いようなのですが」
視線を向けた先にはストライクの改修機であるGAT-X105Eストライクノワールが置いてあるだけで、確かにレイとルナマリアが使えそうな機体が無い。
「ああ、確かザクとかいう機体が届いておる。しかし改修にも手が足りておらんでな、そっちは後回しになっちまっとる。まあ砲戦仕様のバックパックが一緒に送られてきておるから援護を頼む事になるかの」
そっちは第一格納庫で調整中だと続けられる。ここで凱もギャレオンやジェネシックマシンの修理状況を尋ねるとそっちは専用格納庫に在るというので此処に残るというスウェン、インパルスの調整に借り出されたシンと別れて其方に向かう事にした。
話をしながら歩いていると程無く第一格納庫へと到着した、此方に在るのは細かい調整は必要だが、改修や修理の必要が無く発進できる状態の機体だ。
もっとも今此処に置いてあるのはレイとルナマリアのザクとインパルスの各シルエット、後は見覚えの無い機体が一機しか無いので規模は兎も角ミネルバのMSハンガーと変わりは無い。
明日辺りから順次到着する協力を申し出てきた各国の機体がここに集められる事になるだろうとの事であった。
二人にザクの調整をするように指示を出して向かわせると、凱は雷牙博士に見覚えの無い機体の事を尋ねる。
「伯父さん、あの機体は何ですか」
「あれは私のメビウス・リオーよ」
すると後ろから声が掛かった、振り向けば其処には凱の従兄弟であり、雷牙博士の娘であるルネ・カーディフ・獅子王が立っていた。
《メビウス・リオー》はGストーンサイボーグであるルネの専用機として計画されていた機体である。
基本的な設計思想は凱のファントム・ガオーを踏襲しつつファイナル・フュージョン機構を廃し単体での戦闘力と運動性、ステルス性を強化した機体である。
「完成したのか。確かあれにはフュージョン機能が付いているはずだな。上手くいったのか」
「連合のDSSD襲撃の時にぶっつけで何とかしたわ」
今なら笑い話で済むが、その時は色々と大変だったようだ、もっともそのお蔭でかルネとセレーネの仲が良くなったとの話をソルが苦笑気味にしていた。
機体の調整が終ったらビッグ・オーダールームへ行くように指示を出して凱はギャレオンが居る専用格納庫へと足を向けた。
メビウス・リオーの調整は既に終っていたらしく、ルネも凱と雷牙博士の後について来る。ザクの調整に掛かるレイ達から少し離れると雷牙博士が声を潜めて尋ねてきた。
「おい凱、お前さんの頼みだから小僧の機体にアレも積んだし、予備パーツを使って頼まれた物も作ったが本当に大丈夫なんだろうな。そっちに虎の子のカーペンターズを回した所為で他の機体の調整が遅れとるんだぞ」
「大丈夫ですよ、伯父さん。俺はあいつならアレを使いこなせると思っています」
「だと良いがな」
些か懐疑的にだが一応は同意する雷牙と何も言わないルネを連れてギャレオン専用の格納庫へ向かう凱。格納庫に到着した三人の前に大人しく寝そべっているギャレオン。
「ギャレオンの修理は如何なんですか」
「心配するな、完全に直っておる。戦闘用のプログラムも対遊星主使用から対ゾンダーへと書き換えも済んだ」
雷牙に尋ねる凱の声に反応したのか、一声咆哮を挙げて自分に状態を誇示するギャレオン。
その様子を見る限りでは万全のようだ。しかし此処で雷牙から水を差された。
「問題なのはジェネシックマシンの方じゃな。修理は完全のはずなんじゃが、何故か起動せんのよ。もしかしたらギャレオンのプログラムを基にして対ゾンダー用のプログラムに変更した事で何処かにバグが発生した可能性もある」
雷牙の話にギャレオンの横に置いてあるジェネシックマシンに視線を移す凱。Gストーンを通じて呼びかけるがそれにも応えない。ただ感じとしては眠っているようだと伝える。
「何か強烈な刺激があれば目が覚めるって事かしらね」
「かもしれんな。如何する凱、予備パーツが無い以上ファイナル・フュージョン出来んぞ」
ジェネシックマシンが眠りにつき、ガオファイガーの予備パーツも無い以上、このままではファイナル・フュージョンは不可能である。
しかし凱は心配していない、あのユニウス7の時に自分の、否、人類の窮地に駆けつけてきたこいつ等なら必ず目覚めてくれるはずだ。
「大丈夫ですよ。こいつらも勇者ですから」
此処まで来たら後は全力を尽くすのみ。決してゾンダーを地球へと侵入させはしないと、決意を新たにする凱。ゾンダー来襲まで後5日と迫っていた。

オーブ首長国連邦の代表執務室にいたユウナの下にワイド・ラビ・ナダガ、ファンフェルト・リア・リンゼイ、サース・セム・イーリア、ホースキン・ジラ・サカト、ガルド・デル・ホクハの5人が集っていた。
彼らはオーブの下級氏族の跡取りであり、今回の対ゾンダー戦の為にオーブより派遣される事になった者達である。
「おいユウナ、これは一体如何いう事なのか説明してくれるんだろうな」
5人のリーダーらしきワイドが睨んでくるが、ユウナは気にもしない。それどころかいつもの軽薄な笑みを顔に張り付かせている。
「何を説明して欲しいんだいワイド」
「決まっている、先ずはカガリの事だ。お前この前の会議であいつを切り捨てたらしいな」
「ああ、その事。どうでもいいんじゃないかな。今頃は白馬じゃなくて白いMSの王子様ときっと何処かで幸せに暮らしているさ」
態々ウインクまでしてみせるユウナに、他の人間の体温が冷えていく。もっとも此処でユウナに何かすれば下級氏族である彼らの家など簡単に潰されてしまう。それが分かっていて、この様な態度を見せて挑発するのはユウナの悪い癖だ。
「まあ、真面目な話をすれば、彼女は今やテロリストのお仲間だよ。国の為には切り捨てないと、ね」
言外にカガリ、と言うよりもアスハに味方するならどうなるか分かるだろうという恫喝を込めた視線を向けると渋々ながらも矛を収めるワイド。
彼らもカガリの婚約者候補であった人間達である。家の力関係とはいえどもカガリの夫に納まるはずのユウナが、あっさりと彼女を切り捨てた事に納得がいっていないのは見れば分かる。
正し彼らにとってもカガリは君主では無く、彼女と結婚する事で自分の家の地位を向上させる為に必要だと言うだけなのだが。
「まあ、その話はいいよ。今日君達に集ってもらったのは他でもない、今から宇宙に行ってGGGと協力してゾンダー迎撃に当たって欲しい」
「ゾンダーの迎撃ですか、でも我々の機体はゾンダーに有効な打撃を与えられないのでは」
疑問を口に出すのは、ホースキンである。眼鏡を架けた理知的な風貌の彼は外見どうりに知略に長けたタイプだ。事前に調べられる事はキチンと調べている。
その疑問は予想していたのであろうユウナは、平然ととんでも無い事を言った。
「ぶっちゃけて言うと、オーブとしてGGG共に戦ったという実績が欲しいんだ。戦闘は適当にお茶を濁してくればそれで良いよ。後此方が本当の任務だけどね、GGGの機体データの取得とできればゾンダーのサンプルを回収してくれ」
この発言に騒然となった5人が何を考えているのかと詰め寄るのを、手を上げて制止したユウナが続ける。
「だって両方とも凄い技術じゃないか、GGGもゾンダーも誰かが作ったもの何だ。ならそれを解析できればオーブにとってこれ以上に無い力になるよ」
どちらにしろ何処の国も同様に動くのは確実だろう、なら此処で遅れを取る訳にはいかないのだ。GGGにはスパイを送り込んでいるが、そう簡単にはいかないだろう。
ならば戦場で手に入れられそうなゾンダーのサンプルを確保して置くのは悪くない選択だ、顔の前で手を組んでニコニコと笑うユウナに対して5人は従う以外に無かった。

