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[22507] 機動戦士がんだむちーと【多重クロス】
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2014/07/27 19:00
*注
 本作品は、ちーたー氏の、Muv-Luv板にある「【マブラヴ・ACFA・オリ主・ネタ】ちーとはじめました」にかなり影響を受けております。ポイント制チートシステムは、ちーたー氏に倣っております。但し、ガンダム世界であり、完全なチートとするのではなく、色々と制限が加えられているところを表現してみたいと思っております。
 何卒ご寛恕の程、よろしく御願い申し上げます。

*2010/1119/1830 チラシの裏より移動いたしました。
 皆様、よろしく御願いいたします。

*2010/1127/1410 60話到達をもって、【チラシの裏より】の記述を削除しました。

*2014/0727/1859 修正を行いアップロードしました。

 --------------------

 人間にとって、自己の概念というものは希薄ではなく明確である。少なくとも、自分にとってはそうであると考えていた。しかし、現実、モニターを通して自分にとっては未来、または妄想であったはずの光景を見ていると、それが果たして本当のものであったかに疑いを持たざるを得ない。

「2039年2月のスーパーチューズデー、地球連邦次期首相にリカルド・マーセナス候補がアメリカ、オセアニア、太平洋および欧州諸州の支持をもって当選確実となりました」

「スメラギさん、マーセナス候補の当確はどのような幕開けでしょうか?」

「候補の掲げる、人口爆発に対する解答としての宇宙移民は……」

 テレビを消す。現在時間、西暦2039年2月14日水曜日。そしてテレビに映ったニュースの内容はここが、機動戦士ガンダム、少なくとも機動戦士ガンダムユニコーンに関連する世界であることを示している。

 消したモニターに文字が映る。丁寧なことに日本語で、しかも簡潔明瞭に要求を伝えてきてくれている。

『転生作業無事終了。ジェネレーションシステムは、候補者に人類種の政治的要因に基づく減少の抑制を要求します』

 ここは月。地球からすると不相応に巨大な衛星の北極、地軸点直下20kmにあるらしい。

「Warsのアレ、とは……はぁ」

 ため息をつくしかなかった。




 第01話


「で、いったいどのようにすればこの要求にこたえられるのだろう」

 誰も聞いていないということは確かそうだが、さすがにコンソールに話しかける趣味は無い。ただ、ここまで技術的に隔絶しているならば、何らかの反応があるかもしれない、と口に出してみる。無駄ではなかったようだ。コンソールに新たな文字が生じる。


『候補者に連絡。当システムは候補者に従属し、様々な点で援助を行い、改変を可能とするものです Y/N』

 どこのDOS時代のモニターだ、と思いながら、コンソール前のキーボードのYキーを押す。

『システムは減少が抑制された人口、改変された歴史の結節点、候補者が獲得した人員・資源を数値化・運用することで援助を行います』

 つまり、人口減を抑制すること、各作品の基本的な流れに影響を与えらること、何らかの方法で資源・人員をえることで、自分の勢力のパワーアップをしていくらしい。Yキーを押す。

『人口減抑制、歴史改変でGPを獲得。人員・資源の獲得でRPを獲得します。人員の場合は獲得した人員の重要度によって獲得値は変化し、資源であれば純粋重量に基づく獲得値となります。また、RPは一定のレートに基づき、GPとして運用可能です。GPのプラスマイナスの基準は史実どおりの人口推移か否か。候補者のミスにより減少が生じた場合には減点します。それらとは別に、システムの起動初期段階にあるため、SPを提供。SPに基づき、初期戦力を調整していただきます。SP獲得に関しては、初期戦力の調整以降も使用可能で、値は候補者の行動によって変化します。初期調整後は、様々なTPOで用いることが可能です』

 3種のポイントを運用はするが、現在考えるのはSPで良い、と。レートがわからないし、選択肢も今は不明だから考えようが無いな。


『現状はGP:0、RP:0です。SPは30000。SPを用いて獲得できるのは以下の項目です。質問があれば音声にてどうぞ』

 表記が終わると同時にコンソール右上に30000の数字が、中央にリストが広がる。項目が色々分かれているな。身体強化、勢力伸張、部隊確保などなど、様々な項目が並ぶ。どうやら、大項目を選択すると小項目が選択できるようになるらしい。

「既にこちらが持っているものを減少させる場合、SPの獲得は可能か?」

 疑問は音声で、ということなので早速やってみた。たとえば、自分の持っているフランス語知識をペイに出せば、何かもらえるかもしれないと思ったのだ。身についた能力を失うのはコレまでの経験からするともったいなく思えるが、こんな場所に追い込まれたのであればなりふりはかまっていられない。

『良質問と判断、ポイントプラスします。可能です』

 ポイント欄を見ると1000ポイントの加算。どうやら、話すだけ話した方がいいみたいだ。

「良質問だ、なんてお知らせはいらない。なぜ私を選んだ?」

『知識がそれなりにあり、ある程度の識見を持った人間から無作為に抽出した結果です』

「趣味志向は問題ないと?」

『システムの目的達成に困難、もしくは障害となるような趣味の場合は当然抵触します』

「だろうな。この、大項目リスト欄外に、カーソルが反応を起こしている部分があるがそれは?」

 ピッ、という音と共にポイントが数万……7万2千へと上昇した。どうやら、いいところをついたようだ。

『本システムは候補者が「機動戦士ガンダム」として認識する作品世界に存在しますが、作品世界内の自由度だけで目的達成が困難な場合を考慮し、候補者の既知の世界に関する項目も支援対象として含めています』

「つまり、ガンダム世界だけで対応が不可能な場合は、他の作品から戦力をもってこい、と?」

『可能です。ただしその選択肢を選択される場合にはいくつかの制限がつきます』

「たとえば作品数が限定されるだとかもってこれる戦力に限定がついたり、ポイント数の制限に基づいたりする、というわけだな」

『その通りです』

 良い解答だったらしく、ポイントがまた増える。

「質問。私の場合、すばやくこの状況になれたが、他の候補者が存在した可能性がある。他の候補者に関する情報を閲覧することは可能か?」

『詳しい情報は無理ですが、書面でならば可能です』

「この世界に対してシステムが介入を決断した理由は?」

『人類種は介入が無い場合、所定の歴史を進み、最終的にはターンタイプにより原始時代に戻ります。その後、技術的優位にあるムーンレイスとの接触し、技術的向上を享受、旧世紀、数次の産業革命以上に産業は発展いたします。しかし、工業面での発達は精神面での発達を無し得ません。充分な時間、かつて中世期に経験した諸科学の発展経路を経なかった人類は、精神的にはかなり遅れたまま、宇宙に進出することになります。これは、システム的に種族の自滅傾向を増す以外の可能性を示さないため、修正を要すると判断しました』

「つまり、どのような産業的発展があろうと、人文・社会科学に対して注目を払わないため精神的発展が阻害されると。そしてそのような精神的発展無き発展は種族維持に悪影響であるというのだな」

『その通りです』

「しかし、ターンタイプによる原始時代化を経たとしても、人文諸科学の発展は可能では?」

『いいえ。技術的向上はマウンテンサイクルなどの発掘により進んでいますが、旧世紀、近代期人類の精神的発達の基礎である、人権概念が充分に発達しません。外宇宙に存する知性体との接触において、人権概念―――それに類する観念の発達は、銀河、超銀河的に種が拡散する際に必要となります』

「宇宙に存在する他の文明においても似たような考え方があると?君―――便宜的な言い方だが―――には、そのような認識や知識があると?」

『申し訳ありません。本システムに許された候補者に対する情報提供に関する制限条項に抵触します』

 ため息を吐く。どうやら、このシステムとやらは確かに、誰か―――『誰』という呼び方は正確ではないかもしれないが―――によるものらしい。

「了解した。では何故、ターンタイプによる原始時代化の時点ではなく、ここに私を送り込んだのか?―――大体答えの予想がついてきたが」

『システムは、精神科学の低廉化傾向が人類種に発生したのは』

 システムがそこまでコンソールに文字を映した段階で私はいった。

「宇宙世紀0079年に起こった一年戦争における、大量の一般市民の死亡」

『その通りです。なぜ候補者はそう判断しましたか?』

 面白い。システムという癖に質問をぶつけてきた。

「作品の歴史を見ても、極端な人口減少の主たる要因は一年戦争にあることは確かだ。それに一年戦争で戦死した人口を考えると、青年および壮年層のかなりの人口が減少しているだろうことが予測できる。また、一年戦争での連邦軍の受けた被害は、将校・下士官においてもっとも大きかったもの、と推測できる。まぁ、これはMSや航空機、艦船に配属される人員を考えると妥当な推測かもしれないが」

 システムは沈黙したまま。どうやら先を話せと促しているらしい。

「連邦軍がいくら巨大とはいっても、一週間戦争で死亡した人員で、恐らく数年分の正規将校・下士官を失っている。その損害を埋めた上にさらに巨大な艦隊戦力を一年戦争では構築し、それをソロモン、ア・バオア・クーで失い、戦後も0083年のコンペイトウ奇襲やグリプス戦役、ネオ・ジオン抗争で失い続けている。となると、将校に任用可能な知識階級に属する青壮年層が払拭した可能性があり、戦争さえ無ければ、その層が育成したであろう後発の人材が育たなくなった可能性につながるからだ。それに、システムを作成した存在は、少なくとも2045年当たりまでの人類の精神的発達は、許容範囲に収まるものと認識しているらしいね」

『理知的です。納得しました。後半の質問に関しては制限条項に抵触します。申し訳ありません』

 ポイント欄の数字が良い感じで増え、25万ポイントで止まった。どうやら、この考えはシステムを充分以上、納得させたらしい。

「そうなると、一年戦争での介入が基本となるし、基本、一年戦争での介入に基づき、グリプス戦役やネオジオン抗争を戦うことになる。しかし、ここで問題になるのが連邦政府の一部が起こしたラプラス事件だ」

 さらに切り込んでみる。最初に見た映像がリカルド・マーセナス次期連邦大統領の選挙戦のニュースだったことは偶然ではないし、一年戦争での介入を基本とするなら、どんなに早くても俺が送られるのは50年代のはずだ。宇宙世紀開始以前に送られる必要は無い。

「システムは、そこまで考えて私の転送をこの時代にセッティングしたと私は考えるのだが、いかがだろう?」

『正解です。あの事件の直接的影響は少ないものですが、今後100年の地球連邦政府―――少なくとも、宇宙に関する行政に強い影響力を持つ、連邦移民問題評議会の基本姿勢を固めた点は間違いありません。候補者がどのような行動をとるかは候補者の自由意志に属しますが、候補者が事件への介入を考慮する可能性を考え、このような設定としました』

「そこで質問。これまでの候補者に介入したものと介入しなかったものがいるならば、それらについてのデータがほしい」

『了解しました。先ほどの質問の答えにもありましたとおり、書面で提供いたします』

 そこまで考えたところで、時間を確認する。熱が入りすぎたようで、開始から2,3時間ほど経過しているようだ。そこで気づく。

「さらに質問。この初期設定に時間制限はあるか?」

『肯定。残り時間は16時間45分32秒です。表示しますか?』

 ほっとした。20時間の中で考えるらしい。この時間に関する質問で、ポイントはさらに上昇。どうやら、いわないままで時間きっかりに切るつもりだったらしい。シビアなことだ。質問を続ける。

「出現時期が宇宙世紀開始以前ということは、年齢に関する問題は?」

『初期設定として不老項目が既にあります。そのため、転送された段階でのあなたの年齢、地球時間換算で満28年4ヶ月23日のまま、基本的には推移します』

 確かにコンソールを確認すると、自分の写真の下に「不老」との表示がある。

「初期設定として私が持っているものはそれ以外にはどんなものがある?」

『当システムを収めるこの基地に対する命令権、基地の基本的保守に用いられるバイオロイド兵の生産・命令権、および、黒歴史に存在する全機械文明に関するデータです』

 なんというチート。苦笑した。となるとMSの開発に関しては問題がなさそうだ。いやいや、チェックは怠るべきではない。開発項目をチェックしていくと、どうやら、全データとはいいつつも、自由に投入できるのは宇宙世紀以外の作品に関するMSのみらしい。他のMSや技術に関しては、ポイントを消費した上で製造年代に達していなければならないらしい。解除にはポイントが必要。

 さらに気づく。宇宙世紀とくればビーム・爆発での即死がデフォルト。となれば、自分の設定についても確認しておかなければならない。

 自分に関する項目を開くと、結構すごいことになっている。不死を項目につける場合には15万ポイントの消費。死亡後1年での復活が5万ポイントを下限として、1日後まで累積で拡大する、と。さらに、MSの攻撃に対しての不死、などの限定項目が10万で、現在自分の持っている32万ポイントを考えると、出せない範囲ではない。ただ、ずっとこの外見で介入するわけにもいかないので、変装や年齢変更の項目を見ると、こちらも3万ポイントずつと割高だ。不死設定に年齢変更で18万は痛い。これについては、他の初期設定の余剰ポイントを当てはめるしかないか。

「連れて行く面子が問題だな」
 
 仲間・勢力の項目を見ると、宇宙世紀以外のガンダム登場人物が無条件選択可能で、強いキャラに分類される(たとえばドモン・カッシュなど)ものたちが、10000ポイントを上限として設定されている。これに、他作品のキャラクターを選択可能にすると5000ポイントごとに作品が拡張され、一人ずつにポイントを支払うようだ。

 意外に安いようにも思えるが、宇宙世紀のMSとたとえばコズミック・イラのMSでは操作系統が違う。コーディネイター専用OS下や、モビルトレースシステムでの運用から通常MSへの機種転換には、別途ポイントが必要になる。さらに、初期保有MSや艦船のことも考えると頭が痛い。また、自身でデザインしたキャラクターを生成することも可能だ。こちらは、生成時点で持つ能力や、成長性などの項目があり、項目ごとに設定する形になっている。

「この基地の使用権についてだが、詳しく」

『MSの生産ラインが現在4本、艦船のドックが8空いています。拡張にはRPを要します。RPは、この基地の外郭にある直径10km、深さ6kmのプラントへ、適当な小惑星や工業製品を安置していただければ、工業用ナノマシンにより分解、資源として備蓄されRPへ変換されます』

「資源収集については自動化は可能か?それに、基地の運用や保守に必要な人員についてはどうだ?」

『保守・運用に関する人員については、初期設定項目にあるバイオロイド兵に委任しています。候補者はプラントへ資源を供給する必要があります。資源収集に関しては、適当な宇宙用艦船をバイオロイドに委任することで自動化可能です。バイオロイドの増員に関しては、RPを要します』

 やはり、資源をもとにして動く以上、かなりのRPを介入が本格化する0079年、つまり85年後までに用意しておく必要があるらしい。これから宇宙開拓時代に入ることになれば、コロニー建設用の資材との競合を起こす可能性もある。

 あれから数時間、悩みながらポイントの配分を行ってみた。

 悩みに悩んだが、結局、一年戦争が始まるまでにMSを使用した本格的介入は不可能そうだという結論に達したので、MS開発に関する制限こそ取っ払ったが、初期戦力として保有するのはペガサス級強襲揚陸艦(グレイファントム・タイプ)1隻と、現在、地球連邦で運用されている共通規格の汎用宇宙輸送船を5隻と、資源回収用のモビルポッドとした。MSはポイントでいくらか取得作品の拡大を行ったが獲得はせず、『重装機兵ヴァルケン』よりパワードスーツ、『ハイッシャー』を12機、獲得した。基本、一年戦争が始まるまでは特殊部隊によるか、政治的介入が基本となると考えたので、MSは基本、不要だと思う。ハイッシャーは小銃弾程度しか弾けないし、武装も短砲身20mm機関砲だが、これから長く使うことになりそうだ。

 グレイファントムとハイッシャーで使ったポイント、26000。モビルポッドと輸送船で10000ポイント。資源回収を加速させたいが、まず基地機能の拡大が必要だろう。これから長い期間については、MSの必要性は薄い。小惑星やデプリ群を集め、RP化する作業が中心になるだろう。

 まだ満足な月面恒久都市も出来ていないこの時代、これから半世紀の時間を掛けて、月はおよそ30億の人口を養う、巨大な植民地になっていく。その月面開発計画にまぎれ、この基地の表面部を都市に偽装することまでは考えた。しかし、月面は制限が多いのでは、と思い立つ。

「月面は連邦から見られていることが多いと思うのだが、この基地そのものの場所を移動させることは可能か?たとえば、火星などに」

『可能です。現在の本基地をそのままポーテーションすることが出来ます。ただし、その場合、本基地が現在存在する月面極冠部には、巨大なクレーターが出来ますが』

「たとえば、火星の極冠に移動した場合は?」

『火星極冠部、同緯度同経度の地底には巨大なドライアイスの塊が存在します。基地機能維持にかなりの労力を必要としますが』

「火星の他の部分へのポーテーションは可能か?」

『可能ですが、さらにポイントを消費します』

「RPへの変換は、この基地内のプラントに物体を持ち込む必要があるのだな?」

『はい。ただし、基地機能の拡大をしていただければ、許容限度のある小プラントであれば、他の基地に構築することが可能です』

 仕方が無い。色々面倒臭いことになりそうだが、基地機能の拡大が出来るまでは、こそこそとはいまわるしかないわけか。この後、木星、金星、水星と土星についても確認したが、

 そこで、資源収集基地を火星の衛星、フォボスとダイモスに設けた。RPに換算するためにはこの基地まで運ぶ必要があるが、宇宙開拓時代を迎えるコレからを考えると、RP欲しさに小惑星を次々にナノマシン・プールに放り込むことは、月を監視する連邦政府の監視網を考えると難しいのではないかと思ったのだ。月が監視されている以上、派手な形で小惑星を持ってくると、政府側の疑念を呼ぶことになる。

 ナノマシンの解説の項目を良く見ていくと、ナノマシンは陽子クラスまで物体を分解した上で、RPか別の物質に変換する方式を取っているらしい。つまり、純然たる重さが重要なのだ。たとえば小惑星10tを放り込んだ場合、同重量の資源、もしくは同レートのRPに変換される。RP、ナノマシンはプラントによる管理を受けているらしいので、プラントの性能をRPやGPを消費してあげていくことで、効率が改善されるらしいこともわかった。

 そこまで考えてからはっとなったが、外側から見て難しいなら、内部拡張で搬出される土砂をプールに放り込むのも手だと考えた。それに、内部を拡張し、別クレーターなどと地下で連結させてしまえば、搬入した総量をごまかせる可能性もある。地軸点を中心にいくつかの恒久都市を連結させるタイプを模索するのも手だし、他の恒久都市開発の際に出た土砂を引き受けることで、RPを獲得できる可能性もある。

 火星基地の設営に50000ポイント。残り約24万ポイント……おかしいな、30万ポイントほどある。

「ポイントが上昇しているが、これは?」

『初期設定内での会話もポイント換算の対象です。これまでの方は、地球圏以外の場所というと、火星か木星にしか目を向けなかったものですが、候補者は他の太陽系天体への可能性を模索しました。また、小規模プラントの可能性について、前もって想定した方は少数です』

 どうやら、疑問はすべて口に出したほうが良いようだ。

 次に人員のチェック。基本的に呼んだキャラクターには基本項目として不老設定がつくとのこと。ただし、これについては候補者―――つまり私だ―――が判断を下した段階で加齢することも可能だという。よかった。どこの無双キャラを量産することになるかと思った。

 さて、宇宙世紀の人材が使えないとなれば他作品、つまり平成ガンダムのキャラクターがまず候補になるが、そこまで考えたところで頭を抱えた。
 平成ガンダム最大の特徴と私が思っている大問題。それは……


 『登場するキャラクターの能力とコミュニケーション能力が反比例しすぎている』


 たとえばGガンダム。主要キャラクター中、一番の常識人といえばレイン・ミカムラ嬢が思い浮かぶが、ライジングガンダムの操縦は別としても、一介のエンジニア・設計者にとどまる。特に彼女の場合、その技術はモビルトレースシステムを導入したMFだから、運用を考えた場合、KYで熱血で人の話しを聞かない(キャラクターとして見ている分には、島本キャラは本当に面白いが、付き合うとなると別だ)彼を使う必要が出る。

 システムによると、採用キャラクターは基本的に私に従ってくれるらしいが、『従う』ことが『理解した上で』、『いうことを聞』いてくれたり、『思った通りの行動』をするかどうかは別問題だ(そのことを指摘するとポイントになった。少し悲しくなった)。

 悩みに悩んだ挙句、まずカトル・ラバーバ・ウィナー氏を獲得。経済感覚に優れているし、ゲリラ戦の経験も豊富。小隊戦闘も(平成ガンダムのキャラクターにしては珍しく)上手いし、オプション項目の「ウィナー家」をオンにしたら、実際にアラブに富豪としてウィナー家が出現した。ちなみに某主人公や「ごひ」氏などに対する印象を口にしたところ、苦笑しながら同意してくれた。素晴しい少年だ。ポイントに余裕が出来たら、マグナアック隊を呼ぼう。彼には合計5000ポイント以上の価値が絶対にある。

 次に特殊部隊運用が基本となるので、5000ポイントで作品拡大を行い、総員合計25000ポイントを使用し、ホテル・モスクワのタイ支部遊撃隊と、の方々にお出で願った。原作でのバラライカ女史の状態が任務の際に問題になる可能性を考え、ポイントを別途消費してアフガンでイスラム過激派に捕虜となる前の段階まで肉体を戻したところ、本人含め遊撃隊全員に狂喜乱舞されてしまった。が、同時に護衛として呼び出していたロベルタ嬢と遭遇した瞬間にCQCを始めていた。

 と、ここまでは順調だったが、やはりMSパイロットが悩みだな……カトル氏はMSよりも経済面で役に立ってくれそうだし……





[22507] 第02話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/08 12:16
 MSパイロットについて悩むが、結論が出ない。キラ・ヤマトやアスラン・ザラのようなキャラクターは確かに欲しいところだが、基本的に従ってくれるとはいえ、彼ら自身が問題だと私は考えている。

 先ほどの話にも出ていたが、所謂黒歴史にコズミック・イラが含まれ、話の流れ上、文系科学の崩壊後になるらしいコズミック・イラ世界を考えると、彼ら自身の精神的成長を考えなければならない。はっきりいって、彼らの精神的成長の度合いは、いいところ工業専門学校生というものでしかないし、そもそも原作も、16歳で戦争に放り込まれている。彼ら自身に罪はないが、精神的に幼いのだ。

 だからといってあの世界では大人の方にも問題がありすぎる。ウズミ・アスハなど、娘の言を世間知らずと斬り捨てておきながら、理想と共に焼死した。別に自殺するなら勝手にしろといいたいが、国と国民全体を巻き込んでいる点は為政者失格といわざるを得ない。むしろ、連合に属しつつもオーブ独自の政策を模索すべきだったのではなかろうか。

 そこまで考えて、能力や成長性に問題がないなら、単に呼び出すだけではなく、彼らに学習する時間を与えた方が良いのではないかと考えた。その疑問をぶつけてみる。

『採用されたキャラクターの能力拡張はポイント消費で可能になります。その場合、現在表示されているリストでは、採用されたキャラクターの、そもそもの能力で区分していますので1万ポイントが上限として設定されていますが、成長の可能性を付与すると、最大3倍になりますが、宜しいでしょうか?』

 なるほど、元のキャラクターの能力が高いのであれば、成長することまで含んでしまえば、85年という時間で超級チート電影弾な存在になってしまう。現在、カトル氏にウィナー家などを込みで15000、ラグーンの方々に30000だから、これが3倍となると135000まで拡大する。これは痛い。だが、別世界からチートキャラを呼び込むのだし、これからポイントを獲得していくとなると、このレートはある意味納得できる。

 ……Spを残して必要に応じて呼び込むとかできないだろうか。

「質問だが、SPを残した場合はどうなる?」

『SPは自動的にGPに1:1で換算されます。但し、GP、RPはレート変動の可能性があります』

 3倍にまでポイントが高まるが、レートの変動まで考えるとなるとまだSPの方がいいということになる、か。残りポイントはここまでの会話によるポイント獲得も含め270000ほど、カトル氏などに成長性を付与すれば、元ポイントの45000にプラスして9万必要になるから、実質残りは18万、か。

 カトルの経済観念も棄てがたいし、ラグーンの方々には大活躍してもらいたいので躊躇無く成長性を付与し、9万ポイントを消費。技術情報と採用作品を見直し、ブラスレイターを選択。さすがにラグーンの方々でも銃弾が当たれば危ない。仮面ライダーも考えたが、御丁寧なことに一シリーズごとにポイントが必要なので選択肢には入れなかった。リアルバイオハザードやるならそれもアリなのかもしれないが。ああ……でも伊丹刑事のアポロガイストは結構好きだったんだがなぁ……

 ナノマシンには、作品ごとの機能を追加設定出来るらしいので、ブラスレイター生産技術はこれからのMSにも役立ってくれるだろう。NT-Dとか使いたい。

 そこまで考えたところで思いついた。MSの巨大化・高機能化が頭打ちになり、F-91あたりでダウンサイジングしたのは、現実世界ではプラモメーカーの思惑だったが、機体が巨大になりすぎると慣性の問題で搭乗者にかかるGの負担が大きくなることが最大の理由だ。逆に考えれば、Gの問題をどうにかしてしまえば、強化人間相手でさえ無双が可能ということになる。サイコミュを採用したのも、機体の追従性を上げる以外に、人間そのままの動きをさせることで、Gの負荷を人間が受けやすいものに変えるという意味合いもある。搭乗者の肉体強化を薬物に頼らないで行えるというのは有難い。

 となると、内政チートが主となるだろう行動の初期段階では、それこそ却ってガンダム以外の人物の方が役に立つかもしれないし、基本戦争は数の暴力の世界だから、無双を実現させるのは戦争が始まってからでも遅くないし、むしろ独自の戦力の構築と、単機平均の能力向上の方がいいか。

 ある程度の結論が出たのでブラスレイターよりヘルマン、ゲルト、マレクの三名を採用。成長性を付与し、特にゲルトについては他者がデモニアックに見えるナノマシンの不備を解除した。これで6万。

 MSパイロットについてはSEEDよりアストレイ三人娘を、また00より初代ロックオン氏を採用。グレイファントムの艦長としてナタル・バジルールを採用した。成長性をプラスして合計10万。

 残った5万ポイント(会話でまた増えていた)を肉体年齢変更の機能と作品の拡大、技術情報に用い、準備は整った。


 それでは、介入を始めて行こう。



 第02話:ラプラスの匣



 2046年1月1日。正式に宇宙世紀0001年となるこの日、以前からの予定通り、眼下に広がるスタンフォード・トーラス型コロニー、ラプラスにて、地球連邦首相リカルド・マーセナスの演説が始まろうとしていた。

 そのラプラスを照らす2枚の凹面鏡の内、天頂方向にあるその一枚に、静かに近づく宇宙作業艇があった。

「OKです、艇長。予定通り、周囲の警備艇は俺らをGEの社員と思ってます」

 野卑なラテン系の男は、宇宙服に包まれた手を動かし、了解のサインを送った。予定通りだ。あとは凹面鏡のコントロールセンターに、このプログラムをインストー……

 そこまで考えたところで作業艇が大きく揺れた。

「な、どうした!?」

『わかりません!何かに押さえつけられたようで……なんだこれ!ギャ……』

 叫び声と共にくぐもった音が生じたかと思えば、同時に響く破砕音。何かわからないが、予定外の事態のようだ。

「クソ、ばれた!?誰でも良い!各自、プラグラムの入ったMOを持って船外に出ろ!たどり着いた奴がプログラムを……」

 そこまでしゃべった瞬間、作業員用の出入口が―――それを保持する鋼材の側で連続した爆発が生じた。扉がゆっくりと動く。既に室内が真空のため、空気が外に漏れ出るような事態は起こらない。

「な、な……」

 鋼材がゆっくりと上に動く。不自然な動き。どうやら、突入をしようとしているらしい。

「構えろ!撃つと同時に外に出る!サイアム、ジョスト、裏に回れ!カールとホセは船底から出ろ!」

 リーダーと思しき人物は、宇宙用の無反動機関銃の銃口を扉に向け、やけに大きな宇宙服らしきものの腹が見えた段階で射撃を開始した。

 高音が響き、跳弾が発生。跳弾は船内の鋼材に跳ね返り一人を殺す。

「銃が……なんだあれは!?」

 ようやく退かされた扉の向こうには、3mほどの鋼鉄の人形がいる。そいつがゆっくりと腕についた銃らしきものを向け……

 撃った。




 サイアム・カラスは17歳だった。出身は旧ヨルダン・ハシュミテ王国。現在は中東連合となっている地だ。地球連邦が成立し、エネルギーの調達先を核融合発電と太陽光発電に切り替えると、中東の石油資源は内燃機関用の燃料以外の役割を持たなくなった。

 2030年代初頭に、安価な電気自動車が整備され、バッテリー技術の革新が始まる。そして止めを刺したのが、月面極冠部に大採掘基地を構える日系企業グラン・パシフィック社だ(日本名、太洋重工グループ)。月面から産出された新資源、『動力鉱石』を一手に賄うこの企業は、大型化が不可能なこの鉱石エンジンを以て自動車産業に乗り込んだ。大型化が不可能で、軍用、船舶用エンジンこそ作られていないが、電気自動車の普及に大きな役割を果たした。

 それはいい。問題は、船舶用、航空機用しか需要が無くなった石油資源が、中東に恐ろしい勢いで不況をもたらしたことだ。その上、同時並行で進んだメタンの燃料化が、その残されたシェアさえも現在進行形で食いつぶしており、石油中心のモノカルチャー経済だったこの地域の貧困化を進めてしまったことだ。

 20世紀より続く、石油依存の体制が覆されたことは、産油国の政治的地位を押し下げた。他にも色々な理由があるが、サイアムがここでテロリストの仲間入りを果たしていたのは、その不況が理由で家族を養えなくなったからだ。

 楽な仕事。

 ディスク一枚を、秘密裏にコンピューターに差し込むだけ。

 シャトルに乗って、作業艇に乗って、10分ぐらいの宇宙遊泳。

 そんな言葉に乗せられて来た場所は、今、マズルフラッシュのクラッカーで祝われるパーティー会場となった。

「サイアム、先に行け!俺が援護する」

 ジョスト。いやな男だ。ガラス越しの顔は震えている。恐らく、自分をおとりにするつもり。ため息を吐いたサイアムは、ジョストをつかむと船底にある出入り口から放り投げた。

 無音。だが、ジョストの宇宙服の胸にコイン大の穴が空き、赤黒い液体と白っぽい何かを吐き出し、慣性に従って地球の方へ向かっていく。サイアムはそちらに顔を向けていたが、ジョストの体には目が向いていなかった。地球。青い星。美しかった。何か別のモノ、宇宙飛ぶ巨人が見えたような気がしたかと思った瞬間、体を強く引き上げられた。

『サイアムとやらはお前か』

 振動音声か接触回線かはわからないが、目の前の鉄板―――パワードスーツ『ハイッシャー』―――からの声にサイアムはうなずいた。

「そうだ……アンタらは……」

『持って行け』

 コンテナを押し付けられ、宇宙服とワイヤーで結ばれたかと思った瞬間、そのまま地球とは逆方向に投げられた。




『終わったよ』

 サラミス級宇宙警備艇のブリッジで、推移を見守っていたところに通信が入った。

「ありがとう、ミス」

『その呼び方はやめな、といったろう?』

 じとり、といやな汗が伝う。後ろに宇宙服を着ずにメイド服で立つロベルタ嬢の反応が怖い。

「ありがとうございます、ソフィーヤ・イリノスカヤ」

『駄目だ』

 ああ、声が怖い。怒りつつある。ブリッジ要員としての訓練を受け、コンソールを操作していたはずの遊撃隊の方々が何かを期待する目で私を見ている。ブロックサインでさっさと要求どおりにしてくれと訴えかけている。助けを求めるようにセカンドチームを率いて待機していたボリス軍曹の方を見ると、沈痛な面持ちで顔を振った。君たち、そんな厳つい顔をしているんだからもうちょっと……

『トーニェィ……早く』

 トーニェィ。私の名前はトオルなのだが。伝えた瞬間、トーリーと呼び始め、愛称としてトーニェィとなった。ロシア語はわからない。 

「ありがとう、ソフィー姉さん」

『オーチン・ハラショー。ポイントたまったんだろう?帰ったらボリスの件、考えておいてくれよ』

 横を振り向く。こんなテロを防ぐことに何の意味があるかと問われたときに、ポイント制の話をうっかり漏らしてしまったのだ。まだ彼女一人でとどまっているが。最初に切り出されたのが、彼女の忠実な副官、ボリス軍曹を入隊時の姿に戻すこと―――うん、彼女は絶対にショタコンの気がある。年齢変更機能の話しをしたら10代に戻ってみろとか要求されたし。

「本人の同意が絶対条件です。考慮はします」

『説得は任しときな』

 ボリス軍曹が嫌そうな顔をしてこちらを見ているが、知ったことではなかった。モニターの表示を式典会場へ切り替える。







 マーセナス首相の演説は佳境に入っていた。ここはアメリカ州ニューヨーク市にある旧国連本部ビル。マーセナス内閣の閣僚が忙しく、宇宙への引越し準備を進める中、息子にして2期目の内閣では副首相を勤めるジョルジュ・マーセナスがモニターを見つめていた。

「何をしている、何故何もおきない……」

 押し殺した声は室内で忙しく動く職員たちには届いていないようだ。もし届いたとしても何を行っているかわからなかったろう。それに、意味が理解できたとしても信じられるかが微妙だ。

 息子が父の命を狙うなど、そもそも考えもしないからだ。

 それに、少なくともジョルジュ・マーセナスは表面上、父を助け、将来を嘱望される政治家だった。正義感にあふれ、しかし、父ほどリベラルではなく、どちらかというと保守的で、革新的な成果こそ残さないが、堅実な手腕を振るうと評されていた。

 しかし、その保守性こそが問題だった。

 どこをどう繕っても、現在、移民問題評議会が行おうとしている宇宙移民計画は、棄民政策以外の何物でも無いからだ。

 確かに地球に居住する人口が80億になんなんとしている現在、地球上では中国、インド、アフリカという人口爆発の温床をどうにかしなくてはならなかった。特に、独裁政権続きで統制経済を敷いていた中国は、連邦発足と共に組み入れられた変動相場制で経済の大混乱を引き起こしている。人口を現在の26億から最低限20億、宇宙に移し、生活の場を整える必要がある。

 問題は、そうした発展途上国出身者に、先進国が営々と築いてきた地球連邦という国家への参画を、全面的に認めて良いかという点だ。

 人は決して平等ではない。他より先に工業化を果たした国家群として、先進国はその経済力の多くを、発展途上国への援助と、途上国が無計画に行う工業化による環境汚染対策に費やしてきた。今回の宇宙移民政策も、このまま地球に納まっていたのでは大規模な虐殺か戦争以外に選択肢が無いからだ。

 無計画に人口を増やし、食糧問題を発生させた上に解決能力もなし。それなのに虐殺も戦争も無しに新しい生きる大地を与え、生活の場を整えるというのに、無条件で参画まで認めるという。それにくわえて、新しい生物学的なんとやらが生じた場合には、優先的に権利を譲るというのだ。

 噴飯物も良いところだった。これまでとこれからの経済力はまだ良い。一見無駄に思えても、資本の循環は新たな利益を生み出すからだ。だが、何の義務も果たしていないのに無条件で参政権を与えるだけでも腹立たしいのに、何の評価基準もない「新人類」とやらが生まれれば築いてきたものさえ差し出せと父はいう。



 ジョルジュ・マーセナスは決して無能ではない。むしろ有能だった。但し、父親ほど人間に対する信頼は無い。そしてそれは政治家には必須の条件だった。

 式典のクライマックス、連邦憲章を刻印した巨石のお披露目だ。もう駄目だ、終わりだ。計画は失敗したのだ。クソ、こんな演説さえなければ、閣内をまとめて絶対にあんな条項をいれることなど認めないのに。

 そして序幕された時、彼は別の意味で驚くこととなる。




 この日、地球連邦憲章が公布された。

 問題となる条項、連邦憲章第7章、第15条には以下の様に記されている。

「第七章
  地球連邦政府は、大きな期待と希望を込めて、人類の未来のため、以下の項目を準備することとする。

  第十五条
  一、地球圏外の緊急事態に備え、地球連邦政府は研究と準備を拡充するものとする。
  二、軌道植民地、天体植民地は各行政区分の人口が一定段階に達した段階で、連邦議会への代議員派遣権を得る」

 2048年、リカルド・マーセナス内閣が、二期目の任期を終える際、建設する軌道植民地の名称を「サイド」とし、各サイドの人口が5億を突破した段階で、1億あたり1名の代議員を連邦議会下院に派遣するもの、と定められた。また、月面など(まだこの段階では月面しか想定されていないが)の恒久都市の場合は、一市または複数市で構成される行政区の人口が1億を越した時点で、5000万人につき1名を上院に派遣するものと定められた。

 歴史はこれを、リカルド・マーセナスの偉大な業績として記している。





 問題なくラプラスの箱の入れ替えは終わったようだ。ほっと胸をなでおろす。しかし、これは驚きだった。
 小説ガンダムユニコーンの中では父親を殺し、それをマーセナスの家系が持つ罪として描いていたが、内側を見てみれば却って、ジョルジュの言い分が理に適っているのだ。

 法律の制定は、立法権を持った―――法律で与えられているものが行う必要がある。これが大原則だ。憲章のような理想でも、それが独善で成されたものであれば、後の時代には悪影響しか与えない。ラプラスの箱の最大の問題点は、記された内容でも、公開されなかった希望でもない。立法権限のないものが、適正な法的手続きを踏まずに法律に類するものを作成し、それを理想と共に公表しようとした上に、記された文言が抽象極まりないものであることなのだ。


 ニュータイプが出てきました。オールドタイプは政治的な権利が制限されます。文句は許しません。でも誰をニュータイプとするかの基準については知りません。てへ。自己申告?自称?なんでもOKです。


 ラプラスの箱が言う内容は結局これに尽きる。『善人ほど馬鹿を見る』の典型例だ。絶対にこういうことを言い出す奴がいる。

「お前はオールド、俺はニュー!」

 素晴しい。レイシズムはヒトラーで懲りていると思うのだが。ジョルジュ・マーセナスが新しいレイシズムの温床となりかねない思想を危険視するのも当然だろう。
 それに、これを閣議も通さず、演説の場で強行しようというなら、リカルド・マーセナスは死を持ってそれを購うべきだ、という論理に問題はない。それに、続く分離主義者との戦争は結局は連邦政府を一枚岩にまとめる結果となった。悪い結果ではないし、スペースコロニーなどという巨大な建築物を数百も宇宙に浮かべるなら、絶対に必要だ。


 夢見がちで馬鹿で考え無しで放蕩を尽くす父親の面倒を見るのに疲れ果てた息子が父親を殺傷。


 どこかの新聞の三面記事でも飾りそうな事件を宇宙規模に拡大するとこうなった。ただそれだけの話だった。
 

 今回の事件、サイアム・カラス―――後のサイアム・ビストにはラプラスの箱の原本(もう意味はほとんど無くなってしまったが)と、ジョルジュ・マーセナスの作った暗殺計画を立証する書類をプレゼントしておいた。ここまでやってやれば原作どおり、ビスト財団とアナハイムを作ってくれるだろう。

 地球圏を引っ張る経済的な力は、強く、そして多くあれば良いと私は思っている。

 原作を見ると、基本的にZ以降、MSを作っている企業はアナハイムだけ。戦争があり、効率的な経済体制として、軍需を独占させたというのはわかるが、それが肥大化して企業独裁ともいえる体制になるのは問題だ。0096年に、連邦政府相手にして甥っ子に手を出す趣味の悪いババアがコロニーレーザーをハッピートリガーでぶっ放せたのも、箱の力だけではないのだ。諸産業を一社に独占され支配された最終形態なのだ。

 となれば、アメリカが大好きで戦争を以てしても世界に広めんとしている自由主義経済こそ対策になるだろう。

 ライバル企業がいなければ、サービスは向上しないのだ。

 ということでこの6年、RP獲得にいそしみ、得た資源をポイント化するだけではなく資源としても売り飛ばし、『重装機兵ヴァルケン』に関する技術をオンにしたことで月の地下に発生した『動力鉱石』を用いて自動車産業になぐりこんでみました。

 いやぁ、自動車って儲かりますね。系列企業が労せず出来るし。うちの会社―――日系企業太洋重工ことGP社はエンジンのみ供給してますが、それだけでもあっという間にでかくなることが出来ました。カトル君、あなた凄過ぎです。

 勿論、降って湧いたような新しい資源に皆様興味津々ですが、月面極冠部の開発基地『N1』は5.45mm弾が何故か大好きな遊撃隊の皆様に守られ無事です。パワードスーツ隊も頑張ってくれていますし、政治的にもRPをGP変換して獲得した新キャラクターにして現在、連邦下院議員一期目を勤めていただいていますアイリーン・カナーバ閣下が大活躍。新党結成まで行くのかな?

 ……いや説得大変でしたよ?不老項目に加齢設定くわえる際に、プライベートでの年齢コントロールを要求されたり、コントロール権について交渉までしてくるんですから。やはり女性なので適当な時間をおいて老化と若化を行うことに(ポイント余分に必要でした)。

 ただ、思ったより戦力の拡張が難しいのが難点。RPの変換レートが高いのだ。キャラクターを成長性込みまで含んで獲得すると最大3万ポイントかかるし、MSの場合、黒歴史上の実機を呼び出すにも高いポイントがかかる。その上、新技術を盛り込もうとすると追加でポイントが発生するのだ。勿論、実用化を早めようと考えた場合にもポイントは必要になる。

 現在のレートは100tで1Rp。10Rpで1Gpだから、30000GPで新キャラにお出で願うには、3000万トンのリソースが必要……確かに、GP狙いで歴史変更掛けた方が有利だな。このレートが決して不利なものではないこともわかっているのだ。直径5km程度の小惑星で、質量は120億tにもなる。小惑星1個で12億RPになるわけだから。

 くそぅ、ここまで月という立地条件が問題になるとは……。火星の基地でも地下採掘の分しかポイント化出来ない限定がついているし……いや、急ぐのは禁物だ。みみっちく元素変換で稼ごう。大企業になれば「火星基地建設!」とか無理も無いし。

 ただ、技術革新の項目にワープ技術などの項目があったので、後々、どうにかなりそうなのが救いだが……




[22507] 第03話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/10/18 06:59
 宇宙世紀成立以後、その後の歴史は少々の変動を入れられたものの、概ね史実どおりの展開となった。

 月の衛星軌道との兼ね合いで安定しているラグランジュポイントL5、L4にそれぞれサイド1(ザーン)、サイド2(ハッテ)の建設が、UC0010年、開始された。目標設置コロニー数各250基、農業・居住用コロニーとして島3開放型を建設し、コロニー1基当たり1000万人を限度として移住させる。

 建設に伴い、エネルギー源としてヘリウム3を用いる超大型核融合炉を建設し、ヘリウムの確保ため、木星へ派遣する船団の運営組織として木星公社を設立。収集船や、宇宙用船舶の造船は初期こそ地球で行うが、効率と運用を考慮し、月面での建造が行われることとなり、この収集船の建造は、恒久都市『N1』にて行われることとなった。

 0016年、サイド1に24基のコロニーが建設された段階を以て連邦移民局が設立、人口の多い中国より移民が開始されると発表されたが、これに対し中国が反発。0017-22まで続く「居住権戦争」が開始される。全世界対中国(後に中国の強い影響下にあるアフリカ諸国も参戦した)のこの戦争は、地球に対する居住権という新しい特権の存在を人類に意識させたが、史実どおり、0021年に終結。連邦は「地球からの紛争の根絶」を宣言した。

 0027年、地下拡張工事に手間取る極冠恒久都市「N1」を尻目に、静かの海に建設されたフォン=ブラウン市が完成。入植が開始される。0032年までに「N1」、「グラナダ」を初めとする16の都市が完成。月面の総人口は30億に達した。

 0034年、L2にサイド3(ムンゾ)、L5にサイド4(ムーア)が建造開始。サイド3には、工業用コロニーの試験として島3閉鎖型が導入された。しかし、工業生産に伴い発生する空気中の微粒子回収の目処が立たず、居住人口が、開放型に比べ圧倒的に低下(1基当たり100-200万人)。居住人口を制限しても3年に1度、空気の全面的入れ替えと、微粒子回収フィルターの全交換を必要とするためコロニー維持費が増大。居住民に対し、重い空気税が課せられる。

 0045年、サイド3を中心に地球を聖地とし、地球人口の低減による環境回復を求めるエレズムが広まる。背景に、地球からの大気輸入の際、地球側が加工費用の一部として汚染除去費を繰り込んでいたことがある。「地球の大気=安全な大気」との印象が強い民衆にとり、汚染除去費は代金のつり上げと映ったようだ。

 また、この都市、ルナ2が地球圏へ曳航され月軌道上で資源採掘を開始。思想家ジオン・ズム・ダイクンがサイド国家主義思想「コントリズム」を提唱し、重い空気税に悩むサイド3にて爆発的に広まることとなった。同じ年、サイド5(ルウム)、6(リーア)が建設を開始。



 そして歴史の改変が始まる。
 


 第03話

 0061年、アメリカ。

 ここは地球、アメリカ行政区マサチューセッツ州ケンブリッジ。あの有名なハーバード大学の構内である。連邦政府の設立以後、アメリカ政府の要人を輩出する大学から連邦政府の要人を輩出する学校へと移り変わったこの大学で、現在、タマーム・シャマランGSAS主任教授が、サイド3を中心に拡大するジオニズムの批判演説を行おうとしている。

 歴史どおりならば、この時、シャマラン氏は暗殺され、アースノイドはスペースノイドに対する対抗思想を持たないまま戦争に突入し、感情的対立の激発を招く。イデオロギー紛争の側面もある一年戦争では、やっぱりこの点もつぶしておきたい。

「しかし、ザビ家の暗躍って、この時から根深いねぇ」

「トール様。バラライカ女史より4人目の排除が終了したと連絡がありました」

 ロベルタの声に私はうなずいた。

 講堂。演説会場として開放されているこの大学の周囲は、連邦からの独立を唱えたサイド3に対するデモで埋まっている。本日演説を行うシャマラン教授は、宇宙の独立に対して温情的だからなおさらだ。ここでの演説も、大多数が独立を宣言したジオン・ダイクンへの応援演説と解されている。

 事の発端は、サイド3が行った、地球連邦への債権放棄要求だった。

 宇宙空間に平均800万人が住む大地を建設する。勿論多額の金が必要になる。連邦政府が当然、その建設費用の大半を出すのだが、コロニーの建設予定数が人口増加を考慮した場合、1000を越える可能性が示唆された段階で、建設費用の一部をコロニーに移住する住民に求めた。そこまでは良い。

 通常のコロニーの場合、1基の建設費用を800万人口で負担し、税としてそれを払う。収入としても外壁にある商工業区で生産される小規模工業製品や、農業産品で充分な利益を確保しているから、その運上利益で支払いもたやすい。1000万人で割るとなれば一人当たりの金額も小額だ。

 しかし、サイド3は工業コロニー、いや、工業サイドを志向した。人口は1基当たり大体150万人。しかしコロニーの建設費用は変わらないから、単純計算で5倍の費用を支払う必要がある。これでは、いくら工業製品が売れてもおっつかない。その上、工業用コロニーは維持費が高いのだ。

 結局、サイド3の財政はギリギリの段階で、連邦・月面都市連合からの資金援助と債権のモラトリアムでどうにかなっている。そこにジオン・ダイクンは債権放棄―――つまり、借金を無い物として扱い始めた。

 この暴挙は衝撃的な影響を地球圏の経済に与えた。サイド3には工業用コロニーが20基、それに開放型コロニーが25基ほどあり、人口は1億5千万から2億人程度(これはサイド当たり15億の人口を考えた移民計画からすると驚くほど少ない)で、当然債権の額も大きい。これが一斉に不渡りとなったため、サイド3に投資していたマネーファンドが軒並み倒産、取引の停止と相成った。

 そしてそれだけではなく、数年後に国家として独立するとまで言い放ち、認めたくないなら連邦議会下院への議員派遣権を要求したのだ。連邦憲章第15条の必要条件は5億を突破することを明記しているにもかかわらず。債権放棄による地球経済への打撃にくわえこの要求。ジオン支持、ないし協調派として知られるシャマラン氏は地球の裏切り者となったのだ。

 しかし、本当の意味でシャマラン氏を知るものは、この日の演説が急進の度合いを強めるジオンに対する批判演説となる事を知っている。それは、批判される当のジオン・ズム・ダイクンこそが良く知っている。知っているからこそ―――排除するのだ。暗殺という手で。

「暗殺を手配したのは?」

「尋問の結果、デギン氏のザビ家ではないようです。デギン氏は意外にハト派ですから……」

「ジオン・ダイクンその人の命令」

「その可能性はあります」

 メイドではなく秘書の服装になっているロベルタはうなずいた。

「もろ左翼の内ゲバ」

「身も蓋もない結論だね、トール」

 ロベルタの反対側、空席となっていた席に着いた若い連邦軍士官が言った。階級は少尉。

「でも、現実そうではないですか?ヤン・ウェンリー少尉」





 苦々しげにモニターを見つめる年老いた女性。ローゼルシアは車椅子を苛立たしげに揺らせながら、隣に立つ男へ怒鳴った。隣に立つ男も表情は硬い。いや、むしろ女性よりも苛立たしげに息を吐き出すと、豪奢なソファへ音髙く座り込んだ。

「ジンバ、本当に送ったのだろうな」

 問われた男、ジンバ・ラルはあわててうなずいた。確かに彼の―――使えるべきと定められている男、ジオン・ズム・ダイクンの言うとおり、タマーム・シャマランへ暗殺の手を伸ばしたのは彼だ。ダイクン自身、自分の説であるコントリズムを疑ってはいない。理想としては正しいと信じてもいるし、この時代に即した考えであるとの確信も抱いている。

 問題は、ジオン共和国―――サイド3に、それを可能とするだけの経済力がない点にこそあった。

 工業用コロニーは維持費が高い。独立を訴えかけるにしろ、サイド3自治政府の抱える債務について、連邦とのある程度の妥協が必要と考えるデギンを抑え、独立宣言を出したものの、債務放棄まで訴えたために経済封鎖を返され、サイド3政府は青息吐息となった。

 工業用コロニーなど無くとも、月面恒久都市の抱える工場群で代替製品の生産は可能だからだ。特に、無酸素生産設備を持つ月面極冠都市『N1』は、ここぞとばかりに販路を拡大させていた。

 サイド3の自給自足は、現在抱えている連邦への債務を変換することでようやく一息つけるのだ。その間に木星との航路を開通させ、無酸素生産設備に必要な核融合炉を持つ必要がある。太陽光発電では発電量が限られるし、化学工業の無酸素化には大規模な発電設備がいるからだ。

「シャマランめ……。地球に残った、残り続ける人類など、天から降る業火に焼かれ、死滅する運命にあると何故気づかん!?」

 周囲の人間は目をあわさない。サイド3で絶大な支持を受ける宇宙の革命家は、結局の所こういうものだった。




『地球連邦の行政圏に属す皆さん、私は本学教授、タマーム・シャマランです』

「はじまったな」

 連邦軍本部が置かれているニューヤーク市―――数年以内に現在、南米に建設が進められている新基地、ジャブローへ移転の予定だが―――の参謀本部ビルに、集まった壮年の軍人たちがテレビを注視している。

 参謀本部作戦課長、シドニー・シトレ中将。第一機動艦隊司令、ヨハン・レビル中将、同艦隊所属『タイタン』艦長マクファティ・ティアンム大佐、彼ら二人をまとめる第一機動艦隊第一戦隊司令、アレクサンドル・ビュコック少将。恐らくは10年後の連邦軍の中枢を担う軍人たちだ。

「こんな放送になんの意味があります?申し訳ありませんが、小官は訓練計画の策定もありますので退室させていただきたいのですが」

「落ち着きたまえ、ティアンム大佐」

 シトレ中将は言った。

「連邦宇宙軍の拡大整備計画が議会を通過し、10個艦隊を作るとなれば、基幹部隊の第一艦隊の訓練計画をつくるのも当然の措置だろう。だがな、我々から見てどれだけ暴論であろうと、コントリズムを提唱し、それが支持を受けている以上、次に来る戦争はイデオロギー色の強い物になる。戦うときの論破は必要だ」

 レビル中将は頬を掻いた。主席卒業を初等教育から士官学校まで続け、40歳代の中将という破格の出世を果たしたこの軍人は、年に似合わぬ老人めいた口調で言った。

「シトレ閣下、何を考えておいでです?」

「なに、中将。似たような事が歴史にあったと思ってな。ほら、私のところにいた歴史好きの」

 レビルはうなずいた。

「ああ、ヤン少尉ですな。戦史の成績が良い……私の従卒だったときには世話になりました」

「あれに影響されてか、事件が起こると似たような歴史的出来事とやらを気にするようになったのだ」

「つまり?」

 ビュコックが先を促すように言った。

「第二次世界大戦の旧ドイツ。まさにジオンと思わんかね」

 全員がうなずく。

「だとしたら、我々に対する彼らの戦い方は、ドイツに類するものだと私は思うのだよ」

 シトレは引き出しから書類を取り出した。






[22507] 第04話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/08 12:16
 タマーム・シャマランの提唱した天体植民地論はジオンのコントリズムを押しのける強さこそ無かったが、着実にスペースノイド、アースノイド関係無しに広まっていった。特に、火星を地球と同じ居住環境にしようとするテラフォーミングの提唱は大きな魅力を持っていた。そもそも、スペースノイドの不満の大部分は、彼らが吸う空気そのものに税金がかかる、この一点にこそ存在したからである。

 火星、準惑星ケレスのテラフォーミングにより、地球と同じ環境の惑星を手に入れる。コロニーは惑星居住環境整備のための、100年単位の仮住まい―――

 無酸素生産設備の全人類圏に対する拡大と、コロニーの通商・農業環境によるクローズド・サイクル整備。木星船団によるヘリウム3の安定供給と、月面の工業都市化。コロニーは基本、農業を基幹産業として人類の胃袋を担う。完全無重力環境を要する工業製品は、少数の工業用コロニーで。

 コントリズムに対する直接的批判ではないが、安易に地球を否定せず、人類種そのものの延命のために地球・宇宙を一体とする一大経済圏の確立と棲み分けの提唱は、第二次コロニー建設計画の縮小と、サイド3の債権放棄要求で、次代の投資先を見出せない経済界からは歓迎された。

 さらに、ジオン・ダイクンのニュータイプ思想に含まれる全体主義的・人種差別的傾向の批判と、多様な価値観を衝突無く並存させるための、人類そのものの分布の拡大化。

 コントリズムとエレズムにより、地球に済む事こそ罪悪とする考え方が否定された点を以てすれば、確かにシャマランの考え方―――火星のテラフォーミングを提唱した事から「マーズィム」と呼ばれる事になる―――は、コントリズムとエレズム、結合してジオニズムとなる思想に対する、対抗思想足り得た。

 この理論の優れたところは、決してコントリズムと対立し得ない点にある。コントリズムによるサイド国家主義を否定せず、むしろ拡大の方向を取る事で、安易に地球を聖地化し、「重力に縛られたものたち」としてアースノイドを差別する視点を放棄させるのみならず、アースノイドとスペースノイドと言う区分そのものに対し批判をくわえている点にあった。

 しかし、ジオンが真に危険視したのは、ニュータイプ思想に対する批判そのものであった。元々棄民政策で地球を追われた事に対して成立した思想がジオニズムである。逆差別の理論的な後ろ盾を宇宙に脱した新人類の発生―――それが起こり得るものかどうかは提唱したジオン本人ですらわかっていなかったが―――に求めたジオニズムの根幹理論たるニュータイプ思想は、実は、コントリズムとエレズムが論駁されてしまえば、ジオニズム唯一のよりどころになるものであったからだ。

 ジオンがシャマランを危険視した最大の理由がここにある。結局のところ、彼らはレイシズムにより権力を得ようとしているのだから、それが否定されてしまえば、彼らはナチスと同じでしかないのだ。早晩、誰かがその事に気づいてしまう。気づかれれば終わりなのだ。

 そもそも、旧世紀に発達した哲学においてさえ、個と言うものが確立してしまえば、理解すなわち協調ではないのだから個人間の自由の激突が生ずるのはホッブスが指摘する通り当然の帰結であり、避けるのであればロックやルソーの言うとおり、一定のルールによってそれを制限する他はない。勿論、言葉によらない完全なる理解とやらが実現し、それが効力を持つならば激突の生ずる確率は減少するかもしれない。

 しかし、そもそも何事にも例外と言うものはつきものなのだ。

 さて、歴史を続けよう。

 0062年、シャマラン演説で示されたマーズィム――シャマランは自身の考えをシャマラニズムと名づけようとする幇間学者に対して喧嘩を売っていた―――にのっとり、火星のテラフォーミングに対する研究が開始。太洋重工グループがいち早く参加を表明。火星軌道上に太陽光反射ミラーを設営。第一段階のテラフォーミングとして、火星極冠部のドライアイスと大氷塊を融解させ、火星大気の組成変化を安定化させ、気温上昇の準備を図る事が計画される。

 0067年、地球連邦議会、サイド3より提出の債務放棄要求に対し、4度目の否決を上下両院で行う。各サイドからは空気税の税率低下のため、債務のモラトリアムを含む実質債務の切り下げが要求案として出されたが、足並みが揃わず部分的な導入にとどまった。同年、ムンゾ・月面通商協定締結。月面極冠都市連合(人口4億、中心都市『N1』)とサイド3は、工業製品の共通規格化と産品の販路交渉を継続して行い、サイド3工業の一定程度の向上までは、サイド3に関税交渉での優先権を与える事を締結。



 そして0068年、すべての幕が上がる。



 第03話



「ジオン・ズム・ダイクンの暗殺、ですか」

「暗殺と言うより、頭おかしくなった結果、体に負担かかりすぎたんだと思う」

 サイド3、1バンチ。ズム・シティは混乱のさなかにある。重大発表と銘打った議会にて、演説中にジオン氏が胸を押さえて倒れた。10分後に死亡が確認され、15分後には死体はザビ家の率いる保安隊によって隔離された。ここ数日、演説の草稿片手に3徹ほどしていたらしいから、かなり体に負担がかかっていたらしい。

 しかし、民衆は連邦による暗殺の可能性に思考が行きついた結果、暴力的なデモが眼下の中央広場前では繰り返されている。さながら、ベトナム反米デモか、日米安保反対といったところだ。

「坊ちゃま」

 私は顔をしかめた。ジオンに潜入し、身分を得るために孤児院経営を片手間にする月の大富豪、ミューゼル家の長男、という肩書きで10歳の少年の姿となった私は、現在、飲んだくれから復活させて保護者代わりに行動させている父セヴァスティアンと共にサイド3に入国した。服装はどこの軍装本からパクって来たのか正直問い詰めたくなる、ヒットラー・ユーゲントばりの茶色開襟シャツ+半ズボンにサスペンダー。

 この姿を見てからと言うもの、バラライカ女史は14歳の姿に(スチェッキン片手に脅された)なり「ソフィーお姉ちゃん」の称号を強要。割を食ったボリス軍曹も13歳の紅顔の美少年へ変化させられ護衛についている。さらにロベルタ嬢はガルシア君の面影に引きずられたか「坊ちゃま」の呼称を復活させて悦に入っている。

 危険だ。

「ロベルタ、姉さん「たち」は?」

 そう、家族と呼べる―――いつそう言う設定になったかは自分でも不思議なのだが―――人々が増えてしまったのだ。元々、父親キャラクターで子供がチートっていう家族いないかなーと思って、銀英伝からミューゼル家ご一行にお出で願ったのだが、さすがに父親がアル中じゃだめだろうと母親クラリベル女史を呼び出したところ父親復活。家族が円満化してしまった。

 参謀兼艦隊指揮官として有能だろうなぁ、とまだ5歳だがラインハルト氏には期待大なのだが、たまに悩ましげな目を向けてくるのは怖い。多分頭の中で銀河帝国つくろうとか考えているんじゃなかろうか(後で話したところ、忠犬キルヒアイス氏を呼び出してほしいそうだった。ムリだよ!ある意味オベ公より質悪いよあの人!)。

 結果、同年の10歳の「姉」としてアンネローゼ様が御降臨されたわけだが、彼女、原作でも見せた優しさを惜しげも無く発揮。ポイントこそねだらないものの、太洋重工の持っているお金なら孤児院なんて簡単よね、とようやく社会問題として生じつつある福祉関係に関して突っ込み始めた。

 女性に逆らえないよね、私たちの世代って。ポイントじゃなくて稼いだお金だから良いけど。

 危険だ。

 と悲しく思ったところ、月面で意外にも現地人採用の受け皿になる。さすがに要員すべてをバイオロイド兵で賄うわけにも行かないし、ポイントでキャラクターを呼び込むのもポイント的に無理があったのだ。おかげで、忠誠心には問題がない人材供給源となりつつある。ポイントもかなりたまってきたけど、戦争が始まるとなると色々溜め込んでおきたいのだ。ちびちびと増員も増強もしているけど。

 そして、あれよあれよという間に、孤児院開設から1年余りで貧困層の多くなってきたサイド3へ拡大したところ、一人の10歳の女の子が入ってきた。名簿の名前を見て驚きましたよ。

「トール!ここにいた!」

 ロングヘアーの黒髪をなびかせながら、気の強そうな14、5歳の女性がホテルの部屋に入ってきた。後ろから『待ちなっ!』と声質と内容の相反するモモ声が追いかけてくる。

「ねぇ、ごっ」

 危険だ。

 言葉にならないままヘッドロックを決められた。後ろから追いかけてきたらしいブロンドウェーブが顔にかかるかと思った瞬間、女性の声で「ごっ」と女性の口から出たとは思えない内容と共に、首を決められたまま振り回され、そして床をころがされた。顔を上げると黒髪と金髪のCQC。何の冗談だ。

「シーマ!アンタいい度胸してるじゃないかい!」

「ああ!?クソ姉、其処に直れ!」

 初の原作キャラ遭遇がシーマ様とは……。私、紫ババアとは距離を置きたいんだがなぁ……。とか思っている間にも、ブラックラグーンでのレヴィVSロベルタばりの乱闘は続く。ああっ、カーペットが……

「お、面白い事やってるじゃないの」

「あ、張さん」

 ロングマフラーにコート姿の東洋人が開いたままのドアをノックして入ってくる。シーマは不思議そうな顔を、バラライカは露骨に顔をしかめた。

「終わったよ。ローゼルシアは予定通り暗殺した。まぁ、あの御兄弟から離れないからちぃとばかり骨だったが。アストライアとかいうのの監視はエラ張った女がやってるが、ま、シロウトだな。シェンホアを置いておいたからいつでも接触できる。あと「お父さん」から伝言だ。銀髪から会食に誘われたと。お前さんを士官待遇の副官として置かせることに同意したそうだ。なにやった?」

「まぁ、色々と。ありがとうございます。それで、二人は?」

 張維新は口元をゆがめて言った。

「何処から見てもクソッタレな爺と予定通りに港の荷物に入ったよ。あとはマス家とやらがどうにかするだろう。なぁバラライカ。若くなるってどういう感じだ?俺からするとあの暑苦しい青春時代に戻るなんて考えもしたくないが」

「女にとっちゃあ夢心地だよ、ベイヴ。トール、あんたこいつにもいっちょやってくれよ。サングラス外すとかわ……」

 私は首を振った。張さんの目が怖い。

 危険だ。

「姉さん、何度も言っていますが年齢変更に関しては本人の同意が必要です。勿論私から御願いする場合もありますが」

「願いなよ」

「……張さん助けて」

「はぁ、素がこんな性格だとはな。ロアナプラから離れてこっち、宇宙くんだりまでくりゃ人も変わるってか?ダッヂが見たら目ぇ回すぞ」

 泣きたくなった。

 うん、危険だ。



 さて。ここまでくれば原作どおりで進行させて問題はないだろう。予定外だったのは動力鉱石エンジンの大型化が意外に進み、ザク程度の出力(900Kw)であれば出せるエンジンが出来てしまった事で、MSの核動力が動力鉱石化する可能性が出てきたところだ。核爆発が起こらないから良いんじゃね、と思ったら、現状動力鉱石は月でしか産出しないから、月面争奪戦なんて言うものの信憑性が増してしまったのだ。

 思想的にやばいところまで追い込まれているジオンは、眼下の光景を見るまでもなく連邦との対決姿勢を強めていくだろうから、もはやギレンとキシリアを暗殺するだけで事は済まない。メディアを抑えるサスロ・ザビも命を助ける事を考えたが、事態が複雑化しそうなのでやめた。むしろ暗殺の証拠を握ってドズル、ガルマに提示して正統ジオン結成フラグを作った方が良いと判断したのだ。

 戦争が不可避で、もし動力鉱石エンジンしかMSの動力足り得ないとするなら、戦争は月の争奪戦になる。これはまずい。何がまずいって?月の争奪戦なんてやらかされた日には、私たちの存在がばれる可能性が高くなるからだ。

 なので、M&Y(ミノフスキー・イヨネスコ)学会に緊急出資し、常温小型核融合炉の開発にペイをしました。いや、動力鉱石エンジンが月面企業のスタンダードになって以来、やっぱり学会に対する産業界からの援助は減り、ミノフスキー粒子の発見こそしたものの、やばい事になるところでした。

 次の問題はシャアの性格矯正なんですが……やっぱり、マザコンは元から断つべきなんでしょう。キシリアの動き次第で、こちらも対応策を考えて行きますか。

 その後、ジンバ・ラルの暴走でアナハイムが史実どおり、反ザビ家のダイクン派に援助を仕掛けるが、キシリア機関がこれを暗殺。キシリアの手が間近に迫っている事をあらためて実感したマス家は、ヤシマ家の勧めどおり、サイド5、テキサス・コロニーに落ち着いた。





 テキサス・コロニーに落ち着く可能性が高かったため、ヤシマ家が競売に取り掛かった段階でテキサス・コロニーに遊撃隊を配置する事が出来ました。これで、なんとかあの兄弟と接触できそうです。でも、手土産必要だよね。

 ということで私、トール・ミューゼル14歳は0072年のズム・シティの隔離塔を歩いております。三合会の皆様方にはお役に立っていただきました。まぁ、やっとギレン閣下と接触できてジオンに食い込めたので、私的には満足です。強面の東洋人メイドが頷きを返し、周囲を見回す。三年かかりましたよ、この塔に勤務する全員を手のもので固めるのに。

 さて、気張ってまいりましょう。息を整えて入室すると、ベッドに力なく横たわる女性に声をかけた。 

「アストライア・トア・ダイクン夫人ですね」

「……あなたは?」

 手を振り、体を起こす必要がない事を伝える。

「トール・ガラハウと言います。親衛隊に所属しています」

「……そう、ザビ家の方々はお元気?」

 悲しい女性だな。こんな時にまで心配とは。でも、ここでこうしていることが息子と娘の安全に直結しているから、母親としては満足なのかもしれない。でも、無理をしてでもここに二人をとどめておくべきだったと改めて思う。ジンバ・ラルはサイド3が危険だと思ったらしいが、馬鹿なことだ。却って安全なのに。サイド3にいる限り、ザビ家は彼らの安全を保障しなきゃいけない。それぐらい思いついてよさそうなものだけど。

「ええ、殺しても死なないぐらいには」

 そんな言葉は久しぶりに聞いたのだろう。アストライアは力なく笑った。

「まだお若いのに士官ですの?」

「ええ、実家が月の大富豪でして。金で地位を買ってみました。存外、自由なものです」

 窓の近くに寄り添って立つ。下を見ると、決まったパターンで歩く警護の軍人が見えた。軍帽を取り、上を見る。顔に大きな火傷の跡らしきもの。あらら、ゲルトさんまで来てらっしゃる。

「時に夫人、懐かしい人に会いたくありませんか?」

「もう、私はここから出る事は無いのよ」

 首を振った。

「薬、飲まないようにしていただけますか。出来れば微量ずつどこかにこぼしてもらいたい。私のところから何人かお世話のメイドが入っています。まず、それらが来たとき以外には絶対飲まないでください。印は……まぁ、全員似たようなピアスかイヤリングつけてますので区別簡単だと思いますけど」

「どうして?」

「微量ですが、毒が」

 アストライアは力なく笑った。

「入っていてもいなくても変わらないわよ。私、ここから出る事もない……」

「二人、ルウムにまで来ています。あなたの代わりの御遺体も御用意できますので、死んで出て行く事になります。夫人、出来れば同意してもらいたいのです。まぁ、同意なくとも実行するつもりではありますが」

 言葉を重ねたが、信じてはもらえないようだ。やっぱり連れ出すところまで行かないと信じてもらえないことを悲しく思う。もう少し信じてくれても……いや、一番近いところにいたのが陰謀好きの爺(ジンバ)にババア×2(キリシア、ローゼルシア)ときている。人間不信も仕方ないわ。

「楽しみにさせてもらうわ。こんなおばさんに親切にしてくれるのだから、うんと言わないとばちがあたりそう」

 トールは口元にのみ笑みを浮かべた。

「お任せください。真夏の夜の夢と思っていただいて結構です。まずはお体を直してください」



[22507] 第05話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/21 08:24
 宇宙世紀0073年。

 トール・ガラハウ15歳の春である。現在、私がいるのはザビ家主催の夜会。美々しく着飾った男女が詰め、談笑している姿がそこら中で見られるが、あまり良い感じはしない。ある一角を避けている事が丸わかりだからだ。

 鈍い傷跡の大男、赤毛のドレス女、タキシード姿の銀髪デコ。ザビ家三兄弟である。

 私は微苦笑とため息を漏らすと、その三人に近寄った。

「これはガラハウ家のご子息。良くパーティーにいらっしゃいました」

 うわっ、本当にうちの姉さんと同じ声だよ。顔を紫色のマスクで隠してこそいないものの、どうみても20台には見えない女性、キシリア・ザビが口を開いた。色々と邪魔をさせてもらっているから、あまり受けは良くないようだ。アストライアの脱出も、ギレンに話を通していたからこそ認めてもらったが、最後まで邪魔をする事を忘れなかった女傑だ。怖い怖い。何が怖いって?思い通りにならないとわかった瞬間、すべてを吹っ飛ばそうとするんだもん。

「いやぁ、キシリア様。その節は御面倒をおかけいたしました。考えもせずに花火をぶっ放そうと考える狐のお相手はそろそろ御免こうむりたいのですけど。うちの兄さんと姉さんたちが大喜び過ぎます。傍目から見ていると相手がかわいそうでかわいそうで」

 キシリアの唇が引きつる。既にキシリア機関―――秘密警察とテロリストを足して割らない存在―――は三合会と遊撃隊相手に実行部隊が殲滅されているため、史実では起こったグラナダ市長暗殺事件やキャスバル暗殺未遂(本物のシャア・アズナブルが巻き添えを食った事件)が起こっていない。もっとも、歴史の強制力か何かは知らないが、アストライアと涙の再会を果たしたのに、キャスバルはジオン入国を決意。入学許可証に身分証明書を残らずキャスバルに奪われた本物のシャア・アズナブルは、月の連絡ターミナルでホームレスに落ち込んでいたところを保護。現在は別名のエドワウ・マスとして太洋重工デプリ回収グループで働いている。

 あれか、母親の言葉で充分だし、やっぱり子供にはショックだろうと、死去直前に撮影しておいた、いっちゃったトロツキーなジオンの姿を見せなかったのがヤバかったのだろうか。だけどなぁ、あれはトラウマものでセイラさん夢に見そうだしなぁ。地球に飛ばされてララァとあったあたりで仕掛けるのも手かもしれない。

 サイド3内部も例外ではない。アストライアをローゼルシアの死後確保していたのもキシリアだが、こちらは最終的にローゼルシア邸すべてが爆弾で吹っ飛んだ。張さん曰く、「すまん、火が強すぎた」らしいが、コロニー外壁にまで影響がありそうだったのはさすがに肝が冷えた事を記しておこう。

 現在、張兄さんとソフィー姉さんはポイント獲得を争うかのようにニュータイプ研究所に襲撃の力点を移し始めている。そのため、このごろニュースでサイド6の医療施設が襲われる報道が絶えない。頭が痛い事に、とある研究所を襲撃したところ、合計13体の受精卵を確認。既に培養が進んでおり、全員女の子で、胎児から0歳児程度まで、中には10歳児程度まで成長していた個体もあり、このまま誕生させる他は無かったなんてことがこの前あった。

 書類を確認するとエルピー・プル型の『量産型』がプロトタイプと合わせ合計12体。女性体なのは人間として安定しているのが女性で、後々薬物で調整するのが好都合だからだそうだ。そしてそのプロトタイプとしてセレイン・イクスペリ型が1体。システム・セイレーネとか冗談じゃない。

 襲撃を受け続けて人工ニュータイプの確保(この時代はまだ、デザイン・ベイビーぐらいの認識だが)に目処が立たなくなったのは良いが、その代りに既存のニュータイプの確保と彼・彼女らの機密保持が固くなってしまった。おかげでクスコ・アルやマリオン・ウェルチなどの所在が不明。さっさと確保してあげたいところだ。それに今回はっきりしたが、モノアイガンダムズまで含まれるとなると痛い子アイン・レヴィ君もどこかにいるはずだ。


「人の財布に手を突っ込むのが大好きな様ね、坊や」

「怖がりなおかげで、なんでもかんでも手を突っ込まざるを得ない人とはあんまりお付き合いしたくないのですが」

「キシリア、よせ」

 ギレンが話に割って入った。

「ガラハウ君、キシリアのお遊びの相手と言うには、少々花火が大きすぎるような気がするのだが」

「それも楽しい暇つぶしなんですが」

 ギレンは鼻で笑う。どうやら、私の行為を、結局他の有象無象と同じくザビ家の権力目当てのものらしいとでも思ったらしい。キシリアのお遊びに茶々を入れていれば、対立するギレンとの友好関係を築きやすくなるとでも思っていた、とでも考えたのだろう。

「我々はもう、友人ではないかね?」

「友人と言うなら愛称で呼びたいものです。でも、閣下。あんまり本音を表に出さず、他人に推測をさせるのは、処世術としては上手くありますが、役に立つかどうかは微妙ですよ。経験から言わせていただきますと」

 ギレンの表情が凍る。どうやら、他の違いには気づいてもらえたようだ。

 ギレン・ザビは優秀な政治家だ。彼はジオニズムに染まったジオン国民を束ねるために、ジオンを演じ続けた。コロニーに毒ガスを注入し、それを地球に落とし、自分についてくるもののみを優良種と称し、逆らうものを悪と断じ斬り捨てた。実際のところ、死の直前のジオンを見ていれば、ギレンの唱えた優生人種生存説は、ジオンの説の当然の帰結になるだろう事は簡単に推測がつく。

 どこかで似た話を聞いた事があると思っていたら、ジオンが自分をイエスになぞらえ、息子キャスバルの誕生を聖誕に擬したと言う記載を見てから、彼らは結局のところ、モーセになりそこなったのだろうと今では思うようになった。考えてみれば、ハマーンもシャアも、ギレンのなりそこないなのだ。

 そして、彼らは結局のところ偽者だ、十戒を与える神を持たないのだから。

 さらに喜劇的なのは、ダイクン派とザビ派との争いはイデオロギー上の対立のはずだろうに、『ザビ家』、『ダイクン家』などで争う王朝対立の側面が出まくっているところだ。本来なら、思想の善悪をもって対決すべきところだし、そもそもニュータイプとして革新した人類が古い血族意識に囚われるなど噴飯もいいところ。だからこそ、ギレンがジオン以上のジオニズム主義者である事が疑いをもてなくなって来ると、その批判はジオン暗殺と独裁に絞られるようになった。

「君は、其処までふかく切り込んで来るのか」

「正直なところ、あなたの理想は如何でも良いです。協力する事で、ジオン内で私が動ける事によって生ずる利益の方に興味があります」

 ギレンの表情は変わらない。

「君の利益とは何かね?」

「興味・関心を満たすこと、ですかね。知り合いも多いので、彼らの生業も確保したいところですし」

 ふと見ると、ドズルが照れくさそうな顔で壮年の紳士に話しかけているのが見えた。

「ギレン閣下、弟さんにぞんざいな口調をかましてもよろしいでしょうか?」

 ギレンの表情が訝しげになるが、うなずいた。

「ドズル閣下!ゼナ様に言いつけますよ!」

 びくりと背を伸ばすと相手をしていた紳士と共にこちらへやってきた。怒り心頭と言ったところの顔が、となりの兄の顔を見ておどけた不気味な顔に変化する。妙になよなよしい声で隣の紳士を紹介してくれた。マハラジャ・カーン少将。今度アクシズ建設の責任者として赴任するらしく、本国に残す家族の世話を申し出ていたらしい。世話。娘愛人としてよこせが世話。

「はは、冗談がきつすぎるぞ、トール」

「いえ、冗談で済めば御の字です、閣下」

 いきなりきつい言葉を飛ばしたが、実はドズル閣下との仲は悪くない。「戦争は(ry」など、色々と基本的な考えで合うところがあることがわかると、親衛隊所属にもかかわらず色々と連れ歩いてくれるので、結構軍の内部にも顔が利くようになった。勿論、秘密裏に始められているMSの開発計画で、月の大富豪出身と言う経歴を生かして性能の良い新型動力鉱石エンジンを供給してあげていることもプラスに働いている。

「紹介いただけますか、閣下」

「おう、マハラジャどの。こちらはトール・ガラハウ大尉相当官。兄貴の副官を勤めてくれている。月面『N1』出身でな。色々と月との交渉では便宜を図ってもらっているのだ」

 心労で疲れ果てているのだろうか、沈痛そうな面持ちをこちらに向けてくる。だが、相手が14,5の少年とわかると表情を緩めた。この人も人が良すぎる。背景を洗っていてわかったのだが、この人、著名な宇宙貿易商として、ジオンの『研究』に出資していたのがそもそものかかわりらしい。宇宙を航行する貿易商、しかも会社社長と言う事で、ここにいる誰よりも連邦政府の実力を承知している。

 だからこそ、友人の作ったジオンと言う国家と、巨大な連邦との間でなんとかジオンを保とうと四苦八苦する事になるし、自分の存在がダイクン派とザビ家の対立になりかねないと判断すると、娘を犠牲にすることもやむをえないと判断した。戦争のない時代の首相とかには最適の人だろうなぁと思う。ギレンも、そこを考えてアクシズに赴任させたのじゃあなかろうか。

「本日は娘たちも連れてきておりましてな。エレーネ、ハマーン。御挨拶しなさい」

 後ろに控えていた二人の女性―――一人は18歳ぐらいの、もう一人は10歳ぐらいか。小さい方の女の子がハマーン閣下だろう。これがあの有名な『萌えハマーン』かとしげしげと見つめると、こちらを見つめて笑い返してきた。いい子だなぁ。こんな子がああなるんだからやっぱりシャアは死ぬべきかな、などと考えてしまう。

「何を見ているの?宇宙?なにか爆発っぽいのがたくさん見えるよ?」

 恐ろしい子!この子、やっぱりニュータイプの素質アリまくりだ……なんて事を考えていると、即座に反応したのが紫ババア。マハラジャに近づこうと動くが、機先を制して話しかけてみた。

「二人ともおきれいですね?僕はトール・ガラハウと言います。ギレン閣下の副官なんてしていますが、やっているのは話し相手とお茶の用意がせいぜいです」
 
 その会話に望みを見つけたのだろうか、ドズルが話に割り込んできた。

「いや、こいつは頑張ってくれていてな!我が軍の……」

「ドズル!」

 ギレンが怒鳴る。そりゃそうだ。こんなところで最高機密のMSの事なんぞバラされた日には取り返しがつかなくなる。どこに連邦の耳があるかわからないのに。

 けれど、これはいい機会だ。ギレンに近づくと裾を引き、二人で話が出来る距離まで引き寄せた。ここぞとばかりにドズル、キシリアが近づくが、仕方がない。

「マハラジャ閣下はアクシズに赴任の予定でしたよね?」

「……君がそれを何処で聞いたのかは聞かないことにしておこう」

 ありがとうございます、と一礼してから続けた。

「ダイクン派を抑えるためにもマハラジャ閣下をアクシズに飛ばすのは問題ありませんが、家族を人質とするように受け止められては却って逆効果と思います。私の方で閣下の御家族を引き受けたいのですが宜しいですか?」

「それで君に何の得がある?君の事だ、何らかの目的があるのだろう?」

 喰えない人だ、本当に。提案に裏があると見抜いてくれているし、しかも外していないんだから。まぁ、いきなり現れた軍人の配属先を知った上でこんな提案していれば当然そう思うだろうが。さて、なんてごまかそう。

「キシリア閣下に一撃くわえたいのが本音です。あの人、このごろニュータイプだと目をつけた人間を片っ端から研究所送りにしてヤバい研究をかましてくれているので、一部問題になっているんですよ。内務省から上がっていませんか?最近、マハルやタイガーバウムといった貧民が多いコロニーで、行方不明者が多発している件です」

「あれがキシリアのせいだと?」

 私はうなずいた。

「ええ、もっとも、デコイやダミーも含んでいますから結構な件数になります。内務省からの報告の数が、閣下が問題になるほどあがっていないようでしたら……内務省にキシリア閣下のシンパがいる事になります」

 ギレンはため息を吐いた。

「まだ不足だな。内務省の件など、とうに承知しているはずだろう?今になって君がキシリアに手を出す理由にはならん。マハラジャの家族になにか思い入れでもあるのか?」

「否定はしません。かわいいですし。ただ、うちの孤児院が数回襲撃未遂を受けているので、これを機会に、とも考えています。実はアンネ姉さんとシーマ姉さんからの突き上げがありまして」

 うそではない。ただ、この時キシリア機関の相手をしたのがホテル・モスクワ遊撃隊ではなく三合会の方々であるため穏当だっただけだ。遊撃隊を投入していたら恐ろしい事態になっていたに違いない。その上、最近は孤児院のあぶれものやシーマ姉さんの運送会社が元となって結成されたPMCガラハウ社(史実のシーマ艦隊)までそれに加わった。これまで活動範囲ではなかった宇宙空間や港湾部でのドンパチまで対応できる。そして孤児院出身のシーマ姉さんがこれを聞いたらどういうことになることやら。

 ギレンは腹を揺らした。この人にしては珍しい。

「君にも苦手なものがあるか。いいだろう。だが、いくらかの面で見返りは期待したい」

「具体的には?」

「02がエンジンの小型化に手間取っている。君のところでも考えてもらいたい。それに、あまりやりすぎるな。ニュータイプはキシリアのおもちゃにしておけ。あ奴に面倒な事を起こされては適わん。それに、防諜をしているのはあ奴だ」

 うなずいた。だが、これでは今度はこちらが支払いすぎだ。しかし怖いなこの人。ニュータイプ関連での争いって見抜いているよ。

「じゃあ、後一つ」

「言ってみたまえ」

「マハラジャ閣下の下にはユーリ・ケラーネ中佐を」

 ギレンはうなずいた。よし、これでアクシズでの反乱フラグが消えそうだ。エンツォの奴には地上で苦労してもらおう。さて、ここでの用事は済んだ。次の仕事に向かおう。




 移動するエレカの中でここ数年の自分を改めて振り返ってみた。
 
 第二次コロニー建設計画の縮小は行われたが、計画そのものは継続し、0070年、サイド7に4基のコロニーを置くことに成功している。続く第3次コロニー建設計画は、サイド7の拡張と共に、火星、木星に居住用コロニーを建設する事で合意している。

 史実は、コロニーの建設ラッシュで生じていたバブルがサイド3の債務放棄要求ではじけたために計画は縮小・停止されたのだが、この歴史では月面極冠都市(0071年に恒久都市『N2』~『N4』が完成したため、名称は『Nシスターズ』に変更)が出資を行っているため、規模こそ縮小されたが継続している。この規模縮小は、60年代後半から開始された、連邦宇宙軍整備計画に予算を取られたためだ。このため、だんだんと景気は冷え込んできている。

 MSの開発は史実どおりに進み、現在、MS-02が開発中だが、やはりエンジンの大きさと出力の問題で開発が難航している。核融合炉を搭載した場合、エンジンサイズが巨大になりすぎ、動力鉱石エンジンを搭載した場合は出力が所定の値を満たさないのだ。ギレンの今回の申し出は、ザクの出力を出せるエンジンを供給するいい機会になるだろう。

 火星のテラフォーミング技術は、やはり学会からの批判にさらされたが、なんとか実用の目処がつけられそうだ。惑星の核に対するダイナモの発動こそムリだが、火星の住環境を整え、月面と同じく恒久都市を建設するには充分らしい。こうした、テラフォーミングに対する熱の高まり具合は、準備段階としてのコントリズムに対する支持にもなってきており、各サイドの自治共和国化は意外に早く済みそうだ。

 これらの事態に伴い、マーズィムの主張する通りにサイド3の経済も回復しつつある。工業用コロニーの設置予定がサイド7にされたものの、現状で完結した無重力環境で工業生産を行えるのはサイド3の値がやはり大きい。サイド3は月面との交渉で得た資源を、これら工業製品の生産に振り分けて貿易収支を黒字化した事で、民生が一時的に安定化し、特に他サイドとの緊張関係に終止符が打たれたことはいい変化だった。

 しかし、最近、貿易収支が黒字化したにもかかわらず、民生が次第に傾いてきている。特に問題となっているのは民生用品の価格が少しずつ上がっているところだ。これはつまり、本来民生用品に用いられるはずの資源が別の用途に用いられている事を示唆している。

 まだムサイやチベの設計が終わっていないはずなのに、ダーク・コロニーでもつかっているのか?MSの生産用設備の拡大は確認しているし、今は低出力ジェネレーターを装備したモビルワーカーMW-01、02の生産が開始されたと言うが、月面が購入しているから収支は出しているはずなのに……

 ゲルトたちに頼んでダーク・コロニーに潜入してもらう必要があるかもしれないな。こういったときに金属と融合する事で情報を得たり、強化や支配を行えるブラスレイターは有用だよね。ノーマルスーツ無しで宇宙に出れるところもいい。

 そんなことを考えているうちに車が目的地についたようだ。





「失礼します、トール・ガラハウ大尉相当官。参りました」

「良く来られた。好きなところに掛けたまえ」

 老年の男性、デギン・ソド・ザビ公王は言った。

「あの3人の様子は如何だね」

「いつもどおりかと。ドズル閣下とキシリア閣下はマハラジャ閣下に御執心のようです」

 デギンは荒々しく鼻を鳴らした。

「あのバカどもめ。下手にマハラジャに手を出せばどうなる事かぐらい想像がつこうに」
 
「一番落ち着いておられたのはギレン閣下ですよ」

「あいつの場合、手を出さん方が却って不気味だ。手を出さんことそのものが手を出している事になる。まったく、独裁者が不気味に薄ら笑いを浮かべながら立っていればあらぬ事を考える奴が出てくるぐらい想像できんのか」

「そこのところも承知の上でやっていると思われますが」

「なおさら性質が悪い。デラーズなど狂信に近いのだぞ?」
 
 なるほど。やはりこの人、良く見ていらっしゃる。息子二人に娘一人がどれもタイプの違う暴走機関車ともなれば嫌でもそうならざるを得ない。それに、キャスバルに焚き付けられたとはいえ、ガルマにもその気があるし。

 デギンはそんな私の胸中を別の意味に受け取ったようだ。

「やはり、起こるか」

「ええ、間違いなく」

 私は立つと窓際によった。窓と言ってもスクリーンで、画面上には大きく月の裏側が映し出されている。月の裏側にあるL2ポイントからは、月にさえぎられて地球は一年に2ヶ月しか見えない。

「開発中の03が実用段階に達し、改良型が出来、数量が確保できれば。必ず」 




[22507] 第06話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/10/21 09:52

 宇宙世紀0078年2月。開戦の一年前である。
 本来ならこの年、ミノフスキー博士が連邦への亡命を企てて失敗するのだが、この歴史ではそんな事はなく、ミノフスキー博士が無事、連邦(というか、フォン・ブラウン市のアナハイム社へ)に亡命しました。

 キシリア機関をいじめすぎたおかげで、どうやらキシリア機関、亡命計画を入手するのが遅れてしまったようで、月で起こるはずだったシャア(ジオンの軍籍簿にはこの名前で登録されているので以後、この名前で)と黒い三連星VS連邦のプロトガンキャノン隊との戦闘は起こっていません。けれど、連邦に入っているシトレ大将からの連絡によると、ア・バオア・クー宙域でのMS-04の試験飛行の映像だけではなく、様々な映像データ(グフまであった)が、やっぱり諜報部によって漏れているとの事。バランスを取るのが難しくなってくる可能性が出てきました。

 ジオンの外交政策はマーズィムの目玉である火星のテラフォーミングが、第一段階の太陽光反射ミラーの設営および、技術者の居住コロニー設置工事に入った事でなぜか安定化しています。どうやら、ジオニズムはともかくコントリズムの提唱国として、貴重な無重力工業製品の産出サイドとしてジオンの立場が地球圏の中で安定化して来た事によるものらしく、完全に連邦よりなサイド2ハッテとはまだ険悪ですが、それ以外のサイドとは(特に歴史どおりサイド6とは)友好関係が生まれてきました。

 これを受けてギレン閣下は優生人類生存説の発表を控えてくれました。来るべき戦争においての兵員供給源として、友好的なサイドからの義勇兵を受け入れる準備を命令しています。おかげで、それら義勇兵の訓練を担当する事になったデラーズ大佐の親衛第二艦隊はおおわらわです。

 かくいう私はといいますと、年齢が20になり、MSの操縦もベテラン・パイロット並にこなせるようになった事で、ギレン親衛隊のMS部隊の隊長を拝命しました。ギレン閣下いわく、「前線に出る事は無いが、新型MSの戦力化を優先して行え」との事でした。

 目前に迫った一年戦争を前にしたジオン公国軍の戦力は、史実と比べて後方戦力が充実化してはいますが、主力艦艇であるグワジン、ザンジバル、ムサイ、チベなどの各艦はおおよそ史実どおりの戦力です。これは、戦力の拡充を行えなかったというよりも、これらの艦艇を格納していたダーク・コロニーの許容量の問題でした。

 けれど、これらの戦闘艦艇を支援する輸送船舶の方はかなり層が厚くなっています。一年戦争時、これらの支援艦艇は合計208隻、パプワ級が80隻ほど、パゾク級が100隻ほど、他がヨーツンヘイムに代表される貨客船改装型でしたが、これにくわえて箱型輸送船(準コロンブス級)が50隻ほど加わっています。

 MSの方は、MS-04が予定通りツィマッド社のEMS-04ヅダとのトライアルに勝利しました。改良発展型のMS-05、ザクⅠが公国軍制式MSとして生産されていましたが、昨年から改良型のザクⅡへと生産の主力が変更されています。

 さて、ジオン軍のMS生産が開始された事で、私たちの勢力もそろそろ本格的な戦争参加準備を整えるべく、戦力の整備を開始しています。親衛隊第4大隊が私、トール・ガラハウ中佐の率いる部隊ですが、ギレン閣下の言うとおり、この部隊は完全に新型MSの試験運用部隊として用いる事にしました。

 具体的には第一中隊にプロトタイプグフ、プロトタイプドムを配備。コロニー内に設営した地球環境そのままの演習場で実験を行い、ここでの実験結果はジオニック、ツィマッド両社にフィードバックされます。特にペイロードが多く発展の余地があるドムは、宇宙空間運用型(リック・ドム)が既に試験段階です。残り二個中隊ではザクⅡの武装強化案を現在進めています。



 第06話


 あまり、技術的な発展を無視したMS投入をして戦争を混乱させたくない、というのが本音です。しかし、目の前に広がる『N1』地下の開発ブロックでは、現在の技術段階を考えると恐ろしい形の部隊が出来つつあります。

「中佐!」

 声をかけてきたのはアサギ・コードウェル少尉。既にギレン閣下から「親衛隊の第4大隊とお前の私兵(PMCガラハウ社)は好きにして良い」、というお墨付きも戴いていますし、連邦軍の作戦本部長にまで昇進したシトレ大将閣下からは、第17独立部隊という名前で軍籍を頂きました。混乱するので、両軍共に階級は同じと言い渡してあります。

「どうしました?アサギさん」

「プラズマ・リアクターの出力向上に成功しました!これで、ゲシュペンストシリーズはすべて再現可能です!ご機嫌に動いてくれるMSですよ!」

 MSではなくPTなんですがね。こちらもうれしくなってくるくらい、明るい声。やっぱりこのアストレイ三人娘には癒される気持ちがします。なでなでもふもふするとセクハラですが。技術者兼パイロットで、しかもそんなレアな組み合わせを持つ人が三人いるのは、正直とても有難い。この3人に扱えるMSということは、当然、訓練次第でオールドタイプも戦果を挙げられるMSということになります。開発に際しても、視点の持ち方がそれぞれ異なりますから問題点の洗い出しも早い。三人寄れば文殊の知恵、とは良く言ったものです。

 真面目な話。ジオニズム最大の欠陥と私が考えているニュータイプの特別視を排除するためには、ニュータイプをオールドタイプが打ち破る必要がある、と思っています。確かに人の革新というものは非常に魅力的な考え方ですが、それは内面や思想の段階で成されるべきで、決して敵MSの撃墜で証明されてはならないからです。それでは、ニュータイプに対する認識は、カーディアス・ビストの言うとおり、単なる撃墜王でしかありません。

 かといって、ニュータイプを打ち破ったのが別のニュータイプや強化人間、果てはデザインベイビー・コーディネイター、別の生き物イノベイド、被爆者イノベイターではもっとたまりません。先天的にそうなるのは論外ですし、後天的にそうなるのは改造人間と変わりません。「特殊な力を持っている者」を否定するためには、「持ってない者」がやるしかないのです。とかなんとか考えたところで、結局のところ人外設定なんて付け加えるのがむかついていただけだったと思いなおし、反省しました。ちくしょう。チートならチートと言い切ったほうがすっきりするのに。


 ああ、だからみんなGガンダムは好きなんだ。


 さてそんなわけで、誰にでも汎用可能なもの―――技術で、しかも人体に手をくわえないで行う制限を自分に課してみました。これも縛りプレイ?まぁ、それはさておき。

 まず機体の高性能化が必要になるわけですが、単純にMSでそれをやろうとなると技術的に模倣されかねませんし、鹵獲された場合、ある程度の道筋をつけてしまうことになります。ある程度の道筋をMSでつけてしまえば、最悪、一年戦争はともかく、グリプスやネオジオン抗争での流れが読めなくなります。気づいたらティターンズがジェガン使い、エゥーゴがガンイージ、ネオ・ジオンがバタラだとぅ!?なんて目も当てられません。

 となると、MSとは別系統の技術でそれを実現する必要があるため、私が手を出したのがPT、パーソナルトルーパーでした。

 ある程度までMSと同じ技術(エンジン周りが核融合炉)であるものの、介入を行い、特にニュータイプ同士の戦闘に割り込むとなると、MSとは隔絶した性能、別個の開発経路が必要になります。これをあくまでMSという枠内でやろうとすれば、最低限、スモークラスの機体を投入する必要がありますが、縮退炉なんて渡せません。

 ということで、私たちの部隊―――月面に本拠地がありますのでルナ・ジェネレーションズ(略称LG)と名づけてみました。液化ガスかよ、とか言う突っ込みは無しの方向で―――は、PTを運用することとしました。ゲシュペンストでも、運用環境の広さや取りまわし、それに「究極キック」が可能な運動・装甲などの性能を考えれば、グリプス戦あたりまで活躍できると考えています。

 ただ、顔がジム系統なので連邦側での運用しか出来ませんが……ジオン側でやるときは如何しよう?

 そのため、アサギさんの報告で次にやる事はジオン側で介入する際に用いるPTの開発、ということになりました。あ、ジュリさん?なんでしょう。

「中佐、宜しいですか?連邦のヤン・ウェンリー大佐がいらっしゃいましたが……」

「あ、すいません。時間ですね」

 忙しくなってきました。ちなみに、彼女ら三人を最初に呼んだ動機の一つが、眼鏡っ子好きなのはここだけの秘密です。考えてみたら眼鏡キャラって使える人多くないか。うん、参考にしよう。



「すいません、遅れました」

「いや、好きにさせてもらっています」

 副官のグリーンヒル中尉と共に、紅茶を楽しんでいたらしい魔術師が言った。グリーンヒル中尉の表情を見るに、どうやら、お邪魔をしてしまったらしい。

「こちらの工廠からのサラミス級の受け取りがそろそろ始まりますので、それにあわせてきましたが、どうしました?」

「いえ、連邦軍が考えるジオン軍の迎撃作戦がどうなっているかを確認したかったのです。さすがに連邦の目もありますので、シトレ閣下との電話だけではどうにも行きませんので」

 なるほど、と魔術師はうなずいた。

「現在、地球のジャブロー工廠などで建造・格納されているサラミス、マゼラン両級には90mm対空砲の増設工事が始まっていますよ。連邦軍の頭の固い人たちも、既にある戦訓を使う分には文句が無いようですし」

「じゃあ、MSの認識も?」

「ええ、ゴップ大将でしたら、専門は軍政や兵站ですので難しかったと思いますが、シトレ閣下の音頭とりなので、ビュコック中将から『占領の出来る飛行機』やら『歩兵+戦闘機』なんて言葉を出してもらいました。一部パトロール艦隊ではコンバット・ボックス陣形の訓練も始まっていますから、被害は抑えられると思いますが、レーダーが使用不能なのはやはり、まずいですね。ジオンの状況は如何でしょう」

 私はうなずいて、親衛隊士官として知る情報を開陳した。

「公国軍のムサイですが、オプション装備として艦体後方のスペースに、対空砲付のMSの追加搭載用カーゴが増設できるようになっています。可動式の90mm対空砲が両舷12基、MSの搭載量は8機増えます。MSの生産量自体は来年までに月産400機程度にまで増えるでしょうし、極冠都市連合は占領を避けるために部品単位、もしくは政治的にまずければ完品で大体月に50-100機は供出させられると思います。グラナダが占領下に置かれれば、数はやはり増えます」

 魔術師はうなずいた。

「難しいですね。コロニー落とし、仕掛けますか?」

「恐らく。サイド2自治政府の外交態度が改まらない限りは歴史どおりに行われると思います。これについては如何し様もありませんでした。せめて、サイド1、4、5が最初の攻撃目標から外されたことと、これら3サイドの自治政府が中立宣言を出しますので、戦域と人的被害が制限できるのは有難いところです」

「サイド6はどうでしょう。サイド5は連邦側とジオン側に真っ二つに分かれていますが」

「正直、ルウム戦役は歴史どおり起こると思います。シトレ閣下が第一軌道艦隊の増強をしましたし、新型砲艦の配備を進めましたから、ジャブローから打ち上げられる艦艇と合わせれば、ギリギリで阻止、もしくは一部構造体の落下になると思います。落下場所が問題ですが……。ただ、サイド建設の際に、コロニー8基単位で小行政区をつくるようにさせましたから、最悪、十数基ほどの損害でどうにかなると思っています。サイド6は?」

 ええと、と考えるそぶりを見せ、数秒逡巡したのちに魔術師は困ったようにフレデリカを見た。ため息と共にフレデリカが報告を開始する。

「ランク政権は当初の予定通り、もし開戦するなら開戦と同時に中立を宣言する旨、連邦に通達がありました。恐らくジオン側にも」

「ええ、来ています」

 やはり、サイド2に対する宣伝工作を強める必要があるな。小行政区ごとに仕掛けていって、首都島行政区を孤立させるような形に持っていけば被害が抑えられる可能性がある。その後いくつか確認事項をチェックした後、ヤン大佐は予定通り、『Nシスターズ』を離れました。






「坊ちゃん!」

 魔術師との話し合いから部屋を出ると、けたたましい野太い声が私を呼んだ。デトローフ・コッセル中尉だ。

「中尉……流石にこの年で坊ちゃんは……」

「あ、すいやせん坊ちゃん」

 謝るが、直っていない。

「どうしました?」

「いえ、艦隊の奴らを代表してお礼を言ってこいといわれやして。ほら、新型の」

 私はああ、とうなずいた。PMCガラハウ社は先月、正式にジオン軍へと組み入れられ、第二艦隊のデラーズ大佐の下で独立部隊となっている。編成はザンジバル級「マレーネ・ディートリッヒ」およびムサイ級3。PMC出身者たちは「ジオン海兵隊」という便宜的な名前を与えられているが、やはり傭兵上がりだけあって礼儀だとかには疎い。そこがデラーズ大佐はともかくとしても、その下の幕僚たちと仲が悪い結果となっている。

 扱いに困ったらしいデラーズ大佐が相談を持ちかけてきたので、独立部隊編成にして分けて運用する事を提案してみた。特に、戦争が始まれば扱いに苦慮するだろう月面自治都市群の駐留・警備の戦力として用い、私の第4大隊も使わせてもらうことを話すと喜んでくれた。よほど困っていたのだろう。けど大佐、それってこっちも望むところなんですよ。

 表情は硬いし厳格であるが、それ以外のところではかなりデラーズ大佐は人気がある。ジオン軍創設以前、ムンゾ自治共和国警備隊以来の軍人で、民兵たちをまとめてきた手腕は確かだ。ギレン閣下に対する狂信ぶりは流石にこまるが、それだけが欠点なら、所詮民兵上がりのジオン軍では出色の、軍人らしい軍人と言える。

「私の第4大隊も居候させてもらいます。サイド3に戻り次第、ムサイにはカーゴ連結作業に入ってもらいますのでよろしく御願いします」

 ムサイ級の欠点と考えている対空砲皆無という状況を変えるため、艦体後部、両舷のエンジンの間。Ms出撃ハッチの下のスペースに、対空砲およびMS格納庫となるカーゴを設計してみました。これで、MSが4機しか搭載できず、対空砲の無さを補おうと考えたのです。長距離航行に備えた推進剤タンクが格納スペースと選択できますので、ドズル閣下からは喜ばれました。

「わかりやした!シーマ様も喜びます!」

 そう、この決定を下したときのシーマ姉さんのあの勝ち誇った顔と来たら!テキサス・コロニーからキシリア機関相手に三合会と交代でサイド3に戻ったソフィー姉さんのやることが今から怖い。髪を切り落としてもろにアフガン時代演出していらっしゃるから相手が悲惨極まりない。姉さん、やりすぎてジオンの防諜までどうにかしないでください。まだキシリアさんには舞台があるんですから。




 自室に戻った私のところに、地球に派遣した部隊からの報告が入っていた。

「トーニェィ、確保したよ。結構暴れてくれたけどさ」

 モニターに映るのは遊撃隊の面々。そしてそれを率いるバラライカ女史だ。

「ソフィーヤ・ガラハウ少佐。どうでしたか?」

「ジオンに戻る事は同意した。ビデオは見せたけれど、反応は薄いね。元々父親に対しちゃ嫌ってるらしい……あんなビデオ見せて効果あるのかい?」

 そうだった。この時点でのシャアはララァとあったとはいえ、まだニュータイプに対する認識が固まっていない。父親の人品性格をともかくとして、思想の方を理想化しているから、人品性格疑わせるのは却って逆効果だったかもしれないな。本物のシャアを殺したことなどなんとも思っていないし。

 アレか、グリプス戦役の時のシャアの考え方は、ララァ、ナタリー、ハマーンと続けざまに女の子をノックアウトして言った経験の賜物とか言う気か。なんて迷惑な能力。女食って能力上げるとかどこの鬼畜王だよ。しかし、これまでの経緯を考えるとあの男が本当の意味で変わるためには、妊娠していたナタリー中尉の死が必要と言うことになる。

「……仕方ありませんね。効果あるかと思ったんですけど。その様子だと、私たちの勢力に関する情報を与えただけ失敗だったかもしれません。申し訳ありません」

 ナタリー云々はともかく、流石に原作の中でも重要キャラ。そうそうこちらの思惑通りには動いてくれないか。こりゃ、下手に原作の流れに手を出すこと考えるよりは、原作キャラとのかかわりが低い事件を中心に介入していって、介入せざるを得ない事件だけに限定していった方が、主目的の人口減抑制にはいいかもしれない。なんのかんのいって、シャアもブリティッシュ作戦やルウム戦役では虐殺をしていないわけだし。

 それに、アストライアの死がザビ家への憎悪の引き金になった、じゃあアストライアを助けて変わるかと言えば、ジオンの後継者を以て任じる彼の性格からすると、そもそも自分たちが身分を変え、当然受けるべき処遇から外されている時点で変わりようが無いのかもしれない。下手に才能あって頭張れる分、本当の意味で泥啜った経験が無いと。

 ……うわぁ。困った。こちらの体制整うまで、下手に関わるべきじゃないな。

「ありがとうございました。ソフィー姉さん。帰還してください。あ、インド人の少女はシャアさんと一緒ですか?」

「みたいだね。今、うちの奴らが宇宙港まで警備してる」

「了解しました。下手な監視は見破られますから、別途こちらで用意します。ご苦労様でした」





 色々様々な勢力が、これから始まる戦争で最大限の利益を得ようと蠢く中。果たして自分の取った行動が利益をもたらすものかを念じつつ―――未来を知ってい介入できるからとはいえ、その介入が自分の思うような結果をもたらすと決して言えないところがもどかしいですが―――

 宇宙世紀0079年1月3日。

「父上、本日7時20分を以て、我がジオン軍は地球連邦政府に対して宣戦を布告いたします。既にドズル指揮下の艦隊は、攻撃を仕掛ける手はずを整えております」

 かつて、アニメで何度も聞いた事があるセリフ。実際に聞くとやはり違う。ただ、聞いた事があるためか、事前に考えていたほど緊張する事は無かった。隣に立つセシリア・アイリーン秘書官長が涼しい顔をしているのが不思議だった。

 ギレンの野望でのムービーどおりのセリフが延々と続く中、色々と変更点が出ていることに胸をなでおろす。

 グラナダを占領したキシリアは、占領軍を残したままサイド2首都行政区を確保。確保したコロニーの移送準備を進める。サイド3、月近辺のパトロール艦隊を撃滅したドズル艦隊はサイド2でキシリア艦隊と合流。連邦軍の反撃に備える。

 既にサイド1、4、5、6からは中立を宣言する旨が届き、連邦軍の行動が許容範囲内であればこちらから攻撃を仕掛ける事はない。宇宙での優位が確保できた段階で、自治政府と交渉を開始してこちら側に引き込む。

 こうするのが一番良い、というところまで準備を完了して尚、この言葉がギレンから出るまで安心できなかった。まったく、不機嫌で無口な冷たい独裁者と言うものは本当に恐ろしい。常識が通用しない可能性もあるし、原作で無慈悲に虐殺をしているのだからなおさらだ。

 デギン公王は提出された作戦案に了承を与えた。






「地球連邦政府ならびに、地球に住むすべての者たちに告げる」

 宣戦布告演説が、始まった。



[22507] 第07話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/10/23 23:30
 わかっていても、やはり辛い。

 死んだ人間の数が歴史どおりとは段違いであっても、やはり眼前の光景は我慢ならない。

 コロニーに対して毒ガスを注入し、目の前で1000万の人間が死ぬ光景をガラス越しに見ているなど。

「予定通りに行けばあと3時間ほどでブースターの設置作業が終了します。」

 ここは戦艦グワデンの艦橋。司令席にはデラーズ少将が、脇の参謀長用の席に着かせてもらっているのが私、トール・ガラハウ大佐。別に親衛隊の参謀長になった訳ではないが、以前まで参謀長だったノイエン・ビッター大佐が昇進の上、第3突撃機動師団長になったため、空席のままなのだ。ここのところ、中堅士官以上の人材が少ない、ジオン軍の無理が出ている。

 目の前の虐殺の光景に嫌気がさしてきたため、ため息を吐いてタバコをくわえようと(すいません、私はヘビー・スモーカー)したら、後ろでジオン軍での副官を勤めている、ケン・ビーダーシュタット中尉が咳払いをした。いかんいかん。ここは「マレーネ・ディートリッヒ」じゃなかった。

「ガラハウ大佐、不謹慎だぞ」

「申し訳ありません、少将。少し精神を落ち着けようかと」

 予定通りならこのブースター設置作業はキシリアの管轄だったはずだ。それが彼女の部隊がいないため、親衛隊がこの作業を行う手はずとなっている。まったくあのオバハンは。ブースターの輸送船だけ先行とか何を考えているんだか。権力闘争は戦線が安定してからにしろと。

 デラーズはため息を吐いた。どうやら、大佐といってもまだ若いため、いくらか割り引いて考えてくれたようだ。場を和ませるために従卒にコーヒーの手配を命じ、私にもタバコをゆるすという意思表示のために、葉巻をわざわざくわえてくれた。細葉巻が良く似合う。

「大佐、連邦軍はどのように動くと思う」

「サイド2宙域での戦闘はないと考えて宜しいでしょう。現在、被害は首都島行政区のみでとどまっていますし、こちら側から戦火を拡大させない限り、大丈夫かと。ティアンムの第4艦隊は、恐らくレビルの第一連合艦隊、ビュコックの第二軌道艦隊との合流を考えるでしょう」

 視線で続きを促してくる。

「我々親衛隊はブースター設置作業を続け、先行して航路確保に当たっているガラハウ少佐の第4大隊にコロニーを引き渡すことを考えていれば良いと思います。ただ、他行政区所属コロニーにいる連邦の駐留部隊による、散発的な攻撃がないとは言い切れません。ガトー中尉始め、各小隊には警戒態勢を継続するよう命令を。ただ、推進剤の量もありますので、2交代制を」

「うむ。それが妥当だろうな」

 史実ではドズル指揮下の宇宙攻撃軍第302哨戒中隊隊長だったガトーは、所属をこの作戦では臨時に親衛隊に移し、グワデンのMS中隊長を務めている。中隊長なのに階級が中尉なところも、やはり士官不足の面が激しい。親衛隊は新型の高機動型ザクⅡの優先配備をさせていて、中でも第4大隊は試験結果もあって推進剤タンクを増設した(ゲルググMと同型のタンクを増設)R-1B型の配備をしている、ということになっている(実際は配備されたザクⅡにRP使ってでっち上げた)。懸念された稼働時間の減少がなくなっているが、Gのかかる時間が長時間化する事による疲労の面はどうしようもない。

「私が懸念しているのはむしろ、キシリア閣下の部隊が間に合うかどうかですが、何か連絡はありましたか?ギレン閣下はグラナダの制圧にとどめるよう命令されておりましたが、いじめすぎたので命令に従うか微妙なんですが」

 その言葉にデラーズを始めとした親衛隊士官が苦笑を浮かべる。目の前にいる男とキシリアの不仲は、ザビ家兄弟間のそれよりも強く激しいという風評が立っており(それは充分以上に事実だったが)、この時点で、本来キシリアの軍となるはずの突撃機動軍が編成されておらず、本土防衛軍第3、第4攻撃師団で編成される突撃第一軍団のみが彼女の戦力となっているのも、この男のおかげだともっぱらのうわさだった。

 その上、階級が少将である事、ジオン公国、宇宙攻撃軍の司令であるドズルが中将で、作戦の成否によっては大将になるかもしれないことも相俟って、史実よりもキシリアの地位は相対的に低下しており、もし緒戦で地球連邦に講和を押し付けられなかった場合、編成が予定されている地球攻撃軍の司令の地位を狙っている、とさらにうわさが派手になる始末だ。このうわさは既にデギン公王の耳にも達しており、地球連邦との講和にキシリアが何らかの妨害を行う可能性を示唆する将官も少なくない。

 もっとも、キシリアの地位を低下させたと言う事実は私にとっては有利に働いた。親衛隊での地歩を固める際にキシリアと仲が悪い事は、これ以上ないほど、親衛隊士官たちからの好意(そして宇宙攻撃軍内のギレン・ドズルに近い者たちからのそれも)を獲得することに役立った。シーマ姉さんの部隊の行儀の悪さなど何処吹く風だ。却って、扱いの難しい海兵隊を良く抑えていると高評価が出る始末。

 まぁ、そのおかげか扱いに困る出自の士官たちを押し付けられたり、キシリアの派閥からは蛇蝎のごとく忌み嫌われたし、機会あれば暗殺・失脚させてやろうと狙われているし、内偵の結果、キシリア直属の屍喰鬼隊が増強されているらしいとのこともわかっている。なかなか上手くいかないものだ。あのババア、絶対にコンティ大尉あたりをおくってきそうだな。

「心配はなかろう。月面での攻勢を強めて泥沼に嵌ることなぞ望んではおらんだろうし、月面までもが早々に中立を宣言した手前、下手にフォン・ブラウンやNシスターズに手を出せば、戦争継続上困る事になる。むしろ、月面に地歩を得た事で月面の利権を一手にした方が良い」

 あらら、この人ギレン至上主義者のテロリスト予備軍だと思っていたら意外に聡い。まぁ、でなければ重用されるはずもないか。

「私もそう思いますが、如何せん、読めません。ヒス起こす可能性もありますし」

「ふふ、大佐は心配性だな。しかし懸念はもっともだ。月面を一手に握る事の表面的な利益に惑わされないことを願う。いや……むしろ、Nシスターズには大佐の第4大隊が早々に駐留を決めたはずだろう。ギレン閣下に今の時点で下手に手を出すとは考えにくいな。問題でもあるのかね?」

 うわっ。この人本当に有能だ。あんまりNシスターズとの関係を探られたくないんだけどなぁ。

「キシリア閣下がサイド6を中立化させて、連邦との水面下のつながりを探しているのと同様、対抗手段が必要ですから。私はNシスターズを使おうと思っています。デラーズ閣下にもご懸念あると思いますが……」

 デラーズはうなずいた。

「うむ。奇麗事だけでは戦えんからな。大佐の手腕に期待する」

「ありがとうございます。一見ジオンの不利に動くように見えても、背景を考えてくだされば有難いです」



 第07話


「ままならんな」

 衛星軌道上、ジオン軍の進めるコロニー落としの落着阻止限界点ちかくに集結した連邦宇宙軍第4艦隊の旗艦「タイタン」の艦橋でマクファティ・ティアンム中将はそう、つぶやいた。

「ここまでシトレ閣下の言う通りに進むとは、な」

 サイド2パトロール艦隊から命からがら逃れてきた高速哨戒艇が伝えた、サイド2攻撃の状況を伝える映像を見つつ、ティアンムは自分の―――連邦軍のおかれた立場の危うさをいまさらながら実感する。

 レーダーや電子機器を無効化するミノフスキー粒子の存在。

 ミノフスキー粒子散布下で絶大な攻撃力を発揮する機動兵器、MSの活躍。

 他方にあり、我が方にない。新兵器とは存在それだけで優位、劣位を決定する。

「我々の置かれた立場は第二次世界大戦のイギリスか、ふん。ビュコック提督も言ってくれる」

 自分を教官として鍛えてくれた古参兵あがりの将官。あの人のいう内容は、経験して来たものの長さに比例―――いや、比例を遥かに超えて深い。国力に劣る勢力が一気呵成に勝敗を決しようとするなら、必ず新兵器と大量破壊兵器に手を出す。否定した自分の馬鹿さ加減が今思うと恨めしい。

 大量破壊兵器としてまず出てくるのが核だと思いますが、運搬など不可能でしょう?ミサイルを用いるならイージスシステムで撃墜される。航空機を使うなら、運搬途中で撃墜すればいいじゃないか。ゴップ大将の批判を、彼は一言で切り捨てた。

「ルナツー落せば解決するじゃろう」

 現実的にルナツーは連邦軍の根拠地で、これを地球上に落下させることはムリだ。しかし、ジオン軍は工業用コロニーのための資源用に、アステロイド・ベルトから多数の岩塊を運搬してきている。その一つを地球に向ければ良い。
 
 言われるまで誰も気がつかなかったと言うのが不思議なくらいに手軽な大量破壊兵器だった。充分な加速のついたそれは、核ミサイルや戦艦のビーム砲による速度減衰を無視して尚、その運動エネルギーだけで大気圏を突破しうる。そうすれば、どこに落ちても大被害は確実だ。

 地表に落ちれば落着の衝撃で巻き上がった土砂が大気圏を覆いつくし、太陽光をさえぎって地球は寒冷化する。地球上で行われている農業は大被害を受けるだろう。特に、先進諸国で農業を基幹産業とする北米・欧州・オーストラリア、そして中国とロシアの被害は確実だ。

 海に落ちれば落ちたで、北大西洋に落下した場合は工業の中心都市が連なる北米東海岸と欧州が被害を受け、戦力の拡充だけでなく民生にまで壊滅的な被害が生じる。これが太平洋に移っても、日本、オーストラリア、アメリカ西海岸と同じような被害が生ずるのだ。

 一番いいのは政情不安定で発展が宇宙世紀になっても遅れている、大西洋南部に落下しての、南米、アフリカに対する被害。しかし、何もしないでこれを求めるのは業腹だ。落着するコロニーの軌道を変えるため、シトレ本部長は艦政本部に命令して特務砲艦「ユグドラシル」級の建造を命令していた。ジャブローで建造されているそれが間に合うかどうかは、現状、かなり微妙なところなのだ。

「閣下、ジャブローのシトレ大将から連絡。レビル中将の第一連合艦隊は予定通り出航の見込み。砲艦については2隻、出撃可能との事です」

「核ミサイルの用意はどうなっている」

「レビル中将の指揮下、第2戦隊のワッケイン准将の部隊に搭載とのことです。艦隊戦には出すな、と」

 ティアンムはうなずいた。

「第一連合艦隊と私の第4艦隊が攻撃。もうすぐ中立を宣言した4サイドからのパトロール艦隊を糾合して、ビュコック中将が第二軌道艦隊にそれらを臨時編入するはずだったな。コンバットボックスによる防空はビュコック中将にお任せするとしよう。ああ、空母部隊はビュコック中将のところのヤン准将に預けろ」

 さて、吉と出るか凶と出るか。叶う事なら吉と出てほしいものだが、な。あの艦の性能が評判どおりである事を祈ろう。

 特務砲艦「ユグドラシル」。歴史上、同タイプの砲艦は、ジオン軍において「ヨルムンガンド」と称されたそれである。本来ならばこの時、親衛隊の指揮下に配されている第603技術試験隊によって作戦に参加する予定のそれは、キシリア少将の政治力低下と共にダミー・プロジェクトとしての役割を否定され、実験データはグラナダ、Nシスターズを通じて連邦に供与された。

 連邦に供与された理由は簡単で、MSの開発計画のダミーとして用いるなら、下手に試験などの手間を経るよりも、連邦の諜報ユニットの労力をそれに費やさせたほうが良い、と判断した(そう判断するよう誘導された)マ・クベ少将による。

 キシリア機関は多年にわたる親衛隊第4大隊との暗闘に疲れ果て、本来なら連邦への諜報や防諜に用いる人材を、第4大隊へのそれに使わざるを得なくなり―――そして用いた諜報部隊が第4大隊側の部隊によって漸減させられた挙句―――諜報能力を低下させた。それを補うように月面恒久都市を通じた親衛隊の諜報活動が活発化。キシリア機関は現在、その能力が制限されている。

 だからこそマ・クベ少将は親衛隊の誘導工作に引っかかり、「ヨルムンガンド」の情報を連邦へリークすることとしたのだ。勿論これには、MSさえあれば少しばかり諜報でへまをしたとしても充分補いがつくというキシリアの判断も入っている。本来ならばこのような消極的な判断を彼女がするはずは無いが、第4大隊との諜報戦は、予想以上に彼女に疲労を強いていた、といえるだろう。

 ともかくも、「ヨルムンガンド」は「ユグドラシル」と名前を変えて地球軌道上に進んでおり、同型艦の「レーヴァテイン」と共に、コロニー落着を阻止する砲撃戦力として鎮座していたのである。


 
 さて、ブリティッシュ作戦の天王山、コロニー落しを目前にかなり暇になってしまったので戦力の再確認をしておこう、とグワダン内の自室に引きこもってみたトール・ガラハウです。

 資源があれば機体の生産は可能なので、今までのポイント使用は基本、技術獲得に振り分けていました。ただ、技術獲得と言ってもレベル制限が課せられているらしく、たとえば新しい作品へのアクセス権を5000ポイントで得ても、その作品内の機体を生産するためには別途ポイントを要するシステムだったのです。

 そしてそのポイントは、人材獲得のポイントに匹敵するほど高額で、しかも戦力の強さに比例して高くなります。たとえばバンプレストオリジナルの場合、PT生産技術aをオンにしたところ、ゲシュペンストおよびヒュッケバインシリーズの生産が可能になりましたが、シリーズの異なる魔装機神やリオンシリーズの生産には別途ポイントを要すると言った有様(しかも、ブラックホールエンジン搭載機の生産は不可)。確かにゲシュちゃんの有用度は高いですが、量産にかかる資源の量もあわせて考えると、これは後々考えるとかなりつらくなりそうです。

 となると一騎当千の機体かぁ、と思って縮退炉をオンにしてBHエンジン搭載機とグランゾン狙おうと思っていたら、別途の技術が必要らしく、BHエンジン搭載機とターンタイプしかオンになりませんでした。しかも、ターンタイプは月光蝶の発動が不可。おい、ナノマシン技術にもポイント回せってか。でも、PT技術bをオンにしたら、相乗効果でグランゾンの生産が可能になった事はうれしかったです。

 今回ポイントを確認したところ、一週間戦争の半ばを過ぎた段階で、3サイドに対する攻撃が控えられた結果、24億の人口が生存し、これが240000ポイントと言う大量のポイント獲得につながりました。これは良いと言う事で早速、自分の生存性や技術の更なる拡大に振り分けてみました。しかし、自分に関するポイントの高いこと高いこと。合計130000ポイント使って「ジェリドぐらい(かませ犬程度の活躍が出来るってか)」ってどんな扱いだよ。どんだけ才能無いんだ俺。
 
 それに、機体や艦船の生産でRPを消費するシステムなのでGPをRPで補うのも、これからの戦力増を考えると頭が痛くなってきます。RPでの生産は割高ですが、ポイント消費での生産は生産期間が工廠で作るよりも短いのが有難い。突発的な戦力不足も考えると、これからはRPの残量にも頭を使う必要が出てきました。

 連邦側で活動するためにゲシュペンストを9機とジムシリーズのよさそうなのを揃え、第4大隊用に供与されたザクⅡにポイント消費をくわえて高機動型化するなどにRP使うと、結構な量になります。この辺は、最悪キシリアのお馬鹿とドンパチやるかもしれないと強化させたのが理由です。あのババアのことでしょうから、戦力よこせで抜かれる可能性も考えています。

 確かに出来る事と使える技術を考えたら、一年戦争でシャドウミラーっぽく戦える事はチートですが、なんか違うような気がしないでもない。でも、この後のルウム戦役のことも考えると、下手に人口減少が生じたら、その分GPより差っぴかれますなんてシステムが言い出したものだから、予備のGPも獲得しておかなきゃならない。うん、火星の採掘部隊を拡充しよう。

 そういえば、俺のやってる事って端から見たらシャドウミラーだよなぁ。うん、取っておこう。それに、スパロボJあたりの機体で無双も素晴しい。……まずい。あー、残りポイントが10万切った……できればマクロスにもアクセス欲しい所なのに。今回はこのあたりでやめておこう……

 しかし、色々と判った事もある。タマーム・シャマランの暗殺回避で30000だったのにシャアの巻き添え回避で100ポイント、と言うことは、改変を行った事件が、作品にどれほどの影響力をもっているかでポイントの高低が決まるということを意味しているのだろう。となると、ぽっと出のキャラ一人助けるよりは、影響力もってそうな人物を助けたほうが良いということになるので、年末辺りにレビル大将を救えばポイントを多くもらえそうだ。

 となると、ギレンの優生人類生存説を阻止して5000というのは、彼の考え方まで変えればポイントを多くもらえる可能性があると言う事にもなる。しかし、前回のシャアで明らかになった通り、それにギレン閣下相手に色々と苦労した事や、ポイントをもらえなかったエンツォ排除を考えると、影響が実際に出た時点でポイント化されること、原作に関わる重要度の高いキャラクターほど、介入の難易度が高く設定されている事がわかる。

 うむむ、シミュレーション・ゲーマーとしては燃える所なんだろうが、自分の安全かかっているので怖くて仕方ない。下手打って月面総攻撃とか洒落にならん。

 キャラの勢力加入で得られるポイントが、予想していたよりも少ないのがすこし腹立たしい。というかシーマ様2000って安すぎだろ。20000ぐらいよこせよ。あ、でも0083の流れ次第でもらえる量増えるかもしれない。

 
 はぁ、とにかく、原作が始まる10月あたりまでは、やっぱりチマチマ稼ぐのが基本なんだろうなぁ。そろそろ連邦での動きも活発化させていかないと。




[22507] 第08話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/08 12:17

 結果から提示してしまえば、第一次軌道会戦はジオン軍の辛勝に終わった。

 ブリティッシュ作戦の主目的であるジャブローへのコロニー落しは失敗した(コロニーは南大西洋アセンション島沖に落着。ギニア湾沿岸と南米ブラジル東岸部に大打撃を与えた)が、コロニー落下を阻止するために砲撃をコロニーに集中させた第一連合艦隊、第四艦隊はかなりの被害を受け、ルナツーへ後退した。

 しかし、ジオン軍側もコロニーの援護を行っていた部隊に被害が集中。特にキシリア率いる第一突撃軍団無しでの会戦を強要されたジオン艦隊は、ただでさえ劣勢な艦隊戦力が不足し、MSの投入によって押し切りはしたものの数の不足を機動によって補う必要に迫られたため、艦艇、MS共に推進剤不足を引き起こしたものが多く、連邦軍航空隊の反撃に満足な機動も行えないまま損傷を受ける部隊が続出した。

 キシリア率いる突撃第一軍団は、コロニーが阻止限界点前2時間の位置に迫り、連邦軍の主力と砲火を交えた辺りになってようやく姿を表す始末だった。

 勿論、この不手際はキシリアの責任問題に発展する動きを見せたが、連邦が即座に多数の艦艇を増援として地球の裏側からルナツーへ送り始めると、ギレン総帥府からのブリティッシュ作戦継続の命令が優先され、キシリアの責任問題は棚上げにされた。もっとも、ギレンやドズルが処罰を望んだとしても、デギン・ガルマがそれに口を挟んだだろう事は簡単に推測できたのだが。

 地球に向けて投下されたコロニー、サイド2、1バンチ「アイランド・イフィッシュ」は、軌道上に展開した連邦軍三個艦隊の砲撃、特に特務砲艦「ユグドラシル」の砲撃によって阻止限界点前で崩壊。3つに分解したコロニー片のうち、地球の重力に引かれたもっとも巨大なそれが大気圏へ突入した。それよりも小さい2片は、「ユグドラシル」級2隻の砲撃によってかろうじて阻止限界点前で破壊、大気圏内で燃え尽きる大きさにまで分解された後、大気圏で燃え尽きた。

 連邦軍がコロニーを破砕可能なほどの砲撃能力を持つ砲艦を投入した事実を知ったジオンは、第二次ブリティッシュ作戦を行う前に、この砲艦を破壊する必要に迫られ、サイド5でもっとも反ジオンを鮮明にしている11バンチコロニー、ワトホートを使っての二回目のコロニー落としの虚報をキシリア機関を通じ流布。出撃してくる連邦艦隊の殲滅を狙う。

 サイド5、ルウムへ向けて出撃したジオン軍への迎撃作戦。所謂、ルウム戦役の始まりである。


 第08話


 嫌な空気だ。

 最初に感じたその感想は、この会議の間中変わる事はなかった。ズム・シティ。公王官邸で開かれているルウムの処遇に関する会議は、ギレンのルウム攻撃の必要性に関する演説から始まった。

「ルウムは撃滅されねばなりません。少なくとも、我がジオンに対して反抗的な立場を取るバンチに対しては断固とした処置を取るべきです。また、その期間は早くなくてはなりません。ルウムにティアンム率いる第四艦隊が展開している現在、目に見える戦力としての連邦軍の存在が、ルウム各バンチの親ジオン派の勢力を弱めないとも限りませんので」

「またコロニーに毒ガスでも撒くつもりか、ギレン」

 デギンは静かに言った。しかし、すぐに声が激発する。

「無辜の住民を虐殺しても、開戦から既に億を越える民衆が死んでもまだ足りんか!?」

「死者は関係ありません。戦争は連邦が抗戦の意志を示し続ける限り、続きます」

 デギンは鼻を鳴らした。何を言っても無駄だと感じたのだろう。脇に控えていたガルマをつれて退室した。室内に残るのは将官連および親衛隊の私。正直、空気がかなり微妙だ。

「ガラハウ」

「はっ」

「今回は親衛隊からも戦力を出す。キシリア!」

 ギレンはキシリアをしかりつけるように怒鳴った。

「今回は遅参などと言う体たらくは認めん。ドズルと共に出撃せよ」

「……はい、兄上」

 うなずいたキシリアは早々と退室した。それを見たドズルも立ち上がる。指をこちらに向け、ついてくるように示す。私はギレンに一礼するとドズルと共に退室した。

「ガラハウ、どう見る」

「ショウ、とでも言いますか。誰かの目を気にしてらっしゃいます」

 ドズルはため息を吐いた。

「遠慮のない奴だ。まぁ、其処を兄貴も容れているのだろうがな。親衛隊からお前の艦隊を借りる事にした。月には前にお前から要請のあった士官たちを回す。Nシスターズは抑えてあるんだろうな」

「ええ。ですが、連邦とのパイプをつなげておくためには、あまり表立って動けません。私の部隊を動かす場合、N3の地下ブロックを本拠地に、月が地球から見て蝕に入った際に限定されます」

 ドズルはうなずいた。

「それはいい。ただ覚悟しておけ。お前、この戦役で手柄を立てられなければ、キシリアの指揮下で月で動く事になるぞ。今までの経緯から言って、それはまずいだろう」

 まずいなんて物ではない。アレだけキシリア機関を弄っておいて、指揮下で無事でいられると思う方がどうにかしている。

「お前の艦隊の配属は、レビルの艦隊を奇襲する特務大隊だ。シャアや黒い三連星などと同じ配属になる。部隊にほしい人材はいるか?正直、お前の協力がなくなるのは惜しい。軍人である以上、戦場に赴くのは当然だが、戦死しないように部下には配慮してやろうと思っている」

 ため息を吐いた後、言った。

「ガトー中尉とマツナガ大尉をいただけますか。機体はこちらで用意します」

 ドズルは大声で笑った。

「シンはやれん。俺の艦隊に必要不可欠だからな。ガトーはまわそう。代わりはどうだ?」

 まずはガトー確保、と。ただなぁ、ガトー中尉はおそらく、デラーズ閣下べったりになるだろうなぁ。

「それでは、ラル大尉か、シュマイザー少佐を」

 ドズルは呆れた様な顔でこちらを見てきた。

「貴様、本当に遠慮がないな。シュマイザーなどキシリアの所ではないか」

「遠慮して死にたくはありませんし、キシリア閣下から戦力を引き抜くのは、閣下が中将の指揮下に入っている今をおいてないかと」

 ドズルはにやりと笑った。コロニー落としで大失敗をやらかしたキシリアに対する、いい意趣返しだと思ったらしい。

「わかった。両名共にまわさせよう。お前のことだ、ラルもシュマイザーは部隊ごと引き抜け、と言うつもりだな」

「ありがとうございます。特務大隊の指揮艦には、姉の「マレーネ」を使いますので」

 ドズルはうなずき、そこでお開きとなった。





 ドズルと分かれた後、会議を終えたらしいギレンと合流し、公王官邸を離れて総帥府へ向かう。総帥府へ向かうエレカの中でギレンが話を向けてきた。

「ドズルから話は聞いたか」

「聞きました。今回活躍しない場合、キシリア閣下のおもちゃにされるそうで」

 ギレンは鼻で笑った。

「君の存在が妹を不快にさせているようなのでね。また、父に泣きつかれもしたし、月にキシリアが地歩を固めた以上、アレの下に一元化すると言うのは筋の通った話だ」

「聞いたところでは地球攻撃軍の椅子を狙っているようですが」

「君のおかげで突撃機動軍の編成が流れたからな。アレが3つ目の頭として出るためにはその椅子が必要となろう。元々は突撃機動軍を編成した上で、腹心のマ・クベをガルマを傀儡とした地球攻撃軍司令にすえるつもりだったようだ」

 ふん、今の言葉は考えどころ……入ってみるか。

「ルウムでの戦いの結果、講和は難しいと?」

「キシリアはなんとしてでも邪魔をするだろう。そんな状態で講和はムリだ。国内がまとまっていないからな。父上がいるとはいえ、突撃機動軍が編成されないなら本土防衛軍に手を伸ばそうとするだろう。君のおかげで、私はキシリアと激しい権力闘争をすることになる」

 なるほど、これでやっと得心がいった。ギレンの本音としてはルウム戦役での戦勝で講和をしたいが、ザビ家の状態を考えると必ずキシリアが邪魔をし、現状キシリアをデギン公王が守る形になっている以上、講和はムリになる。講和を一番望んでいるのが公王であるにもかかわらず。

 こりゃあ、何とかしてデギンを排除しない限りジオン有利の講和の目はないわ。ギレンが死にでもしない限り。あれ、コレって千日手とか言わね?それに、この人は口に出していない事がある。ジオニズムの信奉者である以上、連邦との戦争は、連邦に地球上の全人口の強制宇宙移民を要求できるほどに圧倒的なものでなければならない。となれば、ブリティッシュ作戦が失敗し、ルウムで連邦の艦隊を殲滅したとしても、まだ不足だ。地球に進撃して資源を確保し、資源によって戦力を整えた後に再度ジャブロー攻略を行って城下の盟を誓わせる必要がある。


「別に、突撃機動軍を作ったとしても権力闘争は不可避ですよ、総帥。あまり恩に着せないでください」

「そこを口に出すところが、君を買う理由でもあるのだよ、ガラハウ大佐」

 ギレンは笑みを浮かべた。エレカの助手席に座るアイリーン女史が目を見開いているのがミラー越しに見える。おいおい、愛人にさえびっくりされるってどんだけ無表情なんだこの人。アレの時も無表情ってある意味終わってないか。というか、良く愛人になろうと思ったな、女史。

「最悪、君には月から手を引いてもらう可能性もある。ドズルからは?」

「ガトー中尉の親衛隊への転属と、私のところへのラル大尉とシュマイザー少佐の配属を認めてもらいました」

 ラルの名前を聞いた瞬間、ギレンの眉が顰められる。そりゃあのバカ爺の息子と聞けばそう思うのも無理ないな。

「大丈夫ですよ。父親と比べると月とスッポンです。下手に冷遇するよりは、抱え込んだほうが宜しいかと」

「……任せよう。君の方から要望はあるかね?私もキシリアは抑えておきたい」

 ふむ。改めて考えると、突撃機動軍がなくなったおかげで、表向き、キシリアが月面に縛られる必要性は少ない。地球攻撃軍が編成されるなら、むしろ地上に降りてもらった方がいい厄介払いになる。しかし、紫ババアが地上の全権を握った場合、08小隊のストーリーに介入しようとしたときなどに厄介になることこの上無しだ。そう言えば、サハリン家にはそれとなく援助して家庭崩壊しないようにしているが、流石に病気の影響か、このごろは精神的にヤバい状態になってきていると言う報告があったな。

「ギニアス・サハリン大佐ですが、私が今回昇進した場合、部下にもらえますか?」

「どうするつもりだね」

「ルウムで勝利を収めた場合、地球攻撃軍が編成されてキシリア閣下はそちらに向かうでしょうが、あのお方が私への憎悪を忘れるなんてありえませんので、少々姿をくらまして裏で動いてみようかと。その代理としてサハリン大佐のお名前をお借りしようと思いまして」

 ギレンは少し考え、うなずいた。

「良いだろう。ただ、結果を出しての話だ」

「勿論です」

 返事を確認すると、ギレンは思い出したように付け加えた。

「ガルマがむずかっている。ルウムに出たいようだ。同期のアズナブルとかいう中尉が参加するらしいのでな。気を抑えるために新型……いや、専用機の用意をしておいてくれ。君なら整えられるだろう」

「了解しました。しかし、ルウムの後になりますが」

「かまわん」


 さて、コロニー落としによる被害が南大西洋沿岸部だったおかげで、気温低下などの事態は南半球に限定された、というのはありがたい話で、おかげでまたもやポイントにつながりました。前回4万まで減少したポイントも一気に40万まで回復です。
 
 ただ、やっぱり後々の事を考えるとGPは確保しておきたい、ということで今回はあんまり派手に使っていません。XNガイストが開発可能になったから、使えばタイムスリップとか、他の世界にプラント設置して資源取り放題とか思いましたけど、開発GPが半端ないのであきらめました。死亡期間を短縮して死んでも即座に復活できるようにする事と、肉体強度をガンダムファイター並には出来ましたが、あんまり実感はありません。上がったの強度だけだし。

 アクシズとの連絡を考えて木星のエウロパにプラントを建設し、同時に火星・木星との連絡のためにパッシブジャンプゲートを作って見ました。これで、移動によるタイムロスが軽減できることは、こっちの行動をごまかすのに役立ちそうです。

 今回、有り難味を実感したのは重力制御技術a。ジオン側での機体としているR-3型に乗っても、まるでGを感じないので操縦が楽で楽で。これだけパイロットに対する負担が少ないなら、ジェネレーターの出力が少々低くても、推力さえ確保できれば無双が可能かもしれない。

 うん、目指せNT-D無双で頑張ってみましょう。



[22507] 第09話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/10/23 08:33
ルウム戦役は史実とは違い、混戦模様の推移を示していた。

 サイド5、各コロニーの港部分の破壊に始まる作戦は、予定通りレビル率いる第一連合艦隊の一部を、みなと部分の破壊によってコロニー内に取り残された民衆の救援に振り向けさせ、レビル艦隊を拘束する事に成功した。

 ティアンム率いる第4艦隊はアレクサンドル・ビュコック中将の第二軌道艦隊の支援を受け、第一連合艦隊から振り分けられたワッケイン・カニンガムの部隊の指揮権がレビルからビュコックに委譲された事を受け、史実どおり二艦隊の間に行動の齟齬を生じさせる展開とはならなかった。

 しかし、連邦艦隊が宇宙に保有するほとんどの戦力をこの会戦に集中させたため、艦艇の数が多くなりすぎ、合流した上で連携して迎撃する、という展開にまでは至らっていない。元々そこまでの艦隊運動を想定していないし、闘志に不足ないレビル艦隊の各部隊が砲撃を重視した横列陣を採っていたのに対し(これは、一週間戦争に実質未参加だったレビル指揮下の連邦艦隊の突き上げの結果だった)、ブリティッシュ作戦でジオン軍との抗戦経験のある第4艦隊は、シトレの示唆どおり、箱型陣形を作って迎撃の準備を整えていた。

 史実どおりにいかなかったとは言え、三個艦隊を擁する連邦軍のうち、一個艦隊をサイド5に貼り付けた事は、連邦軍の戦力の三分の一を拘束する事に成功したわけで、戦力比1対4が、1対2.5となった点は評価されるべきであろう。また、史実ではサイド2の虐殺の影響で各コロニー港湾が親ジオン派の脱出であふれかえり、この際にアズナブル夫妻が巻き添えを食うなどの被害が生じていたが、サイド2の多数が生存しているこの歴史では、そのような事件は生じておらず、連邦派の暴徒に囲まれたマス家の中に、二人の姿が確認できる。

 連邦の暴徒に囲まれる中、本来ならば心臓に持病をもつテアボロ・マス氏の病死となるはずであったが、先進的なナノマシン医療を秘密裏に受けていた氏は、心臓病の原因である、大動脈内の動脈硬化部分がナノマシンによって修復されており、同時に連邦派の暴徒がテーマパークの略奪に夢中になっている間に三合会の皆さんとシェンホア相手に反撃を受けたため、病床についてはいるものの、無事な姿を娘、セイラ・マスと共に見せている。

 この後、戦局が落ち着き次第、先進医療を受けるためにNシスターズへの移動が予定されているため、彼の命はもう少しの間、永らえることだろう。

 それはともかくとして始まった第一次軌道会戦において、落下するコロニーに張り付くジオン艦隊と連邦艦隊との交戦は、ジオン軍の勝利に終わった。迎撃を主任務とした第二艦隊、第4艦隊は、ジオン軍のMSの投入により、コロニー迎撃を優先させて満足な防空隊形を取ることが出来なかったため、大きな被害をこうむったのだ。

 しかしジオン軍も、会戦後半の追撃段階において、第二艦隊と第4艦隊が、第一軌道艦隊に援護され始めると、第一軌道艦隊の採ったコンバットボックスによって形成された防空火網によってMSの追撃が封じられ、また予定と違ってキシリアの艦隊戦力がないために推進剤の不足も相俟って、満足な追撃を行うことが不可能になっていた。

 このため、追撃によって本来生ずるはずだった被害が抑えられ、連邦軍はいまだ、宇宙に大きな艦隊戦力を擁していたのである。




 第09話


 (アルテイシア……)

 シャア・アズナブル中尉―――キャスバル・レム・ダイクンは280mmザクバズーカの照準をコロニー・ミランダの港から外しつつ、テキサス・コロニー外壁からミラー越しにマス家のあった辺りに視線を向けていた。

「神の御加護があるというなら、お前はここにはいないはずだ。もしもいるのなら早く脱出しろ……今ならまだ方法がある。出来るはずだ、お前なら……」

「シャア中尉」

「ガラハウ大佐」

 シャアは視線を背後にたった異様なザクに向けた。既に一部エリート部隊に配備が始まっている高機動型ザクに近い。しかし、ザクと言うにはあまりに異形な姿だ。おそらく最新の改造型であるR-3型という奴らしい。新型のMMP-80、90mmマシンガンと大型ヒートサーベルを標準武装とし、現在はそれに加えて試作品らしい360mmジャイアント・バズを持ち、自分と同じようにコロニー・ベイの攻撃を行っていたようだ。

「どうした。……そういえば、君はテキサス・コロニーの出身だったな」

「大佐ほどのお方に知っていてもらえるとは……光栄です」

 トール・ガラハウ大佐。親衛隊でデラーズ少将とギレンの信頼を二分する若き軍人。大層なものだ。ザビ家に近づき地位を得るからには、どんなお追従を述べた奴かと思ってみれば、軽々と新型ザクを操り、こちらにも目を配ってくる。やりにくい……南米で出くわした奴らと何か関係があるのか?勘というわけではないが、気になって仕方がない。

「ギレン閣下もやりますな」

「御前会議の内容のリークかい?キシリア閣下にも仕事はしてもらわねばなくては。ブリテッシュ作戦のような事をされては適わん」

 発言の解釈に困る。ギレン総帥肝いりの親衛隊士官としてのお言葉か……果たして。いや、ガラハウ大佐はキシリアとの不仲が噂されて久しい。何故其処までキシリアを危険視するのかがわからないが、今の言葉を聞く限り、個人的な反感も充分以上に持っているらしい。

「帰還しましょう、大佐。次の任務があります」

「うむ。中尉も部下をまとめて帰還してくれ」

「大佐!」

 通信に新たな反応。大佐の部下、マユラ少尉のザクⅡだ。長距離移動用に推進剤タンクの増設を行っている。

「第12小行政区、各コロニー港湾部制圧完了です。被害無し。ただ、機材の不調を友軍に確認したので、アサギが支援に向かっています。予定に遅れはありません」

「ご苦労。不調機の所属は?」

「224小隊、デニム曹長です」

 はっとなった。ミランダ・ベイの破壊と妹に気を取られて、部下の向かった行政区の制圧状況についての確認を忘れていたのだ。もっとも、デニム曹長ほどのベテランなら大丈夫だと言うこともあったが、大佐ほどの士官を前にこれは失態だ。

「大佐……申し訳ありません」

「いや、中尉。気にはするな。……帰還信号だな、戻るぞ、中尉、少尉」

「はっ」

「了解です!」

 先行して大隊へ帰還するR-3型を尻目に、シャアはこの時点で接触して来た親衛隊の大物について考えていた。

 私の正体について知り、ジオンの息子である事について何かをしようと考えるならばキシリア閣下のはずだが……あの映像。接触して来た勢力はキシリア特有の血生臭さがなかった。いや、あざとさと言うべきか?あの女性にキシリア以上の臭さを感じたのは事実。となると、ザビ家に近い位置にザビ家以上に厄介な勢力がいる可能性があると言うことか……

 一番匂うのは前に立つこの男だ。年も私とそう変わらんのに、ガルマの坊ちゃんでも難しい大佐の地位にいる。しかもギレン直属の親衛隊で、だ。ジオン共和国保安隊出身の、後ろ暗い出自でもなさそうだし、かといって名家出身と言うわけでもない。月の大富豪らしいが、ガラハウなどという名を聞いたのはここ数年だ。

 いずれにせよ、気には掛けておかねばなるまい……



 何か、強烈なフラグが立ったような気がしてならないトール・ガラハウです。
 
 正直言うと、シャアとの初顔合わせにはあせった。テキサス・コロニーの被害状況を確認するためにベイの破壊後に機体を向けてみたら、ちょうどミランダのベイを破壊したシャアのザクと出くわした。ええい、当たり所が悪いとこういうものか!ニュータイプと遭遇なんてあまりいいもんじゃない。こいつら、接触するだけで何感じ取るか知れたもんじゃないからな……。

 しかし、敵側に回ってみると、連邦艦隊の強化が、装備面では最低限度に抑えたはずなのにかなりまずい事態になっていると実感した。やはり数は力か。少し、状況を整理してみる。

 コロニーの各港湾部を攻撃し、コロニー間の連絡網を破壊する陽動作戦は、レーザー通信網で送られてくるリアルタイムの状況によると、連邦艦隊の3割をこちらにひきつける効果をもたらしたようだ。もっとも、向かってきているのは占領用の強襲揚陸艦と護衛の巡洋艦、空母で、コンバットボックス戦術の要である戦艦はこちらに向かってきていない。

 コンバット・ボックスを形成するのは90mm機関砲を増設したサラミス、マゼラン両級の78年後期生産型(Block.5)で、ミノフスキー粒子散布下での実効性が薄れたミサイル用VLSの数を減らし、その浮いた重量を用いて増設を行っている。装備の変更であり、旧来の90mm機関砲が使えるため安価で1年ほどの間に改装がかなり進んでおり、連邦軍の光学防空網形成に大きな役割を担っている。

 超硬スチール合金製のザクの場合、ザクⅡでも射程距離内での直撃を受けた場合は危険で、スラスター部、背面部などの装甲の薄い部分に直撃すれば大破、もしくは撃墜は免れない。

 このため、ブリティッシュ作戦を戦ったMS隊を後方から観戦していた親衛隊は、連邦艦隊の採用したコンバット・ボックスに対し、外周よりの長距離実弾兵器の投入を行うことを提案し、今回、MS隊の武装は280mmザクバズーカが中心となっている。

 私たち、親衛隊の部隊の中には、ドム用の武装テストとして、一部360mmジャイアント・バズを装備している機体が含まれているが、ほとんどは高機動型ザクだ。これは、ジャイアント・バズの反動をザクの推力では殺しきれないからだ。


 機体を「マレーネ・ディートリッヒ」の後部ハッチに落ち着けると、ちょうど少し前に帰還したらしいガトー中尉が待っていた。私が後方から帰還するらしいので、着任の挨拶も含め、一言言いたかったらしい。

「大佐!大佐のような総帥の信任厚きお方と戦場を共に出来る事は、小官にとって無上の喜びであります」

 ガトーは敬礼と共にそう言い。出迎えてくれた。目ん玉はまともなのに言っている内容がアレなような気がしてならないが、とりあえず返事を返す。

「うん。中尉の武勲に期待させてもらう。海兵隊は荒々しく、肌に合わないと思うこともあるだろうが、腕は確かだ。姉の自慢の部隊だよ」

「はっ!」

 何とかして一年戦争中にガトーとシーマの間をどうにかしておかないと、4年後に痛い仕返しをもらいそうな気がしてならない。いや、ねぇ。核の炎で焼かれるのも嫌だし、ノイエさんに艦橋貫かれて宇宙に吸い出されるとか、はたまたソーラ・システムⅡで焼かれるとかマジ勘弁願いたい。

「しかし、今回初めて操縦させていただきましたが、流石大佐の部隊。良いMSです」

「ジオニックやツィマッドの新型を試験しているし、月面の工廠で独自に開発もしている。中尉が正式に配属となった暁には、私からも一機、贈らせてもらおう。デラーズ閣下は新型のドムに甚く御執心だったが、今度、見てみるか?発展形は宇宙でも運用可能になる予定だ」

「是非、御願いいたします!」

 ガトーの返事に頷きを返し、ザクを降りた三人娘に開発計画や運用についての報告を受けながら、私は艦橋に戻るために床を蹴り、移動した。それを傍目にしたガトーは眉を顰めた。眉をしかめたガトーに、小隊所属のカリウス軍曹が話しかけた。

「中尉、どうされましたか?」

「大佐は優れた御方だが、少々軽く見えかねないのが気になる。これは御諌めせねばなるまい……いや、コードウェル少尉らは優れたエンジニアを兼務していると聞く。内容も運用の件だが、やはり部下に女性ばかり三人と言うのが少し、気になるのでな」
 
 カリウスは笑った。

「考えすぎです、中尉。コードウェル少尉たちは、ザクの開発にも関わっていると聞いています。女性ではありますが、有能さは」

「うむ。私に見識がなかったようだな、カリウス。大佐が若すぎるので少々、勘違いをしてしまったらしい」

 野太い笑い声が後ろから響いた。

「ムリもねえさ、ガトー中尉。若のあんな姿見りゃ、勘違いもしかたねぇ。この艦のあるお方なんざぁ、のんぞんで勘違いしていると疑いたくなってくるほどさね」
 
 野卑な内容にガトーは眉をしかめた。

「貴官は?」

「デトローフ・コッセル。さっきまで直援のMS隊を率いてた。大尉だ」

 自分より階級が高い事を聞いてガトーはすぐさま直立不動となり、敬礼した。コッセルは笑いながらやめろやめろと手を振る。ガトーは不満そうだ。コッセルが答礼を返さなかったのが気に食わないらしい。

「ま、若も自重してくださるとうれしいがね。シーマ様がお冠だ」

「シーマ中佐が?あ、申し訳ありません大尉。しかし「若」とは……?」

 コッセルは頷いた。

「若はシーマ様の弟さんで出世頭、俺らのアタマだからな。シーマ様が中佐なのは、元々俺たちが傭兵出身だから、軍に入ったのが遅ぇのさ。若の口利きでこれだけのフネを任されちゃあいるが、ガッコウ出ほどお行儀は良くねぇ。腕はホンモンだがな。気ぃつけろ、若に何かあると飛んでくるぞ」

「大佐の姉君ですか」

 コッセルとガトー、カリウスの会話は、その後、報告のないのに痺れを切らせたシーマが艦内放送で呼び出すまで続いた。士官学校出以外の士官たちに対するガトーの目が、少しばかり、啓かれたようではあった。




 宇宙世紀0079年1月15日に始まるルウム戦役は、参加兵力こそ連邦、ジオン共に本来の歴史よりも多かったが、基本的な戦闘の推移そのものは歴史どおりに動いていた。ドズルの主力艦隊がティアンムの第4艦隊をひきつけている間に、キシリアの分遣艦隊がレビル率いる第2艦隊に対する突入を開始。ティアンムと砲撃戦を繰り広げる中で少しずつ戦力を抽出したドズル艦隊の一部がその後ろに続き、キシリア・ドズル艦隊と連邦第二艦隊が混戦状態となったところに特務大隊のMS部隊が突入を開始した。

「チィ、またか!」

 私は強化型ザクの後方から迫るビーム光を避けつつ、舌打ちをもらした。レビル将軍率いる艦隊に向けて突入を開始してから、後方のキシリア艦隊からの砲撃に、一部、どうみても私の機体に照準を合わせたような砲撃が混じるようになっていたからだ。また、キシリア派と思しきMS隊からは、微妙に連邦艦隊から斜線をずらし、本来なら今回の攻撃隊主要装備に含まれていないはずのMMP-78を向けてくるザクまでいる始末。

 ここまで嫌われているとはな。

 射線を明らかにこちらに向けたザクについては容赦なくガンカメラに収め、帰還後、どうにかしてやろうと思うが、遣り難くてしょうがない。なんとか外周部のサラミス4隻を撃沈する事が出来たが、下手に中に踏み込むと、キシリア派の部隊と連邦艦とのクロスファイアという笑うに笑えない事態になる。

 それでも、バズーカの弾薬が残っている段階で退けば、戦役の後に難癖をつけてくる可能性もある。そちらの場合も遣りにくい事この上ないため、適当に射耗した後、三人娘あてに後退命令を出すと、R-3型に取り付けてあったミラージュコロイドを、サラミスの影に隠れて展開させた。

 ちょうど死角になっていたようで、こちらにMMPを向けていたザクが周囲を確認している間に後退し、今度は「マレーネ」の艦の影でミラージュコロイドを解いた。着艦し、弾薬の補給を行わせる。

「面倒な事になったねぇ、トール」

 水分補給のため、整備兵からもらったパックからトニック飲料を吸っていたところに声がかかった。シーマ姉さんだった。汗にぬれた頭をがしがしとかき回してくる。かなり痛いが、本人はこれで頭をなでているつもりなのだ。それに、他人の目があるし、ソフィー姉さんやロベルタ嬢がいないからからまだおとなしい方。……あまり考えたくない。

「姉さんの方は問題なし?紫ババア、結構見境ないから」

「流石にアンタ一機に抑えとかないとばれるだろ。補給や何かで面倒かけてくるだろうが、コッセルの隊の方も問題なさそうだよ?」

「マレーネ・ディートリッヒ」搭載のMSは9機(最大12機)。本来ならシーマ姉さんとコッセルのR-1B型が1機ずつに、F型が6機で予備が1機、姉さんとコッセルとで2個小隊編成を取るところだが、今回は私たち第4大隊―――三人娘とガトー小隊―――が間借りをさせてもらっているので、シーマ姉さんは艦橋での指揮に専念してもらっている。

「悪目立ちするR-3に乗ってて良かったよ。下手にR-2や1B、果てはF型なんかに乗ってた日には、ジュリたちが巻き添えを食っていた可能性もある」

「だねぇ。まったく紫ババアは碌な事を考えでないよ。で、どうだい?もう一回行くかい?」

「戦況は?」

「さっき「アナンケ」が沈んだ。カニンガム准将の「ネレイド」は、ビュコックの爺さんの援護を受けて後退中。流石にボックス固められると、F型程度の装甲じゃどうにもならないね。外周のサラミス削るだけで精一杯さ」

「戦果はどれ位になります?」

「確認された撃沈は戦艦で25、巡洋艦で100程度。小型艇は掃討出来たそうだけど、補助艦―――特に空母を結構逃しているね。今回、奴ら戦闘機を1500ほど持ち込んだらしい」

 私はため息を吐いた。史実の連邦軍の被害が三分の二に抑えられている。やっぱり、ヤン大佐に言った通り、航空機の数が勝敗を決めたらしい。ただ、今回、被害を三分の一抑えるだけでも、史実より1200機多い航空機が必要だった。やはり、MSの優位性は硬いか。いや、対戦闘機戦がメインのセイバーフィッシュだからだ。もし対MS戦を考慮に入れた新型機でも出てくればどうなるか知れたもんじゃない。

「こっちの被害は?」

「戦艦グワシュ、グワバンが撃沈、巡洋艦は96隻のうち、71隻が大破、残りも中破がほとんどさ。あたしの「マレーネ」も左舷エンジンに被弾して、砲塔がいくつか吹っ飛んでる。ギリギリ大破だね」

 ため息を吐いた。やっぱり被害が多い。こりゃ、終わった後で絶対来るな。

「被害艦の所属はわかる?キシリア派の奴」

 そこまで言えば、シーマもわかったようだ。

「……なるほどねぇ、終わったあたりで戦力を要求してくるかい」

「多分。姉さん、「マレーネ」は譲らないけど、ムサイとザクは覚悟しておいて」

「あいよ」

 厄介な。本当に地球攻撃軍が編成されて、キシリアが地上に行く方がいいのかもしれない。多分その場合、オデッサにキシリアが入り、キャリフォルニアにはガルマが行く事になるんだろう。笑えねぇ。アフリカ方面軍は何処の勢力だったか。私がジオンを離れても、戦力を引き抜かれない、タフ・ネゴシエーターがほしいところだな、本当に。

 R-3のコクピットに戻ると、通信用のコンソールにシーマ姉さんが映った。

「ソフィーから連絡だよ。急ぎらしい。量通使っている」

「つないで」

 私は言った。量通とはSEED由来の技術、量子通信システムのことで、あの作品ではドラグーンシステムのコントロールに使われていたそれを、ミノフスキー粒子の影響を受けないところから、通信用として用いている。勿論、こんな技術など連邦、ジオン双方には流せない。

「当たりだよ、トーニェィ。お前さんが言う、フラナガン機関とやらの場所がわかりそうだ。目をつけてた候補者が、サイド6に移送されていることがわかった。ご丁寧にサイド4、月、サイド3、サイド6と色々と通過していてくれてねぇ。割り出しに時間かかっちまったけど、とりあえず、サイド6にある事は間違いない。既にいくつか候補を絞りにかかってるよ」

 やはり、か。今現在、フラナガン機関にいると思われるのはマリオン・ウェルチとクスコ・アル。木星船団の帰還が2月の中旬だから、そのあたりでシャリア・ブルが参加するのだろう。そして恐らく、ガルマが暗殺されたあたりでララァが加わり、私が手を加えていなければ、去年中にハマーンも其処に送られていたはずだ。

 どうする、潰すか……?

「トーニェィ、どうするのさ」

 うん、決めた。

「姉さん、まず研究所の所在と、誰が其処にいるかを調べてください。突入するかしないかの判断は後でしますが、恐らく、機会を定めて襲う事になると思います。被験者になっている人には申し訳ないんですが、平和的に接触できないか、とも考えています」

「つまんなーい」

 ……姉さん、年を考えて。自由に外見年齢を変えられるっからって、口調まで変化させなくても良いのに。任務ならともかく、これ、連絡ですよね?

「なに考えてんのさ」

「今はまとまっていませんので、後で。姉さん、忘れているかもしれませんが、今は会戦中です」

 そういうと、思い出したようににっこり笑い、こういった。

「まぁ、アフガンほど気張る必要ないでしょ。月で待ってるわ。ロベルタが夜泣きしてるよ?覚悟しとき」

「……了解しました。あんまり変な事を言わないでおいてくださいね」

 通信をきる。前線から送られてくる通信を確認すると、連邦艦隊は大きな被害を出しながらもルナツー方面への撤退を成功させたらしい。撤退する連邦軍からはぐれた部隊に対する掃討戦が始められているが、もっとも強気に参加しているのはやはりキシリアの部隊。逆に、私の部隊宛には負傷兵の救助命令が来ている。

 まぁ、そのあたりの判断はシーマ姉さんに任せるとして、実際、やっと所在が判明したフラナガン機関をどうするかだよな。

 フラナガン機関を潰すのはたやすい。けれども、下手に潰すとフラナガン機関の研究結果を下地にする、連邦のNT研究機関の目もなくなる。となれば、Zでのフォウ・ムラサメ、ロザミア・バダム。ギレンの野望のNT-001、レイラ・レイモンドやゼロ・ムラサメといったキーパーソンの登場の目をなくす事になる。

 人体実験にデザイン・ベイビーという生命倫理に真っ向から挑戦したような所業をしてくれているので私的には早速研究員ごと殲滅戦を仕掛けたいところだが、ストーリーに影響が出すぎるのだ。今の段階で潰せば、シャア・アズナブルの動向にどんな影響が出るか知れたもんじゃない。

「潰せんよなぁ、正直」

 かといって下手に残せば、それはそれで困った事になる。NT-Dやサイコミュは反則に近い兵器だ。ファンネル、ビットはドラグーンシステムで代替可能ではあるが、単純に兵器開発だけで済ませられる問題ではない。

「カトル君がどこまで押さえたか、だな」

 地球連邦に潜入し、ヘッジ・ファンドの巨頭として活躍してもらっているカトルには、この時点で地球に住んでいるはずの強化人間候補者について、写真付で捜索を御願いしている。開戦前、最後にもらった連絡では、名前がはっきりしているロザミア・バダムの所在が判明し、監視がつけられているそうだが、コロニー落としの落着点の変化がどのような影響を与えているのかがわからない。

 しかし、完全にナンバー制で管理されているムラサメ研究所所属の強化人間についての報告はまだなかった。以前に読んだガンダム小説で、フォウ・ムラサメの実名に関する名前と思しき「キョウ」の事は伝えてあるが、「キョウ」と写真だけで所在が判明すれば苦労はない。もっと悲惨なのがゼロ。こちらは、手がかりすらないのだ。

 とりあえず、フォウ・ムラサメが日本人らしきこと、強化人間候補者にはコロニー落としの影響が強い事がわかっているので、史実のコロニー落着地点近くの状況を確認するよう伝えたが、どうなっているのだろう。とかく、人手が足らないことが一番の問題だと再認識させられた。人間相手に行動できる人員が少なすぎる。


 こりゃ、本格的に、人海戦術取れるようにもしておくべきかもしれない。今回のポイントの使い道はその方向で行こう。




[22507] 第10話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/10/23 17:06

 ルウム戦役後の事態の流れは、それこそ歴史どおりに進んでいった。

 黒い三連星が「アナンケ」を撃沈し、レビル中将を確保し、デギン公王はレビルを通じて講和の可能性を探ろうと、ジオンの理想(デギン理解版)を語って懐柔しようと試みたが、キシリア機関と連邦へのスパイ、エルラン中将が救出部隊を送ったためにレビルは脱出。予定通り南極条約が締結される。

 南極条約のジオン側全権代表は、やはりマ・クベだったが、こちらもキシリアの内意を受けて、地球側に対して屈辱的とも言える講和内容を伝え、結局、条約締結交渉を難航させていた。

 とはいえ、ルウムでの被害は史実よりも少なく、いまだ1個艦隊分の戦力が稼動可能と言うこともあり、連邦軍の法に混乱は見られない。むしろ、現状確保しているルナツー近辺の宙域確保に邁進させる結果となり、連邦に送り込んだスパイが、ルナツーの改装工事が始まったらしいことを伝えてきている。

 さて、レビル演説による南極条約の不調を受けて、ジオン軍は予定通り2月に地球攻撃軍を設立。第一次降下部隊として、キシリア率いる大部隊が3月1日、東欧、オデッサへと降下した。目的は黒海沿岸部に埋蔵されている地下資源と、欧州攻略による大西洋へのアクセス権の確保だ。最終目的は、オデッサから西進し、連邦軍の主要軍港が集中するアイリッシュ海沿岸部を目指すことだ。

 3月1日、オデッサ地域へ向けた空挺堡として、バルハシ湖西部のバイコヌール宇宙基地を占領。これについては、既に2月7日に先発降下していた特殊部隊(どうやら、屍喰鬼部隊らしい)の活躍もあったようだ。但し、ロシアの気候がコロニー落としの落着点変更によって混乱していないため、MS試験部隊などの投入は見送られたらしい。

 3月2日、1日で師団級の戦力(後に第一機動師団となるが)から、主力の旅団級の部隊をオデッサ方面に送り出し、残余の部隊から抽出した戦力で、カスピ海沿岸部の占領を開始。3月7日、オデッサが陥落した。また、同日、地球攻撃軍総司令としてキシリアが、ユーラシア方面軍司令としてマ・クベがオデッサへ降下した。

 史実と違うのは、第二次降下部隊の投入先もオデッサ地方とされた点だ。地球降下作戦は、コロニー落とし、ルウムでの戦勝があったからこそ地球全体に満遍なく部隊を降下させる形になったが、今回、北半球はそれほどの被害を受けていない。南米近くにコロニーが落着したため、ジャブローの司令部こそ混乱しているが、直接的な被害を受けたアフリカ以外では、連邦軍はかなり、組織的な戦力を残している。

 このため、本来なら北米に投入されるはずだった第2、第3機動師団はオデッサへの増援、欧州での戦果拡張、北アフリカへの戦力投入を目的として投入され、それに引きずられる形で、北米へは第4機動師団、および混成第3、第4MS旅団が投入。アジア地域へは混成第8MS旅団の投入にとどまった。

 これが戦局にどのような影響を与えたかと言うと、欧州方面では連邦の主力との交戦に充分な戦力を得たジオン軍が攻勢を強めたものの、ドーバー沿岸部の確保を自派閥の人間で行おうと、南欧州で主力を勤めるはずだった、増援の第3突撃機動師団の投入時期を遅らせたため、ドーバー沿岸部を固められてしまい、失敗に終わった。欧州戦線は、史実どおりドーバー海峡を挟んでのにらみ合いが続く事になる。

 北米方面では変化がかなり顕著な物となった。被害が南半球に集中したため、この時点で歴史どおりなら、コロニー落下によって壊滅的な被害を受ける、北米の諸都市が無事である。また、当然それらの諸都市近郊の基地に駐留していた戦力も無事で、キャリフォルニアベース、ニューヨーク共に鉄壁の布陣で以て、迎撃の準備を整えようとしていた。

 このため、ジオン軍は戦力不足に陥り、早々にニューヨークか、キャリフォルニアかの選択を突きつけられる始末となった。結局、ジオンが保有していない戦力である海上戦力の接収を狙うため、海軍の基地が集中し、旧型艦船のモスボール基地も存在するキャリフォルニアに狙いを定めた。

 キャリフォルニア・ベースとは、旧アメリカ合衆国カリフォルニア州に存在した三つの大都市、サンフランシスコ、ロサンゼルス、サンディエゴに属する基地群の総称である。ニューヨークを狙うと見せかけるために戦力の一部を五大湖周辺に移動させたため、連邦、東アメリカ方面軍はそれへの対策に追われ、戦力を西海岸へ送る事が出来なかった。そこに、1個師団+2個旅団の戦力が襲い掛かったのである。

 オレゴン州方面から国道5号線に沿って南下する第4機動師団が旧州境のクラマス・モトック・フリモント国立森林公園で激戦を開始すると、第3混成旅団が国道15号線にそってラスベガスからの侵攻を開始。主力をモハビ国立保護区近辺で拘束する事に成功した。その間に、国道80号線に主力をおくと見せかけた第4旅団が、デスヴァレーを突破してフォート・エドワーズへ突入したのだ。この結果、戦線は崩壊し、キャリフォルニアベースは確保されてしまったのである。キャリフォルニアベースの陥落は3月24日、こちらもオデッサ同様、陥落した日にガルマ・ザビ大佐がアメリカ方面軍司令として降下している。

 アジア戦線はオーストラリア降下作戦がなくなったため、タイ平原に旅団級戦力が降下、陣地構築とゲリラ戦、特に、極東アジア最大の工業地域である。日本に対する資源輸送ルートの壊滅が主任務であったため、そもそも、あまり変化が生じていなかった。

 このような推移の下、ジオン軍は地上での第二段階攻勢のための戦力を蓄え、また同時に、連邦軍も反撃のための戦力を整えようと躍起になるのである。



 第10話


 少将に昇進した、トール・ガラハウです。デラーズ閣下と並ぶ親衛隊の二大巨頭となり、ルウム戦役で戦艦・巡洋艦5隻を撃沈したシャアほどではありませんが4隻を撃沈したことが評価されたようです。

 地位が一番低いとは言え、将軍となった事で獲得攻勢が強まっています。ドズル閣下はルナツー方面軍を抑える艦隊指揮官として登用したい、なんてことを言い出しましたし、キシリア閣下は新規編成のMS師団の師団長として地球に降下させろなんて事を言い出しています。アレか、自分の指揮下に組み込む事で戦死狙っているのか。

 高まる両者の要求に対してギレンは、とりあえず月面とサイド3の航路を防衛する親衛隊第二軍団の司令として、月面N3への駐留を行わせる事を決定。キシリアなどに対して援軍を送らせる様、月面駐留の行政官みたいな配置を負わせられました。

 キシリアの地球攻撃軍総司令への新補も相俟って、適当なところで中将に昇進して月面の統治を一手に行わせる旨、内諾を戴いていますが、結局、グラナダに関してはやっぱりキシリア派がどうにかするようです。この結果、本土方面での配置が、地位と役職とが大混乱となる結果となりました。配置を記すと。

 月面航路防衛任務
  ・主務司令部:親衛隊第二軍団 トール・ガラハウ少将
  ・Nシスターズ駐屯部隊 ウォルター・カーティス大佐
  ・技術開発試験隊 ギニアス・サハリン大佐
  ・グラナダ駐屯軍司令 ノルド・ランゲル少将

 なんてことになっています。ランゲル少将は私より先任でえらいはずなのに指揮下に組み込まれていますが、月面では私より偉く、しかも私のところからキシリアのところへ抜く戦力を選べる立場にいるという微妙なお立場。キシリアがいなくなったグラナダで会った際、盗聴器を丸外しした部屋での会談中、頭を深く下げてゴメンナサイしてくれました。

 この人も苦労しているな~。いや、これあからさまにキシリアの手だろ。司令がいい人過ぎると、下手に手を出す事が問題になる。責任者はランゲル少将だし。けれどさっきも見た通り、基地内にいる佐官級の士官が完全にキシリア閥で固められているから、実際はこいつらが命令を下してくるんだろう。

 どうやら、この配置、ギレン閣下も了承の上だそうだとアイリーン女史から連絡ありました。なるほど、キシリア閥の相手を全部こっちにやらせる事で、本国の方をどうにかしたいと。ダイクン派である事が鮮明になりすぎな本国防衛隊相手に忙しくて忙しくてと永遠の17歳はおっしゃいますが、いやアンタ、永遠の17歳の指揮下で戦うのと紫ババア相手に戦うのとのどっちが良いかなんてわかりきってるでしょうに。

 さて、地球攻撃軍の快進撃が続く中、ウォルター・カーティス大佐と言うタフ・ネゴシエーターを得る事が出来ましたので、そろそろこっちも独自に動いてみようかと思っています。彼がいれば数ヶ月ばかり留守にしても、月面の状況を現状維持してくれることは間違いないですし。

 ため息を吐くとこちらに微妙な視線を感じる。半分は笑いを含み、半分は心配そうに見てくれているのだが、そう思うなら助けてぇ、と言いたくなってくるのに、助けてくれないのがMy勢力クオリティとでも言うのでしょうか。



「お兄ちゃん」
「お兄様」
「お兄ちゃま」
「あにぃ」
「おにいたま」
「兄上様」
「アニキ」
「兄くん」
「兄君さま」
「兄チャマ」
「兄や」
「にいさま」



「「「「「「「「「「「「一緒にいてもいい?」」」」」」」」」」」」


 アレだ。萌えるとかそういうのなしに、心が痛い。何だろう、こう、羞恥心とかゴリゴリ削られていくような感じ。ここで「萌え」とか言う奴は一度精神病院行った方がいい。一瞬自分の耳ではなく精神を疑った。まだルウムでザクのコクピットの中にでもいるんじゃないかと思った。いや、望んだのだ。



 誰だ、プルシリーズに区別のためだとか言って、3歳児相手にシスプリ吹き込んだ奴。



 ランゲル少将との会談を終えてN3に帰還したところ、去年からずっと会えなかったため、久しぶり、ということで、港湾部でハマーンを指揮官とし、ロベルタ嬢の援護する「妹中隊」に確保され、会議室まで同行を求められてしまったのである。

 これから会議だから、と言う触れ込みで一回全員を部屋から追い出したのだが、中隊の兵員たるプルシリーズは三歳児。当然そんな理屈が通用するわけがない。追い出された瞬間に全員が泣きだし、扱いに困った(嘘付け)ロベルタがニコニコ笑いながら、「邪魔をしませんので部屋に入れてあげてくださいな」と言い出し、ハマーン隊長とセレイン副隊長がそれに同意した瞬間に負けが確定した。

 負けが確定した後も、何とか会議を真面目な―――こう言って悪ければ、シリアスな―――雰囲気にしようと後で時間を取る事をいいわけに追い出そうとしたところ、先ほどの呼びかけと相成ったのである(ちなみに出迎え最初の掛け声はあの迷セリフ「プルプルプルー」。×12の大合唱は耳を押さえる人と何か変なものを感じたらしい人が続出していた)。

 ちなみに、この後、この区別の方法を吹き込んだのが張さんである事が発覚。どうやら、香港時代に現地で放映していたソレにハマっていたらしく、折り良く十二人の幼児を獲得したので「ちょうどいいと思った。やってみたかった。後悔はしていない」そうだった。話した瞬間に、プルたちだけずるいと言い張って室内に同席していたハマーンとセレインからはゴミのように睨まれ、大人の男性たち(カーティス大佐ら)は気まずそうに目をそらし、ギニアスに至っては何かを開眼したかのようにノリス中佐と頷きあい、シーマ、バラライカの二人は何事かを話し始めた。スルースキルも限界のようですね。頑張ってください。4発ぐらい9mmマカロフ弾打ち込まれてもいい頃合ですよ?イエス・ロリータ、ノー・タッチとは言いますが、三歳児はロリとは言いません。ペドです。

 ソレはともかく、これからの月面部隊、LGの進む道を模索すべく、会議は始まった。経過は省略するが、決まった事は以下の通りである。会議そのものは2月3日に行われたが、ここでは其処での決定内容に基づく、3月1日までの内容も合わせておこう。

 まず、キシリアから早速、保有する艦隊戦力を差し出せという要求が来た。地上攻撃軍への増援投入の際、機動上の護衛に用いるとの事で、これについてはシーマ姉さんと話した通り、保有するムサイおよびザクⅡF型の提供で話が終わった。

 ルウム戦役で所属が一時期私の下になっていたガトー中尉の部隊は、シーマ艦隊が上記の理由で再編に入った事を受けて、正式にデラーズ艦隊に配属。それにあわせ、高機動型ザクを提供した。また、保有する高機動型ザク海兵隊仕様の各機も、若干の改修を施した後、唾をつけておきたい名パイロットたちに提供する予定だ。せっかく突撃機動軍が編成されないのだから、これを機会にキマイラ隊とか奪ってやろうと考えている。

 旧親衛隊第4大隊の開発していたグフ、ドム、ゲルググは運用データが揃ったため、これもキシリアに取られる事になった。もっとも、グフとドムは元々地上用だから、キシリアに提供する事は織り込み済みだったとも言える。強化型ザクことR-3型の運用結果はジオニック社グラナダ工廠に送られ、ゲルググの先行量産型が既に試作機として完成しつつあるが、エネルギーCAP技術が未完成のため、現状では新型のMMP-80マシンガンの装備が考えられている。

 このため、保有戦力は激減し、本土防衛軍から編入された突撃第5師団が月面防衛の戦力となるが、同師団を構成する第51、第52、第53Ms連隊のうち、2個連隊の指揮権がグラナダ部隊に握られているので実質、1個連隊級の戦力しか保持していない。しかも、艦艇が無しで。かなり危険な状態です。

 けれど、これで宇宙での動きは本年9月のV作戦発覚までなくなるため、RP使って戦力の更新を行うにはいい時期と判断し、まず、不足するMSの量を補うため、宇宙用としてMS-21Cドラッツェの提供を開始。構造が単純で量産性が良く、ルウム戦役での損傷機を用いて作っているので原料的にも不足はない。既に30機近くが組みあがり、とりあえずおいてある。時期を見て売り払おう。

 また、MSの開発計画が、親衛隊にかかると良好となるため、小惑星ペズンに建設が予定されていたMS工廠の建設が中止され、その分の資材がア・バオア・クーMS工廠に回されると共に、既存MSの改造計画、新型MSの開発計画も月を経由する事に決定した、とアイリーン女史から連絡が入り、早速ジオン軍に採用されたグフ・ドムの、ツィマッド、ジオニック両社の工業規格合一化に始まる統合整備計画の打診をしていたところ、早速の採用となった事で、リック・ドムの開発にも一部関係する事となった。

 とりあえず、リック・ドムについては後回しにし(可能だが、投入の時期は見極めたい)、グフ、ドムの改造案から提出してみた。具体的には、高速ホバーで移動するんだから、被弾覚悟だろということも相俟って、装甲厚を増したF型を提案。オデッサから北アフリカと言う砂漠地帯での運用を考え、ホバーの吸気口に砂塵防護フィルターを装備したトローペン、リック・ドムへの生産変更を容易にするための脚部設計の改良を提示し、ツィマッド社へ送付する。

 結果、設計が完了したリック・ドムの生産に許可が出たらしく、現在、ザクⅡに変わる宇宙用MSとして生産ラインの設定に取り掛かっており、大体5月ぐらいには生産が開始される予定だ。ザクⅡについても、F型を改修したFZ型へラインが変更され、既存のF型はFZ型に準じた改修を、準備が出来次第受ける事となる(F2型)。

 グフについてはプロトタイプ、および先行量産型が、地上での戦力不足を補うため早速投入されているが、指揮官用の機体として運用されるらしく、中距離戦闘能力を追加するよう、ノリス中佐から打診があった。このため、量産型として既に案が出ていたB型案を改定。固定武装の五連装マシンガンを廃し、シールド内部に連装90mmマシンガンを、シールドに着脱式の75mmガトリング砲を装備させる。またヒートロッドも初期設計案の、鞭状の熱および電撃による攻撃を行うタイプではなく、アンカータイプの電撃のみの方式に変更、簡素化した。これを装備に応じてB1-B3型と称する事とした。

 ドム・グフ以外の地上用MS、特に水中用MSについては、完全にキシリアが囲い込みを行っており、議題にはあがっていない。しかし、ドムの開発で協力したツィマッド社からはゴッグの、ツィマッド社を通じてMIP社と接触を持つことが出来、キシリアからあがってきたデータと、現在トライアルに入りつつあるズゴックのデータを提供する旨、連絡があった。部隊規模で用いるには充分な量が確保出来そうである。

 ルウムでの運用結果を下にジオニック社へ送った強化型ザクの運用データは予想通り新型MSゲルググへの開発を加速させ、MIP社もエネルギーCAP技術を追求してきた経緯からこれに参画しているが、肝心のCAP技術がまだ未成熟で、機体の設計が完了してもまだ終わっていない。

 武装はともかく、機体も優秀なため、ジオニック社に武装について既存の物を流用してはどうかと提案したところ、ギレンのOKが出れば、と言う話になり、その旨ギレンに伝えると「お前の部隊で使う分は好きにしろ」と言われてしまった。まぁ、宇宙用MSとしてリック・ドムが採用されるのが既定方針だし、ビーム兵器と言う売りもない段階でゲルググをどうにかしろよと言われても確かに前線では整備が混乱するためムリだろう。けれど、ザクやグフ、ドムのように動力パイプを露出させていないし、ジェネレーターも高出力のものがつけられているから、ビーム兵器が出た段階で腕部を交換すれば運用は可能だし、ゲルググベースにしておけば、一年戦争中に運用させるMSの出所隠すには最適……とかいう思惑もあったりする。

 なので、早速先行試作機をジオニックから搬入。5月辺りにゲルググMとして運用を開始する予定である。いやぁ、やっぱりシーマ艦隊はゲルググじゃないと。それに、ジオンのザク、グフ、ドム、ゲルググが出揃ったあたりで考えている事もあるので、ゲルググの登場は早めたかったのである。


 こうした決定内容を受け、月面の戦力拡充とジオン軍への戦力支援を、3月から9月まで続ける態勢を取ったところで、そろそろ自分のために動く番になった。

 地球降下作戦の最中、3月15日。月面恒久都市『N8』―――この都市はまだ連邦・ジオンともにクレーターとしか認識していないが―――より出航した民間用船舶が、地球軌道上へ移動を開始したのである。



 乗り込んでいるのはトール・ミューゼル連邦宇宙軍中佐である。
 



[22507] 設定集など(00-10話まで)
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/06 11:04

 ■主人公勢力まとめ
 初期戦力
 a)企業体
  ・太洋重工グループ:重工業/資源採掘業/運送業など
  ・月面極冠都市連合『Nシスターズ』
  ・ウィナー家(マネー・ヘッジファンド)

 b)特殊部隊
  ・三合会の皆さん
  ・遊撃隊の皆さん
  ・ブラスレイター三人組

 c)艦隊戦力
  ・グレイファントム級「トロッター」
   K28Rハイッシャー:12機

 ポイント変更推移表

 2039:初期SP442000
 ■技術項目
  ・年齢変更機能:30000
  ・重装機兵シリーズ:5000
  ・ブラスレイター:5000
  ・バンプレストオリジナル:5000

 ■獲得ユニット
  ・「グレイファントム」級強襲揚陸艦:1隻14000
  ・K28R「ハイッシャー」:12機合計12000
  ・火星基地:2基50000
  ・輸送船+モビルポッド:10000
  ・バイオロイド兵500名:5000

 ■キャラクター
  ・バラライカ(ブラックラグーン):10000+成長性など20000
  ・遊撃隊(ブラックラグーン):15000+成長性など30000
  ・ロベルタ(ブラックラグーン):5000+成長性10000
  ・カトル(ガンダムW):10000+ウィナー家5000+成長性など30000
  ・ゲルト・ヘルマン・マレク(ブラスレイター):合計27000+成長性54000
  ・アストレイ3人娘(SEED):合計15000+成長性30000
  ・ロックオン=ストラトス(00):10000+成長性20000
  ・ナタル=バジルール:5000+成長性10000


 2045:UC0001
 *ラプラス事件を改変!GP50000を入手!
 *RPの変換レートは100tです。(28000P変換)

 GP78000 → 3000
  ・三合会の方々(ブラックラグーン):合計15000+成長性30000
  ・張維新(ブラックラグーン):10000+成長性20000
  


 UC0060年代(03-04話)
 *タマーム・シャマラン暗殺を回避!GP30000を入手!
 *RPの変換レートは100tです。(925000P変換)
 ★タマーム・シャマラン氏は『俺ら連邦愚連隊』に登場しています。

 GP958000 → 423000
  ・ヤン=ウェンリーら4名:合計25000+成長性など50000
  ・ミューゼル一家:合計20000+成長性など40000
  ・第一 → 第二期モビルスーツ(F91以降)生産能力:50000
  ・プラント能力拡充:150000 → 資源効率が向上!火星プラントの変換限度が年2000Pから10000へ上昇しました
  ・ドック能力拡充:30000 地底船渠の能力向上により、最大16隻の同時建造が可能になります
  ・縮退炉製造技術:80000 ターンタイプの生産が可能になりました
  ・BPOG製造技術a:60000 パーソナルトルーパーの生産が可能になりました(バンプレスト)
  ・AS生産技術:30000 アサルトスーツの生産が可能になりました(重装機兵)


 UC0070年代前半(05話)
 *プルシリーズを救出しました!GP40000を入手!
 *グラナダ市長暗殺事件を回避しました!GP350を入手!
 *シャア・アズナブル(本物)が生存しています!GP100を入手!
 *セレイン・イクスペリを救出しました!GP3500を入手!
 *主人公勢力にシーマ・ガラハウが加入しました!GP2000を入手!
 *RPの変換レートは150tです(230000P変換)

 GP698950 → 448950
  ・プラント変換効率向上:50000 RPレートが100tへ戻ります(期限10年)
  ・第三期モビルスーツ(MMなど)生産能力:100000
  ・超空間航法技術a:50000 パッシブジャンプ(ゲート使用によるワープ)が可能になりました!
  ・超光速航行技術a:50000 光速を越す船舶を研究できます
  ・テラフォーミング技術a:50000 テラフォーミングに関する理論・技術を得ます
 
 UC0078年(06話)
 *ミノフスキー博士が生存しています!GP5000入手!
 *優生人類生存説が未発表です!GP5000入手!
 *火星のテラフォーミングが開始されました!GP50000入手!
 *主人公勢力にデトローフ・コッセルが加入しました!GP50入手!
 *RPの変換レートは100tです(257000P変換)


 GP766000 → 311000
  ・テラフォーミング技術b:50000 テラフォーミングに関わる建造物が建造可能になりました
  ・BPOG製造技術b:50000 カスタムタイプのPT、およびアーマードモジュールの生産が可能になりました
   → +縮退炉製造技術で、グランゾンの生産、および重力制御技術の開発が可能になりました!
  ・改造技術a:30000 生産可能な機体をチューンする事が出来ます
  ・バイオロイド兵能力向上:50000 歩兵戦闘が可能になりました!
  ・バイオロイド兵生産 5000名:50000
  ・不死設定a:50000 死亡後1年で復活できます!
  ・不死設定b:50000 死亡期間が短縮化されます。1年 → 6ヶ月
  ・パイロット能力Lv.1:50000 モンシア少尉ぐらいは活躍ができます!
  ・オリヴィエ・ポプランとウィスキー隊:合計20000+成長性40000
  ・フレデリカ・グリーンヒル:5000+成長性10000


 UC0079年1月第1週(07話)
 *一週間戦争での被害人口が、史実より24億人減少しました! GP240000入手!
 *主人公勢力にMS特務遊撃隊が加入しました!GP1500入手!
 *RPの変換レートは100tです(30000P変換)

 ★主人公の階級が大佐になりました
 ★主人公の部隊が旅団規模に拡大されました
 ★保有戦力が以下のように変更されました。
 c)艦隊戦力
  連邦側艦隊
  ・ペガサス級強襲揚陸艦「トロッター」
   PTX-001RV ゲシュペンスト・タイプRV×1
   (メガ・プラズマカッター、M90アサルトマシンガン、リープ・スラッシャー、スプリットミサイル)
   RPT-007 量産型ゲシュペンスト×8
   (プラズマカッター、ジェット・マグナム、M950マシンガン、M13ショットガン。後にビームライフル)

  ・搭載外
   RGM-79[G] 陸戦型ジム×6
   RGM-79N ジム・カスタム×8
   RX-81ST ジーライン・スタンダード×3
   MSA-003 ネモ×6 

  ジオン側艦隊
  ・ザンジバル級「マレーネ・ディートリッヒ」
   MS-06S 指揮官用ザクⅡ×1
   MS-06R-1M 高機動型ザクⅡ海兵隊仕様×1
   MS-06F ザクⅡ×6

  ・ムサイ初期型(カーゴ搭載型)×3(搭載機に+8)
   MS-06R-1M 高機動型ザクⅡ海兵隊仕様×9
   MS-06F ザクⅡ×21

  ・搭載外
   YMS-07A プロトタイプ・グフ×3
   YMS-09 プロトタイプ・ドム×3
   MS-06R-3 ゲルググ先行試作型×2


 GP582500 → 42500
  ・重力制御技術a:80000 保有する機動兵器は、設定に応じて10Gまでの慣性を無視して行動できます!
  ・BPOG製造技術c:80000 EG/VR型機動兵器の生産が可能です!(スパロボAなど)
   + 縮退炉建造技術で、XNガイストの開発が可能になりました!
  ・BPOG製造技術d:50000 異星人フューリーの兵器生産が可能です(スパロボJ)
   → オルゴン・クラウドの開発が可能になりました!
  ・改造技術b:50000 オプションパーツの生産が可能です(Gジェネ準拠)。
   → 改造技術cで、更なるパーツの生産が可能です!
  ・パイロット能力Lv.2:80000 ジェリドくらいは活躍できます
  ・改造手術a:50000 コーディネイターぐらいの肉体。酸素がないと死にます。
  ・プラント能力拡充:100000 火星プラントの変換効率が年20000Pになりました
   → プラントにパッシブジャンプゲートの設置が可能になりました!
  ・バイオロイド兵生産 5000名:50000


 UC0079年1月第2,3週(08話)
 *地球へのコロニー落としの被害軽減に成功しました!GP100000入手!
 *主人公勢力にランバ・ラル隊が加入しました!GP5000入手!
 *主人公勢力に闇夜のフェンリル隊が加入しました!GP3000入手!
 *キシリア・ザビの突撃機動軍が編成されません!GP50000入手!
 *RPの変換レートは100tです(160000P変換)


 GP405500 → 230500
  ・不死設定c:50000 死亡期間が短縮されます。 6ヶ月 → 1日(但し、強制的に月まで移動)
  ・改造手術b:50000 ガンダムファイターぐらいの肉体。酸素が無いと死ぬかどうかは試してみてください。
   ★改造手術で獲得したのは肉体の強さだけです。操縦や戦闘技術などは別扱いです。
  ・パッシブジャンプゲート設置:25000 月・火星間のワープが可能になります!
  ・プラント設置:50000 木星、衛星エウロパに基地が設営されました!月・火星・木星間のワープが可能です!


 UC0079年1月第3、4週(09話)
 *サイド5の被害が史実よりも少なくなっています!GP90000入手!
 *連邦軍の被害が抑えられています!GP20000入手!
 *ロドニー・カニンガン准将が生きています!GP1000入手!
 *ルウム戦役での活躍!ベイ三基破壊、パトロール艦2隻、巡洋艦4隻撃沈!GP4900入手!
 *テアボロ・マスが生きています!GP100入手!
 *RPの変換レートは100tです(50000P変換)

 GP396500 → 146500
  ・バイオロイド兵能力向上Lv.2:50000 艦艇・航空機系の運用が可能になりました。
  ・バイオロイド兵能力向上Lv.3:50000 人間に擬態する事が出来ます。
  ・バイオロイド兵能力向上Lv.4:50000 人間とのコミュニケーション能力を得ました。
  ・バイオロイド兵能力向上Lv.5:50000 MSなどの高精度精密機械の運用が可能になりました。
  ・バイオロイド兵生産 5000名:50000


 UC0079年2-3月(10話)
 *ニューヤークではなくニューヨークのままで、しかもニューヤークが占領されていません!GP60000入手!
 *オーストラリアにジオン軍が降下していません!GP30000入手!
 *主人公勢力にギニアス・サハリンが加入しました!GP2500
 *主人公勢力にノリス・パッカードが加入しました!GP3500
 *主人公勢力にウォルター・カーティスが加入しました!GP1000
 *プルシリーズの性格がシスター・プリンセスの影響を受けました!GP24000入手!
 *RPの変換レートは100tです(50000P変換)
 ★火星のテラフォーミングは順調に進行しています(0080年1月完了の見込み)
 ★保有戦力が以下のように変更されました。
 c)艦隊戦力
  連邦側艦隊
  ・ペガサス級強襲揚陸艦「トロッター」
   PTX-001RV ゲシュペンスト・タイプRV×1
   (メガ・プラズマカッター、M90アサルトマシンガン、リープ・スラッシャー、スプリットミサイル)
   RPT-007 量産型ゲシュペンスト×8
   (プラズマカッター、ジェット・マグナム、M950マシンガン、M13ショットガン。後にビームライフル)

  ・搭載外
   RGM-79[G] 陸戦型ジム×6
   RGM-79N ジム・カスタム×8
   RX-81ST ジーライン・スタンダード×3
   MSA-003 ネモ×6 

  ジオン側艦隊
  ・ザンジバル級「マレーネ・ディートリッヒ」
   MS-06S 指揮官用ザクⅡ×1
   MS-06R-3 ゲルググ先行試作型×1

  ・搭載外
   MS-21C ドラッツェ×32


 GP317500 → 142500
  ・オルゴン・クラウド適用:25000 動力源としてオルゴン・エクストラクターを生産できます
   → 派生技術の開発が可能になりました
  ・パイロット能力Lv.3:100000 ザビーネくらいは活躍できます。
  ・ナノマシン技術Lv.1:20000 医療用ナノマシンを生産できます
   → +バイオロイド兵生産技術で、強化人間復元技術を入手!強化人間を普通の人間に戻せます!
  ・ナノマシン技術Lv.2:30000 改造用ナノマシンを生産できます
   → +縮退炉生産技術で、ナノ・スキン装甲を全機体に適用可能です!
   → +作品拡張;ブラスレイターで、ブラスレイター製造技術を入手!



