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[22742] シークレットゲームCODE:Second【episode2】 joker war-ジョーカー戦争-(原作:シークレットゲーム 『-KILLER QUEEN-』)
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2011/06/05 19:42
当作品はFLAT1stpresents『シークレットゲーム』の二次創作作品です。
舞台は「原作『シークレットゲーム』episode2より数十年後」となっています。

以降注意点
・本作は『にじファン』にて二重投稿されています。
・原作「シークレットゲーム」のネタバレがあります。
・原作の都合上、一部残酷な描写が含まれています。
・プレイヤーは全員オリジナルキャラクターです。
・解除条件は全部オリジナル解除条件です。
・設定上、原作登場人物の風貌・性格等が違う場合があります。
・原作登場人物が不当かつ悲惨な扱いを受けている可能性があります。
・原作登場人物が登場しない可能性があります。
・原作登場人物がオリジナルキャラクターと密接な交流を育む可能性があります。

以上の点を許容できなければ、本作品を読み進めることはお勧めできません。

本小説には他では類を見ない、「風変わりなシステム」を搭載しています。

それは【BETシステム】と呼ばれるものです。

【BETシステム】とは『ゲーム』に参加する『プレイヤー』の生死を予想し、誰が生き残るかを『賭ける(BET)』システムです。

『不謹慎な遊びではないか』…ですか?

作者はそのご意見には何とも申し上げられません。
ご判断を下すのは、読んでくれる皆様自身です。

BETされる読者様は感想まで

誰に

いくら

賭けるかを決めていただきます。
ちなみに持ちコインは100とさせていただきます。
持ちコインがなくなっても続きを見られないということはありませんのでご安心ください。

それでは皆様、絶望のゲームをお楽しみくださいませ

3月25日にFLAT3rdpresents『シークレットゲームCODE:Revise』発売決定!!

『シークレットゲームCODE :Revise』の発売日までにどこまで行けるのか!?

上杉さんは『シークレットゲームCODE:Revise』を応援してます\(-o-)/
P.S ツイッターはじめました。
uesugiryuuyaで登録しているので気軽にフォローお願いします!!



[22742] 【episode1】 blank one hour-空白の1時間- 【完結】
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/12/12 23:44
あらすじ
大学受験を控える高校3年生の北条良輔は目が覚めるとそこは見知らぬ天井だった。困惑する良輔の首には何故か銀色の首輪が着けられており、傍には1台のPDAが置かれている。そのPDAには首輪を外すための方法が書かれていたが、もし与えられた条件を72時間以内に達成できなければ首輪の仕掛けに殺されるとの記述が…。こんなことを疑いもなく信じてしまうのは目の前に転がっているものがかつて人間だったものだからだろうか?13人の全オリジナルキャラクターと13通りの全オリジナル解除条件が織り成す新感覚シークレットゲーム!!疑心暗鬼に満ちたこの空間で13人のプレイヤー達は自分の大切なものを守り抜くことができるのか!?FLATの大人気ゲーム、シークレットゲーム―Killer Queen―の二次創作作品、誰も見たことのないシークレットゲームのセカンドステージが今、始まる!!




[22742] 00話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/10/26 03:56
どこにでもあるようなマンションの一室。リビングには備え付けられたキッチン、パソコンの置かれた机や長方形のテーブルに4つの椅子に子供用の椅子が1つ。そこには表向きは家族仲円満に暮らす両親と5歳くらいの小さな男の子が一人の3人家族が住んでいた。そう表向きは…だが。


「お前…調子に乗るなよ!!誰のおかげで飯が食えると思ってる!?」


「あなた、止めてください!!良輔だっているんですよ!?」


わめきちらす背の高い男を背の低い茶髪の女性が静止させようとする。その二人、父と母の喧嘩を僕、高橋良輔はどうすればいいのか分からずただオロオロと見ていることしかできなかった。


「うるさい!!」


「きゃあ!?」


父が小柄の母を投げ飛ばし、母は近くにあったテーブルに顔から突っ込んだ。ガラガラと物が倒れる音がする。父は倒れている母を見下ろすと満足そうに下品な笑みを作り視線を僕に向けた。


「なんだ?文句でもあるのか?」


「お、お母さんを…い、いじめるな!!」


僕が震える声を精一杯張り上げると父の顔が不快に歪んだ。


「子供のくせに偉そうに…何様のつもりなんだい?良輔君は、神様にでもなったのかな?」


そういって父は僕に近寄ってくるとお腹に蹴りを入れてきた。突然訪れた鈍い痛みにお腹を抱えて嗚咽をもらしながら倒れこむことしかできなかった。


「ほらどうした?頑張らないとお母さんを助けられないぞ?」


倒れこんだ僕を足蹴に何度も踏みつける。


(だ、誰か…誰か助けて…)


朦朧とする意識の中、生存本能なのか必死になって助けを求めた。


「あなた、もう止めて!!」


父のマークが僕に向かっている間に後ろでは母が起き上がっていた。その手に包丁を持って………


「お、おい…よせよ、お、俺が悪かった、だからそんな物騒なもんはしまえ、な?」


父はその姿を見て狼狽する。


「は、ずっと…ずっと我慢してきたけど、良輔を守るためなら…私は、私は…」


肩で息をする母の目からは涙が流れて目が真っ赤に充血していた。


「はああ!!」


叫び声を上げ、包丁を向けながら父に突進する母、抵抗する父と揉み合いになる。しかし実際に揉み合っていたのはほんの少しの間でそれもすぐドスっという音と共に止まった。ポタポタと赤い血が床に零れて赤い池を作る。


まるで時が一瞬止まったように感じた。


「りょ、良輔…に、逃げ、て………」


揉み合いの末、包丁は母の左胸に深く突き刺さっていた。母は苦悶の表情を浮かべながらそのまま床に倒れこむ。


「ち、違う…お、俺は悪くないぞ、せ、正当防衛だ。俺はこいつを殺すつもりなんてなかったし、包丁を最初に持ち出してきたのはこいつだ、だ、だから俺は悪くないんだ!!」


父は錯乱気味に喚き散らす。


「お、お母さん…お母さん」


僕は体中が痛いのを我慢して倒れた母を助けるために芋虫のように前進する。父はそんな僕を見て顔を真っ青に染めた。


「そ、そうだ…こ、殺してしまえばいいんだ、そ、その後、2人の死体を隠して埋めれば今まで通りの生活が送れる」


壊れた笑みを浮かべながら父は僕にナイフを振り下ろそうとしていた。


「おい!!かれんさんいるのか!?一体何があった!?」


だがそれは第三者の介入で実行には移されなかった。


ドンドンと扉を叩く音。騒ぎは外まで聞こえていたらしく近くにいた人が来てくれたようだった。


「だ、誰か来た!?逃げなくては」


父は僕を放置して部屋の奥からガサガサと何か取り出すと仕事のかばんを取り出して、血のついた服を隠すべく厚手のコートを着ると外に向かった。


僕は必死に血まみれになった母の傍まで辿り着き、母の体を揺するが反応がない。助けを呼ぼうと声を出そうとするが擦れた声しか出なかった、外では玄関が開く音が聞こえる。


「やあ、こんにちは御剣さん。今日は夫婦お揃いでどうかされたんですか?」


「あ、こんにちは高橋さん。かれんさんが相談したいことがあるって聞いたので家にお伺いしたのですが…さっきかれんさんの声が聞こえませんでしたか?」


「はは、実は家にゴキブリが出て家内が大変驚いてしまいまして…ご迷惑をおかけしました、どうぞゆっくりしていって下さい。私はこれから仕事ですので失礼します」


「え?休日なのにこれから出勤なんですか?」


「ええ、どうも部下が伝票を書き間違えてしまったらしくその尻拭いというやつですよ、それでは急ぎますのでこれで」


「「はい、お仕事頑張ってください」」


そんな会話が外から聞こえてくると家の中に誰かが入ってくる音がした。


「ん?なんか変なにおいがしない?」


「本当ね?何のにおいかしら?」


「前に来たときはこんなにおいはなかったけどな?」


足音がどんどん近づいてくる。


「お~い、かれんさん、久しぶりに遊びに来たよ………え?」


リビングに入ってきた背の高い男は血の池に横たわる僕たちを見つけた。僕にもこの人は見覚えがあった。お母さんの友達でたまに遊びにきてくれる総一さんだ。後ろの人は影になっていてよく見えない。


(よかったこれで助けてもらえる)


良輔はこれで母がまた動いてくれると心を撫で下ろした。


「な、なんだよ…これ?」


総一は自失気味な声を出す。


「総一?どうかしたの?」


総一の後ろから女性の声が聞こえた。その女性も総一の視線を見て驚愕する。


「麗佳!!すぐに救急車をそれと警察も」


「分かったわ」


総一は一緒に来ていた麗佳にそう指示すると僕たちのところに寄ってきた。総一はお母さんの手を取り、何か調べているようだった。やがてそれが終わると総一は涙を流し始める。


「総一!!救急車と警察は呼んだわ!!すぐに来てくれるって!!!」


「麗佳………かれんさんは…もう」


「!?そんなことって…」


総一が首を横に振ると麗佳は顔を両手で押さえながら床に座り込んでしまった。そこからポタポタと水滴が落ちる音が聞こえる。


(そうだ…言わなくちゃ、お母さんを助けてくださいって)


力を振り絞り、お腹に力を入れる。


「ぉヵ……ぁ…ぇ……ぃ」


しかしそれも言葉にはなってなかった。


声を出したことで総一と麗佳は僕がまだ死んでいないことに気づく。良輔の体は既に血まみれになっており、かれんが死んでいたということは良輔も死んでいるのだろうと総一たちは考えていた。その声を聞いて二人の表情が希望を見つけたようにパッと明るくなった。


「麗佳!!良輔君は生きてるぞ、目立った外傷もないみたいだ!!」


「よかった、本当によかった」


良輔が生きていたことを涙ながらに喜ぶ2人。


僕の意識はそこで途切れた。











次に僕が目を覚ましたときは見知らぬ病院のベッドだった。


「起きたかい?」


目の前には総一おじさんがいた。痛いところはないかと聞かれたのでないと答える。


「お母さんは?」


まずそれだ、お母さんはどこにいるのだろう?しかし、それを聞いて総一おじさんは暗い顔をする。どうしたのだろう?


「良輔君のお母さんは今、ちょっと遠出してるんだ。だからしばらく会えないと思う、でも良輔君がいい子にしていればすぐ帰ってきてくれるかもしれないね」


「本当?」


それならお母さんが帰ってくるまでいい子にしてなくちゃ…僕はお父さんみたいにお母さんを泣かせたりしない。


「ああ、本当だ…それじゃあ行こうか?良輔君」


「行くってどこに行くの?」


手を引いていく総一おじさんに尋ねる。


「これからお母さんが帰ってくるまで良輔君が暮らすとこだよ」


「そこでいい子にしてればお母さんが帰ってくるの?」


「あ、ああそうだとも、最初はお母さんがいなくて寂しいと思うかもしれないけど必ず楽しくするから…克己は気のいいやつだし、渚の作る料理はうまいし、同い年に優希がいるから毎日遊べるぞ、麗佳の勉強はきついかもしれないけどみんなでやればすごく楽しいんだ…きっと良輔君も気にいると思うから」


手を引かれる形だから総一おじさんの顔は見えなかったがなにか悲しみを押しつぶしたような声だった。それから病院を出て総一おじさんの車に乗って移動していた。車に乗ったのは初めてだからとても楽しかった。お父さんはどこにも連れてってくれなかったし、お母さんは車の運転ができなかった。良輔にとって車に乗ってどこか遠くに行くのがささやかな夢だったのだ。良輔は興奮しながら窓にへばりつく。だからこそ車に流れていたラジオから何か聞こえてきたが良輔にとってはあまり気にならなかった。



『ニュースです。今日の朝早く児童虐待を受けていたと思われる、高橋良輔君が退院したと報告が入りました。良輔君の母親である高橋かれんさんを自宅に置いてあった包丁で刺殺したと思われる容疑者、高橋祐輔は現在も逃亡中で警察も行方を追っているとのことです。良輔君の身元は母の高橋かれんの後見人である御剣………ただいま新しく情報が入りました。逃亡中の容疑者、高橋祐輔が交通事故で死亡したとの報告が入りました。信号を無視して…』



ぷちっと続きを聞かず総一はラジオを切ってしまった。


(こんなのはまだ小さな子供に聞かせる内容じゃないさ…)


外をキラキラさせながら見ている良輔をチラッと横目で見ながら総一はそう考えていた。










「さあ、ついたよ」


目的の場所についたらしく車が止まる。良輔はそれを少し残念に思った。それを見て総一おじさんが苦笑する。


「また乗せてあげるから…」


「本当!?」


思わず聞き返してしまったがにこにこ笑いながら頷く総一おじさんは返してくれる。


「うわー大きい家だ…」


小さい良輔にとって2階建ての家は壮観といった感じであった。


「ここが今日から良輔君の住む家だよ。さあ入ろう」


中に入ると綺麗に掃除されていた家が広がっていた。その清潔感から良輔はこの家に好感が持てた。


「帰ったぞーー」


「はーい」


中から1人の女性が出てくる。


「いらっしゃい良輔君、今日からよろしくね?」


「高橋良輔、5歳、今日からお母さんが帰ってくるまでよろしくお願いします」


よく挨拶できましたと頭を撫でられた。子ども扱いされるのは嫌だけど綺麗な人に頭を撫でられても嫌な気はしない。


「克己と渚は学校か?」


「ええ、今頃お昼の給食でも食べてるんじゃないかしら?」


クスクス笑う麗佳さん。女の人におばさんはつけちゃだめだってよくお母さんに怒られたんだ。


「優希は?」


「優希…ほらしっかり挨拶なさい、今日から一緒に暮らす良輔君よ、昨日あんなに友達になるんだって張り切ってたのに本人を前にするとこれなんだから…一体誰に似たのやら?」


そうして麗佳さんは後ろで隠れていたものを前に押し出す。


隠れていて気づかなかったが僕と同じくらいの年齢の子だ。金色のショートヘアーでかわいらしい顔をしていて白く透き通った肌がとても綺麗だ。


「あ、あの…初めまして、御剣…優希っていいます」


「うん、初めまして僕は高橋良輔、よろしくね優希ちゃん」


挨拶を返すと優希ちゃんは急にもじもじするしぐさをする。トイレかな?


「りょ、良輔君…あの、その…わ、私と…」


「うん、何?」


顔を真っ赤にしながら意を決したように一度コクリと頷く。


「私と友達になってください!!」


それが高橋良輔と御剣優希とのファーストコンタクトだった。




[22742] 01話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/10/26 04:00
【BET】
player suit card odds
北条良輔 ???? ? 3.6
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Day 1日目
Real time 午前   10:55
Limit time 経過時間 0:55 残り時間 72:05
Flour 1階
Player 13/13




「んっ」


いつもより重い目覚めの中、ふいに意識は覚醒した。


「………またこの夢、か」


夢で見た内容は全て覚えていた。母が目の前で死んだことはもちろん車の中で見ていた景色でさえ全て鮮明に思い出すことができる。


「いつも最後は優希の登場シーンで終わるんだよな」


ベッドから上半身を起こして俺は思わず苦笑する。


あれからもう10年以上の年月が流れた。俺はその後、苗字を母親の旧姓に変えている。理由は、まあ高橋を名乗っていると父親を連想してしまうからだ、改名の手続きも父が犯罪者だったということからあっさりと済んだ。


現在は北条良輔という名を名乗りながらもう高校3年生。来年には受験を控えている身だ。第一志望は麗佳さんが教鞭を取っている大学で聞けば総一さんもそこの大学の卒業生らしい。特にやりたいこともなかった俺はその大学を受験するつもりだった。そこに入学すれば今まで育ててくれた恩をある程度返せるかもしれないと考えて………まあ受験生と言ってもほとんどバイトの日々だ、勉強に当てている時間は驚くほどに少ない。しかし成績はいつも学校トップで周りからは頭がいいと言われ続けている、どうすれば短時間でそんな成績が取れるのかとよく聞かれるがその質問に答えたことはない。ただ俺はその答え自体は知っていた。


「この呪いみたいな能力があるせいだよ…」


誰もいない空間で俺はそう呟く。


俺は子供のころから周りにいる普通の子供とはどこか違っていた。


運動能力が異常に高いわけではなく、頭が格別にキレルわけでもないが俺は他の人にはない特別な技能を持っていた…それは記憶能力。


俺は見たものを全て一瞬で記憶し、それを忘れることがない。俺は先天的な直観像記憶能力者だった。


それを俺が自覚したのは小学生の頃。国語の授業で枕草子を暗唱することを抜き打ちテストでやった先生がいた。もちろんそんなものをいきなり暗唱できる変態は俺のクラスにはいない、先生も精々が最初の一行を暗唱できれば十分ぐらいのつもりだったのだろう。そして俺の順番が回ってきた…俺は嬉々として枕草子を一番最後から最初までを逆さ読みした。逆さ読みしたのはそっちのほうが読みやすかったからだが最後まで…もとい最初まで読み終わった俺は周囲のクラスメイトから奇異の目で見られていた、俺は慌てて教科書を取り出し、実はカンニングしてたんだ、面白かっただろ?と嘘を吐くことで事無きを得た、ただし国語のテストは0点にされたが…この事件をきっかけにして俺は知ることになる。


自分が周りとは違うどこかおかしい人間であることに。


そしてこの能力が俺自身も傷つけることになる。つまり、夢に出るのだ…母親が目の前で死んでいく、その光景が…何度も何度も


「本当…呪いだよな」


思えば自分は子供だった。人が死ぬということが理解できてなかった、心臓を刃物で刺されて生きている人間などいるわけがない。それでもいつか迎えに来てくれるのではないか?そんな淡い希望を持ちながら過ごしていた子供時代だった。


俺はそんなことを考えながらふと周りを見渡すとそこはまったく見知らない部屋だった。
室内には机が一つに本棚、そして俺の寝ていたスプリングが飛び出した酷い状態のベッド、他にも部屋のところどころに置かれた質素な家具。
一瞬どこかのホテルかとも思ったがそれにしては汚い。
カプセルホテルもここまでではないだろう。


「どこだよ、ここ?」


口から出た疑問に答える人はもちろんいない。重い頭を抱えながら記憶を手繰る。


「俺は確か学校の授業が終わってからバイトに行くために道を歩いていて………気づいたらこの部屋にいたことになる」


バイトに行くための道で良輔の記憶はぷっつり途切れていた。


「まさか誘拐されてきたとか?いや、どっちかというと拉致されてきたのか?」


良輔が自らの意思でここに来たわけではないのだからやはり拉致されてきたように思えた。
しかし拉致して来たにしては変だ、普通………と言っていいのかはわからないが拉致してきたなら手錠なりロープで縛るなりして身柄を拘束するのではないだろうか?しかし自分は手錠もされてないし、ロープで縛られてもいない。そもそも見張りがいないというのは拉致してきたのに手落ちもいいところだろう。まあ、犯人の都合など知ったことではない、見張りがいないなら好都合だ、犯人が戻ってこないうちさっさと逃げることにしよう。とりあえずは出口を探す必要がある。


そこまで考えると良輔は妙に重たく感じる頭をぶんぶんと左右に振るとふと首に違和感を感じた。


「あれ?首になんか巻きついてるぞ?」


首に手を当てると首を一周する冷たいものがあった。


「なんだ、これ?」


しかし首にぴったりと巻きついているため良輔は自分の首に巻きついているそれを確認することはできなかった。


「ピロリン、ピロリン」


嘲笑うような電子音が部屋に鳴り響く。


「ん?なんの音だ?」


首を確認することはあきらめて俺は音の発信源を求めて視線を左右に振る。その音はベッドの近くの木製テーブルの上から鳴っていた。


「あ、俺の荷物………」


テーブルの下には良輔の荷物が置かれていた。音源を無視して真っ先にかばんを調べる。


「何も盗られてないな?」


かばんの中には勉強道具一式が入っており、財布や携帯などもそのままある。
携帯を手にとって電源を入れる。起動してしばらくすると待機画面になった。


「圏外か………」


助けを呼べるかもと思って期待しただけにショックだ。まあ圏外じゃなければここに携帯は置いてないかもしれないが…。かばんを一通り調べ終えたところで電子音を鳴らす物体を調べる。


「PDAみたいだが?」


テーブルの上に置かれていたのは1台のPDAだった。メーカーを表すような刻印はなく、ディスプレイに大写しになっているトランプのカードが目立っている。


「ダイヤの【5】………えらく地味な数字だ」


PDAを手に取ってみたが予想以上に軽かった。PDAの大きさは縦10㎝、横6㎝程度でトランプをモチーフにしているためか極めて薄い。ディスプレイはPDAの大部分を占めており、ディスプレイの下には小さなボタンが備えられていた。
PDAをひっくり返すとトランプの背中側のデザインを踏襲しており、白枠の中に格子模様が描かれている。
ずいぶん凝ったデザインのPDAだと感心しながらPDAに備え付けられたボタンを何気なく押し込んでみる。


ピッ


バックライトが点灯し、画面が切り替わる。
画面の上には、経過時間1:05と残り時間71:55、バッテリー残量100%などの表示がされている。
更にその下には3つの項目が表示されている。
【ルール】
【機能】
【解除条件】


「なんかゲームみたいだな?」


ここからのPDAの操作方法はタッチパネル式のようだ。まずは順番通りに【ルール】の項目をタッチした。


ピッ


【ルール1】
《参加者には特別製の首輪が付けられている。
それぞれのPDAに書かれた条件を満たした状態で首輪のコネクタにPDAを読み込ませれば外すことができる。
条件を満たさない状況でPDAを読み込ませたり、自らのPDAを破壊されたりすると首輪が作動し、15秒間警告を発した後、建物の警備システムと連携して着用者を殺す。
一度作動した首輪を止める方法は存在しない。》


【ルール2】
《参加者には1~9のルールが4つずつ教えられる。
与えられる情報はルール1と2と、残りの3~9から2つずつ。
およそ5、6人でルールを持ち寄れば全てのルールが判明する。》


【ルール8】
《指定された戦闘禁止エリア内での戦闘行為及び指定された戦闘禁止エリアの中にいるプレイヤーへの戦闘行為を禁止する。違反した場合、首輪が作動する。》


【ルール9】
PDAの解除条件は以下13通りとなる。

A:ジャック・クイーン・キングのPDAの初期配布者が死亡している。
手段は問わない。

2:「ゲーム」の開始から6時間経過後、jokerのPDAを6時間以上保有する。
また、PDAの特殊効果で半径1メートル以内ではjokerの偽装機能は無効化されて初期化される。

3:自分のPDAの半径5メートル以内で3人以上の人間が死亡する。
手段は問わない。

4:他のプレイヤーの首輪を3つ破壊する。手段は問わない。

5:生存者を5人以下にする。手段は問わない。
また、PDAの特殊効果で残り生存者数を表示する。

6:「ゲーム」の開始から6時間経過後、偽装機能を使用されている状態のjokerが自分のPDAの半径1メートル以内に累計して6時間以上存在している。自分がjokerを所有している必要はない。

7:偶数のPDAを全て収集する。
手段は問わない。
また既に破壊されているPDAは免除。

8:「ゲーム」の開始から24時間経過後に素数のPDA初期配布者全員と遭遇する。
死亡している場合は免除。

9:jokerのPDAの所有者を殺害する。
手段は問わない。

10:初期配布者が既に死亡、または首輪の解除に成功したPDAを3台収集する。手段は問わない。

J:「ゲーム」の開始から2日と23時間経過時点で、自分を除いて5人以上のプレイヤーが生存している。

Q:「ゲーム」の開始から24時間以上行動を共にした人間が首輪の解除に成功する。

K:自分のPDAの半径5メートル以内で首輪を3個作動させる。
手段は問わない。3個目の作動が2日と23時間経過前で起こっていること。


書いてある全てのルールを読み終わると良輔は一つ溜め息をついた。


「首輪に参加者、ルール、PDA、戦闘禁止エリアとそれに13通りの首輪の解除条件?自分のPDAを壊されるあるいは首輪の解除に失敗したら首輪が作動して・・・死ぬ?」


PDAに視線を向けルールを読むがそこに書いてあるのは荒唐無稽としか言いようがなかった。特に首輪の解除条件などは3人の特定の人物が死亡している必要のある【A】、無差別に3人が至近距離で死亡する必要のある【3】、生存者を5人以下まで削る必要のある【5】、jokerの所有者を殺害する必要のある【9】などを筆頭に他の解除条件も手段を問わないなど恐ろしいことが書いてある。間接的に殺して集めろと言っているようなものだ。


「ずいぶんと物騒なことが書いてあるみたいだが………」


ルール9に首輪の解除条件の文があったので確認のために機能を飛ばして【解除条件】を触る。


ピッ


【5】
《生存者を5人以下にする。
手段は問わない。
また、PDAの特殊効果で残り生存者数を表示する》


「………ルール9の通り、だけどPDAの特殊効果って何だよ?」


画面をトップに戻すと解除条件の下に『生存者数:13人』という表示があった。


「残り生存者数13人?俺以外にも人がいるってことか?」


つまり現時点で13人いる生存者を5人まで減らせばこの首輪を外せるということらしい。


「なるほど………つまり13台あるPDAにはそれぞれ異なった条件があって、それを満たすことで首輪を外すゲームってことか」


そしてPDAには競合する条件が多数あり、様々な利害が生まれるわけだ。例えば俺の【5】の解除条件なら【J】のプレイヤーとは相性が悪いみたいな関係になるし、jokerを一定時間保有する必要がある【2】とjokerの所有者を殺害する必要のある【9】の相性なども悪い、最悪なのは【A】と【J】【Q】【K】だ。どちらか一方しか生き残れない。【7】の解除条件のPDA収集が大変そうだが偶数ナンバーのPDAには直接殺人を指示しているものがないなど微妙に配慮されている。


「へえ~荒唐無稽で馬鹿馬鹿しいけど面白そうなゲームじゃないか………あれ?ちょっと待てよ」


良輔は自分の首から感じる違和感を思い出した。


「首輪ってもしかしてこれのことか?」


カチッカチッ


指でつつくと軽い金属音が聞こえる。


「………まさかな」


今はこんな馬鹿げたゲームのことよりもさっさとここから出よう。拉致犯がいつ戻ってくるのか分かったものではない。そんなことを考えながら良輔は立ち上がった。


その時である。


コッ、コッ、コッ


「!?」


不意に部屋の外から足音が聞こえた。
足音が大きくなっていることから誰かが近づいてきているようだ。


(まさか俺をここに連れてきたやつか!?)


その可能性は十分にあった。むしろ今まで放置している神経のほうが信じられないくらいだった。


(武器になりそうなものは何かないか!?)


良輔は武器になりそうなものを探して部屋を見渡す、しかしそんなものが都合よく落ちているはずもなかった。


既にその足音は部屋の前まで来ている。


(落ち着け………扉が開いたと同時に突っ込んで敵にボディーブローを入れて頭が前に出たところで首を締め付けてそのまま………)


良輔は自分にできる最善の方法を頭に浮かべながら身を構える。後は扉が開くタイミングさえ見誤らなければ…。


ギィッ…


ゆっくりと扉が開く、それと同時に良輔は扉に向かって走る。しかしそこに立っている人物は良輔にとってまったく予期しない人物だった。


「なっ!?」


良輔は扉の前で急ブレーキをかける。


「キャッ!!」


その人物は扉を開けるといきなり突っ込んできた良輔に驚いて尻餅をついていた。
金色のショートヘアーに女性にしては長身で同じ学校の制服を着ている。
首につけている銀色の首輪を除けばそれは良輔にとっても見慣れた人物だった。


「優希!?」


「良輔!?」


そして見知らぬ場所で二人は合流することになる。それがこれからの展開にどういう影響を与えていくのかはまだ誰にもわからなかった。









[22742] 02話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/10/26 04:04
【BET】
player suit card odds
北条良輔 ダイヤ 5 3.6
御剣優希 ???? ? 6.7
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??????? ???? ? ?????
Day 1日目
Real time 午前   11:20
Limit time 経過時間 1:20 残り時間 71:40
Flour 1階
Player 13/13





部屋から出てみると外は埃がそこら中に積もっている通路があった。通路はかなり複雑に絡み合っており部屋もここ以外にいくつか見える。


(おっとそれよりもすることがあった)


良輔は思い出したように視線を座りこんでいる女性に向けた。


「優希大丈夫か?」


「いきなり何するのよ、びっくりしたじゃない」


良輔が差し伸べた手をとりながら優希は体を起こした。


「いたた~骨折したかも………というわけで慰謝料頂戴」


「そんだけ減らず口叩ければ問題ないだろ?」


「ケチよね~そんなんだから彼女できないのよ」


お金頂戴と前に出された手に拳骨を入れると嫌味を言われた。


「余計なお世話だよ、馬鹿。そもそもお前だって彼氏いないだろうが」


「わ、私は彼氏がいないんじゃなくて作らないのよ、部活だって忙しいから」


ぷいっと拗ねたように顔を背ける。その姿がやたら滑稽で不意に笑みが零れた。


「もう、何笑ってるのよ…もしかして良輔って変態!?うわあ、変態の幼馴染なんて嫌だな~」


「変態はないだろ、変態は………リアクションがいちいち大げさなんだよ」


言葉のジャブを打ち合いながら両者睨み合うが急に自分たちがおかしく思えて二人とも笑った。


「それよりなんでお前がこんなとこにいるんだよ?」 


「そんなの私が聞きたいくらいよ、気づいたらここにいてしばらく歩き回ってたんだけど良輔の声が聞こえてきたからもしかしてと思ってここに来たのよ」


「………ちなみにどの当たりから聞いてた?」


「え~と、またこの夢か…とか夢の最後には必ず私が出てくるとかいうあたりからだったかな?」


「最初から聞いてたのかよ!?」


「それで良輔君は私でどんないやらしい夢を見てたのかな~」


ニヤニヤとからかうような笑みを浮かべる優希。まったくこの女は…溜息をつくと共に自分の迂闊さを呪う。


(まさか優希が近くにいたとは…)


優希はとにかく耳がいい、昔から遠くから聞こえる小さな音でもその耳で聴き分けてしまう。起きた場所が見たこともない場所だったことに加えて誰もいなかったからつい独り言を呟いてしまったのが運の尽きだった、正直に言うと超聴力まがいの優希の特技はプライバシー侵害だと思う。


「どうでもいいだろ?そんなこと」


「良輔の顔、真っ赤だよ?」


「人の顔が赤くなるわけないだろうが」


「まあ、何はともあれ最初に会えたのが良輔でよかったかもしれないわね」


クスクスと口に手を当てながら笑う優希。この笑い方はよく麗佳さんがする笑い方でこういうしぐさを見るとやっぱり親子なんだなと思う。


(まあ、外見はよく似てるよな………これで性格が男勝りなところがなければその辺の男から引っ張りだこだろうに)


どうやったらあの内気な少女がこんな風に育ったんだろう?きっと総一さんは優希の育て方を間違えたんだな、うん。


「まったくだな…俺も外から足音が聞こえてきたときは拉致犯かと思った………ってこんなことしてる場合じゃなかったな、すぐここから離れよう」


拉致犯のところで優希の表情が固まったのを見て思い出した。犯人がここに戻ってくる前に遠く離れる必要がある。悠長に立ち話している場合ではなかった、そう考えて優希の手を掴むと通路を歩きはじめようとした。


「あっ、ちょっと待ってよ。良輔の荷物はどうするのよ!?」


「忘れてた、ちょっとここで待っててくれるか?すぐ取ってくる」


「3秒で取ってきなさい」


「俺はカップ麺じゃねえぞ~」


「つべこべ言わずにさっさと行く!!後、カップ麺は3分でしょうが」


「へいへい」


優希に生返事を返すと荷物を取りに部屋に戻った。


「俺のかばんと他には……」


良輔は部屋に入って自分のかばんを掴むと忘れ物がないか見渡す。


「PDAか……」


これは自分のものではないがどうするか?


「良輔、荷物持ったなら早く行くわよ」


「言われなくても分かってるよ」


部屋の外から優希の声が聞こえてきたので返事を返す。


(万が一ということもなくはないかもしれないしな)


良輔は結局PDAをポケットに入れて部屋を出た。











良輔は最初に会った人間が知り合いだったのは幸運だったと考えている。これがもし見知らぬ人間なら拉致犯かもしれないと疑っていたことだろう。
部屋の近くにいるのは危険という共通の認識で自然と部屋から遠ざかるように良輔と優希は移動していた。


「そういえばあんたも気がついたらここで寝てたの?」


横を歩きながら優希が尋ねてくる。


「ああ、バイトに行く道から記憶がない。そっちはどこまで覚えてる?」


「う~ん、部活が終わってからの帰り道だと思う。それで目が覚めたらここのベッドで寝かされてて…もう最悪の気分だったわ」

確かにここのベッドは汚いし、埃をかぶっていた。男なのであまりそういうのは気にならないが男勝りなところがある優希もやはり女の子ということなのだろう。


「今なんか失礼なこと考えなかった?」


流石俺の幼馴染だ…鋭い。


「…吹奏楽部の練習か………コンクールもうすぐだったよな?主将だと苦労するだろ、俺も中学のときは卓球部の主将やってたからなんとなく分かるよ…うん」


追求されると怖いので話題を逸らすことにしよう、俺は嘘をついてない。


「ええ、最後の調整ってとこよ。高校最後のコンクールだから気合いれていかなきゃ…それなのに気づいたらこんな薄暗い廃墟に放り込まれてるし」


がっくり項垂れる優希。


「そういえば良輔も同じ首輪してるのよね?」


優希は俺の首に向かって指を指す。その言葉に良輔は首をかしげる。


「着けている首輪がなんで同じものだとわかるんだ?」


自分の首輪はもちろん自分では見えない。なぜ優希は同じものだと分かるのだろう?


「携帯の写メで確認したのよ、銀色の首輪でしょ?」


ああ、そうかその手があったか………


「はは~ん…さては気づいてなかったでしょう」


してやったりと満面の笑みを浮かべる優希。ぐうの音も出なかった。


「そうなると手がかりらしいものはこのPDAくらいね」


優希はそういってPDAを取り出す。


「ああ、これのことか?」


俺は何気なくポケットに入れたPDAを取り出した。


「ルールは読んでみた?」


PDAをいじりながらそう聞いてくる。


「一応読んだが書いてあることはめちゃくちゃだったぞ?」


優希に会う前に一通り読んだが書かれている中身は荒唐無稽なものだった。


「私もそう思うんだけどね………ただ私たちにも首輪が着けられてるみたいだからもしかしたらってこともあるかもしれないかなって思うのよ」


優希は不安そうな表情を作りながら首輪を触る。


「ちなみにそっちに書いてあるルールは何番だったんだ?」


「えっと初期配布されてるっていうルール1と2。それから6と7のルールが書いてあったわ」


「ふ~ん、ちょっと読んでみてくれるか?」


「OK、よく聞いてね」


【ルール6】
《開始から3日間と1時間が過ぎた時点で生存している人間全てを勝利者とし、ゲーム終了時点のPDA所有数を配布率として賞金20億を勝利者に配分する、さらにゲーム終了時点にjokerを所有していたプレイヤーには追加で10億の賞金が与えられる。》

【ルール7】
《開始から6時間以内は全域を戦闘禁止とする。違反した場合、首輪が作動する。正当防衛は除外する。》


良輔は優希の持っていたルールを聞いてますます合点がいかなくなった。


「仮に俺たちをその参加者だとしてなんで拉致してきたやつに賞金なんか出すんだ?」


まずそれである。そんなものを出す必要性が皆無のような気がした。ここまで来ると拉致されてきたとかじゃなくてどっかのTV番組にでも放り込まれているのではないかという気がしてくる。まあ、本人の許可なくそんなことをするはずもないが…


「私に聞かれても知らないわよ、そっちのPDAには何番のルールが書いてあったの?」


「俺のPDAにはルール1と2以外には戦闘禁止エリアについて書かれた8と首輪の解除条件が書かれた9が記載されていた、読むぞ」










目覚めた部屋で確認した長ったらしいルールを読み終えると優希はルールをメモ帳に写しているところだった。


「さっきから何してんだよ?」


「一応メモをとっておいたほうがいいかなと思って…これでよしっと」


カチッとシャーペンを引っ込める音がする。


「あと分かってないのはルールの3と4と5ね」


「おいおい、こんな馬鹿げたルールを信じるのか?」


ちょっと…というかかなり意外だった。優希はあまりこういった類のゲームが好きではなく、馬鹿馬鹿しいとよく俺に言っている。


「私も別に信じてるわけじゃないけどもしかしたらってこともあるかもしれないじゃない………それにお父さんがあの時言っていたゲームってまさか」


最後のところがゴニョゴニョといった感じの言葉になっていてよく聞こえなかった。


「あん?総一さんがどうしたって?」


「何でもないわ、それよりも…」


そういってメモ帳をしまう。


「これからどうする?」


「とりあえず出口を探すほかないだろ」


それしかなかった。


「出口の見当でもあるの?」


「まったくないな…せめて地図でもあれば」


歩いて30分にもなろうというのにどこを歩いているのかさっぱりわからないどれだけでかい建物なんだろう。


「地図ならあるわよ」


優希はPDAをいじると地図らしきものが書かれている画面を俺に向けてきた。


「その地図はどこにあった?」


「PDAのトップから機能をタッチすれば地図の項目が出てくるからそれをタッチすれば見えるわ」


俺も優希の指示通りにPDAを操作する。


「おっ、なんか出てきた」


PDAには白地図が表示されている。


「6階建てなのか?本当にこれがここの地図だとしたらどんだけでかいんだよこの建物は」


「現在地が分からないのも問題よね」


優希の言うとおりこの地図には現在地が表示されていなかった。


「優希…ここに来るまでになにかしら変な音を聞いたりはしてないのか?」


「良輔の独り言以外は何も…本当にこれだけの広さがあるなら私でもカバー仕切れないわね、何か大きな音でも鳴ればいいんだけど………」


こいつちゃっかり俺の独り言を変な音認定してやがる……そして反論できん。


「まあ、地図も見つかったことだし出口をさっさと探すか?早く帰らないと総一さんにどやされる」


「それもそうね、帰ってシャワー浴びたいし」


背伸びしながら優希はそう呟いた。


「うわ、汗くさ」


わざとらしく鼻を摘んでみせる。


「良輔、面白い冗談ね?ちょっと半分ぐらい死んでみようか?」


「………すまん、俺が悪かった。というかそんな器用な死に方できないから」


ゴゴゴと優希の背中から青い炎が立ち上がる様を見て恐れおののく。


(昔の純粋無垢だったころの優希が懐かしい………)


良輔は心の中で昔の記憶を回想するがなんか虚しかった。


いきなりどこか遠い目をしながら昔を思い出している良輔を優希は色んな意味の悲しい目で見ていた。


(呪われた能力だから…か)


独り言ではそうとも言っていた。


良輔が優希の能力を知っていたように優希も良輔の能力を知っている。
直観像記憶能力、大人になるにつれて消えていくはずの能力を未だに自分の幼馴染は保有し続けている。
そしてその能力のせいで毎夜のように悪夢にうなされていることも自分の耳に入ってきていて、そのことを知りながら何もできなかった。


(私に一体何ができるんだろ?)


優希は自問自答するが、その答えは………いまだ出ない。







[22742] 03話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/10/26 04:11
【BET】
player suit card odds
北条良輔 ダイヤ 5 3.6
御剣優希 ???? ? 6.7
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Day 1日目
Real time 午後   0:37
Limit time 経過時間 2:37 残り時間 70:23
Flour 1階
Player 13/13




「静かすぎるな…」


俺たちは出口を探して移動を続けていたがその間この建物は不気味といえるほど静かだった。俺たちをここに連れてきた犯人はもちろんこの建物にいるという11人のプレイヤーにも出会えなかった。


「本当よね、出口も見つからないし困ったわね」


優希の口から思わず溜め息が出る。しかし次の通路を曲がった時に明るいものに変わった。


「良輔!?あれを見て!!」


「階段か?いや、でもあれは…」


通路を曲がった先にあったのは確かに階段だった。しかしその階段は天井まで瓦礫が積まれ、それを幾重にも巻かれた鉄条網が固定していた。


「封鎖されているみたいだな…」


「PDAに書かれてる地図には階段が5つ書き込まれててそのうちの4つには×印が書き込まれてるから多分これが使えない階段っていう意味なんだと思う」


PDAを見ながら優希がそう答える。


「とにかくこれでやっと現在地が分かるわね、近くに行ってみましょ?」


確かにこの場所からなら自分たちの移動経路を照らし合わせれば現在地を把握できる。


「優希、ちょっと待て」


振り返ると良輔が難しい顔を作っている。


「どうしたのよ?」


しかし何故肩をつかまれるのか優希にもわからなかった。


「あれを見ろ」


優希はなんだろうと思いながら良輔の指差す場所を見る。
そこで優希は通路の真ん中の床に不自然に盛り上がった箇所があることに気が付いた。


「まさかこの能力が勉強以外に役立つ時が来るとは思わなかったな」


良輔は思わず苦笑する。


現在地を把握するために正常な通路を見比べながら進んでいたことが幸いしてすぐに違和感に気付いた。


「あのふくらみは何かしら?」


「考えられるものとしては………トラップぐらいか?」


何の意味もないということはないと思うが………


「もしトラップだとしてどんなものがあるか確認しておきたいな…作動させてみるか?」


「でもあれがトラップだったら危険じゃない?」


「手前にある部屋から何か持ってきてあの盛り上がった部分に投げ込んでみよう…実は、地雷でしたなんて冗談もあったりしてな」


「それはぞっとしないわね」


俺の冗談に優希は青い顔で答える。


そして俺たちは投げ込むものを探すべく手前の部屋に入った。











◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇










「なんかガラクタしかないな」


俺は近くにあったダンボールを適当に開けて中身を物色する。


「おまけに埃っぽいし、早く帰ってシャワー浴びたい…」


横ではダンボールを開いたときに出た埃で咳こんでる優希がいる。


「その発言は一体何回目だよ、耳にタコができるぞ」


「あん?なんか文句でもあるの?」


「そりゃ横で同じこと何回も言われ続けりゃ愚痴のひとつでも言いたくなるだろが」


「もう、良輔は分かってないわ!!良輔には自分の身をいつでも清潔に保っていたいという女心が分からないの?」


勢いよく立ち上がり目に強い意志を燃やしながらそう高らかに宣言する優希。


「男の俺に女心なんて説かれても分かるわけないだろ?」


呆れ半分に話を聞きながらダンボールにガラクタを詰めていくこれをあの盛り上がった床に投げ込んで罠を作動させるつもりだった。


「ほら」


作業していると優希から何か手渡される。


「なんだよこれ?」


「何ってスナック菓子よ、もう1時前だからお腹空いたんじゃないかと思って」


見れば優希も同じものをかじっている。


「サンキュ、気が利くじゃないか?」


「別にそんなんじゃないわよ、それ食べて早く作業を終わらせなさいって話」


「へいへい」


スナック菓子の包装紙を破ると食べながら作業を進めた。


「大体こんな感じか…」


ダンボールを抱えて重さを確かめる。


「準備できた?」


「ああ、これでいけるはずだ」


「じゃあちゃっちゃと終わらせましょ」


そういって部屋から出ていく優希。


(やれやれ現金なやつだよ、まったく)


「どうしたの良輔?早くいくわよ」


「オーライ」


俺はスナック菓子を全部口に放り込み、優希の後を追って部屋を後にした。











◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇










「さて、鬼が出るか蛇が出るか?」


持ってきたダンボールを盛り上がった床に放り込んだ。


カチッという音と共に床が沈み込む。


その次の瞬間に沈み込んだ床の横のあたりの壁が開いた。


そこから小型の手斧のようなものが飛び出し、誰もいない空間を薙ぐ。もちろん手斧は空を切り、勢いそのままに壁に激突した。


俺たち二人はその光景を少し離れたところから見ていた。


「おいおい、マジかよ?」


手斧は壁のコンクリートを砕き、壁の中にめり込んでいる。
あれが当たっていれば怪我では済まないだろうことは容易に想像がついた。


思わず良輔の背中に冷や汗が流れる。


「拉致犯に…明らかに人が死んでも良いと考えている危険な罠か、良輔はどう思う?」


「…ああ、多分お前と同じことを考えてると思うぞ、どうやらこのPDAに書かれているものが本当だという前提で動いたほうが良さそうだ」


俺はそういって壁にめり込んでいる手斧を見る。


「そうね、どう見ても冗談でやる部類のものじゃないわね、これは」


「この手斧はもらっていくか?身を守る手段はあったほうがいいしな」


壁にめり込んでいた手斧を引っ張りだす。手斧を抜いたときにコンクリート破片がパラパラと床に落ちた。


「それで私たちはどこにいるのかな?」


優希がメモを取り出す。


「俺たちが今いるのはここだな」


移動した経路を思い浮かべながら俺は×印の書かれた階段の1つを指差す。


「これからどうするかよね、問題は」


「ここの出口のようなものがあるホールに行くのが妥当だろうな…優希?」


「ちょっと静かにして…」


横を見れば優希は目を閉じて両手を耳に当てている。


「…何か聞こえる。助けを呼んでいるみたい」


きょろきょろと周りを見渡す。


「こっちよ、良輔」


それだけ言うとすぐに走り出してしまった。


「おい、ちょっと待てって!!」


慌てて優希を追いかける。


「急いで良輔、急がないと間に合わないかもしれない!!」


「助けを呼んでるってことは危険があるってことだろ?」


「だから助けに行くんでしょう!?」


「阿呆、君子危うきに近寄らずっていうだろうが!!俺は助けに行くのには反対だ!!」


俺は優希の手をつかんで無理やり止まらせる。


「そんなこと言ったって見殺しになんてできないでしょ!?」


「見殺しにするんだよ!!俺たちの安全には代えられないだろう!!」


「なっ!?」


優希は驚いた表情を作り、怒りの込もった目で見つめてくる。


「良輔、それは…本気で言ってるの?」


通路に鋭く低い声が響く。


「ああ、赤の他人のために危険を冒す必要はないだろう?」


不穏な空気があたりに立ち込める。


「…そっか。良輔ってそういう人間だったんだ」


「優希?」


「気安く呼ばないでよ!!」


パシっと掴んだ手を剥がされる。


「お、おい」


「良輔は自分だけが助かれば良いの?助けを求めてる人を危険だからって理由つけて、見捨てるの?私はそんなの嫌だから!!だから私は助けに行く、良輔の手なんか借りない」


「違う、俺はただ…」


「何も違わなくなんてない!!あんたは精々他人に無関心を決め込んで、危険なことに巻き込まれなかった自分は偉いって悦に浸ってればいいじゃない!!…良輔なんて大っ嫌い!!」


そう言って優希は音を追って走って行ってしまった。


「俺はただ…お前のことが心配なだけで」


独り言が通路に満ちる。


「俺が間違ってるのか?なんで自分が危険な目に遭ってまで他人を助けなきゃいけないんだ?そんな義務は俺たちにはないじゃないか?」


不意に優希の向かった方角から爆発音が聞こえた。


「んっ?」


辺りを見渡す。


「今なんか聞こえたか?」


また爆発音が聞こえる、それも前の時よりも少し音が大きくなっているようだ。
自分が動いていないのに音が大きくなっている…ということは


「近づいて来ているのか!?くそ、優希」


慌てて優希の後を追う、間に合ってくれと祈りながら…











◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇










優希は一人で助けを呼ぶ声に向かって走っていた。


「誰か!!誰もいないのか!?」


それは大人の男性と思われる低い声だった。


「近くに誰かいる!?あっちから声が聞こえた!!」


そのまま左の通路に入っていく。


その通路はI字になっており、優希の目に映ったのは両肩にひどい火傷をした白衣を着た40代後半ぐらいの男性が右の通路からこちらに向かって左折してきたところだった。
その男性は切羽詰まった表情をしていたが優希を見つけると安堵の表情を見せた。


「嬢ちゃん、た、助けてくれ!!」


「落ち着いてください!!いったい何があったんですか!?その怪我は一体!?」


優希はその時、男の首輪が赤いランプを点灯させていることに気がついた。


『あなたは首輪の条件を満たすことができませんでした』


(条件を満たすことができなかった?)


優希は首輪から鳴るアラームに不審な気持ちを抱きながら男の様子を伺っていた。


「わからねえ!!けどラ、ラジコンのヘリコプターみたいなのに追われてんだよ!!」


「え?ラジコンヘリ?」


前を見るとラジコンヘリが3機ほどこっちに向かって飛んできていた。


「く、くそ。もう追いついて来やがった」


そういって男は優希を避けてそのラジコンヘリから逃げるように走り出す。


「きゃあ!?」


ラジコンヘリはそのまま優希の横を通過していった。
ラジコンヘリの移動スピードは予想以上に速く、いち早く逃げていた男の背中に直撃した。


重なる3つの爆発音


「ぐあ!?」


男が悲鳴を上げてその場でうずくまる。


「え!?ば、爆弾!?」


思わず後ろを見るとラジコンヘリが1機、男の頭部目指して飛行してきている。


「おじさん、前です!!避けてください!!」


しかし男はうずくまっているので前のラジコンヘリに気づいてない。


「くそ!!だから危険だって言ったんだ!!」


「良輔!?」


自分が通ってきた通路から良輔が悪態をつきながら出てきた。ちょうどラジコンのすぐ後ろにいる。


「ピッチャー、第一球…投げました!!」


良輔は移動する際に持っていたままだった手斧をそのラジコンヘリに向かって投げつけた。手斧は逃げるように移動するラジコンヘリに見事にヒットする。


爆発音が鳴りラジコンヘリが男の前でバラバラになった。


「優希!!おっさんの左を頼む!!」


「分かったわ」


優希が男の左側、俺が右側を支える。


「おい、おっさん!!しっかりしろ!!」


「くそ、俺としたことが……だまされたぜ」


男はそう呟くと血の塊を吐いた。


「あん?だまされたってどういうことなんだ!?」


「しっかり!!しっかりしてください!!」


良輔たちはすぐ近くにある部屋に入って隠れようとする。しかし……


「お前ら………俺を放っておいて………逃げろ………もう…十分だ、俺は………もう助からん」


そういって男は前を見るとそこには新たにラジコンヘリが前から5機飛んできていた。


優希はすぐ後ろからもラジコンヘリの飛んでくる音を聞き取っていた。


「良輔!!後ろからも3機飛んできてる!!」


「挟まれたのか!?」


二人の悲鳴ともとれる声が通路に響く。


「ちっ」


男は短く舌打ちすると二人の肩に置いてあった手で良輔と優希の首根っこを掴み。


「うおおおおおおおお!!」


最後の力を振り絞って左右から支えていた二人を扉に放り込んだ。


「うわ!!」


「きゃあ!?」


良輔と優希が部屋に倒れ込むと同時に扉が閉まる。


「ぐわぁぁぁあああ!?」


それとほぼ同時にすぐ外で悲鳴と爆発音が協奏曲を奏でる。


「おっさん無事か!?無事なら返事をしてくれ!!」


「まさか、そんな…こんなことって………」


扉を叩く良輔と放心する優希。


ピロリン、ピロリン


そんな二人を嘲笑うかのように良輔のPDAから電子音が鳴り響く。


良輔が震える手でPDAを確認する。


『生存者数:12人』


PDAの画面には無機質にそう表示されていた。









[22742] 04話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/10/26 04:18
【BET】
player suit card odds
北条良輔 ダイヤ 5 3.8
御剣優希 ???? ? 6.5
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Day 1日目
Real time 午後   1:34
Limit time 経過時間 3:34 残り時間 69:26
Flour 1階
Player 12/13





爆発音が鳴り終わった後、しばらくしてから俺たちは部屋を出ようと試みた。
外にあるだろう死体を確認するために。


「ん?開かないな?」


しかしどうやら死体が壁にもたれかかった状態になっているのか扉を開けることができなかった。


「しょうがない、違う出口から出て回り込むか?」


仕方なく違う扉から出て同じ場所に戻ろうとする。


「あ、あのさ良輔?」


「あん?何だよ?」


部屋から出た後、通路を歩いている途中に今までだまっていた優希に横から話しかけられる。


「その、さっきはごめん。酷いこと言って」


「…俺は気にしてねえよ、御剣」


「もう、気にしまくってるじゃない!?」


そこまで言って言葉に詰まる優希。俺はそれを見て溜息をつく。


「…あのさ、また優希って呼んでもいいか?」


頬を掻きながらそう答える。


「え?あ、うん、いいよ…じゃなくてそっちで呼びなさい!!今更、良輔に苗字読みされるなんて鳥肌が立つから」


一瞬呆けた表情を作る優希だったがそう言ってすぐ鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまう。


「あっそ」


鳥肌は言い過ぎだと思う。


「それから助けに来てくれて…その、ありがと。ちょっと嬉しかった…だから大嫌いって言ったのは取り消してあげるわ、感謝しなさいよ!」


顔を背けているので表情は見えなかったが少し笑っているような気がした。


「へいへい」


「もう、感謝の気持ちが全然こもってない!!もう一回!!」


相槌が気に入らなかったのかがばっと振り返って文句をつけられる。人差し指で人を指すのはどうかと思うが。


「………ありがとよ」


話がこじれるので適当にお礼を言うことにした。


「よろしい」


満足そうに笑みを浮かべる優希を見て思わず胸が高鳴るのを感じた。


(やれやれこの笑顔に騙されてるんだよな俺)


思わず溜息をつく。


そうしてるうちに元の場所まですぐ近くの場所まで来た。


「さて、ここを曲がれば元の場所に戻るが…」


多分この先にはあの男の死体があるはずだ…そう考えると嫌気がする。


「良輔はここで待ってて私が確認してくるから…」


1人で先に行こうとする優希の腕を掴んだ。


「何言ってんだよお前は?」


「だって良輔、あんたは…」


その先で口を噤んだ。


「阿呆…」


優希の頭に手を乗せてクシャクシャにする。


「今更一人分ぐらい増えても変わらねえよ、お前こそここで待ってろ」


そういって行こうとするが不意に手を掴まれる感触がした。


暖かい。


「はあ、後悔しても知らんぞ」


手を繋いだまま二人は通路を曲がる。











◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇










「良、良輔?やっぱりその人はもう…」


言いにくそうにうつむく優希。


「ああ、もう死んでる………みたいだ」


曲がった先にあったものは予想通りさっきの男の死体だ。
もはや原型を留めていない、白衣の男を見下ろす。着ていた白衣もそこら中が焦げていたり血で赤く染まっていたりで白の部分がほんのちょっとしかない。


「そっか」


優希は死んだ男に手を合わせて黙祷する。


「ごめんなさい、助けてあげられなかった」


水滴が床に落ちる音が聞こえてきた。


「優希、吐けるなら吐いておいたほうがいいぞ?」


優希の背中をさすろうとするが…


「ううん、大丈夫…だから」


そういって優希は首を横に振った。


「そうか…ん?」


男に近づくとまたPDAが鳴り始めた。今度は優希のPDAも。
PDAには今発動した仕掛けの説明が映し出されていた。


【爆走ラジコンヘリ】


『首輪が作動した者の首輪に向け、爆薬を搭載したラジコンヘリが飛行してくる。爆薬の量はきわめて少なく一度当たったくらいでは死なない。別タイプに爆走ラジコンカーがあるから今度はそっちを引き当ててみてね(笑)』


「ちっ」


忌々しくPDAを睨む良輔。


「これで疑う余地はなくなっちゃったわね………首輪もPDAもルールも」


ルールに違反すれば殺される、ゲームは本物という前提で動いていた俺たちだがその事実を眼前に突き付けられた気分だった。


「身元がわかるようなものを探してみるか?ご遺族にも知らせてやる必要がある」


そういってボロボロになった遺体の体をまさぐる。


「そうね、あまり遺体を動かすなんて真似はしたくないけど…」


少し後ろではなんとも言い難い表情をした優希が立っていた。


(本当のこと言うと調べたいのはPDAなんだがな)


ゲームが本物である以上、急務はルールを全て把握することだ。この男の持っているPDAに俺たちの知らないルールがあるかもしれない。そう考えて男の死体を調べ続けるが。


(おかしいな?PDAがないぞ?)


しかし調べても調べてもPDAが見つからない。


(考えられる線としてはどっかにPDAを落としたかあるいは…誰かに奪われたか)


そういえばこの男は死ぬ間際に誰かに騙されたと言っていたことを思い出した。


(そうなると後者の線が有力か…)


だが俺たちはこの男が死んだ場所の近くにいたからもし死んだ後に人が近寄ってきていたなら優希の人間音響センサーに引っかかっているはずだ、そうなるとPDAを取られたのは首輪が作動する前ってことになるのか。


(どうやらやっかいなことになってきたな)


良輔は心の中でそうぼやく。


「どう?何か身元のわかるようなものはあった?」


「ああ、これだ」


良輔は優希に一枚のカードを投げ渡す。


「運転免許証?え~と名前は飯…田……章吾さん。職業は医者…かな?住所は…焦げてて読めないわね?」


焦げた免許証を見ながら確認する優希。


「!?」


「どうかしたのか?」


免許証を調べていた優希がいきなりきょろきょろ視線を動かし始めた。


「誰かこっちに近づいて来てる」


静かにそう呟く優希。


「人数と来る方角はわかるか?」


手を耳に当てて音を探る優希に問いかける。


「任せて、多分人数は3人…固まって移動しているわ、方角は私たちの来た道とは反対方向ね、まだちょっと距離があるけど…どうする?」


もし、近づいてくる人間がプレイヤーならルール交換ができる。しかし近づいてくる人間が犯人側の人間ってことももちろん考えられるわけだ。


少し悩んで俺の出した結論は…


「一旦、通路を戻って身を隠そう。それで話ができそうなら接触、できそうにないなら逃げる。それでどうだ?」


「妥当な線ね、遠くからでも私には話の内容がわかるわけだし」


意見が一致したのですぐに俺たちは通路を引き返して通路の角に隠れた。


少し経ってから3人の人間が姿を現す。


遠目だが男が2人と女が1人のようだ。3人全員が首輪をつけている。


会話をしながら来ていたみたいだが遠くて俺には聞こえない、俺にはだが…


3人は死体のところで立ち止まり女性が死体を見て悲鳴を上げたところで後ろから軽くつつかれる感触がする。


振り返るとメモを手渡される、優希が向こうの会話をメモに書きだしたものだ。


メモにはこうかかれている。


男A:さっきこっちのほうから悲鳴が聞こえてきたはずなんだが


男B:何か進展があればいいけど…


女A:僕としては早くルールを把握したいところね。気付いたらルールに違反してましたなんて洒落にならない。


男B:柊の姉ちゃんはゲームを信じるの?


女A=柊:3人も誘拐してきて首輪つけてPDA持たせてこんな場所に放り込んでそれがただの冗談でした、本当はただの誘拐事件でしたっていうほうが僕には信じられないね。


男B:う~ん水谷のおっちゃんはどう思う?


男A=水谷:冗談であればいいとは思うが柊のお嬢ちゃんの言うとおり俺たちには首輪が着けられてる。もしPDAのルールが本物ならと思うと迂闊な行動は取りたくないな。そういう一ノ瀬はどう思ってるんだ?このゲームの真偽を


男B=一ノ瀬:僕はイマイチピンとこないんだよね。いきなり殺すとか殺さないとか言われてもさ。


水谷:それには同意だな、日本でこんな真似ができる場所なんてあるのか?もし真実だったとしてなぜ俺たちにこんなことをさせるのか?そこに意味なんてあるのか?わからないことだらけだな


柊:ふん、ゲームを信じないならあんたたちなんてさっさと………


水谷:おい、どうした!?ってなんだよ、あれ?


一ノ瀬:え?何が?


水谷:前に死体が転がってる。


一ノ瀬:死体って誰か死んでるの?


水谷:ああ、男の死体だ。調べれば何か手がかりが掴めるかもしれないな。


メモはそこで終わっている。どうやら水谷という男が死体を調べている間に会話はないようだった。


(さて、メモを見た限りだと話しかけてみるのが得策か…)


PDAを確認するが経過時間は4:20だ。


ここで彼らと接触しておけば持ってないルールがわかるかもしれない。


「優希、あの人たちと接触しようと思うがいいか?」


後ろを振り返って確認を取る。


「ええ、私もそれがいいと思ってる」


優希も賛成か…それなら


「よし、行くか?うまく話を合わせてくれよ?」


そして俺たちは通路に出て行った。


「そこにいるお前ら!!」


突然声に驚いて3人は振り向く。


「ここでいったい何があった!?そこにいるやつはどうしてああなった?」


嘘だ。


近くに来たことで全員の姿がはっきりと見えるようになる。


一人目は少年だった。


黒色の短髪で背は低く165㎝といったところか?


多分中学生くらいの年代だろう。


少年は微笑みながらこっちに向かって手を振っている。


二人目は女の子。


年は俺たちより下だろう。


身長はこの中で一番低く150㎝とちょっとぐらい。


端整な顔つき、綺麗で長めの緑色の髪をおさげにしており


黒を基調とした学生服に身を包み控えめな胸を抱き込むように腕を組んでいる。


柊というらしいその女性は黒縁メガネの奥から切れ目の鋭い瞳でこちらを睨んでいた。


最後は成人男性だ。


背は俺より少し高く、180ちょうどといったところか?


細身ではあるが締まった体をカジュアルな服で包んでいる。


燃えるような赤い髪が目を引いた。


「俺たちは助けを呼ぶ声が聞こえて駆けつけたらすでにこの有り様だった!!お前らは?」


答えたのは赤髪の男だ。


「俺たちは女性の悲鳴が聞こえたのを聞いて駆けつけてきた!!俺たちは気づいたらここに連れ込まれていたがお前らは俺たちをここに連れてきた拉致犯じゃないんだな!?」


まあ自分は拉致犯ですなんて自己紹介するやつもいないと思うが相手を疑うことで自分が疑われにくくするというのは常套手段だ。


「うん、僕たちも気づいたらここにいたんだ!!」


今度は黒髪の背の低い少年が答える。


「念のため、首輪とPDAを確認したい!!俺たちのはこれだ!!」


そういって俺と優希は自分の首輪とPDAを見せる。もちろんPDAは画面を見せていない。


「確認した!!俺たちのはこれだ!!」


柊が少し渋ったが赤髪の男が肘でつつくとPDAを取り出した。


「私たちは今までの経緯と今後について話し合いたいんです!!後ろにちょうど話合いのできる広い部屋があるのでそこで話し合いましょう、話す気があるなら私たちについてきてください!!」


俺と優希はそれだけ言って少し後ろにある扉に入っていく。


「行ってみるか」


赤髪の男は呟く。


「ちょっと大丈夫なの?」


柊は明らかに胡散臭いとでも言いたげだ。


「今は戦闘禁止時間だ。問題はないだろうさ」


柊にそう答える赤髪の男。


「僕も行ってみるのに賛成だよ、ここに居たってどうにかなるわけじゃないんだしルールだってわかるかもしれないじゃない?」


少年は腕を頭の後ろに組みながら赤髪の男を支持する。


「まあ、それもそうね」


そして柊も渋々納得する。


そうしてこの三人は良輔達の後を追いかけて小広い部屋に入って行った。











◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇










死体から少し離れた小広い部屋に来た俺たち5人はルールの交換とこれからの方針を話し合うために車座に座っている。


「さ~てと、それじゃあさっさとルールを確認しようぜ。俺たちはいったい何をすれば死ぬのか?どうすれば助かるのか?」


赤髪の男は真剣な表情でPDAを取り出す。


「今後の方針を決めるのにも必要なことですから異論はありません、しかしルールの確認よりももっと重要なことがありますよ」


したり顔で笑う優希。


「その心は?」


「きちんと自己紹介しておきましょうよ、みんなここにいる人たちのことはほとんど知らないんですから」


赤髪の男に向かってニコリと微笑む優希


「おっとそりゃ失礼。俺としたことがコミュニケーションの基本を失念してたみたいだ」


赤髪の男はきょとんとした表情を浮かべたがすぐ可笑しそうに笑いはじめた。


「じゃあまずは言いだしっぺの私から、私の名前は御剣優希。高校3年生で趣味はピアノ。ここへは部活帰りにさらわれたみたい、じゃあ次は良輔」


優希は隣に座っている俺を指名してきた。


「俺は北条良輔だ。同じく高校3年生、学校が終わってバイトに行く途中から記憶がない」


それで俺の自己紹介は終わる。


「ちょっといいか?」


横では赤髪の男が手を挙げていた。


「お前らは知り合いなのか?」


「はい、私と良輔は幼馴染です」


赤髪の男の質問に優希が答える。


「ということはあながち無差別に誘拐してきてるわけじゃないのかもしれないね」


少年が何か考えるように呟いている。


「ついでですから次でどうです?」


頷いて立ち上がる赤髪の男。


「え~と知ってる奴もいると思うけど俺の名前は水谷祐二だ。ここへは仕事の帰りに連れてこられたらしい、まあよろしく頼む」


赤髪の男、水谷はそう自己紹介を終えてふたたび座り込む。


「次は僕かな?あらためて初めまして、僕は一之瀬、一之瀬 丈。一番の一で、ノはカタカナ、浅瀬の瀬で体が丈夫の丈。中学2年生で趣味はパソコン。多分学校帰りにさらわれたんだと思う」


一ノ瀬と名乗った少年は勢いよく立ち上がってそう答えた。


そして最後は柊という女性だ。


「僕の名前は柊 桜。今年から高校に入学したの」


柊という女性はぶっきらぼうにそう答える。愛想のかけらもなかった。


「さてと、これで全員の自己紹介も終わったわけだし、本題に入ろうぜ」


「わかりました、まずはルールの確認をしましょう」


水谷の言葉に優希はそう答える。


(さて、ルールが全て揃えばいいが)


場を仕切ってルールを埋めていく優希を見ながら良輔はそう思った。







[22742] ルール
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/10/26 04:22
原作と一部ルールが違います。気をつけましょう。
【ルール1】
《参加者には特別製の首輪が付けられている。
それぞれのPDAに書かれた条件を満たした状態で首輪のコネクタにPDAを読み込ませれば外すことができる。
条件を満たさない状況でPDAを読み込ませたり、自らのPDAを破壊されたりすると首輪が作動し、15秒間警告を発した後、建物の警備システムと連携して着用者を殺す。
一度作動した首輪を止める方法は存在しない。》
【ルール2】
《参加者にはルールが4つずつ教えられる、与えられる情報はルール1と2と3~9のうちから2つずつ与えられる。》
【ルール3】
《PDAは全部で13台存在する。
13台にはそれぞれ、異なる解除条件が書かれており、開始時に参加者に1台ずつ配られている。この時のPDAに書かれているものがルール1で言う条件にあたる。
他人のPDAを奪っても良いが、そのPDAに書かれた条件で首輪を外す事は不可能で、読み込ませると首輪が作動し着用者は死ぬ。》
【ルール4】
《最初に配られる通常の13台のPDAに加えて1台jokerが存在している。
jokerはいわゆるワイルドカードで、PDAの機能を他の13台のPDA全てとそっくりに偽装する機能を持っている。制限時間などは無く、何度でも別のカードに変える事が可能だが、偽装したPDAの条件をクリアしてコネクトしても判定をすり抜けることはできず、一度使うと1時間絵柄を変える事ができない、
また解除条件にPDAの収集や初期配布者への遭遇があった場合にもこのPDAでは条件を満たすことができず、さらにこのPDAを破壊しても他人の首輪を作動させることはできない》
【ルール5】
《侵入禁止エリアが存在する。初期では屋外のみ。
侵入禁止エリアへ侵入すると首輪が作動し警備システムに殺される。
また、2日目になると侵入禁止エリアが一階から上のフロアに向かって広がり始め、72時間経過後には館全域が侵入禁止エリアとなる。》
【ルール6】
《開始から3日間と1時間が過ぎた時点で生存している人間全てを勝利者とし、ゲーム終了時点のPDA所有数を配布率として賞金20億を勝利者で山分けする、さらにjokerを所有していたプレイヤーは追加で10億の賞金が配布される。》
【ルール7】
《開始から6時間以内は全域を戦闘禁止とする。違反した場合、首輪が作動する。正当防衛は除外する。》
【ルール8】
《指定された戦闘禁止エリア内での戦闘行為及び指定された戦闘禁止エリアの中にいるプレイヤーへの攻撃を禁止する。違反した場合、首輪が作動する。》
【ルール9】
PDAの解除条件は以下13通りとなる。
A:ジャック・クイーン・キングのPDAの初期配布者が死亡している。手段は問わない。

2:「ゲーム」の開始から6時間経過後、jokerのPDAを6時間以上保有する。
また、PDAの特殊効果で半径1メートル以内ではjokerの偽装機能は無効化されて初期化される。

3:自分のPDAの半径5メートル以内で3人以上の人間が死亡する。手段は問わない。

4:他のプレイヤーの首輪を3つ破壊する、手段は問わない。

5:生存者を5人以下にする。手段は問わない。
また、PDAの特殊効果で残り生存者数を表示する。

6:「ゲーム」の開始から6時間経過後、偽装機能を使用されている状態のjokerが自分のPDAの半径1メートル以内に累計して6時間以上存在している。自分がjokerを所有している必要はない。

7:偶数のPDAを全て収集する。手段は問わない。既に壊れているPDAは免除。

8:「ゲーム」の開始から24時間経過後、素数のPDAの初期配布者全員と遭遇する。死亡している場合は免除。

9:jokerのPDAの所有者を殺害する。手段は問わない。

10:死亡、または首輪の解除に成功したプレイヤーのPDAを3台収集する。手段は問わない。

J:「ゲーム」の開始から2日と23時間経過時点で自分以外に5人以上のプレイヤーが生存している。

Q:「ゲーム」の開始から24時間以上行動を共にした人間が首輪の解除に成功する。

K:自分のPDAの半径5メートル以内で3個の首輪が作動していて、更に3個目の作動が2日と23時間の時点よりも前で起こっていること。



[22742] 05話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/10/26 04:31
【BET】
player suit card odds
北条良輔 ダイヤ 5 3.6
御剣優希 ???? ? 6.2
??????? ???? ? ?????
柊桜 ???? ? 7.9
??????? ???? ? ?????
??????? ???? ? ?????
??????? ???? ? ?????
??????? ???? ? ?????
一ノ瀬丈 ???? ? 6.5
??????? ???? ? ?????
??????? ???? ? ?????
飯田章吾 ???? ? Death
水谷祐二 ???? ? 3.0
Day 1日目
Real time 午後   2:51
Limit time 経過時間 4:51 残り時間 68:09
Flour 1階
Player 12/13




ルールの1と2は全員のPDAに記載されているので省略。
3は水谷、4は柊、5は一ノ瀬、6は優希と一ノ瀬、7は優希と柊、8は良輔と水谷、そして最後の9は良輔のPDAにそれぞれ記載されていた。
1~8までのルールはともかく9のルールを良輔が読み上げた時は皆の表情が暗くなった。
ルール9には首輪の解除条件についてかかれており、中には殺害なんてものがあるからだ。





「ここに俺たちを連れ込んだ奴らは俺たちに殺し合いをさせたいらしいな」


水谷はルールをメモしながらそう呟く。


「そして僕たちはルールを信じるしかない…なぜなら既に1人殺されているから」


柊は水谷の独り言に律儀に反応する。


「実際にはこの中に嘘が混じってるのかもしれないが試す気にはならないな」


良輔としてはルール6が何のためにあるのかよくわからなかった。


(殺し合いをさせたいだけなら首輪の脅しだけで十分のはずだ…なんで生き残ったやつに賞金なんて出す必要があるんだ?)


何かしらの意味があるのだろうがそれを決めるにはいささか情報不足だった。


「侵入禁止エリアに戦闘禁止エリア、おまけにjokerか…よくできたルールだよね?反吐が出るよ」


一ノ瀬はメモを書き終わったのかペンをしまってメモに目をよく通している。


「それらのルールがどうかしたの?」


柊が一ノ瀬に尋ねる。


「うん、この侵入禁止エリアがある限り、僕らは上に上がって行かなきゃならなくなる。ただ首輪を外すことだけに拘っていればボンっだよ。これがまず1つ」


一ノ瀬は両手を開く素振りを見せると人差し指を1本立てる。


「次にこの戦闘禁止エリア」


中指を立てながら一ノ瀬。


「ルール上の休憩地点よね?どこにあるかはわからないけど…」


優希がそう答える。


「ところがどっこいこれが曲者だよ」


「どういうことだ?」


肩を竦める一ノ瀬に水谷が問う。


「そうだね、例えば【J】で言うなら【J】が自分の条件を満たすにはどうするのが一番いいと思う?」


「そりゃあ6階の戦闘禁止エリアに逃げ込むことじゃないか?」


【J】の条件は2日と23時間が経過するまで首輪が外れない。結果6階で籠城するのが一番いい戦法に思える。


「それじゃあ減点だよ水谷のおっちゃん」


ところが水谷の答えに一ノ瀬は首を横に振る。


「【A】と【5】だよな?」


良輔は思いつく答えを述べた。


「正解だよ、北条の兄ちゃん」


ニシシと笑う一ノ瀬。


「そっか、【J】は自分以外に5人の人間が生きてなくちゃいけない。【5】は生存者を5人まで減らすことだから自分の安全だけを確保したって条件がクリアできないんだ」


優希がそういって頷く。


「逆に5人以上の安全を【J】に確保されるようなことになると5人まで減らさなきゃいけない【5】はチェックだ…もちろんその時は芋づる式に【A】も死ぬな」


(なるほど…こういう考えをすると【5】は【A】とかなり相性の良いカードだな)


良輔はそう言いながら自分のPDAに表示されている【5】を見る。


「つまり【A】だってルールの9を知っていれば【J】の条件を満たさせないために関係のないプレイヤーだって殺害するかもしれないわけだ」


水谷が【A】の危険性について述べた。


「なるほど…結果として誰も手出しのできない戦闘禁止エリアが設定されてしまっているために逆に戦闘が助長されているわけね」


柊が頷く。


「そして最後にjoker」


一ノ瀬は3本目にくすり指を立てる。


「13人いるっていう参加者にランダム配布されている他のカードに偽装できるPDAか」


良輔はそう呟くが


(これがあれば俺も大分楽ができたんだが…)


ないものねだりしてもしょうがないがやはり欲しかったところだ。


「13人いるプレイヤーの内3人はこのjokerが解除条件になっているわね?」


「一番やっかいなのは【9】だな…」


「でもこんな条件があるならjokerを壊してしまったほうがいいんじゃないの?」


優希と水谷がルール表を見ながら呟き、柊が感想を述べた。


「多分、それはないね」


しかし一ノ瀬はその可能性を否定する。


「どういうこと?」


柊が一ノ瀬に尋ねる。どうも自分の考えを否定されたのが気に入らないらしい。


「まず偽装できる機能があるっていうならキラーカードの【A】【3】【5】がこれを破棄することは考えられない」


確かにjokerを使えば仲間のふりができると思えば当然だろう。


「そしてjoker関連のPDAである【2】【6】【9】も同様」


この3つはjokerが必要なので壊すわけはもちろんない。そもそもjoker関連のプレイヤーはランダム配布の対象には入ってないかもしれないが


「首輪やPDAが必要な【4】【7】【10】もこのjokerは交渉材料に使う価値があるよね?」


【2】も【6】も偶数のPDAだ。【7】は特にこのjokerが欲しいところだろう。


「そして首輪を作動させる必要のある【K】はjokerを使って他のプレイヤーの首輪を作動させる可能性がある」


【K】はjokerを使って【7】に偶数のPDAに偽装したjokerを提供したり、【8】を騙して首輪を作動させようと考えるかもしれない。


「他人の安全を確保する必要のある【J】【Q】にもjokerは有益だよね?」


この二つは言及する必要はないだろう。


「唯一【8】だけは持っていてもあまり使いどころのないものだけど持っていれば他人に騙される必要はなくなるかな?」


最後のだけは少し自信なさげに言う一ノ瀬。


「jokerを最後に所有しているものは10億の賞金がもらえる」


しかし一ノ瀬の説明に柊が薄ら寒い笑みを浮かべながら補足する。


「ちょっとあんた!?正気?」


「怒らないでよ、お金に興味が出るのは人間として当然でしょう?」


怒る優希を見て柊はニヤニヤと笑い返している。


「それはともかくとしてもだよ」


見かねたのか一ノ瀬が割って入った。


「お金目当てじゃないとしてもjokerを壊したら3人のDEADENDが確定しちゃうから壊す人はいないんじゃないかな?」


一ノ瀬は二人を交互に見ながらそう言うと優希と柊はバツが悪そうに視線を逸らした。


「そもそも壊したからって自分の安全が確保されるわけじゃないからね」


そういって一ノ瀬は締めくくる。


「問題はこれからどうするかだな」


一段落ついたところで水谷。


「とりあえず私たちにできることをしましょう」


優希がそう宣言する。


「具体的にはどうするんだ?」


「決まってるじゃないですか、解除条件を公開して協力するんです」


水谷の返答にそう答える優希だが


「冗談でしょ?こんな誰も信用できない状況で自分の手の内を明かせって言うの?あんたの方こそ正気?」


クスクスと皮肉めいた発言をする柊。


「何よ、文句でもあるの!?」


柊の態度に優希は喧嘩腰になり始める。


「おい、二人ともいい加減にしろ!!」


話が進まないので仕方なく止める。


(この二人無茶苦茶相性悪いな…)


それでも良輔を挟んで睨み合いを続ける二人につい呆れてしまった。


「そうは言ってもだな、jokerがあるんじゃ公開したPDAもどんだけ信用できるか分かったものじゃねえぞ?」


水谷の言うことはもっともだ。
確かにjokerさえあればキラーカードを持っていても仲間になり済ますことができる。
そんな物がある以上、各々のPDAの公開には信憑性がなくなる。
人を疑心暗鬼にさせる為が目的の代物だ。


「でも協力して首輪を外さないと私たちは死んじゃうのよ!?」


「そこまで言うならあんたのPDAを見せてみなさいよ、そんな提案をするんだからあんたの解除条件は他人に見せられる解除条件なんでしょうね?」


小馬鹿にしたように柊は笑う。


「っ!?分かったわ」


そういって優希は自分のPDAを見せようとする。


(まずい!?)


「優希!?やめろ、こんな状況で自分の条件を明かすなんて危険すぎる」


俺は自分の手で優希のPDAを隠す。


「離して良輔…」


静かにそう答える優希。


「癪に障るけどあの子の言うことは間違ってない、協力を要請するなら信じてもらいたいなら行動で示すべきだわ」


「それでもだな…」


柊じゃないがここで解除条件を他人に見せるのは賛同できなかった。


「お願い良輔、私を信じて…」


上目づかいに俺を見つめてくる優希を見て俺は渋々手をどかした。


「これが私のPDAよ」


そうして優希のPDAが明かされる。


そのPDAの画面に映っているのは


「ハートの【J】」


一ノ瀬が優希のPDAを見てそう呟く。


(【J】だと!?)


優希を除く全員が驚く中、良輔の驚愕は最大だっただろう


(そんな…)


優希の【J】の条件は2日と23時間経過時点で自分を除いて5人以上のプレイヤーが生存していること。


そして俺の【5】の条件はプレイヤーを5人まで減らすことだ。


つまり


(俺の条件を満たせば優希が死ぬ…)


その事実に目の前が真っ暗になる思いだった。


「あんた馬鹿じゃないの?自分の条件を他人に教えるなんて…」


本当に見せる馬鹿がいるとは思っていなかったとでも言いたげな嘲笑だ。


「私の条件は自分以外に5人のプレイヤーの協力が必要なの、ううん、5人だけじゃない私は全員で帰りたい…だから私に協力してほしい」


「全員で帰る?はっ、そんなことできるわけないじゃない!!じゃあ聞くけどキラーカードを持っている人はどうするの?全員が生きてたら条件をクリアできない人だっているのよ!?」


優希の願いを絵空事といってあっさり踏みにじる柊。


「それなんだけど【4】の解除条件は首輪の破壊よ…ということはこの首輪を壊す手段がここにはあるってことでしょ!?」


確かに首輪を破壊する手段はあるのだろう…しかしそれは


「確かにこの建物には首輪を壊す手段があるんでしょうね、でもこの首輪は首にぴったり巻きついているのよ?こんな状況で首輪なんて壊したら死んでしまわ!!」


「あんたはそこに希望があるのにその方法を諦めるの!?」


「その不確実であるかどうかもわからないもののためにあんたは自分の命を危険にさらせというの!?」


優希の叫びも虚しく話は平行線を辿る。


「例えばあんたの連れが【A】だったらあんたはそいつに首輪を壊す手段を探すから待ってろというの?見つかればいい、だけど見つからなかったら?」


柊はそういって良輔を睨む。


「頑張ったけど駄目だったから諦めて死ねってそいつに言うの?」


明らかに他人を馬鹿にし、見下した笑み。


「そ、それは…」


優希は動揺した表情を作る。もちろん優希にそんな保障ができるわけない。


「そんなあやふやな物に僕は頼らない、信じられるのは自分とお金と力だけよ」


柊はそう言って立ち上がり出口に向かって歩いて行った。


「待ちなさい!!1人は危険よ!!」


「僕はこのゲームで必ず勝つ、そして生きて帰るの!!あんたたちは仲良しごっこでもしながら………死ねばいいのよ」


優希が止めるが去り際にそう言い残し、柊は部屋を出て行った。


「やれやれだな」


そういって水谷は立ち上がる。


「水谷さん、あなたまで…」


「悪いな、御剣のお嬢…俺もあの死んだ男みたいになりたくねえんだ」


水谷は思い返すように天井を見つめた。


「みんなで協力したほうが首輪は外しやすいじゃない!?」


「…俺はあの男の死体を調べたんだがあの男はPDAを持っていなかった。これがどういうことか………わかるだろ?」


そういって水谷は優希を見る。


「この建物の中にはあの男を殺してPDAを奪ったやつが確実にいる、それが誰かわからない以上誰かと行動する気には俺にはなれねえんだよ」


そう言うと水谷は柊とは違う扉に向かって行った。


「一ノ瀬、お前はどうするんだ?」


部屋を出る直前に水谷は振り返って一ノ瀬に尋ねる。


おそらく今まで一緒に行動してきてアリバイのある一ノ瀬となら行動してもいいという判断だろう…その言葉は俺たちには向けられていない。


「………僕は御剣の姉ちゃんと協力しようと思ってる…だから、ごめん」


少し考えて一ノ瀬は水谷に頭を下げた。


「そうか………短い間だったが世話になったな」


それを見て水谷も部屋を出て行った。


小広い部屋に俺と優希と一ノ瀬の3人が残される。


「………」


部屋に何とも言えない空気が満ちた。


「一ノ瀬君は私を信じてくれるの?」


その沈黙を破ったのは優希だった。


「う~ん、信じてるっていうのは多分違うと思うけど…」


言いにくそうに一ノ瀬が答える。


「だったら何でお前はここに残る?」


良輔はその疑問を一ノ瀬に向ける。誰かと行動するなら柊はともかくとしても水谷について行ってもよかったはず。


「そうだね、御剣の姉ちゃんが危険を覚悟で条件を明かしたのは無駄じゃなかったっていう話だよ」


そう答えて一ノ瀬は自分のPDAをこちらに向ける。


「これが僕のPDAだよ」


その画面に表示されていたものは…


(クラブの8か………なるほどね)


一ノ瀬のPDAを見て何故、一ノ瀬がここに残ったのか分かった。


クラブの8はゲーム開始から24時間経過後に素数のPDAを初期配布された人間全員に遭遇している必要がある。


そしてそれは優希にも遭遇している必要があるということだ。確かにこの広い建物で一回離れたら次に会うのはいつになるかわからない。運が悪ければもう会えないかもしれないのだ。


(一ノ瀬がここに残るのは妥当な判断というわけだ)


そうしてニコニコと笑みを浮かべている一ノ瀬を見る。


「僕が首輪を外すためには御剣の姉ちゃんの協力が必要、そして僕も御剣の姉ちゃんの条件に協力する。つまり…」


そういって一ノ瀬は人指し指を立てる。


「僕たちの利害関係は一致してるってことなんだ」


信用しているというわけじゃないだけど利害関係は一致している…だからこそ協力しようという一ノ瀬。


「そっか、ありがとう一ノ瀬君…これからよろしくね?」


それでも優希は一ノ瀬に感謝を述べた。


「う~ん、何かお礼を言われるようなシチュエーションじゃなかった気がするんだけど………まあ、とにかくよろしく。二人とも僕のことはジョーって呼んでよ、仲のいい友達はそうやって呼ぶんだ」


そういって手を差し出してくる一ノ瀬。


「ふふ、わかったわ、ジョー。私のことも優希って呼んでいいわよ?」


「俺も良輔でいい」


お互いに手を差し出す。


「OKだよ、良輔兄ちゃん、優希姉ちゃん」


そういって一ノ瀬は良輔たちと握手を交わした。


「それで良輔兄ちゃんのPDAはどれなの?」


一ノ瀬が核心をついてくる。


「ん?俺のPDAか?」


正直、言うべきなのかどうか迷った。良輔のPDAも素数であるため一ノ瀬には教える必要があるのはもちろんわかっている、だが


(これを見せれば優希の傍から離れなきゃいけないんじゃないのか?)


優希から恐れられるような状況はどうしても望めなかった。


「良輔、あんたまさか!?」


見せるのを渋る良輔を見て優希は暗い表情を見せる。


「なあ、優希?」


「何よ?」


「どんなことがあってもお前は俺を信用してくれるか?」


優希は少し考える素振りをする。


「良輔はどうして欲しい?」


逆に聞き返された…だがどうして欲しいかなど決まりきっている。


「信じて欲しい、その…できればだけど」


だから良輔は自分の気持ちを素直に言うことにした。


「うん、私は良輔のこと…信じてるから」


優希は良輔の手を取りそう答える。


「………」


その言葉が良輔の胸に響きわたった。


「え~と、もしかしなくても僕ってお邪魔虫だったりするかな?」


申し訳なさそうに頬を掻く一ノ瀬。


「え?あ、そ、そんなことないのよ」


優希は慌てて手を離すと顔の前で両手を左右に振りながらそう答える。


「本当に?なんか今、僕がいなかったらしっぽりむふふってやりそうな空気だったんだけど?」


ニヤニヤと笑う一ノ瀬。


それを見て良輔は苦笑する。


「俺のPDAはこれだよ」


そして良輔は自分のPDA、ダイヤの【5】を見せる。


「あっちゃ~~とんでもない外れ引かされちゃったね」


一ノ瀬は手を額に当てながらそう言う。


「それでこれから良輔兄ちゃんはどうするの?」


「優希の言うとおり条件を満たさなくても首輪を解除する方法を探すか?」


一ノ瀬にそう答える。


良輔は優希が【J】であることを知らなければ自分の解除条件を満たすために人殺しさえしただろうと考えている。


そうしなければ母が何のために自分を庇って死んだのかわからなくなるから………それでも


(それでも優希だけはだめだ…)


自分のためにこの幼馴染を手にかける気は良輔にはなかった。


(何か二人で帰られる方法を探さなくちゃな)


良輔はそう考える。首輪を壊す手段そのものはあるのだ、何か手があるかもしれない。


「問題は今からどうするかよね?」


「僕はこの広い場所に行って出口を探すべきだと思うけど」


優希の言葉に一ノ瀬がPDAを見ながら答える。


「でも外は侵入禁止だろ?行く意味あるのか?」


ルール5によると外に出れば首輪が作動するらしい、首輪が作動して死んだ人間を見ている良輔としては首輪を着けたまま外に出る気にはなれなかった。


「優希姉ちゃんの【J】を満たすためには多くの協力者が必要だよ、ルール5を持っていない人は恐らくこの出口に集まってくる。僕としても素数ナンバーのプレイヤーに会えるかもしれないしね」


「わかったわ、そうしましょう。良輔もそれでいいよね?」


こちらに確認を取ってくる優希。


「ああ、問題ない」


俺はそれを見て首を縦に振った。


「はあ、それにしても後2日と23時間はこの廃墟にいなきゃいけないのか~」


「!?」


しかし次の優希の何気ない発言で良輔は気づいてしまった。


(待てよ…ルール5によると館の全域が侵入禁止になるのは72時間経過後なんだよな?)


ルール表を確認するとそう書いてある。


(そして【J】の条件は2日と23時間、つまり71時間が経過した時点で自分を除いて5人以上生存していることだ…)


ルール9の首輪の解除条件を見ながら思案を巡らせる。


(俺の【5】は生存者が5人以下になった時点で外れる…ということは)


頭の中にピカッと閃きが浮かんだ。


(もし優希の首輪が外れた後で生存者が5人以下になっても俺の首輪は外れるってことか!?)


ルールを纏めるとそういうことになる。


(これで俺の方針は決まったな)


メモを胸ポケットにしまう。


(優希の首輪を外すまではおとなしくしておいて…)


いや、むしろ他のプレイヤーが死なないように気をつけるべきだろう。


(71時間から館の全域が侵入禁止になる72時間の間にある1時間を使って生存者を5人まで減らせばいい)


優希の首輪さえ外れてしまえば良輔は生き残るために人を殺すことを躊躇したりしない。


(二人とも助かるかもしれない……この)


そこまで言って俺は二人に気づかれないように笑みを浮かべた。











(空白の1時間をうまく使えさえすれば)










「良輔どうしたの?早く行くわよ」


「早く来ないと置いてっちゃうよ?」


優希たちの声ではっと正気に返る良輔。


「ああ、分かってる」


そして良輔はジョーと優希の後を追って走りはじめた。


二人とも助かるかもしれない。


それは良輔にとって黒に覆われた世界に見える一点の白に見えた。


たとえそれが自分の手を他人の血で洗うことになることを意味しているのだとしても


絶望に追い込まれた人間はそれが一握りの希望だと分かっていても手を伸ばさずにはいられない、なぜならば………










それが人間というものだから………













[22742] 06話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/10/26 04:36
【BET】
player suit card odds
北条良輔 ダイヤ 5 3.5
御剣優希 ハート J 7.8
??????? ???? ? ?????
柊桜 ???? ? 8.2
??????? ???? ? ?????
??????? ???? ? ?????
??????? ???? ? ?????
??????? ???? ? ?????
一ノ瀬丈 クラブ 8 6.3
??????? ???? ? ?????
??????? ???? ? ?????
飯田章吾 ???? ? Death
水谷祐二 ???? ? 3.7
Day 1日目
Real time 午後   3:58
Limit time 経過時間 5:58 残り時間 67:02
Flour 1階
Player 12/13





俺たちはお互いのPDAを見せ合ったその後、地図に従って出口を探すべくエントランスホールらしきところを目指して移動していた。


ピロリン、ピロリン


全員のPDAから電子音が鳴り響く。


「ん?なんだ?」


『開始から6時間が経過しました。お待たせいたしました、全域での戦闘禁止の制限が解除されました!』


『なお、個別に設定された戦闘禁止エリアは変わりなく存在していますのでくれぐれもご注意ください』


PDAの表示に合わせて合成音声が流れる。


「いよいよ全域の戦闘禁止エリアが解除…か」


一ノ瀬がPDAを見ながらそう呟く。


「これからは誰かが襲ってくるかもしれないってことね」


優希が不安げな顔を作る。


「優希、もう一度念を押しておくが」


「わかってるわよ、気安くPDAを他人に見せるのはやめろって言うんでしょ?」


言われなくてもわかっているとでも言いたげに優希は答える。


「ああ、見せた相手が【A】でしたなんて洒落にならん」


(優希は直情的な面があるから心配だ)


柊のときみたいに挑発されればどうなることか


「痴話喧嘩も良いけどさ、どうやら目的地についたみたいだよ」


一ノ瀬が前を指すとそこは大きく開いたホールだった。


「ずいぶん薄暗いのね」


エントランスに着いた優希はそうこぼした。


エントランスホールは他の部屋と同じように照明がついていたが、エントランスホールの広さのためかやや薄暗く感じる。


「どうやらシャッターが下りているみたいだね」


一ノ瀬はホールの奥にあるシャッターを見ていた。


「ちょっと調べてみたいんだけどいいかな?」


「ええ、かまわないわよ」


「出口があるかもしれないしな」


一ノ瀬の提案に良輔も優希も頷いた。


そして俺たち3人はシャッターに近づいていく。











シャッターは透明なガラス戸の向こう側にあった。


「このシャッター何でできてんだ?アルミ………ではないだろうから鉄製か?」


俺は近づいてガラス戸にいくつかあいてある穴から手を突っ込んでシャッターを軽く叩くと金属音がホールに響く。


「どう?」


優希が後ろから聞いてくる。


「だめだな、しっかりロックがかかってる。それにロックがなくても電気が来てないならどっちみち開けられそうにない」


俺は簡潔に状況を伝えた。


「このシャッターを破れないかな?」


優希はそう聞くが


「破った穴なら向こうにあった。今、ジョーに調べてもらってる」


エントランスのガラス戸は十数メートルにわたって設置されており、その端あたりを調べている一ノ瀬の姿があった。俺たちは一ノ瀬に歩み寄る。


「ジョー、そっちはどうだ?」


穴を覗き込んでいる一ノ瀬にそう聞く。


「あんまりよろしくない状況になってきたみたいだね」


一ノ瀬は溜息まじりにそう答える。


「どういうこと?」


「この穴を見ればわかるよ」


一ノ瀬はそういって場所を譲った。優希が代わりに穴を覗き込む。


「何よこれ!?」


「どうしたんだ?」


俺は優希の肩越しに穴を覗く。そこには…


「コンクリートの壁…か、もしかしてシャッターの向こう側は全部コンクリートの壁があるのか?」


ガラス戸の向こうにはシャッターがあり、更にその奥には十数メートルの大きさの出入り口を塞ぐようにコンクリートの壁が立っているということだ。


「ここまで来ると呆れかえって笑えてくるな」


口調は軽げだが内心はかなり気が重くなっていた。


それ以上にまずいのが…


「コンクリートを掘った跡があるわ」


優希が深刻な表情を作る。


そこにはコンクリートの壁を砕いて作ったすり鉢状の深さ数十㎝のくぼみがあった。何か尖ったものでコンクリの壁を叩きつけて掘ったようでくぼみの底には小さな傷が無数に残っている。掘ったのが大分昔なのかそこには埃がたまっていた。


「掘った穴に埃が溜まってるということは俺たち以前にここに閉じ込められたやつがいたってことか」


「そうみたいね」


俺の言葉に優希が答える。


「ねえ、二人はどっちだと思う?」


一ノ瀬はそう質問するが


「どっち?」


意味がわからなかったので俺は一ノ瀬に聞き返す。


「これが2回目のゲームなのかそれとももっと多くの回数のゲームが行われてきたのか」


一ノ瀬はそういって手を顎に当てる。


「ちょっと待って、ジョーはこんなゲームが日常的に行われているって言いたいの!?」


優希は驚きの声をあげる。


「日常的ってことは流石にないだろうけど定期的には行われてたのかもしれないね」


一ノ瀬は優希にそう返す。


「その心は?」


何故、一ノ瀬はこのゲームが繰り返し行われていると考えたのだろうか?


「考えて見てよ、例えばこのPDAや首輪。もし数回やるためだけならこんな手間のかかるものは作らないはずだよ」


そこまで言って一ノ瀬は一旦、言葉を切る。


「でもこれが複数回行うことを前提としたものなら話は変わってくる」


一ノ瀬はそう締めくくった。


「つまり、それは私たちみたいに誘拐されてきて同じゲームをやらされた人がそれこそたくさんいたってこと?」


優希は一ノ瀬の話が信じられないらしい、こんな非現実的なゲームが自分の知らないところで繰り返し行われていたといわれても実感がわかないのだ。


「それなんだけど僕たちより前にここに閉じ込められた人達って本当に僕たちと同じ状況だったのかな?」


しかし答えた一ノ瀬の返答は意外なものだった。


「ジョー、それはどういうことだ?」


一ノ瀬の意図を見失う。


「ああ、言い方がちょっとまずかったかも、多分誘拐されてきて閉じ込められたってとこまでは前の人達も一緒だと思うよ」


一ノ瀬はそう訂正を入れた。


「じゃあジョーは一体何が違うと思うんだ?」


「ゲームそのもの」


「「え?」」


質問に対する回答があまりにも突飛なものだったせいで俺と優希は思わず呆けた声を出してしまった。


「二人ともTVゲームとかってやったことあるよね?」


「まあ、一応は」


「私も少しだけ」


一ノ瀬の質問にそう答える。


「例えばRPGを例にとって話してみようかな?そうだね………例えばそのゲームを一回クリアしてしまった人がいるとするじゃない。もし一回クリアしちゃったゲームをまたもう一回やる時ってどうすると思う?」


「そりゃ、低レベルクリアを目指すとかアイテムをコンプリートするとか?」


「そう、それなんだよ」


質問に俺が答えると一ノ瀬はビシッと指を俺に向かって指してきた


「どういうことだ?」


色々と意味がわからなかった。


「同じゲームを同じように繰り返しやる人なんていないんだよ。そこにはしばりプレイだったり他にも新しい要素を加えてみたりして前回と違うシチュエーションを楽しむんだ。回数が多くなればなるほどそういう傾向が強くなる」


「シリーズものなんて最たる物だよね?登場人物を変えたり、周囲の状況を変えたりとか」


一ノ瀬はそういって人差し指をひっこめた。


「じゃあ以前に来た人たちは私たちのやってるこのゲームと基本コンセプトが同じでも微妙に違うゲームをやらされたのかもしれないってこと?ルールとか解除条件とか」


優希がそう纏める、しかし………


「だがそれだけで俺たちのやってるゲームと前にいたやつらのゲームが別物なんて考えるには理由としてはちょっと弱くないか?」


このゲームがまだ2回目なんてことも考えられる。それぐらいなら何も変わったりしてないだろう。


「その答えじゃ減点だよ、良輔兄ちゃん」


しかし一ノ瀬は自信満々にそう答えた。


「どういうことだ?」


「あ、私わかった」


俺を余所に優希には一ノ瀬の言っていることがわかったらしい。


なんかくやしい。


「ジョーはスートのことを言ってるんだよね?」


一ノ瀬は満足そうに頷く。


「スート?」


(スートってあのスペードとかクラブとかダイヤとかハートのマークだよな?)


「ほら、このPDAってトランプをモチーフにして作ってあるものでしょ?」


そういって優希は自分のPDAを取り出す。


「トランプってスペード・ハート・クラブ・ダイヤの4種類のスートがA~Kまでの13枚で合計52枚あるじゃない?例えば私のPDAだったらハートの【J】でしょ?だったらスペードやダイヤやクラブの【J】だってあるかもしれないじゃない!?」


そこまで説明されれば俺にも分かった。


「なるほど、トランプをモチーフにしたゲームなら枚数と同じ52通りの解除条件をランダムに選んで解除条件を決めているかもしれないってことか………確かにそれはありそうな話だな」


これがトランプを模したものであるなら十分ありそうな話だった。


「あるいはスートとナンバーで解除条件があらかじめ決められているのかもしれないけどね」


一ノ瀬はそう答える。


「僕はこのゲームが何の目的で行われているのかはわからない、でもひとつだけわかったことがある」


「それは?」


「このゲームは荒唐無稽で馬鹿馬鹿しいゲームだと思うけど少なくともこのゲームをやらせているやつらはマジだよ」


確かにおふざけで入口をコンクリートで固めたりはしないだろう。


「ルールの通りにこの首輪を外さないと僕たちは最初のおっさんみたいに殺されることになると思う。それがこの建物になのか他の参加者になのかはわからないけど」


一ノ瀬は深刻な表情を見せる。


「俺たちはあの死体を見てもまだ考えが甘かったのかもしれないな」


俺がそう答える。


「これからなんだけどとりあえず2階に上がって行かない?誰もいないみたいだし」


一ノ瀬はそう提案する。


「そうね、侵入禁止エリアのこともあるわけだし急いだほうがいいかも」


優希が頷く。


「そうだな、誰とも会えなかった以上階段に行く………!?」


俺は優希のほうに向きなおると物陰から隠れてこちらを伺っている人影がいることに気づいた。


そいつも気づかれたことを悟ったのか物陰から飛び出し、こちらに向かって走って来る。


物陰から出るときにガタッという音がしたのに気付いて優希が後ろを振り返るが既に飛び出してきた人物が優希の頭に向かって木材を振り下ろそうとしているところだった。


「優希!?」


俺は咄嗟に優希の腕を引っ張って自分の影に隠れるようにすると持っていた勉強道具の詰まったかばんで襲い来る木材をガードする。


バシッという音と共にかばんがふっとんだ。


「ふむ、やるじゃないか青年」


襲いかかってきた男は満足そうにそう頷く。


(ずいぶんでかいな………このおっさん)


俺は襲いかかってきた男を睨みつける。


年は40台くらいだろうか?男は肩幅が広く非常に体格がいい、身長は2メートルくらいだろうか?良輔の身長は178㎝なので自然と見上げる形になる。ワックスを使っているのか白髪が混じりだした髪を逆立てているが服装はあまり気をつかっていないのかずいぶんくたびれたものを着ている。


「このエントランスホールで待ち伏せしていれば誰か来るだろうとは思っていたが、ちょうど3人とは………私の幸運もまだまだ捨てたものではないらしいな」


男は肩に木材を担ぐとそう答えた。


(なるほど…道理で優希が気づかないわけだ)


優希はあくまでも音が出ていないものは察知できない。そして一ノ瀬が考えたようにこの男も考えた、ルール5を知らない人間はここに集まってくると。だから物音を立てずに潜んでいたわけか


(考えられる限りでいきなりピンチなんじゃないのかこれ?)


戦えるのは俺だけ、優希はもちろんのこと一ノ瀬もどうしようもないだろう


「兄ちゃん!?」


「良輔!?」


二人はちょうど男から見て俺の後ろに隠れている形になっている。とすればやることはひとつだ。


「ジョー!!優希を連れて逃げろ!!」


俺は前を向いたまま叫ぶ。


「でもそれじゃあ良輔が!?」


「優希姉ちゃん行くよ?」


一ノ瀬は状況を察したのか優希を連れて後ろに走り出す。


「逃がさん!!」


男は優希たちを追おうとするが俺が突進してくるのを確認して足を止めた。


「邪魔だ!!」


男は肩に担いでいた木材で横に薙ぎ払いを放ってきた。


(予想通り!!)


良輔は埃が溜まって滑りやすくなっている床をスライディングで躱す。


床を滑りながら男の足元を通過する、その際に男の膝を叩いた。


「むっ」


男はバランスを崩し、体勢が崩れる。


(これで逃げる時間は稼げただろ?)


良輔は二人がホールから姿を消しているのを確認してから二人が逃げた反対方向に走り出した。


「ちっ」


男は軽く舌打ちする。


「二人組のほうは追っても無駄になるだろうが」


男は木材を担ぎ直し、


「君を逃したりはせんぞ!!青年」


反転して良輔を追う。


そして良輔と男がホールから姿を消すとホールは静寂を取り戻した。








[22742] 07話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/10/26 04:40
【BET】
player suit card odds
北条良輔 ダイヤ 5 5.9
御剣優希 ハート J 8.5
??????? ???? ? ?????
柊桜 ???? ? 8.3
??????? ???? ? ?????
??????? ???? ? ?????
??????? ???? ? ?????
??????? ???? ? ?????
一ノ瀬丈 クラブ 8 7.8
??????? ???? ? ?????
??????? ???? ? 2.8
飯田章吾 ???? ? Death
水谷祐二 ???? ? 3.6
Day 1日目
Real time 午後   5:20
Limit time 経過時間 7:20 残り時間 65:40
Flour 1階
Player 12/13





(ちっ)


良輔は内心で舌打ちして背後を見る。


「待ちたまえ青年!!私のために死んでくれるだけでいいんだ!!」


そこには木材を振り回しながら追ってくる大男。


(しつこいんだよあの野郎!!)


良輔達はホールであの男に襲われて見事に分断されてしまった。一ノ瀬と優希の行方は知れず良輔は良輔で襲ってきた男と逃走戦を演じている。


(まだ追ってくるのかよ…)


後ろの男は木材を振り回しながら追ってきているはずなのに良輔について来ている。


(なんかいっきに巻く方法があればいいんだが…)


いい加減うんざりした気持ちで通路を右に曲がる。


曲がって通路に入ったときに良輔の表情は明るいものに変わった。


(都合いいな)


目の前の通路には最初に見つけた罠と同じように床に隠された盛り上がりがあった。


良輔はさっと辺りを見渡して今までの通路と比較する。


そして


(なるほどね、そういうタイプの罠か…)


良輔は天上にシャッターを見つけた。


(これを踏めば………)


「もらったぞ、青年!!」


罠を見ていたわずかな時間に男が追いついてきた。


男は木材を振り回す。


「もらうか!!」


良輔は前に飛び込んで盛り上がった床を押し込む。


カチッ


そんな間抜けな音を立てながら床がへこむ。


「むっ!?何だ?」


男が上を見上げるとそこには天井から降ってくるシャッターが目に映っていた。


シャッターは良輔と男の間を目指して降ってくる。


「じゃあな、おっさん。もう二度と会わないことを祈ってるぞ」


男は呆けた顔をしながら俺を見ていた。


カシャン


シャッターが俺と男の間に下りる。


「は~、これでやっとあの男から解放されたか…」


良輔は盛大に溜息をつく。


(流石にあの大男に追われ続けるのはごめんだ)


木材振りかざす男に追われるというのは良輔じゃなくても遠慮したいところだった。


(さてと、優希とジョーにさっさと合流しなくちゃな)


まだ良輔のPDAに表示されている生存者数に変化はない、つまり優希もジョーも無事ということだ。


(この特殊機能も随分役立つな)


【2】のPDAの特殊機能と比べると見劣りすると思っていたが予想以上に役立ってくれている。


その時


「速水さん、さっきこっちからすごい物音がしましたよ?」


「何かあったんですかね?」


向こうの通路から二人の声が聞こえてきた。


その声に反応して良輔は慌てて立ち上がる。


(おいおい冗談じゃないぞ!!藪を飛び越えたら蛇が騒ぎだしやがった!!)


せっかく罠を使ってあの男を巻いたのにその罠が人を呼び寄せては本末転倒だ。


おまけに背後をシャッターで塞がれていて逃げることも身を隠すこともできない。


良輔の背中に冷や汗が流れる。


「どうしましょう?行って確認しましょうか?」


「そうですね、何かわかるかもしれませんよ?杉坂君」


コッ、コッ、コッ


(近づいてくるか………)


良輔としてはできれば気にせずどっかに行って欲しかった。


コツッ、コツッ、コツッ


少しずつ足音が大きくなって来ている。


(張り倒す?いや、待て優希の解除条件のこともあるか)


優希の解除条件を満たすためにはより多くの協力者が必要だ。少し思案して良輔の出した答えは…


(とりあえず接触してみるしかないか…)


背後はシャッター、他に身を隠す場所もなく張り倒すにしても相手は2人だ。良輔は近づいてくる人物が好戦的なプレイヤーでないことを祈るしかなかった。


「速水さん、誰かいます」


「そのようですね」


そうしているうちに二人の人間が通路から姿を現した。


1人は俺より少し年上だろうか?背丈が高く水谷と同じくらいの身長だ。その男からは随分大人びた印象を受ける。


もう1人は30台前半くらいの男で優希と同じくらいの身長だろうか?恐らく170㎝前後というところだ。黒いスーツに身を包み、柔和な笑みを浮かべている。


「こんにちは、僕は速水瞬と言います、君の名前は?」


背の低いほうの男が名乗る。


「………俺は北条良輔だ。俺は気づいたらこの建物に放り込まれてたんだがお前らが俺たちをここに連れてきた犯人か?」


良輔は二人の男を睨む。


「俺たち?いや、俺も速水さんも気づいたらここにいた、どうやら俺たちは同じ境遇の人間らしいな」


その問いかけに答えたのは速水ではなく隣にいた男だった。


「僕たちに君をどうこうしようという意思はありません、とりあえず情報交換したいのですがよろしいでしょうか?」


速水はそう提案するが


「問題ないと言いたいところだが………条件がある」


「何でしょうか?」


速水は聞き返す。


「話し合いをするならどこか違う場所でしないか?流石に通路を塞がれたままというのは怖いからな」


良輔のその言葉で二人はやっと良輔の出口を塞ぐ形で話をしていたことに気がついた。


「俺の後についてきてくれ」


もう1人の男が後ろに向かって指を指す。


「わかった、え~と」


「そういえばまだ自己紹介してなかったな、俺は杉坂友哉という。大学の2回生で経営学を専攻している、よろしく」


男はまだ名乗っていなかったことを思い出しそう答えた。


「よろしく、俺はまだ高校生だから敬語使ったほうがいいか?」


「どっちでもいいがあまり堅苦しいのは勘弁してくれ」


杉坂はそう言って苦笑する。


その後、杉坂の案内で3人は近くの部屋に入って行った。











「さて情報交換ですがとりあえずルールの確認をしておきましょう」


速水はPDAを取り出す。


「俺は全てのルールを知っている」


良輔は胸ポケットからメモを取り出した。


「なんでお前は全部のルールを知っている?」


PDAを取り出した杉坂がそう質問する。


「俺はここに来るまでに6人の人間に遭ってその内4人とはルール交換したからな」


ルール交換してない2人はペナルティーで死んだ飯田章吾という医者と突然襲ってきたあの大男のことである。


「そいつは都合いいな」


杉坂がメモを取ろうとするが


「その前に確認させて欲しいことがある」


良輔はその前にメモを引っ込めた。


「それは?」


杉坂が問い詰めるように聞いてくる。


「ここに来るまでに2人組の男女に遭わなかったか?女は女性にしては長身で金髪のショート、男は中学生くらいで背が少し低いやつ」


もちろん優希とジョーのことだ、もしかしたら見かけているかもしれない。


「そいつらはお前の連れか?」


「ああ」


「そうか、俺は見てないが……速水さんは見てますか?」


「いえ、僕も杉坂君を除けば生きている人間に遭ったのは北条君が初めてです」


「生きている人間?」


不審に思った俺が聞き返す。


「ああ、俺たちはここに来る途中で死んだ男を確認している」


恐らくあの飯田章吾という男のことだろう。


「そうか、ありがとう。これがルール表のメモだ」


「サンキュ」


俺は杉坂にメモを渡した。


「これから北条君はどうするんですか?」


メモを写す杉坂を余所に速水が聞いてくる。


「俺は優希とジョーを探しに行く」


あの大男と遭遇したらと思うと良輔は気が気ではなかった。


「しかし当てはあるのか?この建物随分広いみたいだぞ」


杉坂がメモを写しながら呟く。


「ああ、俺たちは2階に向かおうと思っていたが途中で大男に襲われて分断されてしまった。だからあの二人も恐らく階段に向かっていると思う」


あの大男に襲われる前にそういう話をしていた。まさかエントランスホールに戻るとも考えられない、そうすると恐らく2階に向かっているだろう。


「襲われた!?それはつまりゲームに乗ったやつがいるってことか!?」


杉坂が驚いた声を出す。


「明確に攻撃されたのでも最低1人、最悪ならもう3人以上はこのゲームに乗ってる」


あの大男はもちろん柊や水谷もそのようなことを言っていた。


「そうですか、ということは身を守るために固まって行動したほうがいいかもしれませんね、僕たちもその2人を探すのに協力しますよ」


速水が自分の膝を叩くとそう提案した。


「いいのか?」


優希を探すにも優希の条件を満たすためにも今は多くの協力者が必要だ。速水の提案は願ってもないことだった。


「困ったときはお互い様ですよ、ねえ杉坂君」


「無論です、こんな場所に中学生と女性をほったらかしにしておくわけにはいかないでしょう」


速水は冗談交じりに杉坂に話を振るが杉坂は杉坂で生真面目に頷く。


「ありがとう、恩に着る」


良輔は素直に感謝を述べる。


「それじゃあ階段に向かって行きましょうか?」


良輔と杉坂が頷いて3人揃って部屋を出て行った。








[22742] 08話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/10/26 04:45
【BET】
player suit card odds
北条良輔 ダイヤ 5 4.7
御剣優希 ハート J 8.5
??????? ???? ? ?????
柊桜 ???? ? 8.2
??????? ???? ? ?????
??????? ???? ? ?????
??????? ???? ? ?????
杉坂友哉 ???? ? 4.2
一ノ瀬丈 クラブ 8 7.8
速水瞬 ???? ? 5.5
??????? ???? ? 2.8
飯田章吾 ???? ? Death
水谷祐二 ???? ? 3.7
Day 1日目
Real time 午後   6:35
Game time 経過時間 8:35
Limit time 残り時間 64:25
Flour 1階
Prohibition Area 屋外のみ
Player 12/13





良輔は謎の大男から逃亡した後に出会った杉坂、速水と行動を共にし、はぐれてしまった優希、ジョーと合流すべく2階への階段に向かっていた。


「へ~、それじゃあ速水さんは手品師なのか?」


「はい、手品を披露して驚きの混じった表情を見るのが好きでこんな仕事やってます」


良輔たちは階段に向かって歩きながら雑談に興じていた。そして今はちょうど良輔が速水の職業を聞いたところだった。


「それで今日のショーが終わって家に帰る途中までは覚えているのですが気づいたらこの廃墟のベッドの上という有り様でして………はあ、事務所に帰ったら怒られるでしょうね」


溜息交じりに呟く速水。


「俺はバイトの帰りだったな、原付きに乗ろうとした辺りから記憶がない。三日もバイト無断欠席なんてしたらクビにされるな」


速水につられてか杉坂までも暗いことを言い始める。


「俺も学校終わってバイトに行く途中で拉致された。これでもしバイトをクビになったら拉致してきたやつを訴えてやる………」


そして慰謝料をもらう。


コォォォという擬音を立てながら良輔の背中から暗いオーラが立ち上がった。


「はは、そいつはいいな。慰謝料ふんだくってやろうぜ」


杉坂が笑いながら同意する。


「二人ともお金を稼いで何か欲しいものでもあるんですか?」


「ええ、弟の誕生日がもうすぐなんですよ、うちはあまりお金なくていつも誕生日プレゼントを買ってやれなかったんです、だから今度の誕生日には弟の好きなプラモデルを買ってやりたくって」


速水の質問に杉坂が微笑みながら答える。


「俺は5歳の時に両親が死んじまったから生活費を稼がなくちゃいけないからな」


良輔はちょっと考えてそう答えた。


「………すみません、無神経なことを聞きました」


速水がすまなさそうに謝ってくれる。


「いや、謝る必要なんてない、それに俺の身元を引き受けてくれたところがとてもいい人ばかりで実の息子のように育ててもらった、だからこそ自分の生活費くらいは自分で稼ぎたいんだ」


確かに俺の親はいないが俺には御剣一家が、優希が居てくれた、だから自分が不幸だと思ったことはない。


「そうですか、親がいない苦労は僕にもよくわかります、僕も子供の時に両親が死んでしまいましたから」


速水は苦笑しながらそう答える。


「速水さんもご両親が?」


良輔は素直に驚いた。


「ええ、あれは僕がまだ10歳くらいの頃でしたかね?事故で二人ともあっさり、それからは妹を養うために苦労しました」


速水は懐かしむように語る。


「…速水さんはつらくはなかったのか?」


「とても辛かったですよ、でも不思議と苦しくはありませんでしたね、辛いときに隣を見ればいつも妹が笑っていてくれていましたから、あの笑顔を見るためならどんなことでもできましたよ」


良輔にそういって微笑む速水。


「………速水さんは強いな」


良輔は速水を見てそう感じた。どこかで速水に親近感を覚え始めていたのである。


「いえ、僕はどうしようもなく弱かったんです、だから………」


速水が何故か暗い表情を見せる。


言葉を紡ごうとしたその時


ピロリン、ピロリン


不意に良輔のPDAが電子音を鳴らす。


「ん?何の音だ?」


杉坂が辺りを見渡す。


良輔は嫌な予感を感じながら自分のPDAを取り出して画面を確認する。


「っ!?」


『生存者:11人』


PDAの画面にはついさっきまで12人だった生存者が11人に書き換わっていた。


つまり


(誰か、1人死んだ………)


全域の戦闘禁止エリアは既に解除されており、侵入禁止エリアはまだ拡大されていない。このことから良輔はこの1人が他の参加者に殺された最初の犠牲者だろうと考える。


(優希、それにジョーは無事だろうか?)


生存者が1人減ったことで優希たちの安否の不安が倍増した。


「良輔君、どうかしましたか?」


速水が心配そうに聞いてくる。


「あ、いや、何でもない」


良輔はそれだけ答えるとPDAをポケットにしまう。生存者のことを速水たちに教えなかったのは自分が【5】のPDAであることを気づかれないための配慮だ。


「それよりも早く階段まで行こう」


良輔はそういって歩くペースを速める。


「あ、おいちょっと待てって」


杉坂の制止も聞かず良輔は先へ先へと歩いていく。


「どうしたんだ、あいつ?」


「さあ?」


そんな良輔の後を杉坂と速水がついて行った。







――――――――――――――――
――――――――
――――
――






生存者が1人減ってから30分ぐらい経過した後、良輔たちは2階への階段に到着した。


「か、彼は一体!?」


「あいつ、死んでるのか?」


「ちっ、あの野郎………」


速水、杉坂、良輔の順に声をもらす、階段で良輔たちが見たものは………


「………」


階段に腰掛けて座っている良輔たちをエントランスホールで襲った大男の姿と…


「………」


その隣に床に口づけするようにうつ伏せに倒れている女性だった。


「高校生くらいでしょうか?」


速水が呟く。


その女性は優希や柊とも違う学生服を着ており、おそらく高校生くらいに見えた。


「後頭部の出血から見て後ろからあの横に置いてある木材で一撃ってことだろうな…」


杉坂の言うとおり倒れている女性の後頭部からは赤い血液が流れ出ている。


(…あの大男、ただ強いだけじゃないな)


良輔はあの大男について考えていた。


(高い運動能力、ゲームに対する積極性、エントランスホールや階段での待ち伏せ、そして何より殺人を躊躇してない…)


エントランスホールで自分たちに逃げられれば最終的に通る必要のある階段で待ち受ける。切り替えも早くかなりやっかいな敵だと良輔は考えた。


「問題はこれからどうするか…ですね」


速水は深刻そうに呟く。


「とりあえず俺たちも木材やら何かで武装する必要があるな、素手じゃ返り討ちになる」


確かに杉坂の言うとおりあれに素手で挑むのは自殺行為だろう。


「あの大男が階段に陣取っているということはおそらく俺の連れもまだ2階には上がってないな」


優希たちが逃げた道より良輔と大男が通ったルートのほうが階段に近い、しかし時間的に考えて優希たちもこの階段の近くに来ているはずだった。


「じゃあ僕たちはこれから階段付近の部屋を探索、武器の調達と良輔君の仲間を探すことを並行して行いましょう、何か異論はありますか?」


「「異議なし」」


速水の纏めで良輔達の方針は決定した。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――





「う~ん、なかなか良いものがありませんね~」


速水は転がっていたダンボールを開けながら呟く。


(ここに連れてきたやつらは俺たちにどうやって殺し合いをさせるつもりだったんだ?)


あるのはガラクタばかりで武器と呼べるものは家具を壊して作ったお粗末なものだ、最低限ナイフくらいはないと殺し合いなんてできない。


「それにしても腹減ったな、もう夕飯時だし、食糧ぐらい置いといて欲しいが」


杉坂が持参していたらしいペットボトルの水を飲みながらぼやく。


「もう夕飯時ですからね、それに朝から何も食べてませんし」


速水が苦笑しながら答える。


PDAを確認するともう10時間以上が経過していた、つまりもう夜中の8時なのだ。


良輔も空腹に思わず手を腹に当てた。


その時、カチャリと不意に後ろの扉が開く音がした。


「おっ、先客がいたのかい」


新たに入ってくる闖入者に全員が驚きで振り返る、ただし良輔の驚きだけは少し意味が異なっていた。


「水谷!?」


後ろに立っていたのは赤髪の男性、水谷だった。


「よう、また会ったな、確か…北条で合ってるよな?」


水谷はちょっと詰まりながらそう答えた。


「北条の知り合いか?」


杉坂がそう聞いてくる。


「俺がルール交換した内の1人だ」


「水谷祐二だ、まあ争う意思はねえからそんな緊張しなさんな」


水谷が両手を挙げて攻撃の意思はないことを示す。


「こんにちは水谷さん、僕は速水という者です。よろしければお時間頂いてかまわないでしょうか?」


「ん?別にかまわんぜ、ついでにそこの兄ちゃんも名乗ったらどうだい?」


そういって水谷は杉坂を見る。


「杉坂友哉だ、よろしく」


水谷軽く頷くとそのまま扉近くの壁に背を預けてもたれかかった。


「あんた、今まで何やってたんだ?」


良輔は水谷に質問を投げかける。


「俺かい?俺はお前らと別れた後に封鎖された階段を見つけてそこを調べてたんだ。そんで2階の階段に着いたと思ったら大男が階段で待ち伏せしてやがってな、どうしたものかと悩んでたところだ」


水谷はそういって溜息をついた。


「お前こそ御剣のお嬢と一ノ瀬はどうしたんだ?一緒に行動してたんじゃないのか?」


今度は水谷が質問してくる。


「俺たちはあの後、エントランスホールであの大男に襲われてな、見事に分断されちまった。あんたは優希たちを見てないか?」


「そういえば階段の近くでちらっと見かけたな、すぐ見失っちまったけど」


「本当か!?場所を教えてくれ!!」


ようやくみつけた手掛かりに良輔は興奮気味にしゃべった。


「教えてもいい………だが条件がある」


水谷はそういって人の悪い笑みを浮かべた。


「それは?」


「何、簡単なことさ、あの大男が居座ってる階段を突破するのに協力してくれるだけでいい。そっちもあれには困ってたんだろ?」


水谷の提案に良輔は少し考えて………


「わかった、条件を飲もう。速水さんも杉坂さんもそれでいいか?」


良輔は後ろにいる2人に振り返って尋ねる。


「そうですね、問題はないと思いますよ」


「せっかく掴んだ手掛かりをドブに捨てる必要はないだろ?」


速水、杉坂の順番でそう答える。


「決まりだな、案内してやるからついてきな」


水谷がそういって部屋を後にした、それを確認して良輔たちも後についていく。






――――――――――――――――
――――――――
――――
――






そして良輔達は水谷に案内された階段付近の通路に案内されていた。


「俺が御剣のお嬢たちを見たのはこの辺りだ」


水谷はそこで止まる。


「やっぱり階段付近までは来てたんだな」


良輔がそう呟く。


「この近くを探せば見つかるかもしれませんね」


速水が辺りを見渡す。


「いや、どうやらその必要はなくなったみたいだぞ」


「えっ!?」


杉坂が俺の後ろを指差す。


良輔がゆっくり振り返るとそこには………


「良輔………」


瞳を涙で潤ませながら立っている優希とその姿を見ながらニヤニヤとからかうような笑みを浮かべている一ノ瀬だった。


「優希………それにジョー」


良輔が名前を呼ぶとすぐに2人はこちらに寄って来た。


「良輔!!」


優希が良輔の胸に飛び込んでくる。


「ずっと心配してたんだから!!心配、してたんだからね?」


ポカポカと胸を叩いてくる優希を見て良輔は思わず目頭が熱くなるのを感じた。


「そっか、サンキュな…優希も無事でよかった」


そういって優希を抱きしめようとしたところで


「何だ、北条の連れって彼女のことだったんだな」


「なっ!?か、彼女じゃないです!!幼馴染ですよ、幼馴染」


杉坂の爆弾発言に優希が顔を真っ赤にしながら良輔を突き飛ばす。


(あれ?おかしいな?目から汗が…)


突き飛ばされたことで思いっきり背中を壁にぶつけた良輔を何とも言えない感情が襲った。


「っ!?杉坂君、少しは空気を読みなさい!!あそこはそっとしておく場面だったでしょう!?」


「えっ?俺なんか悪いことしました?」


速水が杉坂を問い詰めるが杉坂は何故怒られているのかわからない。


「え~と…大丈夫?良輔兄ちゃん?」


「………」


一ノ瀬が壁にもたれかかるように座り込んでいる良輔を指でツンツンとつつくが反応がない、屍のようだ。


「相変わらず仲良いなお前ら」


「水谷さん!?」


「また会ったね、水谷のおっちゃん」


水谷がいることに優希は驚いたようだが一ノ瀬はまるで旧友に再会でもしたように気軽な返事を返した。


「なんで水谷さんがここにいるの?それに男の人が2人増えてるけど誰なの!?状況を説明しなさい!!」


優希は倒れている良輔の首を掴むとブンブンと左右に振り始めた。


「だ、誰か…助け…」


良輔の叫びも空しく


「大体、杉坂君は…」


「わ、わかりました、わかりましたから」


速水と杉坂


「そっちはあれから分かったことはあるか?」


「うん、実はさっき部屋を探索してた時なんだけど…」


水谷と一ノ瀬がそれぞれ話をしていて無視された。


「ひ、ひでう」


そうして優希の手で良輔の意識は刈り取られた。


その死に顔は満ち足りていたとかいなかったとか…





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






それから各々が自己紹介を行い、状況の整理を行っていた。


「ソフトウェアか…まさかPDAにこんな使い方があったなんてな」


良輔は優希のPDAの地図を見ながら呟いた。その地図は良輔たちのものとは違い、各部屋に部屋の名称が書かれていた。


「うん、僕もそれを見つけたときは驚いたよ、どうやらこのPDAはこのソフトウェアを使って自分の好きなようにカスタマイズできるみたいなんだ」


一ノ瀬の話では2人は良輔と分断された後、当初目指していた階段で良輔を待つことにした。しかし階段に行ってみるとエントランスホールで襲ってきた男が瑠璃色の長い髪をした女性を殺害した直後だった。幸いにも隠れていることには気づかれなかったがここに留まるのは危険だろうと判断した結果、階段付近の部屋を探索中に〝Tool:Map/Enhance〝と書かれたツールボックスを発見、優希のPDAにインストールして見たところ地図に各部屋の名称が表示される機能が加わったのだ。


「本格的にゲームみたいになってきたな」


「だがそのゲームで分かっているだけでも2人の人間が殺されてる。あまり楽観的なことを考えはしないほうが賢明だな」


杉坂の発言に水谷が答える。


「問題は階段に居座っているあの大男ね」


「確かに彼は良輔君たちを襲い、またあの女性を殺害しています。説得は難しいでしょう」


優希の懸念に速水が同意する。


「どうやってあの場所を突破するか」


この戦力差なら正面突破が一番いいだろう。


「でもなんか6対1でも突撃してきそうなやつだったよな」


杉坂が笑いながらそう言うが


「………」


「………」


「いや、すまん俺が悪かった」


笑えない冗談だった。


「あの大男が居るのが階段の正面、そこに至るまでの道が3つあるな」


水谷はそういって地図を見ている。


「へえ、何か考えでもあるのか?」


「ん?考えってほどでもねえがあの手のタイプは陽動がいいんじゃねえかと思ってな」


「あん?」


水谷は良輔にそう答えるがその言葉がどこか引っ掛かった。


「だがあいつは階段を押さえてるんだぜ?陽動なんか乗ってくるのか?」


杉坂の言うとおり階段という拠点を押さえていればそこから動く必要はないかもしれない。


「いや、乗ってくるかもしれない」


だがあえて俺はそう答えた。


「どういうことなの?」


「ほら、あいつが俺たちをエントランスホールで襲ってきたときに言ってただろ?ちょうど3人だって」


良輔はエントランスホールで襲われたときのことを思い出していた。


「あ、そういえばそんなこと言ってたわね、ということはあの人の首輪の解除条件は3という数字が関わっているのかな?」


「その条件だとあの人のPDAは【3】か【4】か【10】もしくは【K】のどれかってことになるよね?」


「いえ、彼は【10】ではありませんよ」


ルールを書いたメモを読みながら確認する一ノ瀬に速水がそう答える。


「あん?速水の旦那、何でそんなことがわかるんだよ?」


「【10】のPDAは僕ですからね」


水谷にそう答えると速水は自分のPDAを見せる。その画面にはスペードの【10】が映っていた。


「ちょ、ちょっと速水さん!?そんな簡単に…」


「大丈夫ですよ、僕の条件は他人に知られても困る類のものではありませんし」


慌てる杉坂を余所に当の本人はそんなことを言っている。


(まあ、確かに【10】の解除条件は用済みになったPDAを3台収集することだから明確に人を殺す必要はないかもしれないが)


そうは言っても楽観しすぎではないだろうか?


「話を戻すがあのおっさんが3という数字が関連したPDAであるとして現在、その条件の1つが満たされちまってる状態だ、そう考えると囮は2人がいいだろうな」


水谷の言う条件の1つというのは階段で死んでいた女性のことだろう。


「問題は誰が囮役になるかですね」


速水が答える。


「御剣のお嬢と一ノ瀬を除くとして俺たち4人の中から誰がやるかだな?」


水谷の言葉に優希とジョーが申し訳なさそうに頭を下げた。2mの巨人相手に女子供を前に出してもどうしようもないだろう。


「そうだな、俺と………速水さんでどうだ?」


水谷がそう提案する。


「そう、ですね子供に危ない真似をさせるわけには………」


「いや、その役は俺にやらせてくれ」


速水が答える前に良輔が名乗りを上げた。


「良輔!?」


「大丈夫だよ、それにあの男とは一回接触してるんだ、俺が適任だろ?」


良輔は優希にそう答える。


「別に構わないよな?」


「ん?ああ、俺は別にいいぜ」


水谷は良輔に頷き返す。


そしてこの作戦に重要な囮役が決まった。








[22742] 09話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/10/26 04:49
【BET】
player suit card odds
北条良輔 ダイヤ 5 3.8
御剣優希 ハート J 5.6
??????? ???? ? ?????
柊桜 ???? ? 8.2
??????? ???? ? ?????
??????? ???? ? ?????
??????? ???? ? ?????
杉坂友哉 ???? ? 3.7
一ノ瀬丈 クラブ 8 6.0
速水瞬 スペード 10 4.3
??????? ???? ? 2.7
飯田章吾 ???? ? Death
水谷祐二 ???? ? 3.2
Day 1日目
Real time 午後   9:59
Game time 経過時間 11:59
Limit time 残り時間 61:01
Flour 1階
Prohibition Area 屋外のみ
Player 11/13





俺と水谷は大男の居る階段前が見える通路に身を隠して潜んでいた。


大男は隠れている良輔たちに気づいた様子はなく、階段に座りながら煙草をふかしている。


「手筈はわかってるな?」


隣にいる鉄パイプで武装した水谷が話しかけくる。


「もちろんだ」


良輔は家具を壊して作った武器を肩に担ぎながら頷いた。作戦決行は10時ちょうど、もう間もなくだ。


「時間だな、行くぜ」


水谷にコクリと頷くと良輔たちは通路に躍り出る。


「ん?」


煙草をふかしていた大男は人影が近寄ってくるのを確認すると吸っていた煙草をポイッと投げ捨て横に立てかけてあった木材を担いでゆっくりと立ち上がる。


良輔たちは大男から少し距離を空けたところで立ち止まった。


「やあ、また会ったな青年」


大男はフレンドリーに話しかけてくる。


しかしその目は笑っていない。


「ああ、俺はもう会いたくなかったがな」


良輔からは苦笑がもれる。


「まあそう言うな、私としては会いたくて仕方がなかったぞ。それに君は冥土に連れて行くお友達を連れてきてくれたみたいだしな」


大男はそういって水谷を見る。


「あいにく俺は男と一緒に三途の川を渡る予定はねえよ」


水谷はペッと唾を吐きだした。




横で汚いなと思っていたのは内緒だ。




「そこに転がってる女を殺ったのはアンタなのか?」


良輔は床に倒れている女性に視線を向けながら尋ねた。


「ん?ああ、彼女のことか?確かに彼女を殺したのは私だがそれがどうかしたのかね?」


大男は何でもないという風に返答する。


「1つ聞かせて欲しい」


「何かな?」


「殺人(それ)はアンタの首輪の解除に必要なことだったのか?」


自分でも驚くほどの低い声が出る。


「………」


「どうなんだ?」


「私の解除条件は直接殺人を要求しているものではない」


「なっ!?」


良輔はあの大男の解除条件が殺人を要求するものだと思っていただけにその言葉に驚きを隠せなかった。


「じゃあ何でアンタは人殺しなんてしてるんだ!?」


もしこれが首輪の解除に必要なことだったというなら良輔は目の前の大男を同情こそしても非難するつもりはなかった。殺らないなら死ぬのは自分なのだ、良輔とて優希の条件が【J】であることを知らなければ今頃は他のプレイヤーを探し出して殺そうとしていただろう。良輔は他人の死を条件として出されながらも他人と協力しているこの状況は御剣優希という人間の安全を確保するためのものであることを自覚していた、だが目の前の男は良輔の前ではっきり断言した、自分の生死に他人の生死は関係ない、と。それならば何故、この男は他人を殺す?


