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[22477] 【習作】東方龍球伝(東方×DB)
Name: フクウ◆9afd6316 ID:117f5b5f
Date: 2010/10/25 01:06
【諸注意】
この作品は「東方project」と「ドラゴンボール」をクロスオーバーした二次創作です。
処女作なので、所々問題があるかもしれませんが、その時は遠慮なく指摘しちゃってくださいっ!

変更点
10/17 タイトル変更





プロローグ


――――宇宙を救った英雄、孫悟空は自らの役目を終えると神龍(シェンロン)と共に天界へと向かっていた。

「わわっ!? なんだこりゃあ~~~!!」

しかし、その途中…空間に底の見えない穴を見つける、目を凝らしながらその内部を覗き込んでみれば、
何処までも恐怖さえ覚えるほどの暗黒だけが広がっていた。そして周りには目と表現できる物体が多数、目視できる。

ありえない光景だけが広がっている穴は、瞳が自分達をまるで見ているような気配を感じさせられる。
だが突然、その真っ暗闇な穴は周辺にいる物体を手当たり次第に吸収し始める。それは近くにいた悟空も例外ではない。

「吸い込まれる…!! ん…ぎぎぎ…っ!!」

突拍子もなく非現実的な動作が悟空に襲い掛かる――。が、悟空も黙ってそのまま飲み込まれるわけにもいかないと踏ん張り続ける。
しかし吸引力は確実に強くなっている事を悟空は肌で感じていた、ただ無作為に吸収しようとする穴を睨みつけていたが。

―――だが悟空はふとその目の前の穴を見て思い浮かぶ。“この物体は自分を呼んでいるのではないか”という事に、
何故そう思ったかは恐らく悟空自身はわからなかった、直感に等しいのだ。そしてそれが一瞬の隙を生み出す事になってしまった。

「ぎぎぎ…っ、うわあああああぁぁぁぁーーーっっ!!!」

『悟空…! まさかあの空間は……』

もはや目の前の物体はブラックホールだった。神龍の声は空しく、悟空はその中へと落ちていく―――。
そしてまた新しい冒険が、はじまろうとしていた―――果たしてこれから先、悟空を待ち受けているものとは…。



[22477] 其の壱 「フランドールと孫悟空」
Name: フクウ◆9afd6316 ID:117f5b5f
Date: 2010/10/17 02:36
―――其処にはある洋館があった。紅に彩られた館の前には真っ赤な絨毯が引かれた道。その先には一つの立派な建物があった。
この一つの建物は人々から「紅魔館」と呼ばれていた。その名前に相応しく、まるで館を象徴しているかのような紅色の館であった。

だが此処に住む主は人の血を食す事で生き長らえる吸血鬼が住んでいる。吸血鬼はその種族の特性上、太陽の光を肌に浴びると気化してしまう。
だからこそ館の内部はとても暗く、外の光は殆ど入ってきていなかった。窓から射しとおす日光で丁度良い暗さが保たれていたのだ。


「…つまらない。どの玩具もすぐに壊れちゃう…もっと頑丈な玩具がほしいなぁ…。」


薄い黄色の髪が肩につくほどの長さとこの館の紅のような色を持った赤い瞳を持った少女は紅茶のような色の床を見下ろしていた。


「前の玩具はなんだったかな…人間だったかしら。久しぶりの人間だったからあの紅白や黒白みたいに遊べると思ったのに。
 あっという間に勝負がついちゃうなんて…はあ、今日の玩具もすぐに壊れちゃったし。…ついてないなぁ……。」


独り言のような言葉を小さな声でぶつぶつと並べる。それらすべての独り言は玩具に対しての不満だった。
退屈そうに何か他の玩具を探しているのか辺りに視線を向けるが、物と呼べる物体は少女にいる部屋内には存在していなかった。
あるとするのならベッド。真っ赤な掛け布団がかけられたベッドのみ。更に言うなら蝋燭につけられた火が部屋を照らしているだけだ。


「……お姉様、どうして私を地下室から出してくれないのかしら…わたしがキライなのかな…パチュリーや、咲夜も最近は……。
 そういえば咲夜はお姉様ばかり味方になって全然私の話なんて聞いてくれないし、パチュリーはお姉様の親友だからお姉様ばかり…。
 小悪魔なんて、私が近寄るだけで睨んでくるし…ううん、あれはなんていうか、異物でも見ているような…妖精なんかも…。」


一度思い詰めれば悪い事ばかりが飛び出してしまっていた、そして暫く言葉を紡いでいる途中で少女は気がつく―――。
「自分には仲間がいない」という事実に気づいたのだ。何時だって自分の知っている者は他の誰かの味方なのだ。
少なくてもこの少女が知る範囲内ではそうだった、自分の話を聞き、自分を仲間として扱ってくれる者がいない。

改めて今自身は孤独であるという事に悟れば、薄っすらと目に涙がたまりはじめていた。


「――――神様、私にお友達をください。」


ゆっくりと目を閉じて、叶えてほしい願い事は一つ。その思いを金髪の幼い少女が口にした。
沈黙と静寂が部屋を包み込む。少女が喋らなくなったからこそ起きる不気味なほどの静けさだった。

だが突如、黙っていた口が突然、言葉を再び紡ぎだした、それは恐らく目の前の物に対してだ。


「…!! あれって…なにあれっ!? 穴が…あいてる…?」


何かの力が集中している事に気がつく、禍々しく強大で思わず恐怖を感じてしまうほどのプレッシャーを放っているような力の塊。
閉じていた目を開けば眼前を見れば認識する――。空間に穴でも空けたような、その場には不適切な物体。真っ黒な闇の渦。
浮かんでいるとも形容できるが、その可笑しな黒い物体は浮遊しているというより場所という名の空間自体を引き裂いている物だ。


「あれって、目…? 変だよ!こんな所に目があるなんて…なにかしら、こっち見てるみたい…気味が悪い……なんなの…?」


目を凝らして闇に浮かぶ瞳を見つめる、不気味に感じたのか軽く身震いをしながらも視線を決して離さなかった。

――瞬間、ずっと見通していた少女は違和感を覚えた。何か声が聞こえたのだ、この非現実的な物体から、叫び声が、
聞こえてくる物は子供っぽく男の子のような悲鳴、更にそれがどんどん大きくなっている、まるでこちらに近づいているような。


「うわああああああああああぁぁぁぁぁ~~~~っっ!!!」


漆黒だけが続く空間の中で一人の四方八方に分かれた黒髪の少年が、はっきりと少女の瞳に写った、その少年は間違いなくこちらへ落下している事に気づく。
驚く暇もなく少女はその場から避難をするように離れる、奇妙な空間の穴から叫び声はどんどん大きくなりながら―――突如、激突する衝撃音が響き渡った。






        其の一「フランドールと孫悟空」





「いっちちち…おーいちー……。いってえ何が起きたんだ?」


顔面から床に衝突させ、なんと床下に顔面が塗りこんでいた。通常じゃ起こりえない自体を引き起こした少年は顔を上げて軽く辺りを見回す。
殺風景…というより少し寂しさを感じさせられる何もない空間、赤い絨毯が床にひかれ、家具と呼べる物は一切何もない暗い部屋にいると認識する。
ただ蝋燭の火が唯一の空間内を照らす光となり、やっと周りが見える状況。外の光は入ってこない、まるで外とは切り離されているような場所だ。


「あり? ここはどこだ? ……確かオラ神龍に乗ってて…そうだ! そしたら変な穴があってそれに吸い込まれちまったんだ!」

「…人の部屋に勝手に入ってくるなんて、それって不法侵入って呼ぶんだよ。 それに…あなた、誰?」


幼い声を耳で聞き取れば黄色い髪をした10歳にも満たない少女が自分の前の前にいる事にはじめて気がつく。

―――そもそもこの空間内ではこの少年の存在は明らかに異質な存在であり、別次元の生き物だ。それは少女にとっても未知の塊だった。
見た事も聞いた事もない謎の生命体。猿のような尻尾を生やし、形は人間とまったく同じ…尻尾だけを除けば人間と区別がつかないだろう。

だがそれは逆に悟空からすれば同じ事だった。まるで別世界とでも呼ぶべき場所に黄色い髪をした真っ赤な瞳を持ち、真っ赤な衣装を身に纏う少女。
そして背中に生える特徴的な形状を持つ翼のような物体、更に赤、橙、黄、緑、青――虹を連想させるように並ぶ羽は美しいとも表現できる。


「オラか? オラは悟空…孫悟空だ! おめえこそだれなんだ?」

「私はフランドールよ、悟空さん。フランドール・スカーレット…レミリアお姉様の妹なのよ。」


ふふん、と何処か胸を張って誇らしげに語る少女。レミリアと呼ばれる人物は恐らくこのフランと名乗る少女の自慢の姉にあたるのだろう。


「フランドールだな。後、オラの事は悟空でいいぞ。」


悟空は相手の名前をしっかりと覚えたように子供らしい人懐っこい笑みを浮かべていた、だがその態度にフランは内心では驚いていた。
この紅魔館では彼女に親しく話しかける者などいなかった、姉にあたるレミリアも自分の相手など中々してくれないのだ、暇があっても、
それなのにも関わらず自分の姉を誇っているのは少女にとっては自分の事を好きでいてくれる姉がいると信じきっているからに過ぎない。

