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[22198] 【完結】司書長と聖王 (ヴィヴィオ純愛ルート)
Name: 空の狐◆6f2a5b2b ID:b50a47bc
Date: 2011/04/21 00:49
 なのはが死んだ。

 管理世界のテロ事件で派遣されて、その最中に、子供を流れ弾から庇ったらしい。

 なのはらしいと言えばなのはらしい最後だったんだろう。

 だけど僕には余りに突然で実感が湧かなかった。式場で泣き続けるヴィヴィオたち。小さく嗚咽を漏らす桃子さん。それすら、遠くから聞こえていた。

 僕はただ呆然と遺影を見続け、なのはを見送った。

 そして、なのはの骨は地球の墓に入れられた。

 僕は、なのはの墓を見て、やっと、なのはがいない現実を理解して、泣いた。

「う、あ、なのは、なのは……」

 大切なものは喪ってから気づく。陳腐な言い回しだけど僕はこの時それを理解した。

 僕は、なのはが、好きだったんだ。友達としてではなくて……異性として。









 それから、僕はヴィヴィオを引き取った。なのはがいない。なら、せめて彼女の残したあの子を育てたい。そう思ってのことだった。

 ヴィヴィオは僕に懐いてくれていたし、フェイトも快く僕の申し出を了承してくれた。桃子さんたちも、僕がなのはをこの世界に巻き込んだというのに、ヴィヴィオを育てることを許してくれた。

「ヴィヴィオ、これからよろしくね」

 そうヴィヴィオに笑いかける。

「うん、ユーノく、パパ」

 パパと言い直したヴィヴィオを僕は、抱きしめた。

 なのはみたいにはきっとなれないけど、それでも少しでも彼女みたいにこの子を愛そうと改めて僕は誓った。








 元々、ヴィヴィオは司書の資格もあって、無限書庫の手伝いをしてくれるから、一緒にいることは多かった。友達と遊びに行くことも多いけどそれでも暇があれば書庫によく来てくれる。

 僕もできる限り親子の時間を作るために、早めに家に帰ったり、こまめに休みを取るようになった。

 最近、書庫の人員も十分な数になったし、前よりも休みが取れるようになったのも助かった。

 そして長い時間が経った……










 僕は布団にくるまっている。

 ぬくぬくと布団の温もりに身を委ねる。

 経験した覚えはないけど母親に抱かれる子供とはこんな感じなのかな?

 そうして惰眠を貪っていたら、

「ほら、パパ朝だよ! 早く起きて!」

 ばさばさと布団が引き剥がされる。僕は朝の冷たい空気とまばゆい朝日にさらされる。

「う~、ヴィヴィオ、もう少し寝させて」

 もぞもぞとまだ温かいベッドに身体を擦りつけるが、布団がない以上すぐにその温もりも冷めてしまうだろう。

「もう、そんなこと言って、早く起きて。今日も仕事なんでしょ?!」

 そう言ってヴィヴィオが僕を叱りつける。

 ヴィヴィオは今年で十七歳。すでに大人モードなんていらないほど成長した。

 女の子にしては高い背は僕と同じ、もしかしたら少し高いかも。そのことに気づいた時はなんか悲しくなったっけ……

 そして、なのはと同じサイドテール。その髪留めは僕と同じなのはが使っていたリボン。

 まだ、僕らはなのはのことを引きずっている。







 ヴィヴィオに起こされ、僕は寝巻から服を着替えて、リビングに向かう。そこにはすでにヴィヴィオが用意した朝ごはん。

 いつの間にか、完全に家事はヴィヴィオの仕事となっていた。

 いや、僕も最初の頃は頑張っていたよ? でも、ヴィヴィオはまずは掃除は自分がやると言いだして、そこからだんだんと洗濯から、ついには食事もヴィヴィオがやるようになってしまった。

 僕はと言うと、いい加減な性格なのか、ならと彼女に任せるようになってしまい、最近ではヴィヴィオに叱られるようになってきた。

 親の務めは果たそうとは思ってるんだけど、いつの間にか、我が家の頂点にヴィヴィオが君臨するようになってしまった。

「ほら、パパ、早く座って」

「あ、うん」

 僕が据わるのを確認してヴィヴィオは手を合わせる。

「いただきます」

 僕も遅れて手を合わせてヴィヴィオに続ける。

「いただきます」

 そうして、朝ごはんを食べ始める。

「そういえば、パパは今日遅いの?」

「ん~、そんなことないかな。今日は遅くならないかな」

「そっか、じゃあ晩御飯いつも通り準備しておくね」

 と、当たり障りのない会話を交えて食事をする。

 変わらない朝、変わらない日常だった。










 昼休み、僕は数週間ぶりにフェイトと会っていた。

「そっか、ヴィヴィオとうまくやってるんだね」

「うん。フェイトやはやてのおかげだよ」

 と、僕は笑う。

 実際、僕はフェイトやはやてに助けられどおしだった。今まで一人だったため、洗濯一つにしろ彼女たちの指導があった。

 最初の頃、慣れないのに料理を作ろうとしてシャマルさんのようにダークマターを作ったりしてしまった。

 それでも、フェイトに教わっていくうちに、ちゃんと作れるようになった。

 フェイトも少し変わった。ここ数年、たまに物憂げな表情を見せるようになって、それが、彼女の人気を高める遠因にもなっているとはやてが言っていた。

 僕はふーんとしか言わなかったけど、少し気になった。なのはがいなくなって、彼女もまだそれを引きずっているとういことであるのだから。

 そのはやては、四年くらい前に結婚した。旦那さんはなんとあのゲンヤさん。聞いた時は驚いたよほんと。

 今では実子もできて、たまにその子を連れてうちに遊びに来る。そのたびに、「はよユーノくんも結婚したら?」なんて言ってくる。

 結婚、なのはがいなくなってからあまり考えていない。お見合いとかそういう話は全部、上がるたびに蹴ってきた。

 なんとなく怖いんだ。彼女がいないのに幸せになるということが。

「でも、ヴィヴィオも大きくなったよね」

「あ、うん」

 フェイトの言葉に現実にもどる。

 確かに、ヴィヴィオは親の僕が言うのもあれだけど、できた子だ。家事は完璧にできて、性格もルックスもいい。

 彼氏くらいできてもいいと思うけど、ぜんぜんそんな話はない。まあ、もしかしたら話してないだけでいるのかも。

「で、そのね、そろそろユーノもいい相手……」

『ユーノ、今いいか?』

 フェイトがなにかを言おうとして、通信が入った。十年来の友達で、フェイトの兄であるクロノからだ。

「クロノ? なに?」

『すまないが、今から送るものの資料を集めてくれないか? 少し緊急の案件なんだが……』

 と、データが送られてくる。すぐにそれを確認しクロノに返事を返す。

「うん、わかった」

『すまないな、ユーノ……ところでフェイトどうしたそんな顔して』

 クロノに言われ、フェイトの方を見ると、彼女はモニター越しにクロノを睨んでいた。

「うんうん、なんでもないよ? ぜんぜんなんでもないから」

 そう言って笑うフェイトの目は全然笑ってなかった。

 後日、どこからか流れたカリムさんと不倫しているという噂で、エイミィさんがきつく当たってくるとクロノに愚痴をこぼされることがあった。








「ただいま」

「おかえり~、パパ遅かったね」

 エプロンを付けたヴィヴィオが出迎えてくれる。見ればヴィヴィオのデバイス、クリスもエプロンを付けている。変なところで芸が細かいね君も。

「いや、クロノに仕事頼まれてね」

「またクロノさん? いい加減パパばかりに頼るのはどうかと思うんだけどなあ」

 と、ヴィヴィオも少し文句を言う。なんか、最近クロノの周りに味方が少ない気がするのは気のせいかな?

「それよりいい匂いだね。今日はなに?」

 苦笑を浮かべながら、話を逸らす。ヴィヴィオはすぐに笑顔を浮かべる。

「今日はカレーだよパパ」

 カレーかあ。ヴィヴィオの作るカレーはフェイト仕込みだから美味しいんだよね。

「それは、楽しみだね。早く食べようか」

「うん、準備するから早く来てね」

 ヴィヴィオはサイドポニーを揺らしながら嬉しそうに笑った。さて、僕も荷物を置いて、早く行こうか。








 ヴィヴィオの作ったカレーはやっぱり美味しかった。満足しながら、僕はベッドに寝っ転がる。明日も早いし、もう寝よう。

 そう思って目を瞑り……

「パパ」

 ヴィヴィオの声に目を開いた。

 見れば、ドアの前にパジャマ姿のヴィヴィオ。

「ヴィヴィオどうしたの?」

 ヴィヴィオがはにかむ。

「あの、一緒に寝ていいかな?」

 ヴィヴィオはたまに僕と一緒に寝たがる。最初の頃は寂しさやなのはのことを思い出して、泣きながら『パパ……一人はいやだよ』と布団に潜り込んできたけど、最近はそういうところはあまり見ない。

 単におくびに出さないだけかもしれないけど、年頃の女の子がそれでいいのか? と、たまに思うけど、いっつも言いくるめられてしまう。

 今日も、何を言ってもたぶん言いくるめられるだろうと予想できたし、可愛い娘を邪険にもできず、

「いいよ」

 そう答えるしかできなかった。









 ヴィヴィオと同じベッドで寝る。最近は僕はヴィヴィオに背中を向けて寝ている。そして、ヴィヴィオは僕を抱き枕にするように抱きついてくる。

 以前聞いてみたら、「むしろ抱き枕より寝心地がいい」と返してきた。

 僕としては背中から感じるヴィヴィオの温かさや、柔らかさに目が冴えに冴えてしまうんですけどねえ!!