「それは私の目的には殺人が必要だからだよ、青年」


大男はそう答える。


「は?目的?」


(何言ってるんだこいつ?)


良輔は目の前の人間が何を言っているのか分からなかった。


「ちっ、くだらねえ」


水谷が横で悪態をつく。


「俺が聞きたいのは1つだ、アンタは俺たちを通す気があるのかないのか、それだけ聞ければ十分だ」


水谷は大男に敵意の視線を向けた。


「そうだな、その質問には………これを返答として受け取ってもらおうか!?」


大男は言うや否やこちらに向かって突進してくる。


勢いそのままに木材を水谷に向かって振り下ろす。


ガキンと甲高い金属音を響かせながら水谷が持っていた鉄パイプで受け流す。


「今だ!!行け!!」


良輔はそう叫びながら持っていた木材で大男の手首を狙う。


ブンっと空を切る音がした。大男は僅かに手首を捻ることで良輔の一撃を交わす。


その時、大男の後ろでは左の通路から杉坂とジョーが、右の通路から優希と速水が飛び出し、そのまま階段を上って行く。


遠目に優希が一瞬こちらを不安げに見た気がした。


(そんな不安そうな顔をするなって)


こんな状況でも他人を心配する自分の幼馴染に苦笑した。


「む!?しまった、こちらは囮か!?」


後ろから複数の足音を聞いて驚いた大男の意識が後ろに向いた。


(チャンス!!)


良輔と水谷は一瞬、アイコンタクトを取ると左右に別れて大男を抜ける。


「逃がすか!!」


大男は意表を突かれながらも咄嗟に対応した。体を左周りに回転させ、左手に持った木材で右を走り抜けようとした水谷の後頭部目指して薙ぎ払う。


「遅せえ!!」


水谷は足首を起点にして体を反転させるとまるでビンボーダンスでもするように後頭部目がけて放たれた一撃を躱す。


ブンっと大男の木材が空を切った。


そのまま水谷は反転して体勢を直すとそのまま走り出す。


(本当に人間か、こいつ?)


その姿をちらっと横目で見た良輔はそう思わずにはいられなかった。


そして階段まで全速力で走るとそのまま良輔たちも階段を上がって行った。


「ふむ、逃げられてしまったか」


大男は階段までは2人を追ったがそこからは2人の後ろ姿を見送っていた。


「できることなら後を追いたいところだが………」


大男はそういって自分が殺した女性に目を向けた。


「まだこの女には用があるしな」


もう階段に居ることは無意味と考えたのか大男は女の死体を引きずりながら階段を去って行った。








――――――――――――――――
――――――――
――――
――







「は、ここまで、くれば…んぐ、とりあえずは大丈夫だろ?」


良輔も水谷もぜえぜえと息を切らしながら立っている。当然だ、階段から全力ダッシュしてかなりの距離を走ったのだから。


「ああ、そう、みたいだな」


その努力が実ったのか大男は追ってこない、そのため2人は足を止めて息を整えていた。


「さて、そろそろ先行している御剣のお嬢たちと合流しようぜ?」


水谷はそう言いながら持っていた鉄パイプを担ぎ直した。


良輔達はこの作戦の時に合流地点を2階の階段付近にある戦闘禁止エリアと決めていた。これはあの大男が追ってきたときに戦闘禁止エリアに逃げ込めば安全だからである。そして先行している優希達は一足先にその戦闘禁止エリアに向かっているはずだろう。


「ああ、そうだな」


良輔が木材を担いで移動しようとする。






ガキンと低い金属音が通路に鳴り響いた。






「っ!?」


「なんて俺が言うと思ったか?」


水谷が良輔の背後から鉄パイプを振り下ろしていた。


良輔はまるでわかっていたとでも言いたげにそれを防いでいる。


水谷は驚愕の表情を作ったがすぐに奇襲が失敗したことを悟ると良輔から距離を取る。


「へえ、今の攻撃がよくわかったな」


水谷は失敗したというのに楽しそうに笑っていた。


「まあ、な」


良輔はそういって水谷と対峙する。


「いつから気づいてたんだ?俺がお前らを騙してることに」


水谷は興味深そうに聞いてくる。


「そうだな、不審に思ったのはお前が陽動作戦なんて言い始めたあたりからだな」


「ほう、どっかおかしかったか?後学のためにご教授願いたいね」


「そもそもあの戦力差なら真正面から挑んだ方がいいに決まってる。あの大男でも武装した成人男性4人を相手にしようとは思わなかっただろうさ」


「はっ、そうだろうな。だがそれじゃ俺が裏切るだろうと考える理由にはならないだろ?」


確かにそれだけならば杉坂が言っていたように6人でもあの大男が攻撃してくるかもしれないと思っただけで済ませることができる、それだけならばではあるが


「俺がお前の疑念を決定づけたのはお前自身が陽動組に志願した時だ」


「どういうことだ?」


「本来、陽動は1人のほうが効率がいい、2人いても逃げる速度が遅くなるだけだし隠れる場所も制限される」


「………」


「なのにお前は6人を2人ずつ分けて陽動組を2人1組にすることにこだわった、それは何のためだ?決まっている、お前は他の人間をよけて1人ずつ始末しようとしたんだ、だからこそ自分が陽動組に志願したんだろ?そうすれば他の4人を先に行かせて自分は殺す相手と二人っきりになれるもんな?」


「………」


「大方、俺を殺した後は優希たちには俺があの大男に殺されたことにするつもりだったんだろ?そして仲間のふりをしながら1人ずつ、確実に消していく」


「………」


「悪くはないが…水谷、お前は詰めが甘かったんだよ」


良輔が言い終わると水谷はニヤニヤと笑みを浮かべる。


「ククッ、なるほどね。お前が陽動作戦に賛成したのもそれとなく2人組を作りやすいようにあの大男の解除条件が3という数字に関わりがあることをリークしたのもあの大男との偽善めいた会話でさえ本当は俺を騙すための策だったってわけだ」


「当たり前だろ?PDAにせよ首輪にせよ殺して奪ったほうが早いに決まってる。他人を殺すことがデメリットになるのは【J】か【Q】ぐらいだ」


こんな状況に放り込まれれば誰もが他人を殺す動機を持っていると良輔は考えていた。


「とんだ狸だな、お前」


言葉とは裏腹に水谷は可笑しそうに笑みを張り付ける。


「敵を騙すためにはまず味方からってな、本当に演技するっていうのはこういうことを言うんだぜ?水谷ィ」


良輔は大げさに肩を竦めてみせる。


「だが何故だ?俺が裏切るとわかっていたのに何故、こんな手のこんだ真似をした?」


「お前の言うとおり階段に居座っているあの大男は俺たちにとっても邪魔だったんだ。せっかくだからお前にも手伝ってもらおうと思ってな」


良輔がそう言うと水谷はきょとんとした表情を作った。そして次の瞬間にはいきなり笑い始めた。


「ぶはは、つまり俺は騙していたつもりが実のところ利用されてたってわけか」


水谷は体をくの字に曲げながら笑う。


「なあお前、俺と組まないか?」


ふと笑いを止めて真剣な顔つきで水谷はそう提案した。


「ほう」


「俺とお前が組めばこのゲームは間違いなくクリアできると思うぜ?どうだい?悪くはないと話だと思うがなあ」


自信満々にそう言う水谷、だが


「魅力的なお誘いだが断る、俺は優希を裏切るつもりはないからな」


自分が優希を裏切ることなど考えられないと良輔は言い切った。


「………もったいないな、何もできない癖に偉そうに偽善を振りかざす嬢ちゃんの手駒にしとくにはお前は惜し過ぎるぜ」


その答えを聞いて本当に残念そうに肩を落とす水谷。


「そうでもないさ」


「あん?」


俺の言葉が意外だったのか間抜けな声で聞き返してくる。


「あいつは、優希は人を信じることが仕事なんだ。だから俺はそんなあいつが騙されないように人を疑うのが仕事なんだよ。それに少なくともあいつには俺を味方に留めておくだけの力はあるだろ?」


優希と一緒に居れば自分がどこまでも正しい人間で居られる気がする。不思議とあいつといるとそんな気がするのだ。きっとそれが御剣優希という人間の魅力なのだろう。


「ククッ、良輔、お前は選ぶやつを間違ったと俺は思うぜ?お前みたいなやつとあの純真無垢なお嬢ちゃんじゃ似合わねえよ」


水谷はそういって可笑しそうに笑う。


「そう、かもしれないな」


それは俺も感じていたことだった。自分が優希のような人間の近くにいることが場違いな自覚はあった。


「さて、不意打ちは失敗したしここは退かせてもらうぜ」


水谷は良輔に背を向けると違う道に向かって歩きはじめた。


「へえ、俺があっさりお前を逃がす、とでも?」


良輔は木材を構え直した。


「ああ、お前は俺を逃がすね」


しかし水谷は断言してこちらも見ずに歩いていく。


「こんなところで戦闘している間にあの大男が追いついてくるかもしれない、お前はその万が一の可能性を捨てきれなんてしないだろう?」


「………」


付け加えるなら優希の条件もあるがそれだけなら水谷と交戦していたかもしれない、あの大男はやはり不安要素だった。


「今回はお前にいいようにしてやられたが俺としてもなかなかいい収穫だったぜ」


水谷は振り返って意味深な笑みを見せる。


「どういうことだ?」


「さて、な?教えてやる義理はないな」


そういって歩きだそうとするが


「じゃあな良輔、次に会うときは敵同士だ」


思い出したようにそれだけ言うとそのまま去っていく水谷の後ろ姿を良輔はただ見送った。


「さて、俺も優希のところに帰るか」


水谷の姿が見えなくなると方向転換して優希たちが居るであろう戦闘禁止エリアに良輔は走り出した。








[22742] 10話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2011/01/09 09:19
【BET】
player suit card odds
北条良輔 ダイヤ 5 4.7
御剣優希 ハート J 8.5
??????? ???? ? ?????
柊桜 ???? ? 8.2
??????? ???? ? ?????
??????? ???? ? ?????
??????? ???? ? ?????
杉坂友哉 ???? ? 4.2
一ノ瀬丈 クラブ 8 7.8
速水瞬 ???? ? 5.5
??????? ???? ? 2.8
飯田章吾 ???? ? Death
水谷祐二 ???? ? 3.7
Day 2日目
Real time 午前   0:00
Game time 経過時間 14:00
Limit time 残り時間 59:00
Flour 2階
Prohibition Area 屋外のみ
Player 11/13




「やっと休めるな」


戦闘禁止エリアに着くと良輔は荷物を床に投げ捨てるとソファーに寝転がった。


「本当に疲れたわね、今日だけで色々なことがありすぎよ」


優希が良輔の隣に座る。


「まったくだな」


良輔もそれに同意した。


時間は良輔たちが戦闘禁止エリアにたどり着く少し前に遡る。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――





良輔は大男、水谷との連戦の後、戦闘禁止エリアを目指しながら急いでいた。


「優希!!」


「良輔!?」


前にいた優希たちにようやく追いついたらしい。


「あれ?水谷さんはどうした?」


杉坂がいるはずの水谷が居ないことを不審がっている。


「ん?ああ」


何と説明したら良いものか悩む。


「まさか!!」


速水が返事を返さない俺を見てあまりよろしくない想像を膨らませたらしい。


「いや、違う。水谷はちゃんと生きてる」


「え?じゃあ何で?」


最後にはジョーが聞いてくるが説明がめんどくさい。


「え~とな実は………」


そうして優希たちに事の顛末を教えた。


「そういうわけなんだ。だから水谷はいない」


その説明が終わったあと、全員が暗い表情になった。一時的とはいえ協力した相手に裏切られたのだから当然と言えば当然の反応だ。もっとも水谷は優希達を裏切ったつもりはないだろうけど、もともと仲間じゃなかったわけだし。


「そっか、残念だけど仕方がないよね、それにまだ生きてるなら今度会ったときに分かり合えるかもしれないし」


そういって優希は笑う。


「御剣、お前は悔しくないのか!?水谷は俺たちを騙してたんだぞ!!」


杉坂が怒りを示す。


「悔しいに決まってます、私だって…でもまた会えるなら今度こそ分かり合えるかもしれない、そう思いたいです」


優希はそういって杉坂を見る。


「流石にそれは楽観的過ぎじゃないか?」


杉坂はそう答える。


「そうかもしれません、でも他人に信じてもらいたいならまず自分が相手を信じて行動で示すべきだと思うんです、だから私は水谷さんとも分かり合えると、信じています」


「むう」


あまりにもすっきり断言する優希に杉坂がたじろぐ。


「この状態になると優希は頑固だからあまり効果がないと思うぞ」


優希は外見こそ麗佳さんに似ているが内面は総一さんに似てしまったらしい。それを知っている良輔としては杉坂の言葉がまったく優希に届かないことを知っていた。


「良輔兄ちゃんは慣れてるんだね」


「まあな」


優希はいつもこんな調子だから学校でもよく他人に馬鹿にされていた、もっともそいつらには影から手を回してご退場していただいたが


「それにこういう人間が1人くらいは居てくれないと鬱になる」


人間なんてどいつもこいつも碌な生き物じゃなかった。平然と他人を騙す、傷つける、見下す、それでいて自分がそういった状況に追い込まれると自分のやっていることを棚に上げて常識だの道徳だのと自分の都合のいいものを持ち出してきて非難する。正直な話、見るに堪えなかった。おまけに自分はそういったものを見ると忘れることのできない体質をしているために良輔には無条件に他人を信用したり、弱いものを常に助けてきた優希が宝石のようにとても眩しく見えるのだ。


「良輔君?今何か言いましたか?」


「いえ、別に…それよりも何でまだこんなところにいるんだ?俺も急いできたけど合流するには少し早すぎるぞ?」


良輔は戦闘禁止エリアに着くまで合流できないかもしれないと思っていたくらいなのだ、しかし道の半分を過ぎたあたりぐらいでもう合流してしまっている。


「うん、それはね」


優希の話では階段から遠く離れた後、今までは通路を歩いているだけだったがついでだから途中にある部屋を覗いてみようという杉坂さんの提案で部屋を探索しながらの移動となったらしい。部屋の中にあったものはそのほとんどがガラクタだったがいくつか使えそうなものがあった。


「ナイフか」


その中でも良輔が目を付けたのはコンバットナイフだ。2階に来てついに武器らしいものが手に入った。他にも缶詰の食糧やペットボトルに入った清飲料、救急箱などこれからの行動に役立ちそうなものがたくさんあった。


「もうすぐ戦闘禁止エリアですね、そこで少しゆっくりしましょう」


速水が少し疲れた表情を見せる。


「そうだよね、僕たち朝から歩きっぱなしだもんね、もう疲れたよ、パトラッシュ」


「お前はどこのネロだよ?」


がっくりうな垂れる一ノ瀬に突っ込みを入れる。


「というか君たちいったい何歳ですか?」


速水は苦笑する。


「ネロ(寝ろ)といえばもうすぐ日付が変わるんだよな、ゲーム開始が朝の10時でもうすぐ夜の12時、ゲーム時間は14時間経過したわけだから残りは・・・ん?」


真顔で冗談を言う杉坂を全員が見つめる。


「どうした?俺の顔になんかついてるか?」


天然だった。


「あ、いえ、杉坂さんって冗談言うキャラに見えなかったから驚いたな~ってね、ねえ?みんなもそう思わない?」


優希がフォローを入れるためか全員に話を振る。


「ま、まあ、僕は趣味って人それぞれだと思うよ」


「ああ、多少?かなりひどくても生きていけるよ」


「そ、そんなことありませんよ、ギャグセンス抜群でしたよ。杉坂さん」


ちなみに一ノ瀬、俺、速水さんの順番である。速水さん、あんた大人だよ。


「ありがとう速水さん、理解してくれるのはあんただけだよ」


涙ぐむ杉坂。


俺たちが戦闘禁止エリアに着いたのはそれから30分後のことだった。


「地図によるとこの部屋が戦闘禁止エリアみたいだよ」


戦闘禁止エリアと思われる部屋の前に立った時だった。


ピロリン、ピロリン


「うわ!?」


いきなり手の中で鳴りはじめたPDAに露骨に驚く一ノ瀬。


「なんだろ?」


常時から手にPDAを持っている優希がいち早くPDAを確認する。俺たちも遅れてPDAを取り出す。


『あなたが入ろうとしている部屋は戦闘禁止エリアに指定されています。戦闘禁止エリアでの戦闘行為を禁じます。違反者は例外なく処分されます』


合成音声がPDAの画面に合わせて流れる。


「ふう、これでやっと一休みできますね」


にっこり笑う速水。


それにつられてみんな安心したように笑みを浮かべた。


ゲームの開始からすでに半日以上が経過して日付が変わろうとしている時間に俺達はようやく安らげる部屋にたどり着いた。


「じゃあ入るよ」


ガチャッ


一ノ瀬を先頭に部屋へ入っていく。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






「へぇ~」


「ここだけはずいぶん綺麗な部屋なんですね」


部屋に入ると一ノ瀬と優希が嬉しそうな声を出した。


俺は戦闘禁止エリアに指定された部屋を見渡した。


いままで入った部屋に比べて内装がしっかりなされている。


埃の溜まっていた廊下に比べ、清掃も行き届いており清潔感のある部屋でおまけに台所や更衣室にトイレ、シャワールーム、寝室だってあった。


「この戦闘禁止エリアを1日目の拠点にしましょう。ここならゆっくり眠れそうですし」


部屋に入るなりそう提案する速水。もちろん全員に異論はなかった。


「ちょっと奥の部屋を見てきますね」


そういって速水は奥の部屋に入っていった。


「しかし………戦闘禁止エリアと言うだけの事はあるな」


杉坂さんがソファーに座りこむ。


「戦闘禁止というよりは休憩場所って感じだけどな」


良輔もそう呟いた。


「それも兼ねているから部屋が綺麗な状態なのかもしれないな」


杉坂さんが俺に同意の言葉を返した。


そして話は冒頭に戻る。


じっくり10分くらい休んだときだっただろうか?


「僕、おなか空いたよ」


そう言って腹をさする一ノ瀬。


「じゃあ私がなんか作るね」


かばんから部屋を探索している時に見つけた缶詰などを取り出し始める優希。


「何か手伝おう」


俺の言葉にむっとした表情を作る優希。


「もう、料理くらい私に作らせなさい!!そんな暇があるならゆっくり体を休ませておくこと、いいわね?」


そういって優希が足早に台所に入っていく。


一ノ瀬は優希の姿が部屋から消えるのを見届けてから呟いた。


「優希姉ちゃんってできた彼女だよね~良輔兄ちゃんにはもったいないや」


「一ノ瀬君の言うとおりですよ、あんなできた彼女なんてそうそういません、良輔君は優希君を大切にしてあげなくてはいけませんよ」


「御剣もこんな彼氏を持ってさぞや苦労してることだろう」


一ノ瀬に便乗して部屋を調べ終えてから近くに寄ってきていた速水とソファーに寝転がっていた杉坂も話に乗ってくる。ひどい言われようである。


「別に俺と優希は付き合ってるわけじゃねえよ」


その言葉に3人が驚いた表情で俺を見る。


「………違うのか?」


訝しがるように聞いてくる杉坂。


「ああ、子供のころから一緒に過ごしてきたってだけだ」


俺の話を聞いて速水さんがうんうん唸りはじめた。


「なるほど~今まで距離が近すぎて気づかなかったけど危機的状況に追い込まれることで自分の気持ちに気づいてしまったってことですね、分かります!!」


勝手に自己解釈する速水。


「そしてこのどことも分からない場所、まわりは知らない奴ばかりで常に危険が二人に付きまとう。嗚呼、二人の恋は様々な障害に阻まれながらもそれを乗り越えて激しく燃え上がる。………そういう設定なんですね!?速水さん!!」


杉坂が悪乗りを始めた。こいつら事前に打ち合わせでもしてんじゃないのか?


「ってことは御剣の姉ちゃんは今、フリーなわけだ。僕、狙っちゃおうかな~」


一ノ瀬の発言に少しイラッとした。


「今、良輔君イラッとしたでしょう?」


速水さんが俺を見て不適に笑い始める。


(あんたは読心術でも体得してるのか?)


「北条」


ポンポンと俺の肩を叩く杉坂。


「男の嫉妬は………みっともないぞ」


かぶりをふりながら話す杉坂さん。


嗚呼、なんでここ戦闘禁止エリアなんだろ?


それからやることもないのでお互いのことをよく話した。例えば杉坂さんには小学校に通う達哉という弟さんがいるらしい。他にも一ノ瀬が好きなゲームの話をしたり速水さんが持っていたトランプで自慢のマジックを披露したりしてくれた。


「ご飯できたわよ~~」


キッチンから優希の声が聞こえてくる。


「おっ、待ってました!!」


杉坂さんが待ち望んでいたような声を出す。


それから優希が作ったご飯を持ってきてくれた。


テーブルクロスを床に敷き、食事をその上に並べる。一ノ瀬、杉坂さんと向かい合う形で座り、隣には優希、その2組を取り持つように速水さんが座った。




メニューには白いご飯に野菜炒め、スクランブルエッグ、ウインナーとほうれん草のソテー、じゃがいものスープと見慣れたものが湯気を立てて並んでいる。




ゴクリ




俺はそのうまそうな料理の数々に空腹も手伝っておもわず生唾を飲み込む。


「うわ~おいしそう」


「確かにおいしそうですね」


一ノ瀬は食事に目を輝かせそれに速水さんが頷いていた。


「ちょっと待て、この食材どこにおいてあったんだ?」


「あ、冷蔵庫の中にあったもので保存が利かないものを優先的に」


杉坂の疑問にそう答える優希。


「それでは料理が冷めないうちに頂きましょうか?」


速水の号令で一同食べ始める。


「すごくおいしい」


「星3つですね」


「まさかこんな場所でまともな食事にありつけるとは思わなかった」


一ノ瀬、速水、水谷の順番で3者3様の反応を見せる。


俺もウインナーとほうれん草のソテーに手をつける。


「ど、どう?」


上目遣いにそう聞いてくる優希。


「うまい」


良輔はそう答えざるを得なかった。


優希はそれを聞くとひまわりのような笑みを浮かべた。


「ふふふ、そうでしょう」


胸を張って自慢げにする優希。


そんな二人を懐かしむような・・・それでいて悲しそうな目で見ている人物がいたが食事に夢中になっている4人は誰もそのことに気がつかなかった。







――――――――――――――――
――――――――
――――
――







食事を終えたころにはもう2日目の午前1時だった。朝の10時がゲーム開始だったので既に15時間が経過したことになる。明日は8時に出発することに決め戦闘禁止エリアであるが一応見張りを立てようということで俺、杉坂さん、速水さんで2時間ずつ見張りをすることになった。これには一ノ瀬と優希が猛反発し、5人でローテーションを組むべきと主張した。


しかし


「女と子供は黙って寝てろ」


杉坂さんの偏見とも言うべきこの一言で両断されてしまった。見張りの順番は俺、速水さん、最後に杉坂さんとなった。


「それではおねがいしますね、良輔君。2時間でいいですから」


「おやすみ~良輔兄ちゃん」


「お先」


「おやすみ、良輔。見張り頑張りなさいよ」


速水さん、一ノ瀬、杉坂さん、優希の順番だ。


「ああ、おやすみ」


良輔はそう答えて扉の近くに座り込んだ。


(ふう~やっと1日が終わったか)


皆が寝静まったころPDAに目を落としながら良輔はそんなことを考えていた。


画面には生存者11名の表示があった。


(1日目でもう2人死んだのか)


そんなことを考える良輔。


(優希のためには俺たち以外に後1人は生きてくれていなくては困る。そして2日と23時間経過後に優希の首輪が外れれば俺は・・・)


誰か1人以上を殺さなければならない。自分と優希が生きて帰るためには仕方がない、そんな言い訳をしても最悪の場合は行動を共にしてきたあの3人の誰かを裏切って殺す必要だって出てくるのだ。


(憂鬱だな)


あの3人は一緒に飯を食べたり話をして笑いあった人たちだ。できるなら殺したくはない、もちろんあの人たち以外なら殺してもいいなんて思っているわけではないがやはり見知らぬ人間とそうじゃない人間では勝手が違う。


(理想で言えば残り1時間になって俺以外の首輪が外れたところに敵対者が現れることだが………)


良輔自身そんな都合のいいことは現実では起こりえないことぐらいはわかっている。だがそんなことぐらい起こらないと自分は誰かを裏切って殺さなくてはいけないのだ。それがたまらなく苦痛だった。


そんなことを考えていたからだろう


「見張りお疲れ様、良輔兄ちゃん」


一ノ瀬が起きていたのに気づかなかったのは


「っ!?驚かせるなよ」


寝ていたと思っていた一ノ瀬がいきなり話しかけられてビクッと体が震えてしまった。


「兄ちゃんが驚きすぎなんだよ」


クスクス笑うと金属製のコップを差し出してきた。中にはコーヒーが湯気を立てている。


「サンキュー、気が利くじゃないか?」


「ふふん、気が利くのはいい男の条件なんだよ?」


コーヒーを受け取ると一ノ瀬が不適に笑い始める。


「ほざけ」


良輔はそういってコーヒーを口に含む。口の中にコーヒー特有の苦みが広がった。


「うわ、ブラックそのまま!?」


一ノ瀬は砂糖とミルクを持ちながら答える。


「悪いか?」


「いや、悪くないけど僕は苦いのだめだから」


そして一ノ瀬はコーヒーに砂糖とミルクを入れてスプーンで混ぜる。


「眠れないのか?」


「まあ、それもあるんだけどね。ひとつ兄ちゃんに聞きたいことがあったんだ」


「なんだよ?」


一ノ瀬は良輔の横に座るとコーヒーを一口啜った。


「良輔兄ちゃんって御剣姉ちゃんに告らないの?」


「ぶっ!?」


良輔は飲んでいたコーヒーを思いっきり吐き出した。


「い、いきなり何言ってんだお前?」


「良輔兄ちゃんは御剣姉ちゃんのことが好きなんでしょ?」


「ば、そんなんじゃ…あいつは俺の幼馴染だからってだけで」


「じゃあさ、なんで一緒に行動してるの?」


「はあ?」


良輔は一ノ瀬が何でそんなことを聞くのかわからなかった。


「単独行動すると危ないからだろ?」


「嘘だよね、それ」


しかし一ノ瀬は動じない。


「何でそう思う?」


「僕が一緒にいるのは御剣の姉ちゃんや良輔兄ちゃんの協力が必要だったからだよ。逆に兄ちゃんは僕たちといても何の利点もない」


確かに一ノ瀬の【8】や優希の【J】は相性がいい、だが【5】の良輔が一緒に行動しているのは妙に映るだろう。


「利点ならあるだろ、人数が多ければその方が襲われにくくなるし首輪の解除もやりやすくなる。うまい料理も食えたし、一人なら寝ずの番だ」


「それがそのままの答えなんだよ良輔兄ちゃん」


一ノ瀬はそういってコーヒーを啜る。


「人数が少ないほうが襲われやすいし、首輪の解除も難しくなる。缶詰のご飯じゃ気力がなくなるし寝ずの番なら睡眠不足だろうね」


「お前は………何が言いたいんだ?」


「兄ちゃんが首輪を解除するためには生存者が5名以下にならないといけない。つまり兄ちゃんがここにいないなら僕たちはもちろん1人分人数が少なくなるから襲われやすくなるし首輪の解除も難しくなる。兄ちゃんは本来なら仲間になる必要なんてなかったんだよ、放っておけば僕たちが襲われて生存者が少なくなるかも知れないし単独行動できるならもっと直接的な手段をとってもいい」


「っ!?」


「それじゃあ何で【5】の条件を持ちながら仲間を作ろうするのか?考えて見れば簡単だよね?」


一ノ瀬は真剣な表情を作って良輔を見る。


「良輔兄ちゃんは見知らぬ他人が死ぬのを恐れているわけじゃない、兄ちゃんが恐れているのは」


「御剣の姉ちゃんが死んでしまうことなんでしょ?」


「………」


「僕ね、最初のころ良輔兄ちゃんはどうしようもないお人よしか偽善者なんじゃないのかなって思ってたんだ」


「は?なんだいきなり」


断言しよう、それはない。


「でも一日一緒に行動してわかったよ、兄ちゃんはお人よしでもなければ偽善者でもない。どっちかっていうと自己中心的な方なんだろうね」


「それはそれであまりいただきたくない評価だな」


良輔は苦笑する。


「そんな良輔兄ちゃんなのに自分が死ぬかもしれない状況を放っておいて御剣の姉ちゃんの条件を優先しようとしてる。兄ちゃんはただの他人のためにそんなことができる人間じゃあないよ」


そこで一ノ瀬は残っていたコーヒーを一気に飲み干す。


「兄ちゃん、僕はね大切な物がない人間は不幸だと思うけど大切な物があるのにそれに気づかない人間は愚かだと思うよ。だって大切な物があってそれが大切だって分かってても突然失くしちゃう人だっているんだから………」


「………一ノ瀬?」


そこまで言うと一ノ瀬は立ち上がった。


「だからね、僕は自分の大切な物のために命懸けで一生懸命になれる兄ちゃんは………好きだな」


最後におやすみと言って一ノ瀬は自分の毛布に潜り込んでいった。








――――――――――――――――
――――――――
――――
――







俺はそれを確認するとふぅ~と溜息をついた。


(やれやれ俺はあんな年下の男の子に心配されるような表情でもしてたのか)


パンパンと自分の頬をたたく。


(しっかりしろよ、北条良輔)


良輔は気合を入れて見張りに取り組む。


見張りの時間が終わると速水さんを起こして見張りを交代し、眠っていた一ノ瀬にありがとうと囁きながら頭をくしゃくしゃしてやった。その時う~んう~んと困ったような声を出していたのが妙に気味のいいことだった。






[22742] 挿入話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/10/26 05:01


(はあ~今日はもう疲れた)


優希は奥の部屋に入るとベッドの上に雪崩れ込んだ。唯一女性である優希が奥の寝室を使っており、他の人はソファーのところで寝ている。


(今日一日で色んなことがありすぎよ)


いきなり拉致されてきて目覚めると自分の首には首輪があった。傍にはPDAが置かれていていきなりゲームをしろときた。最初のころは何かの冗談だと思っていたがそのゲームで見知らぬ人が死んだり、ルール交換の時には柊から言いがかりをつけられそのあと見知らぬ通路を誰かに襲われるのではないかと不安を抱きながら一日中歩き回った。


(唯一の救いは良輔に会えたことかな?)


自分の幼馴染である北条良輔。一人でこの場所にいたなら気がどうにかなっていたかもしれないがゲーム開始直後といってもいい時間に良輔に会えたことは幸運としかいいようがなかった。しかし喜んだのも束の間、良輔のPDAが【5】であると知ったときは激しく動揺した、それでも良輔は自分の傍に居てくれている。そんな感謝の気持ちを込めて作った自分の料理を良輔が食べてうまいと言ってくれたときは本当に嬉しかった。


自分がこんな平和なことを考えられるのは良輔や速水さんや一ノ瀬君、杉坂さんのおかげだと仲間に感謝しながら眠りについた。


御剣優希のゲーム初日はこうして終わる。











ここはどこだろうか?周りには幼稚園に通っているくらいの子供が大勢いる。おもちゃを振り回しながら遊ぶ男子、おままごとをしている女子。そして私は、私は誰だっけ?


「ねえ、優希ちゃん、一緒におままごとしようよ」


「しよしよ」


「ね?いいでしょ?」


もう誰だったかさえ思い出せない3人の女の子がしゃべりかけてきた。

そうだ私の名前は御剣優希だ。


「うん、いいよ、一緒に遊ぼ?」


自分の名前を思い出し、その子達と一緒に遊び出す。


どれほど遊んだだろうか?今はちょうど泥で作ったご飯を旦那様役の私が食べる演技をしているところだ。


ふと遠くから男子の助けを呼ぶ声が聞こえてくる。


「ねえ、何か聞こえない?」


私は耳に手を当てる。


「え?」


「ううん、何も聞こえないよ?」


「どうしたの優希ちゃん?」


他の子たちは私をおかしな目で見始める。


「ううん、絶対聞こえるよ」


私は立ち上がって助けを呼ぶ声のするところに走っていこうとする。


「あ、ちょっと優希ちゃん!?」


「もう、おままごとの途中なのに~~」


「優希ちゃんとはもう遊んであげな~い」


一緒に遊んでいた女の子たちが私にそう言う。


「え?どうして?私何か悪いことしちゃったかな?」


遊んでもらえなくては寂しくなってしまうので私はそう答えた。


「だって優希ちゃん、おかしいもん!!」


「そうよそうよ」


「聞こえもしないのに何か聞こえるとか言うし」


3人が私を変な物でも見るように見てくる。


「本当だもん!!聞こえるんだもん!!」


私は信じてくれないみんなにそう言い切った。


「嘘よそんなの、だって私たちには何も聞こえないんだもん」


「優希ちゃんの嘘つき~~」


「優希ちゃんって本当は化け物なんじゃないの~~?」


しかしやはり信じてもらえなかった。


「違うもん、私、嘘つきじゃないもん、化け物なんかじゃないもん!!」


私は普通の人間なのに周りがそれを許容してくれなかった。


「「「嘘つきな優希ちゃんなんかとはもう遊んであげな~い」」」


女の子たちはそう言って他の場所に行ってしまった。


「本当だもん、私には聞こえるんだもん、私、嘘なんかついてないのに」


零れる涙を拭って自分が嘘つきでないことを証明するために声の聞こえるほうにあるき始めた。


声は幼稚園の裏庭から聞こえてきている。そこはあまり人の通らない場所で、先生が来ることも稀だったのだ。


「お前最近調子乗り過ぎなんだよ」


「ごめん、ごめんなさい」


そこにはクラスの弱い男の子をいじめている3人の男子だった。


「おもちゃを使うのは俺らが先なの」


「これからは邪魔するなよな~」


3人は丸くなっている男子に蹴りを入れたり殴ったり投げ飛ばしたりしている。


(た、大変!?先生呼ばなきゃ、で、でも)


そうすれば自分が先生を呼びに行っている間はあの子が殴られっぱなしになる。


そう考えて腹を括った。


「こ、こら~~弱いものいじめしちゃ、だ、だめなんだよ~~」


精一杯虚勢を張るが恐怖で声が震えてしまう。


いじめていた男の子3人がじっと私を見た。


「なんだ、優希じゃねえか」


「なんだよ弱虫」


「弱虫の癖にでしゃばるんじゃねえぞ」


いじめていた男の子3人が脅しをかけてくる。


「い、いじめはだめだってせ、せんせいが言ってたもん!!」


負けないように震える体に活を入れる。


「ったくうっせえな、おいお前!!もう行っていいぞ」


リーダー格の子がいじめられていた子を見る。


「う、うん、ありがとう」


その子は足早にその場を退散しようとするが去り際に私をちらっと申し訳なさそうに見てきた。


「さ~て、それじゃあ、あいつの代わりにお前が俺たちに殴られてくれるんだよな~?」


リーダー格の男の子がそういって私を見てきた。


「え?な、なんでそうなるの?」


「そりゃあお前の望み通りあいつをいじめるのはやめてやったんだ、その代わりにお前がいじめられるのが筋ってもんだろう?おい、お前ら!!あいつを捕まえろ!!」


「「へい!!親分」」


2人の男の子が近寄ってきて私の服を掴むと私は地面に突き飛ばされた。


「っ!?」


地面に倒れたときに膝をすりむく。


「痛い、痛いよ」


倒れた私をリーダー格の子が髪を引っ張って無理やり立たせる。


「ピーピー泣くしか能がない癖に俺に説教するなんざ、数億万年早いんだよ!!」


リーダー格の男の子のパンチが私は顔を殴られて地面に倒れ込む。


「ひっ、ひぐ、痛い、痛いよ、う、うわああああああん、お父さん、お母さん、ひぐ、痛いよぉぉ」


私はあまりの痛さに思わず顔を押さえる。


「ピーピー泣くなって言ってるだろうが気持ち悪いつ~の!!」


「あぐ」


お腹を蹴られて私の体がくの字に曲がる。


(だ、誰か助けて…)


私は心からそう願った。もしかしたら神様が願いを叶えてくれたのかもしれない。


「お前ら、優希ちゃんをいじめるな!!」


遠くからそう叫びながらこちらに走ってくる男の子。


「りょ、良輔君………」


涙で歪む視界に映るのはつい最近、一緒に家で住むことになった良輔君だった。


「大丈夫!?優希ちゃん?」


良輔君は私を優しく抱き起してくれるとパンパンと服に着いた土を払ってくれる。


そして私の顔を見て驚きの表情を作るがすぐに笑って頭を撫でてくれた。


「痛かったでしょ?痛いの痛いの飛んでけ~~」


良輔君はそういうと私をいじめっこの3人から隠すように向き合った。


「お前、この前入ってきた新入りだったよな?俺に何か用かよ?」


「さっき、杉本君が怪我してここから逃げてったみたいだから問い詰めたんだ、そうしたら優希ちゃんがいじめられてるって聞いたからここに来た」


「はっ、それで?」


「お前ら優希ちゃんを殴ったな!?優希ちゃんをいじめるやつは僕が許さないぞ!!」


「ちょうどいい、ここの規律ってやつを教えてやるぜ!!」


「優希ちゃんは今のうちに逃げて!!こいつらは僕がやっつけるから!!」


そういって良輔君は私を後ろに軽く押すと自分はいじめっこ3人に立ち向かって行った。


良輔君に背を押されて私は一目散に先生を呼びに走った。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






私が先生を呼んで戻ってきたときにはもう4人共ボロボロになっていた。良輔君とリーダー格の男の子がかろうじて立っていて他の2人は地面に倒れている。


「こ、この勝負預けた、ぜ」


「は、また、優希ちゃんを、い、いじめるよう…なら、はあ、先に僕が相手になってやる!!」


そして先生が喧嘩を止めたことで全員が保健室送りになって手当を受けた後でこっぴどく先生に怒られていた。


そんな中、私はずっとモヤモヤしたものを感じていた。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






それから幼稚園の時間が終わり、お母さんが迎えに来てくれた。お母さんは私と良輔君を見て目を丸くしたが先生から事情を聞くと


「優希は総一に似たのかしらね」と笑ってまず私の頭を撫でた後、


「この子を守ってくれてありがとう」と言って良輔君の頭を撫でた。


私たちはきっと怒られると思っていたものだから驚いたのだった。


そして家までの道を3人で歩く。


「ねえ、良輔君、ごめんね…私のせいで殴られちゃったし、先生にも怒られちゃったし」


私は申し訳なさそうに呟く。


「あはは、いいんだよそんなこと」


良輔君は絆創膏を貼りまくった顔で笑う。


「それにしても優希ちゃんはすごいなあ、男の子3人に向かってハッキリイジメはだめって注意するんだもん、僕じゃあ絶対真似できないよ」


横を歩きながら良輔君はそういってくれるが


「私はすごくなんかない!!」


そう叫ぶ私は気づけば目から涙が零れていた。


「優希ちゃん?」


良輔君は訝しがるように私を見てくる。


「私は良輔君を見捨てたの!!良輔君があのいじめっこ達と喧嘩している間に私は何もできなかった!!ピーピー泣いてるだけで何もできない癖に良輔君まで巻き込んで……ごめん、本当に、ごめんね」


ただ謝ることしかできなかった。私は何もできない、ただその事実だけが私の中に残った。


「何もできなかったってことはないんじゃないかな~~?」


しかし良輔君はそんな私にそう言ってくれる。


「えっ?」


「杉本君、優希ちゃんにお礼言ってたよ。















『助けてくれてありがとう』















だってさ、本当は直接伝えたかったらしいけど恥ずかしかったんだって、だから優希ちゃんに伝えといて欲しいって」


そういってニシシと笑う。


「でも私が助けたわけじゃ…」


あのいじめっこを追い払ったのは実質的に良輔だ。私は何もしていない。


「ううん、助けたのは優希ちゃんだよ、僕にはあのいじめっこたちと殴り合うことしかできなかった、でも優希ちゃんはあのいじめっこたちと話をして杉本君を助けたんだ、その事実だけは誰にも否定できない、だからやっぱり優希ちゃんはすごいって僕は思うんだ」


「………」


その言葉を私は嬉しいと思ったがそれでも良輔君を巻き込んで怪我をさせたことは変わりがない、そう思って私は俯いた。


「それにね優希ちゃんは1つ勘違いしてるよ」


「えっ?」


「僕は巻き込まれたんじゃない、自分から首を突っ込んだんだ、だから優希ちゃんがそれに責任を感じる必要はないし、それに…」


くるっと回って良輔君は私を見る。


「僕たちは友達でしょ!?だったら友達のピンチに駆けつけるのは当たり前じゃん?」


そういって良輔君はニコッと笑う。


(あっ)


私は胸がドキリとするのを感じた。夕焼けを背景に笑う良輔君の顔には絆創膏がいっぱいついていてお世辞にもかっこいいとは言えなかったけど、それでも私はそんな良輔君をかっこいいと感じた。


「ねえ、麗佳さん、今日の夕飯って何かな~~?」


「ふふっ、今日の夕飯は渚と一緒に作ったスペシャルカレーよ」


「本当!?やった!!」


「でも今日のカレーは痛いかもしれないわよ~~?」


「えっ?どういうこと~~?」


「それは食べてみてからのお楽しみかしら?」


そんな光景を見ながら私は間違いなくこう思ったのだ。


(ああ、こんな時間がいつまでも続けばいい)


そして3人仲良く家に帰った。


夕飯はとても口に痛くて、良輔君と一緒に悶絶したけど…今日はとってもいい1日だったと私は思った。








[22742] 11話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/10/26 05:05
【BET】
player suit card odds
北条良輔 ダイヤ 5 3.8
御剣優希 ハート J 5.6
??????? ???? ? ?????
柊桜 ???? ? 8.2
??????? ???? ? ?????
??????? ???? ? ?????
??????? ???? ? ?????
杉坂友哉 ???? ? 3.7
一ノ瀬丈 クラブ 8 6.0
速水瞬 スペード 10 4.3
??????? ???? ? 2.4
飯田章吾 ???? ? Death
水谷祐二 ???? ? 4.0
Day 2日目
Real time 午前   7:30
Game time 経過時間 21:30
Limit time 残り時間 51:30
Flour 2階
Prohibition Area 屋外のみ
Player 11/13





「う、ぐ」


良輔は夢を見ていた。悲鳴を上げながら死んでいく飯田章吾という医者、名も知らないが頭から血を流しながら死んでいた女子高生。


『良輔…に、逃げて』


そう言って死んでしまった自らの母親。


「ぐ、か、母さん」


両手を宙に彷徨わせながら苦しむ良輔の手をそっと包むように握る感触がした。


「はっ!?」


悪夢から目を覚ます良輔。そこには優希の姿があった。


「よ、ようおはよう」


寝汗を書いたらしくカッターが湿っている。かなり気持ち悪かった。


「おはよ、大丈夫だった?うなされてたみたいだったけど」


そういって優希は良輔にタオルを差し出す。


「まあ、夢見が悪いのは今に始まったことじゃないからな………」


受け取ったタオルで体を拭きながら良輔は答える。


「みんなは?」


「まだ寝てるわ。杉坂さんも私が起きたら少し寝るから飯が出来たら起こしてくれですって」


優希はそういってクスクス笑う。


「そういえば良輔に1つおねがいしたいことがあるんだけどいいかな?」


「ん?何だよ?」


「うん、実は………」








――――――――――――――――
――――――――
――――
――







「みなさんに聞いてほしいことがあります」


朝食である食パンとサラダそしてコーヒーを啜っている全員に優希が話しかけた。


「どうしたんだ?そんな改まって?」


杉坂がコーヒーを飲みながらそう答える。ちなみに杉坂もコーヒーはブラック派らしい。


「今から私のPDAを全員に見せます」


「ぶっ!?」


優希の爆弾発言に杉坂は飲んでいたコーヒーを吹き出す。


「これが私のPDAです」


そういって優希は全員にハートの【J】の表示がされているPDAの画面を見せる。


「お前、何考えて…」


杉坂が狼狽する。無理もない、【J】の条件は他人と協力しやすいPDAなだけに敵も多い。【J】が死んでいる必要のある【A】はもちろん、条件が競合している【5】などは俺のような例外を除いて間違いなく敵に回るだろう。昨日、速水が【10】のPDAを公開したのとはわけが違う。


「私たちがこの廃墟に閉じ込められてからもう1日が経過しようとしています」


その言葉に全員が暗い表情を作る。ゲーム開始が朝の10時だったのでもう2、3時間もすれば24時間が経過する。


「しかしここから脱出する術は未だ見つかりません、だから私たちはお互いの条件を見せ合って協力して首輪を外すべきだと思うんです」


「確かにそれがいいかもしれませんね」


優希の提案に速水が同意する。速水のPDAは【10】であることがわかっているためこの提案は速水にとって悪いものではないだろう。


「私がみなさんにPDAを見せたのは私の条件が多くの協力者が必要であることはもちろん、私も全員で帰りたいと願っているからです。そしてみなさんが私を信用できるようにするための誠意でもあります」


そして優希が一旦、言葉を切り、息を吸いこむ。






「私を信じられるなら、信じてくれるならどうか、協力してここから脱出しましょう」






優希はそう締めくくる。


良輔はその演説を聞きながら少し感心していた。


(昨日は柊に挑発される形だったのに比べると随分と成長したもんだ)


そんな感想を抱きながらコーヒーを啜る。


何故か、今日のコーヒーは少しおいしい気がした。


「ねえ、良輔兄ちゃん?」


ツンツンと肩をつつかれる感触がした。


「ん?どうした?」


横を見れば一ノ瀬が不安そうな表情をしている。


「いや、だってあんなに優希姉ちゃんがPDAを見せることをだめだって言っていたのに良輔兄ちゃんは何も言わないから」


「確かにPDAを全員に見せて協力してくれるように説得することを言い出したのは優希だが今回は俺も賛成した」


そう、今朝優希から頼まれたのはこのことだった。


「へえ、どういう風の吹き回し?」


一ノ瀬が興味深々に聞いてくる。


「優希の条件は協力者が多く必要な条件だ、そしてこの2人は少なくとも1日一緒に行動してるんだ、他人と協力できない解除条件である可能性は低いだろう」


少なくとも速水のPDAは【10】であることがわかっているのだから最低1人は協力者を得ることができる。これが大きい理由だ。


「分かりました、僕は優希君に協力します。前にも一度見せましたが僕のPDAはスペードの【10】、条件は初期配布者が既に死亡、または首輪の解除に成功したPDAを3台収集すること、つまりこの中で3人の首輪を外せれば僕の首輪も外せます」


予想通り速水は協力を約束してくれた。


「じゃあ次は僕が、僕のPDAはクラブの【8】だよ、条件は「ゲーム」の開始から24時間経過後に素数のPDA初期配布者全員と遭遇すること」


そして一ノ瀬がPDAを全員に見せる。


「アンタのPDAはどれなんだ?」


良輔は杉坂に問いかける。


「ん?そういうお前はどれなんだ?」


うまく聞き返されてしまった。信用を得る以上、話さないわけにはいかない。


そう考えて良輔は自分のPDAを取り出す。


「俺はダイヤの【5】、条件は生存者を5人以下にすることだ」


俺のPDAを見て速水と杉坂は驚きの表情を見せる。


「ちょっと待て!!それじゃあ御剣の条件と北条の条件は同時にクリアできないじゃないか!?」


「まあ、そうなるな」


杉坂の問いに良輔はそう答える。実際にはラスト1時間だけ猶予があるがそれは言うべきじゃないし、それでも条件が競合していることには変わりない。


「それでどうすんだ?御剣、お前は自分の条件のためにこいつを見殺しにするのか?」


「そんな気はありません、【4】の条件は首輪の破壊です。だからこの建物には首輪を破壊する手段があるはずです。私はそれで良輔を助けたいと思っています」


優希は杉坂にそう答える。


「確かにあるんだろうな、首輪を壊す手段そのものは、だがこの首輪は首にぴったり巻きついてる、こんな状態で首輪なんて壊したら死ぬぜ?」


杉坂は首輪をカチカチとつつきながら答える。


「首輪を安全に壊す手段があればいい、だが見つからなければ?お前はこいつや【A】の持ち主に死ねというのか?」


良輔はこの時、初日で見せた柊とのやり取りを思い出していた。今の状況はあの時とまったく同じように進行している。だがあの時とは決定的に違う状況があった。


それは


「杉坂さん、アンタの言うことはわかる。だが、それは【A】や【5】が条件のやつならともかくその条件を引き当てていないアンタが言うのはお門違いだ!!」


そう、あの時は柊の人柄や持ちカードが全くわからなかったからあんな言い方しかできなかったが杉坂とはある程度過ごしたために人柄や持ちカードもある程度は見当がつく、少なくとも杉坂は無意味に殺人をする人間には見えないし、今まで一緒に行動していたことからキラーカードを引き当てている可能性は限りなく低いと良輔は予測していた。


「っ!?だがお前が手のひらを反して俺たちを殺さないなんて保障はないだろ?」


杉坂はそういって良輔を睨みつけた。


(へえ、鋭いな)


事実、良輔は優希の首輪を外した後は自分の解除条件を満たすために行動するつもりだったのでこの指摘には少し動揺した。


「いや、保障ならできるぜ」


だが、良輔はその動揺を見せることなくそういいきった。


「どういうことだ?」


意味がわからないといった表情を作る杉坂。


「こういうことさ」


良輔はそういって自分のPDAを杉坂に手渡す。


「「「「なっ!?」」」」


良輔を除く全員が驚愕する。


「ルール1は全員が覚えてるよな?」


【ルール1】
《参加者には特別製の首輪が付けられている。
それぞれのPDAに書かれた条件を満たした状態で首輪のコネクタにPDAを読み込ませれば外すことができる。
条件を満たさない状況でPDAを読み込ませたり、自らのPDAを破壊されたりすると首輪が作動し、15秒間警告を発した後、建物の警備システムと連携して着用者を殺す。
一度作動した首輪を止める方法は存在しない。》


「俺がおかしな行動をとるようならアンタはそのPDAを叩き壊せばいい、そうすればPDAを壊された俺は首輪が作動して殺されるだろうな」


背中から冷や汗が流れるのを感じながら良輔はそう言い切った。PDAを手渡された杉坂は困惑している。


「りょ、良輔!?」


優希が驚いた声を出す。


「お前だって【A】がいるかもしれないのに自分の条件を明かしたんだ、俺にも命の1つや2つ張らせろよ」


そういって優希に笑って見せる。


「足りないな、これじゃあ」


「何!?」


それでも杉坂は信用するには足りないと言い切った。


「これじゃあ、お前は自分のPDAを取り戻すために俺を殺すかもしれないだろ?」


「………」


否定はできなかった、というよりそうするつもりだったというのが正しいだろうか?もしかしたらこの人は頭がけっこうキレる人間なのかもしれない。


「だから御剣のPDAも俺に渡してくれるなら協力してやってもいい」


「杉坂君!?」


「杉坂兄ちゃん!?」


速水と一ノ瀬が杉坂に厳しい視線を向ける。


「わかりました、お預けします」


「優希!?」


あっさり承諾した優希に良輔は狼狽する。


「大丈夫よ、良輔。それに良輔だけに命を張らせたりなんてさせないから、良輔が命を張るなら私だって張ってみせる!!」


そういって優希は杉坂に詰め寄る。


「どうぞ」


「確かに預かった」


そして優希は自分のPDAを杉坂に渡した。


「そういえば聞き忘れてたな、お前は自分の条件のために【A】や【5】の人間に死ねというのか?お前の答えを聞かせてもらうぞ」


杉坂は優希を見下ろすようにそう言った。不思議とその姿には威厳があり、迫力がこもっていた。


「私は確かに【A】や【5】の人の条件には協力できない、でもその人たちを見殺しにも絶対しない!!私は必ず全員が帰れる方法を探し出して見せる!!」


しかし優希はそんな杉坂に物怖じすることなく言い切った。


言い分は子供っぽいだろう、全ての人間が救われるハッピーエンド。有り得ないと笑い飛ばすことは簡単だ、だが信じ続けることは難しい。困難に遭遇するたびにあきらめそうになる。だけどこいつは




(それでもあきらめたりせずに、最期まで信じ続けるだろうな)




良輔にはその確信があった。


そんな優希に惹かれたからこそ自分はこいつの味方をしているのだ、少しでもいいから手助けをしてやりたい。御剣優希という人間は不思議とそんな印象を抱かせる人物だった。


「強情なんだな、お前は」


「はい、私は強情な女ですから」


そう言い切る優希に迷いは見えない。


「………」


杉坂は何か考えるように手を顎に当てると




不意に微笑んだ。




「合格だ」




そういって杉坂はPDAを良輔と優希に投げ渡す。


パシッと音をたててPDAはそれぞれの持ち主の手に戻った。


「どういうことだ?」


良輔は戻ってきたPDAを見ながら答える。


「どういうことも何もそのままの意味だぞ?」


そして杉坂は自分のPDAを取り出す。


その画面に映っているのは………


スペードの【Q】


「俺のPDAはスペードの【Q】だ、解除条件は「ゲーム」の開始から24時間以上行動を共にした人間が首輪の解除に成功すること」


それはおそらく【J】と最も相性の良いカードだっただろう。


「なるほど、俺たちを試してたってわけか」


「あれだけ大言壮語を吐いたんだ、どれほどのものかと思ってな、それにこの中にjokerを使って俺を騙しているやつがいないなんてどうしていいきれる?だが、どうも御剣が嘘を言っているように思えなくてな、これで【A】が来ても1人で対応する必要はなくなったわけだ、そうだろ?」


杉坂はそういって良輔を見る。


「それにどっちみち俺の条件は他人に協力することを強制されるものだ、協力は惜しまないぞ」


「ああ、歓迎するぜ杉坂さん」


良輔と杉坂がお互いに握手を交わす。


「何はともあれ、これで全員が協力することになったわけですね」


「はい、改めてよろしくおねがいします」


速水が優希と握手する。


「あれ?僕だけあぶれちゃったんだけど………」


「バーカ、忘れるわけないだろ」


気づけば一ノ瀬の頭を杉坂がガシガシと撫でる。


「うわ!?もう、止めてよ~びっくりするじゃんか!!」


「そろそろ8時ですね、みなさん荷物を纏めてください」


速水の号令で荷物を纏め上げ良輔達は戦闘禁止エリアから退出した。






[22742] 12話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/10/26 05:12
【BET】
player suit card odds
北条良輔 ダイヤ 5 3.8
御剣優希 ハート J 5.6
??????? ???? ? ?????
柊桜 ???? ? 8.2
??????? ???? ? ?????
??????? ???? ? ?????
??????? ???? ? ?????
杉坂友哉 スペード Q 3.7
一ノ瀬丈 クラブ 8 6.0
速水瞬 スペード 10 4.3
??????? ???? ? 2.4
飯田章吾 ???? ? Death
水谷祐二 ???? ? 4.0
Day 2日目
Real Time 午後   0:51
Game Time経過時間 26:32
Limit Time 残り時間 46:28
Flour 2階
Prohibition Area 屋外のみ
Player 11/13





良輔たちは、戦闘禁止エリアを出発すると3階を目指して動き始めた。進入禁止エリアのこともあったし、移動の途中に誰かと遭遇できるかもしれない、もちろん武器やソフトウェアなども欲しいところだった。


そして今、良輔たちはどことも知れない部屋で手持ちの荷物を確認している。


「なかなかの成果だな」


良輔は荷物を別けながら感想を述べる。


結局午前中はほとんど部屋の探索で終わってしまっていたがそのおかげで多くの武器、一ノ瀬が言っていたツールボックス、食糧、医薬品等が集まった。
武器はナイフが5本、手斧が2本、スタンガンとクロスボウがそれぞれ1つずつ。
他にもあと2日過ごす分には十分な食料、携帯用のコンロや鍋、救急セットなど当面の物資はこれで準備できただろう。


「このプラスチック製のマッチ棒の箱みたいなのがお前の言っていたツールボックスだよな?」


その箱には金属の端子があり、ゲームに使うメモリーカードを良輔に連想させた。ただし端子は細く小さいもので世間に出回っている規格の製品ではないようだ。


「そうだよ、試しに1つPDAに近づけてみなよ?」


一ノ瀬はそういって並べてある英語で刻印されているツールボックスの数々を見る。


Tool:Self/Pointer
Tool:Map/Enhance
Tool:Player/Counter
Tool:Timer/Off-limits
Tool:Self/Pointer
Tool:Map/Air-duct


良輔は一ノ瀬の言葉に頷いて手頃なTool:Timer/Off-limitsのソフトウェアを手に取って自分のPDAに近づける.


ピロリン、ピロリン


「っ!?何だ?」


良輔は慌てて画面を見る。


『このツールボックスをPDAの側面のコネクターに接続することで、PDAに新たな機能をもったソフトウェアを組み込み、カスタマイズすることが可能です』


PDAに映し出されたのはソフトウェアについての説明文。


『ソフトウェアを組み込めば他のプレイヤーに対して大きなアドバンテージとなりますが、強力なソフトウェアは起動するとバッテリー消費が早まるように設定されています』


良輔はPDAの説明文を読み進めていく。


『使い過ぎてPDAが起動できなくなり、首輪を外せなくなる事がないように注意しましょう。なお、一つのツールボックスボックスでインストール可能なPDAは1台のみです、どのPDAにインストールするかは慎重に選びましょう』


そしてその文で説明は終わった。


「なるほどな、それじゃあどのソフトウェアをどのPDAにインストールするかは慎重に選ぶ必要があるな」


良輔はそういってPDAとツールボックスを見比べる。


「とりあえずこのソフトウェアをインストールすることでどういった機能を追加できるのか調べたほうがいいわね」


優希の提案で俺たちはソフトウェアの機能を確認していった。


その内容は以下の通り


Tool:Self/Pointer
擬似GPS機能。マップ上に現在位置を表示。

Tool:Map/Enhance
地図拡張機能。地図上に部屋の名前を追加表示する。

Tool:Player/Counter
残りのプレイヤー生存者数の表示。

Tool:Timer/Off-limits
進入禁止までのカウントダウン。

Tool:Map/Air-duct
換気ダクトの見取り図が表示される。


「Self/PointerはMap/Enhanceと1セットにして地図を見ていることが多い一ノ瀬と御剣のPDAにインストールしよう」


杉坂がSelf/Pointerを2つとMap/Enhanceを1つ手に取って一ノ瀬と優希に手渡す。


「OK~~」


「わかったわ」


2人はそれを受け取るとPDAにインストールを始める。


「それからPlayer/Counterも優希君のPDAにインストールしたほうがいいですね」


速水の言うとおり生存者をカウントできるこのツールは優希のPDAと相性がいい。


「ありがとうございます」


優希はそれを手に取るとインストールが終わった箱を外して受け取った箱をインストールする。横では一ノ瀬が2つ目のツールボックスをインストールしていた。


「残りをどうするかだな」


杉坂は残ったTimer/Off-limits とMap/Air-duct の2つのツールを見る。


「こっちのソフトウェアは俺がもらってもいいか?」


そういって良輔はTimer/Off-limitsのソフトウェアを手に取った。


「別にいいぞ、じゃあこれは速水さんのPDAにインストールしますか?」


杉坂はそういって速水にMap/Air-ductと書かれたツールボックスを差し出そうとする


「いえ、これは杉坂君のPDAにインストールしましょう」


しかし速水はそういって断った。


「そうですか?わかりました」


特に断る理由もないので杉坂は自分のPDAにインストールする。


それを横で見ながら良輔も自分のPDAにTimer/Off-limitsをインストールするためにツールボックスをPDAに接続する。


カチン


接続部分が軽い音を立てる。


ピロリン、ピロリン


電子音が鳴るとPDAには新たな画面が表示された。


『Tool:Timer/Off-limits 機能:現在地が進入禁止になるまでの時間をトップ画面に追加する。バッテリー消費:極小 インストールしますか? YES/NO』


―――バッテリーはあまり食わないか、特に問題はなさそうだな。


良輔はYESに触れる。


『インストールしています。しばらくそのままでお待ちください。
*注意*インストール中はコネクターを外さないでください。故障の原因となります』


その文字の下に、ゆっくり伸びていくバー。バーは0から100までの数字が刻まれており、すぐに100まで到達した。


『インストールが完了しました。ツールボックスをコネクターから外してください』


良輔が箱を外すと、PDAはトップの画面に戻った。


『ゲーム開始より26時間59分経過/残り時間46時間01分』


ここまではいつも通り、しかしその横には


『現在地が侵入禁止になるまでの時間9:01分後』


そう表示されていた。


(そういえばもうすぐ1階が侵入禁止になるんだったな)


今朝の10時頃に全員のPDAが鳴り、3時間後の午後1時に1階が侵入禁止になる旨が報告されていた。


そして


ピロリン、ピロリン


『『『『『1階が進入禁止になりました』』』』』2階が侵入禁止になるのは今から9時間後です』


PDAから合成音声が流れる。


「9時間後にはここも進入禁止になるってさ」


良輔はPDAの画面を全員に見せる。


「これでゲーム開始から27時間経過したわけか」


杉坂がそう呟く。


「早く3階に上がりましょう、また1階の時みたいに待ち伏せされるとやっかいだわ」


優希は気難しい表情を作る。確かに時間ぎりぎりになって階段で待ち伏せされるとタイムオーバーになりかねない。


「そうですね、武器を誰が持つか決めてさっそく出発しましょう」


ピロリン、ピロリン


速水の発言が終わると同時に俺と優希のPDAからアラームが鳴り響いた。


その音を聞いた途端に皆の表情が沈む。


念のため良輔は自分のPDAを確認した。


「良輔………そっちには何て書いてあるの?」


優希の声は聞きたくないと言っているようにも聞こえるが聞かざるを得ないものだろう。


「誰か1人………死んだ」


画面を皆に見せる。その表示には『生存者数:10人』と表示されていた。


「1階が進入禁止エリアになってすぐに減ったってことは」


「多分、この人は侵入禁止エリアについて知らなかったってことなんだろうね。あるいはゲームを信じてなかったか。僕にはそのどっちかは分からないけど多分この人はルール違反で死んだんだと思うよ」


杉坂にそう答える一ノ瀬。


「これでもう3人も亡くなったのね」


そういって優希は目を伏せた。


「このまま首輪を外せなければ遅かれ早かれ僕たちもそうなるんですね」


その速水の言葉は良輔の胸に深く突き刺さった、この中で一番首輪を外せる可能性が低いのが自分なだけに聞きたくない言葉だった。


「急ごうぜ、ここにいてもあと9時間後には死ぬんだ、さっさと武器を配分して3階に上がってから首輪を外す手段を探そう」


良輔はそういって5本あるナイフを全員に配った。


「それとスタンガンは優希、手斧は杉坂と速水さんが、クロスボウは俺が持っていく、これでいいな?」


クロスボウを手に取って良輔は部屋を出る。


「どうしたんだ?早く行こうぜ?」


「そうよね、あきらめちゃったらこれまで死んだ人に申し訳ないもんね」


優希は調理器具が詰まったかばんを背負うと良輔の後を追った。


「よし、僕も気合入れて行こうかな?」


一ノ瀬が医療品の多く入っているかばんを持って走り出す。


「やれやれ、みんなタフなんですね」


速水が苦笑する。


「俺たち大人も負けてられませんね、速水さん」


「クスクス、大人といっても杉坂君はまだまだ子供ですよ?」


「何の、二十歳を超えれば法律上は大人です」


杉坂と速水はそれぞれ荷物を背負う。


「行きましょうか?」


「ええ、もちろんです」


そうして速水も杉坂も3人の後を追った。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






良輔達は3階への階段を目指して歩いていた。


物資は十分あったし、午前中は部屋を探索しながらの移動だったとはいえ少しずつ階段に近づいていたためにあれから30分もしたころにはもうすぐ階段というところまで歩いていた。


「この道を右に曲がって直進すれば階段に着くはずだよ」


地図を確認していた一ノ瀬がそう答える。


先頭を歩いていた速水さんは右に曲がるが


「あれ?こっちは行き止まりみたいですよ」


「え?嘘」


一ノ瀬はすぐ右の通路に曲がっていく。


「あれ?本当だ」


そう呟く一ノ瀬につづいて右の通路に入っていく。


「おい、一ノ瀬。ちゃんと地図見てなかったのか?」


「僕は間違ってないよ。この地図ではここが行き止まりなんて書いてないもん」


杉坂に反発する一ノ瀬。


「ねえ、あの行き止まりなんかおかしくない?」


「確かに壁というよりはシャッターに見えるな」


優希の疑問に俺が答える。


「ちょっと調べて見ましょうか?」


速水の提案に全員でシャッターに近づく。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――









「やっぱりシャッターだったな」


カシャンカシャンと俺がシャッターを叩く。


「だから地図にも載ってなかったのね」


「俺が1階で作動させた罠に似てるな?」


良輔が大男を巻くときに作動させた罠がよくこれに似ていたのでそれと同じ類のものかも知れない。


「悪かったよ、一ノ瀬、疑って」


「………」


優希が杉坂を肘でつつくと杉坂がバツの悪い表情を浮かべながら謝るが一ノ瀬は手を顎に当てるばかりで答えない。


「な、何だよ?そんなに怒ることないだろ?」


杉坂が返事を返さない一ノ瀬がそれほど怒っているのかと心配する。


「一ノ瀬君、どうしたんですか?」


速水が一ノ瀬の様子に気づいて話しかける。


「なんかおかしくない?」


一ノ瀬は訝しがってシャッターを2・3回叩く。


「どういうことだ?」


「なんで地図にこの行き止まりは表示されてないのかなと思って」


良輔の質問に一ノ瀬はそう答える。


「罠だからだろ?」


「それじゃあこの罠の起動スイッチはどこにあるのかな?」


一ノ瀬にそう聞かれてシャッター近くの場所を見るがどこも違和感はない。


「この向こう側にあるんじゃないのか?」


「だってこの向こうは階段なんだよ?何で階段からここまで戻ってくる必要があるのさ?」


「………」


そう言われれば不自然かもしれないと良輔は考えたがその疑問を形にすることは一ノ瀬にも良輔にもできなかった。


「でもこれだけ広いんだし書き忘れってこともあるんじゃないかな?」


「階段にはしっかりバリケード作って地図に使用不可を記入するような人がここだけ書き忘れなんてするのかな?」


「考えすぎじゃないか?俺も御剣の意見に1票だ。こんだけ広い建物なんだから書き忘れくらいおかしくないだろう」


優希の意見に一ノ瀬が疑問を返すが杉坂が考えすぎだと諭す。


「それよりもここが通れないとなると階段に行くのはどこが一番近いですか?」


「道を戻ってしばらく行ったところを左です」


速水の質問に優希が答える。


「ここにいても進めないのですからどうしようもありません、別の道を行きましょう」


速水の言葉で良輔たちは来た道を戻って行った。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――







良輔たちは行き止まりから引き返して3階への道を歩いている。


「………」


あのシャッターの場所から明るく話をしていた一ノ瀬が一転して何かを考えるようにPDAばかり見ている。そのせいか妙に調子が狂いみんな無言のまま通路を歩いていた。


「なあ、ジョー。そんなにあのシャッターが気になるのか?」


「あ、うん、な~んかひっかかるんだよね。あのシャッター」


俺は前を歩いていた一ノ瀬に問いかけた。ちなみに俺たちは先頭が速水さん、その後ろを一ノ瀬、俺、優希、最後に杉坂さんという順番で歩いている。


「ねえ、良輔兄ちゃんはさ、普通、道路を通行止めにするのってどんな理由があると思う?」


「通行止めにする理由?そりゃその先に行かせないためだろ?」


「うん、僕もそう思うんだ」


一ノ瀬が頷く。


「じゃあそれでいいじゃないか?」


「う~ん喉のあたりまでは出かかってるんだけどな~」


「一ノ瀬君は考えすぎですよ、そんなんじゃ将来禿ますよ」


前を歩く速水が苦笑する。


「しかし通行止めか・・・懐かしい響きだな」


杉坂は何故か通行止めという言葉が琴線に触れたらしい。


「何が懐かしいんですか?杉坂さん」


「一年ほど前に交通整理のバイトしてたんだよ。工事とかで通行できない道路に車が入って来ないように誘導するんだ」


優希にそう答える杉坂。


(誘導!?)


その杉坂の言葉を聞いて何かが頭の中で閃いたことを感じる一ノ瀬。


(あのシャッターは僕たちがあの先に行かせないようにするものじゃなくて本当は回り道をさせるためのものだったとしたら………僕たちは誘導されてるんだとしたら………あの通路を避けて最短で階段に辿り着くこの通路ってもしかして………)


「速水のおっちゃん止まって!!この通路は罠だ!!」


「えっ?」


一ノ瀬の突然の叫びに後ろを振り返る速水。


ピロリン、ピロリン


いきなり全員のPDAからアラーム音が鳴り響く。


そして、上から何かが降ってきた。


「ジョー!!上だ!!」


「えっ!?」


一ノ瀬は驚くばかりで自分の頭上に柵が落ちてきていることに気づいていなかった。


「ちっ、ジョー!!」


俺はすぐ前に走り出し一ノ瀬を前に突き飛ばす。


「うわ!?」


突き飛ばされた一ノ瀬を速水が受け止めると同時に柵は完全に降りてしまった。


「みなさん無事ですか!?」


速水の声に全員が頷く。


しかし怪我こそなかったものの俺たちは3つのグループに別れてしまった。


1グループには速水と一ノ瀬。


2グループには良輔。


3グループには優希と杉坂。


「一体何が!?」


「ちっ!?分断されちまった!!」


困惑する優希にPDAを確認していた杉坂が舌打ち交じりに答える。PDAには新たに罠の項目が追加されていた。


『踏み板やトリガーワイヤーで起動する罠の1つ。参加者の殺傷よりも集団の分断を目的としたもので、直接死亡する例はまれ』


そこまで読んで良輔は何かおかしいことに気づく。


(俺たちは踏み板にもトリガーワイヤーにも引っかかってないぞ!?)


そもそもそんなものがあれば通路の異常に気づくことのできる良輔が引っかかるはずがない。しかしこの柵はいきなり頭上から降ってきた。


それも完璧すぎるタイミングで


それをおかしいとは思いつつも良輔は目先のことに集中した。


視界こそ塞いでなかったが鉄製の柵は間にほとんど遊びがなく壊すのは至難と思われた。


「壊すのはちょっと無理があるかもしれないね」


一ノ瀬が柵に手をかけて揺らす。


その時、機械音が鳴り響いた。


「今度は何だ?」


良輔が鳴り始めた機械音のする頭上を見上げると真上の天井が開いてそこから梯子が下りてきた。


「これを使って上に上がれってことか?」


降りてきた梯子を確認しながら呟く。


「仕方がない、合流場所を決めて…」


良輔がそう言おうとした。




その時




「みんな伏せて!!」


突然叫ぶ優希の声に俺は咄嗟に身を伏せる。


「うっ」


クロスボウの矢が俺の肩を掠めて飛んでいく。矢は優希の手前にある2枚目のある柵にあたって明後日の方向に飛んでいった。


掠った肩からわずかに血が滲む。


「一体何だ!?」


良輔は矢が飛んできた方向に目を向ける


そこには


「水谷君!?」


「み、水谷のおっちゃん!?」


速水と一ノ瀬が前の通路から現れた赤髪の人物の名を叫ぶ。


そこにはクロスボウを抱えて矢を装填している水谷の姿があった。


「よう、お前ら。久しぶりだな、また会えて嬉しいぜ」


水谷は装填した矢を放つ。


しかしその矢は誰にも当たることなく1枚目の柵に当たって方向が変わり、壁に衝突してそのまま床に落ちた。


「水谷さん、止めてください!!」


「少しの間とはいえ一緒に協力した仲だ、止めてやりたいところではあるが………だが断る」


水谷も良輔たちと同じで3階を目指して歩いていたが不意に物音がして駆けつけると5人が分断されているところだった。水谷は好機と見てクロスボウを打ち込んだのである。
優希の叫びも空しく寒い笑みを浮かべながら水谷は装填し終えたクロスボウをこちらに向けてくる。


「ちっ!?舐めるなあ!!」


良輔は持っていたクロスボウで一ノ瀬、速水に当たらないように水谷を狙い撃つ。


バシュッと飛び出た矢は水谷には当たらなかったが驚いた水谷は装填しようとしていた矢を地面に落としてしまった。


「ぼさっとするな!!速水さん達は横の脇道から逃げろ、優希たちは来た道を戻れ!!グズグズするな!!急げ!!」


見れば水谷もクロスボウの矢を装填し直している。


良輔はクロスボウの矢を装填しながら口早に言い切った。


そこから各自がようやく動きはじめる。


「行くぞ御剣!!」


「でも良輔が!?」


「俺たちがここにいてもできることは何もない!!ただの足手まといになるだけだ!!」


杉坂たちはクロスボウのような遠距離武器を持っていない。攻撃する手段がないのであれば狙い撃ちになるだけだ。


「良輔!!」


「こっちのことは心配すんな!!杉坂さん、優希を頼みます」


「任せろ!!御剣、こっちだ」


杉坂が優希を引っ張って通路を引き返していく。


「一ノ瀬君、行きますよ!!」


「うん!!」


前を見ると速水は一ノ瀬の手を掴むと横の脇道に入るために走りだしていた。


「逃がすかよ!!」


水谷は装填し終わった矢を速水たちに向ける。


「そうはさせません!!」


速水は持っていたコンバットナイフを引き抜くと水谷に向かって投げた。


「うおっと」


ナイフは水谷に当たらなかったが避けたことでわずかに銃口がそれる。
放った矢は明後日の方向に飛んで行った。


「これでも喰らっていろ!!」


良輔は柵の合間から水谷に狙いをつけると第2射を放つとすぐさまクロスボウを投げ捨てて急いで梯子を上りはじめる。


飛び出た矢は水谷の頬を掠めた。


「グッ」


顔のすぐ近くを矢が通ったことで水谷は苦悶の表情を作る。


「一ノ瀬君、このまま走りますよ。ついてきてください」


速水は一ノ瀬と共にすぐ横にあった脇道に入っていった。


「ちっ、逃がすか!!」


水谷は良輔を一瞥するが柵に守られている良輔を攻撃するためにはクロスボウの矢を新しく装填する必要がある。恐らくクロスボウの射程から良輔が逃げるまでに攻撃できるのは多くて2発というところだが距離があるし、撃ってもまた柵に当たるのでは意味がない、それならあの逃げた2人を追ったほうが建設的と判断して一ノ瀬と速水を追った。


(みんな、うまく逃げてくれよ)


良輔はそう願いながら梯子を上りきり、ただ1人で3階に到達した。








[22742] 13話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/10/26 05:17
【BET】
player suit card odds
北条良輔 ダイヤ 5 3.8
御剣優希 ハート J 5.6
??????? ???? ? ?????
柊桜 ???? ? 8.2
??????? ???? ? ?????
??????? ???? ? ?????
??????? ???? ? ?????
杉坂友哉 スペード Q 3.7
一ノ瀬丈 クラブ 8 6.0
速水瞬 スペード 10 4.3
??????? ???? ? 2.4
飯田章吾 ???? ? Death
水谷祐二 ???? ? 4.0
Day 2日目
Real Time 午後   2:25
Game Time経過時間 28:25
Limit Time 残り時間 44:35
Flour 3階
Prohibition Area 1階
Player 10/13





罠によって分断された仲間と分断されてしまった俺はただ1人3階に到達していた。


PDAで生存者を確認するがまだ10人のままだ。


(全員水谷から逃げられたのか?あるいはまだ追われているのか?)


どちらにせよ早く合流すべきだろうと良輔は考える。


(合流できるっていうならすぐ2階に下りて階段を見張るべきだな)


そう考えて2階の階段に向けて歩きだそうとした時だった。


バンバンと遠くで何か音が聞こえた。


(何だ?)


耳を澄まして聞くと人の声が聞こえてきた。





「い、嫌、こっちに………こっちに来ないでぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!」





またバンバンと音が鳴り響く。


(この声はもしかして………柊!?)


聞き覚えのある声だがどうも平静を保っているとは思えなかった。


(そもそも平静ならしゃべるタイプでもないだろうな、柊は)


ルール交換の時に会った彼女の印象はそんな感じだった。


「誰か!!誰かいないの!?助けて!!おねがい!!」


柊の声に前後してまたバンバンと低い音が響く。


(襲われているのか?)


助けてと言っているのだから襲われてはいるのだろう。それにこの音は………多分だが銃声だろう。


全員信用できないからと協力を拒んだ彼女が助けを呼んでいるくらいだからかなり危ない状況だというのもわかる。しかし


(正直、柊がどうなろうと俺の知ったことじゃないな)


そもそも最初に協力できないと言っておきながら自分が危なくなったら助けを呼ぶなど調子がいいにもほどがあるだろう。仲間であったならともかく俺には柊を命がけで助ける義務もなければ義理もないのだ、おまけに助けたいとも思ってない。危険を冒してまで柊を助ける理由が俺にはない、そう考えて踵を返して2階に向かおうと思ったが、ふと飯田の時の優希との会話を思い出した。


他人を見捨てて助かった自分は偉いというのか?


優希は良輔にそう言った。


(優希ならどうしたかな)


考えるまでもない、あいつならきっと危険を顧みずに柊のもとへ向かっただろう。御剣優希という人間はそういうやつだ。もし優希が何らかの方法で俺が柊を見捨てて行ったことを知ればどんな顔をするだろうか?


(優希の解除条件のためにも助けられるなら助けといたほうがいいか?)


良輔は一瞬そんな気になったがすぐにその考えを消し去った。


(それよりも今は優希と合流するほうが先決だ)


柊が危機に陥っているのは分かっている、だが良輔にとっては目に見える柊の命の危険より目に見えない優希に迫る危険のほうが優先度は高いのだ。


「すまんな、柊。恨むなよ?」


そういって踵を返して階段に向かおうとした。


その時


ピロリン、ピロリン


良輔のPDAから電子音が鳴り響いた。


柊が死んだのかと考えてPDAを見るがどうやらそうではないらしい。


「エクストラゲーム?」


PDAの画面に映し出されたエクストラゲームという表示がなされている。


それは今までに見たことが無い画面だった。


エクストラゲームの文字の下にスタートと記されている枠が表示されている。


「これは?」


良輔は急に現れた表示に戸惑っているとPDAに変化が現れた。


PDAからコミカルな音楽が流れ始めた。


画面には小さな人間が現れている。


「何だ、このゴスロリ服着たカボチャは?」


良輔の口から思わずツッコミが入る。


PDAの画面に映っているアニメのようなCGのカボチャのキャラクターで何故かゴスロリ服を着ていた。


ゴスロリ服を着たカボチャは画面の中央でコミカルな音楽に合わせて踊りだす。


そして『touch!!』という吹き出しと同時にスタートのボタンを指差した。


(スタートに触れってことか?)


良輔からは悪い予感しかしない。


しかしPDAは通常時に出来る操作の全てを拒否している。このまま放置というわけにもいかないのだった。


(結局は触れるしか無いわけか)


ピッ


良輔は溜息交じりにスタートをタッチした。


『お楽しみ~~エクストラッゲ~ム!!』


画面のカボチャのキャラクターが音声付きで妙に間の抜けた声を発した。


画面の下にもカボチャの言葉が文字としても表示されている。


「なんだ?お前」


突然喋り始めたゴスロリ服を着たカボチャのキャラクターに良輔は冷たい視線を送る。


『もう~女の子にお前とかって言っちゃだめなんだよ~~ワタシにはエミリー(ハートマーク)っていうかわいい名前があるんだから~~』


カボチャのキャラクター、エミリー(ハートマーク)と名乗ったこいつはチッチと画面内で指を左右に振っている。


「エミリー(デスマーク)?」


(このキャラクターの名前だろうか?)


『もうデスマークじゃなくてハートマークです~~わざと間違いないでください~もう、ぷんぷ~んです~』


エミリーは怒ったように頬を膨らませる。


「ワタシはジャックオーランタンのエミリ~、改めて初めまして~~』


画面のエミリーは良輔に自己紹介した。


「それでそのエミリーが俺に何の用だ?」


『よくぞ聞いてくれました~ワタシはね、この楽しいゲームをもっと楽しくするのが仕事なんだよ~~』


「楽しい…ゲームねえ?」


その言葉を聞いて良輔は不快な気持ちになったがそれを表すことはしなかった。


(このエミリーって奴の裏には俺達を拉致してきた連中が居るはずだ)


良輔は何故、自分たちにこんなゲームをやらせているのかを探るいいチャンスだと考えた。


『それにしても~困っている女の子を放っておいて行こうとするなんて~北条君は男としてそれでいいと思っているの~~?』


エミリーはそういって非難の声を浴びせてくる。


「こっちにもこっちの事情がある。そもそも困った状況に追い込んでいる直接の原因はお前らだろう?」


人を拉致して殺し合いをさせるのは人としてそれでいいのかと問い詰めたいところであった。


『細かいことは気にしないのがいい男の条件なんだよ~~』


エミリーは笑いながらそう言って言葉を続ける。


『それでね~、今こうしてる間にも襲われている可憐で可哀想な人がこの階に居るの~~』


ようやくエミリーが本題に入る。


『このままだとその人は確実に殺されちゃう、可哀想だと思わないかな~~?』


エミリーはそう言うが


「可哀想だと思うならお前らが助けてやったらどうなんだ?あいにくこっちはこっちのことで手一杯だ」


良輔としてもそんなに暇人ではない。


『それはできないの~だって追っている方の人もプレイヤーの1人だからね~~ワタシは全てのプレイヤーに平等っていう設定だから~~』


エミリーはそう答える。


「はぁ、それでお前は何が言いたいんだ?」


苛立ち交じりの声が良輔から出る。


『簡単だよ~~北条君にはその人を助けに行ってもらいたいの~~』


良輔はエミリーにその追われているプレイヤーを別のプレイヤーに助けに行かせる行為は平等と言えるのか?というツッコミを入れたかったが話が長くなりそうだったのでそのまま飲み込んだ。


「断る」


そして良輔は短くそう言い切る。


『え~何で~かわいい女の子の頼みは聞くものなんだよ~~?』


エミリーは頬を膨らませて答える。


「このエクストラゲームに参加しても俺には何の利点もない」


良輔がエミリーにそう言葉を返した。


柊を助けておけば生存者は減らないかもしれないがそれに柊が協力してくれるかは別問題、分の悪い賭けをするくらいなら優希たちとの合流を優先したほうがいいに決まっているのだ。良輔はそう考えて踵を返して階段に向かおうとする。


『それじゃあ~このゲームに勝てば~北条君の首輪の解除条件を緩和してあげるって言ったらどうするかな~~?』


だがエミリーの言葉で良輔の足が止まった。


「な、んだと?」


良輔は思わず驚愕する。


『そうだなぁ~【ゲーム開始から10時間以上行動を共にした人間の殺害】なんてどうかな?』


エミリーは何やら紙のようなものを取り出すとそう言い始める。


「【J】の条件を【ゲーム開始から24時間以上行動を共にしたプレイヤーが2日と23時間経過時点で生存していること】に変えてくれるなら考えてやってもいい」


少し考えて良輔はエミリーにそう答えた。これなら速水はともかく自分か一ノ瀬が生きていれば優希の首輪が外せる。杉坂も優希と一緒に行動しているはずなのでじきに条件を満たすだろう。


『自分の条件を緩和しなくてもいいの~~?』


エミリーが驚いた表情で聞いてくる。


「ああ、優希の条件を緩和してくれ」


優希と条件が被りさえしなければようやく良輔は自分の解除条件を優先できる。


『わかった~~北条君は男前だね~~お姉さん、感激しちゃったぞ~そんな北条君にエミリーちゃんからのサービスだ~~』


そうしてPDAの地図に赤い光点が1つ表示される。


「これは?」


良輔は赤い光点を指しながらエミリーに尋ねる。


赤い光点は良輔の居る場所からすぐの場所だ。


『ここには少し先のフロアじゃないと手に入らない武器や防具、それにツールボックスが置いてあるの~~これも使っちゃっていいよ~~』


エミリーが大盤振る舞いと書かれた旗を左右に振り始める。


「わかった、このエクストラゲームを受けよう。このエクストラゲームにおける俺の勝利条件、敗北条件、成功報酬、失敗したときのペナルティー、そしてターゲットとそれを追っているプレイヤーの名前を教えてくれ」


良輔はエミリーに問いかける。


『OK~~北条君が護衛するお姫様役は柊ちゃんだよ~~一度会ってるからわかるよね?そしてお姫様を襲う悪の魔王役は幸村光太郎さんで~す』


「幸村?」


良輔には聞き覚えのない名前だった。


『うん、北条君も何度か会ってるよ~身長はぬぼ~んと大きい人で肩幅もぬぼ~んと大きくて全体的にぬぼ~んって大きい人なの~~』


エミリーの言葉から推測するとどうやら幸村というのはあの大男の名前らしい。


『それからこれがこのエクストラゲームの詳細だよ~~』


エミリーの言葉でPDAの画面が切り替わる。


そして新しい画面が表示された。


勝利条件:柊 桜が2日目の終了する38時間経過時点まで生存しているor幸村 光太郎を殺害する、ただし罠や首輪の作動による殺害は認めない。


敗北条件:柊 桜or北条 良輔の死亡。


成功報酬:【J】の解除条件を【「ゲーム」の開始から2日と23時間経過時点で自分以外に5人以上のプレイヤーが生存している】から【「ゲーム」の開始から24時間以上行動を共にした人間が2日と23時間時点で生存している】へ変更する。


ペナルティー:特になし


特記事項:武器及びツールボックスの供給が受けられる。


良輔がメモを読み終えるとふたたびエミリーが画面に登場した。


「失敗してもペナルティーはないのか?」


これには少し意外だった。


『うん、エクストラゲームはプレイヤーの任意だからペナルティーみたいなのはないんだ~~、他に質問はありますか~~?』


「いや、ない」


良輔はエミリーにそう答える。


『よ~し、それじゃあエクストラゲームその1【お姫様を助けて騎士(ナイト)ゲーム】ゲームスタート~~』


エミリーは間の抜けた声でそれだけ言うと画面から退場し、PDAは通常の画面に戻った。


(柊の悲鳴を聞いてからもう10分が経過している、急ぐ必要があるな)


良輔はまず赤い光点が記されている場所に行くべきだと考えた。エミリーの言うことが本当ならここには武器やツールボックスがあるらしい。


走り出そうとする良輔が振り返って階段の方角を見る。


(ちょっと寄り道してくるけどそれまで無事で居てくれよ、優希)


そして良輔は今度こそ赤い光点に向かって走り出した。








[22742] 14話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/10/26 05:29
【BET】
player suit card odds
北条良輔 ダイヤ 5 3.8
御剣優希 ハート J 5.6
??????? ???? ? ?????
柊桜 ???? ? 9.8
??????? ???? ? ?????
??????? ???? ? ?????
??????? ???? ? ?????
杉坂友哉 スペード Q 3.7
一ノ瀬丈 クラブ 8 6.0
速水瞬 スペード 10 4.3
幸村光太郎 ???? ? 1.9
飯田章吾 ???? ? Death
水谷祐二 ???? ? 4.0
Day 2日目
Real Time 午後   3:00
Game Time経過時間 29:00
Limit Time 残り時間 44:00
Flour 3階
Prohibition Area 1階
Player 10/13





3階の通路を走る2つの影があった。


バンバンと銃声が通路に鳴り響く。


「はぁはぁ」


その中で学生服を着た女性、柊が荒い息を吐きながら銃で応戦していた。


(こ、こんなところで、死んでたまるもんですか!!)


柊は自分に活を入れながら初めて味わう命のやり取りに体を震わせながらも必死に応戦していた。通路の角に隠れて銃で撃ち返す。さっきからそれの繰り返しだった。






話は少し前に遡る。






――――――――――――――――
――――――――
――――
――







柊は良輔達とルールを交換した後は、誰にも出会うことなく初日が終わるまでには既に3階に到達していた。これは彼女の行動が迅速であったために1階の階段で幸村が待ち伏せをする前に通過できたのが大きかっただろう。彼女がこれほどまでに上の階に上ろうとしていたのには理由がある。彼女は普段から他人を見下すようなことが多く、学校では忌み嫌われ同級生にはイジメられていた。しかし彼女には誰にも当たるものがおらず、受けたストレスをこの手のゲームで晴らすことが多かった。特に彼女はガンシューティングのゲームが好きで学校帰りのゲーセンでトップのハイスコアを叩きだす玄人だった。その手のゲームに慣れていたからだろうか?彼女はこのゲームにすんなり対応した。そして彼女はこの手のゲームで培われたゲーム的な戦略眼から不足していたルールを把握して侵入禁止エリアのルールを確認すると強力な武器は上の階に置いてあるものだと直感的に考えた。そうアドベンチャーゲームでは場面が進むほどに武器が強くなるのと同じように……
事実彼女の読みは的中しており、3階に来たところで38口径のリボルバー式の拳銃を彼女は手に入れる。何度か試し打ちをしてゲーセンにおいてある銃との違いを把握していた。撃った時の反動に慣れるのに少し苦労したがそれもすぐに慣れて狙った場所に当たるようになった。


「なんだ、本物って言ってもそんな大したものじゃないじゃん」


あまりにも簡単に対応してしまったので彼女は思わずそう呟く。もちろんゲーセンに置いてある銃と本物の銃はまったくの別物である。本人に自覚はなかったが彼女には間違いなく射撃という分野においての飛び抜けた天賦の才があった。


そして人の本性というのは力を手に入れた時にこそ現れるものなのだろう。


(私の力をこれで証明してやる!!)


拳銃を見る柊の顔に不気味な笑みが浮かぶ。


今まで自分を馬鹿にしてきた奴らに制裁を加えてやろうと彼女は考えていた。そして彼女は力を手に入れたことで攻勢に移ることを決意する。
ここでも彼女はゲーム的な戦略眼から行き当たりばったりの戦いより待ち伏せしたほうが確実に殺せると考え、必ず通る階段で敵を見張った。
しかし1日目は誰も来ず、2日目になっても誰も来ない。
いい加減にイライラしたものを感じていたその時だった。


コツン、コツンと足音が階段から聞こえてくる。


(ついにきた!!)


柊は内心ほくそ笑みながら階段を凝視していた。


そして階段から1人の男が現れる。


非常に体格がよく、鍛えられていることが遠目にもわかった。


(ああいうやつが僕は一番嫌いなんだ!!)


彼女は女性の中でも特に小柄で体力や腕力にも恵まれなかった。そういった理由で背の高い人間や体格の良い人間が彼女は大嫌いだった。もしかしたら彼女が御剣優希と名乗った女性を嫌った理由はその思想だけではなかったのかもしれない。


(ふ、ふふ、殺してやるわ、僕の方が強いんだってことをわからせてあげるよ!!)


彼女は逸る気持ちを抑えながら標準を目標に合わせて拳銃の安全装置を外した。


カチッと小さな金属音が鳴る。


彼女は何も間違ってはいないはずだった。武器の入手は間違いなく彼女のほうが早かったし、相手を捕捉するのも彼女のほうが断然早かった。もし、1つだけ彼女にミスがあったとするならば………相手が悪すぎたことだろう。


「っ!?」


「なっ!?」


男は咄嗟に体を前に投げ出したのだ。


もちろん彼女はそんな動きは想定していない………


バンッと銃声が鳴り響く。


彼女の手から飛び出した銃弾は結果として男の頭があった位置を素通りした。


男は勢いそのままに前転して起き上がると全速力で通路を走り始めた。


(あの位置から安全装置を外す音を聞き分けたというの!?)


彼女は驚きながらも男を追った。


「逃がすもんですか!!」


男を追いながら背中に向けて発砲するが、流石に走りながらの射撃は難しく、彼女の才能を持ってしても掠らせるのが精一杯だった。


「いい加減くたばりなさい!!」


彼女は狂気の笑みを浮かべながら発砲する。


しかしその銃弾は部屋に逃げ込んだ男には当たらなかった。


「おっしい!!」


心底くやしそうな表情でぼやく。


しかしその勝ち誇った表情も長くは続かなかった。


バンッ


前からいきなり飛んできた銃弾は彼女の頬を掠めて後ろに飛んでいった。




彼女の頬から一筋の血が流れる。





「やれやれ、随分お転婆な御嬢さんだ…冷や汗を掻いたぞ」


追っていた男が部屋から出てくるとその手には拳銃が握られていた。


「え?何で?」


一方的に攻撃していた柊から驚きの声が漏れる。


「何、たまたま入った部屋に銃が置いてあっただけの話だ」


男はそういって銃口を自分に向けてくる。


「ヒッ!!」


彼女は表情を引き攣らせると男から逃げ始めた。ゲームで銃を撃つことに慣れていても銃で撃たれるだけの覚悟も経験も至って普通の学生生活を送ってきた彼女にはもちろんない。最初の銃弾が自分の頬を掠めたことで彼女の戦意は折られてしまったのである。


「逃がしはせんぞ!!」


男は発砲しながら自分を追ってくる。


放たれた銃弾が自分の近くを通り過ぎていくのがわかった。


思わず背中に冷や汗が流れた。


「い、嫌、こっちに………こっちに来ないでぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!」


振り返って発砲するが逃げながら半身を捻ってまともな射撃ができるわけがなく、恐怖で震える手も手伝って銃弾は見当違いな方向に飛んでいく。


「さっきまでの威勢はどうした!?そんなことでは俺には当たらんぞ!!」


男は勢いづいて足を速めてくる。


もはや彼女の心は恐怖の虜になっていた。


「誰か!!誰かいないの!?助けて!!おねがい!!」


もはや恥も外聞もなく助けを呼ぶがもちろんそんな都合よく助けなど入るはずもなく後ろから発砲してくる銃声だけが聞こえた。
何とか反撃を試みるも震える手は言うことを聞いてくれない。しかし彼女にはまだ運があった。銃弾が掠りながらも通路の角に隠れることができたのである。それを確認すると男は近くにあった部屋の扉を開け、それで身を隠すように伺う。


(こ、これで何とか…)


身を隠す場所を得たからだろうか?彼女の心に少しばかり余裕が戻ってきた。銃で男を攻撃する。


ガインと放った銃弾は男が身を隠した扉に当たった。


それに安堵する間もなく男が反撃してくるので彼女は通路に身を隠す。


ガキンと通路を削る音がした。


そしてしばらくの間は柊と幸村の銃撃戦が続き、話は冒頭に戻る。







――――――――――――――――
――――――――
――――
――







(このままじゃあ埒が明かない!!)


拳銃を撃ちながらそう考えていたが次の攻撃で場面は急転する。


カチン


銃弾が切れたので急いで代わりを補充しようとする。


「え?」


しかしもはや彼女の手持ち弾はなかった。


「そ、そんな!?ない!?ない!?弾がない!?」


唯一の心の防波堤を失くしたことで狂乱気味にそう叫ぶ。そう、叫んでしまったのだった。


「ほう、弾が切れたのか?それは可哀想に………」


男の低い声が彼女の耳に届く。


その声を聞いて彼女は頭が真っ白になった。


「い、嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」


彼女は叫びながら逃走する。ただ目の前に迫る恐怖から逃れるために…


「待ちたまえ!!」


後ろから男が追ってくる足音が聞こえてくる。


「い、嫌、嫌よ、死にたくない、死にたくなんか………」


気づけば彼女の目から涙が零れていた。その時、足をもつれさせてドタリと床に倒れ込む。


「っ!?」


立たなくてはと彼女が思う暇もなかった。


「チェックメイトだな………」


気づけば男が自分に銃口を向けている。


(だ、誰か、誰か助けて………)


彼女は生まれて初めて心から他人の手による救済を望んだ、藁にもすがる思いだったのだろう。そしてそれは神様の気まぐれもといカボチャの悪巧みで叶えられることになった。


「っ!!」


男が何故か自分から距離を取る。それを不思議に思ったがその答えはすぐにわかった。


ダンダンと連続した銃声が通路に響き、銃弾は男がいた場所を通過する。


「柊、無事か!?」


銃声がしたほうを見るとそこにはオートマチックのピストルを構えた男が立っていた。










――――――――――――――――
――――――――
――――
――










良輔はエクストラゲームで提示された赤い光点が記された部屋に来ていた。


「こいつは、すごいな」


思わず感心の声が漏れる。


そこにはオートマチックの拳銃がダースで置いてあり、横には大量のマガジン、日本刀やらトマホークやらの刃物、煙幕手榴弾が2つと防弾チョッキが置いてある。


「Tool:Gather/MovingData?」


そして良輔は1つだけ置いてあったツールボックスを手に取ると表記を読む。
これだけ読んでも何のことかよくわからないのでとりあえずPDAにインストールしてみる。


カチン


接続部分が軽い音を立てる。


ピロリン、ピロリン


電子音が鳴るとPDAには新たな画面が表示された。


『Tool:Gather/MovingData 機能:館の動体センサーが収集した振動を、PDAに表示する。バッテリー消費:極大 インストールしますか? YES/NO』


―――バッテリーの消費はでかいが、使えそうだな。


良輔はYESに触れる。


『インストールしています。しばらくそのままでお待ちください。
*注意*インストール中はコネクターを外さないでください。故障の原因となります』


その文字の下をゆっくり伸びていくバー。それはすぐに100まで到達した。


『インストールが完了しました。ツールボックスをコネクターから外してください』


良輔が箱を外すと、PDAの画面は地図に切り替わる。


「これは?」


地図上にはこれまでなかった波紋の様なものが発生していた。
波紋はこの3階では自分のいる場所とそのすぐ近くに大きな2つ反応がある。
6階では1つ、4階にも1つ、2階には3つ。
おそらく3階で争っているこの2つの反応が柊と幸村のものなのだろう。6階と4階にあるものは分からないが2階にある3つの反応は恐らく優希、杉坂ペアと速水、一ノ瀬ペア、最期に他の2つと比べるとやや小さめの反応が水谷のソロだろうと推測する。


(よかった、当分の間は優希達に危険はない)


2階の波紋にはそれぞれがかなり距離を取って移動している。この分ではしばらく戦闘はないだろう。
安堵の溜息をつくとすぐ表情を締め直す。
良輔はピストルを3つと煙幕手榴弾を2つ、マガジンを多めにかばんに入れると持っていたナイフを大型のものに変えた。


(贅沢を言うならピストルとマガジンはもっと持っていきたいが…)


あまり重すぎるというのも困る、仕方なく良輔は杉坂さんと速水さんの分だけで諦めることにした。
最後に良輔は防弾チョッキを着こむとそのまま部屋を出た。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






(もうすぐだ!!)


良輔はPDAを見ながら波紋の広がる地点を目指して走っていた。


(この角を曲がれば………)


通路を曲がって良輔が見たものは床に倒れている柊に向かって銃口を向ける幸村の姿だった。


「っ!?」


足音で気づいたのだろう。幸村はもうすでにこっちに気づいていた。


良輔は安全装置を外して幸村の胴体目掛けて発砲する。


ダンダンと連続した銃声が通路に響き、銃弾は幸村がいた場所を通過した。


(ちっ!!)


良輔は内心で舌打ちすると倒れている柊に視線を向けた。


「柊、無事か!?」


柊はところどころから出血をしているが動けなくなるような傷は負っていない。


「アンタ何で?」


ありえないものを見ているような視線を向けてくる。


「その話は後だ!!立ち上がってすぐにこっちに来い!!戦闘禁止エリアまで逃げるぞ!!」


良輔は持っていた煙幕手榴弾の安全ピンを抜くとレバーを外して通路に投げ込んだ。


ボシュンと音を立てて白煙が通路に満ちる。


「くそ!!」


幸村は白煙に視界を奪われると同時に通路に後退していった。


(よし!!これで………)


良輔は視界が白煙に防がれる前に幸村が後退したのを見て作戦の成功を確信した。後は柊と共に戦闘禁止エリアまで逃げればいい、場所も優希に見せてもらっているので問題はなかった。





そのはずだった。





「………」


「………」


(あれ?おかしいぞ)


この時になって良輔は違和感に気づいた。いつまで立っても柊が出てこないのである。やがて白煙が薄れて視界が戻るとそこには………


…誰もいなかった。


「なっ!?」


良輔は困惑する。幸村はともかく何故、柊がいないのか?そう考えて良輔は致命的な考え違いをしていることに気づいた。


(しまった!!俺はエミリーのやつと取引したから柊を助ける理由があったが柊からすれば何故自分が助けられているのかなんてわからないのか!?)


そう考えて見れば柊が良輔のところに逃げて来ないのは当たり前だろう。味方かどうかもわからないのに銃を構えて助けると叫んでも信用など出来るはずがない。良輔は柊との信頼関係を度外視した作戦を組んでしまったことに今更ながら悔やんだ。すぐにPDAの画面を見ると自分から遠ざかる光点が2つある。間違いなく柊が幸村に追われているのだろう。


(くそ!!舌打ちじゃ済まないミスだ!!)


良輔は慌てて2つの光点を追った。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






「はぁはぁ」


白煙に視界が塞がれた後に、すぐ柊は立ち上がって誰もいない通路に向かって走りだした。北条は自分を助けにきたようだがそんなものは信用できない、どうせあの男から逃げ切ったあとで殺されるのがオチだ。柊はそう考えて行動に移したのだがいよいよ柊も幸運の女神から見捨てられてしまったようである。違う通路に逃げだすのを幸村に見られてしまっていたのだ。後退して視界を確保した幸村の行動力を褒めるべきなのか幸村の視界に映る通路を選んでしまった柊の不運を嘆くべきなのか、それとも良輔の手落ちを責めるべきなのかは分からないが柊は既に追いつめられていた。


バンバンと背後から銃声が聞こえて


「あぎゃ、うぐ………」


近くの部屋に逃げ込もうとした柊は扉を開けたところでついにその両足を撃ち抜かれてしまった。


撃たれた場所からドクドクと血液が流れだす。


「は、し、死にたくないよ、お父さん、お母さん、た、助けて、よ、ぼ、僕はまだ………」


それでも柊は生き残ることをあきらめずに両手を使って芋虫のように前進する。


「随分、頑張るんだな」


部屋の中央まで来たところで後ろから低い男の声が聞こえる。
うつ伏せになっている柊からは姿が見えないが声から後ろにいるのが大男であることがわかると柊はその表情を真っ青に染めた。


「やめて!!や、やめてください、お願い、お願いします………銃で撃ったことなら謝るから!!」


くぐもった声で柊は叫ぶ。


柊には大男が近寄ってくる足音が聞こえていた。


(そう、そうよ!!もっと近寄って来なさい!!)


柊は2階で見つけたコンバットナイフを隠すように左手に握りながら大男が近寄ってくるのを待っていた。すぐ近くで大男が立ち止まる。


「何て謝るわけないでしょう!!」


柊は上半身を捻り起こし、振り返って左手に持ったナイフで男に横薙ぎの一閃を放つ。


しかしブンと柊のナイフが空を切る音が聞こえた。


幸村はこの攻撃を読んでいたのである。


バックステップを踏みながら幸村は柊に向かって銃の引き金を引く。


バンバンと銃声が響いた。放たれた銃弾は柊の両肩を正確に当たり、持っていたナイフがカラカラと音を立てて飛んでいく。


「あが、ぐ、い、痛い、痛いよ!!」


パタリと両手はちからなく床に倒れ、仰向けになった柊の口からは苦痛の声が漏れる。


男は柊に近寄ってくると両手で持っていた拳銃を左手に持ち替え右手で吊っていた手斧を構えた。


「ヒッ!?」


それを見た柊の表情が絶望に歪んだ。


その斧で自分の頭を叩き割られる映像を幻視する。


柊は死の恐怖に震えるがもうどうすることもできない、両手と両足、銃弾で撃ちぬかれ、身動きができず例えこのまま何もしなくても出血多量で死ぬだろう。


「待って、お願い、少しだけ待って!!そ、そうだ、僕を生かしておいてくれるなら、何でも言うこと聞くから、お前の首輪の解除にだって協力するから!!」


柊にはもはや恥も外聞もなかった。ただ死にたくない、生きたいという願いだけが彼女の中にあった。


「だから、だから、お願いだから殺さないで!!死にたくない!!こんなところで死にたくないよ!!こんな薄汚れた廃墟なんかで…僕は!!」


しかし必死に生に縋って命乞いをする柊を見ても幸村は終始、無表情のままだった。


「私は君に恨みなどないし、別に殺したいと思っているわけではない………」


右手に斧を持ちながら幸村は静かに口を開いた。


「ほ、本当!?」


その言葉を聞いて柊はパッと表情を明るくする、しかし………


「だが、私の目的のためだ………謝って済むこととも思わないが、すまない、ここで死んでくれ…」


幸村は無表情にそれだけ言うと右手の手斧を振りかぶった……


「い、嫌、嫌だよ!!誰か!!誰でも!!誰でもいいから僕を助けてぇぇぇぇえ!!」


ずっと他人を拒絶し続けていた柊 桜という人間が最後に望んだのは他人による救済だった。神様はその願いを聞き入れたのか、哀れに思っただけなのか、ただのきまぐれだったのか、それはわからないが………










「柊ィィィィィィィィィィィ!!」









最後の最期で柊は後ろから自分を呼んでくれる声を確かに聞いた。










もっとも………










時は既に遅く………











次の瞬間にはスイカが割れるような音が部屋に響き、柊は着用していた眼鏡ごと幸村の持つ手斧でその頭部を叩き割られていた。










扉を開けて部屋に入った良輔は目の前で起こった惨状にただ呆然とする。


ピロリン、ピロリン


その電子音が知らせるのは儚い命がまた1つ散った調べだろう。











『生存者:9人』















――――――――――――――――
――――――――
――――
――
















「………」


柊が…目の前で、死んだ。目の前にいる幸村に頭を斧で叩き割れて死んでしまった。


「う、おおおおおおおお!!」


良輔は雄叫びを上げながら銃を幸村に向けると即座に発砲する…


「ちっ!?」


しかし幸村は良輔が呆然とした一瞬の間に部屋の中にあった物陰に姿を隠していた。


「くそ!!くそ!!」


良輔は深く後悔していた。最初は柊を見捨てようとした自分だが、今は後悔の気持ちでいっぱいだった。自分があんな致命的なミスをしなければ柊は死ななかったかもしれない。そう考えると良輔は柊に対して申し訳ない気持ちになる。


ガンガンと響く銃声。


幸村が物陰に隠れながら発砲してきた。


「うぐっ!?」


銃弾が一発、良輔の肩に当たる。幸村の持っている拳銃があまり口径の大きいものでなかったことや良輔は防弾チョッキを着ていたので大事には至らなかったが利き腕に銃弾が当たった衝撃で拳銃を落としてしまった。


「くそ!!しまった!?」


良輔は銃を落としてしまったのを確認するとすぐに後退する。


ちらっと頭に斧が突き刺さったままの柊が良輔の視界に映った。


(すまん、柊)


懺悔などしてもどうしようもないがとにかく謝りたい心境だった。


そのまま通路を全速力で駆け抜ける。目指す場所はただ1つ、戦闘禁止エリア。一旦、体勢を立て直す必要があると良輔は考えた。


「待ってくれ!!青年!!」


後ろから幸村が追いかけてくる音がする。


(っ!?)


良輔は少なからず幸村の行動に疑問を感じていた。


(幸村のおっさんは自分の条件は殺害を要求するものではないと言っていた)


1階の階段で確かに幸村はそう発言している。


(じゃあ何で追ってくる?)


部屋の中には柊の死体がある。良輔があの場に行ったときには幸村が柊に止めを刺しているところだったはずだ。それから自分が逃げるまでの間に柊の首輪やPDAをどうにかできる時間があったとは思えない。首輪やPDAを必要とせず殺人も要求されていない解除条件は【8】【J】【Q】だけだがそれらのPDAを所有している人間を良輔は知っていたし、そもそも幸村のPDAがその3つのうちのどれかなら自分を攻撃する理由がない。


「一体何がしたいんだよアンタは!?」


思わずそう叫ぶ良輔。










――――――――――――――――
――――――――
――――
――











それからしばらくの間、3階の通路をバタバタと走る音が木霊する。


「待ってくれ、青年!!君が死んでくれればちょうど3人なんだ!!」


鬼ごっこをするいい年をした男が2人。見ている分にはおかしな光景だったがやっている2人はマジだった。


(この通路を曲がってすぐの部屋が戦闘禁止エリアだ)


良輔の体には多くの傷跡が出来ていた。それこそ走っていられるのが奇跡だと言ってもいいくらいだと内心でそう感じる。

ところどころで銃弾を受けて痛みに悲鳴を上げる自分の体を叱咤激励しながらPDAも見ずに戦闘禁止エリアに向かって走っている。エクストラゲームの時にもらった防弾チョッキが無ければ既に死んでいただろう。そう考えると良輔は自分に防弾チョッキをくれたエミリーにそこだけ感謝した。


(あと一息だ)


バンバンと銃声が聞こえ、ちょうど通路を曲がった俺の背中を掠めた。


俺は曲がってすぐの部屋に逃げ込む。そこが戦闘禁止エリアだ。


扉を乱暴に開け、俺はそこへ転がりこむ。


ピロリン、ピロリン


『あなたが入ろうとしている部屋は戦闘禁止エリアに指定されています。戦闘禁止エリアでの戦闘行為を禁じます。違反者は例外なく処分されます』


合成音声がPDAから流れる。


(た、助かった)


良輔は安堵の溜息を吐き、体中から悲鳴を上げる痛みも手伝ってそこにへたり込んだ。これであの男はここに来ても俺に手出しできないはずだ。


「追いついたぞ、青年」


そこへ追いかけてきた男が追いついてきた。


ピロリン、ピロリン


『『『あなたが入ろうとしている部屋は戦闘禁止エリアに指定されています。戦闘禁止エリアでの戦闘行為を禁じます。違反者は例外なく処分されます』』』


何台かはわからないが複数のPDAからけたたましい音声が流れる。


「む、戦闘禁止エリアか」


男がそのうちの1台のPDAを確認する。


「残念だったな、これであんたは俺に手出しできない」


意識が飛びそうなところを我慢し、勝ち誇った笑みを浮かべながらそう言ってやる。


しかし帰ってきた反応は俺の予想したものではなかった。


「なっ!?」


幸村は良輔の後ろを見て驚いた表情を作る。


何事だろうと良輔も後ろを見るとそこには…


「やれやれ…せっかく、くつろいでいたというのに迷惑なやつらだ…」


奥の部屋から現れたその人物は素早い手つきでPDAを操作する。


開いていたドアが急にしまり、カチッとロックがなされる。しばらくガチャガチャと扉を開けようとする音がしたがしばらくするとそれも収まった。


「あ、あんた…は?」


霞む視界の中、良輔は初めて会うプレイヤーにそう問いかけた。


「私の名は神河、神河(かみかわ)神無(かんな)だ。君の名は?」


長身で長い黒色の髪の毛を赤いバンダナで纏めている軍服姿の女性がそこに君臨していた。


良輔の意識はそこで途切れる。





[22742] 15話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/10/26 05:32
【BET】
player suit card odds
北条良輔 ダイヤ 5 3.0
御剣優希 ハート J 4.8
??????? ???? ? ?????
柊桜 ???? ? Death
??????? ???? ? ?????
神河神無 ???? ? 2.5
??????? ???? ? ?????
杉坂友哉 スペード Q 3.3
一ノ瀬丈 クラブ 8 4.7
速水瞬 スペード 10 3.0
幸村光太郎 ???? ? 1.9
飯田章吾 ???? ? Death
水谷祐二 ???? ? 3.0
Day 2日目
Real Time 午後   9:05
Game Time経過時間 35:05
Limit Time 残り時間 37:55
Flour 3階
Prohibition Area 1階
Player 9/13





ピロリン、ピロリン


「ん?」


良輔はPDAの電子音で目が覚めた。そこは自分が気を失った戦闘禁止エリアにあったソファーの上…そして


「ようやく目が覚めたか?」


目の前には1人の女性がソファーに座り込みながら自分を見ていた。


「俺は!?痛っ!!」


良輔は痛みのする場所を見るとそこには包帯が巻かれている。


「あんまり動かないほうがいいな、傷にさわる。それとこれも飲んでおいた方がいい」


そう言って女性は痛み止めの錠剤と水を差しだしてきた。


「俺はどれくらい気を失ってた?」


「そうだな、あれから4時間ちょっとというところか?」


その女性は良輔の質問にPDAを見ながら答えてくれた。


「これはアンタが手当してくれたのか?」


良輔は訝しがりながらその女性を見る。


「神河神無だ」


女性はぶっきらぼうにそう言い放つ。


「は?」


「聞こえなかったのか?私の名前は神河神無だ、アンタなんて名前じゃない。ちなみに職業は自衛隊の一員だ。君の名は?」


しばらく何が起こったのか分からず呆けていると神河と名乗る女性はそういった。


「あ、悪い、俺の名前は北条良輔だ」


慌てて良輔は名を名乗る。


「ふむ、良輔か………いい名前だ」


そういって神河と名乗る女性はコーヒーを一口啜った。


「礼を言うよ。神河さんのおかげで命拾いした」


良輔がそう言って頭を下げる。


「まあ気にするな、困ったときは何とやらだよ」


神河はそれを見ると手をヒラヒラさせながらそう答えた。


「それで何が望みだ?」


しかし良輔がそういうと神河は真剣な表情を作る。


「ほう、物分かりが良くて助かるな…まあ、そう急ぐ必要はない。とりあえずその痛み止めをさっさと飲んだらどうだ?」


神河はそう言ってテーブルに置かれた錠剤と水を指差した。


「………」


良輔はその錠剤を見る。


「安心しろ、毒は入っていない。そんな遠回りなことをするぐらいなら…ほれ、君が気絶している間に君のPDAを壊すさ」


良輔の様子を察したのか神河は苦笑して良輔のPDAを取り出す。


「っ!?」


良輔は自分の命とも言うべきPDAを盗られていることに激しく動揺した。


「安心しろ、君のPDAをどうこうするつもりは私にはない」


神河はそういって良輔のPDAを投げ渡す。


「ちょっ!?」


良輔はそれを慌ててキャッチした。


「それと君の胸ポケットに入っていたルールの一覧表も見せてもらったぞ」


神河はテーブルの上に置いてあるメモ用紙を一瞥する。


「おいおい、人のものを勝手に盗りすぎじゃないか?」


思わず良輔は苦笑した。


「君の治療費だと思えば安いものだろう?」


しかし神河はさほど気にしていない様子だった。


「神河さん、アンタついさっき困ったときはお互い様とか言ってなかったか?」


良輔がそう言うと神河は考えるように手を顎に当てると…


「ふむ、人間には建前と本音というものがあるのだよ、青年」


神河はかぶりをふりながらそう答える。


良輔はその返答に溜息をつきたいところだったが確かにPDAも返してもらっているのでそれ以上の追及はせずに痛み止めを口に含んで水と一緒に飲み込んだ。


「ところでさっきの人は幸村さんみたいだったが彼と何かあったのか?銃を向けられていたみたいだが」


「あんたあのおっさんと知り合いなのか!?」


良輔は神河の発言に驚いた。


「ん?勘違いするな、幸村さんと会ったのはこの建物が始めてだよ。もっとも幸村さんに会ったのはまだ6時間経過してない頃だったし、幸村さんとはルール交換してすぐ別れたからその後、どうしていたかは知らなかったがな」


神河はそう言って笑った。


「あのおっさんは神河さんと別れた後に2人の人間を殺したみたいだ」


良輔は神河にそう伝える。1階の階段付近で殺された女性は直接見てはいないが少なくとも目の前で柊は殺された。


「ほう、どうしてそんなことがわかる?」


神河は興味をそそられたのか良輔にそう尋ねる。


「あのおっさんが俺で3人目だって言っていたからな、それに少なくとも柊っていう女子高生があいつに殺されるとこを見た、俺はその現場に鉢合わせしてあのおっさんに襲われたからここまで逃げて来たんだ」


このことから幸村が殺した人数は2人だと考えられた。


「それは災難だったな、私は4階を歩いていたところで罠を作動させてしまったみたいでな…床が開いたと思ったときにはここにいたよ」


神河は嫌なことを思い出したように渋い顔をする。


「それにしても幸村さんが人を殺した!?ククク、それが本当ならどうやらあの人は相当なピエロみたいだぞ」


何が神河の琴線に触ったのかは知らないが突然可笑しそうに笑い始めた。


「どういうことだ?」


良輔は幸村がなぜピエロだと思うのか神河に聞いてみた。


「私とルール交換したときに幸村さんは自分が生き残るために人を殺すつもりはないと言っていたからな」


神河は肩を竦めながらそう答える。


「それは性質の悪い冗談だな」


それを聞いて良輔は苦笑した。既に幸村には合計して3回も襲われているのだから無理もない。


「まあ、襲われた君からすればそうなんだろうさ。もっとも私は君のことを全面的に信用しているわけじゃない、もしかしたら君の言っていることは嘘で幸村さんを襲ったところを反撃にあったということも有り得るからな」


確かに1回目以外は仕掛けたのは自分からだったかもしれないと良輔は内心で苦笑した。もっとも幸村はこちらが何もしなくても仕掛けては来ただろうが。


「そういえばまだ聞いてなかったな?神河さんが俺を助けた理由」


良輔は思い出したようにそう答える。


「人を助けるのに理由はいらない!!………とか言ってみたいところだが、何もたいした理由があるわけじゃない、PDAとルールを勝手に拝借したから代金に治療してやっただけさ、それに私の条件と君の条件は競合するものではなかったから殺す必要もなかった、運がよかったな?北条」


神河は冗談交じりにそう言うが


(それは裏を返せば条件が競合していたら自分は殺されていたってことか?)


実際にPDAを握られていたのでその発言には冷や汗を流した。


「へえ、ちなみに俺が自分の条件を満たすために神河さんを攻撃したらどうなるんだ?」


良輔は好奇心から試しにそう聞いてみる。


「その時は死んでもらうことになるな」


神河はニヤリと笑って答えて見せた。


良輔はその表情に寒いものを感じた。


「そういえば神河さんのPDAってどれなんだ?」


良輔はあまり期待せずにそう聞いてみる。


「私か?私のPDAはこれだよ、ほれ」


しかし予想に反してあっさり神河は自分のPDAを良輔に見せてくれた。
向けられた画面にはハートの【2】の表示。


「私はjokerを探している。君はjokerを知らないか?」


神河は良輔にそう尋ねるが


「悪いが俺はjokerを知らない」


良輔もjokerについては影も形も見ていない。


「そういえば神河さん、こっちも頼みがある」


そして良輔は意を決してそう切り出した。


「なんだ?」


「俺の仲間に【8】のPDAを持ったやつがいるんだ、そいつの解除条件は素数のPDAを初期配布されたやつ全員に遭遇する必要がある、できれば会ってやってほしい」


神河にそう頼み込む良輔。


「………【8】のやつには会ってもいい、それでそいつはどこにいるんだ?」


神河は少し考えてそう答えた。


「2階ではぐれちまったから分からん」


良輔はそう言うしかなかった。


「会いようがないじゃないか?正直、他人の条件を優先して自分の条件を疎かにする気にはなれんからな、どうしたものか?……そうだ、いいものがあるぞ」


呆れたようにそう言うと神河は2つのツールボックスを取り出した。


Tool:Network Phone A
Tool:Network Phone B


「なんだ、このソフトウェアは?」


良輔は2つのツールボックスを見比べる。


「ネットワークフォン、携帯電話らしいな。これをインストールしているPDAと連絡が取れるものだ。これで君が仲間に再会したら呼んでくれ、これなら時間もそれほどロスにはならない。これでいいだろう?」


そういって神河はTool:Network Phone Bと書かれたツールボックスを良輔に投げ渡す。


「ああ、助かる」


良輔はそのツールボックスを受け取ってPDAに接続した。


ピロリン、ピロリン


『Tool:Network Phone B 機能:ネットワークを利用したトランシーバー機能。Network Phone AをインストールしたPDAとの通信が可能になる。
バッテリー消費:小 インストールしますか? YES/NO』


良輔は迷わずYESに触れる。


『インストールしています。しばらくそのままでお待ちください。
*注意*インストール中はコネクターを外さないでください。故障の原因となります』


その文字の下に、ゆっくり伸びていくバー。バーは0から100までの数字が刻まれており、すぐに100まで到達した。


『インストールが完了しました。ツールボックスをコネクターから外してください』


良輔はPDAからツールボックスを外した。


「なるほど君のPDAにも私のPDAと同じように特殊機能があるのか?君のPDAには生存者を数える特殊機能………」


その横でルール表を見ながら呟く神河。


「ああ、それで今、残っているのは9人………なっ!?」


「いきなり大声を出すな、驚くじゃないか!?」


いきなり声を上げる良輔に注意する神河。


「神河さん、俺が寝ている間にPDAが鳴らなかったか?」


良輔は生存者が9人いると思っていたが見ればPDAに表示された人数は8人を示している。


「君が起きる時に鳴っただけだな」


神河はただ良輔にそう告げた。


その言葉を聞いて良輔は急に優希達のことが心配になってきた。


「すまんが、仲間が心配なんで俺はもう行くぞ、神河さんはどうする?どうせなら一緒に行かないか?」


良輔はそういって神河を誘うが…


「冗談はよしてくれ、こんな状況で他人と一緒に行動できるほど私の神経は太くないんだ、君とだって戦闘禁止エリアでなければ話もしなかったぞ、私は1人で行動する」


神河はそう言ってゴロンとソファーに寝転がった。


「そうか、それじゃあしょうがないな、手当してくれてサンキュー、助かったよ」


良輔はそれだけ言うと戦闘禁止エリアから出て行った。








――――――――――――――――
――――――――
――――
――








神河と別れた後、良輔は音響センサーを頼りに2階の階段付近に複数動く波紋を確認して階段に向かった。

2階が侵入禁止エリアになるのは36時間経過後のことだからもうすぐだ。


ピロリン、ピロリン


「2階が進入禁止になったか」


アラームの鳴ったPDAを確認する。
2階が侵入禁止になると共に階段付近の波紋が動き始めた。


「こっちか!?」


良輔はその波紋を追って行った。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――







それから数十分ぐらい経過しただろうか?

ついに良輔は波紋の位置まで到着した。

そこには………


「優希!!杉坂さん!!」


「良輔!?」


「北条!?」


こうして良輔はようやく2階で分断された仲間の優希と杉坂に合流することができたのだった。







[22742] 16話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/10/26 05:37
【BET】
player suit card odds
北条良輔 ダイヤ 5 3.8
御剣優希 ハート J 5.6
??????? ???? ? ?????
柊桜 ???? ? Death
??????? ???? ? ?????
神河神無 ハート 2 2.5
??????? ???? ? ?????
杉坂友哉 スペード Q 3.7
一ノ瀬丈 クラブ 8 6.0
速水瞬 スペード 10 4.3
幸村光太郎 ???? ? 1.9
飯田章吾 ???? ? Death
水谷祐二 ???? ? 4.0
Day 2日目
Real Time 午後   10:31
Game Time経過時間 36:31
Limit Time 残り時間 36:29
Flour 3階
Prohibition Area 2階
Player 8/13





3階の通路で良輔は優希と杉坂を合流してから分断されてからのことを階段に向かって歩きながら話していた。


「私たちが分断されてから生存者が2人も減ったからずっと心配してたんだからね!!」


優希が泣きながらそう怒鳴る。


「ああ、俺も心配だったよ、優希たちが無事でよかった」


良輔は苦笑しながらも2人の無事を確認したときは本当に安堵した。


「まったくだ、俺と御剣は分断されてから遠回りして階段について、そのままずっと2階が侵入禁止エリアになるまで待っていたからな、心配したんだぞ?」


杉坂が溜息をつきながらそう答えた。待っているのがよほど性に合わない人なのだろう。


「速水さんたちは大丈夫なのかな?」


優希はそういって2人のことを思い浮かべる。


「それは………わからない」


良輔はそう答えるしかなかった。


「それにしても北条と合流できたのはよかったな」


杉坂はそう言って微笑む。


「本当ね、それだけが救いだわ」


ほっと安堵の溜息を優希はついた。


「でもこの死んだ2人は誰なのかしら?」


そう言って優希は悲しそうにPDAを見る。その目はきっと8人と書かれた生存者の項目を見ているのだろう。


「死んだ1人は………柊だ」


良輔は絞り出すように声を出した。


「えっ!?」


優希が驚くような声を出す。


「柊?」


杉坂だけが誰だそいつとでも言いたげな表情をしている。


「そういえば杉坂さんは会ったこと無いんだったな、柊は俺たちが最初に会った参加者の1人で一緒にルール交換したやつなんだ…だが、そいつは、柊は幸村に殺された」


そう、自分がヘマをしたために殺されてしまったのだ。


「そっか、あの子…死んじゃったんだ」


優希は俯きながらそう答えた。思えば優希にとって柊には特別な思いがあったのだろう、最初のルール交換の時に言い争いをした仲だ。そいつがもう既にこの世の人間ではないという事実は相当に堪えるだろう。


「………そっちにもいろいろあったってことか、それでその幸村というのは?」


杉坂はそう言って話題を変えた。


「1階であの女子高生を殺した大男の名前だ、幸村光太郎という名前らしいな」


エミリーのやつはそう言っていた。


「あの時のやつが………ん?ちょっと待て、何でお前はそんなことを知っている?」


納得していたような杉坂だが良輔が幸村の名前を知っていることに疑問を感じた。横を見れば優希もそういえばという表情をしている。


「2階で分断された時、俺は1人で3階に上らされただろ?」


良輔がどう説明したものかと考えながらそう答える。


「その後、エミリーっていうゴスロリ服を着たカボチャが画面に表れてエクストラゲームっていうのをやらされた」


忌々しいカボチャを思い出しながら良輔はつい舌打ちを打つ。


「エクストラゲーム?何だ、それ?」


杉坂は訝しがりながらそう答えた。


「それは俺にもよく分からない、ただそのゲームで柊がその幸村ってやつに襲われていることを教えられてな………それで」


「なるほど、それで良輔はあの子を助けに行ったところで幸村ってやつに殺されるところを見たわけね?」


優希は納得顔でそう言ってくる。


「ん?あ、ああ、まあそんなところだ」


実際に助けに行ったのは首輪の解除条件を緩和してくれると言ったからなのだが都合の悪いことを言いたくないのは人間の性というもので良輔も例外ではなかった。つい、嘘をついてしまう。


「そうだ、エクストラゲームと言えば杉坂さんに渡しておくものがあった」


良輔はそういってがさごそと荷物を漁る。


「あん?何かくれんのか?」


良輔が何かかばんから取り出すのを確認すると杉坂は特に警戒せずに手を差し出した。


チャッと音を立てて杉坂の手に黒い鉄の塊が渡される。


「なっ!?」


杉坂はそれを見て絶句する。杉坂の手の中には………


オートマチックのピストルと銃弾が渡されていた。


「これ?本物なの?」


優希も驚いた顔をしながら杉坂の手にある物体を見つめる。


「残念ながら………柊や幸村のやつも拳銃を持っていた。どうやらこの3階には銃が置いてあるらしいな」


本当は3つ持っていたのだがそのうちの1つは幸村との戦闘で落としてしまった。今、手元にある銃は良輔が持っているものが1つと杉坂に渡したものが1つだけだ。


「それと、優希はこれを着ておいてくれ、もうボロボロになっているけど気休めぐらいにはなるだろ?」


良輔は自分の着ていた防弾チョッキを脱ぐと優希に差し出した。


「ちょっと!?これボロボロじゃない!?もしかして銃で撃たれたの?」


それを見た優希が焦ったようにペタペタと良輔の体を触る。


「痛って!?優希、頼むからあまり触らないでくれ!!傷口が痛いから!!」


良輔はそういって一歩退く。


「だ、大丈夫なの!?銃で撃たれたって、そんな!?」


優希は良輔を見ながら心配そうにオロオロしている。慌てすぎだと優希を見て良輔はそう思った。


「大丈夫………とは言えないかもしれないが幸いにも防弾チョッキを着ていたから命拾いした、向こうの銃は口径があまり大きいものじゃなかったのが大きいな」


良輔は優希を落ち着かせるようにそう答える。


「もう!!あまり心配かけないでよ!!」


優希は安堵したような表情を作ると良輔をそう怒鳴りつけた。


「この手当は北条が自分でやったのか?」


杉坂がそう聞いてくる。


「いや、俺は幸村のおっさんから逃げて戦闘禁止エリアに逃げ込んだんだがそこで神河っていう女に会ってな、そいつが手当してくれた」


良輔がそう言うと優希が表情をパッと明るくした。


「それじゃあすぐその神河さんって人と合流しなきゃ!!」


どうやら優希は何か勘違いしてるらしい、まあ確かに手当してくれたと聞けば友好的な人物だと思うのも無理はないのかもしれないが…


「そいつはやめといたほうがいいな」


もちろん良輔はそう答える。


「な、何でよ?」


優希は良輔の態度が不満なのか機嫌が悪そうにそう答えた。


「あの人に戦闘禁止エリアの外で不用意に近づいたら遠慮なく襲ってくると思う」


良輔が神河に感じた第一印象はそんな感じだった。こちらから仕掛けなければ何もして来ないかもしれないが少しでも不審に思ったら間違いなく攻撃してくるだろう。


「え、え?そんな感じの人なの?」


優希はそんな良輔の反応が意外だったのか訝しがるように良輔に聞いてきた。良輔は迷うことなく頷いて肯定する。


「それから神河さんとは別れてこの波紋を見ながらここに来たんだ」


良輔はそう言って自分のPDAを見せる。その画面には良輔たちがいるところや4階にも2つ波紋が広がっていた。


「この波紋って何なの?」


優希はPDAを覗き込みながら聞いてくる。


「ソフトウェアの機能だ。館内の動体センサーと連動していて動いているものの反応をこのPDAに送ってくれるらしい」


良輔の反応に杉坂が納得するように頷いた。


「なるほど、この広い建物で13人いるプレイヤーにどうやって争わせるのかと思ってはいたがこういうソフトウェアもあったんだな」


杉坂はそう言うとふと気づいたようにこう続けた。


「それで速水さんたちの位置はわからないのか?」


「あ、そうよ、動いているものがわかるならこれで速水さんたちを見つけられるじゃない!!」


優希はそういって喜ぶが良輔は首を横に振った。


「それが駄目なんだ」


「何で駄目なのよ?」


「見ればわかるだろ?」


良輔はそういってPDAの画面をよく見せる。


「…あ、そうか動いてないものはわからないんだ」


優希は残念そうにそう答えた。


確かにPDAの画面には3人が一緒に行動しているからなのか良輔達を中心に大きい波紋が広がっている他には4階に小さな波紋がそれぞれ離れた場所に2つあるだけなのだ。そしてこの2つは2人が行動しているような大きな波紋ではない。


「もう時間も時間だ、2人ともどこかで休息を取っているのかもしれない」


良輔はこの時、嫌な考えも浮かんでいたのだがそれを必死に無視していた。


「もうすぐ4階に着くし近くの戦闘禁止エリアに行けば2人に会えるかもしれないわね」


優希は明るくそう言った。


「そうだな」


良輔はそんな優希に笑いながら頷いてみせる。


「そういえばその神河って女のPDAは何か見当はつくか?」


杉坂が良輔にそう尋ねる。


「ああ、PDAは見せてもらった。ハートの【2】だったよ、神河さんはjokerを探していると言っていたが2人は持ってないか?」


良輔は2人にそう尋ねるが…


「ごめん、私は持ってないわ」


「俺も持ってないな、jokerなんて影も形も見てない」


2人は良輔にそう答える。


「そうか…まあ一ノ瀬の条件には協力してくれるって言っていたから速水さんたちと合流してから神河さんを戦闘禁止エリアに呼ぼう」


良輔は2人がjokerを持っていないとは思っていたのでその反応にはさほど驚きはしなかった。


「呼ぶってどうやって?」


優希は良輔にそう尋ねる。


「俺のPDAにはネットワークフォンっていう携帯電話みたいなソフトウェアが入っていて神河さんとは好きな時に連絡を取ることができる。速水さんたちと合流したら神河さんを戦闘禁止エリアに呼び出す手筈だ」


良輔はそう答えた。


「これで一ノ瀬は【2】【5】【J】の人間と遭遇できるわけか…」


「残っているのは【3】と【7】と【K】の人ね」


杉坂、優希の順でそう答える。


(それに今まで死んだプレイヤーの中に素数ナンバーのプレイヤーが居ればもっと早く解除できるかもしれない)


良輔は心の中でそう考えていたがいくら都合がいいと言っても流石にそれを口にするのは躊躇した。


ちょうどその時、良輔たちに4階への階段が見えて来たところだった。


「ふう、やっと4階に着いたか、長い道のりだったな」


杉坂は肩を叩きながらそう答える。


「あれ?ねえ、階段に誰かいるみたいだけど」


優希の言うとおり、遠目なのでよく見えないが確かに誰かが階段に座り込んでいるように見える。


「あれって一ノ瀬じゃないか?」


俯いていて顔がよく見えないがシルエットがそれほど大きくなく着ているものが一ノ瀬のものと同じように見えた。


「噂をすればってやつかしら?お~い、ジョ~~~~~!!」


優希は大声で叫びながらその人影に走っていく。


「ったくあいつは…近くに敵対的な人物がいたらどうするつもりなんだよ?」


良輔は優希の行動に苦笑しながらもようやく一ノ瀬たちと合流できると思うと安堵の気持ちでいっぱいだった。


「ははっ、こんな時くらい許してやれよ…そういえば速水さんの姿が見えないみたいだが?」


「ん?そういえばそうだな、速水さんはどこに行ったんだ?」


杉坂の言うとおり、一緒に行動していたはずの速水の姿が見えない…


それをおかしく思ったその時だった。















「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!ジョー!?しっかりしてよ!?嘘でしょ?こんなの嘘だよね?ジョォォォオオオ!?」















先行していた優希から叫び声が聞こえた。


良輔は杉坂と顔を合わせるとすぐさま優希と一ノ瀬に駆け寄った。


(そんな!?嘘だろ?ジョー!?)


