UC0079年12月24日、午後11時。
「Sフィールド、敵艦隊の攻略部隊、上陸!Nフィールド、キシリア様に撃退された艦隊が次々に強行上陸を仕掛けています!Wフィールド、もうすぐ防衛線が突破される可能性大!」
ここに来て地力の違いが徐々に出始めてきた。元々数は連邦のほうが多い。こちらの投入したMS1300機に対し、連邦は2000機を越す。艦船の数に至っては比べることすらバカらしい。しかし、ギレンはまだあきらめていない。今は数で押されているが、敵には補給がないのだ。時間と共にこちらが有利になる。
「対応が遅い!敵は死に物狂いだぞ!油断!侮り!だから付け込まれる!Wフィールドの敵を駆逐し、両側に反転してS,N両フィールドの敵を背後から強襲せよ!上陸した部隊なぞ、予備隊の精鋭を送れば造作も無い!何故それが出来ん!」
当然だが、要塞の上での上陸戦ともなれば各所に一斉に連邦軍が来るわけで、管制が混乱するのは当然だ。ギレンの言うことは道理だが、それが前線で採れるかどうかは別問題だ。また、ジムの装備するビームスプレーガンの出力は、狙いやすさではドムのジャイアント・バズを上回り、威力はザクマシンガンを当然しのぐ。射数を確保されてしまうと、排除は困難だ。
「申し上げます!キシリア様、謁見に参られました!」
打ち続く損害の報告にいらだっていたギレンは怒鳴った。
「待たせておけ!今は忙しい!」
しかし、その言葉と共に背後の扉が開く。ふん、気の短い奴だ。いや、今の言葉が出るのを待っていたのか。要らん事ばかりをする。
「キシリアか。来る必要など無い!無駄にミドロを失いおって!Wフィールドの敵に攻撃を仕掛けたなら、そのままNフィールドの敵に食いついておれば良かったのだ!」
「私には、必要があったのですよ、総帥閣下」
キシリアは言った。
「グレート・デギン。何処に配備されました?」
ギレンの眉がしかめられる。何故、この時点でキシリアがその言葉を出すのかが解らない。父親をゲル・ドルバに導いたのはキシリア自身だ。ギレンの脳裏にキシリアが何かをたくらんでいることは解っても、今の時点で自分を害そうと考えているとは思えなかった。敗報が続く中で総司令官を殺せば、要塞の防衛など不可能な話。ここで敗北してしまえばキシリアにも不利だからだ。
「沈んだよ。先行しすぎてな」
「公王から調達なさったのですか?」
まだ続けるか、馬鹿者め、今の状況がわかっているのか。
「歯がゆいなキシリア!父がグレート・デギンを手放すと思うてか!?」
「思えません」
「ならばそういうことだ!」
「乗っておられたのですね。陛下は。グレート・デギンに」
もう付き合っていられない。指示が途切れればそこから連邦の突入が始まる。要塞内部での戦闘の用意も出来ているが、まだ外で抗戦できる段階で中にまで踏み込まれるのは混乱をもたらすだけで意味が無い。シャアめ、ジオングはまだ出せんのか。
「Sフィールドへの増援まだか!Wフィールドもたんぞ!」
「もう一度お訊ねします。陛下は、デギン公王は、あの時にグレート・デギンに乗っておられた!そうですな!」
ギレンはその言葉に激昂した。この馬鹿者め、状況もわからずいらぬ口出しを!ギレンは怒りに任せて不用意な言葉を放ってしまった。この独裁者には珍しい失敗であり、この状況で無ければ決して口から出ぬ言葉だった。
だからこそ、キシリアはこのタイミングを狙ってギレンに話しかけたのだ。しつこく、自分がどれほどのバカに見えようとも。戦争に勝ってしまえばギレンに逆らうことなど絶対に出来ないジオンが出来上がる。それは、戦争に敗北することよりもキシリアには避けるべき事態だった。
既にアクシズに逃亡する準備を整えているキシリアは、木星で力を蓄え、復活した新人類で編成されたジオン軍での地球圏帰還を考えるようになっていた。それは、地球上に追いやられて、いや、第三次地球降下作戦が失敗した段階から考えていたことだった。
