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[22559] それは最善の世界なの? 前編
Name: 車道◆9aea2a08 ID:19da274d
Date: 2010/10/16 20:00
 金色の髪をツーサイドテールにした少女が、スーパーで買い込んだお菓子やジュースの入った袋を抱え込み、よたよたと道を歩く。
 思うのは、ちょっぴり買いすぎたかなという反省ではなく、自身の使い魔であるアルフを連れてくれば良かったかなという後悔。
 もっとも、まだ生まれて三歳ほどでしかないはずの使い魔は、最近では「君は私のお母さんなの?」と言いたくなるほどに口うるさくて、連れて来たが最後お菓子を買う事を許してはくれなかっただろう。
 使い魔なら、もう少し主の意に従ってくれないものかと思うが、そんな事を言っても「主の健康に配慮するのも使い魔の役目だ」なんて正論を返してくるに違いない。
 まあ、ご飯の代わりにお菓子でお腹いっぱいになろうなんて考えてしまっている自分が悪いのだという自覚はあるわけで、だから反論の言葉が見つからない少女としては使い魔にバレないようにこっそりお菓子を買い込むしかないのである。
 そんな事を考えていたせいかもしれない。
 前から自分と同じ年頃の少女が歩いてくるのに気づかず、軽い接触の後に袋の一番上に乗った一つだけ買ったリンゴを落としてしまったのは。

「あっと、ゴメンな」

 そんな謝罪の言葉と共に、落としたリンゴを拾い上げ渡してきた少女の顔を見てハッとする。
 茶色の髪を肩に届くかどうかのところまで伸ばしたその少女は間違いなく初対面であるはずなのに、それが知っている人間であるという既視感があったから。
 そして、その少女がこちらにぶつかったのも、同じ事を思い驚いていたからだと知るのはすぐ後のこと。

◇ ◇ ◇

 お互いに既視感を覚えた二人は、なんとはなしに公園に向かいそこにあるベンチに腰かけると自己紹介を済ませた。
 フェイト・テスタロッサ。それが金の髪の少女の名前。
 八神はやて。それが茶色の髪の少女の名前。
 元々二人が感じていた既視感は、相手の名を聞くことでますますそれを強くする。

「どういうことなんだろう?」
「どういうことなんやろね?」

 さっきフェイトが買ってきたポッキーを二人して食べながら呟いてみるが、簡単に答えが出るようなら最初から悩んだりはしない。

「んー?」

 フェイトがはやてに顔を向ける。

「むー?」

 はやてがフェイトの顔を見つめる。

「はやてを見てると何かが思い出せそうなんだけど」
「奇遇やな。わたしもや」

 ひとしきり悩んでみたが、こうして考えているだけでは、それ以上の何かが思い浮かぶことはないらしい。
 どうしたものかと空を見上げてみたフェイトは、ふと大切なことを思い出す。

「あっ!!」
「どうしたん?」
「アルフが待ってるんだった」

 ご飯の買出しに出かけると言って、置いてきたのだ。すぐに帰ってくると思っているだろうし、心配性なあの使い魔のことだから帰るのが遅くなると心配して迎えに来かねない。
 お菓子ばかりを買い込んでしまった事で叱られる覚悟はすでに完了しているが、白昼の往来で叱られて通行人の見世物になろうとは思わない。
 だから、すぐに帰らなければと思うも、ここではやてと別れる踏ん切りもつかない。

「えーと、うちに来ない?」
「家って、そういえばフェイトちゃんは、どこに住んどるん?」
「いや、家って言うのは言葉のあやで……」

 フェイトの家は、この海鳴市にはない。
 そもそも、日本人でないどころか地球人とすら言えないフェイト・テスタロッサの暮らす家と言える場所は、現在は次元世界の狭間を航行中の移動庭園、『時の庭園』である。
 そうして、実は現在プチ家出中と言える状況だったりするフェイトはホテルに宿泊しているわけで、今言った家というのは借りているホテルのことであった。
 実は、アルフが家に連絡をしているので、家族には家出扱いされていなかったりするが。
 そんな説明を聞いたはやては、ちょっとした疑問を思う。

「ひょっとして、フェイトちゃんもご両親と上手く言ってないん?」
「も、って、はやても?」

 問い返され、たははと、はやては笑う。
 別に、両親に問題があるわけではない。むしろ問題は自分にあるのだろうと、はやては自覚している。
 両親は普通に善人で、なのに一緒に生活をしていることに違和感がある。
 間違いなく血が繋がった相手なのに、自分の家族はこの人たちではないという誤った確信を抱いてしまう。
 しかも、その違和感は家族だけに向けられたものではない。性質の悪いことに、小学校に行っても同じように思ってしまうのだ。自分が小学校に通うのは間違いだと。
 だから、つい小学校に行かず図書館に通ってしまったりして、そのせいで親が呼び出され更に両親との溝が広がってしまう。
 自分のやっていることが、悪いことだと理解しているのに止められない。
 多分、自分は心の病気なのだろうと、はやては思う。
 そして、同じことを両親を含む周りの人間が考えていることも、はやては理解している。
 それでも、心の中に居座り続ける正体の分からない違和感がある限り、どうしようもないのだと開き直ってしまうのだ。

「んで、フェイトちゃんも両親と上手くいってないって?」
「んー。まあ、似たようなものだけど、一緒にホテルに来るなら説明するよ?」

 でないと、本当にアルフが迎えに来てしまいそうだと言うフェイトに、「ええよ」とはやては首肯する。
 そもそも現在は平日の日中であり、見るからに日本人とは異なる色彩を持ったフェイトはともかく、学校にも行かず外をふらふらしているはやては、いつ補導されてもおかしくない。
 だから、この提案は都合がいいものであった。

◆ ◆ ◆

「遅いじゃないか。もう少しで迎えに行くところだったよ」

 ホテルに行き、借りている部屋に戻ったフェイトを出迎えたのは、茜色の子犬のそんな言葉であった。
 良かった間に合ったと思ったフェイトは、しかし子犬の目がまずフェイトの後ろに続いたはやてに向いて、次に自分の抱えているお菓子の入った袋に向けられるのに気づき、ああ、この後は小言が続くんだろうなと憂鬱な気持ちに捕らわれる。
 もっとも、今は子犬の姿をしている使い魔は、珍しく友達を連れてきた主に口うるさく説教をするほど空気が読めないわけではない。
 はぁ、とため息を一つ吐くと、変身魔法で少女の姿を取って部屋から出る扉に向かう。

「じゃあ、あたしは買い物に行くから二人はゆっくりしてな」

 言って、買い物籠を持って部屋を出た使い魔にフェイトがほっと胸を撫で下ろしたところで、ガチャリと扉が開いて出て行ったはずの少女が顔だけを覗かせる。

「あっと、はやては今日ここで食べていくんだよね。というか、泊まってく?」
「えーと、うん」

 別にそこまで考えていたわけではないが、言われてみると自分は最初からそのつもりだったのではないかという気がしてしまったはやてである。

「そっか。なら、今日の食事のお手伝いをお願い」

 ごく自然にそんなことを言ってまた部屋を出て行く少女に、ふとはやては疑問を覚える。
 あの少女は、初対面のはずの自分に料理が出来ることを自然に確信していた。
 確かに、自分は料理が出来る。三度の食事など何もしなくても母親が用意してくれるのに、何故だか自分にはその技能が必要だと感じて料理を学んだ。けれど、そんなことを少女が知るはずがない。
 自分が成人した女性なら少女がそう思い込んでもおかしくはないのだろうが、この身は小学生に過ぎない。
 普通に考えて料理が出来る小学生というのは希少であるし、初対面の相手がその料理のできる小学生だと誰が思うだろう。
 どういうことだろうとフェイトに顔を向けると彼女も疑問に満ちた顔をしていて、ああ同じ気持ちなんだなと思ったが、それは勘違いであった。

「どうしてアルフの変身魔法に驚かないの?」

 なんの話だろうと思ったのは一瞬。考えてみれば子犬が人間の少女に変身したり、それ以前に人語を話すというのは地球人の常識的に考えれば驚いてしかるべき事態であろう。なのに自分は、それを自然に受け入れてしまっている。
 どういうことだろうと考えていると、フェイトが更なる問いを口にする。

「それにアルフは、はやての名前を知っていたよね。ひょっとして知り合いだったの?」
「いや、初対面やと思うんやけど……」

 そういう気がしなかったのも事実である。というか、初対面の気がしないのはフェイトも同じで、だからはやては困惑するしかない。
 しかし、考えてみればその辺りの既視感が理由でお互いの事を話すのが、このホテルを訪れた目的であったはずだとはやては思い出す。
 その事を言ってみると、フェイトは少し考えてから「まあいいか」と呟きを漏らし、はやてを促し二人でベッドに腰かけると言葉を紡ぐ。

「アルフのこともあるし、今更驚くようなことじゃないと思うんだけど、わたしはこの世界の人間じゃないの」

 ごく当たり前のことのように語る言葉に、はやては目を丸くして驚いていた。
 フェイトの言葉に驚いたわけではない。
 別に何かの根拠があるわけでもないのに、妄言としか思えないフェイトの言葉を抵抗なく受け入れ納得した自分自身に驚いたのだ。
 けれど、そんな内心を読み取れるはずもないフェイトは、まずい事を言っただろうかと口ごもってしまう。

