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[22430] 妖精の舞う空【短編?中編?】
Name: ブシドー◆fddcbbd2 ID:10f8d4d5
Date: 2010/10/13 22:27
―――――オレは、特に自分が戦う理由なんて物を考えた事は無かった。




何時の間にか戦場に居て、何時の間にか『外宇宙からやって来た侵略者と戦う人類』なんて、馬鹿みたいによくあるSF小説の世界な日常。

その事に疑問を持った事も無いし、それ以上に興味も無い。
『オレ』という存在が今も昔も変わらなく抱き続けている思いと言えば……空に対してくらいだと思う。


空、真っ青な空、全てを吸い込んでしまいそうな怖い空………“飛ぶ”という行為にエンジンとオイルに頼る「ヒト」には及べない場所。


「輪廻転生」なんて説明出来ない現象を信じる様な人生観をしていないが―――どうせ生まれるのなら次は鳥が良いな。とも思う。

ある意味、オレは「飛ぶ」という行為に魂を囚われているのだ。今も、昔も……これからも。


そう、オレがぼんやりとした目でオレと“相棒”が乗る戦術機が存在する現在の高度を示す高度計を見つめる。
地表に対して約18m―――つまりは地上に立っている―――という、飛べてすらないこの状況で小さく息を吐く。

光線級に、この空を抑えられてるのだ。そんな状況で飛ぶのは嫌だし、“相棒”も経験からして拒否するだろう。

だが、それだからぁ存外、つまらない。これならワザワザと出撃を変わってもらう必要性なんて無かったとしか思えない。
同じ暇なら、基地の演習場で高度制限の無い空で飛び回ってる方が楽しいじゃないか―――そう感じるのも仕方が無いだろう。



「―――――ヒマ、だな」

<It agrees>


複座型管制ユニットの後部シートの“相棒”にそう問いかけると網膜投影式のディスプレイにその言葉を浮かべる。
―――同意します、とは……どうにも「ヒト」らしい様で機械的な返答だ。

まだ半年の付き合いだが、何も気にしなくて話す事が出来る“相棒”の存在はオレにはもう切っても切れない程に依存している。
“相棒”の素晴らしいところは、口うるさくも無ければ喚く事も無い……そして、「死者が生まれていく光景を幾百と見ても壊れない」のが最高にイイ。

オレみたいなのにはどんな美食、美酒、美女、金でも……そんな物を幾ら対価にしようが得る事の出来ない存在なのが、特に素晴らしい。


《―――帰還しろ中尉、後は後続が担当する》


――――そんな、ヒマですら甘美に変えてくれる“相棒”との無言のひと時も終わりがやってくる。
今もその鋭い目で戦況を見つめているであろう我が隊のボスから下される帰還命令。お使い終了って訳だろう。


「……了解、RTB」


軽く手首を回し、操縦桿を握る。
緩やかに、だが近づけば即座に吹き飛ぶであろう程の暴風が二基の跳躍ユニットから吐き出されていく。

そして、そのまま地表を氷上を滑る様に進んで行き、その後は機体を低い高度で飛ばしていく。




―――――背後には、逃げ惑う戦術機や無力な歩兵、動きを封じられた戦車という……幾つもの命を見捨てて。



 ◇



「報告は以上だな……ご苦労だった中尉」

「いえ、ではこれで」


スペイン バルセロナ国連軍基地。
バレアス海を前方に望む、ユーラシア各地への物資輸送の要の一つでもある巨大な基地にオレは居る。

2002年の桜花作戦、それの成功に伴い。欧州の反抗作戦……確か、「オペレーション・クルセイダーズ」が実行された。
そして“十字軍(クルセイダーズ)”の名の通り西から東へ、欧州奪還に際しての目先のコブであったリヨンハイヴの攻略の完了……それから一年は過ぎている。

情熱の国、と言われていたスペインも嘗てのBETA侵攻の爪痕がまだまだ深く、今も復興に向かうのにも一苦労といった所だろう。
だが、BETAの支配から抜け出したこの国は強くなるんじゃないかと思う……関心も気にもしないが。


「ンッン~」


オレは、整備の完了した自身が乗る戦術機である複座型F-15ACTVをモップで擦りながら鼻歌を歌う。
以前の戦場から一週間の日数が経過していて、勿論だが機体洗浄も行われている。これは趣味……と言えるのかも知れない。

何で掃除かって、この基地に居てもやる事は飛ぶ事と寝る事くらいしか無い……それ故に、オレの暇つぶしとして「戦術機の掃除」を選んでいた。

オレが行う「任務の特殊性」もあり、オレが所属する部隊は俗に言う嫌われ者だ。
それに加え、オレが得ようとも求めようともしなかったのもあるが友人なんて存在は居ない。

だから、暇も潰せないし時間も有り余っている。唯一の……友人と言うか気心が知れているのは“相棒”だけだと思う。
いや、気心が知れてるってのは相棒に対しては当てはまらないか。

そう呟き、掃除を終えたオレは管制ユニットに潜り込んで機体を起動させる。システム面と整備後の各部重量バランスを見る為だ。
この機体……ACTVは繊細で、同時に豪快な機体だ。だから、整備が完璧でもそれを整備員以上に把握しておく。

オレは機体に搭載されていた片目用のヘッドセットを着けてチェックリストに赤いペンで確認したデータ内容の項目を書き込む。
……それを、一時間もしてからオレは背中の“相棒”を起こした。


「………」

< What went wrong?Lt>

「気にしなくていい、気まぐれだ」

<……I got it>


そう返してくる“相棒”に思わず噴き出す。
毎回、毎回……何処か人間臭い返事をしてくるコイツはどうにも面白い。

確か、第四…じゃなくて第三、だったか?まぁ、そんな計画で生まれた技術の一部を応用したとか聞いたがどうでも良い事だ。


「……」


複座型管制ユニットの後部席の位置、そこに固定されている円筒状のデータポッドを見ながら呟く。
サイズは……小柄な少女が一人ほどしか入れないであろう程しか無い。中身は知らないが、どうせ機械で細々としているだけだ。

機械弄りに関しては専門外なオレには、弄ろうとも思わない。
下手に弄って、破壊してしまった際には自分に何が降り掛かるのかも予想が出来ないモンだ。


<Lt.Curiosity ruins oneself>

「分かってる」

<I see.That's good>

「………本当に面白いよ、お前」

<Thank you>


【戦術機無人化計画】という、何処か馬鹿馬鹿しくも現実に進行中の計画で生まれた機械の頭脳を持つ「人工の探求者(Artificial Seeker)」。
人間を気取っている様にも思えるこの機械の塊に最も適した呼び方なんだろう。

オレを含めたこの部隊の衛士はコイツらに戦場を……BETAとの戦争を教える為にのみ存在する教師、コイツらはそれを貪欲に知ろうとする教え子。
全身の至る所に増設されたカメラはBETAを殺す光景を、戦術を、そして死んでいく者を無言で眺めていく。