 ヴィヴィオの温かさ、ヴィヴィオの健やかな寝息、ヴィヴィオの柔らかい身体……

 自然とそれに身体が反応して自己嫌悪する。娘になにを考えてるんだ僕は……

 哀しくなっていると、

「ママ……」

 ヴィヴィオの呟きにすっと頭が冷えた。と、同時に瞼が重くなる。

「おやすみヴィヴィオ」

 そうして僕は夢世界に旅立った。






~~~~
先日私のSS『平行世界ななのはさん』の第三話『梨花ちゃんとなのはちゃん 』で出てきたヴィヴィオルートです。
発作的に書きました。反省はしてるけど後悔はなし。



[22198] ヴィヴィオSide
Name: 空の狐◆49752e86 ID:b50a47bc
Date: 2010/09/30 22:38
 ママが死んだ。

 幼かった私には、それは目の前が真っ暗になるような衝撃だった。

 優しかったママ。辛い時に手を差し伸ばしてくれたママ。

 もう、お話できない。もう、褒めてもらえない。もう、怒ってもらえない。もう……笑いかけてもらえない。

 それらの事実が、私に重くのしかかった。死にたいと思えるくらい辛かった。

 だけど、私はまた助けてもらった。助けてもらえた。ユーノくんが、今のパパが私と一緒にいようと言ってくれたんだ。







 ユーノくんはママとすごく仲がよかった。親しい人たち以外はもう二人が付き合ってると思っていたほどだ。

 でも、二人はそんなのじゃない。と否定し、お互い大切な友達としか言ってなかった。

 幼かった私にはそんな二人が不思議でたまらなかったと思う。

 そして、ママの葬儀が終わると、ユーノくんは私に一緒に暮らそうと言ってくれた。

 私はその提案に頷いた。ただ、ママの代わりに誰かがそばにいてほしかったから。








 あれから、何年も経った。

 私はコトコト音を立てる鍋の中身を小皿に移して味見する。うん、いい感じ。

 その横で焼いていたベーコンエッグも、いい感じに火が通ったからお皿に移す。

 さて、朝ご飯の準備もできたしパパを起こさないと!

 パパの部屋のドアを開けて部屋に入る。案の定、未だに芋虫になっている。

 その顔を覗き込むと、幸せそうに緩い笑みを浮かべている。こんなパパの顔を見れるのは私だけの特権。

 少し嬉しいけど、やることはやらないと。

「ほら、パパ朝だよ! 起きて!」

 布団を引き剥がす。フワッと広がるパパの匂い。その匂いを私は吸い込む。

 パパはしぶとくベッドに体を擦りつけていた。もう!

「うー、ヴィヴィオ、もう少し寝かせて」

 まったく、無限書庫の司書長さんがなに言ってるの!

「もう、そんなこと言って! 今日も仕事なんでしょ!」

 その一言が聞いたのかパパはもぞもぞと動きながら起き上がる。まったく。

「おはようヴィヴィオ」

「おはようパパ」

 やっと起きたパパに私は微笑んだ。










 それから、朝食を食べて、パパは無限書庫に出勤、私は学院へ登校した。

「おはよう、リオ、コロナ」

 待っていてくれた二人に声をかける。アインハルトさんは、去年卒業してしまったためここにはいない。

 でも、メールのやり取りはしてるし、休みにもよく会っている。

「おはようヴィヴィオ」

「ヴィヴィオおはよう」

 それで、私たちは話しながら一緒に学院に向かいます。

 そして教室で自分の机に座ると……ぱさっと何かが落ちました。

 それを拾うと、『ヴィヴィオ様へ』と書かれた手紙だった。

「あれ? ヴィヴィオ、また?」

「うん……」

 リオの言葉に頷く。また、男の子からの手紙だろう。もしかしたら女の子かもしれない。

 なんか気が重くなる。

「やっぱり断るの?」

「うん」

 コロナの言葉に私は頷く。最近、私はよく告白されるようになった。

 でも、私は全て断っている。

 そして、今日の放課後も、

「ごめんなさい」

 申し訳ないけど断った。









「また、断ったんだ、もったいない」

 リオの言葉に私は苦笑を浮かべる。

 よく告白されるけど、私は誰かと付き合おうと思ったことはない。

 別に恋愛に興味がないわけではない。でも、なぜかみんながかっこいいと言う人に告白されても、魅力を感じられないのだ。なんでだろ?

 そんなことを考えながらスーパーに入る。今日はカレーだから、これにこれと……あ、お肉確かセールだったよね。

「今日は、何を作るの?」

「カレーだよ。あ、パパ福神漬け好きだから買い足さなくちゃ」

 危ない危ない。忘れるところだった。

「花嫁修行はばっちりなのに……このファザコン」

「リオ、ダメだよそう言うこと言っちゃ。」

 ん? リオなにか言った?

「なんか言ったあ?」

 私が問い返すけど、二人は何でもないと否定した。なんか、すごく失礼なこと言われた気がするけど、気のせいかなあ?









 家に帰ってきて、スーパーで買ったものを冷蔵庫に入れてから洗濯物を取り込む。クリスも一生懸命手伝ってくれる。

 パパと私の分だけだからさほど時間もかからずに取り込める。

 で、両腕に洗濯物を抱えていたら、ふわりと洗剤の匂いの中から今朝も嗅いだパパの匂いが漂ってきた。

 じっと私は洗濯物を見つめる。そして、ぼふんと洗濯物に顔を突っ込む。そして、お腹一杯にパパの匂いを石鹸の匂いとともに吸い込む。

 私、どうしちゃったんだろう。パパの匂いを嗅ぐと顔が上気する。

 じわっとお腹の奥が熱くなる。

「パパ……」

 なんとなく恥ずかしくなって洗濯物から顔を離す。クリスが不思議そうに首を傾げるけど、私は気にしなかった。

 ううう、最近はなんかこう。パパの匂いを嗅ぐとこうなる。私どうしたんだろ?









 そして、晩御飯。

「今日久しぶりにフェイトにあったよ」

 予想通り福神漬けをたっぷりと盛りながらパパが口を開く。

「フェイトさんに?」

 私はいつの間にかフェイトさんをママと呼ばなくなっていた。なんでかはわからないけど、なんとなく、パパと一緒にいるのを見た時から『フェイトさん』と呼ぶようになった。

 なんか、そのことでパパは飲みに付き合わされたんだって。結構ショックだったのかな?

「元気そうだったよ。ヴィヴィオにも会いたいって」

 そうなんだ。私もこの頃会ってないから会いたいなあ。

 でも、フェイトさん、いつになったらいい人見つけるのかな? もう、はやてさんもエリオくんもキャロさんもティアナさんもスバルさんも……六課に関わった多くの人が結婚したのに。

 そこで、なぜかフェイトさんの横にいるパパを想像してしまう。

 ……なんだろう。この苛立ちに似た感じ?

 と、とにかくフェイトさんもいい相手見つけてくれないかな? パパ以外で!









 そして、お風呂からあがって自室の布団に寝っ転がる。クリスもぼすんと布団にダイブする。

 はあ、ごろんと横に寝返って、ママの写真が目に入った。

「ママ……」

 写真の中のママは小さかった私を抱き抱えながら微笑んでいる。

 その写真を私はじっと見てて……無性に寂しくなった。

 嫌だ。一人は、一人なのはいや……

 私は目じりに溜まった涙をぬぐって部屋を出た。







 そして、私はパパの部屋の前まで来た。

 すうっと息を吸って緊張をほぐす。よし!

「パパ」

 私はドアを開けると、パパは布団の上に寝っ転がってて、慌てて起きあがった。

「ヴィヴィオどうしたの?」

 私は今から頼むことに恥ずかしくなってはにかむ。

「あの、一緒に寝ていいかな?」

 私はこの歳になっても、たまにパパと一緒に寝る。

 リオとコロナに話したらおかしいと言われてしまった。

 でも、寂しくなると、パパが無性に恋しくなるんだ。しかたが、ないんだ。

 パパもふうっとため息をつく。ううう、パパも呆れてる。

「いいよ」

 でも、そこでいいよって言ってくれるのがパパのいいところなんだよね。







 そして、私はパパと一緒のベッドに潜り込む。

 パパと一緒、なんかすごく安心する。さっきまで感じていた寂しさはなくなった。

 背を向けたパパのその意外と広い背中に抱きつく。すごく、安心できて、ずっとこのままでいたいと思ってしまう。

 そうして、私は眠りに付いた。






 草木も眠る丑三つ時、私はなぜか目を覚ました。

 理由も特にない。ただ、目を覚ましてしまっただけ。私はいつの間にか寝返りを打っていたパパに身体を擦りつける。

 ふと、パパの寝顔が目に入った。

 その顔にどきっとする。普通の女の人よりも綺麗な横顔、今は安らかな寝息を立てながら閉じられた目は私の右目と同じ色。

 ばくばくと高鳴る心臓。

「パパ」

 試しに声をかけてみる。返事はない。完全に寝ているみたい。

 私はその顔をそっと撫でる。女の人みたいに綺麗な肌は、もうすぐ三十になる男の人とは思えなかった。

 私はパパの顔をこっちに向ける。心臓の鼓動が五月蠅く思えるくらい早く鳴り響く。

 そして、そっと顔を近づけて……

「んっ」

 その唇に私は自分の唇を押し付けた。思ったより柔らかな感触が返ってくる。

 一秒、二秒くらいしてから私は唇を離した。

 ぽうっとぼんやりしながら、なにしてるんだろう、そう思うと同時にやったとも思った。

 そして、私は一つだけわかった。

「パパ、好きだよ……」

 私はパパが大好きなんだ。