「ああ、大丈夫や。フェイトちゃんが次元世界の人間やってのは分かったから、続きをお願い」
「そう?」

 首を傾げ、さて自分は次元世界という名称を口にしただろうかと疑問に思いつつも、フェイトは言葉を続ける。
 それは、金の髪の少女の普通とは違う生い立ちと、この世界を訪れるに至った理由。

◆ ◇ ◆

 フェイトは、当たり前の人間のように母親のお腹から生まれた子供ではない。
 始まりは、27年前に母が勤めていた企業が起こした次元航行エネルギー駆動炉の暴走事故。
 その事故は本部から送られてきた者たちの無茶が原因で起こった人災にも等しいもので、そのせいであるいは娘の命を亡くしていたかもしれない上に、安全主任という立場であったという理由で全ての責任を押し付けられたプレシア・テスタロッサという女性は、そこを辞めると共に隠遁を決めた。
 元々、暴走事故の責任は完全に社の方にあり、しかしそれを押し付けられたことに対し告訴をしないという条件で多額の金銭が支払われたし、修士課程を終えた一流の魔導師であるプレシアは勤め先に困ることがなく、個人でやっていくことも不可能ではなかった。もう企業の都合に振り回されるのにはうんざりしていたのである。
 もっとも、プレシアが隠遁を選んだのはそれだけが理由ではない。
 当時プレシアは、仕事が忙しくなったために会社に申請して開発室の一室を寮として借り受け、娘のアリシアと娘が拾い飼い始めた山猫のリニスと共に暮らしていたのだが、それは一時的なものでありその前に住んでいた自宅を処分したわけではない。
 そして、事故の時は何故か常にはないワガママを発揮したアリシアが自宅の方に戻りたいと言い出していて、その結果として事前に暴走事故の範囲外に避難することとなっていた。
 だから、その日からアリシアが体調を崩しやすくなっていたことと暴走事故には何の関係もなかったはずだ。
 けれど、アリシアのワガママがなかったら。そして相手をしてやれない後ろめたさから、それを認めていなければ娘の命はなかったと理解しているプレシアは、強い負い目を持ち、これからはずっと一緒にいようと思ったのだ。
 だから、娘が何かワガママを言っても、叶えてやろうと考えたわけだが、実際のところ小さな子供の望むことというのは健康な肉体なしにはなしえないものがほとんどである。
 優秀な技術者であっても、娘のワガママのほとんどを叶えてやれないでいたプレシアに気を使ったわけでもないだろうが、アリシアは母にこう願った。

「妹が欲しい」

 5歳という幼い年齢であり、忙しい母にあまり構ってもらえない日々を送っていたからこその願いに、プレシアは娘を強く抱きしめ、必ずその願いを叶えてやろうと決心した。
 とはいえ、アリシアの妹ということはプレシアの娘ということになるわけだが、人は一人では子供を作れない。
 フェイトが去年本人に教えてもらったプレシアの年齢は40歳であり、現在は41歳ということになる。逆算すれば当時は14歳という再婚を望むに遅すぎないというか、むしろ早くないだろうかというか、サバを読んでるだろう常識的に考えてと言いたくなる年齢ではあるが、だから再婚をしようと思うかというとそうはいかない。
 仕事人間から、娘一筋に路線変更を成し遂げたプレシアである。アリシアとそれ以外という区別しかなくなったプレシアに男性に向ける愛情などありはしないのである。
 そんなわけで、いきなり暗礁に乗り上げたわけだが、そこは優秀な研究者である。人造魔導師という未完成のクローン技術の噂を聞きつけ、それを実用化してやろうと考えた。もちろん、研究だけならともかく人間を使っての実用は倫理上の問題点から違法とされる技術である。
 この時点で、何か間違っていると考えなかったのかと、後のフェイトなどは思ったりしたが、研究一筋の仕事人間だったプレシアも、今のフェイトよりもまだ幼かったアリシアに疑問はなかったらしい。
 かくして、プレシアは人造魔導師の研究を進め、17年後の10年前に未完成だった理論を完成させフェイトを生み出した。
 もっとも、その頃にはアリシアも22歳という年齢になっていて、すでに結婚もしていたので、フェイトとは姉妹というよりも親子といったほうがしっくりする年齢差になっていたわけだが。
 さて、そんな数奇な生まれ方をしたフェイトであるが、その人生は特別なものではなかったと思う。
 プレシアやアリシアはもちろん、天寿を迎えたためにプレシアが使い魔にした山猫のリニスや、アリシアの伴侶となった男性すら、フェイトを当たり前の子供として扱ったのだから、違法の研究によって生まれた都合上もあって、『時の庭園』という他の誰かと顔を合わせる機会のない場所に住み暮らす少女の人生に特別な何かが入り込む余地はなかったのだ。

 さて、アリシアがフェイトが生まれるよりも前に嫁に行っており、たまに夫婦で里帰りするだけになっていたのも相まって、3年前にアルフという狼の仔を使い魔にするまでの間、基本的に母とその使い魔の3人きりの変化のない生活を送っていたフェイトだが、現在から見て5年前、5歳になった頃から意味の分からない違和感を覚え始めていた。
 母も、その使い魔も、優しく接してくれるのに、何かが違うと感じてしまう。
 その事を、どうも同じ違和感を持ったらしい自身の使い魔に話してみた事もあるのだが、曰く「確かに、あのプレシアはおかしい。あの女が、あんなに優しいわけがないし」という、それは違うんじゃないか感じる返答が帰ってきたので、二度とその事は話題にしないと決めた。
 優しく接してくる母に違和感があるのは確かだが、母は優しい人間であるという確信もあるのだから。

 ともあれ、正体の分からない違和感に苛まれていたフェイトは、何とはなしに時空管理局という組織で事務員をやっている義兄が趣味で集めているらしいニュース記事で気になる単語があることに気づいた。
 次元航行エネルギー駆動炉ヒュードラの暴走事故、闇の書事件、ロストロギア──ジュエルシードを発掘したスクライア一族の少年ユーノ・スクライア。
 ヒュードラ暴走事故以外は、直接間接を問わず自分には何の関係もないニュースのはずで、ヒュードラに関しても当時は母が関っていたことを知らなかったのに、どうにも気になってしまった。
 そうして、それらについて調べた結果、その資料がおかしいのではないかとフェイトは感じ始めた。
 ヒュードラの暴走事故で一人の犠牲者も出なかったのはおかしい。闇の書事件は11年前ではなく、その後に守護騎士たちを家族と呼ぶ主との出会うことにより解決に向かったはずだ。ジュエルシードは、それを輸送していた次元航行艦の事故により第97管理外世界にばら撒かれたはずだ。そんなありもしない妄想が頭に浮かんでしまう。
 だから、その違和感の原因を調べに行きたいと母に訴えたわけだが、当然それは却下された。
 管理外世界に無許可で滞在するのは違法であるし、違法の研究で生まれたフェイトが許可を取れるはずもない。
 罪を憎んで人を憎まずの時空管理局が、その研究で生まれたフェイトに罪を問うことはないが、当然プレシアは罪に問われてしまうのだ。
 ついでに言えば、事務員とはいえ管理局員でありながらプレシアの罪を告発しなかったアリシアの夫である男性も、ただでは済むまい。
 実に理に適った理由で反対をされたフェイトは、そこで強攻策にでた。
 許可が出ないのなら無許可で行けばいい。どうせ、自分は存在自体が違法なのだ。今更、管理外世界に違法滞在したところで大した違いはない。
 そんな理由で、プチ家出をして来たわけである。

◇ ◆ ◇

 フェイトの話を聞いたはやては、むー、と考え込む。
 第97管理外世界とも呼ばれる、地球という世界に生まれた育った自分には夢物語としか思えないはずの妄言を、何故か信じてしまえているのもビックリだが、それ以上に気になることがある。
 闇の書。その単語がどうにも気になるのだ。
 そんな単語は、今までの人生で聞いたことがないはずである。黒の書なら昔の漫画で出てきたが。

「闇の書……」

 口に出してみたことで、心の中で何かのピースがはまったような気がする。

「守護騎士、ヴィータ、シグナム、シャマル、ザフィーラ」

 無意識に呟いた、心に浮かんだ単語を聞いてフェイトが、訝しげな顔になる。

「どうして、闇の書の守護騎士の名前を知ってるの?」
「へ?」

 守護騎士の存在は教えたが、その個体名どころか人数すらフェイトは口にしていない。そして、ヴォルケンリッターとも呼ばれる守護騎士たちの名を管理外世界の人間が知るはずがない。
 なのにどうしてと思うが、はやての方としても何となく口をついて出た言葉に何故と問われても困るというものだ。
 ただ、分かったこともある。お互いが心に引っかかる単語を並べていけば、知らないはずの何かを思い出せるのだという事実だ。
 だから、二人は語り合う。
 記憶にある気になる単語を、記憶にはないはずの言葉を。
 そうして、二人は共通の記憶を呼び覚ます。

