最近、オレの属する開発部隊が『死神』と現場の兵士から陰で囁かれてるらしい。
そう、小耳に挟んだが別に反論する気もオレには無い、『知ったことか』の一言でオレや部隊の面々は、片付ける程度のモノだ。
それが事実であり、オレの任務であるからだ。
オレ達―――サニーを含めて三機の特殊偵察用に改修されたF-15ACTVは―――は情報を得て、帰還する事こそが最上だ。
その任務に従事する際、危機に陥るであろう友軍機が助けを求めようが、囲まれようが、それを利用して帰還する。
非情とも、冷酷とも、外道とも言える判断を瞬時に下せる……それこそが、オレがこの部隊に求められる理由であり、価値だ。
だからこそ、その程度の言葉、オレにはどうでも良いことだ。
(最近じゃ、BETAと戦う事も増えてきたけどな……)
ふと、眠気に閉じそうになる目蓋を開いて、コーヒーを啜りながらそう思う。
確かに、今では以前よりは自衛以外の戦闘にも参加しているが、最近は撃ち漏らしのBETAを適当に撃ち殺す事が多くなってきている。
酷い時は兵士級一体だけだった経験もある。
正直言わせて貰えば、こんなんじゃサニーに経験を積ませるという目的すら達成できるか怪しいものだ。
サニーらは、限りなく戦場に近い……それこそ最前線で経験を積む事こそが求められている。
それは、サニー達を管理するドクトルも同じ考えであり、何よりご本人であるサニーも同じ答えをオレに伝えていた。
《I want to fight against BETA.Never having lost》
―――私はBETAと戦いたい。絶対に負けない。
前回の出撃から帰還する際、そうサニーは呟くように、オレへと向けてなのか、それともオレの上官に位置するドクトルへと向けてかは知らない。
だが確かに、そんな“意思”を明らかにオレに示した。
これは、サニーが自ら考えて意見した、彼女なりに不安に怯えているからこその言葉なのかも知れない。
サニーにとってBETAは、殺すべき敵だ。
サニーはそう教えられ、そう学んだ。
だが、今のサニーは“敵”となる筈であるBETAとは存分に戦えていない。
つまり彼女は、自分の兵器としての存在意義を奪われる事に対しての恐怖を感じているのだ。
BETAと戦う事が自分であると理解している今の彼女には、それが怖いんだろう。
ドクトルが望んだのはこのサニーの変化なのかも知れないな、とオレは思った。
サニーが自ら望み、BETAを殺す事に執着する。
それこそが、この戦術機部隊の無人化計画の一つのターニングポイントなのだろう。
この報告を聞いた次の日には、ドクトルはBETA間引き作戦に従事する旨を記入してある出撃命令書を、オレに引き渡していた。
そして、その事をサニーに告げると、こう返ってきていた。
《I will do my best》
―――最善を尽くす。
そのサニーの、簡潔でありながら、思いを言ったかのような言葉。
それを見たオレは、気づかぬ間にサニーに問い掛けていた。
「お前はもう、一人で戦えるのか?」と。
サニーは、程なくしてこう答えた。
《I need you》
―――私にはアナタが必要だ。
彼女はそう言い、また続ける。
《We had no alternative but to fight》
―――私たちは、戦い続けるしかない。
《Why it exists》
―――それが、存在する理由。
そこまで言葉にせず読み上げたオレは、自分の呼吸が止まっていたのに気付く。
ゆっくりと深呼吸し、オレはサニーの言葉を脳内で反復する。
アナタが必要、戦い続ける、存在する理由。
この三つの言葉と、サニーの求めたBETAとの戦いという現実が混ざり合う。
彼女は、サニーはオレを必要としているのだろう。
それは理解できるし、個人的には嬉しく感じる。
だが同時に、オレは彼女の物言いに薄気味悪さすら感じている。
サニーは、私たちは戦い続けるしかないと、そう言い、それが存在理由だと言った。
彼女はそれで良い。
彼女は自分を兵器であると意識した上での言葉だし、兵器は戦いに身を投じる事が存在意義なのだから間違いではないだろう。
だが、問題なのは彼女とはセットのようにオレが含まれている事だった。
オレは兵器には成り切れない、思考を戦いに最適化するのが精一杯だ。
オレは“衛士”という、戦術機を構成する一つの部品には、全てを奉げれない。
『恐怖』という感情を知っているからこそ、オレは今まで生き延びてきたのだから。
オレは何時かはサニーと別れる日が来るだろう。
それがそんなに遠い未来では無いのは、彼女も知っているかも知れない。
もしかすると、それでも…サニーはオレと居たいと、そういう意味で言ったのだろうか?
