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[22867] Lyrical GENERATION(再リメイク検討中)
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:0a679fa6
Date: 2012/11/05 21:33
※この作品は自分が某所で投下していた作品を焼き直した作品になります。

※クロス元作品は“魔法少女リリカルなのはシリーズ”と“機動戦士ガンダムSEED DESTINY”を中心としたガンダムシリーズとなっております。

※最初のうちはシンとなのは達は同い年設定、DESTINY本編の7年前の話になります。(Gガンも同様、FC53からのスタートです)

※クロスカプ要素が沢山あります。

※オリキャラありの予定(主人公ではないです)、オリジナル設定のMS、デバイスも出ます。

※かなりやりたい放題やります。


最近内容がごっちゃになってきたのと、なのは側の設定がだいぶ増えてきたので、これをチラシ裏に移すか削除して最初から新しく書き直すことを検討しています。




2010年11月2日 無印編開始
2010年11月15日 無印編終了
2011年1月20日 A`s編開始
2011年2月18日 A`s編終了
2011年5月5日 超級編開始
2011年7月15日 超級編終了
2011年12月14日 SEED編開始&1stエピローグの内容を大幅修正しました。

[その他のアルカディア投稿作品]

【ガンダム系】
○サテライトウィッチーズ(ガンダムX×ストライクウィッチーズ)

【特撮系】
○汽笛が鳴る頃に(仮面ライダー電王×ひぐらしのなく頃に)

【短編】
○リリカルなのは×スイートプリキュア短編





【お知らせ】
ガンダムWとそらのおとしものの長編はリメイクしようと思い一度削除することにしました。




[22867] Lyrical GENERATION 1st プロローグ「すべてが始まった日」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:0a679fa6
Date: 2010/11/02 22:18
プロローグ「すべてが始まった日」


何千何百年も前のこことは違う遠い世界……そこは今、滅びの時を迎えようとしていた。

辺りに建てられていた建物は原型を留めないほど破壊され、様々な物が燃える焦げ臭いにおいが漂っている。

そしてその廃墟の中で、一組の男女が空に浮かぶある物を見つめていた。
「オリヴィエ、あの機械人形は……。」
「あれは……私達を消そうとしているのでしょうか? この世界が愚かな戦いを続けたから……。」

その二人の視線の先には、青い胴体に白い手足、黄色い目に白い三日月の髭を携え、背中からは蝶のような光の粒子でできた羽を羽ばたかせた白いロボットがいた。

その時、空中に浮かぶロボットの足元に魔方陣が現れ、ロボットはその中に沈むように取り込まれていき、やがてこの世界から姿を消した。
「消えた……何故?」
「どうやら私達は滅びずに済んだようです……きっとあれはあなたにこの世界の未来を託したのでしょう。」
そう言って少女は男の元を去ろうとする、そんな彼女を男は引き留めようとしていた。
「待ってくださいオリヴィエ!勝負はまだ……!」
少女は立ち止まることなく、男に優しく語りかけた。
「あなたはどうか良き王として国民と共に生きてください、この大地がもう戦で枯れぬよう、青空と綺麗な花をいつまでも見られるような、そしてあの機械人形に認められるような、そんな国を……。」
「待ってください! まだです! ゆりかごは僕が……!」


オリヴィエ! 僕は―――!!





その日、栄華を誇った一つの世界が滅びの時を迎えた、月光に照らされた蝶の羽を持つ機械人形によって……。





それは、星の海を掛ける“白い悪魔”と呼ばれる機械人形が世界を平和へ導く戦士として君臨するいくつもの物語と、数多なる世界を駆け秩序を管理する魔導師達の世界が、一つの物語として融合していく物語。




母親は願いました、普通とは違う授かり方をしてしまった自分の子供達が、平穏に暮らせる世界になる事を。



機械人形達は願いました、自分たちの主が、大切なものと共に幸せに生を全うしてくれる事を。



少年は願いました、目の前の女の子を守る力を得る事を、そしてその子が笑顔になってくれる事を。

少女は願いました、いつか母親が昔のように笑いかけてくれる事を、そして少年が……いつまでも自分のそばにいてくれる事を。



最初の物語は……やがて運命の名を持つ機械人形を駆る少年が、運命の名を持つ少女と出会い、いくつもの世界を守る心優しきヒーローに成長していく物語。


あの日2人が出会った奇跡は、誰にも想像出来ない物語のプロローグに繋がっていく。





“Lyrical GENERATION 1st” 始まります。









プロローグは終了です、掴みはOK……ですか?

次から本編開始、無印なのはの温泉回終了後の話からスタートです。
ガンダム側の主人公は数多のクロスSSでよく救済されるおなじみのあの少年、なのは側のヒロインは金髪のあの子になります。では引き続き第一話をお楽しみください。



[22867] 第一話「巡り会う運命」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:0a679fa6
Date: 2010/11/02 22:23
第一話「巡り会う運命」


昔々ある世界に、“コーディネイター”と呼ばれる遺伝子を調整した人間と、“ナチュラル”と呼ばれる普通の人間が一緒に暮らす世界がありました。


その二つの種族は時に相手を罵り、時に相手を見下し、時には殺し合いをしてしまうほど仲が悪かったのです。


初めてコーディネイターになった人は悲しみました。「僕達は殺し合いをするために生まれてきたわけじゃないのに、みんなが仲良くするための手助けをする為に生まれてきたのに」と……。


その時、彼の願いが届いたのか……その世界に“女神”が現れました。
女神はその世界を皆が泣かなくてもいい幸せな世界にするため、コーディネイターとナチュラルが仲良くなるきっかけを作ろうと考えました、その方法とは……。










CE66年、オーブと呼ばれる国のとある町、そこに一人の9歳程の少年がカバンを背負って一人で下校していた。
「はあ、やっと終わった……でも明日も学校行かなきゃいけないんだよなぁ、嫌だなぁ……。」
少年は憂鬱そうに溜息をつきながら速足で家に向かっていた、その時……彼は道端に赤く光るものがあることに気付いた。
「あれ?なんだろうアレ……?」
少年は光るものがあったほうに近づく、そしてそこで赤く光る宝石のようなものを発見した。
「宝石……? きれいだなー。」
少年はふと、まだ二歳ぐらいの幼い妹の顔を思い浮かべる。
「そうだ! これはマユにプレゼントしてあげよう、きっと喜ぶぞー。」
そう言って少年は宝石をズボンのポケットに入れようとした、その時……。

パアアアア……!

「うわ!?」
突如宝石が強い光を発し、少年は思わず目をギュッと閉じる、そしてしばらくして目を開くと宝石は少年の手から消え去ってしまっていた。
「な、なんだったんだ一体……?」
少年は不可思議に思いながらその場で首を傾げた。



そんな彼の様子を、影から見張っている二つの影があった。
「フェイト大変だよ!ジュエルシードがあの子に……!」
「わかっている、しょうがないね……。」



数分後、少年は先ほどの出来事に不思議がりながら通学路を歩いて下校していた。
「あーあ、あの石綺麗だったのになー……絶対マユにあげたら喜んでいたのに……。」
そう言って少年は道端に転がっていた石ころをつま先で蹴飛ばす、その時……。
「あれ? なんか変だな……?」
少年は違和感に気付いた、辺りは静止画のように音もなく、動きもなく静止し、彼の周りにいた通行人やハトなどが姿を消したのだ。
「ど、どうなっているのコレ……!?」
あまりの異常事態に少年は後ずさる、その時……近くに植えられていた木の陰から、金髪をツインテールにまとめ上げた赤目の少女が現れ、少年の前に立った。
「き、君……誰?」
この異常事態に普通に動いている少女に驚きながらも、少年は彼女に話しかける、すると彼女はゆっくりと口を開いた。

「ごめんなさい。」
「う!?」
突然、少年の体に電流が流れ、彼は自分の身に何が起こったかわからないまま昏倒してしまった。



「フェイトやったね! 早く封印を!」
すると少女の後ろからオレンジ色の長髪の隙間から犬耳のようなものを生やした少女が現れる。たいして少女はこくんと頷くと、倒れている少年に向かって機械でできた鉄の杖のようなものを翳した。
「そうだね、ジュエルシードシリアルナンバー……あれ?」
だが少女は違和感に気付き、詠唱を途中でやめる。
「ん? どうしたんだいフェイト?」
「ジュエルシードが出てこない?なんで……。」
「えええ!? じゃあどうするんだよ! このままにしていたら暴走するかもしれないのに……。」
「…………。」
少女は倒れている少年を前にしてどうしたものかと深く考え込む、そして……ある結論に達した。











「んんん……ここは……?」
それからどれだけの時間が経ったのだろうか、少年はとある部屋のベッドの上で目を覚ました。
「目が……覚めましたか?」
「!?」
そしてベッドの傍らには、先ほど少年に電撃を喰らわせて気絶させた金髪の少女がイスに座っていた。
「き、君は……!」
「ごめんなさい……痛かったですか? あの時はああするしかなくて……。」
「え? ああ、うん……。」
素直に謝られて困惑する少年、そして彼は少女の姿を見て首をかしげる。
(……? なんでこの子こんなところで水着着ているんだ?)
少女は体のラインがぴっちり見える黒いスクール水着のような服にマント、足にはニーソックスにゴツゴツした靴、そして腰にはベルトに何故か股の部分は隠せていないスカートという、なんというかとてもマニアックな格好をしていた。
(あのマントってバスタオルかな……この子プール好きなんだなー、いつでも入れるようにしているのかな?)
「あの……どうかしましたか?」
少女はまじまじと自分の体を見てくる少年に困惑する。
「いや、君の格好って変わっているよね。」
「ああ、確かにバリアジャケットってあなたから見たら珍しいかもしれませんね。」
「ばりあじゃけっと?」
少女の口から意味不明な単語が飛び出し少年は首をかしげる、そして少年はさらにあることに気付いた。
(よく見たらこの子……可愛いな……。)

その時、二人がいる部屋に黒いドレスを身に纏った黒髪の女性が入って来た。
「フェイト……その子、目を覚ましたのね。」
「あ……はい。」
「だ、誰ですか貴女……?」
「私はプレシア、この時の庭園の主よ、君の名前は?」
「ぼ、僕は……。」
少年はその女性から発せられる何とも威圧的な空気に恐怖を感じながらも、自分を必死に奮い立たせて自信の名前を名乗った。


「僕はシン……シン・アスカです。」


その後少年……シン・アスカはプレシアと名乗る女性からすべての事情を聴いていた。
「僕の中にあの宝石が……!?」
「私達は“ジュエルシード”と呼んでいるわ、そのジュエルシードは全部で21個あるんだけど、そのうちの一個が君の世界に落ちて偶然君の体の中に入り込んでしまったのよ。」
シンは信じられないといった様子で自分の胸元を見る、そしてプレシアは話を続けた。
「ジュエルシードは持ち主の願いを叶えるという特性を持っているの、でもそれが暴走してしまえば周辺にかなりの被害が出てしまう……一刻も争う時だったからフェイトが君をここに連れて来たのよ。」
「そうだったんですか、それでそのジュエルシードを取りだす方法ってないんですか?」
シンの質問に、プレシアは首を横に振った。
「ごめんなさい……どういうわけかジュエルシードが何らかの理由であなたの中に張り付いてしまっているの、無理に引き剥がそうとすれば命に関わるかもしれないし。」
「そんな……。」
プレシアの言葉に落胆するシン、そしてさらに彼女の口から重要な事実が突き付けられる。
「いつジュエルシードが暴走するかわからないし、このままだとあなたの家族も危険な目に遭うかもしれないわ、だから今はあなたを家に帰すことはできないの……。」
「……! そんな……!」
もしかしたら二度と家族に会えない、そんな悪い未来予想図を思い浮かべてしまったシンは目から涙を流した。
「……私もできる限り手を尽くすわ、だからしばらくの間ここにいなさい。」
そう言い残し、プレシアは金髪の少女を連れて部屋を出て行った。


そしてシンのいる部屋から大分離れた位置でプレシアは、金髪の少女に対し……。

パシン!

「うっ……!」
強烈な平手打ちをお見舞いした。
「まったく……何をしているの!?あなたがもっと早く行動していればあんな面倒なことにはならなかったのよ!」
「ご、ごめんなさい!ごめんなさい……!」
少女はひどく怯えた様子で何度も何度もプレシアに謝った。
「フェイト……母さん悲しいわ! なんであなたはそういつもいつも……! またおしおきされたいようね!」
「ひっ……!?」
プレシアは殺意に近い感情で鞭を取り出し、壁に向かってそれを打ち付けた、その時……。
「その辺にしておきなさい、プレシア。」
突如プレシアの背後から栗色の髪をした女性が現れ、少女を暴行しようとする彼女を制止した。
「ヴィア……これはあなたには関係のないことでしょう! 邪魔をしないで!」
「そういうわけにもいかないわ、フェイトちゃんをいじめたってジュエルシードが集まるわけでもないでしょう、少し落ち着きなさい。」
「……。」
プレシアは栗色の髪の女性……ヴィアにいさめられ鞭をしまった。
「フェイト……グズグズしていないで早く行きなさい、母さんを失望させたいの?」
「はい……ごめんなさい……。」
そう言って少女は平手打ちされ腫れあがった頬を抑えながらその場を去ろうとした、その時、
「あ、ちゃんと叩かれた痕は氷水で冷やすのよー。」
ヴィアにアドバイスされ、少女はコクンと頷いて改めて去って行った。

そしてその場に残った二人は、シンについてどうするかその場で話し合っていた。
「で? あのシンって子はどうするの? おうちに帰したほうがいいと思うけど?」
「そういうわけにはいかないわ、ジュエルシードを取り出すまで手放すわけには……管理局に横取りされたらたまらないし、最近は邪魔も入っているみたいだし……。」
「あの白い子のことか……でもそれじゃシン君が可哀相じゃないの?」
「知らないわそんな事……あなたはただ自分の研究を進めていればいいのよ。」
プレシアはそう吐き捨てると自分の研究室に戻って行った。
「まったく……さて、一応あの子と話をしてみるか。」
一方ヴィアは意を決してシンのいる部屋に向かって行った。

その頃シンは毛布に潜り、家族の名前を口にしながらぐすぐすと泣いていた。
「お父さん……お母さん……マユ……帰りたいよお……!」
「あらら、ホームシック?」
するとシンのいる部屋にヴィアが入室し、彼は慌てて涙を拭うとベッド上で正座した。
「あ、あの……どちら様ですか?」
「まあそう固くならないで、私はヴィア、プレシアの友達の研究員よ、君がシン・アスカ君ね。」
「は、はい……。」
先ほどのプレシアとは違い柔らかい雰囲気のヴィアにシンは気を緩めた。
「それにしても災難だったわね、ジュエルシードが体の中に入っちゃった上に、こんなところまで連れてこられて……ああでもフェイトちゃんのことは責めないであげて、あの子は母親の為に必死になっていたから……。」
「フェイト? あの水着の子の事?」
「水着……まあバリアジャケットのことを知らないんだったらそう勘違いしてもしょうがないわね、さあて……まずどこから話したらいいのかしら……。」
そしてヴィアはシンに対して自分たちが今いる世界について説明を始めた。
この時の方舟はいくつも次元世界の狭間にあるということ。先ほどのプレシアとフェイトはシンにとって異世界人だということ、魔法という技術が存在していること……シンにとってはあまりにも現実味のない現実を突き付けられていた。
「……まるでマンガやアニメの世界みたいですね。」
「プレシア達にとって君の世界も十分マンガよ、ちなみに私もあなたと同じ世界の出身なの、よろしくね。」
「は、はい……。」

そして説明が一通り終わった後、ヴィアは今後の行動についてシンにある提案をする。
「ねえシン君、あなたの体からジュエルシードを引き剥がす方法だけど……私にひとつ考えがあるの、ついてきてくれる?」
「わかりました……。」

シンはヴィアに言われるがまま、時の庭園内にある彼女の研究室にやってきた。
「な、何ですかコレ……!? 妖精!?」
そこで彼は50センチ程の大きさの試験管の中に入れられている、30センチ程の大きさの赤い髪に、触覚のような二本の黄色い髪の束をぴょこんと立たせた少女の妖精をヴィアに見せられた。
「妖精ね……これは私が作ったデバイス、“Gデバイス”って言う魔法を使う為の杖みたいなものなんだけどね、君にこの子を使って魔法を使ってほしいのよ。」
「僕が魔法……?」
ヴィアが言うには何らかの原因でジュエルシードを取り込んだ影響で、シンの中に魔力の根源であるリンカーコアというものが形成されているらしい。
「君の中にあるリンカーコアの魔力の流れを見ればジュエルシードを取り出す方法が解るかもしれないわ、そこでね……君にフェイトちゃんの手伝いをしてほしいの。」
「あの子の? どういう事ですか……?」
「フェイトちゃんはね……今プレシアの言いつけで残り20個のジュエルシードを集めているの、でも成果は思わしくなくてね、このままじゃあの子……潰れちゃうわ、だから傍で支える人が必要なのよ。」
「えっと……もしかして魔法を使ってですか?」
「そう、ジュエルシードを引き剥がす手段を見付けて君をお家に帰すことができるし、万が一暴走してもフェイトちゃんが傍にいるし、私達はジュエルシードを集める手伝いをして貰える……どう? 悪い話じゃないでしょう? 大丈夫、魔法の使い方は私がちゃんと教えてあげるから、この子もサポートしてくれるし……。」
そう言ってヴィアはGデバイスの入った試験管をシンに渡した。
「僕が……。」
その時、試験管の中に入っていた培養液が抜きだされ、中にいた少女の姿をしたGデバイスが目を開いた。
「お、起きた!?」
「目を覚ましたようね……“デスティニー”」
ヴィアはそう言って試験管の蓋を取り外し、Gデバイスを外に出してあげる。そしてシンは試験管から出てきたGデバイスをジッと見つめた。
「……アナタのお名前は?」
対してGデバイスは見つめてくるシンに対して名前を尋ねる。
「喋った!? ぼ、僕はシン・アスカ……。」
「シン……アスカ……!」
Gデバイスはシンの名前を聞いた途端、驚いた様子で吊り上った目の瞳孔を開かせた。
「私は……デスティニーとお呼びください、我が主シン・アスカ。」
「主……? うん、よろしくねデスティニー。」
シンは戸惑いながらも、デスティニーと名乗ったGユニゾンデバイスの小さな手を握り握手する、そしてその光景をヴィアは暖かく見守っていた。
「まあ一晩その子と一緒に考えるといいわ、私としては君を危険な目に遭わせたくないけど……最善の方法がこれしか思いつかないのよね。」


それから数分後、シンはデスティニーと共に部屋に戻り、今後のことを話し合っていた。
「なんか……今日は色々なことがあったなぁ。」
「それで? 主は今後どうするのです?」
デスティニーはテーブルの上で8等分されたリンゴを食べながらシンに質問する。
「帰る方法がそれしかないっていうなら……やるしかないよね、でも僕に魔法なんて使えるのかな?」
「それは大丈夫です、私とヴィアが手取り足取り教えますので、一週間である程度戦えるようになると思います。」
「そっか、ありがとう……。」
そう言ってシンはベッドにコロンと寝転がり、重みを感じた瞼をそのまま閉じた。
(そうだ……あのフェイトって子と一緒に戦うことになるんだよな……あの子と仲良くなれるのかな……?)


シンが寝静まったのを確認したデスティニーは、そのまま彼の枕元に立ち、とても小さな声で彼に語りかけた。
「大丈夫です……今度こそ、今度こそあなたを幸せにしてみせます。」










はい、今回はここまでです、原作を知っている人は「あれ? なんで?」って展開になっていますが、ちゃんと後で説明しますのでまずはまっさらな状態で読んでいただければ嬉しいです。

以前子供時代のシンの一人称は「僕」だという指摘を受けたので本編ではああなっております。

デバイスのデスティニーの容姿ですが、リインフォースⅡの騎士服を全体的に黒く染めて赤いラインを入れていると想像してください

次回はシンが魔法を体得する話となのは無印第6話あたりの話になります。



[22867] 第二話「交錯する閃光」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:0a679fa6
Date: 2010/11/06 20:30
第二話「交錯する閃光」


シンがプレシア達に保護(拉致?)されてから2日後、彼はフェイトに連れられて彼女達が第97管理外世界と呼んでいる世界の日本の遠見市というところにやってきていた。
「へー、街並みはオーブと変わらないんだなー……なんか意外だなー。」
「…………。」
物珍しそうに辺りを見回すシン、一方のフェイトは何も言わずツカツカと歩いて行った。
(うーん、なんかこの子とっつきにくいな……避けられているのかな?)
二人の間に重苦しい空気が流れる、そんな空気を変えるためシンはフェイトにある話題をふっかける。
「そ、そういえばフェイトちゃん……今日は普通の服装だよね、黒が好きなの?」
「この服がですか? そうですけど……それが何か?」
「あ、うん……それだけです。」
「…………。」
会話終了。
(会話が続かねえー!)
(苦労していますねえ主。)
するとシンの背負っているヴィアから支給された生活用品が入っているリュックの隙間からデスティニーが顔を覗かせた。
(デスティニー……なんでフェイトちゃん、あんなに冷たいんだろう……? 俺嫌われているのかな?)
(いや……ヴィアから聞いた話なのですが、フェイトさんは長い間自分の使い魔とプレシア、そして彼女の使い魔と4人だけで暮らしていたそうなのです、だから突然現れた主にどう接していいかわからないのでしょう、ファーストコンタクトもあんなのだったでしょう?)
(う、うん……。)
シンはオーブでフェイトと初めて出会った時、彼女に電流をお見舞いされたことを思い出した。
(でもなあ……これからどれだけ一緒にいるかわからないし、フェイトちゃんとは仲良くしたいんだよなあ、こんな調子じゃ息が詰まっちゃうよ。)
(災難でしたね……でもご安心ください、何があろうと私は主を守りますので。)
(ありがとう、デスティニー……。)





そして数分後、シン達は遠見市にあるとても高級そうなマンションにやってきた。
「ここが私たちのアジトになります……。」
「うわー、うちより高級だなー。」
シンは関心しながらフェイトに連れられて、彼女達のアジトであるマンションの一室にやってきた。そしてそこで……。
「おお! お帰りフェイト~!」
「うわあああああ!? 犬がしゃべった!?」
シン達の身の丈を軽々と越える大きさの巨大な犬らしき生き物が、人間の言葉をしゃべりながら彼らを出迎えたのだ。
「ああん!? 私はオオカミだよ! 失礼なガキだね!」
「アルフ……シンさんを怖がらせちゃだめだよ。」
「へいへい、怖がらせなきゃいいんだね。」
そう言ってアルフと呼ばれたオオカミはにやりと笑うと、自分の体を光らせ今度は犬耳をはやした16歳ぐらいのオレンジ髪の少女に変身した。
「えええええ!? 人間になった!?」
「主、あれが使い魔です、使い魔は人間と動物、両方の姿に変身することができるのですよ。」
「ああん? なんだいこのちみっちゃいの?」
リュックから出て使い魔に関する説明するデスティニーを見て、アルフは首を傾げる。
「ヴィアさんが作ったデバイスなんだって、仲良くしてあげてね。」
「ふん!」
アルフはつまらなさそうにシン達に背を向けると、そのまま寝室へ向かって行った……。
「嫌われているな……。」
「ごめんなさい、後で叱っておきますから……。」
「主、とりあえずフェイトさん達のジュエルシード探索開始までまだ時間があります、その間に魔法の使い方を勉強しましょう。」


さらに数分後、シンはデスティニーとフェイトと共にマンションの屋上にやってきた。
「それではまずバリアジャケットの装着から始めましょう、私が前に立ちますので主は『デスティニー セットアップ』と唱えてください。」
デスティニーはふよふよとシンの目の前で浮きながら彼に合図を送る。
「う、うん……『デスティニー、セットアップ』」

その瞬間シンは光に包まれ、身にまとっていたものすべてが光となって散ったあと、上から順に深紅のローブが彼の身に纏われていった。そして両腕にはロボットのように機械的な青い籠手が装着されと。

「な、なんか少女漫画の変身みたいで恥ずかしい……。」
変身を終えたシンは先ほどの変身する自分の姿を思い出し赤面する。一方その光景を傍から見ていたフェイトは少し驚いていた。
(すごい……この子、長い詠唱も無しに変身した……。)
「主、次はもっと変身ヒーローっぽく魂込めて言ってみましょうね。」
「ええー!? やだよ恥ずかしいよ!」
「んじゃバリアジャケットも着たことですし、次に魔法の使い方を勉強しましょう、そこにいるフェイトさんが使っているバルディッシュは、杖を様々な形に変形させるタイプなのですが……私のはちょっと特別なのです。」
そう言ってデスティニーは自分の目の前に魔法陣を展開し、そこから様々な武器を出してきた。
「うわ! なんだこれ!?」
「これはビームライフル、威力もそこそこの光線を出す銃です、この二対の剣はフラッシュエッジ、投げればブーメランにもなります、この深緑色の筒は大型ビーム砲、ビームライフルより太いビームが撃てます、その水色は大剣アロンダイト、主にはまだ早いかもしれませんね、そして……。」
武器の説明を一通り終えたデスティニーは、指をパチンと鳴らす、するとシンの背中に赤く光る透明な翼が生えてきた。
「うわ! 羽が生えた!?」
「その翼があれば主は自由に空を飛べますよ、試しにやってみます?」
「う、うん!」
シンはそう言って背中に生えた翼をパタパタと羽ばたかせる、するとシンの体は少しずつ空中に浮きだした。
「すごい! 僕飛んでいる!」
「このように私に言っていただければ主の望む武器を取り出すことができます、あと……主の腕に付いているその籠手のことなのですが……それはシールドとして使用すること以外お勧めできません。」
「え? なんで?」
シンは両腕に装着されている籠手を見つめながらデスティニーに質問する。
「その籠手……パルマフィオキーナは威力が高い分、その反動が腕にダイレクトに伝わってしまうのです、下手をしたら腕の骨がR-18になる可能性も……。」
「うえ!? あ、危ないねそれ! わかったよ、なるべく使わないようにするよ……。」
「それでは今度は回復魔法の勉強をしましょう、フェイトさん手伝ってください。」

そしてデスティニーの魔法講座は夕方まで続いた……。




空もすっかり暗くなった頃、シンとフェイトはバリアジャケットに身を包んでジュエルシード探索の為マンションの屋上に来ていた。
「この感じ……フェイト。」
「うん、ジュエルシードがこの近くにある。」
広域探査の魔法を発動させながら、アルフは狼形態のままフェイトと話合う。
「すげー……何言っているのか全然解んねー。」
「私達完全に蚊帳の外ですね。」
一方話について行けないシンとデスティニーは一歩離れた位置で2人のやりとりを見学していた。
「あのー……僕らに何かできる事は……。」
「ああん!? アンタらに出来る事なんて何もないよ! 大人しく後ろで見ていな!」
シンはいたたまれず協力を申し出るが、アルフに鬱陶しそうに拒否されてしまう。
「ううう……やっぱり嫌われている……。」
「とにかく急ごう、あの子が出てくる前に……。」
そう言ってフェイトはアルフと共に飛行魔法を使って夜空に飛び出していった。
「ああ待って! デスティニー翼を!」
「はいはーい。」

数分後、アルフと並行して飛翔するフェイトは彼女に話し掛ける。
「アルフ……さっきのは良くないと思うな、シン君がかわいそうだよ。」
「だって……。」
初めて会った数日前までは魔法など一切知らず、狼形態のアルフが喋ったことにとても驚いていたような子供が、この一日でフェイトに迫る程の魔法の技術を身に着けてしまい、アルフは少なからずシンに対して畏怖の気持ちを抱いていた。
「確かにこの状況になったのは私達にも責任があるよ、でもジュエルシード集めを手伝わせなくても……私達だけで十分じゃないか!」
「でも私達が集めるのが遅いのは事実だし……。」
「そんなの! あの女がわがまま言っているだけじゃないか! それに……フェイトだってあいつとはあまり話出来ていないじゃないか。」
「う……。」
痛いところを突かれフェイトは顔をしかめる。
「だって……。」
「だって?」
「私……男の人となんて話したことないんだもん、どうすればいいかわからないよ……。」
今までフェイトの周りにいた人間はフェイトが覚えているだけで女ばかりで、いわばシンはフェイトにとって初めて会う男なのだ。
しばらく沈黙したあと、二人は深くため息をつく。
「とりあえず後で謝ろう、さすがにかわいそうだよ。」
「わかったよフェイト……とにかく今はジュエルシードが最優先だ。」
そして二人は後ろからシンが付いて来ているのを確認し、ジュエルシードの反応があった方角に向かって行った。


そして数分後、三人は夜の繁華街にやってきた。
「結界が張られている……フェイト、この感じは……。」
「うん、あの子も来ている…。」
「あの子って?」
「私達と同じようにジュエルシードを集めている子がいるんだ。今近くに来ている。」
そして三人はジュエルシードを目視で確認できるところまでやって来た。
「いくよ、バルディッシュ。ジュエルシード封印!!」
ジュエルシードに向けフェイトの持つバルディッシュから黄色く細長い光が放たれる、だが、
「あの光は!?」
反対方向から何者かが桜色の光線を放ち、フェイトの放った光線とぶつかりあった。
「封印できなかった!?」
「やっぱりあの子か!?」

すると桜色の光がきた方角から白い服を着た少女が飛来してきた。
「フェイトちゃん!」
「あの子がさっき言っていた子?」
「ああ、名前は…アレ?」
「そういえば聞いてなかったね。」
「知らないの!?」
思わず2人にツッコミを入れるシン。
「なのはだよ。」
するとシン達の話を聞いていた白い服を着た少女が自ら名乗る。
「この前は自己紹介できなかったけど、私高町なのは、私立聖祥大附属小学校三年生!」
次々と自分の事を話すなのは、だがフェイトは何も応えずバルディッシュを構える。
「フェイトちゃん!?」
「シン君はジュエルシードをお願い、私達は急がなきゃいけないんだ。」
「わ、わかったよ。」
戸惑いながらもジュエルシードに向かうシン、だが突然シンは何も無いところでころんでしまう。
「うわあっ!? 何この輪っか!?」
「バインド!? アイツの使い魔か!」
シンの体に複数の光の輪が巻きついており、動きが封じられていた。
「まったく、足引っ張ってんじゃないよ!」
「ここは私にお任せを、アルフさんは術者を探してください。」
「私に命令するんじゃない!」
そう言ってシンに魔法を掛けた術者を探しに何処かへ去っていくアルフ。
「私はあの子と……。」
なのはの方へ飛んで行くフェイト
「くそっ! はずれない……!」
「落ちついてください主、どっかにペンチ無いかな……。」
地面でじたばたともがくシン、だがバインドが外れることはなかった。


「フェイトちゃん!」
上空で対峙するフェイトとなのは。
「話し合うだけじゃなにも伝わらないって言ってたけど、言葉にしなきゃきっと伝わらないこともあるよ、奪い合ったり、競い合ったりするのは、それは仕方の無い事かもしれないけど。だけど!」
フェイトに必死に訴えかけるなのは。
「何もわからないままぶつかり合うのは私、嫌だ! 私がジュエルシードを集めているのはユーノ君のお手伝いのため! でも今は自分の意思でジュエルシードを集めている、自分の周りの人達に危険が降りかかるのがいやだから!」
一呼吸おいて
「これが私の理由! フェイトちゃんは!?」
「私は……。」
なのはの言葉を受けて、フェイトの心に少しばかり迷いが生じる。
「フェイト! 答えなくていい!!」
すると二人の会話に術者を追いかけていたアルフが横槍を入れる。
「私達の最優先事項はジュエルシードの鹵獲だよ! 優しくしてくれる人達のところでぬくぬく暮らしているガキンチョになんか、何も答えなくていい!!」
フェイトはその言葉に答えるようにバルディッシュを構える、そんな彼女を、なのはは悲しそうに見つめていた。
「……ごめんなさい。」
そういってフェイトはジュエルシードへ向かう。
「やらせない!!」
後からなのはも追う。そしてなのはのレイジングハートとバルディッシュがジュエルシードの上で交差し、ヒビが入る。
「「!?」」
次の瞬間、ジュエルシードから放出された魔力の光が辺りに広がった。
「きゃあああああ~!」
「くっ……!」

「なんだよこの光……!? フェイトちゃん……!」
このままじゃフェイトが危ない、だが自分は動けずなにも出来ない、そんな歯痒さがシンをイラつかせた。
「こんなことで……こんな事でー!」
その時、シンの頭の中に種が割れるイメージが浮かんだ……。
「主……!? まさか……!?」

光が晴れ、二人は数十メートルジュエルシードから距離を置く。
「ごめんねバルディッシュ……もどって。」
フェイトは傷だらけになったバルディッシュを待機状態に戻し、今だに宙に浮くジュエルシードを目で捕える。
「ジュエルシードを……!」
フェイトはジュエルシードのもとへ飛びつき、両手でそれを包み込んだ。
「フェイト!!」
「!!」
するとフェイトの指の隙間から大量の光が漏れだした、ジュエルシードが暴走しかかっていたのだ。
「止まれ……!!」
だが光は収まらない。
「フェイト!無茶だよ!」
アルフの声が辺りに響く。
「止まって……!」
それでも光は収まらず、フェイトは膝を着いてしまう。
「止まれ……! 止まれ……! 止まれ……! 止まれ……!」
グローブが裂け、血しぶきが飛ぶ。
「くっ……!」
このままじゃフェイトの体が持たない、そう思いアルフが駆け寄ろうとしたその時、横に凄まじいスピードで何かが通り過ぎた。
「いまのは……シン!?」

「フェイトちゃん! 大丈夫!?」
「シン君!? その目は……!?」
フェイトの目の前にはバインドで縛られていたはずのシンがいた、彼は傷だらけのフェイトの手を自分の手で包み込む。そして、
「止まれーーーーー!!!」
力の限り、気持ちを込めて叫んだ、するとジュエルシードは徐々に光を弱め、やがて沈黙していった。
「や……やった……。」
息を切らしながらフェイトのほうを見るシン。
「う……。」
「シ……シン君……。」
そして二人とも力を使い果たし、その場で倒れてしまった。
「フェイト! シン!」
「アルフさん! 2人を抱えて撤退を! ジュエルシードは私が!」
デスティニーとアルフは二人の下に駆け寄り、なのはを一瞥したあと二人を抱えその場から撤退していった。


「なのは! 大丈夫!?」
そして一人その場に残ったなのはのもとに一匹の喋るフェレットが近づいてくる。
「私は大丈夫だよ、それよりもレイジングハートが……。」
「これぐらいなら自己修復機能で明日には治っているはずだよ。」
「よかった……でもあの男の子、一体なんだったの?」
なのははフェイト達と一緒にいた見知らぬ男の子のことを思い出していた。
「さあ? でも油断しないほうがいい、さっきの力……なんだか得体が知れない、魔法とは違う何かが……。」
「シン君って言っていたっけ? なんだったんだろうあの子……?」


それから数時間後、シンはアジトのベッドの上で目を覚ました。
「あれ……? 僕、いつの間に眠って……。」
「目を覚ましましたか、主。」
するとそこに絞ったタオルを持ったデスティニーがやって来た。
「デスティニー、僕は一体どうしたの?」
「あのジュエルシードが暴走した際、主とフェイトさんが力ずくで抑えたのです、そして力を使いすぎて……。」
「そうだったんだ……。」
そしてシンはふと、自分の掌を見つめながら先程の出来事を思い出す。
(さっきのあの力……何だったんだろう?あれもジュエルシードの力なのかな……?)

その時、シン達のいる部屋の扉がバンと開かれ、そこから人型のアルフとフェイトが入って来た。
「シン! 目が覚めたのかい!?」
「アルフさ……わぶっ!?」
そしてアルフはシンが起きていると解るや否や、彼に飛びついて思いっきり抱きしめたのだ。
「ありがとー! フェイトを助けてくれてありがとー! あんためっちゃいい奴だったんだね! つれない態度とってごめんよー!」
「あ、アルフさん……苦しい……!」
シンはアルフの豊満な胸に顔を覆われ、息ができない状態だった、そしてその様子に気付いたフェイトはアルフを慌ててシンから引き剥がす。
「アルフ、それじゃシン君が息出来ないよ。」
「ああ、ごめんごめん。」
「ぷはっ! 死ぬかと思った……。」
アルフの胸から開放され九死に一生を得るシン、そしてそんな彼にフェイトは申し訳なさそうに頭を下げた。
「ごめんなさいシンさん、私が不甲斐ないばっかりにアナタを危険な目に遭わせて……。」
「そんな、謝らなくていいよ、僕はただフェイトちゃんを助けたかっただけなんだから。」
そしてシンはフェイトの手に包帯がグルグルと巻かれている事に気付いた。
「フェイトちゃん……もしかして手を怪我しているの!?」
「あ、いや……。」
フェイトはばつが悪そうに自分の手を背中に隠した。
「どうして……どうしてそこまで無理をするの!? そこまでやる必要なんてないじゃん! ジュエルシードがどこまで重要な物か知らないけど、君がそこまでやる必要なんて……!」
「……!」
するとフェイトは少し興奮したように声を荒げてシンに反論した。
「それでも……それでも私は母さんの為にやり遂げなきゃいけないんです!」
「フェイトちゃん……。」
普段大人しいフェイトが声を荒げた事に驚くシン、一方のフェイトは何も言わず俯いてしまい、アルフはどうすればいいか解らずオロオロし、デスティニーは黙って様子を見ていた。
「…………はあ、フェイトちゃんって本当頑固なんだね。」
そう言ってシンは突如、俯いているフェイトの頭を優しく撫でた。
「し、シンさん!?」
突然の事に動揺するフェイト、そしてそんな彼女はお構いなしにシンは話を続けた。
「フェイトちゃんがそうやって我儘を言うんだったら……こっちだって無理にでも君に協力するよ。」
「で、でもそれじゃシンさんが危険な目に……。」
するとシンはフェイトの言葉を遮るように彼女の唇に自分の人差指を添えた。
「目の前で女の子が危ない目に遭っているのに、何もしないなんてカッコ悪いじゃん、だから……ね?」
「わ、わかりました……。」
そしてシンはある事を思い付いたようにフェイトにある提案をする。
「そうだ! 僕もどれだけここにいるか解らないし……お互い協力しあう仲なんだしもうお互い他人行儀で呼び合うのはやめにしない? 僕の事はシンって呼び捨てでいいよ! 僕もフェイトって呼ぶから!」
「え? えっと……。」
フェイトは完全にシンのペースに圧されていた、そして今まで2人の様子を窺っていたアルフとデスティニーからも意見される。
「いいじゃんフェイト! シンは強い子だし、仲良くしておいて損はないと思うよ!」
「私からもお願いしますフェイトさん……。」
周りからの意見で完全に逃げ場を失ったフェイトは、恥ずかしそうに顔を赤くしながら、ぼそぼそとシンの名前を呼んだ。
「そ、それじゃぁ……シン、これからもよろしくね。」
「うん! こちらこそよろしく……フェイト!」


その日、シンとフェイトとの距離が少しだけ縮まったのだった……。










本日はここまで、しかし一人称を“僕”にすると全然シンに見えませんね、まあ次回からある理由をつけて“俺”にするつもりですが。

因みにデバイス形態のデスティニーはヴィヴィオが使うセイグリットハートをイメージしています、セットアップしてもデスティニーはシンの隣でフヨフヨ浮いている感じ

次回は無印7話をベースにしたお話を、何も問題がなければ明日投稿します。それとヴィアの過去やプレシアのこの物語での目的、そしてこの作品と深く関わるもう一つのガンダム作品が出てくるのでお楽しみに。




[22867] 第三話「閉ざした過去」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:0a679fa6
Date: 2010/11/07 20:44
 第三話「閉ざした過去」


なのは達との戦闘があった次の日のこと、シンはヴィアからもらった通信機である報告を受けていた。
「一度時の庭園に来てほしい?」
『うん、昨日の戦闘の事は聞いたわ、報告のついでに検査したいからデスティニーと一緒に来てくれる? ああそれと……フェイトちゃんは連れてきちゃダメよ。』
「え? どうして?」
親元から離れて暮らしているフェイトにとってこのような機会はまたとない機会のハズ……それ故にシンはヴィアの言動が理解できなかった。
「フェイトだってプレシアさんと会いたがっているのに……どうしてそんなことを?」
『ごめんなさい、ここじゃ詳しくは話せないわ、とりあえず一度来てもらえる? そこで理由を説明するから……。』
「は、はあ……。」
シンはヴィアの言動を不可解に思いながらも一旦通信を切った。


「というわけで今日の報告は俺とデスティニーだけで来てって言われたんだけど……どうする?」
数分後、シンは広間でフェイトとおとなフォームのアルフに先ほどのヴィアとのやり取りを話した。
「ヴィアさんが……。」
「ま、まああの人が言うんだったらしょうがないよね! せっかくだし私らは公園で散歩でもしているよ!」
明らかに落胆しているフェイトとは対照的に、アルフは心底安心した様子でフェイトに抱き、子犬のようにフェイトに遊んでくれるようせがんだ。
「……わかった、それじゃシン……母さんへの報告よろしく。」
「わかったよフェイト。」

そしてそんな二人のやり取りを、デスティニーはシンのリュックサックの中から温かい目で見守っていた。
(最初はどうなる事かと思いましたけど……少しずつ仲良くなっていますね、それに……。)

ふと、フェイトはあることを思い出しシンに質問する。
「そういえばシン、さっき自分のこと“俺”って……。」
「ああ気付いた?“僕”のままじゃなんかなよなよした感じだし、思い切って自分の呼び方を変えたんだ!」
「ふーん……。」

[一人称を変えたぐらいでそれ以外の何かが変わるとは思えませんが……。]
するとデスティニーの隣に置いてあったフェイトのデバイス“バルディッシュ”が、シンの行動を不思議がっていた。
「バルディッシュ……男の子というものは可愛い女の子の前ではカッコつけたがるものなのですよ。」
[?]


その日の午後、シンは時の庭園に向かうためフェイト達と共に屋上に来ていた。
「それじゃ行ってくるよ、報告はちゃんとしておくね。」
「あ、待ってシン、これを……。」
そう言ってフェイトは二つのケーキが入った箱をシンに渡した。
「これって……ケーキ?」
「うん、母さんとヴィアさんへのお土産……。」
「わかった、ちゃんと渡しておくよ。」
そしてシンの足元に強大な魔法陣が現れ、彼は時の庭園に転移していった……。


数分後、シンはまずプレシアのいる時の庭園の王座のようなものがある広間にやってきた。
「プレシアさん……こんにちは。」
「……シン君、フェイトはどうしたの?」
シンの姿をみるや否や、プレシアは開口一番にフェイトの事を口にした。
(なんだ、プレシアさんもフェイトと会いたがっているじゃないか。)
「ヴィアさんが俺だけ来るようにって……。」
「ちっ……余計な真似を。」
「え?」
シンはプレシアの理解できない態度を不思議に思いながらも、フェイトから預かっていたケーキをプレシアに差し出した。
「あの……これフェイトからです。」
「……!!!」
するとプレシアはあろうことかケーキの入った箱をシンの手からパシンとはたき落した。
「な、何するんですか!?」
「フェイトに伝えておきなさい……! こんなことをしている暇があったらさっさとジュエルシードを集めなさいと! さもないとまた痛い目に遭わせると!!」
「……!!?」
シンはプレシアの目に殺気にも近い凄まじさが混じっていることに気付き、思わず恐怖してしまう。
「何で……なんでそこまで……。」
必死にプレシアに反論しようとするシンだが、プレシアのあまりの威圧感に口から言葉を出せずにいた、そこに……。
「ああシン君ここにいたのね、遅いわよ。」
にこやかな笑顔のヴィアがシンとプレシアの間に割って入ってきたのだ。
「ヴィ、ヴィアさん……。」
「ヴィア……邪魔をしないでくれる? 私はシン君に話があるのよ。」
「あなたがそんなんじゃ話なんてできる状態じゃないでしょう? 少し頭を冷やしなさい。それにあまり興奮すると体が……。」
そう言ってヴィアはたたき落とされたケーキと恐怖で足がすくんでいるシンの手を取ってその場を去っていった。
「あの、ヴィアさん……。」
「ごめんねシン君、プレシアには後で私がきつく言っておくから。」

「…………図に乗るんじゃないわよ。ゴホッ……!」
プレシアはただその一言だけ呟いてせき込んだ後、王座にドスンと座り二人の背中をじっと見つめていた。





「よーっし、検査終了、お疲れ様。」
一時間後、シンはヴィアの研究室で彼女から一通り検査を受け、そしてそのために脱いでいた服を着ながら彼女に質問をしていた。
「それでどうなんですか? 俺の体……。」
「俺? 一人称変えたのね……ふふふっ、似合っているわよ、そうね……。」
ヴィアはシンのデータが逐一掲載されている書類を見ながら首をかしげている。
「うーん……悪いけど安全に引きはがす方法はまだ見つからないわね、あなたの中にあるリンカーコアとは別の何かがジュエルシードと接着剤でくっつけたようにくっついているのよ、無理に引きはがそうとすれば大変なことになるわ。」
「そうですか……。」
成果が思わしくなかったことを受け、シンは少なからず落胆する。
「いっそ暴走させて誰かに倒してもらって離れたジュエルシードを封印するって手もあるけど……これは流石にお勧めできないわ、下手したら死人がでるし……。」
「うぇ!? それだけは……。」
その時、ヴィアの机の上で消しゴムのケシカスで黒い雪だるまを作って暇を潰していたデスティニーが声を掛けてくる。
「そういえば今日のプレシア……とても機嫌が悪かったですね。」
「うん、尋常じゃない怒り方だったよな、何もあそこまで言わなくても……フェイトだって頑張っているのに。」
「…………。」
するとヴィアは神妙な面持ちで近くのパソコンを操作し始める。
「二人には……知っておいてもらったほうがよさそうね、プレシアがなんであんな風になったのかを……ちょっとこっちに来なさい。」
「……?」
シンとデスティニーはヴィアに手招きされ、パソコンに映されているある部屋の様子を見せられる。
「な、なんですかコレ……!?」
そこには、巨大な円柱型の水槽に入れられたフェイトと瓜二つの少女が映し出されていた。
「この子は……“アリシア・テスタロッサ”、プレシアの……死んだ娘、そしてフェイトちゃんのオリジナルでもあるわ。」
「オリジナル……!? なんですかそれ!?」
そしてシンとデスティニーは、ヴィアから驚愕の真実を打ち明けられた。

数年前、とある企業に勤めていたプレシアは、後任スタッフの暴走と上層部のスケジュール強行により魔力動力炉の事故を起こしてしまい、一人娘のアリシアを失ってしまう、悲しみに暮れる彼女はアリシアを蘇らせる為、“プロジェクトFATE”と呼ばれる技術を使ってアリシアのクローンであるフェイトを誕生させた、しかしフェイトはアリシアの記憶等を断片的にしか引き継いでおらず、プレシアはフェイトに対し“アリシアに似た何か”として憎悪の感情を抱いてしまっているのだ。

「そして……そこで眠るアリシアを“蘇らせる術”を見つけたプレシアは、フェイトを使ってその“蘇らせる術”を完全にする為にジュエルシードを集めさせているの。」
「蘇らせる……術?」

それはほんの些細な偶然だった、プレシアは初め失われた技術があるといわれているアルハザードに向かう為、異世界に関する資料を片っ端から調べていた、そして彼女の目にある世界で研究されている細胞の研究データが入ってきたのだ。

「それがフューチャーセンチュリー……FCの世界の科学者、ライゾウ・カッシュ博士によって研究されている“アルティメット細胞”よ。」
「アルティメット細胞?」
「戦争で荒廃したFCの自然を回復するため、“自己進化” “自己再生” “自己増殖”の三大理論を元に開発されたいわば自然回復マシーンね、それが完成すれば崩れた星の生態系を短い時期で修復することが可能なの。」

そしてその研究に目を付けたプレシアはFCの世界に自ら赴き研究データを強奪し、奪ったデータを元に独自の理論でアルティメット細胞を完成させ、アリシアを蘇生しようとしたのだ。
彼女は天才だった、いや、娘と再び出会いたいという執念がそうさせたのかもしれない、ライゾウ博士ですら完成するまであと数年かかると言われたアルティメット細胞の研究を、動物や使い魔で実験し高い効果を見せるという段階まで進めていたのだ。

「でも……死者を蘇らせるまでには至らなかった、そこで彼女はある世界で発掘された願いを叶える魔石と呼ばれるジュエルシードを強奪しようと企てた、でも……強奪は失敗に終わり、20個のジュエルシードは海鳴市に、最後の一つは……。」
「俺が拾ったってことですか?」
シンの問いに、ヴィアは黙って頷いた。
「あとは君の知っての通り、プレシアはアルティメット細胞を完成させるためフェイトちゃんを酷使してジュエルシードを集めさせている……きっとすべて集まろうが集まらなかろうが彼女は捨てられるでしょうね。あの子にはアリシアしか見えていない……そして同じ顔をしたフェイトちゃんに対して憎悪に近い思いを抱いている。」
「そんなの……そんなのおかしいよ!」
あまりにもひどい現実に、シンは思わず机をドンとたたいてやりきれない怒りを露わにした。
「そうね……でもプレシアはそんなこともわからないぐらい心に重い病を抱えているの、私にできることと言えばフェイトちゃんをなるべく彼女から遠ざけることぐらいしかできない、真実を知ればフェイトちゃんはきっと心に深い傷を負ってしまうでしょう。」
「…………!」
シンの頭には先ほどのプレシアの鬼のような形相と、フェイトの寂しそうな横顔が交互に思い浮かんでいた。
「勝手に生んでおいて……拒絶するなんて……どんな理由があろうと、俺はあの人を許さない……!」
「馬鹿な事考えちゃダメよシン君、プレシアは強いんだから……あなたが挑んでも殺されるだけだわ。」
シンが何を考えているか察知したヴィアは、あらかじめ彼に釘を刺しておく。そして冷静になったシンはある疑問が浮かび、ヴィアに再び質問する。
「そういえば……なんでヴィアさんはプレシアさんと一緒にいるんですか? あの人とはどんな関係なんです?」
「私とプレシア? うーん……あれは11年前になるわね……この前私言ったでしょ?君とは同郷だって……その頃私、コズミックイラで夫と一緒にコーディネイターの研究をしていたのよ。」
「コーディネイターの……?」
「うん、それでナチュラルの人に疎ましく思われちゃって……ある日私たちがいたステーションがテロにあって、どういうわけか私はこのミッドチルダに時空漂流者として流れ着いちゃったのよね、そして管理局の人に保護されていろんな世界を何年も彷徨った末に、三か月前にプロジェクトFを実行したプレシアの噂を聞きつけて、彼女に出会ってアルティメット細胞の研究の手伝いをしているの、つまり私とプレシアは研究仲間ってわけ。」
「そうだったんですか……ヴィアさんもアルティメット細胞がほしいんですか?」
「…………。」
ヴィアは一瞬悲しそうな表情になると、一枚の写真を机の中から出した。
「私達夫婦は……これまでの研究で何人もの命を犠牲にしてきたわ、そして……この子も私たちの研究の犠牲者。」
写真には金髪の男の赤ん坊が映っていた、そして隅には「ラウ」と書かれている。
「この子もフェイトちゃんと同じクローンでね、元になったオリジナルが歳をとりすぎているせいでテロメア……寿命が極端に短いの、だから私は……。」
「アルティメット細胞を使って……その子達を救おうと?」
シンの言葉に、ヴィアは自嘲めいた笑顔で答えた。
「いまさらこんなことしたって私の罪は消えない、自分の子供すら実験台にした私は地獄すら生ぬるいわよね、でも……プレシアを放っておけないのよ、彼女は大切な友達だし、私みたいな過ちは犯してほしくないの、フェイトちゃんもできたら救ってあげたい。」
そしてヴィアはシンの手をぎゅっとつかみ、彼にお願いをした。
「お願いシン君……フェイトちゃんを支えてあげて、君ならできると思うから。」
「ヴィアさん……わかりました。」
ヴィアの願いに対し、シンは力強くこくんと頷いた。