だがそれはあくまで少女の妄想が入っているのだ。現実はまったく相手にされていない。だが今の現実は少女の目の前にいる少年が相手にしている。
自分の姉でもなく、身内でもなく、ついさっき出会ったばかりのまだ相手の事を知りもしない、名前だけ交わした初対面の相手に、唯一相手にされた。


「…じゃあ悟空って呼ぶね。 私の事も、フランって呼んで。皆もそう呼んでるから。」

「わかった! なら、フランって呼ばせてもらうな!」

「うん…それでいいよ。…ねえ、知ってる?此処では遊ぶ事が挨拶なのよ。」


悟空とのやり取りは自然とフランを笑顔にさせていた。悟空が唯一、まともに自分の相手をしてくれるからこその嬉しさを込めた笑顔だ。
フランは無邪気な笑顔を浮かべながら口を動かす。――が、その言葉が繋いでいく本質とも呼ぶべき内容は悟空には理解できないだろう。


「―――だから私と一緒に遊んでよ。あなたはコンティニューできないの。」


刹那、禍々しく強烈な力がフランを中心として幾つも集中しているのを悟空はすぐに感じ取れた。
集中した力が具現化されたように、数え切れないほど空中を浮遊するは無数の赤い光弾、邪悪な輝きを見せる真っ赤な煌きは、
敵をただ一方的に攻撃する為の道具の一つ。超常現象とも呼ぶべき恐ろしい数の紅の弾は遥か上空から眩しい赤い雨が降り注ぐ。


だが悟空は赤い雨を次々と避けていく、圧倒的な数で攻められようとも素早い身のこなしで回避し続ける。
直前で当たりそうになる紅の弾は回避できないと判断した上で次々と両手を使い、手の甲に当てながら弾き返していく。


「フラン!! おめぇいきなりなにす――。」


「あはははっ。すごいすごいっ!まるであの時の紅白や黒白みたい!!なつかしいなぁ、黒白も貴方みたいにのらりくらりと避けてたんだよ?
 でもどうやってさっきみたいに弾き返したの? こう、手を使ってたわよね、そんな風に避けちゃうの貴方がはじめてだよ、紅白や黒白も、
 さすがにそんな事やってなかったなぁ…。…じゃあ、一番最初はこれにしようかなぁ…簡単に壊れちゃやだよ…?」

避け続ける悟空を楽しそうに見れば、陰のある気味の悪い笑みを浮かべる、そして片手を天高く掲げれば凄まじい魔力が収束し始める。
それはその場にいるだけで何かの威圧感に襲われる程、悟空からすればそれは異質その物。渦を巻いて収束する魔力はやがて巨大な剣の形状となる。




「―――― “ 禁 忌 「 レ ー ヴ ァ テ イ ン 」 ” …… !!! 」




レーヴァテイン、それは北欧神話に登場する幻想武器の一つである。武器の形は杖や剣や定かではないが「災いの杖」とも称される程の一品だ。
その威力は世界を丸ごと焼き尽くし、そして滅ぼしてしまう究極の武器の一つ。その計り知れない巨大な破壊力を秘めた魔剣を体現する少女。
小さな身体とは相反するように巨大な紅い刃を片手で天高く掲げるように持つ、赤き刃が輝く光は滅びの光でありながら美しい光でもある。

―――悟空はこの邪悪な煌きを放つ全てを滅ぼそうとする刃にどう立ち向かうだろうか…。



[22477] 其の弐 「対決!悟空VSフラン」
Name: フクウ◆9afd6316 ID:117f5b5f
Date: 2010/10/17 02:36
―――神話に登場する武器を体現しようとする少女、一方では遊びと称したよくわからない決闘に付き合わされる孫悟空。

だが少女の持つレーヴァテインは世界を丸ごと焼き尽くすほどの威力を秘めているわけではないのだ、あくまで“体現しようとしている”。
美しく輝く紅の炎は決して本当に世界を滅ぼすほどの破壊力は秘めていない。故に、実際は“見かけ倒し”が一番に強く表現されているだけに過ぎない。
しかし、例え見かけ倒しだとしてもその眩い紅い光景を目の当たりにした人間は恐怖を覚えると同時に感動すら覚えるだろう。それ程のプレッシャーも同時に放っているのだ。

もはや見た目は常識的な“遊び”だとはとても形容できない風景である、まったく知らない他人から見れば悟空を殺そうとしているのではないかと勘違いしてしまうほどだ。


「―――はああぁぁぁっ!!!」


部屋中に響き渡る掛け声と共に巨大な刃を両手に持ち、その鋭い先端を真っ直ぐに悟空へと向ける、すると突如、悟空を囲むように周辺に巨大な火炎が具現化されていく。

それは悟空の逃げ道を失う結果となっていた、右を向いても左を向いても炎が包み込んでいる。そして全てを滅ぼそうとする火炎は部屋中の温度を上昇させていく。
もはや逃げ場を失い、ターゲットにされてしまった悟空は無言でただ真っ赤に燃え盛る獄炎の先にいるフランへ真っ直ぐと目線を向けているだけだった。
綺麗とも言えるような真っ赤な空間の中、―――上空にも、紅色に燃え盛る火炎が姿を現していた。それは360度から、逃げ場のない包囲された攻撃である。

このまま直撃すればただじゃすまない事を起こしてしまうだろう、つまりはフランの勝利。彼女の勝利はもう一歩手前の所まで来ている、掴みかけている。
今フランはその勝利を掴み取ろうとした刹那、勝利は少女の前から逃げた。


「あれ、は…!…太陽の光…!? ……違う、太陽の光なんかじゃなくて―――。」


全てを滅ぼそうとする炎の海はフランの視点からすれば悟空は炎に包み込まれているように見えていた、だが決して包み込まれているわけではない事にようやく気がついたのだ。
突然の不自然な突風、この地下室は構造上、風が侵入する隙はない、にも関わらず悟空を中心として強烈な風が巻き起こっている、もし地下室に家具が置いてあれば、
その家具は問答無用で吹き飛ばされ粉々に叩き付けられていただろう、それほどの威力は持っている、その奇妙な風は悟空を囲んでいた火炎を簡単に消し飛ばしてしまう。

フランの先に見えたのは光り輝く黄金の炎に包まれ、重力に逆らうように逆立った金色の髪をした悟空だった、身に纏う炎のせいで地下室の暗闇を一瞬で消し飛ばしていた。
そう、この暗黒に包まれた地下室という名の空間内では明らかに悟空は異端者、黄金の光が地下室全体を照らし出し、今まで見えてこなかった物が煌く光によって見えてくる。



「フラン…おめえ、遊びにしてはやりすぎだぞ……。」




        其の弐 「対決! 悟空VSフラン」






真っ直ぐに、ただ真っ直ぐに目の前にいる紅の衣装を身に纏うフランへと目線を向ける、その表情、姿は威厳に満ち溢れており、子供っぽい外見であるが故にあまりにもギャップが激しい。
フランはその姿と力に違和感を覚える、先程までの力とは全然違うのだ。つまり見かけ倒しとはまったく違う、白黒はっきりつけたような本物の力が今、目の前にちゃんとある。


「…何を言ってるの?これは常識なの、まだこの程度…遊びに入ってるか微妙な所なんだよ。…それにしても、悟空ってそんな事もできるんだ。
 すごいなぁ……さっきの奴もどんどん弾き返しちゃうし、更に私の炎を消し飛ばしちゃうなんて。本当にすごいよ、うん、すごいっ!」


改めてすごい、と認める、そう、確かに目の前の少年、孫悟空はフランが思った以上のパワーを秘めている、予想以上のパワーに対して、フランは無邪気な笑顔を見せる。
それは嬉しいという意思表示でもある、ここまで強くて頑丈で中々壊れない、それでいて自分が予想以上の力を持つ相手と遊ぶ事ができるという自体に対してへの嬉しさ。
強引に勝負を仕掛けたフランではあるがやはり、“勝負を仕掛けて正解だった”。そう思わせてくれるような相手に凄いという感情でさえも覚える、だからこそもっと本気でやるという事。


「私も少し本気を出すから、ちゃんとついてきてね、悟空!」


突然、赤い複雑な魔方陣が空間に出現する。それも複数、悟空の周辺に配置しながらもその魔方陣は金色の炎を身に纏う悟空を中心として展開しているのだ。
悟空からは距離があるものの、魔方陣は彼を中心として円を描くように回り続けている、2個、3個、合計で4個ぐらいはあるだろう。恐らく次の攻撃の合図である。


「はあああああああああぁぁぁぁぁーーーっ!!!!」


魔方陣から紅の巨大な光弾が次々と発射、その大きさは悟空を容易に越えるほどのサイズだ。真っ赤に輝く弾は魔方陣が悟空を囲むように動いているという性質上、
取り囲むように射出している、横に並んでいる攻撃はあまりにも綺麗に整っている、それによって悟空の視点からすれば正に赤い壁とも呼ぶべき巨大な障壁が迫り来る光景だ。
その光景は、逃げ場がないと判断させてしまうような避ける事が困難な攻撃、いや避けられないのかもしれない一撃。そしてフランは問答無用に忌々しき刃を悟空の真上から振り下ろす。