ネオ・ロアノークは久しぶりに仮面を外して任務に就くこととなった。もっとも髪の色を染めたり、カラーコンタクトをしたりと必要最低限の変装は行なっている。
それというもの、上司であるロード・ジブリールからゾンダー防衛戦に参加してGGGの機体データの取得とゾンダーのサンプルを回収するように命令されたからである。
ネオはGGGの機体とはベルリンで交戦しているため目立つ仮面は止めてファントム・ペインではなく、ただの大西洋連合軍として本作戦に参加、目的を達成するつもりである、当然ながらスティングとアウルの二人も一緒に宇宙に上がっている。
「これは大佐、お久しぶりです」
「よう、イアンまた宜しく頼むぞ」
嘗て乗艦していたガーティー・ルーに再び乗り込む事になったネオ達、無論GGGに気取られないように強奪したセカンドシリーズはヘヴンズ・ベースにステラと一緒に送ったし、デストロイも持ち込んでいない。
今回の作戦について副官になるイアンと話していると一人の兵士が進み出てきた。
「お前さんは?」
「はっ、自分はシャムス・コーザであります。この度の作戦から大佐の指揮下に入ることとなりました」
確かDSSD接収作戦に参加した兵士でヴェルデバスターのパイロットだったはずだ。
「ああ聞いてるよ、DSSDでは大変だったな。とはいえ補充の人間はありがたい、期待させてもらう」
「お任せ下さい、必ずコーディネイター共を抹殺してみせます」
これに少々渋い顔になるネオ、今回の作戦はそのコーディネイターと共同で当たる振りをしないとならないのだが、口振りから強烈なブルーコスモスなのが分かる。
実際シャムスは幼い頃からの思想教育によってコーディネイターを憎悪していたが、仲間であるミューディー・ホルクロフトを失ってから、より顕著に反コーディネイターを表すようになっていた。
多少不安感を覚えないでもないが、腕は確かだろうと意識を切り替えて、次の作戦はそのコーディネイターと共同戦線を張らなきゃならないと念を押すと、苦虫を噛んだ様な顔を見せるが、命令には従うことを約束して出て行った。
「やれやれだな、こんなんで上手く往くのかね」
ごちるネオと、苦笑するしかないイアンであった。

火星の衛星、フォボスの地表でソルダートJは焦っていた。マーシャン救援に訪れたJと火麻はマーシャンの脱出艇をESウィンドウへと逃がす事に成功したが、その時にJアークは一撃を受けてしまった。
最もその一撃は、最後に脱出する火麻達が乗ったGGG艦ディビジョンVIII 最撃多元燃導艦 タケハヤを狙った物を庇ったが故のものである。
その後も単機で此処に残り、ゾンダーと戦ったキング・ジェイダーであったが、一瞬の油断を衝かれて動力部に損傷を負って、フォボスへと不時着してしまった。
追撃を警戒したJであったが、幸いにもそれは無く現在は急ピッチでJアークの修理を行なっているところだ。
「くっ不覚、まさかヤツの正体があんなものとはな。トモロ修復まで後どれほど掛かる?」
「完全修復まで、37時間58分04秒」
外見に惑わされた己の身を恥じながら、Jは来るべき戦いに備えていた。

キラ・ヤマトはアークエンジェルでラクス・クラインからの通信を受け取っていた。
「じゃあラクス、実際にゾンダーは居るんだね。そしてその脅威が地球に迫っていると」
「ええキラ、ターミナルからの情報もそのように報告を上げてきています。私達は如何するべきでしょうか」
モニター越しに見つめてくるラクスの問いかけに、キラは今読んだゾンダーの情報を頭の中で照らし合わせながら暫く考え込むと顔を上げた。
「僕は戦うよラクス、そんなの見逃せる訳無いじゃない」
「キラ…」
戦うと言うキラを心配して声を掛けようとするラクス、そこへターミナルから齎されたゾンダーの情報に目を通していたマリュー達がキラに進言する。
「でもキラ君、この情報が話半分だとしても今の私達にはキツイ相手よ」
「分かっています。それでも僕は…」
俯くキラ、その横顔は憂いをおびて一層の魅力を感じさせる。その横顔を見つめていた一同が大きく息を吐くと次々と賛同を顕にする。
「分かったわ、彼方がすると言うなら私達は協力を惜しまないわ」
「そうだぞキラ、お前がやるなら私もする」
「無論、我々にもキラ様のお供をさせて下さい」
マリューが、カガリが、アマギが、その他の全ての人間がキラの意思に呼応して、自分と共に戦う事を表明してゆく。
自分の戦いは世界の為の戦いであるとの思いを一層強くするキラに、モニターのラクスから声が掛かる。
「キラ、私はもう止めません。でも決して無理はなさらないで」
例えここで敗北したとしてもゾンダーの情報が取れれば、次の戦いには勝てる。その為にも此処でキラが倒される事は避けるように念を押すラクスにキラは心配しないようにと笑顔を見せる。
「有り難うラクス、大丈夫僕は君の下へ帰るよ」
「はい、御無事でキラ」
見つめ合うキラとラクス、二人は自分達の信じる理想の為にゾンダーとの戦いに挑む。

月軌道宙域にガイガーにフュージョンした凱を始めとしたGGG機動部隊と全世界から集った迎撃部隊がゾンダーの来襲を待ち構えていた。観測結果からすれば今日のグリニッジ標準時間で13時00分+-05分でこの場所にゾンダーが現れるはずである。
様々な思惑を持ちながらも《地球連合軍》ともいうべき大部隊がコメット・ベースへと集結した昨日、ゾンダーに関するレクチャーが行なわれて作戦が決められた。
現場指揮官として火麻参謀が全軍に対して確認の意味も込めてもう一度作戦内容を周知する。
「良いか、各国の迎撃部隊には不満だろうがお前等のMSではゾンダーに接近したら融合されちまう。そのために俺達GGGが先鋒を務め、ゾンダーのバリアを無効化させたところで攻撃を叩き込んでくれ」
緊張と不安、さらにGGGに対する不信といったものまで感じ取る事が出来るが集った全軍より了解が届く。一旦通信を切った火麻がトレードマークのモヒカンを掻き掻き呟いた。
「ま、この雰囲気はしゃあねえか。急増の上にゾンダーに対する不安と俺達に対する不信があるのは分かるからな」
「でも参謀、あのゾンダーとの融合を防ぐ機械を皆に配れば良かったじゃないですか。そうすれば不信感も薄れると思うんですけど」
これを聞きとがめたオペレーター席に座ったメイリンが火麻に聞くが、これには苦笑しながら答える火麻。
「嬢ちゃんの言う事も尤もな話だが、早々簡単に量産できるしろもんでも無いしな。それに万が一悪用されたら、えらい事になっちまう」
自分達の世界で《フェイクGSライド》を使ったバイオネットとの苛烈な戦いを思いだす火麻を始めとしたGGGの面々の態度にメイリンも昔何事か有ったのを察して納得する。その時タケハヤのブリッジにエマージェンシーが鳴り響いた。
「遂に来たか!?」
「いえ、違います。これはスペースシェパードの宇宙船が当該宙域に侵入した模様です」
メイリンからの報告を受けて全員の緊張が脱力に変わり、火麻が呆れたように呟く。
「まーた、あいつ等か。ったく何度居言やあ理解するんだぁ、あの馬鹿共は」
スペースシェパードは過激な行動で知られる環境保護団体で、今回の事件に対しても宇宙鯨を保護せよ、宇宙人との対話を考えろと抗議行動を起こして度々騒動を起こしていた。
今回のゾンダー迎撃に意を唱え、戦闘宙域に侵入しては追い返されると言う事を繰り返している。
「おい、長官! あいつ等何とかならねえのか。マスコミも近くに寄らせろって五月蝿えし、如何すりゃ良いんだよ、まったく」
GGG本部であるコメット・ベースに通信を繋ぐと大河長官に対して愚痴る火麻。それを宥めながらも、この問題には大河長官も頭を痛めていると言う。近い部隊に連絡を入れて強制的に退去させる。
なおも文句を言う火麻に大河長官がやんわりと釘を刺す。
「そう言うものでは無いよ火麻君、どのみちゾンダーを一目見れば否応無く理解するだろう」
「その通りじゃ、ゾンダーと我々人類は相容れない。この宇宙に置いて人類とゾンダーのどちらの種族が生き残るかの生存権を賭けた戦いになるのだからな」
雷牙博士が重々しい口調でこの戦いの意義を述べると、それに呼応したかの様に宇宙空間に歪みが観測された。
「重力偏向を確認、ESウィンドウ開きマース」
「同時に素粒子ZOの反応が観測されました。間違いありませんゾンダーです」
「良し、頼むぞ地球の勇者達よ。この戦いに人類の存亡が掛かっている!」
大河長官の激に集った全員の顔つきが変わる、そして宇宙空間に出現した巨大な穴より、ゾンダーがゆっくりと姿を現した。
「ZON・DER!」
出現した巨大鯨型ゾンダー《エヴィデンス-02》が咆哮を挙げると、その余りの巨大さと迫力に恐慌を起こす者も居た。しかしそのゾンダーの迫力に負けずに勇気と力を持った声が全員の耳に入ってきた。
「往くぞぉ! 皆ぁ!!」
『『『応っ!!!』』』
凱の声に合わせて、GGGの機動部隊が吶喊し、それを見て自分を取り戻した全地球軍部隊のそこかしこからゾンダー目掛けてビームの雨が降り注ぐ。
ここに地球の運命を掛けたゾンダーとの戦いの幕が切って落とされた。