そしてその後、ヴィアにケーキを渡して帰ろうとした時、シンは突如彼女に呼び止められた。
「まってシン君……これを持って行きなさい。」
そう言ってヴィアはロールキャベツが大量に盛りつけられた皿をシンに渡した。
「夜ごはんのおかずよ、ちゃんとしたもの食べないとね……二人とも育ちざかりなんだから。」
「ありがとうございます! それじゃ!」
そう言い残し、シンはデスティニーと共にその場を去っていった。


「……キラとカガリにもあんな弟や妹をプレゼントしてあげたかったな、考えてもしょうがないか……。」
そう独り言をつぶやいた後、ヴィアはモニターに映し出されているアルティメット細胞に関する数値データを真剣な表情で見つめた。
(ここ最近アルティメット細胞の成長が予測より早くなっている、どういう事なのかしら……。)





次の日の夕刻、シンはフェイトやアルフと共にビルの屋上でジュエルシードの探索を行っていた。
「フェイト。」
「うん、目覚める子がいる……いこうか。」
そして三人はジュエルシードの反応がした方角に飛び立った、そして飛んでいる最中の事、
「シン。」
フェイトは昨日から口数が少ないシンに話しかける。
「何?」
「シン……どうしたの? もしかして怒っているの? 母さんのところに行ってからなんか考え事しているみたいだけど?」
「別に……なんでもないよ。」
「そう? ならいいけど……。」
フェイトは首を傾げながらも、これ以上詮索せずシンより少し前を飛翔する、一方そんな彼女の後姿を見てシンは昨日ヴィアから聞いた話を思い出していた。

―――きっとすべて集まろうが集まらなかろうが彼女は捨てられるでしょうね。―――

(フェイト……母親にあんなにきつく当られているのに、それなのに……。)





「この結界……またアイツらか!!」
数分後、ジュエルシードの反応がした海鳴臨海公園にやってきたシン達、そこにはジュエルシードにとりこまれた樹木の怪物と戦っているなのはと彼女の相棒であるフェレットの姿があった。
「苦戦しているみたいだね。」
すると怪物はフェイト達に気付いたのか、こちらにも攻撃を仕掛けてきた。
「さっさと終わらせよう……デスティニー! ビームライフルだ!」
シンが放ったビームライフルの光線は怪物の根を深く抉った。
「あれはフェイトちゃん達……レイジングハート! もっと高く飛んで!」
フェイト達に気付いたなのはは上空に高く飛び桜色の羽が生えたレイジングハートを構える。
「フェイト! 今だ!!」
「うん、アーク……」
バルディッシュを構えるフェイト
「ディバイン……」
合わせてなのはも唱える。
「セイバー!!」
「バスター!!」
金色の刃と桜色の光線が同時に放たれ、怪物は断末魔と共に消滅した。そして怪物がいた所にはジュエルシードがぽつんと浮かんでいた。
「フェイト……。」
「シンは手を出さないで。」
そういってフェイトは飛び、なのはと対峙した。
「フェイトちゃん……私がただの甘ったれた子供じゃないってことを……証明してみせる!」
構えるなのは。
「フェイト。」
「シン、私は大丈夫、大丈夫だから……。」
そしてフェイトも構える。
そして両者は猛スピードで突撃していく、振り上げたデバイスがぶつかりそうになるその刹那。

「そこまでだ!」

「「!?」」
見知らぬ少年が二人の間に入りデバイスを受け止めていた。
「デスティニー! あいつは!?」
「時空管理局……やはり嗅ぎつけてきましたか。」
「ここでの戦闘は危険すぎる、時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ、詳しい事情を聞かせてもらおうか。」
突然現れた少年に言われるがまま、なのはとフェイトは地上に降りる。
「まずは二人とも武器を下ろすんだ、このまま戦闘行為を続けるなら……。」
そのときアルフがクロノにめがけて炎の魔法の矢を放ち、彼の周辺で爆煙が巻き起こる。
「くっ!?」
「アルフ!? なんで!?」
突然の事に動揺するシンに対し、アルフは大声をあげて臨戦態勢をとる。
「訳は後で話すよ! それよりもフェイト!」
アルフの声に呼応してフェイトは飛び出して空中に浮かぶジュエルシードに手を伸ばす、だが突如爆煙からクロノのよる青い魔法の矢が放たれ、その何発かがフェイトに命中してしまう。
「きゃあ!」
「「フェイト!!」」
落下するフェイトをアルフが受け止め、シンは二人に駆け寄る。
「フェイトは!?」
「大丈夫、気絶しているだけだよ。」
そして魔法が放たれた方を睨むシンその先にはデバイスを構えたクロノが立っていた。
「アルフ、フェイトを連れて先に逃げて……。」
「シン!? アンタ……。」
「駄目……! シン……!」
「大丈夫、絶対もどってくるから……。」
「殿は我等に任せてください。
心配そうにするフェイトとアルフの瞳をじっと見つめるシンとデスティニー。
「……わかったよ、でも無茶はするんじゃないよ。」
そう言ってアルフはフェイトを抱え飛び去っていった。
「アルフ駄目だよ! シンを置いてなんて……!」
「アイツの行動を無駄にしちゃ駄目だ!」
「させるか!」
クロノは二人を追いかけようとする。だが、
「何!?」
シンのビームライフルによる牽制で進路を妨げられてしまう。クロノはシンを睨みつける。
「君は何をしたのか解っているのか!? 君や彼女達がしている事はれっきとした犯罪……。」
「うるさい……!!」
「!?」
クロノの警告を一蹴するシン。
「フェイトはただお母さんのためにやっているのに……どうして邪魔するんだ! もしこれ以上あの子を傷つけるなら……!」
次の瞬間、シンの右手からビームライフルが消え、かわりに背丈よりも長い大剣……アロンダイトが現れる。
「オレが……!! 薙ぎ払ってやる!!」
シンはそのまま一瞬でクロノの後ろに回りこみ、アロンダイトを彼に振り下ろす。
「早い!?」
その攻撃を自分のデバイス……S2Uで受け止めるクロノ、だがシンはそれでもお構いなしに右手に大剣をもったまま左手でクロノの襟を掴み。
「なっ!?」
一本背負いの如くクロノを力任せに地面に叩きつけた。
「ぐっ……! なんて馬鹿力……コイツ本当に子供か!?」
大の字になって倒れるクロノ、シンは大剣を逆手に持ちクロノの喉目がけて突き刺す……事はせず、寸前で止めた。
「もうやめろよ……これ以上やると大変なことになるぞ!」
「主!」
その時シンはデスティニーの警告を受けてとっさに身を屈める、すると彼の頭上をピンク色の光線が高速で飛び去って行った。
「ああ! 外れちゃった!?」
「お前! 危ないだろうが!」
シンはピンク色の光線を放ったなのはに向かってアロンダイトで切りつけるが、彼女のデバイス“レイジングハート”に防がれてしまう。
「まだまだぁ!」
シンは背中に翼を召喚するとなのはに対してヒット&アウェイで繰り返し切りつけて行った。
「きゃあ! くぅ……!」
「主、そろそろ撤退を……もう十分でしょう?」
「でも今のうちにこいつのデバイスを壊しておけば後から楽になるし……!」
その時、シンの体に鎖のようなものが巻きつき、身動きが取れなくなってしまう。
「うわっ!?」
「まずい! チェーンバインド!?」
「まったく、手間取らせてくれる……!」
クロノが隙を見てシンの動きを封じにかかってきたのだ。
「今だなのは! この前みたいな力を使われたらまずい!」
「う……うん! わかった!」
そう言ってなのはは足に桜色の羽を生やしながら空高く飛び、レイジングハートの先端に巨大な魔力を収束させていく。
「え!? ちょ! 何その魔力!? そんなもの喰らったら……!」
「あ、主―!」
そしてなのははレイジングハートの先端をシンに向け、足元に巨大な魔法陣を展開しながら叫んだ。
「ディバイン……バスター!!!!!!!!!!!」
「うわああああああああー!!!」
シンは死の恐怖に近い感情を抱きながら、そのまま桜色の光に呑まれ意識を失った……。

「主……安らかに眠ってください。」
ちゃっかり安全圏に避難していたデスティニーは、ディバインバスターの直撃を受けてクレーターの中心で気絶しているシンに対し、彼の魂に安らぎが訪れるよう手で十字架を切った。

「なのは、何もあそこまでしなくても……。」
「鬼か君は。」
「にゃははは……無我夢中で手加減するの忘れてたの。」
そう言ってなのははやりすぎたと反省しながら頭をポリポリとかいた。
「とにかく彼をアースラに運ぼう、君たちも来てもらうからな。」
「は、はい……。」

そしてシンはデスティニーやなのは達と共にアースラと呼ばれる時空航行船に収容されていった……。










本日はここまで、なのはさんマジ外道、劇場版のあれもドン引きだよ、何もあそこまでしなくても……。

ちなみにFCの世界は現在FC53……シン同様本編の7年前の設定になっています。ドモンはこの作品の時代では13歳、師匠と修行中ですね、ライゾウ博士がいつからアルティメット細胞の研究をしていたか解らないので“7年以上前から研究中だった”というのはリリカルジェネレーションオリジナル設定でございます。

次回は原作無印8話と9話をベースにした話になります、お楽しみに。



[22867] 第四話「僕が選んだ今」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:0a679fa6
Date: 2010/11/09 20:16
第四話「僕が選んだ今」


少女は夢を見ていました、内容は……悪夢でした。
彼女の母親が、見知らぬ少女を紐で磔にし、背中に何度も鞭をうっていたのです。

―――母さん? どうしてそんな事をするの? その子……痛がっているよ?―――

彼女の言葉は届かず、母親は痛さのあまり悲鳴を上げる少女に何度も鞭をうちました。

「フェイト……どうして母さんを悲しませるの!? ちゃんとしてくれなきゃ……!」
「ごめんなさい……!ごめんなさい母さん……!」

―――そうか、あの子フェイトって名前なんだ……。―――

ふと、彼女は自分の母親の顔を見ます、母親の顔はまるで悪魔が乗り移ったような恐ろしい形相をしていました。

―――お母さん、どうしてそんな怖い顔をするの? 昔のように笑ってよ、ねえ……―――

「フェイト……これ以上母さんを失望させないで頂戴。」
「はい……母さん……。」

―――お母さん……。―――

彼女は母親の姿を見て、とても悲しい思いに囚われました。そしてどうやったら母親が笑顔を取り戻してくれるか必死に考えました。

―――ああ、そうか。―――

そして彼女はある考えに達します、母はあのフェイトという子に対して怒っている、それなら……。

―――あの子が……フェイトがいなクナッチャエバイインダ―――






「う、ううう……。」
先程の戦闘でシンを管理局に捕えられジュエルシードも取れなかったフェイトは、プレシアに時の庭園に呼び出され折檻を受け、その場でぐったりと地面に倒れ込んでいた、そこに別室で待機していたアルフが駆け寄って来る。
「フェイト!フェイトォ!」
ぐったりするフェイトを、アルフは半べそをかきながら抱き起す。
「アルフ……私は大丈夫だよ……。」
「大丈夫なわけあるかい!あの鬼婆……!フェイトをこんな目に遭わせて!」
そう言ってアルフは文句を言おうとプレシアのいる部屋に行こうとする、しかしフェイトに腕を掴まれた事により制止される。
「やめてアルフ……母さんを責めないで。」
「フェイト!でも!」
「大丈夫……私がちゃんとやれば、母さんもきっと昔のように笑ってくれるよ……。」
「フェイトォ……!」
アルフはそんな母親を信じ続けるフェイトの姿に思わず涙する、するとそんな彼女の元に、救急箱を持ったヴィアが駆け寄って来た。
「フェイトちゃん!大丈夫!?」
「ヴィアさん……私は平気です……。」
「そんな訳ないでしょう!ああ、こんなに叩かれて……私の研究室に来なさい、治療してあげるから!」
「わ、わかったよ……。」
アルフはヴィアに言われるがまま、衰弱したフェイトを抱えて研究室に向かって行った……。


「ほら、ちょっとしみるわよ……ごめんね、私魔法が使えないからこんなことしかできなくて。」
「いえ、平気です……。」
ヴィアの研究室に連れてこられたフェイトは上着を脱いでプレシアに傷つけられた背中を治療してもらう。
「まったく、アナタは平気と大丈夫って言葉しか知らないの? 痛いなら痛いって言いなさい。」
「ご、ごめんなさい……。」
ヴィアに叱られ、フェイトはしゅんとしょげてしまう、そしてフェイトの為に濡れタオルを用意していたアルフはヴィアにある事を尋ねる。
「そういやシンがあの後どうなったかヴィアさんは知っているかい?」
「シン君ね……あの子は管理局に囚われてしまったわ、まああの組織なら子供に酷い事はしないと思うけど……。」
「そっか……。」
「ごめんね、何も出来なくて……プレシアも最近焦っているみたいなの、管理局に嗅ぎつけられて……もし辛くなったらいつでも私に相談するのよ?」
「は、はい……。」
フェイトはヴィアの親切に感謝の念を抱いていた……。


そして数十分後、ヴィアと別れたフェイトとアルフは2人だけでアジトに戻ってきていた。
「なんか……シン達が居なくなると、急にこの部屋も寂しくなっちまったね。」
「うん……。」
返事もそこそこに、フェイトはそのままソファーに倒れ込んだ。
「もう寝ちゃうのかい? 先に風呂入ったほうが……。」
「アルフが先に入っていいよ、もし寝ちゃっていたら……起こしてね?」
「わかったよ。」
そう言い残してアルフは浴室に向かう、そしてフェイトは座布団に顔をうずめながら管理局に囚われたシンの事を思っていた。
(私がもっとしっかりしていればシンが捕まる事なかったのに……。)
その時、フェイトは以前シンに言われたある事を思い出していた。

―――目の前で女の子が危ない目に遭っているのに、何もしないなんてカッコ悪いじゃん、だから……ね?―――

(こんなこと言ったら、きっとシンはそう言うんだろうな……。)
そしてフェイトは座布団を抱きしめながら寝返りをうった。
(大丈夫かなシン、管理局の人に酷い事されてないかな? もしかしたら元の世界に帰されているかも……。)
そう考えた途端、フェイトの心に今までに感じたことのない寂しさが襲いかかってきた。
(もし帰されたらもう会えないんだろうな……そうしたら……またアルフと二人っきりなんだ……。)
いつの間にか、フェイトの瞳には涙がうっすらと浮かんでいた。
(シン……会いたい……。)


それから数日後、時空間を航行する時空管理局の旗艦アースラ……その一室にシンは一人で閉じ込められていた。
「はあ……毎日毎日事情聴取ばっかりでもううんざりだ……デスティニーもどこかに連れてかれちゃうし。俺も刑務所行きかなあ……。」
シンは今自分を捕えている組織が先日ヴィアに説明された時空犯罪を取り締まる組織“時空管理局”だということを知っており、部屋の片隅で項垂れる、そして彼の頭にあるひらめきが浮かんだ。
(そうだ! ここから逃げよう! いつまでもこんな所にいられない!)
そしてシンは扉を破壊する為、部屋の隅に移動して助走をつける。そして……。
「うおおおおおおおお!!!!!」
扉に向かって猛突進する、その時、
「艦長がお呼びだ、出ろ。」
突如扉が開かれ、そこからクロノが顔を覗かせてきた。
「うわ!急に開けるな~!」
「え?」

ドッシ~ン!

「うわ~!」
「なぁ~!!?」
そして二人はそのまま激突し、床の上に二人重なるようにのびてしまった。
「いたたた……。」
「は、はやくどいてくれ! 重い……!」
「あーあ、何やってんだか……。」
その様子を、クロノの後ろから着いてきたアースラのオペレーター……エイミィは苦笑交じりに見ていた……。



数分後、シンはクロノに連れられてアースラの艦長室の前にやってきた。
「艦長、シン・アスカを連れてきました。」
『ええ、通して頂戴。』
中にいるアースラの艦長に指示され、クロノはシンを艦長室の中に入れる、そしてシンはそこで驚くべき光景を目にする。
「……ここって本当に艦長室?」
部屋にはししおとし(日本庭園によく置いてある竹筒のアレ)や松の木など、とても艦長室とは思えない趣味全開のコーディネイトがされていた。
「いらっしゃい、君がシン・アスカ君ね。」
すると部屋の中心に設置されている畳の上に、エメラルドグリーンの髪をした青い管理局の制服を身にまとう女性が座っていた。
「えっと、これは……。」
「まあまあ堅い話は抜きにして、ここに座りなさい。」
シンはその女性に言われるがまま、畳の上に敷かれていた座布団の上に靴を脱いで腰かける。
「私はリンディ・ハラオウン、このアースラの指揮官をしています、君のことは……事情聴取を行った局員から聞いているわ、災難だったわね、ジュエルシードを取りこんじゃうなんてね……。」
「……。」
実はシンは前日、局員達の手により身体検査を受けさせられ、秘密にしていた自分の体のことがバレてしまっていたのだ。
「俺はこれからどうなるんです? このまま刑務所行きとか?」
「ふふふっ……そう警戒しなくてもいいのよ。」
そう言ってリンディは置いてあった緑茶にコーヒーシュガーとミルクを大量に入れてかき混ぜ、それをおいしそうに飲んだ。
(あれ? あれって緑茶だよな……緑茶って砂糖とかいれるっけ?)
リンディのお茶の飲み方に疑問を持ちながら、シンはさらに彼女の話を聞く。
「あなたの中にあるジュエルシード……それがいかに危険なものかわかっているわよね?  一応取り出す方法が見つかるまではあなたの身柄を管理局で預からせてもらいます、もちろんコズミックイラの親御さん達には連絡させてもらいますけどね。それと……。」
するとそこに、デスティニーが入っている鳥かごのようなものを持ったクロノがやってくる。
「主!」
「デスティニー!……その子をそこから出してくれ! 何も悪いことはさせないから!」
「わかった……。」
シンの言葉を受けクロノはデスティニーを鳥かごから出す。
「はあよかった、解剖でもされているのかと思ったよ。」
「主……。」
そして互いに抱き合って再会を喜ぶシンとデスティニー、そんな彼らを見てリンディはある質問を投げかけてくる。
「シン君、その……デスティニーちゃんだっけ? その子を作った人がどんな人か教えてくれない?」
「ヴィアさんの事……? 俺と同じ世界の出身だって事以外はわかりません。」
シンは何となくだがヴィアの情報はリンディ達にあまり言わないほうがいいと感じて適当にはぐらかした。
「詳しくは知らないのね……それほどのオーバーテクノロジーだらけのデバイス、作った人がどんな人か知りたかったんだけど……。」
「え? こいつってそんなにすごいんですか?」
そう言ってシンはデスティニーの頭をツンツン突きながらリンディに質問する。
「ええ……クロノとの戦闘も見せてもらったけど、君のデバイスの力はあまりにも特殊で私たちにも解析できない部分が多すぎるのよ、まるで10年ぐらい先の技術を先取りしているみたい……。」
「お前……すごいやつだったんだな。」
「まあ全力を出すには主にまだまだ頑張ってもらわないといけませんが。」

そして和やかな雰囲気の中、シンは思い出したかのようにリンディに質問する。
「そういえば俺と一緒にいた女の子……フェイトとアルフはあれからどうなったかわかりますか?」
「あの子たちね……報告によればあの子たちはジュエルシードを二つ集めたみたい、なのはさんが集めた物を含めればあと6つね。」
「そうですか……。」
とりあえず二人が無事だということが解りシンは胸を撫で下ろす、するとリンディはそんなシンを見て優しい声色で問いかける。
「大切な子なのね、君にとってフェイトさんとアルフさんは……。」
「俺が……俺が守ってあげなきゃいけないんです、戦う力を持っているのは俺だけですから……。」

ビー!ビー!

その時、艦内に警報が鳴り響いた。
「何か動きがあったみたいね、一緒に来てくれる?」
「あ……はい!」
シンはリンディ達に連れられて、アースラのブリッジに向かった。



「一体何があったの!?」
ブリッジに到着したリンディはすぐさま、外の様子をモニタリングしていたエイミィに問いかける。
「捜査区域の海上で異常な魔力反応をキャッチ!!」
「スクリーンにだして!」

エイミィが出した巨大なスクリーンに映し出されたのは、嵐の中六つの突き上げる海流に翻弄されているフェイトの姿だった。
「フェイト……!」
「なんとも呆れた無茶をする子だわ!」
「あれは個人で出せる魔力の限界を超えている……このままでは自滅するぞ!」
その時、なのはと見知らぬ少年がブリッジに入ってくる。
「遅くなりました……!?」
「あ!お前は!」
シンはなのは達の姿を見つけ睨みつける。しばらく続く沈黙、だがスクリーンに映っているフェイトをみて、
「今はフェイトちゃんの所に向かうのが先だね。」
「ああ、話はそれからだ。」
意見が一致しブリッジを出ようとする。だがクロノに呼び止められてしまう。
「その必要はないよ。放っておけばあの子は自滅する、仮にそうならなくても力を使い果たしたところを叩けばいい。」
「叩くってアイツらは……。」
「局員への攻撃や今まで行っている魔法による危険行為…、逮捕の理由には十分だ。」
「た、逮捕って……!」
「今のうちに鹵獲の準備を。」
スクリーンにはボロボロになりながらも必死でジュエルシードの暴走を押さえ込もうとしているフェイトの姿が映し出されていた。
「残酷に見えるかもしれないけど私達は常に最善の選択をしなければならないの。」
リンディの言葉に俯いてしまうなのは、その時……。
「ふ……ふざけんな!」
シンの叫びに驚いてその場にいた者は全員シンに視線を向ける。
「これがあんた達の“なんとかする”なのかよ!! フェイトは……あの子はただ……!」
「彼女はすでにこちらの警告を無視している! 然るべき裁きを受けるべきだ!」
喚き散らすシンに対しクロノが諭すように反論する。だが、
「フェイトはただ母親のためにがんばっているのに……どうしてみんなフェイトを追いつめるんだよ!!」
「……!?」
シンの凄まじい威圧感に圧されてしまう、その時……。
『行って。』
「!?」
『ユーノ君!?』
先程なのはと一緒に来ていた少年がシンとなのはに念話で語りかけてきた。
『僕がゲートを開くから言ってあの子を……。』
『ユーノ君、でも私がフェイトちゃんと話をしたいのは……。』
『僕には関係の無いことかもしれない、でも僕はなのはが困っているなら助けてあげたいんだ、なのはが僕にそうしてくれたように……。』
『ユーノ君……ありがとう。』
『ど、どこの誰だか知らないけどありがとう!』
そしてなのはとシンは転移装置に向かう。
「待て! 君達は……!」
止めようと駆け出すクロノ、その時……。
「デス子フラッシュ!」

ピカッ!

「うわ! まぶし!」
突如デスティニーが手のひらから強い光を発し、引き留めようとしたクロノの動きを止める。
「今です!」
「ごめんなさい! 高町なのは命令を無視して勝手な行動をとります!」
「シン・アスカ、あんた達のやり方が気に食わないので脱走します!」
「あの子の結界内へ、転送!」
そして少年の転移魔法によりシンとなのは、そしてデスティニーはフェイト達のもとへ転送されていった。


上空、雲をかき分けるように落ちてゆく二人。
「レイジングハート! セーットアーップ!」
白いバリアジャケットに身を包むなのは。
「シン・アスカ、デスティニー、いきます!」
シンの右手に大剣アロンダイトが握られ、背中には紅の翼が現れる。





一方その頃、フェイトは六つのジュエルシードを封印するため海流相手に悪戦苦闘していた。
「きゃあ!」
「フェイト!」
ジュエルシードの暴走は激しく、フェイトは何度も何度も吹き飛ばされてしまう。
「無茶だよフェイト! こんなの私達だけじゃ…。」
「それでもやらなきゃ! それに……!」
これだけのことをすればジュエルシードが回収できるだけでなく管理局も来る、そうなればシンがあれからどうなったかあのクロノとかいう少年から聞き出せるかもしれないとフェイトは考えたのだ。
「だから……退く訳にはいかないんだ!」
そう言ってバルディッシュを強く握り直す、だが突然の突風によりバランスを崩しフェイトは海面に真っ逆さまに落ちていった
「フェイトー!!」
「くっ……!」
もう防御したり飛んだりする魔力はフェイトには残っておらず、死を覚悟した彼女は落下しながらぎゅっと目をつむった。
(シン、ごめん……!)
「フェイトーーーーー!!」
「え……!?」
その時、上空から効きなれた声がしたと思うと、フェイトは何者かによって海面に激突する直前に助け出された。フェイトは瞳を開け自分を今抱えている者……シンの顔を見る。
「シン……!」
「大丈夫か!? フェイト!」
シンはフェイトを安全なところまで連れて行き、一度降ろす。
「このバカッ! 無茶ばっかして…!?」
シンは危険な行いをしたフェイトを叱ろうとするが、突然彼女に抱きしめられたことにより固まってしまう。
「バカはシンだよ……! あんな無茶をして……! 私……すごく心配していたんだよ!!」
そう言ってフェイトはシンの胸の中で声を殺しながら泣き初めた。
「わ……悪かったよ、だから泣かないで……。」
「う……ひっく……!」
シンはフェイトの行動に驚き、とりあえずいつも妹にしているように彼女の頭を優しく撫でてあげた。
「シン! 無事だったんだねー!」
そしてそんな彼らの元にアルフが駆け寄る、だが、
「あっ! アイツら……!!」
こちらに向かってくるなのはと知らない少年の姿を見つけ、臨戦態勢をとる。
「まってくれ! 今は戦いに来たんじゃない!」
「え……!?」
「ジュエルシードをあのままにしておくと大変なことになるんだとよ。」
少年の代わりにシンが説明する。
「だから……。」
そしてなのははフェイトに近づき、レイジングハートからバルディッシュへ魔力を分け与える。
「みんなでがんばろう!」
そう言うとなのはは嵐の中へ入っていった。
その姿をぽかんとした様子で見送るフェイト。
「あの子って不思議な子だよな……。」
そんな彼女の隣にシンは立ち、語りかける。
「うん……でも悪い気はしないよ。」
「そうだな、こっちの味方だったら友達になれたかもしれないけど……。」
「……。」
そしてシンはフェイトの背中をポンと押して彼女を激励する。
「よっし! それじゃいってこい!」
「……うん……!」
シンの言葉にフェイトは頷き、なのはのもとへ飛び立っていった。
「それじゃ……! 俺達もやるか!」
「おう!」
「了解しました。」
「うん!」
シンの言葉にアルフと少年、そしてデスティニーは力強く頷いた。
「せーのでいくよ! フェイトちゃん!」
なのはとフェイトは上空で封印の準備に取り掛かっていた。
「よし……! なのは!こっちはOKだよ!」
「こっちもだ!」
「思いっきりいけー!!」
下ではシン達がバインドで突き上げる海流を抑えている。
「ディバイン……!」
「サンダー……!」
フェイトはなのはに合わせてバルディッシュを構える。
「バスターー!!」
「レイジーー!」
同時に放たれる桜色と黄色の光、そしてあたりに魔力の衝撃波が起き、それが止むと六つのジュエルシードが浮かんでいた。
なのはとフェイトはその六つのジュエルシードを見つめていた。
そしてなのははある決意をし、胸に手を当て口を開いた。
「私解ったの、私はどうしたいのか、フェイトちゃんとどうなりたいのか……。」
なのははすべてを包み込むような優しい笑顔で、フェイトに自分の手を差し出した。

「友達に……なりたいんだ。」


その言葉に驚くフェイト、その光景を見守るシン達、だが、
「あれ……? 空が……?」
上空の雲が通常ではありえない色でうなりをあげているのにシンは気付く。
「まずい! みんなにげろ!」
「えっ……!?」
「シン……!?」
だが一足遅く空から赤紫色の雷がなのはとフェイトを襲う。
「きゃあ~~!」
「母さん!?」
おびえる様にフェイトは空を見る。
「フェイト! 危ないっ!」
上空の雷がフェイトに狙いを定めていることに気付き、雷から守ろうと彼女に飛びつくシン、しかし二人とも雷の直撃を受け、力なく落下していった。
「うわあー!」
「きゃああー!」
「ちぃ!」
アルフは空中で二人を受け止め、ジュエルシードに手を伸ばすが、
「させるか!」
突然転移してきたクロノにあともう少しというところで三つ取られてしまう。
「う……うわあああーー!!」
残りの三つを手に入れたアルフは海面に力いっぱい魔力弾を打ち込み、発生した水しぶきを目くらましにその場から撤退していった。
「くそっ!逃げられたか!」
(フェイトちゃん……シン君……。)
なのははただその光景を呆然と見ているしかなかった。





「シン……シン……。」
「う……アルフ? ここは?」
数分後、シンはアルフに起こされ目をさます、彼等は時の庭園に戻って来ていた。
「……!? フェイトは!? フェイトはどうなったんだ!?」
「静かにしな……今アンタの隣で眠っているよ。」
シンはアルフに言われ隣を見てる、するとそこには寝息を立てて眠るフェイトがいた。
「はあ、よかった……。」
「まったく、フェイトったらシンを見つけるんだって聞かなくてさ、ここ数日働き詰めだったんだよ。」
「そうだったのか、ごめん……ありがとう、アルフも……。」
「よしとくれよ……なんか照れるじゃないか。」
頬を赤らめ微笑むアルフ。
「……さっきの雷はプレシアさんがやったんだな。」
「……ああ。」
そしてシンはある所に向かう為立ち上がろうとするが、アルフに腕を捕まれ止められる。
「シン、どこへ行く気だい?」
「決まっている、プレシアさんのところだ! もうこんな事許しておけない……!」
「まあ待ちなって、ちょっとアタシの話を聞きな。」
アルフは眠っているフェイトの頭を撫でながら静かに語り始めた。
「この子はね……昔から感情表現がうまくなくてね、母親があんなのだし、世話をしてくれたリニスもどこかへ行っちゃうし、どっちかというと根暗な子だったんだ……。」
「フェイトが……?」
「でもね、シンに出会ってからフェイトすごく変わったんだよ、あんなに怒ったり泣いたりするフェイト初めて見るよ。」
「……。」
「私にもよくわからないけど……私に出来なかったことをシンはやってのけたんだ。本当にありがとう。」
「そんな、お礼なんて……。」
「だからさ……これからもさ……。」

ドカッ!

「!?」
突如シンの腹部に重い衝撃が走り、彼は意識を失う、だがその直前、
「フェイトの事……守ってあげてね。」
どこか寂しげなアルフの声が聞こえた。


アルフはその場にシン達を残し、プレシアのいる王座がある部屋にやって来た。
「どうしたのフェイトの使い魔……? 私に何か用?」
アルフの姿に気付いたプレシアは彼女の方を振りむこうとする、その時……。

バキッ!

「ぐっ……!?」
予想より早いアルフの動きについて行けず、プレシアは頬を殴られ数メートル吹き飛ばされてしまう。
「今のはフェイトの分だ……! あんたって奴はシンまで巻き込んで……! なんでそこまで! あの子はアンタの為に頑張っているのに!」
そう言ってアルフはもう一発パンチをお見舞いしようとプレシアの元へ飛んでいく、しかし……。
「あの子は使い魔の作り方がなっていないわね、余分な感情が多すぎる……。」
アルフが目と鼻の先まで接近した瞬間、プレシアは彼女の腹部目がけて圧縮した魔法をお見舞いし、数メートル先まで吹き飛ばしてしまった。
「うわっ! ……ぐぐっぐ……へへへ……一発ブチ込んでやったよ、ざまあみろ……!」
アルフはボロボロの体を必死に起こしながら、満足そうににやりと笑った。
そのアルフの表情が癪に障ったのか、プレシアは彼女に向かって膨大な魔力弾を放ち彼女がいた場所ごと吹き飛ばしてしまった。
「ったく、調子に乗るんじゃないわよ……!」
プレシアは切れた口から垂れてきた血を拭う、するとそこに騒ぎを聞きつけたヴィアが駆けつけてきた。
「プレシア! 今の大きな音は何!?」
「なんでもないわ、そんな事よりあの子へのアルティメット細胞の適応経過はどうなっているの?」
「そんなことよりさっきのは……!」
するとプレシアはヴィアの足もとにに向かって魔力弾を放ち、彼女を威嚇する。
「きゃあ!?」
「そんな事ですって……!? アナタは余計な事せずに研究を進めればいいのよ! アリシアはどうなったの!?」
その、プレシアの鬼気迫る表情に圧されたヴィアは、震える声で経過を報告した。
「い、今のところ拒絶反応はないみたいだけど、流石に蘇生までは……。」
「そう……後はジュエルシードをすべて揃えるだけね。」
「でも予断を許す状況じゃないわ、今後逐一に様子を見ないと……。」
「じゃあもうアナタは用済みって訳ね。」
「え?」
ヴィアはその時初めて、自分の頭上に巨大な魔力の塊が浮いていることに気付いた。
「プレシア! アナタ!」
「ありがとうヴィア、いままで手伝ってくれて……でもこれから私とアリシアの幸せな時間を作るには……アナタは不要よ。」
そう言ってプレシアはヴィアに向かって指をさすと、そのまま下におろすジェスチャーをとり魔力の塊をヴィアに向かって降ろした。
そしてヴィアのいた場所は轟音と共に跡かたもなく消え去っていた……。
「これで邪魔者は一人消えた、後2人……ふふふふ……あはははは!」
プレシアはシンとフェイトがいる方角を見ると、狂ったように笑いだした。
「もうすぐよ! もうすぐよアリシア! 私達は失われた時間を取り戻す! あははははははは!!!!!」










―――お母さん、怖い……あんなのお母さんじゃない……。―――

―――なんで?なんでお母さん、昔のように優しく笑ってくれないの?―――

―――そうか、世界中のみんながお母さんをいじめたから、お母さんいなくなっちゃったんだね。―――

―――大丈夫だよお母さん、わたしガコンナセカイ、コワシテアゲルカラ―――










本日はここまで、次回は原作無印の最大の見せ場、最後のなのは対フェイトの話になります。一応無印編は後ニ、三話ぐらいで終われますかね? 
時間とやる気があれば他の作品でもなのはクロス書いてみたいです、ストパンとかネギまとかディケイドとか……想像するだけでも楽しいです。

雑談はこの辺にしてまた次回。



[22867] 第五話「僕達の行方」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:0a679fa6
Date: 2010/11/12 08:30
海鳴市内のとある公園……そこでヴィアはある人物と共に先に落ちて来たアルフを探す為歩き回っていた。
「それにしても助かったわ、アナタが咄嗟に庇ってくれなかったらきっと今頃私は……。」
「アナタは私の命の恩人であり、同時にフェイトやアルフをプレシアから守ってくれました、これぐらいのことは当然です。」
その人物……フードを被った女性はにこやかな笑顔をヴィアに返した。

その時、彼女達は草むらで血まみれになって倒れている狼形態のアルフを発見する。
「アルフ! ああ……酷い怪我! 早く治療してあげないと……!」
「回復魔法だけでは足りませんね、どこか整った設備がある場所に運ばないと……。」

「あの……どうかしたんですか?」
その時、彼女達の元に騒ぎを聞きつけた金髪の小学生ぐらいの女の子が近付いてきた。
「そのワンちゃん、怪我しているみたいですけど……。」
「ああちょうどよかった! あなた! この辺に動物病院ない!?」





その頃、時の庭園では……。
「う……いたたた、あれ? 俺確かアルフに……。」
「お目覚めのようね、シン君。」
シンが目覚めるとそこにはアルフはおらず、代わりにプレシアがいた。
「プレシアさん……アルフは?」
アルフがいないことに気付き、プレシアに聞いてみるシン、対してプレシアは淡々と答える。
「あの子は……アナタ達を置いて逃げ出したわ。」
シンはプレシアの表情を見てそれが嘘だとすぐわかった。
「そんな訳ないでしょ? アイツがフェイトをほったらかして逃げるはずが無い。まさか……!?」
「あら、鋭いのね……ヴィアが変な入れ知恵をしたのね、やっぱり消しておいて正解だったわ。」
「……!」
アルフの事をあっさりと認めただけでなく、ヴィアにまで手を掛けた事を暴露したプレシアの態度に、シンは今までにしたことがない程激怒する。
「なんでだよ! フェイトは……アルフやヴィアさんだってアンタのためにがんばっていたのに! それなのにどうしてこんな酷いことするんだ!? フェイトはアンタの娘だろ!?」
「黙りなさい!!」
「!?」
しかしプレシアの剣幕にシンは圧されてしまう。
「つべこべ言ってないで奴等からジュエルシードを取り戻しなさい! さもなくば……二人ともあの出来損ないの使い魔のようにするわよ!? その気になればアナタを殺してジュエルシードを無理やり引き剥がしたっていいんだからね!」
「……!!」
プレシアから殺気を感じたシンはまだ眠っているフェイトを担ぎ、
「どうして……どうしてそんな酷い事が言えるんですか? アナタがそんな事言ったらフェイトだって……アリシアだって悲しむのに……!」
捨て台詞を吐いてその場から離れていった。
「何も知らない子供のくせに……! 私達の何が解るっていうのよ……!」
その場に残ったプレシアは一人不愉快そうに呟いた。


その日の夜、遠見市のアジトにもどったシンは眠っているフェイトをベッドに寝かせ、彼女を見守っていた。
(まだ眠っている……相当疲れていたんだな……。)
彼女の寝顔を見ながらシンは頭を優しく撫でる。
「ん……シン?」
するとフェイトは頭の心地よい感触で目を覚まし、眠い目を擦りながらシンの方を見た。
「あ、ごめんね、起こしちゃった?」
「別にいいよ………あっ!」
そしてフェイトはある事を思い出し、目を見開きベットから身を起こした。
「そうだ! ジュエルシードは!?」
「ゴメン……三つしか取れなかった。」
「そう……。」
そう聞いて肩を落とすフェイト、そして
「……アルフは?」
いつも側に居るアルフがいない事に気付いた。
「アルフは……管理局に捕まっちゃったんだ。」
シンはフェイトを心配させまいととっさに嘘をつくが、
「シン……それは嘘だよね?」
すぐに見抜かれてしまった。
「あの時の雷は母さんが……それでアルフは……。」
「…………。」
何も答えられないシン、2人の間に重苦しい空気が流れる。
「ねえ、シン……ゴメンね。」
その時、部屋に流れていた沈黙をフェイトが破った。
「……なんで謝るの?」
「だって……こんな事に巻き込んじゃったんだよ?…今からでも管理局に行って理由を話せば元の世界に帰してもらえるかも……ジュエルシードを取り出す方法も解るかもしれないし、無理に私達に付き合わなくても……。」
「……。」
するとシンはフェイトの両頬に自らの両手をそえ、

ギュウ~!!!
「いひゃひゃひゃひゃ!!??」

五秒ほど思いっきり引っ張った。
「な……なにするのシン?」
フェイトは瞳を潤ませ、赤くなった両頬をさすりながらシンを見る。
「フェイト、なんでそう一人でなんでもやろうとするんだよ? そんなに俺って頼りないの?」
「え? そんな事……。」
フェイトは昨日の海での一件でシンに助けられた事を知っており、彼が決して自分の足を引っ張るような弱い人間でないことを知っていた。
「本当は……一緒にコズミックイラに逃げようって誘う事も考えたけど、フェイトはイヤだって言うんだろ?」
「うん、だって母さんを一人にしておけないから、私は母さんの願いを叶えてあげたい、母さんにもう一度微笑んでもらいたいから……。」
「…………。」
シンはプレシアが考えている事、そしてフェイトの本当の正体を知っているが故に、彼女の切なる願いが叶う事はほぼ無いと解っており、胸が張り裂けそうに苦しくなっていた。
(アルフもヴィアさんも今はもういない……じゃあ今フェイトを守れるのは俺しかいないんだ……。)
そしてシンはある事を決意し、フェイトの頭を優しく撫でてあげた。
「なら俺は……ずっとフェイトの味方になってあげるよ、たとえこれからどんなことがあろうと、どんな奴が敵になっても……君の傍にずっといる。」
「シン……。」
アルフやヴィアが居なくなってしまったフェイトにとって、シンのその心優しい言葉は彼女の心の中の支えになっていた。
「ありがとうシン……とっても嬉しいよ。」
そして彼女はとても優しい笑顔でシンの優しさに精一杯応えた。
「えへへ……なんだか照れちゃうな……。」
シンは初めて見るフェイトの笑顔を見て、体の芯が熱くなっていくのを感じていた。

ふと、シンは部屋に飾ってある時計を見る。
「ああ、もうこんな時間なんだ……どうりで眠い筈だ。」
日付が変わった時計を見てシンは大あくびをする、するとそれを見ていたフェイトは彼の服の袖を引っ張った。
「ねえシン……今夜だけでいいから、私と一緒に寝てくれない?」
「俺と? いいよ。」



シンは部屋の明かりを消すと、フェイトがいるベッドに隣り合わせで寝転んだ。
「なんか……マユと一緒に寝ているみたいだ、アイツもよく怖い夢見た時に一緒に寝てってせがんできたっけ。」
「マユちゃんって……シンの妹さんだよね? ねえ、シンの家族ってどんな人達なの?」
「俺の家族? そうだな……お父さんはモルゲンレーテって会社に勤めていて、宇宙船を作る仕事しているんだ。」
「宇宙船か……すごいんだね、シンのお父さんって。」
「それにお母さんも、たまにお父さんと喧嘩もするけどとっても優しい人……そんでマユは……。」
シンは優しく微笑むと、フェイトの髪を優しく撫でた。
「今のフェイトみたいに甘えん坊さんだな。」
「むぅ、ひどいよシン……フフフッ。」
「ふふ……。」
毛布を被りながら2人は無邪気にクスクスと笑う。そしてフェイトはシンが向こうの世界でどんなことをしていたのか聞いてみることにした。
「シンは向こうでどんなことしていたの?」
するとシンはばつが悪そうにフェイトから目線を一度逸らすと、渋々と話し始めた。
「……俺の世界ってさ、遺伝子をいじくって普通の人より健康になったり頭が良くなったりスポーツができたりする“コーディネイター”って人達がいるんだ。」
「……? その人達がどうかしたの?」
「実は……俺もコーディネイターなんだ。」
そしてシンは誰にも話した事のない、自分が心に秘めていたある事をフェイトに打ち明けた。



俺が生まれる3年前……世界中にS型インフルエンザっていう病気が流行ったんだ、それでナチュラル……普通の人達は沢山死んじゃったんだけど、免疫力のあるコーディネイターは誰ひとり死ぬことは無かったんだ、だから父さんは俺達が病気に負けない体になってくれるよう、高いお金を払ってコーディネイターにしてくれたんだ。

やさしいお父さんなんだね……。

でもそのおかげで……お陰でって言ったら駄目か、実は学校でいじめられたりしたんだ。

え!? なんで!?

俺の暮らしている国って、ナチュラルとコーディネイターが一緒にいて、お互いすごく仲が悪いんだ、違う国とかでは殺し合いまでしているし……お陰でクラスの奴ら、俺の事“空の化け物”って呼んでいじめるんだ。でもそのことを話すとお父さん達はきっと悲しむだろうし、誰にも相談できなくて……だんだん学校に行ってクラスの奴らと顔を合わせるのが嫌になっていたんだ。それと同時に俺をコーディネイターにした両親を恨んだりもしたんだ……。

…………。

だからフェイトに攫われた時……怖かった半面、これで学校に行かなくて済むって思っちゃったんだ。でも……。

でも?

フェイト達と出会って気が付いたんだ、俺がコーディネイターになったのは……きっと神様がフェイトを守る為にくれた力なんだと思う、だから俺はコーディネイターで生まれた事を……僕を産んでくれたお父さんとお母さんにすごく感謝しているよ。

私も……母さんに感謝している、だってシンと出会えたんだもん。

ありがとう……フェイト……。



そして二人が深い眠りについた頃、デスティニーはバルディッシュと共にベランダで月を見ていた。
「いやあ、今宵も月が綺麗ですねえ……まるであの二人の仲を祝福しているような美しさです。」
[…………。]
デスティニーは夜空に浮かぶ月を眺めながらバルディッシュと語り合っていた。
[デスティニー……前から聞きたかったのですが、アナタは一体何者なのですか?]
「……私はデスティニー、それ以上でもそれ以下でもありません。」
バルディッシュの問いにデスティニーは素っ気なく答える。それでもバルディッシュは質問を続けた。
[シン・アスカのあの爆発的な戦闘能力……あれは遺伝子を調整したぐらいで出せる力には思えません、何なんですかあれは? まるでバーサーカーのような……。]
「…………。」
するとデスティニーは夜空に向かってふわりと飛び立ち、月明かりをバックに満面の笑みでバルディッシュに語りかけた。
「いいじゃないですか、過去がどうだったかなんて……今と未来が幸せならそれでいいんです。」
[…………。]
バルディッシュはデスティニーの笑顔の裏にある想いをなんとなく感じ取り、それ以上詮索することはなかった……。





次の日の朝、フェイトはベッドの上で目を覚まし、隣で眠っているシンの顔を見る。
「ううん……むにゃ……。」
「ふふふ、いい気持ちで寝てるね……。」

トクン
「あ……。」

ふと、フェイトはシンの無防備な寝顔を見て胸の鼓動が高鳴るのを感じていた。
「なんでだろう……どうしてこんなに胸がドキドキするんだろう……。」
フェイトは自然と、自分の顔をシンの顔に近付ける。
(そう言えばリニスが昔……お話を聞かせてしてくれたっけ。)


それはまだフェイトが今より幼かった頃、魔法の師でもあるリニスにあるお伽噺を聞かされた時の事だった。

『こうして人魚姫は天へと昇って行き、世界中の恋人達を見守っていきました……。』
『ねえリニス……人魚姫が王子様にした“恋”ってなあに?』
『そうですね、“好き”になるってことでしょうか?』
『じゃあ私はリニスや母さんやアルフに恋しているの?』
『うーん、それとはちょっと違いますかね……家族でもない、友達でもない、自分にとって特別な男の子に抱く気持ちといえばいいでしょうか。』
『男の子に……?』
『ええ、フェイトもいつかそういう人に巡り会う時が来るでしょう……。』


とくんとくんと動く心臓の鼓動を感じながら、フェイトはじっとシンを見つめていた。
(これが……リニスの言っていた恋なのかな? 私……シンの事が好きなのかな? よく解らないけど……。)
「ううん……? ふわあああ……。」
その時、シンは眠い目を擦りながら体を起こした。
「おはようフェイト……ん? どうしたの? 俺の顔に何かついている?」
「へっ? えっ! な、何でもないよ……!」
突然話しかけられたフェイトは慌ててごまかした。

「主、よろしいでしょうか?」
するとそこにデスティニーが2人がいる部屋に入り話しかけてきた。
「どうしたの?」
「臨海公園のほうにジュエルシードの反応がします。ジュエルシードはすべて回収されているのでこれはおそらく……。」
デスティニーの報告を受けて、シンとフェイトはそれがなのは達の誘いだという事を察知する。
「なのは達か……俺達を誘い出そうとしているのか。」
「如何いたします?」
「……どうするフェイト?」
シンの問いに、フェイトは力強く頷いた。
「行こう、あの子が待っているなら私もそれに応える……!」
「決まりだな。」
そして二人はセットアップし、そのままなのは達のもとへ向かうのだった……。


海鳴臨海公園にやってきた二人、そこで2人は管理局が用意した水没して荒廃した街をイメージした異空間に入った。
「ここは……管理局の人達が用意したのか。」
「おそらく激しい戦闘を想定してこのような場所を……これなら周りの被害を気にせず戦う事ができますね。」
そして二人は荒廃したビルの最上階の、植物園のような場所にやって来た。
「植物園か……。」
「そうみたいだね……なんだか小さい頃を思い出すよ、私が暮らしていたころも緑が一杯ある所だったんだ。」
「へえ……こういう所でピクニックに行ったら気持ちいいだろうな、天気はあんなのだけど。」
そう言ってシンは灰色の空を見て溜め息をつく、するとそこに……バリアジャケットに身を包んだなのはと彼女の相棒のフェレットがやって来た。
「フェイトちゃん……。」
「お前達は……。」
なのは達の姿を見てとっさに身構えるシン、そんな彼を見てフェレットは2人に投降を呼びかける。
「二人とも、もうこんな事はやめるんだ、事情は……なのはの友達が保護したアルフとヴィアさんから聞いた。」
「よかった……2人とも無事だったのか。」
2人が無事だったことが解り、ほっと胸を撫で下ろすシンとフェイト、そして二人は改めてなのは達に宣言した。
「ごめんね……でもここで退くわけにはいかないんだ、母さんの為に……。」
ふと、フェイトはちらりとシンの方を見る。
「そうだよね…ただ捨てればいいって訳じゃないよね…逃げればいいって訳でもない!」
そう言ってなのははレイジングハートを構える。
「だから賭けよう!互いが持っているジュエルシードのすべてを!」
なのはに応えるようにフェイトはバルディッシュを構える。
「……シン。」
「わかっている、手は出さないよ。」
フェイトは頷き、なのはと共に空高く舞い上がり、そして両者は上空で対峙した。
「それからだよ……全部それから!」
「……うん。」
「だから、本当の自分を始める為に、最初で最後の本気の勝負!」


フェイトは思い出していた。広大な草原の花畑に母と二人でピクニックに出かけた幼い日のことを、
(あのころは本当に幸せだったな……。)
『さあ、できたわ。』
(そういえば母さん、あの時私に花の冠を作ってくれたっけ……。)
『おいで、アリシア。』
(…アリシア?)
『とっても綺麗よアリシア、まるで花嫁さんみたい。』
(ちがうよ母さん、私はフェイトだよ、アリシアじゃないよ。)
『わたしのかわいいアリシア。』
(…………まあいいのかな。)


目を見開くとそこにはなのはがレイジングハートをこちらに向けてかまえている。
なのははユーノの願いを叶える為に、大切な人達を守る為に、
フェイトは母の笑顔の為に、自分の味方になってくれると言ってくれたシンの為に、
互いのジュエルシードを賭け、ぶつかり合おうとしていた。
「私は負けない……母さんのためにも、アルフのためにも、そして……シンのためにも!」
そして、少女達はぶつかり合う、互いの譲れないものの為に。



―――僕たちは迷いながら たどり着く場所を探し続け―――
―――哀しくて 涙流しても いつか輝きに変えて……―――


第五話「僕達の行方」





次の瞬間、なのはとフェイトはほぼ同時に上空へ飛び立ち、激しい魔力弾の撃ち合いを繰り広げる。

ドォォォォン!!