そしてこれらの攻撃という名の動作にかかった時間は恐らくさほど時間をかけていないであろう。それは吸血鬼という脅威的な身体能力があるからこそ実現できた至難の業だ。

だが一方、悟空は自身の持つ黄金の光がより一層強く輝きだす、只でさえ先程から強烈な光を発しているにも関わらずその光は更に増すばかり、暗闇に包まれた地下室はもはや、
悟空の持つ黄金の光によって全てが照らし出されるかのように輝いているのだ。その凄まじいパワーは悟空に近づく真っ赤な障壁を消し飛ばす、悟空を包み込む光によって。


「―――見えてるぞ!」


だがその身体能力を活かしてでも悟空の目は完全に相手の動きを全て捉えている。それはフランが地下室に幽閉され、普段から日常的に身体を動かしていないからという理由は、
もちろん入るが恐らくそれだけではない、悟空自身の純粋な強さがあるからだろう。

振り下ろされる災いの杖を体現したような真っ赤な刃を悟空は片手を開く、そして上空へと手を伸ばすようにその刃を受け止めてしまう、苦々しい表情を浮かべる事もなく、
一切表情の変化しない悟空の顔を見ながらフランは更に両手に握り締める刃の力が増していく、そのまま悟空を押し返そうと刃はより強力な輝きを見せるがその前に悟空は一歩早く動く。


「だあああああああぁぁぁりゃああああぁぁぁっ!!!」

「っ…!? くうぅ…ッ!!」


恐ろしい腕力で握り締めていた刃をそのままフランごと投げ飛ばそうとそのまま思いっきり遠くへと投げようとする、それに抵抗するようにフラン自身もブレーキをかけようとするが、
結果的に通用する事はなく、地下室の壁に向かって勢いよく吹き飛ばされるように空中を浮く―――。フランの視界は回転していた、目に見える物は床や天井、そして悟空に赤い刃。

すぐに空中で体制を立て直して、次の攻撃の準備をする必要のあるフランは空中で回転する、投げ飛ばされる衝撃にただ突き動かされながら壁に激突する事だけは避けなければならない事態である。
――――だがその一瞬で思いついた考えに従うように、身体を動かそうとするが奇妙な感覚を覚える。思うように動作する事ができないのだ、足が動かない、羽が動かない、空中で上手く回転する事ができない、行動ができない。

身体が凍り付いているような、固まってしまっている。いや、正確には動かす事はできる、だがその動作があまりにも遅すぎる。遅すぎて動かす事ができないような錯覚に襲われているのだとフランは気づく。


「…あ、れ……ど、うな…って…。…まさ、か…。」


身体全体の動作が遅すぎる。口を動かすという名の行動でさえ遅い、上手く喋る事もできない。だからこそフランは自身の身体全体に気持ち悪さも同時に覚えていた。
だが、このおかしな違和感は前にも味わった事がある、それは遥か昔だったか、昨日の事だったか、まるで自分の体内という名の時間が遅くなっているような。

時間が遅くなっている、まるでスローモーション。時間を操作している、時間を操る事ができる、時間を、時間を――。もうこの時点で誰の仕業なのか大体は察しついていた。
恐らく、地下室の異常とも言える力の集中、遊んでいるにしては派手に暴れまわっている事に気になって様子を見に来たのだろう。確かに気がつけば自身と悟空との戦いは、
確実にどんどんヒートアップしている、まだ本気じゃないにしても少しやりすぎたのかな、とフランは自身の頭の中で勝手に結論付けていたのだ。


「……妹様、お怪我はありませんか?」

「咲夜…? …なんで咲夜が入ってくるのよ、私と悟空は遊んでいるんだから邪魔しないでっ!」


暖かい感触、凛とした女性の声、銀色の髪、赤い瞳、咲夜と呼ばれたメイド服のような衣装に身を包んだ女性は丁度、フラン自身を抱きしめるように受け止めていたのだ。
それはまるで主従関係を表しているかのようにフランを様付けしていた。何処か知的で大人っぽく、クールな印象を受けるメイドに子供、絵に描いたような人物達だ。

しかし、一方では女性の登場に悟空はまったくついていけなかった。というのも悟空はこの場所に到達した時点で地下室の外から複数の気を感じており、誰かがいる事に気づいていたのだ。
気というのは存在している生き物であるのなら誰にでも発しているもの、気配であると同時に力のような物だ。その気がこの部屋以外からも感じていた。その人物達がフランと、
知り合いであるかどうかはさすがに知る事はできなかったが。だが今の悟空は素直に驚いていた、確かに部屋の外に誰かがいる事に気がついてはいたがこの部屋に誰かが侵入している、
という事にはまったく気がついていなかったのだ。本来なら気づく事ができる自体を気づいていない自体へと変えたフランを今も抱きかかえている美しい銀髪の女性は只者ではない。


「だ、誰だおめえ…気配をまったく感じなかったぞ…。」


「――それはこっちの台詞よ、貴方こそ何処から入ってきたわけ? いくら門番が寝ているからって、妖精が気づく筈…。」

「ちょっと咲夜!! 私の方を無視しないでよ。それに悟空は急に変な穴みたいなのができて、私の部屋に入ってきただけ!」

「変な穴…? それは一体どういう事なのですか、いもうとさ…。」

「いいから離して、はやくっ! みんな遊んでくれないから悟空と遊んでいただけよ、別にいいじゃんっ!」

「い、妹様…。申し訳ございません、ですが…。」

「これは咲夜が独断で行動したの?それともお姉様の命令なの?」

「レミリアお嬢様の命です…。話は戻りますが、妹様の部屋に入ってきたというのは…。」

「突然、変な空間の穴みたいなのが出来て、それで悟空が降ってきたのよ。それより私達はまだ遊ぶのっ!」

「空間の穴…? 妹様、レミリアお嬢様が遊んでいたら止めさせろと命が入っておりますので、申し訳ございませんが…。」


フランは内心で秘めた怒りを露にしていた、というのも無理はなかった。そもそも遊びたい以外に願った事は自分と仲良く遊んでくれたり話をしてくれたりする人物が来て欲しい事だったのだから。
なんとか遊びを止めようとメイドは必死に言葉を選んでフランを落ち着かせようとするが、逆効果。どんどん暴走していき微妙に会話のコミュニケーションが取れていない自体になっている。



『ぐうぅぅぅぎゅるるるるる……!!』

「な、なに…? なんの声なの…?」

「!!…さっきの声は、妹様、隠れてくださ――。」


「ははは、わりいわりい、今のはオラのハラの音だ。」


突然停止させたのは輪に入っていなかった悟空であった。音の正体である本人は途方にくれた様子で苦笑いを浮かべ、唖然としている二人に改めて視線が合う。
フランは唐突な展開にもうついていけなくなったのか、遊ぶやる気も失せたように悟空を見ていた。というのも無理はない、突然少年が出てきて突然遊びを邪魔されて咲夜と口論。
おまけに悟空を纏っていた金色の光は消え去っていたのだ。そのせいか、異様に明るかった地下室は本来の暗闇を取り戻し、穏やかとも言える闇が包み込んでいた。

一方、咲夜は疲れた表情を見せていた、まったく見ず知らずの少年と遊んでいるという事実でさえ彼女にとっては驚くべき自体、フランとの口論もあったせいで「はあ」とため息を漏らす。


「あれからなんも食ってなかったからオラ、ハラ減っちまって…。」

「そういえば咲夜、私もお腹がすいたわ。そろそろ食事の時間じゃなかったっけ。」


「……そうですわね、そろそろお食事の時間にしましょう。貴方も、その時に事情を聞かせて頂戴。」

「えっ!?メシ食えんのかっ! やったー!!」

それでこそ、子供のような無邪気な笑顔を浮かべる。更にはメシメシメシと連呼する始末。咲夜からすれば人様の家に上がりこみ、食事までご馳走になろうとする少年の態度は、
あまりにも図々しい印象を受けてしまうのだ。よってあまり良い印象ではないのだ。しかしこの場で一番に纏まる話題と場所は恐らく“食事”であろう、もしかしたらフランも、
お腹がすいているせいで機嫌が悪いのかもしれないのだから。どちらにしても自分の目でしっかりと監視できるので、悟空の逃げ場がないのは確実であろう、と考えていた。

フランとしては一緒に遊ぶ事ができ、それでいて自分の話を聞いてくれた悟空に対してはとても印象が良かった。だからこそ気に入っているのだ。
これから食事の時間を共に楽しむ事ができるという事実はフランから見ればかなり稀な時間。それでこそ、友達との食事は恐らく生まれて初めてであろう。

黒髪の少年と金髪の少女、そして銀髪の女性は共に地下室を後にするのだった―――。



[22477] 其の三 「紅魔館の偉い人」
Name: フクウ◆9afd6316 ID:117f5b5f
Date: 2010/10/17 03:04
「…咲夜、そこの餓鬼は一体何かし――。」


「オラ、ガキじゃねぇぞ。孫悟空だ! おめぇこそ誰なんだ?」


相手の言葉を遮るように口を挟む。悟空としてはたまたま自分の事だと思って反応したつもりだったのだが、当の本人である目の前の少女は悟空を睨みつけているのだった。

薄い青色の髪、長いと表現できるほどの長さでもなく、肩につく程度。鋭い真っ赤な瞳は揺らぐことなく真正面にいる黒髪の少年――孫悟空に向けられていた。
紅のリボンがつけられ何処か洒落た真っ白な服に口元から見える尖った八重歯、殺傷能力がありそうな鋭い小さな翼…しかし、小さいからといって油断させるほどの甘さは持っていない。