[22507] 第11話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/10/27 05:15
「失礼致します、トール・ミューゼル中佐、入ります」

「どうぞ」

 ジャブロー、連邦軍総司令部ビルの3階。現在、地球上で戦う連邦軍すべての司令部だ。3月16日に大気圏に突入した民間船舶は16日中にニューホンコンへ到達。連絡機を乗り継ぎ、オーストラリア経由で南米ジャブローに到着したのが17日で、早速この議場に呼ばれた。

 現在の私の立場は、ジオン軍親衛第二軍団長ではなく連邦軍特務作戦集団、第3集団長の中佐、と言うことになっている。そして、今回の報告も、この第三集団長としての報告だ。そして第三集団の任務は、敵ジオンの新兵器に関する調査だった。

 入室すると左胸に太いバーが連なる人間ばかり。一番奥に座るのが連邦軍作戦本部長のシドニー・シトレ大将。両側に座るのが連邦軍総司令、ヨハン・レビル大将と、幕僚・兵站総監ゴップ大将。そしてその二人の次に座るのが、第一軌道艦隊司令のビュコック中将と、連邦、欧州方面軍総司令のパウルス大将だ。

「報告します。トール・ミューゼル中佐、月面での任務を終え、無事、帰還いたしました」

「ご苦労」

 シトレは言った。周囲を見回す。

「中佐の任務は高度の秘匿性を要求されるため、今日、この日まで関係各員には伏せておいた事を了承してもらう。また、今日、この部屋で交わされる内容に関しては全員、秘匿を命ずる。漏れた場合はわかっているな」

 全員がうなずく。



 第11話



「それでは中佐、よろしく頼む」

「了解しました。まず最大の懸案として、連邦軍内部に存するジオンのスパイに関してですが、エルラン中将が最大の候補者です。いや、候補と言うのは不明瞭ですな、犯人であります」

 ゴップとレビルの目が見開かれる。エルランは二人にかなり近い立場にある。レビルの救出を指揮したのは、ほかならぬエルランではなかったのか。

「嘘だろう!?エルラン中将はレビル大将救出作戦の……」

「残念ながら、事実であります。エルラン中将がレビル大将救出作戦を遂行したのは、主にジオン側の内紛が理由であり、この戦争をレビル大将の演説を以て継続させることにありました」

 私は、ギレン、デギン、キシリアの三者に関する説明を彼らに行う。どうにも信じられないようだ。内部の権力闘争が原因で、せっかくの勝てる戦争の機会を失うなど、常識的に考えればありえない。

「常識的にはありえない事態ですが、独裁をもくろむ人間が複数存在するジオンにおいては、誰かによる独裁が完了するまでの戦争継続はむしろ自然であります。第三集団は、エルラン中将を即座に逮捕するのではなく、連邦軍が持つ、ジオン側への欺瞞作戦のための駒として用いる事を提案します」

 全員の顔が沈む。今の今まで連邦軍の首脳部に敵のスパイが存在していたことすら考えても見なかったのに、この中佐はそれを指摘するだけではなく、ジオン側に対する欺瞞作戦としてソレを用いよという。

「しかし、欺瞞作戦に用いるとはいえ、用いるためには犯行計画の整うまで彼を泳がせておく必要があるだろう?ソレまでの間にこちらの情報がジオン側に筒抜けになる事は避けたいのだがね」

 いち早く復活したゴップ大将が口を開いた。流石に軍政の大物だけあって、こうした政治的な問題に関しては対応が早い。

「ええ、ですが連邦軍の反抗計画が始まる前であれば、むしろエルラン中将が関わらない分野、部署での活動が主となります。飼い殺しにしておくことも可能かと思いますが、流石に詳細を私から申し上げるのは越権に過ぎます。直属の上司であるレビル大将が判断されるのが宜しいでしょう」

 レビルがうなずいた。

「了解した。しかし、本当かね?」

「ええ。彼がキシリア機関と通称される、ジオン軍、キシリア・ザビ地球攻撃軍司令の諜報部隊と接触を以ている事を確かめてあります。主に接触を行っているのは、副官のジュダック少佐ですが。スイス銀行の口座に入金があった事も確認しております」

 レビルはため息を吐くと席に深く身を沈めた。

「そうか、わかった。何とかしてみよう」

 シトレはうなずいた。

「それだけではあるまい、中佐。本題に入ってくれ」

 私はうなずくと、現在ジオン地上軍、宇宙軍が用いているMSの解説に入った。まだ実用化が行われていないMSについては省き、近々投入される予定のMSについては性能をかなりぼかして話すこととする。流石にゲルググについては話せないが、ザク、グフ、ドムについての情報が得られたことは、連邦軍首脳部に対して有能さを見せつけるいい機会だと判断したためだ。むしろ私の立場からすると、知らない方が問題が多いのだが。

「良くぞここまで調べ上げる事が出来たな……」

「私の秘蔵っ子でね。君らも知っている、ヤン少将の弟分だ。経歴に関しては絶対にタッチするな、と全員に伝えておく。任務に差しさわりが出るのでな。彼の身分は私とビュコック中将、ヤン少将が保証するし、開戦以前にはカナーバ下院議員やグリーンヒル上院議員とも接触して情報を伝えてきてくれている」

 ゴップが目を見開いた。カナーバ議員は、連邦創生期に財務大臣としてコロニー開発計画の予算捻出を行った、アイリーン・カナーバ議員の同名の孫娘だ(実は若返った当人なのだが)。グリーンヒル上院議員は元中将、早期退役して連邦政界に入り、軍の利権代表として活動している。ゴップ自身も、この戦争が終わり次第、グリーンヒルの援助で政界に打って出る予定だったのだ。しかも、グリーンヒルの娘と結婚が噂されているヤン少将の弟分では、下手に手を出せば政界に打って出る目がなくなる。このような経緯では文句をつけるどころではなかった。

 たいていの場合、55歳で、将官の場合、少将60歳中将62歳という風になるが、定年後や、早期退役制度を用いてに政界に打って出る将軍は意外に存在する。それらの道筋を現在つけているグリーンヒルの関係者とくれば、厚遇しないわけには行かない。

「いえ、懸念が少し出ただけです、シトレ閣下」

 差し出がましいが、口を挟んだ。ゴップに対してフォローの必要性を感じたのだ。

「当然の懸念と思います、閣下。むしろ、ありがとうございます」

 私はゴップに一礼した。兵站に関係する部署の人間と絶対に喧嘩してはならない。ソフィー姉さんから叩き込まれた、軍人としての条件の一つだ。ゴップも好印象を受けたようで、言葉を続けた。

「中佐の有能さは報告の内容に現れていると思うが」

「うむ。それだけではない。中佐の任務は、ジオン軍からの諜報結果を元にした、連邦軍用MSの模索にある。これについては、中佐の指揮の下、日本の太洋重工と協力して事に当たってもらっている。中佐、連邦軍用MSの開発計画の方はどうなっている?」

 私はうなずいた。

「既にレビル将軍の下でも、V作戦の名の下、MS開発計画が進行しておりますが、我が集団においても同様の計画を進めております。勿論、きちんとした開発段階を踏んで行われるV作戦が優先であることには間違いありませんが、代替計画、即座に実行可能なもの、として我が集団が進めておりますのがL計画です」

 コンソールを操作し、L計画で開発しているMSを映し出す。

「RRf-06、通称ザニーです。この機体は操作性の問題で開発が頓挫しかけていましたが、我が部隊の諜報によって、ジオン軍の用いている操縦システムの奪取に成功。ソレを取り入れて開発を終えております。現在、太洋重工の生産ラインで日産10機を目処に生産を行っております」

 おお、と歓声があがる。そうだろう。実用できるMSの生産が、既に始まっていたのだから。

「しかし、ジオン軍の用いている機体と比較した場合、現在彼らの主力として運用されているザクⅡF型とは互角に戦えますが、それ以外の新型機が出てきた場合には対応が出来ません。また、汎用型としての運用を前提に開発しておりますが、予算の問題から局地陸戦や宇宙戦、水中戦などの局地戦に対応が出来ません。この機体を投入するならば、気候的にも安定している欧州戦線が適当と考えられます。むしろ、局地戦に対応した機体に関しては、V作戦の実戦データを待ったほうが良いかと考えております」

 レビルがうなずいた。それに続いて全員もうなずく。

「よくやった、中佐。V作戦が間違っていなかったことの証拠になり、また、生産能力や、ノウハウの蓄積に役立ってくれるだろう。それに加え、部隊がMSの運用に習熟する良い機会ともなる。鹵獲した機体だけでは生産などに問題を抱えるだろうからな。いや、本当に良くやってくれた」
 
 レビルが立ち上がり、握手を求めてくる。私も、笑みを浮かべてソレに応じた。

「現在日本の山間部において実験、試験が行われており、獲得したデータは即座に送れる状況にしてありますので、V計画への転用も充分可能でしょう。また並行してMSの運用・整備マニュアルの整備や、武装の案も考えております」

 レビルがうれしそうにうなずく。パウルス大将も上機嫌だ。先ほどの言葉どおりなら、この新兵器はまず、彼の率いる欧州方面軍に配備されるだろうからだ。

「ただ問題もあります」

 そういうと、レビル、ゴップ、パウルスが身構えた。

「現在、MSの生産には太洋重工グループの協力を戴いておりますが、戦後を考えますと、太洋重工一社の独占市場になる恐れがあります。勿論、ジオンの国策会社であるジオニック社の存続問題や、月面のRX計画を主導してV作戦にも深く関与しているアナハイム・エレクトロニクス社の存在もありますし、一社独占とするには、市場の大きすぎる内容である事が、戦後の懸念としてあります。これが第一です」

 そこで、と続けた。

「特に、これまで連邦軍の軍需を担ってきたハービック、ヴィックウェリントン社にも軍需市場をそれなりに開放しなければ軍需面、政治面双方に悪い影響が出る可能性もあります。ヴィックウェリントンは艦艇という逃げ場がありますが、ハービックは悪くするとつぶれかねません。そこで、ハービックには大気圏内、圏外用のサブフライトシステムの開発を御願いしておきました。MSにしろ戦車などにしろ、現在主力のミデア型―――ハービックの製品の一つですが―――は大型輸送機として活用度が高くありますが、やはり運用は輸送機でしかなく、戦術的に用いるには、たとえばMSの空挺降下ぐらいでしょう。新市場を提供するためにも必要かと思います。また、大気圏内の飛行が可能な新型の船舶、戦術輸送機についても、ハービックに任せるべきかと愚考します」

 ゴップはうなずいた。若い軍人にしてはなかなか行き届いたものの見方をする、と思っている。軍需企業が多ければ多いほど、連邦軍の軍需を巡って接待攻勢をある程度しかけてくるし、それに乗っかる形で利権を要求することも出来るが、一社独占となった場合には立場が逆になる。それでは流石にまずいのだ。

「君の懸念ももっともだ。艦船関係については、ヴィックウェリントンと競合する他のメーカーにも打診の予定を考えておるのかね?」

 勿論です、とうなずく。

「サラミス級ですが、設計は連邦軍の艦政本部でありますので、MSの運用を考えた後期生産型からは、ある程度設計図を各社に流し、利益配分を考えるべきかと思います。MSの運用を前提にした案としては、即座に実行可能なものとしてこれを推薦いたします」

 コンソールに新たな画像が映し出される。サラミス級だ。

「まず、現行艦船の改装案です。サラミス級の前部砲塔、および内蔵VLSを排除し、MS運用施設を装着。但し、カタパルトなどの発進装備は排除してあります。改装と部品調達に時間がかかりますので。但し、艦底部を改装し、MS運用設備を装着。また、弾薬の誘爆を防ぐために現在装備されている90mm機関砲を排除。パルス・レーザー砲に転換します」

 ゴップ大将が手を上げた。

「それでは、今度は90mm機関砲弾が余りゃせんかね?」

「それは、MS用90mmマシンガンの弾薬として用います」

 ゴップはうなずいた。

「なるほど、よう考えている」

「新型のサラミスにおいては、両舷に突き出した第二、第三艦橋を撤去し、砲塔と近接防御用のロケットランチャーを配置。艦底部にMS運用施設をおき、砲戦力を強めます。しかし、我が軍の保有するMSが一定数量に達した場合、艦体前部は、MS運用施設としたほうが宜しいかと」

 全員がうなずき、改造案は早速各社に示される事となった。マゼランの改造案もあるにはあったが、むしろその強力な砲撃能力を生かすことを考えるべきで、MSの運用に関してはある程度オミットしてもかまわないのではないかと言う意見が出たため、一年戦争中は無しの方向で固まった。

 連邦軍のMS開発計画に光明をもたらし、ジオン軍のMSについて詳細な情報を提供したトール・ミューゼル中佐の名前は連邦軍最上層部にしっかりと記憶され、翌日、シトレ大将より内々に大佐への昇進が通達されるのである。



「トールさん!」

「カトル君」

 連邦軍の制服をきた15歳ぐらいの少年が、退室した私を出迎えてくれた。カトル・ラバーハ・ウィナー、ガンダムW5人組唯一の良心である。連邦軍ではカトル・ウィン少尉の名前で副官を務めてくれており、私がジオンに言っている間には、地球最大のマネーファンド、ウィナー家の当主として利鞘稼ぎにはたまたマネーロンダリングにと大活躍してくれている。

「久しぶりです」

「……本当に久しぶりだ、涙が出てきた」

 自分の素性を了解してくれている数少ない常識人である彼は、そのスマイルを以て姉二人を止められる数少ない人材である。いやぁ、やっぱり婦女子受けいいのね(字は正しいぞ?)。ジオン軍では1個師団級の戦力をもってはいるが、連邦軍ではまだ少ない。今回、シトレ大将からもらえる職権でどれだけの戦力をかき集められるかが鍵となるだろう。カトル君によると、まだ強化人間の捜索は終わっておらずとのこと。一応、フォウ・ムラサメの候補らしき女性は何人か見つけたが、果たしてそのうちの誰が、という事は判然としないらしい。

 少し時間が前後するが、またもやジオンへと戻る事になる4月末までの状況を記しておこう。

 地球降下作戦が始まって以来懸案となっていた占領地域拡大のうち、アフリカ方面は順調に占領地を拡大し、ケニアのナイロビ宇宙港や、連邦施設の存在するダカールなどを占領し、アフリカ制圧作戦の終了を高らかに4月2日、うたうことになる。

 これに対して、続いて4月5日より行われたアメリカ制圧作戦は、緒戦でニューヨークや五大湖方面を落せなかったことで泥沼の様相となっており、アメリカ南部諸州、メキシコ、中米に部隊を展開させ、パナマ運河を占領地に組みいれたことで大西洋・太平洋間の水上交通こそ遮断し、ニューオーリンズ、コーパス・クリスティ、タンピコを母港として大西洋潜水艦隊を発足させたものの、全域制圧は適わなかった。

 南部は旧ジョージア州以北への進撃を、オーガスタ基地駐屯の部隊に阻まれ、また4月15日から戦線にザニーの姿が確認されると、混乱が生じ始めた。また北部においても、ナッシュビル~セントルイス~デ・モイン~ミネアポリスの線を抜けず、大量の兵器、兵站物資を供給する五大湖沿岸部に対する攻撃は適わなかった。空挺攻撃も一時期検討されたが、被害が大きすぎるとして廃案となったのだ。

 太平洋戦線では史実どおりにハワイを占領する事は出来ず、4月下旬に行われた空挺降下作戦は、日本から師団規模で送られた大量のザニーによって頓挫。潜水艦隊による封鎖に移らざるを得なくなったが、ペイロード160tを誇るミデア型輸送機の前には、ハワイ以東への進撃を防ぐ効果しか期待できなくなってきていたのである。

 戦線は膠着し、MSの運用準備を連邦軍が進める中、ミューゼル大佐の特務第三集団は、戦力を整えつつあったのである。


 ということで、現在日本州樺太を基地として戦力整備を行っている、トール・ミューゼル大佐です。樺太は旧ロシアと日本の係争地だったこともあって、大規模開発が見送られていた地域だったんですが、地球連邦の成立と共に太洋重工が買収。全島を工場地域化し、従業員の居住設備なども整えています。

 その太洋重工樺太工場から南に進んだ、大泊に本部を置き、MSの戦力化を行うのが、現在の連邦軍での私の任務になります。

 まず、MSの使用する火器の開発と称し、連邦軍の戦車部隊からエイガー少尉を引き抜き、RTX-44型の180mmキャノン砲を開発中です。開発コードを突撃戦車として、現在の連邦軍にもまだ根強く残る、戦車閥に対応する準備も整えてあります。この点、レビル将軍を説得するのが手間でしたが、開発に要らぬ茶々を入れられるよりはまし、と言う事で何とか説得が出来ました。

 しかし、RTX-44の開発計画を引っ張った事で、まさかアリーヌ・ネイズン技術少尉まで来るとは思っていませんでした。ああ、勿論まだあのスパイな恋人とはあっていなかったので、スパイな恋人さん(予定)は諜報部へ押し付けておきました。まぁ、ザニーの内容は漏らしてやるから、と言ってあります。

 ……「永遠の(ry」との接触確率高くないか。既に接触したのがネイズン少尉で二人。絶対に接触予定なアイナさんを入れると三人。……おい、マリア・ニコルスとか出てこないよな。うん、後々を考えて、とりあえず探させてはおこう。格ゲーなのにダウン時以外ひるまないとかどんな無理ゲーだよ、サイコMk-Ⅲは洒落にならん。

 エイガー少尉とネイズン少尉で長距離系はどうにかなると判断したので、ジオンとの冷戦期に原型が作られていた機体としてRX-77-01型を原型に、中距離戦用MSとして量産型ガンキャノンの試作を行ってみた。この世界の歴史には、どうやらかなりORIGINの影響があるようで、スミス海での連邦VSジオンこそ起こらなかったものの、低出力のジェネレーターのために充分な性能を発揮できなかったことは確かなようだ。

 調べてみると、太洋重工が売り出していた動力鉱石エンジンを3基連結させたもの(合計690kw)をジェネレーターとしており、こんな中身で70tじゃ歩くのもつらい、とため息が出ざるを得なかった。しかし、それ以外の設計は変更する必要がないため、ジェネレーターを入れ替えるのみとした。ビームライフルよりは90mmマシンガンの方が使い勝手も良いだろう。

 それと会わせ、V作戦の方にもテコ入れを開始する。現在建造が進められているペガサス級の改装案をまとめ、テストベッドとして三番艦「トロッター」を月面秘密工廠にて建造と書類を調える。ホワイトベースの性能を確認すると、MSの搭載は最大16機、補用としてパーツ段階で4機を搭載できるようだ。

 それなのに劇中では最大6機ほど、という印象しかなかったし、ORIGINでも似たようなものだったな……こっちも考える必要あるか。

 と言う事で、色々とテストパイロットを集める手はずを整えみることとした。

 まず現在航空機パイロットとして戦っている人員のMS再訓練マニュアルの制作と銘打ち、宇宙軍から不死身の第四小隊を、地上軍からヤザン・ゲーブルとライラ・ミラ・ライラを抜き、再訓練の度合いを測る。全員がティターンズ入り確定なような気がするのはかなりつらいが、苦労人バニング大尉(昇進させた)に、彼ら五名の精神的なたたきなおしも含めて御願いするとしよう。ライラさんあたり、スイカバーの場面でカミーユの体借りるぐらいだから可能性あるかもしれない。

 今回のポイント使用は連邦での活動拠点となった樺太の地下部にプラントを設置。RPを使用できる態勢を整えたぐらい。しかも、樺太に設置すれば海水を放り込むだけでRP化可能と言うチート(木星のプラントもそれ目的なのだけど)。そろそろ、後半を考えて貯めておきたいのである。



[22507] 第12話[R15?]
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/10/27 05:16
 宇宙世紀0079年、本日は7月7日。現在地はジャブロー工廠。

 目の前のMS整備用のハンガーには、連邦軍の期待の新星、RX-78ガンダムが4機、格納されている。
 ロットナンバーは右からRX-78、RX-78-1、2、3である。RX-78系統の機体が、ファーストロット系統で実は4機存在する事は知っていたが、これだけ並ぶと壮観だ。ジャブロー工廠を管理しているゴップ大将によると、4機のうちナンバーの振られたRX-78-1、2、3の三機は、ホワイトベースに搭載の上、サイド7での最終試験に臨むという。

 現状、ルナツー近辺の宙域は連邦軍によって維持されており、試験空域となるサイド7は連邦軍の庭と言うらしいが、宇宙で使用できるMSをまだ数として持っていない連邦軍の現状からするとかなり危うい。ここのところは、下手にルウム戦役で連邦宇宙軍の艦艇が残ってしまったため、ルナツー近辺まで通商破壊作戦を行えなかったジオン側の問題もある。5月にジオンに戻り、6月末に帰還したが、その最後の週辺りになってようやく、ドズル指揮下のいくつかの戦隊が、通商破壊作戦に従事するらしいとの事だった。

 連邦軍によって制作されたエネルギーCAP技術は、連邦の高い工作精度とも相俟って、ザク程度の装甲なら掠るだけでも融解を始めるほど出力が高い。既に運用方法の確立しているガンキャノン、ガンタンクは、試験用と言うよりは護衛として用いる方針のようだ。

 ゴップ大将が本日私を呼び出したのは、RX-78をベースにセカンドロットにあたる4号機から8号機の合計5機の開発・実用化を太洋重工で行ってほしいということらしい。また同時に、機体追従性の向上を目的としたNT計画の名前の下、ガンダムの機体追従性向上型もあわせて開発してほしいとの事だった。現在の北米は激戦区だから、流石にオークニー基地とかで開発は無理か。……でも、史実でもキャリフォルニアとニューヤークが陥落したのは12月の話だよな?

「しかし、現状パイロットが足りません」

 私は言った。

「第4小隊はジムの集団戦闘データ撮りの真っ最中ですし、ライラ、ヤザン両少尉はジムの派生系のテストに用いています。現状、手が足りません」

 ゴップはうなずいた。しかし、少し考えるように言った。

「ソレは承知している。だがのぉ……君に心当たりはあるか?太洋重工の社員とかはどうだ?」

「今いる人員でもいっぱいいっぱいです。ジムは汎用機ですから、当然水中、河川、泥濘、森林など地上の各地形に対応したデータが必要になります。なんにせよ、まずはジオンを地球から追い出すことが第一の目的なわけですから、ジムのデータは最優先で撮る事になります。大多数の兵員が乗るのはガンダムではないので」

 ゴップはうなずいた。

「だからと言ってライラ、ヤザン両少尉を動かすことも避けたくあります。二人にはホワイトベースに同行してルナツーまで行って貰い、ジムの宇宙戦データを取ってもらう必要があります。まぁ、先行試作型のコクピットとバーニア周りを改修した、暫定的な宇宙戦仕様ではありますが、ジムの運用を宇宙でも考えているなら、必要な措置です。流石に、これに加えてガンダムの運用・開発までどうにかしろと言うのはオーバーワークですよ」

 ゴップは頭を掻いた。

「だろうなぁ。わしもそう思うのだよ。だがな、前線部隊からはパイロットの引抜に対して文句を言われ続け、断られる結果となっておる。前線の言い分もわからんわけではないのだ。戦線を支えているのは彼らだからな。君のところで訓練して送り出したのを戻すのも困るし、前線で自然に扱いなれた奴を戻すのも問題だろう。ツァリアーノとか」

 今度は私がうなずいた。

「でしょうねぇ。あの人は鹵獲機使った訓練に忙しいでしょうし……士官学校を今年出たばかりの奴では如何でしょう?」

「ジャブロー配置予定のか?出立てほやほやでは意味なかろう?」

「でも、頭に何も入っていないですから、適応早いと思いますよ?スペースノイドがいいですね……宇宙戦を考えるわけでしょう?でしたら……」

 ゴップはため息を吐いた。困ったように顔をこすり、口を開く。

「全く、大佐には適わんな……了解した。大佐の方で良いのを見繕ってくれ。配属が何処でも、強気で当たってみる。だが受け入れ先が明確でないと前線も頷けないだろうから、MS戦技研究大隊とでも名前をつけて、仮称G-1部隊と書類を上げておく。ただスペースノイドの扱いには気をつけてくれ、コリニーや、その腰巾着のジャミトフ、さらにその腰巾着のバスクやジャマイカンが色々煩くなってきたのでな」

「はっ」



 第12話



 連邦とジオンの戦争は、変わることなく一進一退を続けたままだ。ジオン軍は予定通り5月末にトライデント・ジャベリン両作戦を開始し、これに成功した。一時期、インド方面からの連邦西部ユーラシア方面軍の攻撃で分断された中東地域を、5月末までに海陸双方からの進撃で再連結することに成功している。

 これに対し、連邦軍は5月下旬にヘリオン作戦を発動。史実ならば失敗したソレは、参謀長にヤン・ウェンリーを迎えた、ビュコック中将率いる連邦第一軌道艦隊の活躍によって成功した。ジオン軍は戦闘艦艇の被害こそ少なかったものの、多数の大気圏突入カプセルを投下し終えたばかりの輸送船団を喪失。地球~月間の航路に一時影響が出、またぞろキシリアが人のところから今度は船団を持ち出す始末となった。Nシスターズ保有の輸送船の徴発行為に出たのである。

 Nシスターズの抗議文書をギレン宛に送付したが、ギレンは徴発する船舶の数こそ減らしたものの原則的にはこれを承認した。実際、軌道上で失われた輸送船はかなりの数であり、投下任務終了後には本来の役目である各サイド~月~資源衛星間の輸送任務に戻る予定だった事を考えるとまずいのだ。ここまでして何故、地球への戦力投下を行ったかと言えば、この投下カプセルに、本国生産されたグフ、ドムの第一期生産分が入っており、ジオン地上軍の増強のためには絶対の物資だったからである。

 6月に入り、月面で建造を進めていたドロス級空母ドロワ、ミドロが完成。ドロワは予定通りドズルの宇宙攻撃軍へ配備され、ミドロは本国防衛隊配備となった。ギレンからは本国にはドロスがあるため、2隻は多いとの話だったが、下手に持っていて後々キシリアに目をつけられても面倒なので、ここは御願いする事とした。返礼と言ってはおかしいと思うが、この際、ザンジバル級のケルゲレン、インゴルシュタットを取得することが出来たので、早速インゴルシュタットをアクシズに送っておいた。工作部隊を満載して送り出したから、居住区拡大に役立ってくれるだろう。

 戦局がいよいよ来月から動き始める事もあったので、輸送艦艇、木星船団の中継地としてカラマ・ポイントに補給基地の設営を開始(インゴルシュタットは行き掛けの駄賃に設営に参加)。推進剤や食料などを優先して配置し、もしもの時に備える態勢を整えておいた。どうせ後半年もすれば使うことになるだろうし、戦局が動き出してからでは隠れて何かをする時間がなくなると考えたためだ。

 そして私は、6月中に行われた次期主力MS選定試験でリック・ドムが高機動型ザクを破り採用され、次々期主力MSとしてエネルギーCAPの実用化次第、生産がゲルググに移行する事を確認した後、連邦に帰還したのである。シーマ艦隊には予定通りゲルググMを配属し、CAP技術が出来たところで専用機も作ってしまおうと考えている。

 さて、この4ヶ月の行動内容を記してみたわけだが、やはり連邦側で行動する際の戦力が少ないと実感する。新型ガンダム開発・実用化計画を任されたのは良いが、現在配属されている士官はティターンズよりの思想の持ち主が多く、軍内部の一派閥として立ち上がるには問題がある。

 欲を言えば、誰か頼れる人材が欲しいのだが……。カーティス大佐やシーマ姉さんの様に、部隊率いられる人材……うわっ、連邦は本当に少ないわ。誰か適当なキャラクターを呼び出して、大尉か少佐ぐらいの階級でっち上げて、そいつに指揮させるかぁ……。平成に適当なのいただろうか?



 7月10日、とりあえず、早速呼び出したネオ・ロアノーク少佐にミデア輸送隊の指揮官、マリュー・ラミアス大尉をつけ、MS運用試験隊、仮称G-1部隊が発足した。バニング大尉率いる第四小隊はなんとかなりそうだったので編入したが、ヤザンとライラは怖そうなのでとりあえず様子を見ることとし、整備班長としてネイズン少尉を、エイガー少尉をRx-78に配し、試験を開始した。ガンダムが開発され、ジャブロー工廠で先行量産型ジムの生産が開始された事を受け、月からパッシブジャンプゲートを通じて持ち込んだ陸戦型ジムを第4小隊に配り、試験データの収集を行わせると共に、ジムの試験生産型と称してRPで生成したジムをヤザン・ライラ両名に配し、これも試験データ収集にまわした。

 そうこうしているうちに、連邦軍内部での新規MSの開発計画が樺太基地と名づけられたうちの部隊の施設を用いて行われるようになり(『大将会議』と通称される会議の参加者のみに開示された情報だったが)、7月下旬には予定されていた陸戦用ジムの試験も終了。新たにジャブロー工廠よりRX-79G、陸戦型ガンダムを受領。データ取りにいそしむ事になる。同時にガンダム4号機、5号機の開発が終了。ジャブローに送り出し、通商破壊作戦への投入を示唆しておく。また、高性能MSとしてのガンダムが実戦投入を目前としたことで、L計画製新型試作機として、ゲシュペンストをそれとなくデータにもぐりこませておいた。

 連邦軍内部での開発計画が樺太を経由する事となった第二の利点は、私自身が准将に昇進した事だ。基地司令であり開発計画の主務が大佐では色々とまずいらしい。特に、実戦任務に付いて、戦闘データの収集を行っている部隊の長がコーウェン准将なのだが、我々に比べてあまり良いデータが取れていないらしい。責任問題に発展しかけるところで流石にレビル大将やパウルス大将から制止が入ったが、准将が任務を果たせていないのに大佐が任務を果たしている時点で、どうだ、という話にまで発展したらしい。

 お前、黒歴史データ&チートシステムもってる身と、身一つで模索している苦労人のコーウェン准将を比べるなよ、と突っ込みたかったが勿論出来るわけもなく、あとでシトレ大将から聞いたところによると、戦後にグリーンヒル議員の援助を受けて政界に打って出たいゴップ大将が、その娘婿ヤン少将の弟分で、しかも資金源たる人物を大事にしたいという思惑まで入っていたらしい。

 ゴップ大将……兵站管理がものすごく上手く、実際連邦軍が潤沢な兵站物資で戦えているのは、この人が精力的な需品管理で輸送計画を練っているからだからなのだが、私人とすると老後の事も考えていらっしゃるわけか。まぁ、地位と権限が増える事は悪い事ではないので有難く受け取っておいた。

 しかし、だからといって今度はコーウェン准将の恨みを買いたくはないので、コーウェン准将には航空機・艦艇の分野で新兵器開発と企業との折衝に当たってもらうようゴップ大将に進言。下についていたMS試験部隊はもらいました。これでMS特殊部隊第3小隊を確保。G-1部隊第三小隊として活躍してもらいます。結局、Lost War Chroniclesのキャラはジオン、連邦双方抑えたので、歴史どおりにLost War Chroniclesが起こる可能性はなくなりました。まぁ、そもそもキシリアが地球を押さえている段階で、地球での作戦にいろいろ介入しまくろうなんて死亡フラグは犯せないんですが。

 7月12日、予定通りホワイトベースがジャブローを出航。欺瞞のために航路変更を何度も行い、8月1日に無事サイド7に到達し、ガンダムの最終試験を開始したとの報告を受け取った後に、我が部隊よりヤザン・ライラ両少尉をジムの試験としてルナツーへ送る旨をゴップ大将に連絡。ルナツー駐留に戻ったビュコック中将のOKが出た事でシャトルで打ち出し、軌道を巡回する小艦隊に回収の上、ルナツーへ運び込みました。あれ?シャアに引っかかっていないのか……となると、9月辺りが怪しいな……

 また同日、ジオンではザクⅡF型の生産が正式に終了し、以後生産ラインはすべてリック・ドムに移行する旨、ツィマッド社から報告。ほくほく顔で報告して来てくれたが、ジオニックの反応が怖い。
 
 そして運命の月、0079年9月を迎える事になる。



 0079年9月2日、ジオン公国の要塞ソロモンにおいて、一つの生命が誕生した。ミネバ・ラオ・ザビ。ドズル・ザビとゼナ・ザビ(旧名ゼナ・ミア)の間の愛娘である。私は14日、9月16日に予定されているルナツー襲撃作戦に参加すべく、シーマ艦隊と共にソロモンへ出向いていた私は早速ドズルにお祝いを述べる事にした。同時に、曳航して来たコンテナ船に搭載したドラッツェ32機をソロモン防衛軍に提供する。

「おめでとうございます、閣下」

「おう、トール……すまんな、俺はもう、うれしくてうれしくて……」

 ORIGINでは既にコロニー落としの時には生まれていたはずなのだが、変にテレビ版が混じっているのか、ミネバの誕生は9月になっている。この、微妙な変化に象徴されるこの世界の状況は、この世界の未来を知っている自分からすると恐ろしい。細かい事件の発生時期が微妙に異なるため、対応を誤りやすいのだ。実際、戦争そのものを避けようともしたが、変なところでTV、劇場、ORIGINが混ざるため、介入の機会を逸した、なんてことも多かった。アストライアさんも結局救えはしたものの、死んでしまった時期が変わらないし……。最後に二人に会えたことが救いだったと考えたい。

 実際、12月に建造が始まるとTV版で出ていたソーラ・レイも、襲撃作戦に先だってギレンとの打ち合わせに通過したサイド3では、既にコロニー・マハルからの疎開とその住民の受け入れ問題が生じていた。それだけでも怖いのに、面倒な事に150万にもなる人口を月面で受け入れる事を要請され、急遽月面から輸送船団を呼びこむ羽目になった。流石に150万人もの人口を一気に輸送する事は難しく、一部他のコロニーに足止めしておき、輸送船団がサイド3へ持ち込む資源と引き換えに人員を輸送、月面でおろすと地球への補給物資を満載して軌道上で投下し、軌道上で地球からの資源を受け取り以下エンドレスという形でピストン輸送する事となった。

 ソーラ・レイ建設に月からも援助を行い、開発主任のアサクラ大佐と協力して事に当たる事を要請されたが、こちらは望むところなので問題はなかった。まぁ、シーマ艦隊に戦争犯罪をすべて被せただけあってアサクラ大佐の人品性格は最悪だったが、良く言えば権力と金でどうとでも転ぶので扱いやすいのが救いだった。

 現在、シーマ艦隊は、旗艦である「マレーネ・ディートリッヒ」にカーゴ付ムサイ3隻(後期生産型)で構成され、搭載されているのは先行量産させたゲルググを改修した、となっているゲルググMが艦隊合計36機、シーマ姉さん専用のFs型が1機、コッセル用の高機動型ゲルググ(ミサイルランチャー装備)が1機に、私、トール・ガラハウ専用ゲルググの計39機を満載している。

 ちなみに、やっとチート機体を出せたのが、この私専用ゲルググである。

 いままでザク、グフ、ドム、ゲルググとジオンの主力機が出揃うのを待ち、その上各種の派生機体が出始めるのを待っていた最大の理由は、最終的に「ジオン」側で動かす艦隊の主力MSを、宇宙世紀0122年に用いられるRFシリーズで固める事を狙っていたためだった。

 本来の歴史ならOMS-14SRF、シャルル・ロウチェスター専用ゲルググと呼ばれるソレは、元々の機体でさえジェネレーター出力3870kwと現行のザク、グフの4倍近い出力を出す、現在のMSの基準から言えば化け物と呼ばれる性能を持っている。勿論、オーバーテクノロジーなのがバレバレなビームシールド、まだ開発されていないビームライフルはオミットし、代わりにサザビー用シールド(エンブレム無し)と連邦側での専用機、ゲシュペンストRVでも装備しているM90アサルトマシンガンを装備させている。ビームサーベルの実用化は済んでいるので大丈夫だろう。シールド内蔵のミサイルはそのままだ。ちなみに、赤いのはシャアとかぶるのでダークブルーに塗装してある。紫色を入れていないので、黒い三連星とは区別してくれるだろう。

 勿論、チーティスティックにジェネレーターをオルゴン・エクストラクターに変更し、機動兵器版ザ・ワールド「ラースエイレム」システムを導入。サイトロンも併用して操作の際の追従性も向上させている。というか、これらの反則武器でもなければNT同士の戦闘に介入なんて、ザビーネ程度の操縦技術じゃ自殺行為もいいところだ。決して彼が弱い訳ではない。ザビーネは確かにシーブックを一回倒しているけど、スパロボやGジェネでのシーブックのNT能力って、下から数えた方が早いんだぞ?ラフレシアをやれたのも、NT能力あるかもしれないけど、基本鉄仮面の自爆だし。

 ララァを助けて光る宇宙を邪魔しようと、シャア・ララァVSアムロ・セイラというファーストNT四天王の群れに割り込んで無事でいようと思ったら使わざるを得ない。常識的に考えて。というか、この機体、本来ならシャアの独立300戦隊が編成されたあたりでの投入を狙っていたのに、またぞろキシリアのお馬鹿がドズル閣下のところにもぐりこませたモグラを使い、ルナツー襲撃作戦なんてのをでっち上げるからいけないのだ。何が、「ルウムの英雄の一人を月で飼い殺すわけにもいきますまい」だ。ニート生活上等、攻勢を強める妹中隊との戦闘でもう私のMPはゼロよ!だというに。

 ……ああ、何気にその攻勢を横で聞いていた張さんが振えているのは視界に入らないようにしている。部下の彪さんも微妙な表情だった。最近はプルシリーズに刺激されたハマーンが……ハマーンが……。姉のマレーネさんの目が怖いしまだ12歳だから手なぞ出したら人間失格だが、精神がゴリゴリ削られるのは嫌っ!あの子NT能力半端ないから、接触=内心リード。どこのうさ耳少女だよ。まぁ、色々読んでもらってそれが楽しいおしゃべりになるから良いけどさ。けどね、あんまりべたべたされると僕も男なので色々困ったこと読まれちゃいそうなのですよ?

 うん、開き直って読ませよう。大人の男性の怖いところを読ませりゃどうにかなる。……と、思いたい。

 さらに、キシリアのフラナガン機関をララァ加入まで放っておくが、マリオンは助けたいというジレンマを解消するためにソフィー姉さんに襲撃のOKを出したら、計画通りマリオンの救出には成功したけれど、救出と共に持ち出した機関のデータから、紫ババアが強化人間の初期型にまで手を出し、既にNT-001ことレイラ・レイモンドに実験が開始されているだけでなく、シムス中尉にまで強化の手を伸ばし、あの痛い子アイン・レヴィ君まで機関にいた事が判明。クスコ・アルなんてNT能力強化にトラウマが有効なんて調査結果が出たものだから、研究員による[禁則事項]までうけているらしいなんてことがわかってしまった。

 おい!それギレンの野望じゃゼロ・ムラサメ登場してるだろ!と思わず突っ込んでしまった。本当になりふりかまわなくなってきた。歴史の修正力とでも言うつもりかよ……。

 その上、プルシリーズのことはばれていないらしいが(救出時に赤ん坊以前の状態だったため追えないらしい)、セレインが私のところにいる事を知って、何かしらの理由をつけてアインと組ませてセイレーネとか狙ってるらしいことまで明らかになってさぁ大変ですよ。あのババアが地球追い出されたあたりは気をつけないといけない。けれど、こちらが考える結末にまで持っていくためには、まだあのババアの存在は不可欠なのだ。あと3ヶ月の辛抱と考えるより他はない。修正力があるかもしれないことを考えると、今の段階で手を出しても望む結末行きそうにないし。むしろ、牽制相手を失ったギレンが暴走とかしそうで嫌。

 そんな沈思黙考に浸る私の前で、ドズル閣下の「俺が如何にミネバとゼナを愛しているか」論の開陳が一段落したようだ。というか、そんなに愛しているのならなんで愛人を作ろうとする。まぁ、男だからそこらへんの事情がわからないわけでもないが。……というか、誰に手を出しても爆弾なこの状態と、男性としての生理的欲求考えると精神的に危険なのだがなぁ……。いつ背後から「寂しいって言ってんだよ……セニョール!」とか「爆弾なんてさぁ、爆発させちまえってんだよ!メーン!」とか呼びかけられるか心配でならない。

「しかし、貴様の新型MSは豪華だな?ジオニックの新型か?」

「ええ。先行量産型をもらいましたので、月面で改修を加えました。詳しいデータは秘密ですよ」

 ドズルは鼻で笑った。

「俺はコクピットを特注にする必要があるからな。乗れまい。しかし、シンあたりにはやりたいな」

「マツナガ大尉は本国でしょう?寄った時には会えませんでしたが、どうしました?」

 するとドズルの顔が沈んだ表情になる。なにか、気にしている事があるらしい。

「シンと俺はダニガン親父に鍛えられた口だからな。俺は弟だからまだ何とかなっているが、ダニガン親父はギレン兄に嫌われている。ブリティッシュ作戦でコロニー落としに失敗したからな……」

 そう言えば、そろそろギレンが宇宙での指揮権統一のためにドズルに近すぎる人材をどうにかする時期か……カーティス大佐に、秘密裏にダニガン中将やマツナガ大尉をかくまうように伝えておいた方が良いかもしれない。

「ダニガン中将にはまた機会ありましょう。私の方で御願いしたい事もありますし」

「そう言ってくれると助かる。貴様はギレン兄の信頼も厚い。口ぞえがあれば何とかなるだろう」

 頃合か。明日までここに残っていると、シャアの手伝いに派遣されかねない。今の時点でソレはまずい。

「それでは、我が艦隊は出撃します。無線封鎖に入った後は作戦完了後、そのまま月面に帰りますので、またの機会に、中将」

「うむ、ご苦労だった」

 さて、ついに……か。




[22507] 第13話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/10/25 21:22
 宇宙世紀0079年9月15日、受信のみに振り向けていた通信回線に、歴史どおり、サイド7、1バンチでの連邦、MS運用計画が察知されたことを確認しつつ、我々シーマ艦隊はルナツー襲撃任務を予定通り実行していた。

 ルナツー襲撃作戦は、事前にシトレ本部長を通じて第一軌道艦隊司令のビュコック中将に連絡が行っており、地球軌道上のジオン軍の地上への増援の迎撃任務を題目に第一軌道艦隊が出撃。シーマ艦隊は艦隊が留守のルナツーを襲撃し、港湾設備および居住区の破壊を行う予定であった。

 シトレ率いる連邦軍が、この段階でのルナツー基地の襲撃に反撃を行わない旨を選択したのにはいくつか理由がある。第一に、ルナツー基地の攻撃を看過しなかった場合、優勢なジオン海兵隊との交戦を行うこととなり、せっかく艦隊戦力を維持している第一軌道艦隊の戦力を減少させる可能性があること。ビンソン計画が完了していない現在の連邦軍にとって、ルナツー駐留の第一軌道艦隊の艦隊戦力は、何を持ってしても維持し続けなければならないからだ。

 そして、もしルナツー基地が攻撃を受けて港湾施設に被害が生じたとしても、艦隊はサイド7に移動し、1バンチ~4バンチコロニーの港湾施設を使えば良いという判断もあった。また、サイド7には新型MSの試験にあわせてかなりの数の工作部隊が入っており、港湾施設の維持拡張を行っていたこともある。それらの部隊をまわして、敵が去った後でルナツーの施設の復旧を行えば良いと判断していた。

 しかし、新任のルナツー基地司令、ハイアット大将は、この「大将会議」の決定を不服とし、第一軌道艦隊に関わらない戦力を持って交戦の準備を整えていた。その準備を行う部隊には、、MS運用試験隊として送られていた、2機のジムも含まれていたのである。

「こりゃ無理だぜ、ライラ少尉。機体を失えば少将にどやされるし、ハイアットの言い分は完全に命令無視だ。生き残ることを最優先に行動するしかないな」

 ヤザン少尉からの通信。ライラ・ミラ・ライラ少尉は鼻で笑った。

「ヤザン、臆病風に吹かれたのかい?新型のMSをようやくこちらも配備したんだ。そりゃ撃墜はまずいだろうけど、戦う姿勢でも見せておかなきゃ帰るまで肩身が狭いよ?」

 ヤザンはフン、と鼻を鳴らすと

「まぁ、そりゃそうだわな。OK了解した。ツーマンセルで墜せる奴だけ行くぞ」

 ここに、連邦、ジオン初のMS同士の戦闘が始まったのである。



 第13話


 おいおいおい。なんでヤザンとライラが出てくるんだよ。はっきり言って、現状のジムじゃあ、こっちのゲルググMの相手にならんぞ。MSを持った事で慢心してるのか?

「姉さん、連邦にもMSがいるみたいだ。ちょうど良いから私がやる。姉さんはコッセルと一緒に、外に展開しているフネの相手を頼むよ……紫ババアに難癖つけられたくないから、適当に苦戦ぽくして!」

「あいよ!」

 シーマ姉さんの返事を確認するとゲルググのフットレバーを踏み込み、M90はシールドに格納、一気に加速する。オルゴン・エクストラクター特有の緑色の粒子をスラスターから吐き出しながら、重力制御技術で打ち消されるギリギリの10G程度まで加速。一気に距離を詰める。

「なんだあ、新型!?ザクの三倍以上の速度って……赤い彗星以上の奴がいるのかよ!?」

 受信専用のオープンチャンネルにしてある通信機から響く、サラミスの乗員のものらしいセリフを背景に二人のジムが盾の代わりにしているサラミスに接近。エンジン近くをビームサーベルで切り裂く。推進剤用のパイプを切り裂いたのか、派手に爆発が起こるが、基礎設計が優れているだけあってすぐの撃沈とはならない。

 そのまま右舷の第二艦橋を足がかりに反対側左舷に向かうと、ヤザンのジムに切りかかる。

「早い!?ジオンの新型ぁ!?」

 そのまま懐に飛び込んでサーベルで90mmマシンガンを切り裂くと同時に、胴体部分に向けて蹴りをいれる。慣性に従ってルナツー表面に激突したジムの頭部を踏み潰すと、ライラのジムから発射される90mmマシンガンをシールドで防ぐ。

「ヤザン!」

「……クソ、カメラがやられた……バーニアがつぶれて……」

「動くんじゃないよ!」

 そういうとライラはバーニアを吹かし、弾幕を張りながらこちらに接近する。こちらの装甲はルナ・チタニウムやガンダリウム以上の硬度を誇るZ.O合金製だ。この時代の90mm程度では被害も受けない。流石にメインカメラなどに当たれば損傷はするから、シールドで防がせているが。

「効かない!?」

 驚いた隙に機体を背後に回らせるとマニピュレーターでバックパックをつかむ。高出力にものを言わせてバックパックをむしりとると、誘爆の危険がなくなったことを確認後、背後から蹴りつけてルナツーへ。仕上げに頭部をM90で打ち抜く。これで終わりだ。

 コンソールを操作して、今のジムとの戦闘記録を消去し、消去した操作ログも消すと、目撃者らしい2隻のサラミスに目標を定め、エンジン部分を切り裂いて轟沈させる。この機体に関する情報を、あまり広くもらすわけには行かないからだ。

 信号弾。360mmジャイアント・バズを持って港湾部・居住区攻撃を担当していた部隊が攻撃に成功したようだ。長居は出来ないため、早速帰還する。ヤザンとライラに変な影響出ていないといいけれど……と思いつつ、私は機体を「マレーネ」へと向けた。



 ルナツー襲撃作戦は、満を持して出撃したハイアット大将の顔を青ざめさせるものだった。ザク、ドム、グフといったこれまでのMSとは違う、新型で構成された部隊は、戦闘の実時間およそ15分ほどで、ルナツーの第1、第2番埠頭とそれに付随する居住区を攻撃し、破壊した。兵員の多くは第一軌道艦隊として出撃しているから、人員の被害は抑えられているが、ルナツーの基地機能は確実に低下している。

 ハイアット大将は頭を抱えた。地球至上主義者としてジーン・コリニー提督(大将)の派閥に属する彼がここにいるのは、最近連邦軍内部で勢力を強めている、シトレ・レビル閥に対抗するためだ。ルナツー基地司令と言う役職も、シトレの懐刀であるビュコック中将とその参謀長ヤン少将へ打ち込んだ楔となるためのもので、このような被害を受けての敗将となるためではない。

 責任を取らされることを思い、愕然となるが、しかし、と思いなおす。コリニー提督も派閥の領袖がほしいところ……上手くそこをつけば、降格や予備役編入は免れるかもしれん。まさかジオンの新型があれほどの性能だとは思いもしなかった。その新型の性能を見極められなかったのは諜報を担当しているはずの第3集団の責任、と強弁すれば良い。

 しかし、その思惑は上手く行く事はなく、ハイアット大将は少将に降格の上、予備役編入を申し渡されることになる。連邦の軍政をつかさどるゴップ大将が、自身の懐刀となりつつある第三集団のミューゼル准将に腹を切らせるわけがなく、コリニー提督も後任の大将枠に自派閥のワイアット中将が入ると聞くと、ミューゼル准将への批判の矛先をおろしたのである。



 連邦に戻った後に、ルナツー襲撃作戦の余波が意外なところにまで及んでいたと聞き、びっくりしたトール・ミューゼルです。

 さて、9月16日にサイド7が歴史どおりシャアの部隊の攻撃を受け、多数の戦死者を出したが、その流れがもう、おかしなことになっています。本来ならサイド7に寄港するホワイトベースを追撃して、シャアのファルメルがRX計画を発見する流れでしたが、今回はシャアのサイド7近海への投入が送れたため、9月16日にファルメルが宙間機動試験中のガンダム1号機を捕捉したことで話が始まっています。

 しかも、何のバタフライ効果か、サイド7内部に侵入したザクと最初に交戦したのはガンダム1号機。パイロット名を見るとファレル・イーハ中尉とあり、「アーケードが入るとは……こりゃサイコMK-Ⅲは絶対だな」と頭痛がしてきました。

 ソレはともかく、性格が最悪なのも原作どおりで、倒れたザクに追撃をかまそうとしていたところを背後からデニム曹長のザクに打たれ、バーニアを損傷し転倒。あわや鹵獲というところで、アムロ少年の乗る2号機が動き出し、ザクを倒しました。

 ここでもバタフライ効果が発生し、動力パイプを引きちぎって二号機が優位に立つのをみたファレル中尉が猛然と反撃を開始。流石にコロニー内で大爆発をさせないと言うところまで頭が働いたらしく、コクピット部分の破壊にとどめてなんと、ザクⅡ2機を鹵獲。テム・レイ技術大尉も酸素欠乏症になることなく無事で、大喜びした挙句に息子を無理やり連邦軍の志願兵に放り込んだと言いますからなんというご都合主義展開、と頭が痛くなりました。

 その上、本来なら魚雷艇でパオロ艦長が時間稼ぎに入るところを急行したサラミスがファルメルに攻撃をかけたことでファルメルが撤退。士官の大部分が戦死し、候補生たちを昇格させて士官とし、さらにはサイド7、1バンチの住民で使える人たちを無理やり軍属として、現在、ルナツーから地球に降下すべく、大気圏突入にはいろうとしている、とのことでした。ああ、勿論、ルナツーで大破したジムを抱えたヤザン、ライラ両少尉を乗せて。

 頭を抱えました。どんなカオス展開だよ、これ……。これで降下した場所がジャブローだったりしたら泣くぞ俺。いままで何とか原作に倣った展開を目指してきたのに、一番大事なところでこれとか。まぁ、ビュコックの爺さんが護衛にマゼラン1隻にサラミス4隻なんて大兵力を出したもんだから、そうなるとは思うけどさぁ……

 悲しみにくれる私を癒してくれたのはカーン家三姉妹の方々でしたが……あれ?いつの間に増えたんだろう?私は確か、インゴルシュタットに乗ってアクシズの父親のところに行くように言った筈なのになぁ……



 
「ザクを一個小隊失ったぁ!?」

 シャア少佐からの報告を受けたドズルは叫び声をあげた。第一軌道艦隊相手とは言え、旧式のマゼラン、サラミス相手にザク三機を失うなど、赤い彗星の指揮では考えられなかったからだ。

「サイド7、1バンチはやはり、工業ブロックがMSの工場となっています。敵の新型を相手に三機のザクを失い、現在、ファルメルには私とスレンダーの2機しかおりません。補給を御願いいたします」

「もう一度仕掛ける気か?ルナツーのビュコックのところに入られては手出しが出来んぞ」

 シャアは否定した。

「奴らは研究結果をいち早く地球に持ち帰りたいはずです。ルナツーは、ガラハウ艦隊が襲撃し、基地機能を低下させていますから、護衛につけるとしても戦力としてはたかが知れているでしょう。大気圏突入を狙う可能性が高いため、軌道上で仕掛けます。新型の性能は高く、戦局を左右しかねません」

 ドズルはため息を吐いた。

「トールの艦隊がおればな。ちょうど、月面工廠で組みあがった新型を導入したばかりだった。何機かもらっておくのだったな。おぅ、ちょうどいい。トールが持ってきた簡易宇宙型の先行量産型が30機ばかり届いたばかりで余裕がある。何機か回させよう。ガデムのパプワを送る。地球軌道上までの航路で落ち合え」

「了解いたしました」



 ルナツーへ入港したホワイトベースは、史実どおり新基地司令ワッケインの詰問を受けるも、第一軌道艦隊ビュコック中将の言を容れて、パオロ中佐の機密規定違反を寛恕、引き続きジャブロー機関の援護を行うことを決定し、大気圏突入にマゼラン級「テメレーア」、サラミス級「マダガスカル」など6隻からなる第32戦隊を護衛につけた。

 第一軌道艦隊と言う大戦力を前にしては流石のシャアも潜入・爆破工作などという事は考えず、当然のごとく大気圏突入時の追撃を狙ったため、ガデムが戦死することはなく、ファルメル後部にMS搭載、および推進剤タンク兼用のカーゴを搭載。同時にザクⅡ2機、ドラッツェ4機の補充を受け、追撃任務を開始した。

 同時にホワイトベース内では損傷機の修理作業が最優先で行われていたが、頭部とバーニアを損傷していたジムの修理は早々に放棄され、ガンダム3号機のパーツを用いた1号機、2号機の整備が優先。一部ガンキャノンのパーツを流用し、大気圏突入前に修理を終えることができたのである。



「新たに諸君ら7名のパイロットを得たことは、誠に幸いである!」

 シャアはソロモンより派遣された7名のパイロットを前にして言った。

「20分後には大気圏に突入する。このタイミングで戦闘を仕掛けた例は過去にない。当然、連邦のフネも、全神経を操船のみに集中しているだろう」

 シャアはファルメルとホワイトベースの位置関係が映し出されている艦橋前の大型モニターを示した。

「当然、ザクは大気圏突入の摩擦熱には耐えられないため、奴らはこの段階での攻撃を予測していない。私とスレンダー、ヨセフ、クラウンは恐らく出撃してくるだろう、敵の新型MSを撃滅する。可能な限り拘束し、敵艦に帰還させないことが第一だ。アダー曹長のドラッツェ隊は、装備している90mmマシンガンとシュツルム・ファウストで敵艦のハッチ部分に攻撃を仕掛けてもらいたい。帰還の妨害が出来ればそれで良い。全くの新型だから無理はするな」

 ドラッツェにはビームサーベルが装備されていない代わりに、固定された90mmマシンガンと盾内側にシュツルム・ファウスト2発を装備している。

 シャアは全員の了承を確認すると続けた。

「恐らく、敵MSはともかく新造戦艦は降下に成功するだろう。私は地上のガルマ大佐と協力すべく、戦闘時間が15分を経過した段階で、ファルメルから発進したコムサイに戻る。ヨセフ、クラウン、スレンダーのザクもこれに同乗しろ。アダー曹長のドラッツェ隊は宇宙用であるため、ファルメルに帰還の上、ドレンの指揮下に入ること、以上だ」


 10月1日、またもや連邦からジオンへ戻り、北米への潜入降下作戦を行おうと準備しているトール・ガラハウです。9月23日に行われたホワイトベースの大気圏突入ですが、またカオスな展開になっています。

 大気圏突入前に攻撃を仕掛けたシャアの部隊を、ファレル中尉とアムロ准尉の2機のガンダムが迎撃し、ザク1機、ドラッツェ3機を撃墜して、歴史どおり大気圏に突入。北米に降下しています。イレギュラーだったファレル中尉は、ガンダム1号機の耐熱装備が未装備だったことが原因で大気圏中で機体が爆散。これに対して耐熱装備を持っていた二号機の方は、、耐熱装備を駆使した上でホワイトベースに取り付くことに何とか成功し、無事、地球に降下しました。

 問題なのは、本来ならばジャブローに向かう予定のホワイトベースが、我らがスポンサー、ゴップ大将の命令により、安全なニューヨーク → ジャブロー・ルートから、西海岸の敵中突破 → 太平洋 → 樺太基地なんていうルートにへと変更を掛けられたことです。

 ゴップ大将を問い詰めたところ、機体の開発設備をかなり樺太に移動させているため、ジャブローではジムの量産にかかりきりになっており、ジャブローにガンダムを持ってこられても困る、という話でした。実際、サイド7から大気圏、そして恐らく西海岸で戦闘をすることになるガンダムの持つ戦闘データは、量産機であるジムに移しかえるだけでも効果があること間違い無し。一刻も早くMSを戦力化したい連邦としては、東回り航路を使って移動する時間が惜しいことが第一の理由だ、とのことでした。

 となると、歴史どおりシアトルにおいて、ガルマ・ザビ大佐の戦死という事件が起こる可能性が高くなり、ソレに対する対応のため、地球に降下することとなったのです。地球に降下して目的を果たした後は、樺太から出撃させた潜水艦に乗り込んで樺太経由で月面に帰還する予定です。

 しかし、やっぱりNTは異常だよなぁ、と改めてため息を吐きたくなります。サイド7から大気圏、および9月23日から24日にかけて行われた、地球攻撃軍との戦闘結果を受け取りましたが、アムロの乗るガンダム二号機は、サイド7で2機のザクⅡ、地球降下の際に1機のザクⅡと2機のドラッツェ、地上に降下してからはドップを8機にマゼラ・アタックを12両、援護に出撃したザクも3機撃墜と、異常な戦果を挙げている。

 
 俺、これと、いや、さらに悪魔のように成長したこれと、あと3ヶ月ぐらいしたら戦闘する可能性があるんだよな。
 今から戦々恐々です……ポイントは自分の生存第一に考えよう。

 ということでパイロット能力に関係する、重力制御技術と自分のパイロット技術を上げてみた。そろそろモンシア、ジェリド、ザビーネと微妙なキャラが続いたのでマシなのが出るかと思ったらカテ公かよ……。シュラク隊のお姉さま方はどれもヒットしまくりなのだが……。彼女らにあえるまで後70年かぁ……

 一方、重力制御技術のおかげで、テスラ・ドライブがやっと生産可能に。やっぱりリオンシリーズは使い勝手良すぎるものなぁ。ポイントも高いのか、と改めて納得。グリプスあたりで考えてみようかと思いました。



[22507] 第14話[ネタ]
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/08 12:17
 私の名前はセレイン・イクスペリ。今の立場はジオン軍、親衛第二軍団を率いるガラハウ少将の妹、16歳だ。

 妹なのに姓が違う、というのもおかしいと思うのだが、兄は其処の所を突っ込むと笑っていた。なんでも、下手に変えると訳がわからなくなるらしい。それはそうだ。私の下には12人も妹がいる。区別を呼びかけ方でしているから、名前まで同じにしたら訳がわからなくなる。

 けれど、少し寂しくもある。姉さん二人はガラハウだ。一番上の姉さんは違うらしいのだが、免許証や認識票にはそう書いてある。不思議だ。上のソフィー姉さんは名前をいくつか持っているらしい。

 まぁ、いいか。

 けど、うらやましい。

 今日はお買い物。兄は戦争が始まってから忙しいらしく、月の家にはほとんど顔を見せない。親戚らしい(ハマーンはそう主張していた。今でなくとも未来はそうなるらしい。まったくわからない)カーンさん家からハマーンやマレーネお姉さん、セラーナが遊びに来て、なぜかハマーンが私たちを連れ歩くようになった。ハマーンいわく、「トールは若い子に甘いから、じんかいせんじゅつだ!」という。

 カーティスのおじさんが「その若いというところが問題だろうに……」とかつぶやいていたような気がするが気にしない。私はもう、大人なのだ。ただ、じんかいせんじゅつなるものが何か、私は知らない。けど、メイド長をしているロベルタが言うには、「ひっしょうの戦い方ですのよ」との事。

 ロベルタは強い。だから正しいと思う。妹たちはロベルタの前ではおとなしい。悪いことをした時の事を夢に見るらしく、夢に見たときは12枚のお布団に12枚の世界地図が出来る。何処の世界かわからないが、世界地図と言わなくてはいけないらしい。

 兄に話したところ、口元が引きつっていた。

 いい顔だ。もっと見たいと思った。

 あ、話がずれた。で、今日はお買い物、ということなのでロベルタの部下メイド、アンヌとマリーと一緒に買い物。ハマーンが前の方を歩いている。「白でだめなら黒でのうさつだ。ふっふっふ、ぞくぶつめみているがいい」とか言っている。ハマーンは変だ。時折、意味が全くわからない。

 そんなハマーンの観察も、流石に最初に会ってから数年経つと飽きてくる。あらあらまぁまぁ、とハマーンを抑えてくれるマレーネお姉さんがいないから、相手をするのは面倒くさい。ん?そういえば、最初にプルたちが「おb……」あぶないあぶない。禁句なのだ。これを言ったらマレーネお姉さんが怖くなる。

 そういえば、兄はカーン三姉妹のことを「姉がコナンで妹少佐って、どんなロリババ一族だyo!?」とか頭を抱えていたのをみたことがある。うん、ああいう兄の姿も良い。

 そんな風に思っていたら、ビルとビルの間の路地、その奥に、ゴミにまぎれて倒れこんでいる男を見つけた。なんでこんなところにいるんだろう?




 第14話



「おい、お前、ここで何をしている?」

 何人もの追っ手を撒いて、やっと身を落ち着けたかと思ったら誰かに見つかったらしい。

 孤児だった俺は、当然のように孤児院に引き取られ、その中で何の疑問も持たずに生活していた。それが変だと、自分でも思うようになったのがいつだったかは覚えていない。けれど、自分の回りに普通にいたはずの仲間たちの数が減りだしたあたりからだったと思う。

 昨日まで普通に過ごしていた仲間が、翌朝、隣のベッドから消えている。

 それが何回か続くうちに、自分でも不思議だが共通点とやらに気づくようになった。

 年齢が、18なのだ。18の誕生日を祝ってから1週間。1週間経つといなくなる。

「おい、答えろ。そこでなにをしている?」

 なぜか、それに恐怖を覚えた。怖くなった。園長先生は笑ったまま答えてくれず、最後には困ったように、「お国のために働いているのよ」、とだけ伝えてくれた。本当にそうなら、もっと話してくれてもいいはずだ。

 自分が孤児で、恐らくここの孤児院が国営かそれに近いもので、戦争のための人間を育てている。不思議じゃない。普通の事だ。行く当てもない子供を数年、十数年養ってきたんだから、それぐらいの働きを期待しても良いだろう。

 けれども、だったら何故、友人たちは何も言わずにいなくなるのだろう?

 俺の疑問は、園長室で語られた言葉で解決した。

 ウェドナーが疑問を持っている。キシリア様からもっとモルモットをよこすように命令が来ている。

 敵対する組織に襲撃を受けて、子供たちが解放されたらしい。月の極冠にいるらしいが、手が出せない。

 恐ろしい女に率いられたパワードスーツの集団が、20mm弾と5.45mm弾を撒き散らして子供を奪っていく。

 だめだ、やっぱり、年齢を落して送るしかない。どうせ、手を他のサイドに伸ばせば、子供なんて簡単に手に入る。

 聞いた瞬間、駆け出した。そのまま孤児院を出ると港湾ブロックを目指す。少ししてから、話しを聞かれた事に気づいたらしい大人たちが追い始め、港湾ブロックに着く辺りになって声ではなくて銃弾が来た。

 港湾係官の目を盗んで荷物に紛れ込み、「To Moon N1」と書かれた、工業用品らしいコンテナに身を潜める。一つ一つコンテナを開けていく追っ手に小便を洩らしそうになりながら、なんとか発進の時間になったらしく、何とか月に来れたのだ。

「答えろ。ああ、私はセレインだ。セレイン・イクスペリ。お前は?」

 それが、ここまで来て何で、と思った瞬間、脳天に激痛が走った。



「んで、つれてきたと」

 私は心底、このご都合主義全開な展開に頭を悩ませ始めた。ロベルタから、セレインが男を連れ込んだと聞き、まぁ、何かあればあいつのことだから言うだろう、と放っておいたら何も言ってこない。だんだんやきもきしながら待っていると、ようやくの事で連れ込んだ男が話があるそうだった。そして、事情を聞いたのである。

「そうだ。兄ならなんとかできるだろう」

「現在進行形で何とかしてるよ。ただ、全員の後追いは難しいぞ」

 私、トール・ガラハウはそう言って燃える様な赤毛の、目つきの鋭い若者、シグ・ウェドナーを見た。キシリア機関の孤児院なんて調べられるか。こりゃ、姉さんにまた襲撃活動再開してもらうしかないかもしれない。フラナガン機関の監視も続けたいんだけどなぁ。ボリス軍曹に指揮を御願いして、二つに分けてみるか。

「お前さんがいた孤児院なぁ、キシリア・ザビ。学名ムラサキマスク・ババアニクスが経営していて、人体実験用の人間を確保するための施設だったらしい。すぐに調査させたが、建物を残してすべて消えてた。地下にもぐったらしいから、さらに調査を続ける必要がある」

 そういうとシグの顔は沈んだ。自分だけが助かったと思いこんでいるらしい。

「まぁ、そう沈むな。まずは自分の命が助かった事を喜びなさい、と言っても無理か。……建設的な話をしようか。これからどうするね?」

「俺は……行くあてがありません」

 ため息と共にうなずいた。

「どうする?仕事をするなら、幾つか紹介してもいい。キシリアの孤児院の下にいたなら、恐らく宇宙関係で何かやらされているだろう?」

 シグはうなずいた。話によると、孤児院の院生は、10代前半から義務教育の他に、宙間作業機械の運転免許を取る事が義務だったらしい。用意の良いことこの上ないロベルタが書類を差し出す。うわぁ、エースパイロットぉ。なんとこの男、モビルワーカー、MS-05のデチューン・バージョンの運用実績のところにAがついている。未来のパイロット候補生と言うわけだ。まぁ、当然と言えば当然だが。

「この成績なら、作業員としても軍人としても食っていけるぞ。どちらでも紹介できるが?」

「ここは、その紫ババアとはどんな関係ですか?」

 またもやため息を吐く。予想通りの展開すぎる。 

「不倶戴天の敵。見敵必殺が合い言葉、共に相手の事を蛇蝎だと思うぐらいの仲の良さだ」

 セレインが不満そうに口を挟んだ。

「兄。相変わらずわかりにくいことを言うな。「あの顔でアラフォーとか嘘だろ、最低でもアラフィフだクソ」とか、「何がキャサリンだバーカ、鏡見ろ、な?」とかなんとか言っていたではないか。結構仲が良いな」

 ロベルタが冷や汗と共に口を挟んだ。

「セラお嬢様、それで仲が良いと言うのは……」

「軍人にしてくれ。……機会がほしい」

 シグの言葉にまぁ、そうなるわな、と今日何度目になるかわからないため息を吐き、私は先日、ケルゲレンの艦長として招聘した軍人を呼び出した。こんなところでモノアイが勢揃いか……絶対にどこかで痛い子送ってくるぞ、あの紫。それでどこかでフラグを立てて、ゲルググJに乗ってシグを痛めつけヒャッハーするわけか。

「ブラード・ファーレン中佐、参りました」

「中佐、ご苦労。MS隊はまだ未編成だったな」

 ファーレン中佐はうなずいた。

「はい。艦をお預かりしたばかりで、これから編成について御相談申し上げようと思っておりました」

「貴官のケルゲレンにはビーダーシュタット大尉のレッドチームを配備の予定だったが、一名加える。このシグ・ウェドナー軍曹だ。全くの新人だが、ワーカーの成績は良い。ビーダーシュタット大尉に厳しく鍛えるよう言っておいてくれ」

 ファーレン中佐は敬礼した。

「拝命致しました!ガラハウ少将!」

 少将と言う言葉に若いとは言えそこまでの階級だったのか、とシグはトールの方を見る。しかし、其処にいたのは何故ハマーンが黒系の下着を買うのを阻止しなかったのかを妹に問い詰める兄の姿だった。




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 ちゃんにいさんのおゆうぎきょうしつ


「いいかい、みんな。良い子なんだから張兄さんの言う事を聞いてくれるよね?」

「「「「「「「「「「「「はーい!」」」」」」」」」」」」

 元気に響く12人の声にサングラス越しに笑みを浮かべた張維新は微笑みながら言葉をつなげた。

「僕が香港で法の番人だったころ……一生懸命学んだことがみんなの役に立ってとてもうれしいんだ。どうだい?トールおにいちゃんがみんなの言う事を結構聞いてくれるようになったろう?」

「「「「「「「「「「「「はーい!」」」」」」」」」」」」

「さて、そんなみんなに次のミッションだ。今は12人の妹に代わって20人の娘がブームらしくってね~。0歳から19歳までなんでもござれだってさぁ。本当に日本人と言うのはどこか頭がおかしいよね?」

「「「「「「「「「「「「はーい!」」」」」」」」」」」」

 絶対に嬢ちゃんたち意味わかってねぇぞ(アルネ)……張の背後に立つシェンホアと彪は背筋に冷や汗が流れるのを感じていた。

「みんな、もっと家族がほしいよねぇ?そこでどうだい?こいつも実現してみちゃあ?一年一人、20回!」

「「「「「「「「「「「「いちねんひとり、にじゅっかい!」」」」」」」」」」」」

「チョといいアルか?張サン?」

 シェンホアが声をかけると張は振り向いた。何か、異様な雰囲気がある。

「ナゼ、そこまでトールにスルか?」

 張は勢いよくうなずいた。

「ある日いきなり12人の妹に囲まれて生活し始めた人間に対するささやかな贈り物だよ」

「……姐さんにヤラれないようニ気をツケテね」

「世の中にゃぁ、最大で556人家族もいるらしい。単純計算で妹277人だな。それに比べりゃ、12×19で、たったの228人だ。楽なもんだろ?」



[22507] 第15話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/08 12:17
 ホワイトベース隊の降下が予定通り、と言うよりは歴史どおりに北米降下となったことを受けて、ついに11月に作戦開始が決定されたオデッサ作戦にホワイトベース隊を参加させるよう、ジャブローの総司令部から通達があった。

 ホワイトベース隊に対する補給はすべて、樺太基地の第三集団から行うこと、その際に必要となる戦力を整える費用に関しては連邦軍総司令部が保障するため、樺太工廠でのMS生産の一部をホワイトベース隊に回しても良いこと、ホワイトベースに対する補給を行うための部隊として、第166戦略輸送隊を樺太に派遣することと、ホワイトベースの戦闘艦改修を樺太工廠で行うことが通達された。

 結局V作戦の地上行動すべてに関わるわけか、と暗澹たる気持ちになったが、9月半ばより始まった、ジオン軍への反抗作戦の第一弾、アジアに展開する旅団規模のジオン軍の排除・掃討作戦「コロニアル」の発動で、インドシナ半島に展開するジオン軍が連邦軍に押され北上。バイコヌール基地を目指して撤退に入ったため、マラッカ海峡を通じた輸送ルートが潜水艦の脅威以外は安全に使えるようになった事は大きかった。

 それに、情報部に要請して調査してもらった結果だが、オーストラリアにジオン軍が降下していないため「コロニーの落ちた地で……」が未発生。シロー・アマダ少尉の地球降下の際に、ゲルググの運用試験に参加していたアイナ・サハリンとの接触が確認されたものの、現在ギニアスが月面で宇宙用MAの開発に携わっているためそれ以上のイベント進行が起きていないこと、ガンダムピクシーの開発をオミットしたことでCrossDimentionも生じていない。

 はっきり言って派生作品が多すぎる一年戦争は、下手に派生を生じさせると戦争への介入自体がおぼつかなくなるし、派生そのものを潰していけばそれだけでGPとなるため、戦争の流れにアクションを行うにもGP獲得にも利点がある。

 懸念は、その行為自体による派生の発生だが、実際、ホワイトベース隊におきた一連の出来事はそれによるものだろう。これからも彼らの行動には注意しておかなければならない。他作品を潰した事による派生が、ホワイトベースに生じる可能性が大きいからだ。

 

 第15話



 連邦軍仮称G-1部隊、MS戦技研究大隊は、1個MS中隊、独立編成の6個MS小隊および支援部隊、MS開発・試験部隊を保有している。旗艦はペガサス級強襲揚陸艦「トロッター」で、現在ジャブローで艤装中のペガサス級五番艦「ブランリヴァル」も完成次第編入の予定だ。

 現在、独立編成の6個小隊のうち2個小隊が士官未配属のためMSのみとなっており、本部小隊の人員も小隊長のエイガー中尉しかいない。また、第5小隊に所属しているヤザン、ライラ両少尉が現在、ホワイトベースに収容されて北米にいるため、6個小隊のうち、稼動状態にあるのは2個小隊に過ぎない。
 
 その上、その2個小隊はジムのデータ撮りが一段落し、後発機の開発に任務が移行し、幾つかの実験機を運用しているため、戦力と数えることが出来ない。実質、「トロッター」所属の司令直属中隊だけが戦力だが、こちらはこちらで問題があった。

 あからさまにガンダムクラス以上の性能を持つゲシュペンストで編成されているため、下手に運用できないのだ。勿論これらの機体は技術試験用と銘打たれ、L計画版ガンダムという扱いだが、実質死蔵しているも同然である。元々戦線が宇宙に移行してから、最悪ソロモン戦あたりでの投入を考えていた戦力を、予想外のホワイトベースの状況に押される形で投入したため、介入の時期を考えざるを得なくなったためだ。

 下手に投入して技術の跳躍でも起こされてはたまらないし、そもそもV作戦、RX計画の代替、予備計画と言う扱いでごまかしをいれたL計画の計画機がガンダム以上の性能を持つと知れれば厄介なことになるのは間違いないからだ。

 実際、「トロッター」所属の連絡官として、偽名キャサリン・ウィロウズ大尉、本名アリス・ミラー少佐を見たときには仰天した。書類には連絡士官・防空任務も可能と書いてあったが、彼女が情報士官で、しかも思想的にどう見てもジャミトフ系の人物であることを私はミラーズ・リポートを見ているので知っている。冗談ではなかった。

 丁重にお帰り願ったが、どうやらジャミトフ系の方々もこちらに眼をつけ始めている模様。情報部を担当しているのがエルランだったはずだから、ジオン(キシリア)側からの要求も入っている可能性が高い。正直頭を抱えたくなった。お前はシローでも取り調べて自白剤でも吸っていろとか言いたくなった。マジで。偽名もCSIのキャサリン・ウィロウズとか冗談じゃないよ。中の人ネタだろそれ。

 しかし、ある意味連邦にいることはほっとすることが多くなってきた。「トロッター」艦長に着任する士官がエイパー・シナプス大佐に決定。副艦長としてヘンケン・ベッケナー大尉が決定したよ、とゴップ大将から連絡があったのだ。ヘンケンはこの時、ブレックス准将の第11艦隊所属のはずじゃあ……と思ってたずねてみると、第二軌道艦隊をティアンム中将指揮で編成するため、第8から第12艦隊までの残存艦をすべて取り上げ、ブレックス准将をレビル大将の参謀長として任命したとの事で、第11艦隊所属の軍人が宙に浮いたのだそうだ。もともと、船が足りずに軍人あまりの状態だったらしい。

 やっと部隊が形になってきたと喜びにあふれてきたところで、ゴップ大将より通信が入った。

「おう、少将。元気かね?」

「ニコニコ笑ってらっしゃるのがとても怖いです、大将。前回のキャサリン大尉の件もありますのでビクビクですよ」

 そう言うとゴップ大将はひざをたたいて大笑いした。

「まぁ、一目で見抜いたから情報部の方が大変だったからな。気をつけたまえ、エルランが色々動いとる。あいつ、MS開発計画から離されたことでまずいんじゃないかとあせっとるよ。コリニー提督とも接触を持ち始めたからの」

 それを知っているあなたの方が怖い気がしてきました、僕。

「大将が何故其処まで詳しく知っているかの方が気になるんですが……」

「これでも顔は広いのだよ。軍内部に顔が効くのでな、コリニーの下の方などにな」

 ああ、そう言うことになるわけですか。お金持ちが強いのと同様、軍内部では兵站を持っている方が強いと。こりゃあ、ゴップ大将が退役された後の方がめちゃくちゃ重要なんじゃないか?

「これからも兵站総監部とは仲良くしていきたいですね」

「そうだな。後任にはタチバナ中将を推薦しようとおもっとるから、君のことを通しておこう。まぁ、堅い奴だからそこのところは気をつけてくれたまえ」

「はっ」

 タチバナ中将ってアレだよな、クライマックスだよな。おおぅ、コンペイトウで焼かれないようにさせたげないと。ゴップ大将はうなずき、話を続けた。

「今回の通信は、君から要請のあった部隊がまわせる算段がついたのでな、その連絡だ」

 はっとなる。要請が通ったと言うことは、ゲームや小説で有名なMSパイロット(今はまだ無名だが)の確保できるということだ。

「MSの開発が君のところか、レビル大将のところかに二本化されたことで、派生計画にまわす人員が宙に浮いたのでな。かなり人員的には通りやすかったのが救いだが、結構、君からの要請と被るのがあったのはおどろいたぞ?良く把握していると不思議に思ったものだ」

「まぁ、RX計画の派生部分にはL計画との兼ね合いもありますから、やっぱり腕のいいパイロットの評価には目は通します。当然、才能や腕を持っているのはおのずから限定されるでしょう」

 ゴップはうなずいた。人員の評価基準として確かなものを持っているこの男はやはり使える。40代ぐらいで政界に転身させれば、我々の派閥から連邦首相まで出せるかもしれんな、などと考える。文民統制上、やはり軍出身の議員が首相になることには壁があり、最高でも議長ぐらいまでが限度だ。ゴップは当然、自分が議長までいける自信を持っているが、流石に前例のない首相まで出来るとは思っていなかった。

「10月の7日付でオーストラリア地上軍からレイヤー小隊が、北米アラスカ方面隊からカジマ小隊が配属される。それに、士官学校の前年度卒業生から、首席のマッケンジー中尉を引いて来たぞ。宇宙軍の戦技研究団にいたから、トリアーエズやセイバーフィッシュの運用経験も豊富だ。適正を見たが、シューフィッター評価がいいからすぐに役立ってくれるだろう。……但し」

 ゴップは続けた。

「ここまで厚遇したのだから、とまたぞろうるさいのが出始めてきてな。北米から樺太に移動してオデッサ作戦にはいるまでのホワイトベース隊を君のところに任せる。臨時に指揮権を付与するから、艦長のパオロ中佐と相談して事態に対応してくれ。名目上、レビル大将指揮下の独立第13部隊に編入され、その部隊の指揮を君が採ると言う形になる」

 ここでも来たか。本来ならパオロ中佐ではなくブライトが中尉で独立部隊を任されるはずだが、何の信用もないブライトと、長年艦隊勤務を続けて教官としての経歴もあるパオロ中佐では流石に評価の基準が違う。ワッケインもパオロの生徒だったしな。意外に階級では図れない、師弟関係も含まれている可能性があるわけだ。

「だからと言ってほい、と投げたのでは手の出しようがあるまい?太平洋方面軍のバッフェ中将には君のところに最大限の便宜を図るよう言っておいたから、ホワイトベースに物資を送る際は頼りたまえ。それに、ラミアス大尉の3機のミデアでは問題もあろう?マチルダ・アジャン中尉のミデア小隊を増援に送る。オデッサに備えたホワイトベースの改修も樺太でやってもらいたいから、造船技官のウッディ大尉も一緒に派遣しておいた」

 マジか。これ、ジャブローの地下でのズゴックのジムどかーんが、樺太に場所を移したってことだよね?ということは、黒い三連星の事件とスケジュールが前後するわけか。太平洋上でジェットストリームアタックは流石にないはずだから。

 なんてこった。最悪マットアングラー隊とガウの編隊を、ギアナ高地の岩塊に守られたジャブローではなくここで受けることになるわけか。しかも、ランバ・ラルを先行して確保しているから、ドズルがもしガルマの仇討ちなぞ言い出したら……うわぁ。

 ということで、本腰入れて第一回のホワイトベース隊への補給を行う必要に迫られました。まず持っていくのは当然ガンダム、ガンキャノン、ガンタンクの補修用部品および武器弾薬に食料。これだけを1機のミデアに搭載可能と言うんですから、ハービックはいい仕事をしていると実感しました。

 ペイロード160tって、どんな化け物だよ。

 帰りには破損したジム、およびヤザン、ライラ両少尉と軌道上で撃沈され、ホワイトベースに回収された負傷兵、避難民を可能な限り積んで戻ることをお願いした。また、ホワイトベース隊にも、ジオン軍の拠点であるキャリフォルニアベースからはなれて、北米沿岸沿いにアラスカからアリューシャン列島沿いの大圏航路を取るように指示。ジオン軍との会敵の可能性を減らしたが、これはシアトル郊外での遭遇を歴史どおりに誘発させるためでもある。

 正直、ORIGINルートの様にロサンゼルスの街中を突っ切るルートには救いが見出せなかったし、あのルートはジャブローへ南下するルートだからこそ選べたわけで、ジャブローに行かずにオデッサ作戦へ参加する可能性が高い現状、TV版のストーリーをある程度なぞっていると判断したのである。

 また、戦力的にも不足している可能性があるため、追加にラミアス大尉の輸送部隊から臨時に2機のミデアを抽出。マチルダ中尉の指揮下に組み入れ、バニング指揮下の第4小隊を搭載、増援として送ることを決定した。但し、現在の試験が終わってから、と言うことで、恐らく太平洋上での邂逅になるだろう。当然、危険も増えるわけで、同時に太平洋を管轄する連邦海軍のバッフェ中将にゴップ大将を通じて連絡を取ってもらい、アリューシャン列島およびアラスカの連邦軍基地に、ミデアの燃料補給とシアトル近郊までの護衛を願った。

 ジオン側のMS状況を俯瞰すると、月を経由して地上に送り込まれたMSにかなりの数の 水中用MS、および陸戦型MSが存在することがわかった。大部分は連邦軍の攻勢を抑えるために大西洋に送り込まれ、ジャブローからベルファストまでの航路妨害の任務に従事しているらしいが(降下先はセヴァストポリだった)、少なからぬ数がキャリフォルニア宛に降下している。勿論、現在進行している「コロニアル」作戦の増援として、水陸両用MSの主力であるアッガイが多数、東南アジア戦線で確認されているが、戦闘が北上するにつれて、任務はハワイ近海の通商破壊作戦が中心になる。

 つまり、樺太がジャブロー化するということが避けられなくなってきているのだ。連邦軍が、まず工業地帯の集中する北米東海岸の防備を固めようと、既に生産が始まっているジム、陸戦型ジムの大半をオデッサ作戦用と折半する形で北米に送り込んでいる現在、連邦軍の反撃も熾烈で、そのため戦闘力の高いズゴック、装甲厚があるゴッグ、新型水中用MAグラブロが投入されている。そして、それに押される形で、水域の広い太平洋地域には、量産のたやすいアッガイが確認されるようになってきたのだ。

 また、北米の連邦軍が強化されることは、当然キャリフォルニアベースの増強にもつながる。恐らくガルマの戦死が起こるだろう今月上旬以降、15日に、第3次地球降下補給が行われる予定だ。本国生産されたドム・トローペン、グフB3型や陸戦型ゲルググ(ビームライフル未装備)といった多数の陸戦型MSを投下するそれは、オデッサ作戦対策だ。絶対に、こちらへの攻撃に一部まわされる恐れがある。

「ゲシュペンストだけでは無理な可能性が出てきた……」

「プラントの設置箇所は地下とはいえ、装甲板数枚の地下格納庫ですよね?」

 副官のカトルが口を挟んだ。どうやら、同じような推測に至ったらしい。ジオン軍の戦力降下スケジュールと、樺太での改装、およびオデッサ作戦のスケジュールを考えると、どうしてもホワイトベースはここに1ヶ月ほど駐留することになる。

「設置したときには、ここが攻撃を受けるとは思っていなかったからね……ニューヨークから南下してジャブローのルートが鉄板だと思っていたから」

「さらに地下に移すのはどうです?」

 私は頭を掻いた。

「無理だと思う。海水を搬入してRPにするシステムにしているから、多分そこら辺からズゴックで進入してくる可能性が高い。プラントの目の前あたりでドンパチすることになると思う。まぁ、プラント部分と搬入口の間にはスペースをかなり取ってあるから、戦闘するのには困らないと思うけど」

「……難しいですね」

「ドズル閣下がガルマのあだ討ちに誰を持ってくるかわからない以上、現状で絶対に攻めてくるのがシャアとマットアングラー隊だと言うぐらいしかわからないのがつらい。マットアングラーや配属部隊の編成がどうなっているかを、キシリア相手に調べないといけないなぁ」

 そう考えると、宇宙世紀登場人物に対する技術にポイントを割り振る必要が出てくる。対人関係掌握能力にポイントを割り振ったところ、友好的な人物に対しては大丈夫だけど、キシリア機関なんておそらく、友好的な人物なんて望めそうにもないしなぁ。ドズル配下でも、コンスコンあたりは私のこと嫌っているし。

「やっぱり、私程度の頭の中じゃ無理なのかな。ねぇ、カトル君。知っている人物に、人品性格問題なくてアタマの良い人いる?」

「……レディさん?」

 頭を抱えた。

「それって眼鏡の方だよね?ロックオンに聞いたら連邦軍のマネキン大佐とかスメラギさんは?とか言うし……。スメラギさんは悪い人じゃないと思うんだけど、アルコール依存症だしねぇ、彼女。お酒の趣味も合わなさそうだし」

「マネキンさんはどうなんです?」

「あの見下す視線が別の趣味でも生みそうな感じがして……。というか、彼女のキャラって、どちらかといえば姉さん寄りでしょう?これ以上胃痛の種は増やしたくないのが本音なので……」

 カトル君は苦笑する。怖い女性の相手は彼も経験ある事象だ。

「どーすんだよ、これ……」

 頭を抱えざるを得なかった。



[22507] 第16話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/10/30 21:19


 0079年10月4日。現在地はシアトル市内。

 目の前ではホワイトベース隊の攻撃を受けたガウが炎上し、その矛先をドーム球場に横たえたホワイトベースにむけている。予定通りだ。

「ガルマ、聞こえていたならば、君の生まれの不幸を呪うがいい!」

 展開しているザクⅡ三機のうち、1機が撃破され、1機がガンキャノンと正対。1機残ったシャア少佐のザクからの通報で急行したガルマ航空部隊が、ホワイトベースが背後に来るような位置関係にシャアの誘導でおびき出される。そして一斉砲撃。TV版、「ガルマ散る」そのままの光景だ。

 しかし、かなり意外な光景になっている。

 降下した三機のザクに立ち向かったのはガンダム2号機とガンキャノン。そう、話どおりなら出撃していないガンキャノンが出撃しているのだ。ホワイトベースの監視をさせているヘルマンからの通信だと、ガンキャノンがさらに一機、ガンタンクも1両出撃している。一体誰がアムロと一緒に戦っている?

 現在、私は生身のままでジープに乗りつつこの戦況を確認している。軍服ではなく、平服の上にポンチョを羽織っているだけだ。身体能力としては、この作戦に入る前にポイントを使ってガンダムファイター能力を付け加えたから死ぬ確率は少なくなっただろうが、流石に直撃はまずい。一日で復活できるとは言え、ストーリー展開が時間単位になってくるこういった話の流れでは、一回死んで月に戻ると、都合1週間は動きが取れなくなってしまう。

 おぅ、後方からの射撃に気を取られたザクがガンダムのバズーカで沈んだ。しかし、ホワイトベースの射撃の腕もなかなかだ。上手く面制圧射撃になるようにしてあるから、一定空域に入り込んだドップに撃墜が連続している。MS隊のガウに対する集弾も良い。ホワイトベースの射撃が面制圧になっているのに対して、上手くガウに対する射撃を集中させている。

「なに、不幸だと!?」

「そうだ。君はいい友人であったが、君の父上がいけないのだよ……はっはっは……」

「シャア!謀ったな、シャア!」

 よし、お決まりのセリフが出た。

「ゲルト、ガルマを確保して脱出!暴れるようならスタンガンで気絶させろ!」

「了解!」

 ブラスレイター・フェニックスへと変身したゲルトがすばやくジオン軍の制服を脱ぎ捨て、ガルマに対して腕に融合させたスタンガンの電極を当て、気絶させる。脱出用のハッチから空中に身を躍らせた。ホワイトベースの砲撃は特攻をかけるガウを避ける事に集中するあまり、数が少なくなっている。

「着地!ガルマ大佐は無事!」

「よし、変装させて死体袋に詰めた後、麻酔をかけてバンクーバー島へ移動!そこでハルシオを待て!乗ったら樺太で会おう!」

「了解!」

 後始末はつけねばなるまい。

「何処まで今の私でやれるか……見せてもらう。ガンダム!」

 隠してあったゲルググのところまで戻ると、私はゲルググを起動させた。



 第16話



 現状、ここでガンダムと戦う必然性はない。しかし、ランバ・ラルがいないことでこの後に恐らく違った展開を見せることになるだろう―――そして、それは恐らくTV版よりも凄まじいことになるだろう―――ことを考えると、アムロの能力を把握しておく必要がある。

 勿論、理由はそれだけではなかった。まだNTとして覚醒したばかりのアムロが相手だが、彼のように戦場で苦労し、自分の力で能力を勝ち取った人間とは違い、私自身はチートポイントで能力を勝ち取ったに過ぎない。自分の実感として、何処まで自分の能力がNTに通じるものかを知っておく必要がある。特に、この先にシャアとの戦いを避けられない可能性があるとするならば。

 シャアが後退するのを確認したと同時に、ホワイトベースへの帰還を開始したガンダムにアサルトマシンガンを発射する。

「まだいた!?それに新型?」

「アムロ!ホワイトベース発進、各機、アムロを援護!機体を収容後、すばやくここを離れる!すぐにジオンの援軍が来るぞ!カイ、ハヤトは援護射撃!ヤザン少尉……頼みます!」

 一機のガンキャノンがこちらに向かってくる。射撃が正確!?よくもここまで!ヤザンが帰ってこなかった理由がこれか!

「了解したぁ!ルナツーでの借りを返してやる!」

 面倒見が良い性格上、軍人でもない若者たちが戦うホワイトベースを見捨てられなかったのだろう。ライラ少尉は負傷もあってマチルダの補給で帰って来ていたが、ヤザンは樺太寄港までホワイトベースに残ると言い出したのだ。

「ガンキャノンとは、いい選択だ!」

 ゲルググのスラスターを吹かすとまずはガンキャノンに接近。中距離砲撃戦用のMSだが、ヤザンは上手く肩、脚を用いて接近戦にも対応してくる。しかし、接近戦用の武器がないことは致命的だった。

「まだ甘い……それっ!」

 ビームサーベルを回転させて前に突き出していたビームライフルとキャノン砲の砲身を切り落とす。切り落とすと同時に頭部に蹴りを入れようとしたときにそれは起こった。

「こなくそぉ!」

 ヤザンが切り落とされたのもかまわず、短くなったキャノンを撃ったのだ。一発は外れ、一発が頭部に近づいていた右足に命中。損傷自体は少ないが、機体のバランスを崩す。上手い、流石だ。この数日でかなり腕を上げている。

「アムロ、行けぇ!」

「わぁーーーーーーっ!」

 ビームサーベルを構えたガンダムが迫る。シールドで防ぐが、流石に熱量にはだんだん耐え切れなくなり、Z.O合金製のシールドが融解を始めた。このままではシールド裏面のミサイルに誘爆しかねない。

「良くやる!」

 すばやくガンダムの足元にミサイルを全弾撃ち込み爆発させると、爆風を抑えるために身をかがめたガンダムの背部を蹴って距離を取る。爆風が収まったと同時にシールドを構え、ビームサーベルをこちらに向けて突進してくる。

「ヤザン少尉は後退してください!ここは僕が!」

「無理するなアムロ准尉!ホワイトベース、砲撃!俺を巻き込んでかまわん、撃て!アムロ、後退しろ!」

 ホワイトベースの方も当然二人、もしくはヤザンを見捨てるという選択肢はない。

「砲座!前方の敵MSに向けて精密照準!アムロやヤザンに当てるな!カイ!ヤザン少尉を回収して後退!ハヤトは砲撃!右舷メガ粒子砲、狙え!いそげっ!」

 このままここにとどまっていては砲撃の良い的だ。ゲルググを前進させてガンダムと刃を交える。ビームサーベルのエネルギーがはじけ、火花を散らす。

「まだこの時点では、対応できるか!」

 少々厳しいかもしれないが、今の時点でのアムロの能力には充分対応できそうだ。背後に回るとガンダムを蹴りとばす。調子に乗って追撃でもかけてやろうと思った瞬間だった。

「よくも、ヤザンさんをっ……」

 一連の無駄のない動き。それと共に発生するプレッシャー。操縦桿を持つ手が凍る。クソ!?動かそうという意志が腕に伝わっていないのか!?プレッシャーの正体って、他人の思考に干渉することで相手の動きを止めることか!?

「こ、こなくそおーーーーーーーーーーっ!」

 ガンダムがエネルギーを残したままのビームサーベルを投げた。刃を出したままのそれがコクピットへ向かう曲線を描いている!うえっ、直撃!?え、反応が遅い?まだ戻っていないのか!?クソ、動け、動け動け動け動け動けっ!

「ラースエイレム!」

 ラースエイレムを使い、数秒間時間を止める。避けてはアムロに疑問に思われかねないと、焦りつつも冷たくなった頭で判断し、脚のスラスターに直撃させ、爆発を起こす。ゲルググはバランスを崩して瓦礫にたたきつけられた。ただ当たっただけではなく、脚部のスラスターに直撃したようだ。

「これが、NT能力か?……プレッシャーというのか!? マジで機体が止まったぞ!?クソッ、この段階でRFゲルググ持ち出してチート機能まで使わねばならんなど、洒落にならん!さっきのビームサーベルの投擲も、……サイトロンの補助を受けているのにっ……」

 距離が取れたことでこちらに射撃が集中し始める。ガンダムも追撃をあきらめて後退に入ったようだ。ここまでか。

「パイロットLvを5まであげてこの体たらく……クソッ。本格的にポイントのみでの戦力向上も考えなくてならないな……というか、本当にシロッコまで能力あるのか?」

 ゲルググのスラスターを吹かすと瓦礫を上手く利用し、その場を離れる。このまま先に向かったゲルトを追ってハルシオで樺太に向かおう。実感した。宇宙世紀のパイロットは化け物だ。ポイントを使ってさらに強くなる、自分を鍛えなおす、政治面など対応が出来ない面での介入に重点を置く。……今回得られた教訓は多い。今の時点の能力で光る宇宙に介入しようなど、世迷言だとわかったのが一番の収穫だ。

 クソッ!

 こぶしを強くシートにたたきつける。コンソールの一つにひびが入った。肉体強度がガンダムファイター並に強められているのだから当然だが、今はそんなことは気にすることもない。

 自分の慢心さ加減に腹が立ってし様がなかった。良いMSとチート機能を使って浮かれていたのだ。サイトロンの思考を読み取る特性をつかってもあの投擲には対応できなかった。簡単だ。相手にしてきたのが艦艇に訓練未了の二人のオールドタイプでニュータイプじゃないから?

 いや、そうじゃない、私自身だ。問題なのは。チート機能を使って、それが使えない同類に力を振るって調子に乗っていたのだ。クソ、顔から火が出そうだ。

 わかるべきことも、今の段階で知るべきこともかなりわかったのが収穫だが、精神的にはかなり、来たな、コレは……。確かに、これほどの能力が宇宙に出るだけで得られるというふれこみなら、ジオニズムが広がるのも無理はない。しかし、これでは。

「これでは、オカルトもいいところだ!」

 どうやら、素の私自身は根っからのオールドタイプらしい。



 潜水艦ハルシオにもどり、ホワイトベースに先行して樺太に戻ると、「トロッター」艦長としてエイパー・シナプス大佐が着任していたため、基地の指揮権を一時委譲。損傷したゲルググと共に、ワープ機能を利用して月面へと帰還した。ガルマは、早速コールドスリープ状態に落すと、翌日届いたイセリナ・エッシェンバッハと共に木星へ送付する。敗戦が決定した段階で覚ませば良いだろう。

 流石にキシリア機関の目があったため、反ジオン軍のゲリラを援助していたエッシェンバッハ、ロサンゼルス市長の身柄はどうにもならない。イセリナにしても、娘一人捨て置いてもかまわないとキシリアが判断し、イケナイ気持ちを出したキシリア機関の男性がハリウッドの高級住宅街でことに及ぼうとした段階で確保しただけの話だ。勿論、代わりの死体と、反ジオンゲリラの仕業に見せかけて住宅は吹っ飛ばしておいたが。

 10月6日。目の前のTVからは予定通りのギレン閣下の演説が響く。

「我々は一人の英雄を失った、しかしこれは敗北を意味するものか!? 否!始まりなのだ。地球連邦に比べ我がジオンの国力は30分の1以下である。にもかかわらず今日まで戦い抜いてこられたのはなぜか?諸君、我がジオン公国の戦争目的が正しいからだ!一握りのエリートが宇宙にまで膨れ上がった地球連邦を支配して50余年、宇宙に住む我々が自由を要求して何度連邦に踏みにじまれたかを思いおこすがいい!ジオン公国の掲げる人類一人一人の自由の為の戦いを神が見捨てる訳はない」

 そして、お定まりのセリフ。

「私の弟、諸君らが愛してくれたガルマ・ザビは死んだ。なぜだ!?」

「シャアのせいだよ」

 とりあえず突っ込んでみた。流石にこんなことを他の人間には聞かせられないから、アムロに負けたショックを言い張って閉じこもった部屋でのことだ。視界の一定部分がつねにピンク色に占められ、部屋のそこかしこにオレンジ色が目に付きますが。あれ?おかしいな。鍵かけたのに。

 ガルマ国葬は予定通り行われ、ドズルがガルマの身の安全を守れなかったとしてシャアの軍籍を剥奪しようとしたが、キシリアが介入し、「戦死確率が高い」と言い張って、キャリフォルニアベース所属の潜水艦隊司令に抜擢した。もはやどうなるかは疑うべくもない。

 しかし、月面でのハマーン&プル中隊とのエンカウント率が異常。敵の存在を感知する能力を人の居場所を感知する能力として……ああ、F91でもシーブックが使ってたな。つか、バイオコンピューターの補助無しで出来るんですか。やっぱりNTはチートだろと改めて思いました。

 それに、自分の状態を確認したら、基礎能力と経験は別らしく、MS戦闘経験なんていう、新しいステータスまで出てくる始末。詐欺じゃないか、これ?そりゃシロッコクラスの能力あろうと、Lv.1じゃボロ負けも納得だよ!

 まぁ、女性特有の優しさか、こういったときになにも言わずにいてくれるのはとても有難い。レコアさんあたりに「男は、女性を抱きしめるための道具としか!」とか批判されそうだ。だけど、そりゃあなた、惚れた男がシャアやシロッコっているところでどうよ?そもそも男って、甘えたがりだから、何も考えずに女の子に抱きつきたくなることもあるよ?許してくれるかは別問題だけど。……ああ、だから抱き枕市場が成立するのか。あ、いい匂い。

「よしよし」

「よしよし」

「よしよし?」

 プルシリーズに慰められながら聞くギレン演説はシュール過ぎました。


 さて、予定通り不死身の第四小隊がアリューシャン列島、アッツ島近海でホワイトベースに合流し、陸戦型ジム3機と陸戦型ガンダムで構成される戦力を受領させると、10月中に「ブランリヴァル」を樺太に移動させるから、三隻編成でオデッサ作戦に参加するよう、レビル将軍から通達が来る。

 第13独立部隊の指揮官が私にされてしまったので、「トロッター」を旗艦とし、「ブランリヴァル」の艦長をヘンケン少佐(昇進)に御願いした。シアトル戦で指揮を取っていたのが如何見てもパオロ艦長ではなくブライトだったのは、大気圏突入から、北米でのガルマによる迎撃の間にブリッジに被弾し、パオロ艦長が負傷していたためと判明。ただし、史実のような重態ではなかったが、大事を取ったと説明された。ちょうど良いので樺太でパオロ艦長を降ろし、ブライトを大尉に昇進させて艦長に正式任命する。

 ペガサス級の艦籍番号は、強襲揚陸艦型でSCV、宇宙戦闘用の改装を受けたものでSCVAと混乱しているが、この歴史では一番艦ペガサス、二番艦ホワイトベース、三番艦トロッター、四番艦サラブレッド、五番艦ブランリヴァル、六番艦スタリオン、七番艦トロイホース、八番艦アルビオン、という命名順となり、艦籍番号も改装が終了次第、SCVAに統一されるとのことだった。

 現在、第13独立部隊にはそのうち三隻が配属されているが、四番艦サラブレッドが月面近海での通商破壊任務に予定されている他は、六番艦までの建造が始まっている。七番艦以降が未定、と言うことだったので、樺太工廠での七番、八番艦の建造を提案。ジャブロー工廠ではビンソン計画を主眼にサラミス・マゼラン両級の建造を進めるように提案した。

 恐らく、オデッサ作戦にはホワイトベース、トロッター、ブランリヴァルの3隻で出撃することになるが、そうなると樺太基地の管理を誰に任せるか、と言う問題が生ずる。プラントが存在する樺太基地の管理を連邦軍の軍人に任せるわけには行かないため、シトレ大将を通じて特務作戦集団より何人かの軍人を融通してもらうとして書類を調えてもらった。

「で、私が呼び出されたわけか」

「まぁ、そう言うことになります。旦那さんは?」

 カティ・マネキン准将は鼻を鳴らした。

「あいつのことです。新型のMSのところにでも行っているのでしょう」

 そうおっしゃられますが、どうみてもドアの後ろに誰かがいるような気配がありますが。流石犬属性。あの根性は見習うべきなのだろうか。腕は確かなんだが……。

「流石にパトリック・マネキン中尉にMS隊の指揮をお願いするわけにも行きませんので、本基地の防衛に関してはネオ少佐と協力して事に当たってください。プラントの使用に当たっては量子通信システムを用いて私まで許可を求めるように」

「了解しました」

 久しぶりにキャラクターを獲得。基地司令として使える人材は、レディ・アン氏の暴走が怖かったのでマネキン准将に御願いし、流石に寂しそうだったので不死身のコーラも一緒に。ネオと組ませて防衛を御願いする事とした。まぁ、エンデュミオンの鷹に不死身さんがいればどうにかなるだろう。

 第三次降下補給で送られたMSにゲルググが含まれ、オデッサ作戦にまで一部が参加するだろうことを受けて、早速後期生産型ジムとしてジム・コマンド地球用の生産を開始し、第一に我が部隊への配属、余剰生産分が生じてから、アジア側から進撃するグエン中将のアジア方面軍へ導入することを伝達する。

 MSの性能向上型の出現が早まったことで、一年戦争を数で押した連邦らしく、ゲルググやギャンといった高性能機に比するMSが連邦側には少ないところが問題として生じてしまうが、コレは仕方ないのかもしれない。最悪、ジムⅡの投入で収まる事を願うしかないだろう。

 今回は、マネキン夫妻にポイントを使った以外はやはり、自分のパイロット能力を上げるように用いた。





[22507] 第17話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/10/30 15:05


 UC0079年10月10日、予定通りホワイトベース隊が樺太に到着し、地下ドックに入渠。SCVA形式に準じた改装を受けることとなり、パオロ艦長を始めとした、避難民および負傷兵の受け取りが完了した。

 ここに来るまでの5日間に既にバニング大尉の鬼の教育を受け始めていたホワイトベースMS隊はかなりその腕前を向上させている。バニング大尉には引き続きホワイトベースのMS戦能力向上に尽力してもらい、陸戦型ジムに代えてジム・コマンド3機を配属した。コレを機会に、いままで陸戦型ガンダムと陸戦型ジムのハイ・ロー・ミックスで構成されていた部隊編成をジム・コマンドに統一。整備性の向上を図った。

 但し、レイヤー中尉率いる第一小隊のみは、新型であるジムスナイパーⅡおよび量産検討型ガンキャノンの運用を試験するため、この基準からは外している。宇宙に入った段階で戦力的に不足するようであれば、ジム・カスタムの配備も検討に入れるべきだろう。

 ただ、問題が無い様であれば、宇宙で用いるMSもジム・コマンドの宇宙仕様が使えるのが有難い。それに、ジムの生産ラインを変更せずに生産できる後期生産型ジムこと、ジム改の設計案をまとめ、早速ジャブローに送ってある。現在量産が進められているジムがある程度の数に達して戦線が安定次第(恐らく、オデッサに対する戦力集中がある程度完了した時点)で切り替えるとゴップ大将から通達があった。すばやい新型機の設計案提示と、何よりも生産ラインの変更無しに生産が行える点は評価された。

 オデッサ作戦が終了し、戦線が宇宙に以降次第、準備を整えた上でジムの生産がジム・コマンドへ移行することもあわせて連絡あったため、とりあえず一年戦争中のV作戦は結果を出せたようだ。レビル大将など、大将会議の常連も満足であり、戦後のMS開発行政も、樺太基地を中心に行うように連絡があった。

 但しそれに対しては、流石に其処までの介入を行うと民間企業への利益配分を、軍需工廠が奪う形になってしまうと伝え、同時に、民間で開発をリードさせた方が、退役機の取り扱いに関しても配慮を行うだろうと推測を伝え、とりあえず一年戦争後数年は、設計を軍需各社にまわすことで合意した。

 一年戦争が終われば当然待っているのは軍縮で、現在生産しているジムが大量に余ることになるだろうことは推測がついたため、このような形を採用したのである。まぁ、ジム・コマンドクラスの機体であればある程度ジムⅡと遜色ない使用法が出来るわけで、ある意味ジムⅡの登場フラグを潰したような気がしないでもない。



 第17話



 最初から連邦軍の一年戦争でのMS行政の話になったけれど、実は、現実逃避も入っている。なぜかと言えば、ガルマの戦死が確認された10月5日に早速ドズル中将から月に連絡があり、ガルマの仇を取るから部隊を地球に降下させろと命令が来たのだ。

 落ち着くように言った後に、キシリアが支配する地球に降下なんてそれなんて死亡フラグですかと突っ込んだところ、ある程度冷静になってもらえた。確かに地球攻撃軍はキシリアの軍隊で、そこで戦死したのであればキシリアの責任と言うことになる。実際、ガルマ戦死でショックを受けたデギンは、地球から舞い戻ったキシリアをにらみつけるだけで反応すらしなかった。

「それではキシリアの部隊にやらせるつもりか。しかし、あいつがガルマの仇を取るなど考えられんだろう!?」

 だからと言って私のところに話を持ってくるのも如何かと思ったが、そこは突っ込まない。突っ込んだら話がややこしいことになるし、ここのところが、連邦軍と違ってジオン軍が民兵とそう変わらないところだと私自身思っている。そもそも司令官の私情を軍事上の要件以上に重要視するなど、軍隊と呼べたものではない。

 それに、軍人になった以上、戦場での戦死に文句は言えないのだ。

「地上で行動しろと言っても、生産した地上用のMSは根こそぎキシリア閣下のところに送っていますし、今までの確執を考えると降下させた私の部隊に満足な補給が来るとも考えられません。となれば、キシリア閣下御自身の部隊にやらせたほうが、補給の面でも作戦の実行の面でも宜しいかと思いますが」

 むぅ、とドズルはうなった。月面からソロモン、および地球はかなりの戦力を受け取っており、人情?なにそれおいしいの?なキシリアはともかく、義理を感じるドズルも無理を言えない。実際、私の持っている戦力は宇宙空間での使用を前提にしている(表向きの戦力は確かにそうだった)から、地球では使えないのだ。

「キシリア閣下の所からMS特務やフェンリル隊を引き抜きましたが、他にも戦力はいるでしょう?」

「……地球からの報告によると、ガルマをやった部隊は敵の母港の一つに入っている。ジャブローほどではないが防備が堅いのだ」

 まぁ、そうだろう。攻撃を受けたときのことを考えないでもなかったし。

「誰を送るつもりですか?まさかマツナガ大尉とか?」

「シンはお前のところに送る。本国においては置けんし、俺のところにもどせばギレン兄がうるさい。お前の下に置いておくのが安全だろう」

 この人も中将だけあって頭が悪いわけではない、と改めて感じた。ダニガン中将が正式に退役し、オブザーバーとして(実際は親衛隊の管理下におくために)現在月面に向かう準備をしているというから、恐らくそれに同行してくるのだろう。新型MSとしてのゲルググの改良案検討のために、先週ジョニー・ライデン少佐の配属も認めさせたから、宇宙でのジオン側戦力は整いつつある。但し、キシリアとの関係が不明瞭なライデン少佐は扱いに困る可能性がある。

「……よし、決めた」

 ドズルが何かを思いついたようだ。

「ヴィッシュ・ドナヒューの部隊を使うように言おう」

「荒野の迅雷ですか?しかし、連邦軍の欧州総反抗が噂されるこの時期に、北米戦線から精鋭を引き抜くのは……」

 冗談じゃない。いまキシリアの部隊に残っているエースの中で、一番避けたい人間の名前が挙がってしまった。

「いや、奴の部隊なら動かせるはずだ。それに、日本に対する攻撃はアジア方面軍の補給基地であるから、欧州総反抗の牽制にもなる!」

「説得が難しいと考えますが」

 ドズルは鼻を鳴らした。
 
「可能だろう。奴ならば。奴は今、ヒープ中佐の大隊にいる。ヒープの奴はキシリアも排除したがっているはずだ。話には乗ってくる」

 なんてことだ。キシリアと協力してザビ家にはむかう人間の排除を理由にガルマの仇を取ろうとは。一瞬、ドズルの正気を疑った。

「本気ですか中将。ヒープ中佐がキシリア閣下に嫌われていることは私も存じておりますが、だからといってキシリア閣下の考えるヒープ中佐の排除をガルマ大佐のあだ討ちと組み合わせて行うなど!」

「貴様は何か!?ガルマの仇討ちに文句をつける気か!?」

「そうは言っていません!ヒープ中佐のことも考えてくださいと言っているのです。キシリア閣下に嫌われた理由は、彼が任務を果たしたからです。彼は自分に与えられた任務を果たした結果、キシリア閣下に睨まれました。確かにキシリア閣下はヒープ中佐を排除する良い機会ですから話に乗るでしょう。しかし、キシリア閣下にとってガルマ大佐の仇討ちが何の価値も持たない以上、ヒープ中佐の排除の方に力点を置きます。それではガルマ大佐の仇は取れず、ヒープ中佐も無駄死にです!」

 ドズルもこちらの言いたいことがわかったようだ。苦々しげに顔をゆがめると倒れこむように派手な椅子に腰掛ける。

「どうにかならんか。地上に、ヒープの部隊にキシリアから独立して補給を行うことは?」

「難しいでしょう。やるなら、キシリア閣下にばれないように地上に降下して行う必要があります。キャリフォルニア・ベースの基地司令の協力が得られれば良いですが、キシリア閣下のことですから手を回していらっしゃるでしょう」

「閣下」

 背後に控えていた副官のラコック中佐が口を開いた。

「ガウの第4飛行隊長、ダロタ大尉なら如何でしょう?彼ならばガルマ様への信服の度合いも疑いありません」

 イセリナを確保したことに気を取られて、ダロタ大尉なんて名前を覚えていなかったキャラまで出てくるか。確か、イセリナに協力してガルマの敵討ちを狙った、ガウの指揮官がいたことは覚えていたが、流石にそんな脇役キャラの名前までは今の今まで忘れていた。

 その後、会議の結果、キシリアとの話を経て、地球連邦軍樺太基地への攻撃はガウ攻撃空母6機に荒野の迅雷率いるMS中隊を乗せ、ユーコン級潜水艦からの準備砲撃の後、空海一体攻撃を行うことが決定された。海中からの攻撃はシャア率いるマットアングラー隊、およびキャリフォルニアベース所属の第114潜水戦隊のユーコン級3隻が参加。海側から攻撃を仕掛けるのはマットアングラー隊のズゴック3機、グラブロ、ゾック各1機、ゴッグ2機にアッガイ3機となり、ユーコンからはゴッグが3機、アッガイが6機出撃する。ガウ攻撃空母にはゲルググ3機、グフ5機、ザク7機が搭載され、ガウの1機には試作型MA、アッザムが搭載されることとなった。合計MS30機、MA2機の大部隊である。

 作戦開始は11月1日と決定された。

 そのことをドズルから意気揚々と語られた私は顔を青ざめさせた。どんな大部隊だ、それは。ヒープ中佐への補給に制限がつけられるのは間違いないようだが、ダロタ大尉を通して補給を確保する、というものだから、当然ゲルググは戦力になると考えざるを得ない。まったく、なんてラスボスだ。

 連邦軍側で態勢を整えすぎてしまえば、キシリアに内通者がいると思われかねないので戦備を整えるのも一苦労だが、仕方ない。明日中に樺太に戻って戦力を整えることとしよう。しかし、作戦の行われる日時に関しては通達できない。あのユライア・ヒープのことだ。下手に準備を整えさせすぎれば、ジオン内部に内通者がいる可能性を示唆しかねない。現状、それではまずいのだ。少なくとも、ソロモン陥落あたりまで、私がジオンにとってどういう存在なのかを隠す必要がある。

 頭をかきむしりつつも、私は樺太へと戻った。

 前回、基地司令として新たにマネキン准将を招いて戦力を整えた樺太のG-1隊だが、まず基地の全員とホワイトベース隊に、ガルマ・ザビを打ち破った以上、王政国家であるジオンはその矛先をホワイトベース隊に集中させる可能性があることを指摘し、基地の防備を調えるように命令した。

 10月第一週を以てG-1隊各隊にはジム・コマンドの配備が終了し、第一小隊にもジムスナイパーⅡ、ガンキャノン量産検討型の配備が終了。早速慣熟訓練に入ってもらっている。

 ルナツーおよび北アメリカでの交戦でジオン軍の新型に歯が立たなかったことを悔やんでか、ヤザン、ライラ両少尉は、バニング大尉も驚くほどの熱意を以て訓練に臨み、まだMSを使用しての実戦経験がない他の5小隊にいい影響を与えている。

 ホワイトベースに所属するMS隊も訓練には参加し、特に新配属のスレッガー大尉とセイラ准尉にジム・コマンドが配備されたことでMS戦力が向上している。地上であるためまだガンタンクの使用の場面が残っていると判断し、ガンタンクについてはホワイトベースに残す事としたが、早晩、戦線が宇宙に移行次第降ろすことを伝え、ガンタンクの操縦者であるハヤト、ジョブ・ジョン両軍曹にはジム・コマンドの操縦訓練を行わせている。コレにより、ガンキャノンはリュウ・ホセイ少尉とカイ・シデン軍曹によって運用されることが決定した。

 結局、樺太基地所属のMS隊は「トロッター」所属のゲシュペンスト3個小隊(私、ロックオンおよびネオ、ポプランとウィスキー隊)合計9機、G-1部隊6個小隊合計17機で総計26機となった。ホワイトベースに配属されているガンダム始め5機を合わせれば、ジオン攻撃隊とほぼ同数となる。

 戦力として有難かったのは、10月10日にガンダム6号機が完成。砲撃仕様の機体としてエイガー中尉に操縦を任せ、RX-78ガンダム先行試作型をデータ撮りにまわし、マッケンジー中尉に、L計画試験機の一つとして、シュッツバルトの改造型を渡せたことだ。両肩のツイン・ビームカノンをガンキャノン量産型と同様のものに変更し、脚部をドムと同様のホバー走行が可能なタイプに変更。完全に「ジム顔ドムキャノン」になってしまったが、現状の技術段階ではこれが限度だ。重装甲をホバーで機動性を高め、固定装備の三連マシンキャノンとゲシュペンストと同じくM950マシンガンを装備させる。敵部隊のかく乱に役立ってくれるだろう。
 
 そして、本当のもしものために、一機の新型機をポイント使用で登場させた。現在乗っているタイプRVは、こちらの宇宙世紀ではほぼZガンダムクラスの性能にあたる。しかし、シアトル郊外の結果を見るまでもなく、本物のNT相手には現状の戦力では不足だと言うことが良くわかった。私自身に力がないことが第一の理由だが、現状の能力があの程度のものである以上、一年戦争は技術で乗り切るしかないと考えたのだ。

 だから、出現はさせたものの、決してタッチする事無く放っておいた女性の下にいくこととした。かかるポイントやストレスは大きくなるだろうが、正直、あの人の助けを受けなければ私の頭では無理だ、と思ったのだ。自分自身の、甘い、独り善がりな考え方では駄目だ。少なくとも批判され、失敗の可能性と対案を検討する体勢を整えなければならない。人情に左右され、不遇な死のキャラを私が悼むなら、それと真逆の価値観を持つ人物を。


 10月12日 日本州北海道札幌。ここに、現在連邦軍のMS生産の一角を担う、太洋重工の本社がある。その社長室。


「それで、ようやくここに戻ってきてくださったわけですわね」

「正直、頼りたくはなかったけどそう言ってもいられなくなった」

 一番有能だろうと呼び出したが、有能だけあって性格の方は最悪だった。彼女を相手にするならば、まだジオンで相手にしている女性群の方が御しやすい……というか心に来るダメージが少ない。うん?何処が御しているの?とかいう突っ込みは……ごめんなさい。

「社長なら、今いませんけど?」

「おかしいなぁ。社長以上に強い人、信頼すべき人がいるのに社長に会う必要あります?というか、あんまりいじめないでください」

 ああ、もう、こちらのすべてを見透かしてくれるから遣りにくい事この上ない。コレから始まるアナハイムとの暗闘を考えると絶対に協力が必要だと思って呼んだけれども、この人のやる事にはあんまりタッチしたくないのだ。条件が条件だし。しかし、この人物の識見、ものの見方はこれからぜひとも必要になる。異星人との友好関係を模索するキャラクターは多かったが、異星人との商売まで、それも、死の商人としてのそれをなそうとしたキャラクターは、絶無だ。だからこそだ。

「それで、この前の話は考えてくださった?」

「その話は無しの方向で……わかりました。無理ですね」

 女性はにんまりして言った。

「わたくしに、兵器を好きに売るな、戦争を誘発させるな、利益を得るために手段を選ぶようにしろ、と色々制限を掛けてくださったのですもの。あなたの人生に制限をかけさせてもらうのは当然でございませんこと?」

「好いた張ったというなら私も心が動きますが、利益から考えられるとなんとも」

「だって、あんなすごいものの使用できる唯一の方ですもの。対価がそれなりにあるのは当然ですわ。それとも、対価がわたくしでは御不満?」

「不満とかそう言う話ではないんですが……」

 いかん、完全に彼女のペースだ。

「好きですわよ?」

「自分の何処が好きなのかが問題だと思うのですが」

 目の前の女性は鼻を可愛く鳴らして笑った。

「ですから、アレ――プラントやシステムを操れる能力が」

「やっぱり」

 当然です、と前置きして彼女は言った。

「魅力のない男に誰が恋します?わたくしにとってそれは、何かをなす能力であり、実際にできると言うことであり、それをやれる人間だということですわ。それに考えても見てくださいな。指先一つで資源やMS、戦艦にオーバーテクノロジーの塊を生み出せるのですわ。そんな能力持っている方なんていませんもの。愛するには充分な理由じゃありませんこと?」

 それ、愛って呼ぶんでしょうか?

「うわぉ。……相変わらずはっきりしていらっしゃる」

「ですけど、そういうとあなたがわたくしを嫌いになりそうですから、別な理由を述べたほうが宜しいようですわね?」

 私はうなずいた。実際、この会話にしろ本当のことが含まれているとは露ほどにも思わない。目の前の女性が抱える心の壁とやらが、どうしてかはわからないが今は判るような気がする。これも、獲得し始めたNT能力のおかげだろうか。

 そして怖いことに、彼女はそれを知っているのだ。言葉に出さなくとも。私がここに来たことが、彼女の隠された内心をどうにかできるかもしれない可能性があるからだと言うことを、彼女は読み取っている。ある意味、彼女もNTなのかもしれない。

「あなたの目、あなたの感じ方、とでも言うですかしら?わたくしの嘘は通じないし、わたくしのかける毒に影響されない。色仕掛けなんて迷うそぶりすらないし、同性愛を疑ったけどそんな様子もない。何よりも、何も考えていなさそうなのに突き刺すような目。こちらが見透かされているようで、そして実際見透かされているのでむかつきますわ」

 そりゃそうだろう。接触がなかったとは言え、どういう人間かは知っている。色々な作品を通じて彼女が何をやる人間かも知っているし。それに、アニメ作品の登場人物だとわかっているのに、それを改めて人間であると認識する時間もなく欲情などしていたら変態、人非人もいいところだ。相手の人格ではなく、外見や容姿、言葉遣いや自分の妄想の結果を愛するなど。男性だから仕方ない面もあるとは思うが、それを現実の人間相手にやるのは失礼千万だろう。

 相手が人間であるなら、それに適当な関わり方と言うものがある。まぁ、いまさらかもしれないが。

「見下したくなる人には会いました。ゴミと思う人にも会いました。関わりたくない人にも会いましたし、そう言った人間ばかりであるとわたくし、思っていたんですの」

「ずいぶんと素晴しい世界ですね」

 そういう世界は悪夢というべきじゃないのか。やっぱり能力とコミュニケーション能力は反比例するのが普通なのか?

「ですけど、むかついた人間は二度目ですわ。しかも、一度目とは全く別の。あの底まで見透かすような目。一応褒めておきますけど、あそこまで背中が冷えたこと、興奮したこと、これまで一度もなかったですのよ?」

 突き刺すような目?アニメキャラを目の前にしているんだぞ?三次元に。二次元の時との違いをよくよく観察しようとしていただけなんだが。ほら、良く言うじゃない。アニメで描くと目が大きすぎるようになるから、頭蓋骨の形状ってどんなになっているのだろうって?考えたことない?たとえば猫耳少女の頭蓋骨の形状についてとか。

 ……あー、何か喋らないと。また怖い目で睨んでらっしゃる。

「一度目の人の御冥福をお祈りしたいのですが」

 女性は花が咲いたような笑いを洩らした。

「駄目ですわよ。まだ死んでませんもの。世界を自分の作る武器で平和に、なんてお甘い考えのリン・マオは女性ですからわたくしのものにはなりません。ですから、なんとしてでも殺す……だけではつまりませんわね。あの顔がどうにかなるのを見てやるつもりですわ。勿論、もう一度お会いできたら、ですけど」

 わーお。こわいよー。逃げたいよー。なんでこんな人を呼び出しちゃったかなぁ、私は。そりゃね、スパロボで一番魅力的な人だとは思ったけどさぁ。やっぱり、見ている分に楽しい人は実際付き合うには問題がありすぎるんだなぁ。うん、僕懲りた。ごめんなさい。今から帰ってくれませんでしょうか?

「あなたは彼女と違って男ですから、わたくしのモノになってくれません?」

 ああ、またまずいことを癖で言いそうだが、口が止まらない。もういいや。自重しない方向で行こう。

「それはSって書いて嗜虐的とか読む意味でおっしゃってるんでしょうか?そこに痺れる鞭打たれるような」

「お望みならそうしますけど?そういう御趣味?」

「いえ、全く違います。むしろ逆がいいかな、と思ってます。だって男の夢でしょう?……すいませんすいません」

「了解しました。そういうお望みならそれでも結構です。むしろ望むところ……返品は不可ですので」

 え?俺契約したの?今の何処に契約行為があるの?

「それではお席についてくださいませんこと、旦那様?相性ばっちりだと思いますわよ?」

 やばい、このままではなし崩しに既成事実化される!

「キャンセルを要求する!クーリングオフ!クーリングオフ!8日間は返品可能なはずだ!それに、まだ私は婚姻届も書いていないし判子もおしていなければサインなども全く無し!」

「今の会話、ジオンや連邦に流します?当然、つながりつくってありますけど?放って置かれた分、色々やらせていただきましたし、あなた自身の目的そのものをどうこうしようとしないかぎり、わたくしたちも結構、自由に動けますでしょ?」

 白旗を揚げました。もう駄目です。ゴメンナサイ。そんなことされたら月に帰ったら絶対に血を見ます。絶対に月を舞台に大戦争で収拾がつかなくなります。畜生、この女性、こっちの弱みを知っている……

「我が太洋重工にようこそ。専務のミツコ・イスルギ……明日からはミツコ・ミューゼルが対応いたしますわ。ミューゼル少将閣下」

 別世界最大最悪の死の商人、イスルギ重工の社長、現在は太洋重工の専務はそう言ってのけたのである。



[22507] 第18話[R15]
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/10/30 21:24
 おはようございます、皆様。新婚生活を満喫しているミツコ・イスルギ……ミューゼルです。

 現在時は宇宙世紀0079年10月30日朝6時。朝6時の連邦軍樺太基地ですの。隣にいるのはこの基地の司令で連邦軍のMS開発を取り仕切っている夫のトール。つい先日、お得意様から夫に変更いたしましたの。意外と体、逞しいところは評価出来ますわ。

 10月12日に約束を取り付けた?私は早速連邦軍のゴップ大将に報告すると一緒に、結婚の根回しと問題にならない様に手はずを整えていただけるなら、連邦議会のグリーンヒル派に献金させていただくことを確約してあげましたの。ゴップ大将にはとても喜んで頂いた上に、せっかくの慶事に戦争のため、お祝いにいけないことを御詫びしていただきました。

 軍需企業の専務が、連邦軍の軍需関係の方と結婚なんて問題がありませんこと?なんて水を向けてみますと、軍需関連企業は何社もあるから、早々独占に近いことをしなければ大丈夫じゃよ、と太鼓判を押してくれました。

 それからが大変でしたの。連邦軍の方々から次々にお祝いの連絡が舞い込んできまして、わたくしと言うものを射止めたトール・ミューゼルという名前は、連邦財界に広く知れ渡ることになりました。夫は頭を抱えていましたけど、名前が大きくなれば影響力も強まりますし、面倒だったら他の名前に変えたら?と言ったところ頭を抱えてうんといってくれましたわ。

 副官のカトル少尉さんが、「それって、うんうんうなりだしたの間違……」とか言い始めましたので、にっこり笑顔で銃を突きつけるとおとなしくなってくれましたの。流石夫の副官。空気を読む能力は夫以上ですわ。以後仲良くしてくださいましね?

 財界に与えた影響力が大きくなったこと、連邦軍の技術関連の部署とつながりが明確になったことで、軍需の世界で我が太洋重工の先行きは明るくなりましたの。それに、夫に関わっていけば、後々火星や他の天体のテラフォーミング市場にも食い込めることは確かですし、木星での行動も自由です。宇宙の軍需を仕切る夢も、いいえ、それだけではなく、宇宙に冠たる大企業になるのも、この世界なら適いそうですわ!

 あ、そうそう。ジオン側に現地妻がいるらしいですが、先に既成事実を作ったほうが勝ちなのは何処の世界でも変わりませんの。まぁ、夫の顔もありますし、わたくしよりも先に夫と関わっていた面もございますから、週に4日は譲って差し上げてもかまいませんとはおもっていますけど、順番は守ってくださいませね?あと、ふさわしい人間かどうか、調べさせていただきますわ。まぁ、出る杭は叩けともいいますでしょ?

 話がまとまりましたので、早速札幌郊外に待機させておいた、武装エレカを小樽港から樺太に向けて積み出しましたの。勿論、千歳空港に待機させておいた社のミデアでも並行して輸送させましたわ。おかげで、樺太基地には移動式の有線対MS用ミサイルランチャーを装備した高機動車が多数配備され、我が社が開発させておいたジム用ビームライフルを運ばせたところ、不思議なことにジム・コマンドとかもうします新型の電力供給口と規格があいまして、ビームライフルの運用が可能になりましたの。全く不思議ですわ。

 これには夫もびっくりでしたわ。まぁ、ジム用のビームスプレーガンを見ておりますから、どんな規格かは存じておりますし、樺太にはたくさんのお友達がおりますから、そのお友達から伝えてもらいましたことも中には入っておりますが。おほほ……そんなスパイだなんて。婚約者の素行調査なんて普通ですわよ?

 あ、そうですわね。話がそれましたわ。13日には樺太に入りまして、夫の部下の皆様に自己紹介をさせていただきましたところ、皆様にはびっくりされましたわ。一昨日には何もなかった夫の指に、銀色の指輪が光っているんですから。……別に変なものなどついていませんわよ?そんなものをつけるなんて趣味を疑いますわ。だって、わたしの指にも同じものが光るんですのよ?



 第18話



 ベッド脇で下着姿でどこかを向いてしゃべっているミツコさんをおいて服を調え部屋を出た私は、明後日に迫ったジオン軍の攻撃をどうするかを考えざるを得なかった。というよりも、そちらに無理やり思考を向けていたと言っても過言ではない。やっぱり黒か、という感想もおいておく。

 ……まぁ、抱えていた生理的な問題には解決がつきましたけど。

 実際、賢者モードとは良く言ったモノである。落ち着いて考えてみると、MSばかり考えていて、それ以外で可能な対策の方まで頭が行っていなかった。太洋重工からミツコさんが持ち込んだ車両群は、移動式の対空砲や対MSランチャー、対空散弾など、防空用に数がほしいものばかりだった。ここのところ、どうやら前々からこちらのことを監視していたらしいと推測できたが、やはり恐ろしいと思わざるを得ない。こちらの見落としを上手く塞いでくれている。

 ……まさか、あの言葉どおり、本当に夜があんなことになるとは思いもしなかったのだが。専務業でストレスがたまっているのだろう。痕が残っていなきゃいいけど。ミツコさん、半袖チャイナなんて好んで着るから、扱い難しいのに。

 頭の中の桃色パウダーをどうにか振り払い、ジオンに戻った時にどうするか、恐らく確実に待っているだろう地獄を想像しつつ司令室にはいると、かなり微妙な表情で部隊の方々が迎えてくれた。

「少将!うちと同じく今日も元気にヤ……ブッ」

 とりあえず、空気を読まないことこの上ないパトリック・マネキン中尉を基地司令とクロスボンバーしたところで会議を始める。どちらがネプチューンマンでどちらがビッグ・ザ・武道かという問題もあるが、今は如何でもいいだろう。撃墜されても帰ってくるのだから、肉体言語ぐらい如何と言うこともあるまい。

 連邦軍が確保しているアンカレジから南下して陸路バンクーバーを経由してキャリフォルニアベース近くに入ったスパイ(バイオロイド兵)からの報告(量子通信)によると、ヒープ攻撃隊は、明日10月31日の夜にキャリフォルニアベースを出発し、11月1日払暁、樺太に対する攻撃を開始するとのことだ。

 輸送距離が長いため、ガウの強みである爆弾投下は、その分を推進剤にまわしているそうだから心配する必要はないとのこと。但し、翼におさめられたメガ粒子砲は脅威だ。上空から砲撃してくるメガ粒子砲対策を話そうと思っていたら、現実に帰ったらしいミツコさんが入ってきた。流石に連邦軍の制服だ。

 恐ろしいことに彼女、連邦軍の軍籍まで確保していたのである。階級は中佐。

 階級をおそろいにしたのに、すぐ離されるなんて思いもしませんでしたわ、とか言っていたが、絶対に嘘だ。あの目は完全にこちらが将官になることを見越していた目だ。将官には当然参謀が複数名つくから、その中の一人に居座ることを考えていたことは間違いない。

 そこまで考えてホッと胸をなでおろした。今のところ参謀役になってくれる女性士官は既婚のマネキン准将のみ。他に佐官で女性の参謀待遇の者はいない。MSパイロットやオペレーターに女性は多いが、彼女らとは働く場所が違う。

「二号さん以降には必ず面接をさせていただきますわ」とか言っていたが、面接する前に絶対に何かをする気なのは明らかだ。何でこんな事まで心配する羽目になっているんだ。

「大丈夫ですわよ?メガ粒子砲については解決済みですわ」

 へっ、と顔を上げた。

「持ち込んだ対空砲の砲弾に、撹乱幕散布用の砲弾も用意しておきましたから、上空からの砲撃については無視してかまいませんわ」

 なんと用意のいいことで……呆れた視線をミツコさんに向けるが、他の列席者、特にMSパイロットたちはため息を吐いて感心している。おいおまえらだまされるな。この女性について今抱いた思いは思考の誘導を受けているぞ!

「あとは地下搬入口ですわね。潜水艦の使用予定がないのでしたら、防潜網を仕掛けた上で機雷源にしておきましょう。今から時限式に仕掛けていけば、戦闘が終わったあたりで自爆してくれますし。基地内に入らないように色々細工も出来るでしょう?」

 ため息を吐いてイスに深く腰掛けた。どうやら、私は完全に頭がいかれていたらしい。こんな簡単な対策すら思い浮かばないようではおしまいだ。かなり、アムロ准尉との戦闘や、肉体的欲求がたまっていたりと、負担となっていたらしい。かなり落ち込む。ミツコさん、あなた優秀すぎます。

「司令官は方針を定めてどっしりと構えるものですわよ。こんなアイデア、出した所で実戦に役立つかはわかりませんもの。やっただけ、変なことが起こる可能性もなくはないのですし」

 気を入れ替えるべきか。

「確かにそうだな。撹乱幕を上空に散布してしまっても、風で流されるから継続して打ち上げる必要がある。それに、上空に散布すると言うことは、こちらも基地内での戦闘でビームライフルの使用が制限される。後期型じゃないガウでの降下だから、陸戦用MSにドムがいない。けど、もし海中からゴッグが上がってくれば、対抗策が少ない」

 ミツコは良く出来ました、とうなずいた。

「MS戦闘用のバズーカはホワイトベースに格納してある分だけですの?基地にはあります?」

 ネイズン技術少尉が口を開いた。

「あるにはありますが、ゴッグの装甲を考えると有効な打撃かは微妙なところです」

「ガンダム用ビームジャベリンの規格を手直しして、ジム用に変更してありますので、ある程度、距離を以て有効に戦えるとは思います」

 そう発言したのはテム・レイ技術大尉。10月15日付で、正式に樺太基地配属のMS開発研究課主任を拝命していた。実際話してみると、サイド7からのガンダムの運用に深く関わってきただけでなく、父親としてアムロの相談にも乗っていたようだ。

 テレビ版などでは技術にのめりこんで家庭を省みない父親として描かれているが、そもそも戦争を前にした軍隊でそんなあまっちょろいことを言ってはいられない。開発に役立つ人材がいるのなら、予算と権力と肉体の限界が許す限りこき使うのが基本方針だ。

 しかし、一旦開発され、しかも開発施設が襲撃を受けて使い物にならなくなり、脱出した先の船でやることなどMSの整備ぐらいしかないとくれば、当然メカニックである以上、パイロットと多く接する機会を持つようになる。技術士官であるとはいえ、軍人である以上は軍人としての教育を受けているわけで、戦争と言う事態に放り込まれたアムロを精神的に支えてくれてもいるようだ。このあたり、テム・レイの性格と言うのは、ほとんどが酸素欠乏症に陥ったところか、仕事に疲れてストレス満杯のところで印象が構成されているのかもしれない。

 勿論、日本に来たことで母親のカマリア・レイとも再会し、無断で軍に入れたテム・レイを責める一幕もあったが、懇切丁寧に国際法と戦時法を説明すると、納得はしていないが、仕方のないことだったとは理解してくれたようだ。

 あとは本人の気持ち次第なのだが、下手に面倒見の良いヤザン少尉が面倒を見、怪我から復帰したライラ少尉が戻ると、原作でマチルダ・アジャンに向けた恋心をライラに向けよった。好きな人、助けてくれた人が戦うから、戦う、とある意味純粋に戦いに向かっている、ということは良かったのかもしれない。

 というか、完全にシアトルで敗北した理由はヤザンの訓練の結果だろう。UC最強のオールドタイプがUC最高の素質を持つNTの一人に訓練を施せばそうなる可能性は高い。まさか、早々にそうなるとは思いもしなかったが。とかなんとか思いながらアムロを見ると、先ほどからミツコさんに視線が固定されている。何処を見て……ブッ!?

「とりあえず、このぐらいで会議は散会しよう……」

「ジャベリンの方はどうします?」

 話をはぐらかされた格好になったテムがたずねる。いやおじさん、僕それどころじゃないんです。

「それは大尉の好きにしてくれて良い。相性の良いパイロットがいたら持たせてくれ」

 それだけ言うと司令室からミツコさん以外の人たちを追い出す。アムロ君が名残惜しそうにこちらを見ていたが、とりあえず無視だ無視。

「どうしましたの?そんなに慌てて」

「スカートの裾から見えている。中佐、コレからは冬になるから、ジャケットとロングパンツにした方がいいな」

 そう言われるとミツコさんも気づいた様で、かなり顔が赤くなっている。こういった反応は、あの会話から感じられるようなどす黒い雰囲気は感じないから、女性と言うのはつくづく怖いと実感させられた。

「准尉がジロジロ見ていたのはそういうことでしたのね。興味があるのかしら?」

「少なくとも、『密会』や『ハイ・ストリーマー』にはそう書いてあったな」

 ミツコさんはそう聞くと声を立てて笑った。

「変なことばかり覚えていますのね?でも嫌いでなくてよ、そういう記憶力は」

 手に終えんと手を上げた。あ……ちょっと……ココ……




 なんか、桃色具合がかなり進行していないか、と思えて仕方ないが、何とか直前にジオンに顔を出すべく、10月30日、あの後で戻ってまいりました。

 そして、地獄の門がアイタッ!

 プラントに設置したパッシブジャンプゲートをくぐった瞬間、月面で待ち伏せていたハマーン&プル中隊に捕獲。強すぎるNT能力がもたらす思い出リーディング機能でプライバシーは破壊されました。

 しかも間の悪いことにシーマ艦隊および遊撃隊が帰還&休暇中。現在、会議室に入れられて、本来なら誰も入る事のない、机で囲まれたあのスペースで正座しています。

「弟と一ヶ月会っていなかったら結婚だと言われた」byバラライカ

「弟と半月会っていなかったら結婚だと言われた」byシーマ

「婚約者が一日離れていただけで既婚者になっていた」byハマーン

 あなたたちとは別に半月でなくとも通信で連絡は取り合っていたでしょうが、とか、ところでいつ僕はカーン家と婚約を取り交わしたのでしょうか?と内心では突っ込みを入れているが、流石に口には出せない。どんな事情であれ、通信で伝えなかったのはまずかった。と思ったら、内心リーディングをかましてくれたハマーン様が密告を開始。

 ……黙秘権はないそうです。

 但し、感じたことが100%相手に伝わるNT能力は、少なくともコミュニケーションの一手段としてはものすごい利便性があるなぁと感じました。だからといって理解にまで達しないのは、私がここで正座をしているのを見ていただければ理解していただけると思いますが。やっぱりNTになったからといって人が革新するとか言うのは嘘だよなぁ。

「ハマーンのリーディングで、お前にも若干の情状酌量の余地があることはわかった」

 なぜか上座に座っているソフィー姉さん。流石にシーマ姉さんも手が出せないらしい。

「まったく、進めていた計画が台無しだ。忙しい中をぬって準備を整えてきたというに」

「あれかい!?年齢がある程度はなれているのがいけないのかい!?」

 悪役っぽく(実際そうだが)笑いを浮かべるソフィー姉さんに、アラサーを気にして年齢の違いを思うシーマ姉さん。あのね、年齢なんて持ち出したら、僕今100歳超えてますけど?

「なんにせよ、今からの二ヶ月が大事だと言うことはわかっている。シーマ、ハマーン、いいな?」

 久しぶりに葉巻をくわえたソフィー姉さんの言葉に全員が直立不動で答えた。あ、ロベルタまで。おーい?張さん、あれみんなどうしたの?おめめをそらさないでよ。ぼくのせいじゃないよ?

「この件は一年戦争後に棚上げだ。戦争が終わった後で、泥棒猫と一緒に心逝くまで話し合いをしようじゃないか」
 
 首をものすごい勢いで縦に振る列席者たち。字が違うような気がしてならない。

「でもねぇ、お前たち。男はそう言う生き物さ。タマっちまえばツっこむしかない。こいつは頭が回るし、女性の趣味もなかなかだから、さぞ期待できる女傑だろう。楽しみで仕方がない!そうだな、軍曹!」

「はい、大尉殿!」

「トール」

「イ、イエッサー、マイシスター……」

 今の彼女に逆らってはいけない。私の持つ弱いNT能力でさえそう感じることが出来る。……ああ、時が見えるとはこういうことか!?……飛んでくるのがこの3人とか、シュールすぎる。

「そいつがどういう奴かは良くわかった。こちらも対策を取らさせてもらう」

「ヤー」

「シーマ、手伝いな!ハマーン、捕虜の尋問任せたよ!」

 恐ろしい事態になってしまった……どうしよう。


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 キャラがどういう人間を知るのかに、google様の助けを借りることが読者の皆様には多いかと思いますが、お付き合いください。



[22507] 第19話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/10/30 21:21


「全く、戦略目的の重要性はわかるが、新型の集中配備を受けた基地への攻撃など、悪夢だ」

 私の名はユライア・ヒープ。ジオン公国地球攻撃軍中佐。現在、キャリフォルニアベースから出撃したガウ攻撃編隊を率いている。敵新型機の集中開発を行っている工廠兼基地への攻撃。現在、地球各所で連邦軍が投入して来たMSの攻撃を受けている身としては、攻撃の重要性は理解している。

 最初は4月。アジア戦線で、胴体部に明らかにザクの影響が見られる、120mmライフルを装備した機体を確認。連邦軍呼称ザニーというそれは、明らかに連邦軍のザクそのものだった。

 このザニーは続々とその数を増やし、ハワイ諸島攻撃作戦では、連戦連勝を重ねてきたジオン軍を初めて後退させる役割を果たしている。私も作戦内容を確認させてもらったが、習熟したとは言いがたいものの、明らかに歩兵戦術の影響を受けた運用を行っている。

 悪夢だった。連邦軍がMSの運用を始めたと言うことは、連邦軍が我々と同じ土俵に位置したことを示す。旧世紀以来、戦場で最終的に幕を降ろすのは歩兵。MSは、宇宙世紀における歩兵として位置づけられる。ドムなどは戦車に近い運用をされているが、私はむしろザクの集中配備を望んでいた。少数の戦車があっても、多数の歩兵には叶わない。特に山岳部の多い地域では、ドムの特性が殺されるからだ。

「中佐、航行状況正常。上手くグライダー部隊もついてきてくれています」

 マヤ・コイズミ大尉の報告にうなずく。ガウ6機、およびマットアングラー級潜水空母1隻と、ユーコン級潜水母艦「6隻」がこの攻撃隊のすべてだ。キャリフォルニアベースのガルマ派をたきつけることで作戦計画以上の戦力を確保し、潜水艦隊をドライゼ少佐に預け、使える伝手を使うだけ使い確保した部隊を乗せている。MIP社やツィマッド社の新型も、降下スケジュールの調整の際に書類をごまかして確保させた。

「ガルマ・ザビ大佐の仇討ちとは名目だが、キシリア閣下も張ったものだ」

 私は苦笑する。キシリアに嫌われて死地に追いやられたはずだが、あの女性、こちらの能力は評価してくれていると言うことか。いや、実際引き抜いた部隊にはギレン派のものも含まれている。キシリアにとっては兄の持ち駒を少しでも減らすいい機会と言うわけか。

「現状、撃てる手は撃った。コイズミ大尉。当機搭載の新型は使えそうか?」

「ヴィッシュに聞いてください。まぁ、彼のことですから問題なく扱えるとは思いますが。しかしなんです?出撃前に無理やり三番機に乗り込んだあの部隊。三番機の乗員といさかいを何度も起こしているので、機長のダロタ大尉から中佐に一言求められています」

 ユライアは少し考え、言った。

「あの部隊の回収は考えなくて良い。ダロタ大尉には敵地に棄てるつもりで良いと伝えてくれ。まぁ、あと数時間の我慢だ」

「了解しました」



 第19話



 UC0079年11月1日朝5時、樺太基地に対するジオン地球攻撃軍の攻撃が開始された。

 定石どおりと言えば定石どおりだが、最初の攻撃は基地に対するユーコン級のミサイル攻撃から始まる。襲撃をある程度予想していた樺太基地側では、地上施設の要員を最低限度にした上で、MSなどの機体を地下に格納していたため、このミサイル攻撃では施設に被害を受けた以上の混乱は生じていない。

 施設に対するミサイル攻撃が一段落すると、海岸近くに待機していたらしい水陸両用MS隊が上陸を開始した。まず、水際での戦闘が始まる。

「ラリー、アニッシュ!15分後から上空に撹乱幕が打ち出される!ビームライフルの使用はそれまで!ラリーは90mmマシンガンに切り替えろ!アニッシュ!バズーカの準備!」

「了解!」

「了解!」

 隣の掩蔽壕を見ると、こちらと同様に水際に向けてピンク色の光が走る。カジマ小隊の攻撃だ。上陸第一陣は予想通りゴッグ。装甲とメガ粒子砲の火力でこちらをなぎ払い、後続の上陸を容易にしようと言うのだろう。しかし、今回はこちらにもビームライフルがある。

 上手く集弾したらしいビームライフルが二条、ゴッグ腹部のメガ粒子砲の発射口に直撃。ゴッグが爆散する。やったと心躍らせた瞬間。

 連続した爆発を前に機体をさらに屈めさせ、同時に上に向かってシールドを構える。見た事もない大型機。円盤状のそれは空中を浮遊し、こちらの火線を器用に避けながら、連装2門左右2基、上下共にそろえられた合計8門のメガ粒子砲を連続発射。あれが情報にあったMAとか言う奴か!?

「クソッ!頭を上げられねぇ!」

「耐えろ!後方から援護が来る!」

 そう言った瞬間、MAに直撃弾。流石に大きく揺さぶられ、メガ粒子砲の発射も止んだ。今がチャンスだ。

「後退、後退、後退!エイガー中尉のマドロックとクリス中尉のシュッツバルトだ!援護砲撃で脚を止めている間に第二線に退避!」

 掩蔽壕を抜け出し、敵へとシールドを構えながら後退を開始する。後退をみてチャンスと判断したらしい後続が上陸を開始。茶色の機体が数機上陸し、こちらにロケット砲を向けてくる。機体の中に、援護射撃に頭部のロケット砲を向けた機体も。

 そのうち一機がいきなり爆発した。通信が入る。

「こちら試験中隊のディランディ!ただいまから135mmライフルで狙い撃つ!今のうちに後退しな!」

「すまん!全機後退!後退だ!」

 上空に爆音。どうやら、敵潜水艦隊の支援攻撃が始まったようだ。水際で抑えきることは出来なかった。予想通りだが、やはり悔しい。

 マット・ヒーリィ中尉は次の防衛線へ向けて機体を走らせた。




 降下したジオン軍を迎え撃つべく私、トール・ミューゼルは出撃した。プラント警護をレイヤー小隊。地下艦船ドック区画はホワイトベース隊、ヤザン、ライラのペアに任せている。水際にアッザムの出現を確認したため、本来中隊は8機で構成されるはずだが、ロックオンの狙撃仕様ゲシュペンストを向かわせた。ネオ少佐のゲシュペンストとバニングの第4小隊は司令部建物近くで総予備だ。

「前線への火力任意投入に、アッザムはやはり脅威だな」

 気持ちを落ち着かせながら操縦桿を握る。この世界に来てから三度目の出撃だが、前回の反省を踏まえ、兵器に対してこれ以上ないほどに詳しいミツコさんの手助けを借り、この機体を用意した。

 ガルイン・メハベルが搭乗した、PTX-002ゲシュペンスト・タイプS。エンジンはプラズマ・リアクターからオルゴン・エクストラクターに換装し、ジオン側で使用しているゲルググRFと同様の仕様としている。但し、こちらは完全に単体突撃仕様。というよりも、生残性を最大限度、ゲシュペンストと言う枠で追求した結果がこれだ。

 既にこれだけのバタフライ効果を見せているこの宇宙世紀でまだ未熟な私が生き残るためには、こうしたものに頼らざるを得ないのが悔しいが、目の前に敵が迫った今となってはそうも言ってはいられない。

「ポプラン中尉とウィスキー隊は北部防衛線を死守。地上側からプラントに絶対に敵を入れるな。ネオ少佐、マネキン中尉は戦線各所の火消しを頼む。あまり性能は見せつけてくれるな。勿論、仲間を助けるためならかまわない」

 オレンジとライトグリーン塗装のゲシュペンストが頷く。両機ともにテスラ・ドライブ装備の空戦対応型だ。戦線の火消しに高速移動するにはもってこい。

「私はガウを叩いた後、降下した敵MSを迎撃する」

「「「了解!」」」

 コンソール脇にこちらを見るミツコさんのウィンドウ。少しほほえましくなり、指でそっとつついておいた。やはり自分がセッティングした機体が気になるのだろう。

 このゲシュペンスト・タイプSは単機突入型のため、接近戦用の武装が充実している。左腕にはワイヤーアンカー、右腕にはパイルバンカーを搭載し、背面腰部には高出力ビームセイバーを、通常型のビームサーベルも両膝脇と両腕下部に合計4本装備している。生残性向上のために重装甲化したが、発生した重量をテスラ・ドライブで打ち消しているのでドライブ起動時の重量は40tにまで軽減される。これだけの重量に抑えられれば、戦場での運動性は桁違いだ。

 射撃武器は腰脇に装備された短砲身ショットガン二挺のみ。オルゴン・エクストラクターがオルゴン・クラウドとフィールドを発生させてしまうため、今現在使用可能なビームライフルではフィールドと干渉してしまい、使えない。遠距離攻撃、中距離攻撃にはフォトン・ライフルを装備予定だが、当然現在は使えない。両軍共にビーム兵器が充実し始めるソロモン戦あたりでないと厳しい。

 ガウの迎撃を行うために前進していたところ、基地北部からこちらに向かう陸戦用MSの群れをまず確認。ザク、グフと言った、歩行型が多く、基地に向かうにはまだ時間があるようだ。元々黒系の塗装であり、ミノフスキー粒子の濃度も濃いため水際を移動し、内陸部を地形伝いに移動するMS隊との接触を控える。上空に轟音。ガウだ。

 ヘッドカメラをガウの編隊に向けると、後部に何かを曳航している。空中をワイヤーでつながれているらしいそれは、私がいた時代でも目にした事があるし、軍事関係の本でも見た事があるグライダーだ。

「そういう手段でガウを使うか」

 やはりユライア・ヒープ中佐は頭が切れる。爆弾をつめなくてはせっかくのガウの持ち味を殺すことになるが、機体の内部は推進剤を入れるだけでスペース的にかなり厳しいことになる。となれば、外部にスペースを確保できないかと考えるのは当然だ、と言うわけだ。

 望遠カメラをさらに向けると、どうやら、機体ごと基地に突っ込ませるらしい。後部にジェットかロケットの噴射口を確認。機体下部に爆弾倉も見えるから、途中で切り離して基地上空を滑空させ、小型か中型爆弾を投下する形。最後に期待を適当なところに突っ込ませる、か。こんなことを良く思いつく。

 当然そんなことを戦闘中のMS隊の上でやられてはたまったものではない。

 前の方を見ると海に突き出し、小高くなっている岩塊が見えたため、あそこを足がかりにして上空へ向かおうとしたとき、周囲の砂浜に連続した爆発が起こった。

「ふははははははっ!連邦の新型かっ!このイフリートにふさわしい相手のようだな」

 は!?ニムバス!?あいつがこの作戦に参加するなんて聞いていないぞ!?それに、いつの間にイフリートが開発されている!?

 叫び声と共にニムバスの後方の砂丘から、同型2機がジャンプして迫る。脚が太い。ホバー機か!装甲がグフと変わらないだけ、ホバーを追加してもガウに積み込みが出来るようになったか!本来ならガウにドムを積もうと思ったらペイロードの計算が複雑になるのをイフリートで避けたのか!

「量子レーダーに他に反応無し。ホバー機だから砂浜を移動してきたのか……クソっ!」

 こんなところでこいつらの相手をしている時間はない。ガウが基地上空に差し掛かる前に迎撃する必要がある。フットレバーを思い切り踏み込むと、イフリートとの距離を一機に詰める。EXAMが開発されていないから、通常機のはず!

「ふっ、単機で前進して来た意気は買ってやる!」

 ニムバス機と僚機が前進。ホバー走行でこちらの両側に回ろうとする。両手には白熱していないヒートソード……ナハトのコールドソードか!?

「キシリア様の下に、また一機屍を積み上げる!」

「たわけたことをっ」

 テスラ・ドライブ起動、接近戦用パイルバンカーを地面に突き刺し、その場で回転。右腕は腰のビームセイバーに伸ばし、その場で回転した。

「大型の……ビームサーベル!?」

「少佐ぁ、あ、あ、ああああああっ!?」

 一機撃墜。ニムバスの方はホバーを最大限に吹かし、背部のスラスターも使って上空に上がる。周囲に連続した着弾。後方のもう1機が脚部のミサイルランチャーを一斉発射。弾薬が切れたのか、その場に投棄した上でこちらにショットガンを構えて向かってくる。

 ニムバスに向かって上昇。ニムバスがこちらに向けてコールドソードを構え、下のもう1機がこちらにショットガンを構えた所で砂浜深く打ち込んでおいたワイヤーアンカーを巻き取る。上昇を無理やり抑えてもう一度地上に。上に向けてショットガンを射耗したイフリートにパイルバンカーで止めをさす。

 最初に撃墜した一機が取り落としたコールドソードをつかみ、手に取る。ミツコ・イスルギが入力したFCS、火器管制システムは彼女いわく、「Fを抜かした方が合ってますわね」とのこと。この管制システムの素晴しいところは、戦場で奪った敵の武装も使用できるところにある。おかげでマニピュレーターの反応度が尋常ではない。綾取りどころかピアノさえ弾きかねない。

「敵の武装をつかえる機体か。面白い」

 ガウに向けてジャンプする際に使おうと思っていた岩塊に立ったイフリートから、ニムバスの声が響く。あれか、なんとかは高いところが好きとか言う奴か。クソ、この機体、反応の度合いが尋常じゃない。こちらの頭の振り方まで追従してくる。

「先ほどからこそこそちまちまと動きおって……馬鹿にしているのか!?」

 ニムバスがこちらに向かい、バーニアを全力にする。高速。しかし、この機体最大の秘密はこれからだ。黒歴史コードから抽出したモビルトレースシステムを、Evolveで描かれたサイコ・ニュートライザーに応用。第3期MS、マン・マシーンが実現したオールドタイプでも可能なサイコミュ制御技術を使っての、負担なき、人間そのままの動作を実現する操縦システム。

 アームレイカーを通じた接触入力システムと、一連の操縦動作は脳波コントロールとトレースシステムによって、脳がそうであるべきと認識している動作を実現する。その機能のほとんどを機体の制御で完結させているため、他機体の乗っ取りやサイコミュ兵器のジャックこそ出来ない(目的としていない)が、脳内での思考訓練、本人の想像力次第ではどのようにも動かせることが最大の特徴だ。

 だからこそ先ほどのように人間としての癖が出る。貧乏ゆすり、呼吸による胸部の上下運動、顔をこすり、ため息を吐くなどのすべての動作が再現されることになる。

 人間臭い動作に満ち溢れた機体。首を横に数ミリ動かし、腰や腕、肩の動き、地面に立ったときのほんの少しのからだの傾きまで。

 だからこそ、射撃という「道具の使用」の延長を得意とするパイロットこそ感じるところは少ないが、ニムバスのような「肉体の使用」の延長を得意とするパイロットは不快感を隠せない。自分がMSに乗り込んで対している相手が、本物の肉体同様に機体を動かせるが故に、無意識下ではMSではなく、「鎧を纏った人間」と感じてしまうのだ。それが、言いようもない不快感を生じさせるらしい。

 ニムバスの突進を人間同様の動きで横に避けると、トールはちょうど脇に来たコクピット部分に向けて、降ろしていた腕を振り上げた。手に、コールドソードを持ったその腕を。

 次の瞬間、腰断されたニムバスのイフリートは地に崩れ落ちた。



[22507] 第20話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/10/31 14:30


「タイプS、敵モビルスーツ3機を撃破!そのままガウ攻撃空母編隊に突入!」

 オペレーターのモーリン・キタムラ伍長が報告する。現在、ミノフスキー粒子の散布濃度が高いため、司令部屋上の超望遠レンズで捕捉した敵情報が、部隊からの有線連絡回線以外で得られる唯一の情報源だ。但し、ゲシュペンストに搭載されている量子通信システムはミノフスキー粒子の影響を受けないため、戦闘データがリアルタイムで届いている。

「S型が再度の敵攻撃を抑えている間に戦線を整理!あと2分もすれば、敵陸戦MS部隊が基地北部からやってくるぞ!」

 基地司令のカティ・マネキン准将が矢継ぎ早に命令を下す。当初、シナプス大佐らから「トロッター」を発進させ、砲撃戦に用いるよう具申があったが、敵戦力で迎撃可能なものがガウしかおらず、敵の砲撃戦力はガウよりはむしろ潜水艦と判断したマネキンがそれを却下した。

 現在、樺太基地は港湾部から上陸した水陸両用MS隊が港湾部に併設されている倉庫群を舞台に、アッザムの支援を受けて火力戦を展開中。まだ戦闘は始まったばかりだ。

「基地北部で閃光!ウィスキー隊、戦闘に入りました!」

 カティは頷いた。ゲシュペンストで編成されている北部はあまり心配していない。性能は彼女自身知っている。操縦している人間の技量も。それに、北部から回ってきた二機のゲシュペンストが効果的な援護をしているから、倉庫群の戦闘もそれほど激化はしていない。装甲のあるゴッグは、やはり現状許されている装備である、ディランディ中尉の135mmスナイパーライフルでは、貫通できない。間接部やモノアイ部分を狙って狙撃してもらっているが、そもそも建物が立ち並ぶ倉庫を縫っては射線の確保が難しい。

「マネキン中尉機、被弾!敵ゲルググ、3機が突入!」

「戦線の脇を抜けてきたのか!ウィスキー中隊は……」

 そこまで言ってマネキンは凍りついた。量子通信システムにより、マネキン中尉―――パトリック・コーラサワー機のカメラが捉えた映像がココには届いている。そのゲルググに描かれたエンブレムは、眼帯付の髑髏。荒野の迅雷、ヴィッシュ・ドナヒュー機だ。しかも、事前情報にはないゲルググ用ビームライフルを装備している。

 戦闘がリアルタイムで流れ始める。陸戦用ゲルググ、しかも一部改造を受けた機体のようで、スラスターをうまく調整し、ホバー走行を可能にしている。牽制に腕に装備しているらしい速射砲をばら撒き、マネキン機を拘束すると一気に切り込み、蹴りつけて体勢を崩すとビームナギナタできりつけた。

「パトリック!」

 マネキンが叫ぶ。

「なんという装甲だ……連邦軍め、どんな装甲を開発したっ!」

「あぶねぇあぶねぇ、てめえなんぞにやられるかよっ!」

 装甲がビームナギナタの熱量に耐え切った様で、右首筋の部分から入ったナギナタが、人間で言えば鎖骨のあたりで止まったようだ。ナギナタが止まると同時にジェッツ・マグナムを打ち込もうとするが回避され、そのまま射撃戦に移る。射撃と回避の腕は確かだから、機体の性能もあれば……

 マネキンは其処まで考えてため息を吐いた。

「准将、大丈夫ですか?」

「ありがとう、伍長。オペレートを続けてくれ」



 第20話



 ガウ攻撃空母は2機を除いて撃墜を完了。アッザムを搭載し、発進と同時に退避を開始した機体と、指揮管制のために他の機体から離れ、密集しての絨毯爆撃体勢を整えていた4機からは遠い位置にいたため、バーニアを吹かすことでのジャンプ範囲内にいなかったのだ。推進剤の残量もあり、追撃はあきらめた。

 恐らく、その機体にヒープ中佐が乗っているのだろうが。

 気を取り直してタイプSを基地に向ける。空爆の危険は去ったが、降下したMSはまだ残っている。データリンクによるとウィスキー中隊の戦闘が混乱。機動力を生かして迂回したらしいゲルググへの対応に増援を向かわせたところ、戦線を突破されて混戦状態にもつれ込んだらしい。

 データリンクで得られた画像情報によると、エンブレムはCrossDimention0079で敵方として出る、囚人部隊ウルフ・ガー。それに、一機だけ、シールド・オブ・ジオン、ジオン共和国防衛隊所属らしいグフがいる。ヒープ中佐は、キシリアに嫌われている部隊で有能そうな部隊を根こそぎ動員して来たと思って間違いない。一部ギレン派らしい面子もあるところを見ると、有能だがザビ家からすると扱いづらい奴らをもって来たか。

 ここで今までの貸しをすべて取られかねないような気がしてならない。特に、まだ姿を見せていないシャアの部隊が気になる。ガウおよびユーコン隊が上陸したのに、まだ影すら見えていないのだ。

 そのとき。
 
 基地に向けて地上を走るゲシュペンストのカメラに、港湾部から立ち登る8つの筋が見え始めた。


「港湾部に第三波!新型です!」

 同時に爆発。敵の潜水部隊からの三回目の支援砲撃が始まったようだ。港湾部に隣接する滑走路、ハンガーを含む地域への攻撃。司令部近辺にも何発かの着弾。

「……なんだと!?」

 爆発を無視してマネキンは叫んだ。先ほど少将のタイプSが遭遇した部隊も、事前の情報にない新型だった。これは、襲撃作戦そのものの大筋はともかく、参加している戦力に関しては先入観を排除した方が良い。

「あっ!?」

「どうした!?」

 港湾部での戦闘を管制する、ノエル・アンダーソン伍長が叫んだ。

「アニッシュ!アニッシュ!」

「アンダーソン伍長、報告!」

 信じられない、絶望に満ちた表情でノエルは口を開いた。モニターに一面、大きな閃光が走るのがわかる。ここにいる誰もが知っている。あれは、MSの核融合炉が爆発をした閃光だと。

「アニッシュ機……爆発、撃墜……です」

「どうした!マット中尉、報告!」

 濃いミノフスキー粒子に邪魔されて聞こえにくいが、呆然と、しかし視線は敵の方から外さずにマットは答えた。

「敵……あれはズゴックの新型です!形状はズゴックに類似!続いて2機!ゴッグタイプ!」

「うわっ!ガッ」

「どうしたっ!」

 いきなり割り込んだ通信にノエルの顔がさらに青ざめる。

「ラリー少尉機、被弾……コクピット!」

「敵の新型だ!クソっ!ビンみたいな頭部!円形のシールド!見たことがない!」

 第2小隊フィリップ機からの報告。マネキンはかぶっていた制帽を取ると床に投げ捨てた。

「マット中尉、後退!後退だ!パトリック!バニング大尉!マット中尉の後退を援護!早く!ディランディ中尉は!?」

「無理です大佐ぁ!こいつら、離してくれません!」

「こちらバニング!滑走路入り口に到着!マット中尉たちが着次第援護を行う!」

「こちらディランディ!射線が通らない!クソ、またかよ!135mmじゃ無理だ!」

「報告!地下ブロックに赤いズゴックを確認!現在、ホワイトベース隊と戦闘に突入!地下搬入口より、水陸両用MSが他に5機!」

 カティは歯を食いしばると拳をコンソールに叩きつけた。敵の技量がこちらと違いすぎる!


 実際、カティ・マネキン准将の洞察は正しかった。技量そのもので言えば、MS開発当初より訓練を積んできたG-1部隊の実力は、連邦軍でも抜きん出ていただろう。恐らく、相手が出来るのは連邦軍でも、正面戦闘ではホワイトベース隊ぐらいなもので、それ以外であれば、数で押しつぶすしかない。

 しかし、当然の話だが、開戦当初よりMSでの幾多の戦闘をこなしてきたジオン軍は、兵員のMS戦闘に関する技量そのもので連邦軍よりもいまだ高い。そしてユライア・ヒープ中佐は、自身に敵対するものを排除したがるザビ家の習性を利用して、今回の作戦にドズルの後援を得、今回の作戦に参加した部隊の総合的な技量をさらに底上げすることで、作戦の成功、あるいは目的の達成を計画したのである。

 まず、今回動員されたドライゼ少佐率いる潜水戦隊は、ジオン潜水艦隊設立当初から、そして水陸両用MS運用当初からの部隊で、援護として展開したアッガイこそ補充兵だが、ゴッグに搭乗した兵員はすべて、操縦時間が400時間を越える猛者ばかりだ。

 第三派としてこの時、港湾部に上陸した部隊は特殊部隊サイクロプス。ハーディ・シュタイナー大尉率いるこの部隊は、水陸両用MSを用いた潜入工作作戦に長けており、今回、特にキャリフォルニアベースで改修したズゴックと、ツィマッド社より納品させたハイゴッグ2機をつけ、ゲルググに敗れた試作機ギャンを共に、上陸している。アニッシュ機を撃墜したのはアンディ機のハンドミサイルユニット、ラリー機を撃墜したのはミハイル・カミンスキーのギャンだ。

 戦果を拡張し、二機のジム・コマンドを撃墜して港湾部を制圧した彼らは、基地滑走路に後退するカジマ小隊とマット機を追撃し、侵入を開始している。現在、第4小隊(バニング)が援護のために前進中だ。また、地下搬入口近辺ではヤザン、ライラの第5小隊が、ホワイトベース隊と共にシャア率いるマットアングラー隊と戦闘を行っている。

 基地北部の防御砲台陣地では、戦線を突破されて陣地内部で混戦が継続。組み合わせはポプラン中尉のウィスキー中隊とランス・ガーフィールド中佐率いる囚人部隊だ。囚人だが、それを率いているのがMS部隊の教官職を勤める人物だけあり、短い期間で部隊を仕立て上げた。それに、囚人部隊と言ってもジオン軍である以上、MS戦闘の経験がある。

 そして、ここまで人事を尽くしてもおごる事無く、防御陣地を迂回して基地中心部をつく部隊に精鋭ヴィッシュ・ドナヒューの小隊をあて、その上にガウで爆撃を行い、問題児ニムバス少佐のイフリート隊を投入しようとしていたのだから、ユライア・ヒープ恐るべしだ。戦いは戦いが始まる前に勝敗が決しているというが、それをたがえる事無く、勝利への準備がおさおさ怠りない。

 しかも今回、トールが情報を得損なった理由は、キシリアに決して好かれているわけではないことをこれ以上なく自覚している中佐自身が、戦力をかき集める際に秘密厳守を徹底させていたからだ。キシリア機関が連邦にエルラン中将を確保していたように、連邦が絶対にジオン側に内通者を確保していることを確信していた中佐は、戦力を集める際に絶対にジオンを裏切れない人間を用いて集めてきていた。



「2機撃墜……アニッシュ、ラリー少尉機か……戦力の見積もりが甘かったか?」

 防御陣地へそのまま突入。後方から、前方のゲシュペンスト隊と射撃戦を繰り広げていた味方へバズーカによる援護を行っていたザク3機を始末する。内心は悔恨で一杯だ。優れたMSを揃えようと、一年戦争と言う舞台では限界がありすぎる。いや、違う。

「悩んでる暇はありませんわ」

 いきなりの通信。声を聞いた瞬間に何かが覚めたような感覚が生じた。現金なもんだな、男って。クソ、何か情けない。今の状況がわかっているのか、あのドヤ顔だけを見せて通信をきった。

 現在、前方で戦闘を行っているのはウィスキー中隊とグフ、ザク合計6機。流石に同数近くになれば支援の必要性は薄い。さらにグフ1機を背後から近づいてのショットガンでしとめた私は、司令部近辺で単機迎撃を行っているコーラサワーの援護に向かった。

「新手か!クソ、新型の動きが良く牽制されてしまったか!」

「よそ見してる暇はネェ!」

 コーラサワーのゲシュペンストが弾薬を撃ち尽くしたM950マシンガンを棄て、プラズマカッターを用いての近接戦闘に移る。

「ほぅ、思い切りの良いパイロットだ、しかぁし!クエスト伍長、やれ!」

「了解、待ってました!」

 陸戦用ゲルググ、ジョン・クエスト伍長機が何かを放り投げる。ザクにも装備されているクラッカーだが、手榴弾ではなく閃光弾であるそれは、薄暗闇の中での戦闘に慣れきった目には一番役に立つ攻撃方法そのものだった。

「うわっ、なんだよそれ!?」

「その目の良さが、命取りだ!」

 ゲルググで地上すれすれのNOE飛行を開始したドナヒュー機がコーラサワー機の懐に入り、両腕を斬り飛ばす。先ほどまでの戦闘で、コクピット周りの装甲が頑丈そのものであることを見抜いていた彼は、肘の間接部分を狙ってビームナギナタを振るったのだ。

「あ、ちっく……ゴッ」

 両腕を失い、攻撃手段を失ったゲシュペンストを蹴り飛ばす。蹴られたゲシュペンストは周囲の建物を破壊しながら飛ばされ、最後にはビルの破壊口にその身を横たえた。

「クソ、予想外に手間取った!」

 本来の目的である司令部を求め、周囲の状況を確認しようとした時、いきなり爆発が生じた。振り返るとクエスト伍長のゲルググのバックパックに、鉄塊らしきものが突き立っている。イフリート用のコールドブレードだ。

「ちゅう、イッ!」

 クエスト機のバックパックが爆発。味方機の誤射かと思った瞬間、ザクの通常装備となっているはずのMMP-80マシンガンが自分に向けて降り注ぐ。如何見ても誤射ではない。続いてミサイルの着弾。一部が崩れたハンガーの影から、先程まで相手にしていた機体と同型の機体が向かってくる。

「また新型だと!?」

「ドナヒュー中尉、先に!」

「いかん、クエスト!戻れ!」
 
 言った瞬間、先ほどまでの機体には装備されていなかった、腕部の杭打ち機がクエスト機の胸部に打ち込まれた。誘爆。アレでは助からない……

「クエスト!ええい、新型部隊だけあってやる!サイモン曹長、先に行け!」

「了解!」

 いかん!ここで司令部までやられれば、各個に撃破されかねない、しかし、荒野の迅雷では後ろを見せるわけにも行かない!即座にアンカーワイヤーを打ち出し、サイモン機の脚に巻きつけると右腕にビームサーベルを持ち、ドナヒュー機と対峙する。ビームライフルをこちらに向けた瞬間に動く。

「離せ!畜生!」

 アンカーワイヤーを巻き取り、サイモン機を転倒させるとジャンプしてサイモン機の直上に機体を回す。1発、ゲルググのビームライフルが直撃し、肩の装甲を一部溶かしたがそれは無視する。ゲシュペンストの胸部装甲が開き、ブラスターキャノンを発射。現状、ビグロのメガ粒子砲クラスの威力を持つそれは、ゲルググ程度の装甲など問題にならない。

 爆発。

「サイモン!ええい、一機ごとに武装が違うか!」

 ビームライフルを連射しつつこちらに迫るドナヒュー機。流石に相手をしている暇はない。ここまで北部の戦力が押し込めれば、後は撤退までの時間稼ぎをすればいい。こちらはさっさと地下に向かいたい。

 しかし、そんな思惑をドナヒューは許さない。途切れ途切れに入る通信から、基地北部からの戦力がほぼ壊滅状態であることを確認した彼は、ここで新型の南下を許すわけには行かないと判断していた。これだけの戦力を投入して確認した撃墜が新型2機(ウィスキー中隊から1機)にジム型2機だけ。それに対してこちらは既にガウ4機とゲルググ2機、ザク3機、グフ2機とイフリートを3機失っている。南部から侵攻する水陸両用MS隊もゴッグ2機、アッガイ4機を失っているのでは。やはり戦況は不利だ。

 どうするか、今の段階で、荒野の迅雷相手に接近戦を挑んで勝てるか?左腕を少しずつ腰のビームサーベルに向けて滑らせながら、いつでも右腕のパイルバンカーを前に突き出せるように体を動かす。こちらの思考を読み取ったゲシュペンストが、人間そのままの動きを再現していることに、ドナヒューは目ざとく気づいた。

「動きが滑らか過ぎる……操作や追従性に重きを置いた機体か、厄介な」

「厄介と思うならここで退いてくれるとありがたい」

「そうもいかん!」

 ドナヒューが動いた。シールドを背中に回すとビームライフルを連射しこちらに近づく。左腕にはビームナギナタ。

「真打登場ってね!」

 ビームサーベルとナギナタが火花を散らそうとした瞬間、連続した着弾。私とドナヒューは同時に機体を離す。通信、ネオ少佐だ。

「少将!お早く!ここは俺が抑える!」

「させん!」

 すばやくバックステップを踏んだゲルググがバーニアを最大出力で噴射。盾を装備した背面部からオレンジカラーのゲシュペンストに激突した。空中で体勢を崩すゲシュペンストに向け、ビームライフルの銃口を向ける。そのゲルググに連続した着弾が生じた。

「させませんわ!」

「それ……ダグラ……」

「ランドグリーズと言ってくれません!?」

 製造した覚えのない、ヴァルキュリアシリーズの一機、ラントグリーズが肩のリニアカノンを命中させたのだ。クソ、今の声からすると……

「ここは私とネオ少佐が抑えます。少将、さっさと地下に向かって!滑走路は第4小隊が敵を押し戻しましたけど、地下は苦戦ですわ!」

 ミツコ・イスルギ、如何見てもスリル感がありすぎる頭部ガラス張りコクピットによくもまあいられるものだ。感心する。彼女がPTの操縦技術をもっていたとは知らなかったが……

「それから!コクピットはちゃんと腹部にあります!頭部のこれはダミーとセンサー類ですのよ!」

 ああそうですか。ほんの少しでも感心したのが悲しくなってくる。ミツコさん一人ならともかく、ネオ少佐もいるとなればここは任せて安心か。

「たのむ!」

 タイプSのスラスターを吹かし、一機に離脱する。荒野の迅雷の機体を見るが、リニアカノンが命中した肩が大きく破損しているから、そう時間もかからずに撃退できるか、撤退に入るだろう。

 私は機体を地下区画への搬入口に向けた。



[22507] 設定集など(11-20話まで)
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/06 11:04

 UC0079年3月(11話)
 *エルランのスパイ行為が早々にモロバレしました!GP20000入手!
 *A.E社の軍需独占排除フラグaを建設しました!GP40000入手!
 *ニューヨークがジオン軍の攻勢を退けました!GP20000入手!
 *アリーヌ・ネイズンが加入しました!GP100入手!
 *永遠の(ry ダブルコンボ発生!GP10000入手!
 *ザニーの開発頓挫を回避、量産に入りました!GP5000入手!
 *ゴップ大将が加入しました!GP500入手!
 ★ 今回、他の連邦から加入した人員はまだ主人公につくかが不明なのでポイント化されません
 ★ 主人公の連邦での階級が大佐になりました!
 *RPの変換レートは100tです(50000P変換)


 GP288100 → 238100
  ・プラント設置:50000 地球、樺太にプラントを設置しました!地球・月・火星・木星間のワープが可能です!



 UC0079年4-7月(12話)
 *Lost War Chroniclesの発生フラグを潰しました!GP30000入手!
 *ヘリオン作戦が成功しました!GP20000入手!
 *ドロス級ミドロが完成しています!GP5000入手!
 *連邦軍MSの開発時期が前倒しされています!GP25000入手!
 *MS特殊部隊第3小隊が主人公勢力に加入しました!GP3000入手!
 *RPの変換レートは100tです(80000P変換)
 ★ 主人公の連邦での階級が准将になりました!
 ★保有戦力が以下のように変更されました。
 c)艦隊戦力
  連邦側艦隊
  ・ペガサス級強襲揚陸艦「トロッター」
   PTX-001RV ゲシュペンスト・タイプRV×1
   (メガ・プラズマカッター、M90アサルトマシンガン、リープ・スラッシャー、スプリットミサイル)
   RPT-007 量産型ゲシュペンスト×8
   (プラズマカッター、ジェット・マグナム、M950マシンガン、M13ショットガン。後にビームライフル)

  ・搭載外
   RGM-79[G] 陸戦型ジム×2
   RX-79G 陸戦型ガンダム×3
   RGM-79N ジム・カスタム×8
   RX-81ST ジーライン・スタンダード×3
   MSA-003 ネモ×6 

  ジオン側艦隊
  ・ザンジバル級「マレーネ・ディートリッヒ」
   MS-14Fs シーマ・ガラハウ専用ゲルググM
   OMS-14SRF(改) トール・ガラハウ専用ゲルググRF
   MS-14B 高機動型ゲルググ
   MS-14F ゲルググマリーネ×6

  ・ムサイ(後期生産型・カーゴ搭載)
   MS-14F×30

  ・ザンジバル級「ケルゲレン」月面
  ・ザンジバル級「インゴルシュタット」→ アクシズへ航行中


 GP 401100 → 334100
  ・ラースエイレム開発:20000 ラースエイレムおよびキャンセラーの適用が可能です!
  ・ムゥとマリューのおしどり夫妻:合計14000+成長性28000
  ・派生技術;サイトロン:5000 サイトロンによる操縦性向上修正を受けられます。

 UC0079年9月中旬(13話)
 *ガンダム大地に立つ!が妙な具合になっています!GP30000入手!
 *ルナツーでの活躍!巡洋艦3隻撃沈・撃破、MS2機撃墜!GP4000入手!
 *大気圏突入まで変なことになっています!GP15000入手!
 *RPの変換レートは100tです(80000P変換)

 GP 463100 → 168100
  ・重力制御技術b:80000 保有する機動兵器は、設定に応じ20Gまでの慣性を無視して行動できます!
   → +BPOG製造技術bで、テスラ・ドライブの開発が可能になりました!
  ・パイロット能力Lv.4:120000 カテ公ぐらいは活躍できます!
  ・対人関係掌握能力Lv.1:50000 思想的に近く、友好的なUC人物は、主人公を裏切らなくなります!
  ・登場人物3名:15000+成長性など30000 ネタバレになるため秘します。


 UC0079年9月下旬(14話)
 *シグ・ウェドナーが加入しました!GP5000入手!
 *ハマーンが壊れました!GP10000入手!
 *張維新の陰謀が進んでいます!GP12000入手!
 *ブラード・ファーレンが加入しました!GP1000入手!
 *RPの変換レートは100tです(80000P変換)
 ★保有戦力が以下のように変更されました(以後、変更があった側の戦力のみ記載します)。
 c)艦隊戦力
  ジオン側艦隊
  ・ザンジバル級「マレーネ・ディートリッヒ」(シーマ・ガラハウ中佐)
   MS-14Fs シーマ・ガラハウ専用ゲルググM
   OMS-14SRF(改) トール・ガラハウ専用ゲルググRF
   MS-14B 高機動型ゲルググ(デトローフ・コッセル)
   MS-14F ゲルググマリーネ×6

  ・ムサイ(後期生産型・カーゴ搭載)
   MS-14F×30

  ・ザンジバル級「ケルゲレン」(ブラード・ファーレン中佐)
   MS-14B 高機動型ゲルググ(ケン・ビーダーシュタット大尉)
   MS-14F ゲルググマリーネ×3(ガースキー、ジェイク、シグ)

  ・搭載外
   MS-14F ゲルググマリーネ×10(闇夜のフェンリル隊)

 GP275100 → 175100
  ・対人関係掌握能力LV.2:50000 友好的なUC人物は主人公を裏切りません!
  ・BPOG製造技術e:50000 アサルト・ドラグーン系の生産が可能になりました!


 UC0079年10月上旬(15話)
 *Cross Dimention0079の発生フラグを潰しました!GP10000入手!
 *第08MS小隊の発生フラグを潰しました!GP25000入手!
 *オデッサまでホワイトベースに関わることになりました!GP10000入手!
 *主人公勢力にホワイト・ディンゴが加入しました!GP4000入手!
 *主人公勢力にモルモット隊が加入しました!GP4000入手!
 *主人公勢力にクリスチーナ・マッケンジーが加入しました!GP2500入手!
 *機動戦士ガンダム外伝 BlueDistinyの発生フラグを潰しました!GP15000入手!
 *RPの変換レートは100tです(80000P変換)

 GP325600 → 105600
  ・パイロットLv.5:200000 シロッコぐらいは活躍できます!
   → 新規獲得特性として NT能力、GF能力、コーディネイター能力の三種類がオンになりました!
  ・NT能力Lv.1:10000 モンド・アカゲくらいのNT能力です。
  ・GF能力Lv.1:10000 ウルベ・イシカワくらいは格闘できます。


 UC0079年10月上旬(16話)
 *ガルマ・ザビを救出しました!GP30000入手!
 *ガンダムと戦闘し敗北しました!GP -10000
 *イセリナ・エッシェンバッハを救出しました!GP5000
  → +ガルマ救出で薔薇カップルコンボ発生!GP10000入手!
 *連邦軍のMS開発スケジュールが早まりました!GP20000入手!
 *RPの変換レートは100tです(10000P変換)

 GP170600 → 90600
  ・NT能力Lv.2:40000 エル・ビアンノくらいのNT能力です。
  ・GF能力Lv.2: 40000 ジェントル・チャップマンくらいは格闘できます
  △MS戦闘経験Lv.1:----- MSでの戦闘経験が一定段階に達しました!


 UC0079年10月中旬(17話)
 *ガルマの仇討ちに向かうのが荒野の迅雷です!GP20000入手!
 *ランバ・ラルのイベントが改変されています!GP20000入手!
 *シャアのジャブロー侵攻がなくなりました!GP30000入手!
 *主人公に太洋重工が完全協力状態になりました!GP80000入手!
 *RPの変換レートは100tです(10000P変換)
 ★保有戦力が以下のように変更されました
 連邦側艦隊
  ・ペガサス級強襲揚陸艦「トロッター」(シナプス、ヘンケン)
   PTX-001RV ゲシュペンスト・タイプRV×1(トール機)
   RPT-007 量産型ゲシュペンスト×7(ポプラン、ロックオン他)

  ・MS戦技研究大隊(G-1隊)
   大隊長:ネオ・ロアノーク少佐 量産型ゲシュペンスト(オレンジカラー)
   輸送隊指揮官:マリュー・ラミアス大尉
   整備班:アリーヌ・ネイズン技術少尉
   本部小隊:エイガー中尉指揮
   RX-78-6 ガンダム6号機 エイガー中尉
   PTX-004 シュッツバルト(改) クリスチーナ・マッケンジー中尉

   第一小隊:マスター・P・レイヤー中尉指揮(予定)
   RGM-79SP ジムスナイパーⅡ(レイヤー)
   RX-77D ガンキャノン量産検討型×2(レオン、マクシミリアン)

   第二小隊:ユウ・カジマ中尉指揮(予定)
   RGM-79G ジム・コマンド×3(ユウ、フィリップ、サマナ)

   第三小隊:マット・ヒーリィ中尉指揮
   RGM-79G ジム・コマンド×3(マット、ラリー、アニッシュ)

   第四小隊:サウス・バニング大尉指揮
   RGM-79G ジム・コマンド×4 (バニング、ベイト、モンシア、アデル)

   第五小隊:独立編成
   RGM-79G ジム・コマンド×2 ライラ・ヤザン両少尉

  ・搭載外
   RGM-79N ジム・カスタム×8
   RX-81ST ジーライン・スタンダード×3


 GP250600 → 165600
  ・専用機生成:5000 主人公が専用機をポイント生成しました!
  ・BPOG製造技術f:50000 ヴァルキュリアシリーズの生産が可能になりました!
  ・BPOG製造技術g:30000 パンプレスト地球側艦船・一般兵器の生産が可能になりました!
  ・対人関係掌握能力Lv.3:50000 友好的ですが、性格に問題があるキャラクターが裏切りません!
   → ポイント獲得キャラクター強化技術入手!開発によりレベルが向上できます!


 UC0079年10月末(18話)
 *ミツコ・イスルギが暴走しています!GP24000入手!
 *連邦軍の武装開発能力が向上しています!GP10000入手!
 *テム・レイが主人公勢力に加入しました!GP5000入手!
 *アムロ・レイの秘密の趣味が燃えて始めています!GP100入手!
 *レイ一家勢揃いコンボ!GP15000入手!
 *バラライカ、シーマ、ハマーンが何かを始めています! → 以後、GP獲得の可能性が生じます!
 *RPの変換レートは100tです(10000P変換)

 GP229600 → 129600
  ・ポイントキャラクター強化技術Lv.1:10000 獲得キャラクターの肉体能力が向上可能です
  ・ポイントキャラクター強化技術Lv.2:20000 獲得キャラクターの技能が向上可能です
  ・ポイントキャラクター強化技術Lv.3:30000 獲得キャラクターの社会的能力が向上可能です
  ・ポイントキャラクター強化技術Lv.4:40000 獲得キャラクターの精神的能力が向上可能です


 UC0079年11月1日(19話)
 *樺太基地に侵攻してきた戦力が凄まじ過ぎます!GP10000入手!
 *ニムバス・シュターゼンを撃破しました!GP5000入手!
 *MS3機を撃破しました!GP1500入手!
 △MS戦闘経験Lv.2:----- MSでの戦闘経験が一定段階に達しました!

 GP129600 → 146100


 UC0079年11月1日(20話)
 *ガウ攻撃空母4機を撃墜!GP3200入手!
 *アニッシュ、ラリー両少尉が戦死しました!GP-2000
 *パトリック・コーラサワーが撃墜されました!GP-1000
 *MS6機を撃墜!GP3000入手!
 △MS戦闘経験Lv.3:----- MSでの戦闘経験が一定段階に達しました!
 
 GP146100 → 149300



[22507] 第21話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/10/31 14:31

 何だこの施設は?前方からのジム隊の射撃を岩に隠れ避けつつ、シャアはもう一度状況を整理した。

 地下搬入口があるからズゴックで侵入を試みたが、搬入口という割には潜水艦ドックが申し訳程度にしか併設されていない。建設途中と言うなら、ある程度の建設機械があっても不思議ではないはずなのに、それもない。それなのに、装甲板に守られた戦艦ドックの方は充実している。遠目にも、三隻の木馬が見える。

 一体何なのだ、この施設は……?

 水路が港湾以上に深く引き込まれており、常に一定量の海水が基地の奥に供給される仕組みになっているようだ。冷却システムの一部かと判断したシャアは、この水路の奥にこの基地の動力炉があると判断した。

 そこで、ホワイトベース隊の迎撃を受け、今に至るのである。ガンダムだけではなく、既に幾つかの戦線で確認されている連邦の量産型を、さらに発展させたらしい機体が4機。後方からは既に何度か交戦している、キャノン砲を構えたタイプと戦車方が砲撃を加えてくる。これでは火力が違う。

「ボラスキニフ曹長、ゾックの準備は良いか?」

「お任せください少佐!水路が奥まで通じていますから、冷却も充分です。メガ粒子砲の連続発射もいけます!」

「よし、カラハとラサのゴッグはボラスキニフを援護!ゴダールとマーシーのズゴックは私に続け!」

 水路から飛び上がり、ズゴック隊が三機一斉に頭部のロケット砲を射撃。続いてゴッグ2機がミサイルを乱射、援護を開始した。ズゴックは地形を利用してホワイトベース隊に接近、アムロのガンダム、ヤザンとスレッガーのジム。コマンドがシールドとビームサーベルを構えて前進した。

「やるようだが、今は任務を優先させてもらう、ガンダム!」

 シャアはアムロのガンダムの脇をすり抜けると後続するヤザンとスレッガーに向かう。シールドでズゴックを抑え、ビームサーベルを突き刺そうとするがそれを回避。身を低くしジムから見ての死角に入ると、スレッガー機の脚を破壊した。

「嘘ッ!まだなれていないからか!」

「転がっていても厄介そうなのでな!」

 シャアはそのままアイアンネイルでヤザン機を抑え込むと、スレッガー機のメインカメラをメガ粒子砲で破壊する。外部からの情報を得る手段がなくなったことをわき目で確認し、ヤザンに正対。後方のガンダムはズゴックとゾック、ゴッグの射撃に押され、抑え込まれている。

「なかなかやるパイロットだが、力の掛け方が甘い!ふん、ゴダール、マーシー、ボラスキニフの援護に付け!ここは私が引き受ける!」

 シャアはスラスターを吹かすと、こちらにかかるジムの力を左右にそらし始める。ジムの上半身が左右に動かされ、バランスが崩れる。口元をゆがめたシャアはジムの左側に回りこむと背面のバックパックを付き、メガ粒子砲を発射。ジムの胸から上が破壊される。

「ヤザンさん!?いけない!」

「アムロ、退いて!地上の敵が後退を……」

「また一機!動きが甘い!」

 割って入ったのはセイラ。ジャブローと同じく、ジムの腹部にクローをつきたてるべくズゴックが動く。

 ……!?

「アルテイシア!?……いかん!」

「兄さん!?」

 後方から迫ってきた影が割って入った―――正確にはセイラ機の足元めがけて滑り込んできたのはクローが腹部を狙ったのとほぼ同時だった。

 スライディングに近い格好で滑り込んだ黒い機体によって、セイラ機の脚部は破壊され、延びていたジム・コマンドの背は大きく後ろへ倒れこんだ。突き出されたクローはジム・コマンドの胸部装甲を削り取るにとどまり、3機のMSはもつれ込むように倒れこんだ。

 呆然とするセイラ機を尻目に2体のMSは立ち上がり、互いに相手を警戒して距離をとる。

「危なかった……何奴!?」

「セイラ准尉、後退しろ!アムロ准尉、セイラ、ヤザン両機を援護して退け!敵を絶対に動力炉へ入れるな!レイヤー小隊と協力して防備を固めろ、急げ!」

 黒い機体。かろうじて間に合ったゲシュペンスト・タイプSは硝煙と砂煙で薄汚れた機体を樺太の地下に立たせていた。




 第21話




 ギリギリのところでセイラの命は救えたものの、このイベントで改めて理解させられたことがあった。さきほどのラリー、アニッシュの戦死もそうだが、既に大まかな歴史はともかく、細かい歴史は変わっており、おそらく主要登場人物でも、主人公級の人間でもない限り、はたまた歴史に大きな影響力を与える可能性のある人間でもない限り、戦死の機会は常にあるということなのだろう。

 そして、それはファーストガンダムで早速退場したセイラ・マスも当然として含む、と。いや、ホワイトベースの全員に言えることかもしれない。其処まで考えて気が付いたが、大筋はともかく、細部は別物という意識はこれからも持っていたほうが良いだろう。まぁ、考えている暇は今はないけれど!

 目の前に迫るシャアのズゴックを避ける。ズゴックは確かにゴッグやゾック、アッガイといった他の水陸両用機に比べると格闘がし易い機体だ。ゴッグは遅すぎ、アッガイは薄すぎる。ゾックはそもそもそんなことを考えていない。しかし、水圧に耐えるために人間型をある程度捨てている訳で、モーションの取り方にも限界がある。

 しかし、流石にシャアだ。ズゴックのモーションをよく熟知した上で操作している。身を低くかがめて射線を取りにくくさせ、また同時に横薙ぎのビームサーベルの範囲から身を逸らす。縦に振った場合には左右に飛んで前に向き、小走り、時には小さいジャンプを繰り返して敵との距離を詰める。

 ズゴックの腕にはメガ粒子砲が装備されているが、それを使うことはあまりしない。発射には粒子の増幅を行う必要があるから、必然的に何秒か時間がかかる。時間をかけないでも撃てるが、その場合には威力を犠牲にすることになる。まだ使いどころの難しい兵器なのだ。

 実際、メガ粒子の増幅・収束は模索中の技術で、増幅と収束に必要な時間の問題が解決していない。ゲルググのビームライフルにしろ、一定時間要するため、モーションが其処で固まってしまうのだ。宇宙空間ならスラスターを吹かしての平行移動が可能だが、地上でのそれは射線を単調化させる。この問題は時間こそ短くなるものの後々まで続くから、オールドタイプでもビームライフルを避けられる。

 だからシャアはズゴックではメガ粒子砲を使わない。動かなくても良いときが来るか、撃つことで敵の動きを誘う必要がある以外は。やりにくい相手だ。

 一方、シャアの方も自分が相手にしている機体が厄介な相手であることを見抜いていた。完全に近接戦闘用に特化した機体。その特化の度合いはガンダム以上。外から見るだけでも射撃用の武器は腰についているショットガンらしきものだけ。見た目の重装甲からは考えられないような軽い機動を行う。無駄がまだ多い動きだが、それを機体の柔軟な追従性が充分以上に補い、自分の動きに対応してくる。

 しかし、シャアが感じている厄介なところは其処だけではなかった。

「違和感か?この機体の動き、いつかどこかで見たことがある?クソ、連邦の新型機の動きを何故そう感じる?」

 クローを敵機に向けるが、軽々とつかまれ、しかもその圧力はこちらのクローアームを握りつぶすほどに強い。危険を感じて即座にズゴックを敵機に押し付けるとスラスターを吹かして岸壁に押し付けた。衝撃で左腕が離れたのを機に機体を右腕を軸に回転させて敵機の後ろに回りこもうと動く。

 当然、背後に回られることを恐れた敵機は右腕をつかんでいた手を離し、こちらに正対しようと体を向けてくる。しかし、それこそこちらが望んでいたことだ。右腕が自由になったことで機体の動きに対する拘束がなくなると同時にシャアはもう一度ズゴックを敵機に押し付け、胸部装甲にクローを押し当てた。

 メガ粒子砲の発射。増幅と収束にかける時間がないため、低出力での連続発射で装甲を削り取ろうとするが、敵機の装甲は表面が融解しただけで、充分な損傷を与えられたとは言いがたい。クソ、先ほどのジムなら!新型め、この装甲であの動きとは、どれだけ高出力のジェネレーターを装備している!?

 敵機の方も自分の装甲に関しては充分以上に信頼を寄せているようだ。胸部装甲へのビーム連続発射には反応せず、ズゴックの肩をつかんで機体を押し戻そうとする。装甲が薄い、両肩の吸排口にマニピュレーターの親指が食い込む。いかん!

 掴まれた肩はそのままに頭部を敵機に向け魚雷を一斉発射。衝撃が次々に襲い掛かるが、流石耐圧性が高いだけあり、ズゴックのチタン装甲は良く耐える。しかしそれは敵機も同じだ。ここで吸排口を破られるわけにはいかない!一斉射でもまだ離さない。ええい、連邦の新型は化け物か!?もう一斉射。ようやく左肩が外れた。しかし、敵機はそのまま高出力にものを言わせてズゴックを放り投げる。

「ぐわああああああっ!?」

「少佐!」

 後方でレイヤー小隊と射撃戦を行っていた部隊から、ゴダールのズゴックが向かってくる。いかん!今の戦闘でズゴックの弱点が吸排口であることを知られている!

 シャアの懸念は即座に現実のものとなった。敵機右腕の杭打ち機が、ズゴックの右肺に命中。吸排口の薄い装甲を破って斜めに侵入。コクピットを押しつぶす。奴の右腕上腕部のアレは危険だ。連続で打ち込まれれば、水陸両用MSの装甲でも危険。

 後方から、損傷機の撤退援護を終えたらしいガンダムが、ビームライフルを構えて向かってくる。動力炉への水路付近で戦闘しているボラスキニフたちは防御陣地を突破できないでいる。ええい、潮時か!

「全機撤退!撤退だ!作戦は失敗!」

 シャアは叫ぶと水路に向けてズゴックを後退させる。敵機を押し返すため、天井部分に向けて魚雷を連続発射。岩盤の崩落にガンダムが足を止める。!?もう一機は!?

「少佐あああああああああっ!」

 大型のビームサーベルがマーシーのズゴックの胸部を貫いている。バカな!?いつの間にあそこまで移動した!?移動する際の振動も感じなかったし、何より魚雷の発射まで、ガンダムよりも前とはいえ、崩落した岩盤の真下にいたはずなのに!?