「しつこいぞ、キシリア!父は突出しすぎたのだ!いや、でしゃばっただけだ!今になって、時期外れの講和なぞ!だからっ……」
言った。
いまだ。
銃声。ギレンの額から一筋の光が生え、そして司令部前のモニターに当たり、モニターを破壊した。
唖然とした司令部要員たちが呆然と見守る中、キシリアは言った。
「ギレン総帥を成敗した!父殺しの罪はたとえ総帥であっても免れることは出来ん!」
第33話
「あなたが、すべての仕掛け人ですか?」
「違うよ。私はこんな戦争を如何にかしたいと思っているだけ。戦争を起こしたのはジオンだ。勿論、国じゃないほうの。君にとっては気に食わないと思うけど」
セイラは唇をかむ。父親の大義に骨までかぶれてすべてを見失っている兄を見ているから、この言葉を否定できない。彼女自身、父親の記憶と言えば母親に訳のわからない事を怒鳴り、すぐに疲れ果てた表情で母親を抱きしめる記憶が多い。
後になって思い返してみると、誰しも上ばかり見て、足元を見ていないのだと思うようになった。自分の大義を口実に、お世話になったアズナブルさんを手にかけた兄。理想を追い求めて母を犠牲にした父。男が、誰しもそうした思いしか抱け無いのではないかと思ってしまう。
思わず涙が出てきた。ラルが「姫様」と声をかけるが、それを手で押さえ、改めてトールの方を向く。
「まず、お礼を。母との最後の2ヶ月、ありがとうございました。本当なら、母とは死ぬまで会えなかったと、今思い返すと感じられます。……あなたのおかげですね」
トールは頷いた。
「たいした事をしたわけじゃない。感謝されるほどのことでもない。アストライアさんを救い出すのに3年かかって、その間に体が弱って行く彼女をどうにも出来なかった。ただ、あわせたかっただけ、一緒に暮らさせたかっただけなんだ」
「ありがとうございます……それでも、それだけでも……」
後は言葉にならなかった。トールはため息を吐くと頭を掻いた。どうしてもこういった愁嘆場は苦手でしょうがない。親の死に目に全く向き合えなかった家族の悲劇、そんな言葉が思い浮かぶが、いまさらどうしようもないと思いなおす。ジオンがアレを言わなければ、他の誰かが言う。他の誰かではジオニズムを殺しようが無い。
当然、そんなことになれば手の出しようがないからジオンが言うがままに任せておいたが、言うがままに任せると言うことはこの女性の悲劇とのエンカウント率を100%にするということ。流石に気が咎めているのだ。髪型が残念な人だけど綺麗だしなぁ。
「これだけ多くの手助けを戴いておきながら、こんな事を申し上げるのは差し出がましいと思いますが……兄を、兄を探すお手伝いを御願いできませんか」
セイラは零れ落ちる涙を拭こうともせずに言った。
「ラル、あなたも聞いて。兄は父の考えを、母の死で歪んで受け止めてしまった。傲慢で、独善的で、他人の犠牲を省みない。私たちが逃げ延びた先でね、兄は、お世話になった夫妻の息子さんを殺しているわ。何の罪も無いのに!シャアさんはシャアさんの夢を追っていただけなのに!」
ラルの表情が暗く染まる。ハモンが近づくが何もしない。ラルも既にトールからシャア―――キャスバルが何をしたかを聞いている。如何弁解しても褒められた内容ではない。
「……本物のシャア・アズナブルは生きているよ。今は月で働いているはずだ。アズナブル夫妻の無事も確認してある。戦後、情勢が何とかなったら、どこか落ち着いて暮らせる場所を見つけるつもりだ」
セイラがほっとため息を吐き、再度頭を下げる。よかった、この人は母を助けてくれただけじゃなく、兄の罪を一つ減らしてくれたのだ。
「……そんなに重く背負う必要は無いよ。キャスバルの人生はキャスバルの人生で、其処で何を選択しても、彼自身で終わらせるべきで、あなたが無理に背負って自分の心を殺す必要は無い。自分の好きに生きればいいし、自分の思うとおりに動けばいいさ。暗く落ち込んで、兄を否定しているだけが人生じゃないだろ?」