見た目こそは只の西洋的な少女ではあるものの、その雰囲気や存在は明らかに異なっている。それはフランと名乗る金髪の少女とまったく似た存在であると言う事。
だがその少女とは何処か明らかに違う。威厳に満ち溢れており、その様子から其処に存在するだけで異様なプレッシャーを感じさせてしまうのだ、それは先程フランドールと悟空が、
遊んでいた時の雰囲気とよく似ている。フランドールのレーヴァテインが発動した時はその紅色の光景に恐怖と精神的な威圧感を覚えるのと、このフランと似た少女の放つ雰囲気は、
まったく類似した物である。

そんな明らかに異質な存在であり、何処か邪悪に満ち溢れている異形の生物を目の前にしながらも悟空は平然としている、何より淡白に言い返した辺りがその証拠である。
本来ならまったく見知らぬ土地にいる事と未知の生命体に囲まれている時点で恐怖に怯えてもいい場面である、いや寧ろそれは“普通”であり仕方がないといえば仕方がない事だ。

戸惑いや困惑、押し寄せてくる感情に怯えてもきっと可笑しくはないのだろう。にも関わらず悟空は特に何も感じている様子でもなくただ平然としていた。


「レミリア!レミリアお姉様よ、私の姉。」

「へ? じゃあコイツがさっき言ってたおめえの姉ちゃんなんだな。確かにフランと似てんなあ~。」

「でもアイツと性格は全然似てないんだから。あんまり一緒にはしないでね。」


食事をする前に、と咲夜は部屋に案内をする前に提案を述べてきたのが事の発端。此処の館の主に挨拶をしておいた方がいい、それが案の内容だったのだ。
咲夜は挨拶もなしに見ず知らずの人間のような子供と共に食事をするなどレミリアが許してくれるのかどうかが疑問に感じていたのだ。妹であるフランは気に食わないが、
悟空に懐いている以上はもう何もする必要がないにしてもだ、全ての主導権を握っているレミリア・スカーレットにだけは少しでも声をかけておいた方がいいと踏んだ上での考えだ。

それは咲夜が長年、レミリア・スカーレットに仕えていたという名のメイドとしての経験から出てくる案でもある。あっさりと二人は飲んでくれたので今、彼女から許しを請い、部屋にいるのだが…。


「こら、姉に向かってアイツと呼ばない。……で、悟空はどうやって地下室に侵入したのかしら?
 我が館に入るのなら門番が目をつけるはず。仮に寝ていたとしても咲夜や妖精メイドが気づくと思うんだけど。」


それでこそまるで不審者に対する目を悟空に向けていた。だが無理もない、何の前兆もなしに突然、地下室にいた。不法侵入もいいところなのだ。
最初はフランもそういう目で見ていたが遊びを通して決して悪い人ではないという事、そして只者じゃないという事ぐらいは見抜いていた、だからこそフランはそういう目で見るのを止めたが。
悟空に問いかけた質問を彼自身が答えようと口が動く前に、隣の少女が先に答える。


「なんかねー、おっきくて真っ暗な空間の隙間みたいなのが出来てね、其処から落ちてきたんだよ。」

「…空間の隙間? それは事実なのかしら?」

「神龍に乗って移動してる時に、いきなしでっけえ穴が表れてそれを覗き込んでたら吸い込まれちまってよ…。」

「は…? 神龍?そこにその隙間が出てきたって事か…。」


顎に手を沿え考え始める、威圧感に満ち溢れている青髪の少女ではあるがその幼さにより半分削られているようにも感じる。それと同時にやはりギャップも激しい。


「ああ。神龍ってのは…『ぐうぅぅぅぎゅるるるるる……!!』…わりい、その前にメシ食わせてくれ。」

「………。咲夜、食事の準備に取り掛かりなさい。私も何か食べたいわ。」

「はっ、かしこまりました…。では食事へご案内します。妹様も来てくださいね。」


そうして一時的に解散、レミリアの部屋から悟空と咲夜とフランは部屋を後にするとそのまま食事が用意されているであろう場所へと向かっていく、その通路を歩く途中――。
何やらフランが全員に聞こえるような声で突然語りだす、内容は自分の姉に対してだ。フランから見れば姉はかなり動揺しているのだとか、なんだとか。
悟空の腹の音に一瞬だけではあるが、呆然とした顔を浮かべている事に。そして悟空のマイペースぶりに少し動揺していた事に。何より自分の姉は館の主という事もあって、
他の勢力に舐められないように威厳を保っているのだとかなんだとか、というのもこの世界では自分達も一つの勢力であり、自分達以外にも沢山の勢力が存在しているという事。

これらすべての話は実際に見た訳ではないが、そういう話を聞いたからなのだと言う。何より自分達は他の勢力と比べて“主があまりにも若すぎる”。それが特徴的なのだとか。
だからこそ他の勢力から舐められる傾向にあるのだという。だからこそ、こういう緊急事態には何よりも威厳を保っておかなければならないのではないかとかなんだとか。

悟空を交えて咲夜も入ってきて、部屋に行くまでの話は姉の事や幻想郷の事などの話題だった。話す内容があまりにも長すぎる故に悟空は部屋につくまでの間、つまり、
通路を歩くまでの間は短く感じていた。




       其の三 「紅魔館の偉い人」




部屋を支配する効果音――いや、食事をする一方的な音。それが今、部屋を制圧している。そして全員から視線を向けられているのは謎の少年、孫悟空。
巨大なテーブルの左側の位置で椅子に座っているのはフラン、そして隣に紫色の髪をした少女、反対側に位置して座るのは孫悟空、そして近くには咲夜と赤髪の女性が立っていた。
更にこれらの境界として位置するように椅子に座るは紅魔館の主…なのだが、全員が悟空を覗いて、今現在食事中の彼へと視線を向けていた。


ガツガツガツガツガツ、ガツガツガツ…バリバリバリバリバリ……。


いや、周りを囲んでいる妖精メイド達もそうだ、一人残らず、呆れたような目線、驚いたような目視、唖然とするような表情、様々な反応が飛び交う中で、


もぐもぐもぐもぐもぐもぐ…ガツガツガツガツガツガツ…バリバリバリ…。


ただ食事をする彼はきっと微笑ましい光景なのは間違いないのだが、


ズズズズズズズ……。


テーブルに置かれた数え切れないほどの沢山の銀色の皿が乗せられており、


「―――おかわりーっ!!」

「……もう貴方に出す食事なんてないわ。」


咄嗟に咲夜は反応する。きっともっと言いたい事は沢山あるのだろう、とフランは察していた。無理もない、数え切れないほどテーブルをスペース的意味で侵略するが如く、
お皿は大量に配置されていたのだから、それを赤い髪の女性は指を折って数えていたが途中で挫折。不貞腐れたようにその食べる様子を眺めていた。


「…これで、一体何皿でしょうかね。」


赤い髪の女はとうとう口を開いた。それは女にとって悟空が食べ始めた頃から疑問にしていた事だ。


「これで100皿ね。おかわり含めたら101皿だよ。」

「(このままだと紅魔館の食料が食べ尽くされる…!)……それくらいにしておけ、お前の分はもうないわ。」

「そっか、なら仕方ねぇな。腹八分目っていうしな。」

「「「――――まだ食べれるの!?」」」


レミリア、フラン、咲夜、紅魔館でもっとも危険視されている人物の声が重なる。食事を共にしていた二人は出していないが驚いた表情を浮かべているのだった。
あちこちでなにやら妖精メイドが騒ぎ立てる声が聞こえ始める、もはや悟空は未知の存在としての位置を確立させつつある、突然姿を現した事もあるがここまでの大食いっぷりに、
妖精達も何か思い始めているようだった。当の本人である悟空は大して気にしていない様子ではあるものの、がやがやと少し慌しくなっていたのでレミリアはその雰囲気を察して、
話題を変えようと口を開こうとした途端――。


「フラン、口にソースがついてるぞ。」

「…ふえ? ええっと…あれ?……んん。」


それは気に入らない光景。メイド長である咲夜にとっては正に今の現状だ。フランはすぐに近くの布巾を探し始めるが見つからず、すると不意に悟空が布巾を片手にソースを拭いていた。
悟空としては過去に似たような事があったため、その時に行ったやり方を今ついやってしまっただけに過ぎないのだが、咲夜とレミリアは複雑な感情を抱きながらその様子を見る、無意識の内に嫉妬にも似た感情を抱いている事を彼は知らずに。


「ん? どうしたんだおめぇ達? もしかしてオラが食いすぎちまった事を怒ってんのか?」


きょとん、とした顔で咲夜とレミリアの顔を見つめる、本当に無意識にやっている事で悪気はないのだ、二人はその感情を押さえ込みつつも何事もなかったかのように、


「…怒ってなどないわ。で、話は変わるけどお前は一体これからどうするつもりだい?」


改めて話題は変える事に成功、――したのだが話の中心部分となるものはあまりにもごく単純。そして問いは至ってシンプル。紅色の瞳が悟空の姿を写しながら問いかけている。
いくら見た目は幼い子供であるかといって、その瞬間だけは本物の悪魔としての存在感、館の主として偉大なる者、それは明らかにこの場所では目立つ存在でありまた見方を変えれば、
異端である存在。鋭い翼が“恐ろしい何か”であるという事を物語るようにそこには存在している、悟空は投げられた質問に対して返答をする。


