ルイズは目元をひくひくと震わせた。
「あんた誰?」
ルイズは少年を見下ろした。黒い髪で、どこか抜けてそうな顔だった。まさかこれが自分の使い魔だとは、思いたくなかった。
少年は呆けたようにルイズを見上げている。
しばらく待つが、少年の返答はない。ため息を付く。まなじりを釣り上げて、今度はきつめに問いかけようとした。
少年の目から涙がこぼれた。
こちらを見上げて目を見開いたまま、声を上げて泣き始める。
「ちょっと、なによ急に。やめてよ泣かないでよ」
これではまるで誘拐だと、罪悪感が胸にちくちくと突き刺さる。勘弁してよ、と思った。子供ならまだしも、自分とおなじくらいの年でこれはないでしょうと。周りの視線を気にして見回していると、腰に重みを感じる。
少年が腰にしがみついていた。
ルイズには聞き取れない言葉を、声を詰まらせてわめきながら、顔を押し付けてくる。おへその位置にほおずりをされて、背中を毛虫が這い上がった。
「は……、はぁなぁれーなーさい!」
ルイズは少年の頭めがけて、ひじを振り下ろした。芯をとらえた重い音がひびく。
鳥が木々から飛び立ち、空へと消えていった。
抱きついていた姿勢のまま、少年がゆっくりと崩れ落ちる。白目をむいていた。
「なんなのよ、いったい」
ため息交じりの声に、応える人間はいなかった。
医務室のベッドで、少年が目を開いた。
「やっと目が覚めた。この私の使い魔なんだから、あのくらいで気絶なんてしないでよね」
ルイズは胸の前で腕を組んで、ベッドに寝ている少年を見下ろした。
「俺……なんでこんなところに」
少年はルイズの言葉に気付いていないのか、ぼんやりとしている。ルイズはむかっとして声を張り上げた。
「ちょっとあんた! ご主人様を無視するだなんて、いい度胸ね」
少年がルイズを見る。その表情が固まって、目と口が見開かれた。
「な、なによ?」
「……夢じゃなかったんだ」
ルイズを見つめたまま呟いて、その目が潤みはじめる。う、また泣くのかしら、とルイズは身構えた。おかげで、少年が「母さん!」と叫んで飛びかかってきても、すんででかわすことができた。
「なにあんた、変態? それとも変質者なの?」
杖をつきつけて威嚇すると、少年はひどく傷ついた顔をした。
「俺だよ、才人だって。なんでそんなこと言うんだよ母さん」
「母さんじゃないわよ! 私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラ――」
「やっぱり母さんじゃないか!」腕を広げて飛びついてくる。ルイズはとっさに炎球のルーンを唱えて杖を振り下ろした。
ばご、と少年の顔のまえで空気が爆発して、後ろにはじき飛ばした。
「いったい何事ですか!」
扉が開かれる。禿頭の男――コルベールは戸口に立って、室内の状況に目を白黒とさせた。
「なんでだよ母さん……俺なんか悪いことしたのか? やっと会えたのに、やっと……」
少年は床に手をついて涙を流しはじめた。その姿にただごとではない様子を感じたのか、コルベールは真顔になった。
「これは……。ひとまず学院長に相談した方がよさそうですね」
※※※
半ば放心したまま学院長室に連れてこられた才人は、学院長のオールド・オスマンに問われるまま、おのれの事情を語った
幼いころに母を事故で亡くしたこと。そしてつい最近父親も病で他界し、父方の祖父母に引き取られる事が決まっていたこと。がらんとした部屋で引越しの業者をまっていると、大きな銀色の鏡が目の前に現れ、なぜかとても懐かしい気がして手で触れると引き込まれて、そして目の前に母さんが居たと語った。
「ふうむ。さすがに他人の空似じゃろうのお」
オスマンが常識的な意見をだす。才人はむっとして、一枚の写真を取り出した。