ガキの頃、弱ったバッタに群がる蟻や蜘蛛の巣にかかった蝶が食われて、バラバラにされていくのを無邪気に見つめる子供みたいに。


何処までも純粋に、「BETAとの戦争」を現場で学ばせて未熟なAI(子供)を完成(大人)させる。
最もな例えで言うのなら、読んだ本を積み上げるみたいにだ。

兎に角、ゲリラに育てられた子供の様に、「そうするのが普通であり、存在意義である」というのを……洗脳するみたいに刷り込んでいく。


そして、これが完成した暁にはBETAを殺す事に対しての戦闘行動を取る無人の軍団が出来上がるんだろう。
相棒一人で戦争が出来る、その段階まで学習するのは何処まで時間が掛かるかは不明。
この計画を推したのがアメリカという事もあってか、胡散臭い限りだが……オレにはどうでも良い事だ。

オレにとって、コイツは相棒であり戦友でもあり……家族でもある。
一緒に飛んで、一緒に寝て、一緒に戦場に立つ……どんなに固い絆でもオレとコイツには敵う訳が無い――――そう、思える。


「――――そうだ、名前をまだ決めて無かったな」

<My name?>

「ああ、そうだ。何が良いかな……」

<Please give me a nice name>

「そう急かすな……ンッンー……」


ふと、今更ながらにそう思う。名づけのセンスはオレには無いが、何か愛称みたいなのは欲しいと思える。
何時までも“相棒”に“コイツ”じゃ、女の子に対して失礼ってモンだろう……何で、女の子と思ったのかは分からないが、そう浮かび上がったのだ。

そんな思考を纏め上げ、喉を少しだけ鳴らして名前の考えに意識を没する。
在り来たりなのは相応しくないが、あまりに尊大すぎても逆に呼び辛い。コイツに相応しく、それでいて何処か親しみすら思える名前。




そこで、ふとハンガーの外を見る。今も殺し合いが何処かで起こっているというのに、変わらない青空と少し沈んだ太陽が見えた。
……そうだな、あれが良いだろう。


「……サニー、でどうだ?」

<Sunny……That's my name……>

「いっつも、戦場を見ているだけのオレらには良いと思わないか?―――――ずっと、地球を見守ってきた太陽と一緒でさ」

<It is not possible to understand>

「理解できないって……そういや、素で忘れてたけどお前は人間じゃなかったな、じゃぁ――<But…>……?」


相棒が文句というか、回答する答えを知っていなかったのもあってかそんな言葉が返ってくる。
まぁ、当然か―――そう思い、また思考の渦に身を任せようとした時に相棒からそんな一言が帰ってきた。


<Not so bad>

「――――――」

<Thank you.Lt>


―――そんなに悪くない、ありがとう中尉―――

そう、文章で浮かび上がったサニーの“意思を持った返事”に……オレはまた笑みを浮かべる。

―――良いな、これは最高に気分が良い―――

ちょっとだけ、暇なのも忘れられる喜びに小さく鼻歌を歌う。
サニーも、それっきり黙ってしまったが……起動中を示すハードディスクランプがチカチカと、リズムを取る様に点滅している所からして……喜んでいるのか?

考えている事はまったく不明だが……何故か脳内に小躍りする幼い少女の姿が幻視できてしまう。

そんな脳内に浮かび上がった光景を、頭を左右に振って振り払う。
そうしている内に、全ての検査が終わっていた。


「ン……サニー、今日はもう切るぞ」

<………Yes>

「……因みに、明日は演習だ。頼りにしてるぞ」

<Leave it to me>

「………コロコロと意見が変わるな、お前」



 ◇



サニーに名付けて以来、何処か会話……うん、会話だな。会話が多くなった。
何事に対しても貪欲に興味を割き、知ろうとする。一回、食事を摂っていた時に「それは何ですか」と問われた。

人間の生命活動を維持する為の物……そう答えると、更に突き詰めて尋ねて来る。気になると我が侭みたいに知識を求めるのだ。

それは、計画に携わる技術者にとっても不可解な事らしい。


―――まるで、人間の様に考えを持っている―――


オレが、以前から感じていた通りの事は、やっぱり異常みたいだ。

人工知能、AI……そんなので表せれる問題とは思えない現象。そして、それは会話をするオレにも言える事らしい。
ただでさえ、友軍を見捨ててでも帰還するという部隊の機体なのに、これじゃ余計に居づらい。


「どうしたモンかなぁ……なぁ、サニー?」

<I don't know>

「分かりませんじゃないよ、そんな無責任みたいにさ」






続く


・中尉
本名不明な人、変人。

・サニー
中尉の乗る戦術機の後部座席の場所に設置されているユニット。
戦術機での対BETA戦を学習中。戦術機無人化計画の要。ポッドの中身は不明、不明ったら不明。

・作中の年数
2005年の冬、桜花作戦の成功した未来。

・機体
複座改修(ポッド設置の為)、機体各所に設けられたデータ取得の為のカメラレンズなどを設置したF-15ACTV。
元々、データ習得の為だけを考えられ、BETAとの戦闘は考慮していないので武装が最低限であり、尚且つ高機動力を求めた結果となる。




雪風見てたら書いてた。何を言ってるかは察して頂けるとありがたい。



[22430] 妖精の舞う空【その2】
Name: ブシドー◆fddcbbd2 ID:10f8d4d5
Date: 2010/10/13 22:27



「……」

「うーン、やっぱり素晴らしい!自我が芽生えるなんて、まさに“異常”だヨ!!」


オレの目の前で、そう高らかに謳うかの様にステップを踏む白衣の老人。
ギョロっとした爬虫類の様な瞳、狂人染みた言動に顔……それらが合わさり、一種のホラーと化している。
少なくとも、子供が見れば悪夢として毎晩の様に見るのは確実だ。

そんな老人――――ドクトルは、ACTVから降ろされたサニーのポッド周辺をグルグルと回りながら笑い続けていた。


<…… Lt.Please help me>

「……諦めろ、サニー」

「今、“助けを求めた”かナ!?―――――アア、素晴らしい!素晴らしいィィィ!!」


半音釣り上がった様な声で、また笑い続ける。
現在時刻、午前2時29分……こんな時間に、素晴らしくも儚い睡眠中に呼び出しを食らったのだ。
不機嫌にもなるし、起き立てにこの甲高い声は癪に障る。

ただ、ドクトルは【戦術機無人化計画】の最高責任者だ。
つまりは米国と繋がる人物であり、本人もこの計画の根本的な研究を進めていた研究者でもある。

―――結論で言えば、オレの上官とも言える人間だ。
殴って黙らすのは流石に出来ないのが、軍隊の悲しい所だ。


「サニー君は中尉、君とだけしかコミュニケーションを取ろうとしなイ!それが何故なのか……ああ、興味深い、深すぎるヨ!」


ああ、一言で言うのならドクトルは狂人だ。
風貌もそうだが、何より雰囲気で分かる。そもそも上官でなきゃオレだって近づきたくない。

………こんな人間が、この計画を率いてるというだけで多少なりの危険性が垣間見えるという物だろう。
まぁ言い方を変えるとすれば、黒い噂に困る事の無い部隊の責任者が普通な訳は無いって事だ。