「どうするって…そりゃ元のトコに帰りてえんだけど、さっきから神龍を呼んでも返事がねえんだ。」

「神龍? …さっきからお前は神龍って言葉を使うけど、意味がわからない。」


つまりその言葉の意味を教えろ、という事だ。呼んでも、などと言っている辺り、乗り物などという物ではなく人物という意味が含んでいるのではないかとレミリアは予想をしていた。


「神龍はドラゴンボールを7つ集めると現れんだ。そんでどんな願いでも叶えてくれる。」


つまり、彼が言うにはドラゴンボールと呼ばれる物を七つ揃えばどんな願いでも叶えられるという事。そして実際に叶えるという名の行動を起こすの神龍であるという事。
どんな願い事でも叶う、それは幻想のような話。故におとぎ話だ。少年の語る話はまるでおとぎ話でも語るかのようだった、何処かの昔話にでもありそうな、内容。


「けど、願いを使いすぎた所為でドラゴンボールにマイナスエネルギーが溢れて邪悪龍っちゅう悪い龍が現れて地球をめちゃくちゃにしようとしたんだ。
 なんとかそいつらを倒す事はできたけど、そん時に神龍と約束してて、オラは下界にはもう戻れねえんだ。」


何やら話がどんどん飛躍していく事をフラン以外のメンバーは感じていた。他の妖精メイド達はもう話についていけなくなってしまっている様子だ、未だに妖精同士で小声で話したり、
首を傾げたりと反応は様々。フラン自身はただ無邪気に話を聞いているだけ、珍しいおとぎ話にでも耳を傾けるように、だが無理もない。この世界にとって悟空の話はとても興味深い物である。


「……つまりお前は元の世界に戻りたいってこと?」

「ああ!別に急いではねえけどな。」

「だったら此処に一緒に住もうよ!お姉様も咲夜も、美鈴もパチュリーもいいでしょ!?」


会話の途中から少し強引に今まで黙っていたフランが入ってくる、あまりにも唐突で問題視されかねない発言内容、今まで黙っていたパチュリーや美鈴も思わず目が丸くなるのだった。
レミリアも咲夜も口を入れたくなるほどの内容ではあったが何より一番驚いているのは――。


「へ…? 住むってオラが此処にか? う~~ん、神龍がいいってんならオラは構わねえぞ。」

「いっ、妹様…!さすがにそれはどうかと思いますが…っ。」

「…でも部屋ならまだ沢山あるんでしょう?妖精メイドだってそこまで多いわけじゃないし。問題ないんじゃない?」


分厚い本を膝に置いた薄い紫色の衣装を身に纏う少女がついに口を出す。


「パチュリー様、食費という問題を見過ごさないでください……。」

「でも確かに食費だけはかかりますよね。」


パチュリーと呼ばれる少女に続いて、赤髪の女性までもが口を挟み。


「まあそれはあいつに動物でも狩らせて勝手に食べておけば…。」

「お、お嬢様まで…得体の知れない者をこの紅魔館に置いておくわけには…!」

「やたらと突っかかってくるけど、咲夜はどうかしたのかしら?」


パチュリーと呼ばれる少女は咲夜と何やら揉め始める、咲夜という立場はこの紅魔館を守らなければいけないという使命がある故にそのような事を言うのだろうとレミリアは思っていた。
またもや妖精メイド達は悟空がこの館に住むという話の方向性へ定まってきている事に驚きを隠せずに話を始めてしまう始末である。暫くするとその空気を切るように、レミリアは立ち上がって――。


「―――元の世界に戻るまでなら別に構わない。」


それは、新たな予想もつかない運命が待ち受けていそうな言葉。そして今少女が口にした内容はそれを象徴するかのような物だった。これはきっと、紅魔館の中での大きな事件。
事例のない前代未聞の事態、それはきっとこの世界、幻想郷全体に響かせるような現象。しかし今の彼等はその先に待ち受けている未来をまだ知らない―――。



[22477] 其の四 「白黒の魔法使い」
Name: フクウ◆9afd6316 ID:117f5b5f
Date: 2010/10/19 01:10
日の光を浴びる道、その前には巨大な真っ赤な館。豪華といえば豪華であり、まるでお金持ちを連想させられるような血液のように赤い建物。
その建物は銀色の髪をした女性、そして薄い水色のような髪をした少女を見下ろしていた。二人の内の一人、真っ白な服を着る少女は見上げながら言う。


「じゃあ咲夜。私はこれから用事があるから、留守番を頼んだよ。」


真っ白な服装、といってもピンク色が混ざっている。その少女は日光から避けるように日傘をさしていた、日陰の中から顔を出す少女は幼さが残っていた。
少女は何処か目の前の人物に対して命令するように口にする、そんな小さな生き物に対して何処か慣れた口調で見上げられている女性は微笑んでいて――。


「はい、いってらっしゃいませ、お嬢様。」


そしてこの二人の会話は終了する筈だった、これだけ、ほんの数分の話の流れを完璧に打ち消す行動をとるのが日傘をさした少女であるにも関わらず、
―――今回だけは続いていた。


「…それから咲夜、あの悟空とかいう奴もちゃんと見張っておきなさい。」


女性にとっては不意な一言だったのか、微笑が消える。理由は誰よりもよく知っているのがメイド長である十六夜咲夜であろう。その事は本人も熟知しているのは間違い。
澄んだ青色の瞳が少女を写していた、何処か鋭さも残っている、その女性は人間である筈だというのに、近くにいる赤髪の女性の方が人間らしさを感じられる。

――その女性とは、この館の門番を勤めている紅美鈴(ほん めいりん)である。この門番は人間ではない、妖怪だ。姿こそ人間と殆ど変わりはなく、人間だと言ってしまえば、
すぐに嘘が真実であるかのように通用しそうなほどの外見なのだ。更にその人間らしさは外見だけではなく中身も。今は立ったまま熟睡しているせいで二人の会話に入ってくる気配がない。


「ええ、わかっています、お嬢様。その事についてはお任せください。」


自信のある回答。メイド長という立場からくる自信なのか、長年の経験からくる自信なのか、恐らく両方からくる自信が咲夜をより頼りになる人物へと変貌させていた。


「フフ…そう。…なら、神社へ行ってくるわ。」

「……え?じ、神社にですか?」


だが神社というワードによって頼りになる人物はすぐに崩れてしまう、それは一瞬だけではあるが咲夜にとってはひっかかる場所名らしい。
少し、一瞬だけ困惑した反応を見せるがすぐに冷静さを取り戻す。それを見たレミリアはすぐに、


「ま、何かあったら神社にでも来て頂戴。咲夜ならすぐに行けるでしょ。」


当たり前、といえば当たり前。咲夜にとっては少なからずそうだった、それはきっと咲夜限定で他の者ではなす事が出来ない何かを咲夜が持っている、そして咲夜も自分にしか出来ない何かをちゃんと認識しているのだ。
それこそが正に、咲夜を頼りになる人物へと変貌させる理由がそこにはある、何より主であるレミリアにとってはそこを大きく買っているのだ。それはレミリアだけに限った話ではないだろう。

はい、と短い返事を返すとほぼ同時に唐突な強風に見舞われる。周辺の物体が強風に叩き付けられる中で一人、銀髪の女性は特に動じる事もビクともせずに少女がいた場所をずっと見つめていた。
あまりにも強すぎる風が発生した頃にはもうレミリアの姿は見えなかった。だからこそ咲夜は主のいた場所に背を向けてその場から立ち去るように紅魔館へ戻っていったのだった。


「……!? さ、咲夜さん、まっ――!!」


出現した眼前のナイフに対して女性は短い悲鳴が響き渡ったが、すぐにまた沈黙が流れる。美鈴は同じ門番としての役割を持つ妖精メイド達に見守られながら、すぐに復活をしていた。




   其の四 「白黒の魔法使い」




一方では紅魔館内、昼過ぎであるにも関わらず全てを照らすような光が中へ入ってくる事はなく、ただ蝋燭に灯された火だけが館内を照らす。相変わらず夜のような空間だった。
外という時間からずれたような場所、それが紅魔館だ。しかし今は新たな人間がまた共に暮らす事になり、館内を案内しているところであった。


「…此処は庭。よくレミィが紅茶を飲んでいる事が多いわ。でも最近は普段からよくいるわね。」


コンクリートで作られた床に、屋根的な役割を持ったような天井。真っ直ぐに視線を向ければ門を守る妖精メイド達と緑色の帽子を被った赤髪の女性を見下ろす事が出来る環境。
館内とはいえ位置的に外である為、真っ青な空に浮かぶ太陽の光が庭に侵入―――するのだが、それを阻止する為なのかコンクリートで出来た天井がそれを防御していた。
よって結果的に庭は日陰地帯となっている。コンクリートという事もあって冷ややかな空気が流れ込んでいる、しかしそんな中でフランは目を丸めて見下ろす景色を見回していた。


「へえ、こんな場所があったのね。知らなかったわ。」

「妹様は確か此処に来るのは始めてですよね。」


茶が入ったような赤髪の少女は口をひらいた、見た目だけならパチュリーと殆ど一緒のようにも見える。だがよく見ているとこの少女の取る行動は咲夜とよく似たものがある。
それはレミリア、パチュリー、フランの三名を何処か気を遣っているような行動なのだ。それでこそまるで従者のような、結果的にメイド長である咲夜と被る物が多い。
レミリアが妖精メイドを覗いたメンバーを紹介する際、この赤髪の少女の事を小悪魔と名乗っていた、他の者のような名前は持っていないらしい。