「なのは……」

 口に出したのはフェイトだったが、その名を聞いてすぐにはやても思い出す。

「そうや! なのはちゃんや!」

 高町なのはという名を持つ、不屈の心を持つ少女を二人は知っているた。
 会ったこともないはずの少女の峻烈な生き様を知っているのだ。

◆ ◆ ◆

 聖祥大付属小学校に通う10歳の平凡な少女、高町なのはは自分にも理解できない焦燥感を心に抱えていた。
 自分には、やらなければならないことがあるのではないか? 自分にしかできない何かがあるのに、それを忘れているのではないか?
 そんな想いが常に心の中にある。
 二人の親友の一人であるアリサ・バニングスなどは「そういうのを、ちゅうにびょうって言うのよ」と言ってきて、もう一人の親友である月村すずかは、持ってきたオカルト雑誌の文通コーナーに載っている前世がどうの使命がどうのといった文章を見せてきて、自分もそういう人たちと同じなのかなと赤面したりもしたわけだが、それでも焦燥感が消えたわけではない。何かが足りないという想いも消えない。
 自分が、間違っているのだということは理解している。
 なのはの人生は、客観的に見てもさして不幸なものではない。
 父親が大怪我をして長らく入院して、母は始めたばかりの喫茶店の経営で忙しくて、そのせいで兄と姉も相手をしてくれずにいた頃があるのだが、その時期にしても公園に一人でいた時にたまたま出会った二人──アリサとすずかとすぐに友達になり、孤独な時期というものを過ごさずに済んだ。
 だからこそ、物足りないなどと考えてしまうのだろうと思う。人間は、不満のない人生にこそ物足りなさを感じるものであり、この焦燥感も一年前に急に心に浮かんできたものでしかないのだから。
 そうと理解しているのに、常に何かが足りないと感じてしまう自分の心に罪悪感をすら感じる。

 そんな頃である。同じような想いを抱えた二人の少女がなのはの前に現れることになるのは。

◇ ◇ ◇

 はやてとフェイト。
 自分たちの出会いは必然だったのだろうと二人は思う。
 であれば、もう一人との出会いも必然に違いない。
 だから二人は、もう一人の少女に会いに翠屋という喫茶店に向かった。
 なぜ、そこに高町なのはという少女がいると自分たちが確信しているのかということへの疑問はない。
 疑問の余地などないと、根拠もなく確信できる衝動が心底にあるからこそ二人は行動できる。行動せずにいられないのだ。
 一つ誤算があったとすれば、はやてが登校拒否児童であり、フェイトがそもそも学校に通ったことなどない子供であったことだろう。
 二人が翠屋を訪れたのは、まともな小学生なら学校に通っているはずの時間である。
 つまりは、なのはが家にいるはずなどないということで、そんな時間に学校にも行かずふらふらしてるなんてと、なのはの両親である高町士郎と桃子に説教をされる始末である。
 ただ、ここで奇妙な事実が存在する。
 少女たちは、なのはとは面識がなく当然その両親とも初対面であるはずである。
 なのに、士郎と桃子は二人に顔見知りであるかのように接した。
 それだけなら、そういう人間なのだろうと思えが済む話であったが、説教の途中で夫婦が二人の名前を口に出して叱ってきたのだからこれは何かあると考えるのが普通であろう。
 もっとも、なのはの両親にその辺りの自覚はないらしい。
 それは、大人の固定観念が常識と照らし合わせて少女たちが名前を呼び合っていたのを聞いたのだろうと勝手に自分に説明をつけたのかもしれないし、単に二人のような焦燥感がないために不思議だとは思っても重視しなかっただけなのかもしれない。
 はっきりしてるのは、自分たちもこの夫婦には初めて会った気がしないという既視感で、だからここに来たのは間違いではなかったと確信できる。
 なんて顔を見合わせて笑っていたら更に説教を受けることになったわけだが、そんなのは何年も続いてきた理由の分からない懊悩に比べれば小さなことだ。
 そして、明日からは、はやては学校に通いフェイトもプチ家出をやめて家に帰るという約束をすることでようやく許してもらい、しばらくの時間の経過の後、二人が待ちに待った高町なのはが帰宅した。

◇ ◇ ◇

 高町なのはが自分の日常に違和感を覚え始めたのは一年前からであり、それははやてやフェイトに比べれば短い期間であったと言える。
 だが、その心にある焦燥感は二人に劣るものではない。むしろ、勝ると言っても過言ではないだろう。
 だからかもしれない。
 その二人に出会って、声も出ないほどの驚きと歓喜に捕らわれたのは。
 自分は、初めて会うはずのその二人を知っている。そんな確信が口を開かせようとした時、信じがたい言葉が耳に届く。

「あれ? フェイトじゃない」
「はやてちゃん? 足は大丈夫なの?」

 それは、なのはの親友のアリサとすずかの口から出た言葉。

「アリサちゃん、すずかちゃん、あの二人を知ってるの?」
「どうしたのよ、なのは」
「知ってるも何も、あの二人は……」

 続けようとした言葉が途切れる。
 問われて初めて、自分たちが何やら驚いた顔でこちらを見返してきている二人と初対面であると気づいた。
 途切れた言葉の続きに何を言おうとしていたのかすら分からなくなる。
 もちろん、困惑しているのはなのはたち三人だけではない。
 なのはしか見えていなかったフェイトとはやても、名を呼ばれアリサとすずかを認識した。そして、その二人を知っていると理解してしまった。間違いなく初対面だというのに。
 だから混乱は当然であったわけだが、そんな中でなのはとフェイトだけは驚いている自身を客観視し考えを纏める思考を始めていた。
 なのはは、一目見てフェイトが自分にとって重要な存在だと理解していた。
 フェイトは、なのはの姿を見たその瞬間に、相手が自分にとってどれだけ大切な存在なのかを理解した。
 その存在が、お互いの心の中にある記憶のピースを組み上げていく。

「ジュエルシードを集めていた。そう頼まれたから。そうしなければ大変なことになるから」
「ジュエルシードを集めていた。母さんに、そうしろと言われたから」
「そんな時に出会った、寂しそうな瞳の女の子」
「そんな時に出会った、まっすぐな目をした女の子」
「フェイトちゃん」
「なのは」

 あるはずのない記憶が蘇り、二人は自分たちが親友であったことを思い出す。
 もっとも、それで何かが解決したというわけではないのだが。

◆ ◇ ◆

「つまり、問題は私たちに別の人生の記憶があることなのよね」

 真面目くさった顔のアリサの言葉に、その通りだと他の四人が頷くそこは、フェイトが借りているホテルである。
 最初は、翠屋で話そうと思っていたのだが、なのはの家族を含めた不特定多数に見られる中で話すには電波が過ぎる話題だ。
 なのはには、この第97管理外世界と呼ばれる地球の海鳴市にばら撒かれた、ジュエルシードというロストロギアを集めるために魔法を使い働いた記憶がある。
 フェイトには、同じ物を求め、魔導師としてなのはと戦った記憶がある。
 はやてには、闇の書というロストロギアの主となり、それによって落とすはずだった命をなのはとフェイトの手を借りることによって、救われた記憶がある。
 アリサとすずかには、闇の書によって起こった事件に巻き込まれ、魔法というものになのはたちが関っていたことを知った記憶がある。
 けれど、

「あくまで、記憶だけなのよね」

 すずかの言葉に、うんうんと他の四人が頷く。
 そう。あくまで記憶だけだ。
 なのはの過去に、魔法なんてものと関った事実はない。
 フェイトの過去に、管理外世界にいた魔導師と戦った事実などない。
 はやての過去に、闇の書を保有していた事実はない。
 当然、アリサとすずかが、なのはたちを通じて魔法や次元世界について知る機会など存在するはずもない。

 そもそも、別の人生の記憶には前提からしておかしい部分がある。
 次元航行艦が事故を起こしたのが、たまたま第97管理外世界で、偶然ジュエルシードだけがばら撒かれた海鳴市には、都合よく高い魔力資質を持ったなのはがいて、ちょうど強力な魔力結晶を欲しがっていたプレシアの保有する『時の庭園』が近くを通っていて、また都合よくプレシアの所には彼女の代わりにジュエルシードを集められる能力を持った魔導師であるフェイトがいた。
 そして、同じ世界には闇の書があって、闇の書の守護騎士たちが主の命を救うために独断で活動し、なのはを襲ったのが偶然フェイトが地球に向かいやってきた頃であり、なのはの親友の一人であるすずかが、これまた偶然にはやてと出会い友人となっていた。
 あまりにも、不自然なまでに偶然が続きすぎているのだ。
 それらが何者かの作為だったというのなら分かるのだけれど、そんな事実があったという記憶はない。
 だから、その記憶をただの妄想ではないと言い切ることができない。

「でも、妄想なんかじゃない」

 フェイトの言葉に、他の四人も神妙に頷く。
 妄想とは個人のものであるが、他人が共有できないものではない。
 だが、それは気心の知れたもの同士が相互に話し合い、理解しあうことによってなしえる結果であり、それまで話したこともなかったはずの記憶が一致しているこの場合には当てはまらないはずだと少女たちは思う。
 実際には、人の記憶など後付けで改変されていくものであり、話し合うことで本来は一致していなかった妄想を都合よく捏造してしまうことなど珍しくもないわけだが、大人びているとはいえ10歳やそこらの小学生が知らなくてもおかしくはないし、この場合は関係がない。

「だけど、妄想じゃないのなら何なのかな?」

 呟くなのはに、少女たちは胸の前で腕を組んで考え込む。
 蘇った記憶がもっと荒唐無稽なものであれば、前世の記憶に違いないとかいい加減な結論を出して自身を納得させることもできるのだろうが、自分たち自身が辿ったもう一つの人生の記憶となるとどう結論をつけていいのか分からない。