「……で、何か御用ですかドクトル――――解剖・改造以外なら、受け付けますが」

「人間なんてのはもう飽きているヨ……BETAを解剖した時並みの感動が味わえるのなら、話は別だがネ」

「では、お答え出来ませんね。オレは普通の人間なので」

「君は“普通”の定義を調べた方が良いヨ。この計画に参加してる時点で“異常”なんだからネ」


笑みを顔に貼り付けて言うドクトル。
そりゃ、トップがこれじゃあな――――その言葉は喉の奥に押し込み、オレはコーヒーを一口だけ飲む。

アメリカより戦術機から煙草まで、潤沢に支援されているこの部隊。
コーヒーだってモドキじゃない本物、ここだけ国連軍であって国連軍じゃない……そんな場所だ。


「……酸っぱい」

<Were sugar and milk done?>

「カフェ・オーレになるから駄目だ……というか、何で知ってる?」

<Search me>

「――――ハ、ハハハハハッ!君達、ありえない事をそんな日常すぎる会話デ………笑うしか無いヨ!」


ただ、酸味の強いコーヒーにミルクか砂糖を入れたらどうか?の会話で五月蝿いくらいに騒ぐ。
傍から見れば異常だが、実情を見れば変に思うだろう。

変な円筒のポッドと会話する人間に、それを見て笑うマッド。
これだけで逃げ出す準備を完了する。というか、絶対に逃げる。

そんなオレの心は流石に読めないであろう博士が笑い疲れたのか華奢で安っぽい椅子に身を預け、水を貪る。
それを見届けながら、ようやく呼ばれた理由が聞けそうだな、と…そう思った。


「じゃあ、仕切りなおして……ドクトル、用件は?」

「ああ、うん……この計画に参加してる君に聞くのもアレだけど、無人機ってのは“どんな局面で運用される”と思うかナ?」


そう尋ねて来るドクトルにオレの顔が歪むのが分かる。
無人機を運用するのがアメリカやオーストラリア等のBETAの脅威に曝されない様な国と知っての事だろうか?

……いや、この狂人はそうと分かっててこそ聞いているだろう。
そういう人間だ。


「……基本、単調な動きしか出来ない無人機では常に変化し続けるBETAとの戦闘に対し、臨機応変に対応できません」

「ふむふむ、続けて?」

「……よって、主に運用されるのは人間に対して。反政府組織、難民解放戦線……アメリカがお好きな言葉では、テロリストと呼ぶな」

「その通り!」


満足そうに笑うドクトルにオレは小さく息を吐いて椅子に座り直す。
そう、現在使用されている戦術機の無人制御技術では『有人機からの命令を実行する』しか出来ないのだ。

例えば、「A地点の目標を撃て」という命令を下せば命令を実行するだろう。だが……ただ、それだけだ。


玄人と言われる程にBETAと血で血を洗う殺し合いをした訳じゃないが……BETA相手の戦いは経験と機転が物を言う。
常に全てを把握し、常に思考を止めず、そして最善に向かう攻撃・機動・進行ルートを算出し、そして行動に移す。

この全てが生き残る事に繋がっていく。
そして、行動は考え無しで行えば死ぬだけだ。考えるのを止めない、オレはこれが重要だと思う。

サニーを含めた無人化計画の要である学習型AI達。
その完成系は命令を待つまでも無く、自分で考えて自分で行動し、作戦を遂行する無人の戦闘部隊。

恐れを知らず、一定の性能を引き出せて人材育成を育成するより早い。
アメリカからしたら大喜びだろう。どうせあの国だ、売るにしても利権絡みでゴッソリと持っていくに決まってる。

それに、国連軍基地で開発をしてるのは数多の国で作戦を行ってるのも理由がある。
桜花作戦以降、各国の戦線への介入力が高い国連での試験運用のし易さを求めた結果だ。

米国として「新兵器開発するから戦線へ参加させろ」と言うより、「国連として参加させてくれ」の方がマシだ。
国連の力を必要とする国は未だ数多い。戦場には困らない。


「―――そう、BETAとの戦争が無人化すればカの国は勿論、世界的にも大きな影響が及ぶヨ」

「……興味ない」

「そう言わないでくれヨ中尉、君とサニーは最も異質で最も可能性を秘めているんだかラ」

「可能性?」

「そウ!思考し、判断するAI!今は君に対してのみ作動……いや、返事をし、会話するサニー君だが最も可能性を秘めているとも言えル!」


―――サニー。
現状では人の様に話し、意見を良い、そして回答する人の様な自我を持つ存在。
幾ら学習型AIなんて、訳の分からない存在であってもこれは可笑しいと思う。


「……ドクトル、サニーがこうなっているのに対して、何か知りませんか?」

「知らないなァ……大体、知ってたら興味もない研究に時間を割かないヨ?――――ああ、少しだけ心当たりはあるケド」

「それは?」

「ンッフッフ……教えられないネ」

「………」

「怖い顔しないでくれヨ、そんな視線だけでモ老人には堪えるンだからサ………でも…うん、そうだナ」


はぐらかす様な態度を取るドクトルが、何かを考える仕草をする。
そうしてる事、3分。何かを思いついたか、はたまた気になったのか……オレに笑みを見せながら聞いてきた。


「………君、子供の姿を幻視しないカイ?」

「―――――ある、な……いえ、あります」

「そうか……うん、もう帰ってイイよ」

「……失礼します」


口元に手を添え、深く考えだすドクトルの姿にオレは先程の問い掛けの意味を聞こうと思ったが止まる。
聞いても望む答えは返って来ないだろうし、気にする事でも無い。

……ただ一つ、オレの中で気になっていた物が一回り大きくなっていた。




―――――サニー……君はどういう存在なのか―――――



 ◇


「―――――クカ、クカカカカカカッ!!」


私と調整用の作業台に乗せられたサニー君以外は誰も存在しない研究室に声が響く。
その声はよほど大きかったのか、中尉が残していったコーヒーに小さく波紋が出来るほどだ。


「――――――――最高ダ!」


しかし、そんなのは気にもならない。
近年、熱が冷める様に失いつつあった“欲”が……私の中で湧き上がっていた。


「全身の内臓を人工物に変えたヒトは人間?機械に人間の意思が宿ればヒト?――――分らなイ!これは生命に対すル挑戦状ダ!」


サニーという、あの中尉が名付けたAI。
いや、正確に言うのなら彼が“機械で組まれた、AIと思っている”存在。

その正体と、その彼女の死亡と生誕をこの手で行った人だからこそ……笑いが止まらない。


「故に不可解!故に理解不能!まるで思考が読めナイ!人としての形を失い、今まで多くのサンプルが心を閉ざした中で最も輝く彼女ガ!」


第三計画という、試験管ベイビー製造技術で生み出された自我すら確立していない人間。
第四計画という、機械で作られた脳に人としての記憶を刷り込んで生み出された対BETA諜報員。

その二つで生み出された技術を組み合わせ、生まれた生体CPU。
覚醒せず、数多の犠牲の果てにこの世に残る純潔なるラインの乙女。


「黄金(肉体)を失いしラインの乙女!ああ、可愛い可愛い我が娘よ!私に可能性を見せてクれ!!」




―――――機械という体に、心宿す瞬間を。






後書き
R-TYPE(シリンダー機体な意味で)・戦闘妖精雪風の一部をオマージュしてます。

・ドクトル
変態、変態、変態、というかマッド。

・ラインの乙女
リヒャルト・ワーグナーが書いた楽劇、「ニーベルングの指環」、それに登場する三人の乙女(ヴォークリンデ・ヴェルグンデ・フロースヒルデ)の事。
彼女らはライン川の川底に眠る「世界を支配する事が出来る黄金」を奪われ泣き崩れ、黄金の奪還を望む。
多分、この部隊が保有するポッド搭載機は三機。



