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[22373] 【習作】 はやく早く速く、受け止めて…… (ベースは化物語)
Name: 鬼瓦◆b61185a2 ID:f16d5d61
Date: 2010/10/06 00:21


はじめまして。
次ページより稚拙な文章で展開して参りますが、拙作をご覧頂きました皆々様のご意見・ご指摘等賜りたく、今回、勇気を出して投稿させて頂く事にしました。


タイトルにもあります通りベースは『化物語』ですが、主人公を筆頭に殆どオリジナルキャラが動く事になります。
そこに別の物語の設定や世界観を織り交ぜて、ごった煮の様な多重クロスSSになると想定しております。


闇鍋にならないよう、頑張りたいと思いますので、何卒よろしくお願いします。





[22373] ①修正版(Ver1.01)
Name: 鬼瓦◆b61185a2 ID:f16d5d61
Date: 2010/10/06 19:56



職場からの帰宅中、車を走らせていたその時、ふと感じた悪寒。
あまりに唐突な違和感に、慌てて減速し路肩に停車した。
車の外へ出て振り返ったが、しかし、周囲には誰も居ない……。
そう、それもまた不自然で……普段のこの時間帯は交通量も多い筈なのに、今、全く人の気配を感じないのだ。
対向車や後続の車が見当たらない道を何度も見やり、そしてやっぱり何も無かったことを確認し首をかしげる。

(う~ん、おかしいな……まあいいや)

思い直して車に乗り込もうとしたら、助手席においてあったはずのカバンが運転席に。

(あれ?)

手に取り、再度助手席に置こうとしたら、そこに誰かが座っていた。
女だ……目が合った。

「ハロー、お邪魔しま~す」

(っ!?)

目が合った瞬間、先程と同じ質の悪寒、だがもっと強烈なモノに襲われた。

(なっ、なんだこれっ……これさっき感じた気配だぞ、なんなんだこれ?)

後々思い返せば、それはまるでコンビニでバイトしてた頃ドリンク補充で冷蔵室に篭ったまま数時間を過ごした時のような、そんな感じ? 北海道などの極寒地域で感じる真冬の痛い感覚ではなく、-5℃前後の機械的・強制的な寒さ?と表現すれば良いだろうか。
目線を逸らしたいのに、逸らす事が出来ない・・・というか金縛りにでもなったかのように体の全てが全く動かない。
どちらかというと顔はかわいい系な外人さんという印象の、その女性に抱いた感情は恐怖だった。

「え~っと……取り合えず、あなたの目的地までで構わないので、乗せてってくれないかしら、ねっ?」

ねっ?と言われた瞬間。
ついさっきまで硬直していた体が急に動き、それまで背後に状態を反らそうとしていたが為、体が後ろに傾いて……ドンっと尻餅をついた。

「えっ! ダイジョブ?」

外人さんが驚きと共に声を掛けてくる。
だが、こちらはそれ所ではない。
金縛りが解けたのか? 悪寒もいつの間にか消えているが、えと、どうすればいい?
いや、どうしよう、この女は何者だ? っていうか何でオレなんだ? 一体何がどうなってるんだ……?
所謂パニックに陥っていた。

(……ぇえぃ、くそっ、と、取り合えずえ~っと、顔はか、かわいいな。
 っじゃねー! い、いかん落ち着け、多分ヒッチハイクだ、いやそう思っとこう……なんか、こ、怖ぇ)

腰が抜けていた訳ではなかったようで、両足に力を込めれば直ぐに立ち上がることが出来た。
精神面は全然大丈夫ではないが、なんとか「わ、わかりました」と返答する事はできた。





機械的に、だが安全運転で自宅方面に向かう。
いつの間にか乗り込んでいたこの女性に対する不信感と恐怖でガチガチだったが、慣れゆえか車の運転に支障はなかった。
怖さゆえに運転に集中していたのだが、むしろそれが良かったようだ。
暫く走っていると、徐々に精神面も落ち着いてきた。

そんな走り出して暫く経った時、前触れも無く外人さんから話しかけてきた。

「日本車って初めてだけど、なんだっけコレ、助手席にもこういうスポーツ風なシートがあるって事は、標準装備なのね? コレ」

(ちょ、突然なんだ? 独り言か? このポンコツに興味があるのか? ……っていかん、と、取り合えず落ち着けオレ)

焦りつつも思う……車好きな自分と共通の話題があったりすれば、多少気が楽になるのかもしれない。
だが気付いたら思いとは裏腹にド直球で問いかけていた。

「……あなたは何者だ?」

(ぬぉ、しまった……我ながら不躾だった)

「ん~ホントはね、秋葉原とか行きたかったのよねー、私単なる旅行よ~。
 あ、結構アニメ観てるよ! 聖闘士星矢とかドラゴンボールとか。
 ジャパニメーションいいね、ガンダムはあまり解らないけどエヴァは解るよ!」

平常時とは程遠いが、ガンダムという言葉に反応するぐらいには冷静だった。
自他共に認めるガンダム好き故に心の中で突っ込む。

(おいぃ!? ガンダムが解らんとは何事じゃー!)

「まさか間違って名古屋の方に来ちゃうとは思わなかったけど、なんとかして秋葉原はいきたい。
 あと富士にも登りたい。
 わびさび?感じたいね~。
 それから……お台場? 18mのガンダムまだあるのかしら?」

(お台場のガンダムはもう撤去済みで、今年は静岡に立つっちゅーねん、情報仕入れてから来日しろよ……あれ、割と冷静なのかな? オレ)

心の中で突っ込むが、取り合えず黙っておく。
ちなみに現在は2010年7月……静岡の1/1ガンダムは既に組み立てが完了し、もうすぐ一般公開される予定だ。
どうでもいい話だが、昨年のお台場に引き続き、今年もお盆休みの際には観に行く予定を立てている。

「まあ、確か名古屋はおいしい料理多いって聞くね、味噌カツ? 味噌煮込み? 天むす? きしめん? 全部食べたーい。」

たまたま信号が赤で停車した為、恐る恐る助手席を見た。
食い気を顕にする外人さんを横から眺めてみる。
座っている為想像の域を出ないが、スタイルはかなり良さげだ。
特に胸のボリュームが中々Goodな感じにみえる。
胸以外もボリュームがあったらちょっとイヤンだが、ジーンズに包まれたスラッと伸びる足を見る限り、それは無さそうだ。
舐めるように横から眺めているが、当の本人は「あれが食べたーい」などと、日本全国の有名な郷土料理を列挙している。

(こうして目線を合わせずに観ているだけなら問題ない、か……あの悪寒はなんだったんだ?)

だが、ハンドルを硬く握り締めている右手を緩め広げた手の平に視線を移せば、案の定汗でベッタリであった。
ふと顔を戻せば、丁度信号が赤→青に切り替わった。
慌ててローにギアを入れ、再び走り出す。

「へ~、クラッチ繋ぐの上手だね、日本の車は殆どAutomaticだと思ってたよ。
 ToyotaやHondaはIndustrial depressionで直ぐにFormula oneから撤退しちゃったけど、モータスポーツの意識? Mind? ちゃんとあるのだねー。」

(ぉいーっ!横文字しゃべんなよ、英語はサッパリ解らんゾ!)

「って、私ばっかりしゃべってるけど、私の日本語通じてる?」

「あー、はい、日本語お上手ですね」

慌てて答える。
事実、日本は初めて来たみたいに言う割りに喋りはマジ上手いと感じていた。

「ホント? サンキュ~♪ 頑張ってアニメ吹き替えじゃないの観たりして覚えた甲斐あったよ……甲斐だったかな、頑張った成果?」

(怖い外人さんの正体はアニオタかよ、マジで怖えぇ……)

そんなやり取りをする内に、自宅付近まで近づいてきていた。

「もう直ぐ私の自宅に到着するのですが、どうされますか?
 近くに電車……Train?のStation?がありますけど、そこまで送りましょか?」

「いいよ、車とめる所で降りてあとは歩くから……駅の方向教えて」

(おいおい、家まで来る気かよ……早く降りてくれー)

想いは届かず、そのまま自宅に到着してしまった。

「ここがお家?」

頷くオレを確認してから車を降り、我が家を眺める外人さん。

「助かったよ、ありがとう、駅はどち?」

「この道真っ直ぐ行って左折したら見えてきます、ここから概ね3分ほどですよ」

教えてあげたら、無言で後部座席のドアを開け、キャリーバッグ降ろした。
そのまま後ろ手に転がしながら、すたすた歩き始める。

(つ、疲れた……。
 しかしなんだ? 全く音を立てず気配も感じさせずにキャリーバッグを後部座席に乗せて、さらに助手席に乗り込むなんて事を、オレがほんの少し目を放した隙にやってのけたんか?
 それにあの悪寒。
 なんなんだあの外人さんは……)

ハンドルにへたりこみつつ、外人さんの後姿を眺める。
服の上からでもそのスタイルの良さはかなりのものだろうと想像できる。
先程横目でチラ見した時の胸のボリューム具合を考えると細身巨乳っといったところか。
小ぶりだが形のよい尻ときゅっと締まった腰がなんともGoodだった。

(まあ、さすが外人さんだな、足長げぇや。
 だが、やっぱりあの悪寒だけが気になるし、色んな意味で危険だった……さてと)

今日の夕食を想像しつつ車庫入れし、自宅に入った。





車を降り、駅の方に向かいつつも、先ほどの男の家の位置をしっかり頭に叩き込む。

(ふむ、恐らく名古屋の北を流れる木曽川の近くまで北上できたとは思う)

車の中でややテンパリ気味に喋り続けてしまい、今更ながら少々恥ずかしい思いに浸りつつも、移動途中にみた市町村の境界看板の文字は覚えている。
空港で買った地図をリュックから取り出して確認してみた。
恐らくこの辺一体は名古屋のベッドタウンであろうと想像する。
都会からはそれなりに離れている為、取り合えず自身を隠す事ぐらいは容易に出来るだろうと判断する。
そして、みれば極端なド田舎という訳でもないので、情報収集も難しくはないだろう。
しかし個人的に残念なのは、先ほどもポロっとこぼしてしまったが、荷物にまぎれて乗り込んだ飛行機が羽田や成田ではなく、中部国際空港に到着した事だった。

(秋葉原とか行きたかったのに……まあ東京は日本の首都だから、いきなり飛び込む危険を考えればマシだろうけど)

後方の気配が自宅と称していた家の中に吸い込まれていった事を感じ、振り向いて確認した。
特にコレといった意味は無いが……運転は上手だったなぁと、しなやかにシフトノブを操作する左手の動きを思い出す。

(……。
 さてさて。
 よ~し、でわでわこの近辺をぐるっと観て回ってみようかしらね~)

おもむろに跳躍し、近くの家の屋根に飛び乗り、そのまま屋根伝いに走り始めた。
と同時に、精神を集中する。

(キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの影響は日本全土に波及している筈……油断しないように気を付けなきゃ)

そのまま、夜の闇に溶け込んでいった。




10/5 投稿(Ver1.00)
10/6 修正(Ver1.01)



[22373]
Name: 鬼瓦◆b61185a2 ID:f16d5d61
Date: 2010/10/09 15:08



今日は木曜、固定サルベージ※の日だった。

 ※サルベージ
   オンラインゲームFF11のコンテンツの1つ。
   1パーティ(6人)で突入しダンジョン攻略を行う。
   目的はそこで得られる装備の素材を得る事、金策、などなど。

固定メンバーでのパーティで毎週通っているが、欲しい物がちっとも得られず既に2年以上が経過している。
今夜もやはり何もドロップしなかった……実に残念である。
ひと段落ついたので、ゲームをシャットダウンし軽く伸びをした。

(ゲーム中は忘れていたけど、やっぱ帰宅時のあの悪寒は怖かったなぁ。
 もしかしたらなんかネットとかに情報出てねぇかな?)