ゾンダーとGGGが戦いを始めた丁度その瞬間、ファクトリー内にある生体研究所の一角に置かれたシリンダー内に緑と赤の光が溢れた。
その光の圧力に敗北したシリンダーのガラスが弾け飛び、中に囚われていた二人の少年を解き放った。
「ゴホッ、ゴホゴホ」
脱出したが思わず膝を着いて咽る天海護に友人である戒道幾巳の手が差し伸べられた、その手を取って立ち上がる護。
「有り難う、戒道」
「如何いたしまして、それより天海」
「うん、この感覚間違いないよ。ゾンダーだ、凄く多い」
「それに奇妙なヤツがいる」
戒道が言うのでもう一度反応を探る護、体が淡い緑の光に包まれて額にGの紋章が浮かび上がる。先程感じたゾンダーの中に居る、酷く異質なソレは直ぐに見つかった。
「本当だ、なんだろうこれ。ゾンダーなのは間違いないけど」
「ああ、普通のゾンダーでも原種やZマスターに感じたのとも違う」
しいて言うならばゾンダリアンに近いが受ける印象が違う。そこまで話していると、けたたましいサイレンが鳴り響いた。辺りを見渡せば此方に向かってくる足音が聞こえてくる。
「話しは後回しだ、とにかく此処を脱出しよう」
「うん!」
護と戒道、二人の少年の過酷な逃亡劇が幕を開ける。

君達に最新情報を公開しよう
遂に月軌道上で激突するゾンダーとGGG
しかしゾンダーの圧倒的な力の前に苦境に立たされる地球連合軍
その時、シンの想いが力となる
次回 勇者王ガオガイガー DESTINY
第18話 『勇者 誕生』 にFINAL FUSION承認
これが勝利の鍵だ 《GSライド》



[22023] 第18話 『勇者 誕生』
Name: 小話◆be027227 ID:8fbdcd62
Date: 2010/09/20 10:49

月軌道上に現れたゾンダー《エヴィデンス-02》の内部から機械三将が、集った地球連合軍を眼下に望んでいた。
その内の一人髪を逆立てて顔に赤い隈取と体中に工具類を張り付けた機械三将レロウルが楽しそうな声をあげる。
「居る居る、どいつもこいつもゾンダーメタルの良い苗床に成ってくれそうだぜ~」
白目の部分まで真っ赤な目で髪の毛が銀色の鋼で出来ており、間接の隙間から炎を吹き上げている機械三将イグジスがイライラした口調で告げる。
「ええい、戦いを前にして何時まで待てばいいのだ。もう我慢ならん」
それを宥める黒曜石のような肌と金の鬣を持ち、顔には下弦の月のような裂け目の口があるだけの機械三将ナシェイル。
「それは《MOTHER》に聞きませんか?」
その声に反応したのか、三人の後ろにある球状の物体の中に髪の毛がケーブルで形作られ、閉じた両目の上下に分割線、線の両側にはリベットが打ち込まれている美しい女性の巨大な顔が浮かび上がる
「機械三将よ、この戦いをどう見ますか」
「色々な機械があって楽しそうだぜ。さっさと行って解体してえな~」
「あのような有象無象に係わるなど我慢ならん、全て破壊してくれる」
「中には強力な敵も居そうですよ?」
MOTHERの問いかけに各々の見解を述べる機械三将に満足げな微笑みを浮かべると出撃を命じた。
「お気を付けなさい。あの中には我々ゾンダーに対抗できる“G”の戦士が居るようです」
その忠告にはイグジスが鼻で笑って自信満々に答える。
「MOTHERに置かれましては御心配めされますな、かの赤の星の戦士もゾンダーの敵ではありませんでした。いわんやGの戦士などこのイグジス一人で充分」
「イグジス、自信があるのは結構ですが、油断していると足元をすくわれるでしょ?」
「そうだぜ、お前ただでさえ、怒りっぽいんだからよ」
「何だと如何にお前達といえども、侮られるのは我慢ならん!」
嗜めるナシェイルとレロウルに一睨みくれると、イグジスは一声残して壁に同化して姿を消した。それを笑いながら見送った残りの二人に、MOTHERがあまりイグジスをからかわないように言ってから出撃を命じた。
それぞれに返事を返して先程のイグジスと同様に姿を消すレロウルとナシェイル。
三人の姿を見送ったMOTHERは目に映る、光景の中にある一つの機体を見つめていた。
「この力、まさか」
その呟きは誰に聞かれる事も無く広間に消えていった。

現れたゾンダーは凡そ全高120m、全幅300m、全長900mの超巨体で鰭の部分から6枚の翼が生えた鯨の様な姿であり、その巨体に比例するように動き自体は鈍重に見えた。
「これよりあの固体をエヴィデンス‐02、通称EV-02と呼称する。この戦いに地球の存亡が掛かっているといって過言ではない、諸君等の検討を期待する。戦闘開始!」
月軌道宙域におけるゾンダー侵攻阻止作戦に集った地球側の戦力は、凱を始めとしたGGGの機動部隊に加えて地球の各国から集ったMS隊おおよそ200機である。その全ての機体にコメット・ベースより大河長官が戦闘開始を告げた。
EV-02は未だに胴の3分の1程がESウィンドウの中に残ったままで、後ろには後続の姿が見えない以上その数は1体にすぎない。勿論、敵の戦闘力を見た目で判断するのは危険だが、これを好機と見て凱が全員に攻撃開始を告げる。
「往くぞぉ! 皆ぁ!!」
『『『応っ!!!』』』
「OK! ディスクPセットON、俺も皆の為に歌うッゼ」
この凱が挙げた声に合わせて、GGGの機動部隊が吶喊した。一番槍を付けたのはやはり凱がフュージョンしたジェネシックガイガーであった。
ギャレオンは三重連太陽系のGクリスタルにおいて、プログラム調整を受け、本来の機能と姿を取り戻したジェネシックギャレオンへとその姿を変えていた。
しかしジェネシックは対ソール11遊星主専用に調整された機体であり、ゾンダーに対抗するには地球に居たときの状態の方が好ましい、しかし総合的な能力は本来の姿であるジェネシックである方が優れている。
そこで雷牙博士の手によって、ギャレオンのGストーン内に存在する対ゾンダー用のプログラムを再び起動、再調整を行い主動力源はジェネシックオーラを使用することでジェネシック本来の性能を発揮させながら、
対ゾンダー用には《素粒子Z0》と対消滅関係にあるGパワーを平行して使用できる様に生まれ変わったのが現在のジェネシックギャレオン、そして凱がフュージョンしたジェネシックガイガーである。
これは元々Gパワーがジェネシックオーラを基本にして緑の星の指導者カインの子ラティオ(天海護)の能力を解析して緑の星で開発された事と二つのエネルギーを制御する事が可能なエヴォリュダー凱の力が合わさって可能となった。
「ジェネシッククローゥッ!」
Gパワーを纏ったガイガーのジェネシッククローがゾンダーの顔に叩き込まれるがその一撃はゾンダーバリアに拠って一瞬遮られる。
ゾンダーバリアは一種の《レプリションフィールド》を展開する事によって、通常空間と反発し合う作用を利用した《ポテンシャルカスケード》と呼ばれる力場を形成し、
攻撃への防御を行なうものだが、この力場はより強い物理的攻撃を用いることで破壊する事が可能だ。
凱のジェネシッククローは、ゾンダーバリアの守りを突き破り《EV-02》に二筋の傷を刻むが、その傷は瞬く間に修復されてしまった。
また勇者達が放つ攻撃もこのバリアに阻まれ大したダメージは与えられない、一応は本体へと届く攻撃も在るものの同様に修復されてしまう。
「くっ、駄目かっ」
ゾンダーの再生能力は事前に予測していた物よりも大分強力であるらしい、凱達の攻撃でバリアが破られた瞬間に、周辺に集ったMSからEV-02に攻撃が加えられるものの此方も体の表面を焦がす程度で直ぐに修復されてしまう。
「ちょっと、ダメージが全部直っていくわよ!?」
「話には聞いていたが、予想以上の敵だ」
此方の攻撃が効かない事にMSパイロット達から悲鳴が上がる。大体からしてMSの攻撃はバリアに阻まれてGGGがバリアを破った僅かな時間帯しか届いておらず、集った機体数に比して飽和攻撃とまでいかないのも問題となっている。
ゾンダーに対しては直接攻撃による本体を破壊してからゾンダー核を摘出して浄解、若しくは破壊するのが最も有効な手段である。
その第一段階として機界文明の機動兵器が、ほぼ例外なく展開する強固な防壁であるゾンダーバリアの突破、無効化が必要とされるのだが、
ミサイル程度では通用しないこの防壁を突破しない限り、機動兵器でもあるゾンダーロボ本体、そしてゾンダー核に対する干渉は困難を極める。
「ならば私が、システムチェーンジッ! 三身一体、ビッグボルフォッグ」
ボルフォッグを中心としてガングルーが左腕、ガンドーベルが右腕にシステムチェンジして3体合体する事でビッグボルフォッグとなるのだ。
「メルティングサイレン!」
ビッグボルフォッグが両腕を広げて胸にある赤色灯がサイレンを奏でる、するとEV-02の周囲に張り巡らされたバリアが消されてゆく。
これがギャレオンの持つGパワーの振動によって作り出したメルティングウェーブの発振(ギャレオンロアー)によってEI-01が有する強力なバリアを無効化した機能を解析し、
ほぼ完全な形で複製に成功した、ゾンダーバリアを形成するポテンシャルカスケードを崩壊、無効化させる武装メルティングサイレンである。
バリアが分解されて消失した為にMSからの攻撃が直接本体に届くようになったことで、周囲にいるMS隊からの攻撃が漸く飽和攻撃と呼んでも通用する量になったことで加速度的に壊れていくEV-02。
しかし壊れた体は直ぐに修復していく為に、歩みが止まることは無い。遂にその全体がESウィンドウから抜け出して全ての威容を晒すと6枚の翼を大きく広げた。
「ZON・DER!」
音を伝えないはずの宇宙空間にEV-02の雄叫びが響き渡る。巨体から発せられたその叫びは集まった人間達に恐慌を起こさせた。
真正面から対峙する地球連合軍と集った凱を初めとした地球連合軍を睥睨するとEV-02はその大きく広げた6枚の翼から光を放ち始める。
「まずいっ避けろぉっ!」
凱の叫びと同時に、光る翼から無数のエネルギー光弾が放たれた。防御、回避行動を採る各機だが、避け損なった者が次々と光の奔流に飲み込まれてゆく。
それでも此処に集ったのは皆それなりの腕を持った者達である、撃墜された者はそう多くは無い。
「どうやら単にデカイだけって訳でも無さそうだな」
態勢を整え直す地球連合軍とGGG、それを前にして身震いするEV-02、両者の戦いは始まったばかりだ。