[22430] 妖精の舞う空【その3】
Name: ブシドー◆fddcbbd2 ID:10f8d4d5
Date: 2010/12/04 11:09

BETA大戦下におけるアメリカという国は俗に言う安全地帯だ。
何時ぞやはアメリカの真上に位置するカナダって国にBETAの着陸ユニットが落ちた。
だが、素晴らしき世界の盟主たるアメリカはカナダの領土半分を核による放射能汚染という尊い犠牲を持ってしてそれを退けたのだ。
ありがたすぎて涙が出そうだ。

そんな、故郷カナダのクソみてぇに冷たい土の中で眠っているオレの両親はその時にはアメリカに移住してたらしい。
そんなオレは体としてはカナダの人間なんだろう。
だが、育ち方はアメリカという国に染まっていた。

そんなアメリカでの人生は……色々あった。喧嘩だってすれば女も抱いた。
放火すれば、強盗も―――――もしかすると殺人をした事があったかも知れない。
あくまで“したかも”で止まってるが喧嘩で相手が動かなくなるまで殴った事もある。
歯止めが聞かないって時もあるのだから可能性としてはありうる筈だ。

そんなオレを指し、「壊れてる」と言われた事もあるが…そうじゃない。
オレは人生に刺激が欲しかっただけだ。

痛みも、喜びも、悲しみも怒りも……目に見える全てを刺激に変えないと生きれない、何も感じれないのが分かってたからこそオレは「そうしたんだ」


だからこそ、ハイスクールを出た直後に“BETA”という新たな“刺激”を求めてオレは軍に入った。


だけど、アメリカはそれを十分に得るには向かない国でもあった。
対人戦を学び、BETAとの戦争を学び、対人、対人、対BETAと……殆どが人殺しという刺激を得れる技術ばかりの毎日。
そんな毎日であっても、日曜日には教会で神サマにお祈りし、帰りにアイスクリームでも食いながら平和な日々を暮らしていくのだ。
いや、マイホームの庭に知り合いを集めてハンバーガーを焼くのだってアリかもだ。

……だから、オレはアメリカという国と軍から国連軍へと所属を変える事を切望した。
アメリカでの日々――飽きた刺激――を捨て、BETAとの戦争――新たな刺激――を望んだ。



そして事実、BETAとの戦争が発するスリルはオレにあり得ない刺激を与えてくれた。



突撃級に機体ごとひき潰されるかも知れない。
地下から沸いた戦車級に食い殺されるかも知れない。
要撃級の一撃で貫かれるかも知れない。
飛んだ瞬間、光線級のレーザーで焼かれるかも知れない。

そんな可能性ですら、恐怖すら刺激に変わっていた。
別にマゾヒストでもなんでもない、性癖は普通だ。
それから考えると、オレという人間は根本からして“終わってる”んだろう。

ただ、今のオレが望んでたであろう『刺激多き戦場』に久しぶりに立ったオレは何処か冷めていた。
サニーと出会い、そして戦場という存在を遠目で眺めて過ごし、半年振りの今日は生のBETAと殺し合いだと言うのに……刺激が少ない。

(………楽しくないな)

《Lt?》

「……何でもない」

《Is combatting BETA.pull oneself together》

嗜めるみたいに告げるサニーを無視し、最後の36mm弾倉を突撃砲に装填する。
まだ戦闘開始から一時間程度、しかもそこまでBETAが多いという訳でも無いのにもう弾切れだ。
ナイフもあるにはある……あるが、近接装備での対BETA格闘戦はACTVの在り方として最も避けるべき状況であり、そして対人に限っては最強となりうるという矛盾でもある。
この高機動力はむしろ「その為に」あるんじゃないかと思う。

「……ま、友軍を見捨て生き残るのが任務だ、どうこう考えても関係ないか……逃げる為の機動性だ」

目の前に集って来る戦車級を殲滅し、矢面より大きく機体を下げるとその隙間を展開している国連軍とイタリア陸軍の部隊が埋める。
その間にコンテナから弾薬を補給しまたBETAの殲滅に加わる。
そんな、まるで同じ動作をするだけの机上で行われる作戦予定行動をなぞるみたいな戦場だ。

オレが退屈という最大の理由は、桜花作戦以前とは比べられないほどに歯応えの無いBETAなのかも知れない。

「―――ドクトルも無茶を言ってくれる…」

爬虫類じみた、ギョロリとした目が特徴的な我が上司を脳内に思い浮かべ、その画が毒だと気付いて頭を振る。

『BETAと戦ってキてくれヨ、サニー君にもそロそろ見てるダけじゃ足りナいかラさ!』

そのセリフと共に、最前線の一角であるイタリアへと飛ぶ(正確には補給艦に同乗した)事になったのだ。
内心、喜び勇んでBETAとの殺し合いに来たというのに敵が弱すぎるというのは……これではあんまりだろう?
今のオレは、『死ぬ可能性があるEasyモードのシミュレーションをプレイ』してるみたいなものだ。

「疲れたな」

《It could be just right for a warm up》

「お前はそれでも、オレはもう試合終盤だ」

グルグルと、フンッ!とでも鼻を鳴らして腕を回す少女の姿が幻視できる程に力強さを感じる文体に悪態を吐く。
彼女……いや、本当に彼“女”なのかは定かじゃないがサニーの“中身”が入っているポッド。
そのポッドの側面には白い塗料で『SUNNY』と書かれてある。

ドクトルが気を利かせたのかどうかは知らないが無機質なだけのポッドでは寂しいからだそうだ。
ドクトルはサニーを『娘』と称している所からして、このポッドに対するドクトルの執着心は恐ろしい物があると認識できていた。

「……中身、ねぇ」

オレは、片目を背後へと向けて小さく呟く。
以前から疑問に感じていた定期的に行われるサニー達のポッドのメンテナンス。
聞いた話だとCPU冷却専用の液体を交換してるとか何とか言ってるがそれだけの為に何日も必要だとは思えない。
気になった俺は調べられる範囲で調べ、時には危ない橋を何度も渡った。
文字通り、命がけでだ。


そこで、判明した事はたった一つだけだ。


その通称『冷却液』の成分は『羊水』と非常に似通っている……いや、同一と言っていい程に成分が一致していた。
この時点で、オレはサニーの“中身”を殆ど断定している。

ドクトルの呼ぶ『娘』、定期的に交換される『羊水と同じ成分の液体』、そしてこの計画の要である『思考し、最善の行動を持ってBETAを殺すAI』
その指揮官となるのがサニー達で今も行っている“学習型AIの成熟”という行為がポッドの“中身”に対してのお勉強だとしたら……

「……」

……それ以上は口にしない。
口にしていい限界があるのはオレだって知っているつもりだし、そうであっても言えるのは一つだけだ。



――――オレは、『ルビコン川を渡った――Cross the Rubicon ――』



「フン…」

もう後には引けない……それに対し、『何を今更』と吐き出す。
オレは既に人間としてクズで悪なんだろう。“普通”を名乗る気もないが自分が世間一般でいう“悪の人間”だってのを。
守るものも固執するものも無い―――そんな人間だから諦めるのも早いし味方が死ぬのも悲しいとも思えない、最低最悪の自己中心的な男だ。
神様ってのが居るんならオレは今にも死んでるだろうな。