寝る前に検索サイト等で確認してみようと、マウスに手を伸ばした、そのとき。



(なっ、なんだっ!?……ちょ!、これさっき感じたあの悪寒だぞ!?)



あの外人女性の存在が脳裏に浮かんだ。
今、感じている感覚はあの時と同じだった。
しかし、今回はあの時と違い体がちゃんと動いてくれた。
腕を擦る……鳥肌が立っている。
恐る恐る周囲を見渡してみるが、自分の部屋には自身以外の存在を確認する事はできない。

(もしかして、カーテン開けたらベランダから「ハイこんにちわ~」とか?
 んなバカな……で、目が合ったらまた動けんくなったりするのか?)

まさかと思いつつも、そんな想像をしてしまったが為に、カーテンの向こうが気になってしまった。
ゆっくりと南の窓に掛かるカーテンに近づき、そしてゆっくり開けてみた。

(……ん!?……ぬぉっ! 杉本さん家の屋根の上にイターーーーーっ!!)

道路を挟んだ向かいの家の屋根の上に立ち、こちらを見ていた。
目が合った。

(ぎゃーっ!……って、あれ?)

金縛りにはならなかった。
目が合った瞬間悪寒も消えていた。
なんとなく外人さんの方が驚いてる様なリアクションをしてたようにも見えたが、ひらひらと笑顔でこちらに手を振り、そして助走も無しにジャンプっ!

(なっ!)

向かいの家とベランダとでは5m以上ある筈だが、あっさり飛び越えた。
そして、まるで重力を感じさせないかの様に音も無くスッと目の前のベランダに乗り移った。

「え~っと……や、やっほ~。
 と、取り合えずさっきはありがと~」

頭をぽりぽりとかきつつ、網戸を開けようとする外人さん…一見すると微妙に戸惑っている様子にも見えるが、超人的な跳躍力を見せられ言葉を失っているオレには、相手のそんな様子に気付く事は無い。
その人間業じゃない跳躍力に……オレは既にもう人間じゃないと決め付けていた。
そしてそんな怪人というか化け物というか、とにかく危険な存在が、網戸を開けようとしている事の方が問題だった。
エアコンをつけずに窓を大解放していた為、網戸を開ければ直ぐ部屋に入る事が出来る。

「でさぁ、そのついでと言ってはなんだけど……凄く唐突だけど暫く泊めてくれない……ねっ?」

(はあ?
 なっ!? 何言ってるんだこの外人さんは……「ねっ?」じゃねぇー)

案の定、網戸を開け勝手に開け、部屋に入ろうとする。
思わず後ずさるが、得体の知れない相手に恐れ、足が縺れ・・・・・・尻餅をついた。
本日2度目である、尻が痛い。

「だ、ダイジョブ? ……あっと日本は靴脱がなきゃだった」

1歩2歩、部屋に足を踏み入れた所で土足厳禁に気が付き、慌ててベランダに戻りパンプスを脱ぐ。
その間、尻餅をついたまま化け物を恐る恐る眺めている事しか出来なかった。
あっさり部屋への侵入許してしまった……当の本人は部屋を軽く見渡しながら、ふ~ん、とか、想像してたのよりも比較的片付いてるじゃない、とか勝手な事をほざいている。

「で。
 さっきも言ったけど、暫く泊めて貰えると嬉しいの、OK?」

こちらを向いて、改めて泊めろという。

(なんなんだ一体。
 コレはなんのゲームだ? オレは嵌められたのか?
 泊めろとか訳分からん……そのエロい体でエッチな事しようとか、オレの精気吸い尽くそうとか、そういう事か?
 ってことは、こいつサキュバスか何かか!?)

「あ~、ご家族への事情説明とか、そういう諸々の情報操作は、明日の朝になれば都合のいいようになってるから。
 心配しないでダイジョブよ」

こちらの訝しさと恐れの混ざった微妙な表情を気にしてか、訳のわからない事を言い出す化け物。
今のオレにはサッパリ気付けていないが、この台詞もまた不可解ではあった。

「じゃ、了解してくれたって事で……まだ自己紹介してなかったよね。
 モニカリタ・フェアチャイルド・バーグマンブレードって言います、みんなモニカって呼んでるからあなたもそう呼んでくれるとうれしいな~。
 よろしくね~」

「くっ……山田誠っす……あ、あなたは一体、な、何者、なんですか?」

自分は普通の人間ですが、あんたは化物ですか? 何ですか? というか、そもそも泊める事に了解なんてしてないし。
と、問いかける……既にパニックで訳分からない状態に陥っているが、それにしては意外な事に、割と冷静な部分がまだ自身にはあるようだ。



……相変わらず尻餅をついた状態のままだったが。



「う~ん……そうよねー、普通屋根の上を軽々と飛び移るってNinjaでもなきゃありえないよね。
 ホントは内緒にするべきなんだけどなぁ……。

 ……むぅ、そもそもなんで私に気付いたのか不思議なのよね~、車乗っけて貰う時も気が付いたら自然に停まってくれたし。
 私ちゃんとステルスアビリティ作動させてるのに……。

 え~っと、他の人には内緒にしてね? 絶対だよ!
 私、日本で言うところの妖怪? みたいな感じかしら。
 ほら、あなた月姫ってやった事ある? 私はあれで言うところのアルクェイドみたいな感じだよ」

途中、あさっての方向を向いてブツブツ言っていたが、全部丸聞こえである。
だが今のオレにその意味を考える余裕は無い。
こちらに向き直って話しかけてきた言葉の中に『月姫』という知っている単語が出てきて、若干、ほんの少しだがモノを考えるだけの落ち着きを取り戻す事ができた気がする。

「月姫は知ってるが……妖怪だ?
 ……怪異、吸血鬼、か」

「Vampiresで通じるかしら……でも私、人間を使徒にした事は一度も無いし、そもそも人前にはあまり出歩かないようにしてるのよね、何があるかわかんないから。
 今はたまたま用があってこうやって出てきてるけど、基本隠れて行動するようにしてるし。
 実際、今現在、誠さん以外の人には私を認識する事が出来ない筈よ、そういう力使ってるから」

確か、吸血鬼は2つの意味で血を吸う。
1つは食事として、そしてもう1つは使徒にする為。
高位の吸血鬼になればなるほど、行動は慎重になり、或いは怠惰になり、あまり現世に現れないというのが通説だったか?
まあ、吸血鬼を題材にした物語によって、その解釈は様々だが。
だがしかし、このモニカとかいう外人風の化け物は吸血鬼だと自己紹介した。
本当か嘘か解らないが……それはつまり、最悪の可能性としては、吸血衝動が発生したら真っ先に俺は食われるかも知れない、という事だ。

「月姫知ってるならわかるよね、真祖って。
 私も真祖だし、そもそも普通にご飯食べてれば問題ないし、吸血衝動もないし、誠さん、あなたに危害は加えるメリットもないし。
 ただ泊めて貰うだけだから、特に問題も実害も無い筈なんだけど」

なんだか突拍子もない事態になってきた。
マジで小説や漫画のファンタジーな世界に来てしまったかのような……がしかし、あの形容し難い強烈な悪寒の正体がこの女である事はもはや明白となった訳だ。

(実害はないとか、そんな事素直に信じられるかよっ。
 化物語風に言わせりゃ、怪異がそこに存在するにはそこに住む人の信仰とか意識とか、意味があるとかって、え~っとなんだ?
 と、とにかく、オレの直感で言えばオレはお前の食事なんだろ? ちくしょーめ!)

口には出さずに悪態をつく。
が、ポロッと口にだしてしまった次の台詞は、相手も全く意図しない発言だったようだ。

「そ、そもそも、得体の知れない悪寒を撒き散らして、何が危害を加えない、だ?」

「えっ、悪寒?」

「オレの車を止めさせた時。
 それから、えーっと、オレと初めて目線を合わせた時。
 そしてついさっき、オレにカーテンを開けさせた時。
 ……全てオレに何らかのプレッシャーを掛けてたろうがっ!」

一気にまくし立てた……そう、怖かったのだ。
だからこんな夜中(もう直ぐ日付が変わる時刻である)にも関わらず、大きな声で抗議した。
だが、隣の部屋から妹が苦情を言いに来る様子はない。
今、自身の五感で感じるものは、パソコンのFANやHDDの駆動音のみだった。
よくよく思い返してみれば、路肩に駐車し思わず車を降りた時も、不自然に周囲に人の気配がなかった。
不気味で仕方が無いのだ。
相手は驚きの表情を浮かべ、頭を捻っているが、こっちとしてはもう何がなんだかサッパリである。



ちなみに、未だに尻餅状態である……かなりダサいが仕方あるまい、今回はどうやら完全に腰が抜けているのだから。



「えと、ちょ、ちょっと待って!
 私にはサッパリ身に覚えないんだけど。
 ……いや、確かに奇妙な違和感はあったけど、まさか、まさか私の気配を感じ取ったというの?」

待ってと言われても困る。
そもそも何を待つというのだ。
これがゲームや小説の主人公なら、上手く立ち回って撃退するのだろうが、生憎オレはヘタレたおっさんだ。
化け物なんぞと戦う事など出来るはずも無く、むしろチビってしまいそうだ。

「チラっと部屋を見たら、それが悪寒というキーになって、カーテン開けさせた? つまり私の存在気付かれたって事?
 その、正直悪寒とかいうのが良く解らないけど……たぶん私の視線というか存在を示している? ……たぶんトリガーになってるんだろうなぁ。
 でもでも、え~っ、そんなぁ……じゃあじゃあ、私が張った結界とかも何らかの形で把握出来ちゃってたりするの~?
 日本に到着してからこっち、最低限の気配だけ残してキッチリ隠れてた筈なのに……日本はそういう土地柄なのかしら?
 さもなくば……山田誠さん……あなたVampire hunter? いや、その素養がある、ということかなぁ……」

独り言をブツブツと呟く女……こちらを見、その目つきが段々と細く、鋭くなっていく。

「どうやら、私、さっき言った事、早速嘘ついちゃう事になっちゃいそう……ねっ!」



 …──ィィキイイィィィィ──……



「えっ……ぐわぁぁぁっっっ!」

突然ものすごいプレッシャーが正面から襲い掛かってくる。
耐え切れず仰け反るかと思ったが、体が固まったかのように仰け反る事すら出来ず、プレッシャーを真正面から受る。
目を瞑ろうにも瞑る事すら出来ず、眼球に痛みが走る。
涙が溢れるが、拭う事すらできない。

「まさか日本到着初日からいきなりこんな事態になるとは、私もついてないわ~。
 けど……力を解放して敵を呼び寄せる訳にも行かないし。
 とりあえず結界は張ってるけど、極力セーブして……うん、コレぐらいは余裕で大丈夫、申し訳ないけど大人しくしててね」

言いながらゆっくりと部屋の蛍光灯の真下に移動する。

「……ふんっ!」

そしておもむろに立位体前屈の姿勢で右手を自分の足元の影に突っ込んだ!?
右手の手首から先がめり込んでる? いや、見えない。

(体柔らかいな……じゃねぇっ!
 おいぃ、ヤツの手が! 床めり込んでるとかそういうんじゃないぞ!?)