~~~~
ヴィヴィオのお話。
匂いフェチって、少し変態かな? とも思ったけど、せっかくだから入れることに。
ここからヴィヴィオが巻き返す予定ですので、楽しんでください。



[22198] ヴィヴィオの思い
Name: 空の狐◆194a73d1 ID:b50a47bc
Date: 2010/10/13 23:34

 私はお茶碗を片手にため息をつく。はあ、よりにもよって好きな相手が……

 ううう、再びため息をついてしまう。

「どうしたのヴィヴィオ、ため息なんてついて」

 パパが心配そうに私の顔を覗きこんでくる。

 !!

 パパの顔を見た瞬間、私は恥ずかしくて顔が紅潮するのがわかった。

「な、なんでもないから! は、早くご飯食べてよ!!」

 恥ずかしさについ口調が荒くなってしまう。しまった。なんで私こんな言い方……

 自分の浅はかさに後悔する。

「え、あ、うん。でも、ヴィヴィオ顔赤いけど、大丈夫? 風邪だったら学校休んで……」

「だから、なんでもないの!」

 私は自分の感情をどう整理すればいいのかわかなくて、すぐにご飯をかき込んで席を立つ。

「ごちそうさま! 今日はパパの当番だから、あとお願いね! いってきます!!」

 それだけ言って私はカバンを掴むと、家を飛び出した。









 ヴィヴィオが家を飛び出すのを見送るまで、僕は少しぼけっとしていた。

 あんなヴィヴィオは今まで一度も見たことない。

 少し遅いけど反抗期というものなのかな?

 他の司書に聞けば、あのくらいの歳で父親である僕に甘えるヴィヴィオのような子の方が珍しいらしいし、あの子もそんな時期なのかと、少し感慨深いものがある。

 でも、昨日一緒に寝たのに……女の子ってわかりずらいなあ。

「ねえ、レイジングハート、子供の反抗期には親はなにをすればいいのかな?」

 とりあえず、現在僕の相棒をしてくれているレイジングハートに尋ねる。

『わかりません』

 だよね。









 私は学校についてから自己嫌悪でいっぱいになっていた。

 なんでパパにあんな態度取っちゃったんだろう?

 再びため息をつく。

「----さん、--ライアさん」

 いつも通りに接しようと思ったのに、パパの顔を見ると意識しちゃって……

「スクライアさん!!」

「は、はい!!」

 先生に名前を呼ばれて慌てて立ち上がる。

 じろっと先生に睨まれる。

「考え事はいいですが、今は授業中ですよ? 次の文を読んでください」

 え、あ、慌てて教科書を見るけど、どこのことを言われてるのかわからない。

(ヴィヴィオ、六十二ページの三行目)

 リオからの念話ですぐにそこを見る。お手本のような古代ベルカの古文だった。

「えっと、和平の使者は槍を持たず……」

 私はリオのおかげでなんとかその時間を切り抜けたのでした。








「ヴィヴィオ、今日はどうしたの? 心ここにあらずって感じだったけど」

 帰り道、コロナが心配そうに聞いてくる。

「え、あ、別にそんなこと……」

 心配するコロナに悪いけど、これは私の心の問題だし、なによりも私自身がそれがおかしいことだと理解してるから今は話せない。

「もしかして、好きな相手ができたとか?」

 ~~っ?!

 リオの冗談めかした発言に私は真っ赤になって俯いてしまう。

「あはは、冗談だよ、冗談……って、あれ? まさか……」

 リオが言葉を途中で止める。

「まさか、大当たり?」

 コロナの言葉に小さく頷く。ううう、こんなあっさりばれちゃうなんて……

「うそ、あのヴィヴィオが……」

 ちょっと待ってリオ、それってどういう……って言葉通りの意味だよね。すぐに納得し、自分でも納得できたことに再び気持ちが沈む。

「で、それ誰なの?」

「私たちも知っている人?」

 ……はあ、もういいや。話さないって決めて数分だけど、あっさりばれちゃったし、二人にならいいよね。

「その…………パパ」

 沈黙。そして、

「ごめんもう一回お願いできるかな?」

「パパだってば」

 コロナに頼まれもう一度。

「ワンモアプリーズ」

「だから、パパ」

 リオの言葉にまたもう一度。

 そして、二人は少しの間、目を瞑り、ぽんと私の肩に手を置いた。

『冗談じゃなくて本当のこと話してくれないかな?』

 ああ、やっぱり本当だって思われなかった。

「だから、本当に、私は私のお養父さんのユーノ・スクライアさんが好きなの!!」

 思いっきり全力全壊で宣言する。

 すると、少しだけすっきりした気分になった。

 なにかで、宣言するというのは心に様々な作用をもたらすっていうけど、本当かもしれない。

 足取りも心なしか軽くなった気もする。

「ファザコンここに極まれり……ね」

 リオの言葉もあまり気にしない。ええ、ファザコンですが、それがなにか?

 それから、コロナがじっと私を見つめる。

「ねえ、ヴィヴィオ本気なの?」

「本気って何?」

 コロナが言いたいことはわかる。でも、あえて問い返す。

「ユーノさんが好きってこと。ユーノさんはヴィヴィオのお父さんなんだよ。それでも?」

「うん、私はパパが、ユーノさんが好き」

 はっきりと答える。

「それは、単にユーノさんに縋って、依存してるだけの好意なんじゃないの?」

「ちょっとコロナ……」

 リオが止めに入るけど、コロナは止まらなかった。

「なのはさんが亡くなって、ユーノさんがずっとヴィヴィオのそばにいてくれた。その安心とかを好きと錯覚してるだけなんじゃないの?」

 コロナの言葉が胸に刺さる。痛いところを指摘してきたなあ。

「確かに……そうなのかもしれない」

 コロナの言う通り、縋ろうとしている、安心を欲してるだけかもしれない。だけど……

「でも……私はユーノさんが好きなの」

 私は思い出す。

 私は昔からユーノさんが好きだった。それは単に年上の人に憧れたりする子供と変わらなかったのだろう。

 でも、私は確かにユーノさんが好きで、ママと帰りの待ち合わせ場所の無限書庫に行く時はユーノさんに会えるのが嬉しかった。

 それから司書の資格をとったりして、少しでもユーノさんの力になろうとして、一緒にいられるように努力をした。

 そんな淡い恋心。でも、それは確かに今もこの胸にあって、私にユーノさんが好きだと訴えている。

 だから言える。私はユーノさんのことが好きなんだって。
 
「そう、ならもうなにも言わないから」

 そう言ってコロナは優しく笑ってくれた。

 ありがとうコロナ。







 家に帰ってくると、家には誰もいない。

 まあ、当然だよね。パパが仕事から帰ってくるのはもっと遅い時間だし……

 荷物を置いて、私は普段着に着替える。それから、晩御飯の準備をしようとして、パパの部屋の前で足を止めた。

 なんとなく部屋に入る。

 古い本や、いろんな匂いの交じったパパの部屋、私はなんとなく昨日寝ていたベッドに横になった。

 すうっと息を吸う。パパの匂いがする……

 その匂いになんとなく、パパがそばにいるような気がして、安心する。

 ああ、晩御飯準備しないといけないのに……そう思うけど、私は欲求に敵わず、瞳を閉じた。








 ……あれから、どのくらい経ったのかな? なんか身体がスースーする。

 私は目を開く。パパが帰ってくるまでにご飯作んないと……そう考え起きあがろうとして、両腕を頭の上に固定されていた。

 え?

