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[22789] [習作]火魅子伝+GPM(システム面) オリ主
Name: どどめ◆47f991e3 ID:51ca6c40
Date: 2010/10/31 15:19
「死にました」
「……はぁ?」
「あなたは、死にました」

 いや。別に誰が死んだのかを聞いたのではない。
何で起きたと思ったら死んでいたのか、このモヤに包まれた空間は何なのか、目の前のフードを被った美少女with大鎌は何者なのか。
そういった疑問を込めた「……はぁ?」だったのだが、どうやら伝わらなかったらしい。

「えっと……死因は?」
「……業務上過失致死デス」

マテ。

「業務上で、誤って、死なせた、と?」
「……」

 おい。微妙に目線を逸らすな、体を小刻みに揺らすな、吹けてもいない口笛を吹くな!!

「えぇええええええええ!?」
「スイマセンスイマセンスイマセン!」

 謝って済む問題なのか!?普通なら自分を殺しただろう相手に怒り狂ったりするだろうが、余りの展開にそんな普通の対応すら出来なかった。

「過失って何処をどうすれば俺が死ぬ展開になるんだ!?」
「お隣の方との死期を間違えてしまって……本当にすいません!」

お隣さんって、そういえば入退院を繰り返すおじいちゃんがいたような。しかし、それよりも死期がどうのこうの言ってるが、もしやこの目の前の少女ってもしかして……

「もしかして君って……死神とかそういうの?」
「は、はい!その通り死神デス!」

 嫌すぎる死神だ。こんなうっかり死神だらけなら、あの世とやらも大変な事になってるに違いない。

「何か失礼な事考えてませんか?」
「別に、何もそんな事考えてませんようっかり死神さん」
「悪びれもせず考えてるー!?」

 面白い。こんなテンプレートな対応しても全力で突っ込んできてくれるなんて。どうも自分はこの一生懸命な死神を許してしまっているらしい。人間こんな境地になれるものだな。

「で、俺は天国に行くの?それとも地獄?」

 出来れば地獄は勘弁して欲しい所だ。出来ればこの死神のミスで俺の生前の悪行(ウソを付いたことや信号無視)などは帳消しにしてもらいたい所だが。俺がそんなこすっからい考えをしていた所

「いえ。あなたを冥界に連れて行くわけにはいかないのデス」

 そんな事を言われてしまった。

「と、言うと」
「あなたの魂耐久年数はまだ余裕にあります。そんな魂を冥界に送って浄化しようとしても魂そのものの劣化を招きます」
「……つまり、電池を充電する前に放電してからするようなものか」

まさか永遠に彷徨い続けるがよい。といったホラー的な展開じゃなくて助かった。そう安心していたら目の前の死神は少し意外そうな顔をしていた。

「よく今の説明で理解できましたね。というより凄く冷静デスよね?本当に人間デスか?」
「失礼な」

 ゲームではよくある展開だし。そして、冷静というより現実味がないせいで他人ごとになってるだけなんだが。

「という事であなたには余生を送ってもらいます」
「生き返られるのか!?」

 もう諦めかけていただけに余生という言葉に強く反応してしまう。やはり心のどこかでは死後への恐れもあったのだろう。

「いえ。この世界はあなたの死を受け入れています。この状態で生き返る事は不可能に近いデス」

 期待しただけにショックが大きい。そうか生き返られないのか……ん?

「この世界、って言ったな」
「鋭いデスねー、その通りデス」

 ゲーム脳を舐めるな!となると次の展開も読めるぞ!