それはまるでゲームとかでありがちな異空間に繋がってるとか、そんな感じだろうか。
何かを得たのか、今度はゆっくり引き抜かれていく右手。
それは何かを摘んでいる。
……なんで小指を立てて摘むような形で持ち上げてるのかわからないが、どうみてもそれはくそデカい剣の柄だった。
更に持ち上がっていくと、青黒い刀身が見えてきた。
非常に太い、そして曲がりくねった長大な刀身が顕になる。

(ま、不味い……オレの人生……やべぇ、ココで終わるのか……っ!)

力を入れようにも、体は動いてくれない。



……マジでオシッコチビりそうだった。




10/9 投稿(Ver1.00)



[22373] ③修正版(Ver1.03)
Name: 鬼瓦◆b61185a2 ID:f16d5d61
Date: 2010/10/20 22:25



足元の影から取り出したモノ……それは吸血女の身の丈には見合わない程の大きさの両手剣だった。
俗に「フランベルジュ」または「フランベルジェ」、ドイツ語で「フランベルク(こちらは一般的に片手剣ほどの大きさとも言われている?)」とも呼ばれるフランスで主に使われた特殊な波切刀をもつ武器である。
最古のモノでは8世紀頃のシャルルマーニュの伝説に登場する騎士の1人が所持していたという。
この切刃を持った剣身は、美しい見かけとは裏腹に非常に殺傷能力が高く、この刃によって傷付けられると、傷口は肉片が飛び散り、抉り取られたような傷となる為、なかなか傷が治らなくなる。
また、突き刺し、引き抜く際にも傷口を広げる効果があり、今と違って衛生事情が現在と比べ物にならなかった時代には、破傷風などに感染して死亡する例が多かったという。

治りづらい傷を作るため「死よりも苦痛を与える剣」として知られるこの両手剣を、FF11というゲームの中で愛用していたオレは……

(こいつ暗黒騎士※かよっ!)

 ※暗黒騎士
   オンラインゲームFF11の職業・EXジョブの1つ。
   純粋に戦闘能力を極めるため『黒魔法』をも習得する、アウトローの騎士。
   取得クエストが面倒くさいとの理由で取得しないプレイヤーも結構いる。
   得意な武器が両手鎌と両手剣、特に最大D値を誇る両手鎌が主武器となる。
   尚、暗黒騎士の代表的な主要NPCが黒く巨大なフランベルジュ形状の両手剣(バリンソードではないかと言われている)を持っている。

……自キャラのメインジョブが暗黒騎士の為か、軽い近似感を感じていた。
否、そう感じている事も含め一言で言えば現実逃避である。
油断すれば間違いなく膀胱が決壊し、部屋の一角に生暖かい異臭を発する水溜りが出来てしまうだろう。

「ふぅ……こんなところで剣を抜く事になるとは思わなかったわー。
 さて、これから誠さん、あなたにちょっとした処置を施したいと思います。
 その為には剣を構えなきゃいけないの……ちょっと怖い思いをさせてしまうけど、でもまあ、殺すとか血を流すとかそういうのは無いから大丈夫!
 あ~、けど、もしかしたらちょこっと痛いかも~(汗 」

摘み上げた巨大な両手剣を狭い六畳間の中で器用に持ち替える。
そして、剣の腹の部分をオレの左肩に軽くあてた。
ちょっとでも動けば首筋を走る太い動脈がざっくり切り裂かれそうだ。

(……な、なんか剣が、微妙に、こ、こう、プルプルっと、震えて、るんだが……こ、怖えぇぇぇぇ)

「なんで剣を剣として使わない時ってグラビティコントロール発動しないんだろう……水平を保ち続けるのはキツいわ。
 むぅ、つらい、結構重いよぉ~(笑)」

なんか笑っていらっしゃるのだが……オレの肩に触れている剣、その刀身の重みを一応この化け物が支えているようだ。
だが、敢えて言わせてくれっ!
プルプル震えてるのがかえって危険だから力抜いてくれーっ!と。

「この剣には私の力が色濃く反映されているわ。
 イメージとしては磁石に似てるかな~。
 こう、鉄をくっつけておくと、いつの間にか単なる鉄が磁力を帯びてる、アレね。
 だから魔法の杖みたいな感覚で触媒のように利用出来るの。
 という訳で、え~っと、つまり私はこう見えて魔法使いなのよん♪」

ニコッと笑顔。
だが……相変わらず両手剣がプルプルしてるんですが。

「……」

「……う、ごめんなさい嘘つきました。
 憧れてるだけで殆ど我流というかなんというか……。
 ま、まあ、とにかく、私から寒気? 冷気みたいなものが発せられているというのなら、私の力……そう、オーラ力?
 それをちょこっと誠さんに馴染ませるというか送り込むというかしてあげる事で、たぶん順応か反発かするようになって、結果気にならなくなるんじゃないかなと思うのよ、うん。
 完全に感覚をなくする事は出来ないと思うけどね。
 もう私の中ではさ、誠さんの存在含めてココを日本での拠点にしようって決めちゃったしー。
 だから、そんな私の気配をいちいち感じては鳥肌立つような状態じゃ可哀想だしー。

 ……という訳で、切って捨てる為じゃなく杖代わりに使いたいので剣を構えさせて貰ってまっす。
 以上、言い訳でした~。
 でわでわ、重いから早速いきますよ~」



 …──ィチィ──……



「……」

(……な、なんだ?)

一瞬、剣の触れている肩から首筋の辺りがチリッと熱かったが、ただそれだけで特に何もなかった。
用は済んだという感じで、吸血女は取り出した要領で剣を仕舞い始める。

「あ~疲れたー、たぶんこれ、明日か明後日ぐらい腕が筋肉痛になるかも……。
 ま、コレで変な寒気とか悪寒とか、風邪引いてる時みたいな感覚は気にならないというか、症状は軽くなったと思う」

良く解らないが助かったようだ。
ちなみに……若干股間が濡れてしまっている。
数滴漏れてしまったようである。

「悪寒とか寒気とかと一緒だったか覚えてないけど、昔似たような事を言う人が居たのよね。
 その時もこんな感じで対処できたし。
 あなたの場合も多分大丈夫でしょう、うん」

よくわからないが、これで悪寒を感じる事はなくなるという。
だが、今のオレにはそんな風に冷静な状況把握が出来る訳も無く……腰が抜けて立てない、混乱し過ぎて声も出ない、あまりの恐怖に少しチビってしまった、という状態もあって固まってしまっていた。

「……」

「……」

見詰め合う二人……否、片方は認識出来ているか否か定かではない。

「……」

「……」

「……あ~、もしかして気絶しちゃった?」

つんつんとオレの頬をつつく。

「う~ん、怖がらせてしまった……。
 それにしても、なんでステルスアビリティをフルで使ってたのに……我ながらくどいけどさ、ちゃんと気配、完全に消してたんだけどなぁー……」

ぶつぶつと独り言を言い始めた。
ヒッチハイクの際にも思ったが、何かをしゃべりだすと勝手にどんどん言葉を発し続けるタイプのようだ。

「突然カーテン開けてこっち見るしさ~。
 私も思わず手を振って道路飛び越えちゃったし。
 しかも私ってばなんでヴァンパイアって事教えちゃったんだろ。
 はぁ……取り合えず他の家族への術は成功してるからどうという事は無いはずだけど、日本という土地柄か、私自身の不調か、敵が居るのか、誠さんの特殊能力なのか……ちゃんと見極めがつくまでは慎重にいこっと」

独り言を発しながら、徐々に俺の顔へと視線を移動させ、なんだか神妙な顔つきで頷いている。
……はぁ? オレに特殊能力?
もしホントに特殊な力があるというのならば、間違いなくこの吸血女を返り討ちにし、手篭めにしてチビらせてやるのだが。
だがオレは普通の平々凡々なおっさんだ、生憎そんなものはない、と断言できる。



そして悲しいかな、現時点でチビってるのはこのオレだった。



「……誠さんには体内の私の力が干渉して中途半端にしか効かないから、ちゃんと説明して協力をお願いしないとだなぁ。
 さ、取りあえずこんなところで固まっててもアレだから寝ましょうね~……誠さんの寝室わかんないや。
 しょうがない、そのままここで寝て貰おう」

オレは畳の部屋に布団を敷いて寝ている。
移動させては貰えない様だ……。

「私もここで雑魚寝して、明日部屋用意してもらおっと。
 ラリホー!」



……そして強制的に寝かされた。




10/15 投稿(Ver1.00)
10/20 修正(Ver1.03)



[22373]
Name: 鬼瓦◆b61185a2 ID:f16d5d61
Date: 2010/10/21 21:57



「え~っと……何故通勤中の車にあなたが助手席に座っているのか解らないのですが、う~ん、まあ、折角なので諸々の状況説明を解りやすくご教授願いたいんですが?」

会社へ向うべく車を出したはいいが、昨日の帰宅時と同様、気が付けば何食わぬ顔の外人女、もとい、吸血女がそこに居た。
教えてもらいたい、とは……正直、昨晩の出来事はその詳細が曖昧にしか思い出せない体たらくだったからだ。
アレだけ衝撃的な場面に直面しておきながら、細かく思い出そうとすると微妙に霞が掛かるのだ。
断片的に吸血鬼とか月姫と言った言葉や、巨大な黒い両手剣、睨まれただけで圧倒されそうなぐらい強力なプレッシャーに涙が出ちゃった事などを思い出す事は出来たのだが……。

そもそも、朝っぱらから全くもって不可解である……とりあえず時間と共に起床すれば、部屋の床に転がされていた。
まあ、これは強制的に眠らされ、そのまま放置されたのだろうとは思うが、床に敷かれた薄い安物のカーペットにクッション性を求めるのは無理からぬ話であり、固い床の上で寝たのと状況的には差ほど変わらず、結果、体の節々が痛い。
そして不覚にも数滴漏れてしまった事を思い出す……が、幸いチビってしまった量は少なかった事から下着は既に乾いており、ややホッとした。
取り合えず普通に朝食を取ろうとキッチンに向かうと、家族に混じって普通にモニカさんも朝食を取っていた。

めざましテレビを見ながら母親や妹と談笑しつつ、である。

いや、そもそも何故かオレは「モニカさん」と普通に呼び掛けていたのだが……今思えばえらく自然だったぞ? 実に謎だ。
普通に溶け込んでいるように見えたその団欒に訝しんで、率直に当人らに聞いてみれば、何故かホームステイ中のアメリカ人って事になっていた。
いつの間にそんな事になっているのか、一体何が起こったのか、全くもって理解不能で……なんでこうなった!?
だが、そこであれこれ考えている暇は無い、朝という貴重な時間は無情に過ぎていくのだ。
結局、そうこうしている間にも出勤の時間(丁度軽部アナのコーナーが始まった頃)となり、なんだかよく解らない内に家を出る羽目になってしまったのだった。

「ね、昨晩言ったでしょ、朝になれば都合のいいようになってるからって」

確かにあんたにとっては都合のいいようになっているようだった。

「モニカさんの目的はサッパリ解りませんが、家族の状況というか、まあ、なんとなくですが分かりました。
 じゃあ最初の疑問を質問に変えさせて貰いますけど、通勤途中のこの車に何故乗り込んでいるのです?」