良輔は不吉な想像を膨らませながら走る。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






階段の近くまで来た2人にははっきりとその場面が見えるようになった。


そこには………


「ジョー!!嫌だよ!!こんなの嫌だよ!!起きて?ねえ、起きてよ!!ジョー………」


涙を流しながら一ノ瀬を抱きかかえて揺すっている優希と…


「………」


左胸を銃で撃ち抜かれており、そこから流して出来たと思われる血の池の中でぐったりしている一ノ瀬だった。



杉坂は一ノ瀬に近寄るとそっとその口に手を当てる。


「杉坂さん………ジョーは…」


良輔はそう聞いたが答えはわかりきっている、心臓を撃ち抜かれた人間が生きているはずがない。


杉坂は良輔の問いに答えずにすっと立ち上がると近くの壁を思いっきり叩いた。


ドンッと壁が音を立てる。


「杉坂さん………」


良輔は杉坂の手からは血が滲み出ていることに気づいた。


「…何で、だよ?こいつは…一ノ瀬は、まだ、まだ子供なんだぞ?これから一生懸命生きて、悲しいことも楽しいことも経験していくっていう年頃なのに………何で?何でこいつが?一ノ瀬が死ななきゃならない!?いや、一ノ瀬だけじゃない…今まで死んだ4人だって…こんな、こんなわけのわからないゲームで死んでいいはずがないだろ!?誰だ?誰なんだ!?こんなふざけたゲームを考えやがった糞野郎は?隠れてないで出てこいよ!!俺が、俺がぶん殴ってやる………くそ!!くそ!!い、一ノ瀬、一ノ瀬ぇぇ………」


ドンッドンッと何回も壁を叩くとそのまま杉坂は壁にもたれかかってしまった。


「ちくしょう!!ここに来てからわからないことばっかりだ!!この腐りきったゲームが何の目的で行われているのかも、一ノ瀬を殺したやつが誰なのかも、速水さんがどこにいるのかも、それに………」


杉坂はそういって一旦、言葉を切ると………















「何で死んじまったはずの一ノ瀬の首輪が外れているのかさえ!!俺には、わからねえよ」















杉坂の言うとおり、何故か一ノ瀬は首輪を着けていなかった。その外れた首輪もどこにも見当たらない。恐らくPDAも持っていないだろう、一ノ瀬を殺した者が持って行ったか、そうでなくとも同行していたはずの速水が持って行ったはずだ、しかしその速水がどこにいるのかさえ良輔達には分からない。


(ジョー………)


良輔はゲームが始まってから今まで一緒に過ごしてきた一ノ瀬に思いを馳せていた。全域の戦闘禁止エリアがまだ設定されているころに出会ってルールを交換した、水谷や柊が協力を拒否した中で唯一1人だけ自分たちに協力してくれた、最初にエントランスホールで幸村に襲われた時だって一ノ瀬がいなければ優希が逃げられなかったかもしれない、それからもこのゲームに対して鋭い考えを提示してくれたり、いつもニコニコ笑ってこんな殺伐とした空間を少しでも和ませようとしたりしてくれた。


(そしてこんな屑みたいな生き方をする俺を嫌いじゃないと言ってくれた奴だったんだ!!)


良輔は戦闘禁止エリアで優希以外のことを度外視して考える自分を嫌いではないと励ましてくれた一ノ瀬を思い出し、思わず自分の目から涙が溢れ出すのがわかった。


「嫌よ、ジョー………こんなのってないよ…こんな、ことって………」


良輔は一ノ瀬の亡骸に縋りつくように泣いている優希に歩み寄った。その肩にポンッと手を置く。


「優希、ジョーもこんなところで横倒しは嫌だろう。どこか、別の場所に寝かせてやろう」


良輔が優希の手に肩を置くと優希は振り返って泣き愚図る。


「良輔、ジョーが、ジョーが死んじゃったよ…」


涙で綺麗な顔をぐちゃぐちゃにしながら優希は一ノ瀬を抱きしめたまま良輔の胸に顔を埋めた。


「私、私は、何もでぎながっだ、ジョーは私を信じて、協力ずるっで言っでぐれだのに…それなのに…私は…私は…何も………」


鼻水声で癇癪を出したように泣き崩れる優希を良輔はそっと抱きしめる。


「何も出来なかったのは…俺も一緒だよ、優希」


一ノ瀬だけじゃない柊にしたって飯田にしたってそうだ、良輔は自分自身が何も出来ないのをよく知っていた。だからなのだろう、良輔が優希を最優先して他のものを疎かにすることが多いのは………自分が何も出来ないから、非力であることを知っているから、だから自分が一番大切なものを優先する。それでも大切なものは守りきれる保証すらないのだから…自分が両手を広げて守れる範囲など…高が知れているのだから………戦闘禁止エリアで一ノ瀬は良輔にこう言った『大切なものがない人間は不幸だが大切なものがあることに気づかないものは愚か者だ、なぜならそれが大切だと分かっていても失うことがあることにさえ気づけていないのだから』と………


(俺にとって優希、お前が…お前こそが俺にとっての一番大切なものだよ)


良輔はギュッと腕の中にいる優希を抱きしめる。


(こいつだけは…俺が絶対守るんだ)


人の死を心から嘆くこの優しき幼馴染を…必ず!!


良輔はそう考えを引き締めると泣きっぱなしの優希を見る。このまま泣いてばかりはいられない、こいつを、優希を必ず日の当たる場所に返すのだから………


「さあ、そんなに泣いてばっかだと、ジョーに笑われるぞ?」


良輔は努めて明るい声を出そうとする。


(きっとジョーがこんな場面を見たらまた良輔兄ちゃんは優希姉ちゃんを泣かせてるとか言い出すんだろうな)


そう考えて良輔は苦笑した。


「う、りょ、良輔だって、泣いでる…癖に…」


優希はそう言って良輔を非難する。


「そうかもな」


良輔は涙を流しながら無理矢理に笑った。うまく笑えている自信は皆無だった。良輔は一ノ瀬を抱きかかえて立ち上がる。


「杉坂さん、一ノ瀬をこのままここで寝かせておくのは可哀想です。どこか別の部屋に連れて行って寝かせてやりたい」


「ああ、もちろんだ」


杉坂は良輔の問いにそう答えた。










――――――――――――――――
――――――――
――――
――











そして良輔たちはそのまま近くにあった小部屋に一ノ瀬を運んだ。


「ああ、そうだ、ジョー、戦闘禁止エリアで話した、あの時さ、あの時はつい言うの忘れてたんだけど………」


部屋にあったベッドの上に一ノ瀬を寝かせると思い出したように良輔は………















「俺も…お前のこと………嫌いじゃなかったよ………」















良輔たちの涙腺はそこで全壊した。









[22742] 17話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/10/26 05:39
【BET】
player suit card odds
北条良輔 ダイヤ 5 2.9
御剣優希 ハート J 3.8
??????? ???? ? ?????
柊桜 ???? ? Death
??????? ???? ? ?????
神河神無 ハート 2 2.2
??????? ???? ? ?????
杉坂友哉 スペード Q 3.0
一ノ瀬丈 クラブ 8 Death
速水瞬 スペード 10 4.5
幸村光太郎 ???? ? 1.8
飯田章吾 ???? ? Death
水谷祐二 ???? ? 2.5
Day 2日目
Real Time 午後   11:45
Game Time経過時間 37:45
Limit Time 残り時間 35:15
Flour 4階
Prohibition Area 2階
Player 8/13





良輔達は一ノ瀬の亡骸を小部屋に移した後に、改めて4階に到達していた。当初は階段での待ち伏せを多分に警戒した良輔達だったがその警戒を裏切るように誰も階段での待ち伏せはしていなかった。肩透かしを喰らいながらも危険がないに越したことはないと判断して4階に上がると時間も時間、それに一ノ瀬の死を目のあたりにした3人は精神的な疲労が大きく、休息を取るためにそのまま4階の戦闘禁止エリアへ直行した。戦闘禁止エリアに到着したのはゲーム開始から38時間を経過し、深夜に差し掛かった時刻であった。


「………」


「………」


「………」


3人共が無言のまま、食事を取る。夜も遅いということで出てきた多くの優希お手製おにぎりも何故かあまりおいしく感じなかった。


「………」


しかしそれも無理のない話であろう。2日目に入って更に3人の人間がこの世を去り、そのうちの1人は今まで行動を共にしてきた人間だったのだ、おまけに仲間の速水さんは行方不明になっている。


「………」


ふと気づけば杉坂が頻繁に自分の隣をちらちらと見ていることに気がついた。


「どうかしたのか?」


良輔はその挙動が気になってそう問いかける。


「あん?何がだよ?」


しかし杉坂は何を聞かれているのかわかっていない様子だった。


「さっきから自分の隣をちらちら見てどうかしたのかって聞いてるんだよ」


良輔がそう説明すると杉坂はきょとんとした表情を浮かべた。


「俺、そんなに横を見てたか?」


杉坂はそう答えた。


「ええ、頻繁にちらちらと見ていたわね」


優希も杉坂が頻繁に隣を見ていたことに気づいていたらしく杉坂の問いにそう答えた。


「そうか、いやな、ちょうど昨日の同じ時間には一ノ瀬が俺の隣で飯を食っていたんだよなって思うと…な、すまなかった、挙動不審な真似をして」


杉坂はそういって頭を下げる。その言葉に良輔も優希も昨夜はそこに座っていた一ノ瀬の席を見た。


2人に何とも言えない感情が湧き上がってくる。


「私たちを繋ぐように座っていた速水さんも今はいないのね」


優希はそう言って昨日は速水さんが座っていた場所を見る。


「速水さんは死んだわけじゃないんだ………また、きっと会えるさ」


良輔は『生存者:8人』の項目を見ながらそう答える。


「そう、よね…また、会えるわよね?」


優希はそこまで言うと途端に肩を震わせはじめた。


「でも私、まだ信じられないな…もう、ジョーが死んじゃったなんて」


目からポロポロと涙を零す。それを見て良輔は何ともやりきれない気持ちになった。


「そういえば杉坂さんは速水さんとの条件はもう満たしているのか?」


良輔は話を変えて杉坂にそう尋ねた。


「いや、俺と速水さんが最初に会ったのは全域の戦闘禁止エリアが解除される少し前のことなんだ、多分5時間ちょっとぐらいの時間だったと思う。俺たちが罠で分断されたのは28時間ぐらいしか経過してなかったからタッチの差で俺は速水さんとの条件は満たせていない」


杉坂は俯きながらそう答える。


「でもそれなら再開すればすぐ満たせますね」


優希はそう答える。


「そうだな、今のうちに現在の段階で残っているプレイヤーを確認しておこう」


杉坂はそう提案する。


「確か俺たちが罠で分断されたときの生存者は10人だった」


良輔はそのときのことを思い出していた。


「ええ、そしてその時に残っていたプレイヤーは私たち5人に柊、水谷さん、幸村さん、そして良輔が会った神河さん、そして私たちがまだ出会っていないプレイヤーが1人いることになるわ」


優希はそう言って10人いた時の状況を整理した。


「そしてその時からプレイヤーが2人減った。死んだのは柊っていうやつと…一ノ瀬だ」


杉坂はそう答える。一ノ瀬の部分で空気が重くなったがしょうがないことだろう。


「残っている8人いるプレイヤーの中で味方と呼べるのは俺、優希、杉坂さん、そして速水さんの4人」


良輔が神河を数えなかったのは良輔の中で神河はあくまで友好勢力といった分類に入っていたからである。


「約半数は味方なわけね、残りの半数のプレイヤーは神河さんと友好、水谷さん、幸村さんとは対立、まだ出会っていないプレイヤーが中立というとこかしら?」


優希は概ねの勢力図を作った。


「この中で解除条件が完全に判明しているのは俺たち4人と神河さん、そして残りは唯一幸村だけが3に関連した条件であることが分かっているというだけで水谷や最後のプレイヤーが所有しているPDAについてはまったく分からないわけだ」


杉坂はそういって肩を竦める。


「俺たちの満たす条件は4つ、【5】【10】【J】【Q】だ。【Q】の杉坂さんが今のところ条件を満たしているのは優希だけだが、俺ももうすぐ満たすはずだし、速水さんも合流できればすぐに満たせる」


良輔がそう言うと杉坂は頷いて見せた。


「御剣の条件もあと32時間生存者が6人以上のままなら条件を満たせる。問題は一ノ瀬の【8】は誰が持っているのかだな?」


杉坂の言うとおり、もしこのPDAを所有しているのが速水さんであるならば【J】と【Q】の条件を満たせば【10】の条件も満たせるはずだった。すると問題は………


「問題なのは良輔の【5】ね、早く首輪をどうにかする方法を考えなきゃ」


優希は焦ったようにそう答える。


「ああ、そうだな。明日も早いし今日はもう休もう。今はちょうど0時…か俺と杉坂さんで3時間ずつ見張り、3階が侵入禁止になる45時間経過後、つまり明日の7時に出発でどうだ?」


その良輔の意見には優希が真っ向から反対した。


「違うでしょ?私と杉坂さんと良輔で2時間ずつでしょ?」


「御剣、気持ちは嬉しいがあまり無理をするな」


「私は無理なんてしてない!!」


杉坂に怒った口調で話す優希。


「どうしたんだ?何ムキになってんだよ?」


優希の剣幕に良輔が尋ねる。


「私だけが何にもしてない…私は何もできてないの、お願い、足手まといは嫌なのよ…見張りくらい私にだってできるから!!」


「………」


「………」


良輔も杉坂もその言葉を聞いて何とも言えない気持ちになる。


(こいつはそんな風に今まで感じてたんだな)


もちろんそれが完全に勘違いであることを良輔達は知っている。そもそも御剣優希が居なければこれだけの人数が協力関係を結ぼうとしたか?と聞かれると答えがもちろんNOだからだ。このつい先日までが他人同士だった自分たちがこんな状況でグループを作っていられることのほうがおかしいだろう、適当なところで疑心暗鬼に駆られて崩壊するのがオチだったはずだ、それを優希は本人に自覚はないだろうがこの急造グループを天性の才能で纏め上げている。現に自分達以外のプレイヤーで目に留まって協力関係を結べている人間がいない以上、どちらが異常かと聞かれれば恐らく優希のほうが異常だろう。優希はこの集団を繋ぐトリモチのような存在で優希がいなければこのグループは形を成さない、それは解除条件の相性がいい、一ノ瀬や杉坂はもちろん速水だってそうだろう、少なくとも自分がここにいないことだけは保障ができる。しかしそれを口で言ったところでこの頑固者は承服しないだろう。きっと聞く耳すらもっちゃもらえまい。良輔は思わず杉坂を見る。


「………」


杉坂も困った表情をしていたがやがて頷いた。


「わかったよ、御剣、お前の好意に甘んじることにしよう、見張りは3人で2時間ずつだ」


苦笑しながら杉坂は良輔を見る。


「そうだな、そうするか?」


良輔も渋々ながらもそれを承諾する。あまり溜め込んでおくのは精神的にもあまりいいものではないだろう。


「ええ、任せときなさいよ!!」


優希は良輔の言葉を聞いて満足そうに頷くとドンッと自分の胸を叩いた。その姿があまりにも滑稽に見えて良輔も杉坂も吹いた。


「え?何かおかしかった?」


優希が笑い始めた2人を見て顔を赤らめながらそう答える。


「いや、おかしいというか何というのか」


「御剣が居てくれると場が和むな」


良輔、杉坂の順でそう答える。


「む、なんか馬鹿にされてるみたいで嫌な感じ」


優希はその反応を見てプイッとそっぽを向いた。


「それじゃあ、御剣、良輔、最期に俺の順で見張りをしよう」


「わかったわ」


「了解だ」


杉坂の言葉に2人が頷いて良輔達のゲーム開始から2日目が幕を閉じた。




[22742] 挿入話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/10/26 05:41
最初に見張ることになった優希はコーヒーを片手に見張りを続けていた。


良輔と杉坂は後ろで睡眠を取っている。


(ジョー………)


優希は死んでしまった一ノ瀬に思いを馳せる。このゲームで出会った仲間だった。


(やっぱりお父さんの言っていたことは………嘘じゃなかったんだ)


優希はこのゲームのことをここに連れて来られる前に知っていた。いや、正確には信じていなかったので知っていたというのは不適切だったのかもしれないが………


そして御剣優希は自らの過去に立ち戻る。












幼稚園の教室の中で男の子と女の子が2人で遊んでいた。


「うんしょ、うんしょ」


男の子が一生懸命になって白い紙にクレヨンで絵を描いている。


「ねえ、良輔君、これって何の絵なの?」


その女の子は他の女の子たちとは遊ばずにその男の子と一緒に遊んでいた。


「これ?これはね~~この前、総一さんに連れて行ったもらった場所に行く途中で見た街並みなんだ~~、優希ちゃんは車の中で寝ちゃってたから見れなかったでしょ?綺麗な光景だったから優希ちゃんにも見せてあげたかったんだ♪」


男の子はご機嫌にクレヨンで街並みを描いていく。


「本当!?ありがとう、良輔君!!」


女の子はそういって男の子に抱きついた。


「わっ!?恥ずかしいよ、優希ちゃん」


男の子は顔を真っ赤に染め上げていた。


「でも良輔君ってすごいよね、こんな綺麗な絵を描けるもの!!」


女の子の指摘するとおり、その絵はクレヨンで描いたにしてはとても綺麗で細かい絵だった。


「こ、これくらい朝飯前だよ!!」


男の子は強がって見せる。


「僕は将来画家になって綺麗なものを一杯描くんだ~~」


男の子は持っているクレヨンを高々と掲げてそう宣言した。


「本当!?すご~い!!」


女の子はそんな男の子にパチパチと拍手を送った。


「うん!!僕が画家になったら真っ先に優希ちゃんを書いてあげるね」


「え!?でも、私なんか………」


「僕は優希ちゃんが描きたいからそれでいいの!!」


男の子は自信なさげに俯いた女の子を見てムキになったようにそう答える。


「うん!!」


女の子はパッと表情を明るくすると男の子の腕を取った。


『良輔君~~、優希ちゃん~~?お迎えが来たわよ~~』


先生が自分たちを呼んでいる声が聞こえた。


「「は~い」」


2人はその声を聞いて教室から出て行ったのだった。






――――――――――――――――
――――――――
――――
――







それから家に帰って、いつものように家族で笑いながら暖かい食事をとり、お風呂に入って髪を乾かして、渚お姉ちゃんと一緒に使っている二段ベッドに入って寝るはずだった。


「ん~、おしっこ」


重くなった瞼をパチパチしながら部屋を出て便所に行った。部屋から出る時に渚お姉ちゃんが寝返りを打ったのがわかった。






――――――――――――――――
――――――――
――――
――







「ふ~、スッキリした…」


用を足してベッドに戻る途中に克己お兄ちゃんと良輔君のいる男子部屋の前を通り過ぎた。今日、克己お兄ちゃんは友達の家でお泊り会なので良輔君が1人で寝ている。ふと、部屋の中から掠れるような声が聞こえてきた。


(良輔君まだ起きてるのかな?)


そう思って扉を開けて部屋の中に入って行った。


そこは男のらしい部屋でモデルガンやらプラモデルやらが多く置いてある。二段ベッドの下にいる良輔君から低い声が漏れた。


「良輔君?」


私はそう言ってベッドに近寄る。


「ぁぁ、ヵァ………」


「良輔君?どうしたの?」


様子のおかしい良輔君を心配する。何か寝言を言っているようだった。


「お母さん、お母さん!!うぅぐ…」


「良輔君!?良輔君しっかりして!!」


涙を流しながら苦しそうな声を出す良輔君を見て肩を揺する。


「ごめ、ごめんなさい…僕が、僕が弱いばっかりにお母さんを守れなかった、何で?何でお前は僕から大切なものを奪って行くの?」


「良輔君どうしちゃったの!?良輔君?」


「殺してやる…お前なんか殺してやる…僕から大切なものを奪っていくやつは…全員殺してやる!!離せよ、僕はあいつを殺しに行くんだ、お前…僕の大切なものを………返せよ」


良輔君は夢を見ているのだろうか?起きてはいないはずだが手を宙に彷徨わせながら寝言を囁き続ける。その顔からは涙が流れていた。


「私が、私が良輔君の大切なものになってあげる…だから泣かないで!!」


私は宙を彷徨っていた震える良輔君の手を包みながらそっとそう答える。


「………ほ…んとうに?優希ちゃんが…僕の大切なものになって…くれるの?」


「うん!!だからもう泣かないで?苦しまなくっていいんだよ?」


「そ…うか、僕は…苦しまなくても…いいのか…わ、かったよ、我慢するよ…じゃあ…」












「今からは優希ちゃんが僕の大切なものだ………」















良輔君はそれだけ言うと寝言を言うのを止めた。苦しむような声も止まり、スー、スーと穏やかな寝息に戻った。それでも滝のように流れる汗はまだ止まっていない。


「大変、すごい熱…」


手を額に当てるとそこにはすごい熱がこもっていた。


「急いでお母さんを呼んでこなくちゃ!!」


すぐに1階にいるお母さんを呼びに戻った。この時間ならまだお母さんは起きているはずだ、多分リビングにいるだろう。


階段を降りてリビングに行くとそこからは明かりが漏れていた。中からお父さんとお母さんの声が聞こえてくる。ドアノブに手をかけて扉を開けようとしたその時だった。


『ねえ、総一?考えてくれた?良輔を養子にしようって話』


(えっ?)


話の内容が内容だったのでつい開けるのを躊躇ってしまう。


(それって良輔君と私たちが家族になれるってことだよね!?)


それは私にとって踊り出したいくらい嬉しい内容だった。もちろんお父さんはこの話を受けるに違いないと思った。お父さんは私たちと同じくらい良輔君を家族として愛していることを知っていたから…


『麗佳、俺もよくその話をよく考えたけど………良輔を養子にすることはできない』


しかし予想に反してお父さんから出た答えは否だった。


(どうして?)


ずっとお父さんは良輔に家族のように接していたのに…あれは嘘だったの?お父さん…


『どうして!?私は良輔を家族だと思っているし、自分の息子も同然だと思っているわ!!総一、あなたはそうではないと、違うというの?』


『違いませんよ!!俺も良輔は自分の子供だと思っているし、大切な家族だと思っています!!』


『だったら………』


『でも駄目なんです!!俺は、俺はあの「ゲーム」で良輔の伯母を…かりんさんを、殺しました』


(えっ?)


お父さんが………人を、殺した?あの頑固だけど優しいお父さんが?それも良輔君の伯母さんを?それに「ゲーム」って…何?


『でも総一、あれは…』


『事故だった…麗佳さんはそう言ってくれるかもしれない、でも結果的にかりんさんは俺と揉み合って暴発した銃弾で命を落としました。事故であったとしても俺が殺したことには変わりありません』 


『でも、総一…あれは仕方なかったと思うわ、いきなり誘拐されて廃墟に閉じ込められてPDAを渡されて、条件が満たせなかったら首輪の仕掛けで殺される…悪いのは総一じゃない、悪いのは私たちをあんな状況に追い込んだやつらよ、総一は悪くない!!それに私たちは賞金でかれんさんだって助けられたじゃない?』


『かれんさんのことだってそうだ、俺がもっとしっかりしていればかれんさんは死ななかったかもしれないのに…そうすれば良輔だって自分の母親の傍で幸せになれたはずだったんだ!!俺が、もっとしっかりしていれば………』


『何で、何で総一はそんなに1人で背負い込もうとするのよ!!私だっているじゃない?私にも総一の苦しみを少しでもいいから分けなさい!!それとも総一にとって私ってそんなに頼りない女なの?』


『………麗佳さん、俺は…怖いんです』


『怖い?』


『はい、人を殺した俺がこんなに幸せな日々を送っている…辛いけどやりがいのある仕事があって、よく喧嘩するけど笑いあえる仲間がいて、家に帰れば克己や渚や優希、そして良輔がこんな俺におかえりなさいって言ってくれるんです。そして隣には………麗佳がいてくれる、こんな頼りない俺をずっと支えてくれているあなたが………居てくれるんです』


『………』


『いつか天罰が下るんじゃないか?この幸せが砂上の楼閣のように音もなく崩れ去って行くのではないか?また、優希の時のように幸せが突然消え去ってしまう。そんなのはもう耐えられないんです!!本来なら俺は克己や渚や優希にもお父さんなんて呼ばれる資格がない。まして間接的に良輔を不幸にした俺がその良輔からお父さんなんて呼ばれる資格なんかありっこない、俺は良輔からお父さんと呼ばれるたびに罪悪感に苦しむことになるでしょう。俺はそれに耐えられるほど………強くないんです』


『…総一』


そこまで聞いて私はその場所から離れた。これ以上聞いていられる勇気がなかった。洗面所まで行って洗面器に水を張るとタオルを1枚とって良輔君のいるところまで戻る。






――――――――――――――――
――――――――
――――
――







私は自分が熱を出したときにお母さんがやってくれたように洗面器に張った水にタオルをつけて一生懸命絞るとそれを良輔君の額の上に乗せた。


ポタリポタリと水が落ちる音が聞こえる。


「いつか良輔君とお別れしなくちゃいけない日が来るのかな?」


この水の落ちる音はどこから聞こえているのであろうか?絞りきれていないタオルから?それとも………


「どうすればいいんだろ?私と良輔君は家族になれないんだって…家族になれないならやっぱりいつかお別れしないといけないのかな?私が良輔君の大切なものになるって約束したのに………」


そう言って良輔君の手を握った。


「嫌だよ、私、良輔君とお別れするなんて嫌だよ、ずっと一緒に居たいよ…」


ギュッと握る手に力が入った。


「あ、そうだ、良いこと思いついた………」


この時、私の中で考えが閃いた。


「私が、良輔君のお嫁さんになればいいんだ、そうすれば、私と良輔君が結婚すれば私たちは家族になれる…お父さんとお母さんみたいに………」


お父さんとお母さんだって最初は他人だった。でも2人は結婚して家族になったんだ。


「私、ずっと良輔君の傍にいるから…良輔君の大切なものになるから………」


夫婦になるなら呼び捨てで呼ぶようにしないと…お父さんもお母さんもお互いを呼び捨てで呼んでいる。いつまでも良輔君なんて他人行儀に呼んでいちゃダメだ。














『だからずっと、私の傍に居てね、良輔』
















そして私は良輔の唇に誓いのチューをする。これが御剣優希のファーストキスだった。















――――――――――――――――
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――――
――


















翌日


「ねえ、優希ちゃん大丈夫?」


私は良輔から風邪をうつされてしまったらしい。熱が下がらない。


「私のことは優希って呼ぶように言ったよね?良輔」


ベッドの中から一生懸命強がって良輔を慣れない呼び捨てで呼ぶ。


「う~ん、別に僕はいいんだけどさ、何でいきなり呼び捨てになったの?」


「え?べ、別にたいしたことがあったわけじゃないもん!!」


良輔にそう聞かれて顔が真っ赤になった気がした。良輔はいつも人の顔が真っ赤になるわけないなんて言うけどこの時の私は本当に顔を真っ赤にしている気がした。


「それより、早く言ってよね」


「何を?」


「だ、だから私の名前、それも呼び捨てで」


良輔がいつまでも言ってくれないので切り出したのはいいものの恥ずかしさのあまり布団を頭からかぶった。


「はあ~わかったよ、優希。これでいいの?」


頭をポリポリ掻きながらも良輔は私にそう言ってくれる。


「うん!!」


良輔に呼び捨てにされたことが私には心の底から嬉しかった。








(思えば子供だったのかもしれないわね)


優希はそう考えて笑う。もう見張りの交代時間が訪れようとしていた。


コーヒーを飲み干すと立ち上がって次の見張り番である良輔を起こそうと近寄って行った。


「良輔?良輔起きなさい?あなたの番よ?」


優希は良輔の肩を揺するがう~んと言うだけで起きない良輔を見て少し悪戯心が疼いた。


「ふふっ、お姫様のキスでも王子様って目覚めるのかしら?」


良輔の唇に自分の唇を押し当てる。


チュッと浅く唇が触れ合う音がした。


そのとき、急に良輔の目が開いた。驚いた優希は思わず唇を離して距離を取る。


「ん~?おう、優希か?もう交代時間か?」


良輔はまだ寝ぼけているのかそれに気づいた様子もなく、頭の後ろをポリポリと掻く。


「ほ、ほんとうに起きたわね?」


「あん?何がだよ?」


「あ、いや、何でもないわよ!!それより見張りの交代よ、頑張りなさい」


「ん?ああ」


良輔はそう答えて見張り場所まで移動して行った。


(さて、私も寝ようかな?)


優希は自分の毛布を引っ張り出して横になった。







――――――――――――――――
――――――――
――――
――








(やれやれ随分と不器用な奴だな、御剣は…)


優希は気づいてなかったようだが杉坂はまだ眠れず起きていた。自分でも意外なほどに一ノ瀬の死を気にしていたらしく、眠るに眠れなかったのである。


(明日は御剣に発破でも掛けてからかうとするか…)


杉坂は明日の楽しみが出来たとばかりにニヤッと笑うとしばらくしてようやく眠りについた。








[22742] 18話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/10/26 05:42
【BET】
player suit card odds
北条良輔 ダイヤ 5 2.4
御剣優希 ハート J 3.5
??????? ???? ? ?????
柊桜 ???? ? Death
??????? ???? ? ?????
神河神無 ハート 2 2.1
??????? ???? ? ?????
杉坂友哉 スペード Q 3.0
一ノ瀬丈 クラブ 8 Death
速水瞬 スペード 10 4.5
幸村光太郎 ???? ? 1.7
飯田章吾 ???? ? Death
水谷祐二 ???? ? 2.8
Day 3日目
Real Time 午前 6:00
Game Time経過時間 44:00
Limit Time 残り時間 29:00
Flour 4階
Prohibition Area 2階
Player 8/13





「おい、起きろ、御剣!!北条!!起床時間だぞ」


戦闘禁止エリアに杉坂の声が響く。


「うぅ~おはようございます。杉坂さん、今何時ですか?」


「………」


優希が背伸びしながら起き上るが毛布に包まったもう1つの塊は微動だにしない。


「今、ちょうど6時だ、御剣は朝飯の支度をお願いできるか?俺はこいつを叩き起こす必要があるらしい」


杉坂はそう言って毛布に包まった塊を指差す。


「はは、頑張ってください」


「いや、待てよ…御剣の目覚めのキスですぐ起きるんじゃないか?」


キッチンに向かおうとする優希の背中に向けてそう言い放つ杉坂。一瞬何のことか優希にはわからなかったがすぐその意味することに気づいた。


「も、もしかして見られてました!?」


狼狽する優希。


「まあ、バッチリと…それにしても俺が居なければ不純異性交遊に励もうとする勢いだったな、あれは………無防備の相手の唇を奪うというのは中々に大胆な真似をするな?御剣」


ニヤリと人の悪い笑みを浮かべながら杉坂はそう答える。


「………」


「はは、青春っていいなあ、おい?」


顔を俯かせる優希を見てそう思った。


「あ、あの、このことは良輔には………」


「クックック、分かっているよ、黙っておけって言うんだろ?」


杉坂は他人を茶化すことはしてもそれを後押しすることはしない主義だった。相手を決めるのはあくまで本人なのだ、興味本位でくっつけるような真似は杉坂の趣味ではなかった。


「………」


「さて、他人を茶化すのはそろそろ終わりにしてこいつを起こすとするか?」


杉坂は離れたところに転がっている毛布の塊に足早に近寄って行くとそれに向けて足を振り子のように振り上げる………そして




――――――――――――――――
――――――――
――――
――






良輔達は朝食のパンとベーコンエッグを食べ終わり、食後のコーヒーを飲みながら寛いでいた。


「杉坂さん、人を起こすならもっと優しく起こしたほうがいいと思う」


機嫌が悪そうにぶーたれる良輔。


「ふん、お前が時間通りに起きないのが悪い。俺に責任転嫁するなよ」


しかし杉坂はどこ吹く風と言わんばかりにコーヒーを啜っている。


「だからって腹を蹴ることないだろう!?」


良輔は痛む腹をさすった。


「ふうん、なるほど…北条は御剣におはようのチューで起こして欲しかった、つまりはそう言いたいわけだな?」


コーヒーを飲みながら杉坂がそう答えた。


「ぶふ」


同じくコーヒーを飲んでいた優希がコーヒーを噴き出す。


「ば、な、何でいきなりそんな話になる?」


「………」


狼狽する良輔と沈黙する優希。


「じゃあ俺にしてチューして欲しかったのか?」


「………」


「………」


場の空気が急に冷めるのが2人にはわかった。


「冗談だよ、笑え」


杉坂はそう言うがまったく笑えない。


そのとき


ピロリン、ピロリン


『『『3階が侵入禁止エリアになりました』』4階が侵入禁止エリアになるのは今から9時間後です』


「これでゲームも45時間が経過した。残りは28時間………か」


杉坂がPDAを見ながらそう答える。


「そろそろ出発しましょう。9時間後にはここも侵入禁止エリアになります」


優希の言葉に2人は頷いて戦闘禁止エリアから退出した。




――――――――――――――――
――――――――
――――
――







良輔達は5階に向かう階段を探しながら途中にある部屋を探索しながら進んでいた。


そのとある部屋で


「おいおい、冗談だろ?こんなものまであるのかよ?」


杉坂は木箱に入っていた金属の塊を引っ張り出した。


それは………


「サブマシンガンか………洒落にならないな」


良輔が箱を覗くともう一丁のサブマシンガンが入っておりそれを取り出した。


「さっきから随分物騒なものが出て来るわね」


優希は箱から自分でも使えそうな小型の拳銃を引っ張り出してきた。


「1階にはこれといった武器がなく、2階にはナイフなどの刃物、3階には拳銃、そしてこのフロアにはサブマシンガンか………上に行くたびに武器が強くなっているな」


杉坂は銃身をコンコンと叩きながら呟く。


「とりあえずこのサブマシンガンは俺達も持っておいたほうがいいな」


良輔はそう言って重い金属の塊を抱える。


「こんな簡単に他人の命を奪えるものがあるから人間は争うことを止めないのかしら?」


手の中のリボルバーを見詰めながらそう呟く。その銃は鈍く銀色に輝いて、持つ部分にはラバーグリップがある。リボルバー式の装弾数が5発という小型の拳銃でシンプルかつ単純明快な機構の拳銃であったことから、これなら自分にも扱えるだろうと優希は感じた。優希は万が一のために自分の手提げ鞄に拳銃と箱詰めされていた予備の銃弾を入れた。


「それは違うな、武器そのものが他人を殺しているわけじゃない、武器を使おうが素手で殺そうが人を殺すのはほとんどの場合が人間だ。例え武器がこの世界に存在しなかったとしても人は殺し合うだろうさ」


杉坂は何でもないようにそう答えた。


「でもそんなのって」


優希は悲しそうに俯く。


「それに拳銃なんて分かりやすいものじゃなくてもナイフなんかの刃物なんかその辺にいくらでも売っているだろ?人間を殺すだけならそれで十分さ、だからこそ俺は他人を虐めるやつの気持ちが解らない。そいつが恨みに思って刃物を持ち出す可能性をやつらは考えていない」


肩を竦めながら杉坂は懐にしまってあったナイフを取り出した。


「だが、そういうやつに限って自分がやられる側に回ると今までのことを棚に上げて道徳だの常識だの法律だの持ち出すからな」


良輔は優希を虐めようとするたびに自分と喧嘩して返り討ちにあって先生に泣きつく同級生を思い出した。先生が自分を叱るのは業務的なものがあるだろうと割り切っていたが他人を虐めようとしたやつらが先生に泣きつくのはどうなんだろうとよく考えたものだ。


「そうだな、そういえばお前らはこんな事件を知っているか?」


杉坂はいきなりそう言い始めた。


「事件って何ですか?」


優希は杉坂に聞き返す。


「友達に聞いた話なんだが、何でも高校生が7人集まって中学生1人を集団リンチにするっていう事件が昔にあったらしくてな」


杉坂は手の中にあるナイフで遊びながらそう語る。


「弱いものイジメですか?」


「それがどうかしたのか?」


優希は嫌悪の表情を見せるが良輔はそれぐらいどこにでもあるものだろうとしか思わなかった。


「それがしばらく続いたころに中学生の方がイジメに耐えられなくなって自分を虐めていた高校生の1人をナイフで刺殺したらしい」


杉坂は持っていたナイフの刃先を良輔達に向けると軽く突き出すしぐさをする。よい子は真似しないように…


「そんな!?」


「………」


良輔はどうもこの話をはじめてから妙に杉坂の様子がおかしいような気がしていた。


(何の話がしたいんだ?)


なんでいきなりこんな話を杉坂はしゃべりだしたのか?良輔にはそれがよくわからなかった。


「それで残った6人の高校生がどうしたと思う?」


しかし杉坂はそれに気づくこともなく話を進めていく。


「今まで虐めたことを謝りに行った?」


優希はその質問にそう答えた。


「逆だよ、その中学生を殺人罪で訴えたらしい」


杉坂はナイフの持ち手を変えてそう答える。


「中学生のやつは正当防衛を主張したそうだよ、当然だよな?一歩間違えば死んでいたのは自分だったんだから」


杉坂はそう言うが良輔はその高校生を卑怯とは思わない。相手を攻めるのは人数を集めて攻撃するのが一番合理的だし相手が武器を取り出してきたならほとんどの場合において法律で勝てるからだ。ただし、それで殺されておいて文句を言うのは馬鹿な話だとも思うが………


「それで判決は?」


念のため良輔は杉坂にそう尋ねる。


「………過剰防衛で有罪判決だったらしい」


杉坂は肩を竦めながらそう答える。


「でも人を殺したらその責任を取らなければならないわ!!」


「ほう、つまり御剣はその中学生にやられっぱなしで死ねというわけだな?」


優希の発言に低い声で杉坂が返した。


「私はそう言っているわけじゃ!?」


それに優希が狼狽する。


「そう言っているのと同義だよ、高校生7人が相手なんだ…まず、誰も助けちゃくれない。殺られる前に殺るしか…そいつには生き残る方法がなかったんだろうな?」


集団で囲まれるというのは想像以上にプレッシャーがかかるものだ。それも自分より年上の相手が7人、勝つなら武器に頼るのを悪いとは言えないだろう。


「なんか今の俺達みたいだな、その中学生」


圧倒的な敵を前にしてわけもわからず生死の瀬戸際まで追いつめられた中学生を良輔はそう表現した。そして差し詰め犯人側が高校生か。


「同感だ、死にたくなかった、ただ生きたかっただけで誰かに迷惑をかけていたわけじゃない。それなのに理不尽にも生死の間際まで追いつめられて…その中学生は生き残るために………止むを得ず人を殺した」


杉坂は顔を俯かせながらそう語る。


「………」


「………」


「お前らはこの話で何が一番理不尽だと思う?」


黙っている俺達に杉坂はそう尋ねる。


「何の罪もないのに虐められた中学生だと思う」


「被害者であるはずなのに加害者にされた中学生か?」


「それがどれも違うのさ」


優希、良輔の言葉に首を横に振る杉坂。


「どういうことだ?」


良輔は思わず聞き返す。


「この話には続きがあってな」


杉坂はそう言って話を続ける。


「6人の高校生が虐めを止めなかったんだ。流石にそいつはもう虐められなかったが別のターゲットを同じように虐めたらしい。馬鹿なやつらだよ、死んだ1人が今度は自分になるかもしれないなんて考えないんだから」


嘲笑するように笑う杉坂。


「…生き残った6人の高校生は誰かからその時の話を聞かれたらしいんだが………そいつらが何て答えたと思う?」


「………」


「………」


杉坂は俺たちにそう聞くが黙っている俺たちを見てこう続けた。


『弱い人間が悪いのだと、銃を引けないなら搾取されるのは当然だ』


低い、絞り出すような声だった。


「6人の高校生はそう答えた。それを聞いて虐められていた中学生はこう思ったそうだよ、じゃあ銃の引き金を引かないやつを挑発して撃ち殺されたお前らが何でその自分に文句を言ったのかってな」


杉坂は祈るように手を組むとそう言った。


「………」


「………」


この時になってようやく2人はこれが何の話だったのかを理解した。


「弱いから搾取するというのならそいつらは中学生を訴えるべきじゃなかった!!その理論が適応されるなら殺されたのはそいつらの自己責任じゃないか?偉そうな理論を振りかざして自分の行いを正当化して都合が悪くなったらあっさり持論を翻す!!その中学生は絶望したのさ、人間という身勝手な生き物に!!人は学習する生き物だなんて一体誰が言ったんだ?人間という生き物は肝心なところで何も学習なんかできていない!!」


杉坂は怒った口調でそう言い切った。


「杉坂さん、1つ聞かせて欲しいことがあります」


その中を優希が杉坂に話しかける。


「何だ?」


杉坂は少し顔を上げて優希を見た。


「その中学生は罪人の烙印を押された後にどうなりました?その後、どんな生活を送っていますか?」















「本当にその中学生は殺した相手のことを悔やんではいなかったんですか?」















今にも泣きそうな表情で優希は杉坂にそう問いかけた。


「………」


杉坂はそれを見て考え込むようなしぐさを見せるとやがて口を開いた。


「………御剣、お前にはそいつが今どうしているように見える?」


「きっとその中学生は人を殺したことを悔やんでいます。そして今も………」


優希は杉坂にそう答えた。


「…そうか」


かぶりを振りながら杉坂はそう答える。


(泣いているのか?)


良輔にはかぶりを振る杉坂が泣いているのを隠しているように見えた。


そのときだった。


「「「っ!?」」」


3人の耳に遠くで何かが爆発するような音が聞こえた。


「今のは一体何の音だ!?」


杉坂が腰掛けていた木箱から立ち上がった。


「良輔!?」


「わかってる!!」


良輔は急いでPDAを取り出すと地図を呼び出した。


「誰か追われているぞ!?」


地図には4階を移動し続ける波紋をキャッチしていた。


「どうする?」


「決まっています!!助けに行きましょう!!」


杉坂の問いに優希が答える。


「そうしたほうがいいだろうな、これで追われているのが速水さんなら笑い話にもならない」


良輔はそう答えてはぐれてしまった自分の仲間を思い浮かべる。


「こっちだ!!ここからそんなには離れていない!!」


良輔を先頭に杉坂と優希も荷物を持って部屋を出た。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






良輔達はPDAの波紋を頼りに戦闘している場所まで走りながら移動していた。


「遠くから連続した銃声が聞こえるわ、多分二人ともマシンガンみたいなもので打ち合ってるんだと思う」


優希は耳に手を当てながらそう答える。


「争っているのは誰か分かるか?」


良輔は走りながら優希に問いかける。


「1人は………多分、水谷さんの声だと思うの、でももう1人は聞いたことのない声だわ」


水谷か………やっかいなのが出て来たな。良輔は内心でぼやく。


「その水谷じゃないやつはどんな声なんだ?」


杉坂がそう答えた。


「女の子の声よ!!それも多分、かなり幼い声だわ………待って!!何か言ってる、助けて…お父さん?」


優希が幼い女の子が襲われていると知って真っ青な顔をする。


「多分、追われてるのは俺たちの誰もまだ会ってないプレイヤーだ!!」


残っている女性で良輔が知っているのは優希と神河だが神河の声はどちらかというとドスの利いた低めの声だ。そうなるとまだ会ってない最後のプレイヤーが水谷に追われているということなのだろう。


「急ぎましょう!!」


「ああ」


「了解だ」


優希に良輔、杉坂の順で答える。


果たして3人が行き着く場所にどんな光景が待っているのだろうか?3人はただ間に合うことを祈りながら走り続ける。






[22742] 19話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/10/26 05:44
【BET】
player suit card odds
北条良輔 ダイヤ 5 2.4
御剣優希 ハート J 3.5
??????? ???? ? ?????
柊桜 ???? ? Death
??????? ???? ? ?????
神河神無 ハート 2 2.1
??????? ???? ? ?????
杉坂友哉 スペード Q 3.0
一ノ瀬丈 クラブ 8 Death
速水瞬 スペード 10 4.5
幸村光太郎 ???? ? 1.7
飯田章吾 ???? ? Death
水谷祐二 ???? ? 2.8
Day 3日目
Real Time 午前 9:45
Game Time経過時間 47:45
Limit Time 残り時間 25:15
Flour 4階
Prohibition Area 3階
Player 8/13




4階の通路をバタバタと走る音が通路に響いていた。


「オラオラ、待ちやがれよ、お嬢ちゃん?」


赤髪の男、水谷は逃げ続ける小さな女の子に向けて持っていたサブマシンガンを打ち込む。


連続した銃声が響き、しかし女の子はあとちょっとというところで通路に隠れてしまうのだ。


「ちっ、いい加減くたばれよなあ~~俺だって暇じゃないんだぜ?ったく」


水谷は不機嫌に舌打ちをするがすぐに表情に笑みを張りつかせた。


「今日の俺はラッキーボーイだぜ~~」


サブマシンガンを構え直して水谷は少女を追う。


時間は今から少し前に遡る。






――――――――――――――――
――――――――
――――
――







「はあ、2階で良輔達を攻撃してから誰にも会わねえでやんの」


溜息をつきながら水谷はちょうど5階への階段を上り、少し前の通路を歩いているところだった。


「ここに連れてきたやつらはこんな馬鹿ひろい場所でどうやって俺たちに殺し合いをさせるつもりだったんだ?」


あまりのエンカウント率の悪さに悪態をついた。水谷はいまだ探知系のソフトウェアを手に入れていなかったのだ。


「ん?」


不意に水谷の足が止まる。


「何だ?誰か走っているのか?」


通路を人が走る音が響いていた。


「近寄って来てるな?ちっと様子を見てみるとするか…」






――――――――――――――――
――――――――
――――
――








水谷がすぐ近くの通路に隠れてしばらくすると足音の主が現れた。


「はあ、はあ、助けて、助けて、お父さん」


へとへとになりながら青い髪をした10歳くらいの幼い少女が4階の階段に向かって走って行く。


「へっ、どうやらようやく俺にもツキが回って来たらしいな」


水谷は4階で見つけたサブマシンガンを抱えて少女の後を追って走り出した。


「っ!?」


かなり前を走っていた少女もサブマシンガンを構えた水谷に気づいて顔を青くしながら走るスピードを上げた。


「お嬢ちゃ~ん、ちょっと俺のために死んでくれねえかな~~」


水谷はサブマシンガンを乱射しながら少女を追った。


「いや!!いやあ!!来ないで…来ないでよ!!お父さん!!お父さん助けて!!」


涙声でそう叫びながら少女は逃げていく。


「はっ、残念だがお前のお父さんは助けに来てはくれないみたいだぜ~~だからさ~~さっさと死んでくれねえ?」


そう叫びながらサブマシンガンを連射するが少女は4階の階段を下りて行ってしまった。


「ったく来た道を戻るのかよめんどくせえ」


めんどくさいと言いながらも少女を追う水谷は実に楽しそうな笑みを浮かべながら少女を追って4階に下りた。


そして話は冒頭に戻る。






――――――――――――――――
――――――――
――――
――







「やれやれ予想以上にすばしっこいな、あのガキ」


正直ここまで逃げられるとは水谷も思っていなかった。


前を走る少女を追いながら悪態をつくがそれももうそろそろ終わりだろう。少女の走るスピードが目に見えて落ち始めていたのだ。


「まっ、ガキにしちゃ頑張ったほうか?」


水谷はどこから走ってきたのかは知らないがここまで逃げてきた少女の健闘に称賛の賛辞を送った。もっともだからといって見逃すつもりはない。


「はあ、はあ、も、もう駄目だよ………お父さん、ごめんなさい、美姫は、美姫はもう疲れちゃったよ」


少女が力尽きて通路に倒れ込む。


「へっ、ようやくチェックメイトってか?安心しな、俺は幼気な少女をいたぶる趣味はねえからすぐに楽にしてやるよ」


少女が倒れ込んだことを確認すると水谷は嬉々としてそう言いながら倒れ込んだ少女のところまで行くために距離を詰める。


しかし


「良輔、杉坂さん、銃で水谷さんを牽制して!!私があの子を助けに行く!!」


すぐ近くの通路から御剣が飛び出して来た。見れば両端の通路に良輔と杉坂が銃でこちらを狙っている。


「ちっ!?」


水谷はあとちょっとのところで現れた敵の増援に舌打ちしながらもここにいることを危険と判断して後退する。通路に隠れなければただの的になってしまうからだ。


「杉坂さん、間違っても優希やあの子を撃つなよ!?」


「あのな、俺がそんなヘマするわけねえだろ!!」


良輔と杉坂が発砲してきたのだろう。銃声とともに自分の近くを銃弾が通り過ぎていく。


「糞が!!俺様を舐めるなよ!?」


水谷は通路に隠れるとそこから通路に飛び出している御剣と少女に向けて発砲しようとする。


「あんまり銃とかで人を撃ちたくないけどね」


しかし水谷の予想に反して御剣までが小型の銃を取り出して応戦してきた。御剣の放った銃弾は自分が隠れている通路の壁を削る。


「あいにく自己防衛まで否定するほど私は平和ボケしてないんだから!!」


御剣は水谷を拳銃で牽制しながら少女を連れて通路に引き返してしまった。


「ああ、ちっくしょうが!!中々うまくいかねえもんだな?」


水谷はそれを確認して通路に身を隠すとそうぼやいた。


(それにしてもあのお嬢ちゃんがねえ………)


良輔、杉坂は別にしてもあの御剣のお嬢までもが攻撃してくるのは水谷にとって完全に予想外だった。


(ただの偽善を振りかざすだけで何もしないお嬢ちゃんかとも思ったが…)


他人を助けるために銃撃から身を守る障害物のない通路に飛び出し、銃で牽制―といっても当てる気はなかったようだが―しながら後退する。なかなかできることではない。


(なんだ、やればできるじゃねえか?)


自分は偉そうなことを言うだけで肝心の実行部分は良輔に任せっぱなしにしているのだろうと水谷は思っていたが意外に肝っ玉の据わったお嬢さんだったらしい、2階で良輔に偽善を振りかざすだけで何もしないお嬢さんだと言ったのは訂正したほうが良さそうだと感じた。


(しっかしどうしたもんかね?)


通路に隠れてしまっては一方的に攻撃というわけにはいかない。


(消耗戦になるかもしれねえなあ、こりゃ)


水谷はそう考えて舌打ちする。どう考えても3人分の武装がある向こうの方が有利だ。


(だが、こっちもてめえの命がかかってんでな、手加減はしねえぜ)


水谷は笑みを浮かべながら敵の様子を探る。






――――――――――――――――
――――――――
――――
――







良輔は水谷の隠れている場所に時折、銃撃を加えて牽制している。


「優希、頼むからいきなり通路に飛び出すとか止めてくれ、寿命が縮む」


倒れている少女を見るなり通路に飛び出した優希の行為に思わず溜息が出る。


「だ、だって、しょうがないじゃない!?余裕がなかったんだから」


優希はそういって抱きかかえた少女を見る。


「しょうがない?危険な場所にいきなり飛び出しておいてしょうがないはないだろう!?」


しかし良輔はその言葉に呆れるばかりだった。


「で、でも」


「でももへったくれもない!!お前は危険なところに出る必要はないんだ!!だから…」


後ろにいる優希から言い訳がましい声が出るが良輔はそれを無視して水谷の隠れている通路を見る。













「しょうがないなんて言って勝手に死ぬなよ?」














「良輔…」


「おい、痴話喧嘩するのは後にしろ!!それより先にすることがあるだろう?」


杉坂は銃撃を放ちながら横目でちらっと怯えている少女を見た。


「お、お姉ちゃんたちは誰?美姫をここに連れて来た悪い人?み、美姫をどうするつもりなの?」


少女はビクビクしながら優希達を見た。


「安心して私たちは敵じゃないわ、私たちはあなたを助けに来たの」


優希はそんな少女の頭を撫でる。


「ほ、本当?美姫を襲って来たりしない?怖いことしない?」


表情を伺うように少女はそう聞いた。


「ええ、もちろんよ、私は御剣優希…あなたのお名前は?」


「美姫の名前は西野(にしの)美姫(みき)っていうの10歳だよ」


優希に名を聞かれて少女は、美姫はそう答える。


「そっか美姫ちゃんって言うんだ?良い名前ね」


優希は美姫を抱きしめた。


「私達が来たからにはもう大丈夫だからね?私達があの怖いおじさんから美姫ちゃんを守ってあげるから…」


「本当!?」


優希がそういうと美姫はパッと表情を明るくした。


「ええ、本当よ、それにしても………」


優希はキッと水谷の隠れている場所に目を向けた。


「水谷さん!!こんな小さな少女を銃で撃とうとするなんてあなたは人間として恥ずかしくないんですか!?」


優希の声が銃声に混じって響く。


「あん?おいおいお前正気か?俺達は与えられた条件を満たさないと死ぬんだぜ?恥ずかしいどころか女子供問わず誰を殺してでも生き残りたいと心から思えるような人生を送ってきた自分を誇りに思うぜ?」


銃を撃ちながら律儀に返答してくれる水谷。


「なっ!?屁理屈を!!」


「屁理屈?嬢ちゃん屁理屈っていう日本語の使い方間違ってねえか?いいかい、屁理屈っていうのは普遍的に定まった道理を自分の都合のいいように解釈することなんだぜ?むしろ偏見で自分の命をあきらめろと叫ぶ嬢ちゃんのほうが屁理屈をこねているとは思わないのか?」


水谷は通路に隠れながらそう聞き返してくる。


「何ですって!?」


優希が怒りの表情を見せる。


「どんなことだって時と場合によりけりってな!!お嬢ちゃんだって俺の立場になればそいつらを殺すんだろ?」


「意地でもそんなことするもんですか!!」


水谷に優希はそう答えた。


「まあ、いいさ、どうせこんなことで話をしたって分かり合えるわけなんざねえんだし、それとな、お嬢ちゃんに1つだけ言っておくことがある!!」


ピンッと何かが外れる金属音が聞こえた。


「俺はまだ20台だから怖いおじさんじゃなくって怖いお兄さんって言い直しなあ!!」


水谷は通路に姿を現すとその手に持っている手榴弾を投げ込もうとしていた。


「なっ!?」


杉坂が思わず驚いた声を出す。





その手榴弾を投げ込まれれば良輔達は全滅しただろう。





しかし残念ながらそうはならなかった。





通路に太い銃声が響く。












――――――――――――――――
――――――――
――――
――








水谷は良輔と杉坂を相手に通路に隠れながらサブマシンガンで銃撃を行っていた。


(このままじゃあジリ貧だな、おい)


水谷は残りの武装を確認しながら溜息をつく。やはりこのままではこちらの武装が尽きるのが先のようだ。


(あんまり使いたくないんだけどなあ)


かばんに入っている手榴弾を見る。これは水谷がほんの少しの時間しかまだ探索していない5階で見つけた武装だ。


「私達が来たからにはもう大丈夫だからね?私達があの怖いおじさんから美姫ちゃんを守ってあげるから…」


(おじ………俺はまだ25歳なんだがなあ)


通路から聞こえてくる御剣の言葉に水谷は思わず苦笑する。


「水谷さん!!こんな小さな少女を銃で撃とうとするなんてあなたは人間として恥ずかしくないんですか!?」


銃声に混じってそう聞かれた。


「あん?おいおいお前正気か?俺達は与えられた条件を満たさないと死ぬんだぜ?恥ずかしいどころか女子供問わず誰を殺してでも生き残りたいと心から思えるような人生を送ってきた自分を誇りに思うぜ?」


それは水谷にとって偽りのない言葉だった。くだらない道徳や常識に縛られて自分の人生を蔑ろにするほどくだらない人生を送ってきたつもりは彼にはない。


「なっ!?屁理屈を!!」


しかし返ってきた言葉はそんなものだった。


(屁理屈ねえ?死にたくないから他人を殺すのがそんなに屁理屈とも思わねえけど…)


むしろ何故他人のために死ななければいけない道理があるのか聞きたいぐらいだった。


「屁理屈?嬢ちゃん屁理屈っていう日本語の使い方間違ってねえか?いいかい、屁理屈っていうのは普遍的に定まった道理を自分の都合のいいように解釈することなんだぜ?むしろ偏見で自分の命をあきらめろと叫ぶ嬢ちゃんのほうが屁理屈をこねているとは思わないのか?」


水谷は思わずそう答える。良輔と杉坂と銃撃戦をしながらする会話にしては平和なもんだと思った。


「何ですって!?」


「どんなことだって時と場合によりけりってな!!お嬢ちゃんだって俺の立場になればそいつらを殺すんだろ?」


水谷はそう言うが…


(まあ、このお嬢ちゃんがどうするのかなんて実際はどうでもいい話なんだけどな…)


他人は他人、自分は自分、水谷は別に善人ぶる人間が嫌いというわけではない、ただ自分がそんな生き方はできない人間であることを知っているし良輔と違ってそんな生き方に憧れるほど魅力に感じているわけでもない。ただ、そんな生き方を自分に強制しようとする人間やそんな価値観を持ち出して自分を非難する人間が嫌いなだけだった。


「意地でもそんなことするもんですか!!」


水谷の予想通りの答えが御剣から返ってくる。


(ああ、俺もこの嬢ちゃんはそんな真似をしねえと思うのさ)


それでもこのお嬢ちゃんは真っ直ぐすぎる、あまりに純粋すぎる、敵であるはずの自分にさえそんな確信めいたものを感じさせるほどに………


(だが、だからこそ俺とこのお嬢ちゃんは分かり合えねえ!!)


なぜなら自分は、水谷祐二という人間は他人のために自分を犠牲にする考えは生涯理解できないからだ。


「まあ、いいさ、どうせこんなことで話をしたって分かり合えるわけなんざねえんだし、それとな、お嬢ちゃんに1つだけ言っておくことがある!!」


このままいっても武装が尽きてこっちが押し負ける、水谷はあまり使いたくなかった手榴弾の安全ピンを抜いてレバーを外した………後はこれを向こうに投げるだけだ!!


「俺はまだ20台だから怖いおじさんじゃなくって怖いお兄さんって言い直しなあ!!」


水谷はそう言って通路に姿を現すとその手に持っている手榴弾を投げ込もうとした。


「なっ!?」


杉坂が思わず驚いた声を出す。


(とった!!)


水谷は杉坂のその反応を見て勝ったと確信した。


しかし


「ぐわっ!?」


一発の銃弾に自分が手榴弾を持っていたほうの腕を撃ち抜かれる。


衝撃で持っていた手榴弾が手からこぼれておち、コロンと自分の足元に手榴弾が転がった。


自分を打ち抜いたその銃弾は何故か前にいる良輔達ではなく後ろから飛んできた。


水谷は思わず振り返る。


そこには………





「………」





自動式拳銃を構えている幸村が立っていた。


(あの大男、確か階段の時の!?)


水谷もその姿には見覚えがあった。


(なるほど、俺としたことが遊び過ぎたみたいだな…)


どうやら御剣のお嬢との話に夢中になって自分が後ろをとられていることに気づかなかったらしい。


(杉坂のやつが驚いたのは俺が手榴弾を持ち出したことじゃなくて後ろからいきなりこいつが出てきたからだったんだな)


この時になってようやく水谷は杉坂が驚いた本当の理由を知った。





(やれやれ、どうやら俺はここで退場ってか………)





水谷は暗澹たる気持ちで自分の足元に転がった手榴弾を見る。拾い上げて投げる時間は間違いなく残ってないだろう。















(どうせ死ぬなら最後に煙草の1本でも吸いたかったぜ、ったく)
















水谷は自分が死ぬことが分かると不意にそう思って悪態をつく。





次の瞬間には足元の手榴弾が爆発し、通路に轟音が響いた。







――――――――――――――――
――――――――
――――
――









轟音が鳴り終わると通路に隠れていた良輔達は水谷のいた場所を見る。そこにはいまだにピクピクと動いて息のあったらしい水谷に銃弾を2発撃ちこんで止めを刺している幸村の姿があった。


「………」


何故かこちらを見て驚いた表情をしている幸村が無言で良輔達を睨みつける。


「………」


その様子を見て良輔達は息をのむ。状況は何も変わっていない、敵が水谷から幸村に入れ替わっただけ、危機的状況は変わっていない、1人を除いてここにいる全員がそう思っていた。




………そう1人だけを除いて。















「お父さん!!」















御剣に抱きしめられている美姫が幸村に向かってそう叫んでいた。





「美姫!!貴様ら、美姫をどうするつもりだ!?」





幸村が銃を構えながらそう叫ぶ。それを聞いて良輔達は………






「「「………ハア!?………」」」






それを聞いて良輔達はそう言うことしかできなかった。






ピロリン、ピロリン





『生存者:7人』
















[22742] 20話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/10/26 05:46
【BET】
player suit card odds
北条良輔 ダイヤ 5 1.9
御剣優希 ハート J 2.4
??????? ???? ? Death
柊桜 ???? ? Death
西野美姫 ???? ? 2.9
神河神無 ハート 2 1.6
??????? ???? ? Death
杉坂友哉 スペード Q 2.0
一ノ瀬丈 クラブ 8 Death
速水瞬 スペード 10 2.6
幸村光太郎 ???? ? 1.1
飯田章吾 ???? ? Death
水谷祐二 ???? ? Death
Day 3日目
Real Time 午前 10:35
Game Time経過時間 48:35
Limit Time 残り時間 24:25
Flour 4階
Prohibition Area 3階
Player 7/13




「………」


良輔達は4階で幸村とどこか微妙な空気を含みながら対峙していた。


「…貴様ら、美姫に切り傷1本つけてみろ?地獄の果てまで追いかけてでも殺すぞ!?」


幸村の背中からどす黒いオーラが立ち上がっているような気がした。


「ちょ、ちょっと待ってよ!!私たちはこの子に危害を加えるつもりはないわ!!」


優希が美姫を抱きしめながらそう答える。


「信用できるか!?」


幸村は拳銃を構える。


(ちっ、一体なんだって言うんだ?)


舌打ちをつきながらも良輔もサブマシンガンを構え直した。


「待って!?お父さんこの人達は襲われてた美姫を助けてくれたの!!悪い人じゃないよ?」


美姫は幸村に向かってそう叫ぶ。


「むう、しかし………」


「お父さんは美姫の、美姫の言うことを信じてくれないの?ひどい、ひどいよ、お父さん」


美姫は涙目になっていた。


「ま、待ってくれ!!私が美姫の言うことを信用できないはずがないだろう?」


幸村はその姿に狼狽する。


「本当?」


「ああ、本当だとも」


「じゃあこのお姉ちゃん達と仲良くしてくれる?」


「む、そ、それは………」


流石にこの言葉には幸村も渋る。


「やっぱりお父さんは美姫のこと、美姫のこと信じてくれないんだ…ひっぐ、ひっぐ」


美姫の目から涙が零れる。


「わ、わかった、仲良くする、だから泣かないでくれ、美姫」


しかし娘の涙には敵わなかったらしく幸村はとうとう白旗を上げた。


「本当!?美姫、お父さんのこと、大好き!!」


幸村は美姫の言うことに頬を緩ませると良輔達を見て溜息をついた。


「信用してはもらえないかもしれないが私には君たちに危害を加えるつもりはない、美姫をこちらに渡してはもらえないだろうか?」


銃を投げ捨てると手をあげて敵意のないことを示す。


「なんか妙なことになってきてないか?」


杉坂は何とも言えない表情を作っている。


「どうするんだ?」


良輔はそう言って優希を見る。


「嘘は言ってないと思うんだけど…」


優希は腕の中にいる無邪気な少女を見ながらそう答える。


「なあ、あんた、幸村光太郎…さんでいいんだよな?」


良輔は遠慮がちにそう尋ねる。


「っ!?何故私の名前を知っている?」


不審な目で幸村は良輔を睨む。


「あ~、神河さんからアンタのこと聞いてるんだ」


本当はエミリーに教えてもらったのが早かったのではあるがそれを説明するのは面倒だった。


「そうか、あの女狐から」


そこで幸村は忌々しいとでも言いたげな表情を作る。


「ん?」


「それよりも早く美姫をこちらに引き渡してもらえないか?」


良輔は疑問を持つが幸村には無視される。


「アンタはこの子の父親で間違いないんだな?」


「ああ、苗字は事情があって違うが私が美姫の実の父親であることは間違いない」


「そうか、念のために聞いておくがこの子をアンタに引き渡した途端にこの子を傷つけるなんてことはないんだな?」


「………」


良輔の質問がよほど気に入らなかったのか幸村は鬼と間違えそうな形相だった。


「青年、口の利き方に気をつけろよ?私が美姫を傷つける?世界が滅亡することはあっても私が美姫を傷つけるなどありえん!!」


腕を組んでそう断言する幸村。


「そ、そうか、それはすまなかった」


良輔はチラッと優希を見る。


「わかりました、美姫ちゃんをそちらに引き渡します」


優希はコクリと頷くと美姫を抱きしめていた手を解放した。


「お父さん!!」


美姫は優希を振り返るが頭を撫でられた後に軽く背中を押されると喜んで幸村に向かって走って行った。


「美姫!!」


幸村は膝をついて美姫を抱きしめる。


「ふ、ふえええええええええええええええええええん!!怖かったよ、怖かったよ、お父さん!!」


「そうか、そうか、よく我慢したな、だがもう大丈夫だ、お父さんが怖いやつから美姫を守ってやるからな」


「うん、うん」


美姫は幸村の胸の中で泣きじゃくる。


「それにしても何故、美姫が4階にいるんだ、6階で待っていなさいとあれほど言っておいただろう?」


「美姫のせいじゃないよ!?美姫はお父さんの言いつけどうり6階で待ってたもん!!でもね、でもね?6階でお父さんを待ってたら黒い長い髪に赤いバンダナを巻いた綺麗なお姉ちゃんが来たの!!」


(バンダナを巻いた女性?神河さんのことか?)


良輔は3階で別れた女性のことを思い浮かべた。


「そのお姉ちゃんも最初は優しかったんだけどね、少ししたら自分の首輪を外すためにピーデーエーとかっていうのを見せてくれないかって聞かれたの!!だからね、だからね、美姫は正直に答えたんだよ!?美姫は………」















「美姫は自分のピーデーエーは持ってないのってちゃんと言ったんだよ?」




















「はっ?」


その発言に思わず良輔からそう言葉が漏れた。


「そしたらね、そしたらね?そのお姉ちゃんがいきなり怒り出してね?『嘘をつくな』って言って美姫をイジメようとするの…だから、だから怖くなって美姫は逃げ出したんだけど階段を下りてしばらく走っていたらあのおじちゃんに会ったの」


美姫はそういって水谷だったものを指差す。


「それでこのおじちゃんも美姫をイジメようとしてきたから逃げたんだけど、途中で疲れちゃってもう駄目って、そしたらここでお姉ちゃん達があのおじちゃんから美姫を助けてくれたの!!」


美姫はニコニコしながら良輔達を見る。


「そうか、そうか、美姫は嘘なんか言ってないのに美姫を疑うなんてひどいやつらだな?………神河め、次に会ったら殺す!!」


何か最後のほうが前の部分と言い方が違ったような気がするがきっと気にしてはいけないんだろう。


「そうだ、私としたことがすっかり失念していた、ここで美姫、お前の首輪をさっさと外してしまおう」


幸村はそう言って1台のPDAを取り出して画面を確認すると美姫の首輪のコネクターとPDAを接続した。


「ちょ!?アンタ何やって!?」


良輔が驚いた声でそう叫ぶのと同時だった。





ピロリン、ピロリン、ピロピロリーン





今までの生存者を数えていた電子音とはまったく違う、ファンファーレに似た電子音が通路に鳴り響く。そして美姫の首輪に取り付けられていた緑色の発光ダイオードがチカチカと点滅を繰り返している。


「美姫ちゃんの首輪が!!」


「これはどういうことなんだ!?」


優希と杉坂が驚いていると美姫の首輪と幸村の手にあるPDAから妙に不自然な合成音声が流れだした。




















『おめでとうございます!貴方は見事にこのPDAの半径5メートル以内で3人以上の人間を死亡させ、首輪を外すための条件を満たしました!』




















その直後に美姫の首輪が左右に割れ、高い金属音を立てて床に転がる。


幸村は美姫の首輪が外れたのを確認すると涙を流し始めた。


「よかった、私は成し遂げたのだ、これで美姫を、日の当たる場所に帰してやれる………」


「ううん、くすぐったいよ、お父さん」


幸村は優しく美姫の首を撫でると美姫はくすぐったそうにする。


その光景を見ていた良輔達も美姫の首輪が外れたことを喜びたかったが合点のいかないことがあった。


「どういうことだ?あんな小さな女の子が人を3人も殺したっていうのか?」


杉坂がそう呟くが


「いや、そんなはずは………」


良輔はその可能性を否定する。
今の段階で残っている生存者は7人だ。つまり死んだのは6人、そしてこの内で誰に殺されたのか判明しているのは幸村に殺された女子高生、柊、水谷の3人だ。この少女が条件を満たすなら後の3人を殺せば満たせるかと言えばそうではない、なぜなら最初に死んだ飯田は間違いなく5m以内の条件を満たせていないはず………いや、ちょっと待てよ?


良輔は自分が何かを見落としていることに気づいた。


幸村が3人殺している?PDAの5m以内で3人以上の死亡?そういえば幸村が美姫の首輪の解除に使ったPDAはどこから取り出していた?


「そうか、わかったぞ!!」


良輔がいきなりそう言いだしたので優希も杉坂も良輔をギョッとして見る。


「各首輪の解除条件について書かれたルール9に記載されている【3】の解除条件の文面をよく思い出せ!!【3】の解除条件は自分のPDAの半径5メートル以内で3人以上の人間を死亡させること、手段は問わないと書かれていたはずだ!!」


「ああ、だからあの子が3人の人間を………」


「そうか、私にもわかった!!」


良輔の説明で優希にもわかったらしい。


「どういうことだ?」


「【3】の解除条件は【9】の解除条件と違って自分で殺害する必要がないんです!!つまり【3】のPDAの周囲で人が3人死ねば条件が満たせるんです、そして手段は問わないと書かれているということはつまり………」


ここにきてようやく杉坂もわかったらしい。


「っ!?そうか、自分が直接殺してもいいし、そいつが死ぬ瞬間を看取ることでもカウントされる!!【3】のPDAがその場にあれば自分がそこにいる必要さえ、ない!?」


そうだ、死亡するというだけの文面なら殺害する必要なんてない、なぜならなんらかの原因で人が重傷を負って亡くなってもそれは死亡するということなのだから。


「そしてそれに気づいた私が取った行動がこれということだよ」


幸村がそう答える。


「美姫の持っていた【3】のPDAを借りて私は3人の人間を殺した。【3】の条件はこのPDAの周囲で人が死ねばカウントがなされる。本人が人を殺す必要があるわけじゃない、後は条件を満たした状態で美姫の首輪のコネクターにPDAを接続すれば首輪が外れるということさ」


幸村は床に落ちていた美姫の首輪を拾うとくっつけて元の形に戻した。


「差し詰めmurder agentとでも呼べばいいか?幸村さん、アンタが言っていた目的っていうのはこのことだったんだな?」


1階で幸村が言っていた。『自分の解除条件は人の死を必要するものではないが自分の目的を達成するために人の死が必要』あれはそういう意味だったのだ。


「そういうことだ、青年」


「それでアンタ自身の解除条件は?」


良輔は幸村に尋ねる。幸村が嘘を言っていなければ幸村の解除条件はキラーカードではないはずだ。


「不幸中の幸いというか私の解除条件は美姫のものとは相性が良くてね、ついでに満たしたよ」


幸村は外れた美姫の首輪を良輔に見せる。


「美姫、ちょっとこのお兄ちゃん達とここに居てくれるか?すぐに戻ってくる」


「うん!!」


「よし、いい子だ」


幸村はそういうと手頃な部屋を選んで中に入って行った。










――――――――――――――――
――――――――
――――
――











良輔達は、というか優希は楽しそうに首輪の外れた美姫と一緒に遊んでいた。


少し時間が経ってから部屋の中から幸村が出てくる。


「待たせたな、少しばかり準備に手間取ってね」


まだ幸村の首には銀色の首輪が巻きついている。


「準備?」


「ああ、まあこういうことだ」


良輔の疑問に答えるより見せるほうが早いとでも言いたげにPDAを操作する。


先ほどまで幸村のいた部屋からボンッと爆発音が聞こえた。扉が吹っ飛んで壁に激突する。


「これで問題ないだろう」


幸村はそのPDAをそのまま自分の首輪にコネクトする。





ピロリン、ピロリン、ピロピロリーン





美姫の時と同じファンファーレに似た電子音が通路に鳴り響く。そして幸村の首輪も美姫の時と同じように緑色の発光ダイオードがチカチカと点滅を繰り返しはじめた。




















『おめでとうございます!貴方は見事に首輪を3つ破壊し、首輪を外すための条件を満たしました!』




















その直後に幸村の首輪が左右に割れ、高い金属音を立てて床に転がった。


「私のPDAはダイヤの【4】、解除条件は他人の首輪を3つ破壊することだ、嘘をついていないことはまあ、ご覧のとおりというやつだろう」


幸村は自分の外れた首輪を拾うと同じようにくっつけて元の形に戻す。


「3つの首輪はどうやって手に入れたんだ?」


良輔はそう聞くが幸村が3つの首輪をどうやって手に入れたのか予想がついていた。


「………1つは美姫の外れた首輪を、後の2つは私が殺した2人の女子高生の首を2階で見つけたこの手斧で叩き落として取得したものだ、悪いとは思ったが背に腹は代えられなくってね」


幸村は腰に吊るしていた手斧を掲げる。


「そうか」


良輔には幸村の行いを責めるつもりはない。やらなければやられるのは自分、もし良輔が幸村と同じ状況に追い込まれれば自分も同じことをしようとしたはずだ。それが実現したかどうかは別としても


「柊桜だ」


「む?」


「3階でアンタが殺したやつの名前だ、覚えておいてやってほしい」


だから良輔にしてやれることはこれくらいしかなかった。


「…生涯忘れないことを誓おう」


幸村は目を閉じたままそう答える。


「北条、やっぱり水谷のPDAは駄目になっていた」


そのとき、水谷の死体を調べていた杉坂が近づいてくる。手にはPDAのパーツと思われる壊れた部品の塊だった。


「そうか、幸村さんはこれからどうするんだ?」


良輔は幸村にそう尋ねた。


「私は美姫の安全さえ確保できたなら誰かを害する気持ちはない、そもそも美姫がいることを知らなければ今頃の私は侵入禁止エリアに巻き込まれて死んでいるさ」


「あん?どういうことだ?」


幸村の言っている言葉がわからず良輔は聞き返した。


「さて、ね………とりあえず私と美姫はこれから戦闘禁止エリアに行こうと考えている」


「下の階には下りないのか?」


「既に私と美姫は首輪を外した、時間的に考えてそろそろ他のプレイヤーが首輪を外してもおかしくない。金銭を目当てに首輪が外れてもゲームを続けるプレイヤーがいないとも限らない、いざというときに戦う手段がなければ困るのだよ、だからこの4階が侵入禁止エリアになるまでは戦闘禁止エリアで潜伏、その後に武器の調達などをする必要がある」


杉坂に幸村はそう答えた。


「幸村さん、できれば俺達はアンタの持っている情報がもらいたい。俺達も戦闘禁止エリアについて行っていいか?」


幸村は少し考えると


「ふむ、こちらにリスクがないなら私は構わない、好きにしろ」


良輔にそう答えてふと優希と無邪気に遊ぶ美姫の姿が目に入る。


「それに美姫も随分懐いているみたいだしな」


そういって笑ったこの時の幸村の表情は血の通った父親だと良輔は思った。










――――――――――――――――
――――――――
――――
――











「ふう、やっと着いたな」


良輔は荷物を床に置く。


「………」


「優希?」


「えっ?」


「どうしたんだ?さっきから」


どうもさっきから様子がおかしい優希を心配するように良輔は話しかけた。


「あ、ううん、何でもない」


「そうか?」


良輔達が5階の階段に近い戦闘禁止エリアに到着したときは既に1時前だった。


「もう昼飯の時間だな」


幸村は腕時計を見ながらそう答える。


「あ、じゃあ私が何か作りましょうか?」


優希はそういって席を立とうとするが


「いや、ここは私が腕を振る舞うとしよう」


その前に幸村が立ち上がった。


「お、おい、アンタ料理なんてできるのか!?」


「今は(・・)喫茶店を経営していてね、私はこう見えても料理の腕には覚えがある」


気持ちは分かるが明らかに失礼なことを言う杉坂に幸村は笑って答えた。


「美姫は何が食べたい?何でも好きな食べ物を言って良いんだぞ?」


「う~ん、美姫ね、美姫ね、ハンバーグが食べたいの!!」


美姫は幸村に目をキラキラさせながらそう答える。


「よし、わかったハンバーグだな、少し待っていてくれ、すぐにお父さんが美姫のためにおいしいハンバーグを作ってやるからな?」


幸村は美姫の頭を撫でるとキッチンに入って行った。


「………」


「………」


「………」


それを聞いて良輔達は黙り込む。


「みんなどうしたの?」


「あ、いや」


「本当にハンバーグが出てくるのかしら?」


「とりあえず問題なく食えればそれでいい」


良輔、優希、杉坂の順で答える。


「うん?」


美姫はその様子に1人で疑問符を浮かべていた。
















――――――――――――――――
――――――――
――――
――














30分後





「さあ、出来上がったぞ!!熱いうちに食べると良い」


エプロン姿の幸村はそういって食事を並べる。正直かなり違和感があった。しかし


「本当にハンバーグが出て来たぞ、おい」


「し、信じられねえ」


「でもすごくおいしそう…」


食卓には白いご飯にデミグラスソースのかかったハンバーグ、コーンスープまでが湯気を立てている、エプロンは似合わないが料理に自信があるというのは嘘ではないらしい。


「はむっ、ん~~!!おいしい!!」


美姫がハンバーグを食べながら笑みを浮かべる。


「そうか、おいしいか?よく噛んで食べなさい」


ハンバーグを食べる美姫を幸村はニコニコ笑いながら見ている。


かなりシュールな光景だった。ずっと無表情だった幸村が美姫と会ってからは表情筋が緩みまくっている気がする。


「どうした?君達も食べるといい、安心しろ、毒は入れてない」


幸村はコーンスープを飲みながら良輔達を見る。入ってないとは言わないらしい。


「そうだな、せっかくだし食べるか?」


「ああ、腹ペコペコだ」


「それじゃあお言葉に甘えていただきます」


3人は幸村の作った料理に舌鼓を打ちながら食べた。












――――――――――――――――
――――――――
――――
――













良輔達は食後のコーヒーを啜りながら幸村と情報交換をしていた。


「さて、そういえばまだきちんと自己紹介していなかったな、私の名前は幸村光太郎だ。職業は小さな喫茶店を経営しているしがないマスターだ、そしてこの子が私の愛娘である美姫、事情があって母親の姓を名乗っているがね」


幸村は疲れが出たのかお昼寝をしている美姫を優しい目で見る。


「俺は北条良輔、職業は高校3年生だ」


「私は良輔の幼馴染で御剣優希です、同じく高校3年生」


「俺の名前は杉坂友哉だ。大学の2回生」


「礼を言うのが遅れたがこの子を、美姫を助けてくれて本当にありがとう、もしこの子があの男の手にかかるようなことがあったらと思うと君達にはいくら感謝しても足りないだろう」


幸村はそういって頭を下げた。


「幸村さんがここで目が覚めて最初に会ったのが美姫ちゃんだったんですか?」


「そうだ、私も最初は首輪をつけられてこんな場所に放り込まれて困惑していた」


幸村は優希に頷くとコーヒーを一口啜った。


「目が覚めてすぐ見つけたPDAを調べ終えた後は、覚悟を決めたよ…きっと天罰が下ったんだと思った」


「天罰?」


良輔がそう聞くとしゃべり過ぎたとでも言いたげに幸村はバツの悪い表情を作る。


「………そして私がルールを調べ終えた時、外から足音が聞こえてきた。相手を確認するために扉を開けて外に出た私は驚愕したよ、そこにいるのが美姫だったのだから」


幸村は美姫の頭を優しく撫でた。


「その時になって私はこの運命に抗うことを決めた」


ぎゅっと手を握り締める。


「私はどんな理不尽なことがおころうとそれを受け止める気だった!!それだけのことをしてきた自覚もあったんだ!!だが私の罪と美姫は無関係だろう!?私に罰を与える過程でこの子を巻き込むというなら私は例え相手が神であろうと喧嘩を売ってみせる、まして相手が人間であるならこの運命を受け入れるつもりはなくなった」


幸村にしては珍しくそう熱く語った。


「そして私は美姫が持っていたPDAを確認し、そこに記載されていた侵入禁止エリアについて書かれたルール5と美姫の首輪の解除条件を知った」


美姫の初期配布カード、3人の死を必要とする【3】


「もちろんこの子に3人の人間を殺すことなどできないだろうし殺させるつもりもなかった、結果として考えついたのは私がこの子の解除条件を代行することだったんだ」


幸村は胸ポケットに入れていたクラブの【3】を取り出す。


「その後はエレベーターを使って美姫を6階に上げた。最終的に争いの場になる6階なら時間が稼げると思ったんだ、流石の私も美姫を連れたまま3人の人間を殺害できる自信はなかった」


戦闘の最中に美姫を襲われてはひとたまりもないだろう。


「美姫を6階に隠れているようにいいつけた後、まだ全域の戦闘禁止エリアが利いている時間に神河と出会ってルールを交換した。そのときルール8を知って歯ぎしりしたよ、あれを知っていればもっと安全な場所に美姫を隠せたのにと思うと悔しくて仕方がなかった、しかしもはや後の祭りだった」


確かに戦闘禁止エリアほど安全な場所はない。


「後はほとんど君達の知っている通りだろう。エントランスホールで待ち伏せ、1階の階段で1人の女子高生を殺害し、3階でもまた柊桜という人間を殺害した」


幸村はそう締めくくった。


「さて、ここまでの話を聞いて何か聞きたいことはあるかな?」


「俺から1ついいか?」


良輔が真っ先に手を上げる。


「何かな?」


「幸村さん、アンタはjokerを持っていないか?」


そう、これは良輔が幸村からもっとも聞き出したい情報だったのだ。水谷が死亡し、幸村と美姫が戦線離脱した現在で良輔達と別勢力といえばもう神河しか残っていなかった。


「joker?君はそれをどうするつもりかな?」


jokerに何か嫌な思い出でもあるのか苦い顔をしながら幸村はそう答える。


「ほら、アンタも神河さんに会ったんだろ?だったらjokerを持ってないか聞かれたんじゃないか?」


良輔は戦闘禁止エリアでの会話を思い出しながら幸村にそう尋ねる。


「ああ、そういえば君も神河に会っているんだったな」


幸村は納得したように頷いた。


「確かに私は神河とのルール交換の時にjokerを所有してないか問われたよ、その時に自分のPDAはそれがjokerではないかどうかわかるから画面を確認させてほしいと言われたので私のPDAは神河に見せた」


美姫のPDAは見せなかったがね、と幸村。


「さて、さっきの質問に戻るが私がjokerを所有しているかという質問の答えはNOだ、私はjokerを持っていない」


幸村は事務的にそう告げる。


「そうか」


少し期待していただけに残念だった。


「だが、私はjokerを所有している人物を知っている」


しかし幸村は続けてそう答える。


「何!?それは本当か?」


良輔は思わずそう叫んだ。


「ああ、知っているとも」


幸村はコーヒーを啜りながら確かに頷いた。


「教えてくれ!!そいつの名前は?jokerは誰が持っているんだ!?」


「北条君、少し落ち着きたまえ、美姫が起きてしまうだろう?」


興奮気味に話す良輔を幸村はそう制す。


「あ、すまん」


「さて、jokerを所有している人間だがそいつの名前は………」


幸村はそこで一旦、言葉を止めて


「そいつの名前は?」


しかし幸村から出た人物の名前は良輔の予想を超えていた。




















「神河神無、それがjokerを所有しているやつの名だ」




















「どういうことだ?」


良輔は思わず間の抜けた声を出した。


「じゃあ神河さんは俺と別れた後に、jokerを入手したってことか?」


少し考えてそう返す。


「違う、神河が今回のゲームでjokerを初期配布されたプレイヤーだ」


しかし幸村は良輔の出した答えに首を横に振った。


「待て!!それは有り得ないはずだ、俺はこの目で確かに神河のPDAを………」


「神河のハートの【2】を確認している、君はそう言いたいんだろう?」


途中で遮られた幸村の言葉に良輔はコクリと頷く。


「その神河が見せたハートの【2】それこそが偽装されたjokerだったんだよ」


幸村は忌々しげにそう答える。


「なっ!?そんなはずは…」


良輔は狼狽するが


「根拠ならある。これを見てくれ」


そういって幸村が取り出したPDAの画面には…















確かにハートの【2】が表示されていた。














[22742] 21話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/10/26 05:49
【BET】
player suit card odds
北条良輔 ダイヤ 5 1.6
御剣優希 ハート J 1.9
??????? ???? ? Death
柊桜 ???? ? Death
西野美姫 クラブ 3 1.1
神河神無 ???? ? 1.3
??????? ???? ? Death
杉坂友哉 スペード Q 1.8
一ノ瀬丈 クラブ 8 Death
速水瞬 スペード 10 2.0
幸村光太郎 ダイヤ 4 1.1
飯田章吾 ???? ? Death
水谷祐二 ???? ? Death
Day 3日目
Real Time 午後 1:45
Game Time経過時間 51:45
Limit Time 残り時間 21:15
Flour 4階
Prohibition Area 3階
Player 7/13





「な、んだと!?」


「北条君、私も君もあの女狐に騙されていたのだよ」


カタリと音を立ててテーブルの上に置かれたハートの【2】を見て驚愕する良輔を見て、忌々しいという表情を作りながら神河に騙されていたことを悔しがる幸村だった。


「いや、少し待てよ、そのハートの【2】が偽装されたjokerなんてことはないよな?」


「ふむ、私の言うことが信用できないというのであればそれまでではあるが………そうだな、実はこのPDAには館内にあるjokerと壊れたPDAを除く全てのPDAの現在位置を把握することのできるソフトウェアが入っている。私があの場所に現れたのもかなりの速度で移動する光点を追ってきたからなのだ」


「それを見せてもらってもかまわないか?」


「…いいだろう」


良輔の指摘に幸村はハートの【2】に入れてあるソフトウェアを説明する。これでこの場のPDA数を調べれば自ずとこのPDAがjokerでないことが判明するために良輔の提案に幸村は渋々ながらもハートの【2】を良輔に差し出した。


ピッ


良輔がPDAの操作を行うとそこにはソフトウェアの項目があった。


いくつか種類があったが迷わず良輔はPDA探知で検索を開始する。


ピッ


そうすると地図に光点が点滅した。これがPDAの現在位置らしい。


「6階に1つ、それ以外には…もうここのしかないな」


光点は6階に1つある以外には良輔達の場所にいるものしかなかった。


「え~と、ひい、ふう、みい………合計7つか」


「君達が1台ずつで3台、私と美姫のもので2台、そして後の2つは………私が殺した女子高生2人のものだ」


「………」


良輔の数えた光点に説明を加えていく幸村、その姿を見て優希は何とも言えない表情を作っていた。


「あれ?それっておかしくないか?6階にある光点が1つで残りのものがここにある。でも俺達以外に速水さんと神河がいるはずなんだから光点が1つというのは数が合わない」


「そういえば変ね、それに見つからなかったジョーのPDAがどうなっているのかもわからないし」


「幸村さん、アンタはこれをどう思う?」


「そうだな、私見を言わせてもらえるのならジャマーソフトのようなものが置かれているのかもしれないな」


杉坂の意見に優希が同意すると良輔は幸村に意見を尋ねたところ幸村はジャマーソフトがこの建物の中に存在するのではないかと考えた。


「ジャマーソフト………ですか?」


「そうだ、PDAを探知するソフトウェアがあるならそれを妨害する手段があったとしても不思議ではない」


「速水さんか神河のどちらかがそのジャマーソフトを使っているかもしれないってことか?」


「あるいはこの地図には書かれていない場所があるのかもしれないがね」


優希がジャマーソフトについて聞き返すと幸村は探知する術があるならそれを回避する術もある可能性を指摘した、そして杉坂が話を纏めるがあるいはこの地図が完全でないかもしれないと幸村は話す。


「幸村さん、アンタに折り入って頼みがある」


「何かな?」


「俺達の仲間にスペードの【10】を持った仲間がいるんだ、そいつの解除条件は死んだ人間か首輪の解除に成功したPDAを3台集めること、アンタの持っている必要のないPDAを譲ってもらえないだろうか?」


「あっ、そうよ、幸村さんも美姫ちゃんも首輪を外せたから2人のPDAは速水さんの首輪の解除に使えるわ!!」


(それに言い方は悪いが死んだ2人のPDAもあるわけだしな)


良輔は幸村に速水の解除条件のためにPDAを譲ってほしいと頼み込むと優希が速水の首輪を外せるかもしれないと喜ぶ姿を見ながら黒い考えを浮かべた。


「ふむ、そうだな、私と美姫のPDAは提供してもいいが私が殺した女子高生2人のPDAは渡せない」


「どういうことだ?」


「私はPDAのバッテリー消費を懸念して有用なソフトウェアはこの2人のPDAにインストールしている。この2つのPDAを失えば私は丸裸も同然だからね」


「ああ、幸村さんと美姫のPDAをもらえれば十分だ、感謝する」


「何、君達には美姫を助けてもらったからな、このくらいは当然だろう。それとこれも持っていくといい」


幸村は自分と美姫のPDAは提供してもかまわないと答えるが殺した2人のPDAを提供することは拒絶する。杉坂がその真意を問うと苦笑しながらそう答えるがそれでも2台のPDAを提供してくれることを約束してくれた幸村に良輔は感謝の言葉を述べた。幸村は2台のPDA、クラブの【3】とダイヤの【4】をテーブルの上に置くとかばんを漁り始める。


「これは?」


「1つは私の外れた首輪だ、私が持っていても何の意味もないからね、何か役に立つかもしれない。それとこっちは遠隔式の爆弾だ、これのコントローラーは私のPDAにインストールされているからこれも持っていくといい………なかなか性能のいい爆弾でこれなら誤爆の心配も必要ないだろう」


「何から何まで…本当に助かるよ」


幸村はかばんから外れた銀色の首輪と爆発物を手渡してきた。恐らく水谷のことを言っているのだろう、幸村は爆発物を渡すときに表情が引き攣る良輔を見てそう付け加えた。その言葉を聞いて安心した良輔は譲り受けた品々を見ながらそう答えた。


「それにしてもなぜ、神河さんは良輔や幸村さんを騙すようなことをしたのかしら?」


「確かに、自分の条件を隠したいだけなら別に自分のPDAを見せないでおけば済む話だよな?何でその神河って女はjokerを使って2人を騙すような真似をしたんだ?それも何故、【2】に偽装したんだ?」


「それは私にも分からない、しかしあの女狐のことだ、何の意味もなくそのような行動を取ったわけではないだろう」


訝しがる優希に杉坂がjokerを使って騙す必要性と【2】に偽装した理由も分からないという発言に一度神河に会ったことのある幸村はそう答える。


「いや、神河が何故jokerを使って【9】に狙われかねない【2】に偽装し、俺と幸村さんを騙したのかはおおよその見当はついている」


「どういうことかな?」


「思い出せよ幸村さん、神河はjokerを使って俺達から何を得たのかを………」


「神河がjokerを使って得たもの、だと?」


良輔の発言に幸村が問うと良輔は神河がjokerを使ってどんな情報を引き出そうとしていたのかを思い出せと幸村に話す。幸村は少し考えると思いあたる節があったのか驚きの表情を作った。


「そうか!!だからあの女狐は【2】に偽装していたのか!?」


「アンタにも分かったようだな」


「どういうこと?」


「2人だけでわかってないで俺達にも教えろ」


幸村がそう答えると良輔も笑みを浮かべる。優希と杉坂はそんな2人に自分達にも分かるように説明しろと問いつめる。


「神河が【2】に偽装した理由は3つある」


「3つ?」


「それはどんな理由なんだ?」


「まず1つ目、【2】に偽装すれば偽装した条件を半永久的に満たす心配がない」


「っ!?そうね、自分の持っているカードが偽装したjokerだから【2】の解除に必要なjokerは永遠に出て来ないわ!!」


「なるほど、そして自分は半永久的に相手を騙し続けられるわけか…」


「そして2つ目、相手の手持ちカードが【2】かそうでないのかは特殊機能でわかるから【2】に偽装すればその相手と持ちカードが被る可能性がない」


「【2】の特殊機能で1m範囲はjokerが初期化されるからそいつが【2】を持っているかいないかはわかるわけだな」


「その人が【2】の人を知っていればアウトだけど他のカードに偽装するよりはまだ安全ね」


「そして最後の3つ目、これが1番重要だ」


「待て、北条君、最後の理由は私に言わせてもらいたい」


良輔は1つ1つ神河が【2】に偽装することの有益であることを語ると3つ目で幸村がそう言い出した。特に断る理由はなかったので幸村に譲る。


「女狐は【2】に偽装することで自分の解除条件を満たすための手段の1つとしていたのだ」


「【2】に偽装したことで自分の解除条件を満たそうとした?それってどういうことなの?」


「つまり神河の解除条件は偽装機能が使用されている状態のjokerが自分の周囲にある必要のある【6】ってことか?」


「いや、そうじゃない」


幸村が続けてしゃべると優希が疑問符を浮かべ、杉坂はそう答えるが幸村は違うと首を横に振る。


「女狐は【2】に偽装することでjokerを初期化することのできる特殊機能を見せびらかし、ある情報を取得していたのだ」


「ある情報?」


「何だ、それは?」


「あの女狐はjokerのPDAを使って………」


幸村はそこで一旦言葉を切るとその後にこう続ける。










「私達のPDAナンバーの確認をしていたのだよ」










「っ!?」


「そうか!?自分のPDAにはjokerを初期化する機能があると嘯いて待機画面を確認していたのか!!」


幸村の言葉に納得がいったように頷く優希と杉坂。


「そして他人のPDAナンバーを確認することで自分の解除条件に近づくことができる解除条件は13通りの解除条件の中で3つしかない、そしてその内の1人は判明している」


「ジョー………」


優希は【8】のPDAを初期配布された少年を思い出す。


「そして神河は幸村さんのPDAナンバーを知りながらそれ以後は接触しようとしなかった、つまり神河の本当のPDAは………」


もし神河のPDAが【7】なら【4】のPDAを所有している幸村とその後接触しようとしなかったのはおかしいということは残る1つ………




















「ジャック・クイーン・キングのPDAを初期配布された人物の死亡を必要とする絵札殺しの【A】!!それが神河神無の本当のPDAだ!!」























「そ、そんな」


「ここに来てラスボス登場かよ」


「どういうことかな?」


優希と杉坂が呆然とする様子を見て、幸村は理由を尋ねる。それを聞いた優希と杉坂はそれぞれが自分のPDA取り出して幸村に見せた。


「そうか、御剣君と杉坂君が………」


それを見て納得するように幸村が頷いた。


「北条君、あの女狐は………腹立たしいことだがかなりの実力者だろう、正直な話を言うと恥ずかしいことに私にもあの女は倒せる自信がない」


「ああ、確かに真正面から戦えば勝ち目はないな………だが、もう既に神河は死に体だ」


「勝算があると?」


「【A】が最も恐れることは【J】【Q】【K】が条件を満たして下に行ってしまうことだ、そうすれば【A】はどうすることもできない」


思えば神河があの時に自分を殺さなかったのは【5】の自分が条件を満たすために【J】【Q】【K】を殺してくれることを期待してのことだったのだろう。


「そしてもう【J】のクリアは目の前まで来ている!!」


流石の神河も【5】のカードを引きながら【J】と協力する良輔というイレギュラーにまでは気がつかなかったのだ。そしてそのミスが神河の首を絞めることになっている。


「えっ!?」


「考えて見ろ、幸村さんと美姫が離脱して速水さんの首輪の解除は目途が立った。後は速水さんと合流して戦闘禁止エリアに逃げ込めば俺達の勝ちだ!!」


そう、幸村光太郎、西野美姫、速水瞬、杉坂友哉、北条良輔で5人。後は優希も含めた全員が戦闘禁止エリアに逃げ込めばもう神河は手出しが出来ない。驚く優希に良輔はそう答えた。


「それじゃあ後は神河さんと良輔だけね」


「あの女狐と北条君がどうかしたのか?」


「このままだと首輪が作動して死んでしまうからどうにかして首輪を外す手段を探さなくちゃって」


「はっ?君は何を言っている?そんなものが都合よくあるわけがないだろう?」


「そ、そんなこと探してみなくちゃ分からないじゃない!!私はこの建物の中に首輪を破壊する手段があるかもしれないって………」


「首輪の破壊、だと!?君はそんなあるかどうかも分からないもののために今まで行動を共にしてきた者たちを危険にさらすというのか?正気かね?」


「私はただ誰にも死んでほしくないだけよ!!」


神河にも死んでもらいたくないという優希に幸村が反論する。優希が最後にそう叫ぶとほぼ同時に頬を叩く高い音が聞こえた。










「甘ったれるなよ!!」










幸村はそういって優希の頬を平手打ちしていた。


「首輪を無条件に外す手段があるかもしれない?それでは私は一体何のために3人の人間を殺したというのだ!?私は自分の大切なものが守りたかったからこそ3人の他人を切り捨てた!!君は自分の守りたいものより1人の他人を優先するというのか?」


「ち、ちが…私は!!」


「っ!?おい、止めろよ、こんなところで」


良輔は2人の間に割って入る。


「っ………もうそろそろここも侵入禁止エリアになる。急いだほうがいい」


幸村は良輔が間に入るとそういって優希から離れた。


「………」


「優希、杉坂さん、行こう。幸村さんの言うとおりそろそろ出発しないとまずい」


「わかった」


良輔がPDAを確認すると幸村の言うとおりそろそろ出ないと危ないかもしれなかった。良輔は杉坂と幸村の背中を睨みつけていた優希に声をかけて戦闘禁止エリアから荷物を持って退出しようとする。


「御剣君、君に1つだけ、言っておくことがある」


「何よ」


「自分の大切なものを見失わないことだ、それを見失うなら君は必ず後悔することになる。努々、忘れるなよ?」


「っ!?それでも私は、誰も切り捨てたくないの!!」


「それは大切なものを失ったことのない人間の言う言葉だよ、無知を通り越して、もはや残虐としか言いようがないほどにね………」


幸村は戦闘禁止エリアから退出する優希にそう答えた。そして良輔達は戦闘禁止エリアから退出して5階の階段に向かった。







――――――――――――――――
――――――――
――――
――









「………」


戦闘禁止エリアの幸村との会話からずっと優希は無言のままだ。良輔も杉坂もそんな優希に何と言えばいいのかわからなかった。


「ねえ、良輔?」


「ん?」


「私って間違ってるのかな?」


「何を?」


「私はわからなくなっちゃったのよ、人を切り捨てることが本当に悪いことなのか」


自分は間違っているのだろうか?優希は良輔にそう尋ねた。優希にもわかっている、幸村は確かに他人を切り捨てたがそれは自分のためではなく自分の大切なもののためだということも、だからこそ優希は幸村を責めることができなかったのだろう。


「どうした?お前らしくない」


「もし幸村さんが美姫ちゃんの条件を満たさなかったら美姫ちゃんは死んでいたと思う」


「かもな」


あの小さな少女がこんな場所で生き残れるとも思えない。


「私は今まで人を傷つけることがいけないことだと信じて生きてきた、だけどそれがここに来てから自信がなくなってきたの」


「………」


「幸村さんは美姫ちゃんを助けたかっただけなのにその過程で人を殺すことが必要になった。人を殺すことは悪いことだけど人を助けたいと思うことは絶対悪いことじゃないはずよ!!」


「………」


「でも、もし自分の大切なものを守るために人を殺さなきゃいけない状況になってしまったらそれは本当に悪いことなのかな?そう考えたら私、わからなくなっちゃったのよ」


そうかこいつはそれで悩んでいたのか、他人を全て救いたいと願った優希と他人のために他人を切り捨てた幸村。ここにはきっとそういう構図があるのだ。


「優希、焦ることはないさ、じっくり自分の納得がいくまで悩め、大丈夫だ。お前ならきっと正しい答えが見つかる、俺はそう…信じているから」


そう、どんな困難な壁に当たってもお前なら乗り越えられる、そう…信じているから。


「………そっか、急いで決める必要なんてないよね?もうちょっと、もうちょっとだけ時間もらえるかな?もう少しだけ、悩んでみたいの」


「ああ、楽しみに待っているよ」


そして悩んだ末に自分の満足のいく答えを優希に見つけて欲しかった。


「どうやら5階への階段が見えてきたみたいだぞ」


先行していた杉坂の言うとおり良輔達の前には5階への階段が見えてきていた。


「さて、頑張って行くとしようか?」


良輔達は5階に上って行く。






――――――――――――――――
――――――――
――――
――






ピロリン、ピロリン


『4階が侵入禁止エリアになりました』


「ふ、ふわああ~」


電子音で眠り姫が目を覚ましたらしい。


「よく眠れたか美姫?」


「う~ん、あれぇ、お姉ちゃん達は?」


「ん?彼らならもう5階に上ったところだろう」


「そっか~、もう行っちゃったんだ」


「何、また会えるさ」


「うん!!」


美姫は元気よく頷いた。


「それにしてもあのお姉ちゃん達が生き残れるといいなあ~」


「ん?美姫?」


「どうしたの?お父さん」


「いや、何でもない呼んでみただけだよ」


「むう~お父さんはそうやっていっつも美姫をからかうんだから!!そんなお父さんなんて嫌い」


「すまん、すまん。謝るから機嫌を直してくれ」


「うん!!」


(私はこの子を守れたんだから…それで十分じゃないか)


幸村は笑う美姫を見ながらそう思った。








[22742] 22話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/10/26 05:50
【BET】
player suit card odds
北条良輔 ダイヤ 5 1.6
御剣優希 ハート J 1.9
??????? ???? ? Death
柊桜 ???? ? Death
西野美姫 クラブ 3 1.1
神河神無 ???? ? 1.3
??????? ???? ? Death
杉坂友哉 スペード Q 1.8
一ノ瀬丈 クラブ 8 Death
速水瞬 スペード 10 2.0
幸村光太郎 ダイヤ 4 1.1
飯田章吾 ???? ? Death
水谷祐二 ???? ? Death
Day 3日目
Real Time 午後 6:00
Game Time経過時間 56:00
Limit Time 残り時間 17:00
Flour 5階
Prohibition Area 4階
Player 7/13





5階に上った良輔達は6階までの道のりを途中にある部屋を探索しながら移動していた。


「誰も動いてないみたいなんだよな」


良輔は地図を見ながら呟く。しかしその画面には自分たちのいる周囲にしか波紋が広がっていなかった。


「幸村さんの持っていたPDA探知みたいなのがあれば何かしら違うのかもしれないが…」


杉坂はそう言うがそれが贅沢だということはわかっている。


「6階にあった光点は誰なのかしら?」


「多分だけど速水さんじゃないかな?」


「その心は?」


「速水さんだって俺達との合流を考えてくれているはずだ。現在位置がわからなくするような真似はしないと思う」


優希の疑問に良輔はそう答える。おそらく6階にあった光点が速水の可能性が高いと良輔はそう思っていた。ただ6階にいる人間が誰であったとしても優希の条件の関係で自分達は6階に上がる必要があることだけは確かだった。


「御剣の首輪が外れるまで後、15時間か………」


「ああ、早く速水さんと合流して6階の戦闘禁止エリアに逃げ込もう」


「急ぎましょう?4階が侵入禁止エリアになったときはけっこうギリギリだったし」


杉坂がPDAの経過時間を見ながら呟いた言葉に良輔が同意する。速水さんとどれだけ早く合流できるかが勝負だ。とりあえず優希の言うとおり6階に上がってしまおう。


「とりあえず部屋を回りながら役に立ちそうなものを探しながら階段に向かいましょ?」


良輔と杉坂は頷く。そうして良輔達は部屋を回りながら6階への階段を目指した。







――――――――――――――――
――――――――
――――
――







「しっかし5階に来てからというもの武器がゴロゴロ転がっているな?」


杉坂が部屋にあった木箱からアサルトライフルを一丁取り出して調べている。


「本当ね、神河さんもこんなもので武装しているのかしら?」


「おい、こっちにえらいものが出て来たぞ」


木箱に入ってあった日本刀を1本取り出しながらその白刃を見つめる優希に良輔は別の箱を覗きながらそう答える。


「何が入ってたんだ?」


「これだよ」


良輔はアサルトライフルを入っていた箱に戻していた杉坂に入っていた箱ごと見せる。


「おいおい、こいつは………」


杉坂が驚いて良輔の持っているその箱を見る。その箱には大量の手榴弾が入っていた。


「どうするの?」


ここでどうするというのはこれを持っていくかどうかという意味なのだろう。


「………いや、持っていくのは止めておこう」


良輔はしばらく思案するとそう答えた。瞼の裏に浮かぶのはこれを使おうとして誤爆し、無残な最期を遂げた水谷の姿だった。爆発物を使うのは素人の自分達には難しいと考えての判断である。


「そうなると目ぼしいのはこれくらいだな」


杉坂はツールボックスを2つその手に持っていた。


Tool:Trap/List
Tool:Trap/Remote Controller


「トラップ一覧と遠隔操作?」


「俺達が2階で引っ掛かったようなやつのことだよな?」


良輔は1階でトラップを2つ、2階で1つ作動させている。


「とりあえず機能の内容を確認しましょう」


優希はTool:Trap/Listを手に取ると自分のPDAに接続する。それを見て良輔もTool:Trap/Remote Controllerを自分のPDAに接続した。


ピロリン、ピロリン


電子音を立ててインストール画面に移る。


『Tool:Trap/Remote Controller 機能:館内に存在する罠を遠隔操作して作動させる。バッテリー消費:極大 インストールしますか? YES/NO』


―――トラップの遠隔操作だと!?


良輔はその機能に驚愕しつつもとりあえずNOに触れる。


そして一度ツールボックスを取り外した。


「そっちはどんな機能があった?」


「これは『館内に存在する罠の一覧表』って書いてあったわ。そっちの機能はどんなものだった?」


「罠の遠隔操作だった。これはかなり強力なソフトウェアだな、その代りバッテリー消費もすごいけど」


「これをどのPDAに入れるかだが…」


「それは幸村さんからもらった【4】のPDAに入れよう。【4】のPDAにはTrap/pointerが入っているから相性が良い。バッテリーもまったく心配いらないしな」


良輔達はここに来るまでに発見したTool:Trap/pointerを幸村からもらった【4】のPDAにインストールしていた。


「そうね、じゃあ【4】のPDAにインストールしましょう」


優希の言葉に頷くと良輔は自分が持っていた【4】のPDAにインストールを開始する。


「…インストール完了っと」


良輔はツールボックスをPDAから取り外した。


現在【4】にインストールされているソフトウェアは以下の通り。
Tool:Self/Pointer
擬似GPS機能。マップ上に現在位置を表示。バッテリー消費:極小
Tool:Map/Enhance
地図拡張機能。地図上に部屋の名前を追加表示する。バッテリー消費:極小
Tool:Trap/Pointer
『罠を探知し、PDAの地図上に表示する。バッテリー消費:小』
Tool:Trap/List
『館内に存在する罠の一覧表。バッテリー消費:小』
Tool:Trap/Remote Controller
『罠を遠隔操作し、作動させる。バッテリー消費:極大』
Tool:Bomb/Remote Controller
『爆弾とそのコントローラーのセット。バッテリー消費:極大』


「………」


「ソフトウェアもかなり充実してきたな」


「そうね、ん?良輔?」


「あん?何だよ?」


杉坂の言葉に優希が頷くとふと何か考え事をしている良輔のほうを見つめる。優希はそのままずずいと顔を近づけてきた。


「ち、近い、顔が近い」


良輔はその距離に思わず狼狽する。


「良輔、何を考えてたの?」


「ん?ああ、2階で俺達が分断された時のことを考えていた」


「どういうことだ?」


「思い出してくれ、杉坂さん、俺達はあの時に罠の起動スイッチを押していないはずなのに罠が作動して上から鉄柵が落ちてきただろ?」


トラップの説明には踏み板やトリガーワイヤーに引っかかることと説明が出ていたのに何故かそれさえもなく唐突に上から降ってきた鉄柵を思い浮かべる。


「っ!?ちょっと待って、それじゃああの時作動した罠は誰かが意図的に作動させた罠ってこと?」


「こんなソフトウェアがあるんだったら不可能性じゃなかったはずだ、思えばその前にシャッターが下りていて通行止めされていた場所も同じ手口だったのかもしれない」


「だが、誰がそんな真似をしたんだ?」


「俺達があそこで固まっていることが不都合だったやつと言えば………」


「それって水谷さんってこと?」


「考えられる線としてはそうなるはずだが………」


あの時、あまりにも不自然なタイミングで現れた水谷が罠を遠隔操作で作動させて俺達を分断した、そう考えるのが自然だろうとは良輔も思う。ただ………


(何かがひっかかるな…)


そもそも罠を遠隔操作できるソフトウェアを有しながらあの頭の良い水谷が美姫をまんまと取り逃がすようなヘマをやらかすのだろうか?水谷ならもっとうまく美姫を追いつめたはず………


(どっちにせよ水谷のPDAが壊れている現状では確認のしようがないか…)


水谷のPDAが健在なら何かしらの手掛かりが掴めるはずだが水谷のPDAは爆発に巻き込まれて破損していた。


「それじゃあこの部屋はもういいわね、6階に向かいましょう」






――――――――――――――――
――――――――
――――
――







じっくり5階を探索し、最上階の6階に到着したのは夜の9時になっていた。それから良輔達は戦闘禁止エリアに近い小部屋まで来ていた。


「少し疲れたわ」


優希が荷物をドサッと降ろす。


「しかし思ったよりあっさり6階まで来れたな、もっと苦労するものだと思っていたが…」


「そうだな」


良輔は杉坂に同意する。正直、6階に上がる階段で待ち伏せなりされているかとも思ったが意外なことに誰もいなかった。優希と杉坂が戦闘禁止エリアに向かおうとするが良輔はそれを押し止める。万が一にも神河のPDAが別のもので首輪を解除していたりしたら目も当てられない。戦闘禁止エリアに逃げるのはあくまで速水と合流した後だ、それもできれば神河の首輪を確認した後が好ましい。


「そうね、誰か動いている反応はある?」


「いや、まったくだ。あの2人はどこに行ったんだ?」


「2人共が長時間移動していないのか、あるいは幸村さんの言っていたようにジャマーソフトがあるのか…」


どっちにしろ良輔達に現在できそうなことは何もなかった。


「ご飯にしましょうか?といってもキッチンもないから大層なものは作れないけど」


「そうだな」


「他にやることもないしな」


優希の提案に良輔と杉坂は頷く。


「それにしてももうすぐゲームが終わるんだな」


「残るところあと14時間か…」


このゲームが終わった時に俺達は全員が無事に帰れるのだろうか?そんな思いがここにいる全員の脳裏を走った。


「あ、そうだ!!」


「どうした?優希?」


「このゲームが終わったらみんなで海に行きましょうよ、もちろん速水さんも誘って」


「海、か………そいつはいいアイデアだと思うぞ御剣、みんなで行こう」


優希が思いついたようにそう提案すると杉坂も笑って頷く。


「ああ、行くか?海に…」


良輔も笑ってみんなで海に行ける光景を幻視する。それが出来ればどれほどいいことだろうか?


「さあ、夕食にしましょう」


そうして良輔達は夕食を取って少し休憩することにした。


しかしそれからもうすぐ日付の変わろうとしていた夜中の11時が過ぎたところで異変が起きる。


「っ!?」


「優希?」


「誰か近寄ってくるわ」


「なんだと!?」


良輔が優希の様子が一変したと思うとその言葉に杉坂がサブマシンガンを抱えながら立ち上がる。


「速水さんか、あるいは………神河か」


「とにかく一度会ってみる必要があるわね」


「ああ、外に出よう。ただし神河だったら戦闘禁止エリアに逃げ込むぞ」


良輔の確認に2人は頷くと部屋の外に出た。







――――――――――――――――
――――――――
――――
――





コツッ、コツッ、と少しずつ近寄ってくる足音。


(速水さんか、神河か、どっちだ?)


緊張が高まる中、良輔達が部屋を出た後にしばらくしてからその人物は姿を現した。


「やあ、良輔。また会ったな?」


そこに現れたのは3階の戦闘禁止エリアで一度話をした神河だった。





[22742] 23話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/10/26 05:52
【BET】
player suit card odds
北条良輔 ダイヤ 5 1.6
御剣優希 ハート J 1.9
??????? ???? ? Death
柊桜 ???? ? Death
西野美姫 クラブ 3 1.1
神河神無 ???? ? 1.3
??????? ???? ? Death
杉坂友哉 スペード Q 1.8
一ノ瀬丈 クラブ 8 Death
速水瞬 スペード 10 2.0
幸村光太郎 ダイヤ 4 1.1
飯田章吾 ???? ? Death
水谷祐二 ???? ? Death
Day 3日目
Real Time 午後 11:30
Game Time経過時間 61:30
Limit Time 残り時間 11:30
Flour 6階
Prohibition Area 4階
Player 7/13




6階の通路で良輔達と神河が対峙していた。もちろんすぐに通路の角に隠れられる立ち位置だ。それにすぐ近くに戦闘禁止エリアもある。


(大丈夫、ここなら襲われても逃げ切れる、それに神河は自分のPDAが【2】であると俺達が信じていると思っているはずだ。)


良輔はそう確信していた。


「こんにちは、いや…もうこんばんは、の時間だったな?初めまして、私は神河神無というものだ、大丈夫安心するといい、私には君達を害するつもりはない、君達が前に良輔が言っていた仲間で合っているか?」


神河は持っていた銃を下すと両手を挙げてにこやかな笑顔で話しかけてくる。しかし良輔達はこの笑顔がまやかしのものであることを知っていた。


「まあ、そんなところだ、神河さんに紹介するよ、俺の仲間で御剣優希と杉坂友哉さんだ」


「は、初めまして、み、御剣、っ、優希、です…」


「杉坂友哉だ、よろしく」


良輔の紹介に汗をだらだら流しながら応対する優希と命が狙われているにもかかわらずどこ吹く風とばかりに挨拶する杉坂。


「ふむ、それでどちらが【8】のプレイヤーだ?」


「いや、こいつらはどちらも【8】のプレイヤーじゃない、そいつとは………まだ会えてないんだ」


一ノ瀬の死を教えようかとも思ったが止めておいた。俺達が合流する前に速水さんに会ったら大変なことになりかねない。速水さんは【10】なので神河の条件には関係ないが問答無用で攻撃されないための配慮だ。例え人違いでも攻撃対象でないことが確認できたなら襲われでもしない限り、こいつは攻撃しないだろう。


「そうか、それは残念だったな、ところで………」


神河は一旦そこで言葉を止めるとこう続けた。


















『jokerは見つかったかな?』


















その神河の言葉に思わずドクンと心臓が波打つ音が聞こえるが顔には出さないように努める。


「いや、残念だがjokerはまだ見つかっていないんだ、そっちもjokerは見つからなかったのか?」


「まあな、見つかっていたらこんなことを聞きはしないさ、そうだ!!危うく忘れるところだった」


神河はそういって懐からPDAを1台取り出す。


「良輔から聞いているかもしれないが私のPDAはハートの【2】だ、このPDAには君達の持っているPDAがjokerかそうでないかがわかる特殊機能を持っている、君達を疑うわけではないが念のためにPDAを見せてもらってもいいかな?画面に触れないことは約束する」


「ああ、それじゃあ戦闘禁止エリアに」


「いや、確認ぐらいここでいいだろう」


「えっ?」


良輔から驚愕の声が漏れる。


「これだけ離れているとPDAの特殊機能が効力を発揮しないからな、そちらに近寄ってもいいかな?」


両手を挙げた状態でゆっくり神河がこちらに近寄ってくる。


(あれ?何かおかしいぞ?)


良輔はこの時、神河の態度がおかしいことに気づいた。


(神河ならここで一度戦闘禁止エリアに行ってからPDAの確認を行うと思っていたが…)


潜伏場所に戦闘禁止エリアの近くを選んだのも、もし神河に遭遇した場合にローリスクでPDAを見せられる点にもあったのだ。神河のPDAが【A】ならば戦闘禁止エリアに入った後でそこから出なければいい。


(それがあの神河が無防備にこちらに近寄って来ているというのは、これはどういう風の吹き回しだ?)


思い出すのは戦闘禁止エリアでの神河との会話、神河は戦闘禁止エリア以外で不用意に近づいてくるようなら撃ち殺すとさえ言っていたはずなのに………それが両手を挙げた状態でこちらに近づいて来ている。


良輔はその行為を不審に思い、ふと神河に視線を向けると………神河の口元には凝視しなければわからないほどの薄い笑みが浮かんでいた。


「っ!?通路に隠れろ!!」


「ちっ!!」


良輔の叫びに杉坂と優希が咄嗟に動く。その反応を見て神河がPDAを持っていない右手を微かに動かすと袖の中から小型のハンドガンが飛び出した。神河はそのまま通路に隠れきれていない優希に照準を合わせて発砲する。


「優希!?」


「きゃあ!?」


良輔は優希の手を掴んで思いっきり引っ張って通路に隠す。その衝撃で優希の手から持っていたクラブの【3】のPDAが離れて行き、カラカラと音を立てながら神河の前まで転がって行った。


神河はその画面を確認するとおもいっきりそのPDAを握りつぶす。


バリンという音を立てて、砕け散るPDA。それを見て神河は確信の笑みを浮かべる。


「ふむ、PDAを破壊したはずなのにこの場の誰も首輪が作動しないということは………やはりハズレか」


神河はしてやったりという笑みを浮かべていた。


「どういうことだ?」


良輔は思わず呟く。なぜ、神河はPDAを破壊したのにこの場の誰も首輪が作動しないことに疑問を持たない?


「クックック、あまり私を見くびってくれるなよ、君たちが自分のもの以外のPDAを所有していることは知っていた」


「なっ!?そうか、ソフトウェアか!?」


神河の言葉に杉坂が驚いた声を出す。確かに神河が幸村の所有していたようなソフトウェアを持っているというなら良輔達が5つのPDAを持っていることには気がついただろう。


「まあ、これもjokerの偽装機能の恩恵というやつだ」


「偽装機能の恩恵だと!?」


(他のカードに偽装できるだけじゃないのか!?)


良輔は神河のその発言に驚きを隠せなかった。


「ああ、jokerを持っていない君達は知らなかっただろうがこのjokerは他のカードに偽装できるだけが能じゃない、jokerの偽装機能を使用することでこれは偽装したカードのPDAと完全にリンクする。つまりそれにインストールされているソフトウェアなんかも使いたい放題なわけだ」


神河の言葉でなぜ自分達の持っているPDA数が割れたのか良輔は理解した。確かに戦闘禁止エリアで幸村は【2】のPDAにPDAを探知する効果のあるソフトウェアをインストールしたと言っていた。そして【2】に偽装していた神河はそれに気づいていたということだ、これらのことから結論は………


「そうか、アンタ、俺達が幸村さんと接触してPDAを2台譲り受けたことを知っていたな?」


こんな攻撃をしてくるということは良輔達がPDAを4台持っていた幸村と接触し、その内の2台を譲り受けていたことを神河は知っていたはずだ。そして神河のものを除いて12台あるうちのPDAが7台あの場所に集まったことも…


(そして自分の持っているPDAこそがjokerであることがばれている可能性が高いと判断してあんな真似に出たわけか)


神河は良輔のPDAが絵札でないことは知っている。そうなると余った2台のPDAを使って自分を騙してくる可能性が高いと判断してわざと自分がjokerであることがばれていることに気づいていないように振る舞った。そして2人のPDAをjokerで偽装したハートの【2】を使ってjokerでないことを確認すると嘯いて近寄って行き、あの右手に隠してあった暗器で殺す算段を神河はつけていたのだ。


(幸村さんじゃないけどあの女が女狐っていうのにはまったく同感だ)


良輔は思わず溜息をつきそうだった。もし良輔達の手元に残っているPDAが問題なく神河に見せられるものなら殺られていたかもしれない。3人殺しの【3】や所有者が判明している【4】でなければPDAを見せようとしていた段階で殺されていただろう。災い転じて福となすというやつだ。


「そうか、下の4階に残っている2つの反応の1つは幸村のものか、そしてもう1つがさっきのクラブの【3】の本当の持ち主、あの少女というところかな?」


(うっ!?)


良輔は口走って余計な情報を神河に与えてしまったことを後悔する。


「口は災いのもとだ、覚えておくといい」


神河は1階で遭遇した幸村の人柄、3階の戦闘禁止エリアで良輔から聞いた自分と別れた後の幸村の行動と6階で遭遇した自分のPDAを持っていない少女、そして少しだけ話をしている時に出ていたお父さんという単語を関連付けて幸村の行動の真意に感づいていた。それがさっきのクラブの【3】を破壊してもあの3人の首輪が作動しなかったことで確信を得たのだった。


「神河さん、あなたのPDAは【A】…なんですか?」


通路に隠れながら優希がそう尋ねる。


「それを君に話す義務が私にあるとでも思うのかな?」


神河はハンドガンを捨ててサブマシンガンを構えながら答えた。


「私達と一緒にこの首輪を外す手段を探しましょう!?きっと建物のどこかにあるはずだわ!!」


「ほう?ちなみに君はその手段を既に持っているとでも?」


鋭い目が優希を睨みつける。


「そ、それは…でも必ず!!」


「いや、それは無理だよ、この首輪は条件を満たすことでしか外せない………一昔前のゲームなら首輪をいじって壊す手段があったらしいがね、技術の進歩というのは残酷で私達が現在着けている首輪はその手段がない」


神河は首を左右に振る。


「まあ爆弾ぐらい使うなら壊せるかもしれないがその時は私達も吹っ飛んでいるだろう、今回のゲームで【4】を引かされた奴はとんだ貧乏クジを引いているよ、あんなのクリアできるのは私と幸村ぐらいだろうな」


「何で首輪を壊す手段がないことがわかるんですか!?そんなのやってみなきゃ」


「いや、それがわかるんだよ」


優希を嘲笑うかのように神河は笑う。そして
















『私は君のように首輪を外そうとして死んでいった人間を大勢見ているからな』















神河は確かにそう答えた。


「これまで大勢見てきたですって!?」


優希は神河の発言に驚愕の声を漏らす。


「ああ、君達も薄々感づいているとは思うがこのゲームはこれが初めてではない、何度も何度も繰り返し行われてきたカジノの賭けなのさ」


「賭け!?私達は競馬の馬みたいな扱いを受けてるってこと?」


「ああ、世界中の富豪達を集めてそれこそ世界中で行っている一般人同士の殺し合い、人を使ったサバイバルゲームだ、賭けの種類は誰が生き残るのかというのはもちろん誰が一番多くの人間を殺害するのか、あるいは誰が裏切るのかといったものなど多種多様にわたる」


「そうか、エミリーも言ってみればこのゲームのマスコットキャラクターだったのか!?」


「そんな金持ちの道楽のために一ノ瀬や他の人間を死に追いやったっていうのかよ!?」


神河の言葉は深い動揺を良輔達に与えた。


「ちょっと待って、あなたは何でそんなことを知っているの?」


確かにそれを神河が知っているというのはいささか不自然だった。


「私はこのゲームに参加するのは初めてではない、それこそ何度も何度もゲームに参加してきたよ、まあゲームの種類も多種類に及んでいて今回みたいに廃墟が舞台だったり他には隔離された村とか沈んでいく船とか無人島だったりしてその時々に応じてルールも首輪の解除条件も違ってくるが私は常に生き残ってきた」


神河はその疑問にそう答える。


「私のように死んでいった人間を多く見てきたっていうのは?」


「言葉通りの意味だよ、例えば殺人を犯さねば首輪を外せない人間が居たとして誰も彼もが人を殺そうとするわけじゃない。道徳心から人殺しを拒むものもいればあまりの条件の難しさ、今回のゲームに混じってはいないが自分以外のプレイヤーの全員が死亡するとかの条件を見て人殺しをあきらめてしまうものだってもちろんいる」


確かに美姫のようなプレイヤーが3人も人を殺せるかと聞かれればそれは難しいだろう。皆殺しなんてカードを渡された時は人殺しどころか生存をあきらめてしまうものだっていたのではないだろうか?


「しかし彼らは人殺しを拒絶しても別に死にたいわけじゃないんだから結論としては何とかして首輪を外す手段を模索するわけだ………しかしそいつらも例外なく死んでいったよ、他のプレイヤーに殺されたり、最後まで生き残っても首輪が作動して仕掛けに殺されたりと種類は様々だったがね、結果は同じ死を迎えた」


「それじゃあ、あなたは何故、こんなゲームに何度も何度も参加してんのよ!?これがどれだけ危ないゲームなのかあなたは知っているんでしょう?だったら何で?」


「そうだな、まず言っておくが私は別に殺人趣味があるわけでも金に興味があるわけでも、まあお金はくれるというならもらっておくが………ごほん、ごほん、まあそれは横にでも置いておくとして」


神河はわざとらしい咳をする。


「私には目的があるんだよ」


「目的?」


「ああ、父の仇を討つという目的がね」


神河が少し悲しみを含んだ声を出す。


「あなたのお父さんはこのゲームで殺されたんですか?」


「まあ、ゲームで殺されたといえば殺されたな、私の父はゲームマスターだったんだ」


「ゲームマスターって何よ?」


「そうだな、有り体に言うならこのゲームの調整役(バランサー)だ。ゲームに参加しているプレイヤーの内に大体2人ほど紛れ込んでいる、彼らはこのゲームがより面白くなるように演出を凝らすのが仕事だ」


「それじゃああなたのお父さんはこのゲームに参加したプレイヤーの手で殺されたってこと?」


「まさか、そもそもそんな結末を迎えたのなら仇討ちなんかしようとするはずがない、そんなのは自業自得というんだ、他人の命を玩具のように扱ってそいつらに殺されたというなら同情の欠片もない、因果応報だろ?文句なんてつけやしないさ」


優希の質問に神河は横に首を振る。


「だったら何で?」


「私の父を殺したのは同じようにゲームマスターをしていた人間だった。そいつは父と同じ師から学んだ弟子で長年父と組んでゲームメイクをしていた。父はそいつに全幅の信頼を置いていたらしい、だが私情に走ったそのゲームマスターが………父を殺害した」


「私情?」


優希が神河にそう聞き返す。


「さあな、そこまでは私も知らんさ、だが信頼を裏切られて死んだとあっては仇の1つも討ってやりたくなるのが子の心情というやつだろう」


そこまで言うとふと思い出したような表情を神河は作る。


「なあ、良輔、私と取引しないか?」


「取引?」


(なんだいきなり?)


良輔は神河の発言の意図が掴めず聞き返す。


「そうだ、私は無差別に人を殺したいわけじゃないんだ、それでどうだろう、私と組む気はないか?」


「どういうことだ?」


「簡単な話だよ、君がその2人を殺すんだ」


「っ!?」


「君に課せられた条件は生存者を5人以下にすること、そして今の生存者は7人、君がそこの2人を殺せば君の首輪は外せる、そして私と組むならば君の安全だけは私が保障しようじゃないか」


神河はそうやって良輔の返事を待った、これで良輔が要求をのんでくれるならむやみに人を殺すこともないがさて………


「断る!!そんなことをするつもりはない!!」


しかし予想通り良輔からの返答はNOだった。


「北条、お前…」


杉坂が安堵の表情を浮かべる。


「そうか…」


神河はそういってサブマシンガンを良輔達の隠れている通路に向けて発砲した。放った銃弾が壁を削る。


「っ!?」


「さて、それじゃあおしゃべりの時間はそろそろ終わりにしようか?ああ、それと冥土の土産にいいことを1つ教えておいてやろう」


良輔達の横の通路からウィィーンという機械音と共に鉄の塊が姿を現した。そこからカメラのようなものと小型の銃が現れる。


「げっ!?」


「っ!?杉坂さんそのPDAを貸してくれ!!」


驚きの声を出す杉坂から良輔は【4】のPDAをもぎ取った。


「長話をする人間の言うことを!!あまり信用しないことだ!!」


神河は優希の話に合わせる振りをしながら自動攻撃マシーンを横の通路に回り込ませていた。あそこからなら良輔達はどこにも身を隠すことができない、この時の神河は勝利を確信していた。


しかし


「させるかああぁぁぁぁ!!」


良輔は素早くPDAを操作すると上からシャッターが落ちてきてロボット達の攻撃を完封してしまった。


「何!?」


予想外の展開に神河は驚くが慌てずにもう1台のPDAを取り出す。


「今の内に戦闘禁止エリアに逃げ込め!!」


良輔はそう叫ぶが………


「駄目!!理由はわからないけど扉が開かないの!!」


優希が戦闘禁止エリアの扉を開けようとするがカチャカチャと音を立てて扉は開こうとしない。


「しまった!!ソフトウェアか!?」


「ご名答!!」


良輔は3階で神河が戦闘禁止エリアの鍵を閉めたことを思い出した。神河の叫びと同時に良輔達と自動攻撃マシーンを塞いでいたシャッターが開きはじめる。


「まずい、逃げるぞ!!」


杉坂がそれを見て良輔と優希の手を引っ張って走り出す。


「逃がすか!!」


それを見て追撃をかける神河。


「良輔、神河の反応は見えるか?」


「いや、駄目だ、神河の反応がPDAに映らない!!」


間違いなく追いかけて来ているはずの神河の動体データが良輔のPDAに何故か表示されなかった。


「良輔、前を見て!!」


優希の言葉に前を見ると下りていたシャッターが少しずつ持ち上がっていき、そこから現れた10体ほどの自動攻撃マシーンだった。


「な、に!?」


杉坂はそれを見て絶句する。


「あはは!!どうだ!?君達のために準備しておいてやったロボット軍団だ!!これでチェックメイト、遠慮することはないぞ3人仲良く蜂の巣になるといい!!」


後ろから神河の笑い声と銃声が聞こえてくる。前には大量のロボット、後ろには神河、横に抜け道は、ない!!


「2人とも構わずあのロボット達に向けて突っ走れ!!」


「で、でも!?」


「何か考えでもあるのか!?」


良輔の言葉に優希と杉坂が戸惑いの声を出す。


「俺を信じろ!!」


良輔がPDAを操作し始める。


「わかったわ!!」


「そこまで言うなら俺の命はお前に託す!!」


優希も杉坂も良輔の指示通りにロボット達に向けて全速力で走る。


「やつら、一体何を!?」


ロボット軍団の一斉攻撃に当たらないように後ろの通路に身を隠して呟く神河に答えはすぐに与えられた。


「きゃああああああああああああ!!」


「どわっ!?」


「………」


良輔達の床が突如パカッと音を立てて開いた。3人はその穴へと吸い込まれていく。3人が床に完全に消えてからロボット軍団の攻撃は始まった。その銃撃は誰もいない空間を撃ち続ける。


「ちっ!!取り逃がしたか!?」


神河はロボットの攻撃を中止させると良輔達の落ちた穴を忌々しげに睨む。


「まあいい、奴らの命も残すところ後1時間だ」


PDAの経過時間を見るとちょうど日付の変わった時刻であった。良輔達が落ちた5階が侵入禁止になるまで後1時間、1時間でこの場所から階段まではたどり着けないだろう。


「つまり午前1時が良輔達のDEAD ENDというわけか…」


(そうなると残るところは1人だな…)


良輔達の話から推測すると侵入禁止エリアにいるのは2人、そして良輔達3人が死ねば生存者は4人だから残る1人を殺せば間違いなく自分の首輪は外れるだろうと神河は考えた。


(じゃあな、良輔、人生最後の1時間をお友達と満喫するといい)


神河は踵を返すと残る1人を殺すためにその場を立ち去った。








――――――――――――――――
――――――――
――――
――








「きゃああああああああああ!!」


「優希!!」


良輔は落ちていく中で優希をしっかり抱きしめる。


「良輔!?」


そして2人はボスンという音を立てて床に落ちた。


………床?