月軌道宙域で凱達が戦っている頃、天海護と戒道幾巳もまた戦いの渦中にいた。自分達はあの三重連太陽系でのソール11遊星主との戦いの後、二人だけで地球へと送られた。
しかし二人は本来自分達が帰るべき故郷ではなく、このCE世界へと現れてしまった、そして漂流する二人を救ったのは、クライン派に連なる者だったのである。
初めは子供の漂流者という事で大切に扱われた二人であったが、護がその生来の素直な性格から自分達の素性を話してしまった。
その話に興味を持ったシーゲル・クラインは二人を晩餐に招き、食事に睡眠薬を混ぜて意識を奪うと生体研究の素体としたのである。
そのまま研究材料とされてしまった護と戒道であったが、この世界に存在したゾンダーが発する素粒子Z0の波動によって、抗体としての二人の能力が瞬間的に増大した事で囚われていたシリンダーを内部から破壊する事に成功した。
現在はファクトリーからの脱出行の最中である。お互いに翼を出して狭い通路を飛行しながら出口を目指すものの、このファクトリーはクライン派の重要基地である、脱出が知れた時点で隔壁が降り、追撃部隊も出ている。
それと同時に疲労と何処へ向かえば脱出できるのかが分かっていない事が二人の焦りを生んでいた。
「だめだ、此処も塞がれている」
「どうしよう戒道、このままじゃ又捕まっちゃう」
「こうなれば隔壁を破壊して進むしかないか」
戒道の提案に頷くと両掌を組んで前に突き出す護と、右手を前に左手を上に翳す戒道。
「「はあっ!!」」
二人はGとJのパワーを衝撃波に変えて隔壁へと叩きつける、2度3度と攻撃を加えると隔壁に二人が通れるくらいの穴を開ける事が出来た。
「よし、行こう」
「うん」
再び逃亡に移る二人をモニターで眺めていたシーゲルは、その力を見て嬉しそうな声を上げた。
「ほほう、これは中々の拾い物だったようだな。性能も見せてもらった事だし、遊びは此処までだ。生きてさえいれば研究には支障無かろう、適当に痛めつけて捕獲せよ」
「はっ」
側に控えていた眼帯の女に指示を与えると、今朝から愛娘に会っていない事を思い出して所在を尋ねる。
「ところでラクスは如何した、姿が見えないが」
「ラクス様でしたらキラ様の為にミーティアを届けるとエターナルで出航なさいました」
「そうか、仲良き事は美しきかな。だな」
二人の仲が良いのはシーゲルとしても嬉しいことだ。次代のクライン派、否世界の支配者を生み出す二人なのだからと心底楽しそうに笑うシーゲルであった。
逃亡を続ける二人はその後も、幾つかの隔壁を破壊しながら進むと広い場所へと出た、其処には黒と紫に塗装されたズングリしたシルエットのロボットが製造途中の状態で置かれていた。
「ここは工場か、それとも格納庫か」
「でもこんなロボットがあるって事は、ロボットが出るための出口があるはずだよね」
工場ならばこのロボットを搬送する搬出口が、格納庫であればこのロボットが外に出るためのハッチが在るはずだ、辺りを見回す二人の耳に銃声が聞こえた。
「うわあっ」
「戒道?!」
護が振り向くと、右足から血を流して倒れている戒道の姿が飛び込んでくる、咄嗟にバリアを展開して駆け寄ると体を抱えてロボットの影まで飛んでいく。
隠れた二人の耳に銃を撃った人間達の声が聞こえてきた、どうやら生きてさえいれば、腕や足が無くても構わない等と言う物騒な事を口々に叫んでいる。
「大丈夫、戒道? 直ぐに手当てをしないと」
心配して話し掛けて来る護に戒道は首を振って見せた。右足の傷は銃弾が貫通したようだが、これでは走れない。飛ぶ事は出来るがこの傷では出血が激しいために何処まで持つかも分からない。
さらに今まで何処に居たのか分からないが、次々にこの場所へと人が集ってきている。足手まといの自分が一緒では護も捕まってしまう。そう判断した戒道は護に対して一人で逃げるようにと言った。
「行くんだ天海、ここは僕があいつ等を引きつける!」
「そんな事駄目だよ。二人で逃げるんだ」
「このままでは二人ともまた捕まる。それよりも君だけでも逃げ延びて助けを求めるんだ。君も感じているだろうゾンダーと戦っているこの反応は間違いなくGGGだ」
確かにゾンダーと戦うGパワーを感じる、それもこの慣れ親しんだ感覚は十中八九GGGの皆だろう。そこまで護一人で逃げてくれと、そう話す戒道に護も反論する。
「駄目だよ、怪我をした戒道を放っておけない。僕が抱えて飛んでいく」
「それこそ駄目だ、それに話し振りではヤツらも命までは取らないようだ。だから僕の事は気にしないで行ってくれ」
暫し見詰め合う護と戒道、どちらの意思も固いと分かる一瞬が過ぎ去り、折れたのは護であった。すっくと立ち上がると戒道に背を向けてハッチの方を向く。背中越しに戒道へと話しかける護。
戒道は今、自分の為に犠牲になろうとしている、そして今の自分達では二人で此処を脱出するのが難しい事も理解出来る、出来てしまう。
「絶対、絶対迎えに来るから、だから!」
「ああ、信じているよ。友達だからね」
「うん! 約束する」
護は自分の体を光に包み、叫びながらハッチへと突っ込んだ。この時、護の力は友達を置いて行かねばならない自分自身の不甲斐なさと、怒りによって最大に発揮されていた。
「うわあああああっ!」
護は大声で叫びながらエアロックの扉に激突すると大穴を開けて宇宙へと飛び出して行く、エアロックの扉は直ぐにシャッターによって塞がれたが、護が飛び去ったその後には数粒の水滴が残されていた。
その背中を微笑みながら見送った戒道は、震える足で立ち上がって護が飛び出した扉の前に陣取ると集った兵士に鋭い視線を向けた、すると黒い服をきた男が二人進み出てきた。
「おいおいもう逃げないのか、随分諦めがいいんだな?」
「ははっ、足を打ち抜いておいて逃げるも何も無いもんだろうが」
ゲラゲラと品無く笑い始めた兵士を前にして、戒道は護を逃がす為に時間を稼がねばならない、そして迎えに来ると言ってくれた友達を信じるからこそ真っ直ぐに前を向いて決然と言い放った。
「来るなら来い、此処から先へは行かせないぞ!」
その気迫に気をされる兵士達。戒道の孤独な、しかし誇りと友情に満ちた抵抗であった。
宇宙へと飛びだした護は全速力でGGGとゾンダーが戦っている場所へと向かっていた、戒道に逃がして貰ったからには、約束通りに助けを呼んでくる事が今の護にできる精一杯の事だからだ。
「待っててね戒道。直ぐに助けを呼んでくるから、それまで無事で居て」
決意を胸に宇宙を行く護の姿をモニターで見ていたシーゲルは傍に控えていた眼帯の女に向かってつまらなそうに呟く。
「折角のサンプルを一匹逃がしてしまうとはな、この失態には罰が必要だ」
そう言って女の前に立つと眼帯をずらして、吸っていた葉巻を瞼に押し付ける。ジュッという音と肉が焼ける匂いが部屋に流れる。
「行け、もう一匹は逃がすな」
部屋の外へ出た眼帯の女ヒルダ・ハーケンは眼帯の上から愛しそうに瞼を撫でる。この痛みがシーゲル様との絆、思い出すだけでイッてしまいそうだ。そこまで考えた所で頭を振ってから意識をやるべき事へと戻す。
「あいつ等、遊びすぎてしくじりやしないだろうね」
未だ騒動の収まらぬ場所へと足を向けるヒルダ、護と戒道が再び出会うには今暫らくの時間が必要となる。