巻き上がる爆煙、その中を掻い潜ってフェイトはサイズフォームに変形させたバルディッシュをなのはに向かって振り降ろした。
「くっ……!」
なのははそれをレイジングハートで受け止め、激しい鍔競り合いの後一旦距離をとる、するとフェイトは廃墟のビルが立ち並ぶ海の上に飛び立ち、それを盾になのはに向かってさらに魔力弾を放つ。
「ファイア!」
「くううう……!」
なのはは襲いかかる魔力弾を魔法で作りだしたシールドで防ぎ、ビルを盾にするフェイトの元へ飛びながら桜色の魔力弾を放った。
「……!」
しかしそれはすべて命中することはなかった、そしてなのはとフェイトはビルの間を摺り抜けながら魔力弾を交えた激しいドッグファイトを繰り広げる。



その様子を植物園のあるビルの屋上で見ていたシンは、心の中で神様に祈っていた。
(神様……お願いします、フェイトを勝たせてください、あの子は本当に頑張っているんです、だから……!)
するとシンの様子に気付いたデスティニーは、優しく彼の頭を撫でた。
「大丈夫ですよ……フェイトさんは必ず勝ちます、だってあの子にはバルディッシュがいます、それにアナタの……。」
するとそこに、かつてシンがアースラで出会った金髪の少年がやって来た。
「あ、お前は……。」
「僕はユーノ・スクライア、君の事もヴィアさんから聞いているよ、なんで君はあの子に協力しているの?」
ユーノと名乗る少年の質問に対し、シンはさも当たり前のようにすぐに答えた。
「決まっている、あの子の……フェイトの力になりたいからだよ。」
「どうして? だって君は無理やり連れてこられたんだろう? なんでそんな……。」
すると先程まで話を聞いていたデスティニーが代わりに答えた。
「主は……シン・アスカは優しい人間なのです、困っている人を放ってはおけない、まるで物語の主人公のような真っすぐな心を持っているのです、時にそこに付け入れられ、利用される事もありますが……。」
「デスティニー?」
何故デスティニーがそんな事を言うのかシンには解らず、ただただ首を傾げるしかなかった。



一方、なのはとフェイトの戦いは最終局面を迎えていた。

しばらくして高度を上げたなのはとフェイトは、桜色と金色の閃光となって何度も何度も何度もぶつかり合った、そしてしばらく後に二人は上空で息を切らしながら対峙していた。
(さすがフェイトちゃん……簡単にはいかないなぁ。)
(あの子、初めて出会った時よりも強くなっている……早めに勝負を決めないと!)

一気に勝負を決めようとフェイトは自分の足もとに魔法陣を出現させる。
「はっ!? えっ!?」
それを見て身構えるなのはだが、その周りを小さな魔方陣がなのはを惑わすように出現と消滅を繰り返す。
[Phalanx Shift]
バルディッシュの声と共にフェイトの周りに無数の魔力弾が形成される。魔力弾の表面から紫電がほとばしっていた。
「あっ!? くっ……!」
それを見たなのはは迎撃しようとレイジングハートをむける。しかし……。

ブォン!

「えっ!?」
なのはの両手首、足首に金色のバインドが巻きつき、両手を広げるようにしてなのはを拘束した。


「ライトニングバインド! フェイトさんも思い切った事しますねえ!」
「だ、大丈夫なのか!? あれだけの魔力をぶつけたら……。」
「なのは! 援護を!」
ユーノは居ても立っても居られずなのはを助けに行こうと飛び立とうとする、しかし……。

(駄目!)

その声に呆然としたアルフとユーノになのはの念話が響く。

(ユーノ君は手を出さないで! 全力全開の一騎打ちなんだから……私とフェイトちゃんの勝負だから!!)

「ユーノさん……ここはあの子の言うとおりにしましょう。」
そしてユーノはデスティニーに肩をポンと叩かれ、取りあえず状況を見守る事にした。

一方フェイトは目を閉じ詠唱を行っていた。
「アルカス・クルタス・エイギアス。疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル……!」
呪文を唱え終え、目を見開くフェイト。魔力弾を纏う電撃がさらに量を増す。
「フォトンランサー・ファランクスシフト、撃ち砕け! ファイア!!」

フェイトはなのはに向かって手を振り下ろし指さす。
それを皮切りに、無数の魔力弾一つ一つからフォトンランサーがなのはに向かって放たれた。

ドォォォォン!!!

フォトンランサー全弾がなのはへと着弾し、彼女の周りを爆煙が包み込んだ。


「なのは!?」
「やったのか!?」
「いえ……!」
デスティニーの視線の先には、フェイトの攻撃を耐え抜いてバインドを解いたなのはがいた。

「……撃ち終わるとバインドってのも解けちゃうんだね」
そう言ってレイジングハートの先端をフェイトの方へむけるなのは。
「今度はこっちの……!」
[Drive]
レイジングハートの先端に桃色の魔力が集まる。
「番だよ!!!」
[buster]
なのははそのままその魔力をフェイトに向かって放った。
「うぁああああああああ!!」
それを迎撃しようとフェイトは左手に集めた魔力弾を飛ばす。だが込められている魔力が違いすぎ、砲撃は魔力弾を全くの障害にも感じさせず真っ直ぐフェイトに向かった。
「あっ!? くっ……。」
襲い掛かるなのはの砲撃をフェイトはシールドを張った。
ディバインバスターを受け止め、押し切られそうな衝撃の風に髪を揺らしながら必死に耐えるフェイト。
(直撃!?でも……耐え切る。あの子だって、耐えたんだから!!)
シールドを張るほうの手の手袋が破れ。漏れ出す衝撃に煽られマントも端から千切られていく。

「ふぇ、フェイト……!」
その光景を目の当たりにしたシンは、飛び出したい気持ちを奥歯をギリギリと噛みしめながら必死に耐える。
(俺に……俺に何かできないのか!? フェイトがあんなに必死に戦っているのに!)
今彼女を助けに行けば、一騎討ちを所望しているフェイトの気持ちを踏みにじることになる、それ故何も出来ない自分にシンは心底恨みを感じていた。
(何か俺に出来る事……できる事は……!)


「う……あ……!」
一方先程の攻撃で魔力を消費し過ぎたフェイトは、押し切られそうになりながらも自分の気持ちを奮い立たせて攻撃を耐えていた。
「う……あぁああああああああああああああ!!」

最後の力を振り絞るようにシールドに魔力を込めながら叫ぶフェイト。すると砲撃はだんだん細くなりそのまま消えていった。
(耐え切った……!)
そう思いながら疲労を隠さず顔を俯かせるフェイト。しかし頭上から桃色の光が漏れ出していることに気付き見上げる。
「受けてみて、ディバインバスターのバリエーション……!」
そこにはフェイト見下ろしながら空へとレイジングハートの先端を向けるなのはの姿があった。そしてフェイトと向かい合うように魔方陣が出現する。
[Starlight Breaker]
レイジングハートの言葉と共に周りから桃色の魔力が魔方陣の中心へと集まっていく。そしてそれらは一つの大きな魔力球へと収束されていった。
「くっ……!」
苦々しい顔で前方の光景を見ながらフェイトは動こうとする。だが……。

ブォン!!

「えっ!? バインド!!」
先程自分がなのはにしたように、両手首と足首を拘束され動けなくされたフェイト。
何とか抜け出そうともがくが魔力を消費しすぎ、疲労しきった体では叶わなかった。
そんなフェイトになのははレイジングハートを振り下ろす。
「これが私の全力全開!スターライト……ブレイカー!!」
ディバインバスターなど比べ物にならないほどの大威力砲撃がフェイトへ襲い掛かる、そしてそれは愕然とする彼女を飲み込みながら海上に叩きつけられ巨大な水飛沫を立ち上がらせた。

「ッッッッッッ……!!!」
「……決着だ。」
なのはの勝利を確信したユーノはフェイトを助けに行こうと身を乗り出す、すると……。
「待って。」
目の前にデスティニーが現われ行く手を遮られた。
「な、何をしているんだ!? 早くしないと!」
「まだ終わっていません、彼女も……彼も。」



スターライトブレイカ―の直撃を受けたフェイトは、身に纏っていたバリアジャケットをボロボロにしながら海に向かって真っ逆さまに落ちていた。
(ああ、そうか……私は負けたんだ。)
ふと、フェイトは落下しながらシン達のいるビルを見る。
(ごめんね、負けちゃった……母さんもこれで私の事……。)
そう考えた途端、フェイトの瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。

結局私は一生懸命やったけど……母さんの笑顔を取り戻す事ができなかった、シンになにもしてあげられなかった、この後はどうなるんだろう? 集めたジュエルシードは全部没収されて、私は管理局の人達に捕えられちゃうのかな? 色々悪い事してきたし、きっと死ぬまで牢獄の中で暮らすんだろうな……。


ごめんね母さん、願いを叶えてあげられなくて。
ごめんねアルフ、私のせいで一杯イヤな想いをさせて。
ごめんねバルディッシュ、こんなにボロボロにしちゃって。

ごめんねシン、アナタにもお母さんやお父さん、それに妹がいるのに……私のせいで引き離しちゃった。

でももし離れ離れになっても、私の事忘れないでね……。


「フェイトォォォーーーーーー!!!!!」


その時、シンの悲痛な叫びが薄れゆく私の意識を少しだけ呼び覚ました。
ごめんね、心配かけて、でも私は大丈夫だから……。

「フェイト! フェイト! フェイトォーーーーーー!!!!!」

泣かないでシン、私は平気だよ、だから……。

「フェイト……!!!」




「フェイト! 負けんなああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


!!!!


次の瞬間、落下していたフェイトは体勢を立て直し、足もとに魔法陣を展開してその場に踏み留まった。
「えっ!?」
「なっ!?」
九割方勝利を確信してフェイトを助けに行こうとしていたなのはとユーノは、その光景を見て目を見開いて驚いた。そしてそれは踏み留まったフェイト自身も同じことだった。
「私……まだ立てる……?」
信じられないといった様子で自分のボロボロの体を見るフェイト、するとビルにいるシンが彼女へさらに応援の言葉を送った。
「フェイトなら勝てる! だって……あんなに頑張ったじゃないか! だから負けんなーーーーー!!!!」
「シン……。」
すると普段物静かなデスティニーも大声で、ボロボロのバルディッシュにエールを送った。
「バルディッシュ! アナタにならできます……! 限界を超えることが! 相棒を幸せな未来へ導くことが!! あなたにはリニスさんの想いも込められているのでしょう!?」


「バルディッシュ……。」
[はい]
シンとデスティニーのエールを受け、フェイトはバルディッシュに静かに語りかけた。
「私……あの子に負けたくない。」
[はい]
「だってシンがあんなに応援してくれるんだもん、なんか疲れも痛みもどっかにいっちゃった。」
[はい]
「だからもうちょっと……頑張ろっか。」
[…………はい!]

フェイトは心の中に熱いものが溢れ出してくるのを感じながら、上空で茫然としているなのはに向かってつぶやいた。
「そっちが二発ならこっちも二発……!」
その瞬間、バルディッシュは一度分解し、そして大剣の柄のような形に変形して行く。
[Zamber Form]
バルディッシュアサルト・ザンバーフォーム……それが今のバルディッシュの名前だった。
「バルディッシュザンバー……“エクストリームバースト”!!!!」
その瞬間、バルディッシュザンバーから金色の刃が、遥か上空にいるなのはに届くぐらいまで伸びた。
「えええええ!? 何それ!!?」
あまりにも常識外れな長さになのはは驚愕する。
「バルディッシュ、限界を……超えるよ!!」
そしてフェイトは最後の力を……否、沸き上がってきた力をすべて使ってバルディッシュザンバーの常識外れな刃をなのはに向かって振った。
「だあああああああ!!!!!!!」

ガキンッッッ!!!!!

「わあああああああ!!!?」
なのはは突然の事にその剣撃を避けることができず、とっさに出した魔力シールドで防いだ。
「はぁ! くっ……ううう……!」
必死に耐えるなのは、普段の彼女なら耐えきることができたかもしれない、しかし今の彼女は全力全快の魔法をつかったばかりだった、つまり……。

ピシピシッ!

「あああ!?」
先程のスターライトブレイカ―を受けたフェイトのように、彼女の全力全快、全身全霊、そしてシン達の願いが付加した攻撃に耐えきる事はできなかった。
「ああああああーーーー!!!」
そしてフェイトが振り抜いた刃はなのはの体を引き裂いた、といっても非殺傷設定が掛けられているのでなのはの体が物理的に真っ二つになることはなかった、しかし彼女の中にあるリンカーコアは大きなダメージを受け、そのまま気絶して海に真っ逆さまに落ちて行った。

「か……った……。」
その光景を目の当たりにしたフェイトは、糸が切れたマリオネットのように意識を失い、なのはとは少しずれたタイミングで海の中に落ちて行った……。


深い海の中、フェイトは自身の体が沈んでいくのを感じていた。
すると何者かが彼女の体を抱え、そのままフェイトは海の上に顔を出す事ができた。
「フェイト! フェイト……! ああよかった! 無事だったんだな!」
フェイトは自分を助け出した人物……シンの海水と涙で濡れた顔を見る。
「シン……あの子は?」
「なのはなら今……。」
するとそこに、ボロボロになって気絶しているなのはを背負ったユーノがやって来る。
「そっちは大丈夫かい? まったく……なのはが負けたなんて信じられないよ。」
「へへん! フェイトが本気になればこんなもんだ!」
「なんで主が自慢げなんですか?」

「……。」
その時、フェイトは何を思ったのかシンの体をギュウッと抱きしめる。
「フェイト……?」
「ありがとうシン、シンが応援してくれたおかげで私……頑張れたよ。」
「そんな、俺なんて全然……。」
フェイトは首を横に振り、顔をシンの胸に埋めた。
「ありがとうシン……私の傍にいてくれて……。」
「……。」
シンは何も言わないまま、彼女を抱きしめ頭を撫でてあげた……。

ふと、シンはあることに気付き、顔を真っ赤にしてフェイトに語りかける。
「な、なあフェイト、そろそろ海から上がらないか? その恰好じゃ風邪ひくと思うし……。」
「?」
顔を赤らめるシンに指摘され自分の今の恰好を見るフェイト、今の彼女の恰好はただでさえ水着のように面積の狭いバリアジャケットがなのはとの戦闘でボロボロになっており、かーなり際どい姿になっていた。
「!!!!! きゃああ!!!」
それに気付いたフェイトは慌ててシンに背中を向け、両腕で自分の胸を隠した。
それを見ていたデスティニーは心底むかつく笑顔でフェイトをからかいだした。
「おやおやー? フェイトさん、どうして赤くなっているんですかー?」
「へ!? え!? いや!? あれはその……!」
「どうしたのフェイト!? 顔がトマトみたいに真っ赤だよ!」
「なななななななんでもないよ! シンはあっち向いてて!」
「は、はい!!」
フェイトに言われて慌てて背中を向けるシン、その光景を呆れながら見ていたユーノは、あることを思い出しレイジングハートに指示を出した。
「レイジングハート……彼らにジュエルシードを……。」
[はい]
そしてレイジングハートに封印されていたジュエルシードがシンとフェイトの目の前に放出される。
「約束は約束だからね……。」
「フェイト、ついにやったんだな。」
「そうだね……。」
宙に浮かぶジュエルシードを、二人は感慨深げに見つめる。

異変はその直後に起こった、シンとフェイトの周りに突如、転移魔法用の魔法陣が出現したのだ。
「うぇっ!? なんだこれ!?」
「まさか……母さん!?」
「二人とも!?」
ユーノは二人を引き留めようとするが間に合わず、シンとフェイトはジュエルシードやデスティニーと共に何処かへ……時の庭園へ転送されてしまった。
するとすぐさま、ユーノの耳にクロノから念話が入ってきた。
(ユーノ! なのはを連れてアースラに戻ってくれ! さっきので彼女達の本拠地がわかった! これから向かうぞ!)
「う、うん! わかった……!」
そしてユーノは気絶したなのはを抱えてアースラに戻っていった……。





なのはとの決着の後、シンとフェイトはそのままプレシアによって時の庭園の王座の部屋に転送された。
「プレシア……さん……。」
「ふふふ……よくやってくれたわフェイト、これでジュエルシードは……。」
そう言ってプレシアは先程の戦闘で満身創痍のフェイトからバルディッシュを奪い、その中に封印されていたジュエルシードを総て取り出した。
そしてバルディッシュを投げ捨てると、プレシアは一緒に回収したなのはの分を合わせて20個のジュエルシードを自分の周りに浮遊させる。
「ば、バルディッシュ!」
フェイトは慌てて投げ捨てられたバルディッシュを回収する、そしてそれを見ていたプレシアは冷ややかな目で彼女に冷たく言い放った。
「……あら? まだそこにいたのフェイト? アナタにはもう用はないわ、早く出て行きなさい。」
「えっ……!?」
プレシアの言葉に固まってしまうフェイト、その様子を見ていたシンは思わず声を荒げてしまう。
「な、なんでだよ……なんでそういう事言うんだよ!? フェイトはアンタの為にジュエルシードを集めたんだぞ!」
「ええ、その点は感謝しているわ、でもその子は一つだけミスを犯した……。」
プレシアはそう言ってシンを一瞥した後、近くにあった端末を操作しだした。
「やっぱりアナタは欠陥品ね、顔だけはあの子に似ているのに、それ以外は何も似ていない……まったく、煩わしいったらありゃしない。」
「あの子……!?」
フェイトはプレシアが何を言っているのか解らず、ただその場でオロオロしていた。
すると王座の後ろにある壁がせり上がり、巨大な円柱型の水槽が現われる、そしてそこには……。
「フェイト! 見ちゃ駄目だ!」
シンは慌ててフェイトを抱きしめ水槽の中身を見せないようにするが、彼女の目にはしっかりと映っていた。
「わ……私……!?」
水槽の中に、自分そっくりの少女が死んだように眠っているのを。
「その様子を見るとアナタはその子に何も話していないのね……フェイト、アナタはこのアリシアのできそこないのクローンなのよ。」
「…………!!!?」
フェイトは何も言葉を発する事が出来ず、目の瞳孔を開かせる。
「アリシアはもっと私に優しく笑いかけてくれた……偽者であるあなたにアリシアの記憶を植え付けてもやはり偽者でしかったわね。」
「……!! お前ぇぇぇ!!!!」
ついに堪忍袋の緒が切れたシンはアロンダイトを手にプレシアに斬りかかる。
「主! 無茶です!」
デスティニーはシンを止めようとしたが、間に合う事は無かった。
「鬱陶しい! 跪きなさい!」
プレシアは襲いかかって来たシンを右手に溜めこんだ魔力で吹き飛ばした。
「うわああああ!!!!」
「し、シン!」
「主!」
「う……ぐぐぐ……!」
腹部に激痛が走り起き上がる事ができないシン、そして彼の元に駆けつけるデスティニー、そんな彼等を見てニヤリと笑ったプレシアは、茫然とするフェイトに言い放った。
「フェイト、その子のジュエルシードをリンカーコアごと取り出しなさい、弱っている今がチャンスよ。」
「え!? そんな事したら……!」
「死ぬかもしれないわね……でもアナタが悪いのよ? アナタがもっと早くジュエルシードを見付けていればこんな事はならなかった、さあ早くしなさい、母さんを悲しませたいの?」
「……!」
フェイトは震える手でバルディッシュをサイズフォームに変形させると、立ち上がる事ができないシンの前に立った。
「ふぇ、フェイト……!」
「フェイトさん。」
「……。」
フェイトはそのままシンに向かってバルディッシュを振り上げる、しかし……。
「……ごめんなさい……!」
バルディッシュから手を放してそのままシンを抱き上げた。
「フェイト!!! 母さんの言う事が聞けないの!!?」
そのプレシアの発言に、デスティニーは心底あきれ果てた様子で言い放った。
「アナタから拒絶したくせに、どこまで自己中心的なんですか?」
「ごめんなさい……! でもシンだけは……! シンだけは裏切りたくない……!」
それはフェイトがプレシアに行った初めての反抗だった、そしてそれに腹を立てたプレシアは、先程よりも大きな魔力を右手に集束させた。
「まったく最後まで役に立たない子……! いいわ! そんなにその子がいいのなら一緒に消してあげる!」
「フェイト……逃げて……!」
「ごめんね、ごめんねシン……!」
フェイトは逃げようとせず、シンを守る様に強く抱きしめた。

バリンッ!

「!?」
その時、アリシアの眠る水槽のほうからガラスが砕ける音が響き、プレシアは攻撃を中断して水槽の方を見る。

そこには水槽を中から素手で破壊して這い出て来る死んでいる筈のアリシアの姿があった。
「アリ……シア!?」
「な、なんで!? あの子は死んでいるってヴィアさんが……!」
「まさか……!」
培養液が割れた水槽の間からどんどん漏れて地面に広がって行く、そしてそれに構うことなくアリシアは裸のままプレシアの元に近付いていった。
「あ……あははははははは!!!! すごいわ! まさかアルティメット細胞がここまでの効果を示すなんて! 始めからジュエルシードなんていらなかったのね!」
プレシアは半狂乱の状態でアリシアに近付き、自分のマントを彼女に羽織らせた。
「アリシア! 私が解る? プレシアよ! アナタの母さんよ!」
「母さん……?」
アリシアは涙を流して喜ぶプレシアの顔をじっと見つめる。
「さあアリシア……昔みたいに私に笑いかけて! 私の事を母さんって呼んで!」
「……。」
その時、2人の様子をシン達と共に見ていたデスティニーがある事に気付き声をあげる。
「プレシア! 逃げて!」
「え?」
次の瞬間、プレシアはアリシアの手によって天井辺りまで吹き飛ばされて、そのまま地面に落下した。
「ガフッ……!!」
「母さん!?」
「な、何だよ!? 何がどうなっているんだよ!?」
アリシアは地面でのた打ち回るプレシアを、まるで汚物を見ているような目で見ていた。
「アナタは母さんじゃない……母さんは私にもっと優しく笑いかけてくれた、そんな化け物みたいな顔してない……。」
「ば、化け物!? アリシア! 私のことが解らないの!?」
プレシアは豹変してしまったアリシアの姿が信じられず、何度も彼女に訴えかけた。しかしアリシアはそれに耳を貸すことなく、茫然としているフェイトを睨んだ。
「お前が……お前が母さんの笑顔を奪ったんだ! 殺してやる……殺してやる!」
「え……え?」
次の瞬間、アリシアは常識では考えられない程のスピードでフェイトとの距離を詰め、彼女の心臓目がけて手刀を突き刺そうとした。

ガキィィィン!

「す、素手なのにガキンっていった……!」
しかし手刀はシンのアロンダイトによって弾かれた。
「邪魔をしないで……! 私はそいつを殺さなきゃいけないの!」
「そんな事させるか! フェイト! プレシアさんを連れて逃げろ。」
「う……うん!」
フェイトはシンに言われるがまま、ショックで放心状態のプレシアの元に赴き彼女に肩を貸した。
「なんで……なんでなのアリシア……。」
「母さん! しっかりしてください!」

「デスティニー! フェイト達が逃げる時間を稼ぐぞ!」
「はい!」
シンはそう言って背中から翼を出現させ、片腕でアロンダイトを抑えるアリシアを押し出していく。
「邪魔をするな……!」
しかしアリシアは驚異的な脚力で踏ん張り、握力でアロンダイトを握りつぶしていった。
「何なんだコレ……!? この子のどこにこんな力が!?」
「恐らくこれは元々自然の回復を目的に作られたアルティメット細胞の副作用……! 自己進化を繰り返してアリシアさんを蘇らせたアルティメット細胞が、変貌したプレシアさんを見て判断してしまったのでしょう……自分の母親がああなったのはフェイトさんのせいだと……異物を排除する白血球みたいなものですね。」
「なんだよそれ……ふざけんな!」
デスティニーの説明を聞いて頭に血を登らせたシンは、サマーソルトキックでアリシアから距離を取る。
「デスティニー! ビームライフルとビーム砲を!」
「はい。」
そして出現したビームライフルを手に彼女に向かってビームを何発も放つ。
「甘い……!」
アリシアはそれを右に、左にと瞬間移動しながら避け、シンとの距離を縮めて行く。
「よし……もうちょっとだ、もうちょい……!」
だがシンは焦ることなく、ひそかに抱えていたビーム砲をアリシアが移動する予測位置に標準を合わせていた。
「今だ!」
そしてタイミングを見計らって引き金を引き、ビーム砲から極太の光線が放つ、しかし……。
「ふんっ!」
アリシアはそれを素手で受け止め、そのままかき消してしまった。
「なんだよアレ!? もう次元が違いすぎる!」
「アルティメット細胞を甘く見すぎていましたね、まさか戦闘力をあそこまで向上させる力を持つとは……!」
そしてシンの攻撃を受けきったアリシアは、プレシアにかけてもらったマントを掛けなおしながら不敵に笑う。
「もう終わり……? あんまり私の邪魔をしないで。」
その時、彼女の背後からフェイトに支えられたプレシアが叫んだ。
「お願いアリシア目を覚まして! あなたはそんなことをするような子じゃ……!」
「か、母さん危ないよ!」
フェイトはアリシアのもとに行こうとするプレシアを必死に引き留めるが……。
「ええい邪魔よ! この人形が!」
「あ!」
頬をぶたれその場に倒れこんでしまう、そしてその様子を見ていたアリシアは、鬼の形相でプレシアをにらみつけた。
「やっぱりお前はお母さんじゃない……! 母さんはそんなことしない!」
「ち、違うのよアリシア! これは……!」
プレシアは慌てて弁明するが、アリシアはそれに意を返すことなく足元に落ちていた水槽のガラス片を手に取り、
「死ね! 偽物が!」
プレシアに向かって投げつけた。
ガラス片は高速に移動しながらプレシアに向かって飛んでくる、そのことに気づいたフェイトは……。
「母さん!」
プレシアを力一杯突き飛ばした。フェイトはそのまま飛んでくるガラスのほうを見る。

それが悲劇に繋がってしまった。


グサッ!!!

「あ……が……!」
「ふぇ、フェイトォーーーーーー!!!!!」
ガラス片はフェイトの心臓あたりに深く突き刺さってしまい、彼女はそのまま仰向けに倒れた。
「あ、あなた一体何をして……?」
プレシアはフェイトの行動が理解できずに呆然としていた、するとそこにシンとデスティニーが慌てて駆けつけフェイトを抱き起こす。
「フェイト! フェイトしっかりしろ!」
「シ……ン……。」
「なんて無茶なマネを! このままでは……!」
デスティニーはフェイトに治癒魔法を使って応急処置を施すが、効果は著しくなかった。
(くっ……! こんなことなら戦闘面ばかり強化してもらうんじゃなかった……!)
「かあ……さん……かはっ!」
するとフェイトは血を吐きながら呆然とするプレシアに語りかけた。
「フェイト! もうしゃべるんじゃない!」
「ごめん……なさい……私は……人形で……。」
「フェイトさん!」
フェイトは力を振り絞りながら、シンとプレシアに向かって優しく微笑む。
「それでも……私は……貴女に生み出して……くれた……あなたの娘……。」
「やめて……やめて!」
「だいすきだよ……かあさん…………シ……………。」
その瞬間、フェイトの瞳から光が失われ、体からは温もりが消え去っていた。
「フェイト……!? 嘘だよね!? ねえ起きてくれよフェイト!」
シンは必死になって彼女の体をゆするが、デスティニーに止められる。
「落ち着いてください主! 今回復魔法が効いて意識を失っているだけです!」
「そうなのか!? よかった……。」
するとプレシアは訳がわからないといった様子でフェイトを見つめていた。
「なん……で? なんでそこまでするのよ……!? 私はあなたを拒絶したのよ!!」
するとシンは奥歯をギリギリと噛み締めながらプレシアに言い放った。
「この子にとって……あんたは世界でたった一人の母親なんだ……! 愛されたいって思うのは当然だろう!」
「く、くだらない! 所詮は植えつけられた記憶で……! アリシアの偽物であるこの子にあげる愛情なんて一片も……!」
「くだらなくなんかない!!!!」
シンの叫びに、プレシアは何も言えなくなってしまう、そしてシンは涙を流しながら語り始めた。
「フェイトは……本当は大声で涙を流して泣きたいのに、頑張らなきゃって思って我慢して泣かないんだ……! だから心の中で泣いていたんだ!! お母さんに愛されたいって泣いていたんだ!!」
シンはフェイトの立場を自分に置き換えて、フェイトとアリシアがどんな思いをしているのか理解しようとしていた、そしてその答えは……とても悲しいものだった。
「俺にも母さんと妹がいるんだ、もし……母さんがマユをいじめたら、拒絶したら……やっぱり俺はどうしようもなく悲しい、心が苦しい、何もできない弱い自分が大嫌いになって、世界の何もかもが大嫌いになって、きっとあんな風になっちゃうよ……!」
シンの視線の先には、先ほどからブツブツとつぶやいて俯いているアリシアの姿があった。
「自分だけ愛されたってちっとも嬉しくない、だって俺は……フェイトは……アリシアは家族みんなで幸せになりたかったんだ!!!」
「あ……! う……!」
何も言い返す事ができないプレシア、そしてシンは冷たくなっていくフェイトを抱きしめながら、呆然とするプレシアに自分が今思っている気持ちをぶつけた。

「なんで……なんで拒絶したの? 手を離したの? この子アリシアじゃなくフェイトで、貴女の娘で、アリシアにとってたった一人の妹なのに、みんなで……皆一緒に幸せになれたはずなのに!!」



プレシアの頭の中に、アリシアがまだ生きていた頃の思い出が浮かんでくる、その日プレシアは久しぶりの休日を使ってアリシアとピクニックに出かけていた。
『そういえばもうすぐお誕生日ね、アリシアは何が欲しいの?』
『欲しいもの? んっとねー……私、弟か妹がほしー!』
『えええ!?』
『だって弟か妹がいれば留守番していても寂しくないもん! ねえお母さんいいでしょー?』
『あ、あははは……そうね、ちょっと頑張ってみましょうか……。』

そして思い出の世界から帰ってきたプレシアは、今度はアリシアのほうを見る。
「ねえお母さん、リニス……どこにいるの?私を一人ぼっちにしないで……!」



そしてプレシアはすべてを悟った、自分はもう心の傷を埋める程の宝物を手に入れていたこと、それなのにその宝物を自分で傷つけていたこと、そして自身が昔のように笑わなくなり、この世のものとは思えない醜い何かに変わり果ててしまったこと、そのせいで取り戻したはずの宝物に拒絶されてしまったこと。

すべて自分が悪いんだ。

自分の愚かな行いで、すべてを壊してしまったんだ。

ヴィア達が過ちを指摘してくれたのに自分はそれを頭から否定して。

すべて手に入れていた筈なのに、すべて取り戻していた筈なのに。


全部自分が……跡形もなく吹き飛ばしたんだ。


「い……いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」
プレシアは悲鳴とも、嘆きともとれる狂ったような叫びをあげ、意識のないフェイトにすがった。
「ごめんなさい! ごめんなさいアリシア! フェイト……!! ごめんなさい……!」

シンはもうプレシアに対し怒りは感じていなかった、代わりになんでこんなことになってしまったんだろう、助けてあげたかった、こんなことになる前に何とかしてあげたかった、そんな彼女に対する憐れみと自分の無力さに対するやるせない気持ちで一杯になり、泣かないフェイトの分まで涙を流した。

その時、シンたちのすぐそばに転移魔法用の魔法陣が出現し、そこからユーノとクロノが現れた。
「シン! 早くここから離れるんだ!」
「ユーノ!? フェイトが……!」
「うっわ! ひどい怪我……アースラ! 受け入れの準備を!」
するとユーノとクロノに気付いたアリシアは、突如二本の触手を床から出現させて彼等と一緒に逃げようとするシンとフェイトを襲わせる。
「逃がすかぁ!!」
「!! 危ない!」
それに気付いたプレシアはフェイトを抱えるシンをクロノ達の元へ突き飛ばし、自分はその触手に捕まってしまう。
「プレシアさん!?」
「プレシア・テスタロッサ!」
「は……早く逃げなさい! 早くしないと……!」
するとシン達を取り囲むように触手が地面から次々と這い出てきた。
「クロノ! このままじゃ……!」
「仕方ない……転移する。」
「ま、待って! プレシアさあああん!!!」
シンは絶叫しながら、クロノ達と共に触手で埋め尽くされていく王座のある部屋から転移して行った……。



そして気絶したプレシアと共にその場に残ったアリシアは、憎しみと狂気がこもった目で天を仰いだ。
「まだだ……まだ足りない……! 母さんを奪ったあいつらを……世界を!」
そしてアリシアはふと、プレシアが忘れていった20個のジュエルシードを見つめた。









次回予告

それは、星の海を掛ける“白い悪魔”と呼ばれる機械人形が、世界を平和へ導く英雄として君臨するいくつもの物語と、数多なる世界を駆け秩序を管理する魔導師達の世界が、一つの物語として融合していく物語。

それは、誰にも想像できない物語のプロローグとして語られる、ちょっと変わった“恋”のお話。

どこかの誰かが願いました、誰も守れなかった少年と、母親に愛してもらえなかった少女、二人が幸せになってくれますようにと、いっぱいいっぱい泣いて悲しい気持ちを洗い流してくれるようにと。

大丈夫……二人ならきっと、終わらせることができる。



次回Lyrical GENERATION 1st 最終回「君は僕に似ている」



悲しみの運命を、撃ち抜け! ガンダム!










今日はここまで、次回で最終回となっております。その後にエピローグもありますが。

シンのコーディネイターになった経緯やいじめられていたという話は完全に自分の憶測で公式設定じゃありません、ただリアルの子供ってニュースやテレビ番組に影響されて自分達より弱い立場の子や容姿が明らかに違う子を見つけるといじめちゃいますよね、自分も昔そういう子を何人も見たことがありますし、そういうのを考えるとシンにもこういうことがあったのかもなーって妄想して付け加えてみました。


さあ次回は今週土曜日投稿、いよいよクライマックスです、シンは、フェイトは、プレシアは、そしてアリシアはどうなるのか、かなりやりたい放題に作りましたので皆さん次回をお楽しみに。



[22867] 最終話「君は僕に似ている。」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:0a679fa6
Date: 2011/01/20 09:47
ユーノとクロノによってアースラに連れてこられたシン達は、すぐさま重傷を負ったフェイトを医務室に運んでもらう。
「お願いです! フェイトを助けてください!」
「解っている……後は我々に任せて。」
シンは医療班の人々にフェイトを預け、運ばれていく彼女ただただじっと見送った。するとそこに……。
「シン!」
「シン君!」
先にアースラによって保護されていたアルフとヴィアがやって来た。
「アルフ! ヴィアさん! 無事だったんだな!」
「うん……! シン、時の庭園で一体何があったんだい!?」
「それは後で説明するよ、それより2人はフェイトに付いていてあげて……。」
「う、うん……わかった。」
アルフはシンに言われるがまま、フェイトが運び込まれた医務室に向かっていった。
「シン君……一体何があったの?」
そしてその場に残ったシンはヴィアに対し、時の庭園で起こった事をすべて話した。

「そう……まさかプレシアとアリシアが……。」
「ヴィアさん、アリシアはどうなるんですか? このままじゃ……!」
「……。」
するとそんな二人の元に、クロノが神妙な面持ちでやって来た。
「君達、ブリッジの方に来てくれないか? 艦長から話がある。」
「リンディさんが?」

そしてシン達はクロノに言われるがまま、アースラのブリッジの方にやって来た。
「シン君……色々と大変だったわね。」
「いえ……俺達に用って何なんですか?」
「コレを見て欲しいの、エイミィ、スクリーンに出して。」
「はい!」
リンディはエイミィに指示を出し先程時の庭園内で撮影したある映像をシン達に見せる。
「これは……。」
「アナタ達を保護した後、アリシアちゃんとジュエルシードを確保しようと武装局員を向かわせたの、でも……。」
映像にはアリシアの素手の攻撃で手も足も出ずに負傷して撤退していく武装局員達の姿が映っていた。
「これは……!」
「十分に訓練された局員がここまでやられるなんてね……ヴィアさん、あれはどういう事なんですか?」
「多分……アルティメット細胞の副作用ね、あの細胞にはどうやら人間を武術の達人に変える効果もあるみたい、ホント誤算だらけだわ。」
「まったく、アナタ達はなんて厄介な物をこの世界に持ちこんでくれたのですか?!」
「面目ない……。」
クロノの指摘にヴィアは何も言い返すことができなかった、しかしシンはそんな彼女の行いを必死に弁護する。
「ヴィアさんを怒らないでくれよ! この人はただ救いたい子達の為にアルティメット細胞の研究をしていただけなんだ!」
「異世界からわざわざデータ盗み出してか? ご苦労な事だな。」
「その辺にしなさいクロノ、それにしてもどうしたものかしらね……このままじゃ彼女もジュエルシードも回収できないわ。」
「応援を呼びますか? このままにしておく訳には……。」


ビー!!! ビー!!!


その時、アースラ中に非常事態を告げる警報が鳴り響いた。
「!!? 何かあったの!?」
「時の庭園中心部に正体不明のエネルギー反応! な、何これ……!?」
そしてその場にいた一同はスクリーンを見て驚愕する、スクリーンには時の庭園が正体不明の機械のような物に浸食され、みるみるうちに魔人のようなおぞましい姿を変わっていく様子が映し出されていた。
「艦長! 時の庭園の目の前に時空震反応!」
「まさかあの質量を転移させるつもり!!?」
そして時の庭園はある世界に繋がる巨大な魔法陣を出現させ、その場から消え去ってしまった……。

「一体……何が起こったっていうの? あの時の庭園の形状は……。」
先ほどの時の庭園の様子を見てリンディを始めとしたアースラクルーは茫然としていた。すると何かに気付いたヴィアは近くにいたエイミィが操作していた端末を自分で操作し始める。
「ちょ、ちょっと!? どうしたんですか!?」
「このエネルギー量……! アリシアはジュエルシードの力を使って自分の中のアルティメット細胞の成長を速めたんだわ!」
ヴィアのその言葉を聞いて一同は一斉に彼女を見る。
「成長を速めた……!? そんなことをして何になるっていうんですか?」
「アリシアは恐らく、母親の笑顔を奪った原因を全て排除するつもりなのよ、彼女の記憶を照らし合わせれば恐らく……。」


一方何処かの世界に転移した時の庭園は、とある研究所らしき場所の上に転移していた。
「ここだ……母さんを無理やり働かせて、私から母さんを奪った悪い奴等がいる建物……!」
そう言ってアリシアは、角がついた巨大な触手のようなものを研究所に何本も突き刺していく、すると研究所はものすごいスピードで枯れるようにボロボロになっていった。


「艦長! 時の庭園の居場所が解りました……! 例のプレシアが働いていたミッドの研究所です!」
「確かあの研究所って……。」
エイミィの報告を受けて、シンはかつてヴィアから聞いたアリシアが死んだ原因であるプレシアが起こした魔力動力炉の事故の事を思い出していた。
「今スクリーンに出します!」
ブリッジに巨大なスクリーンが現れ、ミッドチルダで暴れる時の庭園の様子が映し出される、その姿を見た一同はあまりの凄惨な光景に戦慄した。
「うわぁ、なんか生気を吸い取っている……!」
「これじゃまるで“悪魔”だな。」
そこには研究所を中心に枯れ果てていく周辺の町の姿と、逃げまどう住人や研究員の姿があった。そしてその様子をヴィアはただ一人冷静に解析していく。
「急がないと大変なことになるわね……あそこはいろんな動力炉があるからエネルギーが吸い放題だし、あの研究所だけでなく数日もしないうちにミッド全域が人の住めない地になるわ。」
「なんだって……何か手はないのか!!?」
クロノの問いに、ヴィアは少し難しい顔をする。
「今実行できるプランで最適なのは二つ、誰かが再びあの庭園の中に入ってコアであるアリシアちゃんを説得するか、息の根を止める事ぐらいしかないわね。」
「なんだ、実質一つしかないじゃないですか。」
ヴィアの言葉を聞きにやりと笑ったリンディは、スクリーンを見ていたクロノに指示を出す。
「クロノ、今から時の庭園に再突入してもらえる? そこであの子を説得してほしいの。」
「無茶苦茶ですね、でもそれしか方法が無いのなら……。」
そんな命の犠牲無く皆を救おうとする二人の姿勢を見て、ヴィアは心の底から二人に感謝した。
(ほんと、こういう人たちが昔の私の周りにもいたらどれだけよかったか……。)
すると、リンディ達の会話にシンとユーノが割って入ってきた。
「あの……その突入作戦、俺にも参加させてください!」
「僕もお願いします!」
「ダメだ、君達は民間人じゃないか……これはジュエルシードの取り合いとはレベルが違うんだぞ、命を失うことだって……。」
するとシンはリンディ達に深く頭を下げてさらに懇願する。
「お願いします……! 俺はアリシアを助けたいんです! もうフェイトの悲しむ顔は見たくない……!」


「おっと、その作戦……。」
「私達にも参加させてください!」
すると入口のほうから声がして一同は視線を一点に集める、そこには医務室でフェイトに付き添っていた筈のアルフと、先ほどのフェイトとの戦いの傷を治療し終えたなのはの姿があった。
「アルフ!? フェイトは……。」
「容体は安定しているみたいだ、それよりも話は聞いたよ……私も一緒に行かせておくれ、またアンタを一人で行かせるとフェイトに怒られるからねえ。」
「私もフェイトちゃんの為に戦いたいんだ、抜け駆けは許さないよ。」
そしてシン、なのは、アルフは無言のままリンディを見つめ彼女の返答を待つ、そしてリンディはエイミィとアイコンタクトをとると、根負けしたかのようにふぅとため息をついた。
「まったくしょうがない子達ね、それじゃお願いしちゃおうかしら?」
「今アースラにいる武装局員は先程の任務で全員負傷して動けない、今周辺地域にいる局員にも応援を頼んでいるから、みんな無茶しちゃだめだよ?」
するとシンやなのはは満面の笑みでリンディにお礼を言う。
「ありがとうリンディさん!」
「アリシアは絶対に助け出して見せます!」
「よし、そうと決まればグズグズしている暇はない、急いであの中に行こう。」
そう言ってクロノはなのは、ユーノ、アルフ、そしてシンと共に転移装置に移動した。
「なんかジャミングが掛けられているみたいだから入口付近に転移させるよ!」
「みんな……気をつけてね。」
そしてシン達はそのまま時の庭園の入口付近に転送されていった……。

(フェイト……ちゃんとアリシアを連れ戻してくるからな、早く目を覚ませよ……。)















フェイト・テスタロッサは今、深い闇の中にいた。



私……どうなったんだろう? もしかして死んじゃったのかな?

母さん……最後の私の言葉、聞いてくれたかな?

……きっと聞いてくれないよね、だって私はアリシアじゃない、あの子じゃないんだから、母さんに嫌われているから……。


……どうして私は生まれてきたんだろう? 私は紛い物で、沢山の人に迷惑をかけて、愛されたかった人にも拒絶されて……。


こんな辛い思いをするのならもう消えてしまいたい、どうせ誰も私がいなくなったって悲しまないんだ、もう動きたくない、もう何も見たくない、もう何も考えたくない、もうなにも…………いらない。


「そんな悲しい事……言わないでください。」


……? あなたは……誰?


「消えたいなんて言わないでください、そんなの……悲しすぎます。」


でも私が生きたいと思ったのは母さんに認められたかったから、それができなかったのに……。


「そんな事ありません、アナタにはアナタに生きていてほしいと思っている人が沢山いるのです、思い出してください……。」


―――私は……私はフェイトに幸せになってもらいたいんだよ!―――

―――私……ようやくわかったの、私はフェイトちゃんと……友達になりたいんだ。―――


…………!


「少なくともアナタはひとりぼっちじゃない、こんなにも、そしてこれからもアナタを愛してくれる人が沢山います、その人達の為にも……生きてください。」


でも……でも私は……! その人達すら傷つけて……!