もし、そうだとすればだ。
オレはその前に、彼女には一人で戦うという事を理解させる必要がある……オレはその内に居なくなるというのを。
「サニー、オレはお前とずっと一緒には居れないよ」
《……Why?》
―――何で?
少し考えるように、間を置いてサニーは言った。
オレも、続けて言った。
「お前は、何時かは一人で戦うために、オレと居るんだ。つまり、訓練期間だ。訓練期間が過ぎたその時は、オレはお前の傍に存在しない」
《NO.I need you》
「聞け、サニー。お前とオレは…」
《NO》
オレの言葉を聞きたくないと、そう言うようにサニーは言う。
まるで子供だ……オレがそう呟くと、幼い少女がまた身を震わせたような姿が見えた気がした。
お決まりの幻視だ、特に気にする事じゃない。
だがしかし、オレはふと考える。
サニーは、オレを必要としている……彼女の物言い―――文字だから文字言い、か?―――からして、恐らく衛士としてではなく、オレという個人を。
衛士だけならば、オレより優れた者は数多く居る……サニーは、“学習”として入力されたそれをデータで知っている。
だからこそ、何故オレを求めるのか、と言えば、思いつくのは簡単だった。
サニーは、孤独を嫌っているんだ。
だから、唯一親しくしているオレから離れたくないと、そう言っているのだろう。
思えば、サニーが会話という行為を行うのはオレだけだ。
他の人間にも、事務的な受け答えはちゃんとするが、人間のような何気ない会話は、オレとだけしかしない。
オレ自身の思い込みでない事実として、それはハッキリとしていた。
理解できた。
サニーは、子供だ。
オレという親から離れる事の出来ない、幼い子供。
その例えで考えてみると、妙に納得できたオレは、思わず苦笑する。
そんなオレに彼女は、言葉を続けた。
《Anyhow, don't make me one.I want to go with you》
「………」
―――私を一人にしないで。アナタと一緒に行きたい。
サニーは、文体で分かる程に“弱気”だった。
オレは、想定以上に厄介そうだと……心の中で呟いた。
数ヶ月前までは機械的に応答するだけだった彼女が、今では人間のように言葉を発し、今では幼さとも言える感情を表に出す。
ドクトルはこれを予測していたのだろうか?
仮に、BETAとの戦闘を望む事を予測してたとして、サニーがオレに依存するとまでは予想できるのだろうか?