護が戒道の援護によってファクトリーからの脱出を成し遂げた頃、凱達とEV-02との戦いは次の段階へ移行しようとしていた。
シン達MS隊もゾンダーとの戦いに身を投じていた、特にシンとスウェンの機体はGGGでの改造によってゾンダーとの融合が起こらないうえに、
武装にもGパワーが使われているので他のMSよりも有効な攻撃を与えられるのだが、与えたダメージが見る間に回復していくのを目の当たりにすると気が滅入ってくる。
シンのインパルスは現在ブラストシルエットを装備しているのでバリアが破られた時にケルベロスのビームを撃ち込んでいるが効いた様子が無い。
「くそっ、本当にこんなヤツ倒せるのかよ!」
悪態を吐きながらも攻撃を繰り返すシンにスウェンから通信が入る。
「落ち着け、俺達の機体に装備された《GSライド》はパイロットの精神状態で出力が変動する。熱く燃えるのと焦るのとでは違うぞ」
GSライドはギャレオンがもたらした数々のオーバーテクノロジーの中でも中心的存在である、命の宝石とも呼称される緑に輝く六角形の結晶体であるGストーンを触媒としたエネルギー抽出機関である。
このGストーンは無限情報集積回路であると同時に、結晶回路を利用した超々高速度の情報処理システムでありながら優秀なエネルギー抽出源でもあり、使用者の勇気に感応する形で更に莫大なエネルギーを発生させる事が可能である。
このように多くの特性を持つGストーンであるが、その基本的な性質は《対機界昇華反物質サーキット》という説明がもっとも端的であろう。
対機界昇華反物質サーキットであるGストーンはゾンダー達が放出する《素粒子Z0》とは反物質であり、対消滅する関係にあるGパワーと呼ばれるエネルギーを発散させており、ゾンダーとの直接接触ではエネルギー値の小さい方が消滅する事になる。
GGGのメカは基本動力としてこのGSライドを内蔵したGドライブといわれる動力機関によって、GSライドが抽出したGパワーを人間でいう所の血液にあたるGリキッドを媒体に機体各所に送り出すことでゾンダーとの融合を防いでいる。
その措置を施されたインパルスとノワールはEV-02との戦いでも融合を気にせずに、無論エネルギー総量ではEV-02の方が大きいので油断は出来ないのだが他のMSよりも戦える。
しかしダメージを与えてもゾンダーの特殊能力である高速再生によって回復されるので、此方の疲弊具合に応じてじわじわと気力が削がれていた。
一進一退を繰り返す戦いの中でEV-02が大きく口を開いた、その口中に赤く光る目が無数に出現した。
「なんだ?」
怪訝な声を出したシンの前にEV-02の口中から次々と新たなゾンダーロボが出現したのである。その姿は四肢を備えて盾を構えた人型、つまりMSに酷似していた。それを見た火麻参謀がディビジョンⅧ最撃多元燃導艦タケハヤの艦橋にて叫んだ。
「こいつ等は火星で吸収されたマーシャンだ!」
この叫びに全軍から動揺の声が上がる。事前の説明で人間がゾンダーとなる事は知らされていた。しかし現れたEV-02の姿は宇宙鯨であり、集った人間達にそれを感じさせなかった。
だがこれは間違いなくMSを基にして生まれ出たであろう姿をしている、それが一層の嫌悪感と恐怖を煽った、動きが一瞬止まる地球連合軍のMS隊にゾンダーロボ化したMSが一斉に襲い掛かる。
ゾンダーロボは当初はゾンダー全体を指すEI(Extra Intelligence(地球外知性体))のコードネームを振り分けられていたが、
今回は地球人がゾンダー化されるという事実を勘案してZONDER-ROBOTの頭文字を採ってZRのコードと番号が割り振られる事になった。
「うっうわあああっ!」
「くっ来るなああ」
恐慌を起こしたMS隊がZRの攻撃で撃墜されかけたその時、迫るZRの横から2機のMS緑と白の機体、シンの駆るブラストインパルスと黒い機体スウェンの操るストライクノワールが飛び込んで来た。
「やらせるかぁっ!」
「ふんっ!」
その一撃はバリアによってZR本体にはダメージを与えられなかったもののZRを弾き飛ばした事で友軍を救出する事には成功した。
「お前達は下がれ、こいつらの相手は我々がする」
「ゾンダーのバリアはその防御能力以上の衝撃で壊せるって習っただろ、離れて集中砲火してくれ」
通信を受け取ったMSは言われた通りにZRから距離を取って援護射撃を開始する。そこへ白と赤のザクも加わりZRが張るバリアの一点へと砲火を集中させた。
ビックボルフォッグのメルティングサイレンの効果範囲から離れているために完全には無効化されてはいないもの弱体化しているゾンダーバリアが軋みをあげる。
「これでえっ!」
ルナマリアの乗る赤いザクから放たれたオルトロスの一撃が遂にゾンダーバリアを貫いた、そこへブラストインパルスのビームジャベリンとノワールのMR-Q10フラガラッハ3ビームブレイドが襲い掛かりZRの四肢を切り離す。
「やったか」
「いける、こいつ等ならMSでも戦える」
MSでもゾンダーバリアを貫く事が出来る事が証明された、それを見たMS隊の面々が戦う気力を取り戻して戦線を構築していく。戦いは戦域を広げながら激しくなって行く。

マーシャンがゾンダー化したZRが出現した事で、月軌道の各所で戦闘が激化してゆくのをディビジョンⅨ極輝覚醒復胴艦ヒルメのブリッジにて見ていた雷牙博士が重々しく口を開いた。
「EV-02の中でゾンダーが生まれたと言う事は、奴の正体は自律が可能なゾンダーメタルプラントか若しくは原種に相当する上位種か、或いはマスタープログラムのようだの」
「まさか、Zマスターは我々が木星にて倒したはずです」
ゾンダーロボを生み出したという事は体内でゾンダーメタルを生成する事が可能という事実を見て、雷牙がEV-02の正体に対しての見解を述べると、コメット・ベースにいる大河長官からそれを否定する通信が入る。
ゾンダーとの戦いは熾烈を極め、原種との木星決戦では凱の実父である獅子王麗雄博士を失いながらの辛勝であった。
そんな多大な犠牲を払いながらも戦い続けた末に倒したのが全てのゾンダーを司るZマスターである、あれほどの敵が複数存在するなど考えたくも無い。反論しようとする大河に向かって雷牙は落ち着いた声で諭した。
「長官、ゾンダーが本来何の為に生み出されたか思い出してみたまえ」
言われて大河はゾンダーが生まれた経緯を思い出す。ゾンダーは本来、知的生命体のマイナス思念を解消すべく、三重連太陽系の紫の星で開発された知的生命体の脳に直接作用してストレスを発散させることが可能な自律ユニットであった。
これにより高度文明を築いたが故に退廃した紫の星の住民の再生に活用が期待されていたがマスタープログラムの暴走により、その性質を大きく変えて独自に増殖、進化を開始して紫の星を機界昇華し、緑の星、赤の星にも進攻を開始したのである。
「さよう、ゾンダーは人が生み出したシステムが暴走したものだ。そしてこれほど高度なシステムを作るならバックアップ、或いはプロトタイプが存在して然るべきと僕は思う。考えすぎなら良いがの」
雷牙の静かな声に大河長官以下、この話を聞いた者達の背中に冷たいものが流れた。