運転しつつ横目でチラッと覗き見る。
胸デカいな……いやいや、そうじゃなくって!
会社にまで着いて来るつもりか、この人は。

「取り合えず1週間ほど誠くんに張り付いて、行動範囲を確認しとこうかな、と」

「はぁ!? ……理由、聞いてもいいですか?」

「な・い・しょ♪ ああ、まあ心配しないで。
 普段は君の影に隠れてるから」

影、ねぇ……化物語の忍野忍みたいな感じだろうか?
そういえば、真祖とか言ってたな。

「ちなみに、真祖って事はかなり長い事生きてきたんです?」

「むむむ、突然何を言い出すかと思えば……もう、女の子に歳を聞くなんて失礼しちゃうわ!
 400歳を超えるおばあちゃんで悪かったわねっ! フンっ!」

突然怒り出したが、思いっきり自分の歳バラしてるし。
だが、このどちらかというと美人というより童顔といった顔つきにボンキュッボン(死語)のスタイルで400歳……なんてアンバランスな。
あ、いや、訂正……昨日の後姿、ジーンズに包まれたお尻はキュッと引き締まった感じで、実にスリムで綺麗だった。
そして極め付けはアニオタ。
そんな普通に怪しい吸血女のモニカさん……暫く泊めてくれと言われても、一体いつまでだ?
それ以外にも謎が多過ぎる、だが何事においても突っ込んで理由を聞けば返ってくる言葉は決まって「な・い・しょ♪」の一点張り。
結局何も解らないのだった。

仕方ないので、ホームステイ中のアメリカ人という設定について、その詳細を当人に確認しつつ運転を続ける。
そしてふと気が付けばもう会社の直ぐそばまで来ていた。

「さて、じゃそろそろ影の中に移動するね~、じゃあね~」

そう言ってオレと運転席のシートの隙間に出来ているほんの小さな黒い影に、スルスルと吸い込まれるように消えていった。

(えっ!? ちょ、なにソレ……こ、怖えぇぇ)

見た目が普通に可愛い外見の為、つい普通に接してしまったが、やっぱ人間じゃねぇ。
改めて認識した訳だが、その割には昨晩のように硬直してしまうほどビックリしている訳でもない。
多少は耐性が付いたのであろうか。

否、やはり唐突に自分のすぐ横でそんな芸当を見せられれば、充分におしっこチビりそうになるというものである。
……漏れ癖がついたら嫌だなぁ。
心底そう思いつつ、会社の敷地に入っていった。





さて。
仕事が終わり、軽く改善活動などもこなして程よく遅い退社時刻。
久々に今日はあそこへ行こうと決めていた。
車に乗り込み、いつもの通勤路線とは違う道を行く。

《ねぇ、どこに向かってるの?》

突然、頭の中に声が響いた!

「な、なんだぁ!?」

《ああ、ごめごめ。
 私今直接誠くんの意識に話しかけてるから~。
 で、昨日と道が違う気がするんだけど、こっち家じゃないよね?》

「びっくらこいた……え~っと、峠道に向かってます」

《ほほう……峠道、ね。
 なんとなく運転が上手な理由が分かった気がするわ~》

なんか勝手に納得しているが、取り合えず無視する事にして実際に峠道へと突入する。
他の車が走っていない事を確認しつつ、一気に加速する。
今までの安全運転から一転、もうすぐ10年選手になろうとする若干古臭いマイカーが勢いよく坂道を登りはじめた。
タコメータは5600回転を下回る事無く高回転をキープし、アコード・ユーロR(CL1)のVTECエンジン・H22Aは唸りを上げ続ける。
その加速は2200ccのNA車には似合わない力強さを併せ持っていた。

(……オレに取り付いてる吸血女は一体どんな感想を漏らすかねぇ)

車格の割に車重の重いこの車では限度もある為、やや自嘲気味に思いつつ、タイヤが微かに奏でるスキル音を聞きながら快速と呼べるスピードで登っていく。

《凄いね、この車。
 ターボじゃないよね、これ……え~っと、Variable valve Timing and lift Electronic Control system?
 凄いレスポンスとトルクだね~》

(だから横文字はわからんっちゅーねん!)

どうやら車が褒められたようだ。
特にこれと言った大きな改造は行っておらず、所謂ライトチューニングというレベルでちょこちょこ弄ってあるだけの古い車である。
しかも見た目はおっさんが乗る様な普通のファミリーセダン。
だが、ボンネットを開ければ赤いカバーを纏ったエンジンがお目見えする。
一応、この赤いエンジンだけはホンダ車の走りのDNAを正当に継承したモノである事を証明してくれている……気がするのだが、果てさて。
羊の皮をかぶった狼、のような雰囲気が個人的に気に入っており、そんな愛車が褒められた事には素直に嬉しい気持ちで「さんきゅ~」と答える事が出来た。





峠の駐車・休憩スペースには、既に何台かの車と数名の人間が集まっていた。
その中でこのポンコツを見掛けてか、手を振っている人影が居た。
そちらの方に車を向け、近くに停車した。

「うぃ~っす」

車から降り、そこに居る皆に声をかけた。

「ウィッス!」
「おう、来たか」
「山田さんこんばんわ~」
「お、やまちゃ~、ウッス!」

上から順に
 みずっち
 リダ
 美樹ちゃん
 カマちゃん
の4人が挨拶を返してくれた。
手を振っていたのは美樹ちゃんのようだ。

「山田さ~ん、もうすぐ静岡のガンダムが一般公開ですけど、いつ頃観に行きます~?」

「おう、一応盆休みと年末年始の長期休暇、あと出来れば紅葉の季節にも行きたいなぁ、な~んて思ってる。
 まあ紅葉あるかどうか知らんけど」

ちなみに静岡の1/1ガンダムは思いっきり駅前の広場に立っており、周囲にはお台場の時のような緑は無い。
よって、紅葉もない。

(紅葉だ何だは関係ないな、オレの希望はただ1つ。
 美樹ちゃんと2人きりで観に行きたい……あぁ、行けたら最高なのになぁ~)

この「美樹ちゃんと2人きり」という条件で予定を立てようとすると、何故かスケジュールが噛み合わない不思議問題が発生する。
実に不可解な現象だが、何故か優先度の非常に高い予定がお互いに入れられており、過去から今日まで1度も噛み合った事が無かった。
ある意味奇跡である。

「そのどれかで予定が合えば、是非一緒に行きたいです!
 取り合えずは今年のお盆休み教えてください!」

「ああ、確認してメール送るよ~」

「ありがとです~、最悪今年も大勢でって事になっちゃうかもですけど……」

一時は嫌われてるのか、或いはアウトオブ眼中なのか、と諦めかけた事もあった。
だが、周囲から「たぶん美樹ちゃんはお前に気がある」と励まされ、やや諦めかけつつも懲りずにメールのやり取りを続けている。
ちなみに上の発言の「今年も大勢で」というのは、去年、結局2人きりだと予定が会わない為、何人か他の人を誘って団体行動でお台場のガンダムを観に行った、という訳である。

「おうやまちゃ、つばさキャットのDVD、見終わったら貸してくれ、遠藤くんには了解済みだからさ」

遠藤くんという人はこの場に居ないが、オレやカマちゃんらと共通の友人である。
この場には居ない、というよりこういう場には来ない人、というのが正しい認識だったりする。
ごく普通の一般人でゲーム&アニメ好きの青年、そして現在オレがDVDを借りているという訳だ。

「でさ、この間ツレに貸してた戦極姫2が返ってきたで、上杉リベンジ始めたよ。
 今度こそやってやるぜー!」

「オレのはまだ返ってこないなぁ、大友でやってみたいのに……貸した職場の同僚、4月から異動で九州行っちまったからいつ返ってくる事やら。
 ま、そんなんよりも早くハルコマニアックスやりてぇのぅ」

「山田さんは相変わらずハルー好きですね~」

そしてカマちゃんは美少女ゲームが大好きな、所謂エロゲーオタクだった。
美樹ちゃんも可愛い顔して普通に話しに加われる奇特な女の子である。
本人曰く、オレとカマちゃん以外とはこんな会話は絶対にしないそうだ……つまり隠れオタクという訳だ。

「ああそうそう、リダ結婚おめ~!」

「まだ結婚しとらんっちゅ~ねん!
 ……ちなみさぁ、聞いてくれよー。
 先日向こうのお義父さんと名古屋で飲んだけどさぁ。
 もうさ、緊張しちゃってちっとも酔う事すらできずでよぉ、なんかさ、こう生殺し? 生きた心地がしなかったぜ~……。
 ちったぁ僕の気持ちも解ってくれたまえよ」

結婚秒読み段階のリダは、ここに居る誰よりも小心者である。
お義父さんとの酒の席を思い出したのか、ぐったりとしている。
尚、結婚そのものについては特に弊害も無く、両方のご家族とも関係は良好、あとは結婚資金のみ、という状況らしい。

「ああ、そだそだ……これ観ときー」

「ん、なにこれ?」

「DVD、ですね」

「美紀ちゃん、そりゃ見りゃわかるべ。
 聞いてるのは中身よ中身」

横から首を突っ込んだ美紀ちゃんにやんわりツッコミを入れつつ、リダに説明を促すべく目線を送る。

「ああ、先日群馬の従兄弟たちがこっちに遊びに来ててさ。
 プロジェクトDの遠征動画まとめたものをくれたのさ。
 いや~、先に観させて貰ったけど、マジ凄かったぜ? 特に豆腐屋のハチロクは異常だぜ」

「おお~! マジかっ!
 HPたまにチェックしてるが、そんな動画は公開されねぇからな、是非観たい!
 あっ、そういえば今リダの従兄弟さん達って箱根遠征中だっけ?」

「うむ」

「他所のテリトリーで連戦連勝だってんだから凄いよなぁ」

「よくリダ達が話してるプロジェクトDってチームのッスか?
 いいなぁ、山田さん観終わったら次、是非自分に回してください、観たいッス!」

関東地区は非常にレベルが高い。
みずっちが遠回しに「はよ観て寄越せ」と言っているが、取り合えず回覧順はオレが決める事ではない。
じっくりと拝見させて頂こうと思う。





《へぇ~、この人達が誠さんのお仲間?
 ……う~ん、この娘……むぅ……》

ぶつぶつと呟く声が直接頭の中に響く。
出来れば独り言を呟く事無く、思考に没頭して貰いたいものだ……。



取り合えず今は無視する事にした。




10/21 投稿(Ver1.00)



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Name: 鬼瓦◆b61185a2 ID:f16d5d61
Date: 2010/11/02 22:28



チーム「Thunder」は、この峠の走り屋チームである。
山田誠もメンバーの1人だった。
過去形なのは「おっさん疲れちゃった」の一言で脱退した事になっている為だ。

リーダーの高橋祐樹を筆頭に、伊藤加奈、田中雅弘、鎌田大悟、藍川美樹、川村希瑠吾、水野大成の7人が、現在のこのチームの主要メンバーだ。
小型車ばかりが集まったチームである為、ダウンヒル専門のような感じになってしまっている。
メンバーの中では特に藍川美樹がこの峠において下り最速の実力を持ち、他のチームからも一目置かれている。
それぞれ所有するマイカーは以下の通り。

 高橋祐樹(リダ/ゆっきー) : DC-99spec_インテグラタイプR
 伊藤加奈(姉さん) : HA21S_アルトワークス
 田中雅弘(タナさん) : ビート
 鎌田大悟(カマちゃん) : MR-S
 藍川美樹(美樹ちゃん) : EK_シビックタイプR
 川村希瑠吾(キル) : NA_ユーノスロードスター
 水野大成(みずっち) : S15_シルビア
 山田誠(やまちゃ) : CL1_アコードユーロR





よく解らないんですが、何故かここからは私、藍川美樹の視点で話を進めるそうです。
なんでかなぁ? ……と、微妙な迷惑感を感じつつ、今し方登ってきた他所のチームの車を眺めながらボーっとしていたら。

「さ~て、そろそろ頃合の時間だべな?
 美樹ちゃん、今日は追いかけっこでもすっかー」

「……えっ!?」

突然の山田さんの提案にドキッとする。
私の後ろに張り付いてプレッシャーでも掛けようというのだろうか。
きっと焦っちゃって、あんまりちゃんと攻めきれない気がするのだけれど。

「んー、オレ先行、美樹ちゃん後追いで、オレのアコードを抜いたら何か奢ってあげよう。
 もう今の美樹ちゃんの実力なら余裕っしょ?
 逆にアコードとの車間が開いちゃったら……フッ、罰ゲームだな~♪」

「ぇえーーーーーっ!」

(そんなの無理ーっ!)