俺は何を言っているんだ。人に言えた義理か。自嘲する感情が出てくる。ふ、ハマーンから少し不満気な感情が伝わってくる。どうやら、いつまでたっても直らないこの癖に、このお嬢さんもいい加減不満を覚えてきた様子。でもねぇ、百年近く付き合っている性格だからネェ。
更に不満な様子で、今度は明らかな意思として伝わってきた。トール、あなた、今の言葉を思い返して見なさい。如何聞いても男が、事情をもった女の人を、その事情に突け込んで口説いているようにしか聞こえないよ。あなたにはわたしだけでいいの。
顔が一瞬で赤くなった。自分の発言の無防備さにも赤面するが、まだ12歳だよハマーン。あなた、その思考のあり方って如何考えても12歳じゃないよね?もっと12歳と言えばこう、まだ感情的にも肉体的にも幼……ぐぇ。
目の前でじゃれあい始めた20歳ほどの男性と、如何見ても10代前半の少女のじゃれあいをセイラは驚きの目で見ていた。ノーマルスーツ、それもパイロット用のそれを着ているから、目の前の少女がパイロットだと言うことがわかるが、それだけでは当然この二人の関係は図れない。
「姫様、彼女も姫様と同じですよ」
ラルがホッとした表情で言った。どうやら、目の前の光景に気を取られたせいで、今まで考えていたくらい表情が消えていたようだ。
「彼女も、ガラハウ閣下に助けられたのです。それから、閣下を守るのだとMSの訓練を閣下の姉君にねだり、今ではアコースやコズン程度では相手になりませんわ。わしでも少々危険ですな。まぁ、御心配なさらずとも、閣下に姫様が心配されているような趣味はございません」
「ラル!」
鼻で笑い始めた笑いがだんだんと大きくなり、腹を揺らして笑い始めた。
「初めてお会いしたときより、色々見させていただきましたが、姫様、姫様の今の表情、やっと、年齢らしくなりましたな。それで、姫様?あそこに参戦なさりますか?ラルも及ばずながら御協力させていただきますが」
セイラはじゃれあいからふれあいに変わり始めた二人を微笑みながら見つめ、言った。
「無理よ、ラル。あそこに割って入るなんて、私には出来ないわ。最初は変な人だとは思ったけど、ああまで全部預けているのを見ると、ね」
「……僭越ながら姫様。御存知でしょうが、閣下には奥様がおいでです」
セイラの顔が引きつった。いまさら思い出した、と言う感じだ。その表情をラルは面白そうに見つめる。ハモンと視線を交わすと、更に面白そうな表情に変わった。
「奥様曰く、あんなに色々手を出して、しかも出来てしまう人間に、惚れない女が出ないことが不思議ですわ、とのこと。仕方が無いと認めておられるようですし……」
そこでラルはハモンの方を見つめた。
「男も、女も、どうしようもないのですよ。そう言った感情は。勿論、関係を結ぶもの全員が認めあわなくてはなりませんが。閣下、ハマーン様、閣下の奥様は認め合っております。ですから、そうした関係が築けるのでしょうな。勿論、納得しあっているからこそ、でもありますが」
ラルはそういうと満面に笑いを浮かべて言った。サイド3から必死になって救い出した「神」の子は人間だったのだ。それを思うとうれしくてならない。神のように超然とした態度でいるよりも、この女の子にはふさわしいように見える。あの時救い出した、黒猫と遊んでいたこの少女には。
自分たちを見つめる視線に気づいたらしいトールの顔が赤くなるのがわかる。初心ね。でも、解るような気がする。この人は多分、その初心な気持ちで、如何にかしようとしているだけだと。すこし、ピンク色の髪の女の子がうらやましくなった。
「ああ、すまない。とにかく気にしないでくれていい。私にも私の事情があっただけ。それだけだ。さて、シャアの件だね?」
セイラは頷く。久しぶりに落ち着いた気分になれた。
「要塞内にいるのは確かだが、何処にいるかまではわからん。だから、絶対に知っている人間の……」
そこまでトールが言った時、要塞内部全域に放送が入った。