EV-02からZRが放出されて周辺のMS隊と交戦を開始したとき、凱は焦っていた。このCEにおいて確かに凱は戦った相手を倒してきた、しかしその相手は軍人であり、戦闘を挑んでくるのは相応の覚悟あってのことだ。
このゾンダー化したマーシャン達も元は防衛に参加した軍属の者達ではあるだろうがZRとして破壊活動を行なうのは、ゾンダー核にされているマーシャンには責任が無いのだ。
しかも此処には護も戒道も居ない、彼等を元の人間に戻す方法はあるのかと考えてしまった。
そこへ聞こえてきたのが雷牙の仮説である、これが事実ならマスタープログラムかも知れないEV-02を倒せば全てのゾンダーを止める事が可能なはずである。
凱がファイナルフュージョン出来ない今最大の攻撃力を持つのはマイクサウンダースのソリタリーウェイブである。
しかしエネルギーソリトンを発生するディスクXの量産体制は整っておらず、ここで軽々に使用には踏み切れないと判断して支持を飛ばした。
「竜兄弟頼むぞっ!」
『『『了解』』』
『『『シンメトリカル ドッキングッ!!』』』
「超ー竜ー神!」
「撃ー龍ー神!」
「天ー竜ー神!」
氷竜、炎竜の二人が超竜神にシンメトリカルドッキング出来るのと同じく、竜型ビークルロボである風龍、雷龍、光竜、闇竜の4人は各々のシンパレートが頂点に達した時、
シンメトリカルドッキングによって風龍が右半身、雷龍が左半身になった撃龍神と光竜が右半身、闇竜が左半身になる天竜神へと姿を変えるのだ。
「ぶちかませぇっ!」
「ダブルガン、ダブルライフル一斉射撃っ!」
「唸れ疾風、轟け雷光、双頭龍(シャントウロン)!」
「光と闇の舞!」
凱の叫びと共に超竜神、撃龍神と天竜神の最強の一撃がEV-02へと向かうが着弾する直前にEV-02の前に虹色に輝く膜が張られた。その膜に阻まれて三人の攻撃が完全に防がれてしまう。
膜が消えた後には新たに現れた一体のZRが存在した、その機体は先程表れたZR達とは形状が違う。水母の様な姿をしながらも平べったい頭部の下から伸びる6本の足は鈎爪を備えており、頭に着いている単眼が不気味に光っている。
「そう簡単にはいかないでしょ?」
「なにっ?!」
そのZRから言葉が紡がれる、ゾンダーでありながら言葉を話す事が出来るのはゾンダリアンになった者だ。
「ゾンダリアンまで居るのか?!」
「そーゆー事」
凱の驚きに答えるように凱の頭上からもう一体のZRが現れ、自身よりも巨大な剣を叩きつけてくる。
「ぐっ」
咄嗟に両腕のジェネシッククローを交差させて受け止める凱。その横に更に違うZRが忽然と出現してジェネシックガイガーを蹴り飛ばす、完全な不意打ちに防御が間に合わず無様に吹き飛ばされる凱。
「ガッ」
「隊長!」
吹き飛ばされた凱をゴルディマーグが立ち塞がって受け止めた。礼を言って体制を整え直すと現れた3体のZRを睨みつける。
新たに現れた2体の内一体はずんぐりした姿に4本の腕を持っており太い2本の腕には100mを超える巨大な剣を持ち副腕の指は一本一本がドリルやスパナ等の工具類になっている。
もう一体は背中に三角形の帆のような光の翼を張り、両腕、両足は灼熱に赤く輝いている。その証拠に蹴られたジェネシックガイガーの脇腹は融解して爛れてしまっている。
EV-02と凱の間に3体のゾンダーロボが並び此方の力を値踏みするように睥睨する。
「ははっ、色んな機体がいるぜ」
「この程度の連中ならゾンダーロボで十分だったか」
「こらこら、油断は禁物でしょ?」
「一応自己紹介するかあ」
「此処で死ぬか、我々の走狗に成る者に必要とも思いませんが?」
「フン、礼儀みたいなものだ。我らは機械三将、俺の名はイグジス」
「レロウルだ、お前ら皆解体させてもらうぜ~」
「ナシェイルです。宜しくと言うのも変ですかね?」
完全に此方を侮っているような余裕の態度を示す三体のゾンダリアン、これでゾンダー側の戦力はEV-02に加えて機械三将と名乗る三人のゾンダリアンと30機程のゾンダーロボという陣容になった。
当初予測していた戦力よりも大分増強されたといってよい敵に対して作戦参謀である火麻からポジションチェンジの指示が飛ぶ。
「撃龍神はゾンダーロボに当たって核を抜き出せ、超竜神とビッグボルフォッグはその援護だ。ゾンダリアンの相手はルネ、天竜神、ゴルディが何とかして押さえ込め、凱はその隙にEV-02を頼むぞ!」
『了解!!』
火麻の指示に従って、フォーメーションを変えてゾンダーの迎撃に当たる凱達、しかしそう簡単にいかないのが戦場である。
ビッグボルフォッグと超竜神の援護で撃龍神がゾンダー核を抜き出す事には成功するものの浄解出来る人間がいない為に暫くすると復活してしまう。それでもこれを繰り返しながらEV-02が倒されるまで時間稼ぎをしなければならない。
「私達は隊長達がEV-02を倒すまで、MS隊の援護と核の確保に努めよう」
「任せてくれ超竜神、俺達は決して諦めない」
「その通りです、隊長達を信じて我々は出来る事を続けましょう」
凱達がEV-02を討つまでゾンダー核を守り続ければ、ゾンダーにされた人達を元に戻す事も可能となる、それを信じて戦い続ける3人。

凱がEV-02へと向かう前にレロウルと名乗ったゾンダリアンが立ち塞がるが、ルネのメビウスリオーが間に入って進行を助ける。
「何処行くんだよ、俺と遊ぼうぜえ~」
「あんたの相手はあたしがしてあげるわ、フュージョン!」
掛け声と共にルネがフュージョンを行なうとメビウスリオーが変形してメカノイド・リオファーへと姿を変えた。
リオファーはガオファーをルネ用に改装したので細かい差異がある、コクピットブロックへと通じる胸部装甲には更に厚みがもたらされ、高速戦闘を得意とするルネの為に全体的によりシャープに成っている。
マスクもより女性的に改造されており、ヘルメット部の後ろから長髪に見えるエネルギーアキュメーターが流れ出る。
武装は腕に供えられたリオンクローと射撃用の手持ち火器であるメビウスショットが腰に2丁、大型のグレネード付ライフル1丁を背部に備えている。
この射撃武器はCE世界の手持ち火器を参考に作られており掌のプラグからGパワーを供給する事が出来るので弾薬の消費をきにせずに無限に撃つ事と威力の調節が可能である。
更に胸部装甲内にファントムリングの生成装置を装備しているのでファントムリングが使用可能である。
「リオッファー!」
「こりゃ美人さんだ。解体し甲斐があるぜえ」
「デートの誘いなら、もう少しムードってものを考えて欲しいわね」
鈍重な見かけとは裏腹な機敏な動きで巨大な剣で横殴りの一撃を加えてくるレロウル、その攻撃をかわして、両手にメビウスショットを構えて撃ち捲くるルネ。
「へへっ楽しくなってきやがった」
「見た目通りに頑丈みたいね、でも凱の邪魔はさせないわ」
対峙する獅子の女王と機械三将の戦いは激しさを増しながら続いてゆく。