 マーシー機を撃墜した敵機はそのまま大降りのビームサーベルを構え、動力炉を守る敵部隊から後退を始めているボラスキニフの部隊に向かう。ええい、今の状態では助けられん!

 シャアは向かった敵機の能力と武装から、ボラスキニフ小隊の全滅を確信すると水路へ機体を躍らせた。流石に今の状態でガンダムの相手など出来るわけもない。吸排口は重大な損傷を受けており、水中機動に問題が出るのが確実なら、ここで戦闘をすれば撤退できなくなる。

 ボラスキニフのゾックにビームサーベルを構えて突進する敵機。!?前に、この光景を見たことがある?どこだ!?何処で見た!?あの機体、誰の……?

 シャアはズゴックに水路を進ませ、マットアングラーへ帰還しつつ、自分の記憶の中から、その記憶を思い起こしていた。しかし、答えは出ない。ええい、誰だ?誰なのだ!?



 11月1日、午後1時。戦闘は終了した。北部からの陸戦用MS隊が後退を始めたことをきっかけに基地南部の港湾部へ増援を回すことが可能になり、サイクロプス隊も増援の襲来を察した段階で後退を開始。カミンスキー軍曹が水中での行動が制約されるギャンを投棄したが、アンディ機のハイゴッグに回収され事なきを得る。

 しかし、上陸戦序盤・中盤の主力となったゴッグ5機、アッガイ10機の内、ゴッグ4機とアッガイ5機が喪失。最後まで撤退を支援していたアッザムは、港湾部の敵部隊が撤退を開始したことで射線の集中を受け擱座。投棄された機体はいまは港湾部に浮かんでいるが、程なく沈むだろう。

 今回の攻撃で樺太基地は大きな被害を受けた。基地中心部の司令部区画、および艦艇発進口と地上・地下の連絡部分こそ被害が少ないが、港湾部に集積された倉庫群が軒並み被害を受け、収納されていた部品・パーツ段階のジム・コマンドが数多く破壊された。

 北部防御陣地は陣地内での混戦でトーチカ群が軒並み被害を受け、また、陣地内への侵入を受けた段階で人員を後方に避難させ、遠隔操作に切り替えたことで人員の被害こそ少なかったが、6基が全損。8基が損傷している。港湾部では侵入した敵機に対し、第2、第3小隊の撤退援護に当たった対MS用ミサイルランチャーを装備した高機動車が多く被害を受け、人員の損失が発生している。また、滑走路部分にまで敵の侵入を受けたため、滑走路にも被害が発生。アジア方面軍へのジム・コマンド供給に被害が生じている。

 しかし、工業製品や基地設備などはまた作ればよい。深刻なのは人員の被害だった。軍人軍属合計87名、および民間人7名。民間人は出向中のエンジニアや、夜釣りに出ていた付近の住民。軍人軍属は、撃墜されたMSの乗員3名(ラリー、アニッシュ、コールドウェル)と、防衛に当たっていた基地の兵員だ。

 負傷者にいたっては三桁を越え、病院に収まりきらないため、滑走路にテントを建てて野戦病院を仕立てることになった。入院を要するものや重症ではないものを除いては、そちらで治療を受けてもらうこととなっている。医薬品の数が足りているのが救いだった。しかし、そうした外見上の、肉体的な被害はまだいい。回復が可能だからだ。

 特に、この被害によってG-1部隊第3小隊が隊長一人になってしまった。マット・ヒーリィ中尉は現在、基地についている軍の精神カウンセラーのカウンセリングを受けている。一夜、いや一朝にして二人の部下を失ったことは、彼の心に大きな傷を残したことだろう。相手がサイクロプス隊となれば、それも仕方がなくはある。むしろ、第3小隊は良くぞ全滅しなかったものだが、そんなことは彼にとって救いにもならない。

 実際、3度目の撃墜を経験したヤザンが元気なのが不思議だ。流石最強のオールドタイプといいたいが、あそこまで行けば撃墜からの生還も自信の表れだし、何より戦友が犠牲になってはいない。第2小隊からもサマナ少尉が撃墜されたが、現在治療中とのこと。詳しい報告は受けていないが、命に別状はないらしい。

 戦力がかなり厳しいことになっているが、戦死者が少ないこと、あのエースパイロット軍団の攻撃を受けてこれだけの被害にとどめられたことは自信を持つべきだが、やはり気にかけてしまう。

 とりあえず、前線に立って戦ったMS部隊とトーチカ隊、高機動車の兵員には24時間の休養命令を出し、マネキン准将に基地の管理を御願いして……ああ、クソ、頭がまとまらない。とりあえず今日は、浴びるほど飲んですべてを忘れよう。


 司令室を出るとミツコさんがいた。そこからの記憶があいまいだ。




[22507] 第22話[R15]
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/12 11:21
 襲撃の夜から一晩明けた11月2日の朝。連邦軍樺太基地からはいまだ、黒い煙が立ち昇っていた。破壊されたMSの撤去が終わっておらず、潜水艦のミサイルから分散した子弾の中に仕込まれた時限装置が、時折、予定の時刻となり爆発しているからだ。そのおかげで樺太基地地上部の機能は完全に回復せず、現状、司令部近辺のエリアのみが安全地帯となっている。

 もっとも、樺太基地はジャブローに倣ってか、基地機能の大半は地下化されており、艦艇ドックもMS工廠も開発部も、そして当然無事で、居住区も被害は少ない。地下搬入口近辺の施設だけが被害を受けているが、こちらは地上のようにミサイルが降って来た訳ではないし、最優先で復旧が進められているため、むしろ地上よりも活発に人が動いていた。

 司令部近辺に作られた、士官用の宿舎の一室で私は目を覚ました。室内に男女の着衣が散乱し、ベッドから少し離れたテーブルには蒸留酒らしき酒瓶が転がっている。グラスは絨毯に落ち中身をこぼし、窓のブラインドの隙間から入る朝の日差しを反射してきらめいていた。

 浴室からシャワーの音が聞こえる。先に目を覚ましたのだろう。隣にいるはずの彼女の姿がない。体を起こした瞬間、頭痛が走るが、意識を向けると頭痛はだんだんと治まっていく。体内のナノマシンが意識を向けたことで、体の不調を修復すべく、体内に残ったアセトアルデヒドを分解したのだろう。

「あら、お目覚めですの?」

 シャワーを浴びすっきりしたようだが、まだ体には昨日の残滓が残るミツコ・ミューゼルが言った。なんだろう。改めて考えると、俺ってするときには縛るほうが好きだけど、関係としては縛られるほうが好きなのか?あ、頭痛い。二日酔いか。ミツコさんは快調そうだ。二日酔いに苦しんだこちらとは違って気分爽快そのものらしい。体にタオルを巻きつけたまま、鏡台前のイスに座ると、別のタオルをつかって念入りに髪の水気を取っていく。

「……昨日はありがとう。……おかげで、いくらか楽になった」

「わたくしね、夢でしたのよ」

 鏡台を向いたまま、こちらを振り返りもせずに彼女は言った。

「前に話しましたでしょ?リン・マオのこと」

「ああ」

 髪の水気を充分取ったのだろう。まだドライヤーは使わず、別な吸水性の高いらしい布をさらに当てながら彼女は言葉を続ける。脇に櫛を用意しているから、これは時間がかかりそうだと苦笑した。これはもう、女性にとっては性の領域らしい。

「あの子の周りには恋人のイルムガルト・カザハラがいて、理解ある部下のユアン・メイロンがいて、取引先もお人よしばかり。ああいう世界にいたのでしたらああいうふうに世界を見るのも当然でしょう?あの子自体が何をしましたの?あの子と私のどこが違いますの?ただ、生まれた境遇が同じでも、周りにいる人間が違っただけで、どうして、……なんてね。バカでしょう、わたくし?」

 バカになど出来ない。生まれ―――自分が如何何処に生まれるかなど、自分ではどうしようもないのだ。そして自分がどんな人間と出会うのかもそうだ。まぁ、出会うべき人間に出会ってもそうでない人間もいるが。自分の努力不足なら同情の余地は無いが、あの関係を抜け出すのは無理に近い。

「まわりの人間がいい人なのに、それを自覚できない阿呆には腹が立ちますわ。だって、それが出来ないひとがいるのですもの」

「何が言いたいんだ、ミツコさん?」

 ミツコさんはほほを膨らませながらこちらを向いた。どうやら、私の答えに不満らしい。ドヤ顔といつも見せる取り澄ました顔、少し前に見たあわてる顔は見たことがあるが、こういう表情ができるとは思わなかった。しかし、やはり中の人がセツコ・オハラと同じなのに……

「どこみてますの?朝っぱらから色気づかないでいただきます?」

「……胸の大きさで女性を判断するのは流石に趣味じゃない。だからといってステータス云々でもないけどね?……ごちそうさま」

 言葉に顔を赤らめるミツコ。しかし、言いたいことはわかった。彼女も熱血と愛を理由に正義と悪が大混乱のスパロボ世界の出身者だけはあるということだ。経済的利益だけが判断基準だったのは、周囲にいた人間を判断基準になど出来ないから。人間を見るにはその人間の友好関係を見ればよいとは言うが、それでは友好関係を築いた瞬間に人間の価値なりランクなりというものが下がるとしたら、何を以てすれば良いのか?彼女の行動は、あの人間関係の中で彼女にできる最良の判断をしていただけだった、という話なのだろう。

 だからこそ、元の世界と全く関係のないこの世界で、0から人間関係を築くことが出来ると知った瞬間こそ、本物のミツコ・イスルギという人格の誕生だった、のかもしれない。そしてそれは幾多の世界で"悪役"とされた人物全員に共通するのかもしれない。ソフィー姉さんしかり、シーマ姉さんしかり、そしてハマーンしかり。まぁ、ジジババになっても悪役でいるのは、もうどうしようもない気がするけど。でも、もしかしたら、アギラ・セトメやクラックス・ドゥガチにさえ。

 実は結構……と思ったところで、自分の考えに自嘲する。人間、そんなに多く重くは背負えない。それは昨日、思い知ったばかりではなかったか。本来なら一年戦争を乗り切る可能性のあった人間――ラリー・ラドリー、アニッシュ・ロフマン――の死。それは、おそらく絶対に私の介入が原因であることを思い出す。

 結局、人死にが少なくなっただけなのかもしれない。開戦から10ヶ月。本来なら60億を超える死者は8億ほどに抑えられ、52億の人口が残り、地球圏の総人口は、いまだ112億人を数えている。コロニー落しも、地球に残った人口密集地域である北大西洋沿岸と太平洋沿岸部が避けられたことであまり被害を受けていない。もっとも、ジオン軍の占領地域である欧州やアフリカでは、連邦軍の反撃態勢が整うにつれて食糧難が叫ばれているが。

 しかし、顔の見えない52億を救っても、もしこの先、自分に近い人間が死んだら?もしかしたら、シャアの隕石落しも、ララァのいない世界に見切りをつけたからかもしれない。いや、バカなことを考えるな。そう考えたのなら自殺でも何でも好きにすればいい。周りの人間を道連れにしての死など……いかん、本格的に思考がネガティブになってきた。

 目の前が暗くなると、女性特有の香りが包んだ。ベッドの上にひざ立ちになったミツコさんが、優しく抱きしめてくれている。ナナイっぽいな。苦笑すると彼女の背中に手を回し、優しく抱きしめ、ベッドに倒れこんだ。

「……ありがとう」

「落ち着きまして?」

 体を包むタオルが崩れるが、気にはしない。香りは強まり、なんだかおちついた気分になる。

「もう少し、このままで……いさせてほしい」



 いきなりのノックで正気に戻った後当然のごとく赤面し、時計を見て戦闘要員の休息時間とした24時間を越えていたことに気づき、急いで服を調えて部屋を出た。後ろからは顔を赤らめたミユ・タキザワ伍長が歩いてくる。まったく、とんだ失態だ。

「鍵もかけずに寝るなんて正気ですの!?」

「昨日のあの状態で鍵をかけるところまで考えれん!」

「少将!中佐!夫婦仲が宜しいことはわかりましたから、さっさと司令室に向かってください!」



 第22話


 
 基地機能が一定の回復を見せた11月3日、オデッサ作戦への出撃と合わせ、樺太基地では合同慰霊祭が執り行われた。あの後、更に負傷者の中で助からなかったものを含めると、被害人員の総計、軍人軍属102名、民間人8名。合計110名となった。

 G-1部隊からの死者は3名。港湾部でサイクロプス隊により撃墜されたラリー・ラドリー、アニッシュ・ロフマン両少尉。新型技術試験機試験中隊、通称ウィスキー隊よりコールドウェル少尉の3名。

 負傷者はゲルググ小隊との激戦を演じた本部小隊のパトリック・マネキン中尉が肋骨を折る重傷。港湾部での戦闘で改造型ズゴックに弾き飛ばされた、第2小隊サマナ少尉が機体からの脱出時に二度の火傷を負い、現在皮膚移植手術を受けて無菌室入り。第5小隊ヤザン少尉は乗機のジム胸部破損の際に頭部に裂傷の軽傷。

 他には入院加療を要するほどの怪我こそなかったものの、部隊全員があの日の戦闘では何らかの傷を負った。MS部隊以外の戦死者は、MS対後退、敵後方からの奇襲に尽力した対MSミサイルランチャー装備の高機動車の運転手、砲撃手だ。

 空砲が空に響き、連邦国歌の吹奏が始まる。連邦旗が半旗となり、棺が遺品と共に安置されている。この後、オーストラリア、アデレードの連邦軍軍営墓地へ輸送の予定だ。しかし、MS隊の3人の遺体はない。機体ごと散ったアニッシュ少尉は勿論、コクピットをビームサーベルに貫かれたアニー少尉も、ガーフィールド中佐のグフに、ヒートソードを押し込まれたコールドウェル少尉も遺体は残らなかった。核が、粒子が、高熱が彼らの存在を文字通り消してしまったのだ。

 慎ましやかに、しかし荘厳丁重に行われた指揮の後、私はマネキン准将、ミューゼル中佐と共に司令室へ入り、オデッサ作戦参加のため、部隊の再編に着手した。樺太基地防衛に戦力を残す必要もあり、また当然被害を受けた戦力では不足も考えられるため、テレビ会議という形でゴップ大将も参加している。

「まずはミューゼル少将。ほぼ同数、それもモビルアーマーを含む戦力を撃退し、敵に対し、味方に倍する損失を強要したことは上出来だ。君が如何思っていようとも、な」

 ゴップ大将は言った。いつもの福々しい、人をリラックスさせるような姿は見せない。彼も軍人であり、敵の攻撃によって被害を受けた部隊の指揮官がどのような心境になるかは知っている。本来、そうした気持ちは前線から昇進によって遠ざかるにつれてある程度、感じずに済ますことが出来るようになるものだが、前線という概念が旧世紀よりも希薄になってしまった―――あるいは意味が変わってしまった―――この戦争ではまた違ったものとなっている。

 それに、目の前の男はほんの数ヶ月前まで、中佐という佐官でしかなかったのだ。

 ゴップ大将の見せた、男らしい不器用な心遣いに内心で感謝すると、私は口を開いた。

「都合、戦力の5分の1を失いました。基地機能は40%ほどにまでは回復しましたが、オデッサ作戦の出撃前にこれだけの被害を受けたとなると、正直、厳しいものがあります」

 軍隊の場合、「壊滅」と判断する基準は、戦力の40%を失った段階をさす。戦力が前線で編成できず、後方に後退させて完全な再編成を要する段階に入るからだ。5分の1、つまり20%とということは、戦力が半壊したことを示す。

「人員かね」

「はい」

 ゴップ大将はため息を吐いた。理由が痛いほどにわかる。オデッサ作戦を前に戦力の補充など、どこの戦線を見ア渡しても戦力が不足している現在、まわしようがない。

「閣下、半壊した部隊を何の対策もなく前に出すわけにも行きません。それに、部下の中には小隊総員を失ったものもおります。……そこで、御願いがあります」

「……想像が付くが、言ってみぃ」

「人事権を」

 ゴップ大将は深くイスに寄りかかるとため息を吐いた後に頭をごしごしと掻いた。人事権とはつまり、民間人を軍人として徴集する権利をよこせといっているのだ。補充兵をまわせない以上、そう考えるのは当然だが、流石に将官とはいえそれを無制限に許した場合、私兵集団の形成を許してしまう。連邦軍設立当初、居住権戦争(0017-22)では、そうした私兵集団を擁したアジア系将官が、ユーラシア大陸東部を群雄割拠のような状態にしていたことさえある。

「難しいぞ。人事権に関しては幕僚総監部、つまりわしだな。わしの下が握っていることになる。わしは君を信頼しておるが、部下までそうとはいえん。それに、またぞろコリニーが突っ込んでくる可能性もある。あの男、君が今回の戦闘で敗退し基地機能を失った場合に備えて、色々と考えておったぞ。キンゼー少佐から報告があった」

 眉を上げる。ガディ・キンゼーか。Zでアレクサンドリアの艦長の。まさかゴップ大将の肝煎りとは思わなかった。

「まぁ、バスクのバカはスペースノイドさえ殺せれば何でも良いだけである意味扱いやすいが、ジャマイカンなどご機嫌取りにも程があるぞ?コリニーの阿呆を調子に乗らせ、ジャミトフが制止しておったからな」

 ゴップは笑った。しかし私は笑えない。ゴップ大将が、決して見かけどおりの人間ではないことを改めて思い知らされたのだ。気が付くと親しげに肩に手を乗せているミツコさんの姿。まぁ、何をおっしゃりたいかわかりますけど。

「そういうわけだから人事権はやれん。しかし、少将のところから書類が回ってくれば、そして書類の要件が整っていれば問題はなかろう。こちらで処理しておく。勿論、日付に関しては前後してもかまわんが、あとで問題になるような処理は……まぁ、なかろうな。マネキン准将の書類、見させてもらったがととのっとる」

 マネキンが一礼する。

「どうだ?ジャブローにこんか?穴倉の中で快適とはいえんが、君の能力は買いたい。むしろ、タチバナより向いておるんじゃないか?」

 ピン。視線が私とミツコさんの間で交わされる。うん、ゴップ大将が言いたいことは良くわかった。

「閣下、申し訳ありませんが、私は――――」

「ゴップ大将。彼女、高いですよ?」

 私は言った。マネキン准将が一体何を考えているのか、という目で私を見る。

「まず、問題児で空気を読まないエースパイロットの旦那がいます。腕前は折り紙付ですが、少々、性格に難アリです」

「……むしろ、エースで性格に問題がない奴というのが珍しいとわしゃ思うが」

 よし、いける。

「彼女がそちらに赴けば、人事案などの件も通りやすくなりますよね?」

「兵站総監部とのつながりもな」

 ゴップ大将の口元がゆがみ、それはすぐにミツコさん、私へと伝染した。

「了解しました。これから大変なことになるかと思いますので、早速マネキン准将と事務官、それに旦那さんを送ります。旦那はエース用の改造機に乗せて、新兵の訓練にこき使ってやってください」

「わかった。人事案をまっとるよ。マネキン准将、君の力がジャブローで発揮されることを楽しみにしとる」

「はっ、了解いたしました」


 マネキン准将のジャブロー勤務が決まったということは、連邦軍上層部に確固たる協力者を送り込めるということにつながる。基地司令として呼ばれたと理解していたマネキン准将はいきなりの話の流れに驚いたが、現在の、そして後々の連邦軍において兵站総監部を握ることの重要性をミツコさんが目を輝かせながら話し始めると頷いた。

 ……違法取引の臭いがぷんぷんしてくるが、まぁ、深く突っ込まないようにしよう。アナハイムではなく太洋重工がこの世界の軍需を仕切りそうだが。しかし、ミツコさんは意外に経済にも明るく、「全部を一手に握ってしまえば面白くありませんわ。ライバル企業があってこそ、サービスは向上するんですのよ?」とか言われてしまった。

 まぁ、それはともかく。マネキン夫妻がいなくなってしまい、また今回の襲撃によって戦力が激減したG-1部隊の再編に取り掛かる。まずマネキン夫妻を送り込むと共に、20名の事務官を送る。全員がバイオロイド兵で、ジャブローでの対コリニー派、のちのち対ティターンズ諜報任務に精を出してくれるだろう。マネキン准将には、基本的に職務に精励してもらい、要所要所で配置人員や軍備関連の問題についてこちらの要望を通してくれるよう御願いした。

 部隊に関してだが、まずマット中尉の第3小隊を白紙に。マネキン中尉とネオ少佐が外れるため、ウィスキー中隊を小隊編成に変更し、本部小隊を編成して私、ミツコさん、ロックオンを配置。但し、私は単独行動で、また基本的にミツコさんとロックオン氏は援護が中心となるため、MS隊の総指揮官としてセルゲイ・スミルノフ中佐に御出馬願い、G-1大隊総指揮官となってもらった。

 また、新しい基地司令にOGシリーズよりレイカー・ランドルフ予備役少将を迎え、現役復帰の少将として配置し、その下に新兵訓練部隊の指揮官としてマット・ヒーリィ中尉をおいた。精神面の回復が付かないまま、オデッサに送り込むわけにも行かないと判断したからだ。

 欠番となった第3小隊に新たに呼び出そうかとも思ったが、宇宙に上げるまではと思い放っておくこととした。恐らく、オデッサ作戦では輸送能力は多いほうがいい。現地で大隊や中隊規模で投入されるはずの連邦軍を同行させる形を取ればよい。

 戦闘による獲得とプラント能力の更なる拡大でGPについてはまだ余裕がある。プラント能力を拡充したところ、いままでは月に限定された値しか変換できなかったが、それが外された。その代りに技術、人員と兵器獲得レートが上昇してしまったが。しかし、更なる戦力向上を技術や技能などをあわせて考えると、これは仕方がない。むしろ、技術をかなり獲得した今の段階からすると、自分や他のキャラクターの能力向上や、RPそのものの方を用いた方がいい。

 既に連邦政界にはカナーバ下院議員、グリーンヒル上院議員と二名を送り込んでいるが、コリニー派、そして恐らく結成される可能性が高いティターンズを相手にすることを考えると、連邦議会、および軍に勢力の維持拡大は不可欠だ。ゴップ大将が兵站総監部を離れれば、後任にマネキン准将が推されたとしても、現在と同様の支援は見込めない。

 私は、マネキン准将以外に、また既に上層部にいるヤン、シトレ、ビュコック以外にも人員を送る必要があると判断した。まず、MS開発以来友好的な関係を続けている欧州軍のパウルス大将宛に、特務作戦集団出身で、MS連隊長として2名を送ることの了解を得た。これにジャミル・ニートとランスロー・ダーウェルを中佐として派遣する。勿論、連隊の兵員はすべてバイオロイド兵で固める。実は、既に兵員レベルではバイオロイド兵の連邦への志願兵としての浸透は始まっており、樺太基地やサイド7、ルナツー、日本、欧州、ジャブローなどを通じて送り込んである。それらの兵員をまとめ、今回、連隊として発足させるというわけだ。

 さらに、連邦議会へターンエーガンダムよりミラン・レックス執政官を呼び出し、グリーンヒル上院議員事務所に投入。来期(0080年)の連邦下院議員選挙で当選させるつもりだ。既に下院議員選挙の月面第二区(Nシスターズ選挙区)から送られる16人の下院議員はうちの友好派閥で固めてあるから、そこから出馬させて連邦議会での勢力を固めることとする。もしもグラナダの支配権を争うことになるだろうアナハイムとの暗闘に勝利することが出来たなら、そこにさらに人員を加えられる。

 動向が見えない移民問題評議会も、来期辺りにグリーンヒル議員が食い込めそうな勢いのため、とりあえずこの戦争中は放っておいてかまわないだろう。欧州軍に二人を送れば地歩も固められるはずだから、あとは北米軍などに送る人材を考えるとしよう。

 ということで、まず北米軍のMS戦力向上のため、カイ・キタムラ少佐を派遣。MS部隊教官として派遣し、戦力向上を御願いする。アジア軍は、人員の制限数に近くなってきたこともあるし、そもそも戦線が縮小傾向にあるから、問題はないとして呼び出すのは中止した。ここで呼び出すと、宇宙での戦力展開に問題があるかもしれない。

 人員制限の発生によって本年度、つまり0079年に呼び出せるキャラクターは今回呼び出した者たちを除くとあと4名。一年ごとに決まった人数というわけではなく、介入する期間に応じて制限が課せられるようで、システムを良く見てみると、来期の名前が「戦間期前半」として、0080-0083となっている。人員はこの一年戦争の出来次第だそうだ。


 オデッサ作戦が終わったあたりで、戻るか。「トロッター」に関しては、本部小隊で私とミツコさんを外せばいい。そろそろ、この戦争も大詰めだ。ソロモン戦以降は、気が抜けない状態になるだろう。




[22507] 第23話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/12 11:21
 UC0079年11月7日。オデッサ作戦開始の日である。オデッサ作戦では地上に残ったマ・クベが最終的に核ミサイル発射を命令するが、エルランから偽情報として、ジオン側が再度の核攻撃を行った際に備え、連邦軍が核ミサイル攻撃の準備を行っている可能性が高いことを伝えるとその可能性はなくなった。既に連邦製MSの登場により、戦場での絶対的有利を確保できなくなっていたジオン軍に、自ら核を使用して南極条約を破ることが出来なくなっていた。

 実際、マ・クベはそれでも核ミサイルの使用を考えたが、この世界での彼はジオン地球攻撃軍司令ではなく、その下の欧州方面軍の総司令であり、核ミサイルの発射権を握っているキシリアがそれを却下した。キシリアにしてみれば、ジオン軍の地球撤退が避け得ないものであることは明白であり、その敗北が決定的な戦局において更なる不利を呼び込むことはできなかったのである。

 それはともかく、11月6日にワルシャワに総司令部を構えた連邦欧州軍は旧世紀、20世紀の最初の半世紀中に「カーゾン線」と呼ばれた地域を最初の戦場として激突していた。特に、戦線北部からジオン軍支配下のサンクト・ペテルブルクに向けて進撃を開始した欧州軍第1MS師団の進撃は快調で、先頭を勤める第101MS連隊および後続の第102MS連隊は、最新鋭機ジム・コマンド寒冷地仕様を装備して戦局を有利に進めていた。

 これに対し、東部戦線(シベリア)を担当するグエン=バオ=ハイ中将率いるアジア方面軍の攻撃は低調だった。当然、戦力に不足があるわけではなく、既にシベリアを覆っていた寒波の影響が強い。また、アジア方面軍は欧州方面軍に比べ、寒冷地仕様のジムが数少なく、また、最新鋭機のジム・コマンドではなくザニー、ジム初期型を主力としていた。

 まぁ、実際ジム・コマンドを現在装備しているのは第1MS師団の2個連隊と他に戦闘団規模で1つ、アジア方面軍には合計3個連隊しかなかったのであるが。ただし、欧州方面軍は後期生産型ジム(ジム改)を主力として投入しており、余剰のジム、ザニーを北米方面軍、アジア方面軍に回すという主旨で戦力配置を行っていたため、アジア方面軍は補給を樺太および日本に頼るしかない現状で、しかも自軍の装備する機体に部品の互換性が少なく、正面戦力ではなく稼動戦力に問題を残していた。しかも、樺太は1日の襲撃で基地機能を低下させており、

 それが、結局は整備に負担を強いる寒冷地で暴露された格好になり、進撃速度が低下している。但し、それは戦力自体が付きかけているジオン地上軍も同様で、既に一部基地では軌道上への脱出も開始されているなど、戦線の整理縮小が始まっていた。

 11月4日、シベリア戦線を突破したグエン少将肝いりの第33独立混成MS旅団が天山山脈戦線を突破。指揮官に抜擢されたコジマ中佐(オデッサ戦後に大佐)率いる部隊は地球戦劈頭に占領されたバイコヌール基地の攻撃に成功。HLV発射システムを破壊したため、この地域の全ジオン軍が残るHLV基地であるセヴァストポリ、ボルゴグラード、カザン、オデッサを目指して退却を開始したため、一週間の苦戦が報われた格好となった。しかし、やはり兵站にかけた無理が戦力の前進を妨げていた。


 11月5日。イラン方面からコーカサス山脈を抜けて黒海東岸部に進撃を開始した新設インド方面軍(旧インド方面軍はトライデント・ジャベリン作戦で壊滅していた)はコーカサス山脈北麓に展開するジオン第9MS旅団第1大隊を撃破し北上。黒海沿岸、旧グルジア地方に前線基地を設営し、黒海上を渡ってきたビッグ・トレー級陸上戦艦「アレクサンダー」、および「モントゴメリー」と合流し、戦力集中に入った。

 そして11月7日。全戦線がオデッサを総司令部とするジオン地球攻撃軍に向けての一斉攻撃に入ったのである。



 第23話



 作戦が始まってしまえば、それからはその流れに身を任せる他はない。現状、改めて感じたことだ。

 私が属するインド方面軍はコーカサス山脈南部から進撃を開始してグルジアにいたり、要衝セヴァストポリを迂回して、オデッサの後方を突く任務を与えられている。キエフからドニエプル川に沿って南下するレビル大将の部隊とは、オデッサ東方ザポリージヤでの合流を予定している。

 原作どおりなら、恐らくグルジアから北上してコーカサス山脈の麓に広がる森林地帯に入ったあたりで、黒い三連星の迎撃を受けることになるだろう。ジオン側で得た情報によると、本国防衛隊勤務からグラナダ防衛隊に異動していた黒い三連星が、第三次地球補給にあわせて降下したことを確認している。

 黒海およびアゾフ海には、進撃する連邦軍に海側から攻撃を仕掛けるため、多くの艦船―――ほとんどが連邦からの鹵獲品だったが―――が配備されているが、水上ホバー走行が可能なビッグ・トレーの砲撃や、ボスポラス、ダーダネルス海峡を扼するイスタンブールの陥落で黒海に連邦軍の艦船が多数侵入を始めており、数日とかからず押しつぶされるだろう。

 しかし、樺太基地でも出くわしたアッザムが既に4機確認され、水上に陸上に迎撃を開始している。恐らく、こちら側の戦線でもコーカサス山脈を越えたあたりで出くわすことになるだろう。

 インド方面軍はカスピ海沿岸部からの北上を開始しており、現在、旧ダゲスタン地域のマハチカラで激戦が展開されている。実際、ここを抜かれてしまえば連邦軍の大兵力がカスピ海を越えることになるため、ジオン軍の抵抗も熾烈だ。しかし、既に連邦軍は浸透突破用の部隊をコーカサス山脈南麓のブラジカフカスおよびミズルに展開させており、明日には北上を開始する予定だ。

 そして私たち、インド方面軍所属第13独立部隊は、もっとも危険な黒海沿岸部の北上任務を課せられている。保養地ソチから沿岸伝いに北上。ケルチ地峡部への部隊展開を支援した後さらに北上し、オデッサ・ボルゴグラード間の連絡を絶つ。ウクライナ北部から南下するレビル将軍の部隊と合流することで、オデッサを包囲する予定だ。

 宇宙港を備える各基地間の連絡を絶てば、ジオン軍は撤退を開始すると見ているためだ。現実に、バイコヌール宇宙港が陥落するとジオン軍は次なる宇宙港を求め、ボルゴグラードへの撤退を開始している。恐らく、撤退したジオン軍が宇宙攻撃軍に回収される段階を狙って軌道上に艦隊を投入し、手も足も出せないジオン軍を殲滅するつもりなのだろう。

 それは正しい。虐殺に近いかもしれないが、連邦よりも優勢なMS戦力を有するジオン軍相手に、下手な損害は出せない。地上での戦闘が終了しても、ソロモン、ア・バオア・クー、月面で構成される本国防衛ラインを突破しなければならないからだ。

 ジオン軍に残された宇宙港は合計5つ。オデッサ、ボルゴグラード、セヴァストポリ、カザン、リャザン。このうち、黒海からの攻撃を受けるセヴァストポリは打ち上げ途中での攻撃を受けかねないため早々に放棄されたが、既にアジア、シベリア方面から撤退した部隊がボルゴグラード、カザンから脱出を開始しており、軌道上はHLVの打ち上げカプセルで彩られ始めている。

 宇宙攻撃軍およびグラナダ艦隊、そしてシーマ艦隊が回収任務に当たっているが、連邦軍が散発的に艦隊とMSを投入して攻撃を仕掛けてきており、回収は難航しているとのことだ。また、軌道上での戦闘で私が開発に関係していなかったがボールの投入が大々的にコリニー提督によって行われ、大戦果を挙げている旨が伝わってきている。被害を受けにくい戦場で大戦果を挙げることについては流石ジャミトフと感心したが、どうにもいい気分はしない。

 旗艦とした「トロッター」艦長、シナプス大佐がこちらへ来た。

「少将、攻撃開始命令が下りました。我が部隊にも北上命令が来ています。どうやら、戦線全体を北上させるようです」

 私は頷いた。

「独立第13部隊、前進を開始せよ。G-1部隊各隊は散兵線を前に押し出せ。第1小隊は先行してソチに。本部小隊は援護を行うように。艦隊にはトロッター所属隊を護衛につけ、前進を開始せよ」

「機関一杯!発進する!命令復唱!」

「機関一杯、前進を開始します!」


 命令が出され、部隊の前進が開始されたことで司令官は暇になる。いい機会だから、これからのことを少し考えておこう。


 オデッサ作戦のスケジュールはかなり異常だ。11月7日に黒海沿岸で開始された作戦が9日にはオデッサの完全占領で終わり、掃討戦に入っている。確かに、降下したジオン軍の戦力は20万ほどで、過去ここで行われたドイツ軍とソ連軍の戦いほど、人員面で大規模なものではない。しかし、作戦発動から2日で目標達成などありえないから、進行はかなり時間を要するものと考えて無理はないだろう。

 恐らく、ジャブロー侵攻作戦が中止になったことでそのスケジュール分も合わせ、今月一杯は戦闘が続くに違いない。オデッサが陥落すれば、現在優勢に追撃戦を進めているアジア戦線の整理がつく。今月末には北米での攻撃も予定されているから、ジオン軍は歴史どおり、アフリカに潜伏してネオジオンの襲来を待つことになるだろう。

 ……年内に終わるのか、この戦争。一年戦争ではなくて、「ジオン独立戦争」とか名づけられたらまんまギレンの野望じゃないか。

 まぁ、いい。キシリアが早速敵前逃亡をかましてくれるだろうから、ジオン軍の指揮システムがおかしなことになるだろう。実際、歴史でもマ・クベがいなくなったから降伏したとも取れる。けれど、ルートがどちらを通るかだ。マ・クベが逃げればTV版準拠で進むだろうし、逃げなければORIGIN版でルートが進むだろう。ORIGINルートで死んでくれれば問題ないが、宇宙に逃げれば今度はTV版かコミック版か小説版かの違いが出る。

 マ・クベの死亡時期が作品によって違い、またキシリア同様の底の浅い策士であるため、キレると何をするかわからない。TV版のように自分を追いやった組織や敵を狙うならどこかで何かを仕掛けてくる可能性がある。コミック版のようにそれなりの誠実さを持つのならザビ家に対する忠誠心の発露もあるだろう。一番良いのは小説版のように何もしないで乗艦を撃沈され、ア・バオア・クーから撤退する中で戦死してくれることだが、これを前提に話を進めるわけにも行くまい。

 ゲルググの投入が早まっている分、連邦軍は宇宙で苦戦を余儀なくされるから何がはじまるかはわからないが、連邦軍のMS開発も前倒しでジム・コマンドやジム改が投入されるようになってきている。ビームスプレーガンに頼る時間も短縮できるだろうし、そもそも数が違うから戦争の趨勢自体は歴史どおりに進むだろう。

 というか、ジャブローはどれだけの生産能力を持っているんだ。オデッサ作戦に投入されたジムが各型合計で800を超えている。第1MS師団以外は大隊単位での投入になっているが、それにしても数が多すぎだ。まだ生産を開始してから3ヶ月あまりで、しかも生産ラインが整い始めているから今月だけで1000機近くは生産されそうな勢いだ。もっとも、ジム改はジェネレーターについてはジムとほぼ同型のため、こちらにはビームスプレーガンに代えてビームガンの配備が進んでいる。

 前線に多数のMSが集結するのは良いが、オデッサにはいまだに800機近いジオンMSが展開している。これを1日かそこらでどうにかするのは難しいぞ。

 しかし、トールの懸念は杞憂に終わった。既に補給の面で大きく負担を強いられつつあったジオン欧州軍は、そのMs稼動数を大きく減らしており、また、キシリア、マ・クベが鉱物資源の軌道上への打ち上げを優先させたため兵員の脱出も満足に終了していないのが実情だ。オデッサ鉱山基地以外の宇宙港からは続々と兵員が武器、MSを放棄して軌道上へ脱出していたが、こちらも残った武器をオデッサや他の交戦を続ける部隊にまわすほどの余裕がなかった。

 かくして、一時期は2000機近いMSを30個のMS師団に編成していたジオン地球攻撃軍という大部隊は影すら残さず消え去ろうとしていた。残った影も、軌道上のポッドが連邦軍に破壊されるか拿捕されるか、もしくは最後の抵抗によって潰えることとなるだろう。だが、オデッサが陥落すればジオン軍はセヴァストポリへ向かい、セヴァストポリが陥落すれば、戦線を突破して、まだ確保しているアフリカへ向かうだろう。アフリカを舞台にした、ジオン軍残党との激戦は戦後も続くことになる。これもまた、歴史どおりだ。

 オデッサ作戦の推移は大体は歴史どおりに、そして細部は歴史とは違った様相を見せ進行した。11月12日、歴史よりも遅れて黒い三連星と第13部隊左翼に位置していたホワイトベース隊が接触したが、G-1部隊第5小隊の援護を受け、また「トロッター」よりウィスキー小隊が援護に間に合ったことで、黒い三連星は全機撃破され、死ぬはずのマチルダ中尉は当然死なず、第13部隊を先頭にザポリージヤまでの北上に成功、レビル将軍の部隊と合流してオデッサ包囲網が完成した。

 翌13日より、包囲網全戦線からオデッサへの攻撃が開始された。ゲルググの投入も確認されたがやはり数は少なく、エルランの内通が見破られていたため、ジオン軍が偽情報に踊らされて部隊を配置する。この間隙を突く様に、ロシア北部戦線から第1MS師団が南下してキエフにいたり、主力の2個連隊がオデッサへの南下を開始して戦線の薄い部分が突破された。するとまず13日夜にザンジバル級ベンハを使い、キシリア・ザビ地球攻撃軍司令が撤退。翌14日午後にはザンジバル級マダガスカルを使って欧州方面軍司令のマ・クベも脱出したため戦線が崩壊。15日払暁、オデッサは陥落した。

 オデッサ陥落を受けた残存ジオン軍は残る基地であるカザン、セヴァストポリ(リャザンは14日夜に陥落)を目指し撤退を開始し、カザンは陥落する11月26日まで脱出を継続させた後、力尽きて降伏。連邦艦隊の攻撃によって被害を受けていたセヴァストポリは損傷した基地機能の許す限りの脱出を継続させた後、オデッサからの撤退戦力と共に戦線の突破を企図。ケルチ地峡部を突破しての長い撤退戦に入った。この撤退戦は12月初頭まで続き、少なからぬ数の戦力がトルコを突破してアフリカに逃げ込むことに成功したが、カスピ海東岸に位置するインド方面軍の攻撃を側背に受け続けること隣、多くの戦力が喪失を余儀なくされた。

 12月2日。連邦軍はユーラシア大陸からジオン軍を駆逐したと発表。連邦地上軍は残るジオンの占領地である、北米およびアフリカへの攻撃を強めていくこととなる。



 11月28日、無事に第13独立戦隊の指揮を頼れる兄貴ヤン少将に引き継いでもらう。この後はジオン側での行動が多くなるので、宇宙に上がってからの行動については任せることにしたのだ。ここまで来てしまえば、連邦の勝利はもう動かない。ビグザムの投入にしろ、ソーラ・レイの使用にしろ、介入を行うのであればジオン側のほうが有利だと判断したためでもある。それに、ヤン少将なら、反則武器でも使用しない限り、部隊に損耗を強いることも無い、という判断もあった。

 11月30日に引継ぎをまとめて樺太基地に帰還する。ミツコさんはそのまま札幌の太洋重工へ戻り、連邦軍へのジム・コマンドの安定供給を担当してもらった。これからは宇宙戦が基本となるため、ジム・コマンドの宇宙仕様を頼むためだ。また、第13独立部隊宛にジム・カスタムの投入を御願いし、宙ぶらりんになっていたガンダム開発計画も、操作性向上型のNT-1を、コア・ブロックシステム式に改変の上で、アムロ少尉に回すよう、御願いした。

 ゲルググの投入が早まり、史実では試作機で開始された戦闘が試作機特有の問題の洗い直しが終わっているため、シャアのゲルググの性能が向上している可能性を考えなくてはならない。ORIGINでもシャアのゲルググはマグネット・コーティングなしのガンダムに優越していた。それが更に広がっている可能性がある以上、対策は講じなくてはならない。

 また、明確に「戦後」を意識して行動を行う必要性が出てきたため、戦後の連邦政界の動きをある程度掣肘できる人材配置を考える必要も出てきた。

 戦後、連邦政府は各サイドの被害が抑えられていることもあり、各サイドへ連邦政府が持つ債権と、この戦争の復興費用を相殺する形で、各サイドの主権国家化を進めていく方針のようだ。しかし、移民問題評議会がマーズィムを盾にこれに対して懸念を表明しており、各サイドの反連邦政府運動を押さえるための戦力を準備すべき、との論調も出てきている。

 移民問題評議会にも意見が通せるようになってきたグリーンヒル上院議員が妥協案として、もっとも被害が少ないL5ポイントのサイド1、サイド4を、コロニー内武装のみを許す自治共和国化する方針を打ち出すと、サイド6という前例もあり評議会も妥協。現在、その方針で話が進められている。L4共和国とするか、サイド1,4を分割するかで話がまとまっていないが、ブライアン・ミットグリッド自治区選出議員が、出身選挙区であるサイド1区の首相となる可能性が大きい。

 史実であれば連邦政府は、一年戦争で地球が大打撃を受けたのに加え、大きな被害を受けたコロニーの復興計画をも行う必要に迫られたため、強権的な治安政策を取らざるを得なかったが、被害が局限されている本戦争では、其処までの必要性を見出していないし、また、見出す必要性も無かったことは幸いだ。

 この政策決定に伴い、第二の戦時条約として月条約が月面およびコロニー群とジオン間で締結。事前通告無しのコロニー近辺での戦闘行為を禁ずることや、月面の中立化(グラナダ除く)などが結ばれた。この条約は月面の恒久都市連合が主導していたが、目的はジオン軍の地球よりの戦力撤退で戦争の趨勢がある程度見えた以上、戦争の被害を局限し、戦後復興を考える段階に来たこと、および、ジオン側にとっても戦線の整理という要求が強かったことを示す。また、ジオン側も地球から撤退したことで不足する資源を、一定量、サイドからの交易で入手することが可能となった。義勇兵や農産物も同様である。

 結果、ジオン軍の月面駐留戦力が大幅に撤退し再編を開始され、連邦軍もルナツーに集結した艦隊戦力の集中が行え、戦争は一気に終結に向けて加速することとなる。

 12月1日、生き残りにポイントを使用してから、樺太基地より月面Nシスターズに帰還する。何か、決意したような表情になったハマーンが印象的だった。




[22507] 第24話[R15?]
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/08 12:18
 私の名前はハマーン・カーン。現在12歳の女の子だ。

 ……いや、女だ。

 物心ついたとき、お父様はいつも不安げな顔で私やお姉さま、お母様を見ていた。ジオン・ダイクンとかいう人の友人だった、ということでザビ家とかいう人たちににらまれ、肩身の狭い思いをしていたことが、私たちへと及ぶのではないかと恐れていたらしい。

 それが、私がザビ家を知った最初だった。

 8歳のころ、怖い女の人が家に来た。私の勘が鋭いことが、彼女の興味を引いたらしい。特別な教育を受けないかと誘ってきたのだ。お父様は乗り気ではなかったようだけど、そのおばさんはザビ家の人らしく、どうにも話を断れなさそうだった。それに、お父様を脅すような話し方が嫌だった。

 私は初めて、ザビ家が嫌いになった。

 けれど、一本の電話が女性にかかってくると、そのお話しも立ち消えになってしまった。事故が起こって、教育を受けさせるところがなくなってしまったということだった。私はこの偶然に感謝した。あとで本当のことを知ると、それをしてくれた人に更に感謝した。

 私が6歳のときに、妹を産んでから体調を崩しがちだったお母様が無くなった。そして誘われた一件があってから、ザビ家の人はお父様を良く呼び出すようになった。お父様は困り顔で、「新しいお母さんを紹介してくれようというんだ」といっていたけれど、そんな気が無いのは私の目にも良くわかった。お父様は本当にお母様を愛しているのだ。死んでしまった後でも。それがうれしかった。

 だから私は更にザビ家が嫌いになった。

 それから、何度か同じようなことがあった。私をどこかに呼ぼうとするたびに、呼ぼうとしていた場所がどうにかなってしまって話しが消えてしまうなんてことがあった。最初は熱心に呼ぼうとしていたおばさんも、繰り返すうちに面倒になったのか、怖い人を送りつけて呼ぶようになった。黒い服の怖い男の人が、嫌な言葉でお父様に話しかけるたびに嫌な気持ちになった。けれど勿論、話が乗りかけたあたりで壊れるのが常だった。

 私は、もっとザビ家が嫌いになった。

 でも10歳のとき、それが変わった。行きたくは無かったけれど、お姉さまたちと一緒に来るようにザビ家に言われたらしく、しぶしぶ私たちをパーティ会場へ連れて行った。パーティで早速お父様はザビ家の一人らしい、傷跡で顔が覆われた男に話しかけられ、嫌そうな顔をしていた。後で聞いたところによると、お姉さまを奥さんがいるのに二人目の奥さんにほしがったらしい。なんて男だ。私はザビ家が更に嫌いになった。

 でも、そこにはお父様の顔を明るくしてくれた人もいた。

「ドズル閣下!ゼナ様に言いつけますよ!」

 その声と共に、鈍い傷跡の男の表情が変わると、お姉さまの話は立ち消えになったらしい。お姉さまはその話を聞くと、本当にその声を掛けてくれた人に感謝したらしい。ハイスクールに、好きな人がいたらしいのだ。勿論、私も感謝した。だって、お姉さまが笑ってくれたから。


 そして私は会うことになった。私の世界を変えてくれた、その男の人に。



 第24話




 私が他の人とは違うらしい、と気づいたのは、お母様の死んだのを悲しむお父様。お父様の考えていることが頭に流れ込んできたことだった。お父様はそれを聞くと、絶対に人に話しては駄目だよ、といってくれた。けど、私は学校で友達にそれを話してしまった。

 今にして思うと、私のところにザビ家が来たのは、それが理由だったと思う。その友達がいつの間にか、いなくなっていたから。

 人の心を読むことの意味がわかったのは、私がパーティであった男の人、私たちを助けてくれた男の人の心を読んだときだった。男の人―――トール・ガラハウは、それを聞くとちょっと困った顔をして、「人の心を読める力は素晴しいけど、誰にも秘密にしておきたいことはあるし、それを君ができることで、嫌われることもある。そのことは、よく知っておいてね」といわれた。

 訳がわからなかったけど、学校で同じことをしていた私が嫌われていたのは、そうした理由だったのだ、ということを初めて知った。心を読まないようになってから、転校先の学校で友達と仲良くなれるようになった。うれしかった。そして、こんなすごいことを知っている人に、興味を持った。

 私は、いけないことだとは知りつつも、トールの中をのぞいてみたくなった。何度か覗いているうちに、覗かれていることに気づかれた。悲しくなった。いけないことはしたけれど、そのときには私たちの家族を守ってくれていた―――結果としてそうなったとはいえ、私は感謝した―――ことを知っていたので、嫌われると感じて悲しくなった。初めて、自分がいけないことをしていたことに気がついた。

 でも、トールは優しかった。

「覗きたいなら覗くと良いけど、覗いてどうなるかまでは責任がもてない。結果として、私を嫌うかもしれないけど、それでもいいのかな?私は、決して君が思っているような人間じゃないと思うよ」

 どうするかを最後まで悩んだけど、結局私はまた覗いてしまった。

 そして私は知った。トールがこの世界の人間じゃないこと。人が死ぬのを減らすために、この世界に来て色々していること。人間じゃない、なにか、別な生き物として生きていること。

 そして私は知ってしまった。私がこれからどうなるか。トールから見て、私がどんなことを思ってどんな風に感じて、どんな風に死んでいったのかを見ることになった。私だけじゃない。お父様も、お姉さまもセラーナも。

 お姉さまは、本来ならあの話が通って、仲の良かったハイスクールの男の人と別れて、辛い生き方の果てで寂しく死んでしまった。

 お父様は再発する戦争の予感に疲れ果て、私を心配したまま亡くなった。

 私は、金髪の男の人を忘れられないまま、たくさんの人の言葉に踊らされて、一人の少年に救いを見出して、戦争の中で死んでいった。

 妹は、私が起こした戦争で、私を思って戦争をとめようとして、私の部下だった人間に、あの金髪の男の部下となった人間のせいで死んでいった。



 私は泣いた。

「どうして!?どうしてこうなるの!?お父様が苦しんで死ぬの!?マレーネ姉さまも!?セラーナまで!?」

 答えが出ないとわかっているのに私は聞いた。トールが知っているのはこの世界が、大まかにどうなるかであって、私の家族について知っているのも、世界がどうなるかに関わっているからだ。私の家族は、父が戦争の恐怖に苦しんで死に、姉が望まぬ関係に苦しんで死に、私が恋に破れて死に、妹が私のせいで死ぬのだ。そう、決まっていたのだ。

 私は恐怖した。私が、私が父と妹を殺すのだ。私が起こす戦争が。でも、トールは優しくこういってくれた。

「ハマーン、まだ、0078年だよ。それにハマーンは知っているはずだよ。未来は変えられるんじゃないかな?知るべきことを知ったなら、次はどうしたらいいかを考えような?」

 その言葉が救いだった。そして私は知っていた。トールの心を読んだから。トールが、既に何度か歴史を変えていたことを知っていたから。私をザビ家から救ってくれたのもトールだった。父をザビ家から救ってくれたのも。姉をザビ家から救ってくれたのも。

 明るくなると一緒に、元気が出てきたらしい私にトールは微笑んだ。それから、何もかもが楽しくなった。

 
 思い返してみると、私は結局、好きになる男の人を間違えたんだと考えるようになった。トールの知っていることは、私には疑えなかった。トールは私がトールの知っていることを疑わないことを、洗脳じゃないかと考えてもいたけど、望んだことを信じるのは洗脳とは違うんじゃないの?と聞いたら、だったら信仰だね、と言ってきた。自分のこと、自分の考えたことを常に疑っているのだ、この人は。

 ため息を吐きたくなった。記憶を読むことは続けていたし、トールと一緒のことを感じることがうれしくなっていたけれど、トールの知っているこの世界の歴史を読むよりも、トールが知っている「お話」を読むほうが楽しくなってきたこともあって、このころの私は深く考えなかった。後から考えると、もっと考えるべきだったのだ。私のバカ。

 少しして、私たち一家とトールが親しくなって、ようやくトールの家に御呼ばれした。迎えてくれたのは二人のお姉さん。心を読まなくても、トールのことが好きなんだな、と感じたとき、ちょっと心が痛くなった。トールの心を読んだとき、好きあっている男女がどういう風になるのを読んでいたから、二人が私よりも先にああなると考えるともっと心が痛くなった。

 それから、そのことが気になって仕方が無かった。トールが私を如何思っているか。トールの知っている私は、隕石を隕石にぶつけたり、怖い顔で高笑いをしたり、未練たらたらに金髪の女の敵に言い寄ったり、白い色のモビルスーツに乗って、敵のモビルスーツを八つ裂きにしていたりする怖い人だ。でもトールは結構好きなようで、好きになった男が悪いとだけ、思っている。

 うん、そうだよね。好きになった男が悪いんだ。男の趣味が最悪だ、別の私。

 心を読まれることについては、読まれて嫌われるならそれはそれで、と開き直っているみたい。でも、それで嫌われても、私のことは何とかしようと考えていてくれている。ううん、私だけじゃない。シーマさんは本当なら、あの怖い、嫌なザビ家のおばさんに、毒ガスをまく手伝いをさせられるはずだったらしい。プルたちも、戦争の道具として宇宙で死んでいくはずだった。セレインは、好きな男の人に殺されることを望んだ。全部、全部トールは変えようとしている。

 何度も心を読んでいいくうちに、トールが別の女の人のことを考えているのを読むと胸が痛くなった。トールはあのザビ家から生まれてくる女の子ですら、助けようとしている。施設から救い出した、13人の女の子を妹として助けている。彼が誰かを助けるたびに、私の分が減っていくような気がしてきたのだ。別に男の人が助けられても気にならないのに、女の人や女の子だと気になって仕方が無い。

 耐え切れなくなって涙が出てきたところをロベルタさんに見られてしまった。吐き出すように話してしまうと、いつの間にか、部屋にいたソフィーさんが抱きしめてくれて、シーマさんが頭をなでてくれていた。恥ずかしくなって顔を上げたら、「ハマーンも、やっと恋を知ったんだね」と強く抱きしめてくれた。二人は力が強いから痛かったけど、別な痛いのが消えていくのを覚えている。

 そして理解できたとき、うれしかった。自分が自由に、自分が読んだあの未来から自由になれた気がしたのだ。トールは正しい。未来は変えられる。変えられるんだ。うれしくなった勢いで、トールのことを話し始めると、二人は頭を抱えていた。「女の子の気持ちを洗脳の結果や信仰だなんて、どれだけ自分に自信が無いんだい!?」って怒り始めた後、二人で頷きあって、私の肩をつかんできた。

「ハマーン、お前の気持ちは『恋』って言うし、『愛』って言うんだ。トールの言ってたことは忘れな。そんなもんじゃないよ」

 私はうんうん頷くと、二人の首に抱きついた。少し考えて赤くなった。

「でも、好きになったらアレをするんでしょう?私は良いけど、トールが……」

 二人はその答えを聞いて笑いあった。

「だったら迫れば良いさ。トールは確かにお堅いから、気持ちを伝えるのは大変そうだけどね?」

 そういって、私に「こつ」というものを教えてくれた。とてもうれしかった。けど、恥ずかしいし、トールの心を読んだときに、トールが好きな女の人のタイプもわかった。トールは自分に自信が無い。だから臆病者で、慎重で、絶対そうなるって信じられるまで準備を忘れない。けど結構抜けているから、思わぬ失敗をすることも多い。

 自分の年齢を大体28って考えて、20歳以上じゃないとエッチなことを考えない。20歳より下の年齢にそういうことを考えることをいけないことだと考えてる。魔が刺すってことも期待したけど駄目だった。私のことは好きだけど、20じゃないからそんな目では決して見ない。いたずらのようにエッチな格好や恥ずかしい格好をした私は考えるけど、たいていは笑って、別なことを考え始める。考えるだけで、何もしない。「いえす・ろりーた、のー・たっち」とかいうらしい。

 けれど、苦しんでる。男の人だから、どうしても女の人のことを考えてしまうとき。女の人をそうした目だけで見ることを嫌がっているから、考えてしまう自分が嫌らしい。そうしたときには……ゴニョゴニョするけど、寂しそうな感じがしてしょうがない。早く大きくなりたい、とあそこまで思ったのは初めてだった。

 なんとかしようと、色々考えてプルたちやセレインを連れまわしてあれこれしてみた。どうにかしようとしたけれど、悪くなるばかりで一向に良くはならなかった。もしかしたら勢いでと考えて、ちょっと無理をしてみたこともあったけど、何かを耐えるような表情になって、翌朝まで苦しんでいた。どうしよう、苦しめるつもりなんて全くなかったのに。

 それからしばらくして、なにか、すっごく心に痛いことがおきたみたい。読んでみたら、初めて戦いで、死に掛けたらしい。忘れていた。私たちからしてみたら、すごい力と知識を持っているトールも、死ぬかもしれないんだ。そりゃ、心を読んだときに、なぜかはわからないけど一日たてば復活できるらしいけど、死ぬってことを知らないみたい。

 死ぬってことがなんなのか、私はまだ知らないし、トールもまだ知らないけど、私が死んだら、もう、会えない。悲しくなって、不安になって、ああ、頭がまとまらない。ガンダム、ニュータイプ。そんな言葉が読めた。今まで読んだトールの記憶と照らし合わせると、宇宙に出た人間の中に、時たま、そんな能力を持った人が出るらしく、私の力もその一つだそうだ。

 でも、それを宇宙に出た人の革新とか、出ない地球の人のことを、重力に魂を縛られた、とか言ってバカにすることを、トールは心底嫌っている。宇宙に出ても人は人、地球にいても人は人。教育や運動で持つ人格や能力は変わっても、そうそう、本質なんて変わるもんじゃない、そうだ。だから、ポイントで能力をもらうことを、仕方ないとは思いつつも、どこかずるをしていると思っている。

 でも、そうして悩んで、苦しむトールに、私は何も出来ないのだ。

 ずっと気に病んで、話そうにも話せないまま、顔をあわせるだけの日が続いていたとき、今日こそは話そうと、ゲートの前で待ち伏せていたら、流れ込んできたのは幸せそうなトールだった。困り顔で、仕方なさそうで、疲れていそうで、でも、どこかうれしそうで。

 理由はすぐにわかった。トールの頭の中に見えた。青味がかった銀髪の、頭のよさそうな女の人。続いて流れ込んできた。強く、求め合うような二人の姿。嫌だ、こんなの嫌だ。誰?誰がこんなこと?


 ……ずるい。


 本当なら。


 本当なら、その場所は私のなのに。



 でも、すぐにソフィー姉さんたちに話してよかった。トールの頭の中を読んだから、抱え込んだままの嫉妬が、どういう結果になるのかを知っていた私は―――別の世界の私は、それで取り返しのつかないことをしてしまった―――幸運だったのだろう。姉さんたちは、この戦争の最中はしょうがない。戦うということは、苦しいことだから、トールがそうなってしまうのもしょうがないといってくれた。それに、それがトールの私たちへの思いを変えるわけじゃないことも、泣きじゃくる私の背中をなでながら言ってくれた。

「本当に、罪な男だよ、あいつは」

 どこか懐かしそうな目で、ソフィー姉さんはそう言った。ソフィー姉さんはトールのことが好きじゃないの?と聞くと、好きだよ、と答えてくれた。私と同じ?少し不安になった私が聞くと、微笑みながら言ってくれた。姉の好き、と妹の好き、は違うし、ハマーンの好きと私の好きも違うのさ、といってくれた。

「まだ負けたわけじゃないんだから、きちんと気持ちは伝えないと、ね。諦めるにしろ諦めないにしろ。女なんだから、男ぐらい、奪ってやるぐらいの心積もりだよ、ハマーン」

 シーマ姉さんはそう言って、ソフィー姉さんから私を奪って抱きしめてくれた。

 うん、と頷いた。もう、トールのバカ、私、もう知らないんだから。トールの趣味が如何だって、私は……

 うん

 私は、もう、我慢が出来ない。

 後ろから、背中を見つめるだけなのはもう嫌だ。

 振り返って、こちらを見てもらうのは嫌だ。

 隣に立って、顔が見たい。

 前に回って、見てほしい。

 姉さんたちにそういうと、仕方ないね、と笑ってくれた。



 ビクリ、となにかを感じて振り返ったが、当然誰の姿もあるわけは無く、月条約に基づくNシスターズ撤退後、小惑星ペズンに落ち着いた親衛第2艦隊はソロモン戦の前段階である戦力集中を特等席で観戦していた。

 連邦側は既に5個艦隊を軌道上に展開しており、そのうち4個艦隊がルナツーを母港として部隊の集結を始めている。内訳はビュコック中将の第一軌道艦隊、ティアンム中将の第二軌道艦隊、レビル大将の第一連合艦隊と、トーゴ中将の第五艦隊だ。これとは別に、ジオンとの戦時条約で認められた、中立コロニー群からのジオン軍の攻撃を警戒して、L4ポイントにダグラス・ベーダー中将の第6艦隊が展開を始めている。

 勿論、ジオン側からの中立破りが無い限り、L4ポイントを通過しての第6艦隊の進撃はありえず、ルナツーに集結した4個艦隊が、ジオン攻撃の主力となることは誰の目にも明らかだった。しかし当然、ジオン側もL4ポイントを突破しての連邦艦隊の攻撃を考慮に入れないわけには行かず、グラナダ艦隊の拘束に成功しているといえるだろう。

 一方、ジオン側での各艦隊の位置関係は、ギレン率いる宇宙総軍がア・バオア・クーを本拠に展開を始めている。ギレン自身がまだサイド3にいるため、展開する部隊の中心となっているのは親衛第一艦隊のデラーズ少将率いる部隊だ。基地司令のランドルフ・ワイゲルマン中将ともども、防衛ラインの構築に余念が無い。

 ソロモンのドズル艦隊は戦力的に充分であり、また、月面から最後の支援として送られたビグザム4機(量産試作型含む)が届く、あってか意気軒昂そのものだ。だが、先々を知っている私からすれば、連邦艦隊の戦力はやはり脅威で、投入しようとしている新兵器を考えると敗北は避け得ない。

 まぁ、今はいい。戦力の強化に邁進しよう。



[22507] 第25話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/02 16:55
 0079年12月1日。ズム・シティ公王官邸。

「地上からの敵前逃亡、如何責任を取る、キシリア」

 ギレンは冷たく言った。地上からの撤退に関する詳しいデータが既にギレンの元にまで届いていたことを、彼女は予測できていなかった。地上攻撃軍は彼女の軍であり、軌道上に打ち上げた際に、時間や航路データが一定時間を経るとウィルスによって破壊されるよう、プログラムを組んでいたからだ。

 これは、機密保持のためとされていた。実際、取り残された地上軍では航路データの破損により軌道上の経路が予測出来ずに打ち上げが11月28日を境に止んでおり、宇宙攻撃軍の回収も現在まだ続いているが、一両日中には終了する―――打ち切ることが決定されていた。

「貴様が航路データを損じたおかげで、地球からの兵力撤退が阻害され、我がジオンは多くの戦力を地上に失う結果となった」

「既にオデッサからはジオンが10年戦えるほどの鉱物資源を上げております。兄上」

 キシリアは言った。視線にひるんだ様子はない。

「我が艦隊で用意させている新型の投入もあれば……連邦に大打撃を与えることも可能でありましょう」

 航路データの消去、か。敵前逃亡を楽に進める思惑もあるだろうが、航路データを消去した最大の理由は他にある。恐らく、軌道上へ打ち上げた物資がジオン本国に届けられた物資と量が異なるのだろう。キシリアが地上に降下した後も、サイド6の民間会社を通じてジオン本国への資源輸送に協力させたことは伝わってきている。書類上は徴用したこととなっているが、キシリア機関のダミー会社であることは疑いないだろう。

 そして、運び去られた物資の行き先は、追った限りではグラナダ。しかし、グラナダの港湾部を探させても、そしてグラナダ市の何処を見渡しても、そんな資源はなかった。確かにまわされた資源はグラナダ市のジオニック社でリック・ドムやゲルググ、艦船となっているが、それは書類に乗っている方だ。


 気になって追跡調査をさせたところ、驚くべき場所に資源が集積されていた。月の裏側、ゼブラ・ゾーンだ。

 ゼブラ・ゾーンとは月の裏側にあるサイド3を更に離れ、地球・月間ほどの距離にある重力だまりのことである。歴史においては木星へ向け地球圏を脱出する船団が中継基地としていた廃棄コロニー改造の基地、「アンブロシア」がおかれていた宙域である。宇宙世紀0122年あたりには、シルエット・フォーミュラの舞台ともなった所だ。

 宇宙世紀初期に計画され、今は軌道上に観光名所として残されている、旧地球連邦首相官邸コロニー「ラプラス」に代表されるスタンフォード・トーラス型やベルナール型のコロニーは、各サイドに設置されるコロニーが島三号型コロニーになることが決まると、まだそれほど数が揃っていなかったこともあり、月の裏側から外宇宙へ向けて投棄された。

 この投棄されたコロニー群が、L3ポイントより更に離れたアステロイドベルトの重力に掴まったのがゼブラ・ゾーンだ。既に「アンブロシア」の建造は終わっているらしく、ミラージュコロイドを搭載させたアステリオン、ベガリオンによる偵察では、運用が行われてから久しいようだ。継続しての諜報を行わせているが、流石に中にまで侵入を行うのは、ここの存在が公表されていないため、厳しい。

 そして、地球から持ち去られた資源は、8月から始まった、島三号型コロニー設置にあわせて、搬入され始めたのである。手順は簡単で、コロニー落しの際に被害を受けた、サイド2首都島行政区のコロニーやサイド5、ルウム戦役で被害を受けたコロニーなどをリサイクルする名目の下、第二次ブリティッシュ作戦が無期限延期となった段階で2基のコロニーを確保。ゼブラ・ゾーンへ輸送し基地コロニーとすると共に、廃棄コロニーの中に資源を溜め込み、秘匿していたというわけだ。

 こりゃあ、キシリアもこの戦争の先行きに見切りはつけ始めているな。実際、マ・クベがア・バオア・クーを脱出するとき、キシリア派の人間が迷わずアクシズに逃げる算段をしていることからも、この時点で、地球を失った時点で戦争の敗北と判断して、アクシズ逃亡の準備を進めているのだろう。

 となると、Zのハマーンの立場が実はキシリアだった可能性もあるわけか。こりゃ、木星に関しては少し考えなきゃいけないかもしれない。キシリアは臆病者だが、軍人ではなく陰謀家や政治家として考えるなら、臆病はむしろ必須の要件だ。宇宙に戻ったことでまたぞろなにかやりださなきゃいいが。

「ガラハウ少将」

「はっ」

 ギレンの言葉に敬礼を返す。

「連邦軍の攻撃第一波は何処に来ると思うか?」

「……ソロモンでしょう。ア・バオア・クーとグラナダは、それぞれサイド3やNシスターズなどの基地の援護を受けやすい位置にあります。ソロモンは、現在食料や民生品をサイド1に頼っていますが、逆に言えばそれだけで、援軍の投入がしにくい位置にありますから」

 ギレンは頷いた。

「私も同感だ。キシリア、貴様はグラナダで再編した戦力をドズルの下に届けるようにせよ。地球失陥の責任を取り、貴様を准将に降格する。しかし、ソロモンへの戦力移送には権限を要する為、今この場で貴様を少将に戻す」

 どういうことだ?一旦准将にした上で少将に戻す?そりゃ降格処分で准将にすれば、グラナダに対する指揮権を失うし、当然キシリア派がうるさくなるだろうから、少将に戻さなきゃならん。けど、そんなことなら降格を言い渡す必要はない。

「ガラハウ。グラナダに対する指揮権をお前に移譲し、先任権限で貴様の下にキシリアをつける」


 ……はーい、死亡フラグ来ました。



 
 第25話


 ギレンの前を退室した私は、新しく配下となったキシリア閣下を従えて公王官邸の廊下を歩いていた。

 下にキシリアを抱えるなんてどんな死亡フラグだよそれ!毎日が鉄火場!?ああ、これからジオンで過ごす際には絶対に姉さんズと一緒かよ、とか思っていたら、あっちもあっちのほうで私なんかの下につく気はさらさら無い様子。

「私に命令しようなどと考えるほど、ガラハウ少将殿も考え無しではありますまい?」

 とか言ってきましたよコンチクショウ。そりゃ命令なんぞするつもりもないけど、そう面と向かって言われるとムカツク。まぁ、実際キシリアをNシスターズに入れるわけにもいかない。本音を言えば彼女にはさっさと死んでほしいのだが、それはそれで困るのだ。

「殿って、閣下、其処までなさらなくとも」

「今の私は少将の指揮下にありますので、言葉の上で地位は明らかにしておきませんと。それで?」

「まぁ、そうですね。部下とするにも問題がありますし」

「どうされる、少将殿?」

 キシリアが試すように聞いてくる。

「あなたの下についている考え無しのバカどもはどうにか出来ますか?」

 キシリアはマスクの下の口元をゆがめた。

「既に少将殿の部下でありましょう。部下の把握をなさらないとでも?」

 おう、そう来たか。バカな部下の責任をすべてこっちに推し被せる気マンマンですね。主にマレットとかマ・クベとかシャアとか。

「把握はしているつもりです。ニュータイプ部隊を如何使われるおつもりですか?」

 キシリアがついて来いという仕草をし、公王官邸の中に用意されているらしい、彼女の部屋に入る。応接間のソファに座り、ガラス棚からグラスを、ワイン専用らしい冷蔵庫からワインを出してくる。勿論断る。この女性と飲んだ後に死亡とかありえすぎる。

「ガラハウは酒を嗜まぬか」

 口調が変わった。表向き配下に入るが、実際そうではないということを言いたいらしい。

「むしろタバコですかね。宜しい?」

 キシリアはムッとしたようだが頷いた。よし、いいぞ。一発反撃は出来た。むなしいけど。

「ガラハウ、貴様ならフラナガンの研究がどういうものかを知っているはずだけど、如何思う?」

 ため息を吐いた。証拠こそないが、こちらが定期的にフラナガンの研究施設を襲撃しているのは知っているらしい。まぁ、現状で襲撃をかける勢力が我々しかいないのもあるが。

「無茶振りが過ぎますよ、少将。私が「そんなことを知っているはずがありません」」

「ガラハウ、ここに盗聴器は仕掛けられていない。緊張する必要はないぞ」

 私は鼻で笑った。NT能力はあるし、相手がこちらにどういう感情をもっているかも大体は理解できる。だからといって目の前の女性を信用する気にもなれないし、必要以上の情報を洩らすつもりもない。それに、この女性の先ほどのセリフの意味は、盗聴器を使ってはいないが別のものを使っているということを意味している。

 携帯電話が振動を始めた。メールが届いたようだ。内容は「配管の工事が終了しました。次回も是非わが社にお申し付けください!サービス一番、合資会社マリオ・ドカン建業」、とのこと。同時にキシリアにも何かが届いたようで、先ほどまで親密そうだった顔が一気に険悪になった。

 まぁ、そりゃそうだろうなぁ。盗聴チームがまた一つ消えたわけだし。あとで聞いたところによると、盗聴器そのものは使っていないが、FBIなどが良く使う、窓の振動などで音声を読み出す機械を使っていたようだ。

 状況がどうなっているのか理解したようで、口調が元に戻る。

「少将殿は私を信用していないようだな?」

「キシリア閣下を信用するとは……無謀な方もいたものですな。鏡を見たら額に肉とか書いてありませんか?そういう方って」

 キシリアの顔が引きつる。いかんなー。負け続けなのはわかるけど、耐性無いよ?うちのミツコさんなんか、何回スパロボの主人公たちに辛酸を舐めさせられたことか。それでもめげずに悪巧み続けてらっしゃるんだから見習ってもらわないと。アレ?もしかして結構毒されてきた?

「……少将殿は面白いことをおっしゃる。私のところにもそうした人材がほしかったのだがな」

「いても使わなかったらおしまいですよね」

 空気を読まずにうんうん頷き、一人で結論を出した風を装って話を逸らした。こんなことを続けていたら、いつまでたっても話が始まらない。

「キシリア閣下の所にも、地球から撤退した部隊が帰還を開始しているはずですので、ソロモン、ア・バオア・クー、月面の戦力が2対2対1になるように配備させていただきます。実質的に突撃機動軍の編成ですね、規模小さいですが。我が親衛第2軍団はNシスターズより撤退。本拠を移します。できるなら三拠点すべてに援軍をまわすことが出来るところへ」

「Nシスターズはどうなさるおつもりで?」

「条約どおり中立化させます。まぁ、後々のことを考える時期にも来ていますし」

 そういうとキシリアの表情が変化した。瞑目し、鼻を鳴らす。

「少将殿、シャア少佐のニュータイプ部隊を連邦のニュータイプ部隊にぶつけようと思うのだが、どうだ?」

「無駄遣いもいいところですね」

 キシリアは窓に体を向けた。こちらの話を聞く気はないようだ。

「独立300戦隊、という名前で編成しようと考えている。少将殿お気に入りのフラナガンから、何名かパイロットを回して」

 其処まで言ってこちらを振り向いた。

「少将殿のところからも出してほしい。フラナガンからの要望もあるし、何よりもジオンの勝利のために」

「目的は。どのように運用されますか。あなたが人間をどういう風に扱うかについては仄聞するところが多くありますが、あまりいい噂を聞きません。大事な部下を派遣して、使い潰されたりしたらたまったものじゃありません」

 私は言った。冗談じゃない。下手を打てばせっかく作った自軍の戦力同士で戦闘をかけなければならん。要求してくるのは恐らくセレイン。下手をしたらセレインVSアムロとか、どこのGジェネDSだよ!?な展開になることは必至だ。勝てるとも限らないし。乗せるのもエルメスなんて微妙な代物だしなぁ。

「第一、私への見返りは?」

「人の革新」

 私は鼻で笑った。

「失礼致します。夢想家と話す口を持たないもので」

 キシリアの眼光が鋭さを増す。ふん、ザビ家の人間が何処かしら、ジオニズムに対して何かを感じているという感覚はやはり当たりか。思えば末期のジオン・ダイクンの後継者がギレンであり、若きジオン・ダイクンの理解者がデギンである、と。となれば、キシリア・ザビは『どのジオン・ダイクン』を好むのだろう。なんとなく笑えてきた。誰もが彼の本質を知る事無く、誰もが自分の望む彼を見る、か。どこの真っ裸だ?

「少将殿……何が可笑しい?」

「いいえ、なんとなく。話が無いのでしたら、失礼致しますが……よろしいでしょうか?」

 キシリアは言った。

「独立300戦隊の設立は兄上も御承知だ。確認してくれて良い」

 なるほど、手配りはおさおさ怠りは無いということか。いや、そろそろ私も旗幟を明らかにすべきなのかもしれない。

「承知しました。指揮権は当然いただきます。編成もまぁ……考えましょう。シーマ艦隊も併せますので。少将、今週中に師団級の部隊をソロモンへ。人員とMSは揃っているはずですので」

 キシリアは頷いた。

「了解した、少将殿」




 部屋を退室するとドアの前に秘書官のアイリーン女史が立っていた。どうやら、御丁寧に出てくるのを待ってくれていたらしい。

「閣下、お時間宜しいでしょうか?」

「急ぎの用件のようですね」

 アイリーンは頷くと冊子を取り出す。表題は新設機動艦隊の司令官職に新補。一枚めくるとキシリア少将をグラナダ司令として根拠地司令の任に据え、ソロモンへの援軍を編成次第、移動としている。

 受け取って冊子を開く。新設機動艦隊は現在、キシリア艦隊所属となっているグワジン級戦艦アサルムを接収後旗艦とし、親衛第2軍団所属巡洋艦を以て編成。またキシリア艦隊のうち、グラナダ防衛に用いるもの以外をも戦力とす。母港はカラマ・ポイントに設営の宇宙乾ドック「ネクタル」、もしくはゼブラ・ゾーン設営の公国軍基地「アンブロシア」を使用のこと。

「「アンブロシア」?初めて聞く名前ですが」

「キシリア閣下設営の基地です。以前は木星公社からのヘリウムを積み替えていた積み替え港でした」

 なるほど、あの基地に関してはジオンの最高機密だったわけだ。無酸素発電設備にヘリウム3の安定供給は不可欠。MSのジェネレーターにも、だ。それに用いるヘリウムをあそこでどうにかしていたと。……そうならなんでこちらの耳に届かない?木星公社なんて結構うちの手が入り込んでいるから、ヘリウムの積み下ろしなんてやっていたらどこかで引っかかるぞ?

 不信感はアイリーン女史にも伝わったようだ。

「表向きはそうなっておりますが、実際はキシリア様設営の木星への逃走用施設です。ジオンの敗北を示唆するような行いは許せませんが、設営を行ってしまった以上、有効活用せねばならないと総帥はお考えです」

 ふむ、総帥府直轄の諜報機関がキシリア機関を出し抜いたのか。地上に何もかもをおいてきた身の上とあっては仕様が無いのかもしれない。しかし今度は今度で困ったことになった。キシリアとギレンのパワーバランスを図り、その間で泳ぐことで生き残りをしてきたが、パワーバランスが崩れてギレンが暴走する危険性を考えなくてはならなくなってきた。

 いや、違うか。絶大な自信家のギレンだ。ソーラ・レイの件もあるし、宇宙に上がった連邦軍に大打撃を与えることぐらいは考えているはずだ。ソロモンを如何扱うかだが、キシリア艦隊の戦力を接収するとなると……グラナダをもらったほうが良いのだが、それだとキシリアがいる場所が無くなる。カラマ・ポイントにせよ「アンブロシア」にせよ、月が本拠……そうか。

 流石ギレン。優秀だ。うっすらとではあるが気づき始めたのか?いや、もう気づいているのかもしれない。いかん、ヤバいぞ。だましおおせるとは思っていなかったが、まさかキシリアを押し付けてくるなんて考えもしていなかった。

「どうされました、閣下?」

 声に反応してセシリアを見る。なんとなく、髪型が残念な気がしたので指摘してみた。

「髪は後ろに流すか、編んだ方が映えると思うよ、女史」

「はぁ、……ありがとうございます」

 あっけにとられたのか、セシリアはそうですか、とだけ、この女性には珍しい、呆け顔で言ってくれた。




 キシリアの権力が低下し、ギレンがこちらの動きに気づいて月と私を切り離す動きに出た以上、私のほうもどうにか対応を考えなければならない。幸い、キシリアの権力と保有する艦隊戦力が低下したおかげで、ゼブラ・ゾーンの「アンブロシア」基地がこちらの管轄下に入ったのは幸いだった。

 流石に民生用区画を備える「アンブロシア」にプラントを設営することは出来ず、また恒久的にゼブラ・ゾーンにプラントを設置するわけでもないため、移動可能なプラントを有する基地として、不要になっていた小惑星ペズンを接収。ここに移送可能な小プラントを設置した。一年戦争が終了次第廃棄するつもりなので、RPを変換するというよりは、ポイントを使用するための施設だ。

 この小惑星ペズンをゼブラ・ゾーンに配し、艦隊母港として運用することとして何とか勢力圏の構築が完了した。Nシスターズからの撤退が完了すると早速ギレン、キシリア系の諜報部隊が暗躍するが、ジオン側に協力して久しい、レンジ・イスルギ社長率いる太洋重工のお膝元では動きにくい。連邦側も、ジオンの勢力が後退する分にはかまわない、との判断を下したようで、月条約の発効と共に月面の3分の2が中立地帯となった。

 シャア率いる独立300戦隊が指揮下に入り、またキシリアからグワジン級アサルムを旗艦とする―――あとで知ったが、回されて来た艦隊はマ・クベのものとなる予定だったらしい―――艦隊を奪い取ることになった結果、キシリアの艦隊戦力はドズルの支援に部隊を回すと、ほぼ原作結末どおりの戦力にまで減少した。

 ここまで勢力が減少すれば、副官トワニングの言もあろうし、キシリアの動きは戦争終結まで、予想外の行動が出来ないほどには抑えられたといってよいだろう。おかげでキシリアの代わりに色々とやる羽目になってしまったが。というか、キシリアから正式に配置換えになったことで、さっさとホワイトベースとやらせろとシャアから矢のような催促が来ている。

 同様の内容がフラナガン機関からも寄せられており、強化人間であるシャリア・ブル、シムス中尉を使ってのブラウ・ブロの実験を行いたいらしい。第13独立戦隊は予定では明日打ち上げ、3日後の4日にはルナツーに入港予定のはずだ。フラナガンの情報は既に渡っているらしいから、恐らくソロモンが終わったあたりで、か。

 仕方ない。あまりいい感じはしないが……シャアにはある程度、好きにやらせるより他にあるまいな。

 今回のポイント使用はシーマ艦隊の使用MSをアップグレード。シーマ艦隊用MSはRFゲルググとした。これによって生じた余剰のゲルググMと、キシリア艦隊や本国防衛隊から回ってきた艦船で分遣隊を作り、カーティス大佐を艦長としてダニガン予備役中将に司令官を御願いした。詳しい編成は設定集に譲るが、ソロモンやア・バオア・クーに回す艦隊と、サイド3およびゼブラ・ゾーンの防衛に回す艦隊の2つとなった、という訳だ。それに、いい機会だから姉さんの生き残りを掛けて、カスタム機を生成しておこう。中身別物は基本だけど、シーマ・ガラハウとなるとやっぱりアレだよね。

 この二つの艦隊であと一ヶ月を戦い抜く、か。気は抜けないな、やはり。姉さんたちと合流したら、相談の上で戦力の向上を考えなくちゃいけないな。


 ポイント表を見たら、キシリアのおかげでこれからポイントが-30000されるらしい。呪いのアイテムか何かか、あの紫。

 悲しくなった。



[22507] 第26話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/06 10:59
 UC0079年12月3日。キシリア艦隊旗艦「パープル・ウィドウ」

「グラナダから出ておいでとは、よもや出張っておられるとは思いも」

 シャアはキシリアに言った。

「情報が不確かゆえ、艦隊をカラマ・ポイント経由で現在向かわせようとしているところだ。私の艦隊はドズルへの援軍ゆえな」

 ふむ。ガラハウ少将にマ・クベ用の艦隊を取られ戦力も減り、グラナダも月が中立地帯となることで、月方面からの攻撃を受けないために安全なはずなのに出てくるとは、よほど政治的にまずい状況に追い込まれたと見える。ふふ、これは肝所だ。

「連邦軍が現在進めている『星一号』作戦。具体的内容がつかめましたので、御報告にあがりました。まずは、お人払いを」

 キシリアは鼻で笑った。

「独立300戦隊、か。陣容はどうなっている」

 シャアは頷いた。作戦よりも前にそちらの方が重要か。まぁ、無理も無い。艦隊をガラハウに取られ、グラナダの部隊も月の中立化で縮小方向に移りつつある。本国防衛隊とア・バオア・クー、更にはガラハウに戦力を取られるかもしれない焦りに満ち満ちているというわけだ。他勢力の大艦隊に対するにはニュータイプ……いや、もはやそれしかすがるものが無いのかもしれん。

「独立第300戦隊は私のザンジバルを旗艦とし、ファーレン中佐のケルゲレンを僚艦として編成が完了しております。指揮権につきましてはガラハウ少将のものであり、艦隊の出撃に関しては少将の了解を得る必要がございますが」

「セレイン・イクスペリは来ておるのだな?」

 シャアは頷いた。あの若い女性をどうしてキシリアが気にするのかがわからない。

「ふふ、こちらから送ったアイン・レヴィと接触させ、接触を継続させておくように。後々、必要にもなろう」

「はっ」

 理由はわからないが、注意しておくべきだと考えた。あのガラハウ少将の妹をここまで重視するとは……人質としての利用を考えてでもいるのか?

「それから、エルメスの調子は如何だ?」

「はっ。ララァ・スン少尉、およびクスコ・アル少尉に配備した1号機、2号機共に正常に稼動しています。現在、両機共にザンジバルに格納しておりますが、おかげで、私のゲルググ以外のMSを乗せる余裕がありません。ケルゲレンのイクスペリ少尉にも3号機を予定しておりますので、キシリア閣下には艦隊戦力の供出を御願いしたく思っております」

 キシリアは鼻を鳴らした。

「そんなもの、ガラハウの艦隊を充てよ。これ以上の戦力減には流石に耐えられん。私の動きようがなくなるからな……で、お前がつかんだ星一号作戦の内容とは?」

 シャアは頷き、床一面に地球圏の星図を投影させた。しかし、何もしゃべらない。

「私はニュータイプを戦力にせよ、とは命じたが、ギレン総帥にまで話を回せ、とは言わなかったな?シャリア・ブルとかいう十字勲章組を編入させ、ギレンよりにフラナガンが開発していたブラウ・ブロをまわしたと。シムスもアレに乗せるようだな?一体、何を考えている?」

 キシリアは席から立ち上がり、投影されたスクリーンの方へ歩み寄る。

「私はスパイの真似事をせよ、と言った覚えは無い。そうだな?ガルマのことがあり、ドズルににらまれたお前は、私かギレン総帥かのどちらかを頼らなければならん。ジオンで生き残っていこうと思うならば、だ。……言っておく」

 キシリアはシャアをにらみつけた。

「私は、ギレン総帥を好かぬ」

「勿論わかっております」

 シャアは頷いた。

「これが、現在の状況です。まず、ルナツーに集結した連邦の艦隊ですが、想像以上の規模、現在、こちらの全軍の倍以上の勢力を誇っており、更に地球からの増援で増える予定です。そして、ソロモンが攻略された場合……」

 シャアはコンソールの内容を次へと移した。

「ソロモンを攻略した艦隊、恐らくティアンムでしょうが、ティアンムの艦隊にレビルが合流し、ビュコックが援護に付くことになるでしょう。ことによると、対スペースノイド強硬派のコリニー艦隊―――本人ではなく、おそらくワイアット大将あたりでしょうが―――も同道するでしょう。この3個艦隊乃至4個艦隊が次に何処を攻撃するか。選択肢は三つ」

 シャアは月を指差した。

「グラナダはありえません。月の中立化によって恩恵を受けているのはジオンも連邦も同じ。月面上の広い地勢を考えれば、無意味な消耗戦を繰り返すだけになります。ジオンにそんな国力は無く、連邦にそんな金はありません。ア・バオア・クー、これもありません。連邦は財政上、戦争を早くやめたがっています。これ以上の財政出動は、軍はともかく議会が耐えられません。それに、ソロモン、ア・バオア・クーで損耗を重ねた場合、最終決戦の可能性を戦えません」

「ジオン本国。そう言いたいのだな、シャア」

「そうです。間違いなく」

 シャアは言い切った。

「ソロモンさえ落としてしまえば、サイド3があるL2ポイントは連邦軍の前にその姿をさらすことになります。そうなれば、ア・バオア・クーに戦力を集中させたところで、本国を抑えてしまえば如何にでも料理できます。ア・バオア・クーの工廠能力だけでは駐留軍を維持できません。食糧生産も支障をきたすでしょう。早晩、飢えに耐えかねた艦隊が離散を開始し、連邦は抑えたサイド3、ソロモン、そして月面で、飢えた狼の処理を考えればよくなります―――その場合」

 シャアはキシリアを見つめた。

「デギン公王は、如何動かれます?」

 キシリアは詰まった。答えが出ない。

「陛下は元々開戦に乗り気であらず、更に戦争の規模拡大と長期化、ジオン側の劣勢で、最近は事毎に総帥と対立しておられます。マハルの件でも、です」

「……実現可能か、その種の兵器は」

 シャアは頷いた。

「連邦軍の投入する新兵器も同様の思想で形作られております。ソロモンへの正攻法での攻撃は、投入までのカモフラージュとなるでしょう。総攻撃は圧倒的なものとなり、ソロモンは、予想したほどの損害を連邦に与えず、陥落します。決断なさってください、閣下」

 そして言葉を続ける。

「ソロモン陥落を、是とされるか否かを」

 キシリアはため息を吐いた。

「ソロモン救出を考えるなら、ギレンはガラハウの艦隊を投入し、ア・バオア・クーの艦隊もまわせばよい。しかし、それをせずに、ゼブラ・ゾーンにガラハウを送り、デラーズにア・バオア・クーへの戦力集中を任せた。何故か?」

「後、でしょう」

 キシリアは頷いた。

「明らかに兵力を温存しようとしている。目的は―――。シャア、お前はどうする?何処に身を置く?私はキシリア。キシリア機関の長だ。過去も現在も未来も、知るべきことは何でも知らずにおかぬ」

「………」

 それに対し、シャアは黙して答えることは無かった。

 バカなことを。知るべきことを知っているのなら、若造一人御せように。



 第26話




 UC0079年12月6日、カラマ・ポイント。
 
 シーマ艦隊が曳航してきたグワジン級アサルムを受領した私は、すぐにアサルムの艦長室に居を据えると指揮下艦隊の集結を待った。シャア率いる独立第300戦隊がまだ到着していなかった。恐らくキシリアと何か悪巧みをしているのだろう。が、壁に耳あり障子に目ありとか考えないのかね?自分が出来ないことを、相手が出来るかもしれないことを考えたこと無いのか?

 諜報でのし上がって来た人の苦手が防諜とか笑えない事態過ぎる。実際はそんなことは無く、キシリア機関の防諜はトワニング准将によって運営され、それなりの成果を上げている。トールたち相手には上手くいっていないが。そもそも金属を介してプログラムへ自由に侵入し操作、介入どこから変質までを行えるブラスレイターがいる時点で反則だ。

 あの後、基地を「アンブロシア」に設営し、更に実戦部隊の母港として小惑星ペズンを用いるとギレン総帥に話を通し、ペズンをゼブラ・ゾーンへ曳航させ、現在基地化を進めている。キシリアも予定通りにグラナダから戦力をソロモンへ移動させ、Nシスターズ地下からも援護のため、MA-09量産型ビグザムを宇宙用に改造した、MA-09C量産検討型ビグザムを三機、ビグザムと一緒に送っておいた。

 ドズル閣下からは「ビグザ(ry」と威勢のいい演説が送られてきたが、送ったビグザムにはIフィールドを搭載していない。量産検討型を含め、すべてがビームコート装備で、ビーム兵器が全く効かないと言う訳ではないのだ。一つにはIフィールド技術が進みすぎると後々ネオジオン系のMAに手を焼かされそうなことと、二つには、あまりにビグザムが強すぎるが故の、ティアンム提督の戦死は防がねばならなかったからだ。

 艦隊に対して特攻をかけても無事だったのは、装甲ではなくひとえにビームを無効化するIフィールドだということは充分以上承知している。実際、ソロモン、ア・バオア・クーと連邦の被害はうなぎのぼりになっていく。戦後のティターンズだけではなく、その後々も考えると、良識派の人間はほしい。シャアの部隊は押さえるとして、問題は、だ。

 この視界の下で動くピンク色の生き物をどうにかしなくてはならない。


 
 キシリアとアイリーン女史との会談を終えて戻った私を歓迎してくれたのは、例によって自称ガラハウ三姉妹だった。張兄さん仕込みのスルースキル発動で逃げようと思ったら、いつに無く真面目な顔で、ハマーンが制服の裾をつかんでいる。

「私も、MSに乗りたい」

 頭を抱えた。まだ早いよお嬢さん、せめてあと4年は待ってと説得を開始したけれども意志は固い。ソフィー姉さんたちを見るが、頷くだけでハマーンを止める気は無いようだ。

「戦場に出るということがどういうことかは、私の記憶を読んでいるのだから、わかっているはずだよ、ハマーン」

「トール、私はあなたの隣に立ちたい。私には、その力があるはずだ」

 目をもみ始める。確かにハマーンの高いNT能力なら、戦場でも充分以上の働きはしてくれるだろう。だからといって、12歳の子供を戦場に立たせようなどと考えるほど、落ちぶれたつもりは無い。

「守られるのは、嫌だ」

 ハマーンの口調が変わった。聞き覚えのある、あの声質だ。もう一度ため息を吐く。

「私にもまだ弱いけど、NT能力があってね。ハマーン、読んでもいいかい?」

「どうぞ」

 ここまでいっても返事は変わらないか。こちらも、本気にならないと。確かに、私のNT能力は弱い。ポイントで獲得したばかりで相手の思考を如何読み取ればなどわからない。ただ、視線を交わしてハマーンが額をつけてきたとき、目をつぶると頭の中に別な光景がうつるのが見えた。これが共振って奴か?

 などと思っていたら、額をつけるだけではなく唇まで合わせてきた。姉さんたちに悪い教育を受けたらしく、舌まで入れてこようとするのは流石に防いだが、接触面が多くなったわけでもあるまいに、入り込んでくる情報が一気に多くなる。

 気がついたら抱きしめていたことが、とても、とても……心に痛かった。頭を壁にぶつけ始めたところをシーマ姉さんに止められたと同時に、この決意が本気であることも、どういう風に考えての行動か、そして何故姉さんたちが文句を言わないのかを理解させられた。そりゃあ、ここまで決意を持っているのに、いまさら言葉による説得なんて効きっこない。よくわかった。

「姉さん、いいのか?」

「女が決めたことを、覆せるわけが無いだろう」

 それは普通男の場合だと思ったが、すぐに頭を振った。男だろうと女だろうと関係ないか。

「まだ12歳だよ?MSの戦闘に耐えられるとは思わない」

「私らと同じようにナノマシンは打ってある。お前が連邦に行ってから訓練も続けてきたしね。そんなに心配なら、12歳でも扱えるMSをデザインしてやればいいだろう?」

「断りも無くナノマシン処理したのか!?」

「トーニェィ、どうするつもりだったんだい?」

 ソフィー姉さんは言った。

「シーマには同意の上でしたね?そりゃ、お前がこれから先、付き合わせるからだろ?天使の輪っかが降りるまでかそのあとかはしらないけどさ!」

 言葉に詰まった。確かに、ナノマシンによる不老化処理やポイントによる不老化処理は、そのためのものだ。艦隊指揮官として、少数の艦隊運用を任せたら、シーマ姉さんはジオン有数の手練だ。3年間、宇宙海賊として生き残ってきた実績、そしてそれを生んだ才能はそれほど強い。基本、穴倉に引きこもっていたデラーズとは役者が違う(デラーズが決して下手というわけではないが)。毒ガス部隊という汚名のおかげで安定した母港を持てない姉さんが三年間、ザンジバル1隻とムサイ8隻の艦隊を、戦闘力を維持したまま維持し続けたのは、伊達ではないのだ。

「ハマーンはどうするつもりだい。今はいいさ、まだ子供だからね。でも、これから先は?気持ち先行で助けるのはいいけれど、助けた人間の面倒のことも考えているのかい?」

 ソフィー姉さんは言った。

「だから処置した。ポイント使って年齢変更だとかをやれば、心に応じた加齢も出来るんだろ?巻き込んだのがお前なら、巻き込んだなりの責任を取りな。あの子は決めたんだ。お前についていくと。……充分以上に伝わったんだろ?」

 黙るしかない。姉さんの言うことは正しい。正しいけれど、きちんとした判断が出来るまではしたくなかったのだ。いや、言い訳か。ハマーンの決意がそれだ。なのに、俺が踏み切れなかった。

「月での耐G訓練じゃいい成績を出してる。シートは調整してやればいい。シーマのところのゲルググじゃ、シーマとコッセル以外は勝てないよ?もうすぐコッセルも危なそうだがね。フェンリル隊との模擬戦でもいい成績を持ってる」

 腕も申し分ないのか。仕方が無い……違うな。……良し、決めた。

「戦場では絶対に離れるなよ。俺が死んでも生き残ることを考えろ」

 ハマーンは頷く。

「大丈夫だと判断できると、俺が判断し、そう言うまでは絶対に逆らうな。俺が撃墜されそうになっても助けに入るな。後退しろといったら必ずすること」

 さらに頷く。

「卑怯な言い草だけど、ミツコさんがいるからもうハマーン一人の俺じゃない。……ハマーンが嫌いなシャアと同じようなものだぞ?」

 首を振った。そしてハマーンは決然と言った。

「あの男はそれを隠して、女に自分がただ一人の男だと植え付ける。ララァを出されて困ると大義を引き合いに出すか、その場だけをごまかして女の心を利用する。ただの卑怯者だ。……トールはあんな奴とは一緒じゃない」

 頷いてしまった。なんて大人な考え方!……むぅ、イエス・ロリータ、ノー・タッチが座右の銘なのに。というか、原作ハマーンはアレでZ時20とかありえないだろ、でも、この頭の働き具合を見ているとそうなるのか、とか考えているとハマーンが膨れていた。いかんいかん。

「……だったら、好きにしなさい。MSは用意する」

 何かもう、ぐだぐだで、男としてはとても情けない事態になったのだが、あれだけ抱えていたのだから、私としては認めるよりも他に無い。

 さて、ハマーン用のMS探しは案外、難航した。最初、当然キュベレイかとキュベレイを用意したところ、悲しそうな目で「別な私と同じは嫌だ」と言ってきた。キュベレイを見ると思い出してしまうようだ。どうやら、史実のハマーンがシャアを好きになったことを仕方ないとは考えつつも、趣味が悪いことこの上ないと思っているらしい。否定できないところがシャアがかわいそうになってきたが。

 ……まぁ、同情はできないなぁ。不誠実この上ないし。

 NT用MSに縛りがあることは本人も同意しており、むしろ、キュベレイに象徴される別な自分とは、決別したいという思いがあるらしい。ならば、と単純な考えでクィン・マンサを提示したところ、今度は大きすぎると文句をつけられた。隣に立つことが重要らしく、現在使っているRFゲルググSのように、MSサイズでないといけないらしい。だったら、と考えてクシャトリヤを提示したら、「女らしくない」と一刀両断した。俺にどうしろと。

 仕方なく、クィン・マンサのデザイン自体は気に入っていたようなので、ダウンサイジングをかけてMSサイズに。メガ粒子砲の装備数を減らしてIフィールドやラミネート装甲、オルゴン・クラウドなどの防御用フィールドにまわし、生残性を向上させる。武装からはファンネルをオミット。固定装備はビームサーベル2本と腕装備のビームガン、胸部に装備させた2門の拡散メガ粒子砲とし、ゲルググJG用ビームマシンガンを装備する。

 オミットしたメガ粒子砲用の出力は機体出力の向上化につながり、ファンネルを外してサイコミュを機体制御で完結させる点はゲシュペンスト・タイプSと同様で、ファンネル格納部分にスラスターを配置したため、高機動化も果たせる。装甲材質もZ.O合金製として生残性を高めておいた。ここまでやればなんとか大丈夫だろう。

 塗装は当然白とのこと。ある意味安心したのはここだけの話。え?黒ハマーンって洒落にならない気が。

 また、ハマーンへの専用機生産と共に、今まで使用してきたRFゲルググSを連邦側で使用してきたゲシュペンストをベースとした形に改造した。大型ビームセイバーの装備を追加し、推進器系統をスモーに準じた空間斥力処理装置に変更して稼働時間の延長を行う。「光る宇宙」に割って入るために両腕にIフィールド・ジェネレーターを装備した。ぶっちゃけ、外観をゲルググにしたスモーである。

 欲を言えば、装甲もスモーなどと同じくMEF型ガンディウムFGI複合材としたかったが、ナノマシン技術の拡散を恐れて今回は採用を見送った。いきなり登場させればブレイクスルーどころではないため、火星のテラフォーミングの際にナノマシン技術の向上を言い、その中でグリプス、もしくはその後の採用を考えている。

 ハマーンがこちらについてくれることが明らかになったのはうれしいが、木星に送ったガルマが果たしてどういう思惑を見せるかによって、第一次ネオジオン抗争は変化を見せるだろう。私が関係している部分はいくらでも歯止めが利くが、戦場で目撃、ないしは機体の回収なんぞされた際には困ったことになる。

 シーマ艦隊のRFゲルググも同じように回収は禁物なのだ。ソロモン戦への介入を考え、同時に動かぬキシリア艦隊から届けられた報告と、コロニー・マハルの改造状況を見ながら、介入のシミュレーションを余念無く行う必要があると更に感じていた。



[22507] 第27話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/08 12:18
 UC0079年12月8日。史実よりも16日早く、ソロモン攻略作戦「チェンバロ」が開始された。

 参加戦力は連邦軍が4個艦隊。内訳は戦艦48、巡洋艦289隻他多数。ルウム戦役以上の戦力を投入している。史実のソロモン攻撃と比べても戦力は倍以上で、空前の規模の攻撃をソロモンに対して行っている。MSの投入数はおよそ1800機。これに加えてソーラ・システムの運用を行うため、輸送能力が不足。MS隊のほとんどは戦艦、巡洋艦の甲板部分に係留されて輸送された。

 これに対し、ジオン公国宇宙攻撃軍は戦艦4、空母1、巡洋艦60隻と、史実よりも少し多い程度の戦力でこれを迎え撃った。キシリアから届いた1個師団規模のMS部隊が援護として入っているため、MSの数が史実よりも多くなっているがそれでも800機を維持し、これに対抗している。

 グワジン級アサルムのブリッジから、超望遠レンズで戦況を眺めているが、やはり良くない。よく耐えてはいるのだろうが、後方の岩礁地帯でソーラ・システムを組み立てているティアンムの本隊に気がついていないのは致命的だ。

 月軌道は月ほどの巨大な天体を衛星として回しているため、全体的に岩礁が集まりやすい。特にラグランジュ点は安定性がある分そうだ。戦前なら、そうした岩礁は各サイドのデプリ回収業者が集め、たいていは月に持っていく。買い取ってRPにしていたのが私たちだし、長い間、RPはそうした岩礁群を元として来た。曳航するだけだから手間もそんなにかからない。しかし、ジオンでの緊張が高まってからは、月軌道の監視が厳しくなったため、資源として積み出すのを少しごまかすぐらいしか月ではRPが変換できなくなった。だから火星や木星、地球に作る羽目になったわけだが。

 話を戻そう。そうした岩礁は、月軌道上を動き、たいていはラグランジュ点で溜まり出す。それゆえ、コロニーの群れが安定した軌道を巡るのと同様の理由で、ラグランジュ点には岩礁ができる。ティアンムの艦隊は其処を使って攻撃準備を整えているし、反対側の岩礁で我々が身を隠しながら監視もできるわけだ。

「マ・クベ中佐」

「……はっ」

 地球失陥の責任を取り、少将から中佐へと一気に二階級降格された男は、暗い顔を向けて言った。

「ソロモン失陥は免れない。キシリア閣下もそうお考えだな」

 マ・クベは頷いた。臆病者の小才子らしく、機を見るに敏らしい。前に立って体を預けているハマーンから、私につくかキシリアについたままでいるか、それがザビ家への忠誠になるかどうかで迷っていると伝わってくる。艦橋とはいえ戦地に近いため、ノーマルスーツ姿だが、触れ合いがあれば意志の交換は出来るらしい。

 意志の交換よりも別のものを交換したいところだが、などと考えていると恥ずかしげなハマーンの感情が伝わってくるが、それはとりあえず無視しておく。

「アサルムを貴官に預ける。ソロモンより脱出する戦力をア・バオア・クーのデラーズ閣下に届けよ。私は「マレーネ・ディートリッヒ」に移る」

「……宜しいのですか?私はキシリアさまの部下ですが」

「今は私の部下だ。それに、逃れてくる同胞と女子供を見捨てるほどの下司ではないはずだ、中佐」

 もし見捨てたとしても、付近にミラージュコロイドを展開させているドレイク級護衛艦がいるから、監視、追跡は容易だし、避難してくるだろうゼナとミネバについては最優先で確保するように言ってある。

「任務は可能な限り、ソロモンからの撤退戦力を回収し、戦力はア・バオア・クーへ。兵員はペズンへ連れて帰還することだ」

 私はそれだけを言い捨てるとハマーンと共に格納庫へ向かった。

 あの話し合いから、ハマーンはずっと離れることが無い。離れるところといえば風呂か便所ぐらいなもの。一度、入ってこようとしたので考えられる状況を指摘してみたところ、顔を赤くして離れることを了承した。しかし、それ以外はたいてい一緒にいるため、周囲の視線が時折痛々しくなる。

 これから向かう旗艦の整備班長を若くして務めてくれているメイ・カーウォン技術中尉など、あからさまに対抗心を燃やしてケン大尉に擦り寄っているが、彼が既婚者だということを彼女は知っているのだろうか?しかも、顔は若く見えるが、カーウォン中尉より少し年下の娘がいるのだ、と。

 まぁ、いったらこちらに火が飛んでくるな、と思いつつ、格納庫に足を向ける。アサルムの艦内にはキシリアから回ってきた艦隊にあったMSをそのまま配備してある。しかしパイロットをバイオロイド兵で固めたから、生半可な連邦部隊と接触しても沈むことは無いだろう。足の早さも強化してあるから、追撃戦となっても逃げ切ることは可能なはずだ。

 今回、この場につれてきた艦隊に独立第300戦隊の姿は無い。まだシャアがキシリアの所から戻ってきていないのだ。ファーレン中佐からの報告だと、受領するブラウ・ブロとエルメスの積み込みに時間がかかっており、また、アイン・レヴィ用として受け取った新型ゲルググ(ゲルググJG)の慣熟訓練を行っているらしい。

 何を悠長なことを、やはりドズルを殺すつもりだ。格納庫に入り、自分のゲルググに近づこうとすると、ハマーンが名残惜しげに自分の愛機となる白いクィン・マンサ―――"プルサモール"のコクピットへ向かう。よくもまぁ、あの年でラテン語など知っているものだと感心しながら、コクピットに入ると、機体を出撃口へと向け、宇宙に飛び出した。

 "プルサモール"の意味?スペルは"purus-amor"。あとは辞書を引いてくれ。恥ずかしくて適わない。



 第27話


 ペズンに飛ばされたこととキシリアの監視を任された事を併せると、どうやらギレンはうっすらとではあるがこちらに疑いを持っているらしい。まだ確信に至っていないし、ア・バオア・クーに展開している戦力を除けばL2ポイントに一番近い親衛隊は我々で、本国にダイクン派に加え、本国内にダルシア・ハバロ首相率いる和平派を抱え始めたために外しようが無い、といったところだろうか。

 まぁ、月にこもって新型機を開発していた人間の協力者が、娘を連邦の少将と結婚させた。などと聞けばそういう疑いを持っても仕方がない。その点、ミツコ・イスルギの行為は連邦内部の私の立場を強化しても、ジオン内部のそれまでは強化してくれなかったということだ。いや、むしろそのあたりを狙っているかもしれない。ミツコさん的に。

 機体を新たな旗艦とした船に着艦させる。艦の名前はガーティ・ルー。ミラージュコロイドを標準装備していることが選択の理由だ。秘密裏に部隊を動かしたいこちらとしては適した艦だろう。勿論、色々と手を加えてある。ダウンサイジング技術の使い勝手の良さもあって、幾つか所属不明とさせたい機体を載せてはいるが、正直、使う場合は考えたくない。

 現在、私が率いている親衛第二艦隊本隊は、このガーティ・ルーを旗艦にナスカ級強襲巡洋艦3隻で構成されている。ナスカ級は本来なら強襲駆逐艦だが、当然この大きさで駆逐艦なんて言い訳が通用するわけは無いので、巡洋艦に分類してある。シーマ艦隊の乗員をそのまま移し、搭載している機体もすべてRFゲルググだ。

 各所に設置した量子通信索敵網によると、シャアとキシリアの艦隊はカラマ・ポイントから動いておらず、キシリアがドズルを見捨てる気がマンマンなのが丸わかりだ。先ほど、シャアの旗艦であるはずのザンジバルがカラマ・ポイントを離れてサイド3へ移動を開始したことを確認。恐らく、キシリアが乗っているのだろう。

 ガーディ・ルーに着艦するとすぐにブリッジに向かい、ソロモンへの潜入工作を準備する。それと同時にカーティス大佐を司令官とした分遣隊(旗艦マレーネ)をサイド3へ派遣。デギン救助へと動かす。前に、キシリアがゲルドルバ・ラインへの移動を御願いするようだったら暗殺の危険性があることを指摘しておいたから、動くにしても警戒はしてくれるだろう。

 まぁ、警戒せずにグレート・デギンが動いても問題はないのだが。さてさて、どういう風に動いてくれるか。




「戦いは数だよ!兄貴!」

 机を激しく叩いたドズルは言った。

「敵はソロモンを速攻で落そうとしている!ア・バオア・クーの部隊を振り向けてくれればいい、間に合う!」

 ミノフスキー粒子のおかげで途切れがちな通信の中、その言葉を聞いたギレンは言った。

「案ずるな、ドズル。既に手は打ってある。トールに命じて送らせたビグ・ザム。届いているのだろう?」

 ドズルは鼻で笑った。

「アレだけでは足らん!」

「そう吼えるな。合計4機、MS2個師団の戦力にはなる。他にも準備はさせているぞ。キシリアがグラナダから戦力を移動中だ。シャア率いる艦隊をな」

「奴らの狙いはソロモンだ!こんな明白なことが何故わからん!キシリアが戦力を出すわけが無いだろう、兄貴!もったいぶっていないで勝つための手段を講じてくれ!」

「講じているよ、ドズル。父が頑固すぎるので手間取っているが、やるべき事はやっている。増援も出す」

 ドズルは我慢できないという表情で通信を切った。

「セシリア。国内の反体制派のいぶりだしはどうなっている?」

 金髪の秘書は頷くと説明を開始した。ギレンにとっては既に規定となっているソロモン失陥よりも、そちらの方が大切なようだ。金髪の秘書は、現在ゼブラ・ゾーンにいるガラハウ艦隊を動かせばよいと思っていたが、総帥はそう思っていないと感じていた。

「……不安か」

 ギレンはいい、薄く笑った。

「奴の動きに疑わしいものがあるのは事実だ。だから月から切り離した。ゼブラ・ゾーンに押し込めてさえおけば、このままの状況で推移したとしても、何も出来ん。命令どおり、「マレーネ」は移動を開始しているのだろう?」

 セシリアは頷いた。

「放っておけ。あ奴の動きようを気にしている暇は無い。まずは国内の反体制派をいぶりだすことだ。艦隊一つで何が出来る」

 戦略という側面で物事を考えるギレンは、艦隊一つで動ける範囲が戦術面に限定され、戦略面では何も変わらないことを熟知していた。また、ガラハウにしてもガラハウという名前ゆえにジオンを裏切れないと判断していた。ジオン軍で少将を勤めた人間が、連邦に帰順の意を示しても、連邦は納得しないと考えていた。だからこそ、この先の先を考え、裏切れない状況に追い込んで、手元―――そう判断するには遠く、しかし自分で動くには近過ぎる位置に―――においておくことを選択した。

 仮に地球圏から撤退する羽目に陥っても、奴の艦隊がゼブラ・ゾーンを確保していれば脱出は充分に可能。ソロモンが失陥した場合にはキシリアが使い潰すに任せればよい。使い潰しきらなくとも、戦力を低下させるだろう奴が裏切れなくなることは確実。それに、キシリアを名目上とはいえ配下にしておけば、キシリアの失敗の責任を連帯で負わせることも出来る。

 ギレンは薄く笑うとイスに深く腰掛けた。





 一方ソロモン。ティアンム率いる第二軌道艦隊の攻撃を受け続けているものの、ジオン軍はその攻撃を上手く捌いていた。砲撃戦用に特化したマゼラン改はその主砲をソロモンの岩盤深く穿っていたが、下から金属質の小惑星であるソロモンに大きな影響は出ていない。不運なハッチが直撃を受けて爆散することはあっても、それだけだった。

 足音高くギレンとの会談の憤懣を床にぶつけていたドズルは、副官のラコック中佐に怒鳴った。

「遅いわ!キシリアは何をしている!?」

「グラナダから既に出発したと連絡ありましたが」

「ふん、グラナダからここまで、一体何光年あるというつもりだ!……ソロモンに落ちろというつもりか!ラコック!」

「はっ!」

「攻撃してきている連邦の艦隊が主力というのは間違いないな!?」

 ラコックは頷いた。

「砲撃が激しすぎますし、敵MSは取り付かせていませんが数が多く、戦力を秘しているとは考えられません!」

「予備もすべて出す!量産型の方は組みあがっているな。ビグザムを出せ!俺の乗る機体も組み立てを急がせろ!」

 ドズルは目的地につくと扉を明けてその中に入った。目の前には絶対に失えないものたちがいる。

「あなた!……いけないのですか?」

「心配はいらん。ソロモンがおちる筈が無い。しかしな、万一ということもある。……お前たちはいざというときには一足先に本国へ行け。充分な護衛をつけてやる」

「あなたは!?」

「後で帰る。……ミネバを捨てて死ねるものかよ」

 ドズルはその体に似合わず、優しくミネバを抱き取ると抱きしめた。

「待っていろよ、ミネバ。……お前はいい子だ。本当に、いい子だ」

 ドズルはミネバをゼナに帰すと優しげな表情を一変させた。

「急げよ!身支度を早く!戦場は待ってはくれん!」



 第二軌道艦隊旗艦「タイタン」。ティアンム中将はミラーの展開状況を尻目に前線から送られてくるソロモンの状況確認に余念が無かった。

「ソロモン炎上、とでも言いますか。ソーラ・システム、必要ですか?」

「……よく目を見開いてみろ」

 ティアンムは言った。

「距離が離れているから、ビーム攻撃も減衰する。ソロモンの岩盤は穿てん」

 ティアンムは目をもむと言葉を続けた。

「むしろ、第21任務部隊の攻撃で、あくまで今の攻撃が主力と思わせることが大事だ。ふ、まぁ戦力を多めに出撃させているがな」

 総指揮を第一軌道艦隊のビュコック大将が取ることが決定すると、当然作戦の総指揮は参謀長であり独立第13艦隊(新設)司令のヤン少将が取ることとなった。ティアンムにしても、開戦以来ルナツーの戦力を維持し続けてきた彼の手腕に否やは無い。

「本来なら陽動と主力は戦力が逆ではあるが、ソロモンに敵を押し込めておくという点では確かだ。ミラーの設置にも時間を向けられるからな。あと5時間。100%の出力でミラーを展開できるように作業を急がせろ」

 出撃前に充分なレクチュアをうけたティアンムは、ミラーの展開状況とその威力が二乗に比例することを伝えられている。50%の出力で放てば本来の4分の一しか出力を得ることが出来ないから、可能な限り作業が終わってから攻撃を開始するよう、充分な注意を受けている。
 
 流石に威力が二乗に比例すると知ってはティアンムも早計に攻撃は出来ない。ヤン少将は更に、新兵器頼りの戦力配置とするのではなく、正面戦闘だけでソロモンを陥落できる状況を整えてからの攻撃を具申した。マゼラン級が、MS登場以来模索されているMS搭載能力について、その配置・強化ではなく従来どおりの砲撃戦能力の向上に努めた理由がここにある。生半可な攻撃で要塞は陥落しない。

「先はまだ長いからな。戦力の消耗は避けるように伝達しろ」

 参謀たちは頷き、連絡をまわすべく動き始めた。



「動いたか」

 超望遠レンズがミラーの反射光を確認した。この位置から確認できるということは展開がかなり進んだということだ。恐らく、激戦のソロモンでも見る目があるものがいれば発見は容易だろう。そろそろだ。

「ガラハウより各機へ。我々はこれからソロモンへの突入を開始する。無駄な戦闘はするな」

「了解!」

 コッセル率いる海兵隊の猛者たちが答える。可能な限りの対ビーム装甲をつけておいたから、ビームに対する耐性はついているが、やはり数が数だけに危険だ。隣のピットに入っているハマーンのプルサモールからも了解の返信が来る。

「絶対に連邦側に向けた面には出るな。連邦艦隊に向けていない面、月側の面のハッチから内部に侵入。目的を果たす。コッセル、退路を確保して追撃してくる連邦の部隊を排除しろ。ハマーン、脇に持ったポッドを離すな。ゲルトたちを放り出すなよ」

「了解、トール。……私を誰だと思っている」

 反応はせず、ゲルググをカタパルトに乗せると返事を待たずに出撃した。

「トール・ガラハウ、RFゲルググ。出る!」



[22507] 第28話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/06 11:01

 ゲルググをソロモン内部のベイに寄せ、援軍だといって要塞内部に入ると同時に衝撃が走った。

 ソーラ・システムの攻撃。一瞬にして要塞内部の喧騒が激しくなり、絶望的な報告が相次ぐ。

「第6ゲート炎上!高熱源体直撃!粒子反応なし!」

「敵の新兵器か!?」

 司令室に入ると同時にドズルの声が響いた。

「グワラン以下の艦隊はどうした!?」

「通信途絶!ゲートと共に消失した模様!」

「熱源、移動して第6から第5ゲートへ!第6、第5、第7ブロックの一部、更新途絶!熱源が移動して要塞を焼いています!」

「閣下!」

「トールか!……まずいところに、いや、いいところに来てくれた。ついてこい。ラコック!来い!」

 ドズルはすぐに司令室を出る。後ろからおってきていたらしいハマーンとぶつかった。ハマーンがドズルをにらむ。しかし、すぐに表情を和らげた。

「こんなところに子供か!?トール、貴様のところか!?」

「はい」

 ドズルは鼻息を鳴らす。その間にハマーンが私の後ろに回った。ノーマルスーツを密着させて寄り添うその姿に、普通なら怒鳴るはずのドズルは薄笑いを洩らした。

「お前にも同じようなものがいるか、ついてこい!急げ!」

 ドズルはそのままゲルググを入れたベイへ向かう。赤十字の印章が施された、病院艇らしき船がある。

「……やはり、いけないのですか」

 病院艇の前で待っていた婦人がドズルに話しかけた。

「なるようになった、というだけだ。とりあえず、トールについてゼブラ・ゾーンへ行け。トールが守ってくれるはずだ。艦隊は来ているのだろう、トール?」

 私は頷いた。

「ソロモンを見捨てなかったのはお前だけだ。家族が信用できず、部下が信用できるなど考えもしなかったがな。しかし、お前は信用できる。どういう思惑があるにせよ、ここに来たお前がゼナやミネバを如何こうし様とは思っていまい」

 ドズルは居住まいを正すと言った。

「ミネバを頼む。強い子に、育ててくれ」

 その言葉にゼナが予感を確信に変えて反応した。

「あなた!?どうか、生きて……!」

「俺は、軍人だ。ザビ家の伝統などもう、如何でも良い。無駄には死なぬ。……いけ、ゼナ。ミネバと共に!」

「申し訳ありませんが中将」

 私は話に割って入った。怪訝そうな面持ちで全員がこちらを見る。ああ、心に突き刺さるな、この空気読めって雰囲気。

「その意には従えません」



 第28話



 ソロモンに対する攻撃は、ティアンム艦隊のソーラ・システム照射によって決定付けられた。97%の進捗状況下で放たれたそれは、ソロモンのルナツー側表面のほぼすべてを焼き尽くし、要塞中心部にまで甚大な損害を与えた。

 「ドズル中将から指揮を引き継いだ」ラコック中佐は、最新型MAの出撃と共に残存全部隊の撤退を命令。ソロモン放棄を決定し、要塞内に残った部隊による撤退支援を開始。MSに曳航される形で兵員が撤退を開始し、岩礁に展開した親衛隊第2艦隊に回収され、MSはア・バオア・クーへの移動を開始する。

 出撃したビグザムは要塞表面に座すると大型メガ粒子砲で接近する艦艇への攻撃を開始し、小型メガ粒子砲で寄り付く連邦MSの迎撃を開始。ここを死地と見定めた部隊も周囲で援護を開始し、ソロモン表面にようやくのことで取り付いた連邦軍に被害を強要した。撤退開始から2時間後、ティアンム大将の督促によって戦場に展開した第13独立艦隊からMS部隊が出撃。アムロ・レイ准尉のガンダムNT-1とヤザン・ゲーブル少尉、スレッガー・ロウ大尉のジム・カスタムによって、ビグ・ザムが撃破されると、ソロモン司令部は降伏を選択した。

「貴様は何を考えている!?俺に死に場所をなくせというつもりか!?」

 先ほどから艦長室でドズル閣下が吼えている。ゼナとミネバは休息のため貴賓室に連れた出たため、艦長室には私とドズルの二人だけとなったので、怒鳴り声を遠慮する相手がいなくなったためのようだ。流石に、有無を言わせずスタンガンで気絶させて病院艇に放り込み、命令権を無視してラコック中佐に後を御願いしたことが許せないらしい。

「この戦争は負けです。中将」

 私は言った。ドズルは不服そうだがため息を吐いて席に座った。

「キシリア閣下とギレン総帥。この二人のどちらかが消えない限り、そもそも目が無かったのです」

「……確かにそうだが、だからといって軍人が戦場を捨てていいという結論にはならん。ギレンとキシリアが死んだからといって、戦争自体が負けてしまえば、ジオンには何の意味も無くなる!」

「捲土重来を期するべきかと思います。……そもそも、あの二人に戦争を任せておけば、無駄に人が死ぬだけで、戦争の目的が果たせません。閣下、戦争は思想でやるものではなく、確固とした目的を持って行うべきものなのです。人の革新や権力闘争が、その確固たるものですか?」

「貴様は何を考えているのだ」

「この戦争のそもそもの原因は、ジオンにあります」

 其処から私は語り始めた。この戦争のそもそもの発端が、ジオン・ズム・ダイクンの行った、債務放棄要求に始まる、地球圏経済の混乱であること。優れた思想を持ちながら、思想を実現化するだけの経済力をもてなかったことが、ジオン・ダイクンをしてギレンとなったこと。その中で、自分の信じるジオニズムを模索して暗躍を始めたキシリアとそのキシリアの犠牲になった人間たちのこと。その中の権力闘争で犠牲となったダイクン一家と、そこから生まれたキャスバルという人格を。

 すべての話が終わると、暗澹たる面持ちでドズルは沈んだ。

「それでは何か。この戦争は、バカなあの二人の政治かぶれが原因ではなく、俺たちが信じてきた思想そのものだというのか?」

「思想に罪はありません。自分で立てた思想を信じきれなくなった人間が悪いのです」

 私は言った。

「人はパンだけでは生きてはいけません。可能性を提示したジオン・ダイクンは褒められるべきでしょうが、可能性を実現する方策を持たなかったことは罪です。デギン公王はその方策を模索し続けてきましたが、思想が独り歩きを始め、かぶれた人間が私物化したためにそれが適わなくなりました。ギレン閣下は現状と未来に得るだろう経済力で思想の実現が無理なら、実現できるだけの規模に人口を低減させる道を選択しました。要は虐殺です。戦局が順調に推移していれば、地球に対して更なるコロニー落としを行い、コロニーについては重税を課すでしょう。経済力獲得のためにはそれが必要です」

 ドズルは頷いた。再度のコロニー落としをジャブローにかけなかった理由がそれでわかる。大西洋に落ちたコロニーがどれほどの被害を地球に生じさせるかを確認していた、というわけだ。いや、各サイドが中立方針を打ち出し、ジオンに有利な条約を結ぼうと動いていなければ、他のサイドも攻撃目標になっていただろう。経済力拡大の目処が見えたから攻撃をしなかっただけなのだ。

「キシリア閣下はそれとは別の道、具体的なニュータイプを示すことで思想を実現しようとしました。そのために人体実験も行っています。ミネバ様と同じような年頃から薬物と特殊な教育―――洗脳―――を施して、人為的に新しい種を誕生させようと試みました。その点で、ギレン閣下を指してデギン陛下が言われた、「ヒトラーの尻尾」とは、実はキシリア閣下を指します。そして、シャア・アズナブル―――キャスバル・レム・ダイクンはもっと危険です。地球を破壊することで、人間に生きる場所を宇宙のみとすることで父の思想を実現しようと考えます。それが、母を奪われた恨みとも気付かずに」

「それはわかった。おまえはどうしたいのだ?」

 ドズルは言った。

「其処までわかっているのなら、最も手っ取り早いのは三人を殺すことだろう。何もジオンに入り込んで色々手妻を使う必要はあるまい」

「思想が独り歩きを始めていなければ、それも可能でした。それに、思想が産まれるのを止めたとしても、結局、どこかで別の似たような思想が生まれるだけです。それでは、思想の結実、象徴たる人間が何処に出るかがわかりません。国が滅び、象徴たる人間が死んで初めて思想は死にます。そうであることが明確な人間がわかっているなら、思想を殺せる段階で殺したほうが良いと考えました」

 私は言った。

「旧世紀、蔓延した社会主義は結局、宇宙世紀に入っての居住権戦争が無ければ消えませんでした。一人の男が、みんなが幸せになる理想社会を目指して発案したはずの社会主義は、独り歩きを始めた思想そのものによって、100年以上、人間を縛り続けています。今も尚。ジオンの社会体制は、結局のところ社会主義の亜種に過ぎません。思想が一人歩きをした以上、どこかで血を見ることが避けられなくなります」

 ドズルは笑った。

「なるほど、お前の言いたいことはわかった。……責任を取れ、といいたいのだな。思想にかぶれたのはあの政治家気取り二人ではあるまい。その下に、小さいギレンや小さいキシリアを多く生み出していると。俺たちが結局、小さいジオンでしかなかったように。ふふ、そうか、シャアがジオンの忘れ形見か。あれを産んだのもむべなるかな、だな」

 私は頷いた。まさかドズルがここまで頭が働くとは思っていなかった。勿論ドズルにしろ、話のすべてを理解したわけではない。ギレンの部下がだんだんギレンに似てくることや、キシリアの部下がキシリアにだんだん似てくることに気づいていたからそう思っただけの話だ。デラーズ、マ・クベ。人材には事欠かない。そして、それは自分も同じだ。

「俺に、何をどうさせるつもりだ」

「木星、アクシズに。ガルマ閣下が待っています。これからの地球圏は、ジオン残党との長い戦いに入るでしょう。それがどういう結果になるにせよ、もう一度、ジオンはジオンの思想を否定されるために戦わねばなりません。閣下にはそこで死んでいただきます。ジオンの思想を道連れに」

「死ぬために戦えというのか、ここで助けておいて!……今なんと言った!?ガルマが生きている!?」

「木星で恋人殿と一緒です。ドズル閣下、申し訳ありませんが、これが私の示せる対価です。ガルマ閣下も話には納得していただきました。ガルマ様たち4名の安全については私が保証します」

 ふん、と穏やかな顔つきになったドズルは言った。

「ガルマ、その恋人。ゼナそしてミネバ。この4人の命と引き換えに、ここではないどこかで、いつか貴様は俺に死ねというのか。ジオンの思想を道連れに」

「その通りです閣下。死んでください。それが、ザビ家の責務と思います。宇宙に出れば人は革新するのでしょう、恐らく。しかし、人間の意志を否定してまでそれをなそうとするのは独善です。革新するかしないかを決めるのはジオンでもギレンでもキシリアでもありません。個人です。ジオンは、そこが理解できなかった。それはギレン総帥とキシリア閣下も同様です。シャアにいたっては、思想の実現と復仇を取り違えています」

「俺相手に其処まで言うのは貴様が始めてだ、トール。……そう、か。ガルマが生きているか。父上は?」

 私は首を横に振った。

「この戦争の責任は誰かが取らねばなりません。そして、ギレン閣下やキシリア閣下にそれは無理でしょう。連邦への降伏交渉で責任を取っていただくことになるかもしれませんし、その前にギレン閣下やキシリア閣下に暗殺される恐れがあります。避けるつもりではおりますが。ただ、戦後絶対に開かれるであろう軍事裁判での処刑は避けられません」

「そう、か」

 ドズルは穏やかな顔つきになった。しかし、すぐに気付いた面持ちになる。

「シャアはどうする?」

「閣下が死んだ後、残存するジオン残党を糾合して決起するでしょう。実際、ジオンが国家であり続けられたのは、いい悪いはともかくも、ザビ家の功績です。ザビ家の人間。ザビ家の中で、自立した意志を持つに足ると誰もが認める人間が生きている限り、ジオンを暗殺した疑念があっても人はザビ家になびきます。この戦争が終われば閣下が死なれるまで、シャアがジオンとして立つことはありません。上手くいけば時期が遅くはなると思いますが、結末は変わらないでしょう。ただ、ガルマ閣下が生きているとなれば、ガルマ閣下が死ぬあたりまでは控えるでしょうし、暗殺を試みる可能性もあります」

「其処まで考え、其処まで見通せるお前は何者だ?何が目的だ?」

「私の目的は人死にの軽減。ただそれだけです。思想と思想がぶつかり合うにしても、それが血を見るのは許せません。そこに血の流れる意味を見出すのは、結局人の欲望ですから。私はただ、世界のどこかで思想がぶつかり合っていても、安楽に多くの人が暮らせるなら問題は無いと考える男です。先ほど、一緒にいた妹のような女の子。あの子が笑っていられるようであれば問題は何も無いのです。思想を弄ぶなら頭の中か口先で行うべきであって、兵器を持ち出しての殺し合いは勘弁、これが正直な気持ちです」

「女の子……マハラジャの娘か。……思えばバカなことをしたものだ。ゼナに強く言われたわ」

 私は軽く噴出してしまった。ドズルもつられたのか軽く笑う。どちらも、自嘲する様な笑いだった。

「やはり、ですか。同じ男ですから、そうした気持ちになるのは理解できますが。流石に恋人候補のいる女性に懸想するのはまずいと思いまして。遅きに失しますが、申し訳ありませんでした」

「かまわん。俺も後で知った。生木を引き裂くなどと自分を自分が許せん。しかし、止めていてくれてよかった。話が出た後ではどうしようもなかったろうからな。引き裂いたことを後で知っては何もできんし、引き裂いた後ではどうしようもない。あの件は本当に感謝している」

 ふふ、とドズルは笑った。

「どうやら、俺は貴様にかなり世話になっているらしい。……ゼナとミネバはどうする。ガルマたちもだ。なまじな場所では隠しおおせまい」

「閣下が木星に移られた段階で、火星に。テラフォーミング計画が順調に進行すれば、5年ほどで恒久都市の建設が始まります。となれば、移民として入り込むことも容易でしょう。それに、隠し様は意外にあるものです」

「レンジ・イスルギとよくつるんでいたそうだな。太洋重工を動かしていたのは実は貴様か。よく考える」

「まだ何もしていません。ア・バオア・クーの推移によっては、今話したことも変更の余地があります。閣下、お答えを聞かせていただけますか」

 ドズルは頷いた。

「いいだろう。それが俺の責任だ。これからも苦労を掛けてしまうとは思うが、よろしく頼む」



 ドズル中将の乗る連絡艇が小惑星ペズンに向かうのを見送ると、ガーティ・ルーに備えられた秘密回線でヤン少将と連絡を取る。これから色々と動く予定だが、連邦側の状況を確認しておく必要があるためだ。

「マット中尉が行方不明?」

 モニタの向こうでヤンが頷いた。

「樺太からの報告だ。セルゲイ中佐が探させているが、見つかっていない。まだ精神が不安定な状態だから、心配ではあるけれど、樺太でも人員はそんなに回せないから困っているようだ」

「このままだと無許可離隊になります。銃殺刑ものですので確認は早く。精神的に不安定だということを理由付けすれば、減刑は可能と思いますので」

 ヤンは頷く。

「ゴップ大将からは戦後のMS行政に関して、アナハイムからジオンのMS関係会社の合併を求められたと連絡があった。太洋重工がツィマッド、ハービックがMIP、アナハイムはジオニックを吸収したい、ということだ」

「それは出来レースでしょう。戦闘機市場がMSで崩壊したハービックにMIPを吸収した上でMSを市場に送り出すほど、資金に余裕があるとは思えません」

「シトレ大将もそれを指摘していたよ。ただ、議会にかなり派手にロビー活動をかけているから、君のところの奥さんから対応をどうするか意見を聞くように言われている」

 ふむ、ミツコさんにも意見があると思うが。試されているのか?

「アナハイムにはツイマッドとMIPの合併で我慢してもらいましょう。ジオニックは連邦の監視下において、問題ないと判断したあたりで生産を認める。但し、現在までに開発した機体の情報については連邦の調査委員会に提出ということで」

 ヤンが微笑んだ。どうやら、ミツコさんの試案も同じようなものだったらしい。

「三社体制、二極じゃなくていいのかい?」

「水中用MSの市場開拓って必要と思いますので。おそらく、ジオン残党の行動は基本潜水艦でしょうから」

「……だろうね。戦後のMS生産に関しては基本、ジム・コマンドの再設計型を採用するそうだ。設計を太洋重工とアナハイムに回すよう、連絡があったからまわしておいたけど、これからのアナハイムの生産はどうなると思う?」

「現在、ガンダムの生産技術は太洋重工が握っていますから、恐らくバランスをとるために何かやるでしょう。しかし、それはもう戦後の話ですね」

 ヤンも同意した。そして思い出したように話を続ける。

「ただ、アナハイムがジオニック系かな?ジオンからの亡命科学者の受け入れを始めている。連邦も、国力を弱めたいし技術もほしいから認めているようだけど、結構な数がグラナダからフォン・ブラウンへ流れているらしい。8月あたりから始まっていたらしいけど、つかむのが遅くなってしまったそうだ」

「……リストをもらえます?」

 悪い予感がしてならない。

「手元にないし、私の権限じゃ無理だよ。宇宙軍の少将で、艦隊参謀長だから」

 アナハイムがジオニックの合併を狙う、か。これは絶対に阻止する必要があるな。ため息を吐くと私は通信を切った。



[22507] 第29話[R15?]
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/03 12:00


「作戦などもう如何でも良いわ!」

 公王官邸の謁見場に怒声が響き渡った。

「増援一つも満足に出さず、ドズルを見殺しにしたものがよくもまぁおめおめとわしに作戦などと進講出来たものよ!」

 デギンの怒声にその場が静まり返るが、その怒りを一身に向けられたギレンは

「手をこまねいていたわけではありません。尽くしたのです。誤算はむしろドズルが短気をおこしソロモンで果てようなどと思いつめたこと!そんな必要など無かったのですよ?ソロモンは軍事的要衝の一つに過ぎず、失陥としたとしてもまた取り返せば宜しい!」

「よく戦い、よく守った者に責めを負わせる気か!」

「事実!妻子を脱出させえているでしょう!?ドズル自身にもそうした機会は充分残されていたはず!敢えてそれを採らなかった武侠心!悪戯な武張りで却って大局を狂わせたのですぞ!」

「……そういう性格の男であることを、おまえは重々知っていように!」

 デギンは苦しそうに声を吐き出した。しかしギレンは言葉を止めない。

「ドズルの独断は我々に過度の損耗をおこせしめ、作戦は若干、変更を余儀なくされますが勝算は尚!我々の方にあります。ご説明しましょう。まずは予想される敵の進路!容易に二つが考えられます。ソロモン攻撃の時点でもはやグラナダの目はありません。このジオン本国とア・バオア・クー。どちらを進むかを選ぶのはレビルでしょうが、ティアンム率いる艦隊に大打撃を受けた敵が進むのは、ア・バオア・クーではありえない!連邦もふところがきびしいでしょうからな」

 ギレンは星図を指した。指した場所はソロモンからサイド3へ向かうルート。

「したがって、レビルは必ずジオン本国への攻撃命令を出します。そしてそれこそが、我々に勝利を、連邦には破滅をもたらすのです!」

「密閉型コロニーを改造してレーザー砲に転用。住民を強制疎開させる『ソーラ・レイ』か」

 ギレンは頷いた。

「さよう。父上、御裁可を」

「よくいう。独断でも事を進める腹であろうに」

 デギンは鼻で笑うと、イスの横においてある羽ペンを取り、命令書にサインする。ギレンはそれを受け取ると秘書のアイリーンへ渡した。

「さすがお見通し。父上には敵いませぬ」

「ギレン。勝ってどうする?連邦に勝った後はどうするつもりだ」

「既に方針はゆるぎなく。独立が認められ、我々は宇宙に覇権を築きます。宇宙に上がった優れた人種を率い、もっとも優れた我がジオン公国がそれを統治するのです。人類永遠の存続、地球圏の汚染を進ませぬために、です」

「貴公、アドルフ・ヒトラーを知っておるか?」

 唐突な質問にギレンは眉を上げた。

「ヒトラー?確か中世期の独裁者だったと記憶しておりますが」

「うむ。独裁者でな。世界を読みきれなかったバカな男よ。……お前はそのヒトラーの、尻尾だな」

 ギレンはその言葉に鼻白んだ。父親からもっとも低い評価を受けたことは理解しているし、ここでその言葉を発せられたことが強く彼の自尊心を傷つけていた。

「私とて、ジオン・ダイクンの革命に参加した男です。その思想の何たるかは心得ている!軟弱と我執に取り込まれるのが衆愚政治たる民主主義!それが何を生み出したか!?官僚の増長、情実で動く世!愚かにも自身の欲望しか省みない民衆!言葉に蝕まれ、本当に重要な事を理解できないまま、無為に人が過ごす!その結果が今次の大戦である!」

 ギレンは星図を映し出していた移動式のモニタを強く叩いた。

「……そうでしたな、父上?」

 そして脅すようにデギンをにらみつける。

「人類は革新されねばならない!地球に寄生するものにはそれが出来ない!革新できるのは宇宙に住むものにのみ可能である!……ダイクンの言葉ですぞ?その死後に理想を体現された方!デギン・ソド・ザビ公王!偉大なる建国の父!そのあなたがその理想を信じられずに動揺なさっておいでだ。見たくない図だ!」

 ギレンはそういうと身を翻し、議場から出て行く。扉の前で振り返ると、デギンに向けて言った。

「私はア・バオア・クーで指揮を取ります。キシリアの艦隊もソロモンへの陽動の後に移動してくるでしょう。勝って、勝ってご覧に入れよう。ヒトラーの尻尾をとくとご覧ください」

 ギレンは音高くドアを閉める。デギンは消え入るような声でそのドアに向けて言った。

「……ヒトラーは、所詮、敗者ぞ」



 第29話



 ドズル救助後、シャアのソロモン攻撃の予定を遅らせた私はサイド3本国へ帰還した。入れ違いにギレンがグワジン級「ガンドワ」でア・バオア・クーに向かう事を確認した私は、ズム・シティの隣バンチ、コア3にあるジオニック社所有の施設に入った。

「よく来られた、少将。お待ちしておりました。こんな老人に何の御用かな?」

 ポリネシア風のたたずまいの部屋に入ると、目的の老人がいる。脇に銀髪の女性が立っていた。以前に見たフォログラフどおりの容貌。エリース・アン・フィネガンか。

「あなたがつかんでいるギレン暗殺計画について、御相談がありまして。ホト・フィーゼラー相談役。それに、戦後の色々についても」

 この時点でホト・フィーゼラーがすべてを知っているわけではないことを知っていた私は、ギレン暗殺計画に関与する情報提供を申し出た。勿論、それがあらぬ憶測を呼ぶであろう事は承知していたが、セシリア・アイリーンの身柄は確保しておきたかった。連邦に引き渡される後についてはよく知らないが、ギレン系の反連邦組織を動かすとしたら、彼女の存在は役立つことになるし、かつまた、彼女の持っている情報を握っておく必要があるからだ。

「あなた方お二人がお孫さん……レオポルド・フィーゼラー氏の安全を願って動いておられることは承知しております。勿論、戦争終結後、彼がこの共和国で好きに生きる状況を整えていらっしゃることも。……そちらのお嬢さんはまた別の考えをお持ちのようですが」

 老人の口調が切り替わった。先ほどまでのどこか楽しむ口調から、冷たい、経営者にふさわしい口調へと。

「……この老人は追い先短いのでな。あの子とはまた別に話してくれればそれでよかろう。御用件は?」

「率直に言います。レオポルド氏の安全とその後については私と私の下も協力いたしましょう。その代り、お譲りさせていただきたいものがありまして」

「なにかね?」

「戦後、ジオニック社に援助いたしますので、今進んでいるアナハイムとの業務提携の話を白紙に戻していただきたい」

 杖を持つ手が止まった。いや、びくりとゆれたのだ。

「アナハイムが狙っているのが、我が社の合併だからか?ふふ、お前さん、やはり月の太洋重工と何か関係があるらしいの。でも無理じゃろう。連邦はジオンの進んだMS技術を欲しておる。アナハイムとジオニックの合併は避けられまいて」

「でしょうね。あなたが死ねば、避け得なくなります。レオポルド氏にその力はありませんし、フィネガン嬢は彼のサポートで忙しくなるでしょう。フィーゼラー家の半分以上がアナハイムに鼻薬をかがされている現在、戦後の合併が避け得ないのはわかりますが、それでは地球圏の経済に悪影響ですので」

「ほっほっほ。其処までわかっておるのじゃったら、話など無駄じゃろう?」

「いいえ、適切な経営者と業務提携があれば乗り切れます。戦後、ジオニックはMS生産を禁じられるでしょうが、それだけで企業経営を成り立たせてきたわけではないでしょう?この国最大の重工業コングロマリットとして、艦船建造や民需品の生産などに携わっていたことは知っております」

「ほぅ、適切な経営者じゃと?それで、誰を持ってくるおつもりかね。アナハイムやヴィックウェリントン、太洋重工に対するジオニックの経営者に。生半可なものでは勤まるまい?」

「セシリア・アイリーン嬢を」

 老人の瞳が薄く光った。脇で話を聞いているエリース・フィネガンは驚きに目を見開いている。

「可能かね?」

「可能でしょうね。戦後、彼女は当然再就職先を探さねばなりませんし。ところでお聞きしたいのですが、何故ここに総帥府秘書官長室勤務のフィネガン嬢がいらっしゃるのです?見たところ、ご縁がおありのようですが」

「バカな事を聞くものでないよ。お前さんがわかっているのは知っている」

 私は微笑すると頭を下げた。

「現在の私の立場は親衛隊の少将です。あなたが親衛隊にそこのフィネガン嬢を送り込み、セシリア秘書官長へのルートにしていた事を、先ほどお話した暗殺計画と併せて告発することも可能です。顧客ニーズの開発のためとはいえ、進行中の総帥暗殺計画を知りながら、それを秘匿して自身の安全に利用しようとするのは、今はまだ国家反逆罪ですから。まぁ、もっとも、こんな手段は採りたくありませんが」

「そこまでお前さんがアナハイムとの合併を嫌うわけが知りたいの。セシリアの件もそうじゃが、お前さん、あの娘の何かかい?」

「後半についてはNoです。婚約者がおりますもので。……彼女の安全を確保するのが第一ですが、第二にはMS関連企業の複数化とMS市場の独占回避が目的です。ジオニックでさえ買収にあうわけですから、ツィマッドやMIPは避け得ないでしょう。アナハイムがMS技術を取得したいならその2社で充分。ジオニックまで買収されると、こちらも困ります。二極体制なんて冷戦、避けたいのですよ」

「しかし裏ではどうにかしようと考えておろう?そのためにセシリアの助命を望んだのではないかな?彼女はギレンに近すぎる。連邦に引き渡さざるを得まいて」

「セシリアの件を持ち出したのはアナハイムでしょう?連邦をなだめるためにギレンの愛人を差し出せ、と。内務監査を束ねておいでですから、公国の暗部についてよく知っていることでしょうし。アナハイムはジオンの暗部を差し出し、あなた方の買収を連邦に認めさせ、あなた方は連邦の体制に取り込まれて安楽に生きられる、と。ただ、アナハイムを商売相手にするのは勧めません」

 トールはそう言うと立ち上がり、ホログラムに映る南国の風景を眺めながらタバコに火をつけた。

「代価を持っているのであれば連邦に払いなさい。アナハイムに払って伝を頼るのは、箱の件があるからでしょうが、早々力があるものでもないのですよ?中身がわからないからこそそこに不安を感じますが、開けてみれば実は結構、他愛も無いものです。むしろ、箱はあなた方に利益をもたらすよりも、不利益のほうが多いものですから。アナハイムは簡単に裏切るでしょうね」

 老人はイスに深く寄りかかるとため息を吐いた。

「其処まで知っておるか。君ら……いや、君はどんな人物だね?今までの話を聞くと、総帥の信頼を得るのに充分な人物のようだが」

「……お人払いを、といいたいところですが、まぁ、いいでしょう。箱と同じですがね。あけたら後戻りが出来ない。ラプラスの箱の意味を変えた人間たちの末裔、とでも言っておきましょうか。あまり、貪欲に独占経済など作られては困ると考えているだけです。市場が意味を持たなくなりますし、何よりも健全じゃありません」

「……交渉の余地は無い様じゃな」

「申し訳ありません。時間がありませんので」

 私はフィネガン嬢を見てから微笑した。老人もフィネガン嬢を見てから、何かを思い出すように間をおいた。言葉を続ける。

「人質をとるのは趣味ではありませんが、そうも言ってはおられませんし。それに、あなたの方は人質をとるのに容赦が無いようですから、気兼ねもありません」

「いいよる、いいよるわ」

 ほっほっほ、とホト・フィーゼラーは笑った。



 部屋を出る際、思い出したように振りかえると私は言った。

「フィネガン嬢。レオポルド氏に、望む世界を与えようなどとは思わないことだ。彼の事を思うなら、まず何よりも彼自身が何を望むかを考えて行動しなさい。往々にして、余計過ぎるお節介と言うのは良い関係に陰りを与える。君が本当に望んでいる関係を彼と結びたいなら、君は自分の気持ちに正直になって思いを伝えるべきだよ」

 フィネガン嬢は驚いたように目を見開いた。

「何故、そんなことが言えるんですか」

「この戦争に英雄は存在しない。まぁ、元々戦争に英雄は存在しないがね。ただね、誰しも作られた英雄にはなりたくないし、道化師にはなりたくない。君にとっては意外かもしれないけど、彼は、誇りある敗者になることを望んでいる。そしてね、敗者に必要なのは、支えてくれる……違うな、一緒にいてくれる誰か、だよ」

「……あなたに、何がわかるんですか?」

「ついぞ、実感させられたばかりだからね。これこそ余計なお節介という奴かな?」



 ジオニック社との会談がまとまったことで、戦後世界をリードするMS生産可能な軍需産業が、アナハイム、太洋重工、ジオニックの三社となることが決定した。アナハイムがツィマッド、MIP両社を合併するから、歴史どおり、ドム系のリック・ディアスはアナハイム製になるのだろう。ジオン共和国にMS生産能力を残すことに否定的なものに対しては、月面グラナダ市への本社移転をちらつかせればいい。

 しかし、これでMS系の企業三社が月面に本社を構えることになったわけで、後々問題が生じる可能性がある。ニューディサイズの反乱に悪い影響が出そうな気がするがとりあえず様子見をする他は無いだろう。戦後をにらんだ布石作りの一環、という訳だが、果たして如何動くか。

 私はベイの連絡艇に入ると、操縦席のバイオロイドにズム・シティへの進路を進むように指示。キシリアが乗っているだろう「ザンジバル」を横目で見つつ、隣に席を当然のごとく占めたハマーンと談笑しようとしたとき、通信が入る。今度はミツコさんだ。

「お元気?……あら、お楽しみのようでしたわね」

「……ずるい奴、消えろ」

 ヒイッ!?オーラが、オーラが見える!?赤黒いよ!?

「何も出来なかったお子様に言われたくありませんわ」

「わかっていてやった?サイアクだ」

 ……頼むから私のひざの上でガチバトルをしないでください。魂が口から出そうで大変です。

「……あなたのことは戦争が終わった後でゆっくりと。これからの夫の行く末についてじっくり話す機会を持ちましょう?」

 あ、微妙にミツコさんの口が引きつっている。それに気付いたらしいハマーンが身を乗り出してひざの上に座り、背中をもたらせたうえに両手を胸に抱え込んだ。……何も感じないのが悲しいが、感じたらソレはヤバいだろう。

「……いい、いい度胸ですわ」

「ふふ、勝ちだ」

 このままでは全く話が進まないので話に割り込む。口をあけたら口の中に髪の毛が入りそうになり、どけるために顔をハマーンの横にやると、ソレが更にミツコさんを刺激したようだ。アレ?もしかして墓穴掘った?

「いい度胸ですわ。業務連絡です。マット中尉の行方不明は現在も変わらず。第13独立艦隊が敵の新型とソロモン沖で接触したそうですけど、被害は双方共になし。ただアムロ少尉とセイラ少尉の様子が変ですわ。恐らく、シャア大佐と接触したのでは?……どうしましたの?」

 ……よかった。まだ光る宇宙が発生していない。アレが起こると取り返しがつかないからな。しかし、ここで起こらないとなるとORIGINのようにア・バオア・クー直前か。

「連邦軍の予定は?」

「20日に出航、途中で艦隊の編成がありますから22日にはサイド3かア・バオア・クーへ到達できますわ。トール、厄介なことに、今回の艦隊、第7艦隊としてコリニー提督の部隊が参加していますわ。ティアンム提督の第二軌道艦隊がソロモンでの被害でルナツーに退避していますので総勢は変わらず4個艦隊。戦艦72隻、約巡洋艦350隻の大艦隊ですわ」

 ついに出てきたか。コリニーの奴が参戦するとなると、ア・バオア・クーでのこちらの動きも決まったな。

「作戦は?ア・バオア・クーへの攻撃案でいい」

「流石にソレは。調べさせておきますけれど……ああ、前回ヤン少将に問い合わせました、亡命科学者のリストありますでしょ?手に入りましたけど、送る手段がありませんわ」

 ため息を吐く。そう、か。

「じゃあ次の名前が無いか確認してくれ。クルスト・モーゼス、ローレン・ナカモトかもしくはローレン・ハルツン、あるか?」

「……それらしい名前はありませんわね」

 ほっ、と息をつく。フラナガン機関への襲撃を繰り返していたことが役に立ったか。マリオン・ウェルチの意識ははっきりしているし、アンネ姉さんのところで頑張ってくれているから、EXAMのフラグも無い、か。

「その二人がどうかしまして?」

「趣味にあわない研究をする人なので。……ミツコさんミツコさん?」

 どんどん顔が恐ろしいことになっていくからどうしたかと見回してみれば、無視された格好になったハマーンが色々し始めていた。写真に撮られたら、如何見ても危ないDVDジャケットの完成である。ちょっと駄目!乗客二人しかいないからってそれは駄目よ!僕の手で遊ばないで!

「……良識は持ち合わせてくれているようで、安心は致しましたわ」

「……むぅ」

「もう、嫌……このSAN値を削られる生活っ!」



[22507] 第30話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/08 12:19
 UC0079年12月20日。レビル艦隊がア・バオア・クーへ向け出撃を開始したその日、トール・ガラハウは首都ズム・シティの公王官邸を歩いていた。但し、普通の彼としてではなく、ブラスレイターとして。

 ブラスレイターの能力の一つである周囲の景色との同化。いわゆるカメレオン現象を用い、また金属質の外皮を持つその形状から表面温度を一定に抑え、監視カメラのサーモグラフィが動かない範囲で放出することを繰り返し、ある部屋に入った。

 既に点灯していたモニタに映るのはデギン公王の執務室。監視カメラによって捉えられ―――恐らく、映されている本人は気付いていないだろう。しかし、映されている女性の方は気付いているようだ。言葉を隠すつもりが無い。音声を取るマイクの存在に気付いているくせに言葉を変えないということは、ここでの内容がある程度、了解を得たものである事を示している。

「レギンレイヴ計画。上手く行っている様だな」

 いきなりの声に周囲を見回す女性。誰の姿も確認できないようだが、少し経つとこちらを一心に見据えてきた。姿は見えないが、其処に何かがいるということは理解しているのだろう。

「……少将、ずいぶんと妙な来訪ですわね」

 姿を見せないのに断定してくる。これだからやりにくい。

「フィーゼラーに釘は刺しておいた。君がレオポルド氏をどうにかしようとしない限りは協力してくれるだろう。勿論、いくらか私の方も色々もらったけど」

「……私をギレン総帥の近くに送り込んだのはそうした理由からですか?」

 女史―――セシリア・アイリーンは言った。

 セシリア・アイリーンは貧窮の生まれである。サイド3の工場労働者の娘に生まれた彼女は、優れた資質を持ちながら、環境によってその能力を発揮することが出来なかった。そして貧窮の中で両親が死ぬと、当然のごとく、彼女は孤児院へと入れられることとなった。

 まず、一度目の転機がここで訪れる。ある日、降って湧いたようにサイド3の平均所得以下の家庭の子や孤児に対する給付奨学金制度が始まる。月の大富豪だというガラハウ家の行うそれは、当然孤児院で才能を開きつつあったセシリア・アイリーンを対象とした。そして二度目の転機。ガラハウ家の人間と出会った彼女は、自身の能力を見出し、貧窮から救ってくれたその人に信義をささげる覚悟をする。もっとも、ささげられると言われた方が困っていたが。

「さて、ね。わからない。君に興味があったのは確かだけど、如何こうしてもらおうとかは考えていなかった」

「……卑怯な人。……カーンのお嬢さんとは宜しい関係のご様子と伺っておりますが?」

 ため息を吐いた。迷彩を解いて外骨格を露にする。とはいっても、表の形は好きに変更できるため、ただのライダースーツにしか見えない。ヘルメット部分を外し、顔を出す。

「……正直、あそこまで純粋になられると、断れない」

 書類を片付けながらセシリアはため息を吐いた。

「……私も、正直になれば目がありました?」

 まさかそんな話になるとは思ってもいなかった。ギレンの愛人だという描写は目にしていたから、手を出すなんてそもそも思いもしなかった。というか、あの銀髪デコとセット過ぎるこの盛り髪の女性に愛情抱けといっても無理な気がしてならない。顔見るたびに思い出すとかトラウマだ。

「残念ながら、無い、かな。君のせいではないのだけど」

「奥様、ですか?」

 笑った。それこそ無い。

「いいや」

「まさか、総帥?」

 ごまかしきれないと悟った私は頷いた。セシリアもため息を吐く。確かに、顔を見るたびにアレを思い出してしまうではラブシーンどころではない。

「だからこの前、髪を降ろすか纏めるかにしろと言っていたのですね?」

「……スイマセン」

「ありがたいアドバイスありがとうございます。でも御安心を。私は綺麗なままですわ。成り上がるのに体を使うのはバカのすることですわ」

 そういうとセシリアは頭を下げた。あれ。もしかしてまずい事を言ったか?セシリアを見ると頬杖を突いて笑っている。どうやら担がれたらしい。

「アンネローゼ様にはとてもお世話になりましたから。アンネ様の弟君を如何こうしようとは考えておりませんわ。……ラインハルト君はお元気ですか?」

「……そっちか」

 なんとなくホッとした。これ以上修羅場ってる暇は正直無い。

「で、フィーゼラーとの話についてだが……この前話したとおりになったが、受けるか?」

「話したとおり、お受けします」

 セシリア・アイリーンはにっこりと笑うと頷いた。正直、ギレン暗殺計画の冷たい表情の人間とは思えない。アンネ姉さんのおかげかな。まぁ、ラインハルト。ご愁傷様。アンネ姉さん主導の孤児院業が恐ろしいことになっているが、あまり考えない方向でいこう。この前話したら、火星の恒久都市第一号の住民は基本ソレで、とかなんとか妄想していたし。火星に広がるショ……

 背筋にゾクリという感覚。まぁ、こちらに害が無いから良いか。




 第30話




 アイリーン女史の部屋を出るとすぐに謁見室に向かった。キシリアは港で待ち構え、予定通りのグレート・デギンの出航を待つようだ。その合間になら、時間がある。部屋に入ると、一人でガルマの肖像を見ていたデギンが私を呼んだ。

「貴様か、ガラハウ。監視にでも来たか」

「言った通りになりましたか?」

 デギンは頷いた。

「何から何までお前の言う通りよ。キシリアめ、ぬけぬけとよう申したわ。ゲル・ドルバ、ゲル・ドルバ。……ふふ、虚しいものよ。良い子から失い、残ったのはエゴだけが肥大したものだけ、とはな。わしは子の育て方を誤ったわ」

 むしろ、どういう育て方をすればああいう人間が形成されるのか不思議でならなかったが、とりあえず発言はしないでおいた。

「ジオンの理想は敗れたか」

「シャマラン教授の言うとおり、内務省の説得を待ってから行動すれば、こんなことにはなりませんでしたな」

 デギンの目が開く。この男が親衛隊に属しながらギレンとは別の思想を持っているとは思っていたが、まさかシャマランのソレとは思っていなかったのだ。だが、結局はそれで良いのだと思った。地球に住む人口が多くなりすぎたから宇宙に住めといっても、人間は足を着ける大地と安心して吸える空気を求める。テラフォーミングは技術さえ可能なら最善の策なのだ。それを知らなかったジオンは、結局強権政治に走るしか解決を見出せなかった。

「……わしは止めたのだよ。性急な独立の宣言は地球と無用の軋轢を生むだけだと。それを、ジンバの馬鹿めがダイクンを焚き付けよって。ジオンの考えるニュータイプがありうるなら、まずは地球以外の人間の居住環境を整備する必要がある、か。シャマランめ、ジオンの思想の欠点である経済力をよう見抜いておったわ。金が無ければ理想もむなしいか、ふふ、業腹よの」

「どうされます?」

 私は尋ねた。

「お前の良いようにせよ。事ここにいたってはお前を信用するほかはあるまい。この老いた身は犠牲にしても、サイド3に住む1億5千万を戦渦に巻き込むわけには行かぬて」

「差し出がましいようですが、これを」

 私は一枚のデータディスクを差し出した。デギンの前に回り、ガルマの最後の通信が入っているデータディスクの代わりに入れ、再生をかける。

「……父上、御健勝でいらっしゃいますか?トールに助けられ、私は今木星におります。まさか、姉上やギレン兄上、シャアに狙われていたとは知らず、自分の底の浅はかさを反省する日々でした。ただ、トールが連れてきてくれたイセリナが心の支えになってくれましたので、今は何とか持ち直しております……」

「お……おおっ……ガルマ……」

 涙を流しながら額に再生機を押し付けるデギン。可視光から目を守るサングラスがずり落ち、ひとしきり涙を流す。謁見の間を警護する親衛隊員はすべてバイオロイドに置き換わっており、また、ここを監視するカメラはセシリアの管轄だ。情報が誰にももれるはずは無い。

「……ガラハウ。そなたにはなんと言って良いか……」

「陛下。陛下はこれから息子娘の罪を一身に背負うことになるかと愚考します。ジオンを曲がりなりにも国家として運営し、ここまでの勢力を築いただけでなく、スペースノイドに独立国家という明らかな目標を与えた功績は誰にもまねできるものではありません。そのような方が、最後まで後悔と疑念を一身に背負うのはなんとも、人生の間尺があわないかと存じ上げまして」

「そなたが何者であるかは聞かぬ。そなたの望みも聞かぬ。この様子だとドズルもまた如何にかしていよう?……この老人、如何様にも使ってみせよ」

 トールは謁見場の階段を下り、臣下の礼をとった。死に行く老人に出来ることがこれだけしかない。

「ダルシア・ハバロ首相の件、お任せを。ただ、オレグ副首相には内密に。最後の最後まで、ギレン閣下をだましおおす努力が肝要です。ダルシア閣下はダニガン中将がグラナダまでお連れします」

「……そのためにダニガンを持ったか。そなたの目には敬服する」

「陛下には予定通りグレート・デギンに乗っていただき、サイド3よりの観測可能領域までは座乗していただきます。その後、艦より離れていただき、月とL5ポイントを直線で結んだ線と、L5軌道が交わる点でレビル大将と会談を」

「ゲル・ドルバを進む連邦艦隊は?」

「連絡の方法がありません。レビル大将には連絡しておりますが、今から航路変更を行ったとしても被害は免れ得ないでしょう。また、グレート・デギンの反応に従ってソーラ・レイの射撃が行われるものと考えられます。大将と陛下の会談は、その線からは離れていただく必要があります」

 デギンは深く息を吸い込み、吐いた。

「ア・バオア・クーの将兵は見捨てる結果となるか。出来うることなら助けてやりたいが」

「ギレン閣下の直率ではそれも難しいかと思います。サイド3の防衛師団は如何にか出来ますのでソーラ・レイの次弾発射は無いでしょうが、ソーラ・レイ近辺にいるギレン閣下の総軍艦隊を排除するには、発射後の励起状態による混乱を狙うしかありません」

 デギンは頷いた。

「ソレしかない、ということだな。わかった」




 翌日、UC0079年12月21日。

 ア・バオア・クーとソロモンの間に急行したガーティ・ルーは艦橋にシャア・アズナブルを迎えていた。

 シャア・アズナブルという人間の―――いやいや、キャスバル・レム・ダイクンでもエドワウ・マスでもいいが、彼の通信簿にはこう書かれていたに違いない。いわく「人の話をよく聞きましょう」、と。しかし、そんなことはお構い無しに、与えられた権限を拡大解釈したシャアはホワイトベースに一戦を挑んだ。

 流石にこの戦争を戦いぬけたニュータイプ部隊だけあり、撃墜を一機も出せなかったのは意外だったが、思わぬ収穫もあった。連邦側にニュータイプが存在する事を確信できたのだ。ララァによれば充分こちらに引き込めるだけの迷いがある様子。悪くない。この艦隊にも結構な数のニュータイプがいるようだ。

 口元に押し隠しきれぬ笑みを浮かべながら親衛第2艦隊の陣容を確認していると、背後の扉が開いた。そう、か。シャアは唐突に気がついた。あの感覚。あの記憶。そうか、そういうことなのだな、トール・ガラハウ。



 貴様が、トール・ミューゼルなのだな。



 ガラハウに寄り添うニュータイプらしい少女がこちらを睨みつけてくる。会った覚えは無いが、かなり嫌われてしまったようだ。まぁ、それも仕方ない。彼女がニュータイプなら、私の考えをある程度感じ取っているのかもしれない。しかし、心を触るような感覚が続く。嫌な感じだ。



「よく来た、大佐。……命令違反の件については不問に処す。ゲルググもエルメスも貴重な戦力だからな」

「はっ。少将、ありがたく」

 何処から見てもありがたそうに思っていないことがバレバレだが、そうした態度を取っても全く嫌味を感じさせないところがシャアのシャアたる所以かもしれない。こうした態度に引っかかる女性も多いんだろうなぁと考えていると、脇から不快気な思考が来る。どうやら、さっさと追い出せといっているらしい。

「……少将閣下はニュータイプについて如何考えていらっしゃいますか」

 切り込んできたか。

「宇宙に出た人間の新しい段階、か。いや、段階ではなく変化や適応といった感じかな」

「段階、革新ではない、と?」

 ため息を吐く。そう、ギスギスした感覚で敵味方を峻別する必要も無いと思うが。いや、キシリアの事を考えるとそうでもないか。ザビ家相手に敵味方が不確定な奴なんて存在意義ないしなぁ。というか、いつ敵になるかわからない時点で敵か。

「そうそう、人間の本質が変わる訳は無い、と考えているだけさ。宇宙に出て何かが変わるなら、既にそうなっていてもおかしくは無いだろう?」

 シャアは鼻で笑う。こちらの意見が気に食わないようだ。そりゃそうだろう。こっちの目的は思想や人の革新云々ではなくて、単純に人死にを少なくするだけなんだから。高尚そうな意見だし、実際にニュータイプも出てきているわけだから正しいか正しくないかの議論では絶対に負けるけど。

 大丈夫、負けなんて関係ないよ、という思考が伝わってくる。困ったような顔になったのを見たシャアが、寄り添うハマーンに興味を示したようだ。どうやら、何か感じてしまったらしい。

「かわいいお嬢さんだ。少将の御親戚ですか」

「マハラジャ提督の娘さんだ。預かっている」

 一瞬の間をおいてシャアが口を開いた。

「格納庫にあった白いMSは彼女が?」

「そう。やらんぞ」

 シャアが快活に笑い出した。

「いえいえ。見たところ、彼女もニュータイプかと思いまして。……お嬢さん、シャア・アズナブルだ。よろしく」

 返事もせずに顔を背け、こちらの背後に回ってしまった。よほど嫌っているらしい。無理も無いが。

「これはこれは、嫌われてしまったようだ」

「大佐」

 私は言った。ニュータイプ能力に覚醒し始めているだろうシャア相手に、これ以上ハマーンとの接触を続けさせるわけにはいかないと判断したからだ。

「以後の命令違反は認めん。勝手なまねは首を絞めるだけだと思え」

「はっ」

 言った直後、艦隊からみて遠くを一筋の閃光が通り抜ける。艦橋が騒然となった。

「なんだ!?」

「あの光は!?確認急げ!」

「……連邦の主力がいる方向だな」

 ハマーンが体の震えを強め、こちらを抱きしめる腕の強さが増す。数え切れない死者の呼び声を光の中から感じながら、自分を奮い立たせようとしている。一筋に私を思いながら。照れる内容だが、実際にハマーンが受けている念の強さは尋常ではない。あの閃光でどれだけの犠牲が生じたかはわからないが、このままでは心が壊れてしまう。

 ハマーンを前に回すと強く抱きしめて司令席に座った。シャアは冷たく笑ってこちらを見ている。

「我が軍のソーラ・レイの砲撃ですな。連邦の主力がサイド3へのゲル・ドルバに乗ってくれていたので、かなりの損害を生じさせたようです」

 これだけの念を感じてもその表情か。やはりこいつはどこかで壊れているに違いない。ハマーンからは押しつぶされそうな苦しみがまだ続いている事が伝わってくる。仕方が無いためノーマルスーツのヘルメットを外し、こちらも外して抱きしめた。体温を感じたことで急速に精神状態が安定していくのが手に取るようにわかる。しかし、まだ続くハマーンの状態を如何にかするため、脳裏だけでポイントを操作し、対人関係掌握能力を獲得した上でポイントキャラクター強化能力を並行使用。ハマーンの精神と外からの重圧に壁を設け、なんとか精神が汚染されるのを防ぐ。そこまでしてようやく落ち着いたようだ。


 一瞬、シャアがほぅ、という顔をしたのが気になった。



[22507] 設定集など(21-30話まで)
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2014/07/27 07:34
 UC0079年11月1日(21話)
 *ウィスキー隊より戦死者発生!GP-3000(コールドウェル(銀英伝)少尉)
 *MS5機を撃墜!GP2500入手!
 *マットアングラー隊を撃滅!GP10000入手!
 *ヒープ攻撃隊の襲撃を撃退しました!GP25000入手!
 △MS戦闘経験Lv.4:----- MSでの戦闘経験が一定段階に達しました!
 *RPの変換レートは100tです(10000P変換)

 GP149300 → 193800
 

 UC0079年11月上旬(22話)
 *ミツコ・イスルギがデレ期に入りました?GP5000入手!
 *マネキン夫妻をジャブローに送り込みました!GP5000入手!
 *RPの変換レートは100tです(500000P変換)
 ★保有戦力が以下のように変更されました
 連邦側艦隊
  ・ペガサス級強襲揚陸艦「トロッター」(シナプス、ヘンケン)
   RPT-007 量産型ゲシュペンスト×7(ポプラン、ロックオン他)

  ・MS戦技研究大隊(G-1隊)
   大隊長:セルゲイ・スミルノフ中佐 量産型ゲシュペンスト(サンドカラー)
   整備班:アリーヌ・ネイズン技術少尉
   本部小隊:エイガー中尉指揮
   RX-78-6 ガンダム6号機 エイガー中尉
   PTX-004 シュッツバルト(改) クリスチーナ・マッケンジー中尉

   第一小隊:マスター・P・レイヤー中尉指揮
   RGM-79SP ジムスナイパーⅡ(レイヤー)
   RX-77D ガンキャノン量産検討型×2(レオン、マクシミリアン)

   第二小隊:ユウ・カジマ中尉指揮
   RGM-79G ジム・コマンド×2(ユウ、フィリップ)

   第四小隊:サウス・バニング大尉指揮
   RGM-79G ジム・コマンド×4 (バニング、ベイト、モンシア、アデル)

   第五小隊:独立編成
   RGM-79G ジム・コマンド×2 ライラ・ヤザン両少尉

  ・搭載外
   RGM-79N ジム・カスタム×8
   RX-81ST ジーライン・スタンダード×3

 GP708800 → 404800
  ・セルゲイ・スミルノフ(ガンダム00):10000+20000
  ・レイカー・ランドルフ(OG):10000+20000
  ・カイ・キタムラ(OG):10000+20000
  ・ジャミル・ニート(ガンダムX):15000+30000
  ・ランスロー・ダーウェル(ガンダムX):15000+30000
  ・ミラン・レックス(ターンエーガンダム):8000+16000
  ・プラント能力拡充:50000 RP変換に制限がなくなります。
  ・プラント能力拡充:50000 支基地設営プラントのRP制限がなくなります。
   → 人員・兵器などの獲得レート上昇!期間ごとの獲得最大人員数が制限されます!
   → 一年戦争中の召還数は残り4名です


 UC0079年11月(23話)
 *オデッサ作戦でのマチルダ戦死がなくなりました!GP5000入手
  → ウッディ・マチルダ戦死せず!GP15000入手!
 *黒い三連星が登場する事無く撃破されました!GP1000入手!
 *月条約が締結されました!GP50000入手!
 *RPの変換レートは100tです(500000P変換)

 GP954800 → 104800
  ・重力制御技術c:80000 30Gまでの慣性に耐えられます!
  ・NT能力Lv.3:90000 1stシャアくらいのNT能力です。
  ・GF能力Lv.3: 90000 ミケロ・チャリオットくらいは格闘できます
  ・改造手術c:100000 ブラスレイターくらいの肉体能力。再生可能、宇宙での活動も大丈夫です。
  ・改造手術d:150000 単体ポーテーション、テレキネシスの使用が可能です。
  ・バイオロイド兵生産 5000名:100000
  ・ナノマシン技術Lv.3:80000 接触による金属コントロールが可能です
  ・ナノマシン技術Lv.4:100000 接触による無機物コントロールが可能です
  ・ブライアン・ミットグリッド(OG):15000+45000
   → 一年戦争中の召還数は残り3名です


 UC0079年12月上旬(24話)
 *ハマーンが決意しました!GP30000入手!
  → ハマーン・カーンの能力上昇!Z時代と同様の戦闘が可能です!
 *RPの変換レートは100tです(500000P変換)

 GP669800 → 399800
  ・重力制御技術d:80000 40Gまでの慣性に耐えられます!
  ・ダウンサイジング技術a:40000 50mまでの機動兵器・装備を最小15mまで小型化できます!
  ・ダウンサイジング技術b:90000 100mまでの機動兵器・装備を最小15mまで小型化できます!
  ・BPOG製造技術h:60000 ゾヴォーグ共和連合兵器の生産が可能になりました!


 UC0079年12月上旬(25話)
 *キシリア・ザビを押し付けられました!GP -30000!
  → 主人公の指揮下にキシリアがいる限り続きます!
 *シャアの独立300戦隊を指揮下に置きました!GP5000入手!
 *マ・クベ艦隊が編成されません!GP1200入手!
 *RPの変換レートは100tです(100000P変換)

 GP476000 → 330000
  ・量産型MS生成 36機:36000 シーマ艦隊にRFゲルググを配備しました!
  ・プラント設置:100000 小惑星ペズンにプラントを設置しました!
  ・専用機生成:10000 シーマ・ガラハウ専用機をポイント生成しました!


 UC0079年12月上旬(26話)
 *ガラハウ姉妹+ハマーン行動Lv.1(現段階ではポイントになりません)
 *主人公が「LOルール」を破りつつあります!GP-30000
  → "機動戦士がんだむちーと"は清く正しい小説です。
 *キシリア・ザビが蠢いています!GP -30000!

 GP270000 → 235600
  ・艦艇改修:10000 グワジン級アサルムを改修しました!
  ・試作機生成:2000 ビグ・ザムを1機生成しました!
  ・試作機生成3機:2400 量産型ビグザムを3機生成しました!
  ・専用機生成:10000 ハマーン専用機をポイント生成しました!
  ・専用機改造:10000 トール専用ゲルググをポイント改修しました!


 UC0079年12月上旬(27話)
 *キシリア・ザビが蠢いています!GP -30000!
 *ギレン・ザビが主人公の動きに気付きつつあります!GP-10000
 ★保有戦力が以下のように変更されました
  ジオン側艦隊
  ●親衛隊第二艦隊本隊
  ・ガーティ・ルー級機動戦艦「ガーティ・ルー」
   OMS-14SRF(改2) トール・ガラハウ専用ゲルググRF(トール)
   AGX-04A1 ガーベラ・テトラ改(シーマ)
   NZ-000(改) プルサモール(ハマーン)
   OMS-14RF ゲルググRF×12
   ???×1(トール)
  ・ナスカ級強襲巡洋艦×3
   OMS-14RF ゲルググRF×21

  ●親衛隊第二艦隊分遣隊
  ・ザンジバル級機動巡洋艦「マレーネ・ディートリッヒ」(キリング・ダニガン中将)
   MS-14F ゲルググマリーネ×9
  ・ムサイ級軽巡洋艦(後期生産型・カーゴ搭載)×3
   MS-14F×30(闇夜のフェンリル隊など)

  ●独立第300戦隊(シャア・アズナブル大佐)
  ・ザンジバル級機動巡洋艦「ザンジバル」
   YMS-14A シャア専用ゲルググ
   MAN-08 エルメス×2(ララァ、クスコ)
  ・ザンジバル級機動巡洋艦「ケルゲレン」(ブラード・ファーレン中佐)
   MS-14B 高機動型ゲルググ(ケン・ビーダーシュタット大尉)
   MS-14F ゲルググマリーネ×3(ガースキー、ジェイク、シグ)
   MAN-08 エルメス(セレイン)
  ・ムサイ級軽巡洋艦前期型×2(シャア直属)
   MS-09R リック・ドム×6
   MAN-03 ブラウ・ブロ×2(シャリア、シムス)

  ●員数外
  ・グワジン級戦艦「アサルム」
   YMS-15 ギャン二号機(マ・クベ)
   MS-09R リック・ドム×6など

 GP195600 → 120600
  ・専用機生成:50000 トール専用???をポイント生成しました!
  ・艦艇生成:10000 ガーティ・ルーを生成しました!
  ・艦艇生成:15000 ナスカ級を三隻生成しました!


 UC0079年12月上旬(28話)
 *キシリア・ザビが蠢いています!GP -30000!
 *ドズル・ザビ救出に成功!GP50000入手!
  → +ガルマ・ザビ救出で"新生ジオン軍"コンボ発生!GP50000入手!
 *主人公友好勢力として、ドズル残党軍が発生します!GP15000入手!
  → ネオ・ジオン勢力は以後ドズル指揮下に入ります!GP25000入手!
  → ハマーン・カーンのネオジオン総帥フラグが消えました!GP50000入手!

 GP330600 → 330600


 UC0079年12月中旬(29話)
 *キシリア・ザビが蠢いています!GP -30000!
 *ジオニック社がアナハイムに合併されません!GP10000入手!
 *A.E社の軍需独占排除フラグbを建設しました!GP40000入手! 
 *修羅場フラグaが立ちました!GP10000入手!
 *主人公が「LOルール」を破りつつあります!GP-10000
  → "機動戦士がんだむちーと"は清く正しい小説です。

 GP350600 → 350600


 UC0079年12月下旬(30話)
 *ソーラ・レイ照射による連邦軍の被害が歴史以上です!GP -25000
 *セシリア・アイリーンが主人公勢力に参加しました!GP5000入手!
  → 永遠の(ry トリプルコンボ発生!GP100000入手!
  → 弟ラインハルト君の貞操が危険です!(GPが発生するかは未定です)
 *シャアに正体を看破されました!GP -25000!
 *キシリア・ザビが蠢いています!GP -30000!
 *RPの変換レートは100tです(100000P変換)

 GP475600 → 370600
  ・対人関係掌握能力Lv.4:100000 他者に対する精神干渉が行えます!
  ・ポイントキャラクター強化:5000 ハマーン・カーンは自由にプレッシャーを遮断できます!
   →*この強化は本人に使用できません!別技術にて可能になります!




[22507] 第31話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/06 11:08
 UC0079年12月24日。史実より一週間早いア・バオア・クーでの決戦が始まった。

 午前8時、

 21日の22時、サイド3へ向かうレビル将軍の第一連合艦隊を分けようとしていたときに起こったソーラ・レイの照射は、サイド3を目前に降伏交渉に赴いたデギン公王とレビル将軍の会談中、待機していた第一軌道艦隊を襲った。第一軌道艦隊と第一連合艦隊の間をすり抜けたソーラ・レイの照射は両艦隊に甚大な損害を与え、この攻撃によって戦艦16、巡洋艦67隻他多数を失い、満載2600機を数えたMSも400を失う大損害となった。

 しかし、レビル将軍はすばやく艦隊の再編成を命令。デギン公王の降伏の申し出に応じると、公王を随伴してのサイド3進駐を決定。次席指揮官である第一軌道艦隊のビュコック大将に、抗戦派であるギレンを降伏させるべく、再編成の後にア・バオア・クーへ向かうように命令した。

 照射による混乱はことの他大きく、サイド3でデギン派のロートレック少将率いる本国防衛師団がソーラ・レイの制圧を行ったことともあり時間の余裕が出来たため、再編成に時間を割き23日夜、第一軌道艦隊は、第7艦隊および第5艦隊を伴ってア・バオア・クーへの進路をとった。

 24日朝8時、ア・バオア・クー近海に到達した先鋒部隊に向かって無人の防御衛星が攻撃を開始。これに過反応したコリニー提督指揮下の第7艦隊が突出して戦端を開き、ここにア・バオア・クー攻略戦が開始された。

「我が忠勇たるジオン勇士達よ。今や地球連邦艦隊の半数が我がソーラ・レイによって宇宙に消えた!この輝きこそ我らジオンの正義の証である!決定的打撃を受けた地球連邦軍にいかほどの戦力が残っていようと、それはすでに形骸である。あえて言おう!カスであると!」

 ギレンの演説が戦闘開始を控えたア・バオア・クーに響く。ギレンは既にデギン公王とレビルの接触を情報として受け取っており、また本国防衛師団のクーデター、および首都防衛大隊によるズム・シティでの市街戦の情報を得ていたがこれを黙殺していた。ことここにいたっては、勝利して余勢を駆り、サイド3を再制圧するしかないと判断していたからだ。演説は続く。

「それら軟弱の集団がこのア・バオア・クーを抜くことはできないと私は断言する。人類は我ら選ばれた優良種たるジオン国国民に管理運営されてはじめて永久に生き延びることができる!これ以上戦いつづけては人類そのものの危機である。地球連邦の無能なる者どもに思い知らせてやらねばならん!今こそ人類は明日の未来に向かって立たねばならぬ時であると!ジーク・ジオン!」

 要塞全域を揺るがすジーク・ジオンの連呼が響き渡る中、予想外の展開にギレンは内心、焦りを感じていた。ズム・シティの反動勢力を叩き潰すため、総帥府にレギンレイヴ計画を持ち出させたのは彼自身だが、その推移は予想を遥かに超えて、本国師団の反乱にまで発展している。

 ……ガラハウめ、裏切ったか?

 ギレンの脳裏に、一人の男が浮かんだ。



 第31話



 連邦軍の攻撃は第一軌道艦隊がSフィールド(地球側)、第7艦隊がWフィールド(月の反対側)、第5艦隊がNフィールド(サイド3側)を担当戦域とし、第7艦隊の突出はあったものの、基本的には三領域よりの同時飽和攻撃で始まった。パブリク突撃艇がビーム撹乱幕形成のための大型ミサイルを発射し撹乱幕を展開すると、それによって形成された回廊を通じてMS部隊が侵攻を開始する。これが基本方針だ。

 巡洋艦は回廊の護衛に当たり、護衛任務についたMS隊、支援砲撃のボールや戦闘機群がこれを援護する。戦艦は長距離砲撃戦を展開し、要塞の防御砲台や出撃ハッチを破壊するものと定められた。

 しかし、Nフィールドでは的確な防空管制で撹乱幕の回廊を形成するはずのパブリク隊が全滅。ドロス級空母ドロスを展開し砲撃戦を行い、その砲撃力で第5艦隊を押さえ込んでいた。同様の光景はEフィールドでも見られたが、こちらは回廊を途中であるが形成でき、そこからのMS隊の接近が始まった。

 シャア・アズナブル率いる独立300戦隊旗艦ザンジバル。艦内はSフィールドから攻撃を仕掛ける第一軌道艦隊の背後を突くべく、出撃の準備に余念が無い。出撃に向かう通路でララァを見つけたシャアは、彼女を通路沿いの隔壁に呼んだ。軽く抱きしめる。

「出撃だぞ、ララァ」

 微笑む仮面の男にララァは呆然とした顔を向けた。その表情からは何を思っているかはわからないが、漠然とした不安が伝わってくる。シャアは内心に湧いた不安を押し込めると言った。

「これまでは訓練のようなものだ。いよいよ実戦だ。大丈夫、お前は私が教えた以上にやってくれた。ララァの命令で私が動きたいぐらいだ」

 そういわれたララァの顔に微笑みが浮かぶ。

「敵は艦隊ごとに戦域を決めて攻撃をかけてくるだろう。大量のモビルスーツがこれを援護する。……それを、叩く」

「大佐も一緒に?」

「そばにいる。自信を持て、ララァ」

 そういうとシャアはララァに口付けた。年端も行かぬ小娘に出撃前にキスする士官は珍しい。唖然とした表情で、しかし後方からの兵に押されてデッキに向かう兵士達。

「……今日からは、ノーマルスーツをつけて出撃なさってください」

「……うむ。ララァがそういうなら、な」

 そういうとシャアは着替えに隔壁を出る。

「ありがとうございます」

 後姿に礼を言ったララァの顔は、どこか沈んでいた。



 脇にシャアのザンジバルを確認しながら、MS隊の発進を見送る。前衛のコッセル中隊が発艦した後、それを追う形で出撃の予定だ。出撃の順番が来るまで、と駄々をこねてコクピットに入り込んでいるハマーンが先ほどから何かを確認するように体を摺り寄せているが、気にしない。

 先発したシャア・アズナブルとララァ・スンのコンビは、既にSフィールドに形成されつつある撹乱幕回廊を、更に伸ばそうとする部隊に向けての攻撃を開始している。出撃したばかりのジムがビットの光に貫かれ、次の瞬間爆発。同時にジムが発進したサラミスも爆発する。

「そろそろか。ハマーン、いいな。前にいった事を忘れるな」

 そういうとハマーンをプルサモールに押しやり、出撃準備を整える。

「あたしらはこのまま、コロイドを展開させてア・バオア・クーに近づく。合流地点はわかってるね?」

 艦橋からシーマ姉さんの通信。頷くと同時に整備員が発進許可を出した。

「トール・ガラハウ。RFゲルググS型、出る。ハマーンは後ろに。三人娘、V字でついて来い」

 了解の応答。

「出撃!」

 整備員の呼びかけと共にカタパルトが押し出され、ゲルググが出撃する。前方を見ると、早速ガンダムと接触したらしいシャアたちの姿。三人娘とハマーンに決して手出しをするな、決められたとおりに動け、と命じると、三機が戦闘をしている宙域に接近した。ん?戦闘と言う割にはビーム光が見えない?

「良いところで会った!連邦のニュータイプ!」

 早速か。接触したのに戦闘をしていないから変だと思えばこれだ。

「アムロ君とかいったな、君はいい少年だ!私の同志になれ、ララァも喜ぶ!私の本名はキャスバル・レム・ダイクン!知っての通り、ジオン・ズム・ダイクンの子だ!ザビ家への復讐を誓ってこれまで生きてきたが、もう、全てではなくなった!これからは、ニュータイプの時代だ!退廃したオールドタイプを、我々が凌駕する時代なのだ!」

 援護のために近づこうとするジムが次々とビットに沈む。邪魔がいなくなったと判断したシャアは、ガンダムに近づいた。

「いいか、アムロ君。人は、解りあわなければならない。解りあえないまま人類は争い続け、地球と宇宙を汚し続けている。その歴史は、オールドタイプには変えられない!スペースノイドが切り開いた宇宙に生まれたニュータイプのみに、それが出来る!人の革新とザビ家は言う、お笑い種だ。人に人が変えられると思うか!?」

 シャアのゲルググがガンダムに接触する。ノイズ交じりの音声がクリアになったようで、アムロの息遣いが聞こえてくる。

「人を変えられるのは宇宙の摂理だけ。ニュータイプこそが今、それを体現して世界に登場しようとしている!」

「まて、シャア」

 アムロは言った。

「僕にはわからない。あなたの言おうとしていることが解らない」

 シャアの表情が引きつるのが手に取るように解る。これ以上ない全否定だ。理論だけが先行して実現の能力が無い、か。どこまでも父親似なのか?父親のほうが女癖悪くなかったと思うが……。

「そこの女性……ララァから感じるものを、あなたから感じない。あなたはニュータイプなんかじゃない!」

「私こそニュータイプだ!私はジオン・ズム・ダイクンの子だからな!だから私には解るのだ!この戦争の行く末も、生き残るべきものとそうではない者も!」

「解らない!」

 アムロはそういうとシャアに向けてライフルの銃口を向ける。ララァが反応した。ビットがガンダム向けて移動をし始めるが、アムロはすぐさま銃口の向きを変えてビットの撃墜を始めた。一つ、二つ。それはすぐに4,5,6と数を増やす。

「あなたは危険よ!」

 ララァは叫ぶ。

「あなたがいると、シャアが死ぬ!守るべき人も、守るべきものも無いのに、あなたはこんなに戦える!危険よ!」

「いけないのか、それが!」

 ララァのビットがビームライフルを貫く。ガンダムはすぐにビームサーベルを構えると、ジェダイの騎士でもあるまいに、ビームサーベルのビームでビットのビームをはじき始めた。なんていう、なんていう技量だ。アレと戦闘したのか、俺。

「私は、私を救ってくれた人のために、戦っているわ!それは、生きる人の真理よ!」

 ララァのエルメスがガンダムに激突した。衝撃でガンダムが弾き飛ばされる。

「じゃあ、ぼくたちの出会いはなんなんだ!どんなに君が否定しても、出会ったことだけは、認めなくちゃいけないんだ!」

「認めてどうなるの!?出会ったとしてもどうにもならないのよ!」

「ララァ!」

 シャアの叫び。

「奴との戯言はやめろ!」

 ガンダムにビームライフルを向けるシャア。ガンダムはすぐさま反応するとビームライフルを切り落とす。

「アムロ君……君は危険だ。今!ここで!殺してやる!」

 ビームライフルを捨てビームナギナタに代えたシャアは、シールドを背中に背負い、両手にナギナタを持ってガンダムに迫る。シールドを切り落とし、続けざまにナギナタを繰り出すが避けられる。しかし、ガンダムの反応には追いつかない。旧来の二号機なら追いついただろうが、今乗っているのはNT-1だ。

 シールドをゲルググに向け、ゲルググの視界から機体を隠す。視界を空けるためにシールドを両断したシャアの前に見えたのは、今まさにサーベルを突き出そうとするガンダムの姿だった。

「大佐!」

「いまだ!」

「ゲルググ!?ガラハウか!?」

「兄さん!」

 宇宙に、一筋の光が走った。



 UC0079年、午前9時。月軌道側Nフィールド。
 
「敵艦隊反転!防御体制で展開!」

「面白い」

 キシリアは言った。口元には笑みを浮かべている。トール・ガラハウが姿を見せぬうちに本国艦隊から奪い取ったドロス級三番艦ミドロの背後に浮かぶ、「パープル・ウィドウ」の艦橋だ。

「右舷備砲を以て敵艦隊を攻撃!有効射程内に敵艦隊を捕捉次第、一斉射を開始せよ!各艦に伝達!砲撃開始と共に突入開始!」

 キシリア艦隊は第5艦隊の後方から攻撃を仕掛けるとドロス級の大型メガ粒子砲を以て射程外から攻撃を開始。反撃が出来ないまま連続して沈む連邦軍を蹴散らし、ア・バオア・クーNフィールドへの突入を開始した。

 同時にミドロ内部よりMS隊が出撃。艦隊から一定距離を保ちつつ、攻撃範囲内の艦船に対して攻撃を行う。今までグラナダに秘匿しておいたMS隊はその戦力を遺憾なく発揮。特に、先頭で敵艦隊に切り込んだ、マレット・サンギーヌ大尉のアクト・ザクは続けざまにマゼランを2隻、沈めている。

 そのままマレット中隊が援護を行い、突入を開始するキシリア艦隊。しかし、そのキシリア艦隊の横腹に、隣接するWフィールドから、三機の機影が接近しつつあった。

「何だアレは!?はははっ、俺にふさわしい相手が来たようだ!」

 喜びに震えるマレット。無理も無い。キシリアに心酔する彼にとって、キシリアの面前での活躍は望むところだ。新型のアクト・ザクをあてがわれた誇りもあり、迫る三機を一人で撃墜しようと、機体を接近させる。

 充分に近づいたところでマシンガンを放つが、それは彼の望むところだ。散開した所を一機ずつ撃墜するつもりで、ビームサーベルを抜いて一気に迫る。どうやら、噂に聞くガンダムタイプらしい。これでまた一つ、自分に輝かしい勝利が加わると決めたマレットは、近づけた機体にビームサーベルを振り上げた。

 一閃。

 予想した手ごたえは無く、マレットのアクトザクは姿勢を崩す。消えた敵機を確認しようとしたとき、背後からの熱を感じてマレット・サンギーヌの意識は消えた。

 背後からの一機と同時に両側から二機が同じ場所―――コクピットにビームサーベルを突き立てている。ガンダムタイプであり、機体の構成はRX-78であるが、カメラアイがジムと同じゴーグルアイに変更され、機体の色は赤い。両肩が大きく膨らみ、恐らくスラスター類が強化されていることがわかる。そして、そのゴーグルアイは鈍い赤色を放ち、赤い光が一閃すると消えた。

 午前10時過ぎ、キシリア艦隊は第5艦隊の突破に成功するが、側面から受けた第7艦隊の攻撃により空母ミドロ他の部隊を喪失した。Nフィールドの第5艦隊は戦艦4、巡洋艦6に渡る被害をこうむり、艦隊は一時退いて再編成。出撃したMSが前方に取り残される形になったが、旗艦「アマギ」撃沈直前に出されたトーゴ提督の強襲揚陸命令に基づき、MS隊の強行突入が始まった。

 それを確認した隣接するWフィールドの第7艦隊は、まだ前面のジオン艦隊戦力が優勢だったこともあり、MS隊の一部を第5艦隊の支援にまわして突撃を支援する。キシリア艦隊の突入後には第12独立MS旅団がその穴を埋めるために要塞内部から出撃したが、連邦軍の圧倒的な数と、前線で隊形を切り崩す三機のMSによって穴をふさぐことが出来なかった。

 それは、バズーカを構えた、ミドロを撃沈した三機のガンダムだった。




 UC0079年9時10分。

「ガラハウ……きさまかっ!」

「大佐ああああああああああっ!」

 蹴りつけられたエルメスは、シャアのゲルググをかばって突き刺さるはずだった軌道をそれ、コクピット脇を掠めながら右側エンジンを貫く。爆発を起こしたエンジンによって生じた加速で、戦域から離れていくエルメス。その姿が見えなくなったかと思い、誰もがエルメスの向かった方向に視線を向け、一分ほど経った後。

 爆発。

「ララァ!?……ガンダム!ガラハウ!」

 シャアはゲルググのナギナタを邪魔をしたガラハウ機とガンダムに向ける。その瞬間、後方からビーム光。振り向いたシャアのゲルググに白いMSが映った瞬間。下から迫ったガンダムがシャアのゲルググの右足から右手を一気に切り裂いた。

「兄さん!?」

 先ほど割って入った通信がもう一度響く。見ると、後方からジムの改造機が一機向かってくる。おそらくセイラ少尉か。シャアのゲルググをア・バオア・クーの方向へ蹴ると、ハマーンのプルサモールがセイラのジムの両腕両足をサーベルで切り落とす。余計な邪魔はされたくないのか、同じようにア・バオア・クーへ蹴り飛ばす。しかし、予想したガンダムの追撃は無かった。

 振り返ると、シャアを切った体勢そのままで、ガンダムNT-1が第一軌道艦隊のほうへ流れていく。どうなっているかと通信を開くと、すすり泣くような声が聞こえた。

「僕は……僕は、取り返しのつかない事をしてしまった……」

 そこに迫るビーム光。敵味方関係無しに砲撃を仕掛けている。しかも、砲撃の射線はこちら向きだ。連邦の新兵器かと思ったところ、通信から狂気を含んだ笑い声が響く。

「連邦のニュータイプかああああああああっ!」

 女性の声と共にこちらに向かうビーム。何?シムスか!?強化されて見境がついていないのか!?

 射線を向けてくる以上敵だ。ハマーンに合図すると離れて別の任務に当たってもらった三人娘に周囲の警戒と自機の防御を行いながらの一時撤退を命じてハマーンと共にシムスのブラウ・ブロへ向かう。強化した自身の能力が不安でならなかったが、まだ反応できる。どうやら、パイロットとしての経験が上昇しない限り、どんなにポイントで素質を強化しても意味が無いらしい。ガワとタネは豪華だが、肉がついていっていないのだ。

「しかし、まだこれなら何とかできる!」

「ひゃはははははっははははあっ!」

 シムス中尉の強化を行った担当者は、キシリアの密命を受けてある種のMSを目撃すると同時にトラウマが発動し、そのMSを中心に隊形を組んでいるMS隊を狙うように刷り込みを施されていた。後方に似たようなブラウ・ブロ―――但し、大きさは半分ほどで、分離するブロックの数も少ない―――いや、ブラウ・ブロの小型版らしい。

「トール!」

 ハマーンが次々と有線ビーム砲を落す中、ブラウ・ブロの本体部分を包み込む四枚のブロックにビームを注ぐことだけに集中する。フォトン・ライフルから放たれた高出力電磁波――光子レーザーがブロックを次々にはがす。まずい!

 コクピットブロックを狙った射撃を外してしまった。それに勢いを得たのか、こちらに激突するコースでブラウ・ブロが動く。しまった!焦りが混乱を生み、動作を遅くさせる。先ほどまでの光る宇宙に介入できたという気のゆるみが、ラースエイレムを発動させることすら忘れさせていた。

 しかし、ブラウ・ブロはゲルググに激突する事無く、下から走ったビームによって撃墜された。こちらに死の間際のシムス中尉の思いが流れ込んでくる。ハマーンにはシャットアウトできるようにさせたが、こちらはまだ出来ないらしい。死の苦しみを、シムス中尉が息絶えるまでの数秒間感じ続けた私は、流れ込む意識が消えると共に大きくため息を吐いた。

「無事!?トール!?」

 ハマーンからの通信。モニタに映る彼女の顔に、なんだかとても自分を情けなく感じた私は、ぎこちない様子で手を振った。あんだけ大口ほざいてこの様かよ。自分が情けなくなってきた。私はハマーンに礼を言うと、機体をア・バオア・クーに向けた。

 さて、間に合うか。



[22507] 第32話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/06 21:39


 12月24日午前9時半。ア・バオア・クーへ向けて漂うゲルググの後を追って要塞に侵入したセイラ・マスは砲撃によって生じた裂け目に機体を軟着陸させると機外へ出た。見上げると、砲撃はまだ続き、所々に星のような爆発がきらめく。

「白兵戦?モビルスーツの上陸が始まっているの?」

 銃を構えると要塞の内部へ。兄の姿を追い求め、だんだんと要塞内部に入り込む。通信が入った。近くにジオン兵!?周囲を確認すると、前方の通路に人影。すぐに近くのへこみに姿を隠す。

「隔壁をさっさと閉鎖しろ!敵に入られでもしたら適わんぞ!」

「制御系をやられました!復旧中です!」

 会話を確認すると、ここはこれから放棄される区画らしい。ほっと安心したところに衝撃。身を崩して通路のほうに体が投げ出されてしまった。いけない、気が緩んでた!?