「なぁサニー、神様って信じるか?」

ふと、そう聞いてみる。
サニーが何かしらの考えを持っているなら答えが返ってくる筈だ。
もしも、「神とは何でしょう?」と帰ってきたら来たで大いに笑えるのだが。
そんな事を思いながら薄く笑いつつサニーの回答を待つと、10秒ほどで答えが返ってきた。

《God?Do you believe in God?》

「オレは信じてもいない」

《OK.I believe you》

「おいおい相棒、オレの言葉を信じない方がいいぞ?何せ悪人だからな?」

信頼しているのかそんな言葉を返してくるサニーに呆れ混じりにオレは言っておく。
何処か無垢な相棒に、オレはそんなに信頼に値する人間じゃないと。

そしてその直後、フラッシュバックするように少女……『銀色の少女』の幻影が脳裏にチラつく。
少女は、何処か柔らかい笑みを浮かべていた。

《I Trust You―――――Forever》

サニーが、そう返す。
まるで、本当に慕うかの様な優しさが篭っていると自身が思ってしまうくらいに優しさを感じる。

「相棒…」

ふと、そう小さく呟いていた。
先ほど呟いた“相棒”という言葉に対して多少の考えが湧き上がる。
あくまでもこの機体を構成する『部品』の一つとされているポッド。
俺がコイツと出会った時には機械の塊としか思っていなかったのに、今思えば背中を預けるバディ(人間)の様な扱いを無意識でしていた。




―――それは幻視し出したあの少女が、俺にそう感じさせていたのだろうか?




(何を馬鹿な……人間の思考に他の何かを見せるなんて不可能に決まってる)

考えてもつまらない事だと…そう頭を振って考えを改める。
今はBETAとの戦闘の最中だ、いくらEasyモードだからって注意を疎かにする気はない。
恐怖という感情が理解できずに刺激へと変えるオレだが文字通り死ぬような刺激はまだ欲してない。

今回のオレの任務は『BETAとの実戦をサニーに経験させる』ことだ。
今までは戦場を見るだけ、映画で言うなら観客だが今は映画の役者って奴だ。

だから、気合を再度入れる。
もう何度も繰り返している気がするが万全に越した事は無いのだと、無駄にはならないと思い直す。
頬を二度ほど叩く。
これで気合と共に少し思考がハッキリした。

そして再度戦列に並び、無尽蔵に沸き上がるBETAの駆除を続ける。
それから暫くの時間が流れ、オレとサニーの会話が途切れるが……何故かその重圧に勝てなかったオレはサニーに問いかけていた。

「サニー、初めてのBETA戦はどうだ?」

《……be disappointed》

「……は?」

『ガッカリした』と言うサニーにオレは聞き間違いなのかと自身の目を疑いながら網膜に投影されたサニーからのメッセージを読み取る。
……どう読んでも『ガッカリした』としか読めない。
そんなオレに追い討ちをかけるのか、またサニーからのメッセージが入った。

《less interesting》

「た、楽しくないって……オレがBETAとの戦闘を楽しみにしてたのを知ってたのか?」

《Yes》

口に出さず、思っていただけの感情を指摘される。
これには流石に驚きが強く出る。気分の高揚や心拍数の上昇なんかはあったかも知れないが……それでそこまで判断できるはずが無い。

「………何でお前が知っている?」

《That's classified》

「禁則事項ね……“Need to know”か…」

《So I do》

「フン……」

禁則事項という意味で大体が予想できる。
恐らくはこの計画の根本に関連する物なんだろう。
深くは探らない……だが、“今は”だ。

「サニー」

《?》

「何時かはお前の全てをオレは知るぞ」

サニーの中身の疑い、この計画の根本に根ざす大きな『何か』……触れては駄目だと、そうオレの本能が告げている。
だが、これは“本当に刺激的な遊び”になるだろう。
そう、オレの感が告げている……派手になる、と。

《……》

「……何か、言いたい事はあるか?」





《I Trust You―――――Forever》

何処か、恐れを含んだように感じるサニーの言葉が合図のように信号が上がる。
戦域制圧を意味し、人類の勝利を意味する光が。



そして、オレとサニーの何かの始まりを告げるかのような……砲撃音が、戦場だった場所へと響き渡っていた。




続く?
・サニーの中身に関連するワード
機械&第三計画&羊水&幻視する銀色の少女=?



[22430] 妖精の舞う空【その4】
Name: ブシドー◆fddcbbd2 ID:10f8d4d5
Date: 2011/04/18 18:14





最近、オレの属する開発部隊が『死神』と現場の兵士から陰で囁かれてるらしい。



そう、小耳に挟んだが別に反論する気もオレには無い、『知ったことか』の一言でオレや部隊の面々は、片付ける程度のモノだ。
それが事実であり、オレの任務であるからだ。


オレ達―――サニーを含めて三機の特殊偵察用に改修されたF-15ACTVは―――は情報を得て、帰還する事こそが最上だ。
その任務に従事する際、危機に陥るであろう友軍機が助けを求めようが、囲まれようが、それを利用して帰還する。
非情とも、冷酷とも、外道とも言える判断を瞬時に下せる……それこそが、オレがこの部隊に求められる理由であり、価値だ。
だからこそ、その程度の言葉、オレにはどうでも良いことだ。


(最近じゃ、BETAと戦う事も増えてきたけどな……)


ふと、眠気に閉じそうになる目蓋を開いて、コーヒーを啜りながらそう思う。
確かに、今では以前よりは自衛以外の戦闘にも参加しているが、最近は撃ち漏らしのBETAを適当に撃ち殺す事が多くなってきている。
酷い時は兵士級一体だけだった経験もある。

正直言わせて貰えば、こんなんじゃサニーに経験を積ませるという目的すら達成できるか怪しいものだ。
サニーらは、限りなく戦場に近い……それこそ最前線で経験を積む事こそが求められている。
それは、サニー達を管理するドクトルも同じ考えであり、何よりご本人であるサニーも同じ答えをオレに伝えていた。




《I want to fight against BETA.Never having lost》




―――私はBETAと戦いたい。絶対に負けない。





前回の出撃から帰還する際、そうサニーは呟くように、オレへと向けてなのか、それともオレの上官に位置するドクトルへと向けてかは知らない。
だが確かに、そんな“意思”を明らかにオレに示した。
これは、サニーが自ら考えて意見した、彼女なりに不安に怯えているからこその言葉なのかも知れない。


サニーにとってBETAは、殺すべき敵だ。


サニーはそう教えられ、そう学んだ。
だが、今のサニーは“敵”となる筈であるBETAとは存分に戦えていない。
つまり彼女は、自分の兵器としての存在意義を奪われる事に対しての恐怖を感じているのだ。
BETAと戦う事が自分であると理解している今の彼女には、それが怖いんだろう。