「彼女達だけじゃありません、ヴィアも、私も、そしてあの人も、アナタの幸せを願っているのです……それがとても幸せなことだって、なんで気付かないんですか?」


私に幸せになる権利なんて……。


「大丈夫です、だってアナタには……ずっと傍にいてあげると、守ってあげるとあの人が約束してくれたでしょう?」


あ……。


―――なら俺は……ずっとフェイトの味方になってあげるよ、たとえこれからどんなことがあろうと、どんな奴が敵になっても……君の傍にずっといる。―――


「あの人は掛け替えのないものをアナタにくれた筈です、それはこれから生きていくうえで……とても大切で、とても愛おしくて、アナタがフェイト・テスタロッサという一つの命である証明なのです。」


うん……うん……。


確かに私はアリシアの劣化したクローンで、一つの命としては劣る所が沢山あるのかもしれない、でも……私が彼を大切に想う気持ちは……きっと誰にも負けない、だって私は……私を大切に想ってくれるシンが……大好き。私もシンの事が大切だよ。


「それだけ分かればもう十分でしょう、さあ……アナタを待っている人達の元に戻りましょう……。」





気が付くとフェイトは、アースラの医務室で一人で眠っていた。そして身を起こして自分の胸に包帯が巻かれている事に気付く。
「そっか、私母さんを守って……。」
そして辺りを見回し、すぐ近くにボロボロになったバルディッシュを見付けて拾い上げ、そっと囁いた。
「ごめんねバルディッシュ……もうちょっとだけ頑張れる?」
[問題ありません。]
バルディッシュは自己修復で新品のような姿に戻り、それと同時にフェイトのボロボロだったバリアジャケットも元の姿に修復された。
「それじゃ行こう……今までの私を終わらせて、これからの私を始めるために。」




そして少女は深い闇の中から羽撃いていく、自分の大切なものの為に、自分を大切にしてくれる人達の元に。










一方その頃、時の庭園内部に転送されたシン達は、アリシアによって操られた傀儡兵達によって道を阻まれていた。
「ディバイン……バスター!」
「うおおおおお!!!!」
なのはのディバインバスターの掃射と狼型に変身したアルフの豪快な攻撃で数を減らしていく、しかし次から次へと傀儡兵は数を増やしていった。
「あーん! 全然減らないよ~!」
「泣き事言っている暇はないぞ! 次が来る!」
すると傀儡兵の一つが攻撃を掻い潜ってなのはに急接近してくる。
「はわわわわ!? やばっ……!」
「な、なのはー!」
なのはの危機を察知し助けに入ろうとするユーノ、すると……。
「デスティニー! フラッシュエッジ!」
「はいはーい。」
ブーメランのように投擲された二本のフラッシュエッジがなのはに襲いかかって来た傀儡兵をバラバラにする。
「大丈夫かなのは。」
「う、うん! ありがとうシン君!」
その様子を見ていたユーノはとても複雑な顔をする。
「あれ? 何この空気……。」
「コレが主人公補正です。」
「何言ってんだデスティニー? それにしてもこの数……奴さん、どうしてもここを通したくないみたいだな……。」
そう言ってシンは傀儡兵達の背後にあるアリシアのいる部屋に通じる通路を見る。
「人手があれば何人かを向こうに送ることができるんだけどね……。」
「もうちょっと持ちこたえてくれ! 今近くの局員がここに応援に向かっている!」
「わかった!」
そしてシン達は再び傀儡兵達を激しい戦闘を繰り広げる、

その様子をアリシアは時の庭園の最深部でモニターで監視していた。
「どうやら新しいおもちゃが必要みたいね……私の邪魔はさせない。」

するとシン達の元に、騎士のような格好をした傀儡兵達とは違う、顔に大きな一つ目があり手には金棒をもった20m程の黄色いロボットが現われた。
「なんだアレ!?」
『デスアーミー! そいつを排除しなさい!』
アリシアの声を聞き、デスアーミーと呼ばれたロボットは一か所に集まって戦っていたシン達に向かって金棒を振り降ろす。
「きゃあああ!!?」
「うわっ!!」
シン達は辛うじてその攻撃をかわし、魔力弾等で反撃を試みる、しかし……。
「駄目だ! 全然効いていない……!」
「もっと攻撃力のある攻撃をしないと!」
するとデスアーミーは金棒の先端をシン達に向けると、そこからビームを何発も発射してきた。
「んな!? あんなものまで……!」
「なのは! アタシの後ろに!」
アルフはなのはを自分の背後に移動させると、シールドを張って飛んできたビームを防いだ。そしてシンとユーノとクロノも襲い掛かるビームをひょいひょい避けていく、しかし……。
「うわっ!?」
その内の一発がシンの背中に直撃し、彼はそのまま地面に落下して行った。
「しまった!」
「シン!」
アルフ達はすぐさまシンを助けようとするが、デスアーミーが彼を叩きつぶそうとするのが早かった。
(やられる!?)
「主!」
思わず目をつむって身構えるシン。
[Thunder rage]
「!?」
突然飛来した雷が轟音と共にデスアーミーの動きを止める。
[Get set]
シンが上を見るとそこにはバルディッシュを構えたフェイトがいた。
「サンダー……レイジーー!」
フェイトはサンダーレイジでデスアーミーをバラバラに破壊してシン達の窮地を救った。
「フェイト?!」
アルフが上を見上げ驚く、それを見たフェイトはシンと彼に駆け寄ってきたなのは達のところまで下りてくる。
「フェイトちゃん!」
「フェイト!」
「……。」
フェイトを嬉しそうに見つめるなのはと恥ずかしさからかそれを正面から見られないフェイト。
すると、壁を突き破りさっきの傀儡兵の倍以上の大きさの傀儡兵が現れ、両肩の砲台がシン達を狙う。
「大型だ! バリアが強い!」
「うん、それにあの背中の……!」
「だけど……二人でなら!」
その言葉にフェイトを見るなのはの顔が笑顔になって首をたてに振る。
「うん! うんうん!」
「いくよ! バルディッシュ!」
フェイトがバルディッシュを構える。
[Get set]
「こっちもだよ! レイジングハート!」
なのはもレイジングハートを構える。
[Stand by. Ready]
「サンダーーー! レイジーーーー!!」
「ディバイン! バスターーーー!!」
「「せーーのっ!!」」
その瞬間、二人の攻撃が大型の傀儡兵のバリアを破り、傀儡兵を粉砕し、時の庭園に大穴を開ける。
「フェイトちゃん!」
「フェイト! フェイト! フェイトー!」
そして二人が地上に降りるとアルフがフェイトに泣きながら抱きついてきた。そしてその後ろではデスティニーが心底ほっとした様子でフェイトを見つめていた。
「来てくれると信じていました。」
「うん、デスティニーの声……私にちゃんと届いたよ。」
「怪我の方は大丈夫なのか?」
「うん、今は平気……。」
クロノの問いに答えながら、フェイトはダメージを受けたシンに肩を貸した。
「シンは平気?」
「うん……ちょっと飛べなくなっちゃった、あはは……カッコ悪いなぁ。」
「そんなことないよ、シンのお陰で私は私を始める事ができたんだから……。」
そう言って見つめあうシンとフェイト、その様子をなのは達はニヤニヤと見つめていた。
「あー? フェイトちゃんもしかしてシン君の事……。」
「君達、今は戦闘中なんだが?」

その時、シン達のいる広場にすぐさま増援の傀儡兵やデスアーミーが集まってくる。
「うわっ! また出てきた!」
「空気が読めないポンコツですね!」
そう言ってシン達が臨戦態勢をとろうとした時……。
「ディバイン……バスター!!!!」
突如どこからかなのはのものとは違うディバインバスターが発射され、傀儡兵達を飲み込んだ。
「え!? 何今の!?」
「私じゃないよ!」
するとシン達の元に大きな槍を持った男と、ピンク色と青い長髪の女性が近付いてきた。
「君達がアースラの部隊か!? 我々は応援要請を受けてやってきたゼスト隊だ。」
「応援感謝します、アースラのクロノ・ハラオウン執務官です。」
そう言ってゼスト隊と名乗った男に敬礼するクロノ、そうしている間にも傀儡兵達はどんどん増えていた。
「ぼやぼやしている暇はないみたいだね……。」
「早く奥の方へ行かないと……!」
するとデスティニーはある作戦を思い付いたのか、先程ディバインバスターを撃った青い長髪の女性に声を掛ける。
「そこのアナタ、先程のディバインバスターをもう一発撃てますか?」
「もちろん! 十発でも百発でも撃っちゃうよ!」
(豪快な人だな……。)
シンはその青い髪の女性の威勢のよさを見て思わず感心してしまう。
「ではなのはさんと共にあの最深部に通じる扉に向かってディバインバスターを撃って道を塞いでいる奴らを退けてくださいください、その隙に私と主……そしてフェイトさんが中へ突入します。」
「私達が……。」
「でもデスティニー……俺……。」
そう言ってシンは左側が折れてしまった自分の翼を見せる。
「うーん、修復には時間が掛かりますね……。」
「それなら……。」
すると大型狼形態のアルフはシンの首根っこを掴み、彼を自分の背中に乗せた。
「うわっと!」
「これなら早く動けるだろ?」
「十分です、それではお二人とも……お願いします。」
デスティニーの言葉にコクンと頷くなのはと青髪の女性、そして二人は迫りくる傀儡兵達の目の前に堂々と立った。
「じゃあせーのでいくよ、えっと……。」
「私はなのは……高町なのはです!」
「よっし !じゃあなのはちゃん、私と一緒に撃ってね!」
「はい!」
そしてレイジングハートの先端と、女性が装備しているギアが巻かれたような籠手に膨大な魔力が集束して行く。
「「ディバイン……バスター!!!!!!!」」
そして2人はほぼ同じタイミングで魔力を傀儡兵達に向かって放った。
桜色と蒼色の光に呑まれ消滅していく傀儡兵達。
「今です!」
その隙にフェイトとシンを乗せたアルフは真っすぐに最深部に繋がる扉に駆けて行った……。

「気を付けてねフェイトちゃん……アルフさん……シン君……!」
「よし!僕達はこの場の敵を殲滅しつつフェイト達の後を追うぞ!」
「わかった!」

「我々も負けていられないぞ、クイント! メガーヌ! 援護してくれ!」
「「了解!!」」



そしてシン達はアリシアのいる時の庭園の最深部に到着する、そこで彼等は信じられない光景を目の当たりにする。
『フェイト……ここまで辿り着いたのね……。』
広間には辺り一面禍々しい植物のような物が壁一面にひしめき合い、中心には銀色の鉄のような何かを全身に纏ったアリシアが、巨大な球根のような物体の中にある赤い水晶に腰から下を取りこませていた。そしてすぐ傍にはプレシアが取り込まれていた。
「母さん!」
「プレシア!」
「あの水晶は……ジュエルシードですか。」
「アリシア……もうこんな事やめてくれよ! こんな事したってプレシアさんは……!」
アリシアを説得しようとシンは必死になって彼女に訴えかける。
『アナタに私の何が解るの? 私から母さんを奪った奴らをどうしようと勝手じゃない。』
しかしアリシアはクスクス笑いながらシンの言葉を拒絶し巨大な触手のような物を幾つも出現させ、それらにシン達を襲わせる。
「うわっ!」
「きゃ!」
シン達はそれを分散して回避し、さらに襲いかかって来る触手を各個迎撃していく。
「フォトンランサー! ファイア!」
「デスティニー! フラッシュエッジ!」
「そりゃー!!!」
しかし攻撃の勢いは衰えることなく、シン達の表情に次第に焦りの色が見え始めていた。
「次から次へと……本当にキリが無い……!」
「やっぱりコアであるアリシアさんを止めないといけませんね。」
「ならアタシに任せろー!」
デスティニーの分析を聞いてアルフは無理やりアリシアに近付こうとする、しかし……。
「わあああああ!!!?」
「アルフー!」
足もとから現れた触手のようなものに絡め取られてしまう。
『無駄無駄……犬ッコロごときが私に触れる事なんてできないわ、そこで大人しくしていなさい。』
「くそう! 力が出ない……!」
アルフは全身から力が抜けていくのを感じ、そのまま意識を失ってしまう。
「いけない! アレは生命力を吸っています! 早く止めないと!」
「待ってろアルフ! うおおおおお!!」
そう言ってシンは地上から、フェイトは空中から迫りくる幾つもの触手を撃ち落としていく。その様子を見ていたアリシアは不敵に笑うと……。
『ふふふ……それじゃレベルアップするかな?』
天井から岩の塊のような物を彼等に向かって落としていった。
「だああ!! そんなの反則すぎるだろ!」
「くっ……!」
顔を顰めながら落下してくる岩を回避するシンとフェイト、その様子を見てアリシアはまたも不敵に笑う。
『かかったわね……まずはお前から!』
すると赤い水晶の中心に魔力が集束され、そこからシンに向かって赤い光線が放たれた。
「うわああああ!!!!」
「シーン!」
フェイトはすぐさま飛べないシンを抱えて空に退避して事なきを得る。
『ちっ……もうちょっとで消し炭にできたのに。』
「た、助かったよフェイト。」
「う、うん……(うわあ、シンと密着してる……)」
フェイトは頬を赤く染めながら地上にいるアリシアを見据える。
「どうしようシン……なんとかしてアリシアに近付かないと……。」
「あのウネウネ邪魔だな……なんとかしてあそこまで辿り着かないと……あそうだ! フェイト耳貸して! ごにょごにょ……。」
そしてフェイトはシンが提案したプランを聞いて目を見開いて驚く。
「そ、それは流石に無茶なんじゃ……。」
「でもこれしか方法がないよ! 俺は大丈夫だから!」
「ここは主を信じてくださいフェイトさん。」
「う、うん……。」
フェイトは今だに承服しかねていたが、取りあえずシンが提案した作戦を採用することにした。

『うふふ……何をしても無駄よ無駄無駄、大人しく私の養分になりなさい。』
「そんなの……!」
「お断りだ!」
そう言ってシンはフェイトに抱えられながらアリシアに向かって猛スピードで突撃して行く。
『なあに? 特攻?』
「シン! 本当にいいんだね!?」
「思いっきりやってくれ!」
フェイトはもうヤケクソ気味にシンを支えていた手を放す、するとシンは慣性の法則に従ってアリシアに向かって弾丸の如く飛んで行った。
「名付けて“シルエットシステムアタック”!!!」
「しるえっとしすてむ?」
デスティニーのネーミングに首を傾げるフェイト、一方シンは襲いかかる触手をはねのけながらアリシアに向かって飛んで行った。
「おりゃあああああ!!!!」
『な!!?』
そしてシンはアリシアに取り付くことに成功する。
「主、アリシアさんをこのジュエルシードの塊から剥がせば時の庭園は機能を停止します。」
「わかった! ふんぬぬぬ……!」
シンはアリシアの体を掴み力任せに引っこ抜こうとする。
『どこ触ってんのよスケベ!』
衝撃波によって吹き飛ばされてしまう。
「わあああああ!!!!」
「シン!」
すぐさま助けに入ろうとするフェイト、しかしその隙をアリシアは見逃さなかった。
『くくく……! 捕まえたわよ!』
「きゃ!!」
フェイトは後方から襲いかかって来る触手に気付かず、そのまま全身を絡め取られてしまった。
『このまま……バラバラにしてらる!』
「ああああ……!!!」
縛る力が少しずつ強まり苦悶の表情を浮かべるフェイト。
「フェイト……今助ける!」
その様子を見てシンは痛む体をこらえながらフェイトに絡みついた触手をフラッシュエッジで切っていく。
『敵に背を向けるなんて……油断しすぎじゃない?』
「!! 主!」
デスティニーは危険を察知しシンに警告する、しかし気付いた時にはもう遅く、アリシアはシン達に向かってビーム砲を放った。
「シン逃げて! 私の事はいいから!」
「…………!!!」
そのままビームの中に呑まれていく2人、巻き上がる爆煙、それを見たアリシアは勝利を確信していた。
『ふふふ……これで邪魔者はいなくなった、後は……。』
しかしアリシアはある気配に気付き、自分がビームを放った方角を見る、そこにはボロボロになりながら身動きができないフェイトを体を張って守ったシンの姿があった。
「うぐぐ……いってぇ……!」
「シン! なんて無茶を!」
『な、なんでよ……なんでそいつの為にそこまでするのよ!』
シンの行動を理解できずに喚くアリシア、それに対してシンは何てことないといった様子で答える。
「約束したから……! ずっと傍にいるって、守ってあげるって……!」
「シン……!」
フェイトはそのシンの言葉を嬉しく思いながら、触手から脱出しようと必死にもがいた。
そしてシンはボロボロの姿のままアリシアに語りかける。
「なあアリシア……もうやめてくれよ! こんなの悲しすぎるよ!」
『悲しい? 私の行動に口出さないでほしいわね、何も知らないくせに……。』
「確かに俺はアリシアがどういう思いをしているかは解らない、でも……。」
そう言ってシンはフェイトの方を一瞥すると、とても悲しい目でアリシアの方を見る。
「アリシアが今やっている事は……プレシアさんを悲しませているんだぞ。」
『母さん……が……!?』
その瞬間、アリシアは動きを止め、フェイトは触手から脱出することに成功する。
「プレシアさん……泣いていたよ? 君がこんなことをするのは自分のせいだって……プレシアさんを大切に思うならもうこんな事やめようよ!」
『……!』
動揺するアリシアへ、一歩一歩近付いて行くシン。
「もういいだろう? 下にいる人達だって十分懲らしめた、一緒に帰ろう……フェイトやアルフと一緒に、アリシアには帰る所があるんだ!」
そしてシンは手を差し伸べた、その手をアリシアは迷いながらもとろうとする、その時……。
『……!! あああああああ!!!』
突如アリシアは苦しそうに暴れ出し、手当たりしだいに攻撃を始めた。
「アリシア!!?」
「アルティメット細胞とジュエルシードがアリシアさんの制御を受け付けなくなっています!このままでは……!」
「そんな! どうすれば……!」
その時、シンとフェイトの頭の中にリンディの念話が聞こえてくる。
(シン君! フェイトさん! 聞こえる!?)
「リンディさん!?」
(ヴィアさんの解析が終わったわ!! アリシアさんを取りこんでいるジュエルシードの塊……あれを破壊すれば時の庭園は機能を停止するはずよ!)
「ジュエルシードの塊……あれか!」
そう言ってシンとフェイトはアリシアの下半身を取りこんでいる巨大な赤い塊を見る。
(でも気を付けてね、あれは高威力の攻撃じゃないと破壊できないから……。)
「高威力……!」
シンはふと、自分がデスティニーから魔法を教わっていた時に聞いた“切り札”の事を思い出し、自分の両腕に装着してある傷だらけの青い籠手を見つめる。
「どうします主? 翼の修復はたった今終了しましたが……。」
「なのは達が来るのを待ってはいられないな。」
そう言ってシンは決意を固めて右手に魔力を込める、すると突然フェイトがその手を自分の左手で掴んできた。
「シン、私も一緒にやるよ、二人なら……。」
「フェイト……うん、わかった。」
そして二人は繋いだ手から優しい温もりを感じながら、決意に満ちた目でアリシアを見据えた。


「「二人なら、終わらせることができる」」





最終話「君は僕に似ている。」





「ウオオオオオオオオン!!」
次の瞬間、雄たけびと共に触手の先端に牙とアンテナのような二本の角が生え、シンとフェイトに向かって一斉に襲い掛かってくる、二人はそれを真上に飛翔して回避した。
「デスティニー!」
「薙ぎ払います!」
「バルディッシュ!サンダーレイジ!」
[Get set]
そのまま二人はそれぞれビーム砲とバルディッシュの先端を下の触手達に向け、ぐるぐる回転しながら、豪快に触手をビームで薙ぎ払っていった。
『うああ、うわあああああ!!!!』
もがき苦しむアリシアはビーム砲をシン達に向かって放つ、それに対してシンは左手にため込んだ魔力を迫ってくるビーム砲にぶつけた。
「うおおおおおおおおおおおおー!!!!」
そしてシンはフェイトと手を繋いだまま、ビーム砲を縦に引き裂きながらアリシアに急接近する。
そしてジュエルシードで出来た水晶をパルマフィオキーナの射程圏内に入れたシンは、先ほどからチャージしておいた右手の魔力を、フェイトと一緒に掌を合わせて撃ち出した。
「フェイト!」
「うん!」
「「ダブル! パルマ……フィオキーナあああああ!!!!!!」」
シンとフェイト、二人の思いが籠った攻撃は、ジュエルシードの塊にヒビを入れ破壊するのに十分の威力を持っていた。まさに二人で勝利を掴み取る技、この技の前にはどんなものであろうと耐えきることは不可能だった。
「グオオオオオオオオオン!!!!!」

そして触手達は断末魔をあげて消滅していく、勝利者は……シンとフェイトだ。

「アリシア!」
そして勝利の余韻に浸る間もなく、シンはフェイトと一緒にアリシアをジュエルシードから引き剥がした。

「あ……ぐ……!」
「ふぎゃ!」
その瞬間、取り込まれていたアルフとプレシアも開放され、意識を取り戻し起き上がった。
「アルフ! 母さん!」
「あいたたたた……あ、あれ? もしかしてもう終わっている!?」
「アリシア……フェイト……!」
プレシアとアルフはすぐさまシンとフェイトの元に駆け寄り、2人に抱えられているアリシアの安否を確認する。
「アリシアは?」
「生きてはいるみたいですが……意識を失っているようです。」
「そう……!」
デスティニーの言葉を聞いてプレシアは思わずアリシアをフェイトと一緒に力強く抱きしめる。
「か、母さん……?」
「ごめんなさい……! アナタの大切さに気付かずに、私はなんてひどい事を……!」
そこには今までのフェイトをいじめていた鬼のようなプレシアはおらず、ただただ自分の罪を悔いて娘に許しをこう母親の姿があった。
「ごめんなさい……! ごめんなさいフェイト……!」
「母さん……私怒ってないよ、だからもう泣かないで。」
そう言ってフェイトはプレシアの頬を流れる涙を手で掬った。
「私……私はもうアナタ達に母と呼んでもらう資格なんか……! 私は憎まれても当然の事をしたのに……!」
「そんな事言わないでください、私は……母さんが昔みたいに笑ってくれればそれで……。」
「フェイトぉぉ……!!」

シンはそんなフェイト達の様子をすぐ傍で優しく見守っていた。
(フェイト……よかったな、プレシアさんと仲直りできて……。)
「…………主。」
その時、デスティニーが神妙な面持ちでシンに語りかける。
「どうしたのデスティニー? 早くなのは達の元に戻ろう。」
「それが……先程からイヤな空気が晴れないのです。」
「え?」

するとシン達の背後で主を失ったアルティメット細胞の塊が、うねりをあげて再生を始めていた。
「な、なんでだい!? アレはフェイト達が壊したんじゃ……!?」
「生命力が半端ないですね……私達の火力じゃ完全に破壊できませんか、今度は私達の誰かをコアにするつもりですね。」
「このままじゃみんなが……!」
「…………。」
するとプレシアは足もとに魔法陣を出現させ、詠唱を始めた。
「母さん!? 何を……。」
「皆、アリシアを連れて逃げて頂戴。」
「プレシアさん!?」
すると今度はシン達の足もとに魔法陣が出現する。
「転移魔法!? プレシア! これは一体何の真似です!?」
「アイツの中にあるジュエルシードを使って虚数空間の中に転移するわ、いくらアイツでもそこに落とせば何も出来ない筈……。」
「プレシアさんはどうするんだよ!? 逃げるなら一緒に……!」
「誰かがここでこいつを引き止める必要があるわ、それに……ゴフッ!」
するとプレシアは突然咳き込む、そして咳き込んだ口を抑えた手には血が付いていた。
「母さん……!?」
「もう私は長くはないの……ふふふ、本当に愚かよね……。」
「そんな……そんなのあんまりだよ! 折角一緒になれる筈だったのに……! 解りあえたのに!」
魔法陣の中に閉じ込められているシンは必死になってプレシアを説得する、対してプレシアは優しい顔でシン達に語りかける。
「私にはあなた達の母親を名乗る資格なんてない……でも最後くらい母親らしいことはさせて。」
次の瞬間、シン達の足もとの魔法陣が強く光り、彼等は時の庭園の外へと転移していった。
「母さん! いやだ! いやだよぉ!!」
「プレシアさん!」
「プレシア!」
「…………。」

「ごめんなさい……アリシア、フェイト……ヴィアにありがとうって伝えて……。」
それが、シン達が見たプレシアの最後の姿だった。

そして一人その場に残ったプレシアは猛スピードで回復していくアルティメット細胞の塊を睨みつける。
「さあ来なさい……! あの子達には指一本触れさせない!」



一方アースラでは、時の庭園の動きに気付いたアースラのクルーが慌ただしく状況を確認していた。
「上空に次元震の発生を確認! 中規模以上!」
「時の庭園が吸い寄せられています!」
「一体何が……!?」
そんな中、ブリッジにいたヴィアは猛烈に不安を感じていた。
(プレシア……!? まさか!?)
するとブリッジでオペレートをしていたエイミィの元にクロノ達から通信が入って来た。
『エイミィ! 何が起こっている!? フェイト達の援護に行こうとしたらみんな強制的に外へ転移させられて……!』
「えええ!?」
「シン君達は!?」
「待ってください……シン君とフェイトちゃん達の反応を確認しました! 地上に転移したようです!」



その頃地上に転移したシン達は、虚数空間に吸い込まれていく時の庭園を地上から見ていた。
「母さん! 母さん!」
「駄目だよフェイト! もう間に合わない!」
フェイトは時の庭園の元に飛んで行こうとするが、アルフに止められていた。
「アルフ離してよ! 母さんを一人にさせられない!」
「その言う事だけは聞けない!」
そして時の庭園は虚数空間に吸い込まれていき、そのまま跡形も無く消えてしまった。
「あ……ああああ……あああああああー!!!!!!」
その光景を目の当たりにしたフェイトはショックのあまり狂ったような叫び声をあげ、泣き崩れてしまった。そしてその彼女の様子をアリシアを抱えていたシンは悔し涙を流して見つめていた。
「くそっ……! なんで! なんでこんな事に……!」













後にP・T事件(時の庭園事件とも呼ばれている)と呼ばれる出来事はこれで終わりを告げた。
首謀者であるプレシア・テスタロッサは時の庭園とアルティメット細胞と共に行方不明となり、書類上では死亡扱いとなる。

彼女の協力者であるヴィア・ヒビキ博士とフェイト・テスタロッサについても近々裁判が行われる予定ではあるが、リンディ提督らアースラクルーの弁護により刑に執行猶予が付くと見込まれている、
意識の戻らないアリシア・テスタロッサについては、ヴィア博士の指示でしばらく管理局の監視下に置いておくことになっている、もっともアリシア・テスタロッサの中のアルティメット細胞はほぼ消失しており、彼女が再び暴走することはあり得ないということで、アリシア・テスタロッサは近いうちに妹の元に帰ることができるだろう。

最後にシン・アスカについて、彼は管理外世界からフェイト・テスタロッサにやむ負えない事情があったとはいえ誘拐された身であり、事件後間もなく彼の住む世界にいる親元に返された。(リンディ提督による説明も済ませてある。)
彼の中にあるジュエルシードについてはいまだ引き離す方法が見つかっておらず、現在対策を模索中である。



追加報告:ジュエルシードについて。
20個あったジュエルシードは戦いのドサクサで所在が分からなくなっている。
現在も捜索を進めているが発見は絶望的であり、近いうちに捜索が打ち切られる予定である。

一説によれば消失した20個のジュエルシードは他世界に転移した可能性もあるとのこと。引き続き調査の必要がある。










本日はここまで、次回は後日談的なエピローグを月曜日にお送りいたします。

ちなみに作中に出てきたデスアーミーは人間をコアにしておらず、ジュエルシードの魔力で動いている不完全なものとなっております。しかしガンダム作品扱っているのに最初に出てきたMSがデスアーミーって……。

ゼスト隊を出したのはサービス的な意味もありますが、実は彼らの存在は今後の話の展開の重要なカギを握っています。まあとりあえずはそういえばこういうこともあったんだと頭の隅に留めておいてください。



[22867] エピローグ「私は笑顔でいます、元気です。」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:0a679fa6
Date: 2011/12/14 21:31
―――PT事件から一か月後―――

オーブのとある学校、そこでシンは花壇の花に水をあげながらフェイト達の事を思い出していた。

「フェイトやデスティニー達元気かな……あれからどうしたんだろう?」

事件後、シンは管理局による軽い事情聴取の後、オーブにいる両親の元に帰されていた。
デスティニーは管理局により性能の調査という名目で没収されており、彼女は現在裁判を受けているフェイトやアルフ、ヴィアと行動を共にしている。

因みにシンがいない間家族や学校は大騒ぎしたらしく、いじめを苦に家出したとか、いじめっ子が何かとんでもない事をやらかしたとか、とある反コーディネイター組織に攫われたとか、そりゃもう沢山の人が疑われるちょっとした大事件になっていた。

(フェイトが知ったらきっと落ち込むんだろうな……)

その為なのかシンをいじめていた子達は周囲に皆に疑いの目を掛けられ色々酷い目にあい、彼が無事に帰って来た時はもういじめを行うことはなくなっていた。

「まあそれだけはラッキーかな? 学校の勉強遅れちゃったけど」

そして花壇の整備を終えたシンはカバンを背負ってそのまま家に帰るのだった。



数分後、帰宅してきたシンを彼の母親と妹のマユが出迎えた。

「あ、お帰りなさいシン」
「ただいまー母さん」
「おにいちゃーん、あそんでー」

まだ幼稚園の年少程度のマユはシンがしばらく家にいなかった反動か、最近彼によく甘えるようになっていた。

「ちょっと待っていろよー、今うがいと手洗いしてくるから」
「うんー」

そんなシンの様子を、シンの母は嬉しそうに見つめていた。

「ふふふ……なんだかシン、あの事件から随分としっかりしてきたわね」


その時、家にある電話が鳴り響き、シンの母は受話器を取った。

「はいアスカです……ええ?……ああ、はい……」

その頃シンは居間でマユの遊び相手をしていた。

「ねえねえおにいちゃーん、またまほうみせてー」
「またかよ? しょうがないな」

そう言ってシンは指先に魔力を溜めると、そこから綺麗な光を放った。

「わ~! きれい~!」
「ほーらほら、字も書けるぞー」

シンは今もジュエルシードがリンカーコアを形成している影響か、デスティニーがいなくても簡単な魔法を使う事ができた。

「おにいちゃーん、マユもまほうつかいたいー」
「うーん……こういうのは適正があるかどうかだからなー、今度リンディさんに頼んで検査してもらうかな?」

するとそこに、電話に出ていたシンの母が彼等の元にやって来た。

「シンー、リンディさんからお電話よー」
「リンディさんから!?」

そう言って母はシンに受話器を渡す。

「もしもしシンです……はいお久しぶりです……ええ!? フェイトが!? わ、解りました……父さんにも伝えておきます……」

シンは話を終えると受話器の通話ボタンを切る。

「おにいちゃん、さっきのおでんわなーに?」
「うん……リンディさんから、今度フェイトがこの世界に来るって……」





数日後の土曜日、シンはリンディに指定された海岸線にある崖の上の公園にやってきた。

「リンディさんが言っていた場所は……あ! あそこにいるのは!」

そこでクロノと人型形態のアルフ、そしてフェイトの姿を発見する。

「おお~! シン! 久しぶりだねえ~!!」

まずアルフがシンの姿に気付き、まっさきに彼にギューっと抱きついてきた。
そしてアルフの後ろをクロノとフェイトが歩いてくる。

「あ、アルフ苦しいよ!」
「ああ、ごめんごめん……」

アルフの豊満な胸の圧迫付きのハグから解放されたシンは、そのままフェイトとクロノの方を向く。

「二人とも……久しぶり」
「ああ」
「シン……」

その時、クロノが持っていた鳥かごのようなものから、突如デスティニーが飛び出してきた。

「主、お久しぶりです」
「デスティニー!」
「管理局の検査が終わって許可が下りたんだ、デスティニーを君に返還する、その方が彼女にとっても良さそうだし」

クロノの話を聞きながら、シンは30センチほどしかないデスティニーを自分の右肩に座らせ、頭を優しく撫でてあげた。

「今日から一緒に暮らせるんだな! 父さんや母さん、マユもデスティニーの事歓迎してくれるよ!」
「そうですか、とても嬉しいです」

デスティニーは心の底から嬉しかったようで、シンに向かって優しい笑みを向けた。
そんな二人を見て、フェイトはモジモジしながら話しかけてきた。

「あの……シン、少し二人で話したいことがあるってリンディさんが伝えてくれたと思うけど……いい?」
「話は聞いているよ、それじゃデスティニー……ここでみんなと待っていてくれ」
「畏まりました」
「ここにいられる時間はあまり無いからな、要件は簡潔に済ましておけよ」



クロノに時間が無い事を聞きながら、シンとフェイトは二人で公園の奥の方に、横に並んで歩いて行った。

「ここ、なんだか海鳴に似ているね、潮風が気持ちいい……」
「そう言えばそうだなあ、ん?」

その時、シンはツインテールを作っているフェイトのリボンが、いつもの黒い紐状の物ではなく白い布状のものになっていることに気付いた。
シンはそのリボンに少し見覚えがあった。

「フェイト、そのリボンもしかして……なのはの?」
「うん、実はここに来る前に海鳴に寄ったんだ、そこでなのはとリボンを交換したんだ」
「へえ、似合うじゃん」

よく見るとフェイトは先ほどまで泣いていたのか、目の下が少し赤くなっていた。

「泣いちゃったの? やっぱり」
「うん……でももう大丈夫、実はなのはと私は友達になったんだ、このリボンはその証……」

そう言ってフェイトはなのはからもらったリボンを愛おしそうに撫でた。
シンはそんな彼女の姿を見て、心臓がドクンドクンと鳴っているのを感じた。

(フェイトのあんな優しく笑う顔……初めて見るかも)


そして二人は自身の近況など何気ない会話をしながら、公園の中でも一番の名物である海が一望できる花畑にやってきた。

「すごい……きれいな海だね」
「うん……」

フェイトは透き通るような雲一つない青空と、それを映し出す広大な海を見て思わず声を漏らす。
そして二人は再び歩き出し、花畑に植えられている色とりどりの花を眺めながら言葉を交わした。

「裁判のほうはどうなの? やっぱり牢屋とかに入れられちゃうの……?」
「大丈夫だよ、リンディさん達が弁護してくれているし、それに私……裁判が終わったら管理局で働くつもりなんだ」
「え!? そうなの!?」

フェイトの話を聞いて、シンは目を見開いて驚き、思わず彼女の方を振り向いた。

「うん、そうすれば刑も軽くなるし、それに……」
「それに?」
「私や母さんみたいに悲しい思いをする人を、少しでも減らせればいいなって思って……」
「そっか……」

シンはフェイトの決意の裏にある悲しみに気付き、思わず目を逸らしてしまう。

「ゴメン……」
「どうして謝るの?」

突然謝られ、フェイトは理解できずに首を傾げてしまう。
シンは悲しい顔をしながら言葉を続ける。

「俺がもっと強かったら、プレシアさんを助けることができたのに……悲しい思いをさせて……」

するとフェイトは優しく微笑み、そのまま首を横に振った。

「それは違うよ、母さんは私たちを守るためにあの選択をしたんだ、とても悲しかったけど……それでも最後に母さんの優しさに触れることができてよかった、それに……」

フェイトは俯いたままのシンの前に立ち、彼の手を自分の両手で優しく包み込んだ。
かつて暴走したジュエルシードを両手で抑えようとした時、彼が自分にそうしてくれたように、自分のぬくもりを伝えるように。

「シンは私に沢山の物をくれたよ、シンが傍にいてくれたから、なのはと向き合う勇気を持てたし、母さんと心で通じ合うことができた、ありがとう……」
「う、うん……」

シンはフェイトの微笑みを見て、心臓の鼓動をさらに激しく鳴らす。

(なんだろうこの気持ち? すごくドキドキする、フェイトの顔は何度も見ているのにどうして……)

シンは自分の心の変化に戸惑いつつも、フェイトに伝えたいことがあるのを思い出し、少し声のトーンを高くして彼女に話しかける。

「そうだ、あのさフェイト……実は俺も管理局で働きたいって思っているんだ」
「え!? そうなの!? でもどうして……?」
「そうだなあ……俺もフェイトと同じ理由だよ、悲しい思いをする人なんて出さないよう、皆を守れる強さが欲しいんだ、管理局にはそれがあるかなって思って……」

シンの頭の中に、時の庭園で共に戦ったゼスト隊の戦いぶりが思い浮かんでいた、彼らの素晴らしい戦いぶりに……シンは一種の憧れの様なものを抱いていた。
対してフェイトはとても嬉しそうな顔で、シンの決意を歓迎した。

「うん……うん、いいと思うよ、もしかしたら私たち同僚になるかもしれないんだね」
「だな、でもまずは互いにやるべきことをしっかりやらないと」
「そうだね……」

ふと、シンは花畑の中心に建てられている柱の先端に付けられた時計を見る、長針はもうすぐフェイトが出発する時刻に迫っていた。

「もうそろそろ行かなきゃ……それじゃまたね、シン」
「うん、いつかまた会おうな、今度はマユやなのは達も一緒に!」
「うん……!」



そんな二人の様子を、物陰からコソコソ観察している影が三つ。

「むう、主とフェイトさん、どちらかが告白するかと思いましたが……予想が外れてしまいました」
「いい雰囲気なんだけどねえ」
「なんで僕まで付き合わなきゃいけないんだ……」

二人の様子が気になって仕方がなかったデスティニーとアルフ、ついでにクロノは気付かれないように尾行していたのだ。

(ま、二人なら私が心配しなくても自然とくっつくと思いますが……障害も私が取り除けばいいんですし)

そんな中デスティニーは、シンとフェイトを母性に満ちた目で優しく見守っていた。



(大丈夫……大丈夫、私が主を幸せにする……運命なんかに邪魔はさせない)




そして少年少女達は未来へ歩き出す、自分達の歩く道が、いずれ皆の道と重なり合う事を信じて……。





エピローグ「私は笑顔でいます、元気です」





~一か月後~

海鳴市にあるなのはの実家で喫茶店でもある“翠屋”、そこになのはは友達と共に学校から帰ってきた。

「ただいまーお母さん!」
「おかえりなのは、フェイトちゃんからお手紙来ているわよー。」
「フェイトちゃんから!? わかったー!」

なのははすぐさま母親から手紙を受け取る、その後ろからなのはの友達二人が内容を確認するため覗き込んでくる。

「フェイトって確かなのはの外国の友達よね?」
「私も見たいなー」
「うん! いいよー!」

そしてなのはは友人らと共に自分の部屋に向かって行く、そんな彼女たちの後姿をなのはの母親は優しく見送った……。



ミッドチルダのとある医療施設、そこでクロノとエイミィは集中治療室で眠っているアリシアを観察しながら今後の事について話し合っていた。

「経過の方は特に問題ないようだな」
「うん、でも予断は許さない状態みたい」
「ああ、ヴィア博士はいつかあの細胞を作ったカッシュ博士とやらに会って意見を聞きたいと言っていたがな……彼のいる世界には色々と問題があるらしい、中々許可が下りないそうだ」
「問題?」
「FCの世界は現在、戦争が起こる可能性があるらしい……そんな危険な世界に上層部は関わりたくないようだ、まあその内許可を取り付けてみせるさ、あの子の為にもね」
「ふふふ……もしかしたらクロノ君、あの子のお兄ちゃんになるかもしれないもんね」





アースラにあるフェイトの自室、そこでフェイトはアルフと共にビデオレターの撮影を行っていた。

「じゃあフェイト、スイッチ押すよ」
「うん」

フェイトはアルフがスイッチを押したのを確認すると、緊張した様子で喋り始めた。

「えっと……久しぶりだねシン、そっちはうみゃ……うにゃ……」
「はい駄目ー、カミカミじゃないかー」

そう言ってアルフはビデオの録画ボタンを切る。

「うーん、なのはの時は緊張しないのになー……ちょっと休憩してからにしよっか」
「わかったよー」

ふと、フェイトは机の上に飾られている写真立てを見る、そこにはプレシアと幼い日のアリシアが映っている写真が入っていた。
「あ、そうだ……」

フェイトはある事を思い出し、先日買っておいた新品の写真立てにとある写真を入れ、プレシア達の写真立ての隣に置く。
その新しい写真立ての中には、先日オーブに行った時に撮ったシンとフェイトが一緒に映った写真が入っていた。

(シン……私これからも頑張るよ、どれだけ離れていても……アナタと一緒だから)





オーブのとある公園、そこにシンはデスティニーとマユと一緒に来ていた。(マユに魔法を見せてとせがまれたので)

「それじゃ今からセットアップするからな、よーっく見てろよマユー!」
「がんばれー!おにいちゃーん!」
「周りに人の気配はありません、いつでもどうぞ。」


そしてシンは背中に大きな翼を生やして、大空へと飛び立った。

「シン・アスカ! デスティニー行きます!」





それは、星の海を掛ける“白い悪魔”と呼ばれる機械人形が、世界を平和へ導く英雄として君臨するいくつもの物語と、数多なる世界を駆け秩序を管理する魔導師達の世界が、一つの物語として融合していく物語。


それは……本来少年が辿る筈だった悲しい運命が、一人の少女との出会いにより大きく変わって行く物語。


やがて少年は少女に守りたいものを守る黄金の剣を貰い、数多の世界を守る“ストライカー”へと成長していく……。




















海鳴市のとある海沿いの遊歩道……そこで車いすの少女が少し年上の少年と共に散歩をしていた。

「もう六月なんやな、どうりで最近暖かくなってきた筈や」
「そうだな……」
「花火大会今年はできるんやろうか……去年は雨で何回も順延しとったから」
「その前に誕生日だろう? プレゼントは何がいいんだ?」
「えー? そんな気を使わなくてええよー」
「そうか……」

その時、先程まで晴れ模様だった空が急に曇り空に変わっていった。

「ん? これはひと雨来るな……はやて、そろそろ家に帰ろう」
「うん、それじゃ帰ろか……スウェン」





Next Stage “Lyrical GENERETION STARGAZER”















これにて無印編エピローグ&A’s編の予告的な物を投下させていただきました。
これで書き溜めは全部出したのでまたしばらくROMっています。


それでは一区切りついたことですし、今作の主人公格であるシンについて語ってみましょうか。
放送終了から5年、彼の事はいろんなところで話題になっています、シンは脚本の被害者だとも、別に擁護する価値もないクズだとも、アイツのせいでベルリンがあんな事になったとも言われており様々な見方をされています。
自分は“超重神グラヴィオン”がきっかけで鈴村さんのファンになっていたので、放送当時は本当にワクワクしながら毎週録画しつつリアルタイムで見ていました。それ故に後半の展開はぽかーんでしたよ……。

シンはなんというか……キラにも言える事ですがいい大人に恵まれてなかったなーって思います、ブライトやバニングやシュバルツやジャミルみたいに悪い事をした子供を叱れる大人があの世界にはいなさすぎなんですよね。アスランは未熟すぎ。ハイネが生きていればあるいは……。
誰かを守りたいという気持ちはきっと他のガンダム作品の主人公達に負けていないと思うんですが……。

でも現実でもシンやフェイトやプレシアみたいに理不尽な理由で不幸な目に逢っている人が沢山いますよね、外国ではテロで傷つく人が日に日に増えていますし、日本でもこの前ストーカーに殺された人の母親のことがニュースで放送されていましたし……。
そういう意味ではSEEDや無印なのははどの作品よりも理不尽でリアルと言えるのでしょうか? その二作品を視聴した後は良くその事を考えてしまいます。

僕はこれからも色んな作品を作って行くつもりです、そしてこういった悲しい思いをする人を少しでも減らせるような作品が書ける努力をしたいと思っています。



これからもこの物語の中のシンには様々な困難が待ち受けています、でもきっとフェイトや仲間達と手を繋いで乗り越えていくでしょう。彼はもうひとりぼっちになることも、道を間違えて進む事もないんですから……。



[22867] TIPS:とある局員のプライベートメール
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:0a679fa6
Date: 2010/11/21 23:45

TIPS:とある局員のプライベートメール




65/06/08

ゼスト、この前の庭園事件の援護任務御苦労さん、まさか任務中にあんな事件に遭遇するとは夢にも思わなかったよな。
でもお前達のおかげであの会社が行っていた悪行……どうやら明らかにすることができそうだ。

やはりアイツ等、開発した魔力動力炉をコズミックイラの反コーディネイター組織に法外の値で売り飛ばしていたらしい。
あの世界への干渉は禁止されているし、次元世界の秩序を守る管理局に喧嘩売る行為だからな……近々業務停止命令が下るだろう、プレシア・テスタロッサの事もあるし自業自得って奴だ。

それにしてもCEの組織……詳細は解らないがあの世界では“死の商人”と呼ばれているぐらいだ、そんな奴らが次元を移動できる力を手に入れたらどうなるか見当もつかん、何人か局員を送りこんで随時監視させる必要があるな。

全く最近は忙しいよなぁ、ある世界で深刻な次元湾曲が確認されたって言うし……シン・アスカのジュエルシードが第101管理外世界“コズミックイラ”に飛んでいったのもそれが原因かもしれないな。


そんじゃ、今度暇な時に酒でも飲みにいこうや、最近娘が2人もできてクイントも忙しくてご無沙汰だったからな……たまには愚痴でも聞いてくれ。







65/08/03


最近PT事件なんて大きな事件があったが、その事件を調べていくうちに面白い事実が判ったんだ。
例のプレシア・テスタロッサが使っていたアルティメット細胞の作られた第98管理外世界“フューチャーセンチュリー”……そこで“ガンダム”の存在が確認されたそうだ。

そう……二年前、ロストロギアと違って魔力を使わない“サテライトシステム”が原因で100億人近い人間が死んじまった第100管理外世界“アフターウォー”の世界で用いられた機動兵器と名前が同じだ。
さらによくよく調べてみると、その二つの世界のガンダムはデザインにも共通するものが多い、FCとAWは直接的な繋がりはない筈なのに……これは偶然と呼ぶには出来すぎていると思わないか?

まあAWは兵器として用いられたのに対し、FCじゃ“ガンダムファイト”っつうコロニーの覇者を決めるとんでもない大会で使われているだけだがな。噂じゃFCの世界では魔法を用いずにSSクラスの魔導師と互角に渡り合う武術の達人がいるって噂もあるがさすがにそれはないだろ、普通の人間が魔導師と戦うなんて常識外れもいいところだ。

ともかく“ガンダム”はロストロギアとはまた別の、人類の未来を脅かす存在なのかもしれない、他にも使っている世界がないか、はたまた”ガンダム”が生まれるかもしれない世界がないか、少し調べてみる必要がある……AWの世界みたいになるのは御免だからな。



[22867] りりじぇね! その1「壊れあうから動けないリターンズ」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:0a679fa6
Date: 2010/12/17 23:35
 Lyrical GENERATION外伝 りりじぇね!


“りりじぇね!”とは、本編の合間に投下されるほのぼの番外編のことである!
本編と話が繋がっていたり、まったく繋がっていなかったりする。
人気でれば独立させます。では記念すべきその1どうぞ。










りりじぇね! その1「壊れあうから動けないリターンズ」


それはシンがフェイト達のジュエルシード集めに協力していた頃のお話です。

その日、シンとフェイトとアルフはジュエルシードの反応がしたとある海上へやって来ていた。相手はイカに憑依したジュエルシードである。
「フェイト! そっちにいったよ!」
「うん!」
海中の中を潜航してシン達を襲おうとする巨大イカ、すると突然、海の中から黒い墨のような物が吐き出され、フェイトの視界を奪ってしまった。
「きゃあ! ま、前が……!」
「フェイト!」
そして墨が吐き出された場所から今度は白い触手が現われ、フェイトの右足に絡みつき彼女を海中に引き摺りこんでしまった。
「しまった!」
「主、ビーム兵器は水中で威力が半減します。」
「なら直接行くしかないね!」
シンとアルフは迷わず海の中に飛び込み、海中の巨大イカに対して攻撃を加える。
(フェイトを離せ!)
まずアルフが巨大イカにバインドを掛け、
(このイカヤロー!)
シンが眉間にアロンダイトを突き刺す。
「ゲソオオオオオオオオオ!!」
すると巨大イカはみるみると縮んでいき、そこにはジュエルシードと小さなイカ、そして触手から開放されたフェイトが浮かんでいた。
(アルフはフェイトを頼む、俺がジュエルシードを封印しておくよ。)
(わかった!)
アルフは念話を受けてフェイトを抱えて海上に浮かんで行き、シンはそのままジュエルシードをデスティニーの中に封印した。
(よーっし、それじゃ早く上に戻ろう。)
(解りました……ところでコレどうします? 今晩のおかずにしますか?)
そう言ってデスティニーはジュエルシードに取り付かれていたイカをシンに手渡す。
(うーん……こいつもジュエルシードに操られていただけだし逃がしてあげよう、もう捕まるんじゃないぞー。)
そう言ってシンは手を放す、するとイカはすーっとシン達の元を離れて行った。
(それにしてもなんでジュエルシードはあのイカに取り付いたんだろう?)
(もしかしてあのイカ地上を侵略しようとしていたとか? そこでジュエルシードを見付けて自ら怪人に……。)
(はっはっは、そんな訳ないじゃなイカ。)
(主、このSSは削除しないかぎり何年も残るのです、時事ネタはどうかと思うでゲソ。)


何かに侵略された2人は息が続かなくなっている事に気付き海上に出る、するとそこにはアルフと彼女に抱えられたフェイトがいた。
「フェイト! 大丈夫だったか?」
「うん、びっくりしたけど怪我もないし……くしゅん!」
「あーあ、みんなびしょ濡れだ……今日はこれぐらいにしてアジトに戻ろうか。」
「さんせー。」

そんな訳でシン達は封印したジュエルシードを持ってアジトに帰って行った……。



異変は次の日の朝に起こった。
「シンシンシンシンー! 大変だよーーー!!!」
シンとデスティニーが眠る寝室に、突如アルフが掛け込んできたのだ。
「んにゅう……なんだよアルフ、もっと寝かせてよ……。」
「それどころじゃないんだよー! フェイトが! フェイトがー!」
「フェイト……? フェイトがどうしたの?」
「フェイトがすごい熱出して倒れちゃったんだよー!」
「えっ!?」


~数分後、フェイトの寝室~
「38.8分……完っ全に風邪ですね。」
デスティニーはフェイトの腋に挟んでおいた体温計の数値を読みあげてを見て憂鬱そうに溜め息をつく。
「どどどどどどどどうしようシン!! フェイトが死んじゃうよ!」
「お、落ち着きなよ……ホントどうしよう、取りあえず病院に……。」
「身元を証明できる物を持っていない私達が治療を受けられるでしょうか?」
「そ、そっか……なら俺達でなんとかするしかないなあ、取りあえず……風邪薬とか無いの?」
「そ、そういえばここには無い……! アタシ買いに行ってくる!」
アルフはそう言ってアジトを飛び出していった……。
「あ、あいつ大丈夫かな……狼の姿のままだったぞ。」
「街が大騒ぎになりますね……とりあえず私達はフェイトさんの看病をしましょう。」
そう言ってデスティニーはベッドで苦しそうにしているフェイトの上に毛布を掛ける。
「うーん、うーん……。」
「フェイト苦しそう……。」
「主は濡れタオルを持ってきてください、うんと冷たいので。」
「わ、わかったよ。」


それからさらに数分後、濡れタオルを額に乗せたフェイトは汗だくになりながらベッドの上で呻いていた。
「うーん……熱いよー。」
「ああ、今毛布よけてやるよ。」
「駄目です主、風邪をひいた時は汗を一杯かかせて悪い菌を外に出させるのです。」
「そ、そうなの?」
デスティニーに注意されて思わず萎縮するシン。
「こういう時は水を沢山飲ませて代謝を促進させるのです、ちょっとお茶作ってきますねー。」
そう言ってデスティニーはシンを残して台所へと向かった。
「うーん、風邪なんてひいた事無いし風邪ひいた人見た事もないからどうすればいいかわからないなー。」
シンは自分の不甲斐なさにすっかり落ち込んでしまう、するとその時、フェイトが何かつぶやき始めた……。
「し、シン……。」
「ん? どうしたのフェイト。」
「わ、私どうなっちゃうのかな……すごく苦しいよ、もしかして死んじゃうのかな……。」
「バカだなあ、そんな訳ないじゃん。」
フェイトは風邪をひいてすっかり弱気になってしまい、目にうっすら涙を浮かべて弱音を吐いていた。
「やだよ……私死にたくないよぉ……だって母さんに笑って貰ってないし、あの子とまだ仲直りしてないし、シンのジュエルシードもまだ取ってないのに……。」
「……。」
するとシンは何も言わず、フェイトの手をぎゅっと握った。
「シン……?」
「大丈夫、君は死なないよ、だからゆっくりお休み。」
「う、うん……。」
そしてフェイトは安心したのか、瞳を閉じてすうすうと寝息をたてて眠り始めた。
(いやー……なんつうか今のフェイト、すごく可愛かったな……不謹慎か。)
するとそこにお茶が入ったポットを抱えたデスティニーが戻ってきた。
「あら? フェイトさん寝ちゃったんですか。」
「うん、ついさっきね。」
「うふふふ……主ったらがっちり手なんて握っちゃって……もしかしてお邪魔でした?」
「……! なんでもねえ!」
シンは顔を真っ赤にして自分の手を背中に回す、そしてデスティニーはフェイトの様子を見てある事に気付く。
「お、随分と汗が出ていますね、そろそろ着換えさせたほうがいいでしょう。」
「着替え?」
するとデスティニーはフェイトに掛けられた毛布を剥がし、フェイトのパジャマのボタンを一つずつ外し始めた。
「主も手伝ってください、フェイトさんの服を取り換えて体を拭かなければ……。」
「えええええええええ!!!!!? 俺が!!!?」
突然の指示にシンは面喰ってしまう。
「何をしているのです、このままではフェイトさんの風邪が悪化してしまいます、ハリーハリーハリーハリー!!」
「で、でも女の子の服を脱がすなんて……。」
「今彼女を救えるのはアナタしかいないんですよっっ!!!!」
「は、はいいいい!!!」
デスティニーの迫力に押されたシンは、顔を真っ赤にしながらフェイトの体を起こした。
ちなみにデスティニーはシンに見えない所で「計画通り」という某マンガの主人公みたいな悪い笑みをこぼしていた。
「じゃ、じゃあ脱がすぞ……。」
シンは今にも鼻血を吹きそうになりながら、フェイトが着ていたパジャマを後ろから脱がす。するとフェイトの胸には白いスポーツブラが付けられていた。
「ああ、下着も着替えさせなければ……。」
「お、おう……。」
次に汗でびしょびしょになったスポーツブラを両腕をあげて脱がせる、その間にデスティニーは下の部分をさっさと脱がしていった。
「ぐっ……!」
初めて見る家族以外の女の子の一糸まとわぬ姿を見て、シンは思わずフェイトから視線を背ける。
「では主、体を拭くので体を支えていてください。」
「わわわ……解った。」
そしてデスティニーは30cmしかない小さな体を目一杯使ってフェイトの体の前部分をくまなく拭いていった。
「まあまあ、ゆで卵みたいにプルプルした肌をお持ちで……あら、こんなところにホクロが。」
「いいいいいから早くしろよ!」

それから数分後、体を拭き終えて新しいパジャマに着替えさせたフェイトを再びベッドに寝かせたシンは、部屋の隅で額にヤカンを乗せれば中の水が湧き上がるぐらい赤くなっていた。
「やばい……さっきの思い出したら顔が熱くなってきた、風邪うつったのか?」
「いやー堪能しました、それでは主、次はおかゆを作りましょうか。」

さらに数十分後、シンとデスティニーは台所で作った卵粥を持ってフェイトの寝室に戻ってきた。
「あ……二人ともおはよう。」
「フェイト、もう起きても大丈夫なのか?」
「うん、ちょっと楽になったよ……。」
そう言ってフェイトは節々に痛みを感じながらも自分の体を起こした。
「あんまり無茶をしちゃダメですよ、病み上がりが一番危ないんですから……。」
そう言ってデスティニーはシンにスプーンを手渡す。
「それじゃ主、フェイトさんに卵粥を食べさせてあげてください。」
「わかったよ。」
シンは卵粥をスプーンで一口分掬い、フェイトに差し出した。
「フェイト、あーんしろあーん。」
「あーん。」
それに対してフェイトは素直に口を開き、スプーンの上のお粥を美味しそうに食べた。
「どう? 美味しい?」
「うん、おいしいよ。」
「おー、よかったなデスティニー、美味しいってさ。」
「え? これデスティニーが作ったの?」
「ええ、私は味加減のほうを……コンロの火とかは主にやってもらいましたが。」
「そっか、ありがとう二人とも……。」
そう言ってフェイトはデスティニーの頭をやさしく撫でた。
「ささ、まだ一杯あるからな、一杯食べて早くよくなれよ。」
「うん。」


それから一時間後、卵粥を食べ終えたフェイトは再びすうすうと寝息を立てて眠ってしまった。
「いやー、また眠っちゃったね。」
「たくさん食べましたからね……これならすぐに良くなるでしょう。」
「でもなんで急に熱だしちゃったんだろうな、俺たちは平気なのに……。」
「おそらく昨日水をかぶったのと……今までの頑張りで蓄積した疲れがドッと出てしまったのでしょう、いくらフェイトさんに魔力があるからといってその他は普通の9歳の女の子と変わりませんから。」
「そっか……。」
シンは複雑な思いを抱きながら、寝息を立てて眠るフェイトの頬を撫でてあげた。
「俺たちがもっと支えてあげないとな……。」
「……ですね。」

その時、玄関から来客を告げるインターホンの音が鳴り響いてきた。
「あれ? 誰か来ましたね。」
「俺見てくるよ。」

そしてシンは玄関に赴き扉を開く。
「あ、あなたは……。」
するとそこには意外な人物が立っていた。


フェイトは朦朧とする意識の中、自分の額に誰かが手を乗せていることに気付いた。
(誰だろう? 温かい手……もしかして母さん?)
フェイトはゆっくりと自分の額に手を乗せている人物を見る、その人物とは……。
「ヴィア……さん?」
「あら、ごめんね……起こしちゃったみたいね。」
そう言ってヴィアは水で濡れたタオルを絞ってフェイトの額に乗せる。
「ヴィアさん、どうしてここに……。」
「風邪薬探し回っていたアルフから連絡があったのよ、“フェイトが熱出したんだけどどんな薬を買えばいいのかー”って。」
「それでわざわざここに……。」
「別にいいのよ、研究の合間の息抜きになるし……アナタはゆっくりと休んでいなさい。」
「…………。」
フェイトはふと、ある人物の姿を探す為部屋を見回す、しかし部屋にはフェイト自身とヴィアしかいなかった。
「ごめんねフェイトちゃん、プレシアはここには来ていないわ。」
「……そうですか。」
その言葉を聞いたフェイトは少し落胆したかのように毛布の中に顔を埋めた。
「ごめんね、私も誘ったんだけど断られて……でもその代わり……。」

「ヴィアさーん! リンゴすりおろしてきたよー。」
するとそこにすりおろしりんごが盛り付けられたお椀を持ったシンとデスティニーと、大量の風邪薬を抱えたアルフが部屋に入って来た。
「ほらフェイト! これだけ飲めばすぐによくなるよ!」
「アルフさん、風邪薬は大量に飲めばいいというものでは……。」
「ヴィアさんの分も切っておいたよ、皆で食べよう。」
「ありがとう、それじゃフェイトちゃん……。」
そう言ってヴィアはすりおろしたリンゴを乗せたスプーンをフェイトの前に差し出す。
「そ、それじゃ……。」
フェイトはそれをパクリと口の中に入れる、そして……ある事に気付いた。
「あ……このリンゴ、もしかして……。」
「そうよ、アナタの生まれ故郷の森で取れたリンゴをプレシアが持ってきた物よ、彼女は“腐るといけないからあの子にでもあげなさい”なんて言っていたけど……何だかんだ言ってアナタの事が心配なのよ。」
(あの女が~?)
アルフはヴィアの“プレシアがフェイトを心配している”というのがいまいち信用出来ずに首を傾げる。
「えへへ……母さんが……。」
だがフェイトのとても嬉しそうな顔を見て声に出す事はなかった。
(まいっか、フェイト嬉しそうだし……。)
「ほわー! このリンゴおいしいね! フェイトとアルフって毎日こんなおいしいリンゴ食べていたんだ!」
一方自分で切ったリンゴをデスティニーと一緒に食べていたシンは、あまりのおいしさに笑みをこぼしていた。
「沢山貰ってきたからね、冷蔵庫に入れて大事に食べなさい。」
「はーい。」
「…………。」
フェイトはそんなヴィアを見て、思わずこんな言葉を洩らした。

「ヴィアさんって……なんだか優しかった頃の母さんみたい。」


その数日後、フェイトの体はすっかりよくなり、無事ジュエルシード探索を再開できたそうな……。





おまけ、数日後の時の庭園にて……。
「げほげほげほ!!!」
ヴィアはマスクをして鼻水をすすりながらカプセルの前でキーボードを叩いていた。
そんな彼女の様子を見ていたプレシアは、呆れたように溜め息をついた。
「……あの子にうつされたのね。」
「あははは、面目な……くしゅん!!!(ポチッ) あ、変なトコ押しちゃった。」
「ちょ、ちょっと!? 装置から煙出ているけどアナタ何のボタン押しt

チュド―――――――――――――ン!!!!