 それだけじゃなかった。普段着のシャツが捲り上げられて、ブラもホックが外れてた。

 な、なにこれ……

 あまりの出来事から声が出なくて、恐怖する。

 だけど、微かに香るこの匂いはこんな状況なのにほっとして、すぐに誰が私にこんなことをしてるのかわかった。

「パパ……」

「おはよう、ヴィヴィオ、目が覚めたんだ」

 いつもと変わらない、こんな状況なのに、「おはよう」なんて返しちゃいそうなくらい穏やかなパパの声。

「パパ、な、なにしてるの?」

「……ヴィヴィオこそ、僕のベッドでなにしてたの?」

「な、なにって寝てただけだよ……」

 言葉が震える。逃げなくちゃ、逃げなくちゃと私は思うけど、この状況を受け入れろと囁く自分、逃げろ。こんなの異常だと叫ぶ自分がいて身体がうまく動かない。

「そう、寝てたんだ、自分のベッドじゃなくて、僕のベッドで? なんで?」

 な、なんでって……

「こういう風になりたかったからかな?」

 パパの手が伸びる。そして、私のブラを掴んで……









「っ?!」

 私はベッドから跳ね起きた。回りを見ればいつものパパの部屋。

 パパはいないし、私の服も乱れていない。ゆ、夢? 今の夢?

 ばくばくと心臓が鳴り響き、体中から汗が噴き出す。ううう、なに今の夢……

 私は今の今まで見ていた夢を思い出す。あの後、私はパパによって大人の階段を……

 途端に私はベッドにヘッドバッドする。うあああああああ!!

 と、とりあえず、汗を流して頭を冷やそう!!









 私は冷水を頭から浴びる。あー、もう、さっきの夢最悪だった!

 た、確かにパパとそういうことはしたいけど、でも、あんな形じゃなくてもっとロマンチックなものがいいし、だいたい、パパにあんなことできるわけがない。

 私はシャワーを止める。うう、あんな妄想大爆発な夢を見るなんて……

 その時、浴室の明かりをつけなかったおかげか、開けておいた窓の隙間から見える暗くなった空に流れ星がはっきりと見えた。

 確か、ママの故郷の地球では流れ星を見て、三回お願いしたら願いが叶うんだっけ。

 私は窓を開けて手を合わせる。

「パパのお嫁さん、パパのお嫁さん、パパのお」

 その時、明かりがついて、がらっと戸が開いた。

「え?」

「あ」

 振り向くと、そこにパパがいた。

 沈黙が落ちる。

「あ、その……帰ってきても返事はないし、電気も消えてたから、てっきりいないのかと……」

 でも、籠に私の服あったんだから……ああ、パパにそれで察しろっていうのが酷だったかな。

 冷静にそこまで考えてから、ふつふつと羞恥心とかが湧きあがる。

「い、いやあああああああああ!!」

 私の叫びは二件先まで聞こえたと言う。










『大変申し訳ございませんでした』

 私の叫びを聞いた近所の人から通報を受けた陸士隊の若い隊員のお兄さんに親子ともども謝る嵌めになった。

 ううう、今日一番恥ずかしいできごとかも。

 そんなことを考えながら私は手早く晩御飯の準備をする。

「あのさ、ヴィヴィオなにかいいことあった?」

 手伝いをしてくれていたパパが私にそう聞いてきた。

 え? パパの問いかけに首を捻る。

「いや、今朝とはなんか違うから」

 ああ、なるほど。パパの問いに納得した。

「少しだけ、わかったことがあったからかな」

 私の問いにふーんとパパは返す。

「よくわかんないけど、よかったね」

「うん」

 私は頷く。そう、コロナやリオのおかげで今なら胸を張って言える。私はパパが好きなんだって。

 あ、でもあの夢はノーカンだからね。






~~~~
少し急かもしれませぬが、ヴィヴィオが恋心を整理した回です。
とりあえず、ヴィヴィオが妄想を爆発させる痛い子になってるなあ……
いろいろ詰め込みすぎたきらいもありますが、見捨てず見ていただけたら嬉しいです。



[22198] 司書長とタヌキ
Name: 空の狐◆194a73d1 ID:b50a47bc
Date: 2010/11/10 00:06

 僕は部屋でため息をつく。

 立派な父親になろうと頑張ってはいるが、僕の行動はどこか空回りしてると思っている。

 なにより今日の失敗、まさかヴィヴィオが入ってたのに風呂場に入ってしまったって……

 頭を抱える。少なくともヴィヴィオは気にした様子は見せなかったけど、あんな失敗、嫌われたっておかしくないと思う。


 昔と違い起伏に富んだ体、濡れて体に張り付いていた長い髪。驚きと羞恥に紅くなった顔……

 そこで僕は頭を机に叩きつける。

 なにを思い出してる!

 何度か頭を叩きつけて頭に張り付いたイメージを追い出す。

『マスター?!』

 レイジングハートの声に頭を叩きつけるのを止めて額を机にこすりつける。

 最悪だよ。よりにもよって娘の姿に……

 自己嫌悪に僕は沈んでいった。









 翌日、珍しく取れた休暇。うちに遊びにくる予定の二人をのんびり本を読みながら僕は待っていた。

 昨日のことは一時的な気の迷いだ。大丈夫、僕は大丈夫。

 そう言い聞かせながら本を読み、ヴィヴィオも隣で眼鏡をかけて本を読んでいる。

 ヴィヴィオの眼鏡は完全な伊達眼鏡、なんか本を読む時に気分でかけたくなったらしい。部屋には時折ぴらっと本を捲る音だけがあった。

 顔を上げて時計を見る。そろそろかな……

 それと同時にインターホンが鳴る。僕らは玄関に向かう。

「やっほー、久しぶりに遊びにきたでー」

 ドアを開ければ、古い付き合いの友達である八神……いや、はやて・ナカジマと、その娘はやなちゃんが待っていた。






 僕ははやてと話し、ヴィヴィオははやなちゃんと遊ぶ。

「でなあ、この前もはやながな」

「うんうん」

 現在のはやては娘のはやなの誕生を境に管理局を辞めて専業主婦になっている。

 ナカジマ家の娘たちからも慕われてるみたいだけど、歳が近いからか母親ってより姉みたいな感じだ。

「はあ、ヴィヴィオもおっきくなったね。特に胸は私好みや」

 くっくっくっ、と怪しい笑みを浮かべるはやて。

「はやて、人の娘見てなにを想像してんの?」

 その、女の子の胸を揉んだりするのが趣味だって知ってるし、友達ではあるけどなんかいい気はしないなあ。

「なんやなんや、別にええやん。ユーノくんやてちょっと触りたいなあなんて思ったこと……」

「思ったことないよ!!」

 思わず大声で怒鳴ってしまい、僕の声にはやてが目を丸くして、ヴィヴィオとはやなが驚いている。

 しまった。あんな声出さなくても……

 と反省していたらぽかっと弱い力で殴られる。

「ユーノおじさん、なにわたしの母さんをいじめてるんだ!」

 見れば、眉を釣り上げてはやなちゃんが僕の脇あたりをポカポカ殴る。

「わっわっ! ごめん!」

「わたしじゃなくて母さんに謝れ!」

 もっともです。

「はやて、ごめん」

 すぐにはやてに向き直って謝る。この塵芥がと言ってはやてに怒られるはやなちゃんだった。

「ああ、ええよ気にしなくて。こっちも変なこと言ってごめんな」

 ばつが悪そうに笑うはやて。

「まあ、話は変えるんやけど、ユーノくんもそろそろ身を固めたらどうや? いいもんやで家族がいるのは」

 またその話かあ。

 はやても僕のことを考えて言ってくれてるんだろうけど、僕なんかがなあ……

 自分が結婚した姿を想像してみようとするけど、浮かんでこない。

「そういえばフェイトちゃんも相手いないし、いいんとちゃう?」

 はやてって、いっつもフェイトの名前出すなあ。確かに彼女も相手いないけど……

「僕じゃあフェイトと釣り合わないよ」

 自嘲気味に笑う。彼女は僕なんかより、もっと相応しい相手がいるだろう。

 と、はやてが呆れたように僕を見る。

「それ、本気で言っとる?」

 えっと、どういう意味かな?

 はあ、とはやてはため息をつく。

「あんなあ、ユーノくんはもうちょっと女心っちゅうもんをやな」

「はやてさん!」

 突然、ヴィヴィオの声が響く。ちょっと驚く僕とはやて。

「お茶のお代わりいる?」

「えっ? あ、うん……」

 とヴィヴィオにお茶を注いでもらうはやて。

「えっと、それでなにかな?」

「ああ、別に気にせんでええよ」

 そう答えてはやては苦笑いを浮かべながらお茶を飲んだ。









「じゃあねはやて、はやなちゃん」

「ばいばいはやなちゃん」

 夕暮れ時になり二人を見送る。

「ああ、またなユーノおじさん、ヴィヴィオねえさん」

「またなユーノくん、ヴィヴィオ」

 見送ってから家に戻ると、ヴィヴィオは晩御飯の用意を初めて、僕はそれを手伝う。

 その時、ちょっと昨日話し忘れたことを思い出した。

「あ、そうだ。今度フェイトと会うんだけど」

 ぴくっとヴィヴィオが反応する。

「フェイトさんが?」

「うん、一緒に出かけないかなって誘われてるんだけど、ヴィヴィオも一緒に」

「私はいいや、二人で楽しんできて」

 すぱっとヴィヴィオが即答する。は、早い。

 でも、うーん、フェイトはできたらヴィヴィオとも会いたいって言ってたのになあ……

「でも、ヴィヴィオも最近フェイトにあってないだろ? 久しぶりに顔を合わせるくらい」

「いいってば! 私はいいの!!」

 さっきと同じくらい大きな声でヴィヴィオが怒鳴る。ど、どうしたんだ?

「まったく……はやてさんの言葉途中で切らせるべきじゃなかったかな?」

 え、なんだって?

「はい、準備できたからご飯にしよ」

 ヴィヴィオはそう言って笑うけど、どこか、その笑顔はいつもと違う感じがした。

 年頃の女の子って本当に難しいなあ……






『そう、ヴィヴィオは来ないんだ……』

 残念そうにフェイトが笑う。

「うん、まあ、ヴィヴィオも年頃だからね。いろいろあるんじゃないかな」

 そうだねとフェイトは答える。

『じゃあ、またね』

「うん、また」

 そして、フェイトとの通信が切れて僕は布団に寝っ転がる。

 考えるのはヴィヴィオ。

 成長して、もう僕ができることはあまりない。それに最近僕はヴィヴィオの考えてることがよくわからない。

「ねえ、なのは、僕はどうすればいいのかな?」

 僕は彼女の残した髪留めにそっと呟いた。




~~~~
はやてとその娘参上。
イメージは普通に育ったらのヤミスベ。
ポータブル出た後って、はやての娘と言ったらみんなこういうイメージだよね?