ドクトルが望んだのはこのサニーの変化なのかも知れないな、とオレは思った。


サニーが自ら望み、BETAを殺す事に執着する。
それこそが、この戦術機部隊の無人化計画の一つのターニングポイントなのだろう。

この報告を聞いた次の日には、ドクトルはBETA間引き作戦に従事する旨を記入してある出撃命令書を、オレに引き渡していた。
そして、その事をサニーに告げると、こう返ってきていた。


《I will do my best》

―――最善を尽くす。


そのサニーの、簡潔でありながら、思いを言ったかのような言葉。
それを見たオレは、気づかぬ間にサニーに問い掛けていた。


「お前はもう、一人で戦えるのか?」と。


サニーは、程なくしてこう答えた。


《I need you》

―――私にはアナタが必要だ。


彼女はそう言い、また続ける。


《We had no alternative but to fight》

―――私たちは、戦い続けるしかない。





《Why it exists》

―――それが、存在する理由。





そこまで言葉にせず読み上げたオレは、自分の呼吸が止まっていたのに気付く。
ゆっくりと深呼吸し、オレはサニーの言葉を脳内で反復する。



アナタが必要、戦い続ける、存在する理由。



この三つの言葉と、サニーの求めたBETAとの戦いという現実が混ざり合う。
彼女は、サニーはオレを必要としているのだろう。
それは理解できるし、個人的には嬉しく感じる。

だが同時に、オレは彼女の物言いに薄気味悪さすら感じている。
サニーは、私たちは戦い続けるしかないと、そう言い、それが存在理由だと言った。

彼女はそれで良い。
彼女は自分を兵器であると意識した上での言葉だし、兵器は戦いに身を投じる事が存在意義なのだから間違いではないだろう。
だが、問題なのは彼女とはセットのようにオレが含まれている事だった。


オレは兵器には成り切れない、思考を戦いに最適化するのが精一杯だ。
オレは“衛士”という、戦術機を構成する一つの部品には、全てを奉げれない。

『恐怖』という感情を知っているからこそ、オレは今まで生き延びてきたのだから。


オレは何時かはサニーと別れる日が来るだろう。
それがそんなに遠い未来では無いのは、彼女も知っているかも知れない。
もしかすると、それでも…サニーはオレと居たいと、そういう意味で言ったのだろうか?

もし、そうだとすればだ。
オレはその前に、彼女には一人で戦うという事を理解させる必要がある……オレはその内に居なくなるというのを。


「サニー、オレはお前とずっと一緒には居れないよ」

《……Why?》


―――何で?

少し考えるように、間を置いてサニーは言った。
オレも、続けて言った。


「お前は、何時かは一人で戦うために、オレと居るんだ。つまり、訓練期間だ。訓練期間が過ぎたその時は、オレはお前の傍に存在しない」

《NO.I need you》

「聞け、サニー。お前とオレは…」

《NO》


オレの言葉を聞きたくないと、そう言うようにサニーは言う。
まるで子供だ……オレがそう呟くと、幼い少女がまた身を震わせたような姿が見えた気がした。
お決まりの幻視だ、特に気にする事じゃない。

だがしかし、オレはふと考える。

サニーは、オレを必要としている……彼女の物言い―――文字だから文字言い、か?―――からして、恐らく衛士としてではなく、オレという個人を。
衛士だけならば、オレより優れた者は数多く居る……サニーは、“学習”として入力されたそれをデータで知っている。
だからこそ、何故オレを求めるのか、と言えば、思いつくのは簡単だった。


サニーは、孤独を嫌っているんだ。
だから、唯一親しくしているオレから離れたくないと、そう言っているのだろう。


思えば、サニーが会話という行為を行うのはオレだけだ。
他の人間にも、事務的な受け答えはちゃんとするが、人間のような何気ない会話は、オレとだけしかしない。
オレ自身の思い込みでない事実として、それはハッキリとしていた。


理解できた。
サニーは、子供だ。
オレという親から離れる事の出来ない、幼い子供。
その例えで考えてみると、妙に納得できたオレは、思わず苦笑する。
そんなオレに彼女は、言葉を続けた。


《Anyhow, don't make me one.I want to go with you》

「………」




―――私を一人にしないで。アナタと一緒に行きたい。



サニーは、文体で分かる程に“弱気”だった。
オレは、想定以上に厄介そうだと……心の中で呟いた。

数ヶ月前までは機械的に応答するだけだった彼女が、今では人間のように言葉を発し、今では幼さとも言える感情を表に出す。
ドクトルはこれを予測していたのだろうか?
仮に、BETAとの戦闘を望む事を予測してたとして、サニーがオレに依存するとまでは予想できるのだろうか?

オレは、あの爬虫類のようなドクトルの顔を思い浮かべながら、思う。
『予測できなくても、対応する』……それだけ、ドクトルはサニーに入れ込んでいたから。


仮に、だ。
ドクトルが、オレがサニーに害ある影響を齎すと判断すれば……問答無用でサヨウナラ、だろう。
オレは、その対象にオレが入らない事を短く祈り、あやす様にサニーへと声を掛けた。


「……大丈夫だ、サニー。オレは何処にも行かないよ」

《……Really?》

「ああ……サニー、今度の作戦も、二人で成功させよう。何時も通りに、だ」


“二人で”という部分と“何時も通り”を強調して、サニーに言う。
それは、「今は何も考えず、任務に備えろ」……そう暗に言ってる物でもあるが、別の意味では「オレと一緒にまたお仕事だ」と、オレは言っている。
まだオレと一緒だと、暗に告げている。

サニーも、それ位は自分で分かる程に成長していた。
だからこそ、悩んだ末のように、彼女はオレに告げていた。



《……Roger,Lt》





  ◇




『中尉、作戦内容は頭に叩き込んだな?』




機体を揺らす心地よい振動。
この振動は、オレの乗るACTVを輸送していたトラックが停車し、機体を立ち上げている作業による振動だと、オレは眠気眼で状況を理解する。
その揺れに身を委ねながらも聞いていた戦域管制官の言葉は、何故か耳によく残った。

無感情だな、とオレが声から感じた感覚はソレだと思い当たる。
この声の持ち主は、感情が無いんだろう。

まるで、人形に話し掛けられているような気持ち悪さが、耳に残る原因なんだ……そう、オレは結論を下した。
それと同時に、この部隊向きの人材でもあると、口にせずに呟く。
仕事は優秀だが、爪弾きにされた者だろう。
そんな奴の特徴に、ピタリと合っている。

その人形の声は、任務内容の最終確認を告げる物だったが、オレよりサニーの方が耳を澄ませていた感はある。
今も、網膜に写るディスプレイには細かく作戦内容が記入され、《Mission UNKONWN》から《Encounter an enemy BETA STBY.Let's do it,Lt》へと文章が大きく変化する。

―――対BETA戦スタンバイ。やってやりましょう、中尉。

これは、サニーなりの準備完了と覚悟が決まったという合図なんだろう。
そう理解したオレは、通信相手に向け、口を開いた。


「こちらM-03、任務了解。今作戦目標、戦域内の光線属種の優先的掃討」



M-03……マリオネット03。



戦術機無人化(マリオネット)計画と名付けられた部隊の三番機である事を意味するその名前。
オレとサニーを纏めて呼称されるその名前は、お似合いだとやはり思う。

機体の肩には、操り糸で吊り下げられたF-4のエンブレム。
それがこの計画の本質を表していた。


サニーの存在が公表されたとしよう。
まだ性能を見ない多くは、サニーを人形を操るパペットマスター程度に思うだろう。

出来の悪い人形劇だ、と。
いや、人形遊びをする子供程度に考えているかも知れない。




だが、それは違う。




オレが、それで終わらせない。
サニーも、そこで終わる気は無いだろう。



彼女は、王となるのだ。
数多の戦術機を率いる戦場の支配者、近づく存在を焼き尽くす猛火、サニー、戦術機を統べる女王。
オレが居なくても、戦える強い存在に、常に孤独を強いられる王へと。