その瞬間時の庭園に大きな爆発音が鳴り響き、ヴィアとプレシアは数日の間チリチリヘアーで過ごしたという……。










はい、爆発オチですいませんね。次回は今結果待ちの企業の連絡が来たらまたその内……。



[22867] りりじぇね! その2「アリサのメル友」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:f02fd322
Date: 2010/12/31 15:53
りりじぇね! その2「アリサのメル友」


7月のある日、なのはは友人であるアリサとすずかと共に昼休みの学校の屋上で談笑していた。
「そういえばなのは、この前フェイトからビデオレター来たんだよね?」
「今度見せてー、ついでにフェイトちゃんへお返事送ろうね。」
「うん! フェイトちゃんもきっと喜ぶよー。」
その時、なのはがいつも所有している携帯電話から着信音が鳴り響く。
「あれ? 誰からだろ……おお? シン君からだー。」
「シンって……確かフェイトちゃんの彼氏さんよね?」
「フェイトちゃんは顔真っ赤にして否定してるけどねー、どれどれ……。」
なのははメールに添付されていた写真を見る、そこには小鉢に植えられた一輪の花を手に持ったシンとマユが映し出されていた。
「おおー、これがシン君の妹さんかー。」
「カワイイ子だね、幼稚園ぐらいの子かな?」
「それにしてもこのシンって奴なんかバカっぽいわね、騙されやすそうな顔してるわ。」
「あ、アリサちゃん厳しいね……。」
アリサのストレートすぎる感想になのはは乾いた笑いがこみ上げてくる。その時すずかは何かを思い出したかのように手をぽんと叩いた。
「そうだ! 確かアリサちゃんも新しいメル友が出来たっ言ってたよね? ちょっとメールしてみたら?」
「え? そうなの? どんな人?」
「あそっか、確かあの頃なのはってリンディさんて人のところにいたから知らなかったのね、あれは確か……。」





それは約2ヵ月前、ちょうどなのはがフェイトやシンとジュエルシードの争奪戦に集中する為アースラに滞在していた時の事、アリサは両親の仕事の都合である実業家が開いたパーティーに出席するためスペインのあるホテルにやってきていた。

華やかな衣装を身にまとい、豪華な食事に舌鼓をうつパーティーの出席者、そんな中アリサは一人物陰で日本にいる友人達にメールを送っていた。
「“こっちは退屈でたまらないわ、早く日本に帰って遊びたいわ”……っと。」
メールを打ち終えて携帯電話をパタンと閉じ、そのまま辺りを見回したアリサは、深く溜め息をついた。
「はー……ホント退屈、なんでパパ私をこんな所に連れてきたのかしら? なんかテレビで見たことあるような人もいるし……。」

その時ふと、アリサの視界に自分と同い年ぐらいの金髪の女の子がキョロキョロと辺りを見回しながら何かを探している様子が映し出された。
(どうしたんだろうあの子……?)
気になったアリサは意を決して彼女に話しかけてみた。
「どうかしたの? 何か探しているの?」
「あ、あの……私のお人形が……。」
「お人形?」
女の子の言葉を受けて辺りを見回すアリサ、すると彼女はテーブルの下にドレスを着た女の子の人形が落ちているのを発見する。
「もしかして……これ?」
アリサはその人形を拾い上げて女の子に渡す。すると女の子は先程の沈んだ表情とは打って変わって花が咲いたかのようにぱあっと笑った。
「そうこれよこれ! ありがとう! 貴女って優しいのね!」
「それほどでもないわよ、私はアリサ・バニングス、あなたは?」
「私はルイス・ハレヴィ! よろしくね!」

数分後、すっかり仲良くなったアリサとルイスと名乗った女の子は親睦を深めるため互いの事を語り合っていた。
「へえ! じゃあアリサって日本で暮らしているんだ! 日本ってどんなところ!? 確かユニオン領だよね!」
「そーね……他の国と比べると治安が良くて食べ物が美味しいのがいいかな?」
「いいなー! 私も日本で暮らしたーい! いいよね日本! 将来私日本に留学したいなー!」
(なんだか押しが強いというか典型的なわがままお嬢様って感じね……。)
アリサはルイスに対してそんな印象を持っていた。
「あのね!私今日パパとママに頼んでパーティーに来たの! だって今日のパーティーはあの人が来るんだよ!」
「あの人?」

その時、辺りのパーティー出席者がざわめいた後、ある一点に視線を向けていた。
「? もうあの人が来たのかな……?」
「あれって確か……。」
皆の視線の先にはたくさんの黒服ガードマンに囲まれたアリサ達と同い年に見えるチャイナ服風のドレスにお団子ヘアーの少女が歩いてきた。
(あの子……確か革新連盟の有力者である王家の次期当主と目されている王家の長女の留美様よ。)
(あの若さでなんて貫禄だ、利発そうなお方だ。)
(確か王家には男児も居た筈だが? あの子が当主になるのか?)
出席者達はその少女を見ながらひそひそと内緒話を始める。
「アリサー、あの子って有名人なんだねー。」
「うん、私もパパからよく話を聞いて……あれ?」
その時、アリサの姿を確認した留美が彼女の元にスタスタと歩み寄ってきた。
「これはこれは……アリサ・バニングスさんではないですか、ごきげんよう。」
「え? 私の事知ってるの?」
「はい、貴女の父と私の父が知り合いでして……よくあなたのことも聞かされていますの、それでそちらの方は?」
「私? 私はルイス・ハレヴィです!」
「ルイスさんですか……よろしくお願いします。」
(この子ってなんか固ッ苦しい感じね……相当無理しているのかしら?)
アリサは留美とのやり取りで彼女に対して固い印象を受けていた。そして留美との挨拶もそこそこに、ルイスは時計を見て何やらソワソワしていた。
「それにしてもまだかなー、ママは今日のパーティーにあの人が歌いに来るって言っていたのに……。」
「あら? ルイスさんももしかしてそれがお目当てで? なかなか御目が高い。」
「あの人?さっきから何の話?」
アリサは二人が何を言っているか解らずに首を傾げる?」
「えー? まさかアリサ知らないの!? 今日のパーティーはあの世界的に有名な歌手! フィアッセ・クリステラさんが来るんだよ!」
「あのお方は平和のために数々の戦地に赴いてはその美声を披露しているのです、ああ、一度でいいからお話を……いえ、せめてサインだけでも頂きたい……!」
そういってルイスと留美はいつの間にか取り出していた色紙とペンを持って瞳を炎で燃やしていた。
「フィアッセさん? そっか二人ともあの人のファンなんだ。」

その時、タキシードを着た男がマイクを持ってパーティー会場のステージ上に立ってアナウンスを始めた。
『皆さんお待たせいたしました、只今よりフィアッセ・クリステラ様による歌の披露が御座います、どうぞ御静聴のほうをよろしくお願いします。』
そういってタキシードの男は舞台袖に移動し、代わりに白いドレスを身にまとった二本の触覚のような前髪が印象的な美しい女性が、予め立てられておいたマイクスタンドの前に立った。
「来るよ来るよ……! フィアッセさんの歌が!」
「しっ! 静かに!」
(そっか……そういうこと。)

そしてフィアッセは美しく透き通るような歌声でパーティー会場にいる人々を魅了していった。
(すごい……! かっこいい……!)
(フィアッセ様の生歌……! ああもう死んでもいいですわ……!)
(へー、まえより大分上達しているみたいねー。)


そして歌が終わると、フィアッセ・クリステラは頭をぺこりと下げて舞台袖のほうへ去って行った。
「あああ! 行っちゃう!」
「そんなー! またサインを貰いそびれてしまいましたわー!」
そういってタイミングを逃したルイスと留美は色紙を抱えて深く落ち込んだ。するとアリサはそんな二人の肩をぽんと叩いて慰めた。
「まあまあ二人とも、そんなに落ち込まなくても私が頼んであげるから……。」
「は?」
「貴女何言って……。」

その時会場の片隅でざわめきが起こる、その中心にいたには金髪ポニーテールのボディーガードを連れたフィアッセだった。
「アリサちゃーん、ひさしぶ……。」
その時、彼女の行く手を軍服を着た男が遮った。
「これはこれはフィアッセ・クリステラ様、どうです今夜はこの俺未来のAEUのエースパトリック・コーラサワーと過ごしませんか? いい酒出す店知っt


ドカッ!
バキッ!
ガコッ!
ゴキッ!
メコッ!


次の瞬間、フィアッセをナンパしようとした若き軍人風の男はボロ雑巾と化していた。
「エリス、やりすぎだよー。」
「は……。」
そういってポニーテールのボディーガードはボロ雑巾と化した男を担いでどこかに去って行った。それを確認したフィアッセは改めてアリサ達の下に駆け寄った。
「さてと……久しぶりねアリサちゃん!」
「ええ、フィアッセさんも相変わらず元気そうですね。」
「ちょ!? アリサ!?」
「も、もしかしてフィアッセ様とお知り合いですの!?」
憧れの人と親しく話すアリサを見て目を見開いて驚くルイスと留美。
「知り合いっていうか……友達だよー。」
「フィアッセさんわねー、昔日本に暮らしていてなのはのお店でアルバイトしていた事があるの、その時に知り合ってねー、私も最初はビックリしちゃった。」
「「えええええ!!?」」
アリサとフィアッセの意外な関係にまたも驚く二人。
「そういえば恭也や士郎さんや翠屋のみんなは元気?」
「ええ、士郎さんなんていっつも桃子さんといちゃいちゃしていますよー。」
「そーなんだー、相変わらずなんだねー……よかった。」
そしてアリサとフィアッセは呆気に取られているルイスと留美に昔の出来事を色々と話してあげた、フィアッセが小さい頃、ボディーガードであるなのはの父士郎がテロリストの爆弾から身を挺して彼女を守った事、日本に留学した際士郎の息子恭也に出会い恋に落ちるが、結局同じく彼に恋心を抱いていた忍に譲ってしまった事、今でも高町家とはメールのやり取りをしている事などを……。
「きっとパパもフィアッセさんが来るから私を連れてきたのね。」
「久々に会えて嬉しいよアリサちゃん、なのはちゃんとは仲良くやってる?」
「ええ、この前ちょっとケンカしちゃいましたけど……あの子なんか隠し事しているみたいなんですよねー。」
和気藹々と会話するアリサとフィアッセを見て、ルイスと留美はただただ呆然としていた。
「そうだ! フィアッセさん、この二人フィアッセさんのファンなんだけどよかったらサイン書いてくれません?」
「うん、いいよー、何に書けばいいのかな?」
「じゃじゃじゃ! これに書いてください!」
「わわわわわ私もお願いします!」
そういってルイスと留美は半ば興奮気味にフィアッセに色紙を渡す。
「はいはいっと……これでいいかな?」
フィアッセはキュキュキュと二枚の色紙にサインを書いてルイス達に渡す。そしてその光景を見守っていたアリサは彼女達にある提案をする。
「ねえねえ、ついでだからメールアドレス交換してくれません? 折角知り合ったんですし。」
「私は別に構わないよー。」
アリサの提案にフィアッセはあっさりと頷く、対してルイスと留美は……。
「え!? ホントにいいの!? やたー!」
「そそそそそそそんな恐れ多い! ででででも折角なので……!」
鼻息を荒くして自分達の携帯電話を差し出した。
「よしっと……これでいいかな?」
「それじゃ私はこれで……また連絡頂戴ねー。」
ルイスと留美とのアドレス交換を終えたフィアッセはそのまま次の仕事のためパーティー会場から去って行った。
「忙しいのねフィアッセさん……。」
「やたー♪ フィアッセさんとメル友になるなんて夢みたいー♪」
「アリサさんありがとうございます! まさかフィアッセさんとあそこまで親しくなれるなんて……夢みたいですわ! このご恩は一生忘れません!」
「あはは、大げさよー。」
そしてアリサは今度は自分の携帯電話をルイスと留美に差し出した。
「ねえ、今度は私とメルアド交換しない? 私もあなた達ともっと仲良くなりたいんだー。」
「いいよ! もっと日本の話聞きたいし!」
「私も構いませんわ。」
こうしてアリサもルイスと留美のメルアドを交換してもらい、三人は国境を越えた友人同士となったのだった……。





「へえ、じゃあそのメル友さんも凄いお金持ちなんだー。」
アリサからルイスと留美の話を聞いたなのはとすずかは彼女の交友関係の特殊さに驚いていた。
「そーだ、折角だし二人もルイスと留美に紹介しよっと、ちょっと写真撮るからそこに並びなさい。」
「うん! いいよー。」
「折角だし私達にもルイスちゃんたちのアドレス教えてね。」





それから数分後、スペインのとある豪邸、そこでルイスは自分の部屋ですうすうと寝息をたてて眠っていた。
「んにゅう……?」
そして彼女は自分の携帯電話が振動する音で目を覚ました。
「誰……?まだ朝の六時じゃない……あ!アリサからのメールだ!」


一方その頃、中国大陸にあるとある豪邸、そこで留美はテラスで午後のお茶を楽しんでいた。
「はぁ……フィアッセ様やアリサは元気にしてるのかしら……。」
その時、留美の手元に置いてあった携帯電話が振動し、彼女はそれを手に取る。
「まあ! うわさをすればアリサからだわ! どれどれ……。」



アリサが二人に送ったメールには、なのはとすずかが写った写真が添付されていた。
そしてメールには“いつか再会して皆一緒に遊びましょうね。”というアリサのメッセージも添えられていた……。










本日はここまで、第97管理外世界を“そういった設定”にするかどうかはこの作品の投下を始める前から考えてはいたのですが、それを本当に実行していいのかどうか判断できず今まで複線が張れないでいました、まあ結局当初の予定通りに行こうと決めましたが。

というわけで第97管理外世界は現在西暦2300年、ルイスや留美はなのは達の一個上になります、彼女達は後々重要な役割を担いさせますのでお楽しみに

年が明けたらもう一本短編を投下する予定です。では皆様よいお年を



[22867] りりじぇね! その3「ちょこっと!Vivid!  ~ヴィヴィオの家出~」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:f02fd322
Date: 2011/01/03 22:26
 りりじぇね! その3「ちょこっと!Vivid!  ~ヴィヴィオの家出~」


※この短編は現在展開中の本編から14年経った後のお話です、今後の話の展開のネタバレもちょこっと含まれているので注意してください。















新暦79年、なんやかんやあってシンとフェイトは様々な困難を乗り越えて結ばれ、子供も生まれて海鳴の翠屋の隣に花屋を開業して幸せに暮らしていた。
「ただいまー。」
「お帰りー、今日も沢山仕入れてきたねー。」
「うん、店に並べるから手伝ってくれよ。」
そう言ってバンダナにエプロン姿のシンはトラックから先程仕入れてきた沢山の花を自分と同じような格好のフェイトと共に店に並べていった。
「いやー、今日もいい天気だよなー、ホント海鳴は平和だー。」
「そうだね、何年か前までは外国で大変な事になっていたけど……。」
「まあな……。」
そう言ってシンは手に持ったアロエの花を見つめながら何やら考え事を始める、すると彼の様子を察したフェイトが後ろから抱き締めてきた。
「シン……やっぱりみんなと戦いたいの?」
「うん、少しね……でもそういうわけにもいかないだろう、それじゃ何のために皆が俺達を戦いから遠ざけてくれたのか解らないから。」
そしてシンはフェイトの方を向き、彼女を正面から強く抱き締めた。
「世界を守るのは皆に任せるよ、俺は……フェイトとあの子達を守る。」
「シン……。」
シンとフェイトは互いに抱き合いながら見つめあう、そしてゆっくりと互いの唇を近づけ……。
「おかーさん、ただいまー。」
「まーたアンタ達イチャイチャしてたのかい?」
「うおおおおおおおお!!!?」
「ひにゃああああああ!!!?」
するとそこに金髪に赤い目をした三歳ぐらいの少年と、アルフ(ようじょフォーム)が公園から帰ってきた。
「あ、二人ともおかえりー! いやー花の手入れは大変ダー。」
「私お昼ご飯つくるねー!」
シンとフェイトは必死にごまかそうと先程まで作業をしていたフリをする。
「はっはっは、毎度毎度飽きないねアンタ達―。」
その時、金髪の少年はその場を凍りつかせる信じられない言葉を発する。
「おとーさんとおかーさんまたプロレスごっこしてたの? 今お昼なのに……。」
「「「ッッッ!?」」」


数分後、シンとフェイトは少年にお昼ご飯の食パンを食べさせながら深く落ち込んでいた。そんな二人をアルフは苦笑いしながら見つめている。
「まさか昨晩のアレを見られていたとは……消えたい……。」
「ううう、今度からラウが寝てないかもっとちゃんと確認しないとね……。」
「ラウ、二人がプロレスごっこしてた事は誰にも言いふらすんじゃないよ、自分の胸の中にしまっておくんだ。」
「うん、わかったー、ふたりがばーりとぅーどやっていたのだまってるー。」
そう言ってラウという名の少年は焼いてあるパンに自分でジャムを塗っていた。
「……ラウももう三歳なんだねー、月日が経つのって早いもんだ。」
「来年は幼稚園だもんね、今のうちにどこがいいか調べないと……。」
シンとフェイトは自分達の大切な一人息子であるラウの成長を喜びながら彼を優しく見守っていた。
「一杯食べて早く大きくなれよー。」
「でも食べ過ぎてお腹壊しちゃだめよ。」
「? どっち?」
「好き嫌いするなってことさ。」
その時、彼等の背後に置いてあったベビーベッドから赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。
「ふええええええん!! ふええええええん!」
「あらあら、ホリィもお腹空いたんだね。」
「んじゃ俺哺乳瓶持ってくるよ。」
フェイトはベビーベッドからホリィという名前の黒髪の女の赤ん坊を抱き上げる。
「おーよしよし、もうちょっと待っててねー。」
「ほーれホリィー、ミルクだぞー。」
シンは台所から持ってきたミルクの入った哺乳瓶をフェイトに渡しホリィに飲ませる。するとホリィは哺乳瓶の先端にむしゃぶりつき、ピタリと泣き止んだ。
「んく、んく……。」
「おーおー、いい飲みっぷりだ。」
「ふふふ、元気一杯だね……。」
「三年前まではラウもあのベビーベッドを使っていたんだよ。」
「そーなの? 全然覚えてないよー。」
そういいながらラウは妹のホリィのほっぺをプニプニとつついた。

「ごめんくださーい、シン君いますー?」
するとそこに店先のほうからシンを呼ぶ声が響いてきた。
「あの声……美由希さんだな。」
「どうしたんだろ?」
シンとフェイトは不思議に思いながら売り場にやってくる、するとそこには翠屋のエプロンをつけたなのはの姉、美由希と……。
「あれ!? ヴィヴィオ!?」
「お前!? なんでここに!?」
「フェイトママ……シンパパ……。」
ミッドチルダでなのは達と共に暮らしている筈のヴィヴィオがリュックサックを背負って立っていた。
「いやー、それが大変な事になっちゃっててねー。」
「私……家出してきたの。」
「「家出~!!?」」


それから数分後、美由希とヴィヴィオを家の中に招き入れたシンとフェイトは彼女達から事情を聞いていた。
「そっか……じゃあヴィヴィオ、なのは達とケンカしちゃったんだ。」
「うん……。」
出されたお茶をずずずと啜りながらヴィヴィオは元気なく下を向いていた。
「学校のテストで悪い点取っちゃって……それを隠していたらママ達に見つかっちゃって……それで言い争いになってそのまま……。」
「それで次元航行船に乗って海鳴まで? いくらなんでも無茶苦茶だぞ。この世界の連邦政府がコズミックイラ政府と連合条約を結んだのはつい最近だっていうのに……。」
「だってティアナやスバルやエリオやキャロ達はお仕事で忙しいし、八神家の皆はお仕事でドモンさん達のところに行っているし、チンク達の所や聖王教会だとすぐに連れ戻されるだろうし……。」
「なるほど、それで私達のところに来たのね。」
話を一通り聞いたところで、シンとフェイトははぁっとため息をつく。
「一応母さんがなのはの所に連絡を入れておいたから、明日には向かえに来ると思うよ。」
「それじゃ今日はどこかに泊めてあげないと……しょうがない、今日はうちに泊まっていくか?」
「はい……お願いします……。」

こうしてヴィヴィオはなのは達が迎えに来る明日まで、シン達の家に泊まる事になった。





とある学校の校庭、そこに肩にオコジョを乗せた赤髪眼鏡っ子女子中学生が、人間の骨のような模様がプリントされた黒タイツの戦闘員に取り囲まれていた。
「くっくっく……追い詰めたぞ魔法ライダー! 今日でお前も年貢の納め時だ!」
「「「「「イー!!!」」」」」
「やっべえぞ姉御! コイツは罠だったんだ!」
オコジョはおろおろした様子で眼鏡っ子に言葉をかける、すると眼鏡っ子はにやりと口元を吊り上げて笑った。
「大体わかった……つまりいつもどおり変身してコイツ等をぶっ飛ばせばいいってわけね!」
「ああ! 大体いつもどおりだ!」
「おにょれ~! そうやすやすといつもどおりやられてたまるか! お前達! やれー!」
頭に一本角を生やした隊長格の男が部下達に指示を送る、対して眼鏡っ子は腰にベルトを巻きつけ、へその部分にあるバックルに“魔”とかかれたカードを装填する。
「魔法変身!」
[チェンジ ハリセンフォーム]
すると眼鏡っ子は光に包まれ、フリフリしつつも動きやすそうなマゼンタのドレスに身を包み、手には自分の身長よりも大きいハリセンが握られていた。
「魔法ライダーツカサ! さあ……お婆ちゃんの名に懸けてあなた達を倒します!」
そう言って眼鏡っ子はハリセンを振り回し、戦闘員達を次々と吹き飛ばしお星様にしていく。
「今日こそ決着をつけるわ! 諸悪の根源闇魔法評議会! おんどりゃああああ!!!!」





「……ラウ君、何見てるの?」
ヴィヴィオはテレビに映る夜七時に放送されているアニメをかじりつくように見ているラウに声をかける。
「おねーちゃん、このアニメ知らないの?」
「うん、ミッドではやってないよ。」
「これはねー、“魔法ライダーツカサ!”って言ってねー、普段は中学生の女の子が行方不明のおかーさんを探すため魔法ライダーに変身して数々の次元世界の征服をたくらむ悪の組織と戦うって話なんだよー、面白いよー。」
「そ、そうなんだ……。」
「でねでね、魔法ライダーは31種類のフォームに変身できるんだよー、さっきのハリセンフォームでしょ? くのいちフォームでしょ? ジャーナリストフォームでしょ? 漫画家フォームでしょ? 吸血鬼フォームでしょー!」
「す、すごいねー。」
目の前のヒーローを熱く語るラウの気迫にヴィヴィオは少々気圧されていた。
するとそこに閉店作業を終えたシンが二人の下にやって来た。
「こらラウ、おもちゃを散らかしちゃダメじゃないか、ちゃんと片付けるんだぞ。」
「はーい。」
そう言ってラウは先程テレビに映っていたヒーローのソフビ人形をおもちゃ箱に入れていく。
「よしよし、良く出来たぞ、いい子だ。」
「えへへー。」
言う事をちゃんと守りおもちゃを片付けたラウの頭をシンは優しく撫でてあげた。
「…………。」
ふと、シンはヴィヴィオが寂しそうな目でこちらを見ていることに気付き、彼女に話しかける。
「……? どうしたヴィヴィオ?」
「う、ううん、なんでもないよシンパパ。」
「たーうー。」
するとそこに今度はおしゃぶりを銜えたホリィがハイハイしながらヴィヴィオ達の下に近付いてきた。
「あああ! ダメだよホリィ! これからお風呂に入るんだから!」
すると今度は体にバスタオルを巻いただけの姿のフェイトが駆け寄ってきた。
「だー。」
「もう、逃げちゃダメだよ。」
そして息も切れ切れにホリィの首根っこを掴み上げて捕らえる、その様子をシンは苦笑いしながら見つめていた。
「はははは、ホリィも元気一杯だ、そうだ、ついでだからヴィヴィオも一緒に入ったらどうだ?」
「えっと……じゃあお言葉に甘えて……。」


それから数分後、ヴィヴィオはフェイトとアルフとホリィと共に浴室で湯船のお湯に浸かっていた。勿論裸で。
「ヴィヴィオと一緒に入るのって久しぶりだね、前よりちょっと大きくなったんじゃない?」
「そうかなー? 自分じゃ全然解らないけど……。」
「だぁー。」
「ほれほれ、こうやってネジを回すと……ほーら泳いだー。」
フェイトとヴィヴィオが世間話をしている間、ホリィはアルフと共に湯船の上に浮かぶアヒルのおもちゃと戯れていた。
「…………。」ブクブクブク……
「? どうしたのヴィヴィオ? 湯船に顔なんて沈めちゃって……。」
ふと、フェイトはヴィヴィオの様子がおかしい事に気付き、彼女に話しかける。
「……フェイトママ、私……なのはママに嫌われちゃったのかな?」
ヴィヴィオは胸の内に溜まったものを吐き出すかのように思い切ってフェイトに自分の悩みを打ち明けた、それは……ケンカをしたなのはのことだった。
「どうして? なのはがヴィヴィオの事キライになるはずないよ。」
「でも……私悪い点のテスト隠して、あまつさえケンカしちゃって、挙句には家出しちゃったんだよ? 嫌われちゃったに決まってるよ……。」
「……。」
「ちゃー。」
フェイトは何も言わず、ホリィはアルフに任せてヴィヴィオの話を聞いていた。
「ホントはね……私が全部悪いの、ママ私に『子供だからまだ早い』ってデバイスもくれないし、実は学校でも友達とケンカしてちょっとイライラしていて……それで怒られた時にカッとなって言い争いになった時つい言っちゃったの、『本当のママじゃないくせに偉そうなこと言わないで!』って、そしたらママ……泣き出しちゃって……。」
「あらら……。」
「それで……ママの泣き顔みたら私も悲しくなっちゃって……その場に居辛くなって家を飛び出しちゃったの……。」
一部始終を話し終えたヴィヴィオはいつの間にか嗚咽交じりに泣いていた。
「どうしよぉ、私ママに酷い事言っちゃったよぉ……もう私ママの子じゃ無くなっちゃったよぉ……。」
「……はぁ、しょうがないね。」
するとフェイトは泣きじゃくるヴィヴォオをそっと優しく抱き締めた。
「フェイトママ……?」
フェイトの豊満な胸(子共産んだ事により普段よりさらに増量)に顔を半分埋めたヴィヴィオは涙目でフェイトを見上げる。
「なのはがヴィヴィオのこと嫌いになるはずないよ、だってなのははヴィヴィオの事大好きなんだよ。」
「でも……私……。」
「それにね、ヴィヴィオは知らないかもしれないけど……昔ヴィヴィオがスカリエッティに攫われた時、なのは自分を責めて私の前で泣いちゃったことがあるんだ、それだけ……ヴィヴィオのこと大切に思っているんだよ。もちろん私も、シンも、それに他のみんなもヴィヴィオを助けるために必死に戦ったんだよ。」
「そうなのかな……?」
「絶対そうだよ、家族の絆は血が繋がっているかどうかだけじゃない、そんな簡単に壊れるものじゃないんだよ、私はそんな人達と沢山出会ってきたから解る。」
「うん……。」
「私も謝るの手伝ってあげるから、ね?」
そしてヴィヴィオはフェイトの背中に手を回しぎゅっと彼女を抱き締めた。
「ありがとう、フェイトママ……。」


その頃シンは携帯電話で電話をかけていた。相手はなのはの旦那さんである。
『それじゃヴィヴィオはそっちで元気にしているんだね?』
「ああ、今フェイトと風呂に入ってる、しっかしまあ大変だったなあ。」
『うん、僕はその時仕事で家にいなくて……帰ったらヴィヴィオがいないしなのはには泣き付かれるしもうてんやわんやだったよ。』
「まったく……しっかりしてくれよ、お父さん。」
『はは……君には敵わないなあ、でも懐かしいね、ケンカといえば僕等が機動六課にいた頃、君もフェイトもヴィヴィオの教育方針を巡って大喧嘩したよねー。』
「ううっ!? そんな昔の話蒸し返さないでくれよ……。」
『でもそれから十ヶ月ぐらいだっけ……ラウ君が生まれたの、いやーヴィヴィオはまさにコウノトリさんだよね。』
「すみませんマジ勘弁してください。」
『ふふふ、じゃあ明日、なのはと一緒に迎えに行くから。』
「ああ……桃子さん達と一緒に待っているよ。」


その日の夜、夕飯を終えて就寝時間を迎えたアスカ一家はヴィヴィオと共に川の字で寝ようとしていた、ちなみに左からフェイト、ホリィ、アルフ、ヴィヴィオ、ラウ、シンの順番である。
「ヴィヴィオと一緒に寝るの久しぶりだね。」
「だねー、機動六課にいたとき以来かなー。」
「たーうー。」
「ほらほら、ホリィももう寝ような。」
その時、ラウは隣いるヴィヴィオの目がちょっと腫れている事に気付いた。
「……? ヴィヴィオおねーちゃんどうしたの? 泣いたの?」
「う、うん……お風呂場でちょっと……。」
「そうなんだ……おーよしよし。」
そう言ってラウは自分がいつもシンやフェイトにされているようにヴィヴィオの頭を優しく撫でてあげた。
「もう泣くのはおよし、僕が守ってあげるからねー。」
「あ、ありがとうラウ君……。」
頭を撫でられたヴィヴィオの顔は心なしか赤くなっていた。
「さっそく六つ上の子とフラグ立てているねぇ、さすがシンの子だ。」
「おいおい人をプレイボーイみたいに言うな、俺は昔からフェイト一筋だ。」
「それに気付くまで随分と時間かけたよね……それまで私がどんな思いをしてどれだけの女の子を泣かせたと思ってるの?」ゴゴゴゴ
「お母さんなんかこわーい。」
「ふえーん!」

そんなこんなでアスカ一家+ヴィヴィオの夜は更けていった……。



次の日の朝、アスカ家の花屋の前に一台の車が止まり、その助手席からなのはが飛び出してきた。
「し、シン君いるー!? ごめんくださーい!」ドンドンドンドン
「落ち着け! 近所迷惑だろうが!」
シャッターをドンドン叩くなのはを店の方から出てきたシンが諌める。
「しししシン君! ヴィヴィオはどこ! ヴィヴィオは!?」ブンブンブン
なのははシンの姿を見るや否や彼の首根っこを掴み縦にブンブンと揺らした。
「あばばばば! お、落ち着けー!」
シンはいい具合に頭の中の脳みそがシェイクされて気を失いそうになるが、ぎりぎりのところで留まっていた。
「ヴィヴィオならこっちだよ、なのは。」
するとシンの後ろからホリィを抱いたフェイトがやってくる、そして彼女の背後には……ヴィヴィオが顔をのぞかせていた。
「ヴィ、ヴィヴィオ……。」
「ママ……。」
ヴィヴィオはモジモジしながらなのはの前に立つ、彼女の目には沢山の涙が溢れていた。
「ママ……ごめんなさい、酷い事言っちゃって……ヴィヴィオ、ママのこと大好きだよ!」
そしてそのままヴィヴィオはなのはに抱きついた、対してなのはもヴィヴィオをギュッと抱き締めてあげた。
「いいの、もういいのヴィヴィオ、私は怒ってないよ、ごめんね……私も言いすぎたよね……。」
「ママ! うわーん!」

そんな二人の様子をシンやフェイト、そして後から来たアルフやラウは暖かく見守っていた。
「ヴィヴィオおねーちゃん仲直りできたんだね!よかったー。」
「そうだね、よかったよかった……。」
すると車の中から今度はなのはの旦那さん、つまりヴィヴィオの父親が出てきてシンの元に近づいてくる。
「ありがとう……ごめんね、ヴィヴィオを預かってもらって。」
「別にいいんですよ、それよりアンタも二人の下に行ってあげたらどうです?」
「うん、そうさせてもらうよ。」
そしてなのはの旦那さんも、大泣きしている二人の下に向かっていきそのまま抱き締めてあげた。
「……あの2人も親らしくなったなぁ。」
「そうだね、なのは達ならこの先どんな困難でも乗り越えられるよ、勿論……私達もね。」
そう言ってフェイトはシンと額同士をコツンとくっつけて互いの絆の再確認の儀式のようなものを行った。

するとそこに翠屋のほうから士郎、桃子、美由希がエプロン姿で現れる。
「どうやらちゃんと仲直りできたみたいだね。」
「それじゃ仲直りの印に……みんなで焼きたてのケーキを食べましょうか。」
「シン君たちもどう? 沢山作ったんだよー。」
「それじゃお言葉に甘えて……。」
「わーいケーキだー! ヴィヴィオおねーちゃん早くいこー!」
「う……うん。」
そう言ってラウは涙を拭ってるヴィヴィオの手を取り翠屋に入っていった。
「それじゃ……俺達も行きますか、久しぶりに色々話を聞きたいし……。」
「そうだね、それじゃ行こうか。」
そして二人の親達もまた、思い出が沢山詰まっている翠屋に入っていくのだった……。










本日はここまで、正月帰省中に家族の顔を見て思いついて書いたネタです。原作Vivid第一話のちょっと前くらいの話になるでしょうか。
なのはの旦那さんは一応まだ秘密です、大体察知している人もいるでしょうが……。




[22867] Lyrical GENERATION STARGAZER プロローグ「霙空の星」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:db7e3223
Date: 2011/01/20 20:32
※Lyrical GENERATION 1st の続編です。基本的なルールは前作と変わりません。
それではプロローグからどうぞ。





プロローグ「霙空の星」


海鳴市で暮らす八神はやてはその日、図書館で何冊か本を借りた後に車いすに乗って帰宅しようとしていた。
「うーん……借り過ぎてしもうたかな、ちょっと重いなぁ……。」
膝に乗せている何冊もの本の重みに耐えながらはやては車いすを押す、そして彼女は海沿いにある遊歩道に通りかかっていた。
「もう五月なんやな……まだ海では泳げへんか。」
そう言ってなんとなくはやては海のほうを見る、そして……ある異変に気付いた。
「あれ……? なにしているんやあの人……?」
彼女の視線の先には、波打ち際でぐったりとしている黒いシャツに迷彩柄のズボン、そして銀髪を坊主刈りにした12、3歳ぐらい少年がいた。
「ま、まさか溺れて……!? こらアカン!」
はやてはすぐさま彼のもとへ自分が乗っている車いすを動かし、意識があるかの確認の為声をかける。
「(外人さんかな?)どないしたんやあんさん! 大丈夫かいな!?」
「…………。」
少年は返事を返さなかった、よく見ると彼の体にはいたるところに血痕が付着していた。
「うわわ!? 早く救急車よばへんと……!」
少年の命の危機を察知したはやてはすぐさま携帯電話で救急車を呼んだ……。




数分後、はやては救急車に乗せられた少年に付き添い、自分が通っている海鳴大学病院にやって来ていた、そして彼が眠る病室で知り合いの石田医師から彼の容体について聞いていた。
「石田先生……あの人どうなったんですか?」
「安心して、命に別条はないみたい……はやてちゃんが見つけてなかったら大変なことになっていたわね。」
「そうですか、よかった……。」
ほっと胸を撫で下ろすはやて、その時……ベッドに横たわっていた少年が目を覚ました。
「う……ううう……?」
「あ、目を覚ましたのね。」
「大丈夫ですか……?」
少年は目を覚ましてはやてと石田の姿を見ると、首を傾げて彼女たちに質問する。
「あんた達は一体……ここはどこだ……?」
「ここは海鳴大学病院、君……海辺で倒れていたんだって、はやてちゃんに感謝しなさいよ、彼女が救急車呼んでくれたんだから。」
「はやて……?」
少年は自分の傍らにいる車いすの少女を見つめる。
「海で倒れていた……? それは本当なのか?」
「え、ええ……そうですけど。」
「君、自分の名前はわかる? ご両親に連絡しないと……。」
すると少年は頭を抱えて必死に何かを思い出そうとする、そして……汗を垂らしながら石田に向かって答えた。
「俺の名前はスウェン・カル・バヤン……だと思う、家族はわからない……。」










それは、星の海を掛ける“白い悪魔”と呼ばれる機械人形が世界を平和へ導く戦士として君臨するいくつもの物語と、数多なる世界を駆け秩序を管理する魔導師達の世界が、一つの物語として融合していく物語。


少女は願いました、今ここにある幸せが、いつまでも続いてほしいと。

騎士たちは願いました、自分たちに温もりをくれた少女が、いつまでもいつまでも幸せになってくれることを。

魔導書は願いました、いつか……自分も少女や騎士達と一緒に、幸せな時を過ごすことを。



少年は願いました……彼女達の切なる願いを叶える為の力を得ることを。



君たちに聞かせてあげよう……二番目の物語は、やがて黒き機械人形を駆る少年が、心優しい少女たちと出会い、幼い頃失ってしまった宝物を取り戻す物語。





“Lyrical GENERATION STARGAZER” 始まります。










本日はここまで、次回はヴォルケンズ登場までの話を描く予定です。
ストライクノワールはガンダムの中でもトップクラスに入るほどのカッコよさ、異論は認めない。
なんでエクストリームVSやガンダム無双3に出ないんだ……あと第二次Zも……。



[22867] 序章1「新しい生活」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:db7e3223
Date: 2011/01/23 19:47
序章1「新しい生活」


はやてがスウェンと出会った数日後、彼女は彼を自分の家に招き入れていた。
「ここが私の家や、二階に空き部屋があるから好きに使ってええよ」
「ああ、すまない……」
スウェン・カル・バヤンは自分の名前以外の記憶を失っていた、故郷のことも、家族のことも、自分自身のことも……。
一応石田医師が警察に彼の身元の割り出しを頼んでいるのだが成果は上げられず、スウェンの帰るところは見つかることはなかった。
「それなら私のうちに来ます? 記憶が戻るか家の人が見つかるまで居てもええですよ」
そんなスウェンの状態を見かねて、はやては彼を自分の家に招き入れたのだ。怪我が治っているうえに無一文なのにいつまでも病院に世話になる訳にもいかない、そう考えたスウェンは石田医師の勧めもあり彼女の申し出を受け入れた。

(こんな得体のしれない奴を簡単に受け入れるとはな)
そんなことを考えながら、スウェンは空き部屋にポツンと置かれていたベッドに寝転がった。
一体自分は何者なのか? なぜ海辺で倒れていたのか? そんな考えがスウェンの頭を駆け巡っていた。
「スウェンさーん、ちょっとええか?」
するとそこにメジャーを持ったはやてがスウェンのいる部屋に入ってきた。
「どうかしたか?」
「スウェンさん服それしか持ってへんやろ? これから着替え買いに行くからちょっと測らせてー」
「いや、そこまでしなくても……」
「ええんよ、それ一着じゃ今後いろいろと不便やろ? ほら腕をあげて」
「……」
スウェンは言われるがまま両腕を上げ、はやてに自分のスリーサイズを測らせる。
「うわっ、スウェンさんってがっちりしとるなー、なんかスポーツでもやってたんかいな?」
「さあ……思い出せん」
そしてはやては測り終えると、車いすに座りなおして部屋を出ようとする。
「それじゃ私、買い物に行って……あれ?」
ふと、はやては車いすの車輪を壁にひっかけてしまう。
「ちょ、ちょっと待ってえな……んしょ、おいしょ……」
「……」
脱出に悪戦苦闘するはやて、その姿をみたスウェンはすっと彼女の車椅子に手をかけた。
「スウェンさん?」
「スウェンでいい、買い物に行くんだったな、俺も一緒に行こう……自分の服は自分で選ぶ」
「ふふふ……それもそうやな」



数時間後、買い物を終えて帰宅したはやては、買ってきた食材で夕飯の支度を始める。
「それじゃスウェンは待っててえな、今支度するから……」
「ああ」
夕飯の準備ははやてに任せ、スウェンは居間に置いてあるテレビのスィッチを点ける、そしてテレビに映る画面をぼーっと見ながら、先日石田医師に言われたある言葉を思い出していた。

『はやてちゃんはね……幼いころ両親が亡くなって、今は父親の友人のグレアムさんって人からの援助を受けながら一人で暮らしているのよ』

(あの齢で一人暮らしか……)
自分より少し年下であるはやての普通じゃない身の上を知って、スウェンは半ば複雑な思いをしていた。

『だからこんなことあなたに頼むのもおかしいかもしれないけど……しばらく彼女と一緒にいてほしいのよ、ほんとはあの子も誰かに甘えたい年頃だろうし……』

(俺にそんな役が務まるのか? 自分のことすらわからないのに……)

『私の勘じゃあなたは悪い人じゃなさそうだしね、でもはやてちゃんに変な事したら……後はわかるな?』
(…………。)
その時の石田医師の周りには、なぜかゴゴゴゴゴという威圧感たっぷりの効果音が鳴っていた。

(まあ記憶が戻るまでの辛抱か……)

「スウェン、ごはんできたでー」
するとスウェンのもとに二人分の食事を乗せたトレイを持ったはやてがやってくる。
「ああ、ありがとうはやて」
「冷めないうちに食べよかー、スウェンに合うかなー?」



それからスウェンははやてと共に、心穏やかな生活を毎日満喫していた。二人の間には初めて出会ったときのタドタドしさは無くなり、何年も前から一緒にいる家族のような関係になっていた。


そして6月3日、二人が出会ってから10日程経った頃に事件は起こった。

その日、スウェンはケーキが美味しいと巷で噂の喫茶店に一人で向かっていた。
「ここか……喫茶店翠屋というのは」
一言つぶやいた後スウェンは店の扉を開く、するとカウンターにいた店のマスターとその妻らしき女性がスウェンに気付いた。
「いらっしゃいませー」
「すみません、バースデーケーキが欲しいんですけど……後ロウソクも」
「はいはいちょっとお待ちを……ロウソクは何本にします?」
「9本で……」
スウェンは以前、石田医師から6月3日がはやての誕生日だということを教わっており、世話になっている礼の意味も込めてバースデーケーキを買いにきたのだ。
そしてマスターがバースデーケーキを用意している間、その妻らしき女性がスウェンに声を掛けてきた。
「弟さんか妹さんのお誕生日ですか? 9歳ってことはうちの一番下の娘と同い年なんですよー」
「妹……確かにそんな感じですね」
それ以外にどう見えるんだろう? 恋人か? まあどうでもいいかとかスウェンが考えているうちに、可愛くラッピングされたバースデーケーキが彼に手渡された。
「はい、3150円になります」
「じゃあこれ……ありがとうございました」
スウェンはお金を払って一礼し、そのまま翠屋を出て八神家に帰っていった……。


「……あの子、ずいぶんと鋭い空気を纏っていたな、軍人か?」
「やだ貴方ったら、そんなわけないでしょう……それよりもうすぐなのはが帰ってくる時間だし、お昼ごはんの準備をしましょう」


その日の夕方、スウェンは先程翠屋で買ったケーキを冷蔵庫に入れる。
「スウェン、さっきのケーキはもしかして……」
「ああ、バースデーケーキだ、はやての誕生日は明日だろう?」
「ありがとう……明日は御馳走作ったるでー」
そう言ってはやては鼻息をふんと鳴らして夕飯の支度を始めた……。


数時間後、スウェンは自室のベッドで寝転がりながらはやてから借りたファンタジーものの本を読み耽っていた。
「ふむ……まあこれも面白くはあるが……それだけだな」
スウェンは本をポンと放り出すと、天井を仰ぎながら考え事を始めた。
(一体俺は何者なんだ? なんであんな所で倒れていたんだ? わからん……)
そうしてグルグルと頭の中で考え事をしていたスウェンは、ふと部屋に掛けている時計の針がもうすぐ夜中の12時を指そうとしている事に気付く。
「もうこんな時間か、もう寝るか……」


ドクンッ


「!?」
その時スウェンは自分の胸で何かが蠢くのを感じ、ベッドから起き上がった。
「なんだ今の感じは……!? はやて!」
イヤな予感がしたスウェンは考えるより早くはやての部屋に向かった。

「はやて! ……?」
そしてはやての部屋に駆け込んだスウェンが見たものは、ベッドの上で困惑しているはやてと、彼女に向かって跪いている黒い衣服を見に纏った妙な四人の男女の姿だった。
(なんだこいつら? 強盗か?)
その時、四人の男女のうちの一人……ピンク色の髪をポニーテールで纏めた女性がスウェンの存在に気付く。
「むっ……!? 貴様何者だ? 主の関係者か?」
「主……? お前らこそ何者だ? 強盗か何かか?」
スウェンはとっさに鉛筆をポケットに忍ばせながらいつでも戦えるよう構える、その姿を見て女性や後ろにいた金髪の女性と犬耳を付けた男性は心の中で感心していた。
(ほう、この少年中々できる……)
(油断しちゃ駄目よ、あの子隙を見て私達に攻撃を仕掛けるつもりよ……)