[22198] 聖王様、尾行する。
Name: 空の狐◆194a73d1 ID:b50a47bc
Date: 2010/11/18 18:42

 はやてさんが遊びに来た一週間後の朝、

「じゃあ、いってくるね」

「いってらっしゃいパパ」

 パパはフェイトさんに会いに家を出ました。

 さてと……

「クリス、スニーキングフォーム」

 クリスはやれやれと肩を落としながら私の指示に従いました。

 黒いスーツとサングラス、はやてさんが言っていた、見つかっても気付かれない完璧な尾行スタイル!

 備えは完璧。さあ、追いかけよう。

 私は戸締りをしっかり確認してから家を出ました。








 クラナガン中央駅前、忠犬ザッフィー像の前でパパはフェイトさんを待っています。

 まあ、一時間も早くだからフェイトさんはまだいない。パパ早すぎだよ。

 私は少し離れた場所から見張ります。

 で、ちょっと待つとフェイトさんがザッフィー像の所まで来ました。

 ……二人とも考えること一緒だね。

「あ、ユーノ、早いね、待たせちゃったかな?」

「フェイト。ううん、僕も今来たところだから」

 とフェイトさんをフォローするパパ。

 そりゃあ、お互い約束の一時間前に来たらねえ……

 私が呆れていたらふと一つの影に気づきました。

 私から少し離れた場所で私と同じようにパパを見張っている黒装束の男。あれは……

 そっと気付かれないように、後ろに忍び寄ります。

 そして、その肩に手を置くと、ビクッと震えました。

「クロノさん?」

 そう、こっそり隠れていたのはフェイトさんのお義兄さんで、パパの親友であるクロノ・ハラオウンさん。

「誰だ! って、ヴィヴィオ?」

 あれ、分かっちゃった。

 まあ、はやてさんのは誇張入ってるくらいは理解してたけど一発だなんて。

「何してるんですか?」

「何してるんだ?」

 お互い同時に尋ねます。

 ……多分目的は同じだろうけど、念の為。

「パパが心配で」

「フェイトが心配でな」

 ほらね。シスコン提督。









 そして、私たちは二人で二人を見守ることにしました。

 二人がショッピングモールで買い物をしているとクロノさんはあれこれツッコミます。

「く、フェイトもっと積極的になれ! せめて自分から手を繋ぐくらいしないと……そいつは気づかない!」

 心配は心配でも私とは違う類の心配だったみたい。つまりフェイトさんとパパがちゃんとくっ付けるか心配だったんだね。

 でも、まだお互い付き合ってすらいない友達感覚で、特にフェイトさんにそれを求めるのは難しいんじゃないかな?