……皆は私の事をこの峠最速とか言うけれど、私は絶対山田さんが最速だと思う。
ハッキリ言って勝てる気がしないもん。
たぶん、必死になれば後ろにくっ付いて行く事は出来るだろうけど、ちょっとでも気を抜いたら直ぐに離されそうで。
今日は(も?)てっきり隣に乗ってくれて、半分ドライブ気分を味わいつつ、私の運転見てくれるのかなぁと思っていたのに……。

「なんだ? 美樹ちゃんの実力チェックか?」

「ああ、たまにはこういうのもいいっしょ」

鎌田さんの問いに笑顔で答える山田さん……全く、なんでこうなった!?

「おう、みずっち!
 おみゃーさんも後ろくっ付いてけ」

「ぅえっ!?
 ……まさか、自分も罰ゲームっすか……?」

「当ったり前だ。
 美樹ちゃんに離されずに喰らい付いていけよ~。
 じゃねぇとカマちゃん特製罰ゲームだ~♪」

水野くんも可哀想に……特製とか訳わかんない事になってる。
山田さんは既に自分の車に乗り込んでしまった。
リダは他のチームの人達に声掛けたり、たぶん下にいる人達に電話連絡を取ってるんだと思う。
一般の人は滅多に来ない時間帯だけど、安全の確認は充分過ぎる程にやっておいて損はない。
昔の私のような目的の人もいるだろうし、ね。

私も意を決して車に乗り込んだ。
やるからには……何奢ってくれるのかわかんないけど、山田さんに勝つつもりで頑張るっ!





山田さんのアコードを先頭に、今3台の車が順に最初のコーナを曲がった。
そこからスタートって事になってて、前を行くアコードが一気に加速していく。
私もそれに続いてアクセルを吹かし、シビックちゃんのVTECを作動させる。
次のコーナは直ぐに見えてくるけど、直線区間は基本目一杯加速してコーナに突っ込む。

(やっぱり上手だなぁ、山田さん)

理想的なラインでアコードがコーナをクリアしていく。
出来るだけ私も同じようなライン取り意識しつつ、そして出来るだけ離されないよう心がける。
ちらりとバックミラーを見たら、しっかり水野くんもくっついてきていた。

(もし私にチャンスがあるならば、う~ん……山田さん相手でも思い切って仕掛けられそうなポイントはたぶん中盤のあそこしかないかなぁ)

取りあえず中盤までは様子見で、フラフラと揺さ振りを掛けつつピッタリくっ付いていこうと思う。
そして私が狙い目に定めている比較的道幅の広いコーナ、その直前でフェイントを仕掛ける。
そこに至るまでの揺さ振りが、うま~く布石としての効果をもたらしてくれれば、きっと隙は出来る筈。
そこにシビックのノーズを突っ込ませる、という作戦だ。

(う~ん……田中さんには何とか通じたけど、山田さんにはどうかなぁ)

昔は山田さんと田中さんの2人がツートップっていう感じで、凄くかっこよかった。
あ、いやいや、今もかっこいいヨ!
そんな田中さんと先日本気バトルをする事になってしまい、しかも、何とか辛勝してしまったのだから奇跡ってあるのだなぁとしみじみ感じた。
……ガードレールにバンパーぶつけちゃったけど。

(って、いけない! 他事考えてたらもうこんな所まで来てた!)

もう直ぐ勝負どころである。
丁度次のコーナを抜けた先でフェイントを仕掛ける事になる。

(よし! う~ん……そこっ!)

イン側に鼻面を突っ込む! ……かのように見せかける。

(よ~しよし、良い流れかも……じゃ、アウトから~っ!)

アコードの挙動が予想通りだった為、割と落ち着いていた事もあって、絶妙なタイミングでアウト側にコース変更出来た……筈だった。

(っっ! えぇーーーーっ!
 ちょっ、うっそー、山田さんに読まれてた!?)

なんと、アコードが思いっきりカニ走りで道を塞いで来たっ!
アウト側から攻めようとしたタイミングだった為、ビックリしてしまいアクセルを戻してしまった。
結果、バランスを欠いて失速した筈のアコードに隙を与えてしまった形となり、元の体勢に立て直されてしまった。

(あ゛~~~~、ちょ、そ、そんなの無理ですよ山田さぁ~ん)





結局、最後まで思い切って前に出れなかった。
もしかしたら山田さん、怒ってるかもしれない……あの後もチャンスが全く無かった訳ではないからだ。
そもそも簡単にこちらの動きを読まれしまって、オロオロしている間に終わってしまった自身の不甲斐無さが何とも悔しい。
オロオロしてしまったのは車格の大きいアコードにぶつかりそうで怖かった為。
いや、正確には山田さんのアコードにキズを付ける事が嫌なのだ、だから怖かったのだ。

(う、山田さん、機嫌悪そう)

蒲田さんと共に車を降りた山田さんは口をタコみたいに尖らせていた。
ぶーぶーとブー垂れてる時の顔だ……私も渋々車を降りる。

「美樹ちゃ~ん。
 罰ゲームは無いけど……なんで攻め切れなかったのかな~?」

中盤で仕掛けてからというものの、完全にリズムを欠いてしまっていたのを見透かされている。

「うぅ、そのぉ、アコードに塞がれてビックリしちゃって、その……上手く突っ込められませんでした! ごめんなさい!」

「う~ん? オレ以外の相手では凄く思いっきりのいい攻めをするって聞いたのになー」

む、きっと田中さんと一緒に走った時の事を蒲田さん辺りにでも聞いたのだろう。
あれは奇跡だと思うし、ビートが小さい軽だからやれた事って思いもある。
車格が大きくて道路を大きく塞ぐアコードとは訳が違う。
……と改めて言い訳してみたい。

「あ~あ、なんでオレの時は本気出してくれないんだろうな~」

「うぅ、本気で抜くつもりで頑張ったのに……今度はきっと上手にやってみせます!
 ……たぶん」

と、そこでバイクっぽい甲高くて気持ちのいい音が聞こえてきた。
たぶんこれは……。

「ん? 姉さんか」

「お、珍しいというか、久々って感じだねー」

蒲田さんも、水野くんへのお小言を中断し、バイクの音に反応した。
直ぐに1台の黒いバイクが近付いてきた。
私たちの傍まで来て停車し、ヘルメットを脱いだ。
サァーっと、綺麗なロングの髪が広がる。

「おこんばんわ~。
 あれ、今日はまさか4人だけ?
 ゆっきー居る筈なんだけど、他は上?」

「ウィッス!
 さっき自分らだけ下に降りてきたんで、リダとかまだ上にいますよ。
 けど、いや~、姉さんバイク乗りだったんスか~、マジカッコいいッス!」」

水野くん以外にも、私を含めみんな口々に挨拶する。
……と共に、バイクに跨る姉さんのカッコ良さを褒め称える。
けど、姉さんにとってはおべっかを使われてるとでも思っているのか、柳に風だった。
まあ、これは今に始まった事じゃなく、基本いつも暖簾に腕押しって感じなんだけどね。
ホントの事なのにね……ハッキリ言って受け流しスキル高過ぎです。

「たまにはこの愛車も動かしてあげないとだしね~。
 じゃ、上行くね~」

ヘルメットを被り直し、軽く別のチームの人らにも挨拶してから、坂を上っていく。
颯爽、という言葉が良く似合うなぁ。

「あぁ、いいッスね~、姉さん。
 リダとの結婚、まだまだ足踏みを続けるのなら、懲りずにアタック続けたろかな~」

「ちょ、水野くん!?」

水野くん、まだ諦めてなかったのね。
昔、水野くんがチームに入ったばかりの頃、姉さんに一目惚れして速攻告白し、そして速攻玉砕してた。
私としてはその行動力がすっごく羨ましいというか見習いたいというか。

「みずっちー、人妻を襲っちゃいかんぜ?」

「あ~、そういうシチュエーションもいいッスね!
 ……しっかしカッコよかったな~、姉さんバイク乗りだったんスね~」

ちょっ、蒲田さんの冗談に本気で答えて……この子、若奥さんとか平気で食べちゃうタイプだとは思わなかった。

「ああ、みずっち初めて見るん?」

「ええ、ビックリしましたよ、それにめっちゃカッコいい!」

確かに美人がバイクに跨るとめちゃくちゃカッコいいよネー。
私じゃ全く絵にならないだろうけどー……っていうか、そもそも二輪の免許持ってないしー。
ちなみに、以前姉さんに対してひたすら拝み倒して、昔の事を色々聞き出した事があるのだが、色々教えて貰った中には、あの乗っていたバイクに関わる逸話とかも聞いていたりする。
その時の話を思い出すと軽く姉さんに嫉妬心が沸いてきたりするけど、まあそれは置いといて。
私の悪戯心が、この場で少しそのネタを晒してみようぜ? と囁きだした。
今の雰囲気なら、さっきまでのお説教モードを完全に有耶無耶に出来るかもしれない、とも思ったので抵抗せずに晒してみる事にした。

「でもあのバイク、元々山田さんのですよね~?」

「えぇー!
 山田さんもバイク乗りだったんスか~」

「やまちゃはあのバイクとEGシビックだったな~」

「ああ、うん、大昔の話だけどね~。
 姉さん中免(普通自動二輪)取れたーって時に、ご褒美であのバイク譲ったのよ。
 だであのZZ-R、めっちゃ古いポンコツなんだけどね~。
 ……っていうか、よく知ってたね美樹ちゃん、誰かから聞いたん?」

「本人からですよ~。
 バイクに乗るようになった切っ掛けとか、しつこく聞いて教えてもらいましたよ~♪
 まあ、本人渋々って感じでしたけどね」

「えっ!? い、一体どこまで……あ、いや、そ、そなんだ。
 まあ、その、なんだ?
 と、取り合えず姉さん追いかけてオレらも上に行こうか」

鎌田さんはニヤリッとし、水野くんはえっ!?っていう顔をしつつ、2人も山田さんに倣って車に向かう。

(あはは、誤魔化した~。
 ちょこっといじる程度なら、このネタ使えそうですね~♪)

本音を言えば、姉さんと山田さんの馴れ初めとか、昔の事ではあっても正直嫉妬しちゃう。
姉さんは山田さんではなくリダを選んだけれど、それにも拘らず、未だ山田さんの事を想っているみたい。
実際「好きよ」って本人言ってたし。
まあ、あの時の言は軽かったけれど、色々馴れ初めを教えてくれた時の表情とか思い返してみると、本心は絶対今もLOVEだと私は確信する。

(むぅ、不倫とか浮気とか、そんなのはやっちゃいけませんっ!
 絶対阻止しますっ!
 ……はぁ、そもそもさぁ、山田さんは自覚が無さ過ぎなのよね~、結構他のチームにも山田さんの事気になってる女子居るみたいだし)