「つまり並行世界に跳ぶとかそんな感じで主人公をやれるんだな!」
「主人公かどうか分かりませんが、概ねそんな感じデス」

 20年生きてきて、特にいい所もなかった人生に初の転機だ。まぁ人生終わってるんだが。

「希望の世界観はありますか?今回こちらの過失による失命なので、十分に配慮するようにとの上からのお達しもありますので」
「可愛い女の子が一杯の所で!」

 ……さ。死ぬか。人生の転機に浮かれたからといって、何女の子の目の前で叫んでるんだ。いや、仕方ないじゃないか。これまで生きてきてそういったイベントなんて一切無かったんだから。なんて自分で自分に言い訳をしているせいで気づかなかったが

「デスネットワークに接続。検索開始――該当アリ」

 どこから出したのか死神は小さな電子辞書のようなものを操作していた。口ぶりからすると希望した世界はあるようだが

「では、その世界およびあなたに付随する技能について説明――したい所だったのですが時間デス」
「へ……う、うああああああああ!?」

 死神が言葉を区切った途端、周りのモヤが遠くの光に向かって吸い込まれ始めた。そしてそれにつられる様に俺自身もその光に向かって飛ばされる。

「(時間配分を間違えましが)よい余生を!」

 いつの間にか消えていた死神の声を聴いたのが最後に。俺の意識は薄れ消えた。

 

「ここは3世紀の九洲の山奥」

 自分が置かれている現状について、自然と言葉に出た。どうもあの死神の置き土産みたいだ。というか、3世紀って……九州じゃなくて九洲だと?
一体どんな世界に跳ばされたというのだ……しかし

「俺には技能がある!そう、主人公のような!」

 全く不安がなかった。そう、俺は呼吸をするのを意識しないで行えるように、自分の「技能」が確かに存在する事を魂で理解していた。恐らく可愛い女の子が一杯いるという世界観なんだ。恐らく主人公の持つ「ご都合主義」のような絶対的な力に違いない。

「来い!俺の能力―!」

 俺はそれを確かめるために「メニュー画面」を開いた。

東城 浩一 : トウジョウコウイチ
部署 : 無職
階級 : 戦士

発言力 : 0
体力 : 50
気力 : 50
運動力 : 40
知力 : 40
魅力 : 20
士気 : 100

「……アルファシステムだとおおおおお!?」



[22789] 第一話
Name: どどめ◆47f991e3 ID:51ca6c40
Date: 2010/11/01 22:21
 九洲生活三日目in山中

 人間なんだかんだで慣れる生き物である。そう、サバイバル経験の無い俺でも野を駆り、山を駆り、そして野兎を狩るまでになッ。

「兎肉ウメー」

 家事技能がデフォにあって本当に助かった。無ければ捕えた兎を生でかじるところだった。もう周りは夜であり、焚き木が無ければ何も見えない状態に陥る。火の暖かさに、ようやくこの世界で一息が付けた気分だった。
 この世界、九州に来た当初はまさに何もかもが手さぐり状態だった。まず人がいない。山中に一人きりとかもはや遭難だろう。次、持ち物が靴下と自爆装置のみだった。何故だ。そして最後は俺のステータスに問題があった。

「何でよりにもよってガンパレードマーチのステータスなんだ。というか低くね?俺魅力やばくね?」

魅力 : 19

 ……一般の人のステータスって50だったか。もし100だとしたら俺の魅力は一般のソレより5分の1になるのだが……いや考えるな俺。

「そう、訓練をすれば超絶美形になるのだから!」

 その通り、ガンパレードマーチ(以下GPM)のシステムでは訓練を行うことで各ステータスは上昇する。ちなみにこの世界に来てから今日まで、辺りの探索と食い物の確保の為に歩き続けた結果、俺の運動力は3上がって43になっていた。ちなみに食い物の確保は三日目に至る今日まで全く成功してなかったので、もはや体力は倒れる寸前になっていたが。
 兎も角、三日ぶりの食事を得てようやく、この世界。いや俺の第二の人生に対し、落ち着いて考えることが出来た。死神は俺の希望「可愛い女の子が一杯の世界」を叶え、ここに跳ばした。つまり、人間は存在するという事だ。そして3世紀といえば丁度邪馬台国が栄えている時代だった筈。邪馬台国といえば女王卑弥呼の存在……なるほど。