「ずいぶんフェイトさんが心配みたいですね?」

 若干険の入った声でクロノさんに問う。

「まあ、いい加減フェイトもいい相手を見つけてほしいからな。その点、ユーノは信頼できる」

 本人に言うなよと釘を刺されます。

 言う気はないよ。

 そして、二人はショッピングモールでぶらぶらしてから映画館に入ります。

 待ち合わせの場所といい、これほとんどデートじゃん……

 私が呆れていたら、クロノさんが懐からチケット。

 本当に私と同じこと考えてるんだ……

 私はなんか悲しくなりながらポケットからチケットを取り出しました。








 私とクロノさんは二人から付かず離れずの距離で見張ります。

『行け少年! 生きて未来を掴み取れ!』

 映画は最近人気のもので、直前でチケット取るのには苦労しました。

『せっかくの映画館、こっそり手に触れるくらいしなければ、あの草食動物は気づかないぞ!』

 だからフェイトさんにそういうのを求めるのは酷だって。

 私は呆れながら二人を見つめます。

 認めたくはないけど、はっきり言ってお似合い。そう、お似合い。

 二人が並べば、夫婦と言ってもたぶん通用する。私がいれば……二人が若く見えることを除けば親子にも見えるだろう。

 その考えに胸が締め付けられる。

 私はパパが、ユーノさんが好き。だけど、だからと言って私に縛り付けたくはない。

 ユーノさんにいい人ができたら祝福したいとも思っている。それでユーノさんが幸せになってくれるなら、私も嬉しい。

 でも、それでも私は……








 そして、映画を見終わってから二人は喫茶店で映画の感想を話していた。

「映画よかったね」

「だね」

 最後は二人が分かり合ってよかったとか、彼があんなことするなんてと思い思いに語り合うのを私たちは離れて見ていた。

「もっとストロベリーな会話を……」

 もうつっこまないよ。

「ヴィヴィオもいたらなあ」

 フェイトさんがボソッと呟きます。

 ちょっと申し訳ないけど、なんかね……

「最近は僕もヴィヴィオの考えてることがわからないからねえ」

 申し訳なさそうにパパが笑う。

 その顔を見て私は複雑な気持ちになる。わかってもらえたら困るけど、私の苦労はなくなるね。

 私は胸のモヤモヤを飲み込みたくて、ずずずっとアイスコーヒーを飲み干しました。








「ユーノ今日は楽しかった」

「僕も楽しかったよフェイト」

 二人が別れる寸前、クロノさんは目に見えてがっかりしてました。

 なにせ二人は買い物して映画見て、お話して、暗くなったらじゃあね。私だってあなたたちは中学生ですかと尋ねたくなったくらいだもん。

 いや、もしかしたら中学生の方が進んでる可能性も……

「これ、ヴィヴィオにちゃんと渡しとくね」

「うん。ヴィヴィオが喜んでくれたら嬉しいんだけどな」

 そう言ってパパが持ち上げた袋には、今回フェイトさんが任務に行った世界で、神様の使いとされる生き物の人形が入っているらしい。

 気持ちは凄く嬉しいけど私の部屋、そういう御守りがひしめいててちょっと困ってるんだよね。

 でも、いらないなんて言うわけにもいかないし……

「じゃあねフェイト、また」

「うん、またねユーノ」

 そうして別れようとして、

「ユーノ!」

 フェイトさんがパパの手を掴んだ。

 がばっとクロノさんが跳ね起きて身を乗り出す。

 この出歯亀提督……

「そ、その……」

 フェイトさんが顔を伏せて言い淀む。

 な、なに言う気なの? ま、まさか……






~~注意! これはヴィヴィオの妄想です~~

 フェイトさんが顔を上げる。

「私、ユーノが好きなの!」

「え?!」

 フェイトさんが強い声で告白する。

 突然の告白に戸惑うパパ。

「その、前から……ううん、昔からユーノのこと好きだった。だ、だから私と付き合ってほしいの」

 ぎゅっとパパの手を握りながらフェイトさんが言葉を紡ぐ。

「その、ダメかな? なのはじゃなきゃ……」

 そこまで言ってフェイトさんはパパに抱きしめられる。

「嬉しいよフェイト、でも、本当に僕なんかでいいの?」

 とパパがフェイトさんに尋ねる。抱きしめておきながらなんでそんな弱気なのさ……

「ユーノじゃないと嫌。その、なのはの代わりでも私はいいから、ユーノがいてくれたら……」

「そんなこと思わないよ。フェイトをちゃんと見るよ」

 そう言ってフェイトさんを離して、まっすぐにその目を見るパパ。

「ありがとうユーノ」

 フェイトさんが本当に幸せそうにほほ笑む。

 それから、目を閉じてゆっくりとパパに顔を近づける。パパもその意図をちゃんと理解して目を閉じて顔を近づける。

 そして、二人のシルエットが重なり……

~~以上、ヴィヴィオの妄想でした。悪魔で、もといあくまで妄想です~~










 ダ、ダメ! そ、そんなのダメ! パパは、ユーノさんは私の――

 最後まで(二人がホテルに入るところまで)想像した瞬間、私は飛び出そうとして、クロノさんの足に引っかけてしまった。

『あっ』

 そのまま、ばたーんともつれ合いながら私たちは倒れてしまいました。

 あいたたた……あ。

「ヴィヴィオ?」

「クロノ?」

 当然ながら私たちに気づいた二人が、こっちを見ていました。








「全く……なにやってるのかなあ?」

 嘘を交えて事情を話すと呆れたようにパパが呟きました。

 うう、ごめんなさい……

 あの後、フェイトさんは顔を真っ赤にして「ヴィヴィオとお兄ちゃんのばかーー!!」っと走り去ってしまいました。

 クロノさんはそのフェイトさんを慌てて追いかけていきましたから、今は私たち二人だけ。

 はあ、なんか目的を達したのに少し複雑です。

 フェイトさんが勇気を振り絞ろうとしたのに邪魔してしまったことは悪いと思います。

 だけど、二人が付き合い始めたかもしれないのを阻止できたことをよっしゃあ!と喜んでる自分も居ます。でも、それって私のエゴだよなあ。

 肩を落としながらパパと一緒に月明かりが照らす道を歩きます。

「はいヴィヴィオ」

 そこで一つの袋を渡されました。

「それ、フェイトからのお土産だよ」

 ああ、そういえばあったんだっけ。

 がさがさと中から人形を取り出します。

 それは、額に赤い宝石が付いたクリーム色の毛のフェレットのような生き物。

「あ、これ……」

「ん? どうしたの?」

 パパが聞いてきたけど私はなんでもないと首を振りました。

 そっかとパパが答えて前を向きます。パパの視線が外れて、私はその人形を抱き締めました。

 少し嬉しいです。だって、その人形はパパのフェレットさん形態にそっくりだったから。







~~おまけ~~

 翌日、ハラオウン家からはどす黒いオーラが立ち上っていた。

「さて、クロノくん、言い残すことはある?」

「お、落ち着けエイミィ」

 S級魔道士も裸足で逃げ出す怒りのオーラを放つのはクロノの奥さんエイミィ・ハラオウン。

 二人の子供は空気を読んで遊びに行くと避難を済ませてしまっていた。

「昨日、ヴィヴィオちゃんと映画見に行ったんだよね? ティアナちゃんからメール届いてるよ?」

「いや、それはたまたま目的が一致して……」

「ふーん、目的ってなにかなあ?」

 女神の微笑みと形容できるほどの笑顔だが、今のクロノにとって、その笑顔は閻魔大王の笑顔そのものだった。

 今、自分が彼女に何を言っても無駄だと言うことを理解し、助けを求めて昨日のことで未だにいじけるフェイトに目を向けるが、ぷいっと目を逸らされてしまった。

 そしてもう一つ理解する。フェイトは絶対に助けてくれないことを。

「優しくしてね?」

 なんとかそれだけエイミィにお願いして、

「いーや」

 いい笑顔でクロノの願いを拒絶された。

 その日、数件先までクロノの悲鳴は聞こえたと言う。




~~~~
ユーノとフェイトのデート編です。
もしヴィヴィオが邪魔しなかったらユーフェイ編、もしくはユーヴィヴィフェイ編に向かったかも……ってなんか噛みそう。



[22198] 寂しがりな聖王様
Name: 空の狐◆194a73d1 ID:b50a47bc
Date: 2010/12/02 22:42
 尾行ごっこから数日が経ちました。

 はあ、と私はため息をつく。

 この前、パパとフェイトさんのお出かけ(本人たちは決してデートじゃないと言い張っている)を邪魔してからなんかパパが不機嫌な気がする。

 いや、確かに悪いことしたけど……はあ。

 でも、不機嫌ってことはパパも……いやいや、あのスーパーフェレット人がそんなこと期待して、いや、パパも一応男だから期待してたのかな?

 申し訳ないけどなんか寂しいなあ……








「というわけでパパが、休みの日にフェイトさんと出かけたんだけど……」

 学校でリオとコロナに先日のことを話します。

 二人はうんうんと私の話に頷いてから、

『ヴィヴィオが悪いね』

 はい。

 でも同時に言わなくても……いや、別々に言われても多分ヘコむ。

「まったく、もしかしたらフェイトさんがヴィヴィオのママになったかも知れないのにねえ」

 リオの言葉にため息をつく。それじゃあ、私がパパのお嫁さんになれないよ。

 いや、別にパパが幸せになってくれるならそれも選択肢の一つだけどさ、うううう。

 私は以前遊びに行った時に教わった、おばあちゃん直伝の煮物とご飯を一緒に食べる。

 冷えた煮物とご飯を一緒に食べるのってなかなか乙な味わいなんだよね。そこ、貧乏くさいって言うな。

「あ、そういえばもうすぐだね」

 あ、コロナちゃんと覚えてくれてたんだ。

「もうすぐって?」

 コロナの言葉にリオが首を傾げる。

 あれ、リオもしかして……

「ほら、ヴィヴィオの誕生日」

 リオがそれでああ! と頷いた。

 忘れてたんだ私の誕生日……少し寂しくなる。

「誕生日プレゼント考えておかなくちゃね」

「なら、アインハルトさんも呼ばないとね!」

 コロナの言葉にリオは頷きました。

 誕生日かあ、パパは忘れてないよね? リオのせいで不安になっちゃったよ……






 家に帰った私は、なんとなくママの写真を見ていました。

 人工的に産み出された私の誕生日は正確にはわかってない。スカリエッティなら知ってるかもしれないけど、あんな人に聞くのなんて御免だ。

 だから、なのはさんが私のママになってくれた日が私の誕生日となっていた。

 ねえ、ママ、もうすぐママが私のママになってくれて十年過ぎちゃうんだよ。

「ママ、なんで死んじゃったの?」

 無性に悲しくて、無性に寂しくて、私はぎゅっと写真立てを抱き締めた。








 それから私はできる限りいつも通りに過ごした。

 いつも通り洗濯物を入れて、いつも通りご飯を用意して、いつも通りお風呂を準備して……

 でも、感じる寂しさはなかなか消せなくて……早くパパ帰ってこないかな?

 そこで電話がかかりました。億劫な気分で受話器を取る。

『ヴィヴィオ、僕だけど』

 パパ! 途端に私の気分は軽くなった。

「なにパパ?」

 電話ってどうしたんだろ? 早く帰ってきて欲しいのに。

『ごめん、急な仕事が入っちゃって……』

 えっ?

『ちょっと遅くなるからご飯先に食べてて』

 そんな……

 一転して私の気分は重くなる。

「う、うん、パパも頑張ってね。無理はしないでね」

 なんとかそれだけ言って、電話を切ってから、私はご飯を食べずにベッドに倒れる。

 早く帰ってきて、そばにいてよパパ……

 私はちょっとだけ涙で枕を濡らした。










 いつの間にか寝ていた私は、物音に目を覚まします。

 パパ帰ってきたのかな?

 ベッドから起き上がって、リビングに向かうと予想通りパパがいました。

「あっ、ただいまヴィヴィオ」

「おかえりなさいパパ、ちょっと待ってね。ご飯用意するから」

 私はすぐにキッチンに入って冷めてしまったシチューを暖め直します。

「あ、いいよ自分の分は自分で」

 とパパが言いますが、私も自分の分を用意したいので。

「いいよ。私もご飯食べたいし」

「えっ? もう食べたんじゃないの?」

 パパの言葉に首を振ります。

「ちょっと眠くて寝ちゃってたんだ。おかげでお腹が空いちゃってるよ」

 ひとかきしたら、温まり始めたシチューの香りがふわっと広がる。

 と、ぐーっとパパのお腹がなりました。

「パパお腹空いてるんだね」

 私が笑って、

 ぐー。

 今度は私のお腹が鳴りました。

 ……うう。なんでこのタイミングで?

「……ぷっ」

 パパが笑います。

 そ、それで笑うのは女の子に失礼だよ!!

 はあ、まあいっか。パパだもん。

 私は温まったシチューをお皿につぎました。







 パパと一緒にご飯を食べたからか、寂しさはあまり感じなくなりました。

 でも、うん。

 寂しくさせられた分、今日は少しだけ甘えさせてもらいます。

 私はパパの部屋に向かいました。

「パパ、一緒に寝ていい?」

 私はパパが断らないとわかっていながら、そうお願いしました。








 草木も眠る丑三つ時。パパもしっかりと夢の世界に旅立ってると結論し、こっそり私は起きました。

 真横にはパパの綺麗な顔。やっぱりドキドキする。

 ぐいっと胸をパパの腕にくっつけながらそっと顔を近づけて、パパのほっぺに口をつけます。

 寝ているパパにこんなことするのはいつ起きるかな? というスリルと、パパが私のものという背徳感混じりのドキドキがあります。でも、それだけじゃ物足りなくて、

「パパ、寝てるよね?」

 うーんと唸るパパ。ゆ、夢見が悪いのかな? よ、よし!

 そっとパパの顔をこっちに向けます。

 そして、私は顔を近づけて、パパにキスをしました。

「パパ、好きだよ」

 それから、そっとパパに囁きます。

 こ、これでパパの夢がハッピーになれば嬉しいな! あと私が出ていたら!!

 私はドキドキしながら目を瞑って眠りました。









 僕の頭は混乱の極みに達していました。だ、だって、だって!

 ヴィ、ヴィヴィオが僕にキスをしたから……

 最初、僕は頬に感じた柔らかい感触に半分目が覚めました。

 でも、特に気にせず再び眠りの世界で栗色の毛皮のフェレットと金色の毛皮の子フェレットと一緒に暮らす夢の続きを見ようと思って眠ろうとしていました。

 腕に柔らかい感触があったけど、ヴィヴィオと一緒に寝ているうちに特に気にならなくなってきたし。

 そ、そしたらいきなり頭の向きを変えられて、気づいたら唇に柔らかな感触。

 そう、僕は、ヴィ、ヴィヴィオにキスされていた。

 その時、起きることもできたんだけど、僕にはできなくて、眠ったふりを続けた。

 だって、もしそんなことしたら、何かが壊れてしまう気がして……

「パパ、好きだよ」

 そっとヴィヴィオが僕の頬を撫でる。

 それからしばらくすると、再び規則正しい寝息とともにヴィヴィオは眠りについた。

「ヴィヴィオ?」

 声をかけたけど、反応はなかった。

 僕は黙って考えた。

 ヴィヴィオが僕のことを好きなんて……こんなことを知った僕は、明日からどう接すればいいんだ?

 僕は、どうすればいいんだ?

 結局、僕は朝まで眠ることができなかった。