部屋に立ちこめる緊張感、その時……四人組の最後の一人、赤い髪を二本の三つ編みで纏めた少女がはやてのベッドの上に乗って話しかけてきた。
「おい……こいつ気絶してるぞ」
「「「「は?」」」」
見るとはやては突然現れた四人組に驚いたのか、目を回して気絶していた。
「はやて!!?」
スウェンはすぐさまはやてに駆け寄り、彼女に意識があるかどうか確認する。
「いかんな……すぐに病院に連れていかないと」
「お、おい……」
「話なら後にしろ!」
そう言ってスウェンは気絶しているはやてを抱えて部屋を出て行った。四人組はとりあえず放置して……。
「……なあどうする?」
「とりあえず私達も付いて行ったほうがいいかな……?」



それから一時間後、スウェンとはやて、そしてあの四人組は海鳴大学病院の病室にいた。
「よかったわはやてちゃん……なんともなくて」
「すみません、ご迷惑をおかけしました」
スウェンはお礼の意を込めて石田医師に深く頭を下げる。
「ううんいいのよ……それよりあの人達は? 6月とはいえあんな格好で……」
石田医師の視線の先には、先程突然現れた背格好に関してはバラエティー豊かな四人の男女が立っていた。
「俺にもよく……」
「ああ、あの子達ですか? 実は私の外国に住んでいる親戚で……私の誕生日の為にサプライズで来てくれはったんですよ」
はやてのとっさの説明に石田医師とスウェンは首を傾げる。
(親戚……? そんな話聞いた事がないが……)
「そうなの? そこのアナタ?」
石田医師は確認の為ピンクのポニーテールの女性に話しかける、すると女性は真顔で
「はい、その通りです」
と答えた。


次の日、特に異常は見られなかったのですぐに退院したはやては、早速連れ帰った四人から事情を聞く。
「闇の書の主? 私が?」
「はい、闇の書の完成……それが我らヴォルケンリッターに課せられた使命なのです」
そう言って四人組のリーダー格、ピンクのポニーテールの女性……シグナムははやてに向かって跪いた。彼女の話でははやては“闇の書”と呼ばれる魔導書の主に選ばれ
「あかんあかん、闇の書ってアレなんやろ? 他人のリンカーコアを奪わなきゃアカンのやろ?」
「え? あ、まあ……」
「そんな人様に迷惑掛けるような事したらあかん、それにしてもそうやなあ……アンタら目覚めたばっかで行くところが無いんやろ? ならアンタらの衣食住のお世話をするのがマスターである私の役目やー」
「「「「は?」」」」
はやての予想だにしない発言に、ヴォルケンリッターの面々は目を点にする。
「そうと決まればスウェン、私が寸法測るからメモってー」
「俺が測る方がいいんじゃ……? 車いすに乗りながらじゃやりにくいだろ」
「やんエッチ、女の子に触りたいん?」

んでもって数時間後、ヴォルケンリッターの面々は先程買って来た服を着てはやてに見せていた。
「これで外に出ても怪しまれずに済むな」
「似合っとる似合っとる、それじゃ私夕飯の準備しとるからー」
そう言ってはやては台所に向かう、そしてその場に取り残されたヴォルケンズは一か所に集まって話し合いを始めた。
「なあ……今回の主をどう思う?」
「どうって言われてもねえ……こんなリアクションされたの初めてだから……」
シグナムの言葉に金髪の女性……シャマルは困惑した様子で溜息をついていた。
「なんだお前ら、はやてのどこが嫌なんだ?」
「お前……普通に私達の会話に入ってくんなよ」
そう言って三つ編みの少女……ヴィータは狼形態に変身している犬耳の男……ザフィーラの顎をモフモフしながら会話に入って来たスウェンにツッコミを入れる。
「俺もはやての行動には少し驚かされたが……悪い気はしない、お前達だってそうなんだろう?」
「まあ……そうだけど」
「我々はずっと戦い続けていたからな、平和な暮らしに馴染めるかどうか……」
「戦い続けて……。」
スウェンは何か心に引っ掛かる事があったのか深く考え込む、その様子に気付いたザフィーラは彼に気遣いの言葉を掛ける。
「どうした? そんな難しい顔をして……」
「いや、何か思い出せそうだったんだが……まだ何か足りないみたいだ。」
「思い出す? なんだ、記憶喪失か何かか?」
「まあそんな所だ、俺にもよくわからんが」

するとそこに夕ご飯を作り終えたはやてがやってくる。
「ご飯やでー、今日はみんなの歓迎会やから腕によりをかけたでー」
「お前の誕生日でもあるだろう……ホラ行くぞ、ケーキも買ってある、ちょうど六等分できるな」
「ケーキ!?」
スウェンが言い放った“ケーキ”と言う単語に、ヴィータは目をギラつかせる。





その日はやては人生で最も楽しくて賑やかな誕生日をすごしたそうな……。










はい、今日はここまで、今回は全三回の序章の一本目をお送りいたしました、次回はリメイク前の作品を知っている人ならお馴染みの、あのオリキャラが登場する予定です。



[22867] 序章2「再会する運命」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:db7e3223
Date: 2011/01/24 20:32
序章2「再会する運命」


スウェンやヴォルケンリッターの面々がはやての家にやって来てから一か月以上経ったある日、スウェンはヴィータと狼形態のザフィーラと共に海鳴の街を散歩していた。
「いやー、最近暑くなってきたなー」
「そうだな、俺達がここに来た時より暑い」
スウェンはザフィーラを繋ぐ綱を握りしめながら汗で濡れる顔を腕で拭った。
「それで今日は何買えば良かったんだっけ?」
「確かカレーと言っていたな……」
「カレーかー!はやての作るカレーはギガうまだから楽しみだー!」
そう言ってヴィータは空の買い物かごをブンブン振って喜びを露わにする。それを見たスウェンはヴィータと初めて会った時の事を思い出していた。
(初めて出会った時は無愛想な奴だと思ったが……年相応の顔も出来るんだな)
そんな事を考えていると、そのスウェンの視線に気付いたヴィータが睨みつけて来た。
「なんだよ、私の顔に何か付いているか?」
「いや……可愛い奴だなと思って……」
「可愛い!?」
その瞬間ヴィータは顔を真っ赤に染め、スウェンに近付き膝の裏に向かってローキックを繰り出す。
「てめえ! そういう恥ずかしい事言うな!」

ヒョイ

「コラ避けるな! くっそー! すずしい顔しやがって!」
そしてヴィータはプンプン怒りながら再びスウェンの前を歩き始める。
「……? 何でヴィータは怒っているんだ?」
「アレは照れ隠しだろう、気にするな」
「そうか……」
ザフィーラに言われて納得したスウェンははやてから貰ったメモを取り出し、まずどこへ買い物に行くか確認し始めた……。


それから一時間後、買い物を終えた三人は公園へ行き一旦別行動をとる事にした。
「私らここでじいちゃん達とゲートボールして帰るから、先帰ってはやてに買った食材を渡しておいてくれ」
「わかった、夢中になりすぎて遅くなるなよ?」
そう言ってスウェンは公園にヴィータとザフィーラを置いて一足先に家路についた、この一カ月弱の間、ヴォルケンリッターの面々は近所の住人達とすっかり仲良くなっており、ヴィータは近所の老人たちとゲートボールに興じる程の仲になっていた。

そしてスウェンが一人で帰宅途中でのこと……。

「フー! シャー!!」
「うわ~! やめろッス~!」

「ん? なんだ今の声は……」
スウェンは誰かが叫び声をあげているのに気付き、気になって声がした路地裏を覗き込む、そこには……。

「にゃー! ふしゃー!」
「これはオイラのパンッス! 誰にもやらねえー!」

「……妖精?」
体長30センチほどの黒いボサボサの髪に褐色の肌、そして金色の瞳をした少年が数匹の猫とコッペパンの取り合いをしていた。
(どう見ても妖精……だよな? しゃべる犬もいるしこの世界では珍しくないのか?)

「にゃー!」
「お、お前ら! 大勢で寄ってたかって卑怯ッス! ああダメそこだけはー!」
「ペロペロぺロ」
「く、悔しい……! 猫なんかに! でも(ry」

「なんかよくわからんが助けるか……」
スウェンは近くに落ちていた空き缶を拾いあげ、妖精っぽい何かを襲っている猫達に軽く投げつけた。
「ふにゃーん!」
「その辺にしとけ、毛皮にするぞ」
すると猫達は蜘蛛の子を散らすように逃げていき、後には妖精っぽい何かがぐったりして倒れていた。
「おいお前、大丈夫か?」
「も、もうお婿に行けない……ガクッ」
「……なんか頭のほうが重症らしい、さてどうするか……このままにしておくのも寝ざめが悪いしな」
そう言うとスウェンは妖精っぽい何かをつまみあげた。


数十分後、スウェンは買い物袋を引っ提げて八神家に帰ってきた。
「おかえりースウェン」
「はやて……シグナムとシャマルは今どこに?」
「居間でテレビ見とるよー」
家の中の観葉植物の手入れをしているはやてに教わった通り、居間にいるシグナム達のもとに向かうスウェン。
「二人とも……実は相談があるのだが……」
「ん? どうした?」
「スウェンが頼みごとなんて珍しいわねー」
そう言ってシグナムは剣の形をしたデバイス……レヴァンティンの手入れをしながら、シャマルはそのレヴァンティン用の使い捨て強化パーツであるカートリッジを作成しながらスウェンのほうを見る。
「これ……なんだかわかるか?」
スウェンの差し出した手には先ほど確保した妖精っぽい何かが乗っていた。
「うーんむにゃむにゃ……もうスッカラカンだよう……」
「ぬわっ!? なんだこのナマモノは!?」
「人型のユニゾンデバイスかしら……? スウェン、これをどこで?」
「路地裏で猫の唾液まみれになっているところを……」
「何? 何の話―?」
すると騒ぎを聞きつけたはやてがスウェン達の話に入ってくる、そして彼女の視界に妖精っぽいなにかが入ってきた。
「何コレフィギュア? スウェンにそんな趣味が……。」
「いや、一応生物だぞコレ」
そういうとスウェンは妖精っぽい何かの頬を指でツンツンつつく、すると妖精っぽい何かは目を覚ました。
「ううん……? ここはどこ? オイラは佐○健?」
「何言ってんのこの子?」
「うわー! ホンマもんの妖精や!」
はやてはまるで子犬を見るような眼で妖精っぽい何かの頭を撫でる。
「……? あんた等誰?」
「お前の命の恩人と……まあ同居人だ」
「んー?」
妖精っぽい何かは頭を傾げるとスウェンのほうを向く、そして……目を見開いて驚いていた。
「……………………マジかよ」
「何がマジなんだ?」
「あ、いや……なんでもないッス~」
「お前はいったい何者だ? 見たところデバイスのようだが……」
「デバイスってアレかいな? シグナムが持っているソレ?」
はやての疑問にシャマルが代わりに答える。
「はやてちゃん、デバイスって言っても色々あるのよ、この子はそうね……ユニゾンデバイス……かな?」
「我々もあまり見たことがないタイプですね……」
「うーん……オイラもそこんところはわからないッス、生まれたばっかりなんで……」
「「「「?」」」」
その妖精っぽい何かの言葉に、スウェン達は頭に?マークを浮かべる。
「オイラ生まれてからずっと眠っていたんス、それで最近目が覚めて、気付いたらこの町にいて、とりあえず生きるために今日までがむしゃらに生きてきたッス……だから自分のことはさっぱりわからないッス、“ノワール”っていう名前以外は……」
「ノワール……」
「うーん、それやと自分の家もわからんのか?」
「へい……」
そう言ってスウェンの手の上でシュンとするノワールを見て、はやてはある決意を固める。
「しゃあない、ノワールがスウェンに助けられたのも何かの縁や、帰る家が見つかるまで私らがノワールの面倒を見たる」
「主!?」
「はやてちゃん!?」
はやての発言に驚くシグナムとシャマル、対してはやては改めてノワールの頭をなでた。
「生まれてすぐに一人ぼっちなんて寂しすぎるやろ? 遠慮せんでええよ」
「……いいんスか?」
「はやてならそう言うと思った……少なくとも俺に反対する理由はない」
スウェンの言葉に、シグナムとシャマルもうなずく、するとノワールはふわりと飛び上がると、はやて達にぺこりと頭を下げた。
「それじゃ……しばらく厄介になるッス! スウェンのアニキ! はやて姐さん!」
「姐さんて……」
「変わった奴だな、お前は……」



こうして八神家にまた新たな家族が加わった、ちなみにザフィーラと共に後から帰宅してきたヴィータはノワールを見て「何だコイツ? ポケットモンキーか何かか?」なんて感想をもらしたそうな……。



おまけ

ある日、はやてはテーブルの上で今月分の家計簿をつけていた。
「うーん、急に家族が増えたから出費が増えたなぁ、でもこれ以上グレアムさんに援助増やしてもらう訳にもいかんし……」
するとそこにコーヒーの入ったマグカップを二つ持ったスウェンがやってくる。
「はやて、コーヒー持ってきたぞ」
「うん、ありがとうなスウェン」
「ところで……さっきのグレアムとは何者だ?」
スウェンは先ほどはやてが口にした人物のことが気になり彼女に質問する。
「うん、私の死んだ両親の友達でな……毎月私の生活費を送ってくれる人なんよ」
「資金援助を……なるほど、どおりではやて一人で暮らしていけたわけだ、それにしても……」
スウェンはふと、そのグレアムという人物に対し疑問を感じていた。
(そこまでするのならなぜはやてを引き取らないのだ? そうすればいくらか安上がりだし、はやてが寂しい思いをせずに済んだのに……何か家庭的な事情でもあるのだろうか?)
その時、はやてはあることを思い出しスウェンに質問する。
「そうや、もうすぐグレアムさんの支援が届くころなんやけど……スウェンは何か欲しい物あるん? ひとつだけなら買ってもええで」
「おれか? そうだな……」
スウェンはしばらく考え込んだ後、自分が欲しいある物が頭に浮かんだ。
「……星座の本を頼めるか?」
「星座? ええけど……図書館でも借りられへん?」
「この前本屋で新しいのが出ていたんだ……2千円ぐらいの」
「星が好きなんやなスウェンは、ええで」
快く承諾してもらい、スウェンの表情はどこか嬉しそうだった。










今日はここまで、これで八神家全員集合ですね。なんでノワールがここにいるかは後々明かしていきます。あとグレアム達も原作とは違う運命を辿らせる予定です。

次回はAs第一話の前日談を投稿します、それでは。



[22867] 序章3「12月1日」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:db7e3223
Date: 2011/01/26 22:21
スウェンが八神家の一員になってから数ヶ月、季節は秋に移ってから大分経っていた。
とある日の朝。
「アニキ~朝ッスよ~」
はやてに与えられた二階の寝室で、スウェンはノワールに起こされて目を覚ます。
「おはようございます!アニキ!」
ノワールが元気に挨拶してくる、ちなみにノワールは今黒を基調とした騎士服(はやてデザイン)を着ている。
「……ああ、おはよう」
スウェンは眠い目を擦りながらもノワールに挨拶する。枕元には、星に関する本が開いたまま置いてあった。
「また読みながら寝ちゃったんッスか~?風邪ひくッスよ~?」
「……ああ、以後気をつける」
「そうッスか!そろそろ下に降りましょう!はやて姐さんが朝食作ってくれていますッス!」
「ああ」

台所でははやてとシャマルが朝食の準備をしていた。
「あ、おはようなスウェン、ノワール」
「おはよう」
「おはようございます!はやて姐さん! シャマル姐さん!」
「元気ええなーノワールは、もうちょっとで終わるから二人とも先に顔洗ってきいやー。」
「ああ」
二人は洗面所に行き顔を洗って寝癖を直す。すると、
「ふう……いい湯だった。」
浴室からシグナムが出てくる。お風呂に入っていたらしく、当然なにも着ていない。
『あースウェンー? 言うの忘れとったけど今シグナム風呂入っとるから気いつけやー』
遠くではやての声が聞こえる。なにもかも遅すぎだった。
これがどっかのラッキースケベなら一瞬でサンダーレイジで黒コゲなのだが、スウェンの場合は違っていた。
「な……!? 何をしとるんだ貴様らはー!!?」
「え、あ、スマン」
シグナムが投げた石鹸をクールに横にずれて避けるスウェン。
「さすがシグ姐さん、ダイナマイツなバディッ!!!」
「ちょ! 貴様ぁ!」
片っ端から浴室にあった物をスウェン達に投げるシグナム。
「だからスマンて……」
それらを軽やかにかわしていくスウェン。
「のほほ~絶景絶景~ちょっとアニキ! あんまり素早く動かんでくださいよ! 画像がブレるでしょ!」
ノワールはスウェンの肩でシグナムの体をしっかり観察していた。(ハンディカメラ持って)
「何の騒ぎだ?」
そこにザフィーラ(人型)が様子を見にやってくる。
「どおおおおお!!!? 貴様まで入ってくるな!!」
シグナムはシャンプーが満タンに入って重さ、威力十分の容器をザフィーラに投げ、見事彼の顔面に直撃させる。
「おごっ!?」
そしてザフィーラは容器を顔面にめり込ませたまま床に倒れた。

「もうあかんでシグナム~? 朝っぱらからはしゃいじゃ」
朝食が食卓に並べられていくなか、はやては先ほどのシグナムの暴れっぷりを注意する。
「も、申し訳ございません……」
(半分ははやてが原因だと思うが……)
そこに、今起きたばかりのヴィータがやってくる。
「ねむ~……ん? どうしたんだザフィーラ? その顔」
「…………ちょっとな」
ザフィーラの眉間にはバッテン印に絆創膏が貼られていた。


そしてはやては何気なくチャンネルを操作しテレビの電源を入れる、すると丁度朝のニュースが放送されていた。
『おはようございます、12月1日の朝のニュースをお伝えいたします、まずは先月アイルランドで起こったKPSAの自爆テロの続報から……』
「おっかないなあ、自爆テロやて……たくさんの人が死んだんやってなあ、しかも実行犯は私と齢変わらないそうやないか」
「ええ……まったくひどいものです」
『これに対しAEU協議会はテロ防止の為警備体制を強めると発表し……』
そのニュースにはやて達は真剣に耳を傾ける、そんな中スウェンはキャスターが読み上げていた記事の内容の中に引っかかるものを感じていた。
(テロ……たくさんの人が……)
するとスウェンの様子に気づいたザフィーラが彼に話しかける。
「ん? どうしたスウェン? 箸が止まっているぞ」
「い、いや……ひどい話だなと思って……行方不明者も一人いるんだろう?」
「……………」
ノワールはただただ、少し動揺している様子のスウェンを真剣な表情で見つめていた……。



その日の昼前のこと、やることのないスウェンは部屋にこもって星の勉強を始めていた。
「アニキも好きッスね~、星」
「ああ……なぜだか興味が沸くんだ、もしかしたら俺は記憶をなくす前は天体学者を目指していたのかもしれない……」
はやてのもとにやってきてから半年近くたち、スウェンにもいつの間にか天体観測という趣味ができていた。そして彼は昼間の暇なときはこうやって図書館から借りてきた資料を漁りながら独学で勉強をしていた。
「スウェンー、ノワール、入るでー」
するとそこにクッキーとコーヒーの乗ったトレイをもったはやてがやってきた。
「はやてか……ありがとう」
スウェンははやてからトレイをを受け取ると、クッキーを小さく砕きそれをノワールに渡した。
「いやー、はやて姐さんの作ったクッキーは格別ッス!」
「ふふふ……ありがとうノワール、スウェンは勉強捗っとる?」
「ああ、あの図書館にはいろいろな本があるんだな……勉強になるよ」
「ほんなら明日は私と一緒に図書館で本探しでもしよか、ほかにもいろいろあると思うで、今日は午後から病院やから行けへんけど」
「そうだな……」


数時間後、昼食の時間にその事件は起こった。
「う……ぐおおおお……!!!!」
「ブクブクブク……」
「はひっ! ひへっ! わふっ!」
テーブルでシグナム、ヴィータ、ザフィーラが泡を吹いて倒れたのだ。
「ひ、ひどい……! なんで! なんでこんなことに!?」
あまりの惨状を目の当たりにしたはやては車いすの上で泣きわめく、そんな彼女の肩にスウェンはそっと手を置く。
「落ち着くんだはやて……泣いたってもうみんなは……それよりもなんでこんなことになったのか調べよう!」
そう言ってスウェン達は勇ましく台所に向かう、するとそこには様々な材料が散乱していた。
「これは……カレールーか、そしてこれは鯛……それにネギとヨーグルトだと!? ここにはパピ粉にフリスク(オレンジ味)……一体何を作ろうとしていたんだ!?」
スウェンはあまりの惨状に戦慄を覚える、そして紫色の怪しいオーラを放つ鍋を見つける。
「よし……ノワール、味見してくれ」
「嫌」
スウェンの肩に乗るノワールは彼の要望を即座に断る、その間実に0.002秒。ニュー○イプも裸足で逃げ出す反応速度だ。
「そうか……ならしょうがない、俺が味見をしよう」
「いや! スウェンにそんな危険なことはさせへん! ここは一家の主たる私が!」
そう言ってスウェンとはやては勇敢にも挙手しながら味見に立候補する。そんな二人をみてノワールは魂が震えるのを感じていた。
「(そんな……! みんな自分の身の危険を顧みずに……それなのにオイラは……!)仕方ねえ! やっぱオイラが味見を!」
「「どうぞどうぞ」」
「謀ったな八神ぃぃぃ!!!!」
味見の座を即座に譲られたノワールは木馬に特攻する時のザ○家の末っ子のような顔でスウェンに取り押さえられる。そしてはやては鍋の中身の生物兵器をスプーンですくい上げてノワールに差し出す。
「はいノワール、あーん」

ギョエアアアアア

「なんか鳴いてる! スプーンの上でなんか鳴いて……! ムグッ!」
突っ込んでいるうちにスプーンを口の中に入れられるノワール、そして……。
「へああああ! メガァァァァァ!!!」
口の中の劇物を飲み込んだ途端目を押さえながら床でのた打ち回った。
「ノワール! 犠牲は無駄にせえへんで……!」
「シグナム達もこれを食べてああなったのか……つまり犯人はこれを作った人物……」
その時、台所にとある人物が神妙な面持ちでやってきた。
「犯人は……すりっとまるっとお見通しや、シャマル」
はやてに指をさされ、観念したかのようにがっくりと項垂れるシャマル。
「すべて……ばれてしまったんですね……」
「何故だ……!? 何故こんな危険なものを作ったんだ!?」
「今朝のリベンジと……あと昨日見たキュ○ピー三分間クッキングにおいしそうな料理が紹介されていて、私だけで作ってみんなをびっくりさせようと……でも材料のメモを取るのを忘れていて、仕方なく記憶を頼りに(見た目が)似ている食材を使って……!」
そしてシャマルはその場で崩れおち、顔を手のひらで覆って泣き始めた。
「ごめんなさい……! まさかこんなことになるなんて……! 私はなんてことを……!」
「どうして……! どうしてこんなものをシグナム達に食べさせたんだ!?」
「だって……使った食材がもったいなかったの!」
そしてはやては泣き続けるシャマルに優しくそっと囁いた。
「……自首しようか、私たちもついてったる……」
「はい……!」
そしてシャマルはコートを被せられ、はやてによってどこかへ連行されていった。
「嫌な事件だったな……」

こうしてのちに「八神家集団食中毒事件」は多くの犠牲者を出して終わりを迎えた、ちなみにスウェン達は何故無事なのかというと、先ほどクッキーを食べたため昼食の時間を遅らせた為難を逃れたからだった。

「……なんだコレ?」





その日の夜、八神家の食卓
「ぁあ? ふざけんな! アタシは飛び出せ!科○くん見るんだよ!!」
「何を言っている!! 今日は世界衝○映像社の日だろうが!!」
シグナムとヴィータがチャンネル争いをしていた。
「上等だよ……! ここで白黒つけるか!?」
「おもしろい! レヴァンティンの錆にしてくれる!!」
「コラ~!! ケンカしたらアカン~!」
「そうよ! ケンカする子はテレビ見せないわよー!?」
「それよりも俺は中○生日記見たいんだが……」
一触即発(一匹空気を読んでいないが)の中、
「あ、天才志○動物園が始まる」
「どうでもいい話ッスけどザフィーラのアニキをこの番組に出演させたら大儲けできると思いません?」
たくあんをボリボリ食べながらスウェンはチャンネルを変えた。
「こら貴様!! なに勝手に変えている!?」
「舐めた真似してっとギガントすんぞ!?」
「ふたりとも……ええかげんにせんと一週間アイスと風呂抜き、それにシャマルの料理食わせ続けるで」
「「ゴメンナサイ」」
光の速さでDOGEZAするシグナム&ヴィータ
「はっやっ! そこまでイヤなの!?」
「中○生日記……」
「今日はパンダの赤ちゃん特集か」
「なんで動物の赤ちゃんってみんなキャワイイんやろうな」
「あ、次め○ゃイケみていいッスか? メンバー増えてからどうもあの番組の行く末が気になる」



お風呂上りの時間帯に今日二度目の事件は起こった。
「さて、ウチが名前付けてまで大事にとっといたプリン(生クリーム付き)が食べられとったんやけど……誰?」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
全員床に正座(背の順で)
「怒らないから言うてみ~?」
顔は笑っているけど目が全然笑っていないはやてを見て、それを見た全員は蛇に睨まれた蛙の如く萎縮してしまう。
(絶対怒るな……)
(絶対怒る……)
(絶対怒るわね……)
(絶対怒るワン……)
(絶対怒るッス……)
「小腹が空いていて……」
その時、スウェンが空気に耐えられず観念して手を上げて自白した。
「「「「「お前かい!!!!!」」」」」
意外な犯人に他の五人分のツッコミが見事ハモる。
「コルァァァ―――――!!!」
そんな彼に対し大激怒するはやて。
「「「「「やっぱり怒った!! めっちゃ巻き舌!」」」」」
「何故だ? 正直に言えば怒らないと……」
スウェンは小首を傾げながらはやての説教を小一時間受け続けたという……。

皆が寝静まった夜、スウェンはベランダで一人星を見ていた。
「今日も綺麗だ……」
スウェンは瞳を閉じ今までの八神家の生活を思い出していた。
騒がしくもどこか穏やかな日常、怒られたり、失敗したり、辛い思いをすることもあったが、それを帳消しにするくらい幸せだった。
「あとは……はやての体か」
「ウチがどうかしたん?」
するとベランダに車椅子に乗ったはやてがやってきた。
「はやて……星を見にきたのか?」
「正確には星を見ているスウェンを見に来ました。」
「そうか……」
車椅子を自分ごとスウェンの隣に移動させるはやて、二人はしばらく星空を見上げていた。
「……なあ、はやて」
スウェンは隣にいたはやてに話しかける。
「どないしたん?」
「なぜ……見ず知らずの俺を八神家に招いてくれたんだ?俺は何者なのか自分でも判らないんだぞ?」
「そうやなあ……」
はやては再び星空を見上げて考える。そして、
「スウェンが…昔のウチみたいに…寂しそうやったからかなあ……」
「寂しい?」
「ウチな、スウェンや守護騎士のみんなが来るまではこのだだっ広い家で一人でくらしてたんよ。この体で病院通いで学校にも全然行ってへんかったし……今思えばホンマ考えられへん生活してたんや……」
幼い頃両親が死に、自宅と病院を行き来する生活、担当の石田先生との交流はあったが、それでもとても寂しい思いをしていたのだ。
「………」
スウェンは何も言わず、ただ黙って聞いていた。
「ほんでな、そんな時私はスウェンに出逢ったんよ。そんでスウェン見て……『この人なんて寂しい目をしているんやろう』と思ったんよ」
「………」
「これはウチの勘なんやけどな……スウェンってきっとここにく来るまでは…とっても寂しい思いをしていたんやと思う……。だからウチ、スウェンのこと放っておけなかったんや。同情やないで? まあ……一人ぼっちで生きて行くのが辛かったから拠り所を探していたんだと思う」
「ああ……それはわかる」
スウェンはそれがはやての優しさだということは、これまでの八神家の生活を通じて解っていた。
「今はホンマ幸せやで、シグナムがいて、ヴィータがいて、シャマルがいて、ザフィーラがいて、ノワールがいて、スウェンがいて……。皆が居てくれるだけで幸せや。たとえ……近い未来……ウチが死ぬ事になっても……」
「!!」
はやては、近いうち自分が今患っている病気で死ぬということに、なんとなく気付いていたのだ。
「でも……本当は死ぬのが怖い……皆と離れとうない……」
いつのまにかはやては泣きじゃくっていた。その姿はいつもの気丈な様子はなく、歳相応の弱々しい少女になっていた。
「みんなと……ずっと……一緒にいたい……離れたく……一人ぼっちになりたくないよぉ……」
今まで自分はこのまま一人寂しく死んでゆくのだと思っていた、だが今は一緒に居てくれる家族がいる。だからもっと生きていたいのだ。
今まで溜め込んでいた想いが、ここに来てどっと溢れ出てきた。
「はやて……」
スウェンは泣いているはやての後ろに回りこみ、
「……」
「え?」
彼女を優しく抱きしめた。はやては何が起こったか解らず泣き止む。
「スマン、こういう時どうしたらいいか解らないから……コレしか思いつかなかった。」
それは精一杯考えたすえに出てきた彼なりの慰め方だった。
「ふふっ、ガラにも無い事して……でもありがとう」
いつのまにかはやては笑っていた。その笑顔は星の光に照らされて、普段とはまた違った輝きを放っている。
「……そろそろ寝よう、これ以上いると風邪を引く」
「そうやなあ、もう十二月やもんな……」
「あ、ちょっとまて」
そう言うとスウェンは車椅子に乗っていたはやてを抱き抱え上げた。
「なっ!? なななななっなにを!?」
突然スウェンに抱き抱えられ、近い歳の男性の耐性があまりないはやては混乱していた。
「いや、車椅子から一人でベッドに移動するのは辛いだろうと思って……嫌だったか?」
「そっ……そんなことあらへんよ……!」
(これってお姫様抱っこやん……おまけに顔近っ! ……かっこええな……いやそうじゃなくて!)
「どうした顔が赤いぞ……? しかも体温が上がっているようだが……」
「なっ……なんでもございません!!」
そして二人は中に入っていった、その間ずっとはやては顔を赤く染め小声でなにやらブツブツ言っており、スウェンは首を傾げていた。

はやてを寝室に送り届け、スウェンは自分の寝室に戻ろうとしていた。
ふと、掛けてあった時計が目に入る、時刻はちょうど夜十二時を指していた。
「日付が変わった……今日は12月2日か」
季節は秋から冬に移っていった。

そして……物語も動き出す。










本日はここまで、この話は以前投稿したものを書き直したものとなっております。
さあ次回より本編開始、無印編より大分登場人物が増えててんやわんやですが頑張ります。



[22867] 第一話「始まりは突然に」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:5c714ab6
Date: 2012/01/27 10:52
 第一話「始まりは突然に」


CE66年10月末、家族皆で夕食をとり居間でくつろいでいたシンは両親からある話を聞かされた。
「引っ越す……? オーブから?」
「うん、最近色んな所でコーディネイターに対するテロが頻発してきただろう? この前もバイオリン奏者の人が殺されたし……この辺も危なくなってきているんだよ」
「怖いわよね……だから12月に引っ越すことにしたのよ」
両親の提案に、シンは目を丸くして驚く。
「えー? でもどこに引っ越すの? プラント? 父さんの仕事はどうするの?」
「うん……それなんだがな、実は父さん、時空管理局の技術部からオファーが来ているんだ。つまり転職だな」
「管理局に!? すごいじゃん!」
「うん、そこでリンディさんと相談してね……比較的治安がよくてコーディネイターの差別がない世界に引っ越そうと思っているの」
「差別のない世界……? それってもしかして……!」
「そう、第97管理外世界……海鳴市だよ」





それから一カ月後、オーブのモルゲンレーテ社のラボ、そこでシンの父は退社するため会社に置いてある自分の荷物を次々と纏めていた。そこに……若い社員の女性がシンの父親に話しかけてくる。
「アスカさんもう行っちゃうんですか? 寂しくなりますね」
「そうだねぇ、後の事は君に任せる事になるだろうけど大丈夫かい?」
「ええ、アスカさんの分まで皆と頑張ります……ところでアスカさん、一体どこに引っ越すんです?」
「ああ……えっと……日本の海鳴ってところだよ」
事情を知らない人間にあまり詳しい事を話せないシンの父はそれとなく誤魔化して話した。
「日本……東アジアですか、確かにあそこは比較的治安がいい所ですよね」
「う、うん……まあそうだよね」
「今度連絡ください、もしかしたら子供と一緒に観光に行くかもしれませんので。」
「その時は案内してあげるよ、それじゃあエリカ君、私はここで」
そう言ってシンの父は段ボールに詰めた自分の荷物を持ってラボを出て行こうとした。

「姫さまー! 待ってくださいー!」
「やだよー!」
「おおっと!?」
その時、彼の目の前に2人の少女が走って通り過ぎて行き、シンの父は驚いて転びそうになる。
「こら姫様! それにアサギ! ラボの中を走り回っちゃ危ないでしょ!」
その様子を見たエリカは走り去ろうとしていた2人の少女を怒鳴りつける。
「ひゃん!」
「す、すみません!」
エリカの怒鳴り声を聞いて思わず動きを止める2人の少女。
「はっはっは、姫様は元気いっぱいですな」
そう言ってシンの父は元気が有り余っている様子の金髪の少女の頭を撫でた。
すると頭を撫でられた少女はシンの父が持つ荷物を見て首を傾げる。
「ん? お前どうしたのだ荷物をまとめて……?」
「姫様、アスカさんはこれから日本に引っ越すのだそうです」
「ニッポン? 何故ニッポンに引っ越すのだ? オーブのほうがいい国だぞ?」
「ああ……えっと……」
納得していない様子の少女に対してシンの父は困ったように目を泳がせていた。すると見かねたエリカがすかさずフォローを入れてくる。
「姫様、アスカさんにも色々と事情があるのです、あまり困らせては駄目ですよ?」
「うーん……」
少女はまだ納得がいかないのか、去って行くシンの父の後ろ姿を見て首を傾げていた。





それから数日後、シンの家では一家総出で引っ越しの準備を進めていた。
「おにいちゃーん、このぬいぐるみどこに入れたらいいのー?」
「んじゃお兄ちゃんのリュックに入れておいてやる……デスティニー、そっちはどうだ?」
「こちらはあらかた終りましたよー」
デスティニーはガムテープを抱えてシンのもとにふよふよ近付いて来る、そこにシンの両親もやって来た。
「二人とも、そろそろアースラの皆さんが来る時間だぞ、出発する準備をしなさい。」
「「はーい」」
その時、アスカ家のインターホンが鳴り響き若い男女が10数人程家に入って来た。
「こんにちはー、お手伝いに来ましたー」
「あ、アレックスさんこんにちはー」
「こんにちはー」
シンとマユは顔見知りである青年にぺこりとお辞儀する。
「ううう……こんなモブの名前と顔を覚えてくれているなんて……」
「それじゃ荷物はどこに運びます?」
「庭に運んで貰えます? 家具も先に運んでおいてありますので……。」

「いよいよだな……久しぶりのミッドチルダだ」
「楽しみだねー、アルフやフェイトに会うの久しぶりだー」




十二月二日の夕方、スウェンとはやてとノワールは図書館に来ていた。ちなみにノワールは一般の人に見られる訳にはいかないので、「ノワールボックス」と名付けられたカバンの中に入っている。
(よかったッスね~、お目当ての本が返されていて)
「ああ。」
「次私も読んでええか? ちょっと読んでみたい」
お目当ての本が見つかりご満悦の様子の一行、ふと、
「あ、あの子は……。」
はやては本棚に向かおうとした時、紫のウェーブのかかった髪をした女の子を見つける。
女の子は自分の手の届きそうで届かない本を取ろうとして悪戦苦闘していた。
「う~ん、もうちょい……」
「どうやらお困りのようや……頼めるか?」
「ああ。」
スウェンは少女が取ろうとしていた本を取り、そのまま渡す。
「これでいいか?」
「あ……ありがとうございます…あれ? あなたは……」

数分後、はやて達はその少女とすっかり仲良くなっておしゃべりをしていた。
「そっかぁ、同い年なんだ」
「うん、ウチも時々見かけてたんよ、同い年ぐらいの子やなって」
「実は私も……そちらの方も」
「俺か?」
「はい! いつもお星様の本を読み漁っている方ですよね、本当に本が好きなんですね。」
(アニキ人気者ッスね)
(少し違う気がするが……)
「ウチ八神はやて言います。平仮名で“はやて”って変な名前やろ?」
「そんなことないよ。綺麗な名前だと思う、私は月村すずかって言います」
「俺はスウェン・カル・バヤンだ」
「外国の方なんですね、スウ.……スヘ……スエ……スウェンさん……すいません……」
(かなり咬みましたね彼女)
「いや……気にするな」

その後シグナムとシャマルが迎えにやって来て、はやて達はすずかと別れ帰宅の路についていた。
「そうなんですか、新しいお友達ができたんですか」
「うん、とってもすずかちゃんとってもええ子なんやで」
「そう言えば……今日もヴィータはどこかに出かけているのか?」
スウェンの質問に、シグナムは少し難しい顔をしながら答える。
「ああ……ザフィーラと一緒にどこかに遊び歩いているようだ」
「気をつけて欲しいもんや、ヴィータ見た目ちっこいから危ない人に狙われるんとちゃう?」
「大丈夫ですよー、ヴィータちゃん強いですし……」
「……」
スウェンはふと、以前シグナムやヴィータの戦闘の自主練習に付き合わされた時の事を思い出した。
「アイツも見た目の割に強いよな……闇の書の騎士とは皆そうなのか?」
「うむ、主を守る為に私達は常に強くなければならないのだ」
「そんな、外国ならともかくこの国でシグナム達が戦う機会なんてあらへんよ~」

そうしてはやて達は和気藹々とした空気で帰宅していった……。



一方その頃次元の狭間にある時空管理局本部では、アースラクルー達全員がアスカ一家を迎える為準備を進めていた。

~アースラブリッジ~
「艦長、アレックス達がアスカさん達の荷物をもって戻ってきたようです」
「そう、それじゃ受け入れの準備をしないとね」
するとブリッジに、アスカ一家がアレックスに案内されながらやって来た。
「リンディさーん、こんにちはー」
「あらシン君、それにアスカさん達もお久しぶりです」
「いやあどうも」
「この度は態々手伝ってもらって……ホントなんとお礼を言ったら……あ、コレ宜しければ」
そう言ってシンの母親はリンディにオーブのお土産屋で買ったお茶の詰め合わせを渡す。
「まあ! 態々ありがとうございます」
「……」
その時、オペレーションをしていたエイミィはシンが誰かを探して辺りを見回している事に気付く。
「シン君、フェイトちゃんやヴィアさんは今クロノ君達と一緒に裁判所の方に行っているよ」
「そ、そうですか……」
「えー? アルフもいないのー?」
フェイト達がいない事が解り、シンの傍にいたマユはつまらなさそうに服を引っ張った。
「あ、でもアリシアちゃんは今医務室にいるよ、挨拶してあげたら?」
「シン……マユを連れて行ってきなさい、父さん達はリンディさん達と少し大事な話をするから……」
「わかった、マユ、デスティニー、行こう」
「うん!」
「かしこまりました」
そう言ってシンはマユの手を取りデスティニーを引き連れてアリシアのいる医務室に向かった。
「いやあ、仲のいい兄妹ですね。シン君もいいお兄ちゃんですよねぇ」
「こちらとしては仲良すぎて逆に色んな意味で心配ですけどね、うふふふ」

数分後、医務室にやって来たシンとマユはベッドで眠り続けるアリシアと対面した。
「アリシア久しぶり、元気にしてたか?」
「お久しぶりですアリシアさん」
「アリシアさんこんにちはー、私マユっていいます、初めましてー」
マユはアリシアと初めての対面だったので初めましての挨拶をする。
(アリシア……あれからずっと眠り続けているんだよな……)
PT事件以降、アルティメット細胞によって無理やり生き返ったアリシアは力を使いすぎていつ覚めるか解らない眠りについていた。そして裁判を受けていて自由に動けないヴィアに代わり、現在は管理局の医療スタッフがアリシアの治療に当たっていた。
「お兄ちゃん、アリシアさんはいつ起きるの?」
「ヴィアさんが起こす方法を探しているみたいだけど……どうも上手くいっていないみたいなんだよ。でも大丈夫……この子はフェイトのお姉ちゃんだからな、きっといつか目を覚ますよ」
「そうだね、早くフェイトさんとアルフと一緒に遊びたいなー」

「あら……もしかしてシン君? それにマユちゃんじゃない!」
するとそこに、裁判所から帰って来たヴィアが医務室に入って来てシンとマユに挨拶してきた。
「あ! ヴィアさんこんにちは!」
「お久しぶりです」
「こんにちはー」
「そっか……今日はお引っ越しの日って言っていたわね、アリシアに挨拶しに来てくれたの」
そう言ってヴィアはベッドで眠り続けるアリシアの頭を撫でてあげた。
「裁判の方はどうなったんですか? フェイトやアルフは……」
「あの二人は大丈夫、管理局の魔導師になる事を条件に罪はかなり軽くなったわ、私も一年の執行猶予を付けてくれたし……」
「そっか、よかった」
裁判の結果を聞いてほっとするシン、因みに彼もPT事件の重要参考人として裁判を受けていたが、“無理やり巻き込まれた被害者”ということで数カ月前に無罪判決を受けていた。
その時、先程からずっと黙り込んでいたデスティニーがヴィアにある質問をする。
「そういえばヴィア……あの子の行方はつかめたのですか?」
「いや、それが……管理局の人達にも頼んでいるのだけれど、中々進展しなくて……」
「あの子? あの子ってなーに?」
事情が解らないマユは頭に?マークを浮かべる。
「実は……私と同系列機のデバイスが一人、PT事件のどさくさで行方不明になってしまったのです」
「あ、そう言えばそんな話していたなあ、確か“ノワール”だっけ? まだ見付かっていなかったんだ」
「ミッドにいないって事は別の次元世界に飛んだのかしら……とにかく早く見つけ出してあげないと」
「いやあ、あの子はゴキブリ並みにしぶといから大丈夫でしょう、色も似ているし。」
「あはは、ひっどいわねデスティニー……それじゃシン君、フェイトちゃん達に会って来てあげなさい、今彼女達は食堂にいると思うから」
「あ、はい! 行くぞ二人とも、アリシア……また今度な」
シンはアリシアに別れを告げてマユとデスティニーを伴って医務室から出た、そしてそれを見送ったヴィアは改めてアリシアをみる。
「さて……早く起こしてあげないとね、カッシュ博士の意見を聞きたいけど……」


数分後、シン達はヴィアの言うとおりアースラの食堂にやって来る、するとそこには裁判所から帰って来たフェイトとアルフ、そして付きそいのユーノとクロノがいた。
「おーいフェイトー! アルフー!」
「ん? あの声は……」
「シン?……シン!」
フェイトとアルフはシン達の姿をみるや否や席から立ち上がり、彼等の元に駆け寄ってきた。
「シン! 久しぶりだね! マユちゃんも!」
「元気にしていたかい? 久しぶりだねぇ」
アルフはそう言ってマユの頭をわしわしと撫でてあげた。
「うん! 今日はわんこにならないの?」
「あっはっは! 後で何回でも変身してやるさ!」
するとそこにクロノとユーノが少し遅れてやって来る。
「君達も相も変わらずだね」
「シン、久しぶりだね……何カ月ぶりだっけ?」
「おお! クロノとユーノも久しぶり! ほらマユ、二人に挨拶するんだ」
「初めまして! マユ・アスカです!」
「君がマユちゃんか~、初めまして」
「そう言えば君の家族も来ているんだったな、後で挨拶に行かないと……」
そうして一同がマユに夢中になっていた時、フェイトはシンの服を引っ張って彼に話しかける。
「本当に久しぶりだね……元気そうでよかった」
「俺はそんなに久しぶりって感じはしないなあ、手紙でやりとりしてたし……」
「それでも……久しぶりに会えて本当にうれしいよ、えっと……直接会ったら色々お話しようと思ってたのに……いざとなったら言葉が出てこないよ……」
「ははは、相変わらずだなフェイトも」
そんな二人の様子を、ただ一人皆の話に加わらず傍観していたデスティニーがニヤニヤと話し掛けて来た。
「うふふ、お二人ともおませさんですねえ、遠距離恋愛のカップルみたいですよ」
「かかかかカップル!?」
デスティニーの指摘に顔を真っ赤にして動揺するフェイト。
「あれ? フェイトまた風邪ひいたの? 顔真っ赤だぞ」
「主……流石です」


そうして和やかな雰囲気で再会を喜び合うシン達。

ビー! ビー! ビー!