そう、つまりそれだけ私にはライバルが多いという事だ。
全く……自分の事「おっさん」とか言ってるけど、とんでもないっ!
だが。
不覚にもこの歳まで守り抜いてしまったモノを捧げる相手は、もはや山田さん以外に存在しないっ!
改めて背水の陣で望む決意を新たに、車に乗り込んだ。

(取り合えず初デート、したいなぁ)




11/2 投稿(Ver1.00)



[22373]
Name: 鬼瓦◆b61185a2 ID:f16d5d61
Date: 2010/11/21 20:57



帰り道。

《かわいい娘ね~、あの美樹ちゃんって娘》

「ああ、ええ、いい子なんですよ~。
 やさしいし、気が利くし、かわいいし、スタイル良いし、胸デカいし、超オレ好みだし、それでいて運転テクは半端ないし。
 しかもですね、オレの影響受けてだろうけど、今じゃガンダムの話にもついて来てくれますしね~」

《あっ! それそれっ!
 確か静岡って言ってたね、18mガンダム。
 東京のお台場じゃないの?》

「それは去年の夏ですねー。
 今年は静岡に移設されて、ホビーフェアーの一環として冬まで立ってる予定になってます」

ずーっとオレの影に隠れていたモニカさん。
そういえば峠に着いて暫くすると「腕がっ!……腕がぁ~~……」などと悶え始めて、非常にうるさくて仕方がなかった。
基本無視していたのだけれど、この帰り道で普通に話しかけて来る所を鑑みるに、苦しみは乗り越えたのだろうか。
一体何に苦しんでいたのか定かではないが、障らぬ神に祟りなし、とも言うしな。

《あの娘、気を付けた方が良いかもしんない》

(はぁっ!?
 何言い出すんだこの吸血女はっ)

《後で調べてみるけど……何かに憑かれてる感じがあった》

「なっ!」

《今はまだ確証がないし、何とも言えないけど……えと、ほら、休みの日程教えてくださ~いとか言ってたじゃない?
 あの瞬間、ちょっとだけ異質な妖気が感じられたのよね。
 私からしてみればどーって事の無い些細なモノだけど、普通に考えたらさ、人間からあの手の気配が漂うなんて事、まずあり得ないし》

(ま、まさか……つまりなんだ?
 妖怪とか化け物の類が影響して、美樹ちゃんとの予定が噛み合わない現象に繋がっているとか?)

以前にも記したが、「美樹ちゃんと2人きり」という条件でスケジューリングしようとすると、必ず何かしら不都合や別のスケジュールが割り込むなどして予定が噛み合わない不思議問題が発生する。
この実に不可解な現象が、この吸血女が言う妖気の発生元に原因があるとすれば……。

《勘違いしないでね、私が力を貸しても彼女を救えるかどうかは解らない。
 私は誠さんの世話になってる身だし、力を貸す事は吝かじゃないんだけど、限度があるし。
 そう、たとえばねぇ……小悪魔みたいなのが取り付いてたとして、それを切り伏せる事はたぶん余裕で出来る。
 でもさ、その小悪魔が取り付いた真の原因って、取り付かれた本人でも解っていない事が多いのにさ、カウンセリング能力の無い私じゃあねぇ……まず真因の追及は難しいわ。
 そこの部分は気をつけておく必要があると思うのよね~》

なんか言い訳染みた事を彼是言っているけど、助力を提供してくれるっぽい言い回しだな……信じてよいのだろうか。

《取りあえず、一度キチンと調べてみるわ。
 憶測だけじゃ、想像の域を出ないし》





……で。
今は日曜の夜9時半頃。
我が家ではオレの部屋にしかLANのハブがない為、オレの横でモニカさんがノートPCを繋いでネットサーフィンをしている。
どうやら両手剣を取り出したのと同じ方法でノートPCを取り出したらしい。
まるで四次元ポケットだな。

土曜の明け方帰宅したあと、2人して「ばたんきゅ~」てな具合に昼まで寝てた訳だが、起きてからのモニカさんは、食事風呂睡眠お花摘み?以外ずーっとノートPCに噛り付いていた。
オレはと言うと、今はアビセア乱獲※のシャウトが盛んなFF11に半ば辟易しつつ、ボーっとディスプレイを眺めていた。

 ※アビセア乱獲
   オンラインゲームFF11のコンテンツ並びに戦術の1つ。
   主にレベル上げ用途の戦術(遊び方)に分類される。

「誠さーん、今いいかな、ちょっちこれ見て~」

「はい?」

呼ばれてモニカさんのノートPCの画面を見に行く。
黒い背景に赤い文字という、なんかこう、おどろおどろしいというか、怖~い感じの海外サイトを観ている風だった。

「あ、今日本語表示に切り替えるね。
 昨日教えてくれた美樹ちゃんとのスケジュールに関する怪現象とかも含めて、色々絞り込んでみた。
 たぶんこれじゃないかなぁって思う」

日本語表記に切り替わった画面のお題目っぽいところには、



【 天邪鬼 】



と記されてあった。

「日本の伝承や妖怪のお話とか、色々調べると、やっぱ鬼っていう存在が大きいみたいなのよね。
 その中でも割と力の弱い小鬼というのは、どうも悪戯好きとか、そんな感じっぽい。
 その系統に属する怪異というか、妖怪というか、そっち方面から追いかけてみたの」

「なるほど……。
 けど、コレ、先日言われてたように、モニカさんの巨大な両手剣とかで排除しても、復活する可能性あるんですよね?」

「うん、復活というかなんというか表現が解んないけど、根本の所にある原因が潰せられてないと意味はない様な気がする。
 それに、これ観るとちょっと厄介でさぁ……」

(えっ!?)

指を差した先にある説明文を見ると、そこには逸話が数多く残されている事がわかる。
そこには統一性の無さが伺える部分も多分にあった。
また他のウィンドウにはWikipediaの検索結果も表示されているが、非常に数多くの地名とそこに伝わる逸話が簡単に紹介されていた。
参考までに記載のある地域を列挙してみると「秋田」「茨城」「群馬」「静岡」「栃木」「富山」「岐阜」「神奈川」「岡山」「兵庫」「岩手」……とてんこ盛りの計11箇所。

「私たち妖怪とか怪異とかって、基本人間の意思というか意志というか、そういった信仰的なモノが少なからず影響されてるのね。
 それを踏まえても、こうも逸話が多いとねぇ……不用意に退治しちゃったりした時に、その後の影響がサッパリ読めないのよね~」

「良く解らないが……う~ん、ここの逸話にあるような、何かをなそうとして失敗する、というような形で美樹ちゃんに災いが降りかかる、とかです?」

「うん、さほど力のある怪異じゃなさそうだけど、何らかの等価交換的な現象を呼ぶ可能性も否定できないのよね。
 妖怪退治の専門とかじゃないからわかんないけどさ、大抵詰めが甘い時に限って想定外の思いもよらない悪影響が発生したりするしね~」

なんだか益々化物語っぽい感じになってきた。
ヒロインの戦場ヶ原ひたぎの『蟹』や千石撫子の『蛇』などのエピソードを思い返してみると、確かに手順を踏む描写が描かれていた。
なでこスネイクに関しては、最後は無理に引き剥がしていたが、まあアレは最終手段だろうな。
だとしたら、今回の場合、原因が見えないオレら第三者の手では下手な手出しは出来ない、つまり何も出来ない、手の打ち様がない、という事にならないだろうか。
むぅ……。
あっ、そういえば、オレも美樹ちゃんも、何度か神社でお払いをお願いしているな。
結果はサッパリだったが。
その事もチラッと言ってみた。

「う~ん、効いてないって事なんだろうなぁ。
 そうすると全く無関係な所で力が働いてるのかなぁ……けど、私は間違いなく本人から妖気を感じたしー。
 そういう意味では霊験あらかた? だったっけ、神様のお膝元での儀式ならば、何らかの効果は得られる筈なんだけどなぁ……効果なしかぁー」

(無理に難しい言葉を使わんでもいいだろうに……)

ちなみに正しくは『霊験灼たか』。
簡単に言えば、神仏への祈祷によってあらわれる効験が直ぐに現れる、或いはそれらご利益が際立っている、といったところか。
ここ最近はパワースポットという一言で表現される事も多くなってきた。
『あらかた』だと粗方って漢字になってしまい、概ねとか大部分、あとはおよそとかざっと、といった感じの意味になる。
日本語は難しいなぁ、と改めて思う。

「他にも調べてみる~」とモニカさんは改めてノートPCに向かうが、結局これ以上の有力情報を得る事は出来なかった。





翌日以降のモニカさんは、ひたすらテレビに齧り付いていた。
オレの部屋にはガンダムシリーズのDVDがある……ガンダムシリーズ以外にDVDを持っていないのだがな。
それ以外に観たいモノがあれば基本レンタルだ。
直ぐ見える所に並べてあった為、モニカさんが興味を示した、という訳だ。
元々ガンダムは名前だけ知っていたようだが……お蔭様でテレビとプレーヤーは連日フル稼働だ。
通勤及び帰宅時は車の助手席にちょこんと座ってたりするが、それ以外は、恐らくオレの仕事中すらもわざわざ帰宅してガンダムを観ているのだろう。
オレの部屋のテーブルに名鉄(私鉄:名古屋鉄道)のトランパスカードが置かれていた事があったので間違いない。
そこまで頑張らんでも、と思うのだが。

「なんかZのオープニングって、今でも充分綺麗だよね~。
 すっごく気合入ってる。
 こういうの観た後に最近のアニメのエフェクト効果とか観ると、手抜きじゃないだろうけど……なんか楽してるように観えちゃうのがなぁ~」

今日は金曜日、この吸血女が現れてから概ね1週間ちょい経過した事になる。
朝、通勤中の車の中では例によってガンダムの話題で盛り上がっていた。
まあ、オレもガンダムは大好物なだけについつい相槌を打ってしまう為、余計拍車を掛けるに至っている気がする。

「ちなみにさ、ミノフスキー粒子ってさ、あれ、ヘリウムが基本元素なの?」

「いや、ヘリウムは核融合炉の原料って設定になってて、そこから生成されるものがミノフスキー粒子です。
 ヘリウムについても地球上での天然では極々少量しか存在しないヘリウム3っていう分類のモノになりますけどね」

「あ~、だから木星て設定なのね?」

「ええ、そうですね~。
 Zの劇中では木星で産出されたヘリウム3を輸送する船団としてジュピトリスとか出て来てましたね~。
 まあ、現実にも実際に原子炉で生成出来る物質らしいですけどね。
 で、そのヘリウム3と水素系の同位体を原子レベルで核融合させることでエネルギーを得るっていうのが、MSとか戦艦の核融合エンジンです。
 その炉内で特殊な電磁波効果が確認された~っていうのがミノフスキー粒子の発端って事になってたかと」

「凄くリアルな設定だね、ホントに存在してそうな感じ……」

「ははは、当然ながら現実にはそんな電波を遮断する粒子なんて見つかってないから、その辺が空想の産物って所です」

「ふ~ん……でも面白そうだから、この週末ちょっと実験してみようかしら。
 もしかしたらメガ粒子砲とかも撃てるようになるかもしれないしー」

(……はぁ!?)

なんか訳分からん事を言い出したぞ?
ちなみに、ミノフスキー粒子に電荷を乗っけて圧縮・縮退・融合で得られた運動エネルギーを蓄積させてドーン!と打ち出すビーム砲がメガ粒子砲って事になっているらしい。
正直Wikipedia等を参考にしないとわからんぐらいにコアなうんちくネタなのだが、それを撃てるかも、とかどんだけー!?