「卑弥呼とその周りの女官達とのハーレムを目指せばいいんですねわかります」

 俺の残念なゲーム脳はこう結論づけた。いや仕方ないじゃないか。周囲に情報が一切無いんだからな。ただ方針は決まった。まず山を下りて人を探そう。恐らく文明は近くにあるだろうゲーム的展開に考えて。そしてそこからは……っ

「俺、文明に出会ったら、魅力を上げるんだ……」

 魅力を上げるためには鏡が必要=山中にある訳もなし。まず俺の最初の目標は鏡を見つけることに決定した。

 日が明け、焚き木の後に土を被せた俺は草木を掻き分けるようにして山を降りていく。三日ともなればそれなりに山歩きも慣れたものだった。そして時間をかけ、日が空の頂点をさすころには遂に、道に出られたのだった。そして

「第一村人を発見」

 どうやら市?にいくのか。麻服のような質素な出で立ちのおっさんが一人。その背には大きな包みを抱えているようだった。そしてその包みからはみ出しているモノを見て俺は思わずほくそ笑んだ。これはイケる!

「やぁオジさん!今日は天気がいいね」
「!? なんだその面妖な恰好……もしや狗根国のもんじゃ!? ヒィイイイ」

 はいファーストコンタクト失敗。うん、ちょっと分かってた。言葉が通じるのは僥倖だったが魅力19や現代の服では。ですよねー。
 だが俺には切り札がある。そうデフォに存在した家事技能に次ぐ二番目の技能、そう

「怪しいものじゃないってオジさん!俺は半島から来たんだよ!」

 話術技能で何とかするぜ!

「半島から?ここから港までどんだけあると思うとるんだ」

 地理関係がさっぱりなのだが恐らく俺は可笑しな事を言ったのだろう。しかしこの勢いのまま口を俺は動かし続ける。

「乗ってた船が途中で嵐にあっちまってさ、で、漂着した所で人に拾われたんだが最悪な事に奴隷商人だったんだよ。で、捕まったままじゃヤバイと思って、着の身着のまま逃げ出してきたんだ」

 この時代に奴隷商人がいるか分からないが、とりあえずそんな出まかせを言ってみる。すると途端におっさんの表情が憐れむようになった。

「そりゃ奴隷商人じゃなく狗根国の連中じゃ、よう運よく逃げ出せたのう」
「ええ、全くです。それにしても狗根国の野郎ども!人間の風上にもおけねぇ!」
「こ、声がでけぇ――ッ気持ちは分かるが連中に聞かれたらただ事じゃすまんぞ」

 どうも狗根国という奴らはここの人たちに嫌われてるらしい。とりあえず憤ってみせれば案の定乗ってくれた。どうやら俺に対する不信感は消えたみたいだ。そろそろ本命にいってみるか。

「ところでオジさん。ここで会ったのも何かの縁。俺と取引しない?」

 古代に貨幣が通貨として流通してるかどうか。確か貝が貨幣になったのは何時ごろだったか。ともかくこの時代は基本的に物々交換が原則だった筈。

「ええけど、古着しか持っとらんぞ」

 よし。提案に乗ってくれた!そして俺が予想した通り、その包みの中身は服のようだった。俺がこの先生きのこるには、まずこの時代に溶け込まないといけない。その為にこの時代の服が必要だった。

「じゃあ、俺はこの靴下……を」
「クツシタ?なんじゃそりゃ」

 唯一使えそうな代物を取り出し、ふと足元を見て気づいた。
 あれ、この人裸足じゃね。この時代に靴下っていらなくね。

「厚い布きれじゃが何に使うんだ?」
「えーと、ですね。それは、そう!苦痛を下に、つまり厄災から身を守る祭具なんですよ!」
「な、なんだってー!?」

 また俺の話術技能(口から出まかせ)が発動した。どうせなのでこの勢いに乗ってみる。

「半島に伝わる口承にこんな伝があります。かの者クツシタの芳香を身に纏いし時、真の益荒男に目覚めん。と」
「よ、よし。この取って置きと交換してくれ!」

 おっさんはごそごそと包みを漁ると、そこから葵色の貫頭衣を差し出してきた。この時代、染色とやらは貴重だろうに。まさしく取って置きだった。

「ありがとうオジさん!」
「いいって、狗根国には気を付けろよ」

 と、言ってくれたが目は俺の靴下に釘付けだった。いやぁ、あそこまで喜ばれると照れるな。ともかく、俺は服を手に入れるという目的を達せたので、一度茂みに入り服を着てみる事にした。