「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」


訂正、杉坂の上に落ちた。


「わ、悪い」


「ご、ごめんなさい」


良輔と優希は急いで杉坂というクッションから立ち退く。


「お、お前ら…俺を殺す気か!?」


「今のは不可抗力だ」


怒る杉坂に良輔が答える。


「よかった、全員無事ね」


ビービービー


優希が全員の無事を確認したその時、けたたましい電子音が3人のPDAから鳴り響く。


「何の音かしら?」


3人がPDAを見るとそこに表示された文字は点滅していた。どうやらこの電子音も点滅に同期して鳴らされているらしい。


『このフロアが侵入禁止になるまで 1時間』


それは落ち着いていることなどできないことを告げていた。


「こうしている場合じゃないな、急いで階段まで行こう」


「いや、今から階段まで走って行っても間に合わないだろうな」


焦る杉坂に良輔がそう答える。


「どうするの?」


「俺に考えがある、ついて来てくれ!!」


良輔は2人の返事も聞かずに走り出した。


「あ、おい、ちょっと!?」


「杉坂さん、追いましょう!!」


「分かった!!」


杉坂と優希も訳が分からなかったが良輔の後を追っていく。








――――――――――――――――
――――――――
――――
――







そして良輔がやってきた場所は………


「ここって封鎖された階段じゃない!?」


「こんなとこ来てどうするつもりなんだ?」


杉坂と優希を尻目に作業していた良輔が荷物から幸村に譲り受けた爆発物を取り出した。


「北条!?お前、まさか!!」


「ああ、このバリケードを爆破する」


良輔はそういって爆発物をセットし終えると戻ってきて通路に隠れる。


「そのまま通路に身を隠しておいてくれ!!」


PDAを操作するとセットされていた爆発物が爆発し、階段を塞いでいたバリケードが吹き飛んだ。爆風により通路に溜まっていた埃が舞い上がる。


「ゲホゲホ、無茶するよな?お前」


杉坂が埃を吸いながらむせながらそう言った。良輔達の目の前にはボロボロになりながらもギリギリその役目を果たしている階段があった。


「さあ、急ごう!!あと10分もない」


「わかったわ!!」


「あいよ」


良輔の言葉に2人が頷くと良輔達は階段を上りきった。


「間一髪だったな」


PDAを見ながら良輔がそう答えるとしばらくしてそのPDAが鳴り響いた。


ピロリン、ピロリン


『『『5階が侵入禁止になりました!』』ここが侵入禁止になるのは今から9時間後です』


PDAが5階も侵入禁止エリアになったことを告げる。


「さて、安心してもいられない、俺達の位置は神河に掴まれているだろうし、すぐにもう一度やってくるに違いない、おまけにこっちからは神河の位置が分からない」


良輔は神河の動体データがキャッチできなかったことを思い出していた。何故か分からないが幸村の言うようにジャマーソフトがあって、それを神河が所持しているのかもしれない。どっちにしろこのままではいつまでも先手を打たれ続けるだろう。そしてやがては………


良輔の脳裏を嫌な想像が走った。


「どうするの?」


「速水さんが心配ではあるが………止むを得ない、一度戦闘禁止エリアに避難しよう」


戦闘禁止エリアに鍵が掛かっているかもしれないがそれは銃でこじ開ければいい、さっきは神河がすぐ傍にいたのでできなかったが今度は神河が来るまでに多少時間が掛かるだろう。


「しかしそれでは速水さんが…」


良輔は優希にそう答えると杉坂が速水の身を案じて渋る。


「安心しろ、俺に考えがある」


「考え?」


「ああ」


良輔の答えに杉坂が聞き返すと自信たっぷりに頷いた。


「俺の頭の中にはこの建物の地図が既に入っている。道がどういう風に入り組んでいるのかというのはもちろんのこと、エアーダクトの地図、戦闘禁止エリアの位置、トラップの位置なんかもだ」


良輔は自分の頭をとんとん叩きながら杉坂にそう答える。


「全部ってお前、本当に人間か?」


杉坂が若干ひきながら答える。杉坂が驚くのも無理なくこの建物は巨大だ、その上戦闘禁止エリアや罠も含めて覚えたというのは人間のすることじゃないだろう、しかしそれは良輔にとって自分が人間扱いされていないようであまり好きなれない反応だったが良輔はそれには目をつぶった。


「後は俺がPDAを優希に預けた状態で速水さんを探しに行く。PDAを持ってさえいなければ神河の情報網には引っかからないはずだ、仮に神河と遭遇したとしても戦闘禁止エリアにまで逃げればいい」


良輔がそこまで言ったところで誰も予想しなかった異変が起こった。


ピロリン、ピロリン


良輔と優希の2台のPDAが鳴り響く。2人が驚いて画面を見るとそこにはこう表示されていた。


『生存者:6人』
















[22742] 24話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/10/26 05:55
【BET】
player suit card odds
北条良輔 ダイヤ 5 close
御剣優希 ハート J close
??????? ???? ? Death
柊桜 ???? ? Death
西野美姫 クラブ 3 close
神河神無 ???? ? close
??????? ???? ? Death
杉坂友哉 スペード Q close
一ノ瀬丈 クラブ 8 Death
速水瞬 スペード 10 close
幸村光太郎 ダイヤ 4 close
飯田章吾 ???? ? Death
水谷祐二 ???? ? Death
Day 4日目
Real Time 午後 1:00
Game Time経過時間 63:00
Limit Time 残り時間 10:00
Flour 6階
Prohibition Area 5階
Player 6/13





5階が侵入禁止エリアになると同時に良輔と優希のPDAから鳴り響いた電子音。それは生存者がまた1人減ったことを知らせる合図だった。


『生存者:6人』


「なっ!?」


「そ、そんな!?」


「おい、もしかして今のアラームって!?」


「ああ、誰か死んだ……みたいだ」


PDAを見て驚愕する良輔と優希にこの中でただ1人生存者カウンターを持っていない杉坂にPDAの画面を見せる。


「でも、誰が亡くなったのかしら?」


「幸村さんと美姫のどちらかが死んだとは考えにくい、そして俺達3人を除けば死んだのは……」


「速水さんか、あるいは神河のどちらかが死んだってことか!?」


「そう、なるな」


侵入禁止エリアにいるあの親子が死んだというのは考えにくく、良輔達を除けば残る生存者は速水か神河のどちらかということになる。そして軍人でこのゲームの常連者であると語っていた神河が死んだというのも考えにくいと良輔は考えていた。そうなると死んだ可能性が高いのは……


(速水さんか……)


神河と速水さんが戦って速水さんが死んだ、あまり考えたくないことだが良輔はその可能性こそが高いと考えていた。


「これからどうする?」


「死んだのが神河にせよ、速水さんにせよ、俺達のやることは変わらない」


「戦闘禁止エリアに逃げ込むってことね?」


「ああ、そうだ」


神河が自分達と完全に敵対体勢を取ったことからおそらく【A】である可能性が高く、さっきの神河との遭遇で首輪の確認もできた。速水が死んでも杉坂と優希が生存している以上、神河は自分の首輪を解除できないはず、そして死んだのが神河であるならこの場に敵が存在しないことになるので戦闘禁止エリアに逃げ込むことに何の問題もないはず、良輔はそう考えていた。


「急ごう!!生きているのが神河なら戻って来るとやっかいだ」


「わかったわ」


「ああ」


良輔の号令を機に3人は戦闘禁止エリアへ真っ直ぐ向かって行った。









――――――――――――――――
――――――――
――――
――








そして良輔達は何の問題もなく戦闘禁止エリアに到着した。少し拍子抜けしたが何もないならないでそれでいい。


「さて、御剣の首輪もあと7時間で外れるな」


杉坂がPDAを見ながらそう呟く。


「ああ、あともう少しだ」


(そして……もう少しで俺が待ちに待った瞬間が来る!!一日千秋の想いで待ち望んだ空白の1時間が!!)


良輔の誰にも気づかれないように薄く笑う。


(優希の首輪が外れれば俺を縛る枷は全てなくなる、後は2人の首輪が外れるのを見届けてから6階が侵入禁止エリアになるまでの1時間でなんとか俺が神河を殺せれば……)


それで生存者は5人、良輔の首輪も外れて3人全員で帰れる。3日という普段ならとても短く感じるはずの時間が今の良輔にはとても長い、長い道程に感じていた、しかし良輔の手に届く場所までようやくゴールが来ている。


(あと、ちょっと、ほんの少し……)


良輔は1分ずつ進んでいくPDAの経過時間を見ながらそう祈る。


「速水さん、無事かしら?」


ふとそんな言葉が優希の口から飛び出した。


「無事だと、いいけどな」


「そうね、まだ速水さんが死んだって決まったわけじゃないんだし……」


杉坂も優希も暗い表情になっている。2人も速水さんが死んだ可能性が高いことを知っているからだ。


「そうだな、まだ速水さんが死んだかどうかはわからない」


良輔はどこか上の空と言った様子でそう答える。しかしこの時の良輔の頭の中は優希の首輪が外れた後のことでいっぱいになっていた。


(問題はどうやって神河を殺すかだな……)


相手は百戦錬磨の職業軍人だ、真正面から戦っても勝ち目はないだろう。


(そうなるとやっぱり奇襲しかないか……)


神河はPDAを探知するソフトウェアを持っている。こちらの位置はバレているはずだ、そうなるともうすぐ神河はここにやってくるはず、戦闘禁止エリアに居れば向こうも手出しできないが優希の条件もあって良輔も手出しができない。


(さて、どうしたものか?)


良輔が考え込んでいたその時、異変が起こった。


「っ!?」


「優希?」


「少し静かにして……」


ソファーに座っていた優希がいきなり立ち上がって良輔を制する。


「誰かの足音がする、近づいて来ているわ……」


優希が手を耳に当てながらそう答える。


(いよいよか……)


良輔は自分の胸が高鳴るのを感じた。このゲームのラストバトルが始まろうとしているのだと思えば少し緊張してくる。





ギィと扉の開く音、そして姿を現したのは……









――――――――――――――――
――――――――
――――
――









現れたのは良輔達の予想に反してスーツ姿がよく似合う中肉中背の男性、その人物は首に着けていた銀色の首輪がないという1点を除けば良輔達のよく見知った人物だった。


「ようやく会えましたね、良輔君、優希君それに杉坂君も」


そこにいたのは良輔達と2階で分断された後に行方知れずとなっていた速水だった。3人は生きている可能性が低いと思っていた速水が生きていたことに驚愕し、次の瞬間には歓喜の気持ちでいっぱいになった。


「よかった!!無事だったんですね?」


「心配してたんですよ、あれからどうしていたんですか!?」


杉坂と優希は喜んで速水に近寄って行こうとする。良輔も最初は喜んだものの何かひっかかるものがあった。速水が生きているということは死んだのは神河のはず、これで良輔達の敵対勢力がいなくなり、仲間が生きていたのだから本来は喜んでいいはずなのに…何がひっかかっているんだろう?速水が生きていて死んだのは神河、それじゃあ……


(それじゃあ神河を殺したのは……誰だ?)


自分達でないことは明白であり、侵入禁止エリアに避難しているはずの幸村親子がわざわざこの6階に上ってくるというのは考えにくい、もちろん神河が侵入禁止エリアに行けるはずはないので神河を殺した人間は残る1人の生存者である速水ということになる、しかし神河には速水を殺す動機があっただろうか?神河の性格からして絵札以外のプレイヤーを襲うとは考えにくい、そして速水さんのPDAは【10】であるし神河には【8】のプレイヤーにはまだ再会していないと嘘を言っているのだから神河ならjokerを使って速水さんのPDAを確認しようとしたんじゃないだろうか?


(いや、少し待てよ?そう、じゃない!?)


仮に一ノ瀬のPDAを速水さんが持っていたとして神河からPDAを奪い取ったとしても速水さんの手元にあるPDAは自分のPDAを含めても3台しかないはず、もし速水さんのPDAが【10】なら他の死亡者、首輪解除者のPDAを3台収集する必要のある速水さんの首輪が何故外れている!?


「ええ、みなさんも……」


速水は穏やかな笑みを浮かべながら懐に手を入れた。


ここに至ってようやく良輔は自分がどんな状況にいるのかがわかった。ここは戦闘禁止エリアであり、戦闘行為を行えば良輔達は首輪が作動して殺される、しかし首輪を外した速水には作動させるべき首輪がない。しかしこんな状況に追い込まれてしまったのも分からない話ではない、なぜならば……


「っ!?2人とも速水さんから離れろ!!」


良輔達には速水が敵(・)という認識だけはなかったのだから……




良輔の声に2人が足を止めた所で戦闘禁止エリアに太い銃声が響く。




「まだ生きていたんですね、残念です」


そういって速水はニッコリ笑いながら拳銃を良輔達に向かってむけた。その拳銃の銃口からは煙が出ており、優希と杉坂の手前の床に穴が空いている、3人の表情が驚愕に歪んだ。


「っ!?速水さん!!何故こんなことを!?」


「何故?それを君達に話す理由はありませんよ、いえ、話す意味がありませんね、だって君達はここで僕に殺されるんですから」


優希が信じられないといった表情で速水を見るがそれに対して速水は柔和な笑みを浮かべながらしかし冷ややかな目つきで事務的に答えた。


「嘘!!こんなの嘘よ!!」


「自分の見たいものに限って空想、自分の見たくないものに限って現実、世の中そんなものですよ、優希君」


いやいやするように首を横に振る優希に速水が諭すように呟いた。


「何でだよ!?俺達今まで一緒にやってきたじゃないか!?それなのに何で?」


「そんなに怒らないでください、ほら、ゲームとかでもよくあるでしょう?仲間だと思っていた人間が実はラスボスだったなんていう話、あれと同じですよ」


杉坂の言葉を速水が一蹴する。こうして自分達に銃を向けている速水がこれまで助け合い、このゲームからの生還を目指してきた仲間だと思いたくなかった。何か事情があるはずなのだと、そう考えたかったのだろう。





「速水、アンタがゲームマスターだったんだな?」





「っ!?何故?」


ここまで余裕の笑みを浮かべていた速水が良輔の言葉でその表情を一変させた。


「何故、俺がゲームマスターという言葉を知っているかということか?それなら神河から聞いたよ、このゲームには2人のゲームマスターという調整役(バランサー)がプレイヤーの中に紛れ込んでいるってこと」


「神河!?」


「赤いバンダナを巻いた長身の女性だ」


「そうか、あの人が……」


驚き、少し後に納得したように頷く速水。


「嘘でしょ?速水さんがゲームマスターだなんて」


「いや、これで全て合点がいく」


「どういうことだ?」


「2階でのトラップ、俺はあれが作為的に作動されたものだと思っていた、そして俺達が固まっていたことが都合の悪い人間、つまり水谷が作動させたものだと俺は思っていた」


しかしそれでは何故、水谷が美姫を仕留められなかったが納得がいかず良輔の中ではそれは保留となっていた。そしてここにきてようやく良輔は自分が考え違いをしていたことに気づいたのである。


「でもな、他にも俺達が固まっていることが不都合なやつがいたんだよ、そうだよな?速水」


「………」


「あの場所には5人の人間が固まっていた。そしてこれが一般人同士による殺し合いでゲームのショー(見せ物)だって言うなら調整役(バランサー)にとってこれだけ戦力が偏ることはあまり都合よくないだろ?」


「しかしそれでは僕がゲームマスターだという証明にはなりませんよ?あの場にいた6人全員に可能性があります」


「ああ、俺がアンタをゲームマスターだと思ったのはアンタの首輪が外れているのを見てからだからな」


「速水さんの首輪が外れていればどうして速水さんがゲームマスターだってわかるのよ」


「考えてみろよ、速水さんのPDAは【10】なんだろ?たとえ一ノ瀬と神河のPDAを持っていたとしてもPDAが1台足りない」


「あっ!?」


「そして俺達が行方をまったく知らないPDAは2台、最初に死んだ医者と1階が侵入禁止になると同時に死んだやつ、だが後者のほうは速水にはアリバイがある、つまり……」




「あの医者を殺してPDAを騙しとったのはアンタなんだろ?こんな馬鹿げたゲームは1人見せしめにして殺さなきゃ他の参加者がなかなか動かないからな」


良輔だって最初のころはまったくゲームを信じていなかった、このゲームが本物であると考えたのは飯田章吾の死が決め手だったのだから。


「僕が最初に死んだ男を殺した犯人?おかしなことを言いますね、もしかしたら神河さんが前の2人を殺していたかもしれませんよ?」


そしてそれを自分が回収した、その可能性だってあるじゃないかと速水が聞いてくる。しかしその可能性はない。


「アンタは知らないだろうが神河はjokerを使ってPDAナンバーの確認をしていた、そして俺達の知らない絵札は【K】だけ、神河が2人両方を殺していることは考えられない」


神河が良輔を殺さなかったのと同じように前の2人と遭遇していたとしても絵札でない限りは殺さなかっただろう。神河が殺すなら最高でもどちらか1人だ。


「また俺達は4階で幸村さんにPDA探知を見せてもらってる、その時は6階に1つだけだが光点が表示されていた。その光点がアンタだったなら神河はPDAを自分のものと片方のものしか持ってない、一ノ瀬のPDAがないならやっぱり2台でアンタの首輪は外せない」


そして速水が首輪を外しているのは飯田と一ノ瀬と神河のPDAを奪取して首輪を外したとしか考えられなかった。


「………」


速水はしばらく考え込むと不意にクスリと笑った。




「これは驚きましたね、僕はどうやら良輔君を甘く見過ぎていたようです。君の考えた通り僕が今回のゲームを管理している人間の1人、現在はゲームマスターとしての役割を持った人間です」


速水はこれ以上隠し通すのは無理と判断したのかあっさりと自分が犯人側の人間であることを認めた。


「現在?」


良輔は速水の言い方に奇妙なものを感じた、それではまるで昔は違ったみたいな言い方ではないか?


「ええ、もともと僕が担当していた仕事はスナップカメラマン、プレイヤーの生の姿を間近で撮影することでした、そして僕が君達に同行していたのは君達の映像と音声を記録するためでした」


速水はネクタイピンを触りながらそう答える。


「他のプレイヤーではなく俺達に同行していたのは何故だ?」


「そうですね、僕の撮影対象が優希君だったからです」


「私!?」


速水の言葉に優希が驚く、しかしそれも無理もない、こんな殺人ゲームの主要人物にされていたなど想像するだけで震える。


「ええ、君に割り当てられた条件である【J】は多くのプレイヤーの協力を必要とする。そして人数が集まればそれだけ裏切られる可能性が高くなる。優希君、あなたは今回のゲームの目玉プレイヤーなんですよ?」


「どういうこと?なんで私が!?」


「ショーを見に来たお客さんは君が絶望するところを見たかったからなんです、仲間だと思っていた人間がある人は死に、ある人は裏切る、君が信じている人間はとても脆くて、とても薄汚いものだと君は知り、少しずつ人を信じられなくなっていく、そして……」


「最後は君が一番信頼している良輔君に裏切られる、それが今回のゲームにおけるメインイベントの1つです」


速水がそう笑って良輔を見る。


「………」


良輔は自分の心が読み透かされている感覚に陥った。


「何を言っているの?良輔が私を裏切るなんてそんなはず………」


「優希君、君は知っていますか?条件が競合していて一見同時クリアが不可能に見える【5】と【J】ですがわずかに同時クリアの目が残されていることを……」


優希の言葉を遮るように速水がそう答える。


「えっ!?」


「【J】はゲームから71時間が経過してから首輪が外れます、そして6階が侵入禁止になるのは72時間が経過した時……」


「あっ!?」


「もう気づきましたよね?1時間だけあるんですよ、執行猶予期間(モラトリアム)が、そして頭の良い良輔君はそのことに気づいて優希君の首輪が外れた後に生存者を5人まで減らすつもりだった、可笑しいでしょ?笑いたくなったでしょう?君の大好きな良輔君は人を殺す気満々の殺人鬼なんですよ?フフッ、クックック、アハハハ♪」


優希の蒼白に染まった表情を見ながら楽しそうに速水が笑う。


「嘘?嘘だよね?良輔が人を殺すつもりだったなんて嘘だよね!?速水さんが適当なことを言ってるんだよね?」


「………」


良輔は泣きながら訴える優希に返す言葉がなかった、確かに良輔は優希を害する気持ちはなかったかもしれない、しかし良輔は確かに御剣優希という人間を裏切っていた。その理想を尊いと想いながらも良輔は自分と優希のゲームクリアしか考えていなかったのだから。




「ねえ、答えて?答えてよ良輔!!お願いだから……嘘だって言ってよ」


「優希……俺は、ごめん」




結局良輔も幸村に近い人間だった、自分の大切な人を守るために他人を犠牲にすることを厭わない、いや、こんな言い方は幸村に対して失礼だろう、幸村は自分の命のために人を殺す気はなかった。美姫の条件がもっと平和に解決できるものならそっちの道を模索したはずだ、良輔が人を殺す決意をしていたのはただ我が身かわいさという理由だけ、優希の傍から離れたくなかったという理由だけ、なぜなら幸村と違って大切な人(優希)を守るために殺人など良輔には必要なかったはずなのに……




「……良輔、ここで私と約束して」


優希は涙を拭うと良輔にそう伝える。


「や、くそく?」


「人殺しにならないで、私は良輔を人殺しになんてさせたくないの!!」


「………」


優希に即答できない自分が悔しかった、ここまで来て自分はまだ命が惜しいらしい。


「もし、どうしても良輔が人を殺すというなら……」










『そのときは、私を殺して?』










「優希、お前は何を言って……?」


「私が死んで、良輔が帰れるなら私はそれでもいいよ?」


「いやだ、俺は絶対そんなことしないからな!!」


それでも良輔にとって1番大切なことが優希の生還にあることは変わらない、自分のゲームクリアのために優希が死んでしまっては意味がないのだ。


「それじゃあ、私と約束してくれる?人殺しにはならないって約束してくれる?」


「っ!?わかった、約束する……」


良輔にはそう答えるしかなかった。


「ありがとう、良輔、こんな私を信じてくれて……良輔は必ず私が生きて帰して見せるから……」


優希は良輔の手を自分の手で包み込むように握る、その手は小さいながらもとても暖かくて、自分がこんな手を持っている人間を裏切っていたことに罪悪感が湧き上がってきた。


「何で?何でまだ俺を信じてくれる?俺は、俺はお前を、優希を裏切ったのに……」


その言葉を聞いて良輔の目から涙が零れ始める。優希はまだ、自分を見捨ててくれないらしい。


「……それでも良輔がまだ私を信じてくれるから、だから私も、良輔を……信じるよ?」


優しく微笑む優希の姿に良輔は今更ながらに呆れる思いだった、しかしそれでも不思議と悪い心地はしない、そんなことを感じる自分が可笑しくて笑みが零れた。


「……ぷっ、クク、優希、お前はいつもそうだな、そうやっていつも俺を信じてくれる、俺はこんなに薄汚い人間なのに……お前は、お前は眩しすぎるよ、見ていて自分という人間に嫌気が射すほどに」


良輔はそうして床に膝をついた、きっと優希との勝負は良輔の完敗に終わったのだろう。


「さて、他に何か質問はありますか?」


速水は内心、優希がもっと取り乱してくれると思っていただけに面白くなかった。ついしゃべりかたが味気ないものになる。


「なぜ、あなたはこんな解説じみた真似をするの?」


「ゲームマスターにもいくつか規則がありましてね、正体がバレるとタネ明かしをする義務があるんですよ、可笑しいとは思いませんか?マジックはタネが分からないから面白いのに……」


「もう1人の……今回のゲームで本来ならゲームマスターをするはずだった人間はどうしたの?」


「さあ?それは僕も知りませんが今回のゲームでゲームマスターをするはずだった人間がなぜか業務を放棄しましてね」


「業務放棄?」


「だから僕に聞かれても知りませんよ、どっかでヘマでもして死んだんじゃないですかね?それで僕がゲームマスターも兼任することになって……」


「2階のトラップを使って私達を分断させたわけね」


「察しがよくて助かります、もっとも本来は僕が1人になる予定だったんですがいきなり一ノ瀬君が叫ぶものだから手を滑らせてしまいましてね」


「ジョーを殺したのもあなたなの?」


「ええ、後ろから拳銃でズドンっと……あの時の一ノ瀬君の驚いた顔、あなたたちにも見せてあげたかったなあ」


黒い笑みを浮かべながら速水はそう言い放つ。


「あなたは何とも思わないの!?ジョーはあなたにだってよく懐いていたのに……」


「ひどいなあ、それじゃあ僕がまるで人非人みたいじゃないですか?僕も一ノ瀬君を殺した時は涙が止まりませんでしたよ、そういえばあの時は何故かお腹も痛かったですね、フフッ、ウフフッ♪」


「下種が……」


腹を抱えながらクスクスと笑う速水に杉坂が唾を吐き棄てる。


「さて、それではおしゃべりの時間はそろそろ終わりにしましょうか?ああ、逃げようとしても無駄ですよ?この部屋の扉には鍵をしましたので扉を開ける前に撃ち殺します、君達は少しばかり知りすぎました、僕がゲームマスターだということに気がつかなければここで死ぬこともなかったかもしれないのに」


「私達があなたの正体に気がつかなければ死ななかった?」


「まあ、ゲームマスターの規則みたいなものだと思ってくれれば構いませんよ、安心してください、せめてもの情けにあまり痛くないように殺しますから……お客さんを笑わせるような死に方をしてくださいね?」


速水が銃を構えて良輔達に銃口を向ける。このままでは殺される、反撃すれば首輪が作動して逃げようにもこの部屋は封鎖され、完全に速水に掌握されていた。どうにもできないと良輔も杉坂も諦めていた。自分たちはここで死ぬ……仲間だと思っていた速水の裏切りによって、死ぬのだ。


(裏切り者にはふさわしい末路かもしれないな……)


自分が優希の気持ちを裏切ったからこんな結末を迎えて当然だと良輔は思っていた。


しかし











『ちょっと待ってもらえますか?』










優希が速水に待ったをかける。


「何ですか?命乞いなら聞いてあげてもいいですよ、そのほうが観客のみなさんも喜ぶと思いますから」


速水がカメラを隠してあるのか被っていたシルクハットを優希に向ける。


「そこで見ているあなたたちに提案があります」


しかし優希が次に発する言葉は速水の想像を大きく超えるものだった。















『私とゲーム、しませんか?』

















[22742] 25話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/10/26 05:56
【BET】
player suit card odds
北条良輔 ダイヤ 5 close
御剣優希 ハート J close
??????? ???? ? Death
柊桜 ???? ? Death
西野美姫 クラブ 3 close
神河神無 ???? ? close
??????? ???? ? Death
杉坂友哉 スペード Q close
一ノ瀬丈 クラブ 8 Death
速水瞬 スペード 10 close
幸村光太郎 ダイヤ 4 close
飯田章吾 ???? ? Death
水谷祐二 ???? ? Death
Day 4日目
Real Time 午前 2:15
Game Time経過時間 64:15
Limit Time 残り時間 8:45
Flour 6階
Prohibition Area 5階
Player 6/13





『私とゲーム、しませんか?』


優希の声が戦闘禁止エリアに響き渡る。


その場にいた全員が速水ですら例外なく優希に驚愕の視線を向けた。


「ええ、私が話をしているのはそこで見ているあなた達です、ゲームマスターが戦闘禁止エリアで抵抗もできない私達を何の演出もなく殺す、こんな展開つまらないと思いませんか?もっと面白い、例えばゲームマスター対プレイヤーの熱闘という心躍るような熱い展開を見てみたいと思いませんか?」


「君は何を言って?」


速水がそう呟くが優希はかまわずしゃべり続ける。


「もっとこのゲームにエキサイティングな展開を望む人がいるなら私のPDAを1回鳴らしてください、えっ?鳴らし方が分からない?安心してください、そこら辺にいる関係者の人に聞けばすぐ分かりますから」


ピロリン、ピロリン


優希が言い終わらないうちに優希のPDAからけたたましいBGMが鳴り響きPDAの画面に3階で良輔も見たゴスロリ服を着たジャックオーランタンのエミリーが歩いてくる。


そしてエミリーの声はPDAからだけでなく良輔達のいる部屋のスピーカーからも流れ始めた。同じように部屋にあったモニターにひとりでに電源が入り、そこにもエミリーの姿が映し出された。


『こ~んにちわ~、私は~ジャックオーランタンの~エミリーだよ~初めまして~良輔君はひさしぶりだったかな~?』


「それで話を進めるけど……」


『ちょっと~私を無視して話を先に進めないでください~もう~ぷんぷ~んですう~』


「私はあなたと話なんてしてないわ、呼んでもいないのにいきなり出てきて勝手なことを言わないでくれる?それであなたたちが乗り気なら私のPDAを1回鳴らして欲しいのよ」


ピロリン、ピロリン


優希はPDAから鳴った電子音を聞いて笑みを浮かべる。


『わかったよ~話を聞くから私の頭越しにお客さんとしゃべらないで~もう、こっちの迷惑も少しは考えてください~もう~会場大騒ぎですよ~』


「それをアンタたちが言う?私達の迷惑なんて考えてないでしょ?」


『細かいことを気にするとお肌によくないよ~~?』


「アンタのは肌じゃなくて皮じゃない?」


『うっ』


「さて、まずゲームを始めるためには私達をここから出してくれなきゃできないわ、ゲームを受けるなら当たり前よね?」


ブゥゥゥンブゥゥゥン


その時、速水の持っていたPDAが振動を始めた、速水が驚いてPDAを覗く。


「チッ、正気ですか?」


速水が忌々しげに呟く、そのままPDAを操作するとカチャリという音と共に良輔達の扉が開いた。


「それじゃあゲームの説明をするわね、今の生存者は6人、そして私達の全員が生還するためにはどうしても条件を満たさなくても首輪を外す手段がいる」


『でも~条件を満たさなくても首輪が外せるならゲームが成り立たなくなっちゃうよ~』


「もちろんただでなんて言わないわ、その手段をこの6階に隠して欲しいの、そして私達はその手段を探し、速水さんはそれを妨害する」


『なるほど~つまり~簡単に言えば命がけの宝探しゲームってわけだね~?』


「そういうこと、どう?面白そうでしょう?あなた達は私達と速水さんのどちらが勝つのか賭けることができて、私たちは誰を殺さずとも全員で帰れる手段を手にできる」


『そうだね~お客さんも乗り気満々みたいだから私達は受けてもいいよ~詳細はこっちで煮詰めてから連絡するね~首輪を外すための手段も用意してあげる~えっと6階が侵入禁止になるまで後7時間だから~多分1時間後にはゲームが始められると思うの~』


「わかったわ、それじゃあ1時間後にゲームスタートとしましょう」


『どうやらワタシ達は優希ちゃんのことをみくびってたみたいです~とんでもなくクレイジーな子だったのね~』


「それをアンタたちに言われたくないわ」


『ふふ、今回は優希ちゃんのゲームに乗ってあげる~でも~この長いゲームの歴史でも、ワタシ達にエクストラゲームを提案してきたのは優希ちゃんがはじめてだよ~~ま、こんなことがあるからゲームはやめられないんだけどね~』


そしてエミリーは画面の中から立ち去りかけたが、画面の端で立ち止まり優希の方を見る。


『そこで提案なんだけど~これが済んだらうちに就職しない?優希ちゃんみたいなエンターティナーが仲間になってくれるととても嬉しいんだけどな~』


「それはぞっとしないわね」


死んでもごめんとでも言いたげに優希が表情を歪める。


『そっか~もったいないな~』


「そんなにすごい額が動いているの?」


『そうだね~今年1番かな?』


「ま、私達の勝ちを祈っときなさいよ」


『そうするね~、それじゃあまた♪』


そしてエミリーは画面から姿を消し、モニターの電源も切れる。BGMを流していたスピーカーも沈黙した。


「ふぅ~緊張した~」


優希は息を吐きながら呟いた、その額には冷や汗が浮かんでいる。良輔はすぐに優希のもとに駆け寄った。


「優希!?なんて無茶するんだよ?」


「へへ、約束……したでしょ?」


「約束?」


「ほら、首輪の条件を満たさなくても私が首輪を外す方法を見つけてあげるって約束よ、どう?私を信じてよかったでしょ?キャッ!?」


胸を張って笑う優希を見て思わず良輔は優希を抱きしめた。


「ああ、お前は本当に最高の女だ」


「こ、こら、馬鹿良輔!?ば、場所をわきまえなさいよ!!」


「あ、す、すまん、つい……」


「べ、別に嫌っていうわけじゃないんだけどさ……どうせだったらもっと人気のないところでとか、もっとこうムードみたいなのが大切なわけで……」


顔を赤らめる2人を尻目にゴホンゴホンとわざとらしく咳を払う杉坂、その目は速水を見ている。杉坂がそんなことやってる場合じゃないだろうと言っているのが2人には聞かなくてもわかった。


「相変わらずなんですね、あなたたちは……」


速水がそれを見ながら苦笑する。その姿は出会った時と同じような速水の姿だった。


「速水さん、私たちは解りあうことができなかったんですか?こんな争わなくても理解し合うことだってできたんじゃないですか?」


「いえ、それはきっと出来なかったでしょうね」


「何故!?」


「優希君、君は言いましたね?自分は全てのものを救いたいと、でもね、そんなのは僕から見ればやっぱりただのわがままです。人間という生き物は自分の全てを賭けても大切な人を1人さえ守れないことのほうが多いと思いますよ、だからこそ……僕は君の言っていることが理解できません」


「そんなものはやってみなきゃわからないわ!!あなたはそんな言い訳をして諦めている自分を正当化しようとしているんじゃないの!?だったら……」


優希が言い終わる前にバンッと銃声が響く、それは良輔達の足元に向けて撃たれたものだった。


「ふふ、僕が良輔君を殺したら君がどんな顔をするのか、少し楽しみになってきましたよ」


鬼のような形相で優希を睨む速水、しかしすぐにバツの悪い表情を浮かべると良輔達に背中を向けた。


「そろそろ逃げたらどうですか?安心してください、命令ですからね、殺したりはしませんよ」


「優希、行こう」


「でも……」


「北条の言うとおりだ、俺達も準備する必要がある」


「………」


そして3人は静かに戦闘禁止エリアから退出した。










――――――――――――――――
――――――――
――――
――










「やれやれ、今回はうまく優希君にしてやられましたね」


パチッとライブカメラを切ると速水は良輔達の出て行った扉を見ながらふぅと溜息をつきながらぼやく。


「実のところは良輔君達を殺すつもりはなかったんですけどね」


そう、速水はこの戦闘禁止エリアで良輔達を襲うだけで実際に良輔達を殺害する気はまったくなかったのである。なぜなら優希の言うとおりここで首輪を外している速水が何の理由もなくプレイヤーを殺害することは明らかに客受けが悪い、良輔達を殺害することで新たな展開が生まれるならともかくではあるがそれさえもないのだから、最初から速水は適当に理由をつけて良輔達を逃がすつもりだった。


「僕がゲームマスターであることに気づかなければ良輔君と優希君は一緒に帰れたかもしれなかったのに……」


速水が懸念していたのは優希の首輪が外れた後に良輔が自分を殺しに来ることだった。だから首輪の外れた状態で良輔達が反撃できない戦闘禁止エリアで良輔達を襲った、そしてこの事実こそが大切だったのである。首輪が外れて戦闘禁止エリアにいる速水がターゲットから外れたことで良輔は優希の首輪が外れた時点で消去法的に杉坂と敵対してくれるはずだった。ラストは今まで協力してきた者同士が争うというのが速水のプランだったのである。そのために生存者を6人に調整するのに速水はずいぶん苦労した。


「そういう意味では一ノ瀬君には悪いことをしました……」


調整役である速水には良輔達4人が合流してしまうのは戦力が偏りすぎているという認識はあった。サブマスターのままならそれを妨害する必要はなかったのであるが速水にゲームマスターの業務を兼任するにあたってそうも言っていられず良輔達を分断した、更に運の悪いことに自分が1人になるはずだったのにミスって一ノ瀬と一緒になってしまった、しばらくはそのまま行動していたのだがゲームマスター不在でゲームをしているために不都合が出ない内に運営の都合上で一ノ瀬を殺害した。


「最後は目の前で仲間だった杉坂君を良輔君が殺したことで優希君が良輔君を信じられなくなって争ってくれれば最高だったんですが……流石にそこまでは望めませんかね?」


それでも最後は仲間同士によるドロドロの仲間割れ、ゲームを見に来る客が泣いて喜ぶ展開だ、しかし実際は優希のせいでそれ以上の展開になってしまっている。


「プレイヤーの考えたエクストラゲームですか……今頃、会場では大騒ぎになっているんでしょうね?」


それを速水が知る必要もないが何となく想像はついた。


「優希君のせいで余計な仕事を増やされましたね、まったく今回のゲームにはただでさえイレギュラーが続出していたというのに……今回の仕事は少しハード過ぎます」


せめてゲームマスターがしっかり仕事をしてくれれば少しは楽ができたのにと思うと残念な気持ちだった。視線を良輔達の出て行った扉に向けると速水は最後に優希が言っていた言葉を思い出した。


「言い訳にして諦めている……ですか、ふふ、大切な人間1人守れなかった僕に一体何を期待してるんですかね?」


速水は自嘲の笑みを浮かべるとふと苦いコーヒーが飲みたくなったのでキッチンへと向かった、インスタントのコーヒーくらいは置いてあるだろう。エクストラゲームが始まるまでに時間があるので少し寛ぐことにした。









[22742] 26話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/10/26 06:10
【BET】
player suit card odds
北条良輔 ダイヤ 5 close
御剣優希 ハート J close
??????? ???? ? Death
柊桜 ???? ? Death
西野美姫 クラブ 3 close
神河神無 ???? ? close
??????? ???? ? Death
杉坂友哉 スペード Q close
一ノ瀬丈 クラブ 8 Death
速水瞬 スペード 10 close
幸村光太郎 ダイヤ 4 close
飯田章吾 ???? ? Death
水谷祐二 ???? ? Death
Day 4日目
Real Time 午前 2:55
Game Time経過時間 64:55
Limit Time 残り時間 8:05
Flour 6階
Prohibition Area 5階
Player 6/13





良輔達は戦闘禁止エリアから出た後、少し離れたところにある小部屋に移動していた。戦闘禁止エリアに行かなかったのはそこがもはや危険地帯以外の何物でもないからである。さっきは優希の機転で辛くも逃れられたが次は無理だろう。良輔達はその部屋で休息を取りながら武器の確認をしていた。


「さて、武器の確認はこんなもんか」


杉坂は拳銃に弾が入っているのを念入りに確認するとそれを木箱の上に置いた。


「なあ、杉坂さんは何故、俺に何も言わないんだ?」


「あん?」


不意に良輔が発した言葉に杉坂が聞き返す。


「速水のやつが言ってただろ?俺は……」


「ああ、俺を殺すことになってたかもしれないって話だろ?」


「………」


「じゃあ聞くが良輔、今もまだ俺を殺す気でいるのか?」


「いや、もうそんな気はない」


良輔にはそんなことをする必要はもうなくなっていた。優希が見つけてきた条件を満たさなくても首輪を外せる方法が提示されるのだからもう杉坂を裏切る理由が良輔にはない。


「だろうな、御剣のおかげで誰かを殺さなくてもお前の首輪を外せる目途がついたんだ、だったら俺達が争うことに何の意味がある?まあ、お前が無差別に殺人するようなやつなら流石に逃げるがな」


笑って冗談のように話す杉坂。その態度が逆に良輔の罪悪感を増幅させた。


「それじゃ、俺の気が済まないんだよ」


「はあ、じゃあどうしたいっていうんだよ?」


杉坂が呆れたようにそう問いかけてきた。


「これを」


「ん?これってお前のPDAだよな、これを俺にどうしろっていうんだ?」


「今度俺が裏切ると思ったときはそれを壊してくれ」


それは2階の戦闘禁止エリアで行った行為と同じだが今回の良輔はそこに黒い考えは一切含まれていなかった。


「だったら俺が持ってる必要ないだろ?」


「頼む、これは俺なりのケジメなんだ、優希や杉坂さんを裏切ろうとした俺の……」


「はあ、わかったよ、そこまでいうならこれはお前の誠意ってことで預かっといてやる」


埒があかないと感じたのか渋々杉坂はその【5】と表示されたPDAを受け取る。


「ありがとう、そして済まなかった」


「よせよ、柄でもない」


杉坂は手のひらを振ると笑って良輔にそう答える。


「それじゃあ話も済んだし、エクストラゲームが始まるまでゆっくりしましょうか?その間は速水さんも襲ってこないでしょうし」


「そうだな」


優希の提案に良輔が頷く。


「その前にちょっといいか?」


杉坂が不意に手を挙げた。


「ん?なんだよ、突然」


「いや、お前じゃなくて御剣に話がある」


「え?私?」


「ああ、ここでは話せない内容でな、ちょっと御剣を借りてくぞ」


「え?ちょ、ちょっと!?」


そういって杉坂は優希を連れて部屋の外まで出て行った。


「何だったんだ、一体?」


1人部屋に取り残された良輔はポツリと呟いた。










――――――――――――――――
――――――――
――――
――











そうして杉坂と優希は部屋の外に来ていた。


「あの、それで話って?」


優希が訝しがるように杉坂を見る。


「御剣、お前はこのままでいいのか?」


「えと、何が?」


杉坂は優希の返答を聞いてはあ~っと溜息をつく。


「北条のことだ、まだ自分の気持ちを伝えてないんだろう?」


「っ!?そ、それは、そうなんですけど……」


指を顔の前でつんつんしながらもじもじする。


「伝えられるのも今の内だけかもしれないぞ」


「えっ?それってどういうこと?」


杉坂の言葉に優希が聞き返す。


「もう、ゲームは大詰め、最終局面だ、御剣の機転で3人同時クリアの目が出てきたがそれはあくまで勝てたらという話、負けないという保証はない」


「そ、それは……」


優希もそのことはよく自覚していた。もし良輔が死んでしまったら、あるいは自分が死んでしまったら長年温めてきたこの自分の気持ちは良輔に伝わることもなく終わってしまう。


「もう一度だけ聞くぞ?御剣、お前はそれでいいのか?」


杉坂がいつになく真剣な目でそう問いかける。


「私は、私だってそんなの嫌よ!!でもどうすればいいか分からないの、もし駄目だったら……良輔はもう私に笑いかけてくれなくなる、そんなの、そんなの私には耐えられない!!それだったらまだこの関係を続けてたほうが……」


首を横に振る優希、もし良輔との関係が壊れてしまったら自分はどうすればいいのだろう?そう考えると怖くて仕方なかった。


「そんなことを言っているなら例え生きて帰ったとしてもお前と北条は結ばれないだろうな、そしていつかは離れ離れになる」


「………」


「行ってこいよ、好きなら、ずっと傍に居続けたいと願うほどの相手だからこそ、自分の気持ちを伝えないでどうする?」


杉坂の言葉が優希の胸に深く突き刺さる。思い出すのはこれまで良輔と過ごした日々、それはとても幸せな日々で自分の傍にはいつも良輔が居てくれた、少し前までそれが当たり前のように感じていたのに今ではそれがとても尊いものだったことがわかる。ずっと良輔と一緒に居たいと思う自分の気持ちは間違いないものだと確信する。


(なんだ、こんな簡単なことだったのね)


今まで自分は何もしなくても良輔が傍に居てくれるものだと無意識の内に、思い込んでいた、それほどまでに良輔が自分の隣に居てくれることが自然だったから……でもこのままじゃいけない、それでは何も変わらない、いつか良輔も自分の傍から離れていって最後は自分が1人ぼっちになってしまう。


(一緒に居るってことはただ突っ立っていることじゃない、本当に一緒に居たいなら私も良輔の傍を一緒に走らなきゃいけなかったんだ)


伝えよう、自分の想いを、本当は怖いけどこのまま何もせずに、自分の気持ちさえ良輔に伝えられないまま終わるなんて絶対に嫌だから……


覚悟を決めた優希は俯むいていた顔を上げて杉坂にしっかり頷いて見せた。


「それでいい、安心しろ、見張りは俺がやっといてやる」


「はい、ありがとうございます……ちょっと、行ってきますね?」


「ああ、もう1つ言い忘れてた」


部屋に戻ろうとする優希を杉坂はそういって引き止める。


「がんばれよ?後悔しないようにな?」


「はい!!」


優希は杉坂に頷き返すと良輔の待つ部屋に入って行った。










――――――――――――――――
――――――――
――――
――











部屋に戻って来ると良輔が壁に背を預けながら立っていた。


「あれ?杉坂さんは?」


「あ、うん、部屋の外で見張りするからゆっくり休めって」


「そうか……」


良輔は優希の様子がどこかおかしいことに訝しがっていた。


「なあ、俺の顔になんかついてるか?」


「え?別についてないけど……」


「そうか?いや、なんか凝視されてるみたいだからどうしたのかなって」


「へっ!?」


自分が無意識にそんなことをしていたのかと思うと恥ずかしかった、このままでは良輔に怪しまれてしまうと気合を入れ直す。


「あ、あのさ、良輔に話があるんだけど」


「どうした?そんな改まって?」


「い、いいから聞きなさい!!」


「あ、ああ、それで話って?」


いきなり大声を出す優希に少し驚く良輔。


「う、うん、あ、あのね……」


「何だ?」


「え、え~と……」


(こ、こんなときってどうやって切り出せばいいのよ!?)


あまりの経験値のなさに愕然とする、いざ想いを伝えようと思ってもそれをどう表現すればいいのかわからなかった。長い沈黙の末に優希は精一杯考えた言葉を良輔に投げかける。


「わ、私って良輔の何かな!?」


「幼馴染だろ?」


撃沈


「あう、そうなんだけど、そうじゃなくってさ」


「あん?」


優希も自分で何を言っているのかわからなくなってきた。しかしここまで来たらもう行くしかないのだ。


「良輔にとって私って幼馴染っていうだけ?私を女として見てくれたことって1度もない?」


それは優希が今までずっと考えてきた不安の塊のようなものだった。しかしこれまで答えを聞く怖さからずっと優希自身の胸にしまっていたもの。


「………」


良輔は言葉に詰まる、それは良輔が今までずっと考えてきた欲望の塊のようなものだった。しかしこれまで自分が優希に釣り合わないと考えてずっと良輔自身の胸にしまっていたもの。


良輔が言葉に詰まっている間に優希がいっきに距離を詰めて良輔の胸に抱きつくように自分の体を投げ出す。


「えっ?優希?」


良輔の腕の中には顔を真っ赤に染め上げた優希がいる。優希の髪から出るいいにおいが良輔の鼻をついた。


「私は、私は良輔のことずっと幼馴染以上に考えてた、ずっと昔から好き、大好きだったの!!お願い、良輔の気持ちを私に教えて?」


やっと言えた自分の気持ち、優希は清々しい気持ちと良輔がどう答えてくれるのかという期待と不安が入り混じった表情を浮かべる。


「俺も、俺も優希のことずっと大切だった、ずっと昔から好きで、でも俺なんかでもいいのか?俺は優希に似合うような男じゃ……」


良輔が言い終わる前に唇を優希に奪われる。チュっと浅い水音が聞こえるがすぐに優希は唇を離す。


「嬉しい、私なんかのことずっと好きでいてくれたなんて嬉しいよ良輔っ」


そしてすぐにキスを再開する。今度は良輔も押し返す。


「んんっ、ちゅ、ん、ふ、んう、は」


求め合うように唇をすり合わせ、隙間から舌が伸び、どちらから絡み合った。抱きしめる腕に力が入り、お互いの身体を密着させる。


「ふ、んんっ、はあ」


息を継ぐと2人の間に透明な糸がかかった。


「私、良輔のこと大好き、だから、私と付き合ってくれますか?」


「ああ、俺も優希のことが好きだから……」


「よかった、夢みたいだよ、良輔……」

そして2人はまた口づけを交わしていった……


――――――――――――――――
――――――――
――――
――











杉坂は部屋の外でずっと禁煙していた煙草を久しぶりに吸っていた。


「やれやれ、世話の焼ける、御剣はうまくいったかな?」


ふーっと白い煙を吐き出す。


「ったく他人の背中を押すのは俺の主義じゃないんだけどな、どんだけ初心なんだか、見てられないっつの」


ふーっとまら煙草の煙を吐き出す。それにしてもやはり煙草はうまい、健康に気をつかってずっと吸っていなかったがもしもの時に懐に潜ませておいて正解だった。こんなときくらいは健康に気を使わず思いっきり煙草を味わいたいものだ。


「まっ、北条が御剣の誘いを断るとは思えんがな」


とりあえず後で出来立てホヤホヤのカップルをからかってやるとするか、そんなことを考えながら杉坂はお気に入りの煙草をふかしていく。










――――――――――――――――
――――――――
――――
――











「これで私達って恋人になれたんだよね?」


「ああ、優希はもう俺の彼女だ、こんな日が来るなんて夢みたいだよ」


良輔はそういって優希を抱きしめる。


「くすぐったいよ良輔、私はようやく念願が叶ったって気分なんだけどね」


「帰ったら総一さんと麗佳さんにちゃんと話さなきゃな、驚くぞ2人とも」


「そうね、きっとびっくりするわ」


どんな顔するんだろうなあの2人。考えただけでも可笑しかった。


ピロリン、ピロリン


突然、PDAが鳴り始める。


『やっほ~、私はジャックオーランタンのエミリー、また会ったね~~』


「ゲームの内容が決まったの?」


『うん、良輔君の首輪を外す手段もバッチリ準備したよ~、それで優希ちゃん達にやってもらうゲームはこれ~!!』


「探して見つけて宝探し(トレジャー)ゲーム?」


良輔がPDAに表示された文字を読む。


『うん~、ルールは簡単だよ~、今、この場にあるPDAには全てこの光点が表示されているんだ~』


エミリーの言うとおりこの6階に光点がいくつも表示されていた。


『この光点の中に1つだけ当たりがあってその場所には良輔君の首輪を外すツールボックスが置いてある、優希ちゃん達が6時間の間にそれを見つければ優希ちゃん達の勝ち、それまでに速水っちが先に見つけるかあるいは全員が殺されたりしたら優希ちゃん達の負け、簡単でしょう?』


「良輔の首輪を外す手段っていうのはどういうものなの?」


『普通のツールボックスだよ~?Tool:collar/releaseって表記になってるからすぐわかると思うよ、あ、それとこれは良輔君のPDA以外に使わないでね』


「どういうことよ?」


『これって特注品だから全部のPDAに対応してないの~急いで作ったものだから他のPDAに入れたら故障しちゃうから気をつけてね~?』


「わかったわ、他には何かある?」


『そうだね~他にはこの表示されている点にはブービートラップなんかも仕掛けた箱があるから気をつけてね~っていうくらいかな~?』


なるほどと良輔は思う。確かに無条件で首輪を外す手段を提供するという無理を押しただけにかなり高い難易度だ、敵に追われながら罠かもしれない箱を開けていくまさに命がけの宝探し。


「そのブービートラップっていうのはどんな種類のものがあるの?」


『それは開けてからのお楽しみってやつじゃないかな~?開始は今から1分後、午前4時ちょうどだよ~健闘を期待してるね~バイバ~イ』


そういってエミリーはそのまま画面から姿を消した。


「いよいよね」


「ああ、荷物を纏めて出発しよう」


良輔と優希は杉坂の分の荷物も持つと手を繋ぎながらその部屋から退出した。


その姿を杉坂にひやかされたのは余談である。





[22742] 27話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/10/26 06:14
【BET】
player suit card odds
北条良輔 ダイヤ 5 close
御剣優希 ハート J close
??????? ???? ? Death
柊桜 ???? ? Death
西野美姫 クラブ 3 close
神河神無 ???? ? close
??????? ???? ? Death
杉坂友哉 スペード Q close
一ノ瀬丈 クラブ 8 Death
速水瞬 スペード 10 close
幸村光太郎 ダイヤ 4 close
飯田章吾 ???? ? Death
水谷祐二 ???? ? Death
Day 4日目
Real Time 午前 4:15
Game Time経過時間 66:15
Limit Time 残り時間 6:45
Flour 6階
Prohibition Area 5階
Player 6/13





エクストラゲームが始まった後、良輔達は50近くある光点の内、自分たちに一番近い光点のある場所に来ていた。


「さて、これがエミリーの言っていた箱のことか……」


良輔は目の前に置かれている木箱を見る。


「開けるときは気をつけて開けなくちゃね、エミリーが言うにはブービートラップを仕掛けた箱もあるらしいから」


「何か安全に開ける方法とかないか?」


「紐みたいなものがあればそれを蓋に結び付けて開けられるかもしれんが……」


良輔はそういうがそんな都合よく紐などないしあったとしても紐を結びつけて開けるほど時間に余裕があるわけではない。時間があっても速水の存在を考えると有効かどうかも考え物だ。


「結局のところ警戒しながら開けるしかないわけだな」


溜息をつきながら杉坂がぼやく、確かにこれではただ開けていくのとほとんど変わらない、杉坂がぼやくのも仕方のないことだろう。


「やれることをするしかないか……俺が開けるから北条は部屋の全体を見渡して何か異常がないか見ていてくれ、御剣は速水が近づいて来ないか警戒してもし来たら俺達に知らせてくれ、何か異論はあるか?」


「箱を開けるやつが一番危ないぞ?俺が代わろうか?」


「おいおい、この中で俺が一番年上なんだぞ?ガキに任せられるかよ」


「ガキって2つしか違わないだろ?」


「お前ら18歳、俺は20歳、この違いがわかるか?」


「成人してるかしてないかってことかしら?」


杉坂に優希が答える。それに対してチッチッチ、わかってないなあとでも言いたげに指を振る。


「大人の階段を登った年期の違いって話だ、ここは成熟した大人の俺に任せておけ」


「まあ、そこまで言うなら任せた」


「ほら、さっさと開けるぞ?配置についてくれ」


杉坂の言葉で良輔と優希は木箱から離れて部屋の入口に立つ。


「よし、開けるぞ」


杉坂が慎重に蓋をつかみ、外すと同時に体を床に投げ出す。箱を開けた時に爆発ぐらいするのではないかと思っていたが予想に反してビヨーンとバネが伸びる音を立てておもちゃのロボットみたいな小柄の人形が飛び出してきた。


「なんだこれ?」


床に転がったまま思わず気を抜く杉坂だったがすぐにそれが誤りだったことに気づく、次の瞬間にはロボットの口がガシャッと音を立てて開き、そこから銃口が飛び出していた。高い機械音が鳴るとロボット人形の目が動き始める。


「ちっ!?そのまま伏せていてくれ!!」


危険を感じた良輔はサブマシンガンをロボット人形に向けて引き金を引く、連続した銃声が響きサブマシンガンから発射された銃弾はロボット人形と木箱を大雑把に打ち抜いていった。ロボット人形はバラバラに分解され、構成していたパーツをばら撒きながら床に転がる。


「なんだったんだ今の?」


「恐らく箱を開けたやつを攻撃するように仕組まれていたトラップなんだろうな、他の箱もこんな仕掛けがあるのかと思うと先が思いやられる」


良輔の銃撃が終わり、ロボット人形が完全に破壊されて動かなくなると埃を払いながら立ち上がる杉坂に良輔はそう答える。


「さて、さっさと次に行こう、速水の動きも気になるし何より時間がない」


「ええ、わかってる」


「こりゃ、ハードなラストバトルになりそうだな、おい」


良輔に対して2人が頷くと次の光点を目指して移動を開始した。それから良輔達は5つの光点を調べたが何も仕掛けられていなかったのはその内2つで他の3つは箱を開けたときにナイフが飛び出して来たり火炎放射器が噴出されるようになっていたりと仕掛けが仕組まれたものだった。一番やばかったのは4つ目の箱で開ける時に優希が何か箱にぶつければ仕掛けが発動してくれるかもしれないと考えて手持ちにあった鉄製のコップを箱に投げつけたところ当たった瞬間に中から鋭い針が何本も飛び出して木箱がウニみたいになったときは肝を冷やした、もし最初に引き当てたのがこの箱だったら杉坂は重傷を負っていただろう。


「っ!?良輔、杉坂さん、速水さんが来たわ!!」


更にやっかいなことに7個目の箱を探しに行くときにいよいよ速水の妨害が始まった。


「さあ!!僕と遊びましょうか?」


速水はサブマシンガンを適当に連射しながら追いかけてくる。


「ちっ、速水のやつ遊んでやがる」


杉坂の言うとおり速水はわざと良輔達に当たらないように加減しながら追ってくるのだ、お前達などいつでも仕留められるとでも言わんばかりの余裕だった、いや、もしかしたらこのまま簡単に終わらせてしまっては観客受けが悪いと考えてのことなのかもしれないが……


「間違って速水を撃たないように牽制しながら探すぞ!!」


しかし生存者が6名であり、首輪を外す手段も良輔限定のものであるために良輔達は速水を殺すわけにもいかないのがイライラを増幅させた、もし速水を間違って殺してしまえば優希のDEAD ENDが確定してしまうからだ。良輔達にできることと言えば速水の足元に向けて威嚇射撃を続けることだけだった。


「どうしました?もっと頑張ってくれないと寂しいじゃないですか?」


笑いながらサブマシンガンを連射する速水。この状況を作り出したのは速水でもあるのだから良輔達の攻撃が威嚇に過ぎないことは速水が1番よく知っていた。


「そこを右に曲がってくれ!!」


良輔はトラップコントローラーを使って間にあったシャッターを下ろす。


「これで少しは時間が稼げたはずだ、急ごう」


それからも過ぎていく時間の中で良輔達は光点をしらみつぶしに探しながら時折受ける速水の襲撃を躱しながら進んでいった。トラップコントローラーで追撃を止めたり、3階のエクストラゲームで未使用のままだった煙幕弾を使って逃走したり、幸村から譲り受けた首輪を作動させて、速水に投げつけたりと考えうる限りで様々な手段を講じながらかなりの確率でブービートラップが仕掛けてある木箱を開けて行った。3人とも大なり小なりの怪我を負っていて中々見つからない当たりの箱や、どんどん過ぎていって残り少なくなっていく時間の中で体力を消耗していく。


残りの光点が10と少しというところで異変があった。


「見て!!あれって……」


そこに1人の女性が血溜まりの中で倒れていた。うつぶせに倒れているので顔は分からないが赤いバンダナを巻いたその人物は良輔達にも見覚えのある人物だった。


「間違いない、神河だ」


しかし神河の死体は身体中に銃痕があり、蜂の巣のようになっていた。


「それにしてもひどい状態だな、これは速水がやったのか?」


「それ以外考えられないだろう」


杉坂に良輔が答える。


「気乗りしないけどちょっと調べて見るか?何かわかるかもしれない」


良輔はこの時、神河から何か現状を打破することのできるものを持っているのではないかという考えが浮かんでいた。それほどまでに良輔達は追いつめられていたのだ、良輔は神河の死体に近寄って体を仰向けにするためにひっくり返した、その時だった。


神河の身体からピンと何か弦のようなものが張る音がしたと思うとその場に閃光が走った。


「っ!?」


「きゃっ!?」


「何が?」


3人はあまりの眩しさに目を閉じる。


「えっ!?」


この時、異常聴覚を持つ優希だけが気づいた。カチャと音を立てて銃を向けられていることに……


優希は不意に戦闘禁止エリアで速水の言った言葉を思い出す。


『ふふ、僕が良輔君を殺したら君がどんな顔をするのか、少し楽しみになってきましたよ』


速水はあの時、まるで良輔だけを狙うかのような発言をしていたのは何故だったのだろうか?そう考え
て優希はあることに気づく。


(そうよ、良輔が死んだら私たちは全滅するじゃない!?)


生存者は6人なので良輔が死ねば自分の首輪は外れない、そして自分の首輪が外れなければ杉坂の首輪も外れない、特例措置が取られているのはあくまで良輔だけなので速水は良輔さえ殺せば後は侵入禁止エリアにでも戦闘禁止エリアにでも逃げ込めば勝ちが確定する。


「良輔っ!?」


速水が狙っているのが良輔であると確信すると記憶を頼りに良輔に飛びついた。


(ごめんね、良輔……)


愛する人の胸に抱きつきながら心の中で謝罪する。


その直後に通路に野太い銃声が鳴り響いた。











――――――――――――――――
――――――――
――――
――











「ゆ、うき?」


自分の目の前に広がっている光景が信じられなかった。


「ごふっ」


なぜなら自分の胸の中で優希が血の塊を吐き出していたのだから……


(何だ?これは?)


ようやく良輔達の視界が戻った時に目の前に広がっていた光景は胸の近くを真っ赤に染めている優希の姿だった。


「ゆ、優希ィィィイイイイイ!?」


良輔はすぐに通路の影に優希を抱えながら移動する。


「くそ!?何が?」


杉坂も良輔達が隠れている通路の影に隠れて敵の姿を探すとこちらに向けてライフルを構えているゴーグルをつけた速水の姿が映った。しかし何故か速水は驚いた表情をするばかりで攻撃して来ない。


(ちっ!?僕としたことがしくじりましたね)


速水は神河の死体に閃光弾をトラップとして仕掛けていた。後はそれで視界を塞がれた良輔を狙えばよかったのだが優希が良輔の前に飛び出したために弾丸は優希を打ち抜いていた。このまま優希が死んでしまうと良輔と杉坂の首輪が外れてしまうために手を出すべきかどうか迷った末に手を出さないことを速水は選択した。このまま首輪の外れた良輔達が侵入禁止エリアに逃げ込んでくれれば自分が攻撃する必要はない、少し様子を見ようという判断だった。


「おい、優希!!しっかりしろ、すぐに手当するから!!」


良輔は自分の荷物を乱暴に開けると救急セットを取り出してタオルで優希の胸を押さえる。


「ごふっ、よ、よかった、無事、よね?」


優希は良輔の無事を確認すると安堵の吐息を吐く。


「しゃべるな、傷口が広がる……」


優希の胸からドクドクと流れ出す血を押さえながら制止する。


(くそっ!!止まれ、止まれよ!!)


しかし良輔の手当もほとんど意味がなく優希の出血は止まらない。


「りょ、良輔、もう、いいから……治療なんてしても、ごふっ、もう意味がないわ……」


凶弾は優希の着ていた防弾チョッキを貫通して胸のすぐ近くを打ち抜いている、助かる見込みはもうないことぐらいは優希が1番よくわかっていた。


「嫌だ!!そんなのは嫌だ!!後、10分もしたら優希の首輪も外れる、一緒にここから帰ろう?やっと優希と恋人になれたんだ、ついさっき恋人になれたばかりなんだぞ?ここから帰って優希としたいことが山ほどあるんだ、一緒に買い物行ったり、山に行ったり、夏祭りだってもうすぐだし、恋人じゃないとできないこととかもいっぱいしたいし……ほら、それに約束しただろ?3人で海に行くって!!はは、優希の水着姿、今から楽しみだな!!きっと綺麗なんだろうな!!」


良輔の目から涙が溢れ出し、やがてそれは優希の頬へポタリポタリと落ちていく。


「あ、はは、良輔泣い、て、くれてるの?」


優希は手を虚空に彷徨わせる、良輔はその手を握って自分の頬へと当てた。


「優希?お前、もしかしてもう目が……」


「う、ん、もう、見えなくなってる」


優希の角度からなら自分が泣いているのが見えるはずなのに、そう思って優希の目を見るともう光を映していなかった。


「ねえ、良輔?そこに、いるんだよね?」


「ああ、俺はここにいる」


良輔はそういうと優希をしっかり抱きしめた。


「私さ、甘いって、言われても、幸村さん、みたいに、他人を、切り、捨てることは、でき、なかったと、思うの」


「ああ」


きっとそうだろう、こいつはそういうやつだ。そんな優希が、ずっと好きだったのだから……


「でもね、幸村さんが、美姫、ちゃんの、ことを思って、いるのと同じ、くらいに、ううん、それ以上に、私も良輔のこと、大切だって、思ってる、し、信じて、もらえるかなあ?」


そうやってにこやかに笑う優希。


「俺が優希のことを信じないわけないだろう?」


「ふふっ、ありがとう、りょ、良輔は、私なんかのために、泣いてくれるんだね、あ、はは、それなら、私が生まれてきた、価値は塵屑くらいには、あったんだね」


「馬鹿、俺にとって優希は太陽と同じくらい、いや、それ以上に価値があるよ……」


「りょ、うすけ、ったら、おおげさ、なんだから……」


「これでも控えめに言ってるくらいだぞ?」


「ふふっ、ごほっごほっ、私は、もう、すぐ、死んじゃ、うんだね、み、耳まで聞こえなくなって、きちゃった、あ、はは、皮肉、だよね?あんなに他の人には聞こえない音が聞こえる、自分が嫌いだったのに、まだ良輔の声を聞いていたいと思ってるなんて……」


「俺の声でよければいくらでも聞かせてやるから、だから、死なないでくれ」


「でも、よかった、私が死ね、ば、生存者は、5人だから、良輔も、杉坂さんの首輪も、外せるように、なる」


「優希、嫌だ!!俺は優希のことを愛してる!!お前だってずっと俺の、俺なんかのことを好きでいてくれたんだろう?これから始まるんだ、俺と優希の幼馴染とかじゃなくって恋人としての日々が、だから死ぬな!!」


やっとやっと恋人になれたのに、想いが通じ合ったのに、こんなのって!?


「りょうす、け、や、くそく、ずっと、一緒に居てあげるって、守れなくて、ごめん、ね?でも、ね、りょうすけ?わ、たしは……」


それはきっと優希にとって一番大切なことで一片の疑いのない真実だった。




















『私も……良輔のことを、愛してる、から』




















優希は最後にそう言い残すと良輔の頬に当てていた手から力が抜け、床にパタリと落ちる。


ピロリン、ピロリン


今までずっと何度も聞いてきた音が優希のかばんと杉坂の胸ポケットから鳴り響く。


「嘘……こんなの嘘だろ?……嘘だぁぁあああああああああああああああ!?」


泣き叫ぶ良輔を余所に杉坂はすぐにPDAの画面を確認した、間違いであってほしいと願いながら……


『生存者:5人』


しかしそこにはあまりに無機質な表示が現れている。


「っ!?速水ィィイイイイイイイイイ!!アンタって人はぁぁぁあああ!?」


杉坂が怒りを込めてサブマシンガンを速水に向けて乱射する。


「………」


それに対して速水は無言だった。


「北条!!」


杉坂は預かっていた【5】のPDAを良輔に向かって投げる。


「こ、れは?」


目を真っ赤にしながら自失気味に呟く良輔。


「首輪を外せ、生存者は5人だ、もうお前の首輪は外せる」


「そ、んな、ついさっきなんだぞ?優希が、優希が死んだのは、アンタは何とも思わないのかよ?」


「御剣はお前が首輪を外すことを望んでいた!!あいつが最後になんて言ってたのか聞いてなかったのか?」


もうすぐ死ぬというのに優希が最後に望んでいたことは他人の安全だった。筋金入りの頑固者だったのだ、御剣優希という人間は……


「嫌だ、このまま死なせてくれ、優希のいない世界なんて生きてたって意味なんかない」


杉坂は優希の亡骸に泣きつく良輔の襟元を思いっきり掴んで壁に叩きつけると良輔の頬をぶん殴った。


殴られた良輔の鼻から血が出てくる。


「ふざけんな!!お前が首輪を外さなきゃ俺の首輪も外れない!!俺はこんなところで死にたくない!!俺は家に帰って両親や弟の達哉にだって会いたい!!むかつくけど謝りに行かなきゃいけないとこだってある!!お前の命なんてな、どんなに高く見積もったって俺と同等なんだよ!!なんでお前の自己満足で俺まで死ななきゃいけないんだ!?」


「っぐ!?わかった、じゃあ首輪を外した後で死ねば文句ないんだな?」


まだわかってない良輔の言葉に杉坂はキレてもう一発良輔を殴る。


「こんだけ言ってもまだわからないのか!?死なせてくれだと!?生きてたって意味がないだと!?お前は自分の言っていることがわかってるのか?お前が捨てようとしているものはなあ!!御剣や一ノ瀬だけじゃない、水谷や柊ってやつも含めてここで死んじまったやつらが生きたくても生きられなかった明日なんだ!!俺達は生きられるんだよ!!何、身勝手に捨てようとしてんだ!!御剣がお前とここで心中することを望んだとでも言うのか!?お前だって聞いてたんだろ?あいつは死ぬ最後の瞬間までお前のことを想っていたんだぞ?男ならうじうじ自殺なんて考えてないで惚れた女の仇くらい討って見せろ!!」


がっくりうなだれる良輔に杉坂が活を入れる。その言葉を聞いて良輔は頭を抱えながら俯いて小さな声で何かブツブツ呟きはじめた。


「何でだよ?何で俺は大切な女たった1人守れないんだ?何で俺はこんな非力なんだ?一体何が悪かったっていうんだ?」


全知全能を使い果たしたはずだった、しかし結果として自分の愛した優希は帰らぬ人となってしまった。


(昔と同じだ、母さんが死んだ時と何も変わらない!!俺はまた何もできなかった!!)


不意に自分の両手に目がついた。優希の血で真っ赤に濡れた手……それを見て良輔の頭の中で優希の死と母親の死が重なる。あの時も今と同じように自分の両手は真っ赤に濡れていた。


(何でだ?何で俺は誰も守れない?)


『ぷっ、そんなのお前が弱いからに決まってるじゃん♪』


頭が割れそうに痛い、誰かの声が聞こえてくる。


(何故、俺の大切な人は、母や優希は死んでしまった?)


『殺したやつがいるからだね~うはは♪』


それはとても耳障りだったはずなのにとても近くにいる感じがする。


(教えてくれ!!俺はどうすれば大切な人を守れたんだ!?)


『ばっかだね~そんなこともわからないの?』


その黒い影のようなシルエットは自分に近づいてきて耳元で囁く。


『殺しちゃえばいいんだよ♪』


(こ、ろす?)


『そっ♪殺される前に殺しちゃう♪そうすればほら、自分の大切な人を傷つけられる人はみ~んな、いなくなっちゃうでしょ♪』


その声の主はさも当然とでも言わんばかりにそう語る。


「あっ……そうか、そんな簡単なことだったのか?」


『うん、簡単♪簡単♪ほら、後は僕に任せといてよ♪』


「そっか、簡単だな、ククク」


『そだね、簡単だよ、うふふ』


2人のシルエットが少しずつ重なって行く。










「あんな奴らさっさと殺しちゃえば良かったんだね?あは、あはは♪うはは♪」










良輔は狂気に染まった笑い声を上げると【5】と表示されているPDAを拾い上げて自分の首輪に接続する。





ピロリン、ピロリン、ピロピロリーン





ファンファーレに似た電子音が通路に鳴り響く。それは今まで杉坂が2回だけ聞いたことのある音だった、次の瞬間には良輔の首輪が緑色の発光ダイオードをチカチカと点滅を繰り返す。




















『おめでとうございます!貴方は見事に生存者を5人以下にし、首輪を外すための条件を満たしました!』




















その直後に良輔の首輪が左右に割れ、高い金属音を立てて床に転がった。


「ほら、お望み通り首輪は外したよ?杉坂兄ちゃんもさっさと首輪外したら?」


「え?あ、ああ」


その言葉に違和感を感じながらも指摘された通りに杉坂も自分のPDAを首輪に接続させた。





ピロリン、ピロリン、ピロピロリーン





同じようにファンファーレに似た電子音が通路に鳴り響く。次の瞬間には杉坂の首輪も緑色の発光ダイオードを点滅させた。




















『おめでとうございます!ゲームの開始から24時間以上貴方と行動を共にした人間が首輪の解除に成功しています、貴方の首輪を外すための条件を満たしました!』




















その直後に杉坂の首輪が左右に割れ、高い金属音を立てて床に転がった。


「おめでとう、杉坂兄ちゃん♪」


「北条?」


杉坂が不審な言動を呟きはじめてから様子がおかしい良輔に話しかけた。


「北条?ああ、そういえば今の僕ってそういう名前なんだっけ?」


「何言ってんだお前?」


「ふふっ♪何でもないよ、杉坂兄ちゃん、ところであそこの生ごみを殺す算段があるんだけどさ、僕にあんだけ偉そうなこと言ったんだから当然手伝ってくれるよね?」


「えっ?あ、ああ」


不気味な笑みを浮かべる良輔に杉坂はそう頷くしかなかった。


「じゃあ段取りなんだけど……」


そういって良輔は嬉々として速水を殺すための秘策を杉坂に授けていった。




[22742] 最終話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2011/04/21 19:25
【BET】
player suit card odds
高橋良輔 ダイヤ 5 Error
御剣優希 ハート J Death
??????? ???? ? Death
柊桜 ???? ? Death
西野美姫 クラブ 3 close
神河神無 ???? ? Death
??????? ???? ? Death
杉坂友哉 スペード Q close
一ノ瀬丈 クラブ 8 Death
速水瞬 スペード 10 close
幸村光太郎 ダイヤ 4 close
飯田章吾 ???? ? Death
水谷祐二 ???? ? Death
Day 4日目
Real Time 午前 9:00
Game Time経過時間 71:00
Limit Time 残り時間 2:00
Flour 6階
Prohibition Area 5階
Player 5/13
『予期せぬアクシデントが発生し、北条良輔へのBETを無効とし、掛け金を払い戻します。読者様には御迷惑をおかけして大変申し訳ありません』





速水は2つの首輪解除音をしっかり聞いた後は今後の対応をどうしたものか悩んでいた。今では不気味なほど沈黙を守っている。しかし、速水の持っているPDA探知には良輔達がまだそこにいるかのように映っていた。


(ふむ、PDAだけ置いて逃げたとも考えられますか?)


もしかしたら良輔も杉坂もPDAをほったらかして逃げたのかもしれない。そのほうが安全に逃げ切れるかもしれないと考えなかったという可能性は否定できない。


(逃げたのなら追う必要はないが果たして良輔君達はどんな態度を取るでしょうか?)


優希が死んだときのあの反応を考えるとやはり戦闘続行という可能性も捨てきれない。


(やっかいですねえ?)


内心で速水はそうぼやく。


その時、状況に変化が現れた。


「速水!!こっちだ!!」


杉坂が通路から飛び出し、サブマシンガンを連射するとすぐに違う通路に逃げて行った。


「まだ、戦う気ですか?もう、よせばいいのに……」


そうはいっても戦闘継続の意思を見せたプレイヤーを放置というわけにもいかずに溜息が出る速水だった。


(簡単に考えれば杉坂君が囮で良輔君が本命というところでしょうか?)


杉坂を追ったところで良輔が何か仕掛けてくるというのが本筋のようにも思える。


(じゃああえてここは良輔君を倒しますか?料理はおいしいとこから先に食べるのが僕の主義なんですよ)


速水は画面を見るとどうやら良輔も移動しているようだった。それを追いかけるように速水も移動する。











――――――――――――――――
――――――――
――――
――











そうして速水が移動するにつれて良輔の姿が見えてくる。


(妙ですね?)


速水のPDAにはジャマーが入っているためにセンサー類にはひっかからない、だから良輔は速水が追ってきていることを知らないのかもしれないがどこに移動しているのかさっぱり分からない、真意が掴めないのだ、そんなことを考えているうちに角を曲がって行くとしばらくしてカシャンと音が聞こえた。


(何の音だ?)


通路を覗くとそこには作動した落とし穴がある。床の一部が開いていた。速水がPDA探知を検索すると5階のすぐ下には2つのPDA反応が出ている。


「これで5階に落っこちていたら笑えるんですけどね」


速水はゆっくりその穴を覗く、そこには良輔の持っていた荷物が落ちていた。


(荷物だけ?)


それを不審に思った速水だったが次の瞬間には通路に銃声が鳴り響き、背中に衝撃が走った。


「うぐっ!?」


防弾チョッキを着ていたので致命傷は負わなかったが衝撃で一瞬の、しかし致命的な隙が生まれた。


「うはは♪」


横の扉が開いて良輔が突っ込んでくる。良輔は【4】にインストールされていたトラップコントローラーを使って落とし穴を作動させると自分のPDAを2つともかばんにしまって落とし穴に放り込んだ。そして自分が誤って転落したと思い込んだ速水を後ろから狙撃、速水が防弾チョッキを着ていたことや自分の持つ拳銃がさほど口径の大きいものではなかったこともあってわずかによろめかせる程度の効果しかなかったがその隙をついて良輔は速水に体当たりを喰らわすと一緒に落とし穴に吸い込まれていった。











――――――――――――――――
――――――――
――――
――











「うぐっ、何が?」


落とし穴に落ちて困惑する速水が目を開けると目をキラキラさせながらナイフを自分に向かって振り上げている良輔の姿だった。


「これで僕の勝ちだね~♪」


「くっ!?」


良輔の右手のナイフを両手で支える。


「ぐっ、どこにこんな力が?」


速水は細身の身体ながら腕力にはかなり自信があった。それなのに両手を使っても良輔の右手を止めることが精一杯であり、良輔の右手には人間とは思えないほどの力がこもっていた。


「うふふ♪頑張るね?でももっと頑張らないと駄目だよ♪そうしないとほら?」


良輔は空いている左手でまるで昆虫の足を1本1本ちぎっていくように右手を掴んでいる速水の指を外し始めた。明らかに遊んでいる。


「うぐっ!?このぉ」


「ほら?もうすぐだよ♪もうすぐで死んじゃうよ♪うふふ♪あはは♪」


(このままだと押し負ける!?)


そう判断した速水は足を良輔の腹に当てると……


「っ!?」


「僕を!!舐めるなあ!!」


速水は良輔を巴投げで投げ飛ばすとすぐに立ち上がって拳銃を良輔に向ける。


見れば良輔も倒れながら拳銃を引き抜いている。


(勝った!!こっちのほうが少し早い!!)


速水は勝利を確信し、部屋には2つの銃声が鳴り響く。


しかしその銃声は意外なところから発射されていた。










1つは良輔の拳銃から発射されていた。良輔は防弾チョッキに覆われていない速水の右足を見事に打ち抜く。


そしてもう1つは良輔が銃を撃つより少し早く発射されていた。











「………」


部屋の後ろから現れた幸村の放った銃弾でそれは速水の持っていた銃を弾き飛ばしていた。その結果、良輔より早く撃てるはずだった速水の拳銃からは銃弾が発射されることはなく、手から弾き飛ばされてカラカラと音を立てて床を転がって行く。足を打ち抜かれた速水は自分の体重を支えることができなくなり、床に倒れ込む。


「うぐっ、何故、だ?何故貴方がこんなところにいる!?幸村さん!!」


倒れながらも速水が打ち抜かれた足を押さえながら後ろを振り向くと入口の扉には大柄の男性の姿が立っている……その人物は速水も1階の階段で見ている人物だった。


「ギリギリ間に合ったようだな」


そこには拳銃を構えた幸村が立っていた。


速水は何故、こんなところに幸村がいるのかが分からなかった。最初からここにいた?そんなはずはない、確かにPDA探知には5階にあった2つの反応はここから少し離れたところにあったのだ。一体幸村はどこから湧いて出た?


「神河のお姉ちゃんだよ」


床に倒れていた良輔が立ち上がってくる。


「神河、だと!?」


良輔の出した言葉に速水は反応する。


「うん、僕と神河のお姉ちゃんはね、3階で一度会った時にお互いのPDAにネットワークフォンっていうソフトウェアをインストールしてたんだ、僕たちはそれで連絡を取った。といっても連絡を取ったのは杉坂兄ちゃんなんだけどね」


良輔は【Q】のPDAをかばんから取り出す。


「いや、そんなはずは!?だって神河のPDAは僕が持っているのに……」


速水は確かに神河を殺した後にそのPDAを回収した。


「チッチッチ、それが違うんだなあ」


「どういうこと、ですか?」


「神河は不審に思われないようにそのソフトウェアを【2】に偽装していたjokerにインストールしてたんだ、だから本物の【2】を持っていた幸村さんのPDAにもそのソフトウェアが使用可能な状態になっていたよ、僕は4階で幸村さんの持っていた【2】を使ってPDA探知を使わせてもらったときに【2】のPDAにインストールされていたソフトウェアを知ってたからね、使わせてもらったんだ♪」


神河はjokerというカードは偽装したカードのPDAと完全にリンクすると言っていた、それはつまり偽装機能を使用した状態のjokerにソフトウェアをインストールした場合、そのコピー元も書き換えられることになる。それを幸村に【2】のPDAを見せてもらったときに確信した。そして良輔は自分の【5】を杉坂に渡して、幸村と連絡を取ってもらい、待ち合わせの場所、つまりトラップリストで検索した落とし穴の場所まで来てもらった。


「ククッ、まったく、あの人は、死んでも僕を殺そうとするんですね、ふふっ、すごい執念だ、ここまで来ると執念を通り越して怨念です」


思わず速水が苦笑する。


「ということは杉坂君が囮で良輔君が本命、と見せかけて良輔君が囮で本当の本命は幸村さんだったわけですか……」


「あはは♪違う、違う♪」


「えっ?」


良輔があっさり否定したことに速水が驚く。


「お~い、杉坂兄ちゃ~ん、そろそろ出てきていいよ♪」


「……終わったのか?」


幸村とは違う扉からサブマシンガンを構えている杉坂が入ってきた。


「なっ!?」


「僕のプランだと僕と幸村さんに負傷させられたアンタがあそこから逃げようと扉を開けた時に杉坂兄ちゃんのサブマシンガンで蜂の巣になる予定だったんだ♪でも思ったより根性なくてそこまで行かなくても終わっちゃったんだけどね♪ゲームマスターっていうのも案外だらしないんだね♪あはは♪」


種明かしもこれで十分と判断したのか良輔は拳銃を取り出すと速水の頭に照準を合わせた。


「つまり杉坂君が囮で良輔君が本命、と見せかけて良輔君が囮で本命は幸村さん、と見せかけて本当のところは良輔君と幸村さんが囮で本命が杉坂君だったわけですか……ククク、ここまで来ると化け物じゃないですか……ごふっ、うっ、僕はまだこんなところで死ぬわけには、美雪、陽平………佳織ィィ」


速水は遠くに飛ばされた自分の拳銃に向かって懸命に手を伸ばす。


しかしそれは届くことなく……


「あは♪死んじゃえ♪」


バンッと良輔の持っていた拳銃から銃弾が飛び出し、速水の眉間を正確に貫いた。


バシャッと音を立てて床に沈む速水。その頭からは赤い水が広がっていた。


ピロリン、ピロリン


杉坂の持っていた良輔のPDAが鳴り響く。念のために確認するとそこに表示されていたのは生存者が1人減っていた。


『生存者:4人』


「生存者4人か……」


杉坂がそう呟く。


残っているのは全員が首輪を外した人間だった。


「お父さん!?」


近くに隠れていたらしい美姫も姿を現す。


「向こうで待っていなさいと言っておいたのにまったく」


そういいながらも速水の死体を見せないように美姫の目を手で覆いながら自分の傍に引き寄せる。


「幸村さん、来てくれて本当にありがとうございます」


「いや、君達には美姫を助けてもらった恩義がある。恩には恩で報いて仇には仇で奉ずる。私のポリシーでね」


お礼を言ってくる杉坂に幸村はそう答える。


「生存者が4人なら御剣君は……」


「………」


幸村の問いに良輔は答えない。代わりに杉坂が首を横に振って伝える。幸村はそれを見てそうかとだけ呟いた。


幸村はそのまま速水の身体を調べ始める。


「何やってんだ?」


「報酬は後腐れなくフィフティーだ、賞金がPDAの所有数で配分されるものならやはり全員が同数のPDAを持っていた方がいいだろう」


幸村がPDAを取り出していく、


【A】

【8】

【10】

【K】


速水はPDAを全部で5台持っていた。しかし1台だけ破損してしまったPDAも所有しており、この中にjokerが混じっている可能性があることも考えるとどれが誰のものかまったく分からない。PDA探知に引っかからないために【2】のPDAも置いて来てしまっているのでその判別もできないのだ。


「君たちは何台PDAを所有している?」


「4台だ、俺が【5】と【J】良輔が【4】と【Q】を持っている」


「ふむ、ということはここにあるPDAは全て私と美姫がもらってもかまわないかな?」


「正当な報酬というやつだろう」


 良輔も特に文句がないらしく、幸村は速水の持っていたPDAを全て回収する。
 しばらくするとPDAが警告音を鳴らし始めた。


「どうやらゲームはこれで終了らしいな」


 幸村はPDAを見ながらそう呟く。


ビー、ビー、ビー


PDAの画面に『Game Over』の文字が表示される。


『ゲーム終了の時刻を迎えました、それではこれより今回のゲームの勝利者を発表します!』


『プレイヤーナンバー・3rd……西野美姫』

『プレイヤーナンバー・4th……幸村光太郎』

『プレイヤーナンバー・5th……北条良輔』

『プレイヤーナンバー・Qth……杉坂友哉』


『以上4名が、見事に73時間経過まで生き延びて、ゲームの勝利者となりました!おめでとうございます!勝利者は無条件で首輪が解除されます!Congratulations!!またのご利用を当方はお待ちしております!』


PDAの合成音声が鳴り終わるのとほぼ同時に……


良輔達4人の意識は途絶えた。





[22742] エピローグその1
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/10/26 06:17
【BET】
player suit card odds
高橋良輔 ダイヤ 5 Error
御剣優希 ハート J Death
??????? ???? ? Death
柊桜 ???? ? Death
西野美姫 クラブ 3 close
神河神無 ???? ? Death
??????? ???? ? Death
杉坂友哉 スペード Q close
一ノ瀬丈 クラブ 8 Death
速水瞬 スペード 10 Death
幸村光太郎 ダイヤ 4 close
飯田章吾 ???? ? Death
水谷祐二 ???? ? Death
Player 4/13





そこは特に目立っているわけではないどこにでもありそうな普通の喫茶店だった。そして今はお昼であり、そこそこお客さんの姿が見受けられる。


美姫:『おとうさ~ん、激辛カレー2つ注文入ったよ~!!』


幸村:『了解だ、美姫』


そこでは2人の父娘が今日も元気に働いていた。ゲーム終了の音声がPDAから流れた後、ガスでも嗅がされたのか意識を失い、次に幸村が目を覚ましたときはとあるビジネスホテルの一室だった。隣を見れば愛娘の美姫が寝ていたが良輔や杉坂の姿はなかった。どうやら別々に解放されたらしい、その代わりに置かれていたのが自分で作った覚えのない印鑑と通帳、とりあえずすることもなかったので通帳の金額を見てみる。


幸村:『18億と5千万ちょっとか?』


最初に金額を見たときはその金額を不思議に思った。あの場にいた生存者は4人、そして存在していた8台のPDAを均等に分けたので1台につき2億5千万のはずだ、しかし美姫の分も合わせて入れられていると考えても金額に10億近い違いがある。


幸村:『私が回収したPDAの中にjokerが混じっていたわけか……』


それしか考えられなかった。ルール6によると最後にjokerを所有していたプレイヤーには追加で10億の賞金が配布されることになっている。つまりあの場には7台のPDAを配布率にして20億を分配したということで1台につき2億8千5百万とちょっとという金額だ。それを3台分なので8億5千万ちょっとにjoker1台で10億を加えた金額ということになる。


幸村:『まあ、金などどうでもいいがな……』


幸村は通帳を机の上に放り出すと隣で眠っている美姫の頭を優しく撫でた。


幸村:『よかった、本当によかった』


涙を流しながら自分の守れたものを抱きしめてそう呟くと美姫をおんぶしてホテルをチェックアウトして家に帰った。


それから数日の日々が流れた。


幸村は美姫を別れた母親のところに帰すつもりだった。しかし調べて見ると1年前に事故で死亡していたことを知る。美姫は頼れる知り合いもおらず、母親が死んでからは施設に入れられていたらしい。


幸村:『はは、何が父親だ、私はこの子がこんな惨めな思いをしていたことなど何1つ知らなかった癖に……』


自分に腹が立った、ゲームに参加させられる前は今までずっと美姫は母親のところで幸せに暮らしているのだとばかり思っていた。それが蓋を開けてみればどうだ?父も母もおらず身寄りもない場所でたった1人ぼっち、それがどんな寂しいことなのか幸村は知っている。幸村は子供のころに両親に捨てられ、路上で育った。どれほど人肌に飢えていただろう?どれほど両親に抱きしめられたかったのだろう?生きていくために裏社会しか生きられる場所がなく、殺したくもないのに人殺しをしてお金を稼ぐしかなかった。やっと殺しをせずに生活できる目途が立ち、裏の社会からは足を洗ったが今まで買ってきた恨みの多さから愛した女性とも別れざるを得なくなり、愛しい我が子を満足に抱きしめてやることさえできず、細々と1人寂しく小さな喫茶店を営んでいた。


美姫:『お父さん?』


幸村:『ごめんな、お父さん、今までずっと美姫に寂しい思いをさせてきた』


美姫:『ううん、それでもお父さんは美姫を助けに来てくれたから、ずっと美姫の味方で居てくれたから、美姫ね、すごく嬉しかった』


幸村:『これからは、これからは精一杯幸せな毎日にするから……もう、美姫を1人ぼっちになんてさせないから、寂しい思いなんてさせないから、だからお父さんと一緒に暮らそうな?』


美姫:『うん!!』


そして幸村は正式に施設から美姫の身元を引き取り、一緒に生活をはじめた。今まで1人寂しく経営してきた喫茶店もどうしても美姫が働くと言って聞かないので美姫と一緒に働きはじめてからは場が華やかになった気がする。


そして話は冒頭に戻る。


カランカランと音を立てて1組の男女が入ってくる。


女性の人は金髪のショートヘアーで、男の人がその女の人に手を引かれる形で店に入ってくる。


『ここが知る人ぞ知る隠れた名店、喫茶店シークレットか~』


『頼むから入口でいきなりうんちく始めないでくれ、恥ずい』


『あはは、ごめんごめん』


2人は適当なテーブルに座ってしゃべり始める。


美姫:『お客様、水をお持ちしました、こちらがメニューになりますのでご注文がお決まりになったら呼んでください』


美姫は慣れた口調で水とおしぼりを差し出す。


『きゃあ~!?かわいい!!』


美姫:『きゃう!?』


見知らぬ女性にいきなり抱きつかれたことで驚きの声が出る。


『も~、本当に可愛い~!!』


美姫:『ゆ、優希お姉ちゃん!?』


『えっ?』


美姫:『あっ、ごめんなさい、何でもないの』


髪型が同じだったからなのか行動が似てたからなのか分からないがうっかり間違えてしまい、バツが悪くなる。


夏喜:『私は夏喜、春夏秋冬で春野夏喜よ、ねえねえ?お名前は何て言うの?』


美姫:『美姫の名前は幸村美姫って言うの、よろしくね、夏喜お姉ちゃん』


美姫の笑みを見て、クラッとよろける夏喜という女性。


夏喜:『ねえ、光一聞いた!?今、この子、私のことお姉ちゃんって呼んでくれたよね!!もう、美姫ちゃん可愛い~~、ご褒美に夏喜お姉ちゃんがぎゅ~してあげるね』


美姫:『あはは、くすぐったいよ夏喜お姉ちゃん』


光一:『夏喜、そろそろ解放してやらないとその子仕事できないだろ?』


夏喜:『う~ん、それもそっか~、じゃあ美姫ちゃんのおすすめってどれかな?』


美姫:『美姫のおすすめはね、お父さんの作った特製ハンバーグセットがおすすめなの!!お父さんが作った特製のデミグラスソースがかかっててとってもおいしくてほっぺた落ちそうになるんだよ!!』


夏喜:『ほんと!?じゃあその特製ハンバーグセット2つおねがいね?』


光一:『え?ちょっと待て!?俺、焼きうどん……』


夏喜:『光一もハンバーグセットがいいよね?まさか、このシチュエーションで焼きうどんなんて言わないよ、ね?』


光一:『……特製ハンバーグセット2つで頼む』


美姫:『うん!!お父さん、特製ハンバーグセット2つ~~』


幸村:『了解だ』


それから少し後に出来上がったハンバーグセットを持っていくとまた夏喜が美姫を抱きしめる。そのしぐさが美姫にどこか優希を思い出させていた。


美姫:『ねえ、お父さん』


幸村:『ん?どうした、美姫?』


美姫:『あの2人さ、どこか良輔お兄ちゃんと優希お姉ちゃんに似てない?』


美姫の見る先には同じハンバーグセットを食べながら話をする夏喜と光一の姿が映っていた。


幸村:『ふむ、外見はともかく雰囲気が似てないことはないかもしれんな』


基本的に話をするのが女性で面倒くさそうに、でもどこか楽しそうに話をしているという点なら似ているかもしれない。


美姫:『ねえ、お父さん、お願いがあるんだけど聞いてもらえるかな?』


幸村:『言ってごらん』


美姫:『えっとね、実は……』












――――――――――――――――
――――――――
――――
――











美姫:『チョコレートパフェをお持ちいたしました』


夏喜:『えっ?私パフェなんて頼んでないよ?』


テーブルの上に置かれたパフェを見て夏喜が答える。


美姫:『美姫のおごりなの、夏喜お姉ちゃんに食べてもらいたいんだけどいいかなあ?』


夏喜:『ぐすっ、美姫ちゃんすごく優しい……夏喜お姉ちゃん嬉しいよ、おいしく食べるね』


美姫:『うん!!あっ!?』


夏喜:『美姫ちゃん可愛いよ~、美姫ちゃんは~夏喜お姉ちゃんがお持ち帰りする~』


光一:『おっと、夏喜危ないぞ?この子の持ってるコーヒー落ちるとこだったぞ?』


夏喜:『あっ、ごめん美姫ちゃん』


美姫:『ううん、気にしてないよ夏喜お姉ちゃん』


光一が美姫を支えてコーヒーが零れないようにしてから夏喜に注意した。美姫はそのままコーヒーを光一の前に差し出す。


光一:『ん?これは?』


美姫:『美姫が淹れた特製コーヒーなの、光一お兄ちゃんに飲んで欲しかったから、あ、安心して、これも美姫のおごり♪』


その言葉を聞いていきなり光一は立ち上がる。


夏喜:『光一?』


美姫:『光一お兄ちゃん?』


光一:『嘘だ』


美姫:『はい?』


光一:『俺に対して子供がこんな優しいはずがない!!』


夏喜:『………』


美姫:『………』


光一:『あ、すまん、少し取り乱した、サンキューな美姫、コーヒーはおいしくいただくよ』


美姫:『うん!!』


美姫はそのままカウンターに入って行く。光一たちはそれを見届けてから美姫が持ってきてくれた差し入れに手をつける。


夏喜:『あっ、このパフェおいしい♪』


光一:『ズズッ、おかしいな?このコーヒー普通にうまいんだが……』


夏喜:『光一、何言ってるの?』


光一:『いや、なんか毒くらい入ってるのかなって思ったんだが、何も入ってなかったのって不思議だなって話で、味が壊滅的とかって話なら納得できたんだが……』


夏喜:『ちょっと美姫ちゃんに土下座して来ようか?』


光一:『すまん、あの年代の子って普通ムカつくけど、あの子は妙にかわいかったなって話で、あ、性的な意味じゃねえぞ』


夏喜:『ふ~ん、そっか、ようやく光一も子供の可愛さがわかってきたか……』


光一:『あんな子のほうが少ないだろ?』


夏喜:『そっか、そっか、それじゃあしょうがないわね、これ食べ終わったら行こうか?』


光一:『行くってどこに?』


夏喜:『そりゃ、子供作りに……』


光一:『ぶっ!?』


夏喜:『こ、光一!?』


光一:『いや、今のは夏喜が悪いだろ?』


夏喜:『え~と、嫌……かな?』


光一:『……俺は別に嫌ってわけじゃないがまだ昼過ぎだぞ?』


そういってはぐらかす光一の手に夏喜は自分の手を重ねた。


夏喜:『ふふっ、お姉さんが手取り足取り教えてあげる……』


光一:『ちっ……』


夏喜:『ふふっ、照れちゃって、かわいいなあ』


光一:『別に照れてるわけじゃない』


光一はコーヒーを飲み終えると席を立つ。見れば夏喜もパフェを食べ終えていた。


幸村:『ハンバーグセット2つで1千5百円になります』


光一:『これで』


幸村:『2千円からお預かりしまして5百円のお釣りになります。またのご来店をお待ちしております』


光一:『ああ、ハンバーグ、うまかったぜ』


夏喜:『あうう、また来るね、美姫ちゃん、その時はまた夏喜お姉ちゃんと遊ぼうね?』


美姫:『うん!!楽しみにしてるね?』


光一:『夏喜、行くぞ?』


夏喜:『あ、うん』


夏喜は光一の腕に自分の腕を絡ませると店の出口に向かって歩いて行った。


幸村:『光一君!!』


光一:『あん?』


幸村:『どうか、お幸せに……』


光一:『はっ?あ、ああ、そっちもな』


カランカランと音を立てて2人は店を出ていく。


その直後に店に取りつけられているテレビからニュース放送が流れてくる。


『ニュースです、行方不明となっていた北条良輔君が死体で発見されました、死体は心臓を銃で撃ち抜かれており、犯人は未だ捕まっておりません、同時期に行方不明になった御剣優希さんが何らかの事情を知っていると見られ……』


その後もニュースが流れていく。しかしそんなものが何の意味もなさないことを2人は知っている。


美姫:『あの2人は……幸せになれるといいね』


幸村:『そうだな……』


幸せになれなかった、あの2人の分まで……


幸村:『美姫』


美姫:『うん?お父さんどうかしたの?』


幸村:『呼んでみただけだ』


美姫:『ふふっ、それってお父さんの愛情表現なんだね』


幸村:『………』


それでも自分は美姫を守れたから……これ以上望むものなど何もないと幸村はそう思った。








[22742] エピローグその2
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/10/26 06:18
【BET】
player suit card odds
高橋良輔 ダイヤ 5 Error
御剣優希 ハート J Death
??????? ???? ? Death
柊桜 ???? ? Death
西野美姫 クラブ 3 close
神河神無 ???? ? Death
??????? ???? ? Death
杉坂友哉 スペード Q close
一ノ瀬丈 クラブ 8 Death
速水瞬 スペード 10 Death
幸村光太郎 ダイヤ 4 close
飯田章吾 ???? ? Death
水谷祐二 ???? ? Death





ミンミンと鳴くセミの声を聞きながらスーツ姿で杉坂友哉は歩道を歩いていた。


友哉:『ふ~、あっち~』


このくそ熱い中をスーツ姿で歩いているのにはわけがある。


友哉:『っと確かこの家だったな』


その家は比較的大きな家で裕福であることが一目でわかる。


友哉:『俺は5年間ずっと逃げてたんだよな』


ポツリと呟く杉坂だったがすぐにその家のインターホンを押そうとする。


友哉:(俺は何やってんだろうな?謝ったって許してもらえるわけがない、それならいっそこのまま帰ったほうが楽に決まってる)


ここまできて自分の覚悟が揺らぐのを感じた。


友哉:『帰るか……』


結局インターホンを押さないままその家に背を向けて帰ろうとする。


優希:『きっとその中学生は人を殺したことを悔やんでいます。そして今も………』


友哉:『御剣?』


後ろから声が聞こえたと思って後ろを振り返るがもちろんそこには誰もいない。


友哉:『はっ、俺らしくないな』


弱気な自分の背中でも押しに来たのかあいつは?御剣ならやりそうだと思いながらインターホンを押しに戻る。


友哉:『俺はお前の助けなんかなくたってやっていけるからいつまでも人の心配してないでさっさと成仏しろっつの』


意を決してインターホンを押しこむ。


ピンポーンと音が鳴る。


『はい、どちら様でしょうか?』


友哉:『こんにちは、杉坂です』


『っ!?』


ガチャっと玄関の扉が開く。


『よくものうのうと顔を出せましたね、あの子を殺した癖に!!』


女の人が杉坂を睨んでいた。


友哉:『本当にすまなかった!!』


杉坂は土下座をしながらそう叫ぶ。


『あなたが謝ったってあの子は帰って来ないんです!!5年の間、一度も謝りにすら来なかった癖に、今更善人ぶらないでください!!』


友哉:『許してもらえるとは思わない、恨んでもらってかまわない、ただ謝らせて欲しい!!俺が間違ってた、すまない、本当にすまなかった』


『帰ってください!!あなたの顔なんてみたくもありません、帰って!!』


その女性は家の中にあるものを片っ端から杉坂に向かって投げつける。


友哉:『………』


杉坂はずっとそれに耐え続けた。











――――――――――――――――
――――――――
――――
――











杉坂はトボトボと家路を歩いていた。あの後も物を投げ続けられ、最後には体力が尽きたのか家に閉じこもって話を聞いてくれなくなった。


友哉:『明日もまた行くか……』


一度謝っただけで許されるなど杉坂も思ってない。許されるまで、いや、許されなくとも謝りに行き続けるつもりだった。


友哉:『ただいま~』


達哉:『おかえりなさい!!友哉兄ちゃん!!』


友哉:『おう、ただいま!!』


友哉は弟の達哉の頭を撫でてやった。


達哉:『へへん、友哉兄ちゃん、今日は何の日か知ってる?』


友哉:『あれ?今日なんかあったっけ?』


杉坂はわざととぼけてみせる。


達哉:『えっ?忘れちゃったの?今日は僕の誕生日なんだよ!!』


友哉:『ふははっ、俺が達哉の誕生日を忘れるわけないだろ?ほれ、誕生日プレゼント』


達哉:『うわ~、なんだろ?開けてみてもいい?』


友哉:『おおよ!!開けたら驚くぞ!!』


達哉:『うわ~、これ僕の欲しかったプラモデルだ~!!すごい、でもこれ高かったんじゃない?』


友哉:『高かったぞ~、でもな、兄ちゃん頑張ってバイトした金で買ってきた』


達哉:『本当!?ありがとう、友哉兄ちゃん!!よ~し、今日は遊ぶぞ~』


友哉:『あんまり夜更かしすんなよ』


達哉:『うん!!あ、もうご飯できてるよ、行こう?お父さんもお母さんもずっと待ってたんだよ、今日はすごい御馳走みたい!!』


友哉:『そっか、そりゃ楽しみだな』


杉坂は達哉に腕を引っ張られて食卓に向かう。


友哉:『俺、帰ってこれたんだな』


達哉:『えっ?友哉兄ちゃん何で泣いてるの?』


友哉:『おっ?ははっ、何でもねえよ、ただ……』


達哉:『ただ?』


友哉:『俺ってすごく幸せ者だなって思ってさ』


達哉:『ぷっ、何言ってんの?変な友哉兄ちゃん』


友哉:『ほら、さっさと行くぞ?』


達哉:『あっ、待ってよ!!』


そうして2人の兄弟は両親の待つ食卓に向かった。


友哉:(一体どこ行っちまったんだ?北条のやつ……)


杉坂がゲーム終了から次に目を覚ましたときはビジネスホテルの1室だった。隣には通帳と印鑑、そして1枚の紙切れが置かれていた。通帳には自分の賞金と思われる5億7千万弱の賞金が入っており、横に置かれていた手紙は良輔からのものだった。


良輔:『おっは~、杉坂兄ちゃんには悪いんだけど僕は用事があるからすぐに行くね?またいつかどこかで会えるといいなあ~、これからは僕は優希ちゃんを殺したゲームの主催を殺しに行ってくるから会えるとしたらその後になるかな?じゃあ、元気でね、by高橋良輔』


それが良輔が自分にあてた手紙の内容だった。


友哉:『高橋って一体誰だよ?』


達哉:『ん?高橋って?』


友哉:『何でもねえよ、あ、そうだ、達哉今度の休み予定あるか?』


達哉:『え?特にないけど……』


友哉:『よし、じゃあ今度の休みは海に行くか?』


達哉:『本当!?やった~』


杉坂は喜ぶ達哉を見ながら北条と御剣のことを思い浮かべる。


友哉:『海、4人で行きたかったな……』


それが叶うことのないことだとしても、そう思わずにはいられなかった。





[22742] エピローグその3
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/10/31 18:40
【BET】
player suit card odds
高橋良輔 ダイヤ 5 Error
御剣優希 ハート J Death
??????? ???? ? Death
柊桜 ???? ? Death
西野美姫 クラブ 3 close
神河神無 ???? ? Death
??????? ???? ? Death
杉坂友哉 スペード Q close
一ノ瀬丈 クラブ 8 Death
速水瞬 スペード 10 Death
幸村光太郎 ダイヤ 4 close
飯田章吾 ???? ? Death
水谷祐二 ???? ? Death




良輔はゲームに勝った賞金で武器やら弾薬やらを買い漁っていた。まだゲームが終わってからそれほど月日も経過してないうちに組織に加担していた人間や、ゲームを見に来ていた客の情報を掴み片っ端から殺していた。その犠牲者の数はもうすぐ2ケタになろうかとしているところだった。


良輔:『うはは♪死ね、みんな死んじゃえ♪優希ちゃんを殺したやつはみんな死ねば良いんだ!!くはは♪』


その目は狂気と血に染まっており、もはや北条良輔の面影はどこにも残っていなかった。


良輔:『う~んっと次のターゲットはどこだったかな~?』


良輔は紙を広げながら呟く。その紙は良輔がこれから殺していく予定のある人物について書かれたいわゆるブラックリストというやつだった。


良輔:『っ!?』


紙を広げていたところに1人の女性が近寄ってくる。その手に拳銃を持って……


????:『北条良輔!!貴方を組織に対する危険人物とみなし、射殺します!!瞬の仇、死ねええええええええ!!』


どうやらその人物は組織の回し者らしい、すぐに良輔は紙を放り棄てて拳銃を引き抜いた。


2つの銃声が路地に響き渡る。


????:『がふっ!?』


良輔:『ぐっ?』


その銃弾はお互いの胸に突き刺さった。ドサリと2つの影が地面に倒れる。


????:『ぐっ、ごほっ、はぁはぁ、あはは、ヘマ、しちゃった、ご、めんね、瞬、でも……仇は取ったから、ふふっ、そっちに、行ったら、また私と、瞬と、美雪の3人で楽しく、やりましょう?陽平、後の戸締りは……任せた、わよ』


それだけ言ってその女性は動かなくなった。


良輔:『くっそ!?僕は、こんな、ところでぇぇ、まだ、殺してないんだ、優希ちゃんを殺しやがったやつ、まだ全員殺してない……ゆ、優希ちゃん、ご、めん、で、も、でも、ね?』


そうして良輔の目から光が失われていく、しかし皮肉なことに……






























良輔:『俺もお前を、優希を、愛してる、よ』






























良輔は最後にそれだけ言って動かなくなった。死ぬ間際に良輔は正気を取り戻していたのだろうか?それは良輔の優希を想うが故の奇跡だったのかもしれない……





5th(フィフス)北条良輔は組織の回し者により、心臓を銃で撃ち抜かれたことで死亡する。
DEAD END完。




『生存者:4人』




改め





『生存者:3人』……










――――――――――――――――
――――――――
――――
――











こうして1つの物語りが幕を下ろした。

しかし【ゲーム】はまだ、終わらない……







[22742] 結果報告まとめ(ネタバレ)
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/12/24 03:34
以下の内容はネタバレです。
貴方はepisode1 blank one hourを読みましたか?
まだ読んでない人は最初に戻りましょう。


もう読み終えた読者様は↓へ






























飯田章吾  速水による謀殺、ルール違反による首輪作動
夏本玲奈  幸村による撲殺、幸村による首輪剥奪
白井飛鳥  不明
柊桜    幸村による斬殺、幸村による首輪剥奪
一ノ瀬丈  速水による銃殺、首輪解除
水谷祐二  幸村による銃殺、ルール違反による首輪作動
神河神無  速水による銃殺、速水による首輪作動
御剣優希  速水による銃殺
速水瞬   良輔による銃殺、首輪解除
幸村光太郎 GAMECLEAR
西野美姫  GAMECLEAR
杉坂友哉  GAMECLEAR
北条良輔  GAMECLEAR、エピローグで????による銃殺



[22742] 後書き
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2011/01/07 10:32
【BET】
player suit card odds
北条良輔 ダイヤ 5 Death
御剣優希 ハート J Death
??????? ???? ? Death
柊桜 ???? ? Death
西野美姫 クラブ 3 close
神河神無 ???? ? Death
??????? ???? ? Death
杉坂友哉 スペード Q close
一ノ瀬丈 クラブ 8 Death
速水瞬 スペード 10 Death
幸村光太郎 ダイヤ 4 close
飯田章吾 ???? ? Death
水谷祐二 ???? ? Death





上杉:『え~、ごほんごほん、マイク調整中、マイク調整中』


良輔:『遊んでないでちゃっちゃとしろ!!』


上杉:『わ~ってるよ、うっさいなあ~、そんじゃ、まあご一緒に』


一同:『終わったあああああああああああああああああああああ!!』


上杉:『え~、本日をもってシークレットゲームCODE:Second episode1が完結!!ということでめでたいめでたい』


優希:『キャラを貸してくださった『シークレットゲーム』のキセルさん、オリジナルソフトウェアやオリジナル解除条件を貸してくださった『キラーハート』のヤマネさん、記念すべき初感想をいただいた『Another story』のzeroさん、毎話書き上げるたびに感想を送ってくださった油桜さんにnidaさん、感想をいただいた、結崎 ハヤさん、前紙さん、ヴァイスさん、カワさん、そして今まで読んでくださった全ての読者様に感謝の言葉を送りたいと思います。みんな、ありがとう!!』


良輔:『といってもお前らの言いたいことはわかる。結局俺も優希も死んじまったし、ゲームマスターや未だ登場してないプレイヤー、判明してないPDAなど多くの未消化の要素がたっぷり残っている』


????:『あうう~私も早く出番欲しいです』


????:『そや、はよ、うちらも出さんかい!!』


飯田:『俺も全然活躍してないからな、episode2では活躍させてくれ』


速水:『しかし僕たちも鬼ではありません、ちゃんと続編が決まっています。そこでまたお会いしましょう!!』


上杉:『え~、それでは次回予告、下ね』




大学受験を控える高校3年生の北条良輔は目が覚めるとそこは見知らぬ天井だった。困惑する良輔の首には何故か銀色の首輪が着けられており、傍には1台のPDAが置かれている。そのPDAには首輪を外すための方法が書かれていたが、もし与えられた条件を72時間以内に達成できなければ首輪の仕掛けに殺されるとの記述が…。こんなことを疑いもなく信じてしまうのは目の前に転がっているものがかつて人間だったものだからだろうか?13人の全オリジナルキャラクターと13通りの全オリジナル解除条件が織り成す新感覚シークレットゲーム!!疑心暗鬼に満ちたこの空間で13人のプレイヤー達は自分の大切なものを守り抜くことができるのか!?FLATの大人気ゲーム、シークレットゲーム―Killer Queen―の二次創作作品、上杉龍哉の考案した誰も見たことのないシークレットゲームのセカンドステージがついにepisode2の幕を切る!!


シークレットゲームCODE:Second【episode2】joker war-ジョーカー戦争-をお送りします。


上杉:『みんな楽しんで見てね?』


これはにじファンでも二重投稿しております。なお、にじファンにて【episode2】の執筆が始まっております。


シークレットゲームCODE:Second 【episode1】blank one hour-空白の1時間-


完結




[22742] 【episode2】 joker war-ジョーカー戦争- 
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/12/13 00:02
大学受験を控える高校3年生の北条良輔は目が覚めるとそこは見知らぬ天井だった。困惑する良輔の首には何故か銀色の首輪が着けられており、傍には1台のPDAが置かれている。そのPDAには首輪を外すための方法が書かれていたが、もし与えられた条件を72時間以内に達成できなければ首輪の仕掛けに殺されるとの記述が…。こんなことを疑いもなく信じてしまうのは目の前に転がっているものがかつて人間だったものだからだろうか?13人の全オリジナルキャラクターと13通りの全オリジナル解除条件が織り成す新感覚シークレットゲーム!!続々と判明するPDA、jokerを求めて繰り広げられる激闘、命懸けの騙し合い、そして……裏で暗躍する真のゲームマスターがついにその姿を現す!!果たして本当のjokerは誰なのか!?FLATの大人気ゲーム、シークレットゲーム―Killer Queen―の二次創作作品、上杉龍哉の考案した誰も見たことのないシークレットゲームのセカンドステージがついにepisode2の幕を切る!!



[22742] 00話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/12/13 00:04
ここはどこの家にでもありそうな、 朝の風景。 日曜の朝ということでその家に住む人達は安らかな眠りについていた、 今日は仕事もなければ学校もない。 週に一度のお休みDAYだ。 起きているのは寝坊助な男共が起きてきたときに出す朝食をキッチンで準備している麗佳さんと渚姉ちゃん、 そして僕と僕の横で欠伸をしながら眠そうにしている優希ちゃん。 え?なんでこんな朝早くから起きているのかって?それは……

「まだかなあ?まだかなあ?」

時計をチラチラ確認しながら僕は今から始まる見たい番組が早く始まらないかとそわそわしながら待っている。

「てれびはにげたりしないんだからさ~もうすこしおちつこうよ~?」

眠そうに間延びした声で優希はそう答える。

「しょうがないじゃん、たのしみなんだから、たのしみじゃないならこんなにはやくおきないよ!」

良輔はそういって興奮した様子を隠そうとしない。良輔が楽しみにしている番組というのはTVで毎週日曜に放送される戦隊ものの定番アニメだ。このために良輔は日曜の朝だけは早く起きてくる。

「がっこうがふつうにあるときはなかなかおきないのにね~」

「優希ちゃんなんかいった?」

「べつに~」

そんなことを言っている間に番組がはじまった。

その番組も例に漏れずおーぷにんぐはありきたりなロボの合体シーンなどが占めている。番組の最初は日常?会話から始まって次に起こる事件の被害者と会話した後、 敵役が登場する。 最初こそ持ち前の能力やら人質を使ってヒーロー側を追いつめるも必ず逆転を許し、 致命傷を負わされるのだ、 そして必ずやられた敵は巨大化し、 ヒーロー達の合体ロボットと戦うことになる。

この時に何故敵が合体しようとするロボットを攻撃しないのかということや何でヒーロー達は最初からロボットで怪物を踏みつぶすことをしなかったのかということを聞くのはタブーだ。

なぜならそんなことを言い始めたら怪人を1人ずつ繰り出すところで既に破綻しているのだから……

『せいぎのひーろーってかっこいいよね?』

それでも良輔はTVのヒーローが好きだった。

『え~、そうかなあ?』

しかし隣で見ている優希はつまらなさそうに見ていた。

『だってこまっているひとがいたらどこにいてもびゅーんってとんできてわるいやつらをやっつけるんだよ?すごくかっこいいじゃん♪』

良輔は熱弁をふるい、そして

『なにより1ばんかっこいいところが……』

それは良輔がTVのヒーローの一番好きなところだった。

『じぶんのまもりたいひとを、かならず、かならずまもれるところなんだ』

悲しみを押しこらえてそう答える。もし自分にこのTVに出てくるヒーローのように力があれば母は死ななかった。母が生きていたなら今ごろ母と一緒にTVを見ているのだろうか?思わず目頭が熱くなる。良輔がヒーローに抱いているのは羨望だ、ただし普通の子供が抱くような羨望とは少し違う。普通の子供が抱くような『自分もあのようになりたい』ではなく良輔の場合は『自分もあのようでありたかった』という過去形の意味を持っている。

『ふ~ん、良輔はすきなんだね、せいぎのひーろーが』

何か面白くなさそうに優希が答える。

『うん、だいすきだよ♪』

良輔は悲しみを気づかれないように笑ってそう答えた。

『でも、じっさいにあんなひーろーがいるわけ、ないんだよね』

もしヒーローがいるならきっとお母さんを助けてくれたのだから……

『じゃあもしわたしがそのせいぎのひーろーになったらどうする?』

横を見れば優希がパンダのぬいぐるみで遊びながら尋ねてきた。

『う~ん、そうだなあ』

良輔はしばらく考え込むとこう続けた。

『もっとすきになっちゃうかな?』

だって優希ちゃんがいじめられていた男の子を助けたところって本当に格好良いと思ったから、 きっと僕があのとき優希ちゃんを助けに入ったのはお母さんを助けることができなかった後悔からなんだって、 思うから

『ふ、ふ~ん』

何故か顔を赤く染めて優希ちゃんはそう答える。

『優希ちゃん?』

『えっ?』

『どうかしたの?』

『な、なんで?』

『だって優希ちゃんのかおがあかいから……』

『べ、べつになんでもないもん!あ、それよりTVおわっちゃうよ?』

優希ちゃんの言葉に驚いてTVを見ると合体ロボが巨大化した怪人を倒したところだった。 
それからすぐ番組が終わる。

『またらいしゅうをたのしみにしなきゃな~』

そういってTVの画面を消した。

『良輔~、優希~、朝ご飯できたからお父さんと克己お兄ちゃんを起こしてきてくれる~?』

キッチンから渚お姉ちゃんの伸びた声が聞こえてくる。

『『は~い』』

僕と優希ちゃんは大きく返事を返す。それから寝ていた2人を起こして家族みんなで暖かいご飯を食べた、いや、『家族』で食べたっていうのはおかしいのかな?だって……

(僕はこの家の子じゃないんだし)

別にこの家に不満があるわけではない。 自分の子供同然に接してくれる総一さんや麗佳さん、 一緒に遊んだり面倒を見たりしてくれる克己兄ちゃんや渚姉ちゃん、 そしていつも隣にいる優希ちゃん、 良輔は御剣家の全員が好きだったがそれでも自分がこの家の一員ではないことに変わりはないという自覚があった。 そんな暗い感情がまだ小さな良輔の心を蝕んでいく。

(お母さんと一緒にご飯、食べたいな)

そんな当たり前のことが叶うことはもう有り得ないと知りながら今日も作り笑いを浮かべて朝食を平らげていった。




[22742] 01話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/12/14 00:47
【BET】
player  suit  card  odds  BET
北条良輔  ????  ?  3.4  -
御剣優希  ????  ?  6.5  -
夏本玲奈  ????  ?  8.3 油桜
柊桜    ????  ?  6.0 nida(40) 結崎 ハヤ
西野美姫  ????  ?  8.8  -
神河神無  ????  ?  2.4  -
白井飛鳥  ????  ?  7.0  -
杉坂友哉  ????  ?  4.5  -
一ノ瀬丈  ????  ?  6.8  -
速水瞬   ????  ?  1.8 上杉龍哉(50)
幸村光太郎 ????  ?  6.5  -
飯田章吾  ????  ?  7.8 ヤマネ
水谷祐二  ????  ?  2.9 ヴァイス
Day 1日目
Real Time 午前 10:30
Game Time経過時間 0:30
Limit Time 残り時間 72:30
Flour 1階
Prohibition Area 屋外
Player 13/13





 いつもより重い目覚めの中、北条良輔の意識は覚醒した。

「……夢、か」

 それにしても随分昔の夢を見たものだと思う。

「正義のヒーロー……ね」

 所詮は子供の頃の夢だと割り切る。
 そういえば小学生の頃に『将来の夢は正義の味方の味方です』って書いたっけ?

「何だよ『正義の味方の味方』って、普通に正義の味方でいいだろうに」

 思わず良輔は苦笑する。

「んっ?そういえばどこだここ?」

 目覚めると見覚えのない風景が広がっている。
 家ではない。
 不審に思った良輔はベッドから立ち上がりふと周りを見渡すとそこはまったく見知らない部屋だった。
 薄暗い。
 天井から1つの照明が鈍く光っているが部屋の薄汚れた状態が好印象を受けるものではなかった。
 室内には机が一つに椅子が2脚置いてある。
 ロッカーのようなものもあるが壊れていてとても使いものにならない。
 良輔はスプリングが飛び出した酷い状態のベッドから起き上がる。
 一瞬どこかのホテルかとも思ったがその考えをすぐに打ち消した。

「え~と、俺は確か学校の授業が終わってからバイトに行くために道を歩いていて………気づいたらこの部屋にいたことになる」

 そこから良輔の記憶はぷっつり途切れていた。

「まだボケるような年じゃないはずだが……」

 頭をカリカリ掻きながら考えを纏める。

「まさか拉致!?なんて漫画みたいな展開あるわけが……でもなあ」

 良輔が自らの意思でここに来たわけではないのだからやはり拉致されてきたように思えた。

 ピロリン、ピロリン

 そんな良輔を嘲笑うような電子音が部屋に鳴り響く。

「ん?なんの音だ?」

 良輔は音の発信源を求めて視線を左右に振る。

「あ、俺の荷物………」

 テーブルの下には良輔の荷物が置かれていた。
 どうやらこの音源はかばんの中にあるらしい。
 荷物を確認するべく良輔はかばんの中を調べた。

「何も盗られて……あれ?」

 かばんの中には勉強道具一式が入っており、 財布や携帯などもそのままある。  そこまでは良輔の記憶通りであったが何か見知らぬ機械が1台入っていた。
 そこから音が鳴っているらしい。

「何だこれ?PDAか?俺の物じゃないよ、な?」

 自分はPDAなんて代物を持ち歩いていない、 それなら何故このPDAは自分の荷物に紛れ込んでいるのだろうか?