その空気を、緊急事態を告げるアースラの警報が吹き飛ばした。
「ん? なんだこの警報?」
「おいブリッジ、何があった?」
インカムでブリッジから状況を聞き出すクロノ、そして何回か頷いた後真剣な面持ちでシン達の方を向いた。
「どうしたのクロノ? 何かあったの?」
「海鳴で魔導師同士の戦いが起こっているみたいなんだ、どうやらなのはが正体不明の敵に襲われているらしい」




同時刻、八神家でははやてとスウェン、そしてノワールが夕食をテーブルに並べながらシグナム達の帰りを待っていた。
「シグナム達遅いなあ、お夕飯が冷めてまうで」
「オイラ腹減ったッス~!」
「もうこんな時間じゃないか……どうしたものか。」
スウェンは壁に掛けられた時計を見ながらはぁと溜め息をついた。
(大丈夫なのかみんな……事件とかに巻き込まれていなければいいが……)
スウェンの心の中にふと、言い知れぬ不安がこみ上げてきた。
(なんだろうかこの気持ちは……)
そして居ても立っても居られなくなったスウェンは立ち上がり、コートに身を包んで玄関に向かう。
「スウェン? どないしたん?」
「みんなを迎えに行ってくる、もし空腹だったら先に食べてていいぞ」
「あ! オイラも行くッス~!」


そしてスウェンとノワール(コートのポケットの中にいる)はシグナム達を探しに夜の街頭の光が照らされている街へ繰り出した。
「確かシャマルはシャンプーを買いに行っている筈……。」
「どこまで買いに行っているんでしょうねー。」
スウェンはシャマル達の姿を探して辺りを見回す、その時……急に辺りが静まり返り、スウェン達の周りにいた通行人達が消えてしまった。
「……!? なんだコレは!?」
(まさか結界? ってことは……)

次の瞬間、ガシャーンというガラスの割れる音と共にスウェンの頭上からガラスが降って来た。
「!! ノワール!」
スウェンはとっさにポケットの中にいたノワールを抱えながら降ってくるガラスを避けた。
「くっ……! 一体なんだ!?」
「アニキ! 上を見てください!」
スウェンはノワールが指を指す方向をみる、するとそこには信じられない光景が広がっていた。
「アレは……ヴィータ!? 何をしているんだアイツは!?」



「話を……聞いてってば!」
ビルが並ぶ夜の町並、その一角に張られている結界の中で二人の少女による魔法合戦が行われていた。
白いバリアジャケットを着た少女…なのはは突然襲ってきた赤い髪に赤い服を着た少女……ヴィータに光弾を放つ、だが赤い少女はそれを掻い潜りハンマー状の武器をなのはに叩き込む。なのはは魔力障壁でソレを防ごうとするが……
「きゃああああ!!!」
レイジングハートごと砕かれ、遥か後方に吹き飛ばされビルに激突する。
「う、ううう……」
瓦礫のなか、必死に立ち上がろうとするがダメージが大きすぎて立ち上がれない。
(いやだ……こんなところで終わるなんて……)
ヴィータがトドメを指す為に追いかけてきた、そしてなのはに対してハンマーを振り上げる。
(ユーノ君……クロノ君……アルフさん……シン君……)
次々と浮かぶ仲間達の顔。そして赤い少女はハンマーを振り下ろす。
(フェイトちゃん……!!)
だが振り降ろされたハンマーはなのはに当たることはなかった。突如割って入ってきた黒衣の少女に防がれたのだ。
「なんだてめえ……そいつの仲間か?」
赤い少女は不機嫌そうに黒衣の少女を睨みつける。
「友達だ……!」
その少女の姿を見て、なのはは目を見開いて驚く。
「フェイト……ちゃん!?」
対峙する二人、その後ろで、
「なのは!大丈夫!?」
「フェイトちゃん……? ユーノ君……?」
ユーノに抱き上げられるなのは。
「ちい!」
それを確認して後退するヴィータ、
「ユーノはなのはをお願い!私は…!」
「わかった!こっちはまかせて!」
そしてフェイトは赤い髪の少女を追いかけていった。


「ユーノ君……どうしてここに?」
「フェイトの裁判が終わったからなのはに連絡を入れようとしていたんだ、そしたら異変に気付いて……」
そう言いながらユーノはなのはに治癒魔法をかける。
「アルフもシンも来てくれたし……アースラのスタッフも全力で対処している、もう安心だよ」
「そっか……」
そしてなのはは上空で戦っている友の姿を見守っていた。


「クソッ!なんなんだよコイツ等!」
ヴィータは焦っていた、高い魔力を持つ白い服の少女を襲っていたら、彼女の仲間らしき者達に反撃を喰らい、今空中で対峙しているのだ。
「このぉ!!」
ヴィータは魔力を込めた鉄球を黒い服の少女に向かって打ち出す。だが少女はそれを軽やかにかわす。そして、
「なっ!?」
彼女の使い魔らしき女に束縛魔法を掛けられた。
「終わりだね、名前と出身世界を言って貰おうか」
ヴィータは少女の持っていた武器を突きつけられる。だがヴィータは臆することは無かった。
「ぐぐぐ……! このお!」
「……!? なんかやばいよフェイト!!」
その瞬間、黒い服の少女はポニーテールの女剣士…シグナムに吹き飛ばされ、
「きゃあ!?」
悲鳴と共に真下のビルにコンクリートの砕ける音とともに叩きつけられた。
「フェイトォ!!」
使い魔はすぐに少女を追いかけようとしたが、犬耳をつけた大男…ザフィーラに阻まれてしまう。
「こ……こんのぉっ!!邪魔すんな!!」
「………」
男は何も答えず、ただ拳を力強く握り締めた。
「苦戦していたようだな、ヴィータ」
「うっせーよ!!こっから逆転するとこだったんだよ!!」
ヴィータはシグナムに束縛魔法を解除されながら子供じみた(見た目は子供なのだが)言い訳を言う。
「フッ…まあいいさ、私はあの少女のリンカーコアをいただく」
「ならアタシはあのザフィーラが女になったみたいなヤツを……」
そして二人はそれぞれ目的の場所へ飛び立っていった。


「大変だ……!! 助けなきゃ…!!」
なのはとユーノはビルの屋上でフェイト達が苦戦しているのを見て、救援に向かおうとする。
『ちょっとまった!!』
だが通信でクロノに止められる。
「なんでだよ!?このままじゃ皆が……!!」
『君はなのはを守る事に集中しろ! 敵がまだどこに潜んでいるのか解らないんだ……今フェイトの元にシンを送ったから安心しろ!』
「わ、わかった!」



「くう……!」
シグナムに吹き飛ばされたフェイトは叩きつけられたダメージで動けなかった。さらにバルディッシュは先程の攻撃で柄の部分がポッキリ折られている。
そこに、先程彼女を吹き飛ばしたシグナムが降りてくる。
「他愛もない……コアは貰っていくぞ」
抵抗しようにも身動きが取れないフェイト。
(このままじゃ……やられちゃう……!)
恐怖で身を強張らせるフェイト、その時、彼女達の間に一人の翼を生やした少年が割って入ってきた。
「させるかぁぁぁぁ!!!」
「何!?」
少年……シンはエクストリームブラストの高速移動の勢いを使ってシグナムに対してとび蹴りを喰らわせる。
「ぐおおおおお!!!!」
シグナムはそのまま建物の外まで吹き飛ばされてしまった。
「大丈夫かフェイト!」
「いやあ、奇襲が見事に決まってよかったです。」
「シン! デスティニー! ありがとう!」
フェイトは痛む体で顔を歪めながら無理やり立ち上がる。
「バルディッシュ、まだ戦えますか?」
[問題ありません]
バルディッシュはそのまま自己修復で元の姿に戻る。
「よし……それじゃなのはの仇を討ちに行くぞ!」
「うん!」

一方その頃、吹き飛ばされて隣のビルに激突したシグナムはヴィータに助け出されていた。
「す、すまないヴィータ、まだ伏兵がいたとは……油断した」
「畜生、管理局め……いつか戦う羽目になると思っていたけど……!」
するとそこに、シグナムが吹き飛んできた方角からシンとフェイトがやって来た。
「やいやい! お前達よくもなのはをボコボコにしてくれたな! お陰で久しぶりに会うのに色々と台無しだぞ!」
「なんだあのガキ……ん?」
ふと、ヴィータはシンの傍でふよふよ浮いているデスティニーを見る。
「シグナム、アイツのデバイス……」
「む? ノワールと似ているな、まさか同型機?」

一方シンとフェイトはヴィータ達がデスティニーに気を取られている間、作戦会議を始める。
「ちょうど二対ニだな、一人ずつ相手にするか」
「私……あのポニーテールの人と戦いたい」
「んじゃ俺はあの変なウサギの帽子被ったチビをブッ飛ばす!」

シンのその一言で、ヴィータは目の瞳孔を開かせて顔に青筋を浮かべる。
「てめえ……! はやてがくれたこいつをバカにしたな! このガキ!」
「んだと! ガキって言った方がガキなんだよこのチビ!」
「うるせええ!!! このガキ!」
「チビ! 変なウサギ付けたチビ!」
「ガ―キ! ガ―キ!」
「チビチビチビチビ!」
「ちょっとシン!?」
なんだか低レベルな口げんかを始めたシンに戸惑うフェイト。
「はっはっは、小学生ですか……可愛らしいもんです」
「デスティニ~! 笑ってないで止めてよ~!」
「いいかげんにせんか!」
見るに見かねたシグナムはヴィータの脳天にげんこつを喰らわせて喧嘩を中断させる。
「いってー! なんで私だけ殴るんだよ!」
「低レベルな争いをしているからだ! こうしている間にもザフィーラは苦戦しているのだぞ!」


~シン達の頭上~

「こんのやろ~! フェイト助けに行くんだから邪魔すんなこの犬っころ!」
「犬ではない守護獣だ!!」



「なんか上も同レベルっぽいけど……」
「ええいうるさい! とにかくお前達のリンカーコアを頂くぞ!」
「シン! ここはよろしくね!」
そう言ってフェイトとシグナムは別の場所に移動して行った。
「畜生……お前のせいで怒られたじゃねえか!」
「うっせー! 知るかこのチビ!」
「カッッッチィーン!!!! もう切れた! テメエはアイゼンですり潰して粉にしてやる!」
そう言ってヴィータはシンに向かって猛突進する。



一方その頃、戦闘に遭遇したスウェンはビルの中の階段を駆け上がっていた。
「ちょちょちょアニキ!? 階段で走ったら危ないッスよ!」
「そうは言っても! 何故アイツ等が……ザフィーラとシグナムも居たぞ!」
そしてスウェンはビルの屋上にやってくる、そして彼はシグナム達が見知らぬ少年達と激しい戦いを繰り広げている光景を目撃する。
「どうなってる……!? 子供が……!? 人が空を飛んで戦っている!?」
「あれが魔法ッスよアニキ」
「魔法……シグナムが話していたがまさかこれほどまでとは……!」


そのスウェンの様子を、アースラでモニタリングしていたエイミィ達が発見する。
「艦長! 結界の中に一般人が!!」
「なんですって!? まずいわね……急いで救援を!」
ふと、ブリッジに来ていたヴィアはモニターに映るスウェンのポケットに入っているノワールを発見する。
「あれは……ノワール!? なんでこんなところに!?」


そしてシグナム達から離れた場所にいたシャマルや、戦っている最中のザフィーラ達もまた、スウェン達を発見し動揺する。
「す、スウェン!? ノワール!? なんでこんな所に!?」
『スウェン……!? ば、バカな!? 何故ここにいる!?』
『すまないシャマル! 我々は手が離せない! 代わりに奴を保護してくれないか!?』
「わ、わかったわ!」
シャマルは慌てて闇の書を伴ってスウェンの元に飛んで行った。


一方スウェンはどうしたらいいか解らず、ただ屋上でオロオロとシグナム達が戦っている様子を見ていた。
「何故アイツ等はこんな事を……ノワール、何か知っているか?」
「オイラは何も聞いてませんッス」
「とりあえず……シャマルも探さなければ……。」

「スウェン! ノワール!」
すると彼等の元にシャマルがやってくる。
「シャマル……!? どうしたんだその格好? まさかお前も……」
「あ、あの……説明している暇はないの! とにかく今はこの場から離れないと……!」
その時、シャマルは突如出現した光の輪により拘束され、身動きが取れなくなる。
「きゃあ!?」
「シャマル!?」
「どうやら上手く言ったみたいだな……プレシアの時の教訓を生かして問答無用でバインドを掛けて正解だな」
すると上空からS2Uを持ったクロノが降りて来た。
「な、なんだお前は!?」
「管理局……! しまった……!」
「まさか一般人を保護しに来たらそれと遭遇するとはな……闇の書」
そう言ってクロノはシャマルの傍でふよふよ浮いていた闇の書を睨みつける。
「闇の書の事を知っているの……!?」
「成程、あそこでフェイト達と戦っているのは闇の書の騎士か、とにかく……僕と共に来てもらおうか」
クロノは間髪いれずシャマルを連れて行こうと彼女に近付く。するとその間をスウェンが遮った。
「ま、待ってくれ! シャマルを一体どうするつもりだ!?」
「なんだ君は? 彼女の関係者か? なら一緒に来てもら……」
「そりゃ!」
次の瞬間、ノワールがポケットの中から飛び出し、魔法を使ってクロノを遠くまで吹き飛ばした。
「うわああああ!?」
「ノワール!? 一体何を!?」
突然の事態にスウェンはノワールに詰め寄る、しかしノワールは怯む様子もなく淡々と語り始めた。
「アニキ……このままじゃシャマル姐さんだけじゃない、他のみんなも危なくなる。今管理局に捕まるのはヤバい」
「ノワール……?」
「なんとかしてこの場を切り抜ける必要がある、その為には……アニキの力が必要ッス。」
「お、俺の力……? うっ!?」
その時、スウェンの胸の奥で何かが蠢き、彼は胸を押さえて蹲る。

そしてその様子に戦っている最中のシンとフェイトも気付いた。
「この魔力反応……!?」
「まさか……ジュエルシード!?」

「なんだこれは……!? き、気分が……!」
「なんでアニキがその石を取りこんでいるのかは知りません、でもその力を使えばはやて姐さん達だけじゃない、あの子も救える筈……」
ノワールは真剣なまなざしでスウェンを見続ける、それに対してスウェンはノワールの真剣な様子を見て自分が何をすべきかなんとなく悟った。
「よく解らないが……俺が何をすべきか、お前は解っているんだな?」
「ええ、オイラの力……存分に使ってください、使い方は戦いながら教えますんで」
「……信じるぞ」

そしてスウェンは瞳を閉じ、ノワールを自分の元に寄せた。その瞬間彼の体は光に包まれ、背中には機械的な翼が、腰には二丁の拳銃が装備される。
「これが……俺……」
「マイスタースウェン、命令を」
ノワールはいつものおちゃらけた雰囲気ではなく、まるで気高き騎士のような凛とした表情でスウェンを見る。
「……とにかくまずはシャマルを助けるか」
そう言ってスウェンはシャマルのバインドを解き、彼女を抱き起した。
「す、スウェン、ノワール、その姿は……?」
「説明は後ッス、とにかく今はこの場を切り抜けることが先決ッスよ」
「後で話して貰うぞ、お前達の目的を……」
そう言ってスウェンは腰に装備された二丁の銃……ショ―ティーを手に取り、戻ってきたクロノと対峙した。
「君は彼等の仲間か!? どおりで結界の中に……一緒に来てもらうぞ!」
「すまない、状況がよく飲み込めないのだが……アイツ等が理由も無く戦う筈はない、なら俺は……」

スウェンはそのまま、銃口をクロノに向けた。
「俺はこいつらを家に連れて帰る、それがはやてとの約束だから」


運命は、再び交錯する……。










本日はここまで、次回は戦闘をチョロっとやって日常パートに移行ですかね。
予定より投稿が遅れて申し訳ございませんでした、ちょっとパソコンにトラブルがありまして……直ったのでいつもと違う時間帯に投稿させていただきました。
次の投稿は木曜日になります、感想のレス返しもその時に。



[22867] 第二話「新たなる生活」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/02/03 20:52
 第二話「新たなる生活」



スウェンがノワールを使ってセットアップしたその数分前、シンとフェイトは二手に分かれて襲撃者の対処に当たっていた。
「ふっ……中々やるな」
「そっちも……!」
「おら! ぶっ飛びやがれ!」
「そうはいくかー!」
二人はヴィータとシグナムの攻撃を掻い潜りながら隙を見て近接攻撃を仕掛ける……が、ことごとく防がれてしまう。
(この人、強い……!)
「もらった!」
そして少し上の技量と経験の差により、フェイトはシグナムの一撃を受けビルまで吹き飛ばされてしまった。
「きゃああああ!!!」
「フェイト!!?」
「はん! 次はテメエだ!」
そう言ってヴィータは動揺するシンに向かってグラーフアイゼンを振り降ろす。
「こ……このやろおおおおお!!!!」
その時、フェイトを傷つけられた事により怒ったシンの中で種が弾けるイメージが発生する、そしてシンはそのままヴィータの一撃をかわし彼女の横に回りこむ。
「は、早い!?」
「くらええええ!!!!」
シンは勢いよく体を捻ってヴィータの顔目がけて回転蹴りを放つ。
「うわ!」
ヴィータはそれをアイゼンで防ぐが、シンの一撃は彼女の予想を遥かに上回っており、彼女はそのままビルの屋上の貯水タンクに激突した。そしてその拍子に彼女が被っていた赤くてウサギの人形が縫い付けられている帽子もどこかに飛んでいてしまった。
「うわあああ!!!?」
「ヴィータ!」
「次はお前だ!」
シンは間髪入れず次はシグナムに襲いかかる。
「ぬう!」
「でやあ!!」
アロンダイトとレヴァンティンがぶつかり合う金属音が辺りに鳴り響く。
(なんだこの少年は……!? 急に強くなった……!?)
「うりゃあああ!!!」
シンはそのまま背中の翼を大きく広げ、鍔競り合いをしている相手のシグナムを力ずくで押し出す。
「ぬうううう!!!」
「おおおおお!!!」
そしてシンはアロンダイトでレヴァンティンを弾くと、シグナムの腹部目がけてパルマフィオキーナを放つ。
「いっけえええええ!!!」
「なっ……!?」
シグナムはそのまま大爆発を起こし、ボロボロのまま地上に落下していった。
(馬鹿……な……! 私達がこうも簡単に……!)
「よし……デスティニーはフェイトを頼む、俺はアイツ等を捕まえに……。」
「……! 主!」
その時、デスティニーは何かの危機を察知しシンに声を掛ける、すると彼の足にワイヤーが絡みついた。
「うわ!? 何だコレ!?」
「この武装……まさか!?」
デスティニーはワイヤーが放たれた方角を見る、そこには先程ノワールとセットアップしたスウェンの姿があった。


「シャマル! お前は2人を連れて脱出しろ! 殿は俺が務める!」
「で、でも……」
「早く行け!」
「う、うん!」
シャマルはスウェンに言われた通りにシグナムとヴィータが倒れている場所に向かう。
「逃がすか!」
その後を追おうとするクロノ、しかしスウェンは空いている方の手からもワイヤーを射出しクロノの体に巻きつける。
「な……!?」
「フン!」
スウェンはそのままシンを縛っているワイヤーを引っ張り、彼をクロノ目がけて叩きつける。
「うぎゃ!」
「うわっ!」
そして続けざまに彼等に向かって二丁拳銃型のビームライフル、ショ―ティーのビーム弾を何十発も放つ。
「やったか……?」
「アニキそれフラグ!」
すると爆煙の中からシンが飛び出してくる、クロノが展開した魔力シールドで攻撃から逃れたのだ。
「やろおおおお!!!」
「ノワール! フラガラッハ!」
「あいよ!」
スウェンは背中に装備されている翼から二対の剣……フラガラッハを手に取り、シンのアロンダイトを受け止める。
「アンタ! 一体何なんだよ!? アイツ等の仲間か!?」
「いや……居候のようなものだ」
激しい鍔競り合いを繰り広げるシンとスウェン、そんな中デスティニーとノワールは皆に気付かれないよう念話で会話する。


(ノワール……何故アナタがそこに? それに彼はもしや……)
(久しぶりだなデスティニー、俺がここにいるのは偶然さ、7か月前の騒動でどういう訳かこの世界に辿り着いてな……しかもマイスターまでこの世界でめぐり会えちまった、いやあ……これも運命か何かだろうな)
(何故彼がこの世界に……)
(デスティニー、一応気を付けた方がいい……ちょっと調べてみたんだけどマイスターをこの世界に送り込んだ連中は……)
(ですね……しばらく演技していた方がいいでしょう。誰が敵なのか、誰が味方なのか解らないうちは……)


一方スウェンの近くに浮くノワールに気付いたシンは、戦いながらスウェンに問いかける。
「その妖精……それに魔力、アンタもジュエルシードを拾ったのか!?」
「ジュエルシード? 一体何の事だ? お前は俺の何を知っている?」
「しらばっくれるなあああああ!!!」
シンは右手をアロンダイトから離し、ビームライフルを手にとって銃口をスウェンに向ける。
「ぬお……!」
スウェンは銃口からビーム弾が放たれる瞬間、体を捻らせて攻撃を避ける。
「そ、そんな避け方ありかよ!?」
「……!」
スウェンはそのままシンとの距離をとり、地面に向かってショ―ティーのビーム弾を放ちコンクリートの破片を宙に舞いあがらせる。
「うわっ!」
「目くらまし!?」
そしてスウェンはシンとクロノが怯んだスキに空へ逃げ出した。
(シャマル姐さん! 他の皆は!?)
(大丈夫! ザフィーラとも合流できたわ……悔しいけど撤退しましょう!)
そしてスウェンとヴォルケンリッターの面々はそのまま猛スピードでその場から逃げ出していった……。
「待て! 逃げるな!」
「主……もう無理です、これ以上の深追いは無意味です」
(ああ! にげちゃう……! ご、ごめんクロノ君、こっちでもロストしちゃった……)
「クソッ! あの魔導師が持っていた魔術書……!」
するとそこに、先程シグナムに吹き飛ばされて負傷したフェイトを抱えたアルフと、同じく負傷したなのはを抱えたユーノが飛んできた。
「シン!」
「ごめん……! あの野郎に逃げられちまったよ……」
「フェイト! なのは! 大丈夫なのか?」
「う、うん……皆、助けてくれてありがとう」
「お礼は後にしましょう、今はとにかく……アースラに戻ってお二人の傷を癒してあげましょう」
「うん……」
ふと、シンはスウェン達が飛び去って行った方角を見て、歯ぎしりをする。
(あいつら……一体何なんだよ……! ん?)
その時、シンはすぐ近くにヴィータが被っていた赤い帽子を発見する。
「これ……確かあのチビが被っていた……」
シンはその帽子を拾い上げ、そのままフェイト達と共にアースラに転移していった……。



その頃先程戦闘を行ったビル街から大分離れた場所にある公園、そこでシグナムとヴィータはシャマルの治療を受けていた。
「くっそー! あのガキ何者だよ! 私達の邪魔をして……!」
「暴れないでヴィータちゃん、治療できないわ」
「ついに我々も管理局に補足されたか……」
「ああ、これからは動きにくくなるな」
そう言ってシグナムは自分の腕に巻かれた包帯を見る。
「その傷……あの少女につけられたのか」
「ああ……中々の腕だった、一歩間違えればやられていたのは私の方だった」
ふと、治療を終えたヴィータは皆と少し離れた場所で腕組をして考え事をいているスウェンと、彼の肩の上にもたれかかっているノワールを見る。
「その……助かったよスウェン、ノワール……お前達にも魔法が使えたんだな」
「それが解ったのはついさっきだがな……ノワール、お前は一体何なんだ?」
「さー? オイラ生まれたばっかりだから解んないッス~……で、今度はこっちが質問していいッスか?」
その瞬間、シグナム達は一斉にスウェンとノワールから目線を逸らす。
「……言いたくないのなら言わなくていい、だが少し失望したぞ……お前達とその闇の書の役割は知っている、しかしそれは主であるはやてに咎められていた筈だぞ? それなのにお前達は……」
「ち、違うのよスウェン!」
スウェンの失意混じりの言葉をシャマルは必死に否定する、しかしスウェンはそれでも厳しい言葉を掛け続けた。
「何が違うって言うんだ? あの子達が何者かは知らないがあんな年端もいかない子達を襲うとは……」
「…………!」
すると耐えきれなくなったヴィータがドカドカとスウェンに近付き彼に掴みかかる。
「うるせえ! 何も知らないくせに……! 私達が……私達がああしなきゃ……! 手を汚さなきゃ……!」
「……」
スウェンはそのヴィータの鬼気迫る様子に何も言えずに圧されていた。


「私達が戦わなきゃ……はやてが死んじゃうんだよぉ!!」


数分後、スウェンとノワールはシグナムやシャマルから総ての事情を聞き出した。
「つまり……はやて姐さんはその闇の書の呪いで近い将来死んじまうってわけですかい」
「ああ、足が不自由なのも呪いの影響だ……それから逃れる為にはリンカーコアを集めて闇の書を完成させ、主を真の闇の書の王に覚醒させなくてはならないのだ」
「リンカーコア……お前達魔導師が持つ魔力の源か……」
一通り話を聞いたスウェンは、軽く放心状態に陥っていた。
(そんな……はやてが死んでしまうなんて……そう言えば最近、体の調子が悪そうだったな……)
「スウェン……この事ははやてちゃんに黙っていてくれない? あの子に余計な心配は掛けたくないの」
「人殺しは絶対しないと誓う、はやての手は汚したくないから……」
シャマル達の懇願に対し、スウェンは特に断る理由もなかった。
「そういう事情なら仕方がないだろう……それではやてを救えるんだな?」
「ああ」
「……」
そんなスウェン達の様子を、ノワールはただただ考え事をしながら黙って見守っていた……。

その時、ザフィーラはヴィータの姿を見てある事に気付き彼女に声を掛ける。
「む? そう言えばヴィータ、帽子はどうしたのだ?」
「え?」
ヴィータはとっさに自分の頭を触り、いつも被っているゲボウサ付きの帽子が無い事に気付く。


「な、ない! 私の帽子が……無くしたあああああああ!!!?」




一方その頃次元の狭間にある時空管理局基地では、治療を受けたなのはが収容されている病室にシンとフェイトが見舞いに来ていた。
「なのは、もう大丈夫なの?」
「うん、お医者さんが君は若いから治りが早いって言ってた」
「ごめんな……俺たちがもっと早く駈けつけていれば怪我なんてさせなかったのに……」
「そんなことないよ、みんなが来てくれなかったら私……もっとひどい目にあっていたと思う、助けてくれてありがとう……それと……久しぶりだね」
なのはは改めて二人と再会できた喜びを伝える。
「うん、なのはも元気そうでよかった」
「久しぶりの再会がこんな形になっちゃったけど……でもまたみんな一緒だな」

「すまない、邪魔するよ」
するとそこにクロノがやってきた。
「なのは、もう大丈夫なのかい?」
「うん……クロノ君、あの人達が誰かわかった?」
「ヴィアさんの話ではなのはの世界を中心に魔導師を襲っている奴らがいるって聞いたけど……アイツ等なのか?」
「うん、同一犯なのは間違いない、そしてどうやら彼女達は『闇の書』の守護騎士のようなんだ」
「「「闇の書?」」」
数分に渡ってクロノから闇の書について説明を受ける三人。
「ふ~ん、じゃあその闇の書っていうのが完成したら世界が滅びるぐらい大変なことになるのは間違いないんだな?」
「事実十一年前にも闇の書による暴走事故が起きている、あれは非常に危険なロストロギアなんだ」
するとフェイトとシンはお互いの顔を見合わせ、こくりと頷く。
「なあクロノ、俺とフェイトも今回の事件を手伝わせてくれないか?」
クロノはシン達ならそう言うだろうと思っていたのか、驚きはしなかった。
「いいのか……? 君達は本来関係の無い立場なんだぞ?」
「私達ばっかり遊んでられないよ……アルフだって手伝ってくれる」
「それにお前らは大切な友達なんだ、あの事件でみんなに迷惑をかけた償いって意味も含めて協力したいんだよ」
「そうか……ありがとう」
「おにーちゃーん」
するとそこに、今度はマユが眠そうな目を擦りながらシン達の様子を見にやって来た。
「マユ? 駄目じゃないか……もう寝る時間だぞ」
「だって……おにいちゃんやフェイトおねーちゃんが心配だったんだもん……」
「シン君、もしかしてこの子……」
「ああ、そういえばなのはは初めてだったな、俺の妹のマユだ」
「おにーちゃん、この人は?」
「俺の友達のなのはだよ、挨拶しような」
「なのはさんはじめまして!」
そう言ってぺこりとお辞儀するマユを見て、なのはは自分の落ち込んでいる気持ちが少し晴れていくのを感じていた。
「ふふ……マユちゃんエライね、ちゃんと挨拶できるんだ」
「そーだろそーだろ!」
「なんで君が偉そうにするんだ?」

その時、マユはシンの手に赤い帽子が握られているのを見付ける。
「おにーちゃんそれなーに? 可愛いうさぎさんだね」
「ああこれ? あのチビが被っていた帽子……」
「ねー、それマユにちょーだい」
「えっ!?」
マユの予想外の要望に困惑するシン。
「だ、駄目だよマユ、コレは後でリンディさんに証拠の品として……。」
「えー! やだやだ欲しいー!」
そう言って地面に転がって駄々をこね始めるマユ。
「にゃはは……こういう所は子供っぽいんだね。」
「そ、そうだね……。」
「その帽子くれなきゃやーだ! おにいちゃんなんてきらいー!」
「えー!? じゃあハイ。」
嫌いと言われた途端、あっさり帽子を明け渡すシン。
「ちょ!? 何勝手な事しているんだ君は!? それ証拠の品!」
「いーじゃんいーじゃん、あれ別に特別なモンでもなさそうだし……マユが笑ってくれるならそれでいーじゃん。」
「そういう問題じゃなあああああああい!」
そしてぎゃいぎゃい言い争いを始めるクロノとシン。
「シン君……まさか……シスコン?」
「シスコン……シンがお兄ちゃんなら我儘いい放題……」



病室がちょっとした騒ぎになっていた頃、ブリッジではエイミィが先ほどの戦闘データを纏めている横でリンディ、ヴィア、そしてデスティニーとシンの父が今後のことについて話し合っていた。
「じゃああの銀髪の少年が使っていたデバイス……ヴィアさんが開発したデバイスだっていうのかい?」
「はい、直接戦闘したうえで確認しました、ノワールは私と同時期に開発された同型のデバイスです」
「まさかPT事件の後に海鳴に流れ着いていたなんて……それが闇の書の騎士に渡ってしまったわけね」
「いえ、ノワールを使用していた少年はどうも騎士達とは違うみたいなんです。これを見てもらえますか?」
そう言ってエイミぃは採集したスウェンのデータをリンディ達に見せる。
「この魔力値……やはりジュエルシードですか、彼もシン君のように疑似リンカーコアを体の中に保有しているんですね」
「大方ノワールとセットで拾ったか……とにかく彼のことも徹底的に調べる必要があるかもね、もしかしたら彼が主である可能性も……」
「……。」
デスティニーは大方の事情を知っているにも拘らず、リンディ達や創造主であるヴィアに話すことはなかった。
(今は知らないフリをしていたほうがいいですね……今は誰が味方で誰が敵なのかわからない状態ですからね……)

「ま、これ以上悩んでもしょうがないですね、こんな事件があった以上アースラはそのうち来る命令でこの世界に常駐しなくてはいけませんし……」
「早くアスカさん達の引っ越し作業も進めないといけませんね。」
「すみません、こんな忙しい時に我々のことまで……でもいいんですか? 敵がなのはちゃんをもう一度襲わないという保証はないんでしょう?」
そのシンの父のもっともな意見に対し、リンディの頭の中であるアイディアが閃く。
「そうだ、せっかくですし……あの作戦でいきましょうか」
「「あの作戦?」」





数日後、海鳴市のとあるマンションの一室。シン達アスカ一家は管理局員たちと共に引っ越しの作業を進めていた。
「へえ~、今日からここに住むのか~」
「ふわー! 高い高い~!」
アスカ兄妹はベランダに出て海鳴の景色を見て感嘆の声を上げる、すると中で作業をしていたクロノがシンに声を掛けてくる。
「シン、遊んでないで荷物を運ぶのを手伝ってくれ」
「あ、ごめんごめん。」
そう言って荷物をもって自分達が暮らす部屋に入るシン、そこに、
「あ!シン見て見て!」
動物モードになったユーノとアルフ、そしてそれを愛でるなのはとフェイトが出迎えた。
「ジャーン!こいぬフォーム~」
「うお!? アルフがちっちゃくなっている!?」
「わ~! かわいいな~!」
「ユーノ君も久々にフェレットモードだよ~」
「エヘヘ……どうも……」
「うわー何度見ても凄いなソレ、どうやんの? 俺にもできる?」
作業中ということも忘れて、シンはアルフ達を撫でる。
「まったく……」
クロノはその光景を見ながら荷物を置き、テーブルのイスに座る。
「お疲れ様クロノ君」
そう言ってエイミィはクロノにジュースを渡す。
「それにしてもみんなああやっていると歳相応の子供だよね」
「そうだな……」
するとそこに作業を一通り終えたシンの母親もやってくる。
「でも驚いたわ、まさかあなた達も海鳴に……しかも私たちのお隣に引っ越してくるなんて、リンディさんも意外と大胆なことするわねー」
「ははは……うちの母は昔からそういう人ですから」
「ま、これも大事な任務のうちですし……ああやってフェイトちゃんもなのはちゃん達にいつでも会えるから一石二鳥なんですよ」

ピンポーン

「あれ? お客さんかな? ハイハーイ」
チャイム音がして、エイミィは玄関へ向かう。
「誰か来た?」
「あ!もしかして!」

「やっほー!遊びに来たよー」
「おじゃましますー」
「どうぞどうぞ~あがってー。」
エイミィが連れてきたのは金髪と紫髪の少女だった。
「あ!アリサちゃーん!すずかちゃーん!」
二人に駆け寄るなのは、そのあとをシン達も付いて行く。
「もしかしてこの子達がなのはの言っていた…?」
「はじめまして……て言うのも変かな?ビデオメールで何回も会っているし…。」
嬉しそうに金髪の少女アリサと紫髪のすずかはシンとフェイトにあいさつをする。
「うん、私も会えて嬉しいよアリサ、すずか」
「俺シン・アスカ、よろしくな。こっちは妹のマユ」
「こんにちは~」
シンとフェイトとマユも挨拶を返す。
「へえ、アンタがシン・アスカね。フェイトの友達で確かお父さんの仕事で越してきたのよね? 私と一緒だー」
(そういやこいつらの前ではそんな設定で通すんだったな。あながち間違ってないし)
「……おねーちゃんたちもなフェイトおねーちゃんとなのはおねーちゃんのおともだち?」
「そうだよー、かわいい妹さんだねー」

「あらあら、賑やかね」
そこに引っ越し作業を終えたリンディがやってくる。
「あれ?リンディさんどうかしたんですか?」
「私とアスカさんのところの引越しの作業も終わったし、そろそろなのはさんのおうちに挨拶をしに行こうと思っているのよ、みんな用意しておいてね」
「「「「「はーい。」」」」」
そしてリンディは台所に向かっていった。
「ねえねえ、今の人フェイトのお母さん? 綺麗な人だよねー」
「えっ!?」
アリサの質問にフェイトは驚き、
「今は……まだ違うよ」
顔を赤くして答えた。
(フェイト……)


シンはその光景をみて、先日アースラのエレベーターで会った時のリンディとの会話を思い出していた。

『フェイトを養子に?』
『ええ、アリシアさんも一緒にね、答えを出すのは裁判が終わってからでいいとは言ってはおいたんだけど……やっぱりまだ悩んでいるみたい』
『俺はいいと思うけどなー、リンディさんがフェイトのお母さんになるのは……』
『ありがとう、でねシン君……もしフェイトさんが悩んでいるようなら彼女の相談に乗ってあげてくれない?』
『いいですよ。プレシアさんのことは俺にも責任があるし……』
『シン君……』



「どうしたのシン君? 考え事?」
心配そうにすずかがシンの顔を覗き込んでくる。
「……いや、なんでもない。それよりも早く行こう、なのはの家ってたしかお菓子屋さんなんだよな」
「ちがうよ~喫茶店だよ~」
「わーい、おでかけだー」
そう言ってマユは段ボールの中から赤くてウサギのぬいぐるみが付けられた帽子……先日の戦闘でシンが回収したヴィータの帽子をとりだし、それを被った。
「おー、可愛い帽子だね? それどうしたの?」
「おにいちゃんがくれたのー」
「ま、早めのクリスマスプレゼントさ。」
マユはヴィータの帽子がすっかりお気に入りになってしまい、無理に奪おうとするとくずるのでクロノが結局折れて彼女の所有物になったのだ。
「クリスマス本番もプレゼントあげるからなー」
「わーい、おにいちゃんだいすきー」
「大好きだなんてそんなウへへへへ」
(((シスコンだ……)))
(いいなぁマユちゃん……)


そんな和やかな空気を醸し出すアスカ家とハラオウン家、するとハラオウン家の隣の部屋の住人がちょうど帰って来ていた。
(あれ……? 今日引っ越してきた人かな? 早速どこかに出かけるのかな?)
その時、ハラオウン家の方からクロノとエイミィが出て来て、隣の住人と目が合う。
「あ、お隣さんですか、私達今日隣に引っ越してきたハラオウンです。」
「ど、どうも……外国の方ですか?」
「まあそんな所です、今後ともよろしく……」
ふと、クロノは挨拶しようとして相手の名前が解らない事に気付く。
「あ、すみません……自己紹介がまだでしたね、僕は沙慈・クロスロード、聖祥大付属小学校の四年生です」


数時間後、引越しの挨拶のため皆はなのはの実家である喫茶店翠屋にやってきた。
「ふーん、ここがなのはの実家か、確か剣道場もやっているんだっけ? 俺も習ってみるかな?」
「いいよ、私がお兄ちゃんに話しておいてあげる」
そしてシンたちはオープンテラスでテーブルを囲んで談話していた。
「わ~ユーノ君久しぶり~」
「キュキュ」
「あんたってどこかで見たことあるのよね……」
「クゥ~ン(汗)」
(……? なんでアリサがアルフのこと知っているんだ?)
不思議に思ったシンは念話でなのはに質問する。
(アルフさんがプレシアさんにやられてケガしてるところをアリサちゃんが助けたんだよ、ヴィアさんも一緒にね、私もビックリしちゃった)
(へえ……見た目凶暴そうだけどいいヤツなんだな~)
(見た目じゃなくてアリサちゃんは本当に凶暴だよ)
その時アリサの額に閃光(ニュータ○プのアレ)が走った。
「なんだろう……今すごく失礼な事言われたような気がする」
「いい!?」
「きっ……気のせいなんじゃないかなー?」
「そう……? あやしい……」

その時、シンは隣にいたマユの口元に彼女が食べていたショートケーキのクリームが付いているのを発見する。
「ほらマユ、お口にクリーム付いているぞ」
そう言ってシンはそのクリームを指で取り、そのままその指を舐めた。

(……シン、私のも取ってくれるかなぁ)ぺたぺた
(フェイトちゃん……私のは取ってくれるかな?)ぬりぬり
(なによ兄妹でいちゃいちゃして! でも……なのはなら取ってくれるかな?)ちょんちょん

「??? なんでフェイトおねーちゃんとなのはおねーちゃんとアリサおねーちゃん、じぶんでじぶんのおかおにクリームぬってるの?」
「マユちゃ~ん? アナタは真似しなくていいからね~?」
するとそこに、突然見知らぬ青年がシン達に声を掛けてきた。
「あっ、君がフェイトちゃんにシン君、ここにいたんだね。」
「え? はいそうですけど……あれアレックスさん? どうしたんですか?」
「リンディ提督に頼まれていた品、持ってきたよ」


一方リンディ達やシンの両親はなのはの両親に挨拶をしていた。なのはの両親、士郎と桃子はここで子供達と共に喫茶店を経営しているのだ。
「そういう訳でこれからしばらくご近所になりますのでよろしくお願いします」
「ウチの子供達共々お世話になります」
ペコリと頭を下げるリンディ達。
「いえいえそんな」
「こちらこそウチの娘がお世話になって……ところでフェイトちゃんとシン君三年生ですよね、学校はどちらに?」
「それはですね……」
そこに大きめの箱を二つ持ったフェイト達が店の中に入ってくる。
「あのリンディていと、リンディさん、これ……」
「はい、なんでしょう?」
フェイトは先程の青年から貰った箱を開けてみせる。その中にはとある小学校の制服が入っていた。
「転校手続きは取ってあるから今月から二人ともなのはさんの学校に通ってもらう事になります」
「二人って……俺も!?」
自分も一緒だということを想定しておらず驚くシンに、両親はすぐさま事情を説明する。
「はは、こんな事もあろうかとリンディさんに同じ学校に入れるよう手配してもらったんだよ」
「顔見知りの子と一緒の方が学校生活に馴染みやすいでしょ?」
「ほう聖祥小学校ですか~あそこはいい学校ですよ、なあなのは?」
「うんうん!」
なのははフェイト達が自分と同じ学校に通うと知って、とても嬉しそうに頷く。
「へえ~、よろしくねフェイト、シン」
「学校でも一緒なんだね~嬉しいな~」
「ありがとう! 父さん! 母さん!」
様々な反応をみせる子供達、そしてフェイトは、
「あの……その……ありがとうございます……」
制服が入っている箱を抱きしめながら、頬を赤く染めてリンディにお礼を言った。










今日はここまで、沙慈はまだ東京に引っ越す前、両親はもう亡くなっているという設定です。絹江さんも近いうちに出す予定なのでお楽しみに。

次回の投下は土曜日になります。



[22867] 第三話「青き清浄なる世界」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/02/05 21:35
 第三話「青き清浄なる世界」


なのは襲撃事件から数日後、八神家では夕飯の支度をするためはやてとシャマルが近くのスーパー「MIKUNIYA」に買い物に来ていた。
「今夜はみんなで鍋でもしようか、最近めっきり寒くなってきたなあ」
「ですねー、こういうときは温かいものが一番ですから」
そう言いながらシャマルははやての車いすを押しながら、鍋の材料その他諸々を買い物籠に入れていき、レジで会計を済ませてスーパーの出口にやってくる。
「はやてちゃん、ちょっと待っていてくださいね」
スーパーの外へと通じる扉は自動式ではなく手動式となっており、はやての車いすを押していたはやては一旦手を離し扉を開いたまま固定してからはやてを外に出そうとした、その時……。
「はい、どうぞ」
二人の様子を背後から見ていた買い物籠をもった主婦がシャマルの代わりに扉をあける。
「あ、すみませんありがとうございます」
「いえいえ、どういたしまして」
そう言って主婦ははやてとシャマルが外に出たのを確認すると、自分はさっさと我が家へと歩いて行った……。
「親切な人やったなあ」
「見かけない人でしたけど最近引っ越ししてきた人でしょうか?」

そして数分後、二人は皆が待つ我が家に帰宅する。すると玄関でシグナムと狼形態のザフィーラが出迎える。
「みんなただいまー」
「主はやて、おかえりなさいませ」
「お、みんなも帰ってきてたんか、今日は早いなあ」
「ええ……。」
するとそこに、自室から出てきたスウェンが二人に話しかけてくる。
「もうすぐ夕飯か……作るの手伝うぞ」
「おおきに、そういえばヴィータは?」
「ああ、二階でノワールとゲームしている」
「なはは、あの子も好きやねぇ」

その頃二階では、ヴィータとノワールがとある格闘ゲームで対戦していた。ちなみにノワールの体長は30センチほどしかないのでコントローラーは握れないのだが、その代りコントローラーに乗って足でキャラクターを動かしていた。
「隙有り! もらっとぅわー!」
「し、しま……!」

アボーン!

「あぁー! 私のT・○ークがあああ!!!」
「いえーい! オイラ十連勝ッス~! ブ○ンカ最高~!」
「ちくしょー……どうやったらそんな小さな体で複雑なコマンド入力できるんだよ……」
そう言ってヴィータはコントローラーをぽいっと放り出し、床にゴロンと寝転がった。
「ヴィータの姉貴、最近キレが悪いッスねえ……いつもなら『もう一戦だ!』って言って突っかかってくるのに……」
「んなことねーよ、ちくしょう……」
(やっぱ帽子無くしたのがショックだったんだなぁ……)
ヴィータはなのはを襲撃した際、シンの攻撃により自分のお気に入りのウサギのぬいぐるみを付けた帽子を紛失していた、後日何度か探しに行ってはいるのだが、結局見つけることができず今日までに至ったのだ。
「姉御、元気」だしてくだせえ、あの帽子はきっと見つかりますって」
「うん……」
するとそこに、はやての相棒である闇の書がふよふよと浮きながらヴィータ達のいる部屋に入って来た。
「お、闇の書じゃないッスか、どうやら夕飯の時間のようッスね」
「え? もうこんな時間か、行くぞノワール」
そしてヴィータはノワールと闇の書を伴って皆の待つ居間に向かうのだった。



その日の夕方、はやてが台所で夕飯の準備をしていた頃、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラはバリアジャケットを身にまとい、リンカーコア収集のため異世界に出撃しようとしていた。
「それではスウェン、主を頼んだぞ」
「ああ……」
そんな彼らを、スウェンとノワールは見送ろうとしていた。
「姐さん……ホントにオイラ達は手伝わなくていいんスか?」
「ああ、お前たちはもしもの時のために主を守ってくれ」
「わかった……」
「じゃあな、頼んだぞ。」
そしてシグナム達はそのまま星が輝き始めた夕方の空に飛び立って行った。そしてそれを見送ったスウェンは隣にいたノワールにある疑問を打ち明ける。
「……ノワール、シグナム達がやっている事は本当に正しいのか?」
「さあ? アニキはどうしてそう思うんスか?」
「いや……なんとなくだ。」
そう言ってスウェンは自分の胸辺りをギュッと握りしめる。
(シャマルは……リンカーコアという魔力の源をもつ人間じゃないと魔法は使えないと言っていた、じゃあ俺は何故あの時戦えたんだ? 何故みんな……本当のことを話してくれないんだ?)
ふと、スウェンとノワールの体に12月の冷たい風が吹きつける。
「うわっさぶっ! アニキー、早く家に入りましょうや」
「ああ……」


一方出撃したシグナムとシャマルは飛行しながらスウェンのことについて話し合っていた。
「シャマル……あいつのリンカーコア……」
「ええ、ちょっと調べてみたんだけど、あの子の体の中にリンカーコアの代わりに魔石のようなものが存在していたわ、魔法が使えたのもおそらくそれの……」
「……しばらく様子を見たほうがいいかもしれんな、ノワールも……奴も何か隠している」
「家族を疑うような真似はしたくないけどね……」



さて、ここで時間をその日の朝に戻します。


ある日の朝、シンは自宅で朝食を済ませて聖祥小学校の制服に着替えていた、その隣ではシンの父が管理局から支給されたリンディやエイミィが着ている制服の男性バージョンの制服に着替えていた。
「どうだシン? 学校には慣れたか?」
「うん、みんな面白い子ばっかりで楽しいよ、そういう父さんはどうなの?」
「はっはっは、ちょっとまだ慣れないかな……私のような他所者が馴染むにはまだ少し時間がかかるみたいだ」
「そっか……がんばってね、リンディさんも相談に乗ってくれると思うし」
「そうだな、それじゃ行くとするか」
するとアスカ家のインターホンが鳴り響き、シンの元に彼の母親がやってくる。
「シンー、フェイトちゃんが来たわよー、早く準備しなさーい」
「あ、はーい」
「それじゃ私もリンディさんとアースラに行くからな」
「うん、気をつけてね、ヴィアさんにもよろしく」
そしてシンは玄関に向かおうとしたとき、ちょうど起きてきたばかりのマユとデスティニーと遭遇する。
「ふわ~……おにーちゃん、がっこーいくの?」
「うん、それじゃデスティニー、マユのことよろしくな」
「お任せください、主も事故にはお気をつけて……」

そしてシンは玄関から出て、同じく制服に着替えているフェイトと待ち合わせる。
「おはよーフェイト、いっつも迎えに来てくれて悪いな」
「いいんだよ別に、だってお隣さんだし……」
その時、アスカ家とハラオウン家の隣にある部屋の扉が急に開かれ、そこからブレザー姿の女子学生が飛び出してきた。ちなみに口には焼いてある食パンが咥えられているというお約束っぷりだ。
「大変! 遅刻する~!!!」
そして女学生はシン達に気付かず階段を猛スピードで駆け下りていった……。
「絹江さん、今日も寝坊したのかな?」
「よくあんなスピードで階段下りて転ばないよな……」
すると女学生……絹江が飛び出した部屋の中から、今度はシン達と同じ制服を身にまとった少年がため息交じりに出てくる。
「まったく……姉さんいい加減朝寝坊する癖を直してほしいよ……」
「あ、沙慈さんおはよーございます」
「おはようございます」
そして少年はシン達に挨拶されたことにより初めて彼らの存在に気付き赤面する。
「は、ははは……恥ずかしいところ見られちゃったね」
「元気なのはいいことだと思いますよー」
「あ、もうこんな時間、そろそろ送迎バスが来る時間だ、早く行きましょう」


それから数十分後、シン、フェイト、そして少年……沙慈は送迎バスを降りて海鳴聖祥学校に到着する。
「それじゃあね二人ともー」
「はーい、またあとでー」
下駄箱のある玄関で沙慈と別れるシン達、するとそこに同じく登校してきたなのは、アリサ、すずかがやってくる。
「やっほー、フェイトちゃん、シンくーん」
「あらあら、今日も二人仲良く登校ですか、うらやましですなー」
「いや、今日も沙慈さんと一緒だよ」
「沙慈さんって確かフェイトちゃんのおうちの隣に住んでいる四年生の男子だよね」
「うん、通り道が同じだから一緒に登校しているんだー」
そして5人はいつも通りの挨拶を交わし、そのまま自分達の教室に向かうのだった。

ホームルームが始まる直前、シンやフェイトは他のクラスメートからも挨拶をされていた。
「あ、フェイトちゃんおはよー、シン君もー」
「おはよー、学校には慣れたー?」
「解んないところあったら言ってねー」

「いやー、なのは達のクラスの子達っていい人ばっかりだなー」
「そうだね……」
「いやあ、あの子達は外国人の転校生が珍しいだけでしょ」
「確かフェイトちゃんはAEUのイタリアで……シン君は人革連のシンガポール出身だっけ?」
「そうだよ、お父さんが外国に行った時に知り合ったんだー」
アリサとすずかには管理局とこの世界の関係で秘密にしているので、シン達の出身地や知り合った経緯についてはいくらか誤魔化していた。
そしてホームルームが終わり社会科の授業が始まった頃、シン、なのは、フェイトは念話でこの世界について話していた。
(この世界って三つの国家群で形成されているんだっけ?)
(そうだよ、私達の国はユニオンに属していて、他にはAEUに人類革新連盟っていうのがあるの、赤道には軌道エレベーターがあって誰でも簡単に宇宙にいけるんだから)
(すごいよなー、コロニーだけじゃなくそんなものもあるなんて……この世界も進んでいるんだな)
そしてシンは教科書に視線を向ける、そこにはこの世界の歴史について小学生にも解りやすいように簡略化して記されていた。
(この世界も色々あるんだなぁ……)


その日の昼休み、校舎の屋上でシン、なのは、フェイト、アリサ、すずかはお弁当を食べていた。
「でもすごいね~フェイトとシンの人気!二人とも運動神経抜群じゃない!」
皆の話題はここ数日の授業で活躍しているシンとフェイトの話になっていた。
「えへへ……そんなことないよ、この前のドッヂボールだってすずかに負けちゃったし……」
「そうだよなー、フェイトのあのボールを投げ返すんだからなー、ホントにナチュラ……なんでもない」
「……? アンタ今何か言いかけた?」
そんなこんなで話は弾んでいた。ふと、アリサは小声でなのはに話しかける。
(ねえねえなのは)
(なにー?)
(フェイトってシンのこと好きよね?)
(うん)
見るとシンがすずかと楽しそうにお喋りしていた。その後ろで、フェイトが嫉妬心から形成された禍々しいオーラを放って二人を見ていた。
「すごいよなーすずかって……どうした? なんか震えているぞ?」
「う、ううん、なんでも……ない」

ドドドドドドドドドドドド

(あれだけ殺気を放たれたらいたたまれないわね。心なしか近くの雀も危険を察知してどっかに飛んでいっちゃった)
(でもシン君は全然気付いてないね、鈍すぎだね)
「そういえばフェイト」
なにかを思い出したのか、シンはフェイトの方を向く。
「なあに? シン」
その瞬間、フェイトの後ろの背景がどす黒いオーラから咲き誇る花に変わっていた。
(ぬお!? 変わり身早っ!)
(重圧から開放されてすずかちゃん心底ホッとしているね)
「今日も俺、恭也さんの道場に寄ってから帰るから、母さんにそう伝えておいて。」
「そっか、今日お稽古の日だもんね、わかったよ。」
「恭也さん? なんでシン君が恭也さんと……?」
「実はねー、シン君お兄ちゃんとお姉ちゃんの道場で剣術習うんだってー」
「へー、それにしてもどうして? なんか理由があるの?」
「うん……ちょっと勝ちたい奴がいるんだ……」
「「……」」


その日の放課後、アリサとすずかと別れたシン達はバスの中で先日遭遇した闇の書の騎士達の戦いについて話し合っていた。
「そう言えば今日だっけ? 壊れたレイジングハートとバルディッシュが戻ってくるの?」
「うん、メンテナンススタッフのマリーさんって人が担当しているの」
「ヴィアさんも手伝っているんだって、早く会いたいな……だから今日はこれからアースラに行くんだよ」
「俺はこのまま恭也さんの所に行くからな、今度アイツ等が出てきても……絶対に負けない」
シンはあの時の戦いでスウェンにいいようにあしらわれてしまった事を悔しがっていた。
「俺がアイツを止めていれば、あのチビ達を早く捕まえられていたのに……!」
「シン、あんまり自分を責めちゃだめだよ」
「闇の書の騎士さん達って今もリンカーコアを狙って色んな世界に出現しているんだよね、近いうちにまたここに現われるかも……」
「だな、これ以上被害を増やさない為にも、あいつ等を止めないと」

そんな彼等の会話を、断片的に聞きとって首を傾げている人物がいた、シン達と帰り道が一緒で同じバスに乗り合わせている沙慈・クロスロードである。
(フェイトちゃん達……一体何の話をしているんだろう?)
そしてシンが翠屋の近くで降り、沙慈は思い切ってバスに残っていたなのはとフェイトに先程の会話について質問してみる。
「フェイトちゃん、さっきシン君達と何を話していたの?」
「へ!? あ、いやその……」
「こ、今度放送するアニメの事ですよー」
「アニメ……? ふーん……」
なのはの咄嗟の答えにいまいち釈然としない沙慈であったが、これ以上聞いても何も答えてくれないだろうと思いそれ以上聞かなかった。
(ふう……危なかった)
(今度からはアリサ達がいなくても念話を使ったほうがよさそうだね……)


それから一時間後、高町家の裏にある剣道場……そこでシンはTシャツ姿に竹刀を持ってなのはの兄恭也と姉の美由希にあいさつをしていた。
「今日からこの道場でお世話になるシン・アスカです! よろしくお願いします!」
「うん、事情はなのはから聞いているよ、よろしくね。」
「しっかしなのはも隅に置けないねー、まさかこんなかわいい男の子と仲良くなっていたなんてさー」
そう言って美由希は正座して恭也と対峙するシンを見てウンウンと頷いていた。
「俺もお二人のことはなのはから聞いています! すっごい強い剣士なんですよね! 俺も二人のように強くなりたいんです!」
「そうか……俺たちの指導は厳しいけどついてこれるかい?」
「もちろん!」
恭也の問いに、シンは自信満々で返事をした。
「元気があってよろしい! それじゃ明日から私と恭ちゃんがみっちりしごいてあげるからね!」
「自主練習もしっかりとこなすように、基礎体力をつけることは大切だからな。」
「はい!」



それから数時間後、辺りもすっかり暗くなった頃にシンは一人自宅に向かって夜道を歩いていた。
「いって~! 手がマメだらけだ……」
シンは竹刀を振り回して絆創膏だらけになった自分の手を見つめながら空を見上げる。
「今日からずっと剣術の稽古か……俺、もっと強くなれるかな……?」
ふと、シンは7か月前のPT事件のことを思い出す、フェイトとアルフと共に戦ったこと、暴走したアリシアと戦ったこと、そして……自分たちを守ろうとしてその身を犠牲にしたプレシアとその時のフェイトの泣いている姿を……。
(俺が……俺がもっと強かったらプレシアさんが死ぬことも、フェイトに悲しい思いなんてさせなかったのに、強くならなきゃ……それなら思いつくことならなんでもやってやる!)
心に改めて決意を宿らせるシン、するとそこに……。
「あらシン、道場の稽古の帰り?」
買い物袋を持ったシンの母親と出くわした。
「あ、母さん、買い物の帰り?」
「ええ、今日は肉じゃがよ~」
「おお! やったー!」
そしてシンは母親と並んで夜道を歩き始めた。
「そう言えばさっきスーパーでシンぐらいの女の子を見かけたわ、フェイトちゃんみたいな金髪のお姉さんと一緒だったわね」
「ふーん、この町ってホント外国人が多いよねー」
「何か女の子は車いすに乗っていたわ、事故にでもあったのかしら……シンも外出するときは交通事故には気をつけなさいよ、それとこの前みたく戦う時も……」
「うん、母さんもね」


同時刻、場所は戻って八神家、スウェンははやてと共に夕飯の準備を済ませシグナム達が帰ってくるのを今か今かと待っていた。
「腹減ったッス~」
「遅いなあ皆……いつもならこの時間に帰ってくる筈なのに……」
(何かトラブルにでも巻き込まれたのか?)
テーブルを囲みながらはやて達は帰りの遅いシグナム達の身を案じていた。
「うーん……ちょっと不安になるなあ、携帯にも返事がこおへんし……スウェン、ちょっと皆を探しに行ってみよか」
「いや、行くなら俺達だけで行く、はやては家で待っていてくれ」
「で、でも……」
ふと、スウェンははやてが普段しないような不安そうな顔をしている事に気付く。
「どうした? お前らしくもない……」
「うん……なんか時々不安になるんよ、いつか近いうちに皆が急に居なくなる気がして……」
「…………」
スウェンはそのはやての言葉にどこか引っ掛かるものを感じていた。
「大丈夫だ……アイツ等を信じろ、アイツ等は黙ってはやての前からいなくなったりしない、無論……俺もだ」
「スウェン……」

プルルルル、プルルルル

するとそこに、はやての携帯電話が鳴り響き、彼女はすぐさまそれをとった。
「はいもしもし……ああすずかちゃん? どないしたん? ええ? ウチの本がすずかちゃんの家に? この前遊びに行ったときに忘れたんやな……」
どうやら相手はすずかのようだ、それに気付いたスウェンはある事を思い付き、はやてに話しかける。
「ちょうどいい……はやて、しばらくすずかの家に行っているといい、俺達はシグナム達を探しに行く」
「え? でも……」
「ちょっと携帯を貸してくれ」
そう言ってスウェンははやてから携帯を受け取り、電話の先のすずかに事情を説明する。
『そういう事情ならいいですよ、迎えを出してしばらく私の家に預かっておきますね』
「本当にすまない……この埋め合わせは必ずする」
『そんなあ、困った時はお互い様ですよ』
そしてスウェンははやてに携帯を返すと、ノワールと共に出発する準備をする。
「それじゃはやて、行ってくる、数分後にはすずかが来る筈だ」
「もう、強引やなあ……しゃあない、皆を見付けて早く帰ってくるんやで」
「ああ、行くぞノワール」
「へえええ……せめて一口……」
「……早くしろ」

そしてスウェンは家から出てシグナム達を探しに街へと繰り出すのだった……。


一方母と共に帰宅したシンは慌てた様子のエイミィとデスティニーから驚くべき報告を受ける。
「闇の書の騎士達が現われた!?」
「うん! 今武装局員達が包囲しててなのはちゃんとフェイトちゃん達が一足先に向かってる!」
「主、私達はどうするのです?」
デスティニーの問いに対し、シンは一瞬隣にいた母のほうを向く。
「はあ、しょうがないわね……ちゃんとフェイトちゃん達を守るのよ、アナタも怪我せずにちゃんと帰ってきなさい、肉じゃが作って待っているからね」
「ありがとう母さん! デスティニー! エイミィさん!」
「こっちはいつでも準備OK!」
「行きましょう主」
そしてシンはセットアップし転移装置を使ってフェイト達のいる夜のビル街に向かった……。


シンが現場に到着すると、すでになのは、フェイト、アルフはそれぞれヴィータ、シグナム、ザフィーラと一戦を交えていた。

「レイジングハート! ロードカートリッジ!」
[はい]
その瞬間、レイジングハートから薬莢のようなものが射出され、なのははそのままヴィータに向かって魔力砲を発射していた。

そしてそれを見ていたシンは、今まで見たことがないレイジングハートの新機能に驚いていた。
「なんだアレ!? 威力が跳ね上がったぞ!」
「あれはベルカ式のカートリッジシステム……あの子達、どうやら前回敗れたのが相当悔しかったのでしょう。バルディッシュと一緒に自分から改造してもらうようマリーさんに頼んだそうです」
「そうなのか……よし! 俺も戦うぞ!」
そう言って援護に向かおうとしたとき、なのはとフェイトとアルフの念話がシンの行動を遮った。
(シン君は手を出さないで! 私……この子とお話したいの!)
(私も……シグナムと戦いたい、シンはそこで待ってて!)
(私もあのヤローをぶっ飛ばしたいんだ! 手を出したら容赦しないよ!)
(みんな……)
すると今度は別の場所で索敵をしていたユーノとクロノから念話が入る。
(シン、僕たちは今闇の書を所有しているもう一人の騎士の居場所を探している。)
(君はなのは達のフォローを頼む)

「え? フォローっつったって……手を出すなって言われているんですけど……」
「いえ、主のお相手は……もうすぐ来ます」


一方なのは達と戦っているシグナム達は、彼女たちを相手にしながら念話で情報を交換しあっていた。
(くっ……まさか管理局に待ち伏せされていたとは……)
(しかもあいつらデバイスをベルカ式にパワーアップさせてやがる! しかもあのガキまで来やがった!)
(シャマル! この結界内から脱出できないのか!?)
(や、やろうとしているんだけど、魔力が足りなくて……)
シグナム達は管理局が展開した結界の中に閉じ込められており、脱出ができない状態だった。その時……。
(!? 結界の中にまた誰か入ってくるわ!)
(なんだと!? また援軍か!?)
(いや、この魔力は……!)