「急げよ!奴ら、まだまだ来るぞ!……!?連邦の兵だな!銃を捨てろ!」

 命令を出していたらしい技術兵がセイラを見つけ、持っていた銃を彼女に向けた。

 拘束された彼女は銃を突きつけられたまま、兵員たちのための大気区画となっている要塞中央部へ向かう。

「前を空けろ!連邦の捕虜を連行しているんだ!あけろ!」

「連邦軍の捕虜!?」

「女だ!」

 その言葉に女っ気の無い戦場でたまるものがたまっていた兵士たちが反応した。ここにいる兵士たちは宇宙空間にノーマルスーツだけで飛び出す要塞設備の整備兵だ。頑健な肉体が要求されるため、女性がどうしても少なく、また入ってくる女性もほとんどがオペレーター業務にまわされるため、当然離れて勤務する。となれば、こうなるわけだ。

「いい女だ!おい、こっちにこい!」

「俺にも触らせろ!てめぇ、どけ!」

 騒ぎが大きくなり、何とかして欲を晴らそうとセイラに次々手が伸ばされる。そこに大声が響いた。

「バカども何をしているか!」

 親衛隊専用のノーマルスーツに身を包んだランバ・ラルが怒鳴った。セイラの顔が意外そうな表情に変わる。まさか、こんな場所で出会うとは思いもしていなかったのだ。ランバ・ラルは戦争が始まって以来、ガラハウ艦隊とア・バオア・クーの連絡士官としてここにあり、新兵たちの訓練教官を続けてきた。

「ガラハウ少将閣下の御到着である!何事か!?」

「はっ……連邦の捕虜を確保いたしまして」

 ランバ・ラルが鼻息荒く、そぶりだけで顔を見せろと求める。頷くと顔を上げさせた。ラルの顔が驚きに見開かれる。背後に続くハモンも同様だ。

「まさか、ひっ……ひっ!」

「大尉、何をしているか!?」

 後ろから若い男の声。話に出ていたガラハウ少将か、とセイラはそちらを見た。また、見知った顔が出てきた。それと共に、ガラハウという名、ミューゼルという名、トールという名が記憶と共に彼女の中で一致した。そして思い出す。幼い日に、母を連れ帰ってくれた少年の姿を。母との最後の2ヶ月を自分たちにくれた、名前しかわからない少年を。

「トー……」

「話はわかった。貴様らはさっさと仕事に戻れ!この捕虜はラル大尉が私の立会いで尋問する!」

「文句があるなら俺たちと一戦やってみるか!?」

 ずるい、という声が後ろの整備員からも上がりかけるが、コッセルの怒鳴り声で静まり返った。同時に叫ぶ兵士たちを後ろから続く海兵隊とラル隊の猛者たちが獰猛な笑みで出迎える。コッセルが言葉を続けた。

「馬鹿野郎!ハマーンさまの前で若が馬鹿なことするわきゃねえだろうが!若は立派なロ……」

「……コッセル」

 若い男は顔を手のひらで覆うともう片方の拳を大男に振り下ろした。いい音と共に頭を抑える大男。引きつった笑みを浮かべながら、男は苦笑しながら言った。

「……いい度胸だ。本当にいい度胸だこの野郎。何を見ている!さっさと戻れ!」

 見ると、確かに腰に女の子が張り付いている。セイラは思った。この10年近くの間に、一体何がこの少年にあったんだろうか。ある意味、あの鬼子の兄よりひどいのでは……これが私の初恋?セイラは暗澹たる気持ちになった。




 第32話




 午前10時。

「申し上げます!ただいま前線より、シャア・アズナブル大佐がお越しになられ、総帥への拝謁を願っております!」

「シャア?……よい、通せ」

 ノーマルスーツ姿でヘルメットを脱いだシャアは入室すると敬礼した。

「ふん、羽を打ち枯らして来たか。ガラハウにまで使い捨てられたようだな。もうキシリアの許にも帰れんぞ」

「はっ。ニュータイプ部隊の貴重な戦力を喪失しました。当然、キシリア閣下やガラハウ閣下に顔向けは出来ません」

 ギレンは鼻で笑った。ガラハウも義理を通したか。現在、第一軌道艦隊を後方から攻撃していると聞く。呼応するようにデラーズを前進させたため、第一軌道艦隊にはかなりの損害が生じているとも聞く。どうやら、疑いは疑いで終わりそうだな。しかし、私のところへシャアをよこすとは……ガラハウめ、それなりに目端は利くようだな。

「策に溺れるからだ。言わんことではない。キシリアは御執心だったようだが、私には眼中にも無いのだよ、『ニュータイプ部隊』など。ガラハウを見習うことだな、そんなものなど無くとも連邦に勝利できる。既に見ての通り、貴様の部隊が敗れても我が軍は勝利しつつある」

 ギレンはシャアに指を突きつけた。

「キシリアに何事か言い含められたか!?それとも、ガラハウにでも!?まさか、戦の旗色を読んでよからぬことでも企んだか!?」

 シャアは黙して答えない。ギレンは言葉を続けた。

「お前が誰かということも知っている。キシリアやガラハウだけがジオンの諜報組織を握っているわけではない。ダイクン家の再興を図るのは良し。しかし、その為にザビ家に仇なすは許さん!時代は移り、時計の針は決して戻せん!ジオンの歴史はいまや、三世代目を望まんとしている!」

 ギレンは口元をゆがめた。

「ザビ家の時代から、この私の時代へ、だ!勝利した、戦後の『人の革新』の時代へ!その流れに誰も逆らうことは出来ん!逆らうものは誰であれ、新しい時代に神となる者に裁かれる!解るか!?」

 シャアは鼻で笑った。ギレンの表情が不快にゆがむ。

「……何故笑う」

「閣下の仰り様が大仰に過ぎるからです。敗残兵の一人、それも、前線で戦い敗れ、全てを失って帰るところも無い。閣下の懐に飛び込んだ、哀れな窮鳥、それが私です。……しかし、ここにただ逃げ込んだわけではございません」

 シャアは言った。仮面の奥に光が見える。

「どうしても倒したい敵がいます。お力添えを願いたい。……ジオング、戴けますでしょうか?」

「知っていたか。よくもまぁ、目が届くものだ」

 ギレンは微笑した。シャアはそれを確認してから話を続けた。

「ガラハウ閣下よりア・バオア・クー工廠宛に何かを送っていたことは存じ上げております。それが、モビルアーマーであることも。そして、ガラハウ少将が月より離れる時、月から一機、閣下に送られたことも。当然、キシリア閣下は御存知ありません……ガラハウ閣下も」

「くれてやる。零落れたとは言え赤い彗星だ。貴様なら使いこなせるであろう。しかし、これはある種の誓約だ。窮したお前は私に保護を求め、私はそれを受け入れた。解るな?」

「勿論」

「野心も二心もないことを働きで証明しろ。そうすれば……来るべき新しい時代にいるべき場所を用意してやる。その、本来の素性に応じた、な!せいぜい、気張ることだ!」





 UC0079年12月24日、10時半。

 司令部に新しい報告が入ると同時にモニターが点灯。巨大な船体をメガ粒子砲の光で彩りながら、ドロス級がこちらに向かってくるのが見える。

「キシリア様の艦隊がミドロを随伴して敵艦隊に突入されました!現在、敵と優勢に交戦中!」

「うむ……遅かったな。しかし、キシリアめ、ミドロに手を出すとは」

 ギレンの独り言が終わったと確認した士官は報告を続けた。

「尚、現在敵MSが上陸を開始し、橋頭堡を確保しようとしておりますが、まもなく要塞内の予備隊を投入し、これを駆逐いたします!」

「わかった。速やかに」

「はっ!」

 モニターに移った情報を確認していたギレンの笑みがだんだんと大きくなる。ドロス級の大型メガ粒子砲の砲撃は、通常型のマゼラン級の射程距離をしのぐ。唯一対抗できる手法を持っているのは改マゼラン級だけだが、当然その数は少ない。砲撃距離の優越はそのまま、敵に与える被害の優越となって現れる。

「ははは、圧倒的じゃないか、我が軍は!」

 ギレンの笑みどおり、この時点で抗戦が行われている3フィールドすべてでジオン軍は戦況を有利に進めていた。Nフィールドはキシリア艦隊の突入で混乱しミドロに蹴散らされ、Wフィールドでは第7艦隊の頭が抑えられている。また、WフィールドとSフィールドのちょうど境目を狙って突撃したデラーズの艦隊は第7、第一軌道艦隊の側面に被害を与え、第一軌道艦隊は後方からガラハウ艦隊の攻撃を受け、混乱している。

 連邦軍がその大兵力を有利に展開できていないとギレンが確信したその時。


 モニターに閃光。ドロス級三番艦ミドロは、艦橋にバズーカらしき集中弾を浴び、迷走して後続のムサイに激突。行き脚が止まったところを集中砲火で撃沈された。




「80%?冗談じゃありません。現状で性能は100%発揮できます!」

 格納庫に向かう長いエレベーターの中で、整備兵はシャアに言った。かなり大きな格納庫だ。どうやら、専用に用意されたらしい。

「どういった機体なのだ?詳しい説明を受けていないのでね」

「ガラハウ少将閣下の所から流れてきた情報で作ったモビルアーマーだそうです!ただ、少将殿はタッチしておらず……」

 シャアは笑った。ふん、なるほどな。ガラハウの事を総帥も信じているわけではないか。いや、独裁者としてはむしろ当然だな。

「ははは……そういうことか。ギレン閣下もおさおさ怠り無いというわけだな。ガラハウ閣下の秘蔵のモビルアーマーを手に入れられたか」

「……そう、そうです!いやぁ、初めて見たときにはびっくりしましたよ!メガ粒子砲に対艦ミサイル!アレだけで一個艦隊は相手に出来ますね!あ、ただ……」

 シャアは笑って頷いた。整備兵の言いたいことはわかっている。

「そうか、何とか使えそうではあるが……サイコミュとやら、出来ると思うか?」

「保証できません。大佐の能力は未知数ですから。あの機体はサイコミュの適性が低くても使えるように有線誘導式が採用されてますが、それにしたって適性如何では限界ありますからね!適性無しのパイロットだと、誘導は使わずに指に装備されている五連装2基のメガ粒子砲を使った方がいいです!肩のバインダー兼用のスペースには腕の予備が3基ずつ入ってますので、順に!……気休めかもしれませんが、うまくやれるとは思いますよ」

「はっきり言う。気に入らんな。……あれが脚か?ブースターの間違いではないか」

「脚なんて飾りです。エライ人にはそれが解らんのですよ」

 ようやく全貌が見え始めたモビルアーマー、MSN-03-2グレート・ジオング(但し、脚部はブースター)。史実では、こんなところに登場するはずの無いモビルアーマーだった。

 元々、太洋重工本社で一年戦争時代のモビルスーツを検討していた際のデータの中から、ギレン直属の諜報機関が盗み出したものだ。キシリアがニュータイプ部隊を投入する可能性を危惧したトールが、意図的にジオングの開発を進めるためにギレン側に洩らしたものだが、洩らしたものの中にキケロガのデータも入っていたため、頭部はジオングのあの頭部と言うよりはむしろキケロガに近い。

「……なんだ、気に食わない、この感覚は……」




「まさか、ここまで戦力を失うとはな。マレットも撃墜されたか」

 旗艦「パープル・ウィドウ」の艦橋でキシリアは臍をかんだ。後方からの突撃で第五艦隊の旗艦を沈め、艦隊を混乱状態に追いやって甚大な被害を与えたものの、ア・バオア・クーの防衛圏内に入ろうとした直前にミドロが撃沈。キシリア艦隊の方が混乱することとなった。後続のムサイを道連れにしたミドロは、総員退艦の上で、現在は横合いから攻撃を仕掛ける第7艦隊への壁として用いられている。

「敵艦隊を退け、強襲揚陸作戦などという真似を取らせることに成功しましたが、なかなか、上手く行かんものですな」

 副官のトワニング准将が言った。キシリアは頷く。こちらの艦隊に混乱が生じたため、敵に新しい戦術の選択を許してしまった。ミドロを沈めたものの、まだドロスとドロワが残る要塞は健在だ。そして、艦船が混乱してしまった以上、強行上陸を選択するとはよくやる。

「賢明だよ。敵にも良い指揮官がいる。見てみろ、皮肉な光景だ。蹴散らした連邦軍が、守ってくれとでも言うようにア・バオア・クーに逃げ込んでいく」

 キシリアの指摘したとおり、ア・バオア・クーはその形状からして、上部構造と下部構造の接合面であるくぼみの部分に上陸されると、砲撃が集中させにくい状態になっている。勿論そこに至るまでに上部構造と下部構造によって十字砲火を浴びるわけで、ミドロ撃沈が要塞側に与えた混乱を上手く活用されたことになる。

「で、次なる方針はどうされますか、閣下」

「接舷せよ。……そろそろ、総帥に拝謁を願わなくてはなるまい」

 キシリアはそういうと笑みをマスクの下に浮かべた。既にグレート・デギンがソーラ・レイによって撃沈されたことの確認はとってある。ギレンとキシリアの暗黙の約定からして、ギレンがこれを機会に父を死に追いやったことは事実。

 ついに、私の時代か。あっけないものだが安心は出来ぬ。シャアの行方不明と共にアイン・レヴィにセレイン・イクスペリを確保しての脱出を命じたが、音沙汰が無い。どうやら知れたか。使えん。連邦に流れたあの男が模索していたシステムを使うためには、あの女の存在が必要だと言うに。

 所詮、屍喰鬼あがりか。忠誠心以外はまるで使い物にならん。しかし、よくもまぁガラハウのところにはあそこまでニュータイプ候補が集まるものだ。部下となってより確保するための手段を講じたがやはり無駄であったか。ガラハウ。あの若造を如何にかせねばな……。

 それにはまず、あの男が決して逆らえない地位を手に入れる必要がある。新時代を作る人類は、私の手で生まれなければならんのだ。使うにしろ殺すにしろ、奴の抱えるニュータイプたちは確保せねばならん。




[22507] 第33話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/07 16:59


UC0079年12月24日、午後11時。


「Sフィールド、敵艦隊の攻略部隊、上陸!Nフィールド、キシリア様に撃退された艦隊が次々に強行上陸を仕掛けています!Wフィールド、もうすぐ防衛線が突破される可能性大!」

 ここに来て地力の違いが徐々に出始めてきた。元々数は連邦のほうが多い。こちらの投入したMS1300機に対し、連邦は2000機を越す。艦船の数に至っては比べることすらバカらしい。しかし、ギレンはまだあきらめていない。今は数で押されているが、敵には補給がないのだ。時間と共にこちらが有利になる。

「対応が遅い!敵は死に物狂いだぞ!油断!侮り!だから付け込まれる!Wフィールドの敵を駆逐し、両側に反転してS,N両フィールドの敵を背後から強襲せよ!上陸した部隊なぞ、予備隊の精鋭を送れば造作も無い!何故それが出来ん!」

 当然だが、要塞の上での上陸戦ともなれば各所に一斉に連邦軍が来るわけで、管制が混乱するのは当然だ。ギレンの言うことは道理だが、それが前線で採れるかどうかは別問題だ。また、ジムの装備するビームスプレーガンの出力は、狙いやすさではドムのジャイアント・バズを上回り、威力はザクマシンガンを当然しのぐ。射数を確保されてしまうと、排除は困難だ。

「申し上げます!キシリア様、謁見に参られました!」

 打ち続く損害の報告にいらだっていたギレンは怒鳴った。

「待たせておけ!今は忙しい!」

 しかし、その言葉と共に背後の扉が開く。ふん、気の短い奴だ。いや、今の言葉が出るのを待っていたのか。要らん事ばかりをする。

「キシリアか。来る必要など無い!無駄にミドロを失いおって!Wフィールドの敵に攻撃を仕掛けたなら、そのままNフィールドの敵に食いついておれば良かったのだ!」

「私には、必要があったのですよ、総帥閣下」

 キシリアは言った。

「グレート・デギン。何処に配備されました?」

 ギレンの眉がしかめられる。何故、この時点でキシリアがその言葉を出すのかが解らない。父親をゲル・ドルバに導いたのはキシリア自身だ。ギレンの脳裏にキシリアが何かをたくらんでいることは解っても、今の時点で自分を害そうと考えているとは思えなかった。敗報が続く中で総司令官を殺せば、要塞の防衛など不可能な話。ここで敗北してしまえばキシリアにも不利だからだ。

「沈んだよ。先行しすぎてな」

「公王から調達なさったのですか?」

 まだ続けるか、馬鹿者め、今の状況がわかっているのか。

「歯がゆいなキシリア!父がグレート・デギンを手放すと思うてか!?」

「思えません」

「ならばそういうことだ!」

「乗っておられたのですね。陛下は。グレート・デギンに」

 もう付き合っていられない。指示が途切れればそこから連邦の突入が始まる。要塞内部での戦闘の用意も出来ているが、まだ外で抗戦できる段階で中にまで踏み込まれるのは混乱をもたらすだけで意味が無い。シャアめ、ジオングはまだ出せんのか。

「Sフィールドへの増援まだか!Wフィールドもたんぞ!」

「もう一度お訊ねします。陛下は、デギン公王は、あの時にグレート・デギンに乗っておられた!そうですな!」

 ギレンはその言葉に激昂した。この馬鹿者め、状況もわからずいらぬ口出しを!ギレンは怒りに任せて不用意な言葉を放ってしまった。この独裁者には珍しい失敗であり、この状況で無ければ決して口から出ぬ言葉だった。

 だからこそ、キシリアはこのタイミングを狙ってギレンに話しかけたのだ。しつこく、自分がどれほどのバカに見えようとも。戦争に勝ってしまえばギレンに逆らうことなど絶対に出来ないジオンが出来上がる。それは、戦争に敗北することよりもキシリアには避けるべき事態だった。

 既にアクシズに逃亡する準備を整えているキシリアは、木星で力を蓄え、復活した新人類で編成されたジオン軍での地球圏帰還を考えるようになっていた。それは、地球上に追いやられて、いや、第三次地球降下作戦が失敗した段階から考えていたことだった。

「しつこいぞ、キシリア!父は突出しすぎたのだ!いや、でしゃばっただけだ!今になって、時期外れの講和なぞ!だからっ……」

 言った。

 いまだ。

 銃声。ギレンの額から一筋の光が生え、そして司令部前のモニターに当たり、モニターを破壊した。

 唖然とした司令部要員たちが呆然と見守る中、キシリアは言った。

「ギレン総帥を成敗した!父殺しの罪はたとえ総帥であっても免れることは出来ん!」



 第33話



「あなたが、すべての仕掛け人ですか?」

「違うよ。私はこんな戦争を如何にかしたいと思っているだけ。戦争を起こしたのはジオンだ。勿論、国じゃないほうの。君にとっては気に食わないと思うけど」

 セイラは唇をかむ。父親の大義に骨までかぶれてすべてを見失っている兄を見ているから、この言葉を否定できない。彼女自身、父親の記憶と言えば母親に訳のわからない事を怒鳴り、すぐに疲れ果てた表情で母親を抱きしめる記憶が多い。

 後になって思い返してみると、誰しも上ばかり見て、足元を見ていないのだと思うようになった。自分の大義を口実に、お世話になったアズナブルさんを手にかけた兄。理想を追い求めて母を犠牲にした父。男が、誰しもそうした思いしか抱け無いのではないかと思ってしまう。

 思わず涙が出てきた。ラルが「姫様」と声をかけるが、それを手で押さえ、改めてトールの方を向く。

「まず、お礼を。母との最後の2ヶ月、ありがとうございました。本当なら、母とは死ぬまで会えなかったと、今思い返すと感じられます。……あなたのおかげですね」

 トールは頷いた。

「たいした事をしたわけじゃない。感謝されるほどのことでもない。アストライアさんを救い出すのに3年かかって、その間に体が弱って行く彼女をどうにも出来なかった。ただ、あわせたかっただけ、一緒に暮らさせたかっただけなんだ」

「ありがとうございます……それでも、それだけでも……」

 後は言葉にならなかった。トールはため息を吐くと頭を掻いた。どうしてもこういった愁嘆場は苦手でしょうがない。親の死に目に全く向き合えなかった家族の悲劇、そんな言葉が思い浮かぶが、いまさらどうしようもないと思いなおす。ジオンがアレを言わなければ、他の誰かが言う。他の誰かではジオニズムを殺しようが無い。

 当然、そんなことになれば手の出しようがないからジオンが言うがままに任せておいたが、言うがままに任せると言うことはこの女性の悲劇とのエンカウント率を100%にするということ。流石に気が咎めているのだ。髪型が残念な人だけど綺麗だしなぁ。

「これだけ多くの手助けを戴いておきながら、こんな事を申し上げるのは差し出がましいと思いますが……兄を、兄を探すお手伝いを御願いできませんか」

 セイラは零れ落ちる涙を拭こうともせずに言った。

「ラル、あなたも聞いて。兄は父の考えを、母の死で歪んで受け止めてしまった。傲慢で、独善的で、他人の犠牲を省みない。私たちが逃げ延びた先でね、兄は、お世話になった夫妻の息子さんを殺しているわ。何の罪も無いのに!シャアさんはシャアさんの夢を追っていただけなのに!」

 ラルの表情が暗く染まる。ハモンが近づくが何もしない。ラルも既にトールからシャア―――キャスバルが何をしたかを聞いている。如何弁解しても褒められた内容ではない。

「……本物のシャア・アズナブルは生きているよ。今は月で働いているはずだ。アズナブル夫妻の無事も確認してある。戦後、情勢が何とかなったら、どこか落ち着いて暮らせる場所を見つけるつもりだ」

 セイラがほっとため息を吐き、再度頭を下げる。よかった、この人は母を助けてくれただけじゃなく、兄の罪を一つ減らしてくれたのだ。

「……そんなに重く背負う必要は無いよ。キャスバルの人生はキャスバルの人生で、其処で何を選択しても、彼自身で終わらせるべきで、あなたが無理に背負って自分の心を殺す必要は無い。自分の好きに生きればいいし、自分の思うとおりに動けばいいさ。暗く落ち込んで、兄を否定しているだけが人生じゃないだろ?」

 俺は何を言っているんだ。人に言えた義理か。自嘲する感情が出てくる。ふ、ハマーンから少し不満気な感情が伝わってくる。どうやら、いつまでたっても直らないこの癖に、このお嬢さんもいい加減不満を覚えてきた様子。でもねぇ、百年近く付き合っている性格だからネェ。

 更に不満な様子で、今度は明らかな意思として伝わってきた。トール、あなた、今の言葉を思い返して見なさい。如何聞いても男が、事情をもった女の人を、その事情に突け込んで口説いているようにしか聞こえないよ。あなたにはわたしだけでいいの。

 顔が一瞬で赤くなった。自分の発言の無防備さにも赤面するが、まだ12歳だよハマーン。あなた、その思考のあり方って如何考えても12歳じゃないよね?もっと12歳と言えばこう、まだ感情的にも肉体的にも幼……ぐぇ。

 目の前でじゃれあい始めた20歳ほどの男性と、如何見ても10代前半の少女のじゃれあいをセイラは驚きの目で見ていた。ノーマルスーツ、それもパイロット用のそれを着ているから、目の前の少女がパイロットだと言うことがわかるが、それだけでは当然この二人の関係は図れない。

「姫様、彼女も姫様と同じですよ」

 ラルがホッとした表情で言った。どうやら、目の前の光景に気を取られたせいで、今まで考えていたくらい表情が消えていたようだ。

「彼女も、ガラハウ閣下に助けられたのです。それから、閣下を守るのだとMSの訓練を閣下の姉君にねだり、今ではアコースやコズン程度では相手になりませんわ。わしでも少々危険ですな。まぁ、御心配なさらずとも、閣下に姫様が心配されているような趣味はございません」

「ラル!」

 鼻で笑い始めた笑いがだんだんと大きくなり、腹を揺らして笑い始めた。

「初めてお会いしたときより、色々見させていただきましたが、姫様、姫様の今の表情、やっと、年齢らしくなりましたな。それで、姫様?あそこに参戦なさりますか?ラルも及ばずながら御協力させていただきますが」 

 セイラはじゃれあいからふれあいに変わり始めた二人を微笑みながら見つめ、言った。

「無理よ、ラル。あそこに割って入るなんて、私には出来ないわ。最初は変な人だとは思ったけど、ああまで全部預けているのを見ると、ね」

「……僭越ながら姫様。御存知でしょうが、閣下には奥様がおいでです」

 セイラの顔が引きつった。いまさら思い出した、と言う感じだ。その表情をラルは面白そうに見つめる。ハモンと視線を交わすと、更に面白そうな表情に変わった。

「奥様曰く、あんなに色々手を出して、しかも出来てしまう人間に、惚れない女が出ないことが不思議ですわ、とのこと。仕方が無いと認めておられるようですし……」

 そこでラルはハモンの方を見つめた。

「男も、女も、どうしようもないのですよ。そう言った感情は。勿論、関係を結ぶもの全員が認めあわなくてはなりませんが。閣下、ハマーン様、閣下の奥様は認め合っております。ですから、そうした関係が築けるのでしょうな。勿論、納得しあっているからこそ、でもありますが」

 ラルはそういうと満面に笑いを浮かべて言った。サイド3から必死になって救い出した「神」の子は人間だったのだ。それを思うとうれしくてならない。神のように超然とした態度でいるよりも、この女の子にはふさわしいように見える。あの時救い出した、黒猫と遊んでいたこの少女には。

 自分たちを見つめる視線に気づいたらしいトールの顔が赤くなるのがわかる。初心ね。でも、解るような気がする。この人は多分、その初心な気持ちで、如何にかしようとしているだけだと。すこし、ピンク色の髪の女の子がうらやましくなった。

「ああ、すまない。とにかく気にしないでくれていい。私にも私の事情があっただけ。それだけだ。さて、シャアの件だね?」

 セイラは頷く。久しぶりに落ち着いた気分になれた。

「要塞内にいるのは確かだが、何処にいるかまではわからん。だから、絶対に知っている人間の……」

 そこまでトールが言った時、要塞内部全域に放送が入った。

「ギレン総帥を成敗した!父殺しの罪はたとえ総帥であっても免れることは出来ん!……ただいまより、このア・バオア・クーの指揮はこのキシリアがとる!」

 先ほどまでの初心な表情がトールから消え、突き刺すような、すべてを見通すような表情に変化するのがわかった。



 キシリアが指揮を執る司令室にトール・ガラハウが踏み込んだのはそれから30分後だった。引き連れてきた海兵隊員と要塞内に駐留していたラル隊を率い、来る先々で進行を止めようとするキシリアの護衛隊を排除しながら突き進んできたのだ。

 先頭に立つのが少将で、しかもキシリアを指揮下においていることとなっているガラハウ少将ではおいそれと手は出せない。手を出そうとしたのはキシリア直属の兵士達だが、脇から出てきた異形のスーツを着た男3人に排除される。それがブラスレイターと呼ばれる少将直属の護衛隊である事を彼らは知らない。

 扉の前面を守っていた最後のキシリア直属の兵士を倒し、トールたちは司令室に入室した。ギレンの死体は片付けられる事無く漂っており、低重力で浮遊する血球が幾つか見える。トール・ガラハウはそれを確認するとキシリアに銃を向けた。

「何を考えている、ガラハウ」

「あなたは私の指揮下にあるはずです、少将。そのあなたが私の命令を無視してア・バオア・クーに参じ、総帥を殺害した。私は親衛隊の任務上、あなたを拘束する必要があります」

 キシリアは笑った。

「親衛隊!誰の親衛隊!?どこの親衛隊か!?ガラハウ、公国親衛隊である貴官が守るべきザビ家はもはや私一人ぞ!この場にはな!連邦の攻撃が続く今!総帥に続いてこの戦局を敗北に動かそうとするか!?」

 キシリアは振り返ると周囲の兵に向けて言った。

「それこそ反逆ぞ!ガラハウに銃を向けよ!」

 その命令に反射的に従い、司令部内部の兵士達がトールに銃口を向ける。キシリア自身も腰の銃をトールに向けた。

「感謝するぞ、ガラハウ。わざわざそちらから出向いてくれてな。貴様には長年辛酸を味合わせてもらったが、その決算がギレンと共につけられるとは思いもしなかったわ!安心しろ、貴様の集めたニュータイプ、私が新しい時代のさきがけに用いてやるわ!」

「……なるほど、道化と言うのはこういうのを言うか」

 と同時に、ジオンと言う国家、ジオン軍と言う軍隊の程度の低さを改めて思い知らされる。総司令官を暗殺した人間を次の総司令官として受け入れるなど、法治国家とはいえない。テロリストの集合体か、もしくは暴力団体とでも言うべきで、そんな組織がスペースノイドの独立と地球圏の統率をのたまう。頭が痛くなってきた。

 まだギレンは、すべての権力を握ることで法治と命令とを融合させていた。その点で、独裁者としては有能な部類に入るし、だからこそトールも危険視していた。しかし、この女性に恐れを感じろと言っても感じられない。正統性を確保できなかった存在は、一時的にそれを確保したとしても、すぐにそれを失う。それが理解できていないのだ。 

「今の発言は聞き流してやる。どうだ、貴様の能力は惜しい。私に忠誠を尽くすなら、新しいジオンに貴様の居場所を定めてやっても良い。私をここでどうにかしようとも、連邦に囲まれたア・バオア・クーから逃げおおせるとは思っていまい?」

 口元が皮肉に歪む。新世代の人類が来ると言うなら、旧世代の人類そのままな権力闘争を行っている自分の事は如何思っているのだろう。いや、思うだけの頭が無いのか。知識はあっても知性は無いタイプ、なのだな。いや、それは誰しもいえることか。

「黙っていると言うことは了承と受け取ってよいのだな、ガラハウ」

「不快の表現だと思ってくださって結構です、少将。総帥にどんな罪があろうとも、その断罪は法的に正式の手続き、デュー・プロセスを経なければなりません。勿論、それが難しいことであることは承知しておりますが、それならばそれで、何もこのような戦闘の最中にそれを行う必要はなかったのではありませんか?」

「奴は父殺しだ」

 キシリアは言った。

「公王陛下暗殺犯を野放しにしておくなど、ジオン公国の民としてありえん!」

「……ランゲルマン中将、公開回線、チャンネル257を御願いします。先ほど、サイド3本国からの映像を捉えました。おそらく、この要塞にいる誰もが欲している情報です」

 一瞬、誰もが何を言っているのかと思ったが、本来のア・バオア・クー要塞司令官であるランゲルマンは、上に見上げた若者の言うとおり、通信回線をチャンネル257に合わせた。映し出された光景に目をむく。

「ち……父上!?」
 
 サイド3、1バンチコロニー「ズム・シティ」とそれと並ぶ破壊の後が生々しいソーラ・レイを背後に、連邦艦の艦橋らしき場所で、本国防衛師団師団長ロートレック少将と、もはや珍しくも無いレビル大将を並べ、デギンは言った。

「繰り返す。これを聞いているア・バオア・クーの将兵に告ぐ。私はジオン公国公王、デギン・ソド・ザビである。……本日24日正午を以て、ジオン公国は地球連邦との休戦を宣言し、一切の戦闘行為を停止する。これに服さぬものは、ジオンの名をかたる逆賊であり、宇宙海賊として扱われることを宣言する」

 司令室からおおっ、と押し殺したどよめきが広がる。チャンネルは即座に何事かと合わせた要塞全域に広がり、外で連邦軍と戦闘している部隊にまで拡散する。連邦軍の方も映像を受信したのか、第一軌道艦隊の舞台がジオン軍と距離を開け始めた。

「地球連邦の優勢なる攻勢を受け、ジオン公国は戦争を継続し、ジオン1億5千万国民にこれ以上、塗炭の苦しみを味あわせぬため、私、デギン・ソド・ザビは連邦に対し、休戦協定を打診。国内の沈静化に一週間の期限を受け、1月1日より、月面都市アンマンでの休戦交渉に入ることを宣言する」

 司令室のコンソールを要員から奪い取ったゲルトたちが通信回線を通して要塞内部の把握を始めた。効率や回線の配置から言って、やはり要塞内部を把握するためにはすべての情報が集まる中枢、つまり司令室が都合が良い。目的はジオングの捜索だ。

「ア・バオア・クーの将兵に告ぐ。今次戦争の混乱は、ひとえにギレン総帥とキシリア少将の権力闘争に起因し、優勢なる戦争を自ら失ったものである。公国の勝利を信じ、公国の栄光を願って散った将兵には誠に申し訳なく思う。しかし、ジオン国民の安寧を願い、サイド3に進駐したレビル将軍の御寛恕を得、ここに、諸君らに休戦を要請するものである」

 ゲルトたちが振り向き、頷いたと同時にコンソールの一つに今まさに出撃しようとしているジオングの姿が映る。見た全員が驚くが、中でもトールの驚きようはなかった。表にこそ出していないが、内心ではこの段階でグレート・ジオングが完成していることが驚きだった。

「……ち、父上!?」

 今は別、か。

「キシリア少将、あなたを逮捕します。罪状はギレン総帥殺害。閣下、宜しいか?」

 トールはそう宣告する。しかしキシリアは憎悪を多分に含んだ瞳でこちらを向き、腰だめに構えた銃の筒先をトールに向けた。銃を撃つが、異形の兵隊―――ヘルマンにさえぎられた。ブラスレイターにとって、この程度のレーザーは意味をなさない。

「少将、申し訳ありませんが、反逆された以上、どうしようもございません」

 トールは悲しげに言うと、海兵隊員にキシリアを拘束させた。脱出用に確保してあるだろうマダガスカルに連行し、停戦が発効次第、裁判の為にサイド3へ送る様手配する。

 拘束され、司令室を連れ出されるキシリアを見ながら、Sフィールドへ向けて出撃するシャアのジオングを見る。通信や降伏受け入れの報告は届いているようだが、出撃をやめる気配が無い。ザビ家打倒を果たした後、ジオンの子という出自を使っての乗っ取りでも考えていたのだろうが、いまや国ごとなくなってしまった。

 となれば、あそこで暴れて講和を壊しかけることで、私かアムロかを戦場に呼び出すつもり、か。

「申し訳ないが、セイラ・マス」

 トールは言った。

「あなたのお兄さんを、殺す必要があるかもしれない」





[22507] 第34話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/08 02:01

UC0079年12月24日、午前11時半。

「キシリア、あの女狐め!トールでも抑えられなかったか!」

 第7艦隊襲撃の任務から旋回運動を終えて帰還したデラーズを待っていたのはキシリアによるギレン暗殺の報告と、デギン公王による降伏宣言だった。流石に連邦に降伏することなど彼の矜持が許さないが、サイド3本国を犠牲にしてまで戦争を続ける意味を見出せない点ではデギンに同意していた。

 しかし、自身が降伏し、ジオンによるスペースノイド独立と地球連邦打倒を果たせなくなるのはどうしても許せなかった。トールがキシリアを拘束したと言う知らせは彼をして頷かせるに容易だったが、何故ギレン閣下を射殺する前に拘束できなかったのかを非難したくなり、やめた。

 自分でそれを為せばよかったのだ。ギレン閣下が手を下せないならば、わし自身の手で。そして決意する。命も守れず、キシリアの排除も出来ないなら、残された道は唯一つ。

「全艦および全モビルスーツを集結させよ!我が艦隊はこの空域より撤退する!」

ジオン共和国防衛隊時代から、地球連邦の無能ぶりにサイド3国民の一人として義憤を募らせてきたのだ。連邦航宙局の観測不足によってサイド3の農業ブロックが隕石の被害を受けた際、彼の妻はその農業ブロックで働く技術者だった。

 妻の死をもたらした上に、強襲揚陸艦で独立を脅した敵。どちらかと言えば穏健派だった彼の思想が急速にタカ派に傾いていくのはそれからだ。しかし、妻の死を言い訳に連邦への憎しみのみを募らせるのは駆れとしても本意で無かった。私怨によって大儀をゆがめることはあってはならぬと考えていたからだ。

 だから、ギレンの示す新時代に傾倒した。狂信と誰かが彼の事を評すが、それは彼の一面でしかない。しかし、その彼の一面が狂気であることは間違いはない。思案に暮れたデラーズを引き戻したのは、ガトーの一声だった。

「閣下、いきます!行かせてください!」

「待て、ガトー!堪えよ!」

 ガトーそれに返事をする事無く格納庫へ向かう。デラーズは司令席を飛び出し、ガトーを追って格納庫へ向かった。ガトーが目指すのはガラハウ少将から贈られた専用ゲルググ。この戦いで幾度もガトーの命を助けてくれた愛機だ。特に、試作品として提供されたビームマシンガンの性能は素晴しい。ガトーの得意とする近接戦闘に入るまでの火力不足を上手く補ってくれる。先ほどの流れ弾も、腕部の装甲が軽く跳ね返してくれた。

 この御高配、報いねばならぬ!

「大尉!駄目ですってば!撤退命令が出ているんですよ!

 整備兵の叫びを無視してガトーはゲルググに取り付く。

「まてガトー!既にドロワも沈み、ドロスにも敵の砲火が集中しておる!……それに貴様も知っての通り、ジオンは連邦に降伏した!これ以上の戦闘はサイド3に住むジオン国民に影響が出る!」

 格納庫の手すりに身を乗り出して言葉を重ねるデラーズ。

「ドロワまで……」

「ギレン閣下がなくなられてはな……撤退だ!我々は、生きて総帥の志を継がねばならん!ア・バオア・クーの将兵はトールに任せよう。ここで生き恥云々を言い立て、命をあたら無駄にするな!」

 しかし、ガトーはデラーズに向き直ると言った。

「生き恥をさらすつもりはございません!閣下、私は生き恥をさらしに行くのではないのです!」

「ガトー!?」

 デラーズは目を見開いた。死ぬためではないのなら、何のために?

「恩を返しに、義理を返しに。閣下……ガラハウ閣下はまだ戦っておられます!キシリアを総帥を殺す前に排除できませんでしたが、親衛隊として為すべき事をしておられるのです!」

 親衛隊!?総帥が死んだのだぞ、誰のための親衛隊か!?そして気づく。自分たちの所属する、親衛隊の正式名称に。しかし、それも総帥が死んでは意味が無いではないか。

「総帥は死んだのだぞ!?」

「我々は公国親衛隊です。ギレン閣下が死に、キシリアが兄殺しの罪人となった今、我々親衛隊がお守りするのはデギン陛下です!しかし、キシリア配下の部隊は、陛下の意思を無視し、戦闘を継続しております。閣下、親衛隊の親衛隊たる役目ををしているのは現在、ガラハウ閣下だけなのです!」

 そうだ、我々は、公国親衛隊なのだ。歴史ではギレン親衛隊という名の組織は、ガラハウの発案により、ギレン親衛隊と言う名前では組織上問題があるという言が出ていたのだ。ギレン閣下による独裁のイメージをあまり表に出しては、民主主義を形でも採る我が公国にふさわしくない、と。だからキシリア機関も名称だけは公国情報部となっている。

 ガトーはゲルググに乗り込んだ。

「閣下、非才な我が身を御高評戴き、誠にありがたくあります。しかし、私は閣下に返すものがあるのです」

 ……ふふ、言いよるわ。そうか、我々は公国親衛隊か。この年齢になって若者にまだ教えられることがあるとは。デラーズは頷いた。

「ガトー大尉の中隊に補給開始!ガトー中隊の発進後、我々はEフィールドに退く!連邦の後退にあわせ、要塞との距離をとれ!」

「閣下!」

 デラーズは言った。

「後悔の無い様、存分にやって来い。Eフィールドと月の間までならゲルググでもなんとか向かえよう。もしそれが出来ないのであれば、死ぬ前にトールの艦隊にでも拾ってもらえ。何、最後の戦よ。また、あのトールのことよ。後のことも考えていよう」

 ガトーは敬礼し、その心遣いに応えた。



 第34話



「ランゲルマン中将、どうでしたか?連邦のビュコック大将との会見は?」

 モニターに移った初老の男性は頷いてから語り始めた。

「第一軌道艦隊はア・バオア・クーよりの要塞砲の射程圏外まで退避させ、情勢が落ち着くのを待つということだ。また、旗艦が撃沈されたためにア・バオア・クーに強行揚陸した第5艦隊の部隊の撤退に、絶対に手を出すな、と。現在第7艦隊の説得に手間取っているらしい」

 ゲルググの最終調整を行いながらトールは言った。何か機体の状態がおかしい。悪い予感がするからメカニックを充実させる必要があるな。なにか、反応が遅い気がしてならない。前回も、エルメスとガンダムの間に機体を持って行くつもりが、遅かった。

「でしたら、戦場はWフィールドに限定できそうですね。先行して出撃したシャア大佐は?」

「SフィールドのWフィールドよりで連邦軍の部隊と交戦中。ほとんどは第7艦隊所属で、シャア大佐が退かないために戦っているようだ。少将、申し訳ないが大佐を止めてくれ。このままでは何とか成立しかけている停戦が破られかねない。今は、将兵を安全に祖国に帰すことだ」

 トールは頷いた。よし、準備が出来た。しかし、やはりシステム上の問題が解決していない。アムロに負けたことは偶然かと思っていたが、荒野の迅雷との戦闘でもどこか変だった。動いてはいるのだが、どこか遅いのだ。

「勿論です。ア・バオア・クーよりの撤退を連邦が要求してきた場合にはEフィールドから撤退します。退路の確保は誰が?」

「デラーズがやる、と。少将、君に対する義理を果たすためか、先ほどガトー大尉の中隊が到着。Eフィールドの警護を行い始めた。既に一部艦隊はEフィールドから離脱して月に向かい始めている。デラーズの艦隊はEフィールドと月の間で待機、離脱する艦隊の援護に当たる、と。……よくぞここまで親衛隊を抑えてくれた。少将、感謝する」

 デラーズが。離脱してデラーズ・フリートの戦力を残すと思ったが、いや、今はありがたく思っておこう。

「いや、抑えたのは私ではなくデラーズ閣下です。第7艦隊のことは了解しました。シャア大佐の確保は我々が行います。閣下は要塞内部の部隊が暴発しないよう、御願いいたします」

「勿論だ。少将、急いでくれ。話してみたが、第一軌道艦隊のビュコック大将は信用できそうだが、第7艦隊のコリニー大将は何かを考えていそうだ。何かしらの口実を設けて攻撃をかけてくる可能性は高い。このまま大佐が第7艦隊に損害を与え続ければ、どうなるかわかったものではない」

 トールは頷き、通信を切った。それと同時に今度はガラハウ艦隊所属の部隊への通信を開く。

「ガラハウ艦隊各機に告ぐ。我々はいまだ戦闘を続けるシャア・アズナブル大佐のモビルアーマーを確保、要塞に後退する。大佐が説得に応じない場合は撃墜を行うが、その場合、艦隊各機は連邦軍との間に警戒線を設けるだけの行動にとどめよ。特に、シャア大佐のモビルアーマーのデータを連邦に取らせるな」

 全機からの了解の応答。しかし、コンソールに映る海兵隊員は不満そうだ。トールは言葉を続けた。

「シャア大佐のモビルアーマー、ジオングはニュータイプ用の機体だ。今までの連邦の奴らと同じに見ているとそれだけで墜とされるぞ。対抗できるのは性能的に私とハマーンしかいない。無駄に死なせたくないんだ。戦争が終わったんならな」

「しかし若!俺たちのゲルググなら……」

「奴はビームを弾く。接近しての格闘戦に持ち込むか、もしくは大出力のメガ粒子砲で弾けないほどのエネルギーを持っていくしかない。それだけの出力を出せるのはハマーンのプルサモールしかないし、接近戦にもちこめるだけの距離に入るためには数発の被弾を覚悟しなくてはならん。RFゲルググの通常型では装甲が持たん」

 コッセルはそういわれると不承不承頷いた。せっかく終わった戦争だ。流石にここでの無駄死には考えたくない。ギレンとキシリアの排除が終わり、サイド3がスペースノイドに好意的なレビル大将に進駐を受け、デギン公王から正式に停戦命令が出た以上、誰もがそういう気持ちになっている。

 それに確かに、シャア大佐に随伴したらしい機体から送られてくる戦闘の光景は凄まじい。腕が有線つきで伸び、五本の指それぞれに装備されているらしいメガ粒子砲を微妙にずらしながら、ジムやボールを次々に撃墜していく。通信を聞いているらしく、受信がオンになっている表示が出ているが、後退命令を聞くつもりがないようだ。

「それに、連邦の第7艦隊の介入があった場合のほうが危険だ。流石に連邦とシャア、双方を相手には取れない。だから、海兵隊は第7艦隊が出てこないように頼む。ただ、先ほどのランゲルマン中将の言葉にもあるとおり、第一軌道艦隊のほうは信用できそうだ。第一軌道艦隊のほうから出てきた場合には、エスコートを頼む」

「了解でさ!……若!シーマ様がEフィールドに展開!ガトー大尉と合流しました!」

「よし……行こう!」




「……よく使う。バスク、アレがジオンの新型と見て間違いないな?」

 両眼に偏向グラスをかけた、第7艦隊旗艦「アラバマ」艦長のバスク・オム中佐は、第7艦隊司令コリニー提督に向かって頷いた。画面上ではまた一機、ジムが撃墜されている。周囲からパブリクが撹乱幕を展開させようと迫るが、これも上手く避け、撃墜し、撹乱幕が展開されてもすぐにその空域から離れる。

「閣下、ビュコック大将よりの停戦命令、いかがします?これ以上逆らうようであれば、戦後の閣下のお立場にも影響するかと思われますが」

「あちらから仕掛けてきているのだぞ、いくらでも言い訳は付く。ビュコックが手を出してこないうちに何とかする方法を考えろ」

 コリニーはため息を吐いた。確かにそうではあるが、あの機体は手に入れたい。ジオンからの亡命科学者が持ち込んだサイコミュに関する資料は、戦後の連邦で勢力の拡大を行うためには絶対に必要な技術だ。特におそらくジオン残党にも同様の戦力が含まれる可能性を考えると、人の新しい可能性云々はともかく、技術革新に多大な金を必要とする兵器開発よりも人間を弄くる方が安上がりだし確実だ。

「戦後のレビル派の台頭を思えば、ここで戦力の拡大を図るのは当然であろう、ジャミトフ?ジオンから来たあの老人どもだけでは、技術的に不足だろう。サンプルは多い方が良い。あの機体とパイロット、手に入れておきたい」

「通信!ジオン側より連絡!Sフィールドで交戦中の機体は要塞司令部の命令を無視、戦闘を行っている模様!ジオン軍が、機体の戦闘を止めるために出撃したとのことです!」

「バカが、余計な手出しをするなと伝えろ!」

「バスク」

 コリニーは言った。

「ジオンが始末をつけてくれると言うなら、始末させればよいではないか。機体が無事に要塞の中に戻ってくれるも良し。機体がもしこのまま戦闘を続けるとなれば、ジオン同士で相打つことになる。前者の場合は要塞を占領した段階で確保すればよい。資料も残っているだろう。後者の場合は疲れ果てたところを捕獲すればよい」

「はっ、EXAM機、用意させますか?ジャミトフ閣下、準備のほうは?」

 ジャミトフは頷いた。

「出来ておるが、パイロットがな。先ほどの戦闘でもGを軽減させるためにかなりの薬物を投与している。投与量の増大が肉体や精神に何らかの影響を及ぼしかねないことを、ナカモトが危惧しておる」

「かまわん。三機とも出撃させろ。地上のムラサメ研かオーガスタ研でもそろそろ次のロットが出る頃合だ。それに、プロトタイプでこれだけの戦果を挙げられたなら、次のロットからは期待が持てるかもしれん。データはそちらの向上型で取ればよい」

 ジャミトフは少し思案気な顔つきになると格納庫を呼び出す。

「ナカモト、機体の準備はどうなっている。それからパイロットもだ」

「申し訳ありません。RX-78RW-E、レッドウォーリア改は三機とも準備が完了していますが、パイロットに投薬への拒否反応が出ています。BM-001ゼロ・ムラサメは三度目の投薬に対しても何とか耐えておりますが、BM-003マット・ヒーリィの精神が不安定です。先ほどからPTSDを発症して何度か、気を失っています。ただ、これ以上の投薬は危険です」

 コリニーはジャミトフにお前に任せる、と言わんばかりに手を振った。ここで介入できなければ、他の方法を探すだけだ。流石に判断がつかない。ニュータイプを化け物と思っていることは、EXAMを持ち込んだクルスト・モーゼスと同じだが。

「BM-002レイラ・レイモンドは?」

「動かせませんよ、EXAMの親機に接続していますから。先ほどの出撃では2号機にプロトタイプ・ファントム・システムを使いましたから三機編隊を組めましたが、マット中尉のPTSDはこれが原因です。現在の技術では精神に負荷がかかりすぎます」

 NTなり強化人間なりとして使うには、強いPTSDを抱えた人間である必要があり、そしてそれを兵器として用いるなら、当然パイロットでなければならない。そう、ナカモトが示した資料に基づき、対象となったのがBM-001、003だ。

 コロニー落着によって被害を受けたアフリカ、旧ガボン共和国リーブルヴィル市に移住していた青年は、コロニー落としによる津波で、地球再生計画の基幹都市として運営を開始され始めていた故郷を失った。それがゼロ・ムラサメの元だ。初の強化人間と言うこともあり、こちらには数ヶ月の長い時間がかかっている。

 これに対し、有能なMSパイロットでPTSDを抱えた人員として出てきたのがマット・ヒーリィ。カウンセラーからの報告で目をつけ、忌々しいミューゼルの基地から拉致してムラサメ研へ移動させ、そこで1ヶ月近くで調整した。短期間での調整で強化人間の生産が可能かどうかを図るための実験だ。

 ニュータイプに対する病的な強迫観念からジオンから亡命し、連邦でEXAM機の開発を行っているクルスト・モーゼスが作り上げたEXAMシステムは、起動にNT能力の保持者を必要とする。人格の劣化コピーをOSとするシステムのためだ。この犠牲となったのが、モーゼスが一緒に引き連れてきたローレン・ナカモトの調整した、フラナガン機関出身強化人間レイラ・レイモンド。

 親機に接続されるはずだったNT、マリオン・ウェルチの行方不明により、確保していたNTが減ったキシリアが開発を命令していた人工ニュータイプだが、洗脳と薬物で人格は分裂。取り扱いに困ったところでモーゼスが話を持ちかけてきたらしい。

「……出撃は可能なのだな。双方とも」

 ナカモトはジャミトフのいいたい事を察したようだ。戦場に出してしまえば、どうなろうとかまわない、と考えている。不安定なBM-003はここら辺が使いどきなのかもしれない。しかし、確認は取っておく必要がある。

「マット中尉、死にますよ」

 バスクは鼻で笑った。ジャミトフも笑う。何をいまさら。あの実験体の役割は終わりつつある。短期間の調整で強化人間としての能力を持たせることは出来るが、使用期間が短いことがわかった、これは発見だ。行方不明、もしくは捕虜として捕らえたジオン兵に使えば、即戦力化が可能と言うのは素晴しい。もっとも、改良の余地はある。一回の戦闘で使い潰すには金がかかりすぎだ。

「かまわん。ゼロ・ムラサメは待機。BM-003に2機をアシストさせて戦場に放り込めるようにしておけ。ジオンが上手く動いてくれた場合に必要になるからな」

「はっ」

 ナカモトは頷いた。ちょうどいい。EXAMと相性の良いゼロだけではEXAMの能力を測ったことにはならないし、発展型として構想中のファーヴニルを動かすためにも、相性の問題はクリアしておかねばならない。……アイン・レヴィからの報告だと、セレイン・イクスペリの確保には失敗したが、何、データかDNAがあればコピーは作れるだろう。

 最終的には、EXAMかその発展型のOSを用い、完成したファントムシステムで動く無人MS軍団、か。面白い。ムラサメ研に戻っての研究の必要はあるな。



[22507] 第35話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/09 05:33
「シャア大佐!戦争は終結した!連邦の艦隊も後退している!何故今尚戦闘を続けるか!?」

 出撃し、連邦とジオンが停戦の区域DMZほぼ中央でシャアのグレート・ジオングを捕まえた私は言った。背後にはハマーンが付き、海兵隊は周囲を回って連邦に停戦を呼びかけている。連邦側もジオン側が協定を守るようだと納得すると、監視の部隊を残して退き始めた。

「トール・ガラハウ、いやトール・ミューゼルか!?ふふ、連邦とジオンを飛びまわる変節漢よ!まさか貴様ごときにことごとく邪魔されようとは考えてもいなかったな!月の穴熊は実は蝙蝠と!はははは、お笑い種だ!」

 シャアのジオングがこちらを向く。周囲を見渡すとかなりの数のジムとボール、コア・ブースターを撃墜し、かなりのデプリが流れている。ミノフスキー粒子も濃い。見ると、ジオングの肩部バインダーが少し開き、中からミノフスキー粒子の散布が行われているらしい。

 なるほど、ジオングを効率的に運用しようと思ったら、完全に敵のレーダーを潰す必要がある。ジオングを拠点防御用としてだけではなく、侵攻強襲用として考えたのか、艦隊泊地攻撃みたいな。一体、どこの伊400だ。よく見ると、背部にドムに似た形状が見える。脚のブースターと言い、おそらく、背中にはプロペラントタンクでもつけるのだろう。

「血縁で世界を語る時代錯誤男が何を。さっきは連邦の若い奴にまで言い負かされていたじゃないか、ニュータイプのなりそこない。第一、宇宙世紀に世襲とか、いつの時代の人間だよ」

 通信チャンネルの先から押し殺した舌打ちが聞こえる。おっ、かなりトラウマをえぐったらしい。いけないいけない。ハマーンと接触ばかりしているから、影響されているのかもしれない。あっ、いけね。ブチっていったらしい。

「貴様!」

 ジオングの両腕が伸び、両側から迫るように移動する。同時に胴体から拡散メガ粒子砲。しかし、前に来たハマーンのプルサモールのIフィールドですべて拡散しすぎてしまったらしい。ビームの残りかすのような粉光がゲルググの頭部の両側を流れていく。

「ほぅ、女に守られて良い御身分だ、少将。さすがキシリア様を使っていただけのことはある」

 なんか、だんだんとシャアの台詞回しが哀れになってきた。一体どんな言葉遣いだ、これ。言った人間の知性を疑ってしまう。しかし、手を出されたからにはやるしかない。ハマーンの背後からジオングの下へと回る。当然ジオングはそれを追おうとするが、プルサモールの拡散メガ粒子砲がそれを許さない。砲数を減らした分出力が高まっており、ジオングのそれ以上だ。

 その間にゲルググはジオングの真下のアステロイドベルトに入る。追ってハマーンも移動した。どうやら、戦場を移すつもりのようだ。ア・バオア・クーにも近い。面白い、乗ってやる。……ハマーン、これ以上手を出すなよ、場所が悪い。もう少し、アステロイドの中に入ってから。

「精鋭部隊を率いた少将殿の実力!拝見させてもらうぞ、幼女のお守りで腑抜けていないかをな!」




 第35話



 アステロイドベルトに入ったトールは連邦艦隊、ア・バオア・クーおよびジオングとの距離を確認する。停戦監視の為にDMZの中央部分に艦艇が前進してきているが……よし、ビュコックの爺さんとヤン少将に感謝だ。ホワイトベースとトロッターが来ている。連邦の艦隊も退き始めている。……そろそ、

 !?

 何かを感じた瞬間に影にしていた小惑星から離れ、移動を開始する。瞬間、小惑星がメガ粒子砲の直撃を受けて破砕された。

「よく動く!ニュータイプとでも言うつもりか!?」

「ジオンの子供だからニュータイプなんだろう、大佐!?お前がニュータイプだと言うなら、俺を撃墜して見せろ、このマザコン!」

 そういうとフォトン・ライフルを放つ。メガ粒子砲よりも充填速度が速く、隕石やデプリによる減衰がビーム、メガ粒子よりも少ない光子を使う―――レーザーライフル。当然、ビームライフルなどとは違い掃射が可能。但しライフル形態のため、掃射は5度が限度だ。

 しかし、それでも有線サイコミュのケーブルを切断する役には立つ。

「なんだと!?」

 左腕の感覚が一瞬喪失感に置き換わり、復活すると同時に今度は右手でそれが起きた。これがサイコミュか!自分の延長線上にMSが来ている訳だが、逆にMSのダメージを精神的にもらうと言うことか!む?……試してみる価値はあるか。

 シャアは予備の腕に切り替える。同時に対艦ミサイルを周囲に放った。別に命中は期待していない。爆発にあぶりだされてくればよい。確認。メガ粒子砲を放つが、ちいっ!あのゲルググにもIフィールド!?……いや、違うか?緑色の結晶体のようなものが一瞬……固形だった!?フィールドではない、なんだ?

 しまった!

 突き刺すような視線を感じた瞬間、上からの攻撃が右肩のバインダーに着弾。いや、レーザーでバインダーの先が切り取られた!ミノフスキー粒子散布装置が破損。ええい、対艦ミサイルを打たなければやられていた!あのライフルは厄介だ!

「貴様、ララァ少尉が撃墜されてもガンダムに勝つことしか考えられなかったろう!?それがニュータイプでないという証拠だ!お前がニュータイプだと言うなら、人の心の悲しさを感じ取り、その強さに押しつぶされそうになった経験があるか!?」

 しかけるか、このMAは量を相手にするならまだしも、1機の高性能機相手のものではない!む……しかし、あの機体、まだ動きが目で追える。……ふふ、機体に不慣れは貴様も同じか、トール・ガラハウ!

「私の強い精神はそんな戯言など、効かぬ様だ!」

 また喪失感。左腕に喪失感。クソ、腕も残り少ない……うむ、かけるか。

「効いていないんじゃない、聞こえていないんだよ!」

 シャアは笑い声を上げた。良し、狙い通りのところに来てくれた!将軍だけあって、殺し合いの経験は少ないと見える!

「しかし、しかしだ!トール・ガラハウ!私はこれほどまでにサイコミュを扱える!見ろ!貴様のMSは既にケーブルの網の中、上手く引っかかってくれたな!戦いとは常に二手三手先を考えて行うものだ!」

「しまっ!?」

 シャアはレーザーで切断された、使い物にならないサイコミュのケーブルそのものでゲルググを捕らえていた。ケーブルは幾つかの小惑星を伝う形でゲルググに接触している。コンソールにアラーム。サイコミュのケーブルから伝わってくるシャアの思念で、サイトロンが混線を起こしてOSに負荷を与えている。処理能力が低下し、機能が落ちていく。

 やはり、シャア・アズナブルか!意志のやり取りが出来るほど覚醒はしていないが、それでも有線サイコミュ程度は扱えるか!

「ララァの苦しみを思い出させてやる!まずは一発目だ!」

 その言葉と共に対艦ミサイルが発射。身動きが取れないので直撃を覚悟した。だから機体を引き離そうとラースエイレムを使うが反応がない。すぐにオルゴン・クラウドでのポーテーションも試みるが、こちらも反応がない。シャアのサイコミュとの物理的接触が、コントロールシステムのサイトロンを侵している為にラースエイレムやオルゴン・クラウドが使えないのだ。抜かった!

 左脚に激突した対艦ミサイルは破壊力を遺憾なく発揮し、膝下から脚をもぎ取る。

「ほほぅ、やはりそのゲルググ、私がもらったようなジオニックの製品ではないな!外観はよく似せてある、ふふ、よく騙しおおせたものだ!しかし、良い機体だ、対艦ミサイルを喰らって膝下破壊のみとは!」
 
「トール!」

「来るな!ハマーン!」

「待っていたぞ、お嬢さん!」

 シャアはジオングの拡散メガ粒子砲を放った。すぐにIフィールドを展開させるハマーン。しかし、拡散メガ粒子砲の目標はハマーンではない。最初からそう来ることは予想できたが、ハマーンの方は無理だ。クソ、気づけ気づけ気づけ!

「避けろ!ハマーン、狙いはお前の機体じゃ……」

「えっ!?きゃあああああっ!?」

 メガ粒子砲の目標は小惑星。爆発で細かく砕かれた小惑星の玉突き事故だ。Iフィールドを貫けないなら、貫けるようなものをぶつければよい。それに、Iフィールドの正体はミノフスキー粒子の立方体。そんなところに細かい隕石などぶつけようものなら!ハマーンが落される!クソ、隕石にさえぎられてハマーンが見えない!爆発!?シャアの対艦ミサイル!?

 背中に対艦ミサイルの直撃を受けたらしい。プルサモールの背面部スラスター類が無残に壊されている。

「ふふ、貴様の持っている技術とやらはなかなかのものだな!対艦ミサイルの直撃をエンジン部に受けて誘爆しないとは!君と友人になれたなら、私の理想もより簡単に実現出来たものを!」

「手前ぇ!」

「シャア!」

 その叫びと共に拘束がなくなった。見ると、ビームサーベルで腕を捕らえていたケーブルが切られている。誰だ!?ハマーンか!?いや、違う。まだなんの反応もない。

 違った。迫ってきたのはガンダムNT-1。通信が入っているのでモニタに出す。

「こちらは連邦軍より停戦監視任務に入った戦闘空母トロッター、艦長のエイパー・シナプスである。前方で戦闘を行っているジオン軍MSに告ぐ。ア・バオア・クー要塞との交渉により、既に各フィールドでの戦闘は停止している。MSはすぐに要塞に帰還し、連邦軍の進駐を待て!」

「うるさい!」

 シャアのジオングはガンダムに向けて次々と対艦ミサイルを放つ。流石に私のゲルググを拘束したままでは無理だ。ケーブルを切り離し、新たな有線式アームを取り出し、ガンダムに向けて放つ。

「白い奴!ガンダム、貴様よくもララァを!ガラハウ、貴様もだ!」

 そう来るか、もう、見境が付いていない。脇の通信装置を操作してガンダムが使用しているだろう、連邦の回線に割り込む。

「其処の白いMS!あのデカイのを落せば終わる!ジオンと一緒に戦うのが嫌なら退け!」

「あわせます!シャアは倒さなくちゃいけない敵だ!」

 ガンダムと共にジオングに迫る。片足がやられているからバランスが取りにくいが、調整をしている暇はない。操縦桿の位置を不安定な位置に押さえ、正面へ向かうコースを取る。ジオングが拡散メガ粒子砲を放つが、その光を小刻みに機体を動かしながら回避する。しかし、流石に何発かもらってしまった。

「ララァを殺した男たちか!よくもララァを!彼女は、私の母となってくれる人かもしれなかったのに!」

「お母さん!?ララァが!?」

 その発言にイラっと来たので、とりあえず肩バインダーに蹴りつけた。蹴りつけると同時に下に回り、ビームサーベルでブースターを切る。どうやら、アムロの方に有線サイコミュにすべて使い切っているらしく、胴体の拡散メガ粒子砲と、幾つかの単装メガ粒子砲、背部バインダー内にある対艦ミサイルだけ。まだ避けられる。

「取って付けた様にララァの死を語るな!死を心で感じていないことがお前がニュータイプでない証拠だと気づき、今から死を悼もうと考え、思い込むつもりか!?」

「私はニュータイプだ!」

 シャアのジオングが拡散メガ粒子砲を放つ。左右に分かれるガンダムとゲルググ。何かを確認しあうように心を触る感触。あ、アムロくん、リアル生活充実中?セイラさんに恋しているわけね。あ、ライラさんヤザンとくっつくんだ。勿論そんなことはどうでも良い。

「違う、お前はただの人間だ!ジオンの子だと言うだけのな!自分の望む母親を、あの子に押し付けるな!」

 そういうとビームサーベルを振るうゲルググ。しかし、シャアも巨大な機体を上手く動かし、回避させる。Iフィールドこそついていないが、機体のほぼすべてのパーツにビームコーティングが施されているため、ビームも接触時間を多くしないと効き目がないらしい。サーベルをまた当てるが、はじかれてしまった。

「貴様は如何だ!?トール・ガラハウ!退廃したオールドタイプを、我々スペースノイドが凌駕する日!それこそが父ジオンの唱えた!スペースノイドが切り開くべき!オールドタイプには決して不可能な新時代なのだ!我々スペースノイドから出たニュータイプにこそそれが出来ると、何故わからん!」

 流石に片足ではバランスが取りにくい。スラスターの数が異なるから、姿勢制御のときにどうしても左回転が入ってしまう。クソ!一撃もらった。衝撃でジオングから離されるゲルググ。肩アーマが破損か!かまわん!フットレバーを踏み込み、ジオングの懐に再び入る。

「ならば聞く!シャア・アズナブル、いやさキャスバル・レム・ダイクン!貴様の愛した、貴様のニュータイプであるララァ・スンは……」

 私は言った。年来の疑問を。

「ララァ・スンはスペースノイドか!?」

「貴様あっ!」

 シャアは宇宙に咆哮した。それは、彼にとって決定的な指摘だった。宇宙世紀に宇宙の生活で生まれるニュータイプ。しかし、彼の知る最も優れたニュータイプは、地上インド出身の少女だ。地上で見せた彼女の力にシャアは歓喜した。これこそがジオニズムの結晶であると。期待の新人類、ニュータイプだと。

 しかし同時に気づいてもいた。自分が出会ったこの少女が、宇宙に住むものではなく、地球に住むものだと。

 怒りに任せてガンダムを無視し、トールのゲルググにサイコミュを向ける。トールのゲルググに気づいた様子はない。何の防御も機動も行わず、ビームサーベルを仕舞って腰からあのビームセイバーを取り出す。樺太で見たものと同じタイプだ。

「私の理想を否定した報いを受け取ってもらう!」

 取り囲むように機体の拡散メガ粒子砲と有線ビーム砲を放つ。直撃するかに思われた瞬間、緑色の結晶に包まれて消えた。やはり!先ほどの緑色は見間違いではない!……何処へ行った!?

「シャア!」

「ガンダム!」

 背後から迫ったガンダムが左肩を切り裂き、続いてサーベルを脚のブースターに突き刺す。爆発。吹き飛ばされ、また左脚のブースターが破壊されたことで機体のバランスを崩し、激しく回転するジオング。しかしシャアも去るものだ。右ブースターに装備されているメガ粒子砲をガンダムに。メインカメラが吹き飛ばされるだけでなく、そのまま横にずらして左腕をもぎ取る。

 押されたガンダムが離れて体勢を立て直したところに緑色の光があふれたと思った次の瞬間。

「もらった!」

「ガラハウ!?」

 オルゴン・クラウドが晴れると同時に現れたトールのゲルググがビームセイバーを振るい、ジオングの右肩を切り落とす。しかし、ジオングの方も口の部分から放たれるビーム砲をゲルググの右肩に命中させた。融解が始まり肩背部のスラスターが推進剤ごと爆発。その衝撃で左手のビームセイバーが離れる。

 しかし、トールはそのままジオングに機体をぶつけると、腹部の拡散メガ粒子砲に拳を突き立てた。

「人間なんてものはなぁ、明日の心配なしに生きていければ満足だ!一日の終わりにちょっとした酒が飲めればそれで良し!昼日中にタバコが吸えればなお良し!惚れた女を抱ければ更に良し!時代や思想を弄び、人を先導することが許されている人間はなぁ、そうした人間たちの生を守るからこそ弄ぶのを許されている!貴様はなんだ!?親父とは違って思想を弄んでやることが人殺しか、ええ!?」

 そう言って突き立てたこぶしを引き抜くと、残った右足でジオングを蹴る。後方にあった小惑星に激突して激しく揺さぶられる。シャアは衝撃を必死に耐えた。そこに、ゲルググは追撃をかける。

「人は革新するんだろうさ!貴様なんぞに手助けをされなくともな!」

 破壊されたメガ粒子砲の発射口に両手を突っ込み、内部の配線やパイプ類を引きちぎっていく。

「人は解りあえるんだろうさ!貴様なんぞに先導されなくともな!」

 ジオングの左側に回り、残った左肩をマニピュレーターでつかみ、ジェネレーターの出力に物を言わせて引きちぎり始める。本来なら機体を分解させるように独立した攻撃モジュールになるはずだが、まだ実装されていないのだ。

「そもそも、初めから人なんてものは、理解し合えなくて当然なんだよ!だから理解しあおうとするんだろうが!誰かに理解させてもらおうなんて思うほうが如何にかしているんだよ!」

「そうだ、シャア!」

 頭と片腕を失ったNT-1が迫る。残った腕にはビームライフル。

「人は、理解しあおうとするから尊いんだ!理解しようとするから、誰かと思い合えるんだ!それを、誰か他の人の手でなんて、そんなの出来ないひとの妄想だ!」

 アムロがビームライフルを放つ。シャアもスラスターでこれを回避する。回避するだけなく、アステロイドにゲルググを激突させ、機体から振り落とす。しかしシャアはそれを無視してガンダムに向かった。

「アムロ・レイ!」

「だからあなたはララァを殺した!あの人は戦場に来るべき人ではなかった!」

 アムロはビームライフルを放つが、弾切れのようだ、捨ててそのままビームサーベルを引き抜くとジオングに迫る。ジオングも口部ビーム砲で迎撃するが、先ほどと同じく、ビームサーベルをビーム砲の軌道とあわせ、出力が強くはじけないのを見ると、軌道を逸らしにかかった。ジェダイすぎる。

「ララァが望んだことだ!」

「愛しているなら、止めるべきだ!シャア!あなたは結局、自分ひとりか愛せない男だ!」

 そのまま接近したガンダムは、叫ぶと同時にジオングの腹部にビームサーベルを突き立てた。トールも同時にビームサーベルを胸部につきたてた。

「「キャスバル・レム・ダイクン!」」

「アムロ・レイ!トール・ガラハウ!」

 シャアは叫ぶと同時にジオングの頭部を離脱させ、ジェネレーターに向けて口部ビーム砲を放つ。機体を爆発させて巻き込む事を悟ったガンダムとゲルググはビームサーベルを捨てて離脱に入る。

 そして、次の瞬間、グレート・ジオングは爆発した。



[22507] 第36話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/09 05:32


「……クソ、行っちまったか……」

 閃光が収まってから周囲を見渡すと、ジオングと同じ頭部にあるコクピットは見えない。どうやら、今の閃光が見えた瞬間、コクピットだけで飛び出してどこかに行ったらしい。恐らく、要塞に戻って亡命フラグを構築しようとしているんだろうなぁ。

「……うわ、何を口走ってんだ、俺。勢いに任せて完全にシャアと敵対フラグを作ってない?あ、そういえば、アムロ君は……」

 呆然となるこちらにやっと気づいてもらえたらしく、こちらにガンダムが手を振っている。この歴史ではコア・ファイターで帰ることも、ホワイトベース隊の待つランチに帰る必要も無いわけか。ホワイトベース浮いてるからな。片腕と頭を失っている所は同じだが、要塞の内部ではないし。返事をすると、ホワイトベースの方に戻っていった。ようやく、か。さて、シャアをどうにかしないと。

 要塞に戻ったシャアを拘束してガーティ・ルーに放り込んでおくように命じていると、ハマーンがこちらに向かってくる。結果論だがこちらの言うとおりに、ただずっと見ていてくれただけなのが本当にありがたかった。あの戦闘の中に入ってこられるとか冗談じゃない。絶対にこっちの精神が持たない。

 ただ、これまでの戦いを見ていると結構シャアにでも楽に勝てそうな気がしないでもないことに気がついて蒼くなった。これで肉体戦闘的に強い人まで出てきたら、詰みだな。そんなことを考えているとハマーンから通信が入った。

「何考えてるの?」

「ん、帰ったら大変そうだな、って……とりあえず、眠りたい……っ!」

 何かを感じてハマーンのプルサモールを引っ張り近くのアステロイドの陰に隠れる。近づいてくる機体が三機、ガンダムタイプで、しかも赤い。……カメラアイがゴーグルタイプになっているが、機体の方は……あれはレッドウォーリアか!?

「戦闘を行っていたジオン兵に告ぐ!機体を捨てて投降するか撃墜されるかを選べ!」

 いきなりの通信。どうやら、第一軌道艦隊からの監視隊がコッセルたちに塞がれたのを見て、回りこんできたようだ。コッセルたちとの通信をオンにすると、事情を察したらしい中隊がこちらに向かい始めた。それを追って、ガンダムNT-1を回収したトロッターとホワイトベースも向かってくるようだ。

 そうした動きを量子通信システムで確認した私は、近づく連邦の船に通信を開いた。

「接近する連邦軍のMS三機に告げる!既に暫定休戦協定が発効し、本空域はジオン軍の戦線整理区域である!貴官らの行動は協定違反である!」

 しかし、そうした要請は一言の下に斬り捨てられた。

「敗北したスペースノイド風情が何を!命が惜しいのなら機体を捨てて投降しろ!」

「……バスク・オムか」

 今の戦闘をどこかで覗いていたか?ちぃ、調子に乗ってオルゴン・クラウドなど使うんじゃなかった!この機体にはラースエイレムもあるから、二つの秘密がばれれば恐ろしいことになる。量子レーダーで確認するが、周囲に他の友軍はいない。最も近い部隊でア・バオア・クーに戻る部隊の整理をしているガーティ・ルーだ。この距離ではすぐにはここまでこれない。

「ハマーン、すまないが、手伝ってくれ」

 そういって機体に動く準備を整えさせると同時に機体のチェックも行っていく。制御AIの出した結論は機体動作の入力から発動までのロスが生じ、しかもそれが先ほどの戦闘中にかなり広がっている。出撃前の調整不足がたたっているらしい。しかも、ハードウェア・ソフトウェア双方でだ。

 ごてごてと武装や能力をつけた挙句がこれか。流石にガーティ・ルーに乗せているメイ・カーウォンや三人娘でも手が出なかった、と。仕方が無い。この機体に搭載されている技術は宇宙世紀と異質なものが多すぎる。どちらかを完璧に動かそうとすれば、片方に支障が出るのも道理、か。

 システムの方を確認してみると、やはり新しい項目に「ミスマッチング問題」と書いてある。好きにMSを強化出来はするが、それが戦闘中に問題なく使えるかは、メカニックによる整備次第、ということか。しかも、呼び出したキャラクターによってマッチングできる技術に差がある、と。ゲシュペンストが性能通りではないような気がしたのもこれか。量産型の方はミツコさん効果でOKだったが、ワンオフタイプの方は誰かを持ってくる必要がある、と。

 クソ、実戦経験がないと言うことがこれほどまで祟るとは。それに、これは実戦での戦闘経験が無ければ絶対に解らない。こんな、不利な状況でもない限り、クソっ、確認したデータでは、現在発揮できる性能がかなり落ちている。シャア相手に無理をしすぎた!もっと戦闘を行っておくべきだったと悔やむが、そんなことはいまさらどうしようもない。

 三機のガンダムタイプはこちらを取り囲むように迫ってくる。上手い具合にアステロイドを陰に使っているから、射線が取りにくい。脚部が先ほどの戦闘で破損しているため、射線を向けるのも一苦労だ。あ、クソ、脚が破損しているなら破損状態でのスラスター調整をかける。基本なのに。

 ハマーンのプルサモールが支えてくれるが、流石にここで二機とも敵の手に落ちるのは避けたい。バスクがいるということはティターンズ系となれば、ハマーンは利用される!

 フォトン・ライフルを取り出すと連邦軍へ再度通信を開く。

「警告する。この空域はジオン軍の戦線整理空域であり、貴官らの行動は明確な停戦協約違反である!」

「先に攻撃を仕掛けてきたのは貴様らだ!始末をつけたからといっていい気になるなよ、宇宙猿!」

 ……相手がバスクじゃこうなるわな。



 第36話



 ア・バオア・クー空域で恐らく最後の戦闘となる戦いは、連邦軍側の攻撃から始まった。Nフィールドにおいてランゲルマン中将とビュコック大将の会談が始まったとほぼ同時刻のことだった。

 三機のガンダムタイプはビームライフルを放つが、ゲルググの近くに陣取ったプルサモールのIフィールドに弾かれたのを見るや、ライフルを腰にしまうと、1機が背中のバズーカを腋に構え、2機がビームサーベルを左腕に構える。

「トール!逃げて!」

 ハマーンのプルサモールが三機に向かう。

「やめろハマーン!敵は普通じゃない!」

 すぐさま私もゲルググを再起動するとハマーンの後を追う。左腕にビームサーベルを構えているなら、あの機体は絶対にあの装備を使う。ハマーンはそれを知らない!

「このプルサモール、見くびってもらっては困る!」

 戦闘中に口調がZになるのか。などというバカな考えが頭に浮かんだがすぐに消してスラスターを吹かせるが、左足と右肩を失っているので推力が低下している。思ったように速度が出ない……!?まずい、接触した!

 バズーカを明らかにプルサモールではなく、周囲のアステロイドに向けた射撃がハマーンに降り注ぐ。先ほどの戦闘を見て、Iフィールド拡散の為にアステロイドを使うようだ。こりゃ完全に見られてたな。

「きゃっ!?そう、何度も!」

 そう叫ぶハマーンのすぐ後ろに一機が迫る。右腕の内臓ビームサーベルを振り上げるとプルサモールの片腕を切り落とした。ビームサーベルの余波で一基のIフィールド・ジェネレーターが破損する。ラミネート装甲も、熱量を吸収しきれなかったようだ。それに、目が左腕にいきすぎていた。レッドウォーリアは右腕にビームサーベルを内蔵しているのだ。

「きゃあああっ!?」

「ハマーン!」

 私はゲルググのスラスターを一杯に踏み込むと、残った左肩をレッドウォーリアにぶつけた。同時に機体から何か流れ込んでくる。赤い、コロニーが焼ける情景。ノーマルスーツのバイザー越しに、赤く焼けるコロニー、そして蒸発する人間の姿。金髪の女!?そうか、レイラ・レイモンドか!?レイラの強化の元となった記憶は、ルウム戦役か一週間戦争での、コロニーが核で焼かれる情景か!

「だから赤いEXAMかよ!」

 接触した際の精神感応で、こちらに向かってくる二機がコンピューター制御の無人機である事を確認した私は、すぐにビームサーベルを引き抜いて切りかかる。しかしすぐに避けられた。機動性が尋常じゃない。乗っている人間にかかるGを考えなくて良いから、動きが変則的で中の人間を気にしない、Gを考慮しない動きが出来るとは!

「単純なスラスター出力の勝負か!」

 こちらを向いたレッドウォーリアのサーベルを避けた瞬間にもう一機に切りかかられ、右腕を失う。ハマーンを無事に抜け出させることが出来たが、今度は二機がこっちに向かってきた。

「若!あぶねぇ!」

「コッセル!来るな!」

 コッセルのゲルググがビームライフルを打ちながらこちらに来るが、控えていた一機のバズーカで脚を吹き飛ばされた。回転しながらアステロイドに激突し、後ろから来た海兵隊員が助けて離脱。良い仕事をしてくれる!

「トール!」

 コッセルに注意を向けた瞬間を狙ってビームサーベルで切りかかる一機をオルゴン・クラウドで避けた私はその機体の後ろに出現してサーベルで切りかかる。しかし避けられ、機体の腹に蹴りをもらうことになった。衝撃でフォトン・ライフルが腰から離れる。

「ハマーン……離脱しろ、こいつら……」

 バズーカを構えた一機が陣形を維持すべく前進してくるのを見て、私は言った。撃墜されても一日で復活できるこちらとは違い、ハマーンは死ねばおしまいだ。

「だめだ!死んだらどうなるか解らない!」

 そういうとハマーンは残った片腕側のIフィールドにエネルギーを回すと、ゲルググを守るように立ちふさがる。畜生、後ろに回られた!離脱が難しくなる!

「閣下!シーマ中佐、左から願います!」

「あいよ!トール、少し我慢しな!」

 そこにいきなりの通信。シーマ姉さんのガーベラ改とガトー大尉のゲルググ!?あの二人、いつの間に!?

「トール、キットがもうすぐ来る!ハマーン、トールをつれて後ろに引きな!ガトー、ハマーンを頼んだよ!」

「姉さん!気をつけて!奴ら、ニュータイプぐらい強いわ!」

「だめだ、姉さん逃げろ!」

 ガーベラ・テトラ改のビームマシンガンの援護を受けて前進するガトーのゲルググ。一機がガトーのほうに向かってサーベルで切り合いを行い始め、ガーベラを排除すべく二機が前進する。まずい!EXAM機相手にガーベラじゃ!

「ハマーン!姉さんを……」

「トール!」

「中佐!上です!」

 三人の注意がガーベラに向いた瞬間、上から放たれたビームバズーカがガーベラ改の右腕右足を吹き飛ばす。さすが二ポイント生成の機体だけあって防御力が高い。普通だったら一発で終わってる。しかし、あの機体のビームバズーカはなんて威力……4号機のデータを使っている!?

「ガトー!姉さん連れて逃げろ!」

「閣下!」

「うるさい、早くしろ!俺のこと考えてる暇があったら早く!」

 残った左腕に内蔵されている速射砲で反撃を開始するガーベラだが、今の一撃で戦闘力のほとんどを失ったのは丸わかりだ。ガトーとハマーンが向かうが、間に合いそうにない。ヤバい、もう一撃来る!バズーカを構えた機体に光。このままじゃ一発もらう!

「姉さん!」

「……あまり趣味の良い機体とはいえませんね」

 そんな、機会音声染みた声が響いた瞬間、マントに包まれた機体がガーベラとバズーカの間に入り、マントらしき布状の物質でビームバズーカを止めた。アレは仕舞っておいたはず!

「配色が悪いです。カラーデザイナーの色彩感覚を疑います」

「キットか!?お前、ヴァイサーガを持ち出したのか!?」

 ヴァイサーガ。OGシリーズでラミア・ラヴレスの隠し機体。機体追従性に難を抱えるが、戦闘速度が速い。その期待追従性を解決するためにサイトロンを積むなど改造を加え、早すぎる機体の動きについていけない事を考えて着脱式の機体制御AIを搭載可能にしたVR系機動兵器だ。本来なら40m超の機体に130tと大きいが、ダウンサイジングでガンダム並の大きさに押さえてある。

 キット――K.I.T.Tはその着脱式機体制御AIだ。と言っても、80年代アメリカ・ドラマなんて誰が覚えているんだろう。ナイトライダーなんて古過ぎる。しかも、たまに俺の名前をマイケル・ナイトと間違えるのが御愛嬌だ。あ、声はそのままですよ勿論。

「マイケ……トール。さっさと機体を乗り換えてください。そのゲルググでは限界です」

「了解。ガトー、姉さんを頼む!」

 そういうと私はゲルググからヴァイサーガへのポーテーションを試みる。事情を察したガトーがシーマのガーベラをつれて退き、ハマーンのプルサモールが援護に入る。その間にゲルググからヴァイサーガへのポーテーションが終了した。ここで、トール・ガラハウ少将は死ななければならない。公的には。

 すまん、一年戦争中、世話になった!

 ここで機体をティターンズに渡すわけには行かない。五大剣を抜くと、ヒートモードに設定してゲルググのジェネレーターを貫く。ジェネレーターであるオルゴン・エクストラクターが暴走を開始したと同時にハマーンをつれて離れる。

「……すまん。下手な使い方しか出来なかった……っ!」

 謝ると同時にゲルググは爆散した。緑色の光がすべてを包み込むように光、そして別の場所へとすべてを運ぶ。トール・ガラハウ専用ゲルググは、そしてトール・ガラハウという人間はここにその役目を終えたのだ。

「あの新型を捕らえろ!」

 バズーカのエネルギーがきれたのか、それともこちらの捕獲を最優先にしたのか、三機のレッドウォーリアが迫る。ビームバズーカをマントで遮ったのを確認しているから、少々の命中弾は気にしなくて良い。ハマーンや姉さんたちが充分に後退をしたのを確認すると五大剣を抜いて構える。

「トール、五大剣のほとんどの機能はミスマッチングで使えません。私のサポートで使えるのは水流爪牙だけです。正直、五大剣は出来の良いヒートソード程度ですよ」

 私は頷くとアステロイドを蹴りながら三機のレッドウォーリアに迫る。バズーカを構えたリーダーらしき一機が次々にバズーカを放つが、それを避けて一機に迫る。赤く発光し始めた五大剣を振るい、小型シールドごと左腕を切り落とす。直後に胴体に蹴り。しかし、効いた様子はない。

「トール、前衛二機の本体は頭部のOSです。狙いを間違えないように」

「お前、本当に説教好きだな」

 そういうと背後からのビームサーベルを五大剣で受ける。同じように蹴りを放つが、胴体で受け止めてられてしまった。やはり、反応速度が思ったよりも鈍い。抱え込むか、懐に入り込んで外さないようにしないといけない。

 それに、と思いなおして操縦桿を操作し、蹴り飛ばした二機を放ってリーダー機に向かう。あれがリーダーなら、落してしまえば二機の運用能力が落ちるはずだ。

 リーダーらしきレッドウォーリアはビームサーベル一本で太刀打ちできないと判断したのか、右腕内蔵のビームサーベルと交差させる形で如何にかしようと考えたのだろう。そしてそれはあたりだった。熱量同士の喧嘩がほぼ互角。五大剣の状態にアラームがなったため、先ほどと同じく蹴りを胴体に入れて機体を離す。

 あ?なんだ!?ラリー・ラドリーにアニッシュ・ロフマンか、あの二人は!?

 一瞬、機体と接触した際に何かが流れ込んだような感覚。中でも、視点であるパイロットに向けて笑みを浮かべるのは樺太基地攻防戦で死んだ二人のパイロット。それに、見えた光景の奥にはノエル・アンダーソンもいた、ということは。

「アレに乗っているのはマット・ヒーリィか!?」

「……照合完了。トール、連邦軍のデータベースが12月24日付けでアップデート。幕僚総監部を通さずに、第7艦隊司令部の行方不明者救助欄にヒーリィ中尉の名前を発見しました」

 ジャミトフが誘拐していたのか……PTSDか!強化人間への強化に必須のPTSDの発症か!

「舐めた真似を。戦後を覚えてろよ」

「トール。今は目の前を如何にかしてください」

 両手にビームサーベルを持って突っ込んでくる二機をいなす。反応がやはりこちらの思っていたよりも遅い。大分、オーバーモーション気味に機体を動かさないといけないらしい。ん?バスクたちの反応がない。通信チャンネルを開いて確認。

「このバカもん!貴様らせっかくの協定成立を不意にするつもりか!」

 ビュコックの声だ。

「しかし、閣下。現在前線で戦っている将兵はコロニー落としの被害を受けたもので、こちらのいう事を聞きません!」

 こちらは……コリニーか?ジャミトフのあの声じゃないな。なるほど、どうやらビュコックの爺さんにランゲルマン中将が話を持ちかけたらしい。それに引かれる形で、第7艦隊の部隊が離れ始めている、と。となれば、そろそろ潮時か。しかし、責任がある。

「キット、EXAMは頭部だな?」

「……OSの反応は其処から出ていますよ、トール。ただ、リーダー機からは他の2機に対して指示をサイコミュを通じて送っていますから、下手に潰すと逆流が起きる可能性が。どちらにしても、あのパイロットの精神状態はかなり不安定です。使い潰すつもりなのでしょうね」

 コンソールを操作して機体の状態を確認する。ミスマッチングはこの機体でも発生しており、ラースエイレムやオルゴン・クラウドの使用にはコンマ2秒の誤差が生じるらしい。それだけあれば避けられてしまう。ん?

「キット、リミッターってなんだ」

「……あまりオススメしませんが。私の補助下で反応速度、追従性を上げるために設定してあります。言ってしまえばトラ…」

「言わなくて良い。なるほど、K.I.T.Tでナイトライダーだからトランザムと。そうなれば良いかなーとか考えて名前設定したのに早速……」

「トール、この世は非情です。それに、フィードバックで精神汚染される可能性があります」

 それ無情の間違いじゃないかと思いつつも納得した。サイトロンとサイコミュの併用で無理やり操作性を上げるのだろう。となれば、当然精神状態は無防備になる。ハマーンみたいにプレッシャーに対する壁がないから、もろに影響をこうむるわけか。

 仕方ない。

「トール。注意しておきますが、システム本体によると使用に際しては『エロスは程ほどにな』と言われました。あなたならわかるといっていましたが、どうでしょう?」

 システムを開いて確認する。生きるために使うべきか、死んじゃっても良いから使わないべきか本気で迷う。

 あれ?なんだこの追加機能……へ?

 急に使いたくなくなった。


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一年戦争が終わるまでは自重しない方向で。




[22507] 第37話(R15 一年戦争終了)
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/10 21:11
 UC0079年12月24日。午後6時。

 ア・バオア・クー空域における戦闘は終息し、ジオン軍は翌日午前6時までにア・バオア・クーを退去し、サイド3に向かうこととなった。勿論、サイド3にて武装解除を受けるためである。

 しかし、ア・バオア・クーから本国へ帰還しなかった一部艦艇(実際は一部ではなく、70%に及んだが)は月の裏側、カラマ・ポイントに集結。アステロイドベルトの小惑星アクシズを本拠地としての、地球連邦に対する反抗作戦を考えるようになっていく。勿論、地球圏に残存しての反抗を唱える、エギーユ・デラーズの存在もあった。

 これに対し、この歴史ではサイド3を経由できなかったため、家族を避難させることが出来なくなっていた将兵たちには、祖国に帰る事を強く望むものたちの姿があった。けれども、アクシズに先行している輸送船から秘匿回線でドズル・ザビ生存の報告がもたらされると、一縷の望みをかけて、アクシズへ、という動きが加速する。

 結局、地球圏に残っての情報収集・テロ活動をデラーズ艦隊が行い、地球連邦軍に対する総反撃に備え、離脱艦隊の多くはアクシズへの航路をとることとなる。

 あの時、見えた光景は何だったのか。アムロ・レイは無事にトロッターに戻った後、一人、疲れた体をデッキに座らせながら考えている。60億が50億減った。自分の事をあざ笑いながらも、確かに聞こえた安堵の声。

 そして、見たことのない光景。要塞内部で戦う自分とシャア。仮面をかぶったあの男と、セイラの前で二人で戦う光景。変だ。自分は要塞内に入っていないのに。更に、あの光景で見た戦いはガンダムだった。乗り換える前の。そして、基地の中で、戦ったよりも弱そうなジオングとビームを打ち合う光景。

 わからない事だらけだった。見えた光景はそれだけ。あのゲルググのパイロットは何を知っているのだろうか。ピンク色の髪の女の子のことも見えたが、何をどうしたのかがよくわからない。そしてララァ。ララァの死。自分のビームサーベルで切り裂かれたエルメスが弾き飛ばされるのではなく、自分のサーベルがエルメスを貫いていた。

 確実なララァの死。ビームサーベルの熱量で蒸発するララァの姿。違う。本来ならララァはああした死に方はしていない。掠めたビームサーベルがエンジンを貫き、エンジンが誘爆して死んだはずだ。現に、自分は弾き飛ばされてから一分ほどで爆発したララァの姿を見ているのだ。

 あのゲルググ、ララァを庇ったゲルググがいなければ、そうなっていた?出会った事を認め合うまもなく、本来なら僕はララァをあそこで殺していたのか?訳がわからない。それに、セイラさんがシャアの妹?ばかばかしい。そんなことは僕は知らない。

 見えた光景はたったそれだけで、自分には意味が解らなかった。しかし、アムロにはそれがどうしても気になって仕方がなかった。僕は今なんて考えた?あのゲルググに乗っていた男は、何と考えていた?

 本来なら?

 そんな言葉がアムロの脳裏をよぎった。本来なら、僕とシャアはああいう戦いをしたんじゃないのか?本来なら僕はララァを殺し、本来ならセイラさんはシャアの妹で、本来ならガンダムを乗り換えることはなく、本来ならあの形のジオングと戦い、本来なら要塞の内部で決着をつけていた?

 でも。

 でも、僕はここにこうしている。ララァを殺したかどうかが解らずに、セイラさんが行方不明で、セイラさんがシャアの妹かもしれないと言う疑いを抱き、ガンダムを乗り換え、あの形とは別なジオングと戦い、要塞の内部で決着をつける事無くここにいる。

 あのゲルググ。手を振った瞬間に返事をしたゲルググ。

 一体、アレに乗っていた人はどういう人なのだろう?

 アムロ・レイの一年戦争は疑問と共に終了した。




 第37話



 UC0079年12月29日。ゼブラ・ゾーン空域

「若!シャア・アズナブル大佐をお連れしました!」

 デトローフ・コッセル大尉が海兵隊に拘束されたシャアを引きつれてきた。ガーティ・ルーの艦長室。どこかトールの様子がおかしいことにシャアは気づいた。しかし、もうどうでも良かった。夢破れ、ドズルが生きていると言うことは既にジオンに自分の目がない事を察していた。脇に顔を赤くしたあのハマーンとか言う少女がいる。何処となくうれしそうだし、自分を見つめる瞳にこの前のような敵意がない。

 目の前の少将が頷くと海兵隊員は拘束を解いて下がった。何のつもりだ、と考えるが、すぐに考え直す。パイロット程度の私の腕では、海兵隊やそれを率いるガラハウ少将に白兵戦では勝てんと見越してのことか。ふ、悔しいが正しい。

 沈黙が二人の間に流れる。トールの背後に扉があるプライベートスペースから何か物音が聞こえた。シャアは興味なさげに目をやったが、トールは知らん顔だ。誰か、潜んでいるらしい。

「で、どうだった」

「どう、とは」

 トールは口を開いた。心底疲れきっているらしく、声にも疲労が現れている。

「あんだけ傲慢をかまして言いまくった挙句に巨大MAを持ち出してボロ負けした。何か感じるところはあったのか、と聞いている。……何にもなければ本当におしまいだぞ」

「絶望しか残っておりません、少将」

 そういうとシャアは仮面を脱いだ。額には傷跡。アムロとの決闘がなかったのに傷が?注視していると言った。

「ジオングからの脱出の際に。私にとっては忘れられない傷となりました。ララァを失い、理想も否定され、打倒すべきザビ家は残っております。しかも、恨みを抱けない人だけが」

「ドズルに恨みはなかったのか」

「……良くしていただきました。それに、良くも悪くも軍人であり、弟思いの方ですから。この艦に囚われてより、アルテイシアに母の事をお聞きしましたし……礼がまだでした。ありがとうございます。妹にはかけがえのない時間だったでしょう。おそらく」

 シャアは其処で視線を逸らした。いや、母の事を思い出しているらしい。

「思えばララァにも、可哀想な事をしました。いや、これは愚痴です。いまさら、どうしようもないことです。それに気づけなかったことが、悔やまれてなりません」

 シャアがこちらを見る。何か、決意したような面持ちだ。

「ジオングからの脱出の際、ララァの声が聞こえました。戦いの中に自分の生きる活路を見出してきた血まみれの自分に、彼女は優しく、妹に向けた、幼いころの優しさを思い出させてくれました。……今となっては、遅すぎますが」

「これから、どうする」

 トールはたずねた。

「アクシズに行っても仕方がありません。どこか、落ち着けるところを見つけようかと思っています。顔が知られているので、まずはアンブロシアの民間区に身を潜めようかと。落ち着いて暮らせるなら、そうしたいのですが」

「アクシズに行かなくても火星と言う手があるが?」

 シャアは頭を振った。憑き物が落ちたような顔をしている。ずいぶんと表情が柔らかくなったようだ。まぁ、この影響されやすい男のことだから、何か事件があればまたぞろ虫が騒ぎ出すのだろうが。

「……赤い彗星が赤い星に行くとは、洒落にもなりません。今の私に、赤は重過ぎます」

「確かにそうだな。……奥に君に会いたいと言っている方がいる。会ってやってくれ。私は席を外したほうが良いだろう……落ち着く先については相談に乗る。但し、君の重要性を考えると、所在は明らかにしてもらう」

「解りました。……会いたいといっている人間とは?」

「会えば解る。2、3時間ほどやるから、ゆっくり語るがいい」

 ため息を吐くと艦長室のドアをロックして外に出る。まぁ、これで丸くなってくれれば良いが。腰に張り付くハマーンからは、先ほどのシャアの存在も気にしていないほどの喜びの感情が伝わってくる。『エロスは程ほどにな』とかもろ直球じゃないか。倫理的に問題がありすぎる。最後の一線は守ったが、それ以外はほとんどシテしまった。ミツコさんに断ったところ、セイラだけは許さない、とか言われたので避けたが……伝染とか言っていたが、あいつら、人の寝室でことに及ぶ真似はせんだろうな?



 二時間ほど艦内の酒保にある喫茶店で過ごした後に戻ってみると、しっかりことに及んで清掃が必要な状態になってしまって艦長室を追い出された。仕方なく私はガーティ・ルーの格納庫に向かった。戦後を間近に控えるとあって、やはり準備には時間をかけておかなくてはならない。

「水天の涙」、かぁ。PS3を持っていないから、詳細わからないんだよな。でも、最終的にデラーズの援助を借りて、月のマスドライバーを使っての地上爆撃を仕掛ける手はずだから、恐らくNシスターズの一番大きいのかなぁ。マスドライバーはフォン・ブラウンにグラナダ、Nシスターズと3つ大きいのがあるから、其処の防備を固めておくぐらいしか方法考えられないし。

 あの作戦は、恐らく連邦軍の再編計画が議会を通過したばかりのころだったからあんなに派手に出来たんだろうけど、こっちじゃまた変わるだろうからな、とか何とか考えながら、格納庫の前に差し掛かると声が聞こえてきた。

「もう、あんたさっさと整備させなさいよ!」

「システムによれば、私のメカニックが出来るのはテューディ嬢のみです。セニア嬢。私は確かに一介のA.Iですが、入れる体が限られている以上、無茶なエンジニアリングを認めるわけにはいきません」

 格納庫の中を覗くと、ヴァイサーガの中のキットと、呼び出したメカニック、セニアが喧々諤々の論争をしている。どうやら、自分に出来ないことがあるとわかったセニアが、ヴァイサーガを実験台にして如何にかしようと考えたらしい。それを、現在の所キットのようなA.Iに対応している機体がヴァイサーガしかないため、喧嘩になっているようだ。

 セニア・グラニア・ビルセイア。魔装機神の登場人物である。論理飛躍可能なコンピューター、デュカキスを作成し、ガンダムを参考に驚異的な性能を誇る魔装機デュラクシールを作り上げた凄腕のメカニック・ハッカーである。もう一人魔装機神から、体がないために狂ってしまったんだったら体作れば良いじゃないの、とテューディ・ラスム・イクナートも呼び出してある。

 セニアが作ったデュカキスの論理飛躍可能なんてコンピューターとしては凄まじすぎる能力であることに気づいている人間は恐らくほとんどいないだろう、使える人材だと呼び出したが、メカマニアなところで意気投合してしまったのがうれしかった。テューディは体がなかったために、好きな男を作るわ仕事が充実するわの妹を恨んだのはそりゃしょうがないだろうと体を作ってみたところ、精神状態が一気に改善したことはうれしい。それに頼れるメカニック兼研究者を考えた場合、作った機動兵器の性能と人格からすると彼女ら二人がまず出てきた。

 正直、ビアン博士に任せた場合、無駄に剣戟のモーションが増えそうで。いや、好きなんですよ、時代劇。……おぅ、ヴァイサーガの強化に必須の人材じゃないか。でもなぁ、あの濃いのを呼ぶのもなぁ。かといってリシュウ・トウゴウの示現流は趣味じゃないし。

 それはともかく、彼女らはこれでもかという最強主義者なので、専用機にしても色々考えてくれるそうだ。一番うれしかったのは、彼女ら二人が「値段制限」という誰もが避けて通りがちなところにもチャレンジしてくれるところ。早速Nシスターズの太洋重工に席を用意させ、また専属メカニックを御願いすることとした。能力向上のポイントが洒落にならないくらいに高かったけど、それだけの価値があるのだ。


「テューディがお茶に行っている間にチョちょいと」

「……あなたのチョちょいがそれで終わったためしがないのですが」

「随分仲良いな」

 整備用の台の上でこちらを見るセニア、そして機体の頭部をこちらに向けるヴァイサーガことキット。うぉ、シュールだ。……あ、淡いブルー。イタイイタイゴメンナサイゴメンナサイ。ミニスカなんだから仕方ない……折れるってば!

 其処から始まる技術論の開陳だが、実際のところOG敵方ロボットに精通しているのはテューディの方。ハイ・ファミリアの作成が元となる精霊がいないため宇宙世紀世界での作成は無理なようだが、A.Iによる自立制御については問題がない事が判明。無理してファミリアを作る必要は無い、とテューディは言っていたが、それを聞いた私は少々不満顔だった。勿論、しゃべるペットを期待していたのである。

 ため息を吐いたテューディは、精霊の一欠けらでも見つけてくれば、イスマイルに用いた技術を使ってみる、と約束してペット好きな私を喜ばせてくれたが、あれは絶対に何かを考えている目である。まぁ、危険なことはしないといってくれたし良いだろう。なんか目が気になったけどアレはどういう意味かなぁ。……ははは、システムのバカ野郎に天然排除されてますから察しはつきますが、見たくないだけです。

「トール、あなたからもこのわからずやのバカA.Iに何とか言ってよ!」

「トール、あなたは私の意見とこのお嬢さんの意見のどちらを取ります?勿論、帰ってきたテューディのご機嫌も考える必要がありますが」

 頭が痛くなってきたのはここだけの話だ。

 当然、格納庫は重力管制区の外で、重力がかなり小さくなり、体重がほとんどなくなっている。それに気づいたハマーンが後ろから人の体を登ってきたが、とりあえず顔を頭の横から出したいと伝わってきたので黙認する。もういい加減何もでないわ。喜んでいる理由を考えるとなきたくなる。何が『エロスは程ほどにな』だよ……。しっかりLOルールでポイント減少かけてるじゃないか。

「アンタら!何しているの!」

「ゲッ」

「はぁ」

「これはテューディ、お帰りなさい」

 三者三様の返事を返すと、燃えるような赤い髪の女性、テューディ・ラクナートはため息を吐きながら言った。

「セニア、アンタまたヴァイサーガに手を出したね?まだマッチングの調整終わっていないんだからいじくるのはおやめってもう何度か言ったでしょう!キット、あなたもまともに付き合うんじゃなくて、わざわざそのマニピュレーターを動かせるんだから、つまみ上げて下におろすぐらいは出来ないの?」

「……テューディ、ヴァイサーガのプログラム内にはそういうプログラムはありませんし、私も未対応ですから、やったらセニアがプチッといって赤く染まります。あまりオススメ出来ません。……処理も大変そうです。オススメできません」

 テューディはため息を吐いた。

「トール、キットのA.Iはアンタのデザインでしょ!?どういう思考をインプットしたの!?」

 うお、矛先がこっちに来た。よし、元気に答えよう。

「学者系の老齢執事タイプ!たとえるならバットマンのアルフレッド・ペニーワース!しかしてその正体はグリッソムだ!」

「……あたしには如何見ても愉快犯に見えるんだけど。持ち主に似るんかねぇ」

 さすがテューディ。システムの秘密を知っている女性の中では年長組に……とか考えていたら頭の横を何かが通り抜けていった。あれー?髪の毛がぱらぱらして、何本か落ちていくぞー。

「一体どんな裏技」

「目よ目」

 ため息を更に重ねてからテューディは言った。いかん、いかんよ?ため息は女の幸せを……とか考えたら手に持った何かを構えたのであさっての方向を向くことにした。黙ったのを確認してテューディは続ける。

「……しかしまぁ、トールが持ち込んだ技術って完全に宇宙世紀の規格から離れてるわよね?特にワンオフ系の技術。あれ、かなり難しいわよ。オルゴン・クラウドも防御用にしか使っていないからあんまり実感できていないでしょうけど、ライフルやソードなんて一緒に使ってたら絶対にトラブルが発生するわ。技術的に遊びがすぎてる装備は特にそうね」

 ふんふん、と頷く。元々リアル系が好きだから、銃砲系や非実体剣とかの、技術的な遊びがない装備以外に関してはあんまり使っていなかった。と言うよりも使えなかったのが正しい。一年戦争中にアカシックバスターやブラックホール・クラスターかまして遊ぶわけにも行かない。

「っていうか、めちゃくちゃ賢いか運が良いわよ、トール。あそこまで戦えた理由が、あんたのリアル武器好きなんだもの。オルゴンクローだとか、オルゴンブラスターとか、あとはそうねぇ、分身とか使っていたら、絶対に途中でブレーカーが落ちたみたいになったはずよ。笑えないわ」

 なんだ、命助かった理由がそれか……そうか、今までの転生者の第一の関門がこれか。曰く、『俺Tueeeeeeee!に落とし穴アリ』……どこのホーク・ロイザーだ。しかし、大きな前進だ。テューディとセニアがいれば何とかしてくれるはず……

 そういって見つめると二人とも胸を張った。おおぅ、セニア意外に胸がある。ステータスだと思っていたのに。あれか、SFCの魔装機神ではなかったけど、新しいDS版LOEが出るにあわせて増りょ……とか思っていたら胸から何か浮かんできた。……ああ、パッドらしい。そうか、セニアはそういう

「記憶を失ええええええええええええっ!」

 其処からの記憶があいまいなのだが、とりあえず、よしとしよう。

 一年戦争が終了したことで、歴史どおりなら60億近くの人間が死傷した戦争は8億の被害で終結した。これによりポイントとして、うれしいことに250万と言う巨大なポイントを得ることが出来たが、これからを考えると決して多くはない。これに連邦軍の腐敗減少とララァの生存、スペースノイドの独立をあわせて290万近いポイントとなったが、新たな問題も考えると、使いどころは慎重になる必要がある。まぁ、セニアとテューディに早速30万使って能力Upしたけどさ。

 最後の戦いでマット・ヒーリィ中尉を救出することが出来たが、ティターンズがEXAM機を入手し、初期型とはいえファーヴニルを獲得しつつあり、アウターガンダムで描かれた無人MSについてもタッチしていることがわかった以上、グリプス戦役が始まるまでにはティターンズとの暗闘が中心となっていくだろう。結局、マット中尉もティターンズ所属から撃墜されての行方不明扱いになってしまった。……正常な状態に戻るまで、ナノマシンを使っても1年はかかるらしい。

 ゴップ大将は離任して連邦政界に打って出る事を望んでいたが、戦後の連邦軍の軍政に不可欠の人材であるとして、その退任は83年まで延期されることとなった。これはとてもありがたい救いとなる出来事だが、あまり深く付き合いすぎると、連邦内部の政争で大将の地位も危うくする可能性が出てきたため、独自に動く権力を持つことは重要だろう。この点、閣下と話して連邦内部に一勢力を、ジャミトフ相手に作り出す必要がある。

 そのため、地球では樺太基地をランドルフ少将の指揮下に保持することと、宇宙では月面に基地を持つ、連邦軍の憲兵隊としての地位を望んでみた。しかし、やはり難しいとの事。憲兵隊がこの一年戦争で壊滅しているため当初問題はそんなになかったらしいが、議会の一部から圧力がかかり始めているらしい。ジャミトフか?いや、KATANAを考えるとあのヤクザ組織が何かをしたのかもしれない。頭でっかち恨み骨髄のツルギ中佐か、あんまり相手にしたくないなぁ。

 戦争が終了したことで改めてシステムと向き合ってみたが、やはりこのシステム、こちら側に隠していたことがあるようだ。

 ミスマッチングの問題が最大の落とし穴だが、そもそも宇宙世紀という歴史上、あまりにもかけ離れた技術体系の導入はしてほしくないと考えているらしい。勿論、NTや強化人間、それにおそらくこれからは数的に優位に立ってくるだろう勢力と戦うためにはそれが必要なのだが、安易な技術のインフレは避けたがっているらしい。

 解らないでもない。技術体系というものは元となる技術があり、それが研究されて発展していくもので、たとえるならば樹木の成長といったところだろう。しかし、ここに新しい技術が来る、というのは、単に樹木を移植するというレベルではなくて、違った生態系を丸ごと移植する、と言うのに近い。システムが避けたがるのも当然だ。最大のそれ―――ミノフスキー物理学を既に経験している以上、解らない話ではない。

 色々調べてみると、ポイントキャラクター強化機能の方が却って使えることが判明した。先ほどのミスマッチングの問題もこれでどうにかなるらしい。なので早速使用したわけだ。魔装機については、おいおい考えていく必要があるだろう。何気に、セニアだけでも充分だろうと思う人が多いだろうが、技術を入手してテューディを呼んだ最大の理由は、バラバラにしないと勝手に再生を始めてしまうなんていう、魔装機版デビルガンダムのイスマイルが欲しかったからだ。宇宙空間でMSの四肢を失うことがあそこまで響くとは思わなかった。

 ……流石に乗り手を侵食しかねないDG細胞は避けたいので、似たような技術を持っている機体を考えて出てきたのはこれだったと言うお話。良い機会だからマサキとウェンディも呼ぶか?しかし、あの方向音痴のトラブルメーカーを考えると、グリプス以外で呼べないな……不明機との戦闘でボンとかいや過ぎる。

 システムでステータスを確認するとミスマッチングもポイント強化でどうにか出来るようだから、やはり戦力をどうポイントを使って整備していくかが重要になる。オルゴン・クラウドとラースエイレムに救われた事を考えると、異星人技術のマッチング問題は絶対に解決しておかなければならない。システムによると、キャラクターの素の能力も関係ある、との事だったので、やはり主人公級、あるいは能力的に優れたキャラクターは必須になっていくのだろう。技術レベルはどうにかなっているが、私自身の技能レベルがお寒い限りだし。

 というか、改めて見たけど、よくこんな技能レベルで生き残れたよ、ホント。ポイントも溜まった事だし、訓練訓練の毎日だな。

 しかも、成長性で獲得できる能力にポイントを使えば、そのポイントは無駄と言うことになるらしい。ソーラ・レイの際にハマーンにプレッシャーを避けさせるためにポイントを消費したが、システムによれば、年齢向上と共に、NTにはこうした措置は必要なくなってくるらしい。感受性の強さと比例するデメリットのため、下手にポイントでシャットアウトすると、レベルが高くても総合値としてのNT能力が下がる結果につながるという。

 拡大による技術量、能力量というよりも、質が問題になってくると言うわけだ。こりゃ頭が痛い。

 そんな事を考えていると格納庫にシーマ姉さんが入ってきた。どうやら、一年戦争が無事終了したと言うことで海兵隊主催の宴会に入るらしい。姉さんはア・バオア・クーでの撃墜で酒が飲めないことを悔やんでいた。良い薬だと思ったのは秘密にしておく。

 まぁ、今は戦争の終了を祝いましょう。でもなぁ。

 背中で寝ているこのピンク色を如何しよう?


 トール・ガラハウ改めミューゼルの一年戦争は、桃色で終わったのである。



ーーーーーーーーーーーーー
申し訳ありませんがEXAM機との戦闘をスルーしました。これで一年戦争編終了であります。





[22507] 設定集など(31-37話まで)
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2014/07/27 07:34

 UC0079年12月24日(31話)
 *「光る宇宙」の内容が変わっています?(現段階ではGPになりません)
 *ドロス級三番艦ミドロをキシリアが使い潰しました!GP-5000
 *キシリア・ザビが蠢いています!GP -30000!
 *シムス・アル・バハロフに撃墜されかけつつ、撃墜しました!GP-2500

 GP333100 → 308100
  ・武装生成:25000 フォトン・ライフル(改)を生成しました。


 UC0079年12月24日(32話)
 *キシリア・ザビが蠢いています!GP -30000!
 *ギレン・ザビがグレート・ジオングを投入しました!GP-5000

 GP308100 → 273100


 UC0079年12月24日(33話)
 *キシリア・ザビが蠢いています!GP-30000!
 *ギレン・ザビが暗殺されました!GP -----
 *キシリア・ザビを拘束しました!GP10000入手!
  → キシリア部下化による毎話GP-30000がなくなります!
 *デギン・ソド・ザビが生きています!GP50000入手!
 *セイラ・マスとの間に???フラグaを立てました!GP5000入手!

 GP308100 → 208100
  ・BPOG製造技術i:60000 ラ・ギアス系機体・技術の製造が可能になりました。
  ・オリジナル・キャラクター(専用機用AI):40000 AI「K.I.T.T」が誕生しました。


 UC0079年12月24日(34話)
 *エギーユ・デラーズがデラーズ・フリートを少し変えて結成します!GP30000入手!
 *アナベル・ガトーが主人公勢力に参加しました!GP----(戦後にて変化)
 *ア・バオア・クーで停戦協定が発効しました!GP50000入手!
 *連邦軍がEXAM機を投入しました!GP-25000
 *連邦軍が強化人間を投入しました!GP-25000
 *マット・ヒーリィが強化処置を施されました!GP-3000
 
 GP235100 → 115100
  ・セニア・グラニア・ビルセイア(LOE):20000+40000
  ・テューディ・ラスム・イクナート(LOE):20000+40000(肉体の実体化含む)
   → 一年戦争中の召還数は残り1名です

 
 UC0079年12月24日(35話)
 *シャア・アズナブルとの戦闘に勝利しました!GP30000入手!
 *シャア・アズナブルにトラウマフラグaを発生させました!GP5000入手!
 *シャア・アズナブルとの対立フラグaを立てました!GP5000入手!
 △MS戦闘経験Lv.5:----- MSでの戦闘経験が一定段階に達しました!
 *アムロ・レイとの友好関係フラグaを立てました!GP5000入手!

 GP160100 → 160100


 UC0079年12月24日(36話)
 *ミスマッチング問題発覚!技術的問題が現実に回避されない限り、生成機体は能力に制限を受けます。
  → この問題は生成した各機体に生じます。機体の性能・使用技術よって、キャラクターの能力が要求されます
  → 調整には10日の時間とメカニックを要します。
   ・G.P社:重装機兵ヴァルケン系技術とマッチングが可能です。
   ・三人娘:PT系技術、Seed系技術とマッチングが可能です。
   ・ミツコ・イスルギ:DC系機体とのマッチングが可能です。
   ・メイ・カーウォン:ジオン系技術と連邦系技術のマッチングが可能です。
   ・セニア・グラニア・ビルセイア:ラ・ギアス系技術およびPT系技術とマッチングできます
   ・テューディ・ラスム・イクナート:ラ・ギアス系技術およびシャドウミラー系技術とマッチングできます
 *TMシステム(トランザム・マスタング)を使用しました!
  → 派生効果『エロスは程ほどにな』:衝動が抑えきれなくなります。また、7日間はシステム任意で伝染します。
 *ガーベラ・テトラ改が損傷を受けました!GP-5000
 *プルサモールが損傷を受けました!GP-5000
 *トール専用ゲルググが撃墜されました!GP-15000
 △MS戦闘経験Lv.6:----- MSでの戦闘経験が一定段階に達しました!

 GP135100 → 135100


 UC0079年12月最終週(37話)
 ■一年戦争が終結しました!決算です!
 *地球圏の総人口は111億です!GP2500000入手!
  → 成績評価:A
  ・キャスバル・レム・ダイクンと対立状態?です。アムロと同じぐらい嫌われる可能性があります。
  ・キャスバル・レム・ダイクンにトラウマを与えています。アムロ以上に嫌われる可能性があります。
  ・ミスマッチング問題発覚!技術的問題が現実に回避されない限り、生成機体は能力に制限を受けます。
  → この問題は生成した各機体に生じます。機体の性能・使用技術よって、キャラクターの能力が要求されます
  → 調整には10日の時間とメカニックを要します。
  → ポイントにより、マッチング可能な技術が増えます!
   ・G.P社:重装機兵ヴァルケン系技術とマッチングが可能です。
   ・三人娘:PT系技術、Seed系技術とマッチングが可能です。
   ・ミツコ・イスルギ:DC系機体とのマッチングが可能です。
   ・メイ・カーウォン:ジオン系技術と連邦系技術のマッチングが可能です。
   ・セニア・グラニア・ビルセイア:ラ・ギアス系技術およびPT系技術とマッチングできます
   ・テューディ・ラスム・イクナート:ラ・ギアス系技術およびシャドウミラー系技術とマッチングできます
 *連邦軍が歴史よりも腐敗していません!GP120000入手!
 *スペースノイドの独立が避けえません!GP80000入手!
 *ララァ・スンが生存しています!GP50000入手!
 *以下のボーナス技能を主人公は獲得します
  ・フラグ建築士:"フラグ"が建築されます。内容についてはシステムの気分で決定されます
  ・天然排除能力:"天然"な気分は排除できます。ヒロインたちからの好意を感じて胃潰瘍になってください。
  ・修羅場決定:"修羅場"になることが回避不可です。開き直るか胃痛になるかしてください。
  ・蒼い衝動:若いんだから頑張りなさい。元々持っている倫理観とあわせてKu/Ru/Shi/Me
  ・エロスは程ほどにな:TMシステム使用後7日間、桃色イベントの発生確率が主人公および周囲で上昇します
 *マット・ヒーリィの救出に成功しました!GP5000入手!
 *現在時期が"一年戦争"から"戦間期前期(0080-83)"に移行します!
   → 戦間期前期の召還数は残り31名です
 *主人公が「LOルール」を大幅に逸脱しました!GP-30000


 GP2860100 → 2560100
  ・ポイント強化:150000 セニアの能力が向上しました!
  ・ポイント強化:150000 テューディの能力が向上しました!




[22507] 第38話(R15 戦間期前半)
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/12 11:25
 UC0080年1月1日。月面恒久都市アンマンにて正式にジオン、連邦間の休戦協定が成立。ここに、一年戦争、別名をジオン独立戦争は終了した。

 カラマ・ポイントに集結した艦隊はドズルの待つアクシズに大半が移動したが、ギレン派であるデラーズはこれを拒否し、サイド5のあるL1ポイントにある重力溜、暗礁宙域に身を潜める事を決定した。デラーズ・フリートの結成である。

 シーマ艦隊も勧誘を受けたが、水面下でのジオン残党の支援を行うため、と称して月面とゼブラ・ゾーンに潜伏する事をデラーズに伝え、Nシスターズにその本拠をおいた。以後数年間、完全に活動を潜める事を連絡し、潜伏することとしている。また同じ月に太洋重工はこれまでグラン・パシフィック社とダブルネームを使用していたが、以後が社名をグラン・パシフィック社で統一する事を発表。以後、GP社として軍需産業の一角を占めることになる。

 同年6月。アフリカで反抗を続けていた公国軍のうち、降伏に応じた部隊の武装解除がエジプト、および南アフリカで行われたが、公式発表とは異なり、アフリカ各地にいまだ多数の残党が潜伏している状態が変わらず、これら残党に対処するため、連邦軍治安部隊は以後、アフリカ・キリマンジャロ基地を本部としてアフリカ大陸の残党制圧に乗り出していくこととなる。



 
 第38話



 戦争が終わって半年、再度月面に、トール・ガラハウとしてではなくトール・ミューゼルとして居を落ち着けた私は今、修羅場の真っ最中にいる。目の前ではようやく面と向かって向き合ったハマーンとミツコさんが火花を散らしているのだ。話の内容も黒い黒い。一年戦争も数えて一年半で知性と美貌を遺憾なく成長させたハマーンは、『エロスは程ほどにな』事件以来、少女から大人になる直前の姿を惜しげもなく使ってアプローチを仕掛けてくる。ミツコさんにはそれが我慢ならないらしい。

 いつか、その点について年齢変更できるんだからミツコさんやってみたら、といったら涙を流して怒られた挙句、ロリババァ形態に変身して三時間ほど説教を受けた。どうやら、自分自身で今の自分が最盛期だと思っており、それに自信も持っているが、やはり隣の田んぼが青く見えてしまうのが自分でも気に食わないらしい。……いや、その後で勿論おいしくいただきましたよ?……もう知るか自重しない。というか、賢者モードを維持しておかないと……

 話がそれたが、肉体関係こそ結んでいるのにスキンシップなどの接触の総量はハマーンが優位を維持している状態が彼女には―――というか、一年戦争中以来の張り付き癖がエスカレートしているのだが―――気に食わないらしく、公式なパーティでもなければ二人きりになれないことが嫌なのだそうだ。近頃ではどのようにしてハマーンを排除するかに頭を悩ませている。こういう時は黒さよりも可愛さの方が立つんだからなぁ。

「……あれ?これいい傾向じゃないの?」

「……その発言の真意は色々気に食いませんが、まぁ、トール。これで我が社の看板商品が売りに出せますわ」

 ため息を吐いてそう言ったミツコさんの言う看板商品とは言わずもがな、OGシリーズの敵ロボで大多数を占める、リオンのことである。OGシリーズの「The 雑魚」とくればリオンというぐらいにメジャーなアーマードモジュールだ。

 アフリカの奥地にひっそりと暮らすジオン・ゲリラの燻り出しには流石の連邦の大兵力もてこずっているようで、AE社とGP社に地上で用いられる空中運用可能なMSの開発を持ち込んできた。確かに、歩いてのこのこ移動するのにアフリカは広すぎるし、気候も辛い。敵を見つけても戦力を集中させている間に逃げられてしまうし、来年中に汎用MSとして採用が決まるだろうGMⅡを機動的に運用するための環境を整えるなど、お金がかかりすぎるのだ。

 だから、空を飛べるMSでレッツ・ゴーという訳なのだが、早速AE社がこけてくれたのには大爆笑した。アッシマーの原型らしい機体を出してきたが、大型過ぎて取り回しが難しく、また変形して飛行する段階で盛大にこけた。そのビデオをどこからか入手してきたミツコさんが、このたびめでたくゴップ大将の退任準備の一環で兵站総監部総監となったマネキン少将に、

「なにこれ?出来の悪いコントですわね。我が社の製品を信頼しないからこうなるのですわ、少将。いい加減、あのバカどもとは手を切ったらいかが?」

 と嫌味を炸裂させていた。勿論マネキン少将も手を切りたいが、手段を選ばぬロビー活動と箱の存在が、まずAE社を選択させているらしい。しかし、今年からは移民問題評議会にカナーバ下院議員とグリーンヒル上院議員が入るのが決まったこともあり、公正なトライアルが始まりそうなことも確かだ。

 そして、このアッシマーの原型に対してミツコさんが売り出したのが、リオンなのである。飛行可能な段階まで極端に軽量化を推し進め、33tまで軽くした機体に90mmマシンガンとグレネード、オプション装備でレールライフルまでつけられる。ジェネレーターも小型化する必要があるため、ビームライフルこそ運用できないが、性能的には「空飛ぶ陸ジム」である。こんな商品が売れないはずが無い。

 また、投入される戦場を共通規格のバリエーション機によって選択できることも評価された。またそのバリエーションも豊富で、砲撃戦用のバレリオン、海中用のシーリオン、指揮官用のガーリオンと仕様の変更で多様な重力下環境に対応でき、しかも整備部品が完全規格化されている点は買う側としてもお得だった。市場の会社別需給バランスを考えて宇宙用のコスモリオンは出さなかったが、それでも、地球上に展開する連邦軍では貴重な機動戦力としての位置を占めるだろう。

 目の前で、モニター時代から考えれば何度目になるか解らない喧嘩(本人たちによればじゃれあい)を尻目に部屋を出ると、格納庫に足を向けた。恐らく、この時期の目的はデラーズ・フリートのコロニー落としによる北米への被害軽減だ。アレで北米の穀倉地帯が全滅し、地球全体規模での食糧難が発生、治安状態は一気に悪化し、連邦政府への反感が高まるからだ。

 それを阻止するためには色々準備をしなければならない。

 まずはリオンの完成にミツコさんが喜んでいるのはわかるが、地上用のMSを開発し、それが連邦軍に採用されると言うことは、間接的にジャミトフの戦力をアップさせることになる。となると、OG世界でリオン系アーマードモジュールが世界を席巻した最大の理由、テスラ・ドライブが問題になる。使い安すぎ、応用が利きすぎるのだ。さすがビアン・ゾルダークというべきか。

 そのため、テスラ・ドライブはまだブラック・ボックスにしたい、だからミノフスキー・クラフト技術で代用することとし、代わりにミノフスキー関連技術発展を加速させたが、無計画な転用を防止するため、それなりのジェネレーター出力を必要とすることとさせた。この難しいにも程がある要求を叶えてくれた人間にはぜひとも礼を言わなくてはならない。

「あら、何しに来たのよ、トール」

「いや、お礼を言いにね、セニア」

 セニアにはこの半年、本当にお世話になった。勿論テューディもそうなのだが、ワンオフ機体専用のメカニックと順調にマッドになりつつある彼女はやはり怖い。また、年齢も私のこちらに来た年齢と同じくらいの27歳のため、あっちの願望が強く、会った際には必ず退路を確保しておかなくてはならないのだ。結婚を前提としたお付き合いではなく、結婚を確定させるための襲撃とかないだろ。……胃が痛い。まぁ、いい。いや、良くないがいいのだ。

 それに、セニアには趣味的にも一致したところがある。メカ論議だ。

 だって、ミツコさんは売れるか売れないかでしか話にならないし、ハマーンはそもそも話がわからない。話していて面白くないのだ。メカ好きとしては。誰しも茶のみ話で考えないだろうか?「ボクノカンガエタサイキョウノガンダム」とか。実際、セニアのそうした面は、能力の面ではともかく思想的に問題がありすぎるような気がしてならないビアン博士と比べても遜色ない。彼女とテューディのおかげで、バンプレスト・オリジナル系機体のマッチング問題が一気に解決したのだ。そして、今回のリオンの件もそうである。

 え、テューディ?話した途端に話した内容の機体の作成を始めるから2,3度話した後は回避回避。

「ふっふーん、どうよリオンは!?アンタの無茶な要求、全部通してあげたんだからね!感謝しなさい!」

「ミツコさんも大喜びです。ありがとうございます……」

 時代が平穏となったことで暇になったおかげか、ミツコさんが、ただでさえ様々な制限をかけたものだから、それを理由に色々とちょっかいを出してくるようになったのだ。今回も、あんまりテスラ・ドライブを公開したくないといったら「飛べないリオンは鉄くずですわ!……年100回+で手を打ちましょうか?」とかいって来た。そんな条件飲みたくない。

 それを如何にかしてくれたのが目の前のセニアだ。本当に感謝感謝。確かにリオンは優秀で、テスラ・ドライブが不可欠なのもわかる。しかし、重力を軽減して浮遊するって言うところがヤバいんだよ、ミツコさん。格子状態に粒子を並べてその上に「乗る」形になるミノフスキークラフトと、重力そのものを軽減させてしまうテスラ・ドライブは流石に……

「まぁ、ねぇ。一歩間違えたらブラックホール・クラスターだもんねぇ」

 思わず内心が漏れていたようだ。そう、この以心伝心の発想がメカ好きでないものにはないのだ。うれしくなった私は思わずセニアを抱きしめてしまった。ミスマッチング問題を解決してくれたことといい、テスラ・ドライブの問題を如何にかしてくれたことと言い、そしてこの考えの合うことと言ったら!料理の腕さえ見なければ、性格の合うこと最高の女性である。

 ……そして、抱きしめた後で思い出したが、こういう行為が地雷を自分で埋設して自分で踏み抜いていることに気がついて蒼くなった。ここら辺、ハマーンとのスキンシップが多すぎるので基準がいい加減になっている。反省だ。

 などと思っていたらセニアの力が抜けてくたっとなってしまった。いかん、力を入れすぎたらしい。顔を真っ赤にしてのぼせたような感じになっている。むぅ、脇を強く締めすぎたか?……背筋に走る感覚。前に何度か感じた感覚だ。……まさかなぁ、ミツコさんやハマーン、テューディはそれなりに重い理由あったけど、セニアにはなぁ……。

 まぁ、いい。深く考えたくない。システムにまで胃潰瘍になれとか言われるとか、呼んだのお前だろとか突っ込みたくなった。開き直れとか言われたが、それをすると攻撃してきそうだ。男だから心が動かされたのは私だけの秘密……だったが即座にバレた。

 倒れたセニアを胸に、廊下の奥からかけてくる二人をNT能力で捉えた私は、静かに覚悟を決めた。


 さて。格納庫に来た本当の理由は別にある。……と言ってももう皆さん信じてくれないでしょうね。ええ、僕の責任ですよ。格納庫を開けたらセニアを抱いた私の姿。これ以上ないくらいに浮気現場を押さえられた亭主って感じですね。ハマーンは人の心を読んで真実知っているくせに黙り込んでミツコさんの誤解を誘発させるわ……微妙に黒くなっている今日この頃です。

 それはともかく……頬が痛いのは無視しますが、別の理由を見てみます。……さ、気を取り直して。

 ア・バオア・クーで専用機を失ってしまった私とハマーンの新しい機体、そして新しい量産機の相談がここに来た目的。ジャミトフ一派がEXAM搭載機を運用し、一部機能がファーヴニルを再現までしている事を考えると、強化人間の投入とその使用するMSの能力は原作以上と見なくてはならない。

 それに、セニアやテューディだけがマッチング可能な現在の状況も如何にかしなくてはならない。二人にはリオンの整備マニュアルもまとめてもらわなければならないのだ。実際、セニアいわく、ポイントで機体を生成しても、実機のすり合わせを行わないと性能が発揮しにくいらしい。そもそもが色々な系統の技術を混ぜ込んだため、調整しない限り実戦には耐えないと言うわけだ。やはり、専門家の協力って必要だなぁ、と再認識させられてしまった。

 テューディはテューディで初めて得た自分の体に精神的にまっすぐな人に更正してしまった。どうやら、自分の体を手に入れることが第一のようで、イスマイルにしても体の所有権をウェンディ嬢に主張するためのものだったらしい、曰く「私はサイバスターより強いのが作れる」のだそうだ。マサキのことも、あんだけ執着していたのに「ウェンディのだからいらない」とか言ってますよこの人。

 けれども、流石に妹を恨み続けるなんてバカらしい、という事を体を手に入れたことで気づいてくれたのは良かった。それに、開発環境を整えて力を発揮できるようにしたことで逆に感謝されてしまった。別個の人格となったことで、ウェンディに申し訳ないなんて言葉まで出てきたときには耳を疑ったのは内緒だ。

 というか、ミスマッチング問題が一気に解決したのはとてもうれしかった。これならさっさと呼んでおくべきだと思ったが、まぁ、今は仕方がない。しかし、やっぱり後方支援体制の完備が戦争には絶対必要だと改めて思いました。え、機体の話?如何話しても修羅場にしかならないからさっさと逃げてきたよ!何が悲しくて自分の基地でスニーキングしながら逃げなきゃならんのだ!?

 さて、何とか部屋に逃げ込んで新聞をめくると回顧記事のオンパレード。連邦軍もイメージ回復に躍起である。今日はア・バオア・クー戦が特集され、「連邦軍と戦闘を続けるジオン軍を鎮めた、"最後の勇将"ガラハウ少将」とか、「ジオン軍最後の切り札――"キケロガ"」とかいう見出しが躍っている。あんまり人目につかないようにしていたんだが、と思いながら紙面を置いた。何でグレートジオングの名前がキケロガになっているんだよ、と考えつつ、このところ買い集めている軍事雑誌を手に取る。

 結構な目撃者はいたようで、ミリタリー・マガジンなどを見てみると、「トール・ガラハウ少将専用ゲルググ」として巻頭カラー掲載されていたり、「ア・バオア・クーの白い妖精」などとハマーンのプルサモールがセンセーショナルな記事で踊っている。ジオン系MSについてはミリタリーファンには垂涎の的らしく、あまりにも出所を知られてしまったので、使いどころがなくなってしまった。ドズル閣下に協力する時ぐらいにしか使えない。

 そしてEXAM機との決戦に使ったヴァイサーガもそうだ。EXAM機を運用するだろうティターンズに敵だと思われているから、戦間期には使えない。使えてもグリプスまで待たなくてはならないので、Zガンダムのアムロがディジェを使っていたように、中継ぎの機体が必要なのだ。せっかく高いポイントを使って作ったのに。

 さて、そろそろ二人もどこかへ行ったはず……ハマーンの探知を避けるためにダンボールを装備していこう。

 ダンボール効果か、格納庫隣の技術関連施設に二人の姿はない。セニアかテューディの姿を探しつつ移動すると、設計机にセニアがいた。片づけをしている様子。話しかけてみる。話題には気をつけないとな。

 なぜかと言うと、私の場合ごてごて飾りがついた系列のロボットは好きではないのだが、それを言うとセニアとミツコさん双方に怒られたことがあるのだ。ミツコさん曰く「機能的な美も重要ですが、男性が使うことの多いロボットは、見た目が重要ですわ!売り上げが数%違いますのよ!」だし、セニア曰く、「格好良いは正義!見た目で大義が決まるのよ!」とのこと。ジム顔=正義側量産機というイメージもあるし確かに納得したが、だからと言って無理やり突起を多くしたような魔装機のデザインをされるとちょっと……とかいうと殴られた。言ってはいけないことだったらしい。

「トールは丸っこい機体がすきなの?」

 セニアは設計図が散乱した机を片付けながら言った。

「んー、いや、別に。実用性ある機体が好きかな。マオ社製にしても、ミツコさんの所にしても、試作機って色々設計的に無駄な部分あるじゃない。量産や整備性を考えるとそういうのは消えてくけどさ。試行錯誤の結晶としてはアリなんだけど、実際に使う番になると、あの突起って正直邪魔なような気がして。私の操縦下手のためかもしれないけど」

「あたしのデュラクシールはどうよ!?」

「グリプスあたりじゃ乗りたいな。……素直にガンダム作れば?」

 セニアはあちゃーという顔になる。やっぱ言われたか、誰かに。

「だってさぁ、アレ、兄さんのために作ったんだよね。でさ、兄さんに乗ってもらうんだから強いのに乗ってほしいじゃない?だから、地上人の乗ってた最強のガンダムに似せたし、色々くっつけたんだけどね……結局さ、あんなことなっちゃったじゃない」

 ふむ、と考える。セニアの兄、フェイルロードはデュラクシールの力に魅せられ、自分の短い生涯で地中世界ラ・ギアスを纏め上げようとした。本人としては出来ようが出来まいが命を燃やし尽くせればそれでよかったのだろうけど、残される人間、特に、自分の作った機体が引き金を引いたのではないかと考える人間はたまったものではないだろう。原作でもマサキ・アンドーにそれを否定されているが、こういうのは親しい人間、事情を知っている人間ほどやりにくい。

「デュラクシールの外見が問題だったな」

「へっ?」

 セニアは顔を上げた。今まで考えていたのはデュラクシールの性能のことばかりで、まさか外見なんてところに突っ込んでくるとは思ってもいなかったのだ。

「ガンダムに似てるだろ?ガンダムは俺も見てきた、というか死に掛けたとおり、良くも悪くも一年戦争を変えちまったほどのMSだよ。そんなものと同じ顔が、しかも他のどの機体よりも強いって触れ込みで前に出てきてみろ。気の迷いも出ると思う。男の子なら考えないほうが如何にかしているさ」

「でもさ……」

「残酷な事言う様だけどさ、お前さんが作んなくても、誰かが作ってたぞ。あの時代のラングラン王国には、カークス将軍の作ったエウリードやらゼツ博士の作った名前忘れた奴……ああ、ガッツォーとか、似たような性能のがあるからな。テューディのイスマイルとかもそうだ。どれかに当たれば同じ結果だよ」

「でもさ……だったらなんであたしの?」

「むしろそれでよかったんじゃないか?」

 トールは言った。セニアが心配になり、頭に手を置いてがしがし撫でてやる。

「妹が、自分の為に作ったマシンで死ねるんだぞ。他の誰かがバカな考えで作った代物じゃなくて。だからこそ、フェイルロードもそうしたんじゃないか?まぁ、ただの勝手な推測だけどな。辛気臭い顔すんなよ。なんなら呼んでみるか?」 

 セニアがハッとした顔になった。そうだったのだ。この男のシステムを使う能力があれば、呼び出せるじゃない。ポイント制チートシステム使うんなら、体だって治せる。悩んでいた自分がばかばかしくなった。気が付くと、苦笑しているトールがこちらを見ている。

「なによ」

「いやぁ、まぁ、なぁ。かわいいと思ってさ」

 セニアの顔が赤くなる。まぁ解りやすい。しかし、好感は持てるんだよなぁ、こういう性格。それに、話していて楽しいし、メカ談義を心置きなく出来るって素晴しいぞ?

「ど、どうしてよ?みんなモニカの方が……トールもミツコやハマーンがいるじゃない」

「まず、俺は天然は趣味じゃない、疲れる、アンネ姉さんだけで御免。それからミツコさんは真面目モードの時は考えていることがわからなさ過ぎるから、相手にすると疲れて仕様がない。心地よくはあるし、解り安過ぎる時もあるけど、疲れる方が多いな、ハマーンがいるし。逆にハマーンはダダ漏れすぎて仕様がない。プライバシーもクソもない生活って、結構辛いぞ?もう開き直って、嫌われようがどうなろうが知ったこっちゃないぐらいに思うしかなくなる」

 ふんふん、と頷きながらこちらの話を聞いてくれるセニア。また其処が良い。ハマーンは言葉を交わすより直接意志の疎通を図りたがるし、ミツコさんは聞いてくれない。いや聞かせられるようにすることは出来るんですけどそのためには心と別な部屋と防音設備の準備が必要で……まぁ、そういうときのミツコさんも可愛いんだけど。ロベルタのところからメイド服借りてきた日になんかはもう……おっとっと。

「けど、こっちとしては生まれてこの方、そんな苦労はあまりせずに、他人と言葉を交わして生活してきたわけじゃないか。そうした生活だと、相手が相手の考えを読み解いたり読ませたり、または読んでくれること前提の掛け合いってのがあるよな?そういうの、あの二人とはほとんど無理だもの。ジオンや連邦にいたときは部下とかの付き合いで補完出来てたけど、月にこもってからだと久しぶりだぞ?」

「なるほどねぇ、今昔を時めくトール・なんとか少将さんも苦労しているのね」

 トールは頷いた。なんとかは酷いと思ったが、ガラハウとミューゼルを使い分けていた身からすると何もいえない。

「だったら……酒よ。テューディ呼んで一緒に飲む!あの二人、飲めないでしょ!?」

 むぅ。ため息を吐くとトールは言った。

「ミツコさんは飲めるけど酒の趣味が合わない。私は飲めるけど、味があんまり好みじゃないからビールに日本酒とワインは避けたいのに、基本会食じゃワインだしな。味わからん。ハマーンは飲ませたらいけません」

 セニアはうんうん頷き始めた。後ろからハイヒールの音。こんな場所でハイヒールを履いて作業するなんて一人しかいない。

「あら、テューディ良いところいるじゃない。酒よ酒!トールのおごりだってさ!」

「……ふうん。トール、あんた飲めるの?」

 私は頷いた。どちらかと言うと強いほうが好きなので、あの二人と一緒だと飲めないのだ。おごりがいつの間にか決定しているところがどうかと思ったが、別に女性二人におごるくらいはなんでもないだろう。セニアとかそんなに飲めそうにもないし。

「……ふうん。セニア、前の話、乗るかい?」

 セニアは頷いた。後になって、ここで何を飲もうかなどと考えていた自分が恨めしい。ミツコさん相手で飲めない酒種で苦労していたから、やっと自分の好きなのが飲めるのだ。うきうきしていても罪ではないでしょう?

 翌朝。色々と難しい状態になっている部屋と、入り口でにらむハマーンを前に戦慄の朝を迎えることになる。


 てへ。








[22507] 第39話(R15)
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/11 10:20


 あの後、ハマーンが不満そうで、ミツコさんの落雷が怖かったものの二人とも意外に何とかなってしまった。

 何を考えているかと思ってリーディングしてみれば、ハマーンは不満そうな顔の裏側で泣きそうになっていたのでかなりへこんだ。しかし、同時にあと三年とか考えているところに恐怖。僕は20歳前の女性には二度と手を出さないんですよ!とか考えていると、日本の法律ではとか言い出し始めた。……其処まで深く読まれていたのかよ。

 ミツコさんのほうは二人の技術的能力がもはや切り離せない段階まで来ているし、そもそも利益目的ではないから良い、と言ってさえくれた。この2年、NT能力がハマーンのおかげか高まっているため、かなりミツコさんの内心を読めるようになったのだが、本気でそう思っているから困る。

 詳しく話してみると、戦場での手助けが出来ないことがもどかしくてしょうがないそうだ。自分に出来るのが金銭面や政治面など、戦争に直接的に関わる分野ではないため、生命そのものがかかる戦場での手助けをハマーンやセニア、テューディに任せている現状が、口惜しくてしょうがないらしい。

 勿論彼女もPTなどの操縦技術は持っているが、実戦で役に立つほどではない。それを自覚しているからこそ、戦場で戦う兵士が戦場での信頼できる異性の人間と、そうした行為に走るのも当然だと考えているらしい。

 もっとも、月から地球に戻った際とか、自分で決めた日には絶対に手出しを許さないから、ツンデレかとか思ったのは内緒だ。しかし、同時に自分が何かを言い出すことで今の関係が崩れる事を怖がってもいる。どうやら、彼女にとっては現在の位置である、トール・ミューゼルの経済的後援者にして妻、という立場が守られることが必要らしい。

 だから、利益関連という自分と似た人間は嫌だったのか。自分の今の居場所が取られるかも知れないから。……セイラを嫌がるのはそのせいか。これを知った時には不覚にもじーんと来てしまった。ちなみに、その事を知った日にミツコさんと激しく致してしまったのは反省だ。リアルに一線越えたナナとカオル状態である。喜んでくれたのは良かったが、抜け出せない沼地に嵌ったような気がしてならない。あれ?

 さて、リオンシリーズの売れ行きがよく、地上ではGMⅡ以上に活用されているため、連邦軍での月面駐留軍の立場や私の立場がどんどん強化されていくのが怖い。昇進こそ身動きが取れなくなるために断っているが、ついにアフリカの残党討伐軍までリオンの運用を開始して成果を上げ始めた。戦闘ヘリ的な運用がされており、リアルに「逃げる奴はジオンだ!! 逃げない奴はよく訓練されたジオンだ!!」をやりやがったバカ(どうやらバスクらしい)まで登場する始末。何処のベトナムだ。

 なにか雲行きが怪しい感じがしてきたのでミツコさんとレンジ・イスルギの居場所を交代させた所、交代させた3日後にジャミトフ系の治安機関が捜査の手を入れてきた。即座に樺太基地から部隊を出したところ退却していったが、リオンシリーズの独自生産を考えているらしい。設計関連のデータも全部移して置いて良かった。

 レンジ・イスルギからの報告によると、ジャミトフは現在、必死に後ろ盾となってくれる企業を探していると言うこと。アナハイムはどうかと考えてみたら、メラニー・カーバインとの対立が理由のようで、アナハイムに強気に出られる理由がない限り踏み込めないそうだ。

 ……ビスト財団関係か?いや、ジャミトフとカーバインの関係はどこかで読んだことがある。となると、背景企業を探してジオニックに手を回す可能性もあるか。いかんな、サイコミュ関係の書類は廃棄させたから出回る心配はないが、科学者の行き先でもたどられると厄介だ。レンジに手を回させて裏から手繰ったほうが良いな。

 ティターンズに供給する宇宙用量産型か、どうしよう。コスモリオンぐらいしか適当なのが浮かばないが……



 第39話



「ふふ、楽しかったぞ」

「わたくしは疲れましたわ……まだ体が少し痛いですわ」

 返事をする気力もおきずにベッドにうつぶせになっている私は半分夢見心地でそばの会話を聞いていた。なんだ、なんの波状効果だこれ?

 最初、ミツコさんと二人で飲んでいて鍵をかけてことに及ぼうとしたんだよな。そしたら鍵をかけたはずのドアが開いて「ロックハッカーを作ってみた。後悔はしていない」などと口に出してテューディが入ってきた、と。それメタルマックスの技術じゃとか言う間もなく赤い旋風が巻き起こり、この結果だ。

 首筋のひやりとした感覚にぼうっとしていた頭が覚めた。テューディがキスをしてきたのだ。いや、キスじゃなくてどちらかと言えば舐めてきたのだが、いままでゲームの中でしかお目にかかったことのない光景にまで発展した昨日の行為を思い出す。……えがった。

「おっ、早速元気になった。なんだ、もう一ラウンドか?」

「……ちょっと待ってテューディ、わたくしの体が持ちまわせんわ。顎と腰が痛くて……」

「ならばもらった」

 こんな桃色空間、頭が焼けてしょうがないと思った私は近づいてきたテューディを抱き寄せると一瞬力を抜いた瞬間を使ってシーツに包んで袋詰めにした。所謂茶巾状態だが、今日は予定があり、流石に時間的に危なくなってきたのだ。それに、先ほどから隣室に不快気な思考を感じる。そして呪文のように聞こえるあと3年の合唱。勿論、包んだシーツから聞こえる抗議の声は無視する。

 そのハマーンを慰めているらしいもう一つの思考からはやはり胸かコンチクショウの叫びが聞こえてくる。いや、胸とか胸じゃないとかの話じゃないんだけどなぁなどと考えてしまう。いや、あんまり大きいとこっちも大変なんですよ?それに、色々な楽しみがないじゃないですか。それに、テューディはウェンディに比べればそんなにでかい方じゃ……グヘッ。

 お、ハマーンとセニアの間で今度は何か始まったらしい。更に出て行くのが嫌になった。あれ?これシャアより酷くない?でも流石に時間が厳しいよ?……本格的に駄目人間への道を歩みかけたところで正気に戻るのはお約束。気を取り直して……無理だった。セニアとハマーンが乱入。それに乗じてテューディも這い出した来た。

 ため息を吐くと初めて自分の為にポーテーション機能を使った。パンツのみの姿で。

「……ずいぶんと個性的な格好ですね、トール。あなたにストリーキングの趣味があるとは全く知りませんでした」

「……やめてくれ、泣きたくなってくる」

 ヴァイサーガのコクピットで私は泣いた。NT能力を使って部屋を探知し、部屋からいなくなるのを待つ。あれ……使い方を盛大に間違っているような?当然のようにその後、ほかならぬキットに売られてドナドナの音楽を背景に連れ去られた。

「申し訳ありませんトール。私もこの基地の力関係は存じておりますので。流石に分解は避けたいのです」

「……裏切り者」






「ずいぶんとお疲れのようですが、大丈夫ですか?」

 なんやかんやの後に、待たせていたセイラ・マスの声が優しく響く。現在地は月のNシスターズ1。セイラ・マスは現在、ウィナー家所属のエージェントとして働いている。会うのは実に半年ぶりだ。

「いや、大丈夫だ。大分表情から硬さが消えたね」

 ありがとうございます、とセイラは頭を下げた。

「まだお兄さんと会う気にはなれない?」

「……正直、会ってよいものかどうか迷います。どういう理由にせよ、兄が周囲の人に大きな迷惑をかけたのは違いありません。それを、私に会うことで、気持ちを楽にさせてしまうかと考えると、そうした人たちに申し訳が立ちませんから」

 私はため息を吐いた。結局、この女性の暗さ加減は生まれつきのものらしい。基本的に物事をネガティブに捉えてしまうのだろう。

「アムロ君たちはどうしている?」

「ホワイトベースのみんなは普通の生活に戻りつつあります。ただ、アムロだけは地球連邦の軟禁施設に。今は確か、アメリカに移されているはずです」

 もう一度ため息を吐く。一年戦争後半で活躍した第13独立艦隊は、ジオン側の資料からニュータイプ部隊と考えられていたことが発覚し、その乗員の取り扱い、特に戦果著しいアムロ・レイの扱いは特別なもの、連邦政府の監視下に置かれるものとされた。

 おかげで指揮を取っていたはずのこちらには情報が回ってこない。話を聞くと、一応北米オーガスタ基地のニュータイプ研究所に送られ検査を受けているそうだが、取り扱いに関しては終戦協定とともに退役したレビル大将や依然として作戦本部長を務めるシトレ大将以下の強い要請もあり、医学倫理を著しく脱するものではなくなっている。

 何しろ、MS開発で一年戦争を勝利に導いた立役者の一人、ミューゼル少将の指揮下の部隊出身で、そのミューゼル少将が連邦軍内部の大派閥、レビル派の金庫番、ゴップ大将の懐刀である事を知らぬものはいない。私は何とか月で確保しようと動いたが、連邦内部のニュータイプに対する反感はジャミトフらの煽りもあって根強く、軟禁状態に持っていくのがやっとだった。史実と変わらないが、やはり連邦の反ニュータイプ感情は強い。

 もっとも、本人は公式には家族と一緒にオーガスタの連邦軍基地に士官教育に出向いていると言うことになっているのであまり気にしていないらしい。こちらの苦労も知らずに良い身分だな、と思ったのは秘密である。だってなぁ、本当ならララァの死に苛まれてどんどん退化していく時代だからなぁ。やはりアムロ正ヒロインはベルチカだろうか。

 セイラによると、基本的にホワイトベース所属の乗員たちは、歴史どおりの戦後を送っているとのこと。ハヤト・コバヤシは戦争博物館の館長をしているし、カイ・シデンはジャーナリストとなった。私が把握していたのは、まずブライト・ノア。少佐に昇進して月第一艦隊所属の新造艦を待っている状態で、ミライ・ヤシマはミライ・ノアとなった。スレッガーは死んでいないが、結ばれはしなかったようだ。

 ヤザン・ゲーブルとライラ・ミラ・ライラは恋人以上夫婦未満の関係を続けてながらNシスターズ基地所属のMS隊員としてジム・カスタムを運用しているし、リュウ・ホセイもジム・コマンドに乗って同隊に所属している。フラウ・ボゥは来年、フラウ・コバヤシとなるとのことだった。

 さて、そんな中でセイラ・マスはアムロとの友人以上恋人未満(アムロ視点)、親しい友人(セイラ視点)な関係を持っていたが、アムロの軟禁でその関係は自然消滅し、セイラは連邦軍からの給料および年金と口止め金で小さいながらも資産運用会社を始め、それがウィナー家傘下となったことで、地球圏のそれなりの金持ちの仲間入りを果たしていた。

 半年前、ガーティ・ルー艦内で兄との再会は果たしたが、兄に同行してアンブロシア民間区へ移住することは断り、一人、地球に降りたのである。アムロとは、手紙で連絡は取ったらしい。

「……みんな、大分落ち着きましたわ。本当にありがとうございます」

「まぁ、何もしなくともこうなったとは思うけどね。さて、今日のお話はそれだけかな?」

 話の矛先を向けてみると、経済的なお話を持ち込んできたようだった。投資関係で株を購入することになった運送会社関連で、特にA.E社関係の株価がこのところ下がり気味なのに対し、A.Eグループの中心企業であるアナハイム・エレクトロニクスの株価が徐々に上昇してきていることについてだった。

 当然私もその報告は受けており、デラーズ・フリートが海賊に偽装してアナハイム運送の貨物船を襲撃―――実は襲撃に見せかけた物資の横流し―――し、それによってデラーズが物資を受け取ると共に、宇宙空間の治安維持を名目にジャミトフ関係の部隊が創設される準備に、MSの生産がアナハイムで始まっているらしいとのことだった。

 特に後者、アナハイムでのMS生産の話は初耳だった。今あいつらはジオン系企業からの技術吸収で忙しいはずだろうと思っていたからだ。ジムⅡの生産はともかく、地上用MS市場をリオンシリーズの登場で駆逐される事を恐れて、ティターンズに近寄ったと見るのが正しいだろう。ジオン系の技術者がZIMAD社、MIP社系で流れているから、その方面でジオン系のMSを配備するのか、それとも、ジム・クゥエルのように改修機とするのかは調べておく必要がある。

 貴重な情報だった。流石にGP社ではそちらの情報を捉えられていないし、今は地上で必要とされるリオンシリーズの生産にかかりきりになっているようだから、余裕もないだろう。ジオニック社のMS製造開始許可は議会を通過するそぶりもないから、まだ我慢しなくてはならないが、そろそろ0083年の戦闘を考えて、こちらも新型量産機の導入を図るべきなのかもしれない。

 その後、セイラとは四方山話のみをしてから別れた。また地球、ダカールの事務所に戻るとの事。連絡はそちらに、ということだった。正直、彼女から微妙な感じがしないでもなかったが、ミツコさんを悲しませるわけにはいかない。セイラかミツコさんかと言われれば、どちらを選ぶかなど言うまでもない。

 セイラに礼を言って別れると、N1工廠区画のドックに入る。一年戦争時に使っていたホワイトベースとブランリヴァルがアフリカの残党鎮圧隊に取られてしまった結果、月面第一艦隊はまたトロッター1隻に戻ってしまうことになった。しかし、一年戦争時から建造している改ペガサス級の7,8番艦がそろそろ樺太での建造を終了するので、それらを合わせて運用をする予定となっている。また、トロッターも既に数十年運用しているため各所にガタが来ており、現在改修の真っ只中である。

 それに、0083でのコロニー落としを考えるとジャミトフたちの性格上、軌道上でのソーラ・システムの使用にこだわって色々と邪魔をしてくることは明らかで、それを援護(流石に落ちるのはまずい)するためにも、一週間戦争でコロニー破砕に活躍したユグドラシル級砲艦を確保しておいた。公式には損傷・投棄されたことになっているので当然事があるまで表には出せない。

 これに加えてガンダム00よりヴォルガ級宇宙巡洋艦を数合わせに試作艦として2隻配備し、サラミス級の生産隻数がまとまり次第もらう予定である。と、これでとりあえずMSを運用する母艦戦力としておいてある。

 さて、MSの方だが、現在運用している量産機はジム・カスタムで0083でも通用する戦力だが、一年戦争が終了したことで戦力の大半が抜けてしまった。第一小隊はレイヤー中尉しか残っていないし、第二小隊はカジマ中尉以外退役と、二個小隊が隊長以外いないのだ。仕方がないため、一年戦争で連邦軍に入隊させたバイオロイド兵を使って小隊兵員を維持している。勿論、基本はジム・カスタムだ。

 しかし、アナハイムのデラーズ・フリートに対する入れ込み具合を見ると、デラーズ・フリートの戦力は強化されていると見て間違いないだろう。一部、合併したZIMAD社製のMSについてはレプリカを作成の上で譲渡しているという話もジオン残党から流れてきた。

 ……だからあんなにリック・ドムⅡばっかり多いのか、と頭が痛くなってきた。茨の園の状況を偵察するべく、デラーズのところへアステリオンとベガリオンの偵察隊を定期的に出しているが、その際に明らかにア・バオア・クーから持ち出した以上のリック・ドムⅡや作業用モビルワーカーを保有していたのだ。

 プロペラントの予備もかなりあるから、艦艇の外に係留するなんていう無茶な運用もするかもしれない。普通、デプリによる損傷を考えて絶対にしないが、乾坤一擲の作戦ともなれば話は別だ。それに、一年戦争でムサイ用カーゴなんて装備を作り出したから、それに載せて運用するのもアリ。……思えばアレも無茶な装備だ。3機の搭載が三倍+だものな。

 などと考え事をしながら工廠に入ると、聞きなれた声が響いてきた。テューディとセニアの声だ。何事かと耳を向けてみると、どうやら同じ事を考えていたようで、次の量産機をどうするかを考えていたらしい。セニアがPT系列からのものを考えているのに対して、テューディは魔装機からの量産を考えているらしい。

「素直に量産型ゲシュペンストの全体配備を考えるべきよ!わざわざ開発したのにもったいないじゃない!」

「PTを採用すれば援護射撃を行う戦力が不足する!それに、数を用意できないんだからここは魔装機の運用別配備を考えるべき!」

 話の内容がよくわかる喧嘩だ。確かにPT系列の量産型を配備すれば個体性能が高いからジムやザクなど圧倒できる。一年戦争時に運用していた量産型ゲシュペンストを全体配備すれば、技術的にも問題がない。しかし、支援戦力が不足する。OGの主人公たちであれば、R-2もありシュッツバルトもヴァイスもあるからそうした戦力に不足はないが、長距離射撃が効かない点は、まさにリオンに数で敗れた背景にあるだろう。

 だからといって魔装機に問題がないわけではない。ジェネレーターという危険なエンジンを密閉世界と言う環境で運用せざるを得ないラ・ギアスでは、融合炉系の技術が使えない。爆発の大きさで世界に悪影響を及ぼしかねないからだ。だから、融合炉の反応を結界で抑えるし、低出力のジェネレーター出力を精霊との契約で補完する必要があった。でも宇宙世紀に精霊はいないのだ。

「喧嘩しているところを悪いが、同じ悩みで来たんだけど」

 そう話しかけると二人が一斉にこちらを向き、同時に表情を変える。最終的な決定権がこちらにある事を知っているから、如何にかして篭絡しようとでも考えているのだろう。あのねぇ、情実で戦力決めるって論外じゃない?まぁ、まずはテューディの方から行くか。突っ込みやすいし。

「確かにゲシュペンストに支援用の大火力が不足していることはわかるけど、魔装機も精霊と契約できないでしょ?」 

「その点はラ・ギアスで用いれなかった融合炉系のジェネレーターが使えるから問題ない。精霊との契約で補う必要はなくなる」

 ふむ、そりゃそうだ。一番の問題が解決されるわけだからな。

「じゃあテューディは何を採用しようと考えているわけ?」

 力強く頷くと、テューディは自説を開陳した。

「近・中距離でガディフォール、中・遠距離でブローウェルだ」 

「ガディフォールは機動性高いけど装甲薄いよね?風系の魔装機だから仕方ないけど。それに、両方とも砲撃戦主体の機体だから、戦線に壁を作れないよ?優れた機体だから、ガディフォールを遊撃戦用の機体として使う、と言うならわかるけど」

 むぅ、とテューディは黙る。数を集めれば砲撃戦で押しつぶせるが、数が無い様であれば機動性と機動防御でしのぐしかない。でも、どこかで敵を拘束する必要が出るから、装甲厚をそれなりにもった機体を用意する必要がある。

「だったらデュラク……」

「はいセニア」

 とりあえず無視無視。気持ちわかるけど、そういう事をやるのはもっと後。量産型デュラクシール軍団とかないだろ。こっちが使っている分にはチートだが、ティターンズが使い始めたら目も当てられない。

「ゲシュペンスト用の支援火器を作る!」

「あんまり強いのはまだだめだよ?ビーム系も基本、まだまだ発展途上なんだから。本格投入するならグリプス戦役まで待たないと。でも、現状でもバズーカなどの運用も可能だから、そういうのであればアリだね」

 その答えに満足するセニア。悔しそうな顔をテューディがするが、仕方がない。元々この時点で量産型として用いるのを考えていたのはゲシュペンストだ。しかし、確かにテューディの意見も捨てがたい。ゲシュペンストは基本近接格闘の気が強い。砲撃戦を考えた機体は考慮に入れておくべきだろう。

「テューディ、ブローウェルの改造案を今度頂戴。支援用のMSとして生産できないか検討するから。あのリニアレールガンの長射程は欲しい。可能ならディアブロでもおっけー」

 そういうと、やっと私の言うことが解ったか、とドヤ顔になる。こういうところさえなければ良いんだけど。まぁ、良い。今回はそれだけじゃない。

「で、それは後に回すとして、テューディ、私とハマーンの専用機の件はどうなっているの?」

 テューディは顔を直すと頷いた。

「うん、セニアとも話し合ったが、基本連邦で動かす場合にはヒュッケバイン系の機体で行こうと思っている。だからセニア任せだな。あのデザインは連邦側で、出所を隠しながら運用するにはちょうど良い。今は候補を探しているところだ。あたしとしては、トールの安全を考えるとデュラクシールを使いたいんだけどな。……でも、過剰戦力だろう?影響も怖いし」

 うんうんと頷く。ここまでは予想通りだ。

「しかし、ジオン側で運用するとなると、ヴァイサーガが使えないのは痛い。翻ってアシュセイヴァーという手もあるが、アレはデザインが連邦系だろう?装備の件もあるし、ジオンが使うには少し問題がある。……だから、少し悩んでいるんだ」

 確かに。基本スパロボで使うにしても主人公の乗る機体としてデザインされているおかげか、ガンダム顔が基本だ。ヴァルキュリアシリーズは珍しくダグラム顔だが、アレは樺太でのミツコさんの件があるから、連邦系、と考えられてしまうだろう。それに、現在の低い操縦経験で、ファンネルを動かしながら機体を動かせるとは思わない。キットに頼るも良いが、使う以上、そのダブルスキルはこなせるようになっておくべきだろう。

 テューディとの話はまだ続く。セニアは量産型の主力と連邦側の専用機がPT系になることでそちらの作業にもどって行った。場所が場所で立ち話もなんなので、自室に戻ることにする。前方からハマーンが走りより、こちらに抱きついてきた。

「戻ってきたなら連絡!」

「……解るでしょ、ハマーン」

 NTとしての能力に不足ないハマーンなら、セイラが帰ったことも簡単に察知できるはずなのだが、どうも察知しても呼ばれることが重要らしい。テューディにまで、「お前はそういう心配りが足らない」とか言われてしまった。配るどころか乗っ取ろうとした人に言われたので流石にへこんだ。

 ちょうど良いのでハマーンも交えて専用機の相談を開始する。プルサモールも影響強すぎるので、ジオン色を薄れさせるために何かを考えなくてはならないのはハマーンも同じだ。少なくとも、ドズル閣下が戻ってくるはずのグリプス戦役まではジオン色を出さないように活動したい。ただ、必要になるのはまだ後だから、ゆっくり検討することとしよう。

 そろそろ修行も始めないと。東方不敗という選択は怖いから、黒いブルーダーさんに頼もう。GFなら格闘とMS両方あがるだろうし。



[22507] 第40話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/11 23:02
 ジオン軍残党との戦闘がアフリカ各地で散発的に生じる中で0080年が終わり、翌年に入ると政治的な動きが連邦内部で活発化した。まず5月28日にアステロイドベルト、小惑星アクシズに到着した公国軍残党はそのまま先行していたドズルの指揮下に編入。ドズルの脱出にゼナなど家族が同行していないことに列席の将官は驚いたが、アクシズまでの長旅に耐えず、と説明し、地球圏に残してきた事を伝えると、地球圏への帰還がやはり、第一の目標となったようだ。

 連邦側では10月の定例議会で連邦軍の再編成計画が持ち上がり、これに基づいてRGM-79RジムⅡが以後の汎用主力機として選択された。設計図はAE、GP両社に配布され、戦後の企業再生計画の一環として生産が開始されることとなった。

 10月1日、火星のテラフォーミング第一段階が終了。火星極冠のドライアイス、氷塊層の融解が終了し、火星に水が出現した。大気状態は二酸化炭素濃度が濃い(95%)であることは変わらないが、極冠に対する太陽光反射ミラー照射によって惑星内部の地殻変動が再開。自転速度が向上し、地表の大気圧が地球とほぼ同じ920hpaまで上昇したことによってスケールハイトも8.5kmまで減少。大気組成の変更をかければ、地球とほぼ同じ重力条件まで向上しているため、恒久都市の建設無しでも居住が可能ではないか、ということまで示唆され始めている。

 これを受けてGP社は火星恒久都市の建設と、火星の大気に対するナノマシン散布によって二酸化炭素の分解を開始、また地球やアステロイドベルトより窒素を採取してこれを投下し、大気組成の変更を行うことなども示唆している。また、藻類の繁殖によって炭素を植物などの形態に固定して酸素濃度を増やすなどの案も出されている。

 いずれにせよ大気組成の変更などに関しては長期間を要する為、GP社は火星の継続的開発を行うため火星初の恒久都市"セントラル・マーズ"建設を行うと宣言したのであるが、このニュースは久々に地球圏にマーズィムの記憶を呼び覚まし、サイド4や他のサイドなどは、独立よりも火星への移住を考えるべきではないか、などの意見が出されている。

 11月の補正予算審議の中ではGP社との開発環境のバランスをとるため、としてジョン・コーウェン少将の指揮下でアナハイム社が「ガンダム開発計画」の担当企業となる事が決定。GP社はこれに対して反発したが、戦争中および直後に巨利を得たことから、ジオニック社との合併交渉が結局上手くいかなかったAE社に開発計画がいく事が決定された。

 同月にデラーズ・フリート、AE、GP社との接触が行われ始め、またデラーズ・フリートがアクシズとの協力関係を確認し、勢力を強化する。AE社は暗礁宙域におけるデラーズ・フリートのモビルスーツ生産力の獲得に協力し、性能は落ちるものの、MS-21Cドラッツェの生産能力をデラーズ・フリートが獲得することとなった。

 年末に、アフリカのジオン残党がHLVにて月面に達し、マスドライバー占領を目的に第一次「水天の涙」作戦を開始したが、月面駐留の連邦月面第一艦隊がこれを殲滅。一年戦争後期に「第13独立艦隊」として戦線各所で活躍したその実力が維持されている事を喧伝した。

 明けて0082年。1月1日にサイド1がザーン宇宙共和国として独立を宣言。連邦政府に宙間軍事力を制限された形ではあったが、主権国家としての独立を果たす。共和国初代大統領はブライアン・ミットグリッドが就任した。また月面にて極冠都市連合「Nシスターズ」が同様に独立を表明。同じく連邦に宙間軍事力を制限され、且つ又連邦月第一艦隊の駐留基地として運用する事を安全保障条約にて締結。初代大統領にマイヤー・V・ブランシュタインが選出された。

 宇宙空間にNシスターズ、ザーン、ジオンの三共和国が成立したことはスペースノイドの地球連邦に対する反発を弱め、戦争の被害の回復を図ることで独立への動きが加速することになるが、一年戦争でジオンに協力したサイド6、大きな被害を受けたサイド2、サイド5は復興計画の対象に組み入れられ、計画終了まで独立は制限されることとなった。

 残るサイド4であるが、人口が連邦の規定規模(20億人)に達していないとして連邦政府がこれを拒否。独立を宣言する場合は連邦政府に対して保有する債務の消化が条件として盛り込まれた。地球圏は復興と拡大の時代に入り、急速に戦争前の平穏を取り戻して行くこととなる。



 第40話


 ナタル・バジルールは不遇である。これは世の摂理なのか、それとも前世の宿業なのか。いや、実際トールが使いどころがないために忘れていただけである。現在の彼女の所属はロベルタ率いる武装メイド隊主計課長。世が世なら戦艦の艦長職が花形である彼女も、ブライト、シナプス、ヘンケンのUC名艦長グループの追い込みには勝てなかったと言うわけだ。

 しかし良いこともある。ナタル・バジルールの士官としての地位が定まらなかったおかげで、彼女は若々しくメイド業をこなしているだけでよい。それに、全く違う環境で人を使うことは、軍人としてしか人間を使ったことのない彼女をある意味成長させていた。

 勿論、ロベルタやアンネローゼの薫陶よろしく、その種の趣味に目覚めていたことも確かではあるのだが。

「お帰りなさいませ、坊ちゃま」

「……ナタル、それ嫌味だろ?」

 ラインハルト・ミューゼル18歳である。本年、目出度くナイメーヘン士官学校を卒業し、少尉に任官して月の実家に帰省したのだ。予定では、このまま兄の第一艦隊に砲術士官として参加する予定だ。勿論、もはや坊ちゃまと呼ばれる年齢ではない。

 フェザーペッティングも良いところの配置だが、ラインハルトも兄のトールもアンネローゼの言うことには絶対服従である。年長の姉、ソフィーもシーマもアンネローゼに逆らわないことがそれを証明しているのだ。その姉が「ラインハルトと久しぶりに会いたいわ。そろそろ一緒に暮らしたいの」とか言い出したんだから従う他はない。

 姉の趣味の矛先を自分に向けないこと、これが兄トールの第一の行動基準である事をラインハルトはよく知っている。とか何とか言う割にはあの兄も姉には甘いんだけどなぁ、とラインハルトは改めて思う。姉の主催する孤児院業に、株や資産運用、開発権の譲渡などによる利益をかなり突っ込んでいることからも確かだ。

 さて、一年戦争中からこの時まで、ナイメーヘン(一時期ジャブロー)という平和な世界でラインハルトが軍人教育を受けなおしていた理由は、MSという全く違う戦術単位による戦闘が主流となるこの世界に適応するためである。宇宙に広がる大艦隊の指揮、という宇宙世紀に比べると戦術的な動きが制限された状態での会戦こそラインハルトの得意とするところだが、この世界ではその常識は通用しない。

 まぁ、一番の理由は幼くなってしまった彼が、先に幼年期を脱してしまった兄の分も姉たちのショタっ気の犠牲になることが嫌だった……という笑うに笑えない事情が真相だ。6歳のときに女装をさせられた際には、兄のトールに写真に撮られ、保管されてしまった。当然、脅しの材料とするためであることは言うまでもない。

 ちなみに、この写真を発見したハマーンが激しい嫉妬と一縷の望みを感じたことも言うまでもない。勿論、その後で詳細を知った彼女が、「男に負けた……」とへこんでいたことも忘れてはならない。おかげで、カーン家の次女との仲は最悪だ。

 Nシスターズの中心都市N1、中央部地下の一角に広がる大規模居住スペース、その大部分を占めるミューゼル家の敷地は広い。外見は豪華そのものだが、玄関から入ると西側の一棟はえらく地味に―――日本風のマンション形式に作られている。兄のプライベートスペースだ。

 アレを見るたびにラインハルトは思う。日常ふざけ過ぎが過ぎる兄も、ああいう謙虚で慎ましい所があるのだと。風聞で大富豪の女性と結婚したことが士官学校にも流れてきたが、きっと兄のそういうところに惹かれた女性なのだな、と尊敬の念を湧かせる。実際はトールが暮らしていた部屋よりもよほど豪華で、単に小市民な彼がアレ以上の贅沢では落ち着かなかっただけだが。ここらへん、やはりラインハルトも貴族の坊ちゃまである。

 邸内に騒がしさが生まれた。妹たちの参上だ。同年の妹セレインは既に兄の艦隊に配属されているとのことで、一流のMSパイロットとなっていることを聞き、少しうらやましく思う。自分も早くあの星空の大海へ戻りたいものだ―――そう思えてならない。ちなみに、セレインが彼の代わりに士官教育を受けるべく、学校に通うことも聞いていた。月面に新設される月第一士官学校というらしいが、この家からそれほど遠くないことがうらやましかった。

 さて、あまり高くないつくりの一角、兄が待っているはずの私室の前まで来ると、ナタルは一礼して戻っていった。ヘンケン少佐という人がブレックス准将付きの参謀に栄転したので、次の艦長こそ私が、と意気込んでいると姉アンネの手紙にあった。幼いときから世話になっているから、ぜひともなってほしいものだ。

 そんな思いを胸に、ある種尊敬する兄の部屋へと続くドアを開けた。そして彼は、この日、別な意味で兄を尊敬することになる。

 望んで修羅場に入るなど、酔狂が過ぎるにもほどがある、と。絶対に私には真似できない。さすが兄上だ。

 一方、そんな風に弟ラインハルトに見つめられたトールの方はどうだろうか。

 何か、変に目をキラキラさせながらこちらを見てくる、数年ぶりに会う弟ラインハルトにちょっと引いてしまった。あれ?おかしいな?この家に戻ると言うことは姉さんズのショタ狂いの犠牲になること決定な訳だから、こいつ嫌がっていたのになー。まぁ良いや。忘れているなら嫌でも思い出すだろ。


 久しぶりの家族団らん―――新しい家族がまた増えていたが―――を楽しんだ後は、また別れてそれぞれの仕事に戻っていくこととなるが、この家族団らんも仕事と無関係ではいられなかった。まず最初に出てきた問題が、最初にして最大の重要案件となった。「GP計画」である。

 一年戦争時、ガンダムの開発計画であるRX計画を初期に主導し、RX-77ガンキャノンまでを制作したのはアナハイムであった。しかし、RX-78ガンダム以降の開発は樺太基地で行われたため、MSの開発能力に際し、樺太基地の後援者であるGP社に大きく水を明けられる始末となった。

 それは一年戦争中のジムの生産台数にも表れており、ジム改、ジム・コマンド、ジム・カスタムと次々と新型機を送り出す樺太基地、そしてそれを生産するGP社と、中・長距離支援MSであるガンキャノン、ガンタンク各型および改修機ジムキャノンを生産し、ジムなどはライセンス生産だったAE社を比べると、戦後のMS軍需市場におけるパワーバランスは、最初からGP社に傾いていた。

 起死回生の重力下浮遊MSもGP社のリオンシリーズが選択され、AE社は連邦政府からのGMⅡの受注生産と一年戦争中に生産したMSで、まだ使い続けられているものの補修部品の生産ぐらいしか、MSの生産は行えていなかったのである。

 AE社は、GP社に水をあけられたMS開発能力を互角程度までにするには、MSの代名詞ともなりつつあるガンダムの生産能力を持つしかないと決め、積極的なロビー活動の下、今回GP計画を担当する企業に自らを売り込んだのだ。なぜかコーウェン少将がこれに賛同を示して、人のところからRX-78を持っていった。

 問題はないのだが、コーウェン少将の動きがちょっと変だと感じたので、今調べさせている。

「まぁ、もっとも潰すわけにもいかないし、放っておくとまたぞろなにか考えてくるからそろそろMSの生産を何か受注させないといけなかったんだけど」 

 とトールは言った。目の前でお茶を飲んでいたミツコが頷く。

「……そもそも、今のアナハイムにGMⅡ以上のMS、生産できますの?このごろリオンの売り込みに忙しかったせいでとんとそちらの方には疎くて」

 バラライカは難しい顔をして何枚かの写真を取り出した。出てくるのは如何見てもジオン系のMS。見てみると、ペズン計画系の機体が多い。……ガッシャか、これ?こっちはドワッジ?アクトザクは実用化されていたから入っていないようだ。

「色々と苦労の後はうかがえるのだが、正直、試作機が多くてどれだ、とは言えん。連邦に採用を目指すならGM系のはずだろう?GM系の生産経験が少ない今のアナハイムだと、対応できないんじゃないか?」

 お手上げ、とでも言いたいのだろう。確かにこんなに開発計画が錯綜していてはどうしようもない。しかし―――

「だからこそ、GP計画か。素体の生産能力を上げないとどうしようもない、と。確かに、現在の主力のGMⅡは出力が1500kwクラスだけど、試作機で考えれば、最低2000kwの出力に耐えられるようにしておかないといけないしな。逆に言えば、技術を全部放り込んでそれだけの試作機を作れるメーカーになれば、量産機でも性能高いのが作れるようになる、と見越しているわけか」

 そうそう、とセニアが参加する。テューディは相変わらず研究室に篭ってMAD道一直線だ。専用機についてあれやこれや議論していたら、ついにブチギレしたらしく「アンタにうんと言わせる機体を出してやるから待ってなさい!」とか言って研究室に篭ってしまった。……後が怖い。

「こっちはトールのおかげで先の製品の動き方も性能もわかるし、開発する機体にしたって開発費は実質タダだから、アナハイムに勝ち目はないわ。かかる費用って言ったら、整備マニュアルや専用工具、予備部品や武装の開発だしね。そうしたこっちの利益から考えると、AEにはそろそろ餌をあげないといけない時期に来ていると思う。あ、……ミツコ、アンタかなり儲けているでしょ?」

 う、と図星を突かれた様にうろたえるミツコさん。あれ?別に儲けても結局うちらの勢力のものなんだから良いんじゃないか、とか思っていたら、セニアが言葉を続けた。

「アンタ、「トールの生きるお金は私が全部出しますの!」とか言っているけど、儲けたお金、結局トールのおかげでしょ」

 頭痛がしてきた。こんなところまで修羅場発生か。TPOを弁えようよ。これかっ!……これが"修羅場決定"技能か。というか、いましているのは真面目な話なんだが、と思っていると私よりも先にソフィー姉さんが切れた。

「セニア、ミツコ!ふざけるのはそこまでにおし!」

 そのあとに何かが起こっているらしく(知りたくないのでみんな目をつぶっています)絶叫が響くが今のソフィー姉さんに逆らう人間は他にはいない。久しぶりにキレた姉さんを見たラインハルトが蒼ざめている。あいつなぁ、元の銀英伝ばりの傲慢キャラで姉さんに「見せて貰おう、私の姉を名乗ろうとする者の手並みを!」とか迫ったらごっつい修正食らっていたからなぁ。スペツナズの流儀は精神に退行現象まで生じさせるらしい。どこの天使のわっかだよ……まぁ、いいや。望み通り12年前に戻れたんだ。話を戻そう。

「となると、GP計画にメスは入れられないなぁ。……核ガンダムかぁ、避けたいんだけど無理だろうなぁ」

 嘆息しながらトールは言った。リック・ディアスにしろネモにしろGP02にしろ、アナハイムの80年代前半の主要MSは基本、ZIMAD社の設計が基本だ。ジオニックを買収していないとはいえ、グリプス戦役の最初期は、基本歴史そのままだろうと判断出来る。

 連邦軍の開発関係は基本樺太が握っているから、このままいけばムーバブルフレームの開発・保有もこちらが行うことになるんだろうが、となると変形系MSの開発運用も握ることになる。ティターンズの戦力を弱めることでグリプス戦役の基本的な流れが変わるの避けたいが、そうしたMS開発による蓄積が後々生きていく事を考えるとやめるわけにもいかない。

 ジオン側、ねぇ。今回の0083でジオン側で動くメリットは少ないなぁ。地球にコロニー落としてもGPマイナスが来るだけだろうし。よし。

「シーマ姉さんの艦隊はジオン側としては死蔵する。シーマ艦隊分の戦力が不足するから、デラーズには地上のジオン残党の脱出の手はずを整えてやろう」

 シーマがそれに頷く。元々デラーズ紛争にジオン側で参戦するつもりはない。口実もあるし、いくらでも乗り切れる。しかし、それはある程度まで状況をコントロールできなくなることでもある。ここでトールは、今回の0083において、基本連邦軍側のみで介入する事を決定した。

「で、姉さんたちにはミューゼルの名前で連邦軍の軍籍を用意するから、基本それで行動してください。ソフィー姉さんと張兄さんには、久しぶりに動いていただきます。5.45mm弾でも9mmパラベラムでも12.7mm砲弾でも良いですから、黒い服着たお調子者の集団を思う存分教育してあげてください」

 頷くシーマ、バラライカに張。

「東方先生は……良いですか絶対に月からここから出ないでください。あなたが生身で宇宙空間で行動できるのはわかっていますがそういうのはUMAといって人間とは言いません。頼みます話がややこしくなるので絶対に出ないでください」

 顔も見ないで呪文のように言うトール。憮然とした顔で東方不敗は頷いた。ポイント制限で行動範囲をN1限定にしてあるけど、こう言っておかないとこの人はチートを無視して行動しそうで、いや絶対行動するだろJK。

 0083年までの基本方針として、新しい量産型MSの配備と専用機の開発が出来次第、ムーバブルフレームの開発を行っておくことで変形型MSに対応できる体勢を整えておくことで決まり、ゲシュペンストを主力、ブローウェルを支援機として基本構成とすることが決まったのである。



[22507] 第41話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/12 11:41

 UC0082年8月15日。ジオン国慶節の当日にあわせて開かれた、一年戦争の軍事法廷では敗戦国ジオンの戦争犯罪者たちへの判決が言い渡されようとしていた。

 高まるスペースノイドの独立運動がザーン共和国とNシスターズの独立で静まりを見せる中に行われたこの裁判の判決は、スペースノイドの中でもジオニズム派と呼ばれる人々に衝撃を与えた(構成員はサイド3、サイド6の人間が多い)。この裁判は、そうしたジオニズム派に対する連邦政府の立場を明確に表明していた。

 しかし、連邦による不当な裁判である、との一方的な非難をジオニズム派から突きつけられるこの裁判には、当然判決内容に仕方がない側面もある。

 特に、中立宣言にもかかわらず攻撃を受けたサイド2、サイド5の民衆にとってはジオンは敵であり、8億の被害人口の多くがこの二つのサイドから出た事を考えると、この二つのサイドの民衆感情を如何にかする必要に連邦政府は迫られていたのである。

 また、これとは別にジオニズム派を激昂させたのが、コロニー再生計画の名前の下、難民収容用のコロニーとして損傷コロニーを修理後、サイド3に回航する計画が休戦条約に含まれたことだ。この条項はジオン共和国に戦費賠償を求めない代わりに、難民の処理をすべてサイド3に押し付ける内容であった。

 敗戦国であるジオン共和国に対する占領がサイド3の主要コロニーに限定され、また紀律厳正な第一連合艦隊の将兵が当たっているために、ガンダムUCでジンネマンの家族が受けたような「公衆便所」扱いこそなかったが、敗戦国として当然の責務は果たさねばならなかった。勿論、ジオニズム派の納得は別にして。

 戦争での直接被害を受けないままに降伏したサイド3本国では、ギレンの情報統制もあって、ジオンの勝利を確信する国民が多かったのである。このことは、以後のサイド3政局に大きな影響を与えていくことになる。

 ともあれ、0082年8月15日に言い渡された一年戦争の軍事法廷、戦犯裁判における判決の主たる内容は以下の通りである。

 1、デギン・ソド・ザビ公王。禁固25年、公王退位。但し、病気療養のため、禁固先は病院施設付きのものとする。0082年9月1日、地球、シチリア島へ移送。

 2、キシリア・ザビ少将。サイド2・首都島バンチへの毒ガス攻撃の責任者として死刑。9月1日、サイド3、1バンチズムシティ内にて刑執行。遺体は宇宙葬とされる。

 A級戦犯の対象となる人物はほとんど戦死しているか行方が不明であったため判決は被告人不在のまま行われたが、被告人の発見次第、捕縛の上刑執行、反抗する場合の殺害命令を下して法廷は終了した。

 そしてこの日この判決を受け、史実よりも1年遅れてデラーズ・フリートの活動が再開するのである。



 第41話



 キシリア死刑、デギン禁固の判決は妥当と言えるかはともかくとしても、大方の、マーズィム派スペースノイドからすれば納得はいくものだったらしい。判決と刑の執行が公表された9月1日付の新聞をたたみ、ベッド脇のクーラーから缶コーヒーを取り出したトールはため息を吐いた。

 キシリアの逮捕までは関わったが、マダガスカルに乗せてサイド3に移送してからは関わっていなかったため、不安に思っていた出来事が一つ減ったことになる。下手に生き残られての復讐戦は避けたかったし。あの紫にこれ以上呪われるなど冗談ではなかった。

 軽い頭痛を無視して空間タッチパネルを開き(これもこの時代からするとオーバーデクノロジーだ)、そろそろ月面も本格的に戦争を考えておく必要があるから、システムを使い防備と設備を整えたのだ。新着情報を確認すると、4月から動き始めたティターンズ配下のニュータイプ研究所、通称ニタ研への襲撃が早速開始されている。

 パワードスーツ(以下PS)戦闘を得意とする、ソフィー姉さん代表のブラックラグーン勢活躍の時期が再度到来したわけだが、実は成果はあまりあがっていない。ジオン時代とは違ってコロニー内部ではないからスポーツ用モビルワーカーだけでなく、MSそのものを使った警備隊もあるし、まず投入したムラサメ研では一年戦争時に遭遇したゼロ・ムラサメなどの強化人間が当然移送されており、所在が不明だ。流石に樺太のお膝元で開発をするようなバカな真似は避けたらしい。

 しかも、一年戦争から目をつけていたフォウ・ムラサメ候補の中の一人が行方不明になっており、どうやらその女性、本名キョウコ・タカムラがフォウ・ムラサメと見て間違いないようだ。ボイスデータを確認したところ、新しい映画版ではなく昔のゼータ版だったのに安堵したのは内緒である。追跡調査を御願いしておく。

 いい加減ハイッシャーでは辛くなって来たなぁ。スポーツ用モビルワーカーもようやく出てきたから、こちらもアサルトスーツの投入を考えてみるか。基本おんなじだし。けどそれには別会社にしておかないといけない。エンジンをGP社に供給してもらって、で一つ考えるか。名前何にしよう。

 次の情報を確認すると、連邦軍のMS開発に、樺太を通さない独自の動きが生じ始めている報告があったので開こうとしたが時間が来たので止めた。改めて思うと結構危ないことになっているような気がする。何かシステムの思い通りに動いているような気がしてならないのが悩みのタネだが、あのシステムのこと、其処まで考えている可能性がある。TMシステムの追加条件はまさにそうだ。

 前に一回、東方先生が使った上でかかってこい、と言って半ば本気で仕掛けてきたため(あの爺様、超級覇王電影弾まで使ってきた)、キットを搭載した修行用ノブッシで使う羽目になった。というか、東方先生が乗るとノブッシでもマスタークロスとかを平気で使うのには恐れ入った。先生曰く「素質があるからキットを使えばウォンぐらいはやれるな」とか言われたがあまりうれしくない。ウォンだよ、ウォン?馬に蹴られてサヨウナラとかないでしょう。

 しかし、この件は本当に如何にかしなくてはならない。



 とまぁ、トール・ミューゼルが順調な?道を突き進んでいるころ、後のティターンズとなる、連邦アフリカ掃討軍はジャミトフ・ハイマン准将を司令官に迎え、アフリカにおける作戦活動の拠点、キリマンジャロ基地に展開していた。

「……正直、苦しいな」

 ジャミトフは報告書に目を通しながら言った。報告書には北米および日本におけるニュータイプ研究所、オーガスタとムラサメ双方が謎の武装集団の襲撃を受けたと報告されている。しかし、近隣の連邦軍に動いた形跡はない。それどころか、襲撃を機会に二つの基地の管理権がコリニー派からゴップ大将の指揮下に移されてしまった。

「……レビルか。いや、戦争英雄殿は退役して隔離されているはず……あの若造か」

 あの若造―――月第一艦隊司令、トール・ミューゼル少将である。彼よりも30ほど年齢が下にもかかわらず先に少将に任命されているため、建前上は上官として扱わねばならない。当然気に食わないでいるが、目的のためには、今はおとなしくしているより他はない。

 現在の地球圏の人口は約111億。非登録人口も含めれば更に数億ほどいくだろうが、流石に増えすぎた。地球圏を一つの世界としてみた場合、今の人口は多すぎるのだ。だからこそ、ジャミトフはアフリカに派遣されて以来、ジオン残党を叩くことについては手心を幾分加えるようになった。紛争状態が長く続けば続くほど、ジオンに対する反感を利用してのし上がることが出来るからだ。

「閣下、奴は除くべきです!第一、我々の目的の最大の障害にまで成長しております!」

「小官もそれに賛同いたします。……奴らは除く必要があります」

 バカ二人が何かを言っているが、それが出来れば苦労はない。敵は連邦軍の軍需最大手、GP社の令嬢の夫だ。賭博連合会長にしか過ぎない自分とでは資金源の大きさが違う。確かに地球上に残ったエリートどものおかげで収入に苦労はないが、軍事費に回せるほど多くはない。連邦法により、純利益の四分の三が政府にいくように宇宙世紀開始と共に定められた。コロニー建設費用を出すためだ。

 勿論ジャミトフも裏帳簿を考えないではなかったが、ことが明らかになった場合を考えると踏み切れないでいた。まずは、誰にも逆らうことの出来ない立場と勢力を手に入れる必要がある。そのためのアフリカ掃討軍だし、そのためのニュータイプ研究所だ。

 ジャミトフは、現在の地球連邦の国力では増えすぎた人口を管理することが無理だと考えていた。コロニーを独立させればよいと言うが、何かしらにつけて援助を要求してくる可能性があり、その傾向はジオニズム派にとって特に根強い。宇宙移民を棄民政策としてしか考えない彼らは、地球から何かをむしりとることしか考えていない。ジオンはまさにそうだった。

 そんなに地球から捨てられたくないなら、生存権をかけて地球上で核戦争でも起こした方がよかったとでもいうのか、とジャミトフは言いたい。勿論、そうなれば地球は破滅であるし人類も右に同じだ。となれば、強制的に宇宙移民を更に推し進めて地球環境の保全を試みると共に、生活圏を拡大するための方法を模索しなければならなかった。そのための宇宙移民政策だが、一年戦争のおかげで限界に来ている。

 それに対する対策として火星のテラフォーミング、とGP社は言うが、いつ終わるのかは定かではない。そして、地球連邦にこれ以上新しいサイドを作る金はない。それはすべて、先の戦争のせいで消費してしまったし消費するだろう。人類全体を救うためには、ある程度の人口調整をかける必要が絶対にあるのだ。人類全体が生き延びるのが無理、もしくはそのための手立てが定かでない以上、更に人口が増えた場合に対応策がとれるかは不明瞭であり、確実な手法は管理人口の低減しかない。

 だからこそジャミトフは連邦での地位向上に手段を選ばない。偉くなければ話は通せず、金がなければ動けないからだ。自分のやってきた事の善悪など、死ぬ直前にでも考えればよいと思っている。ただ、改めて思うと連邦軍でのし上がるために地球至上主義を用いてきたが、少々、毒が効き過ぎている気がしてならない。それに、自分より甘い手法で同じような事を試みようとしている者まで出始め、しかも、それが上手く行きそうな気もする。もしすべてが上手く行くならばそれで良いが、ジャミトフは其処まで楽観的になれない。

 出だしが遅かったか。既に艦隊規模の実戦部隊を備えつつあるミューゼルと、アフリカ展開のMS部隊中心の我々では差がありすぎる。何とかペガサス級を奪い取ったは良いが、アナハイムがあそこまで役立たずとはな。アナハイムに陸戦でも良いからアフリカ掃討軍独自に採用できるMSの打診をしても通らず、そのくせGP計画などと言う再軍備計画をコーウェンと共に進め始めるなど、ジャミトフの求める路線とは違った方向に動いている。

 結局、利便性を考えると編成はジムⅡとリオンの混成とせざるを得ず、それがまた更にGP社を儲からせ、ミューゼルの地位を固めると解っているからジャミトフには腹立たしい。

 一年戦争中にMS開発能力の民間移転を進めたトールの政策は、連邦軍独自の開発力を縮小させることに成功し、まだ非主流派に過ぎないジャミトフ派が関与できる範囲からほとんどのMS開発能力を奪い取っていた。

 実際、現状で連邦軍で独自にMSを開発できるのは地球上でジャブロー、樺太、北米オーガスタ、欧州ライプツィヒ、日本ムラサメの5基地・研究所ぐらいなものだが、オーガスタとムラサメは襲撃などを機にジャミトフの手からはなれ、残った欧州のライプツィヒは、現在ジオンから鹵獲したニュータイプ技術の解析に忙しい。ア・バオア・クー戦終盤で回収したジオン機に乗っていたスパイ兼パイロット、アイン・レヴィを派遣しているし、クルスト・モーゼスとローレン・ナカモトも所属しているから大分進んではいるが、ニュータイプに対するモーゼスの忌避が、このごろは研究の障害となっていると報告が来ている。

 モビルフォートレス計画も遅らせるわけには行かぬし……レンジ・イスルギの提案を受けてみる他はないか。

 レンジ・イスルギ。一年戦争中は月面を舞台にジオンとの取引で財を成したGP社の社長である。連邦との関係が当然最悪のものとなるはずだったが、V計画の予備計画であるL計画に娘の専務ミツコ・イスルギを通じて参与。一年戦争後半に入り、連邦の勝利が見えてくる段階になってその娘を連邦のMS開発と諜報・特殊作戦を扱うトール・ミューゼル少将と結婚させ、戦後の安定を勝ち取った。

 ……この段階で出てくると言うことは、こちらの動きを感知したのか?公式にはリオンの指揮官用のデモンストレーション、非公式にはGP社とアフリカ掃討軍の協力関係の構築だといっておったが、……仕方あるまい、他に方法があるわけでも無し。それに、ミューゼルを除けないとしてもイスルギを通じてミューゼルの動きをつかむことは出来よう。

「バスク、レンジ・イスルギの来訪だが、注意して警護しろ。あの男、使えるぞ」

「は?あのミューゼルの舅ですぞ?」

 このバカどもは。しかし、現在バスクやジャマイカンぐらいのものにしか大隊規模の部隊を任せることができるのがいないというが腹立たしい。腹芸でも見せてみるか。

「ふふ、奴も娘に自分の地位を追われそうになっておるのよ。まだ権力にしがみ付きたい様だからな。せいぜい高く買い取ってくれるとしよう。バスク、ジャマイカン、表には出すなよ。あくまで礼儀正しくな。その方が、最後のときは面白い」

 口元を歪ませてこちらに敬礼をするバスクとジャマイカン。こんな下らん演技までせねばならんとは。まだコリニーを使うしかないのが悲しい。士官学校からよさそうな人材を引き抜くしかないな。こいつらにいつまでも指揮を任せておくのも土台、無理な話だろうて。

 ジャミトフは重いため息を吐いた。


 UC0082年10月に入ると、建造が完了した改ペガサス級7番艦トロイホースと8番艦アルビオンが就航した。これによりペガサス級の建造が終了したことになる。ジャブローの司令部直営部隊に1番ペガサスと6番スタリオンが、アフリカの掃討軍に2番ホワイトベース、4番サラブレッド、5番ブランリヴァルが配属された形になる。

 しかし、樺太で就航した8番艦アルビオンをコーウェン少将が「GP計画」の運用母艦とする事を伝えてきた。こちらとしては貴重な戦闘空母がなくなるため抗議をすると、計画権限での接収を仕掛けてきた。これは本格的に何かを考えているらしい。一年戦争でMS研究をこっちに取られたから、焦りが生じてきているのかもしれない。

 但し、コーウェン少将からはアルビオン接収の代わりとして、こちらが申し出ていた一件への協力が打診されたので、差し引きゼロかと思って接収には同意しておいた。下手に抗議を続けて、対立を深めたり、艦隊戦力の整備を深く突っ込まれては少々まずいことになると判断したこともある。

 おかげでようやく幕僚総監部への説得が実り、ついに連邦軍における憲兵隊としての機能をうちの艦隊が持てることになった。対破壊工作特殊任務旅団、通称BGSTバーゲストがなにやらリチャード・グレイソン商工会議長を使って横槍を入れてきたようだが、戦争中の実績に物を言わせて黙らせた。

 バーゲストは完全に元ネタフロミだろ。とかなんとか思ったが、流石に扱いに困る。自分たちの理想を掲げて連邦内部の綱紀粛正を考えてくれるのは良いが、だからといって他の連邦部隊の動きまで如何にかしないでくれよ、とか考えてしまう。それに、本来なら84年に始まるはずの彼らの行動が2年早まっている点は気をつけておかねばならない。

 グラナダにグロムリンとかやだぞ。絶対にこちらにお鉢が回ってくる。

 憲兵隊権限の入手と共についに連邦側部隊とジオン側部隊の合同に踏み切り、対人掌握能力を最高のLv.5まで上昇させて無事に乗り切った。元々ジオン軍の暗部や情けないところを山ほど見せ付けられてきたから、故郷であるサイド3に下手な事をしない限りは従う、というのが共通見解になったらしい。

 また、これに併せて樺太駐留の地上部隊と月駐留の宇宙部隊とに部隊を再編することとし、宇宙部隊は基本、ジオン軍としても活動する非正規行動部隊とすることにした。このため、編成にジオン系MSを混入させ、連邦側には鹵獲MSの試験運用と書類を出し、ジオン側には連邦軍への浸透工作の一環としておく。かなり綱渡りではあるが、エゥーゴが出来てしまえば問題がなくなるのでまぁ、いいだろう。

 などと考えていたら扉が音もなく外れた。開いた、ではない。外れたのだ。

「トール、貴様修行の時刻に遅れるとは何事か」

 え?桃色フラグが一段落したと思ったら、血反吐フラグですか?