~~~~
ユーノくん、ヴィヴィオの気持ちを知ってしまったの会です。
あと、ユーノくんの夢はなのはさんとそういう関係になりたかったっていう願望によるものですきっと。



[22198] 聖王様親子喧嘩をする
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:b50a47bc
Date: 2010/12/16 16:30

 明け方までよく眠れなかった僕は眠気に抗いながら朝ごはんを食べていた。

「ねえ、パパ聞いてるの?」

 ヴィヴィオが僕の顔を覗き込む。

「あ、ああごめん。ちょっと考えごとしてた」

 ポリポリと僕は頬をかく。

「そう、なんか悩みでもあるの?」

 君が悩みの原因です。

 そんなこと言うわけにいかず、僕は曖昧に笑った。

「なんでもないよ。じゃあ、もう時間だから行ってくるね」

「あ、うん。いってらっしゃい」

 ヴィヴィオに見送られて僕は家を出た。








 で、無限書庫に来る前にコーヒーを飲んでカフェインの力で眠気をねじ伏せたんだけど、僕は仕事の間も悩んでいた。

 ヴィヴィオが僕のことが好きだった。

 夜中にこっそりキスをされた唇な触れる。

 ヴィヴィオの唇、柔らかかったなあ……って違うだろ!

 僕は考える。

 あの子は僕の娘だ。なのはが残して、僕が育てた。大切な娘。

 今更、娘以外の目で見れるのか?

『パパ、好きだよ』

 ヴィヴィオの声を思い出す。ああ、もう! なんで頭から離れない。

 なんで? どうして僕は悩んでいる?

 何度も言うけど僕はあの子を娘以外には見えな……本当にそうか?

 脳裏から声が聞こえた。暗い笑みを浮かべた自分がそこにいた。

 なら、なんで娘の姿に興奮した?

 黙れ。

 僕はもう一人の僕を否定する。

 なんであの時されるままだった?

 黙れ黙れ。

 注意すれば、叱りつければよかったんじゃないか?

 黙れ黙れ黙れ。

 認めろよ。ユーノ・スクライアは娘を一人の女として……

 黙れ!

 思いっきり額を書棚に叩きつけた。

 声が霧散する。

「ゆ、ユーノ、いきなりどうしたんだい!?」

 心配そうにアルフが問いかけてくる。

「ああ、なんでもないよ」

 今ので頭冷やしたから。

「大丈夫なわけないだろ。頭から血がでてるじゃないか! 早く医務室に行くよ!」

 アルフに腕を掴まれて僕は医務室へと連行された。









「はい、これでよし」

 担当だったシャマルさんがそう太鼓判を押してくれる。

「ありがとうございますシャマルさん」

 はあ、と僕はため息をつく。

「どういたしまして。ところでどうしたの? なんか悩んでるみたいだけど」

 シャマルさんにまで心配されてるよ……

「いえ、大丈夫です」

 僕は首を振る。

「ならいいんだけど……なにかあったら気軽に相談してね」

 なおもシャマルさんは心配そうだった。本当に、僕は大丈夫ですから。

 決めた。家に帰ったらちゃんとヴィヴィオと話そう。








ヴィヴィオside

 私はいつも通り晩御飯の用意をする。

 明日がついに誕生日。今年はどんなことあるかなあ?

 最初は勘違いしたパパがサンタクロースの格好をしたことあったっけ。

 それからもリオやコロナが面白いことをしてくれたりと、誕生日はすごく楽しみな日になった。

 さすがに毎年珍事件があるわけじゃないけど、楽しみでうきうきする。

 にしてもパパ遅いなあ。ご飯冷えちゃうよ。

「ただいま」

 パパ!

 私は飛び出す。

「おかえりなさい!」

「うん、ただいま」

 額に包帯を巻いたパパが微笑みます。

「あれ? その怪我どうしたの?」

「ああ、仕事中にぶつけてね」

 らしくない失敗したよとパパは笑います。

 確かにらしくないかも。どうしたのかなあ?






 そして、一緒にご飯を食べます。変わらずパパは暗いままで私の言葉に適当な相槌を打ちます。

「パパ、今朝から本当にどうしたの?」

 私は好きな人が、ううん、家族が悩む姿をみたくなんてない。なんか悩みがあるなら聞いて上げたい。

 するとパパはふうっと息を吐いて、かちゃっとお茶碗を置きました。

「ねえ、ヴィヴィオ、昨日の晩、僕にイタズラしてたよね?」

 ……えっ?

「な、なんのことかな?」

「誤魔化しても無理だよ。僕はちゃんと起きてたんだから」

 ガツンとアインハルトさんと組み手をした時くらいの衝撃が私に走ります。

 パパが起きてた? 嘘……

 パパは苦しそうに続けます。

「その、ヴィヴィオの気持ちは嬉しいけど、僕らは」

「止めて!」

 私は大声でパパの、ユーノさんの言葉を止める。

 嫌だ聞きたくない。

「ヴィヴィオ、だけど」

「建て前なんていらないよ! 好きか嫌いかはっきりして!」

 私はヒステリックに叫ぶ。

「ヴィヴィオは好きだよ。だけど答えるわけにはいかない」

「私の気持ちが嬉しいならちゃんと答えてよ!」

「そんなわけにいかないだろ僕らは親子なんだから」

「そんなの知らない! どうせ戸籍だけの血が繋がってないただの他人」

 ぱんっと乾いた音が鳴った。

 一瞬なにをされたかわからなかった。だけどジンジンと頬が痛む。

 遅れてユーノさんに頬を叩かれたと理解できた。

 私は頬を抑えながら、呆然とユーノさんを見る。今にも泣き出しそうなユーノさんがそこにいた。

「僕は、ずっと君が誇れる父親になりたかった。僕はずっと君が頼ってくれる父親になりたかった。僕は……君の立派な父親になりたかった」

 ぽつぽつとユーノさんが呟く。

「君にとって、僕はその程度の存在だったのか?」

 力なくうなだれるユーノさん。

 私、私は……







 それから私たちは黙って自分の部屋に戻った。

 私はベッドに倒れ込む。

 あんなユーノさんは見たことない。あんな弱々しい姿は……

 考えれば、ユーノさんは、パパは一番好きな人が、ママがいなくなってから必死に頑張ってきた。

 私のために、娘のために。もしかしたら、それがパパが立ち上がれた原動力だったのかもしれない。

 私は、そんなパパの支えを傷つけた?

 パパが頑張ってきた理由そのものなのに?