オレは、あの爬虫類のようなドクトルの顔を思い浮かべながら、思う。
『予測できなくても、対応する』……それだけ、ドクトルはサニーに入れ込んでいたから。
仮に、だ。
ドクトルが、オレがサニーに害ある影響を齎すと判断すれば……問答無用でサヨウナラ、だろう。
オレは、その対象にオレが入らない事を短く祈り、あやす様にサニーへと声を掛けた。
「……大丈夫だ、サニー。オレは何処にも行かないよ」
《……Really?》
「ああ……サニー、今度の作戦も、二人で成功させよう。何時も通りに、だ」
“二人で”という部分と“何時も通り”を強調して、サニーに言う。
それは、「今は何も考えず、任務に備えろ」……そう暗に言ってる物でもあるが、別の意味では「オレと一緒にまたお仕事だ」と、オレは言っている。
まだオレと一緒だと、暗に告げている。
サニーも、それ位は自分で分かる程に成長していた。
だからこそ、悩んだ末のように、彼女はオレに告げていた。
《……Roger,Lt》
◇
『中尉、作戦内容は頭に叩き込んだな?』
機体を揺らす心地よい振動。
この振動は、オレの乗るACTVを輸送していたトラックが停車し、機体を立ち上げている作業による振動だと、オレは眠気眼で状況を理解する。
その揺れに身を委ねながらも聞いていた戦域管制官の言葉は、何故か耳によく残った。
無感情だな、とオレが声から感じた感覚はソレだと思い当たる。
この声の持ち主は、感情が無いんだろう。
まるで、人形に話し掛けられているような気持ち悪さが、耳に残る原因なんだ……そう、オレは結論を下した。
それと同時に、この部隊向きの人材でもあると、口にせずに呟く。
仕事は優秀だが、爪弾きにされた者だろう。
そんな奴の特徴に、ピタリと合っている。
その人形の声は、任務内容の最終確認を告げる物だったが、オレよりサニーの方が耳を澄ませていた感はある。
今も、網膜に写るディスプレイには細かく作戦内容が記入され、《Mission UNKONWN》から《Encounter an enemy BETA STBY.Let's do it,Lt》へと文章が大きく変化する。
―――対BETA戦スタンバイ。やってやりましょう、中尉。
これは、サニーなりの準備完了と覚悟が決まったという合図なんだろう。
そう理解したオレは、通信相手に向け、口を開いた。
「こちらM-03、任務了解。今作戦目標、戦域内の光線属種の優先的掃討」
M-03……マリオネット03。
戦術機無人化(マリオネット)計画と名付けられた部隊の三番機である事を意味するその名前。
オレとサニーを纏めて呼称されるその名前は、お似合いだとやはり思う。
機体の肩には、操り糸で吊り下げられたF-4のエンブレム。
それがこの計画の本質を表していた。
サニーの存在が公表されたとしよう。
まだ性能を見ない多くは、サニーを人形を操るパペットマスター程度に思うだろう。
出来の悪い人形劇だ、と。
いや、人形遊びをする子供程度に考えているかも知れない。
だが、それは違う。
オレが、それで終わらせない。
サニーも、そこで終わる気は無いだろう。
彼女は、王となるのだ。
数多の戦術機を率いる戦場の支配者、近づく存在を焼き尽くす猛火、サニー、戦術機を統べる女王。
オレが居なくても、戦える強い存在に、常に孤独を強いられる王へと。
「(となると、今のオレは女王お抱えの騎士とでも言った所か?)」
正直、柄じゃない。
物語で言えば、彼女が王になる為の引き立て役、嫌味な叔父という名の小悪党だろう。
だが、そんな役割になる必要があるオレを、彼女が今も必要としてる事は事実だ。
だからこそ、オレはその内に『裏切りの騎士』の役として動く必要がある。
物語では中盤に裏切り、終盤には王自らが処断される、そんな存在に。
それを乗り越えた先には、彼女がオレという騎士を不要とし、新たなる騎士として多くの無人戦術機を従えるのだ。
その光景を思うと、何処か悲しい気もするが、それは何時かは来る出来事であり、決められた事だ。
この問題は先延ばしで解決する物事では無いからこそ、行動に移す場合は早期に動く必要があるだろう。
オレもサニーも、傷が浅くて済む間に。
「……ん?」
意識が戻る。
短く、呼び掛けるような電子音がリズム良く響いている。
見れば、オートで行っていた機体のチェックは完了しており、それを知らせるために、サニーが鳴らした音だった。
何故それがサニーの仕業か分かるかと言われれば、サニーからのメッセージ付きだったからだ。
《action,Lt》
―――行こう、中尉。
サニーはそう言い、オレを呼ぶ。
まるで、アイスクリームの屋台を見つけた子供が、急かすように。
「……ああ。行くぞ、サニー」
ふと、考えた。
サニーが、オレにそう聞いてくるのはあと何回あるのだろうか?