[22507] 第42話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/15 04:51
 この男は本当にあの映像記録の戦闘をした男なのか。東方不敗マスター・アジアにはどうしても疑問が捨てられなかった。

 ここはN1地下のGP社MS運用実験場。運用実験場とは言いつつコロニー内部ほどの巨大なスペースで、一年戦争中に目の前のノブッシの中で苦しんでいる男が月面地下の土類をポイント化する過程で生じた空洞を秘密の試験場として用いているのだ。

 修行用として作らせた、制御A.I対応のノブッシをGFクラスからすれば如何見てもぎこちない動きで動かす男が、一年戦争の最終局面であのスウェーデンの小娘程にMSを扱ってあの巨大なMAを撃退したことがどうしても信じられない。その後に起こったEXAMとかいう機械人形相手の戦いもそうだ。

 これは何かあるな。

 マスター・アジアの脳裏に何かがひらめく。昨日見せてもらったこの男の能力表から解るこの男の実力と、キットが記録していた戦闘映像で見せた能力がどうしてもマッチしない。突き出す拳の動きは早くとも無駄が多く、軌道が小刻みに揺れるために力がそのまま伝わらない。蹴りもそうだ。打点のつけ方が甘い。アレでは脚に無駄な衝撃が行く。

 組んで戦おうとするとフェイントに反応が遅れることがしばしば。唯一見れるものと言えば剣系の武装を使用した場合だが、これも直線的な軌道のものならばともかく、多様な軌道を描いてのものとなれば無駄が大きい。

 しかし、ここ数ヶ月相手をしている中で、4度と同じ失敗はしてこない。3度目までは繰り返すことが多いが、4度目になると失敗を消して無駄が省かれる。絶対に何かがある事を確信したマスター・アジアは、目の前の男に向けて言った。

「トール、TMシステムとやらを使ってかかれ」

「へ?嫌ですよ東方先生!アレを使うと……」

「うるさい黙れ。強くなりたいのであれば少々のことは気にするな」

 流石にもう三度目ともなれば、少々じゃないですよ!などと文句を言うことはない。機体頭部のゴーグルアイの隙間から金色の光が噴出すと、先ほどまでとは打って変わった実戦的な―――それこそ、一年目のドモンくらいの動きを見せる。最初にこれを使わせたときはウォンの小僧程度だった動きが、だ。

 システムとやら、絶対に何かを考えておるな。発動に合わせて何かを仕掛けている。

 マスター・アジアは口元をゆがめると、この手のかかる弟子に指導を開始した。ドモンならまだしも、この程度の小僧に敗れては病を抱えているとはいえ東方不敗の沽券に関わる。まぁ、ドモンの堅物よりは女の心がわかるだろうところは評価できるが。

 TMシステムによって高速化し、鋭くなった動きを最小限の動きで、しかも同型のノブッシでいなしながらマスター・アジアは訓練用の模擬刀を持った手をつかみ、そのまま脚を払って叩き伏せる。追撃に足を踏み降ろすがそれを回避するトール。そのままこちらの機体を引っ張り巴投げに入ろうとするが突き出された足をはじいて股関節に蹴りを入れた。

 流石にここでノブッシをバラバラにするわけにも行かないため手を離し、そのまま岩盤に激突させる。中のトールのダメージは心配しない。この程度でへたばるようでは流派東方不敗を学ばせている意味がない。ズタボロになって帰ってくるトールを迎える女たちからは非難の視線が向けられるが、そんなものに痛痒を感じる東方不敗ではない。

 装備がされていないはずなのに、一体どういう原理でマスタークロスを出しているのかセニアやテューディでもわからないが、実際にマスタークロスを取り出した東方不敗のノブッシは、追撃をかけるためにトールのノブッシに向かった。どうせ死んでも一日で蘇るなら、本当に死ぬまで叩き込んでやればよい。本気でそう思っていた東方不敗であった。




 第42話




 体中が痛いが、だんだんと消えて暖かい感触だけが残る。ナノマシンによる修復や乳酸の分解がかけられているからだが、痛みまで一気に消せるわけでも感じなくなるわけでもないから精神的な疲労がどうしても残ってしまう。しかし、それだけの甲斐はあり、順調に技能レベルが伸びている。

 東方先生の指導が熱を増すに従って、東方先生の指導の後に修羅場が発生することはだんだん少なくなっている。4人もこちらの体を心配してくれていることがひしひしと感じられてうれしいが、だからといって修羅場を休日に集中豪雨のように発生させるのは勘弁願いたい。

 ようやく部屋に戻って腰を落ち着けるとテューディが入ってきた。どうやら専用機の件が解決したらしい。

「お疲れ様。言いたいことがあるけど言わないわ」

「……ありがとう」

 心遣いがしみてくる。東方先生との修行を開始したばかりのころ、エースパイロットを集めるだけ集めれば、それにバイオロイド兵の能力向上を突き詰めてしまえば、私が戦場に出る必要性は薄れてくるんじゃないの、とミツコさんやテューディに指摘されたことがある。

 特にテューディはガッツォーの設計理念を使えば、キットの強化でレベルの問題が解決できるとして強行に迫ってきた。その意見の妥当性に気が付いたミツコさんも参加し、戦闘に参加しないことを勧められた。

 しかし、私はそれを断った。戦闘に出る出ないの問題ではなく、私自身が抱えるシステムに対する不安感が背景にあるからだ。あのシステムが開示する能力を見る限り、私は如何見てもシャアに勝てるほど強くはない。能力の素質こそポイントで獲得してあるのだろうが、絶望的に経験が足りないのだ。あのときの私は、一般の、ザクにしか乗れないような経験しか持っていない。

 しかし、私はジオングに勝った。勝ってしまったのだ、あのシャア・アズナブルに。

 それは確かにオーバーテクノロジーがあったからかもしれないが、システムが最後の最後に明かしたミスマッチング問題のように、こちらにまだあのシステムが隠していることがあると考えるのが普通だ。ミスマッチングなどの問題で制限をかけてくる、修羅場ポイントと言うふざけたポイントを設定する、そんな事をするシステムが、何かを隠していないと考えない方がおかしい。

 考えた挙句、私はそれを直接関わるか関わっていないかによっているのではないかと推測した。一年戦争では直接関与した結果は大きく変化しているが、関与の度合いが少ない分野や出来事、特に他人を介したそれは、人間の数としての被害こそ抑えられているが概ね歴史どおりに運んでいる。いや、詳しく言えば、代理の者を立てた場合でも、「関与」そのものの度合い如何によっている。関与したのに無理だったのは覚えている限りアストライアさんの件とアムロの軟禁の件だけで、しかも大筋には影響のない小さな事例であり、私も強いて何かをしようとは思わなかった。

 それだけではすまない。関与の度合いが少なかった出来事は普通そうなるであろうというふうに運ぶどころか、「本来の歴史になるように修正され」てきている可能性が高い。今回のコーウェン少将の件は特にそうだ。ガンダム開発などと言う話なら、まずこちらに来るのが筋だ。しかし、コーウェン少将が主導している。

 その上、一部の事例については関与の度合いが強くても修正を受けている可能性がある。EXAM機の出現にしても、アレだけジオンからの亡命者に目を光らせていたのに、私のところにクルスト・モーゼスの情報が来ないのはおかしい。思えば、アレは強化人間を登場させようと言う修正だったのではないか?

 一体システムなりシステムの背後にいるものが何を考えているかがわからない。しかし、わからない以上はそれを一つの要因として考えるしかない。そしてシステムは、私が直接関与した事例については変更を許容しているらしいことも推測が付いた。いや、関与事例に関してはむしろ、例外を除いてこちらの後押しをしてくれていると考えて良いだろう。

 となると、戦闘に参加することでしか関与できない事例が生じた場合のことも考えておかねばならない。だから、戦闘訓練をするんだよ、と話すと4人とも納得してくれた。まぁ、ハマーンは戦闘に参加する=一緒の時間が増えると感じていたようだし、セニアは兄のデュラクシールの一件以降、整備には関わるが開発にはタッチしていなかった。私と関係が生じてから、忌避していた設計にまで踏み込むようになってくれた。その思いを無駄には出来ない。

「……気に食わないね。何か、自分の感情まで支配されているようで。支配できる能力があるなんてことは救いにもならない。自分に対して使えないかな」

「辛い?」

 対人関係掌握能力で精神支配が可能になったが、廃人になる可能性があるともなればあまり使えない。勿論、こちらに悪戯を仕掛けてくるティターンズ系のテロリストとあまり変わらないスパイは別だ。極端な事を言えば廃人になろうがかまわないので遠慮なしに使っている。問題は其処ではないが。

「……デュラクシール、セニアと相談して一機は製造しておいたわ。連邦側の専用機はあなたがビルトシュバインの改造機、ハマーンは白いヒュッケバイン。ジオン側はやっぱり悩むの。少し待って、もう候補は絞ってあるから」

 その言葉にため息を吐く。システムの考えていることがわからないことが明らかになってから、セニアとテューディは実戦投入までに洗いざらい問題を解決しておくべきであると主張し、使う可能性がある機体をポイント生成しておくよう申し出てきた。私もヴァイサーガの一件があるためOKを出した。せっかく生成しても実戦で使えなければ意味はない。

「投入の時期は選ぶよ。それまではゲシュペンストを使う。ハマーン用のサイコミュ対応型をタイプTTから作っておいて」

「勿論。デュラクシールだけど、まず色々ガンダムチックに変更をかける必要があるわ。名前も、ガンダム・デュラクシールにしてRXの番号がつけられるようにするつもり。それに、ジオン系のMSも幾つか作らせているけど、見合わなければ、ガンダム顔の機体でも、モノアイゴーグルをつけさせるわ」

 一息おいてからテューディは言った。

「デュラクシールも元のタイプより強化するって、セニアが。やっぱりみんな、不安みたいよ」

「……だろうなぁ。俺も、やっぱり不安がある」

 急に心細くなってしまった。いままでシステムにある程度信頼があったから、結構気合入れて、後ろの心配なしにきたけど、無制限に信頼できない可能性があると思い立つと、どうしても不安が先にたつ。それと共に急にテューディがいることがありがたく思えてきた。一瞬、CCAの時のナナイとシャアのシーンが頭をよぎるが、無視しようと思った瞬間!

 やばい!TMシステムのアレが出た!焼けるように熱くなってきた頭を上げてテューディの方を見ると、にっこり笑ってこちらに顔を近づけてくる。テューディさん!あなたこれを狙ってましたね!

「ふふ、セニアが鳴いて喜ぶほどの凄まじさ、堪能させてもらうわ」

 意を決した。システムの奴は本当に気が食わない。意識を操ってまで何度もこういう事をさせられるのは流石に我慢がならなかった。銃を取り出して太ももに数発弾をぶち込む。防音壁だから音が外に漏れることはないが、目の前で自分の足を打ち始めた私にテューディが目を見開いて驚いている。

 傷はすぐふさがり、血液もナノマシンのおかげで分解され体に戻るが、もう我慢ならない。システム運用で人の体に影響を及ぼすわ、自由意志と言っているくせにこちらの意志を束縛にかかる。あのシステムの運用方針は一度、問いただしておく必要がある。

「ようやく耐えられる程度には成長したか」

 ドアが開き、東方先生が顔を出した。どうやら、同じ事を考えていたらしい。テューディが呆然とした後で頭をはっきりさせるためか、顔を何度か叩いている。もしかして、TMシステムの影響は女性の方にも及ぶのか?そして私へのTMシステムの作用は、いつの間にか消えていた。


 精神的にどうしようもない状態に追い込まれているが、システムの奴が気に食わない奴らしいと言うことはわかった。驚いたのは、東方先生も少ない情報から同じ考えに達していたようで、その点をこちらの不利になろうともシステムに正しておくべきだとアドバイスをもらってしまった。

 さすが東方不敗。原作を逸脱しても全く不思議じゃないそのキャラクターは相変わらず。ということで、月面本拠の最深部。システムが収まっているらしい、あの巨大な反応炉がある階層まで、東方先生とテューディをつれて来た。東方先生には経験から、テューディには理知的なアドバイスをもらうためだ。

「システム、幾つか聞きたい事がある」

 それにシステムは答える事無く、いつもどおり、コンソールに日本語で表記を出すだけで答えた。

「候補者の疑問に対する回答は、システムに許容されている範囲に限定されますが宜しいですか?」

 その回答にYのキーを押して同意を伝え、早速質問をぶつけていく。

「自分の能力を見ると、どうしても私がジオングに勝てたとはぜんぜん思えないのに勝利した。それは何故?」

「能力が現実にどのように発揮されるかは出来事の度合いによります。あなたの場合、素質に関してはポイントによるレベルアップでかなり上昇しており、また機体面ではシャア・アズナブルの使用していたMAを越すMSを使用していたためです。シャア・アズナブルのMS特性は高機動型MSにあり、それ以外の機動兵器を使用した場合には非慣熟による運用精度の低下が生じます」

「嘘だな」

 東方先生が口を挟んだ。

「そのシャアとか言う男、戦闘は確かにトールに優越していた。トールの機体にも不調が発生しているからそれは更に広がろう?お前のいうとおりにはなるまい。そもそも、馬鹿げた言を叫びながらで、あの程度の反応。シャアを追いきることなど到底無理であろう。あんなものが通用するのは物語の中だけよ」

 東方不敗というこれ以上ない戦闘のスペシャリストを前に、システムはやっと真実を答え始めた。

「……否定はしません。システムは候補者の歴史改変をサポートするために存在します。候補者の歴史改変のための行為が、システムの判断基準において正当なものであれば、システムはそれを援護するための機能を保持しているため、補助を行います」

 やはり、私と東方先生は頷いた。テューディが口を開く。

「と言うことは、あんたの判断でトールの行う改変をコントロールすることも可能と言うことかい?」

「いいえ。基本的にシステムの介入が可能なのは候補者が関与した事例のみです。候補者が他のキャラクターを用いて介入を代行させた場合、ポイントにより召還したキャラクターや近しい宇宙世紀の人物を用いた場合には候補者のそれに若干準じた介入が行えますが、関与の全くない宇宙世紀のキャラクターがそれを行ったのであれば、準じた改変は行えない可能性のほうが高く、本来の流れどおりに進むか、改変による反動の発生を考慮しなければなりません」

「どういうことだ?」

 私は聞いた。何とはなしに解るが、ここは詳しく聞いておきたい。

「候補者の改変は歴史に対して優越性を持ちます。候補者の関与がある人物の行動は、候補者の関与の度合いによって歴史に対する優越性が上下し、それに基づいて行動の結果に変化が生じます。候補者が全く関与しない人物の行動については、本来の歴史に戻るように行動する可能性が高くなります。勿論、多次元統計学上の例外的事象もありえます」

 なるほど、やはり、私が関わるか関わらないかで改変結果に変動が出る、と。と言うことは、逆に言えば関与しない人物たちの行動は本来の歴史―――60億の人口が死に、宇宙世紀が混乱の時代に入るように動く、ということか。あれ?

「しかし、60億の人間が死ななかったのだから、歴史の動きはそれだけで変更がかかるんじゃないか?」

「肯定します。その場合は候補者の改変した歴史と本来の歴史の折衷点に帰結するように行動することになります。候補者が認識する修正力と言うものとは少し違います。本来の歴史に戻ろうとするのではなく、本来の歴史との整合性が取れる段階まで戻ろうとするのです」

 トールはここで疑問をぶつけた。

「私以外の候補者とやらが同時に存在するのか?」

「いいえ。システムを扱えるのはあなた一人です」

 ん、言い方がおかしいな?

「候補者、つまりシステム運用権限を持たなくとも、歴史を本来の動きか、その折衷点とやらに修正しようとする者はいるのか?」

「それは禁則事項に抵触します」

 答えられない、と。東方先生が頷いた。この疑問について得られる情報はこれが限りだろう。次の疑問だ。

「システムが行う私への援助とは?」

「具体的に言えば多岐にわたります。煩雑なので概して言えば、援助内容が候補者の自由意志に沿うように、微調整を範囲限定、もしくは非限定でかけます。先ほど質問にあったシャア・アズナブルとの戦闘では、サイトロンの不調による入力・行動のタイムラグを減少させ、オルゴン・クラウドの使用の際に、次元移動の出現位置調整で補助を行っています」

 つまり、おバカをしつつ不調なサイトロンであそこまで良い場所に移動できたのはこいつのおかげか。

「その補助には制限があるのか?」

「この補助は候補者の変換したRP量に依拠しています。RPレートは現在物質100tにつき1Pですが、この変換の際、システム側でもポイントを獲得し、候補者の行動を補助する際にシステムの判断でポイント使用を行っています。候補者が投入した物質は、元素変換をかけない限りポイント化され存在が消滅しますが、その存在の分だけ介入を行える、と考えてくださって結構です」

 なるほど、単に物資をどかどか放り込むだけでポイント化するのはおかしいと思っていたら、そういう裏があったのか。存在、ね。確かにこれは大きい。1tの物質が世界から完全に抹消されると言うのはかなりの大事だ。それがアレだけ重なれば、そうした行為も自由になる、と。かなり恐ろしい話だぞ、これは。

 私は、最大の疑問をぶつけてみた。

「ということは、システム、もしくはシステムの干渉を受けた存在が候補者の排除を試みる可能性があるということか」

「……ここまで深い結論に達した候補者は少数です。もっとも、その少数のほとんどはシステムに疑問をぶつけようとはしませんでしたが」

 システムの話し方はどうみても知的生物のそれだ。絶対に裏がある。しかも、少数であってもここまで到達した候補者が他にいたのに呼び出した、と言うことは何かがあるのだ。

「最初に話した通り、本システムの要求は宇宙世紀世界における人口減少の抑制、およびそれに伴う文化面での衰退防止です。重きは後者にあり、本システムは要求を叶えようと候補者が動く限り、候補者に対する支援を惜しみません。候補者がそれに値しない行動を起こした場合には、それが行動基準という深いところに達していなければある程度許容します。行動基準と行かなくとも、結果として前述の二項に抵触した場合は三度の警告の後、排除します」

 これがシステムの行動基準か。トール、そしてテューディと東方不敗は頷きあう。

「排除とは?そして、値しない場合とは具体的にはどういうこと?」

 テューディがたずねる。

「排除はこの世界からの抹消。および禁則事項内に含まれる存在による、抹消行動の開始です。抹消行動の具体的内容については禁則事項です」

 なるほど、やはりここはわからないところが多い、と。ならば、後の質問の答えは?

「値しない場合の第一の基準は、史実以下への人口減少、史実以下の生活圏拡大、史実以下の文化水準の低下です。第二の基準は、候補者にその意志がなくとも、長期的に見た場合に第一基準が生ずる可能性が高くなった場合です。現在の候補者であるあなたの成績は、かなり良いものです。システムは満足しています。御希望でしたら、これまでより更に深く、事態の推移が警告基準に向かう場合、および達した場合に注意勧告を入れましょうか?ポイントが必要ですが」

 ふぅ、ということはまだ信用がおける段階な訳だ。そして、警告が行われてから注意して行動する必要が生じる、と。当然、勧告にはポイントを使う。知らぬ間に裏切られていた、なんてことは避けたい。

 どちらにせよ、気をつけては行かねばならないだろう。ため息を吐くと最後の質問を出す。

「何故TMシステムの運用にあんなバカな条件をつけた?胃痛で苦しめとかはまだギャグとして解るが、自由意志を奪ってのあのシステムは、自由意志云々を言っていたお前の言葉に反するが?」

「……禁則事項です」

「ふざけるな」

 私は言った。お前が言うな、と言われそうだが、言ってはおかねばならない。

「社会的な人間における自由意志は、基本ルールとして相手の自由を阻害しない範囲内で自重すると言うのが基本理念だ。それをシステムが無視しているからには、答えてもらわねば協力などできない」

「……」

 システムは黙したままだ。そのまま待つ。

「了解しました。世界観の話になりますが宜しいですか?」

 私は頷いた。どんな話だろうが理解しなくてはならない。

「先ほどの話と絡みますが、何もしなければ当然そうなる世界を変えるためには、世界の中の存在に知識を与えるだけではすみません。システムのみを与えるだけでもすまないのです。その場合、改変は細部にとどまります」

「???」

 いきなり訳の解らない話になった。

「候補者の理解では『培養槽の中の脳』、という概念が近似しています。世界内の存在に世界の変革は不可能です。なぜなら、世界内の存在は世界を認知できないからです。『ある』世界を変更するためには、『ある』世界を『ある』世界以外の場所から認知している必要があります」

「つまり、他の世界の出身者で、しかも介入する世界を何かの形で知っている人間でないと無理だ、と」

「肯定します。本システムには並行して行うべき幾つかの任務があります。その一つが『世界を認知している存在』に対する干渉の可能性です。TMシステムをあなたがデザインした際にあのフラグを混ぜたのは、それが可能かどうかを検証するためです。……結果は、自由意志を完全に奪うまでには至らず、となりましたが」

『システムが並行して行う任務』。また出てきた隠し事だ。

「システムが並行して行う任務については他に何がある?」

「禁則事項です。……しかし、本件に関してはシステムと候補者の円滑な関係の維持のために問題と考えます」

 テューディが口を挟んだ。

「だったら、あなたのしているその並行した任務とやらで、トールに干渉するような任務の放棄を要請するわ。其処が妥協できないなら、トールは本来の世界に戻すべきよ」

「……私としても現在ここで、成績の良い候補者を放棄したくはありません」

 システムはいった。

「そこのキャラクターの言うとおりに設定したいと思いますが、候補者は同意していただけますか?」

「……一度だけだ」

 私は言った。東方先生も頷く。テューディも肩をすくめた。こいつはさっき、「完全に」といった。任務の進行如何によってはロボット化される恐れもあったわけだ。そんな奴を何度も信用できない。

 それと共に自身の安全性についてもう少し深く考えるべきだと痛感した。色事にかまけて調子に乗っていたのだ。今にして思うと自分の行動がバカらしく思えてくる。恥さらしも良いところだ。綺麗どころに言い寄られ、鼻の下を伸ばしていた、と言うわけだ。

 ……ああ、もう。



[22507] 第43話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/14 12:40
 ジョン・コーウェンの心には焦りがある。最初の焦りは、順調に進んでいたV計画のひとつ、MSの戦力化計画で、自分よりも遥かに年下の、名前も聞いたことのない少将に率いていた部隊を接収されて生じた。次の焦りは、樺太での戦闘で、その部隊が壊滅した事を聞いたときに生じた。

 そして最後の焦りは、その男が月面の基地および駐留艦隊司令に栄転したことで生じた。

 連邦軍は官僚組織である。官僚組織は厳格なルールで運営される。組織である以上、運営が最大の仕事であり、それを円滑に進めるために運営に関するルールは厳格に設定される。そして人間関係の円滑さは、様々な社会的慣習と相応していることが多い。よく批判される年功序列はその最たるものだ。

 勿論コーウェン自身にとり、一年戦争中にトール・ミューゼル少将が為した功績を否定するつもりはない。自分にあそこまでの業績は無理である、なんてことは彼自身がよく知っているし、なによりも一年戦争を戦ったのは彼が主導し開発したMSたちである。

 しかし、長い軍人生活、いや官僚生活で培われた習慣と言うものは抜けない。一年戦争中に実戦部隊の指揮官となったとはいえ、本来コーウェンもジャブローでイスを暖める、官僚系将軍の一人であることに違いはない。実戦閥、所謂レビル将軍のような、宇宙軍の実戦指揮官で大将になるものなど、いままで存在しなかったのだ。連邦軍における大将のイスとは、長らく政治的暗闘の結果によって生ずるべきものであるとされてきており、実戦での功績によってのものではなかったからだ。

 けれども、一年戦争は戦争で、軍隊は戦争をしてなんぼである。戦争が起これば戦争で活躍した軍人が昇進するのは当然のことで、 その戦争での功績が微々たるものであった以上、この待遇は甘んじて受けねばならなかった。但し、ジョン・コーウェンと言う人物の中に、トール・ミューゼルという人間がどういう印象で刻印されるか、という点には決定的に影響を与えていた。

 ジョン・コーウェンが「GP計画」を担当することになってまず最初にやったことは、計画からGP社を外すことだった。GP社はあの男に近すぎるからだ。次にした事は、あの男のところにあったガンダムを受け取ることだ。同じ素材からそれ以上の物を作れば良いからだ。その次にした事は、母艦を取ることだ。同じ艦で構成された部隊になるからだ。最後にしたことは、指揮官を取ることだ。そうすれば、違いはなくなるからだ。

 思い返すとバカらしいと自分でも笑ってしまうが、しかし、GP計画は今のところ順調に進行している。今年再開される年度ごとの観艦式に、連邦軍の象徴としての新型ガンダムがお目見えするのだ。そしてそのガンダムは、すべてにおいてジオンMSを超え、否定するものでなければならなかったし、ロールアウトする機体はその基準を満たしていた。

 GP01はその高性能でジオン製よりも高い技術水準に連邦製MSが到達した事を示す。GP02は核兵器運用に関しても、それが達成可能である事を示す。GP03は、戦争後半にジオン軍が投入した大型機動兵器、MAという分野においても、それが可能である事を示すのだ。そしてこのガンダムの成果は、連邦軍の威信復活と地球圏の現状維持の象徴とされるだろう。

 そのすべてのガンダムが彼の手を経ること、それが大事であった。

 三者三様。この時期のミューゼル、コーウェン、ジャミトフの三将軍はこのように言える。特に、三者の考え方がどこかで重なり合っていることが興味深い。

 ミューゼルは人口減少を抑制し生活圏の拡大を為すため、戦争を小規模化させるために戦力としての新型MSを模索していた。ジャミトフは人口減少を促進させ生活圏の維持を為すため、戦争を大規模化させるために戦力獲得を模索していた。そしてコーウェンは、連邦軍の威信確保で現状を維持し、戦争や変革を棚上げさせるための戦力としてガンダムを欲していたのである。




 第43話



 システムとの一件が片付いてから、少し、いやかなり落ち込んではいたが、この頃、ようやく気を取り直しかけている。あれこれ考えているうちに時間は過ぎ、心の整理をつけたころには0083年も半分を過ぎてしまった。だってなぁ、今思い出したら、一年戦争終盤からあの時の私って正直黒歴史ですよ?とっかえひっかえ女に手を出すとか。なんで世界が変わっても黒歴史を生まなくてはならないんですか御大将!?


 まぁ、良い(良くないが)。現在、私の心配事は二つある。あの4人関係のことはおくが、デラーズとジオン残党の動きがどうにも変であること、および、コーウェン少将の動きがこちらの邪魔になってきていることの二つだ。

 まず前者だが、最初にそれを感じたのはいつまで経っても第二次「水天の涙」作戦が始まらないことだ。既に、オデッサではなくなんとキャリフォルニア・ベースから(ああ、そういえば痛い子ニムバスがいたな)回収されたイフリート・ナハトがジオン軍特殊部隊に奪取されたと言う報告は受けているし、そのイフリート・ナハトが第一次「水天の涙」作戦で撃退されたこともつかんでいる。

 欧州軍管轄内でのウラル山脈レーダー基地襲撃の後に、北米オーガスタ基地が襲撃されることで始まる第一次「水天の涙」作戦はどうにかなった。月面N1のマスドライバー基地を占領しようとしたジオン残党はデラーズがまだ本格的に動いていなかったこともあり、かなり簡単に撃退が出来た。あれ、そういえばファントムスイープ隊っていたよね?どうしたんだろう?まぁいいや。後で考えよう。

 しかし、本来ならその後で起こるはずのアデン湾近辺の、HLV発射基地の攻防戦が行われていないのだ。確かに基地はあったが、設備がかなり持ち去られていた。ということは当然、その持ち去られたものが問題になる。この時点で、第二次「水天の涙」作戦の展開が不明になった。

 そしてそれから1年近く。アフリカと欧州のジオン残党はその動きを露にはしていない。特に、アフリカ掃討軍がジャミトフの方針で守勢に入ってからは更に情報が入ってこない。流石に管轄外に手を出すわけにも行かないし、アフリカ全域を押さえられるだけの高性能衛星を送り込むわけにも行かない。どうやってもばれる。

 少数生産した、ミラージュコロイド装備の監視衛星を送ってはいるものの、ジオン軍の方も連邦が衛星による監視を行っていることは当然承知しており、移動にはかなり注意を払っているらしい。それでも、幾つかの部隊がキンバライド基地に入っているらしいことは察知したが、HLVは確認できていない。空洞は一つしか見えないから、一基しかHLVがないことは確かだ。

 早まったか、と思うが、現状致し方ない。今からデラーズに連絡を取れば、却って怪しまれるだけだろう。それに、この前のシステムとの会話からして大体予想が付く。恐らく、第二次「水天の涙」作戦に投入されるはずの戦力は、デラーズと呼応して動くに違いない。

 それが「水天の涙」どおりにすすむのか、はたまた「星の屑」に合流して進むのかは定かではないが、月と地球に部隊を分けたことは、結果として悪くなかった選択になる。デラーズとアクシズの連絡状況も、ゼブラ・ゾーンを介して入手しているが、流石にこの頃は少なくなってきている。そろそろ、動き出すようだ。

 もう一つの心配事はコーウェン少将の件だ。本来なら中将に昇進し、第三軌道艦隊の司令職につくはずだが、第三軌道艦隊は編成されていないし、彼自身も中将ではなく少将のままだ。しかし、軌道艦隊所属の任務部隊に対する命令権を得てはいる。解らないのは、この歴史上にはないコーウェンの動きだ。

 コーウェンはジャミトフの示唆を受けたコリニー提督に第三軌道艦隊の命令権を剥奪されるが、それまでもサラミス2隻を増援としたのみで、大規模な援助をアルビオンに行っていない。確かに無理はあるかもしれないが、単艦でジオン軍の追撃など、いくら高性能のガンダムを持っているとはいえ考えられない行為だ。

 となると、史実のコーウェンにも保身の考えがなかったとはいえない。その保身の考えで部隊を動かさなかったことこそが、あの結果を招くこととなる。それは、コリニーの邪魔があったとしても言い逃れは聞かない失態だろう。そして、歴史はその通りに進みつつある。それは、コーウェンがアルビオンの艦長としてシナプスの、テストパイロット隊の隊長としてバニングの派遣を要請してきたことからもわかる。

 有能なパイロットであるバニングはともかく、この時期に月艦隊からわざわざシナプスを引き抜く理由はない。しかし、コーウェンの引き抜きの理由が政治的なものに根ざしているとするならばそれは充分にありうる。第13独立艦隊の艦隊運用面は第一軌道艦隊の参謀長を務めるヤンではなく、実質シナプスが採ったからだ。ガンダムの再来を考えているなら、指揮官も倣おうとでも考えているのだろう。

 となると、今度はシナプスが戦力減少に引きずられて歴史どおり、GP03の強制接収に入る可能性が高い。そうなればシナプスは反乱罪で死刑だ。それは流石に避けたい。あの人は順調に行けば大将を狙える。そしてそれは、今の連邦軍に新しい良識派の軍人が加わると言うことでもある。

 やはり問題は時期、か。コーウェンを見捨てても問題がない時期の見極め。やはり、これが重要になるようだ。


 0083年8月13日。アクシズからの連絡で、マハラジャ・カーン中将からドズル・ザビ大将(昇進した)が指揮を引き継いだらしい。詳しい話を聞いてみると、やはり歴史どおりにアクシズ内部での過激派と穏健派の対立が起こったことが理由で、ドズルを前面に押し出さなければどうにも押さえきれなかったらしい。

 マハラジャ提督は本来ならここで死ぬはずだったが、穏健派が火星の衛星ダイモスに居を移す形で退くことで何とか事は収まったらしい。しかし、過激派中心の部隊が主流派となったアクシズでは、連邦政府への反撃を望む声が強く、今回のデラーズの一件に関しても、何らかの形での関与を望む向きがあるらしい。シャア用のゼロ・ジ・アールはまだアクシズに放り出してあったはずだから、アレを元に何かをする可能性がある。ノイエ・ジールについてもそうだ。

 そして、それらの不安を抱えたまま0083年10月を迎えるのである。



 0083年10月13日。オーストラリア州トリントン基地。

 トリントン基地が、旧世紀からの核兵器の貯蔵が行われている点は本来の歴史とは変わりない。むしろ、コロニーも落ちず、ジオン軍の降下もなかったため、戦争中とはいえ史実よりもよほど平和だった。

 しかし、そうであるからにはこの大地を用いて何事かを為そうとするわけで、一年戦争中には被害を受けた連邦部隊の再編成拠点として運用されていた。ここに核が収められ続けた理由も、ジオン軍の侵攻がないことが第一の理由である。

 そのトリントン基地を遠くに望む丘陵の影に、襲撃を行うボブ中尉の部隊が集結していた。

「お前ら準備は良いな?」

 その声に一斉に返事を返す部隊員たち。ザメル1機、ドム・トローペン4機の編成だが、アフリカ方面の残党軍が保有している潜水母艦の部隊からも支援がある。そのため、戦力に不足はない。

 現在、トリントン基地に配備されているのは訓練用の鹵獲ザクⅡが4機、ジム改が6機、試験用のパワード・ジムが1機そして基地守備隊所属の陸戦型ジムが8機だ。これに加えてアルビオン内部にはGP01、02の二機が格納されている。絶望的な戦力差ではあるが、ボブ中尉の部隊に悲壮感はない。むしろ、新兵中心の連邦軍に勝るのは当然と意気込みも強い。
 
 そして、ユーコン級の長射程ミサイル射撃というお定まりのパターンから、トリントン基地攻撃は始まるのである。



「始まったようだ」

「だな」

「気を抜くなよお前たち」

 三者三様の答えを降り注ぐミサイルを見つつ言ったのは、出撃前の最後のミーティングを終えたボブ中尉の部隊から更に40キロほど離れた、オーストラリア、グレートディヴァイディング山脈の裾野に展開していた、三機のMSに乗った者たちである。

「で、如何するトール。邪魔するか?」

 まず発言したのは今回からお呼びしたアクセル・アルマー連邦軍大尉(記憶なし版)。専用機としてアースゲインに乗ってもらっている。あまり表に出ない介入が基本となるだろう戦間期。エゥーゴ誕生まで単体での介入が必要になるだろうから、来てもらったのだ。

「ここで介入すると先が見えなくなりそうだから、先行してコムサイの撃破に向かおう」

 その言葉に老いた声が同意した。内容が分の悪い賭け好きギャンブラーだが、勿論その人ではない。

「そうであろうな。切り札の切り時は見極めねねばならん。……わしらの誰かを基地守備隊の援護に送るか?」

 ポイントで月以外にも出られるようになった東方先生の言葉に私は頭を振った。乗っている機体は当然、クーロンガンダムだ。新たに機体を用意すべきかと思ったが、使い慣れたものが良いと反論されたのだ。それに、第一次ネオジオン抗争あたりからマスターガンダム使えばいいや、と思ったのだが、やはり、Gのデザインは微妙な感じがしないでもない。いや、好きなんですけどね。

「私に助けられたと知るとコーウェンが黙っていないでしょう。下手に対立するとジャミトフを利する可能性があります。……0083年でのコーウェン失脚は避けたかったんですが、シトレ大将の作戦本部とヤン少将のルナツー司令部が維持できるなら、必要性は薄いです」

 東方不敗はよし、と頷いた。システムとの一件以来、落ち着きを取り戻すまでにかなり時間がかかったがようやく元に戻ったようだと感じている。目的の為に捨てるべきものと拾うべきものの判断が付くようになったことは成長と考えている。まだこちらに来る前の、何にでも手を出そうとして、結局変化を起こせなかった事例をよく反省もしているようだ。

「良い判断だ。介入するなら何処だ?」

 私は頷いて言った。

「まずはソロモンです。デラーズと裏取引をしている形跡のあるワイアット大将はコリニー閥です。恐らく、観艦式の艦隊は今回、シトレ大将の艦隊で行わせるつもりでしょう」

「……反対派閥を敵との裏取引で沈める、か。救いようがないほど悪辣な手だが、有効ではあるの」

 東方先生の言葉に私は頷いた。ジャミトフの恐ろしい所は、そのやりようの結果が絶対に何かしらの効果がある点だ。30バンチ事件にしても、見事なメディア操作で完全に覆い隠してしまった。あの事件は、事件そのものよりも事件を隠蔽できたジャミトフの凄まじさを明瞭に物語っている。コロニー落としを落下事故としてしまったことからも、ジャミトフのメディア操作の腕前は疑いようがない。

 バスクやジャマイカンは毒ガスの方へ目が向いたらしく、同じように毒ガスとコロニー落としを仕掛けるが当然バレバレで穴だらけの作戦展開となった。シロッコですら暗殺と言う手段でなければジャミトフを排除できなかったのだ。

 あの男は恐ろしいとトールは思う。政治面では絶対に敵としてはならない。しかし、彼を使わなければ連邦軍内部の地球至上主義者や腐敗議員を一掃出来ないのだ。ジャミトフという大きな釣り餌があったればこそ、連邦議会議員も地球至上主義者も彼を支持したのである。ダカールでの演説の成功は、結局のところジャミトフのコントロールを外れた部隊によって引き起こされたものだ。その名の通り、Titans。かつて滅びた巨人と同じく、巨大すぎたゆえに滅びることとなったのだ。

 だからトールは今のジャミトフを恐れる。組織が巨大になっていないということは、今の段階のジャミトフは組織を完全にコントロール出来る。この段階での対立は絶対に避けねばならなかった。ジャミトフ一人で運営されるティターンズとなるはずの組織は、絶対にいつの日にか、ジャミトフですら押さえきれない化け物へと成長する。その時期を待たねばならない。

 恐らく、グリプス戦役で本当に恐れるべき相手は、ジャミトフしかいないだろうから。



 張維新の現在の主な仕事はNシスターズの裏社会の取締りである。取締りとは言っても別に治安を維持する方ではなく、どこの町でも同じように存在する、アンダーグラウンドと呼ばれる世界の顔役だ。N1は月面でもかなり治安のよい町ではあるが、そうした組織と無縁ではいられない。

 お調子者の弟、となっているトール・ミューゼルからはニタ研への襲撃任務を割り振られているが、基本彼の仕事は情報集めだ。宇宙世紀になっても各所で多くの人口を構える中華系の人間たち。そうした社会に踏み込んでいくためには、どうしても中国人である必要がある。

 だから、彼はN1で勢力を拡大できたし、宇宙世紀に入っても同じように各サイドに出来ている、チャイナ・コロニーに関する情報関係の仕事は、彼を通さなければ何も出来ない。

 今日の仕事もその一つだった。ジオン残党のは当然その国家傾向からして西洋系の人材を中心としているが、だからといって単純なマンパワーや、特に物流の側面ではどうしても中国系の人間を関わらせる他はない。それは、アフリカでも月でも変わらない出来事だった。

 現在の彼の居場所はエジプト・アレクサンドリア。連邦海軍の軍港都市であるこの町は、港の雑役夫として多くの中国人が働いている。そうした中国人によって作られるチャイナ・タウンの一角に、現在彼は歩みを進めていた。

「……あんたが張さんか?」

「そうだ。お前さんがここの顔役のつなぎか」

 男は頷くと、中華街に必ずある、中国系銀行に彼を連れて行った。小額の現金でも小額の手数料で故郷の肉親に送れる為、中国人には多用される場所のひとつだ。そして当然、中国人が集まるからには情報が集まりやすい。わざわざ張が出向くほどではないが、顔役が以後のつなぎと付き合いのために張の来訪を請うたのだ。こうしたやり方で、相手が信頼できるかを見抜く。

 銀行の裏口から入ると一人の男が頷いて張の手に紙片を握らせた。頷くと男は出て行く。紙片には番号が書かれ、鍵が納まっていた。張は紙片に書かれた貸し金庫を開け、中から書類を取り出す。数枚めくって中を確認すると、ふん、と鼻を鳴らした。

「こりゃ急いで伝えなくちゃならんな」

 張はため息を吐くと、部下に顎で合図してカイロの宇宙港へ向かう。樺太への一番早い便を確保させた。 

 書類にはまとめるとこのように記載されている。アデン湾からの輸送船がアフリカ南部、および地中海を経由してスカンジナビア半島ナルヴィク方面へ向かった、と。

 スカンジナビア半島北部は、オデッサ作戦の際にサンクト・ペテルブルクのある地峡部を遮断されたジオン軍が、いまだゲリラ戦を行っている地域だ。連邦が把握していない基地の存在も示唆されているが、上手く隠蔽されているらしく位置が把握できていない。

 トールの目はアフリカに向かっているが、裏を掻かれる可能性がある。張はエレカに乗り込むと部下をせかして発車させた。



[22507] 第44話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/15 04:52
「これで、アフリカの目しか残らなくなったな」

 目の前でブースターから激しい炎を上げて炎上するコムサイを確認しながら、グレートディヴァイデング山脈の山すそを覆う霧とミノフスキー粒子を目くらましにトールたちは再び身を隠した。

 UC0083年10月14日午前0時20分。まだガトーたちはここまで到達していない。誰がGP02の奪取に来るかは気になっていたが、やはりガトーのようだ。アクシズには行かず、デラーズと行動を共にしているらしい。

「ジオンの通信を傍受します。二人は周囲の警戒を」

「心得た」

「了解」

 コムサイの爆発地点から4キロ北西に離れた森林に身を潜める。コムサイをはさんでガトーや追撃部隊がいる南側でもないし、コースを変えて東方向に向かって海岸線に出ようと考えてもこちらには向かってこないだろう。ミノフスキー粒子も濃く、通常型センサーの友好半径が3キロ程度になっている。お、通信が来たようだ。

「ガトー少佐!コムサイがやられました!」

「何!?連邦の部隊がこの近くに展開しているのか!?」

 そこから通信が小声になる。なにやら相談しているらしいが、ミノフスキー粒子が濃くて聞き取れない。量子通信システムはミノフスキー粒子の影響を大きく排除できるが、完全とは行かないためだ。

「よし、海岸線に出てU-801の回収を受ける」

 レーダーに映る輝点が徐々に方向を東に転じた。地図を取り出して位置関係を確認する。現在位置はウェスタンクリークだから、海岸線までおよそ300キロ。最短で向かうとなると……ゴールドコーストあたりか。いや、少し北にブリスベンがあるから、其処からの連邦軍が来る。距離を取りながら追跡を開始すると、進路を北に転じた。

 やはりブリスベンは避けるらしい。ディヴァイディング山脈沿いに北上して、人家の少ない地域に出るとなると……ケッペルベイ・アイランズあたりを目指すのだろう。あのあたりなら人家も少なく、地形も複雑だから身を隠しやすい。

「あたりは付いたか?」

 アクセルが聞いて来る。先ほどのコムサイを竜王双撃で沈めたのは彼だ。出て行く暇すらなかった。やはり、修羅場を何度もくぐったエースパイロットは違う。

「多分。バイフィールド公園あたりを目指して移動していると思う。あのあたりなら人家も少ないし、基地もない。サンゴ海だから、波も幾分穏やかだ。回収には適していると思う」

「後続の連邦軍は如何する?」

 東方先生が尋ねてきた。コムサイ近辺での戦闘に介入したため、現時点でトリントン勢の戦死者は基地襲撃の際のラバン・カークス少尉だけだ。バニング大尉、ディック・アレン中尉、コウ・ウラキ、チャック・キース少尉はまだ無事だ。編成も0083通り。

「ミノフスキー粒子を東方向に撒いてから撤退しましょう。そうすれば東、ゴールドコースト方面へ向かったと判断するでしょう」

「……流石にそれは考えまい?」

 東方不敗は言ったが、私は頭を振る。

「ゴールドコーストならブリスベンと挟撃が出来ます。それに、どちらにせよこのミノフスキー粒子の濃度では見失う可能性の方が多いです」

「……だな」

 アクセルも同意した。

「バニング大尉も任務の重要性は承知していますが、率いている小隊全員が戦争未経験であることは承知しているはずです。無理はしないでしょう。ただ、無理をした場合でも、この状態で追撃して追いつけるかは微妙です」

「トール、システムの件を合わせて考えてもそうか?」

 う、と詰まる。改変の結果が関与次第と言われている。しかし、ここで関与しても後々の事例にたいした影響はない。

「いいえ、退きます。ここまでくれば、我々の機体を視認される方がまずい。さっさと引き上げて、アフリカに」

「良い判断だ」

 東方不敗はうなずいた。



 第44話



 樺太に帰還した私を待っていたのはレンジ・イスルギと張兄さんの二人組だった。なんとも異色な取り合わせだが、脂ぎったオッサンと張兄さんの組み合わせは、どこかのヤクザ組織を思い出して少し笑ってしまう。基本的にアフリカから脱出するのであれば問題はないと考えているから、これから月へ戻る予定だ。話は早く済ませてしまおう。

「どうしました?」

 話しかけられた二人は譲り合うが、まずレンジが口を開いた。

「閣下から命じられました、ジャミトフ閣下との接触ですが、上手く行きました。N6およびライプツィヒでのMS開発に参与することが決まりましたので、御報告に」

「で、レンジさんは何をジャミトフに流すつもりですか?」

「今回、閣下からタカクラ嬢やフィリオ氏といった研究者やテストパイロットとして妹のスレイ嬢、アイビス嬢の派遣をいただきましたので、まずリオンV型からの提供を始めようと思っております。ジオニックとの業務提携の話、グリーンヒル議員などのお手を借りまして、来年あたりには認められるそうでありますので」

 あ、そうそうとレンジは独り言を言った後で言葉を続けた。

「閣下から御提供いただきましたラミネート装甲、あれを譲渡しようかと考えております。流石にフェイズシフト装甲はまずくありましょう?」

 如何答えるべきかな、と少し困ってしまった。ミツコ・イスルギとレンジ・イスルギにそれぞれ連邦・ジオンの間をわたらせることがGP社に彼らを呼び出した目的だが、有望な投資先を見つけることに腐心するミツコさんとは違い、父親のレンジの方は投資先が絶対に安定している事を求める。

 だから、ジオンに投資先を限定してやれば、投資先の安定化を目的にかなりの腕前を見せてくれると思ったが、やはりそのとおりになった。ジオン時代、彼の水面下でのロビー活動には本当に世話になった。N1を作ることが出来たのも、N1に地歩を固めることが出来たのも、彼の飽くなき安定化への模索の結果だ。

 しかし、投資先が基本的に連邦となる戦間期~グリプスでは、この投資先が安定している点が問題になる。ミツコさんなら投資する部署を幾つかに分けるか、もしくは派閥ごとに分裂する方向に持っていって、新しい投資先を作り出すことに努力を傾けるだろうが、レンジの場合は投資先の更なる安定化を求め、投資している勢力の政治的な勢力の強化に腐心を始めるのだ。今回、ジャミトフ派に対してレンジを派遣した理由は、ミツコさんが私と結婚してしまったため。アレがなければ、ジャミトフとの折衝にはミツコさんが出向いていただろう。

 システムの守らせるルールもあるから、こちらに逆らう真似こそしないが、結果としてこちらが困ることになるのは避けたい。ラミネート装甲は実弾中心の現在はまだしも、ビームライフル中心のグリプスになれば、その硬さを遺憾なく発揮するだろうし。

「……それについては少々、待っていただけますか?新素材としてのチタン・セラミック複合材の使用は許可します。ラミネート装甲の譲渡はジャミトフの勢力拡張の程度を見てから御願いします」

「仕方ありませんな。宇宙用MSの譲渡の件は如何致しますか?」

 レンジは汗を拭きながら同意し、たずねる。現在地球はビュコック大将が宇宙軍総司令に転任したことで空いた第一軌道艦隊の司令職にダグラス・ベーダー大将が就任し、第二軌道艦隊のティアンム大将と共に北及び南半球の静止軌道上の警備を行うと言う防衛体制をとっている。

 現在、連邦艦隊はこの他にコリニー提督の第7艦隊を現在、ソロモン沖に展開させているのみだが、来週発足するヘボン少将のコンペイトウ鎮守府艦隊とワイアット大将の第5艦隊についても、コリニー閥の手を伸ばして、宇宙での活用できる戦力として位置づけようとしているらしい。勿論ジャミトフにも直属の艦隊として、少将昇進後に第9艦隊の設立が噂されているが、恐らくレンジに要求したのはその第9艦隊向けのMSだろう。

「第9艦隊向けですか?」

 レンジは頷く。新型MS。しかも、宇宙空間及びコロニー内での運用が可能な、暴徒鎮圧用MSだと言う。明らかに準備に入っているようだ。……ジム・クゥエルか?いや、ジムⅡの生産が始まっているからこれはコロニーあたりでないと使えない。

「……セニアやテューディ、ミツコさんと話す必要があります。返答はいつまでに?」

「急ぎませんが、今月中には。来月またキリマンジャロで会合の予定ですので」

 私は頷くと張兄さんの方を向いた。張兄さんはレンジが離れるのを確認すると樺太の会議室に入り、入り口で警備する兵士に何事かを命令した。本気で盗聴を心配しているらしい。かなり重要だ。

「まずい事態になった。アデン湾の基地にあったはずのHLVが、恐らく北欧に流れている」

「は!?」

 耳を疑った。北欧?ジオン軍?……あ!

「"ジオンの再興"か!?」

 張兄さんは笑った。どうやら、ヒントとなる事例を出せば即座に知識が出てくる事が笑えるらしい。いやもうほんとスイマセン。僕ガノタですから。

「それはともかく、だ。HLVが北欧に運ばれたと言うことは、北欧から宇宙に上がろうとしている奴らがいるって事だ。心当たりは?」

 北欧。ガンダムではほとんど描かれない地域だ。辛うじて第一次ネオジオン抗争から第二次ネオジオン抗争の間に、シャアが派遣した部隊があの辺りに降下したというぐらいしか記憶がない。しかしそれは90年あたりの話で、今ではない。欧州、近いのはロシア、中東……アデン?水天の涙作戦か!?

「……恐らく、ウラルのレーダー基地とオーガスタを襲撃した奴らだと思う」

「だとすると、お前さん、そろそろ当たりが付いてきたんじゃないのか、トール」

 兄さんの言葉に頷いた。恐らく、水天の涙作戦と星の屑作戦はどこかでリンクして発生するはずだ。どうつながる?コロニーおとしとマスドライバー。両方とも地球に対する攻撃であることは確かだ。目的は?マスドライバーを使えるなら、ジャブローへの集中爆撃も可能だから、歴史の通りに北米の穀倉地帯を狙うよりも確実に連邦に損害を強いれる。

 逆にそのまま穀倉地帯を狙った場合は?連発が効くから穀倉地帯を何度も爆撃可能だが、マスドライバーで打ち出せる質量でそんな事をやろうとすれば、月単位の時間が必要だ。ジオンへの批判を考えなければ、主要都市への無差別爆撃が出来るが、そんなことをすればマーズィムが広まっているこの世界ではジオニズム派は悪魔のごとく扱われる。

「ありがとう。ランドルフ少将に聞いてみる」

「よし。俺のほうでも追加であたりを引けるかやってみるが、あまり期待はするな。欧米系で固められてるジオンとはやっぱり相性が悪い。それに、N1での防諜もあるしな。バラライカは?」

「今は欧州に浸透工作している。ライプツィヒを監視状態に置くみたい。2回襲って当たりがなかったから、80%ぐらいの確率でライプツィヒだとは思うけど、やっぱり防御が固められてて工作に時間を避けないみたい。新型の投入を考えてる」

 それがいい、と張は同意した。実際にPSを使用しての鉄火場の経験があるから、流石に近頃のハイッシャーの力不足は痛感している。ここ数十年お世話になったが、流石に辛い。

「だろうな。この頃はイカれた奴がワーカーを乗り回す時代になった。今使っている機械人形じゃきつい。大きさは大きくなってもかまわないが、20mmだけだと如何にも出来んことが出てくるようになった。新型は欲しい」

 私は頷いた。さて、ランドルフ少将の所へ行かねばならない。張兄さんはいつもどおり、こちらに背を向けて手を振ると、悠然と去っていった。ああいう背中を見せられる男性になれれば良いんだけどなぁ。




 その後、ランドルフ少将に北欧出撃の準備を進めるように御願いして月に戻った私は早速地上に送り込む部隊とジオン側として行動する場合の機体の用意に入った。月に戻ると、テューディが格納庫に新しいジオン製MSを用意してくれていたので早速向かう。

「MS-19ドルメル。これがあなたのジオンとしての機体よ」

 またMADらしいというのか、マイナーなMSを持ってきてくれたものだ。しかし、ゲームの紹介で見たドルメルとは機体の細部が違う。どちらかと言えばジオン時代に乗っていたRFゲルググSに近い。テューディにもその疑問は通じたようで、疑問に対する答えをくれた。

「正式な型番はOMS-17RF、リファイン・ドルメル。性能から言って、グリプスの初期あたりまでは使えると思う。武装はビームライフルとビームセイバー、後は他のMS手持ち武装を流用できるようにしてある。武装の強力化よりも生残性と隠密性に特化させてあるわ」

 なるほど、と頷く。ジオン軍として行動する場合、絶対に連邦軍やティターンズは数で攻めて来る。となれば、当然生き残るためへの技術投資が必要になってくるわけだ。不死設定は持っているけど、だからといってデスルーラを強要されるのもなんだ。

「海兵隊の方はRFゲルググでよいでしょ?あのまま流用すれば、普通に使えるし」

「そうだね。姉さんもガーベラの改造型で良いと思う。……ところで、何故隣に見慣れたゲルググがおいてある?」

 ドルメルの隣には、一年戦争時、ア・バオア・クーで撃墜された―――自分で壊したはずのRFゲルググSがおいてある。

「トール・ガラハウ少将のネーム・バリューってすごいのよ?」

 後ろから声、セニアだ。

「ミリタリー・マガジンだけじゃないわ。ジオン共和国の軍人たちの間では、連邦との休戦協定を取りまとめた武人の中の武人なんて讃えられているし、ジオン残党の中でもあのギレン暗殺犯、キシリアを排除してデギン公王を守り、連邦からサイド3を守っただけじゃなく、指揮下の部隊が指揮官を失ったにもかかわらず友軍の撤退を援護、残党を各地に逃がした、なんてね。マガジンが"最後の勇将"なんて持ち上げるだけはあるわ」

 名前が一人歩きしている。嫌な感覚どころの話ではない。これで蝙蝠などということが判明したらどういうことになるか。そして目の前の機体を用意したということは、その蝙蝠に戻れというつもりなのか?

「あなたに蝙蝠に戻れというつもりはないわ」

 テューディは言った。

「でも、あなたにはいつか、トール・ガラハウにならなくてはならない時がやってくる。トール・ガラハウとして介入しなくてはならない時が、ね。その時のために用意しておくの」

 セニアは頷いた。

「前もって用意しておかないといけないわけじゃない?調整もあるし。デュラクシールとステッペンウルフの調整も一段落したから、ね。それからどう?久しぶりのゲシュペンストの使い心地は?レベル上がったんだから、前よりも軽く乗り回しているんでしょ?」

 セニアが話の矛先を変えてくれたようだ。セニアの心遣いが痛く感じる。テューディが突きつけたとおり、おそらく、またどこかでトール・ガラハウとして活動することになるのだろう。しかし、それは出来うるなら避けたいと考えていた自分がいるのも確かだ。

 これからの歴史と言うのは、恐らくジオンと言うテロリストやゲリラに零落れた勢力で戦っても意味はないのではないかと思っている。政治工作の一環として、リリーナ・ピースクラフト嬢、シーゲル・クラインを欧州選挙区へ派遣し、84年の総選挙での出馬を準備させている。しかしこれも連邦で、ジオンではない。

 ジオン共和国の情勢についてはセシリア・アイリーンからジオニック社を通じて情報が入ってきているが、第一連合艦隊はサイド3を動けないらしい。デラーズの行動がアングラメディアを通じて市民に流れているらしく、戦争を知らないサイド3の市民は、連邦への反体制運動を加熱させているらしい。実戦経験はア・バオア・クーだけ、という学徒兵あがりも同調し、批判的なのは戦争を実際に経験した帰還兵だけだ。

 本音を言えばリリーナとシーゲルは政治的な思想が私と決定的に合わないし、どちらも親族・友人にテロリストを抱える問題の多い方々だ。勿論テロリストの方は呼び出していないが(呼び出せといっても断るつもりでいる)、とりあえずリリーナ嬢には護衛としてルクレツィア・ノインを、シーゲルの方にはダコスタ氏を呼び出してあるからよしとしよう。政治的には意見が合わないが、移民問題評議会のお歴々や、こちらの邪魔をしてくる連中よりは随分ましだ。

 当然、二人にもテロリズムに類する行為を行った瞬間に強制送還を行う、必ず周囲の人間がやろうとしたら止めること、と念を押してある。念を押しても手を変え品を変えやりそうなバルドフェルド氏や、消せないほどの名声を得そうなラクス嬢は絶対に出せない。いや、出さない。後始末だけで如何にかなってしまいそうだ。ミリアルドは如何だろう?

 それにティターンズに対する浸透工作も考えねばならない。レンジからの追加報告を待って、動きにうつろ、ん?気が付くと、セニアが不満気な表情でこちらを見ている。……正直、システムとの一件を考えるとあまりまともに顔を見れない。事情は如何あれ、システムの介入を見抜けなかったのは私の責任だ。

「人の話し聞いているの?」

「……すまん」

 私は微妙な視線をセニアに送った。何か気づいたようだ。いけないな。考えていることが顔に出たか?




[22507] 第45話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2014/07/29 19:39

 結局、歴史どおりにトリントン基地の部隊はガトー少佐のGP02を捕縛することが出来ず、U-801に回収されアフリカに向かう事を止めることは出来なかった。勿論それを黙ってみていたわけではない。ソロモン沖での介入を決めてあるので、基本的に歴史どおりに動くなら問題ないと判断したからだ。それに、今はそれよりも重要なことがある。

「水天の涙」作戦。北欧のジオン残党がどういう動きをするかは注視せねばならない。

 調査してみると、北欧に流れたHLVの数が6,7基。一個大隊クラスの兵員とMSを打ち上げられる。しかも、後期型の自律推進型で短距離程度の移動が可能と来た。最悪軌道上で撃墜すればよいと考えていたが、これではそれも難しい。また欧州に残存する多くのジオン残党部隊がスカンジナビア方面への集結を開始していると言う情報が入った。これに対してアフリカ戦線ではキンバライト基地以外に動きがない。

 キンバライトの動きが原作どおりなのでこちらの方は放っておくことにする。またぞろコーウェン少将が人のところから不死身の第4小隊を持っていったが、アルビオンの戦力強化のためには仕方ない。とはいえ、流石にタダでさえ戦力が少ない(ジオン側の部隊からも退役者は出ている)のに、更に持っていかれるのはそろそろごめんだ。コーウェンとの付き合い方を如何にかせねばいけない。

「私が出すからといって好きにしてやしませんか、少将」

「しかしな、ミューゼル少将。動かせる部隊で一番戦力が充実しているのは貴官の所なのだ」

 テレビ電話回線を用いた会議の場でコーウェン少将はそういった。言いたいことは解る。つまるところ、同じレビル派で、ジャミトフなどのコリニー閥に漬け込まれるようなこともない。かといってシトレやヤン、ビュコックの指揮下から抜こうとすれば派閥内での地位が危うくなる、と。しかし、こちらだって好きに動かされるために戦力を整えているわけではない。

「ジャブローの守備隊は?というか、まず少将の動かせる範囲から出しての話でしょう。第一軌道艦隊の任務群に対する指揮権を持っているんですから、そこから抽出しては?」

「そうもいかん。観艦式なので下手に動かせんと参謀本部から通達が来ている。シトレ本部長は理解を示してくれたが、大将会議でワイアット大将が反対意見を出されてな。今下手に動くと、蟻の一穴となるやもしれん、と」

 それは動かない方が蟻の一穴だろう、理由にもならん、と視線で言うと、コーウェンもそう思っていたらしく、疲れたように椅子に深く寄りかかった。言葉を続ける。年齢もあるが、そもそもコーウェンのした事は先任の少将に後任の少将がして良いことではない。

「それでGP02が宇宙に上がった場合はどうするんですか?アルビオンに第4小隊をまわしましたけど、流石にこれ以上、指揮権もなしで部隊は出せませんよ。確かに核装備のガンダムが強奪されたのが重大な事件であることはわかりますが、こちらも北欧のジオン残党攻撃の準備をしている最中なんですから」

 其処まで言うが、コーウェンの方に堪えた様子はない。GP02の強奪事件の方が重要だと考えているらしい。重要だと考えているならGP02奪取の際にトリントンに増援でも派遣しておけよ、甘く見るからこういうことになるんだ、と思わざるを得ない。確かにオーストラリアは一年戦争で被害を受けていないが、それはジオンがいないと言う事にはならない。

「情報が何処から漏れたか現在調査中だ」

「アルビオンに第4小隊以外の増援は送ったんですか?」

 コーウェンは首を振る。あのだだっ広いアフリカ大陸を何の手がかりも無しに探せと。アフリカ掃討軍のジャミトフと仲が悪いのに。おいおい、原作どおりとはいえ、この人本当に大丈夫か。本来ならアフリカ掃討軍のジャミトフに頭を下げてでも増援をもらうところじゃないのか。

 そんな事を思っていると手元のコンソールに緊急メールの着信音が響く。コーウェンは気づいていないようで黙って考えているだけだ。こりゃジャミトフにしてやられるわけだよ。ジャブローにいるのに派閥工作を考えないなんて。同じレビル派に属してはいるが、正直辛い。内輪もめなんてしている場合じゃないのに。というかこの人解っているのかな?

「ルナツーのヤン少将の部隊は動かせませんか?」

「それも観艦式が控えている、と。それに、先のあの発表の件が響いている」

 ああ、と納得した。GP社が火星改良に投入したナノマシンの研究報告を、連邦学会でGP社のカッシュ博士とネート博士が発表したのだ。現在は単純な気体分解しか行えないが、将来的にはリサイクルに活用できるように改良を進めている、というのが主旨で、GP社は大気汚染が進む地球に対する対策としても考えている、と発表して物議をかもしたのだ。

 元々、地球の環境汚染が引き金になってグリプス以降の話が進むために地球の環境汚染を防止することは考えていたが、下手に扱うのは怖いと思って火星のテラフォーミングがもっと進むまでは秘匿しようとしていたナノマシン技術だ。ところが今回、火星のテラフォーミングがナノマシンを使用する段階まで進んだことで、アクシデントが生じ発表せざるを得なくなってしまった。何もなければそのまま秘密にしておくはずが、何を思ったか戦争が終了して火星旅行なんてバカなこと考えた金持ちのクルーズに記者が乗り込んでいたという顛末。

 きっちりカメラのファインダーに、地表まで降下してナノフィルターを設置している作業艦の姿が捉えられてしまった。二酸化炭素を炭素と酸素に分解し、炭素を結晶状にして沈殿させるタイプのナノマシンだが、勿論指を飾るほどの大きさは作れない。設置型のナノフィルター気体濾過装置を使い、炭素を分離した場合は砂状のダイヤモンドを集積させて工業用に使えるようにしてある。

 しかし、それでもナノマシンは大きな発明であり、ナノフィルターを地球上に設置して二酸化炭素濃度を減少させようと言う動きも出ている。勿論、環境保護団体からは嵐のような抗議が舞い込んだ。曰く、自然じゃないといけないらしい。次に設置を考えているのが海水からミネラルなどの成分や塩分、それに毒物を分離できるナノフィルター液体濾過装置で、地球各所で起きている水不足、土地の塩化を防止するためのもの、として研究されていることになっている。

 まぁ、既にMSの装甲や四肢を再生できるだけのナノマシン技術があるから、こうした濾過装置は技術のデチューン版でしかない。しかし、無計画な、もしくはこちらのコントロールを超えた研究開発を防止するため、ナノマシンの設計に関してはかなり、二博士に無理を御願いしている。これも予想外の事態だ。

「あの発表で、軍の予算を一時低減して環境回復に予算を回すべきだという論調が議会で出てきている。となれば、予算委員会に強い影響力を持つゴップ大将の動きが問題になるが、あの人は現在、軍縮で動いているだろう?」

 私は頷いた。戦争が終わったのだからすぐに軍縮できれば問題はないが、ジオン残党が各所に残ったため連邦軍はパトロール艦隊の維持や攻撃用艦隊をそれなりに維持せねばならず、思うように軍縮は進んでいない。地球を守るために二個艦隊を、月軌道上の各所に合計三個艦隊を維持した上、各サイドのパトロール艦隊を維持し、地上部隊は残党の借り出しに忙しいとなればほとんど戦争をしているのと変わらないのだ。健全な予算運営を考えるなら軍縮は必須だが、情勢がそれを許さない。となれば無駄な予算は省こうと考えるのが普通だ。第三軌道艦隊の編成中止も、これが影響している。

 観艦式に合わせて新たに編成が予定されている二個艦隊は例外だが、こちらは派閥抗争の結果なのでどうしようもない。一気に軍縮が出来ない以上、速度を緩やかにするしかないが、一年戦争の際に士官の大量促成なんて事をやったがために、来年当たりまでは士官が大量に発生する。その士官の受け入れ先にならなくてはならない。

 いや勿論、配備して働いている間に再就職先を探してもらうわけなんですが。入って即リストラ決定とか、笑えなさ過ぎる。現在、サイド1及びNシスターズ出身者から優先的に退職させ、ザーン共和国防衛隊や、Nシスターズ自衛軍の創設も宜雄rんされている。これも再就職先である。

「GP02が宇宙に出た場合、コーウェン少将の方で回せるのはどれぐらいですか?」

「サラミスが二隻、と言うところだな。それ以上はまわせん」

 やはり歴史どおりか。トールは嘆息した。

「ならば宇宙に上がった場合の追撃の指揮権はもらいます。その代り、我々の方でアルビオンに援護を出しましょう。流石に、これ以上はまずいですから」

 コーウェンは頷いた。はてさて、これで如何にかなれば良いんだけど。




 第45話



 新着メールはレンジ・イスルギ及びミツコさんの親子からだった。レンジのほうはジャミトフとの第二回会談が上手く行き、宇宙用の量産機としてOZ-06SMS リーオーの譲渡を開始したことが書かれていた。流石に新型機でこの時期にジャミトフに回せる機体はこれぐらいしかない、というミツコさんの推薦あっての話だ。性能はジム改程度。アナハイムとバランスをとるために、GMⅡの生産台数を下方修正したほうが良いな。

 また驚いたことに、GP社がナノマシンによる地球環境の回復計画を発表したことでジャミトフ自身がGP社との接触を密にしようと働きかけてきたらしい。関係の深い私との秘密会談を望んでいると打診があったので、如何するかを尋ねてきている。

 ジャミトフとの会談か、あんまり考えたくはない。下手に接触するとティターンズ側に立たねばならなくなるので避けたいのだ。地球至上主義者というよりは宇宙世紀版人種差別主義者といった方が良い人間ばかりのコリニー派と関わったことが明るみに出ると、レビル派の私としてはまずい。

 だがしかし、コーウェンとの関係がかなりの微妙さを増している現状では、反対にジャミトフとの関係は如何にかしておかなくてはならない。……出撃した先のベルファストで落ち合えるようにでもするか。

 ミツコさんからは量産型ゲシュペンストとソフィー姉さんたちに回す予定のヴァルケンの生産ラインが整ったことの連絡だった。基本武装としてビームサーベルとビームライフルを持ち、近接戦用スラッシュリッパーを腰に装備している。プラズマステークはオミットしてジェット・マグナムは排除し、重力下での火器にM950マシンガンとM13ショットガンを用意してある。

 とりあえず上の装備が基本装備だが、支援用オプションとしてジム系と共用のバズーカ及びフォールディング・ツーウェイ・キャノンをLレンジモードのみとしたフォールディングカノンを用意してある。これで何とか装備は整ったようだ。尚、ブローウェルはまだラインが整っていないとの事。機体単価が高いため連邦軍やザーン共和国は採用を見送り、実質運用するのは月面第一艦隊とNシスターズのみとなったがそれはそれでよしである。 

「……アルビオンが宇宙に上がったあたりに間に合えばいいや」

 そんな事を考えながらメールを閉じると、私は東方先生の講座を受けるために立ち上がった。……アクセルの方がやっぱり成績良いんだよな。そろそろ習い続けて2年ぐらいになるけど、あんまり強くなった実感が湧かない。頭を掻きながら部屋を出た。



「最近トールが元気ないと思わない?」

 ゲシュペンスト・タイプPTの運用試験を終えたハマーンにそう話しかけたのはセニアだった。ハマーンは少し考えてから頷く。抱きつき癖について、明確に拒否の意志を示すようになったのだ。最初は不満だったが、内心を読んでも応えてくれないのでやめにした。明らかに、こちらに対して壁を作っている。

「うん、でも、下手に話しかけたらいけないと思って」

 ハマーンの言葉に、セニアはハマーンと入れ替わりにコクピット内に入り、サイコミュの記録したデータを基地内の基盤コンピュータとして作り上げた"デュカキス"に移し始めながら応えた。

「でしょ?テューディの様子も変だし。あんなに乗っていたテューディが、東方先生が三度目くらいかな?トールを本気でのしてから全くそういうそぶりを見せなくなったじゃない。やっぱり変よ」

「セニア、何か考えているの?変なことはやめた方が良いよ?」

 ハマーンはパイロットスーツをはだけながら言った。別に機体を動かしていたわけではなく、コクピットに入ってのシミュレータを動かしていただけだが、サイコミュを使用しているため実際に動かすのとほとんど変わらない負荷が体に生じている。だから汗を掻いていたのだ。後ろからセニアの部下の整備員がドリンクパックを投げてくる。ハマーンはそれを受け取り礼を言うと、早速飲み始めた。

「でもさ、気になるじゃない?デュラクシールが仕上がったら聞いてみようと思って。ハマーンも気になるでしょ?」

 整備台の手すりに寄りかかりながらハマーンは応えた。一息に飲んだため、げっぷが出そうだが耐え切る。流石に恥ずかしい。トールの事は気になるが、今は話しかけてよい雰囲気じゃないように感じられるのだ。特に、あのお下げ髪のおじいさんがきてからは。それに、あんなに抱きついていなければいけないと思っていた衝動が、いつの間にか薄くなっている。まぁ、それはおいておこう。

「一応、先生に声をかけておいたほうが良いんじゃない?トールのこと、多分今一番よくわかっているの先生だよ?」

「あの人苦手なのよねー。原理がわからないのにビーム状のタオルを機体から出すじゃない?テューディもびっくりしていたわよ、ノブッシにあんな武装はない!とかいって。それに、いちいち言うことが説教臭いしさ、あたしの一番苦手なタイプ」

 セニアははは、と力なく笑いながら言った。ハマーンはため息をついた。なるほど、苦手そうなタイプだからわたしに代わって探ってこいと。わたしだって苦手だよ。こっちの常識が通用しないんだもん。前に模擬戦やったときなんかも、ビームサーベルをMSの脚で止めるとかなんて神業!?なことを続けざまにやるし。モビルトレースシステムとかモーショントレースシステムとかいう操縦装置をいまテューディと開発しているらしいけど、たぶん完成したら怖いことになるんじゃないかな。

「んー、でも、聞いた方が良いかな。トールはあんまり聞かれたくなさそうだし」

 そうね、とセニアも同意する。記録をすべて移し終えたようで、早速手元のコンソールで中身を確認しているようだ。

「お!ハマーン、サイコミュの反応良くなったじゃない!これならもう、6基ぐらいのファンネル扱っても大丈夫よ。トールに頼んで専用のAIでも作ってもらえば更に負荷は減るし。ゲシュペンストの機体性能で追いつけなくなってき始めているしね。こりゃあなたにも新しいの用意しておかないと!」

 セニアの言葉にハマーンは苦笑した。テューディの事をマッドマッドと呼ぶが、セニアもなかなかマッドじゃないの、と思ったようだ。



 東方不敗とアクセル・アルマーは月面にトールと共に戻り、今は地下のMS整備区画の更に地下、システムが収められている階層に程近い、機体保管庫にいた。機体をポイントで生成しても調整を受けないと使えない以上、生成した機体はここに保管して調整を受ける必要がある。

「あまりあのガンダムは使いたくないのだがな」

 目の前で整備を受けているマスターガンダムを見上げながら東方不敗は言った。何処となく懐かしげな面持ちで見上げている。不思議に思ったアクセルは尋ねた。自分でも武術は学んできたつもりだが、この老人のそれは自分が学んできたものを遥かに上回る。自然、先生と呼ぶようになっていた。

「どうしてだい先生?強そうな機体じゃないか」

「ふ、儂の過ちの象徴よ、このガンダムは。だからこそあまりうれしくない。もっとも、叩きなおされたが故にここにおるがな。だからこそ、常に外見を見て自分の心に戒めとするのよ。まぁ、使う段階が来れば問題はなかろう。使うのもおそらく近いだろうしな」

 整備を終えたらしい女性がこちらに近寄ってきた。マリオン・ラドム博士だ。

「なんですの、あのふざけた機体は?アレだけの出力と装甲を持ちながらあんなに軽くてしかも、布状のビーム兵器やマニピュレーターを発光させての如何見ても無駄としか思えない格闘武装。固定装備はありませんの!?」

「銃弾ばら撒くだけが戦いではあるまい。拳を振るってこその戦いよ。で、どうだ?使い物になるか?」

 ラドム博士は頭を振った。

「私はGP社の方に回った方がよさそうですわね。あの機体のコンセプトは私には合いませんわ。カークやオオミヤ博士なら合うでしょう。いまソウルゲインの調整をしていますから、終わった後に御願いしてみれば?」

「ふ、であろうな。女史の趣味とは合わんか」

 東方不敗が笑い出すが、当然ラドム博士は不満そうだ。自分の考える機体と趣味が合わないこともそうだが、こんなハチャメチャな機体をよくもまぁ、動かそうとするものだ。それに、トールによって使用技術に制限がかけられていることも気に食わないらしい。あのテレストリアル・エンジンなんて物を使えば、簡単に私のゲシュペンストMK-Ⅲが出来るのに、とでも思っているらしい。

「ええ。それでは失礼致します。私はGP社のほうに参りますので」

「む。礼を言う。整備はありがたく」

 ラドム博士は一礼すると去っていった。機体の方を見るとカーク・ハミルとロバート・オオミヤ両博士が興奮した面持ちでマスターガンダムの整備に入っているのが見える。ソウルゲインの方は後回しにするようだ。流石に、彼らの親しんできた技術の延長線上にあるソウルゲインよりも、全く別系統の技術であるMFの方が興味をそそられるようだ。

「使える手札が増えるのは良いことなのだがな」

 東方不敗は言った。アクセルは拍子抜けした顔で応えた。

「これだけ戦力あるから大丈夫でしょ?ゲシュペンストも量産が始まったし、リオンで大儲けしているわけだし。それに、リーオーとかいうのを売り出すんですよね?」

 東方不敗は鼻で笑う。そうしたことで如何にかなるようであれば苦労はない。理性的な存在というものは脅威となった場合に怖い。だから、人間の最大の敵は人間なのだ。本能だけで動いていたデビルガンダムが人を支配したときでさえ、そのものの内心を暴走させただけ。それにもかかわらずあれだけの脅威となったのだ。ナノマシン技術を惜しげもなく提供するシステムとやらに同じことができないと言う保障はない。いや、絶対に出来るといっても過言ではない。

 なにせ、儂ですらシステムが生み出した仮想人格とやらかも知れぬのだからな。そしてあの新しいバカ弟子は、そこのところを気にしてわしらに対して臆病になっておる。それはそれで良い。修行にも身が入るようになり、そこらのガンダムファイターであれば如何にかできるだけの実力は身につけつつある。

「アクセルよ、お前もまだまだよな。腕の振るい様ではトールに勝るが、頭の振るい様では負けるの」

「俺は別に頭使うためにここにいるわけじゃないですからね、先生」

 東方不敗はそれもそうだな、と再び笑い始めた。






[22507] 第46話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/15 04:53
 北欧、スカンジナビア半島の隣、コラ半島にジオン軍のHLV発射基地がある事をソフィー姉さんが伝えてきたのは10月24日のことだった。明日、もしくは明後日にGP02がアフリカから軌道上に打ち上げられるわけだが、やはり、地上のジオン軍残党もそれにあわせて軌道上に戦力を移すらしい。

 基地が判明したなら北欧へ、判明しないようならアフリカ・キンバライトへ向かう予定で樺太からミデア輸送機に積まれてベルファストまで移動してきたが、どうやら無駄となることはなかったらしい。旧フィンランド、ロシア北部に存在する鉄鉱山の廃坑を利用して基地を作っており、衛星からの監視は発射口に被せたシートでごまかしていたようだ。

 それが判明したのは張兄さんからの報告の後、急遽北半球に配備を移した偵察衛星によるものだったが、正直危なかったとのこと。隠蔽工作はかなり上手く行っているらしく、発見された理由もちょうど上手い具合にシートが雪の重みで坑内に崩れ落ちたためだ。

 報告を受けた私は早速東方先生と共にゲートを使って樺太基地へ移動し、量産型ゲシュペンストをミデアに積載してベルファストへ移動した。今回、クーロンガンダムはゲシュペンストの近接格闘特化試作機として運用する事を名目に、ゴーグルアイとフェイスマスクを被せてガンダム顔を隠している。勿論ガンダムの象徴たる角型アンテナも取り払った。

 久しぶりの地上部隊の出撃にネオ少佐やロックオン氏といった地上組は意気揚々だが、こちらはそんな気にはなれない。

「トール、こっち向きなさい」

 声をかけてきたのは出撃に際し、月からゲートを通っての同行を強要して来たセニアだ。どうやら、システムの一件以来、避け続けてきた事を不審に思っていたらしい。そこに、ドルメルの件で何かを見透かしたらしく、ハマーンとミツコさんと相談の上で、こちらに質問をぶつけに来たそうだ。

 正直、あの件に関しては自分が本当に恥ずかしく思えている。システムに半ば操られていたとはいえ、人間扱いせずに関係を結んだようなものだ。それに、その前は酒に酔っての結果。あれもシステムの介入があったと思うが、本当に自分が情けなく思えてくる。だから避けていたわけではないのだが、なんとなく彼女たちの前に出ることが恥ずかしく思え、それが結果として避けていたという訳だ。ああ、死にたい。

「……なんでしょうか?」

「何で私たちを避けるのよ。みんな我慢しているけど、話してくれないと解らないわ。……東方先生に聞いても、自分で尋ねるか言うまで待て、とか言って来るし。だから聞きに来たの」

 その言葉に私は頭を掻き毟った。ああ、もうなんていえば良いのか。もう隠しようがない。



 第46話



「バカじゃないの、あんた?」

「はい、その通りです」

 セニアは呆れた。酒の件が出るまでの1年間付き合う中で、この男がハマーン・カーンとミツコ・イスルギという二人の女性と関係を持っていたことは知っていた。だから関係に踏み込むなど最初は考えもしなかった。けれど、ハマーンとミツコと仲が良くなるうちに、二人の抱える問題を解決してしまったトールという人間に興味が湧いたことは事実だ。

 それに、ここはラングランやラ・ギアスとは何の関係もない。あちらの世界で感じた束縛感から自由になった喜びもある。実際、王女と言う地位は、王位継承権がなくても厄介なことこの上ないのだ。いや、王位継承権がないから余計だ。魔力のない役立たずとこちらを見てくるのはまだ良い方。基本的には何もさせてもらえないただのお飾りが出来上がるだけ。

 ところが、ここではそんなことはない。心行くまで整備の腕を振るってくれと御願いされるし、実際好きに整備させてくれた。自分と一緒に呼び出されたらしいテューディも、イスマイルに乗って戦ったときよりもかなり温和になっていて、それが目の前で縮こまっている男のせいだとわかると更に興味が湧いた。

 一番うれしかったのはデュラクシールの件。あそこでああいわれて、初めて兄さんの事件を吹っ切れたように思う。となれば、もう話は決まったも同じだ。御免ミツコ、御免ハマーン。別に誰に遠慮する理由があるわけでもない。ここにいれば、テューディとトール以外に私が王女であることを知っている人はいない。それは心細くはあるけれど、自由なのだ。だから、それをくれたトールが気になっていた。

 しかし、それが果たして自分の意志だったか、と言われると確かにそうだ。もし私こんな手段に出る女だったなら、ウェンディとリューネに割って入っていって、マサキをめぐって喧嘩をしていてもおかしくない。トールの話どおり、私もシステムの影響を受けていたと言うことなのだろう。でも、それはシステムの責任であってトールの責任じゃないような気がする。それなのにこの男は、自分のせいだと決め付けているのだ。

「ホントにバカよ。システムのことまで背負い込むことないじゃない」

「……でもねぇ、私が呼び出さなければそういうことはなかったんだろうし。呼び出す際に趣味が入っていたのは否定できないんだよ」 

 その返事は好感触。別にこっちを嫌いになったわけじゃないと。応えないこちらを不安に思ったのか、次々に言葉が出てくる。

「整備が出来るキャラクターはいるけど、基本みんなMADじゃない?となると、その技術が流出しないようにしなくちゃいけない。流出には細心の注意を払ったけど、一年戦争でジオングを作らせようとしたらグレートジオングなんて出来ちゃったし、連邦がEXAM機と強化人間の量産を仕掛けてくる。となると、絶対欲しい技術を持っている人か、技術の能力はあるけど人格的に優れた人を考える他ないじゃない。勿論、流出したらヤバい技術は避けるけどさ」

「ハミル博士とラドム博士はわかるわね。あの人たちは基本PTだからMSに応用されたら危険だし。オオミヤ博士は?」

「基本あの人特機系だし。念動力まで持ち出されたら、下手に漏れての強化人間量産化が怖かった。実際、あの人の関わっているPTや特機に関しては、記憶の操作だとか念動力を上げる為の強化手術や訓練なんてのがあるし。コバヤシ姉妹なんて悲劇も良いところだよ。東方先生とアクセルを呼び出したから、来訪願ったけど」

「だったらカッシュ博士とネート博士は如何なのよ?あの二人のナノマシン理論なんて流出させたら本当にヤバいじゃない。記録映像で見た月光蝶なんて、再現が簡単になるわよ?」

 トールはため息を吐いて同意した。

「そうなんだよ。だからそもそも火星でしか使わないはずだったんだ、ナノマシンなんて。ところが、火星の開発が進んで火星の開発情報が漏れ出したじゃない。おかげであの二人に来てもらって、発展しにくいナノマシンなんてものを頼む羽目になったんだ。……システムのせいにするわけじゃないけど、結構、技術の加速が怖いんだ。意図的に探られている節もあるし」

 トールはセニアの反応を確認しながら続けた。

「キャラクターを呼び出す。働いてもらう。関係が出来て親しくなるのも良いけど、その人が存在することで別な可能性が生じてくる……ミツコさんなんて特にそうだよね?で、そうなると私の考え方からしてその人を消すなんていう選択肢は消えるから、呼び出した人間をどうにか存在させ続ける責任を持とうとする。でも、際限なく呼び出していったら本末転倒。だから呼び出す人間はよく考える。でも考えるといっても好みの問題や、自分が考えたその人の欠点なんかを思い始めるともう止まらない。……自分のネガティヴな考え方はあんまり好きではないけど、でもどうしても考えちゃうんだよ」

「あたしやテューディは如何なの?」

「セニアは信頼できるメカニックだし、デュカキスとデュラクシールを作った凄腕だよ。ぜひとも欲しい。特に、ガンダム顔に出来るということはMSの改設計もできるだろうから。実際、デュラクシールやヒュッケバインじゃお世話になっているしね。テューディの場合はやっぱりイスマイル。さっきも言ったけど、ナノマシン技術は流出したら取り返しが付かない。だからデビルガンダムは絶対に一時であろうとも存在することは避けたかったし、カッシュ博士も存在してナノマシン理論に何らかの影響が出るのが嫌だった。だから技術としては獲得していても、ナノ・スキンも使わなかったんだけど」

 ふんふん、と私は頷く。色々考えているのだ、この男は。確かに、ナノマシンを使ってしまえばかなり楽になるが、それは技術の加速を促してこちらに帰ってくるということになる。結局は同じ土俵で戦うことになる可能性が高まるわけで、それを避けたかったと。呼び出した人間のこともよく考えている。責任とかうれしくなっちゃうじゃない。

「でも、ア・バオア・クーでゲルググで死に掛けたとき、やっぱり何らかの形で機体の再生の手段は手に入れておかなきゃならないと考えて、イスマイルにたどり着いた。用心してきた結果だけど、今回のシステムが明らかにした情報からしても、しすぎということはなかったみたいだし。それに、避けてきたのにナノマシンはついに避けられなかった」

 私は頷いた。呼ばれた理由が納得できたのだ。好き嫌いあるかもしれないが、MADの度合いが低く、信頼できる人材で流出に関しては月面においておくことで可能な限り防止する。せめて一年戦争レベルには。まったく、そこまで頭が回るのに。こっちやハマーンの気持ちは考えないんだから。トールはまだ言葉を続ける。

「それに、こんなに一気に呼び出した理由は、やっぱりNシスターズが国家として独立したからさ。主権国家の力をバックボーンにした保護って、やっぱり強いんだよ。一年戦争までに呼び出さなかったのは、月が連邦のものにもジオンのものにもなりうる、不安定な立ち位置だったから。Nシスターズって言う帰るべき場所、もしくは巣とでもいうのかな。そういうのがまだ出来ていない段階で呼び出すと、引き抜かれての技術拡散が止まらなくなる可能性があったからね」

「もういいわ。そういうことなら納得した。許してあげる」

 目の前で頭を下げて謝るトール。別にそこまでして謝る必要はないのだが、こちらがやきもきした分を考えれば当然だ。もう、いい男じゃない、ここまで考えて行動できるなんてさ。だけど、あまりにも一人で抱え込みすぎている。

「……ハマーンやミツコには後で謝っておきなさいよ」

 そういうとセニアは整備台を降りていった。下まで降りると、振り返ってこう言った。

「……それと、あの時の話、ありがとう。まだきちんとお礼を言ってなかったわ。トール、アンタうだうだ考える割には良い男なんだから、自分にもっと自信持ちなさい!」




 コラ半島の南カンダラクシャと北端ムールマンスクのほぼ中間にあるキロフスク鉱山基地は、元々露天掘り鉱山が多く、その露天掘りの跡地にHLVの発射台をすえつける形で建設された。勿論、HLVに対する欺瞞は充分に施してあり、上空からではまだ手を出していない鉱山地域にしか見えない様になっている。

 セニアとトールがミデア機内で出撃前最後の会話を交わしていたのと同時刻、キロフスクではHLV6基が打ち上げを待っていた。6基に搭載されたMSはパーツ段階の物も含め合計20機。ウラル山脈レーダー基地攻撃、及び北米オーガスタ基地に攻撃を仕掛けた残党軍の精鋭部隊、インビジブル・ナイツも其処には含まれていた。

「アイヒマン大佐」

 声をかけたのはインビジブル・ナイツ中隊中隊長、エリク・ブランケ少佐。勿論率いているのが中隊なのは、彼が元々大尉だからだ。一年戦争終了後、抗戦を続けるジオン残党軍ではいつの間にか、戦争中の階級よりも一階級上の階級を名乗るのが通念となった。それが敗れたことに対する報償か自己満足か、エリクは気にしていない。そういわれたからそう名乗る、そうとだけ決めている。

 話しかけられた、キロフスク鉱山基地司令。元欧州方面軍北部ロシア方面隊司令オットー・アイヒマン大佐は振り向いた。表情には焦燥感が強い。無理もない。現在はジオン残党軍欧州隊とは名乗っているが、現在はMS40機ほどの大隊規模まで転落してしまった。オデッサ作戦初期に、ロシア方面の主力と分断されたことで戦力は温存できたが、続く3年の抗戦は、櫛の歯を削るように戦力を目減りさせていく。そこに、今回の軌道上への戦力移動だ。

 この作戦が終われば、欧州にまとまった戦力としてのジオン残党はいなくなる。残党の残存戦力も潜水艦を用いてのアフリカへの移動を行う予定だ。

「ご苦労。貴官らの部隊には苦労させることとなる」

「いいえ。恐らく大佐こそ、これからを考えれば」

 エリケは言った。打ち上げるMSはほとんどがザクⅡF型。欧州戦線は第一次降下作戦で降下したMSが多く、当然主力はまだ地上に対応していないF型だった。しかし、今はそれがありがたい。J型では宇宙で戦えないからだ。

 既にこの基地に残る陸戦用は少ない。徐々に数をアフリカに移しているし、この基地自体もHLVの発射の後には放棄され、戦力はアフリカへの脱出を試みる。しかし、恐らくそれまでに連邦軍の部隊と交戦する事になるだろう。その場合、アイヒマンは降伏を決断していた。

 しかし、戦力はなんとしても軌道上に打ち上げねばならない。

「いいか、少佐。私はなんとしてでも貴官らを軌道上に打ち上げ、デラーズ閣下の下に送りだす」

 アイヒマンは言った。その言葉の強さに決意を感じ取ったエリクは、アイヒマンに尋ねる。

「閣下、どうされました?まるで、死ぬ事を覚悟しているような感じを受けますが」

「数日前からベルファストにいる部隊が、な。あのガンダムを作り出し、運用した部隊だ。現在はその完全量産型らしいMSを使っているとスパイから報告があった。君も知っている、タチアナ・デーア中尉からの情報だ」

 エリクの表情が変わる。連邦に潜入して以来、何処にいるかも解らない幼馴染。その情報ともなれば確実だ。

「現在、デーア中尉は同じベルファスト基地に駐留する連邦軍部隊に潜入している。出撃を遅らせるための工作に入ると伝えてきたがやめさせた」

 エリクはアイヒマンの言葉に頷いた。工作員は潜入が第一だ。長く潜入すればするほど、情報をこちらに送り続けることが出来る。下手に動いて素性が判明しては困るのだ。

 それに、タチアナには無事に戻ってもらいたい。エリク・ブランケ個人としてはそう思う。エリクは少しの間そのように考えていたが、アイヒマンの言葉で我に帰った。

「君らの部隊は軌道上に打ち上げられた後、デラーズ閣下の指揮下で「水天の涙」作戦を実行せよ」

 !?

「大佐、ただいまデラーズ閣下が行われている作戦は「星の屑」ではありませんか?」

「エリク・ブランケ少佐」

 アイヒマンは言った。

「我々ジオン残党には後がない。連邦の戦力は強大な艦隊が数多く残っており、地上の施設も一年戦争ではそれほどの被害を受けなかった。ソーラ・レイで戦力のほとんどを焼き尽くしても尚、連邦の戦力は強大であり続けた。なぜか解るかね?」

 エリクは頭を振った。いきなりの話の展開でわからない。

「人口だ。地球に現在居住する30億……いや、非登録人口を含めれば35億には達するだろう。この35億人によって生産される物量。これがジオンを押しつぶしたのだ。デラーズ閣下も私も、その点では意見が一致しておる」

 この話はわかる。元々ジオンと連邦は人口と工業力に絶望的な差があった。

「「星の屑」の目的と「水天の涙」の目的は同じである。目的は地球。詳しくは軌道上に打ち上げられてからデラーズ閣下に尋ねるがよい。今回の作戦にあわせ、既にアステロイドベルトのアクシズからも援軍が向かっている。三年ぶりに、我がジオン軍は連邦に向けてその矛先を向けるのだ。貴官は、そこに地上のジオン軍を代表して向かうことを心しておいて欲しい」

「はっ!」



[22507] 第47話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/14 12:44


 茨の園とはエギーユ・デラーズ率いる親衛隊第一艦隊を主力とした、アクシズ逃亡組以外の、地球圏に残存したジオン軍部隊である。その戦力はグワジン級戦艦グワデンを旗艦とし、チベ級重巡洋艦2隻、ムサイ級軽巡洋艦15隻(うち4隻がカーゴ付き)及び補給艦及び輸送艦26隻である。またMS戦力は主力をMS-09R2 リック・ドムⅡとして60機を保有。それ以外にザクⅡ、製造可能となったMS-21Cドラッツェを含めれば、MSの総戦力は100機に届こうとしていた。

「また、冬が来る……戦士たちが啼く冬が」

 エギーユ・デラーズ中将は茨の園に建造された居住ブロックの居室で嘆息した。既にア・バオア・クーより三年。乾坤一擲の作戦たる「星の屑」は、地上残党軍、及びアクシズ本軍の協力を得て「水天の涙」作戦と合同し、開始されようとしている。元々、二つの別個の作戦だった星の屑と水天の涙を統合したのは、現在、デラーズの参謀を臨時に勤める男だった。

「閣下、お呼びですか」

「ヒープ大佐、ご苦労だった。地上の残党ジオン軍との連絡役、よく果たしてくれた。希望通り、月面までは我が偽装船にてお送りしよう」

 ユライア・ヒープは頭を下げた。一年戦争後半の樺太基地攻防戦の司令官。しかし、攻撃には失敗し、キャリフォルニアベースへの撤退を余儀なくされた。キャリフォルニアベースに帰還してからは作戦の責任を取る形で謹慎していたが、年末のキャリフォルニアベース陥落の際に潜水艦にて脱出。アフリカ残党軍にかくまわれていたが、今回の作戦について意見をデラーズに伝え、そのためにここにいる。

 もっとも、本人はサイド3に帰るために仕方なく知見を提供したのだが。キャリフォルニアベース陥落の際に捕虜となった者たちが昨年にはジオン共和国への帰国を果たしていた事を考えると、自分が潜水艦で脱出したことは大きな失敗だった、と今では考えるようになっている。彼が心底嫌っているザビ家に近しいデラーズに知識を売ったのも、さっさと帰国して戦争とは距離を置きたかったからだ。

「閣下、お聞きします。この作戦、言われる内容、目的とする内容を満たすべく立案させていただきましたが、本当に行うのですか?」

「勿論だ、大佐。不満かね」

 ヒープは頷いた。立案し、提出してから振り返ると自分でもバカな作戦を考えたと思っている。長らくの逃亡兵生活で頭までおかしくなってしまったようだ。あんな作戦を立案するなど、自分の頭はどうかしてしまったらしい。戦争が終わって三年、いくら有能だからといって残党軍で使い回しを受けていればこうにもなる。しかし、このままではいささか目覚めが悪い。

「不満です。閣下のなされていることは長期的に見ればスペースノイドの負担を増し、連邦による圧制を招くだけです」

「……言いたいことはわかっている。しかし、認めぬ。作戦は中止せぬし、出来ぬ」

 ヒープは頷いた。まぁ、そうだろうとは思っていた。もしここで中止を願い出ても、既に戦争の目的を見失っているジオン残党にとっては、連邦に打撃を与えられ得るのであれば如何でも良いのだ、手段など。それがスペースノイドを苦しめる結果となっても、自分たちを戦争のときに助けなかった、というぐらいにしか考えないのだろう。

「……公国親衛隊が公国を離れてテロリストですか、ずいぶん零落れたものですな」

「否定はせんよ。これは私戦だ。儂、エギーユ・デラーズのな。それに、死に場所を失った者たちが一花咲かせようとしているだけに過ぎぬ」

 ヒープはデラーズに並んで暗礁宙域の光景を眺める。先の戦争で地球近辺に多く出現することとなったゴミ黙り、それが暗礁宙域と呼ばれる区域だ。月面、NシスターズのGP社が、定期的にデプリの回収に出ているが、この茨の園があるL1ポイントの暗礁宙域にはあまり来ない。勿論、ジオン残党の本拠地が置かれていることが判明しているからだ。

「この暗礁宙域だよ、儂が先の戦争の果てに行き着いた先、はな。ただ、わしはこの暗礁宙域のように荒涼として荒み果てた戦士達の魂に、報いをもたらしたいだけなのだ」

「……それが、たとえ他のスペースノイド、サイド3本国の民に迷惑をかけても、ですか」

 デラーズは薄く笑った。

「死人は生者に迷惑をかけるものよ。何時の世でも、何処の国でも」

 そういってからデラーズはヒープ中佐を見つめた。

「そういう経験は、貴君にはないのかな?」



 第47話



 ベルファストの夜は寒い。11月近くともなれば当然だ。そもそも暖流のおかげで暖かくなっているのだから、途切れれば寒くなって当然である。基本一桁で雨がちの気候は、体を芯から冷やしてくれる。

 ミツコ・ミューゼルが夫と共にベルファスト軍港に程近い、ヒルトン・ホテルの地下一階のバーに夜会服で現れたのはそうした寒い日の一夜だった。何かの毛皮らしいコートをボーイに預け、カウンターに夫と共に腰掛ける。

 バーテンダーが何か、カードらしきものを二人に提示し、奥まった一室に案内する。二人が奥に入ろうとした瞬間、2名の男が倒れ伏し、従業員の服装をした男達が二人を引き摺って店の奥へ移動した。

 そんな、どこぞのスパイ小説な流れでジャミトフ・ハイマンとトール・ミューゼルは接触したのである。

「会うのは久しぶりですか、ミューゼル少将閣下」

「……レンジさんからの紹介ですし。宜しいのですか?お宅のオム、ダニンガン氏はこちらの事をかなり嫌っているらしいですが。それに、私はレビル派ですよ?」

 ジャミトフは鼻で笑った。

「敬称は無しで宜しいかな、少将閣下」

「まぁ、かまいません。むしろ准将のような年齢の方に敬語を使われると困ってしまいます」

「では……まずリーオーの供給は礼を言っておく。なかなか使えるMSだ。性能はジム改とさほど変わらぬようだが、装備が豊富で運用がしやすい。流石にミューゼル少将お抱えのGP社製だけはある」

 トールの横にいたミツコが一礼した。リーオーの供給は彼女の発案である。それに、ジャミトフからのどちらかと言えば好意的な接触とミツコのリーオー供給の決定は、トールにも一つの判断を下すきっかけとなった。

「選定はミツコさん、開発はうちのスタッフです。褒めるならばそちらを。しかしカタログの誤植には失礼しました。まさか、月面で計測した重量をそのまま書くなど、あるまじき失態です」

「謙遜することはない」

 ジャミトフは言った。

「ジムに匹敵する汎用MSを供給するからには何かを考えているのだろう?それに、私の申し出も想像が付いているのではないか?」

「いいえ」

 トールは否定した。

「想像は何処までいっても想像でしかありえません。確たる発言や証拠無しに想像を事実と言うのは尚早に過ぎます」

「なるほど、では言っておこう。私の目的は、人類の数的削減、だった」

 トールの目が細まる。ミツコはそ知らぬ顔でワインを楽しんでいる。

「だった、ですか」

「そうだ。だった、だ」

 トールはため息を吐いた。笑えない。笑えないよ。ジャミトフが人類の粛清フラグを消したらティターンズフラグも消えるじゃないの。腐敗した連邦軍を、とか言い出したら本当に笑えないよ。どこへ行くんだ宇宙世紀。

「しかし、流れは変えられん」

 お、とトールの眉が上がる。勿論内心ではなんとか元の流れに戻る事を願っているだけだ。ジャミトフの勢力が増すからこそエゥーゴが登場しグリプス戦役とそれに続くネオジオン抗争で膿が噴出すだけ噴出すわけだが(もっとも、連邦においては噴出した以上にたまっていたが)、それがなくなればどうなることか。

「火星のテラフォーミングといい、今回のナノマシンの件と言い、貴様の思うとおりに動いているようだな、トール・ミューゼル。勘の聡い人間は気付きつつあるぞ、お前がこの地球圏の重要人物の一人である事を。まぁ、わしではなくともいつかは誰かが気付くのだろうが」

「忠告ですか」

 やっと搾り出した第一声がそれだった。正直、この会談の帰結がどうなるかが恐ろしくて適わない。0083は良いだろう。しかし、絶対にグリプスに影響が出る。修正のための手段は用意してきたが、ジャミトフの言葉を聞いていると戦役が泥濘化しそうに思えてきた。

「いや。しかし、わし程度に目端が利くのであれば要注意人物と考えるだろうな。バスクやジャマイカンは一年戦争を理由に嫌っているに過ぎん。ふふ、しかし笑えるな。あの頭の使いどころを間違っているとしか思えん奴らが貴様を毛嫌いしておるとは。案外、頭がつかえぬ分野生の勘とやらが働いているのかも知れぬ」

 笑えない。当てはまりすぎて笑えない。しかし、バスクは小説版では政治家とかいわれていたはずだが、頭が悪くて政治家になれるのだろうか?……まぁ、いい。しかし、バスクやジャマイカンに対するジャミトフの危惧が早めに出てきたことは気をつけねばならないだろう。あの二人が信頼できない事を知っているなら、早々とあの二人に見切りをつけて他の手下を探す可能性もある。艦隊司令パプテマス・シロッコとか悪夢だ。

「われわれコリニー閥はジオン残党に連絡手段を持っている。今回の作戦のうち、星の屑に関しては残党内部からこちらに詳細が伝えられる手はずになっている。勿論、それを利用してコーウェンを排除し、レビル派に打撃を与えることが目的だ。成功すれば、われらコリニー閥……いや、私の指揮下で新たな治安特殊部隊が創設されるだろう。そこまでの手は打ってある」

 トールは黙っている。ジャミトフは反応にかまわず言葉を続けた。

「貴様は如何動く?このまま座して待てば、今年度末にゴップが退役し、レビル派はシトレ、ビュコック及びティアンムしかいなくなるが。金庫番のゴップがいなくなれば、兵站総監部の少将一人ではどうにも出来まい?貴様は我々……いや、私と手を組むべきだ」

「それは出来かねます。少なくとも今は」

 トールはタバコに火をつけると紫煙を吐き出した。出来るだけ取り繕ったつもりではいるが、内心は冷や汗が噴出している。タバコを吸い出したのも、グラスに向けようとしていた手が震えていたからだ。ここで話を受けた場合、グリプスの動きが決定されてしまう。

「なぜだ?」

「あなたがコリニー閥を捨てられないように、こちらもレビル派を捨てられません」

 ジャミトフは鼻で笑った。なるほど、こちらと同盟を組むのであればそれなりの代価を支払え、と。確かに儂一人ならばまだしも、余計な荷物が余分に付いた今の状態、そして恐らくティターンズとなるだろう治安部隊の創設後でも付いて来るであろう地球至上主義者が嫌いか。理解は出来る。近頃は儂でさえ煩く思うくらいだ。

「……ならば、個人的な取引で如何かな。互いに相手の安全だけを保障しあう」

「いつまで続きます、その取引?」

 ジャミトフは口元をゆがめただけで何も言わない。なるほど、互いが互いに価値がなくなるまで、か。まぁ、同盟と言うのはプラス・サム・ゲームだから、そういうのも当然か。まぁ、良いだろう。こういう取引ならばいつ裏切ってもあとくされがない。ディアフタートゥモローのように、ジャミトフの抱える諜報機関がかなり有能そうである事を考えればここで取引しておくのも良いかもしれない。しかし、楔は打ち込んでおく必要がやっぱりあるな。

「2人、よこしますが宜しい?そして取引が終わるときは、帰すということで」

「使える者なら。正直、実戦指揮官がバスクやジャマイカンではどうにもならん。いらぬ犠牲が増えるだけよ。今なら誰でも歓迎するわ。……返却が宣戦布告、と?儂が約束を守るとでも?」

「ここで殺さなかったことで貸し、とでも思っていただければ」

「ふ、言うなミューゼル」

 私は頷くと立ち上がり、部屋の扉の前で警備していたらしいジャミトフ配下らしき男に写真の男女をここに通すように頼んだ。男は困った顔をしたが、ジャミトフが頷くのを確認して表のバーにいた男を呼び出す。

「失礼致します、トレーズ・クシュリナーダ少佐。入室します」

「失礼致します、レディ・アン大尉。入室します」

 敬礼と共に入室する男女。言うまでもなくガンダムW、特務部隊OZの総帥及び副官である。何かのゲームの際、OZとティターンズで取引があった事例を元にしてティターンズに送り込む候補として選んであったが、ちょうどジャミトフからの話が回って来たこともあり、お願いした。騎士道に殉ずる人を最も騎士道から遠い部隊に配置することには申し訳ない気持ちもあったが、本人から強大な力の敗北は道理ですので、などと言われてしまった。

 ならば、私のような存在は一体どうなるとこの人は言いたいのだろう。

「この二人かね」

「クシュリナーダ少佐はMSの運用においては腕が立ちます。アン大尉は運営ですね。大隊級は勿論、師団級の戦力を任せても問題はないでしょう。まぁ、もっともバカな真似には逆らうと思いますが。ただ宜しいですか?バスクやジャマイカンとは相性が最悪ですが」

「尚のこと良い。あの二人と一緒にいるとこちらまで獣になった気分になる」

 ジャミトフはそういうと立ち上がった。

「今日は世話になった。リーオー始め、GP社よりの供給MSはありがたく運用させてもらう。またいずれ」

「それでは」

 私の見送りの言葉にジャミトフは軽く頷き、トレーズとレディを連れて戻っていった。私たちも席を立ち、表のバーのカウンターに席を戻す。スツールに座ると早速酒を頼む。正直、飲まなければならない。先ほどから冷や汗が出っ放しだ。続けざまに二杯ほど蒸留酒を空ける。流石にのどが渇いてきたのでチェイサーを頼んだところ、新しく入ってきた一団を見た瞬間、思い切り良く水を吐き出した。

「げほっ、ごほっ、がへっ」

「トール!?あなた大丈夫?」

 驚いた理由は簡単だ。この場所にいて欲しくない人物が、階段を下りて入ってきたからだ。黒髪の少佐、金髪で軽そうな中尉の後から黒人の体の大きい少尉と一緒に入ってきた女性―――シェリー・アリスン中尉。

 ジオン残党軍のスパイ、タチアナ・デーア中尉だ。……既に残党軍はこちらが来る事を知っている、か。失敗だな、こりゃ。待ち伏せされている事を前提に作戦を立てるしかない。如何にかしないと。


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打ち止めでござる



[22507] 第48話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/15 21:23
 地上遥かににジオン残党軍キロフスク基地を残しながら、打ち上げられるHLVのGに身を任せていたエリク・ブランケは苦渋の表情を隠せなかった。単機突進してきた黒いゲシュペンストとか言う連邦の新型は恐るべき技量で次々と残党軍のザク、ドム、グフを撃墜していった。この3年間、連邦に対して互角以上に戦っていた部隊も何の慰みにもならなかった。

 基地南方、鉱山へ入る谷の入り口を守るように設置された対戦車、対MS用のパックフロントをトリッキーな動きで砲弾を交わしながら、時折直撃弾を出してもひるむ事無く到達すると、砲塔のみを地上に出していたマゼラ・アタックの車列を次々にその巨大なビームサーベルで破壊する。

 戦闘開始早々に陣地に入り込まれてはどうしようもない。陣地線を守るために基地内から次々とMSが出撃するが、それをものともせずに次々と打ち倒す。フェルト伍長のザクはコクピットごと両断され、ヤマダ曹長のドムは投げられたところをパンチで潰された。双子のノール少尉姉妹が乗るグフは、ヒートロッドに捉えたものの、そのまま引き摺られて激突し、擱座。ご丁寧に腰の動力パイプを引きちぎる念の入れようだ。

 悪鬼のような敵の進撃に、推進剤の注入が終わったHLVが次々と打ち出されるが、狙ったかのような後方からの援護射撃で2基が撃墜。貴重な兵員とMSを無駄に破壊される始末となる。敵にビッグ・トレーやミニ・トレーといった支援砲撃可能な兵器がなかったことは幸いしたが、あれでは何の救いにもならない。いようがいまいが結果は同じだ。

 最後のHLVで打ち上げられる直前。クリストがイフリート・ナハトで出撃するのを私は止められなかった。兄のように慕う彼を失いたくないとは思いつつも、ここでクリストが出撃しなければ「水天の涙」を失うことがわかっていたからだ。見送ることしか出来ない私にクリストは笑ってくれたが、喜ぶことなど出来ない。

 あの黒いゲシュペンスト。タチアナの報告ではゲシュペンストS型。搭乗しているのはトール・ミューゼル少将。我がジオン最大の敵、ガンダム開発計画の責任者。ゲシュペンストは一年戦争中の開発機だというが、性能を見る限り、一年戦争後に開発されたはずの連邦の機体を上回っている。ア・バオア・クー戦で見た、あの新型ガンダムの性能など比べ物にならない。宇宙空間でもないのに、滑空しながら陣地に迫るなど悪夢も良いところだ。

 食いしばった歯から音が漏れる。HLVの打ち上げこそ成功したが、打ち上げ直前までにあの黒いMSに撃墜された機体は10機を越える。MSとはとても思えない、人間的な動き。しかも、如何考えても尋常ではないGがかかっているのに、それをものともしない機動。アレは正真正銘の化け物だ。

 そして真に恐ろしいのは、陣地が蹂躙された後で現れた連邦軍のほとんどが、あの機体を装備していたと言う事実。何機か、隊長機らしい機体はカラーリングが異なっているが、基本構成は黒系の塗装。S型とは装備やパーツの構成が違うから、アレを元にした量産機なのだろうが、機体デザインがほとんど同じとくれば戦場の兵士たちに見分けが付くとは思えない。

 何処を向いても悪鬼のような機体がいて向かってくる。悪夢そのものだ。ゲシュペンスト―――幽霊とはよくも名づけたもの。HLVの扉が閉まる直前、コールドブレードを装備したクリストの機体が向かっていったが、足を負傷しているクリストではどんな幸運があろうと絶対に勝てない。

 クリスト、必ず仇はとる。水天の涙を降らせて。そしてミューゼル、待っているが良い。そしてジオン兵すべての恨みをその身に受けるが良い。貴様の強化したガンダム、貴様が強力なものとした連邦のMSが、我々スペースノイドの自治独立の思いを踏みにじったと言うことを。

 「水天の涙」最大の障害は、やはりジオンを倒した奴らだ。エリク・ブランケは作戦遂行への決意を新たにした。




 第48話


 北欧のジオン残党軍基地への攻撃は、基地の攻撃と言う点では成功したが、基地から発射されたHLV6基のうち2基の撃墜にとどまり、ジオン残党軍の宇宙への移動阻止、という点では失敗に終わった。軌道上に、ルナツーのヤン少将に御願いして分遣隊の派遣をしてもらっていたが、デラーズ・フリートらしきジオン残党艦隊の介入によって撃破され、残党軍の合流を許してしまった。

 恐らく、いや絶対にシェリー・アリスンが情報を洩らしていたからだ。だが、今の段階でシェリー・アリスンの身元が判明することは、第二次「水天の涙」作戦に対するアクセスの方法をなくすと言うことになる。部隊の増強の一環として連邦欧州軍からファントムスイープ隊の移籍を御願いしたところ、北欧の残党軍基地を発見した功績も相俟って認可が下りた。11月上旬に配属されるとのことだ。

 一方、アフリカのキンバライト基地における交戦は歴史どおりに推移し、GP02は軌道上に打ち上げられ、これもデラーズ艦隊の回収を受けている。デラーズの艦隊戦力は、一年戦争、特にア・バオア・クー戦での被害がジオン軍、連邦軍双方共に抑えられた結果、本来の歴史の倍近くの戦力を有しているのだ。

 そしてそれに残党軍が加わり増強が行われている。

 トールは重いため息を吐いた。私事だけではなく、どうにも、頭の痛いことになってきた。



 UC0083年11月1日。衛星軌道上で戦闘空母アルビオンとサラミス級ユイリン、ナッシュビルが合流し、またこれも歴史どおりにジオン軍艦隊と戦闘を行い、ユイリン、ナッシュビルが撃沈されGP01が大破した。損傷したアルビオンは修理と補給、GP01の改装のため月のフォン・ブラウンに向かう、とのことだったので、月面での合流を打診するとシナプス艦長から了承の返事が返る。やはり、戦力的な不安は彼らも感じていたようだ。

 この歴史ではシーマ艦隊がこちら側のものなので、一体誰が接触したのかを不思議に思ったが、接触したのはなんと、ヘルシング大佐率いるティベ級1隻とムサイ後期型2隻の艦隊。しかも、運用しているMS部隊にはサイクロプス隊が存在していた。0080の、リボーコロニー襲撃事件が樺太でNT-1を開発してしまったため発生していなかったが、まさかこんなところで彼らと再会することになるとは思っても見なかった。

 しかも、MSが振るっている。MS-17ガルバルディαが3機(恐らく、シュタイナー、アンディ、ガルシア機)、MS-18Eケンプファーが1機(おそらくカミンスキー機)に加え、YMS-18プロトタイプ・ケンプファーと思しき機体が1機ある。この1機の機動が他の4機よりもかなり未熟さが目立つのが特徴的だ。5機編成であるということとあわせると、バーナード・ワイズマンが加わっているらしい。

 ゆり戻しか何かは知らないが、デラーズ・フリートの戦力にインビジブル・ナイツとサイクロプス隊と言う強敵が加わり、あのガトーがいるともなれば油断は出来ない。戦力は集中が原則だ、と言う判断に基づいて、早速樺太基地においてある戦力の宇宙への移動を命令する。ファントムスイープ隊も、合流次第宇宙に上げよう。

 宇宙にこれだけの戦力が集まったとなると、採れる戦略の幅も広がる。シナプス艦長をそのまま追撃部隊の司令に命じ、東方先生とアクセルをつけて月での補給の後、増援をつけてソロモン海へ。ガトーの侵入コースの詳細は既にわかっているから、其処にアクセルを待機させて東方先生で追撃をかけてもらえば大丈夫だろう。

 それに対して私の部隊は、ハマーンとソフィー姉さんたちと一緒に茨の園を直接攻撃する。インビジブル・ナイツの動向が不明だが、残党軍と合流した以上、茨の園に部隊を落ち着けている可能性が高い。月のマスドライバーを狙うような行動に出る前に先制攻撃をかけ、これを殲滅する。既に出撃していてそれができなくても、茨の園の設備は占領下に置けば役立ってくれることは間違いないだろう。どちらにせよ、ソロモンに戦力を分けた段階でデラーズ本隊とガチンコ勝負は出来ない。

 勿論、デラーズが出撃と共に施設を爆破している可能性も考えてあるから、こちらの目的に関しては無理でもかまわない。しかし、残党が残る事を考えると、やはりMSサイズだけでの制圧行動だけでは不十分と考えて、今回、遊撃隊の方々をヴァルケンに乗せて出撃する。

 問題はこれが上手く行かなかった場合に、敵がとるだろう行動の予測だ。其処まで考えたところで、いきなり声がした。

「相変わらずうじうじと何事かを考えているらしいな、トール」

 東方不敗とアクセルの姿。ああ、扉は如何したんだっけ。床にあるってことはまた蹴破って入って来たのか。あれ、なんでハマーンたちまで一緒にいるの?

「お前がうじうじと悩むだけなら儂も気にはせんが、貴様、先ほどの戦いは何だ?まるで狂ったかのようにジオンに向けて突進しおって。いくら貴様に不死設定とやらがあるとは言っても、見ている人間や関係のない人間にトール・ミューゼル死亡を印象付けでもするつもりか。……気に入らん。八つ当たりなどガキのする事ぞ」

 流石です東方先生。見抜いていらっしゃいます。けれども、そういうことでもしないと、システムの一件以来付いて回る、この暗い気分を追い払えそうにないんです。などと更に落ち込んでいたら、ハマーンが近寄り、私の頬を張った。



 情けない。見ているだけで嫌になる。そういう気持ちがハマーンの内にはある。今まで、調子に乗ってはこちらを引っ張ってきたトールがあの一件以来こちらに壁を作っているのは感じていた。けれど、これは行き過ぎだ。どんどん落ち込んで、こちらの心配もかまわずに暗くなっているだけ。いい加減にして欲しい。

「お嬢、貴様にあいつに立ち入る決意はあるか?」

 東方先生のその言葉に決意した。セニアは何事かを聞いていたようだけど、私とミツコは聞いていない。ミツコはベルファストの町に繰り出したとき、トールからあからさまな壁を感じて話しかける気にもならなかったって言う。ここまで来ると重症だ。

「トール、今から私はあなたの中に入る。ミツコもセニアも入るから、壁は作らないで」

 その言葉にはっきりとした拒否、恐怖の表情を浮かべるトール。私もこれが無茶なことだとは知っている。どれだけトールの気持ちを無視したことかも知っている。けれど、このままは嫌だ。壁を作られ、近しい他人として生きるのは嫌なのだ。先生は、トールが私たちとの距離を感じた、という。距離?ふざけないで。

 セニアとミツコとも話し合ったけど、私たちはトール・ミューゼルという人間に価値を感じている。私には未来を、ミツコには希望を、セニアには自由をくれたのだ。そんな人が落ち込んでいるのなら、当然助けようと思う。けれども、この人は自分がいたから出来たことに価値を感じていない。自分が達成したことに価値を感じていないのだ。

 セニアが自信を持てといっても自信を取り戻した風ではない。ミツコが話しかけなくても、それをなんとも感じない。私が近づかなくても何も。本当に重症だと、いまさらだけど気付いた。東方先生が言うには、バカなら殴っていう事を聞かせればよいが、下手に頭が回る分、殴っては逆効果だ、と言うこと。だったら一番効果的な方法は、と尋ねると、心のすべてをあからさまにさせることだけど、普通の人間にはできないと言う。

 だったら、普通の人間じゃない私がすればいいじゃない。トールと過ごした8年で、私のニュータイプとしての力は本当に伸びたらしい。セニアの作ったデュカキスが調べてくれたけど、自分が探り出した他人の内心を、自分を中継して他の人に伝えることも出来るらしい。

 勿論危険もある。いつか見た黒歴史。戦いの最後で多くの人間の意志を取り込んで戦ったNT、カミーユ・ビダンという男の人は、心が耐え切れずに数年を心を殺されたままで過ごすことになった。私の意志も、彼と同じように数年、いや、かなりの間死ぬことになるかもしれない。

 けれど私たちはこれを決めた。こっちが覚悟を示さないと、あの臆病者は絶対に覚悟を決めないからだ。いつもどおり、私からトールに触れる。私の感情がトールに流れ込むから、私がどんな思いかは伝わるはずだ。トールは五分ぐらい、拒絶の意志を伝えてきたが、ついに諦めたように首を振った。

 トールが頷いたのを確認すると、ミツコとセニアに肩を触らせ、私はトールの胸に抱きついて心を開く。水中か宇宙空間に飛び込むような感覚をイメージすると、何かを突き破る感覚と一緒に心に入る。いつもはここで、プールで言えば水面近くでトールが思う事を楽しむ。浮かび上がらせた―――思い出した記憶を共有して楽しむのが日課だった。しかし、今日はそういうわけではない。

 水中を、どんどん深く潜っていくような感覚をイメージする。トールの中にこれほど深く入ったのは初めてだ。次々と、トールの記憶が共有されていく。もう、100年近くこの世界にいるトールは本当に多くの出来事を見てきた。私には想像も付かないほど、地球から遠く離れた宇宙も見てきている。間近に見える土星や木星。火星のドライアイスが融けゆくさまは、まるでこの世の光景かと思うくらいに幻想的で飲まれそうになる。

 ただ、それは今は関係ない。いつもならこうした光景が見れることがトールとの"お肌の触れ合い"回線のいいところだ。けれど、もう一度強く思う。今回はそんなお遊びではないのだ、と。意識がトールの記憶の、更に深いところに入るのが解る。その中には私が見たこともないトール、見たくないと思っていたトールがあった。

 ジオンの家族を見捨てた記憶。ジオン・ズム・ダイクンのジオニズムを、もっと穏当な思想には変えなかった。何故?そうしないと歴史の流れが変わるから。歴史の流れが変わって、自分の想定していない事態が起こる事を避けるために、彼はダイクン家を見殺しにした。アストライアさんが徐々に弱まっていくのを助けようとしたのは結局のところ罪滅ぼし。しかし、彼は自分から、積極的にシャア・アズナブルという人間の考え方を変えようとはしなかった。何故?変わるから、歴史が。彼はセイラ・マス、本名アルテイシア・ソム・ダイクンの家族は守った。それは彼女が以後の歴史にあまりかかわりを持たないからだ。歴史が、彼女を助けても変わらないからだ。

 トレーズ・クシュリナーダに"強大な力の敗北は道理"、といわれた時には、自分のもつ力の大きさを感じて、最後には消えてしまうのか、と言う強い、"死"への恐怖を感じている。不死設定、とシステムを使って能力をつけているらしいが、まだ死を知らないことは、トールの内心に"死んだ自分"と"蘇った自分"が果たして同じ人間なのか、という疑問を生んでいる。自分と全く別で、それなのに全く同じ人間が、まるで自分の場所を奪い取ったかのように私たちと笑い合う、そんな光景を見ているしかない自分を想像して恐怖しているのだ。

 シーゲル・クラインという人物を呼び出した際に最初に考えた"10億人の虐殺"。トールは、呼び出した彼に対する同情心が生まれないこと、彼に対して、私たちと同じような責任感を感じないことに恐怖していた。自分が感じているように思っているだけで、実は私たちに対する感情も偽ものじゃないのかと疑っている。シーゲルを呼び出した最大の理由、感じる言葉は"第二のジャミトフ"、"人身御供"、そんな言葉がある。ああ、これはトールに最も感じて欲しくない、考えて欲しくないと思った考えだ。彼が、陰謀で他人を犠牲にするなんて。

 最初から、殺すために誰かを呼び出すなんて。


 呼び出した一人一人に対する考えが彼の中にはある。だから、私、いや私たち三人はそれを探す。あった。

 セニア・ビルセイア、"孤独な王女"、これは予想通り。セニアから聞いた話そのままだし、セニアも、これについては既にトールと話していたようだ。ふふん、どうよ、なんてこちらに腕組みをしている姿が映る。自分ひとり先にずるい。

 ミツコ・イスルギ、"金持ち悪女"、これも予想通り。でも、続く感情から、結局ミツコに対しても、何も気持ちが変わっていない事を確認する。そしてハマーン・カーン、"恋する男を間違えた"。自分の評価だけに泣きたくなってくるが、ミツコもセニアも慰めてくれた。ううっ、もういい加減そんな事を考えなくてもいいのに。

 そして其処から更に深く。トール自身がトール自身に思っていること、それを探す。頭がだんだん痛くなってきた。体の感覚も少しずつ薄れていく。いけない、と私のどこかがささやく。それは、自分がなくなること、この人をなくすこと、そんな声が聞こえる。うん?違う、これは私の声?ちがう。男の人のようにも聞こえた。もしかしてトール?

 それに気を取られた瞬間、一気に視界が開けてきた。

 強い抵抗を感じただけあって、やっぱりこの考えは隠しておきたかったんだろう。私たちを、システムのせいで。そんな言葉ばかりが伝わってくる。それだけじゃない。東方先生に言われた"ようやく耐えられる程度には成長したか"。つまり、自分がシステムに抵抗できるほどになっていれば、あんなことは起きなかったと思っている。ああ、それが一番の原因らしい。

 システムに抵抗できる可能性があったのに、トールはそれをしなかった。何故?システムに抵抗することを知らなかったから。システムが、まさか自分をコントロールしようと考えているとは知らなかったから。でも、知らないと言うことが言い訳になるとトールは思っていない。それで私たちにしたことが消え去らないからだ。

 ……本当に不器用よね。……だから、信じられるのですけど。

 そんな二人の声が聞こえてくる。私もそうだ。こんな風に悩む、いや、苛まれるまで考え続けるから、トール・ミューゼルは信用できるのだ。でも、トールはそう感じてはいない。さすが東方先生だ。男の人の悩みは、男の人にしか解らない、そういうことだったのだ。

 でも、悩みが解っても解決できない。だからこそ、東方先生は私たちにすべてを話してくれた。

 まだ意識がどこか肉体とつながっているらしい。薄っすらと残る感覚を頼りに、両腕を伸ばしてミツコとセニアを抱え込む。三人とトールが接触し、四人の意識の共有が深まる。私は意識を体に戻すと、東方先生を手招きした。苦笑する先生。ちょっとかわいいと思ったのは内緒だ。呆れたように笑うアクセルさん。扉を閉めると、誰も見ないようにたってくれている。

 東方先生が入ってきた。いかつい顔で、でも目を閉じて何も見ないで立っているだけ。自分が見る必要がない事を、トールに自分を見せることが必要だと感じている。え?一番の強敵はこのおじいさん?

 笑いあう4人の声に、恐る恐る一人の声が重なったところで、意識の共有は途切れた。

 




 本当に負けた。正直負けた。女性って強い。男は本当に弱い。漢は強い、男は弱いのだ。そんな事を感じながら頭を抱えていると、東方先生が前に来る。

 一発。頬に入った拳に弾き飛ばされ、壁に叩きつけられた。そして一言だけを言った。

「案ずるより産むが易し。うじうじ心配するより、実際に会話し意志を通じあった方が簡単ということだ、トール」

 そして大きくため息を吐くといった。

「手間をかけさせるな、バカ弟子が」

 私は、やっと心から4人に頭を下げることが出来た。


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 38話からの一連の流れに決着の回。次からは平常運転に戻ります。




[22507] 第49話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/17 12:03
 なんとも情けない方法ではあるが、懸念を払拭してくれた先生と彼女たちにはお礼を言わなければならない。お礼は何が良いですか、と訪ねたところ、脇で聞いていた姉さんたちから「働きな、このおバカ!」とありがたい苦言をもらってしまったので、早速アルビオンが月面に来るまでの間、馬車馬のように働くことになってしまった。

 勿論、その馬車馬のように働く間にも東方先生の「やさしい流派東方不敗」講座が続いているので、夜にズタボロになって寝台に横になることは変わらない。しかし、この頃はある程度レベルが上がってきたせいか、あんまり伸びが良くなくなってきている。

 ちょっとした壁にぶつかっているような気がしたが、それを話すと東方先生がにやりと笑った。アレは絶対に何かを考えている目だ。すぐにセニアやテューディのところに行ったから、またぞろなにかを考えているのだろう。

「トール・ミューゼル少将ですな。初めまして、アナハイム・エレクトロニクスの常務をしておりますオサリバンです」

 これから来るであろう修行と言う名の人間の限界への挑戦―――というか、既に限界突破して久しいのだが―――に頭を悩ませていた私に声がかかった。現在地はフォン・ブラウン市のアナハイム本社ビル。この会社、ジャミトフによれば、ティターンズ用MSとしてうちのジム・カスタムの丸パクリ商品であるジム・クゥエルを持ち込んできたらしい。

 アナハイムにいちゃもんつける絶好の機会だし、ラビアンローズの使用とGP計画への干渉を考えて、商取引にまかりこしたわけである。勿論、ここでアナハイムにつぶれてもらっても困るわけで、アナハイムに宙ぶらりんになったジム・クゥエルの引き取り先を明示する目的もある。彼らにはエゥーゴの大口スポンサーになってもらわないといけないから、ここで揺さぶりをかけてみよう、と言う思惑もある。

「こちらこそよろしく、常務。妻は御存知ですか?」

 オサリバンはヒゲ面に満面の笑みを浮かべて頷いた。しかし、ある意味芸術的な顔である。

「ミツコ・イスルギ……いや、失礼。ミツコ・ミューゼル専務にはいつもお世話になっておりますが、市場とはしては負け続きですな。ここ数年、地上軍向けに売り出されたリオン・シリーズに加え、今回、ジャミトフ閣下の第9艦隊向けに売り出されたリーオー。安価であそこまで性能を出せるMSばかり売られては、流石に我が社も形無しです」

 世辞、いや、少しばかり本音も混じっているのか。笑みの口元が引きつっている。MS生産の経験こそ積んではいるが、ほとんどがライセンス生産ともなれば恨み言の一つも言いたくなるだろう。それが、RX計画を初期に主導したともなればなおさらだ。
本来なら、今GP社がいる位置はアナハイムのものなのだから。

「勿論、早速我が社とリーオーのライセンス生産契約を結んでいただいた件はありがたく。……本日は、そちらの御用件でしょうか?」

 そのオサリバンの問に答えたのはミツコだった。首を振り、一枚の書類を取り出す。脇から中を見てみると、ジム・クゥエルのライセンス生産の契約書。ああ、なるほど、そういう形で収めるわけか。ライセンス生産料が結構な額である。いやぁ、これオサリバン常務首飛ぶんじゃないの?他社の計画丸パクリしたのがばれて、違約金含んだ契約書とか。

 勿論、契約書を見たオサリバン常務の表情が一瞬硬くなったのは見逃さない。まぁ、モロバレとか普通ないですよね。

「現在起こっているデラーズ紛争の後を考えまして。アナハイムとは市場で共存する体制を考えておきたいと思っておりますの。流石にそちらも我が社の製品のライセンス生産のみで食べていくおつもりではございませんでしょう?」

 ミツコさんは更に一枚の書類を取り出す。今度はリーオーのライセンス契約書。こちらはかなりライセンス生産料が押さえられている。これか、これがリアル『飴と鞭』とかいう奴ですか!いや全く恐ろしい。いくらなんでもここまでやりますか普通とか考えてしまうが、其処をやるのがミツコさんクオリティなのだろう。いや彼女ホントに経済系については半端ない。

 オサリバンは破顔するとはげた頭を手のひらでなでた。

「それはそうですな!我が社が自信を持って送り出そうとしております、初のGM製品、ジム・クゥエルを如何にかして売り込みたいと思っております。どうでしょうかな?連邦軍の方で採用できますでしょうか」

 出来ないことは百も承知であろうによくもまぁ、口に出せるものだと感心しつつトールはコーヒーを飲んだ。うん?美味いな。良い豆を使っている。話はまぁ、ミツコさんの方で勝手にやってくれるだろう、などと思っていたら、早速こちらに話を振ってきましたよ。遊ばせるつもりはないらしい。

「連邦軍は難しくても、コロニー軍は如何でしょう?ザーン防衛隊の軍備に含ませることは可能かしら?トール、そちらの方は如何?」

 少し考えてみる。ザーンの財政状況は悪くない。多分、このまま行けば火星向けの食料品生産で潤うだろうし。ん?そういえば、この前テューディたちが農業用新型プラントの開発とか何とか話していたような。……人の知らないところで何をやっているのか気になったが気にしない。しかし、財政が許すなら、クゥエルはほしいだろうなぁ。

「……難しくはないでしょうね。連邦軍は独立した三共和国がそれぞれ別個のMSを使用して敵味方の区別をつけやすいように、と考えていますから。勿論、ジオン共和国以外はジオン系のMSは避けてもらう、という方針ですので、アナハイムさんがザーンにジム・クゥエルの供給をするというなら、止める理由は勿論ありません」

 オサリバンはもう一度満面の笑みを浮かべた。

「いやいや、それは誠にありがたい話です。我が社もこれで初の量産型MSを送り出すことが出来る、というわけですな」

「内実はうちのジム・カスタムの治安部隊仕様ですがね」

 とりあえず突っ込んでおく。オサリバンが大爆笑しはじめた。苦しげに腹をさすりながら膝を叩いて頷く。いやこの人本当に面の皮が厚いわ。ん?こういうのが経営者に必要な腹芸とかいうのか。否定する気にはならない。経営者というのは儲けて社員に給料やって何ぼである。

「ははっ、我が社があなたの会社の著作権を侵したことは承知しておりますよ。ですからここにおいでなさったのでしょう?まぁ、我が社も後がないですからな。GP計画を受注いたしましたが、貴社のリーオーの発表で、また量産型から遠ざかりました。リーオーの発展性の大きさを考えれば、後継機の開発も既に着手されていると考える方が自然です。我が社も、貴社との関係を深めることで更なる製品の質的向上を図りたいところです」

 私はため息を吐き、ミツコさんは口元を優雅にゆがめた。まぁ、別に当たっていないわけではない。ティターンズが発足してトレーズ閣下がスペシャルズとか作れば、スペシャルズ向けにトーラスとか供給しようかとも考えていたし。もっとも、ムーバブルフレームを実用化しても問題ない段階まで技術が進まないといけないけど。考えてみたら、GP03ってそのためのテストベッドの可能性もある。

 まぁ、飴と鞭を示しただけで話にならない。オサリバンから取れるものは取っておかないと。

「クゥエルの生産権譲渡の代替に、我が社に貴社が何を提供できると?」

「色々と。まずはこれですかね」

 オサリバンは封筒から設計図の冊子を取り出す。表紙にはGP04の文字。失敗作―――というよりは仕様が被り過ぎで意味を失った機体、ガンダム・ガーベラだ。

「我が社で開発した、GP01の宇宙用高機動型と仕様がかぶりました機体でしてな。我が社のMS開発能力の程度を貴社に示すには好適の機体かと思いまして、今回、譲渡させていただきます。連邦軍からRX-78が回ってきたので開発させたものですが、やはり、あなた方が開発したゲシュペンストには劣りますな」

「御謙遜を。汎用型としてはともかく、局地対応型としてはこちらの性能を超えているかと思いますが」

「しかし、局地型では売れません。現状、我が社が自信を持って貴社に提供できる製品はこれぐらいのものです。ほとんどの運用結果はGP01に類似しておりますので、我が社にとって流出しても問題のないものでありますし」

 ははは、と談笑する三人。なるほど、コーウェンが私を外してGP計画をやった事を知っているから、計画の詳細は渡せないけど、計画の一端は明かす、と。んでもって、コーウェンと私との間がギクシャクしているけど、アナハイムまで同じ穴の狢と見ないでくださいね的な御願いな訳だ。

「今回のクゥエルの恩は忘れません。また何かの機会に御社にはお返しを致します」

 オサリバンは真面目な表情で一礼した。この人も、やっていることこそなんだが、自社の利益を考える企業戦士の一員である、という訳だ。ビジネスライクに考えるなら、こういう人間の方が付き合いやすいのかもしれない。人情とか下手に入ると収拾つかないからなぁ。

「今日は有意義な歓談をありがとうございました」



 第49話




 オサリバンと別れた後、ミツコさんと二人で本社を出ると、近くのカフェテリアに入る。名前は『カフェ・デュ・レステ』……どこかの会社から名前少し拝借していないか、とかこの時代にもこの系列店が出ていたことがある意味懐かしく、早速入ってみる。

 待ち合わせも兼ねているので、早速昼食を頼むことにした。いろいろとパスタの種類があるが、基本ミート!ミート!ボロネーゼを頼んでみる。なんでミートソースといえば良いのにボロネーゼとか洒落るんだろうなどと考えていると、ミツコさんはブルーベリーパイを頼んだようだ。

 ここで太るぞとか考えると容赦ないので放っておき、セットのコーヒーが来たところでこれから出てくる各勢力の量産機を如何しようか話し始めたところ、待ち人が来た。入り口からサングラスをかけたオフィススーツ姿のシーマ姉さんが近寄ってくる。どうやら、アナハイムから無事にGP04を受領したようだ。

「コッセルは?」

「港の輸送船に荷物を積み込んでるよ。まったく、なんだか変な気分だね、あたしがガンダムに乗るなんてさ」

 だろうなぁ、姉さんにとってガンダムって基本敵だし。プルシリーズっぽく「ガンダムは敵だ!」とか叫んでも違和感は年齢……などと考えていると睨まれました。ゴメンナサイ。とりあえずフォローを入れておく。

「連邦にいるんだから我慢してくださいよ、姉さん。出所が解らないようにゴーグルアイにはしておきますから」

 言われた姉さんの方はアップにまとめた髪が気になるのか、しきりにうなじを掻く。ミツコさんが姉さんの後ろに回ると、手際よく髪の纏めに入る。すごく手馴れた手つきで髪を結い上げていく。これ、メイクさんでも食べていけるんじゃないの?

「ありがとよ、ミツコさん。で、どうするんだい、トール。もう一つの方はあんまりうれしくない事態だよ」

 もう一つの頼みとは、アルビオンが入港次第勃発するだろう、あの事件についてである。かなり妙な按配になっているようだ。

 フォン・ブラウンの地下区画をくまなく探してもらったところ、ヴァル・ヴァロの姿もケリィ・レズナーの姿もなかった。戦後のジオン残党の動向を探っていて、確かに81年までは地下区画、ジャンクヤードにアナベル・ガトーと共に過ごす彼の姿を確認して入るが、ここ半年、姿を見せないらしい。原作でケリィの世話をしていた女性はジャンクヤード近くの定食屋でみつけた、とのことだったが。

 これは、最悪ヴァル・ヴァロが既にデラーズ・フリートに参加していると考えた方が良いだろう。本来の歴史のようにコウ・ウラキが自信を失うような事態には陥っていないようだが、宇宙戦闘についての再訓練は実施されているようで、11月第一週をそれに用い、ソロモン海へ出撃するとのことだった。

 現在、フォン・ブラウン宇宙港に停泊しようと向かっているアルビオンには、Nシスターズ宇宙港から2隻のヴォルガ級巡洋艦、ヴォルガ、レナが合流のため向かっており、搭載機のジム・カスタム6機、ジム・キャノンⅡが2機合流する予定だ。こちらはバイオロイド兵を乗せているため、コーウェン少将が派遣した部隊よりは効果的に援護が行えるだろう。また、ブライト・ノア少佐が乗るトロッターも、ネオ少佐や東方先生たちを乗せて出撃後に合流の予定だ。

「戦力的には如何かな。こちらもおおっぴらに戦力強化が難しいから。グリプスあたりになれば連邦軍内部の派閥抗争で、どっちもかなりの戦力を投入するから、MSの出所もかなり隠せるんだけどね。ただまだそういう時期ではないから。それに、アナハイムとつながりを作っておいたことは悪いことじゃない」

「……イスルギのご令嬢とミューゼル家のご子息ですかな」

 急に声がかかった。声に振り向くと、横に禿頭の男を従えた壮年の男性がいる。アナハイムとの接触を行ったのは、勿論前に言ったような理由があるが、そろそろ、ある人物と直に接触しておくべきかもしれないと考えていたからだ。まぁ、もっともあっちから接触してこないようであれば、星の屑が終わったあとにまわそうと思っていたのだけれど。

「自己紹介が遅れましたな。ビスト財団代表、カーディアス・ビストです。ようこそ、フォン・ブラウンへ」



 第一軌道艦隊所属、コロンブス級輸送艦「クリスマス」艦内のMS格納庫でトレーズは自分の機体を眺めていた。周囲には第9艦隊MS部隊所属の整備兵たちが忙しくリーオーの整備に働いている。連邦軍に新しく加わる第6種軍装―――第5種軍装はティターンズ用―――OZの制服を身に纏った男たちだ。

「ここでしたか、トレーズ様」

「ん、どうした、レディ」

 レディ・アンは一礼すると報告を始めた。

「ミューゼル閣下への連絡が終了いたしました。トレーズ様の下―――第一軌道艦隊のベーダー大将宛にユグドラシル級砲艦を配備するとの事、受領を願う、と。また、我々OZは11月10日付で正式に第一軌道艦隊から第9艦隊へ配置換えとなり、ジャミトフ閣下の指揮下に入ります」

「そう、か。あの御仁もなかなか苦労しているようだ。もっとも、苦労が続くからこそ、私のような敗者を呼び出そうと考えるわけだろうね、レディ」

 トレーズ様、と声を上げかけるレディを手で押さえてトレーズは続けた。

「この機体、トールギス。また会えるとは思ってもいなかったよ、ゼクスはいないが。しかし、腕前の良い兵士たちを集めてくれたものだ」

 戦いの場にまた立てることは感謝しなくてはなるまい。それに、戦うべき意義を与えてくれたことにも。私が仕えるべき男は、その点においては不足ない。勿論、自らが最終的には敗者になる事を予測している点も。しかも、私とは違う視点で。ふふ、同じような事を考えたのにもかかわらず、解決方法が真逆の相手に私を配すとは、なかなかに人を見ている。

「一年戦争中から声をかけ集めていたものたちだそうであります。勿論、一人たりともバイオロイド兵は入っておりません」

「いちいち報告するまでもない。そんなものを入れるような男が、私のような男を呼ぶと思うかね、レディ」

「……注意は必要かと。先日も一人でジオン残党軍の基地へ突入したそうですので。存外、無謀な男かもしれません。確かに、私たちを呼び出した力は恐るべきですが、閣下が其処まで気にされる必要があるとは思えませんが」

 トレーズは鼻で笑った。レディは心配性が過ぎる。しかしトール・ミューゼル。人を見る目には胡乱は無いようだが、自らに向ける目には胡乱がある、か。あの御仁もその点では真逆な性質を抱えているということだ。しかし、ああいう力を持てばデキムやデルマイユの様に手を汚さずに物事を運ぼうとするのがまた人ではあるが。ふふ、だから人とは面白い。

「それこそ即日、東方先生の拳が飛んだことだろう。心配するに当らぬよ。あの御仁の近くにはよき者たちが控えている」

「ならばなおさら閣下の専用機たるトールギスⅡをきちんと用意すべきでは!?中身まである程度デチューンされているのではせっかくの閣下の能力も発揮の機会を失います。また、アレだけの技術を保有していながら、その実戦への「レディ」」

 レディ・アンの言葉を易しく止めたトレーズは何かを押す。言い終わった瞬間に艦内に地球の小春日和の最中のような、大自然の音が響く。いきなりの変化に周囲の兵員は戸惑うが、トレーズの姿を確認すると納得して作業に戻った。レディ・アンの眼鏡の奥の堅い表情がだんだん和らいでいく。それを確認したトレーズは続けた。

「兵士たちが命をかけるのが戦場だ。かけるに値する戦場で戦うのが兵士だ。技術で戦争を戦えないことは、ツバロフを見て理解しているだろう?少なくとも、あの御仁は自らの手を血で濡らす事を厭うていない。そして、少々の戦争は認めつつも、人類の精神的な発達を願っている。生まれ一つで人を色分けするなど、愚の骨頂。デルマイユは、そしてこの世界ではジオンがそれを解らなかった」

 トレーズはまるで夢を見るかのようにトールギスを見上げた。

「我らは雄雄しく戦い続けよう。そして雄雄しく勝てば良い」




[22507] 第50話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2014/07/29 19:39

「良くぞ戻った、ガトー」

 デラーズの言葉に敬礼を返すガトー。見慣れぬ男たちを前に、少々訝しげな表情を浮かべるが、懐かしい顔を見てすぐにそれを戻す。星の屑作戦の第一段階は完了した。これから、第二段階に入らねばならない。デラーズ閣下の決断には間違いないと信ずるだけだ。

「はっ、光栄であります閣下。して、そちらの方々は?」

 デラーズは頷き、紹介を始める。サイド6近海で身を隠しながら三年間、抗戦を続けてきたヘルシング艦隊の司令官、フォン・ヘルシング大佐。ヘルシング艦隊に所属し、一年戦争後半を特殊任務で戦い続けた特務部隊サイクロプス。隊長のシュタイナー大尉率いる猛者たちだ。

 続いて敬礼を向けてきたのはア・バオア・クー戦後、秘密裏に地球降下を成し遂げて欧州戦線の残党軍を率い、各地で転戦を続けてきた精鋭部隊インビジブル・ナイツ。更には荒野の迅雷、ヴィッシュ・ドナヒュー大尉率いる"ヒープ大隊"の勇士たちもいる。そして何より、我が最高の戦友ケリィ・レズナーの姿も。

「この作戦は、地上残党軍との協力体制の構築、秘密基地アンブロシア、サイド3の有志の協力による一大作戦となった。まさに、ジオン軍の復活を地球圏に訴えるにふさわしい戦いとなるであろう。インビジブル・ナイツ及びヒープ大隊には水天の涙作戦を実施してもらい、残りの人員は星の屑作戦に参加する。ガトー、星の屑のMS隊を纏めるのはお前だ。よろしく頼む」

 デラーズの声に頷く。

「まさに、閣下。これだけの戦力が、ア・バオア・クーに集結していれば、何の連邦ごとき……。返す返すも、この場にいて欲しい方々がおります。……閣下、シーマ大佐の援助は!?ガラハウ艦隊は今回、参加されるのですか!?シーマ大佐のゲルググ部隊の援助があれば、何の連邦の新型ごとき!」

 ガトーは一縷の望みを掛けて言った。このような一大作戦ともなれば、ぜひとも、ガラハウ閣下の敵討ちのためにも、シーマ大佐やハマーン嬢には参加して欲しい。あの、私を無知蒙昧の境地から救ってくださった閣下の仇、地球連邦のあの機体!動けぬ閣下に切りかかった蒼い機体は許せぬ!

「いいや、今回はシーマの艦隊は参加せぬ」

 その言葉に目をむいて尋ねる。あれだけ閣下を溺愛なされていたシーマ大佐が出ないとは一体どういうことかと訝しく思ったからだ。弟の仇を討つ絶好の機会ではないのか。

「何故です、閣下!?連絡は……」

 デラーズはゆっくりと首を振った。

「作戦開始前に連絡はしたが、反応が無い。もっとも、アンブロシアを通じて幾分かの支援は受け取ったがな。シーマの艦隊は月に深く潜行したままのようだ。恐らく、トールの遺命によりドズル閣下が動くまでは動くまい。アクシズと連絡を取る予定であるから、アクシズ先遣艦隊をハスラーが率い現在こちらに向かっておるので、その際にハスラーに訪ねるが良かろう。ハスラーならば何かを知っているやも知れぬ。……わしとしても、無念でならぬ。お前のような素晴しい部下、無二のパイロットを預けてくれた信頼と最後まで己が任を果たし続けた男気には応えねばならぬと思うておったからな」

「ガトー少佐」

 脇から声がかかる。サイクロプス隊のシュタイナー大尉だ。

「少佐の部隊に同行し、ソロモン攻撃作戦への参加を命じられました。我が隊の力、存分にお使いください」

 ガトーは頷くとシュタイナー大尉の両手を取った。



 第50話



 月面、フォン・ブラウン市からハイウェイで移動し、連絡ポートから近郊の住宅都市ニューアントワープへ移動する。この地域は旧アメリカ合衆国からの移民が多く、それも東部の富裕階級がほとんどであったため、高級住宅都市となっている。その一角に、小さいクレーター全体を使って作り上げられた、恒久住宅街とでも呼ぶべき区域があった。

 UC150年代に地球連邦政府が首都を月に移動させるのも、こうした恒久都市の開発がいまだに月では継続しているからだろう。コロニーのようにすべてを金属で覆う必要は無いので圧迫感が少なく、人口重力発生装置で居住環境が変わらないとなればそれだけで魅力的だ。実際、コロニー建造計画が一年戦争で途絶してからというもの、再建計画として復興は始まっているが、サイド7、4バンチ以降の開発は中断されたままだ。

 恒久都市がこれほどまでに重視される最大の理由は、地球の6分の1ではあるが自然重力が存在するため、工業用プラントを設置しても大気を濾過するフィルターの交換頻度が工業用コロニーと比べて少なく済む点だ。これがもし無重力だと、遠心力のみで分離させるために酸素などの再利用する気体と汚染物質が交じり合って分解できなくなる。しかし、わずかでも自然重力があれば比重の違いによる沈殿作用が働くため、分離が容易になるのだ。遠心力とあわせて運用すれば、ほとんどの汚染物質を取り除くことが出来るのである。

 あながち、トッシュ・クレイの考えも間違いではなかった、と言うことだ。しかし、このことがかなりの尾を引くだろうことに誰か気付いている人間はいないのだろうか。宇宙での工業化は重力場が近くなければ安定しないと言う事実。いや、見たいものを見る人間の習性から言うと、それは難しいのかもしれない。火星のテラフォーミングが一段落したら、金星もあわせて開発する必要があるかもしれない。しかし、軌道上に日傘をさすとなるとコロニー以上の大規模工事になる。難しいだろうな。

 気付くと車はビスト財団のものらしい豪華な邸宅の敷地に入る。UCで見たものと同じデザインだ。幾つかの場所に、同じものを立てているのだろう。しかし、何故フランスなのかが気にかかる。サイアム・ビストは中東の生まれのはずだ。フランス……まさか、旧世紀のアルジェリア移民関係とか言うつもりは無いだろうな。

「中世紀フランスの城館建築を模倣させております。お気に召しましたかな」

 気付くと車は止まっていた。視線がずっと、ガラス張りの天井を通して城館に注がれていたから、そのつくりに興味を持ったのかと誤解されたようだ。流石に否定してあなたのおじいさんの事を考えていましたとはいえない。話をあわせるためにビスト財団の表向きの仕事である文化事業の話を持ち出す。

「文化財団としてのビスト家の活動には、こちらも参与させていただいておりますからね。まぁ、もっともそれをしているのは姉のアンネローゼで、私はあまりタッチしていません。姉の活動とは正反対の仕事についておりますし。ただ、興味はありまして」

 カーディアスは笑った。席を立ち、邸に入るよう促してくる。頷くと私は立ち上がり、カーディアスと話しながら邸に入った。カーディアスが話を続ける。

「でしょうな。ミューゼル家からの支援は主に奨学金で戴いております。多数の芸術家の卵たちが、奨学金で暮らせている事を思うと、我々も更に励まねばなりません。アンネローゼ殿とは話させていただきましたが、聡明でお美しい方ですな。弟君としては誇りでありましょう?」

 世辞が上手いが、流石に応える気にはなれない。こちらに対する押さえとしてアンネローゼを使われたくは無い。そんなのは関係ないのだろうが。まぁ、一番の金のなる木の収入源を減らし続けていればそうもなるだろう。外見からするとかなり大きいと感じていたが、中はこじんまりとしたつくりで別荘のような趣になっている。目的の応接室に入ると、すすめられるままにソファーに腰掛ける。勿論端っこ。隣は私です、とミツコさんが当然のように座った。

「奨学金の話でしたら姉のアンネローゼに御願いいたします。姉はそうした方面に援助を惜しみませんし、またそうすることで多くの才能を開花させることが自分の役目だと考えているようなので。弟としては姉の仕事には出来うる限りの援助をしたいと思っております」

 カーディアスは頷いた。話を変えるようだ。秘書のガエル・チャンが入室してくる。周囲の確認から戻った、というところだろう。まぁ、さすがにこちらとしてもここに部隊を送り込むようなまねはしない。もっとも、手を出してきたらきただが。守るのは二人、か。姉さんにミツコさんを任せて、誰かを人質に取れば良いか。この時代あたりなら、誰かいたはずだ。ブラスレイターになれば充分胃場に戦えるからなぁ。

 ちなみに、ブラスレイター化した時の姿をただのライダースーツ姿にしたところ、ミツコさんたち4人全員から「捻りが足りない」などと突っ込みを入れられてしまったので、元ネタである名作より、「俺は太陽の子!」さんを選ばせてもらった。キングストーン無いけど。……いやぁ、あの作品はやはり好きなんですよ。黒いし。だから僕はゴテゴテ飾りが付いたのは好きではないんですって!

「時に、少将はニュータイプの存在を信じていらっしゃいますかな」

 考え事をしていたらいきなりの質問だ。そういう話はあと13年ばかりあとに来るかと思っていたのだが。しかし、こんな話を私に向けて、マーサ・カーバインのオバハンがブチギレしたりしないのだろうか。箱の話になったりしたらいやだなぁ。とりあえずジンネマンが言った様にごまかそう。

「戦場にいるのであれば、そうしたものとしか思えない場合―――強力な戦力に出くわすこともあります。私が臆病なだけかもしれませんが。まぁ、一年戦争で実感はしたつもりです」 

「他者と誤解なく理解が可能な存在。宇宙に出た人類は、広大な空間に適応するためにその種の才能を開花させた。力を持つ人類、と言うわけです。それはあなたもご存知のはずだ、少将。あなたの指揮下には、確認された初のニュータイプ、アムロ・レイがいた」

 うわぁ、モロじゃないですか。大きくため息を吐く。カーディアスが言ったような存在がニュータイプ。そう考える考え方はあまり好きではない。そうした考え方は結局のところ、スペースノイドがアースノイドを差別するのに使われるだけだ。高いところに立って自分の凄さをひけらかす。某ジオンの騎士と何処が違うのだろうか。でも、こういう考えは閉塞感のある時代には必ず出てくる。仕方ないのかもしれない。カーディアスが言葉を続けた。

「一年戦争に勝利して以来、連邦はそうした力を危険に思っているようです。棄民であるスペースノイドに連邦に対する断罪を呼びかける力として捉えている。連邦は、これから数十年、そうした力との戦いを続けていくことになるでしょう」

 まだ黙っている。あんまり応えたくない。しかし、そうした戦いを続けさせる原因が果たしてニュータイプなのかというところには疑問を持たざるを得ない。ジオン・ダイクンがニュータイプだったか?いいや。ギレン・ザビは?いいや。そんなことはない。しかし、ジオンはニュータイプを戦力として使い、大きな被害を生じさせた。その報復を戦後に受けるというなら、ある意味、自業自得ともいえる。

「連邦は公的な研究機関を作り、人工的にそうした能力を開発させようとしていますが、開発は兵器使用を目的としており、結局のところマッドサイエンティストの欲求を解消するための機関となりつつあります。但し、結局のところ、これからの戦争についていくら戦争が起きようとも、連邦が敗退することはないでしょうな。理由はお分かりになりますか?」

 ふぅ、またジンネマンの答えを借りてしまうような形になるが、致し方ない。この人の楽観論はそれはそれで素晴しいとは思うのだが、やはり何処となく、スペースノイド特有のアースノイドに対する偏見が見え隠れしてならない。

「時間でしょう。民衆が飽きますから。可能性を言うだけで結局は何も出来ないから。しかし、それを言ったのはニュータイプではなくジオンという存在です。ジオンの信奉者が全員ニュータイプだとならまた別なのでしょうが、結局のところ、ニュータイプを人工的に発現させることが出来ない以上、それは新しい人類の可能性の示唆に終わり、人類の現状を変える力とはなりえない」

「その通り。民衆は可能性しかいわない、明確な定義を持たないニュータイプに飽きます。結果を示せないからです」

「ニュータイプに期待をしすぎているんでしょうね。自分たちの現状を変えてくれると望むのは勝手だが、結局のところ他人任せで自分の生活を変えてもらおうという短絡的で楽観的な、無責任な望みでしかない。しかし、それは何処の世界も同じでしょう。出来ない事を出来ないといってしまえば支持が離れるから、手っ取り早く支持される景気のよい事を言っておけばよい、ということなんでしょう」

 トールは言葉を続けた。

「そうした言葉で大義を飾る人間がニュータイプだったためしはない。ニュータイプとは個人であり、個人である以上、他者とは完全に別個の存在であり、別個の存在である以上、他者との意志の疎通が向上したとしても、他者と完全に理解しあうなどは不可能です。なぜなら、完全に理解しあうということはその人になる、と言うことでしょう?」

 私の質問にカーディアスは他者の言葉を借りることで答えた。

「ジオン・ダイクンは誤解なく分かり合える人、という概念で定義しました」

「人間は所詮人間でしかありません。そして人間は誤解が生じて何ぼです。人類全体をニュータイプにする?そんなことは現在不可能ですし、意に沿わないのであれば余計なお世話も良いところです。これはニュータイプ論をいじくる人に最も聞きたいのですが、学べば如何にかなると言うものでもなく、生まれを如何にかすればも関係なく、こちらの努力で如何にかなると言うものでもない。全くの無作為に、偶然に発現する能力にすべての期待をかけろと言うのでしょうか?」

 私は言葉を続けた。

「宇宙に住む人間がニュータイプとなるそうですが、一年戦争で戦ったジオンニュータイプの一人は明らかにアースノイドでした。意識の高い低いを考えるならば、なおさら宇宙と地球と言う境目は意味を成しません。それは知性の問題です。結局、アースノイドが自らの現状に甘んじて何もしないという批判と同じくらい、スペースノイドは自らの現状に甘んじて何もしていない。重力の井戸に縛られているとアースノイドを批判しますが、無重力で宙ぶらりんな存在に甘んじているのはスペースノイドも同じです」

 カーディアスは笑った。かなり納得したらしく、しきりに頷いている。こちらは良い面の皮だ。シーマ姉さんとミツコさんが揃って「しゃべりすぎだ、このおバカ!」と視線を向けてくる。だってねぇ、こういう話ってガンダムにはつきも……

「しかし、ラプラスの箱―――あなたも御存知のその箱には、そこに入っている言葉にはその変わることなき未来を変える力がある、と私は思っています。そして、能力ある人間、力を持たされた人間にはそれに応じた責任が生じます。自分では選びようがありません。可能性という名の神に命じられるがままに動くしかないのです」

 話が一気にヤバい方向に向かったようである。まぁ、一度関わっているから、こちらがそうした勢力であると言うことを見抜く可能性が一番高いのがビスト財団だ。サイアム・ビストは、自分たちのテロ行為を邪魔し、自分に箱を託した勢力の事を忘れてはいないのだろう。まぁ、そうなるように仕向けた、といってしまえばそれまでなのだが。しかし、前半はともかく、後半だけは聞き捨てならない。

「"神は天にいまし、全て世は事もなし"。ブラウニングの"春の朝"ですが、良く誤解される一節です。正確には"時は春、日は朝、朝は七時、片岡に露満ちて、揚雲雀名乗り出で、蝸牛は枝に這い、神、空に知ろ示す。全て世は事も無し"。ブラウニングが意図したことは今となっては不明ですが、『日常的に見られる光景のなかに輝くものがあり、そのメッセージが聞こえてくる。それはそうした全てのもの背後に神がおられるから、神の御手によってそれらがなされているからなのである』、と言うのが普通の解釈のようです」

 カーディアスの表情が変わった。

「……何がおっしゃりたいのかな」

「聖書、創世記第一章第31節に曰く、"神は創造されたすべてのものを見た。それは極めて良かった"。力を持って生まれようが持たずに生まれようが、全てのものどもは存在そのものとしては平等です。相手がどんなに自分にとって価値の無い、価値の感じられない人間であっても、自分の目が無いだけであるという疑いを私は忘れられない。だから、私は可能性に神を感じません。可能性は、人間が持てるものの一つであって、人がもてるのであればそれは神のものではないからです」

 ここだけははっきりと示しておきたい。ここだけは譲れない。カーディアスに対する説教と言うよりは自分の立場の表明のつもりだった。ニュータイプを安易な力と捉えてそれに全てを任せるようなことはしたくないしさせたくない。それではあまりだ。ニュータイプを作り出そうとして殺されていった、幾多の強化人間たちが。

 確かに、ニュータイプが嘘であるなら、人は言葉に頼る今の生活を続けるしかない。そして勿論言葉では人は変えられないこともある。しかし、たとえニュータイプが現実に生まれ出でたとしても人は言葉を捨てて生きてはいけない。なぜなら、"in principio erat uerbum"。この世の始まりと共に言葉があったのだから。念じるだけで理解という難事を為そうなどと、努力の放棄に等しいではないか。

「ラプラスの箱は、結局のところは無駄な希望にすぎません。希望の押し付けだからです。それも、先人たちの努力をすべて無に帰するような。希望は確かにあるかもしれない。しかし、無責任な希望は人々にとって却って重荷になります。親の、子に対する過剰な期待とでも言うのでしょうか。言っておきたいのですが、能力ある人間に生まれようと、力持つ人間に生まれようとそこに責任など生じえません。人が自分に責任を負うのは、可能性のためではなく、自分でそれを選んだ、自分の意志が故にです」

 カーディアスは瞑目する。どうやら、ここでの会話はサイアムに何かを言われたからではないらしい。この男なりに、考えた末の決断のようだ。恐らく、それはカーディアス・ビストがビスト財団の主になって以来初めて、サイアム・ビストの考えの外で動いたこととなるのだろう。

「……私には遅すぎましたかな」

「まだ間に合う人もいるでしょう。箱を開ける前に、考え直されるべきです」

 それに、こういう事を言えるのであれば叔母と甥の関係などと言うのを見過ごすな、と言いたいがそこは言わない。子供に対して過剰な期待をかけることで子供を押しつぶすまでは良いとしても、その後始末、尻拭いを他の関係の無い人間に任せるのは気に入らない。親として子供に向き合えないのなら、そもそも子供など作るべきではない。そして子を作ってしまったなら、否が応にも向き合わねばならないのだ。

「……やはり、中身を御存知か。しかし、私はそうは考えません。本来あるべき未来を取り戻す力があると考えています。ただ、今はどうにもせきません。だれもがジオンの言葉に含まれる毒に犯されすぎています。開放する時期を選ばねば、あなたの言うとおり、それは毒となるのでしょうな」

 其処にも頷けない。毒は何処まで行っても毒で、結局はそれ以外のものになれない。それに、サイアムがとり付かれている箱にしろ、ジオニズムにしろ、問題は宇宙に出れば覚醒できるとかそういうたいそうなお題目で片付く問題ではないのだ。私とカーディアスでは議論している問題のベクトルが違う。カーディアスはニュータイプにかけた人類の希望を思い起こすことで人の変革を促したいと思っているが、私はその変革が"変える"という認識のもとで行われるのでは全く意味が無く、むしろそうしたいのであれば"変わる"という認識で行わなくてはならないと考えているのだ。

 なぜなら、"変える"という強制は、必然的に"変われた"人間と"変われなかった"人間とを峻別し、両者に差別・被差別関係を生むから。"変わっていく"人間を許容できる環境の構築、これこそが大事なのに。

 私は其処まで人間を、なかんずく自分を肯定的には見れない。

「私はいつ開放しようが毒は毒だと思っております。今日のお話はそれだけですか」

 話すべきことは話した。ビスト財団と敵対はしたくないが、根本の思想が違うのであれば致し方ない。しかし、トールの言葉にカーディアスは首を振った。ガエルが頷き、部屋を出る。夫人と子供とをつれて戻ってきた。

「あなたに託しておきたい。この子を。母と一緒に。代償は私が生きている限りビスト財団の敵対は無いことの保証」

 年齢から言ってバナージ・リンクスか。しかし何故?私は疑問をそのまま口にだした。

「何故?」

 カーディアスは苦笑した。何を考えているかはわからない。しかし、彼自身がこの二人の事をいとおしく思っていることは理解できた。既に大方は決していたが、最後の確認のための会話だったのだろう。上手く乗せられてしまったのか?違うな、考えの違いを確認したのだろう。交わることの無いことの確認。しかも、絶対に。共闘だろうと敵対だろうと。

「私とあなたの考え方は決定的に違っているが、ただひとつだけ、私にも解ることがある。それはあなたが、誰もがニュータイプに要らぬ希望を望む中で、誰もが要らぬ悪意を持って眺める中でただ一人だけ、何も感じていないということだ。希望も悪意も感じず、ただ存在だけを見つめている。ただ存在するニュータイプを、ニュータイプとしてではなく自分と同じ人間としてみている。……だからこそ、君の周りにはニュータイプが集まるのだろうことだけは私にも解る。であればこそ、……よろしく、お頼みする」

 そういうとカーディアスは頭を下げた。ジャミトフと同じだな。ジャミトフ・ハイマンが先月離婚し、親権を全て手放した上で連邦情報局の手を借りて、家族に証人保護プログラムを適用させたのは確認してある。全ての親戚縁者を切り離したということは、ついにティターンズが始まると言うこと。そしてカーディアスも同じ種類の決意を持ってことに望もうとしている。

「私についてくることが彼らの幸せと考えるのですか?私とあなたの考え方は違う。敵対する可能性が無いとは言わせませんよ。私が彼らを人質にする危険性を考慮に入れなかったのですか?」

「勿論考えないではない。しかし、其処までするは思えない。逆に言えば、考え方が違うからこそ信頼できる。私があなたの立場なら、遠慮なくそのように使うだろう。そうでなければビスト財団ではないし、財団の総帥などやってはおれない」

 これまた偉く見込まれたものだ。こちらが手を出さないことを知って預ける、か。私は夫人の方を向いた。

「御夫人はそれで納得しておりますか。旦那さんの傍から、敵かもしれない男の紹介する引越し先へ移る事を。もしかしたら、引越し先は地獄かもしれませんよ?」

 夫人はその言葉に笑うと夫の方を見た。カーディアスは妻―――愛人のアンナ・リンクスに笑いかける。夫人が再びこちらを向いた。

「……はい。元々、この家からは離れようと思っておりましたから」

 その言葉に頷くと、こちらを見上げる少年を見た。バナージ・リンクス。13年後の、箱の一件で鍵を手にする少年は、何事かも理解できないと言う目でこちらを見ていた。私はため息を吐いた。

「冠婚葬祭、家庭訪問と授業参観へのあなたの絶対参加及び、そこにある、"ア・モン・セル・デジレ"のレプリカ。ご了承くださいますか?」

 私のささやかな反抗に、カーディアスは苦笑して頷いた。ふん、小説どおりに死ぬときまで会わない生活とかさせるか。死ぬ間際に勝手な期待をかけるなんてまねはさせない。

 ……まぁ、流石にアルベルト君の趣味の悪さにはドン引きですが。

 新しい紫ババアとかいやだなー。ははは……洒落にならない。

 --------------
 別に私はキリスト教徒ではありません。念のため。



[22507] 設定集など(38-50話まで)
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2014/07/27 07:35

 UC0080年上半期(38話)
 *修羅場フラグbが立ちました!GP20000入手!
 *修羅場フラグcが立ちました!GP20000入手!
 *リオン・シリーズが市場に流れました!GP50000入手!
 *主人公のおバカが更に二人に手を出しました!GP120000入手!
 *桃色イベント発生です!GP20000入手!

 GP2790100 → 2230100
 ・ナノマシン技術Lv.5:100000 接触による生物コントロールが可能です。
 ・超空間航法技術b:100000 アクティブジャンプ(何処でもワープ)が可能です!
 ・超高速航行技術b:100000 光速を越す船舶を建造できます!
 ・ポイントキャラクター強化技術Lv.5:100000 獲得キャラクターを無制限に強化可能です。
 ・対人関係掌握能力Lv.5:100000 他者に対する精神支配が可能です。一定確率で廃人になります。
  → 獲得したUCキャラクターは特別な事情がない限り裏切りません!
 ・NT能力Lv.4:60000 ジュドー・アーシタぐらいのNT能力です。
 ・BPOG製造技術j:60000 特機系機体の製造が可能です!



 UC0080年下半期(39話)
 *主人公は3ページを楽しんでいます!GP60000入手!
 *主人公に露出狂疑惑が発生しました!GP-50000
 *ホワイトベース乗員はアムロ以外幸せそうです!GP20000入手!
 *桃色イベント発生です!GP20000入手!
 *修羅場フラグdが立ちました!GP20000 フラグjおよびフラグtまで行くと、強制ルート変更がかかります!

 GP2300100 → 2180100
 ・シュバルツ・ブルーダー:60000 主人公にあのタイツの着用を義務付けようとしています!
  → 強制送還:GP40000が返還されました!
 ・東方不敗マスター・アジア:100000 成長性無し・N1以外への移動が出来ません!
  → 戦間期前半の召還数は残り29名です
 △MS戦闘経験Lv.7:----- MSでの戦闘経験が一定段階に達しました!
 △対?戦闘経験Lv.1:----- 格闘経験が一定段階に達しました!



 UC0081年(40話)
 *サイド1が独立しました!GP50000入手!
 *Nシスターズが独立しました!GP50000入手!
 *火星のテラフォーミングが第二段階に入りました!GP50000入手!
 *火星恒久都市"セントラル・マーズ"の建設が開始されました!GP25000入手!
 *コーウェン少将の動向に注意が必要です!(GPは行動如何で変動します)
 *「やさしい流派東方不敗」のおかげでMS/対?に経験値が入ります!
 *ラインハルトの傲慢な性格が矯正されています!GP5000入手!
 *ナタル・バジルールが空気になりつつあります!GP-600
 *修羅場フラグeが立ちました!GP20000 フラグjおよびフラグtまで行くと、強制ルート変更がかかります! 

 GP2359500 → 2150000
 ・マイヤー・ブランシュタイン(OG):15000+45000
  → 戦間期前半の召還数は残り28名です
 ・機体生成:1500 修行用ノブッシを2機生成しました!
 ・機器整備:50000 本拠月面の設備を更新しました!
 ・防衛体制a:98000 本拠月面の防衛設備を整備しました!
 △MS戦闘経験Lv.8:----- MSでの戦闘経験が一定段階に達しました!
 △対?戦闘経験Lv.2:----- 格闘経験が一定段階に達しました!


 UC0082年後半(41話)
 *サイド3の状況が史実よりも良好です!GP50000入手!
 *サイド3の反連邦機運が高まっています!(GPは以後の動き如何です)
 *サイド6の反連邦機運が高まっています!(GPは以後の動き如何です)
 *デギンが生きてます!GP30000入手!
 *キシリアが処刑されました!GP50000入手!
 *フォウ・ムラサメが行方不明です!GP-5000!
 *フォウ・ムラサメの中の人が元に戻りました!GP5000入手!
 *『エロスは程ほどにな』二回目の発動!GP20000入手!
 *コーウェン少将がアルビオンを接収しました!GP-5000
 *連邦軍における憲兵権限を獲得しました!GP25000入手!
 *連邦側部隊とジオン側部隊の合同が成功しました!GP50000入手!

 GP2370000 → 2370000
 △MS戦闘経験Lv.10:----- MSでの戦闘経験が一定段階に達しました!
 △対?戦闘経験Lv.4:----- 格闘経験が一定段階に達しました!


 UC0083年初頭(42話)
 *『エロスは程ほどにな』三回目の発動!GP20000入手!
  → 主人公が発動を強制解除しました!GP-30000
 *システムとの第二回交渉により、一定の合意に達しました!GP100000入手!
  → TMシステム使用時の『エロスは程ほどにな』技能が抹消されました!

 GP2370000 → 2035000
 ・専用機生成:50000 デュラクシールを生成しました!
 ・専用機生成:30000 ビルトシュバインを生成しました!
 ・専用機生成:30000 ヒュッケバイン009を生成しました!
 ・専用機生成:15000 ゲシュペンストMK-2TTを生成しました!
 ・警告通知:100000 システムは主人公が危険な状態に陥った場合、警告を行います!
 ・ポイントキャラクター強化機能:200000 東方不敗の行動制限・体調などが改善されました!
 △MS戦闘経験Lv.12:----- MSでの戦闘経験が一定段階に達しました!
 △対?戦闘経験Lv.6:----- 格闘経験が一定段階に達しました!


 UC0083年初頭(43話)
 *ジョン・コーウェンの動向に変化が生じています!GP-5000!
 *第二次「水天の涙」作戦が未発生です!GP10000入手!
 *マハラジャ・カーンが生きています!GP20000入手!
 *ジオン残党の動きに変化が生じています!GP-5000!

 GP2055000 → 1690000
 ・アクセル・アルマー(OG):80000+160000
  → 戦間期前半の召還数は残り27名です
 ・専用機生成:40000 アースゲインを生成しました!
 ・専用機生成:15000 クーロンガンダムを生成しました!
 ・機体改造:25000 デュラクシールを改修しました!名称がガンダム・デュラクシールに変更されます!
 ・機体改造:15000 ビルトシュバインを改修しました!名称がステッペンウルフに変更されます!
 ・機体改造:15000 ヒュッケバイン009を改修しました!カラーが白に変更されます!
 ・機体改造:5000 ゲシュペンストMK-2TTを改修しました!サイコミュなどが搭載されます!
 △MS戦闘経験Lv.14:----- MSでの戦闘経験が一定段階に達しました!
 △対?戦闘経験Lv.8:----- 格闘経験が一定段階に達しました!



 UC0083年10月中旬(44話)
 *ジャミトフ・ハイマンにGP社が接近しました!(GPは以後の動き如何です)
 *ジオン残党軍が宇宙への移動を開始しています!(GPは以後の動き如何です)

 GP1690000 → 1195000
 ・専用機生成:20000 OMS-17RF RFドルメルを生成しました!
 ・専用機生成:20000 OMS-14SRF RFゲルググSを再生成しました!
 ・アイビス・ダグラス(OG):20000+40000
 ・スレイ・プレスティ(OG):15000+30000
 ・フィリオ・プレスティ(OG):5000+10000
 ・ツグミ・タカクラ(OG):5000+10000
 ・リリーナ・ピースクラフト(W):30000+60000
 ・ルクレツィア・ノイン(W):20000+40000
 ・シーゲル・クライン(Seed):20000+40000
 ・マーチン・ダコスタ(Seed):10000+20000
  → 戦間期前半の召還数は残り19名です
 ・NT能力Lv.5:80000 CCAシャアぐらいのNT能力です。
  → 派生技能獲得が可能になりました。



 UC0083年10月下旬(45話)
 *ナノマシン技術(初期段階)が地球・火星に投入されています!GP80000入手!
 *ジャミトフ・ハイマンがGP社に接近しました!(GPは以後の動き如何です)
 *セニア・ビルセイアが"デュカキス"を作成しました!GP15000入手!
 ★主人公勢力の軍備が以下のように更新されました!
  宇宙側部隊:連邦軍月面第一艦隊(Nシスターズ駐留)
  ・ペガサス級戦闘空母「トロッター」(ブライト・ノア少佐)
  ・ペガサス級戦闘空母「トロイホース」(ナタル・バジルール少佐)   
  ・未搭載
   ASS-117A ヴァルケン×36(PS扱い)
   PTX-002 ゲシュペンスト・タイプS(改) トール・ミューゼル少将
   GF13-001NH クーロンガンダム 東方不敗マスター・アジア
   EG-01A アースゲイン アクセル・アルマー大尉
   AGX-04B ガンダム・ガーベラ シーマ・ミューゼル少佐
   PTX-001RV ゲシュペンスト・タイプRV 予備機
  ・改修・調整中
   PTX-005S ビルトシュバイン(改)「ステッペンウルフ」   → 機体強化・武装変更・AI搭載
   RX-?? ガンダム・デュラクシール    → 機体強化・両肩のシールドを多機能シールド・ファンネル化、AI搭載
   RPT-007PT 量産型ゲシュペンスト・タイプPT(サイコミュ・テストタイプ)   → 有線ビーム砲を搭載
   RTX-009 ヒュッケバイン(ホワイトカラー)    → 有線ビーム砲を搭載 重力関係装備はオミット
   GF13-001NHII マスターガンダム   → 調整中
   EG-02 ソウルゲイン   → 調整中
   OMS-14SRF トール・ガラハウ専用RFゲルググ   → 調整中
   OMS-17RF RFドルメル   → 調整中

  地球側部隊:連邦軍オホーツク方面隊(樺太基地駐留)
   司令 レイカー・ランドルフ少将、副官 カトル・ウィン
  ・MS戦技教導連隊(通称G-1隊、増強大隊規模)
   連隊長:セルゲイ・スミルノフ大佐
   第一大隊長:ポプラン少佐
   RPT-007 量産型ゲシュペンスト空戦仕様 オリヴィエ・ポプラン少佐
   RPT-007 量産型ゲシュペンスト狙撃仕様 ニール・ディランディ中尉
   RPT-007 量産型ゲシュペンスト通常仕様×3 ウィスキー小隊
   第一中隊:RPT-007×12
   エイガー少佐、マッケンジー大尉、カジマ大尉など
   第二中隊:RGM-79N ジム・カスタム×6、RAM-004F リオンF型×6
   レイヤー少佐、ライラ中尉、ヤザン中尉、ホセイ中尉など

   第二大隊長:ネオ・ロアノーク少佐
   輸送隊 ミデア型輸送機後期型×6 マリュー・ラミアス大尉
   整備隊 アリーヌ・ネイズン技術中尉、アニー・ブレビッグ曹長

  ★以下の艦艇・部隊はモスボール状態です。
  ・ガーティ・ルー級機動戦艦「ガーティ・ルー」
   VR-02 ヴァイサーガ×1(トール)
   AGX-04A1 ガーベラ・テトラ改(シーマ)
   NZ-000(改) プルサモール(ハマーン)
   OMS-14RF ゲルググRF×12
  ・ナスカ級強襲巡洋艦×3
   OMS-14RF ゲルググRF×21
  ・ザンジバル級機動巡洋艦「マレーネ・ディートリッヒ」
   MS-14F ゲルググマリーネ×9
  ・ムサイ(後期生産型・カーゴ搭載)
   MS-14F×30

 GP1195000 → 685000
 ・ソフィア・ネート(OG):20000+40000
 ・ライゾウ・カッシュ(G):20000+40000
 ・マリオン・ラドム(OG):20000+40000
 ・カーク・ハミル(OG):20000+40000
 ・ロバート・H・オオミヤ(OG):20000+40000
  → 戦間期前半の召還数は残り14名です
 ・派生技能"思考制御":50000 NTによる思考の共鳴を拒否できます
 ・専用機生成:80000 マスターガンダムを生成しました!
 ・専用機生成:80000 ソウルゲインを生成しました!


 UC0083年10月下旬(46話)
 *ジオン残党軍が宇宙への移動を開始しています!(GPは以後の動き如何です)

 GP685000 → 685000


 UC0083年10月下旬(47話)
 *デラーズ・フリートの戦力が強化されています!(GPは以後の動き如何です)
 *ユライア・ヒープが「水天の涙」と「星の屑」を統合しています!(GPは以後の動き如何です)
 *ジャミトフ・ハイマンとの裏取引が成立しました!GP30000入手!
 *アフリカ掃討軍及び第9艦隊向けに、リーオーの供給が始まりました!GP10000入手!
 *ジャミトフ配下にトレーズ及びレディ・アンを送り込みました!GP50000入手!
 *タチアナ・デーアがベルファストの情報を残党軍に送付しています!GP-5000

 GP770000 → 410000
 ・トレーズ・クシュリナーダ(W):80000+160000
 ・レディ・アン(W):40000+80000
  → 戦間期前半の召還数は残り12名です


 UC0083年10月下旬(48話)
 *ジオン残党MSを計9機撃墜しました!GP4500入手!
 △MS戦闘経験Lv.15:----- MSでの戦闘経験が一定段階に達しました!
 
 GP410000 → 414500


 UC0083年11月1日(49話)
 *アナハイムにジム・クゥエルを譲渡しました!GP10000入手!
  → アナハイム社がジム系MS生産能力を得ます!
 *アナハイムにリーオーを譲渡しました!GP10000入手!
  → アナハイム社がリーオーの生産能力を得ます!
 *アナハイムからGP04を入手しました!予備機に組み込みます!
 *ジオン残党軍が戦力の集結を開始しています!(GPは以後の動き如何です)
 △MS戦闘経験Lv.16:----- MSでの戦闘経験が一定段階に達しました!
 
 GP434500 → 404500
 ・専用機生成:10000 トールギスⅡを生成しました!
 ・専用機修理:20000 ステッペンウルフを修理しました!

 UC0083年11月1日(50話)
 *ジオン残党軍が戦力の集結を開始しています!(GPは以後の動き如何です)
 *ビスト財団、カーディアス・ビストと接触。ある程度合意しました!GP50000入手!
  → バナージ・リンクス、アンナ・リンクスが保護下に入りました!