「もしかして、闇の書に見せられている夢?」

 思いついたことを口にしたフェイトに、他の四人の視線が集まる。

「前に……、じゃなくて思い出した記憶に闇の書に取り込まれた経験があるんだけど、そこでわたしは別の人生を過ごす夢を見たことがあるんだ」

 それは、思い出したもう一つの人生とも違う、フェイトの願いが生み出した都合のいい夢の世界。
 自分に辛く当たっていたプレシアが優しく、彼女の使い魔であるリニスが存在を続け、死んでしまっているはずのアリシアが姉として生きていて、アルフが傍にいる優しい夢。
 それは、今の自分の人生とよく似ていて、だから今の自分たちも夢を見せられているのではないか。
 そう思っての言葉に、なるほどと声が上がるが、一人はやてだけはそれに異を唱える。

「それは違うと思うで」
「違うって?」
「ちょう思い出してみて。わたしも、闇……、夜天の魔道書に取り込まれて夢を見せられたことがあるけど、夢は夢や。ちょっと考えれば、現実やないってわかったはずや」

 そう。夢の中というものは、別に整合性がなく不条理であっても疑問を感じない世界ではあるが、見ている人間の過去の記憶が改竄されたりはしない。
 実際、闇の書に取り込まれ夢に捕らわれたフェイトも、現実の記憶はそのままであったはずだ。
 そもそも、今いるこの世界が夢だというのなら、彼女たちはいつから夢を見ていたというのか。
 なのはたちはともかく、はやてやフェイトは何年もの間、今の人生を違和感と共に生きてきたのだ。

「なら、いったい?」

 首を傾げる少女たちは、しかし正解が見つけられない。そもそも正しい解答が用意されているのかも定かではないのだが。
 もはや、自分たちだけでは、これ以上のことは分からないと理解した少女たちは、それなら別の誰かに話を聞くべきではないかと判断する。

「ユーノくん」
「クロノ」
「グレアムおじさん」

 なのは、フェイト、はやてが口にした名は、彼女たちの持つもう一つの人生の記憶において、重要な位置にいた者たちである。
 彼らと話ができれば、もっと多くの事が分かるのではないだろうか。
 そう思ったのだが、いつの間にか部屋に戻って来ていたアルフが口を挟んできた。

「無理に決まってるだろ」
「なんで?」

 フェイトの問いは、自分では当然のものであると思ったのだが、それにアルフは呆れた顔をする。

「ユーノは、スクライア一族だから色んな所に発掘に行っててどこにいるか分からないし、誰かに聞いて教えてもらえるものでもない。クロノは、時空管理局の執務官で忙しいし、グレアムも提督とかそんな偉い立場の人だから、あたしらみたいに面識もない一般人が急に会いたいって言ったって会えやしないよ」

 実に、ごもっともなお言葉である。
 しかし、

「でも、ユーノくんたちだって、わたしたちと同じように別の人生の事で悩んでるかもしれないよ」
「ないね」

 なのはの言葉を、ざっくりと切り捨てる。

「もし、同じように悩んでるなら、ユーノはともかくクロノとグレアムは他にリンディやエイミィとも相談して、とっくにあんたたちのところに確認に来ているはずさ。それがないってことは、同じような記憶がないってことさ」

 一々ごもっともな指摘に、なのはたちは沈黙するしかない。
 それ以前に、アルフがユーノたちのことを知り合いであるかのように気軽に口にしたことに驚くべきであったのかもしれないが、あまりにも自然な口調であったためそれには五人の誰も気づかなかった。

「じゃあ、どうすれば……」

 諦め悪く、そんな事を言う少女たちに、アルフはため息を吐く。

「アイツに相談してみたらどうだい?」
「あいつ?」
「アリシアの旦那だよ」
「でも、あの人は……」

 この件には、何の関係もない人間ではないかとフェイトは思う。
 そもそも、もう一つの記憶ではアリシアは鬼籍に入っており、その結婚相手などという者は存在すらしないのである。
 けれど、アルフは言う。

「わけの分からないことが起こったら、ロストロギアを疑うのはおかしなことじゃないだろ。それでロストロギアは時空管理局の管轄だから、管理局の事務員に相談するのは間違いじゃない」

 それにと、アルフは言う。

「フェイトが、ここ第97管理外世界に来ようと思った切っ掛けはアイツが集めていた記事を見たことだ。何か知ってても不思議はないだろ」

 言われてみれば、その通りな気がする。
 少し強引な理屈ではないかとも思うが、代案があるわけでもない。
 だから、少女たちの三人、なのは、フェイト、はやては『時の庭園』に向かうことになる。
 アリシアとその夫は里帰りしてきて『時の庭園』にいるから。だからこそ、アリシアと顔を合わせるのが嫌なフェイトはプチ家出をしていたのだから。



 そして、善は急げとばかりに三人が『時の庭園』に向けて転移魔法で姿を消した後、何の疑問もなくホテルに残ったアリサとすずかにアルフは向き直る。

「あんたたちも大変だね」

 告げられた言葉の意味が分からない二人に、アルフは無造作に歩み寄りその額に両手の平を触れさせる。
 それが何を意味する行為なのか、二人には分からない。
 ただ、次の瞬間二人は一度、まばたきをして顔を見合わせる。

「えっと、わたしたちは、どうしてここにいるんだっけ?」
「うちのフェイトと、あんたたちの友達のなのはが仲良くなったんで、その繋がりであんたらも友達になって遊びに来たんだろ」

 打てば響くような明瞭な返答に、そういえばそうだったなと二人は納得する。

「で、あの子らはフェイトの実家の方に行ってるけど、あんたらはどうする? 帰るのを待つかい?」

 うーん。と二人は考える。
 多少待つ程度なら苦痛ではないが、話からするといつ帰ってくるかも分からないのを待つのは相手の迷惑も考えると悪い気がする。

「じゃあ、今日は帰るから後で連絡するように言ってくれる?」

 そんな言葉を残して出て行った二人を見送って、アルフはため息を吐く。
 多分、自分がアリサやすずかと顔を合わせることは二度とないだろう。
 なぜなら、この宇宙においては、自分の主であるフェイトと管理外世界の少女たちには何の繋がりもないのだから。

「けど、それが悪いとは思わないんだけどねえ」

 この世界において、フェイトは友達を持たない。
 けれど、それは現時点の話であって将来もそうであるとは限らない。
 違法研究によって生まれ、それが理由で『時の庭園』を出る事のないフェイトだが、プレシアも娘を一生涯閉じ込めておこうと思っているわけではない。保護者がいなくとも自分の足で立っていけるくらいに成長すれば自由にさせる気でいるのだ。
 その結果、人造魔導師研究の事が露見しても罪に問われるのはプレシアであってフェイトではない。
 娘婿も罪に問われるかもしれないが、管理局も鬼ではない。一人では生きていくのも難しい妻を抱えた男を拘束することはなかろう。罰金は取られるだろうが。
 そうなれば、フェイトの世界も広がり友達もできるだろう。
 もちろん、管理外世界の住人である、なのはやはやてと親友になる事は叶わないであろうが、母に愛され優しい姉夫婦に見守られる今の生活に代えられるものとは思えない。
 もっとも、

「そう考えるのも、あたしが偽者だからなのかね」

 自分の他に誰もいない部屋で呟いたアルフの言葉は、誰に届くこともなく消える。



   後編に続く



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15kbの短編の予定で書いてたけど、思ったより長くなったので前後編に分けて、前編だけ推敲して投稿してみました。
後編は明日にでも推敲しようと思います。



[22559] 後編
Name: 車道◆9aea2a08 ID:19da274d
Date: 2010/10/18 20:05
 『時の庭園』は、プレシア・テスタロッサの所有する遺跡級の移動庭園であるが、彼女にとっては自宅であるという以上の意味はない。
 であれば、娘であるアリシアにとっても同じような認識でしかないのは当然で、しかしその夫であり時空管理局に勤めている局員であっても一介の事務員でしかない一般人の青年である彼には、来るたびに驚きを覚える代物である。
 もっとも、一般人であっても何度も来ていれば慣れるものであろうが、ケイトという女性のような名を持つ彼は小市民に過ぎるのか、何度訪れても物珍しく辺りを見回しアリシアを苦笑させていた。
 そんな彼であるから予想外の状況というものに弱く、妻と共に庭園の中に置かれたテーブルに腰かけ紅茶を飲みつつ、何とはなしに広域指名手配されていた犯罪者のジェイル・スカリエッティという男が本人の研究の成果である戦闘機人共々、時空管理局地上部隊のゼスト隊に捕縛されたという記事を見ていたときに、フェイトが管理外世界の少女二人を連れて『時の庭園』に帰ってきたことにより当然の帰結として驚愕した。

「あら、お友達?」

 こちらは、まったく動じていない様子のアリシアに問われ、素直に自分がそのまま歳をとったような容姿の年長の女性に、二人の少女を紹介するフェイトにケイトは頭を抱える。

「いやいやいや、管理外世界の人間を連れ出すとか、少しは隠す努力をするべきだとお兄さんは思うぞ」
「お兄さん?」

 不思議な言葉を聞いたと言わんばかりに、腰くらいの高さにある顔を上向けて見上げてくるなのはたちに、彼はガックリと肩を落とす。

「はいはい。僕なんか、おじさんですよ」

 いいじゃないか。歳は離れていても、フェイトのお義兄さんなんだし。
 などと、ブツブツ呟きつつも落ち込むケイトの頭をよしよしとアリシアが撫でているのを見て、なんだかなあと思うが、少女たちは別にそんな小芝居を見にわざわざ次元の狭間を航行する移動庭園まで来たわけではない。