「これが俺の母さん。平賀ルイズ。どうだよ、そっくりだろ?」
写真には、赤ん坊を抱えた桃色の髪の少女が写っている。見た目は幼さの残る少女だったが、赤ん坊を見つめる瞳にはやわらかな大人の慈愛があふれていた。
そして写真の少女とルイズは、まったく同じ人物に見えた。
「む、これは、似ているどころの騒ぎではないのう」
「なに……なんなのこれ」
ルイズは写真を見て顔を青くしていた。
「一緒にうつってる赤ん坊が、俺。どうだよ、これで信じただろ?」
オスマンはひげを撫でながら、「しかしのう」と呟いた。
「おぬしはいったい何歳なんじゃ? おぬしが赤子のころの母親と、いまのミス・ヴァリエールがそっくりなら、二人が同じ人物じゃというのはおかしくはないかの」
オスマンの言葉に、才人は口をつぐんだ。
本当はうすうす気付いてはいたが、それであきらめるには、目の前の少女は母親に似すぎていた。そして母親への思慕も大きすぎた。
黙ってしまった才人に、オスマンは小さく息を漏らした。
「ともあれ、いまのおぬしは、知るべきことがたくさんある。言わねばならぬことより、はるかに多くのう。……契約はもうすんでおるんじゃろう?」
オスマンが尋ねるとコルベールは頷いた。
「召喚してすぐに。彼は気を失っていましたが、儀式ですので」
生真面目そうに語るコルベールの言葉に、オスマンは顔をしかめた。
「ふむ。まあ仕方ないかの。二人はもう部屋にもどりなさい。ミス・ヴァリエールは彼に、召喚と使い魔について説明してやるようにの」
「分かりました」
返事をするルイズを、才人はじっと見つめていた。なんでだよ、こんなにそっくりじゃないか。声だっておんなじだし。ちくしょう、また涙がでてきそうだ。
才人はうながされるまま、ルイズの後をとぼとぼと付いていった。
※※※
ルイズは才人を自室に案内した。
「ほら入りなさい。ていうかあんた、また泣いてるの? あっきれたわねぇ」
ため息を付く。さすがにこう何度もだと、いいかげんうるさく感じてしまう。才人は顔を腕でこすって、そっぽを向いた。
「なんでだよ。そんなに似てるのに、なんで母さんじゃないなんて言うんだよ」
「そりゃさっきの絵は似てたわよ。そっくりだったもの。でも私は子供なんて産んだことないし、だいいちまだ十六歳なのよ? あんただってたいしてかわんないでしょ」
それどころか才人のほうが年上でも不自然ではないように思えた。同年代でも小柄なルイズだが、才人とはゆうに頭一個ぶんの身長差があった。
「見た目だけじゃない。声だってそっくりなんだ。なあ呼んでくれよ、サイトって。子供んときみたいに」
「いやよ、だれがあんたの言うことなんて――」
のそりと目の前に立たれて、ルイズは声をのみこんだ。才人はいまにも泣き出しそうな顔で、ルイズの両肩を掴んできた。逃げようとあとずさるうちに背中に壁があたる。
「呼んでくれよ。そうしたらさ、きっと母さんも俺のこと思い出すよ。そうだよ、そうだよね、母さん」
肩がみしりと痛んで、ルイズは顔をしかめた。才人はまるで自分が痛めつけられているように、情けない表情をしている。
「いた……い」
「お願いだよ、母さん。お願いだから」
ルイズは、ぎりと歯をかみしめた。
「だから、痛いって、言ってんでしょうが!」
叫ぶと同時に膝をおもいきり跳ねあげる。どずっ、とにぶい篭った音と共に、才人の身体がわずかにうきあがる。目を見開いて、才人はその場にくずれおちた。
ルイズはすばやく逃げると、杖をつかんで才人に突きつけた。
「ご、主人様に手をあげるなんて、とんでもない使い魔だわ」
そのまま様子をうかがうが、いっこうに起き上がる気配がない。さすがに心配になって声をかけようかと思っていると、低いひきつるような笑い声が、足元からはいあがってきた。