「前にも言ったような気がするけど、これでも私、魔法使いなのよん♪
 私の煩悩はマジックパワーに変換され、奇跡を起こす……まあネタをばらせばたぶん妖力とか妖気とか邪気とか、そんな感じだと思うけどね。
 ふっふっふっ、私の煩悩が炸裂すれば、きっと空想エネルギーをも実現出来る♪」

ぁあ? 訳解らん。
少なくとも何個か頭のネジが飛んでったと思われる。

「ZZみたいにハイメガキャノンとか打てるようになれるといいな~(笑)」





以下、どうでもいい話……。

ある日の深夜、我が家のベランダから上空に向けて、一筋の閃光が走った。
その瞬間、周辺民家への電力供給が一時的にストップし停電したのだが、深夜だったので目立った被害は無かったようである。
起動中だったオレのパソコンはいい具合に不調に陥ってしまい、オレ涙目だがな(泣)

後にビーム兵器搭載型吸血鬼と呼ばれたかは定かではないが、更に改良を重ね、いざという時に遠隔攻撃の手段となりうる所まで行き着くのは遥か遠い未来のお話……。

(うはっ、マジかよオイィっ!?)





11/21 投稿(Ver1.00)



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Name: 鬼瓦◆b61185a2 ID:f16d5d61
Date: 2011/01/20 01:03



今日は木曜、固定サルベージの日だ。
そして、オレの前にモニカさんが現れて2週間が経過した。

う~ん……。

モニカさんは、オレとの初見で異様な圧倒的存在感をまとい、目の前に現れた。
だが、翌日以降は一転して180度違う感じになってしまった。
今は……えらい親しみ易い感じの外人ねぇちゃんって感じ、だな。
オレを含め家族全員に何らかの処置を施したみたいで、この貧乏一家に普通に溶け込んでるし、オレも普通にモニカさんと呼んでしまっている。
峠にまでくっついてきて、何を言い出すかと思えば、チームの紅一点、美樹ちゃんに怪異が取り付いてると言い出すし、そうかと思えば、今度は今日までずーっとガンダム観てるだけ。

……。

まあ、美樹ちゃんの件に関してだけは、流石に10日間以上も経てばなんとなく解る。
たぶんオレがどんな決断を下すのか、見極めようとしているのではなかろうか。
当のオレはといえば、特に何かをする訳でもなく、こうしていつも通り日中はサラリーマン、帰宅後はゲームをするだけで、何も行動を起こしていない訳だが。
そしてこのままオレが何もしなければ、見切りをつけて何か別の行動を取り出すのではないかなぁとも思ったり。

そもそも、前々から気にはなってはいたのだ、吸血女の目的について。
2週間前の記憶はおぼろげなイメージしか残っていないが……そう、モニカさんは何かしらの目的があって日本に来たような事を言っていた筈なのだ。
確かココを拠点にするとか何とか……だが、改めて本人に聞いてもしらを切られハッキリしない。
だが、今日までガンダムを観ながらも、妙にオレの動向にはそこはかとなく注意を払っている様子がある事に気が付いた。
与えられた情報と状況からどういう行動を取るのか、それによっては山田誠という人間が自分の目的に利用できるか否かの判断材料にでもしようというのではなかろうか。
……な~んて、考え過ぎか?

美樹ちゃんの事については、ずーっと頭の片隅にあって、ふと気が付けば考え込んでいる時もある。
天邪鬼という小鬼を実力行使で排除するか、否か。
一度ならず何度もあの娘の事は諦め、その度に周りから背を押され今に至る、その事を思い返してみたり。
まさかとは思うが、もしかしたら天邪鬼が付いた原因はオレなのかもしれんかも?とか……全く心当たりは無いがな。
だがまあしかし、こんなおっさんに好意を向けてくれる貴重な娘を手放すなんてのは、正直有り得んだろ?、なぁオレよ。

……とまあ、とりとめも無くうだうだと考え込んでいる、という訳だ。
だが。
改めて俯瞰すると……、

2週間前……オレを恐った強烈なインパクト。
今、現在……惚れた女が怪異に憑かれていると聞かされているにも拘らず、微妙に緊迫感の無い日常。

この差、緊迫感と言うか何と言うか……きっと「真剣じゃない」という事なんだろうな、今のオレは。





tell Sofina>こんばんわ~ヽ(´ー`)ノ

FF11にログインし、サルベージの準備をしていると美樹ちゃんもログインしてきたようだ。
こちらも挨拶する。
ああ、ちなみに美樹ちゃんのキャラはSofina、オレのキャラはAeuroという。

tell Sofina>そうだ!
tell Sofina>そろそろ今月も終わりじゃないですか~
tell Sofina>静岡行く日程とか決めません?

……。
…………。
アッーーー!
そうか、そうだったっ!
い、いかん、タイミング的にガンダムにも関わる重要なフラグだったー!。

(しまった……どうするよ、オレ)

まさか、美樹ちゃんからの一言でスイッチが入る事になるとは思わなかった。
つまりはこういう事だ……この夏『静岡のガンダムを2人で観に行く』という最高のフラグを立てる事が出来るのは今しかない訳で、うだうだと考えている余裕は時期的になかったという訳だ。
結論を早急に出し、その内容によっては……つまり、天邪鬼を打ち倒すならば、早急に行動しなくてはならなかったのだ。

だが、小心者ゆえに決断を先送りしてきた、その原因とでも言うべき全く見えないリスクが頭の片隅を過ぎる。
残念ながら根本的にオレは阿良々木暦のような人間ではない、違うのだ……だが、くそっ!

tell Aeuro>あ~美樹ちゃん、それだけどさ、もちっと待っててくれない?
tell Sofina>え?
tell Sofina>ええまあ、別に構いませんが
tell Sofina>何かあったんですか?
tell Aeuro>いやちと今、小細工を考えててさー
tell Sofina>【えっ!】それってまさか!

(ん? ……あっ!
 あ゛~、しもうた……言っちまったよ)

tell Sofina>うわ~、超期待していいです?\(^-^)/

……腹を括るしかないか。
後で作戦考えよう。





「フフフッ、やっと行動起こす気になったのね~」

(なっ!)

突然、耳元やや後ろから声が掛かり、慌てて後ろを振り向いた。
すぐ後ろにモニカさんが居た、っていうか顔近過ぎるわっ!
危うくモニカさんの頬にチュウしちゃうところだったわぃ。

「ぶっちゃけ、あんまり緊迫感とか感じてないのかな~とか、つまりそれはあんまり美樹ちゃんに惚の字じゃなかったのかな~とか、色々考えちゃったよ~」

あはは~と笑いながらオレの頭をポンポン叩く。
ああ、なんかマジいいにおいがするな……っじゃねぇ、おいこら叩くな、痛いっちゅーねん!

「私が手を貸せばさ、少なくとも天邪鬼自体は問題なく排除出来るしさ、後の事は事態が起こってからじゃないとわかんないんだし、腹括ろうよ。
 そうすればさ、ほら。美樹ちゃんと2人きりで静岡のガンダムどころか、東京のビックサイトにだって3日間行けちゃうかもよ~♪
 あ! ほらほら、パーティ誘われてるよ!」

いつの間にかサルベージの集合時間になっていた。
モニカさんの言う通り固定PTのリーダから誘いが来ていたので、了承し参加する。

「とりあえずサルベ終わったあと、誠さんの考えとか作戦とか、色々聞かせて欲しいな~」

……ちっ。
やっぱこの吸血女、オレがどう決断するのか見てやがったか。

「って、うはっ。
 モビルスーツをファンネル代わりに動かすってーっ!? 凄っ!」

(なんなんだ全く……ガンダムXを観るのかFF11のプレイ画面を観るのか、どっちかにしてほしいぜ)

モニカさんは慌ててテレビの前に戻っていった。
それを横目で確認しつつ、オレはバフラウ遺構へと突入した。



……。



そして、今夜もやはり欲しい物は何もドロップしなかった……実に残念である。
ボスでドロップしたモリガン頭25とマル手25は、当然の様に電子の闇に消えていった。
ひと段落ついたので、ゲームをシャットダウンし軽く伸びをする。

「ゲーム終わったー?
 こっちも丁度キリがいい所だから一旦しゅ~りょ~っ。
 さてさて。
 これからどうするか、どうしようか、それを話会いましょー」

まるでオレの用が終わるのを待っていたかのようなタイミングだな。
いちいち作為的なモノを感じるんだが……まあいいや。
とりあえず、漠然とだが考えていた策を披露する事にした。





「うぃ~っす」

翌日。
即ち金曜、特に何も無ければ峠に美樹ちゃんは来てる筈だ。

「お、やまちゃじゃん、うぃ~」

「おう」

という訳で、早速行動を起こすべく地元の走り屋が集まる峠に顔を出しに来た訳だ。
だが。

「あれ? 今日はタナさんとカマちゃんの2人だけ?」

「なんだなんだ?
 お目当ては美樹ちゃんか~?」

カマちゃんが茶化す傍ら、タナさんがマジメに答えてくれた。

「ゆっきーと姉さんは遅くなるって言ってたが一応来るぞ?
 キルとみずっちはそれぞれ別枠で飲み会だそうだ。
 で、貴様のお目当ての美樹ちゃんなら今日は来ないって連絡あったぞ。
 てっきり貴様とFFでもやってるんだろうと思ってたが……違うのか?」

「ぬあ~にぃ~っ!?」

「今日裏はどこの予定だったん?」

「いや、今日は裏休みだべ」

毎週火曜と金曜に開催される裏LSの活動だが、美樹ちゃんはデュナミス-サンド、ジュノ、北方の開催でもない限り峠を優先する。
裏が休みである今日は間違いなく峠に来てると踏んだのだが……。

《う~ん、いきなり失敗しちゃったね~》

「まあ、元気出せや。
 やまちゃと美樹ちゃんのすれ違いなんざ、今に始まった事じゃねぇじゃん。
 むしろ、オレとしちゃ~やまちゃがまたこうして前向きに美樹ちゃんの事考えるようになってくれて嬉しいべ!」

そう言いながらポンポンとオレの肩を叩くカマちゃん。



結局、今日は無駄足に終わり、出直す羽目になってしまった。





1/20 投稿(Ver1.00)



[22373]
Name: 鬼瓦◆b61185a2 ID:f16d5d61
Date: 2011/01/20 01:07



え~っと、⑦の時間軸からやや遡って、現在は金曜のお昼12時を少し回ったぐらい。

「ねぇねぇ藍川さん、土曜っていうか明日なんだけど、暇?」

お昼休み。
食堂でお弁当(おかずは殆ど冷凍食品の簡単仕様)をつついていたら、遅れて食堂に来た同僚から唐突な質問が飛んできた。

「どしたの突然。
 え~っと……一応暇だけど」

「おお~、やったっ! これで頭数揃った~♪」

頭数?
あ~、なんとなく嫌な予感がする。

「合コンだよ~、それもね、今回結構レベル高いのよ。
 なんたって相手はト○タ系列の社員だってんだから~」

「ふ~ん、あんまり期待し過ぎるとガッカリ度合大きいよ~?」

予感的中か……私はあまり合コンに興味が無い、というより好きでは無い。
学生時代、そして就職してからも、幾度と無く人数合わせとして召喚されて来たが、つとめて『暖簾に腕押し』のスタンスを貫いて来た。
私は大抵が車好きという台詞とともに紹介される為、それっぽい話が出て来た時には、最低限話に乗っかるようにはしているけど。

気が付けば既に合コンへの参加が確定になっている事実に憤慨しつつも、ころころと変わる女の子の会話に参加しつつお昼休みを過ごした。





という訳で。
何故かまた私メインでお話を進める事になってしまったようでございます。
私の日常なんか話題にしたって面白い事なんか無いのになぁ、な~んて思いつつ。
帰宅して夕食とお風呂を済ませた私は、パソコンを起動し、ネットゲームにログインする。

既に私の日常になってしまったゲーム、ファイナルファンタジーXI。
毎週火曜日と金曜日は裏※、木曜日はサルベージ、日曜日はエインヘリアル※、という具合に各種コンテンツへも積極参加している。
ゲーム内でも山田さんとは2人きりになる事ができない為、こういう団体行動でしか一緒に遊びべないのだ。

 ※裏、及びエインヘリアル
   オンラインゲームFF11のコンテンツ。
   どちらも1アライアンス(18人)を超える大人数で攻略を行う。
   尚、裏とは各デュナミスの略称。

今日は金曜、いつもなら峠へ走りに行く為、裏をお休みするのだが、今回は逆に峠の方をお休みした。
元々、デュナミス-サンド、ジュノ、氷河、ザルカ、の4箇所が金曜日になってしまった場合は、ゲームを優先する事にしている。
この3箇所に共通するアイテムを集めているのだ、山田さんが。
私の助力でも全然足りないけど、裏実装当時からずーっと頑張って集めているらしいので、なんとか完成させて有終の美をもってFF11引退したい、させたい。
という訳で、早速裏LSをつけて挨拶をする。

……。

(あれ?)