「えーと、ケイトさんに聞きたいことがあって来ました」

 そんな開口一番の単刀直入な、はやての言葉にもっとも慌てたのは実はフェイトである。
 彼女は、自身の脳裏を支配する違和感の謎を解き明かしたいとは思っていたが、その事を母や姉に知られたいとは思っていなかった。
 知られれば、ただ心配をかけてしまうだけなのだ。
 例えばなのはだって、それが嫌で胸のうちにある焦燥感を家族に知られたくないと話さずにいるわけで、フェイトとしては、あるいは当事者であるかも知れないケイトはともかく、アリシアのいるこの場でその話をしたいとは思わない。
 だけど、はやてにはそういう逡巡がなく、フェイトが今ならまだ誤魔化せると思いつつも、はやてをどう止めればいいか分からずオロオロしていると、更には肩の上辺りで切りそろえた薄茶の髪の上に帽子をかぶった女性がやってくるのに気づいてしまった。

「どうしたんですか?」

 穏やかな声で問いかけてきたのは母プレシアの使い魔のリニスで、まずい相手が来てしまったなとフェイトは思う。
 使い魔に知られたことは、そのまま主にも伝わってしまうわけで、このままでは姉だけでなく母にまで知られてしまうではないかと内心冷や汗を掻き、どう誤魔化そうかとおもったわけだが、その前にアリシアが口を開いた。

「フェイトが、お友達を連れてきたんだけど、ケイトと話がしたいみたいなの」
「ケイトさんとですか?」

 ケイトという男性は、別に子供に嫌われるタイプではないが、逆に初対面の子供に好かれるということもなかったはずで、フェイトと特別仲がいいというわけでもない。なのに、どうしてだろうとリニスは思うのだけど、アリシアはその解答を明かすつるりはないらしい。

「だから、私は邪魔にならないように母さんの所に行こうと思うんだけど、付き合ってくれるかな?」
「それは構いませんが……」

 なんだか私を遠ざけようとしていませんか?
 そんな疑問が浮かぶが、その辺りを追求しなければいけない理由はない。
 ついでに言えば、ただプレシアの所に行くだけとはいえ、体の弱いアリシアを一人にさせるわけにもいかない。

「わかりました」

 はぁと、ため息を一つ吐いたリニスがアリシアと連れ立って去っていくのを見て、気を使われたのかなとフェイトが思うが、さて事情を知らないはずの姉がどんな気を使ったのやら。
 もっとも、そんなことはどうでもいい事で、興味もないらしいはやてが質問を始める。

「ケイトさん。あなたは何者なんですか?」
「何者と言われてもね。自己紹介をした方がいいかい?」
「それはいいです。フェイトちゃんに聞きました」
「じゃあ、君たちの自己紹介は?」
「必要なんですか?」
「いや、初対面なんだから必要だろ」
「でも、わたしたちの事を知ってますでしょ?」
「…………」
「ちょっと、はやて」

 どうも攻撃的というか断定口調のはやてに、フェイトが見かねて声をかけるが、はやては止まらない。
 実のところ、三人の中で一番長く違和感と焦燥感に心を蝕まれていたのははやてで、ついに解決の糸口が見つかったのだ。自重などできようはずもない。

「それとも、あなたがこの事態の犯人なんですか!」
「はやて!!」

 もう一つの記憶には存在しない人間でも、姉の夫であり何年もの付き合いのある家族なのだ。
 そんな相手に暴言を吐かれて、平然としていられるわけがない。
 けれど、そになフェイトをケイトは手を伸ばし制止する。

「犯人か。つまり、そういうことなのかな」

 納得したような口ぶりのケイトは、一度天を見上げ遠い目をする。

「確かに、僕はある事柄においては犯人ということになるんだろうね」
「それって……」

 なのはが何かを言いかけるが、その前にケイトが言葉を続ける。

「でも、君たちが問題としている事の犯人なのかというと疑問があるんだけどね」
「どういうことですか?」
「つまりだ、僕としては君たちが何を問題としていて、人を犯人扱いしているのか分からないってことさ」

 例えば、戸棚に隠してあったクッキーを勝手に食べた犯人かと問われれば肯定しなくてはならないが、こっちに来る時に買って来たケーキを食べた犯人は自分ではないと笑う義兄に、フェイトは心当たりのある話だなと思う。

「だから、まずは話してくれないかな。事情が分からないと、こちらとしてもどうとも答えようがないからね」

 穏やかに話しかけてくる青年を、はやては半眼で睨みつつ言う。

「その事情だって、とっくに分かってるんやないですか?」
「どういうことかな?」
「ケイトさんは、わたしとなのはちゃんを管理外世界の人間て言いましたよね。どうして分かったんですか?」
「どうしても何も、見れば分かるだろ」
「分かりませんよ」

 はやては断言する。
 第97管理外世界の日本という国と、ミッドチルダの子供の服装には一目で分かるほどの大きな差異はない。
 違っていたとしても、普通は管理外世界の人間を連れてくるという非常識をするはずがないという先入観が、なのはたちを管理外世界の人間と思わせないはずである。
 実際、アリシアはどうか分からないが、リニスはそんな疑いを持たなかったのだから。
 なのに、一目で、そうと理解したということは、青年が二人のことを最初から知っていたということなのではないかと、はやては主張する。

「うーん。さすがは機動六課の部隊長というところかな」
「機動六課?」

 何の話だと疑問符を浮かべるはやてにケイトは苦笑する。

「その説明は後でするから、君たちの事を話してくれないかな。確かに、僕は君たちの事を知っているが、だからこそ話を聞いてからでないと見当違いの説明をしてしまいかねないからね」
「はあ、それは構いませんけど」

 実際のところ話す必要があるとも思えないが、隠す理由もない。
 だから話した。幼い頃から──ケイトなどから見れば今も充分に幼いのだが──心の隅にあった違和感を、そしてフェイトと出会って蘇った本当にはなかったはずの記憶を。
 そうして三人が出会い、『時の庭園』を訪れるまでの経緯を聞いた後「なるほど」とケイトは呟いた。

「つまり、フェイトだけじゃなかったということか」
「何がですか?」
「この世界に来た人間がという事だよ」
「この世界?」

 はやてには、その言葉の意味が分からない。もちろん、なのはやフェイトも同じだ。
 もっとも、ケイトはその意味をきちんと説明するつもりではあったのだが。

「さて、君たちの事は大体は把握した。次は僕の事を話すべきなんだろう、どこから話したものだろうね?」
「最初から話してください」
「君たちの事情とは関係がない話になるよ」
「構いません。多分、そうしないと分からないところがあると思いますんで」
「そうかい? なら最初から説明するけど、始まりは60年以上前の次元航行エネルギー駆動炉ヒュードラの暴走事故にある」
「それって?」

 少女たちは顔を見合わせる。
 その事件については、三人ともに知っている。
 だが、それは27年前の話ではなかったか。あるいは、60年以上前にも同じ事件があったというのだろうか。そして、自分たちが生まれるよりもずっと昔の話がどう関ってくるというのか。

「その事故が起こったのは、魔力炉の研究を行っていた会社の敷地内でね。だから、研究員たちは結界で守られていたし、敷地外には被害が出なくて犠牲者は一人だけだった。元はその研究の主任であり、本部の無茶を止めるために安全主任になったプレシア・テスタロッサが研究所の一室を寮に借りて一緒に住んでいたアリシア・テスタロッサ一人だけだったんだよ」

 それは三人の今ではない記憶に合致するが、現実にはアリシアは生きているではないか。それに30年もの時間のズレは何を意味するのか。

「その事故で、プレシア・テスタロッサは絶望の底に突き落とされたわけだけど、アリシアの死に悲しんだのは別に彼女一人に限ったわけじゃないんだ」
「え?」
「プレシアもそうだけど、アリシアは最初から研究所の寮に住んでいたわけじゃない。ちゃんと別に自宅を持っていたんだから、そっちの近所に仲のいい人たちがいてもおかしくはないだろ」

 アリシアは人懐っこい子だったしね。と続けるケイトに、そういえばアリシアにこの青年を紹介されたときに、子供の頃に付き合いがあったと言っていたなとフェイトは思い出す。

「と言っても、時間が経てば人は忘却する生き物でね。大人は割りきりが早いし、子供はもっと忘れるのが早い。普通なら、時間と共に思い出すこともなくなっていっただろうね」
「つまり、普通じゃないことがあったんですね?」
「人造魔導師」

 はやての問いに応じるようにケイトの口から出た言葉に、フェイトの肩がビクッと震える。
 アリシアの妹として生み出されたフェイトは、しかしもう一つの記憶においては、アリシアの代わりとして作り出された人造魔導師であり、しかしそれを成し得ず捨てられている。ゆえに、それは彼女にとってトラウマに近い感情を思い起こさせる言葉だった。

「多分、初恋だったんだろうね。自覚もしないままに消えた恋は、26年も経ってから彼女の偽者を見せ付けられることで無理やりに思い起こされた」
「フェイトちゃんは偽者なんかじゃありません!」