「な、なんだこの匂いは……クンカクンカと、とまらないクンカクンカい、いたい!だがクンカクンカ気が遠くなるほどの快楽!!」

 後ろで何かの嬌声と倒れるような音がしたが、俺にとっては些細な出来事であり、気にすることでも無かった。


「市かここは」

 シャツの上から貫頭衣を被り、脱いだ上着はアイテム欄に仕舞う。仕舞ったアイテムは消えるので非常に便利だが、持てるアイテム数の上限が8とあった。便利だが不便だ。ともかく、今の俺の恰好は貫頭衣とジーンズというまぁ、まだアリな恰好だと思う。その証拠に魅力が19から34にまで上昇していた。どうやら葵色の貫頭衣には15の魅力値補正が付いていたらしい。ラッキーだ。
 そんな感じで意気揚々と道を歩いていたら、その道周辺に人が集まっていた。どうやら近くの集落から集まった人が市というかバザーを開いているらしかった。渡りに船とばかりに俺は店を物色しながら、人の話に耳を立て、また自分から声を掛けるなどして情報を集める。その結果、この九洲の情勢とやらが微かに見えてきた。
 どうもこの地を元々治めていた耶麻台国(邪馬台国とは違うらしい)は何年も前に狗根国に滅ぼされた。そしてこの九洲を支配している狗根国の圧政から民を救うため、滅ぼされた耶麻台国の王族達がつい最近になって挙兵したとか。その名は

「耶麻台国復興軍ねぇ……」

 どうもきな臭い所に来てしまったようだ。可愛い女の子が一杯の所で余生を過ごす筈だった俺にとって、もはやどうもこうもない所である。この地から北へ行った所でその再興軍とやらが義勇兵を募っているらしいが、さてどうするべきか。……よし

「とりあえず行ってみるか」

 ゲームならイベントが待ってるだろうし行くしかないだろう。俺の腐れたゲーム脳はそう告げていた。

東城 浩一 : トウジョウコウイチ
部署 : 無職
階級 : 戦士

発言力 : 0
体力 : 40/50
気力 : 50/50
運動力 : 43
知力 : 40
魅力 : 34
士気 : 110

技能 : 家事技能 話術技能 XXX


おまけという名の正史

 夜空は満天の星空で輝いている。男は初めて、星の輝きが綺麗なものだと感じた。
 いや、虚ろに生きてきた形骸が無くなった事で、薄い膜に覆われ生きてきた男自身が初めてその輝きに気付いただけかもしれない。
 男はこれまで偽ってきた。真面目、穏やか、優しい。そんな上っ面な評価だけを求め、まるで潜むように。

「スゥ……ウゥ……ッ」

 男は右手に握った靴下を、自分の顔に押し付けるようにして息を深く吸う。途端、痙攣するように首を揺さぶった。

「……」

 星々よ、そこで見よ!俺はここに生まれたぞ!