「なあなあ、修行できる場所とかってねえんか?」

「修行できる場所…?…まあ、確かに修行できそうな場所なら知ってるけど。」


怪奇な表情を浮かべながら悟空を見据える、その表情の裏は何処か疑問に思っているような顔だった。その事に小悪魔は気づいているのか少し目を丸く表情を変化させる。
そしてその疑問を聞こうか迷っている最中にまた小悪魔にとって彼女とはまた違う疑問が生まれて――。


「え?でもパチュリー様、そんな修行できそうな場所なんてこの館にはない筈ですよ…?」


そもそもの話の根本を裏返そうとするような質問に、パチュリーは、


「そう、本当はない。でも一応、ちゃんとあるわよ。妹様の部屋とか。」


意外な返答が返ってくる、少なくとも小悪魔とフランからすればそうだ。フランは先程から物珍しそうに緑色の風景を見下ろしていたがすぐにパチュリーに顔を向けている。
しかしその前にはやく悟空が言葉を入れて――。


「いや~流石にフランを追い出すのはわりいから、オラは外でも構わねえぞ。」

「そう。だから外で修行してもらった方がいいかもしれない。あとで案内するわ。……次は大図書館よ。」


この館内で修行できる部屋などはない。修行するにはそれなりのスペースが必要である、小さい部屋を咲夜の空間を操る能力によって広くする事も出来るが一体、悟空はどんな修行をするのか未知数。
そもそも地下室からフランを出す、という事自体がかなり難しい物であり、咲夜とレミリアに相談しなければいけないほどの自体なのだ。その許可を取るための難易度は弾幕ごっこと比べられるほど。

フランとは危険な存在、故に地下室に閉じ込める。これは館内の皆、主に咲夜とレミリア、そして美鈴で決めた事である。それは私達がフランに対して恐怖を抱いているからの行動ではない。
もちろん、恐怖を抱いていないわけじゃない。フラン自身に、能力自体に少なからず恐怖を抱いてはいる。彼女の能力を使えばこの世界の法則を作り出している要となる物を壊しかねないのだ。
その要によって今の世界は平和に保たれているというのに、それを壊してしまえば―――想像もつかないほどの大事件へと発展するだろう。そもそも人に対して使用する事自体が恐ろしいというのに。

そう考えてみればこの少年、悟空は運が悪い。一番最初に迷い込んできた場所が危険な存在が潜む地下室だったのだから。危うく少年は命を落としかねない場所にいたというのに。

パチュリーは決して声に出さず脳内で考えているだけだった。真っ暗なあの空間の隙間も大体は見当がついているが特に敢えて表には出さなかった。
何か用があるならこの事件を仕掛けた黒幕となる人物からもう連絡が入っていてもおかしくはない、なのに何も連絡が来ない。きっと何か考えているのだろう。

自身、パチュリーの親友であるレミリアもそれにはもう察していたように見えた。他の者から見ればどういう風に彼女が写っているのかは長年の付き合いから大体は見当がつくが、
少なからずパチュリーからすれば館の主は黒幕が誰なのかぐらい気がついている。いや寧ろフランと悟空を除いて気づかない者の方がおかしい、鈍感すぎると形容していいほどに。

だからこそ出かけた、無駄足だとしても。


「……む。 …そこにいるのは誰?」

「げっ、もう帰ってきたのか!」

「あー! 魔理沙だー!もしかしてまた本を盗みにきたのー?」


悟空だけが理解できない事が起きていた。金色の髪が肩ぐらいまで伸びた、魔女のような帽子を被った…というより魔女のような白と黒の衣装を着用している少女がいるのだ。
年齢的にはフランより上、かといって咲夜ほどの年齢でもなく、パチュリーぐらい、つまり十大前半ぐらいの容姿をした少女が大量の本に埋もれながら顔を出している。


「今日に限ってなんでこんなに人が…いや、とにかく逃げるぜっ!」

「すっかり忘れていたわ…! 今日だけは逃がさないわ!泥棒!」


本の中から出てくると片手には箒、そしてもう一つの手には…袋、更に言うなら何かが詰まっている。本のような物が。
パチュリーが追いかけきたと同時に魔理沙は駆け抜ける、パチュリーとは別の方向ではあるがそのまま走り続けていると途中から片手に装備した箒に跨る。
フランはもう追う気がないのか、その光景を楽しそうに見てしまっている、劇場を見ているようにわーわーと無邪気な笑顔と共に鑑賞。小悪魔はパチュリーとほぼ同じ動作だ。


「(妹が手を出してこないならこっちのモンだっ!)…借りていくぜ!」


すると魔理沙は空中に浮かぶ、ありえない速度と共にパチュリー達との距離を大きくひらきながら全速前進、目標は間違いなく大図書館の出口に向かって、だ。
恐らく今の状態だと咲夜は気づいていない、例え気づいても完璧に対処できるかどうか不明、パチュリーはもはや速度的な意味で追いつく事は出来ないだろう。

――だが、魔理沙は自身の速度に対して急停止をかける。

その本人は「よう」っと軽く手を上げる、その人物は魔理沙にとっては未知に包まれた謎の人物、彼女はスピードを重視してる面があり、それでこそ速度は自信があったのだが、
自分の前に現れた悟空によって簡単に打ち砕かれる結果となってしまう、本気ではないものの、そこまで手加減をしたつもりもない。一気に少女は警戒心が生み出される事にもなる。


「おめえ、ドロボウはダメだぞ。」

「……泥棒じゃないぜ、死ぬまで借りてくだけだ。それよりお前は誰なんだ? 確か以前まで館にいなかったはず…。」


余裕を保っていられなくなったように目の前の人物、孫悟空を鋭く睨みつける。まだまだ奥の手は存在しているが、それを出さなければいけないほど相手は強敵であるとすぐにわかる。
そうしている間にもどうやら後ろにいるパチュリー達が追いついてきているようだ、足音が大図書館内で反響しながら聞こえてくる、更にもう一つの気配が感じる方角へ、魔理沙は視線を向けた。
金色の髪をした、真っ赤な瞳を持つ少女…レミリアの妹だ。彼女は吸血鬼という身体能力故にすぐに追いつけるのだろう、距離はあるがあの位置からだと攻撃も可能な場所についてしまっている。


「オラは孫悟空だ。死ぬまでじゃ返せねえんじゃねえか?」

「悟空?西遊記か?…いやそんな事は別にいい。さっさとそこを通してもらうぜ。」

「サイユウキ…? おめえが盗んだもんを返せばいいぞ。」


わかってはいた言葉、恐らくただでは通してはくれないだろうと踏んではいるものの、だからこそ魔理沙は脳内で思考を繰り返していた。今この場をどう突破すればいいのか。


「(あの速度は私の本気じゃなかったが…けどこいつも本気を出しているように見えなかったしな…。)
(それになんだよこの尻尾…よくわからんが、人間じゃないのはまちがいなさそうだぜ)…そうだな、じゃあゲームをしないか?」


戦闘では速度でもう勝てる見込みは薄い、かといって砲撃などを繰り返せば勝敗はわからなくなる、が…力量を見極める事が出来ないほど、彼女は力のない者ではない。
だからこそ浮かんだのは、遊び。遊びでなら力など関係はない、魔理沙が思いついた遊び、もとい思いついたゲームに勝つため、必要とさらえるのは頭脳であって――。


「お前がゲームに勝ったら私が盗もうとした本を全部返す。負けたら私を此処から逃がす。…どうだ?乗るか?」


それは魔理沙が唯一、この場から抜け出す事が出来る方法だった。


「ゲームかあ…わかった!オラはそれで構わねえぞ。」

「決まりだな。それと私は霧雨魔理沙だ。」


近くにいるフランは驚いた表情を浮かべながら二人の会話を聞いていた、当の被害者であるパチュリー達はその事に気づかず、やっと追いついてきたらしい。
―――そして今、悟空VS魔理沙のゲームによる対決が今、行われようとしていた…果たしてどちらに勝利の女神は微笑むのか…。



[22477] 其の五 「宝探しゲーム」
Name: フクウ◆9afd6316 ID:117f5b5f
Date: 2010/10/25 15:26
ゲームを受ける、と言ったからにはもはや引く事は出来ない。今、頭を抱える者は紅魔館の大図書館に大勢いる。


「なんでそこで乗ったのよ…。実力行使で出来た筈なのに。」

「そんな事言われてもなあ。別にあいつが攻撃してきたわけじゃねえし…。」


巨大な本棚が配置された部屋、空中でも浮かばない限りは上の方に置かれている本は決して手に届く事はないだろう、少なくとも巨人でもなければ。
大図書館は紅魔館の位置的には地下にある、故に日の光が入る事はなかった。暗く、不気味とも表現できるような場所で、ランプの光でやっと照らされている。
といってもランプの光というのは本を読む為の机に何個か、更に天井にランプが設置されているぐらいでとても明るいとは言えない。そもそも、紅魔館は明るい必要がない。