 そんなことを考えた瞬間、言いようのない恐怖が私を襲った。

「う、あ、ああ、ああああああ!!」

 私は両手で顔を覆いながら泣いた。

 自分の行動が、自分の思いが大切な人を傷つけた恐怖に。







 翌日、私たちは挨拶以外の言葉はなかった。

 私はお皿を洗ってパパは私から背を向けて本を読んでいる。

 重苦しい沈黙の中、ピンポーンとチャイムが鳴る。

「はーい」

 私はパタパタと玄関に向かいドアを開ける。そしたら、

『ハッピーバースデー、ヴィヴィオ!!』

 そこに、リオとコロナ、アインハルトさんにエリオさんにキャロさん、スバルさんにティアナさん、ノーヴェたちナカジマ家のみんなにはやてさんとはやなちゃん、フェイトさんがいた。








~~~~~~~
ユーノとヴィヴィオ話し合うの回
さて、こっからどうしようか?

先日XXX版に『平行世界のなのはさん』の番外編『奴隷ななのはさん』を投稿しました。





[22198] 繋がる心 (最終話)
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:a9f084e4
Date: 2011/04/21 00:49
『ハッピーバースデイヴィヴィオ!』

 ぱんぱんとクラッカーが鳴り響く。

「ありがとうみんな!」

 さっきまでの鬱な気分は完全にではないけどなくなっていた。

 パパもぎこちないけど笑みを浮かべている。

「ヴィヴィオ姉さん、私と母さんからプレゼントだ!」

 とはやなちゃんが一番最初にプレゼントをくれる。

「わあ、ありがとうはやなちゃん」

 受け取ったプレゼントは、カラフルなビーズでできた髪留めだった。

「姉さんいつも同じので髪を留めてるからな。大切なものだろうが、たまには変えてみてもいいと思ったんだ」

 とはやなちゃんが説明してくれる。

 確かに、いつもママが使っていたゴムだったしね。はやなちゃん気づいてたんだね。

「ありがとうはやなちゃん」

 私はさっそく受け取った髪留めに付け換えてみる。

「どうかな?」

「うん、やっぱり姉さんはなんでも似合うぞ」

 満足そうにはやなちゃんは笑った。

 そして、次々と私はみんなから祝福の言葉とプレゼントを貰いました。









 パーティーは楽しくて嬉しくて、でも消えないしこりがありました。

 パパはずっと楽しんでるふり。私もどこかそんな風に振る舞っている気がして、少しみんなに申し訳なく感じます。

 そして、パーティーが一段落して、アインハルトさんとリオにコロナと中庭に出ていたら、

「あの、ヴィヴィオさん……なにかあったんですか?」

 アインハルトさんに聞かれてしまった。

「えっ?! な、何のことですか?」

 なんとかそう答える。

「いえ、どこか悲しそうというか、どういえばいいかわからない顔をしとから」

 アインハルトさん鋭い……

「ねえ、ヴィヴィオ、なにかあった?」

「やっぱりユーノさん?」

 さらにリオとコロナに図星を指される。

 な、なんで私の周りにはこんなに勘がいい人が揃ってるの?

「ユーノ先生がどうしたんですか?」

 アインハルトさんがコロナに聞き返す。

「ヴィヴィオ、ユーノさんに恋をしてるのよ」

 えっ?! とコロナの返事にアインハルトさんが驚く。

「そうだったんですか……」

 複雑そうにアインハルトさんが呟く。

「で、ヴィヴィオなにかあったの?」

 と改めてリオに尋ねられる。正直に言った方がいいかな……

「昨日、パパに……ユーノさんにふられた」

 みんなの表情が固まる。

「私たちは親子なんだって言われたから、私、私たちは血も繋がってないって……言っちゃいけないこと言って、叩かれた」

 そっと叩かれた頬に触れる。

 黙って私の話を聞いてくれるみんな。

「わ、私あんなこと言うつもりじゃなかった。だ、だけどつい勢いで言っちゃって……絶対にユーノさん怒ってる」

 私はブルブル震える。嫌だ、嫌われたくない……

 そしたらアインハルトさんが私の肩を掴んできた。

「ヴィヴィオさん、それはあなたらしくないですよ?」

 私らしくない?

「いつだって全力で人にぶつかるのがあなたじゃないですか。それが一回失敗しただけでウジウジと……しゃんとしなさい!」

 アインハルトさんの言葉に私は背筋をピンと伸ばす。

「そんなこと言うつもりはなかったんでしょう?」

「うん……」

「なら、謝ってそれからもう一度話せばいいんです。だって、二人はまだここにいるのだから」

 私たちはまだここにいる……

 たぶんアインハルトさんの中にはオリヴィエとクラウスさんの記憶が浮かんでるんだと思う。

「うん、ありがとうアインハルトさん」

 私はアインハルトさんお礼を言う。うん、ユーノさんに、パパに謝ろう。それからもう一度お話をしよう!












フェイトside

 私はどこか楽しみ切れてない雰囲気だったヴィヴィオと話そうとして、たまたまそれを聞いてしまった。

「ヴィヴィオ、ユーノさんに恋をしてるのよ」

 えっ? うそ……ヴィヴィオが?

 私は混乱したヴィヴィオがユーノのことが好きだった?

 呆然と私は話を聞いていた。おかげで二人の様子がおかしかった理由がわかった。

 そういうことがあったんだ……

 私はどうしようと考える。

 私もユーノが好き。だけどヴィヴィオも大切な親友が残した大切な子。

 私は少しの間、思案して、行動を開始した。









「ユーノ」

 私は一人でいたユーノに声をかける。

「フェイト?」

 私はユーノのそばによって、思いっきり頬を叩いた。

「ふぇ、フェイト?」

 なんで叩かれたかわからないユーノは目を丸くする。

「ユーノ、ヴィヴィオをふったんだって?」

 私の言葉にユーノがつらそうに顔を伏せる。

 私はずいっとユーノに顔を近づける。

「ねえ、ユーノ正直に答えて。ユーノはヴィヴィオの告白にどう思ったの?」

 私の問いにユーノは目を逸らす。

 それから、少しの間黙って、

「……嬉しいって思った」

 絞り出すようにユーノが答える。

 その返事に私の胸が軋むけど、無視して続ける。

「ユーノ、ヴィヴィオはなのはの遺した子だよ?」

「うん……」

 ユーノが頷く。

「私たちにとって一番大切な人が残した一番大切な子なんだよ?」

「うん……」

 そうだ、なのはは私たちにとってかけがえのない大切な人だった。

「幸せにしないと許さないよ?」

「……うん」

 私の言葉にユーノは顔を上げる。その目に迷いはなかった。

 よし。

「わかったなら、がんばってね」

「うん! ありがとうフェイト!」

 ユーノは私に背を向けて歩き出した。

 終わっちゃったな……

 ユーノを見送ってから、スクライアの家を出て、私は空を見上げた。これでよかったんだよね、なのは?

 当然答えは返ってこない。ただ、ぽろっと涙が零れる。

「ううう、ああ……うあああああああああ」

 そして、私は蹲って泣きだした。

 これでいいんだ、これで、ヴィヴィオが幸せになってくれるなら……










ヴィヴィオside

 パーティーが終わってから、私はパパに、ユーノさんに謝りに来て、ユーノさんが向こうから歩いてきた。

「パパ、その……」

「ヴィヴィオ……」

 ばっと私たちは同時に頭を下げる。

「ごめん!」

「ごめんなさい!!」

 あれ?

 お互いに同時に顔を上げると、二人でぷっと吹きだして笑ってしまった。

 なんでこんなに息合ってるんだろ。流石は親子だからかな?

「その、ごめん。昨日は叩いちゃって」

「ううん、私もあんなこといってごめんなさい」

 ひとしきり笑ってからお互いに改めて謝りあう。

 ユーノさんを見れば、いつも通りのほほ笑みを浮かべてる。よかった、またこんな風に顔を合わせられて。

 それから、ふうっとユーノさんは息を吐いた。

「その、ヴィヴィオ、改めて昨日の告白の返事をさせてもらえないかな?」

 え?

「その、僕らは義理だけど親子だし、歳も結構離れてるし、今でもなのはのことは引きずってる。それでも、ヴィヴィオの告白は嬉しかった」

 そして、ユーノさんは一度区切ってから、

「その、こんな僕でもいいのかな?」

 笑った。私の好きな、きれいな微笑み。

 少しの間、ユーノさんの言葉の意味を理解できなかった。でも、ゆっくりと私はそれを理解すると同時に、涙がこぼれ始めた。

「本当に? パパは、ユーノさんは私を好きになってくれるの?」

「うん」

 私の問いに頷いて、ユーノさんが私を抱き締めてくれる。もう、私は耐えられなかった。

「ありがとう、ありがとうユーノさん。ずっと一緒にいて。ずっと私と家族でいて」

 ユーノさんの腕の中で私は泣き続ける。

 ある程度治まってから、私は顔を上げる。すごくそばにあるユーノさんの顔。

 私はそっと目を瞑る。

 唇に柔らかい感触。やっと私はちゃんとユーノさんとキスをすることができました。

 そして、私たちは……





















エピローグ

 一年後、地球で眠っているママのところへ私たちは報告に来た。

「ママ、久しぶり。私とユーノさんは元気だよ」

 お線香を上げて、ママに話しかけます。

「今日はなのはに報告とお願いがあってきたんだ」

 と、今度はユーノさんがママに話しかける。

 そっと私はお腹を撫でる。

「えっとね、私、ユーノさんの赤ちゃんができたんだ」

 そう、今の私のお腹の中にはユーノさんとの間にできた命がいる。

「それでね、その子が女の子だってわかったの。で、ここまでが報告で、ここからはお願いです」

 私は一度区切り、ユーノさんと目配せする。

『この子の名前に『なのは』って名付けようと思ってるんだ』

 そう、ママみたいにまっすぐに、強い子に育ってもらいたい。そういう願いを籠めてこの子にママの名を送りたい。

 いいよね。ママ?

 返事はない。でも、ママがいいよって言ってくれているような気がした。

「またね、ママ」

 報告とお願いを終えて私はお墓の前から立ち上がる。それをユーノさんが支えてくれる。心配性だねユーノさんは。

 私たちは寄り添って歩きだした。











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こちらでは、お久しぶりですみなさん。
やっと完結……ちょっと後半駆け足だったかなあ? なんて思ったけど、まあ、こういう流れでいいかなとも。
番外編にフェイトもやろうかなあ?


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