 道に大の字で寝ていた男は、声なき声で世界に産声を響かせた。



[22789] 第二話
Name: どどめ◆47f991e3 ID:51ca6c40
Date: 2010/11/03 10:51
 この時代では当然、道がコンクリートで舗装されているなんて事はあり得ない。大きな石ころ等が平気で転がってもするし、穴が開いていたりする。雑草が伸び放題の所もあった。
 何が言いたいかというと

「あ、足の中が乳酸でパンパンだぜ……ッ」

 現代人の足腰には優しくないという事だ。例のバザーから歩いて丸一日、聞いた話では半日足らずと聞いていたのだが……どういう事なの。
 まぁそのお蔭で何とか復興軍とやらが構えている本営に追いついたみたいだ。辺りは昨日の市とは比べものにもならないほどの人が存在している。その大多数は質素な服を着た農民らしき姿で、ちらほらと見える、何かの動物の毛皮を身に纏っている者は狩人だろうか。点々とした所には鎧だと思われる者を着込んだ兵士らしき姿もあった。恐らく復興軍の兵士だろう。
 てんでバラバラな集団だが共通点はあった。その顔には生気がひしひしと感じられ、その集団の熱は最高潮にも達していた。ふむ。

「――うーん……」

 だが俺はその勢いには乗らない。圧倒はされるが飲み込まれない。どうしてだろうと自問自答する余裕すらある。この時代の人間ではないからだろうか。そんな事をつらつらと考えていると

「耶麻台国万歳!神の遣い万歳!」

 などとの声が大挙して聞こえてきた。神の遣い……なんだそれ?俺はふと気になったので熱狂の渦中に身をやった。うーん、人が邪魔でよく見えん。
 ただ後姿のようなものが辛うじて見えたが、人にしか見えんな。俺は微妙な残念感を胸に人ごみに背を向けた。

「こら!押しかけるな!そして神の遣い様にモノをあげるな!」
「てめぇまた言いやがったな!!」

 人ごみの中、懸命に護衛の責務を全うしようとする清瑞は、その護衛対象の非難の声を意図的に無視した。元々取り合うつもりはないが、それに構ってられない状態でもあったからだ。

(これだけの人だかりでは……――むっ!?)

 気を張り、集中していたから感じられた視線。周りから向けられる熱意とは違った無機質な意思。ハッとそちらを向いた清瑞には一人の男の姿があった。乱波として一流の彼女は常人より遥かに優れた視力を持って、その姿を鮮明に捉える。

(捕らえるか……いや)

 護衛対象から自分を引き離すための策かもしれない。それだけでは無い。ここには伊雅や火魅子候補といった復興軍にとっての重要人物が揃っているのだ。無暗に離れるわけにはいかない。

「――チッ」

 その男は悠々と背を向けるとその場を去っていく。清瑞は間者かもしれないその男の姿を、脳裏に刻みつける事しか出来なかった。

 人が集まる所には商売のチャンスがある。復興軍の兵士や集まった農民たちを相手に商売している商売人のバイタリティに俺は感心した。

「俺は火魅子様達の為に戦うぞ!」
「あぁ!狗根国の奴らからこの国を取り返すんだ!」

 血気盛んな、俺と同年代くらいの奴らが気炎を上げながら復興軍の本営近くに設けられているテントに入っていった。どうも募兵はあそこで行われているらしい。俺はというと、その募兵されるテントの近くの露店で汁物を啜っていた。代金は(たぶん)食べられるキノコ。紅白の模様が輝いている。

「旦那は行かないんで?」

 そのキノコをどう調理しようか。悩んでいるのかそのキノコをひっくり返したりしていた店の主人は俺に水を向けてきた。どうやら俺が汁一杯でずっと居座っているのが気に食わないのか。サーセン。
 だが俺だって男の子。言われるままに引き下がらないぜ!

「ああいうサクラに釣られるほど、俺は安くはないからな」

 決まった――。他人とは違う異端な俺カッコイイ。その証拠に店の主人を見よ。俺の気障な台詞に慄いて、俺の後ろに視線を……
 そこまで考えた俺の頭に影が落ちていた。後ろをふっと振り返ってみる。

「……」

「oh」

そこには鬼がいた。正確に言えば鬼のような表情をした女がいた。身の丈は俺よりもあるか。鉄の鎧を身に纏い、大振りな槍を肩にかけたその姿は並みの兵士には及ばない迫力があった。