「ギレン総帥を成敗した!父殺しの罪はたとえ総帥であっても免れることは出来ん!……ただいまより、このア・バオア・クーの指揮はこのキシリアがとる!」
先ほどまでの初心な表情がトールから消え、突き刺すような、すべてを見通すような表情に変化するのがわかった。
キシリアが指揮を執る司令室にトール・ガラハウが踏み込んだのはそれから30分後だった。引き連れてきた海兵隊員と要塞内に駐留していたラル隊を率い、来る先々で進行を止めようとするキシリアの護衛隊を排除しながら突き進んできたのだ。
先頭に立つのが少将で、しかもキシリアを指揮下においていることとなっているガラハウ少将ではおいそれと手は出せない。手を出そうとしたのはキシリア直属の兵士達だが、脇から出てきた異形のスーツを着た男3人に排除される。それがブラスレイターと呼ばれる少将直属の護衛隊である事を彼らは知らない。
扉の前面を守っていた最後のキシリア直属の兵士を倒し、トールたちは司令室に入室した。ギレンの死体は片付けられる事無く漂っており、低重力で浮遊する血球が幾つか見える。トール・ガラハウはそれを確認するとキシリアに銃を向けた。
「何を考えている、ガラハウ」
「あなたは私の指揮下にあるはずです、少将。そのあなたが私の命令を無視してア・バオア・クーに参じ、総帥を殺害した。私は親衛隊の任務上、あなたを拘束する必要があります」
キシリアは笑った。
「親衛隊!誰の親衛隊!?どこの親衛隊か!?ガラハウ、公国親衛隊である貴官が守るべきザビ家はもはや私一人ぞ!この場にはな!連邦の攻撃が続く今!総帥に続いてこの戦局を敗北に動かそうとするか!?」
キシリアは振り返ると周囲の兵に向けて言った。
「それこそ反逆ぞ!ガラハウに銃を向けよ!」
その命令に反射的に従い、司令部内部の兵士達がトールに銃口を向ける。キシリア自身も腰の銃をトールに向けた。
「感謝するぞ、ガラハウ。わざわざそちらから出向いてくれてな。貴様には長年辛酸を味合わせてもらったが、その決算がギレンと共につけられるとは思いもしなかったわ!安心しろ、貴様の集めたニュータイプ、私が新しい時代のさきがけに用いてやるわ!」
「……なるほど、道化と言うのはこういうのを言うか」
と同時に、ジオンと言う国家、ジオン軍と言う軍隊の程度の低さを改めて思い知らされる。総司令官を暗殺した人間を次の総司令官として受け入れるなど、法治国家とはいえない。テロリストの集合体か、もしくは暴力団体とでも言うべきで、そんな組織がスペースノイドの独立と地球圏の統率をのたまう。頭が痛くなってきた。
まだギレンは、すべての権力を握ることで法治と命令とを融合させていた。その点で、独裁者としては有能な部類に入るし、だからこそトールも危険視していた。しかし、この女性に恐れを感じろと言っても感じられない。正統性を確保できなかった存在は、一時的にそれを確保したとしても、すぐにそれを失う。それが理解できていないのだ。
「今の発言は聞き流してやる。どうだ、貴様の能力は惜しい。私に忠誠を尽くすなら、新しいジオンに貴様の居場所を定めてやっても良い。私をここでどうにかしようとも、連邦に囲まれたア・バオア・クーから逃げおおせるとは思っていまい?」
口元が皮肉に歪む。新世代の人類が来ると言うなら、旧世代の人類そのままな権力闘争を行っている自分の事は如何思っているのだろう。いや、思うだけの頭が無いのか。知識はあっても知性は無いタイプ、なのだな。いや、それは誰しもいえることか。
「黙っていると言うことは了承と受け取ってよいのだな、ガラハウ」
「不快の表現だと思ってくださって結構です、少将。総帥にどんな罪があろうとも、その断罪は法的に正式の手続き、デュー・プロセスを経なければなりません。勿論、それが難しいことであることは承知しておりますが、それならばそれで、何もこのような戦闘の最中にそれを行う必要はなかったのではありませんか?」
「奴は父殺しだ」