「(となると、今のオレは女王お抱えの騎士とでも言った所か?)」


正直、柄じゃない。
物語で言えば、彼女が王になる為の引き立て役、嫌味な叔父という名の小悪党だろう。

だが、そんな役割になる必要があるオレを、彼女が今も必要としてる事は事実だ。
だからこそ、オレはその内に『裏切りの騎士』の役として動く必要がある。
物語では中盤に裏切り、終盤には王自らが処断される、そんな存在に。

それを乗り越えた先には、彼女がオレという騎士を不要とし、新たなる騎士として多くの無人戦術機を従えるのだ。
その光景を思うと、何処か悲しい気もするが、それは何時かは来る出来事であり、決められた事だ。
この問題は先延ばしで解決する物事では無いからこそ、行動に移す場合は早期に動く必要があるだろう。




オレもサニーも、傷が浅くて済む間に。





「……ん?」


意識が戻る。
短く、呼び掛けるような電子音がリズム良く響いている。
見れば、オートで行っていた機体のチェックは完了しており、それを知らせるために、サニーが鳴らした音だった。

何故それがサニーの仕業か分かるかと言われれば、サニーからのメッセージ付きだったからだ。


《action,Lt》

―――行こう、中尉。


サニーはそう言い、オレを呼ぶ。
まるで、アイスクリームの屋台を見つけた子供が、急かすように。


「……ああ。行くぞ、サニー」


ふと、考えた。
サニーが、オレにそう聞いてくるのはあと何回あるのだろうか?

オレが思うに、サニーはもう、オレに伺い立てなくても、彼女は戦える。
戦えるほどに強くなったと、オレは知っている。



それを鑑みると、オレはまだ彼女の主として認められているのか。
それとも彼女は、寂しがりやなのか。
それとも、兵器としての性能を維持するのにオレが必要なのか。



そんな事を思いながら、オレはサニーへと答える。
行こう、と。



《Roger.All weapons free.Let's Dance、Lt》

―――了解。全兵器使用自由。さぁ、踊りましょう、中尉。


サニーが、合図のように文字を躍らせる。
今度は、オレをダンスへと誘う、妖艶な女性のように。




オレは、そんなサニーに答えるように、操縦桿を押し倒す。
幼子の手を引くように、ダンスパートナーの手を恭しく取るように。




同時に、軌道上に待機していた米軍・国連軍による軌道間爆撃を迎撃するレーザーが、空を覆っていく。
それを見たオレは、「まるでミラー・ボールだ」と、無意識に呟いていた。

その光に照らされる事は、勘弁したい所だが。


『砲撃迎撃率90%、高濃度の重金属雲の発生を確認――――司令部より通達、全隊出撃許可』

「M-03了解」


機体を、加速させる。
武装は突撃砲2挺にナイフ2本、貧弱に思える武装だが、この機体の最大の武器は速度と機動力だ。

最低限の武装を完全に使いこなし、機動に専念する。
簡易的な火気管制はサニーが行ってくれるので、オレは彼女に答えるだけだ。


『レーダーにBETAの反応、数は15……試運転だ、排除しろ』

「M-03了解」


最大望遠で捕らえた赤い影、戦車級BETAだ。
その影が、餌を見つけたと言わんばかりにオレへと向き直る。
腹に着いた歯が、ガチガチと揺れていた。

オレが乗る特殊戦の戦術機は、並みの戦術機とは段違いに高性能な情報収集機器を搭載している、
地上版AWACSとでも言うべき索敵・情報収集・情報処理・指揮管制能力を備えたこの機体は奴らにはご馳走に見えるだろう。

ふと、思った。
オレ達、特殊戦が『死神』呼ばわりなのも、この機体を狙う為にBETAが集中するからじゃないか?
BETAが、高機能なCPU搭載機を優先して狙う事は判明している。
つまり、その機体を護衛する部隊や周辺に展開する部隊は、膨大な数のBETAを相手させられるのだ。


『死神』の俗称も、間違いじゃない。


気のせいか、周辺の部隊は声にしては言わないが、内心では愚痴を漏らしているだろうな、と思う。



これは出撃準備段階の事だったが、明らかに敵意を向けてくる部隊も居た。



一部の機体の銃口が此方に向いている……IFFにも、機体のログにも残るので照準波は当てられていない。
だからこそ、オレは気付かなかったのだが、それに気付いたのはサニーだった。
オレにサニーが捉えた映像を表示し、彼女は言った。


《警告。味方部隊から照準が合わされている。照準機を味方から準作戦目標へと変更―――攻撃許可を》


オレは彼女に言う。


「放っておけ、オレ達には関係ない」


それに納得したのか、サニーは短く《了解》とだけ良い、沈黙した。
もう、興味を無くしたのだろう。




……そんなのを、オレは思い出していた。
オレは黙る、サニーも黙っている。
サニーは、その空気を払うように、素早くオレに告げた。


《Engage》


レーダーを見れば、肉眼で確認した戦車級BETAが射程距離に入っているのが見えた。
オレは、それを確認して機体を一気に進ませる。
射程距離に入る。


《RDY GUN》


サニーが、最初の敵を捉え、照準する。
オレが引き金を引けば、敵は、BETAは死ぬ……サニーは、それを求めているかのような速さで、BETAへと照準していた。
そして、撃てと……彼女は、そうオレに言う。


「M-03、交戦。FOX3」


オレは、それに答えるように引き金を引く。
BETAが死ぬ、オレが殺す。
サニーは、それを満足そうに見ていた。


『戦車級の排除を確認。目標は光線級の排除、早急に完了せよ』

「M-03了解」


機体を飛ばす。
オレが担当する光線級の個体数は54、その内の半数は今は他BETAの体躯によって射線を遮られている。
それを確認したオレは、サニーに照準を託し、機体を空へと上げる。


《Fire》


突撃砲を構えるアームが動き、サニーの照準に合わせて光線級を狙撃していく。
機動入力データを先読みし、確実に照準を合わせ続けるサニー。
人では有り得ない機械的な精密さ……今はその全てが有り難い物だ。

他人がどう言おうと、これは生き残るための力なのだから。


「サニー、BETAの中に潜り込む」

《Roger》


だが、幾らサニーが補助したからと言って、数百ものBETAの中に点在する光線級全てを一度に殲滅する事は不可能だ。
だからこそ、機体を光線級に捕捉される前に地表へとダイブさせる。
地表へと降りた目の前には、レーザーを回避するための壁であり、此方に攻撃を仕掛けくる存在でもある要撃級が存在した。


「……ッ」


機体が横滑りする。
地表面を滑走している中、サイドブースター噴射による急激な機動の変化は瞬間的に強大なGが負担として掛かっていく。
だが、目の前の要撃級の一撃はそのお陰でしっかりと回避できている。