「貴様……耶麻台国復興軍が策を弄していると愚弄するかッ!」
「……」

 どうも俺がサクラを用いていると言った事に怒っているようだ。怒っているというかもう憤怒といった様子で今にも掴み掛ってきそうだ。

「何とか言ったらどうなんだ!」

 俺が黙っているのを馬鹿にされていると勘違いしているのか、さらに語気が荒くなってきた。すいません、びびっているだけです。ただ俺のそんな様子が余裕があるように見えるのか、更に顔を赤くしている。
 こうなったらあれしかない。

「勘違いされては困る」
「なんだと――ッ」

「これまでの復興軍とは違うようだと評価しただけだ」

 話術技能さんチィーっス。どうも最近気づいたのだがこの話術技能、俺の意思とは無関係に口を動かしている節がある。また口だけじゃない、身振り手振りだけでなく顔の表情から目線に至るまで計算されているみたいだった。話術技能さんパネェっス。

 「そ、それは当然だろう。此度の耶麻台国復興軍には火魅子候補様だけでなく神の遣い様までおられるのだから……!」

「そんな事は関係ない。俺が言っているのは策を講じる事と、謀を弄ぶ事は別物だと言っているのだ。その上でこれまでの復興軍とは違い、策に通じる人材がいる事に感心しているだけだ」

「ぐ……そも復興軍が人を仕込んでいたという証拠でもあるのかっ」

「証拠なんて必要ない。ただこれから狗根国の正規兵が支配する街を攻めていかねばならない状況、一人でも多くの兵士を集めないといけない復興軍において、募兵の数を増やそうとする試みはして当然なのだから。いやむしろしない方が問題だ!」

「ッ!?」

 暴論である。大体がサクラなんて口から出任せな、というか俺の妄想なのだから証拠なんてあるわけもない。よって勢いで問題のすり替えを行う。これは議論の場でも使える手なので皆さんには是非習得してもらいたい。
 そして見よ。俺の勢いに呑まれ、目の前にワナワナと俯いた女を!
 しゃ、勝った勝った。俺は空になったお椀を事の成り行きに茫然としていた店主に渡し、席を立った。周りには何事かと人だかりが出来ていたが関係ない。満足感を胸にその場を去ろうと

「――待て」

 みしっ。俺は二十年生きてきて初めて、こんな骨が軋むような音を肩から聞いた。ていたたたたたたた!

「黙って聞いていれば調子のいい事をべらべらと……」

 恐る恐る振り返ると、そこには先ほどの女が据わった眼をしてこちらを睨んでいた。ば、ばかな!貴様は倒したはず

「貴様のような軟弱なもの、徹底的にしごいて抗生させてやる!」

 し、しまった!こいつ脳筋か!?俺の話術技能はある程度の理を持ってる奴には効果的だが、逆に脳みそが筋肉で出来てる奴には逆効が薄い。いや、むしろ逆効果。アイツらはある程度まで追いつめられると、考える事をシャットダウンして襲ってくるからな。
 しかし、こうしてマジマジと真っ赤になった顔を見てみればなかなか美人って――

「お、おい!俺をどこへ連れて行く!?」

「煩い!黙っていろ!」

 や、やめろおおおおお!?俺をそのテントへ連れて行くなー!
しかし、俺の願いもむなしく、引き摺られるかのようにテントの中へと連れ込まれてしまった。そう、復興軍が募兵している所へな!

東城 浩一 : トウジョウコウイチ
部署 : 無職
階級 : 戦士

発言力 : 0
体力 : 50/50
気力 : 50/50
運動力 : 43
知力 : 40
魅力 : 34
士気 : 50

技能 : 家事技能 話術技能 XXX

耶麻台国復興軍 ある幹部の会話

「と、いう次第です」
「ふむ、いやおまえの復興軍を思う気持ち、しかと受け止めた。今後はおまえの武、復興軍に尽くしてもらおう」
「はいっ」

「うむ。ん、亜衣どうした?」
「――いえ。特に何も」


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