キシリアは言った。
「公王陛下暗殺犯を野放しにしておくなど、ジオン公国の民としてありえん!」
「……ランゲルマン中将、公開回線、チャンネル257を御願いします。先ほど、サイド3本国からの映像を捉えました。おそらく、この要塞にいる誰もが欲している情報です」
一瞬、誰もが何を言っているのかと思ったが、本来のア・バオア・クー要塞司令官であるランゲルマンは、上に見上げた若者の言うとおり、通信回線をチャンネル257に合わせた。映し出された光景に目をむく。
「ち……父上!?」
サイド3、1バンチコロニー「ズム・シティ」とそれと並ぶ破壊の後が生々しいソーラ・レイを背後に、連邦艦の艦橋らしき場所で、本国防衛師団師団長ロートレック少将と、もはや珍しくも無いレビル大将を並べ、デギンは言った。
「繰り返す。これを聞いているア・バオア・クーの将兵に告ぐ。私はジオン公国公王、デギン・ソド・ザビである。……本日24日正午を以て、ジオン公国は地球連邦との休戦を宣言し、一切の戦闘行為を停止する。これに服さぬものは、ジオンの名をかたる逆賊であり、宇宙海賊として扱われることを宣言する」
司令室からおおっ、と押し殺したどよめきが広がる。チャンネルは即座に何事かと合わせた要塞全域に広がり、外で連邦軍と戦闘している部隊にまで拡散する。連邦軍の方も映像を受信したのか、第一軌道艦隊の舞台がジオン軍と距離を開け始めた。
「地球連邦の優勢なる攻勢を受け、ジオン公国は戦争を継続し、ジオン1億5千万国民にこれ以上、塗炭の苦しみを味あわせぬため、私、デギン・ソド・ザビは連邦に対し、休戦協定を打診。国内の沈静化に一週間の期限を受け、1月1日より、月面都市アンマンでの休戦交渉に入ることを宣言する」
司令室のコンソールを要員から奪い取ったゲルトたちが通信回線を通して要塞内部の把握を始めた。効率や回線の配置から言って、やはり要塞内部を把握するためにはすべての情報が集まる中枢、つまり司令室が都合が良い。目的はジオングの捜索だ。
「ア・バオア・クーの将兵に告ぐ。今次戦争の混乱は、ひとえにギレン総帥とキシリア少将の権力闘争に起因し、優勢なる戦争を自ら失ったものである。公国の勝利を信じ、公国の栄光を願って散った将兵には誠に申し訳なく思う。しかし、ジオン国民の安寧を願い、サイド3に進駐したレビル将軍の御寛恕を得、ここに、諸君らに休戦を要請するものである」
ゲルトたちが振り向き、頷いたと同時にコンソールの一つに今まさに出撃しようとしているジオングの姿が映る。見た全員が驚くが、中でもトールの驚きようはなかった。表にこそ出していないが、内心ではこの段階でグレート・ジオングが完成していることが驚きだった。
「……ち、父上!?」
今は別、か。
「キシリア少将、あなたを逮捕します。罪状はギレン総帥殺害。閣下、宜しいか?」
トールはそう宣告する。しかしキシリアは憎悪を多分に含んだ瞳でこちらを向き、腰だめに構えた銃の筒先をトールに向けた。銃を撃つが、異形の兵隊―――ヘルマンにさえぎられた。ブラスレイターにとって、この程度のレーザーは意味をなさない。
「少将、申し訳ありませんが、反逆された以上、どうしようもございません」
トールは悲しげに言うと、海兵隊員にキシリアを拘束させた。脱出用に確保してあるだろうマダガスカルに連行し、停戦が発効次第、裁判の為にサイド3へ送る様手配する。
拘束され、司令室を連れ出されるキシリアを見ながら、Sフィールドへ向けて出撃するシャアのジオングを見る。通信や降伏受け入れの報告は届いているようだが、出撃をやめる気配が無い。ザビ家打倒を果たした後、ジオンの子という出自を使っての乗っ取りでも考えていたのだろうが、いまや国ごとなくなってしまった。
となれば、あそこで暴れて講和を壊しかけることで、私かアムロかを戦場に呼び出すつもり、か。
「申し訳ないが、セイラ・マス」
トールは言った。
「あなたのお兄さんを、殺す必要があるかもしれない」