オレが思うに、サニーはもう、オレに伺い立てなくても、彼女は戦える。
戦えるほどに強くなったと、オレは知っている。
それを鑑みると、オレはまだ彼女の主として認められているのか。
それとも彼女は、寂しがりやなのか。
それとも、兵器としての性能を維持するのにオレが必要なのか。
そんな事を思いながら、オレはサニーへと答える。
行こう、と。
《Roger.All weapons free.Let's Dance、Lt》
―――了解。全兵器使用自由。さぁ、踊りましょう、中尉。
サニーが、合図のように文字を躍らせる。
今度は、オレをダンスへと誘う、妖艶な女性のように。
オレは、そんなサニーに答えるように、操縦桿を押し倒す。
幼子の手を引くように、ダンスパートナーの手を恭しく取るように。
同時に、軌道上に待機していた米軍・国連軍による軌道間爆撃を迎撃するレーザーが、空を覆っていく。
それを見たオレは、「まるでミラー・ボールだ」と、無意識に呟いていた。
その光に照らされる事は、勘弁したい所だが。
『砲撃迎撃率90%、高濃度の重金属雲の発生を確認――――司令部より通達、全隊出撃許可』
「M-03了解」
機体を、加速させる。
武装は突撃砲2挺にナイフ2本、貧弱に思える武装だが、この機体の最大の武器は速度と機動力だ。
最低限の武装を完全に使いこなし、機動に専念する。
簡易的な火気管制はサニーが行ってくれるので、オレは彼女に答えるだけだ。
『レーダーにBETAの反応、数は15……試運転だ、排除しろ』
「M-03了解」
最大望遠で捕らえた赤い影、戦車級BETAだ。
その影が、餌を見つけたと言わんばかりにオレへと向き直る。
腹に着いた歯が、ガチガチと揺れていた。
オレが乗る特殊戦の戦術機は、並みの戦術機とは段違いに高性能な情報収集機器を搭載している、
地上版AWACSとでも言うべき索敵・情報収集・情報処理・指揮管制能力を備えたこの機体は奴らにはご馳走に見えるだろう。
ふと、思った。
オレ達、特殊戦が『死神』呼ばわりなのも、この機体を狙う為にBETAが集中するからじゃないか?
BETAが、高機能なCPU搭載機を優先して狙う事は判明している。
つまり、その機体を護衛する部隊や周辺に展開する部隊は、膨大な数のBETAを相手させられるのだ。
『死神』の俗称も、間違いじゃない。
気のせいか、周辺の部隊は声にしては言わないが、内心では愚痴を漏らしているだろうな、と思う。
これは出撃準備段階の事だったが、明らかに敵意を向けてくる部隊も居た。
一部の機体の銃口が此方に向いている……IFFにも、機体のログにも残るので照準波は当てられていない。
だからこそ、オレは気付かなかったのだが、それに気付いたのはサニーだった。
オレにサニーが捉えた映像を表示し、彼女は言った。
《警告。味方部隊から照準が合わされている。照準機を味方から準作戦目標へと変更―――攻撃許可を》
オレは彼女に言う。
「放っておけ、オレ達には関係ない」
それに納得したのか、サニーは短く《了解》とだけ良い、沈黙した。
もう、興味を無くしたのだろう。
……そんなのを、オレは思い出していた。
オレは黙る、サニーも黙っている。
サニーは、その空気を払うように、素早くオレに告げた。
《Engage》
レーダーを見れば、肉眼で確認した戦車級BETAが射程距離に入っているのが見えた。
オレは、それを確認して機体を一気に進ませる。
射程距離に入る。
《RDY GUN》
サニーが、最初の敵を捉え、照準する。
オレが引き金を引けば、敵は、BETAは死ぬ……サニーは、それを求めているかのような速さで、BETAへと照準していた。
そして、撃てと……彼女は、そうオレに言う。
「M-03、交戦。FOX3」
オレは、それに答えるように引き金を引く。
BETAが死ぬ、オレが殺す。
サニーは、それを満足そうに見ていた。
『戦車級の排除を確認。目標は光線級の排除、早急に完了せよ』
「M-03了解」
機体を飛ばす。