「やっべ、もしかしたら間違えて他人のものをかばんの中に放り込んだのかも?」

 良輔は慌ててその機械を手に取って画面を見るとトランプでよく見るダイヤの【5】の絵柄が表示されていた。
 備え付けられていたボタンを押し込むとバックライトが点灯して画面が切り替わる。

「ルール、機能、解除条件?」

 現れた表示を棒読みする良輔、なんとなくルールを押してみる。

ピッ

【ルール1】
《参加者には特別製の首輪が付けられている。
それぞれのPDAに書かれた条件を満たした状態で首輪のコネクタにPDAを読み込ませれば外すことができる。
条件を満たさない状況でPDAを読み込ませたり、自らのPDAを破壊されたりすると首輪が作動し、15秒間警告を発した後、建物の警備システムと連携して着用者を殺す。
一度作動した首輪を止める方法は存在しない。》

【ルール2】
《参加者には1~9のルールが4つずつ教えられる。
与えられる情報はルール1と2と、残りの3~9から2つずつ。
およそ5、6人でルールを持ち寄れば全てのルールが判明する。》

【ルール8】
《指定された戦闘禁止エリア内での戦闘行為及び指定された戦闘禁止エリアの中にいるプレイヤーへの戦闘行為を禁止する。違反した場合、首輪が作動する。》

【ルール9】
PDAの解除条件は以下13通りとなる。

A:ジャック・クイーン・キングのPDAの初期配布者が死亡している。
手段は問わない。

2:「ゲーム」の開始から6時間経過後、jokerのPDAを6時間以上保有する。
また、PDAの特殊効果で半径1メートル以内ではjokerの偽装機能は無効化されて初期化される。

3:自分のPDAの半径5メートル以内で3人以上の人間が死亡する。
手段は問わない。

4:他のプレイヤーの首輪を3つ破壊する。手段は問わない。

5:生存者を5人以下にする。手段は問わない。
また、PDAの特殊効果で残り生存者数を表示する。

6:「ゲーム」の開始から6時間経過後、偽装機能を使用されている状態のjokerが自分のPDAの半径1メートル以内に累計して6時間以上存在している。自分がjokerを所有している必要はない。

7:偶数のPDAを全て収集する。
手段は問わない。
また既に破壊されているPDAは免除。

8:「ゲーム」の開始から24時間経過後に素数のPDA初期配布者全員と遭遇する。
死亡している場合は免除。

9:jokerのPDAの所有者を殺害する。
手段は問わない。

10:初期配布者が既に死亡、または首輪の解除に成功したPDAを3台収集する。手段は問わない。

J:「ゲーム」の開始から2日と23時間経過時点で、自分を除いて5人以上のプレイヤーが生存している。

Q:「ゲーム」の開始から24時間以上行動を共にした人間が首輪の解除に成功する。

K:自分のPDAの半径5メートル以内で首輪を3個作動させる。
手段は問わない。3個目の作動が2日と23時間経過前で起こっていること。

 書いてある全てのルールを読み終わる。
 続いて押すのは解除条件という項目、機能を飛ばしたのはルール9に解除条件について言及されていたからだ。

ピッ

【5】
《生存者を5人以下にする。
手段は問わない。
また、PDAの特殊効果で残り生存者数を表示する》

「生存者を5人以下、そういえばトップに『生存者:13人』っていう表示があったな?あれのことか?」

 最後に飛ばした機能に触れると建物の見取り図みたいな白地図が表示された。

「何じゃこりゃ?」

 見れば6階建てのえらく大きい建物のようだった。

「それにしても首輪ねえ?」

 何度も出てくるその単語に思わず自分の首に手をやるとひんやりとした金属の冷たさが手に伝わる。

「んんっ!?ちょっと待て!!俺の首になんか巻きついてるぞ!?」

 思わずそう叫ぶと良輔の目が携帯にとまる。
 携帯を手にとって電源を入れる。
 起動してしばらくすると待機画面になった。

「圏外……だな」

 当たり前かと一蹴してすぐに写メを使って自分を撮った。
 その画像にはやはり銀色の首輪が巻きついている。

「まさか、な?」

 こんな非現実的なことが起こるはずがないと考えて改めて電子音を鳴らす機械を調べる。

「PDAだよな、これ?」

 どう見てもPDAなのだがあまりに荒唐無稽な内容から何かのゲーム機なのではないかと疑ってしまう。
 どこにもメーカーを表すような刻印はなく、 ディスプレイにダイヤの【5】が大写しになっている。
 それはとても軽い。
 大きさは縦10㎝、 横6㎝程度だろうか?
 トランプをモチーフにしているためか極めて薄く作られていた。
 ディスプレイはPDAの大部分を占めており、 ディスプレイの下には良輔が先ほど押した小さなボタンが備えられていた。
 PDAをひっくり返すとトランプの背中側のデザインを踏襲しており、 白枠の中に格子模様が描かれている。

「どうでもいいけどずいぶん凝ったデザインのPDAだよな?」

 そんなことを考えながらPDAをかばんに放り込んだ。
 良輔にとってそれはその程度のものでしかなかったのである。
 ここにいても仕方がないと荷物を背負って入口まで歩いて行った。

「なんか忘れ物とかないよな?」

 良輔は1度振り返ってそれだけ言うと部屋から退出した。






――――――――――――――――
――――――――
――――
――






 それから数分くらい後のことだった。
 カチャリと扉が開いて誰かが入ってくる。

『良輔!?』

 その人物は入って来るなりそう叫びながら部屋を見渡すがそこには誰もいない……

『聞き間違いだったのかな?でも私が良輔の声を聞き間違えるなんてそんなはず……』

『はぁはぁ、や、やっと追いついた、いきなり走りだしてどうしたって言うのさ!?大体、優希姉ちゃん走るの速すぎるよ、僕を置いてけぼりにしないでよ~』

『あ、ごめんなさい、ジョー、でもさっき良輔の声がここから聞こえた気がして……』

『良輔?』

『あ、うん、私の幼馴染なんだけど……』

『ああ、さっき優希姉ちゃんが言ってた人?なるほど、その人があまりにも恋し過ぎて幻聴が聞こえたわけなんだね?』

『なっ!?べ、別にそんなわけじゃ……』

『はいはい、御馳走様、御馳走様、僕もうそれだけでお腹いっぱいだよ』

『こら、大人をからかわないの!!それよりもこれからどうしよっか?』

『それなんだけど1度エレベーターを使って6階に行ってみない?』

『6階に?でも出口を探したほうがいいんじゃない?』

『うん、だから6階に行こう』

『だからがどう繋がってるのか分からないんだけど……』

『この建物を歩き回って、というか走り回って気づいたんだけどこの建物って窓がないんだよね?』

『だからそれは……私達を外に出さないためなんでしょう?』

『僕の持ってるルール5によると建物の外は侵入禁止だよ?出れないなら窓くらい作ってもいいじゃない?でもそれがないってことは窓がないんじゃなくて作れなかったんじゃないかなって思うんだ』

『どういうこと?』

『この建物ってもしかして地下に造られてるんじゃないかな?』

『……はい?』

『優希姉ちゃんはこんな建物の存在聞いたことある?』

『それはないけど』

『僕もないよ、でもこんな馬鹿でかい建物があるなんて知れたらテレビやらネットやらで大騒ぎになっていても不思議じゃないのにそんな話は今まで聞いたことがない。つまりこの建物は逆説的に普通の人は誰も知らない、というか意図的に隠されていると考えざるを得ない』

『まあ、そうなるわね』

『でもだよ?こんな馬鹿でかい6階建ての建物が地上の、それも今までずっと人の目につかないところに建てられてたなんて僕にはどうしても思えないんだよ、なんで誰も気がつかないのか?そう考えると地下施設っていうのが妥当な線なんじゃないかなって僕は思うんだ、地下施設なら隠し通せるかもしれないでしょ?もしこれが地下に建造された建物だったらこの1階は地下6階、6階が地下1階になるってことだからもしかしたら6階に出口があるのかもしれない』

『う~ん、そう言われても私にはイマイチピンと来ないわね』

『もし間違っていてもどうせ最終的にはみんな6階に上がってくるんだから他の参加者に会うのはそれからでもいいよ、もし出られるならそこから出たっていいんだし』

『そうね、することもないしそうしましょうか?この地図によるとエレベーターは……』

『こっちみたいだよ、けっこう近いね、行こう?』

『あ、こら、ジョー!!ちょっと待ちなさい!!』

 そうしてその2人の人物もこの部屋から姿を消した。
 すれ違いになった良輔と優希はこのゲームでどのような結末を迎えるのだろうか?
 それは……

 誰にも分からない。






[22742] 02話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/12/14 23:48
【BET】
player  suit  card  odds  BET
北条良輔  ????  ?  3.4  -
御剣優希  ????  ?  6.5  -
夏本玲奈  ????  ?  8.3 油桜
柊桜    ????  ?  6.0 nida(40) 結崎 ハヤ
西野美姫  ????  ?  8.8  -
神河神無  ????  ?  2.4  -
白井飛鳥  ????  ?  7.0  -
杉坂友哉  ????  ?  4.5  -
一ノ瀬丈  ????  ?  6.8  -
速水瞬   ????  ?  1.8 上杉龍哉(50)
幸村光太郎 ????  ?  6.5  -
飯田章吾  ????  ?  7.8 ヤマネ
水谷祐二  ????  ?  2.9 ヴァイス
Day 1日目
Real Time 午前 10:52
Game Time経過時間 0:52
Limit Time 残り時間 72:08
Flour 1階
Prohibition Area 屋外
Player 13/13





 シーンと不気味なまでに静かな薄汚い通路をコツコツと歩く音が聞こえる。
 その足音の主、 北条良輔はイライラしたこの状況をどうにもできずにいた。
 どこが悪かっただろうかと良輔は考える。
 少なくとも部屋からところまでは間違っていない……はずだ。

「ちっ、どんだけでかいんだ?」

 思わず口からこぼれた愚痴は通路に低く反響する。 もうかなりの距離を歩いたはずなのにさっぱり終わりが見えてこない。
 部屋の数も多く、 あちこち通路が入り組んでいて相当複雑な構造の建物だった。
 良輔は道順などは紙に書き留めておかずとも覚えているがこの迷宮とでも呼ぶべき建物に困惑を隠せずにいた。

「せめて地図みたいなもんでもあれば……って誘拐してきたやつらがそんな手段を用意するわけもないか?いや、待てよ?」

 良輔はふと最初に見たPDAの画面を思い出す。
 地図、そういえばあのPDAにあった白地図はもしかしたら……

「ものは試し……か?」

 何もやらないよりはましと考えたのか良輔はかばん奥深くで眠っているPDAを取り出して電源を入れる。
 白地図を見れた機能を選択して地図を呼び出した、だが……

「駄目だな、これじゃあ広すぎて絞りきれないか」

 建物の通路が多く、似通った場所も数多くあるので良輔が今まで移動してきた距離だけでは現在地を絞り込めなかった。
 自分の思い通りにいかない展開に溜息をつく。

「ったくどうしろって言うんだか?ん?」

 PDAをポケットにしまって通路を曲がると人影が見えた。
 どうやらこの先で1人の男が背を壁に預けて立っているようだ。

「………」

 その男は無言で立っている。
 年代は40代前半といったところだろうか?体躯2mにも届こうかという大柄な男だった。
 何をしているのかはしらないがその男にも銀色の首輪が着けられていた。

「俺をここに連れてきたやつか?」

 その可能性は十分ある。
 もしあの大男が同じように連れて来られた人間だというならあの落ち着いた態度はかなり不自然だ。
 だが同じ銀色の首輪が拉致犯なのか同じ境遇の人間なのかという判断を困らせた。
 少し考えて良輔が出した結論は……

「決めつけはよくないよな、何か今の状況がわかるかもしれないし……話しかけてみるか?」

 何か情報が得られるかもしれない。
 良輔はそう考えて男に近づいていく。
 見れば向こうの男もこっちに気づいたようである。

「よう、え~と、首輪もしてるしアンタが俺をここに連れてきた拉致犯……ってことはないよな?」

 警戒しながら言葉を選んで大男に問いかける。
 襲いかかってくればすぐにでも逃げ出すつもりだった。

「ああ、私も気づいたらここにいた。私の名前は幸村光太郎という……青年、君の名は?」

 幸村というらしい大男は良輔の問いに頷いて名乗った。
 その反応に胸を撫で下ろす。

「北条、良輔だ……」

 それにしても近くで見ると本当にでかい。
 良輔自身も結構長身であるがこの男はでかすぎる。
 おまけに鍛えられた筋肉がそのでかさを強調しているように思えた。

「ふむ、北条君か、それで私に何か用かな?」

 幸村の落ち着いた態度を訝しがる良輔を余所に、 事務的に幸村はそう答えた。
 まるで良輔に興味はないと言わんばかりに……

「いや、用っていうか……ここがどこか知らないか?」

「知らんな」

「じゃあ出口とか」

「知らんな」

「俺達がここに連れて来られた理由なんていうのは……知るわけないよな」

「それなら知ってる」

「本当か!?」

 幸村の答えに良輔は思わずそう叫んだ。
 まったく状況がわからない良輔にとってそれは大きな前進と言っても良かった。

「ああ、どうやら私たちはゲームをするために集められたらしい」

「ゲーム?」

 幸村の答えに思わず良輔が聞き返す。
 幸村は軽く頷くとポケットに手を入れて何かを取り出した。

「そうだ、君の部屋にもこれが置かれていたのではないかな?」

 幸村はそういってPDAを取り出す。

「ああ、それなら確かに俺の部屋にもあったな」

 ポケットに入れておいたPDAを取り出して幸村に見せる。

「そこに書かれた内容は読んでみたかな?」

「ああ、一通りは……でも書いてあることはめちゃくちゃだったぞ?」

 内容は首輪が作動して殺されるなどあまりに現実味がない荒唐無稽なものであったことを良輔は覚えている。

「北条君、ここに書かれていることは全て真実だろう」

 しかし幸村は力強く真実であると断定した。

「何を根拠に?」

 良輔は幸村のきっぱりした反応に疑問を抱く。 

「一般人の君にはわかりにくいかもしれないがこれほど薄いPDAを作るには金がかかる、それも数百万単位のだ、1台だけならともかくそれが2台、冗談でやるには金がかかりすぎだとは思わないか?」

「そう言われてみればそんな気がしないでもねえけど……」

 この馬鹿みたいな建物だって敷地だけでどれだけ金がかかっていることかと思えば確かにやりすぎという気がする。しかし……

「でもいきなり人を殺せとか言われてもなあ」

 それでホイホイ人を殺せるほどクレイジーな人間になった記憶は良輔にはない。

「ほう、君の条件には殺人が必要なのか?」

「ん?生存者を5人以下にしろって書いてあるな……アンタは?」

「私は首輪の3つ破壊だ」

「首輪ってこれか?」

 自分の首を突いて見せる。

「ああ、それのことだ」

「首輪の3つ破壊って確か【4】?」

 ルール9を思い出しながら良輔はそう答えた。

「わかるのか?」

 少し興味を持ったように幸村はそう呟いた。

「ああ、俺のPDAには13通りの解除条件について書いてあった。後は、戦闘禁止エリアっていうのがあってそこでの戦闘は禁止されてるって書いてあったな、破ったら死ぬらしい、そっちは何が書いてあったんだ?」

 良輔の問いに幸村は少し考えると……

「見たほうが早いだろう、それ」

 幸村は持っていたPDAを良輔に投げ渡した。

「おっと、ルール1と2を除けば3と7か……」
 
 良輔は幸村からダイヤの【4】を受け取るとPDAの操作をはじめる。

 ピッ

【ルール3】
《PDAは全部で13台存在する。
13台にはそれぞれ、異なる解除条件が書かれており、開始時に参加者に1台ずつ配られている。この時のPDAに書かれているものがルール1で言う条件にあたる。
他人のPDAを奪っても良いが、そのPDAに書かれた条件で首輪を外す事は不可能で、読み込ませると首輪が作動し着用者は死ぬ。》

【ルール7】
《開始から6時間以内は全域を戦闘禁止とする。違反した場合、首輪が作動する。正当防衛は除外する。》

「………」

「どうした?顔色が悪いようだが……」

「あ、いや、別に何でもない」

 ルール7を見て最初に幸村に襲いかかろうとしたことを思い出し、冷や汗を掻く。

(まあ、多分冗談だろ)

 しかし良輔にはやはりこれが性質の悪い冗談だと思っていた。
 こんな無法地帯が今の日本に実在するかもしれないと考えるほど良輔はズレていなかったのである。
 だが、今回に限ってはその常識が通用しないことをまだ良輔は知らない。

「PDAを見せてくれてありがとよ」

「いや、返す必要はない」

 良輔は【4】のPDAを幸村に差し出すがそれを幸村は拒んだ。

「はっ?」

「私には必要のないものだ……」

 興味なさげに幸村はそう答える。

「何言ってんだ?さっきここに書いてあるルールが本物だって言ってなかったか?つまりこれがなかったらアンタ死んじまうぞ?」

「かまわんさ、もとより生き残るつもりもない、しかしそのPDAは今後役に立つだろう、君が持っていくといい」

 その幸村の態度に良輔はピンと来た。

「なるほどね、アンタもこのゲームを信じてない口だろ?まあ、いきなり殺し合いをしろなんて言われても困るよな」

 良輔は冗談のつもりで言ったが幸村の表情は真剣そのものだった。

「好きに受け取ってくれてかまわんよ、そろそろここから離れたほうがいい、ゲームは最初の進め方が肝心だ」

「でも拉致犯もどこかにはいるだろうし一緒に行動したほうが良くないか?」

 ゲームは嘘だとしても自分をここに連れてきたやつらは間違いなく存在する。

「私はここを動くつもりはない、早く行け」

「……わかったよ、また機会があればどこかで会おうぜ?」

「ああ、そんな機会があればな」

「んんっ?」

 良輔はその態度を不審に思いながらもそこまで言うなら無理に行動を共にする必要もないと判断して幸村に背を向け、そのまま立ち去った。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






「やれやれ、ようやく行ったか……」

 幸村は懐から1枚の写真を取り出す。

「悠乃、美姫」

 そこに映っていたのは1つの家族だった。

「人の命を奪い続けてきた腐った人生もようやく終わる」

 ズズッと壁に背を預けたまま座り込んだ。

「だが、もしこの世に神が存在したとして、もしその神に慈悲があるというなら一目でいいから、一目でいいから悠乃と美姫に会いたかった」

 握ったままの写真にポタポタと水滴が落ちていった。






[22742] 03話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/12/17 15:33
【BET】
player  suit  card  odds  BET
北条良輔  ダイヤ  5  3.4  -
御剣優希  ????  ?  6.5  -
夏本玲奈  ????  ?  8.3 油桜(50)
柊桜    ????  ?  6.0 nida(40) 結崎 ハヤ
西野美姫  ????  ?  8.8  -
神河神無  ????  ?  2.4  -
白井飛鳥  ????  ?  7.0  -
杉坂友哉  ????  ?  4.5  -
一ノ瀬丈  ????  ?  6.8  -
速水瞬   ????  ?  1.8 上杉龍哉(50)
幸村光太郎 ダイヤ  4  6.5  -
飯田章吾  ????  ?  7.8 ヤマネ
水谷祐二  ????  ?  2.9 ヴァイス(30)
Day 1日目
Real Time 午前 12:25
Game Time経過時間 2:25
Limit Time 残り時間 70:35
Flour 1階
Prohibition Area 屋外
Player 13/13





 良輔は幸村と別れた後は1人で通路を彷徨っていた。

「ようやく現在地がわかったな」

 幸村と別れてからもう1時間。ようやく現在地が掴めた。

「とりあえずこのやけに広いところに行くべきか?」

 もしかしたら出口があるかもしれない。

「うん?」

 しかし良輔が次の通路を曲がったところで人が前を歩いていた。
 身長は150ちょっとぐらいだろうか?
 緑色の長い髪をした黒い学生服に身を包んだ女性だと思われる。

「おい!!そこのアンタちょっと待ってくれ!!」

 良輔はその女性に声をかけて呼び止める。
 最初に会ったのが幸村のような大男だったためかそのギャップであまり警戒心を抱いていなかったのが大きかった。

「誰!?」

 その女性は驚いて振り返る。
 黒縁の眼鏡から切れ目の長い綺麗な目が覗いていた、体付きはあまりよくないがその分、顔は端整な顔つきをしている。

「俺の名前は北条良輔、気づいたらここにいたんだがお前は何か知らないか?」

「僕は柊桜、僕もわけのわからない内にここに居たわ、アンタは僕をここに連れてきた奴らの仲間じゃないのね?」

 目の前の少女は疑いの目を良輔に向けている。

「違う、首輪だってしてるだろ?」

 良輔はそういって首輪を見せるが少女の疑惑を晴らすには足りなかったようだった。

「そんなのわからないよ、誘拐犯だって首輪を着けてるかもしれないし……あ、ねえ、アンタもあれ、持ってるんじゃない?」

「あれって?」

「これ、PDA、起きた場所に置いてあったはずだよ……」

 そういって柊はPDAを取り出す。

「ああ、それなら俺も持ってる」

 良輔はPDAを取り出す前に自分のPDAと幸村のPDAを合わせて2台持っていることに気づいた。

(まあ、どっちでもいいだろ)

 良輔はそう考えて……

「ほら、これだろ?」

 良輔は右ポケットからPDAを1台だけ取り出した。
 そのPDAは良輔が最初に持っていたダイヤの【5】のPDAだ。
 この時の良輔はまさかこの選択が自分の運命を大きく変えることなど露とも考えなかった。
 神ならぬ身の良輔にそれが運命の分かれ道になることがわかるはずもなかったのである。

「そうそう、それよ、それからアンタに1つ聞きたいことがあるんだけど……」

「何だよ?」

「起きたときにPDAが2台置かれていたってことはないかしら?」

 柊はそう尋ねるが……

「いや、起きたときに置いてあったPDAはこれ1台だけだ」

 良輔には幸村からもらったPDAもあるがあれは起きたときに置いてあったものじゃない。

「そう……」

 目の前の少女は何故か残念そうだった。

「それがどうかしたのか?」

 その態度を訝しげに思って良輔は柊にそう問いかける。

「ううん、何でもない、そのPDAをちょっと見せてもらいたいんだけど構わないかな?」

「ああ、別に構わないぞ」

 良輔は手に持っていたPDAを柊に渡す。

「ありがとう、ふふっ、これでアンタは今から……」

 ゾクリ

 柊が家畜でも見るかのような目で見てくることに寒気がしたその時だった。

 ピロリン、ピロリン

 突然、柊に渡したPDAから電子音が鳴り響いた。

「何の音?」

 柊は訝しがって良輔のPDAを見つめる。

「さあ?何かのアラーム音みたいだったがそれが……」

 それがどうかしたのか?
 そう良輔が尋ねようとした。
 そのときだった。

『キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?』

 遠くから女性の悲鳴が聞こえてくる。
 良輔も柊も悲鳴が聞こえてきた方向に注意を向けた。

「何だ?」

 その悲鳴に良輔は警戒を強める。
 もしかしたら近くに拉致犯がいるのかもしれない。

「行ってみましょ?向こうからだった!!」

 柊は悲鳴が上がったと思われる通路を指差す。
 そこは良輔が目指していた場所に通じる通路だった。

「ああ!!」

 良輔は頷き返し、柊と一緒に声が聞こえた場所へ向かって走り出した。
 その先に何が待ち受けているのかなど考えることもせずに……





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






 良輔と柊が悲鳴の聞こえた場所に着くとそこはかなり広くエントランスホールのような場所だった。

『こんな、こんなことって……もう嫌、もう嫌よ』

 そこには床にペタリと座り込んだ柊とは違う学生服を着た瑠璃色の長髪の女性。
 そしてもう1人。

『………』

 黒焦げになっている1人の……いや、1つの死体だった。

「なっ!?ま、まじかよ……」

 良輔は驚きの声を上げる。

「へえ、誰だか知らないけど……やるじゃない」

 しかし狼狽する良輔を余所に柊はその横で薄く笑う。
 その表情を見て良輔は背中に悪寒が走った。

「お、お前よく死体なんて見て笑っていられるな?」

「あのね、これはゲームよ?人を使ったサバイバルゲーム、PDAに書いてあったでしょう?他人を蹴落として自分の首輪を外す、負ければ死ぬ。そこで黒焦げになっているやつは弱いから死んだ、それだけじゃない」

 柊は何でもないように鼻で笑い飛ばす。

「……、」

 良輔は柊のあまりな反応に避難の視線を向けた。
 しかし……

「僕を睨んでいる暇があるなら他にやることがあると思うけど?」

 柊は蹲って泣いている女性に視線を向ける。
 悔しいが確かに柊の言うとおり先にやることがありそうだ。
 そう考えて良輔は死体の傍で泣き崩れている少女に話しかけることにした。

「おい一体ここで何があった?あそこで死んでるやつはなんで?」

 良輔は死体の傍で蹲っている少女に話しかけるが……

「ひっ!?」

 その女性は良輔達を見ると怯えた表情を見せる。

「落ち着け!!俺達はお前に危害を加えるつもりはない!!」

「そ、そんなこと、わからないじゃないですか!?そんなこと言ってあなた達もあの人みたいに私のことを殺すつもりなんでしょう?」

 しかしその女性は錯乱気味にそう叫ぶ。

「あの人ってどういうこと?」

 柊がその言葉に反応する。
 その発言が正しければここにいるやつはそいつに殺されたということなのだからその反応は自然だろう。

「俺は北条良輔、こっちは柊桜、お前名前は?」

「な、夏本です、夏本玲奈……」

 夏本と名乗るその少女はおどおどとそう答える。

「そっか、よろしくな、夏本、それでさっき言ってたあの人って?」

「わ、私は学校の帰り道を歩いていたら気づいたらここにいて……」

「学校帰りにか、俺はバイトに行く途中だった」

 良輔の言葉に夏本がそうなんですかとだけ呟いた。

「それで部屋から出てしばらくしたら杉坂さんに会って……」

「杉坂?」

 良輔の言葉に夏本は黒焦げになった物体を指差す。
 どうやらあそこで黒焦げになっているやつは杉坂というらしい。

「それで、私達は雑談しながら歩いてたんですけど偶々この広い場所に出て……そしたら1人の人がそこに立っていたから話かけたんです」

「特徴は?男?それとも女かしら?」

「女の人です、赤いバンダナを巻いた、黒い長髪で綺麗な人だったから会えばすぐわかると思います」

 柊に夏本はそう答えた。

「つまりその女があの杉坂ってやつを?」

「いえ、それが私にもよくわからなくて……」

「わからない?何してたのアンタ?」

「おい、柊」

 柊が夏本を馬鹿にしたようにしゃべるのをたしなめる。
 そのまま柊は面白くなさそうにそっぽを向いてしまった。
 他人に注意されるのが気に入らないタイプなのかもしれない。

「それでわからないって言うのは?」

「その人、神河神無って名乗って最初は私達と普通に話をしてたんです……」

「なるほど」

 良輔は頷く。
 どうやらわかりやすい手段を神河は用いなかったのかもしれない。

「その内に神河さんがPDAに書かれていたルールについて聞いてきたんです」

「へえ、それでアンタはどれだけルールを知ってんの?」

 柊は興味深そうに夏本に尋ねる。

「共通ルールの1と2、私のPDAに乗っていた4と5、それから杉坂さんのPDAに乗っていた3と9です」

 夏本はメモのような物を取り出す。

「便利なもの作ったな、ん?その神河ってやつの分のルールはどうした?」

「神河さん、自分のPDAを寝ていた場所に置いてきてしまったと言っていたので私達のものだけで……」

「そんな馬鹿がいるわけないでしょ?気づきなさいよ」

「そ、そんなこと言われたって……」

「おい、柊止めろ!!話が進まない」

 良輔の言葉に柊が渋々頷く。

「それで私達のPDAナンバーを神河さんに見せたんです」

「PDAナンバーを?それは何故?」

 柊は何故PDAナンバーを見せるという話になったのか尋ねた。

「神河さんは自分のPDAは【8】だって言っていました。起きたときにチラッと画面を確認していたそうです」

 【8】の解除条件はゲーム開始から24時間経過後に素数のPDA初期配布者全員との遭遇だったはずだ。
 恐らくルール交換の時にそのルールを知って利用したというところだろう。

「そしたら突然神河さんが自分の寝ていた場所にPDAを取りに戻るから地図機能のあるPDAを貸して欲しいって……」

 夏本は涙を流しながら話す。

「私達もついて行こうとしたんですけどそんなに離れていないから大丈夫だって言って、それで杉坂さんがPDAを貸すことになって」

 なるほど神河の条件はわからないが一歩間違えていたらあの黒焦げ死体はこの子になっていたかもしれないということか。
 良輔は心の中でそう考えながら夏本の話を聴いていく。

「それで神河さんの姿がホールから消えてからしばらくすると杉坂さんの首輪から突然赤いランプが点灯してルール違反がどうしたとか聞こえてきたんです」

「ルール違反?」

 思わず良輔は聞き返す。

「はい、そのすぐ後に暗がりから電極みたいなものが飛んできて杉坂さんは……」

 しかしその先を言うことは夏本にはできなかった。

「ルール違反か、それにしてもどのルールに違反した?」

「それはルールが全部わからないと判断がつかないわね」

 良輔に柊がそう答えた時だった。

『お~い、そこにいるお前ら!!』

 声に反応して良輔達は振り返る。
 見れば初めて見る3人の人間が近寄って来ていた。
 全員が首輪をつけている。
 1人は白衣を着た中年くらいの男性。
 1人は高そうな黒いスーツに身を包み、ビシっと決めている20代後半の女性。
 最後に髪を赤く染めた男性だ。

「止まってくれ!!アンタらは誰だ?」

 良輔はその3人を制止する。

「俺は水谷祐二!!気づいたらここにいたんだが見ればお前らも同じような状況だろう?情報交換したいんだがいいか!?」

「そうだな、わかったこっちに来てくれ!!」

 良輔は柊と夏本をちらっと見ると頷いて返した。

「何やの、これ?どないなっとんねん!?こんな馬鹿げたゲームがホンマのものやったってことか?」

 死体を見た女性は驚いた表情で呟く。

「こいつは……感電してやがるな、それも皮膚の内側から電気を流してやがる。むごいことを……ここで何があった?」

 白衣の男が死体を調べながら聞いてくる。
 どうもこの反応から見て死体を見ることには慣れているらしい。

「それは今から話す」

 そうして良輔は夏本から聞いたことの顛末を話していった。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






 それを聞き終わったときの表情はみんな暗いものだった。

「なるほど、死んだ杉坂ってやつに胡散臭さ満点の神河ね」

 水谷は興味深そうにそう呟くと煙草を取り出す。

「おい、水谷、ガキが近くにいる場所で煙草なんて吸おうとするんじゃねえよ、場所を弁えろ、ボケ」

「はっ、堅いこと言いなさんなよ、飯田のおっさん」

 しかし白衣の男、飯田の忠告を無視して煙草を吸おうとする。
 見かねた飯田は水谷から煙草を奪い取った。

「あっ、おい、何すんだよ」

「駄目と言ったら駄目だ、聞き分けのねえガキだな」

「あん、今、なんつった?」

「自分勝手なお子様だっつったんだよ、何か文句あるのか?」

「てめえ、俺様に喧嘩売ってただで済むとでも思ってんのか?なあ、飯田のおっさんよぉ~?もう年なんだからあまり粋がってると怪我するぜ?」

「はっ、馬鹿が、俺に脅しが利くと思うなよ」

 水谷と飯田が一触即発の姿勢を見せる。

「ほら、2人共その辺にしとき、子供の前でみっともあらへんで?」

 しかし黒いスーツを着た女性が間に割って入った。

「ちっ」

「悪い、白井の言うとおりだ、少し大人げない真似しちまった」

 2人がバツの悪そうな顔をする。

「そういえばまだうちら自己紹介しとらんかったな?うちの名前は白井(しらい)飛鳥(あすか)、職業はスタイリストや、よろしゅうな?」

 白井と名乗った女性はニカッと笑いかける。

「次は俺だな?俺の名前は飯田(いいだ)章吾(しょうご)、職業はまあ見てのとおり医者だ、外科を専門にしてる。病院の庭をほっつき歩いていたら気づけばこの様だ」

 飯田はどこに隠し持っていたのか白衣の中からキラッとメスを取り出した。

「っ!?な、なあ飯田のおっさん、そのメスかっこいいよな?俺にも1本分けてくれねえか?」

 驚いた表情を作ると水谷は下手に出ながら飯田に懇願する。

「はあ?水谷、お前何寝ぼけたこと言ってんだ?メスは医者の魂だぞ?何でてめえに渡さなきゃならねえ?」

「ああ、実は俺は医者の卵なんだ」

「ほう?それじゃあ人間がどれだけの電流流せば死ぬか知ってるか?」

「はっ?え、え~と、悪りい、ド忘れした」

「50mA以上だ、演技はできても知識はどうにもならんだろ?嘘も大概にしとかねえと恥かくぞ?フリーター」

「ぐっ、てめえ人の気にしてることをズバズバと……」

 水谷は悔しそうに呟く……

「ほら、アンタもさっさと自己紹介しい、後がつまっとるやろ?」

 白井が水谷に自己紹介を急かす。

「ちっ、俺は水谷祐二、職業は会社員だ、断じてフリーターじゃないから間違えるなよ?」

「はっ、強がりやがって、惨めだねえ」

「てめっ!?」

「ああっもう!!アンタらいい加減にせんかい!!」

 また喧嘩腰になる2人を白井が止める。

「俺は北条良輔だ、高校3年生、バイトの出掛けから記憶がない」

「僕は柊桜、高校1年よ、僕は学校帰りから記憶がないわね」

 良輔と柊が自己紹介を終えると全員の視線が夏本に集まるが夏本は下を向くばかりで答えない。

「大丈夫か?」

 良輔は夏本に話しかけるが夏本は返事をしない。
 俯いて床を見下ろすばかりだ。

「おい、お前の番だぞ?さっさと自己紹介しろよ、ルールの交換ができないだろが?」

「水谷!!お前な、この子はいきなりこんなところに連れてこられて死体を見せられたんだぜ?もっと他にかけてやる言葉ってのがあるんじゃねえかい?」

「はっ、他人の都合なぞ俺が知ったことか!?」

「思いやりが大事だって言ってんだよ!!」

「アホか、自分の命が係ってるのに他人の気遣いなんざしてどうなる?こいつがしゃべるのを遅らせたことで俺達の生死に関係が出てくるかもしれないんだぜ?」

「ぐっ、それは……」

 これに関してのみ言えば間違いなく水谷が正しかった。
 飯田の意見は常時なら正しいと思われる言動だったがこの状況でそうも言っていられないのは全員があの死体を見たときにわかっていることだろう。

「な、夏本、です、夏本玲奈、高校1年生」

 震える声で絞り出すように呟く夏本。

「よくがんばったな」

 良輔はそういって夏本の頭を撫でてやる。

「は、はい……」

 夏本は短くそういって頷いた。

「それじゃあさっそくルールの交換だが……」

「ここに夏本が作ってくれたルール表がある。それに書き込んで完成させた後に、全員分のメモを作ろう」

 水谷の提案に良輔はルール表を差し出す。
 見ればルール表には柊が7を書き加えており、わかってないのは6と8だけとなっていた。

「ああ、ちょうど俺のPDAに6と8が乗ってる、これだ」

 飯田は全員にPDAのルール項目を見せた後、紙にルールを書き加えて手早く人数分のメモを作る。

「ほえ~、仕事早いなあ~」

「はっ、資料作りで慣れてるからな」

 飯田は書き終わったメモを全員に配った。

「そういえば、お前とそこで黒焦げになってるやつはその神河ってやつに自分のPDAナンバーを見せたって言ってたよな?」

「は、はい」

 水谷の言葉に夏本が頷く。

「じゃあ、お前はそいつのPDAを知っているわけだ……」

「え?あ、はい」

「何番だった?」

「はい?」

「だからあいつのPDAだよ」

 水谷はそういって夏本を睨む。

「【Q】でした、杉坂さんのPDA、スペードの【Q】でした」

 夏本は気圧されたようにそう答える。

「「【Q】か………」」

 良輔と水谷の言葉が重なる。

「んっ?」

「おっ?」

 良輔と水谷が思わずお互いを見た。

(こいつも気づいたか?)

 良輔がそんな考えを浮かべると水谷がニヤニヤ笑いながらこっちを見ている。

「そいつのPDAが【Q】だったらどうかしたのか?」

「ん?ふふっ、何でもねえよ」

 飯田をあしらうように水谷が答える。
 そのときだった。
 不意に柊が立ち上がる。

「ん?桜ちゃんどないしたん?」

「ルールは全て集まった、ここにいる理由はもうないよ」

 柊が立ち上がってホールから去って行こうとする。

「ちょっ!?ちょっと待ちい!!1人は危ないで」

「余計なお世話、放っておいてくれる?」

 そういって柊はホールから去って行った。

「あっ、おいちょっと待て!?」

 良輔は立ち去っていく柊をすぐに追いかける。
 なぜなら自分のPDAは柊が持ったままになっているからだ。
 後ろから白井の声が聞こえるが良輔はそれを無視して柊を追った。








[22742] 04話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2010/12/19 20:18
【BET】
player  suit  card  odds  BET
北条良輔  ダイヤ  5  3.4  -
御剣優希  ????  ?  6.5  -
夏本玲奈  ????  ?  8.3 油桜(50)
柊桜    ????  ?  6.0 nida(40) 結崎 ハヤ
西野美姫  ????  ?  8.8  -
神河神無  ????  ?  2.4  -
白井飛鳥  ????  ?  7.0  -
杉坂友哉  スペード  Q  4.5  -
一ノ瀬丈  ????  ?  6.8  -
速水瞬   ????  ?  1.8 上杉龍哉(50)
幸村光太郎 ダイヤ  4  6.5  -
飯田章吾  ????  ?  7.8 ヤマネ
水谷祐二  ????  ?  2.9 ヴァイス(30)
Day 1日目
Real Time 午後 1:00
Game Time経過時間 3:00
Limit Time 残り時間 70:00
Flour 1階
Prohibition Area 屋外
Player 12/13





「え?あ、ちょっと!?北条はん!?」

 白井が呼び止めるのを無視して良輔は柊を追っていく。
 すぐに良輔の姿もエントランスホールから消えた。

「さて、と」

 良輔がホールから姿を消すのを確認してから水谷が立ち上がった。

「おい、水谷!?」

「なんだい?飯田のおっさん?」

「お前、まさか……」

「ああ、俺はこのゲームに乗る」

「正気か!?」

 飯田は水谷にそう問いかけたが水谷はそれを鼻で笑う。

「少なくともあの柊ってお嬢ちゃんはこのゲームの参加を表明した。じゃあいつ襲われるかもわからないこんな場所で仲間ごっこする気は俺にはないね」

「待て、水谷!!」

「おっと飯田のおっさんよお、今は戦闘禁止だぜ?無理に俺を止めようとするとアンタの首輪が作動するが……いいのかい?」

「っ!?ちっ」

 飯田は水谷の肩に置いた手を渋々どける。

「ちょっと待ちい!!全員で協力したほうが安全やないの?」

「それは無理だな、各自の条件には殺人を要求されるものや条件が競合しているものもある。全員が解除条件を同時に満たすのは不可能だ、それにPDAを偽ることのできるjokerなんてものまである。実際どうするつもりだ?例えば夏本の条件がキラーカードだとしたら。白井さん、アンタはそいつのために死んでやるのかい?」

「え、そ、それは……」

「じゃあな、短い付き合いだったが……次に会えるときを楽しみにしてるぜえ」

 水谷はそれだけ言ってエントランスホールから姿を消した。

「アカン!!神河ってやつもおるのにバラバラに行動したら危険やん!?」

 白井も立ち上がる。

「うちが水谷のアホを連れ戻してくるさかい、飯田はんと玲奈ちゃんはちょっとここで待っとき!!」

「あ、おい、ちょっと待て!!」

 飯田が呼び止めるが白井は聞かずに水谷を追ってエントランスホールから飛び出していた。

「夏本、俺は白井を止めてくる。少しの間ここで待っていてくれ」

 飯田は水谷を協力させるのは難しいと判断して白井だけでも連れ戻そうと考えた。
 夏本に戻って来るまでここにいるように指示を出すと白井を追ってエントランスホールから飛び出す。

「えっ!?あ、ちょっと待ってください!!」

 しかし夏本の叫びも空しく飯田は白井を追って姿が見えなくなってしまった。
 広いエントランスホールにポツリと1人残された夏本。

「そ、そんな!?私どうすれば?」

 困惑する夏本は黒焦げとなった杉坂の死体に目がつく。
 ここで何もしなければ次にああなるのは自分かもしれない。

「そうだ、私だってこんなことしてられない!!私はまだ死にたくない!!が、がんばって自分の条件を満たさなくっちゃ!!」

 勢いよく立ち上がる。
 ここで殺されてしまった杉坂のためにもへこたれているわけにはいかないのだと自分を鼓舞する。

「玲奈はできる子、玲奈はできる子!!」

 目を閉じて呟く。
 玲奈は普段からこのように自分を励ましていた。
 日頃から慣れたルーティンワークを行ったためか少し落ち着いてきた……ような気がする。

「よ~し、頑張るぞ~」

 夏本は誰も使わなかった通路に向かって歩きだした。
 自分の条件を満たして生き残るために……




 しかし夏本がエントランスホールから退出して数分後、すぐに飯田が舌打ちしながら戻ってきた。

「くっそ、巻かれちまった」

 その時、飯田もしばらく白井の後を追うが白井の足が思いのほか速く、すぐに巻かれてしまった。
 止むを得ず、エントランスホールに戻ることにした。

「ったくしょうのねえやつらだ、ってあれ?」

 しかしエントランスホールに戻ると夏本の姿もなくなっている。

「え?ちょっと、おい、夏本のやつはどこ行きやがった?」

 飯田はエントランスホールを見渡すがそこには飯田以外の人がいない。

「ったく冗談じゃねえぞ?」

 しかし白井と良輔を待つために全域の戦闘禁止がとけるまではここにいようと思う飯田であった。
 そのとき

 コツッコツッコツッ

「ん?」

 飯田の耳に足音が聞こえてきたので良輔か白井のどちらかが戻ってきたのかと視線を向ける。

 そこには青い短髪の小柄な少女が入って来ていた。

「………」

「………」

 いきなりの展開に両者が固まった。
 少女は黒焦げになった死体に目を向けた後、ゆっくりと飯田を見る。
 心なしか目に涙が浮かんでいるように見えた。

「よ、よお、え~とはじめまして?」

 飯田はこの状況を打破すべく満面の笑みを浮かべて少女に話しかけた。

「ふっ、ふええええええええええええええええええええんん!!」

 しかし逆効果だったようで少女は泣きながら逃げていく。
 何故逃げられてしまったのだろうか?
 飯田は病院の子供とよく遊んだりしていたので子供の扱いには自信があるほうだった。
 理由を考えてみる。
 
「ん~と確か」
 
 少女にも首輪はあった。
 自分と同じ境遇の人間であるなら気づいたらこの建物にいたはずだ。
 見知らぬ場所にいきなり放り込まれたところに黒焦げ死体と見知らぬ成人男性。

「……、」

Q1.あの少女は自分を見てどのような想像を浮かべたでしょうか?

「ご、誤解だあああああああああああああああああ!?」

 飯田は長い人生で一番大きな絶叫をあげると少女の後を追いかけて行った。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






 そのころ良輔はエントランスホールから出て柊の後を追っていた。
 何やら後ろから絶叫が聞こえてきたような気がするが今はどうでもいいことなので無視する。

「くそっ、柊のやつ、俺のPDAを持ったまま行きやがって」

 舌打ちをつきながら柊を追う。
 次の通路を曲がった時……

「遅かったね、待ちくたびれたよ?」

 柊が良輔を待ち構えるように立っていた。

「はぁはぁ、やっと追いついた、とりあえず俺のPDAを返せ」

 息も絶え絶えに良輔はそう切り出す。

「嫌よ」

 しかし柊は意地の悪い笑みを浮かべるばかりで良輔のPDAを返そうとしなかった。

「はっ?そのPDAは俺のだぞ?」

「でもこのPDAを今持っているのは私、だからこのPDAは僕のものだよ?」

 柊はPDAを良輔の前で見せびらかす。

「この女!!御託はいいからさっさとそれを返せ!!」

 良輔は柊に脅しをかける。

「動かないで、妙な動きをするなら僕はこのPDAを壊すよ?」

 柊の手からミシミシと嫌な音が聞こえていた。

「うっ!?」

 良輔は止むを得ず動きを止める。

「よしよし、いい子ね?」

「何が望みだ?」

 薄ら寒い笑みを浮かべる柊に良輔はそう問い詰める。

「そんな怖い顔しないでもらえる?大丈夫、僕だって鬼じゃないからアンタが僕のお願いを叶えてくれればこのPDAを返してあげてもいいよ」

「お願いだと!?」

「そうだよ、僕のお願いは僕の首輪を外すこと、アンタにそれができたらこのPDAは返してあげてもいい、こんなかわいい子のお願いなんだからもちろん断るわけないよね?」

 柊はPDAを目の前でヒラヒラさせながらニッコリ微笑む。

「……ちっ、わかったよ、協力してやる」

 良輔はそう答えるしかなかった。
 もし変な動きをしてPDAを壊されれば、自分は死ぬ。
 エントランスホールで死んだ杉坂と同じように……
 背筋に悪寒が走った。

「ふふっ、聞き分けの良い子って好きよ?」

「柊、お前、碌な死に方しないぞ?」

 良輔の言葉を無視して柊はもう1台のPDAを取り出した。

「それは?」

「これがアンタに手伝ってもらう条件」

 柊はゆっくりそのPDAを良輔に向けて見せる。
 その画面に映っていたものは……





「僕のPDAはダイヤの【9】、解除条件はjokerのPDA所有者の殺害」





 柊の持つPDAの画面、そこには道化殺しの【9】が表示されていた。

「はっ、とんでもない条件を引かされたな?ざまあ見ろ」

「【5】を引き当てているアンタにだけは言われたくないわ」

 PDAを掌で弄びながら柊はそう答える。

「むっ」

 良輔がせめてもの抵抗の嫌味が軽く流された。
 確かに無差別殺人を引き当てている自分のほうが柊より明らかに性質が悪い。

「このPDAを握っている以上、アンタは僕の言うことを聞く義務があるわけ、言ってみれば今のアンタは僕の奴隷、ペットと同じよ、わかったわね?」

「………」

「うふふ、あははははははは♪」

 柊は何も言い返すことのできない良輔を見て何とも言えない優越感を満たしていった。
 こうして変な形で組むことになった良輔と柊はこのゲームでどんな結末を迎えるのだろうか?




 それは誰にもわからない。







[22742] 05話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2011/01/09 18:55
【BET】
player   suit   card   odds   BET
北条良輔    ♦    5    3.4    -
御剣優希    ?    ?    6.5    -
夏本玲奈    ?    ?     8.3   油桜(50)
柊桜      ♦    9    6.0  nida(40) 結崎 ハヤ
西野美姫    ?    ?    8.8    -
神河神無    ?    ?    2.4    -
白井飛鳥    ?    ?    7.0    -
杉坂友哉    ♠    Q    Death    -
一ノ瀬丈    ?    ?     6.8    -
速水瞬     ?    ?     1.8   上杉龍哉(50)
幸村光太郎  ♦    4     6.5    -
飯田章吾    ?    ?     7.8   ヤマネ
水谷祐二    ?    ?    2.9   ヴァイス(30)
Day 1日目
Real Time 午後 1:00
Game Time経過時間 3:15
Limit Time 残り時間 69:45
Flour 1階
Prohibition Area 屋外
Player 12/13





良輔は薄暗い埃の積もった通路で柊と向き合っていた。
 長い沈黙が両者の間に流れる。
 恐らく目の前の少女はあまり人付き合いがうまくないのだろう。
 弱みを握ったものの他人と居ることを煩わしく思っているのか不機嫌な表情を作っている。
 良輔もあまり人付き合いがうまいほうではないが例えうまかったとしても現在の状況に直面すれば普段通りというわけにはいかなかったに違いない。
 良輔は柊よりも身長が20㎝ほど高いので自然と柊を見下ろす形になる。
 そして良輔の視線には柊の手に握られた自らのPDAに固定されていた。
 もし柊が少しでも力を込めればPDAのような薄い精密機械は壊れ、ルールが自身を寸分の狂いなく殺害するだろう。
 その惨めな結末は良輔もエントランスホールで見ている。
 それを回避するためには何とか隙を見て柊からPDAを取り戻さねばならない。
 少なくとも現段階では柊に協力的な姿勢を見せる必要があるだろう。
 時が来ればチャンスはまだ巡ってくる、いや……

(勝ち取って見せる!!俺はまだこんなところで死ねないんだ!!)

 良輔の胸に浮かぶのはまだ幼い自分を守るためにその身を犠牲にして死んだ母の姿。
 また、身寄りを失くした自分を引き取って育ててくれた暖かい一家。
 そして、何よりも……

 心に浮かぶあの少女と一緒に居たいから

 あれは中学の頃に御剣家でピクニックに行った時だっただろうか?
 俺達は小高い丘から街並みを見下ろしていた。
 その光景を見つめる『あいつ』の目がとてもキラキラしていて俺は風景よりもその目に引き込まれていた。
 ふと、興味が湧いて聞いてみた。
 何がそんなに面白いのかと、ここよりも綺麗な風景はいくらでもあるのに……
 それを聞いた『あいつ』はきょとんとした表情を作ると、わかってないなあとでも言いたげに指を左右に振る。
 そして視線を俺から街並みに戻すと『あいつ』はこう言ったのだ。
 ここから広がる街並みはとても日常的で、あの町で日々を送っている人が大勢いる。
 そこにはそれだけ多くの人生があって幸せに日常を送っている人もいれば自分の人生を不幸だと嘆いている人も多く居ると思う、だけど……
 それでも精一杯生きる人を見るのは楽しい、例え空回って生きていても、いつか報われるかもしれないと考えながら日常を送れることこそが幸せだから……

『だから私も、この日常がずっと……』

 こちらに振り返ってその瞳に俺を映した。
 俺も自分の瞳に『あいつ』を映しているのだろうか?
 そんなことを考えていると突然強い風が吹いて『あいつ』が被っていた麦わら帽子が飛ばされていった。
 自然と視線は町に飛ばされていく麦わら帽子を追う。
 ヒラヒラと風に乗って舞いながら、遠くに飛んでいく麦わら帽子を見送る、ふと隣を見れば……
 そこには暖かい光が差し込む日溜まりの中で、強い風に立ち向かうように立っている少女。
 吹き上げられた金色の髪を靡かせながらお気に入りの帽子を飛ばされたことに悔しがっている、その態度がまるで意思を持っていないはずの風に向かって抗議しているようで、可笑しくなってちょっとからかうと『あいつ』はすぐにムキになった。
 そんなあいつが可愛くて、悪いなんて思ってない癖に仲直りのために帽子を買いに行こうとショッピングに誘うのだ。
 『あいつ』は俺の気持ちに気づいてないのか?それとも気づいていて知らない振りをしているのかはわからないけど、そんな俺に奢りじゃあしょうがないなあと小悪魔な笑みを浮かべる。
 それでも俺にはそれが天使の笑みに見えてしまうのだ。
 だからこそ心から祈ることができる。
 屈託のない微笑みを向けてくれる『あいつ』の傍に……日常に帰りたいと……
 傍にいるだけで暖かい気持ちになれて、自分の弱いところや醜い部分でさえ許容してくれるような心地よさで、幼いころからその隣が自分の定位置だった、これからもその場所を他の誰かに譲る気はない。

 会いたい、声が聴きたい、その笑みが見たい、傍に居たい、傍から離れたくない……
 例えそのために目の前の少女を八つ裂きにしようが自分以外のプレイヤーを皆殺しにしようが良輔はまだ死にたくなかった。
 その行為を『あいつ』が決して許さないことを理解していても、良輔は死にたくなかったのだった。

「それでこれからどうするつもりなんだ?」

 ここで睨み合っていても生存から遠ざかるだけだ。
 不愉快ながらこちらから話を進めることにした。

「一番知りたいのはjokerを誰が持っているのかってことだけど……」

 柊のPDAは【9】。
 その解除条件は|killer joker《道化殺し》。
 偽装機能を持つjoker所有者を探し出して殺害しなければならないという難しい条件だ。

「とりあえず2ndか6thのプレイヤーと会いたいところね」

 だからこそ必須となるのはjokerを見破れる【2】のPDAかjokerの偽装機能に制限をかけられる6thのプレイヤーだ。

「会ってどうするんだ?仲間にでもするのか?」

「まさか、この2人のプレイヤーはjokerを所有する必要のあるプレイヤーよ、つまりjoker所有者を殺害する必要のある僕にとって鴨も同然」

 他人のPDAを騙し取って脅迫するような奴に仲間を作ろうとする意思はもちろんなかった。
 まあ予想はしていたが……

「だけどそれは向こうも承知済みだろうから僕のPDAがバレれば当然警戒される」

 当然2ndと6thのプレイヤーが一番最初に警戒するのは9thの存在だろう。
 それにしてもこの条件はよく考えられている。
 例えばただ特定のPDAナンバー所有者を殺害するだけなら自分のPDAを公開した上でPDAを見せなかったプレイヤーだけを殺害するという手段があったかもしれない。
 しかし偽装機能を搭載したjokerを対象とすることで識別を困難としている。
 PDAの探り合いになった時、仮に9thが自分のPDAをさらしたとしても相手がjokerを持っていた場合は間違いなく無難なPDAに偽装することを考えるだろう。
 なぜならjokerを初期配布されたプレイヤーがルールの9を知った時、一番最初に考えるのは誰が9thなのかということだ。
 自分に課せられた条件は誰にも知られたくない。
 しかし自分の首輪解除に有効活用でき、多額の賞金が配布されるjokerは手放したくない。
 それでも自分の命を狙われるのは怖い。
 だからjokerを使って偽装を行う。
 そして自分を狙う9thを探り当てる。
 そのプレイヤー次第で殺害される可能性を考えれば9thは自分のPDAを公表できない。
 結局joker所有者を殺害する必要のある9thがゲームクリアするためには偽装機能を持つjoker対策に2ndあるいは6thどちらかのプレイヤーと協力が必要だ。
 しかしjokerを手に入れた時点で2ndと6thは9thとは協力できなくなる。
 仲間から獲物へと早変わりしてしまうからだ。
 そもそも人殺しを手伝うような輩であるかどうかが疑問だが。
 9thは自分のPDAを色んな意味で公表できないために仲間が作りにくい、案外joker所有者に当たるまで手当り次第に殺害するほうが手っ取り早いかもしれない。

「だから仲間なんか作らない、いつ裏切るかわからない仲間なんて邪魔なだけよ」

「人のPDAを奪っておどしてるやつのどの口から信頼できる仲間なんて言葉が出るんだ?」

 思わず柊の言葉に呆れてしまった。
 自分は他人を信用しないのに他人から信用されようというのは無理だろう。

「あら?アンタは僕の言うことを聞かなければ死ぬ、つまりアンタは僕に逆らえない、これ以上信頼できる関係があるかしら?」

「それはあくまでお前視点の話だろ?俺から見ればお前は信用できない人間No.1だ」

 PDAさえ戻ってくれば八つ裂きにしてやりたいと良輔は本気で考え始めていた。

「ふふっ、褒め言葉として受け取っておこうかな?それよりも……」

 眼鏡をクイッと持ち上げると

「口の利き方には気をつけなよ?アンタは僕のペットなんだからご主人様に対する敬意っていうものがあるでしょ?」

 その奥から覗く切れ目の長い目で良輔を睨む。

「………」

 しかし良輔はPDAを奪われているのでそれ以上強くは言えなかった。

「まあ、いいわ」

 柊は良輔が言い返せないことに満足したのかニヤリと人を小馬鹿にする笑みを浮かべた。

「とにかくその2人は生かしておけば格好の獲物になる。必死になってjokerを手に入れたところで僕が殺すわけね」

「よくもまあ平然と殺すなんて言えたもんだよな?最近の学校教育はどうなってんだか?」

 得意気に話す柊を見て自身もまだ学生でありながら思わずそう呟いた。

「教育も何もこの世の中はいつも変わってないじゃない?弱肉強食、これが全てよ」

 どこぞの漫画で聞いたような台詞をあたかも自分が考えたように話す。
 もっとも良輔には柊はあくまで強者の立場でしか物を考えず、自分が弱者の立場になるかもしれないなどと微塵も考えているようには思えなかった。
 この少女は知っているだろうか?弱肉強食という考えにおいて『強者は弱者を自分の好きなようにできる権利』と共に『より強い強者に理不尽に踏みにじられる義務』を自分で正当化してしまうことを……
 恐らくこの少女はそんなことをかけらも考えはしてないだろう。
 だからなのか良輔には柊の語る弱肉強食がやたらと陳腐な物に聞こえた。

「ロマンのかけらもない言葉だな」

「ロマンっていうのは現実から一番遠い言葉よ、そんな綺麗事が通用するなら世の中の誰も困ったりしないでしょうね?」

「……、」

 戦争とか飢餓とか……イジメとかね。
 そう言って柊は歩き出す。
 確かに柊の言うとおり綺麗事ばかりでは通用しないかもしれない。
 本当の意味で苦しんでいる人を助ける義務を負っている人など間違いなく少数派だろう。義務などないのだから手を差し伸べる必要はないと言い切られてしまえばそれまでかもしれない。
 だが……

(あいつだったらきっとそんなことを考えずに手を差し伸べるだろうな)

 その後ろ姿を思い出して苦笑が漏れる。

「何ボサッと突っ立っているの?早く行くよ?」

 柊の声で意識が現実を見つめ始める。
 このままではジリ貧だ、良いように扱われて適当なところで切り捨てられるだろう。
 とりあえず今、出来ることは……

「待て、エントランスホールには戻らないのか?」

 良輔の言葉に柊は怪訝な表情を作る。

「あそこに居た連中は全てのルールを把握したプレイヤーよ?jokerを持っていたとしてもしゃべらないだろうし、もちろん自分のPDAナンバーだって教えてくれるわけないわ、結論から言うと戻るだけ無駄ね」

「いや、PDAナンバーやjokerよりも確認するべきことがある」

「どういうこと?いい加減なこと言って僕の足を引っ張るつもりならこのPDAぶっ壊すけど?」

「まあ、少し落ち着けよ?話を聞けばお前も納得するはずだ」

 その言葉に興味を持ったのか柊が続きを促す。

「誰がこのゲームに乗っていて、誰がこのゲームに乗っていないのか?俺達はそれを確認する必要があると思うが?」

「そんなの知ってどうすんのよ?みんな殺すんだから結局同じじゃない?」

 誰かこの阿呆止めてくれ、良輔は心の中でそう祈りながら説明を続ける。

「……戦うにせよ交渉するにせよ相手の出方を見ることは重要だ。相手の情報が一切ない状態で正しい判断は下せないぞ?例えばゲームに乗ってやる気満々のやつと交渉はできないだろうがゲームに乗ってない協力的なプレイヤーとまで敵対する必要はない。せめて情報くらいは聞き出せるぐらいにしておくべきだ、お前の欲しがっているjokerの情報だって流れてくる可能性がある」

 柊はjokerという単語にピクッと反応した。

「ふ、ふん、アンタに言われなくても僕は一度エントランスホールに戻るつもりだったよ?それをアンタが小難しく言うからわかりにくかったのよ、ま、まあ今回だけは許してあげる。感謝しなさい」

 柊はあくまで高圧的に答える。
 その反応に良輔は気づかれないように笑みを浮かべた。

「ほら、さっさとエントランスホールに戻るよ?グズグズしたら許さないから」

「ああ、わかったよ」

「それからもう1つ言っておくけどエントランスホールに戻ってあいつらが居たとしても話しかけることは禁止だから、破ったらこのPDAを壊すから覚えておきなさいよ」

「ああ、肝に命じておく」

 そんなやり取りをしながら2人はさきほど居たエントランスホールに戻っていった。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






 だだっ広いホールを前に良輔と柊の2人は柱の裏に隠れて中の様子を伺っていた。
 そこには前に来た時と同じように転がっている黒焦げ死体、しかしつい少し前まで居た人間は誰もいなかった。

「へえ、中々良い収穫じゃない、やっぱり戻ってきて正解だったようね」

 それにも関わらず柊のご機嫌は良かった。
 もちろん他のプレイヤーがゲームに乗ったことを収穫と言っているわけではない。
 その理由は死体の傍にあった。

(今まであったことのない参加者か……)

 そこには死体を調べている成人男性が1人。
 黒いスーツに身を包み、頭にはシルクハットを被っている。
 パッと見るとどこかの手品師を連想させる服装だった。

「さあ、もう十分でしょ?あいつらはこのゲームに乗った、そして新しく他の参加者もわかった。さっさと上に行くよ」

 柊は身を翻して立ち去ろうとする。
 しかしここで立ち去るのは良輔に都合が悪かった。
 この時、良輔はあの男と協力関係を結びたいと考えていた。
 それは別に仲間が欲しかったからとかそういう格好良い理由があるわけではもちろんない。
 ただ、このまま2人で行動することは柊にずっと自分を監視されているのと同義であり、裏切りのタイミングを計っている良輔としてはこの状況はかなりよろしくなかった。
 せめてあの男が加われば疑い深い柊のことだ、あの男を疑って自分へのマークは確実に緩くなる確信があった。

(ここはイチかバチか)

「おい!!そこのアンタ!!」

「なっ!?」

 良輔は柊の驚く声を無視してそのまま男に向かって歩み寄る。
 男は良輔を見るとやや警戒の色を強めたような反応を見せた。
 まあ、足元に死体が転がっている状況では正しい反応だろう。

「君たちは?僕をここに連れてきて拉致犯の仲間ですか?これは一体何のつもりですか!?」

「待ってください、落ち着いて聞いて欲しいんです、俺の名前は北条良輔です、こっちが柊桜。俺達は気づいたらここに居て困惑しています。見たところ俺達と同じ境遇の人間のようですが少し話をしませんか?」

 男は少し考える素振りを見せるが……

「僕は速水瞬と言います……その服装で拉致犯というわけはなさそうですね、僕としても自分の身に何が起きているのか知りたいところです。情報交換のためにそっちへ行ってもかまわないでしょうか?」

「はい、お願いします」

 速水が良輔の言葉に柔和な笑みを浮かべてこちらへ近づこうとしたその時だった。
 
「ちょっと待って!!」

 柊がその行動にストップをかけ、良輔の服を思いっきり引っ張って空いた手で耳に指を当てるジェスチャーをしている。
 どうやら耳を貸せと言いたいらしい。
 しょうがなく中腰になって耳を寄せた。

「ちょっとアンタ何考えてるの?僕の言ったこと覚えてないなんて言わせないわよ?」

「もちろんだ、だがお前の言ったのは前に会ったやつらと接触することであって新しく会ったプレイヤーに接触するなとは言われていないはずだが?」

「はあ?ふざけんな!!僕を虚仮にしてただで済むなんて思わないで!!」

 柊はPDAを地面に投げつけようとして……

「良いのか?joker……必要なんだろ?」

 その言葉に腕を止めた。

「まあ、見てろよ、悪いようにはしない。もし不都合が起こったならその時PDAを壊せばいい、俺を殺すのはそれからでも遅くはないだろう?」

 良輔は冷や汗を掻きながら柊に耳打ちする。
 柊も柊で良輔の言うとおりここでPDAを失うのはもったいないような気がしていた。
 結局良輔の手腕を見てからで落ち着くことにしたらしい。
 舌打ちしながらPDAを投げ捨てようとするのは止めた。

「え~と、僕はどうしたらいいのでしょうか?」

 速水はその光景を困ったように見つめていた。
 口元がぎこちなく歪む。

「ああ、すみません、こっちの話です。それでは今後のことなども含めて色々話しましょう」

 こうして良輔達は情報交換をしていった。





[22742] 06話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2011/01/09 19:07
【BET】
player   suit   card   odds   BET
北条良輔    ♦    5    3.4    -
御剣優希    ?    ?    6.5    -
夏本玲奈    ?    ?     8.3   油桜(50)
柊桜      ♦    9    6.0  nida(40) 結崎 ハヤ
西野美姫    ?    ?    8.8    -
神河神無    ?    ?    2.4    -
白井飛鳥    ?    ?    7.0    -
杉坂友哉    ♠    Q    Death    -
一ノ瀬丈    ?    ?     6.8    -
速水瞬     ?    ?     1.8   上杉龍哉(50)
幸村光太郎  ♦    4     6.5    -
飯田章吾    ?    ?     7.8   ヤマネ
水谷祐二    ?    ?    2.9   ヴァイス(30)
Day 1日目
Real Time 午後 2:55
Game Time経過時間 4:55
Limit Time 残り時間 68:05
Flour 1階
Prohibition Area 屋外
Player 12/13





「なるほど、その神河という女性が杉坂君という人を殺したわけですか……」

「はい、現場は見ていませんが十中八九間違いないと思います」

 良輔達はエントランスホールから少し離れた場所にある小部屋で話をしていた。
 話し合いをするには傍に死体が転がっているというのは精神衛生的にきつい。
 まあ……

「何よ?」

「……別に」

 隣で座っているこの少女はあまり気にしないのかもしれないが……

「それにしても神河、ねえ?」

「神河がどうかしたんですか?」

「あ、いや……多分勘違いでしょう」

 速水が考え込むしぐさをするがすぐに首を横に振る。

「それよりもまずルールの確認をしたいのですがよろしいでしょうか?」

「ええ、それだったら、むぐっ!?」

 柊が得意気にしゃべろうとするのを良輔は口を押えて止める。
 情報戦というのは基本後出しに、そして小出しにしていくのが良い。
 相手の知っている情報からうまくこちらの聞きたい情報を聞き出したいのだ。
 良輔が速水から聞き出したいことは2つ。
 1つはjokerの有無。
 まあこちらに関しては聞いておかないと柊に殺されかねないというだけの理由だが……
 何より1番知りたいことは……
 速水のPDAナンバーと解除条件に尽きるだろう。
 だからこそ速水に杉坂を殺害した犯人、神河については情報提供したが良輔達が他のプレイヤーと既に遭遇していてルールを全て把握していることは速水には教えていない。
 速水に初期配布されたルール次第ではPDAを把握できる可能性さえあるのだから……
 【J】のような条件であれば惜しいが協力はできない。

「まず速水さんがどのルールを知っているのか教えてくれませんか?」

「はい?まあ構いませんけど……」

 速水はPDAを取り出すと操作を始める。

「僕に初期配布されているルールは共通のものを除けばルール3とルール5ですね」

 その言葉を聞いて良輔はほくそ笑む。
 ルール3はプレイヤーが全員で13人居ることと初期に配布されたPDAの条件でなければいけないこと。
 ルール5は進入禁止エリアについてだ。
 つまり速水はjokerについて記載されているルール4も知らないし、各解除条件について記載されているルール9も知らないということだ。

「まず最初に聞きたいことがあります。速水さんが起きた時、そこにあったPDAはそれ1台だけでしたか?」

「う~ん、部屋の隅々まで探したわけじゃあありませんから断言はできませんけどこれ1台だけだったはずですよ?」

 速水は少し考えてそう答える。
 すぐ目のつくところに置いていなかったということは速水がjokerを初期配布されている可能性は低そうだった。
 もっとも速水の言葉を鵜呑みにするのであればだが……

(問題はjokerがどこまで偽装できるのか?)

 PDAナンバーを偽ることができるということだがそれはルールを偽装するのかどうかが不明だ。
 もしルールさえ偽装が可能で更に速水が初期配布者であった場合、速水がルールを全て把握した上で嘘をついているということも考えられる。

「速水さん、貴方はjokerというものを知らないか?」

 今度は一転してストレートに尋ねた。
 速水の解除条件がjokerに関するものなら何か反応があるかもしれないと期待してのことだった。

「joker?jokerってあのトランプのやつのことですよね?それがどうかしたんですか?」

「……いえ、知らないならそれでいいです、あ、そういえば」

 速水は手を顎に当てて話す。
 一切の動揺を見せず即答しているところを見るとどうやら速水は本当にjokerについて知らない可能性が高い。
 隣を見れば柊が不満そうな顔をしている。
 だが良輔にとってここからが本番だ。

「実は俺達は速水さんに会う前に他のプレイヤーと接触していてルールを全て知っているんです」

 良輔は飯田が作ったルールの一覧を速水に見せる。
 速水がそれを手に取ろうとしたところで……
 良輔はルール表を引っ込めた。
 速水の手が空を切る。

「それで速水さんに折り入ってお願いがあるのですが……」

「お願いですか?」

 速水は苦笑の笑みを浮かべると手で何かを掴むしぐさをしながら良輔に尋ねる。

「はい、実は俺達がルール交換をした奴らの中に7thと8thのプレイヤーが居たんです。2人の解除条件は『偶数のPDA収集』と『素数プレイヤーとの遭遇』でした」

 もちろん嘘だ。
 良輔は7thも8thのプレイヤーも知らない。

「もし速水さんのPDAナンバーが偶数か素数なら番号を教えていただけないでしょうか?2人の解除条件に協力してあげて欲しいんです!!お願いします!!」

 良輔はそういって頭を下げる。
 横では柊が何やってんだこいつとでも言いたげに痛い子を見るような視線を送ってくれる。
 しかし柊は良輔の考えを読めていなかった、いや読めるはずがなかった。
 なぜなら柊は良輔のポケットに眠るもう1台のPDA、ダイヤの【4】のPDAがあることを知らないのだから……
 良輔の考えはこうだ
 偶数のPDAは【2】【4】【6】【8】【10】【Q】が対応し、
 素数のPDAは【2】【3】【5】【7】【J】【K】が対応している。
 この2つのPDAに対応していないのは【A】と【9】しかなく。
 9thは柊なので対応していないと断れれば速水はAst。
 もちろん速水が7thか8thのプレイヤーということももちろん考えられる。
 もし速水がそうであるならば良輔の言葉が嘘であると判断するだろう。
 なぜなら速水は他のPDAに偽装可能なjokerの存在を知らないのだから……
 しかしそれならそれで良輔には構わなかった。
 いや、むしろそちらのほうが良いだろう。
 速水が8thなら5thである良輔と協力する必要があるし、反対に7thであるならばこっそり幸村の【4】のPDAをちらつかせて協力を要請することができる。
 幸村のPDAがあるからこそできる作戦だった。
 そして速水が意味もなくPDAを見せたがらないなら速水は3rdの可能性が高い。
 ルール9を知らないならAstに狙われる【J】【Q】【K】のPDAも隠さずに見せることも十分に考えられる。

(さて、アンタはどう動く?)

 良輔は速水の反応を窺った。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






(へえ、中々面白いじゃないですか?)

 速水は良輔の出方を窺うような視線を受けながらまるで家畜でも品定めするように良輔を見ていた。

 目の前の青年は、まさか自分が既にルールを全て把握しているなど夢にも思わないだろう。
 確かに自分のPDAに配布されているルールは間違いなくルール3とルール5である。
 だが目の前の青年は知らない。
 自分こそがこのゲームを運営している組織の一員であり、ゲームの管理を務めるゲームマスターの1人、プレイヤーを至近距離から撮影する役目を背負ったサブマスターであることを……

(どこまでが本当でどこまでが嘘なのか?さて……)

 とりあえず7thと8thのプレイヤーに遭遇したというのは嘘だろう。
 PDAを見せ合って別々に行動するというのは考えにくい。
 それに……

(良輔君、君は知っていますか?このゲームに)

 速水はニヤリと笑みを浮かべる。

(神河なんてプレイヤーはこのゲームに参加してないんですよ!!)

 ゲームを始める前に速水は自分を含めたゲーム参加者13人の資料を受け取っている。
 そしてその中に……

 神河なんてプレイヤーは存在しない。

 速水は良輔が架空の人物を持ち出した意図はわからないが良輔の思惑には気づいていた。
 目の前の青年は自分のPDAナンバーを確認するつもりだ。
 そしてその狙いは……

(恐らく僕を味方に組み込もうという魂胆ですね)

 もちろんサブマスターと言えども全プレイヤーのPDAナンバーは教えてもらっていない。
 ゲームマスターもゲームのプレイヤーであり、プレイヤーのPDAナンバーがわかっているのは興ざめだからだ。
 ただ、良輔はこのゲームにおける主要キャストであり、良輔と対を成す御剣優希と共に撮影対象である2人のPDAだけは知っている。
 北条良輔は生存者を5人まで減らす5th、御剣優希は自分を除いて他のプレイヤーを2日と23時間が経過するまで5人以上生存させるJth。
 blank one hourというキャッチコピーのもと考案されたお互いに競合した条件だ。

(北条良輔、先天的な直観像記憶能力者で幼い頃に父親から虐待を受けた末に母親を失ったことがトラウマになっている。その後、引き取られて育った家の少女、御剣優希に心を寄せているとありましたか?)

 正直な話、幼い頃に虐待を受けたらしい目の前の青年が幼馴染であり、影で好意を寄せている、いや資料にはむしろ依存しているとあったかもしれないJthの少女以外と協力関係を結ぶとはとても思えなかった。

「何よ?」

「いえ、ただかわいらしいお嬢さんだと思いまして」

「はあ?」

 しかし実際はどうもこの少女と協力関係にあるように思えるし、自分にも協力を要請して来ている。
 自分の幼馴染以外は興味が無いと資料にはあったこの青年に何があったかは知らない……
 もちろん資料が間違っていたということも考えられる。
 ただ1つ確かなことは……

(無茶苦茶面白いことになってるじゃないですか!!)

 速水の中にある野次馬根性に火がついていた。
 良輔が一番最初にjokerの有無を聞いてきたところからこの少女の条件がjoker関連の条件なのだろう。
 もう1人の撮影対象であった御剣優希は6階に上ってしまったと報告を受けたがこっちはこっちで面白いことになっている。
 今回のゲームのメインはこの2人にしても大丈夫そうだ。

(そうなると仲間になるためにPDAを明かして潜り込むほうが良さそうですね)

 そうしてあえて速水は良輔の策に乗ることに決めた。

「そう、ですね」

 速水は少し悩むようにPDAを見ながら唸る。

「わかりました、そういうことであれば仕方がありません。僕のPDAナンバーを教えましょう」

 その言葉に良輔がほくそ笑み、柊が驚きで目を見開くのが速水にはわかった。
 速水はその2人の反応を心の中で嘲笑いながらPDAの画面を良輔達に向ける。











「僕のPDAはハートの【K】です。解除条件は半径5m以内での首輪3つ作動すること、もし解除条件が競合したものでなければ僕と協力しませんか?」

 努めて冷静に速水は笑いかける。

「そうですね、こんな状況ですから協力し合ったほうがいいでしょう。柊も別にいいよな?」

 努めて自然に良輔は柊に話を振った。

「……そうね、条件が競合したものでなければ協力するのも悪くないと思うよ」

 努めて当然に柊は承諾する。
 しかし彼等の心の中は……

(ふふっ、僕を騙そうとするなんて高くつきますよ?せいぜい背後には気をつけるくださいね?)

 油断するようならグッサリいきますよ?
 狂喜を秘めて獲物を捕らえる瞳が輝き。

(ククッ、自分のPDAを明かすなんて馬鹿なやつ)

 せいぜいアンタも良輔のやつも良いように使ってやろうじゃない?
 狂気を秘めて弱者を冒涜する腕が疼き。

(ここまでの問題はクリアー、速水のPDAは競合したものじゃなかったし後は速水と柊をどうやってぶつけるか?幸村のPDAをどれだけうまく使えるかが鍵だな)

 俺を従えることのできる人間は優希だけだってこと、教えてやるぜ?なあ、柊ィ?
 凶器を秘めて信念を貫く頭脳が回転を始めた。

 ちょうどその時に3人のPDAが同時に電子音を奏でる。

『お待たせしました!ゲーム開始から6時間が経過しました!今から全域の戦闘禁止エリアは解除されます』

 それは開戦の調べ。
 jokerを求めて繰り広げられる命懸けの騙しあい。
 命懸けのゲームが……始まる!!



[22742] 07話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2011/01/11 05:23
【BET】
player  suit  card  odds  BET
北条良輔  ♦  5  9.0  -
御剣優希  ?  ?  5.5  -
夏本玲奈  ?  ?  7.4 油桜(50)
柊桜    ♦  9  3.5 nida(40) 結崎 ハヤ
西野美姫  ?  ?  8.0  -
神河神無  ?  ?  2.3  -
白井飛鳥  ?  ?  6.5  -
杉坂友哉  ♠  Q  Death  -
一ノ瀬丈  ?  ?  5.1  -
速水瞬   ♥  K  1.7 上杉龍哉(50)
幸村光太郎 ♦  4  10.0  -
飯田章吾  ?  ?  6.0 ヤマネ
水谷祐二  ?  ?  2.6 ヴァイス(30)
Day 1日目
Real Time 午後 4:30
Game Time経過時間 6:30
Limit Time 残り時間 66:30
Flour 1階
Prohibition Area 屋外
Player 12/13





 良輔達は2階への階段を目指しながら途中にある部屋を手当たり次第調べていた。

「そういえば、7thと8thは誰だったんですか?」

 速水が部屋の中に転がっている鉄パイプを調べながら良輔に尋ねた。

「7thは水谷っていう赤髪で長身の男性、8thは夏本っていう瑠璃色の髪をした女子高生です」

 良輔はダンボールを開きながらなんでもないように答える。
 中に入っていたのは金属製の手錠が2つだった。

「………」

 何に使えばいいんだこれ?

「………」

 その横で柊は良輔と同じようにダンボールを開けながら話を聞いている。
 もちろん柊は良輔の発言が嘘っぱちであることはわかっているし、良輔が前の2人を挙げた理由も想像はつく。
 水谷は協力する気がなかったようであるし夏本は神河に騙されて目の前で杉坂を殺されている。
 2人が他人に自分のPDAを見せることはまずないだろう。

(中々良い拾いものをしたってとこかな?今のところは、だけど)

 少なくとも速水のPDAを公開させた手腕は評価するべきだろう。
 だが、柊は良輔を信用してはいない。
 信用してないのは速水も同じだが恐喝して協力させている良輔の方がよっぽど怖いと柊は考えていた。
 もっとも信用できないその原因の100%が自分で作り出していることを柊は反省する気はなかった。
 少なくともこのPDAを持っているうちは良輔は自分には手出しできない。
 馬鹿とハサミは使い方次第だ。

(ゲームに大切なPDAを他人に盗られる奴が悪いのよ、自己責任だよね)

 見れば良輔は次のダンボールに取り掛かっていた。

(ん?)

 良輔が開けたそのダンボールの中にはマッチ箱のようなものが3つほどあった。
 その表記には英語で以下のように記されている。

"Tool:self/pointer"
"Tool:Map/Enhance"
"Tool:Trap/Pointer"

 良輔は少し考え……

「おい、ちょっとこれを見てくれ。何かマッチ箱のようなものが置いてあるぞ」

 2つのマッチ箱を懐に潜ませると"Tool:Map/Enhance"と書かれたマッチ箱を2人に見せる。

「何だろこれ?」

 柊はマッチ箱を手に取るとひっくり返したりして調べはじめた。

「ふむ、PDAの横にくっつきそうですが」

「でも何かの罠ってこともあるんじゃない?」

 マッチ箱を不審な目で見つめる柊を見て速水が少し考えるようにかぶりを振ると……

「大丈夫だとは思いますが、そんなに心配だったら良輔君のPDAに接続してみてはどうですか?」

 柊は速水に良輔と自分のPDAナンバーと自分が良輔のPDAを持っていることを教えている。
 協力するには最低限お互いの解除条件を知らなければ話にならない。
 なぜならどの条件を満たせばいいのかがわからなければ協力など物理的にしようがないからだ。
 正直、柊は人殺しの手伝いをしろと言っているのと等しく、速水が断ることも考えていたが意外なことにその提案は承諾された。
 速水はこんなところで死ねないと力強く話し、そのためには人殺しも辞さない考えを示したのだった。

(こいつもイマイチ信用できないな)

 良輔は手品師と名乗る目の前の男を不審な目で見ていた。

「ああ、それなら安全ね」

 速水の言葉に頷いて柊は自分のPDAにマッチ箱を接続した。

「お前らな」

 そのやりとりを見て溜め息が出る良輔だった。
 まあ、これが罠だとは良輔も考えていなかったのでとりあえずは構わないのだが……

(早くこの現状を何とかしないとな……)

 良輔は気を引き締めてそう誓うのであった。

 ピロリン、ピロリン

 そんな良輔を他所に良輔のPDAから電子音が鳴る。

「どれどれ」

 柊はPDAの画面を見る。

『このツールボックスをPDAの側面のコネクターに接続することで、PDAに新たな機能をもったソフトウェアを組み込み、カスタマイズすることが可能です』

 PDAに映し出されたのはソフトウェアについての説明文。

『ソフトウェアを組み込めば他のプレイヤーに対して大きなアドバンテージとなりますが、強力なソフトウェアは起動するとバッテリー消費が早まるように設定されています』

 柊はPDAの説明文を読み進めていく。

『使い過ぎてPDAが起動できなくなり、首輪を外せなくなる事がないように注意しましょう。なお、一つのツールボックスボックスでインストール可能なPDAは1台のみです、どのPDAにインストールするかは慎重に選びましょう』

 その文で説明は終わった。

「なるほど、それならソフトウェアはこのPDAに集めたほうが良さそうね」

 柊はインストール画面に移るために操作する。

『Tool:Map/Enhance 機能:地図拡張機能。地図上に部屋の名前を追加表示する。バッテリー消費:極小 インストールしますか? YES/NO』

 迷わず柊はYESに触れた。

『インストールしています。しばらくそのままでお待ちください。
*注意*インストール中はコネクターを外さないでください。故障の原因となります』

 その文字の下に、ゆっくり伸びていくバー。
 バーは0から100までの数字が刻まれており、すぐに100まで到達した。

『インストールが完了しました。ツールボックスをコネクターから外してください』

 柊はすぐにツールボックスをPDAから外した。

(なるほど、そうやって使うわけか)
 
 良輔は懐に入れた2つのツールボックスを確かめながら柊の動作を見ている。
 柊はその視線には気づかずに機能を確認するために地図を開く。

「地図に部屋の名称が浮かんでいるわね」

 何か見つけたらしく柊の目が細まる。

「どうかしたのか?」

「戦闘禁止エリア……」

「わかるのか?」

「うん、追加された機能に戦闘禁止エリアの場所も記載されてるみたいだね」

 良輔の問いかけに柊は頷く。

「それでは今からその戦闘禁止エリアを見に行きましょうか?」

 確かに速水の言うとおり一度戦闘禁止エリアがどのようなものか見ておくほうが良いだろう。
 それに2つのツールボックスを2人にばれない様に幸村のPDAにインストールしておく必要もある。
 戦闘禁止エリアを調べるふりをしてインストールするのが一番安全、そう考えて良輔は頷き、賛成の意を見せた。
 柊にも異論はないらしい。

「反対がないようですので戦闘禁止エリアに向かいましょう、ないよりはましですからこの鉄パイプで武装したほうが良いですね」

 速水は鉄パイプを良輔と柊に渡した。
 2人は鉄パイプを受け取ると、そのまま3人は部屋から退出した。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






 良輔達は戦闘禁止エリアに向かって歩いていた。
 その間の会話はほとんど速水がしゃべって良輔と柊がそれに相槌をうつというとても味気ないものであったために速水は少し残念そうにしている。
 通路を曲がったその時……
 
「……止まれ」

 先頭を歩いている良輔が後ろの2人に指示を飛ばす。

「どうしたのよ?」

「静かに……」

 良輔は戻って柊に角から通路を覗き見るようにジェスチャーを送る。

「あれは確か……」

「白井だ」

 そこにはエントランスホールでルール交換をした白井飛鳥が歩いていた。
 その手に良輔達と同じく鉄パイプが握られている。
 良輔達に気づいている様子はない。

「さっそく初戦ってわけね」

 柊は手の中にある鉄パイプに力を込める。

「アンタちょっとあいつ捕まえてきなさい、止めは僕が刺すから」

 その言葉を聞いて良輔は思わず溜め息をつく。

「何でいきなりそんなノリになるんだよ?jokerの情報を白井が持っていたらどうするつもりだ?」

「うっさい、僕に指図する気?状況ちゃんと理解できてる?」

 柊は良輔のPDAを握り締めた。

「アンタはいいからさっさと捕まえてくればいいのよ、そのための猟犬でしょ?」

「………」

 どうやら柊は目の前の獲物を前にして冷静さを欠いているようだったがPDAを壊されるわけにはいかない。
 仕方なく良輔は白井を捕まえる策を考えることにした。

「速水さん、ちょっと地図見せてもらってもいいですか?」

「構いませんけど、PDAには触らないでくださいよ?」

 速水は良輔にPDAを見せる。
 それを見て良輔は……

「OK、白井を捕まえればいいんだな?」

「ええ、そうよ」

「じゃあ作戦を伝えるぞ」

 良輔は作戦を2人に伝えていった。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






(はあ~、どないしよ?)

 白井は途方に暮れながら通路を彷徨っていた。
 水谷を追って通路を走りまくったあげく、水谷には逃げられ、現在地がわからなくなり、エントランスホールに戻ることさえできずにいた。
 白井飛鳥という人間は極度の方向音痴だった。
 子供の頃には長年育った地元で長年連れ添った親友の家に遊びにいく道のりで道に迷ったという武勇伝の持ち主だ。

(みんなまだ待ってくれとるやろか?)

 内心そうこぼすが全域の戦闘禁止が解かれた今、飯田達が自分を待ってくれているとは思えなかった。
 そんな時

「白井さん!!」

 後ろから名前を呼ばれたので驚いて振り返った。
 そこにはエントランスホールでルール交換をした2人。
 北条良輔と柊桜がいた。

「おお!!良輔はんに桜ちゃん!!無事で安心したで、合流できたんやね?」

「はい、おかげさまで、白井さんは1人ですか?」

 目の前の青年は安堵した表情で話しかけてくれる。

「そうなんよ、水谷のやつを追っていったところまでは良かったんやけど見失ってしもうてな、そっちは飯田さんとは合流できへんかったの?」

「はい、俺が柊と合流してエントランスホールに戻った時にはもう……」

「さよか、残念やったけど良輔はん達と合流できただけでも御の字やね」

「そうですね、あっ、こんなものを持っていたらお互い話にくいですからとりあえずこれは床に置きませんか?」

 良輔は持っていた鉄パイプを持ち上げる。
 確かにこんなものを持っていたら話し合いにはならないかもしれない。

「そやね、それじゃあとりあえずこんな物騒なものを置いときますか?」

 白井は鉄パイプを床に置いた。

「ええ、話し合いに武器は要りませんから、お前もそう思うだろ?」

「そ、そうね」

 良輔の言葉に柊は頷いて2人共鉄パイプを床に置いた。

「俺達はjokerを探しているんです。白井さんはjokerについて何か知りませんか?」

「jokerやて!?」

 白井は良輔の言葉に驚いた。
 なぜなら……

「実はウチもjokerを探しとるのよ、ほらこれがウチのPDAや」

 白井が取り出したPDAに表示されているのは……
 スペードの【6】
 その条件はゲーム開始から6時間以上経過後、偽装したjokerの傍に6時間以上いること。
 それを聞いて良輔がうっすらと笑みを浮かべるのを白井は気づかなかった。
 もしここで白井が気づけば別の展開を望めたのかもしれないがそのチャンスはここで潰えることになる。

「そうだったんですか?それじゃあ俺達はお互いに協力しあった方が良いですね……ああ、そうだ」

 良輔は思い出したように手をポンと叩いた。

「どないしたん?」

「実は白井さん達と別れた後に他のプレイヤーと会って協力し合っているんです。これから協力し合うなら紹介しておいたほうがいいですよね?」

「ああ、それならぜひ紹介してもらいたいで、それでその人はどこにおるん?」

 姿が見えないその人物について尋ねる。
 怖がって通路の角にでも隠れているのだろうか?
 それならちょっとショックだ。

「はい?何を言っているんですか白井さん」

「何ってそんなの新顔のことに決まっとるやん?」

 良輔の物言いに白井はそう答えた。
 その答えに良輔は微笑みを浮かべると……

「だから、その人はここに居ますよ?ほら……」



『貴方のすぐ後ろに』



 その言葉に思わず白井は振り返る。
 そこには……



 1人の成人男性が自分に向かって鉄パイプを振り上げているところだった。
 驚く間もなく次の瞬間には頭部に鈍い衝撃が走り……
 白井の意識は暗闇に落ちていった。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






 良輔は床に沈んだ白井を冷めた目で見下ろしていた。
 高級なスーツが埃のために台無しとなっている。
 床に転がっているPDAを拾い上げるとそこには【6】のPDA。

「死んだの?」

「いえ、まだ生きてますよ。ただ気絶しただけです」

 柊に速水はそう答えた。

「それじゃあ早速殺しておくとしようかな?」

 床に放り投げた鉄パイプを拾いあげると白井に向かって振り下ろそうとして……

「ちょっと待った」

 良輔に鉄パイプを掴まれて止められた。

「今度は何?」

 折角の獲物を台無しにされたことで柊が不機嫌な表情を浮かべる。

「こいつにはまだ利用価値がある。今後のためにも大切なことだ」

 良輔は白井のPDAと白井が着用している銀色の首輪を見ながら黒い笑みを浮かべていた。






[22742] 挿入話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2011/01/13 06:57
【BET】
player  suit  card  odds  BET
北条良輔  ♦  5  9.0  -
御剣優希  ?  ?  5.5  -
夏本玲奈  ?  ?  7.4 油桜(50)
柊桜    ♦  9  3.5 nida(40) 結崎 ハヤ
西野美姫  ?  ?  8.0  -
神河神無  ?  ?  2.3  -
白井飛鳥  ♠  6  10.0  -
杉坂友哉  ♠  Q  Death  -
一ノ瀬丈  ?  ?  5.1  -
速水瞬   ♥  K  1.7 上杉龍哉(50)
幸村光太郎 ♦  4  10.0  -
飯田章吾  ?  ?  6.0 ヤマネ
水谷祐二  ?  ?  2.6 ヴァイス(30)
Day 1日目
Real Time 午後 4:40
Game Time経過時間 6:40
Limit Time 残り時間 66:20
Flour 1階
Prohibition Area 屋外
Player 12/13






良輔達が白井を捕まえたその頃。
 同じように飯田も通路で少女を捕まえていた。
 もちろん意味合いは全然違うが……

「え~と、それで嬢ちゃんの名前は美姫って言うんだな?」

「う、うん美姫は気づいたらここに居て……人を探してたら……あ、あれを見ちゃって、に、逃げなきゃって」

 目の前の少女は両手を胸の前で組んでぎゅっと握っている。
 よほど怖かったのだろう。
 いきなり知らぬ場所に連れて来られてそこで黒焦げになった死体を見せられればこの反応も仕方ないように思えた。

「そっか、悪いな、怖がらせちまった」

「ううん、美姫のほうこそごめんなさい、おじちゃんのこと悪い人じゃないかなって勘違いしちゃって……美姫のこと許してくれる?」

 美姫は上目遣いにそう尋ねてくる。

「たりめえよ!!こんな状況じゃあしょうがねえ」

 飯田は快く頷いた。

(本当に許せねえのはこんな小さな子供まで連れてきやがった奴らだぜ)

 拉致犯のあまりに卑劣で命を玩具のように扱う行為に医者としても人としても許すことができなかった。
 この少女はしっかりと自分が守って日常に帰してやろう。
 そのためにはゲームをクリアすることが大切だ。
 この子がプレイヤーであるとするとこの少女もアレを持っているはず。

「美姫、お前もこのPDAを持ってんのか?」

「あ、それ」

 美姫は飯田が取り出したPDAを見ると自分のPDAを取り出した。

「これ、美姫が起きた時に美姫のかばんの中に入ってたの」

「ちょっと見せてもらって構わねえか?大事なことなんだ」

 美姫はニッコリ笑ってPDAを差し出す。

「サンキューな、あ、これはゲームのルール表だ。一応読んどいたほうがいいぞ」

「うん!!」

 PDAの代わりに飯田が白衣から取り出した紙切れを美姫に渡し、自分はPDAの待機画面を呼び出す。

 ピッ

 電子音と共に画面に現れたものは……
 クラブの【3】だった。

(マジかよ)

 念のため解除条件を呼び出す。
 
 ピッ

【3】
《自分のPDAの半径5メートル以内で3人以上の人間が死亡する。手段は問わない。》

(こんなことってアリか?)

 それを見て飯田は驚愕する。
 こんな年端もいかない少女は生き残るために3人の人間を殺さなければならないらしい。
 自分の目の前でルール表と格闘しているこの少女に人を殺せるとでも思っているのだろうか?

「おじちゃん?」

「うん、どうした?」

「えっと、おじちゃんが美姫を見て難しそうな顔してるから」

 顔に出ていたのかどうやら不安にさせてしまったらしい。
 もっとしっかりしなくては……

「ん?そうだったか?いや、なに美姫ちゃんがあんまりかわいいもんだから将来はべっぴんさんになるなと思ってな」

「本当!?」

「おおよ、おじちゃんは嘘つかないぜ」

「うん!!じゃあ信じる!!」

 美姫はニッコリ笑って自分の顔をぺたぺた触り始めた。
 それを見て飯田は再び美姫のPDAに視線を落とす。
 この少女を人殺しにするわけにはいかない。
 だからこそ……

(……何とか条件を満たさなくても首輪を外す手段を探すしかねえか?)

 条件を満たせなくとも首輪さえ外してしまえば死ぬことはないはず。

「ほれ、美姫のPDAだ」

「あ、うん、このルール表ありがとうおじちゃん」

「おおよ」

 2人はPDAとルール表を渡しあった。

「さてっとここにいてもしょうがねえしそろそろ行こうぜ?」

「え?どこに行くの?」

 美姫は可愛らしく首を傾げながら尋ねる。

「とりあえずエントランスホールだ、あそこには合流する予定の仲間がいるからな」

「……、」

 その言葉を聞いて美姫は小さなその体を震わせた。
 あそこには黒こげ死体がそのまま横たわっているのだから当然だろう。

「安心しろって、とりあえずチラッと見て誰もいなけりゃすぐ戻ってくるからよ」

 飯田もそこはちゃんと考えている。
 全域の戦闘禁止エリアが解除されてしまっているのであそこに誰かが残っている可能性は低い。
 しかしもし誰かが居た場合はその人物は置き去りになってしまう。
 それは飯田の望むところではなかった。

「それにいざって時はおじちゃんが戦うからよ、こう見えても喧嘩には自信あるんだぜ?」

「うん!!おじちゃん強そうだもんね!!顔も怖いからみんな逃げちゃうよ」

「……それはちょっとショックだな」

 子供の純心無垢な言葉が飯田の心に深く突き刺ささる。
 がっくり項垂れる飯田の頭をよしよしと美姫が撫でた。

「そんじゃあまあ、エントランスホールに戻るとしますか?」

 飯田は美姫の手を引きながらエントランスホールへと引き返していく。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






 飯田と美姫の2人はエントランスホールまで戻ってくるとそこに人影を見つけた。
 しかしそれは飯田が予想していた人物ではない。

「水谷……」

 白井が後を追っていった人物がエントランスホールに戻ってきていた。
 その赤髪の男性は鉄パイプを肩に担ぎ、辺りを油断無く警戒している。
 しかし傍に白井の姿はない。

「あれがおじちゃんの言ってた仲間の人?」

「あっ、おいちょっと待てって!!」

 どうしたものかと思案する飯田を他所に美姫が水谷へと近寄って行ってしまう。
 飯田も慌ててその後を追う。
 水谷もその騒ぎに気づいてこちらへと振り返った。

「は、初めまして、美姫の名前は西野美姫っていうの……おじちゃんは飯田おじちゃんのお友達ですか?」

 水谷は丁寧におじぎする美姫を一瞥すると……

「クックク、あーはっはっは!!」

 腹を抱えて笑い出した。
 美姫は顔を引きつらせて一歩後ろに下がる。
 飯田は水谷の様子を見てすぐに美姫を背中に隠した。

「やるじゃないか飯田のおっさん、ゲームに否定的かと思いきやしっかり獲物を確保してやがる。見直したぜ?」
 
「考え直せ水谷!!このままゲームに乗れば俺達を拉致してきたやつらの思う壺だ、何故それがわからねえんだ!?」

「現状がわかってねえのはアンタのほうだろ?俺だってここに連れてきた奴らの思い通りってのは気に食わないが殺らなきゃ殺られるんだ、だったら……」

『殺される前に殺すしかない……そうだろ?』

 水谷は笑ってそう答えた。

「違えよ」

「あん?」

「違うって言ってんだろが!!」

 飯田の咆哮がエントランスホールに木霊する。
 水谷が目を細くして睨みつけるように飯田を見た。

「お前、人が死ぬってことがどういうことだかわかって言ってるのか?自分の大切なものが崩れていく感覚って知っているか?それなのに何もすることができない無力感を味わったことが、水谷……お前にはあんのか?」

「はっ、何を言い出すのかと思えばお説教ですかい?つまりアンタは俺に何もせず死ねって言うのかい?」

「……せねえよ」

「ああ!?何だって?」

「殺らせねえよ!!」

「おじちゃん?」

 美姫は飯田の服をつかむ。
 それを見て飯田は指だけを後ろに向かって指した。
 これでわかってくれればいいが細かいことまで話していると水谷に怪しまれる。

「俺は誰も殺さねえし、誰も見殺しになんてしねえ!!俺は人である前に医者だ、お前が人を殺すって言うなら俺はお前の全身の骨を叩き折ってでも止める、そして……お前も助けてやる」

「……話にならねえな、この状況でもまだ綺麗事並べやがる。まあ、それもいつまでもつのやら」

 呆れたように水谷は肩を竦めた。

「小僧、お前に人の痛みってやつを教えてやるぜ、ただし……俺様の授業料は高けえぞ~?骨の一本は覚悟しときな」

「上等だぜ、俺に喧嘩を売ったこと、地獄で後悔しやがれ!!」

 水谷が鉄パイプを振り上げたその時を見計らって……

「今だ、美姫!!走れ!!」

 飯田は美姫の背中を軽く押すと水谷に向かって走り始める。

「っ!?」

 美姫は驚愕の表情を作りながらも背中を向けてエントランスホールから逃げ始めた。

「逃げられるとでも思ってんのか?」

「追えるとでも思ってんのかよ?」

 美姫を追おうとする水谷の前に飯田が立ち塞がる。
 2人の距離がぐんぐん縮まり、その距離は水谷の持つ鉄パイプの射程に入るかどうかというところだ。
 飯田には水谷が薄く笑っているのが見える。
 次の瞬間には水谷が鉄パイプを振りかぶった。

「おらあ!!」

 水谷は野球のスイングでもするように横薙ぎに払う。

(タイミングがズレてやがる……これは、フェイクだろ?本命は……)

 飯田は距離と鉄パイプの長さを考慮して右から来る水谷の鉄パイプを左にステップを踏むことでかわす。
 自身を駒のようにして回転するがその鉄パイプは飯田の予想通り、わずか手前の空を切った。  
 しかし水谷は左手だけ鉄パイプから離し……

(左に避けた時に来るこの裏拳だ!!)

 飯田は襲い来る水谷の裏拳を頭を下げてかわすと懐に潜り込む姿勢を見せた。

「ぐっ!?」

 水谷は驚愕の表情を浮かべる。
 そして……

(お前は懐に入ってこられないために軸足にしていた右足を思いっきり振り上げる、それを俺は……)

 裏拳を放った際に踏み込んだ左足を起点に今度は右足を振り上げた。

(半歩下がってかわす)

 懐に入り込む姿勢を見せていた飯田が一転して半歩下がる。
 水谷の足は何もない空中に向かって力強く蹴り上げられた。

(お前は片足でハイキックを繰り出したことで体重が後ろにかかりすぎている、この状態でできることといえば踵蹴りぐらいだ)

 飯田は振り上げられた右足に注意を払いながら不安定な姿勢の水谷の右に移動する。
 狙いはただ1つ。
 水谷の左足だ。
 左足を払う予定だったがここで飯田は水谷の右手から力が抜けるのを見た。

(鉄パイプを手放して空いた右手で俺の喉を狙ってるな?)

 水谷は鉄パイプを手放しながら思いっきり右足を振り下げるとその勢いのまま、飯田の喉目掛けて右手を伸ばす。
 しかし……

「なっ!?」

「どっせい!!」

 飯田はその右手を掴むと今度こそ水谷の懐に潜り込み……
 気づけば水谷は空中を舞っていた。

「がふっ!?」

 背中から床へと叩きつけられていた。

「がは……何が!?」

「ただの背負い投げだぜ?柔道を知らねえってことはないんだろ?んっ?」

 飯田は水谷の胸ポケットから顔を覗かせていた黒色の携帯端末を手に取る。

「こいつは……お前のPDAか?」

「や、やめろ!!返せ!!」

 床に倒れ伏せたまま行う水谷の抗議を無視して飯田はPDAの電源を入れた。
 電子音と共に現れた表示は……
 ハートの【7】
 その条件は偶数のPDAを全て収集すること。

「水谷、お前の条件は人殺しが必要ねえじゃねえか?なのに何故こんな真似をする?」

「馬鹿かアンタ?PDAを壊された奴は死ぬんだぞ?誰も貸してくれるわけがねえ!!だったら……殺して奪い取るしかねえだろうが!」

「……ほれ」

 それだけ聞くと飯田はPDAを投げ返した。

「何のつもりだ、これは?」

 返って来た自分のPDAを握り締めながら飯田を睨む。

「そんでもってこっちが俺のPDAな」

 飯田がPDAを取り出して画面を見せる。
 それは……
 スペードの【10】
 条件はクリアしたプレイヤーないし死亡したプレイヤーのPDAを3台収集すること。

「お前がゲームをクリアするためには俺のPDAも必要だ。そして俺はクリアしたプレイヤーのPDAが3台必要なんだ。俺達は協力し合えるんだよ!!誰も殺す必要なんかねえんだ!!」

 飯田は倒れている水谷に手を差し伸べる。

「協力して生きて帰ろうぜ?誰もこんなおかしなゲームで死ぬべきじゃあないだろ」

「……くく」

 しかし水谷はその手を取ろうとはしない。

「ふっざけんなああああああああああああああああああ!!」

 そのまま飯田の手を叩いた。

「ふざけんなよ、そんなことを言えば俺が改心するとでも思ってんのか?上等だよ、ここまで舐められたのは初めてだ、このゲームで俺は真っ先にアンタを殺す!!アンタを殺してゲームがクリアできるんだ、願ったり叶ったりだぜ!!」

 水谷はゆっくり立ち上がる。

「殺すなら今だぜ?アンタが持っているメスを使えば俺は抵抗できないしな!!」

「舐めてんのはどっちだ?俺は人を殺さねえ!!医者の誇りにかけて、絶対にだ!!もし……お前が他人を殺さなきゃ気が済まないっていうなら、その時はまず俺を殺しに来い!!」

「はっ、ほざけ!!俺をここで殺さなかったこと……必ず後悔させてやる。首を洗って待っておきな!!」

 それだけ言って水谷はまだ痛む体を引きずって逃げていく、その後姿を飯田はただ見送ることしかできなかった。

「……さて、美姫を探しに行くか?」

 飯田は水谷がエントランスホールから姿を消すのを確認すると美姫と合流すべく美姫が逃げていった通路を探そうと後ろを振り返る。
 そしてその時ようやく自分に向かって大男が突撃してきていることに気がついた。

「へっ?」

 思わず間抜けな声を漏らす飯田を誰が責めることができただろうか?

「私の娘に……」

 大男は既に巨大なその腕を振り上げたところだった。
 自分に何が起こっているのかわからないまま。

「土下座せんかああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 飯田は勢いの乗ったヘビーな一撃を受けて吹き飛んだ。
 なすすべなく床に転がっていく。
 薄れていく意識の中で声が聞こえる。

『お父さん違うの!!おじちゃんは美姫を助けてくれた人だよ、悪い人じゃないの!!美姫を虐めたのは赤い髪の人なの!!』

『何!?美姫、それは本当か?』

『うん!!』

『す、すまない、そこの人……大丈夫、なわけないか』

 その声を聞いて飯田は思う。

(……あ、あれ?これって誤解じゃね?)

 そこで飯田の意識は途絶えた。 



[22742] 08話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2011/01/18 19:49
【BET】
player  suit  card  odds  BET
北条良輔  ♦  5  9.0  -
御剣優希  ?    ?  5.5  -
夏本玲奈  ?    ?  7.4 油桜さん(50)
柊桜    ♦  9  3.5 nidaさん(40) 結崎 ハヤさん
西野美姫  ♣  3  8.0  -
神河神無  ?    ?  2.3  -
白井飛鳥  ♠  6  10.0  -
杉坂友哉  ♠  Q  Death  -
一ノ瀬丈  ?    ?  5.1  ナージャさん(40)
速水瞬   ♥  K  1.7 上杉龍哉(50)
幸村光太郎 ♦  4  9.0  -
飯田章吾  ♠  10 4.5 ヤマネさん
水谷祐二  ♥  7  2.6 ヴァイス(30)
Day 1日目
Real Time 午後 11:00
Game Time経過時間 13:00
Limit Time 残り時間 60:00
Flour 1階
Prohibition Area 屋外
Player 12/13





 とても幸せな日常だった。
 それはとある女性の記憶の中のこと。
 とあるブティックで働き、スタイリストとして活躍していた自分、仕事はとても忙しくて男さえ作る暇がない。
 そのような場所であったがそこには共に働く仲間や、何よりも新しい服を着てまるで少女のようにはしゃぐお客様がいた。
 彼女は服が好きだった。
 着飾ることで好きな人に少しでも良く見せたいと努力する女性がいれば、年をとっても若くありたいと願う女性もいた。
 彼女達に共通しているもの、それは笑顔だ。
 衣食住とも言うように人に服は欠かせない。
 彼女は自分の仕事が人の笑顔を作っていることを誇りに思っていた。
 それはこれからも続いていくはずであったのに……仕事が終わって電車に乗り、家に帰る途中で気を失った。
 最初は働き過ぎで倒れたのではないかと危惧したが状況はそれ以上に悪かった。
 目が覚めて最初に見えたのは見知らぬ天井。
 どこともわからない薄暗い部屋のベッドに寝かされていた事実に驚愕する。

『拉致』

 その2文字が彼女の頭に浮かんだ。
 傍に置かれていたのは1台のPDA。
 それによると自分は『ゲーム』をするために連れて来られたらしかった。
 ここにいてもどうにもならないと考えて部屋を出て、彷徨っていると2人の男性と合流し、その後、だだっ広い場所で見つけたものは……

『死体』

 黒く炭化したその死体を見て彼女は確信する。

『このゲームは本物であると』

 ゲームを生き残るために多くのプレイヤーに協力しようと話すが誰も彼もが自分の言うことを聞いてくれなかった。
 1人ずつその場を立ち去って行く参加者達。
 このままではまずいと考えて協力を拒んだプレイヤーを追うが逆に自分が迷ってしまう始末。

『どうしたものか?』

 そんなとき、途方に暮れていた彼女に突如声をかける人物がいた。
 彼は自分と同じように協力を拒んだ参加者を追っていた人物だ。
 もちろん協力し合えると考えて話し合いに応じた。

『それが全ての間違いだった』

 そう悟るのは遅くなかった。
 普通に話していた彼の口調が突如冷たい物へと変わる。
 彼が指差す背後を振り返ればそこには見知らぬ男性が自分に向かって鉄パイプを振り下ろしているところだった。
 突然頭部を襲った衝撃に自分は……

『気を失ったらアカン!!』





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






 自らの声に彼女の目が開かれる。

「っ……」

 頭が痛い、何かで殴られたような痺れる感覚を抱きながら白井飛鳥は目を覚ました。
 最初に目に入ったのは天井、それはここに来てから最初に見たものと細部こそ違うものの、同質の光景だった。
 寝かされていたベッドから首だけ動かすとそこは薄暗い部屋、ところどころに質素な家具が置かれているその場所で、3人の人間が視界に入ってきた。

「良輔はん、桜ちゃん……アンタら一体どういうつもりや?」

 自分を騙した人物達を睨みつける。
 すぐにでも殴りかかろうと手を動かすが……

 カチャン

 高い金属音が響き、手を動かすことができなかった。

「な……んやの、これ?」

 首を動かして改めて自分の身体を確認する。
 その両手には金属製の手錠が嵌められており、ベッドの手すりから手首だけ出した状態で自らの手と手に繋がっていた。
 これではまるで処刑人に着けられる手枷のようだ。
 手を動かそうとすれば手錠を繋いでいるチェーンが邪魔をして身動きができない。
 足に視線を向ければ足も同じような処置が施されていた。
 そして何よりも問題なのが……

「う、ウチ……何で服着てないん?」

 ブラとパンツ等の下着は残っているが自分が着ていたスーツは全て脱がされていた。
 見ればテーブルの上に衣服が畳んだ状態で置かれている。

「アンタがjokerを持っていないか身体チェックさせてもらっただけよ、別に他意はないわ」

「ふ、ふざけんなや、他意ありまくりやんけ!?」

 柊のふざけた答えに白井は激高する。
 見れば後ろの2人は柊に聞こえないように溜息をついているように見えた。

「さて、時間もそろそろ頃合いだ、始めるとしようか?」

 良輔は座っていた椅子から立ち上がった。

「そろそろ説明してもらえるんでしょうね?6時間以上も待たせて今からやることがくだらないことだったら許さないよ?」

「……俺は言ったはずだ、損はさせないと」

「まあ、いいわ、やってみれば?」

 柊と少し話をしたかと思えば良輔はこちらに向かって歩き出してきた。
 この状況では何をされるかわからない。
 そして何かされたとしても身動きを封じられている否、何も抵抗できないだろう。
 少なくとも服まで脱がしておいて何もありませんでしたと言ってくるとは流石の白井も考えなかった。

「へ、変態……ウチに近寄んなや!!」

「……、」

 せめてもの抵抗に精一杯相手を罵倒するが目の前の青年は顔色を少しも変えない。
 その事実に白井は凍りついた。
 あっという間に良輔は自分が拘束されているベッドの傍に寄ってくる。

「う、ウチに、な、何をするつもりや!?」

「安心しろ、俺はアンタに乱暴しようとかそういう類のことを企んでいるわけじゃない」

「へっ?」

 初めて会った時とは違うしゃべり方、正確に言うと敬語でないだけだが……
 その声で少年は断定する。
 この状況、女の白井としては覚悟せねばいけない事柄をするつもりは自分にはないと……だが、それではこの青年は一体何をするつもりなのだろうか?
 しかしその疑問はすぐに解消されることとなった。
 良輔は胸ポケットから1台のPDAを取り出して白井に見せる。
 それはスペードの【6】、自分のPDAだった。

「そ、それをどうするつもりや!?」

「何、アンタの首輪の解除に協力してやろうと思ってな」

「はっ?」

 まったく意外すぎる答えに白井は唖然とする。
 そんな白井を他所に良輔は話を続ける。

「アンタのクリア条件はゲーム開始から6時間経過後、偽装されたjokerが半径1m以内に6時間以上存在していることだ、間違いないな?」

「ま、間違いあらへん、せやけどそれが何の関係があんねん?」

 良輔に投げかけられた質問に白井は回答する。
 しかしそれが今、こうして自分が拘束されていることと何か関係があるのだろうか?

「大有りだ、俺達3人は全員このPDAの半径1m以内に6時間以上滞在しているんだからな」

 その事実に白井は二重の意味で驚愕する。
 1つはそれほどまでに長い時間自分が気絶していたこと。
 そしてもう1つは彼らが自分のクリア条件を満たしたと言っていることだ。

「そ、そんならアンタらの誰かがjokerを持っとるんやな!!」

 思わず頬が緩むのを感じた。
 自分の首輪が外れる。
 命を縛るこの鎖から解き放たれて自分はまた元の日常に戻れるのだ、と……
 そんな希望を白井は抱いてしまった。
 しかし……
 
「いや、それを今から確かめるところなんだ」

『それはすぐに絶望に塗り替えられることになった』

「……はっ?」

 良輔の言っている意味が分からず間の抜けた言葉が白井の口から出る。

「だから、俺達の中にjokerがいないかどうか今からアンタを使って確かめるんだよ」

「……、」

 いや、少し待てと白井の意識が警鐘を鳴らす。
 確かにjokerがこの3人の中にいるのであれば自分は条件を満たしたことになり首輪が外れるだろう。
 だが……

『もしこの中にjokerがいなければ自分はどうなる?』

 答えは簡単だ。

『死』

 その強烈なまでの残酷な一文字が白井の心を恐怖で雁字搦めにする。

「もし俺達の中にjokerが居ればアンタの首輪が外れる。その対価として、もし俺達の中にjokerがいなければアンタは死ぬ。俺達はあのまま殺せたアンタに首輪を外せるチャンスをやろうっていうことだ」

『立派な協力関係だろう?』

 良輔は冷ややかな冷笑を浮かべる。
 目の前に居る男は自分をモルモットにするつもりだ。
 そのまま取り出されたPDAを自分の首輪に向けて近づけてくる。

「い、いやや、お、お願いします……た、助けて下さい!!堪忍してください!!う、ウチ何も悪いことしてないやん!!何で死ななあかんの!?お願いや!!やめてくれえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」

 抵抗する白井。
 首輪にコネクタされまいと必死に手足を動かす。
 しかし両手両足を繋ぐ手錠がそれを許さない。
 白井にできることはもはや首をブンブンと左右に振ることだけだった。
 だが、その僅かな抵抗は中々に効果的であり、良輔は白井の首輪にPDAをコネクトできずにいた。

「速水さん、こいつの首を動かないように押さえておいてくれ、それから速水さんは5m以内から離れないでくれよ?」

 それは白井に対する死刑宣告でもあった。

「わかりました、それにしても君はずいぶんと惨いことをしますね?」

「……背に腹は、変えられない」

「まあ、確かに非難はできませんね……君の場合」

 速水はちらっと柊を見るが本人は白井の抵抗に興味があるのかその視線には気づかない。
 そのまま白井の頭上に移動し、がっしりと頭を掴んで固定する。

「お、お願いや、止めてくれ、助けてくれ!!あ、アンタも大人やったらこんなこと子供にさせたらアカン!!」

 白井は良輔に話しかけても無駄だと判断したのか今度は速水に命乞いをはじめる。

「ん?ふふっ、そうかもしれませんね?ですが……」

『謹んでお断りさせていただきます』

 自分の条件もありますからね、と白井に対してにこやかに笑いかける。
 それは死神の笑みでもあった。
 白井はその笑みに絶望することしかできなかった。
 首の動きが止まったことで良輔の手に握られたPDAが再び始動する。
 ゆっくり近づいてくる死神の鎌に白井の顔が恐怖に引き攣る。
 ただ嫌や嫌やと声を漏らすことしかできない現状に耐えかねたのか秘部からジョワっと黄色の液体が零れだす。
 その液体はすぐに白色だったパンツを黄ばんだ色に変色させ、ベッドのシーツに染みを作って行った。

「あはは!!この女おもらししてるじゃない!?良い年して恥ずかしいとか思わないのかなあ?」

 その無様な様子を見て柊が嘲笑を零す。
 白井は目を涙で一杯にしながら今にも自分の首輪に接続されようとしているPDAを見下ろしていた。
 接続まで後、3mm、2mm、1mm。
 そして……
 
 カチッ

 首輪とPDAが……接続された。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






 ピロリン、ピロリン

 白井の首輪が点滅を始める。
 それは赤色に発色し、点滅を繰り返す。

『あなたは首輪の解除に失敗しました』

 それは……死刑宣告

『あなたはルールに違反しました、15秒後にペナルティが発生します』

 首輪のアラームに合わせて無機質な合成音声が流れる。
 白井は抵抗を止めて、顔を真っ青にする。
 エントランスホールに白井も居たのだからこれから何が起こるのかはわかっている。
 杉坂という人物に対して行われたことがまた行われようとしているのだ。
 それも今度は自分自身に……
 良輔はまるで人形のように動かなくなった白井を見下ろしていたが速水に肩を掴まれる。
 ここに居ればペナルティーに巻き込まれる可能性があるのだ。
 見れば柊はとっくの昔に避難していた。

「行きますよ?」

「……わかってます」

 速水の後に続いて良輔は部屋を出ていこうとする。
 その時、白井の口が動く。

「……ったる」

 その言葉は今、まさに部屋を出ようとしていた良輔の耳に届いた。

「……、」

 しかし良輔はその言葉に何も言い返すことなく部屋から出た。

「さて、何が起こるのかな?」

 柊は子供のようにはしゃぎながらドアから白井の様子を伺っている。
 今から人が死ぬというのに、このはしゃぎよう。
 正直、こいつの感性はさっぱり理解できなかった。
 しかし白井を死に追いつめたのはまぎれもなく自分だ。
 せめて最期ぐらいは見届けなければならないだろうと良輔も部屋の中を覗く。

『ペナルティーを実行します。それでは白井飛鳥様、またの御利用をお待ちしております』

 音声が流れるのと同時、何やらワイヤーのようなものが白井の首輪に接続された。
 そのままワイヤーは巻き戻って行き、ベッドに縛られている白井をベッドごとひきずりはじめた。

『ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!痛い!!痛い!!た、頼むから離してくれええええええええええええええええええええ!!』

 ワイヤーが引っ張っているのはあくまで白井飛鳥だ、白井は簡単に動けてもベッドを動かすのは鎖に繋がれている白井自身、手首、足首にかかっている負担は相当なものだろう。
 案の定、すぐにバキッと骨が折れる音と共に白井が声にならないような絶叫をあげるがワイヤーはそれさえも無視して白井を引っ張り続ける。
 そのまま引っ張られ続け、ようやく部屋の中央で止まった。

『ヒィ、ヒィイイイイイイイイイイイイイイ』

 白井はこれから迫りくる絶対の死と骨が折れた痛みでその表情を歪ませる。
 化粧を施し、小奇麗だったその顔は今や涙と鼻水でぐちゃぐちゃとなり、ひどいことになっていた。
 そして部屋の天井がパカッと開く。
 そこから現れたのは巨大なノコギリのような物だった。
 それはすぐに回転を始め、白井を切り刻む準備を始める。

 ピロリン、ピロリン

 良輔達の持っているPDAからアラームが鳴り始めた。
 白井から奪い取った【6】のPDAを開くとペナルティーの項目が追加されている。

【ダイヤモンド、キッター】
『首輪が作動した者をダイヤモンドカッターで切り刻む。カッターの切れ味は首輪さえ切断するよ!!首輪が外れるなんて……ラッキー、だよね?死ぬけど(笑)』

 そんなふざけた説明文がPDAに加わった中、カッターはどんどん白井に近づいていく。

『く、くんな!!ウチはまだ死にとうない!!死にとうないんやあああああああああああああああああああああああ!!』

 その叫びも空しく、カッターはついに白井を刻み始める。

『ぎゃ!!んがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?』

 まずはカッターの先端は白井の腹を縦に切開していく、良輔にも白井の臓器がカッターに切り刻まれた末に白井の腹から飛び出ていくのが見えていた。
 真っ赤な花が咲き乱れる。
 既に白井は絶命しているだろう。
 それでもまだペナルティーは終わらない。
 それはとても惨く、ただ惨かった。
 今度はカッターが首輪に触れる。
 高い金属音を響かせながらもPDAの説明にも出ていたように切断していき、両断されていった。
 白井を縛っていた首輪がカランと音を立てて2つに分かれる。
 ペナルティーの最後は白井の脳を解体し始めた。
 頭蓋骨を叩き割り、その中身もカッターで抉り出す。
 その光景を見て良輔は思わず顔を歪めた。
 吐き気がする
 しかしここで吐くわけにはいかない。
 弱みを見せるわけにはいかない。
 ここで弱さを見せれば次に死ぬのは自分かもしれないと強い意志で吐き気を抑える。
 人が死ぬのを見るのは初めてではない、だが……ここまで惨くはなかっただろう。
 やがて……ペナルティーが終了し、カッターは天井に戻って行く。

 ピロリン、ピロリン

 そして柊の持つ良輔のPDAがアラームを鳴らす。
 もはや確認する必要はないだろう。
 生存者が1人……減ったのだ。

『生存者:11人』





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






『さて、これで証明できたと思うが?』

 白井の断末魔が途絶えた空間に良輔の声が響く。

「ええ、僕達は白井という人のPDAの半径1mに6時間以上居ました、その後で良輔君がPDAを白井さんの首輪に接続したのですから……これが意味することは1つだけですよ、ねえ桜君?」

 速水がわざとらしく柊に話を振る。

「……、」

 柊は2人を怪しそうに見渡した後に、観念したように溜息をついた。

「ええ、そうね、悔しいけど認めざるを得ないかな?」



『アンタ達の中にjokerはいない』



 良輔が白井の命を使って出した証明。
 それはこの中にjoker所有者がいないということだった。
 良輔は柊にも人並の知性はあったかと胸を撫で下ろす。

「柊、お前は最後まで首輪が外れなかったら俺達を殺すつもりだったろ?」

「さあ?それはご想像にお任せするよ」

「……、」

 柊の答えにやはりかと良輔は呆れてしまった。
 だが……

(これで無意味に殺される心配だけはなくなったか)

 自分達を殺しても首輪が外れないことがわかった今、柊が自分達を殺害する理由はない。
 少なくとも当面の安全は確保された。
 もっとも味方から身を守る手段を考えねばならないという点についてはもはや溜息しかでないのだが……

(背に腹は、変えられない……よな?)

 口で言っても納得しないなら証明せざるを得ない。
 そして現段階で良輔ができるのはこれが精一杯だ。
 最もこの手段では自分達がPDAを偽っていないというところまでしか証明できていないのだが良輔は速水がjokerを持っているとはとても思えなかった。
 Jokerは便利だが偽装するにしても【K】には偽装しないだろう。
 もし相手が【A】だったら狙われ続けなければいけないのだから……
 柊もその辺は流石にわかっているのか追及はしてこない。

「それじゃあもう行きましょう。早く2階に上がってしまいたいから」

「そうだな」

「了解です」

 柊の号令で3人は2階を目指して動き出す。







[22742] 09話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2011/01/21 06:49
【BET】
player  suit  card  odds  BET
北条良輔  ♦  5  9.0  -
御剣優希  ?   ?  5.5 トぺルカさん(40)
夏本玲奈  ?   ?  7.4 油桜さん(50)
柊桜    ♦  9  3.5 nidaさん(40) 結崎 ハヤさん
西野美姫  ♣  3  8.0  -
神河神無  ?   ?  2.3  -
白井飛鳥  ♠  6  Death  -
杉坂友哉  ♠  Q  Death  -
一ノ瀬丈  ?   ?  5.1  ナージャさん(40)
速水瞬   ♥  K  1.7 上杉龍哉(50)
幸村光太郎 ♦  4  9.0  -
飯田章吾  ♠  10 4.5 ヤマネさん
水谷祐二  ♥  7  2.6 ヴァイス(30)
Day 1日目
Real Time 午後 11:50
Game Time経過時間 13:50
Limit Time 残り時間 59:10
Flour 1階
Prohibition Area 屋外
Player 11/13
注意事項
この物語はフィクションです。
物語に登場する実在もしくは歴史上の人物、団体、国家、領域その他固有名称で特定される全てのものとは、名称が同一であっても何の関係もありません。





 コツッコツッコツッ

 足音が静かに響く通路を良輔達は2階の階段目指して歩いていた。
 良輔はPDAを弄りながら先頭を歩き、柊と速水の順で進んでいく。
 しかし良輔が持っているこのPDAは良輔自身の物ではない。
 死んだ白井のPDA、すなわち【6】のPDAだった。
 当初はこのPDAを誰が持つかで揉めたのだが良輔は自分だけPDAを持っておらず、PDAなしの状況では重要な場面で判断を下せないこともあるかもしれないと主張し、最後まで駄々をこねた柊をなんとか説得して現在に至る。

(まあ、本当はもう1つPDAを持ってるんだけどな)

 良輔はこっそりとポケットに入れている幸村の【4】のPDAに触れた。
 柊達の目の前で堂々とPDAを使えることになったのはもちろん大きいが良輔の思惑はまた別のところにある。

(この2つのPDAを交渉材料にして、柊からPDAを取り返してやる!!)

 幸村の【4】と白井の【6】、この2つのPDAがあれば偶数PDA収集の7thや死亡したプレイヤーのPDAを3台収集する10thは間違いなくこちらの誘いに乗ってくるはずだ。
 どちらかのプレイヤーと密かに共闘関係を結べればこちらを襲撃させて柊の注意が向こうに移ったところを見計らって裏切ることも可能なはず。
 
裏切りの準備は着々と整いつつあった。

「階段が見えてきましたね」

 後ろを歩く速水が呟く。
 良輔達の目には2階へと登る階段が見えて来ていた。

「さっさと2階に上がってしまいましょ?夜も遅いから戦闘禁止エリアってところでゆっくりしたいな」

 柊が眼鏡を少し上にあげて眠そうに目をこすった。

「階段は待ち伏せにはうってつけの場所だ、警戒を怠るべきじゃないぞ?」

 先頭を歩く良輔が注意を呼び掛けると2人とも頷いて周囲を警戒しはじめた。

(さて、鬼が出るか蛇が出るか?)

 良輔は階段を睨みながら近寄って行った。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






「そっちは誰か居た?」

「誰も居ませんね」

 良輔達は人がいないか警戒しながら階段を上って行ったが階段で待ち伏せしているプレイヤーは不思議なことに誰もいなかった。

(これはどういうことだ?)

 その事実に良輔が不審な気持ちを抱く。
 階段と言えばプレイヤーが必ず通らなければいけない要所だ。
 もちろん他のプレイヤーと悪意があろうとなかろうと接触するためにはここを張っておくのが一番いいはず……
 それなのにこの場では誰も待ち伏せをしていなかった。

「いないならいないで別にいいよね?え~と戦闘禁止エリアは……」

 柊は恐らく良輔のものと思われるPDAを操作しながら戦闘禁止エリアを探しはじめた。
 場所を見つけたのか柊はそのまま歩いて行ってしまう。

「速水さん、アンタはどう思う?」

「それはここで誰も待ち伏せしていなかったことについて……ですか?」

 速水の言葉に良輔は頷き返した。

「そうですね……例えば階段を上ろうとしていたプレイヤーが居たとして、その後ろから別のプレイヤーがやってきた、これならどうでしょう?」

「確かに、それなら待ち伏せしようってことにはならないだろうが……」

 既に獲物が網から逃れてしまっていることを知っているならそういうこともあるかもしれない。

「どっちにしろここに他のプレイヤーがいなかった以上、僕達に出来ることは何もありません、それに早く後を追いかけないと桜君を見失ってしまいますよ?」

「……そうですね」

 速水の言うとおりここで柊を見失うようなことがあれば大惨事だ。
 良輔も速水も柊の後を追って戦闘禁止エリアに向かうべく歩き出した。
 しかしこの時、良輔は少しでもいいから階段で網を張っておくべきだったかもしれない。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






 良輔達が階段から離れた10分後、3人の人間がそこに姿を現していた。

「幸村、どうだ?待ち伏せは居そうか?」

「……いや、居ないみたいだな」

 白衣を着た男性に、くたびれた服装に身を纏う大男、そして短髪の少女がいた。
 しかしその少女は白衣の男性の背中でスヤスヤと寝ている。

「それにしても……意外だな」

「何が意外なんだ?」

「ここで誰も待ち伏せしていないということがだよ、もし私が逆の立場だったなら間違いなくここに網を張っただろうからね」

 飯田は幸村の言葉に眉をしかめる。

「幸村、俺は何度も言うようだがそれ(……)には絶対反対だからな!!」

「……、」

 幸村は飯田の言葉に答えようとしない。
 何と言っていいか考えているようだった。

「美姫ちゃんのことも考えてやれよ、お前がそれ(……)をやっちまえばこの子は悲しむことになるぞ?」

 飯田は背中で眠る少女を担ぎなおす。

「飯田さん、貴方のおっしゃることは間違いなく正しいだろう、それは人としての美徳と褒めたたえられるべきものだ。しかし私にとっては大事な子供とくだらない殺さずの道徳、どちらを取るかと言われれば答えは既に出ている」

 幸村は強い意志を込めた目で飯田を見た。

「その道徳で美姫の安全が約束されるというなら私は喜んでその道徳に従おう。だが……この状況でそんなものが美姫を守ってくれるとは私にはとても思えない」

 そのまま後ろに回り込んで美姫の髪を撫でる。

「幸村、お前にもお前の考えがあるだろうが俺にも俺の考えってものがある。お前が人を殺そうとしたそのときは……俺は医者としてお前を止めるぜ?」

「飯田さん、この話は……もう止めにしよう」

 飯田の言葉に被せるように幸村が遮る。

「まずは美姫の安全の確保、私達のするべきことはまずそれだ。飯田さんもそれには同意してくれたからこそ私達と行動を共にしてくれるのだろう?」

「……、」

 幸村は目を覚ました飯田から誤解を解いた後、全てのルールを聞き、まずは美姫の安全を確保するために6階の戦闘禁止エリアを目指して移動していた。
 エレベーターを使うことももちろん考えたが全域の戦闘禁止エリアは既に解除されており、万が一エレベーター内で襲われれば逃げ場なくやられてしまうかもしれないと危惧し、エレベーターを使わないことを選択していた。

 そして6階の戦闘禁止エリアについた後、幸村は自分の秘策を実行するつもりだった。

「飯田さん、もしも私の身に何かあったときは美姫を頼みます」

 幸村は幸村で飯田には感謝していた。
 もちろん美姫を守ってくれたこともだが、それ以上に自分の思惑を聞いた上で少なくとも美姫の安全の確保までは協力してくれることだ。
 もし飯田がいなければ今頃美姫を背負っているのは自分だったかもしれない。
 もちろん両手が塞がった状態で侵略者を退けられるかと聞かれればかなり怪しい、いや、もしそのような状況になったら間違いなく逃げるしかできないだろう。
 本来なら人殺し宣言をする人間など医者として絶対許せないだろうし、許す気がないのは見ていればわかるが、妥協するところはしっかり妥協してくれている。
 これでお前のやっていることは許せないことだと頭ごなしにしかりつけてくるような人物だったらmurder agent犠牲第1号になっていたことだろうが、飯田は少し変わっていた。
 幸村の話を聞いて怒ったし、許しもしなかったが美姫の安全確保には進んで協力してくれるというのだから……
 話を聞いていた当初は理想主義者だと思っていたし、それは今でも変わってはいない。
ただ、この飯田という人物は手段に関しては妙に現実的だった。
もしこれが頭の天辺から足の指先まで理想主義者だったら幸村はここまで飯田を信用はしなかったかもしれない。
 それでも美姫の生存のために最終的には裏切ることになるだろうが幸いにも美姫と飯田の条件は相性が良い。
 美姫のついでに飯田の条件を満たしてやってもいいだろうと幸村は考えていた。

「馬鹿野郎、縁起でもねえこと言ってんじゃねえよ」

 頭を下げる幸村に飯田は言葉に困窮する。
 幸村が人を殺すのは止めねばならない。
 それが医者というものだ。
 だが飯田にも幸村の気持ちが痛いほどよくわかる。
 気持ちはわかるのだ、だからこそ自分の助けたい人のためなら例えどんなことでもやってやるという幸村を飯田は放っておくことができなかった。
 幸村と美姫の2人には無事に日常に帰ってもらいたい。
 それも……誰を殺すことなく。
杉坂という奴は助けられなかったが、今生き残っている12人全員で飯田はこのゲームから帰りたかった。
 既に1人、もう飯田の手から零れていたことなど知ることもなく。
 飯田はそう願っていた。

(何とかしねえと)

 しかし肝心の手段がない。
 その事実が飯田を苛立たせる。
 手段がなければ自分が思っていることなど絵に描いた餅も同然だ。
 こうであればいい、などと思い浮かべることなら子供でもできる。
 そして飯田は知っていた。
 願っているだけで起きる奇跡などありはしないということも、奇跡をおこすためには人が尋常ならざる努力を積まねばならないということも、そして……それでも奇跡に巡り合うことなく消え去って行く人間がこの世に多すぎることも……
 それが嫌だったからこそ、奇跡をこの手中に掴み、1人でも多く人を救いたいと思ったからこそ自分は医者になったというのに……磨き上げた医術という技能もこの状況では患者のリハビリ特訓用に研究、実践している格闘術全般のほうが役に立っている始末だった。

「情けねえな、俺」

「……何か言いましたか?飯田さん」

「何でもねえよ、それで次はどっちに行くんだ?」

「こっちのほうが3階の階段に近いようです、こっちに行きましょう」

 そうして幸村達は良輔達の通った道とは逆の通路を歩き始めた。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






良輔達が戦闘禁止エリアに着いたのはそれから30分後のことだった。

「地図によるとこの部屋が戦闘禁止エリアみたい」

 戦闘禁止エリアと思われる部屋の前に柊が立つ。

 ピロリン、ピロリン

『あなたが入ろうとしている部屋は戦闘禁止エリアに指定されています。戦闘禁止エリアでの戦闘行為及び戦闘禁止エリアにいるプレイヤーへの戦闘行為を禁じます。違反者は例外なく処分されます』

 合成音声がPDAの画面に合わせて流れる。

「じゃあ入るよ」

 ガチャッ

 柊を先頭に良輔達は戦闘禁止エリアへ入っていく。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






「へえ、結構綺麗な部屋じゃない!?」

 戦闘禁止エリアの行き届いた清掃に満足したのか柊が嬉しそうな声を出す。
 そこは良輔達がいままで入った部屋に比べて内装がしっかりなされており、絨毯まで敷かれていた。
埃の溜まっていた廊下に比べると清掃も行き届いているためか部屋からは清涼感が漂い、おまけに台所や更衣室にトイレ、シャワールーム、寝室だってあった。

「この戦闘禁止エリアを1日目の拠点にするわ、文句ないよね?」

 柊は後ろから入ってきた2人にそう宣言する。

「それでは夕食にしませんか?お腹減りましたし……」

 速水はお腹をさすりながらそう提案した。

「そうね、アンタご飯作れる?」

「俺は料理作ったことないからな」

 優希の料理がうまかったからなのか良輔は食べる専門だった。
 横で柊が使えないと舌打ちを打っている。

「桜君は料理とかしないんですか?」

「……1人暮らしだから人並にはできるけど?」

 速水の言葉に柊は少し考えてそう答える。

「それでは桜君の料理を僕達に御馳走してください!!」

「嫌よ」

即答だった。

「な、何故でしょうか?」

「何でアンタらに僕の手料理を振る舞わなきゃいけないのよ?面倒臭い」

「そんな!?女の子の手料理は男の浪漫だというのに!!」

 速水はがくっと膝をつくと良輔にターゲットを切り替えた。
 その目がキュピーンと輝く。

「良輔君も桜君の手料理、食べたいですよね?」

「いや、別に?」

 毒盛られそうだし。
 良輔の答えに速水が今度は床に手をついてそうですかと呟いた。

「しょうがありませんね、僕が作りますよ」

 埒があかないと判断したのか突然立ち上がりそう宣言する。

「へえ~、アンタ料理とかできるんだ?」

「インスタント食品を調理することに関してはプロ級ですよ?」

「あっそ、それはすごいわね」

 柊は速水の答えに適当に相槌を打つ。

「それではキッチンに行ってくるので若い人は若い人同士で語り合ってください」

 速水は今から見合いでもするのかとツッコミたくなるような言葉を残し、キッチンへと去って行った。

「……、」

「……、」

 気まずい空気が両者の間に流れる。
 何か会話をしなければいけない空気なのだろうか?
 キッチンからは速水の鼻歌が聞こえてくるがそれをBGMにこの無言空間に居続けるなど嫌すぎる。

「お前、1人暮らしなんだってな」

 良輔は柊に話を振ることにした。

「そうだけど、何か文句でもあんの?」

「いや、別に?お前の両親はどうしてんだ?」

「さあ?」

 柊は肩を竦めてそう答える。

「お前もしかして家出とかしてるクチか?」

「違うよ、お父さんもお母さんも僕が中学の頃に離婚しちゃったから、その時にどうせだから1人暮らししようと思って家を出たの」

 柊はソファーに座りそう答えた。
 立っているここからでは柊の表情は見えないがそれは良輔にとってちょっと興味がある話だった。
 親近感、とでも言うのだろうか?我ながら馬鹿馬鹿しいと思うが良輔は昔から両親というものが他の人にとってどういうものなのかは考えるところがあった。
 だから少し柊の話を聞いてみたくなったのかもしれない。

「速水さんが料理を作るまで少し時間がかかるかもな?何か飲むか?」

「気が利くじゃない?どういう風の吹き回し?」

「別に、何となくだ」

「……コーヒーにしとく」

「砂糖とミルクはいるか?」

「僕はブラック派だよ」

「了解だ」

 良輔は部屋の探索で見つけたインスタントコーヒーを持って、キッチンへと入って行った。





「あれ?どうしたんですか?」

キッチンに入るとそこにはエプロン姿の速水が居る。
 誰得だと思わずツッコミたくなったがそこは抑えた。

「お湯をもらえますか?コーヒーを入れたいので」

「ああ、ちょうど沸いたところですよ、どうぞご自由に」

「どうも」

 良輔は2人分のコーヒーを入れるためのコップを取り出し、そこにインスタントコーヒーの粉を入れ始めた。

「料理、もうちょっとかかるかもしれないので」

「わかりました、柊にもそう伝えておきます」

 料理に集中しながら速水はそう呟く、良輔はお湯をコーヒーカップに入れ始めた。

「ふふっ、それで何か進展はありましたか?」

「はっ?」

 速水の質問の意味がわからず良輔は思わずそう答える。

「桜君のこと、ちょっとかわいいなあとか思いませんか?」

「いえ、全然」

 恐喝してくる人間をかわいいと表現できるほど良輔はMではない。
 ただ……

「黙っていればかわいく見えるかもしれませんが」

 とりあえずそう答えておくことにした。
 速水はその言葉に吹き出す。

「プッ、ククッ、君も言いますねえ良輔君」

「そうですか?」

「いえいえ、少なくとも顔はかわいいと言えるようにまでなったのですから進歩しましたよ?」

「普通そういう受け取り方をしますか?」

「ふふっ、年を取ると周囲を茶化したくなってしょうがありません」

 良輔の苦笑いに速水はニッコリと答える。
 どう見てもまだ若いだろうに……

「速水さんは随分といい趣味してますよ」

「そうですか?ふふっ、褒め言葉として受け取っておきます、ああ、それからもう1つ」

「はい?」

「あまり、レディーを待たせるのは感心しませんね?」

 確かにコーヒーを入れてから少し時間が経ってしまっている。
 冷めてしまってはおいしくなくなってしまう。
 ただでさえインスタントコーヒーだというのに……

「すみません、すぐに戻ります。食事、楽しみにしてますよ?」

 良輔はそれだけ言ってキッチンから退出した。





「遅いわよ?いつまで待たせるつもり?」

 柊は大変お冠な様子だった。

(本当に黙ってればいい線行ってるのに……)

 せめて一言ありがとうくらい言えないものだろうか?
 とりあえずコーヒーを柊の目の前に置く。

「ズズッ、やっぱりインスタントはあまりおいしくないや」

「贅沢言うなよ、コーヒーが飲めるだけでも御の字だ」

 柊がコーヒーの味に不満を零すのを窘める。

「そういえばアンタの両親はどうしてんのよ?」

「あん?」

「僕にだけ聞いといてアンタはだんまりっていうのはないんじゃない?」

 確かにそうかもしれない、ただ良輔自身あまりそのことは思い出したくないものだ。

「俺の両親は……2人とも死んだよ、俺が5歳の時に」

「……交通事故かなんか?」

「まあ、そんなところ」

 実際に交通事故で死んだのは親父だけだが、まあそれくらい別にいいだろうと良輔は考えた。

「ふ~ん」

 柊はそのままコーヒーを啜る。

「あのさ」

「……何だよ?」

「アンタのお父さんとお母さんは仲良かった?」

「ん?」

 柊が何故そんなことを聞くのかはわからない、ただ良輔はいつも父が母を叩いていたことを思い出した。

「全然良くなかったな」

 総一さんはあまり母のことを話したがらなかったがどうも母は父と離婚しようとしていたと話していたことを思い出す。
 恐らくその相談相手が総一さん達だったのだろう。

「そっか、僕のお父さんもお母さんも」

「ご飯できましたよ~!!」

 柊が何か言おうとしたところで速水が食事を持ってきた。

「カレー……ですか?」

「やはりキャンプと言えばカレーでしょ?」

「違うと思います」

「……、」

 結局速水の乱入で柊との会話は打ち切りとなり、食事をすることになった。

(あいつ、何て言おうとしたんだろうな?)

 黙々とカレーを口に運ぶ柊を見て良輔はそう思った。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






 それから時間は流れ、良輔と速水で見張りを交代しながら休むことになった。
 ちなみに柊はぐっすり寝たいからというふざけた理由で見張りには参加していない。
 まず速水が見張りをすることになり、現在、柊も良輔も睡眠を取っている。

(そろそろ寝静まったころですかね?)

 速水は後ろで眠る良輔を見るとそう判断した。
 そのまま戦闘禁止エリアにあるトイレに移動する。

(定時連絡、定時連絡っと)

 速水は自分のPDAを取り出すと携帯電話でも扱うように耳に当てた。

 カチャリと誰かが電話を取る音が聞こえる。

「サブマスター、速水瞬です。佳織ですか?」

 速水は静かにそう答える。

『こちらオペレーター、工藤佳織よ、瞬?聞こえる?』

 向こうからは何やら騒がしい音が聞こえてくる。
 ゲームを見に来ているお客の接待などやることがいくらでもあるからだ。

「問題なく、遅れましたが定時連絡です。1日目終了段階で杉坂友哉、白井飛鳥の2名が脱落、残り生存者は11人。今回の目玉イベントであるblank one hourは対象者の1人である御剣優希が6階に移動してしまったために遅れ気味です。しかしその代わりに北条良輔が柊桜にPDAを奪われたことで共闘、現在の撮影対象はこの2人にしてゲームを進めていきます。何か問題はありますか?」

 速水はてっとり早く現状を説明する。
 特に問題なことは起きてはいなかった。
 少なくとも速水の視点では……

『それが問題大有りなのよ、こっちは大騒ぎだわ』

「はっ?それはどういうことですか?」

 佳織の言葉の意味がわからず速水が尋ねる。

『問題は2つ、まず1つはプレイヤーが2人、入れ替わっているわ』

 その答えは速水の想像から斜め上を行っていた。

「……そんな馬鹿な!?僕が今までに会ったプレイヤーに変更はありませんでしたよ?」

『まだ瞬とは遭遇してないけど、これから嫌でも会うことになると思う』

「……それでその入れ替わったプレイヤーは?」

『それは……』

 答えが返ってこない代わりに電話越しにコンコンと2回マイクを叩く音が聞こえてきた。

「……、」

 これは2人の間で決めていたしゃべれない時に出す合図である。
 つまり、何らかの関係でそのプレイヤーを教えることができないということだ。
 この会話は記録が残ってしまうので、言ってはいけないことを迂闊にしゃべると佳織に責任が及ぶ可能性がある。

「聞き方を変えます。消滅したプレイヤーの名前を教えてください」

 止むを得ず速水は聞き方を変えることにした。

『……それなら大丈夫、本来ならこのゲームに参加する予定だった榊進一、藤井健吾の2人がこのゲームに参加する予定にはないプレイヤーと入れ替わっているわね』

 それを聞いて速水は深く溜息をつく。

「参加プレイヤーが入れ替わるなんて不始末もいいところじゃないですか……今回のゲームを考えたディーラーは一体どこのどいつですか?」

『上杉のやつよ!!あいつまたいい加減なことして』

 マイクの向こうから不機嫌な声が聞こえる。

「……まさか、入れ替わったプレイヤーがエースなんてことは?」

『それは有り得るかもしれないわね』

 そう言いながらもコンコンと2度マイクを叩く音が聞こえてきた。
 速水は少し考えると……

「わかりました、それでもう1つの問題というのは?」

 とりあえずその件は保留にしてもう1つの問題を聞くことにした。

『そ、それが……ゲームマスターが業務を放棄したわ』

「……はい?」

 速水は自分の耳を疑った。
 それほどの内容だった。

『私にもわからないの、でもゲームが始まってから一度も連絡が来ないし』

「何かあったんでしょうか?ゲームを放棄しなければいけないような重大事が」

『とにかくこのままだとゲームの進行に不具合が出るわ、だから瞬が今からゲームマスターとしてゲームメイクして欲しいの、それと並行して入れ替わったプレイヤーを見つけ次第殺害がこれからの任務よ』

「……止むを得ません、これから良輔君達を適当に罠かなんかで引き離すことにします」

『詳細は後でメールを送るから……気をつけて瞬、今回のゲームは何かがおかしいわ』

「わかりました、肝に銘じておきます」

『……ちゃんと帰って来なきゃ、許さないんだから』

 しっかりしていた口調が突然甘えるような口調に変わった。
 速水はその声を聞いて頬を緩ませる。

「帰ったら……ベッドの上でたっぷりかわいがってあげますから」

『もう、瞬の馬鹿……約束だからね?』

「ええ、約束です。それでは」

 そうして速水は電話を切った。

(それにしても一体何が起こっているのでしょうか?)