 ケイトの言う偽者が誰を指しているのかなど問うまでもない。だから、なのはは怒りを込めた言葉を吐き出し、青年は苦笑する。

「そうだね、今なら僕もそう思うよ。けど、当時の僕はフェイトのことを知らなかったんだ。アリシアと同じ顔をして同じ声で話す相手に他の感想なんて持てなかった。いっそ、僕の知らないところで静かに生きていてくれれば良かったのに、事件の中心にアリシアが関わるプレシア・テスタロッサ事件や、管理局員なら無視できるはずのない闇の書事件に関わって、その二つの事件を解決に導いたとも言われるエース・オブ・エースの高町なのはの親友ときた。その後も管理局の執務官になって大活躍し、プレシア・テスタロッサ事件の10年後には、もう一人の親友である闇の書の主と三人で作った機動六課でジェイル・スカリエッティ事件なんて大事件を解決して見せてくれたんだ。もういい加減にしてくれと思ったよ」
「せやけど、それはフェイトちゃんのせいやない!」

 一刀に切り捨てるようなはやての言葉に、その通りだとケイトも認める。
 プレシアが事件を起こした事に、フェイトの責任はない。闇の書事件に至っては巻き込まれただけに等しいし、ジェイル・スカリエッティ事件は放置していれば管理世界に未曾有の大災害が起こっていた違いない。
 それを見るのが嫌なら、自分こそが管理局を辞めて、報道の届かないどこかに隠遁していればよかったのだ。
 そんな事は理解している。けれど、理解していたとしてもどうにもならないのが感情というものだ。
 もっとも、だから何をしようとはケイトは考えない。
 元来小市民なのである。自分に何ができるとも思わないし、しようとも考えない。ただ鬱屈した心を抱え込んで生きていくだけのはずだった。

「アレさえ、なければね」
「アレ?」
「<冥王の書アザナトゥース>。ロストロギアだよ」

 少女たちの目が大きく見開かれる。
 彼女たちには、ケイトが言ったような10年後がどうのという記憶はない。
 だからロストロギアにも詳しくはなく<冥王の書>という名称に聞き覚えはない。けれど少女たちの知る限りロストロギアとは人の世に災厄をもたらす物がほとんどで、だから三人は不吉な予感を止められない。

「その<冥王の書>っていうのは、どんなロストロギアなんですか?」

 問うが、予想がつかないわけではない。今の自分たちの状況を考えれば、もう一つの記憶の中で闇の書がやったように、人を取り込み夢を見せて記憶まで改変してしまう類の物であろう。
 ただ、何のためなのかが分からない。
 フェイト一人であれば、先ほどまでの話の内容から察するに、逆恨みの末に夢の世界に閉じ込められたのではないかとも考えられるが、その場合はなのはとはやてまでもが捕らわれる理由がない。
 もっとも、捕らわれた人間を助けようとした場合、その人間をも取り込んでしまう機能がなければの話だが。

「多分だけど、君たちの想像は半分くらい間違ってるよ」
「それはつまり、半分は当たってるってことですか?」
「まあ、ね。まず<冥王の書>がどんなロストロギアかを説明すると、これは<冥王の書>の中に使用者の望む宇宙を創る物なんだ」
「宇宙を創るロストロギア?」
「そう。夢でも幻でもない本物の宇宙を創るロストロギアだ」
「そんな、いくらなんでも、宇宙を創るなんて……」
「それができるから、ロストロギアなんじゃないかな?」

 もっとも、管理局員ではあってもただの事務員にすぎないケイトには、ロストロギアに触れる機会などほとんどなかったわけで、他に比較の対象などなく、どんなものがあったのかに詳しくないわけだが。

「そういうわけで、ここは<冥王の書>が創った僕の望んだ宇宙。偽物ではあっても、夢でも幻でもない現実の世界なんだよ。もちろん、そこに住む人たちもね」

 だから、なのはとはやてのことも、最初はこの世界で生まれた偽者なのだろうと思っていたのだ。

「でも、今は違うって分かってるんだよね。それはどうしてなん?」
「僕の願望で創られた世界の住人が、本物の記憶を持ってるわけがないだろ」

 もっともである。
 と言っても、実は創られた世界の住人は<冥王の書>の使用者に影響される。
 そして、なのはたち三人がこの世界に生まれた偽物でなく本物であるなら、彼女たちも他の者たちに影響を及ぼすことができるはずで、最初は、なのはとはやてはフェイトに影響を受けてありもしない記憶があると思い込まされた偽物ではないかとケイトは疑いもしていた。
 フェイトに出会う前から今の人生に違和感を持っていたと聞いて、そうではないと理解はしたが。

「でも、だったら、どうして本物のわたしらが、ここにおるん? て言うか、そもそもこの世界は何を望んだ世界なん?」
「何故、君たちがこの世界にいるのかは推測になるけど、多分僕を捜しに来たんだと思う。外だと僕はロストロギアを使って行方不明になってるだろうからね。それで、何を望んだかって言うと、小さな奇跡を起こせる、やり直しの世界ってところかな?」
「小さな奇跡って?」
「具体的に説明をするのは難しいけど、大雑把に言うと偶然の操作だね」

 それはケイトだけにしか使えない特権というわけではない。<冥王の書>は、望む世界は創れても、そこに移動した自分に能力を付加する効力などなく、それはこの世界の誰もが享受できる特典である。
 とはいえ、それは悲劇に向かう偶然をそちらに向かわぬようにする操作であり、未来に起きる事件を事前に知っておかなければ意味が無いわけで、ケイト以外にはないも同然のものである。
 そして、それを使いケイトは偶然を操作する。
 この世界は、ケイトの後悔の始まりでもあるヒュードラの暴走事故の少し前に始まった。
 子供だった当時の自分に戻ったケイトは、その時に望んだ。事故の時に、アリシアが研究所の敷地外にいる偶然を。
 ただ、それだけで悲劇は防げるのだから。
 と言っても、そういう風に創られた世界だからと言って祈っただけで本当に全てが解決すると信じられるほどケイトは楽観的ではない。
 テスタロッサ親子が研究所に引っ越す前には連絡先を聞きだし、事故の時には外に出てくるよう遊びに誘いすらした。
 暴走事故が起こった日を調べてたり、未だに覚えていた自分に呆れたりもしたが、結論としてそれを理由に自宅の方に出てきていたアリシアは事故を免れ生き延びた。
 それが切っ掛けになって、後に二人が結婚することになるとは予想の範疇外ではあったが。
 そして、その後もケイトは偶然を操作する。
 16年後には、クライド・ハラオウンを始め何人もの人命が失われた闇の書の事件において、本来なら更に10年が過ぎた後で起こった事件が解決されたのと同じ奇跡が起こり、誰の犠牲もなく解決されることを願い。ついでに、時空管理局の事務員という立場を使い、匿名の誰かが送ってきたと偽り、記憶にある闇の書事件の全ての情報を流した。
 ジュエルシードが発掘された時には、それを運ぶ次元航行艦が事故を起こさないように祈ると共に、その航行艦を使っていた民間の会社に管理局の名で注意を呼びかけもしたし、10年後の事件に備え、ジェイル・スカリエッティという犯罪者が逮捕されるようにと願い、その情報をゼスト隊に流しもした。
 結果、彼の願いは叶い、現時点において、彼の知る限り全ての悲劇は事前に食い止められていた。

 そんな説明を聞いて、少女たちは納得と共に疑問を抱く。
 納得は、ケイトが事前に食い止めた結果起こらなかった事件が、自分たちに違和感と記憶の齟齬を生み出した理由であるということ。
 疑問は、事件が起こらなかった理由が、偶然の操作などではなくケイトの行動の結果なのではないのかということ。
 もっとも、偶然の操作というものを否定してしまえば、その程度の行動だけで全ての事件を未然に防げるのかという疑問が湧くのだけれど。
 むろん、どちらであっても、ケイトにはどうでもいいことなのだろうが。
 だから、その疑問を口にすることに意味は無く、少女たちは別の事を質問する。

「それじゃあ、わたしらがケイトさんを捜しに来て、記憶を失った理由はなんなん?」
「僕を捜して<冥王の書>が創った世界に来たのはいいけど、取り込まれたんだと思うよ」
「どういうことなん?」
「この世界には、君たち三人が存在している。創られた時点では存在しなくても、誕生することは決定していたんだ。そして、創られた世界であるここは同じ人間二人の存在を許容する余地がなく、この世界の君たちと同化させてしまったわけだ」
「それで?」
「この世界の自分と同化し赤ん坊からやり直すことになった君たちは、持ってる記憶もその年齢に準ずるものになってしまった」
「ごめんなさい。意味が分かりません」
「ここは、夢や幻じゃなく現実に存在する宇宙だって言ったよね。本来の君たちは20歳くらいの女性なんだけど、赤ん坊の脳に20年もの人生の記憶が入っているわけがないだろう。だから、一度全部の記憶が初期化されて、だけど元々は外から来た人間だから歳を取ると共に、その年齢で持っていた記憶も蘇ってきたというわけだ」
「すぐに思い出せなかったのは、どうしてなんですか?」

 その説明から考えれば、年齢に応じて勝手に記憶が蘇っていくものではないかと、なのはが質問する。

「現在進行形で、こっちの世界での記憶の蓄積と同時に蘇ってるんだから、意識しないで思い出すのは難しくて当然なんじゃないかな。それに、外の世界での現在の出来事は体感で20年以上も昔の話なんだから、切っ掛けなしじゃ思い出せなくて当然だと思うよ」

 なるほどなあと思いつつも、おや? と疑問が浮かぶ。

「ケイトさんは、忘れてませんよね?」
「そりゃあ僕の願望を叶えるために創られた世界だし、忘れたらその前提が成り立たなくなるじゃないか」

 ケイトの口から開かされた真相に、はやては、むうと唸る。

「じゃあ、わたしらはあと10年以上待たないと本当の記憶が戻らないんですか?」
「いや、この世界から出て行けば年齢も記憶も戻ると思うよ」
「戻るって、どうやって?」
「これを使えば、戻れるはずだよ」