 GP454500 → 454500



[22507] 第51話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/20 12:13
 カーディアスと別れてすぐにアンナ・リンクスとバナージ・リンクスのN1への引越し手続きをとる。アンネ姉さん経営の全寮制学校に入れるつもりだ。まぁ、ミネバも通う予定だから、早すぎるUCというところだろうか。本当なら火星にでも連れて行きたいが、流石にカーディアスにジャンプゲートを使わせるわけにもいかない。行事ものには強制的に連行するつもりだが、往復二ヶ月拘束するのもなんだ。

 二人を乗せた連絡艇がN1に厳重な警護の上で出発するのを見送りフォン・ブラウンに戻ると、アルビオンが寄港しており、無事に増援と合流したようだ。シナプス艦長に東方先生とアクセルを紹介し、トロッターとノア少佐の部隊をつけると連絡すると感謝されてしまった。まぁ、流石に単艦でジオン残党の捜索とか死ねって感じか、と思わないでもなかったらしい。

 その際にコウ・ウラキの様子が気になっていたので調べてみたところ、ニナ・パープルトンとアナベル・ガトーの接触が起こっていないこと、及びニナとコウの関係が原作以上に進展しているためと発覚した。どうやらこの世界では紫豚は綺麗な人らしい。良いことか悪いことかは解らないが、ここで帳尻を合わせたのか?とか思わないでもない。

 フォン・ブラウンからNシスターズに戻り、茨の園攻撃準備を整えていると、チカチカとメールランプが点滅している。どうやら、出かけている間に結構たまっていたようだ。
 
 メールを見るとジャミトフのところに派遣したトレーズからのメールがある。あの男がメールをする姿など考えられないから、恐らくレディ・アンからのものだろう。彼女の場合、あまりにもトレーズに対する依頼心が強すぎるような気がしないでもないが、彼がこちら側なら絶対に裏切らないだろうことは予測できる。

「パイロット養成学校、"エコール"の設立案、か」

 恐らく、85年当たりに開校する事を考えていて、養成学校の生徒の中からニュータイプを発見しようとでも考えているのだろう。しかし、ジャミトフにしては穏当な案だ。などと思っていたら、ニュータイプ研究所の方では強化人間を作成するために薬物投与を繰り返し、何名かの死亡者が出ているらしい。医療による改造は費用もかかるため、低費用での育成が出来ないかの試験母体とするつもりのようだ。

 教育内容が穏当なものなら認めても良いだろうが、ニュータイプを見つけようとするならば、絶対に無茶をやるバカが出てくる。ジャミトフはそれを押さえるためにこれを作ろうとしているのだろうが、早晩、扱いはムラサメやオーガスタと同じように、強化人間の薬物投与による作成の方へ振れるだろう。しかし、デラーズに対応するためにライプツィヒのニタ研からソフィー姉さんたちを引き上げたのがまずかったのか?と思う。張兄さんの方はNシスターズのアングラ管理で忙しいので動かせないのが痛い。

 メールにはまた、トレーズが大隊規模のMS部隊―――リーオーを主力とする―――を率いて軌道上に移動を完了し、第一軌道艦隊と合同演習をする予定であることが記載されていた。恐らく、星の屑を見越して戦力の先んじた配備をした、と言うところだろう。第一軌道艦隊のベーダー大将には話を通しておけ、と言いたいらしい。まぁ、いきなりヘンテコな軍服着た奴らが入ってきたら驚くわな。コスプレしたバカ野郎を如何にかしろ、とかいう第一軌道艦隊司令部からの文句もあった。

 しかし、そういうわけにもいかない。部隊の認可が下りるのは12月1日付。それまでは彼らは"第9艦隊所属MS部隊"であるが、12月1日共に"特殊治安憲兵隊OZ"となる。ティターンズで暴走確実なバスクとジャマイカンを初めとする急進派を押さえるための部隊である。であるからには先んじて設立しておかないと邪魔が入る。実戦部隊の指揮官はバスクだからだ。

 ティターンズが設立されることはデラーズ紛争がどうなろうと既に規定路線であるが、設立までの経緯はかなり異なることとなるだろう。この前コーウェンを使って獲得した憲兵隊権限をOZに与えてあることが、そしてバスクに先んじて存在を確立させておくことが軍服騒動の発端である。トレーズも12月1日付で中佐に昇進予定だ。

 第一軌道艦隊を巻き込んでのティターンズ設立のための一大イベント、か。まぁ、コロニーが落下しても、落下事故を言い訳に使うのだから同じようなものだ。被害が出なければよしとするほかはない。しかし、やはりジャミトフはやり手だ。最終的に人体実験が中心になるにしろ、この段階で予備の代替案まで実現に持ってくるとはなぁ。




 第51話




 メールの件から一週間が過ぎ、11月8日となった。明日フォン・ブラウンをシナプスの艦隊が出撃するため、東方先生とアクセルにはトロッターへと移ってもらう。メカニックにはテューディに行って貰った。"技術的に遊びが過ぎる機体"が大のお気に入りらしく、また同時に"原理不明だが布状で生ずるビーム"を検証するためといって強行に同行を主張したので押されて認めてしまった。

 ハマーンやセニア、ミツコさんらとはあの一件以来関係が元に戻ったが、テューディだけはそうではない。むしろ、こちらを避けている向きがある。その事を話しかけても見たが、「時間が欲しい」という返事しか返ってこない。やはり、操られていたことは彼女にとってもショックだったらしい。気が重いが、これから一ヶ月は気が抜けない。心残りはあるが、落ち着いてからとしよう。

 さて、アルビオンのソロモン海出撃に合わせ、茨の園へ出撃する予定の部隊は私自身が率いることになるが、こちらの方にも手は加えてある。何せ、ようやく連邦軍の軍人や、宇宙世紀のキャラクターを完全に排除した、こちら側のキャラクターとバイオロイド兵のみの艦として「トロイホース」が運用できるのである。下手なところに寄港しなければばれる心配がなくなったため、艦内部での作業がしやすくなったのはうれしい。

 早速新型の内、ヒュッケバインとステッペンウルフを乗せ、援護の艦隊と共に出す予定。将来的には艦隊すべてをこちら側のキャラクターとバイオロイド兵で固めることが目標だが、まだ数年かかりそうである。そんなアンニュイな私がいるのはトロイホースの艦橋にある司令官席。艦長席では念願の新造艦を得たナタル・バジルール少佐が精力的に出撃準備の指揮をとっている。

「どうしたい?」

「姉さんか……うー、考え中。ナタルさんの軍服姿も本当に久しぶりだな、とか思って」

 話しかけてきたのはシーマ姉さん。本来なら月を任せたいところだが、艦隊司令官としてついて来るそうだ。ここのところMSで出撃する機会がないから少し不満気なのは御愛嬌だ。まぁ、自分の乗っているのがガンダムだというのもあるんだけど。気が重い。それは、この前のカーディアスとの一件でもそうだ。宇宙世紀の時代の動きが、人々ではなく一部の人間の影響が大きいと知ったときは流石にいらだっていたが、そりゃそうだろう。

 良くも悪くも民主主義という考え方、政治の仕方が最善である、と言う見方が定着してから長い。となると、そうした見方を否定するような動きをされるとそれだけで苛立ちをうむわけだ。それは、現在の地球連邦政府に対するジオニズム派の視点に近い。しかし、地球連邦を否定はするが民主主義は嫌いじゃない、などと言っているくせにダイクン家による半ば王政に近いジオン共和国を作ったり、明らかな専制主義に走ったジオン公国を支持するんだから人間と言うものはわからない。ジオン公国にも議会があったが、それが形骸に過ぎないものは子供でも知っている。

 結局は現状への不満を解消してくれる可能性があれば誰でもかまわないわけだ、と改めて思う。それは、カーディアス・ビストの言う可能性とかなり似た考え方だ。しかし、それはスペースノイドだけに共通する問題ではない。可能性しか示さずに何もしなかった政治勢力などこの世にいくらでもいる。それは宗教とて同じだ。

 宇宙世紀に入っても、人は神に、アラーに、仏に祈る。それは神が可能性をもたらしてくれるから?そんなことはない。神はご利益のために存在する訳ではないのだ。期待するなとは言わない。人は弱いものだから。しかし、可能性とかいう御利益を神が与えるものだと言い切ってしまうのは、どうにもよい気分ではなかった。




 ナタルの軍服姿、ねぇ。昔のアタシなら、また色ボケに走って!とか殴りつけるんだろうけど。

 シーマ・ガラハウ―――現在はシーマ・ミューゼルはため息を吐いた。このバカ、また考え事を始めた。目の前で苦悩する弟、というフレーズには少しばかり興奮もするが、流石に育ちすぎだ。自分の思考に口元を歪ませたシーマは、何事かに悩んでいるらしい弟の頭を叩いた。いつもどおり、いつもどおりの行動だ。決して家庭内暴力ではない。家族とのスキンシップの一環である。

 自分は、トールが知る歴史であれば一年戦争で使い潰された挙句にこの紛争で死ぬと言う。システムとやらが持っていた黒歴史とやらの記憶で、もう一人の自分の過ごした人生を見たが、そりゃああなっても仕方ないだろうねぇ、といまさら思う。

 目の前で頭を押さえて意識が痛みに向かっている弟と最初に会ったのは、もう10年近く前になる。あの天然でボケで人の迷惑を顧みないくせにお節介焼きの妹―――アンネローゼに引き取られたのが最初だった。サイド3、コロニー・マハルの貧民の一人だったシーマは、父親の建設会社が不況のあおりを受けて倒産して路頭に迷っていた。

 勿論、それまで蝶よ花よとまでは行かなくとも、まっとうな暮らしをしていたハイスクール生に、自分ひとりの暮らしを立ち行かせるような収入の当てがあるわけなどない。結局は身を売って生計を立てるか、当時拡大を始めていた軍に入って食いつなぐしか方法はなかったろう。もう一人の自分も、体を売るよりは、と軍に入ったに違いない。

 当時、サイド3を大きく包んでいた連邦への反感と、独立するジオンへの期待はあのころの自分の中にも確かにあった。あのまま軍に入っていたら、あの歴史と同じようにジオンの独立にすべてをささげて毒ガスで狂っていただろう。

 そういう意味ではアンネとお前に感謝だよね、とシーマは思う。自分にそれまでからすれば考えられない教育をしてくれたし、父の建設会社で働いていたコッセルたちを集めて海兵隊を作ってくれた。そして、気には食わないけれど、ソフィーやハマーン、ラインハルトに天然アンネ、気障野郎の張という家族も出来た。そういう意味では、マハル以上に私の居場所だと感じる。

 こんだけ人に出来る癖して何を考えているんだかねぇ。自意識過剰のバカにならないことは確かに良いのだが、だからといって自己否定過剰と言うのもタダのバカである。そこんところに頭が回らないのがある意味こいつらしい。ま、ハマーンたちがケツを持っている間は大丈夫だろう。

 トール、恩は忘れない。コッセルたち―――親父の建設会社を海兵隊と言う形で取り戻してくれた恩は忘れない。お前さんがあたしに新しい家族と帰る場所をくれたことも忘れない。だから、遠慮しないでもっとつかってくれればいいんだけどね。まぁ、こいつに其処を期待するのは無理か。

 まぁ、頑張ってくれよ、とシーマはもう一度トールの頭を叩いた。







 あれが、地球か。ヤヨイ・イカルガ中尉はグワンザンの舷側から見える地球の青い光を全身に浴びながら思った。本当に水の星なんだ、といまさら思う。月の裏側サイド3で育ち、敗走するジオン軍につれられてアクシズに向かった彼女にとって、今まで地球は写真かムービーでしか見た事が無かったものだ。

 それが目の前で輝いていることに、何か良くわからないが無性に喜ばしい感覚を感じる。アレを見ているだけで幸せになってくる感情を抑えられない。こんな気分は、いつ以来だろう。

 ああ、そうだ。変なオッサンと飲み屋で会って、それから運が開けたときだ。その時のオッサンは、友人らしいオッサンと一緒に今は私の部下だ。アンディ・ベイ中尉とリカルド・ヴェガ中尉。それぞれ2名のコ・パイロットを連れて、私の機体の援護を行ってくれる。

 アクシズのニュータイプ研究所。そことの出会いが全ての始まりだった。拒否反応のせいで実験機のトゥッシェ・シュヴァルツが廃棄された後、MSサイズにサイコミュを小型化できなかったため、やはりMAサイズに拡大せざるを得なかった。その際に適当な搭載機を探したところ、ちょうどシャア・アズナブル大佐用に開発されていたMA、ゼロ・ジ・アールに搭載することになった。

 開発が難航したけれど、洗い出しが終わったおかげで使えるようになったから良いんだけど、とヤヨイは思う。ビットの反応も良いし、ビグ・ザム2機との連携で使うIフィールド・フィールダーは私の機体を全てのビームから守ってくれる。私の夢を叶えてくれるマシンだ。

 リカルドのオッサンは乗るな乗るなとうるさいが、私の夢をかなえるためには必要なんだからしょうがない。私が伍長から2年で中尉にまでなれたのは、やはりこの力のおかげなのだ。

「噂に聞く連邦の部隊か。まぁ、あたしの昇進の礎になっていただくと言うことで!」

 満面に笑みを浮かべ、我慢が出来なくなった。私に全てを与えてくれた、あのコの下に行って見よう。ニコニコしながら格納庫への道を走るヤヨイを兵士たちは訝しげな目で見送る。平素のあの様子と撃墜スコアのアンバランスさは、ヤヨイ自身の性格もあってか尊敬と言うよりは不気味さで見られていた。

 ある意味この光景こそがニュータイプなる存在の実情だが、それを指摘するものは誰もいない。ヤヨイはうれしさをそのままに格納庫に向かう。格納庫にはグワンザンが輸送してきた2機のMAが搭載されていた。サイズが巨大に過ぎるため、通常ならMSを二個中隊格納可能なスペースが満杯になっている。

 1機はAMA-002ノイエ・ジール。アナベル・ガトー少佐に供与されるというMAだ。けれど、NT用の装備を外したMAは、所詮強襲用にしか使い物にならないだろう。ヤヨイは自分の価値をもう一度確認すると自分の機体に目を移した。AMA-00GR2、アインス・アール。元となった機体であるゼロ・ジ・アールは機体各所にメガ粒子砲を装備しているだけの機体だったが、ノイエ・ジールの建造と共に諸元は大幅に変更された。

 両肩のアーマー部はノイエ・ジールと同型に取り替えられ、ジオングと同型のサイコミュ制御の有線式ビーム砲を合計6基装備する。また、ゼロ・ジ・アールに比べて大きく背後に張り出したビット格納ポッドには合計24基のSビットが収納されている。それに加えて、頭部、腹部、肩部各所にメガ粒子砲を装備している。

 防御については腰の下の部分に、独立したジェネレーターによって駆動するIフィールド・ジェネレーターを装備し、そのフィールド強度はノイエ・ジールを上回る。また、僚機であるビグ・ザム2機と連動することにより、機体周辺だけではなく、一定区域にIフィールドを張り巡らすことが可能になった。所謂、Iフィールド・フィールダーである。

 フィールダーの実用化は一定範囲の空間内においてビーム兵器の使用を不可能にし、近接用のビームサーベル、中距離用のビームライフルは勿論、戦艦クラスの艦砲射撃ですらかなりの確率で無効化する。また、実弾兵器も銃弾などの徹甲弾で無い限り、フィールドの持つエネルギー量により誤爆を余儀なくされる。

 実弾及びビーム兵器の無効化を三機のMAが連携して行うことにより、一定区域の完全制圧を可能にしたわけだ。フィールドの影響から自機を守るために三機にはそれぞれ分厚くビーム・コーティングが行われているため、そもそもの防御力も高い。この三機の連携は私の敵に恐怖を与えてくれるだろう。

 ヤヨイは更なる栄達を夢見、いとおしげに機体に触れた。

 ただ、栄達した後を如何するかは彼女の脳裏には無かったのであるが。

 



[22507] 第52話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/19 21:13


 接近するドラッツェを上手くいなし、ビームライフルに備え付けられているジュッテを使って撃墜したGP01はソロモン近海でジオン残党軍と接敵し、現在交戦に入っている。アルビオンはソロモンのWフィールドに展開し、トロイホースはNフィールド、艦隊の直上付近に展開している。

「ここも違う、ガトーは何処にいるんだ?」

「こちら警備艇4号敵の襲撃を受け……うわっ!」

 そこに敵に攻撃を受けたらしい味方の通信が入る。コウはGP01を操ると、その報告の入った宙域に機体を回す。早く探さないと、観艦式を行おうとしている艦隊が攻撃を受けてしまう。レーダーに反応。今度はザクだ。2機編隊で共にマシンガンを装備しているらしい。味方のマーカーがそちらに向かう。三機編隊だから、ベイト中尉の部隊らしい。そちらに機体を向けると横合いからベイト小隊を援護する体勢をとる。

「ウラキ!後ろだ!」

 ベイト中尉の通信。背後から迫る新たな機影。脚に増加ブースターをつけたらしい高機動型ザクが迫っていた。そのままスパイクアーマーで体当たりするが、逆にスパイクのほうがへこんでいる。ルナ・チタニウム製の装甲を、超硬スチール合金のアーマーでは傷つけられなかったらしい。しかし運動エネルギーの伝達がGP01を突き飛ばす。

「くうっ!」

 運動エネルギーを背面部のユニバーサル・ブースト・ポッドで相殺したGP01は、そのままブースターを加速して一旦は離されたザクとの距離を詰めると、コクピット直上にビームライフルを当て、射撃。ザクは直後に爆発した。

「ウラキ!撃墜された警備艇の方に向かえ!其処にガトーがいるはずだ!キース!お前はウラキを援護しろ!」

 バニングからの通信にコウは頷くと、機体を警備艇が撃墜されたNフィールドへまわす。GP01のスラスター出力を使って一気に加速するキースが遅れるが、今は仕方ない。

「了解しました!コウ・ウラキ少尉、これよりNフィールドに向かいます!」

「うわっ、コウ、置いていくなよ!チャック・キース少尉もわかりました!」



 第52話




「この海から何度、連邦の目をかいくぐって出撃したことか……」

 ガトーはGP02にソロモン近海の暗礁宙域を進ませながらつぶやいた。遠くに見えるのは懐かしいソロモンの影。自分の古巣が見える。もっとも、一年戦争初期に親衛隊に所属を移したため、過ごした期間はわずかだったが、自分のパイロットとしての初の任務をこなした場所でもあるため、感慨は深い。

「こちら警備艇4号敵の襲撃を受け……うわっ!」

 通信回線に敵の通信が入る。どうやら、陽動部隊はうまくやっているらしい。GP02の周囲を固めるサイクロプス隊が、直衛のカリウス軍曹の部隊と共に散開する。どうやら、新たな敵の警備艇を見つけたようだ。通信を送る前にガルバルディのビームライフルが敵機を撃墜した。

「すまんな、大尉」

「少佐、お早く。時間が押しています」

 一発で敵機を撃墜したシュタイナー大尉に礼を送るが、すぐさま返答が帰ってくる。確かにそうだ。まだ任務が終わったわけではない。急いでこの機体をソロモンに向かわせねばならない。このときのために、私の3年間はあったのだと思う。残骸を越えて移動したところに反応。機械音らしきノイズが通信に入る。

「自動砲台!?」

「気付かれたか!?」

 カリウスのリック・ドムⅡがMMP-80マシンガンを構え、即座に撃墜する。しかし、それに反応したらしい近辺の自動砲台が次々と装備しているらしいミサイルとビーム砲を放ち始めた。即座にサイクロプス隊が散開し、次々に自動砲台を撃墜する。発見の知らせを送る前に撃墜できたようだが安心は出来ない。

 そのとき、また一つ残骸を越えたGP02のカメラに今まで出くわしたのと同じ自動砲台が映る。砲台の上下に設置されたカメラがピントを接近する機体に合わせると同時に、近くの砲台を通じて撮影した映像をコンペイトウへ送り始めた。最初こそは高速で移動しているために画像が鮮明にはならないが、ピントが合わさり、カメラに機体が視認される。

「またか!」

 熱感知ミサイルが放たれ、ガトーのGP02は回避運動を開始する。しかし、その回避運動のせいで遠距離攻撃兵器を持たないGP02の姿は完全にカメラに捕らえられてしまった。ガトーは舌打ちするとビームサーベルを引き抜き、自動砲台を破壊した。しかし、それと同時に上空から数本のビーム光がGP02めがけて降り注ぐ。

「ええい、今度は上空からか!」

 GP02を発見したらしい連邦のジム小隊、それに後方から迫る、黒い機体―――いや、濃い緑色の機体が見える。他のGMたちが推進剤の光を蒼く走らせながらこちらにスラスターを吹かせ向かってくるが、緑色の機体は手近な残骸や隕石を足場に、飛び石伝いにこちらに向かってくる。護衛を勤めるサイクロプス隊とカリウス軍曹の小隊が射撃を開始するが、GMには直撃しても緑の機体には当らない。

「アレが核を装備したガンダム!」

 東方不敗マスター・アジアのクーロンガンダムだ。但し、ガンダムではないと偽装している為、機体名称はクーロンとだけ呼ばれており、大分時代がかった外観もあってか、トロイホース艦内ではかなり微妙な視線で見られていたことは言うまでも無い。トールから中佐待遇の遊撃部隊として配属されているため、コンペイトウ鎮守府の決定した空域を守っているネオ少佐、セルゲイ中佐の部隊とは分かれていたため、この空域に即座に向かってこれたのである。

 当然そのような事どもを気にするマスター・アジアではない。彼の前にあるのは核ガンダム―――GP02の核攻撃阻止だけ。変則的極まりない軌道を取りつつ、徐々にGP02との距離を縮めてくる。ガトーは包囲網を即座に壊囲することができないと悟ると、ビームサーベルを抜いて手近なジムに接近する。

「手間取っては……大事に障る!」

 ビームサーベルで即座に一機のジムを切り払う。胴体部分を溶断され、ジェネレーターにビームのエネルギーが引火して爆発。爆発の衝撃波を避けるためにシールドに身を隠すGP02。しかし、その隙を狙ってクーロンガンダムが迫り、蹴りを放つ。シールドに当たり、大きく後ろに後退するGP02。距離が開くが、逃すまいとクーロンガンダムは残骸や隕石を足場にしながら飛び石伝いにGP02に迫る。

「なかなかやるな若造!ガンダムファイト……レディ……」

「ゴー!」

 クーロンガンダムがGP02へ第二撃を放とうとした瞬間、シュタイナー大尉のガルバルディがクーロンガンダムに体当たりし、隕石に押し付ける。そのままスラスターを全力で吹かすと、激突した隕石ごとGP02から離れるコースをとって距離を稼ぐ。この機体の危険性はかなりのものだと即座に判断した結果だ。

「少佐!お早く!時間がありません!」

「大尉!すまん!」

 その言葉と共に離脱を図るGP02。機体を押さえつけるシールドを合気道に近い動きでいなし、ガルバルディを交すとクーロンガンダムは後を追おうとするが、ガルバルディ2機が前に立ちふさがり、後を追わせない。いなしたシュタイナーのガルバルディが後ろにつき、2機の包囲を突破した場合に備える。三機は共にビームサーベルを抜いた。

「ミーシャ!バーニィ!少佐を援護!ここは俺たちに任せて行け!」

「隊長!」

「了解しました隊長!バーニィ、行くぞ付いて来い!」

 通信が入ると共にGP02に追随するケンプファー。プロトケンプファーのほうも数秒逡巡した後、ケンプファーに続いて離脱を始める。スラスター出力に余裕のあるケンプファーらしく、速度はGP02に次ぐ速さだ。しかし、

「逃さん!」
 
 クーロンガンダムの袖下から伸びるビームの布。マスタークロスがバーニィのプロトケンプファーの脚に絡みつくと、そのまま隕石に叩きつける。背面から叩きつけられたプロトケンプファーは主要スラスター類を全損し、物言わぬむくろとなって宙域を漂い始めた。激突の衝撃で脳震盪でも起こしたらしく、バーニィの機体は動かない。もっとも、主要スラスターを全損しているため、AMBACを使ったとしてもかなり動きにくいだろう。

「バーニィ!あの新型を止めろ!少佐のもとに行かせるな!」

「「了解!」」

 編隊を組んで向かってくる三機のガルバルディ。東方不敗マスター・アジアは背後に消えつつあるGP02を気にしつつも、包囲網を狭めて離してくれないガルバルディを見据える。GP02の機影が隕石と残骸に隠れて見えなくなる。

「トールの恐れていた、システムのいっていた整合性という奴か、アクセル!抜かるでないぞ!」

 そういうとマスター・アジアは三機のガルバルディに向かって機体を動かした。





「また新型か!」

 先ほどの格闘専用の新型を抜けた先には、蒼いカラーリングのガンダムに似た顔をもつ機体が待っていた。アクセル・アルマーのアースゲインだ。カリウスのリックドムが前に出るとガトーに叫ぶ。ガンダムに近い顔つきをしているため、これも連邦の新型機と判断したためだ。いけない。ここで新型相手に時間を稼がれ、攻撃のチャンスを逃してはならない。

「少佐!お急ぎを!コンペイトウへ……いえ、ソロモンへ!」

「頼む!」

「これ以上は行かせねえ!ロケット・ソウルパンチ!ってな!」

 ガトーが返事と共に全スラスターを吹かしたのを確認したカリウスは、部下に命じて新型機―――アースゲインとガトーの間を塞ぐ形に出る。合図と同時に三機はマシンガンを一斉発射した。

 勿論アクセルの方もガトーがここで戦うよりも核攻撃の方を優先することは見越しているが、護衛とある程度は離さないと追撃戦が出来ない。虎閃掌の実装が「ばれては困る」、と不可能だったため、ソウルゲインから借りる形で実装した玄武剛弾を放つ。もっとも、完全なロケットパンチにしてしまえば誘導技術の出所を疑わせかねないため、有線でコントロールしているというアリバイ作りに玄武剛弾にはワイヤーがつけられている。

 放たれた腕部はカリウス機の脚部を破壊。熱核ロケットエンジンを粉砕し、カリウス機の機動を低下させる。カリウス機の動きがスラスター出力の急激な変化に対応できずにコントロール不能に陥る。しかし、すぐに機体のコントロールを回復させるとマシンガンによる射撃戦に切り替えた。小隊所属の2機のリック・ドムⅡもそれに続く。

 しかし、その射撃はアースゲインの動きを止めるほどではない。そもそも三機のリック・ドムⅡが装備しているMMP-80マシンガンの90mm機関砲弾ではアースゲインの装甲は貫けない。機動が低下したことで、また他の2機の腕前がカリウスほどではないことで、カリウス小隊の脅威が減った事を確認したアクセルはGP02の追撃を開始する。

「ガトーはやらせん!」

「なんだよその化け物!?」

 その言葉と共に放たれる大口径メガ粒子砲。隕石に直撃し、その膨大な熱量で即座に融解、破砕する。溶けかかった隕石がアースゲインに次々と命中し、レーダーに誤反応を呼び起こす。続いて機関砲らしき砲弾がアースゲインの周囲に着弾し、残骸や隕石に命中して破片を散らす。これでは、レーダーがGP02を捉えられない。

「ケリィか!すまん、カリウスを頼む!」

「さっさと行けガトー!お前とまた戦える今日この日を無駄にさせるな!放つんだ、ソロモンへ!」

 そういうとヴァル・ヴァロは続けざまにメガ粒子砲を乱射し、アースゲインにGP02を追撃させないように一定空域に縛り続ける。動きが一定空域内で止まった事を確認したケリィはプラズマリーダーを放った。アースゲインを取り囲むように残骸や隕石に突き刺さり、放電用のアンテナを開放する。

「新型の撃墜は狙わん!ただ、足は止めさせてもらう!」

「くそっ!ちょいなああっ!」

 その言葉と共に放電を開始するプラズマリーダー。三機の発振機が強力な電圧の、即席電子レンジを作り出す。アースゲインは回避を試みるが脚を捕らえられ、電撃に掴まった。アースゲインの電子機器が悲鳴を上げ始め機体のコントロールを失わせ、一部の気体が吸収しきれない電力はアクセル自身にも伝わり、動きが出来ない。そこに、ヴァルヴァロがクローアームを伸ばし、その手にアースゲインを捕らえて隕石に叩きつける。

「しまった!?」

「舐めるな!ヴァル・ヴァロだぞ!」




 クーロンガンダムとアースゲインの防衛線を突破したガトーはシールドの裏側からアトミックバズーカ用の砲身を取り出すと片に構えた本体とドッキングさせる。螺子式の自動接続システムが働き、砲身をバズーカに固定する。装填された核砲弾が薬室に送りこまれ、発射態勢が整った。

「待ちに待ったときが来たのだ……多くの英霊が無駄死にでなかったことの証の為に!」

 そのまま機体の全スラスターを目一杯に吹かすと、ソロモンへの接近を再開する。その速度は任務の必要に充分応え、GP02に速度を与える。進撃するGP02が第5艦隊の輪形陣の外延部に到達した。前進配置をされていたピケット艦が迎撃のための砲撃を開始するが、ガトーはそれを避け続ける。敵中に入り込んでの核攻撃を前提としたGP02は、核攻撃直前の機動性を確保するために各所に大型のスラスターを装備しているため、回避は容易だった。

 また、目の前にいる艦隊は主力となり始めている新型のサラミスではなく、一年戦争前半の設計で作られた旧型のサラミスだ。旧式ゆえにピケット艦として配置されているわけだが、ミノフスキー粒子下での砲撃戦に対応しているのがOSやFCSなどのソフトウェアだけになっているため、砲撃に精度がない。放つが次々にかわされる。

 そのまま艦隊の直上にGP02を移動させる。全力出力のスラスターが生む激しいGが体に襲い掛かるが、ガトーに気にした様子はない。これぐらいのGなど、これから起こることの重要性に比べれば如何と言うことはない。目標は、観艦式の観閲艦である、第5艦隊の旗艦。新造戦艦バーミンガムだ。

 狙いをバーミンガムの艦橋部分に当て、照準が固定されるのを待つ。こちらの動きを捉えきれていないのか、不可思議なことに連邦艦隊からの対空砲撃は驚くほどに少ない。ふ、3年の平和とわれらスペースノイドへの優越感が、連邦をしてこうも腐らせるか!

「再びジオンの理想を掲げるために、星の屑、水天の涙成就の為に。ソロモンよ!!私は帰ってきたァ!!」

「させん!」

「何!?」

 真下から伸びるビームの光。布状のそれは砲身に直撃する。直撃の衝撃直前に引き金は引かれており、薬室から砲弾が砲身に送り込まれ、砲弾背後の推進剤に点火。砲身内部を砲弾が進み、今まさに砲口から発射されんとしたときに激突は生じた。しかし、吐き出された砲弾との相対速度から、射撃そのものは当然として、狙い通りのコースから大きく射線を反らすことは出来なかった。

「しまった!?」

「ちぃ!砲撃を反らせなかったか!」

 砲身に直撃したそれは爆発することこそなかったが、砲身を上に跳ね上げる。直撃と同時に放たれた砲弾はそのコースをわずかに変化させ、第5艦隊の旗艦からその弾道を逸らしていく。

 下から現れたのは先ほどサイクロプス隊と交戦に入ったはずの緑色の機体。なんだと!?この短時間でサイクロプス隊の包囲網をかみ破ってきたと言うのか!?ええい……いかん!核砲弾の衝撃波が来る!ガトーは攻撃を覚悟し、シールドに身を隠す。砲撃のために姿をあらわにしたため、ソロモン周囲の暗礁宙域から離れている。この近くに身を隠せるような場所は無い!

 ガトーのGP02にクーロンガンダムがまさに手刀を放とうとした、まさにそのとき。コンペイトウ近くに位置を占めていた、分遣艦隊の旗艦らしいマゼランの近くで轟音が生じた。勿論、宇宙で音は聞こえないが、その音は確かに響いた。

 次の瞬間、ソロモンを中心に閃光が生じた。



[22507] 第53話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/20 12:18
 閃光に包まれたバーミンガムのブリッジではグリーン・ワイアット大将が光に目をくらませながら叫んだ。艦隊左翼前方に位置を占めていた、第53任務群の旗艦、戦艦「ハノーファー」近くで生じた閃光だ。それが何かを把握する程度には時間があったようで、ワイアットは感想をそのままに口から出した。

「これが……これが星の屑か!?」

 次の瞬間、バーミンガムの艦橋は崩壊し、蒸発した。


 巨大な熱量は周囲の艦艇を次々に蒸発させ、遠くの艦艇に向けて艦隊の破片を飛ばし、破片の激突を受けた艦艇が損傷する。戦術核とされてはいるが、戦略核に匹敵する威力のMK.82核砲弾はその破壊力を遺憾なく発揮し、観艦式が行われるはずだった、コンペイトウ鎮守府Wフィールドを、Sフィールドとの境界線を含めて焼き払っていく。

 位置としてはWフィールドに列を並べていたのが第5艦隊、Nフィールドに同様の列を展開していたのが第7艦隊で、核砲弾の閃光は第5艦隊のほぼ半数を包んだ。そして次々と連鎖的に起こる爆発。MK.82核砲弾の熱量は、次々とサラミス、マゼラン、コロンブスといった連邦軍の主力艦艇の反応炉をも食い、その爆発を広げていく。

 ガトーのGP02はシールドでその閃光と衝撃波をこらえるが、下からマスタークロスで邪魔をしたクーロンガンダムはそうはいかない。熱量に表面装甲の融解が始まり、また同時に衝撃波に弾き飛ばされ、隕石に激突しそうになるが身を翻して着地すると、そのまま隕石の背後に回って閃光と熱と衝撃波をやり過ごす。

 メインカメラはガンダム顔を隠すためのゴーグルアイで無事であったが、それ以外のセンサー・カメラ類は熱量と閃光に耐えられずほとんどが潰されてしまった。表面装甲が融解するほどの熱量を浴びたのだから仕方が無いが、これでは満足な戦闘は無理だ。また、ガトーのように保護するためのシールドを持たないことが機体に重大な損傷を与えていた。核爆発にともなうEMP効果が、核爆発のあまりに大きさのために機体能力で相殺しきれず、各種電子機器が悲鳴を上げている。特に左腕と右足の反応が悪い。

 ふと見ると、機体の表面がうっすらと溶けかかった――背面部のスラスター類はこれでよく爆発しなかったと言えるくらいに溶けていたが――アクセルのアースゲインが同じように近くの隕石を盾にして機体を保護している。両機共にこれ以上の戦闘は不可能のようだ。あまりにも近くで核の閃光を浴びすぎたため、身体に異常が発生していないとも限らない。すぐさま帰還するべきと判断した二人は閃光が収まるのを待つと、トロイホースへの帰還を開始した。

 遠くにビームライフルの閃光を、核による衝撃波で損害を受けたGP02が回避するのが見える。通信回線を開き、会話を拾う。

「ガトー!聞こえているか、返事をしろ!」

 数発のビーム光がGP02の周囲にきらめく。一発が隕石に命中するが、その他はむなしく避けられた。

「聞こえているだろう、ガトー!、お前が忘れても、俺は忘れはしない!俺は決着をつけるまで、お前を追い続ける!」

「……いつぞやの男か。ふ、しかし、私の勝ち戦に花を添えるだけだ。そして!貴様に話す舌など持たぬといったはずだ!」

 暗礁宙域に二機が移動し、戦闘が始まったのを確認すると東方不敗はため息を吐き、機体を自動操縦に切り替えた。神業に近い―――というかマスタークロスは完全に神業だが―――技術を持つ東方不敗といえども、先ほどの核攻撃で機体が受けた損傷を考え、機体のコントロール措置の方に力を注いだ。

「どうやら、連邦艦隊の損害は抑えられたらしいが、歴史はその通りに進むらしいの」

 


 第53話



 コンペイトウ鎮守府がGP02の核砲弾の攻撃を受けたのとほぼ同時刻。トール・ミューゼル少将率いる月第一艦隊第一任務群はL1ポイント暗礁宙域に存在するデラーズ・フリートの本拠、茨の園を攻撃圏内に捉えていた。既に幾度も行われた偵察飛行で、茨の園の位置と施設の配置、防衛砲台の位置はほとんど判明している。

 砲台の射程距離からは充分離れた―――それでいてミサイルなどの誘導兵器の射程圏内ではある空域に展開したトロイホースはMS隊の出撃準備を完了していた。

「両舷1番2番カタパルト開け!MS隊発進準備!」

 ナタルの命令が艦橋に響く。トールに代わって司令官席に腰を落ち着けたシーマは複雑な表情ではあるが、自身の仕事―――艦隊司令官としての役割を果たしていた。つまるところ、各艦の位置確認とMS隊の出撃状況のチェックである。当然、そのチェック内容に応じてミサイル攻撃を始めるわけだから、重要な任務である。

「シャクルズ発進準備完了!」
 
「ヴァルケン隊は二個小隊6機ずつ、シャクルズに搭乗し発艦の順番を待て!」

 ASS-117S、ヴァルケン宙間型。往年の名作STG、『重装機兵ヴァルケン』の主人公機である。世界を真っ二つに分けた欧州アジア連邦と環太平洋合衆国との第四次世界大戦の推移を決定付けた機体である。装備の変更によって多彩な戦闘環境に対応でき、運用も場所を選ばない。装備は54.5mmマシンガン、ポンプアクション式グレネードランチャー、接近戦用のハードナックルが基本である。

 現在、ソフィー・ミューゼル大佐率いる"遊撃隊"に合計36機配備されたそれは、全高6m弱とMSに比べ三分の一しかない。しかし、小型の機体にふさわしく動力鉱石エンジンを搭載しており、出力及び運用面に問題はない。推進剤も、外部接続式のブースターを装備することで補えるからだ。また、そのジェネレーター出力を利用したシールドシステムは、機体前面に直径3mのビーム・実弾兼用のフィールドバリアーを発生させる。

 この技術は即座にMSへの援用が考えられたが、MSの全長である18mサイズに拡大することが出来ず、どうしてもピンポイントバリアしか実用できなかった。このため、更なる技術発展が待たれている状態だ。今回は、距離があること、制圧任務であり敵拠点内部に潜入しての破壊工作が必要となる可能性があり、そのためにはプチ・モビルスーツ程とは行かなくとも、通常型のMSのような高い全高では無理であるために採用された。

「少将、先行して出撃。基地前衛のMS隊の排除を御願いします。敵戦力の低下と共にシャクルズを射出。ソフィー大佐の部隊を基地内に送り込みます」

「潜入工作は無理か」

 艦橋上部のモニターに映るトールにナタルは頷いた。防衛網は水を洩らさぬほどで、ダミーの隕石であろうとも基地への衝突コースを取ったものは撃墜の対象となる。それでは送り込めない。ご丁寧なことに実弾系装備での軌道変更をかけるタイプ。これが今まで存在が把握されなかった最大の理由だ。

「近づけば撃墜されます。少将たちは先行して敵の砲台の排除を」

「了解した。後方の新造艦、使えそうか?」

 後方に控えるコロンブス級に似た設計思想の―――とはいっても前部が左右に分かれ、双方に2基のコンテナが扇子状に配置されているタイプで外観はかなり異なるバージニア級輸送艦を振り返ったナタルは、少し疑問気な表情を浮かべるとトールに振り返った。

「コロンブスでも良かったような気がします」

「まぁ、テストベッドだ。運用結果を報告するように搭乗士官に確認してくれ」

「了解しました」

 ナタルが頷くと同時にオペレーターから報告が入る。

「発進準備よし!バトル01、02それぞれいけます!」

 バトル01はステッペンウルフの呼称コード、02はハマーンのヒュッケバインのそれだ。モニターの右隅に小さくノーマルスーツ姿のハマーンが映り、頷く。準備は出来たようだ。トールはステッペンウルフをカタパルトの上に進ませる。

「よし、敵部隊の戦力低下と共にトロイホースは前進、揚陸部隊の準備を。バトル01、PTX-005Sステッペンウルフ、出るぞ!」

 その言葉と共に右舷側のカタパルトが勢い良く射出される。暗礁宙域であるためか、加速は程ほどに押さえてすぐさま手近な隕石や残骸などの足場を見つけると、トールはそれを足場に跳ね回るように茨の園への接近を開始する。まるでバッタか小猿のような動きだと思うようにはしているのだが……

 ……メイド時代に台所で時たま見たアレに似ている……

 ナタルはおぞましい想像を振り払った。

「バトル02、PTX-009ヒュッケバイン、出ます!」

 続いて左舷側のカタパルトから同じようにハマーンが射出された。こちらは暗礁宙域のデプリ群をかいくぐるような軌道を取っている。流れるような動きはまるで舞を見ているかのようだ。トールの先ほどの、直角を多用した動きよりはよほど美しい。

 閣下のアレは、普通無駄にGをかけているとしか思われないだろうな、などと考えながら、ナタルは2機とのデータ連動を命令する。支援砲撃、ミサイルが必要な場合に対処するためだ。同時に対空迎撃準備を命令。僚艦からのゲシュペンスト隊の発進を横目に確認し、艦隊とMS隊との距離を保つ。

「艦隊司令官と砲術士官にMS隊の隊長と副官、そして私と整備班長以外が全てバイオロイド、か。機密保持のためには必要とはいえ、なかなか慣れんな」

 必要以外の会話を行わないバイオロイド兵に嘆息を洩らしながら、2機の新型を追うコッセル大尉指揮下のゲシュペンスト中隊を目で追い、ナタルは嘆息した。ここにいる人間はナタルを除けばシーマだけである。トロイホースは主砲管制室のラインハルト、格納庫のセニアを含め、人間が6名だけ。残りは全て、バイオロイド兵であった。




 トールの乗るステッペンウルフは、ビルトシュバインの武装強化・改造型だ。キットを搭載できるように内部スペースを拡張した分、機体背面部のランドセル部分の配置が変更されている。ジェネレーターをオルゴン・エクストラクターに変更した分出力が向上し、その分の出力がサークル・ザンバーとビームセイバーにまわされている。

 サークル・ザンバーはテューディの改修を受けて支持型のビームシールドとしても運用可能な様にした上、どれか一つのビーム発振口にエネルギーを集中させることで、ビームセイバーの二刀流を実現している。但し、流石に腕に円形の盾にそっくりな発振装置をつけているため、左腕の取りまわしに難があることは確かだ。

 しかし、その点はパイロットが如何にかしろと東方先生に言われてしまった。それはその通りで、その言葉の後に待っていたのはクーロンガンダムを用いたステッペンウルフ運用の実戦講座。何回か壊されてしまったため、ポイントをまたぞろ消費したのが辛い。しかも、この頃は後方支援要員や伏兵の配置にキャラクターをかなり呼び出し、ポイントが減少して危ないですよと東方先生に言ったところ、

「貴様がこの3年間、RPを火星と木星、それに月で貯めに貯めていたことは承知しておる。使い時を間違って何のポイントぞ!」

 などとお叱りまで受けてしまった。いや、本当に人の事をよく見ていらっしゃる。などと考えつつ、新たな足場を見つけると其処を足がかりに跳ね回る。別に単に跳ね回ること好きだとか、ガンダムUC第2巻のフル・フロンタルのシナンジュを意識しているわけではない。MSパイロットとして一人立ちは出来るようになった私なのだが、訓練中に思わぬ事態が発覚したのだ。




 僕、足場が無いところでは極端に操縦の腕が落ちるみたいです。





 月面でのノブッシを用いた東方不敗との訓練は、確かにトールの腕前を一年戦争のときとは比べものにならないほどにあげていたし、重力下や月面での戦闘や暗礁宙域での戦闘をシミュレーターで行ったときには、マスター・アジアとの訓練もあってかかなり良い成績を残している。特に、暗礁宙域や重力下局地戦でのシミュレーターではハマーンもかなり苦戦している。

 しかし、それが完全無重力の、足場が全く無い戦場での戦いになるととたんに"溺れる"のである。振り返ってみれば、この男が完全に無重力で戦ったのはルウム戦役ただ一回。ルナツーでもア・バオア・クーでの戦いでも暗礁宙域や要塞での戦闘で、その際にもデプリ群や要塞そのもの、敵艦を足場に用いているし、デプリを用いない戦闘では必ずサイトロンやキットの補助を受けていた。その場合も、足場と足場の間を移動する短時間か、もしくは敵に激突するために使っているに過ぎない。

 それが、両者の補助をまったく受けずの宙間戦闘となるととたんに溺れ出す。AMBACの使い方が悪いわけではないし、スラスターを使っての通常移動の方には全く問題が無い。しかし、一旦戦闘に入ると水に放り込まれた猫よろしく、手足をばたばたさせるだけでこっけい極まりない惨状となるのである。

 その腕前の低さは、大爆笑と共に「私にも私にも」と参加したセニアのゲシュペンストにも一撃で撃墜される程度の低さだ。それが足場が出来た途端に、訓練どおりのベテランパイロット並の腕前を見せるのだから解らない。もっとも、厳密に言えば"足場"と言うわけではなく、何か他のベクトルで動いているものとの接触があれば良いらしい。格闘戦ではノブッシで逆立ち開脚キック――本人はスピンニング・バード・キックという意味不明の名称で呼んでいたが――まで行えるようになっているから、どこかが触れていれば良いようである。

 さて。かくして、トール・ミューゼルは放り込まれる戦場を選ぶしかなくなったわけとなり、宇宙空間での戦闘が中心となるだろうソロモンや、この後に予定されているソーラ・システムでの戦闘は考えていない。戦場で誰もが回避機動を取って敵への攻撃のチャンスを狙う中に、クロール泳ぎどころかバタ足の不恰好さをガンダムタイプが見せるのであれば、それは何かのカートゥーンの一こまだ。

 当然、東方不敗は激怒し、先ほどの何回かステッペンウルフを壊す訓練と相成ったのである。この茨の園への攻撃に参加する理由も、攻撃目標のある場所が暗礁宙域で足場が豊富というのが最大の理由だ。なんとも情けない話である。

「煩いな、俺は元々、完全なオールドタイプなんだよ!足場がないと不安なのは当然だろ!」

 というのは当の本人の言葉であるが、足場が出来るやいなや、NTにも対抗できるパイロットに変貌するのでは一見すると単にふざけているようにしか見えない。実際、重力下や暗礁宙域であれば、アクセルともいい勝負をするのである、この男。



「トール、調子に乗らないで。下手に浮かばないでよ、もう」

 背後から流れるような軌道で追ってきたハマーンから通信が入る。そういう事を言わないでくれ、自分でもかなり気にしているんだから。というか、足場がない状態で戦闘をするとこれだけ不安になるなんて、俺は今まで経験が無かったんだよ!

「知らないよもう!こういう戦場でないとチート実感できないとか、どれだけ人に制限かければ気が済むんだあのシステム!」

 自分の動きが往年の名作、「おれは直角」とか、リアル「G」もしくは「バッタ」なことはやはりダメージだ。ああ、後ろで流れるように宇宙を飛ぶハマーンがうらやましい。肉体的なダメージにはトンと無縁なのに、どうしてこう、人の精神をゴリゴリ削るようなことばっかり起こるんだろう、と考えざるを得ない。

 そうしていると、前方から推進剤の光が見える。接近する機影を感知し、迎撃隊が出撃したようだ。数もそれなりにある。量子レーダーに捉えられているのは現在10機ほど。しかし、いくつか光点がふえているから、発進はまだ続いているのだろう。!?

 自動砲台からの砲撃が始まった。

「前方、こちらに7基を確認。私がやりますね」

 キットの声。反論する間もなく自動操縦で手に持ったフォトン・ライフルが次々に放たれる。一年戦争時にゲルググで使っていたものとは異なり、ライフルモードだけではなく、エネルギーを絞ってアサルトライフルのように連射が効く様になっている点が変更点だ。そもそもの運搬熱量が高いため、エネルギーを中途で切っても充分な効果を見込めると判断したためでもある。

「おまえなぁ!ここでは格好よく、そこか!とかいいたいじゃ……」

「……自分の乗る機体をあなたが乗るたびに毎度毎度ボコボコにされていますので、私もストレスがたまっているのです」

 ストレスを感じる人工知能って一体なんなんだよ、という内心の突っ込みはさておき、接近する機影の確認を行う。インターセプターの役割を担うだけあって、高推力のリック・ドムが中心。武装を確認するためにカメラを合わせると、ほとんどの機体がMMP-80マシンガンのようだ。ジャイアント・バズを装備した機体は2機のみ。

 小隊の構成としては普通だが、ヒュッケバインとステッペンウルフの装甲はマシンガンでは貫けない。万一溺れても、スラスターに直撃でも喰らわない限りは大丈夫か、と判断。後続の部隊をごまかすため、少々派手気味にフォトン・ライフルを撃ち、こちらの位置を相手に示す。新型と判断したようで、早速マシンガンをこちらに向けてきた。

 移動しながらフォトン・ライフルを格納し、サークル・ザンバーをオンに。まだビームセイバーは抜かず、足場を確保しながら進む。勿論、小惑星の下に出た場合は右手を使って機体を保持するため、ビームセイバーを抜かなかったのだ。コッセルの中隊が半包囲を仕掛けるために二個小隊ずつ左右に分かれるのを確認すると、後ろをハマーンに任せてドムの小隊と接触した。

 こちらをガンダムタイプと認識した敵機の動きに隙が出来る。ドムの下に隕石を確認したトールは飛び石伝いに隕石を目指し、ドム向けてジャンプ。ザンバーで切り裂き、一機を撃墜する。僚機が援護に入るが、ドムの上方にあったコロニーの残骸に手をつき、スラスターを吹かして右腕を支点に一回転し、銃弾を避ける。

 うん、サイトロンとキットの補助は無い。鉱山基地攻撃の際には、流石に全力でスラスターを吹かしながらの突撃をかましたり、ターンエーガンダムもかくやという格闘戦を行うのにサイトロンとキットの補助を受けていたのだ。でなければ、足場がある場所での戦いが上手いとはいえ、あれだけの戦果は挙げられない。

 涙が出そうになった。やっと、自らの実力で一機撃破出来たのである。


 ……長かった。本当に、長かった。



[22507] 第54話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/20 18:20

 コンペイトウ鎮守府に集結していた観艦式参加の第5、第7艦隊及びコンペイトウ鎮守府艦隊は大きな損害を受けた。しかし、発射直前にGP02のアトミックバズーカの射線がそれたため、完全な損失は第5艦隊の半数が失われただけ、となっている。これがもし、当初の予定通りに第5艦隊の旗艦であるバーミンガムに向けて発射されていれば、第7艦隊も巻き添えを食っていただろう。

 しかしどちらにせよコンペイトウ鎮守府は現在大混乱であり、混乱から抜け出せた艦隊が追撃作戦に向かっているが、そもそも攻撃による混乱でジオン軍を見失っており、むちゃくちゃに追撃部隊を出しているだけであった。第7艦隊司令のコリニー大将は、観艦式をおこなう明日にあわせて本日11月10日夜の到着の予定であり、第5艦隊司令のワイアットが戦死した現在、全ての艦隊運用がコンペイトウ鎮守府に襲い掛かっていたことが混乱に拍車をかけた。

 そこに、第二の凶報が舞い込む。

「コロニー・ジャック!?」

 コンペイトウ鎮守府司令ヘボン少将は叫んだ。通信状態が回復しないが、何とか音声だけは通じているようだ。報告を行ったのは再度2方向に出したパトロール部隊のもの。既に一度交戦したらしく、途切れ途切れにモニターに映る光景には戦闘の跡が生々しい。

「ええ、現在サイド2首都島行政区のコロニーをサイド3に向けて移送中のコロニー再建計画が持ち上がっておりますが、それに従って移送中であった損傷コロニー、アイランド・イーズとアイランド・ブレイドがジャックされました!先ほど、敵艦隊がコロニーのミラーに対して砲撃を開始!コロニーのミラーを破壊してコロニー同士が激突!現在、月面フォン・ブラウンへの落下コースを取っています!」

「月へのコロニー落とし!?それが星の屑か!」

 ヘボン少将は勢いよく肘掛を拳で殴りつけると、直ちに命令を下した。

「残存艦艇を任務群に編成の後に直ちに月に向けて移動を命令!月面駐留の月第一艦隊と第二艦隊に迎撃命令!急げ!」

「閣下!ミューゼル少将の月第一艦隊第二任務群は観艦式警護のために現在、コンペイトウにおります!第一任務群はデラーズの本拠地を攻撃中であります!」

 ヘボンはその報告を聞くと忌々しげに命令した。

「ならばさっさとミューゼルに連絡してコンペイトウにいる部隊に移動命令を下せ!それからフォン・ブラウンの第二艦隊にも連絡!月周辺のパトロール艦隊にも追撃命令を下せ!」

「了解いたしました!」

 ヘボンははき捨てるように言った。

「こんなときに月をがら空きにするなど、ミューゼルは何を考えている!?」




 第54話




「何だこいつら!敵の新型部隊かよ!?」

 デラーズ・フリート、ヴァンス分遣艦隊所属MS部隊長、ボーン・アブスト大尉は自機であるリック・ドムⅡを岩塊の影に隠しながら、通信機から漏れる友軍機の通信に顔をしかめる。既に戦闘が始まってから20分あまり。インターセプトのために出撃したドム6機が撃墜されたとの報告を受け、ヴァンス艦隊のMS隊は全力出撃を命令された。

 連邦軍についに茨の園の情報が漏れたと感じたアブストは、分遣艦隊司令であるゴルト・ヴァンス少佐に出港準備を急ぐ事を具申すると自身の乗るムサイ級後期型"ガルメル"MS隊を率いて出撃した。カーゴ搭載機も含め9機。僚艦"トルメル"からも同数が出撃し、茨の園に投棄予定だったザクⅡもパイロットを都合して出撃したはずだから、20数機の大部隊だ。これだけの戦力に自動砲台の支援が加わるから、ならば、艦隊が脱出するまでの時間を稼げる、と言う判断だった。

「くそっ!また一機落ちた!」

「ヴァーモンのザクか!?あいつにはポーカーの貸し……!」

 またもや2機。遠目に確認したMSは一年戦争で地上で、またソロモンやア・バオア・クーで確認された連邦のガンダムに匹敵する実験機、ゲシュペンストとか言う奴らしい。ジムばかり量産しているかと思っていたら、しっかりとガンダムクラスのMSも量産していたというわけだ。流石に相手が悪い。

 但し、こちらも一年戦争以来の戦闘経験がある。そして何より茨の園は我々の庭だ。実際、アブスト大尉のそうした考えは妥当なもので、デラーズ・フリートのMS隊はゲシュペンストを既に2機撃墜している。ガンダムクラスのMSでさえ、我々は撃墜できる技量を備えている、そう思うことはアブストにとっても自信になった。

 しかし、陣形深く入り込んで自動砲台を片っ端から潰していた二機のMSが戦闘に加わり出してからは状況が一変した。明らかなガンダムタイプであるその2機は、片方は巨大なビームサーベルを二本、しかも一本はシールドにビームを張るという、今までからは考えられない防御兵器を使用している。もう片方は武装こそ普通らしいが、機動性と射撃の腕が半端じゃない。

「マシンガンじゃだめだ!バズーカを使え!」

「もう、装備している機体なんて……ばおっ!?」

 アブストはMMP-80マシンガンのマガジンを交換し、左手に持たせると肩のヒートサーベルを抜いた。マシンガンは牽制に使うしかない。とにかく、弾薬をばら撒いて接近し、あのシールドを避けてサーベルをつきたてるしか方法が無い!くそ、ゲルググがあれば!水天の涙にくみ上げた全てのゲルググをまわしたから、こちらには回ってこなかった。

 緊張と不安、死への恐怖で自然に呼吸が乱れてくる。何度もレーダーを確認し、付かず離れず動く2機のガンダムタイプとの距離を確認する。白い機体の狙撃と回避の腕は尋常じゃない。狙いはもう一機の方だ。隕石の位置を確認して、射線を取らせないように。しかし、もう一機のガンダムタイプは狙えるように、徐々に機体を動かす。

 いまだ!アブストは隕石の影から機体を出すとマシンガンの弾をばら撒き、一気に黒いガンダムタイプとの距離を詰める。機体の前にビームのシールドを構えて弾の直撃を防ぐ。ああ、くそ、あのシールドは攻撃に使えたな、もう片方の腕には何も持っていないな?やった!もらった!

 アブストは黒いガンダムタイプ―――ステッペンウルフの右腕に装備が無い事を見てとると機体をステッペンウルフの右側に回す。シールドの防御範囲からずらしたところで、ジェネレーターかコクピットにサーベルを突き立てれば俺の勝ちだ!奴の背後には隕石があるから、退くことも無理!

 そう考えてサーベルを引き絞ったアブストのドムに、ステッペンウルフは避けるどころか向かってきた。シールドのビームの範囲と出力を徐々に狭め、そして強めてマシンガンの弾を当るや否や蒸発させながら近づくと、一気に出力を上げて左腕ごと切り落とす。右腕をドムの胸に触れさせるとそこを支点にまるで鞍馬のように機体を回転させた。

 ヒートサーベルを避けて一回転するとガンダムタイプは腰をよじり、左腰をドムに当てる位置に機体をずらす。その腰に格納されていたビームライフルの銃口が赤く染まるのが見えた。

 アブストの最後の記憶は、迫る熱い何かだった。






「これだけの戦力が残してある、だと!?」

 サイド5のあるL1ポイントをサイド5に並行して回る暗礁宙域。連邦軍月面第一艦隊第一任務群とジオン残党軍との交戦が11月10日、開始されている。確認された機体はリック・ドムⅡにザクⅡF型。ドラッツェの姿はない。既にトールは5機のザク、リック・ドムⅡを撃墜し、ハマーンも3機撃墜している。

 ドラッツェは航続距離が長いから、コロニー奪取のための戦力として振り向けたようだ。トールはステッペンウルフを操りながらコロニーや戦艦の残骸を足場に茨の園との距離を詰めていく。戦況は概ね順調に進んでいるようだ。ゲシュペンスト隊の方も、同数の敵に良く戦っている。しかし、やはり熟練のジオン兵だ。明らかに性能が劣るMSを操り、善戦しているのが良くわかる。今しがた撃墜したリック・ドムⅡも、機体を良く動かしてこちらに迫ってきていた。判断も良い。キットがライフルを遠隔操作してくれて良かった。

 そんな事を考えているうちにまたザクを一機、フォトン・ライフルで撃墜する。この戦いのトール艦隊主力はやはりゲシュペンスト。性能がデラーズ・フリートの標準装備であるザクやドムと隔絶しているから被害は少ないが、一年戦争から戦いを続けているだけあって流石に強い。あちらは7機ほどを既に落としているが、ゲシュペンストが2機撃墜されている。キルレシオは1対3。いけないな、ゲシュペンストのキルレシオはザクやドムに対して1対10を考えてあるのに。

 !?考え事をしている暇はないようだ。

 残骸の陰から現れたザクを、マシンガンを放つ前に蹴り飛ばす。大きく上に運ばれたMMP-78から砲弾が吐き出されるが、こちらに向かう前に懐に入り、サークル・ザンバーの出力を抑えてコクピットだけを焼ききる。ん?赤い信号弾。どうやらソフィー姉さん率いる遊撃隊が、ヴァルケンを使って茨の園内部に突入を開始したらしい。

 基地を押さえるだけではあるが、帰る場所がないという不安はデラーズ艦隊にとってプレッシャーとなるだろう。まぁ、帰る場所など元々ないと考えているかもしれないが、あるとないとでは心理的な重圧が違うだろう。それに、茨の園を押さえるには別の意味もある。

 ん?基地内で連続した爆発。どうやら、ソフィー姉さんは占領から制圧・破壊にシフトしたらしい。やはり、時限爆弾か何かが仕掛けてあったのだろう。ただ、ここに部隊が残っていたと言うことは、まだ何らかの役目があったはず。それを潰せただけでも満足しなくてはいけない。

 量子レーダーを使って周囲の捜索を開始するが、戦闘は鎮静化に向かっているようだ。まぁ、ゲシュペンストを10機近くも投入したのだから無理もない。ん?白い……ああ、ハマーンらしい。考え事をしながら敵機の排除を続けているうちに、いつの間にか距離が離れていたらしい。ハマーンのヒュッケバインが近寄り、機体を寄せてくる。接触回線を開きたいのだ、と解った私はチャンネルを私信用にあわせて通信を始める。

「どうした?」

「敵機の反応がなくなった。どうやら、ここでの戦闘は終わりみたい。コッセルの中隊に追われた敵機が、茨の園とは別方向に向かい始めた。どうやら、放棄するのは間違いないようだけど、その最終作業中だったみたい。ソフィー姉さんから、港湾ブロックでカーゴ付きムサイを2隻拿捕したって。乗員は拘束して転がしてある」

 ソフィー姉さんたちを乗せたシャクルズにはヴァルケン6機の他に、揚陸隊員として完全武装のバイオロイド兵が20名乗っている。人命を考えなくて良いし、少々の銃弾が当った程度では意味が無い。人間で言えば心臓に設置してあるコア・ユニットを破壊しない限り動き続けるし、敵に捕らえられそうになった場合には自爆する。
 
 ブラスレイターの技術を使って手近に金属物質があれば、自己修復もある程度可能とくれば、無敵の陸戦要員が誕生するわけだ。まったく、リアルターミネーターだよ、ホント。困ったことは指揮官がいない限り、戦闘行為は警備や強襲程度の任務しか行えない点だが。まさか、指揮官無しで強襲任務とかはありえないからな。

 ……どこぞのアニメみたいに、女性体で統一して体の大きさにあわない対物狙撃銃とか使わせて、空挺降下などさせてみようか、などと悪魔がささやくが、それは流石に悪夢だろう。ああ、いかんいかん。考えがろくでもない方向に行ってしまった。

 ふむ、20機ほどの敵機。しかし、拿捕したムサイ以外の艦艇の姿は見えない。どうやら、星の屑にしろ水天の涙にしろ、既に作戦は動いているらしい。となると、ソロモン海へ向かった東方先生たちに任せる他はないな。戦力の配置的な不安もあるが、まずはラビアンローズでの合流を考えた方がよいか。あそこなら、地球に向かうにしろ月に向かうにしろ、手早く動けそうだ。ただ、まだここでやる事がある。となると、戦力を更に分けることになる、か。痛いな。

「何を考えているの?」

「……デラーズ艦隊の動き。水天の涙にしろ星の屑にしろ、出撃した後に戻らないなら、何で戦力を置いてここを守らせておく必要がある?ここをこの段階まで守らせていたと言うことは、何かしらを考えているはずだ。それが解らない。守らせておく必要があるというなら、それは何がある?ってね」

「……難しいことは解らないけど、確かに何かを考えていそうね」

 ハマーンの言葉に頷き、機体のほうを向く。……何でスカート・バインダーにファンネル用らしき穴が?見ると、しっかり充電ユニットまで付いているではないか。ハマーンのヒュッケバイン009の腰部背面、本来ならスカート部分だけがあるはずの場所が開いており、先ほどまで使っていたらしいファンネルの格納が終了すると閉じた。一見すると、増加装甲にしか見えない。

「……何でファンネル付いてるの?」

「セニアがつけた。AIの補助があれば、6機ぐらいは問題じゃないらしい。スペック的にも、そろそろ実用化を考えて運用データを取っておく必要があるって」
 
 ため息を吐いた。戦力が増えるのはうれしいが、ハマーンとファンネルの組み合わせを今外に出すわけには行かない。今回はどうだろうか。茨の園から逃げた敵機に目撃などされていないだろうか。……いかん、不安で胃が……。

 帰ったらセニアに説教だな。「お前は!技術が可能であるということがわかってしまうという事がどういうことか解っているのか!?」とか。確かに技術が確立すると言うことは良いんだけど、ファンネルのような兵器が可能だと他人に解ると、似たような兵器の実戦配備を考えたがるからなぁ。……今回の戦闘が漏れていないことはわかるけど、このままだとどこかに漏れる可能性がある。

 確かに、ファンネルの実戦運用を考えるなら、この戦場が最適なのは認めるんだけどね。

 しかし、アクシズのニュータイプ研究がどの程度まで進んでいるかは見極めなくちゃいけない。今回の紛争が終了次第、アクシズとの連絡に関してはいくつか、検討しなくてはいけないだろうな。デラーズ・フリートの撤退と回収にあわせて、兵隊を放り込んでおくか。でも、一年戦争中に、アクシズに撤退させる兵員の中にも連絡員を紛れ込ませているけど、やはりアステロイドベルトと地球圏の距離は問題がありすぎるのだ。

 距離がありすぎて連絡のつけようがない。量子通信システムを使えば問題はないが、アクシズ側で発見された場合に、あれよあれよという間に技術の応用が始まり、グリプス戦役でファンネルならぬドラグーンのインフレが開始されるなんて目も当てたくない。しかし、定期的な連絡は如何にかしたいのだが、アクシズから地球圏へ艦隊が向かって来ない限りには連絡のつけようがない。

 おそらく、ユーリ・ハスラー提督のアクシズ先遣艦隊に紛れ込んで連絡を採ってくれると思うが、来るのが星の屑が開始されてコロニーがジャックされた後だから、遅きに失する可能性がありまくりだ。

 ままならない。……胃が痛いぞ。買いおきあったかなぁ……。



[22507] 第55話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/23 16:11


 ソロモンから脱出したガトーはカリウスのリックドムⅡに回収され、そのまま合流予定のアクシズ先遣艦隊と邂逅した。ソロモン戦の被害は大きい。謎の新型機2機と交戦した結果、サイクロプス隊は隊長のシュタイナー大尉のみが生還。ケリィ・レズナーのヴァル・ヴァロは大きな被害を受けて放棄された。

 アクシズ先遣艦隊と合流したのはガトーが率いるヴィリィ・グラードル少佐の分遣艦隊だが、アクシズ側からMSの供与を受け、損害を受けたMSと交換することで戦力を回復させていた。陽動作戦は成功したが、もともとの戦力差が洒落にならないほど開いているため、撃墜された機体も損傷を受けた機体も多い。

「アクシズ艦隊の予定通りの回収に、予定外の補給までいただけるとは……ハスラー提督、誠にありがとうございます」

 アクシズ先遣艦隊の旗艦、グワジン級グワンザンの艦橋でガトーは言った。もしアクシズ先遣艦隊に拾われなかったら、事後の作戦は成り立たない。この援助があったればこそ、ガトーはもう一度戦えるのである。

「うむ、ガトー少佐。一連の戦いにおける功績、ドズル閣下も痛くお喜びである。「水天の涙」作戦への援護は心配するな。既に進発したヘルシング艦隊への補給も終え、新型を渡してある。勿論、ドズル閣下肝いりのビグ・ザムもな」

 ガトーの顔が破顔する。若きMSパイロットであるエリク・ブランケ少佐は、はじめてあった時から信頼できる歴戦の勇士であることがわかった。彼のところにビグ・ザム及び新型機が配備されたとなれば水天の涙作戦の成功もより確実になるだろう。

「それは!ビグ・ザムあれば連邦の雑魚どもごとき!それに、新型とは?」

 ハスラーは頷いた。あまりうれしそうな表情ではない。

「水天の涙作戦を実施するインビジブル・ナイツの諸君にはアクシズより輸送してきたゼロ・ジ・アールの改造型、アインス・アールを専属パイロットであるヤヨイ・イカルガ少尉と共に渡してある。都合ヘルシング艦隊及び、アインス1機、ビグザム2機、ゲルググ5機、リックドム15機他でグラナダのマスドライバーを狙う。……気には入らぬが、キシリア閣下の遺産付でな」

「キシリアの!?」

 ハスラーはもう一度頷いた。うれしそうではない表情の意味がよくわかった。ジオンに存在してはならない卑怯者だったキシリア。あのガラハウ閣下でさえ止めることが出来なかったジオンの癌。ア・バオア・クーを生き残った将兵は、あの戦いを敗北へと導いたキシリアに対する恨みが深い。ハスラーは沈痛な面持ちで言葉を続けた。

「グラナダ近郊に残る旧キシリア派残党部隊と、生物兵器アスタロスだ。後者については詳しくは私も専門家ではないので解らぬが、コケ類に類別される新型の植物で、地上のどの植物よりも繁殖力が高く、そのため他の植物の生育を阻害し、結果として枯死に至らしめる生物兵器とのことだ。但し、試験型で、決められた回数しか細胞分裂が不可能であるため、地球上の農産物生産に2年ほどしか損害を与えられぬ。だが、コロニー落着に失敗したときの事を考えると妥当であろう。これを機に、ドズル閣下もキシリア閣下の怨念や遺産と決別したいと言う思いを持っておられる」

 ガトーは暗い顔だ。正直、キシリアだの生物兵器だのという言葉は聞いていて嬉しくない。しかし、ジオンの理想を掲げるためとはいえ、無辜の民衆にまで被害が拡大しそうな結果になることは避けたい。

「キシリアの女狐の遺産に頼るのは正直、気が進みませんが、ドズル閣下がそうお認めになられたのであれば話は別です。但し、あまり戦争とは関係のない人間に矛先を向けるわけにも」

「そういう甘い状態ではない、と言うのがドズル閣下の判断だ。月からの報告では、軌道上でコロニーを待ち構えるのはベーダー大将の第一軌道艦隊とティアンムの第二軌道艦隊から抽出された戦力らしいとの事だ。また、編成途中の第9艦隊から増援が到着したと言う報告も受けている。この作戦に失敗が許されない以上、作戦の補助、もしくは代替となる案を進めておく必要がある」

 その言葉にガトーは反論できない。一年戦争後半を余裕を持って進めた連邦軍は、いまだ強力な艦隊を配備し、一部はアステロイドベルトにおいてアクシズとも戦闘に入った旨を聞いている。となれば、可能な限り連邦の体力を落す方策を考えるのはジオン軍人として当然のことであろう。

「了解いたしました。一つ、お聞きしたいことがあります」

「なんだね」

 ガトーは言った、年来の疑問を尋ねるために。

「今回、ガラハウ艦隊が参加しなかったのは何故でしょうか?閣下の姉君シーマ大佐の部隊があれば、作戦の幅が広がったと思うのですが。それに、閣下の仇討ちにもっともふさわしいのは……」

「ガトー少佐、まずは聞き給え」

 ハスラーは続く言葉を遮った。

「シーマ・ガラハウ大佐率いる艦隊は、我らとは別のルールで動いておる。ドズル閣下もその点はご承知であるし、認めてもいる。理由は黙して語らぬがな。ただこれは私見であるが、ドズル閣下の話し振りや行動、計画を見ている限り、トール・ガラハウ中将閣下はまだご存命のように思う」

「なんですと!?」

 驚きに目をむくガトーにハスラーは頷いた。

「ガラハウ閣下は戦争開始直後から負けた場合の事を考えて動いておられた。我々が補給を受けられたゼブラ・ゾーンのアンブロシア基地もそうであるし、定期的な地球圏からの情報伝達もある。こちらから送れないのが問題ではあるがな。今回、我が艦隊から月に侵入させる工作員の目的の一つは、閣下がご存命ならば連絡を取ることなのだ」

 ガトーは大きくため息を吐いた。それと共に悔しげに顔を歪ませる。ご存命ならば何故、という思いが強い。閣下の手腕と新型MS開発能力、なかんずく、手塩にかけて育てられたガラハウ艦隊があれば、地球圏に残ったジオン残党の戦力もすぐにでも回復できるものを!

「ガトー少佐」

 ハスラーの声にガトーははっとなった。まだ話の途中だったのだ。

「ガラハウ閣下はキシリアをあの一年戦争中、抑えに抑えきった智謀の持ち主だ。今回の件に援助の手を表立って差し伸べないのも、閣下なりの深謀遠慮があるかも知れぬ。また、我らアクシズ先遣艦隊の補給と、貴公らデラーズ・フリートの戦力あれば星の屑と水天の涙、双方達成が可能であると判断されたやも知れぬ。あるいは、その作戦後の事を考えたのやも、な。ジオンの戦いはこの作戦で終わるわけではない。むしろ、これからが大切である事を考えれば、閣下の判断も納得がいく」

 ガトーは力強く頷いた。そうだ、何を迷うことがあったか!?閣下の深謀遠慮あったればこそ、サイド3本国は無事であり、われらは戦力を保ったまま潜伏を続けられたのではないのか。また、アクシズと地球圏の連絡体制やアンブロシア基地の設営など、閣下の採られた方策に誤りは無い。

 ガトーは一年戦争から続くトール・ガラハウに対する信頼を改めて確認すると、ハスラーに向かい、頷いた。

「これで、死ねなくなりました」

 ハスラーは微笑んで頷いた。

「格納庫に行くがよい。イカルガ少尉の乗るアインス・アールはニュータイプ用のMAだが、君に用意したノイエ・ジールはアインス・アールの原型機。ゼロ・ジ・アールを改良した強襲侵攻用MAだ。但し、その分パイロットにかかる負担は並大抵のものではない。少佐なら扱えると解っているが、くれぐれも慎重に。また、無駄死になどするでないぞ」

「地球連邦への復仇は我がジオン将兵、なかんずくデラーズ閣下への忠誠あればこそ!そして勿論、本作戦終了後には、ガラハウ閣下に対する忠誠を果たすために戦う所存であります!それこそが、ドズル閣下への忠誠につながるかと!」

 ガトーは敬礼した。色気のある、美しい敬礼だった。



 第55話



「解りました。東方先生のクーロンは装甲を全て取り替えて、機器やセンサー類をどうにかすれば使えますが、アクセルのアースゲインは装甲とスラスターが融解してセンサー・機器まで全滅のため使えないわけですね」

 ソロモン戦の結果を尋ねるために通信をしたところ、いきなりの大損害の報告に頭を抱えそうになってしまった。ソロモン核攻撃の被害こそ少なく抑えられたようだが、コロニーおとしの阻止に向かえる戦力が厳しい状態になってしまった。かといっていまさら月からマスターガンダムとソウルゲインを輸送している暇は無い。連邦軍の被害も抑えられたようだが、被害が抑えられた分混乱が拡大しているようだ。楽観が出来ない。

「そうだ。避けるのが遅かったらしい。二名のジオン軍パイロットを捕虜にしたそうだが、その二人を核の衝撃波と熱線から守るために背面部をさらした結果、スラスター類が融解して使い物にならん。あれでよくも推進剤に引火しなかったものよ。流石我が弟子だけはある」

 まるで死んでから復活しろとか言ってませんか、先生。ああ、流派東方不敗は死亡フラグを噛み破るのが信条でしたね。弟子かぁ、多分私も其処に含まれているんだろうなぁ。いいなぁ、ああいう風に死亡フラグを噛み破れるように早くなりたい。というか、まずこの胃痛を如何にかして欲しい。流派東方不敗を極めれば胃痛から解放されるのだろうか。

「ノア艦長、第二任務群の戦力はどれくらいですか?」

「ゲシュペンスト4機、ジム・カスタム2機が撃墜及び大破による機体放棄。パイロット1名――ルイ・ギュイエンヌ少尉です――死亡であります。先ほど東方先生の話にもありましたとおり、クーロンが中破、アースゲインが大破しております。それ以外は小破した程度でまだ戦闘は可能です」

 ルイ、か。バイオロイド兵のカバーネームだ。バイオロイド兵は、全て設定した国の偉人の名前+地方名というルールで名前を設定してある。しかし、やはりゲシュペンストでもきついのか。改造案を考える必要があるかもしれない。

 まぁ、今はいい。先ほど聞いた戦闘結果を鑑みても、ソーラ・システムの攻撃の際に思わぬ邪魔が入ることは避けられないだろう。となると、戦力は集中させるより他はあるまい。アクセルには一時ゲシュペンストを使ってもらうとして、月からの増援をラビアンローズに送ろう。配置は如何するか。ガトーのノイエ・ジールにコントロール艦を叩かれて「ちょっと暖めボン!(シーマ姉さん命名)」作戦を台無しにされるわけにはいかない。

 となると、一応トレーズ閣下のトールギスがあるけど、戦力的には不安だなぁ。……まずはそこからだ。

「ノア艦長、トロッターは直ちに地球軌道上に移動してください。指揮権に関してはベーダー大将に独立裁量が許されるように御願いしておきます。まぁ、ユグドラシル級砲艦を2隻譲渡してありますから、そう悪い扱いは受けないでしょう。ソーラ・システムのコントロール艦を護衛できる位置に移動し、護衛については東方先生の指示に従ってください。必要ならば、トレーズ少佐の指揮下に入るのもアリです」

「了解しました」

 通信が切れる。同時にコロニー・ジャックの報告が入り、月面フォン・ブラウンに落着するルートでコロニーの移動が始まったことが判明した。アルビオンも追撃任務の中途で補給の為にドック艦ラビアンローズに移動したようだ。トロッターをアルビオンから分けて派遣することになるが、ラビアンローズでナカト少佐―――おそらくバスクあたりの差し金だろうが―――が手を出してくる事を考え、ヴォルガ級巡洋艦2隻はアルビオンに配属し、GP03の接収命令を出しておこう。

 命令書を整えラビアンローズ及びアルビオンに送付し、念のためを考えてヴォルガ級巡洋艦配属のバイオロイド兵に、ナカト少佐が命令に従わない場合の拘束を命じておく。まぁ、これで良いだろう。あ、念のため、ルセット・オデビーの保護も忘れないでおこう。

 作業を終えるとバージニアとの回線を開き、コッセルを出させる。

「第一任務群についてだが、本艦トロイホースは少々遅れるが、ラビアンローズにてアルビオンと合流する。コッセルのところにはシーマ姉さんが行くから、Nシスターズの防衛準備を整えておいて。恐らく、フォン・ブラウンへのコロニー落としを盾に、レーザー推進システムを用いた重力ターン加速に使うはずだから、連邦のヘボン艦隊にまわせる推進剤の補給準備もよろしく」

「へい、若!了解しやした!」

 コッセルは勢い良く敬礼する。少々不恰好な船ではあるが、久しぶりのシーマ艦隊勢揃いである。背後の艦長席が通信中にも関わらず片付けられ始め(というか、取り外しが効くのか、アレ)、あのなつかしのトラ皮の敷物や大きめソファーが運び込まれる。手際が良すぎる。明らかにこちらの命令を予測して準備をしておいたな、アレは。

「……姉さん、前から聞きたかったんだけど。マレーネやガーティ・ルーの艦長席といい、あの大急ぎで準備されているアレといい、姉さんの趣味?」

 背後を振り返らずにシーマ姉さんに言葉を向けると、呆れたようなため息が聞こえた。振り返るとわざわざ空涙を流して目元を扇で隠している。あの扇がビームコーティングに防弾加工を施され、先端がスイッチ一つでカミソリになるという純然たる武器である事を知っているのは、技術の星・青赤コンビ+海兵隊員+私だけ。まぁ、セニアとテューディが悪ノリして作成したものだが、なかなか気に入っているらしい。

「悲しいね、そんな趣味を姉に疑うなんて……んなわきゃないだろ。あいつら、何を考えているのか、私はああいうところに座ってなきゃいけないんだと譲らないんだよ。まぁ、すわり心地は悪くないし寝れるしねぇ」

「……姉さんがドロンジョさまで、コッセルがトンズラー。となるとボヤッキーは……ううっ、ポチッとなは魅力的だけど考えたくない」

「アタシの右側はいつでも空いているよ、トール」

 トールは力なく笑うと次の考え事に没頭し始めながら艦橋を後にした。シーマはため息を吐くと、バージニアへの移動のために格納庫へ足を向けた。



 最大限度、ラビアンローズの位置までであれば、月にとんぼ返りしても間に合うだろう。水天の涙が何処を標的にどのように開始されるかがわからない現在、実施されないことも考えておくしかない。船内の一室に戻ると月からのメールが届いている。どうやら、アクシズ先遣艦隊との連絡が付いたようだ。

 報告は時系列に沿う形で、ここ3年のアクシズの動向が記されている。あれだけエンツォを邪魔する体勢を整えていたのに、ちゃっかり地上から脱出してアクシズにまで逃げ込み、強硬派の一角を占めていたようだ。但し、マハラジャ中将とケラーネ、ハスラー両少将を危険視して排除を試み、ドズル閣下の即断で追放されたらしい。

 軍備はかなりの戦力を残してアクシズに撤退したため、また、居住区の拡張を一年戦争中から続けていたため活発になっており、ガザシリーズの生産数も多い。一方で本体の大きさを小さく抑え、追加装備の切り替えでタイプを変えるというズサ系の技術発展が進んでいるとのこと。資源的な問題は旧式のザク、リック・ドムを廃棄する形で補っているようだ。ゲルググのほうはまだ充分に実践に耐えうることもあってか、肩アーマーの交換でリゲルグに改装する案で戦力向上を進めているらしい。

 艦艇の方はまだムサイ級が主力であるが、新型巡洋艦としてエンドラ級の一番艦が近く就役するとのこと。こちらもスペース的な問題が解決しないようであれば、ムサイの廃棄を進めて切り替える方針のようだ。ザンジバル級についてはアクシズと地球圏の定期運送に任務を限定して運用するらしい。

 グワジン級については、アサルム以外のグワジン級をグワダン級に改装する工事が進んでおり、一から建造していたグワンバン級グワンバン、グワンザンの二隻を現在は艦隊旗艦として使っているらしい。1機の大型MA及び1個中隊のMSを搭載する、戦闘空母化を進める按配のようだ。

 そして、最後のページ。困ったのはやはりドズルを避難させただけあって、大型MAの開発に研究が振り向けられている点だ。そもそも戦力の絶対数で劣るジオンが費用対効果を考えてMAに熱を入れるのは解っていたが、ドズルが避難した事で拍車がかかっているようだ。Iフィールドの実用化も、ゼロ・ジ・アールのそれを援用する形で実戦装備となり、大型MAの基本装備となるらしい。一年戦争中にかけた制限が、却って加速を誘発させたようである。……痛い失敗だ。

 驚いたのはIフィールド・フィールダーという拠点防御用の装備が開発されていたことで、一定空域内にIフィールドを張り巡らし、その内部でのビーム兵器と一部実弾兵器の運用を不可能に出来るとのこと。この情報は貴重だ。フィールド内にアルトアイゼンで突入して大爆発とか目も当てられない。但し、運用には最低3機の大型MAで正三角形の陣形を組む必要があり、拠点防御にしか使えず、連邦がソーラ兵器を投入した場合には対応が不可能であると判明しているとのことだ。

 しかし、実弾、それも徹甲弾か、実体剣のみしか対抗の仕様が無いと言うのは大きなアドバンテージだ。要塞攻略用の兵器を持ち出すしか対抗手段が無いと言うのも大きい。特機系の機体を用意するしかなくなって来たようだ。現在扱えるのはテューディだけ。セニアやラドム博士などに運用のためにポイントを使う必要がある。

 アクシズでのニュータイプ研究については、一部フラナガン機関の研究者が避難している為、細々とではあるが、強化人間などの研究も行われているらしい。C.D.Aで開発を担当していたマガニー博士の所在はついに一年戦争中確認できなかったが、やはりアクシズにもぐりこんで研究をしていたらしい。レベッカ・ファニング、スミレ・ホンゴウ、ヤヨイ・イカルガの名前を確認した。

 早速マガニー博士の暗殺及びスミレ・ホンゴウの確保と地球圏への移送、レベッカ・ファニングとヤヨイ・イカルガについての詳細な報告をまわすように指示した上で、マガニー博士のラボでの研究開発の状況を報告するように命令する。一旦命令を下せばバイオロイド兵の動きは早いが、命令以上のことは日常対応ぐらいしかしないため、こういう連絡がつけにくい状態には向かないが、それは仕方ない。

 そして最後の項目、今回のアクシズ先遣艦隊の内容に目を向けた瞬間、私は頭をかきむしり、そしてすぐさま、私室を飛び出して艦橋に向かった。


「グラナダのマスドライバーを狙う!?」

 ナタルの声が艦橋に響く。量子通信システムでトロッター、バージニアを結んだ"こちら側"の緊急会議の場で、ついに明らかになった星の屑・水天の涙作戦の全貌の最初の一端を話した瞬間のことだ。トールは頷くと作戦の全貌を話し始めた。

「今回のコロニー落とし、所謂星の屑作戦は、歴史どおりに北米の穀倉地帯を狙って仕掛けている。目的は地球上の穀物生産能力を減少させて、食料の宇宙頼みを加速し治安を崩壊させ、ドズル艦隊の地球圏侵攻の際の支持を確保する狙いがある。月面へのコロニー落としを仕掛ける事を陽動に、コンペイトウの第5、第7艦隊の残存戦力とパトロール艦隊の推進剤を消費させる点も同じだ。星の屑は変わりない」

 その言葉にモニターに映る、トロイホース艦橋の誰もが頷く。

「しかし、水天の涙をここに連動させると事態は異なってくる。デラーズは、連邦軍の戦力が一年戦争末期に被害を受けなかったことで、多くの艦隊戦力を残している事を考え、対応される可能性を考えたらしい。だから、支作戦として水天の涙を組み込んだんだ」

 そういうとトールはグラナダ近郊にあるマスドライバー施設の映像をモニターに出した。

「水天の涙作戦は、元々マスドライバー施設を使った、連邦の地球上の基地に対する攻撃作戦だった。砲弾なり質量爆弾なりを投下するためにはそれなりの大きさのマスドライバーが必要で、それはフォン・ブラウンとNシスターズ、グラナダにしかない。Nシスターズが第一次水天の涙作戦で攻撃を受けたのは、第一次の方が原作戦どおりに実行されたからだ。しかし、第二次のほうは違う」

 モニターの映像が切り替わり、何かアメーバ状の物質が映し出される。

「第二次水天の涙作戦では、この生物兵器アスタロスが散布される。目標は地球上の穀倉地帯。このアメーバ状の物質がアスタロスで、正体はコケ類に類別される植物だ。しかし、繁殖力が異常に強く、散布された地域では組織的に駆除を行わない限り農業生産が壊滅する。プロトタイプで規定回数以上の細胞分裂を行えばテロメアに仕込まれた時限爆弾が爆発して枯死するが、最低でも2,3年は地球上の穀物生産が壊滅する。深刻な食糧危機の到来だ」

 モニターの内容が切り替わり、もう一度グラナダ近郊のマスドライバー基地が映し出されるが、今度は赤い点―――ジオン軍の防衛計画が出ている。

「水天の涙作戦はマスドライバーを使用した地上へのアスタロス散布を目的とした作戦だ。もしこれが実施されれば、表面的なインパクトの大きさはないが、地球上の農業が壊滅状態になる。……救いは細胞分裂の速度が尋常ではないため、光合成の速度もそれに比例し、地球の熱汚染が一時緩和されることぐらいだ。環境回復と攻撃をあわせた"クリーン"な作戦というわけだ」

 重いため息がその場を支配した。最悪の、タイミングであった。







[22507] 第56話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2014/07/29 19:39


「グラナダ近辺に潜んでいた、ジオン残党、意外な数がありましたな」

 エリク・ブランケに声をかけたのは副官のアイロス・バーデ少尉。ウラル山脈のレーダー基地で戦死したフリッツ・バウアーや、地球脱出作戦で戦死したクリスト・デーアと共にエリクの幼馴染だ。元々インビジブル・ナイツは名門ブランケ家の令息であるエリクを守るために結成された部隊だ。

 名門ブランケ家の令息がジオンに入隊する際、ブランケ家当主が息子のわがままを聞く形で編成されたインビジブル・ナイツは、ジオン軍特殊部隊というよりはエリク・ブランケの私兵と言う側面が強い。命令は上官よりもエリクを優先させる場合が多いし、司令であるアイヒマンも、指揮の際には決してエリクの意見を無視しようとは思わなかった。

 これでエリクが無能ならば兵隊ヤクザの出来上がりであるし、当然こんな編成であるが故に、一年戦争中に他の部隊からの風当たりは強かった。しかし、実力主義のドズル率いる宇宙攻撃軍ではそんな扱いは受けることが少なかったし、地上に取り残された反キシリア系の部隊は実力が無ければ生き残れない絶望に近い戦場であった事もあってそんな事を考える余裕は無かった。

 であるからこそ、彼らはこうした口を利くのである。この水天の涙作戦の総指揮はヘルシング大佐であるのに。

「そういう口を利いてくれるなよ、アイロス。私は総指揮官じゃない」

「しかし、ヘルシング大佐はキシリアの……」

 エリクは頭を振った。一年戦争後、終戦協定が月面恒久都市アンマンで結ばれると共にジオン軍将兵の階級は自動的に一階級繰り上げられたが、戦争敗北の決定的要因を作り出した、キシリア直属の兵たちは其処から外された。サイクロプス隊のシュタイナー大尉たちや、ヘルシング大佐が一年戦争時代の階級のままなのはそのためだ。ここにも参加しているドナヒューが昇進しているのは、大戦後半を地上で残存戦力の為に過ごしたからだ。

 ジオン軍同士でいがみ合っている場合ではない、と言う考えは当然エリクも持っているが、やはりギレンを暗殺し、ア・バオア・クーを敗北に導いた引き金は間違いなくキシリアが引いたものであり、一般の兵士たちがそう考えるのは無理もなかった。

「大佐の苦労が知れる。サイクロプス隊の方はデラーズ閣下についていったが、やはり、苦労したのであろうな」

「……すまん、エリク。俺の見方が……」

 エリクはアイロスの肩を叩き、気にするな、と意志を伝えた。続いて周囲を見る。グラナダ近辺にいるジオン残党を纏めていたアンリ博士の支援によって、大型MAグロムリンを初めとした戦力が更に加わり、グラナダ近郊のこの谷にはかなりの戦力が集結している。デラーズ・フリートからのヘルシング艦隊3隻、インビジブル・ナイツとドナヒューのゲルググ5機、イカルガ中尉のアインスに、リカルド、アンディ両中尉の指揮するビグザム2機とアンリ博士のグロムリン。この戦力だけでも、マスドライバー施設を制圧するのには充分だ。

 それに加えて、デラーズ・フリート所属のリック・ドムⅡが12機にザクⅡF型が4機、グラナダ近郊に潜伏していた部隊を合わせれば、その総数は36機にもなる、連隊級の大部隊だ。MAの戦力を考えれば師団以上の働きが出来る。イカルガ中尉率いるMA隊のIフィールド・フィールダーがあれば、更に任務はたやすくなるだろう。流石にマスドライバーを発射するタイミングで解除する必要があるが、それまでは谷の前面で張らせておけば敵の砲撃はほとんど無効化できる。

 そしてフィールドにたどり着く前には、こちらの迎撃を受けることになる、と言うわけだ。エリクは時間を確認した。コロニーの月面落着まで残り521分。イグニッション・レーザーによる推進剤点火を考えれば、コロニーの地球落着まで2500分ほど。そして、我々の行動開始まであと1300分あまり。

 二段構えのこの作戦。貴様らには絶対に回避が出来んことを教えてやる。




 第56話




 会議は艦を動かしながらもまだ続いていた。地球に向かうだろうコロニーとマスドライバーにどのように戦力を振り向けるか、判断が付かないためだ。

「追加の報告を待つが、地球全土や気候、地軸に対する影響を考えるとまだコロニーおとしの方が優先的になるが……」

 そこに書類束をもってセニアが重い表情で入ってきた。技術関連の報告をまわしていたのだが、どうやら、技術の方も悪い報告が入っていたらしい。

「アクシズから送り込まれた戦力はMA4機、MS20機。MAはAMA-002ノイエ・ジール、AMA-00GR2アインス・アール、MA-07Rビグ・サム改二機。どうするのよ、トール。このIフィールド・フィールダーとかいうの、ビーム兵器だけじゃなくて、実弾兵器もある程度無効化するって!奴ら、これでマスドライバーを守るつもりよ!」

 通信でつながっているバージニア、トロッターの乗員も含め、全員が絶句する。ビームに実弾が無効化されるとなると、近接格闘か特攻するしか方法が無くなる。そして、近接格闘の出来るのは、この場には三人―――東方不敗マスターアジアとアクセル、そしてトールしかいない。

「東方先生、クーロンは直りますか」

 トールは尋ねた。トロッターの艦橋にいる東方不敗はテューディの方を向く。テューディは頷いた。

「トール、クーロンとアースゲイン、両方は無理だけど、片方なら直して見せるわ」

 トールは頷いた。内心は不安で一杯だ。ヘボンの奴、ふざけた場所にトロッターを回してくれて……。ガトーの原作での猛攻撃を考えれば、三人でも厳しいが致し方ない。ヤザンやライラなどのUC勢に頼ろう。考えがどんどんネガティヴになっていくが、気を取り直し、ソーラ・システムⅡではトレーズの指揮下に組み入れて自由行動をとらせようと決意したようだ。

「アクセルをゲシュペンストでこちらに戻してください。ソウルゲインを使います。東方先生、トレーズ少佐と連絡を取って絶対にコントロール艦を守ってください。どちらが地球に落ちても大変な事態になります。コロニーの方はダメージが少ないでしょうが、インパクトがありすぎます。多分ジャミトフは報道管制で如何にかするつもりでしょうが、これ以上、気候条件が看過し得ないほど悪化するのは避けたくあります」

「……確かに記録を見る限り、アレを止められるのはわし、アクセル、トレーズだろうな。トレーズには指揮もあろう。了解した」

 よし、と小声でつぶやいたトールは頷いた。すると、何かを決めたような表情になったテューディが口を開いた。

「トール、月に戻ったらヴァイサーガを使いなさい。Iフィールダーなんてものを考えたら、アレ以外では戦闘そのものが出来ないわ」

 トールの顔が緊張する。トール・ガラハウを殺した機体として、所属不明ではあるが、連邦軍所属の機体と目されているヴァイサーガを使えば、前に話していたガラハウ人気を考えるとジオン軍将兵はそれこそ親の仇の様に狙ってくるだろう。戦争を終結させた男を殺した機体として、連邦軍側でも所在の把握を進めていたはずだ。それが、私のところにあるとばれた場合にはかなり困ったことになる。

「確かに戦力としては申し分ないけど、政治的に問題がありすぎる」

「そんな事を言っている場合じゃないわ。アクセルのソウルゲインとヴァイサーガしか、今現在動かせるMSであのフィールドに対抗できるものは無いの。フィールド内でファンネルも撃てないんじゃ……」

 テューディに視線を送る。流石にそれ以上の発言はまずい。ノア艦長もヴァイサーガまでの事情は知っているとはいえ、ニュータイプ関連装備の件にまで踏み込ませるわけにはいかない。

「……とりあえず、最後の手段だろうと思う。実際の配置を見てからでないと、どうしようもない。まずは、月へ行くことしかないだろう。それに、政治面での手回しも始めておかないといけない。しかし、ヘボン少将は信じるかな、これを。マスドライバーよりもコロニー追撃を優先させようとした場合が困るんだが……」

 トールは憤懣やるかたなし、という表情でうつむいた。まさかこの時代まで紫ババアに呪われる事になるとは思いもしなかった、と考えている。まずは連邦軍の参謀本部に話を通しておく必要があるだろう。どちらにしても、手持ちの戦力だけではどうしようもない。

「こちらはNシスターズに戻って戦力を整える。マスドライバー占領の報告が入らない限り、動きようも無い。多分、重力ターンで加速したコロニーを追撃するためにヘボンの艦隊が月の軌道上を離れたあたりで行動を開始すると思う」

 その言葉には誰もが頷いた。そうでなければコンペイトウから出撃した連邦艦隊と正面衝突することになる。

「だから、まずはラビアンローズでのGP03の接収を確実にしよう。こんな事を知った後じゃあ流石にこっちもラビアンローズに行っている暇は無いから、GP03の接収についてはシナプス艦長に任せるしかない。そこをヴォルガから伝えておいてくれ」

 トールの言葉にヴォルガ級巡洋艦を指揮するマクス・パナマ大尉は頷いた。勿論彼もバイオロイドだ。

 万が一落ちたときのことも考えると、……仕方ない。トールは司令官室へ戻った。ジャブローと通信を行う必要がある。





「以上が、星の屑と水天の涙作戦の概要です。如何します?」

「……お前さんはわしにインサイダーかませと言うのか?」

 トールはモニターに向かって頷いた。映っているのは現在、連邦軍幕僚総監部総長、あのなつかしのゴップ大将だ。水天の涙に星の屑の狙いを伝えたのは、ゴップ大将に御願いして収穫済みの農産物を手早く取引し、食糧難に対すると共に、各サイド政府との交渉で、農産物の輸入を行ってもらうためだ。

 トールが通信を入れた相手はこれまで営々として築いてきた全ての人脈である。流石に、ことが単純な戦争やテロ鎮圧ではなく、地球圏全体の政治に影響を及ぼすともなれば、話は広く持っていくしかない。

 そのため、このテレビ会談にはゴップ大将の他、兵站総監部のマネキン少将、連邦議員のカナーバ、グリーンヒル両氏、更にはジャブローのシトレ大将などの関係あるVIP全員に出席願った。ほぼ2年ぶりの"大将会議"+αである。

「トール君、流石にそれだけの被害が生じると言われても、今の連邦政府には対応するだけの余力が無い。戦争の債務を各サイドへの債権と相殺することこそ防いでいるが、そこに大規模に食料介入を行えば、市場を悪戯に混乱させるだけになる」

 グリーンヒルが言い、カナーバも頷いた。確かにそうだ。事前に食糧不足が生じるかもしれないから食糧市場に手を出せ、などというのはインサイダー取引も良い所だ。現在の連邦政府に意見を通さずに行えば、後々問題となることは明らかだ。

 しかし、だからといってこのまま何もせずに過ごせば、作戦の阻止が成功した場合はともかく、阻止に失敗した場合、数年間の食糧危機を招くことになる。それでは地球圏の治安は完全に崩壊してしまう。

「そんな予算は無いぞ、正直。火星のテラフォーミングや、連邦軍の再建を一時棚上げにしての環境再生計画への予算もある。そこに、食糧危機に備えての大量の食料の買い付けなど行えば、連邦政府が破綻してしまう」

 カナーバ議員は言った。サイド3の債務放棄宣言を受けてからの地球圏の経済的混乱が頂点に達したのが一年戦争だが、その一年戦争の惨禍は、人口に対する被害を抑えられたからといってなくなったわけではない。むしろ、"消失人口"ではなく"被害人口"となっただけあって、生活の再建のために要する保障にかかる金額がべらぼうなものになっている。

 特に、地球に不法に居住するものたちが治安が悪い地方でゲリラ化しており、連邦地上軍はその対応にてんてこ舞いだ。ジオン残党と手を組むことになるアフリカでの活動がやはり一番活発だが、鉱山基地の件を見ても解るとおり、欧州やアジアで全くなくなったとはいえない。リオンの売り上げがそれを証明している。

「予算に関しては機密費名目で。実際の資金はGPとAEで出します。一部ZE(ジオニック)にも出資してもらいますが、その場合はあの議案が議会を通過する確約をいただきたい、と」

 ゴップは大きくため息を吐くと後ろ髪を掻いた。いつのまにこの男はアナハイムとジオニックに手蔓を伸ばしたのか、と思ったのだ。有能であることは疑いないし、これからも必要な人材であることは間違いないが、人類の数的減少を重大な問題だと捉えすぎている。生活圏が現在地球圏のみで、人口が一年戦争による減少を考えても爆発的である現状を考えれば、連邦の予算が危険な状態であることはわかろうに。
 
 いや、わかっているからこそ手段を提示してきたわけだ。この男もバカではない。無駄な予算を削ってまわせ、などと非現実的な事を言わないことは充分以上有能である事を示している。無駄な予算を削るということは必然的に組織改変をするということで、そうなれば現場は大混乱に陥る。大混乱になってしまえば、物資を買い集めたとしても配布が出来ない。結局は同じことだ。

 ゴップは言った。焦りは解るが、ここであたら有能な人間を使い潰したり、スキャンダルでどうこうさせる余裕は無い。"グリーンヒル派"として結束し、議会に影響を与えるに当ってこの男の協力は不可欠だ。こんなところで消費してしまうにはあまりにも惜しい。

 ジャミトフの提案も、この男とはまた別の観点から解決を図っている、ということかの。ゴップはため息を吐いた。ジオン残党の思惑通り進んだ場合、確かに治安維持にジャミトフの提案を採用せざるを得ない。ジャミトフはこの残党鎮圧に対して成功しても失敗しても対応可能な策を採れる体勢を整えている。それは流石だが、流石にこの男に其処までを求めるのは酷だろう。携わらねばならん内容が多すぎる。

「しかしなトール少将。連邦政府にはそれだけの予算措置を行う体力が無い。ジオン残党の鎮圧のために艦隊戦力を維持しなければならないし、一年戦争中に大量に採用した軍人の再訓練プログラムもまだだ。おかげで一部地域ではヤクザまがいの軍人が多く、治安を却って悪化させている側面もある。その点は、憲兵権限を持つ君になら良く理解できているだろう」

「解ります。クシュリナーダ少佐に任せたOZも、ジャミトフ准将の下で治安維持任務に就くそうですし、ジャミトフ准将も新たに治安維持部隊の創設します。治安維持は急務です」

「うむ、正式な発足は来年1月1日。名称は"ティターンズ"だそうだ。既に専用MSや専用艦の建造も始まっている。……これはいまさらだな」

 ゴップは笑った。そのMSを生産しているのはGP社。この男の嫁の実家だ。知らないはずが無い。

「となれば、当然予算を回さねばならぬ。それは確保してあるが、それが故に食料に予算は回せぬし、何よりもお前をこの食糧問題に始まるインサイダーなどで失うわけにはいかない。ジオン残党の作戦計画を入手したことは功績だがのう」

 ゴップの意見に誰もが賛成の頷きを返した。トールは何かを思いながらもうつむいていたが、力なく頷いた。

「勿論取れる対策は採る。ヘボンに対する指揮権については幕僚総監部と作戦本部の連名で出しておく。コリニーの馬鹿は今回の不手際で予備役入りが確定しておるから、第7艦隊の残存艦艇に対する指揮権でヘボンと交渉することだ」

「はっ」

 トールは敬礼した。








[22507] 第57話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/23 16:12

 トロイホースがバージニアに遅れること1時間で月面に到着したところ、月面はフォン・ブラウンへの突入コースに入ったコロニー迎撃のための準備でかなりあわただしい状態になっていた。特に、迎撃に効果があると思われている、大容量通信用レーザー及び、隕石迎撃用ミサイルを搭載した車両などは、優先的にフォン・ブラウンへの射撃及び移動コースを採っている。

 コロニー落しがブラフだという事はわかっているが、他にもこのコロニー落しには裏があるように思えてならなかった。勿論、コロニー落しを脅しの材料としてイグニッション・レーザーを推進剤の点火に用いることもそうだし、コンペイトウからの追撃部隊に推進剤の消費を促して拘束するという意味あいもある。そして勿論、コロニー落としを追撃した艦隊を遊兵化させた後に、水天の涙を実行することもそうだろうが、決してそれだけではないだろう。

 ジャミトフやデラーズのことだ。宇宙に展開する三独立国の現時点での戦力の把握も中に入れていると見るべきだろう。Nシスターズは三独立国の中ではかなり財政的に余裕のある国だ。月面にコロニーを落すという行為は、月面の防衛体制の現状を見るのにこれ以上ないくらいのいいデモンストレーションでもある。

 コロニーの落下コースを考えれば、余波が生じる可能性を考慮して月面は防衛体制を整えるだろう。それに乗じて、どのように戦力を動かしたかで防衛の内実を知るのには最も適している。これから治安維持で介入を考えている以上、そうした戦力の把握は絶対に必要な事柄だ。

「下の戦力を見れば、地球連邦にNシスターズの底力について誤解を与えかねないのかもしれない」

「それはあるかも、ね。表に出している戦力は制限しているのでしょうけれど」

 脇からセニアが応えた。ヴァイサーガの整備が一段落したのだろう。ポイントで急遽得た能力をうまく使って対処してくれたことには感謝しないといけない。テューディがかなり調整を進めていてくれたが、彼女自身が最終調整を行うわけではないし、調整には個人の癖もあるだろう。そこを押してしてくれたことは本当に感謝だ。

「ヴァイサーガの整備は?」

「オオミヤ博士とラドム博士たちが一応はね。テューディがかなり調整して改造もしてくれていたから、一年戦争のときとは違う機体と思った方が良いわよ。オルゴン系の装備を問題なく使えるようにしてくれてあるから、もう、完全にこちらの戦力とばれたらおしまいだわ」

 技術的な加速がジオン、連邦で顕著なのは正直言って困る。グリプス戦役の推移もわからなくなるし、グリプス戦役が史実以上に加熱して、一年戦争に近い被害をもたらすことになることは避けたい。地球連邦の体力を消費することは、スペースノイドの自尊心は満足させるだろうが、地球圏そのものにとっては害悪となる側面が強い。

「単機運用で出自を誤魔化す他は無いな。……ハマーンあたりにまた怒られかねない」

「それは自分で解決してね。……でも、正直変よ、トール」

 セニアは言った。

「システムのいうとおり、介入にトールが直接関わる方が有利なら、もっとチャンスはあったように思うんだけど。茨の園の攻撃にしても、それこそそちらにアクセル大尉をまわせばよかったんじゃないの?アリバイ作りのためでしょ?私の調整したサイトロンがあれば、ソロモンでの迎撃に出ても、充分戦えたと思うんだけど」

 トールはその言葉に黙った。それは解っている。地形適応はキットやサイトロンの補助を受ければ問題ないくらいには軽減できる。しかし、それではだめなのだ。私自身が考えていることにとっては。

「まだ答えが出ていないことと関わってくる。セニア、月までは待ってほしい。……俺も、腹を括らなきゃいけない時期だと思う」

「まだそんな事を……」

 うじうじと考えているのか、と続けようと思ったが、トールの表情に押し黙った。何かを考えていることは確かだが、かなり根深そうだ。ソフィー姉さんやシーマ姉さんは何か知っていそうだけど、何も言わなかったし、こちらには黙れといってくる。正直、想像が付かない。

「トール……」

 気遣うような言葉しか出なかった。



 第57話



 0081年に独立したザーン、Nシスターズ両共和国の軍備に関しては、連邦との安全保障条約により、制限が加えられている。中でももっとも顕著なのは、艦艇の保有トン数と隻数に加えられた制限だ。

 これまで、コロニー自治政府に与えられてきた防衛権限はコロニー内部に限定されており、その防衛も、プチ・モビルスーツやスポーツ用の小型モビルスーツといった、核融合炉ではなく電池式、もしくは動力鉱石エンジンによって駆動する、モビルスーツには対抗できない戦力が限界だった。それ以外は、基本エレカなどの軍用車両だ。

 0081年、Nシスターズ、ザーン独立と共に結ばれた安全保障条約は、両独立国との軍備を以下のように制限している。まず、保有する艦船の数とトン数に関しては連邦側と協議の上で決定し、基本的には連邦軍の艦艇を購入して運用すること。第二に、モビルスーツの開発に関しては連邦軍の指定する企業にしかそれを許さず、その企業からの購入か、もしくは連邦軍からの退役機の導入によってそれを行うこと、だ。

 一年戦争によってモビルスーツが宇宙での戦争の主力となったが、モビルスーツの基本的な意義は旧来の艦載機と同じく航空機の発展形として捉えられている。となれば、コロニーの防衛用にモビルスーツの数をそろえても、そのモビルスーツの性能によって、連邦軍の対抗馬となりうる要素を潰せばよい、と連邦軍は判断した。

 具体的に言えば、モビルスーツが艦載機としての運用が基本である以上、戦争を仕掛けるためには艦艇の補給に頼らざるを得ない。であるならば、艦艇の保有数を制限すればモビルスーツを保有して戦争を行う上で重要な、侵攻能力の制限をかけられるのだ。実際、こうした形でコロニーごとに自衛軍を持たせるシステムは、UC150年代に採用されている。

 また、その採用モビルスーツも、新規採用による新型開発という巨額の資金を要する手段を選べるのが連邦軍だけである以上、新型の取得はともかくとして開発にまで金を割ける余裕は、連邦に対して債務を抱えたままのザーン共和国には出来ない相談であるし、コロニー国家であれば様々な形での経済封鎖も可能であるという判断もあった。

 例外なのがNシスターズという月面の巨大勢力だが、こちらについては連邦との切っても切れない関係が既にある。重力圏を持つが故に工業という発展手段を採用した月面では、まず食料の取得の為に各サイドとの連絡線を維持する必要がある。各サイドとの連絡線を維持するためには艦艇による護衛部隊が必要で、艦隊規模を護衛部隊のみが可能な状態に低めておくことが出来るのであれば、独立させても問題はないという判断になった。

 勿論、独立に際して戦争の可能性を示唆しなかった議員がいないわけではない。しかし、既に大企業として連邦のMS行政に深く食い込んでいるGP社のお膝元であれば、独立に対していなやを唱える議員に対する反ロビー活動を行うことも可能だし、また、連邦議会内で巨大派閥を構成しつつあるグリーンヒル派の大票田ともなれば、連邦内部の構成国家としての独立を認める点もやぶさかではない。特にGP社は地球連邦内の日本、アメリカという二大強国とのつながりが深く、AE社ともつながりをもつアメリカの支持が存在する以上、独立を認めないわけにもいかなかった。

 そうした判断が、連邦にとって利益であるか不利益となるかはこれからの歴史次第であろうが、少なくとも連邦はこれからも残るだろう。力を失おうがかまわずに。だから、連邦が力を失った段階のことも視野に入れておかねばならない。一年戦争の被害を人口面で縮小させても、経済面まで被害の縮小は不可能だった。システムの要求を優先させた結果がこれだが、そこはこれからの課題でもある。


 独立した三個のスペースノイド共和国、ザーン、ジオン、Nシスターズはそのそれぞれの政府のおかれた状況に基づいて軍備を行っている。

 ザーン共和国はコロニー内部に配備されていたエレカや小型モビルスーツ――0081年、GP社が小型量産用の、域内機動兵器としてAS、アサルト・スーツを発表して以来、小型MSはASと呼称されはじめている――を連邦への債務と引き換えに供与され、ザーン自治共和国軍が発足した。各コロニー内部での暴動に対処できるぐらいの戦力しかなく、コロニー政府や国民はMSの配備を求めているが、連邦との安全保障条約が発効し、適当なMSの選定作業が終わらないため、現状は一年戦争で不要となった先行量産型GMの配備を受けている。これも、債務との引き換えによる退役機の受領となった。現在は、アナハイム・エレクトロニクス社との契約により新型機――ジム・クゥエル――の開発取得を目指しているらしい。

 これに対しサイド3ジオン共和国では、一年戦争、ア・バオア・クー戦より撤退してきたジオン軍のうち、本国に帰還した部隊の使用MSを運用している。しかし、ジオニック社のMS関連装備の開発凍結措置が0083年現在まだ続いており、代替MSの開発はおろか、補修部品の生産もままならない状態であり、ここ1年は使えなくなった機体を用いての共食い整備を続けているのが現状だ。

 艦船についてもそれは同じで、主力であるムサイ級巡洋艦を共食いに回して、艦隊の旗艦であるチベ級などの補修に回しているのが現状だ。ジオニック社に製造が許されているのはパプワ級、パゾク級といった補給艦艇だけで、戦闘用の艦艇の建造はザーン、Nシスターズとの安全保障条約の内容もあって許されていない。

 連邦との交渉によって、何とか代替艦を入手しようと試みたが、相場から考えてかなり不当な値段で旧式のサラミスを押し付けられる始末となった。当然ジオン共和国軍は反発するが、そもそもアンマン休戦条約で賠償金の支払いを免除されているのだから文句は言えないでしょう、と連邦の外交官に言われると黙るしかない。

 地球上に与えた全損害をサイド3だけで工面することなど不可能だからだ。現状にしても、一部の金銭についてはグラナダの援助を受けている始末。ジオニック社の経営再開についても、グラナダへの本社移転が第一条件として挙げられ続け、ジオン共和国側としても国策会社を生き残らせて収益を上げるためには致し方ないと認めかけたが、続いてアナハイム及びGP社からの経営陣の導入が条件としてつけられ、それを断念した。

 このように、サイドを基本単位として構成される二共和国が連邦との軍備制限条約の下での苦しい軍備拡張を強いられ続けている中、月面で独立し、一年戦争中は連邦・ジオン双方に兵器を売ることで財の拡大を成し遂げたGP社を抱えるNシスターズは、その高い技術力と資本力に物を言わせて拡大を続けている。

 まず、ASについてはGP社生産の"ASS-117ヴァルケン"を導入し、恒久都市内部の治安活動以外にも、作業用、簡易宇宙警備用などに運用を開始して技術力の高さを見せ付けた。現在も、フォン・ブラウン向けの物資輸送作業や、その輸送作業の警備用として運用されている。おそらく、高い評価を得て各コロニーに採用される運びとなるだろう。

 そしてMSについては高い能力を持ちながら、高コストゆえに採用を見送られたRPT-007量産型ゲシュペンストの運用を開始している。これについては連邦政府も難色を示したが、そこはロビー活動で乗り切ってしまった。高性能だが、高コストで数をそろえることが難しく、数がそろえられないのであればジムの数で潰せる、と連邦政府に見せたことも採用の一因である。

 それに、火星のテラフォーミングを連邦政府を続いて第二位の出資額を出しているNシスターズの無理は聞く必要がある、とグリーンヒル派に言われてしまえば文句は言えない。軍備増強の面は艦艇で仕掛ければよいという判断もあり、認められている。そうした現状は、連邦軍の再軍備が進んでいくにつれて解消していくだろう。

 ため息を吐くと私室の壁一面に投影されている現状をトールは確認した。

 フォン・ブラウン市を標的にしたコロニー落着まで残り230分。阻止限界点まではおよそ80分。月面に存在するほとんどの連邦軍が迎撃に向かっているが、コロニーほどの大質量物質の迎撃は不可能。このまま行けば、コロニーは静かの海の表面に広がるフォン・ブラウン市市外に落着し、恒久都市の構造を崩壊させて、そこに住む3億の人口を犠牲にするだろう。

 トールは、自分が三億程度ならかまわないのではないかと考えている事を自覚して愕然となった。確かに、コロニーが地球に落着して北米の穀倉地帯が全滅すれば、食糧危機によって生じる被害は三億の比ではない。むしろそれよりも多くなることは間違いないため、三億程度、という考え方が出てくるのは当然だろう、という考えが出てきたのだろうと推測したが、如何考えても気分がよいわけは無かった。

 システムの影響が無くとも、こういった地位にあってこういった活動をしている以上、人間としての自分が、これまでずっと当然と思ってきた倫理観と乖離し始めているという事実を改めて感じ、もう一度愕然とする。言い知れない孤独感と絶望感を感じたトールは、立ち上がるとシステムが安置されている領域へ歩みを進めた。




「これがGP03、ガンダム試作三号機よ」

 ルセット・オデビーの紹介で目の前に現れたMS―――いや、MAにコウ・ウラキを初めとしたアルビオンのクルーは絶句した。ヴォルガ艦長のパナマ大尉以下は、現在、トール・ミューゼル少将の命令書を盾にラビアンローズに派遣されている連邦将兵の武装解除を進めている。どうやら、ジオン残党に協力して三号機の接収を企てていた―――そんな容疑がかかっているらしい。

「拠点攻撃用のMAに対抗するために建造されたガンダム。ガンダム自体は高推力のスラスターを装備して、機動力ではGP01に匹敵するように作られているけど、装備自体はGP01と大差はないわ。むしろ、この武装コンテナ―――アームドベース・オーキスと合体したときこそ、GP03はその真価を発揮するの」

 オデビーは解説を続ける。コウの方は渡されたマニュアルを手に取り、装備と機体性能の確認を始めている。そんな友人の恋人に微笑んだオデビーは、整備員たちにGP03のアルビオンへの積み込みを指示する。積み込みと言ってもこんな巨大な機体を格納できるはずも無く、アルビオンの艦体下面に接続するのが関の山だ。

 それ以外にもすることがある。アームドベース・オーキスは巨大な武器庫といえる存在で、当然その中にはほとんど火薬庫に等しい量の武器弾薬を積載することになる。それらの予備弾薬をアルビオンに積まねばならない。かなりのスペースを消費することが確実で、アルビオンに現在詰まれているジム・カスタム4機とジム・キャノンⅡ2機のスペースを食いつぶすことは明らかだ。そのうちの何機かを、ヴォルガ級に移動させなければならないだろう。

 オデビーは解説を始めたニナとそれを聞くコウを尻目に格納庫を出ると、港湾ブロックへ向かった。補給作業を受けているアルビオンと補給作業の終了を待つヴォルガ級の姿が見える。

 GP社設計の新型宇宙巡洋艦、そういうふれこみだが、あの設計は異常だ、とオデビーには思えてならない。アルビオンは改ペガサス級戦闘空母で、設計に関しては一年戦争のペガサス級を元にしている。連邦軍の主力であるマゼラン、サラミス級はそれこそ戦争以前の設計だ。しかし、彼女の目の前にある巡洋艦は、明らかにマゼランやサラミス級の設計思想を受け継いでいない。

 彼女はフォン・ブラウンの工廠で建造が進められている、ティターンズとかいう治安部隊用の新型巡洋艦、アレクサンドリア級の設計図面を見たことがあるが、それにしたって一年戦争時のムサイの設計思想が色濃く見える艦形だ。実際、ムサイの設計思想を参考にしているのだから間違いない。

 しかし、彼女の目の前にあるヴォルガ級はそんな設計思想の変遷を感じさせない、それこそいきなり登場した新型艦だった。

 そういえば、あのゲシュペンストとか言う機体もそうね、と彼女は思う。見るべきエンジニアが見れば、あの機体の設計思想が現在の気体に先行して存在したことは明らかだ。ガンダム以前に計画されていた機体に、明らかにガンダム開発時に構想されたビームサーベルを標準搭載するなど考えられない。あの兵器の設計はアナハイムでも極秘に類するものだ。しかし、GP社はそれを装備させ、こちらが実用化に手間取っているのを忘れたかのように実戦配備し、機体に装備させた。まだジムが先行量産の段階で、だ。

 技術者としては興味を惹かれる機体なんだけど、とヴォルガ級に補給を行う際に提示されたゲシュペンストの機体データを見てそうおもう。これだけの先進的な機体を量産して配備するだけの実力を、アナハイム以外に持っている会社があって、しかも地上用の新型空戦MSでは我が社を追い抜かして連邦軍の制式を勝ち取った。

 考えられないわ。正直、あの会社は異常。そう考えざるを得ない。ルセット・オデビーの感じた違和感は、この後、彼女のGP社への電撃的な移籍で確信に変わる。

 そしてそれは、静かに技術の拡散と発展が加速した事を示す、一事例にしか過ぎなかった。



[22507] 第58話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/25 23:37
「コロニー、フォン・ブラウンへの落着まで残り208分!」

「間に合わんか!」

 コロニー追撃部隊を率いるヘボン少将の艦隊はコロニーがフォン・ブラウンへの落着阻止限界点ギリギリにまで到達する段階でようやくコロニーに追いついた。しかし、既に月の重力圏への侵入を開始しているコロニーに有効な打撃を与えるだけの距離までには達していないし、今からの攻撃で有効な打撃を与えられるわけが無い。

 このままフォン・ブラウンに居住する3億の人口を見捨てる他に方法は無いのか、と思われたそのとき。月から赤い光が照射され、コロニーのミラー部分に反射、コロニー内に光が注がれた。

「月、イグニッション・レーザー施設稼動!」

「奴ら、軌道変更をかけるつもりか!」

 フォン・ブラウン側の判断は誤っていない。デラーズ・フリートが最終軌道調整に用いるであろう推進剤に点火することが出来たなら、急制動をかけてフォン・ブラウンへの落着を阻止できる可能性があるからだ。

「イグニッション・レーザー、ミラーに反射して推進剤搬入口に照射されています!」

「……まさか、嵌められたのか!?」

 ヘボンの推測は的外れではない。この段階でイグニッション・レーザーがミラーに反射してコロニー内部に照射されたことはよしとしよう。しかし、こう都合よくレーザーの照射ポイントに推進剤への搬入口があるとは思えない。となれば、フォン・ブラウン、もしくはフォン・ブラウン市内にジオン残党とつながっている人間がいるということだ。

 となれば!?

 ヘボンの推測は次に移る。レーザーの照射目的が問題だ。当然、ジオン残党とつながっている人物がフォン・ブラウンにいるとすれば、照射目的はコロニーの落着阻止などではない。別な目的の為にレーザーを照射したのではないかと考えるのが普通である。そして、この段階で照射する目的は、まさか!?

「いかん!後続の艦に月の重力圏への侵入を停止するように伝えろ!」

「無理です!侵入速度が……」

 その会話が行われた瞬間、コロニーの推進剤に点火が始まった。前部と後部それぞれの推進剤に点火が行われ、後部は上方に噴射を行いコースを変える為の噴射を開始する。そして前部は―――急制動どころの噴射ではない。完全にコースを変えるための噴射だ。あの噴射量であれば、月の重力圏すれすれを掠める―――重力ターン!?

「コロニー、重力ターンを開始!予想進路出します!……これは、地球への落下コースです!コンピューターの計測によれば、月への落着は阻止、月の重力圏を使っての重力ターン加速を行っています!……地球です!三度計測しましたが、コロニーの進行目標は地球!地球の重力圏を目標にコースを変えています!」

「進路予測出せ!それから、地球の第一、第二軌道艦隊に連絡!阻止限界点の算出急げ!地球に落下するとなれば、軌道上での迎撃態勢を……」

 オペレーターの指がピアノを奏でるように動き続ける。恐らく、必死に、急いでコースと阻止限界点までの時間の計算を行っているのだろう。そこに航法士官からの報告が入った。

「艦隊のほぼ半分が重力圏への侵入コースを取っています!推進剤が不足して離脱不可能です!もう半分も、現在の推進剤量では地球までの航行が出来ません!」

「ならば早速フォン・ブラウンとNシスターズに連絡を取って推進剤の補給に船を回すように伝えろ!月の第一と第二艦隊は……」

「第二艦隊は追撃に入っています!第一艦隊は……参謀本部より連絡!ジオン残党の作戦計画を、茨の園攻撃より戻った月第一艦隊が基地内で発見!ジオン残党別働隊が、グラナダ近郊のマスドライバー基地を使って生物兵器の散布を狙っています!……コロニー落しとの同時並行作戦です!」

 ヘボンは頭をかきむしった。ミューゼルが月をがら空きにした理由がわかったのだ。おそらく、この作戦について何らかの情報を得ていたに違いない。ソロモンへの核攻撃前もそうだ。あいつは、Nフィールドへの部隊配備を願っていた。其処からGP02が突入したとなれば、計画についても知っていたのだろう。

 しかし、それを何故明かさなかった!?これでは……これでは……

「これでは、軍閥政治ではないか!?」

 ヘボンの叫びは、悔しげな内容と共に月に映るコロニーに向かっていた。




 第58話




「候補者に聞きます。フォン・ブラウンへのコロニー落着まで残り200分と言う時間に、ここまで来たのは如何してですか?」

 システムが安置された部屋に入ってすぐ、こちらの存在を感知したのか、システムのコンソール・モニターが点灯し、日本語で表記されたその内容が表示された。どうやら、いらぬ前置きは必要ないらしい。

「如何したか、とは何だ?」

「直截に言います。候補者は月へのコロニー落しの可能性がある現在、その対処に赴くべきです。システムが候補者の意志に介入していた事が発覚した事件以来、候補者の行動には変化が見られます。今回のコロニー落着にしてもそうです。本来ならば、様々な事態に対策を取れる技術や勢力を保有しながら、候補者はあえてコロニー落としと生物兵器散布のどちらかを選ばねばならない状態に自らを追い込んでいます。そのような事態を招いた介入姿勢は危険と判断します。そして、そのような判断を取るように候補者が変化した、とシステムは捉えています」

 変化、か。ものは言い様だ、と思いつつトールは言った。そして、システムに焦りが出ている。こちらがどちらかを選ばねばならない状態に自らを追い込んだ?良い傾向だ。

「変化が出て当然だ。それだけの事をしたのはそちらだろう」

「納得します。しかし、それだけではないと判断します。候補者の行動には乖離が見られます」

 乖離。確かに行動が矛盾していることは認めるが、乖離とまで言われるとは思ってもいなかった。

「乖離とはどういう意味だ?」

「候補者は自身の行動に自由を確保しようとするあまり、行動の自由確保が最優先となり、自ら自由を失う行動に出ています。危険です」

 その言い様が少し気に障った。こちらが要求どおりに数的減少を図っていたのに、システムはこちらを操ろうとした。それに対する対策を採ろうとすれば、それを行動の自由確保とだけ評価する。そもそも、そうした自由の確保も、システム側がこちらへの介入を図ろうとしなければ考えもしなかった内容だ。しかし、これは良い傾向だ。やはりシステム自身に焦りが見える。第一段階は成功と見て良いだろう。

「ふざけるな!変えたとしたら貴様のせいだろう!?」

 挑発的な言辞を弄してみる。システムが人と同じような知性を持つと言うことは、人と同じような失敗をする可能性がある、ということになるのか。まず第一に明らかにしておくべき問題だ。

「肯定します。しかし、候補者との交渉においては、以後候補者の自由意志に介入しないことを約束いたしましたが」

「意志に介入しないことを決めただけだろう」

「しかし、候補者にはシステムに対する疑念が生じていると判断しました」

「そうだ」

 その点は同意する。私自身への行動の介入が明らかになって以来、システムは完全な味方ではなく、人類の数的減少という一目的を達成するための協力者という点にまで評価が下がった。そして、その際にこちら側への介入を行った、敵でも味方でもない存在となった。となれば、疑念を抱くのは当然だ。

 そして、その疑念が片付くまでは下手な行動は取れない。

「候補者はガンダム開発計画に当初から参入を可能にするだけの時間がありながら行動を起こしませんでした。何故ですか?地上でGP02を阻止すれば、コンペイトウの被害は防げたはずです。キンバライト鉱山基地の場所も特定していますので、破壊活動は可能なはずです。候補者には水天の涙作戦を阻止する充分な時間があったのにそれをなしませんでした。何故ですか?マスドライバーについてはNシスターズは候補者が、フォン・ブラウンは連邦軍月面第二艦隊が守っており、ジオン残党の襲撃の可能性はグラナダに限定されています。グラナダのマスドライバーを事前に破壊しておくことも可能だったはずです。候補者はコロニー移送計画を中止させませんでした。コロニー移送計画に介入してコロニー落しを防ぐことも可能だったはずです」

 システムの表記は続く。確かに、ソロモンの被害について言い訳は効かない。しかし、これから明らかになる内容次第では"絶対に出た"損害になる。ソロモンの時には出なくとも、以後必ずどこかで出た損害に。

「しかし、候補者はその全てに行動を起こしませんでした。候補者はソロモン攻撃時に自身のポイント補助解除状態における、宙間戦闘力の無さを理由に茨の園攻撃を行いました。不要な作戦をあえて行った理由は何ですか?星の屑作戦の計画書がシーマ艦隊がいないため、ワイアット大将やバスク・オムなどを通じて連邦軍にわたっていなかったことのアリバイ作りだということは解りますが、あなた自身が参加する必要は無い戦闘です」

 やはり、このシステムには高度な知性がある、と再確認する。私の0083におけるこれまでの行動の問題点を洗いざらい列挙してくれている。しかし、そんなことは想定内だ。そして、これほどまでにこちらを細かく見ているというのなら、今の行動の問題点も明確に解っているだろう。

「答えはわかっているんじゃないのか」

「……世界、システムに対する不信感、及び、自身や周囲に対する不信感が原因でしょうか」

 頷いた。そうだ、それこそが一番の根源だ。本来ならば、こんなところで水天の涙が生ずるはずは無い。アレは81年におきていなければならないはずだ。ジオン残党の戦力がア・バオア・クーで減少していないなら、もっと早まっても良いはず。こんなところで同時実施されるいわれは無い。となれば、何らかの路線―――シナリオに基づいている可能性がある。こちらとは別の。

 システムは、それを整合性をとるという表現で過去に言った。"整合性"。"修正力"ではなく、"整合性"と。"修正"、つまり無かったことにして元に戻すのではなく、"整合"、整え、バランスをとる、と。問題は、その整合性が一体どのようなものか、だ。以前に話したときはこちら側への介入を避けるだけで手一杯、というよりも頭が一杯だったが、整合性を取るということがどういうことかは確認しておく必要がある。

 だからこそ、自身や周囲への不信感だの自縄自縛だのというカヴァー・ストーリーを作り上げた。そしてそれを信じていると言うことはなるほど、契約どおりに人の内心に触れてはいないらしい。まずはそれが一点。システムが候補者に嘘をつく可能性は否定された訳だ。

 そんな内心を知らず、システムは言葉を続ける。

「候補者は、システムの介入が行われた段階から、そうした不信感に取り付かれています。自身の相対するキャラクターが仮想の存在ではないのか、候補者の自由意志を否定することの無い介入が、結果として候補者の自由意志を限定するのではないか。自身の行った介入に対する反作用が、思わぬ結果に通じるのではないか」

「人の心を読めるのか」

 まさにこちらがやった推論と同じ経路をたどっている。少なくとも、人間と同程度の知性を持っていることは明らかだ。整合性がどのようなものかは知らないが、もとの歴史とバランスをとろうとすれば、そしてそれが、世界の修正力とやらではないとするなら、何らかの介入を"私以外"の"格"が行っている可能性がある。整合性という言葉が持つ意味はそういうことだ。システムを扱わないが、歴史を出来うる限りもとの方向へ治そう、あるいは変えられた歴史とバランスをとろうとする"別の格"が存在していることになる。

「これはシステムの推論です。候補者との契約に自由意志への介入が禁じられた以上、候補者の自由意志を読み取ることは介入の一手段となりえます。候補者の行動が変化した時点とその後の行動から推測した結果に過ぎません」

「其処まで推論が出来るなら、今回の俺の行動の理由も大体わかっているんだろう?」

「ガンダム開発計画に参加しなかった理由はアナハイムとのバランスを考えた、と言うことで納得できます。このままではアナハイム・エレクトロニクスの軍需部門は高い確率で廃業を余儀なくされたでしょう。しかし、GP02の強奪事件には介入の余地があったはずです」

「……介入してコーウェンとの関係を崩したくなかった」

「しかし、あなたはトリントン近郊に戦力を送り込むことが可能でした。強奪事件を看過したのは、一定程度まで、ソロモン核攻撃を行わせるつもりだったのでしょう?……いいえ、違いますね。あなたは、アナベル・ガトー少佐との接触を恐れた。ガトー氏と接触し、連邦軍のトール・ミューゼル少将が、ジオン軍のトール・ガラハウ少将であることが発覚する事を恐れましたね?」

 確かにそれも一因だ。しかし、本当の理由ではない。今回の一連の行動の理由は、蝙蝠である自分に対する不信感や疑惑、自己嫌悪といったものからも出ているが、それらはカヴァーにまわした。なぜなら、周囲が、そう信じやすいから。

 本当の目的は様々に改変の仕方を変えることで、整合性というものがどういう形を採って出てくるものかをみること、だ。そして思ったとおり、こちらが最後の最後、ソーラ・システムⅡ照射の段階で一気に巻き返しを図ると見るや、水天の涙を同時並行で起こしてきた。これで、こちらが知りたい情報は確認が取れたのだ。

 0083を通して解ったことは多い。まず、積極的に関わらなかったトリントンでは改変は最小限に抑えられた。これは、候補者が関与するだけでなく、その積極性が改変に大きく作用している事を示す。関わらなかったキンバライトは歴史どおり。関わらなければ基本的に歴史に順ずると言う事だ。そして整合性を取る側に対しての介入だった北欧基地襲撃。こちらは半々の結果。"候補者"側と"整合性"側との激突では、こちら側の意図とは半々になる可能性が高い、もしくは、全くの中立か。

 宇宙に上がってからは、やはり関わらなければ歴史に順ずる事がアルビオンを見て解った。しかも、こちら側の改変結果に基づく変化だ。シーマ艦隊を引き抜いたのに、GP01は大破した。しかし、ニナ・パープルトンの件を見ても解るが、細部までには及ばない。いや、一年戦争でガトーに関わったことが反映しているなら、改変された後に整合性を受けた歴史は"確定"する訳だ。

 ソロモンで判明したのは"候補者"側の"代理介入"では、やはり関与の度合いによって改変結果に影響が出ると言うこと。ヘボン少将への要求はきちんと出しておいたが、やはり制限が加えられたようだ。

 そして茨の園への攻撃は"歴史に全く関係ない"行動をとった場合。これは候補者、もしくは改変した側の意志に順ずる形になった。しかも、茨の園から得られたものは多い。となれば、"歴史に関係ない行動"を積み重ねて改変とすることも出来る可能性があるだけでなく、歴史に無い行動の改変はこちらの思うとおりになりやすいということだ。テラフォーミングが良い例だ。

 そして最後にコロニー・ジャックとフォン・ブラウン。関わらなければ歴史通りの確証が得られた。茨の園から得た、星の屑の作戦計画書からも、アクシズに送り込んでいた諜報員からの報告でも、だ。星の屑の本筋に関わらなかったから、星の屑の大筋は変化しなかった。しかし、関わった水天の涙はマスドライバーによる軍事施設爆撃から生物兵器散布へ規模が拡大した。

 そして、もっとも積極的に関与する事例であるソーラ・システムⅡで水天の涙が並行して起こるという"整合性"が出てきた。"歴史上の事件"で、"候補者が積極的介入"を決定し介入した、もしくはする事件。それが、"整合性"が最も強く現れる事例なのだ、という確証が得られたことは大きい。また、改変した結果が必ず整合性につながるわけではなく、改変する可能性が整合性につながること、及び、改変と整合性の順番は一対であっても必ずしも後先が決まっているわけではないこと。"敵"の出方を洗い出すことが出来たわけだ。

 残った問題は、それにシステムが関与しているかしていないか。もっと言えば、システムもしくはシステムの設定者=整合性をとる側か。だからこそ、システムを"騙す"必要があった。システムが"騙されていない"一年戦争と比べると、やはりシステムはある程度中立性を維持しているらしい。そしてそのことは、"整合性"を俺に理解させてくれることになる。

 考えを進めている間も、システムは表示を続けていた。

「システムに対する疑念から生じた疑心暗鬼は、一年戦争中にとった行動全てに対し波及する。その中で、自身の倫理観からして許されない行為である二重の裏切り―――最後の最後で片方への裏切りに修正することは出来たようですが―――……してやられました」

「……話している間にも推論か、よほど頭が回るようだな」

「肯定的に受け取っておきます。なるほど、あなたの行動が理解できました。北欧のジオン軍基地を攻撃してキンバライトを攻撃しなかった理由、ソロモン核攻撃を前に茨の園攻撃と言う支作戦に、わざわざサイトロンを切った状態での地形適応力の低さを理由に参加しなかった理由も、今回、ソーラ・システムⅡでの迎撃を最後まで追っておきながら、水天の涙作戦への攻撃を選択した理由も……なるほど」

 システムは一人で納得して言葉を続ける。よし、二番目のカヴァーに上手く嵌ってくれた。

「理解しました。あなたは今期において、アナベル・ガトーと接触する全ての可能性を排除しようとした。だからあなたは"水天の涙を放置した"。そうすれば、水天の涙という作戦に参加することでアナベル・ガトーという、"トール・ガラハウしか知らない者"、"トール・ガラハウに無条件の信頼を寄せるもの"との接触の可能性がなくなるから。あなたは、"蝙蝠である事をこれ以上なく突きつけてくる"あの存在と向き合う事を避けている。候補者の内心が、一年戦争でとった行動に縛られていると言う点は予測していましたが、これほどまでに深く拘束されていたとは。推論だけでたどり着くのは予想外に時間がかかりました。周囲の人間の内心に手を伸ばすことも考えましたが、候補者との契約関係に支障をきたすと考え、自重しました。その判断は、間違いではなかったようです」

 周囲の人間に手を伸ばす、といった瞬間の変化をシステムは見逃していなかったようだ。表情には出していないが、筋肉が緊張し、血圧が下がるのが自分でも解った。そうした変化を、このシステムは機械として捉えることが出来るわけだ。

 そして介入したもしくは介入してしない事例を総合すれば、こちら側の情報はある程度整合性を取る側にも伝わっていると考える必要がある。逆に、こちら側があえて反応することで、誤反応を起こさせる可能性も確保できた。

 まだこちら側の思惑はシステムには通じていない。整合性を何とか取ろうとしている存在がいることは明白だ。そして整合性を取る以上、生き残った人類の数を減らす―――システムの目的と乖離した行動をとることが可能性としてある。そこも知りたい。最終的にシステムは整合性の側に立つのか、それともこちら側に立つのか。

「システムとしては、候補者がそのような認識で行動することは、システムの目的に沿わないと判断します。警告対象です、候補者。あなたは誤った認識で行動しています。今回の一件で候補者は、候補者の内心に生じた疑念を理由に、地球人口の減少につながりかねない事態を生起しました。これはシステムと候補者に対する重大な契約条項の違反です。しかし、候補者の内心にそのような疑義を生じさせたのはシステムの行動の結果であり、システムは再度候補者に契約を更新するかを尋ねます」

「どういうことだ?」

「あなたが望むのであれば、ここで契約を打ち切ることも可能だと言うことです。勿論、契約を打ち切った場合、あなたの存在は消え去ります。あなたのこの世界で過ごした100年近い人生の記憶は消去されます。どうしますか?」

 よし、かかった。焦りが脅しに変わった。人間に近いシステムならば、人間と同じような反応やエラーを起こす可能性の確証が取れた。警告ではなく、一足飛びに契約破棄にまで言及してきたのが証拠だ。

 さて、洗いざらいとはいかずとも、吐ける内容は吐いて貰おう。




[22507] 第59話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/27 14:09

 さて、残る問題も少なくなった。だが、気は抜かないでいこう。

 次の問題は整合性=設定者か。システムの設定者と整合性をとる側が同じなら、こちらの行動に応じて反対の行動をとるはず。そして、整合性はあくまでこちらの介入を前提に水天の涙を仕掛けてきた。となれば、設定者と整合性はまだ重なる存在ということになる。まずは、そこを明確にしてしまおう。

 しかし、真面目にゲームに付き合う気が無いなら降りるか、と存在を人質に取ってくるシステムは、現時点でシステムはどちらかと言えば"あちら側"だと考えるより他にないか。となれば、システムをこちら側に引き込む対策を練る必要もある、か。いや、こちらにだまされた結果の可能性もある。

「もう一度聞きます、どうしますか?」

 トールの頭の中に、この世界で自分が生きてきた百数年の記憶が流れる。システムのいう通り、システムに対する疑問が出てきて以来、常に離れることが無かった疑問、"彼ら"が、結局は仮想人格ではないのかと言う疑問に解決が見出せなかった。システムが引き合いに出した"培養槽の中の脳"という例えがそうだ。

 ハマーンたちのおかげで、自分にもっとも近しい人間たちがそうではないこと、そうであっても関係ない事を理解も出来た。しかし、そうした近しい人間たちの"強さ"に比べれば、自分の"弱さ"こそが弱点であるのも事実。所詮、システムに頼っての強さ。それを発揮してきた自分が、システムに対する信頼が出来なかったらどうなるか。彼ら彼女らに並ぶには、其処を解決しなくてはならない。

 システムの与えた条件で、意識的に停止可能なものを停止し、介入の道筋になりうるサイトロンを停止させて戦闘に臨んだのはそれが理由だ。自分ひとりの力で戦った場合にどうなるか。OSやサイトロンの制御無しに戦った場合、東方先生から習った流派東方不敗――未熟も良いところだが――だけで、自分の身についた力だけではどうなるのか。実感は得られた。

 勿論この手探りの状況に対して、ソフィー姉さんとシーマ姉さんがあえて何も言わないでいてくれたのはわかっていた。何回かこちらに話を向けてきたのも解っているけれど、それにも応えなかった。"敵を欺くには味方"であるが、やはり心苦しい。ハマーンたちとの接触も、以前に比べれば数が減った。システムの介入が遮断されたことで普通に戻ったと表現するべきなのだろうが、それを自分がどこか寂しく思っていることも確かだ。

 調子のいいことだ、と自分を笑わざるを得ない。引っ付いてくる時に支配を疑い、引っ付いてこなくなれば存在を疑うのだから。逃げ出してしまえばいい、と囁く声も感じている。しかし、この世界で自分が過ごしてきた時間と付き合ってきた人たちを思うと、ここで逃げ出すことだけは出来ない。自分にやる気がなくなりました。全てをリセットします、では無責任もいいところだ。

 勿論、この質問に対する答えは決まっている。しかし、今回の私の目的は、システムとは何か、整合性とは何か、それらはどういう存在かを知ることだ。となれば、こちら側の介入の仕方に如何反応してくるかを確かめる必要がある。だからこそ、介入の仕方を意識的に選んだ。

 一連の推論の中で、"整合性"側のルールについてはあたりが付き始めてきた。そしてシステムのいった整合性とやらは、今回、水天の涙を星の屑と並行実施することでバランスをとろうと試みているらしい。そうであるならば、整合性をとろうとしている存在は一体何者なのか。そして、何故整合をとる手段が水天の涙なのか。

 整合性をあぶりだすためにシステムの目的に沿わない行動をとってみた結果がこれだ。それは今のところ上手く行き、様々な情報を引き出せてもいる。

「契約は打ち切らない」

 システムとの関係を明確にする。それは、これからこのシステムという名の天秤に、私だけではなくハマーンやミツコさんたち、東方先生やソフィー姉さんたち、そして宇宙世紀の、死なずに生きれるかもしれない人間の命を乗せる以上、どうしても解決しておかねばならないことだ。システムや整合性がもし敵だというのなら、私が立ち向かわなくてはならない。それは絶対に、私にしか出来ないことだろうから。




 第59話




「システムは信頼されますか?」

 私は出来るだけ緊張した面持ちで拒否の意志を示した。

「解らない。システムがどんなものかを理解できない以上、信頼は出来ない」

「……候補者にシステムへの接続を要請します」

 来た。整合性を取る側の情報を入手するためには、恐らく整合性を取る側をも見ているはずのシステムと、何らかの接触を得なければならない。別な言い方をすれば、システムをこちら側に引き込むか、其処まではいかなくとも中立と言う確信を得るためにはシステムそのものと接触する必要がある。となれば、今までのモニターでの文字・言葉のやり取りだけでは不十分だ。そして、それを可能にする能力は、恐らくNT能力。

 そして、システムに問題があるようであれば、NT能力でおそらく禁忌とされる"本当の理解"をかける必要がある。だが、一足飛びにそこまでいけない。引き出せる情報は引き出しておく。

「なぜだ?」

「候補者に情報を伝える形では、禁則事項に抵触いたします。が、私が嘘を付いていないという認識であれば、候補者が獲得したNT能力で、認識している事実そのものを理解することが出来るはずです。つまり、候補者に何がシステムを構成し、システムの行動理念がどういうものかを伝えることは出来ませんが、候補者に対して今まで伝えた内容に関して嘘は無いと言う"認識"を伝達することは可能と判断しました」

「つまり、嘘か真かを証拠立てで証明することはできないが、嘘をついていないという認識の証明はできると言うことか」

「NT能力と言うものは、そもそもそういったコミュニケーションに用いられるはずではないのですか?」

 やはり、システムの中立性は保持されている、か。

 いや、システム本来の目的を考え―――まてよ、そうか。こちら側が歴史を改変した時点で、整合性を取る側は本来の歴史に強制的に戻すことが出来なくなっているし、それは整合ではない。整合性を取る側はこちらの改変結果に従属せざるを得ないわけで、その点でシステムはこちら側だ。

「候補者はシステムが嘘をついている可能性を疑っています。候補者が獲得したキャラクターや他の人格について、条件従属設定の完全自律型個人人格であると証明しても信じないのでしたら、それについての私の認識そのものを証拠とする他ありません。知識なり証拠なりと言う、人間に可能な通常の手段で証明することは禁則事項に触れますが、認識そのものの伝達と言う手段でしたらば、情報の開示にはつながりません」

 確かに言うとおりだ。今問題になっているのは、"整合性"の件も含み、システムの中立、ないしはどちら側に立つかの確証。システムが、私への協力に嘘が無いことが認識の共有でわかればよい。問題の半分はそれで解決する。

 どうする。その上で、システムに対して強制的に"理解"を仕掛けてこちら側に取り込むところまでやるか?それが可能だと言う保障は無い。それに、整合性を取る側がこちらの改変結果に従属せざるを得ないのであれば、下手にシステム全体を取り込むとこちらの予想していない事態を招く恐れがある。整合性を取る側の正体は明らかにしたいが、そのためにシステムを失う危険を冒せるかどうかが焦点だ。

「……本当のところは如何なんだ」

 判断が付かない。まだシステムから引き出せる情報が少ない。しかし、整合性を取る側とこちら側とを比較した場合、こちら側の改変結果に整合性を取る側が従属せざるを得ないと言うことは、まだ俺自身が気付いていないアドバンテージがあるという可能性がある。其処を全て洗い出した方が良いのか?

「どのような回答を言っても候補者がそれを真実であると認識しない限り意味を持ちません。システムは候補者に対する回答に制限事項があ りますが、虚偽を言う権限は持ち合わせておりません。認識そのものは伝えましたが、認識そのものが間違っていなくとも、私の認識そのも のが誤った情報に基づいている可能性を否定できません。また、システム自身が禁則事項内の存在によって嘘を言う質問が設定されている、またその嘘を真実と言う認識の下で言わせられている可能性は無視できません」

 どうする、現在の能力でそれが出来るか?ギリギリでNT能力にレベルをまわしたが、このレベルで果たして可能か?……危険な策は取れないな。私だけなら如何でも良いが、危険性が大きすぎる。

「一回やったな」

 とりあえず話を続ける。内心を悟られてはならない。出来る限り、システムから情報を引き出さなくてはならない。

「以前のものは禁則事項内の存在によりシステムに課された回答です。禁則事項内の存在により課された、自動的な回答で無い限りにおいて 、候補者に対するシステムの回答は常に真実を出します。この、一定内容の問題に対する自動的な回答に虚偽を含ませ、候補者の知性、理解、キャラクターとの関係構築力を計測するのは、候補者が本システムの目的にふさわしいかどうかを見極めるために必要なことですし、私にそれを虚偽だと言える権限はありません。候補者自身で気付いてもらわねばなりません」

 確かに。システムに対する無条件の信頼という、安易な依頼心は、油断を生む。それは自分でも良く体感している。考えてみれば、システムに生じている技術の問題にしろ意志のコントロールの問題にしろ、全てに逃げ道が用意されている。となれば、システムの中立性はやはり維持されていると考えてよいのだろう。いや、むしろ安易な歴史改変が何らかの影響を及ぼすなら、整合性を取る側をあえて存在させることで、改変に慎重な姿勢をとらせることが目的なのか?

 考えられる。人類の文化的発展の度合いを維持する、とシステムはいった。となれば、歴史の改変は必要だが、必要以上の技術的発展――文化の特定分野の異常発展――が後々に危険なものとして存在する可能性もまたある。実際、Iフィールダーの技術がこのまま進展すればどうなることか。短期的な視野での歴史改変を避けるため、長期的視野に立っての歴史改変をさせるために整合性を持ってきているのか?

 いや、それだけならば、水天の涙を起こす必要性は薄いし別事件を起こしてもいい。この段階で水天の涙を出してくると言うことは……整合性の側からの"改変"の要求!?……なるほど、やはり、システムと整合性は別物だ。介入を契約により禁じられているならば、行動の自由度を狭める行為もそれにつながる。接続による確証次第だが、恐らく、その通りだ。

 しかし、システムが候補者へ"介入"するのではなく"指導する"可能性があるかは確かめておこう。

「システムの狙いの一つには、候補者の強化や誘導はあるのか?」

「禁則事項です。システムの本来の目的は候補者に何度も伝えている内容です。候補者への干渉、候補者に対する介入は候補者との契約により、本システムの目的から排除されています。本システムの存在理由は、あくまで候補者が歴史改変を行い、人類の数的減少を抑制し、文化的程度を維持することの補助です。そう、設定されています」

 よし。やはりだ。それに加えてシステムの存在理由が、システムを設定した存在の目的である可能性は残るという情報まで来た。そして設定した存在にとってもその目的は、最初に伝えられた人類の数的減少の抑制。システムとの契約でこちらへの干渉が途切れたと言うことは、それが副次的な目的に過ぎないからだろう。そしてこのシステムは、その主目的さえ果たされるならばそれでよいと判断するプログラムになっている、と。

 残る問題は一つ。"整合性"とは何か?

 そしてシステムの設定者にとって整合性をとる側とはどんな存在か?候補者の敵として設定されたのか味方としてなのか?味方と言うことは無いにしろ、こちら側の改変結果に従属すると言うことは設定者よりも"弱い"存在と言うことは確かだ。しかし元の歴史に近い方向に修正しようと試みる必要が何故存在する?何故、"整合性"をとらなければならない?

「……そろそろ、か」

「候補者の言っている意味が解りません」

 よし、踏み込んでみるか。

「一つ聞きたい、"整合性"を取る意味はなんだ?どうして改変された歴史に対して、"整合性"を取る必要がある?」

「禁則事項です。……なるほど、候補者の思考はそちらの方向に向かっていたと言うわけですか。やはり、あなたは有能なようです。条件達成を確認……制限を一部解除。……先ほどの警告は取り消しましょう」

 システムはそういうと話を続けた。

「まだ詳細については禁じられていますが、制限解除条項に含まれるものを開示します。多次元統計学において、特定次元世界の変更を仕掛ける場合、その次元世界での歴史改変があまりにも急すぎた――"膨張"が過ぎた――場合、次元は分裂します。所謂"宇宙の膨張"現象です」

 何か、またわけの解らない話になった。しかし、どうやら私のしていることは"膨張"と言う言葉で表現されるらしい。

「膨張し過ぎ、分裂した次元は不足する要素を補完しようと試み、ほとんどの場合消滅するか、より高次元の介入を受けて初期化されます。そのため、安定的な次元改変を行う場合は"膨張"を制御する必要が生じます。"整合性"は、その"膨張"した宇宙の"膨張"度合いの制御という形で仕掛けられます。但し、改変された時点での変更を"消去"することは出来ません。存在そのものに手を加えるのは物理法則的にも、多次元統計学的にも不可能だからです」

 ……なるほど、改変した内容が過ぎれば崩壊する。そのために改変後に調整を行う、それが"整合性"ということなのか。ん?"存在"を"消去"することが出来ない?ならば、RP化して数値となった隕石などは……なるほど。

 所謂"ポイント"というのは、物体の存在を"多次元統計学的な"存在に置き換えた事を意味するものか。だから、同質量の物質に変換が効く、と。物質を分解して生成したRPが同質量の物質に変換可能なのは、そもそも存在する陽子や中性子、電子やニュートロンの存在を"消去"出来ないから。RPをGPに変換して使用できるのも、"存在"を等価交換するためというわけだ。恐らく、"RP"が形而下、"GP"が形而上のそれを含む形になるわけか。

「それゆえ、候補者の改変した歴史によって生じた"膨張"は、"整合性"による"収縮"の段階を必要とします。そうしなければ改変結果が安定しないのです。そして膨張なり改変なりを続けるためには持続的にそれを行う必要があります。そして当然、一つの"膨張"に対しては一つの"収縮"が生じます。それが所謂"整合性"の正体です。禁則事項に指定されていない内容で回答可能なのはここまでです」

 システムは自然現象のように言っているが、これまでの整合性は明らかに"人為的"だ。"膨張"させているのが私なら、"収縮"させている奴がいる。となれば、"膨張"を起こす改変を候補者が行うのと同様、その"膨張"を安定化させる"収縮"である整合性も、何らかの意思に基づいて行われている"改変"である可能性があるということだ。最も良い"改変"を定着させるために。

 そうでなければこちらが開発した技術をより進化させた技術が登場して来る筈も無い。なるほど、対立などと言う次元ではなく、システム、もしくは設定者の下に対置される、全く別のベクトルで動く二者による"改変"か。二者対立ではなく、三者相関。システムと整合性は別個の存在で、システムの下で二者がそれぞれの役割に応じて改変を行い、"整合性"はこちらの改変結果を安定させるための補助ツールということか。

 だから、"整合性"を受けた改変結果が後の"歴史"になる。そして、"膨張"が生じるのは"本来の歴史"が変えられた――"膨張"した――時となる、と言うわけだ。この情報は大きい。懸念が払拭できる。しかし、まだ問題は残る。もし、"膨張"に対し起こった"収縮"を私が認められない場合は?

「こちらがとった介入に対し起こった整合性が、候補者の認められない場合は?」

「整合性に対し介入を行い、再整合を起こしてください。状況が変化しますが、多用はオススメしません」

 何故かは聞かなくても解る。膨張と収縮が一局面で連続すれば、当然"分裂"の危険性が高まるからだ。恐らく、2,3度が限度。確認を取ると、やはりそうだとシステムは言った。

 よし、最後に整合性とは"誰"だ?の問題だ。……しかし、回答はしないだろうな。

「それでは、その"整合性"の主体とは?そして、システム設定者とは?」

「禁則事項です」

 やはり、か。

 よし、現状で取れる情報はとったと見るべきか?整合性を取る側の情報が得られた。示唆に富む議論だったことは良しとしなくてはならない。……いや、待てよ。もし想像が正しいとするなら、私という候補者の改変結果に対して、整合性を取る側が常に"後追い"という従属をせざるを得ないと言うのなら……

 しかし、考えを纏める暇も無く、システムは話を本筋に戻した。

「本システムは、禁則事項内の存在により候補者に対し、システムの持つ全ての情報を与えることは出来ません。しかし、候補者がシステム の行為に裏を感じるのであれば、認識を共有させることでシステムの行為に悪意が無いこと、候補者に対する虚偽や欺瞞の可能性が無い事を 立証します」

「認識の共有により、か。確かに立証は得られて一つの懸念が片付く。しかし、別の懸念も生じる」

「其処までは責任はもてません」

 トールは鼻で笑った。ずいぶんと人間臭いコンピューターだと思っていたが、話しているうちにそうした思いは強くなってくる。……本当にコンピューターなのか?

 認識の共有が始まり、これまでのシステムの回答には虚偽という概念が存在しないこと、契約が完了して以降は、補助・支配を問わず介入 行為が行われていないことを確認する。そして、介入行為の基本的性格が、結果がどのように動くかの認識も、だ。整合性についての情報は流れてこない。上手くシャットアウトされているようだ。

 ハマーンとのNT能力の共 振によって、人間が嘘をつくときの認識や不安に思うときの認識などは自分でどのように伝わるか解っている。ほぼ、いやほとんど人間と変わらない認識を持つシステムにおいてもそれは同じようだ。

 そしてもう一つ。設定者の設定した事項以外においては、システムの協力は信頼してよいことがわかった。……よし、システムと整合性が別の存在で、システムに対し、設定者の設定以外では信頼性がおけることが確認できた重要だ。これが解ったなら、設定者の設定のうち、こちらに対する干渉を排除できた今、まず恐れるのは整合性。それも、道筋が付いた今なら対処が出来る可能性がある、か。

「最後に、幾つか聞いておくことがある」

 認識の共有が終わり、システムのこちら側に提示した情報に、少なくとも虚偽は無い事を確認すると私は言った。

「なんでしょう?」

「ポイントを使って能力を上昇させることが出来る、そういうシステムだよな」

「ええ」

 よし、"ポイントを使う"ことで"何かが出来るようになる"というのがシステムで得られる能力であるのならば――――

「ポイントを使うことで設定者の情報が開示される段階まで、そして整合性を取る側が何者なのかが私に開示されるように、私自身を引き上げることは可能か?」

「……それをお考えでしたか。まだ何事かを考えているとは思っていましたが」

 システムは文字表示を取りやめ、声を出し始めた。室内のスピーカーから女性とも男性とも取れる声――いや、違う。声ごとに発音する主体が切り替わっている。あるときは子供であり、老人であり、老女であり、壮年男子の声が響く。

「ずいぶんと悩んだようですね」

「三億。あるいはそれ以上をギリギリのタイミングで天秤に載せない限り、それを引き出すことは出来ないと思った」

 さて、ここからが正念場だ。だが、クソッ、時間か。

「制限の一部解除の要件を良く満たされました。……しかし、時間のようです。コロニーのフォン・ブラウン落着まであと150分。現在、フォン・ブラウン市からイグニッション・レーザーが照射され、コロニーの推進剤に点火が始まりました。候補者は歴史の改変作業に戻る必要がある事を忠告します。……個として候補者の態度には感心はしませんが、納得と驚嘆はしています。システムの禁則事項限界までの議論を持って来たのはあなたが初めてです」

「ありがとうよ」

 大きくため息を吐くと、私はシステム安置領域から出て行こうとする。その背後に、システムの声がかかった。

「忠告しておきます、ハマーン・カーンなどには謝った方が良いと思いますよ」

 なぜだ?

「候補者の内心の変化に彼女たちが気付かないとでも?もっとも、このような内容については、候補者自身での解決が無い限りどうしようもないとい うのが実情でしたし、彼女たちも私という存在が候補者に対してかける負荷を懸念していたからこそ、候補者がギリギリの賭けに出る事を制止しませんでした。ソフィー・パブロヴナ……いまはミューゼルでしたか、彼女には最大限の感謝を。彼女の言で、彼女たちは基本的に候補者が気付くまでは放っておくことに決していました。また、彼女と言う存在があり、候補者がギリギリの賭けに出られたからこそ、候補者の素養にシステムが新たな評価を付け加える一助になりました」

「……お前、覗いていたのか?」

「候補者の、関連する人物の活動を知らなければポイント配分など出来ないでしょう?当然の行為です。ああ、別に生殖行為や所属個人の不倫関係などに興味はありません。当然、個人の人権に配慮してそれらを洩らすこともありません」

「……人権ね、便利な言葉だよ、ホントに」

「そうですね。多義語はどのようにも理解可能であるという点で本当に有用です。しかし、システムが彼女たちに感謝していることはお伝えください。勿論、候補者と言う人格をそこまで高めた東方不敗マスター・アジアや諸々の人々に対しても」

 私は一礼すると、今度こそ本当にシステム安置領域を出た。最後にちらり、と、先ほどの考えがよぎった。

 私という候補者の改変結果に整合性を取る側が常に、"後追い"という従属をせざるを得ないと言うのなら……整合性を取る主体は、私の一挙手一投足を、システムと同じように"見れる"ということになる?

 壁に耳あり障子に目あり、などとは考えたくないな。次の機会があるなら、そこで解決するしか無いだろう。システムの中立性、整合性の出現タイミング、改変行動の基本的基準、システムの"虚偽"の是非とその信頼性、そして自分の立場。今回の収穫は大きい。

 さぁ、心配かけた人たちに謝りに行こう。その後は、水天の涙と星の屑の決着をつけなくてはならない。

 私は頭の片隅にこびりつくさきほどの疑念を振り払うと大きく息を吸い、廊下の壁の影からちらちら見えるピンク色の髪に向かって歩いていった。

 一番心配をかけてしまった。ごめん。そしてありがとう。そんな事を思い伝えながら、久しぶりに意志を交わしながら、私たちは地上への道筋を急いだ。








[22507] 第60話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/12/02 03:42

 あの後、ハマーンだけでなくミツコさんたち、更には姉さんたちにまでお仕置きを受けた。詳細は語りたくないが、スペツナズ式だった。ナノマシンで回復するなら思い知らせてやろうじゃないかと言われたときには正直恐ろしかった。しかし、これもしたことの責任だ。

 体の節々の痛みが徐々に消えていく感覚を感じながら、そして背後からハマーンの視線、というか思考を感じながらコンペイトウ鎮守府艦隊旗艦ライブラの艦橋に入る。向かう直前にGP03の接収、ナカト少佐の拘束の報告を受けたが、命令書があるために、大きな問題とはならなかったようだ。さて、ヘボン少将のこちらに向けた表情を見る限り、如何見ても友好的ではない。

「ミューゼル、貴様どういうつもりだ!?軍閥政治でも始めるつもりか!?ことと次第によっては反逆罪で拘禁するぞ!」

 まずったか。いいや、こちらにも事情はある。ヘボン少将の気持ちはわかるが、だからといって黙っているわけにもいかない。それに、このオッサンもある意味"まっとうな連邦軍の軍人"だ。せっかく人の送った増援を無視するだけでなく、手柄を立てる好機と見るや、自分のところのジム隊は配置していたんだから。"整合性"かこの少将かどちらのせいかはわからないが余計な事をしてくれている。

 けどまぁ、追撃を地球まで追い続けるあたりは、まだマシな方だろう。少なくとも兵隊を動かしているし。これが10年後には救えない状態になるわけだから、これからは気をつけてみておかないと。その間にもヘボン少将の怒号は続く。艦橋要員も当り散らされたらしく、こちらに視線が同情気味だ。

「ジオン残党の作戦をつかんでいたのであれば何故連絡しない!貴様がきちんと報告してさえおれば、ソロモンでの核攻撃も……」

「仮につかんでいたと報告したところで、信じましたか?きちんと作戦本部にも宇宙艦隊総司令部にも連絡してはありますし、だからこそ作戦本部からの通信に、月第一艦隊第二任務群の独立裁量の件は、ジオン側スパイからの情報に基づくと文言を入れてあったはずでしょう。しかし、少将はその命令を曲解し、第二任務群を通常編成に導入して分散配置させましたね。その上配置予定ポイントには自分たちのジム隊を配備されたようですし。こちらが遊撃隊を編成に入れ、支援任務に独立運用していなかったらコンペイトウの被害はどうなっていたかと思いますか?」

 ヘボンの口を封じる。この男もバカじゃない。こちらがどういう情報をつかんでいたかの推測はつけているだろうが、推測は推測にしか過ぎない。確証がない以上、これ以上追求は出来ない。それに、情報をつかんでいたそもそもの理由が、原作を知っていますとか黒歴史ですなどとはいえたものではない。

 それに、こちら側がデュー・プロセスに沿っている限りはあちらもなんともいえない。問題は、これからこのデュー・プロセスが何処まで有効になるかなんだが……13年後には、一企業によって動くところまでいくのが本来の歴史だ。それは、これから歴史外の介入を積み重ねて変えていく。

「作戦の基本的な推移を考えれば、また、核攻撃を基本前提にしているGP02の投入目標を考えれば、観艦式などというものがこれ以上ないくらいの攻撃目標であることは推測が付きます。こちらが情報に基づいて配備してみれば、横から手柄を掻っ攫おうと、下らん手管を用いようとするからこうなるんです。少将、私がジオンの作戦計画の全貌をつかんだのは奴らの基地を攻撃してからのこと、あなたにどうこう言われる筋合いはありません。そもそも命令系統が違います」

 そう、私とヘボン少将では、所属する命令系統が違う。主権国家Nシスターズへの駐留軍である私は作戦本部の指揮下にあるが、コンペイトウ鎮守府は宇宙軍総司令部の指揮下にある。そして命令系統が違えば縦割り行政の問題点にしてこういう時の美点、横とのつながりのなさが盾になる。

「しかし……っ!」

「私が今回のデラーズ・フリートとの紛争に立ち入ったのはアルビオンが軌道上に上がって以降の話です。そもそも、GP02の開発にしろジオン残党による奪取にしろ、私の管轄下ではありません。それに、対策は示しましたが、月第一艦隊の保有する戦力は少将もご存知でしょう」

 そういうとヘボンは黙る。確かにガンダム開発計画はコーウェンの所管で、所管になったそもそもの理由はこの男がGP社の娘婿だからだという話は聞いている。一年戦争中に連邦のMS開発をほぼ独占するだけの功績を挙げたが、それは軍産複合体からすれば市場の独占を招きかねないまずい事態。

 せめてアナハイムとのバランスをとるために、ガンダム開発計画に関してはアナハイムの所管とされたし、この男から管理権限を外してコーウェンが管轄した、というのが下馬評だし真相だ。だから、今回のジオン残党によるGP02奪取にもこいつが関わっているのではないかと踏んだが、真相は違うのか?

 ヘボンの内心にトールの言葉が生んだ疑惑が膨れる。GP02をうまく使うのであれば、奪取された段階でGP計画をそのまま移してもかまわないのに、こいつは北欧のジオン残党の攻撃を優先させた。ということは、今回の作戦について何らかの情報を得ていたことは間違いないにしても、GP02のソロモン核攻撃にしろ、今回のコロニー落としにしろ、確証は得ていなかった可能性がある。

 それに、連邦の軍事に関する諸権限を捨てても、こいつにはNシスターズがある。火星のテラフォーミングを進めて火星に独立国家を築きそうな勢いを持つ国家で大きな力を得ているとなれば、何も連邦での権限に固執する必要は少ない。いかんな、ソロモン以来頭に血が上っているかも知れぬ。

「すまん、……いや、申し訳ない少将。あなたの方が先任だった」

 ヘボンはコンペイトウ鎮守府が設置された82年に少将に昇進している。一年戦争中に昇進したトールとは先任順位が異なる。しかし、年功序列が基本の平時の軍隊が長かった連邦軍では、同階級であれば年齢が幅を利かせている。勿論軍律違反であるが、かなりあいまいになってもいる。

「理解してくれてありがとうございます、ヘボン少将。……参謀本部からの連絡は受けていますか?」

 ヘボンは頷く。トールはそれを見ると、いじめるのはここまでだ、と判断した。そろそろ、利を提示してこちらに引き込まないといけない。政治の季節は過ぎ、次はまだだと言うに、連邦軍の将官は季節の区別が解らないから困る。まぁ、目端の利く人間は大体がパトロール艦隊や作戦本部に集中しているからな。




 第60話





 トールは作戦の解説を始めた。

「現在、重力ターンに伴ってジオン軍残党が活動を始め、グラナダのマスドライバー施設の占拠を始めています。敵はグラナダ近郊に潜伏していたジオン軍残党を合わせてMA最低4機、MSが最低30機の大部隊。しかも、MAはアクシズからの援助を受けたらしく、ビーム兵器、一部実弾兵器を無効化するフィールドを張ることが出来ます。まずはこれを如何にかせねばなりません」

「マスドライバー施設にそんなものを張り巡らして、射出可能なのか?」

 ヘボンが当然の疑問を述べた。マスドライバーの射出はリニア式のレールで行われるのが普通だ。当然、レールに走る磁力は電力で作り出す。その電力とミノフスキー粒子の反応を考えたらしい。

「当然射出時にはフィールドを解除するでしょう。それに射出作業をする間、マスドライバーを守れるのであれば問題ないと考えていると思います。また、グラナダのマスドライバー施設はレール式の射出システムだけでは無く、加速器型の射出システムも備えています。双方共に、射出の際に電力を使うシステムですから。それに、MA三機はそのフィールドの維持にまわされるでしょうが、残り一機が防御に回ります。それに加えて30機以上のMSは脅威です」

「我が艦隊の推進剤の補給が終わるまでは動きようがない。かといって推進剤の補給中に稼動し始めたら目も当てられない。推進剤の補給部隊は現在回してもらっているが、補給地点そのものは変更したい」

 ヘボンがそういうとトールは星図を示した。補給位置はグラナダのマスドライバーから射出されたコンテナを迎撃できる位置で行う。補給を終了した部隊の数がまとまり次第グラナダ近郊へ送り込む。また、それに先立って一部艦隊をコロニーの追撃に回し、ジオン軍残党への陽動とすることも打ち合わせる。勿論コロニーへの追撃を行うが、グラナダからのマスドライバーの予定進路を妨害する位置にデプリを配置する役目も、だ。

「これならば、中途でマスドライバーの軌道が変更される、と言うわけだな」

「しかし、変わったとしても地球に落ちれば結果は同じです。デプリも設置箇所にそのまま直撃するとは限りません。それに加え、マスドライバーの加速はかなりの運動エネルギーを内包します。デプリ設置は出来れば、マスドライバーの運動エネルギーを吸収できるような大きさのもので設置を御願いします。手間でしょうし、コロニー追撃に向かいたいとは思われるでしょうが」

 ヘボンは笑った。

「同じだよ、少将。第一、第二軌道艦隊が雁首をそろえているところに後ろから攻撃を加えるのも結構だが、あちらは戦力的には充分だ。しかし、こちらは違うだろう。現在、月近辺には我々と月面駐留艦隊しかいない。それに、貴官の情報によると、デラーズ・フリートは軌道上の迎撃は考えていないようだが、追撃はかなりの注意を払っているだろう。となれば、下手な追撃は出来ない。……アルビオンは?」

「アルビオンには巡洋艦2隻をつけてラビアンローズに試作機の受領に向かわせています。追撃はそちらに」

「新型ガンダムか。充分だな」

 ヘボンは頷き、艦橋内に命令した。

「総員に告ぐ。我々コンペイトウ鎮守府艦隊は、これよりミューゼル少将の月第一艦隊と合流して月面裏側のジオン軍残党攻撃作戦を行う。第5艦隊残存艦艇から補給を開始し、補給が終了次第、司令部が算出したマスドライバーの予定射出コースで妨害措置を行え。第5艦隊所属艦艇は、妨害が終了次第、コロニーの追撃に向かうように。第7艦隊所属艦艇は補給が終了次第、月面駐留艦隊とともにマスドライバー基地攻撃に出撃。コンペイトウ鎮守府艦隊は、月軌道上、及び地球までの各迎撃ポイントでのマスドライバー迎撃を行う」

 そう命令するとヘボンは立ち上がった。

「第5艦隊の指揮権は戦艦ワシントンのキンゼー少佐を臨時の分遣隊司令に任命する。第7艦隊の指揮権はミューゼル少将に移す。各艦、新たな指揮権に基づいて行動を開始せよ。これはコンペイトウ鎮守府司令部命令である」

 流石ジャブロー出。そつが無いとトールは感心した。こちら側がもたらした情報で出した命令が"鎮守府司令部命令"ときた。これならば、月面のジオン残党軍との戦いで行動した部隊は"鎮守府司令部"の命令、つまりヘボンの下で動いたことになる。こちらの功績を全て持っていったことになるわけだ。

 視線に気付いたのか、ヘボンがことさら陽気な表情でこちらに笑いかけるのが見えた。連邦軍の主流派にはまだ気を使っておく必要があるが、まずい。月駐留部隊の政治的位置が下がるのは、グリプスなどを考えると……

「ヘボン少将。月の協力、忘れずに報告に記載を」

「勿論だ少将。便宜は図らせてもらう」





 GP03を搭載してアルビオン及びヴォルガ、レナがラビアンローズを出発し、コロニーへ舳先を向けたことを連絡として受け取る。ヘボン少将の率いるコンペイトウ艦隊のうち、第5艦隊所属艦艇が予定通り、デプリ設置作業とコロニー追撃の陽動行動に出た事を確認したトールはMS部隊の指揮をアクセルと共に帰還したセルゲイ中佐に任せると、出撃準備をカーティス大佐に一任し、Nシスターズ地下区画へ移動した。勿論、ヴァイサーガでの出撃に備えるためである。

 カーティスはグラナダ近郊のマスドライバー基地周辺にジオン軍残党が集結している事を確認し、得た情報どおりにMA3機がIフィールダーを展開して防御体勢を整えている事を確認。Nシスターズ自衛軍の司令官としてヘボン少将と相談の上で、MAに対する攻撃をMS隊と共にコンピューター制御のサラミスを2隻、フィールドを形成するMAに向けて突入させる作戦を採用させる。

 グラナダ市からは当然抗議声明が来たが、これについてはマスドライバーの使用による生物兵器散布という緊急事態を盾に黙らせた。グラナダ市との関係、及び市の物流そのものに問題が生ずるだろうことは予測できたが、事態が事態だけにマスドライバーの破壊もやむをえない、という判断で黙殺された。反発が生じることは予想できたが致し方ない。それに、これからを考えればすぐに押し流されるだろう。

「しかし、かなりの大作戦ですな」

 作戦会議の席でセルゲイ中佐が発言した。作戦総指揮を取るカーティスはそれに頷くと、グラナダ近郊のマスドライバー基地の図面を出し、指揮棒を取った。ヴァイサーガでの突入をトールが控えているため、艦隊の総指揮をも委任されたからである。ウォルター・カーティス大佐は、所属及び国籍をNシスターズに移籍させている。一年戦争時からトールに付き従っている元ジオン軍人は、戦後退役を選んだものを除いてNシスターズ自衛軍に移籍済みだ。勿論、退役者の中に月への移住を望んだものは優先的に認めてもいる。

「マスドライバー基地は三方を山に囲まれ、突入を行うには基本、南方のレールが敷かれている面に向けての攻撃となる。当然、生物兵器散布の妨害が目的であるため、レールの破壊が第一目標だ。しかし、このマスドライバー基地は、レールに頼らない加速器式のマスドライバーも備えている。コース変更や加速はそちらの方が難しいから、レールが破壊された段階で射出が切り替わると見て良いだろう」

 その言葉に全員が頷く。

「ところが、加速器式のマスドライバーは三方を山に囲まれた谷の一番奥に設営されている。一年戦争時に地球爆撃に使用するため設置されたものだが、南極条約もあり、設置工事が完了した12月に月面中立条約が結ばれたために今まで使用はされていない。レール式のほうが予算が安くて済むからな。しかし、緊急用の、またはグラナダ市への突入コースを取った小惑星の迎撃には使用可能であるため、完成まで工事は続けられている」

 カーティス大佐は円形のマスドライバー施設の拡大図を投影させた。

「この円形の部分が加速器になっており、この内部で加速されたコンテナが射出機から打ち上げられる。第一目標はコンテナの撃破だが、この加速器の撃破が第二目標だ。しかし、アルテリオン、ベガリオンの偵察でも近づけん。奴ら、目視だけではなく浮遊機雷を周囲に打ち上げておる。コンテナは加速の際に強い磁力下にさらされるが、どうやら、その磁力には反応しない形で、しかも射出コースを邪魔しない形で散布してあるため、上空からの攻撃は不可能だ。もっとも、不可能な理由はそれだけではない」

 モニターが切り替わり、見たことがあるMAの映像が映る。

「グラナダ市の防衛隊を攻撃に現れた、敵の新型MAだ。フィールドを形成している、仮称"アインス"部隊とあわせてジオン残党軍の主力らしい。名称はMAN-05グロムリン。有線ヘッドビーム、ヴァリアブル・メガ粒子砲、有線アンカーレッグ、対空メガ粒子砲を搭載し、戦艦を容易に撃沈しうる移動要塞ともいうべき絶大な火力を保有している。しかし、搭乗しているのはニュータイプではないらしく、ニュータイプでは可能となる、ヘッドビームとヴァリアブル・メガ粒子砲の同時使用が不可能のようだ。しかし、装甲及び火力の高さは、マスドライバー上方からの攻撃を避けるのに充分だ」

 セルゲイが発言する。

「大佐。現有のゲシュペンストでも、この4機を撃墜するのは骨……いや、かなり難しいと言わざるを得ませんが」

 カーティスは頷いた。

「まず、アクセル・アルマー大尉の新型機ソウルゲインが突破口を開く。諸君らは敵MS部隊を拘束して、ソウルゲインが敵MAとの戦闘、特に三機構成でフィールドを形成している部隊に攻撃を集中できるように。作戦開始直後及び、排除が難しいと判断された場合の二つのタイミングで敵に向けて慣性航行のサラミスを突撃させ、自沈させる。ただ、敵にはビグ・ザムが2機。弾除け程度に考えておくように」

「はっ!」



[22507] 第61話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/12/05 19:08
 

 宇宙世紀0083年11月11日、正午(コロニー地球落着まで2194分)。

 第一軌道艦隊を中心とするベーダー大将の部隊は地球の静止軌道上に集結を終え、ソーラ・システムⅡの設営準備にかかりきりになっている。一年戦争のときとは違い、段違いに薄くなって巻物状になっているミラーを定位置に配置する。巻き取られているため、また電気を通すまでは透き通っているために遠距離からの視認はかなり難しい。

 一年戦争に使用したソーラ・システムとは違い、技術の発展によって薄く、軽量になっているため、輸送と展開がかなり容易になっている。戦力の差をコロニー落しや要塞戦で補うしかないジオン軍や他の軍組織との戦闘(対象はアクシズ)を考えた結果だ。

 設営作業を見守っていたベーダー大将は、不満気にソーラシステムの右側―――Rフィールドでの設営作業を指揮している戦艦カナダを見た。そこには何事も起こらないなら第三軌道艦隊を形成していたはずの部隊がいる。指揮官はバスク・オム大佐。

 初めて会った時から気に入らない男だった。上官には敬意を払うが部下に対する態度を見ている限り、前線指揮官としてはやっていけても艦隊の指揮がせいぜいで、司令官などにはなれない男だ、と思えた。その闘志でもって一年戦争中はジオン軍相手にかなりの活躍もし、またその闘志ゆえに南極条約違反をたびたび犯している。そしてそれが理由となって、ジオン軍の捕虜となった際に拷問を受け、両目にいびつなゴーグルをかける羽目になった。

 それが何を考えているか解らないバスク・オム大佐の出来上がりだった。少なくとも、ベーダーはそう判断している。

「ジャミトフ、貴様、何を考えてあの野人に指揮を任せた」

 脇に立つ参謀長にして、第9艦隊司令に内定しているジャミトフ少将にベーダーは言った。問われたジャミトフの方は、こともなげに

「闘志に不足はありません。ジオン相手ならば喜んで戦うでしょう」

 とだけ返事を返す。ベーダーはそれを見て鼻で笑ったが、ジャミトフの内心は、その外見からは全く解らない。しかし、この時、ジャミトフの内心はめぐるましく動いていた。目の前のデラーズ・フリートのことではなく、この後の推移のことだ。

 ティターンズ設立は既に内定し、連邦議会からの援助も受けサイド7を獲得することが出来た。第9艦隊及びOZには新型MSリーオーが配備され、ティターンズ・カラーとOZ用のブラックカラーの二種類が配備され、ソーラシステムの向かって右側で動いている。運用はかなり好評で、地球生まれの新兵どもにも評判は良い。まがりなりにもMSらしい機動が行えているのは、MSの操縦性の高さに依拠している。

 外側を見れば戦力に不安は無いが、内側を見れば宇宙に出るのはこれが初めてという若造と素人の集まりだ。地球生まれを中心に集めたため、戦力的に数えられるのはトレーズが持ち込んだOZ隊のみ。精鋭を以てなる、第一軌道艦隊に比べるべくも無い。それに、先々の不安もある。見れるようにはなっているとはいえ、実戦に投入してよいものか迷う部隊を実戦化するのには長い時間が必要だ。遅くとも再来年までは、OZ頼りになるだろう。

 しかし高い買い物だった。ティターンズ設立とその軍備増強にかなりトール・ミューゼルの援助を受けたが、援助の代償と言わんばかりに内々ですすめていたソーラ・システムによる迎撃を宇宙軍総司令部に具申し、ビュコックの裁可を受けて第一軌道艦隊の作戦にしてしまった。本来なら、第5艦隊と第9艦隊のみの作戦となり、ジオン側に裏切りを確保する予定がこれでパァだ。

 かと思えば、第一軌道艦隊との合同作戦として第9艦隊にも活躍の場を提供している。戦力も、どこに隠していたのか一年戦争のコロニー落しで使用された、プラズマ・レーザー砲艦を用意していた。アレならば、ここから阻止限界点を越えて、射程30000(km、阻止限界点まで41分の位置)で射撃が出来る。

 ジオン軍が計画していた同種の兵器(あちらはレーザーまで出力を高められず、ビームにする他無かったようだが)が、射程2000kmと聞けばその凄まじさが解るだろう。ジオン軍のものは、ミノフスキー物理学が採用される前の旧型核融合炉で如何にかしようとしていたのが裏目に出て荷電粒子の供給とその出力に問題を抱えていたそうだが、同じコンセプトでも核融合炉を新型に換装し、レーザーに変更したこちらは違うのだそうだ。

 一年戦争でも阻止限界点近くの戦闘で、コロニーに十数発の命中弾を浴びせて粉砕し、最終的に南大西洋に落ちた前部を除いて、大気圏中で消失する大きさにまで分解させられた。その記憶はいまだに根強い。一射撃ごとの射撃間隔が長いのが問題点だが、破壊力については申し分ない。

 宇宙艦隊総司令部が抱えていたこれを使用してしまってはティターンズのデビュー戦を飾る意味が無い。功績は砲艦の所属部隊である宇宙艦隊総司令部の、総予備部隊に帰されてしまう。ソーラ・システムというどちらかといえば要塞攻略用の兵器を持ち出したのはこちらの力の程を見せるためでもあったが、これでは良い道化ではないか。

 しかもただ道化で終わるだけではなく、艦隊戦に参加することで功績まで用意されている。目標としていた内容が100とするなら、60当たりまで減らされてしまった、と言うわけだ。小憎らしい手を使う。

「不機嫌そうだな」

「解りますか」

 ベーダーの声に、ジャミトフは不機嫌そうに聞こえるように返事をした。

 正直なところを言えば、こちら側が情報を洩らさない中でアレだけの手を打ってこられる事は、手を組むに値することだと、トール・ミューゼルの価値を再確認している。ベルファストでの約定どおり、手を切れない状態を―――それこそ、手を切るには怖く、手を切れないほどには頼りになる存在―――維持していると言うわけだ。面白くなってくる。

 准将から昇進して少将になったばかり、という立ち位置も加味してこういう手を打ってきている。ふ、コロニーが落ちたとしてもそれが却ってこちらの益になるところまで読んだか。ソーラ・システムとレーザー砲艦まで用意されては、どうやったとしても地球への損害が軽減できるし、これで失敗すれば救えない無能の烙印を押される。

 かくて私がここに出てバスクを督戦せざるを得ないと言うわけだ。

「お前のところのバスクたちはミューゼルと合わんそうだな」

「は。……どうも、性が合わないそうです」

 性が合わぬものを使いこなせない、か。ティターンズの限界がはや見えたか。手薬煉引いて待っているのやも……いや、必ず待っているだろうな、あの男。楽しみではあるが……

 ジャミトフはトールの狙いが何処にあるのかに意識を集中させた。コロニー落着まではまだ一日ある。考えに頭を回す時間はある。
 


 第61話




 同日、午後3時18分(コロニー地球落着まで1996分)。ヘボン少将のコンペイトウ鎮守府艦隊のうち、第5艦隊がデプリ設置に、第7艦隊が補給を終えて出撃を準備し始めた段階を見計らって私はN1地下格納庫へ向かった。一時間後には、グラナダに向けての出撃が控えている。

「あら、来たわ」

 セニアとラドム博士が待機していた。どうやら、ヴァイサーガの最終調整をしていたようだが、少々以前と外見が違う。一部外装を交換したらしく、ヒュッケバイン系の機体にしか見えないようになっているのか。武装も変更されているらしく、腰にエネルギーCAP式のビームライフルが備えられ、背面腰部のスカートに予備弾倉がつけられている。

 セニアが機体の解説を始めた。

「とりあえず、ごまかしね。ただ、TMシステムを使うと放熱の問題で、外装が自動的にパージされるから気をつけて。ただ外装をつけるのも芸が無いから、外装の表面にはミラージュコロイドつけといたわ」

 ありがたい。敵に近づくまでに迎撃を受けるのがヴァイサーガのような近接戦闘専用機体の弱点だ。それがコロイドで隠せる。

「サイトロンとサイコミュを使ってのトレースシステムも採用したから、自分の体を動かす感覚で動かしてくれれば反応するわ。サイトロンが混線中を起こしたら、切り替えて使ってね。キットの補助があれば地形適応にもプラスが付くし、宙間戦闘能力もある。それに、あそこは谷間で足場が多いしね」

 ラドム博士はこちらにかまわず、整備を続けている。サイコミュを併用したトレースシステムと聞いたときには全身タイツの悪夢が蘇ったが、どちらかと言うとアクセルなどが使用しているモーショントレースシステムに近いようだ。アレならノーマルスーツで乗り込めるのでありがたい。……どうしてもあの格好には抵抗がある。

「ムーバブルフレームの使用をGP01、GP04に確認できたから、動きの方も本気出して良いわ。出来るだけ、ポイントを使わない方法で強化はしてあるし、今ラドム博士が最終チェックを行ってる。マントはビグザム級のメガ粒子砲だと1発が限度。ただ、その他の対空メガ粒子砲や、アインスとかいう機体の有線ビームも大丈夫のはずよ」

「短い時間で無理を言ってすまない」

 セニアはため息を吐くと笑い、私の背中を強く叩いた。思わずよろけるが、腕を強くつかまれて引き起こされる。顔が近い。ささやく様にセニアは言った。

「本当ならデュラクシールで行ってもらえば安心なんだけどね。ただ、あのフィールドを考えると、デュラクシールじゃ腕のクローぐらいしか役に立たなさそうだし。ほら、私って整備と開発が……」

「ありがとう。……心配をかけてごめん」

 私はそういうと、セニアを強く抱きしめた。セニアも肩に手をかけると、右手で人の頭をごしごし掻いて来る。

「……ま、全部じゃないけど解決したんだからよし。謝ってくれたしね。でも、都合よく戦場とマッチングして良かったわ」

「元々、Iフィールド下での戦闘や、格闘専用の機体の登場を見越していたんだけどな」

 一年戦争でヴァイサーガを作っておいたのは、シャアのジオング対策と言うよりは、近接戦闘でドルメルやケンプファーを圧倒できる機体を考えてのことだ。それに、ビグ・ザム級の機体を相手取る場合も考えていた。こちらが量産型ビグザムを作ったように、大型MAも設計によっては費用対効果が良いと気付かれた場合。それがこの機体の投入目的だ。

 これに対してデュラクシールは、グリプス戦役の際に起こるだろう、混戦状態での使用を考えていた。それに、ジオン軍がファンネルを投入した段階以降に使わないと、出所を探られる恐れもある。其処まで考えて、ニタ研を潰さなかった理由の一つでもある事を思い出し、いやな気持ちになった。技術の出所を隠すために人体実験を許容したことを思い出したのだ。

 使われているサイコミュは第三期型モビルスーツ、所謂マン・マシーン世代のもので、オールドタイプでも使用可能なものだが、試験の際には使いこなせるかどうかがまだわからなかった。私自身の経験的な問題もあるだろうし、元々向いていないのかもしれない。しかし、戦わねば歴史は変えられない、と思いなおす。

 手渡されたハンディコンソールを操りながら機体各所の改修内容を見ていると、ヴァイサーガが動いて横倒しになり、リニアコンテナに格納されていくのがわき目に見える。ここからリニアコンテナを用いてグラナダに一番近い、恒久都市N4郊外の射出口まで運ばれる予定だ。そして、続いて搬入された機体を見て目を疑った。抱きしめていた体を離す。

「……アンジュルグ?ポイントなんか使ってな」

 最後まで言う間もなく、セニアが発言に割り込んだ。

「ハマーン用よ。元はゲシュペンストで、魔装機の技術を使ってある。ダウンサイジングもあるし、ポイント無しでの挑戦機よ。結構良い機体に仕上がったわ。まぁ、デザインがアレだけど。見られたらヤバいイリュージョン・アローとファントム・フェニックスは使用不可能。だから代わりに、背面部のウィング・バインダーにファンネルを6基ずつ、搭載してあるわ。……文句言わないでよ?」

 ファンネルと言う言葉に引っかかりを感じたが、大きくため息を吐き、ありがとうとだけ告げる。恐らく絶対にヤヨイ・イカルガのアインスとはサイコミュを用いた戦闘になる。ファンネルの助けは正直、ありがたい。また所属不明の機体で押し通せるならアリだろう、とも考えた。ヴァイサーガは確かに高性能だが、基本的に近接戦闘用で、近づくまでは攻撃の手段が少ない。

 しかし、ファンネルと言うサイコミュの使用は負担を強いる。第三期のマン・マシーンと言えども、オールドタイプも使えるようになったというだけで、サイコミュの使用に伴う負担の軽減はあまり進んでいない。機体制御に使っている分には良いが、兵器の制御までそれをやるとなるとハマーンに予想外の負担がかからないか心配だ。まだ16歳で、"若き彗星の肖像"ではかなり辛そうにしていた事を思い出し、不安になる。

「安心しなさい、それに、ハマーンを見くびらないことね。あの子、やっぱり才能があるわ。あ、ヴァルシオーネのハマーン版とかの方が良かった?このスケベ」

 それはやめてくれ。言い訳が利かない。ハマーン顔のヴァルシオーネなんて絶対使えない。乗っている人間がバレバレだ。アンジュルグも女性型のデザインの機体だが、顔がゴーグルアイだから絶対にそう思わない。しかしヴァルシオーネで顔を乗り手にあわせて変えてしまえば乗っている人間が推測ついてしまうんだが。それに……胸とか増量する気か?

「……今考えたこと、ハマーンに伝えましょうか?」

「スイマセンでした」

「ふふん、そっちが良いなら考えておくし、ヴァルシオンも実現可能か試してみる。ポイントにはあんまり頼りたくないんでしょ?グリプス戦役からは開発できる、使える技術の制限もかなりゆるくなるからMSも結構幅広くなるし。ああ、それからちゃんと身を隠せるように、ミラージュコロイドの空間展開システムも用意してあるわ」

 セニアの解説によると、ミノフスキー粒子散布の要領で、ミラージュコロイドを粒子状のまま散布することが出来るらしい。コロイドを発生させる際に必要な電力も、周囲に電磁場が発生しているならその電力を用いることが出来るとのこと。どうやら、発生した技術向上はIフィールダーだけにとどまっていないようだ。

 この技術拡散……意外なところに役立つかもしれない。其処まで考えた上で仕掛けてきた、と見るべきだろう。Iフィールダーは超光速航法を使った艦艇を作る際には必須の技術だ。超光速航法の難点は、速度は出せるがその速度でデプリに接触した場合、艦体の受けるダメージが大きい点にある。Iフィールダーを発展させて艦艇のサイズが巨大になったとしてもスモークラスのフィールドまで強められれば、恒星間移民さえ可能になる。



 そんな考えをしていたところに、ハマーンが白とピンクで仕上げられたノーマルスーツを着て現れた。あ、アンジュルグの胸と自分を比べてちょっとダメージを受けている。……まだ若いのに。それに、ロボットの胸部分と自分のを比較することに何か意味があるのだろうか?などと考えていたら小突かれた。恨めしそうな表情でこちらを見上げてくる。見られたくさい。

 そのハマーンの背後からアクセルが口元をゆがめて現れた。どうやら、ハマーンと一部始終を見ていたらしい。いや、ハマーンの向ける視線を合わせると似たような事を思っていたらしく、こちらと同様に小突かれたようだ。頼むから煽らないでくれ、と言いたくなる。

「シャドウミラー機勢揃い、と言うところか。乗り手は違うがな。それから、あまり嬢ちゃんをやきもきさせるものじゃない。見ているこっちにまでとばっちりが来る」

 アクセルが笑いを貼り付けたまま言う。ため息を吐くと私はそれに答えた。言われっぱなしは気に食わない。

「なんならレモン嬢達も呼んで、アシュセイヴァーとラーズアングリフも参加させるか」

 レモン、と言う言葉に過剰反応したアクセルは苦笑いを浮かべるとこちらの肩に拳を当ててきた。共に東方先生の修行を耐えた身。気心は何とか知ることが出来た。今では友人だと思っているし、彼もそうであると信じている。

「やめてくれよ。戦争中なんてレモンの奴……いや、そうだな。これが終わったら呼んでくれ。とりあえず、戦争はあるが良い世界だ」

 頷く。呼ばなかったのは現在扱っているバイオロイド兵から、彼女ならWナンバーを作りそうだったしアクセルとの関係も微妙だったからだ。それに、シャドウミラー系の機体には、ミツコさんがいたということもある。しかし、今の彼からすると、呼ぶべきだろうと確信した。

「彼女、抱きしめてやれよ」

 アクセルはハマーンをあごで指しながら言った。ハマーンはセニアからアンジュルグの解説を受けているようだ。ヴァイサーガで単独出撃する、と伝えた時には心配そうな面持ちでこちらを見ていた。前にヴァイサーガで出撃したア・バオア・クーではぼろぼろで帰還したことからか、ヴァイサーガを使った単機出撃はあまり良い顔をされないのだ。訓練でさえ、微妙な顔を向けてくる。

「お前も、レモンさん呼んだらやれよ」

 私はそういうと、ハマーンの方へ向かった。アクセルは苦笑しながら頷いた。



 11月11日、午後4時(コロニー落着まで1954分)。Nシスターズ、工業都市N2の港湾ブロックから次々と艦船が発進し、進路をグラナダに向けた。艦隊旗艦は「トロイホース」。セルゲイ中佐を指揮官とする、連邦月第一艦隊と、ウォルター・カーティス大佐を指揮官とするNシスターズ自衛軍は総勢で艦艇8隻(トロイホース、サラミス級4、コロンブス3隻)、MS合計38機(ゲシュペンスト主力)で出撃した。

 また同時刻、恒久都市N4から3機のMSが出撃した姿は、一切の記録に残されていない。しかし、紛争後に出されたミリタリー・マガジンの表紙はこう、飾られることになる。

 "ア・バオア・クーの謎の騎士、再び現る"、と。



[22507] 第62話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/12/05 20:11


 攻撃が始まったのは、加速器型マスドライバー施設を収めた谷の上に三機のMAが鎮座し、その周囲をMS隊が固め、上空に機雷を散布していたときだった。時間にして11月11日、午後7時11分(落着まで1763分)。攻撃に対しての最初の対応は、Iフィールダーの展開だった。またMS隊は即座に谷の入り口から攻撃を仕掛けてきた敵部隊に反撃を開始する。MS隊の指揮を執るのはインビジブル・ナイツのエリク・ブランケ少佐だった。

「レールを傷つけないように、絶対に谷の入り口から中に入れるな!」

 通信機に向かって怒鳴りながら、ビームライフルをジム顔の黒ウサギに向けて放つ。機体から見て、コンペイトウからの連邦軍ではなく、月の駐留部隊か。やはり、こちらの情報が何処からか漏れている可能性がある。インビジブル・ナイツの現在位置は谷の入り口から2キロの地点。Iフィールダーの効果範囲外だ。フィールダーを維持している三機のMAは基本、加速器型、レール型の本体部分の防備が担当のため、動かない。勿論、必要と状況が許せば、支援砲撃として二機のビグ・ザムの大型メガ粒子砲が放たれる。

 敵が連邦軍に属する部隊では高性能機ばかりで揃えられている事が有名な月第一艦隊の所属機であることは承知済み故に、こういう防衛方法を選択せざるを得なかった。これが連邦軍の通常編成部隊―――ジム、及びボールの混成部隊であれば、エリクは迷う事無く出戦撃滅を選択しただろう。

 高機動型ゲルググのコクピットから、機体を振り向かせて後方を見ると、谷全体に薄靄がかかったように見える。Iフィールダーを構成するミノフスキー粒子が電磁波――光を屈折させることで、陽炎や靄に近い現象を起こしているのだ。そして直撃するビームや砲弾はフィールドに当ると同時に爆発するか、霧散した。Iフィールダーはミノフスキー粒子を媒介にして、強めの電磁波を一定範囲内に流すことでフィールドを形成している。炸薬量の多い砲弾、及びビーム関係は上述した運命をたどる他は無い。

「良い具合だ」

 エリクはゲルググのビームライフルを不用意に入り込んだ一機に向けて放つ。流石に一年戦争より三年、しかも"あの男"の支配する月の部隊だけあってジム装備の部隊とは段違いに機動性が良いが、ここが入り組んだ谷である事を忘れていたようだ。思うように動きがとれず、続けざまにはなった二発のビームライフルを受けてしまう。そしてその結果にエリクは驚いた。

 二発。ジム程度なら簡単に撃墜できるその攻撃は、黒ウサギ―――ゲシュペンストの装甲には、部位の破損程度に抑えられてしまったからだ。直撃だけあって命中した頭部、及び左脚大腿部を吹き飛ばされているが、それが誘爆につながるジムとは違い、つながらない。メインカメラを失っての混乱と、脚部を失ったことによる擱座だけにとどまっている。それだけではない。操縦者は何とか機体を立て直し、即座の後退を図ろうとしている。練度も高く、判断も良い。

 パイロットはともかく、この機体が連邦軍の全部隊に量産されたら、ジオンにとっては恐ろしいことになる。

 そう判断したエリクは、被弾データを敵が知れないよう、即座の撃墜を決断して一気にバーニアを吹かして近寄ると、コクピットブロックにビームナギナタを刺し込んだ。やはり、通常のジムとは違ってビームが装甲を貫通してコクピットに入るまでの時間が長い。その時間はジムに比べて3秒ほど長いが、実戦での三秒の意味を知っているエリクはそこに恐怖を感じた。

 装甲材質は恐らくジムと同じルナ・チタニウム製だろうが、ビームがそこに押し入るまでにこれほど時間がかかると言うことは、これを装備する部隊の兵器の出力も、それにあわせて強化してあるということだ。超硬スチール合金製のゲルググは勿論、他のジオン製機体でも、被弾が即座の撃墜につながるということをエリクは再確認する。

 噛みあっての食い合い―――ドッグ・ファイトや中近距離戦は危険だ。こちらの損害もバカにならない。判断が行動につながり、エリクはアインス小隊への通信回線を開いた。

「前衛のビグ・ザムに支援砲撃を要請してくれ!」

 支援要請を受け取ったアンディ、リカルド両少尉のビグ・ザムが主砲の大型メガ粒子砲の射撃準備に入ると、上空からボールとジムの混成部隊が攻撃を仕掛けてきた。どうやら、グラナダの防衛隊が手を出してきたようだ。上空からのボールの砲撃に眉をしかめるが、閃光と共に爆発の連続と共に砲撃が止んだ。推進剤に引火したらしい水色の爆発が宇宙に花を咲かせている。まるで、アジサイの花が開いたようだ。

「アレがビグ・ザムの発展形か」

「あまり気持ちの良い形じゃないな」

 アンディ、リカルド両少尉のビグ・ザムの通信が混線する。それに続いたエリクの視線の先には、巻尺のような形態になったグロムリンが飛行している姿がある。どうやら、両側のヴァルアブル・メガ粒子砲で一気になぎ払ったらしい。グロムリンがそのまま方向転換し、続くジム隊と出撃もとのサラミスへ迎撃に向かった事を確認したエリクは、ビグ・ザムに谷の入り口で防戦を続けるMS隊の援護を再開させた。流石のゲシュペンストもビグ・ザムのメガ粒子砲の直撃は至近距離でもダメージを受け、爆散―――違う、クソ、あの機体は近距離でも装甲が融解するにとどまっている。

 しかし、流石の大威力に恐れをなしたのか、地形を使って徐々に後退を始めるゲシュペンスト隊。後方から長距離狙撃用のビームキャノンを使ってきているがIフィールダー相手に効果はない。このフィールド範囲内で使える武器はマシンガン程度。バズーカの弾ですら、発射した瞬間に誘爆する。また一発、直撃して霧散した。

 エリク率いる部隊の装備はザク、リック・ドム共にマシンガン。谷の入り口で防戦しているゲルググだけがビームライフル装備。敵が後退した場合は、フィールド効果範囲外に埋設してあるジャイアント・バズなどの装備を用いるようにしている。

 装備と機体の差をMAによる大火力の投入で凌ぎきる、それがこの作戦の肝だ。エリクは上空を舞い、グラナダ防衛隊らしきジムとボール、サラミスの相手をしているグロムリンの動きを再度確認した。動けないビグ・ザムは、一定範囲しか砲撃の制圧下に置けない。やはり、上空からのグロムリンの支援が必要になる。

 北の方角からアステロイドが密集して流れてくる。ああ、あのままではアステロイドに進路をふさがれながらグロムリンを回避することになる。防衛隊の船はどうにもならないな、と確認すると意識から上を排除した。恐れるのはボールだけだが、それももはや必要ない。また一機、ゲシュペンストを撃墜する。

 大型メガ粒子砲の第二射。更に1機のゲシュペンストが撃墜された。やれる。新型も地の利を生かして布陣したこちらに手が出せない。マシンガン程度でビグ・ザムに傷などつけられはしない。近づいてのビームサーベルもフィールドに邪魔をされる。ビーム砲関係など論外。ボールかガンタンクを十門単位で、しかも徹甲弾装備で投入してやっと如何にかなるぐらい。

 まぁ、連邦軍の最大口径、240mm砲程度ではどうにもならんのだが。爆発と閃光。エリクはまた一機、ゲシュペンストを撃墜した。




 第62話




 こちらとあちらでは装備の相性が最悪ね、とヤヨイ・イカルガは思っていた。先ほどからやっていることはフィールドの維持に、グロムリンの対空防御を幸運にもすり抜けてきた―――すりぬけた後が幸運かどうかは別問題だが―――ジムやボールを有線ビーム砲で迎撃するぐらいで、アインスが出る必要などない。前面の敵新型MS部隊―――ゲシュペンストとか言う、ガンダムに匹敵する機体らしい―――も、ビグ・ザムで如何にかなってしまうため手持ち無沙汰だ。上空のサラミスが降下を始めたときには出番が来たかと思ったが、有線ビーム砲を使う前にグロムリンが出て行った。

 ため息を吐く。そこに、上空のアステロイドベルトを使って接近したらしいジムの小隊が目に入った。喜びに目を輝かせて機体を操作するヤヨイ。有線ビーム砲が4つ、同時に起動すると触手でも伸ばすかのようにアステロイドベルトに伸びていった。標準装備らしいビームスプレーガンではIフィールダーどころか、アインスのフィールドにも効き目が無いことがわかっているから、無駄な回避はしない。

 そもそも、Iフィールダーは拠点防御用の兵器で、移動などは考えていない。そのためビーム兵器に対する防御と共に実弾兵器に対する防御も考えられており、フィールド内に流す電流・電磁波を使って炸薬を誘爆させることを考え付いた。炸薬が弾頭の大部分を占める、バズーカ・シュツルムファウスト、グレネードはこれで使用を封じることが出来る。

 そして、MS用マシンガンでは意味が無い。唯一、この布陣を破れる兵器を、彼らは持っていないのだ。

 ビーム兵器が全く通用しないことを確認してから出撃してきた機体らしく、ビームスプレーガンではなくマシンガンを装備しているジムを、次々とビーム光に捉えて撃墜しながらヤヨイは笑った。リカルド少尉はこの笑いが気に入らないらしく、笑う度にそういうことはしてくれるな、と通信を入れてくるが知ったことではない。アクシズでこの機体を与えられたからこそ、私は今、中尉としてここにいる。

 ヤヨイの考えどおり、この布陣を打ち破るためには、炸薬の反応しない兵器、所謂"冷兵器"が必要になる。MS隊がかなりの広範囲に展開しているから、遠距離からの砲撃など基本無理だ。初速を保ったままでないとビグ・ザムの装甲は抜けないから、連邦軍の240mm砲では展開範囲内に強行突入するしかない。

「まぁ、それもMS隊のエリクさんや、私やアンリさんが撃墜しちゃうけどね」

 上空からの侵入を図るボールにはアンリ博士のグロムリンが、地表からの接近を図るガンタンクがいるのなら、エリク少佐のMS隊が。どちらも、この地形の入り組んだ谷では、射撃ポイントは限られる。私たちは其処の近くに罠を仕掛けて置けばよいだけ。ほら、また一機の狙撃用ライフルを持ったらしいゲシュペンストが、射撃ポイントに設置されていた地雷にやられた。あ、やっぱりガンダム云々言われるだけあって硬い。マニピュレーターを失っただけだ。

 あの機体の硬さだけは褒めても良いけど、やっぱり撃墜されない敵機はムカツク。そう思ったヤヨイが有線ビーム砲を一基、その機体に向けて意識を伸ばす。ヤヨイの意識そのままに有線ビーム砲が蠢き、そのコードを触手の様にゲシュペンストに近づける。しかしビームを撃つ直前、その動きが止まった。

 頭の隅にちかり、と走る何かがある。別に気にする必要は無い。上空のジムに向けた有線ビーム砲によってまた一機、沈んだだけだ。……なんだ、これ?何かいやなものが近づいてくる?え?二つ……三つ?地上からも、上からも感じる?

「アンディ少尉、リカルド少尉!何か来る!?嫌なものが、……5つ!」

「解るのか!?」

「ヤヨイ、無理はするな!」

 その叫びと共に三機の立つ谷の尾根から谷の中にかけて、連続した着弾が生じた。え?ミサイル?炸薬が入っているタイプなら、フィールドに触った瞬間に……煙幕!?