オレは、それを確認するまでも無く、機体を一気に加速する。
まだ、BETAによる包囲網は完成していない。
だからこそ、今は囲まれる前に早く突破する事を考える必要があった。


「FOX3」


進む、撃つ、避ける、撃つ、進む、避ける……。
何処までも機械的に、作業のように光線級BETAを排除し続ける。
今までとは毛色が違う、自らが前に進んで出て戦う任務。
孤軍奮闘ではあるが、機体の性能とサニーの補助……この二つだけで、十分に戦えていた。


「あと10」

《Seven》

「先に言うな、4」

《Sorry,Two》


表示された光線級の残存個体数が10を切り、オレとサニーは言い争うように残りの数を読み上げる。
ラスト2体……サニーが制御する右腕、オレが制御する左腕が、それぞれ光線級を狙う。
同時に射撃、排除。


《ZERO……MISSION CMPL》

―――残存数0……任務完了。


サニーが任務終了を自動で報告し、オレは残った弾をばら撒き、突撃砲を破棄する。
残りの36mm弾倉が最後の一つ、死重は排除し、レーダーを見る。

見事なまでに、BETAを示す赤一面だ。
飛んで逃げても良いが、オレは一つ試してみようと、ふと思い、オレはCPへと通信を繋げる。
行き掛けの駄賃という奴だ。


「M-03よりCP。ミサイルによる支援要請、最終誘導をサニーへと移行……サニー、好きにやってみろ」

《Roger.DE Sunny for CP.Follow me,Point C-4-11》

『CP了解。ポイントC-4-11へと支援砲撃』


オレが操るACTVはナイフを引き抜き、すれ違い様に2体の要撃級の首を掻き切り、その隙に突撃砲へと弾倉を新たに装填する。
その操作を行うオレの後ろで、サニーは支援砲撃の着弾予測箇所をマップに表示する。
あくまで、これはサニーにも自己の判断で行動させる訓練の一環だが、熟練の電子戦オペレーターのような手際の良さは堂々たるものだ。
そして、サニーからの要請を何の疑問なく行動に移すCPオフィサーは、やはり人形のように要請を受け、実行していた。


『要請していたに支援砲撃が来る、退避せよ。着弾は―――』

《CAUTION.Incoming missiles.Fall back》

ミサイルによる支援要請をして1分。
CPからの通信と共に、サニーから《ミサイルが接近している。退避》と、警告があった。
レーダーをチェック、確かにミサイルだ。


《20 seconds》


周辺の光線級がほぼ壊滅した事が情報として各隊に発信され、この空域の高度制限が第3級警戒まで引き落とされると同時に、サニーが着弾20秒前を告げる。
オレはその言葉に返答するよりも早く、操縦桿と動かし、フットペダルを踏み込んだ。

巨人の足が大地を蹴り上げる。
その勢いを加速させるように、跳躍ユニットに火が点る。

ACTVが装備する4基のプラッツ&ウイットニー114wb大排気量エンジン。
それが命を燃やすように激しく、速度を生み出し、ミサイルからの安全距離を稼ぎ出す。
体に掛かるGは、感覚的には3Gといった所だろう……それを、頭で考えた瞬間、サニーが告げた。


《……3、2、1、Impact》


沖合いに待機する支援部隊である米艦隊より発射された十数本のミサイルが、白い尾を引き地面へと突き刺さる。
瞬間、爆発。
景気よく吹き飛ぶ戦車級が、その威力を端的に表していた。

それと同時に、周辺に展開していた国連軍部隊から驚きの声が通信回線に入っているのが耳に入る。
直前までサニーが誘導を続けたミサイルの一部は進路を変更し、囲まれつつあった国連軍部隊の周囲の着弾した。
だが、そのミサイルは周辺に展開していた部隊を巻き込む事もなく、BETAだけを殲滅し、活路を開く。

その最後まで精密すぎる攻撃が、衝撃的だったようだ。
オレも正直に言えば驚いているが、当然だと思ってもいた。




戦場の支配者……成程、この例えは言いえて妙だったという訳だ。




そう、上手い例えをした以前のオレに苦笑していると通信が繋がる。
人形オフィサーからだった。


『M-03、M-01と合流し補給地点へと撤退せよ。そちらの戦域の脅威度は低下、次に移る』

「M-03了解」


空に浮いたまま、右肩部スラスターを大きく噴かし、機体を独楽のようにクルッと回す。
反動は左肩のスラスターを同時に、弱く噴かす事で受け流した。
ACTV並みの出力とスラスター数を持つ機体ならば可能な、空中でのドリフトターンとでも言うのだろうか?

一瞬だけふらついた機体に鞭を打つように、スロットルレバーを押し上げ、機体を巡航飛行させる。
その瞬間、加速だけで言えばF-22Aにも劣らない速さでACTVは突き抜ける。
まるで、突き進んでいく弾丸のように。

今のミサイルの一撃はこの戦場を人類側に絶対的な有利を約束している。
だからこそ、オレ達は振り返る事も無く、その場を後にした………




………しようと、していた。




「っ……!」


突如、オレの耳に届く光線照射警告。
付近の光線級は壊滅し、他の戦域の光線級に狙われる高度でも無い……そう思ったオレの疑問は、解決する。
ミサイルで引き裂かれた要塞級だ。
その中から、這い出て来たのだ。



光線級が、12体も。



機体が自動回避を取ろうとする。
だが、それは遅すぎるとオレは手を伸ばす。
機体をオートの巡航モードからマニュアルの戦闘機動モードへ、強制的に切り替える一瞬の瞬間。



その瞬間に、何も感じさせない双眸を此方に向ける光線級は……オレとサニーが乗るACTVを、撃ち抜いていた。


「メーデー、メーデー!こちらM-03!光線級に撃たれた!!墜落する!」


黒煙が吹き上がる。
レーザーの一撃は、右脚と右跳躍ユニットを撃ち抜き、爆発させる。
その爆発の影響で背面ブースターと右腕にも馬鹿には出来ないダメージが確認できた。

オレは、速度を少しでも落とそうとエアブレーキが最大限に発揮できるよう、姿勢制御に専念した。


だが、それは無駄だった。
高度が、足りなさ過ぎていた。





地面へ機体が激突する。






その一連の動きは、子供が手に持つ人形を地面に叩き付けたような光景だった。














《DE Sunny》







脳が揺れ、世界が回る。
座席から弾け飛び、強打した頭部から流れ出た血で赤くなる視界。
それが、混ざり合い、世界がまるでぶち撒けた苺ジャムのような色合いになる。

その異世界染みた景色と、体に叩き付けられたハイG。
組み合わさった二つに耐え切れず、拒絶反応のように胃の中身を吐き出したオレに、サニーからのメッセージは最初は目に入らなかった。


ただ、そんなオレでも出来た事があった。
耳に一瞬だけ入った警告音に、反射的に全身を緊張させること。


そして、歪む視界の隅に、サニーからのメッセージが目に映る。



「…………!」



そのメッセージに、オレは目を見開き、何も出来ず、何も言えず、ただソレを見た。










《I HAVE CONTROL》











サニーが動き出す。






後書き
ちょびちょびと書いてみる。


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