「まあ、そう固いことを言うなって。細かい事言ってたら老けるぜ。」


文句を悟空に言いつける咲夜に対して魔理沙が加入する。一応、悟空のフォローのつもりだが犯人である彼女が言っても図々しく見られるだけだった。
しかし彼女の図々しさは何時もの事であり、もうパチュリーと小悪魔にとっては見慣れた光景でもあった。咲夜も泥棒に関しての話はパチュリーから伝わって、
聞いていたので重いため息と共に言葉をなくす。メイド長という職業は疲れる物であり、それを考慮して気遣ってくれる者は小悪魔とパチュリーしかいなかった。


「…ところで、何のゲームで勝負をつけるのよ。」

「ん~、そうだな…トランプでもいいが、それだとつまらないしな。」


魔理沙は顎に手を添えるとあちこちに周辺へ視線を向ける。どうやらつまらないゲームでは嫌のようだ。その間、何故か期待を込めた視線を送るフランに対して、
向けられている魔理沙自身はその目線を避けているにも感じられた。それに気づいたのはパチュリーのみで、彼女はよくよく思い返してみると何時も大図書館に、
フランがいる時に限って魔理沙は図書館に来たことがない。偶然かもしれないが、もしかしたら魔理沙自身がフランを恐れているからではないかと内心では推測していた。


「じゃあ宝探しでどうだ?範囲は紅魔館内で。」


唐突に彼女の口が開く。その時にはもう魔理沙の視線はあちこちに泳いでおらず、全員、一人一人に向けられた。


「……宝探し、ですか? でも、宝は何にするんですか?」

「外にある石でいいんじゃない? それにマークをつけて。」


すぐに反応する小悪魔に対してパチュリーは思い浮かんだままの事を言ってみる。彼女達にとって一番に無難な物だった。
しかしその言葉に対して今まで期待を込めた視線を向けていたフランは表情を変えて首を傾げる、理解ができないと言わんばかりにパチュリーに顔を向ける。


「…外の、石? 外ってめーりんがいた場所よね。石って何?」


元々フランは地下室に幽閉されていた。危険な能力と気の触れた性格は外に出す行為を危険視せざるおえなかったのだ。尤も、それを相談して決めたのはたったの二人。
パチュリーとレミリア。彼女達は古くからの知り合いで親友とも呼べる仲なのだ、本来なら館の主であるレミリアに様をつけなくてはいけないのだが、つけていないのが何よりの証拠。
お互い、決めたあだ名で呼び合い、親友であると認め合った仲の関係。だからこそ彼女達はよく図書館で本を読んだりして時間を潰していたのは二人にとっていい思い出でもある。

だがその輪にフランは入る事はなく地下室で一人で暮らしていた。気が触れている、故に幽閉していた。彼女にとっては地下室が家であり、外が紅魔館内である。
今は悟空の影響もあって、一応出しても大丈夫だろうという判断でなんとかやっているものの、長い間幽閉されていたせいで世間知らずな子供のようにメンバーは感じる。


「石っていうのは…あれは見てもらった方がわかりやすいですね。」


意外と説明が難しく感じたのか少し苦笑い気味に小悪魔はフランに言う。


「じゃあ咲夜、石を取ってきてくれ。ついでにマークも書いてさ。私達に見せてくれ。」

「―――持ってきたけど、これでいいかしら。」


魔理沙が言い終わった瞬間に咲夜は最初から持っていたように片手に持つ丸い石を見せる。触っても大丈夫なように安全を考慮したのか尖った箇所は見当たらず、全体的に丸い形をしている。
そして調度、真ん中に黒い三角形の模様が施されていた。宝であるという印なのだろう。しかし誰も違和感を覚えていないが明らかに咲夜は石を予め持っていたわけではないのだ。


「全然いいぜ。じゃあゲームの説明をするな。 このマークのついた石を咲夜が紅魔館内の何処かに隠して、制限時間内に見つけ出すってゲームだ。」


そのゲーム内容は至ってシンプルでわかりやすい物だった。故に誰もが質問もなく頷いた。ただ苦戦するのはこの紅魔館の広さだろう。館内である事を限定すれば門番、美鈴のいる外を抜いたとしても、かなりの広さを持っている。つまり結果的に悟空はこの館に来てからそう間がないので不利になっている。案内してもらったとしてもやはり慣れない地形、時間はかかる。

それに比べて魔理沙自身は宴会で何度か館を彷徨った経験を持つ、日常茶飯事のように大図書館にも侵入しているので古くからの付き合い、という事もあってそれなりに地形は把握している。
無論、悟空の存在について魔理沙は理解していない。館に慣れていないという事も。この点を上げて比べれば悟空は不利な立場にある。―――そうパチュリーは察していた。

だがあくまでその事に気づいているのはパチュリーのみ。それを口に出そうとはするが、周りの雰囲気はもうゲームを開催する直前のようなもの。
不利という立場だけでゲームの勝敗が決定するわけではない。だからこそ口には出さなかった。不意に近くの青い視線、咲夜と目が合いつつも。


「へえ~石探しかあ。懐かしいな…亀仙人のじっちゃんトコでクリリンと晩メシをかけて勝負したっけ。」

「亀仙人の、じっちゃん…? そうだったの?」


すぐに反応するが意味は通じていない。元々、世間知らず故に、只でさえ日常的な言葉が通じないフランにとっては何でも好奇心が出てくる状態なのだろう。


「ああ! 亀仙人のじっちゃんはオラの武術の師匠なんだ。じっちゃんとクリリン元気でやってっかな~。」


親しき仲であった彼等を思い出しながら悟空は語る。悟空にとっては昔からの付き合いでもあり、深い仲でもある。懐かしむように語る彼を魔理沙は静かに話をきいていた。
そうしている間にも気がつけば咲夜は姿を消しており、その場からいなくなっていた。だがそれはほんの数秒の出来事であり、また気がつけば咲夜は姿を現していた。
まるで瞬間移動でもしている彼女の手には、先程所持していた丸い石を持っていなかった。つまりこの数秒の間に、館内の何処かに隠してきたのだろう。


「―――よし…制限時間は夜になるまでだ! ゲームスタートだぜ!」




   其の五 「宝探しゲーム」




時間は昼過ぎ。かといって夕方という時間帯でもない、太陽はまだ顔を出して、地上を明るく照らしている。にも関わらず紅魔館は日の光を浴びる事はない。
直接的に浴びる事はないだけで少なからず、照らされている事は間違いない。年中、館は光を遮られており、原因は館の近くにある湖が持っていた。
まるで霧が館を包み込んでいるのだ。館内から見ればそこまで霧を気にする必要はないが外から見ればモヤがかかったように見える。視界が悪い状態だ。


「ねえねえ、宝は見つかったの?もうあれこれ時間過ぎてるわよね。」


未だに宝を探し彷徨う悟空を気にかけて、フランが上空から声をかけてきた。太陽の光に当たるわけにはいかないので窓より上の方に位置する場所にいる。
声をかけられた方角へ、顔を見上げながら返事をする。
ついでに探し出した宝は大図書館にいる咲夜へ提出するのがルールとしてある。故にゲーム中、咲夜は大図書館から動く事は出来ない。本人からすれば不便な物だ。


「ん~見つかんねえなあ。この家広すぎるぞ~。」


悟空は苦戦していた。この館をまだ詳しくわかっているわけではない事が仇にもなっているようにフランは彼の様子を見て察する。
とはいえ咲夜やパチュリーの連絡が来ない辺り、まだ魔理沙も宝を見つけていない事になる。そして引き続き悟空は探し回る、少女は後ろからその様子を見守る。


「あったーっ!石見つけたぞ!!」

「これで魔理沙を出し抜いて悟空が一番ねっ。」

「へっへー、後はこれを咲夜のトコに持ってけばオラの勝ちだな。」


そうして数分後――。探し続けた彼は遂に宝を発見する。元々悟空の身体能力は魔理沙を遥かに上回っているせいで探す速度が魔理沙とは桁違いなのだ。
だからこそ魔理沙以上に早く見つかるのは必然的で、館に慣れていないとはいえ何度も何度もその場にいれば慣れてくるのは仕方のない事である。

しかし困った事に悟空は探す度に部屋を荒らしていた。意図的にやっているわけではないが、宝を探す為、机の引き出しや棚をあけるという動作を繰り返した結果、そうなったのだ。
ついでに宝を見つけた場所は美鈴の部屋。咲夜の性格上、レミリアの部屋に隠す事はまずないのだが、その事を知らない悟空はレミリアの部屋も訪れている。
つまり、今、紅魔館の全員の部屋は強盗でも入ったように荒らされている状態なのだ。悟空によって。今頃妖精メイド達は部屋の片付けをしているのだろう。


「――――ったく…咲夜の奴、一体何処に隠したんだぜ…。」


一方、魔理沙といえば大図書館で宝を探し続けていた。無論、他の部屋に入ったりもしたが結果は良くない。途中、何故か部屋が荒らされている箇所が幾つも彼女は発見したのだが、
どう見ても悟空が探し出した跡に見えるので其処は探さずに後回しに。妖精メイド達の会話を聞いていると彼等はまだ宝を見つけていないだとかなんだとか。

悟空が宝を見つけていないのなら自分にも希望がある。それが魔理沙の行動をより積極的なものにする要因の一つであると同時に、盗む物もその一つでもある。
しかし長く探していたせいで体には疲労がたまっていた、ほしい物を探すという作業は精神的にも疲れる行動だ。故に今は探すという動作を止めている。
余談だが、実は魔理沙の近くにはパチュリーと小悪魔、咲夜が紅茶を飲みながら待っている。しかし彼女とはまた別の角度にいるので咲夜達から視線があたる事はない。