 速水はこのゲームが始まってから立て続けに起きるイレギュラーに手の平の上で都合良いように遊ばれているような嫌な感覚を味わっていた。






[22742] 10話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2011/02/14 18:19
【BET】
player  suit  card  odds  BET
北条良輔  ♦  5  9.0  -
御剣優希  ?   ?  5.5 トぺルカさん(40)
夏本玲奈  ?   ?  7.4 油桜さん(50)
柊桜    ♦  9  3.5 nidaさん(40) 結崎 ハヤさん
西野美姫  ♣  3  8.0  -
神河神無  ?   ?  2.3  -
白井飛鳥  ♠  6  Death  -
杉坂友哉  ♠  Q  Death  -
一ノ瀬丈  ?   ?  5.1  ナージャさん(40)
速水瞬   ♥  K  1.7 上杉龍哉(50)
幸村光太郎 ♦  4  9.0  -
飯田章吾  ♠  10 4.5 ヤマネさん
水谷祐二  ♥  7  2.6 ヴァイス(30)
Day 2日目
Real Time 午前 4:00
Game Time経過時間 18:00
Limit Time 残り時間 55:00
Flour 1階
Prohibition Area 屋外
Player 11/13
注意事項
この物語はフィクションです。
物語に登場する実在もしくは歴史上の人物、団体、国家、領域その他固有名称で特定される全てのものとは、名称が同一であっても何の関係もありません。





 暗い闇の中、ただふわふわと浮かんでいる感覚。
 それはあまり心地良いと呼べるものではなかった。
 ぬくもりが欲しい。
 この暗闇を払ってくれるものを、冷え切ったこの心を照らしてくれる何か、例えばそう……
 希望のような……
 しかしそんな都合の良い物がその辺に転がっているわけもなかった。
 ここはどこなのだろうか?
 何故自分はここにいるのだろうか?
 そして……
 ここにいる意味はあるのだろうか?

「良輔っ!?」

 自問自答の末に誰かが呼ぶ声が聞こえる。
 その声は思考の海に沈んでいく良輔を引き上げていった。
 声の主を求めて辺りを見渡すとそこには良輔が求めていた人と求めていない光景が広がっている。

「助けて良輔!!」

 そう泣き叫ぶ少女に見覚えがあった。
 いや、自分の家族と言っても可笑しくない少女だ。
 自分を呼ぶ声の主はボロボロのベッドの上に寝かされ、身動きが取れないように手錠で両手両足とベッドとを繋がれていた。
 そして少女の首には何故か銀色の首輪が……
 その首輪を見て良輔の顔から血の気がひいた。

「優希!?」

 何が起こっているのかはわからない。
 ただ助けなければという想いでその少女へと駆け寄ろうとする。
 しかし……
 
 カチャン
 
「ぐっ?」

 首を思いっきり引っ張られる感覚。
 驚いて首に手をやると自分の首をぐるっと一周している金属があった。
 その首輪には鎖がついており、鎖は背後の暗闇の向こう側へと続いている。

「これは!?」

「良輔!?」

 困惑する自分に少女から心配そうな声が聞こえた。

「くそっ!?待ってろ優希、すぐに助ける!!」

 首輪に手をかけて何とか外そうとするが首輪はびくともしない。

「外れろ、外れろよ!!」

 少女の傍にすぐにでも駆けつけたいのに首輪がそれを阻んだ。

「ええ様やな~」

「っ!?」

 その声に体が委縮してしまった。
 声のする方向に首だけ向けるとそこには……

「白井っ!?」

 そこには自分が殺したはずの女が立っていた。

「こっ、これはどういうつもりだ!?何で優希が!!」

「うん?あはは、どういうつもりもあらへんよ?良輔はんの首輪を外すの手伝ったろう思って来たっただけや」

「はっ?」

 女は答えずにニヤリと笑みを浮かべると少女にゆっくりと近寄って行く。
 その手には1台のPDAが握られていた。
 
「ま、待て!!待ってくれ!!ゆ、優希に何をするつもりだ!?」

「だからさっきも言うたやん?良輔はんの首輪外すの手伝ったるって……何度も言わすなや」

「優希には何の関係もない!!」

 優希はプレイヤーじゃない、あいつがこんなところに居ていいわけがない。

「関係大有りやで?ウチがこの子の首輪にPDAを差し込めば……生存者1人減るやろ?」

 女のその言葉に……背筋が凍った。

「いや~、ウチを殺した奴の首輪を外す手伝いしようなんてウチはええやつやな~、ノーベル善人賞があるなら受賞者ウチやで?」

 気づけば既に女は少女の傍に移動していた。

「さてっと、覚悟は出来とるか?お嬢ちゃん?」

「い、嫌……私まだ死にたくない!!助けて、助けてよ良輔」

 少女は涙を流しながらこちらを見る。

「や、やめろ、やめてくれ!!……やめてください、頼む!!……お願いします」

 身動きの取れない良輔はそうやって土下座するしかなかった。

「へえ?じゃあ逆に聞くけど、アンタはウチが助けてくれ、止めてくれ言うた時に助けてくれたか?やめてくれたんか?」

「そ、それは……確かにそうかもしれない、だけどアンタを殺したのは俺だろ?殺すなら……俺を殺せ!!……優希は、そいつは関係ないじゃないか?頼む、優希の命だけは」

「やったら……」

 女がニヤリと笑う。
 まるで世界が凍ってしまうような凄惨な笑みで……
 
『ウチがやめんでも文句あらへんよね?』

 そう答えた。
 その手にあるPDAが少女の首輪に伸びる。 

「っやめて!?」

 少女の叫びもむなしく、無情にもPDAは少女の首輪に接続された。 

『貴方はルールに違反しました』

 そして流れる警告音、赤色に点滅する首輪。 

「あ……ああっ!?」

 その事実に良輔は狼狽する。

「くそっ」

 すぐに優希のところへ助けに行こうとする良輔は自分に着けられた首輪を外そうとするがその手はスカスカと首輪に引っかからない。

『15秒経過しました。ペナルティーを実行します』

 同時に暗闇に覆われていた天井からノコギリのような歯がついた円形のものが降りてきた。
 それを見て良輔の焦りは最高潮に達する。
 すぐにでも優希の傍に行きたい、だが首輪がそれを許さない。

(この首輪が、この首輪さえなければ!!)

 しかしどれだけ念じても首輪は外れはしなかった。

「良輔?」

 不意に少女が自分を見ていることに気づく。

「どうして助けてくれないの?良輔は私を見捨てるの?良輔は【また】何もせずに見殺しにするの?」

 今にも泣きだしそうな声、そしてその言葉が良輔の胸深くを抉った。

「ち、違う!!俺は……【僕は】優希【ちゃん】を見殺しになんかしない!!」

「信じてたのに……やっぱり良輔は私【も】見殺しにするつもりだったのね?」

「違う、違うんだ……【僕は】」

「この……【人殺し】!!」

 少女が叫ぶと同時に処刑が始まった。
 巨大なノコギリが回転し、少女を切り刻んでいく。

「や、やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 良輔の叫びも空しく一番大切な少女はノコギリによって微塵切りにされていく。
 そんなとき、良輔の肩にポンと置かれた手。

「ウチは死ぬ最期にちゃんとこういったはずやで?」

 後ろから声が聞こえるが良輔にとってそれは今どうでも良かった。
 無惨に切り刻まれていく幼馴染から目が離せない。

『一生呪ったる』 

 その言葉と共にノコギリが何処かへと消え、白井も消え、良輔を縛っていたはずの首輪も消えた。
 残っているのは自分と細切れにされた幼馴染だけだった。

「嘘だ、こんなの嘘だ……」

 目から流れ続ける液体も気に留めず、拘束を解かれた良輔はフラフラと幼馴染のもとへと歩き、そこで地面にへたり込んだ。

「嫌だぁぁぁああああああああああああああああああああああああ!!」

 変わり果てた物を抱き締め、良輔は泣き叫んだ。
 
「何がですか?」

「へっ?」 

 不意に響いた声で良輔の視界に色がついていった。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






 気づけばそこは戦闘禁止エリアだった。
 良輔はソファーに寝ており、上から速水が心配そうな表情で見下ろしている。

「どうしたんですか?起きたのかと思ったら急に大声出して?」

 速水の声に飛びあがって周囲を見渡す。
 そこには巨大なノコギリもなければ白井飛鳥もおらず、変わり果てた優希もどこにもなかった。

「はっ、ははっ、何だ夢か……夢だったのか」

「はい?」

 訝しがる速水を他所に良輔は胸を撫で下ろし、目から零れていた液体を指で拭った。

(そうだよな、優希がこんな場所に居る訳がない)

 あいつはこんな場所に居てはいけない。
 安全で、暖かい日常に居なければいけない人間なのだ。

「大丈夫ですか?」

「あ、はい、大丈夫です」

「それなら良かった、見張りの交代時間ですよ?」

「わかりました、迷惑かけてすみません」

「いえいえ」

 良輔はソファーから起き上がって見張り場所まで行くことにした。

「あ、そうそう良輔君」

 その途中で速水の声に振り返る。

「どうしたんです?」

「ふふっ、僕が寝ているからって桜君に夜這いをかけてはいけませんよ?」

 わかっているとでも言いたげに速水が意味深な笑みを浮かべた。

「……そんなことしませんよ」

 その答えに速水が肩を竦ませる。

「良輔君は若さが足りませんね」

「夜這いに行ってPDAを壊されたくないので」

「それでは桜君が寝ている間にPDAを取り返しに行ったらどうですか?」

「流石にそこまで馬鹿じゃないでしょう、遠慮しときますよ」

 良輔はそう決断した。
 疑い深い柊のことだ、何らかの対策を練っているに違いない。

「ええ~……そんな面白くない選択しないでくださいよ~」

 速水は不満そうに呟く。

「……、」

 そんな速水に良輔は非難めいた視線を送る。

「……ごほん、そろそろ寝ないと朝がきつそうなので寝ることにします」

 そういって速水は毛布を奪ってソファーに寝転がった。
 それを確認して良輔は見張りにつく。
 良輔は寝入った速水を確認すると懐からPDAを取り出した。
 しかしそれは白井のスペードの【6】ではなく、幸村の【4】のPDAだった。
 次に取り出すのは2つのツールボックス、良輔がちょろまかした物だ。

(俺はこんなところで死にたくない!!待っててくれ優希、俺は必ずお前の所に帰るからな?)

 良輔は震える手でインストールしていく。
 人殺しをして戻っても……帰ることなどできないかもしれない、でも、そこにいるのが自分の形をした別の何かでも……

(優希の傍に居たい、それさえ嘘じゃないなら後は全部嘘でも俺は構わない)

 ただ離れたくないだけなのだ、傍に居たいだけなのだ、例え他人を蹴落としてでも……帰りたい場所があるだけなのだ。

(俺は何も間違ってない!そう思うだろ!?)

 そんな良輔の中で、もう1つ別の感情が内在していた。

 もし……

 もしも優希がここに居れば……

 こんな自分を見て叱ってくれるだろうか?





 叱ってくれると……

 良いな……








[22742] 11話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2011/02/16 21:02
【BET】
player  suit  card  odds  BET
北条良輔  ♦  5  9.0  -
御剣優希  ?   ?  5.5 トぺルカさん(40)
夏本玲奈  ?   ?  7.4 油桜さん(50)
柊桜    ♦  9  3.5 nidaさん(40) 結崎 ハヤさん
西野美姫  ♣  3  8.0  -
神河神無  ?   ?  2.3  -
白井飛鳥  ♠  6  Death  -
杉坂友哉  ♠  Q  Death  -
一ノ瀬丈  ?   ?  5.1  ナージャさん(40)
速水瞬   ♥  K  1.7 上杉龍哉(50)
幸村光太郎 ♦  4  9.0  -
飯田章吾  ♠  10 4.5 ヤマネさん
水谷祐二  ♥  7  2.6 ヴァイス(30)
Day 2日目
Real Time 午前 7:00
Game Time経過時間 21:00
Limit Time 残り時間 52:00
Flour 1階
Prohibition Area 屋外
Player 11/13
注意事項
この物語はフィクションです。
物語に登場する実在もしくは歴史上の人物、団体、国家、領域その他固有名称で特定される全てのものとは、名称が同一であっても何の関係もありません。





 穏やかな寝息が聞こえる空間で、1人の男が壁にもたれながらPDAを弄っていた。
 その画面には小さな緑色の光点が多数点滅しており、それとは別に大きな白い光点が1つあった。
 良輔はPDAを見ながらその場所を覚えていく。
 罠を避けて移動するか?それともあえて罠を踏むか?
 本来なら考える必要もないことであるが今の良輔にはそれすら考えなければいけない要素であった。
 うまく罠を踏めば運悪く、いや運よく柊に被害を与えられるかもしれない。
 だが、罠とはどのような種類のものがあるのだろうか?
 ここまで運よく良輔達は罠には遭遇していないためによくわからないのであった。
 即死に至るものか、あるいは分断を促すものか?単純に障害物という可能性もある。

「……やっぱりやめておいたほうが賢明か」

 魅力的なアドバンテージではあるが不確定要素の大きさから実行が難しいと判断し、静かに溜息をつく。

「もうそろそろ朝だな」

 良輔が1人ボソッと呟いた。
 PDAに目を落とすとゲーム開始から既に21時間が経過し、ゲームは2日目に突入していた。
 開始は朝の10時だったのでもうすぐ丸一日が経過する。
 時間的にもそろそろ他のプレイヤー達が動き始める頃だろう。
 自分達も行動を開始しなければならない。
 まず自分がすることは柊に奪われている自分のPDAを取り返すことである。
 PDAを奪われた状態では例え解除条件を満たしても首輪を外すことができないからだ。
 しかしPDAを取り返したとしてもその後、生存者を5人まで減らさなければならない。
 現在の生存者は11人なので残り6人に死んでもらえば自分の首輪は解除されることとなる。

「……とりあえず速水さんを起こすか」

 まだ、動けない。
 そう判断して毛布に包まっている速水のもとに近寄って行った。

「速水さん起きてください、朝ですよ?お~い」

「う~ん、佳織~、後5分寝かせてください~」

 しかし速水は寝ぼけたまま起きようとしない。
 弱ったなと良輔は頭を掻くととりあえず柊を起こしに行くことにした。
 ソファーで寝たままの速水からとりあえず毛布だけ剥ぎ取るとベッドルームに向かう。

「柊?起きてるか?」

 良輔は鉄製のドアをノックする。
 しかし、ノックの音は返ってくるが肝心の柊の返事が返ってこない。

(まだ寝てるのか?)

 もし無防備に寝ているのならPDAを取り返せるかも?
 淡い期待を抱きながら扉を開ける。

「……いないか」

 しかしベッドルームに柊の姿はなかった。
 あるのは柊が持っている学生鞄だけ。
 他にはもともとここにあるものだけだ。
 良輔としてはとりあえず学生鞄の中だけでも調べたいところではあったが柊がいつ戻って来るかわからない。
 調べているところに戻って来たなら柊のことだ。
 間違いなく自分のPDAを躊躇いなく破壊するだろう。

「それにしても柊はどこに行ったんだ?」

 入口には良輔が居たので外に居るということはないだろう。
 速水が見張っている時か、それとも自分が見張っている時か、少なくとも良輔は戦闘禁止エリアということもあってあまり後ろには気を配っていなかった。
 だから、そっと部屋から抜け出したのであれば気づかなかったということもあるはずだ。

「まあ、中にいるならそれでいいか?」

 そして良輔は柊がいないことを確認すると部屋を出てすぐに扉を閉めた。
 他にやることがある。
 良輔は居間に戻ってまだ寝ている速水に近寄って行った。

「速水さん、いい加減に起きて下さい」

「う~ん?」

 目を擦りながら速水は今度こそ起き上がってきた。
 やはり毛布を奪い取っておいて正解だったかもしれない。

「朝ですよ?朝食の支度お願いできますか?」

「……ふあ~、もう朝ですか?しょうがありませんね、準備してきますよ」

 眠気覚ましに頬を叩くと速水はソファーから立ち上がる。

「そういえば速水さん」

「何でしょうか?」

 キッチンへと入って行こうとする速水を良輔は呼び止めた。
 速水がまだ眠いとでも言いたげな目で良輔を見る。

「柊がどこにいるか知りませんか?」

「ん?部屋に居ないんですか?」

「そうみたいです。戦闘禁止エリアから出てはいないとは思いますが一応……」

「う~ん、そうですねえ、シャワーでも浴びているんじゃないでしょうか?」

 速水は頬に手を当てるとそう答えた。

「なるほど」

「だからといって、レディーの入浴シーンを覗こうなんて思うと天罰が下りますよ?」

「しませんよ、覗きなんて」

「はあ~、良輔君は若いんですから、女の子の裸に興味の1つも持たないといけませんね?」

「まあ、考えておきます」

 その答えに速水はクスクス笑うと「朝ごはん作りますね?」と言って朝食を作るためにキッチンへと入って行った。

「さてっと」

 良輔は速水がキッチンに入るのを見届けるとシャワー室に向かった。
 シャワーのある部屋の前に立つと流れる水音が聞こえてくる。
 恐らく柊がシャワーを浴びているのだろう。
 つまり、今は柊のマークが外れているということでもある。
 
(今のうちに鞄を調べておくか)

 自分のPDAを取り返すためにとりあえず柊の鞄を調べることにした良輔はベッドルームに戻ると置いてあった柊の学生鞄を開けた。
 その中にあった物を片っ端から外に出していく。

「教科書、筆箱、ノート……あいつ持ち物は普通なんだな」

 優希はよく、音楽関係の本を鞄に入れていることが多かったが柊の鞄にはPDAはもちろんそれらしい物が入ってなかった。

「無駄骨だったか?」

 あまり期待もしていなかったとはいえこの成果はあまりにも空しい、そうして鞄を閉めようとした時。

「……うん?」

 鞄の中に表紙が他の物と随分違う一冊の本を見つけた。
 黒革で包まれたそれを取るとパラパラと読み始める。

「日記帳か?」

 良輔はさらっと読むだけで記憶に残るという特技を持っているために分厚い日記帳もあまり苦にならない。
 他人の日記を勝手に見るようなことをするのは倫理的にどうかと良輔も思わないではない、ただ興味本位というのもあるが恐喝された軽い仕返し程度のつもりで読み進めていく。
 日記は相当前から付けているものらしく。
 一番古い物で4年以上前の物だ。

「随分と書き込んでいるみたいだな?」

 縦に16cm、幅が10cm、厚みで2cmといったところだろうか?
 パラパラとページをめくり、良輔はその内容を把握していく。
 その内容も意外に普通でどんな出来事があったとか明日の体育が嫌だとかこの年頃の女の子が書きそうな内容が綺麗な字で綴られている。
 正直これを書いているのがあの柊だというのが信じられない。

「まあ、著作物と作者の性格が必ずしも一致するというわけじゃあないだろうけど」

 良輔は日記を読み進めていく。
 パラパラ捲っていくと何か紙のようなものが宙を舞って落ちて良輔の足元におちた。

「うん?」

 それを拾い上げた写真に写っているのは柊とその両親だろうか?
 確か柊は自分の両親は離婚したとか言っていたが……
 良輔は写真が落ちたページを読む。
 そこには今までの物と明らかに込められた感情の違う文が綴られてあった。

『お父様とお母様の裏切り者、信じてたのに……最低、最低だ。あんな人達から生まれてきただなんて思いたくない』

 そのページには水滴を落としたような跡があり、この日付のものだけ文章がこれだけ、それも殴りつけるような汚い字で書かれてあった。
 今までは内容こそ目を見張るものがなかったけれどそこそこの量が書かれていたにもかかわらず……

「日付は……今からちょうど3年くらい前か」

 そうなるとこれは柊が中学に上がってすぐの出来事ということになるだろう。
 良輔はその続きを読んでいく。

「……、」

 するとそこから日記の書き方が変わって行くのが手に取るようにわかった。
 他人への誹謗・中傷する文章が増え、罵声、侮蔑、そういう類のものがどんどん増えていく。
 日記が正しいと仮定して柊は中学の頃、文芸部に所属していたらしい。
 最初こそ優しい先輩や一緒に頑張れる仲間、唯一無二の親友に囲まれて毎日が幸せだという文章が書かれていたものだった。しかしその日から、以前は学校の先生について非難していた程度のものがクラスメートにも及ぶようになり、最終的には部活、親しい友人にまで及ぶようになっていた。
 自分にも責任があるはずなのに友人が離れていくごとに『どいつもこいつも裏切り者だ』などと非難している。
 そして、中学2年の冬頃には『佳苗、アンタまで僕のことを見捨てるの?ずっと小さな頃から一緒だったのに……裏切り者、死ねば良い』と書かれている。
 恐らくこの佳苗という名前の子が柊の親友だった子なのだろう。
 しかし、変わり果てていく柊に耐えられず、最終的に裏切ってしまった。
 味方が完全にいなくなった柊はその後に部活を途中退部したらしい。
 だが、ここからが柊の辛かった思い出なのだろう。
 周囲から完全に孤立した柊はクラスメートから虐めを受け始めたらしい。
 教科書は破られ、靴は隠され、陰口を叩かれ続けた。
 原因は柊であり、同情の余地はないとはいえ、仲間だった人間から受けるこの仕打ちは辛かったのだろう。
 日記には嫌がらせを受けるたびに強がった文章が書かれている。
 しかし不幸中の幸いといえるだろうか?虐めのあった期間は柊が完全に孤立して、数ヵ月後から始まり、周りが受験期を迎えるまでのさほど長くはない時間だった。
 日付から見て3か月程度だろう。
 だが、その時間は柊に疑念を植え付けるには十分すぎる時間だった。
 中学最後の日記にはこう綴られている。

『僕はもう誰も信じない、一番長い時間を過ごしてきた佳苗でさえ僕を裏切ったじゃない?自分を裏切らないのは自分だけ、僕は自分だけを好きで居よう。そうすれば……もう誰にも裏切られないから』

 そして柊が高校に入った直後に、正式に親が離婚したらしい。
それを契機に柊は実家から飛び出し1人暮らしを始め、親からお金を受け取らず、バイトと奨学金で生活してきたようだ。
 他人は信じられない、凝り固まった信念で高校は帰宅部、他人と接触を避けて生活しているようだった。
 そして高校入学から約4か月、夏休みが始まってすぐにここに浚われてきた。
 柊はここに来ても日記を書く習慣は止めなかったのかここに来てからの出来事も綴っていた。

『見ただけでもここで2人死んだ、1人は僕が殺したも同然だけど、でもしょうがないじゃない?殺さなきゃ生き残れないんだから、僕は悪くない、僕は死にたくないだけ、そのために手段は選ばない、一歩間違えば死ぬのは自分なんだから手段なんて選べるはずがない。ここから生きて帰って、もし僕を人殺しだとか精神異常者だとか言う奴にはこう言ってやろうと思う』

 そして本文から少し離れた場所に一言だけこう書いてあった。





『戦場で人を殺すなというの?』





 書き殴ったような力強い文字だった。
 人道的に間違っていても柊は自分が間違っているなんて思いたくなかったのだろう。
 そして、更にその下に消しゴムで文字を消したような跡がある。
 恐らくこっちが柊の本音、いや、弱音だったのだろう。
 書いた跡からかろうじて読むことができた。





『助け#、助/てよ?人を/すことが悪いことだ=言うなら僕をここから#け出してよ?僕は=き好んでこんなゲームに参=したわけじゃない/に……いきなり#れて来られて/殺しをしなきゃ生き#帰れない。嫌だ、=にたくない、#はまだ死にたく/い、助けて、怖い=……お父さ#、お母=ん』

 そして次のページをめくるが空白、どうやらここが日記の終着点のようだった。
 良輔はそこで日記を閉じて1つ溜息をつく。
 数分で読み終えた4年分の日記を鞄の中にしまいなおした。
 見つかったら本気で殺されるかもしれない。

「……、なるほどそういうことか」

 だが、これで少し柊のことがわかったと良輔は思う。
 この日記に書かれていることが真実なのか嘘なのか?また、細かい部分は他人である良輔にはわからないがどうやら柊は家庭環境の変化から性格が歪んだらしい。
 それが原因で他人に当たってしまい、周囲から孤立、疑念から他人に頼れず、かといって自分の過ちを認めるわけにもいかず、気づけばもう戻れないところまで行ってしまった、そんなところだろう。

「……見ない方が良かったかもな」

 情が移るとやりにくい。
 それに例え相手にどんな事情があったとしても従わなければ殺すと言ってくる輩に同情しようとも思わない。
 殺らなければ殺られるのは自分。
 日記にもそう書かれていた。

「まずは……腹ごしらえか」

 ゲームはまだ始まったばかり、しっかり栄養をつけておかなければ最後まで持たないだろう。
 良輔は朝食を取るために部屋を出るとすぐに扉を閉めた。





[22742] 12話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2011/04/20 19:38
【BET】
player  suit  card  odds  BET
北条良輔  ♦  5  9.0  -
御剣優希  ?   ?  5.5 トぺルカさん(40)
夏本玲奈  ?   ?  7.4 油桜さん(50)
柊桜    ♦  9  3.5 nidaさん(40) 結崎 ハヤさん
西野美姫  ♣  3  8.0  -
神河神無  ?   ?  2.3  -
白井飛鳥  ♠  6  Death  -
杉坂友哉  ♠  Q  Death  -
一ノ瀬丈  ?   ?  5.1  ナージャさん(40)
速水瞬   ♥  K  1.7 上杉龍哉(50)
幸村光太郎 ♦  4  9.0  -
飯田章吾  ♠  10 4.5 ヤマネさん
水谷祐二  ♥  7  2.6 ヴァイス(30)
Day 2日目
Real Time 午前 7:30
Game Time経過時間 21:30
Limit Time 残り時間 51:30
Flour 1階
Prohibition Area 屋外
Player 11/13
注意事項
この物語はフィクションです。
物語に登場する実在もしくは歴史上の人物、団体、国家、領域その他固有名称で特定される全てのものとは、名称が同一であっても何の関係もありません。






 良輔が部屋から戻って来るとリビングには速水が居た。
 速水は朝食を床に敷いた布の上に並べている。
 足音でこちらに気づいたのか速水は腰をあげてこちらに視線を向けた。

「あれ?どこに行っていたんですか?」

「すみません、ちょっとトイレに」

 まさか他人の私物を漁っていたなどとは言えず、良輔はそう答える。

「そうでしたか、朝食ができましたよ?といって簡単なものですけど」

 速水はそういって並べた朝食を指差した。
 今日の朝食のメニューは白いご飯とお味噌汁、目玉焼き、サラダであり、それらが人数分用意されている。

「結構おいしそうじゃないですか」

「僕が作ったのは目玉焼きくらいなんですけどね、味噌汁はお湯を入れるだけのインスタントですし、他は冷凍食品をレンジでチンですよ」

「ふ~ん、そういえば速水さんは料理とかするんですか?」

「普段はまったくしませんね、なぜなら……」

『いつも愛しい彼女の手料理を食べていますからっ!』

 腰に手を当て、キリッとした表情で速水が答えた。

「……このリア充が……ぺっ」

 良輔はぼそっと呟くと、床に唾を吐き棄てる。

「何か言いましたか?」

「俺には何も聞こえませんでしたよ、気のせいじゃないですか?」

「そうですか、最近耳が遠くなっていけません」

「あはは」

「ふふふ」

 良輔と速水がお互いに握手しながら笑いあった。
 握手している手からメキメキと擬音が聞こえてくる。
 その時……

「何、朝っぱらから気色悪いことやってんのよ?」

 笑いあう良輔と速水を、少し離れたところで柊がゴミ虫でも見るかのような視線を送っていた。

「ああ、桜君、おはようございます」

「ふん」

 柊は速水の挨拶をガン無視する。
 良輔の横で肩を落としているように見えるのは気のせいだろうか?
 そのまま柊は床に並べられた朝食の前で腰を下ろした。

「お前、今までどこに行っていたんだ?」

「どこって……シャワー浴びてたんだけど」

 言われてみれば柊の顔が僅かに紅潮しているような気がする。
 心なしか女性の良い香りが……

「何じろじろ見てんのよ、この変態っ!」

 ……やっぱり気のせいだろう。
 良輔のこめかみがピクピクと引き攣っていた。

「そ、それでは桜君も来たことですし……朝食にしましょうか?」

「わかりました」

「……、」

 こうして3人の朝食は穏やかに始まった。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






「ふう、食った食った」

 良輔はポンポンとお腹を叩く。
 横では柊も箸を置いていた。

「お粗末様です」

 速水がニコリと笑みを零すと何か思い出したように近くにあった荷物を漁る。

「食後にコーヒーはいかがですか?といってもインスタントですが」

 取り出してきたのは戦闘禁止エリアに置いてあったインスタントのコーヒーだ。
 どうやら速水さんはそれを持っていく気だったらしい。
 シャッシャッとインスタントコーヒーの缶を振りながら速水がそう尋ねる。

「いただきます」

「僕も貰おうかな」

「わかりました」

 速水は各自の金属製コップにインスタントコーヒーを入れると湧いていたお湯を注いでいく。

「二人とも砂糖は入れますか?」

 良輔と柊が首を横に振ると速水はコーヒーの入ったコップを2人に差し出した。
 コップの中には黒い液体が湯気を立てている。

「やっぱ食後はコーヒーだな」

 良輔はコーヒーを一口啜るとそう呟いた。

「これを飲み終えたら出発ですね」

 速水はコーヒーの中に砂糖を少量入れると、スプーンでかき混ぜた後でコップに口をつけた。

「侵入禁止エリアのルールもありますからね」

 コーヒーを飲みながら良輔はそう答える。
 実際にはいつから侵入禁止エリアが拡大していくのか、そしてどのように広がっていくのかなどは良輔にもわからない。
 わかっているのはゲームが72時間経過した時点で建物全域が侵入禁止エリアになり、その時点で首輪を外せていなければ建物の仕掛けに殺されるということ。
 そして、まるで漫画や映画、小説に出てきそうなくらい荒唐無稽な話がここでは真実であるということだけだ。
 
「早く、jokerを見つけないと……」

 柊が焦ったような口調で呟いた。
 ゲーム開始から既に一日近く経つというのに未だjokerのjの字も見かけていない。
 その心情は容易に察することができた。
 しかし……

「個人的にはさっさとPDAを返して欲しいところなんだがな」

 良輔は悪態をつく。
 PDAが返って来なければ解除条件どころの話ではない。

「僕の首輪が外れた後で返してあげるよ、ただし、返すのは戦闘禁止エリアで、だけど」

 柊はこれみよがしに良輔のPDAをヒラヒラと弄ぶ。

「まあまあ、仲良くしましょうよ、僕達は仲間なんですから」

 速水がニコニコと笑ってそう答える。

「それは速水さんの台詞じゃあないな」

「冗談は考えて言いなよ、鳥肌が立つから」

「……僕って信用ないですね」

 はあっと溜息をつく速水を見て何を今更と良輔と柊が同時に肩を竦める。

「それではコーヒーも飲み終えたことですし、そろそろ出発しますか?」

 速水はコーヒーが入っていたコップを置くと立ち上がった。

「わかりました」

「そうだね」

 良輔は荷物を纏めると戦闘禁止エリアから薄汚れた通路に出るための扉に手を掛けた。
 カチャリとドアノブに手が触れる感覚。
 その手から伝わる冷たい金属の感触。
 今から良輔達の2日目が始まろうとしている。
 ここから一歩出れば血で血を洗う戦場が待ち構えている。
 この戦闘禁止エリアにいれば少しの間は安全である。
 しかし、ここで留まっていれば侵入禁止エリアに巻き込まれて死ぬだけだ。
 生き残りたければ戦って勝ち残るしかない。
 ゲーム開始からすぐに出会った幸村。
エントランスホールでルールを交換しあった水谷、夏本、飯田。
 そして杉坂を殺害した神河神無という女性。
 未だ良輔達が遭遇していない3人のプレイヤー。
 これから未遭遇のプレイヤーとも遭遇する可能性がある。
 自分を含めて存在する11人のプレイヤー。
この1日でどれだけの人間が死ぬことになるのだろうか?

「負けられないな、絶対に」

 良輔はボソッと呟く。
 その声は後ろにいる2人にも聞こえないくらい小さな声だった。

(優希、必ず生き残って、お前のいる場所に帰るから……)

 それまで負けられない。
 愛しい少女の面影を胸に、良輔は気合いを入れ直した。

「さて、行くか……」

 扉を開けるためにドアノブを回す。
 ドアノブが回る音、扉を開けた際に錆びた金属音。
 外には変わらずに埃が積もった通路。
 埃の上には多くの人間が歩いた足跡。
 生暖かい空気が良輔の全身を包んだ。
 
今、この狂ったゲームが2日目を迎える。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






 良輔達は3階への階段を目指しながら途中にある部屋も探索しながら進んでいた。
 その途中の一室で柊がダンボールを開けながらニヤリと笑みを零す。

「なるほど、そういうタイプのゲームなわけね」

 柊が横で笑っているのを見て、良輔が手を止める。

「さっきから何を1人で笑ってるんだ?ハッキリ言って気持ち悪いぞ?」

「ふふっ、このゲームがどういう仕組みになっているかちょっと分かったってことだよ」

 柊は珍しく良輔の悪態にも気を悪くせず話を続ける。
 まるで親にテストの点数を自慢する子供のような表情だった。

「それは?」

「アンタ、アドベンチャーゲームとかやったことはもちろんあるよね?」

「まあ、一応な」

 良輔も人並程度にはゲームをやったことはある。
 有名どころを少しやった程度ではあるけれど。
 その返答に柊は満足そうに頷く。

「これを見てみなよ」

 柊はそういって一本のナイフを取り出す。
 銀色に輝く少し大型のそれは、コンバットナイフという種類のものだっただろうか?

「1階には刃物はなかった。それどころかあっても適当に見繕った木材がせいぜい」

「でも、2階に上がってからはこういうナイフのような刃物が転がっている。つまりこれはどういうわけだと思う?」

「……上の階に行けば行くほど武器が強力になっている?」

 まだこの段階で結論を出すのは少し早いかもしれない。
 もしかしたら1階の探していない部屋に刃物を置かれていた可能性は0ではない。

「そう、ゲームで最強の武器が出発点のはじまりの村にはなく、ラスボス戦の直前で手に入れられるのと同じようにね」

 柊はよく出来ましたとばかりに笑う。
 その態度に思うところがないわけではないけれど確かに柊の言うとおりかもしれない。
これがゲームであるというなら……そして演出を凝らすために上の階に上がるごとに強力な武器を配置しているということも考えられることだった。

「本格的にゲームなわけだな」

 そうなると問題はこのゲームにおける最強武器とは何なのだろうか?
 1階にはこれと言って何もなく、2階には刃物、とすると3階、4階へと上がって行く度に武器が強化されていくとして6階には何がある?

「もしかしたら銃とかあるかもしれないよね?」

 柊は本当に楽しそうに笑っていた。

「銃を楽しみにするなんてどんな女子高生だよ?」

「何よ、文句でもあんの?」

 良輔と柊が言い争っていると横でダンボールを漁っていた速水が近づいてくる。

「おや、夫婦喧嘩ですか?」

「違います」

「そんなんじゃないことぐらい見ればわかるでしょ?阿呆なの?死ぬの?」

「ひどいですねえ、傷つきますねえ、そんな邪険に扱わなくてもいいじゃないですかっ」

 言葉とは裏腹にどこか楽しそうに速水は笑っている。

「それで実際のところ、そっちは何か見つけましたか?」

「ナイフが1本と救急セットですね」

 良輔は柊の持っているナイフを指差した後にさきほど見つけた救急セットを速水に見せた。
 特にこの救急セットは有りがたい。
 多少の怪我を負った場合でもこれがあればある程度の手当ができる。

「そっちは何かありましたか?」

「こっちはナイフが1本とスタンガンが1つ、それとこのツールボックスです」

 速水は自分が見つけた物を良輔達に見せる。
 ツールボックスは2つ。

Tool:Network Phone A
Tool:Network Phone B

 上記のように表記されている。

「ネットワークフォン?携帯電話みたいなものかな?」

「それはインストールしてみればわかるんじゃないですか?」

「それもそうね、じゃあネットワークフォンを【5】と【K】に入れましょう」

 柊はインストールするPDAを選ぶと速水はツールボックスを柊に渡した。

「念のためテストしておきましょうか?」

「そうね」

 2人はPDAにネットワークフォンをインストールすると実験を行いはじめた。

「マイクテス、マイクテス、大丈夫ですか?聞こえてますよね?」

「うん、問題ないみたい」

 PDAにむかってしゃべる速水、柊はPDAを耳に当ててそこから流れる速水の声を聞いて頷いた。
 正常に機能することを確認すると2人ともPDAの電源を落とした。

「それで武器は誰がどれを持つの?」

「そうですねえ……」

 柊の声に速水が唸る。

「スタンガンは桜君、ナイフは僕と良輔君が1本ずつ、救急セットは……僕が持っても構いませんか?」

「そうですね、それでいいんじゃないですか?」

「わかった」

 速水の言葉に良輔、柊の順で頷くとそれぞれが自分の分担する品を持つ。

「武器はちゃんと装備しないと効果が出ませんから気をつけてくださいね?」

「――――速水さんはゲームのやりすぎです」

 速水の冗談に良輔が溜息をつく。

「馬鹿やってないでさっさと行くよ?上に上がって行けば銃とか置いてあるかもしれないんだからっ!」

 珍しく柊が興奮した様子を見せていた。

「――もしかして桜君ってガンマニアですか?」

「ふふっ、一度撃って見たかったのよね、拳銃」

「……、」

「……、」

 その大好きなゲームの発売日を待っている子供を連想させる柊に、それでいいのか女子高生と2人は考えるけれど、もちろんそれは柊には聞こえない。

ピロリン、ピロリン

そんな時、全員のPDAが音を鳴らす。

「何だろ?」

 柊も良輔も速水もすぐにPDAを取り出して画面を覗き込んだ。
 するとPDAの画面には次のような文章が表示されていた。

『開始から24時間が経過しました!これよりこの建物は一定時間が経過するごとに1階から順に侵入禁止になっていきます』

『1階が侵入禁止になるのは今から3時間後の午後1時を予定しています。1階にいるプレイヤーの皆さんはただちに退去して下さい』


「始まったか」

 良輔はそう呟く。
 嬉しくないニュースだ。
 これからは侵入禁止エリアが拡大していって最後には――
 
「急ぎましょう?」

そういって柊は部屋の外に出ていく、良輔も速水もそのまま柊を追って部屋を出た。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






 通路に出ると左手にはY字の通路が、正面には既に良輔達が調べた一室、右手には十字路が広がっている。
 良輔達は左手のY字から来たので3階に行くためには右手の十字路を進まねばならない。

「どっちの道が3階に近いんだっけ?」

「……確かその通路を右だ」

 十字路を睨みながら柊が呟くとPDAを見ていた最後尾の良輔が答える。

「それでは出発するとしましょうか?」

 先頭に立っていた速水が良輔達を振り返った。

「っ!?」

 しかしその瞬間に速水の表情が驚愕に歪む。
 その突然の反応にどうしたのだろうと良輔も柊も不思議に思ったその時だった。

「伏せなさいっ!」

 速水がバッと床に伏せたので反射的に良輔も柊もその身を伏せた。
 ヒュンと何かが高速で良輔達の頭上を飛び去って行った。
 そのすぐ後に良輔達の遥か後方で微かな金属音が聞こえる。

「きゃあっ!」

「何が!?」

 柊の悲鳴を聞きながら良輔は現状を把握しようとしていた。

「クロスボウですっ!Y字の通路からクロスボウで僕達を狙っている人がいます!」

 速水の言葉にチラッと後ろを振り返る。

『速ァァァ水ィィィィィィィィさぁぁぁぁぁん!』

 Y字の分岐点には長髪で軍服を纏っている長身の女性が立っていた。
赤いバンダナを使って視界を確保しているその女性はクロスボウを構えながら血走った目でこちらを睨みつけている。

(あれはっ!?)

 良輔はエントランスホールで話した夏本との会話を思い出す。

『女の人です、赤いバンダナを巻いた、黒い長髪で綺麗な人だったから会えばすぐわかると思います』

(神河神無なのか?)

 その外見的特徴は夏本の話と一致する。
 おそらくあれが杉坂をエントランスホールで殺害したという神河神無なのだろう。
 いや、今はそんなことを考えている時じゃないっ!

「2人とも立ちなさいっ!逃げますよ!」

 そう、相手はクロスボウで武装しているのだ。
 こちらが遠距離武器を持っていない以上、ここは逃げることしかできない。
 速水は立ち上がって右手の通路に入って行く。
 もしあのクロスボウに射抜かれたらどうなるのだろうか?
 そんな恐怖を噛み殺して柊も良輔も速水に続いた。

『待てっ!絶対に逃がさないぞ?速水さん、貴方を殺すためだけに……私は!!』

 神河と思われる女性は何故か速水の名前を叫びながら追ってくる。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






長い通路を良輔達は走って行く。
 後ろから追ってくるのはクロスボウで武装した1人の女性。

『私から逃げる気か?速水さん!貴方がどこへ逃げようと私は地獄の果てまで追いかけて貴方を殺して見せる!だから無駄な抵抗は止めて私に殺されてくれ!』

 神河は速水の名前を連呼しながら追いかけてくる。
 この2人には面識があるのか?
 そんなことを考えながら前を走る良輔は速水を見ていた。
 ビュンと後ろから神河のクロスボウが発射される。

「……、」

 しかし先頭を走る速水は脇道へとそれた。
 その矢は速水の頭の近くを通り過ぎていき、通路の壁にぶつかって地面へと落ちる。
 お互いが走りながら、距離の問題もあり、神河は良輔達を行動不能にさせるまでには至っていない。
 いや、その言い方は間違っているかもしれない。
 神河はクロスボウを扱い慣れているのか速水の【いた】ところを正確に射抜いている。
 問題なのはその時には既に速水が射線から外れているということだ。
 速水は通路をジグザグ走行しながら走っている。
 そのためについさっきまでいたところに速水がいないのである。
 もしも神河が良輔か柊を狙っていたなら既に2人の命はないだろう。
 しかし良輔達を殺す気がないのか、それとも速水しか目に入っていないのか――恐らくは後者だろうと思われる――神河は速水を狙い撃てない状況ではクロスボウを撃って来ないかった。
 狙われている速水にしてもこのまま3階を直進していては間違いなく殺されるので、この複雑に入り組んだ通路を使って神河から逃げようという判断は正しいと言えるだろう。
 現に短続的な通路の分岐を利用して逃げ続ける速水は未だにクロスボウを避け続けている。

(くそっ、このままじゃあジリ貧だ)

 良輔が舌打ちをうつ。
 いかんせん神河の足が速い。
 例外として速水はジグザグに走っているから明らかに3人より長い距離を走っているはずなのに、神河との距離はほとんど詰まってはいない。
これは速水の脚力が異常なのだろう。
しかし良輔と柊は違う。
この2人は高校生に過ぎず、良輔はともかく柊はそんなに体力があるほうではない。
 実際神河と良輔、柊の距離がどんどん縮まっていた。
 このままでは速水ともはぐれてしまうし、最悪神河に追いつかれる。
 そして……

「っ!」

 意外にも最初に動いたのは柊だった。
 柊は速水の後についていくのでなく、速水から離れるように通路を右に曲がって脇道へと入って行った。
 このとき、柊が考えていたことはひどくシンプルである。
 柊もまた良輔と同じようにこのままでは神河に追いつかれると感じていた。
 もしも神河の狙いが柊であるなら速水と別れて脇道に入るなどという行為はしなかったであろうが幸いというべきか後ろから襲ってくる女性の狙いは明らかに速水であり、柊ではない。
だから自分達が速水から離れさえすれば追ってこないだろうと考えた。
 柊はちょうど真ん中にいるので脇道に入れば後ろを走っている良輔にもそのことがわかるし、良輔は【5】のPDAを持っている自分を追いかけざるを得ない。
 つまり、柊は速水を見捨てることで自分の安全を確保しようとしたのである。
 しかし、それ自体は責められるべきことでもないだろう。
 速水を見捨てなければ最悪、柊自身の命が危ないのだから……

「柊っ!?そっちは駄目だ!」

 ただし、ここで柊が予想しなかった出来事が起こる。
 良輔が柊の後を追って来なかったのである。
脇道の入り口で一瞬止まり、柊に向かって叫ぶ。

「良輔君、立ち止まれば死にますよ!?早くこっちへ!」

「っ!?くそっ!」

 良輔は舌打ちすると柊ではなく、なんと速水の後を追いかけて行った。

(はあっ!?何やってんのよ、あの馬鹿!)

 柊は内心で自分ではなく速水の後を追っていった良輔を使えないやつだと思った。

(まあ、いいわ)

 いなくなったらなったでPDAを破壊してしまえばいい。
 使えないやつはいらないのである。

(とりあえずは神河から逃げないと)

 そう考え直して柊は直線になっている通路を走って行った。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






柊と別れた良輔と速水は、まだ神河から逃げていた。
 神河は一瞬、柊と別れた通路で立ち止まったかのように見えたがすぐにこっちへ走ってくる。
 やはり速水が狙いだからだろうか?

「良輔君!大丈夫ですか?」

「ま、まだまだ行けます!」

 良輔は弱みを見せまいと精一杯強がる。
確かにまだいけるのは間違いではないのだがこの調子で行けば間違いなく途中で力尽きて神河の餌食になるだろう。

「さっさと観念して私に殺されろ!」

 なぜなら神河はあれだけ走ったはずなのに息1つ乱れていないからである。

(何だよ、あの無尽蔵の体力は)

 良輔が内心でぼやく。
 柊も心配だが今はPDAに拘っていれば自分自身が殺されかねない状況にあった。

(そうだ!罠を使えばもしかしたら!)

 神河から逃げられるかもしれない。
 このままいけば遅かれ早かれ殺される。
 それならイチかバチか賭けてみるしかない!
 良輔は【6】のPDAをポケットにしまって、【4】のPDAを取り出すとすぐに地図機能を開く。
 切り札をここで使うのは少し早すぎる気もしたが幸い速水は後ろを振り返ることなく走っているので良輔がPDAを2台持っていることには気づかないだろう。
 ただし、神河にはバレるが四の五の言ってられないのである。

 ピッ

 開いた地図には自分の光点と多数散りばめられた罠の光点。

(ここから一番近い罠は……左だな)

「速水さん!次の通路を左に曲がってくれ!」

「っ?わかりました!」

 速水には良輔の言っていることがわからなかっただろうが頷くと左の通路へと曲がった。
 良輔も速水に遅れまいと全力で疾走する。
 速水に少し遅れて通路に入ってきた良輔は注意深く通路を眺める。
 地図ではここに罠があると表示されている。
 設置型か、それとも起動スイッチを押さなければ作動しない罠なのかわからなかったがパッと見てない以上どこかに起動スイッチがあるはずだ。

(他の通路と比べてどこかに違和感は……)

 今まで通ってきた通路とこの通路を見比べる。

(……速水さんの足元!)

 良輔にはその部分だけ微妙に盛り上がっているように見える。

「んっ、速水さん、足元にあるその出っ張りを踏んでくれ!」

「っ!?……えっとこれのことです……かっ、と!」

 良輔が叫ぶのとほぼ同時、速水は勢いよく足元を踏んだ。

「逃がすかああああああああああっ!」

 ちょうどその時、神河も後ろの通路から現れた。

(鬼が出るか蛇が出るか?)

 後ろをチラッと振り返りながら速水のもとへと走る。
 どうか神河から逃げられるものが出てくれと祈る。
 不安と期待が入り混じったその祈りは聞き届けられたのだろうか?
不意に速水の足元の床がガコンと下がり、床が開いた。

「うわっ!?」

 速水が下に落ちていく。
 瞬く間に速水は闇の中へと落ちていった。

『こなくそがああああああああああああ!』

 突然速水の姿が消えたことで神河は怒り狂った叫び声をあげた。

(落とし穴かっ!?)
 
当たりだと直感的に良輔はそう思った。
1階が侵入禁止エリアになるにはまだ少し時間がある。
良輔もまた落とし穴へと飛び込むべく走った。

『せめて貴様だけでも死ねええええええええええ!』

 神河は速水が消えたことで、初めて狙いを良輔に向けてクロスボウの矢を放った。
 飛来する黒色の矢、それは良輔目掛けて一直線に飛ぶ。

「っづ!ぐああああああああああああああああああっ!?」

 そしてそれは落とし穴へと姿を消そうとする良輔の左肩を正確に射ぬいた。
 その衝撃に良輔の身体は前へ倒れ、そのまま力なく落とし穴へと落ちていく。

「ちっ」

 軍服の女性、神河は仕留めそこなった良輔を見て舌打ちする。
 次の瞬間には落とし穴へと走って行った。

『良輔君っ!しっかりしなさい!!』

『痛ってぇ……くっそっ!』

 神河が下を見れば倒れた良輔を抱き起している速水がいた。
 この落とし穴を落ちて速水を殺してしまいたい衝動に駆られた神河だったが残念なことにすぐに1階へと通じる扉は閉じてしまった。

「しくじったか……」

 忌々しげに閉まった床を睨む神河。
 しかしすぐにフッと笑って首を振る。

「まあいい、チャンスはいくらでも巡ってくる」

 神河は閉じた穴を確認すると踵を返した。

「まずは、お姫様を鹵獲しに行くとするか」

 ニヤリと嫌な笑みが神河の表情に張り付いている。
 獰猛な獣を思わせる笑み。
 その目が見つめる獲物はただ一匹。
 しかし、メインディッシュの前に前菜を片付けることにした。

「速水さん――貴方を殺すのは、私だ――必ず、殺してやる」

 神河はポツリと独り言を漏らすと来た道を戻って行った。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






 その頃、柊は神河が追って来ないことを確認しながら通路を1人で歩いていた。

「……ふぅ」

 どうにか逃げ切ったという安堵の溜息が柊の口から漏れた。

「さて、ここってどの辺りだったかな」

 PDAを見ることなく走り回ったのでイマイチ現在地がわからない。

「弱ったなあ、でも戻って神河と鉢合わせしたら目も当てられないし……」

 ここで良輔が持っているような現在地を表示してくれるソフトウェアがあれば柊も困らなかったであろうが残念ながらそのソフトウェアは良輔がちょろまかしたので柊は持っていない。
 もちろんこの事実を柊は知らないのであるが。

「もうイライラするなあ」

 柊は【5】のPDAを睨みながらそう思う。

「変に恨まれたらあれだしここで壊しておくってのもありだけど」

 良輔はここにいないし、脅しも利かない。
しかし良輔から見ればこのPDAがなければただ死ぬだけである。
放っておけば死にもの狂いで取り戻しに来るだろう。
例えば目の届かないところから不意打ちなどされては迷惑だ。

「――壊しておいたほうが安全か」

 柊はここでこのPDAを壊すことを選択する。
 このPDAにインストールした機能を失うのは少し惜しいが背に腹は換えられない。

「こんなことになるなら自分のPDAにインストールしておけばよかったよ、まったく」

 ここまで良輔が使い物にならないとは思っていなかった。
 ギリギリとPDAを持つ手に力を込める。
 柊の握力は全然強くないがこれぐらいの精密機械ならちょっと力を込めるだけでも壊れるだろう。
 
 ピロリン、ピロリン

 そんなとき、壊そうとしていた【5】のPDAだけが鳴った。

「何だろ?」

 柊は不思議に思ってPDAを操作し始める。

(あいつらが死んだのかもね)

 このPDAには生存者をカウントする機能があり、生存者が減るとアラームを鳴らす。
 今回のアラームも生存者が減ったことに対するものかもしれない。
 
(間抜けなやつら)

柊は内心で2人を嘲笑った。

「うん?」

 しかし画面に表示されていたのは『メールが届きました』との表示。
 柊はとりあえずメールを開く。

「ID:hayami?速水から?」

 それは逸れた速水からのメールだった。
 内容を読み進めていく。

ID:hayami
『桜君、今どこにいますか?脇道から元の道まで引き返していたならそれでいいです。しかし――もし、まだ脇道に入ったままならすぐにその通路から引き返しなさい』

 メールを途中まで読み進めて柊は首を傾げる。

「――どういう意味だろ?」

 柊は神河が引き返してくるのを恐れていたために未だ脇道を進んでいる。
 通路を引き返せとはどういう意味だろうか?

「っ!?」

 しかし、メールの続きを読んで柊は愕然とする。

『その先は袋小路になっています。つまりその先は――』

『――――行き止まりです――――』

「――嘘、でしょ?」

 思わず柊はそう呟く。
 この時になって柊は良輔が別れる間際に自分に言ったことを思い出した。

『柊っ!?そっちは駄目だ!』

 一瞬だけ立ち止まって必死に叫ぶ良輔の姿。

「あ、あいつは知ってたんだ、だ、だから僕を追っては来なかったってこと?」

 そう考えれば辻褄は合う。
 PDAを奪われていた良輔が自分を追って来なかったことも。
 良輔にも神河の狙いが速水であることはわかっていただろうが袋小路に逃げ込んで万が一にでも神河が追って来れば逃げ場がないからだ。
 だから、追われるリスクを考えてでも良輔は速水の後を追ったのである。

「に、逃げなきゃ、今すぐに!」

 もう柊にはPDAを破壊しようなどという考えは消え去っていた。
 正確に言うと考えている暇がなくなった。
 神河は自分がここに逃げ込んだのを知っている。
 そしてついさっき、速水からメールが届いた。
それが意味することは現在、速水達は神河に追われていないということである。
速水達を見失った神河が次に来るところはどこか?
考えるまでもない、間違いなくここだ。

「――――止まれ――――」

 ガシャッと何かを持ち上げる音と共に低い声が柊の耳に届いた。
 思わず柊は後ろを振り返る。

「あ、ああっ」

 そこにはクロスボウをこちらに向けている神河の姿があった。

「抵抗するなよ、抵抗すれば――殺す」

 神河は殺意を込めた目で柊を睨みつける。
 それだけでもう柊は恐怖で身が竦んでしまっていた。
 自分が圧倒的に不利な立場に追い込まれている。
 身に迫る死の恐怖で柊の膝は笑っていた。

「ま、待って!わかった、抵抗しない!だから――――撃たないで、おねがいよ!」

 柊は敵意がないとばかりに両手を上に挙げる。

「――いいだろう。まずは、貴様のPDAをこちらへ投げろ」

「わ、わかったわ」

 持っていたPDAを床に置き、それを神河へ向かって滑らせた。
 カラカラと高い金属音を響かせてPDAは神河への足元に転がって行く。

「……、」

 神河は滑ってきたPDAを無言で拾い上げた。

「ふむ、ダイヤの【5】か――」

 神河はPDAの画面を見るとそう呟いた。
 その言葉を聞いて柊はほくそ笑む。
 柊が渡したPDAはもちろん良輔のPDAだ。
 これでいくらか神河の警戒を緩めることができたはず。

「ね、ねえ、PDAは渡したんだし……クロスボウを下げてもらえないかな?」

「……、」

 柊の言葉に神河は少し考えているようだった。

「ほ、ほら、僕のPDAは貴方が持ってるんだし、僕が抵抗するようなそのPDAを壊せばいいじゃない?」

「もちろん、そんなことされれば僕の首輪は作動して死ぬから僕が抵抗するはずがない、そうでしょう?」

「……まあ、いいだろう」

 神河もその通りかと思ったのかクロスボウを下げた。

(チャンスっ!)

 柊はその瞬間に思いっきり地面を蹴る。
 こんな状況では神河の気分次第で殺されかねない。
 しかし逃げようにもこの先は行き止まり。
 ――なら、神河を殺せるのはここしかない――
 懐からスタンガンを取り出し、神河へと襲いかかった。
 ここで距離を詰めなければあのクロスボウに射殺されるだけだ。
 柊は近距離戦を挑むしか道がなかった。

「フンッ」

「きゃあっ!?」

 しかし近距離戦においても軍配は神河に上がった。
 神河はクロスボウを捨てて、柊のスタンガンに対してなんと徒手空拳で挑んできた。
最初に繰り出した挨拶代りの前蹴りで柊のスタンガンを蹴り飛ばす。
手に持っていたスタンガンを蹴り飛ばされ、その勢いで万歳する形になった柊のがら空きになっている胴体目掛けて放たれた神河の回し蹴りが炸裂し、柊は横に吹っ飛び、壁に激突した。

「ぐふっ!?」

 柊の腹から意図せず空気が抜けた。
 吐き気に柊が口を押える。

「ゴホッ、ゴホッ、くっ、んあっ?!」

 そのまま近寄ってきた神河に柊は喉元を掴まれ壁に押し付けられた。
 首を掴まれているために息が苦しい。

「がはっ」

「まったく油断も隙もないやつだ、このまま殺してやろうか?」

「ふがっ、くああっ!?」

 両手で神河の腕を掴むがびくともしない。
 柊と神河では地力が違い過ぎた。
 締め付ける力が徐々に強くなっていき、柊の意識が遠くなりはじめる。

「もう一度だけ言う。動くな、動いたら殺す」

 神河はパチンと折り畳み式のナイフを出して柊の首筋に当てる。
 一筋の赤い血が柊の首から流れた。

「ひ、ヒィィ!?」

 銀色に輝く刃に柊は動きを止めた。
 その目からは涙が零れる。
――死にたくない――

「あっ、いやあっ!?」

「静かにしろ!」

 何故か神河はナイフを使って乱暴に柊の衣服を破り始めた。
 ビリビリと音を立てて上着の制服が破られていく。
 瞬く間に制服は細切れになり、パサリとボロボロの布切れが床に落ちた。
 柊の綺麗な白い肌が外気に触れる。
 神河はそのままスカートへとナイフを伸ばしていった。

「何すんのよっ!やめて、やめてっ!」

 スカートの留め具部分をナイフで切断され、スカートもまた衣服の機能を失い腰からすり落ちていく。
 そして柊は下着姿にされてしまう。
 細く、華奢な身体を白い下着でかろうじて隠していた。

「――念のため下着も剥ぎ取っておいたほうが安全か」

 神河はそう呟く。

「いやっ!お願い、下着だけは取らないで!」

「ピーピーうるさいっ!」

「がはっ」

 柊の叫びを無視して神河は少し壁から柊を離すと再び壁に叩きつけた。
 その衝撃が柊にはもろに伝わり、息を吐き出す。

「もとはといえば貴様が武器を隠し持っていたのが原因だろうがっ!殺さなれないだけマシだと思え!」

 神河はナイフで柊のブラを切る。
 プチンと音を立ててブラが千切れ、柊の慎ましやかな胸が現れる。

「くうっ」

「これで最後だな」

「あっ!?嫌あああああああああああ!」

 神河は嫌がる柊の下着を切り離すとそのまま布切れ1枚身に着けていない、生まれたままの姿になっている柊を突き飛ばした。
 衝撃で柊が床へと倒れ込む。

「……、」

 神河は柊をうつ伏せに寝かせるとその上に馬乗りになった。

「ううっ、酷い、こんなのって」

「私達は殺し合いをしているのだぞ?武器を隠し持っていた相手にこれぐらい当たり前だろう?」

 柊は神河の仕打ちに涙ながらに抗議するが神河はそれを無視して柊の腕を後ろで組ませ、持っていたロープで両手と両足を縛る。
 これで柊は完全に身体の自由を奪われてしまった。

「さて、まずは君の荷物を調べさせてもらうぞ」

 神河はそういうや柊の衣服の残骸を漁りはじめる。

「うん?」

 そして柊のスカートのポケットから出てきた1台のPDA。
 画面を見るとそこにはダイヤの【9】が表示されていた。

「おい、これは何だ?」

「そ、それは……」

 柊は青ざめた表情になった。

「もう一度だけ聞く、このPDAは何だと聞いている」

「……良輔のPDAよ」

「良輔?」

「ほら、速水と一緒に居た男がいたでしょ?あいつがそうよ」

「ふむ、そうか……なら――」

『このPDAはここで壊してしまっても別に構わないよな?』

「……えっ?」

 神河の言葉に柊は自分の耳を疑った。
 見れば神河は笑みを張りつかせながらPDAを握り潰そうとしている。
 ミシミシと音が聞こえ、柊には自分の命が崩れ去って行く音のように聞こえていた。

「――――止めてっ!」

 柊の叫び声に神河は手を止める。

「うん、どうした?」

「くっ!……そ、そのPDAは僕の物です。ご、ごめんなさい、嘘をつきました」

「ほう」

「がっ!?」

 柊の腹に衝撃が走る。
 神河が地面に転がっている柊の腹を思いっきり蹴ったのである。

「死にたくなければ嘘をつかずに正直でいることだ」

 神河は明らかに遊んでいた。
 柊にはそれが悔しく、腹立たしかったが自由を奪われた今、どうすることもできなかった。

「君に今からいくつか質問する。回答を拒否すればこのPDAは壊す、先ほどのように嘘をついてそれが発覚したときにも同じようにPDAを壊す――わかったな?」

 神河の声に柊はコクコクと涙を流しながら頷いた。

「質問その1、君の名前は?」

「ひ、柊桜です」

「質問その2、君が行動を共にしていた2人との関係はなんだ?」

「お、お互いの首輪を外すために協力関係を結んでいました」

「では質問その3、協力していたというならあの2人のプレイヤーナンバーを教えろ」

「りょ、良輔が【5】、は、速水が、き、【K】です」

「――――そうか、速水のPDAは【K】か……ふふっ、今回のディーラーは中々味な真似をしてくれるじゃないか」

 神河は速水のPDAが【K】であることを知るとクックックと笑い始める。

「あ、あの、あいつのPDAが【K】であることが何か――」

「君は私の質問に素直に答えるだけでいい」

「は、はい、ごめんなさい、もう二度と口応えしません……」

「――それでよし、質問その4、速水が首輪を作動させた回数は現在何回だ?」

「ぼ、僕の見ている前で1回です」

「質問その5、首輪を作動させられたプレイヤーは死んだか?」

「――はい?」

 柊にはこの質問の意味が分からなかった、首輪を作動させられればその着用者は死んでいるに決まっているのではないだろうか?

「……君は私の質問に答えるだけでいいと言ったはずだが?3度目はないぞ?」

 神河も柊が答えに詰まった原因に心当たりがあるのかただそう呟く。
 あるいは神河は何か柊の知らないことを知っているということだろうか?

「はい、そのプレイヤーは死にました」

「質問その6、死んだプレイヤーの名前とプレイヤーナンバーを教えろ」

「死んだのは白井飛鳥、プレイヤーナンバーは【6】です」

「Qthに続いて6thも脱落したか……質問その7、そいつのPDAは誰が持っている?」

「りょ、良輔が持っています」

「質問その8、良輔と言う男はPDAを2台持っていたようだがもう1台は誰のPDAだ?」

「えっ?ええっ!?し、知りません、あいつが持っているのは白井のPDAが1台だけ、はぐっ!?」

 その答えに神河は柊の頭をギリギリと靴で踏みつける。

「ほ、本当なんです!ぼ、僕はあいつが持っているPDAは1台しか知りません!」

「――まあ、いい」

 その柊の様子に嘘はないと判断したのか神河は足をどけた。
 まあ、神河の立場からすれば嘘であればPDAを破壊すればいいだけであるからである。

「質問その9、お前達がPDAにインストールしたソフトウェアの機能全てとインストールしたPDAを答えろ」

「ろ、【6】と僕の【9】のPDAには何も、【5】のPDAには拡張地図とネットワークフォン、【K】のPDAにもネットワークフォンが入っています」

「ほう」

 その答えに神河は口の端を持ち上げる。
 神河はすぐに【5】のPDAを調べ始めた。

「――あった、これだな」

 そこには速水からのメール着信履歴があった。
 神河はそれを読むと新しくメールを打ち始める。

ID:sakura
『速水さんの仲間は預かった。返して欲しければ1階が侵入禁止になる午後1時、2階に上がる階段で待つ、そこで決着をつけよう。もし来ないなら速水さんの仲間は殺す。ここにいる9thはもちろん、そっちにいる5thもPDAを破壊して死んでもらう。ゲームマスターとして逃げるなどというつまらない展開はさけてくれよ?』

 とりあえずこんなものかと神河はメールを送ろうとするが……

(……、エレベーターに向かって侵入禁止エリアに巻き込まれて死ぬのは興ざめだな)

 神河は杉坂を殺した後にエレベーターで6階に上がられては少々やっかいになると考えてエレベーターを破壊していた。
 チキチキとメールを追加する。

『P.S エレベーターは既に破壊させてもらっている。速水さん、貴方に逃げ道はない』

(これでよし、後は……)

『神河神無より速水瞬様へ』

 宛名を付け加える。

(フッ)

 神河は微笑するとメールに速水への嫌味を付け加えることにした。

『神河神無より悲劇の王様、速水瞬様へ』

(これでよし)

 神河はメールを速水へと転送した。

「舞台は整った、後は――殺すだけだな――」

「キャッ、ちょ、ちょっと何すんのよ!?」

 神河は転がっている柊を肩に担ぐと1階から上がってくる速水達を向かい討つべく移動しようとする。
 しかし柊は素っ裸であることから触られるのが恥ずかしいのか抗議の声を上げた。

「……ふむ、人質はいいがうるさいのは御免だな」

「ごふっ」

 しょうがなく神河は柊の鳩尾に拳を叩きこんだ。
 くの字に曲がるとぐったりと意識を失って身体から力が抜けていく。

「これでよし、行くとするか……」

 神河は柊を連れて来た道を戻って行った。









[22742] 13話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2011/04/21 19:04
【BET】
player  suit  card  odds  BET
北条良輔  ♦  5  9.0  -
御剣優希  ?   ?  5.5 トぺルカさん(40)
夏本玲奈  ?   ?  7.4 油桜さん(50)
柊桜    ♦  9  3.5 nidaさん(40) 結崎 ハヤさん
西野美姫  ♣  3  8.0 ながながさん(100)
神河神無  ?   ?  2.3  -
白井飛鳥  ♠  6  Death  -
杉坂友哉  ♠  Q  Death  -
一ノ瀬丈  ?   ?  5.1  ナージャさん(40)
速水瞬   ♥  K  1.7 -
幸村光太郎 ♦  4  9.0  -
飯田章吾  ♠  10 4.5 ヤマネさん
水谷祐二  ♥  7  2.6 ヴァイスさん(30)
Day 2日目
Real Time 午前 11:00
Game Time経過時間 25:00
Limit Time 残り時間 48:00
Flour 1階
Prohibition Area 屋外
Player 11/13
注意事項
この物語はフィクションです。
物語に登場する実在もしくは歴史上の人物、団体、国家、領域その他固有名称で特定される全てのものとは、名称が同一であっても何の関係もありません。






 良輔は1階におちた後、速水の手を借りて傷の手当を行った。
 左肩に突き刺さったクロスボウの矢を抜き取り、消毒を施し、ガーゼを当てて包帯でしっかりと巻く。
 2階で救急セットを見つけていなければかなりまずいことになっていたかもしれない。
 なかったら応急処置さえできなかったかもしれないのだ。

(運が悪かったのは間違いないけど最悪というわけでもなかったのかもな)

 気が滅入りそうになるが命だけは助かった。
 ここはポジティブに考えておこう。
 そう考えて額に浮かぶ脂汗をタオルで拭き取った。

「調子はどうですか?」

 カチャリと外の部屋から速水が戻って来る。
 2人は良輔の傷や全力疾走から来る体力消耗のため少し休憩を取っていた。
 もちろん速水も疲れていたであろうがその時は良輔がとても動ける状態ではなかったので速水が見張りに立つしかなかった。

「……おかげで大分楽になりました、やっぱり痛み止めが利いたみたいです」

「そうですか、それで左肩は動かせそうですか?」

「んっと、痛っ!」

 試しにやってみるが少し左肩に入れるだけで走る激痛に思わず顔を歪めた。
 このゲームが終わるまで左手は使えそうにない。
 大変やっかいな状態だ。

(ただでさえPDAを奪われてるってのに!)

 こんなことでゲームをクリアすることができるのだろうか?
 まったく思い通りにならない展開に思わず舌打ちをついた。
 しかしそんなことをやっても状況が好転するわけではないのもまた事実である。

「それで何かありましたか?」

「外は特に異常なしですね、まあこんな時間までまだ1階にいるプレイヤーなんてまずいないでしょうから」

 確かに速水の言うとおりだ。
 もしまだ1階にいるというならそいつはルールを知らないかあるいは……ただの自殺志願者だろう。

(そういえば幸村さんはどうしてるだろう?)

 この建物で一番最初に遭遇した大男を思い出す。
 このまま死ぬって言っていたがまだ1階にいるのだろうか?
 そう考えて思わずポケットの中にある幸村のPDAにそっと触れた。

「それから桜君と連絡を取ろうとしたのですが……」

「あ、はい」

 今は自分のことに専念しよう、良輔はそう考えて速水に話の続きを促す。

「さきほど、その返事がありました」

「――――それで柊は何て言ってきたんですか?」

「焦らないでくださいよ、今読み上げますから――――」

 そういって速水はメールの内容を読み始める。

「えっと――『速水さんの仲間は預かった。返して欲しければ1階が侵入禁止になる午後1時、2階に上がる階段で待つ、そこで決着をつけよう。もし来ないなら速水さんの仲間は殺す。ここにいる9thはもちろん、そっちにいる5thもPDAを破壊して死んでもらう』――んっ?」

「どうかしたんですか?」

 メールを読む速水の眉間に突如しわが寄った。
 その表情に良輔は訝しがる。

「――いえ、何でもありません、それから『逃げるなどというつまらない展開はさけてくれよ?P.S エレベーターは既に破壊させてもらっている。速水さん、貴方に逃げ道はない、神河神無より悲劇の王様、速水瞬様へ』――だそうです」

「柊は捕まった、そういうことですね?」

「メールの文面から見てそう受け取るしかないでしょう、更に最悪なことにこっちの情報を洗いざらいしゃべってくれているようです」

「くそっ!」

 良輔は怪我をしてない右手で思いっきり床を叩いた。
 もちろん柊が捕まったからではない、これが自分のPDAも神河の手に渡ってしまったということを意味しているからである。

「速水さんに1つだけ聞きたいことがあります」

「さて、何でしょうか?」

 何故問い詰められているのかわからないとでも言いたげに速水は肩を竦めた。

「速水さんはあの女とどういう関係ですか?」

「何ですか、その浮気した彼氏を追いつめているような台詞は?」

 そこで速水は何かに気づいたように目を見開く。

「はっ!?もしかして良輔君にはそっちの趣味が!?い、いけません!気持ちは嬉しいのですが僕の趣味はいたってノーマルなんです!だからニュータイプの良輔君とのお付き合いは――――」

「気持ち悪いことを言うのはやめてくださいっ!」

 じりじりと後退していく速水に良輔はキレる。
 想像しただけでも吐き気がした。
 そして今は冗談を言っている場合ではないのだ。

「あの女は明らかに速水さんのことを知っていましたよ?」

「むっ?」

 速水の名前を連呼しながらクロスボウを撃ちまくってくる女。
 そしていつでも殺せたはずの良輔と柊を殺さなかったところからどうもあの女は速水に怨みか何か持っているはずだ、そうでなければ速水だけが狙われた理由の説明がつかない。

「ふむっ、実は僕って結構、プレイボーイなんですよ、だから昔引っかけた女性の中の1人なんじゃあないですかねえ?」

「――それで俺が納得するとでも?」

「女が嫉妬に狂って襲ってくる、この回答ではお気に召しませんでしたか?気に入らなかったとしてどこが駄目なんです?殺意の理由なんて人それぞれですよ?」

「……、」

 速水はそういうが良輔はそれを確実に嘘であると考えていた。
 この会話は明らかに肝心な部分に触れられていない。
 そもそもそれでは神河の戦闘能力の理由が説明できない。
 一般人がクロスボウをあれだけ正確に撃てるとは思えないし、速水に至ってはそれを避け続けていたのだから。
 そう考えて良輔は――――

「……わかりました、そこまで言うならそういうことにしておきましょう」

 あえてその存在を黙認することにした。
 理由は簡単で片腕を負傷しているこの状況でもし速水に敵対されれば勝てる気がまったくしないのである。
 それならここは騙されたふりをしているほうが十倍は安全だろう。
 触らぬ神に祟りは来ないのである。
 それに良輔には1つ気掛かりなことがある。

(俺達を拉致ってきた連中はどうやって俺達に殺し合いをさせる気だった?)

 例えばこのゲームを誰も信じずに3日間過ぎてしまうことだって有り得たはずだ。
 良輔も最初にエントランスホールで杉坂という男の死体を見なければこのゲームを信じなかっただろう。
 そもそもいきなり拉致って来られてさあ人を殺せと言われても普通の人間には土台無理な話なのだ。
 それこそ他人を殺さなければ自分が殺されるという事実を見せつけられでもしない限りは――――
 だが、それは極限状態に陥りさえすれば人間は容易く他人を殺そうと考える生き物であるということでもある。
 ということはつまり……このゲームにプレイヤー達に信じさせようとする存在――

(――首輪をした犯人側の人間がいたって不思議じゃあないな)

 連れて来られた人間が殺し合いを始める環境を整えるための人間。
 それなら訓練を受けていたって不思議じゃあない。
 特にまだ戦闘禁止エリアが続いている時間帯に杉坂を殺害し、明らかに一般人じゃない神河が怪しい。
 そして神河に標的とされていた速水もだ。
 まあ、誰が怪しいかなんていうのは自分以外の全プレイヤーが容疑者だし、良輔自身が全員と遭遇しているわけではないので決めつけるのは早計だろう。
 だが、仮にこのゲームに調整役が紛れ込んでいると仮定して……

(何故そんな面倒なことをする?)

 わざわざ一般人を連れてきて、調整役まで用意する。
 ただ殺し合いをさせたいだけならその辺のヤクザやら不良やら連れて来ればいい。
 百歩譲って自分や水谷は許すとして夏本なんて連れてきても殺し合いにはならないだろう。
 これがあるとするなら……

(殺し合い自体が目的じゃあないのか?)

 もっと別の目的があるはずだ。
 そうでなければ白井や夏本の存在理由がない。

(考えても拉致があかない――か?)

 これだけでは何とも言えない。
 ただ、このゲームには明らかに一般人ではない人間が混じっているのは間違いないようだ。

「とりあえず、この神河の挑戦状について話合うことにしますか?」

 しかし今、話し合うべきは速水のことではなく、この現状をどうするかということ。
 速水も当然のごとくそれに頷いた。

「そうですね、選択肢としては桜君を見捨てて別ルートを行くか?あるいは神河と直接対決するかの2択ですかね?」

「速水さん、ちょっと待ってください。階段を塞がれたら対決する以外の方法なんてないじゃないですか?」

 神河のメールによるとエレベーターは塞がれてしまっているようだ。
 もちろん逃げないようにするための嘘かもしれない。
 しかしそれを確かめに行く時間はない、もし本当だった場合に待ち受けているのは絶対の死だ。

「いえ、それがあるんですよ、抜け道」

 速水はそういってPDAの画面を良輔に見せた。
 その画面に映っているのは地図画面である。

「んっ?何ですかこれ?」

 しかしその地図を良輔は見たことがない。
 白井のPDAを手に入れてからはしっかりと1階から6階までの地図を見ていたのでこの地図を見たことがないなどということはありえないはずなのに。

「これは排気ダクトの地図です」

「排気ダクト?」

「ええ、どうやらこの建物にはいたるところに排気ダクトが走っているみたいなんですよ、もちろんそれを上手く使えば階段を使わずとも上の階に上がれます」

 確かに地図を見たところ排気ダクトは上に走っているものもあり、これを使えば階段を使わずとも上の階に上がれそうだった。
 いや、今はそんなことが問題なのではなく――――

「何で速水さんのPDAに排気ダクトの地図なんて入っているんですか?」

 初期の機能に排気ダクトの地図なんて入っているわけがない。
 なら何故速水のPDAには排気ダクトの地図があるのだろうか?

(いや、少し待てよ?)

 調整役として犯人側の人間もこのゲームに紛れ込んでいると仮定するならそいつも首輪をつけてPDAを持っているということになる。
 だが、それは本当に一般参加のプレイヤーと同じものなのだろうか?
 首輪ならそれは作動しないただの首輪かもしれないし、PDAなら一般参加のプレイヤーに配布されたものとは別の機能が搭載されていたって不思議じゃあない。
 最初に殺された杉坂はルール1に抵触して神河に殺されたと考えていたがそもそも神河がゲームマスターで首輪も作動しないものだったらどうだろうか?
 あるいはちょっと突発的な考えだが首輪を遠隔操作で作動させることのできるソフトウェアがあったかもしれないのだ、まあこれに関してはあったら速水に使っているだろうからないだろうが。
 ないはずの機能を持つ速水。
 ということはやはり速水は――――犯人側の人間?
 そう考えて嫌な汗が良輔の背中に流れた。

「ああ、これですか?2階の部屋でダンボールを漁っている最中に見つけてちょろまかしたものです」

「はあ?」

 あっさりとそう言い放つ速水に思わず呆れる。

「どこの世界に仲間を騙して自分だけ得をしようってやつが!!……いるかもしれないな」

「そこで納得するっていうことはやっぱり良輔君も何かちょろまかしてましたね?」

「っ!?いや、俺は別に――」

「へえ、それにしてはよく2階で落とし穴のある場所なんてわかりましたね?いや~、びっくりだな~」

「……ごほん、まあそれは横に置いておきましょう」

 お互いこの話はやめておいたほうが良さそうだ。
 仲間といっても利害関係が一致しているだけで信頼関係なんて微塵もないのだから多少の抜け駆けには目を瞑らないとすぐに空中分解してしまう。

「でも俺は排気ダクトを使うつもりはありませんよ?」

「そうですか、良輔君はそんなに桜君のことが――」

「違いますっ!問題なのは俺のPDAなんです!」

 そう、良輔のPDAは神河が持っており、排気ダクトを使って神河を避けたところでPDAを破壊されれば良輔は死ぬのである。

「それ、言っててちょっと恥ずかしくありません?」

「死にたくないと命に縋りつくことが恥ずかしいことだというなら世界中の人間が自殺してますよ、俺は恥ずかしいと思いませんね」

 頭を下げることで生き延びられるなら何回でも頭を下げよう。
 プライドなんてものは母の亡骸の上に置いてきた。
 どれだけ辛くても、生きていれば幸せになれるチャンスがある。
 御剣優希という存在が、救いようのない自分を救ってくれたように……
 
(あいつは、優希は、もし俺がここで死んだら泣いてくれるかな?)

 ふと、そんな考えが良輔の頭をよぎる。

(泣くだろうな、あいつならきっと悲しんでくれる)

 だから――

「惚れた女を泣かせるなんて嫌だもんな」

 まだ、北条良輔は死ぬわけにはいかない。

「――ぷぷっ、そうですか」

「速水さん?」

 突然、速水が笑い始める。
 何事かと良輔は狼狽えた。

「いいでしょう、階段に行きますよ?」

「えっ?」

「どうかしましたか?」

 本当は速水まで階段に来る必要はない。
 それこそ排気ダクトを通って上の階に上がったって何の問題もない。

「――いえ、行きましょう」

 だが、良輔はそれを言わなかった。
 神河は速水を狙っている。
 速水がついてきてくれたほうが良いだろう。

「すぐ行きますか?もう少し休憩が必要なら後、十分くらいなら大丈夫ですよ?」

「いえ、もう行けます、痛みもほとんどありませんしね」

「ははっ、それでは行きますか?VS神河戦です!」

 速水はそのまま部屋を出るために扉に手をかけた。

「はい、絶対勝って生き残りましょう!」

 良輔もまた後ろについて行く。




 だがこの時、速水は――――
 良輔に背を向けて……薄く、笑っていた。







[22742] 14話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2011/04/23 06:52
【BET】
player  suit  card  odds  BET
北条良輔  ♦  5  9.0  -
御剣優希  ?   ?  5.5 トぺルカさん(40)
夏本玲奈  ?   ?  7.4 油桜さん(50)BSさん
柊桜    ♦  9  3.5 nidaさん(40) 結崎 ハヤさん
西野美姫  ♣  3  8.0 ながながさん(100)
神河神無  ?   ?  2.3  -
白井飛鳥  ♠  6  Death  -
杉坂友哉  ♠  Q  Death  -
一ノ瀬丈  ?   ?  5.1  ナージャさん(40)
速水瞬   ♥  K  1.7  -
幸村光太郎 ♦  4  9.0  -
飯田章吾  ♠  10 4.5 ヤマネさん
水谷祐二  ♥  7  2.6 ヴァイスさん(30)
Day 2日目
Real Time 午後 0:10
Game Time経過時間 26:10
Limit Time 残り時間 46:50
Flour 1階
Prohibition Area 屋外
Player 11/13
注意事項
この物語はフィクションです。
物語に登場する実在もしくは歴史上の人物、団体、国家、領域その他固有名称で特定される全てのものとは、名称が同一であっても何の関係もありません。




 2階へと上がるための階段を前に黙々とバリケードを構築する神河がいた。
 階段は一直線になっており、その階段を上がりきる1階と2階とを隔てる境界線にバリケードが築かれている。

「よし、まあこんなものか」

 バリケードはその辺りにある部屋から引っ張ってきた壊れた家具を重ね合わせただけの簡単なものだが、クロスボウを持つ神河にとってこのバリケードは重要なものだった。
 この階段を上ってくる速水を狙い撃ちにする。
 前回は障害物をうまく使われて逃げられたが今回は遮蔽物のない階段を使っているので狙いを外すことはないだろう。
 それに万が一このバリケードまで辿りついてもここから少し後退すればいいだけのこと。
 バリケードを逆に利用してクロスボウから身を隠しても今度は侵入禁止エリアが確実に速水の命を奪ってくれる。
 神河の準備は万全だった。
 そのせいだろうか?迫り来る速水との決戦に神河の心は躍りに躍っていた。
 思わずニヤリと獰猛な笑みを零す。

「時間的にもそろそろか……」

 PDAの時間経過には1階が侵入禁止エリアになるまで後1時間というところだろう。

「後は速水さんが逃げずに来てくれればいいが……君はどう思う?」

 そういって振り向いた神河の視線の先には――

「……、」

 ロープで縛られた全裸の状態で床に転がっている柊がいた。
 しかし神河の呼びかけにも柊はうっすらと目に涙を浮かべるばかりで答えようとしない。

「ふん、だんまりか?」

 さきほどからこの調子だった。
 顔は青ざめており、こっちから無理にしゃべらそうとでもしない限りは何もしゃべらない状態が続いていた。

「……けて?」

「何だ?」

 ようやく口を開いた柊に神河は聞き返す。

「助けて!?……お願い!お願いだからっ!嫌、嫌よっ!まだ死にたくなんかないの!!」

「……まあ、それは速水さん次第だな」

 神河はここで速水さえ仕留められれば良輔も柊も殺す気は特にない。
 そもそも神河のターゲットは3人だけなのだ。
 その内、1人は既に神河が殺し、もう1人は速水、最後の1人は未だにわからない。
 神河にとってわからない1人を殺してくれる可能性のあるプレイヤーはあえて見逃すという手もある。

「そ、そんな……」

 しかし柊は神河の発言を聞いてすっかり意気消沈してしまった。
 助けになんて来るわけがない。
 もし良輔達がここに来るとすればPDAを取り返すため、そしてこの2階を通過するためだろう。
 仮に良輔達が神河に勝ったとしてもロープでぐるぐる巻きにされているこの状態の自分をわざわざ助けてくれるとは思えない。
 むしろ条件のために自分を殺そうとする姿しか想像できなかった。
 最悪、全裸の姿をみられれば殺されるだけではすまないかもしれない。

「嫌……、そんなの嫌よ……」

 あんな奴らに自分の身体を穢されるなんて絶対に嫌だ。
 そもそも何故自分がこんな目に遭わなければならないのだろうか?
 負け犬はあいつらのはずなのに、自分のほうが優れているはずなのに……
 柊の胸の中で、そんな理不尽に対する怒りが満ち溢れていた。

「――来たか?」

 不意に神河の注意が1階へと移った。
 どうやら良輔達が来たらしい。
 神河の声を聞いて柊は恐怖に震え、少しでもそれを紛らわせるために身体を丸めて身を縮めるのだった。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






 その頃、良輔達は1階の階段に到着していた。
 そこで良輔達が見た物は最初にこの階段を上がった時にはなかった家具のバリケードだった。

「まずい、ですよね?」

「あまり好ましい状況と言えないのは確かですね」

 良輔の問いかけに速水が答える。
 クロスボウを持つ神河と違って遠距離武器を持たない良輔達はただでさえ不利なのに階段で待ち受けられたことで更に勝つのが難しくなっていた。

「真正面から神河に挑めばどうなると思います?」

「あのクロスボウで1分持たずに射殺されるでしょうね、前回とは訳が違います」

 確かに速水の言うとおり、最初に神河から逃げた時はこっちにも複雑に入り組んだ通路を遮蔽物に使い、相応に開いた距離、更に言えば射手の神河もまた走りながらクロスボウを撃たなければならなかった。
 だが、今回同じことをしようとすれば遮蔽物のない一直線に走っている狭い階段を駆け上がらなければならないし、階段を上がれば上がるだけ距離が縮まる、更に言えば神河は動く必要もなく良輔達を狙い撃てばいいだけだ。

「何か良い考えはありますか?」

「……そう、ですね」

 良輔の問いかけに速水は顎に手を当てて、考え込むと、何か思いついたようにふと手をポンッと叩いた。

「真正面から戦って負けるなら真正面から戦わなければいいんですよ」

「……つまりどうするんですか?」

「ちょっと耳を貸してもらえますか?」

「はい、構いませんけど……」

 良輔が耳を貸すのと同時に速水は良輔にだけ聞こえるように呟いた。

「実はかくかくしかじかなんですけど」

「ふむふむ、なるほど……ってわかるか!?」

「古典的なツッコミありがとうございます」

 良輔は痛い子を見るような視線を速水に送った。

「ごほん、すみません、それでは今度こそ……実は――」

 こうして今度こそ速水は良輔に自分の考えを吹聴していった。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






 神河は足音から速水達が来たと考え、バリケードに張り付いてクロスボウを下の階へ向け、今か今かと待ち構えていた。
 右手には良輔と柊のPDAを重ねて持ち、いつでも壊せるように準備している。

「……………………」

「………………」

「…………」

「……」

 しかし速水は姿を現さない。
 ちょっとイライラとストレスが溜まりかけていた時だった。

「神河さん!!」

 通路に速水が姿を現す、反射的に神河は引き金を引いた。

「ちょっ!?」

 速水は返答もなく撃たれると思っていなかったのか僅かに声を漏らして通路に隠れる。
 クロスボウの矢は速水の残像を射ぬいて床に刺さった。

「ちっ!」

 あからさまに不機嫌そうに舌打ちするとすぐにクロスボウの矢を装填する。

「神河さん!やめてください!僕と少し話し合いをしましょう!!」

「はあ?じゃあ5thはどうした?尻尾を巻いて逃げだしでもしたか?まあ、逃げ道なんてないがな」

 神河は手慣れた様子ですぐに矢を装填すると速水へと向けるが既に速水はその身を通路に隠していた。
 その様子を見て神河はほくそ笑む。

(この調子だ、焦らずにやれば――勝てる!)

 もうすぐ1階は侵入禁止エリアになる。
 そうすれば速水の首輪は作動して死ぬ。
 それはゲームの公平性を保つためか、ゲームマスターでもルールに違反すると処刑されるように設計されている、とはいえ特製のPDAを使っている時点でこのゲームが公正かどうかというのは多いに疑問があるがそれは思考の箪笥にでもしまっておくことにした。

 今は速水を殺すことを優先する。
 いつ通路の影から飛び出してきても射殺できるように集中せねば……

『神河さん教えてください!何故貴方は僕を殺そうとするんですか!?』

「……、」

 焦らずにやれば勝てる。
 だから挑発には乗らずに、いつでも撃てる状態を保ち続けていた。
 しかし頭の中にはまだ速水の言葉が残っていた。

(何故、か……)

 神河は自らの過去に想いを馳せる。
 それはまだ神河が高校に入ったばかりの暑い季節だった。
 ごく普通の学校生活を送っていた自分。
 母が中学の頃に亡くなっていたがたまに出張でいなくなる気さくな父と二人で生活していた。

「ただいまー」

 その日もいつもと同じように学校が終わるとすぐに家へと帰宅する、父は出張に出ていたので今日も1人だ。

「うん?」

 しかしその日は珍しく郵便物が届いていた。
 中から出てきたのは1本のビデオテープ。

「何だろ?」

 神河は特に思うことなくそのビデオテープを再生した。

『清十郎さん、こんなことはもう止めてください!』

『済まない瞬、ここで死んでくれ!』

 テレビに映っていたのは神河の父と見知らぬ男が銃を向け合って叫んでいる姿だった。
 次の瞬間にはバンッと銃声が響き、画面がブレた。

「え?キャァァァ!?お父さん!?」

 ブンッと画像が戻ると頭を銃で撃ち抜かれた父が倒れていた。
 そしてここでビデオテープが止まる。

「いや、嫌よ……嫌ああああああああああああああ!?」

 神河の悲痛な叫び声が家に木霊した。
 その後、父の友人を名乗る男から父の本当の職業、そして父と父を殺した男の関係を聞き、復讐を決心する。
 神河は父の仇を討つために、速水を殺すためだけに、神河はゲームに参加し続けてきた。
 だから神河は挑発に乗ってこのチャンスを棒に振るわけにはいかないのである。

「何故殺したのか?……それを聞きたいのは私の方だよ、速水さん」

 神河はそう呟き、誰にも気づかれないようにちらっと上の排気口を見た。
 そしてその時カシャンと上から音が聞こえた。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






「ふう、けっこう進みにくいな」

 速水が神河と対峙しているころ、良輔は排気ダクトを通っていた。
 左手を負傷しているので仰向けになって足を使いながら少しずつ進んでいく。

「うまくいけばいいけど」

 時間はちょっと遡り、速水の考えを聞いていた時間まで戻る。

「エアーダクトを使う?」

 良輔は速水の言葉に聞き返す。

「はい、そうです」

 速水が出した結論はエアーダクトを使おうという単純なものだった。

「速水さん、逃げることはできないんですよ?」

 これについては少し前にも話した。
 逃げても良輔のPDAを取り返すことなどできないのだ。

「誰も逃げるために使おうなんて言ってませんよ?」

 チッチと指を振って速水は自慢げに答える。

「このエアーダクトはちょうど2階の階段すぐのところに出られる場所があるんです」

「っ!?なるほど、それを使うんですね?」

「はい、僕が囮になって神河の注意を引きつけます、そして神河の注意が完全に僕に移った時、このエアーダクトから飛び出して神河を攻撃してください」

「……わかりました、それしかなさそうですね」

 こうして良輔は速水の策に乗ることに決め、エアーダクトを通ってきた。
 かなり進んできたのでもうすぐというところだろう。
 そして良輔は下から電気の光が漏れてきている場所まで辿りついた。
 体勢を変えると排気口があり、そこから神河の姿と……

(……何やってんだあいつ?)

 全裸の柊が床で転がっていた。
 それはもう小さな胸やら女の子の大切な部分やらが丸見えな状態で。
 流石に良輔は唖然としたが気を取り直して神河を注視する。
 見た感じ神河はこちらに気づいていないようだった。

(これならいける!!)

 良輔は成功を確信してナイフを鞘から引き抜いて構える。
 後はこの排気口の蓋を蹴り開けて神河に襲いかかるだけだ。
 そして良輔はエアーダクトから飛び出した。
 しかし……

「やはりそう来たか?」

 ずっと速水のいる1階を見ていた神河だったが排気口の蓋を蹴り飛ばした音で上を見上げた。
 その表情には勝利を確信した笑みを浮かべている。

「っ!?」

 良輔は神河の反応に驚愕したが、今更引き返せるわけでもないと一撃で決めるために神河の頭を狙って右手のナイフを落下の勢いと共に振り下ろす。

「私を……舐めるなあああああああああああああああああああああ!!」

 神河は良輔の上からの奇襲に対してハイキックを繰り出し、頭上から襲い来る良輔を横に蹴り飛ばした。

「ぐあっ!?」

 良輔は神河のハイキックをもろに脇腹にもらい、派手に吹っ飛ぶ。
 左手が使えないために満足に受け身を取ることもできずに床をすべって壁に激突した。

「ぐっ?何で、だ?」

「くくっ、私が何故ホールに拠点を作らずに階段を前に拠点を作ったのか、わかるか?」

「っ!?罠、だったのか?」

「ああ、ここで張っていれば必ずエアーダクトから攻撃してくると思っていた」

 拠点を作るならホールでも良かったのだ、侵入禁止エリアで殺すのは難しくなるが階段を上ればクロスボウで射殺できるのだから問題ない。
 それでもあえて階段の前で作ったのはあえて良輔達にエアーダクトを使わせるため。

「相手を策に嵌めたと喜んで、実際は相手に利用されていただけだったという気分はどうだ?」

 神河がPDAを潰さずに良輔を生かしておいたのは速水が逃げられなくなるように御膳立てするためであり、かつ、このエアーダクトの策に良輔を利用させるためだった。
 相手はこのゲームの管理人、準備を万全に整えてもチートで返される恐れがある。
 だからあえて隙を見せる必要が神河にはあったのである。
 これで速水は1階に立ち往生し、他の策を練る時間もない。
 速水の策は完全に潰れた。
 良輔は満足に動けず、1階が侵入禁止エリアになるまで残り10分もないのだから。
 ニヤリ、神河は不気味に笑うと動けない良輔を一瞥し、そして速水がいるであろう通路に目を向けた。

「さあ、どうする速水さん!!」

――――チェックメイト
 神河はこの時、自らの勝利を確信していた。
 仕上げに侵入禁止エリアの浸食から逃れるため、一か八か階段を上がろうとする速水をクロスボウで射殺するだけと信じて疑わなかった。
 これは神河自身の実力に裏付けられた絶対の自信であり、能力の根本と言っても過言ではない、まして長年追い求めた獲物を捕らえたということからそれに拍車もかかっていた。
 だが、自信とはその感情がプラスに働く時のことを言い、コインが表と裏に別れるようにこの世にあるほとんど物は2つ以上の顔がある。
 そしてこの感情がマイナスに働く時、人はそれを―――――慢心と呼ぶ。
 高らかに笑う神河の頭上に影が差したのはちょうどその時だった。

「っ!?」

 思わず上を見上げた神河の視界には左手で被ったシルクハットを押さえながら、右手で銀色のナイフを自分目掛けて振るう速水の姿だった。
 神河はその急襲に身を避けることができず、咄嗟に右手で持っていた2つのPDAを離して顔の前にかざした。

「ぐああっ!?」

 だが不幸中の幸いと言えるだろう。
 咄嗟の行動が神河の命を救った。
 顔面目掛けて繰り出された速水の一撃は神河が前に出した右手を貫き、赤い鮮血が宙を舞う。
 そして神河は勢いそのままに速水に押し倒された。

「こ、んのおう!!」

「っ!?」

 しかしすぐに左手で持っていたクロスボウを速水の腹に押し当て、引き金をひこうとするがそれよりも少し早く速水は横に飛ぶと同時にクロスボウを蹴り飛ばした。
 片手で握っているにすぎないクロスボウは神河の手を離れ、高い音を出しながら1階に向かって転がって行く。
 すぐさま2人共立ち上がり、お互いが懐から新しいナイフを取り出した。

「流石にやるな?」

「お褒め頂きありがとうございます、あまり嬉しくはないですけど」

 ジリジリとお互いを睨みながら円を描くように移動していく。

「それにしても、何故?」

 速水は1階の通路で立ち往生していたはずだ。
 自分の策を過信してあそこにいなければいけないはずだったのだ。

「ふふっ、あんな見え見えの作戦で僕を殺せるとでも思いました?」

 穏やかな笑みを浮かべながらその実、小馬鹿にしているように笑う速水、そして……

『それでどんな気分なんですか?相手を策に嵌めたと喜んで、実際は相手に利用されていただけだったというのは?』

「くっ!?」

 表情が一変し、獰猛な笑みを浮かべる速水に、神河は背筋からゾクゾクと来る危険な物を感じた。
 なるほど、と神河は思う。
 つまり速水は良輔にわざと奇襲失敗させることにより、自分の油断を引きだし、まんまとその油断をついてみせたのだ。
 一度失敗したルートを使って2度攻撃してくるとは流石の自分も読み切れなかった。
 速水を殺すにはやはり一筋縄ではいかないということなのだろう。
 神河の背を、冷や汗が流れる。

「……、」

 そしてポタポタと自らの手から突き刺されている銀色の刃物を伝って流れ出る赤い液体を見て、神河は苦虫を噛み潰したような表情を作った。
 一旦引くべきだろうか?
 今すぐにでも殺してやりたいが怪我を負った状態で勝てるほど甘い相手ではない。
 だがこの時、神河には1つだけ気になることがあった。
 それはこの場で逃げると速水が首輪を外して下の階に行くなりしてしまう可能性である。
 柊の話では速水は既に条件の1つを満たしており、この場で床に転がっている2人の首輪を作動させれば条件が満たせてしまう。

(いや、それはないか?)

 しかしすぐに神河は自分の考えを改めた。
 速水はゲームマスター、それがメインなのかサブなのかまでは知らないが少なくとも今回のゲームをキャスティングしたディーラーは自分と速水の対決を今回の目玉の1つとして扱っているはずだ、それならばもし仮に速水が首輪を外しても下の侵入禁止エリアに降りたり、戦闘禁止エリアに立て籠もるというような消極的な方法を運営が許したりはしないだろう。
 
「……この勝負は預ける、次に会う時までに勝手に死んでくれるなよ?」

 そして神河はここで一旦引くことにした。
 まずは手当をして、戦えるだけの準備を整える必要が神河にはあった。

「あっ!?待ちなさい!!」

 さっと通路を引き返すと速水の声が聞こえてくる、それを無視して神河は全力疾走を開始した。
 これは退却ではない、未来への逃避行であると信じて





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






「逃げられましたね」

 速水は神河が全力疾走して逃げていくのを見ていた。
 手堅く追って仕留めたいところだが問題は神河だけではない。
 業務を放棄したメインマスターの代わりにゲームメイクもしなければいけないのだ。
 ここで神河を追ったとしても戦闘禁止エリアに逃げ込まれれば目も当てられない。
 唯一それを回避する手段があるが現在それを実行するわけにはいかないのだ。
 そう考えて速水は問題の良輔達に目を向けた。

「ひっ!?」

 柊が悲鳴を漏らしたがどうでも良かったので無視した。
 そもそもロープで縛られて動けないのではどうもしようもないのだから。
 しかし速水達を他所に良輔は転がったPDAに向かって手を伸ばしているところだった。
 何度も取り返そうと躍起になっていた良輔自身のlifelineがそこにある。
 コツコツと音を立てて速水は良輔に近寄って行く。

「めでたし、めでたしと言ってあげたいところですが……残念でした」

 速水は2つのPDAを拾い上げるとすぐに画面を確認する。
 表示されていたのは【5】と【9】であり、どうやら神河の物ではなさそうだった。
 神河は自身の首輪を解除するために必要なPDAは別の場所に保管していたのかもしれない。

「……はめ、やがったな?」

「嵌めたというのは人聞きの悪い言葉ですねえ?」

「ほざけ、囮になるとか言ってその実、俺を囮に使いやがったくせに」

「そのことについて僕は責められる覚えはありませんね、危ない橋を渡りたくないと思うのは人として当然のことだと思いませんか?」

 速水は自分が囮になるつもりなど毛頭なかった。
 明らかに自分を狙っている神河。
 本音を言わせてもらえば排気ダクトを通って違うルートから逃げたかったのだがサブマスターとしてそんなことをすればゲームで生き残ってもその後に処分される可能性が高い、いや1人だけならその選択肢もありだったが良輔がいるためにそれもできなかった、PDAを奪われた状態では良輔は自分の話には乗らないだろう。
 それでやむなく速水は良輔と共に1階の階段へ来た。
 そこで見たのは1階にバリケードを作って待ち構えている神河、その姿を見れば時間切れを狙っているのは一目瞭然だった。
 しかし、速水には良輔に話していないことで神河にただのイレギュラーというわけではないことを確信していた。
 それは神河から送られてきたメール。
 そこには自分がこのゲームの黒幕であることも書かれていた。
 最初は驚愕した、本来なら秘匿すべき自分の正体がいきなりバレているのだから……
 自分がヘマをして正体がバレたとは思えない、ならば答えは1つ。
 ――最初から知っていた、そうとしか考えられない。
 そうなるとある程度、神河はゲームについて裏舞台を知っている可能性が高い、例えばマスター用のPDAなどだ。
 ならば逆に階段であんな見え見えな構え方はしないだろう、この時、既に速水は神河が排気ダクトの存在を知っていると考えていた。
 メールでエレベーターに触れながら排気ダクトに触れなかったのは神河自身がそれを使ってきて欲しかったに他ならない。

(ならば、その慢心を利用させていただくとしますか)

 速水はそこで良輔という手札を切ることにした。
 良輔自身が神河に奪われたPDAを狙っていたのでこれほど扱いやすい駒はなかった。
 案の定、自分が囮になるから神河の背後をついて欲しいと頼めばあっさりと食いついた。
 後は地図さえ見せれば良輔なら複雑な通路もPDAの地図機能がなくとも迷わず進めるだろう。
 そして自分は適当に神河の前に躍り出てちょっと挑発すれば良い。
 実際な話、自分を狙う理由を教えてくれと叫ぶとその返事を聞かずに排気ダクトへと移動したので神河がどういうリアクションをしていたのか速水は知らない。

『どんな気分だ?相手を策に嵌めたと喜んで、実際は相手に利用されていただけだったという気分は?』

 匍匐前進しながらエアーダクトを進み、神河達の上に辿り着いた時、そんな声が聞こえてきた。
 後はタイミングを見計らって、見せかけの策を打ち破り、優越感に浸る神河を襲撃したというわけだ。
 もし神河に敗因があるとするならば――少しおしゃべりが過ぎたところだろう。
 
「ですが今の僕にそんなことを言うなんて……状況判断能力が衰えたんじゃないですか?」

 速水はPDAを良輔達にヒラヒラと見せつける。

「僕は君達の首輪を作動させればゲームクリアなんですよ?その辺、ちゃんとわかってます?」

「くっ!?やめろ!!」

「嫌、死にたくない!!嫌ああああああああああああ!?」

「わかりました、やめます」

 しかし良輔達の絶叫を他所に速水はあっさりとそう言い放った。
 当然良輔達は唖然とする。

「その代り条件が3つあります」

「条件だと!?」

「はい、1つは神河が死亡すること、もう1つは僕の首輪が外れること、そしてこの2つの条件を君達が力を合わせてクリアすること。満たせればこのPDAは君達に返しましょう」

「はっ?どういう意味だ?」

 神河が怖いなら首輪を外して1階に降りれば良い、首輪を外すことについては論外だ、それこそ速水が持っているPDAをここで破壊すれば済む話だ。
 それに自分と柊が行動を共にすることを強制する必要など速水にはないはずだ。

「あまり余計な詮索はしてもらいたくはないのですが……まあ、そうですね、危ない橋は渡りたくないとだけ答えておきます」

 速水はそれだけ答えると神河が逃げた通路とは別の通路へと歩き始めた。

「それまでこのPDAは預かっておきます。取引は6階の階段から一番遠い戦闘禁止エリアにてゲーム終了2時間前までに来ること、いいですね?」

「ぐっ……わかった」

 良輔には、そう答えることしかできなかった。

「それでは健闘を期待してますよ?」

 そうして速水は姿を消した。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






「ちっ」

 神河は速水から受けた傷を戦闘禁止エリアの扉を背にして通路で治療していた。
 出血を止め、包帯を手に巻く。
 本当はここより清潔で水などがある戦闘禁止エリアの中で治療したかったが速水が首輪を外した可能性の高いこの状況でそれをする気にはとてもなれない。

「次だ、次で殺す」

 右手の包帯を見ながら怨みを込めて呟く。

『誰かいるのか?』

 その呟きが聞こえたのか誰かの声が聞こえた。
 足音はどんどん近寄ってくる。

「ちっ、面倒なことになったな」

 ナイフを左手に持って神河は立ち上がった。
 好戦的なプレイヤーなら面倒なことになると眉をひそめる。
 そして通路から現れたのは赤い髪の長身男性だった。

「んっ?あんたは……もしかして神河か?」

「あん?」

 神河はその男性を知らなかったがその男性は自分を知っているようだった。

「待て待て、俺はあんたと敵対する意思はねえ」

「どうだかな?それで何故貴様は私の名前を知っている?」

「あんた、エントランスホールで1人殺しただろ?その時にそいつの傍に居た女を覚えているか?」

「……ああ、そういえばいたな、そんなの」

 神河が思い出すのは1人の弱気な女子高生だった。

「そいつがあんたのことをリークしてるぜ?『神河神無が杉坂を殺した』ってな、違いはないかい?」

「ふん、だとしたら何だ?有り難いお説教でも聞かせてくれるのか?」

「まさか、その逆だ」

 水谷は肩を竦めて大げさなジェスチャーを見せる。

「神河さん、俺と組む気はないかい?」

「ほう?それで貴様と組むことに何かメリットでも」

「そうさな、このゲームをクリアするのが楽になるだろうな」

「自信たっぷりだな?条件が競合している可能性を考慮してないのか?」

「考慮はしてないな、俺はあんたの解除条件には当たりをつけてる」

「……、」

 神河はその水谷の言葉に顔色を変えた。

「ヒュウッ、良い表情になってきたな、じゃあ俺の推理でも聞いてもらおうか?」

 ニヤリと笑みを浮かべながら水谷。
 その堂々とした態度に神河は注視する。
 この推理で使えるかどうか判断しよう、もし使えなかったらその時始末すれば良い。

「まず、杉坂が死んだのはまだ全域が戦闘禁止である6時間の出来事だ。それにも関わらず杉坂は殺された、何故そんなことが可能だったのかについてだ」

「さあ何故だろうな?」

「ククッ、簡単さ、なぜならこの時間は戦闘禁止であって殺人禁止じゃあない、つまり『戦闘行為さえ行わなければ他人だって殺せるのさ』例えばルール違反させるとかな」

「……それでは仮に私がその杉坂を殺したとしてどうやってルール違反させたんだ?それがわからなければただの言いがかりだぞ?」

「夏本の話を聞くとあんたは杉坂のPDAを持って行ったそうだな?実際に俺が死体を調べた時はそいつのPDAはなくなっていた、可能性としてあるのはルール1だ」

「つまり私がそのPDAを壊したと?」

「そうだ、そしてこの時点であんたのプレイヤーナンバーはある程度判断がつく、ぱっと考えられるのは【A】【5】【7】だが、【5】も夏本を放置してるところから考えにくいな」

「おいおい、その女のしゃべった言葉が嘘じゃないという証拠でもあるのか?」

「あるぜ?」

「……それは?」

「じゃあ逆に聞くが何故俺がさっき神河さんのプレイヤーナンバーが【A】【5】【7】のどれかだと言った時に【8】が抜けていることに気づかなかった?つまりそれが答えさ」

「何っ!?」

「【8】の条件はゲーム開始24時間経過後に素数プレイヤー全員との遭遇だ、つまり6時間も経過していない時間なら殺す動機は十分にあったはずだぜ?」

「じゃあ何故お前はさきほどの推理にわざと【8】を入れなかった?」

「夏本が他のプレイヤーに言いふらしたことがもう1つあるのさ、『杉坂のPDAは【Q】だった』という情報なんだが」

「ふふっ、なるほど」

「もう察しがついたようだな?【Q】は素数じゃねえからさっき【8】が抜けていても神河さんは疑問に思わなかった。つまり夏本の話は本当だったっていうことになるのさ」

「貴様、私に鎌をかけたな?」

「昔から人を騙すことが大好きだったもんでね」

 目の前の男は大して悪びれた様子もなくへらへら笑いながらそう答える。

「なるほど、貴様のプレイヤーナンバーは7thだな?」

「っ!?」

 今度は水谷が驚く番だった。

「驚く必要はないだろ?貴様の推理の中では私が【A】か【7】だというならもし私が【7】だった場合、【8】が抜けていることには気づいたはずだ」

 確率が50%というのはいささか心許ない。
 ここで博打は考えにくいし、この男は明らかに自分の推理の整合性を確信していた。

「しかし貴様は【8】に気づかないことをあたかも当然のように言い切った。つまり何らかの理由で7thの持ち主を知っている。そういうことなのだろう?」

 そして言わずもわかるようにこの時で一番可能性が高いのは本人が初期配布者であるという場合だ。

「凄えな?これだけの会話でそこまでわかるなんていうのは、やっぱり神河さんは俺と組むべきだと思うぜ?」

「ふん、まあまあの推理だが組むほどのメリットは感じないな、ゲームの条件だけをクリアしたいだけなら自分1人でもできる」

「じゃあその怪我を神河さんに負わせた奴はどうなんだい?」

「っ!?」

「やっぱりな、誰にやられたのかまでは知らないが……あんた、そいつを殺したいとは思わないのか?」

「無論だ、速水さんは私が殺す」

「じゃあやっぱり決まりだ」

「何がだ?」

「俺と神河さんが組むのがだよ、実は俺も1人殺したい奴がいてな、2階でも一度襲い掛かったんだがそいつの仲間に大男がいて、そいつのクロスボウで追い返されちまった」

 水谷は苦々しくそう答えるがすぐに楽しそうな笑みに戻った。

「つまり俺と神河さんは条件が競合していることもないからお互いの条件に協力できるしお互い借りのある相手がいる。ここまでくれば手を組むって選択肢もあるだろ?」

「……、」

 神河は考える目の前の男と組むかどうか

「それもまた一興か、いいだろう手を組もうじゃないか」

 そして神河はこの男と手を組むことを選択した。
 頭の回転は良いみたいだし、ゲームには積極的、体格も申し分ない、何より神河が気に入ったのは……その観察眼だった。

「一応PDAは見せ合っておこうぜ?」

「いいだろう、同時に見せるぞ?」

 2人はお互いのPDAを取り出して画面を向けた。
 水谷のPDAに表示されていたものはハートの【7】、偶数ナンバーのPDAを回収することが条件である。
 そして神河のPDAに表示されていたものは……クラブの【A】、ジャック・クイーン・キングの死亡を条件とするキラーカード。

「相性はバツグン……か」

「出だしにしちゃあ良いスタートなんでねえかい?」

 神河と水谷は笑いあう。
 ここに共闘同盟は成立した。

「まずは上の階にあがって武器を確保する。いいな?」

「おいおい、それよりも前に必要なことがあるだろ?」

「うん?」

 しかし神河はそれがどういう意味かわからず、首を傾げる。

「俺は水谷祐二だ、よろしく頼むぜ?神河の姉御」

「ふん」

 肩を並べて3階への通路を目指して歩き出す。
 お互いの目的を達成するために……

「神河神無だ、まあ、よろしく頼む」





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






「くそっ!?」

 良輔がよろよろになりながらも立ち上がったのはそれから小一時間経ってからだった。
 周囲には自分達以外には誰の姿もない。
 動けない状態で誰かが来なかったのは幸運と言わざるを得なかった。

「後ちょっとだったのに!!」

 目の前に転がっていたPDA、後もう少しで手が届いたはずのそれは速水によって取り上げられてしまった。
 理不尽な交換条件付きで……死ななかっただけまだチャンスがあるがここに来てからと言うのもやることなすこと全てが裏目に出ているような気がした。
 速水からもっと早く離れるべきだっただろうか?
 良輔もこの神河から逃れることができれば速水とは別行動を取るつもりでいた。
 得体の知れない人間についていけるほど良輔はクレイジーではない、だが神河の脅威があったからここで裏切りはしないだろうと高をくくっていたのがまずかった。
 確かに裏切られはしなかったが利用されるはめになっている。
 一体自分はどこで間違ったのだろうか?

「悔やんでも、どうにもなりはしないな」

 それでどうにかなるなら良輔だって過去を何度も弄りたい。
 少なくとも母が死なないように弄るぐらいだったら罪とも思わなかった。
 もちろん、もしできればだが……我ながら、らしくないことを考えると良輔は自嘲した。

「さて、と」

「っ!?」

 良輔は近くで転がっていた柊に目を向けた。
 衣服を奪われ、その上にロープで縛られ身動きが取れない、女子高生。
 どこぞの変態が聞けばテンションの上がり過ぎでダンスでも踊り出しそうな組み合わせだった。
 ゆっくりと良輔は柊に近寄って行く。

「いや、来ないで!こっちに来ないで!!」

 しかし良輔は柊の声を無視して近づいて行き、そして後ろに回った。

「何を?」

「黙ってろ、間違えて肌に切り傷をつけても責任は取れない」

「え?う、うん」
 
 柊が動かないのを確認して良輔はナイフを取り出すと柊を縛るロープを切り始めた。
 それも大した時間もかかることなくロープはプツリと切れた。

「立てるか?」

「大丈夫、だけど……」

 特に外傷を負っているわけはないらしく、ゆっくりと立ち上がる。
 しかしその姿に目のやりどころに困ると良輔は思った。

「ちっ、これでも着ておけ」

 良輔はカッターシャツを脱ぐと柊に放り投げる。
 ファサっと白い布が柊の体にかかった。

「あ、うん、ありがと」

 柊はそういってすぐにそのシャツを着る。
 しかし良輔と柊では服のサイズが違いすぎるのでカッターシャツでも膝くらいまでしかカバーされていない。
 逆にそれが見えそうで見えないという男の浪漫を書きたてる角度だった。
 流石にズボンは大きすぎるので渡しても穿けないだろう、この通路をパンツ一丁で走り回るのは良輔としても勘弁だ。
 気づけば柊は困惑した様子で良輔を見つめる。
 助けられるのは予想外だったということだろう。

「あんた、何で?」

「……お前が死ねが俺が速水さんに殺される、それだけだよ、逆に言えば俺が死ねばお前も速水さんに殺される、わかるな?」

「う、うん」

「なら手伝え」

「……、」

 柊はきょとんとするばかりで良輔の言葉に答えようとしない。

「聞こえてんのか?俺達は同じ境遇、同じ状況に追い込まれた者同士だ、俺はここで死にたくない、お前もここで死にたくない、なら、利害関係は一致してる、だから手伝え」

「許してくれるの?あんなに酷いことしたのに?」

 PDAを奪って脅し、おまけにそのPDAを他人に奪われた。
 酷い目に遭わされるとばかり思っていた。

「勘違いするな、全部を水に流したわけじゃない、PDAを取り返すのにお前が必要不可欠なんだよ」

 速水は2人で協力してと言った。
 それが何を意味するのかは良輔にはわからない。
 ただ良輔は少なくとも柊のゲームに対する積極性は評価している。
 ゲームに積極的に参加する意思があり、殺人に対して拒絶感が少なく、柊のクリア条件もキラーカードだ。
 良輔がjokerを持っていないことは柊も知っているので疑われる心配はないし、ここまで境遇が似通ってくると何かと便利だろうと考えていた。

「あ、ありがとう、ありがとう、ございます」

「なっ、おい!?」

 柊は何がそんなに嬉しかったのか良輔の胸に顔を押し当てて泣き始める。
 優希を除外すれば女性経験が皆無の良輔には今まで女性に泣きつかれたことは一度もなく、柊が泣き始めるという予想外の展開に狼狽した。

(とりあえず落ち着け、こんな時は確か)

 良輔は優希にやるように頭に手を乗せて髪を撫でてやる。
 柊の髪は意外に手入れが行き届いているのかサラサラとしていて気持ちよかった。

「必ず生きて帰るぞ?それとこれからは俺の指示に従え、俺に全部任せて欲しい、いいな?」

「……えっ?」

 柊が声に反応して思わず見上げるとそこには今まで見せたことがなかった良輔の優しく、柔らかい笑みがあった。
 おまけに抱きついているので顔がアップで柊の脳裏に焼き付く、髪を優しく撫でられ、良輔の少し男っぽい匂いが柊の鼻をくすぐる、人の温かい温もり、両親が離婚した時期から、どんどん離れて行って久しく忘れていたものだった。
 気がつけば見知らぬ廃墟に放り込まれ、人の死を見て、自分自身も幾度と死にそうな思いをした、特に神河に捕まってからは生きた心地がしなかった。
 そんな極度に緊張した状態が続いたことで柊の心はすっかり疲れ切っていた、そんなときに涙を流す自分に胸を貸し、思いっきり泣いたところにこの極上スマイルだ。

ドクン
 
(えっ?何?)

 胸が高くなるのを感じる、さっきからバクバクと心臓の音がうるさい、この音が聞こえてしまうのではないかと危惧するほどだ、心なしか顔も熱くなってきた。

(え?ええっ?う、嘘?も、もしかしてぼ、僕、僕っ!?)

 確かに顔は嫌いではない、能力だって頭がキレルのは1日以上過ごしてきてわかってるし、喧嘩だってこの体付きならそれほど弱くないだろう。

「泣き顔のままでいると付け込まれるぞ?」

 良輔に声をかけられたことでようやく正気に戻る。
 目を擦って涙を乱暴に拭った。
 そうだ、こんなのは吊り橋効果だ、そうに決まっている。
 たかだが1日過ごしたくらいで他人を好きになるなんて有り得ない。

(そ、そうよ、主導権を渡しちゃ駄目なの、こういうのはガツンと言ってやらないと)

「あ、あのっ!」

「まずは休憩だな、俺も体力的にきついし、昼飯にしよう、いいか?」

 しかし柊が一言申す前に良輔に話を中断されてしまった。

「あ、えっと、その、うん」

 確かに精神的に柊もきつかったので休憩には賛成だ、これは言いなりになっているわけではないと自分に言い聞かせる。

「まずは戦闘禁止エリアに行かなくちゃな、えっと確かあっちか」

「あっ!?ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

「こっちだ、黙ってついてこい」

「~~っ!?」

 柊は良輔に言われた通り黙って後ろを歩きはじめる。
 だが、何故だろうか?
 良輔に指図されても特に怒りが湧いてこないのは?
 むしろ何か形容し難い浮ついた気持ちになってしまうのは……
 とりあえず、それはご飯でも食べながら考えることにした。
 こうして、良輔と柊は正式に共闘するパートナーとなったのだった。







[22742] 15話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2011/04/24 12:28
【BET】
player  suit  card  odds  BET
北条良輔  ♦  5  9.0  -
御剣優希  ?   ?  5.5 トぺルカさん(40)
夏本玲奈  ?   ?  7.4 油桜さん(50)、BSさん
柊桜    ♦  9  3.5 nidaさん(40) 結崎 ハヤさん
西野美姫  ♣  3  8.0 ながながさん(100)
神河神無  ♣  A  2.3  -
白井飛鳥  ♠  6  Death  -
杉坂友哉  ♠  Q  Death  -
一ノ瀬丈  ?   ?  5.1  ナージャさん(40)
速水瞬   ♥  K  1.7  -
幸村光太郎 ♦  4  9.0  -
飯田章吾  ♠  10 4.5 ヤマネさん
水谷祐二  ♥  7  2.6 ヴァイスさん(50)
Day 2日目
Real Time 午後 3:30
Game Time経過時間 29:30
Limit Time 残り時間 44:30
Flour 1階
Prohibition Area 1階
Player 11/13
注意事項
この物語はフィクションです。
物語に登場する実在もしくは歴史上の人物、団体、国家、領域その他固有名称で特定される全てのものとは、名称が同一であっても何の関係もありません。





 6階の階段で1人、腰を下ろす少女が居た。
 少女の目は階段へと注がれている。

「ジョー……」

しかしその隣にはいるはずの少年の姿がない。

「良輔、私どうすればいいの?助けて、良輔」

 いつも自分の隣に居てくれる青年を思い出しながら優希は体育座りをして座っていた。
 時間は今から1日ほど遡る。
優希がこの建物で目が覚めてからすぐに通路を徘徊していると、一ノ瀬という少年に出会った。
 明るく社交的で頭の良い子ですぐに仲良くなれたと優希は思っている。
 それからルール交換をした後で、一ノ瀬の提案により6階に登ると、そこで優希達が見つけた物は数多くの軍用兵器、これが何に使われるための物か考えた時、このゲームが本物であることを優希は悟った。

「こ、こんな!?こんなのって」

「大丈夫だよ、落ち着いて優希姉ちゃん」

 非日常的な光景に思わず優希は狼狽する。
 しかし一ノ瀬は落ち着いた様子でそれらを物色し始めた。
 そうして1つの拳銃と箱詰めにされた銃弾を引っ張り出す。

「やっぱり」

「本物、なの?」

「間違いなく、本物だね、念のため試射しておきたいけど」

「待って!!」

「どうしたの優希姉ちゃん?」

「それよりもすぐに1階へ降りて他の人に知らせるべきだわ、こんなの……明らかに普通じゃない」

「ちょ、ちょっと待ってよ、6階だけでもこんなに広いんだよ?これが1階まである空間の中でどうやって人を探すのさ?」

「それは……」

 返事に困窮する優希、それに対して一ノ瀬は軽く溜息をつく。

「思うんだけど侵入禁止エリアのルールがあるから全員6階に登って来るでしょ?だからエレベーターを壊してここの階段で待ってれば全員と接触できるんじゃないかな?」

 爆薬もたくさん置いてあり、御丁寧なことに説明書付きだ、ここにある手榴弾でも使えばエレベーターを動かなくさせるには十分だろう。

「ジョーの言ってることはわかるわ、でも侵入禁止エリアを知らない人だっているわけでしょ?もしもそのまま1階に留まり続ける人がいたら……」

 答えは簡単だ、ルール通りにこの建物の警備システムとやらに殺される、もちろんそれはこのゲームが本物であり、警備システムが人を殺すのに十分な殺傷力があればという条件付きにはなるが、それでも優希はこれが冗談だとはとても思えなかった。

「でも他の人と入れ違いになっちゃったら?あんまり考えたくないけどその人がここにある武器を見たらどう思うかな?」

「……警察に届け出る?」

 優希は真面目に答えたつもりだったのだがそれを聞いて一ノ瀬は苦笑する。

「あ~、うん、そうだね、もちろん僕もそういう人はいっぱいいると思うよ?でもさ、僕達ってここに拉致されて来たわけじゃない?」

「まあ、そうなるのかしら?」

「もしかしたら僕達を拉致してきた人間がこの建物のどこかにいるかもしれない、もしそう考える人がいればその人は間違いなく武装するんじゃないかな?」

「でもそれは自分の身を守ろうとするだけであって」

「銃を持つ理由なんてこの際どうだっていいんだよ、大切なのは武器を持った人間がいれば他の人だって必ず武装するってこと、そして銃を持った見知らぬ人間同士が鉢合わせすれば……どうなるかな?」

「まさかっ!?」

「あんまり考えたくはないけどそうなる可能性が高いような気がする、いや、むしろ僕達をここに連れてきた奴らはそうなることを望んでいるはずだよ」

「だったらなおさら早く他の人に知らせなきゃ!!」

「……いや、だからそれが出来ないんだって」

「じゃあどうすれば?」

「最初にも言ったと思うけど、僕はエレベーターを壊してここの階段で見張るのがベストだと思う」

「でもそれじゃあ……」

 それでも優希は渋る、もちろん優希が言いたいのは侵入禁止エリアのルールを知らずに1階にいる人達のことだった。

「わかってる、わかってるんだよ、僕だってそのくらい!!」

 しかし一ノ瀬は拳を握りしめながら叫ぶ。

「ジョー?」

「そりゃルールを知らずに1階に居続ける人もいるかもしれないけど……だってしょうがないじゃん!僕達だっていきなりこんなとこ連れて来られてわけわかんないのにその上、会ったこともない他人の安全なんて何で心配できるのさ!?」

 まるで自分に言い聞かせるように叫ぶ一ノ瀬。
 優希もその気持ちがわからないわけではない、だが賛同はできない。

「ジョー、それは違うわ、お互いが同じ災難に見舞われた時だからこそ、人は心から他人の心配ができるの!!こういう時こそ足の引っ張り合いをするんじゃなく、私達は助けあっていかなくちゃ駄目なのよ!!だって……」

『その人の苦しみをわかってあげられるのは、同じ苦しみを味わっている人だけなんだから!!』

「違うかな?私はこんな理不尽に負けたくない、みんなで帰ろうよ?私だって他の人達と会ったことなんてないよ、でもね?これだけはわかってる、私達はここで死ぬべきじゃない、絶対に!!」

 一ノ瀬はその優希の言葉に面食らったように目を見開くと、自嘲気味にクスクス笑い始めた。

「……ごめん、取り乱しちゃった、そうだね、優希姉ちゃんの言うとおりだよ、僕、どうかしちゃってたみたい、ごめんね、僕は男の子なのに……こんなの、みっともないよね?」

「ううん、ジョーはまだ子供なんだから少しくらい人に頼っても良いじゃない?大丈夫よ、お姉さんが無事に家まで送り届けてあげるから」

「ぶ~、僕もう子供じゃないもん」

 そういってお互いの顔を見て、どちらからともなく笑いあった。

「ふふっ、優希姉ちゃんって変な人だよね?」

「えっ!?私ってどこか変?」

 ががーんと肩を落とす優希に答えることなく一ノ瀬は後ろを振り返って歩き始めた。

「さってと、じゃあエレベーターを使って1階に降りようか?あ、でも最低限武器だけは持って行こう?僕達を拉致って来た人がいるのは間違いないんだから」

「そうね、でも念のため服の下とかに隠して行きましょう?変に警戒されるの嫌だし」

「OK、姉ちゃん、その方針で行こう」

 こうして一ノ瀬と優希は1階に降りるべく扱えそうな武器をかき集めながらエレベーターへと向かった。
 道中、拳銃はもちろん煙幕やら手榴弾、防弾チョッキに救急セットや僅かながら食糧や水、そしていくつかのツールボックスを見つけ、着実に武装していく。

「生存者12人?ということは全員で12人いるってことかしら?」

「……でもトランプをモチーフにしているのにプレイヤーが12人って何かおかしくない?普通は52とか、13とかそんな感じだと思うんだけど?」

「う~ん、でも私にそんなこと言われたって……」

「ごめん、そうだったね」

 見つけたツールボックスをインストールしてみるとそれは残り生存者をカウントするという物だった。
 お互いのクリア条件から考えて優希のPDAにインストールすることになり、機能を使ってみた結果、生存者12人ということだったので2人はこれがプレイヤーの総数だと考えることにした。
 この時、優希が知っていたルールは4、5、6、7の4つであり、2人はまだルール3を知らなかったのである。
 そんなこんなでようやくエレベーターに辿り着く。

「ポチッとな」

 一ノ瀬がここへ来たときと同じようにエレベーターのボタンを押す。

「あれ?おかしいわね?」

 しかし前回と違ってエレベーターが開かない。
 確かに上の光点はエレベーターが6階で止まっているのに……

「どうしたんだろ、故障かな?」

「もしかして上に来る時にしか使えないとか?」

「そんな都合の良いエレベーターなんて作れないと思うけど?」

「アンタはいちいち突っ込まなくていいのよ」

 ポカリと一ノ瀬の頭を殴る。

「痛っ!?暴力反対~」

 うっすらと目に涙を浮かべながら一ノ瀬は両手で頭を押さえて抗議する。

「どうしよう?」

「……動かない物はどうしようもないよ、諦めて階段を見張ろう」

「悔しいわね」

 優希は歯噛みする。
 確かにこれは想定外だ。
 エレベーターが問題なく動くなら下の階にすぐ降りたかったがこれでは降りる手段が階段のみとなってしまった。
 流石にここから1階まで降りるにはかなり時間がかかるし、何より他の人と入れ違いになる可能性が高すぎる。
 ここにいたって優希も階段で見張るという選択肢を選ばざるを得なくなってしまった。

「戻ろっか?ここにいる間に階段から上がってきたりする人がいたらまずいし」

「そうね、こればっかりはどうしようもないわ」

「うん、本当に……どうしようもないよね?」

「ジョー?」

「ううん、何でもない、行こう?」

 こうして2人は通路を引き返し、階段近くで人が来ないか半日以上見張った。
 途中、生存者カウンターに変動があったが本当に変化といえるものはそれだけで誰も来ないまま時間だけが過ぎていく。
 夜は交代しながら休むことにした、エレベーターから戻って来る途中でたまたま戦闘禁止エリアを発見し、そこでは戦闘行為が出来ないということで休むにはうってつけの場所と言えたので襲われる心配もなく、睡眠も満足に取ることが出来たので特に問題ないはずだった。

「あ、ちょっとトイレ行ってきていいかな?」

 だから一ノ瀬が不意に発した言葉にも優希は特に不信感を抱くことなく頷いた。

「トイレ行くだけでわざわざ許可なんて取らなくてもいいわよ?ここは私が見張っておくからさっさと行ってきなさい?」

「は~い」

 そうして一ノ瀬はトイレに行くと言って優希の前からいなくなり。
そのまま帰ってくることはなかった。
 この時、優希は深く考えていなかったのだ、既にゲームが開始してから24時間が経過したことの本当の意味を、そして優希のもとには疑問だけが残った。

「ジョーは一体どうやって?」

 エレベーターは壊れていた、階段は自分が見張っている。
 それなのに一ノ瀬はこのフロアから姿を消した。
 あの後、戻って来ない一ノ瀬を探し回った優希はついさっきPDAを探知するソフトウェアを見つけていた。
 これを使えばすぐに一ノ瀬を見つけられると考えてインストールした結果、12の光点が地図に表示されていた。
 6階に自分の物と思われる光点を除けば残りの光点は全て3階に密集している。
 つまり一ノ瀬は3階にいるということだ、6階から自分に見つからないように移動し、何故か3階にいる一ノ瀬。
 これが何を意味するのかは優希にもわかっている。
 認めたくはない、認めたくはないが……一ノ瀬丈は、御剣優希を裏切ったのである。

「行かなくちゃ」

 それでも優希は立ち上がる。
 階段の段差を利用した椅子から立ち上がり、スカートについた埃を掃う。
 頬を伝う涙を服で拭い、折れそうになる心に何度も喝を入れた。

「ジョーに会いに行かなくちゃ、きっと何か理由があるはずだから」

 裏切られたってまだ一ノ瀬が死んでない。
 生存者は未だ11人のままだ。
 つまりこれが本当であると仮定するならあの時点で死んでない一ノ瀬が死んでいることは有り得ない。
 優希は深呼吸するとサブマシンガンを担ぎ、階段を降りはじめた。
 これを練習する時間は十分にあった。
 そして優希は女性にしては身体がかなり大きい、喧嘩も子供の頃から男の子を相手にしたこともあるし、部活の演奏で肺活量を強化するために朝のランニングも欠かさず行っているため体力には自信がある。
当初こそ反動がひどく、うまく扱えなかったが今ならこれも十分武器になるという自信があった。
防弾チョッキを身に纏い、腰にはナイフと小型の拳銃。
 PDAにも生存者カウンター、PDA探知などを初めとしたソフトウェアが充実している。
 6階に長時間滞在し続けた優希の装備は現在3階にいるプレイヤー達から見たら脅威にしか映らないだろう。
 だが、今は一ノ瀬を連れ戻すことのほうが大切だ。

「行ってきます、ちょっと怖いけど、ここでジョーを見捨てたら良輔に会わせる顔がないじゃない、それに……無事に家に帰すって約束、私は忘れてないからね?」

『ジョーも他の人達も、1人残らず私がここから連れて帰ってやろうじゃない?』

 決意を新たにした優希は戦場へとゆっくり下りて行った。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






 一方その頃、良輔と柊は2階から3階へと上がり、通路を歩いていた。
 2人の手にはそれぞれ1台ずつPDAが握られているがこれは本人の物ではない。
 柊が泣きやんでいきなり追及されたのが良輔の持つもう1台のPDAだった。
 それをjokerかもしれないと考えていた柊に事情を説明するのは大変骨が折れたが白井で実験しておいたことがここでプラスに働いた。
 何とかわかってもらうことはできたが騙した代償として白井のPDAは柊が持つことになる。
 最初に騙されたのは自分なので理不尽だと良輔は思ったがPDAがないと不便であることは間違いないので仕方なくその要求を飲むことにした。

「へくちゅ!!」

「……風邪か?」

 突然柊が妙にかわいいくしゃみをしたため、良輔が笑いをこらえながら話しかける。

「違うわよ!この格好が寒すぎんの!」

 身に着けたカッターシャツを見下ろす柊、その身には下着さえつけておらず、股の下がスースーと風通しの良いことになっていた。

「そうだよな、馬鹿は風邪ひかないもんな?」

「な、なんですって!?」

 柊は顔を真っ赤に染めて怒るのだがいかんせんその格好では全然怖くない。
 むしろ腹を抱えて笑ってやりたい感情を抑えながら、しかし良輔は苦笑していた。

「ゴホン、しかし、そろそろ本当に服が欲しいな」

 苦笑する良輔を睨む柊を見て1つ咳払いするとそう呟いた。
 あれからまだ誰にも遭遇していないからこそ良いようなものの、もしシャツ一枚の少女を連れて歩いている姿を見られればどのように思われるだろうか?
 ……あまり考えたくなかった。
ちらっと良輔の目に扉が映る。

「おい、この部屋を調べるぞ」

「わかったわ」

 そして2人は部屋に入って行った。

「とりあえず服だ、服を探そう」

「そうね、今回ばかりは僕も全面的に同意だわ」

2人は疲れた表情を浮かべながら部屋にあるダンボールを開けていった。

「っ!?良輔ちょっと来て!」

「何っ!?服があったのか?」

 その声を聞いて良輔は表情を明るくする。

「今はそれどころじゃないのよ、早く来なさい!」

 しかし柊のそのはしゃぎように良輔はただごとではないと感じて走り寄り、その手に握られた黒光りする物体を見た。

「なっ!?」

 黒光りするその物体は……暴力の象徴とも言える、拳銃だった。

「すごく綺麗」

 柊はうっとりした表情でそれを握り締める。

「……、」

 若干引き攣った表情を浮かべると良輔はダンボールの中にもう一丁同じ拳銃があることに気がついた。
 弾倉を開けると中には鉛の弾が6発入っている。
 1つ取り出すとそれを手に取って触る、冷たい金属の感触、試しに床に落としてみると予想通りカランと高い音を立てた。

「そんなことしたって本物に決まってるじゃない?」

 柊はニヤニヤしながらそう答える。
 良輔も偽物だとは思ってなかったが柊の場合はそれが本物であること以外を許さないという決めつけのようなものだと感じた。

「ふんっ」

 良輔は面白くなさそうに手元の拳銃を睨む。
 こいつはこれで撃たれることを考えていないのだろうか?