思わずルイズは身を堅くした。
「……なにやってんだろうな、俺。父さんも死んじまって、その上わけの分かんないとこに連れてこられて、しまいには母さんそっくりの人にキンタマ蹴られてさ」
はいつくばったまま肩を震わせて、才人は泣きながら笑っていた。
「なんだよこれ。もう俺も死んじまえってことなのか? そしたら母さんに会えるとか、そういう話なのかよ?」
ルイズは言葉をうしなった。
こういうときどんな声をかければいいのか、それが分かるほどの人生経験をルイズはつんではいなかった。
「ねえ、あんた。サイトだっけ」だから自分がいちばん得意な反応をすることにした。うずくまる才人に歩み寄り、「顔をあげなさい、サイト」と声をかける。
子供のように素直に、才人が顔をあげた。
「うん、いい子ね、サイト」
涙でぐしゃぐしゃのほほを両手ではさんで、にっこりと笑い、ルイズはそのほっぺたを力いっぱい左右にひっぱった。
「いひゃ、いひゃいいひゃいいひゃい!」
悲鳴をあげる才人を、にらむ。
「使い魔が、ご主人様を、困らせちゃ、だめ、でしょうが~っ!」
ひとことごとに手を上下にゆらす。才人は言葉にならない悲鳴をもらしつづけた。
「ほら、なんか言うことがあるでしょう?」
「ひひぇ? ひゃひ、ひゃひひゃ?」
「ご、め、ん、な、さ、い、は?」
才人はしまらない口で何度も、ごめんなさいと繰り返した。
「もうこんなことしないわね?」
「しひゃい、ほーしひゃひえん」
才人の返事を聞いて、ルイズは指を離した。
ほほを押さえて涙目になる才人を見ていると、むねの奥がどきどきと高鳴った。なにかしらこの気持ち、なんだかこいつの泣き顔をずっと見ていたいような……。
ルイズは胸に手をあてて、異常な鼓動が収まるまで待った。
「ごめん」
才人が下を向いたまま呟いた。憑き物がおちたような顔をしていた。
「いいわよ、もう」
「そうじゃなくて、俺、ほんとはちゃんと分かってたんだ。母さんがもう死んでることも、だって墓参りもいってるし、あんたが母さんじゃないことだって理解してる」
才人はルイズに向って正座した。
「なのに、似てるってだけで母さん呼ばわりして、それがどんなに失礼なことかも、いまならちゃんと分かるんだ。だからごめん、その……ルイズ、さん……」
ルイズさんと呼ぶときに、才人は寂しそうな顔をした。それに気付いたルイズは、ついそっぽを向いて、「べつに好きに呼べば?」と言ってしまった。
「えっ?」
才人の顔がかがやき、ルイズはしまったと思った。
「そ、それよりも、あんたほんっと泣き虫ね。そんなで私の使い魔なんてつとまるのかしら?」
無理やりだったが、才人は泣き虫という単語に反応してくれたようだった。恥ずかしそうに顔をしかめて、口をとがらせている。
「いつもはこんなじゃないよ。ていうか、使い魔ってなに? これと関係あるの?」
左手の甲を向けて、ルーンを見せてくる。
ルイズは使い魔の役割について説明した。視覚の共有や秘薬集めがむりだと分かるとルイズは落胆したが、才人はそれ以上に落ち込んでいた。逆に、使い魔は主人を護るものと言うと、「俺が絶対に護る!」とルイズが引くくらい意気込んでいたのだが。
そしてルイズはおそるおそる、一番気になっていた質問をした。
「それで、ね。あんたをもとの場所にもどす方法って、ないの。それでも……いい?」
このときにはすでにルイズは、才人をただの使い魔や平民とは思えなくなっていた。正確には、使い魔や平民だからと、無条件に見下せなくなっていたのだろうか。誰にでも、不幸を嘆き幸せを願っている父母がいたと。そのことを実感させられたせいだった。
才人はきょとんとしたあと、頭をかいて、「ま、いっか」と言った。