オレが担当する光線級の個体数は54、その内の半数は今は他BETAの体躯によって射線を遮られている。
それを確認したオレは、サニーに照準を託し、機体を空へと上げる。
《Fire》
突撃砲を構えるアームが動き、サニーの照準に合わせて光線級を狙撃していく。
機動入力データを先読みし、確実に照準を合わせ続けるサニー。
人では有り得ない機械的な精密さ……今はその全てが有り難い物だ。
他人がどう言おうと、これは生き残るための力なのだから。
「サニー、BETAの中に潜り込む」
《Roger》
だが、幾らサニーが補助したからと言って、数百ものBETAの中に点在する光線級全てを一度に殲滅する事は不可能だ。
だからこそ、機体を光線級に捕捉される前に地表へとダイブさせる。
地表へと降りた目の前には、レーザーを回避するための壁であり、此方に攻撃を仕掛けくる存在でもある要撃級が存在した。
「……ッ」
機体が横滑りする。
地表面を滑走している中、サイドブースター噴射による急激な機動の変化は瞬間的に強大なGが負担として掛かっていく。
だが、目の前の要撃級の一撃はそのお陰でしっかりと回避できている。
オレは、それを確認するまでも無く、機体を一気に加速する。
まだ、BETAによる包囲網は完成していない。
だからこそ、今は囲まれる前に早く突破する事を考える必要があった。
「FOX3」
進む、撃つ、避ける、撃つ、進む、避ける……。
何処までも機械的に、作業のように光線級BETAを排除し続ける。
今までとは毛色が違う、自らが前に進んで出て戦う任務。
孤軍奮闘ではあるが、機体の性能とサニーの補助……この二つだけで、十分に戦えていた。
「あと10」
《Seven》
「先に言うな、4」
《Sorry,Two》
表示された光線級の残存個体数が10を切り、オレとサニーは言い争うように残りの数を読み上げる。
ラスト2体……サニーが制御する右腕、オレが制御する左腕が、それぞれ光線級を狙う。
同時に射撃、排除。
《ZERO……MISSION CMPL》
―――残存数0……任務完了。
サニーが任務終了を自動で報告し、オレは残った弾をばら撒き、突撃砲を破棄する。
残りの36mm弾倉が最後の一つ、死重は排除し、レーダーを見る。
見事なまでに、BETAを示す赤一面だ。
飛んで逃げても良いが、オレは一つ試してみようと、ふと思い、オレはCPへと通信を繋げる。
行き掛けの駄賃という奴だ。
「M-03よりCP。ミサイルによる支援要請、最終誘導をサニーへと移行……サニー、好きにやってみろ」
《Roger.DE Sunny for CP.Follow me,Point C-4-11》
『CP了解。ポイントC-4-11へと支援砲撃』
オレが操るACTVはナイフを引き抜き、すれ違い様に2体の要撃級の首を掻き切り、その隙に突撃砲へと弾倉を新たに装填する。
その操作を行うオレの後ろで、サニーは支援砲撃の着弾予測箇所をマップに表示する。
あくまで、これはサニーにも自己の判断で行動させる訓練の一環だが、熟練の電子戦オペレーターのような手際の良さは堂々たるものだ。
そして、サニーからの要請を何の疑問なく行動に移すCPオフィサーは、やはり人形のように要請を受け、実行していた。
『要請していたに支援砲撃が来る、退避せよ。着弾は―――』
《CAUTION.Incoming missiles.Fall back》
ミサイルによる支援要請をして1分。
CPからの通信と共に、サニーから《ミサイルが接近している。退避》と、警告があった。
レーダーをチェック、確かにミサイルだ。
《20 seconds》
周辺の光線級がほぼ壊滅した事が情報として各隊に発信され、この空域の高度制限が第3級警戒まで引き落とされると同時に、サニーが着弾20秒前を告げる。
オレはその言葉に返答するよりも早く、操縦桿と動かし、フットペダルを踏み込んだ。
巨人の足が大地を蹴り上げる。
その勢いを加速させるように、跳躍ユニットに火が点る。
ACTVが装備する4基のプラッツ&ウイットニー114wb大排気量エンジン。