「くそ…このままじゃ…。」


悟空ほどの身体能力があればなんとかなったかもしれないが、今の魔理沙は慣れない作業をしている事もあり体力が続いていない。
しかしふと、ある一つの分厚い本に目が止まるとぼんやりと魔理沙はそれを見つめる。そして宝でないにも関らずその本に手を伸ばして―――。


「…! そうだ、この手を使えば宝を見つけられる!」


今、悟空とフラン達は宝を見つけた事にはしゃいでいた。無邪気な笑顔はまさに子供その物、二人が実際に生きた年数を聞けば誰もが驚く事になるだろう。
丸い石を片手に悟空とフランは地下へと降りる階段に向かっていた、審判を下すメイド長のいる場所は大図書館だ、其処にはパチュリーもいる。

胸を躍らせて階段を下りようとする途中、誰か人影が目に入ってきた悟空はそちらへ顔を向けてみると、見慣れた人物が其処にいたのだ。十六夜咲夜が。


「咲夜咲夜っ! 聞いて、悟空が宝を見つけたの、これで私達が一番だよね?」

「あら…妹様。そうなの、じゃあ石を見せてくれない?」


フランに対して優しげな微笑を浮かべて接する。それはまるで家族のように接している。そして青い瞳は悟空へと向け、手を差し伸べる。
だが悟空は何故か怪奇な表情を浮かべていた。何かを納得していないような、不満が残っているような顔だ。それを咲夜にぶつけているせいで首を傾げられるが。


「…わかった。ほれ。」


未だに表情の変わらない悟空に思わずフランは少し疑問を浮かべる。なぜかいつもの悟空ではないように感じたからだ。確かに悟空ではあるが、何かおかしさを感じている。
それは咲夜と接してからで原因は咲夜にある事がすぐにわかる、だがフランにはどうしてもあの表情を浮かべる原因がわからない。それは恐らく、本人にも理解ができていない。
その本人である咲夜は気にせず石を確認している。恐らく悟空の視線にも気づいているのだろうが、本人にもよくわかっていないように見える、暫くすると悟空達に顔を向けて――。


「確かに石のようね…じゃあ魔理沙を呼んでくるから、貴方達は私の部屋で待っていなさい。」

「本当に!? やったわね悟空!」


つまりこのゲームの勝者は悟空である事。それが今、認められた瞬間だ。フランは勝者の宣言に思わず大声を上げて笑顔を浮かべている。
そのまま咲夜はまだ屋敷のどこかにいる魔理沙を探しに行ってしまう、嬉しさに満ち溢れたフランはその同意を求めようと悟空に向ける、が。
未だに悟空は表情から嬉しさが見えてこない。寧ろ何か疑問に思っているような顔だ。腕を組みながら咲夜が通った先を見つめている。

この様子ではフランの声は届いていない。それに気がついたフランは少し不満げな思いと疑問に残る気持ちが相容れながら、むっとした表情で悟空を見る。


「……ちょっと悟空ー、聞いてるの? 聞いているなら返事してよ。」

「へ…? あ、ああわりい。」

「さっきからどうしたの? ぼーっとしてるわよ。」

「…なんか咲夜の気が変なんだ。さっき会った時と違うような……。」

「気…? よくわからないけど、咲夜は咲夜のまんまよ? …でも言われてみたら、なんか変だったような。」


気という物がわからないフランでも何かがおかしいと今更ながらに違和感を覚え始める。だが話していて咲夜である事には間違いなかった。
だからこそ余計に混乱する物で、二人は途方にくれていた。とはいえ、咲夜の部屋で待っておけと言われた通り、これ以上は行くしか試しがないのだが。

そのまま二人は腑に落ちない様子で部屋に向かおうとした瞬間、目の前にいるのは紅茶が入れられたマグカップを盆にのせる、赤い髪の蝙蝠のような翼の…。


「小悪魔! 聞いて聞いてっ、私達ゲームで勝ったんだよ!」


早速、身近な知り合いがいるという事で話しかける、しかし赤い髪とこの館の色のような紅色の瞳を持つ小悪魔、彼女は驚いたように微笑を浮かべる。


「よかったですね、悟空さん!それに妹様。 これで本を取り返せそうです。」

「そういえば小悪魔は何をやっているの?」

「咲夜様とパチュリー様が紅茶を飲みたいっと仰ってて。大図書館に行ったんですよね?」

「ううん、此処で会ったの。ついさっき宝を見せて魔理沙見つけに行くから咲夜の部屋で待っててって言われたの。」

「…え?でもゲームのルール上、咲夜さんは大図書館にずっといた筈ですよ。」

「大図書館…?けど咲夜はついさっき……。」


フランは混乱を覚えていた。先程会ったのは確かに咲夜だった筈だ。それはしっかりと記憶に残っているからこそ戸惑っていた。
確かにこのゲームのルール上、咲夜は動いてはいけない存在なのは間違いない。フランはだんだん主張が弱くなっていく中で。


「―――そうかっ! ようやくオラが感じた違和感の正体がわかったぞ。どうやらオラ達はあいつに一杯食わされたみてえだ。」


突然、何か思いついたように語る。小悪魔とフランは状況に置いてけぼりの中、すぐに悟空は軽く集中すると、館内の気を探り始める。
――しかし館内には悟空が求める気が存在しない。館より範囲を広げて気を探ってみればすぐに目的となる人物を発見する。

“館の裏庭”。悟空が散々、館を彷徨い歩いた結果に導き出した場所だ。すぐに外へ向かって低空飛行を始めるとフランは困惑した表情を浮かべながら「待ってよ」と声が聞こえる。
だが聞こえていないのか一向に速度が落ちない事をフランは察知すると彼と同じように飛行して追いかける、そうしている間にも、もう悟空は館の外に行ってしまっている。
館の外は吸血鬼が天敵としている太陽の光が存在する。霧のおかげで直接浴びる事はないがそれでも脅威である事に変わりはない、フランはすぐに日傘を所持して外に出る。

位置的には館の裏庭、其処へ悟空は降り立っていた。そして真っ直ぐに目を向けているのは金色の髪をした、魔女の帽子を被る少女、霧雨魔理沙が振り返って悟空と目が合う。


「ん? なんでお前が此処にいるんだよ、どうしたんだ?」

「……さっきの咲夜はおめえだろ…"魔理沙”。」


間違いはなく、まるで確信があるように呟く。彼の目は揺るぎのない物だと実感すればするほど魔理沙の立場が危うくなっていく、それは自身も気づいている。
思わず眉を動かしてしまうが、それでも態度は崩れる事はない、かといって取り乱す様子もなく、ただ金色の瞳が悟空を写しているだけだ。


「…な、何を言ってるんだぜ…。」


動揺を隠すつもりが逆に表へ出てしまう。魔理沙自身も冷や汗を流しながら、焦っているのだ、このままでは負けると直感的に悟っている。だからこそ此処を切り抜ける手段を考えている。
少なくとも悟空が話している間が彼女にとって考える時間だ。そんな事をしている間にも悟空の後ろにフランの姿が目に見える、焦りを隠しきれずにいる魔理沙。


「オラ、あの階段で咲夜に会った時違和感を感じたんだ。ゲームを始める前の咲夜と何処か気が違うってな。
そんで、小悪魔から咲夜はずっと図書館にいるって聞いた時、気付いたんだ。あの咲夜は偽物なんじゃねえかって。」


後ろにいるフランに気づいているのは魔理沙だけではない、悟空もだ。フランは首を傾げてこの状況を見ている、恐らく殆どは理解が出来ていないのだろう。


「なあフラン。咲夜って言われた事は必ず守るんだったよな?」

「え…まあ、レミリアお姉様の介入がなかったら言われた事は守るわ。このゲーム、咲夜が破る理由がないし。」


少し戸惑い気味に少女は答える。もう悟空は殆ど確信を得てしまっている。崖に追い詰められたような状況の魔理沙にとってもはや逃げ道が存在していない。


「そして、もう一度その咲夜の気を探った時におめえの気が僅かに感じられた。魔理沙…これでもまだしらばっくれるんか?」


目の前の人物、魔理沙が相手にしている者は強敵である事。だからこそもう逃げ道は存在しないし、突破する方法は一つ。無謀だとしても、もうこの方法しか、
彼女の中で思い浮かばないし、この手段しか存在しない。彼女自身は嫌な予感がして避けてはいたが逃げ道がないなら覚悟を決めて挑んでみるしかない。


「…ふっふっふ、よく気づいたな。その通りだ、あの咲夜は私の変身魔法で化けた姿だったんだぜ。」

「魔理沙が? どうりで普段の咲夜と違っていたのね…!」


片手に持つ竹箒を強く握り締めて真っ直ぐにいる強敵へと視線を向ける、もう覚悟を決めた、彼女は躊躇う必要はない。


「けど大人しく石を渡すつもりなんて最初からないぜ。だから実力行使だ!いくぜ、悟空!!」

「いいっ!? ゲームじゃなかったんか!」


竹箒に乗ると一気に上空に浮かぶと悟空を見下ろす、そして足元に浮かぶは水色の魔方陣、力は魔理沙を中心に収束していきやがて強大な力へと変わっていく。
悟空は驚いた表情で相手を見上げていた。―――ゲームは遂に終盤を迎えようとしていた、果たして二人の勝負の行方は…。


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