(いや、こいつは……)

 撃つことしか考えていないのだろうなと新しい玩具をもらったかのようにはしゃぐ柊を良輔は冷めい目で見つめていた。
 だがこうしていても始まらない、部屋を見渡してみるが目ぼしい物はありそうになかった。

「そろそろ行くぞ?」

「はいはい、わかりましたってね」

 柊はご機嫌なためか、らしくもないおちゃらけた様子で答えた。

「……、」

 それを無視して良輔は部屋の扉を開けて部屋を出た。

「うん?」

 しかし部屋を出た良輔の視界の隅、遠くに学生服の少女がいた。
 それはエントランスホールで一度あったきり遭遇していなかった、確か夏本という少女だっただろうか?

「っ!?」

 忙しなく視線を動かし、やがて夏本も良輔の姿に気づいたらしく、びくっと体を震わせ、怯えたような目でこちらを見ている。
 夏本の頬には傷が走り、血が滲んでいた。

(誰かに襲われたのか?)

 その傷を見て良輔は夏本が他のプレイヤーに襲撃されたのだと考えた。

「夏本!お前も無事だったんだな?」

 早速見つけた獲物を逃すまいと拳銃を服の下に隠したまま友好的な態度で近寄ろうとする。

「こ、来ないでください!」

 夏本は震えた声で叫ぶ。

「待ってくれ、俺達はお前に危害を加えるつもりはない!」

「嘘です、水谷さんも最初はそんなこと言って近づいて来て、襲ってきました!私、水谷さんから必死に逃げて……俺達?」

 夏本はその言葉に首を傾げる。
 柊がまだ部屋の中にいたため良輔の姿しか夏本には見えていなかった。

「良輔?誰かいるの?」

 その時、最悪のタイミングで柊が部屋から出てきた。
 柊は持っていた学生鞄の中からいらない勉強道具などを捨て、拳銃を代わりにそこに入れていたので良輔より出てくるのが少し遅かったのである。
 その表情には拳銃を見つけたことによる満足の表情が浮かんでいた。
 更に部屋を出たところで夏本を見た瞬間に獰猛な笑みを浮かべる。
 しかし夏本は柊のそのあられもない姿を見て絶句した。
 白いカッターシャツを一枚だけ着ているだけですぐその下から艶めかしい足が太ももから完全に見えている。
 髪は乱れ、その表情には何故か満足気な笑みが浮かんでいた。

(ひ、柊さん?も、もしかして!?)

 夏本の頭の中に良からぬ妄想がもわもわと浮かぶ。
 そこは薄暗い部屋の一室、白いベッドが1つ置いてあった。
 そのベッドの上には柊が良輔に押さえつけられている。
 衣服も剥がされ、良輔に乱暴される柊。
 夏本は身も心も良輔の色で染められていく柊を、裸で絡み合う2人を妄想し、その顔を真っ赤に染めた。

「ひ、卑猥です!!」

 あわあわと狼狽えると湯気が出てきそうな頭をいやいやするように振る。

「お、おいちょっと待て、そっちは間違いなく誤解だ!」

 卑猥という言葉と夏本の態度から夏本がどういうことを想像したのかわかったために弁明をしようとする。

「ま、まさか私も同じ手口で?あわあわ、き、気持ちは嬉しいのですが私にはそういう趣味がないので……失礼します!」

 しかし夏本は良輔の話も聞かずに逃げ始めた。

「お、おいちょっと待てって!」

 良輔は逃げる夏本を追う、柊も同じように走り始めた。

「……お前のせいだ」

「そんなことは今どうでもいいでしょ?それで、殺るの?殺らないの?」

「そんなもん殺るに決まってるだろ!」

「ふふっ、そうこなくっちゃ、僕、良輔のそういうところ……好きよ?」

「ぜ、全然嬉しくねえ!?」

 冗談を言いながらも2人は拳銃を取り出し、夏本に向けて発砲した。

「っ!?きゃああああああああああああああああああ!!」

 夏本はそれに驚き、泣き叫びながら、しかし足は止めずに本気で良輔達から逃げ始めるのだった。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






「痛って」

「大丈夫?飯田おじちゃん?」

 良輔達と夏本が遭遇して、少し後くらいの頃、幸村達は3階にある戦闘禁止エリアの一室で食事を取っていた。
 飯田の腕には白い包帯が巻かれている。

「な~にこれくらい、かすり傷ってもんよ!」

 パシッと包帯を叩くと少し染みたがこれといった問題はなかった。

「飯田さん、これからはもっときつくなる、3階に上ってからは銃も見つかったし気を付けていかねばかすり傷では済まんぞ?特にあの赤髪の男には気をつける必要がある」

「だな」

 幸村の言葉に飯田は頷いた。
まだ1階が侵入禁止エリアになる少し前、幸村達は2階で一度水谷に襲われたがその時、水谷はナイフしか持っていなかった。
そのためクロスボウを既に見つけていた幸村の敵ではなく、すぐに水谷もそれを悟ったのか退いた。
しかし、水谷はただで退くのが相当プライドに触ったのか持っていたナイフを投げる、幸いなことにそれは飯田の腕をかすめるだけだったが次に会うときは水谷も銃で武装しているかもしれない、そうすればかすり傷では済まないだろう。

「お父さん」

 美姫は不安そうに幸村のズボンを掴んだ。

「大丈夫だ、美姫は私が必ず生きてここから帰して見せる、私の命に代えても、な」

「……うん、ありがとう、でもこのままじゃお父さんが」

 それが幸村だけが自分のPDAを持っていないことを心配してのものであることが幸村にはすぐにわかった。

「美姫がそんな悲しそうな顔をしなくてもいいのだ、案ずるな、私に考えがある」

「本当?」

「本当だとも、それとも美姫はお父さんが信用できないか?」

「……ううん、信じてるよ?」

「美姫?」

 幸村が突然元気のなくなった美姫を心配するように頭を撫でようとしたその時だった。

『あなたが入ろうとしている部屋は戦闘禁止エリアに指定されています。戦闘禁止エリアでの戦闘行為を禁じます。違反者は例外なく処分されます』

「誰だっ!?」

「うわっ!?ちょ、ちょっと落ち着いて?僕は怪しい人間じゃあないからっ!」

 見知らぬ少年が敵意は、ないということを示すかのように両手を挙げて入ってくる、年の頃はまだ幼さが残り、身長は男性にしては少し低いだろうか?
 幸村達の警戒を他所に本人は幸村達を見つけるとすぐにニコッと笑みを浮かべた。

「落ち着け幸村!ここは戦闘禁止エリアだ、相手だって何もできやしねえ」

「むう」

「えっと、まずは初めまして僕は一ノ瀬丈っていいます、どうぞよろしく」

「あっ、初めまして、美姫は西野美姫だよ!」

「飯田章吾だ、よろしくな?坊主」

「……幸村光太郎」

 最初に美姫が元気よく挨拶し、その後に続いて飯田達も自己紹介をする。

「実は状況が全然わかってなくって……ルールとか知ってたら教えてくれないかな?」

「ああ、これがルール表だが……坊主は今まで誰にも会わなかったのか?」

「うん、このPDAに乗ってたルールから侵入禁止エリアっていうのがあって上に行かなきゃならないっていうのだけはわかったんだけど」

 一ノ瀬は飯田からルール表を受け取るとその文面に目を走らせながらそう答えた。

「後もう1つのルールは?」

「4番だよ、jokerに関してのルール、僕はこのjokerを探してるんだけど誰か知らないかな?」

 飯田の質問に一ノ瀬はそう答える。

「joker?ってことは坊主の条件は……」

「僕のPDAはハートの【2】、クリア条件はjokerの一定時間所有が条件なんだ」

 その問いかけにあっさりとPDAを公開する一ノ瀬。
 飯田はその不用心さにちょっと心配になる。

「このPDAはjokerの偽装を見破ることができる、おじちゃん達を疑うわけじゃあないんだけど念のためPDAの待機画面を確認させてもらってもいいかな?」

「……画面に触らないと誓えるか?」

「うん、jokerでないことを確認できればPDAには絶対に触らないよ」

 一ノ瀬は幸村の低い声にも笑って頷くとPDAを持ったまま両手を後ろ手に組んだ。
 その反応を確認してから飯田は幸村に視線を送る。
 幸村は渋々といった表情で頷いた。

「わかったぜ坊主、これが俺のPDAだ」

「スペードの【10】、jokerじゃあないみたいだね」

 まずは飯田からPDAを見せる。
 一ノ瀬はゆっくりと飯田に近寄り、その画面をしっかり確認した。

「……これが私のPDAだ」

「クラブの【3】、これもjokerじゃあないけど」

 次に幸村がPDAを見せると目に見えて一ノ瀬の表情が引き攣る。

「安心しろ、私達にはまずするべきことがある、ここで手出しはせんよ」

 まずは美姫の安全確保、そのために6階の戦闘禁止エリアへと向かう必要がある。
 行動は起こすのはそれからだと幸村は考えていた。

「じゃあ後もう1人」

「悪いがこの子はPDAを持っていない」

「えっ!?」

 最後に美姫のPDAを見せてもらおうとする一ノ瀬に幸村は一言そう告げる。
 案の定、一ノ瀬は驚きの声をあげた。

「この子は目が覚めたところにPDAを置きっぱなしにしてしまったらしく、私達が気づいた時には既に1階は侵入禁止エリアになってしまっていたのだ」

「……ふ~ん、それならしょうがないね」

 その言葉に一ノ瀬は少しだけ考えると軽く笑って承諾する。
 これで用は済んだとばかりに一ノ瀬はルール表を飯田に差し出した。

「じゃあ僕はこれで、ルール表見せてくれてありがとう、参考になったよ」

「待てよ、この建物には既にゲームに乗っている奴がいて1人じゃあ危険だ、俺達と一緒に来い」

「気持ちは嬉しいけど僕はjokerを見つけるために他のプレイヤーに聞いて回らなくちゃいけないんだ、そんな危険なことにおじちゃん達を巻き込めないよ」

 一ノ瀬は申し訳なさそうに答えた。

「馬鹿野郎!ガキの分際で他人の迷惑なんざ考えてんじゃねえよ!」

 しかし飯田はそれを許そうとせず、一ノ瀬を引き留めるために頑張る。

「幸村、お前からも何か「行かせてやろう」言ってやって……くれ?」

 その予想外の言葉に飯田は信じられない物を見たとでも言いたげに幸村を睨んだ。

「何言ってんだよ幸村!?こんなガキを1人にするなんて絶対駄目だ!」

「私とてその状況を良しと思っているわけではない、だが……少年のために他のプレイヤーと接触する機会を増やすというリスクに美姫をさらすことはできないのだ」

「ぐっ!?」

 幸村の目的は美姫の生還だ、だから他のプレイヤーと接触しなければならない一ノ瀬の面倒を見ることは、幸村には出来なかった。

「少年、もし私達がjokerを見つければその時は君に進呈する、私からはそれしか言えない」

「ううん、ありがとう、それだけで十分だよ、それじゃあね?」

「あっ、おい待てって!」

 飯田が止めるのも聞かずに今度こそ一ノ瀬は戦闘禁止エリアから出ていった。

「幸村!」

 しかし戦闘禁止エリアから出ていった一ノ瀬を追うべく飯田は走り出す。

「俺はあの坊主を1人にはできねえ!後を追うぜ?」

「……止めはせん」

「飯田おじちゃん」

「悪い」

 飯田はそれだけ言って戦闘禁止エリアのドアノブに手をかけ、思いっきり開け放つ、いや……開け放とうとした。

「あれ?」

 しかしガチャガチャと音を立てるだけで扉は開こうとしない。
 まるでその扉だけロックがかかっているようだった。

「何で?」

「どうした?」

 呆然とする飯田、幸村は様子がおかしいことに気づいて話しかけてくる。

「いや、扉が開かねえんだよ」

「何っ!?」

 驚いた幸村も同じように開けようとするがやはり開かない。

「これは一体どういうことだ?」

「どういうことも何も私達はあの一ノ瀬という少年にまんまと嵌められたとしか考えられんだろう?」

「まさか、そんな?」

 信じられない、飯田の表情からそんな言葉が感じられた。

「すぐにここから出るぞ?嫌な予感がする」

「……わかった」

「うん」

 そうして幸村達は荷物を纏めると反対側の扉から出ていったのだった。





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――







「さてっと」

 一ノ瀬は戦闘禁止エリアの扉に背を預けながら中の様子を聞いていた。
 中が静かになってからPDAの画面へと視線を移す。

「おっとこっちじゃなかったね」

 画面を見て一ノ瀬はそう呟くと懐からもう1台の別のPDAを取り出した。
 取り出したPDAの地図画面を開くとそこには全部で10の光点が輝いている。

「まず僕がここ」

 一ノ瀬は1つだけ白で表示されている大き目の光点を指差す。

「それでこれが幸村さん達」

 自分から離れていく3つの光点。

「その先に2つの光点、これはぶつかるね」

 幸村達の行く先にちょうど2つの光点があり、その距離はどんどん詰まっている。

「そして階段近くの戦闘禁止エリアに光点が3つ」

 ただし1つは戦闘禁止エリアの中にあるのに対し、2つはその部屋の外にあった。
 しかもその2つの光点は徐々に移動しつつある。
 戦闘禁止エリアから離れるようだった。

「最後に……5階か」

 他の光点から隔離されるように点滅する1つの光点があった。

「動き出したってことだね?優希姉ちゃん」

 悲しそうに一ノ瀬はその光点を指差した。

「それにしても何で光点が10個なんだろ?生存者が11人なら少なく見積もっても11個首輪の光点がないとおかしいはずなのに」

 クリアしている人物が現段階でいるわけがない。
 この状況で首輪を外せる人間がいないのは簡単に想像がつく。

「探知が利かない場所がある?それとも別のソフトウェアかな?」

 しかし考えても仕方がないと思った一ノ瀬は背伸びしながら扉から離れる。

「さってと、まずは手堅くここの戦闘禁止エリアにいる人に会いに行こうかな?」

 こうして一ノ瀬は来る嵐から身を避けるべく、こことは別の戦闘禁止エリアへと向かっていったのだった。





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「ふああっ!」

「欠伸とは随分余裕だな?水谷」

 水谷の緊張感のなさを神河が咎める。

「堅いこと言いなさんなって、あれから誰も会わねえんだししょうがないだろ?」

 神河と水谷が組むことに決まってから、死体の有無を確認するために一度階段前まで戻ったがその時には既に誰もいなくなっていた。
 傍には切れたロープがあったことからどうも速水はあの2人の首輪を作動させたわけではないらしい。
 それからは3階を目指しながら移動を続けたが他のプレイヤー達と遭遇することはなかった。
 3階に上って拳銃を見つけたところから一度休憩を取りたくなった神河達は戦闘禁止エリアを目指して移動している最中だった。
 しかし突然神河の眉間に皺が寄る。

「……水谷、少し静かにしろ」

「何だよいきなり?」

「誰かいるぞ?」

 随分と慌ただしく移動する足音を神河は聞き取った。
 通路をそろっと覗き見するとそこには3人の人間がいた。
 向こうは相当慌てているのかこちらに気づいていない。

「っ!?」

 そして水谷は白衣を着た男を見て目の色を変えた。
 拳銃を握るその手に力がこもる。

「3人か、といっても1人は子供だが」

「襲う……のは当たり前だが、どう襲うかね?」

 武器もさきほど新調したばかりだ、ここで見過ごすという選択肢は有り得ない。

「戦闘禁止エリアが近すぎる、とりあえずやりすごして戦闘禁止エリアには近づけないようにする必要があるな」

 もともと戦闘禁止エリアに休みに来ただけあって本当にすぐそこにあるのだ。
 ここですぐに襲えばルールの要塞に逃げられるだけだ。

「退路を塞ぐのかい?窮鼠猫を噛むってことにならないと良いけどな」

「要はやり方次第だ」

「あん?」

 神河は意味深な笑みを水谷に見せる。

「水谷、君はここの通路を迂回して先回りするんだ、私が後ろから攻撃すれば敵は必ずお前のほうに逃げる、そこを叩けばチェックメイトだ」

 PDAの地図機能を開きながら細かい指示を出していった。

「ふうん、なるほど、挟撃しようって腹かい、そいつはいいねえ……乗ったぜ?」

「銃で挟撃する場合、相討ちがもっとも怖い、だから私は敵を追い散らせば通路に隠れている、この作戦の成否はお前にかかっているわけだ」

「オーライ、無理せずに殺すことにするぜ?最初に狙うターゲットはもちろんあいつだよな?」

「ああ、言うまでもない」

 そして神河と水谷はその鋭利な視線を先頭で歩く大男に向けた。





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「むっ?」

「どうした幸村?」

「……嫌、気のせいだ」

 何か殺気を含んだ視線を感じたような気がして周りを見渡すが誰もいない。

(気のせい?いや……何かいるな)

 何かねっとりとした空気、幾度も体感した空気だ。
 幸村は警戒をレッドにまで上げ、周囲を油断なく警戒する。

「お父さん?」

「早くここから離れるぞ、あの少年が何かしら罠を張っていてもおかしくはない」

 美姫の声に釣られて後ろを見れば通路の先にバンダナを巻いた女性がこちらを銃で狙っていた。

「全員伏せろ!」

 幸村は美姫に覆いかぶさるように床に伏せた、飯田もすぐに身を低くして通路に伏せる。
 銃声が何度も聞こえて幸村達の頭上を通り過ぎていった。
 しかし負けじと床に伏せたまま幸村も小型の拳銃を女性に向かって引く、しかし撃つよりも前に女性が通路に身を隠したために壁を少し削っただけの効果しかなかった。

「立て!前に向かって走るんだ!」

 2人を立ち上がらせて全力で前に走り出す。
 しかし幸村の予想に反して後ろからの銃撃はなかった。
 何かが変だ、そう幸村が感じたその時だった。

「ここでカバディー!」

 瞬間的に悪魔だと思った、赤い髪の男が銃をこちらに向けて構えている。
 先頭を走る形になっていた美姫が恐怖に表情を歪ませた。

「美姫ィィィ!!」

 幸村は咄嗟に美姫の体を掴むと引き寄せて反転する。
 まるでその男から美姫を守るように……

「ぐはあっ!?」

 そして水谷が放った銃弾が幸村の体を傷つけていく。
 しかし何発銃弾がその身に突き刺さろうとも幸村は美姫を守ることを止めない。

「……お父さん!?お父さん!?嫌ぁぁぁぁああああああ!!」

「幸村!?」

「あははっ、俺様ビクトリーロード!」

 幸村の耳には自分を呼びながら泣き叫ぶ美姫と大袈裟な声を出す飯田、そして嬉しそうに優越感に浸る男の癪にさわる声だった。

「大丈夫だ、美姫、お前だけは……お父さんが守るからな?」

 ぎゅっと優しく美姫を抱きしめる。

「ラスト一発だ、良い悪夢は見れたかぁぁぁぁ!?」

 そして水谷が高らかと勝利の雄叫びをあげると同時に、一段と野太い銃声が通路に鳴り響いた。

「ぐあっ!?」

 しかしその銃声は水谷の拳銃からではなく、別のところから発射されたものであった。
 それが水谷の肩を打ち抜き、拳銃がポロっとその手から零れる。

「何が?」

 驚く水谷、その声に通路から僅かに顔を出した神河は見た。

「プレイヤー同士が接触しそうだと思って来てみれば……やれやれです」

 そこにはシルクハットを被った、スーツ姿の男性。
そして、その男が握る拳銃から立ち上る硝煙。

「速ァァァ水ィィィィさぁぁぁん!」

 怒りを込めて神河は叫ぶ、しかし速水は未だ見たことがないほど憤怒の表情を作っている。
 そしてその目には神河と水谷はアウトオブ眼中だった。

「それにしても今回のゲームは本当にイライラしますね?メインマスターは業務を放り投げるし、キチガイ女は命狙ってくるし、本来のキャストが揃わないせいで代理の埋め合わせの世話までしたり、それでもここまでイラつくのは今回が初めてでしょう」

 シルクハットを僅かに上にあげ、鋭い視線でそいつを睨んだ。

『何故貴方がここにいるんですか?幸村さん』

 速水は血を大量に吹き出す幸村を見ながら確かにそう告げた。
 しかし幸村が出血からとても会話が出来るような状態でなかったことを悟った速水は仕方なくその同行者に目を向けた。

「その白服の人、早くその人を連れてここから逃げなさい、この2人は僕が任されました」

「――何が何だかよくわからんが……恩に着るぞ?」

「しっかり、死んだら嫌だよ、お父さん!」

 飯田はいきなり登場した速水を訝しげに見ていたが、やがてそんな状況ではないと思い立ったのか幸村を担いで立ち上がった。
 美姫もその横で懸命に幸村に話しかけていた。
 そのまま飯田達は速水の横を通り過ぎて走り去っていく。

「さてと、あの3人を追いたければ僕を倒してからにしてもらいましょうか?」

 それを見送ると速水はようやくその注意を神河と水谷に向けた。

「くそがっ!邪魔しやがって!」

「ふふっ、いくら貴方でも2人を同時に相手しようとは……気が狂ったか?」

 反対の手で拳銃を拾い上げる水谷、神河もその横へと並んだ。

「ククッ」

 しかし速水はその2人を前にしてもニヤニヤと余裕の表情を浮かべている。

「何がおかしい?」

「君達みたいな雑魚がたかだか2人程度集まったくらいで僕に勝てると本気で思ってるんですか?」

 けたけたと笑っていた速水の声が突然低くなる。
 そしてキッと見下すような視線を神河達に向けた。

『身の程わきまえろ、三下が』

 ニヤッと口を三日月にして笑い、拳銃を向ける。

「「――――舐めるなぁぁぁぁぁぁ!」」

 その背筋が凍るそうな表情を浮かべる速水を前に、2人は飲まれまいと自分を鼓舞するように叫んだ!
 同時にけたたましい銃声が響き、やがて通路には火薬の匂いが充満していった。





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――






 飯田達は後ろを突然現れた男に委ね、通路で幸村の応急処置を施していた。
 止血を施し、簡易コンロで水を沸かせて救急セットに入っていたピンセットで銃弾を摘出していく。

「ぐっ!?」

「お父さん、しっかり!」

 苦痛に顔を歪める幸村に美姫は一生懸命話しかけていた。
 
「助かるよね?お父さん死んだりしないよね?」

 その目に涙を浮かべながら飯田に問いかける。
 飯田は汗を流しながら丁寧に銃弾を摘出し、糸で縫合していった。

「美姫、落ち着いてよく聞け」

 しかしそれでも飯田の表情は明るくならない。

「銃弾は全て摘出した、止血もやってる、だが……ここに来るまでに血を流しすぎた、危険な状態だ……このままじゃあ遠からず――」

 受けた銃弾が多すぎる、幸村の鍛えられた体に何発も突き刺さった銃弾は小型の物で距離がそこそこあったせいか1発1発は致命傷にならなかったがそれでもこれだけ貰ってしまえば命は保障できない。

「遠からず?遠からず何!?――――死なないよね?絶対助かるよね?」

「落ち着け美姫!」

 錯乱する美姫を押し止めるように飯田は美姫の肩を掴む。

「これが落ち着いてられるわけないじゃない!?お、お父さんがもし死んだら、み、美姫のせいだ、美姫が悪い子だったからこんなことに」

 美姫は飯田の手を振り払って頭を抱え込む。
 しかし突然はっと何かに気づいたように飯田を見つめた。

「輸血、輸血が出来ればお父さんは助かるの?」

「ああ、それは保障する……だが、そんな設備も輸血できる血液もここには」

 そんなものがあれば誰も苦労しない、しかしそれがないからこそこの状況に救いがないのだ。

「ううん、あるよ?」

 何故か美姫はそれをあると断言する。
 それを訝しむ飯田だったが……

「……それは本当か?」

 しかしもしかしたら美姫は何かを知っているのかもしれないと一縷の希望を持って聞き返した。

「6階には医療室があるの、ここからエレベーターに乗って行けばすぐだよ、ついて来て?」

「あ、おい!?」

 飯田の声も聞かずに美姫は走りだす、飯田は幸村を担ぎ直して美姫を追った。
 美姫は迷いのない足取りで走って行く、そのままついていくとエレベーターホールに辿り着いた。

(あれ?何でこいつ)

 飯田が何かおかしいと感じ始めたその時、美姫は一生懸命背伸びしてエレベーターのボタンを押していた。

「早く、一秒でも早く」

 美姫はエレベーターランプを焦った様子で睨んでいた。
 しかし……

「何で?」

 美姫の顔が真っ青に染まる。

「何で動かないの?」

 涙を浮かべながらエレベーターの扉へと走り寄った。

「お願い!動いて、動いてよ!」

 ドンドンと扉を力強く叩く、それを飯田は後ろで見ていることしかできなかった。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






 そのまま成すすべもなく時間は流れた。

「美、姫?」

「お父さん!美姫は、美姫はここにいるよ?」

 幸村の表情からは既に生気が抜けてしまっていた。
 よろよろと上がる大きな手を美姫は握り締める。

「済まない、お父さん、もう……駄目みたいだ」

「っ!?駄目じゃない!駄目なんかじゃ!!」

 否定するように首を横に振る美姫、それを見て幸村は苦笑した。

「ははっ、最後まで駄目な父親だな……私は」

 そうして美姫の目から流れる涙を拭ってやる。

「しかし良かった、私が死ねば、1人カウントされる」

「嫌、お父さん、そんなこと言わないで!」

 幸村は胸ポケットにしまってあるPDAに手を当て、嬉しそうにそう答えた。

「飯田さん、美姫を、美姫を……」

「幸村っ!死ぬな!死ぬんじゃねえっ!?お前は他人を殺してでも美姫を助けたかったんだろ?だったら、こんなとこで死ぬとかほざいてんじゃねえよ!!」

 そして美姫を飯田に頼み込もうとする。
 飯田もまた涙を流しながら幸村を励ました。
 その反応にふっと柔らかく微笑むとまた美姫を見つめる。

「美姫?」

「何?お父さん」

「しばらく、見ない間に大きくなった、な?私が、最後に見たのは、幼稚、園の卒園式……だったか?」

 幸村はまるで走馬灯でも見ているかのように思い出話を始めた。

「済まなかった」

「えっ?」

 しかしそれも半ば、突然謝られた美姫は何のことかわからず狼狽する。

「お前がまだこんな小さい、のに私は美姫の傍に居てやれなかった……ずっと謝りたいと思っていた」

「そんなの!そんなことどうだっていい!!お父さんが生きててくれたら、また一緒に暮らせる……美姫が成長していくとこ、ずっと見ていてもらいたいの!」

「……あははっ、それは、良いな、そしたらいつも美姫がおいしそうにご飯食べるところ、いつでも見れるのに」

「ふふっ、お父さんってお料理得意だもんね、美姫は食べるくらいしかできないけど」

 ニコリと笑う美姫を見て幸村は満足そうに微笑んだ。

「美姫、最後に私のわがままを聞いてもらっても、いいか?」

「うん、何でも――好きなこと言っていいよ?」

 幸村は暖かく微笑むと美姫を思いっきり抱きしめた。

     こうして、一度、思いっきり抱きしめてやりたかったんだ
                ――ありがとう、本当に大きくなったな?

「お父さん……」

 美姫の目からまた涙が溢れ出てくる、そして幸村は最後にそれだけ、最後の力を振り絞って美姫にだけ聞こえるくらいの声で囁くと。
 その手から力が抜け、パタリと床に落ちた。

「……、」

 飯田は幸村の手をとり、脈を計る。

「くそっ」

 首を振る飯田を見て美姫は自分の父だった物を虚ろな目で見上げる。
 その死に顔は、娘を抱きしめる心優しい父親として逝っていた。
 安らかな死に顔だった。

「嘘、こんなの嘘」

 美姫は自らの顔を幸村の亡骸に押し付ける。

「お父さん、うっ、ううっ、嫌だよお父さん、これからはいい子でいるから、勉強でも何でも、するから……一緒に居てよ、もう1人は寂しいよ」

 その涙が死んだ幸村のシャツを濡らしていく。
 そんな美姫を、飯田は何とも言えない表情で見つめていた。

「……美姫、こんな時だけどひとついいか?」

 飯田の声に美姫はぶるっと体を震わせた。

「何でお前、6階に医療室があるなんて知ってたんだ?」

 正確に言うとあるかどうかはわからない、飯田が確かめたわけでないのだから。

「……なんとなく、上に行けばそういうのもあると思って」

 美姫は涙声で、しかしどこか言いにくそうに答える。

「本当に?」

「嘘じゃないよ?何言ってるの?今の飯田さん、おかしいよ」

 大きな声を出して飯田を非難する美姫。
 しかし、飯田の胸の中には疑問が湧き上がっていた。

「じゃあ何でお前はPDAも見ずにここまで来れたんだよ?」

「っ!?」

 美姫のPDAは今も幸村の胸ポケットに眠っている。
 地図機能もないのに来たばかりの3階で何故エレベーターまでの場所がわかったのか?
 飯田はそれが引っかかっていた。
 そして、美姫の表情が、驚愕に歪む。

「美姫、お前は一体?」

「っ!?」

 飯田がそれを追及しようとした時、美姫は持っていたポーチから小型の黒い拳銃を取り出した。

「なっ?」

 銃声と共に飯田は床に倒れ込む、何が起こったのかと自問自答してわかった。
 撃たれたのだ、美姫に、その証拠に美姫の持つ拳銃からは硝煙が上がっていた。

「うるさい、うるさい」

 美姫は頭を抱えながら喚くが、倒れた飯田を見ると壊れた笑みを浮かべる。

「飯田さんが悪いんだよ?お父さんも助けてくれない、役立たずの癖に美姫の正体になんか気づくから」

「美姫、やめろ!?一体どうしたっていうんだ?」

 笑顔のはずなのに、何故かまるで凍りつくような、例えるなら人形でも見ているような感情の籠っていない笑みで、美姫が自分を見下ろしている気がした。
 飯田の顔に恐怖が滲み出る。

「そんなに教えて欲しいなら教えてあげる、美姫は……」

 クツクツと笑うと美姫は高らかに歌いあげた。

『このゲームの管理人、飯田さん達を連れてきて閉じ込めた奴らの仲間の1人、メインマスター西野美姫!改めて初めまして、だね……おじちゃん?』

「なっ?嘘、だろ?何でお前みたいな子供が」

 だが、それなら証明ができる、何故美姫はPDA無しでもこの建物を動き回れたのか?そしてエレベーターまで移動できたのか?簡単だ、美姫が犯人の一味であるというなら、この建物を最初から知っていたというなら、例え地図無しでもエレベーターや階段などといった要所といえる場所なら細かい地図がなくても移動ができたはずなのだ。

「俺達は……ずっと、騙されてたっていうこと、かよ!?糞が……」

「美姫ね、飯田おじちゃんのこと、嫌いじゃないよ?嫌いじゃないの……でもね?すごく邪魔なんだよ、わかるよね?すごく邪魔なの、だから……」

「や、止めろっ―――止めてくれ!?」

 美姫の構える拳銃が飯田の眉間に狙いを定めた。
 しかし芋虫のように床に這いつくばる飯田にはどうすることもできない。 


















            今まで、ありがとう、おじちゃん。
                           ばいばいっ――













[22742] 16話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2011/06/05 19:40
【BET】
player  suit  card  odds  BET
北条良輔  ♦  5  9.0  -
御剣優希  ?   ?  5.5 トぺルカさん(40)
夏本玲奈  ?   ?  7.4 油桜さん(50)
柊桜    ♦  9  3.5 nidaさん(40) 結崎 ハヤさん
西野美姫  ♣  3  8.0  -
神河神無  ♣  A  2.3  -
白井飛鳥  ♠  6  Death  -
杉坂友哉  ♠  Q  Death  -
一ノ瀬丈  ♥   2  5.1  ナージャさん(40)
速水瞬   ♥  K  1.7 -
幸村光太郎 ♦  4  Death  -
飯田章吾  ♠  10 Death ヤマネさん
水谷祐二  ♥  7  2.6 ヴァイス(30)
Day 2日目
Real Time 午後 7:30
Game Time経過時間 33:30
Limit Time 残り時間 39:30
Flour 3階
Prohibition Area 1階
Player 9/13
注意事項
この物語はフィクションです。
物語に登場する実在もしくは歴史上の人物、団体、国家、領域その他固有名称で特定される全てのものとは、名称が同一であっても何の関係もありません。





 通路を濃厚な血の匂いが包んでいた、鉄を含んだむわっとする匂いが美姫の鼻腔をくすぐる。
 しかし美姫は何でもないように鼻を鳴らすと冷たい目で床を見下ろしていた。
 正確には床に転がっている飯田章吾の変わり果てた姿を、だが……
 飯田は頭を銃で撃ち抜かれており、虚ろな目で天井を見上げていた、しかしその目にはもう何も映ってはいないだろう、表情を恐怖に歪め、明らかに死んでいる。
 それはお世辞にも安らかに死ねたとは言い難い有り様だった。
 美姫は飯田の死体に近寄るとその胸ポケットからPDAを奪い取る、最後に飯田の頭を踏みつけると、それっきり興味を失ったように飯田から目線を外し、横で死んでいる自らの父に視線を向けた。
 飯田とは一変し、沈痛な表情を浮かべて幸村の死体に近寄って行く。

「ごめんねお父さん、美姫はもう悪い子になっちゃってたんだ……でも、それでも……助けに来てくれてありがとう」

 美姫は傍に腰を下ろすと父に預けていた【3】のPDAを取り出した、機能を呼び起こしても特に何ら変わりのないPDA、しかし美姫は待機画面を呼び出すと右下の空白をタッチするとブンッとノイズ音を立てて画面が切り替わった。
 マスター用にカスタマイズされたPDAは、通常モードとマスターモードの状態が存在し、右下の空白に触れることで機能を切り替えることができる仕様となっていた。
 これはゲームマスターが何らかの事情でPDAを他プレイヤーに見せることを懸念した機能である。
 例えばルール交換時に地図機能を開いて他のプレイヤーに見せる場合、マスター状態のPDAなど見せればすぐにその特異性に気づかれてしまう。
 しかしPDAを通常状態に切り替えられるならその秘密を隠しながら地図機能について説明ができる。
 他にもソフトウェアをインストールする際に罠を危惧して躊躇うプレイヤーが普通にいる、何らかの罠であった場合、最悪自分のPDAが動かなくなる可能性を考えればこの行動自体は責められたものではないが、かといって一切のソフトウェアなしでゲームを進めるというのは明らかに不利だ。
 仮にそうなった時、ゲームマスターは自分のPDAにインストールしてソフトウェアの安全性を他プレイヤーに理解させる必要がある、しかしこの時に同じソフトウェアをPDAにインストールするとPDAに2つ同じ機能が備わっていることになってしまうのでjokerで偽装されて機能を覗き見されると不審に思われるという難点があった、昔はこの辺りが考慮されていなかったらしく、joker所有者にゲームマスターが特定されてしまう上にマスター用の機能を使われて無双されることがたまにあったらしい。
 そこでゲームマスター用のPDAに通常モードとマスターモードを切り替えられるように作った。
 ゲームマスターがソフトウェアを通常状態のPDAにインストールすることができるようになったことで機能が重複することはなくなり、jokerでマスター用のPDAを偽装しても通常モードにリンクするようになっているのでゲームバランスを大幅に崩すということもなくなった。

「……、」

 美姫がマスター用の機能の項目を開くとそこには大量の機能が既にインストールされていた。
 これらはゲームマスターがゲームメイクする上で有用な機能の数々である、美姫は迷うことなく首輪探知を作動させると地図上には自分を含めて10の光点が輝いていた、自分とその周囲を合わせて3つ、これは美姫と幸村と飯田だ、他は2人1組で組んでいるらしくもう既に4階へと登っている組が2つ、もう1組も4階へと登ろうとしていた、残る1つは5階にあるのだが何故かその光点は4階へと降りようとしているらしい。
 ここで足止めされている間に、ほとんどのプレイヤーが先に進んでしまっていることに少しだけ焦りを覚えたが、まだゲームは2日目……挽回は容易いと考え直して残り生存者を確認することにした。

「あれ?」

 美姫の眉間に皺が寄る、訝しげに見るその視線には『生存者:9人』と表示されていた。
 さっき検索した首輪は自分達を除いて全てが動いていた、そうなると首輪の数は11が正しいはずだ、しかし首輪の光点は10個、他プレイヤーが死んだプレイヤーの首輪を回収したのだろうか?もちろんそれは有り得ることで、クリア条件に直接関係なくても交渉材料としてPDAだけでなく、少し手間がかかるが首輪も回収していくプレイヤーが居てもまったくおかしくはない、おかしくはないのだが……

「……はあ」

 そこまで考えて美姫はある事実に気がついた。
 首輪の光点は5階の物を除けば全て2人1組で行動している、そう、【いないのだ】……間違いなく1人で行動していたはずのプレイヤーの反応がない。
 美姫はすぐにその意味を悟ると溜息をついたのだった。

「そこに隠れてるんでしょ?いい加減出てきたらどう?」

 振り返って通路の曲がり角を睨む。
 照明に照らされているが、薄暗い通路の影から、やがて観念したのか1人の男が出てきた。
 その男性は黒いスーツに身を包み、シルクハットを被り、柔和だが、どこかぞっとするような笑みをその表情に張り付けていた、その風貌から知らない人が見ればどこかの手品師のように映ったであろう。
 しかしその実態は……人間の皮を被った、悪魔だ。

「やっぱり貴方だったんだね、速水さん」

「慧眼恐れ入ります、元気にしているようで安心しましたよ、美姫?」

 極めてフレンドリーに話しかけてくる自らの先輩に、思わず美姫は後ずさりする。
 しかし速水はそんなことに気も留めず、コツコツと黒の革靴から高い音を響かせながら距離を詰めてきた。

「……さっきの2人組はどうしたの?」

「適当に遊んでお帰りいただきましたよ、生憎と殺す前に逃げられましたけど」

 何でもないことのようにさらっと言われてしまった気がする、恐ろしいほど柔和な笑みを浮かべるこの男にとって、2人組とはいえ自分の父を殺せるほどの実力者さえ敵にはならないらしい、敵対するのが馬鹿らしく思えるほどの強さだと美姫は感じた。

「さて、それで何故業務を放棄したか事情を話していただきましょうか?場合によってはここで君を殺さなくてはいけません、なにせ上から君への処罰命令が出ていましてね」

 自分との距離が縮まり、その距離は5mくらいの近さになったところで、速水は一転して威圧するような声へと変化する。
 美姫は背筋がゾクゾクと這い上がってくる恐怖に、決して飲まれまいと震える足に力を入れて速水を見上げる、その漆黒の瞳で人が殺せるのではないかと考えてしまうぐらい、強く、鋭い視線で美姫を見下ろしていた。

「業務放棄?何のこと?」

「おや、とぼける気ですか?今まで何の行動も起こさず、おまけに定期連絡までしなかったそうですね?違いますか?」

「ううん、速水さんは勘違いしてる、美姫は業務を放棄なんてしてないよ」

「……それを証明できますか?」

 美姫の虚言に速水は、何故かニヤリと笑うと試すように先を促した、速水がくれたチャンスを逃すまいと、当然とでも言うように美姫は頷き、用意しておいた言い訳を必死で頭に浮かべる。

「美姫のクリア条件はPDAの半径5m以内で3人以上が死亡すること、そして美姫は今回のゲームに何故か参加していた美姫のお父さんにこのPDAを預けた、この意味、速水さんにならわかるんじゃないかな?」

 用意しておいた言い訳は、美姫が父と生き残れたら当然ある詰問に備えて考えていたものだった、そしてその後で改めて組織を抜けるつもりだったのである。
 この職業は意外にも職を退いたゲームマスターの処分はしない、そもそもゲームマスターをやっている人物は大抵何かしらの事情があってやっている。
 金のためだったり、帰る場所がなかったり、殺人嗜好を持っていたりと問題だらけの人間達だ。
 だからこそゲームマスターは殉職者の方が圧倒的に多い、辞めて帰れる場所があるのならゲームマスターにならなかった人間も、少なからずいるのだ。
 もちろんどん底のどん底まで落ちて、どうしようもないという人間などこの世には腐るほどいる、そのため組織がゲームマスター個人に拘ることはほとんどないのである。
 言い方を悪くすれば、ゲームマスターといえども消耗品でしかないのだ。

「……ふふっ、なるほど、そういうことでしたか、幸村さんに【3】のPDAを持たせて他のプレイヤーを殺害させる、便宜上murder agentとでも言いましょうか?そのためにPDAを幸村さんに持たせた、だから定期連絡ができなかった……そういうことですね?」

 速水は自分が言いたいことを瞬時に悟ってくれた、不意打ちせず、こんな質問をしてきた時点でやはりとは思っていたが、速水個人には自分を殺害する意思はないらしい、個人の感情を優先し、ゲームを放棄した――恐らく速水にも多大な苦労を押し付けただろう――それでも自分にここまで気を使ってくれる速水に、美姫は深く感謝しながらも速水が握っているPDAに注意を向ける、見れば速水も先ほどからそのPDAを気にしていた。
 2人が待っているのはもちろん美姫の処分命令の取り下げだ。

「……、」

「……、」

 しかし、幾ら時間が経過しようとも速水のPDAには何の変化も起きない、つまり美姫の処分命令が未だ取り下げられていないということだ。
 速水の顔に今まで一度も見せたことがない焦りが浮かんでいた。
その表情を見て、自分の最期を悟った美姫は、諦めたようにその表情に影を落とす。

「そっか、そうだよね?やっぱ……駄目、だよね?」

 もし美姫の企みが成功していたならばきっと自分は許されただろう、その自信はある、しかし襲撃してきた2人組が全てをぶち壊した、幸村は既に死亡し、美姫の企み――murder agentを成功させて自分の父と共に日常へと帰る――は見事に失敗した、これでは観客が自分を許せずともしょうがないことだ、速水の温情は非常に有難いがどうやら自分はここでゲームオーバーらしい、抵抗しても自分ではとても速水には敵わないだろう、仮に勝ったとしてもその後で組織に処分されるのではやるだけ無駄だ、それならせめて、一切疑わずに最後まで自分を信じ、騙されていることさえ知らぬまま自分を庇って逝ってしまった、呆れるほど馬鹿で、笑えるほど愚かで、目を避けたくなるほど報われなかったけど、それでも、それでも泣きたくなるほど優しかった父の傍で死ぬことにしよう、そう考えて、思わず美姫は自嘲した。

「……ということは自分の父に対しては一切の私情はなかった、そういうことですね?」

「えっ?」

「聞こえませんでしたか?自分の父に対しては一切の私情はなかったのか……そう聞いているんですよ?」

「っ!?……はい、そう、です」

 いきなり何を言い出すのかと思ったのも束の間、有無を言わさずといった表情で速水に睨まれたために美姫は思わずそう答えた。

「それでは証明していただきましょう」

 速水は頷くと、懐から一本ナイフを取り出すと美姫に向かって放り投げた、それはカラカラと音を立てて美姫の足元まで転がり、何が何だかわからないまま美姫はそのナイフを拾い上げる。
 何をやらされるのだろうか、美姫は不安を紛らわせるように拾い上げたナイフを握りしめた。

「今回の僕のクリア条件は半径5m以内での首輪3つ作動です。しかし僕がここで首輪を作動させてしまうと面白くありませんからね、そこで……」

『このナイフで幸村さんの首を切り落としなさい』

「っ!?」

 速水の言葉に、美姫の顔が真っ青に染まる。
 涙を目に溜めて幸村を見下ろすが、すぐに首を横に振って狼狽えた。
 できるわけがない、これ以上はもう、やりたくなかった、もう限界だと言外に速水に伝える。

「どうしました?出来ないんですか?」

 速水が一歩、踏み出してその距離を縮める。
 その目が言っていた、出来なければ……殺すと。
 美姫はゆっくりと振り返ると父の亡骸、命懸けで自分を守ろうとしてくれた……自分の父親だ。
 知らなかったとはいえ、こんな自分を最期まで自分の娘だと言ってくれた実の父親だ。

「まったく君は甘ちゃんですね?今更幸村さんの首を切り落とすぐらいで何を迷っているんですか?」

「っ!?」

『君は義理の父と、命乞いする実の母親さえ惨殺したんですよ?』

 今更何を迷う必要があるのか、高らかにそう主張する速水の言葉に美姫は震える、思い出すのは美姫が初めてゲームに参加した、ゲームマスターとしてではなく、1人のプレイヤーとして参加した、村を舞台としたあのゲーム……その時の美姫のクリア条件は他人を害する必要の物ではなかった、しかし他人にターゲットにされている条件でもあったために狙われ、そして最後は、自分を殺そうとした男と自分の母を……この手で、殺してやったのだ。
 今でもあのゲームで自分が生き残れたことを疑問に思う。
 運もあった、ゲームマスターとして参加した速水が手を貸していてくれなければあの時にはもう死んでいたかもしれない。
 しかしゲームをクリアしても、身寄りを自らの手で殺してしまった美姫は居場所がなくなってしまった、まさか父が愛していた母を殺した自分が、何食わぬ顔で父の元に戻るということもできず、おまけに人を殺したという事実によって精神的にも病んでしまっていた自分の居場所などあるわけもなかった。
 もういっそのこと死のうと思っていた自分を、速水がゲームマスターとして引き取ってくれた、あまりにも幼すぎる自分がゲームマスターとして生きていられるのは、速水がサブマスターとして補助を願い出てくれているおかげであり、美姫にとって速水は命の恩人と言ってもおかしくはない。
 美姫は速水の指導の下にゲームマスターとして経験を積んでいき、やがてゲームが、殺人が、破壊が、裏切りが、美姫の日常へと変わって行き、母を殺した罪悪感はどんどん薄くなっていった、恐らく慣れていったためだろう、今では、ああ、そんなこともあったなあ、くらいにしか母の死を覚えていない。
 壊れてしまった自分は、もはやゲームという異常空間の中でしか生きられない、美姫は他人を、敵を殺すことで得られる安心感が、やがて生きがいとなっていった。
 
『敵は殺してもいいんだ』

 その思想が、幼いままで狂っていく美姫の壊れた心を支えてくれた。
 自分にとって、怖いものも、危害を加えるものも、それを壊すことだけで安堵することができた、襲ってきた養父と母を殺したのは何も悪くないんだと信じ込むことができた。

「でも、でも違う……お父さんは、お父さんは」

 母達とは違い自分を守ろうとしてくれたのだ、こんな自分でも、優しく包み込もうとしてくれたのだ、温かい手で、大きな背中で、破壊衝動以外で初めて美姫を安心させてくれた。
 もしかしたら自分は、ずっと誰かに救われることを夢見ていたのかもしれない、しかしその一方では他人を信じるのも怖かった、自分に拳銃を向ける母を見ていたからこそ、父も信じ切ることができなかった、いつか裏切られるのではないかと恐怖に怯えた。
 だからこそ美姫は試すことにした、命綱とも言える自分のPDAを迷うことなく預けたのは、もしも父が自分を救ってくれたならきっと自分は父を信じることができると考えたからである。

【西野美姫は自分の命をチップに、幸村光太郎にBETした】

 結果、父は自分を守って死んだ、確かにゲームには負けたかもしれない、だが……賭けには勝った、父は、幸村幸太郎は、自分が破壊するべき敵ではなかったのだから。

『ピロリン、ピロリン』

 しかしそんなとき、速水、ではなく美姫のPDAが電子音を鳴らした、一度速水をちらっと見るが制止する気配がなかったのでPDAの画面覗く、どうやらメールが届いているようだった。

「っ!?」

 メールの差出人はなんと目の前にいる速水だった、何故口頭で伝えないのか疑問を抱くが速水の真剣な表情に、メールを開く。

ID:hayami
『ここで君が死ぬことを幸村さんはきっと望んではいない、生きろ!』

 短い文だった、しかし言いたいことは伝わった。
 美姫は泣きそうな目で父の亡骸を見つめる、安らかな死に顔だった、きっと父は自分を守り抜いたと満足して死んだに違いない。
 それなのに自分がここで死ねば父のしたことは何だったのだろうか?これではただの犬死だ、それならばせめて、せめて生き残ろう、父が最期に願ったものを無為には、できない。

「う、うわああああああああああああああ」

 そして美姫は、泣き叫びながらナイフを父の首に突き立てるのだった。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






 悲惨な死体だった、1つは首が胴体から切り離され、もう1つは首輪が作動したペナルティーによって焼け爛れていた。
 その傍で少女は膝を床について苦しんでいる。

「はあはあ」

 膝をつき、吐き気を我慢しながら美姫は蹲っていた。
 その両手は父の血で真っ赤に染まっている。

「ふむ、これは【事故】で紛れ込んだ自らの父を目の前にしてもゲームを優先したと取るべきでしょうね、それにアクシデントはゲームにつきもの、処罰するには値しないと思います」

 速水がそう宣言すると同時に今度こそPDAが振動した、その画面を確認して速水はほっとしたように息をついた。

「美姫への処罰命令は正式に取り消されました、ただし今回のゲームは僕の監視下に入っていただきます」

 また勝手な行動をされてはかないませんからね、と速水は、にこやかにほほ笑んでいた。
 自分に拒否権はない、ただ必ず生き残ってやると……いや、生き残るだけでは駄目だ、父を殺したあの2人組だけは確実に殺してやろう、美姫は悔しさから唇を思いっきり噛みしめた。

「さて、それでは一件落着したところで」

 速水は自分のPDAを首輪にコネクトする。

『ピロリン、ピロリン、ピロピロリーン』

 ファンファーレのようなアラームが速水の首輪とPDAから鳴り響いた。

『おめでとうございます!貴方は見事、このPDAの半径5m以内で首輪を3つ作動させることに成功しました!』

 カシャンと音を立てて首輪が左右に割れて床に落ち、転がる。

「良輔君達には首輪を集めるよう指示しましたが、これでは意味ありませんでしたね、まあ重要なのはそっちではないので別にいいんですが」

 苦笑しながら外れた首輪を拾うとポケットに捻じ込むと憔悴しきった美姫に視線を向けた。

「お疲れでしょう?一度部屋で休息しましょうか?」

「……、」

 そうして速水は無言の美姫を連れて手前の部屋……ではなく何故かその隣の部屋に入った。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






 速水達が入った部屋はこの廃墟の中ならどこにでもありそうな廃れた部屋だった。
 薄暗い部屋、心許ない天井の照明が、部屋にある壊れた家具を照らしている。
 速水と美姫は部屋にあったスプリングが飛び出しているベッドに腰を下ろした、ギシッとベッドが軋む音が静かな部屋に響く。

「レディーの寝顔を実況中継というのは趣味ではありませんのでカメラを切らせていただきますよ」

 パチッと音を立ててカメラのスイッチが切ると、それまで柔和な笑みを浮かべていた速水が溜息をつくと同時に、突然沈痛な顔をして美姫と向かい合った。

「演技はもうおしまい?」

 美姫は速水の顔を見上げならそう呟くと速水は苦笑した。
 被っていたカメラが入っているシルクハットを脱ぐと、木製テーブルの上に放り出す、軽量化が進んでいるとはいえ、カメラを常に頭の上に置きながら移動するというのは重労働と言えるだろう。
 そのため肩が凝っているのか速水はコキッ、コキッと首を回して肩を揉んでいた。

「ええ、この部屋は僕が細工を加えている部屋の一室ですので何をしゃべっても大丈夫ですよ、カジノに流れる映像も、音声も全て佳織の手が加わったものが送られているはずですから」

「……そんな部屋、あったんだ」

「念のため何か所か作っておいたのですが、まさか使うことになるとは僕も思っていませんでした」

 僕は組織を全然信用していませんからね、とにこやかに速水は笑う、それを聞いて美姫は驚愕するが、次の瞬間には安心したように表情を緩めた。

「そう、じゃあ……もう、泣いても、大丈夫……かな?」

 そして涙で顔ぐちゃぐちゃにする美姫を見て、速水は美姫の肩に手を回し、優しく抱き寄せていた、胸の中で堰を切ったようにわんわん泣く美姫の髪を梳いてやる。

「すまない美姫、僕がもっと早く来ていれば幸村さんは」

「ううん、お父さんのことは速水さんのせいじゃないよ、それに速水さんが美姫のために一芝居打ってくれたことも、わかってる、そうじゃなかったら美姫を見つけた瞬間に撃ち殺してるもん」

 速水は謝罪の言葉に、美姫は首を横に振った。
 おそらく父が死ぬ時には速水は既にあの場所にいただろうと美姫は推測している。
 それでもちょっかいを出してこなかったのはただ気を回してくれたのだろうと考えていた。
 そのため速水が自分を殺すつもりだと語った時も速水本人に殺意がないのは美姫にはわかっていた、もっともあそこで自分が答えに詰まるようなら本当に殺されていただろうけど。

「美姫にお父さんの首を切らせたのもそうなんでしょ?上の処罰命令を取り消させるためだよね?」

 これぐらいの演出をしなければこの狂ったゲームを観に来た客は納得しない、10年以上このゲームに携わってきた速水はそのことがわかっていた、だからこそあんな残虐な命令を下さざるを得なかったのだ、そうでなければ速水は美姫を殺害しなければいけないのだから……業務を放棄した自分にそこまで気を使ってくれた速水を責める気持ちは美姫にはなかった。

「何故だ、何故幸村さんがこの建物に?彼はプレイヤーではなかったはずだ」

「美姫にも、わかんないよ、ひっぐひっぐ、何でお父さんが?こんなの、絶対おかしいよ」

 訳が分からない、今回受け取った資料の中に父の名前はなかったはずなのに……そもそもあったら命懸けで止めていた。

「速水さん1つ教えて欲しいの」

 美姫は涙を流しながら赤く腫れた目で速水を見上げる。

『エレベーターを止めたのは、誰?』

 もしも問題なくエレベーターが動いて、医療室まで運べれば父は助かったかもしれないのに。

「……美姫、落ち着いてよく聞いてくれ」

「何?」

 速水が真剣な表情で美姫の顔を見つめる、そこにはさきほどの他人を小馬鹿にしたようなしゃべり方、態度を取る速水はどこにもいなかった。

「美姫も見たと思いますが、この建物にはもう1人、参加予定にはなかったプレイヤーが参戦しています、エレベーターを壊したのも……彼女です」

「あのバンダナ女……」

 父を殺した2人組の片割れだ。
 美姫の心は今にも怒りで爆発しそうだった。

「彼女の名前は神河神無、何故か分かりませんが、彼女は僕を狙っているようです」

「どういうこと?」

「それは僕にもわかりません、急いで佳織に調べてもらっているところです……ただもしかするとこのゲームに、僕達は目玉イベントとして抜擢されているのかもしれませんね」

「っ!?待って!ゲームメイクするべきゲームマスターがゲームの目玉なんて美姫は聞いたことないよ?」

 速水の言葉に美姫は驚きを隠せない、ゲームマスターが目玉などとは長いゲームの歴史でも前代未聞の出来事だ。

「僕もです、しかし根拠ならあります」

「お父さんと神河さん?」

「もちろんそれもあります、僕と美姫、それぞれのゲームマスターに関連しているであろう人物が本来のプレイヤーと入れ替えられている。おまけにそのことを僕達に知らせなかったという点でこれは明らかに事故じゃない、故意だと見るべきでしょう」

 確かに1人ならともかく2人、入れ替わり、それもゲームマスターと関わりがあるとなると事故だと言われても信じることはとても出来ないだろう。
 おまけに業務放棄した美姫はともかく、速水にさえ連絡がいっていないのではその裏を勘ぐることは仕方がないことだ。

「そしてもう1つの根拠、それは僕達のクリア条件です」

「クリア条件?」

「そう、僕達のクリア条件はもちろん違いがあるけど共通点もあります、分かりますか?」

「っ!?半径5m以内!?」

 美姫の【3】、速水の【K】、これに共通する項目はそれ以外にない。
 確かに、考えてみればこれはゲームマスターのクリア条件にはふさわしくない。
 なぜなら……

「飲み込みが速くて助かります、そう、この半径5m以内というのはゲームメイクしなければならないゲームマスターにとっては致命的です、何せマスタールームの使用が極端に難しくなるので」

 自分が考えたことと同じことを話す速水に美姫は静かに頷く。

「僕も最初はマスタールームの使用を制限するのが目的なのかと考えていました、でも違ったんですよ、本当の目的は……」

「美姫達に他のプレイヤーと積極的に接触させたかったんだ、それぞれに関連したプレイヤーに遭遇させるために」

 速水の言葉を引き継ぐように美姫が答えた。

「可能性としては考えておくべきでしょう」

「そっか、だからさっき速水さんは罰と称して美姫を監視下に置くなんて言い出したんだね?」

 ゲームマスターが固まって動くことは滅多にない、一緒にいる理由が皆無だからだ、そんなことをするぐらいなら別行動を取らせようとするだろう。
 それを避けるために監視という名目を使って自分の戦力を確保したのだ、イレギュラーが多出する、このゲームを乗り切るために。
 速水はゲームマスターの業務放棄というイレギュラーさえ自分の策に組み込んで見せたということを意味している。

(これが、速水瞬……ゲームマスターの中でもトップクラスの実力者!)

 圧倒的な戦闘力と冷静な分析力、膨大な経験から来る演技力。
 組織に入ってすぐに、速水と1年間、一緒に仕事をしてきた美姫でさえその姿には思わず戦慄した。

「……美姫、今回のゲームは何かがおかしい、一緒に行動するべきだ」


 美姫は改めて速水の実力を感じ取り、畏怖すると同時に速水の提案について考えた、確かに悪い話ではない、ただでさえこんな状況だ、ここで速水の協力を取り付けて置けばゲームを有利に進めることができるだろう。

「わかった、でも条件がある」

「条件?」

「美姫はお父さんを殺した神河と7thは絶対に許せない!必ず殺す!」

 そして考えた末に、美姫は速水と手を組むことを決心した、しかしこれだけは譲れない、父を殺した奴らは自分の手で処刑しなければ気が済まない。

「……わかりました、どうせ僕も神河を殺さないと下に降りられませんからね、その条件を飲みましょう」

 速水は溜息をつきながら承諾すると、PDAを操作し、携帯電話のようにPDAを耳に当てた。

『こちら回収班、どうぞ』

 コールが3回の時に相手が出たらしい、僅かに声が漏れて聞こえてくる。

「至急、幸村光太郎の遺体を回収してください、頭と胴体を糸で縫って繋ぎ合わせ、できるだけ死体の鮮度を保つように保存方法には気をつけてください」

『了解!すぐに遺体の回収に向かいます!もう1人の方はどうしますか?』

「放置で」

『は!』

 はっきりした声に頷くと速水は電話を切った。

「えと、ありがとう、速水さん……お父さんのこと、気を使ってくれて」

「いえいえ、せめてお墓くらいは作ってあげたいですから」

 速水は苦笑しながらそう答える、首輪がついたままでは遅かれ早かれ進入禁止エリアに巻き込まれて首輪が作動してしまうので――有り得ないことだが、例え組織が無条件で美姫を許したとしても――どっちにしても幸村の首は切り落とさざるを得なかっただろう、首を切り落とせば首輪を外した後で首と胴を糸で縫合すれば葬式程度はできるだろうが首輪が作動してしまえばそれさえ叶わない時が多いからである。

「速水さん、もう他のプレイヤーは4階に上っちゃってる、急ごう?」

「コラッ!」

「あいたっ!?」

 再び首輪探知を作動させた美姫は地図に目を落とし、次いで天井を見上げると、そのおでこを速水からデコピンされた。
 何事かと美姫はおでこを擦りながら涙目で速水を見る。

「少し休んでから行きます、幸い3階が進入禁止になるまでかなり時間がありますからね」

「速水さん」

「見張りは僕がやっておきますからその間、少し寝て起きなさい」

「うんっ!」

 元気な返事に速水は柔らかく笑って返すと見張りに立つべく部屋を出た。
 それを確認してから美姫は、硬いベッドの上に横になり、浅い睡眠を取ることにした。
 ゲームマスター達もまたプレイヤーであることに変わりはない、このゲームに高見の見物は……許されない。




[22742] 挿入話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2011/06/09 19:13
【BET】
player  suit  card  odds  BET
北条良輔  ♦  5  9.0  -
御剣優希  ?   ?  4.8 トぺルカさん(40)
夏本玲奈  ?   ?  6.3 油桜さん(50)、BSさん
柊桜    ♦  9  9.0 nidaさん(40) 結崎 ハヤさん
西野美姫  ♣  3  3.0 ながながさん(100)
神河神無  ♣  A  2.0  -
白井飛鳥  ♠  6  Death  -
杉坂友哉  ♠  Q  Death  -
一ノ瀬丈  ♥   2  4.5  ナージャさん(40)
速水瞬   ♥  K  1.5  -
幸村光太郎 ♦  4  Death  -
飯田章吾  ♠  10 Death ヤマネさん
水谷祐二  ♥  7  2.1 ヴァイスさん(50)
Day 2日目
Real Time 午後 9:00
Game Time経過時間 35:00
Limit Time 残り時間 38:00
Flour 4階
Prohibition Area 1階
Player 9/13
注意事項
この物語はフィクションです。
物語に登場する実在もしくは歴史上の人物、団体、国家、領域その他固有名称で特定される全てのものとは、名称が同一であっても何の関係もありません。





 一ノ瀬達はこつこつと誰もいない通路を、考え事をしながら歩いていた。
 近くに誰もいないのは首輪探知でわかっているので暢気に考え事ができるのだが、その首輪探知が表示している光点は10個から7個へとその数を減らし、生存者も数が減って【生存者:9人】と表示されていた。

(何で首輪が2つ減ってるんだろ?)

 足りない首輪、もしかしたら誰か首輪を外して進入禁止エリアに降りてしまっているかもしれない。
 首輪の減った数、5階の首輪を除いて全てペアで行動していることから考えられるのは、遭遇した幸村達3人のうち、2人が死亡し、そのおかげで残り1人が首輪を解除したというのが一番まともな考えだろうか?
 しかしこの仮定には、幸村達が誰か1人以上殺害している必要があるため、正しいかどうかと聞かれればかなり怪しいかもしれない。
 素数プレイヤーがクリアして下の階に降りてないか心配になった。

(はあ、嫌だな、他人の不幸を願うなんて)

 参加しているプレイヤーは全員知らずに巻き込まれた人間のはずだ、自分と同じ境遇の人間の不幸を望む自分を嫌悪しながら、ただ他のプレイヤーが戦闘禁止エリアに入るのを待っていた。

「誰にも会いませんね」

「あ、うん、そうだね」

「でも……私、もうできれば誰にも会いたくないです、みんなこのゲームに乗って、殺しあってるなんて」

「……そうだね、でも僕も玲奈姉ちゃんも他のプレイヤーと接触しないとクリアできないから、頑張ろうよ、ね?」

 口ではそういうものの、正直な話、一ノ瀬は他人を襲う他のプレイヤー達をそれほど嫌悪していなかった、これはあくまで推測であるがその3人は他人を襲う必要のある、ないしそれに準ずる条件を引いた可能性が高い、他人を殺さねば自分が死ななければならないのであれば一ノ瀬とて嫌々ではあるが銃を手に取って戦ったであろう、それをせずに済んだのはあくまでキラーカードを一ノ瀬自身が引き当ててないからに他ならない、立場が逆ならと考えずにはいられないのだ、ただし……同情はしても無抵抗に殺されてやるつもりも一切ないので何の関係もないかもしれないが。

「……ごめんなさい、私ったら弱気になっちゃってました、ファイト、ファイト!ですよね?」

「うんうん、その調子その調子」

「うむ、ジョー君はこの玲奈お姉さんがクリアさせてあげますので宝船にでも乗ったつもりでいてください!」

「あはは、アイアイサー、船長!」

 隣で自分を鼓舞するようにガッツポーズを取っている少女の名前は夏本玲奈、セーラー服に身を包み、瑠璃色のロングヘアーを靡かせている少女は、この状況に負けてなるものかと健気に頑張っていた。
 そんな玲奈と笑いながらおしゃべりしている一ノ瀬だったが、現状で一番困っているのはこの少女のことだったりする。

(何でこんなことになってるんだったっけ?)

 ここで目が覚めたところから、夏本と行動を共にする経緯までを回想する。
 寝覚めは……最悪だった。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






『ピロリン、ピロリン』

「う、ん?」

 一ノ瀬はPDAのアラームに起こされ、この建物で目が覚めた。
 薄暗い照明、荒れている室内、壊れた家具が散在している見知らぬ部屋に、気づかないうちに居たことで狼狽した。

「ど、どこだよここ!?」

 ベッドから跳ね起きると、枕元にPDAが2台置いてあることに気が付いた、不審に思った一ノ瀬はそれらを手に取って電源ボタンを入れる。

「クラブの【8】とこっちは、jokerか」

 画面にはトランプをモチーフとしたらしい【8】と踊る道化師、jokerが表示されていた。
 とりあえずjokerは置いておいて、【8】のPDAを弄る。
【ルール】
【機能】
【解除条件】
 すると3つの項目が表示された、一番上から見ていこうと【ルール】をタッチする。
【ルール1】
《参加者には特別製の首輪が付けられている。
それぞれのPDAに書かれた条件を満たした状態で首輪のコネクタにPDAを読み込ませれば外すことができる。
条件を満たさない状況でPDAを読み込ませたり、自らのPDAを破壊されたりすると首輪が作動し、15秒間警告を発した後、建物の警備システムと連携して着用者を殺す。
一度作動した首輪を止める方法は存在しない。》
【ルール2】
《参加者にはルールが4つずつ教えられる、与えられる情報はルール1と2と3~9のうちから2つずつ与えられる。》
【ルール5】
《侵入禁止エリアが存在する。初期では屋外のみ。
侵入禁止エリアへ侵入すると首輪が作動し警備システムに殺される。
また、2日目になると侵入禁止エリアが一階から上のフロアに向かって広がり始め、72時間経過後には館全域が侵入禁止エリアとなる。》
【ルール6】
《開始から3日間と1時間が過ぎた時点で生存している人間全てを勝利者とし、ゲーム終了時点のPDA所有数を配布率として賞金20億を勝利者で山分けする、さらにjokerを所有していたプレイヤーは追加で10億の賞金が配布される。》

「……ゲーム?こんなこと本当に?いや、待てよ」

 内容はそこらのゲームに出てきそうな荒唐無稽と呼べるものだった、何かの冗談かと思ったが、くだらない冗談のために拉致という犯罪行為を行うだろうか?それにルールのところどころに出てくる首輪という単語、そろっと自分の首に手を当てると案の定、冷たい金属の感触があった。
 一ノ瀬の背中に冷や汗が流れる、まさか、そんな馬鹿げたことがあるのだろうかと、震える手で機能の項目を触った。

「何だよ、これ?」

 表示されたのは6階で構成された馬鹿でかい建物だった、この地図が本当にここのものかどうかはまだわからないが、もし本当だったらここに連れてきて一体自分に何をさせるつもりなのかと考え、最後に解除条件をタッチした。

【8】
「ゲーム」の開始から24時間経過後、素数のPDAの初期配布者全員と遭遇する。死亡している場合は免除。

「素数?初期配布者全員?遭遇ってことはここに連れて来られたのは僕だけじゃないってことなんだよね?これが本当だと仮定して、だけど」

 一ノ瀬は【8】のPDAを調べ終えると次にjokerのPDAを手に取った、外見はまったく同じもので、操作方法も同じらしく、【8】のPDAとは何が違うのだろうかと弄るとすぐに違いが現れた。
【ルール】
【機能】
【偽装】
 すると【8】と似たような表示だが、最後だけは違う3つの項目が表示された、違いを調べていくために、同じように一番上から見ていこうと【ルール】をタッチする。
【ルール1】
《参加者には特別製の首輪が付けられている。
それぞれのPDAに書かれた条件を満たした状態で首輪のコネクタにPDAを読み込ませれば外すことができる。
条件を満たさない状況でPDAを読み込ませたり、自らのPDAを破壊されたりすると首輪が作動し、15秒間警告を発した後、建物の警備システムと連携して着用者を殺す。
一度作動した首輪を止める方法は存在しない。》
【ルール2】
《参加者にはルールが4つずつ教えられる、与えられる情報はルール1と2と3~9のうちから2つずつ与えられる。》
【ルール4】
《最初に配られる通常の13台のPDAに加えて1台jokerが存在している。
jokerはいわゆるワイルドカードで、PDAの機能を他の13台のPDA全てとそっくりに偽装する機能を持っている。制限時間などは無く、何度でも別のカードに変える事が可能だが、偽装したPDAの条件をクリアしてコネクトしても判定をすり抜けることはできず、一度使うと1時間絵柄を変える事ができない、
また解除条件にPDAの収集や初期配布者への遭遇があった場合にもこのPDAでは条件を満たすことができず、さらにこのPDAを破壊しても他人の首輪を作動させることはできない》
【ルール9】
《A:ジャック・クイーン・キングのPDAの初期配布者が死亡している。手段は問わない。

2:「ゲーム」の開始から6時間経過後、jokerのPDAを6時間以上保有する。
また、PDAの特殊効果で半径1メートル以内ではjokerの偽装機能は無効化されて初期化される。

3:自分のPDAの半径5メートル以内で3人以上の人間が死亡する。手段は問わない。

4:他のプレイヤーの首輪を3つ破壊する、手段は問わない。

5:生存者を5人以下にする。手段は問わない。
また、PDAの特殊効果で残り生存者数を表示する。

6:「ゲーム」の開始から6時間経過後、偽装機能を使用されている状態のjokerが自分のPDAの半径1メートル以内に累計して6時間以上存在している。自分がjokerを所有している必要はない。

7:偶数のPDAを全て収集する。手段は問わない。既に壊れているPDAは免除。

8:「ゲーム」の開始から24時間経過後、素数のPDAの初期配布者全員と遭遇する。死亡している場合は免除。

9:jokerのPDAの所有者を殺害する。手段は問わない。

10:死亡、または首輪の解除に成功したプレイヤーのPDAを3台収集する。手段は問わない。

J:「ゲーム」の開始から2日と23時間経過時点で自分以外に5人以上のプレイヤーが生存している。

Q:「ゲーム」の開始から24時間以上行動を共にした人間が首輪の解除に成功する。

K:自分のPDAの半径5メートル以内で3個の首輪が作動していて、更に3個目の作動が2日と23時間の時点よりも前で起こっていること。》

「なるほど、配布されてるルールは別のものなんだ」

 そして新たに得たルール4により、jokerは自分にだけ配布されている特別なものであることがわかった。

「やっかいなのはルール9か、解除条件が13通りってことはプレイヤーも13人なのかな?」

 中には人殺しを要求されている条件の物もあった、特に問題なのは9thの条件だ、jokerのPDA所有者とは自分のことではないか。

「トランプらしくババ引いたってこと?最悪じゃん」

 すぐにでも壊そうかと思ったが、joker抜きではクリアできなくなるプレイヤーが2人もいること、おまけにjokerを壊してはいけない等のルールが他の項目にある可能性から壊そうと思っても壊せなかった。
 とりあえず最後の偽装という項目だけでも調べておこうと考えて偽装の項目をタッチする。

【このPDAは他のPDAに偽装することができます、偽装機能を使用しますか?YES/NO】

「……まあ、迷う必要もないか」

 一ノ瀬はYESに触れる、すると電子音と共に画面が切り替わった。

【偽装するナンバーを選択してください】
【A】
【2】
【3】
【4】
【5】
【6】
【7】
【8】
【9】
【10】
【J】
【Q】
【K】

「うん、そうだな」

 一ノ瀬は頭の中にルール9を思い浮かべた、様々なクリア条件があった中で気になるものが2つある。
 それは他のPDAとは違い、特殊機能を備えていた【2】と【5】のPDAだ、どっちにするか少し悩み、jokerの偽装機能解除の特殊機能を持つ【2】を選択した。

【偽装中です、jokerの待機画面に戻す際にはPDAの右下にある空白をタッチしてください】

 表示が消え、しばらくするとjokerのPDAが【2】の数字を表示していた、どうやら偽装機能がうまくいったらしい。
 同じようにPDAを操作していく。
【ルール】
【機能】
【解除条件】
 すると【8】と同じ3つの項目が表示された、ルール欄が偽装されているかどうか気になったので迷わず【ルール】をタッチする。
【ルール1】
《参加者には特別製の首輪が付けられている。
それぞれのPDAに書かれた条件を満たした状態で首輪のコネクタにPDAを読み込ませれば外すことができる。
条件を満たさない状況でPDAを読み込ませたり、自らのPDAを破壊されたりすると首輪が作動し、15秒間警告を発した後、建物の警備システムと連携して着用者を殺す。
一度作動した首輪を止める方法は存在しない。》
【ルール2】
《参加者にはルールが4つずつ教えられる、与えられる情報はルール1と2と3~9のうちから2つずつ与えられる。》
【ルール4】
《最初に配られる通常の13台のPDAに加えて1台jokerが存在している。
jokerはいわゆるワイルドカードで、PDAの機能を他の13台のPDA全てとそっくりに偽装する機能を持っている。制限時間などは無く、何度でも別のカードに変える事が可能だが、偽装したPDAの条件をクリアしてコネクトしても判定をすり抜けることはできず、一度使うと1時間絵柄を変える事ができない、
また解除条件にPDAの収集や初期配布者への遭遇があった場合にもこのPDAでは条件を満たすことができず、さらにこのPDAを破壊しても他人の首輪を作動させることはできない》
【ルール5】
《侵入禁止エリアが存在する。初期では屋外のみ。
侵入禁止エリアへ侵入すると首輪が作動し警備システムに殺される。
また、2日目になると侵入禁止エリアが一階から上のフロアに向かって広がり始め、72時間経過後には館全域が侵入禁止エリアとなる。》

「なるほど、これが2ndのプレイヤーに初期配布されてるルールなんだ」

 新しいルールこそ得られなかったが、一ノ瀬はその偽装性能に感心すると解除条件の欄もチェックする。

【2】
「ゲーム」の開始から6時間経過後、jokerのPDAを6時間以上保有する。
また、PDAの特殊効果で半径1メートル以内ではjokerの偽装機能は無効化されて初期化される。

「こっちも問題なし、残るは」

 一番の目的と言えた【機能】をタッチする。
 そこには【地図】の他に【特殊機能】という【8】のPDAにはなかった項目が追加されていた。

【このPDAの半径1メートル以内ではjokerの偽装機能は無効化されて初期化される。この機能は常時Onの状態でOffにすることはできない】

「なるほど、特殊機能が常時発生しているはずなのに偽装機能が解けてないということはjokerで【2】に偽装しても全然問題ないってことか」

 自分で偽装したのに自動で偽装を解除されるなんて間抜けな機能だったら、床に投げつけて壊していたかもしれない。
 しかしこの機能は素数ナンバーのプレイヤーを探す必要のある自分には有効な機能だと考えて一ノ瀬はjokerに対しての認識を改めた。
 最後に【2】の待機画面に戻ると、指示通り右下の空白をタッチすると、また画面が切り替わってjokerの待機画面へと戻った。
 偽装機能をもう1度使おうと【偽装】をタッチする。

「うん?」

 しかし一ノ瀬の思惑を外すように、【次の偽装が行えるまで後1時間】と表示がされた、ルール4に記載されていた偽装機能のインターバルというのはこういう意味かと納得し、試しに偽装機能を使っていない状態で右下をタッチすると、さきほどのハートの【2】へと変化した。

「なるほど、仮にjokerの状態を通常モードとでも呼ぶなら偽装モードは最後に偽装したナンバーのPDAを使えるってことなんだね」

 一ノ瀬は【2】に偽装したjokerと【8】のPDAをしまうと、座っていたベッドから立ち上がった。
 とりあえず基本方針は全てのルールの把握、jokerで偽装するにしても新しいルールが分かる保証はないし、インターバルで1時間かかるのでは効率が悪い、クリア条件も他人との遭遇を義務付けられているものなので、顔だけでも把握しておくだけで大分違うだろう。
 他のプレイヤー達と遭遇するべく、一ノ瀬は部屋の扉を開けた。
 できればドッキリでありますようにと、僅かな希望を込めて……

「キャッ!?」

「わっ!?」

 しかしこの時、扉を開けたところに人がいるとは流石の一ノ瀬も考えていなかった。





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「あいたた~」

「えと、大丈夫ですか?」

 一ノ瀬は尻餅をついている金色の短い髪、制服を着ているので年は自分より少し上だろうと当たりをつける。
 とりあえず起こすために手を差し出すと、ありがとうと特に躊躇うことなく差し出した手をとって女性は立ち上がった。

「ありがとう、私は御剣優希、貴方は?」

「あっ、僕は一ノ瀬丈、気づいたらここに寝かされていて……あの、ここのことで何か知りませんか?」

「あははっ、そんな畏まって話さなくていいわよ」

 しゃべりにくそうに話しているのを見ていたのか、優希はニコッと笑って見せた、それに釣られて一ノ瀬も笑みを浮かべる。

「といっても私も一ノ瀬君と同じような状況なのよ、気づいたらここに居て、通路を歩いてたら声が聞こえてきたからここに来たってわけ」

「ん?あれ?僕ってそんな大きな声でしゃべってたっけ?」

 小声で独り言をしゃべった記憶はあるが、そんな小さな声が遠くまで響くとはとても思えない。

「別にそんなことないと思うけど?」

 優希はバツが悪そうに苦笑すると、とりあえず一緒に行動しないかと提案してきた。
 ルールが知りたい一ノ瀬は迷うことなく承諾する、それにこの建物の中に自分達を拉致してきた人間がいないとも限らない。

「とりあえずルールを交換しておかない?」

「ルール?ああ、PDAのことね」

「うん、そうそうそれのこと」

 優希がPDAを1台取り出したので、一ノ瀬もまたPDAを取り出そうとし、自分が2台のPDAを持っていたことを思い出した。

「……、」

 一瞬迷った一ノ瀬だったが、jokerで偽装した【2】のPDAを取り出す。

「えっと私のPDAに載っていたルールは、共通ルールを除けば6と7ね」

「僕の方は4と5だった」

 お互いがPDAを見せ合い、ルールを確認する。
 一ノ瀬もまた新たにルール7を知ることができた。

【ルール7】
《開始から6時間以内は全域を戦闘禁止とする。違反した場合、首輪が作動する。正当防衛は除外する。》

 なるほどと一ノ瀬は思う、このルールを知っていたからこそ優希が恐れずに自分と話していられるのだろう。
 どうもこの優希という女性はゲームが本当であるという考えのもと動いている可能性が高そうだ。

「あ、あのさ」

「うん?何?」

「優希姉ちゃんってjokerとか見てない?」

「joker?」

「うん、僕のクリア条件にはjokerが必要なんだ」

 一ノ瀬は偽装したクリア条件を優希に見せる。

「……ごめん、見てないわ」

 Jokerを持っているのは一ノ瀬なので当然だが、知らないと、申し訳なさそうに答える優希に、悪いことをしている気になってきた。
 しかしここでやめるわけにはいかない、このゲームが本物であったならこちらも命がかかっている、是が非でもここで彼女のプレイヤーナンバーを把握しておきたい。

「僕のPDAにはjokerを初期化できる機能があるんだ、姉ちゃんを疑うわけじゃないんだけど待機画面、見せてもらってもいい?画面には絶対触らないって誓うよ」

「ええ、そういうことならかまわないわよ」

 うまくいくか内心ヒヤヒヤしていた一ノ瀬だったが、意外にもうまくいくものらしい。
 確認した優希のプレイヤーナンバーは【J】だった、いきなり当たりを引いた一ノ瀬は内心で喜びながらjokerでないことを確認するようにPDAを近づけ、何も変化が起こらないPDAを見て、残念そうに肩を落とす演技をする。
 ごめんねと謝る優希を余所に、一ノ瀬はこれからどうするか考えていた。
 Jthのクリア条件といえば、多くの協力者を必要とする条件だ、とすれば2ndとブッキングする可能性も高い、嘘をついていたことがバレると一気にピンチだ。
 手っ取り早い手段としては優希を1日が経過するまで他のプレイヤーから隔離できればいい、それを実行するには……

(この建物が6階であることを利用するしかないよね)

 スタートは全員1階からだと仮定して、他の参加者に会わない場所まで誘導する、そうなると地図にあったエレベーターを使って6階へ連れて行けば良い、後は自分の口先を信じるだけだ。

(とりあえずこの建物は地下に造られていて、6階に出口があるってことにしておくか)

 一ノ瀬は優希を6階に連れて行く方便を考えながら、優希と共にしばらく1階を徘徊するのだった。





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 一ノ瀬は6階に優希を連れて行き、1日経って自分の条件を満たしてからトイレに行くと嘘をついて優希を騙し、見張られている階段を使わずに、6階で取得したドアコントローラーを使って下の階に降りて、5階から3階へと寝ずの強行軍を行った、全ては他のプレイヤーに会うために、その後、3階の戦闘禁止エリアで幸村達3人組を騙し、こことは別の戦闘禁止エリアにも1人プレイヤーが滞在しているようだったので、そこを目指して移動する。  
途中で高校生くらいの男女2人組とニアミスしそうになったが、それ以外は特に問題なく進行していた。
 一ノ瀬の基本的な戦略として、まず首輪探知を使って他プレイヤーの位置を把握、拡張地図を併用して戦闘禁止エリアに入っているプレイヤーを探し、会いに行く、戦闘禁止エリアではお互いが手出しできないので素数ナンバーのプレイヤー全員に遭遇する必要のあるクリア条件を持つ一ノ瀬にとって戦闘禁止エリアは大変都合が良かった、【2】に偽装したjokerを使って、jokerの偽装初期化機能があると嘯き、相手プレイヤーのナンバーを引き出す、後は適当に言い訳して戦闘禁止エリアから離れ、ドアコントローラーを使って扉をロックすれば一ノ瀬は安全を確保したまま全プレイヤーと遭遇できると考えていた。
 おおむね、その考えは正しいと言えるだろう、しかし一ノ瀬には1つ誤算があった。
 1階が進入禁止エリアになってから生存者も減っていないのに首輪の数が1つ減ったのである。
 これは速水が神河の危険性を考慮して、念のためジャマー機能を使いながら行動していたからなのだが、そんなイレギュラーの情報など一ノ瀬が知っているわけがない。
 結果として運営の都合により、自分の戦略を狂わされていることなど、あくまでも一般プレイヤーに過ぎない一ノ瀬が考えつくはずもなかった。

「とりあえず1人ずつあって行くしかないか」

 やれることをやっていこうと、ようやく戦闘禁止エリアに到着した。

『あなたが入ろうとしている部屋は戦闘禁止エリアに指定されています。戦闘禁止エリアでの戦闘行為及び戦闘禁止エリアにいるプレイヤーへの戦闘行為を禁じます。違反者は例外なく処分されます』

 扉を前にして、お馴染みの電子音、間違いなくここが戦闘禁止エリアだという知らせだった。

「よし行くぞ!」

 PDAの合成音は中にいるプレイヤーにも聞こえているだろう、一ノ瀬は気合を入れて扉を開け放った。
 一ノ瀬の前には戦闘禁止エリアの風景が広がっている、赤い絨毯を敷かれ、他の部屋とは違い部屋に備え付けられている家具は壊れておらず、埃まみれの通路とは違い、しっかり清掃が行き届いている小綺麗な部屋だ。
 その部屋の中心に1人の人間が座っていた、長い瑠璃色の髪が絨毯の上に垂れ下がっている。

『っ!?』

 扉を開けた向こう側にいたのは弱そうな少女だった、入ってきた侵入者にあからさまに怯えているようだった。

「あ、えっと、こんにちは!僕は一ノ瀬丈っていいます……君は?」

 その様子にあまり刺激しないように恐る恐る話しかける。

『いや、来ないで、私……まだ死にたくない』

 しかし少女は答えることなく、代わりにいやいやするように首を横に振る。
 これが一ノ瀬丈と夏本玲奈のファーストコンタクトだった。





――――――――――――――――
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 3階の戦闘禁止エリアで遭遇した少女の第一印象は、泣いてばかりの面倒くさそうな子だと思ったが、彼女が素数プレイヤーであれば接触しなければならないと考え、パニックを起こしている少女を宥め、まともに会話ができるまで回復するには長い時間を要した、何でも一番最初に行動を共にしていた男性は、ルールに抵触したとかで殺され、1人になった少女だったが、負けじとクリア条件を満たすために行動していたらしい、その途中で一緒にルール交換をした水谷雄二、北条良輔、柊桜に襲撃され、誰を信じていいのか混乱し、取り乱してしまったらしい。
 まともに話ができるまで時間がかかり、かなり大変だったがその分収穫も多く、今まで知らなかったプレイヤーの情報を多く仕入れることができた。
 彼女が遭遇しているのはルール交換時に知り合った、5人と死んだ杉坂、杉坂を殺害したと思われる神河というバンダナ女の計7人ということがわかった、これで一ノ瀬が影も形も見たことのないプレイヤーはただ1人ということだ。

「あっ、お互いの条件を教えあっておかない?もしかしたら協力できるかもしれないし」

 最後にプレイヤーナンバーを確認してここから離れようと考えた一ノ瀬は、今までと同じように【2】に偽装したjokerを取り出した。

「……あれ?」

「あの、どうかされたんですか?」

「あ、いや、別に」

 しかし言葉とは裏腹に一ノ瀬は焦りまくっていた。

(……偽装が解けてる、何で?)

 【2】と表示されていなければいけないjokerは、無様にも道化のまま踊るだけであった。
 幸村達を騙した時からjokerを弄っていない、それなのに解けているはずのない偽装が解けている。
 その答えに一ノ瀬が気づくのはかなり早かった。

(この子が2ndのプレイヤー!)

 偽装機能を持つjokerにとって天敵ともいえる【2】のPDAの持ち主、jokerの一定時間所有をクリア条件とする2nd。
 その事実に一ノ瀬は頬を綻ばせる。

(よかった、jokerを渡せばこの子はゲームをクリアして日常に帰れるんだ)

 一ノ瀬の条件はあくまで遭遇だ、ここでjokerを失うのは手痛いが人命には代えられないと渡そうと考え。

(いや、待てよ?……【2】のPDAを持ってるからってこの子が2ndとは限らないんじゃ?)

 すぐに綻んだ表情が凍りつき、疑いが一ノ瀬の胸の中で芽生える。
 この少女とはここで会ったのが初めてだ、この態度が演技なのかそうでないのかが一ノ瀬には判断がつかない。
 もし、もしもこの少女が他の条件、例えば本当はjokerを殺害する9thで、joker所有者を見分けるために2ndから【2】のPDAを奪っていたのだとすれば……自分はどうなる?

(こ、殺される、間違いなく殺される)

 一ノ瀬の背中に冷や汗が流れる。
 ついさっきまで人畜無害な少女に見えていたものが、突然、鎌を持った死神に見えてきた。

「大丈夫ですか?顔色があまり良くないみたいですけど……」

「う、ううん、全然平気……あっ、クリア条件の前にルールを先に教えてくれない?」

「えと、それは構わないんですけど……今まで誰にも会わなかったんですか?」

「そういうわけじゃあないんだけど、ね……ほら、もしかしたら間違いのルールを教えられてるかもしれないし念のため」

「まあ、そういうことなら」

 夏本がルール表を出したのを見計らい、ルール表を取り出す振りをして一度jokerを懐に戻した。

「えっと……全部一致してるみたいですね、良かった」

「うん、ありがとう!じゃあ改めてクリア条件を教え合おうよ、僕のクリア条件はこれ」

 今度は懐からjoker、ではなく本物のクラブの【8】を取り出して、夏本に見せる。

「素数プレイヤー全員との遭遇、ですか……えっと私のはこれです」

「ハートの【2】、jokerの6時間所有……だね」

「はい、私はjokerをずっと探してるんです、一ノ瀬君は見てないですか?」

「……、」

 少女が確信に触れ、一ノ瀬の顔は青ざめる。
 優希の時とは明らかに違う、優希は一ノ瀬がjokerを出さなくても生きて帰れる可能性があったが、この少女は自分が見捨てれば間違いなく死ぬ。

(言え、言うんだ!jokerは僕が持ってるんだよって、君は家に帰れるんだよって言わなくちゃ!)

 ほんの少し、ほんの少し勇気を振り絞れば目の前の少女は無事にこのゲームをクリアすることができる、条件だって競合しているわけじゃないし、もちろん自分だってここで殺されるわけじゃあない、意を決して一ノ瀬は口を開いた。

『……ごめん、知らないんだ』

 しかし口から出た言葉は真反対の意味だった。

(でも、もしこの子が嘘をついていたら……)

 真実を言おうとした瞬間、一ノ瀬の脳裏をよぎった。
 もし見誤れば即死しかねない運命に、危険を冒してまでこの少女を助ける義務は果たして自分にあるのだろうかと。

「そうですか、残念です……」

「あ、ううん、まだまだこれからだって」

「はい!そうですね、ありがとうございます!」

「……何でありがとう、なの?」

 この少女はjokerを探していて、条件を満たすために必要なjokerを持っていないと聞かされてなぜ笑うのかわからなかった一ノ瀬は首を傾げた。

「だってこの建物の中に連れて来られてからみんな他人のことを騙そうって争うってそんなのばかりだったから……普通に話してくれて、嬉しかったから……かな?なんか、一ノ瀬君みたいな人もいるなら……joker見つけられるかなって、元気が湧いてきました!」

「……、」

 自分はこの少女を騙している、それなのに目の前の少女が屈託なく笑う姿を見て、一ノ瀬は胸がチクリと痛くなった感じがした。
 罪悪感に苛まれる一ノ瀬を余所に夏本はゆっくりと立ち上がる。

「それじゃあそろそろ私も行きますね?」

「行くってどこに?」

「自分のクリア条件を満たすためです!私、結構ドジなとこあるから人一倍頑張らないと!」

「……玲奈姉ちゃんは、怖くないの?」

 見知らぬ場所に前触れもなく拉致されてこられ、理不尽なゲームへの参加を強制される。
 怖くないなんてことがあるわけないのにと一ノ瀬は考えており、夏本もまたその質問には首を横に振った。

「怖いですよ?すっごく怖いです」

「だったら」

「でも、負けたくないんです、恐怖なんて、パクッと食べちゃえばいいんですよ!……震えてたって何も変わらないもの」

 強がってるだけだ、強がって怖くないって意地張って震えて座り込みそうになっている自分を鼓舞しているだけだ、一ノ瀬は胸の前でギュッと結んでいる手が僅かに震えているのを見逃さなかった。

「だからここで一ノ瀬君とはお別れです!大丈夫です!お姉さんこう見えても喧嘩強いんですから!」

「ちょっと待って!」

「はい?」

「……どうせだったらさ、僕と協力してクリアを目指さない?」

 だからだろうか?超絶弱そうなへっぴり腰でシャドウボクシングのつもりらしいことをしている夏本を見て、こんな弱そうな女は見捨てていくべきだと頭の中で叫ぶ自分を押し殺してまでそんな提案をしたのは、もしかしたら……この少女は嘘をついてないかもしれない本当に2ndのプレイヤーなのかもしれない。
 助けられるかもしれない命を見捨てていく、自分だけが助かろうとするのが正しいのだろうか?それともリスクを冒して正直に話し、他人を助けようとするのが正しいのだろうか?
 ここまできて、一ノ瀬は悩みはじめていた。

「……駄目です!気持ちはすごく、すご~く嬉しいですけど……私、馬鹿だからきっと一ノ瀬君に迷惑かけちゃいます」

「あはは、玲奈姉ちゃんは本当に馬鹿だなあ」

「むっ?それは聞き捨てなりません?ちゃんと上級生を敬いなさい!」

「だってさ、考えてみてよ、玲奈姉ちゃんといれば僕は相手のプレイヤーナンバーを見せてもらえるんだよ?そんなの嫌だって言われてもついて行くに決まってるじゃん」

 方便だ、そんなことをしなくても一ノ瀬はプレイヤーナンバーを把握する手段を持っている。

「でも他のプレイヤーに接触する機会が増えて一ノ瀬君に負担かけちゃいます」

「もともと僕の条件は素数プレイヤー全員との遭遇なんだからかまわないよ」

「あ、えっと……それは」

「はい、決まりだね、行こう?」

 夏本が言い淀むのを見て一ノ瀬はさっさと話しを纏めた。
 そうでもしないと保留にさえすることなく見捨てて行ってしまいそうな自分がただ恐ろしかった。

「……こんな私でも、本当に役に立てるでしょうか?」

 ぎゅっと目を瞑ってそう尋ねる夏本に、一瞬返答に困る一ノ瀬だった、役に立つか立たないかと言わればとても役に立ちそうにはない。

『それは玲奈姉ちゃん次第じゃないかな?』

 しかし一ノ瀬はあえてそう答えた。
 自分の甘さから夏本を連れて行くことの危険性、それがどう転ぶのかは一ノ瀬自身にもわからない。
 結局のところ文字通り夏本次第なのだ。

「わかりました、そこまで言うなら一緒に行動させてもらえますか?あの、その……本当は、私、ずっと1人で……すごく心細かったから、一ノ瀬君が一緒についてきてくれるって言ってくれて、その、嬉しいです」

 はにかみながら笑う夏本はその少し後ろを歩き始めた。
 こうして2人は行動を共にすることになる。
 一ノ瀬は夏本に複雑な思いを抱いたままで。





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――――
――






 時は再び現在に戻り、もう2日目も残り2、3時間を残して終わろうとしていた。
 未だこの少女を信じていいのか確信が持てないままに、いや、信じる勇気を持てないままに時の砂は刻一刻と落ち続けるのだった。

「もう夜も遅いですし、そろそろ休憩にしませんか?」

「あ、うん、そうだね、僕も今すごく眠いんだ」

 夏本の提案に、寝ずの強行軍を敢行した一ノ瀬は目をしょぼしょぼさせる、そういえば食事もちゃんととっていなかったと腹の虫がわめき始めた。
 6階から下に向かって降りてきた一ノ瀬は、武器やツールボックスなどは多めに持っていたが、その代わり食料品はほとんど手に入れることができなかったのである。

(……でも、この時間帯はかき入れ時だからな)

 首輪探知によるとほとんどのプレイヤーが戦闘禁止エリアに入っている。
 もうすぐ3日目に入ろうとしているゲームは、時間が進むに連れてプレイヤーも減るが、代わりにクリア条件と時間に追われて好戦的になっていくプレイヤーも多いだろう、おまけに6階に配置された武器の数々をその目にしている一ノ瀬としては、多少無理をしてでも、そろそろここで勝負を決めておきたい。
 現在、一ノ瀬の進行状況は【2】【3】【J】のプレイヤーと遭遇している状況であり、残るは【5】【7】【K】のプレイヤーと遭遇できればクリアだ。
 生存者は残り9人、死んだプレイヤーの中に素数プレイヤーが入っていればクリアも早まる。

(僕が優希姉ちゃんと別れる時点で生存者は11人だった。それから遭遇したプレイヤーが合計で5人、素性がまったくわからないプレイヤー1人を除けば情報としては全員知ってる)

 あれから減った2人の生存者が誰かは分からないが、最高で5人、最低で3人の見知らぬプレイヤーに遭遇できれば自分は間違いなくクリアとなる計算だ。

「もう夜も遅いし休憩にしよっか?」

「はい!」

 一ノ瀬は夏本にそう言ってほほ笑みながらも首輪の反応がある戦闘禁止エリアへと歩を進めるのであった。









[22742] 17話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2011/06/13 21:34
【BET】
player  suit  card  odds  BET
北条良輔  ♦  5  9.0  -
御剣優希  ♥   J  4.8 トぺルカさん(40)
夏本玲奈  ♥   2  6.3 油桜さん(50)、BSさん
柊桜    ♦  9  9.0 nidaさん(40) 結崎 ハヤさん
西野美姫  ♣  3  3.0 ながながさん(100)
神河神無  ♣  A  2.0  -
白井飛鳥  ♠  6  Death  -
杉坂友哉  ♠  Q  Death  -
一ノ瀬丈  ♣   8  4.5  ナージャさん(40)
速水瞬   ♥  K  1.5  -
幸村光太郎 ♦  4  Death  -
飯田章吾  ♠  10 Death ヤマネさん
水谷祐二  ♥  7  2.1 ヴァイスさん(50)
Day 2日目
Real Time 午後 8:58
Game Time経過時間 34:58
Limit Time 残り時間 38:02
Flour 4階
Prohibition Area 1階
Player 9/13
注意事項
この物語はフィクションです。
物語に登場する実在もしくは歴史上の人物、団体、国家、領域その他固有名称で特定される全てのものとは、名称が同一であっても何の関係もありません。





 良輔と柊は4階についてから、戦闘禁止エリアを目指しながら、その途中にある部屋を探索していた。

「4階には特に何もなくて、2階にはナイフ等の刃物、3階には拳銃、4階では……これか」

 部屋にあった木箱の中には、サブマシンガンや煙幕、日本刀まであった。
 日本刀といえば、男子なら一度は興味を持ち、子供の頃には掃除の時間に箒を刀に見立ててチャンバラごっこ、最後には箒がすっぽ抜けて窓ガラスを割って先生に怒られるという体験をしているものだということに異論はないと思う。
 もちろん良輔も人並みには刀に興味を持っていたため、何気なく日本刀を木箱から取り出した。

「へえ、結構重いんだな」

 日本刀の重さを確かめながらゆっくり刀を抜いていく、シャリンと綺麗で澄んだ音を立て、銀色に輝く白刃が姿を現した。

「……、」

 切れ味の良さそうな白刃に自分の顔が映り、思わず息を飲む、拳銃よりも人を殺すイメージが明確に思い浮かび、新しく得た武器の数々を見渡すと、殺傷能力の高い物がごろごろ転がっている現状から、更に殺し合いが激化していくことが簡単に予想でき、まだまだ先は長そうだと眉を顰める。

「何?アンタ日本刀とか持ってくの?」

「いや、日本刀は重いし、首を切り離すのはナイフがあれば十分だ、俺が日本刀を手に取ったのは単純に興味があっただけだよ」

 横から話しかけられた声に良輔は首を横に振ると、日本刀を木箱に戻し、改めてサブマシンガンを手に取る、見れば木箱の中にはもう1つ同じものが残っていた。

「柊は何か持っていくのか?こっちにはまだサブマシンガンが残ってるぞ?」

「まさか、そんなもの反動が強すぎて小柄な僕に扱えるわけないじゃない」

「それもそうだな、そっちには何か使えそうな物はあったか?」

「ほら、これよ、オートマチックのピストル、弾もたくさん置いてるみたいよ?これで前回みたいに弾切れを気にせずに撃てるわね」

 良輔達は3階で夏本を取り逃がしている、というのも3階では弾薬に限りがあって弾も容易には補充できなかったため、決して銃弾を切らさないように、常に残りの弾数を考えなければならなかったために夏本は銃弾の雨からかろうじて逃げ切り戦闘禁止エリアへと逃げ込んでしまった。
 ターゲットは戦闘禁止エリアへと逃げ込み、もともと良輔達の第一目標は神河ないし速水であり、その上進入禁止エリアのことも考えると戦闘禁止エリアから出てくるまで待つというのは良策とは考えられず、仕方なく夏本は放って置いて先を進むことにしたのだった。

「そもそも夏本を取り逃がしたのはお前が弾数を気にせず発砲しまくって早々に弾切れしたことが原因じゃないか?何でもうちょっと気をつけて撃たないかな、お前は?」

 大変悔しいことに、柊の射撃の腕は中々の物だった、体格的な問題で大きい経口の拳銃は扱えないが、少なくとも精度だけみれば良輔より上だ、せめて直線を走っているところで撃ってくれれば当たったかもしれないのに、それを柊は今通路を曲がろうとしている時に限って発砲するのだからもったいない、更に弾切れするまで撃つからなお始末が悪い、チャンスまで待てず、その時勝負のみ、こいつ絶対ボードゲーム向いてないなと良輔は溜息をつく。

「う、うるさい!撃ちたかったんだからしょうがないでしょ!?」

「いや、どういう理屈だよ?まあ、それはとりあえず横に置いといて、それは一丁しかないのか?」

「後もう一丁残ってるけど、リボルバーと違って扱い難しいわよ?」

「俺もモデルガンぐらい持ってる、重さや反動とかはともかく構造自体はわかってるよ」

 良輔はこちらに差し出された拳銃を受け取ろうと手を伸ばし、そして受け渡しの際に柊の手と軽く衝突した。

「っ!?」

「ん?どうした?」

「は?別に何でもないし!自惚れないでよね!」

「……何で俺がキレられる?」

 理不尽に怒りを向けられた良輔の眉間に皺が寄った。
 しかし柊は顔を赤く染めながら自分の手を何やら熱心に見ていたので、それ以上は追及せずに安全装置がしっかりかかっているのを確認してから拳銃をベルトに差しこむ。

「煙幕も持っていくとして、武装は大体こんな感じだな」

 サブマシンガンが一丁、オートマチック拳銃が一丁、コンバットナイフが1本と煙幕弾が2つ、マガジンも多めに持っていく必要があるだろう。

「唯一の懸念は……」

「何よ?」

「……何で服がどこにも置いてないんだよ」

 良輔のぼやきに、柊は顔を真っ赤に染めた。
 そう、未だに良輔達は服を見つけることができていなかったのだ。
 柊は自分の身体を隠すように縮こまると不審者でも見る目で良輔を見た。

「ぼ、僕だって好きでこんな恰好でいるわけじゃないわよ!アンタ馬鹿じゃないの?」

「はっ、案外俺達をここに連れてきた連中はお前に風通しの良い服着せて馬鹿が風邪引くのかどうか実験してるのかもしれないぞ?」

「なっ!?ふ、ふん!そんな偉そうなこと言って、もしかして僕を見て欲情してんじゃないの?今度からアンタのことはセクハラ野郎って呼ぶことにするからっ!」

「……そんな貧相な体じゃ、たつものもたたねえよ」

「う、うっさい!そ、そりゃ僕は胸も少ないし、体付きも貧相だし……結構気にしてるのに」

「いや、そこでいきなりしおらしくされても、な?」

 柊は一転して涙目になりながら腕を胸の前で組んでいた。
 流石に言い過ぎたかと良輔は反省する。

「ああ、もうわかったわかった、俺が悪かった、謝るから機嫌直せよ」

「嫌よ、ここで許したら女の恥だわ、ぼ、僕にだって女らしいとこのひとつくらいあるんだから!」

「断言しよう、それはない!」

「ふふっ、それは果たしてどうかな?」

 良輔の悪態に珍しく怒ることなく、柊は自信満々と言った様子で小さな胸を張って高々と宣言した。
 その反応が意外だった良輔はニヤニヤと笑って柊を見る。

「おっ?何だ、いつになく自信たっぷりじゃないか?」

「そりゃあね、もう時間も時間だし戦闘禁止エリアに行かない?そこで見せてあげるわ、この僕の……」

『柊桜の本気ってやつをね!』

 あーはっはと高らかに笑い声を上げながら柊は良輔を置いて足早に部屋から立ち去った。
 それを見送って良輔は溜息をつく。

「……いや、戦闘禁止エリアでそんな本気出されても、な?」

 もっと違うところで本気出してくれたらいいのにと、そう思わずにはいられなかった。
 柊が何をするのかということに興味と不安を感じながらも良輔は後を追って部屋から退出する。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






 その後、当初目指していた戦闘禁止エリアにつくと、良輔はやたらと気合の入っている柊を見つけた。
 敵と遭遇しなかったから良かったものの、勝手に先行していった柊に文句の1つでも言ってやろうと……。

「ぶっ!?」

 しかし先制パンチをもらったとばかりに良輔は柊をできる限り見ないように顔を背ける。

「お、おまっ、その恰好……」

「はっ?僕の恰好がどうしたのよ?」

 柊は何故良輔が慌てふためいているのかわからないといった様子で、かわいらしく小首を傾げた。

「エ、エプロンなんてどこにあったんだ?」

「……キッチンだけど?」

 そう、今の柊はエプロン姿だった、これが平時であるならば良輔もさほど気にはしなかっただろうが、現在の柊は元々着ていた学生服を神河に破られて良輔のカッターシャツだけを着ているのだ。
 そんな状態からエプロンなど着れば……どうなるだろうか?

――――ほ、ほとんど裸エプロンじゃねえか!?

 思わず良輔は赤面する、カッターシャツの時もできるだけ気にしないようにしていたが、エプロンの下から覗いている柊の太腿まで見える生足が、あまりにも厭らし過ぎる。

――――こ、これはまずい……あからさまにまずいぞ!?

 つい2日前に出会った少女を、カッターシャツだけの半裸状態で連れ回すということだけでもかなり抵抗があったというのに、裸エプロンまでさせたとあると……。

――――い、いかん焦るな!主導権を奪われると面倒なことになる。

「本格的に大丈夫?なんかさっきから明後日の方向ばかり向いてるけど?」

「ば、馬鹿!こ、これはだな?そ、そう、あれだ!部屋に何かおかしなものが取り付けられていないかどうか確認してるだけだ!」

 その態度を訝しがっている柊にそう返す、動揺を気取られてはまずいと考えた良輔は話題を変えることにした。

「そ、それで?何を見せてくれるんだ?」

 良輔は別になんとも思ってないとでも言いたげにソファーに座り込んで欠伸をする。
 その言葉に柊が取り出したのは……何故かお玉だった。

「僕がアンタに手料理を振舞ってあげる!感謝なさい」

「……ああ、そういえばお前って料理できるって言ってたな」

 2階の戦闘禁止エリアで速水とそんな会話をしていたような気がする。

「俺達に出す料理はないんじゃなかったのか?」

 しかしあの時確かに自分は料理するつもりはないと言っていたのではなかっただろうか?

「あ、あるわけないでしょうがそんなもん!」

「……どっちなんだよ」

 料理を作るといったり、作る気はないと言ったり忙しい奴だなあと良輔はちょっと呆れ顔を作る。

「違うのよ、こ、これは……そ、そう!料理じゃないの!」

「料理じゃ……ないのか?」

――――なるほど、確かにそれなら矛盾は……っていやいやおかしすぎるだろ!?

 危うく柊のペースに巻き込まれそうになった良輔は、自分の頭までおかしくなってきたのではないだろうかと少し不安になった。

「そ、そういう意味じゃなくって……これは挑戦状なのよ!」

「挑戦状……でもな柊?」

「何よ?」

「俺は紙を食えないぞ?山羊じゃないから」

「知ってるわよそのくらい!アンタ、わざとやってるでしょう?」

「バレたか?意外に気づくのが早かったな、桜君?」

 ニヤリ、そう笑って見せると柊はワナワナと拳を震わせた。

「むっき~!馬鹿にして!今に見てなさいよ!?」

 柊はどこぞの三流敵役のような台詞を吐き捨てながらキッチンへと走って行った。

「……さて、本当に食えるものが出てくるのか?」

 そんな柊を見送りながら、この際、腹を壊さずに食べられるものであってくれれば何でもいいと願う良輔だった。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






 数刻後、料理を持って現れた柊は、テーブルの上に料理を並べる。
 メニューは白米に味噌汁、ほうれん草がなかったからなのか代わりにキャベツを入れているウインナーとキャベツの炒め物、他には卵焼きとそれから……。

「それから……何だこれ?」

 良輔はその茶色の物体を訝しげながら見つめていた。

「何って?肉そぼろだけど?」

「そぼろってあれだよな?そぼろご飯に入ってる肉の部分だよな?」

「そうだけど?」

「……冷凍食品か、これ?」

 良輔はそう考えたが、柊は首を横に振った。

「缶詰のお肉を叩いて細かくして、それにお味噌とニンニクを加えて炒め直したのよ……まあ、元が缶詰のお肉だし?ニンニクも摩り下ろしたものじゃなくてチューブ、お味噌もインスタント味噌汁のやつを使ってるから普段通りってわけにはいかなかったけど」

「へえ、創意工夫が凝らされてるんだなあ……一応聞くけど味見とかってちゃんとしたよな?」

 このオチはあれだぞ?恰好良いことしようとして味が壊滅的に終わっているということではないかと良輔は危機感を覚える。

「したに決まってんでしょ?馬鹿にしてんの?」

 しかしギリギリと握りこぶしを作る柊を見て、冗談を言うのはやめることにした。
 ちなみに半分ぐらいは本気だったのは良輔だけの秘密だ。

「さあ!作ってあげたんだから有難く食べなさい!」

「……そんじゃあまあ、いただきます」

 柊に急かせれて、良輔は早速肉そぼろを手に取ると、ご飯の上にかけて……慎重に一口食べた。
 それを口に含んだ瞬間、良輔の表情は一変する。

「意外に、大変意外なことに……うまい」

 いい感じに塩っ気があり、ご飯が進む。
 ウインナーとキャベツの炒め物にも箸を伸ばすがこれもうまい。

「特にこの卵焼きがうまいな?」

 まるで柔らかいケーキでも食べているような気がした。

「ふふん、それは作るときにお酢を少しだけ入れたのよ」

「卵焼きにお酢を?」

「うん、そうすることで卵が空気を取り込みやすくなるの?結果としてふわりと柔らかい卵焼きができるってわけ」

「へえ、すごいな」

 得意気にニコニコ笑いながらしゃべる柊も珍しいなと、良輔も微笑んで答える。

「ほら見たことか!?どう?ぎゃふんと来た?」

「ああ、俺が悪かったよ、確かにこの料理はうまい」

「ふえっ?」

 良輔はよくやったとばかりに柊の頭を撫でると、柊の顔が真っ赤に染めあがった。

「あ、アンタ一体何を!?」

「お前にも女の子らしいとこあるんじゃないか?見直したよ」

「う、うん」

 良輔の褒め言葉に、恥ずかしそうに柊は俯いた。
 顔を下げてしまったので、良輔からは見えなかったが、柊ははにかんだような笑みを浮かべていた。
 それには気づかずに良輔は柊の作った料理を平らげる。

「御馳走様、うまかったよ」

「ふ、ふん、残したら何か嫌味でも言ってやろうと思ってたのに……まあいいわ」

 良輔が自分の料理をしっかり完食したことに気を良くしたのか、柊はやたらと上機嫌になっているようだった。

「ふああっ、しかしもう眠いな」

 気づけばもう11時前だ。
 既に2階が進入禁止になり、明日の7時には3階が進入禁止になるだろうと予想できる。
 普段ならとっくに寝ている時間だ。

「じゃあさっさと寝れば?誰か来たらちゃんと起こしてあげるから」

「そうだな、寝ている間の見張りを頼んでもいいか?」

「……まあ、しょうがないわね、速水のやつもいないし、この前は僕も見張りしてなかったわけだし」

「おっ?いつになく素直なんだな?」

「別に?ただ気が向いたってだけで……別にアンタのためじゃないし」

「じゃあお前の気が変わらない内に俺はさっさと休ませてもらうことにするよ、何もなくても4時間後には起こしてくれるか?」

「わかったわ」

「じゃあおやすみ」

「ええ」

――――今日は随分と気を回してくれるんだな。

 良輔は不思議に思いながらも、多少は信用してくれているのかなと自己完結することにした。
 大分丸くなった柊に見張りを頼んで、ベッドルームへと入って行った。





[22742] 18話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2011/06/20 22:10
【BET】
player  suit  card  odds  BET
北条良輔  ♦  5  9.0  -
御剣優希  ♥  J  4.8 トぺルカさん(40)
夏本玲奈  ♥  2  6.3 油桜さん(50)、BSさん
柊桜    ♦  9  9.0 nidaさん(40) 結崎 ハヤさん
西野美姫  ♣  3  3.0 ながながさん(100)
神河神無  ♣  A  2.0  -
白井飛鳥  ♠  6  Death  -
杉坂友哉  ♠  Q  Death  -
一ノ瀬丈  ♣  8  4.5  ナージャさん(40)
速水瞬   ♥  K  1.5  -
幸村光太郎 ♦  4  Death  -
飯田章吾  ♠  10 Death  ヤマネさん
水谷祐二  ♥  7  2.1  ヴァイスさん(50)
Day 2日目
Real Time 午後 11:50
Game Time経過時間 37:50
Limit Time 残り時間 35:10
Flour 4階
Prohibition Area 2階
Player 9/13
注意事項
この物語はフィクションです。
物語に登場する実在もしくは歴史上の人物、団体、国家、領域その他固有名称で特定される全てのものとは、名称が同一であっても何の関係もありません。






 一ノ瀬達はこの頃戦闘禁止エリアを目指して移動していた、夏本はこれを休憩のためと考えていたが一ノ瀬は違う、自分のPDAに映し出されている光点が戦闘禁止エリアにあることを知っており、クリア条件のためにそのプレイヤーと接触するためであった。
 そして長い移動の末に、2人は目当ての戦闘禁止エリアへと到着する。

「はあ、ようやく戦闘禁止エリアに着きましたね?」

「うん、そうだね……ゆっくり休もうっか?」

 この中に首輪の反応が2つあることを知っているので、休むことはできないだけどなあっと夏本に心の中で謝罪しておく。

「あっ、玲奈姉ちゃんちょっと良い?」

「ふえっ?どうしたんですか?」

「もうこんな時間だし、中に誰かいるかもしれないでしょ?だからPDAのアラームは鳴らないようにしとかないと警戒されちゃうかもしれない」

「なるほど……ジョー君って頭良いですね!」

「あはは、ありがとう、それじゃあ音量絞っておこう?」

「はいっ!」

 夏本は元気良く返事を返すと、PDAを取り出して操作をはじめた、一ノ瀬も同じようにPDAの音量を絞る。

「じゃあ、行こうっか?」

 戦闘禁止エリアの前まで進み、そのドアノブに手を掛けた。
 よし、行くぞと2人は気合を入れる。

『ここは戦闘禁止エリアです!』

 いつも通りPDAからアラーム音が教えてくれる。

『……うわっ!?何してんだお前?』

『な、何って……誰か来たみたいだから教えに来てあげたんじゃない!』

 中から何やら言い争うような声が聞こえる。
 そんなとき、夏本が一ノ瀬の服の裾をぐいぐいっと引っ張った。

「玲奈姉ちゃん?どうしたの?」

「あ、えっと……中に誰かいるみたいだしこのまま入っていいのかなって」

 その怯えた様子に、どうしたのだろうと訝しむ一ノ瀬に、夏本はすまなさそうに話す。

「でもjoker持ってるかもしれないし、素数ナンバーの人かもしれないからどっちみち接触しなくちゃいけないじゃない?」

「そ、そうですけど……私、あの人達に銃で撃たれてて、危ないですよ!?今ならまだ間に合います!戻りましょう?」

「……大丈夫だよ、ここは戦闘禁止エリアだしあの人達も僕達を攻撃できないよ」

「で、でも……だけど!」

「あれ?もしかして玲奈姉ちゃん……怖いの?」

「そ、そんなこと!?そんなこと……ないもん」

「それに何かあれば僕が玲奈姉ちゃんを守ってあげるから、ね?」

「……、」

 夏本は根負けしたのか、コクリと小さく頷く。

「そ、それにジョー君のクリア条件のこともあるから……だ、大丈夫!お姉ちゃん頑張っちゃうぞぉ~」

 震えた声でそう宣言する。
 しかし残念ながら顔は青ざめており、手もガタガタに震えているので説得力は皆無だったが、それでも自分のクリア条件に協力しようとしてくれることを少し嬉しく思い、一ノ瀬は夏本の手をしっかり握った。

「っ!?」

「大丈夫、大丈夫……行こう?」

 一ノ瀬は赤面している夏本にそう言い聞かせ、今度こそ戦闘禁止エリアの扉を開けた。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






 戦闘禁止エリアの中に入ると、そこには人が2人いた、1人はTシャツを着て、学生服のズボンを穿いている。
 背はかなり高めで180あるかないかというところだろう、体を鍛えているのか体格も悪くない、戦闘禁止エリアということもあってか堂々とソファーに腰を下ろしていた。
 もう1人は小柄な女性だ、身長は夏本と同じかそれより少し高いくらいで150cmちょっとぐらいだろう。
 サラリと長い髪をストレートに下ろしており、黒縁の眼鏡から奥から覗いている切れ目の長い目つきがちょっときつめの印象を与える。
 着ている服が何故か男物のカッターシャツ一枚だけで、座ると見えるかもしれないと危惧しているのかこっちの女性は男の後ろに立ってこちらを睨んでいた。
 頬が心なしか赤く染まっており、本人は気づいていないのかボタンをひとつ掛け間違っている。

「……俺達に何か用か?」

 最初に口を開いたのはソファーに座っている男だった。

「こんにちは、僕は一ノ瀬丈と言います……玲奈姉ちゃんから話は聞いてます、貴方が北条さんで、貴方が柊さんですね?」

「……何よこのチビ?」

 柊はもうちょっと遅く来てくれても良かったのにとぼそぼそ呟きながら、小柄とはいえ自分より背の高い一ノ瀬を見上げながら罵声を浴びせてきた。

「あ、貴方のほうがチビじゃないですか?」

「はっ?アンタまだ生きてたのね?とっくの昔に死んだと思ってたのに」

「……ひどい、あんまりです」

 それに答えたのは一ノ瀬ではなく夏本だった、柊の矛盾した罵声に抗議の声を上げるが、その矛先が自分に向いた瞬間に涙目になってしまう。

「悪いけど僕の連れを威嚇しないでもらえるかな?こっちとしても面倒事は手っ取り早く済ませたいんだ」

 一ノ瀬は素早く柊と夏本の間に割って入ると文字通り柊を見下しながら静かにそう答えた。
 その対応に今度は柊が気圧されたように口を噤む。

「よせ、ここは戦闘禁止エリアだ……俺達は何もできやしないし、向こうだって何もできない、そうだろ?」

「……ちっ」

 しかしその中で良輔だけが冷静に招かれざる客の対応をしていた、良輔に制されて、柊は渋々といった様子だがそれに従うように一ノ瀬達と距離を取る。

――――ふうん、どうやらこっちの人が主導権を握ってるみたいだね。

 一ノ瀬はそのやりとりからそう感じ取ると、つかつかと近寄っていき、良輔と向かい合うようにどっかりとソファーに座る。
 あくまで立場は対等だと主張するように。
 その隣に一ノ瀬と手を繋いだままの夏本がちょこんと座っていた。

「……生意気なやつ」

 柊は明らかに良輔より年下、もしかしたら自分よりも年下かもしれない――実際には柊より2つ年下――その一ノ瀬の対応が、面白くないようだったが、良輔は特に思うところもなく一ノ瀬を見る。

「……それで、用件は何だ?戦闘禁止エリアの中で話し合ってるんだ、殺し合いをしようというわけじゃないだろ?」

「そうだね……とりあえず情報交換しませんか?お互いの知っている情報を教え合う、お互いのクリア条件はひとまず置いておいて、他のプレイヤーの情報を交換する」

「考え物だな、嘘の情報を教えられるとも限らない」

「ふふっ、それは大丈夫だよ、僕達が現状知っているのはお互いの名前だけ、どの情報を流すことで相手が有利になるのか、はたまた不利になるのか?端的に言えば効率的な嘘がつけないこの状況で嘘がつけるほど僕は酔狂じゃないよ」

 一ノ瀬の言葉を受けて良輔も考える。

――――確かに、この状況じゃあどう嘘をついていいか見当もつかない、か。

 それに情報交換することで得られる利益は当然あるはずだ、やはり情報の信憑性については微妙なところだが得られるものもあるだろう。

「……いいだろう、だがこちらからカードを明かすというのは避けたい、言いだしっぺのお前達から情報を明かしてもらうことになるが構わないか?」

 結局良輔は情報交換に応じることにした、戦闘禁止エリアの中だったということも大きいかもしれない。

「妥当な判断……だね?じゃあまずは何を話題にしようか?とりあえず他のプレイヤーの名前なんてどう?」

「話してみろ?」

「そうだね、僕と玲奈姉ちゃんが遭遇しているプレイヤーは自分達を含めて全員で12人だ、つまり、13人中1人だけは名前も何もわかってない」

「……俺と柊が遭遇しているプレイヤーは、自分達を含めて全員で11人だ、どうやらその情報で知らないプレイヤーの情報が最低1人以上手に入るらしいな」

 良輔は少し考える、それはこの一ノ瀬という少年にとって、他のプレイヤーの情報を明かすことにデメリットがあるかどうかということだ。
 デメリットがあるなら嘘をつくことも考えられるが……。

――――あるとは思えないな。

 少なくとも名前を教える程度でデメリットが発生する条件はなかったはずだ。
 これがプレイヤーナンバーの話であれば消去法でナンバーを特定されないために嘘をつくことも考えられるが名前程度であれば嘘をつく必要もないだろう。

「OK、最初の話はプレイヤーの名前だ」

「じゃあ約束通りまず僕達のほうから、じゃあ玲奈姉ちゃん……今まで遭遇したプレイヤーの名前を話してくれる?」

「え、えっと私は最初に杉坂友哉さんに会って、その後神河神無さん、ルール交換で会ったプレイヤーについては良輔さん達もご存じと思いますので省略させてもらいます……その後でジョー君と会いました」

「……全員俺達の知っているプレイヤーだな、ということは一ノ瀬の会ったプレイヤーが俺達と未遭遇なわけだ」

「そういうことみたいだね、じゃあ次は良輔さんか柊さんにお願いしますね?」

「なっ?そっちが先に話すって言ったじゃない?」

「……だから先に話したじゃないですか?先攻の後は後攻……そう思わない?」

「柊、話してやれ、名前くらい話したところで誰も困らん」

 柊は一ノ瀬が気に入らないらしいが、良輔に宥められて渋々承諾した。

「……わかった、僕は最初に良輔と会って、ルール交換の後は速水、神河と会ったわ」

「なるほど、その速水っていうプレイヤーを僕達は知らないね、玲奈姉ちゃんは知ってる?」

「いえ、私も初めて聞きました」

 一ノ瀬の問いかけに夏本はそう答えた。
 基本的に遭遇している人数だけなら一ノ瀬より夏本の方が多い、6階から下に向かって降りてきた一ノ瀬はそもそも接触できる人数に限りがあったからだ。

「さて、俺達も話したんだ、今度はお前の番だぞ一ノ瀬?」

「とりあえず消去法でまだ名前が出ていないプレイヤーの名前だけ教えるね、1人は幸村光太郎っていうとにかくでかい人、1人は西野美姫という小学生くらいの女の子、そしてもう1人は……」

 そう一ノ瀬自身がjokerを使って騙した少女、これこそがこの会談における一ノ瀬の切り札。

『御剣優希……年の頃は大体良輔さんと同じくらいじゃなかったかな?』

 一ノ瀬はニヤリと笑って良輔を見る、その顔がみるみる青ざめていくのが手に取るようにわかった。

――――これは、ビンゴ……かな?

 優希と一緒にいるときに、彼女の話からは良輔という単語が多く出ていた。
 夏本から話を聞いたときにもしやとは思っていたがこの様子から見るとどうやらただの知り合いというわけではなさそうだとほくそ笑む。
 うまく使えば情報を洗いざらい聞き出せる。

――――さて、主導権は握らせてもらったよ?

 これ以後、良輔がどのような行動を取るのか、それにどう対応するのが効果的かと一ノ瀬は考えていた。

――――優希、まさか!?

 その一方で良輔の心中は穏やかではなかった。
 優希がこの建物にいるかもしれないなんて考えたくない、けれどもし本当だったら?自分は優希を見殺しにしてしまうかもしれないのだ。

――――慌てるな、まずは情報がないと動けない。

 一ノ瀬の偽情報かもしれないし、ただ同姓同名の別人ということもないわけではない。
 何とか一ノ瀬に優希の情報を吐かせる必要がある。
 効果的な手段としてはやはりこのまま情報交換を続けていくことだろう。
 互いの思惑を交差させて良輔と一ノ瀬はどうやって相手からより多い情報を引き出すか考えていた。

「そうだな、次はお互い会っていないプレイヤーの情報をわかる範囲で教え合っていこう」

 先に動いたのは……良輔だった。

「具体的にはどういうことを話すんですか?」

「外見、性格や言動、わかる範囲の装備、怪我の有無、あるいは生きているのか死んでいるのか、最後に遭遇したポイント、できればプレイヤーナンバー、jokerの有無なんかも知りたいな……誰でもいいけどまずは、そうだな……」

 一ノ瀬の質問に良輔は少し考えるような素振りを見せる。

『御剣優希というプレイヤーの情報を教えてもらえないか?』

 そして一番最初に聞き出そうとしたのはやはりその情報だった。

――――頼む、偽情報であってくれ!

 素面を装いながらその実、焦りまくっている良輔はそう願いながら何気なく、しかし一挙一動見逃しはしないと一ノ瀬を見る。

――――しれっとよくもまあ、この短時間でそんな方便が出てくるなんて尊敬しちゃうよ。

 一方で一ノ瀬は良輔がかなり必死になっていることは容易に想像がついた。
 相手はよほど頭が回るのだろう、聞き出したい情報をそれとなく聞いてくるあたり相当曲者らしい。
 しかしこの情報をただで譲るには惜しすぎる。

――――ここは話に信憑性を持たせつつ肝心な話はしない程度に匂わせるくらいが妥当か。

 その方が引き出せる情報は多そうだと一ノ瀬は考えた。
 恐らく良輔の方では偽情報ではないかどうかと疑っているに違いない、確信を与えることは大切だが、その中身まで丸々与えてしまうのは犬にステーキを食わせているのと同じだ。

「そうだね、優希姉ちゃんの外見は金髪で、女の子の割には長身だったかな?僕より大きかったから多分170cmあると思う」

 とりあえずこれぐらいの情報を与えておけば本人であることがわかるはずだと一ノ瀬は情報をある程度提供した。

「へえ、随分とでかい女がいるんだな?」

「うん、僕も男だからあれぐらい身長欲しいなあ~」

――――……うん?不発だったかな?

 良輔の反応に自分の願望を若干交えながらそう返すが、この反応にはまだ気づいていないのだろうかと不安になる。

――――あるいは本当に別人ってことも……あるのか?

 もしそうであるとするならこの情報は金からいっきに紙切れ並みの価値へと大暴落してしまう。

――――もう少し情報を与えて様子見てみようかな?

 一ノ瀬はそう考えて次の話を考えていく。

――――優希だな、間違いなく……くそっ、あいつまでこんなゲームに巻き込まれてんのかよ?

 しかし実際には一ノ瀬の言葉で良輔は優希本人であることを確信していた、露骨な反応を返さなかったことで一ノ瀬に誤審を起こしたという点では良輔が一本取った形と言えるだろう。

――――問題は一ノ瀬がどこまで情報を掴んでいるのかということだが。

 まずは優希の安否だ、生死は今すぐにでも確認したい、自分の持っている情報全てを明かしてでも欲しい情報だ。
 次いで怪我の有無、プレイヤーナンバーとクリア条件。
 現在どこにいるのか、誰と組んでいるのか、身を守る武装はどれほどあるのか。
 少しでも情報が欲しい。

――――もし優希もここにいるなら俺がヘマをするとあいつの生存率にまで関わってきちまう。

 迂闊に行動できなくなったことに対して良輔は歯噛みする。
 それに気づくことなく一ノ瀬がまた口を開いた。

「その姉ちゃんが良い人で、面倒見がとっても良いんだ……僕達は最初、6階に行ったんだけどそこにある銃火器とか見てすぐに他の人に知らせなきゃって……何でかエレベーターが壊れてたから下には降りられなかったんだけどさ」

「……そうか」

――――優希らしいな。

 こんなわけのわからない状況でも他人の安全にまで気を配っている。
 そんな幼馴染がどこか誇らしかった、そのためか良輔は思わず苦笑してしまう。

――――こ、この野郎、さっきの話で本人だと気づいてたな?ポーカーフェイス過ぎてわかりにくいんだよ。

 一ノ瀬が反応を見るために優希の行動を褒めちぎりながら話すと良輔の顔が綻んだ、ポーカーフェイスを貫いてきた相手の頬が突然緩むのを見て、一ノ瀬は歯噛みする。
 どうやら余計な情報を与えてしまったようだった。

――――とりあえず、これであいつの行動方針、装備と現在地は概ね想像がついた。

 一方で良輔は得るものが多かった、どうやら優希はプレイヤーを助ける方針でいるらしい、その行動をらしいなと微笑みながらも優希の現状について考える。

――――既に死んでいる可能性は限りなく低いか。

 一ノ瀬の話が本当であると仮定して、6階に上がって降りられなくなったのであれば他のプレイヤーの襲撃にはさらされていない、あるとすれば一ノ瀬だが、殺した相手の情報を相手に与えるぐらいならシラを切るはずだ。
 仮に自分が、白井について情報提供を求められたなら、迷うことなく知らないと言い張る。
 接触したプレイヤーが死んでいるとなれば当然疑われるのだから当たり前だろう。
 一緒に行動していないというのは気になるが優希はまだ生きている可能性が極めて高い、6階の武装を持ち歩いているなら簡単に殺されたりもしないはずだ。
 優希の現在地は、少なくとも4階より下ということはないということだけはわかった。

――――後は優希のプレイヤーナンバーは最低限抑えておきたいところだが……。

 それを一ノ瀬が知っているかどうかわからない、仮に知っていたとしても教えてくれない可能性が高い。

――――腹を割って話したほうが良さそうだ、少なくともそれをする価値のある情報をこいつは間違いなく持っている。

 どうやって2人きりになるか良輔は考えた、少なくとも周囲に柊と夏本がいたのでは無理だ。

「……なあ、喫茶店で食べるケーキってうまいと思わないか?」

「……うん?」

――――なんだ突然?