流れてきたLSメッセージには……『7/26バス、7/30休み』
……あれあれ? 今日は裏ザルカだった筈なのに。
訝しんで手帳を開く。
するとそこには7/23にザルカとメモされていた。

(あ、先週と間違えた……。
 ま、まあしょうがない。
 峠も今日は行かないって連絡しちゃったし……。
 む、山田さん居ないのか)

サーチを掛けてみたけど、山田さんはログインしていないようだった。
ふと、昨晩のやりとりを思い出す。

(山田さんと2人っきりでガンダムか~)



出来れば行きたい。
昨年は車2台、計8人の団体行動でお台場まで行った。
たまたまその日が東京湾の花火大会と重なっていた為、夜は花火をバックに浮かび上がるガンダムを見る事が出来た。
だが、2人きりではなかった。

いつもそうだ。
……否、峠で私の運転を見てもらってる時だけが、2人きりで過ごせる時間。
でも、私が自分の気持ちに気付いた時から、そういう時間も少なくなってしまった。
もっと積極的に行動しなきゃ……そしてやっぱり、最初の切っ掛けとして2人きりのデートをちゃんとしたい。

「お姉ちゃんはやっぱさ、ほら、いつもあたし言うけどさぁ。
 未だに昔の男性不振引き摺ってるんだよ、きっと無意識でさ~」

私と山田さんの間に起きる現象について、食事時などの家族団らんの場で相談した際、妹はそう言う。
私もそうだろうなぁと思いたい……でも私が避けているとか、もうそういうレベルじゃないのよね。

「もしかしたら呪われてるんじゃない?」

などと妹が茶化した言っていた事もあったけど、実は既に何度か神社にお払いとかして貰ってる……今のところ効果なしだけど。



(う~ん、山田さんログインして無いし、どうしようかな~)

アトルガン白門では、無数のアビセア乱獲シャウトが飛び交っている。
そんな中、目立たない1行のシャウトが目に付いた。

/sh>これからアビラテアートマ取りツアーいきます、まずは後衛募集中~、サチコメ参照の上tellください!

サーチコメントには『剛腕』『妖艶』『黒蹄』といった欲しいなぁと思っていたアートマが目白押しだった。
特に後衛メインの私にとって妖艶のアートマは必須だろうし、山田さんも既にこの辺のアートマは持ってるらしいから、これは何としても参加しないとだ!
慌てて「赤白黒できます」とtellを送って暫く待っていたら……。

/sh>アビラテアートマ取りツアー、とりあえず後衛〆、誘えなかった人ごめんなさい、引き続きナ獣召募集、サチコメ参照の上tellください!

(うがー、待たされた挙句に間に合わずで放置プレイかっ!)

私がやれるジョブは赤白黒シ戦モ侍忍(右に行くにつれて段々操作が下手っぴだったりする)といった辺りだ。
一応レベルだけなら竜とかコルセアとか上げてるけど、殆ど出番が無いからやれる自信は無い。
アートマを取る為には弱点を狙う必要があり、それに絡むジョブと、安全に削る事が出来るペットジョブ、盾ジョブと回復ジョブ、これらで構成された18人を集める訳だけど……2010年7月末現在、情報がまだまだ少ない事もあって競争率が激しすぎ、中々アートマを得るのは難しいのが現状だったりする。
結局、直ぐに18人集まっちゃったみたいで、私は参加出来なかった。

(くー、くやしーっ!)

ちなみに山田さんのジョブは暗黒戦シ赤竜コ詩……結構私と被ってるかも?
明確な違いとしては、山田さんは私に『素破の耳』を勧めてくれた関係で、私はどちらかというと片手武器系の前衛ジョブにシフトしてる。
山田さんは暗黒と黒魔に特化したキャラ作りをしてて、迷わず『暗黒の耳』を選択してた事から、両手武器系の前衛ジョブにシフトしてる感じ。
黒や赤は山田さんとそっくりな装備だったりする。
山田さんに色々教えてもらって、着替えマクロも山田さんのアドバイスが生きているせいか、特に私の赤は弱体魔法の深度が半端じゃないらしい。
私は山田さんの真似をして、忍者と赤魔に特化したキャラ作りをしている影響だそうな。

あ、そうそう……私の前衛メインのジョブは忍者なのよね~、空蝉壱と弐の張替え全然出来ないんだけどさー(笑)





結局、不貞腐れてしまった私は、諦めてログアウトし、ベッドに突っ伏した。
エアコンで涼しい部屋の中、ゴロゴロと転がりつつ、昔を思い出す。



私は昔、俗に言う隠れヲタクだった。
ああ、違う違う、現在進行形が正解です。
ちなみに腐女子系も割と大好物。
高校生の頃、外面は普通の女の子を装っていたが、名古屋港の国際展示場や東京の逆三角形でたまに行われるイベントにだってちゃんと足を運んでいたりする女の子だった。
……あ、訂正、東京の逆三角形は年二回も行く事は流石に無理で、年1回が精々だった。
あとは……学生の頃は絵も少し描いていたし、無理やりコスプレをやらされた事もあったなぁ。

けれど、周囲には巧妙に隠していた……つもりだった。



すっごい唐突な話だけど……高校2年の頃、好きな人に告白した。
高1の頃から同じクラスで、特に優秀という訳ではないが、優しく、そこそこ顔も良い。
文化祭準備で一緒の仕事をこなし、そこで得られた充足感は、次第にその人に対する恋心へと昇華していったって感じだったなぁ。
クラスの友人たちに相談し、結果背中を押される形での告白。

「藍川さんさ、あんたオタっしょ?
 俺そういうの遠慮したいんだよね……だから申し訳ないけど現状の関係のままで頼むよ」

(……えっ!? そんな……なんで知って……!?)

とまあそんな感じでフラれちゃった訳で、ついでに内容がちょっとショックだったのよね。
隠していた事がバレていた事もそうだが、その内容、つまりオタ系が生理的にアウトだと宣言されてしまった事が。
そんな風に言われしまっては、もう「どうしようも無い……」と自分を納得させようとするしかなかった。



それから約々で1週間程経ったある日。

「おう聞いたぜ~、お前藍川フったんだって?
 勿体ねぇな、あの乳手放すなんてさ~」
「うっせぇなぁ~、俺はコソコソしてるヤツぁ嫌いなんだよ」
「はぁ? コソコソ?」
「ああ、あいつ普通の女の振りしてて実は腐女子のキモオタなんだぜ?」
「げっ、マジかよ」
「コソコソと隠れてる事も含めてダブルで反吐が出るぜ」
「ぅげ~、そうなんか~。
 ……けどさ、よくそんな情報仕入れたな、俺だって藍川は普通の女の子に見えてたぜ?」
「○○さん達が教えてくれた、たぶんそろそろ告白しに行くだろうからよろしくーってさ、でその時に、実はあの娘ねーって教えてくれたんだよ」
「うへっ、なんじゃそりゃ……怖ぇな女共は」

(えっ!? なっ……なんだってー!?
 ……なんてこった、頼りになる友達だと思ってたのにっ!)

私ががすぐ傍で聞き耳を立てている事も知らず、階段の掃除をそっちのけでボロ糞に言う男子どもと、私を嵌めた女子どもに悲しみと怒りを覚えつつ、心で泣いたよ……。
で、取り合えずこの件について相談したヤツら全員友達解消を脳内で即時承認! そして即日実施した。

(ああ、実施内容については非常に濃いブラック風味の為、か・つ・あ・い♪ しますね~)

しかし、偶然とはいえフラレて1週間と経たない間にこんな会話を聞かされてしまった上に、一気に友人が減ってしまった事実は、あまりにあんまりでションボリである。
差して偏差値の高い訳でもない、ごく普通の公立高校という限定された空間の中で形成されたコミュニティの輪の小ささ、そしてそこから弾き出されてしまった私は、以後卒業まで実に寂しいモノがあった気がする。
いくら報復活動を実施したところで、一時的に溜飲を下げる事は出来ても、心の傷を癒す事は出来なかった。
まあ、そんな生活の中にあって、いじめ云々の被害に会わなかった事は実に幸いだったと思う。

(むしろ私の報復活動がいじめに近い様相を呈していた、というツッコミが聞こえて来た様な気もするけど、それは全くの気のせいでっす♪)



……そしてオマケというか極めつけというか。

「……△△さん、俺と付き合ってくれ!」
「あ、あの、是非、お、お願いします、はい……ポッ」

私がフラれて大凡1~2ヶ月ぐらい経過したある日。
中々癒えない傷心を抱え、独り屋上で黄昏る事が多くなっていた私は、その日偶然、私をフった男子の告白現場に遭遇してしまった訳で。
相手の女は中学時代に私と一緒に同人誌を作っていた1年下の後輩で、私以上の腐女子っぷりなんだが?
そのまま付き合いだしてしまったのよね。

……超ショックだった。
この時から男性不振と心の病に犯され、4~5年ほど家族や友達に迷惑を掛け続けていく事になるのよね……。

そして結局、彼氏彼女なんていうモノに縁がないまま高校を卒業した。



あ、でもそうえいば……。
初告白は実にショックな結果に終わったけど、今、当時の高校生活を振り返ってみると、実に勿体無い事をしたなぁと思わざるを得ないぐらいにモテていた気もする。
下駄箱や机の中に手紙が入っていた事は1度や2度ではないし、呼び出されて告白された事も何度かある。

(当時はただ鬱陶しいなぁとしか思わなかったからなぁ)

当時、私が興味を持った高校男子は後にも先にもあの初恋相手以外居なかったので、全て断っている。
そのせいか、卒業間際になって私の耳に届いた私のあだ名が「鉄壁」……スーパーロボット大戦の精神コマンドかっ!と男子どもにツッコミを入れたのは言うまでも無い(笑)
そして……やっぱお前隠れオタだろっ! っていうツッコミで返されたのも言うまでも無く……自業自得だった。





(まあ、隠れオタ云々は置いといて……勿体無かった気もするなぁ、私ってモテてたのにな~)

そんなにモテるのならば、なんで今私と山田さんが付き合えていないんだろう……結局、答えの出ない無限ループに陥ってしまい、悶々とベッドの上をゴロゴロ転がる私だった。





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