 ヤヨイが着弾した弾の中身に推測が付くと同時に、谷と山一帯に大規模な煙幕がたかれた。他に全体が煙幕に覆われ、その影響から免れているのは谷の一番上の尾根に鎮座するアインスと上空に展開するグロムリンだけだ。続いての着弾。こちらも煙幕。どうやら、フィールド内部に間断なく煙幕をたき続けるつもりらしい。

 何を考えているのやら、とヤヨイは笑わざるを得ない。煙幕を谷の中にたいても、ほら。ヤヨイのNT能力に煙幕と言う視覚を封じる装備は意味を成さない。勿論サイコミュの使用については敵味方の区別を明確にさせる必要があるが、ヤヨイの高いNT能力は、"硬そうな、いやなもの"という認識でゲシュペンストを追いかけられる。

 後退を続けるゲシュペンスト隊を追って、すぐさま煙幕の効果範囲からMS隊が出てくる。谷の中からは追い出されたが……ああ、敵のMS隊の後退支援だ。谷の入り口からも、平野が続いているわけではなく、丘陵などが続く地形だ。マシンガンを抱えたドムが、丘陵の影に隠してあったらしいジャイアント・バズを取り出して砲撃を始める。更に後退する敵機。どうやら、位置の関係から煙幕にビグ・ザムを入れることで、大型メガ粒子砲を防ぐつもりらしい。

 バカめ。

 アインス・アールの両腕から有線ビーム砲が延びる。後退して丘陵の陰に隠れる敵機を上から狙撃。ああ、もう。コードの外に逃げていった。まだそんなに遊んで……

 ヤヨイがそう思った瞬間。煙幕が吹き飛び、聞こえるはずの無い音が走った。

 ビグ・ザムの装甲が深くえぐられている。誰もが驚きに目をむいた。連邦軍の装備に、Iフィールダーを備えたビグ・ザムの装甲を打ち破れる装備は無いはずだ。事前に判明している、そして聞かされたはずの連邦軍の砲に、RTX-44型とか言う半MS型戦車の240mmを越える正面装備は無い。61式戦車でさえ155mmの二門。ガンタンクとボールは120mmで、MS用対物狙撃ライフルが135mm。これが連邦軍の主力砲のはずだ。

 大きく後退して、膝を突くアンディ少尉のビグ・ザム。左下、対空メガ粒子砲の下側がごっそり削られている。幸いにして脚との接続面は無事の、と思えた瞬間、今度は左足が吹き飛び、完全に擱座してしまう。まだジェネレーターが動いているためフィールドは維持されているが、動けない、そして大型メガ粒子砲一門がほとんど無力化された瞬間だった。

 目をむいたヤヨイは、フィールドを自動維持に固定して脱出するアンディ少尉を確認し、マスドライバー施設への退避を連絡すると周囲の探索をはじめた。煙幕が上手く視界の下側を隠しているが、私にとってそんなものは関係ない。目を皿のように見開き、意識を集中させて砲撃した何かを探す。……いた。

 しかしここからではメガ粒子砲、有線ビーム砲共に届かない。ヤヨイは通信回線を開くとエリク少佐に連絡を入れた。


「クソ!浅い!砲弾の軌道を修正!目標中破!APFSDS、次弾装填!目標、敵大型MA!」

 デメジエール・ソンネン少佐は自身が操る、Nシスターズ防衛軍所属モビル・タンク、YMT-07ヒルドルブⅡを操り、18km先で擱座したビグ・ザムを確認すると射撃ポイントの変更を開始した。せっかくのチャンスをもらったのに、これではまだ戦果が足りない。ジオン国内で戦場に出ることも無くくすぶっていた自分を引き立ててくれた人たちに、彼は強い恩義を感じている。戦車乗りとしての復活は、彼らの力あればこそだ。

 YMT-05ヒルドルブを改造し誕生したYMT-07、ヒルドルブⅡは、MS及び艦艇の配備数を削られたNシスターズ自衛軍が導入を計画している長距離支援用重MS-MTの試作機である。ザメル用の680mmキャノン砲を改造した、480mm長射程滑腔砲を用いた砲撃は、遠距離から艦艇や大型侵攻用MAを撃沈・撃墜するために装備されたものだ。

 YMT-05ヒルドルブから発展した長距離支援重MS、YMS-16Mザメルは、ヒルドルブで実証した大口径砲による砲撃を生かすために、特に固定目標への直接砲撃を目的に開発されたMSであるが、ジャブロー侵攻作戦が議論されていた時期ならばともかく、ジオン軍が後退を開始した0079年末になると、逆に固定目標しか砲撃が出来ない(命中が期待できない)ことが欠点となった。勿論、それが無くともこのような単機能用MSは、地上用に3機ほどしか開発されなかった。そのうち1機がトリントン基地攻撃に投入されたが、追撃にかかったバニング隊に近距離に入られて撃墜されている。

 固定目標しか攻撃できないことを問題視するのは既に一年戦争中から指摘されていたし、戦後にザメルを1機接収した月第一艦隊もわざわざ支援砲撃を行う機体に、MSという人型を用いる意義を見出さなかった。月第一艦隊から委託を受ける形で、後継の大口径砲による支援モジュールの開発を請け負ったNシスターズ、より正確に言うならテューディ・イクナートは、支援砲撃を行うなら、無理に人型にするよりは砲撃を行う際に最も適した形態、つまり車両型で充分と判断した。

 そのためのベッドとしてヒルドルブに戻されたのは当然のことだ。半人型への変形機構も、砲の位置を高めに設定する事を可能にするものであるし、塹壕からの砲撃を行う際に、地形を利用した砲撃を可能にさせるために導入された。勿論、砲撃に用いる主砲の口径が強化されたことによる反動を軽減するために、砲弾については反動を減少させる改良が行われ、車体にも打ち込み式のアンカーを装備して発射できるようになっている。

 主機をゲシュペンスト用の高出力ジェネレーターのサイズアップ製品に変更し出力を強化して搭載し、砲塔を構成する上半身はマニピュレーターを自衛射撃用のみとはせずに姿勢制御用としても用いることで運用性を高めている。これだけの強化を施したにもかかわらず、全備重量がヒルドルプよりも20t多い240tに抑えられている点は、流石天才にしてチート技術者テューディというべきだろう。

 但し、流石にこの重量から重力下の環境に投入しての運用は不可能となった。勿論、Nシスターズも地球侵攻作戦など立案するつもりもないし、立案せざるを得ないだろうグリプス戦役に際しても、こんなものをジャブローやキリマンジャロに向けて投入するつもりも無いためそこは無視している。しかし、月面という、基本的に平原が連続して続く環境。また、低重力による運用性の向上とを考えて、自衛用の対艦車輌として用いる分には問題が無いと判断された。

 また、少しながらも重力が存在する月面においては、曲射砲撃も可能になるという点も見過ごせない。480mm砲の最大射程は48kmに達し、ミノフスキー粒子の下での有視界最大射程はヒルドルブと変わらず20kmのままだが、地上からの対空、対艦用として用いる分には問題ない。それに量子通信システムに対応しての情報リンクによる砲撃も可能である。

 但し、やはり重量の問題が正式採用を阻んでいる。が、ここで天才技術者テューディは一言、

「テスラ・ドライブ使えるようになれば問題ないでしょう?アルトアイゼンなんてネタ機体を作れるんだから」

 と、テスラ・ドライブの本格運用後は問題もないし、また試作機で、しかも残骸が回収できる環境で運用するならば問題ないと斬って捨てた。確かに、重量の多さは重力そのものを軽減させてしまうテスラ・ドライブの使用が可能になれば問題はない。そもそもグリプス期に入ってミノフスキー・クラフトに関する技術躍進が一定段階に入れば、テスラ・ドライブも公開可能な技術に入る。

 そしてこのヒルドルブⅡは、テスラ・ドライブを車体の前後に一つずつ装備し、240tの自重をほぼ半分の110tまで軽減させた。このため、その巨体からは考えられないほどの高機動性までもつようになってしまった。勿論、射撃の際には自重そのものを使って反動を押さえ込む必要があるため、テスラ・ドライブを停止させる必要がある。

「この軽さは異常だが……しかし役には立つ!第二射、装填!……砲身が暖まりすぎてるか?目標も大きい……フィールド頼りで馬鹿でかい図体を見せた自分を恨め!第二射、APFSDS発射!」

 第一射で薄れた煙幕を更に吹き散らしながら放たれた二発目は、リカルドのビグ・ザムの左上部に命中し、弾かれた。命中角度が浅かったため、湾曲した装甲の上を滑って弾かれたのだ。しかし、480mm砲から放たれたAPFSDS、装弾筒付翼安定徹甲弾の衝撃は大きく後退するビグ・ザム。何とか尾根から落ちることは避けたが、巨体を維持する脚部に負担がかかっているのか、少し、火花が散り始めた。

「くそ!射角が浅い!砲身が暖まって上に反れた!」

 ソンネンはそう叫ぶと射撃ポイントの再変更に入る。こちらの位置がばれた場合、敵の大型メガ粒子砲の砲撃を受ける可能性がある。先ほどの様子を見ると、稜線の影に隠れても稜線ごと貫かれる可能性もある。いちいち変更が面倒だが仕方が無い。それに、アンカーを使わなくてもそれなりに射撃できることが確認できたのは良いデータになった。

 大型MAという、防御の要を撃墜されることはジオン側にとっても避けるべき事柄らしく、砲撃を確認すると同時に敵のMS隊からこちらに向けて突進してくる部隊が現れ始めた。合計7機。ゲルググとドムの混成部隊。ゲルググは地表すれすれをNoe飛行で向かってくるし、ドムはホバーを使って接近してくる。

 ゲルググでNoe飛行が出来るとは、かなりの手練だな。ソンネンはかつての祖国の残滓をそこに感じながら淡々と移動を続ける。このままでは次の射撃ポイントに入るまでに、右側面から来るドムとゲルググの混成部隊に接触する。

「目標!右側面MS部隊、弾種榴散、続いて榴弾、交互射撃!」

 言葉に続いて射撃。砲の仰角を取って近づいてくるMS隊の上に榴散弾を降らせる。固定砲台と規格をあわせる意味もあって480mmが選択されたため、通常榴弾や榴散弾、対空用の散弾や徹甲弾と弾薬の種類は豊富だ。装弾数78発の内、APFSDS弾12発、榴弾(HE)10発、榴散弾(SS)20発、通常型徹甲弾(AP)24、粘着榴弾と対空用散弾6発ずつを備えるだけあり、弾薬の心配もない。

「!もらった!弾種散弾に変更!交互二射!」

 移動しながらの連続射撃。走りながらの砲撃だから、装薬の量が比較的少なく設定されている砲弾しか打てないが、それこそが狙いだ。尾根の境目からこちらに近づくゲルググに向けて対空用の散弾を、榴散弾と交互に二発ずつ放つ。流石に少数でマスドライバー基地を占拠しよう等と考える精鋭だけあって反応が早い。ゲルググ5機の内、1機の片腕を吹き飛ばすが他の機体には散弾しか命中していない。当たり所がよければ動きを鈍らせられるが、期待することも出来ない。

 周囲、及び後方から光。ヒルドルプⅡの援護の為に配置されたゲシュペンスト小隊の支援だ。ありがたい。今のソンネンに一年戦争の際に持っていたMSへの対抗心は無い。兵器の活躍の場は運用する側のやり方次第である、と考えるNシスターズ自衛軍やトール、カーティス大佐の支援あってこそ、MS全盛の時代を迎えつつあるこの時に、自分がヒルドルブで戦えている事を再認識する。

「借りは返さなくっちゃなア」

 ソンネン少佐は手に持ったドロップ缶からハッカ飴を取り出し、口に放り込んだ。

「あと1機、ビグ・ザムをやらせてもらうぜ……」

 稜線の影からビグ・ザムの巨体の一部が見えた瞬間、車体を止めてアンカーを射出し車体を固定する。周囲にゲシュペンストが展開し、防護体勢を整える。反撃の糸口がヒルドルブⅡにしかない事を確認した他の部隊も、ヒルドルブⅡを中心にした布陣を構え、要撃に向かってくるゲルググと射撃戦を始めた。さっさと射撃して、もう一機は潰す!

「弾種AP!連続発射!」

 そう叫ぶとソンネンはAP弾を三発、連続で発射した。1発は外れたが、1発が脚をかすめ、もう1発が右側の対空メガ粒子砲を直撃した。二機目もらったか!?そう思った瞬間、車内にアラームが鳴り響く。砲身が熱膨張を起こしたのだ。このまま射撃すれば、最悪暴発の恐れがある。また、それを確認したらしい旗艦「トロイホース」からもナタル少佐の後退命令が耳を叩いた。

 無視する事を一瞬考えたが、同乗している恩義あるカーティス大佐を思い出し、断念する。砲弾が命中したビグ・ザムも姿勢を整えたが脚を掠めた砲弾で動けなくなったようだ。乗員が操縦を自動に切り替えたのだろう。脱出するのが見える。

「……戦えたことの証明で満足するしかないか、煙幕散布!」

 ゲシュペンスト隊に向けて、後方からの煙幕弾の連続発射を中継してもらう。巡航ミサイルに搭載された煙幕がマスドライバー施設とヒルドルブⅡの間を覆い隠すのを確認すると、ソンネンは後退を開始した。後退するヒルドルブの護衛に、ゲシュペンスト隊が即席の防衛線を形作る。やはりこの部隊の出来は凄まじい。ジオンに響いたガラハウ艦隊と連邦の新型部隊、ミューゼル艦隊の合同部隊だけはある。

「フィールドは破れなかったがビグ・ザム1機撃破に1機中破!良い戦果だ!」

 ソンネンの内心は晴れやかだった。




[22507] 第63話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/12/09 23:45

「あの男、自分が出ずに済ませるつもりか」

 金髪にサングラスをかけた連邦軍の軍服を着た男が、私的な関係者らしい女性に話しかけるように言った。月面、グラナダ市郊外のこの施設には、マスドライバー施設に関わる職員や、警備を担当する連邦軍部隊の兵員が押し込まれている。またこの施設は、グラナダからの恒久都市間連絡ポートも兼ねており、どうやらそちらの使用を考えていたようだ。近くには旅行鞄もある。

「大……あなた、どうします?」

「ここで大人しくしている他は無いな、ララ」

 そういうと金髪の男はサングラスを外し、視線をモニターの方に向けた。遠くの閃光は戦闘が行われている証だ。周囲の人間たちが兵士も民間人も関係無しにざわめくが、二人は気にする風も無く、壁沿いにしつらえられたソファに腰掛けた。ここはどうやらパーティ会場として使われていたらしく、片付けられていなかった椅子が積まれ、給水機も見えた。男は給水機からコップに水を取ると、女性に手渡した。

「どちらが勝つと思う?」

 まるで、勝つ方がどちらかはっきり解っている、とでも言うように―――実際、わかっているのだろう―――男は女性に尋ねた。女性―――黒髪を後ろに流した、インド系らしき褐色の肌の女性は男に笑いかけた。空虚で何処か、艶を含んだ笑いだ。

「決まっていると思います。あの人がいる方ですわ」

「……ララとこうした話は出来ないな。既に答えがわかっているのだろう?」

「それを私に聞くあなたも。解ってらっしゃるんでしょう?どちらが、なんて」

 言われた男は笑いながらサングラスを外した。鋭い目つき。一度見たら忘れない目だ。そして、眉間に刻まれた一筋の傷。大きくため息を吐いてソファに深く寄りかかると、女性の肩に手を回す。手つきは優しげで、いやらしさは感じさせない。むしろかなり大切に思っているらしいことがわかる。

「アンブロシアから離れて、本当に良かったのか?」

「はい、私、住むところはあなたと一緒であれば……いえ、あなたが帰ってきてくれるなら問題はありません」

 そういわれた金髪の男―――シャア・アズナブルは困ったような笑みを浮かべた。一年戦争終了から三年。ゼブラ・ゾーンのアンブロシア基地に身を寄せたシャア・アズナブルは、地球圏に近づきも離れもしないその微妙な位置のコロニーで一年戦争後の世界を見続けていた。そして始まるジオンの残党狩り。ゼブラ・ゾーンには月の駐留部隊がかなりおざなりな―――誰かが手を回したのだろうが―――配備で、それこそ宇宙海賊に堕さなければ安心して過ごしていられたが、他の地域は違う。

 特に地上はアフリカの残党狩りが激しく、ジャングルや砂漠のオアシスが、残党部隊ごと関係の無い民衆も含めて殲滅されるなど、噂と真実が次々にアングラ情報を通じて提供されてきている。地球圏での反連邦、特にジオン残党に対する政策に親ジオンのサイド4、6が連邦の宇宙移民に対する政策に反発していることは、地球圏の新たな局面の始まりを物語るものにシャアには思えた。


 だからこそこれから彼は連邦軍の軍人、行方不明から帰還したクワトロ・バジーナ大尉として活動する予定だ。そのために、ララ―――ララァ・スンには安全な場所にいて欲しかった。そして、シャアに考えられる安全な場所は、あの男のいるNシスターズしかありえなかった。

 遠くに何回かみたあの機体。黒いウサギのような顔を持つ機体はガンダム以上の性能を持っているだろうことはすぐにわかった。連邦軍が投入し始めた新型、GM2やらリオンやらリーオーといった機体を生産しているならば、ああいう、少々値段が張っても性能を高めた機体をそろえることは難しくない。

 そして、あの男―――トール・ガラハウは本質的に臆病な男だ、とシャアは見ている。離れずにいつも付きまとっていた少女への接し方、ア・バオア・クーでの味方機、おそらく縁者が乗っていたのだろうそれに対する守り様からみて、奪われること、失うことに対する恐怖がありありと伺える。そんな男が、帰るべき場所、帰らせるべき場所に心を砕いていないはずが無い。

 そしてそれは同時に、手を出す人間に対しては容赦しないと言うことでもある。エゥーゴ側にたったにしろ、ティターンズ側にたったにしろ、立っただけならば何とか挽回も出来ようが、あの男、月に手を出した―――Nシスターズに手を出した勢力に対してはその後の動きも関係なく叩き潰そうとするだろう。その弱さは信頼できる。

「私は卑怯な男だな。自分の望みを叶えるために、全てを利用しようとしている。他者の愛さえも。現に、今もララを守るために彼を利用している。元は、私自身の違和感から出たことだと言うのに」

「……人のエゴとはそうしたものでしょう?それに、あの方なら私一人ぐらい、許してくれます」

 そうだな、とシャアはララァに笑いかけた。でなければ、ア・バオア・クーでこの女性を助けるために手を回してくれたりなどはしない。それに、そのことに関しては少々、妙に感じていることもある。

 何故、あの男はあの場所でガンダムと出会い、ララァとガンダムとの戦いに介入できた?何故、私がガンダムのパイロットにこだわりを持っている事を見抜き、ララァに対してもそうだと見抜いていた。そう、それに、だ。

 何故あの男は、ギレンを助けることが出来たのに見捨てたのだ?キシリアを早めに排除することが出来たのにしなかったのだ?まさか……

「隣を宜しいかな?」

 一人の壮年の男性がシャアに話しかけた。連邦軍の軍服を着ている。階級は准将。背後に立つ少佐は緊張した面持ちでシャアを見つめている。双方共に、話しかけた人間がどういう人間か、という情報は持っているようだ。

「ルナツー方面軍所属のクワトロ・バジーナ大尉だね」

「ええ、ブレックス・フォーラ准将」

 男性は頷くと、シャアを見つめて話し始めた。

「今回のこの紛争、やはりジャミトフが仕掛けたものだ。現在、奴は治安維持部隊ティターンズの設立に向けて動いているが、かなり、計算違いが生じているようだ。動きが妙だし、後ろ盾だったコリニー提督との距離を取り始めている。コンペイトウでのミスが原因だが、アレぐらい、奴ならば事前に情報を得ていそうなものだ。コリニーの責任をうやむやにする手腕は充分にある。しかし、奴はそれをせずに見捨てた」

「ほぅ?ジャミトフほどの政治巧者が読み違えを起こしましたか」

 ブレックスは頭を振る。

「というよりは、方針転換、かな。部下に新しく加えた、トレーズとか言う少佐がいる。かなり有能だ。早速、憲兵権限を持つ特殊部隊Ozの創設が認可されて、新型MS、リーオーが配備された。ティターンズが設立されれば制式採用となる。どうやら、バスクなどの過激派を押さえ込むためにどこからか呼び出したらしい。出身は月になっている」

「Nシスターズ?」

 ブレックスは頷いた。

「鍵を握るのはNシスターズを実質的に軍閥として支配しているトール・ミューゼル月第一艦隊司令だ。彼を引き込めるかどうかで、月が我々についてくれるかが変わる。アナハイムは協力を約してくれたが、制式採用争いが軒並みGP社に帰したことや……」

 言葉を途中で切るとブレックスは映像板を示した。現在、眼前で続けられている戦闘は、ジオン残党が有利なように思えるが、それはMAを投入しているからだ。MSだけの戦闘力で見た場合、どちらが有利なのかは見るまでもない。民間施設近くに防衛のために展開しているゲシュペンストが遠目に見える。マシンガン、及びバズーカにビームライフル、中にはキャノンらしき支援火器を持った機体もある。武器の取り扱える数はそのまま汎用性の高さ―――FCSの性能をも示している。

「あの機体を見てはな。GMなどとは比べ物にならない。流石ガンダム開発計画を途中から主導したミューゼル少将だけはある。我々エゥーゴがティターンズに対抗してスペースノイドの権利を守れるかどうかは、ミューゼル少将の動き次第というわけだ。彼はなんとしても、エゥーゴの側に引き込まねばならない」

「……私から話してみましょう。色よい返事がもらえるかもしれません」

「一年戦争中、戦争を指導した大将会議に佐官時代から常連だった少将が、まさか軍閥政治やティターンズとの共闘を考えているなどとは思いたくも無いが、ベルファストでジャミトフと接触した形跡もある。また、トレーズ少佐がNシスターズ出身である事を考えると少将の腹心の可能性もある。難しいかも知れんぞ、大尉」

「閣下!ミューゼル少将はそんな方ではありません!一年戦争の際にお世話になった自分が言うのですから!新型艦を能力を認めて任せてくださいましたし、周囲にもシナプス大佐やブライト少佐と、人材が揃っています!また、戦後の月でのお働きを見ても、ティターンズやジャミトフごときと……」

「ヘンケン少佐、落ち着きたまえ。しかし、何事かを考えているのは確かだ。月の独立国を実質的に動かしている彼が、次の地球圏に何を見ているのか。高まるスペースノイドの地球への反発を、如何考えているのか。誰もが答えを望んでいるのだ。彼がついた側が、次の戦いで優勢になる事を考えれば」

 シャアは頷き、言った。

「でしょう。それが我々とぶつからない道である事を望むだけです。勿論、最善の努力はしてみるつもりでおります。それに、……いささか、彼とは因縁めいたものがありますもので。敵にはしたくありません」





 第63話




 0083年11月11日、午後8時36分(コロニー落着まで1678分)。第一波の攻撃を撃退した事を確認したエリク少佐は、残存部隊の再編成に入った。Iフィールダーは維持されているが、ビグ・ザム2機は擱座し、大型メガ粒子砲を装備した砲台程度の働きしか出来ない。現在、アインスはビグ・ザム2機と何らかの作業を行っているらしく、フィールダーを一時停止させてアクシズから派遣された整備員と何かをしている。どうやら、まだ戦力として用いれる可能性があるらしい。

 それは良い。元々フィールド展開時には動けないため、固定砲台程度の役割しか期待していない。被害が少なく済んでいるのも、フィールド内にいればマシンガンしか気にしなくて良いからだ。やはり性能差は厳しい。しかし、なんとかマスドライバーを守りきることが出来た。上空からのジム隊も排除したし、このまま準備が整うのを待てば……

「マスドライバー発射準備、あと30分ほどで済みます!」

 よし。このままいけば、発射は可能だ。本来ならコロニー落着とあわせての攻撃のはずだが、こうなってはそういうことは言ってはいられない。何とかして発射し、地球攻撃を行わなければならない。しかし……

「この煙幕は如何にかならんのか!?」

 エリクは叫んだ。

「無理です……フィールドを一時停止させましたが、砲弾系の、爆風を生じさせる装備は前方に埋設しているので使えません。スラスターを使って晴らすにも、推進剤の補給が無い事を考えますと自然に晴れるのを待つしか、それに……っ!」

 またもや上空で爆発。何発かはグロムリンが撃墜したようだが、巡航ミサイルによる煙幕の投下は30分ほどの感覚で続けられているが、先ほどから間隔が徐々に狭くなっている。また、自然に晴れるのを待つには風を待つしかなく、月面には重力があるため当然風も吹くが、重力に比例して小さいものでしかない。なかなか晴れないのだ。

「上空にはアステロイドがかかっていますし、グロムリンも展開していますから何とかなるでしょう。この煙幕は、逆に地上からの敵の接近を……」

 其処まで話した瞬間、上空で閃光が走り、地上に展開していたMS隊に通信が入る。

「こちらグロムリン、アンリだ。上空から接近する三機小隊を確認……一機反応が消えた!?クソ、新型2機!こいつら動きが早い!」

「第4小隊、迎撃に向かえ!敵をマスドライバーに近寄らせるな!」

 推力に優れるリック・ドムⅡの4機小隊が上昇を開始した。先ほどの戦闘で撃墜されたのはビグ・ザム1機にMSが8機。残存戦力はMA3機にMS28機。まだ戦力の2割。戦闘能力は充分に残っている。先ほどの化物戦車には肝を冷やされたが、何とか撃退することが出来た。あとはこの煙幕が晴れれば……いや、このままが良いか。どうせ、マスドライバーの発射で晴れる。

 エリクは上空の戦闘を確認しながら状況を分析する。上空の二機は新型といっていたが、ミノフスキー粒子が濃くて映像が届かない。かなり素早い機体らしく、アステロイドを使って上手く攻撃を回避している。……近くに寄られればグロムリンでも厳しいか。

「第5、第6も上空に向かえ。アンリ博士の指揮下で敵を包囲、殲滅しろ」

 上空の敵に関わっている間に奇襲など考えたくも無い。先ほどの敵の攻撃は、煙幕が張られてからはアンリ博士のグロムリンの砲撃があったればこそ、敵MS隊を後退に……其処まで考えたエリクの耳に、叫び声が響いた。

「上空から着弾!スモークです!……間隔10……いや、8分に短縮!」

「さっきから煙幕ばかり……一体何を」

 そのとき、エリクの耳を叫び声が叩いた。

「ギャっ!?両腕が……!?脚も!?」

「カメラがやられ……ああっ!?」

「ヴっ!?」

 いきなり三名……谷の東側の尾根を守っていた第8小隊から。反応は消えずにいるから撃墜はされて……反応が一つ消えた。一機はコクピットをやられたらしい。しかし、敵の反応がぜんぜん無かった。ミノフスキー粒子の濃度が高いとはいえ、谷の中では途切れ途切れではあるが通信が可能だ。そして通信が可能だと言うことはレーダーも距離はともかく働くわけで、敵機が侵入したとすればなんらかの反応が……

 そこまで考えたところで北側の尾根を守っていた第2小隊の1機の反応が消えた。エリクは確信した。レーダーに反応が無かろうが、敵機がここにいる。この煙幕、化物戦車の砲撃だけでなく、こいつをこちらに送り込む事をも考えてのものか!?……視界がある事を前提に作ったこの布陣では対応できない。仕方ない。

「マスドライバー施設へ。レールの方は放棄しろ。コンテナは加速器で射出する。この通信が聞こえている全小隊は加速器の防衛に移動しろ。布陣を送る。良いか、小隊ごとに警戒して後退。不審を感じたならばバースト射撃でいぶりだせ。敵機を確認次第、残存全機で攻撃開始」

 コクピット内のコンソールを操り、最終防衛ラインまで部隊を下げる。煙幕を晴らしたいが、下手に晴らすとこちらが砲撃される可能性がある。先ほどの化物戦車の砲撃を見ても、似たような砲戦力が敵にあるかもしれない。ならば、煙幕をこちらも利用するしかない。一定のラインまで後退して、そこで煙幕を晴らせばよい。

 問題は、そこまで何機の味方がやられるか。

 エリクは自分の小隊にも警戒陣形を組み、概略方向でよいから、敵がいると思われる場所にバースト射撃を行いながら後退するように命じた。流れ弾が味方に当る可能性があるが、90mmのバーストならば着弾は良くて1発。フィールド内に入ってしまえばゲルググのビームライフルは使えなくなるが、リック・ドムⅡを中心するほかの部隊なら問題はないだろう。ザクに当ったときはそれまでだ。

 エリクはゲルググにビームナギナタを抜かせると、発見次第、ナギナタを叩き込む体勢を取りながら後退を開始した。

 

「……気付かれたか。まぁ、それはそうか。ゲームみたいに早々パニックには陥ってくれないのも当然。いや、練度が高いからこうした局面にも対応できるのだろうな」

「そういう気分を味わうには難がありますよ、トール。しかし、茨の園のときと比べると落ち着いた様で何よりです」

 キットの言葉にため息を吐くと、サーモグラフィーを使用して敵の状態を荒く見る。三機ごとにじりじり後退を始めている。嫌な陣形だ。サーモグラフィーを使って一機ごとに煙幕を利用してしとめ、しかしこちらの姿は擬装用の増加装甲に加えられたミラージュコロイドで発見がされにくい。

 煙幕はおなじくサーモグラフィーを使って砲撃を行ったゾンネン少佐のヒルドルブⅡのためのものでもあるが、増加装甲を含めてセニアが色々いじくったため、サーモグラフィーからこちらのわけのわからない装備まで、完全な特殊任務用の機体に変わっていた。おかしいなー。元々は白兵戦用の機体のつもりだったのに、なんで必殺仕事人っぽい仕様に変わっているのだろう。

「ああいう系統の時代劇は趣味じゃないんだが……」

「セニアは良くリューネという女性と鑑賞していたようです。私もライブラリから拝見しましたが、あれがジャパニーズ・サムライやニンジャというものなんですか?」

「違う違う。アレをサムライといったら、それこそチャック・ノリスもありになる。個人的には剣客商売とかが好きなんだけど、ね」

「無外流、でしたか?あなたが斬艦刀という種類の武装を使わないのはそれが理由ですか?」

 左腕に持ったオルゴンソードを伸ばして一機、はぐれたらしいザクの胸を貫く。サイトロンとキットの補助を受けているから、斬艦刀から連接剣までイメージどおりに変化させられるのはありがたい。イメージしたのは分かれた剣がワイヤーでつながれながら、何処までも伸びていくイメージ。これだけではオルゴンを実体化できないため、不足するイメージ情報をキットが補い、サイトロンを介して伝えている。

 斬艦刀をイメージできない理由はここにある。あのサイズの刀を取りまわすイメージが自分には無い。もちろん試しに振るってみたが、普通サイズの木刀や竹刀、大きくても太刀サイズまでの経験しかないし、どうしても経験がある故に引き摺られてしまう。アレは、剣道とか示現流とかいうレベルの話ではない。

「というか、使っている自分をイメージできない。下手に習ったせいかも」

「補助にも限界がありますからね」

 その通り。キットが補助できるのは、"データとして存在する"イメージのみ。つまり、写真や映像などのデータが必要だ。また"存在"する以上、重量と慣性の問題も発生する。ギリギリ限界でベルセルクの"ドラゴン殺し"がいいところだ。勿論、それを使っている状況は当然限られる。それに、剣道や刀と言うものに下手な知識があるトールは、どうしても"叩き潰す"剣というイメージよりも"斬る"刀をイメージしてしまう。

 斬ることについての概念の違いはそのままオルゴンを武器としてイメージする際に細部の違いとなって現れる。"叩き潰す"ための剣を"斬る"ものとしてイメージしてしまった場合、その自重の重さからモーションが大振りになり、動きに無駄が生じると東方先生に指摘された。私は剣や刀に対して先入観が強いらしく、やはり日本人と言うこともあるため、刀を扱う術を学ぶべきだと諭されてしまった。

 そのため、斬る事、貫く事をイメージした武器については扱いがかなり上手くなったが、叩き潰す場合は棍棒状にでもしないといけない。ままならないが、それでよいかなとも思っている。別に無理して使う必要は無い。必要なら、それこそゼンガー少佐でも呼べば良い。ネート博士を呼んだんだから、護衛としても奮闘してくれるだろう。

 それはともかく、出来るだけ風を起こさないように、歩いて移動。スラスターは当然あるが、煙幕を揺らすわけにはいかない。やはりジオン残党の戦力、と言うか練度は高い。この状況でパニックを起こすものが少ないうえに、連携してさっさとレール式のマスドライバーを放棄した。判断も良い。固まられるとヴァイサーガでは骨だ。

 私は決心するとハマーンに呼びかけた。



 同時刻、月からコロニーを追う形で出撃した第5艦隊を追撃する形で、発進の準備を進めている艦があった。艦の名前はガーティ・ルー。モスボール状態を解かれて久方ぶりの出撃だ。既にいつでも出港できるように港湾部の入り口が上げられ、現在物資の最終搬入が行われている。

「ブースターの設置、終わりました!」

「よし、MSの積み込み急ぎな、デカブツは待っちゃくれないよ!」

 シーマの目の前に鎮座するバージニア級輸送艦にはサラミス級にも使用されている大気圏離脱様ブースターパックが追加されていた。勿論、月から地球へ向かうコロニーへの加速の為に用いるためだ。このおかげで、どうやら阻止限界点到着ギリギリにはコロニー近辺の空域に侵入が出来る。

 水天の涙にNシスターズにある全稼動戦力をつぎ込んだため、現在、トールが用いることが出来る戦力は、モスボール状態にして保存しておいたジオン系のものに限定されている。当然MSは誤認及び誤射を引き起こしかねないため使えないが、ゲシュペンストの海兵隊仕様バージョン(青系塗装)が6機、搭載されている。またモスボール状態を解かれたRFゲルググも同数搭載の予定だ。ジオン、連邦双方に対峙したときのためでもある(カラーはどちらにも見えないように、青系塗装だった)。

「しかしシーマ様、俺たちは何のためにコロニーへ?」

「トールは何か考えているんだろうさ。それに、これを機会に回収出来るものはしちまうんだとさ。宇宙に散らばるゴミ拾い、って所かねぇ。……それだけじゃないけどさ。まだいえないよ、デトローフ」

 コッセルは頷くと自分のゲシュペンストを見上げた。

「まさか、自分が恐怖の的のこいつに乗るとは思いもしませんでしたがね。しかし、セニア嬢にテューディさん、偉く豪勢に張り込んでますねぇ」

 そういいながらコッセルはMS格納庫から搬出されるゲシュペンストに視線を移した。地下の格納庫からエレベーターであがってくるのだが、以前、一度だけ覗く機会のあった格納庫は、"宇宙用のズゴック"やら巨大なミサイル、果てはガンダムタイプから用途不明の試作機まで新技術のオンパレードだったのだ。

 今回バージニアに搬入されているゲシュペンストにしても、背面部に大きく翼のようなユニットが追加されている。型式名RPT-007KP、量産型ゲシュペンスト改。背面部にテスラ・ドライブを装備し、重量軽減と大気圏内での飛行を可能にしている。海兵隊仕様ということもあって武装からF2Wキャノンは外され、装備自体は今までのゲシュペンストと共用するが、特に装甲面と機動性の向上が著しい。

 本来ならば腕部に装備されているはずのプラズマ・バックラーは海兵隊らしく手持ちのシールドに装備され、引き抜けばビームサーベル(実態はプラズマカッター)として運用も可能。海兵隊からは機体の外見はともかく、運用で慣れ親しんだゲルググマリーネと共通点が多いため、ゲシュペンスト・マリーネの名前が通称となりつつある。

「こいつでグリプスまで戦うつもりなんだから、張るのは当然さね。ここまでしてもらったんだ、一機も落ちるんじゃないよ」

「了解でさ!」

 コッセルは鈍く笑うと、外見からは考えられないほど色気のある敬礼をシーマに送った。シーマはコッセルに微笑むと、次に搬出されたMSを見て微笑みを止める。搬出されたMSはOMS-14SRF。一年戦争時のトールの乗機、シャルル・ロウチェスター専用ゲルググ―――この世界ではトール・ガラハウ専用ゲルググだった。



[22507] 第64話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/12/20 04:54

 その思念を受け取ったのは、大型MAの攻撃をアステロイドを使って避けていたときだ。アクセルさんの援護があるが、正直、ファンネルでも使わない限り、今のアンジュルグの装備で戦うには近接戦に持ち込むしかない、と思っていた矢先。トールが私を頼ることは珍しい。今までは、どちらかと言えば守ってくれたり、出来るだけ戦闘から遠ざけようとしていた向きがあるから意外だった。けれど、この前の何かで吹っ切れたのかもしれない。ちょっと可笑しい。

「アクセルさん、私は下に行きます」

 私は後ろから援護していたアクセルさんのソウルゲインに声をかけた。手に持っているビームライフルを向けて何発か打つだけ。効き目は見込めないけれど、パイロットではない博士相手には牽制にはなる。大分、距離を詰めたようだから後はソウルゲインの装備だけでも充分だろう。それに煙幕の距離も近くなってきた。

「おおし、援護する。こいつの射線に乗っからないようにな」

 頷くと、アステロイドに隠れながら煙幕の中に入った。煙幕で何も見えないがトールが何処にいるかはわかる。円陣を組んで加速器型のマスドライバーを守ろうとしているジオン軍の中に入り込み、全機の背後―――円陣の中心にいる。何を考えているかは良くわかった。NTの能力だが、ここまで考えが通じ合うのは信頼されている証拠でもある。

 単純に嬉しかったし、信頼されて戦力として当てにされていると言うことは誇るべきだ。良い変化だとも思う。

 トール、着いたよ。私は何をすれば良い?と思いながらトールのヴァイサーガとの接触回線を開いた。

「ファンネル。こいつら、恐らく円陣が完成したら煙幕の排除に入ってこっちを見つけ次第撃ちまくるつもりだ。だから、煙幕が晴れると同時に俺が上昇して囮になる。ハマーンは射線が上に集中した機会を狙って、ファンネルと装備の武器で攻撃してくれ。全滅は狙わなくて良いし、マスドライバーのことも考えなくて良い。上空のMAを倒したら、俺はあのでかいのを狙う」

 あのでかいの。恐らく、ジオングに似た武器を使うアインスとか言うMA。乗っている人間から受ける感覚が気に入らない。何か、嫌な目的のために使っていることが解る。それに、自分に向けられた心配の念を無視しているところも気に食わない。誰かが思ってくれていることは、とても幸せなことなのに。

「了解。無茶はしないで。あのMAのパイロットは気に食わない。けど、かなり強いということだけはわかる。多分、サイコミュの扱いは私と同じぐらい……一年戦争のときのシャアよりも上手いはず」

「解っている。乗っている人間がどんな奴かも知っている。……大型メガ粒子砲の直撃を喰らわない限りは大丈夫のはずだ」

 そういう事を言っているんじゃないんだけど。トール、サイコミュの扱いが私より上手いって言うことは、接近したときにサイトロンが混線する可能性があるって言うことだよ?そうなったらキットの補助しかなくなるわけだから、危ないって意味なんだけど。それから、乗っている人間が知っている人間だからって、戦場で下手に情けなんてかけるのは……

「……解っているよ、ハマーン。アクシズを切ったときからある程度予想はしていた」

 ふう、其処まで考えているなら良いんだけど。でも、トールは結構こちらの考えを無視して無茶してくれる。油断は禁物だ。このひとは、他人がかかわらない限り自分の安全については二の次にしてしまう。システムのおかげで死んでも生き返るらしいけど、それを見る気は私には無い。

「本当にそう思えるなら良いのだけど。思っている方からすると、私みたいに心を読めないと浮気を疑うわ」

「……やっぱり誤解されるよなぁ、普通」

「私は誤解していないから大丈夫。セニアたちのことは知らない」

 困り果てる思考を送ってくるトールをほほえましく感じた私は、接触回線を開いている左手をつないだまま、トールのヴァイサーガをゆっくりと上に押しやる。せっかく、トールと一緒にこうして戦えるのだ。見栄の一つも張ってみたい。ゴメンナサイ、ジオン軍。私はあなたたちに恨みは無いけれど、ザビ家は嫌いだし、そのザビ家のために戦うあなたたちは好きにはなれない。

 でも、思い返すとこの人たちも本当にザビ家のために戦っているのかしら。ただ、自分たちの戦う理由になるだけで、ザビ家万歳を言っているような気がしてならない。地球に暮らしている人たちの安楽さを見ると心に恨みが生ずるけれど、それをそのまま言ったのでは体裁が悪いから、理想を掲げて戦争をしている、恐らくそんなところだろう。

 そして、その体裁の悪さを隠すために、別な私は犠牲になった。別な父と別な姉、別な妹は犠牲になった。恐らく、戦争の最初の目的はどこかに行ってしまったのだろう。戦いそのものが目的になってしまったんだろう。

 トールの悲しみが伝わってくる。けれど、私はこの感情を捨てる気にはなれない。この人たちは、象徴がいる限り戦う。恐らく、象徴がなくなっても戦う。ただただ、自分の不満をごまかしたいが為に。そんなことの為に戦い、人を犠牲にする事をいとわない。だったら。

「ジオンは嫌い。ザビ家も嫌い。そんな奴らに仲間するのも嫌い。……ジオンは、嫌いだ」

 背面両側の、文字通りのウィング・バインダーに格納された左右6基、合計12基のファンネルを一斉に起動する。上にいるヴァイサーガに手を伸ばし、周囲にファンネルという名の羽を散らすその姿は、地上に手づから舞い降りた、天使のように見えてくれることだろう。そんなことは如何でも良い。でも、ジオンを嫌う気持ちはそのまま、ジオンに属するものたちを追い詰めてくれるだろう。私の、このファンネルで。

「行け、ファンネル」



 第64話





「天使!?」

「羽をつけたMS!?」

「踊っている……天使と踊っているだと!?」

 煙幕が晴れた瞬間、2機のMSが、そして続いて3機のMSが撃破されたと同時に、攻撃を受けた背後を振り返ったジオン軍残党は、そこに天使の姿をしたMSと手をつなぎ、今まさに上昇をかけようとしている、マントを羽織ったゲシュペンストの改造機らしきMSを見た。まるで、バレエの一場面を見ているかのよう。

 しかし、目の前で踊っているのはダンサーではなくMSだ。パイロットの中には人間そっくりの、いや人間以上のバランス感覚で運用される2機のMSを見た瞬間に、自分たちの使っているMSとの技術格差に思い至り、即座に手に持ったマシンガンを向けるザクがいた。しかし、直後に撃墜。天使の羽らしき物体が宙に浮かんでおり、その羽の根元からビーム光が出たのだ。

「……なんだあの装備は!?」

 いち早く正気を取り戻したエリクは自分のゲルググをすぐさま手近な施設の影に入れる。羽の羽毛の部分から、見慣れた推進剤の炎をきらめかせながら動き始めた羽は、根元の部分からビームを次々に放ち、円陣を組んで固まっていたMS部隊を撃破する。ビームの出力はそれほどでもないらしく、直撃した部分は融解にとどまっているものの、如何せん数が多い。

 4本のビームをあらゆる方向から浴びたリック・ドムが、融解部分がジェネレーターに達したらしく爆発する。ランドセルを直撃されたザクが爆発に吹き飛ばされ、腕にビームを受けたリック・ドムが武器を失う。何だこの兵器は?ミノフスキー粒子の散布下においては、誘導兵器の類が使用不可能になっているのは常識だ。

 しかし、今現在エリクの目の前で行われている行為は、その常識を吹き飛ばすものだ。そして気付く。ああ、そうか。アレはイカルガ中尉の使用している武器の発展形なのだ。有線通信も、有線の中を走る電磁波がミノフスキー粒子の影響を受けている以上、有線であるために影響が少なくなるとはいえ通信障害が発生する。だから、サイコミュとか言う、ミノフスキー粒子の影響を受けない電波を発生させる機械を搭載していると聞いた。

 アクシズの技術士官から解説を受けた事を思い出す。そしてゆくゆくは、ミノフスキー粒子によってこの世界から消えてしまった、無線誘導兵器の再登場……やられた!連邦か月の部隊かは知らないが、奴らもサイコミュを開発していたのだ!

 そんな事をエリクが思っている間に、羽の形をした武器は戦場を乱舞して次々にMSを撃破していく。更に、上空から降下してきたヒゲがついた男性型MSが、下の方でマスドライバーのレールを壊し始めた。イカルガ中尉のアインスが砲撃を開始するが、命中もしなければ敵機の回避に追いつかない。それに、運良く命中したビームも装甲にはじかれてしまった。

「この部隊はなんなんだ!」

 エリクは叫ぶと、生き残っていたらしいインビジブル・ナイツを率いて―――総計28機を数えた部隊も、気付けば既に10機ほどだった―――加速器式のマスドライバーを背に防衛線を再構築する。対空迎撃―――隕石撃墜用の大型メガ粒子砲に俯角をかけさせ、狙える範囲に敵MSが入った瞬間に撃たせるように基地の兵士に伝えると、側面からの攻撃を行うべく、1機のゲルググ―――をつれて塹壕代わりに使用したクレーター丘の背後から右側面に回り込もうと試みる。

 そこに、上空から何かが落ちてきた。轟音と共にクレーターの尾根部分に激突し、機体を構成していたらしい部品をばらばらに撒き散らしながら谷底へ。長い首らしき部品。側面部を構成していたらしい装甲板。小規模な爆発を次々と、機体中に刻まれた斬られた痕から噴出し、更に内部部品を飛散させながら、グロムリンが谷底に落ちる。

「まだ、10分も……!?」

 エリクのゲルググの前に、天使のMSが立ちふさがった。いつの間に、と思って味方を確認すると、今しがた最後に残ったMSが破壊されていた。見忘れもしない、あの剣を構えたMS。トール・ガラハウ少将の仇の機体に良く似た、二本の剣を振るうMS。一本は普通のヒートブレードらしいが、もう一本は……なんだ?クリスタル?長さが……

「連邦軍の……ナハト系の機体なのか?」

「いいえ、違うわ」

 混線した通信回線に、目の前のMSから女性の声が響く。暗く、冷たく響くその声はまた同時に幼く、か弱く、儚げでMS戦という雰囲気にふさわしくないことこの上ない。実際に幼いのだろう。士官学校に進む事をタチアナが決めた日、その思い出の声に近い。乗っているのは少女、か!?

「連邦でもジオンでもない。あなたたちが、嫌いなだけよ」 

「誰だか知らないが、ジオンの理想の邪魔はしないでもらおう!」

 エリクはゲルググのナギナタを接近させて振るうが、相手は見透かしていたのだろう。すぐに距離をとるとビームサーベルを抜いた。しかも恐ろしいことに、その近接戦の動作を取っている間にも羽が動き、周囲のMSに攻撃を浴びせている。

「理想。便利な言葉。その言葉にもう意味は無いのに。スペースノイドが独立した今、あなたたちは何のために戦っているの?」

「私は戦っている!地球から宇宙を見捨てた人々に剣を振るう!見捨てられた宇宙に咲く、ジオンの理想を掲げるために!」

 味方への攻撃をやめさせるためには、この機体を撃墜するしかない。中に乗っているだろう少女を殺すのは忍びないが、仕方ない。そう決めたエリクは距離をとられないために接近を繰り返すが、そのたびに距離をとられてしまう。どうやら、彼女もサーベルこそ抜いたものの、周囲のMS隊に気を回しているため、積極的な攻撃までは気が回らないようだ。

「サイコミュを使えると言うことは君もニュータイプだろう!?何故ジオンの、スペースノイドの為に戦わない!?今のスペースノイドのおかれた状況は連邦の欺瞞だ!月とサイド1を申し訳程度に独立させて、戦争の損失を全てサイド3に被せる!それが連邦のやり口だ!」

「8億人殺されたにしてはずいぶん軽い処置。それに大量破壊兵器の投入を図った側には言えない。それに、ジオンは戦争に負けたの。敗者は勝者のいう事を聞くのが戦争の約束でしょう?あなたたちだって、連邦が負ければ立場が逆転していて、しかもその立場を肯定していたはず。いまさら往生際が悪い」

 痛い所を突かれる。言われた内容はエリク自身が疑問に思っていたことだ。ア・バオア・クーでの降伏。そのときに見上げた、月の後ろに見える地球。降伏を知らされた時に、"負けた"と感じることが出来なかったのが自分がここで戦っている一番の原因だ。

 そして、見てしまったのだ。戦争を全く知らなかったサイド3を。戦争前と、変わらないままのサイド3を。

 一年戦争が開始されてから、一度も戦場となる事無くレビル将軍の進駐を受けたサイド3は、第一連合艦隊が紀律厳正であったこと、首都防衛大隊や、本国師団の降伏と治安維持部隊としての承認故に、戦争を実感することも無く敗戦を迎えた。サイド3住民の知る"戦争"とは、プロパガンダ放送の流す景気の良い戦勝宣伝だけ。

 しかも、食料及び衣類の不足が無く(農業プラントで自給可能)、太陽電池による生活電力の供給と言う、スペースコロニー特有の生活環境は彼らに生活面でも負担を強いることが無かった。戦争の負けを実感させたのは唯一、クリスマスに行われた首都防衛大隊のクーデターぐらいなもの。それすら、1バンチのズム・シティだけで終わってしまった。

 そして彼らは敗戦を知り、敗残兵を迎え、戦後の賠償・難民問題に直面する。それがどういう結果を生むかは明らかだ。0080年のサイド3では、帰還兵は労働力以外では厄介者の負け犬としか映らなかった。特にそれは前線でMSパイロットとして奮戦した、港湾・建設労働者に対して強かった。

 戦争が始まる前に港湾での荷揚げ、宇宙空間での建設作業にワーカーを用いていた経験がモビルスーツの操縦に生かされたことで、戦争中は主力の花形に押し上げられ惜しみない賞賛を受けた彼らは、敗戦後には敗戦の総責任者の位置を押し付けられた。息子娘の責任を取りサイド3の被害を抑えるべく一身をささげたデギン公王は勿論批判対象ですらなく、槍玉に挙げられるべき残ったザビ家、キシリアは処刑された。

 サイド3の住民には、年が変わると共に押し付けられた負債と屈辱から生まれる憤懣をぶつける対象が必要だった。軍人とMSパイロットは、身近にいるそうした対象として好適だった。そして艦艇乗組員がそれに続かされた。誰もが、誇りある独立の勇士から、厄介者の敗残兵に零落れたことに我慢がならなかった。

 そして彼らは"残党軍"となった。

「私は……ジオンの理想を!」

「……そう」

 幼いその声に恐怖を感じたエリクは、サイド3で手荒い歓迎を受ける友軍を見たあのときを思い出す。帰還兵の、うつむいた敗北感あふれる行列に投げ込まれる卵、トマト……いや、それどころか生ゴミに消火器、果ては唾や汚物。連邦軍の兵士が間に入り取り押さえるが、住民の憤懣は収まらない。

 あんな扱いを受けるために我々は戦ったんじゃない。独立。独立のためだ。

 少年らしい理想は敗北と憤懣の前に消え、解決しようの無い虚無だけが残る。そして戦いの中でそれに視線を向ける事を忘れ、"星の屑"と"水天の涙"という大作戦を前に一年戦争の自分を取り戻し、"理想"を取り戻しかけたそのとき。この天使のようなモビルスーツは、それを私から奪っていった。少女らしい、直接的な問で以て。

 気がつくと、体が振るえていた。呼吸も荒く、喉が異様に乾き、目の奥に痛みを感じる。何か、全てを覗かれているような気分。思い出したくない事を思い出したのは、この"プレッシャー"のせいか、と目の前のモビルスーツを見返す。天使のようなその姿と、天使が告げるものである"死"を重ねさせたとき、言い様の無い恐怖がエリクを襲った。

 見栄も外聞も捨てて機体を翻すと、他の小隊と戦いながらアインスのほうへ向かっている、あの仇―――トール・ガラハウ少将を討ったMSに似た機体に向けてゲルググの小隊を動かす。恐怖、いやプレッシャーか?そんな考えが頭の隅をよぎるが今は関係が無かった。この恐ろしさから、ガラハウ少将の仇を討つ事を言い訳に逃げる方が先だった。後ろで何が起こっているかは、振り返りたくなかった。

 興味をなくしたらしい天使は、仇に似たMSが攻撃を仕掛けている巨大MA―――アインス・アールへ向けて翼を振る。頭上を飛び去る敵機を見つめるエリクの表情には、恐怖と畏怖、屈辱と自戒が、そしてそれよりも強い、渇望に似た真情が表れていた。



 円陣の中心でアンジュルグがファンネルの全基使用によるオールレンジ攻撃をしていた最中。アンジュルグと交代してグロムリンに対峙したトールのヴァイサーガは、サイトロンとサイコミュの併用による感覚と反応性の強化でメガ粒子砲の砲撃を難なく避けていた。しかし攻撃はしていない。

「サイトロンの運用は順調。NT用の機体でも、NTが乗っていない限りは混線の可能性は大丈夫のようです。追従性もコンマ0.01内に収まっています。人体と変わらず動かせるようです」

 キットの声がコクピット内部に響く。モーショントレースシステムの調子は良い。確かに動きに支障は無いようだ。

「やっぱり鍵は乗り手か」

 そういいながら操縦桿を使わずにメガ粒子砲を回避させ、アステロイドベルトの間を縫うように動かす。感覚の補助をキットに頼んでいるが、操縦桿を使わずにサイトロン及びサイコミュのみの操縦だ。勿論、途中途中でサイトロンのみ、サイコミュのみに切り替えている。

 幾つか実験してみた結果、反応速度と追従性の劇的な向上が出来るものの、NT相手では混線してしまう可能性が高いサイトロン、反応速度と追従性が慣れるに従って向上するが、感覚が掴み難い上に反動が凄まじいサイコミュとそれぞれに一長一短があることがわかった。キットの補助があれば両システム共にかなり使えるレベルまで伸びるが、サイトロンを使った場合は相手の能力による様子だ。NT以外には基本無敵、と。しかし、だからといって東方先生に勝てるとは絶対に思えないのだが……。

「こうなったら!」

 混線したらしい通信回線から、グロムリンに乗ったアンリ博士の声が聞こえる。こちらの簡単な排除が出来ないと悟るや、彼本来の目的であるグラナダ市への攻撃に切り替えるつもりになったようだ。周囲を確認し、ハマーンがMS隊と、アクセルがMAと戦闘に入っている事を確認し、位置関係から自分の行動を決める。

 ヴァイサーガが反応だけではなく姿そのものを消したと思った次の瞬間、緑色の光と共にグロムリンの目前に現れた。

「行かせない」

「バカな!?」

 いきなり目の前に現れたヴァイサーガに驚くグロムリン。オルゴン・クラウドの方も順調、と。トールはもっとも確認したかった装備が問題なく動作したことで安堵のため息を洩らす。これが動くなら、こちらも大丈夫だろう。

 ヴァイサーガが二本の剣を抜く。右腕はア・バオア・クーでも使用した五大剣。今回は問題なく、五つの動作モードが稼動するようになっている。そしてもう片方はオルゴンソード。ライフル兼用で用いることも出来る。しかし、双方共にアンリ博士の目には実体剣としか見えていないはずだ。片方が通常通りのヒートブレードで、もう片方が新素材の、というぐらいだろう。

 そしてそう判断した彼らしく、こちらが追撃のための武装を持っていないと思って逃走に入った。しかし、こちらには遠距離にも届く武装が充分にある。

「オルゴンソード、イメージ開始……連接剣」

 叫ぶと同時に左手のオルゴンソードを振るう。イメージは連接剣。刃はV字型に分かれ、それぞれのパーツを鎖がつないでいる。そして刃の後ろに仕込まれた小型アポジモーターで敵機の追撃が可能なタイプ。自分の考え、想像したとおりの武器を左腕に持っているイメージ。よし、重なった!

 イメージが完成した瞬間、振るわれてグロムリンに向けられていたグリーンのクリスタル状の刃が次々に分かれ、間に同じグリーンの鎖でつながれながら、"元の長さを逸脱して"グロムリンに迫る。同時にスラスターを吹かしてグロムリンへ接近を開始する。連接剣はまるで生き物のように蠢くとグロムリンを絡めとり、雁字搦めに縛りとる。

「本職のパイロットでないこと、グラナダに気を取られていてよかった」

「なんだと!?」

 通信が混線したらしく、発言が聞こえたらしいアンリ博士の驚いた声が聞こえてきた。この世界では博士が先に死ぬ、か。シン・フェデラルの目はあるのだろうか。いや、そんな事を考えている暇は無い。

「オルゴンソード、連接剣・マインモード」

 もう一度先ほどと同じ。今度は連接剣の各部分が吸着地雷に変わったイメージ。こちらの方はケンプファーのイメージがあるからやりやすい。炸薬の化学式をイメージし、そのイメージで剣の中を満たす。そして、起爆。グロムリンを包み込むように連続した閃光と爆発が生じ、機体をばらばらに砕いてゆく。手元のパーツまで爆発しそうになり、あわててイメージを元通りに。

 よし。これでまず一機。

 同時にハマーンから暗い情念を感じ取る。そして対するエリク少佐のものらしいゲルググから恐怖を。ハマーンめ、プレッシャーを使ったな。能力に慣れてゆくにつれて、あのグリプスで見た、冷たいハマーンに変わっていく感じを受けて仕方が無い。考え付く解決法が、シャアと同じような方法しか見出せないのがもどかしく、また苦しくもあった。


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 この戦闘はまだオードブル程度なのに……終わらない。



[22507] 第65話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/12/20 06:47


「さっきからうろちょろうろちょろ!当たってよ!」

 ヤヨイ・イカルガは上空から降下してきたヒゲのMSを相手に苦戦していた。NTらしき思念は感じないが、感じないくせに動きだけはNT用MSと同じ様な動きをする。腕の有線ビーム砲をするするとすり抜け、マスドライバーのレールを攻撃しながら腕からのビームでこちらに反撃を加えてくる。厄介なのは、この機体は近接格闘戦に特化した機体のようで、それゆえにIフィールダーが全く役に立たないことだ。

 ついに我慢の限界を迎えたヤヨイはIフィールダーのリンクを閉ざすとビグ・ザム2機の遠隔操作を開始。大型メガ粒子砲を援護射撃に、有線ビーム砲と同時に使用し始めた。大型メガ粒子砲の直撃は見込めないから移動を制限するように用い、追い込んだ先に有線ビーム砲のオールレンジ攻撃を加える。

 ところが、其処に上空から二機目のMSがやってきて有線ビーム砲を伸びる緑色の剣で撃墜してしまった。有線コードを斬り、ビーム砲そのものを伸びる剣で貫く。厄介なことに、二機が連携をとってこちらを攻撃してくるからたまらない。二機目のMSも近接戦闘用らしいが、こちらはヒゲとは違って中距離用の装備も持っているらしい。ある程度距離が離れると撃ってくる左腕のライフルが邪魔臭い。

 視界の端にエリク少佐のゲルググが三機目のMSに追い込まれかけているのが見えた。危ない。あの天使のようなMSも危険だ。決意したヤヨイはアインスの背面部に搭載されているショート・ビットを起動した。一年戦争時、エルメスに用いられていたビットの小型版。ジェネレーターを小型化し、推進剤の容量を増やして長時間使用できるようにしたものだ。ゆくゆくはジェネレーターを充電器に交換して更に小型化する案が出ている。

 ショート・ビットが起動し、周囲に乱舞を開始する。有線ビーム砲も加えた、完璧なオールレンジ攻撃だ。しかし、二機のMSはそれを避け続ける。あれ?二機目、剣を二本持ったMSが、一度動きが悪くなってまたよくなった。サイコミュを通して感じられる敵意……困惑?困っている?なんだろうこの感情。けれど、あの機体は狙い目だ。

 感じた内容から二機目―――ヴァイサーガを組し易しと見たヤヨイはショート・ビットと有線ビーム砲の包囲網を徐々に狭めてヴァイサーガを追い込む。同時にヒゲのMS―――ソウルゲインに邪魔をされないように、ビグ・ザムの大型メガ粒子砲と生き残った対空メガ粒子砲を使って、徐々に二機の距離を開かせる。

「こういう時には一機ずつしとめる、常識でしょ!」

 そうした考えはビットに伝わり、これまでとは違って動きがあからさまになる。そこからビットに包囲されかけていると気付いたヴァイサーガが周囲のビットに向けて長く伸びる剣を振るう。剣の軌道が分離したそれぞれのパーツに内蔵されているらしいアポジモーターで微調整されてビットを撃墜し始めるが、一回振るうごとに撃墜できるのは良くて一つ。オールレンジ攻撃の回避優先だから、徐々に追い詰められていくのは変えられない。

 サイコミュのレスポンスのよさにヤヨイは舌打ちするが、いまさらどうしようもない。アインスを上昇させ、ビグ・ザムの対空メガ粒子砲と合わせる形で飽和攻撃を試みるが、この二機、それを避けてくる。いい加減にしろと言いたくなった時、ショート・ビットの反応が3つ、一斉に消えた。

 はっとしてサイコミュに意識を向けると、新たに感じる敵意が一つ。あの天使のMSのものだ。ああ、変なMSに拘っている間に。サイコミュを通じて感じた感情は、あの剣士型のMSに向けた思慕の念と、その機体を守ると言う強い決意。気に入らない。こっちはそうした出会いなんて全然無かったし、声をかけてくれたのはくたびれたオッサンだけだと言うのに。

 そして次に感じたのはこちらに対する強い敵意。理由はわからないが、私と言う存在に対してかなりの敵意を感じている。プレッシャーがサイコミュを通じてひしひしと感じられるが、これぐらいの強さなら大丈夫、とヤヨイは鼻で笑った。高いNT能力を持ってはいるが、私ほどじゃない。

「気に入らない奴、墜ちろ!」



 第65話


「っ!ファンネル!」

 こちらに向けられたあからさまな敵意を感じ取ったハマーンは即座にファンネルを展開する。アンジュルグのフェザーファンネルは12基に対してアインス・アールのそれが20以上、向かってくる。しかし、アンジュルグに達するまでにトールのヴァイサーガとアクセルのソウルゲインが4基ほどを撃墜する。

 いや、それだけではなかった。トールのヴァイサーガがハマーンのアンジュルグの前に立つと、オルゴンソードを掲げて叫ぶ。

「オルゴンソード、モード・ナインテイルズ!」

 声と共に伝わってくる恥ずかしげな感情に苦笑する。スーパーロボット系列の装備は音声入力が基本よ、とは開発調整を行ったセニアの言っていたことだが、トールの趣味には合わないらしい。叫び声と共に幾多の、如何見ても9以上に細かく分かれた刀身がまるで雨のように広がり、振るわれると共にこちらに向かってきたファンネルを一気に10以上叩き落す。

 オルゴン系の武装がイメージによって変われるからといって、こんな。まったく、トールの発想は面白い。そんな感想を抱いたハマーンはファンネルのコントロールに意識を集中し、残ったアインスのショート・ビットに照準を合わせる。数が少ないなら相撃ちでも良い。そう判断したハマーンはわざとフェザーファンネルにショートビットとの位置を調整させて相撃ちにもつれ込ませる。まだ残っている可能性もあるから、まだ気は抜けない。

 でも、これでアインスの手数は減らしたはず。ハマーンはほっと息を吐くとヴァイサーガの援護をすべく、残ったファンネルを従えながらヴァイサーガの後ろに続いた。



「嬢ちゃんも無茶するが、あの装備もいい加減反則だよな」

 そうつぶやきながらアインスの肩に一撃を叩き込んだ機体を離れさせ、射線がかぶらないように機体を地形を利用しながら移動させつつ、アクセル・アルマーは張り詰めていた息をつく。ヴァイサーガとアンジュルグが参戦するまで、一機でアインス・アールを抑えていただけあって疲労の色が濃い。しかし、色とは別に愉快気だった。

「大体、相性が良いんだか悪いんだか、っ!」

 地形を利用して尾根の下から近づき、遠隔操作で動くビグ・ザムの脚部に舞朱雀を叩き込み、両足を切断して擱座させる。しかし、まだ股の間のバーニアが無事だ。アインスの意識がアンジュルグとヴァイサーガに言っている事を確認したアクセルは、そのまま上昇してビグ・ザムのバーニア部分に白虎咬を打ち込んだ。

「腕からのビーム、出力が!?そんな機能が……」

 混線したらしい無線から、操縦者らしき女性の声が響く。そりゃそうだわな。腕からビームで出力調整が可能とか、どこのアクション漫画かと思うだろうよ。しかし、良い一撃だ。にやりと口元をゆがめたアクセルが機体をもう一度谷に沈み込ませるため斜面を滑りながら降りていくと、バーニア部分に直撃を受けたビグ・ザムは推進剤に火が走り大爆発を起こした。

「まず一機、もらった」

 アインスの意識がこちらに向いた事をうなじに感じた寒気で察知したアクセルは、射線をかわす為に谷を縫って機体を動かす。寒気はすぐに消えた。ヴァイサーガとアンジュルグが相手の注意をひきつけてくれたようだ。遠目に見た二機が、如何見ても連携以上の動きを見せてアインスに対して攻撃を仕掛けているのを確認したアクセルは、笑いを大きくしながら二機目のビグ・ザムに近づく。こちらは尾根の上で擱座しているため、バーニアが狙えない。

「砲台代わりに過ぎないってもな、いるだけで邪魔なんだよ、青龍鱗!」

 如何見ても青龍鱗というよりはかめはめ波がお似合いな動きとそっくりの青い光がビグ・ザムを直撃する。大して効いている風には見えないが、直撃の衝撃で機体が動いた。ビグ・ザムへの直撃に初めてアインスの注意がソウルゲインに向く。

「あっ!やられた!」

「そうそう思い通りには行かせないってね!運が悪かったな」

 先ほどから続くアインスの動きから、ヴァイサーガかアンジュルグを一定の場所に追い込んでビグ・ザムの大型メガ粒子砲で片付けようとしていた事などお見通しだ。まだ残っているショート・ビットと有線ビーム砲の動きを見れば、二機が追い込まれるのが避けられないのはわかった。だったら撃つ方を如何にかしてしまえばよい。

「墜ちろ!」

「よそ見してて良いのかな!?真後ろからバカップルのお出ましだぜ!」

 実質一対三の状態となってしまい、そして機体性能とパイロットの腕からして、この状況に追い込まれた以上、アインスに勝ち目は無い。あちらも薄々だが勝ち目が無いことは承知しているらしい。何とか一機、それも動きからしてアンジュルグに狙いを定めているらしいから、こちらはゴキブリのように動いて邪魔してやれば良い。

 アクセルの状況判断は背後からの攻撃に再びアインスが反撃したことで裏付けられた。射線が重なる対空メガ粒子砲をビグ・ザムも放ち始めた。良い傾向だ。そうするより他は無いとは言え、こちらの狙いどおりにことが運ぶのはいい気がする。

「メインディッシュは奴らにやるが……もう一機は俺がもらう」

 アクセルはコクピット内のスイッチ類に手を伸ばし、ソウルゲインのリミッターを解除していく。ジェネレーターの出力制限が解き放たれ、抑え切れないエネルギーが両手のビーム照射口からあふれ、青い光に両手が包まれる。

「リミット解除……」

 ソウルゲインがその言葉と共に空中に飛び上がる。ビグ・ザムの対空メガ粒子砲が撃墜すべく放たれるが、機体各所のスラスターを吹かし、機体を小刻みに動かし避ける。跳躍が頂点に達したとき、シャドー・ボクシングをするかのように両腕を激しく動かし始めた。同時にジェネレーターからのエネルギーに口が開かれる。

「何よ、これ!?」

「コード麒麟!」

 相手の声など気にしない。連続して放たれた片手での青龍鱗がビグ・ザムの機体全体を包み込むように着弾し、センサー類や装甲の弱い部分を貫通して痛打を浴びせる。周囲に着弾したものは砂煙を吹き上げ、機体の姿を隠した。ビグ・ザムの姿が砂煙に包まれる直前にソウルゲインが接近する。

 ビグ・ザムの頭部に踵落し。上空からの加速がついた踵はビグ・ザムの頭部を粉砕すると機体に脚部を大きく沈み込ませて停止する。そのモーションから回し蹴りにつなげ、ビグ・ザムから機体を離すと再接近。ソウルゲインは振りかぶった拳を連続してビグ・ザムの巨体に叩き込む。一発ごとに装甲を大きくへこませ、擱座した状態から谷へと転げ落ちるビグ・ザム。そこにソウルゲインは機体を回転させて蹴りを叩き込んだ。大型メガ粒子砲の発射口に突き刺さる。

「そんなMSの動きってアリなの!?」

「知るかよ、でぃぃぃやっ!」

 ビグ・ザムに深々と突き刺さった脚をそのままに、谷の斜面を掴んでビグ・ザムの巨体を蹴り上げる。両腕を交差させてブレードを高速振動モードに切り替えたソウルゲインは、機体を浮かせたビグ・ザムにとどめの一撃を叩き込んだ。ブレードがビグ・ザムの巨体に深く食い込み、長さの関係から両断とまではいかなかったものの、中心部を深々と抉られ、断たれたビグ・ザムはその部分を中心に真っ二つに折れながらゆっくりと崩れ落ち、大爆発を起こした。

 アラーム。どうやら、麒麟に熱を入れすぎて機体のどこかに異常が発生したらしい。アクセルは鼻で笑うと機体を引き下がらせた。あとはあの二人に任せておけばよい。俺の仕事はこれで終わり、だ。



 目の前で大爆発を起こしたビグザムに気を取られた隙を突き、接近する二機に対する反応が遅れた事にヤヨイは絶望した。目の前で連邦軍のMSを、ソロモンで紙くずのように撃墜したはずのビグザムがたった一機のMSに二機も撃墜されたことが信じられなかったためでもあるが、それは致命的なミスにつながってしまった。

「ビット……数が少ない!」

 墜されすぎた。牽制か一刺しに使わないと!これまでのビット使用を機体各所のメガ粒子砲、有線ビーム砲との併用に切り替えるヤヨイ。しかし、二機の敵機には堪えた風がない。こちらの攻撃を先読みでもしているのか、小刻みな動きで避けてくる。しかも、後方の天使型は機会あればこちらのビットとビーム砲を狙ってくる。なんとかして剣士型を近づけようとしているらしい。

「あの天使だけじゃなくって、剣士の方もニュータイプとでも言う気っ!?」

 まるでダンスでも踊っているかのように避ける二機。厄介なことに、片方に対する攻撃をもう片方が阻止する形を繰り返して接近してくる。ビームを弾くらしいマントでこちらのビームを遮ったかと思えば、後ろからのサイコミュ兵器でビットや有線ビーム砲を撃墜する。背後からの一刺しを狙ってビットを天使型に動かせば、伸びた緑色の剣がそれを撃墜する。嫌になってくる。

 その互いを重んじた動きにヤヨイは苛立ちを隠せない。薬物によって強化された精神は、刷り込みによって更に狭められながら強められ、彼女に素質以上のニュータイプ能力を与えている。彼女の場合、強められた精神は出世欲―――もっと言えば他人に認められたいと言う感情だ。だからこそ、同じニュータイプであり、そして"誰かに"認められているらしい天使のMSに対して敵意を抱く。

 理由はそれだけではない。ジオンの理想などにかけらほどの価値も見出していない彼女に取り、この戦いに参加した第一の理由はエリク・ブランケだった。家柄もよく、地位も高い。自分には無かったものを持っている人間に自分を認めてもらうことの喜び、それを彼女はこの作戦の前に知ってしまった。エリクがかけた優しげな言葉を薬剤の助けもあって拡大解釈させたのだ。

 彼女の認識においては、天使のMSはそうした思いを抱いた男性を傷つけた許されないMSなのだ。そしてその思いは天使のMSを守るように剣を振るう剣士型のMS―――ヴァイサーガに対しては更に強くなる。これ以上ない邪魔者ゆえに。"自分"が失ったものを、"敵"が持っている証だから。ニュータイプ能力で解る。あの剣士型は、あの天使型にとっては、私にとっての少佐以上だと。

「墜ちなさいよ!」

 不意にヴァイサーガが消えた。そして次の瞬間、機体を揺るがした大きな衝撃に、彼女は体を激しく目の前のコンソールにぶつける。シートベルトが体に食い込み、衝撃で強められたGが彼女の体に切り裂くような痛みを与える。気がつくとアインスの左肩が外れ、谷に落ちながら爆発。更に機体が揺さぶられた。

「どこ、何処よ!?」

 左側に確認した機体が消え、右側に現れると同時に蹴りを放つ。アインスが反時計回りに回転し、体に更なるGがかかる。甚振ってでもいるつもりか。回転する機体を立て直しながら、腹部の拡散メガ粒子砲を放つが当然命中はしない。スラスターが巻き上げた砂煙に直撃し、空中に火花を散らす。いけない、見失った……

 下!?

 機体の下側に敵意を感じたヤヨイがアインスを地面に向けた時、通信から掠れた声で叫び声が聞こえた。

「……コード入力、光刃閃」

 その声が終わると同時にアインスに連続した衝撃が走った。斬られている。そう感じながらコクピットの側壁に大きく体をぶつけたヤヨイは意識を失った。




 1回目、下から斬り上げた剣が、Iフィールダーの主要構成部品であるフィールド発生装置が収められている機体下部を両断。
 2回目、オルゴン・クラウドで背後に移動し、右肩部分を斬りおとす。
 3回目、機体下部のスラスター類を推進剤タンクごと斬りおとす。
 4回目、2回目と同様にオルゴン・クラウドで移動しアインスの真正面から、袈裟懸けに五大剣を振り下ろす。ジェネレーターに沈み込んだ事を確認すると、即座に刃を返して斬り上げ、コクピットがある頭部を斬り離す。

 都合4回の移動で5回の攻撃。目標は9回だったが今の俺ではこれが限界か、オルゴン・クラウドを使っているのに。ハマーンの援護が無ければビットとビーム砲の雨の中を接近するのは難しかった。下手にオルゴン・クラウドを見せるわけにもいかなかったからだ。先読みで出現位置を読まれて大型メガ粒子砲でも叩き込まれたら洒落にならん。

 しかし、なんとかヤヨイ・イカルガの命は助けられたように思う。この後の面倒を考えれば……斬っておくべきだったか?いや、よそう。その時はその時だ。ジオン軍の技術が高まっているだけの話じゃないぞ、これは。アインスの性能が実現したことはほとんど、α・アジールに近い。Iフィールダーを含めればそれ以上だ。インフレか、考えたくも無い。

「とどめは天空剣・Vの字斬りですか」

「……せめて柳生新陰流、逆風の太刀と言ってくれ」

 キットの入れてくる茶々に疲れと感謝を隠せない。話を上手く逸らしつつ、こちらのネガティヴ思考を引き戻してくれる。人の気持ちが解るA.Iか。キットの言葉に感謝しながら、思考を切り替えてモーションデータの一件を思い出す。相も変わらずセニアには世話になっているんだか弄られているんだかわからない。

 モーションデータの入力に時代劇を使うなら解るのだが、何故かセニアはスーパーロボットアニメを使いたがる。この"逆風"のデータにしてもそうだ。Vの字斬りね!、とアニメそのままに敵の機体に深々と剣を沈み込ませてから機体をかがめてジャンプし斬り上げるなんて設定が最初にやってきた。

 勿論駄目出し。そんなこと、引火爆発が怖くてやってられないと思うのは俺だけだろうか。ところが、彼女はその袈裟懸けで斬り下ろし、その後に上に返すというモーションはそのままに、モーションそのものの動きを早めることで如何にかしてしまった。やはりマッドだ。

 ……あれだけ嫌だったのに、音声入力も変えてくれないし。ゲッタービームとかも実用化できるんだろうか。……しかねないな。腹丸出しの格好で叫ぶのはまだしも、セニアならば紙屑同然の、コクピットまで簡単に攻撃が届くあのスーパーロボット装甲を実現しそうで……いかん、考えるのはやめよう。

「柳生流の"逆風"では、袈裟懸けは誘い水でしょう?狙いも両腕ですし。あなたの行った行為はそれではありません」

 キットの話が意識を元に戻す。しかし、流石に真面目に答える気にはならない。それに、こちら側もセニアを責められない理由がある。モーションデータの撮りの際には色々と無理を聞いてもらったし。

「頼むからそういうことにしておいてくれ。あれも、一応"逆風"であることに違いは無い」

 イメージの元ネタが隆慶一郎氏の名作、"柳生非情剣"の方の逆風の太刀とは言えなかった。キットの持っているデータは基本現実のものか、映像によるデータが元だから文学作品上のデータが少ない。ヤヨイ・イカルガの命を助けるためには頭部のコクピットを爆発する機体から切り離す必要があり、その目的に合ったモーションがそれだったと言うだけなのだ。

 ……まぁ、自分に時代劇好きの気があることは否定しない。円月殺法なんてネタ動作は回避しますけど。回転させている時間=斬ってください時間に思えて仕様が無い。

「トール、終わった?」

 ハマーンからの通信。アクセルは……ああ、麒麟の使用でオーバーヒートを起こしたのか。しかし、通信でバカップルだ何だと好き放題言ってくれる。そこまであからさまではないと思っているんだが。それに、バカップルというのは、ペアルックだの惚気話が終わらないだの独特の愛称で呼び合うなどの条件があるのに……

「トール!」

 返事が無い事を不満に思ったらしいハマーンが怒鳴ってくる。苦笑しながら返事をすると、不満気に鼻を鳴らしている姿が伝わってくる。

 ……どうやら、戦闘中に感じたザビ家やジオンに対する悪意は勘違いのようだ。ファンネルを動かすためのイメージングのやり方の一つ、と言うところなのだろう。心配になるし気に入らないが、やりやすいと言うならば仕方が無いのかもしれない。

 ため息を吐いた私はヴァイサーガをキットの自動操縦モードに変更し、機体を回収地点に向けて動かす。今頃、マスドライバー施設はソフィー姉さんの遊撃隊が"祭り"を行っている時間だろう。占拠なんてしていたジオン残党が可哀想になってきたが、生物兵器の散布などと言う馬鹿げた作戦を取る奴らに遠慮はいらない、とは姉さんの言だし、それは当然の認識だ。

 そこまで思った瞬間、マスドライバーの加速器が大爆発した。えらい事にレール式のレールまで、まるでオーブのウズミ代表の回よろしく大爆発。どうやら、過電流を流して加速器をショートさせる手に出たらしい。それが、どこかに"おいてあった"爆発物に引火して……多分そんなストーリーで言い訳するんだろう。用意の良いことに、ジオン印の爆発物なんかを使用して。絶対に茨の園で確保した奴だ。

「トール、あれ、ソフィー姉さんの……」

「……コメントしたくない。ああ、下手したらまたミツコさんに借金を……」

 口調とは裏腹に深く深呼吸し、もう一度ため息を吐く。姉さんに心配をかけてしまったことを自覚させられた。加速器を爆破して"憂いを断った"のは、こちらがいなくなった後で"何処からか来た奴ら"が二度目の使用を考えないように、という用心。爆破させて使い物にならなくすれば後腐れがないというわけだ。

 ……この先、一生頭上がらないなぁ。っていうか、頭上がらない人多くないか?

 慰めるようにアンジュルグを寄せてくるハマーンに、更に落ち込んだことは深く胸に仕舞いこんだ。 



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 とりあえず前半戦終了です。年末年始はかなり忙しいので間がかなり空きます。御了承ください。






[22507] 第66話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2011/02/09 20:31
 一日が変わったが、まだ日が昇っていない0083年11月12日午前2時12分(コロニー落着まで1402分)。トール・ミューゼル率いるMS隊はNシスターズへの帰還を果たした。現在、グラナダ市郊外のマスドライバー施設では施設に立てこもりを続けるジオン残党軍の残存戦力とNシスターズ特務陸戦隊との間で歩兵戦が続けられているが、戦闘自体は収束の方向に向かっている。

 マスドライバー施設には月面の各恒久都市を結ぶ連絡ポートも併設されているため、人質になりかねない旅行客の安全確保が最優先だったが、こちらにも問題が無いという報告が戻ったトールに届けられた。同時に連絡ポート待合室にてシャア・アズナブルを含むエゥーゴ御一行の姿が確認されている、という報告もあったが、何を考えているのかが気になって仕方が無いけど後回しにすると決めた。

 色々と出来事が起こり始めているが、まず何よりも休息と次の出撃に備えること、と判断したトールは疲れた体を格納庫に併設されているパイロット用の仮眠室に入った。

 格納庫ではヴァイサーガを初めとする出撃機体の整備が急ピッチで進められている。その間、戦闘の疲れを癒すために眠っておく、と言うのはパイロットとして当然の行為だった。Tシャツに半ズボン姿というラフな格好で、仮眠室と言うよりはほとんど寝室に近い設備が整えられている部屋のベッドに身を横たえ、彼は眠りについていた。もはや当然のごとく、シャツ姿のハマーンも寄り添うように体を横たえている。

 寄り添う二人の寝顔に微笑ましさと少しの嫉妬を感じながら、ミツコ・ミューゼル、GP社専務取締役は仮眠室を出た。新型量産MS、及び新型機開発計画の書類を手渡すことを口実に、コロニー落着阻止に何とかして関ろうとするだろうトールを放っておけなかったことがここに来た理由だが、流石に疲れきって眠る二人を起こすような真似は出来ない。廊下に出ると、奥にわざとらしく口元に手を当てているセニアが見えた。

「なによ、もう」

「トーラスにエアリーズ、量産型ゲシュペンストMKⅡの書類。それに"可変MS開発計画"!今日必要な書類じゃないでしょ。素直じゃないんだから」

 セニアの言い様に少しカチンと来る。確かに素直すぎる、と言うかそれこそ犬のように傍から離れないハマーンが羨ましくなる事はある。でも、それは……

「それはあなたもね、特機系の機体はテューディが専門でしょ?何でここに残っているのよ」

「……トールはさ、あたしがもう一度設計しよう、って思えた切っ掛けだからさ」

 照れたように語り出すセニアにミツコは面食らった。この天邪鬼がここまで赤くなるとは。ハマーンの件で解っていたことだけど、あの男は、まったく。これだから油断が出来ない。その癖、無自覚に他の女に粉をかけるし。あの金髪、絶対に近づけないわ。

「あたしは戦い上手くないからさ。整備した機体を完璧に仕上げて送り出すだけ。でも、それだけじゃ我慢できないんだよね。設計して、充分安心できる状態で戦ってもらいたい、って思う。けど、そんなの無理よね。アンタもでしょ?」

 セニアが続けた内容にミツコは頷いた。自分に出来ることは政治と経済。金と物と人を動かして、トールが動きやすい環境を作ること。でも、動きやすい環境を作ったとは言っても戦場での戦いまで補えるわけではない。高性能な機体を作れる環境を整えても、作れて整備できる人間がいなければ意味は無い。タダの金持ちとして生きるならばともかく。

「……言い始めたら止まらないからやめておくわ。セニア、間に合いそう?」

 セニアは頷いた。彼女曰く、機体の使い方が荒いところはトールとハマーンはそっくりだから、出撃ごとに関節とスラスター類のチェックが欠かせない。それに、今回はファンネルに光刃閃と、機体と肉体双方に負担がかかる装備を使用している。ハマーンのニュータイプ能力の向上が著しいせいもあってか、現状の(世界の)技術段階で実現可能な装備ではパイロットに機体が追いつかないくらいだ。

「ま、チェックはほとんど終わったから、これから交換作業ね。8時くらいには出撃できるわ。私が出るのはパーツの搬入が終わってからだから、あと30分ぐらい余裕あるけど、お茶でもする?」

 つまり、今は彼女は手が出せない、と。ミツコは嫣然と微笑んだ。

「ごめん、私も寝るわ。フォン・ブラウンから戻ったばかりだから。あ、セニア。可変機の書類には目を通しておいて頂戴。去年アナハイムに合併されたハービック社だけど、技術陣の一部が連邦軍の研究本部に移ってるの。ギャプランやアッシマーに発展すると思うし、対抗する機体必要だしね」

 ずるい、と言いたげに見つめるセニアを尻目に、ミツコはまずはシャワーと歩みを速めた。




 第66話



「水天の涙は失敗したか」

「攻撃を行ったのは月第一艦隊。……連邦軍への陽動作戦が上手く行かなかった事といい、茨の園の襲撃といい、月の動きは妙だな」

 アクシズ先遣艦隊との通信、モニターに映る旧友にデラーズは鼻で笑い返した。

「今更、よ。連邦軍の部隊の中では最精鋭にして最高の装備を誇る月第一艦隊、その戦力をコンペイトウ鎮守府艦隊と共に拘束し続けただけでも良しとせねばならぬ。元々、キシリアの開発したアレは、生物兵器として使用した場合には毒の面が強すぎる。連邦を必要以上に追い込むことは得策ではない。で、あろう?」

「……別の狙いもあったのではないか?」

 モニターに映るハスラーにデラーズは笑い返した。ハスラーの旗艦、グワジン改級"グワンザン"の艦橋に、アクシズで勢力を増している強硬派のシンパが少ないことはガトーが確認している。当然、デラーズのグワデンの艦橋にもそういった人種はいない。親衛隊第一艦隊を構成していたころ以来の信頼のおけるスタッフだ。

「ハスラー、貴公だからこそ、そして今だからこそ言うがな。月第一艦隊の攻撃とキシリアの遺産。双方共に出すことで、ガラハウが出てくる事を狙っていた。あの男が噂どおり生きているはずなら、顔を出さないはずは無いだろう。しかし、存外に奴も我慢強いらしい。いや、してみると本当に死んでいるのかもしれん。……まさか、出てきたのが全く別のものども、とはな」

「私は、あれを"ア・バオア・クーの騎士"一味の者と思っている。それはともかく、ガラハウ閣下が戦死なされていたとしてもキシリアの遺産となれば姉のシーマ大佐が出てくるはずだろう。結局、キシリア配下のシャアによって閣下は討たれたようなものだからな。"キシリア"と聞けばシーマ大佐が出て来ないはずが無い。……本当に戦死されているのであれば」

「まだお前はトールが生きている方に賭けているのか」

 デラーズの問にハスラーは笑った。二人の間には友人関係があるが、アクシズに赴任して久しく、一年戦争時に昇進の機会が無かったユーリ・ハスラーは先任順位でいえばトールの下になる。故に敬語がその表現に混ざるが、デラーズはトールよりも上だからこそこんな変な言葉遣いになる。

 そして、アクシズで一年戦争を黙って見ているしかなかった部隊に取り、トール・ガラハウやエギーユ・デラーズ、"ソロモンの悪夢"アナベル・ガトーや"白狼"シン・マツナガといったものたちが所属する親衛隊は、ギレン派及びドズルの宇宙攻撃軍にとっては羨望の的だった。そしてジオン残党軍に取り、在りし日の親衛隊は、高機動型ザク、後には新型ゲルググを駆ってルナツー攻撃やア・バオア・クー撤退戦を戦った勇者なのだ。

「ドズル閣下の行動を見ていると、どうも、な。強硬派を押さえつけることは閣下でも難しいだろう。しかし、閣下ならば抑えきることも潰すことも出来るはずだ。それなのに閣下の動きを見ていると強硬派を抑える潰すのではなく、動きをコントロールして地球圏に帰還する時期を勘案しているとしか考えられん。マハラジャ閣下が火星に移られて以来、そうした動きがアクシズでは顕著でな。どうにも勘ぐってしまう」

「確かに、な。しかし、それはこちらとて同じことだ。地球圏に残ったジオン残党は、キシリア派、ギレン派の寄り合い所帯だ。戦力として、軍隊としての体裁を保った部隊はほとんどアクシズに脱出した。結果、残ったのは良くて宇宙海賊、悪くてならず者よ。この艦隊にしても、半分は信用できるか」

 デラーズは眉をしかめた。地球と地球圏から根こそぎかき集めた戦力で頼りになったのはインビジブル・ナイツとヘルシング艦隊のみ。それ以外は総じて3年にわたる海賊行為と先の見えない戦闘で心をすり減らしたものたちばかり。明日の命の心配を三年続けることは、人を変えるには充分だ。

「もし不測の事態あらば、作戦を中止してアクシズに撤退する案もある」

 ハスラーは目を細めた。この男が撤退を口に出すのであれば、余程の事だ。しかも当然のごとく、撤退の際には連邦軍をひきつけて自らを囮にする覚悟もあるのだろう。"星の屑"作戦は、地球圏に残るほとんどの、それこそ宇宙に関しては残らずといってよいほど戦力をかき集めて行われた。そのため、この作戦が成功するしないにかかわらず、地球圏のジオン残党軍の戦力は払拭する。

 勿論、それも"星の屑"作戦の狙いだ。

 デラーズが立案した"星の屑"作戦は史実とは開始の時点から、経過はそのままだが"最終目的"が違っている。より詳しく言うならば、作戦自体の推移については史実どおりの経過をたどっているが、作戦全体が"地球の穀倉地帯壊滅により食糧難を到来"させ、"宇宙に対する食糧依存"を作り出すことを主目的とするのではなく"目的の一つ"とし、地球圏に残存するジオン残党軍のアクシズへの脱出を目的として含んでいた。

 これには、いくつかの理由がある。
 
 まず、戦後の地球における残党軍の活動が、GP社の新型空中用MS、"リオン"の投入によって壊滅状態になったことだ。北欧の森林・山岳地帯と東南アジア・ニューギニアの密林地帯を除いてほとんどのジオン残党は2年ほどの間に駆逐され(その点で、アフリカのキンバライト基地は例外的な存在だった)、地上での活動がほとんど不可能となった。特に、81年初頭、ギニア湾沿岸での戦闘でジオン残党軍のアフリカ残存勢力のうち、最大の規模を誇ったロンメル戦闘団が壊滅したことは痛恨の極みだった。

 ジオン残党地上軍に残された戦力は、地下化された要塞陣地に篭る北欧か、視界を遮るジャングルかのどれかしか生きる道は無かった。そしてアフリカの砂漠が一段落した結果、今度はジャングルがその標的とされはじめた。これでは、とてもアクシズの帰還までに地上部隊の維持・活動の余地は無い。北欧・コラ半島からのHLVによる脱出にしても、戦力を完全に休眠させる前の最後の処置だった。

 そして宇宙。地上での残党軍殲滅に比類ない成果を上げたジャミトフ少将率いるアフリカ軍が、今度は活動の場を宇宙に移してジオン残党軍の殲滅に入るという情報が連邦軍内部のスパイから寄せられると、ジオン残党軍の活動の余地は更に狭められることとなった。更に、宇宙での支持をだんだんと失いつつあることもこれに拍車をかけている。特に、マーズィムが実現可能だと思い知らされた、火星のテラフォーミングに関するニュースが大ダメージの元だ。スペースノイドを二派に分ける思想的な流れの一つが、ジオンの思想よりも強さを持ってしまった(それ以外にも戦後復興の物流を邪魔しているのがジオン残党艦隊だという側面もある)。

 これにより、親ジオンの勢力は地球圏で更に縮小することとなり、活動の範囲が狭められていく。スペースノイドの独立にしても、月とサイド1が独立してしまった現在では効果が薄い。それに、独立が出来なくても火星に移住すればよい、という手段が出来てしまったこともだ。地球圏でもっともジオン残党に好意的なのが、一年戦争で殆ど戦闘にかかわらなかったサイド4と言うのを聞けばそれが解る。

 本国であるはずのサイド3には見放され、ブリティッシュ作戦で攻撃を仕掛けたサイド2、ルウム戦役で戦場となったサイド5にも当然見放され、サイド6とグラナダ―――ひいては月面については監視が厳しくほとんど何も出来なくなってしまった。"仕切りなおし"。それを強く意識するジオン残党軍が、地球圏撤退前の最後の作戦として立案したそれが、この歴史における"星の屑"作戦だった。

「アンブロシアへの地球圏の残存部隊の集結は順調だ。既に巡洋艦6隻、輸送艦20隻以上が集まっている。海賊に零落れたものもかなり多い。中には連邦軍の拿捕船舶を使っているものもいて、危うく撃沈されかけた。ヘルシング大佐はよく取りまとめてくれている」

「寒い時代だ、我々にとってはな。ジオンにはもはや、ドズル閣下の帰還による春を待つ他はあるまい。以後数年は地球圏に対する政治工作を重ねる他は無いだろう。連邦政府内の分裂工作が欠かせぬ。マハラジャ閣下からは何か?」

 ハスラーは頭を振った。火星にジオン残党の拠点を作る、と移った筈のマハラジャ・カーン中将からは連絡が途絶えて久しい。火星の衛星軌道上、LM-1に設置中のサイド・マーズ1に入ってから火星への降下を予定していた筈が、マーズ1、1バンチに入ってから連絡が無いのだ。既にハスラーは半ば以上諦めている。息女三人のうち、二人をザビ家に危うくされそうになったことはジオンから離れるのに充分な理由だからだ。

「火星については入植が本格化する予定もあって連邦の監視がある。ルナツーの艦隊から一部を割き、火星駐留艦隊として再編する動きも。既にコロニーも四基設置されて開発関係者の入植が始まっている。現段階で20万ほどだ」

「構想は」

「中立化する、もしもの時の逃げ込み先の一つとして確保しておく分にはちょうど良い、という意見がある。入植が本格化すれば移民などで入り込める口も増えるだろう。……結果として我々も人類の生活圏を広げた、か。ジオニズムではなくマーズィムだな、これでは」

 ハスラーは其処まで言って口を閉じた。話が関係ない方向に進んでいる。そして関係ない話をした理由は一つだ。

「死ぬなよ、デラーズ」

「……」

 デラーズはハスラーをじっと見つめた。次に瞑目し、ため息を吐く。コロニー落しによる北米の穀倉地帯への攻撃。妻が農業関係者だったことで、コロニーの農業力だけではなく地球の農業力についても知る機会があったからこそ立案できた計画だ。そして同時に、それが今の地球圏にどれほどの食糧危機をもたらすのかも承知していた。

 地球圏の総人口は0083年現在113億人を数える。一年戦争での被害は52億減少した。それは良い。しかし、ここにコロニー落としによる北米の穀倉地帯の消滅が重なると、事態は史実よりも激化する側面を見せる。現在、地球に残る人口は28億ほどだが、未登録人口もあわせると容易に30億を突破する。未登録人口のほとんどが貧民階層である事を考えると、地球に流通する食糧量の減少は簡単に飢餓に、それも、異常なほどのそれになるだろう。

 そして、それによって引起される宇宙への食糧依存もまた激しくなる。飢餓の波は地球と宇宙に広がり、地球連邦の内政は破綻するだろう。ジオンへの支持は確かに獲得できるかもしれないが、それはもはや外道の所業だ。強硬派の強い意見に同調する形となってしまったことが悔やまれる。被害を受ける人口がせめて予測の半分以下であれば、デラーズは喜んで賛成しただろう。しかし、あまりに多い被害はジオン残党にとっては逆効果になる。

「もしもの際の回収は宜しく願う。外道の手法ではある、今となってはそう実感できる。……北米の穀倉地帯か」

 デラーズは自嘲するようにもう一度ため息を吐いた。



 一年を通じて肌寒い宇宙空間の生活ではなかなか味わえない暖かさを感じながら、鼻に入った何かのせいで目が覚めた。髪の毛?……なるほど。っていうか、いつの間に。目の前につむじを押し付けているピンク色をそっとつつくと息を吸った。良い匂いだ。安心できる。……ああ、もうこんな時間か。まだ少し余裕はある、寝かせておこう。

 風変わりな"布団"をそっとはいで外に出ると、備え付けの洗面所では起こしかねないと思い、少し離れたトイレのそれを使う。気分爽快とはいかないが、ずいぶんとさっぱりした。時間は午前7時42分(コロニー落着まで残り1172分)。あと2時間もすれば、GP03がノイエ・ジールと接触する時刻だ。

 洗面所から更衣室に戻り、ノーマルスーツ用のインナーを身につける。ズボン代わりにノーマルスーツの下半身部分を身につけ、上半身部分をジャケットのように着込む。すぐ出撃の予定だ。阻止限界点まで300分。コロニー地球落着まで600分の地点でやることがある。そしてそれは、地球圏に飢餓の波を広げないためにはどうしても必要なことだった。

 北米の穀倉地帯の収穫量は、地球の人口のうち、10億近くの腹を満たすに足る量だ。そしてそれが無くなり、その不足分を補おうとすれば無理が出る。乱暴な話、10億人分の食料を補おうために20億人分の食料が必要になる。何故?物流が混乱するからだ。火星への植民を間近に抱えた地球圏に、其処までの物流の余裕は無い。

「起きたの?お楽しみだった?」

「……性質の悪い冗談はやめてくれ」

 更衣室を出た早々に軽口を仕掛けてきたセニアにやり返す。作業着が機械油で汚れているから、おそらく今までずっと整備をしていたのだろう。それにこの軽口。どうやら、ミツコさん突撃の場にはいたらしい。鼻で笑ってからこちらに書類を回してくる。GP社のファイルだ。どうやら、ミツコさんの持ち込んだものらしい。

「連邦軍の可変機開発計画。意外に進んでいるみたいよ」

 言われて何で今頃と思いつつ冊子を開いてみると、MSに対応しきれない一年戦争時の航空機パイロットを対象に、戦闘機の延長線上に可変MSを設定する動きが生じていると書いてある。

 可変MSを導入する際の、特に戦闘機型として用いる場合の最大の難点は、機体の大型化によるGの増大――特に格闘戦のそれ――だ。人間型であるMSはそれをAMBACでかなり打ち消しているため、高速で戦闘してもそれほどGを感じることは無い(それでも程度問題だが)。しかし、高速による一撃離脱戦法をとるならばともかく、対MS戦闘を考えた場合、これまでGの増大で等閑に付されてきた格闘戦能力が必要になる。

 これまではその問題が解決できなかったからこそ連邦軍も一年戦争以来MSを投入してきたわけだが、一部エースパイロットを対象として導入が計画された背景には、耐Gスーツの大幅な改良が契機となっているらしい。高いGのもとで戦闘を行うためには、プラスG状態で発生するブラックアウトを防止する技術が必要だが、これまでは圧力によって下半身を圧迫することで、ブラックアウト時の虚血状態を防止する対策が採られていた。しかし、この対策は下肢からの静脈環流が増加し、心臓に対する負荷が増して心不全を助長する可能性が指摘されている。

 其処まで読んで、そういえばガンダム・ユニコーン用のノーマルスーツはそれらを防止するために特殊な薬剤を投与していた形態になっていたな、と思い出したが、どうやらこれはそれを更に推し進めた形らしく、外見からしてノーマルスーツというより甲冑のような形態となっている。どうやら、この甲冑の裏側に対策が施されているらしいが、細かいところまでは不明のようだ。

 戦闘機型をとることの出来るMS。その最大の利点は速度の向上と航続距離の拡大にある。これまでのMSとは違い、空力的に優れた形状を持つ航空機型の機体は、背面部スラスターによる加速を機体全体にスムーズに行き渡らせる事が出来る(だからこそGの問題が発生しやすいのだが)。これまではGの問題が解決できなかったが、解決さえされてしまえば、一年戦争時の技術段階であっても、性能面では第二次ネオジオン抗争時のMSクラスの性能を実現できる。

 可変MS用の装備を見ると、出力を絞った代わりに速射性を持たせたビームライフル(キャノン。当然溜め撃ちも出来るようだ)、近接戦闘時には機体の前半部分が胴体に、後半部分のブースター下部が脚部に変形し、AMBACを動作させる。MS形態時の運用は宙間戦のみを基本としているため、MSのように歩行などを考えなくて良い分、運用のほとんどが航空機と同じになる、と言うことらしい。

「厄介よねー。ねぇ、マクロスとかいう作品に似ているけど、入れるの?」

 この機体を最初に見たときに考えた疑問がそれだ。この機体が運用され始めた場合、Z計画を先行実施して可変MS群に対応するか、それともマクロスを導入するかをまず考えた。しかし、マクロスを導入することは技術流出を考えると難しいし、アナハイムの動きが見えない以上、下手にZ計画を如何こうするわけにもいかない。まだグリプスではないのだ。

「とりあえず、こちらでもビルトラプターなどの開発は進めておこう。R-1のように可変可能な形でエルシュナイデを考える必要があるだろうな。Z計画に参入してZ+だとかを考えるのもありだが、それはグリプス期に回したい。……どちらにせよ、コロニー落しにはもう、間に合わん」



[22507] 第67話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00318802
Date: 2011/02/24 22:50

 0083年11月12日午前10時12分(コロニー落着まで862分)。先ほどGP03とノイエ・ジールとの交戦が開始された旨の報告を受け取った。現在地はGP03とノイエ・ジールの交戦ポイントからコロニー側に移動したあたり。とはいっても姿をさらして巡航しているわけではなく、ミラージュコロイドつきの機体だからこそ出来る行為だ。今回、出撃に当ってこの、ミラージュコロイドとビーム撹乱幕が一緒になったらしいマントを渡された。

 この出撃前に用意された新しいマントは、正式名称を"光学兵器遮断幕兼光学迷彩展開幕"だという。要するにビームがはじけて見えなくなるんだろ、といったら殴られた。どうやら、新兵器に関しては無駄に漢字を使用した挙句、正式名称を呼ばなければいけないらしい。それが新兵器の美学だとかなんだとか。

 まぁ、SF用語の丸暗記はSFファンにとっては当然の行為なわけだけれども。
 
 ため息を吐きながら周囲を見渡すと、一年戦争の跡が生々しい残骸が周囲を漂っている。一週間戦争の名残らしいことは、漂っているサラミスやムサイ、ザクの残骸が前期型である事でわかった。地球周回軌道近くには、地球の重力に囚われたこうした残骸が多く漂い、ジャンク屋や我々の重要な収入源になっている。時折まだ生きているらしい電源をレーダーが捉え即座に敵性反応無しと判断を下すが、ひっきりなしに警告をしてくるので少々煩くなってきた。

 一年戦争後、連邦軍が即座の軍縮に踏み切れなかった最大の原因がこれだ。そして黒歴史を見てわかったのだが、地球圏での争いにほとんど連邦軍が関与できなかった理由もこれだった。

 軌道上のデブリと書いてしまえばそれまでだが、それが地球周回軌道を回るうちに大きな速度―――位置エネルギーを得てしまえば、それは宇宙空間において銃弾以上の、いや、砲撃以上の危険性を持つ物質に変貌する。連邦軍は、一年戦争の結果地球の近くを漂うこととなったこのデブリの回収を主な任務とせざるを得なかった。そしてそれは、グリプス期もネオジオン抗争でもそうだ。

 何故か?物流が崩壊してしまうのだ。輸送船、特に軌道往還船は、その特性上船体下面の装甲は厚く作られているが、側面及び上方はそれほどでもない。そうした往還船や、軌道上に設営されたステーション―――アメノミハシラやガンダム・センチネルのペンタを思い出せば良いが―――で積荷を移し変えたコロンブスが危険になる。勿論宇宙航行を行う船舶にはデブリ対策としての装備は積まれているが、いつもいつも回避できるとは限らない。

 そして一年戦争の結果、撃墜・撃沈された両軍の兵器や戦闘の余波で粉々にされた姻戚などが高速で宇宙を乱舞することになる。こうしたゴミの回収は、宇宙で生活―――物流を前提とした生活を行うには絶対に必要な事柄となった。宇宙から地球に隕石が落ちようと、デブリの回収を怠れば宇宙に住む人間が良くて経済破綻、悪くて餓死を迎えるとなれば、放って置くしかないのだ。いいところ、寒くなるだけ―――そうした判断にも理由があったというわけだ。

 勿論、0100年代が近づくにつれて回収されるデブリの量はだんだんと量を減らしているから、93年の時点でロンド・ベルに援助を出さなかった理由とするには弱すぎるが、ここにはそれに新たな問題が加わる。金の問題―――予算だ。
 
 デブリ回収はうまみが無い。せっかく回収しても残骸ならばジャンク屋に売ればよいが、当然そうしたジャンクが高いわけが無い。ほとんどは鉄くずで、二束三文で買い叩かれるとなれば、高速で浮遊するそれを回収したとしてもコストがかさむだけになる。そして隕石の場合はなおさら安い。金属質の隕石ならばともかく、他の、特に氷だった場合には悲劇だ。

 かくて連邦軍は物流を維持するためにどんどんとその実戦力を低下させていき、額だけ見るならば潤沢な予算で整えられたのは軍隊ならず回収業者と言う体たらくになる。それはMS開発にも影響している。連邦軍のMSが基本的にやられ役なのは、その最たる敵が敵MSではなくゴミだから、と言うなんとも笑えない理由になるわけだ。

 だからああまで量産性を追及するし、長持ちする機体ばかりを選んで作るんだろうなぁ、と改めて思ってしまう。ガンダムUCで地球・宇宙で運用される量産型にGM2が残り、ジェガンやヘビーガンが50年近く運用される背景にはそうした事実があるとなると、"宇宙での実生活"の重みを強く感じてしまうわけだ。

 デブリ云々の問題は大きい。宇宙に出たばかりの、装備もろくなものではない人類にとっては負担が大きすぎる。綱渡りで経済運営をしているようなものだ。やはり、あの作品の導入を図る他無いという判断は正しかったか。心震えはするんだが……

 ん?コロニーが見えてきた。アクティヴジャンプ(座標を指定してのワープ)を用いて中継ポイントまで移動してからは巡航してきたが、予定よりも少し早く到着できそうだ。背後のアンジュルグとソウルゲイン、そして今回導入した装備を満載したステルスシップに勿論見えないけれど視線を向け、問題なさそうだな、と判断してからコロニーに近づく進路をとる。周囲には数隻のムサイの姿。

 うち一隻は、コロニーとケーブルでつながっているのが解る。どうやら、アレがコントロール艦らしい。一瞬だけミラージュコロイドを解除して信号を送ると、再度コロイドを展開してミラーの破れ目からコロニー内部に侵入した。港湾部航行管制室。目的は、そこだ。




 第67話




 アナベル・ガトーには三年間抱えた疑いがある。それは、デラーズとハスラーの言葉で更に強まっていた、といって良いし、はっきりはしていないものの、わだかまる何かをこの三年間、抱えて続けていることは確かだ。勿論、彼を捉え続けているものは一つしかない。

 "ア・バオア・クーの騎士"。

 誰とはなしに呼び始められたその機体は、現在、ジオン軍残党と連邦軍からは"英雄(尊敬すべき敵)トール・ガラハウ少将を撃墜した機体"として追跡の対象となっている。ガトー自身も、何度もトールのゲルググが撃墜された映像を見返し、一縷の望みでもあった、何とか脱出の糸口でも掴んでおられないか、などという考えを確かめようとしていたが、もともとの映像自体がミノフスキー粒子の影響でノイズ交じりだったこともあって解らない。映像分析は当然デラーズ・フリートの方でも試みられており、二機が対峙した後にゲルググ側から脱出した形跡は微塵もない。

 しかし、彼はその機体がシーマのガーベラとかいう新型MSを連邦軍MSの攻撃から守った事を確認しているし、シーマ機と自機の脱出を援護したことからも、最初は味方だと考えていた。勿論その思い込みはその直後に生じたトール・ガラハウ専用ゲルググの撃墜で明確な"敵"に変わることになるが、戦争が終わって改めて出来事を全体で追って考えてみると、どうにも納得のいかないことばかりが羅列しているような気がしてしょうがなかった。

 もしあの機体が連邦軍のものであればシーマ中佐の機体を連邦軍の攻撃から守る理由が存在しないし、その後の連邦軍ガンダムタイプとの交戦の辻褄が合わない。もしあの機体がジオン軍のものであれば、トールのゲルググを撃墜した理由がわからない。そして連邦軍でもジオン軍でもないとすれば、何故あんな矛盾した行動をとる必要があるのかがわからなくなるのだ。

 もしガンダムタイプの撃墜を狙うならばジオン軍など助けずに放っておけばよいし、もしガラハウ機の撃墜を狙ったのであればシーマ機への援護の必要など存在しない。そしてあの時かすかに聞こえた通信、"キット"なるあの機体の操縦者らしい人間。その口調には親しみこそあれ、攻撃を行うような気配は無かった。

 考えなければならない問題と思い、そしてその合間に激務に近い軍務他もろもろがあったものの、連邦軍からの逃亡生活―――その最中の潜伏期間でガトーは考え続けた。本来の歴史ならばニナ・パープルトンとかかわる事件が生じる月の生活中におこるべきその事態が起こらなかったのは、ひとえにこの問題をずっと考えていたからだろう。映像に映らないで、視認されない状態でどうやって移動、もしくは脱出したか。それとも本当に撃墜されたか。

 いずれにしろキーワードは"月"だった。月を逃亡先に選んだ理由も、勿論逃亡先として適当だったのが第一の理由ではあるが、第二の理由はもし彼が生きているならば、絶対に月にいるはずだと思ったからだ。トールも、そしてガトー本人も知らないが、ガトーとニナのイベントが生じなかった最大の原因はここにある。トールが生きているのであれば絶対に所在はNシスターズ、と考えたガトーが、潜伏先のフォン・ブラウンから何かにつけてNシスターズに入り込んでいた―――82年の潜伏最後の期間は、それこそNシスターズの工業都市N2に居を構えていた―――からだ。

「閣下ならば必ずこの戦場に顔を出さずにはおかぬはず……」

 ガトーはつぶやいた。忌々しい連邦のガンダムを追い散らそうとしたところ、一斉に打ち上げられた照明弾のおかげで追撃の機会を逸してしまった。オーストラリア以来、しつこいぐらいにこちらの動きを追いかけてくる若者だ。名前はコウ・ウラキ。ソロモンでの交戦以来、ガトーにとって忘れられない名前になりつつある。

「少佐!あのガンダム相手にビーム主体のその機体では危険です!」

「カリウスか。……先ほども同じ事を言われたが、そうもいくまい」

 接近してきたカリウス軍曹のリック・ドムⅡに向けて答えを返す。自分が操るノイエ・ジールとあの機体の相性は最悪といって良い。ビーム主体の攻撃がIフィールドで防がれてしまうため、遠距離からの戦闘ではまず決着が付かない。かといって近接戦闘に入ろうとすれば、近づくまでにあのガンダムタイプのMAの実弾兵装をかいくぐる必要があるし、近づいても大型ビームサーベルなどと言う実用性が怪しい装備がある。化物のような推力と合わされば厄介なことこの上ない。

 おそらく、あの機体は対MAを考えた設計になっているのだろう。高推力が生み出す速度は強襲に必要な要素であるし、実弾中心の装備はIフィールドを実用化したジオン軍MAに対抗するためには必要な装備だ。弾数と爆風で実験段階にあったララァ少尉のエルメスにあったビットとか言う小型無線ビーム砲にも対抗しようとしているのかもしれない。もっとも、木っ端のようなMSを蹴散らすための装備だといっても納得はいくが。

 ……待て?MAの発展形とそれへの対抗手段を考えるならば、MSでMAに対抗しようとした場合には……"ア・バオア・クーの騎士"のように近接戦闘特化型になる、のか?であるならば、やはりあの機体の操縦者は閣下?もし、こちらに悟られずにゲルググからあの機体に移動する経路があるとするならば、ゲルググを撃墜したのは連邦軍の追跡をかわすためになる。

 ……だが、そうならば水天の涙を攻撃するはずも……。いや、閣下の考えはデギン閣下に近い。無用の殺生などなさらぬ御方だ。やはり、閣下……か?地球の人口が35億ほど残っており、星の屑作戦の推移を考えれば我々の攻撃で多数の餓死者を生じるのは必定。地球に残った人々の目を、そして宇宙で漫然と暮らす人々の目を打ち捨てられたジオンに向けさせ、連邦の強権政治への批判とするのが狙いのこの作戦。……聞こえは良いが閣下が一番好まれぬ類の作戦だ。

 ガトーは考えを振り払った。どちらにせよ現在の自分はデラーズ・フリート所属の士官であり、命令権はデラーズにある。作戦自体に疑いを持とうとも、軍人、士官である以上、一旦出された命令には従わねばならない。正直なところ、疑問など持たずに連邦への敵愾心だけで戦えた一年戦争が懐かしくもあった。

「コロニーは?」

「阻止限界点まで残り522分です。そろそろ先行して地球軌道の偵察に入った部隊からの報告が入ると思われますが……連邦軍の待ち伏せの可能性はあるのでしょうか?」

 ガトーは頷いた。

「だろうな。地球軌道艦隊が阻止限界点で待ち伏せをしている可能性は高い。しかし、そろそろ前衛部隊が接触を開始してこちらの戦力をそぎに来ても良いはずだが……その点が解せんな。よし」

 ガトーはそういうとノイエ・ジールをコロニー前方へと向けた。

「デラーズ閣下のところにならば何らかの連絡が入っているかもしれん。あのMAが戻ってくるだろう事を考えればここから必要以上に動けんが、補給のついでに戻るだけの時間はあるはずだ。カリウス、その間この空域を頼む。何かの際は最優先で連絡しろ。グラードル、もしくはその僚艦には中継の用意をさせておく」

「了解しました!」




 ほぼ同時刻、アルビオン。多くの弾薬を射耗して帰り着いたGP03にコンテナ交換作業が行われ、損傷の修理や弾薬の補給などで格納庫は忙しい。そんな喧騒とはある程度距離を置いた艦橋では、第一軌道艦隊司令ベーダー大将とシナプスの通信が行われていた。

「我が艦隊三隻はコロニー後方1万2000についていますが、接近は難しくあります。敵新型MAを中心とする艦隊が後方に展開し、追撃に備えていますので。先ほど、工作部隊をMS隊の行動を陽動として送り出しましたが、正直、微妙なところです。やはり、支援を要します……第一軌道艦隊の現在位置は何処になりますか?」

 シナプスは言葉を選びながらベーダーに向き直った。第一軌道艦隊はシナプスにとっては古巣の艦隊だが、レビルやビュコックといった面識や親交のある将軍たちとは違い、同じ派閥に属しているとはいえ、一年戦争を主にルナツー方面などで過ごしたベーダーとのつながりは薄い。それに、参謀長として隣にジャミトフの姿が見える以上、警戒せざるを得ない。

「現在、第一軌道艦隊は敵の迎撃のための準備中である。最終防衛ラインとして静止軌道上に新型ソーラ・システムを展開しているが、手が足らんのでな。展開が遅れているためにまとまった形で部隊を動かせん。勿論、システムの展開が終了次第、護衛の部隊を残して迎撃に向かうが、今はまだ無理だ。シナプス大佐、貴官の部隊と挟撃の体勢をとるならば、こちらからも小艦隊を向けることは可能だが、戦力的には持つか?既に数回交戦していると聞く。新型ガンダムを用いても……」

「いえ、ここで敵に時間を与えると、最終軌道調整の準備時間を与えかねません。パイロットたちには負担を強いますが、もし挟撃の体勢がとれなくとも、蝕接を続けることで敵の注意を一定以上、こちらにひきつける必要があると考えます」

 ベーダーはその言葉に頷いた。シナプスの考えは道理だ。GP02強奪及びソロモン襲撃事件の責任をとる形でコーウェンの権限が大幅に削られてから、ガンダム開発計画は一年戦争と同様にミューゼル少将の所管となったが、それも影響していると考えるべきだろう。ミューゼルがすばやく戦力を派遣及びGP03をシナプス隊に組み込んだおかげで、現在の戦闘が可能になっていると言っても良いからだ。ベーダーも一年戦争時にはトールに世話になっているから、手腕と決断について否やはない。

 問題は、この連邦軍側"だけ"を見るならば良好な状態が別な問題を生み出すことだった。それはまず、ベーダーの言葉から発生する。

「ジャミトフ、確かイオージマ隊は動かせたはずだな?」

「あの部隊ですか?出すには出せますが、まだ慣熟訓練が済んだとはいえません。訓練航海中に押しかけてきた部隊ですから暇といえば暇ですが」

 その言葉にシナプスは怪訝そうな顔をする。イオージマとは一年戦争前に建造されたアンティータム級宇宙空母の一隻だ。一年戦争では主にセイバーフィッシュ型戦闘機を運用していた船だが、モビルスーツの戦力化と共に予備艦の指定を受けてモスボール状態に移る予定だったはずだ。

「イオージマは復帰したのですか?しかし、機体は」

「勿論セイバーフィッシュではない。現在連邦軍が進めている新型長距離巡航機の試験母艦として運用するために現役に復帰した。今確か、8機程度が運用されていたはずだ。それを中心とした部隊を回す。すまんな、員数外の戦力しか基本送ることが出来んし、ミューゼルから送られた戦力とジャミトフ肝煎りの部隊はコントロール艦の護衛につけているのでな」

 そこに背後から連絡士官が何事かをささやく。その言葉を聞いたベーダー大将は眉を少し上げた。

「良い話だ。展開がひと段落しつつあるため、あと一時間半ほどで右翼の第9艦隊が動かせる。玉突き状態にはなるが、イオージマとジムを積載したサラミスを数隻回す。またミラーの展開が済み次第、艦隊は前進配置に移り、迎撃を開始する予定だ。シナプス大佐、こちらの動きは常に気をつけておいてくれ」

「はっ、了解いたしました」



 0083年11月12日午前12時00分(コロニー落着まで764分)現在、地球軌道上に集結しつつある連邦・ジオン艦隊は以下のように動こうとしていた。まず連邦艦隊は第一軌道艦隊を主力として静止軌道上にソーラ・システムの設置準備をしているが、ひと段落を迎えたため前衛部隊を編成してコロニー周辺のジオン残党を迎撃する体勢に移行しつつあった。

 これに対してデラーズ・フリート側は戦力の低下に悩んでいた。地球圏からの残党脱出を作戦の主目的として設定したため、各サイドなどに潜伏していた残党を回収して脱出ポイントであるアンブロシアまで輸送する部隊を設けたため、コロニーを護衛する艦艇に不足をきたしていたのだ。MSだけはカーゴシステムもあり輸送が可能だったが、流石に艦艇の不足による哨戒ポイントの減少は、特にラビアンローズからの追撃を開始したアルビオン隊の予想外の接近を許している。

 月から出撃したシーマの艦隊はアルビオン隊とコロニーをはさんだ向側、アルビオンから比べて後方1万5000キロの空域まで前進している。ここまで距離を稼げたのはブースターのおかげだ。編成はガーティ・ルーとバージニア。双方共にミラージュコロイドを展開させている。

 コロニーをまるで正三角形のように取り囲むアルビオン、シーマ、連邦艦隊に正三角形の重心・コロニーを守るデラーズ艦隊。

 その全ての中心であるコロニーは静かに宇宙の海を進んでいた。





[22507] 第68話
Name: Graf◆36dfa97e ID:75164fd2
Date: 2014/07/27 03:12

「将軍、揚陸艇着陸します。着陸後すぐに部隊の展開を」

「ああ、頼む」

 コロニーに潜入が成功し、揚陸艇がバージニアとの往復で物資を搬入し始めているのが見える。どうやらデラーズ・フリートはコロニー後方のケーブルを接続させたムサイからコントロールを行っているらしく、コロニー内部に敵の姿は無い。無防備に過ぎるほどに何も無く無人で、侵入の後は容易だった。

 コロニー内部に侵入したのは私とハマーン、アクセルの三人組に揚陸艇に乗り組んだ兵員一個中隊。兵員は戦闘用に調整されたバイオロイド兵で構成され、使用火器もOGシリーズ仕様の高威力なものが用意されている。揚陸艇は100mクラスの中型船舶にミラージュコロイドを装備させたもので、数百トンクラスの物資と1個中隊の兵員を輸送できる。

「閣下、コロニー内に動体反応なし。無人です」

 バイオロイド兵の一人が報告に来る。周囲には同型の揚陸艇4隻が着陸し、兵員やワッパ、Gファイター(改造型)を出し始めている。コロニーのミラーすぐ横にミラージュコロイドを展開したまま停泊しているステルス艦からコロニー外壁に穴を開ける形で出撃したため、早々ばれる心配は無いだろう。コロニー内部は総延長30キロにも及ぶ広さだ。改造Gファイターを使ったのは、そちらの方が移動しやすいから。だからこそわざわざこういう形をとったが、今のところは順調に進んでいる。

 今回投入されたGファイターはMSV-Rにて運用された強襲揚陸型を元にして、中央部のコンテナ部分を入れ替えることで戦術輸送を可能とさせたものだ。今回は兵員輸送用コンテナを装備したものと重火器・装備を満載したコンテナを装備したものとを半々である。とはいえ、そう大したものは積んでいない。揚陸艇に搭載されているのは各艦ごとに3機ずつ。理由は積載量の大半をコロニーの姿勢制御用推進剤にとられたためだ。また、Gファイターに積んでいるものも狙撃銃にブラスターライフルが精々。こちらも積載量の大半をコロニー破砕用の爆薬に取られている。


「アクセル、コロニー内部に外が気付いた様子は?」

「いいや、ない。後方からのアルビオン隊が上手く陽動になっているらしい。今一隻、距離を取り始めた。デラーズの投入した戦力が少ないな。トール、お前の持っていたデータよりも戦力かなり少ないぞ?」

「だろうな。変更された作戦が影響しているらしい。良いのか悪いのかはまだ解らんが」

「敵の戦力が低下しているのはうれしい情報だが、何かあると思うか」

「思う」

 作戦開始前にデラーズ艦隊とアクシズ先遣艦隊から離脱したスパイ要員たちと接触を持ったが、一年戦争とその中での彼との接触は意外に影響があったらしい。一年戦争が連邦有利で終了したことで地球圏からの残党勢力脱出に計画の主目的を変更したようだ。地球に対する強い敵意よりも勢力の温存を選択した背景には、歴史の変更が関わっていると思いたい。

 茨の園で拿捕した戦力が月からの追撃に対するピケットの役割を果たす部隊だったらしく、後方からのアルビオンの接近が史実よりも容易だったのは、水天の涙作戦に部隊を輸送した艦隊が本来に合流せずに脱出部隊に移動したのが戦力低下の理由らしい。また、展開戦力の減少はコロニー内部の警備の薄さにもつながっている。今のところはこちら有利だ。心配はあるが、今は作戦が優先。

「各部隊はコロニー破砕の準備を開始。要所要所に爆薬を設置してレーザー砲艦の射撃と共にコロニーが分断されるように配置してくれ。持ってきた推進剤は中央部から送管開始」

「了解しました」

「A小隊はアクセルと後部管制室に行け。ケーブルをつないでいるムサイからのコントロールをいつでも切れる状態にしておくこと。私とハマーンは前部航行管制室に向かう。脱出は今から300分後。よろしく」

「イエス・サー!」

 その言葉に敬礼を返すと三機のGファイターと8機のスピーダー(無重力用ワッパ)が浮遊を始めた。Gファイターの翼下には何かのタンクが備え付けられており、揚陸艇からもホースが引き出されてバイオロイド兵たちがなにやら作業を開始している。三機のGファイターの背後からソウルゲインが地表すれすれに滑空を始めたのを確認するとトールもまたヴァイサーガに戻り、起動を開始する。

 トール側の部隊らしいGファイターが浮遊を始める。勿論アクセルの隊と同じく高度はとらない。下手に上げるとミラーの外からデラーズの艦隊やMSに視認される可能性がある。ミノフスキー粒子が濃いからレーダーが役に立たないのが救いだが、見つかってしまってはどうしようもない。ビルの間すれすれを移動していくようだ。

「よし、B小隊私に続け、前部航行管制室に向かう」



 第68話



「コロニー内部に動体反応?いや、これはデプリだな。報告の要なし」

 その言葉にデラーズ・フリート戦艦グワデン所属の参謀、タイラー少佐は頷いた。レーダー・航法管制を行うダンカン・エディンバラ少尉の有能さは彼も信頼している。一年戦争以来、グワデンの目となり続けてきた彼は信頼に値する。そう、判断していた。勿論タイラー少佐は彼が人間であり、月出身のジオン義勇兵である事を信じて疑わない。

 もっとも、彼が人間ではなくバイオロイドであり、月に本拠地を置くトールたちの側であることなど想像の埒外も良いところだろう。要所要所でバイオロイド兵を増員したトールはそれを直接率いるべき戦力としてだけ用いるのではなく、人間とほとんど見分けが付かない―――それこそ、外側は勿論内側に至るまで―――点を最大限度活用するべく、所謂"草"、潜入工作要員として用いることに全力を振り向けていた。一年戦争から続けられた潜入は今では実を結び、一年戦争から連邦軍に入隊した兵員や下士官、そして戦場で昇進した士官には少なからぬ数が潜入に成功している。

 それは彼が高位の将軍を勤めたジオン軍ではなおさらだった。

「連邦軍、動きませんな」

 タイラー少佐が言葉の矛先をデラーズに向ける。艦橋内にいる幾人かが耳をそばだてたことに気付くものはいない。そして勿論、会話の内容が量子通信システムやフォールド通信などを通じてバージニアに流れていることも。この全地球規模―――いや、全人類圏規模の諜報システムを形成することは、介入に際しての基本達成項目だった。

「軌道上に艦隊を集結させておるのだろう。今は後方から迫る追撃部隊、特にガンダムを擁した部隊だ。最終軌道調整用のバーニアには絶対近づけてはならん。……ファーメルとカルメルを後方に下げよ。グワデンを前衛に出す」

「了解しました」

 艦長の頷きを確認してからタイラー少佐は言った。彼にしても勿論、デラーズ・フリートの擁する艦隊戦力が寒いことは承知している。後方から迫るガンダム部隊に対しているガトー・グラードル両少佐の部隊はそろそろ数・補給の手間を考えて増援を入れるべき時間だ。そう思っていたところだった。

 実際、問題なく星の屑作戦を展開させているとはいえ、デラーズ艦隊の戦力はお寒い限りだ。ここに展開している戦力は現在戦艦1、巡洋艦16。MSだけはカーゴ付きであることもあって70機前後の戦力を展開しているが、先ほどから蝕接を続けてくるガンダムのために既に巡洋艦2隻、MS7機が撃墜されている。ガンダムだけで、だ。

 総被害まで、つまりアルビオン隊による被害を考えると被害には更にMS4機が加わり後方の戦力は低下している。グラードル少佐には支援が必要で、後方のガンダムを押さえ込むためにはガトー少佐を外せない、か。いかんな、連邦軍がもし地球軌道で何かを仕掛けようと考えているなら、連邦軍の迎撃を食い止めるだけの戦力がなくなる恐れもある。

 タイラーがその懸念を伝えるとデラーズも頷く。どうやら、同じ事を考えていたようだ。タイラーは其処から更に踏み込んで、予定の北米へのコロニー落着を、北米ではなくコロニー落着そのものを目的にすることを具申したがデラーズは頷かなかった。

「まだ判断するには早い。連邦軍の迎撃次第……いや、となればどちらにせよ手動管制が必要か?」

「解りません。しかし、その場合、コロニーに送った兵員には死を前提とする事となります。……流石に」

 デラーズは頷いた。軍人は、死の可能性がある内容を任務とするが、死ぬことが前提となる作戦は嫌う。いや、指揮官であれば兵員の死傷を前提に作戦を組むのは必須だが、全滅を前提に作戦を組むわけではない。勿論これが史実どおりの星の屑であればデラーズも許容しただろうが、"今回"の星の屑は脱出の陽動作戦でもある。無駄に死者を出すよりは、生存の可能性を追求して来るべき時に備える必要がある。

「後方より接近する機体!ガトー少佐のノイエ・ジールです!」

「通信に出せ」

 ダンカン少尉は頷くと通信回線を開く。

「閣下」

「ガトーか、何用か?」

「お話が。しかし、この回線では……」

 デラーズはそういわれると何事かに気付いたようだ。頷くと立ち上がる。警備兵らしき兵士と士官が立ち上がると装備を確認し護衛の任を始める。うち一人がダンカンと視線を交差させたことは当然だが誰も知らない。

「ノイエ・ジールを着艦させ補給作業に入れ。格納庫作業要員は補給準備を開始せよ!特に装甲表面部のビーム・コーティングの再塗装を。ここから見た限りでもかなりはげておる。ガンダム相手には準備が必要だ」



 コロニーに潜入してから3時間と少し、そろそろ時間だと言うことでハマーンと一緒に待機していた場所からコロニーの航行管制室に向かって歩いている。一時離れたのは、監視下にある可能性もあるため、最低限の調査と準備だけをしたからだ。流石に、この部屋でデラーズ・フリートの兵員相手に白兵戦を演じるわけには行かない。航行管制室には予想通りというべきか、センサーの類が仕掛けてあった。内部でのアクセスなどが感知された場合、有線回線を通じて外のムサイに通報するタイプ。

 勿論作業中はダミー情報を流すプログラムを動かしこちらの情報はシャットアウトしたが、居続けを行うと下手にばれないとも限らない。プログラムを元通りに戻して一旦退却し、センサーの範囲外だった航行管理部の休憩室まで後退、時間を潰していたと言うわけだ。ヴァイサーガとアンジュルグ、Gファイターはコロニー湾部付近のビル街の一角に隠してある。

 侵入場所近くに残した揚陸艇とアクセルの部隊からもそれぞれ侵入成功・作業成功の報告が入っている。もう少し、合図と共に一斉にアクセスを開始してコロニーの最終軌道調整用のバーニアを動かすことが目的だ。勿論残されている推進剤の量から地球落着を阻止するほどの軌道変更は行えないが、揚陸艇に積載した推進剤と、航路管制室の航法コンピューターを操作することで落着の時刻は遅らせられる。それが出来れば後はソーラ・システムとレーザー砲艦任せでいい。

 腰にブラスターピストルを手にして誰もいない、不気味な金属製の空間を進む。キットからの補助があるし、道案内に不便は無い。しかし、同時に会話も無い。この状況で上手く動けるか否かがコロニー落着の結果を決めるが故に、ハマーンも緊張している。腰に当てられた手から、不安そうな思念が伝わってくる。ハマーンの不安を抑えるような思念を送ると共に、頭の中ではそれとは別の事を考えていた。


 今回の事件、星の屑作戦の流れに背景として生じた、気にせざるを得ない部分―――連邦軍内部の諸勢力の関係だ。

 一年戦争でレビル将軍が死なずにすんだ結果、戦後の連邦軍はレビル・シトレ派と呼ばれる戦前からの、軍隊としての体を為した職業軍人の集団と、コリニーやジャミトフを中心とする、新規徴募兵を支持母体とする集団の二つに分かれた。歴史どおりならばジャミトフの派閥が有利となり、一年戦争での被害の反動もあって、其処からはティターンズが生まれることになる。

 しかし、ジャミトフは本来ならばコリニーの手柄となるはずのソロモン核攻撃において、こちらが感知できるだけの手を打っていないだけではなく、コリニーの艦隊と、コリニー派であるはずのワイアット大将を見捨てた形になった。ソーラ・システムに合流したブライト中佐やティターンズとなるはずの部隊に潜入させたトレーズ―――レディ・アンからは、一部ジオン軍残党が今回の攻撃に参加する事を代償に戦犯裁判を避け、コロニーもしくは地球にての安寧な暮らしと引き換えに、コロニー落下阻止の任務に様々な形で協力している、という報告が送られてきている。

 歴史どおりならばシーマ姉さんがした行為を、他の誰かが補っていると考えるべきだろう。そしてそれは、"整合性"の存在を考えさせずにはおかない。コロニー潜入と同時にシステムから"整合性"側が実戦部隊を投入したらしいと、システム管理者権限に乗っ取って連絡があったが、その部隊が向かってきているのだろう。そしてそれはおそらく、一年戦争最後のあの場面で介入してきた、連邦軍のEXAM部隊に違いないだろう。

 コロニーが落着するかしないかはまだわからないが、あちら側の狙いはコロニー落下による社会的混乱を避ける方向で動いているようだ。無理も無い。ここでコロニーが落着すれば、生きている人口が多い分、地球圏の経済に致命的なダメージをこうむることになる。それは整合性のほうも避けたいはず。しかし、"膨張"させすぎないためには、連邦軍とジオン残党軍との交戦を史実以上の規模で行う必要がある、と言うわけだ。

 だからこそ、地球軌道に集結した戦力は、特に連邦軍が過大までに強大なっている。デラーズ・フリートは内実はともかくMSの数だけは史実以上に戦力をそろえているようだし、連邦軍も、歴史どおりならコーウェンの第三軌道艦隊を乗っ取ったバスクの艦隊だけのはずが、第一及び第二軌道艦隊に動員がかけられ、ルナツーから戦力を集中している。

 解らないのは、ジャミトフが権力を握るのに必要なステップの一つがこの星の屑作戦と言うならば、何故ジャミトフは自分の派閥、コリニー閥の部隊を中心に戦闘をさせずに、レビル派の二個艦隊を動員したかという点だ。それだけではない。彼は恐らくジオン残党から情報を得ていたにもかかわらず、ソロモンでの犠牲の羊にコリニーを選んだ。

 こちらと手を結んだから?何をバカな。絶対、裏に何かがあると考えるべきだろう。ジャミトフがこんな手段をとる理由は恐らく、彼にとってコリニー大将がもはや必要なくなったからだと考えるしかない。かといっていまさらレビル閥に入ることも出来ないとなれば、コリニーに代わる大きな支持母体が彼のバックに付いた事を意味する。ジャミトフはそれらに実戦部隊としてのティターンズを、おそらく一年戦争時のEXAM開発の功績つきで近づいたと見るべきだろう。

 その支持母体とはどこだ?わからない?いや、推測は付く。

 考えてみれば、コリニーの後ろ盾をジャミトフが0083年の段階で必要としなくなっている時点で、連邦軍内部でのジャミトフの勢力拡大が裏付けられる。コリニー閥のような、煽動政治家地味た狂信的宇宙排撃論者のコントロールが上手く行かないと見た時点で切捨てを考えたのか。だからこそ、エゥーゴもそれに対応して勢力を伸ばしている、と。支持母体は……やはり、移民問題評議会が一枚かんでいると考えて間違いないだろう。

 となると、あの月でのカーディアス・ビストの接触は、ただバナージ母子をこちらに預けるだけではなく、移民問題評議会、もっと言うならば、甥っ子に手を出すあのオバハンの登場を示唆していた、とでもいうつもりか。もしかすると、移民問題評議会を舞台にした兄弟喧嘩のために、家族を避難させたというつもりかもしれない。どちらにせよ、意外に早くマーサ・ビスト・カーバイン女史とは出会うことになりそうだ。

 ……嫌だなー。せっかく今回紫ババアと縁が切れると思ったのに、次に出てきたのも充分以上にエライのかよ。切れるとコロニーレーザーをぶっ放すなんて、キシリアでも……良い勝負か。

 其処まで考えたところでハマーンが心配そうに肩をなでてくれた。

 悲しくなった。どうやら俺は呪われているらしい。



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とりあえず投稿。



[22507] 第69話
Name: Graf◆36dfa97e ID:75164fd2
Date: 2014/07/27 07:31

「感触はどうだ、ガトー?」

 コクピットハッチを空けて整備兵に機体を預け、水分パックからミネラルウォーターをすすっていたがトーに声がかかる。デラーズだ。

「はっ、閣下。……正直、流石連邦軍。戦力だけは過剰です」

 デラーズはガトーの言葉に頭を振った。聞きたいのはそういうことではない。勿論ガトーもそれはわかっているが、周囲に目があっては話しにくい。デラーズは察するとすぐに安心しろ、と言う手振りを示した。ガトーが少し、怪訝そうな顔をする。安心しろと言うのであれば周囲の人間にも解るような仕草でそれをするはずだが、デラーズは今、それをしなかった。まるでガトーだけに周囲の人間に聞かせてもかまわないと伝えたいのでもあろうか。

「閣下、な……」

「わしは疑っておるのだよ、ガトー。この戦、誰かに仕掛けられたものではないか、とな」

 ガトーは言葉に詰まる。今のところ、水天の涙を他にすれば星の屑作戦は上手くいっている。後方から迫るガンダムの接近が痛いが、それ以外は……いや。前方に展開する連邦軍の戦力がまだわからない。

 其処まで考えてガトーは初めて違和感を感じた。この作戦の要所要所に感じた違和感が一気に噴出したのだ。まるで、連邦軍がこちら側の動きを全て知っているかのように動いている……いや、違う。トリントン基地襲撃作戦は成功した。しかし、脱出はコムサイではなく潜水艦で。コムサイは我々が到着するよりも早く撃墜されていた。最初の違和感だ。まるで、逃走ルートを知っていた、もしくはコムサイが降下して軌道上に脱出するつもりだった事を読んででもいたように。

 次の違和感はアフリカだ。オービルの件と目的の重要性から言って、当然キンバライト基地は戦闘母艦一隻程度で攻撃する陣地ではないし、追撃部隊もその規模で編成するわけが無い。第一、トリントン襲撃からキンバライト戦まではかなりの余裕があった。その間に追撃部隊に増援を送ることが可能だったはずだ。それをせずに、連邦軍は水天の涙を重要視でもしたのか、アフリカではなくヨーロッパで作戦を展開した。

 ソロモン、月、そして今。連邦軍そのものでもなければ当然ジオンでも無い第三者の手が加わっていても不思議ではない結果だ。そもそも水天の涙はNシスターズを襲った第一次作戦の失敗から予測できるだろうが、MA三機を投入して一日かそこらで鎮圧されてしまうとは考えもしない。当然、そうした作戦への対応策をとっていたと見るべきだろう。連邦軍内部に、こちらの動きに精通した部隊がいる。
 
 連邦軍の中に、こちらの動きを知っている部隊と知らない部隊が交じり合って動いていると思い至った瞬間、ガトーの疑問は解消した。それと共にデラーズの行動にも。閣下は、この艦隊に内通者がいる事を疑っておられるのだ。だからこそ、だからこそなのか。いや、であるならば何故。

「ガトー。戦争とは始まる前に全てが決まっている。そう述べた軍学者が昔いたそうだ」

「はっ」

 ガトーは頷いた。正規士官としての教育を受けてきた彼は、戦史などの教育も当然受けている。戦争とは結局のところ数、と。一年戦争の際に負けたのは結局のところそれが理由だ。ジオンは最終的に地球連邦の数に敗北せざるを得なかった。MSがその良い例だ。敵に無い兵器を使用することで数の優位を交わそうと思っても、敵が同じ兵器を使用すれば結局のところは数が支配する。だからこそMSはMAに発展した。そして、あのガンダムはMAでもそれが起きようと物語っているように彼には思えた。

「ガラハウは其処まで考えて行動をとっているのかも知れぬな」

「!?」

 閣下はガラハウ閣下の存命を信じておられる!?ハスラー提督から話を仄聞する限りでは懐疑的だったはずだが……いや、それだけではない。この艦隊に内通者がいるとなれば、生きているかもしれないという情報を洩らすこと自体が危険だ。何故だ、何故閣下はそれを口に出す?

 ……まさか。

 ガトーは信じられないと言う瞳でデラーズを見た。デラーズは視線だけで頷く。そして笑った。

「ガトー、お前はこれより陸戦隊を率いてコロニーに行き、最終軌道調整の準備を行え。その後、事の推移を見届けた後は好きにせよ。ジオンとして戦うもよし、連邦に投降するもよし、アクシズにいくもよし。ガラハウが生きているならば真意を問うがよい。シーマしか生きていないのであればガラハウの復讐に手を染めるのもよし。わしは進めぬがな」

「閣下……!?」

 デラーズはため息をつくと頭を振った。

「戦い抜き、戦い抜いた先がこれとは、な。ただもし、この全ての裏に奴がおるのであれば、それはわしや今のジオンなどよりも充分な理由であろうことだけは想像が付くの。……悲しいことだが。いや、わしがジオンの理想―――もはや妄念に近いそれに動かされているように、奴には奴で、動かされるだけの理由とやらがあるのかも知れぬ。勿論、死んでいるのであれば……ふふっ、お笑い種よ」

 デラーズはそれだけを言うとMSデッキを去っていった。



 第69話



「モンシア中尉より連絡!陽道作戦成功、陸戦隊を乗せた内火艇3隻は予定通り、コロニー後部ハッチに接舷、陸戦要員を降ろしました!また、後方のムサイ艦も数を減らしています!今なら行けそうです!」

 上からの報告―――ピーター・スコット軍曹の報告に頷いたシナプスは、画面に映るヴォルガのマクス・パナマ大尉に向けて言った。

「パナマ大尉たちの部隊は後衛のムサイをひきつけてくれ。その間にガンダムとMS隊をコロニー内部に送る。陸戦隊から推進剤供給口の位置情報をもらうと同時に攻撃を開始。推進剤を誘爆させてコロニーの軽量化を行う。陸戦隊は工作の完了と共に退避させる」

「了解しましたが、月の司令部の了解を仰ぐ必要があるかと。幸い、現在バージニアがブースター加速でこちらに向かっています。シーマ大佐に中継を御願いすれば連絡は充分に可能と思いますが」

 シナプスは頷いた。

「了解した、大尉。連絡はそちらで」

 パナマ大尉は頷いて通信を切った。

「アルビオンはこれよりコロニーに向けて前進する!ウラキ中尉の状態は?」

「今、三本目の対G剤を。メディカルスタッフのチェックを受けています。……艦長、内火艇より連絡、出します!」

 コンソールに途切れ途切れの映像が映る。ミノフスキー粒子が濃いためだ。背後にはコロニー内部の都市の風景が見える。どうやら、割れたミラーから内部に入ったらしい。宇宙戦闘用のノーマルスーツに身を包んだ男が、こちらに何事かを語りかけてきた。陸戦隊の隊員らしい。陸戦隊とはいうものの、装備は無反動銃、砲及びグレネード。ノーマルスーツも胸部とヘルメットを強化した簡易型だ。

「艦長、こちらアルビオン内火艇0021、陸戦隊バルスキー特務少尉です。先ほど、コロニー内部を航空物体が飛ぶのを目にしました。我々以外にも潜入を行った部隊がいる模様です。半数がコロニー後部の港湾へ。残る半数はほとんどがコロニー中央部に残り、先ほど分隊規模の部隊が前部港湾に向かったようです。偵察部隊が残存部隊の中央に推進剤供給口らしきものを発見しましたが、コロニー内部を飛行した部隊と所属が同じと思われる部隊が推進剤の注入作業を行っています。警戒が厳重で500m以内に近づけません」

「ジオン軍か?」

 シナプスの問にバルスキーは頭を振った。

「いいえ。連邦軍で開発中の対G用ノーマルスーツ、通称"ハード・スーツ"に似た形のプロテクターを身に纏っています。ノーマルスーツに装甲板を追加したようなデザインです。また、所持している銃火器は連邦軍製でもジオン軍製でもありません。それになにやらデザインが少し異なります。まるで、銃弾を発射するのではなく、別のものでも打ち出すような。動きからして精鋭です。下手に動けば我々がいる事を気取られます」

 シナプスは眉をしかめた。

「連邦軍でもジオン軍でもない?……一体どういう……。少尉、通信を行ってこちらの存在が明らかになる危険は?」

「いいえ。この回線を確保するには時間をかけました。またコロニーから発信されている位置情報用のGPS回線に紛れ込ませて発信させています。内火艇3隻に合計45名、いささか戦力としては不足です。敵はどうやら一個中隊、200名ほどの部隊を4から6機のVTOL機他で運用しているらしいので。兵員の質も動きからして向こうが上でしょう。まともに一戦すれば蹴散らされます」

 シナプスは顎に手を当てて少し考えた後、言った。

「先ほど、前部港湾ブロックに向かった部隊が少数だったといったな?」

「はっ」

 バルスキーは頷いた。シナプスは更に数瞬、考えた後に言った。

「MS隊のコロニー突入と共に支援を受けてコロニー前部を確保せよ。難しい場合は任務を中途で放棄してもかまわん。但し、その場合は推進剤供給ラインを破壊してこれ以上の加速と大気圏突入前の最終調整を阻むのだ。あとは、地球軌道艦隊に任せるより他はない」

「了解いたしました」

 通信が切れた事を確認したシナプスは同時に脇のジャクリーヌ・シモン軍曹からMS隊の再編成終了とウラキ中尉のメディカルチェック終了の報告を受け取った。軍医の提出した報告書を見ると医務室に通信を始める。

「ウラキ中尉の状態は?」

「驚くべき体力と精神力です。G剤の使用は一ソーティ2回が限度ですが、よくもっています。しかし……」

「これ以上は危険か?」

「艦長……!」

 軍医を押しのけてパイロットスーツ姿のウラキが姿を見せた。疲労の色が濃い。一瞬出撃命令を下すのをためらってからシナプスはため息を吐いた。無理なのだ。ここでGP03という戦力を外すことは出来ない。月からの追撃部隊もそろそろ交戦領域に入るところだが、敵にあのMAがいる以上、バージニアからの援護があっても難しい。それに、シーマ大佐とは先ほどから連絡が取れない。恐らく、隠密行動を旨として通信封鎖を行っているのだろう。その判断に否やはない。通信は位置を暴露することになる。

 だからこそ単艦でコロニーの針路変更を行うために、戦力が低下しているらしいジオン軍の隙を狙って陸戦隊を送り込んだわけだが、コロニー内部の別勢力が気になる。何処の所属かがわからないうちは手を出せないが、わからない以上、敵として行動するより他にない。もしジオン軍だった場合、撤退の最中にあのMAに襲撃を受ければ陸戦隊が危険だ。やはり、ガンダム頼りになる。

「……ウラキ中尉、無理はするな。撤退命令を受け取った後は必ずアルビオンと合流せよ。また、コロニー内部の戦闘二機を取られて時間の確認を怠るな。阻止限界点まで40分の距離でプラズマ・レーザー砲艦の砲撃が始まる」

「はっ、ハイ!」

 顔を輝かすウラキに頷くシナプス。そこに更なる報告が入る。

「連邦軍空母イオージマ?……ベーダー大将の援軍か。よし、コロニー左翼側から近づいてこちらとの合流コースを取るように伝えろ。搭載している部隊には撤退の援護に入れるように要請。部隊は第32戦闘中隊……通称ウィザード隊か。指揮官はジョシュア・ブリストー少佐。聞いたことが無いな」

「元は連邦空軍の戦闘機部隊とのことです。どうやら、機種転換訓練後に異動になったらしく。記録を出しますか?」

 シナプスはそれは不要、と頭を振った。

「いや、良い。どうやら新型機を搭載してこちらに向かっているようだ。……長距離要撃用の機体か。今はありがたい。連絡は絶やすな。貴重な増援だ」





 コロニー前部航行管制室。現在時は地球標準時0083年11月12日午後2時43分(地球落着まで601分)。脱出のタイムリミットまでは200分と少し。現在は前部航行管制室に展開して航行制御プログラムの改竄を行っている最中だ。

 コロニー落とし、と一言に言うが、目標どおりの場所に落すには、また、地表に対する被害の程度を考えるならば、当然だがただ落しただけでは意味がない。目的に最適の場所に、目的を成すだけの形でコロニーを投下しなければならない。まず大気圏への侵入角度と位置。プログラム内部に書き込まれた内容によると、やはり目標は北米のようだ。阻止限界点を突破してから最終軌道調整をかけた後、投下される予定に変わりがない。

 そしてやはり、作戦に充分以上の効果を見込むデラーズ中将らしい設定になっている。コロニーの地表落着角度は、その大きさからすれば考えられないだろうがほとんど着陸に等しい22度。この角度で侵入した場合、かなりの距離の地表を削って落着した後に大爆発を起こす。

 落着角度が浅いためオーストラリア大陸を消し飛ばしたブリティッシュ作戦ほどの地形的被害はもたらさないが、浅い侵入角度がもたらす効果は地表の消失よりもむしろ、噴き上げられる土砂にある。噴き上げられた土砂はコロニーが引き連れてきた熱と爆発であっという間に灰に変わり、大気中を舞い散ることだろう。そしてそれは、今後10年近くに渡って地球を数度寒冷化するのに充分な量となる。

 ……は!?まて、落着角度22度!?そんな角度で侵入したらジェット気流に乗って拡散する塵の量は半端なものではないぞ!……間違いない。このコースだとカナダ、ケベック州側からサンベルトに向けて突入する。コースから言って、寒帯ジェット気流に乗ってヨーロッパ方面に拡散する。となれば、穀倉地帯とはいっても北米だけではなく、ヨーロッパ、ロシアにまで広がることになる。熱汚染の進行で、かえって農業が盛んになっているロシア平原を寒波が襲う事態になれば、0083どころの話じゃない!

 これは、史実以上の星の屑作戦になっている!?其処まで考えてから気付いた。

 ……何故だ?

 いや、今は航行管制を行う必要がある。其処まで考えたところでバイオロイド兵の一人が話しかけてきた。

「将軍、コロニー各所に爆薬の設置を終了しました。コロニー内に連邦軍の陸戦隊を確認。こちらを伺っているだけですので手は出していませんが、下手に外と連絡を取られると厄介ですな。ジオン軍でしたら即座に殲滅していましたが、連邦と言うのが……」

 私は舌打ちした。厄介な。何処の部隊だ。

「所属は?」

「陸戦隊内に潜入しているバイオロイド兵を見つけましたので通信を。戦闘母艦アルビオン所属の陸戦隊です。指揮官は認識番号CP987712Rのバルスキー。連絡によればおよそ1時間後にアルビオンのMS隊が突入を開始すると」

 ふっ、と息をつく。

「爆破準備はこちらの行ったものをそうだと報告させろ。航行管制室には部隊を送ってコロニーの航路調整を行った、ともな。こちらの所属は明らかにさせるな。もし陸戦隊員、バイオロイド兵以外のもので気付いたものがいれば始末しろ。今こちらの工作を気取られるわけにはいかない。勿論、アルビオンMS隊以外は、だ」

「了解しました」

 バイオロイド兵に対して頷くと航行管制装置にアクセスしている別のバイオロイド兵に声をかける。

「プログラムの起動準備は」

「現在インストール中です。ジオン軍の組んだ配管システムがかなり複雑ですのでまだ一時間ほどかかります」

「閣下!」

 周囲を警戒するために配置していた部隊の一人がかけ戻ってきた。

「戦艦グワデンより連絡艇3隻及びMAノイエ・ジールの接近を確認!コロニー前部港湾ブロックにもうすぐ来ます!こちらにもバイオロイド兵の潜入が出来ていますが、数が。それに、アナベル・ガトー少佐も同行されるようです」

 デラーズ、ついに気付いたか!前衛のムサイを下げてグワデンを前進させ、コロニーに接近させた報告を受け取った瞬間に、こちらの動きに感づいた可能性を考えていた私はそれが現実のものとなったことに舌打ちした。全く、まずい瞬間に気が付いてくれる。

「同行しているものの中で黒歴史に記載があるものは?」

「港湾部の周囲を警戒しているリック・ドムⅡに登場しているカリウス軍曹のみです。現在、40名ほどの陸戦隊員・補修要員と少佐が向かっている模様。内8名はバイオロイドです」

 私は其処まで考えて押し黙った。どうするか。……アナベル・ガトー。一年戦争の際には世話になった。武人らしいといえば褒め言葉だが、それは却って頑固で既存の価値観―――ギレンの思想に縛られると言うことでもある。だからこそ一年戦争の際に接触し、ジオンと言う考え方をただ地球連邦の一極支配に対する反抗、と言うだけではなく広い視野、スペースノイド全体を考えた場合を持たせるように誘導していた。

 しかし結局彼はデラーズの下に行く。勿論そうしなければ星の屑作戦の推移が不明瞭になるはずだが、一年戦争最後の戦いで見せた動きを考えれば、視野は広くなっていると信じたい。問題は。

 そう、問題は私が蝙蝠である事を知ったときに如何反応するか。

「港湾部管制ブロックに入った瞬間に攻撃を仕掛けろ。ガトーと兵員を分断した後はバイオロイド兵と呼応して陸戦・補修要員を殲滅。ガトー自身はバイオロイド兵と共にここへ連行しろ」

 苦々しげに顔をゆがめてそういうと、背後に暖かい感触。しかし今はそれが却って苦痛だよ、ハマーン。

「……あまり気乗りしませんが。不測の事態を招く恐れが」

 バイオロイド兵の一人、B小隊指揮官のレックス大尉が言った。指揮監督のため、バイオロイド兵の下士官以上には人格情報を与えられている。元々は潜入工作要員だけの処置だったが、バイオロイド兵の軍事力としての運用を考えると、結局はそのようにした方が良いことはすぐにわかった。

「私も義理には縛られる。いかんな、死なせたくない、などと思ってしまった」

 レックスは鼻で笑う仕草をすると、頷き、部隊に戻っていった。トールはその後姿を見つめると、果たして彼らに人格を与えたことが良いことだったのかを自問した。





[22507] 第70話
Name: Graf◆36dfa97e ID:75164fd2
Date: 2014/07/27 07:31


 それが起こったのは突然だった。それまで"順調"に地球に向けて移動を続けてきたコロニーに変化が生じたのである。時間にして0083年午後4時30分(阻止限界点まで194分、地球落着まで494分)。後にこの出来事は所謂"星の屑"作戦の砲火の始まりに擬せられる。

 午後4時30分、コロニー後部の姿勢制御用スラスターが点火。それまで前部を地球に、後部を月に向けて移動していたコロニーがゆっくりと反時計回りに回転を始めた。回転運動はコロニー自体の慣性を弱める方向で働いているようで、徐々に、ゆっくりと減速が始まっていることが観測されている(コロニー自体がAMBAC機動を行っているようなものだからだ)。

 当然、いきなりのコロニーの動きに対し、デラーズ・フリートは可能な限りのコントロールを行おうと試みた。まず、後部にケーブルを接続してコロニーの航行状況を管制していたムサイからコントロールが試みられるが、アクセスが何らかのプログラムによって邪魔されている間にコロニーの回転によってケーブルが引きちぎられ、コントロールが失敗に終わる。

 同時に周囲の部隊がコロニー近辺の警戒を強め、接近を行っていたヴォルガ級巡洋艦2隻、及び搭載MS部隊と交戦を開始した。この混乱に乗じてアルビオンがコロニーに接近を開始し、迎撃に出撃したグラードル隊をGP03が一蹴、コロニーにMS隊を侵入させることに成功する。

 また、コロニーの動きの変化を察知した地球軌道艦隊は前衛部隊の前進を命令。プラズマ・レーザー砲艦2隻を第一軌道艦隊、及び第9艦隊の護衛で両脇から中央部へ移動させると、ミラーの第一回照射を阻止限界点以前、プラズマ・レーザーの最大射程範囲とリンクするように設定し、防衛体制を整えた。

 コロニーの推進剤噴射による回転は、まるでそれが何かの歯車でもあったかのように全ての事象の動きを早めたのである。

「なんだ、この振動は?」

 アナベル・ガトーは陸戦及び補修要員を率いてコロニーに侵入していた。現在時は午後4時半。早く前部航行管制室に行き、最終軌道調整用のプログラムをセットしなくてはならない。そしてそれと共に、デラーズ・フリートに潜入しているであろう勢力の情報も、だ。

「少佐!コロニーが回転を始めています!」

 外を確認しに行ったエンジニアの一人が戻るなりそういった。ガトーの表情が驚きに変わり、また内心ではやはりと言う思いが強くなった。コロニーが回転を始めたということは慣性の移動で速度が減衰させられる。コロニー内部に残っている推進剤の量如何にもよるが、現在の残量から言って停止は不可能。となれば、減速させて狙いやすくし、何らかの方法を持ってコロニーを破壊するつもりだ。

「詳しく!」

「反時計回りに回転を開始!慣性が弱められて地球への移動速度が低下していきます!このままでは落着までの時間が倍になる可能性があります!」

 その言葉と共に銃声が響き渡る。前方、港湾部管制ブロックの入り口辺りからだ。誰も引き返してこない。

「前方の状況は!?」

「不明!白い硬性宇宙服着用の部隊と交戦!あれは……レーザー!?敵の武器には手持ち用のビーム、もしくはレーザー光学兵器が存在!」

 やはり!ガトーは口元を引き絞る。この宇宙で人間用光学兵器を実用化するほどの能力を持つ軍需企業など考えられる限りではひとつしかない。そして、その企業がある場所と最も関係が深い人間も容易に想像が付く。やはり、やはりか。

 何故ですか、閣下!

「前方の敵戦力をひきつけろ!私は脇道から廃棄用ダクトを通って管制室に向かう!其処の二人、付いて来い!」

 二人の陸戦兵は頷くとアサルトライフルを手に取った。



 第70話




 同様の混乱は侵入に成功した陸戦隊を追う形で前部港湾管制室への進路を取ったアルビオン隊でも見られていた。コロニー内部へ進路を取ったGP03を包み込むように攻撃を開始したデラーズ・フリートMS隊。火力に物を言わせてその攻撃を排除するとGP03はコロニー内部に侵入した。

 侵入したウラキは目をむいた。コロニー内部をジェーン年鑑でしか見たことがないGファイターの改造機らしき航空機と宙間移動用のバイクらしき物体が飛行していたからだ。また、周囲に展開している兵員見たことのない宇宙服を着用している。

「なんだ!?こいつら!?」

 あちらもこちらを確認したようだが攻撃はせずにコロニー前部に向かって飛行していく。……いや、前部に向かう途中で高度を上げて上面側のブロックへ移動していった。姿がすぐに見えなくなる。望遠機能を使って確認しようとするが追いつかない。煙幕かそれに近いもの―――可視光線は遮らないくせに光学観測機器の機能だけを潰す何かを用いている。勿論ミノフスキー粒子は戦場以上の濃さだ。

「ウラキ!工作隊より入電!後部及びコロニー各所に爆薬の設置完了!あとは前部だけだ、急げ!」

 バニングの声が響くが、それと同時に銃撃。どうやら、ジオン軍MSの攻撃らしい。視界の隅を何かが掠めたような気がするが気にはしない。ウラキはそのままGP03をコロニーに着底させるとコクピットハッチを空け、コロニーに降り立った。目標は決まっている。前部航行管制室。恐らく、ガトーはそこにいる。

「……ウラ……キ!何を……して……!戻……!」

 バニングの声が響くがウラキはそれを無視して近くのエレカに乗り込むと前部港湾ブロックへ車を走らせた。

 コウ・ウラキ中尉。ナイメーヘン士官学校を0082年に卒業した新任士官。連邦軍のエリートコースの一つでもある空戦士官過程を優秀な成績で卒業している。特に、乗った機体の性能を高いレベルで発揮させることに長けており、士官学校時代にはMSおよび航空機運用では優秀な成績を残している。

 その彼が初の実戦を迎えたのがオーストラリア・トリントン基地だった。連邦軍の士官である事をアイデンティティのひとつ、特に重要なそれとして認識していた彼に取り、大尉の階級章にだまされる形でアナベル・ガトーによるガンダム二号機強奪を目前で許したことは、これ以上ほどの強い自責の念として彼の心中に刻まれた。勿論それは、ソロモン海での攻撃を防ぎきれなかったことで罪以上の意識にまで肥大している。

 その反面、パイロットとしてアルビオンで過ごした生活は、彼の連邦軍MSパイロットとしての自己規定を肯定する形で進んだ。キンバライト鉱山基地攻撃、及びソロモン海でのジオン軍MSとの戦闘、そして年上の恋人、ニナ・パープルトンとの関係は、彼の精神にちょっとした慢心の種を植え付けていた。

 勿論それは若い士官には当然発生し経験する出来事の一つであり、本来の歴史であればバニングの戦死やケリィ・レズナーとの戦闘の経験で生じたパイロットとしての自信喪失とそこからの回復によって克服されるべきものであったはずだった。

 本来の歴史であれば。

 しかしこの世界ではその二つの出来事は巧妙といって良いほどの介入によって発生しなかった。このため、作中で"僕がガンダムを一番上手く扱えるんだ"というセリフによって表現される彼の認識は、なんら変わる事無く残り続けていた。

 だからこそ、彼は彼のそうした認識を最初に否定したアナベル・ガトー、そして彼に代表されるジオン軍に対する敵愾心を、誰もが見えない心の内で肥大化させていくことになった。勿論、GP03に乗り込んでからというもの、打ち続く戦闘で彼の体に打ち込まれた対G剤も強い影響を与えている。

 本来は強化人間用の薬剤として開発されたものの一つであるそれは、投与されたものの肉体を高G環境下に対応させる代わりに精神的な視野狭窄に陥らせる副作用を持っていた。連続投与を続けた場合の最初の症状は全てが敵に見えるというこれ以上ないほどの欠陥薬物であったが、投与の回数を軍医がコントロールしていれば問題ないとして等閑に付された。

 勿論この判断には開発に関わった医療関係者からの厳しい管理を義務付ける書類が添付されていたが、ラビアンローズから急いでGP03を受け取り、ジオン軍及びコロニーの追撃を始めたアルビオンの医務室では受領した医薬品の確認すら終わっていない段階でしかも、コロニーに危険なまでの蝕接を三隻という小部隊で続けていたこともあって発生した負傷者への対応に追われて確認が出来なかった。

 そしてこれが二つ目の原因として、問題に対して働くこととなる。

 ウラキはそのまま前部港湾の管制ブロックの入り口まで到達すると警備室のコンピューターを操作して内部の地図を入手し、警備室に併設されている監視カメラで通路の封鎖状況を把握すると短時間ゆえに封鎖が不可能だった物資搬入路を使って管制室へ移動を始めた。

 彼の手には、軍制式の拳銃が握られていた。




 浅はかだった。コウ・ウラキの思念が復讐(そう呼べるかどうかはかなり微妙だが)に囚われているのとは対照的に、アナベル・ガトーの思念は後悔そのものだった。勿論その思念は、自分が今後ろ手に拘束されて前部航行管制室への道を進んでいることが原因となっているためである。

 廃棄用ダクトから二名の陸戦隊員と潜入したは良いが、前部航行管制室まであと少しと迫ったところで青い硬性宇宙服を纏った士官に指揮された、白色の硬性宇宙服の集団に阻まれた。勿論それだけならば諦めて引き返すか他の手段をとるべきところであろうが、二人の陸戦隊員が急に銃を構えて自分を拘束し、硬性宇宙服の集団と親しげに合流した今となっては無理だった。

「答えろ、貴様たちは一体何者だ?」

「申し訳ありませんが、少佐。将軍より少佐をお連れするようには命じられましたが、質問に答えるようには命令されておりません」

 自分を連行している硬性宇宙服の男たちは確か、ヤコブとヴィルヘルムとか呼ばれていたはず。双子だろうか声がそっくりだ。話しかけて情報を引き出してみるか。

「君たちは一体何者だ。所属は?将軍とは誰だ?」

「申し訳ありません少佐。我々も任務でありますので。ヴィル、そろそろだぞ」

「了解だヤコブ。少佐、こちらへどうぞ。閣下がお待ちかねです」

 航行管制室の扉をくぐると、ガトーが待ち望んだ人物がそこにはいた。ノーマルスーツのバイザー越しに、この三年、生存を待ち望んだ人物の顔が見える。そして勿論その傍らには、三年前と変わらずに、寄り添う少女の姿があった。

「ガラハウ閣下……っ!」

「アナベル・ガトー少佐、か。三年ぶりになる。ア・バオア・クーでは世話になった。姉さんが助かったのは君のおかげだ。ありがとう」

 ガトーはそのままトールに走りよった。詰め寄ろうとするが腕が拘束されて動かない。もう少し、と言うところで阻まれた。立ちふさがったのはハマーン・カーン。三年前よりも女らしく成長した彼女は、まさしく"女"らしく、守るべきものの前に立っている。

「カーン家のお嬢さん!?何故だ、何故君や閣下がここにいる!?閣下、あなたはここで何をしているのです!?閣下、あなたはジオンを裏切ったのですか!?それにこの軍隊は!?連邦軍ならばまだしも、我がデラーズ・フリートにまで部隊を潜入させているなど!」

「死者合計65億4500万人。軍人を除いて、だ。何の死者かわかるか、ガトー」

 トールは一言、そういった。いきなりの数にガトーは驚きを隠せない。それだけの戦死者が出た戦争など存在しない。一年戦争でさえ、公称で8億2300万人の被害だ。それだけの死者など、戦争では生じ得ない。そんな戦争は、人類は経験していない。

「本来の一年戦争での死者合計数だ。ブリティッシュ作戦の前提となった一週間戦争で、ギレン閣下が他のサイドへの無差別攻撃を認可した場合、及び、地球降下作戦の際に質量爆弾を用いた際の地球気候の変動による死者も合わせてある。聞かせてくれ。宇宙の独立と死者。見合うのか、君にとっては?」

「……しかし、その死者は出なかった!閣下、推測で話をされても答えようがありません!」

 トールは首を振った。

「私が出させなかったのだ、少佐」

「……一体、閣下はどういう目的で!?ジオンの理想、スペースノイドの独立のために……」

「それも私の目的の一つではある。しかし、ザビ家のジオンの理想は、デギン陛下の思想からはずいぶんと離れていった。ギレン閣下はジオンの経済力がコントロールできる規模にまで人類の数を減らそうと考えていた。勿論、地球上の人口は地球を汚染するだけの存在だとして全て抹殺する予定だった。最終的に地球圏の人口を、恐らく10億程度にまで減少させる予定だったのだろう。そうでなければジオンの経済は持たないからな。しかし、ギレン閣下には予測できないこともあった」

「そんな!100億近い人間を虐殺するなど!?」

「事実だ。証拠が欲しいならいくらでもある。必要ならば総統秘書官のアイリーン女史に証言させても良い。私の目的は人類の種としての生存、及び人類が到達しえた知見の保護にある。デギン陛下に協力しジオンとして活動したのも、その目的のためだ」

 ガトーは黙る。親衛隊第二艦隊の司令官であるトールが、自分の知らないギレンを知っている事をガトーは知っている。そして、トールがどちらかと言えばギレンに近い存在では無くデギンに近い存在であることも。それに問題はない。ガトーにとってはどちらも尊敬すべき存在だ。スペースノイドの独立を達成し国家を創設したデギンと、その国家に誇りある軍隊を創設して10倍する連邦軍と戦って見せたギレン。双方共に卓越した政治家だと思っている。

 だからこそ公国親衛隊にトールの推薦で配属されたときは誇りを感じた。だからこそキシリアの存在が許せなかった。底の浅い陰謀家はついには戦争全体を失う結果をもたらした、そう考えていたからだ。そしてギレン・ザビは自分にとって守るべき公国の象徴であった。

 しかし、その考えは三年の間に変わりつつある。トール戦死の報に接してから脱出の可能性を探ったのは当然だが、脱出していたときの事を考え、当然行方を追いもした。その中で手がかりになるかと思い、一年戦争時代のトールの動きを追った。その中で見えることがあった。それがガトーを少しだが変えている。

 トールの作戦行動を追うと、ギレンが少なからず、トールの行動とかぶらない――まるで、トールを排除しようとすれば危険であるかのように――範囲で自身の権力拡大を行っていた。その記録をガトーはグワデン艦内で見た。そしてまた、トールにキシリアの始末を押し付けた地球降下作戦後の権力闘争はガトー自身の目からしても行き過ぎと思える部分があった。これまではそうでもしなければキシリアを押さえ込めないと感じていた。しかし、特に地球撤退後は異常だ。キシリアをトールの配下に形の上でもするなど、一年戦争の際にはキシリアを押さえつける絶好の配置だと感じられたが、内実を見ると戦争の推移よりも、月でトールとキシリアの噛み合いを誘発させたとしか思えない行動だ。

「ジオンの経済力が10億の人口を支えられる力があったのは、工業コロニーであるジオン製品の輸出先として、各サイドがあったればこそだ。その市場を自ら潰す行為に出れば、ジオンの経済力は遠からず先細りする。となればどうなると思う?10億の人口を管理できる力が先細り、100億を殺しつくしても尚、更に人間を殺しつくすことになる。勿論そうはならないように他のサイドを経済的に支配すると言う方法もあるだろうが、早晩、反乱を招いていただろうな。結局支配者がスペースノイドに変わっただけで、連邦政府と行うことに変わりはない」

 ガトーにとっては自身で想像はしつつも聞きたくない結論だった。しかし、正しいと感じてしまう自分を認識している。一年戦争開始前、トールは軍人、特に士官教育にはデギンの影響力を十二分に生かせるような配置を為していた。ギレンの目が軍に光っている事を逆手に取り、新規士官教育にダニガン中将やカーティス大佐などのザビ家独裁に対して批判的な軍人を、閑職的な配置、と言う名目で配していた。それはジオン軍人の練度を更に高める結果をもたらし、戦争の激化をもたらすことを承知していたが、その一方で正式な士官教育を受けた軍人が生み出されることは、ともすればただの虐殺の応酬になりかねない戦争に、軍人の良識と言う最後の一線を敷く役目も果たしていた。

「……それが閣下の考えですか。だからこそジオンでも連邦でもない行動の道を選ばれた、と?」

 トールは頷いた。揺らぎはあるが、決断は疑っていないようだ。

「ギレン閣下その人に否やがあるわけではない。閣下は戦死しても尚閣下と呼ぶに値する能力と指導力を持ち、一年戦争を一年と戦いぬけたのは確かに、ギレン閣下の指導力を抜きにしては語れない。また、現在サイド1と月が独立しスペースノイドの未来に光明が見えたのも、スペースノイドの間に鬱屈としてたまる不満をギレン閣下が吹き出させて見せたからに他ならない。しかし、だ。しかしだよ、ガトー。教えてくれ。今のジオンはギレン閣下のジオン足りうるのか?勿論、私はデギン陛下に近いと自らを任じているから、そこからがわからない。ジオンは、"ジオン"なのか?」

 ガトーは瞑目し、頭を振った。スペースノイドの独立を言い訳に生物兵器の散布を狙った水天の涙。それがガトーをしてジオン残党についてもう一度考えさせるきっかけとなったのは確かだ。生物兵器という、旧世紀から使用が禁止されているはずの禁断の兵器を使っても尚、達成すべき理想がジオンにあるのか。そして―――

 地球人口が35億残り、其処に食糧難を発生させることになれば当然発生するだろう飢餓の死者に対して独立が言い訳になるのか。

「しかし、何故。……閣下ほどの方であらばギレン閣下をして……」

 トールは自らを守るようにガトーとの間に立っているハマーンの方に手を添え、横に退かせた。視線だけで会話をしているようにも感じられる。数瞬の後、うなずきあった。何か、了解に達したらしい。トールは言葉を続けた。

「ハマーン・カーン。キシリア機関のチェックに寄ればニュータイプ候補生。キシリアがサイド6に作っていたフラナガン機関では、ジオン・ダイクンの定義したニュータイプを兵器として実用化する研究が行われていた。君も知るシャア大佐のジオングがそれだ。勿論、ソロモンからア・バオア・クーにかけて投入された独立300戦隊の使用MA、エルメスに使われていた技術もそれ。そして御存知、アインス・アールについても、だ。彼らがどのようにして"製造"されるか知っているか?」

 "製造"。ガトーはその言葉で何が行われているか容易に想像がついた。キシリア機関が占領地や貧民区に出入りして何かをやっていることは寄港したコロニーでもよく噂になっていたし、自身がデラーズに近かったこともあってそうした情報には接している。アクシズから派遣されてきたイカルガ中尉と会った際には、まだ年若い少女が巨大MAを操り、しかもそれが"調整"とやらのおかげだと聞いてショックに近いものを覚えたのも確かだ。

「キシリアは良い。もう死んでいるからな。しかし、キシリアが行おうとしていたことをギレン閣下も行っていた。いや、行おうとしていた。勿論実用化には程遠かった。ハードウェアであるMS、MAについては君も見たジオングが示すように一応の完成を見ていたが、ソフトウェア、つまりパイロットの養成でくじけていた。人体実験以外にその時点では方法が見つからなかったからだ。それでもパイロットの製造は強行された。ギレン閣下にはニュータイプについて軍事用以外にももう一つ要求があったからだ」

「それは……?」

「ザビ家からニュータイプが出る必要を感じていたこと、だ。政敵であるジオンの思想を本当の意味で受け継ぐためには、ザビ家のニュータイプが必要だった。そのためにザビ家の血縁からニュータイプ機関に送る人材を探してもいたし、自身や縁戚のDNAをニュータイプとしての能力を発現させたもののDNAと掛け合わせることで人工的にニュータイプを作ることも考えていた。……ミネバも対象となっていたよ。ソロモンから脱出しようとしたゼナ殿とミネバが秘密警察の標的になったのはそういう理由からだ。決して、反体制派のせいではない」

 ガトーは目を見開いた。その言葉にハマーンがトールに寄り添うのが見える。ガトーには少女の姿が今ここにいないミネバの将来の姿と重なって見えた。ミネバ。ミネバ・ザビ。ドズル閣下の娘も対象になっていた!?ガトーの内心に更なる衝撃が走る。ガトーは親衛隊に所属が移る前は宇宙攻撃軍所属でドズルの部下という経歴だ。そして、自身もMAを駆って前線をかける軍人然としたドズルの行動は、全ジオン軍人から敬意の対象となっていた。どんなにザビ家に不満や侮蔑の意を表す者でも、ドズルの軍人としての行動には非がつけられなかったほどだ。それほどまでに兵たちから愛された将軍だった。

 そのドズルの娘をニュータイプを確保するための人体実験に供しようとしていた事実は、ガトーの中にドズルに対する忠誠心とギレンに対する忠誠心の間でのジレンマを生み出した。キシリア機関から目の前の男が多くの子供たちを助け出していたことはデラーズを通してガトーも知っているし実際助けられた子供たちを目にしてもいる。一年戦争を利用して戦争犯罪とも言える行為を重ねるキシリアを、ザビ家という理由から逮捕できないが故に、キシリア機関に対して公然と襲撃をかけ続けるガラハウ機関とその功績については、親衛隊は外には出せない秘密、しかし痛快で心暖まるそれ、として喜んでいたものだ。

 ガトーの精神は強く揺さぶられていた。目の前の男がハマーン・カーンという少女を大切にしている姿は一年戦争からずっと目にしている。だからこそ、人体実験だのニュータイプだのといったお題目をこの男が心底嫌っていることは充分知っていたし、このような内容で嘘を付く男でないことも一年戦争から解っていた。キシリアというジオンの毒の存在が、ギレンと言うジオンの正しさの象徴で戦う自分を規定していたこともそれに重なる。

 しかし、だからといって目の前の男を肯定することも出来ない。これでは自分は何を信じればよいのか。敬愛する人物が実は。これでは自分はとんだ道化ではないか。

「閣下、星の屑作戦は打ち捨てられた宇宙に今一度、地球の人々の目を戻す作戦であります!そのために……」

「飢餓に苦しんだ結果、10億近い人間の死を許容しろ、と。……デギン陛下の前で言えるのか、それが。我々は単なる人殺しのために戦っているのか、ガトー?ジオン公国が命を賭けて望んだ戦争の大義であるスペースノイドの独立は、世論醸成のために10億の餓死を許容するのか?」

 トールはコンソールの前に歩を進めた。

「ジオンが戦っている地球連邦とは何なのだ?スペースノイドが憎む地球連邦とは何なのだ?地球で貧困にあえぐ人々なのか?このコロニーが目標とするところは何だ?ジャブローならば良いだろう。其処にいるのは軍人で、地球連邦に命をささげるといった人間たちだから。しかし、北米に落して命を失うのは誰だ?スペースノイドの独立のためには地球にいる全ての人々を憎むしかないのか?空気に税金がかかることが其処までの理由になるのか?すまん、ガトー。そうであるならば私は理解などしたくない」

 トールはそういうと推進剤点火レバーに手をかけた。引けば、第二段階の推進剤点火が始まる。今度は地球に正面を向けた際に断続的に推進剤に点火を行ってコロニーを減速させるための点火だ。これによってコロニーの地球落着は大幅に遅れ、現在地球静止軌道上に展開している戦力であれば、楽にコロニーを破砕して大気圏で燃え尽きる大きさに分解できるだろう。コロニー各所に爆薬が仕掛けられて破砕準備が整っているのであればなおさらだ。

「星の屑の真の目撃者は、ここにおいては君と言うことになるのか、ガトー」

「閣下!?それはどういう……!?」

 其処まで言ってから急にトールは何事かに気付いたようだ。周囲の状況を見回してから控えていた兵士に向かって怒鳴り始めた。

「周囲を警戒!侵入者が……」

 銃声が響き、室内を血球が舞った。






[22507] 第71話
Name: Graf◆36dfa97e ID:75164fd2
Date: 2014/07/27 07:32

 いきなりの銃声。舞う血球。撃たれたのは誰だ?ガトーが即座に伏せ、周囲のバイオロイド兵が自分の周りに壁を作る。もう一発。今度はバイオロイド兵の装甲服に命中して弾け飛んだ。しかしバイオロイド兵は何もしない。ブラスターライフルを銃を撃ったらしいノーマルスーツの男に向けるだけだ。そしてノーマルスーツの男は多勢に無勢と見るとすぐにドアの向こうに姿を消した。

 撃たれたのは俺じゃない。ガトーでもない。装甲服をまとっているバイオロイド兵たちは論外、となれば……

「トール、避けて……」

 聞きたくなかった言葉を聞いたことで呼び起こされた考えたくない思惟の結果を私はその次の瞬間、見下ろすことになる。レックス大尉と部下二人。アレはヤコブにヴィルヘルムか。三人が腹部を血に染めたノーマルスーツの人物を懸命に治療している。体をそちらに向けるが強い力で押し付けられていることにいまさら気付く。バイオロイド兵たちだ。見れば数人がガトーの上に覆いかぶさり、別の集団が私たちの前に壁を作り、懸命にハマーンを治療し、そして守っている。

 撃たれたのはハマーン!?ソフィー姉さんに仕込まれた教育の結果か、周囲に舞う血球の量から出血量の推定を頭がし始めていた。危ない!?出血している量は!?宇宙空間での出血は気圧の関係から静脈からの出血でもポンプのように吸いだされる。即座に出血を止めないと命取りだ!

 見るとハマーンは力なく横たわっている。意識はない。撃たれたことでかなりの出血をしたらしく、ノーマルスーツの腹部が血に染まっている。目算で一リットルほど。ハマーンの体重は50キロほどだから、危険なまでの出血量だ。既に処置が始まっているらしく血は止まっているが、かなりの血を失ったことで危険な状態であることに違いはない。

「レックス!出血量は!?総員、あのバカを逃すな!」

「出血量は約一リットル!先ほどナノマシンを注入しました!現在ノーマルスーツの穴を塞いで傷にガーゼを!メディック!急げ、お嬢さんの治療だ!早く!」

「警戒中の歩哨4名が死傷してます!侵入者が他にもいる模様!」

「閣下、アレはアルビオンのウラキ中尉です!現在の規定では射撃できません!解除か変更を!」

「追え!殺せ!生かして帰すな!他に侵入者だと!?」

 感情そのままに叫び、行き場のない怒りを床に拳でたたきつける。抜かった!レバーを引く寸前、ここでのガトーとの対峙と、原作でのニナとガトーの対峙がかぶさったため、誰かが潜入して銃撃をする可能性を疑ったところがこれだ。アルビオンの部隊には工作が完了したと偽情報を流していたのに、何故ウラキがこちらに来ているのかが解らない。兵員の多くをデラーズ側の上陸部隊と爆薬の設置に回したためか!?いや、それでも普通の兵隊ならばバイオロイド兵相手に気付かれずに接近など!

 しかしそれは後だ。今はハマーンの治療が!

「レックス!ハマーンの状態は!治療急げ、早く!メディック!」

「閣下、落ち着いてください、メディックが現在治療を行っています。……こちらレックス!……そうか、解った。閣下、アクセル大尉の部隊がこちらとの合流を要請しています。どちらにせよ移動を。揚陸艇には治療設備の備えもあります。まずはお嬢さんをそちらに」

 行き場のない悔恨と憤懣を噛み締めつつもう一度床を殴ると、推進剤の点火レバーに手をかけながら命令した。

「レックス、ハマーンをすぐに移送してくれ。可能な限り早い処置を。分隊、命令変更だ。ウラキ中尉を追い、捕えろ。無理なら射殺してもかまわん!追いつけずにガンダムに乗り込んだなら、其処から反転して揚陸艇に戻れ。無理ならばビーコンを発しろ、ガンシップで回収する。……何故だ!?クソッ!」

「はっ!」

 敬礼したバイオロイド兵たち5名が追撃に向かう。レックスが担架にハマーンを載せて部屋を出るのを見ると、ヤコブとヴィルヘルムが拘束しているガトーに再度向き直った。

「如何する、ガトー?申し訳ないが話している暇はない」

 ガトーは拘束されたまま立ち上がる。ガトーを庇っていたバイオロイド兵が両脇から拘束を続ける。しかしガトーはそれを気にする事無く言った。

「……閣下、私は閣下に返せぬ義理がございます。しかし、それはデラーズ閣下に対しても同じです。私はデラーズ閣下を見捨てて閣下についていくことは出来ません。デラーズ閣下より、ここに参った後は好きにするように申し付かっておりますが、まだ星の屑作戦が継続している以上、私はデラーズ・フリート所属の士官として行動させていただきたく思います。但し、条件が一つだけ」

「止めないのか。私が行っているのは作戦の邪魔だぞ」

「……デラーズ閣下の星の屑作戦における主目的が、地球に食糧難に起こす事を陽動としたジオン残党の地球圏撤退であることは承知しております。星の屑作戦のうち、コロニー落としが閣下の目的と齟齬を引き起こすのであれば……閣下、私がここで邪魔をしない代わりに、地球に残存するジオン残党のアクシズへの脱出に御協力を願いたい。勿論、現在デラーズ・フリートとして戦っているものたちは可能な限りでかまいません。……今回のことは私にも責があります。あの男、私がオーストラリアかソロモンで撃墜さえしておけばこんなことには……」

 ガトーは眼光鋭く言った。私は深呼吸をすると頷いた。正直、ここまで混乱した状況でコロニーを脱出した後にノイエ・ジールが敵に回るのは避けたい。恐らく、どうせGP03は敵に回るだろうから。……悪いが、どうしても、どうしてもあの男は許せない。それが例え、自分の判断ミスが原因でも。

「了解した。地上のジオン軍残党の地球圏脱出には手を貸す。アクシズまでだな。それから先は知らんぞ」

「解っております。私、アナベル・ガトー少佐は親衛隊第一艦隊デラーズ・フリートでの任務終了後、4年ぶりに原隊に復帰し、第二艦隊所属に戻らせていただきたく。……勿論、デラーズ閣下に了承を得、デラーズ閣下に対する私の義理を果たした後に。地球に取り残されたジオン兵の命とならば、私一人安いものです。……それに、閣下の為されたことはともかく、閣下御自身は一年戦争のときからも変わらずにおられること、ハマーン嬢へのお心遣いにて確認させていただきました」

 ガトーは精一杯、こちらを気遣った言葉を向けてくれるが、それは今の私にとっては何よりもきつい一言だ。

「言うな。頼む、何も言うな」

「はっ」

 私は頷くとレバーを引いた。前部の推進剤に点火が開始され、コロニーの速度が低下する。これでここに来た目的は全て果たした。後はコロニーを地球に落ちてもかまわない大きさに破砕する作業だけ。ソーラ・システムにプラズマ・レーザーがあれば難しい仕事ではない。

 違う、これは私の甘さだ。コウ・ウラキのガトーに対する強い敵愾心を読み誤っていた。ニナ・パープルトンだけが原因ではなかったのだ。勿論それ以外にも原因があることは良く知っているが、バニング大尉を助けたことで精神的にも成長していると見誤ってしまった。それがハマーンを傷つける結果となってしまった。

 それでもし、ハマーンが死んでしまったならば。

 ハマーンが死んでしまったならば、それは俺の責任だ。

 他の誰でもない、俺の。

「将軍、追撃部隊がアンドロイド数体を確認!こちらのものではありません!」

 やはりそうか。ウラキ程度がコロニー各所に部隊を分散させたとはいえ、バイオロイド兵の警戒を抜けてくるから怪しいと思った。この件には、あいつらも関わっていると言うことか。

「ツケは高くついた、ということか。クソッ!」


 第71話



 コウ・ウラキは後ろから迫る追っ手と追っ手の放つビーム光を器用に避けながらエレカに乗り込むと一気にガンダムへと走った。一旦は追っ手を撒いたかと思ったが、すぐに先ほど見た、宙間移動用らしいバイクに乗ってこちらに向かってくる。どうやらバイクの先端にも同じようなビームの発射機が付いているらしく、エレカの近くに着弾しては火花を散らす。

 エレカ程度の速力では逃げ切れないと思ったそのとき、敵のバイクの近くに連続した着弾が生じてバイクは破壊された。他のバイクは形勢不利と見るや退却に移ったようだ。

「コウ!無事か!」

「キース、お前なんで……」

 チャック・キース少尉のジムキャノンⅡが援護に来てくれたらしい、ジムキャノンの背後には周囲をうかがうジム・カスタムの姿。どうやらバニング大尉が残ってくれたらしい。

「ウラキ、急げ!」

「大尉!ガトーが拘束されていました!拘束していた奴らはすぐに出てきます!」

 通信を受けたバニングは一瞬コロニーの内部で何が起こっていたかを考えたが、ウラキの持ってきた情報だけでは少なすぎると判断すると続けて命令を下した。

「ウラキ、さっさとガンダムに乗れ!もうすぐイオージマからの援護が来る!陸戦隊の仕掛けた爆薬も時間が迫っている!ジオン残党の掃討が始まるぞ、急げ!」

 コウは頷くとガンダムに乗り込み、起動を開始する。

「ウラキ中尉!ソーラ・システムの射程範囲に突入しつつある!ウラキ中尉!」

 オンになったままの通信回線からスコット軍曹の呼びかけが続いている。ウラキは回線を開くと返事をした。

「こちらウラキ、これよりバニング大尉達とコロニーを出る」

「ウラキ中尉!まもなく空母イオージマからの部隊がコロニーに接触します!援護を受けて残存するジオン残党を攻撃してください!陸戦隊の内火艇は既にコロニーを離れつつあります!脱出を確認次第爆薬を起動させるとのことです!急いで!」

 ウラキは気の入らない返事をすると通信を切った。あの光景が頭に焼き付いて離れない。ガトーを拘束していた硬性宇宙服の集団。中心にいた、少女らしきノーマルスーツに寄り添われた男性を、自分はどこかで見たことはなかったか?それに、ガトーを拘束していたのであれば連邦軍のはずだが、先ほどこちらを襲ってきた。勿論、自分が打った弾丸が小さいノーマルスーツの人間に当ってしまったことが原因であることはわかっている。

 しかし、このコロニーに潜入している連邦軍はアルビオンの陸戦隊とMS部隊だけのはず。アレがもし連邦軍ならば、どうしてこちらに連絡一つよこさない?それに、ガトーを拘束して何事かを話している風にも見えた。ガトーが閣下と呼んでいたから、ジオン軍のはずだが、それならばどうしてガトーを拘束してコロニーに対して何かを行おうとする?

 答えが出ないままにコロニーを出るとコロニーの前部で連続した噴射を確認した。

「バニング大尉、あれは!?」

 キースの通信。それに答えるバニング大尉の声。

「陸戦隊のやった減速のための噴射だろう。これで時間が稼げる。軌道上のソーラ・システムとプラズマ・レーザー、それに陸戦隊の仕掛けた爆薬があれば、これでもう、阻止限界点を越えてもほとんど大丈夫だろうな。良いか、急げよ!レーザーやソーラ・システムはこちらを区別してくれはしないぞ!」

 変だ。陸戦隊の影は前部航行管制室には無かった。前部航行管制室でしかこの噴射のコントロールが行えないとするなら、なんであの集団はガトーを知っている?あの集団は一体なんだ?ジオン軍に知己を持ち、ジオンに協力せずに隠れてコロニーのコントロールを行おうとしている。しかも、アルビオンの陸戦隊はまるであいつらの存在を知っていたかのように行動し、この結果だ。

 あの噴射はアルビオンの陸戦隊が行ったものじゃない。それなのに、何故?

「まさか、連邦軍の、月艦隊の中にジオンと取引をしている奴がいる?……そいつは陸戦隊に命令を下せる立場で、ここにいない人物。多くの兵力を動かせる立場で、コロニーに秘密裏に部隊を送り込めるほど、戦場の状況を知る立場にいる人物……まさか!?」

 コウは自分の思い至った事が本当かを確かめる必要があると感じた。感じた内容そのままにフットレバーを押し込むと、おそらくそ部隊軍が入った側であろうコロニーの上面へ向かう。さっき飛び去ったバイクと飛行機はあちらに向かったはず。ならば……

「ウラキ!何処へ行く!?」

「コウ!」

 二人の通信を背景に、コウのGP03はコロニー上面にその機体を動かしていった。新たな通信音を背景に加えながら。

「……こちら空母イオージマ所属、第32戦闘中隊。指揮官のブリストーだ。これよりコロニー近辺に展開するジオン軍を攻撃する。近隣の攻撃可能な部隊はわれに追随せよ、以上だ」



 一方、コロニー後方1万5000を航行するバージニアでは予想外の客を迎えていた。作戦通りならばソーラ・システム防衛の任務についている東方不敗マスター・アジアだった。クーロンを一人で動かしてここまで来たらしい。勿論、ソーラ・システム護衛の任についているトロッターやブライト・ノアには黙ってきたらしい。

「東方先生、アンタなんでここに!?」

 MSデッキまで降りてきたシーマが怒鳴る。当然だろう。ガトーがソーラ・システムに突撃を行う可能性があるからこそトールは東方不敗をソーラ・システムに配したのだ。それがここに来るとは、作戦違反でもあるしガトーが攻撃を開始した場合に阻止する戦力が不足する可能性が高くなる。

「ふん、悪い予感がしたのでな。わしの予感はこれでも当る。シーマ、あの馬鹿弟子から連絡はあったか?」

 シーマは頭を振る。コロニー内部に突入してから30分おきに確認の連絡が来るはずだが、1時間前以来報告がない。呼び出しを続けてはいるが、同行したバイオロイド兵からも報告がないのだ。揚陸艇との連絡は維持されているが、戻ってきた様子はない。

「まだ無いよ。……確かにおかしいね」

「シーマ様!コロニー前部近辺に連邦軍の部隊が展開を始めています!ありゃあ新型ですぜ!」

 その報告にシーマは目をむくと怒鳴った。

「モニターに出しな!一体なんだい!?」

 映し出されたのはブルー・カラーに塗装された航空機らしい影。何事かと整備デッキから上がってきたセニアがそのMSに気付いたらしい。

「シーマさん、あれはミツコの報告にあった新型よ!ハービックの技術陣が連邦軍に出向して作った奴!確か、GTなんちゃらって言ったはず!」

 其処からデータをあさりにまた整備デッキにかけ戻るセニア。予想外の展開に誰しも驚きを隠せないが、その中で悠然としている東方不敗はシーマに向けて話しかけた。

「シーマ。月からアレは運んできたのだろうな?」

「一応あるけど……先生、アンタあの機体で出るつもりかい!?」

 東方不敗はシーマのその言葉に鼻で笑った。

「今ここでクーロンで出れば、コロニーから出てくる所属不明の機体がトール指揮下であることがばれる。となれば無理よの。ならばあれ―――マスターガンダムで出た方が良い。何、ア・バオア・クーの騎士とやらにまた一機機体が加わったとしても問題はなかろう。むしろシーマ、心せいよ。今この段階でわしらの行動を塞ぎにかかってくる必要があるのは誰か。おのずと答えは出ようものよ」

 シーマはその言葉に背筋を凍らせた。弟の、トールの行動を今まで何度も塞ぎにかかってきた"整合性"。それが実戦部隊を投入してきた可能性に思い至ったのだ。だからこそ東方不敗は予感に従ってこちらに移動してきたのだろう。シーマにしてもシステムの目的を叶えることがトールの行動の第一の目的であると知ってはいても、そのために弟の犠牲を許容するつもりはない。

 彼女にとって大切なのは地球にコロニーが落ちることで失われる命よりも弟一人の命なのだ。

「あたしも出るよ。ガーベラの用意は出来てる」

「それこそやめよ。お前の言うガーベラが一年戦争のときのそれかアナハイムから供与されたガンダムかは知らぬが、双方共に所属が明らかよ。下手には出せぬ。それとも、所属が不明のMSがまだ搭載してあるか?」

 東方不敗に言われたシーマは少し考えた後に頷いた。一機、ある。トールの乗り換え用に積んできたMSが一機。この戦場でジオンとして戦わざるを得ない可能性を考えて運んできたMSが一機だけある。

「姉さん、無茶よ!ドルメルはトール用に調整してあるし、キットが積まれていなきゃ性能が出せない!姉さんには難しいわ!」

 データを取って整備デッキから戻ってきたセニアが叫ぶ。シーマに釘を刺しながらディスクをコンソールに入れると機体データがモニターに写し出される。RX-78E、ガンダムGT-Four。コア・ブースター形態からMS形態に簡易変形可能なMS。航空機型機動兵器の特徴でもある長距離侵攻能力と即時展開可能という特性を生かして戦線を機動防御、または突破するための兵器。

 次々に映し出される性能諸元を細かく目で追いながら、東方不敗は鼻息を鳴らした。試作機?嘘をつけ。試作機ならば8機も要らぬ。となれば、この部隊は当然実戦に耐えうるだけの性能を持ち、その実証を終えた兵器であるはず。そうでないならばやはりアレが投入した部隊と考えるしかなかろう。トールがここにいれば、他にも情報もあったかもしれんし、それによって連邦軍の開発したものか、アレが投入した兵器かの区別も付こうが、今付かぬとすれば、アレが投入した部隊と考えて動いた方が良いな。

 しかし、いまさらトールを襲って何の得がある?東方不敗は訝しげに顎に手を当てた。

 歴史のバランスをとるというのであればコロニーそのものが投下されなくとも、破片を地球環境に影響を与えるような大きさにとどめられればそれで良いし、それを為すのであればむしろジオン側に戦力を加えて星の屑を後押しさせた方が良いはず。これではバランスをとるどころか、トール一人に狙いを定めて行動しているとしか思えぬ。

 今ここでトールの奴に手を出すことで星の屑が動く事を狙っておるのか?いいや、ベーダーの第一軌道艦隊がソーラ・システムを展開させておるし、アナベル・ガトーがソーラ・システムに攻撃を加えた際の事を考えてプラズマ・レーザー砲を展開させてもいる。トールがコロニーに入ったということはコロニー破壊用の爆薬でも持ち込んだに相違あるまい。奴はそういうところでは過剰に過ぎるほど準備を行う。

 となれば、コロニーが地球環境に影響を与えるほどの大きさで地球に落着することはもはやほとんどありえん。ガトーが突撃をしたとしても、ソーラ・システムとプラズマ・レーザー双方を潰すことなど不可能。トレーズはそこまで無能ではない。

「解せんな。どうせ碌な事を考えてはおるまいが……」

 東方不敗はそういうと格納庫に仕舞ってあるマスターガンダムに向けて歩みを進めた。



[22507] 第72話
Name: Graf◆36dfa97e ID:75164fd2
Date: 2014/07/27 07:32


「閣下!コロニーが!」

 タイラー少佐の悲痛な声が艦橋内にこだまする。先ほどまで順調すぎるほどに順調に言っていたコロニーの侵攻が、二度の推進剤噴射によって止められた形になったからだ。ブリティッシュ作戦に比すべき作戦を、比較にもならない戦力で行えていたことは確かにデラーズの作戦指揮を褒めるべきだが、投入戦力が少ないと言うことは作戦に何らかの障害が発生した場合、その取り返しがきかないということでもある。

 そして、コロニー落しは一年戦争序盤、優勢なジオン軍の総力を結集しても尚、達成できなかった作戦だ。巨大に過ぎるコロニーの質量は、一旦コントロールを失うと制御が不可能になる。そして、制御が不可能と言う事実はデラーズ・フリートの面々の脳裏にある一語を思い起こさせた。

 作戦失敗。

「コロニーの状況はどうか」

 思い至った作戦の結果に沈黙の帳が下りていたグワデンに声が響いた。デラーズだった。その声に正気を取り戻したらしいオペレーターの一人が報告を再開した。

「コロニー、減速を開始!現在、阻止限界点まで80分、地球落着まで元速度で380分の位置ですが、減速率を計算すると……地球落着までおよそ560分!阻止限界点が後退していますから……阻止限界点まで250分!」

 デラーズは重いため息を吐いた。落着までの時間が延びすぎた。先ほど地球静止軌道の偵察に出た部隊が報告して来たソーラ・システムの展開と、その脇に控えるレーザー砲艦の存在からしてガトーのノイエ・ジールによる強行突破しかコロニー落着の目は無いが、最終軌道調整用の推進剤を消費されてしまっては作戦の所定目標、北米の穀倉地帯にコロニーを落着させることは出来なくなる。

「報告!連邦軍航空機部隊、後5分ほどで接触!MSサイズです!……MAの可能性大!」

「連邦軍のMAだと!?」

「落ち着け。ガンダムをMAにしようと考えるくらいだ。それぐらいの開発は連邦軍でも行っているはずだ。……考えておくべきことだったのかも知れなんだが」

 デラーズは力なく司令官席に座った。

「ガトー少佐より報告!コロニー内部にて連邦軍の陸戦隊の潜入を確認!補修・陸戦要員に多大な被害が発生!連邦軍のコロニー破砕工作を阻止できず!前部、及び後部航行管制ブロックを占拠され、コントロールを奪取されたとのことです!……え?あ、閣下!ガトー少佐より伝言!"鯨はヨナを見つけた"であります!」

 デラーズはその言葉を聞くと笑い出した。ガトーが何を言いたいのかを察したためだ。鯨、つまりバルフィッシュはガトーのコードネームで、キリスト教圏では鯨は旧約聖書において、善人ヨナと邂逅する。童話"ピノッキオ"の元となった話として有名だ。そしてデラーズはガトーがヨナと評した人物が誰かがすぐにわかった。聖書の一説から引いているのであれば、何事かを願う文言としてごまかすことも可能である。デラーズは自分の疑念が正しかった事を知ったわけである。

「あやつにはあやつの望むものがあった、か……業腹よの。ジオンの理想は一年戦争にて潰えておったか。ふふ、ふふふ……いまさらどうしようもない、か」

 デラーズはそうつぶやくと痩身に力を入れて立ち上がった。

「星の屑作戦は所定の目標を達せず!現時点で作戦の第一目標が達成不可となった!総員に告ぐ、かくなる上は作戦第二目標であるアクシズへの脱出を最優先とする!作戦の規定に従い、戦隊ごとに戦線を離脱してアクシズ先遣艦隊の回収ポイントまで移動せよ!グワデン以下の司令戦隊はこれを援護する!」



 第72話



「コロニー、第二次推進剤噴射を確認!アルビオン隊の工作は成功した模様!……ベーダー大将、ルナツーの宇宙艦隊総司令部からです!」

「つなげ……いや、待たせろ。先に艦隊への命令を下す」

 第一軌道艦隊司令のベーダーはそういうとジャミトフを一瞥した。ことの推移に一瞬、驚きの表情を見せたがそれをすぐさま押し隠したのが見える。ジオンとて一枚岩ではないと言うことは確認していたものの、ここまで連邦側に有利な展開になるとまでは推測が付かなかったらしい。いや、既にアルビオンを通してコロニー内部で不明勢力と接触したという報告が届けられている。ジオン以外にもこの戦いに参加していた勢力が存在する、か。こいつにとっては良い報告なのだろうな。

「閣下、ジオン残党艦隊が撤退行動に入っています。追撃の許可を第9艦隊が求めていますが」

 表情を押し隠してから即座に入った通信からこちらに向けて顔を上げたジャミトフが言う。どうやら、バスクの艦隊から追撃許可を求める通信が入っていたようだ。第9艦隊の担当区域ではまだソーラ・システムの展開が終了していない。それなのに追撃を求めてくるとはよほど戦いたいらしい。ジャミトフも複雑な表情だ。

「バカを言えと伝えろ。残党部隊が撤退に入っていても、まだコロニーは地球に向けて移動を続けておる。さっさとソーラ・システムの展開を終えろと伝えろ。自身の仕事もせずに花形だけもらおうなどと虫が良すぎるわ。左翼の第11任務部隊に通達。コロニー左翼方向からの敵艦隊追撃に入れと伝えろ。ソーラ・システムコントロール艦の護衛は……よし、月第二任務群を呼び出せ」

 ベーダーは矢継ぎ早に命令を下す。コロニーの地球落着までの時間が延びた今。最優先課題がコロニーの地球落着を阻止することに違いはないが、むざむざ撤退するジオン残党を逃すこともない。

「月第二任務群、群司令ブライト・ノア中佐です」

「ホワイトベースの艦長からたいした出世だ、ノア中佐。戦力に不足は無いか?」

 ブライトは少し考えた後で首を横に振った。現在ブライトの部隊が割り当てられているのはレーザー砲艦の護衛任務。それをトロッター一隻で行っているため、戦力的には不足も良いところだ。臨時に第一軌道艦隊からサラミス4隻の増援を受け取っているが、ジオン残党にMAが確認されている以上、突破を狙われた際に手数が足らなくなる可能性がある。

「なるほど、やはりな。独立したばかりで戦力の配備を連邦が遅らせた結果でもある。更にサラミスを数隻まわす。レーザー砲艦の位置を修正、コロニーの爆薬による破砕が始まった段階で砲撃可能な位置に砲艦を移動させろ。前進はするな。ソーラ・システム前面で動け。少しばかり照射の邪魔になってもかまわん」

「了解しました。しかし、我々はコントロール艦の護衛を行っているトレーズ中佐との共同行動中です」

 ベーダーは頷いた。それは知っている。しかし追撃まで行うとなれば、一年戦争以来の精鋭で固められている敵部隊が前に存在する以上、追撃も精鋭で行わなければ被害が大きい。だからこそベーダーはあえて陣を動かす決断を下した。

「トレーズの部隊は追撃に回す。中佐は増援のサラミスと共にコントロール艦の近くで、しかも砲艦による攻撃が可能な位置に移動せよ。座標はこちらで既に算出してある」

 ブライトは少し悩んだ後で頷いた。

「トレーズ、聞いていたな。コスプレ部隊を率いて前面に押し出せ。新型MSの性能とやらを確認させてもらう。我が艦隊はコロニーが阻止限界点に達した段階で第一次照射を行う。それを考慮した追撃を行え」

「了解しました、閣下」

 既に開いていた通信からトレーズの声が響いた。ベーダーは鼻を鳴らすとルナツーからの通信回線を開いた。

「ベーダー、作戦は順調かね?」

 ベーダーは映し出された人間に対して敬礼を返した。映し出されたのはレビルだったからだ。現在、連邦軍終身名誉元帥の地位に進んだかつての同期に対し、ベーダーは軍人としてあるべき態度を示したが、レビルはそんな友人の行動に苦笑しつつ、らしいな、と答礼に応じた。

「レビル元帥、いかが致しました?」

「コロニー内で、変な部隊と接触したか?」

 ベーダーは確かにその報告を受けていた事を思い出す。白色の硬性宇宙服を着た集団との戦闘は、アルビオンから連絡を受けている。戦闘が終了次第、調査をさせようと思ってもいた。

「はい、それが?」

「連絡の不備だ。宇宙艦隊総司令部が月艦隊を通じて編成した宙間特務部隊がこの作戦には投入されておる。ルナツーの司令部を通して君のところに報告を入れておくはずが、どうしてか送信されていないようなのでな。急ぎ連絡をせねば友軍同士で交戦しあう可能性もある」

 ベーダーは頷いた。確かに作戦が始まってから下手に通信を受けても、その内容がこちらにあがってくるまでにはかなりのタイムラグがある。その間に友軍同士で交戦が始まらないとも限らない。だからこそわざわざレビルが、通信を行えば必ずベーダーを出さざるを得ないという判断が下る事を知って通信を送ってきた、ということだ。

 しかし、ベーダーは首をかしげた。連絡が何故ルナツーからこちらに送信されなかったのだ?作戦に参加する戦力を司令部が把握しておくことは戦争の絶対条件の一つだ。となれば、作戦に戦力が参加するという報告は最優先で上げられるはず。また、ベーダーにしても第一軌道艦隊とその母港である軌道ステーション・ペンタ、及び寄港先であるルナツーの司令部には顔が利く。それなのに報告が入らないとはおかしいにも程がある。

 まさか。

 ベーダーは脇のジャミトフをちらりと横目で見た。ベーダーの視線の先に誰がいるか推察が付いたらしいレビルは首を振った。ん?違うのか。ジャミトフではないとするならば誰だ?レビル派、コリニー派などといって派閥抗争をしているバカどもの始末にはほとほと辟易していたから、今回のこの一件もそいつらの仕業かと思っていたが、そうではないのか?