天竜神は機械三将ナシェイルとの戦いに入っていた、しかしその盾の前に攻撃が通用しない。
自身最大の技である光と闇の舞を防がれている以上ナシェイルの張るシールドを破るのは遠距離攻撃では不可能、ならば接近戦に活路を見出すのみである。
「ダブル・リム・オングル!」
両腕のGパワー集束させたエネルギーソードを作り出して真っ向から切りかかるが、その攻撃もまた出現したバリアによって防がれる。
「彼方の攻撃では私の盾は絶対に破れないでしょ?」
「なるほど、この盾はゾンダーバリアとは違う性質のものみたいね」
ダブル・リム・オングルも防がれた天竜神は一旦距離を取るとフレキシブルアームドコンテナから多数のジャミング弾を発射する。
ナシェイルの周囲で破裂したジャミング弾によって視界は勿論の事、通信、レーダー、熱感知などの全ての外部情報から相手を孤立させる事ができる。
「これは?」
全ての情報が遮断された事で天竜神の姿を見失うナシェイル。
「彼方の盾は常に張られているゾンダーバリアとは違い任意に作り出すもの、ならば知覚出来ない攻撃ならば防げないでしょう」
「それなら全方位に張り巡らせれば済む話でしょ?」
自らを中心にしてバリアを張り巡らすナシェイル、しかし其処に天竜神の声が真後ろから聞こえてきた。
「そうね、でも初めからバリアの中に入ってしまえば関係ないわ」
「何時の間に!?」
ダブル・リム・オングルを振り抜いて切り裂こうとするが、寸前で形を自分の形を両腕に盾を持った金の鬣をもった馬頭、上半身は人間、下半身は軟体動物を思わせる4本の足が生えた姿へと変えたナシェイルが盾で受け止める。
「なるほど、油断は出来ないという事ですね?」
一撃を受け止めたナシェイルと天竜神が共に後方へと飛び退って距離をとる、再び激突する両者の間に火花が散った。

予想外の戦いと成ったのはゴルディマーグとイグジスの戦いである、高速で移動するイグジスをゴルディマーグが捕らえきれないのだ。
パワーならばゴルディマーグとて負けはしないが、その力を発揮しようにも相手を捕らええる事が出来なければ通用しない。システムチェンジしてマーグキャノンを使おうにも無重力では反動が強すぎて自分の体制を崩してしまう。
基本的にゴルディマーグはガオガイガーのサポートメカである、そのマルチロボのウィークポイントが如実に現れてしまった。
「くそっ、ちょこまかと動き回りやがって、正々堂々と組み合えってんだ」
「貴様如きには力でも負ける気はせんが、そんな戯言に付き合う気はない」
四方八方から攻撃を加えられて頑強さが自慢のゴルディマーグのボディにも無数の傷が刻まれてゆく、それを見た火麻は自分の失策を嘆いた。
「しまった、此処まで相性の悪い相手を選んじまうとはな」
すばやく頭の中で考えを巡らせる火麻、あのスピードに対抗できるのは凱、ルネ、それにボルフォッグくらいだろう、しかし凱とルネは交戦中でありボルフォッグを此方に回すとなるとメルティングサイレンの効果を失うMS隊に支障が出る。
「ちいっ、何とかゴルディマーグに踏ん張ってもらうしかないか」
「俺が行きます!」
火麻が結論を出そうとしたときシンから通信が入った、返答も待たずにゴルディマーグの所へと飛んでいくシン。
「おい小僧! くそっスウェン、小僧の援護に入れるか」
「すまん、此方も手一杯だ」
スウェンもZR相手に奮闘している、GSライドが装備されている上にスウェンの腕もあってかなり頼もしく、窮地にいるMS部隊を良くサポートしているのだが、その分周囲を囲まれて奮戦している。
「ええいっ仕方ねえっ、小僧の援護は白坊主と嬢ちゃんに任せてゴルディマーグは凱の援護に回れ。全員しくじるんじゃ無いぞ」
『了解!』
再度の変更に遅滞無くフォーメーションを組み直してシンのインパルスがイグジスに向けてケルベロスを放つ、その攻撃を難なくかわすとシンの方へ向き直るイグジス。
「俺の邪魔をするなど我慢ならん!」
「来いっ、お前の相手は俺だあっ!」
邪魔された怒りのままにシンへと迫るイグジス、背中に張られた三角の帆から光の粒子を撒き散らしながら高速で突っ込んで来るとその腕を振るう。あまりの速度に回避が間に合わず頭部から胸部を破壊されるインパルス。
「他愛無い、この程度か」
「まだまだっ!」
チェストを外したシンは直ぐに新しいチェストフライヤーとフォースシルエットを要求する、シンの要請に応えて射出されたチェスト、フォースを換装して戦闘能力を取り戻すインパルス。
「ほう、しぶとさだけはあるようだ」
「舐めるな、俺だってGGGの一員だあっ」
救援に訪れたレイとルナマリアを加えてイグジスと相対する、旧ミネルバチームの3人。
「俺達の攻撃ではヤツに決定的なダメージを与えられん」
「援護に徹するからちゃんと決めてよ。頼りにしてるんだから」
「任せろ、やってやる」
「いかに3対1とはいえどその内の2匹は雑魚か、侮られるのは我慢ならんと言ったあっ!」
舐められていると感じたイグジスは怒りのままに力を増幅させて両手両足から激しい炎を発しながらシン達に迫る。
迎え撃つシンの持つビームサーベルが俄かに輝きが増し太くなる。シンの気合に応えて内蔵されたGSライドが静かにその力を増し始めていた。

EV-02に向かった凱とゴルディマーグも果敢に攻撃をかけるが苦戦していた。
「ギャレオンロアー!」
ギャレオンロアーはゾンダーバリアを無効化する能力があるが、凱がサイボーグ体であった頃はメルティングウェーブによって凱自身にも多大なダメージを負わせるために使用出来なかった機能である。
それがジェネシックオーラの無限波動にすら耐えられるエヴォリュダーとなったことで問題無く使えるようになった、戦闘域にギャレオンの咆哮が響き渡りゾンダーバリアが消え去る。
その瞬間を見逃さず援護のゴルディマーグとEV-02に攻撃を仕掛ける、通常のゾンダーならば今のジェネシックガイガーでも充分なダメージを与えられるのだが、EV-02はその巨体に比例するように自己修復能力が高く、与えたダメージが瞬く間に回復してゆく。
「ならば、体の中に入って直接核を叩く」
「了解、行こうぜ隊長」
その言葉が聞こえたものか、今まで大きく開けていた口を閉じてしまうEV‐02、それに焦った凱が口をこじ開けると開いた口中にズラリとならんだ牙が撃ちだされる。至近距離からの攻撃をかわしきれずにダメージを受ける凱。
「うわあああっ!」
「隊長!」
ゴルディマーグに支えられて一端距離を取る凱、戦いは激しさを増しながら続いてゆく。