 そう言って、ケイトが取り出したのは一冊の古びた本。

「それって、まさか!?」
「そのまさか。<冥王の書>だ」

 あっさりと告げられた言葉に、少女たちの口から驚愕の声が漏れる。
 考えてみれば、そのロストロギアは自分たちの身に起こっている現象の元凶であるわけだが、それをどうしてケイトが持っているのか、そもそも外の世界のケイトはどうやって手に入れたのか、そしてここは<冥王の書>の中に創られた世界であるはずで、そこにどうして本が存在できるのか。

「本当は、説明するまでも無く君たちは知っていることなんだけど、僕がこれを持っているのは最初から家にあったからだよ」
「家に?」
「そう。子供の頃から家の本棚に入っていたもので、魔力も感じないし書いてある内容も荒唐無稽に過ぎて、誰もロストロギアとは気づかなかった代物だ。だから、やり直しのためにまったく同じに創られたこっちの世界でも普通に家にあったのを持ち出したってわけ」

 向こうでは、実際に使ってみるまで本当にロストロギアだったなんて思わなかったんだけどねと言うケイトに、なんだそれはと思うが、とりあえずは必要なことを聞くべきだろう。

「それで、元の世界に帰れるんですか?」
「そういうこと」
「でも、どうしてそんなことが断言できるんですか?」

 ロストロギアなんていうものは、マニュアルがあるわけでもない過去の遺失物なのだ。詳細な使い方など分かるはずがないではないか。
 そう思っての質問であったわけだが、ケイトは苦笑と共に本を開いて見せる。

「読んでみるかい? 荒唐無稽な内容だって言ったよね。この本は、中に使い方が全部書いてくれてるんだよ」

 それは、実に馬鹿げた答えだったが、事実であると判明するのに時間はかからなかった。
 そもそも、<冥王の書>を使用した人間が世界にケイト一人だけのはずがなく、本体に使い方でも書いていなければ、これまでにいくつ創られたもしれない世界の中でケイトが創った世界を少女たちが訪れることが出来たはずがないのだ。
 だから、書いてある内容を読み解けば、元の世界に帰ることは難しいことではない。

「じゃあ、これでわたしたちは元の世界に戻れるんですね」
「そう書いてあるしね」

 笑顔で答える青年に、はやてがため息を吐く。

「それで、ケイトさんは帰る気がないんですね?」
「もちろん」

 それは予想できた答えだが、行方不明者を捜しに来たであろう自分たちが、その行方不明者を見つけておいて連れ帰らないというのは問題があるように思える。
 とはいえ、この世界では、はやてとなのはは魔導師ですらなく、フェイトも本来の世界でそうであったほどに優秀な魔導師としての教育は受けていない。元の世界ではとびぬけた実力を持った魔導師である三人も、ここではただの子供でしかないのだから、大人を相手に力尽くというのも無理であろう。
 ただ、これだけは言っておかなくてはと思う。

「ケイトさん。あなたは、この世界でアリシアさんを救いました。けど、それはあなたが救いたかったアリシアさんとは別人やないんですか」

 そう。ここは夢や幻ではなかったとしても、ケイトの願望が創りだしただけの偽りの世界だ。そこにいる住人を救ってみたところで、本当のアリシアが救われたわけではない。
 本物のアリシアがヒュードラの暴走事故で死に、その遺体がプレシア共々虚数空間に飲み込まれた過去が変わるわけでもないのだ。

「僕が、その事を考えなかったと思うのかい?」
「いえ……」

 ケイトという青年は、元の世界では40を過ぎた分別もある大人であろう。そんな人間が、こちらでは30年近くを過ごしているのだ。子供が思いつく程度のことを考えないはずがないではないか。

「確かに、この世界のアリシアと元の世界のアリシアは別人だろうさ。でも、こっちの世界のアリシアは長い年月を共に過ごしたつれあいで、そっちの世界のアリシアは、もう子供の頃に何度か遊んだことがあるだけの思い出の人間になってしまっているんだ」

 だから、選ぶなら、こちらなのだとケイトは言う。

「そのアリシアさんが、あなたの願望に従って動いているだけの人形だったとしてもですか?」
「はやてちゃん!」

 なのはが、非難するように声を荒げる。
 実際、<冥王の書>に願えば、そういう自分に都合のいい生きた人形たちの世界を創ることも不可能ではないのだが、だからこそ、はやての──親友の口から出たものであっても聞き流せない暴言であった。
 けれど、ケイトの表情には特に不快を感じた様子はない。

「その不安を覚えなかったわけじゃないよ。そもそもが、自分の願望で創った偽りの世界だからね。でも、そこは信じるしかないね」
「自分をですか?」
「それと、アリシアをかな。彼女が僕に向けてくる愛情は本物だと信じている」

 真顔でそんなことを言う青年に、少女たちは赤面するがケイトとしては当たり前のことを言っただけである。

「それに、元の世界だなんて言っても、そこが誰かの願望が作った偽りの世界じゃないって保障があるわけでもないだろ?」
「そんなこと……」
「ないと言い切れるのかい? 例えば、管理局のエース・オブ・エース──高町なのはのありえないほどの活躍とか、あっちの世界には誰かの作為があるとしか思えないほどに都合のいい偶然が重なっているだろ。僕たちは現実に存在する本物の世界から<冥王の書>の創った世界に入ったと思っているだけで、実際には本の中にある世界同士で移動をしただけかもしれないよ」
「…………」

 確かに、それは三人も同じことを考えなかったわけではない。
 自分たちの活躍には、この世界のケイトのような誰かの作為で踊らされていたとしても不思議ではないほどの偶然が重なっているとも思う。
 けれど、

「だとしても、あっちが、わたしたちにとっての本物の世界です」

 なのはが、迷いのない目で断言する。
 もし、自分たちが誰かに操られている人形だったとしても、そこで抱いた想いや誓いは間違いなく自分自身の物であったと信じられるから。

「うん。それでいいと思うよ」

 そう答えるケイトの目にも迷いはなくて、やはり連れて帰るのは無理だと思い知らされる。
 だから、三人で帰るしかないのだろう……。
 三人?
 なのはが、ふと疑問を覚える。

「そういえば、アリサちゃんやすずかちゃんも、別の人生の記憶を持ってたんだけど、ひょっとして本物なんじゃ……」
「あっ……」

 声を上げたのは、はやてだったかフェイトだったか。

「誰だい、それは?」

 尋ねたケイトは、慌てた様子の三人の話を聞き、すぐに納得した顔になって、その心配はないと伝える。
 そもそも、ケイトのために創られたこの世界に三人がやって来れた理由に、<冥王の書>に創られた宇宙が、ただ一人の人間しか許容しないわけではないというものがある。
 <冥王の書>は、使用者同士の願いが矛盾しなければ、すでに存在する誰かの創った宇宙に他の使用者を送る場合もあるのだ。
 その場合、世界は後から来たものの願いに影響され変質する。
 けれど、ケイトを捜すという目的でやってきた三人は確たる願いを持たず、ただ本来の記憶を求めるか想いがこの世界の親友たちに影響し、話をしたことでありもしない記憶をあると錯覚したのだろう。
 だからこそ、なのはやはやてが自身以外の二人に出会う前から違和感と焦燥感を持っていたと聞くまで、彼女らが本物だとケイトには判断できなかったのだし。
 ついでに言えば、なのはが早い時期にアリサとすずかに出会っていたのも、本人の願望によるものだが、そこまではケイトも知らない。

「そうなんですか?」
「そうなんだよ。それとも君たちはロストロギアで行方不明になった人間を捜すのに、管理外世界にいる魔導師でもなんでもない友人の手を借りたりするのかい?」
「しません」
「だろうね?」

 笑って言うケイトの言葉を理解して、今度こそ三人は<冥王の書>に手を触れ顔を伏せ目を閉じて、一瞬の後に夢から覚めたように目を開けた。



「あれ?」

 そんな声を上げたのは、なのはである。
 少女には、自分が何故ここにいるのかが理解できていない。
 フェイトと知り合い、彼女に連れられて『時の庭園』に来た自分の行動を忘却したわけではない。
 ただ、その動機が分からない。
 何か重要な理由があって話をしていたような気がするが、その内容が思い出せず必要性も感じない。

「どうしたんだい?」

 困惑するだけの少女に、穏やかな微笑を浮かべた青年がそんなことを尋ねてくるが、知りたいのは自分の方なのだ。

「えーと」

 助けを求めるように、ここに一緒に来たはやてとフェイトに目を向けるが、そちらも困惑しているようであてにならない。
 困り果て、どう説明したものかと悩む三人だが、実のところ説明されるまでもなく青年は理解している。
 少女たちは、今まで別の世界の自分が同化していてその心の内の衝動に振り回されていたが、それが急に消えて目的を見失ってしまった。
 もはや、少女に別の世界を生きた記憶などないのだから、困惑するのも無理はない。
 そして、こうなるのは青年にとっては予想の範疇内だ。
 余談だが、フェイトが外から来た本物であるとケイトが理解したのは、彼女に造られた魂を持つ使い魔であるアルフが、その影響を受けてか本物の持っていた記憶を持っていると本人に聞かされたからで、今頃はアルフもその記憶を失っているのだろうと思う。