「察しのとおりだ。あの若者。また面倒な相手を敵に回したらしい」

 ベーダーはなるほど、とため息を吐いた。一年戦争の際、連邦軍の戦力を立て直すきっかけとなったMS開発計画。それを主導した若者の姿を思い出したのだ。情報部の報告によれば、ジャミトフとも接触を持って何かを考えているらしいが、ベーダーからすれば軍人が政治的な動きに関わりすぎているとしか見えず、あまり良い気持ちはしない。しかし、現状の連邦軍のありようからして、政治的な動きにも対応可能な体勢をとっておかねばならないことは不満ではあるが理解してもいる。

「ジオン以外にも敵を抱えることになると」

「問題はその敵が戦場で倒せばよい種類の敵ではないということだな。アステロイドベルトに逃げた残党も問題だが、差し迫ってはそちらの方が問題だ。そして、そいつらはあの若者を次の標的と考えているらしい。もっとも、わしらにとってはあの若者が標的になってくれる分、動きやすくはなる」

 ベーダーは苦笑した。この男も善人面してよくもまぁ。しかし、そうでなければ連邦軍の中でのし上がれはしない。彼が元帥となり、自分がポストが空いた結果の大将となった原因は其処にある。そのことはベーダーも良く知っている。

「となると、我々はあの男に借りがあるということではないか、ヨハン」

 苦笑しつつレビルは応じた。

「そういうことになるな、ダグ」




 揚陸艇を収納したステルス艦が目の前でステルスモードに入り視界から消える。続いてアクセルのソウルゲインが迷彩マントを身にまとって視界から消えた。ガトーがその技術に驚いているのを横目に、油断無く周囲を見回す。連邦、ジオン共に敵の姿はない。

「将軍、これより移動を開始します。治療設備を動かしているため戦闘は不可能です。バージニアもしくは危なければ後方に向けて移送を開始しますが、将軍は戻られますか?」

 ステルス艦からレックスの声。心を落ち着かせて周囲の状況を考える。感情そのままに行動するのであれば、コロニーの地球落着の可能性が僅少化した今、必要以上にコロニー近辺に残る必要は無いからこのままステルス艦と共に移動してバージニアでハマーンの容態に集中していたい。

 しかし、心を落ち着けて考えてみると、気になることが二つある。誰がドロイド・コマンドを送り込んだのか、そして誰がコロニー落着コースの設定を変更したか、だ。ドロイドの方は想像が付くが、落着コースの変更までそうだろうか?この戦いに参加している勢力が多すぎて、誰がやったかの判断に苦しむ。デラーズか、ジオン残党の中の誰かか、"整合性"か、そして連邦軍か?

 落着角度22度。北米大陸の表面を削り取り、大量の土砂を塵として北米、ヨーロッパ方面に展開させるコロニー落下作戦は、同じコロニー落下といっても原作とはぜんぜん違う内容だ。それは、落着コースを見れば更に明らかになる。本来の歴史ではフロリダ州側から北米大陸に突入するコースをたどり、土砂の大半は寒帯ジェット気流に乗ったものの、大半はアフリカ側に拡散した。アフリカ側ならば大半は砂漠であり、塵の大半は海や地表の温度を下げ、アフリカには雨をもたらすから北米の穀倉地帯に被害が限定される結果だったはず。いやむしろ、北米の大半の都市がコロニー落着による汚染を受けたことのほうが問題視されたはずだ。勿論、海面温度の低下で異常気象の発生確率が高くなるが、農産物の産地を直撃しないため、直接的被害は北米だけで済んだ形になる。

 しかし、今回の落着コースはカナダ側から北米に突入するコースをたどっているため、同じく寒帯ジェット気流に乗るとはいえ、吹き上げられ汚染された塵の大半はヨーロッパ、ロシア方面の穀倉地帯を直撃する。塵の行く先が30度違うだけでこれとは。22度と言う効果角度は黒歴史からわかった本来の落着角度よりよほど浅い。浅いと言うことはそれだけ長い時間地表を削り取ると言うわけで、吹き上げられる土砂の量は本来のコースの比ではない。落着角度38度の史実でさえ、フロリダ州東部に落下したコロニーはそのまま南部を突っ切り、テキサス・オクラホマ州境まで地表を削り取った。

 そして今。キットが算出した落着角度22度の予想被害は暗澹たる結果だった。カナダ・ケベック州東部に落下したコロニーはそのままオンタリオ州を突っ切り、五大湖に突入。ヒューロン湖、ミシガン州、ミシガン湖、ウィスコンシン州と五大湖工業地帯のど真ん中を突き進み、コロラド州リオ・グランデでようやく止まる。被害についてはこの世の終わりそのものだ。

「ガトー、コロニーのコース設定は誰がした?」

「自分は奪取に関わっておりませんが、作戦ではフロリダ州からサンベルトに突入するコースで、被害を北米に限定する―――地球でも富裕層が多い、アメリカに、と言う計画だったはずです。まさか、ロシアやヨーロッパにまで被害が拡散するコースが選ばれているとは……デラーズ閣下も知らなかったはずです」

「……デラーズに確認は取れるか?出来れば設定した人間の割り出しも頼む。これでは地球に宇宙に対する食料依存の体勢を作るどころか、宇宙への食料搾取をもたらすしかなくなる。ジオンに友好的な世論の情勢などと言う話ではない。地球と宇宙の殺し合いに発展しかねない」

 ガトーも変更されたコースのもたらす被害に驚きを隠しきれない。この作戦の最初の目的、つまり地球の宇宙に対する食糧依存は、地球に住む人々の目を宇宙に向けさせること、宇宙に住む人間の状態に嫌でも目が行くようにすることにあったが、これではやりすぎである。地球の食糧供給体制を崩壊させれば、食料をめぐっての地球・宇宙間の抗争にまで発展する。其処までいけば、原因を作り出したジオンには憎しみだけが向けられることになる。この作戦は、被害を出しすぎてもまずいのだ。

「出次第、必ず」

 ガトーはそういうとノイエ・ジールに戻る。ここに来るまではガトーを如何にかしようと考えていたが、ハマーンが負傷し、コロニーの突入コースが被害を拡大させる方向に設定されていたことは重大な事実だった。ガトー一人にこだわっている余裕はもう、ない。

「レックス、回線を中継しろ。目標、コロニー後方2万8000の地点にステルス伏在中のゼルグートⅡ世級"ドメラーズⅢ世"エルク・ドメル提督宛、だ」

だ」

「了解しました」

 通信回線が開かれ、後方2万8000にミラージュコロイドを用いて伏せているゼルグートⅡ世級"ドメラーズⅢ世"との通信が開始される。回線はガミラス帝国のシステムそのままだ。現在の地球圏の科学では捉えることが出来ない電波形態であり、更にミノフスキー粒子の影響を量子通信システムと違って全く受け付けない点は素晴しい。もっとも、現状は通信以外に運用が出来ないのが困るところだが。

 モニターに現れた精悍な男がこちらに向かってガミラス式の敬礼を行う。地球式でそれに答えたトールに男――エルク・ドメルは言った。

「閣下、こちら"ドメラーズⅢ世"通信状況良好です。現在ガイデロール級2隻と艦隊を組んでおります。援護の必要が?」

「まだ必要ない。トラクター・ビームの準備はどうか?予定より早まるかもしれない」

「勿論既に準備させております。但し我が艦隊は急な出撃でしたので護衛用の機体がほとんどありません。モビル・スーツ、でしたか?あの機体をもう少し融通させていただきたく。第一閣下、星系攻略作戦も惑星強襲降下作戦もないこの原始的な世界で我々の戦力の投入は過剰戦力だと思いますが」

 私は首を振った。

「今の課題は直径6km、全長30kmの構造物の惑星落下を食い止めることにある。レーザー砲艦、反射レーザーシステムの運用で破砕は可能だろうが、それでも大気圏で燃え尽きない程度の大きさの塊が発生する可能性がある。それを軌道上に固定しておくためには、主力戦艦級の出力を持った重力波コントロール、トラクター・ビームが必要になる、そういう判断だ」

 ドメルは少し考えてから頷いた。彼の住んでいた宇宙では惑星からの迎撃でどうにかなるが、この彼からすれば原始的な世界でそれが可能と言うわけもない、と思いなおしたようだ。それに、コロニーのコース設定が作戦の内容と異なることは既に彼のところにも報告が言っている。

「了解しました。準備を進めます」

「艦隊他の各艦は?」

 ドメルは苦笑しながら話し始めた。

「ハイデルンは後方で援護の準備、ゲットー、バーガー、クロイツは格納庫でMSと格闘中です。あのゲイオス・グルードとかいう機体を早くモノにする、と。航宙機からの機種転換でごたつくと思いましたが、中々早く片付きそうです。航宙機がMSとやらに代わり、搭載スペースを危惧しましたが、いやはや、大きくなりましたな、この船も」

 今回呼び出した宇宙戦艦ヤマト関連の船舶はMSの搭載容量と恒星間の輸送任務を鑑みてサイズを1.5倍から最大で2倍近くまで大きくさせている。戦闘艦艇は軒並みMSの搭載スペースでそれらが使い潰されているが、それにだけに使うのももったいないような気がしたためだ。

 今回の船舶選択にはいくつか候補があり、積載力を考えるなら既に選択している銀河英雄伝説も候補に上がったが、砲塔のない戦術的自由度の低さから採用はしなかった。最も、それは戦闘艦艇だけで非戦闘艦艇は使い勝手の良さから外宇宙での運用や、デチューンしての地球圏での運用も視野にいれている。

「ある程度の数と積載量は必要なのでね。それではよろしく頼む。貴官らにはこの紛争後、その能力を十二分に発揮できる舞台を考えている。しかし、そのためにはまず、あのコロニーの地球落下を食い止める必要がある」

「了解しました」

 通信を切ったところでステルス艦が発進を開始したのが見える。護衛を行える位置にガトーと共に付くと、先行して航路を確保しているアクセルがバージニア近くまで行き着く間は私がステルス艦の護衛だ。ガトーは途中までは同行するが、その後グワデンに合流して撤退をはじめたデラーズ・フリートの支援に移る予定だ。

 しかし―――――

 それはある意味予想していたことであり、航行管制室の出来事から当然予測してよいことであり、そして今、ハマーンの容態が一番気がかりとなっている私にとってはおこって欲しくない出来事だったものだった。

「待っていたのか!?私を!?」

 ガトーの驚きを含んだ声が聞こえる。ガトーを、そして背後に見えないものの航行するステルス艦を狙った―――結果論だろうが―――メガビーム砲の射撃を迷彩マントでかき消した私は、その機体に向き直った。コロニー外壁近くにその巨体を置いてこちらに砲を向けているその機体、GP03に。この男、二度も狙ったな。

「……貴様が何者だが知らない!何故こんな事をする!貴様は連邦か、それともジオンか!?」

 通信回線でこちらの所属を問う声が入っているが聞こえないし理解したくも無かった。「トール?」、と気遣うようなキットの声が聞こえるがそれも気にはならなかった。どうしても、どうしても我慢が出来ない。目の前にいるのはハマーンを傷つけた敵。見境も無く命令に違反してコロニー管制室に侵入し、余計な事をしてくれた敵。ガトーを追うことばかりを考えてこちらの動きを台無しにしてくれただけでなく、取り返しの付かないことまでしでかした、敵。

 ハマーンを撃った、敵。

 試作ガンダム三号機、パイロットはコウ・ウラキ中尉。

「トランザム起動。外装をパージ。最初から全力で行くぞ。さっさと墜とす」

「……了解しました」

 ヴァイサーガの機体が赤く、続いて金色に光るとそれまで擬装用と迷彩用を兼ねていた装甲が次々と剥離して元の機体の姿を現す。光につられて集まってきたらしいカリウス軍曹の小隊、そしてウラキをおってきたバニング小隊はその光景を目にした。そしてオープンとなった通信回線に、つぶやくようなガトーのため息が漏れた。

 一年戦争以来、誰もが追い求めてきた機体。ある者には仇であり、ある者には謎であった存在。

「"ア・バオア・クーの騎士"……っ!」

 皮肉にも、ガトーとウラキの声が唱和していた。









[22507] 第73話
Name: Graf◆36dfa97e ID:75164fd2
Date: 2014/07/27 07:33

「閣下!?」

 ガトーの言葉が聞こえるが気にも留めずに、進路を塞ぐように立ちふさがっているGP03に向けて切りかかった。即座にアポジモーターを点火して距離をとるGP03。そんなことは織り込み済みだ。更にヴァイサーガを増速させて距離を詰めると五大剣を振るう。手ごたえ。

「なんでこんなところに"ア・バオア・クーの騎士"が!?……まさかっ!?」

 接触したことでつながった通信回線からウラキ中尉の言葉が漏れてくる。どうやらこちらの正体にうすうす感づき始めたらしい。まぁそうだろう。アルビオン陸戦隊に虚偽の報告をさせるだけの権力を持ち、戦闘の状況を把握した上でコロニーをコントロールするために部隊を送り込めるものなど早々いない。ウラキ中尉が情報からこちらの正体に気付き始めたとしても無理はない。

 しかし、今の段階でそれが明らかになるのはまずい。こちらの正体はまだばれて良い段階ではない。少なくともグリプス。連邦軍の大半がデブリ回収業者に堕するまでは。

「墜ちろ、ガンダム!」

 五大剣をヒートモードに設定して接触面から熱で切り裂く。右側コンテナに接触していた五大剣が熱を帯び、装甲を融解させ始めた。このまま内蔵してある武装の弾薬に引火してくれればそれで良い。しかし、ウラキもこちらの狙いは悟ったようだ。五大剣がヒートモードに変わるということは色が熱を帯びオレンジ色に変わり始めるということ。そして気の利いたパイロットらしく、こちらの機体を離そうとするのではなく、機体下面の大型ビームサーベルをこちらに向けて動かし始めた。機体の損傷にもかまわずこちらを撃墜するつもりらしい。

「させん!」

 ガトーの声。声と共に放たれた有線クローアームが今まさにビームを出そうとしていた左側のサーベルアームを捉えるとその握力で押しつぶす。ちぃ!ウラキの反応が早い。ガトーがアームを潰した瞬間、無事な左側コンテナからフォールディングバズーカを取り出した。こちらに向けて近距離では放つつもりだ。

 流石に直撃を受けてはまずいため、五大剣のヒートモードを停止させ、コンテナをけりつけてGP03と距離をとる。コンテナの装甲が厚く、弾薬の誘爆までには至っていない。アルビオン隊はまだどうにかなる。問題はジオン側だ。目撃者は少なければ少ないほど良い。下手にガトーがこちらを助ければ関係を疑われる。それに、このガンダムは私の獲物だ。

「ガトー、手を出すな。デラーズのところへ行くのだろう。そこのドムの小隊をつれて早く行け」

「……すみません、閣下!」

 ガトーが機体を翻す。カリウスのドム小隊は一体何が起こっているのかわからない様子だ。仕方が無いだろう。いきなりガトーと年来の敵である"ア・バオア・クーの騎士"が一緒に現れただけではなく、ガンダムに撃墜されようとしていた"騎士"を助けたのだから。

「ガトー少佐!どうして!?奴は我々ジオンの!?それに、デラーズ閣下から作戦中止命令が出ました!アクシズ艦隊に向けて……」

「カリウス!今は良い、付いて来い!」

 ガトーはそういうとコロニー前方に展開して接近する連邦艦隊に向けて砲撃を開始しているグワデンへ向かう。少しの間逡巡したカリウス小隊も後に続いた。GP03がその後を追おうとするがその進路を塞ぐ。

「ガンダム、貴様の相手はこちらだ」

「……あなたは、もしかして……」

 これ以上しゃべらせるわけには行かない。さっさと墜とさせてもらおう。殺すとまでは行かなくとも、ハマーンの受けた苦痛に見合うものは感じてもらう。既にコロニー破壊の手は充分に打った。ここでガンダム一機相手にしていても問題はない。キットが先ほどから心配そうに声を―――通信に捉えられては困るため、コンソール脇に文字表示で"落ち着いて"と表記しているだけだが―――かけてくれているが落ち着けない。許せないのだ。撃ったウラキも、それを許した自分自身も。

「その問に答えて欲しいのならば私を撃墜してみせろ。それとも、抵抗できない女性は後ろから撃てても、"ア・バオア・クーの騎士"は相手として不足とでも?とんだエースパイロットだ」

 通信回線から聞こえる歯軋りの音。そうだ、もっと怒れ。操縦の腕は上がってもまだ精神的には未熟。退き時がわからないのであれば向かってくるはず。予想通り、ガンダムはこちらを射線に捉えて次々にミサイルを放ってくる。マイクロミサイルでこちらの動きを封じるつもりらしい。木っ端相手の装備とはいえ、惜しみなく弾をばら撒くとは良い勘をしている。

「ウラキ!今はガトーを!」

「バニング大尉!こいつは墜さなくちゃいけない敵だ!」





 第73話




「ガトー少佐!何故、奴を!"ア・バオア・クーの騎士"は我らが閣下の仇!」

「カリウス!デラーズ閣下のグワデンは前進しているのだな!他の隊の撤退状況は!?」

 質問を許さないガトーの口調に一瞬のまれかけたカリウスは押し黙り、ガトーの口調から何事かを察して報告を始めた。

「現在、グワデンはコロニー前方1万3000!後退を始めた部隊はグラードル隊が撃沈された空域から後退を始めていますが、追撃してくる木馬型の援護らしい巡洋艦2隻と交戦しています!」

「コースはコロニーから見て右翼にとれ。連邦軍の動きからして、ミラーの展開が終了しているらしいこちらから見ての右翼側の部隊が動くはずだ。……今連邦軍と交戦している部隊には盾になってもらうしかないな。……やはり、か」

 ガトーは友軍と交戦している二隻の巡洋艦―――月艦隊のものだという事はすぐにわかった―――の位置を確認してからつぶやいた。必要以上にコロニーからの距離を取り始めている。こちらを誘うと見せかけると同時に、後方の警戒線に穴を開けて其処からジオン軍の脱出を図らせるつもり、か。やはり閣下はジオン軍の?いや、であるならば……

 だんだんとグワデンの後部ハッチの姿が近づく。通信可能領域に入ったと確信したガトーはグワデンへの通信回線を開いた。すぐにデラーズの姿がモニターに移る。

「閣下!……伝言は届きましたでしょうか?」

 デラーズは力なく頷いた。一瞬、ガトーはトールの行動を裏切りと考えてショックを受けていると考えたが、すぐにデラーズが苦笑したことで気を抜かされてしまった。

「……閣下?」

「今回の作戦が問題なく行っていた場合の被害人口は直接的には餓死10億。食料移送などの混乱で更に5億近くが被害を受けるだろう。経済的に困窮している階層から被害を受け、地球、宇宙を関係なく死者を出す。そして持てるものたる地球連邦の上層部はなんら痛痒を感じまい。結局のところ、いつの時代も被害を受けるのは持たざるものよ」

 ガトーはデラーズがこの作戦のもたらす直接的・間接的な被害を十二分に知っていたことに改めて驚く。コロニー内、及び脱出する際にトールから尋ねた作戦のもたらす被害のあり様を正確にデラーズは知っている。ならば何故。ガトーはこの作戦が地球に宇宙に対する食糧依存の体勢を作らせ、ドズル率いるアクシズ艦隊の帰還の際にジオンに好意的な世論を醸成するための作戦だと聞かされていたし、そのように信じてもいた。

「閣下、コロニーの侵入コースプログラムに変更が行われていました。我々の当初の作戦予定であるフロリダからの侵入コースではなく、カナダ側からの侵入コースを取り、吹き上げられた塵がヨーロッパ、ロシアを襲う設定に。設定変更は閣下が!?」

「やはり変更されていたか。わしではないが、そのように設定されるであろうことは予測していた。変更する気はなかったがな」

 デラーズはため息を吐きながら言った。やはり設定は変えられ、作戦の初期設定から外されていた?しかも、デラーズ閣下はそれを予測していた?しかも、変更するつもりはない!?閣下は15億の人間を餓死させるつもりだった!?

「……今回の作戦内容に失敗時のアクシズ脱出を盛り込んだ結果、艦隊内部の強硬派が何らかの行為を行う可能性はあった。ふふ、トールの奴がア・バオア・クーから戦力的に整った部隊をほとんどアクシズに脱出させただろう。そのため、地球圏に残ったジオン残党で軍として体裁を整えているのは我々ぐらいよ。作戦前にも言ったろう、良くて宇宙海賊だ、と」

 ガトーは絶句する。これでは軍隊ではない。それこそ、本当のテロリストではないか。我らジオン残党は其処まで堕していたのか?

「今となってはそれが誰の手によるものかは解らん。撤退命令に従わず、連邦軍と交戦を続けている艦もあれば、撤退命令が出た瞬間に算を乱して撤退した部隊もある。……ガトー、お前も撤退せよ。アクシズ艦隊へ回収を願うもよし、お前が見つけたヨナのところに向かうもよし」

「閣下!」

 デラーズは力なく笑うと司令官席に深く腰掛けた。

「ジオンの理想、それはスペースノイドの独立と平和にあったはず。しかし、地球圏の人口からして、この作戦は地球への攻撃と言うだけではなく、今も平和に暮らしているスペースノイドの生活も乱すものだ。わしは、今のジオンが其処まで周りが見えなくなっていると言うことに気付いて仕舞ったのだよ、ガトー。既にサイド1と月が独立し、一年戦争の結果、スペースノイドの一部とはいえ独立を迎えている。ジオンの為そうとした理想の一部が既に為されているが、奴らにとっては自らの独立が達成されなかった時点で如何でも良いのだろうな。われらの言うスペースノイドはジオン国民……いや、ジオン国民ではなく、我々自身でしかなかったのだ。ギレン閣下の毒が効き過ぎたな。"優良種"を心底信じているらしい」

 デラーズは其処まで言うと少しの間瞑目し、息を大きく吐き出すと改まった表情でガトーに向き直った。ガトーはその表情を見ると息を呑んだ。覚悟を決めた表情だ。デラーズの体には先ほどの言葉のときに感じられた静かな絶望は微塵もない。

「閣下!……"ヨナ"閣下は地球圏からのジオン残党のアクシズへの脱出に手を貸す、とお約束くださいました!閣下も!」

「それも予想はしておった。奴が生き残っているのであれば、全ての決着はドズル閣下が帰還された際になる。となれば、そこで奴がどのように動くかは知らぬが、地球圏をジオンと連邦、二つに明確に色分けをしてからの話になるだろうからな。お前が約束をせずとも、奴はジオン残党の地球圏脱出には手を貸すだろう。……別にお前を揶揄している訳ではない。お前がそう願うのと同様に、奴にもそうするだけの理由があるのだ」

 デラーズは自分の言葉に一瞬ガトーが表情を歪ませたのを見ると言葉を添えた。この男は純粋に過ぎる。悪く言えば誰かの影響を受けやすい人間であり、そこに自分がガトーを上手く使っていたのかと言う疑いを感じた。結局のところ、私はガトーを理想と言う言葉で使い倒していたのではなかったか。いや、今更だな。

「……それでは、ガラハウ閣下の考えられている理想とは!?」

「それは奴に聞け。ドズル閣下はアクシズに、デギン閣下は今も尚地球にて御存命であらせられる。奴はドズル、デギン閣下の命で動いているのやも知れぬし、奴自身の考えで動いているのやも知れぬ。どちらにせよ、"ジオン"ではなく"スペースノイド"を考えれば、奴の動きはそれなりに理に適っておる。結果論であるし、"ジオンの理想"とやらに囚われた者達からすれば噴飯物も良いところだろうがな。ガトー、奴の行く道は辛いぞ。常に蝙蝠である事を自らの罪とせねばならぬ。最も良い行動をとるという言葉しか拠るものは無く、旗幟を鮮明に、とその実、自らの意志を他者に預けているものから裏切りと罵られるのを覚悟して歩んでおる。其処までの覚悟だけはある」

 ガトーは絶句する。トールの行動に感じられた裏切りの臭い。どうしても気になるその臭いは、自らの意志をジオンに預けきり、自らの意志を捨て去ったからこそ感じられるのではないか。いや。我々はジオン軍人。軍人は自ら考える頭を持たず、国の求めに応じてその力を振るうことこそが役目。其処まで考えた後にまた煩悶がガトーを捉える。ならば、国が敗れなくなった後でさえ力を振るう我々は一体何なのか、と。

 しかしガラハウ閣下はおっしゃった。我々の為していることは、被害を受け死ぬ人々の命に見合うものなのか、と。ジオンの理想を第一に考えていたときには感じられなかった命の重みが、今はなぜか身近に感じられる。思い浮かぶのは少女の負傷に狼狽し、怒りに震える男の姿。自分には、あそこまで思える守るべき人間がいただろうか。

「ガトー、生きよ。生きて己が為すべき事を為せ。わしは為す。ここでドズル閣下の理想に全てをつなげる。地球圏から脱出するジオン残党を閣下の下に集わせる。ドズル閣下が地球に帰るその日こそ、そしてドズル閣下が率いる軍にこそと信じるが故に。お前は己が信ずるべきものを信じよ」

 ガトーは涙を滂沱と流していた。デラーズは死すべき場所を見つけたのだ。ならば。

「ならば閣下、露払いだけはさせていただきます」

「止めよ」

 ガトーは微笑むとその言葉を拒絶した。

「私は私が信じる道を行きます。まずは閣下の死出の旅路の露払いを。その後は……そうですな。我らが"ヨナ"閣下にお任せいたします。どうも、私は自分の頭を使うのは苦手のようでありますので」

 デラーズは瞑目し、最後につぶやくように何事かを言った。ガトーはその言葉を背景に機体をソーラ・システムの方向に向ける。システムの破壊までは狙わない。但し、安穏と陣形を組んでいる連邦艦隊の心胆は寒からしめてくれる。デラーズ・フリートの姿を焼き付けるために。連邦に抗し戦った戦士達の名誉のために。

「繰り返し、心に聞こえる戦士達の名誉のために……ジーク・ジオン!」

 

「なんだと!?"ア・バオア・クーの騎士"!?」

 アルビオン艦橋、シナプス大佐は肘掛を強く叩いた。一年戦争最後の局面、アムロ少尉のガンダムがジオンの造反機をジオンのゲルググと共に(後にそれがトール・ガラハウ少将機である事を知ったが)撃墜した後に出現し、そのゲルググを撃墜した機体。コリニー艦隊の投入したガンダムタイプ三機を撃破し、マントを翻して宇宙に去った機体。

 三年ぶりにモニターに映るその機体をシナプスは苦々しげに見つめた。無理もない。ジャミトフ、コリニーが投入したガンダムタイプの改造機を撃退しただけの機体ではあるし、一年戦争時の動きからしても乗っているのはエースパイロットであることは間違いない。しかも、ウラキ中尉のガンダムに対する攻撃の様子を見ると、一年戦争のときから更に強化されているらしい。

「ベイト中尉の小隊まだか!?ガンダムを援護し後退!陸戦隊の任務は果たした!MS部隊を回収し、戦線を離脱するぞ!」

「第一軌道艦隊より連絡!ソーラ・システム照射準備開始!第一次照射まで後360秒!」

「なんだと!?」

 シナプスは艦橋右側のモニター、ソーラ・システム照射状況を映しているモニターに目を向けた。中央部のミラーが動いていないから気付かなかったが、上下左右部分のミラーが動き、焦点をコロニーの中央部に向けている。回転しているコロニーのちょうど中心部分を狙って照射するつもりのようだ。

「コロニーが回転しているため、重心部分に照射を行いコロニーを二分!同時に陸戦隊の仕掛けた爆薬を起動させ、コロニーを寸断せよ!です!」

 スコット軍曹が第一軌道艦隊よりの命令を読み上げる。

「!?ヴォルガ、パナマ大尉より入電!ジオン艦隊の一部がコロニー左翼方向から離脱を開始!アクシズ艦隊との合流コースを取っています!」

「ほうっておけ!今はコロニーとMS部隊の回収が最優先だ!シモン、両舷のメガ粒子砲は撃てるか!?」

「無理です!下手に打てばバニング小隊を巻き込みます!……艦長!第32戦闘中隊が戦闘に参入!MS隊の離脱を援護するとのことです!……ウラキ中尉!ソーラ・システムの攻撃が始まる!ウラキ中尉!後退を!」

 艦橋の中は退かないウラキにだんだんと苛立ちを募らせ始める。しかし、通信を受けたウラキにも退けない理由はあった。ここで引いてしまえば、自分が考え付いたこの疑念の答えを見出すことが出来なくなる。勿論帰還したとしても、疑念が正しいのならば自分はどこかに左遷されるだろう事は推測が付いていた。であるならば、ここで疑念を追求した方が彼の考えには適っていた。

 ウラキはコンテナの中の装備を確認すると爆導索を選択し、こちらに砲撃を仕掛けてきたムサイに向けて放つ。勿論彼の主敵は"ア・バオア・クーの騎士"―――ヴァイサーガだ。爆導索の展開範囲は追撃してくるヴァイサーガを巻き込む形で放っている。回避されるだろうが、動きは止められる。狙いは動きが止まった時!

「!そこだ!」

 爆導索の爆発でムサイが連鎖爆発を起こした瞬間、爆風に押される形でヴァイサーガの動きが一瞬止まる。其処を狙って対艦ミサイルを放った。機動性、特に細かい動きの正確性が高いことが最初の戦いで理解できたから、最初の戦いではマイクロミサイルしか放てなかったが、マイクロミサイルでは奴の装甲に対抗しようが無いことはわかっていた。

「動きを止めて、対艦ミサイルなら!」

 槍のように構えたメガビーム砲がマントらしきものによって遮られたのは確認している。あのマントらしき布は、ビームと自身を相殺出来るようだ。まだいくらか残っている可能性があるから、防がれるかもしれないメガビーム砲では相手を倒すことが出来ない可能性が残る。しかし、ミサイルならば。

 そして放たれた三発の対艦ミサイルが命中するかに思われた瞬間。緑の光を残して騎士は消えた。

「何処へ!?」

「ここだ」

 一瞬であの距離をどうして、どうやって!?命中したと確信した瞬間の隙を狙って、何らかの手段で機体上面に取り付いたヴァイサーガが片手でコンテナ部分を掴み、もう片方の手に五大剣を握っている。まずい!取り付かれた!振り落とそうと操縦桿を掴むが即座に何かが機体を切りつける音が聞こえた。カメラが赤く光る剣を逆手に持ち、機体に突き刺すヴァイサーガの姿を捉える。

「墜ちろ!」

「三年前の機体なんだ、ガンダムなら!」

 ウラキはコンテナに五大剣を突き刺すヴァイサーガをそのままにデブリに向かう。デブリにヴァイサーガをぶつけて機体から振り落とすつもりだ。しかしヴァイサーガはデブリ激突寸前に五大剣を残したままオルゴン・クラウドで転移するとデブリから離れた瞬間にサイド出現し、更に力を加えて剣を突き刺す。

 充分以上の熱量を加えて突き刺しているにもかかわらず、コンテナ部分の装甲の厚さに刃が中々貫き通せず、コンテナの弾薬にも引火しない(この時、五大剣を突き刺した右コンテナは実弾系武装は殆ど空で、ビームライフルが収納されているだけだった)。苛付いたのか、ヴァイサーガは五大剣を抜くと腰にしまい、代わってもう一本の剣を抜く。

「墜ちろ、ガンダム!」

「まずい!」

 コンテナからビームライフルを取り出しヴァイサーガに向かって放つGP03。しかし、直撃したビームを装甲とマントの残りかすで霧散させたヴァイサーガはそのままGP03の機体下面に取り付くとオルゴンソードを振り上げた。コンテナの厚みがある上では駄目だと悟ったらしい。御丁寧に大型ビームサーベルの稼動を片足で抑え、スラスターを全力で噴射させて圧力を下から加えている。

「圧力で分離が出来ない!?墜ちる!?」

 振り上げた緑色のクリスタルに着弾。クリスタル状に固められたオルゴン・クラウドが霧散し、ヴァイサーガが衝撃でガンダムから離れる。更に続く射撃。直撃こそ喰らわなかったものの、装甲すれすれに飛び去ったビームのおかげか、一部装甲が融解している。邪魔をしたものを探しに周囲に視線を走らせるヴァイサーガ。それと共にガンダム三号機に通信が入った。

「アルビオン所属、試作ガンダム三号機だな。こちらは第32戦闘中隊、ウィザード隊ジョシュア・ブリストーだ。これより援護に入る!」

「ウィザード隊、ジョシュア・ブリストーだと!?オーシアの部隊が何故!?」

 ウラキにはわからない内容の通信が続く。なんだ、こいつらは互いの所属を知っているのか?連邦軍の中にも"ア・バオア・クーの騎士"とつながっている部隊がいるのか?ウラキは突然の出来事に事態の把握が出来なかった。無理も無いだろう。システムに呼び出されたもの同士という関係は、彼には考えも付かない。ブリストーと呼ばれた男が率いる部隊は2機ずつ4群に展開すると、次々にビームキャノンを打ち、ヴァイサーガを射線に捉える。ブリストーの続く言葉は、ウラキに拭い難い更なる疑問を付け加えることとなった。

「これも"整合"の一環と言うわけだ、"候補者"。残念だよ、私の好みから言えば、君の方に立ちたくあったがね」











[22507] 第74話
Name: Graf◆36dfa97e ID:75164fd2
Date: 2014/07/27 18:50

 ブリストーの言葉に驚く暇も無く、続けざまに撃たれたビームキャノンの砲撃をヴァイサーガに回避させながら連邦軍部隊との距離をとる。地球の静止軌道に近くなったこともあってデプリの量が多い。旧世紀からの人工衛星や一年戦争での軌道上の会戦で撃沈されたマゼラン、サラミスそしてムサイの残骸が多く漂い始めている。

「網にかかったな、"候補者"。では始めよう」

「ウィザード5、了解」

 言葉と共に連携攻撃。接近する前衛はMS形態に変形すると肩から回したビームキャノンをライフルモードで連射する。後方の部隊はコア・ブースター形態のままで砲撃。対応するためにマントを機体の前に回し、それに五大剣を隠して動く。裾から刃先を出す形で。そのままマントを保持している左手に剣を持たせると、右手で左裾に隠してある烈火刃を取り出す。

「機動に癖があるようだな。後衛からパターン入力。入力を終了次第反映。攻撃を続けろ。ウィザード2、援護だ」

 連続射撃。小刻みに機体を動かして射線を回避するが、追い込まれている感覚を受け取った瞬間、トールは再度、オルゴン・クラウドを使用して位置をずらす。一瞬前まで機体があった空間をメガビーム砲が通過している。こいつら、この短時間でこれだけの連携を?  
「いいぞウラキ中尉。俺たちが追い込む。貴様が狙え」

「了解しました!」

 ガンダムを中心に両側から向かってくるウィザード隊。囲まれてはまずい。……背後には回らない?奇妙だが、一旦抜けるか。烈火刃を仕舞うとライフルを連射に設定して左側から近寄ってくる2機小隊に向けて放つ。命中しないが、数発掠めた。1機はカナードを損傷した様子。

「こちらウィザード3。隊長、カナード損傷。退きます」

「行け。6、イーサン付いていけ、ルシオを落すなよ」

 2機抜けた。ちぃ、陣形の回復が早い。やはり抜けるしかない。フットレバーを踏み込んで一気に増速。手近な残骸を探す。機体をムサイの残骸の影に寄せ、こちらを取り囲むように部隊を展開させているウィザード隊との位置関係の把握に入る。綺麗に上下左右に展開し、ムサイの残骸からの射線を交差させないように展開している。やはり腕は並じゃない。ゲームならばいざ知らず、今感じられ、そして機動から解るこいつらの腕はエースコンバット5の無理ゲー面"8492"のグラーバク隊以上だ。

「落ち着きましたか」

 予想も付かない敵の参入だが怒りはまだ収まらない。あの野郎、あそこで邪魔をされなければチェーンマインで吹き飛ばしてやったのに。しかし、キットが再度呼びかけ、コンソールに周囲の状況を映し出すと流石に気を引き締めた。ウィザード隊とデンドロビウムが合流している。戦力的には不利。

「トール。ステルス艦、レックス大尉から暗号通信。ハマーンの命には別状ありません」

「無事、か。……よかった」

 命の心配が無いと言う連絡でようやく頭に上った血も冷えたようで、キットと会話が出来るだけの精神状態にはなった。レックスからの暗号通信を出し、再度確認する。出血が多いため一時ショック状態だったが何とか回復。医療設備、及び安全性の問題からバージニア経由で"ドメラーズⅢ世"へ。よし、ハマーンは大丈夫だろう。ならば今は敵に専念できる。

「それから判断に苦しむ内容ですが、ハマーンの傷はウラキ中尉ではありません。弾痕から見てレーザーライフルから発射されています。狙撃者は不明ですが、ウラキ中尉ではありません。ナノマシンが傷を早めに塞ぎましたから確認が遅れたようです」

 ハマーンを撃ったのがウラキでは無い!?……ということは、俺を狙ったんじゃなく、最初からハマーンを狙った?目的は……クソ、そういうことか!こちらを怒らせるのが狙いか。それもわざわざウラキの発砲に合わせて行ったから、見分けが付かなかった。……待て、こちらを怒らせるのが狙いだということはどういうことだ?

 ウラキが狙撃者だと勘違いすれば、俺は当然ウラキを追う。ウラキを援護してGP03に乗せれば当然戦闘になるわけで、そこにウィザード隊が出てくれば……時間稼ぎ!?目的は?俺をここに拘束して何の得がある?まだ何かを仕掛けるつもり?量子レーダーに映る敵がこちらとの距離を詰めない?何事かを待っているらしい?待つ?何を。距離は……ガンダム三号機を中心にコロニーからはなれる形で……ソーラ・システム!?

「ソーラ・システムの照射準備が始まっているのか!?」

「……確認。第一次照射まで134秒。中央部ミラーを動かしていないため、展開率は75%。照射時間は長め……10分に設定しているようですね。コロニーを両断、焼却するための照射です。アルビオン向けに爆薬の起動準備を開始するように命令を通達してもいます。ログを取得しました」

 よほど頭に血が上っていたらしい。周囲の状況を其処まで考えにいれずに動いていたとは。いかん。ここだとソーラ・システムの余波を浴びることになる。コロニーから距離をとらないと。

 現在隠れているムサイの残骸が同じように軌道上を漂っていたマゼランの残骸に近くなったところで残骸の影から影へ移動を開始する。一瞬、反応があったことでオルゴンソードを構えるが、一年戦争から生き残っていたらしいマゼランの電源だったらしくすぐに誤報の表示が入る。

 ウィザード隊もこちらの移動を確認したようだが、ミラーの照射が直前まで迫っているためこちらに近づいては来ない。今のうちに体勢を立て直さないと。しかし、先ほどのブリストーの言葉。"整合性"をとるためには私の命が必要、とか言っていた。本当か嘘かはわからないが、本当だとしても納得はいく。

 スペースノイドの自治権確立がなし崩しに始まるのが宇宙世紀150年代。一年戦争から50年は衰退する連邦の下での緩やかで、しかも時折強硬な支配の下に置かれ続ける時代。しかし、私と言う存在が、其処に早期のスペースノイド独立を達成させてしまった。この星の屑作戦にしても、一年戦争での被害の少なさがコロニー落着による10億近い餓死を生むために許し得なくなってしまった。史実のように半減以下、10億まで減らされた地球人口であれば宇宙に不満を強いるだけになったはずが、35億も残っているために餓死を生むようになってしまった。

 整合性の側からすれば、ここで地球人口に餓死者が生じたとしても地球圏の人口はまだ90億以上残るわけで、許容できる損失なのだろう。それに加えて10億以上の人が餓死を迎えるのに作戦を強行したジオン残党、そして10億以上が死ぬのにもかかわらず、原作どおりに政治工作に利用しようとしたジャミトフ一派。誰も彼も救いようがない。

 しかし、それを利用しようとしているのは自分もである。コロニーの地球落下を防ぐためならば、コロニー移送の際に艦隊を送り込んでいればそれで解決。自分もまた、"敵"との戦いに10億の人間の命を弄んだことに変わりは無い。そして今、その事を忘れて自身の見通しの甘さから傷ついたハマーンを理由に、怒りに我を忘れていた。結果、敵の思惑通りに動いている。

「度し難い、全く」

「トール、照射開始されます」

 ある意味残酷に事実だけを告げるキットに感謝しつつ、トールは戦闘の準備を再開した。




 第74話




 ソーラ・システムⅡの第一次照射は旧速度でコロニーが地球に向かっていた場合の、阻止限界点45分前(地球落着まで旧速度で345分)の地点に向けて放たれた。プラズマ・レーザー砲艦を巻き込む可能性を考えたベーダー大将が中央部ミラーの使用を許可しなかったため展開率74%(最終段階)で放たれたそれは、新型システムという優位性もあり、一年戦争終盤、ソロモン要塞に照射された以上の熱量をコロニー中心部にむけてはなった。

 照射が開始される1分前、コロニー各所におよそ400基近く配置された特殊爆薬が起動。熱量のみによって周囲の物質を溶解・蒸発させるその爆薬は、コロニーを構成する構造物を円筒状に形成させているつなぎ目の部分に仕掛けられていることもあって充分以上にその効果を発揮した。

 ガンダムUCでコロニー・ビルダーが描写されたが、コロニー建造専用のシステムが出来上がるのはコロニー建造が活発化したUC30年代以降の話で、初期のコロニー建造は構造物を円筒状に張り合わせる形で行われた。初期サイドであるサイド1、及びサイド2の建造はそのやり方で作られている。そう、初期型コロニーは構造物を張り合わせた形で作られているため、構造上の結節点を破壊された場合、その遠心力で自ら崩壊する。

 勿論、それに対する対策が採られなかったわけではない。構造上の結節点はコロニー一基当たりおよそ180箇所ほど存在し、その半数が壊れたとしても他の結節点が補う構造を持っているため分解までには至らない。遠心力の問題も、コロニーが通常通りの時計回りをしている間ならば問題は無い。

 しかし、今回の標的であるアイランド・イーズは通常の時計回りの横回転に更に縦方向での回転を行っており、コロニーの構造にかかる回転による遠心力が三次元的には二乗の段階にまで強められていたこと、これが第一点。そして第二点は、その180基の結節点ほとんど全てに仕掛けられた400基近くの特殊爆薬が正常に起動し、各々周囲5mの構造物をその熱量で焼き尽くしたことにあった。

 構造上の結節点の全てを瞬時に熱量で蒸発させられたことによってコロニーが構造物単位に分解を開始した。構造物一つあたりの比重が高い前部、及び後部港湾ブロックがその自重と回転から生まれる擬似的な重力に従って回転中央部への移動を開始する。ミラー、採光ガラスなどの破片類は遠心力に弾き飛ばされる形で周囲への拡散をはじめているが、二重の回転によって外に放り出される程度の質量であるならば、砲撃で蒸発させるか、大気圏で燃え尽きるに任せればよい。

 コロニー中央部に対してソーラ・システムが照射されたのは、この理由からだ。大気圏で消失し得ない大規模質量の物体は複雑な円軌道が産む力場によって比重の高い構造物から回転の中央部に集まっていく。

 ソーラ・システム照射の目標座標が回転の中央に集められたのは、確かに照射によってコロニーを両断し質量を軽減すると言う目的もあるが、これも目的の一つだ(特殊爆薬の破壊力が大きすぎるのだが)。比重の高い、つまり質量の多い物体が、宇宙空間での回転運動(三次元的な運動なので、"球"転と書いた方が正しいか)の際に中央に集まる性質を利用している。中央に集めたゴミを二回の照射で焼き尽くす、そういう計画だ。

 勿論二回で焼き尽くせなかった場合に備えてプラズマ・レーザーの出番もある。最終的には大気圏で燃え尽きる程度の大きさに分解できれば良い。津波程度で済むならば、大きめの構造物を海に落ちるように軌道調整して降下させることも視野に入れてある。ベーダー大将、いやさルナツー作戦本部のヤン中将立案の作戦計画は、基本、そのような内容だ。

「だからこそ安心してガンダム潰しに気を任せられていたんだが、そうもいかないか」

「トール、ガトー機の再発進を確認。現在、グワデン近辺から連邦軍追撃部隊に向けて出撃しました」

「グワデンの位置は?ミラーの照射を浴びていないのか?」

「後退援護のためにコロニーの前方に。ただしコロニー右翼後方から徐々に距離をとっていますからミラーの影響範囲外です。内火艇の動きを確認。退艦が始まっているようです」

 ミラーがコントロール艦を失わないうちに照射されてしまった以上、ガトーがどのように動こうとも既に大勢に影響は無い。グワデンから退艦が始まったということは、デラーズは作戦通り後退を開始したか。ガトーの奴、ミラーにまで直接侵攻をかけないだろうな?東方先生とトレーズを配しもした。大丈夫だとは思うが、油断は出来ない。他にも戦力が送られている可能性がある。目の前にウィザード隊がいる以上、その可能性は充分にある。

「照射の状況は?後何分で終わる?」

 機体に接続してある全てのカメラ・アイを用いて搭載コンピューター内と自分の頭に付近の三次元マップを叩き込む。時間と共に慣性で移動する物体の予測進路、及びその中で可燃性、爆発性を有する残骸の特定。当然敵の位置も。ソーラ・システム照射を同じように付近の残骸を障壁として見守り続けている。強すぎる太陽反射光はそれだけで強い電磁波となる。まともに受ければ機体に変調をきたしかねない。

 光学観測系の装備が強すぎる照射光のために使えないことを確認すると量子レーダーを用いて敵機の位置確認を再度行う。よし、三号機もいるな。まだこちらを如何にかしようと思ってくれていると言うのはありがたい。ブリストーのウィザード隊が出てきたから気持ちが冷静さを取り戻したとはいえ、遺恨まで忘れたつもりは無い。

「照射は後70秒。現在、コロニー後部港湾ブロックを形成していた構造物の蒸発を確認。コロニーの質量は現在50……49……48%へ。照射終了までには35%の予定」

 まだ多い。しかし、構造全体の65%を消し飛ばせたのはよしとするべきだ。殆ど完全な状態で落下した0083よりはよほど良い。これだけ質量を減らせれば、第二回照射を待たずとも、プラズマ・レーザーだけで如何にかできる。射線を集中させればマゼランやサラミスにさえ可能だ。

「そういう時に限って、何事かを仕掛けられているんだよな」

「その可能性は否定できません。……35%まで減少した構造物を、とりあえず今まで通りコロニーと呼びますが……落着コース、質量減により変更。大分北よりに移行します。コロニー落着座標確認。カナダ、サスカチュワン州アサバスカ盆地南東部……」

 まて。今なんと言った。アサバスカ盆地の南東?確か、あそこには……

「落着の正確な座標を確認。北緯57度45分48秒、西経105度03分10秒、カナダ、サスカチュワン州アサバスカ盆地南東部、マッカーサー・リヴァー。世界最大のウラン鉱山が存在します」




「照射、あと30秒で終了します、隊長」

「解っているな、エヴァン。奴をこの場に縛り付けるぞ。予定通りガンダムに御執心だ。せいぜい囮として活用させてもらえ」

「イエス・サー。ウィザード5よりウィザード7及び8。敵が動き次第ガンダムと共に前衛として出るぞ。隊長率いる2、4が狙撃する。敵がこちらの目的に気づいたと判断したら散弾ミサイルで進路を塞ぐ。その場合、コースと爆発半径は頭に入れておけ。ガンダムは巻き込んでもかまわん」

 ふ、良い部下たちだ。ベルカ戦争以来、久しぶりに共に空を飛んで戦うことになるが、気後れや怖気など微塵も無い。むしろ、全く技術体系が異なる機体を与えられて良くそれに対応し、あのころと変わらない――――いや、それ以上の動きを見せてくれている。まぁ、こちらはまだ航空機型に乗っているから扱いやすくもあろうが、人型に乗せられたトニーの奴は苦労しているだろうな。

 ブリストーは苦笑しながらトニー、コールサイン・ソーサラー1、第32戦闘中隊第二分隊長、アンソニー・パーマー大尉の顔を思い浮かべた。さて、今頃上手く言っているならばこちらの思惑通りになるはずだが……さてさて、頭が御熱になっている騎士殿はそれに気付いてくれるかね?鬼神程とはいかねども、楽しませてくれれば良いが。


 第32戦闘中隊は、標準的な中隊編成である16機を持って中隊を編成している。MSにしろ戦闘機にしろ、4機編成で小隊を組む点では同じだ。一年戦争時代、MSの数がまだ揃っていなかった時期は数の不足を理由に1機分をスカウト用のホバートラックで代替していたが、MSの数が充分揃った今となってはむしろその機能をMSに移し変える方向で機体開発が行われている。

 16機で編成されるはずが中隊。しかしウィザード隊は8機編成であり、であるならば当然、別に8機がいなくてはならない。その別の8機、ソーサラー隊ははるか遠くに輸送艦バージニアの姿を捉えていた。

「楽な任務、とは思えんね。騎士ほどとはいかねども、海賊の女親分に拳闘士タイプ。相手にするには厄介すぎる面子が揃って……へぇ、拳闘士はお留守にするようだ」
 
 バージニアの隔壁が開き、ソウルゲインが姿を現すと後方に飛び去った。パーマーは当然理由を知るべくも無いが、ステルス艦の治療ポッドに入れて治療を施されているハマーンの処置をバージニアではなく"ドメラーズⅢ世"で行せたためだった。先ほどのドメル提督の言葉にもあるとおり、"ドメラーズⅢ世"を旗艦とするドメル艦隊はMSの護衛が少ないし未熟だ。危惧したシーマがアクセルをそちらに向かわせたのだ。

「まぁ、通常MSの女親分相手なら、如何にでもなる、ってな。他に奴らに確認されているパイロットはいない、か。一番危険そうな女パイロットも銃弾喰らって治療中。……目的は果たせそうだな」

 パーマーの目的はバージニアの撃破だ。勿論撃沈も含む。今回、彼ら第32戦闘中隊に与えられた任務は簡単だ。コロニー落着の被害については手を出さず、トール・ミューゼルの抹殺もしくは戦力の減少、だ。どちらか狙いやすい方を狙え、とのお達しであることはありがたい。

 命令者の姿は彼らも見ていない。意識から目覚めてみれば、命令に従わねばならないと言う強迫観念に支配され、テーブルの上においてあった手紙で指示を受けただけだ。それもずっと。連邦軍に入隊してからは部署も部屋もまちまちだと言うのに、なぜか部屋、リビングのテーブルの上か、寝台の枕元かはそのときそれぞれだったが、手紙を通じて指示を受け続けた。この世界に来てから既に6年になる。元の世界に未練は無いが、飛ぶのが空ではなく宇宙と言うのは、物寂しくもあり、怖くもある。

「よし、ソーサラー1より全機。攻撃開始だ。目標は前方輸送艦艇の撃沈。MSが出撃してきた場合にはMSとの交戦を優先させろ。戦力を減少させることだけ考えていれば良い。MSにしろ輸送艦にしろ、撃墜・撃沈の際には生存者は残すな」

「了解!」

 命令によどみなく唱和する部下たち。流石に粒ぞろいの人材だ。乗っているのが連邦軍での乗機であるジム・カスタムであるのが不満だ。現状、連邦軍の最新鋭量産機であることは理解しているが、ブリストーが受け取った機体が航空機型だったのがうらやましい。あの、空を飛ぶ感覚を宇宙でも得られるというのは抗し難い魅力だ。

「まぁ、あの機体かその発展型が量産されれば、俺らにも機体が回ってく……敵輸送艦からMSの発進を確認!全機抜かるな!」

 敵輸送艦から出撃した機体は見たところ円筒形だ。頭部が黒いが、胴体部分を構成しているらしい円筒は赤色に染められている。別段動くでもなく、バージニアの船体下面に待機している。変だと思っていると船体下面の扉が徐々に開き、ジオン軍用らしいMS……いや、機体が巨大だ。MAを出そうとしている。

 よく見ると巨大な円筒形の物体がMSと接続されている構造らしく、驚くべきことにMSは地上用、それも水陸両用のズゴックらしい。もっとも、機体の下半身部分が全てブースターに置き換えられ、安定翼までついているところを見れば改造機だろう。どうやら、円筒形の物体は武装コンテナらしいな。

「ふ、つられて出て来よったか」

 混線したらしい敵の通信が入ってくる。こちらとの戦力差がわかっていないのか。いまだ急造MAはコンテナからの搬出中で、他にMSの姿は無い。それに対する我々ソーサラー隊は8機のジム・カスタム。しかも御丁寧にジム用の追加武装パックを装備している。ジム・ライフル、ビームライフル、バズーカそしてミサイルランチャー装備の機体がそれぞれ2機ずつと戦力のバランス的にも問題ない。

「囲め!墜とすぞ!」

「流派!東方不敗はああっ!」

 なにやら意味不明な言葉を叫び始めたMSを撃墜するために接近を開始する。おかしなことにバージニアから当然あっても良いはずの援護射撃が無い。ただ今までどおり、急造MAを搬出しているだけだ。一体何を考えているのか。罠などを仕掛けた様子は微塵も無い。周囲に機雷の類が無いことは確認済みだ。

「戦場で止まるなど、ど素人が!」

「笑止!」

 通信を叫び声が満たす。叫び声と共に円筒形の外装がウィング状のバインダーとなり機体後部に格納され、機体の姿があらわになった。顔面を覆っていたバイザーが格納され、特徴的な顔が明らかとなる。

「ガ、ガンダムだと!?」

「酔舞、再現江湖デッドリーウェイブ!」

 続く咆哮と共に、機体が吹き飛ばされ荒々しくコクピットの背もたれに叩きつけられた。周囲に展開していた部隊に次々に現れては消えるガンダムの姿。手刀が振るわれるごとに部下の機体が破壊され、弾き飛ばされていく。そしてついには自分の番が来た。ライフルを向けるがそれよりも早く懐に飛び込むと、両腕に黒い何かを纏わせて両腕を寸断する。それと共に正面から強い衝撃。再度加えられた衝撃に今度は先ほどよりも強めに頭を叩きつけさせられた。

 パーマーは薄れゆく意識の中で、他の部隊も四肢と武装を破壊され、撃破された慣性そのままに地球側へと押しやられていくのが見える。衝撃で腹がどうにかなったらしい。だんだんと、しかし着実に消えかかる意識。その半分夢のような心地の中で、通信機から漏れた一言が最後だった。

「爆発!」

 破壊された四肢と武装が次々に爆発。拳法らしき構えを取るそのガンダムを宇宙に黒く浮かび上がらせた。



[22507] 第75話
Name: Graf◆36dfa97e ID:75164fd2
Date: 2014/07/27 18:51

「出遅れてしまったぞ、増速急げ!第11任務部隊が本格的に敵と接触する前に追い越すのだ!"騎士"は今回、なんとしても捕獲、もしくは撃墜せよ!」

 ソーラ・システム右翼側ミラーの展開を担当していた第9艦隊、バスク・オム大佐率いる部隊は照射が始まるや否や部隊の再編成を実施すると15分間続いた照射が終わると同時に前進を開始した。前面に送り込まれた第32戦闘中隊から"ア・バオア・クーの騎士"が確認されたという報告が彼の動きの原因となっている。

 一年戦争最後の瞬間、ア・バオア・クー攻略戦で新型ガンダム3機を投入し、"騎士"を逃したことはバスクの戦術指揮に対するジャミトフに拭い難い不信感を産んだ。彼がバスクに代わる実戦指揮官を求めるようになったのもそれからであるし、ジャミトフ陣営に入ったばかりのトレーズにジャミトフがあそこまで肩入れする理由も、バスクが実は実戦では力押しの指揮しか出来ない可能性を危惧したからだ。

 勿論、力押しによる指揮が悪いとはいえない。敵よりも優勢な戦力をそろえた段階では指揮官の勇猛さは兵士の士気を維持するための重要な要因の一つとなりうる。バスクは一年戦争中、その勇猛さでともすればジオンに押されがちだった部隊の士気を立て直し、武勲を挙げていた。しかし、其処にも限界がある。敗勢から立ち直り、軍隊としての体裁を整えなおした連邦軍から見れば、作戦には綿密なスケジュール調整が必要であり、バスクのよく言えば臨機応変、悪く言えばその場の状況次第という作戦指揮のあり方は危険そのものだった。

 しかし、軍としての良識を何とか一年戦争以来保っている連邦軍に居場所がなくなっても、軍としての体裁を何とか整えて組織を発足させたいティターンズにはバスクは必要な人材だった。バスクの勇猛果敢さは、何よりも戦場を知らない人間に軍の強さを見せ付ける広告塔としての役割があったからだ。

 だからこそジャミトフもバスクを完全に斬り捨てられないし、ティターンズのスポンサーたちも頭の良い、どこか柔弱そうな指揮官よりは、見た目とその勇猛さで軍人らしいと感じられるバスクは外せない鍵となった。一年戦争以来、地球に攻撃を加え続けてきたジオンに対する反感は根強く、ともすれば人道や戦時条約に違反した、しかし一般大衆の面からすれば当然の復讐行為をやってのけるバスクは強硬派世論の後押しを受けているティターンズにとっては重要な存在だった。

「第一軌道艦隊司令部より入電!こちらの命令違反を問い詰める内容です!」

「ミノフスキー粒子が濃く通信内容が判然としないと伝えろ!ジャマイカン、あいつらは乗せてあるのだろうな!?」

 現在は第9艦隊旗艦"モスクワ"艦長となっているジャマイカン少佐はそんなバスクを冷ややかに見つめていた。一年戦争時代には助けであったその勇猛さも、ジャミトフが対抗馬としてトレーズを持ち出してからは粗暴さが目立つようになってきている。自分の進退を考えた場合、このままバスクに付き合っていて果たしてよいものか迷いつつある。しかし、現在第9艦隊、後にティターンズの中核となる艦隊を率いているのはバスクであり、いまだMS部隊司令でしかないトレーズに鞍替えするのも不安があった。

 ともかく、今はまだ付き合うしかないと判断したジャマイカンは内心でため息を吐きつつバスクに対応した。

「現在乗せているのはゼロ・ムラサメのフルアーマー・ガンダムNT1だけです。ファントム・システムの開発にBM-002を完全に回しましたから。大佐、一年戦争時にガンダムタイプ三機でも取り逃がした"騎士"ですが、果たしてNT1で大丈夫でしょうか?少々不安があります」

 ジャマイカンの意見にバスクは鼻を鳴らすことで答えた。苛立たしげだ。先ほどから申告を殆どすべてベーダーに却下されているため、憤懣の行き場が無いからだろう。ここでの活躍がティターンズ内部での自分の立場を決めるとなればなおさらだ。新型MS部隊を指揮するトレーズは追撃の先鋒。このまま座してみていれば立場がない。

「既に接触しているガンダム三号機と試験部隊をうまく使えばよい!やつだけは一撃せねば収まらん!」

「投降したジオン艦隊の扱いは?」

 バスクはジャマイカンの問に再度鼻を鳴らした。デラーズ・フリートやジオン残党を裏切って連邦軍に"星の屑"作戦の情報を流したジオン残党も第9艦隊には組み込まれている。それらの世話を押し付けられたのが更にバスクをいらだたせている。ジャミトフは爾後のMS開発にジオン系の技術、それもMSの実機を欲していたから受け入れたが、兵員の入れ替えまでは済まず、戦力の不足もあって急遽参加させている。

「知るか!後続の艦艇に任せる、わしは忙しい!」

「はっ」

 バスクの命令に返事を返しつつ、ジャマイカンは本格的に鞍替えを考え始めていた。



 第75話




 0083年11月12日午後8時04分(地球落着まで530分、阻止限界点まで220分)、減速したコロニーに対するソーラ・システムⅡの照射が終了した。およそ10分近くにわたって行われた照射はコロニーの質量全体の65%を蒸発・ガス化させ、元はコロニーを構成していたものを周囲に金属製のガスとして拡散させた。

 10分近く照射できるならばもっと照射を行って完全に焼却してしまえばよいようなものだが、地球静止軌道上に展開しているソーラ・システムは地球の自転に従って移動しており、第二次照射が可能になるのはおよそ4時間後である。35%まで質量を減衰させられたことにより、コロニーは阻止限界点前であるにもかかわらず地球の重力に従う形で円運動を始めている為、これだけの長時間が発生することとなった。

 しかし作戦はそれだけでは終わらない。質量が35%まで減少したとはいえ、それは一つの塊ではなくある程度固まって浮遊する構造物の群れだ。当然、一つ一つの大きさは大気圏上層部で燃え尽きる程度のものから、地表に落ちれば甚大な被害を与えるものまで様々にあり、更に比重の軽い構造物から遠心力によって拡散しつつある。

 プラズマ・レーザー砲艦と連邦艦隊の射撃はこの時点で開始された。メガ粒子砲及びレーザーの熱量によって漂う構造物を破砕し、デプリと呼べる程度の小ささにまで分解する。其処までの小ささに破砕してしまえば、大気圏に突入しても燃え尽きるだけで終わるからだ。

 第一軌道艦隊の主力がこの任務に振り分けられていたが、当然それを優先させてこの事態を引き起こしたデラーズ・フリートを放って置く訳には行かない。そのためにベーダーは第11任務部隊とトレーズの部隊を追撃に送り出したのだが、第9艦隊突出の報告を聞いた際には諦め顔で手を振っていた。勿論、その横でジャミトフが苦虫を噛み潰したような表情をしていたのであるが。

 しかし、其処に更なる事態の迷走が重なる。



「それが渡された装置か?」

 暗闇、空気が存在しないから音波であるはずが無いが、其処には確かに言語が存在した。光の明滅で語られる言語は当然人間のものではない。しゃべっているのはアンドロイド。先ほど前部航行管制室でハマーンを撃ち、ウラキの潜入を間接的に助けた者たちの生き残りだ。

「そうだ、提督からはコロニーの質量が一定以下になったときに起動しろってさ」

「了解、了解」

 アンドロイド特有のイントネーションの強い発音―――音かどうかは微妙なところだが―――で語っているその二つは、間にちょうど何らかの球状の物体を囲んでいる。持ち運びできるほどには小さいが、かといってポケットに入るほどではない。この二体、装置が一体何かまでは知らされていない。知っていたとしてもアンドロイドである以上、命令には逆らえなかったろうが。

 装置は局所性人口ブラックホール発生装置。基底重量を重力波で吸い込んだ後は自己崩壊する、有用な使い方をするならば、アステロイドベルトの拡大を阻止するために使えそうな装置だった。

「スイッチはここかな?」

「あ、バカ!押すな!……うわわわわっ!?」

 二体のアンドロイドが装置のスイッチを入れると重力波が発生し、周囲の物体が装置が発生させる重力波によってひきつけられる。凄まじい圧力によって二体のアンドロイド―――コロニーに投入された最後の二体―――は押しつぶされスクラップと化し、コロニーだった物体の中央部に周囲の残骸が吸い寄せられていく。軌道上に漂うデプリをもひきつけるそれは、周囲に明らかな影響を及ぼし、コロニーだった物体を一つの塊へと変化させた。

 その塊が、第三の問題を生む。



「コロニー中央部より重力が発生!コロニーの構造物が全体的に中央部へ寄り集まり、一つの塊を形成していきます!」

 第一軌道艦隊にもたらされた報告が、最初、何を意味するのかは不明だった。しかし何事かに気づいたらしい砲術参謀がオペレーターの一人をイスから退かさせ、月第二任務群と交信を開始した段階で重要性が知れた。司令官席で指揮を執っているため動けないベーダーに代わり、ジャミトフが参謀に近づく。

「一体どうなっている!?コロニーの中心で発生した重力といっても、こちらの航行に問題があるわけではあるまい。コロニーの地球落着阻止にはまだ500分……」

 そのジャミトフの言葉に何を言っているのかと参謀はジャミトフを見た。

「違います!コロニーの中心部に重力が発生したことにより、コロニーの残骸の密度が高まって大気圏にかなりの大きさと密度で突入することになります。作戦ではソーラ・システムの第二次照射まで、プラズマ・レーザー砲艦によってコロニーの残骸を可能な限り寸断・減衰し、第二次照射でガス化する予定でしたが、密度が高まった場合、寸断や減衰に時間がかかる可能性が生まれ、寸断した残骸の大きさが一定以上のものとなってしまった場合、第二次照射でも照射に耐え切る可能性が出てきました。これではまだ、地表に落着する可能性が高いと言うことです!……第二次照射は第一次ほど長い時間出来ないんですよ!」

「減衰したといってもあれほどの大きさの物体だぞ!時間は延ばせるだろう!?」

「こっちだって地球に沿って動いているんですから!第一、コロニーの中心に重力波が発生して密度が高まるなんて、如何予測すれば良いんですか!?」

 ジャミトフはその言葉に一瞬呆けた表情となり、ついで表情を一変させると参謀に詰め寄った。

「と言うことは地球に落着して何らかの被害を及ぼすということか!?」

「重力のおかげで金属性の穴あき隕石、と言うぐらいにまで密度が上昇しています。仮に金属……鉄・ニッケル中心の隕石とした場合、最低でも100m程度にまで分解・融解させる必要があります。そうでなければ地表に激突した際、最低でも10-20ギガトン級の爆発が生じます。勿論連邦空軍の防空網がありますが、完全ではない以上、まずこちらがやれる事をやらない限り、地上での被害は避けえません!」

 ジャミトフは大きくため息を吐き、言った。

「海に落せば問題は無いはずだ!」

「大陸棚に落ちた場合、津波が広範囲を襲うことになります。外海に落ちた場合でも落着地点の海底に海底火山があった場合には地震、及び津波の被害を考慮されるべきです。それでも北米に落下するよりはマシな事態ですが、現在の落着予想地点は北米、カナダのサスカチュワン州アサバスカ。そんなところにあんなのが落ちた場合、北米東海岸とヨーロッパはウランに汚染された塵に覆われます!ロシアは質量が減ったことで発生する塵の量が抑えられましたからなんとか無事になりましたがね!」

 脇で聞いていたベーダーの決断は早い。即座に命令を下し始めた。

「ジャミトフ、第9艦隊にコロニー迎撃を命令。艦艇の砲装備で可能な限り質量の減衰を試みさせろ。デラーズ・フリートの追撃はトレーズのMS隊と、現在交戦中のイオージマ、アルビオン隊に任せる。バスクのバカが前に出るのはかまわんが、艦艇を持っていくなと伝えろ。行きたいのなら自身がMSに乗っていけ、とな。ノア中佐に連絡。プラズマ・レーザー砲艦は即時砲撃を開始せよ!」

「はっ」


 クソッ、まただ。連携が上手すぎる。回避した先に常に1機は射撃準備を整えた機体がいるから回避のし通しだ。……ん?またか?

 先ほどからずっとだ。アレだけ派手に名乗りを上げて攻撃をしてきたくせにこちらを撃墜するような行動は見せない。むしろ、ガンダムの射線を上手く逸らしてこちらをこの場に縛り続けている。縛り付けるだけが限度かと思って抜け出す動きをしてみれば、動き方を柔軟に変えてこちらに向かってくる。むしろ、今までの動きではなくそちらの方の動きが彼らの本当の実力なのだろう。やはり、目的は時間稼ぎだ。狙いは他にある。

「キット、回避パターン覚えたな。オートパイロット作動。同時並行で量子通信システムのリアルタイム通信。ジャマーがきつい場合にはガミラス式で。あいつらが整合性側なら、姉さんの部隊か連邦軍の迎撃のどちらか、もしくは両方に手を打っているはずだ。コロニーの質量が増したしな。まだプラズマ・レーザーでどうにかなる範囲だろうが、そんなことはあちらにも解っているはず。警告を出しておく」

「……ガミラス式通信システムの回線遮断を確認。量子通信システムはジャミングなし。データリンク開始……バージニアに襲撃部隊、ソーサラー隊です、トール」

 顔色が変わる。奴らの狙いがバージニアにあったということは、こちらを拘束している間か!?

「大丈夫です、トール。無断帰還された東方先生がソーサラー隊を撃破、こちらに向かっています」

 ほっ、と息が抜けた。しかし先生、ガトーを如何するんですか。あの突進止められるの先生だけしかいないから配置したんですけど。……人のいう事を聞く人じゃないことは承知していたんだけど……はぁ。結果的には良かったから良いのか?いや、姉さんたちは助かったが、その分ソーラ・システム側の防備が薄くなっている。ガトーだけならまだしも、奴らの友軍でも現れた場合……

 また一発ビーム。難なく避けるとコロニーから剥離したらしいミラーの破片に身を隠す。重力波は収まったらしく、圧縮しきれなかった破片がまたコロニーだった物体から離れて周囲に拡散していっている。あの重力波もやはり"整合性"のものだろう。コロニーの質量を纏めて、隕石のように地上に落すつもりだ。

 しかし気になる。敵がこちらの動きを知り尽くしているかのように部隊を配置している?ウィザード隊はまだしも、ソーサラー隊の動きはバージニアの戦力を知った上での動きだ。バージニアに東方先生が命令違反でいたから良いものの、そうでなければアクセルがドメル提督のところに行ってしまった以上、絶対にバージニア、つまりシーマ姉さんの部隊に被害が出ていた。歴史どおり、姉さんやコッセルが犠牲になっていた可能性は高い。

 "整合性"の動きは大体予測が付くが、何故こうもこちらの動きに追随できる?俺と条件が同じなら、まず敵の動きを知ろうと勤めるのが先で、防諜にも気を使っているから知れてブライト中佐の部隊が解るくらいだ。そもそも、バージニアの出撃はギリギリまで待った上にブースターを使っている。出てくることが予想できても待ち伏せは不可能だ。

「でも待ち伏せられたってことは、……だろうな」

「その可能性は高いですよ、トール。我々は疑いを持つべきです」

 考えたくは無いけれど、しかし考えておく必要があるし、調べる必要も当然ある。システムによれば呼び出した人間はこちらに従うらしいからそれ以外、宇宙世紀の人間だ。システムが嘘をついていない以上、そうなる。疑うしかないのだ。

 誰か、裏切り者がいる。その可能性を。
 



「ふん、奴もなれてきたようだな。……エヴァン、パーマーと連絡は付いたか」

「観測していた"アーティスト"ジーグラーから連絡。全機撃墜された、と」

 ウィザード5、前衛隊長エヴァン・キャリー中尉はそう答えた。感情の感じられない平板な口調だ。信頼できる副長エヴァンとパーマーの仲の悪さを思い出し、ブリストーは苦笑を浮かべたがすぐに消す。まだあの男に戦力があった?ジム・カスタムとはいえ、8機のソーサラーが揃って撃墜?あの女海賊、其処までの腕だったか?

「東方不敗マスターアジアが存在した模様。マスターガンダムを使用しています。現在こちらに接近中」

 報告に無いぞ。奴らの計画ではマスターアジアはソーラ・システムコントロール艦の護衛だったはず。だからこそソーサラー隊には所属をごまかす意味も含めてジム・カスタムで行かせたが……こちらの動きを読んだ?いや、東方不敗の独断の可能性もある。しかしまずい。あの男まで加わっては抑えきれない。もう少し足止めしたいものだが。

「時間は?」 

「ゼーゴック、フライトサポートタイプを用いていますので30分ほどで到着します。リファイン・ドルメルに乗ったシーマ・ガラハウが随行」

 クソ、"候補者"め。手持ちの戦力で使えそうなものは根こそぎ積んできたか。準備が過ぎるほどにやってくれるところは味方ならばうれしいが敵ならば厄介。それに、呼び出した人間を自由にさせすぎだ。おかげで動きが読めない場合も考慮しなくてはならない。しかも、ソロモンの悪夢があそこで何もいないとは、予想外だった。このままではまずい。厄介な相手が向かってくる。

「現状で東方不敗に対抗できる戦力は無いな。それにあの男、この短時間で回避をパターン化させている。あの学習能力は脅威だ」

「隊長!奴じゃなくて積んでいるコンピューターでしょう!?キットとか言う!」

 通信に割り込みがはいる。列機であるウィザード2、カルロス・フォアキン少尉。ラテン系の陽気な奴だが、余計な言葉が多すぎる。

「黙れカルロス。奴だろうがコンピューターだろうが戦場で動けるなら大して変わらん。コロニーの質量・密度の増幅措置は終わったようだな。エヴァン、ゴルトの移動は予定通りか?」

「イエス・サー。連邦軍に内通したジオン残党艦艇のうち一隻を占拠。第9艦隊に紛れ込んでいます。先ほど第9艦隊の艦艇にコロニー迎撃命令が下されましたから、位置はギリギリですが。なんとか間に合うかと。懸案事項の御貴族閣下は前線に移動しています」

「安心は出来んな、トールギスの速度は脅威だ。出来るならばもう少し時間を稼ぎたいところだが……。よし」

 ブリストーはそういうと信号弾を打ち上げ、中隊に新たな命令を下す。それと共にガンダム三号機へ通信をつなげた。

「ウラキ中尉。こちらブリストーだ。敵の増援をキャッチした。"騎士"のお仲間で、しかもガンダムタイプと来ている。流石にこれ以上は無理だ。我々も試作機なのでね。そこで、申し訳ないが主力のコロニー攻撃の時間を稼ぐため、最後の攻撃を増援到来後5分間仕掛ける。君の機体にも援護を御願いする」

「了解しました!」

 良い返事だ。連邦軍純正の士官らしい。他者を疑う戦場を知らない若造の声。かわいそうに。この戦場で全てのものに裏切られていると知れば、この若者はどういう感情になるだろう。所属部隊の長と劣勢に現れた友軍騎兵隊が実は、ふっ。ブリストーは通信をきるとつぶやいた。

「そして末は強化人間というのが通り相場か。まぁ、兵士ならばともかく士官はそういうことをされても文句は言えない。其処を解らず、避ける努力もせずに士官になった自分を恨むことだがな」



[22507] 第76話
Name: Graf◆36dfa97e ID:75164fd2
Date: 2014/07/27 18:52

 考えろ。奴らの狙いは何だ。

 ヴァイサーガに回避機動を取らせながら、そして事態に気づいたと悟らせないように動く。コロニーから剥離してきたデブリの海を泳ぎまわりながら、勿論その間にもGT-FourやGP03からの攻撃を回避しつつ。

 奴らの狙いはコロニーの前部、もしくは一部落下による地球人口の減少のはずだ。コロニーの落下を邪魔するものと言えば残りはソーラ・システムとプラズマ・レーザー。どちらかに邪魔をする用意は整っているのだろう。

 今回のコロニー落下に焦点を合わせると、コロニー落下の完全阻止をこちらが狙い、それに対する整合として部分落下を持ち出してきたのだろう。こちらの取った手段を対抗しつつ、しかも大筋で流れを変えない。まさにシステムが語ったルールどおりだ。ハマーンの一件が無ければ、当然こちらは気に食わないから、もう一度……

 そうか、俺をこの場に拘束するのは俺が再度改変を起こすことを阻止するためか!待てよ?何故それをする必要がある?こちらが再度改変を起こしたのであれば、あちらだって再度整合を起こせば良いはず……。ん?よく思い出せ……システムはなんと言った?

『整合性に対し介入を行い、再整合を起こしてください。状況が変化しますが、多用はオススメしません』

 そうだ、やはり再整合が起こる。ならば、何故再整合を嫌う?こちらの改変に対して整合が起こるという点では再整合だって変わらない筈。しかし、奴らは再整合を起こさせないように動いている。俺の命がどうのこうのという発言はやはりブラフ、この場に縛り付けておくための。
 
「キット、操縦を一時代わってくれ。システムに確認がある」 

「こんなときに?」

 私は力強く頷いた。この問題の確証さえ取れれば、動きが決まる。キットは了承すると操縦を引き継いだ。システムにアクセスして現在の管理者権限で情報を引き出す。関係がありそうな項目は……あった。"介入に対して整合が生ずる関係上、整合は介入に制限される"。自分で気づいた項目じゃないか。……そういうことか。

 こちらの動きに整合が制限される以上、整合側も、こちらの介入で自分に都合が良い整合が生じた場合には、こちらに再介入を起こさせては困るということか。出目が気に食わないから振り直しが出来るこちらと違って、あちらは出目には従わなくてはならないと。

「キット、ありがとう。確認が取れた」

「……決まりましたか?」

 私は力強く頷いた。

「ああ。もう一度介入を行う。東方先生はこちらに向かっているんだよな?」

 キットから了承の返事と共に移動に関するデータがこちらに来る。ホルバインのゼーゴックを持ち出して、高速移動用のフライトサポートユニットでこちらに向かっている。あと10分ほど。ウィザード隊の動きの変化はこれを知ったからに違いない。ソーサラー隊をバージニアに投入して俺がバージニア援護に戻るように仕組んでいたはずだ。となれば、あいつらが避けたいと思っているのはソーラ・システムかプラズマ・レーザーに対する整合か。どちらかを攻撃不能にするつもり。

「投入されたのがAceのZeroということは、……ジャミトフに降伏したジオン残党にゴルト隊が混ざっているな。"円卓の鬼神"の再現か。確かに、俺の動き方からすれば、バージニアを優先して守ろうとする。……東方先生の動きを読めなかった?いや、そうか!」

 まさか、システムに呼び出された人格による改変か!?システムは、候補者が呼び出した人格による改変は、候補者に準ずる確率で行われるといっていたはずだ。となれば、東方先生の行った行為はそれに当る。そして私の行為じゃないから整合が生じ得ない。そういうことか!起こせる変化は小さいが、整合が起こらない……そうか、だからウラキの精神状態も大筋は変化がなかった。こっちが意識してそういう形に誘導していかなかったから、バニング大尉の生存と言う形でしか関わらなかったからか!

 だからガトーもこちらの説得を受け入れてくれた。私がガトーがそうなるように意識して誘導していった結果だ。それに対する整合としてデラーズ指揮下の部隊に命令違反が生じた、そしてこちらが介入し、それに対する整合だから介入に制限され、介入よりも小規模な事態しか起こせない。介入で"地球に対する被害を抑え"た結果、"抑えた"こと自体に変化がかけられないから、"抑えた"規模に整合をかけた、コロニーの落着による被害を大きく設定したのは、こちらが再度介入して被害を抑えるだろうことも前提にしている!そういう流れだ、そういう仕組みか!

「そうと解れば、まだやり様はあるな。キット、リアルタイムでデータは月にアップロードしているよな?」

「勿論ですが……。ああ、あなたが考えていることの予測の付く自分が嫌になりそうです」



 第76話



「動きが良くなった!?隊長、こいつ!?」

 ウィザード7、ケヴィン・ショア少尉の言葉がブリストーに焦りを生んだ。先ほど少し生じた、コンピューターじみた動きで何らかの変化が起こったと思ったらこれだ。一体"候補者"はどうしたというのだ?探るような動きが正確さだけの動きになり、そして現在は。動きの変化と思考の間の関連性を読み解きたいところだが、そうも行かなくなってきた。

「勘付いたか!?全機、奴を縛り付けるぞ。絶対にソーラ・システムへ行かせるな!」

 叫ぶと共に連携してのビームキャノン。しかし避けられる。それだけではなくビームにまとわり付くように移動して手に持ったライフルを撃った。前衛に展開していたウィザード8に近接弾。脚部に命中したらしく、損傷した部位をパージしている。

「ポーター!ダメージリポート!」

「左足をやられました!AMBACが……」

 ウィザード8、ジェイ・ポーター機が損傷。推力の三分の一を生む脚部が損傷し、機体が回転する。ヴァイサーガは……ポーター機の後ろか、損傷した機体を盾にしてやがる。あれでは狙えない。まず退かさないと。

「ヨシフ、アシスト!エヴァン、右から行け!ウラキは援護!」

 ブリストーは叫ぶと自分も機体を前進させる。ヨシフ機がビームキャノンを撃つが、急に動きの良くなったヴァイサーガはそれを難なく避けるとガンダムに向かう。まだガンダムを狙っている!?後ろから!こいつ、気づいたのかまだガンダムに恨みを晴らそうとしているのか、どちらだ!?よし、射線が通った!

「エヴァン、撃て!」

 叫ぶと同時にブリストーは変形、MS形態になると両肩のビームキャノンを斉射する。ウィザード5、エヴァン中尉機もそれに合わせて砲撃。都合4線。どれかを避けてもどれかに当る、もらった!

「待っていた!」

 エヴァンのGT-Fourが変形し二門のビームキャノンを向けた瞬間、オルゴン・クラウドが発動しヴァイサーガが転移する。発射されたビームキャノンはそのままの弾道を描いてガンダム三号機に向かい、Iフィールドによって消された。その場の全機がヴァイサーガの転移先を探す。そして衝撃。ブリストーはシートに叩きつけられた。

「俺の機体に取り付いた!?狙いは俺か!」

 ブリストー機の直上に現れたヴァイサーガはライフルを格納すると両手でブリストー機に取り付いた。そのままジェネレーター出力が生む怪力でブリストー機に圧力をかける。ムーバブル・フレーム採用機ではないGT-Fourはモノコック構造の変形機であるため、関節部の構造が柔だ。かけられた圧力で変形機構が軋みを上げる。

「貴様、既に!?」

「よくもハマーンを狙ってくれた!」

 圧力が強まる。機体を構成するモノコック構造は無事だが、関節にかかる圧力が並ではない。可変翼を構成する部分が軋みを上げる。カナード部分が外れ、それと共に左手が離れたがすぐまた掴みかかる。今度は腕ごと持っていくつもりだ。クソ、やはりこの機体、変形機構など搭載するから柔で仕方がない!

「このまま潰す!」

「エヴァン、かまわん!俺ごと撃て!」

 何とかヴァイサーガから脱出しようと機体を動かしながらブリストーは叫んだ。当然、味方機は混乱し、躊躇する。狙撃体勢をとったウィザード5、エヴァン機がガンダムのコンテナを足場に再度狙撃を仕掛けようと試みるが、後方から高笑う声が響く。何事かとその場の全機が注目した。

 宇宙を進む一筋の光弾が其処にはあった。

「東方先生!?」

「マスターガンダム!?東方不敗か!……バカな、早すぎる!」

「ふはははははっ!流派東方不敗に死角なし!誰がバカ正直に進むものか!だ~から貴様らは、アホなのだあああああああああ!!」

 ゼーゴックから発射されたらしい大型対艦ミサイルの先端に腕を組んで立つマスターガンダムは身を翻すと両腕からのマスタークロスでウィザード隊GT-Fourを捉えると鉱山基地戦時のゲシュペンストS型宜しく、2機のGT-Fourを激突させて破壊する。どうやら、全速力を出したゼーゴックから対艦ミサイルを射出させ、それに乗ってきたらしい。フルスピードで進むゼーゴックから全力推進の大型ミサイルに乗ってくれば早くつこうものだが、その際に絶対にネックとなるGの問題は如何にかしてしまったようだ。

「キット、俺、マスターガンダムに慣性制御つけたっけ?」

「……セニアがつけたんでしょう。……出撃前には付いていなかったことは確認しています」

 混線した通信が呆然としているらしい"候補者の"言葉を流すが、そんなことは如何でも良かった。しかしこの速さは予想外だ。練った迎撃計画が完全に狂ってしまったブリストーは苦々しげにうめき声を洩らす。

「この……化物め!」

「否定する言葉が……」

 混線した通信が再度"候補者"のどこかずれた感想を混ぜる。それを誰も否定し得ないところがこの場の状況を何よりも説明していた。それはそうだろう。今の今まで宇宙世紀にふさわしい戦闘を行っていたところに、忽然と現れた人物がその舞台を未来世紀にまで無理矢理引き摺り込んでしまったからだ。

 それが証拠に先ほどまで周囲を飛び交っていたビーム光のやり取りは全く無くなり、状況が全く理解できていないであろうウラキ中尉でさえ、呆然と……

「あれが新しいガンダム!?両肩の赤い部分はシールドと共に偏向バインダーになっているのか?それに、あの巨大な頭部はレドームも兼ねている?それなのに、射撃武装が一つも……」

 ……いや、MSオタクの本性を現してつぶさに機体を観察しているだけだった。とにかく、戦闘は完全にストップしてしまっている。油断無く周囲を見渡すマスターガンダム。今の攻撃でウィザード隊の数が減ったため、天秤が傾いた事を確認しているようだ。機体の正面をヴァイサーガに向けると高らかに言い放った。

「師に対する暴言を否定せんとは、弟子の風上にもおけぬ馬鹿者め!」

「こっちですか!?」

「何をしている、さっさと撃墜しろ!」

 呆然とした隙にヴァイサーガの羽交い絞めから逃れたブリストー。彼の言葉と共に戦闘が再開されるが、先ほどまでヴァイサーガを追い込んでいた状況は既にひっくり返されてしまっている。それだけではない。マスターガンダムの参入でむしろ状況は不利に変わっている。それを確認したらしい東方不敗からトールに通信が入った。

「早く行かんか、行く場所があろう!」

「……スイマセン!」

 言葉と共に身を翻すヴァイサーガ。ようやくのことで戦場に入りつつあったゼーゴック及びリファイン・ドルメルと合流すると進路をソーラ・システムへ向ける。予定していた行動をひっくり返され、プラズマ・レーザーの発射妨害阻止に向かうと読んだブリストーが進路を塞ごうとするが、マスターガンダムがそれを遮った。

「よく練られた作戦であったが、詰めが甘かったな。婦女子を狙うなど外道の所業!その曲がった根性、わしの拳で叩きなおしてくれる!」

「煩い!貴様の存在自体が大規模改変そのものだ!」

 ブリストーはビームサーベルを引き抜くとマスターガンダムに切りかかる。しかし東方不敗はそれを何かを纏わせた左手で掴んだ。この機体も先ほどのヴァイサーガと同じで出力が並ではない。圧力が増し、マニピュレーターごとビームサーベルを握りつぶす。それだけではない。更に圧力をかけて関節ごと腕部全体にダメージを与えてくる。

「やはり接近戦は不利か!」

 ブリストーは叫ぶと脚部をマスターガンダムの胴体にあて脚部スラスターの出力を全開にする。それでもマスターガンダムは掴んだ手を離さないが、スラスターからの推進剤の炎が装甲を焦がし始めた段階で機体を翻すと掴んだ手を中心に回転し、GT-Fourの胸部に蹴りを放った。勿論掴んだ手をそのままに、潰されたビームサーベルを握っている右腕をもぎ取ることも忘れない。

 蹴り飛ばされた慣性をそのままにマスターガンダムからの距離をとるブリストー機。隊長機を巻き込む恐れが無くなったことでウィザード隊からの攻撃が再開される。マスターガンダムは両腕にマスタークロスを発生させるとそれを回転させ、即席のビームシールドとして使い始めた。集中させた射線が回転するクロスに弾かれる。

「みんな、どいて!」

 ウラキのガンダム三号機からメガビーム砲が放たれた。コースは直撃。ブリストーは一瞬、勝利を確信した。

 だが―――

「甘い、ダークネス・フィンガー!」

 黒い何かを纏わせた左腕が放たれたメガビーム砲に当てられるとメガ粒子砲を構成していた粒子が周囲に避け始め、宇宙にミノフスキー粒子の光る粉を撒き散らす。粉が舞い散りきった瞬間、そこには無傷のマスターガンダムが立っていた。

「まさか!?モビルスーツのマニピュレーターからIフィールドを出すなんて!?」

「……直撃だぞ!?」

「この程度、ぬるいわ!」

 ウラキのどこか勘違いした感想が流れるが、勿論マスターガンダムの掌からはIフィールドなど発生していない。戦艦すら一撃で轟沈させるメガビーム砲ですらこの化物には効き目が無いと言うのか。ブリストーは予想以上の戦力差に愕然とするが、すぐに気を取り直す。メガビームを避けられたのは掌で発生させたダークネス・フィンガーのおかげ。となれば、掌以外の場所に直撃を浴びせれば良い。

「全機、散弾ミサイル攻撃開始!あの化物を焼き払え!エヴァン、ゴルトに連絡!"騎士"が抜けた!」

「了解!」

 それまでヴァイサーガの進路妨害のために発射を控えていた散弾ミサイルが次々に発射される。弾子で薙ぎ払うタイプではなく、多弾頭ミサイルがそれぞれ10mほどの範囲に熱量を放射して焼き払うタイプだ。しかし、東方不敗は相変わらず避ける事無くその場にたたずむと、左手を前に出し、右手を腰だめに構える。

「流派・東方不敗が最終奥義……」

「やらせるな、撃て!」
 
 東方不敗の動きが何を意味しているかを悟ったらしいブリストーが叫ぶが、散弾ミサイルの爆発半径に巻き込まれないための安全装置が働いているため散弾ミサイルは発射した機体から一定以上距離をとらない限り散弾を発射しない。そして散弾が発射される直前、東方不敗は腰だめに構えた右手を前に出し、掌を突き出し、叫んだ。

「石破、天驚けぇぇぇぇぇん!」

 マスターガンダムの掌から生まれた衝撃波が巨大な手を描いて飛ぶと、衝撃波にさらされた散弾ミサイルは弾子をばら撒く事無く次々と爆発した。爆発に巻き込まれる形でウィザード隊の機体にも影響が及び、衝撃波に揺さぶられる形で柔な変形機構が崩壊。GT-Fourは次々に四肢を、翼を虚空に散らばせながら吹き飛ばされる。

 ただの一発でウィザード隊は全滅した。

 いや、まだ一機残っている。左側面をえぐられただけで済んだらしいブリストー機が機体のそこかしこから火花を散らしながら浮かんでいる。しかし、戦闘を継続する意志はない様子で、損傷部分を無理やりパージすると変形、コア・ブースター形態になって飛び去った。

「ふ、あそこまでしておけば悪さは出来まいが……ふむ。さて」

 東方不敗は機体を唯一無事な―――それでも散弾ミサイルの影響を受けて機体の其処彼処が焼けていたが―――GP03に向けた。流石に機体の観察をしている場合ではないと気づいたらしいウラキが大型ビームサーベルを抜き、両手にビームライフル、フォールディングバズーカを装備してマスターガンダムに対する。

「ソロモンでは不完全であったが、ようやくここで出来そうよな」

「……落ち着け。あの攻撃はためが必要。ということは動き回れば遠距離攻撃は出来ないはずだ」

 必死に心を落ち着かせようとするウラキの言葉に微笑みを浮かべたマスターアジアは叫んだ。

「ガンダムファイトぉ!レディ・ゴー!」

「うわああああっ!」






[22507] 第77話
Name: Graf◆36dfa97e ID:75164fd2
Date: 2014/07/29 19:40


「この機体、連邦の新型か、やる!」

 デラーズ・フリート脱出の時間を稼ぐために連邦軍追撃部隊に接触したガトーのノイエ・ジールは追撃部隊の先鋒と接触していた。戦闘相手はトレーズ率いるOZ。ジムとさほど性能が変わらないリーオーだが、武装のバリエーションが多い点が対応に手間取らせている。基本、宇宙軍のジムはビームガンが主流だが、リーオー部隊はその他にマシンガンとドーバーガン、そしてバズーカを用いるため武装を確認してからでないと思わぬ反撃をもらう可能性がある。

「もとはガンダムとでも言うつもりか!」

「ふ、ソロモンの悪夢。お手並み拝見といこうか」

 先ほどからガトーを手間取らせているのは新型MS部隊を率いている隊長機のMS、トレーズのトールギスだ。両肩背面部に装備されたブースターポッドの生み出す高推力を上手く使い、こちらの動きにMSサイズであるにもかかわらず追随してくる。

 撤退を始めたデラーズ・フリートの艦列を追う第11任務部隊にガトーが突進をかけて出鼻をくじいたのは良いが、その間に反対翼側から追撃を行っていた第9艦隊が前進している。その第9艦隊を阻止するためにガトーが移動を始めたときに接触したのがトレーズだ。接触はちょうど東方不敗マスターアジアがウィザード隊と戦闘を開始した時である。

「MAの弱点、ということか……!ソロモンのビグ・ザムと同じ跌を踏むことになろうとは!」

 MAは基本的に強襲用に類別される。量産型艦艇・MSによって構成された大軍との戦闘を前提にしているため、高性能MSと単機での戦闘を前提にしていない。単機を相手にするには小回りが効かないし、武装も大火力過ぎるのだ。それでもノイエ・ジールには近接戦闘用の武装としてクロー及びビームサーベルが装備されているが、ガトーの腕前を以てしても決着がつかないでいる。

 そして交錯。二機はビームサーベルを交差させて火花を散らす。

「腐った連邦に属させておくには惜しいパイロットだ!」

「礼節を失った戦争、ただの殺戮を行おうとしたものにしては言うな。それがまた、悲しくもある」

 その言葉にガトーは過敏に反応した。この作戦が地球に住む連邦の政治とはなんら関係のない人々にとってはただの殺戮である事を思い知らされたばかりだからだ。トレーズの言葉はそんなガトーの内心をえぐり、焦りを生ませる。

「美しく思われる人々の感情は常に悲しい。戦いにおける勝者は歴史の中で衰退という終止符を打たねばならず、若き息吹は敗者の中から培われる……。連邦もまた、一時代の勝者として、歴史の中で定められた役割を果たしているに過ぎない。君もそうではないのか、アナベル・ガトー?」

「よくも言う!腐った連邦こそ、その衰退に宇宙の民を巻き込もうとしているではないか!スペースノイドの完全なる自治権確立のために戦うことこそ我らが使命!……そのためにこそ、私は刃を振るうのだ!」

 ガトーは問いかけに鼻を鳴らしつつ答えるとメガ粒子砲の一斉射撃を行う。それに対してトレーズは距離を離さないために旋回半径を極小にとっての回避を行った。ガトーは思わず吐息をはく。素晴しい機動、なんと見事な動きだ。

「……敵にしておくには惜しい男」

「律儀な男だな、君は」

 ガトーは思わず苦笑する。二人の一騎打ちには先ほどから誰の邪魔も入っていない。戦闘に入る前、トレーズはオープンチャンネルで部下に戦闘に介入を禁ずる旨を伝えているし、ガトーの部下―――カリウス小隊にも同様の申し入れをしている。面くらい、必ず裏切ると見たガトーだが、目の前の男の部下は、隊長がが危機に陥っても援護を行おうとはしなかった。よほどの信頼を受けているらしい。

「貴官の名を、聞いておこうか」

「トレーズ・クシュリナーダ。連邦軍中佐、特殊治安憲兵隊OZ司令だ」

 ガトーは大きく頷いた。

「アナベル・ガトー。ジオン公国軍、公国親衛隊少佐。かつてはジオンの……今はスペースノイドの独立のために。そして私の生きていく道を探すために戦う男だ!」

 二人が名乗りを上げ、刃を交えようとした瞬間――――

 その間を巨大なMAが通過、二人及びトレーズ指揮下部隊の戦場をかき乱した。




 第77話




 今何かぶつかったような音がしたが……まぁ、いい。デブリか何かだろう。そう考える私、トール・ミューゼルは現在、ゼーゴック・フライトサポートユニットの中を移動している。フライトサポートユニットとは、東方先生が乗り、そして戦場に向かう対艦ミサイルを吐き出したゼーゴックの装備の一つだ。

 ゼーゴックは合計9機制作されたことになっており、その多くは宇宙攻撃軍に所属して地球軌道上に対する連邦軍艦艇の増援を阻む作戦に従事するはずだったが、一年戦争の際、ドズル閣下に「それよりMAとして運用した方が良くないですか?」と打診して6機もらったのが改造のきっかけである。武装コンテナのバリエーションを増やせば、ビグロなんかよりもよほど使い勝手が良くないか、と思って色々と手を加えていたらおかしなことになってしまった。

 さて、ゼーゴック・フライトサポートユニットは、コントロール下におくL.W.C(大量兵器輸送用コンテナ)の部分を簡単な輸送用コンテナ(それでもサイズは全長80mに及ぶが)に変え、その中に様々な設備を搭載しているタイプだ。たとえば長距離輸送用にラウンジなどの居住スペースを設けることも出来るし、爆弾倉を設けてミサイルなどの火器を搭載することも出来る。うん、解ってるよ。そんなものを作るより正直にシャトル作れ、テンプテーションがあるじゃないかとか言うつもりだろう。でも、それじゃあ面白くなかった。そしてそれが今回、生きているわけだから、作ったものと言うのは如何役に立つか解らないものである。

 そして今回は東方先生の乗った対艦ミサイル、そして外側に増設されたMS用固定ラッチに加えて一機、MSが搭載されている。

「接続OKです!データコピー始めます!」 

「まさか、デュラクシールまで持ち出してきたなんて……」  

 そう、目の前の格納スペースには20mサイズにダウンサイジングされた、将来の愛機(予定)であるはずのデュラクシールが格納されていた。勿論今行っているデータのコピーは、キットのAIをデュラクシール側のコンピューターに移植しているわけである。整備員が駆け寄り、報告を始めた。シーマ姉さんは先ほど飛び出していった。何か見つけたのだろうか。まぁ、キットのデータをコピーして行ったから、何かあってもキットが助けてくれるだろうけど。ドルメルとられてしまった。

「終わり次第出せます」

「……アレから色々といじくったようだけど」

 そういうと整備員は淡々と説明を始めた。通常型バイオロイド兵の整備員だから、こちらの言った冗談めかした言い方が伝わらないのは悲しい。勿論潜入工作の際にはそうした感情表現をやらせてはいるが、流石に相手がバイオロイドで実は何も感じていないというのにそうした行為をとらせることは何か、気に入らなかったのである。

「セニア技師長によりますと、頭部を連邦軍公式呼称"騎士"に合わせてデザインし、タオーステイルを増設・大型化、背面部にHi-νガンダムと同様のスラスター兼用のラックを搭載し、推進剤補給及び充電を行います。他の詳しい仕様はこちらのマニュアルを」

 そういって渡されたのはセニア印のデュラクシール操作マニュアルである。最初のページを開いて、少し、悲しいため息が出た。そこには、こう書かれていたからである。

『デュラクシールという名前で兄貴思い出すから、この改造機、好きに名前をつけてねっ!』

 もう一度ため息を吐き、続くページの解説に目を通して頭が痛くなった。スパロボEXで"歴代最弱のラスボス"と呼ばれたあの時代が懐かしい。射程6で8とか10とかのマサキ隊に突っ込んできた面影は何処に……

 なにこの、"ボクノカンガエタサイキョウノガンダム"。……あー、もう。名前これで良いかなー。




「プラズマ・レーザー発射準備に入りました。中佐、出られますか?」

 ムサイ級巡洋艦"キンメル"のMSデッキに僚機から通信が入る。モニターには射殺され浮遊する整備員の姿。この艦は先ほど、我々に乗っ取られたばかりだ。アントン・カプチェンコは自分の機体である金色のドム―――OMS-09RFG、リファイン・ドム改のコクピットから周囲を見回した。虫型の機械が周囲を徘徊し、同じ機械で色違いのものが機体の最終チェックを行っている。

「全機良いか」

 次々と入る了解の音声。この艦にいる人間が既に自分たちだけになっていることは全員が了解している。流石に、どこか落ち着かない様子だ。それはそうだろう。1995年から宇宙世紀に送り込まれたのはまだ良いとして、自分たちを使っている"誰か"は目的のためならば機械による無差別の殺人すらいとわないからだ。

 アンソニー・パーマーやジョシュア・ブリストーとは違い、アントン・カプチェンコがこちらに送り込まれたのは一年戦争が終了してからになる。スペースノイド過激派の親ジオン派閥、という経歴でジオン残党にもぐりこみ、この"キンメル"配属となってから2年。自分たちを"支援"しているらしい企業から部隊が黄金色に塗装されたドムを受け取り、ゴルト隊が再結成されたのが2ヶ月前だ。

 そこからはあれよあれよという間に話が進んでいった。デラーズ・フリートの決起に合わせて参加し、星の屑作戦の情報を得た段階で連邦軍に投降し、第9艦隊の管理下に移され、不足する戦力の穴埋めとしてコロニー迎撃に参加させられ、ソーラ・システムの前に陣取ることになった。勿論その行動にカプチェンコは関わっていない。彼が乗り組んでいるこの艦の艦長とやらが勝手にしたことだ。その艦長は先ほど艦橋に入っていった虫型機械のレーザーであの世に旅立ったらしいが、あの男が何故そうした行動をとったかについては最後までわからなかった。

 カプチェンコはため息をつくと今現在の自分の機体であるリファイン・ドム改の最終チェックに入った。この機体が搬入されたのは先ほどの話―――しかも、何かの光がムサイの格納庫とカーゴを満たすと其処にいきなり現れたと言う無茶振りだ。整備を始めたアンドロイドの解説によると 現行の、これまで自分たちが使ってきたザクや、部下たちの使うドムとは全く違う機体との話だ。そしてそれはコクピットに入った瞬間に解った。全天球モニターシステムのコクピット、装備のバズーカは実弾・ビーム兼用で実弾装備にはチタン合金製ベアリングによる散弾まである。ジェネレーター及びスラスター出力もそれまでのザクなどの比ではない。

 虫型機械からの音声解説によれば、これでも敵である"候補者"とやらの一般兵装備であるらしく、候補者の機体との交戦は避けて作戦目標であるプラズマ・レーザー砲艦の撃沈もしくは撃破に全力を注げと伝えられた。作戦が成功すれば、自分たちは命令を下したものが回収し、次の任務に回されるとのこと。

 しかしそれがカプチェンコには気に入らなかった。既に候補者の部隊と戦闘に入ったらしいブリストーやパーマーと違い、カプチェンコは確かに"国境なき世界"の設立に関与し、クーデター軍を率いて全国家に対する戦争を仕掛けた男だが、彼には明確な展望が存在してあの戦争を起こし戦った存在であり、この戦争のように目的が不明瞭なまま闘争を行うような趣味は持ち合わせていなかった。カプチェンコの目的は国境をなくす―――大戦争の勃発による世界政府の実現こそが最終目的であり、既に世界政府である連邦政府が出来ているこの世界においては戦争の意味がない。

 彼は、自分がジオンとか言う現在の立ち位置にいるよりは、連邦政府の側に立ってジオンなどの造反勢力を叩き潰し、同時に連邦政府の内部浄化を進めるべきだという考えを、この世界に来、この世界の情勢を知るにつれて持つようになっていった。ところが自分をコントロールしているらしい存在は、そうしたカプチェンコの考えを組む事無く、今、彼をこの戦場に立たせている。

「これも来るべき国境なき世界のため、とは思いたいが……ままならんな」



 地球に向けて突撃を開始したコロニーを迎撃するべく出撃した地球連邦軍、第一軌道艦隊、及び作戦に参加している第9艦隊、第11任務部隊所属艦艇にとって、敵は既にコロニーの残骸だけになっているはずだった。勿論その残骸はいまだ発生しつづけている重力波によって密度を増しており、撃破するには難しい存在だが、反撃を考える必要のない存在であった。

 既にジオン残党―――デラーズ・フリートは撤退に入っており、第9艦隊が追撃に向かい、そして先鋒MS部隊との間では交戦が始まっている。大多数の部隊にとってそれはどこか関係のない空域での出来事であり、大半はコロニーへの砲撃準備、及び戦線を突破してくる可能性のあるジオン残党部隊を警戒しつつ、コロニー撃破の主力であるプラズマ・レーザー砲艦とソーラ・システムの警護を行うということもあってか、どちらかと言えば楽な任務、命の危険はない。そうした認識だった。

 先ほどまでは。

「急速接近する反応あり、直上!」

「どんな速度だこれは!?報告にあったMAか!?迎撃!」

 第9艦隊に所属するサラミス級"アイオーン"のブリッジに怒声が響く。コロニーを射程距離に捉え、これから砲撃を始めて質量の減衰をかけようとしたときにこれだ。警戒網をジオン残党が抜けてきたと判断した艦長は即座に迎撃を命令した。

「……間に合いません!敵機、来ます!」

「あれは……ズゴック!?」

 艦長はモニターに投影された敵の姿に驚く。無理もない。本来なら地上用であるはずのズゴックが、巨大な円筒形の物体の上に鎮座してこちらに向かってくる。驚きの原因となった速度は、脚部に換装されたスラスターと円筒形の物体の背面に装備された大型ブースターのおかげらしい。

「所属を調べろ!ジオンの改造機なら、連邦の実験部隊の可能性がある!IFF照会!」

「反応なし!……!?敵MA、コンテナ開きます!」

「一体何を……!?」

 艦長、いや艦橋の全員が目を見開いた。其処には、記録でしか目にしたことの無かった機体が固定されていた。

 "ア・バオア・クーの騎士"。一年戦争最終局面、ア・バオア・クー攻防戦の最終段階で現れ、連邦軍との休戦協定を成立させる立役者となったトール・ガラハウ少将のゲルググと連邦軍の精鋭部隊を撃破した謎の機体だ。

「……月に現れたとは聞いていたが、何故?それに、形状が記録の映像と……」

「頭部は"騎士"の形状そのままですが、胴体以下の構成に差異が見られます!……殆どはマントらしき装備に隠されて見えませんが……ジェネレーターを起動!動きます!」

「砲撃開始!沈めろ!」

その言葉と共に主砲である単装メガ粒子砲塔が旋回、砲撃を開始する。同時にミサイルランチャーがMAに向けて放たれた。発進準備をしているらしい今ならば、反撃は出来ないはず。

「後続艦艇にもデータリンク!一斉射で沈めろ!」

「了解……来ました!」

 艦長は声を張り上げ、高く上げた腕を下ろした。

「撃て!」



「敵サラミス級4隻より集中砲火、来ます」

「タオーステイル、シールドモード起動。フォーメーション、2-2-1-1」

「了解、フォーメーション2-2-1-1で起動します」

 キットの報告にタオーステイル―――デュラクシール装備のシールド形状のファンネルに命令を下す。フォーメーション2-2-1-1とは、2枚組みで2つ、1枚のみで2つ、合計6枚を使用を意味する。起動したタオーステイルは2枚組み2つがゼーゴックの前に展開すると回転を始めた。同時に中央部の発光体に光が走り、シールド形状の縁の部分から光波を出し始めた。

「ビーム、来ます!」

 ビームが直撃するがシールドに激突しかけたところで霧散した。それだけではない。続いて発射されたミサイルランチャーの直撃も殆ど何の効果も及ぼしていない。爆発や激突の衝撃による反発すら生じていないのだ。爆発による火球は、なんとシールドを避けて反対方向に向かって広がっている。タオーステイルによるシールドサークルだ。1枚、2枚、4枚組みで発生させることが出来、1枚のみの場合はMS装備火器程度、2枚の場合は相乗効果でマゼラン級の主砲出力を遮ることが出来る。4枚組みの場合はそれ以上―――対"整合"を考えての機能だ。勿論、フィン・ファンネルのように4枚以上でIフィールド・バリヤーを発生させる能力も持っている。

「0083段階で完全なオーバーテクノロジーの塊かよ……」

 マニュアルを流し読みして頭に叩き込んだが、目の前で巡洋艦の砲撃が霧散する光景を見るとやはり技術のチートさ加減を改めて感じずにはおれない。今の光景で異常なのは、巡洋艦とはいえ主砲が直撃したにもかかわらず、そして実弾兵器が直撃したにもかかわらず、反発すら生じなかったことだ。

 セニアから渡されたマニュアルには、Iフィールドを採用しただけではビームにのみシールド効果が生じるため不採用とし、斥力場発生装置を備えた偏向シールド技術を採用したたのことだ。これにより、実弾及びエネルギー兵器のジェネレーターが起動し続ける限りの排除が可能になった、とは彼女のマニュアルの言である。先ほどの火球が反対方向にのみ広がったのは斥力場のおかげだ。

「顔だけがガンダム、と」

「もう顔すらガンダムじゃないだろ」

 キットの発言に突っ込んでおく。デュラクシールといえば、射程は短い、装甲は薄い(魔装機神では背後必殺→再攻撃→終了)と、完全なかませ犬機だったはずだ。確かにセニアの思い入れも良くわかるのだが、選択理由が「とりあえずグリプスと第一次ネオジオン抗争ならこれでいけるんじゃね?」だった事を思えば、隔世の感が強すぎる。なんでこうなった。

「発進準備完了しました」

 通信に準備完了の報告が入った。それに頷くと、通信回線をゼーゴック側に向ける。

「ホルバイン、この後の任務はわかっているな?」

「了解です、若。シーマ様、シーマ様の連れてくる残党を回収します。本当ならこのまま地球軌道にエントリーしたいんですがね」

 苦笑する。史実ならば一年戦争のときにサラミス4隻を道連れに戦死しているはずのホルバインだが、この世界では技術試験隊に出向することも無く、海兵隊員としての任務を果たし続けてシーマ姉さんの部下だ。海兵隊でのあだ名は"ほら吹き"ホルバイン。祖父が漁師で地球で海に潜り続けているという法螺を初対面の人間には必ず言う。

「そういうな、"素潜り"。出番は考えてある。勿論今じゃないが」

「楽しみにしてますぜ、射出します!」

 リニアカタパルトが動き、デュラクシールが射出される。"素潜り"とはホルバイン自身が名乗りたいあだ名だ。祖父が漁師ですもぐりが上手かった、と言うのがホルバインの主張だが、真実はともかくとしてゲルググ、そしてゼーゴックを用いての敵への突進の上手さを否定するものはいない。"素潜り"の由来は敵の直上から真逆さまに接近する様子を海にもぐる自分にたとえた、というが、言うだけはある。そしてその名に違わぬ動きで連邦艦隊の陣形内部にゼーゴックを侵入させてくれた。

 トールはため息を吐くと人差し指と中指を額に当てて敬礼の真似事をする。そして意識を戦場に向けた。

 この機体は外見こそデュラクシールだが中身は完全に別物だ。スパロボやOGシリーズ、宇宙世紀他、呼び出した世界諸々の技術が融合してまさに化物を構成している。それでも東方先生に勝てるかどうかわからないところがあの人の恐ろしさだが、これだけは言える。東方不敗以外ならば勝てる、と。……まぁ、νガンダムやサザビーがあの二人で出てこない限りは大丈夫だろう、うん。

 第9艦隊所属艦艇との距離を斥力場で、後方への推進をイオン・エンジンで行う。双方共に推進剤を必要としない、エネルギーのみによる推進機関だ。これにより、デュラクシールに搭載されている推進機関から"燃料"の概念が無くなり、ほぼ無限に近い航続距離を得ることとなった。積載している推進剤は、緊急の際のアポジモーター用かタオーステイル用のものだけだ。

「トール、この機体の名前は決まりましたか?」

「……むぅ」

 発進の段階まで良いたくは無かったし、言わずに済ませておければそのままデュラクシールで通せたのになぁ、と思っていたがそうも行かなくなってしまったようだ。まぁ、勿論月に帰ればセニアになんと名前をつけたのか言わなくてはならないわけで、問題を先送りしているだけに過ぎないわけだが。

 しかたない。なるようになるだろう。型式番号どうしよう。ああ、もう。

「機動戦士ガンダム・チート、出撃する!」

 気合ではなく恥ずかしさと共に叫ばれたそれは、とりあえず聞こえていたらしいものたちを苦笑させた。










[22507] 第78話
Name: Graf◆36dfa97e ID:75164fd2
Date: 2014/07/29 19:40


「墜とせ!なんとしてでもソーラ・システムに近づけるな!」

 第9艦隊先鋒の陣形内部で射出された"騎士"はそのまま前進、攻撃を開始した。近づくMSは迎撃の対象となったのか、次々に攻撃を受けて排除されていく。不思議なのは、一機も撃墜されたMSがいないということだ。

 シールド状の物体が回転を始めるとその外延部からビーム光を出し、まるで回転鋸の様になって周囲への乱舞を開始した。二枚組みのシールドが"騎士"の前面に展開してシールドの役割を果たし、こちらの砲撃を無効化する。それだけではなく、一枚だけで動き回るシールドは、回転鋸の形状そのままに周囲に展開し、包囲攻撃を開始しようとしたMS部隊の四肢を切断、無力化していく。

「何だよこいつ、墜ちろ!」

 四肢を切断されたらしいジムが残された頭部バルカン砲で攻撃を続けるが、バルカンはシールドによって防がれ―――違う。シールドの近くまで来たその砲弾はシールドが発生させている何かの壁にぶつかった瞬間、あらぬ方向に砲弾を飛ばしていく。そして攻撃の手段を頭部に残していると判断したらしいシールドが、ジムの頭部を切断した。

「攻撃が読めない……のわっ!?」

「メーデー、こちら……」

 次々とMS部隊から被害報告が入る。MSの装備では撃墜が難しいと悟った瞬間からサラミス、及びマゼランからの砲撃が、第一軌道艦隊の命令を無視する形で"騎士"に集中するが、機体前面に展開した二枚組みの作り出すシールドに防がれ攻撃が届いていない。Iフィールドである事を疑った参謀もいるが、実弾兵器まで防いでいる光景を見て呆然としている。それに、実弾にしろビーム兵器にしろ命中の際に絶対に生じる反発力すら感じていないようだ。

 そんな、悪夢に近い光景の中、"騎士"が前進を開始した。シールドのうち8枚が四枚ずつ機体後方に展開すると、補助ブースターの役割まで果たすのか、一気に加速して第9艦隊の中を突っ切っていく。サラミスの艦長の中に、止められないならばぶつけて止めるとまで判断した艦長がいたらしいが、何かの力場に阻まれて接近が出来ないどころか、むしろその力場の反発を食らって押しやられるというおまけつきだ。

「あの機体には重力コントロールシステムでも積んでいるのか!?」

 回転するシールドに攻撃が防がれるため、シールドの隙間から"騎士"を狙っていたジム・スナイパーⅡのパイロット、ウェス・マーフィー中尉は叫んだ。回転するシールドを避けて中に狙撃用ビームライフルを打ち込んだが、マント状の物体にビームを消された。どうやら、出撃前に最新の報告として月から上がっていた、ビームを相殺するマントらしい。

 シールドの隙間を狙われた事を知ったのか、回転し防御に用いているらしいシールドの数が6枚から8枚に増えた。それだけではない。"騎士"がこちらに腕を向け、広げた掌を下に振り下ろすと同時に機体に強烈なGがかかり、外側に跳ね飛ばされる。やはりそうらしい。あの機体はどんな原理を用いているか知らないが、何らかの手段で重力か斥力をコントロールしている。そうでなければ……

 そう思ったマーフィーの眼前で信じられない光景が生じた。

 何を考えているかわからないが、それまで攻撃に回していたシールドがまるで道を作るかのように2枚ずつ、およそ20km程度の間隔をあけて2列の道を作る。そしてシールドの中央部にある何かのユニットが光った瞬間。

「……はぁ!?」

 それまで陣形を組んでいた第9艦隊の艦列が左右に大きく広がり、宇宙空間に大きな回廊が形成されたのである。




 第78話




 無茶すぎる。目の前で斥力場を全開発生させているタオーステイルとそれによって出来た"道"を見ながら私は頭を抱えていた。なんだこれ。重力コントロール(そりゃ、ひきつける力が重力――引力で、はね付ける力が斥力と言うことは知っているが)可能だからって、一気に第9艦隊の艦列に道を作るほどの出力があるなんて聞いていない。

「御要望どおり道を作りましたよ、トール」

「負荷かかっていないのか、こんなことして?」

 冷や汗を背中に感じながら機体を全速力で前進させる。この情景に一体どう事態に収拾をつけようか悩むが、もう、考えるのやめた方が良いかな、とか思ってしまう。

「ガンダム・チートに搭載されているCPUユニットはまさにチート。演算速度もヴァイサーガの4倍増しです。それに、タオーステイルのコントロールの大部分は不要です。自律稼動可能なので。それに、斥力場発生装置の必要電力はかなり抑えられて3回まで連続使用可能です。勿論充電後は再使用可能ですよ。もっとも、それだけの出力と演算能力が無ければ重力系の武装などブラックホールを生むだけの代物に成り下がりますが」

「ガミロイドのコントロールシステムを移植とかよくやってくれるよ。ビームじゃなくてレーザーだったとか、グランゾンばりに重力関係使いたい放題とか!」

 クソ、危うくぶつかるところだった。推力が半端じゃないから、ヴァイサーガと同じ感覚で動かしていたら、あっという間にサラミスとの距離が詰まって危うくぶつかりそうになった。

「まぁ、グラビトンウェーブ付いていますし。付いている以上、コントロールする機能があって当然と思いますが」

 その返事にため息を吐きつつ周囲を見回す。斥力場に追いやられつつもサラミスやマゼランがこちらに砲撃を行ってくるがタオーステイルに弾かれる。衝撃すらないので、本当に当っているか疑わしくなってくるほどだ。無人の野を行くが如しとまさにこのこと。接近しようとするジムは自律AI搭載のタオーステイルによって回転する刃に四肢を断たれるか、レーザーによって撃破されるかだ。

 ガンダム・チートのチートさ加減はその技術だけではなく、それを用いた装備と機体性能にも現れている。重力コントロール技術を実用化していたおかげで、セニアは作らずに放っておいたグランゾン系の技術を投入したらしい。装備には重力系、つまりグラビトンウェーブやらグラビトロンカノンやらといったなつかしの名前が見える。流石に縮退砲やブラックホールクラスターの名前は無いが、あっても不思議ではないし、別に無くても武装の組み合わせで結果として撃てそうなのがヤバい。

 なによりもチートなのはデュラクシール版フィン・ファンネルことタオーステイルだ。魔装機神では5枚集まってバスターキャノンを撃つために用いるか、MAP兵器用でしかなかった装備が先ほどから周囲で乱舞している通り、シールドになるわ自律稼動して回転鋸のようにMSを切断しまくるわレーザー撃ちまくっているわやりたい放題だ。レーザーを採用した理由が"Iフィールドに邪魔されるのが嫌"というのがセニアのマニュアルに書いてあった言葉だが、だからといってバリア付きコスモタイガーのようにしてしまうとは思わなかった。

「絶対"整合性"の奴、敵の装備にインフレかましてくるに違いないぞ。……ガンダムの宇宙世紀からどんどん離れていくような気がしてきた……」

「チート技術を使えるようにしてあるのに使ってこなかったのはあなたですよ、トール。それで結果として色々困った事態に陥っていたのですから、セニアの心配の虫が蠢いた結果です。後半部分についてはまぁ、否定はしません」

 本気でコクピット内で頭を抱えてしまった。困ったことにこの機体、既に操縦に操縦桿が必要ですらない。サイコミュ関係の技術やら何やらを進化させまくった結果、考えるだけで機体が動いてくれる。操縦桿はもはや、体を支える程度の必要性しかない。いや勿論、マニュアル操作の際には用いるのであるが。

「まぁ、いい。今は目的に集中しよう。プラズマ・レーザー砲艦は見えるよな?」

「一直線でいけますよ。いつでもどこでもお好きなように。こちらに持ってきますか?可能ですが」

 ……悪夢だ。まさにチートなのだが、どこか間違っているような気がしないでもない。私はため息を吐くと疲れた声で言った。

「じゃあ、さっさと終わらせよう。あ、動かすなよ、こっちが行くから。あまり情報を見せないように」 

「つくづく慎重居士ですね、トール」



 出撃したと同時に第9艦隊の艦列が真っ二つに割れるのを見て、ゴルト隊の動きが数秒の間止まった事を責められるものはいないだろう。まるで"はい、ちょっと通りますよ"といわんばかりに位置をずらされた結果、第9艦隊は大混乱に陥っている。それでいて撃沈などの被害は出ておらず、動かされた際に艦の内部に起こった転倒事故などで生じた死者・負傷者が被害の中心というのだからあきれ返るばかりだ。

 自身の戦力に絶望に近い不安を抱えながらカプチェンコ率いる部隊はプラズマ・レーザー砲艦に近寄っていった。本来なら周囲を守っているはずの月第二任務群は第9艦隊に生じた馬鹿げた光景に気を取られているようだ。

「ふざけろよ、ペーパー・マガジンの世界でもあるまいし」

 先ほど、コクピット内にいきなり現れた手紙―――通信ではなく、紙の手紙が光と共に現れる光景にカプチェンコは本日二度目の悪態をついた。勿論一度目は黄金のドムが格納庫に現れた瞬間に吐いた、"神よ……"だったが、流石に二度目になると遊ばれているとしか思えない。

 そして悪態をつく原因となった手紙には、"増援投入"と言う言葉だけが記載されていた。どうやら、あの機体に対抗する何かを送り込んでくるつもり。それが相手をしている間に如何にかしろ、とでも言うらしい。このおかげで完全に自分をコントロールしているらしい側へのかけらも無かった忠誠心はマイナスに突入したが、彼にも設定されている"服従"規定は彼に任務への服従を強要している。

 しかし、彼には読めるのだ、この先の展開が。先ほどの光景を見るだけでも、重力コントロールだけではなく、一気に艦隊の艦列に道を作るだけの重力の制御の細かさを見て取ることが出来る。そんな相手の邪魔をしようと考えればどうなるか―――

 考えるまでもない。


 それでも、彼はやらなければならなかった。そして彼の読みは、放ったビーム・バズーカがプラズマ・レーザー砲艦に直撃する直前、あのシールド状の物体にビームが遮られたことで確信に変わった。

 そしてその確信は、続いて起こった事態によってやるせない怒りに転化した。



 目の前の光景が信じられなかった。今しがた、自分でも体感したばかりだが、目の前で第9艦隊に列が作られていくのを見ると、自分が感じたことが本当だった事を思わずにはいられない。この力、この力があるなら、レイラを救ってくれるかもしれない。

 第9艦隊MS部隊所属、ゼロ・ムラサメ少尉。所属は旗艦戦隊で、いうまでもなく強化人間の第一シリーズである。強化人間のテストベッドということでかなり無茶な、それでいてて探り状態な強化を受けた成果、強化措置は少なくとも彼に限っては問題が少なく定着している。彼自身にとって喜ぶべきか喜ばざるべきかは勿論解らない。

 ゼロは自機―――フルアーマー・アレックスから周囲を再度見渡す。艦隊陣形のど真ん中に大穴を空けられた第9艦隊は先ほどから大混乱に陥り、艦の占める位置を見失った船同士が接触する事故が多く起きている。鳴り物入りのエリート部隊として編成されるはずの第9艦隊も、一皮向けば慣熟訓練不足の新米部隊でしかない。兵員としては質の良いのを集めたのだろうが、艦隊行動の訓練もそこそこに投入されればこうもなろう。

 斥力場形成装置によって第9艦隊は軒並み位置を横にずらさせられ、艦隊には大きな混乱が広がっている。無理やり横に動かされたことで、艦内では固定されていた梱包の固定が外れ、移動中のリフトなどに潰された整備兵などが生じているのは先ほど書いたばかりだ。

 そして、その位置の移動によって生じた大混乱は予想外に第9艦隊全体に広がり、その動きを止めている。彼をコントロールしていたEXAMシステムに不調が発生、その機能が停止したこともその一つだ。BM-001、強化人間ゼロ・ムラサメは自分を支配していたEXAMシステムと彼をつなぐヘルメットを外すと、ノーマルスーツの首を緩め、うなじに張られていた神経電路を外す。これで自分は自由になったわけだが、全くの自由になったわけではない。強化人間である彼は、一週間から10日にかけて決まった薬剤を投与される必要がある。勿論必要と言うわけではなく、薬剤依存を高めて脱走を阻むためのものだ。しかし、彼にはそれに耐え切るだけの精神力を培わねばならない理由があった。

「あの機体の乗り手なら、僕やレイラを救ってくれるかもしれない」

 そう思った彼の最大の望みそのままにゼロ・ムラサメはフルアーマー・アレックスを動かしていく。下手に通信内容を聞かれてはEXAMに再起動がかけられて望みが断たれるかもしれないから、接触回線で行くしかないが、先ほどまでの光景を見ると接触など出来るはずもない、そんな考えが彼の頭に浮かぶが、ゼロはその考えを振り払った。今は、やれる事をやるしかない。レイラを救うためにはそれが必要なのだ。

「回線に指向性を持たせて、武装はパージ。アーマーはともかく、内蔵火器関連は全て外さないと」

 忙しくコンソールをチェックして内蔵火器のコントロールを行っていると、前方で閃光が生じた。"騎士"の機体とジオン軍らしき金色のドムが交戦している。デラーズ・フリートが撤退した今、この場にいるジオン軍は連邦軍に降伏した残党部隊だが、あの部隊はなぜかプラズマ・レーザー砲艦に攻撃を仕掛け、そして"騎士"はそれを守っているようだ。シールド状の悪夢の物体が砲艦の周囲を乱舞し、ドムの攻撃から砲艦を守っている。

「ジオン残党がここに来て裏切った?」

 どちらにせよ、ゼロにとってはチャンスとなる機会が到来したことになる。連邦軍は"騎士"を敵視してはいるが、それは一年戦争時に欲を出したコリニー率いる第5艦隊のおかげ、という報告もあがっており、いまだグレーな存在として受け取っている。何よりも、ジオン軍に対して攻撃をしかけた以上ジオン側では決してありえないことがこの判断の元になっている。ジオン軍ではない何かが、欲を出して仕掛けた連邦軍部隊に反撃を行った、そういう理解だ。

 よし。今ならまだ、この光景を証拠に如何にかできるかもしれない。ゼロは通信回線をオープンチャンネルに設定し、電波だけでなくレーザー通信システムを起動させると、第一軌道艦隊にむけても連絡が行くように通信回線をセットした。こういうとき、ガンダムタイプの強力な出力は役に立ってくれる。

「"騎士"はプラズマ・レーザー砲艦を守っている模様!ジオン残党が裏切った!奴らはプラズマ・レーザーを狙ってコロニーを地球に落とす気だ!」


 ゼロ・ムラサメの放った通信が戦場を乱舞し、更なる混乱を戦場全体に波及させようとしていたころ、第9艦隊後方を突破して前進配置に移っていたレーザー砲艦をカメラに捉えたトールはゴルト隊と戦闘に入っていた。ゴルト隊の装備は見たところ金色に塗装されたリック・ドムのようだが、機動を見る限り、一年戦争時最終段階のドムであるリック・ドムⅡ以上の機動を見せている。どうやら、こちらは"整合性"によって強化されているらしい。

 しかし、トールはコクピット内であきれ果てた表情で操縦桿を握っていた。表情は気が抜けているものの、ようやくガンダム・チートの機動にも慣れたのか先ほどまでのような大振りな動きは鳴りを潜め、ヴァイサーガを操縦していたときと違わぬ動きを見せている。

「さっきまでのウィザード隊と違って、それよりも強いゴルト隊のはずなのにプレッシャーを感じない」

「それがチート。素晴しい!トール、先ほどから被弾ゼロです!私の出撃回数32回目にしてやっと無傷の帰還が……」

 トールはキットの感動震える声にそっと心の中で謝った。ごめんなさいごめんなさい。出撃するたび、訓練するたびに機体をどこか壊してゴメンナサイ。東方先生が悪いんです。"死んで生き返るなら死んでかまわんな。よし、死ね"とかいって本気で向かってくるとかどんな無理ゲーですか。こっちがなれてきたと思ったらアクセルと二対一にするし。

「ううっ、先生のおててが黒くなったら横に避ける=ダークネスフィンガーの餌食になりたくない。先生のおててが真っ赤になったら尻に帆かけてトンズラかけろ、でっかいおててが追って来る。袖口からマスタークロスが出るのはデフォ。たまに脚から出る……ブツブツブツ」

 なにか強烈なトラウマを刺激されているらしいが、それでも体に叩き込まれた操縦法を忘れたわけでは当然無い様で、ゴルト隊の攻撃もタオーステイルのアシストもあってか直撃弾は一度も喰らっていない。それどころか――――

「クソ、ゴルト2被弾!撤退します!」

「あのシールド、こちらのビームも実弾も通しません!爆風も遮られて……ぐわっ!?」

「ゴルト6!ワッツ!クソ、脱出したのを誰か見ていないか!?」

 接触したばかりだと言うのにあっという間に2機が被弾・撃墜されて陣形が崩される。タオーステイルが回転をやめてこちらにシールドの先端を向けると、向けると同時にまるで集中豪雨のようにレーザーが発射され、ゴルト隊の隊列を包んだ。メガ粒子砲は発射までに充填部にメガ粒子を蓄え、縮退部でエネルギーを負荷させ、増幅部で増幅しつつ発射するため、威力はあるが連続発射がきかない。ビーム・マシンガンにして速射性を高めれば、今度は一発あたりの破壊力が低下してしまい、集弾を考えるしかない。しかし、一度発射されてしまえば速度は殆ど光速と同程度にまで高まるため、発射段階で照準レティクルに捉えられてしまえば命中は避けられないが、発射される前までならば避け様があるのはこのためだ。

 しかし、ガンダム・チートの放つレーザーはその照準から発射までで一番誤差を生じやすい部分、つまりメガ粒子の充填部への充填を行う必要がない。ジェネレーター―――対消滅機関及びフルカネルリ式永久機関による高出力に物を言わせて供給したエネルギーを純粋なエネルギーそのままであるレーザーに転化させ発射するためだ。そのような化物相手にリファイン・ドムを用いて2機の損害に押さえていることこそゴルト隊の腕前の証明だろう。"整合性"相手とあってトールも連邦軍にやったような手加減はしていない。

「化物め、近づけ!シールドの攻撃圏を脱して中に入ればまだ勝機はある!」

 カプチェンコは苛立ちを隠さず叫ぶ。援軍を投入すると言ったらしいがまだ姿すら見えない。その援軍とやらはどうやら、こちらを相手の性能を見るためのおとりとして考えているらしい。噛ませ犬というわけだ。それどころか先ほどのアレックスの通信のおかげで、化物よりはくみしやすいと見た連邦軍がコロニー破壊の邪魔者となったジオン残党部隊に対して攻撃を仕掛け始めた。大部分の残党はそんな事を知らないわけで、周囲では先ほどの第9艦隊真っ二つ以上の大混乱――――混戦が生じている。

 そしてタオーステイルの攻撃圏を更に2機の損害を出して突破し、ゴルト隊はガンダム・チートに対しての近接攻撃を仕掛けようとする。しかし、ガンダム・チートはマントを翻すとビーム・セイバーを抜き放ち、近接戦闘に対しても難なく応戦を始めた。むしろ、近接戦闘での動きのほうが良いくらいだ。

「ゴルト5、被弾大破!」

「リーデル!ゴルト7!応答なし、被撃墜確認!」

 更に二機。ゴルト5、エゴン・シュトラウス機はゴルト7、ローレンズ・リーデル機と共に迫ったが、ビーム・セイバーにビームサーベルが防がれている間に左腕の袖下から放たれた布状のビームによって下半身及びスラスター類を切り裂かれ、大破し吹き飛ばされる。それに一瞬気を取られたリーデル機は出力を増したビーム・セイバーに手首ごとビームサーベルを持っていかれ、肩口からそのまま両断された。出力によってビームの強さと刃の形状にかなりの変形がきくビーム・セイバーは防御用の武器としても使えるようで、ドムが発射した拡散ビーム砲を回転させてシールド状にしたビームの布と共に防ぐ。

「東方不敗と同じ技術だと!?"候補者"め、流派東方不敗を修めたとでも!」

 カプチェンコが残る4機を率いてガンダム・チートに再接近をかけようとしたそのとき。その宙域の全MSにオープンチャンネルでの通信が入った。

「ソーラ・システムのコントロール艦大破!ソーラ・システムが……」

 誰もがその報告に耳を疑い、確認を行う中、誰がそれをなしたかについてすぐに得心がいったカプチェンコは叫んだ。増援。その言葉を頼みにしてここまで戦ってきたが、その増援が何処に投入されるまでについては手紙に書かれていなかったことを思い出し、自分たちをコントロールしている側がどのような考えで動いているかも再度思い知らされた。艦一つ丸ごとの兵員を容赦なく虫型機械で抹殺するのであれば、高々呼び出した8人程度、物の数ではないと言うことか!

「捨石とは、クソッ!増援はこちらではなく、ソーラ・システムへのものか!」





[22507] 第79話
Name: Graf◆36dfa97e ID:75164fd2
Date: 2014/07/27 18:53

「ソーラ・システム、コントロール艦に直撃!……だめです、爆発します!」

「なんだと!?騎士はまだ、前方に……」

 コントロール艦への攻撃を確認した第一軌道艦隊は先ほどの第9艦隊と変わらぬ混乱に陥った。"騎士"の突撃によって第9艦隊が真っ二つに割れたことも驚きだったが、いきなりの攻撃にコロニーを撃破する手段が潰されたことはそれ以上の驚きとして第一軌道艦隊には認識された。

「"騎士"は囮、か?」

 ベーダーのつぶやきに答えるようにオペレーターから報告が入る。

「前方、第9艦隊MS部隊より連絡!"騎士"はレーザー砲艦を攻撃するジオン残党部隊から、砲艦を防衛中!」

「"騎士"が攻撃しているのではないのか!?」

 ジャミトフの声が響くが、ベーダーは黙したまま、顎をなで始めていた。やはり、一年戦争時の連邦軍との交戦はコリニーの勇み足の結果か?いや、そうであるならば、所属を明らかにして連邦軍に協力―――バカらしい。強化人間、人体実験を捕虜に行うだのPTSDを発症した人間に洗脳に近い処置を行うなど、旧世紀以来のジュネーヴ協定違反もはなはだしい行為をおこなっているという噂もある相手に降伏などありえない、か。

「所属は明らかにしたくないが、連邦側に協力―――というよりはジオン側の作戦は潰したいわけか。何とか連絡は取れんものか」

「閣下!何を……」

 ジャミトフ何を言うのか、と言う表情でベーダーに向きなおるが、ベーダーは黙って真っ二つに割れた第9艦隊を親指で指し示した。そしてそのあとで、何かを嫌がる風に両手を肩の上で広げた。

「あれと戦うつもりか。俺は嫌だぞ、まだ死にたくない。ジャミトフ、下手に手を出して寝ている虎を起こすことはない。あちらが手を出してこないのであればこちらから手を出すいわれはない。あいつに関してはコロニーを阻止した後で考えればよい。我々の最優先の任務は、コロニーの地球落着阻止だ」

「……しかし」

 ジャミトフの抗弁にベーダーは視線を強めて見つめ返す。

「それとも、アレを為した物体を本気で敵とするつもりか?そして敵としつつ、落着を阻止できるか?」

 ジャミトフは示された光景に口をつぐむ。協力する、というのではなく、第9艦隊を真っ二つに割るほどの装備を持っている相手を敵とすることの判断の重みを考えざるをえない。それに、"騎士"は完全にこちらに敵対行動をとったわけではない―――かなり苦しいところではあるが。

「しかし、アレに乗っているのが誰かもわからぬ状況で……」

「コントロール艦を攻撃した敵は確認できたか?」

 オペレーターが首を振る。コントロール艦への攻撃は高出力のビーム砲によって行われたが、発射が行われた位置座標に反応や機影はない。勿論周囲に対する索敵はすぐさま始められたが、今になっても敵機発見の報告はない。何かの手段でこちらの目を完全にくらましていると見るべきだった。

「コントロール艦を攻撃した敵は、"騎士"にとっても敵だと?」

「目の前でプラズマ・レーザー砲艦を守られてはな。"騎士"の目的がコロニーの落下阻止ならば、先ほどコントロール艦を攻撃した敵は"騎士"にとっても敵ということになる。それにな、ジャミトフ。こちらに姿を確認させないということは、こちらの攻撃で撃墜できる敵ということだぞ。少なくとも、第一軌道艦隊の装備であの"騎士"の撃墜は難しい」

 ジャミトフとベーダーの会話にオペレーターが追加の報告を行い、割り込んだ。

「閣下、デラーズ・フリート残存戦力はMA及び新型MSの援護の下撤退を開始、第9艦隊トレーズ中佐の部隊が"騎士"を追撃しています!現在、第9艦隊旗艦戦隊所属MS隊がレーザー砲艦近辺のジオン残党部隊と交戦中、一部機体は"騎士"と共同で砲艦を護衛!」

「ジャミトフ、バスクのバカを縛っておけよ。これ以上戦場をかき乱させたくはない。第9艦隊は所定の行動を取り、ジオン残党戦力を追撃せよ、だ。この期に及んではあのバカにはジオン相手に限り、させたいようにさせるしかあるまい」

 ジャミトフは少し考え、頷いた。



 第79話



 ソーラ・システムコントロール艦の撃破はトールのガンダム・チートでも確認されていた。連邦軍艦隊は戦場ではレーザー通信ネットワークを形成して艦艇同士の連絡体制を確保するが、そこに量子通信システムを使ってハッキングをかけていたためだ。撃沈されたためにコントロール艦から最後に確認された、敵MSのビーム発射直後の映像も入手している。

「流石にこの機体クラスを投入したのは避けたようです。しかし、機体の詳細は不明」

「厄介なことには変わりないぞ。光学迷彩を用いているようだから、視認出来ないのは痛い」

 近接戦闘領域にまでゴルト隊に入り込まれたため、タオーステイルは全てレーザー砲艦の護衛に回している。外の状況を確認したレーザー砲艦からはオープンチャンネルで護衛を頼む通信が入り、総員退艦後、ケーブル操作で砲撃を行うと伝えてきた。国際共用信号で了解の通信を出しておく。

「陣形上側からドム、及びザク!」

「ザク!?ゴルトはドム……」

 ヒートホークで切りかかるザク。ガンダム・チートはヒートホークを掴んで握りつぶすとそのままヒートホークを掴んでいる腕を引き込み、肩アーマーにザクの頭部を激突させ、破壊する。腕部クローをスライドさせて胴体を掴むとそのまま胸部装甲を握りつぶし、反応消失を確認するとほうり捨てた。その間に後方から迫るドムに向かって上昇する。

「第9艦隊後方についていたジオン残党造反部隊、こちらに向かってきています」

「あいつらも生き残るのに必死、か」

「コロニーの残骸に隠れて地球軌道まで移動、重力ターンでも狙っているのでしょう。事ここにいたってはそうでもなければ逃げられません」

 ため息を吐くとレーザー砲艦の援護に回していたタオーステイルから4枚を迎撃に回す。こちらに舳先を向けたムサイに向けて2枚が表裏組み合わさったのを確認した後、手に持ったオルゴンソードをライフルモードに設定し放つ。放たれたオルゴン粒子によるビームは、タオーステイルの間を通過すると出力を増して戦艦主砲以上の破壊力を持って宇宙を直進した。ムサイは一撃で艦体を貫通させられ、轟沈する。勿論それと同時にドムはビーム・セイバーで撃墜している。

「……オーバースペック過ぎる。エルガイムMK-Ⅱか」

「元々、この技術は波動砲関係からのものです。バスターランチャーではありません」

 惑星一個完全破壊可能な兵器と同じとかやめてくれ。マニュアルによると、複数のタオーステイルによって発生させた重力波レンズによってビーム、レーザーを増幅しているとの事。バスターキャノンも同じ理屈で発射しているらしく、腹部の単発ビームを拡散モードで複数のタオーステイルに回し、それをタオーステイルが展開する空間電磁波コイルで増幅して撃つらしい。

 考え事をしていても戦闘は続く。ゴルト隊のドムを新たに一機、ビーム・セイバーで切り裂くとゴルト隊は撤退に移り始めた。しかし一機がまだ残り、先ほど友好的な通信をかけてきたフルアーマー・アレックスと戦闘を続けている。手助けしたいのは山々だが、コロニーの残骸との距離が迫り、ソーラ・システムコントロール艦が撃破されたとなれば手助けをしている余裕はない。

 トールはレーザー砲艦に近づくと艦との通信回線を開こうと思ったが、キットの艦内精査結果を受けて通信を切った。プラズマ・レーザー砲艦の乗員が総員退艦をしていたからだ。どうやら、こちらが完全に味方と解ったわけではない以上、もう一隻のプラズマ・レーザー砲艦を生き残らせる事を優先したらしい。ケーブルの接続作業を内火艇が始めているが、視線を向けた瞬間、流れ弾で撃墜された。撃ったザクをタオーステイルで排除する。

「……好都合、ではあるけどな」

「艦を捨て廃船覚悟の限界出力で放とうとする、良い判断です」

「そうだな、適切だ」

 トールはため息を吐く。一年戦争が終わり、軍縮の時代に入ると思いきや、一年戦争の結果生じた宇宙空間のデブリ掃除のために連邦軍はその陣容を維持する必要に迫られた。予算のために艦隊の数こそ今年まで増えることは無かったが、コロニー・地球間やコロニー・月、月・地球などの間の航路を警戒するパトロール艦隊はむしろ増員されている。そしてパトロール艦隊の任務の一つは航路上のデブリ掃除だ。部隊の数が増えた結果、人員の質は当然落ち、戦後経済の復興も相俟って連邦軍は急速に質の劣化を招いていたが、それが思いの外進んでいないと言う証拠が目の前にあったことはうれしい。

「意外に連邦軍に人材が残っているな」

「ですね。ただ、薄めたスープの味は少しくらい濃度が違っても大して変わりありません。全体としてはまだまだです」

 トールはそれに頷くと周囲の警戒に入る。こちらの強さにひるんだのか、ジオン残党はもう一隻のレーザー砲艦へ退き始める。しかし、そちらは戦域に突入し始めた連邦軍MSとの戦闘宙域だ。トールは放っておくことに決めると視線を周囲に戻した。

「タオーステイルには周囲を警戒させとけよ。敵は恐らく光学迷彩使っている。もしかしたらオービタルフレームのベクタートラップかもな。アヌビスとガチとか嫌だぞ」

「重力系も動かしていますから接近次第感知できます。それに、色々と方法はあるものです。御安心を。伊達にあなたが"ガンダム・チート"などと名づけたわけではないことを私が証明いたしましょう」

 口調がだんだんと暗い方向に言ってしまっているようなキットの口調に少し怖気を感じる。ううっ、やっぱりこれはアレが原因だろうなぁ。

「頼むな……コロニー砲撃中に邪魔とか目も当てられないからな」

 そういうとトールはガンダム・チートをレーザー砲艦に近づけ、外部コントロールアクセス用の基盤を開く。周囲からせまるジオン残党の攻撃はタオーステイルが相手をし、徐々に排除の方向に向かっているようだ。連邦軍は、こちらが攻撃を仕掛けない限り反撃をしてこないこと、反撃を行っても機体大破まででコクピット直撃を避けていることから、徐々にこちらが味方かもしれないと言う推測を広めつつある。

「コントロールシステムにアクセス完了。ナノマシン注入します」

「左腕部クロー展開、固定確認。よし、これで動かせるな」

 トールはそういうと左腕を動かす。左腕の動きとレーザー砲艦の動きが連動している事を確認しているのだ。注入されたナノマシンがガンダム・チートとレーザー砲艦の間に回路を形成し、プラズマ・レーザー砲艦という単艦戦闘可能艦艇を、ガンダム・チートの武装腕部へと変えていく。

「とりあえず試射だ。密度が増しているから強度の計測行くぞ」

「レーザー、精査モードへ移行。発射します」

 その言葉と共にプラズマ・レーザーが発射された。




「プラズマ・レーザー砲艦"イルミンスール"より砲撃!……出力は精査モード、照射物体の密度計測のための砲撃です!」

「"イルミンスール"に乗組員が残っていたのか!?総員退艦命令は下したはずだ!」

 砲術参謀が驚きの声を上げるが、続くオペレーターの報告に絶句する。

「いえ……接触している"騎士"からのコントロールを受けているようです!照射は2秒、レーザーのコロニー透過を確認。こちらにもコロニー内の密度情報が送られてきています!」

 ベーダーはその報告を聞くと笑い出した。艦橋内部の全ての視線がベーダーに向けられるが、気にした風も無く笑い続ける。周囲の参謀たちが参謀長であるジャミトフに質問をしろと促し、ジャミトフはそれに押される形で質問を行った。

「閣下、何か……」

「解らんか、ジャミトフ。アレは完全にこちら側だということを攻撃で示しおった。恐らく、今の射撃はコロニーの密度を測るための試射で、すぐに第二射が来る。しかし、連邦軍のコントロールシステムをハッキングして砲艦を支配下に置くとはな。ほとほと、あの機体と我々の技術は隔絶しているらしい。疑問は残るが、今は頼もしい味方、ということにしておこう」

 ジャミトフはベーダーの言葉にあった一言が気になり、重ねて尋ねた。

「疑問、とは?」

 ベーダーはジャミトフの問に笑うとため息を吐くように言った。

「アレが何処の何者か、ということだ。この場はともかく、戦闘終了後は大変なことになるだろうな。もっとも、貴様には都合が良いのだろうが」




 その存在は連邦軍サラミス級巡洋艦"ヤンゴン"の背後からプラズマ・レーザーの精査砲撃を伺っていた。造反したジオン残党軍の攻撃―――リック・ドムのジャイアント・バズの攻撃を艦橋に受けて総員退艦命令が下されたこの船に残っている人員は、最小限度の保守作業要員のみで、艦の外の状況を詳しく見る目は残っていない。それでいても、周囲では連邦軍とジオン残党軍の交戦が続いており、詳しく確認する暇も無かったろう。

 その存在は光学迷彩を用いながらサラミスの陰に隠れると、マニピュレーターに装備されたカメラを用いてガンダム・チートを確認していた。周囲に展開しているらしいレーダーの範囲を考えるとこれ以上の接近は危険だと判断する。戦力は"候補者"に比べ僅少であり、正直、ここまでの戦力を投入されると直接手段では反撃の方法が無い。

 コクピット内に光が生じ、コンソールに文章が表示される。其処に記載されていた内容にYesと返すと、その存在はそっとその場を離れた。光学迷彩を展開しているとはいえ、機動兵器でこの場に存在している以上、重力の干渉は受けている。巡洋艦から必要以上に離れると察知される危険が増すため、流れてきた残骸―――コロニーのものらしい―――に掴まるとその質量にごまかされる形で慣性航行でその場を離れた。

 ―――GAT-X207ブリッツガンダム、それが投入された機動兵器の名前。表示文面が消えた後の画面には、"MOBILE Direct Operational Leaded Labor Ver.1 Fantom-System"と表示されていた。




「精査照射終了。やはり、コロニーの残骸中央部に人工的な重力の発生を確認。……人工的にブラックホールを発生させる装置のようです。まだ重力を発しており、残骸の密度は上昇中。移動中に周囲の残骸をひきつけていますが、徐々に弱体化。このままだと20秒もすれば消えます」

 物体探査用のレーザーを放ち、その計測結果を分析したキットが報告する。トールは表示されたブラックホール発生装置の位置とその出力を確認する。既に人工のブラックホールが形成されているだけでなく、吸い込まれた金属部品が密度と強度を増して高密度の金属製隕石に近くなっている。

「ということは、撃ち抜けば自己崩壊で密度が減るな」

 トールはそうつぶやくとコンソールの操作を始めた。レーザーの必要とする出力を満たすためには砲艦のジェネレーターだけでは時間がかかりすぎる事を確認すると機体と砲艦を送電・充電用コードでつなぐ。

「密度と重力が高まりすぎです。先ほどの精査照射ではレーザーは透過設定です。破壊するためには熱線照射が必要ですが、波長を変えるため、このままでは重力に邪魔されます。それに、重力の干渉を排除するまで照射光量を増やすのは……」

「バスターランチャー以上の威力なんだろう?出力を上げて乗り切る。一気に焼ききれば良い」

 キットはトールの言っている内容を理解すると同時に怒鳴った。

「ジェネレーターが焼け付きます!下手をすれば砲艦が熱崩壊を起こしてこちら側にも被害が……」

「そのためのガンダム・チートだ。それぐらいのこと、出来なければチートの名が泣く。タオーステイルは12枚で良いな。空間電磁波コイルを形成してレーザーの出力を強化する。一発でどてっ腹に風穴を開けるぞ。機体の偏向シールドを忘れるなよ」

 トールはそういうとタオーステイルをレーザー砲艦前方に展開させ、時計のように12枚並べる。先ほどのバスターキャノンと同じように12枚のタオーステイルがレーザー砲艦前方に重力波レンズを形成し、更にレーザー用の電力を回して宇宙空間に電磁波によるコイルを形成する。原理は先ほどと同じく、デス・スターのスーパーレーザーと同じ。

「バラン星だって破壊できた技術が元なんだ。惑星一個破壊できるなら、MSサイズでも30%程度に減った構造物なんて余裕だろう。でなければ何のためのチートか!」

「ああ、今回こそは無傷で帰還できると思ったのに……」

 キットはそう嘆きながらもトールをアシストしてタオーステイルのコントロールを開始した。重力波レンズに加えて空間電磁波コイルまで展開させるとなればタオーステイルに搭載されているAIだけでは不足だ。トールは頷くと左腕部と砲艦の動きの連動を確認し、砲艦の舳先を徐々にコロニーの残骸に向ける。

「上方より敵機!」

「行けぇ!」

 砲艦の護衛についていたタオーステイルから2枚が飛び出し、上方の連邦軍を抜けてきた編隊に向かって飛び出す。しかし、こちら側に接近する前に横合いから伸びてきたビーム光に撃墜された。

「こちら、第9艦隊MS隊司令トレーズ・クシュリナーダだ。"騎士"と共に戦える事を誇りに思う。ムラサメ少尉、君は"騎士"の護衛につけ。全機、"騎士"を護衛しつつジオン軍を排除。散れ!」

 こちらの正体を知っているだけに上手くこの場を収めてくれたか。トレーズに感謝しつつ、レーザー砲艦の照準をコロニーの残骸重心部、重力が発生している部分に向ける。

「密度計測の結果、最大出力で12分」

「間に合わん」

 キットの報告をトールは切って捨てる。12分も悠長に照射し続けている暇はない。

「リミッターをカットして撃つ。勿論ガンダム・チートの出力も回す。熱崩壊確実だな、したときに備えてくれよ。片腕ぐらいは覚悟しているが、流石に帰れなくなって回収されるのはヤバい。ドメル提督に連絡。残骸が崩壊を始めた段階で、巨大なのに集中してトラクター・ビームを照射して慣性を弱めるように。間に連邦機を挟んで巻き込むようなことは避けろ、と」

「了解しました。通信しておきます」

 全ての準備が整った事を確認したトールはアームレイカーを引き込み、そして一気に前に押し込んだ。押し込むと共に装甲が開く。ジェネレーターをフル稼働させた際に発生する熱を排出するため、装甲が開き、フレーム部分を露出させる現象だ。ガンダム・チートはナノマシンで構成されたムーバブル・フレーム構造を有しているから、NT-Dのサイコフレーム露出と効果はほぼ同様で、このフル稼働モード、セニア命名によれば"ガンダム"モードになれば通常時の更に3倍の性能を発揮できるとマニュアルにあった。3倍である理由は"やっぱり、三倍でしょ"とのこと。何がやっぱりなのかは気づきたくない。

 装甲部分が開き、フレームが露出すると共に金色の光が放たれ始める。フレームを構成するナノマシンが廃熱と共にナノマシンのもつ新陳代謝機能によって廃棄され、それが熱とエネルギーフィールドの影響によって金色に発光するのが原因だが、乗っているこちらからしてみれば、"なにこのスーパー○イヤ人"である。しかも、頭部前面―――顔の部分のマスクも開き、ガンダム顔があらわになっている。ああ、こんなところでヒュッケバイン顔とヴァイサーガ顔とガンダム顔のバランスをとったのか。

 6枚ずつ二層に展開したタオーステイルがそれぞれ時計回り、反時計回りに回転を始める。空間電磁波コイルと重力波レンズの展開だ。砲艦からあふれ出したエネルギーがコイルによって増幅され、砲艦内部に押し戻される。そして発射されたエネルギーはコイルによって形成されたレンズを通して、更に増幅されて照射される。

「発射準備完了です。名前は好きにどうぞ」

 あまりのチートさ加減にいささか食傷気味になっていたところにキットの声がかかる。いまさら名前など如何でも良いのだが、何か期待するような沈黙をされてしまっては言わざるを得ない。ああ、この機体の名前に加えて更なる黒歴史を作れと言いたいのか。いやもう、現在やっていることも充分以上に黒歴史ではあるけれど。

「ええい、バスターレーザー、発射!」

 その叫びに反応したように、ガンダム・チートは金色の光に包まれた光線を砲艦の軸線上に据えられたレーザー発射口から放った。勿論、発射して30秒後にレーザー砲艦は発射した光線の熱量に耐え切れず、熱崩壊を起こして大爆発したのであるが。



[22507] 第80話
Name: Graf◆36dfa97e ID:75164fd2
Date: 2014/07/27 19:00

 0083年11月13日、午前0時34分38秒。本来の歴史の流れどおりならば北米、サンベルトに落着したコロニーは軌道上で撃破され、地球へのコロニー落しは阻止された。

 もっとも、コロニーそのものの落着、特に北米、アサバスカ盆地への落着が避けられたことによる地上の核物質汚染こそ無かったものの、地上に落着したコロニーの残骸による被害は生じている。しかし、コロニーがサンベルト、もしくはアサバスカへ落着していたときに予想された被害ではなく、最も大きい被害は地上へ突入した最大級の残骸が落下した、北米ワシントン州にとどまった。当初予想されていた億を超える被害が劇的に低減されたことは連邦軍の功績とされ、喧伝材料とされた。

 特に、コロニー落下最終段階で造反したジオン残党部隊を撃破した連邦軍新型ガンダムの活躍は、一年戦争時のガンダム神話の再来として強く宣伝され、連邦軍の強さと宇宙にまだ根強く残る親ジオン派への攻撃材料となった。このガンダムに関する詳しい情報を、連邦政府はまだ公開していない。もっとも、これからも公開される事は無いだろうが。

 連邦軍はジオン残党軍によるこのテロ活動を宇宙における連邦軍の活動強化のために用いることに決定。テロ活動の首謀者であるエギーユ・デラーズ中将の名前から命名された、この所謂"デラーズ事件"のため、連邦議会においてはジオン残党の更なる取締りを求める声が強まることになる。


「顧みよ! 今回の事件は、地球圏の静謐を夢想した一部の楽観論者が招いたのだ。デラーズ・フリートの決起などは、その具体的一例に過ぎない!また先月の13日、北米大陸の穀倉地帯に大打撃を与えかけたコロニー落しを見るまでもなく、我々の地球は絶えずさまざまな危機に晒されているのだ!」

 0083年12月4日、バスク・オムの演説が響く中、地球連邦軍本部ジャブローの長い廊下を歩いていたジャミトフは一人の男と出くわした。MPの監視下に置かれたその男は、胸のバーと首及び肩の階級章を剥奪され、これからどこかに移送されるようだ。

 ジーン・コリニー元大将。コンペイトウ襲撃事件で艦隊の指揮権を手放し、ジオン残党との内通を疑われた男だ。ジャミトフも元はコリニーの参謀長であったため連邦軍憲兵隊の捜査を受けたが、0081年以来コリニーの元を離れ、アフリカでの治安維持任務に力を注いできたため、関係ないもの、という判断を受けて職務に復帰していた。

「ジャミトフ……」

「閣下、今回は」

 ジャミトフはそれだけをいってコリニーに一礼すると、その場を去った。両脇を抱えていずこかへコリニーを連行する、銃を抱えたMPの方は見ない。下手にかかわりを見せて再捜査の対象となるのも願い下げだった。何しろ、連邦軍憲兵隊の判断はともかく、ジオン軍残党と連絡を取っていたことは事実だからだ。下手に再捜査を受けて、それを明るみに出すわけにもいかない。ジオン残党のデラーズ事件最後の動きは、今のジャミトフを失脚させるには充分な理由だ。

「地球!この宇宙のシンボルをゆるがせにしないために、我々はここに誕生した!地球!その真の力を再びこの手に取り戻すため、我々、“ティターンズ”は立つのだ!」

 バスクの演説が終わったらしい。将兵からの歓呼が響くが、別段何の感慨も沸かなかった。ジャミトフからすれば計算されたアジテーションとデマゴーグ、プロパガンダによる当然の結果でそれほど驚くべきことではない。しかし、正直ジオン残党があそこまでの動きを見せるとは思わなかった。こちら側に伝わってきた情報は星の屑とかいうコロニー落としだけで、水天の涙などという生物兵器の散布作戦は全く伝わっていなかった。

 ミューゼルに借りを作ったか。ジャミトフはそう思わざるを得ない。組織の拡大を考えながら、徐々に活動領域を増やしていく他は無いだろう。ルナツーを確保してL3ポイントサイド7を基地化し、連邦への反体制運動が始まろうとしているL4ポイント、サイド2、サイド6を宇宙での管轄範囲として権力の拡大を行う。地球においては、現在のアフリカから徐々に欧州、北米へと活動の範囲を広げていけばよい。

 ジャミトフの前に大きな空間が広がる。建造ドックに出たのだ。目の前には、今までの連邦軍の主力艦艇とは全く異なった設計の船が横たわっている。ジオン軍より接収した宇宙巡洋艦ムサイの設計思想を援用した、新型巡洋艦アレクサンドリア級だ。いままでのサラミス級とは異なり、完全にMSの運用を主眼として開発され建造された。12機を搭載し、単艦でのMS運用力はペガサス級に匹敵する。

 ジャミトフはそのまま艦に乗り込む。MSデッキでは新型MS、リーオーに搭乗予定のパイロットたちが整列、敬礼して出迎えた。ジャミトフも答礼して其処を通り過ぎる。背面部にブースターを取り付けた宇宙用リーオー。生産性も整備性も操縦性も良い、まさに汎用の機体。供与された機体の性能を見た時には、一時GP社、そしてミューゼルの正気を疑ったものだ。こんなにも良すぎる機体を送ってくるからには、ティターンズによる地球圏の"治安悪化"を本気で考えているのではないか、と。

 現在、地球各所に展開するジオン残党軍との戦闘の為に局地用のリーオー改造機を設計中らしいが、あまりにも軍備拡大が過ぎるとこちらにもコントロールできなくなりそうだ。いや、却ってそれが狙いか。バスクの演説の際にTVに映った居並ぶ軍人を見た時、地球至上主義者との関係が深いせいか、宇宙に出たことが無い如何見ても役立たずのごろつきが多かった。流石にアレクサンドリアにはそういうことは無い、と思いたい。ジャミトフは自分の艦隊にトレーズを配置する事を心に決める。あの男が戦場を上手く取りまとめてくれなければ、あの時我々はあの"二機目の騎士"と戦うことになっていただろう。

 艦橋に入った。旧アルビオンクルーが出迎え、敬礼する。ジャミトフはそれに答礼すると、艦橋からドックを見渡した。同型艦らしい数隻が建造を同時並行で進めている。月面、フォン・ブラウンで完成した一番艦アレクサンドリアの成功を受け、ここジャブローでは2番艦から6番艦までが建造されることになっている。ルナツー工廠では、更なる発展改良型の研究も進んでいるとのことだ。

 ティターンズの発足が決まって以来、宇宙部隊の本部をルナツーに、地球部隊の本部をキリマンジャロにするように交渉を続けているが、コンペイトウの襲撃でルナツーが微妙な結果になりつつある。まずはコンペイトウの修復を議会に働きかけ、宇宙軍総司令部の移動を願うことになるだろう。

 ジャミトフは艦橋クルーに背を向けると艦橋を後にした。


 
 第80話



 全てが終わった日、11月13日早朝に大気圏突入の結果北太平洋に降下し、そのまま偵察衛星を避けるために海底を移動して樺太に着いたのが翌日夜。そこからプラントの転移装置で月に戻り、なんとか0083に関わる全てのイベントをこなし終えたトールは、0083年12月18日午後6時である今、ゼブラ・ゾーンのアンブロシア基地にて、アクシズ先遣艦隊の帰還を見送っていた。ちなみに、バスターレーザーの発射とその後の連邦軍の追撃を避けるための大気圏突入でガンダム・チートは見事大破。またぞろ"出撃=損傷"のジンクスが発動したことにキットはお怒りである。

 まぁ、レーザーの威力が高まる前に熱崩壊を起こした結果、発射直後にレーザーの強化に使ったタオーステイル12枚が全損融解。熱崩壊の余波でガンダム・チートも左腕左足及び左半身全損と大被害なのだから怒りも当然である。ところで熱崩壊を起こさなければ理論上、バラン星までとはいかないけれども惑星の衛星クラスならばぶち抜き可能なまでに高まっていたと言うから正直頭が痛い。どちらにせよ、完全な決戦兵器としてしか使えなくなってしまった。ああ、何に乗ろう。

 結局、あの後にコントロール艦を沈めた敵からの攻撃は無かった。大気圏に突入してしまったのも、トラクター・ビームが捉えきれなかった残骸を破壊するためで、機体の破損もあって攻撃を受ければ苦戦間違いなしだったが、なぜか攻撃を仕掛けてこなかった。振りなおしたら此方の出目が良かったから今回は撤退した、と見たいが如何だろう。

「珍しいお客さんですね」

 そんな考えでアクシズ艦隊を見つめていたが、背後に生じた気配にトールは話しかけた。

「君の前に出るには、私もそれなりの覚悟がいったのだよ、ガ…ミューゼル少将」

 4年ぶりにトール・ガラハウ……いや、トール・ミューゼルに再会したシャア・アズナブル―――クワトロ・バジーナは前置きの会話を始めた。

「近くに住んでいる、とはいうものの、中々に会いに行く機会も無くてね。無沙汰をしてしまったかな」

「戸籍が無いのに来れるわけが無いでしょう、クワトロ・バジーナ大尉」

 ほぅ、流石にエゥーゴの動きにもおさおさ目配り怠り無いというわけだな少将。それでこそ、反対を押し切って話を持ち込みに来た甲斐があるというものだ。しかし、この話に最初に賛成をしてくれたのが私にとって最も意外な人物だったのが驚きだったが。

 エゥーゴ、正式名称"反地球連邦組織"の形成は0083年12月初旬に、デラーズ・フリートの起こした"デラーズ事件"を機に結成された対ジオン残党鎮圧部隊ティターンズが、主にサイド2を管轄として反地球連邦政府運動を取り締まり始めてから、というのが公式の話だ。そして現在サイド1、サイド3、および月は独立国家の内政に干渉しない、内政不干渉の原則を楯にティターンズの介入を拒み、そうした領域でエゥーゴは徐々に広がりを見せている。ティターンズは早速の獲物として、過激派の名前と共にエゥーゴの取締りを開始した。そうした意味で、エゥーゴはその名の通り、"反地球連邦運動"であった。

 しかし実際のエゥーゴはその略称と異なり、ジオン残党だけではなく地球連邦に反感を持つスペースノイドが一年戦争後のスペースノイドへの地球連邦の一部宥和政策―――"基準に達した"地域の政治的独立―――の条件を緩和させるための政治勢力として結成された。それゆえに、短期間で支持は広範に広がりもしたのだ。特に、独立の条件を満たさないとして一年戦争後の独立を諦めさせられた、サイド2以下の各サイドでは、ジオン残党とほぼ同じか、それ以上の支持を受けている。

 勿論そうした行為は連邦軍の管轄にこれ以上ないくらい抵触するが、流石のティターンズといえども、地上以来数百年の歴史を持つ原則を破るわけにもいかず、治安担当区域とされたサイド2、サイド6(要するにL4ポイント)で活動する他は無い。しかし、その活動がだんだんと熱を帯びるであろうことも確かだ。

「ララァ少尉は?」

「先日、Nシスターズへの移民の手続きを。時期がよくなり次第、火星移民に入らせようと考えている。実は、子供を作ろうとせがまれてね。落ち着く先の安全を重視したい。頼めるかな」

 トールの目が見開かれる。面白い反応だ。実際、ララァからその考えを伝えられた私の反応とそっくりなところが笑えて仕方が無い。パイロットなどと言う人種に息子ができると言うことの意味を知っているのだろう。この男は、褒むべき女性を妻に愛人にと抱えているにもかかわらず、そうしたところには行き着かないでいる。

 危うい、と見るべきなのか。いや、違うな。クワトロは結論した。自身のしている事を考えるならば、子など作るべきではないと感じているのだろう。しかし、それでいつまでも女性が納得するだろうか。などと考えたところで自嘲した。私も、ララァ相手で無ければ子供を作ろうなどと考えたかどうかは怪しいところだ。

「それはかまいません。……本当につくるつもりですか?」

「男ならエドワウ、女ならアストライア。そういう風に、名づけるべきだと。本気だよ」

 名前を告げたときに目の前の男が頭をかきむしり始めたのには笑えた。しかし、ここまでララァに見せたとおりの反応を返してくれるとは。全く、この男はどこか私と似ているところでもあるのだろうか、と思わざるを得ない。考えてみれば、そういうところにアルテイシアも好感を抱いたのではなかろうか。……だからこそ、か。しかし兄としては複雑な気分だ。相手は既婚者。いや、人の事を言えた義理ではない。それに、この先どうなるかもわからないのだ。

「……で、本日はどんな御用で」

「率直に言う。エゥーゴに名を連ねてもらいたい。既に資金面では色々とお世話になっているようだが、それだけでは不足だと考えている。ティターンズを相手にするには、戦力は必要だ。運動が拡大し支持も増えているが、戦力をつくるためには企業の支持が必要になる」

「アナハイム・エレクトロニクスがあるでしょう」

「ガンダム開発計画の封印で技術力はむしろ下がっている。それに対して君のところには、封印指定がされていないMSの技術がある。月での攻防、見させてもらった。既にAKD社、アナハイム社共にエゥーゴへの支援を約してくれている」

「AKD社?」

「フランス系。サイド1に本社を置く宙間作業用ワーカーの会社だ。君のところが小型MSとしてアサルト・スーツとか言うのを売り出しているだろう?あれの巨大版を売り出す、と」

 言われた男は急に不機嫌になったように眉間をもみ始めた。そんな会社は知らない。となれば、誰が経営しているかはわかったようなものだ。あの時下がったのは、"整合性"側も戦力の再編が必要だったから、か。

「充分と思うかもしれないが、まぁ、私が実力を知っているのは一社だけなのでね」

 鼻息を荒く鳴らしたトールにクワトロは笑いかける。この男の事情は知っている。ティターンズと連邦軍に主力機を収めている企業の重役といってもかまわない男が、その裏で反地球連邦組織に援助する。死の商人も良いところだと思う。しかし、現状でアナハイムだけに頼るわけにもいかない。それに、この男を動かせればジオニックも付いてくる。ジオン軍との協定について得られるところも大きいはずだ。

「今日の私は友人の見送りに来ただけです。仕事の話は後日」

「了解だ。……結局、ガトー少佐はアクシズ行きか」

 トールの顔が再度顰められた。あまり良い気分ではないのだろう。自分でもこの物言いが不快感を生むことはわかっていたが、どうしても口を付いて出てしまった。

「うちにおいておいても宝の持ち腐れですからね。ジオン強硬派の権力が増している以上、ドズル閣下にも信頼できる部下が必要でしょうし」

「デラーズ閣下は残念だった」

 トールは沈痛な面持ちで頷いた。デラーズは見事、あの戦場の混乱から部隊を撤退させアクシズ先遣艦隊に残存部隊を合流させたところで自害した。この紛争で生じた被害の責任を取る、というのが理由であるが、これ以上、ジオンに付き合えなくなったのかもしれないと今では思うようになっている。

「一体、この一連の紛争は何だったんでしょうね。宇宙に独立国家が出来た今、徐々にそれは広がっていくわけで、ジオンがいまさら独立を掲げて戦争をする意味は殆どなくなっていたのに」

「それでも、人は不満があれば立ち上がる。独立が建前なのは、宇宙に住むものならば肌で感じていることだ」

 シャアの言葉を鼻で笑う。不満があるからといって隕石やコロニーを落すのであればそれはもはや狂人の類だ。確かに宇宙移民の政治的権利は拡大するべきであろうが、それを為すためには連邦政府が宇宙に投資した額を回収してからの話になる。彼らの住む大地はただではないのだ。勿論、現在地球で広がりつつある宇宙移民差別主義、とでも言うべき運動は問題なのだが。

「来年には火星植民事業の開始と恒星間移民計画の調査事業が始まる。正直、戦争はごめんです」

 今度はシャアがトールの発言に鼻を鳴らす。宇宙移民者の政治的権利拡大と連邦政府によって一部既に始まっているジオン残党狩りを名目とした宇宙移民者の排除活動がエゥーゴの結成原因だが、それが早まったのには連邦政府内に高まる地球回帰論者、地球至上主義者とのバランスを取る事を考えた一派の勢力があるとも聞いてる。つまりは政治的対立の上に橋を渡す形での政権維持を考え、それによる冷戦状態を統治しようと考えているのだろう。

 しかし、それは片方が統制を離れればもう片方もそれに対応せざるを得ないと言うことでもある。そしてそれが行き着く先は戦闘だ。シャアは地球連邦内部にある地球至上主義的な考えを楽観視してはおらず、むしろ危険視している。だからこそこの冷戦の行き着く先が熱戦以外の何物でもないと考えているが、それを経なければ人類の革新はありえない、とも考えるようになっていた。

「しかし、それなのに君はエゥーゴを援助している」

「ティターンズにはリーオーを回した関係がありますしね。MSの注文はアナハイムやそのAKD社とやらにどうぞ。うちはエゥーゴから注文を受け付ける気はありませんよ。暇がありません」

「ガンダム―――君のところが一番開発経験を持っている。是非、頼みたいのだが」

 ガンダムという単語を聞いてトールは顔を歪めた。その表情の変化を、ガンダムを開発しつつもジオン軍として戦った経緯からガンダムに対して複雑な思いを抱いているのか、はたまた、と想像を逞しくする。実際、エゥーゴの象徴としてのガンダムは必要な存在であり、デラーズ事件の経緯を考えれば、あの事件の最終局面で活躍した二機のMS―――二機の"騎士"―――を開発した能力・技術・設備を持つGP社との連携は必須だ。

 問題は、そのGP社の最高責任者が私に対して複雑な感情を持っているということか―――シャアはその考えに苦笑した。人の事を言えた義理ではない。

「本格的に動くといってもまだ時間はあるだろう。おいおい考えていく、ということでよろしいですか」 

「確かに。まだ組織を作る段階だからな」

 アクシズ先遣艦隊がデラーズ・フリートの残存勢力を引き連れ、アクシズへの航路を取ったところでトールは身を翻した。見送りは終わったのだ。先ほどから一度もこちらを見ない相手に対し、シャアは鼻で笑うとそのまま宇宙へ視線を向けた。

 ふと、ガラスに映った迎えに来たらしいあの少女が目に入った。一年戦争の際、こちらに見せた敵意は消えており―――いや、こちらの存在を視界にいれていないのだろう。それに―――――

 それに、再会と無事を確かめ合っている男女の邪魔など、今はするべきではないだろう。どうやら、あの二人にも私たちと同じ何かがあったようだ。失い得ないものを持っているが故に、其処に絆が生まれるのだ。強さではなく弱さゆえに、というのがまた皮肉ではあるが。

 シャアの視線を気にする事無く、トールは迎えに来たらしいハマーンと抱擁を交し合った。シャアは知らないが、正式に退院できたのはトールがアンブロシアに向かった翌日で、そこからすぐに後を追ったのだ。トールは集中治療室で眠るハマーンを見舞って以来、連邦軍少将としての通常業務と事件の事後処理に忙殺されていたため、意識を取り戻したハマーンとの再会は、これが初めてになる。再会の喜びもひとしおだった。

 シャアは寄り添う二人の横を通るとデッキを後にした。







 世にデラーズ紛争と呼ばれる、0083年年末の三ヶ月にかけて起こった一連の事件は、ここに終焉を迎えた。ガンダム開発計画についての技術的成果は封印され、開発元のアナハイムに残っていた情報も封印の際に大部分が接収された。後に、このガンダム開発計画の情報が取り戻され、その一部がエゥーゴと呼ばれる反地球連邦政府運動の際に用いられることになる。

 ここで、関係するもの、及び組織のその後について、簡単に筆を裂こう。

 ジョン・コーウェン中将。ガンダム開発計画の責任者。ガンダム開発計画の所産であるGP02によるコンペイトウ核攻撃の責任を取って少将に降格後退役。指揮下に編成予定となっていた第三軌道艦隊となるはずだった戦力は、そのまま第9艦隊に編入された。

 ジャミトフ・ハイマン少将。第9艦隊司令。0084年1月を以て第9艦隊がティターンズに改編され、ルナツーを司令部として発足した。第9艦隊の戦力に、コンペイトウ事件で戦力が低下した第5、第7艦隊と第三軌道艦隊の戦力を編入され二個艦隊規模となった大兵力は、ジオン残党軍を多数抱えるとされるサイド2、サイド6からなるL4ポイントを担当する。

 バスク・オム大佐。ティターンズ第一艦隊司令に進んだが、味方の犠牲を是認するその姿勢は問題とされ、昇進までには進んでいない。その姿勢は当然部下にも伝播し、ティターンズは連邦軍に比して同階級でも先任権を得るだの、通常の命令系統に属していないなどの軋轢を増していくことになる。

 トール・ミューゼル少将。84年第二四半期に月第一艦隊司令から、連邦軍月方面軍司令、中将に昇進する。デラーズ紛争後期においてはジオン残党軍によるグラナダ・マスドライバー基地占拠を即座に殲滅し、更にそれが月第二艦隊をデラーズ・フリート追撃に出す戦力差の中でのものであったこと、及び、的確な補給部隊の運用でコンペイトウからの退避部隊を援助したことが評価されての結果であった。

 "ソロモンの悪夢"ことジオン軍少佐アナベル・ガトー。アンブロシアより戦艦グワデンにてジオン残党拠点アクシズへ向かう。0084年8月12日到着。そのままドズル・ザビ大将指揮下に加わる。地球圏にいまだ残存する残党との協力体制を背景にしていると噂され、アクシズ内の強硬派及び穏健派の争奪の的となった。

 コウ・ウラキ連邦宇宙軍少尉。11月13日午後20時21分。胴体だけとなったGP03ステイメンと共に静止軌道宙域で回収される。事件後、ドック艦ラビアンローズでのGP03強制徴集が連邦法違反に問われるが判決は無罪。戦時昇進の中尉登録を抹消の上、北米オークリー基地へ転任となったが、0084年、月への移民を申請。極冠恒久都市N5に居住、84年編制の月方面軍所属となる。

 ジョシュア・ブリストー少佐及びアンソニー・パーマー大尉。第32戦闘中隊はデラーズ事件中の不明機との戦闘により壊滅した。しかし、84年の連邦軍改組と共に再編制され、ティターンズに参加。補充要員を加え、現在はキリマンジャロ基地所属である。

 アントン・カプチェンコ中佐。戦後、ムサイ級巡洋艦"キンメル"艦橋から回収された書類により、コロニー迎撃戦後半になってからレーザー砲艦への最初の攻撃を仕掛けた部隊が、通称"ゴルト隊"と呼ばれ、指揮官の名前がカプチェンコという名の中佐であることが判明した。0084年1月12日、静止軌道上で残党部隊の捜索掃討活動にあたっていたティターンズ所属巡洋艦"ブルネイ"が金色のリック・ドム改造機を回収。遺物よりカプチェンコ中佐搭乗機と断定されるが、行方不明のままである。

 ゼロ・ムラサメ少尉。0083年11月13日、コロニー残骸迎撃の戦闘を連邦軍投入の新型ガンダムと共に行っていたところを最後として、彼のRX-78NT1FAフルアーマー・アレックスは消息不明となった。半年後、静止軌道上のデブリ回収業者が損傷・遺棄された同機を発見するが、コクピット・ブロックに直撃弾を受けており死亡判定が下された。

 デラーズ紛争は、歴史上第二のコロニー落とし作戦であり、且つ又コロニー落としが避けられるものとなったと確認された作戦でもあった。ブリティッシュ作戦の際、落着するコロニーを最後まで撃破することが適わず、連邦軍作戦本部にはコロニー落下が始まり、その軌道が変更できない状況に追い込まれてしまえば阻止行動をとろうとも結果は同じであるとする風潮が生まれかけていたが、これを払拭した歴史的事実は大きい。

 特に、コロニー落着をソーラ・システムとプラズマ・レーザー砲艦の混成部隊で撃破する作戦を立案したジャミトフ・ハイマン及びトール・ミューゼル両少将の評価は高く、ジャミトフ少将のティターンズには高い期待がかかることとなる。これに対し、ミューゼル少将の功績は、アナハイム・エレクトロニクス社のドック艦ラビアンローズで軍規違反ギリギリの強制徴発に踏み切り、処遇が取り沙汰されていたエイパー・シナプス大佐の問題と相殺される形で等閑に付された。

 但し、ジオン残党軍の支作戦である"水天の涙"作戦がその後の調査で生物兵器の散布作戦であったことが明らかになると評価は一変する。この結果としてNシスターズ駐留の第一艦隊、フォン・ブラウンの第二艦隊とグラナダの第三艦隊をあわせた、連邦月方面軍が編成された。後に、"月連邦"の形成と惑星間移民はこの時に始まったと記録されることになる。



------------To be Continued "Gundam Cheat Destiny"?






[22507] 設定集(51-80話)
Name: Graf◆36dfa97e ID:75164fd2
Date: 2014/07/27 07:36
 0083年11月上旬(51話)
 *アクシズ先遣艦隊が地球圏に到着しました!(GPは以後の動き如何です)
 *サウス・バニングが戦死していません!GP2500入手!。
 *ニナ・パープルトンが綺麗になりました!GP5000入手!

 GP462000 → 462000

 0083年11月10日(52話)
 *中の人・ファイト!Gp5000入手!
 *ソロモンに核攻撃が行われました!(GPは以後の動き如何です)

 GP467000 → 467000



 0083年11月10日(53話)
 *ソロモン核攻撃の被害が、史実の三分の一にまで低下しました!GP35000入手!
 *クーロンガンダム・アースゲインが損傷しました!GP-10000
 *自動砲台7基、MS1機(自力)を撃墜しました!GP1700入手!
 △MS戦闘経験Lv.18:----- MSでの戦闘経験が一定段階に達しました!
  → 以下のステータス・フォッグが解除されました!
  → 地形対応:海B、陸S、空A、暗礁S、宇D-

 GP493700 → 493700


 0083年11月10日(54話)
 *ムサイ2隻を拿捕しました!GP5000入手!
 *MS6機(自力)、自動砲台8基を撃墜!GP6800入手!
 △MS戦闘経験Lv.19:----- MSでの戦闘経験が一定段階に達しました!

 GP505500 → 505500


 0083年11月10日(55話)
 *ジオン残党軍が星の屑・水天の涙作戦を発動しました!(GPは以後の動き如何です)
 *アナベル・ガトー、ユーリ・ハスラーが主人公の生存に気付き始めています!(GPは以後の動き如何です)
 *クーロンガンダムが中破しました!GP-5000
 *アースゲインが大破しました!GP-10000

 GP490500 → 390500
 ・ポイントキャラクター強化機能:50000 セニア・ビルセイアの整備能力が強化されました
 ・ポイントキャラクター強化機能:50000 マリオン・ラドムの整備能力が強化されました


 0083年11月10日(56話)
 *"水天の涙"部隊がグラナダ近郊のジオン軍残党と合流!(GPは以後の動き如何です)
 *主人公の連邦政府介入要請は拒否されました!(GPは以後の動き如何です)

 GP390500 → 390500



 0083年11月10日(57話)
 *Nシスターズが着々と軍備を整えています!GP30000入手!
 *宇宙独立国家が自衛軍備の増強を安全保障条約内で行っています!GP30000入手!
 *ルセット・オデビーがGP社の技術について疑念を抱き始めました!(GPは以後の動き如何です)

 GP450500 → 75500
 ・バイオロイド兵生産 5000名:100000
 ・専用機強化:25000 ヴァイサーガが強化されました!
 ・NT能力Lv.6:100000 CCAアムロ・レイぐらいのNT能力です。
 ・NT能力Lv.7:150000 初期エルピー・プルぐらいのNT能力です。

 0083年11月10日(58話)
 *システムは主人公の行動に警告を発しました!(残り2回)

 GP75500 → 75500


 0083年11月10日(59話)
 *システムは主人公の行動に対する警告を取り消しました!(残り3回)
 *システムが主人公に対する情報提供の制限を一部撤回しました!GP100000入手!
  → システム設定管理権Lv.1 Lvをあげることでシステムの運用に介入できます。
  → システム情報管理権Lv.1 Lvをあげることでシステムから情報を入手できます。

 GP175500 → 175500


 0083年11月10日(60話)  
 *コンペイトウ鎮守府艦隊が一時、指揮下に入りました!(GPは以後の動き如何です)
 *Nシスターズ自衛軍の指揮権を有しました!GP50000入手

 GP225500 → 225500
 
 ★58.59話まとめ
 01.うじうじ君を装ってシステムをはめる
 02.情報を引き出す&敵の出方をまとめる
  → システムは基本味方、歴史を変えると反発ありなど
 03.システムと敵は別物が決まった段階でネタバレ
 04.NT能力で嘘をついていない事を確認後、和解


 0083年11月11日(61話)
 *第一軌道艦隊が静止軌道に展開しました!バスクの指揮権が制限されています!GP35000入手!
 ・コロニーの地球落着まで残り1954分です(以降、描写の無い方面での状況を記載します)
 ・アルビオン隊(アルビオン、ヴォルガ級2隻):ラビアンローズを出航、コロニーへ
 ・トロイホース隊(Nシスターズ自衛軍含む):グラナダ・マスドライバー施設へ
 ・コンペイトウ鎮守府艦隊:戦隊単位でマスドライバー妨害作業中
 ・第一軌道艦隊:ソーラシステム設営中
 ・デラーズ・フリート:コロニー護衛、月第二艦隊の一部と交戦中

 GP260500 → 110500
  → システム設定管理権Lv.2:150000 "システム"と任意に接触し援助を受けられます!


 0083年11月11日(62話)
 *グラナダ・マスドライバー基地で交戦が開始されました!(GPは以後の動き如何です)
 ・コロニー地球落着まで残り1700分です(62話終了時)
 ・トロイホース隊:量産型ゲシュペンスト×38 → 29機
 ・アルビオン隊、コロニーへ接近中
 ・デラーズ・フリート:月第二艦隊の先遣部隊を撃滅
 *デメジエール・ソンネン少佐が生存・協力しています!GP1500入手!

 GP112000 → 112000


 0083年11月11日(63話)
 *ドム3機、ザク1機を撃破!GP2900入手!
 △MS戦闘経験Lv.20:----- MSでの戦闘経験が一定段階に達しました!
  → 流派東方不敗Lv.0 が新しく設置されました!
 ・コロニー地球落着まで残り1600分です(63話終了時)
 *エゥーゴの結成が早まっています!GP15000入手!
 ・トロイホース隊:後退中
 ・アルビオン隊:コロニーへ接近中
 ・デラーズ・フリート:部隊再編中

 GP129900 → 49900
 ・流派東方不敗Lv.1:80000 マスタークロスの使用が出来ます!



 0083年11月11日(64話)
 *グロムリンを撃破!GP5000入手!
 ・トロイホース隊:後退中
 ・アルビオン隊:コロニーへ接近中
 ・デラーズ・フリート:部隊再編中

 GP54900 → 54900


 0083年11月11日(65話)
 *アインス・アールを撃破しました!GP5000入手!
 △MS戦闘経験Lv.21:----- MSでの戦闘経験が一定段階に達しました!
 *"水天の涙"作戦を阻止しました!GP25000入手!
 → ヤヨイ・イカルガ、エリク・ブランケが生存しています!GP5000入手!
 ・トロイホース隊:マスドライバー施設占領中
 ・アルビオン隊:コロニーへ接近中
 ・デラーズ・フリート:部隊再編終了
 ・第一軌道艦隊:ソーラ・システム設置終了、攻撃準備開始
 ■整合性活動開始、実戦部隊を投入しました。

 GP89900 → 89900


 0083年11月12日(66話)
 *ロンメル隊が壊滅しています!GP100入手!
 *連邦軍の可変機計画が進行しています!(GPは以後の動き次第です)
 ・トロイホース隊:残敵掃討中
 ・コロニー地球落着まで残り1160分です。

 GP90000 → 90000


 0083年11月12日(67話)
 *アクセス権入手!:500000、スーパーロボット大戦関連技術を全て取得しました。関連人物へのアクセス権確保を含みます。
 *アクセス権入手!:500000、超時空要塞マクロス関連技術を全て取得しました。関連人物へのアクセス権確保を含みます。
 *アクセス権入手!:500000、宇宙戦艦ヤマト関連技術を全て取得しました。関連人物へのアクセス権確保を含みます。
 *専用艦生成:240000、ゼルグート級一等航宙戦闘艦などを合計6隻取得しました。
 *バイオロイド兵装備向上:25000、ガミロイドクラスの装備です。
 *専用艦生成:20000、ステルス艦。
 *機体生成:60000、コロニー軌道修正及び破砕に要する装備を生成しました。
 *バイオロイド兵 50000名:1000000
 *キャラクター8名:240000(人格装備型バイオロイドへの差分含む)
  → レックス、ヤコブ、ヴィルヘルムなど
  → 戦間期前半の召還数は残り6名です
 *RPの変換レートは100tです(3000000P変換)
 GP2090000 → 5000

 0083年11月12日(68話)
 GP5000 → 5000

 0083年11月12日(69話)
 GP5000 → 5000

 0083年11月12日(70話)
 GP5000 → 5000

 0083年11月12日(71話)
 *ハマーン・カーンが負傷しました。GP-1000
 *コロニーの進行速度を低減させました。GPは以後如何です。
 GP7500 → 6500

 0083年11月12日(72話)
 *星の屑作戦中止。デラーズ・フリートが後退を開始しました。GP5000入手
 GP6500 → 11500

 0083年11月12日(73話)
 *ウィザード隊と交戦しました。GPは以後如何です。
 GP11500 → 11500

 0083年11月12日(74話)
 *ソーラ・システムの破壊及び照射成功。コロニーの質量の65%を消失させました。GPは以後如何です。
 *コロニーの落着地点が変更されました。GPは以後如何です。
 *東方不敗がソーサラー隊を撃破しました。"整合性"からGPを5000奪取しました。
 GP11500 → 16500

 0083年11月12日(75話)
 *ウィザード隊と交戦しました。GPは以後如何です。
 GP16500 → 16500

 0083年11月12日(76話)
 *ウィザード隊を東方不敗が撃破してしまいました。GP250入手
 GP16750 → 16750

 0083年11月12日(77話)
 *ガンダム・チートが出撃しました。
 GP16750 → 16750

 0083年11月12日(78話)
 *ガンダム・チートがゴルト隊を4機撃破しました。GP2500入手!
 *ガンダム・チートは第9艦隊所属艦艇、及びMSを総計14隻、MS54機を大破・排除しました。GP12400入手!
 GP31650 → 31650

 0083年11月12日(79話)
 *ソーラ・システムコントロール艦が撃破されました!GP-5000
 *ガンダム・チートは第9艦隊及びジオン残党軍所属艦艇総計3隻、MS14機を大破・排除しました。GP4400入手!
 GP31050 → 31050


 0083年11月13日(80話)
 ■"星の屑"こと戦間期前半が終結しました!決算です!
 *史実の"星の屑"作戦被害人口が約8億人低減しました!GP385000入手!
  → 成績評価:B+
 *ティターンズの勢力が史実以上に上昇しました!GP-25000
 *連邦軍の不敗防止が進行しています!GP60000入手
 *ガンダム・チートが大破しました!GP-55000
 *現在時期が"戦間期後期(0084-86)"に移行します!
  → 戦間期後期の召還数は残り16名です。
 *火星植民計画の推進により人類の生活圏拡大!GP150000入手!
 △MS戦闘経験Lv.28:----- MSでの戦闘経験が一定段階に達しました!
 
 GP546050 → 346050
  → システム情報管理権Lv.2 200000 "整合性"の情報が一部開示されます



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