イグジスと戦い続けるシン達三人だが、徐々に押され始めていた、レイとルナマリアのサポートが牽制にしかならない事を早々に見切ったイグジスが、インパルスを執拗に追い詰めていたのだ。
「どうした、どうした。このまま死んでゆくか!」
「くそっ、パワーが全然違う。このまま殺られるのか」
シンの乗るインパルスに襲い掛かるイグジスは真っ向からの一撃を叩きつけて終わりにしようとする。その絶体絶命のピンチにシンのSEEDが発動した。途端にシンの頭の中がクリアになり、イグジスの動きが見えてくる。
「見えたぁ!」
「なにっ?!」
咄嗟に機体を捻り止めの一撃を回避するシン。その動作のままビームサーベルをイグジスの胴に横殴りに叩きつける。Gパワーを収束させた刃がイグジスの脇腹を深々と抉った。抉られた脇腹を押さえて後ろへと飛びすさるイグジス。
「やってくれたな貴様、遊びはここまでだぁっ!」
抉れた脇腹から触手のようなコードの束が飛び出して、先程廃棄したインパルスのチェストとブラストシルエットに絡みつくと融合を始める。
「取り込んでいるのか」
融合能力の事も説明されてはいたが、実際に目の前で見るとその禍々しさが良く分かる。
ブラストシルエットを取り込んだことでイグジスの姿は両腕の掌にケルベロスが変化したビーム砲と両肩にミサイルが生えてきて更に攻撃力が向上したようだ。
「来るか!?」
「きゃあああっ!」
シンが身構えた一瞬でイグジスの姿が消えうせる、敵の姿を見失ったシンが辺りを見回す前にルナマリアの悲鳴があがった。
「ルナ!」
後ろを振り返るとイグジスの両腕がルナマリアのザクを捉えており、既に融合が始まっていた。
「嫌っ、何これ? 動いて、動きなさいよぉっ!」
「まずいっ、脱出しろルナマリア!」
「貴様、ルナを放せぇっ」
レイの叫び声で間一髪脱出に成功するルナマリア、レイに回収を任せるとシンはビームサーベルを振りかぶりイグジスへと切りつけるがその腕を掴み取られてしまう。
「くく、貴様の相手は後でしてやる。その前にちょろちょろと邪魔なあいつ等を俺の力にさせて貰おう」
「俺の仲間をやらせるか、レイ、ルナを連れて下がってくれこいつの相手は俺だけで良い」
「っく、頼むぞシン。ルナマリアを下がらせたら戻ってくる」
その言葉にシンの頭が沸騰する、大切な仲間をゾンダーの餌になどしてたまるものか。SEEDによってクリアになった意識の中でシン本来の誰かを守りたいという思いと理不尽な敵に対する怒りとそして闘志が燃え上がる。
その強い感情は勇気と呼ばれるものだ、コアスプレンダーに搭載されたGSライドがシンの勇気に呼応してその輝きを増してゆく。ヒルメの中でシンのGSライドをモニターしていたスタリオンが驚きの声をあげて雷牙博士を見た。
「シンのGSライド稼働率が上昇していマース、40、60、80を突破! なおも上昇中デース」
「小僧め、やりおったか。スタリー、タケハヤの火麻参謀に通信を繋げ、最優先だ!」
指示によって繋がった火麻に雷牙博士がニヤリとしながら話しかける。
「あれを使うぞ」
「なにっ、大丈夫なのかよ。何の話もしてねえだろう」
「GSライドの稼働率が上がっておる、凱の見立ては確かだったという事だの」
「なら後は小僧しだいか。良し分かった、妹ぉ小僧に通信をつなげてくれい」
火麻の指示でシンへと通信を繋げるメイリン、イグジスの相手で精一杯のシンはいきなりの通信に驚くが、火麻はお構い無しで一方的にとんでも無い事を告げた。
「小僧、お前さんにいい物を送ってやる。ぶっつけ本番だが使いこなしてみろ。ファイナルフュージョンだあっ!」
「ファ、ファイナルフュージョン? 無茶言わないで下さい、何の説明も受けてませんよ」
「ふん、この程度で怖気づくようじゃ凱の見込み違いか」
慌てるシンに態と挑発するようなものの言い方で話す火麻参謀。その話し方と見込み違いとまで言われてカチンとくるシン。自分の事はとにかく凱に恥をかかせる訳にはいかない。
それにルナマリアも落とされたいま、状況は悪化するだけだ。それなら賭けてみる価値はある。
「やります、やってみせます!」
「良く言った小僧、受け取れえぇぃー!」
火麻の号令でタケハヤから3個の物体が撃ちだされる。それぞれライナーチェスト、ドリルレッグ、ステルスシルエットの三つである。
「こいつはくれてやるっ」
此方に向かって飛んで来る新たなパーツを見たシンは現在装備しているチェスト、レッグ、フォースを外すとイグジスに向かって打ち出すとコアスプレンダーのバルカンで破壊して眼くらましに使って離脱する。
「軸線合わせ、相対速度計算、レーザービーコンは・・・無しかよ、なら」
「落ち着けシン」
焦りながらも合体準備を進めるシンにEV-02と戦っているはずの凱から通信が入る。
「いいか、ファイナルフュージョンに必要な事は、唯一つ勇気だ! 自分の勇気を、そしてお前を信じる俺達の勇気を信じろ。そうすれば必ず上手くいく」
「はいっ! 分かりました」
「よおっし、ファイナルフュージョン承認だあっ! く~一回言ってみたかったんだよなコレ」
火麻の承認を受けて、メイリンが習ったとおりにファイナルフュージョンのプラグラムを解除する。全てのプロテクトが開放され画面にOKの文字が躍った。最後に思い切りよく、カバーを割って最終的にドライブする。
「ファイナルフュージョンプログラム、ドライブッ!・・・っ痛あ~い」
余りに勢いよく叩いたのか、ちょっと涙目で右手をさするメイリン。その光景を脇にしてシンがファイナルフュージョン態勢に入った。
「うおおおっ、ファイナルッフュージョン!」
コアスプレンダーを中心にして先ずはドリルレッグが飛んで来る、腰の合体部分を覆っていたドリルパーツが移動して膝の位置に来るとそのまま足を伸ばして下半身になると、ブロック形態になったコアスプレンダーに合体する。
次にライナーチェストが上部に移動すると、ロケットの先端部分が二つに分かれ中からインパルスのヘッドが出現する、分かれた先端部分はそのまま180度回転すると両肩へと変化して上半身に変形合体する。
下半身、上半身の合体が終るとステルスシルエットが背部に装着される。ロックが掛かり、エンジン部分がライナーチェストの肩になった部分から出てきた二の腕部分に結合して前腕部分となって掌が回転しながら出てくる。
最後に顔のアンテナがV字に開き、メインカメラに光が入る。
「ガオー インッパルスゥッ!」
それは勇気の衝撃なる姿
それは勇者の産声
その名はガオーインパルス
「さあ、ここから仕切り直しだぜ。ゾンダー!」
「形が変わったところで、お前の敗北は揺るがん!」
新たな力を手にしたシンとイグジスがぶつかり合おうとする頃、その戦いの光を目指してひたすらに飛ぶ姿があった、ファクトリーを脱出した護である。まだかなりの距離があるが、しっかりと凱やGGGの皆の気配を感じる。
「見えた、あそこに凱兄ちゃん達がいるはずだ!」
救援を求める為に戦場へと急ぐ護、戦いは新たな局面へと進んでいく。

君達に最新情報を公開しよう
新たな勇者ガオーインパルスを加えたGGG
その前に立ちふさがる機械三将
激化する戦いの中、遂に彼女が目覚める
次回 勇者王ガオガイガー DESTINY
第19話 『復活の破壊神』 にFINAL FUSION承認
これが勝利の鍵だ 《卯都木命》

ディビジョンⅦ超翼射出司令艦ツクヨミ



[22023] 第19話 『復活の破壊神』
Name: 小話◆be027227 ID:8fbdcd62
Date: 2010/09/20 10:53

ガオーインパルスのファイナルフュージョンに成功したシンはコクピットで荒い息を吐いていた。合体しただけで、もの凄い衝撃が全身を襲ったのである。
このガオーインパルスは自分、つまり凱以外でも合体できるように調節されている、それでもこれだけの衝撃があるならオリジナルのガオガイガーはどれほどの衝撃が体を襲うのか、
改めて凱の凄さを痛感するシン、しかしいつまでも呆けてはいられない、システムを立ち上げて武装を確認する、現在使用できる武器の一覧に眼を通しているとイグジスが両腕からビームを放ったのが見えた。
「プロテクトシェード!」
防御用の武装プロテクトシェードを咄嗟に起動して、その一撃を受け止めるシン。
左腕から展開したプロテクトシェードは、そのビームを受け止めると五芒星の形に変えて反射する。本来なら反射した攻撃を相手に中てるのだが、初めて使うシンでは其処までは出来ずに明後日の方向へと飛んでいってしまった。
「次はこっちの番だ。ブロークンマグナーム!」
右腕を突き上げて肘から先を回転させて引き絞ると、掛け声と共に右ストレートの要領で撃ちだした。
唸りを上げてイグジスに迫るブロークンマグナムは、その強固なゾンダーバリアを破壊すると一撃を加える事に成功する。
「ガッ」
吹き飛ぶイグジスを前にして右腕を戻すと、ファイティングポーズを取って叫ぶシン。
「さあ、ここから仕切り直しだぜ。ゾンダー!」
吹き飛ばされたイグジスは態勢を立て直して考える、姿が変わった事で多少は強くなったようだが自分が負けるほどでは無い、しかし今無様に一撃を喰らったのは油断によるものだ。
「形が変わったところで、お前の敗北は揺るがん!」
怒りに全身を染めながら吶喊するイグジスと立ち向かうガオーインパルス、二人の間で火花が散った。

EV-02とGGGの戦いが続く戦場の周りでは、集った地球連合軍とEV-02から吐き出されたZR郡の戦いもまた激しさを増していた。
ZRが出現した当初こそ集った兵士の間で混乱が起こったが、超竜神、撃龍神、ビッグボルフォッグが救援に訪れた事で動揺も収まり、現在では協力してZRに当たっている。
「メルティングサイレン!」
戦場の中心でZRのゾンダーバリアを無効化するためにビッグボルフォッグが



此処まで書いた所で、色々あって折れた。
正直に言えばこれを晒すのは胃が痛い。


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