それが命を燃やすように激しく、速度を生み出し、ミサイルからの安全距離を稼ぎ出す。
体に掛かるGは、感覚的には3Gといった所だろう……それを、頭で考えた瞬間、サニーが告げた。
《……3、2、1、Impact》
沖合いに待機する支援部隊である米艦隊より発射された十数本のミサイルが、白い尾を引き地面へと突き刺さる。
瞬間、爆発。
景気よく吹き飛ぶ戦車級が、その威力を端的に表していた。
それと同時に、周辺に展開していた国連軍部隊から驚きの声が通信回線に入っているのが耳に入る。
直前までサニーが誘導を続けたミサイルの一部は進路を変更し、囲まれつつあった国連軍部隊の周囲の着弾した。
だが、そのミサイルは周辺に展開していた部隊を巻き込む事もなく、BETAだけを殲滅し、活路を開く。
その最後まで精密すぎる攻撃が、衝撃的だったようだ。
オレも正直に言えば驚いているが、当然だと思ってもいた。
戦場の支配者……成程、この例えは言いえて妙だったという訳だ。
そう、上手い例えをした以前のオレに苦笑していると通信が繋がる。
人形オフィサーからだった。
『M-03、M-01と合流し補給地点へと撤退せよ。そちらの戦域の脅威度は低下、次に移る』
「M-03了解」
空に浮いたまま、右肩部スラスターを大きく噴かし、機体を独楽のようにクルッと回す。
反動は左肩のスラスターを同時に、弱く噴かす事で受け流した。
ACTV並みの出力とスラスター数を持つ機体ならば可能な、空中でのドリフトターンとでも言うのだろうか?
一瞬だけふらついた機体に鞭を打つように、スロットルレバーを押し上げ、機体を巡航飛行させる。
その瞬間、加速だけで言えばF-22Aにも劣らない速さでACTVは突き抜ける。
まるで、突き進んでいく弾丸のように。
今のミサイルの一撃はこの戦場を人類側に絶対的な有利を約束している。
だからこそ、オレ達は振り返る事も無く、その場を後にした………
………しようと、していた。
「っ……!」
突如、オレの耳に届く光線照射警告。
付近の光線級は壊滅し、他の戦域の光線級に狙われる高度でも無い……そう思ったオレの疑問は、解決する。
ミサイルで引き裂かれた要塞級だ。
その中から、這い出て来たのだ。
光線級が、12体も。
機体が自動回避を取ろうとする。
だが、それは遅すぎるとオレは手を伸ばす。
機体をオートの巡航モードからマニュアルの戦闘機動モードへ、強制的に切り替える一瞬の瞬間。
その瞬間に、何も感じさせない双眸を此方に向ける光線級は……オレとサニーが乗るACTVを、撃ち抜いていた。
「メーデー、メーデー!こちらM-03!光線級に撃たれた!!墜落する!」
黒煙が吹き上がる。
レーザーの一撃は、右脚と右跳躍ユニットを撃ち抜き、爆発させる。
その爆発の影響で背面ブースターと右腕にも馬鹿には出来ないダメージが確認できた。
オレは、速度を少しでも落とそうとエアブレーキが最大限に発揮できるよう、姿勢制御に専念した。
だが、それは無駄だった。
高度が、足りなさ過ぎていた。
地面へ機体が激突する。
その一連の動きは、子供が手に持つ人形を地面に叩き付けたような光景だった。
《DE Sunny》
脳が揺れ、世界が回る。
座席から弾け飛び、強打した頭部から流れ出た血で赤くなる視界。
それが、混ざり合い、世界がまるでぶち撒けた苺ジャムのような色合いになる。
その異世界染みた景色と、体に叩き付けられたハイG。
組み合わさった二つに耐え切れず、拒絶反応のように胃の中身を吐き出したオレに、サニーからのメッセージは最初は目に入らなかった。
ただ、そんなオレでも出来た事があった。
耳に一瞬だけ入った警告音に、反射的に全身を緊張させること。
そして、歪む視界の隅に、サニーからのメッセージが目に映る。
「…………!」
そのメッセージに、オレは目を見開き、何も出来ず、何も言えず、ただソレを見た。
《I HAVE CONTROL》
サニーが動き出す。
後書き
ちょびちょびと書いてみる。