「まあ、とりあえず座らないかい」

 促され、素直にテーブルに着いた少女たちに、青年は紅茶を振舞おうかと思うが、長話のせいで冷めてしまっていると気づき渋面になる。
 これは気まずいなと心の中で呟いたその時に土を踏む足音が聞こえてきて、そちらに顔を向けることで彼の妻であるアリシアがプレシアやリニスと一緒お茶菓子を持って歩いて来ていると知る。
 気を使って向こうに行ったはずのアリシアが帰ってきたことに疑問は感じない。
 紅茶が冷めるほどに長話をしていれば、そろそろいいかと思って戻ってきても不思議ではないし、フェイトが友達を連れてきたと聞けば何も知らないプレシアが興味を持つのは当然であろう。
 そして、それは歓迎すべき事態である。
 もう、用事は終わっているのだ。後は、お茶菓子でもてなして談笑などをした後に、なのはとはやての二人を家まで送れば終わる。
 そして、もう二度と会うことはないだろう。
 なのはもはやても管理外世界の人間だ。だから、管理世界に属する自分たちとの接点はない。
 この世界においては元の世界のような絆を持たない三人が、次元の壁を越えて手を取り合い続けられるとは思えないから。
 けれど、それが悪いとは思わない。
 ここは偽者の世界で、そこに住む人々も偽物だが、本物を真似なければいけないわけではない。
 ケイトが救いたかったアリシアは本物の方だったのだろうが、彼が愛したのはこの偽者の世界にいるアリシアなのだから。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 一冊の本の上に手を置いた三人の女性が目を開ける。

「なるほどな」

 呟き、はやては自分と同じ姿勢で固まっている二人の女性を見る。
 右斜めには、茶色の髪をサイドテールにした二十代前後の年齢に見える女性。
 左斜めには、金髪を背中まで伸ばしたやはり二十代前後の女性。
 <冥王の書>というロストロギアの創った世界から帰ってきた彼女は、本来の年齢に戻ることで全てを思い出していた。

 始まりは、彼女の親友の一人である時空管理局執務官フェイト・T・ハラオウンが、執務官補佐のティアナ・ランスターと共に行方不明になったという知らせである。
 同じ管理局員である。調べれば、原因が<冥王の書>というロストロギアにあるとすぐに分かった。
 そのロストロギアは一見してただの本で、そこに書かれている解説も荒唐無稽に過ぎてリアリティというものがなかったのだけれど、ある日に起こった時空震とそれを所有していたケイト・ラックという人物が行方不明になったことが、本物であることを証明していた。
 八神はやては、フェイト・T・ハラオウンの親友である。そしてティアナ・ランスターは元部下である。
 親友であるから、前後の状況と本の解説を読めば何が起こったのかを正しく想像できた。
 だから、もう一人の親友である高町なのはと共に、行方不明になった<冥王の書>の所有者を捜しに自分も本の創った宇宙に行ったであろうフェイトたちを連れ戻すことを決めた。
 その結果が、記憶を失い人生をやり直す事態になった挙句捜索対象を諦めなくてはならなかったというのは笑えない話だが、ともかく自分たちは帰ってきたのだ。

「ねえ、はやてちゃん……」

 安堵の息を吐き出そうとした時に聞こえてきたなのはの緊張した声に、はやてはまだ何かあるのだろうかと気を引き締める。

「わたしたちって、あっちで10年過ごしたよね?」

 その通りだ。あちらの世界でも赤ん坊の頃の記憶というものはないが、物心ついてから生きた記憶はしっかりと残っている。

「じゃあ、こっちだとどのくらい時間が経っているのかな?」

 言われ、そういえばそうだったなと今更になって気づく。
 自分たちの姿に、<冥王の書>の創った世界に行く前から時間が経過した様子はない。とはいえ、別の世界にいた自分たちの肉体に、正しく時間の経過が刻まれたという保証はないのだ。

「というか、下手したら27年経ってるよね」

 フェイトが血の気の引いた青い顔で囁く。
 考えてみれば、フェイトやなのはは被保護者に小さな女の子を抱えているのだ。
 その子を置いて、何年も行方不明になっていい理由はない。
 なんとも言えず重い空の漂う沈黙の中、誰かの走る足音と共に聞き覚えのある声が耳に届く。

「なのはさん? それに、フェイトさんに八神部隊長も」

 不思議そうな口調は、三人の共通の知人であるスバル・ナカジマのものである。

「スバル?」
「はい? あの、皆さんが行方不明になったって聞いて、わたし慌てて来たんですけど、どうなってるんですか」

 問う声に三人は一度顔を見合わせ、一斉にスバルに顔を向ける。

「スバルっ! 今何年?」
「え?」
「わたしらがいなくなってから、何年経った?」
「へ?」
「ヴィヴィオは、今どうしてる?」
「あのー……」



 一度にまくし立てられても答えられないと三人が気づいたのは数分後のこと、少しは冷静になった三人が話を聞いたところによると、三人がというか、なのはとはやてが行方不明になってからはまだ一日も経っていないとのことで、どうもあちらとこちらでは時間の流れが違ったらしい。
 というのは実は誤解で、<冥王の書>の中に創られた世界との移動には時間の指定も可能であり、三人全員が本の中の世界に行った時間軸に帰りたいという願いを叶えてくれた結果でしかない。
 ただ、今度こそ安心だなと思ったところで、事情が分からないままに説明を終え三人を見回したスバルが呟いた。

「ところで、ティアはどうしたんですか?」

 そう、フェイトがケイトを追って<冥王の書>の創った宇宙へ向かった時に一緒だったティアナがここにはいなかった。

「あっ」

 と声を上げたのは誰だっただろう。
 はっきりしているのは、ティアナが<冥王の書>を所持しているケイトと知り合う可能性は低いということで、それは誰かがもう一度あの世界に迎えに行かなくてはならないのだということを意味している。
 けれど、それはとても難しいということも分かっている。
 あの世界に行けば、その時点で自分たちはその年齢以後の記憶をなくしてしまいティアナを連れ戻すという目的を見失うだろう。
 目的を覚えていられたとしても、ティアナの方は10年近くを待たなければこちらのことを思い出せないはずで、知らない人間の言うことを信じてもらえるとは考えにくい。
 時間の流れ方が違うというか、実際は向こうで10年を過ごしても、こちらでは直後の時間に帰ってくることが可能なわけだが、向こうで更に10年を過ごして自分たちの意識が替わらずにいられる保障はない。
 彼女たち三人は、あちらの世界ではなく、こちらの世界を選んだ。
 それは正しい選択だと確信しているが、それでもあちらの世界を忘れることなどできないだろう。
 あの世界で過ごした人生も、決して嘘などではなかったのだから。
 なのはにとって、あの世界のアリサもすずかも偽りなく友達だったのだから。
 フェイトにとって、あそこには夢にまで見た優しい母と過ごせる世界だったのだから。
 はやてにとって、別の人生の記憶を持っていたために受け入れらなかった両親だったが、真実を知ってしまえば肉親ゆえの甘えであったとのだと気づいてしまったから。
 そんな優しい偽物の世界に、自分たちは溺れずにいられるのだろうか。
 そんな風に、こちらを現実の世界と選び帰ってきた自分たちでもこれなのだ。
 あちらでは死の運命を免れるであろう兄と、こちらの記憶がないままに暮らすティアナを連れ戻すことは難しいに違いない。
 それでも行かねばならないのだけどと、はやてはため息を吐く。

「ひょっとしたら、これは最悪に危険なロストロギアなのかもしれへんな」

 その小さな呟きを聞く者はなく、聞こえても同意は得られまい。
 もし、これのことを知る人間が増えれば、多くの者が自分も使いたいと願い姿を消すだろう。
 大小を問わなければ今の人生に不満を持たない人間など存在しない。夢でも幻でもなく、どんな願望も叶えられる自分にとっての最善の世界を創造できるとなれば、何人がそこに行きたいという欲望を抑えられるだろう。
 この世界が、同じように本の中に創られたものではないと断言できない可能性に気づいてしまえば、なおさらだ。
 それに<冥王の書>は、その中に宇宙を創る時に次元震を起こすが、それは本の中に起こったものが観測されるだけで、外の世界には影響を及ぼさない。
 つまりは、その使用は直接的には誰の迷惑にもならないので、罪の意識もなく自分の欲望を満足させられるのだ。
 けれど、みんながそうやって姿を消せば残された世界はどうなる?
 そこには、緩慢な滅びしか残されまい。

 だから、この本は誰の手にも渡らぬよう厳重に封印しなくてはなるまい。
 はやてはそう思い、しかしその前にティアナをどうやって連れ戻せばいいのかと頭を悩ませるのだった。



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ケイト・ラック
 オリキャラ。
 車に詳しくないので人に名前を考えてもらいました。
 いいセンスですよね。

小さな奇跡
 起こるはずの悪い偶然を起こさせない能力。
 元ネタはナイトウィザード。
 なんか幸運の宝石と混ぜて拡大解釈したような感じになってますが気にしない方向で。

<冥王の書>
 使用者の望む宇宙を創るロストロギア。
 元ネタは召喚教師リアルバウトハイスクール。
 元ネタの方とはかなり違ったものになっていますが、いいんだよ、こまけえことはの精神でスルーしてください。
 関係ないけど、やたら凄い血統だったと判明した美雪ちゃんが飛天流を習うアフター物かイフ物を書いてみたくなりますね。書きませんが。


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