「あでも俺、金とかぜんぜん持ってないんだけど……」
ルイズは胸をそらして、手をあてた。
「そこは心配いらないわ。使い魔をやしなうのも主人のつとめだもの。きっちり最後まで面倒みてあげるわよ」
「ああそっか、じゃあ安心かな。そうだよな俺、ただの使い魔だもんな」
そう言って寂しそうに笑う。雨にうたれた子犬を連想して、ルイズの胸はしめつけられた。
「そ、そうよ。使い魔といえば、主人とは家族も同然。だからあたりまえのことなのよ」
それを聞いた才人の顔が、雲間に光がさすように明るくなっていく。ルイズは頬が熱くなってきたのを隠すために、そっぽをむいた。
「誤解しないでよね。ぺ、ペットみたいなものなんだから、調子にのったら承知しないんだからね!」
「あ、ああ、うん。分かった」
それでも才人の顔に笑みがのこっているのを見て、ルイズはこっそりと安心した。
ルイズは才人をつれて食堂にやって来た。
「ほら、そんなにきょろきょろしない」
「う、うん。けどここほんとうに食堂? なんかすげーでかいんだけど」
口をあけたまま食堂のなかを見回している。一緒にいるととても恥ずかしかった。
「さっさと来なさい、置いてくわよ」
先に進むと、「まって、まってよ」と慌てて追いかけてくる。自分を慕ってくる姿は、ルイズの機嫌をなおすのに十分だった。
自分の席に座る。そういえばサイトの食事はどうしようかしら、使用人に言えばなにか用意してくれそうだけど。考えながら、ルイズはなにかを忘れている気がした。
「なあ。俺のメシって、もしかしてこれ?」
となりで才人が足元を指さしている。床に置かれた皿を見て、ルイズは「あっ」と声をあげた。才人が医務室にいるあいだにメイドに、この食事を出すよう指示していたことをすっかり忘れていたのだ。どうしよう、違うって言おうかしら。でも厨房にいかせたら結局、私がこれを出すように言ったって分かっちゃうし……。
「とほほ、ペットってこういう意味だったのかあ」
迷っているあいだに、才人は床にすわりこんでいた。両手を胸の前であわせて「いただきます」と言って皿を手にとっている。顔をのぞきこんでも、残念そうではあっても、不満な様子はかんじられなかった。
「あ、あんた、……怒ったりしてないの?」
おそるおそる問いかけると、才人は意外そうな顔をした。
「なんで?」
「なんで、って。……床だし、量もすくないし」
自分が指示したことなので自然と声がちいさくなってしまう。才人は頬をかきながら、少し言いにくそうに口をひらいた。
「そりゃ俺もテーブルで食いたいけどさ、なんていうか、ひさしぶりなんだ。誰かといっしょにメシ食うのって。だから、そんなに嫌じゃないよ」
きき分けのいい子供のように微笑んでくるサイトに、ルイズは複雑なおもいだった。そして同時に疑問もうかんでくる。
「お父様は? その、お亡くなりになったのは最近だって言ってたけど」
「あー。父さんはさ、ずっと仕事だったから。家になんてほとんど帰ってこなかったなあ」
サイトはそう言って苦笑した。幼いころから一人で放って置かれたというのに周りの誰も恨んだりしていない。そんな才人を見ていると胸が切なくなった。同時に共感することもある。ルイズ自身も、魔法が使えないせいで周囲と隔たりを感じてきたのだ。そしてどんなに意地を張っても、一人はさびしいという事実はかわらなかった。
ルイズはいくつかの料理を盛った皿を、才人の前に置いてやった。
才人がぱああっと顔を輝かせて自分を見てくるので、慌ててそっぽを向く。
「べ、べつにあんたのためじゃないんだからね。お腹いっぱいで、余らせるのがもったいないだけなんだから!」
「そっかあ。でも母さん小さいんだから、ちゃんと食べなきゃだめだぜ?」