 一ノ瀬が困惑したように、柊も夏本も良輔を見た。
 しかし良輔はその意図を話すことなく一ノ瀬の目を見たままだ。

――――乗ってみるか……。

 意味がわからない以上、一ノ瀬は適当に話を合わせて良輔の敷くレールに沿ってみることにした。

「わかるわかる!でも1人で入るのってなんか気まずいんだよね?やっぱさ、喫茶店はお茶請けのコーヒーがおいしいからケーキもおいしく感じるんだと僕は思うんだ~」

――――とりあえずこんな感じかな?さて、良輔兄ちゃんは何を企んでいるのやら。

 一ノ瀬が話に乗ってきたことに良輔は僅かに口元を上げて、後ろを振り返った。

「……ケーキはないけど、コーヒーならインスタントがあったな、柊……入れてきてくれないか?話も長くなりそうだし、飲み物は必要だと思うんだ」

「え?まあ、別にいいけど?」

 柊が渋々といった様子でキッチンに向かう。

――――なるほどね。

 一ノ瀬も良輔の思惑に気づき、それに応じることにした。

「玲奈姉ちゃんも手伝ってあげてよ、1人じゃあかわいそうだし」

「え、でも?」

「ほら、なんか下剤とか入れられるかもと思ったら怖いでしょ?」

「……わかりました」

 一ノ瀬が小声で囁くと、夏本は名残惜しそうに繋いでいた一ノ瀬の手を放し、柊の後を追った。

「……、」

「……、」

 残された2人の間に沈黙が流れる。

「それで?話って何?」

 沈黙を最初に破ったのは一ノ瀬だった。

「優希は……本当にこの建物にいるのか?」

「御剣優希と名乗る女子高生がいたのは嘘じゃないよ」

「証明できるか?」

 良輔の問いに一ノ瀬は考える、どう答えるのが良いだろうか?私物を提供できれば手っ取り早いのだがそんなものは持っていない、とりあえず話していた内容をそのまま良輔に伝えるのが良いだろうと考えて一ノ瀬は優希との会話を思い出す。

『良輔ったら寝起き悪くてさ、いっつも私が起こしに行くまで起きないのよ?少しくらい私の手間も考えてくれてもいいと思わない?』

『おまけに良輔ったら好き嫌いも多いから嫌いな物を食べさせるために料理にも気を使わなきゃだし』

『身だしなみにももうちょっと気を使ってくれたらなあ、元が良いんだからちょっと気をつけるだけで女の子にもモテると思うんだけどなあ、まあ私も良輔が他の女の子にデレデレするところとか見たくないからある程度黙認してるんだけどね、あははっ』

『あいつベッドの下にエロ本隠してるんだけど、それがメイド系のエロ本なのよ、何で幼馴染物の本とか買わないかなあ?そしたら私……』

『でも……良輔はいざって時にはとても頼りになって、それに優しいの、この時間がいつまでも続けばなあ~なんて、えへへっ』

 毎朝起こして、料理も作って、服装をしかりつけ、他の女に欲情すれば嫉妬し、いつまでもこのままが良いという。
 さんざん惚気話を聞かされてもう結婚しちゃえば?と切り返したのは懐かしい――つい一日前だけども――思い出だ。
 とりあえずこの中から1つ適当に選ぶとするならば……

「え~と、何だったかな?確か私の幼馴染に良輔っていうのがいて、そいつがメイド系のエロ本をベッドの下に隠して困ってるとか言ってたっけ?」

「そ、そうか……あいつ他人に何話してんだか……」

 性癖が優希に知れ渡っていたことに赤面する良輔だったが、とりあえずそれは横に置いておくことにした。

「端的に話す……御剣優希についてお前が知っている全ての情報を教えろ」

「……やっぱり知り合いだったんだね?」

「どうせ全部わかった上で言ってたんだろ?」

「まあね、さてっと優希姉ちゃんの話だけど教えるのが嫌だって言ったらどうする?」

「いや、お前は答えるさ」

「……どうしてそう思うの?」

「お前には聞き出したい情報があるんだろ?だからこんな回りくどいことをしてる、お前の聞きたいこともわかる範囲で教える、代わりに優希の情報を俺にくれ」

「それなら話が早くて助かるよ、僕の知りたい情報はプレイヤーナンバーだ、良輔さんは素数のプレイヤーナンバーを持っている人を知りませんか?」

「……ずいぶんあっさり話すんだな?」

「まあ、どうせ後でバレちゃうんで」

 後で夏本が【2】のPDAを公開するときに、自分も公開する破目になるのでそこはもうあまり気にしていなかった。

「……速水という男の話をしたな?あいつのプレイヤーナンバーはKthだ、他は知らないな」

 良輔の言葉に一ノ瀬は頷く。
 これで残るは【5】と【7】の情報さえ集まれば自分の条件はクリアしたも同然だ。

「最初に話しておくけど優希姉ちゃんはまだ生きてるよ」

 一ノ瀬は自分のPDAを弄り、良輔に画面を見せる。

「これは?」

「生存者をカウントする機能、それで今の生存者は9人だよね、僕はこの数字が11の時はまだ優希姉ちゃんと一緒にいたんだ、途中ではぐれちゃったんだけどさ」

 正確に言うとはぐれたのではなく抜け出したのだが、もちろんそこは黙秘する。

「それから2人減ったけど、これはほとんど同じタイミングで減ったから1人で行動している優希姉ちゃんが死んだとはとても思えない」

 同じタイミングで別々に死んだ可能性もあるが、上の階から降りてきているのだから他のプレイヤーと接触している可能性は限りなく低い。

「まあ信じるかどうかはどっちみち良輔さん次第だし、僕からはこれ以上何とも言えないかな?」

「……わかった、もう少しお互いの知りたい情報について煮詰めて行こうか?」

 良輔の言葉に一ノ瀬はただ頷いた。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






「インスタントコーヒーの粉をカップの中に入れておいてくれる?僕はお湯沸かすから」

「え、えっと……わかりました」

「……、」

「……、」

――――うう、話題がないなあ

 キッチンでコーヒーを入れる手伝いをしていた夏本は柊との沈黙に耐えられず、困惑していた。
 いくら戦闘禁止エリアとはいえ、銃で襲われたのは覚えているわけで、襲われることはないとわかっていても目の前の相手が怖くて仕方がなかった。
 しかしこのまま沈黙に耐えるというのも中々重労働だ、何か話していれば気も紛れるかもしれない。

「あっ、そ、そういえば柊ちゃんって良輔さんのことが好きなんですか?」

「は、はあ!?な、なんで僕があんなやつ!?」

 夏本は無視されるかもと思っていたが、予想以上に柊が喰いついたことに興が乗った。
 これからさっき銃で襲われた借りを返してやるぞと夏本には似合わないイタズラする気満々の顔になる。

「だって、もうHなこともしちゃってる仲なんでしょ?声、外まで聞こえてたよ?」

「なっ?」

「もう、別に隠すことなんてないのに」

 柊はまさか聞かれていたとは気づかず、絶句する。
 それを照れ隠しと勘違いした夏本は柊の腰を肘でつんつんとつつくのだった。

「そ、そんなの人に言いふらすことでもないでしょ?」

 まさか自分の自慰行為に相方を登場させていたと知られるわけにもいかず、肯定することも否定することもなくただごまかそうとする。

「やっぱりやっぱり、柊ちゃんって良輔さんの彼女さんだったりするんですか?」

「え、え?僕が良輔の……彼女?」

――――……ふふっ。

 案外、悪くないかもしれないと柊は、はにかみながら俯く。

「くすっ、照れちゃって……かわいいなあ」

「そ、そういうアンタはどうなのよ?一ノ瀬って言ったっけ?あの子とずっと手を繋いでたけど」

「わ、私達は別にそ、そんな仲じゃないですよ!?そ、その手だって、私が怖がってたから握ってくれただけだろうし、きっと私なんて、アウトオブ眼中だよ……取り柄だってないし、どんくさいし」

 負けじと柊は一ノ瀬と夏本の仲を言及しにかかった。
 しかし予想とは別にどうも落ち込み気味の夏本、その小動物みたいなしぐさに触発されて少し元気づけてやりたくなった。

「そう?でも顔は整ってるじゃない?それに、アウトオブ眼中な女の子と手を繋ごうとする男子なんていないと思うけど?」

「そ、そうかなあ?こんな私でも可能性あるかな!?」

「さ、さあ?どうなのかしらね?」

 元気になりすぎ、現金すぎとも言うべき夏本の変わり身の早さに柊は若干ひきながら答える。

「へへっ、私がジョー君の彼女かあ……うふふっ」

「えっと、コーヒーできたから持っていくの手伝ってくれない?」

「付き合ったらお互いどんな呼び方になるのかな?一ノ瀬君は他人行儀だし、丈君がやっぱり普通かな?思い切ってジョー?ふふっ」

「あの、もしもし?聞こえてる?」

「そしたら私何て呼ばれるんだろう?夏本さんかな?ううん今が玲奈姉ちゃんなんだからそのままかも……でも玲奈って名前で呼ばれたらどうしよ?それはいくらなんでも恥ずかしすぎるよ!?」

 柊の声も届かず、1人できゃっきゃうふふしている夏本を見て柊は呆れ混じりに溜息をついた。

「……この子、頭大丈夫かしら?」

 良輔が聞いたら思わずお前が言うなと突っ込みそうな台詞を吐き捨て、しばらく続きそうな夏本の妄想に付き合うしかない柊だった。




[22742] 19話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2011/07/03 08:06
【BET】
player  suit  card  odds  BET
北条良輔  ♦  5  8.0  -
御剣優希  ♥  J  3.5 トぺルカさん(40)
夏本玲奈  ♥  2  5.1 油桜さん(50)、BSさん
柊桜    ♦  9  8.0 nidaさん(40) 結崎 ハヤさん
西野美姫  ♣  3  2.5 ながながさん(100)
神河神無  ♣  A  1.9  -
白井飛鳥  ♠  6  Death  -
杉坂友哉  ♠  Q  Death  -
一ノ瀬丈  ♣  8  2.9  ナージャさん(40)
速水瞬   ♥  K  1.4  -
幸村光太郎 ♦  4  Death  -
飯田章吾  ♠  10 Death ヤマネさん
水谷祐二  ♥  7  2.0 ヴァイスさん(50)
Day 3日目
Real Time 午前 1:30
Game Time経過時間 39:30
Limit Time 残り時間 33:30
Flour 4階
Prohibition Area 2階
Player 9/13
注意事項
この物語はフィクションです。
物語に登場する実在もしくは歴史上の人物、団体、国家、領域その他固有名称で特定される全てのものとは、名称が同一であっても何の関係もありません。





 夏本達が持ってきてくれたコーヒーを啜りながら良輔達4人はお互いの情報を交換し合っていた。
 もちろん両者自分の都合が悪いことは隠し、相手からより多くの情報を抜き取ろうと目に見えない戦いを繰り広げていた。

「じゃあそろそろ最後にしようか?玲奈姉ちゃん、PDAを見せてやって?」

「あ、はい」

 夏本はいそいそとPDAを取り出して画面を良輔達に見せた。

「……【2】か」

「そして僕が8thだ」

「……なるほどな、何でお前達が組んでいるのかようやくわかったよ」

 夏本、そして一ノ瀬のPDAを見て良輔は軽く頷く。
 つまり夏本のPDAでjokerを封じつつ、素数ナンバーのプレイヤーを探すということなのだろう。

――――ここでPDAを見せなければ襲ってくるということも考えられるか?

「わかった、俺達のPDAがjokerじゃないか調べたいわけだな?」

「うん、画面に触らないことは約束するよ」

「俺のナンバーは……」

「ちょっと良輔!?アンタ本気なの?」

「見せた方がいいと判断したからな」

「で、でも」

 渋る柊を余所に良輔はポケットからPDAを取り出して一ノ瀬達に見せる。

「俺のプレイヤーナンバーは4thだ、クリア条件は首輪の3つ破壊」

 良輔の見せたPDAがjokerでないことを確かめるためか夏本は自分のPDAを掲げるがもちろん画面に変化はない。
 横では柊が、合点がいったとでも言いたげな表情を作っており、それを一ノ瀬は横目で伺いながら訝しげに思っていた。

「はい、確かにjokerじゃないみたいです」

「ほら、柊……お前も見せてやれ」

「あ、う、うん」

 柊もまたカッターシャツの上着ポケットに入れているPDAを取り出して一ノ瀬達に見せる。

「僕のプレイヤーナンバーは6th、クリア条件は偽装されたjokerが6時間以上周囲にあることよ」

「……、これもjokerじゃないみたいです」

「……うん、両方とも素数ナンバーでもないね」

 夏本は良輔の時と同じようにjokerでないことを確認すると、がっくりと肩を落とした。
 何故か一ノ瀬が青い顔をしているのだが、素数ナンバーのPDAでなかったことが原因だろうと良輔は自己完結する。

「一ノ瀬、柊のクリアにはjokerが必要だ、そっちで入手したら譲ってくれないか?もちろん、こっちがjokerを入手したら夏本に進呈するよ」

 良輔は嘘は言っていない、確かに柊のクリアにはjokerが必要なのだから。

「……、」

「一ノ瀬?」

「あ、ううん、わかった、jokerを見つけたらそうするよ」

「ジョー君?」

 夏本が顔色の悪い一ノ瀬を心配するように細い声で尋ねるが一ノ瀬は大丈夫と笑って見せ、少しだけ何か考えると恐る恐るといった様子で口を開いた。

「……ねえそのPDAってさ、本当に良輔さん達の物なの?」

「ああ、これは間違いなく俺達の物だぞ、疑うならボディーチェックでもしてみるか?」

「……いや、止めておくよ」

「俺も冗談のつもりだ」

 良輔達プレイヤーは、PDAを破壊されたら死んでしまう、このゲームのルールが真実のものであるということがわかっている以上、ボディーチェックと称してPDAに細工を加えられる危険性を考えればとても昨日、今日あったばかりの見ず知らずの他人に自分の体を触らせるなど考えられない。

「玲奈姉ちゃんそろそろ行こうか?」

 聞きたいことは全て聞いた、これ以上は話すこともないだろうと一ノ瀬は夏本の手を繋いだまま立ち上がる、それに釣られるように夏本もゆっくりと立ち上がり、こちらに向かって軽く会釈すると一ノ瀬と歩を共にして戦闘禁止エリアの出口へと歩いて行った。

「一ノ瀬!」

 良輔は今にも戦闘禁止エリアから出ようとする一ノ瀬達に声をかける。

「……首輪、外せるといいな?」

「お互いに、ね」

 最後にそれだけ言葉を交わし、一ノ瀬達は戦闘禁止エリアから退出していった。

「……後を追って殺すよ?」

 それを見計らうように柊が良輔にそう提案する。

「いや、ここは泳がせておこう」

「何言ってんのよ!?ここであいつらを殺しておけば首輪も2つ手に入るし、jokerを見分けることのできる【2】のPDAも手に入るのよ?ここで放っておく手はないわ!」

 柊は良輔を無視して一ノ瀬達を追うべく扉へと近寄って行った。

「あれ?」

 しかし扉はロックがかかっているのか開かなかった。

――――やっぱりな。

 戦闘禁止エリアを出たところを追撃される可能性について一ノ瀬が気にしていないようだったので何かあるとは思っていだが、どうやら相手は万全の準備を整えた上でこの会談に臨んでいたようだ。

「何で開かないのよこのポンコツ!」

「やめておけ、外にまだ一ノ瀬達がいればルール違反で死ぬだけだぞ?」

「でも!?」

 扉を拳銃で壊そうとしていた――それで実際に壊れるのかは不明――柊を制止するがどうやら一ノ瀬にうまいことやられたのが相当ご立腹らしい、不満気な顔で良輔を振り返った。

「落ち着け、一ノ瀬はお前を6thだと思い込んでいる、うまくいけばjokerを手に入れることだってできるさ、それよりも……」

 実際な話、それを期待するのは馬鹿げているとは思っていた。
 大体一ノ瀬が自分達のためにわざわざjokerを持ってくる理由がない。
 まあ、本当に万が一というやつだ。

「先に5階を見張っておこう、そろそろ神河を仕留めておかないと後が面倒になりそうだしな」

 良輔には一ノ瀬達を追うよりも前にやらねばならないことができた、それ自体は本当のことだが、神河うんぬんは嘘である。
 良輔のやらねばならないこと、本音は優希との合流だ。
 一ノ瀬の話から推測すると優希は自分達より上の階にいる可能性が高い、神河の件がまるっきり嘘というわけではないが優先順位は優希が1位だ。
 そのために階段を張ることは他プレイヤーを探すための有効なソフトウェアを持たない良輔にとっては一番現実的な手段と言えるだろう。

「わかったわ」

 良輔が荷物を纏めているのを見て、渋々といった様子で柊はそれに従う。
 それに良輔の言ったように、先に階段さえ押さえておけば一ノ瀬達をそこで殺すこともできるのだ。
 そう考えて柊もまた荷物を手早く纏めるのであった。

 荷物を纏め終えると一ノ瀬達が封鎖した扉とは別の出口から2人は戦闘禁止エリアを出た。

――――優希……。

 良輔は、この時そのことで頭がいっぱいだった。
 一ノ瀬の話によると優希のプレイヤーナンバーはJthらしい、これが一ノ瀬を追撃しなかった主な理由だった。

――――もしそれが本当だったらの話だけどな。

 一ノ瀬の話を聞くと間違いなく優希はこの建物の中にいる。
 しかしその優希のプレイヤーナンバーに関して言えば事実かどうか分からないのだ。

――――優希と合流しないと話にならないな。

 良輔は思わず歯噛みする、優希と合流し、クリア条件を確認してからそれを優先して動く、そうしなければ自分の動きで優希のクリア条件が達成不可能になってしまう可能性だってある。

――――お前だけは、俺が必ず守ってやるからな?

 良輔は決意を胸に階段へと急いだのだった。





――――――――
――――
――






 一ノ瀬は戦闘禁止エリアから退出するとすぐに【8】のPDAにインストールされているドアコントローラーを使って扉をロックする。
 これで良輔達が自分達を追撃することは不可能だ。
 念のため首輪探知を作動させるが自分達の周囲には良輔達の光点以外は存在しない、そのため一ノ瀬は緊張を解いて夏本と共に通路を歩き始めた。
 大丈夫だとは思うが念のため良輔達から距離を取っておきたい。

「ふう、残念でしたね、素数でもなければjokerでもないなんて」

「うん、まあ次のチャンスに期待しようよ?」

「はい!この調子で頑張って行きましょう!」

――――……本当にそうなのかな?

 夏本にはそう言ったが一ノ瀬には頭の中で柊の反応が引っかかっていた。
 あれほどPDAを見せることを嫌がっていた彼女だったのに、良輔がPDAを見せた途端にその態度を一変させた、単純に柊が良輔を信用しているからその判断に従ったのか?それとも何か違う理由があるのか?

――――まあ、嘘を交えて話すのは必ずしも悪いことじゃあないか。

 一ノ瀬自身、全てのことに正直に答えたわけではない、命が懸かっているのだから教えてもいいかどうか情報はよく吟味したいのは当然の話だ。
 だから優希の話も別れた経緯については完全に嘘といっていいだろう。

「次はどうしますか?」

「う~ん、休めなかったし、別の戦闘禁止エリアに行かない?」

「そうですね……私もそれに賛成です」

――――ごめん、もうちょっと頑張ってね?

 夏本の同意に頷きながらも、一ノ瀬は自分のPDAに目を落とすと先程とは別の戦闘禁止エリアに2つの光点があった。
 僅かに口元を上げると休憩と称して目的地へと移動する。
 この戦闘禁止エリアでの良輔達と一ノ瀬達の邂逅。
 様々な情報が飛び交う情報戦、この武器を使わない戦いで2組はそれぞれ2つずつ嘘をついている。
 良輔達は白井の殺害と自分達のプレイヤーナンバーを、一ノ瀬達はjokerの有無と優希と別れた経緯を詐称している。
 得た情報と得られなかった情報、有益な情報と無害な情報、真実の情報と虚実の情報。
 2組による戦闘禁止エリアでの情報戦はこうして幕を下ろした。

 しかし……。

『ふふっ、聞きましたか?美姫』

『うん、戦闘禁止エリアにいるプレイヤーを狩り出そうと思って来たけど面白いことになってきたよね』

 それを見ている2人組が居た、一ノ瀬の持つ首輪探知機能にも引っかからない2人組。
 見られているとも知らずに和気藹藹と話し込む2人を冷えた目で見つめる4つの瞳。
 探知機能に頼り切っている一ノ瀬がこの2人の存在に気づくことは当然出来なかった。
 もっとも仮に一ノ瀬が探知機能を持っておらず、そして周囲の警戒を怠らなかったとしてもこの2人を発見することは叶わなかっただろう。

『あの2人は別の2人組、僕達のターゲットと接触しようとしているようですね』

『どうする?ここで殺しちゃう?』

『……美姫、確か彼は8thでしたね?』

『うん?そうだけどそれがどうかしたの?』

『……ふふっ、いえなんでもありませんよ、それよりも彼らを尾行して戦闘禁止エリアにいるターゲットと接触してから襲撃することにしましょう』

『ええ~、お預けなんて焦らしプレイはやめてよ速水さん』

『まあまあそう言わず、それに戦闘禁止エリアにいる抵抗もできないプレイヤーをただ嬲り殺すのってプレイヤーがやるのはともかく、ゲームマスターがやるとものすごく客受けが良くないんですよね~』

『……それってどういう意味?』

『ふふっ、僕に考えがあるってことですよ、ぶつくさ言ってないで後を追いますよ?』

『は~い』

 こうして2つの影は策謀を張り巡らせながら移動するのだった。





――――――――
――――
――






 良輔達が居た戦闘禁止エリアとは少し離れたまた別の戦闘禁止エリアに神河と水谷がソファーに座っていた。
 少し前に戦闘禁止エリアについた2人は、時間も遅いということで、この戦闘禁止エリアで休息することにした。
 何だかんだで3階では休息を取れなかったので、2人は保存食を食べながらくつろぎながら作戦会議を開いている。

「さて、ここまでで何か質問はあるか?」

「いや、上の階に上って強力な武器を確保するっていうのはとりあえず賛成だ」

「とりあえず?」

「問題はあの速水って男だ、俺と姉御……2人がかりでも倒すことはできなかった、あいつは一体何者なんだ?」

 あと少しで獲物を仕留められるというところで乱入してきた1人の男性、そのあまりの強さに尻尾を巻いて逃げだすことで精一杯だった。
 悔しさのあまり水谷が手を強く握りしめる、爪が手に食い込んで血が滲んだ。

「……水谷、それはな」

『ここは戦闘禁止エリアです!』

「っ!?」

「……誰か来たようだな、水谷、その話し合いは後にしよう」

 神河が水谷に速水の正体について話をしようとしたその時、自分達が潜伏しているこの戦闘禁止エリアに招かざる客が来たようだった。

「どうする?」

「……、」

 話をひとまず横に置いておき、客のおもてなしをどのようにするか考える。

「接触してみるか?どうせ戦闘禁止エリアだしな」

 神河はそう決めて入ってくるプレイヤーに注意を払った。

「あ、玲奈姉ちゃん誰かいるみたいだよ?」

「やっぱりこの時間は無人っていうわけにはいかないということでしょうか?」

 入ってきた青年、そっちはまあいい、しかし相方は問題だ。

「あっ!?貴方は!?」

「やあ、また会ったな?……確か夏本君といったかな?」

 案の定、夏本は神河を指して叫び声を上げる、

「……す、杉坂さんは、貴方と別れた後で……死にました」

「それはそれはご愁傷様、それで?」

「あ、貴方が……杉坂さんを、こ、殺したんですか?」

 夏本は怯えた様子で、擦れた声で尋ねる。

「おいおい、言いがかりはよしてくれよ、それとも私が殺したという証拠でもあるのか?」

「うっ、それは」

「証拠がないならただの言いがかりだ、そうは思わないか?ナンバー2nd?」

 神河が睨みを利かせると夏本は怯えたように一ノ瀬の背中に隠れてしまった。
 一ノ瀬は相手の台詞から考えて夏本と遭遇したことがあるとは思っていたがこれは最悪の形だ。
 ナンバーを把握されているということはこの人物こそが神河神無なのだろう。

「ジョー君、あの人は駄目です、このままここにいたら……私達、きっと殺されちゃいます!」

 夏本の提案について考える、現場を見ていない一ノ瀬には神河がどうやって杉坂を殺したのかについて見当もつかないが、仮に戦闘禁止エリアでも他人を害する手段をこの女が持っているというのなら大変危険だ。

「……わかった、逃げよう!」

 できることなら神河達とも情報交換したいところだったが背に腹は代えられない、遭遇判定は満たせているだろうし、ここで危険を冒すほどのことはないという判断だった。

「おおっと~、逃げられると思ってんのかね~、哀れなる子羊さんよ~」

「へっ、それはどうかな?案外、逃げられるかもしれないぜ?」

 一ノ瀬はPDAを手にしながら出口へと後ずさりする。
 ここを出て、今までと同じようにドアコントローラーで扉を閉めてしまえば相手は何もすることができない。
 しかしその一ノ瀬の余裕は突如崩されることになる。

「うわっ?」

「きゃっ?」

「何だ?」

「くっ、全員伏せろ!」

 連続した銃声と共に一ノ瀬達がそこから逃げようとしていた扉が木端微塵に破壊されていく、それも神河達の手ではなく、第三者の手によって……。

「さあ!パーティーをはじめましょうか!?」

 突如乱入してきた速水により、絶望の開幕が告げられた。
 戦闘禁止エリアを舞台として、血染めの狂宴が今……幕を開けようとしている。





――――――――
――――
――






 突然の襲撃にその場にいたプレイヤーは全員肝を冷やした、何と言っても安全を約束されていた戦闘禁止エリアで襲われたということが大きな理由だろう。

「くっ、速水さん!?」

「やあ神河さん、貴方の望み通り殺しに来てあげましたよ?」

「あ、あの人!首輪が外れてます!」

 夏本が襲撃者の首を指して叫ぶ、首輪が外れているからこそペナルティーを受けることなく戦闘禁止エリアでも戦うことができる。
 それ自体は当たり前の話であり、夏本を除けば全員がそのことは理解していた。

「馬鹿な!まだ2日目だぞ?早すぎる!?」

 神河達に誤算があるとすれば首輪を外したプレイヤーが出るとすれば少なくとも3日目の終盤まではないだろうと高を括っていたのと、首輪を外してまで他のプレイヤーが襲ってくる必要性の低さのせいで、警戒が緩んでいた。

「ふふっ」

 速水は不適な笑みを浮かべて持っていたサブマシンガンを連射した。
 その場にいた全員がソファーなどの家具の後ろに隠れる。

「水谷!?」

「言われなくてもわかってるっつうの!」

 神河が叫ぶよりも早く、水谷は走り出していた。
 ここは戦闘禁止エリア、首輪の外れている速水は別として、神河達が戦闘を行うことはできない、つまりここから出ないとお話にもならない。
 水谷は家具を使って巧妙に銃弾を防ぎながら反対側の扉へと近づき、ドアノブを回す。

「あっ!?くそっ?どうなってやがる?」

 しかし扉には鍵がかかっているのか開かない。

――――ドアコントローラーだ!

 その機能を使用したことのある一ノ瀬はすぐに扉が開かない原因に気がついた。
 PDAの機能を使ってロックを解除しようと試みる。

「くっそ!?」

 しかし手が震えてうまくPDAを操作できない、命を狙われている恐怖、サブマシンガンという銃器の圧倒的脅威の前に、一ノ瀬は普段通り動くことができなかった。

――――駄目だ……殺される!?

 安全だと考えていた戦闘禁止エリアを使ってプレイヤーと遭遇していくという一ノ瀬の戦略は脆くも首輪を外した速水によって崩された。
 鮮烈にイメージしてしまう近すぎる死に、一ノ瀬は怯えた。

「い……やだ」

「ジョー君?」

「嫌だ、死にたくない!まだ死にたくなんてない!こんな理不尽なことで死にたくない!僕は……」

「危ない!」

「うわっ!?」

 一ノ瀬は夏本に押し倒され、床を転がる。
 ついさきほどまで一ノ瀬が隠れていた家具が銃撃によって破壊されていた。

「あぐっ!?」

 壊れた家具の破片が飛び散って夏本の身体を傷つけていく。

「あっ?」

 その傷口から流れ出た血液が、一ノ瀬の顔にかかった。

――――駄目だ、終わりだ……僕、ここで死んじゃうんだ。

 やりたいことはまだたくさんあった。自分を育ててくれた両親に恩返しがしたかったし、もっと学校の友達とゲームの話題で楽しくおしゃべりがしたかったし、未だ経験がなかったけれど人並みに恋愛だってしてみたかったのだ。

――――何で?何で僕が死ななきゃいけないんだよ?

 両親にわがままを言って困らせたこともある、友達と意見が合わなくって喧嘩したこともある。
 だが、本当にそれだけで死ななければならないのか?これらは死に値するほど大きな罪だったのか?

――――あ、そっか……。

 しかしこの建物に連れて来られてから自分のやったことはどうだろう?優希を騙し――そのせいでゲームがクリアできなくなるかもしれない――、幸村達を騙し――自分がいなければ他のプレイヤーと接触することもなかった、あの後で姿を見ていないがもしかしたらもう死んでしまっているかもしれない――、良輔達を騙し――jokerを渡せば柊はクリアできただろう――、そして何よりも……夏本を騙した。
 正直にjokerを渡していればこの少女はとっくにクリアできていたのに、そうしていればここで危機にさらされることもなかったはずなのに……。

――――だから死ぬのか、何だ、考えてみれば自業自得じゃん。

 罪もない他人を騙した、そのせいでクリア条件を満たせないまま死ぬ可能性のある人がいる。
 自分は確かに直接他人に危害を加えてはいないかもしれない、だが……間接的に人殺しをしているではないか?

「馬鹿だなあ、僕って」

――――何が死にたくないだ、自分のせいで一体何人の人間が死ぬことになるのか考えもしなかったくせに、その上まったく無関係の玲奈姉ちゃんまで巻き込んで……。

「ごめんなさい、ごめんなさい玲奈姉ちゃん……全部、僕のせいだ」

 こんなことになるのならjokerを渡しておけば良かった。
 そうすれば最悪、夏本が死ぬことはなかっただろう。
 自分が死ぬのは自業自得だが、それに夏本まで巻き込んでしまったことを一ノ瀬は深く後悔していた。

「大丈夫です」

「えっ?」

 しかしそんな自分の顔を、覗き込んでいる人がいた。

「大丈夫ですよ、ジョー君は……お姉ちゃんが守ってあげますから」

 痛みに顔を歪ませながらも、夏本はニッコリと優しく微笑んだ。

「……、」

 一ノ瀬は信じられないものを見るような目で夏本を見つめる。

――――本当にこんな人が……いるのか?

 今まで信じることができなかった、この態度も演技かもしれないとずっと疑っていた。

――――こんな状況で、こんな演技ができる人が本当にいるのか?そんな化け物みたいな人なのか、この人が?

 いるわけがない、そんな人間がいるわけがない、命が狙われているこの状況で、他人を庇って負傷して、それでもまだ守ろうなんて演技をする人がいるとは流石の一ノ瀬も思えなかった。
 それでは演技でないなら、もしかしたらこの人は……

――――本当に、僕を守ろうとしているのか?会ってから1日も経ってないような他人に過ぎない僕を?

 きっとこの少女は馬鹿だ、騙されていることも知らず、本当はjokerを持っていたのは自分なのに、こんな死地にいるのが自分のせいであることも知らず、そんな人間を庇って死ぬ。
 そんな死に方でいいのか、そんな死に方をさせていいのか?これではただの犬死ではないか?そう思って一ノ瀬が夏本を見上げても、ただ夏本は微笑むだけであった。

「ねえ玲奈姉ちゃん?」

「……何でしょうか?」

「玲奈姉ちゃんは、僕のこと……信じてくれてた?……仲間だった?」

 一ノ瀬は不安気に尋ねる、答えはわかりきっている……NOだ。
 自分に騙されているなどきっと気づいてはいないだろうが、この状況に夏本を追い込んだのは紛れもなく自分なのだ、だからこの少女は自分に罵声、非難を浴びせる権利が当然あるはずなのだから。

「何を可笑しなことを言っているんですか?そんなの当たり前に決まってます!」

 しかし一ノ瀬の予想とは正反対に、夏本は力強く、一片の疑いもしていないと確信できるほど清らかな表情で、確かにそう言い切った。

「……そっか、そう、だったんだ……ありがとう、こんな僕を仲間だって言ってくれて……すごく嬉しいよ」

 一ノ瀬は、自分の予想が外れたにもかかわらず、それを嬉しいと感じている自分を自覚して不思議と笑みが零れる。
 何故今まで自分はこんな少女を疑っていたのだろうか?ここにきてようやく、ようやく一ノ瀬はこの少女を信じることができた。
 こんなところでこの少女を死なせたくない、この少女だけはここから必ず生きて返してやる。
 そうと決めた一ノ瀬の心が落ち着きを取り戻し、この状況をどうやって打破するべく脳をフル回転させていく。

――――ここは戦闘禁止エリア、攻撃はできない。入口はドアコントローラーで固められてる、僕のPDAを使えば開けられるけど……駄目だ、向こう側にたどり着くまでに射殺されてしまう、どうにかして時間を稼ぐ必要がある……どうすれば?

 時間を稼ぐとすれば一番有効なのは相手を攻撃して牽制すれば良い、しかしここで戦闘を行えば首輪が作動して殺される。

――――いや、待てよ?何か見落としている気がする、何だ?僕は一体何を見落としてるんだ?

 焦る心を抑えて考える。
 銃を乱射する手品師、家具を使って交わしている神河、何とか扉を開けようとしている水谷、床に転がっている自分と、覆いかぶさっている夏本。

――――あ、そっか!何で今まで気がつかなかったんだ!?

 そして一ノ瀬は自分の見落としにようやく気づく、普段なら見落とすことなど有り得なかっただろうが襲撃されていたことで気が動転していたのだろう。
 ここまで僅か数秒といったところ、まだ誰も殺されていない。

「あははっ♪前回の気迫はどうしたんですか?もっと頑張ってくれないと悲しいじゃないですか?」

「このぉ!?言わせておけばあああああああああああああ!!」

「おっと、危ないですよ?」

「っ!?くっそぉ!!」

 本気を出せばすぐに片がつくだろうに、相手は遊んでいるのかすぐに勝負を決めようとはしていなかった。
 意識は完全に神河に向かっており、自分達には目もくれていない。
 感情的には面白くないものがあったが、これほど有り難いことはない。
 この慢心を利用すればこの状況さえ打破できる……いや。

――――やれる!僕じゃないとやれない!

 一ノ瀬は震えが止まったその手でPDAを見た。
 これには今までずいぶんと助けられた、不本意ではあったが少なくともこの少女と巡り合わせてくれたこと、そして……この少女を守れるだけの力を与えてくれたことだけは感謝しなければならない。
 一ノ瀬は夏本を押しのけて立ち上がる。
 その手にはPDAが握られていた。
 敵に立ち向かうことが怖くないというわけではない、それでも……この少女を裏切ること以上に怖いものなど、もう何もない。

「ジョー君?」

 押しのけられたことで困惑している夏本が、今度は一ノ瀬を見上げる形で不安そうにしていた。
 一ノ瀬は夏本を安心させるように、もう大丈夫とニコッと笑って見せる。

「玲奈姉ちゃん……」

――――ねえ玲奈姉ちゃん、知ってる?

「は、はい?」

『仲間ごっこは……もう終わりにするよ』

「えっ?」

――――僕ってそんなに強くないし、頼りないかもしれないけど……。

「ここからは先は……。」

――――これでも、男の子なんだよ?だから……。

『本当の仲間として、僕が、玲奈姉ちゃんを……守るから!』

――――かわいい女の子を守るのは男の務めなんだよね。

 一ノ瀬は迷うことなくPDAを首輪にコネクトする。

『ピロリン、ピロリン、ピロピロリーン』

 銃声と怒号の鳴り響く戦闘禁止エリアに、異色のファンファーレが鳴り響いた。

『おめでとうございます!貴方はゲーム開始から24時間経過後、素数ナンバーのプレイヤー全員と遭遇しています!貴方はクリア条件を満たすことに、見事成功しました!』

 首輪とPDAから合成音が流れ、一ノ瀬の首輪が2つに割れた。
 その光景に夏本も、神河も、水谷も予想外とばかりに一ノ瀬を見る。

「ふっ!」

 一ノ瀬は念のため持っていた拳銃を引き抜き、速水目掛けて発砲する。

「おっと」

 今度は速水が家具の後ろに隠れる番だった。

「僕は……」

 拳銃を構え、小さな戦士が牙をむく。

『ここでも戦える!』

 一ノ瀬が首輪を外し、速水の優位は崩れ去った。
 速水の作り出した絶望の舞台に、一筋の希望の光が差し込んだ。
 そう、そのはず……だった。

――――さて、とりあえずここまでは……。

『計算通りです』

 しかしこんな状況に陥ってもまだ……速水は家具に隠れて、一ノ瀬達には決して見えないように……うっすらと笑っていた。
 本当の絶望は……深海よりも深く、暗い。




[22742] 20話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2011/07/23 14:31
【BET】
player  suit  card  odds  BET
北条良輔  ♦  5  8.0  -
御剣優希  ♥  J  3.5 トぺルカさん(40)
夏本玲奈  ♥  2  5.1 油桜さん(50)、BSさん
柊桜    ♦  9  8.0 nidaさん(40) 結崎 ハヤさん
西野美姫  ♣  3  2.5 ながながさん(100)
神河神無  ♣  A  1.9  -
白井飛鳥  ♠  6  Death  -
杉坂友哉  ♠  Q  Death  -
一ノ瀬丈  ♣  8  2.0  ナージャさん(40) ナイトホークさん(10)
速水瞬   ♥  K  1.4  -
幸村光太郎 ♦  4  Death  -
飯田章吾  ♠  10 Death ヤマネさん
水谷祐二  ♥  7  2.0 ヴァイスさん(50)
Day 3日目
Real Time 午前 4:00
Game Time経過時間 42:00
Limit Time 残り時間 31:00
Flour 4階
Prohibition Area 2階
Player 9/13
注意事項
この物語はフィクションです。
物語に登場する実在もしくは歴史上の人物、団体、国家、領域その他固有名称で特定される全てのものとは、名称が同一であっても何の関係もありません。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






 カランと高い金属音を響かせて床に落ちた金属片、夏本は震える手でそれを拾い上げた。

「ジョー君、首輪……外れて」

 自分達を縛ってきた忌まわしき首輪の成れの果てを拾った夏本は、驚きと歓喜の感情がない交ぜになった声を出す。
 一ノ瀬は夏本に対して微笑みながらも構えるその銃口はしっかりと速水へと向けられていた。
 一ノ瀬の首輪が外れ、一変する戦場、速水でさえも迂闊に動けない状況下で、しかし最初に動いたのは……神河だった。

「どうやら我々が無事にここから出られるかどうかは君の手にかかっているようだな?少年」

「えっと」

 ついさきほどまで敵対的な態度を取っていた人物が近づいてきたことで少し焦る一ノ瀬だったが、神河の真剣な表情を見て話しの続きを促した。

「私達は君への援護を惜しまない、私が標準を合わせる、君は引き金を引くだけで良い……安心しろ、私は軍人で銃の扱いには長けている」

「わかった」

 神河は一ノ瀬に身体を密着させ、その手を引き金にかかっている一ノ瀬の手を覆うように握り締めた。
 神河達にとってもここで自分と協力して敵を退けなければ殺されるという自覚があるということなのだろう。
 そして制服というものが与えるイメージは意外に大きく、神河が軍服を着ていることもあり、一ノ瀬は援助を受けることにした。

「そこのおっちゃん!」

 一ノ瀬は油断なく速水を牽制しながら【8】のPDAを水谷に向かって放り投げた。

「そのPDAの機能を使ってドアのロックを外して!この人は僕が抑える!」

「お兄さんと呼べこの野郎!しかし……ありがてえ!」

 水谷が受け取ったPDAを操作すると、やがて扉のロックが外れる音が聞こえた。

「ドアが開いたぞ?さっさとこの部屋から出ろ!」

「玲奈姉ちゃん!行って、早く!」

「でも!?」

「いいから!」

「っ!?」

 一ノ瀬に急かされて、玲奈はフラフラと出口へと向かう。
 拾ったのか、その手には一ノ瀬の首輪がしっかりと握られていた。

「後は私達だけだな」

「うん!」

 水谷と夏本が戦闘禁止エリアという名の牢獄から脱出し、表情が明るくなった2人。

「ククッ、あはははははははっ……ぷっ、くっく、やばっ!?やばい、お腹いたいですよ~これは」

 しかし家具の後ろに隠れていた速水が腹を抱えて可笑しそうに笑う声が聞こえてくる。
 その態度を訝しげに思った神河は速水を家具ごと睨み殺さんとばかりにその眼光をきつくした。

「何がおかしい?」

「いやいや、神河君って僕を殺しに来たって言ってたわりには僕のことが全然わかってないんだなあっと思いまして、ね?」

「何っ!?」

 おちゃらけた速水の言葉にどういう意味だと神河が聞き返すよりも前にそれは始まった。

『うわっ!?何だお前?』

『キャアアアアア!?』

 外から水谷と夏本の悲鳴と銃声が聞こえてくる。
 とても良いことが起こった時の叫びとは思えなかった。

「どうした水谷!?何があった?」

「チクショウ!やられた、外にも敵がいやがる」

「何だって!?」

「クックック、だから言ったでしょう?君は僕のことが何にもわかってないって……」

 それを聞いていた速水は笑いを堪えながらそう答える、それはイタズラ小僧がイタズラに成功した時の反応と似ていた。

「伏兵を置いてあったというのか!?」

「はぁー、この僕が戦闘禁止エリアで抵抗もできないプレイヤーをただ嬲り殺すなんて芸のない真似をすると思いましたか?」

「ちぃ、気持ち悪いほど用心深いやつめ!」

「そこは準備が良いと言ってほしいですねえ?備えあれば憂いなし、ってやつです」

 神河の悔しそうな声を聞いて苦笑する声が家具の後ろから聞こえてくる。
 それを聞いて一ノ瀬達は眉を顰めた。

「八方塞がりってやつだよね?まいったな」

「この場合は内憂外患と言ったほうが洒落ているかもしれませんけどね」

「私達は貴様に国語の授業をしてもらいたいわけじゃあないんだがな」

「ついでにそのギャグはブラック過ぎて笑えないよ?もっと頑張りま賞」

 速水のボケに対して神河と一ノ瀬は律儀にツッコミを入れる、しかしいままでふざけていた相手からの返答はない。
 いや、むしろその沈黙のせいか緊迫感が増大したように感じられた。

「……そうですねえ、それでは実習訓練の授業にでも切り替えましょうか?」

「っ!?来るぞ少年!構えろ!」

「言われなくてもわかってるよ!」

 その掛け声と同時に、家具の後ろから黒い影が飛び出した。

「ふっ!」

 神河は反射的に飛び出してきたそれについて照準を合わせる……しかし。

「っ!?サブマシンガン?」

 しかし二人の予想に反して飛び出てきたのは速水が使っていたサブマシンガンだった、思わず出た神河の間抜けな声と同時に、逆側から今度こそ速水が飛び出してくる。
 その手には……銀色に輝くコンバットナイフがあった。

「君達なんてこのナイフ1本で十分です」

「っ!?いつもいつも虚仮にしてくれるじゃないか?なあ速水さぁぁぁぁん!!」

 素早い動きで一ノ瀬達の円周を回るように移動していく、怒り狂う神河はその動きに銃口を合わせるように一ノ瀬の体勢を動かしながら速水へ照準を合わせるように動かしていった。

「いまだ!」

 打ち合わせ道理、神河の指示に従って一ノ瀬は拳銃の引き金に手を掛け、発砲した。

「え?う、嘘?」

「あははっ♪そんなのじゃあ僕には当たりませんよ?」

 しかし一ノ瀬の放った銃弾は速水に掠りさえしなかった。
 いくら神河が照準を合わせているといっても一ノ瀬は素人なのだ、神河が照準を合わせてから一ノ瀬が発砲するまでの僅かなタイムラグ……それはほんの一瞬ではあったが動きの素早い速水に対してその一瞬はあまりにも大きすぎた、ある程度の距離を保ちながら速水は部屋の中心にいる一ノ瀬達の周囲を回り続ける、その後も負けじと発砲するのだが動きが速い上に家具に隠れながら移動するのでタイミングが掴めず掠りもしない、最初の銃撃でどこまでの距離を保っていれば躱せるのかという感覚を掴まれてしまっているようだった。

「はっ、はっ」

 撃てども撃てども当たらない銃弾、一ノ瀬は焦っていた。
 未だに銃声が聞こえている戦闘禁止エリアの外、夏本のことが心配になる上に目の前にはいくらこちらにハンデがあるとはいえ銃弾を躱し続ける人外の化け物。
 圧倒的なまでの……格の違い。

「はあ、ぐっ?」

 その焦りからか、神河の指示を待たずに5発目の銃弾を発射してしまう、それは今まで以上に見当違いの場所へと飛んで行ってしまった。

「鬼さん、こ~ちら」

「くそっ!!」

 わかりやすい速水の挑発に、思わず頭の血が上ってしまう。

「落ち着け、まだ1発残っている」

 そんな一ノ瀬を今度は神河が窘める、確かにこの6発式のリボルバーには後1発だけ弾が残っている。
 しかし、この至近距離ではリロードなどできる時間はないし、一ノ瀬にも神河にも新しい拳銃を取り出すような余裕はない、つまり……この1発を外せば、間違いなく終わる。

「これで仕留める、できなければ……死ぬぞ?」

 神河の冷静な声に、一ノ瀬は静かに頷く。

「さあ、チェックメイトです!DEADENDフラグが立ち上がりましたね?貴方達はこの結末を回避することができますか?」

 そう言いながら笑う速水の目は、まるで獲物を追い詰めた虎のようにギラギラと輝いていた。

――――玲奈姉ちゃん……。

 夏本の無事を祈りながら、一ノ瀬は神河の指示に従って速水へと照準を合わせた。
 これが最後のチャンス……外せば死ぬ、思わず生唾を飲み込む。

「くすっ」

 意味深な笑みを浮かべながら一ノ瀬達の周囲をぐるぐる回る速水、しかしナイフを武器に選択した速水が一ノ瀬達を攻撃するには近づいてこなければできない。
撃つならば相手が焦れて距離を詰めてきた時だ。

「……、」

 きっと今まで生きてきた短い人生の中で今ほど集中している時はないだろうと一ノ瀬は確信する。
 決して速水の一挙一動を見落とさないようにしながら、そして……その時はやってきた。

「……!」

 焦れたのかダンッと速水が床を強く蹴っていっきに距離を詰めてくる、待っていましたとばかりに神河は今までで一番早く速水へと照準を合わせた。

――――いける!

 一ノ瀬はこちらに突っ込んでくる速水を見て、引き金を引く……1発の銃声が戦闘禁止エリアへと響いた。

「うっ!?」

 戦闘禁止エリアに放たれた、1発の銃弾。

「あぐっ!?あうああああ?」

 しかしそれは何故か当たらなかった。
 その場で蹲る一ノ瀬、その手から拳銃が零れ落ち、赤い血液が滴り落ちる。

「少年!?」

 神河が驚愕の声を漏らす、それもそのはず……一ノ瀬の手からは何故か銀色に輝くナイフが生えていたのだから。
 勝利を確信していた神河、しかしその銃弾は速水に当たるどころか掠ることさえなかった。

「……ふふっ、ナイフは斬りかかるだけが能じゃあないんですよね」

 速水は一ノ瀬が銃を撃つよりも早く、持っていたナイフを一ノ瀬の手を目掛けて投擲した。
 手にナイフが刺さった衝撃で照準がずれ、銃弾は明後日の方向へと飛んで行ってしまったのである。

「ほら、ぼさっとしてちゃあ駄目ですよ?」

「なっ!?」

 神河が一ノ瀬に注意を取られている間に速水はその距離を詰め、神河の懐へと飛び込んでいた。

「しまっ!?」

「はっ!」

 そのまま神河の顎目掛けてアッパーカットが繰り出される、下から唸る様に飛んできたそれを回避できるわけはなく、正確無比の精度で神河の顎へとクリティカルヒットする。

「がはっ!?」

 その衝撃に神河が僅かに宙を浮き、後ろ向きに戦闘禁止エリアの床へと沈んでいった。

「遅すぎますね、ハエが止まるかと思いました」

「くっ?」

 自らを見下ろす速水、それを見上げる神河だったが下顎をもろに殴られて体がうまく動かない。

「な、何故だ?……手投げ用のナイフじゃあなかったはずなのに」

 確かに最初、速水が持っていたナイフはコンバットナイフで、手投げ用にバランスが調整されていないものだったはずだ。
 しかし、一ノ瀬の手に刺さっているナイフは間違いなく小型のダガーナイフだ。

「ふふっ、それに気づくとは流石神河さんと言いたいところですが……気づくのが少し遅かったですね」

 速水が胸をドンと叩くと右袖から先程のコンバットナイフが出てきた。
 それを見て神河は目を丸くする。

「僕も伊達にこんな衣装を纏っているわけではありませんので、実際な話マジックって結構得意なんですよ?」

「……そうか、そういうことか」

 最初にナイフを自分達に見せたのはこのためだったのだ、武器がナイフ、それを頭に焼きつかせておいて近づいてくるものと意識させる、後は銃弾を避けながら家具の後ろに回った時にコンバットナイフから手投げ用のダガーナイフへと持ち替えた。

『速水の武器はナイフである』

 そのイメージを植え付けられていた自分達はそのナイフが変わっていることに気がつかないまま確実に銃弾を当てるために接近してくるのを待っていた。
 あえて速水は神河達の期待通りに動くことで油断を誘ったのだ。
 結果は見事としか言いようがない、神河も一ノ瀬も速水の獲物の変化に気づくこともなく、愚かにも勝利を確信してしまっていたのだから。
 策が図に当たった速水は満足そうに笑みを浮かべながら、取り出したコンバットナイフを器用に半回転させるとその刃の切っ先を神河へと向けた。

「だから僕は最初に言ったじゃないですか?」

「うぐっ!?」

 神河の髪の毛を掴み、その顔を覗き込みながら口を歪ませる。

『君は僕のことが何にもわかってないってね』

 そして速水は神河の頸動脈を切断しようとその白い首筋にナイフを当てて……。

『ジョー君!!』

「うん?」

 突然戦闘禁止エリアの外からコロコロと音を立てて足元に転がってきた銀色の首輪に視線を向けた。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






 神河達が戦闘禁止エリアで速水と対峙していたその頃、戦闘禁止エリアの外でも激しい戦闘が繰り広げられていた。

「また会えて嬉しいな!今度こそ美姫がきちんと殺してあげるね?」

 戦闘禁止エリアの外には小柄で、小学生くらいの可愛らしい女の子がいた。
 その手に拳銃が握られていなければ本当に無害そうに見えていたことだろう。

「あの子、あんなに小さい子なのに、どうして!?」

 恐らく一ノ瀬に聞いていた西野美姫という子だろうと夏本は考える。
 しかし……何故自分達はあの子に襲われているのかわからなかった。

「ちっ、どっかで見たことがあると思ったらあいつか」

「お知り合いなんですか!?」

 水谷が不機嫌そうに夏本を横目で見る。

「知り合いってわけじゃあねえよ、ただ俺がちょっとあいつの父親を殺してやったっていうだけで逆恨みしやがって……まったく酷い話だと思わねえかい?」

「なっ!?酷いのは貴方じゃないですか!?」

「殺し合いなんだからしょうがねえだろう?そんな話を始めたらこんなゲームを俺に強制している奴らのほうがよっぽど非道じゃねえか?」

 しかし水谷はさほど気にした様子でもなく、その可憐な少女に向けて腰に差していた拳銃で反撃する。

「大体殺さなければ殺される状況に放り込まれた現状で、誰が非道だの非道じゃねえだの議論するのがどんだけナンセンスなことなのか……わかんねえのか?全員が生き残るために持てる体力と知恵を振り絞って努力してるっつうのによ」

 こんな状況で自分が生き残るために死力を尽くさない人間など話にならないと水谷は考えていた。

「おい、さっさとここから逃げろ、今はてめえに構ってやれるほど暇じゃねえ、見逃してやるから俺の前から消え失せろ……何もしねえくせに目の前をちょろちょろされると目障りなんだよ!」

「で、でもジョー君が!?」

「お前みたいな小娘にできることなんざ何もねえよ!ああ、もういい加減うざってぇなあ!」

 おろおろと狼狽える夏本をうざそうに突き放し、襲ってくる相手に全身全霊の姿勢で臨む。
 武器の大半は戦闘禁止エリアに置いて来てしまっているので、無駄弾も使えない。
 水谷は相手の外見に惑わされることなく、冷静に対応していた。

「そ、んな……」

 その水谷の背中を見ながら夏本は絶句していた。
 一ノ瀬を含めて全員が生き残るために努力しているというのに自分は一体何をしているというのだろうか?
 これでは水谷の言うとおり何もできずにただ突っ立ってるだけではないか?

――――この人の言うとおりだ、私……偉そうなことばっかり言っておいて何もできない。

 夏本は自分の無力に打ちひしがれて茫然とする。

――――ジョー君……私にはやっぱり何も。

 やっぱり何もできないのか、泣いて突っ立っていることしかできないのか?他人に守られてばかりで非力な自分にできることなど何もないというのか?

『それは姉ちゃん次第じゃあないかな?』

「ジョー君?」

 しかし……そんなとき、ふと一ノ瀬と最初に出会った時に言われたことを思い出した。
 泣いてばかりで塞ぎ込んでいた自分を励まし、役に立てるかどうか悩んでいた自分に投げかけてくれたその言葉だった。

――――そうだ、私が諦めたらできるはずのことまでできなくなる。

 何かあるはずだ、諦めなければ可能性はゼロではないはずだ。
 周囲を見渡す、襲撃してくる美姫、それに対応する水谷。
 戦闘禁止エリアの中では軽快に動く速水と神河の援護を受けながら必死に強敵にくらいついている一ノ瀬。

――――……あった、私にもできること、ううん、私にしかできないことが!

 その中でも夏本が目にとめたのは意外にも神河だった。
 仕方ないとはいえ一ノ瀬にべったりくっついている神河を面白くないと思いつつも、自分の仮説が正しいかどうか検討する、見つけたこの手段を使えば一ノ瀬を助けられるかもしれない……勝算は十分ある。
 しかし……しかし、自分の考えがもし間違っていれば、自分は死ぬことになるだろう。
 それでも夏本は笑みを浮かべながら戦闘禁止エリアで回収しておいた一ノ瀬の首輪を取り出した。

――――何でかな?不思議と怖くないみたい。

 二つに割れていたそれを再び一つの首輪に戻し、次いで自分のPDAを取り出してそのコネクターへと近づけていく。

――――ジョー君、知っていますか?

 PDAが首輪のコネクターに嵌る。
 首輪から『ルールに違反しました!』という合成音声が流れ、LEDが赤色に点滅を始めた。

――――私は喧嘩が苦手です、頭も良くないです、特技も……ありません。

 夏本は一ノ瀬達のいる戦闘禁止エリアへと走り出す。

――――私はずっと自分に自信がなかった、自分にできることなんてきっと何もないんだって思ってました、でも……。

「水谷さん、援護お願いします!」

「あ、おい!?」

――――それは間違っていました、きっと私は……何かをする前から駄目だって決めつけて何もしてこなかったんです。

 通路を横切る、幼い襲撃者が狙ってくるが水谷の援護射撃によりうまく照準を合わせられないようだった。

――――諦めなければ、私にもできることはあるんだって……。

 夏本は戦闘禁止エリアの扉を開ける。
 そこには一ノ瀬が手を押さえながら顔を痛みに歪ませ、神河は速水にナイフを突きつけられていた。

――――私、ジョー君のおかげで気づくことができたんです、だから私は……。

「ジョー君!」

 夏本が今まで生きてきた人生の中で一番大きな叫びだっただろう。
 そして夏本は……作動している首輪を下手投げで戦闘禁止エリアの中へと放り投げた。

――――私は、ここで、こんなところで……ジョー君を諦めないって……そう決めました!

 夏本が戦闘禁止エリアの中へ放り投げた首輪は……放物線を描いて一ノ瀬達と速水の間へと落下した。

「っ!?」

 突然間に入ってきた首輪、そのランプが赤く点灯していること、倒れていて目線が低くなっていた神河は、速水よりも早くそれを投げた人間の思惑に気がついた。

――――そ、そうか……首輪を作動させて……考えたじゃないか?

 神河はその首輪を見てニヤリと笑みを浮かべる。

「少年!」

「っ!?」

 懐からPDAを取り出して一ノ瀬に向けて放り投げる。
 一ノ瀬はその掛け声に驚きながらも神河のPDAを受け取った。

「行け!あの少女が知恵とありったけの勇気を振り絞って作ったこの一瞬を無為にすることは、この私が許さん!」

「……ごめん、神河さん」

 一ノ瀬は軽く謝罪すると踵を返して夏本の待つ扉へと走り出した。

「あっ、待ちなさい!くそっ!!」

追おうとしていた速水もこれには一旦安全なところまで退避せざるを得なかった。

「まあ、そう焦るなよ」

「なっ!?」

 しかし逃げようとしていた速水の足をがっしりと掴む人間が居た。

『1人で死ぬのは……寂しくてね、旅は道連れ、世は情けだよ速水さん』

 ニィっと笑みを浮かべる神河、その姿を見て速水が……。

「げえっ!?」

 初めて神河に対して恐怖を覚えた。

『これより、ペナルティーを実行します!』

 速水が逃げるよりも先に……。

『首輪から死刑宣告が宣言された』





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






 一ノ瀬はペナルティーが始まる前よりも先に戦闘禁止エリアから夏本と一緒に脱出した。
 その後ろに残してきた神河を残したままで……。

「おっ!?生きてたんだな小僧、それで姉御はどうした?」

 戦闘禁止エリアから逃げてきた一ノ瀬達を出迎えたのはすぐそこの通路で未だに銃撃戦を繰り広げていた水谷だった。

「神河さんは……」

「っ!?ヘマしやがってあの馬鹿!」

 一ノ瀬の表情と、何かが燃えるような音がする戦闘禁止エリア、更にアラームを鳴らした自分のPDAを見て状況を察した水谷は舌打ちした。

「それで速水はどうした?あの手品師みたいなやつのことだ!」

「わ、わかんない、神河さんと一緒にペナルティーに巻き込まれて……死んだのか生きてるのかも」

「まずいな……しゃあねえ、一か八か……ってあれ?」

 突然銃撃が止んだことを不審に思った水谷は僅かに通路を覗くがそこにはもう美姫の姿はなかった。

「逃げたんでしょうか?」

「……わからん、あいつら何でか知らねえがセンサーに引っかかりやしねえ」

 水谷は舌打ちしながらそう呟く。

「とりあえずここから離れよう、まだあの人生きてるかもしんないし」

 戦闘禁止エリアをちらちら見ながら一ノ瀬はそう急かす。
 もしここで挟撃などされた日には死ぬことしかできないだろう。

「それが良さそうだな、こっちの通路から逃げれば間違いなく逃げ切れる!とりあえず行くぞ?」

 銃撃はつい先ほどまではあったのだから反対の通路に逃げれば間違いなく逃げられる。
 水谷の意見にはもちろん反対はなく、一ノ瀬も夏本も水谷の後を追って戦場から離脱することにした。

「……はあ」

 それを見届けて、通路の影から美姫が出てきた。
 美姫は一ノ瀬と夏本が戻ってきた段階で計画が破綻したものと考えて一旦退いていた。

「真正面から3人相手とか普通無理だって、速水さんじゃあるまいし」

 ゲームマスターといえども美姫はまだ子供だ、3人もの人間を相手取るのは正直きつい。
 そもそも美姫は正面から戦うタイプではなく、自分の幼い容姿で相手の油断を誘い、隙をつく戦闘スタイルだ。
 真正面から戦えばいいとこ水谷と良い勝負だろうとさえ考えていた。

「速水さんがドジるのって久しぶりに見た気がするよ」

 美姫は先輩に対してぶつくさ文句を言いながらPDA探知で一ノ瀬達がこの場から離れるのを確認してからすぐそこにある焦げ臭い匂いのする戦闘禁止エリアへの扉を開けた。
 パッと見た感じでは誰も立っておらず、何やらモリのようなものが大量に床に刺さっているのと、スプリンクラーが作動したのか部屋中ビショビショに濡れていた。

「あちゃあ~、これってあの神河ってやつだよね?死んでるけど」

 その部屋の中央には無数のモリに貫かれた上で身体をこんがりと焼かれた神河の無惨な死体が残っていた。
 ギリギリ死体が女性であること、髪が長かったことが皮膚に張り付いているものでかろうじてわかった。

「お~い、速水さ~ん?生きてる~?それとも死んでる~?」

 さながら世間話でも始めようかというノリで戦闘禁止エリアの中に呼びかける。

『生きてますよ~、死ぬかと思いましたけど』

 いろいろと無惨なことになっている、戦闘禁止エリアの隅に倒れていた家具から声が聞こえきた。

「あらしぶとい」

「しぶといとは何ですかしぶといとは、一応僕が先輩なのに」

 家具を押しのけて、速水はパンパンと焦げたスーツの埃を掃うと、壁に腰を下ろしたままこちらに向かって手を振った。

「それにしても随分派手にやられちゃったね~?救急箱使う?」

「ありがとうございます、珍しく気が利くじゃないですか」

 差し出された救急箱を受け取りながら速水は疲れ切った様子で治療を始めた。
 動けないほどの重傷は負わなかったようだが、掠り傷と火傷をいくつか負っていた。

「いや~染みますね~、それにしても今回はうまいことやられてしまいました」

「……珍しいこともあったもんだよね、速水さんが仕留めそこなうなんて」

「そんな刺々しく言わないでくださいよ、僕もまさか手痛いしっぺ返しを喰らうとは思いませんでした」

 速水は心底参ったとでも言いたげに肩を竦めた。

「何かあったの?」

「夏本君でしたっけ?彼女がもう少しで神河君と一ノ瀬君を殺せるって時に首輪を作動させて投げ込んできたんですよ」

 そして逃げるところを神河に捕まった。
 正直な話、これには速水も死ぬかと思ったが幸運の女神は速水に微笑んだ。
 最初に作動した、夏本が投げ込んだ首輪によるペナルティー……それは首輪に向かってモリが大量に飛んでくるだけというかなり優しいものだった。
 速水は神河を盾にしてモリを防ぎ、僅かに稼いだ時間で神河の手首をナイフで切断、後は手頃な家具で防ぎながら部屋の隅まで移動した。
 それからすぐ後に今度は神河の首輪が作動し、ナパーム液のシャワーに神河が焼かれている間、家具に隠れてやり過ごしていた。

「いやー、どちらかがスマートガンシステムだったら問答無用で死んでましたね僕、ラッキー」

 自分が死にそうになっていたというのに速水はそれを笑いながら話していた。
 ゲームマスターという職業上、こういった経験には事欠かない。

「首輪?ああそういえば8thの首輪が外れてたね」

「ええ、僕の計画では一ノ瀬君が首輪を外せば、それを利用するべく神河君が残ると思ったんですよね、一方的に攻撃できるっていうのはまずいですから一ノ瀬君という攻撃手段を与えて、抵抗手段を持たせたところを殺そうと思っていたんですが……」

 実際、それは図に当たり、もう本当にあと一歩のところまできていたのだ。

「あははっ、それを2ndに邪魔されちゃったんだ?ルールを利用して神河を殺そうとしてた速水さんが逆に2ndに裏ルールを使われて殺されかけるなんて、うぷぷっ!!いくらなんでもそれはダサ過ぎるよ速水さん」

「……あんまり笑わないでくださいよ美姫」

 心底可笑しそうに笑う美姫に速水は苦笑しながら頬杖をついていた。

「どうする?すぐに追う?」

「う~ん、美姫の気持ちもわかりますけどもう眠いですし、これ以上接触するのはいささか不平等ですね、怪我もしましたし今日はもう休みましょう」

「そうだね、神河は殺せたんだし……とりあえず今回はこれくらいにしておこっか?」

 速水の言葉に美姫は頷くと、眠いのか欠伸をする。

「速水さ~ん、早くどっか休める場所に行こ~?」

「了解です」

 簡単な治療を終えると速水も美姫を追って戦闘禁止エリアを出ようとし、ふと中を振り返る。

「それにしてもいつ気づいたんですかね?首輪の作動によるペナルティー攻撃が戦闘行為にカウントされない裏ルールに」

 完全無欠に思われる戦闘禁止エリア、それこそ首輪を外すことでしか中にいるプレイヤーを攻撃できないだろうとプレイヤーに錯覚させるが、実際はそうと決まっているわけではない。
 この場所が禁止しているのはあくまでも『戦闘行為』だけなのだ。
 そもそも戦闘行為とは『人が他人を傷つけるためにとった行動』を指す。
 もちろん故意であろうが無自覚であろうが『プレイヤーを含め、プレイヤーのコントロール下にある物がプレイヤーを攻撃すること』は禁止されている。
 しかし攻撃するものがプレイヤーのコントロール下になければどうだろうか?
 それを代表するものが、このゲームにおける建物全体に配置された『警備システムによるペナルティー』である。
 そもそもこのペナルティーはあくまでもルール違反者に対して罰を与えているに過ぎないので、夏本がやったように首輪を作動させて戦闘禁止エリアの中に放り込む行為は戦闘行為としてカウントされていない。
 これはペナルティーを発生させたのは夏本でも実際のペナルティー攻撃は夏本のコントロール下にはなかったためであり、投げ込んだ首輪自体の殺傷能力も皆無だからだ。
 例えば全域の戦闘禁止時間にゲームマスターが他の参加者をルール違反に追い込んで殺したとしても、実際に危害を加えるのはゲームマスターではなく、警備システムなので、ゲームマスターはルール違反とはならない、今回のゲームでも神河が杉坂に対して利用しているのと同じケースとなる。

「なかなかやるじゃないですか夏本君」

 そして速水はそう呟いて激しく戦闘が行われた戦闘禁止エリアの扉を閉めた。

「あれ?美姫?」

 しかし部屋の外に出たところに何故か美姫の姿がない。

『あははっ、美姫ちゃんかわいい~』

『もうくすぐったいよ~お姉ちゃんってば』

「うん?」

 どこに行ったのだろうと考えていると通路を曲がったところから何やら笑い声が聞こえてきた。
 誰かいるのだろうかと速水が通路を曲がるとそこには美姫と1人の女子高生がいた。

「あっ、あそこにいる速水さんが今まで美姫の面倒を見てくれていた人なんだよ?」

「そうなんだ、良かったわ信用できそうな人で」

 初めて見る、その女子高生はこちらを見てニコッと人当りの良い笑みを浮かべていた。

「初めまして、速水瞬と言います」

「あっ、申し遅れました!私の名前は……」

 腰を折って丁寧な挨拶をすると向こうもまた軽く頭を下げて自己紹介を始めた。

「御剣優希っていいます、よろしくお願いしますね?速水さん」

 握手を交わしながら速水もまた柔和な笑みを浮かべる。

――――休むのはもう少し先ですかね?

 また忙しくなるなと笑みの後ろにどす黒い感情を秘めながら速水は笑うのだった。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






 一ノ瀬達は速水達から逃亡し、4階フロアの片隅まで移動していた。
 3人共息が切れるまで走ったのでかなりへばっていた。

「はあ、とりあえずここまで来れば一安心だろ」

「……つ、疲れた」

「そ、それよりも……は、早くジョー君の手当しないと」

「ありがとう玲奈姉ちゃん」

 夏本が荷物から救急箱を取り出したので、一ノ瀬は右手を夏本に差し出す。
 その手には未だナイフが刺さったままであった。

「痛いと思うけど、我慢してね?」

 一ノ瀬に刺さったナイフを思い切り引き抜く、痛みから一ノ瀬の表情が苦痛に歪んだが、そのまま夏本は傷口を消毒してからガーゼを当て、包帯で固定した。
 その作業を横から水谷が煙草を吹かしながら見ていた。

「さてっと、お前ら最悪なニュースと残念なニュース……どっちから聞きたい?」

「心情としてはどっちも聞きたくないね」

 一ノ瀬のツッコミにそりゃそうだと水谷が頷く。

「じゃあ残念なニュースからだ、神河は死んだ」

 今まで協力してきた仲間だろうに極めてドライに水谷がそう言い放つ。
 それを聞いた一ノ瀬も夏本も暗い表情となった。
 仕方がなかったとはいえ神河を見捨てて置いて来てしまったのだからどうしても自責してしまう。

「それと最悪なニュースだ、速水はまだ死んでない」

 水谷は生存者カウンターがインストールされているPDAを見ながらそうぼやく。
 そこには『生存者:8人』と表示されていた。
 つまり神河と速水のどちらかは生きているということだが速水が生き残って神河が死んでいることはあってもその逆はないだろうと考えられた。

「でも無傷ってわけじゃないと思う、しばらくは動けないんじゃないかな?」

 その状況を間近で見ていた一ノ瀬はそう考えた。

「それと俺に1つ質問があるんだが……」

「僕も多分水谷さんと同じこと考えてると思う」

 水谷と一ノ瀬はそう言って夏本を見た。

「へっ?私ですか?」

 夏本は何故そんな視線を浴びせられているのか見当がつかず、慌てふためいた。

「何でお前の首輪は作動しなかったんだ?確かにお前は戦闘禁止エリアに作動していた首輪を放り込んだはずだ」

「あ、えっとそれは……神河さんのおかげなんです」

 水谷の疑問に夏本はそう答えた。

「私、ずっと疑問に思ってたんです……神河さんは何でまだ生きてるんだろうって」

「……どういう意味?」

「だっておかしいじゃないですか、ゲーム開始から6時間は戦闘禁止のはずなのに杉坂さんを殺した神河さんが生きているんですよ?」

「あっ!?」

 一ノ瀬もその言葉でようやく事態の違和感に気づいた。
 確かに全域の戦闘禁止時間に杉坂が殺され、かつ神河が生きていたというならば何か正規の方法ではない殺し方があったはずなのだ。

「……、」

 水谷はそれを黙って聞いていた。
 このことは神河と組む時にした会話と同じで、自分もまた疑問に思っていたことだった。
 しかし水谷と夏本では思考プロセスが違う、水谷と一ノ瀬は全域の戦闘禁止時間中に、神河が何故杉坂を殺せたのかということに疑問を覚えた、それに対して夏本は杉坂が全域の戦闘禁止時間中に死んだのに、何故神河がまだ生きているのかということに疑問を覚えたのだ。

――――発想の逆転……だな。

 つまり夏本は、神河が戦闘禁止時間の中で杉坂を殺せたのだから戦闘禁止エリアの中でも攻撃手段があるという仮説を立てたのだ。
 そして杉坂を殺したペナルティーを夏本がすぐ近くで見たことはルール交換の時に聞いている。
 そんな状況を経験してきた夏本だからこそ、ペナルティーによる攻撃は戦闘行為としてカウントされていないという事実に気づいたのだ、それを戦闘行為だと判定するなら確かに神河はルールに違反して首輪が作動していることになる。
 そして夏本は迷わず実行した、このルール違反スレスレの仮説を他ならぬ一ノ瀬を助けるために。

――――1階でおろおろしてたときの奴と同一人物とは思えねえ。

 結局夏本は自分にしかできないことをしっかりと成し遂げ、絶体絶命の状況……あの人外と言っても差し支えない速水さえ追い払って見せたのである。

「なるほど、そういうことなんだ……作動していた首輪を投げたのは玲奈姉ちゃんだけど、攻撃……つまるところの戦闘行為を行ったのは玲奈姉ちゃんじゃなくて警備システムだって判断されるんだ」

 横では一ノ瀬もその結論に至ったのか僅かに興奮していた。

「すごい!すごいよ玲奈姉ちゃん!!こんなルールの抜け道を見つけるなんてきっと玲奈姉ちゃんは天才だ!!」

「え?そ、そんなことないですって」

 一ノ瀬の手放しによる賞賛に夏本は顔を真っ赤にする。

「いや、今回の件に関しては本当に嬢ちゃんに助けられた……悪かったな、おろおろしてるだけで何も出来ない奴って言ったのは訂正させてもらうぜ?お前は大した肝っ玉を持った嬢ちゃんだったよ」

 しかし今回に限っては一ノ瀬の意見に水谷もまた同意だった。
 怯えるばかりで何もできないと思っていた人間が、こんな奇天烈な方法であの速水を追っ払ったのだ。
 流石の水谷も夏本に対する評価を改めなければいけないだろうと考えていた。

「さて、ここからの話なんだが……お前ら、俺と組む気はないか?」

「……なんか水谷さんがそんなことを言うのはすごい意外なんですけど」

 水谷の提案に一度襲われたことのある夏本はやや難色を示す。

「神河が死んだからな」

「そういえば水谷さんは神河さんとは何で組んでたの?」

 今度は一ノ瀬から水谷に対してそう質問が来る。

「強いからだ」

 煙草を携帯灰皿に押し込みながら水谷はそう答えた。

「それともう1つ、俺のクリアに神河がいると好都合だったからだ、ほれ」

 水谷は【7】のPDAを取り出して一ノ瀬達に見せる。

「俺のクリア条件な、どうしても協力者が居た方が楽なんだ」

「それなら最初から他人と協力すればよかったじゃないですか?」

 夏本のその能天気な言葉に水谷は溜息をつく。

「あのな~、俺が協力して助かる時の状況ってのはな?何故か【2】【4】【6】【8】【10】【Q】のPDA所有者が全員その場に居て、何故かそいつら全員が俺に対して協力的で、何故かjoker所有者が名乗りを上げているという極めて不自然極まりない状況が必要なんだぜ?」

 ある訳ないだろそんな状況と水谷でなくても思わずツッコミを入れてしまいそうなクリア条件、だからこそ水谷は他のプレイヤーと協力するという道を選ぶことができなかった。

「だが、PDAが侵入禁止エリアに残っちまうっていう状況だって考えられる訳だろ?だから最低でも1人は信用できる協力者が必要だったんだよ」

 そしてその白羽の矢が立ったのが神河だった、強さは申し分なかったし、最初の事件で水谷自身が興味を持っていたというのも強い。

「なるほど、確かにその条件だったら首輪の外れた僕は好都合な人間なんだろうね」

「話が早くて助かる」

 一ノ瀬の言葉に水谷は冗談めかしながら答えた。

「夏本の嬢ちゃんは2ndなんだろ?俺がjokerを探してきてやる、だからお前達はその【2】のPDAと侵入禁止エリアに残ってるPDAを持ってきてくれるだけでいい……簡単だろ?」

 その提案に一ノ瀬は考える、確かにPDAを拾って届けるだけならリスクは何もない。

「わかった、でもちょっと条件を弄らせてもらってもいいかな?」

「……そりゃ内容次第だ」

「うん」

 一ノ瀬はPDA、それもjokerを取り出した。

「玲奈姉ちゃん?」

「何ですかジョー君?」

『ごめんなさい!』

「何を謝って……えっ?」

 しかし夏本はそのPDA画面を見て絶句した、そこに映し出されているのは自分が探し続けていた躍る道化師、jokerだったのだから。

「そんな?何で?」

「僕、ずっと玲奈姉ちゃんを疑ってたんだ、その【2】のPDAも本当は奪ったもので……玲奈姉ちゃんが本当は9thなんじゃないのかとか、jokerを持っていることがわかった途端に襲ってくるんじゃないのかとか、そのいろいろ」

「む~」

「僕……ずっと玲奈姉ちゃんを信じる勇気が持てなかった、騙されてるんじゃないかって勝手に怯えて……だからごめんなさい!」

 しかし夏本は頬を膨らまし続けていた、それも当然だろうと思う、かなり長い時間騙し続けていたのだから。

「……だったんですね?」

「えっ?」

「私、ジョー君に危険人物と思われてたんですね!ひ、ひどいです、あんまりです」

「ごめんなさい許してももらえないのは『でも、許しますけど!』わかってるけどって……え、嘘?」

 しかし一ノ瀬の予想に反して夏本は確かにそう答えた。

「今までずっと助けてもらってましたから……もう、これで貸し借り無しですよ?ただし今後私に嘘をつくことは許しませんからね?わかりましたか?」

「う、うん……ありがとう玲奈姉ちゃん」

 思わず泣きそうになりながら、ようやくjokerは一ノ瀬から夏本の手に渡った。

「ということはあれか?俺は6時間待ってるだけで協力者と【2】と【joker】のPDAが手に入るってわけだ」

 予想以上にうまい話に水谷はご機嫌だった。

「うん、後は神河さんのPDAなんだけど」

「ああ、そいつはお前が持ってとけ、そのPDAには【7】のPDAと通信できるソフトウェアが入ってるからよ」

 その水谷の言葉に一ノ瀬は頷く、自分の首輪は外れ、夏本は後6時間で首輪が外れる。

「やっとここまで来れましたね?」

 その想いは夏本も同じだったのか、そういって微笑んだ。

「帰れるよ、僕達」

「……はい!」

 一ノ瀬の言葉に夏本は力強く頷く、その2人の手は……強く、強く握られていたのだった。




[22742] 21話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2011/07/29 21:13
【BET】
player  suit  card  odds  BET
北条良輔  ♦  5  7.0  -
御剣優希  ♥  J  2.6 トぺルカさん(40)
夏本玲奈  ♥  2  1.1 油桜さん(50)、BSさん
柊桜    ♦  9  7.0 nidaさん(40) 結崎 ハヤさん
西野美姫  ♣  3  2.0 ながながさん(100)
神河神無  ♣  A  Death  -
白井飛鳥  ♠  6  Death  -
杉坂友哉  ♠  Q  Death  -
一ノ瀬丈  ♣  8  1.1  ナージャさん(40) ナイトホークさん(10)
速水瞬   ♥  K  1.3  -
幸村光太郎 ♦  4  Death  -
飯田章吾  ♠  10 Death ヤマネさん
水谷祐二  ♥  7  1.8 ヴァイスさん(50)
Day 3日目
Real Time 午前 9:00
Game Time経過時間 47:00
Limit Time 残り時間 26:00
Flour 5階
Prohibition Area 3階
Player 8/13
注意事項
この物語はフィクションです。
物語に登場する実在もしくは歴史上の人物、団体、国家、領域その他固有名称で特定される全てのものとは、名称が同一であっても何の関係もありません。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――

 ほとんどのプレイヤーが4階で激闘を繰り広げている間に、良輔と柊は5階への階段へと到着し、そこに家具などを置いて簡易的なバリケードを構築していた。
 エレベーターが壊れている今、上の階に行こうと思えばここを通らなければならない。
 そしてバリケードを構築する際に探索した部屋の中で、良輔達はきっと今までに手に入れてきた物の中で最も欲しかったソフトウェアを手に入れていた。

「ふふっ、こんなソフトウェアが手に入るなんてね……きっと僕の日頃の行いが良いからだわ」

 PDAを除きこみながら笑う柊、これほど柊のご機嫌が良いのはある理由がある。
 それは手に入れたソフトウェア、tool:joker searchのおかげだった。
 柊が握っている白井の【6】のPDAには今、jokerの現在地が光点として表示されている。

「これでPDAを奪われてなかったら、ね」

「……だからこそこうやって神河を待ってるんだろ?」

 ターゲットであるjokerの現在地がわかっていながら良輔達が動かないのはもちろんここで神河を仕留めるためだ。
 条件を満たせてもPDAがなければ首輪を外せない。
 PDAを取り返すためには速水の提示した条件を満たすか、あるいは速水そのものを倒さなければならないので、どちらにせよこうして階段で待ち伏せするという選択肢しか柊にはなかった。

「もう3階も侵入禁止エリア、4階が進入禁止になるまでにはここで全員と会えると思うけど」

「……ああ、そうだな」

 柊の声に良輔は気の抜けた相槌を打つ、生存者が1人減った頃からずっとこんな調子なのだ。

「ねえ?あんたさっきからどうしたのよ?」

 そのあんまりな顔色にどこか体調でも悪いのだろうかと柊は少し心配になってきていた。

「別に、何でもねえよ」

 一方で良輔は減った生存者が優希であったならと不安で落ち着かなかった。

――――くそっ!?死んだのは一体誰なんだ?速水か?神河か?幸村か?飯田さんか?水谷か?美姫か?一ノ瀬か?夏本か?それとも……。

 最悪な予想が良輔の頭をよぎる、そんなことあって良いはずがない。

――――優希、頼む!一生のお願いだから生きててくれ。

 神仏など普段信じない良輔もこの時だけは何にでも祈りたい気分だった。
 もはや良輔の頭の中には速水も神河も自身のPDAさえどうでもいいことでしかない、柊と一緒に階段を見張っているのは優希を探すために良輔にできることがこうして通路を抑えて待つしかできなかったというだけに過ぎないのだから。

『美姫ちゃんはちょっとここで待っててね?私が様子を見てくるから』

『うん!わかった!ここで良い子にしてるね?』

「っ!?」

 その声を聞いて良輔は背中を預けていた壁からガバッと身を起こした。

「……誰か来たみたいね?」

――――この声?……もしかして!?

 いや、聞き間違えるはずがない。
 良輔の祈りをきっと悪魔という名前の神仏が聞き届けてくれたのだろう。
 下から聞きなれた、そんなに時間は経過していないはずだが久しぶりに聞く声が聞こえてきた。
 期待を胸に良輔は下にいる人物に目を凝らす。

「そこにいるのはわかってるわ!私達は貴方達に危害を加えるつもりはないの!よく話し合いましょ?」

 そういってこちらに呼びかける人物、見慣れた金色のショートヘアーを靡かせ、女性の割に長身、吸い込まれるような澄んだ目でこちらを見上げていた。

「優希!」

「ちょっ!?待ちなさい!」

 柊が呼び止めるのも無視して良輔はバリケードを飛び出した。

「え?良輔?」

 その人物が優希であることを確認した良輔は、何の迷いもなく階段を駆け下りて目の前にいる人物を抱きしめた。

「良かった無事だったんだな!?怪我とかないか?」

「え、ええ特に怪我とかしてないけど……何で良輔がここに?」

「それはこっちの台詞だ馬鹿!俺がどんだけ心配したと思ってんだ!?」

「な、何熱くなってんのよ?は、恥ずかしいじゃない!?」

 良輔は優希の肩を抱き寄せながら叫ぶ、その言葉に優希は顔を赤らめた。

「まあ、とりあえず会えたのが良輔で良かった……お~い美姫ちゃ~ん、もう出てきても大丈夫よ~!!」

「う、うん」

 ほっと息をつくと優希は通路の角に向かって声を上げ、手を振る。
 その優希の呼び声で、近くにあった部屋から1人の女の子が出てきた。
 青い髪にピンクのワンピース、その小さな体躯からまだ小学生くらいの少女と思われる。初対面の自分を恐れているのだろうか?その少女は体を小刻みに震わしながらチラチラと視線を寄越していた。

「は、初めまして美姫の名前は西野美姫っていうのよろしくね、お兄ちゃん?」

「あ、ああよろしく」

 流石の良輔もこれには唖然としてしまった。
 一ノ瀬からその存在を口伝で聞いていたとはいえ実際に目で見るとまたショックが大きい
未だ遭遇していなかった最後のプレイヤー、それもまったく無害に見える、とても殺し合いに向いているとは思えない少女、その弱弱しい姿からそれこそゲームとは無関係に間違って連れて来られたのではないかと良輔が疑ってしまうほどこの建物には不釣り合いだ、しかし首につけている銀色の首輪がこの少女もまたプレイヤーであることを証明している。

「私と美姫ちゃんは4階で会ってから一緒に行動してたのよ、ほら?こんな小さな子放っておけないじゃない?」

 困惑する良輔を余所に、優希はそう言って美姫の頭を優しく撫でた、美姫もくすぐったそうにはにかみながら笑っている。
 そんな光景を見て、子供が好きな優希らしいなと、思わず良輔の頬が綻む、良かった、生きててくれたと良輔の胸の中は感謝の気持ちで満たされていた。
 ふと階段の上から柊がきつい目を向けながら自分達を睨んでいることに気がついた。
 そういえばこいつのことを優希に話しておくの忘れてたなと優希に向き直る。

「ああ、実は俺の方も1人連れがいるんだ……お~い柊!!」

 その呼びかけを聞いてか柊も4階へと降りてきた。
 良輔を間に優希達と対面する。

「こいつが、柊桜って言って……優希?」

「……、」

 しかしその存在を見つけた瞬間に優希の表情が固まった、なんというか怒りを通りこして無表情にでもなってしまったような、あえて言葉にするならばそんな表情、どうしたのかと良輔が考えてそれに気づくまでに一秒もいらなかった。
 何故失念していたのだろうか?
 優希にあえたことで警戒心が途切れてしまっていたとしかいいようがない。
 そう、今の柊の格好は……。

「お、お姉ちゃん……この人、変態さんなの?」

 今の状況を美姫が的確に表現してくれた。
 そう、柊の着ているものは良輔が着ていたカッターシャツ一枚のみでズボンどころか下着もつけていないのだ。
美姫は優希の背中に隠れながら柊を恐る恐る見ていた。

「何?こいつらアンタの知り合い?」

 柊も柊で負けていない、自分に非があることは頭でわかっているのだが初対面の人間に変態呼ばわりされるということに頭が来ていた。
 付け加えるならこの2人の危険性も確かめることさえせずにバリケード内まで引っ張ってきた良輔に対しても不満があった。
 良輔にとっては御剣優希という人間は幼馴染であり、非道なことをする人間ではないことがわかっているために警戒はしなかったし、美姫は子供であることと、一ノ瀬から聞いた話から考えて無害だと決めつけていた。
 あまり詳しい話は知らないが一ノ瀬の話だと幸村、飯田と共に行動していたという話だ、これを聞いたときに幸村もやっぱり潔く死ぬことはしなかったんだなと考えたが、それはまあ当たり前の話だとも思ったのであまり気にしなかった、しかし幸村も飯田も姿が見えないがその2人とはぐれたのだろうか?良輔が美姫に抱いた疑念などその程度のものでしかない。
 しかし柊から見ればこの行動は甘い。
 良輔と優希の会話から2人が知り合いであることはわかっていたが、この状況だ、割り当てられた解除条件ではお互いに武器を向けて殺し合うことにもなりかねない、おまけに美姫については子供だからという理由で無害と断定するなど柊にはまったく理解できない思考回路だった。
 そしてそれ以上に柊が不満だったのは、良輔が優希に駆け寄っていくときの表情、それはとても暖かく、優しいものだった。
 柊は良輔と出会って過ごした時間などはせいぜい2日程度ではあるが今まで見てきた良輔はもっと合理的かつ冷酷な人間であったはずだ。
 白井を自身の潔白、joker検査に利用して殺害し、2階でドジを踏んだ自分に対して恨み言の1つも言いたいだろうに速水に出された条件のために協力を続け、3階では明らかに戦闘手段を持たない夏本を一方的に攻撃したかと思えば、次に4階で夏本と再会した時には情報的な利用価値があるからと襲ったことさえなかったかのように振る舞って情報交換を行う。
 そこに人情や義理などといった非合理的な部分はなく、良輔という人間はさながらこのゲームをクリアするために行動を続けるだけの機械のようであり、そしてそれこそ柊がもっとも良輔の好んでいた点だった。
 基本的に柊はそういった人間臭いことを嫌い、忌む人間である。
 その理由は単純、理解できないからだ。
 他人のためにメリットなく働いてやる理由が分からない、それが無駄な労力にしか見えない。
 そういった理由から柊にとって良輔という人間はパートナーとして非常にやりやすいと思っていたし、嫌な感じはしなかった、だからこそ異性として意識さえしたのだ。
 もし、良輔に自分を身体の一部であるように望まれるなら、きっと今ならその首を……縦に振っているだろう。

――――だっていうのに……何で?

 柊は歯噛みする、優希達を見つけた時の表情は、そんな機械的な部分は一切なく、ただそこに在ってくれることを祝福し、喜ぶという今までまったく見たことのない良輔の姿だったのだから。
 まして幼いという点だけで無害と判断するなど今までの良輔からでは考えられない、では何故今の良輔はそれに疑問を覚えることがないのだろうか?
 考えてみればすぐにその理由に思い当たった。
 要するに良輔はこの女の前でそんな人格を疑われるようなことをしたくないのだ、そこにあるリスクが明確であるものならばそれを容赦なく切り離すだろうが、この程度の僅かな危険は許容してしまう。
 それは良輔にとって隙になるものであることが柊には断言できた。

「ふんっ」

 柊は奇異の目で見られただけではなく、害になることが明らかな人間に友好的な態度を取れるような人間ではない。

 憤怒、良輔を変えてしまうあいつがむかつく。
 嫉妬、そんな表情を良輔に出させるあいつが憎い。
 羨望、必要としてもらえるあいつが羨ましい。

――――あんな奴より、僕の方が役に立つに決まってるのに

 それは傲慢か、あるいは慢心か。
 この短い時間の間に他人の力量を正確に見抜く眼力は柊にはもちろんない、しかし少なくとも柊は目の前にいるこの女より自分の方が優れていると根拠もなくそう思っていた。
 会ってからまだ本当に数秒ではあったが、その時から肌で感じているのだ。
 足手まといにしかならない非力な少女を、こんな状況下においても何の疑問もなく連れ歩くその姿を見て……こいつとは絶対に合わないと。
そうした複雑な心境から敵対心という向けられる側からすればたまったものではない感情を隠すことなく、鼻を鳴らして柊は2人を睨んでいた。

「むっ」

 もちろん優希は他人の感情に無頓着という訳ではない、目の前の淫乱変態露出狂眼鏡少女から発散されている敵意をしっかり感じ取っていた。
 これには流石の優希も面白くない、初対面でまだ言葉を交わさない内に何故か嫌われるというのは気に入らないし、自分だけではなく後ろに隠れて震えている美姫にも敵意を向けることが気に入らない、それに何よりも。

――――何なのよ、この子。

 良輔の傍にこんな恰好のまま侍っていたという事実が気に入らない。
 もし、そんなことがあったらと変に勘繰っている自分がいるのもわかってそわそわしているのだ。

「あんた、さっきから何なの?私達に何か言いたいことでもある訳?」

「あら?僕はまだ何も言ってないはずだけど?正しい日本語でそういうの被害妄想っていうのよ、わかる?」

 そして起こるべくして優希の詰問を皮切りに二人の衝突がはじまってしまった。

「はあ!?それじゃあ今のアンタは発情期のメス犬ね、何よその恰好?頭が猿並みなんじゃないの?」

「ぷっ、人と動物の違いもわからないなんてこれだから頭がお花畑な奴は困るのよ」

「な、何ですって!?この『犬と猿と来てお次は雉かしら?あはっ、流石に胸が桃太郎な奴は言うことが違うわね?』むかっ!!何よ、自分がないからって僻み?」

「うっ……こ、これから成長するのよ!!」

 その優希の言葉に柊は顔を真っ赤にして胸を隠すように腕を組んだ。
 どうやら気にしていた事柄だったらしい。

「お、おいお前らちょっと落ち着け」

 自分を真ん中に挟んで互いに罵倒を繰り返す2人に良輔が静止をかける。
 何で会ったばかりのはずである二人がこんな感情を剥き出しにして相手を罵倒しているのだろうか?
 知らぬは本人ばかりらしかった。
 ちなみに美姫は怖がったふりをしながら2人の言い合う会話の内容で、おおよその事情を把握し――は~、馬鹿が2人もいるよ――と白けた瞳で両者を見ている。

「これが落ち着いていられるわけないじゃない!!大体あの子何なのよ?良輔の何な訳!?」

「あいつは俺がこの建物で最初に会った人間で、それ以降ちょっと事情があって一緒に行動してたんだ、ていうかそれを説明しようとしたらお前らが勝手に口喧嘩始めたんだろうが!何で俺がキレられてるんだ?」

「へえ~、ふ~ん、ほ~う、つまり良輔はそのちょっとした事情っていうのであの子の服を脱がしちゃった訳なんだ?」

「っ!?お前は何を疑ってるんだ?俺はそんなことやってない!!」

 これには流石の良輔もイラッと来た。
 何よりも優希からそんな疑いを掛けられたというのが心外であり、つらかった。

「本当かな~?良輔はエロエロ魔神だし、あんな恰好している子を見てムラムラ来ないなんてことないでしょうし、それにあの子が着てるのって良輔のカッターじゃない」

 しかし優希は良輔と取り合おうとしない、これには良輔も困った。
 どうやって身の潔白を証明しようか?

「ひ、柊!お前からもなんか言ってやってくれ!!」

 当たり前の結論だが、良輔は柊を頼った、この場で自分の潔白を証明できるのは自分と柊しかおらず、自分が信用されないならば消去法で柊に証明してもらうしかない。

「はあっ」

 柊はとても面倒臭そうに溜息をつくと、口を開いた。

「逆に聞くけどアンタって良輔の彼女な訳?」

「「えっ?」」

 その口から出たのはあまりにも意外な一言だった。
 優希だけでなく、良輔もその発言に反応を示す。

「それ、は……違う、けど」

 言いにくそうに、しかし優希はしっかりとその関係性を明らかにした。
 良輔と優希は幼馴染ではあるが、男女のそれではない。

「じゃあ、そんなの気にしなくたっていいじゃない?良輔がどこの誰とやろうと良輔の勝手でしょ?それを彼女でもないアンタに言い咎められるのっておかしくない?」

「くっ!?」

 柊のあまりといえばあんまりなその言葉に優希が俯く、悔しい、何も言い返せないのが悔しい、表面的には優希の言葉は何ら良輔を縛る効力はない。

「柊、お前は誤解を招くようなことを言うな!優希、違うんだ、誓って俺は……」

 そうして優希に伸ばした手を……。
パチンと拒絶するように払われた。

「優希?」

 払われたことにショックを受けながらも優希に話しかける。
 その肩が、小刻みに揺れていた。

「……鹿」

「えっ?」

「良輔の馬鹿!良輔なんか嫌い、大っ嫌いよ!!」

 涙を流しながら、優希は通路を走り始めた。

「待てっ!優希、迂闊に動いたら危ない!!」

 慌てて優希の後を良輔は追う、好戦的なプレイヤーがいるかもしれない、あるいは危険な罠があるかもしれない、そんな危険な中を優希1人で走らせる訳にはいかないのだ。

「追うの?いいじゃない、別にあんなのいなくたって」

 今にも走り出そうとする良輔に柊は背中から声を投げかける、『あんなのいなくたって僕がいてあげる』そういうニュアンスを込めた熱い言葉だった。
 その言葉に良輔は一瞬だけ足を止める、そして柊の顔を見て口を開いた。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






「はあっ、はあっ」

 良輔の手を振り払い、飛び出すように優希は4階の通路を当てもなく走っていた。
 涙が線になって頬を流れるのも気にせず、走り続ける。
 そんな優希の中には先ほど柊から言われた言葉がこびりついていた。

『良輔が誰とやろうがやるまいが自由じゃない』

 言われなくても、そんなことはわかっている。
 ただの幼馴染がそれに言及するなどおこがましいというもわかっている。

――――でも、でも……嫌なんだもん。

 良輔が自分以外の女性をそういう対象で見るのが嫌だ、まして実際に交わることなど考えたくもない。

「はあっ、はあっ」

――――嫌だ、誰かに良輔を、取られたくないよ。

 考えるとそれが無性に怖く、逃げるように走ってきた。
 息が上がってかなりしんどいことになっている。
 そのせいか集中力など皆無だ、優希は幸運なことに今まで罠に遭遇したことがなかった、しかし幸運も過ぎれば不幸になる。
 カコンッ

「えっ?」

 間抜けた音と共に床が口を開く、この時優希が引き当てた罠は、下が進入禁止エリアになっているときに引けば即死する落とし穴だったのから。

「くっ!」

 間一髪、優希は咄嗟に体を捻って左手で床が落ちていない出っ張りに手をかけた。

「う、そ……力、入んない」

 出っ張りに手をかけたところまでは良かったのだが全力疾走してきた影響か、力がうまく入らない。

「助け、助けて、良輔っ!」

 左手が震える、命綱ともいえる右手の指から徐々に感覚が消え。

「っ!?」

 ふっと力が抜けた、左手がついに手を放してしまった。

――――あっ。

 あまりにも呆気なく、優希は進入禁止エリアとなっている3階へと落ちて……。

「あれ?」

 呆然と呟く、落下しているという感じがしない。

「……落ちてない?」

 ガシッと右手を何かに掴まれている感覚、優希の身体は宙ぶらり状態になりながらも、しかし漆黒の地獄へと落ちてはいなかった。
 何故と上を見上げて、優希の目から涙が零れた。

「何で?良輔」

 そこには優希が望んでいた光景があった。
 良輔が、落ちる直前に優希の手を掴んでいた。

「馬鹿、何……やってんだよ」

 優希を引っ張り上げようとする良輔、その表情が苦痛に歪んでいる。
 しかし左手一本で宙に浮く人間を引っ張り上げるというのは重労働だ。

「うぐっ」

 おまけに今の良輔の左手は万全ではない、2階で神河から頂戴したクロスボウによって左肩を痛めていた。
 利き腕ではなかったので今までどうにかなってきたが今回優希が出っ張りを掴んでいたのは左手だった。
 もちろん多少態勢が変になっても良輔はここで右手を使うべきだった。
 しかしそんな気遣いをする時間はなく、今にも落ちようとしていた優希を反射的に左手で掴んでしまったのだ。
 傷口が開き、肩から赤い血液が流れ落ちて優希へと降りかかる。

「良輔の方こそ、何やってんの?左手、怪我してるじゃない?そんなことしてたら良輔も、落ちちゃうよ?」

 その血で優希は良輔が左手を負傷していることを知った。
 こんな状態では引っ張り上げることなど叶わない、一緒に落ちるだけだ。

「駄目、良輔っ!私から手を放して!私のことはいいから!!」

 だからこそそう叫んだ、自分がここで落ちるのは自業自得だがそれに良輔を巻き込む必要はない、ただこの手さえ放してくれれば……良輔は助かるのだから。

「ふ、ざけんな」

 しかし、良輔は本当に怒った表情で、歯を食いしばり、激しい痛みがあるだろうにその手を放すことをしなかった。

「お前が地獄に落ちるっていうなら俺も一緒に落ちてやる!だから、お願いだから……」

 ポタポタと優希の顔に液体がかかる。
 それは赤い物もあったが、そうでない物も混ざっていた。

『俺を、1人にしないでくれ……お前がいないと、優希がいないと駄目なんだよ』

 優希は思わず息を飲む、良輔が泣いてくれている、他でもない自分のために泣いてくれているのだ、その事実に優希もまた涙を流す、零れた滴は足下の暗闇に吸い込まれていくのだろう。
 しかし叶うならば……。

「ねえ良輔?もし、私が良輔を地獄に落としたくないって考えてるとしたら、私は……どうすればいいのかな?」

 この愛しい青年は自分の元に留めておきたい、そう願うのは……罪だろうか?
 そんな身勝手極まりない自分の我が儘に、青年は泣き顔のまま無理に笑って叫んだ。

「上がってこいよ!優希ぃぃぃぃぃ!!」

 エリア一帯に聞こえているのではないだろうか?
 そう思えるほど大きな声を聞いて、思わず笑みが零れた。
 私は、その力強い声に今までどれほど励まされてきたのだろうか?





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






「ごめん、ごめんね良輔」

 九死に一生を得た。
 優希は自分の腕を伝いながら自力で這い上がり、自分の胸の中で涙を流している。

「良かった、優希……本当に良かった」

 優希の髪を撫でながら思う、もし優希を助けられずあのまま失ってしまうようなことがあったら、自分は正気を保っていられたのだろうか?

「考えても無駄か」

「何の話よ?」

「こっちの話だよ」

 そう、考えるだけ無駄だ、だって優希はこうしてここにいるのだから。

「もうあんまり走り回ったりするなよ?お前は少しお転婆が過ぎる」

「な、何よ謝ってるじゃないそれに今回は良輔があの子と」

 そこではっと気づくように優希がしおらしくなる。

「それで、その……良輔はあの子とその、やったの?」

「またその話か、やってないって言ってるだろ?どうしたら信用してくれんだよ」

 少し呆れながらも、そう答えた。
 こういうのは物事の真実が重要ではないのかもしれない、大切なのはきっと……。

「じゃ、じゃあ……スとかしたら信用したげる」

「え、何て?」

 声が小さすぎて聞き取れなかった。
 しかし優希は顔を真っ赤にして俯く、口元をゴニョゴニョとさせるばかりだ。
 焦らせても駄目だろうと、優希の髪を優しく梳いてやると少し落ち着きを取り戻したのか何故か溜息をつかれた。

「私、こういうのに騙されてるんだろうなあ」

「何の話だ?」

「こっちの話よ」

 先程のやり取りを返された形となり、良輔から苦笑が漏れた。

「ねえ、良輔?」

「うん?」

「良輔は、その、私に信用してもらいたい?」

 上目使いで見上げてくる優希の目をしっかりと見ながら、頷いた。

「じゃあ、その、キ、キス、してくれたら信用してあげてもいいよ?」

やがて優希は意を決したように顔をガバッと上げてそう甘く囁く。
 何故キスすれば疑惑が晴れるのかとかもっと他に手段があるだろうとか思わないでもない、だが、まあ……。

「目、瞑れよ」

「りょ、良輔っ?ちゅ、むんん」

 そんな無粋なことを言う気にもならない。
 良輔は本能の赴くままに優希の唇を奪った。
 こういうのは物事の真実が重要ではないのかもしれない、大切なのはきっと……。

『お互いを想う、気持ちなのだと思った』





――――――――――――――――
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――――
――






『俺は、あいつがいないと駄目だから』

 良輔は優希を追いかける前に柊にそう言った。
 しばし呆然とした後、美姫に追わなくていいの?と聞かれてから良輔達の後を追った。

「……、」

 もしかしたら追わないほうが良かったのかもしれない。
 そう考えながら柊は何度も何度も熱い接吻を交わす良輔と優希を見ていた。
 悔しくて唇を強く噛み過ぎたっだろうか?柊の口から赤い筋が垂れている。

「う、うわあ濃厚なキス、舌とか絡めちゃってるし」

 そんな熱い情景に思わず素が出ている美姫を意図せずして柊はギロッと睨んだ。
 それに気づいた美姫はあははっと笑いながら後ろに下がったので柊はそれ以上何も言わなかった。
 ちなみに美姫は下がった後でバレないようにべーっと柊に対して舌を出していたが。

――――あんな奴、僕は絶対認めないから。

 柊が良輔達の後を追って、ようやく追いついたのは良輔が落とし穴に落ちそうな優希を引っ張り上げるところだった。
 一歩間違えば良輔も落とし穴に落ちて死んでいたかもしれない。
 要するに足手まといなのだ、あの女は……。
 このままずっとあの女を助けて行けばいつか良輔がその代わりに命を落とす時が来てしまうかもしれない。

――――あの女、どっかで死んでくれないかしら?

 それを未然に予防するためには優希が適当なところで死ぬのが一番だと柊は考えていた。
 おまけに愛する人を失ったところを慰めればあのポジションを掠め取ることもできるかもしれない。
 といっても自分が直接殺せば角が立つだろう。
良輔としてもそれを許すような真似はしてくれそうにない。
それならば誰か他の奴に殺させるしかない訳だがその時は自分や良輔の身まで危険が及びかねない。
リスクとリターンを考えるとやはり理想としてはゲーム終了時点であの女だけクリア条件が満たせていないという状態が好ましい。

――――そうなるとまずは、あの女のクリア条件を聞くところから始めないとね

 まずはこちらから折れて一緒にいる必要がある、その上で仲間のふりをしてクリア条件を満たす行為を妨害するというのが一番効果的だ。
 とりあえず発情したあの女が良輔の手を自分の胸に誘導しようとしているので、それは留めておこう、妨害しすぎるとうざがられるだろうがあまりにも関係が進んで良輔に未練が残ってしまうと大変だ。

「アンタちょっと邪魔してきなさい」

「え?ちょっと!?」

 そう考えた柊は後ろにコソコソと隠れている美姫の首根っこを掴んで良輔達の前に押し出した。

「っ!?お、お姉ちゃん達大丈夫~?」

 放り込まれた美姫は困惑しながらも戻るに戻れず、アドリブで恋人の逢瀬を邪魔しに入った。
 後で覚えてれよあのアマと心の中で毒づいていたことは言うまでもないだろう。
 流石に子供の前ではいちゃつけなかったのか2人は慌てて距離を取る。

「結構いけるわねこの作戦」

 柊は陰でほくそ笑みながら良輔についていくためにあの憎たらしい女とどうやって表面上の和解を取り付けるか考えていたのだった。



[22742] 22話
Name: 上杉龍哉◆d747f334 ID:ff48ef00
Date: 2011/07/31 19:37
【BET】
player  suit  card  odds  BET
北条良輔  ♦  5  5.8  -
御剣優希  ♥  J  2.4 トぺルカさん(40)
夏本玲奈  ♥  2  1.1 油桜さん(50)、BSさん
柊桜    ♦  9  5.8 nidaさん(40) 結崎 ハヤさん
西野美姫  ♣  3  1.9 ながながさん(100)
神河神無  ♣  A  Death  -
白井飛鳥  ♠  6  Death  -
杉坂友哉  ♠  Q  Death  -
一ノ瀬丈  ♣  8  1.1  ナージャさん(40) ナイトホークさん(10)
速水瞬   ♥  K  1.2  -
幸村光太郎 ♦  4  Death  -
飯田章吾  ♠  10 Death ヤマネさん
水谷祐二  ♥  7  1.9 ヴァイスさん(50)
Day 3日目
Real Time 午前 10:00
Game Time経過時間 45:00
Limit Time 残り時間 28:00
Flour 5階
Prohibition Area 3階
Player 8/13
注意事項
この物語はフィクションです。
物語に登場する実在もしくは歴史上の人物、団体、国家、領域その他固有名称で特定される全てのものとは、名称が同一であっても何の関係もありません。




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――






「ごめんなさい!」

 美姫の乱入で一度離れざるを得なかった良輔達、本音を言えばもっといちゃいちゃしたかった2人ではあるが、階段の封鎖を柊1人に任せておくわけにもいかず――ちなみに柊は陰で見ていたので実質この時階段は封鎖されていなかった――どうやって柊と優希に仲直りさせるか考えた良輔だったが意外にも、あまりにも意外なことに階段まで戻ってきた時に柊の方から優希に詫びを入れたのだった。
 何か悪い物でも食べたんじゃないだろうか?少なくともこの建物で出会い、短い時間ながら一緒に行動を共にしてきた柊桜という人物は自分から詫びを入れるような人物ではなかったはずなのだが。

「ううん、いいの、私の方こそごめんなさいね、えっと柊さんだったかしら?」

「良輔と同い年なら貴方の方が年上だから桜って呼んでもらってかまわないわ、その代わり僕も優希って呼ばせてもらっていいかしら?敬語って苦手なんだ」

「わかったわ、よろしくね桜?」

「こちらこそよろしく、優希」

 二人は笑い合いながら握手を交わす。
 これからずっとあんなギクシャクした空気が続くのかと憂鬱になっていた良輔はこの意外な展開に胸を撫で下ろしていた。

「これで一件落着だな」

 満足そうに頷く良輔を余所に、美姫はじ~と二人が交わしている握手に目を向けていた。
 それは握手にも関わらず、両者共に力を思いっきり入れて相手の手を握っているのかプルプルと震えていた、二人は確かに傍目に笑顔を浮かべているように見えるだが何故か額に脂汗を掻いてる。

――――はあ、一件落着……ねえ?

 落着するどころかヒートアップしてようにしか見えないがもちろんその辺は黙秘するべきだろう。
 ゲームを盛り上げるためには仲良しこよしというのはあまり好ましくない。

「さあ、とりあえずバリケードに戻ろう、改まった話はそこでするということで」

 良輔の鶴の一声で全員が上のバリケードまで戻ってきていた。
 階段の前で無防備に話続けることの危険性を考慮してのことである。
 そして改めて自己紹介を行った上でこの建物であった出来事をかいつまんで話し合っていた。

「あははっ、なんだそういうことだったのね~」

 優希が良輔の背中をバンバンと叩く、誤解を解くのに大変な労力と時間を費やした良輔はこころなしかげっそりとしていた。
 良輔は建物で目覚めてから柊との遭遇、エントランホールでの杉坂の死、ルール交換を経て柊と一緒に行動していたこと、速水と神河、そして何故柊の服が良輔のカッター一枚になってしまったのかを話したところだった。
 ちなみに良輔は自分と柊のPDAを速水に奪われていること、1階での白井殺しと3階で夏本を強襲したことについては触れなかった。

「その神河って人に襲われたわけね、大丈夫よ、私は良輔じゃないって信じてたから」

――――「「「いや~、それはないわ」」」

 優希がついさっきの出来事は何だったのかという発言に、3人は心の声をハモらせて目線だけで優希を非難していた。
 特に良輔などは床に『の』の字を書きながらしょぼくれていた、それを美姫が後ろから元気出してと背中をさすり、空気を読んだ優希は乾いた笑みを浮かべながら頬をかき、それを柊は溜息をつきながら冷めた目で見ていた。

「えっと、それじゃあ今度は私ね」

 優希は空気を誤魔化すべく自分がこの建物で目覚めてからの経緯を話し始めた。
 最初に一ノ瀬に出会ってからすぐに6階へ、途中で姿を消した一ノ瀬を探すべく下の階に降りてきたこと。

「一ノ瀬が突然消えた?」

「うん、階段は私が見張ってたしエレベーターは壊れていたはずなのに気づいたらいなくなってたのよ」

 つまり階段やエレベーターを使うことなく移動できる手段があるということなのだろうか?
 良輔にはピンと来なかったがそれについて今は置いておこうと思った。

「一ノ瀬となら俺達も3階の戦闘禁止エリアであったぞ、あいつはjokerを探していた」

「でしょうね、ジョーのクリア条件は【2】だからjokerが必要だし」

「「っ!?」」

 この優希の発言に良輔と柊は目を見開く。
 【2】のPDA、一定時間のjoker所有は一ノ瀬のパートナー、夏本玲奈のクリア条件だったはずだ。

「優希、お前は……一ノ瀬のPDAをちゃんと確認したのか?」

「そんなの当たり前でしょ?ちゃんと【2】の画面が出てたわよ?」

 優希が嘘をついているようには思えない、それならば……これは一体どういうことだ?

「柊はどう思う?」

「……実は優希と接触する前に一ノ瀬と夏本はグルだった、とか?」

「いや、それなら最初から別行動する必要なんかないしそもそもグルならどっちか片方は首輪を外してないとおかしい」

「ということは……」

「ああ、恐らく今回のゲームでjokerを初期配布されたプレイヤーが一ノ瀬だったんだ、一ノ瀬は途中まで自分のクリア条件を隠して行動していたのに、夏本の前では条件を偽らなかった」

「それは【2】の初期配布者であるあの子には偽装が利かなかったから?でもそうなるとなんで一ノ瀬は優希の時みたいにあの子を置いていかなかったのかしら?」

「……そこまでは、分からない」

 確かに柊の言うとおり夏本も優希と同じように放って移動すれば良かったのではないだろうか?一ノ瀬のクリア条件はおそらく【8】だ、死体からPDAを漁りでもしていない限りはあれが一ノ瀬本来のPDAである可能性が高い、危険度の低いPDAなのだから相手に見せてそのままバイバイしても誰も不審には思わなかっただろうに。

「それは、見捨てるのが怖かったからじゃないかな?」

 その時、今まで良輔と柊の会話を黙って聞いていた優希が口を開いた。

「どういう意味よ?」

「私はjokerがなくてもクリアできるものだったけど、その夏本っていう子は……jokerがないとクリアできない子だった、だから見捨てられなかったんじゃないかなって」

「jokerで他人を騙す奴がそんな涙あふれる温情な行為をするわけないじゃない、どうせあの子の首輪かPDAかあるいはそれにインストールされているソフトウェアとかが必要だったんでしょ?それにjokerを渡さずに隠してたんだから助けるつもりなんてないに決まってる」

 付け加えるならばその理論でいくと自分も一ノ瀬により助けられなければおかしいことになる、あの時柊は自分のPDAを【6】として一ノ瀬に見せているのだから。

「そんな!?迷ってたのかもしれないじゃない!相手を助けたいけど、助けようとして自分が傷つくのが怖かっただけかもしれないじゃない!」

 こんな状況だ、今まで会ったことのない他人を助けるという行為がどれほど難しいものだっただろうか?それに一ノ瀬は最初に6階で物騒な軍用兵器の数々を見てしまっているのだ。
 異常な空間、初見の人々、危険な武器、不確かな情報、何が信用できるのかどうか分からない、常識さえ通用しない、そんな中で他人を信じて助けようとするのは困難を極める。
 やろうと思っても中々できるものではなかったのではないだろうか?

「何で裏切られた優希が一ノ瀬を庇ってるのよ?」

 後ろに馬鹿じゃないの?と続けたいところであったが自重する。

「私は……信じるなら、悪意よりも善意を信じるわ」

 しかし柊とは反対に優希はそう言ってのける。

「……、」

 面白くない、柊はそう思った。
 この世に無償の善意など存在し得ない、あるのは損得勘定による使えるか使えないかの2択だ。
 善意などは後付けの装飾品でしかなく、それは人間の本質を射ていない。
 そんな上面だけの物を何故これほど盲信しているのだろうか?
 やはり、良輔にこんな馬鹿な女は似合わない。

「そういえば優希と美姫はいつごろから一緒に行動してたんだ?」

 またしても言い争いしそうになっている優希と柊を止めるためにずっと黙っている美姫に話題を変えた。
 一ノ瀬の話によればこの少女は幸村や飯田達と共に行動していると聞いていたのだが。

「私と美姫ちゃんが会ったのは4階の戦闘禁止エリア付近で本当に少し前の話よ」

 これを見てと優希は自分のPDAを良輔達に見せた、そこには地図画面が表示されており、良輔達のところには光点が4つ、4階にも4つの光点があった。

「この光点は何を表示しているものなんだ?」

「これはPDA探知のソフトウェアよ、この光点はPDAを現したものなの」

「なんかすごいソフトウェアがあるんだな、6階って」

「私はこれを見ながら降りてきたんだけど4階に降りた時にこの光点が動き回ってるとこがあってね、そこに大勢の人がいると思った私はそこに行った訳、そこでね」

 そして優希は美姫と会った経緯を話し始めるのだった。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






「はあ、はあ」

 時間は少し遡ってこれはまだ優希が良輔達と未だ接触していないころ、優希は走っていた、聞こえてくるのは銃声と怒号、何かあったのかと武器を持ったまま通路を走る。

「っ!?光点が離れていく?」

すると固まっていた光点がどこかに移動するのが見えた。

「急がなきゃ!!」

 優希は距離が短くなったところでPDAを制服のポケットに押し込み、走った。

「この辺り、よね?」

 大体光点があった付近まで来ただろう、念のためもう一度PDA探知を使おうかと迷っているときだった。

「っ!?」

 ちょうど通路を曲がってきた美姫と優希は遭遇した。

「あ、良かったやっぱりここで合ってたのね、私は御剣優希、貴方のお名前は?」

「美姫は西野美姫っていうんだ、よろしくねお姉ちゃん」

 会ったばかりのその少女は極めて友好的に笑みを返してきた。
 怖がられたらどうしようかと少し不安だったがそれは杞憂に終わったようである。
 いや、むしろ……。

「駄目よ、美姫ちゃん!そんなにかわいいのは反則よ、レッドカードよ、一発退場よ?」

「ふええ!?美姫は退場させられちゃうの?」

 優希の冗談にあたふたする美姫を見て、萌え萌えしたものをこの少女に感じていた。
 まあ、その後ろで美姫が拳銃に手をかけていたので本来の萌え要素は皆無だったりするわけなのだが……。

「あははっ、美姫ちゃんかわいい~」

「っ!?もうくすぐったいよ~お姉ちゃんってば~」

 知らぬが仏、優希が美姫を抱きしめ頬ずりを始めたために美姫は敵意なしと判断して拳銃から手を放していた。

「美姫ちゃんは1人?」

「ううん、えっとね一緒にいる人が一人いるの」

 美姫が周囲を見渡すと手品師のようにシルクハットを被ってスーツに身を包む男がいた。
 恰好こそミステリアスな姿だが、浮かべる表情は柔和と評すべき柔らかさだった。

「あっ、あそこにいる速水さんが今まで美姫の面倒を見てくれていた人なんだよ?」

 美姫の指先にはその手品師が立っている、どうやら彼は速水というらしい、それ以後優希と速水と美姫と一緒に行動することになった。





――――――――――――――――
――――――――
――――
――






 今、優希は近くの戦闘禁止エリアにいた。
 そこには焼けただれた死体が1つだけ転がっており、そこら中に戦闘の爪痕があった。

「ひどいっ」

 吐き気を抑えるように口元を抑える、今まで死体にすらお目にかかったことがないというのにいきなりこんな惨殺死体を生で見せられれば吐き気も出てくるだろう。

「お姉ちゃん大丈夫?」

「う、うん、大丈夫よ、大丈夫だから」

 そうだ、こんな小さな子さえ泣くのも吐くのも我慢しているというのに年上、頼られるべき自分がそんな情けない姿をさらすわけにはいかないと何とか吐き気をこらえた。

「速水さん、案内してくださってありがとうございます」

「いえ、こちらこそすみません、あまりレディーに見せるような光景ではないのは承知しているのですが、優希君はまだこの建物で起こっていることについてあまり知らないようでしたので」

 優希は速水達にPDAの光点を追ってここまで来たことを話した。
 聞こえてきた銃声、怒号から争いがあったのかどうか速水に聞くと、頷いてここまで案内してくれたのだった。

「まさかこんなひどいことになってたなんて」

「ええ、僕達も命からがら逃げてきたという感じです」

 6階で最も強力な武器を見た優希だったがまさかこんなものを人間相手に使う者などいないだろうと思っていた、しかしどうやら現実は一ノ瀬が言っていた状況になりつつあるらしい。
 速水の話によると既に死人が何人も出ているらしい。

「美姫と最初にいた人達も美姫を守って殺されちゃったんだ」

「っ!?美姫ちゃん!!」

 そういって暗い顔をする美姫を今度は優希が抱きしめた。
 こんな小さな子が、人が死ぬところを、それも自分を守ろうとする人間が死ぬところを見せられるなどどれほどショックだったろうか?自分もまた殺されるかもしれないという恐怖に苛まれるのはどれほど辛かっただろうか?それは想像するだけでも胸が張り裂けそうになるほどつらいことだと優希は思った。

「僕は運よく途中で首輪を外せたんです、僕はそれまで【7】のプレイヤーと行動していてのですが僕の外れた首輪とPDAを渡して僕達は別れました」

 速水は自分の首をさすりながらそう話す。
 もちろんこれは口から出まかせなのだが、優希は疑った様子もなく速水の言葉を鵜呑みにしていた。

「【7】のプレイヤーっていうのはどういう意味なんですか?」

「ん?ああ、まだ優希君はルールを全て把握しているわけではないんでしたね、えっとこれがこのゲームのルール表みたいです」

 優希は速水から手渡された紙に視線を走らせる。
 特にルール9を見たとき、優希の表情は歪む。
 首輪の作動、収集、特定の人物を殺害などあまりにも物騒な言葉が並び過ぎていた。

「その後は3階をうろうろしていたのですが途中で美姫に会いましてね、こんな小さな子を1人にしておくわけにもいきませんからね?」

「それで速水さんは首輪が外れたのに美姫ちゃんと一緒に行動していたんですね?」

「うん!美姫も1人になっちゃって、それで寂しくて泣いてるところに速水さんが来てくれたの!」

「くすっ、速水さんが良い人で良かったね?これで変態のロリコンになんか遭遇してたら美姫ちゃんかわいいから襲われてたかも」

「速水さんはそんな人じゃないも~ん、美姫……速水さんだ~いすき♪」

「あははっ、くすぐったいですよ美姫」

 腕に抱きついてくる美姫に対して苦笑する速水を見て、優希はこの2人をまったく疑うことなく頭から信じ切ってしまっていた。
 詐欺などで複数人がグルになると信憑性が増すという心理トリックがあるが優希が嵌まっているのはそれに近いだろう……ただし、命に係わるぶんそれよりも悪質といえるのかもしれない。

「さあ、早く5階にいる人に会いにいきましょう?」

 優希はPDA探知を起動させる、PDAの地図には自分達のところに2つの光点――自分の【J】と美姫の【10】が1台である、ちなみに優希は知らないが速水もまた【3】と【5】と【9】と【K】の4台持っている、優希がPDAの光点を追ってきたと話を聞いた段階で美姫は共に行動しやすい【10】のPDAだけもって自分のPDAは速水に預けていた――5階の階段に2つ、4階のここから少し離れたところに4つだ。
 最初はより近い人達に会いに行こうとしていたのだが、それを速水達に強く止められた。
 速水の話によると恐らくその光点が自分達を襲ってきた集団の物である可能性が高いらしい、そのため優希達は5階の階段にある2つの反応に会いに行くことになった。
 もし優希のスタートが通常通り1階から上がってきていて、普通に他プレイヤーと接触していればこのような嘘に騙されずに済んだかもしれない、しかし残念なことに優希は速水達を除けば未だに一ノ瀬にしか遭遇できていないのだ……情報を完全に遮断されてしまっていたためにこの嘘を看破することはただでさえお人よしに分類されるだろう優希には出来なかった。
 そうして速水達の勧めというより誘導に従って優希は5階にいたプレイヤーと先に合流すべく来た道を戻ることにした。
 その道中のことである。

カチッ

「うん?」

 その途中、最後尾を歩いていた速水が何かを踏みつけた。

シャアアアアアアア

 それを合図に上からシャッターが降ってくる、瞬く間にシャッターは速水と真ん中を歩いていた美姫の間に落下し、3人を分断してしまった。

「美姫ちゃん大丈夫!?」

「う、うん美姫は大丈夫だけど速水さんが……」

 美姫は優希の手を借り、立ち上がりながらもシャッターの向こう側に消えた速水を気づかっていた。

『2人共無事ですか!?』

 シャッターの向こう側から速水の声が聞こえてくる、どうやら無事のようで優希は胸を撫で下ろした。

「はい、こっちは大丈夫です!」

「速水さん、怪我ない?大丈夫だよね?」

『モーマンタイです、しかしこれは弱りましたねえ』

 速水がシャッターを叩いているのかカシャンカシャンと揺れた。

『止むを得ません、階段で合流しましょう』

「わかりました!美姫ちゃんと一緒に階段へ行っていますね?」

「速水さんも後でちゃんと来てよ?」

『了解です、それではしばしのお別れですね……また会いましょう』

 そうして速水の声は聞こえなくなった、おそらくは通路を迂回するべく一度通路を戻るのだろう。

「じゃあ美姫ちゃん、私達も行こっか?」

「うん!」

 そうして優希を先頭に、5階への道を歩き始めた。

「……、」

 優希が前を向いたところで美姫は【10】のPDAを取り出す。
 このPDAには幸村達がまだ健在のころ、見つけた通信用のソフトウェアが【3】のPDAと共にインストールされていた。
 そこには速水からのメールが届いている。

ID:koutarou
『僕はちょっと調べたいことがありますので少しの間ゲームメイクをよろしくおねがいしますね?』

 速水から届いていたメールを読むと美姫は素早く返事を書いて速水へと返信した。

ID:iida
『了解』

 短い一文、それを打ち終えると美姫はPDAを懐にしまう。

「美姫ちゃん?」

「どうしたのお姉ちゃん?」

 不意に前を歩く優希が振り返った。
 どうしたのだろうと美姫は小首を傾げる。

「歩くペースとかきつかったら教えてね?」

「うん!お姉ちゃんって本当に……」

――――馬鹿だよね?

 美姫は家畜でも見定めるような目で優希を見る。
 利用されているとも知らず馬鹿な女だ、恐怖と狂気に包まれた未知の空間で外見を頼りに他人を信じるなど……その甘さを突かれればどんな目に会うか、それをこの女に知らしめなければならない。

「優しいよね!美姫、優しい人大好き!」

「ふふっ、ありがとう」

 優希は美姫がそんなことを考えているとも知らず、微笑む。
 そこに美姫を疑う気持ちなど、きっと一欠けらもないに違いない。
 自分に裏切られた時、この女がどのような表情を見せてくれるのか?
 美姫は暗い影のかかった表情で、微笑んだのだった。





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「つまり4階までは速水さんも居たんだけど途中ではぐれちゃったわけなのよ……それで合流するために休んだりしながらここまで来たって訳」

 優希の話が終わって良輔達は黙りこんだ。
 それもそのはず、現在自分達のPDAを持っているであろう速水が首輪を外していることがわかったのだから。
 速水は条件に自分の首輪の解除を提示していたが、それはもう必要なくなったのだろうか?
 そうなると自分達のPDAはどうなる?
 壊されていないことは自分たちが生きていることから間違いないが取れる連絡手段がないためにどうなっているのか分からない。

「とりあえずお互いのクリア条件を確認しましょう?早くこの首輪を外さなきゃ」

 困惑する良輔達を余所に優希はそういって自分のものと思われるPDAを1台取り出し、良輔達に見せた。

「ハートの【J】か……」

 良輔はそのPDAを見てそう呟いた、どうやら一ノ瀬はこの件に関しては嘘をつくことなく、正直に話していたということらしい。
 ある程度覚悟していたことだが、これで一気に自分と優希が同時クリアするのは難しくなったと歯噛みする。

「美姫のPDAは【10】だよ?」

 そうして美姫もまたPDAを見せる、それはクリアあるいは死亡したプレイヤーのPDAが3台以上必要な条件。

「美姫ちゃんのクリアにはPDAが3台以上必要で、良輔達は美姫ちゃんのクリアに使えるPDAを持ってないかしら?」

「……いや、俺達も自分のPDAしか持ってない」

 良輔は【4】、柊は【6】のPDAをそれぞれ見せた。
 実際にはこれは良輔達のPDAではないが、今ここにない上にあったとしても見せたくないPDAだ。
 騙す形になってしまうが不安にさせるよりはいいだろうと手持ちのPDAを見せる。

「良輔は首輪3つ破壊で、桜がjokerの傍に6時間滞在することか」

「とりあえずここで誰かが来るのを待とうぜ、今はそれぐらいしかやることがない」

 次にここに来るのは誰か?
 神河か?速水か?水谷か?一ノ瀬達か?
 この5人の内誰か1人の命は既に潰えている。
 それが誰かは良輔達には分からないが、どうやらゲームが動くのはその誰かが来てからになるだろうと良輔は漠然と考えていた。





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『中央制御室』
 それはこの建物にある、監視カメラ、警備システムはもちろん武器やソフトウェアなどがどこに置いているか、更には建物に存在する罠も遠隔操作で作動させることのできるこのゲームの舞台裏とも言える部屋であった。
 ハプニングでも起きない限りはゲームマスターが使用する部屋でもあり、ゲームマスター間では『マスタールーム』とも呼ばれている部屋である。
 埃だらけの建物と違い、清掃はよく行き届いており、壁には大きなモニターが幾つも並び、1台の大きなワークステーションとそれに繋がる端末がいくつか置かれている。
 現在はその全てが稼働中であり、冷却用ファンの音が部屋に響いていた。

「♪♪♪~」

 その部屋にあるデスクに座りながら、鼻歌を歌いながらコンピューターのコンソールをカタカタと打つ1人の男がいた。
 その男は今回のゲームにおけるサブマスターを務める管理人の1人でもある人間だ。

「おっ?」

 途中、コンソールを叩く手を止めてモニターを見る。
 そこには3人の人間がおり、その内の1人が首輪にPDAを差し込んでいる場面だった。

『おめでとうございます!貴方はjokerを6時間以上保有しています。貴方の首輪を外すための条件を満たしました』

 アナウンスと共に首輪が2つ割れて床を転がっている。

『玲奈姉ちゃんおめでとう!』

『やったじゃねえか嬢ちゃん、おめでとさん』

『は、はい!ありがとうございます!』

 首輪の外れた人物は涙を流しながら喜び、それを周囲の人間も祝福した。

「コングラチュレーション、おめでとうございます夏本君、まあこの僕に傷を負わせたんですからこれぐらいはやってもらわないと僕の面子がありませんからね」

 速水もまた夏本の健闘を称え、すぐに興味を失ったように仕事に戻る。
 カタカタとコンソールを叩いて情報を検索していく、今速水が調べているのは過去に行われたゲームの参加者についてだった。

「ふふん、ようやく見つけましたよ」

 速水はようやく目当ての情報を引っ張り出すと、横に置いてあったコーヒーを一杯すすった。
 優希達と別れた後、神河について調べるべくマスタールームへと業務用のエレベーターを使って移動していた。
 正規のエレベーターは神河が止めてしまっていたし、速水としてもそんなものは怖くてよほどの緊急事態でもない限りは使わない。
 速水の使った業務用エレベーターは地図には記載されていない。
 主にゲーム中、補給物資を建物内に配置するために使っているもので、プレイヤーに見つかるとまずいため本当に建物の隅っこのほうに配置されている重量もせいぜい大人2人が限界という小型なものだった。
 美姫が幸村負傷時に、このエレベーターを使わなかったのは距離的な問題と3人では乗れなかったということもある。
 そんなこんなで6階のマスタールームへとたどり着いた速水は神河についての情報を調べていたのだった。

「神河神無……彼女、リピーターだったんですね」

 神河が死の間際でも自分を殺そうとしていた執念から、今まで面識がないと思っていたが、もしかしたら以前のゲームで遭遇したことがあるのかもしれないとログを調べなおした。
 かなりのゲームをメイクしてきた速水だがもちろん参加した全員を覚えているわけはなかった、そもそも数が多すぎるし、自分にとって大したことがないことでも相手にとっては大事というのはよくあることなので、もしかしたらそっちの線で恨みを買っていたのではないだろうかと思ったわけなのだが、しかし……。

「やはり僕の担当したゲームで彼女と会ったことはないか」

 ようやく見つけた神河のゲーム参加履歴を見ていたがどのゲームでも自分とは無関係なものだった。
 間違いなく速水と神河はこのゲームで会うのが初めてのはずなのだ。

「他人の空似でしょうか?いや、それとも他に理由が……」

 速水は残っていたコーヒーを飲み干すと、背もたれによりかかる。
 どれだけ考えても自分と神河の間に何かあるとは思えない。

「じゃあ、本人ではなく……例えば神河さんの恋人を殺していたとかそんなギャルゲー的な設定でしょうか?」

 本人と直接的な関わりがなければ考えられるのは間接的な理由だけとなる。

「うん?」

 気が付けばパソコンに新しいメールが届いていた。

「佳織からですね」

 差出人はオペレーターであり、速水の協力者でもあり、かつ恋人の佳織からだった。
 速水は神河と遭遇してから、佳織に神河についての情報を集めるように指示していたのでその関係だろう。
 その送られてきたメールを開くとそこには……。

「そんな……馬鹿な……」

 そのメールの内容を見て、速水は驚愕する。
 それは神河のゲーム参加履歴ではなく、私生活の方を取り扱ったものだった。

「確かに、それなら説明が……しかし清十郎さんを殺したのは僕では……いや、待てよ」

 速水はとある可能性に行き当たり、その顔を真っ青に染めた。

「やられた……神河さんは騙されて利用されていただけだ、本当の狙いはやはり別のところにあった」

 向こうではゲームのプレイヤーが突如入れ替わっていたということで処理されているようだが神河、幸村と自分達ゲームマスターとの関係を考えればこれが偶然であるとは考えられない。

「とにかく、一度美姫と合流する必要がありますね」

 【3】のPDAを見ながらそう呟く、良輔達にPDAを返すには美姫のPDAが【10】であるというほうが都合良い、もし優希がPDA探知を持っていなかったらこんな二度手間を踏まずに済んだのだがそれは仕方ない。
 速水は持っていく武装を確認する。
 サブマシンガンが1丁、拳銃が2丁、マガジンも多めに5つ。

「後は防弾チョッキとナイフ、それと音響弾と閃光弾に煙幕、後は……」

 傍らに立てかけてあった日本刀を掴むとそれをベルトで固定した。

「さてっと、それでは戦場復帰といきましょうか?」

 速水はマスタールームを出て美姫と合流するべく業務用エレベーターへと向かう。
 完全武装したこのゲームにおける最強の死神が今また戦場に降り立とうとしていた。



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