また母さんなんて呼んでる! 注意しようとしたルイズは、おいしそうに料理をほおばる才人を見て、その無邪気な笑顔に言葉をつまらせた。
なんておいしそうに食べるのかしら、と思った。
そして、不思議な充足を感じた。人が食べている姿をみているだけで、こんなにも満ち足りることがあるのかと驚いた。いつまでながめていても、見飽きることはないように思えた。
「えと……母さん?」
戸惑うような声をかけられて、われに返る。才人はうわめづかいにルイズを見つめていて、その頭にはルイズの手がのせられていた。いつの間にか自分が才人の頭を撫でていたことにきづいて、ルイズは慌ててテーブルに向きなおった。
頬に触れると、恥ずかしいくらいに熱かった。
「あー、ちくしょう、今日のメシは最高だ」
才人が鼻をすすりながら食事を掻きこむ音が聞こえた。
※※※
食堂からの帰り道、才人は月をみあげて立ち止まった。
「すげえ、本当に月がふたつあるよ」
「なに言ってるのよ。そんなの当たり前じゃないの」
才人はルイズに首を振って見せた。
「違うんだ。俺の居たとこには月はひとつしかなくって、そんで、母さんがよく言ってたんだ。母さんの国には魔法使いがいて、空には青と赤のふたつの月があるんだって。寝る前によく話してくれたんだ」
首元に手を入れて、服の下にいれていた首飾りをとりだす。小指くらいのそっけない棒状の金属が、二色の月に照らされて、紫色に輝いていた。
「変わったペンダントね?」
「母さんがくれたんだ。お守りだって」
ただの棒にしか見えない首飾りを、才人は肌身離さず持ち歩いていた。
夜空を見上げる。地球ではありえない青と赤の月は、自分があまりにも遠い場所にきてしまったことの証明のようだった。
「母さん……ここが母さんの故郷なのかな? だとしたらさ、俺、ちょっとは親孝行、できたのかな……」
母は何も言わなかったが、その話をする時はいつも切なそうだったのを才人は憶えている。誰か残してきた人がいたのだろうか。父が身体を壊すほど研究に打ち込んでいたのも、いつか母を故郷に帰すという誓いを果たすためだった。それを知っていたからこそ、寂しいとは思っても、才人は父を恨む気持ちにはなれなかったのだ。
せめて母さんのくれた首飾りに月がよく見えるようにと、才人は手のひらを月に向けた。
「サイトのお母様って、メイジだったの……?」
ルイズが、おずおずといった感じで問いかけてきた。才人は聞きなれない単語に、首を捻る。
「メイジって?」
「えっと、魔法がつかえたの? ってこと」
「ああ。俺も子供んとき聞いたけど、母さんは使えないのよって言ってたっけ。あー、なんかすげえ、忘れてたこととか思い出してる」
ぜったい忘れたりしない宝物だと信じていたのに、自分がいろんなものを年月の合間に置き忘れてきたことを才人は思い知った。いま鼻の奥をつんとさせているこの熱さも、いつか手放してしまうのだろうか。そして後に残るのは、かつて自分に母さんがいたという事実だけ。
才人は目元をぬぐった。
「まぁ~た泣いてる。なあに、もっかいほっぺた引っ張って欲しいわけ?」
ルイズの言葉に、思わず苦笑してしまう。
「それ母さんにもよくされてた。すっげえ痛いのに、俺が泣くともっと引っ張るんだぜ? いつも泣き止むまで、ぎゅーってされっぱなしだった」
「なんだ慣れてたのね。じゃあ今度からは、手加減はしなくていいわね」
げっあれよりまだ痛くなるのかよ、と才人が引くと、ルイズは笑い出した。
からかわれたと分かり才人はふくれた。
「サイトが引っ張りがいのあるほっぺをしてるからよ」
先に立って歩きだすルイズのあとを、才人は口をへの字に曲げたまま追いかけた。
その胸でゆれる首飾りが、月の光をうけて柔らかく輝いていた。