その時、シンの目の前に鉄の翼をまとった少年……スウェンが現れた。
「現れたな銀髪野郎!」

(スウェン! なぜ来たのだ!? 主はどうした!?)
(ザフィーラのアニキ、今はやて姐さんはすずかさんに預かってもらっているッス。)
(お前らこそ今まで何をしていた? はやてが心配していたぞ。)
(ぐっ、そ、それは……)
(まあ……理由は理解できたがな)
そう言ってスウェンは翼から二対のビームブレイドを手に持って構える。
「やる気か……!」
対してシンも二本のフラッシュエッジをビームサーベルモードにして構える。
「あんたが奴らに協力するってんなら容赦しない! もうだれも……傷つけさせやしない!」
「すまないが俺達は止まれない、許してくれなんて言う権利がないのもわかっている」

刹那、二人の内にある魔力が背中の翼から溢れだし、二人のもつ剣のビームで出来た刃が強く光りだした。

「あんたは俺が止めるんだ! 今日! ここで!」
「なら……推し通る!」

そして二人は高く跳びだし、空中で互いの剣をぶつけ合った。

皆が激しい戦いを繰り広げている中、シャマルとザフィーラは状況を確認しあっていた。
(シグナムのファルケンか、ヴィータのギガント級の魔力を出せなきゃここから出られないわ。)
(二人とも手が離せん、やむをえんがアレを使うしかないな)
(分かっているけど、でも……)
その瞬間、シャマルの後ろで何かが構えられる音がした。
(あっ!?)
その後ろでは外を探索していたクロノがS2Uを構えていたのだ。
(シャマル? どうしたシャマル!?)
「捜索指定ロストロギアの所持、使用の疑いであなたを逮捕します抵抗しなければあなたには弁護の機会がある。同意するなら武装の解除を……」
クロノはこれで確実にシャマルを確保できたと思っていた、しかしその瞬間、誰かがクロノたちの間に飛び込んできた。
「せいっ!」
「うっ!?」
クロノはそれが予想外だったのか、その人物に蹴りをまともに喰らい反対側のビルに吹き飛ばされてしまう。
そこには仮面をつけた男が蹴りを放った態勢のまま立っていた。
「仲間か!?」
「あ……あなたは?」
「使え」
仮面の男はシャマルの質問に答えず闇の書を見て言った。
「え?」
「闇の書の力を使って結界を破壊しろ」
「でも、あれは!」
その言葉にシャマルが反論する。
「使用して減ったページはまた増やせばいい。仲間がやられてからでは遅かろう」
その言葉にシャマルは闇の書を見つめ、決意する。
彼女は仲間を救う道を選んだ。
(皆、これから結界破壊の砲撃を撃つわ、うまくかわして撤退を!)
「「「応!!」」」
シャマルは砲撃の用意を始める。
大きな魔方陣がシャマルを中心に展開する。
「闇の書よ、守護者シャマルが命じます。眼下の敵を打ち砕く力を、今ここに!」
その瞬間闇の書から膨大な魔力が溢れ出し、暗雲が集まり結界上空に膨大な魔力の雷が集まっていく。
「!?」
それに気を取られたクロノはまた仮面の男の蹴りを受けてしまう。
地面に叩きつけられる前に態勢をどうにか立て直すと仮面の男が喋る。
「今は動くな。時を待て、それが正しいとすぐに分かる。」
「なにっ!?」
膨大な魔力が一つの塊となる。
「撃って、破壊の雷!」
[Beschriebene]
その瞬間、巨大な魔力の雷が結界に落ち、結界が崩れ始めた。


「な、なんだいコレは……!?」
一方ザフィーラと戦っていたアルフも周辺の異変に気付き始めた、するとザフィーラは戦闘を放棄しどこかに飛び立とうとしていた。
「まて! 逃げるのか!?」
「仲間を守ってやれ、直撃を受けると危険だ」
「え?」

その数分前のこと、シンはスウェンと闘いながらフェイトと状況を確認し合っていた。
(クロノがこいつらの仲間を見つけたらしい! もうちょっとで勝てるぞ!)
(わかった! でも油断は禁物だよ!)
そしてシンはフラッシュエッジをブーメランのようにスウェンに投げつけるが、簡単に避けられてしまう。
「どこを狙っている!」
「バーカ! 狙い通りだ!」
「アニキ後ろ!」
その時、スウェンは背後からシンの投げたフラッシュエッジが戻ってくるのを感じ取り、身をかがめてそれを避ける。
「くっ……!」
「隙ありだあああああ!!!!」
スウェンがバランスを崩したのを見逃さなかったシンはそのまま彼に向って突進し、顔面に向かって思いっきりとび蹴りを喰らわせる。
「ぐぉ……!」
そのまま後方に思い切り吹き飛ばされるスウェン、そして彼はとっさに腕からアンカーを出して街頭に巻きつかせ、ビルに激突するのを回避する。
「へへん! まずはこの前のお返しだ!」
「くっ……本当に子供か? 小さな体からあんな力が出せるなんてまるで……」

まるで? 俺はいったい何を言おうとしたんだ?

「へへへっ! ぼーっとぶら下がっているんじゃねえ!」
そう言ってシンは腰にビーム砲を召喚し、スウェンに向かって引き金を引く、対してスウェンは空いているほうの手からもアンカーを射出して隣のビルに移動して避けた。
「あ! ずりい!」
「戦いにずるいも何もあるか……!」
「主、ならばアンカーを突き刺している建物に攻撃を……」
「そっか! よーっし!」
デスティニーのアドバイスで今度はスウェンのいるビルにビームを薙ぎ払うように放つシン。
「うぉっ!? っと……!?」
足場を破壊されたスウェンは再びバランスを崩す。
「今度こそ……終わりだあああああ!!!」
そしてそうしているうちに再びシンの接近を許してしまい、そのまま腹部にパルマフィオキーナを受けてしまう。
「吹き飛べえええ!!!!」
「……!!!?」
スウェンは先ほどよりもすさまじい威力で、ビルの屋上に設置されていた貯水タンクに激突する。
「わああああ!? アニキ~!?」
「主、やりすぎなのでは……」
「うぇ!? そ、そうかな……」

その頃貯水タンクの水でビチャビチャになったスウェンは、薄れゆく意識の中で必死に立ち上がろうとしていた。
(お、俺は……このまま負けるのか? すまないみんな……役に立てなかった……)
その時、スウェンの内なる魔力が紫色の光を放ち、彼の頭の中に幻聴を響かせた。

このまま俺が負けたらどうなる? みんな管理局につかまり、はやては死ぬんだぞ?

(な、なんだこの声は……いったい誰だ!?)

いいのかこのままで? このままだとまた俺は“家族”を失うんだぞ、悪しき存在によって……。

(悪しき……存在……!? あの少年のことか……!?)

ああそうだ、忘れたのか? 俺達から家族を奪った……あの忌まわしい記憶を!

(な、なんだ……いったい何の……!?)



次の瞬間、スウェンはなぜか炎がくすぶる破壊されたパーティー会場にいた。足元には……爆風により見るも無残な姿になっている死体が転がっていた。
(なんだこれは……!?)
人、物関係なく燃える嗅いだこともないような悪臭に顔をしかめながらスウェンはあたりを見回す。


「ママ……?」


ふと、スウェンはどこからか子供の声が聞こえてくるのに気付き、声がした方角へ歩きだす。


そしてそこで彼は……母親らしき女性“だったもの”に抱かれたまま、何が起こったかわからずあたりをキョロキョロ見回している……幼き日の自分を発見した。

あ……あああ……!

「ねえママ……パパが倒れて……ねえママ……ママ……!」

う……うわあああああああ!!!!

すると次の瞬間、場面はどこかの病院らしき場所に移る。
そして少年時代のスウェンは、そこでスーツ姿の男からあることを告げられる。
「テロ……」
「ああ、君のご両親は“コーディネイター”共の手によって殺されたんだ、だが安心しなさい……君の身柄は我々連合軍が預かる、君に……ご両親の仇を討たせてあげよう」
「かた……き……」
「ああ、君は軍人になるんだ




コーディネイターを皆殺しにするためにね」




あいつは……コーディネイターだ、悪しき存在! この世界に居てはならない者! そして……俺の両親の命を無慈悲に奪った悪魔! 

(そしてまた俺から家族を奪おうとしている! 許せない! 絶対に許さない! お前らは俺が皆殺しにする!)

 この世界が青く清浄であるために!

「消えろ……! コーディネイターあああああああああ!!!!!!!!!」



その瞬間、破壊された貯水タンクからスウェンは飛び出し、シンに飛びかかる。
「うわっ!!?」
「主!?」
「アニキ!?」
「消えろ! 消えろ! 消えろ! 消えろおおおおおお!!!!」
スウェンはシンの上に馬乗りで跨り、そのまま彼の顔に、肩に、胸に、腕に、ショーティーのビーム弾をゼロ距離で打ち込んでいく。
「ぐああああああ!!!」
「主!?」
「アニキ! それ以上やったら!」
次の瞬間、床がスウェンの攻撃に耐えきれなくなり崩れ始め、シンとスウェンは下の階に落下する。
「く、くそ……!」
「がああああ!!!!」
シンは攻撃から逃げようとするが、スウェンの間髪いれないひざ蹴りを受けて吹き飛ばされてしまう。
「がはっ!!」
「終わりだ……!」
床にのたうちまわるシンに対し、スウェンはビームブレイドを振り上げる、彼の首を刎ねるために。
(し……死ぬの……俺……!?)
「うおおおおお!!!」

だがシンの首が刎ねられることはなかった。
「やめろっ!!!!」
「がっ!?」
突如結界が破壊されるのでスウェンを守りにきたザフィーラが、彼の殺意に気付き殴り飛ばしたのだ。

「シン!」
「ひ、ひどい怪我……あなたがやったの!?」
そして今度はフェイトとアルフも現れ、ボロボロのシンを抱き上げる。
「二人とも……なんでここに……」
「説明している暇はないよ! 早く私の後ろに!」
アルフはすぐさま防御結界を展開し、フェイトはシンを抱えながら彼女の後ろに回り込む。

すると次の瞬間、彼女たちの頭上から闇の書から放たれた膨大な魔力の雷が襲いかかってきた。
「ぐううう……!」
「アルフ!」
顔をしかめながらも二人を守るアルフ。
「ははは……耐えきってやったよ、そうだ! あいつらは!?」
その場にはもうザフィーラ達の姿はなかった。
「今のドサクサに逃げられたみたいだね……」
「あん畜生共め! シンになんてひどいことを……!」
「お、俺は平気だよ……」
そう言ってシンは重傷そうな見た目とは裏腹になんと自力で立ち上がったのだ。
「ほ、本当に大丈夫なのシン!?」
「うん、攻撃された瞬間攻撃の威力が弱まって……」
デスティニーはそれを聞いて
(なるほど、あの子が出力を制御したのですね)
「とにかく一回家に戻ろう、エイミィ達もあいつらの補足に失敗したみたいだ」
「だね、帰ろうシン」
そう言ってフェイトはシンの肩を取りアルフと共に家に向かって飛び立った。

そんな中、シンは先ほどのスウェンの顔を思い出す。

(あいつの顔……すごく怖かった……でも……)
シンの心には“恐ろしい”とはまた別の感情が芽生えていた。


(あの顔……まるであの時のプレシアさんみたいだった……)


一方デスティニーは後ろから付いて行きながら、スウェンのあの覚醒について考察していた。
(あの爆発的な感情の変化……おそらく何かが起爆剤になってジュエルシードに作用したのですね、まったく……この世界でも奴らの愚かさは変わらないようですね)
「青き清浄なる世界の為に……バカバカしい」











本日はここまで、以前の作品でははしょった管理局VSヴォルケンリッターの第二戦をお送りいたしました、といってもなのは組の戦いはかなりはしょっていますがね……。

次回は原作6話あたりの話になります、火曜に投稿しますのでよろしくお願いします。



[22867] 第四話「隠した心」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/02/08 20:09
 第四話「隠した心」


ヴォルケンズが管理局の罠から脱出できたその数時間後、シャマルはすずかの家に泊まりに行ったはやてに連絡していた。
「はい、すみません……本当にごめんなさい……冷蔵庫にお夕飯があるんですね……今日はもう泊まると……じゃあヴィータと代わります。」
「もしもしはやて? その……」
電話をヴィータに代わってもらい、シャマルは憂鬱な表情でベランダに赴く、その後ろからシグナムが神妙な面持ちで彼女に話しかける。
「主に寂しい思いをさせてしまったな。」
「ええ……」
「こんな事が二度とないよう早く主を闇の書の主にせねば……」
そうして決意も改めた所で、彼女達はすぐさま話題を違う人物に切り替える。
「ところでスウェンはどうしているの? ザフィーラの話じゃ大変な事になっていたみたいだけど……。」
「今自分の部屋で休んでいる、ザフィーラとノワールも一緒だからしばらくそっとしておこう。」
「ええ……でもどうしてスウェン、あの子を殺そうとしたのかしら?」
「アイツの魔力と何か関係があるのかもな、機会があれば調べる必要があるだろうな……」


その頃スウェンの自室では、先ほどザフィーラに殴られて腫れた頬を氷で冷やしながら、ザフィーラに先ほどシンに行った行動について質問されていた。
「スウェン、なぜあんなことをした? 我々は殺すことが目的では……」
「解っている……! 俺にも解らないんだ! なぜあんな恐ろしい事をしたのか……!」
そう言って頭を抱えて項垂れるスウェン、その様子をノワールはただただじっと見つめていた。

(何だったんだあの記憶は……! なぜ俺はあの少年を殺そうとしたんだ!? 何故、何故……!)

震えだす手をじっと見つめて先ほどの自分の行いに恐怖するスウェン、そして……彼の頭の中にある考えが浮かんだ。
(そうだ……! あの少年と話をしてみよう、彼と話せば俺が何者か解る筈……!)


そのころ自宅に戻ってきたシンは、マユに不安そうに見守られながら母親に顔の治療をしてもらっていた。
「いててて! 母さん沁みるよ!」
「我慢なさい、男の子でしょ? まったく……けがをしないでって約束したのに、さっそくこれなんだから……」
「ごめんなさい……」
「おにーちゃん大丈夫?」
するとそこに、隣のハラオウン家からクロノがやってくる。
「すみませんアスカさん、彼を危険な目に……僕がもうちょっとしっかりしていれば……」
「クロノ君は悪くないわ。油断したこの子が悪いの」
「それもそうですね」
「二人ともひでえ! そういえば闇の書の騎士について何かわかったのか?」
「ああ、それに関して説明しようと君を呼びに来たんだ、うちに来てくれるか?」

それから数分後、ハラオウン家に赴いたシンはそこでなのは、フェイト、デスティニー達と共に闇の書の騎士達についてわかったことを説明されていた。

「問題は、彼らの目的よね」
「えぇ、どうも腑に落ちません。彼らはまるで自分の意志で闇の書の完成を目指しているようにも感じますし」
「え?それって何かおかしいの? 闇の書ってのも要はジュエルシードみたくすっごい力が欲しい人が集めるもんなんでしょ? だったらその力が欲しい人のためにあの子たちが頑張るってのもおかしくないと思うんだけど」
その言葉にリンディとクロノは顔を見合わせる。
「第一に闇の書の力はジュエルシードみたいに自由な制御が利くものじゃないんだ」
「完成前も完成後も純粋な破壊にしか使えない。少なくともそれ以外に使われたという記録は一度もないわ」
「あ~そっか……」
アルフの質問が終わると、今度はシンが意見を述べてくる。
「なあ、あの闇の書の騎士達って一体何者なんだ? なんで闇の書を完成させようなんて……」
するとリンディ達の代わりに隣にいたデスティニーが答える。
「恐らく……彼らは人間でも使い魔でもない、闇の書に合わせて魔法技術で作られた擬似人格、まあ私みたいなものかもしれませんね」
するとクロノはデスティニーの意見を肯定するように頷いた。
「デスティニーの言うとおり、主の命令を受けて行動する、ただそれだけのプログラムに過ぎないはずなんだ」
するとフェイトが恐る恐る発言する。
「あの……それって私のような……」
「! こら!」
するとフェイトが何を言おうとしたのか察知したシンが彼女のわき腹をくすぐり発言を中断させた。
「ひゃん! くすぐったいよ!」
「フェイトお前……今絶対良からぬ事を言おうとしたろ」
「な、なんでそれを……」
「顔を見れば一発で解りますよ」
「それは違うわ、フェイトさんは生まれ方が少し違っていただけでちゃんと命を受けて生み出された人間でしょ」
「検査の結果でもちゃんとそう出ていただろう?変なこと言うものじゃない」
「ご、ごめんなさい……」
フェイトは皆に怒られたのに、どこか嬉しそうにソファーに座りなおした。
「それじゃあ、モニターで説明しよっか」
部屋の電気を消され、置いてあったモニターに守護騎士達が映し出される。
「守護者たちは闇の書に内蔵されたプログラムが人の形を取ったもの、闇の書は転生と再生を繰り返すけどこの四人はずっと闇の書と共に様々な主の下を渡り歩いている」
「意思疎通のための対話能力は過去の事件でも確認されているんだけどね。感情を見せたって例は今までにないの」
「闇の書の蒐集と主の護衛、彼らの役目はそれだけですものね」
クロノ、エイミィ、リンディの説明になのはとフェイトが質問する。
「でも、あの帽子の子……ヴィータちゃんは怒ったり悲しんだりしていたよ」
「シグナムからもはっきり人格を感じました。成すべきことがあるって、仲間と主のためだって」
「主のため……か」
その言葉にクロノの表情が少し悲しそうに見えた。
モニターが消え、電気がつくとリンディが立ち上がってクロノのところまで来る。
「まぁ、それについては捜査に当たっている局員からの情報を待ちましょっか」
「転移頻度から見ても主がこの付近にいるのは確実ですし、案外主が先に捕まるかもしれません」
「あ~、そりゃ分かりやすくていいね」
「だね、闇の書の完成前なら持ち主も普通の魔導師だろうし」
アルフの発言にエイミィがうんうんと頷く。
「うん、それにしても闇の書についてもう少し詳しいデータがほしいな、ユーノ……明日から少し頼みたいことがある」
「ん? いいけど……」

その時、フェイトが何かを思い出してリンディに質問する。
「あの銀髪の男について何かわからなかったんですか?」
「ああ、あのシンを殺そうとした奴かい、デスティニーの同型デバイスとジュエルシードで魔法を使うあの……」
「ごめんなさい……こちらでもよくわかっていないの、データ上は普通の人間なんだけど……シン君、直接戦って何か判らなかった?」
リンディの質問に対し、シンは少しうつむき気味に答えた。
「あいつ……俺のことコーディネイターって呼んだんだ」
「コーディネイター……確かCEの遺伝子を調整した人間のことだな」
「? それがどうしたっていうんだい? っていうかそいつ、よく一目でシンのことをコーディネイターと見抜いたね」
『そのことに関しては私が説明するわ』
すると突如モニターに管理局本部にいるヴィアが映し出された。
「ヴィアさん? 彼のことを何か知っているのですか?」
「ええ……戦闘時の映像を見させてもらったわ、彼の発言から推測すると多分“ブルーコスモス”の関係者よ」
「「「ブルーコスモス?」」」
聞いたことのない単語になのは、フェイト、アルフは首を傾げる。対してある程度CEの事情を調べていたクロノはヴィアの意見に補足を入れる。
「ブルーコスモス……確かコーディネイターの排斥を目的とする組織と聞きましたが……」
『ええ、彼らはコーディネイターを根絶やしにするために色々と汚い手を使ってくるの、テロリストと何ら変わりはないわね』
ヴィアの発言にクロノとエイミィは混乱するばかりだった。
「じゃ、じゃあ彼はその一味だって言うんですか?」
「じゃあますます判らないぞ、なぜそんな彼が闇の書の騎士達と行動しているのか……」
するとシンは深く悩んだ様子で議論を交わすリンディ達に発言する。
「多分だと思うんですけど……あの銀髪男、PT事件の俺の時みたいに何かやむ負えない事情があると思う……」
「なんだ? 君は随分あの男に肩入れするな、殺されかけたっていうのに……」
クロノの疑問に、シンはある人のことを思い出しながら語り始めた。
「あいつの顔……なんだかプレシアさんに似ていたんだ、あの人はもう失いたくない、取り戻したいって思いが狂気に変わって行ったけど、あいつも……」
「シン……」
シンの意見にフェイトをはじめとした一同の間に重い空気を漂わせる。
「そんなわけでさ、またあいつが出てきたときも俺が戦うよ、もう負けたりはしない! そして俺が勝ったら……あいつの話を聞いてみたいんだ」
『そう……そうよね、何も知らないで争うのは悲しいこと……』
「私も手伝うよ! シン君!」
「私たちも……ね、アルフ」
「ああ、もしかしたらこれ以上戦わずに済むかもしれないしね」
シンの中にはあの時時の庭園とともに消えたプレシアを救えなかった事と、それによりフェイトに悲しい思いをさせてしまったという後悔の念があった、そしてそれがプレシアと同じ空気を持つスウェンと話をしてみたいという答えに辿り着かせていた。
「よーっし! そうと決まれば明日からも剣術の練習がんばるぞー!」


その後、一通り闇の書に関する話が終わるとシンとなのはは家に帰り、残ったリンディ達はモニターを切った後も話を続けていた。
「それにしてもヴィアさん……ブルーコスモスの話をしている時、なんだか怒っているような感じがしましたね……」
「そっか、クロノ達は知らないのね……」
そう言ってリンディは以前ヴィアから聞いたある話を事情の知らないフェイト達に話す。
「ヴィアさん……ブルーコスモスのテロで旦那さんと子供二人を亡くしたそうよ……彼女だけはその事故でミッドチルダに流れ着いたって言っていたけど……」
「「「「えっ!?」」」」
ヴィアの知られざる過去にクロノ達は驚愕する。
「自分の家族の仇がすぐ近くにいるかもしれないのよ、ちょっと感情的になっても仕方が無いでしょう?」
「確かに……そうですね」
(そっか、ヴィアさんも母さんみたいに子供を亡くしていたんだ……)
なぜヴィアがあの時プレシアに協力していたのかなんとなく判り、フェイトは二人がなぜ一緒にいられたのか長い間疑問に思っていたことをようやく解決することができた。

(二人とも同じ痛みを抱えていたんだ……)


対してリンディもヴィアに自分の境遇を重ね合わせていた。
(あの人も色々と苦労しているのね……復讐心を必死に抑えている……)


次の日の放課後、シンとフェイトは管理局本部の模擬戦ルームで模擬戦を行っていた。
『フォトンランサー! ファイア!』
『へへーん甘いぜ! 全部落としてやる!』
フェイトが放つ幾つもの魔力弾をビームライフルで次々と落としていくシン、そんな彼等の様子をエイミィとクロノは別室でモニタリングしていた。
「いやー、二人とも初めて会ったときと比べて随分強くなったよねー」
「ああ、シンはなのはのお兄さんの道場、フェイトちゃんはバルディッシュのパワーアップのお陰だな……」
「クロノ君もうかうかしていられないね、油断していたら二人に追い越されちゃうよ?」
「ははは、まだまだ僕は負けないよ……」

「ふふん、なんなら私達が一から鍛え直そうか?」
するとモニター室に管理局の制服を着た三人組が入って来た。
「ん? 君達は……アナタは?」


数分後、訓練を終えたシンとフェイト、そしてデスティニーは先程の訓練内容について議論しながら模擬戦ルームから出て来た。
「4戦やって2勝2敗か……ちょっと自信あったんだけどなー、すごいなカートリッジシステムって」
「シンもズンズンと剣を振るキレが良くなってきているね、恭也さんのお陰かな?」
「しかしフェイトさん、何故急に主と模擬戦を? お互いの力を高め合うのはいい事だと思いますが……」
「うん……シグナムと2回戦って感じたんだ、私もまだまだ弱い、あの人に勝てないって……だからもっともっと強くなりたいんだ」
「そんなあ、フェイトが強くなる必要はないよ、俺が強くなって守るから。」
そう言ってシンは自分の胸をドンと叩く、それを見てフェイトは彼から視線を逸らしてつぶやいた。
「そんなのヤダよ……私もシンの事守りたいんだから、昨日みたいな事になったら……」
「? なんか言ったか?」
「主、その決意は男の子としてはいいんですが……30点ですね。」

「ん~! 捕まえた!」
その時、シンの背後から突如何者かが抱きついてきた。
「わあ!? なんだ!?」
「ふみゅ~ん! クロスケとはまた違っていい抱き心地!」
「な、なんですかアナタは!?」
突然現われてシンに抱きついてきた人物に対し、フェイトは敵意をむき出しにしながらバルディッシュを構える。
「ロッテ……いい加減にしないか、フェイトもバルディッシュをしまえ。」
するとそこにシン達の様子を見かねたクロノが割って入って来た。その後ろには見知らぬ管理局の制服を着た初老の男性と、猫耳と尻尾を生やした使い魔らしき女性がいた。
「なんだよクロノ、こいつと知り合い?」
「あー! 年上にコイツなんて言っちゃって~オシオキだ!」
「うわ~!」
クロノがロッテと呼んだ同じく猫耳の女性はシンを羽交い絞めにしたまま彼の頭に拳をぐりぐりと磨りつける。
「ああもう話が進まん!」

そしてようやく落ち着いた所で、シン達はエイミィから三人を紹介される。
「この人はギル・グレアム提督、クロノ君の魔法のお師匠さんで、後ろの二人がリーゼロッテとリーゼアリア、二人とも提督の使い魔なんだよ」
「アナタ達の活躍は前々からクロノから聞いています」
「ミッドチルダを救った小さな英雄さんなんだってねー?」
「はははは……まあその事件を起こす手伝いもしちゃっていますが……」
そう言ってフェイトは自分のしたことを思い出し乾いた笑いがこみあげてくる。
「ロッテ、口を慎め」
「あ、ごっめーん」
「で? なんで管理局のお偉いさんがここにいるんだ?」
「闇の書についてユーノに調べて貰いたい事があってね……彼女達に手伝いに来てもらっていたんだ」
「そして君達がここに来ているとクロノから聞いてね……私が一度挨拶をさせてくれと頼んだのだよ。君が……CEの魔導師君だね、一度会って話がしてみたかったのだよ」
そう言ってグレアムは自分の手を差し出しシンに握手を求める。
「あ、はい……」
シンはグレアムに応じて自分の手も差し出し、がっちりと握手する。
「ふむ、君たちはまっすぐな目をしている……昔のクロノを思い出すな、君達は管理局の未来を担うのだ、これからも頑張りたまえよ」
「あ、ありがとうございます」
その時、グレアムのスーツの中の通信機が鳴り響き、彼はそれをとって通話を始める。
「む、どうした……? ああ解ったすぐ行く」
二、三回俯いて通信機を切るグレアム。
「すまない、急用ができたのでこれで失礼するよ」
「では……」
「バイバーイ、またハグさせてねー」
そう言ってグレアムとリーゼ姉妹は早々に去っていった。
「いやー、なんか物腰の柔らかそうな人だったな、使い魔はアレだったけど」
「アレでも僕の魔法の師匠だからな……腕は保障するよ」
「そうなんだ、今度模擬戦の相手でもして貰おうかな……」
その時、エイミィはシンの後ろにいたデスティニーが複雑な表情をしている事に気付き、彼女に問いかける。
「あれ? デスティニーどうしたのそんな顔して?」
「いえ……別に」
デスティニーは素っ気なく答えた後もグレアムが去った後をジッと見つめ続けていた。
(……ちょっと彼女に調べ物をしてもらいましょうか)


同時刻、海鳴市のとある公園、そこでマユはお気に入りのウサギ付き帽子を被りながら一人でブランコで遊んでいた。
「あーあ、お兄ちゃんお姉ちゃん早く帰ってこないかなー、一人で遊ぶのつまんなーい」
まだこの町に来たばかりのマユには友達がおらず、シン達が学校に行っている間の昼間は彼女にとって退屈でしかなかった。

ふと、そんな彼女がいる公園の傍を、ハンマーのようなステッキを持った赤い三つ編みの少女……ヴィータと、大きな藍色の毛を身に纏った犬……ザフィーラが通り過ぎていく。
「はぁ……スウェン元気なかったなー、一体どうしたっていうんだよ……」
「殴ったのがいけなかったのか? 散歩に誘っても来てくれなかったな……」
「もしかしたら記憶が戻りかけているのかもな、ちゃんと私達でフォローしてあげないと……ん?」
その時ヴィータは通り掛かった公園で三歳ぐらいの少女(マユ)が一人ブランコで遊んでいるところを目撃する。
「!!! あの帽子は……!」
そして彼女が自分のウサギ付き帽子を被っている事に気付き、ザフィーラを繋いでいたリールを手放し彼女に駆け寄って行った。
「おい! そこのお前!」
「え?」
ヴィータはマユが被っている帽子を無理やり奪おうとするが……。
「ちょ! やーだ! 離してー!」
マユが絶対に離すまいと帽子をがっちり掴んでいた。お陰で帽子は引き裂かれそうになる。
「うるせえ! これ私の帽子じゃねえか! これどこで拾った!?」
「お兄ちゃんから貰ったの―! コレマユのなんだからー!」
(お兄ちゃん……!? あの後誰かに拾われたのか?)
ヴィータは帽子の事で夢中になるあまり、その帽子を拾った“お兄ちゃん”がシンであるという答えに辿りつけなかった。
「ぐぎぎ……! 離せよー!」
「やーだー! 離してー!」
(お、おいヴィータ何をしている!?)
すると見るに見かねたザフィーラが二人の間に割って入る、すると……。
「あ! ワンちゃんだー!」
ザフィーラの姿を見たマユはあっさりと帽子から手を離し、ザフィーラに抱きついた。
「わふっ!?」
「わぁ!?」
急に手を離され尻もちを付くヴィータと、マユに急に抱きつかれて驚くザフィーラ。
「大きいワンちゃんだ~! かわいいねえ~!」
(ぬぐ……! なんだこの娘は!?)
「いちちち……あん? なんだお前、ザフィーラが気に入ったのか?」
「うん! アルフもちっちゃくて可愛いけどこの子もモフモフでかわいいね~!」
その時、ヴィータはある事を閃いてにやりと笑う。
「よーっし……なら交換条件だ、この帽子を返してくれるならザフィーラを好きなだけ可愛がっていいぞ」
(ヴィータ!?)
「えー? 可愛がるだけー?」
その交換条件に不満げなマユ。するとヴィータはさらに条件を上乗せしてきた。
「じゃあ……乗っていいぞ」
「乗る?」
「うん、こうやって」
そう言ってヴィータはザフィーラの背中に馬乗りした。
「あー! いいないいなー!」
「もし帽子を返してくれるなら乗り放題だ、どうだ悪くない条件だろ?」
(オイヴィータ! 勝手に決めるな!)
「うんいいよ! その帽子返してあげる! わーいわーい!」
マユは嬉しそうにヴィータと入れ替わりでザフィーラの背中に馬乗りする。
「わ! わふっ!?」
「わーい! いっけーワンちゃん!」
「はあ、やっと帰ってきた……私のゲボウ……!? あー!?」
その時ヴィータは自分の帽子が、先程無理に引っ張ったせいで破れている事に気付いた。
「どうしたのおねーちゃん? 帽子破れちゃったの?」
「ううう……折角取り戻せたのに……」
ヴィータは瞳を潤ませながらその場でがっくりと膝を付いてしまう。
「じゃあじゃあうちにおいでよ! マユのママなら直せるよ!」
「え? いいのか?」
マユの意外な提案にヴィータはパアッと花が咲いたように笑顔になる。
「うん! マユが引っ張っちゃったんだし……ママお裁縫得意だからきっと直せる!」
「そうかそうか! それじゃ早速行こうぜ!」
「れっつごー!」
(お、俺の意見は……?)
そうしてヴィータとザフィーラに跨ったマユは帽子を修復しにアスカ家へ向かうのだった……。



それから一時間後、自宅に帰って来たマユは母にヴィータの帽子を直して貰っていた。
「はい、これでどうかしら?」
「おー! 破れた跡がまったくない! まるで新品みたいだー! すげー!」
修復された帽子を持って喜ぶヴィータ、一方マユは隣のハラオウン家から持ってきたドックフードをザフィーラに食べさせていた。
「ワンちゃんおいしい? お腹空いたでしょー、アルフの大好物なんだー」
「わん。(ふむ、中々イケルなこれは……今度主に買って来てもらおう)」

ちなみにシン達やハラオウン家の面々は現在本局に出向いて留守であり、この辺にはマユと母しかいなかった、おまけに二人は口頭でしかシン達が関わっている事件について把握しておらず、目の前にいる一人と一匹がシン達と戦っている敵だとは気付いていなかった。

「ありがとなおばちゃん! この恩は一生忘れないぜ!」
「おばちゃんじゃなくてお母さんね、いいのいいの、元はと言えばこっちも責任があるんだし……」
「ねえ! よかったらうちでご飯たべていきなよ! 賑やかで楽しいよ!」
マユの提案に、ヴィータは首を横に振る。
「ごめんな……家で家族が待っているんだ、だからもう帰らないと……」
「そっか、残念……」
「よかったらうちにいつでも遊びにきていいのよ、マユのお友達だしね」
「ありがとうおばさん! それじゃあなマユ!」
そう言ってヴィータはドッグフードを食べ終えたザフィーラを連れて八神家に帰って行った……。
「マユ、お友達ができてよかったわね」
「うん! お兄ちゃんが帽子拾ってくれたおかげ!」

「ただいまー」
するとそこに、管理局からシンが帰って来た。
「あ! お兄ちゃんおかえりー!」
「ん? どうしたんだマユ? すごく嬉しそうだな」
「うん! マユねー、新しいお友達ができたんだ!」


運命はが交差する日は近い、例えそれがどんな形であろうと……。


おまけ

『あれー!? 私の大事にとっといたドックフードがなーい! 誰か食べたな!』
『わ、私じゃないよう!』
『ていうか君以外に誰がドッグフードなんて食べるんだ……』


「ん? となりからアルフの叫び声が……一体何があったんだ?」
「マユ……」
「(ぎくっ!)マユ知らないもん! 知らないもーん!」










今日はここまで、次回は砂漠戦をお送りいたします。その後の展開はリメイク前のとはある程度変更する予定です。
最近インフィニットストラトスにハマっています、シャル可愛いなあ……原作が進んだらクロスSS書いてみたいです。

次は金曜日辺りに投稿します。



[22867] 第五話「交わらない道」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/02/17 20:56
 第五話「交わらない道」


その日、マユはいつものように公園にやって来て、そこで開催されているゲートボールの見学に来ていた、その大会に出場しているヴィータを応援しに来たのだ。
「ヴィータちゃんがんばれー、ザフィーラも応援しているよー」
「ワンッ!」
「よっしゃ! 任せとけー!」
マユの応援で勇気をもらったヴィータは、肩をぐるぐる回しながらフィールドに向かった。
「おや、ゲボ子ちゃんのお友達かい?」
「よかったら酢昆布食べるかい?」
するとマユの周りに同じくゲートボールをやりに来た近所のお年寄り達が集まってきた。
「おじーちゃん達もヴィータちゃんのお友達?」
「ああ、ゲボ子ちゃんはこのゲートボール場のマスコットのようなものだよ」
「あの子を見ていると孫の小さいころを思い出すわー」
「そーなんだー」



それから数分後、ゲートボール大会も終わりマユはヴィータに連れられてある場所に向かっていた。
「へー、マユはクリスマスイブに遊園地に行くのか」
「うん! パパがチケット取れたから家族みんなでいこーって! ヴィータちゃんにもお土産買ってくるね!」
「ありがとよー、それにしてももうすぐおやつの時間だな、ならあたしんちでお菓子食べてけよ、はやての作ったお菓子はギガうまだぞー」
「ギガうまなんだー」
そしてヴィータはマユと共に八神家に帰ってきた。
「ただいまはやてー」
「ああ、おかえりー……ってヴィータ、その子誰?」
「こいつ? 前に話したじゃん、私のウサギを拾ってくれた……」
「マユです! はじめまして!」
そう言ってマユは出迎えてきたはやてに頭をぺこりと下げる。
「おお! そうかあんさんがヴィータの恩人の……ちょうど今クッキーが焼けたところや、お礼に御馳走させたる」
「はい! ありがとうございます!」
マユはそのままはやてとヴィータにリビングまで案内される、そこにはちょうどシグナム、シャマル、ザフィーラ、そしてスウェンがくつろいでいた。
「あら? 小さなお客さんですね」
「主? この子は……?」
「この前ヴィータが話しとったマユちゃんやで、今日は遊びに来てくれたんやー」
「ふわー! この人達ヴィータちゃんのお姉ちゃん?」
「うーん……なんて説明すればいいのか……」
すぐさま八神家の面々と溶け込むマユ、そんな彼女を見てスウェンはあることに気づく。
(ん? この子……どことなくあの少年と似ている、まあ気のせいか……)
その時、マユはテーブルの下で寝転がっているザフィーラ(もちろん狼形態)を発見して彼に抱きつく。
「わーいザフィーラだ! もふもふ! もふもふ!」
「く、くぅーん……」
あまりにベタベタくっつかれ、耳も引っ張られてうんざり気味のザフィーラ。
「モテモテだなザフィーラ」
「よかったじゃない、長い人生の中で初めてモテたんじゃない?」
(貴様ら何気にひどくね?)
「さーマユちゃん、お外にお菓子食べる前に手え洗おうなー」
「はーい」





一方そのころアスカ家では、シンとフェイトが休日を利用して学校から出された漢字の宿題をこなしていた。
「ううう……なんでこの国は漢字なんてものがあるんだ……」
「そうだよね……読み書きするならひらがなとカタカナだけでいいと思うんだけど……」
「はいはい、文句を言っても宿題はなくなりません、それでは次の問題行きますよ」
そう言ってデスティニー(教師スーツ+メガネフォーム)は問題集に書かれている次の問題を解くように促す。


問一:次の問題の読みを答えよ

雰囲気
(   )



「ふ……ふいんき?」
「ふいんきでいいよね」
「ブブー」

「お? なんだシン、フェイトちゃんと一緒にお勉強か?」
すると二人の元に居間でくつろいでいたシンの父がやってくる。
「あ、父さん……この問題解んないんだけど教えてくれる?」
「漢字かー、父さんもちょっと苦手だからなー」
そう言ってシンと一緒に問題の答えを考えだすシンの父、そんな二人の様子を見てフェイトはある思いに駆られていた。
(お父さんか……そういえば私の……アリシアのお父さんってどんな人だったんだろう?)
父という存在が今まで傍にいなかったフェイトはシン達の仲睦まじい様子を羨んでいた。
(今度ヴィアさんに聞いてみよう……)
「ん?」
その時、シンの父は自分がフェイトにじっと見つめられていることに気づいた。
「どうしたんだいフェイトちゃん? 私の顔になにか付いているかい?」
「い、いえ……二人は仲良しだなーって……」
「そっかー? いっつも一緒にいるからそう見られるのかなー?」
「もしかして仲に入れてもらいたいのかい? よし! わたしの胸に飛び込んでおいで! 可愛がってあげるよ!」
「ええ~!?」
シン父のリアクションに困る提案に困惑するフェイト。
「はいはい、アホなこと言わない」
「いてっ!?」
その時、シンの父の後ろにシンの母が現れ、自分の旦那の頭をおたまでポコンと小突いた。
「あれ? 母さんどうしたの? もうお昼?」
「さっき本局にいるヴィアさんから小包が届いたのよ、シン宛にね」
そう言ってシンの母はヴィアから預かった小包を手渡した。
「小包? 一体何だろう……?」
「ほら、シン前に言っていたじゃない、バルディッシュ達だけ強化されてずるいって、だからヴィアさんがデスティニーちゃんのパワーアップアイテムを作ってくれたのよ」
「え!? マジで!?」
シンは急いで小包を開ける、すると中に見たこともない青、赤、緑の三つのクリスタルと説明書が入っていた。
「なんだこのクリスタル? ジュエルシードっぽいけど……」
「ほう、ゴーレムクリエイト用のクリスタルですか」
デスティニーは小包の中を見て感心の声を上げる。
「ごーれむくりえいと? なんだそれ?」
「リニスが昔教えてくれたんだけど……確か魔力で生成した人形を自分の代わりに戦わせる魔法だったと思う」
「へー! 面白そう! 後で訓練所で使ってみよう!」
シンは嬉しそうにそのクリスタルをさっそくズボンのポケットの中にねじ込んだ。

そんな彼の様子を見て、デスティニーはシンの両親に小声で話しかけた
(これでマスターの安全性はさらに強化されましたね? お二方)
(ああ、そうだな……)
(この前みたいに大怪我を負うのは親として耐えられないからね……)
実はシンの両親はこの前の戦闘の後、彼の身を案じてヴィアにデスティニーの強化を頼み込んだのだ、それも彼が直接戦う機会を減らすという注文付きで。
(ま、親なら当然の提案ですよね。)

そんな親の心子知らずといった感じでシンは嬉しそうにクリスタルを見つめていた。
「ははは、早く使いたいなー、また闇の書の奴らが襲ってこないかなー」
「シン、そんなこと言っているとほんとに来ちゃうよ……」

その時、突如隣のハラオウン家からエイミィが慌てて駆け込んできた。
「ふぇ、フェイトちゃんシン君大変だよ! 騎士たちが現れたってアースラから連絡がー!」
「えー!?」
「ちょ! 本当に来た!?」



その頃、八神家でお菓子をごちそうになったマユは、スウェンに送られながら帰宅の路についていた。ちなみにヴォルケンズの面々はそのまま闇の書のページ集めに異世界に行っている。
「クッキーおいしかったー! お兄ちゃんにも食べさせてあげたかったなー」
「そうか、喜んでくれて何よりだ」
はやての作ったクッキーがほめられ、表情には出さない心なしか嬉しい気持ちになるスウェン。
「スウェンおにーちゃんはヴィータちゃんやはやておねーちゃんのおにーちゃんなの?」
「まあ……血は繋がっていないけどな、そんなもんだろう」
「……? どういうこと?」
「俺は両親と……離れ離れになったんだ、それどころか自分が生まれた場所も解らない、そんな時はやてが俺を拾ってくれたんだ」
「おにーちゃん迷子なんだ……さみしくないの?」
マユの質問に対し、スウェンは迷うことなく答えた。
「今ははやて達がいるから寂しくない」
「そっか! スウェンお兄ちゃん寂しくないんだ! よかった!」
そして彼らはアスカ家やハラオウン家があるマンションに到着した。
「それじゃマユ行くね! もし本当のパパとママを探すなら協力するよ!」
「ありがとうマユ……階段には気をつけてな」
「はーい、ばいばーい」
そしてマユはスウェンに別れを告げて、マンションの中に入っていった。
「いやあ、優しい子でしたねえ」
するとスウェンのコートの胸ポケットの中からノワールがひょこっと顔を出した。
「ああ……ヴィータが気に入るのも解る、それじゃ俺達も帰ろう……」
その時、スウェンの持つ携帯電話が突如鳴り響き、スウェンはすぐさまそれをとる。
「もしもし……ああシャマルか、いったいどうした……シグナムが!?」





とある砂漠の世界、ヴォルケンリッターの一人、シグナムは仲間と別れて怪物と戦っていた。だが不意打ちによりシグナムは怪物が放つ触手に掴まってしまっていた。
「不覚……! くうっ!」
そうこうしているうちに触手はシグナムの体をよりきつく締め上げていった。
「ぐああ……!」
もうだめかと思ったその時、天空から無数の雷の矢が放たれ怪物に突き刺さる。そして、
「ブレイク!」
何者かの掛け声で矢は爆散した。


(フェイトちゃん!助けてどうするの!?捕まえるんだよ!)
エイミィに呼び出されてこの世界に来たフェイトとシンは、襲われているシグナムを見て思わず助けてしまったのだ。
「ご……ごめんなさい」
「別にいいんじゃね? 今の爆発結構強かったから、あのシグナムって姉ちゃん巻き込まれたんじゃ……」
「え゛っ!?」
「あーあ、このうっかり屋さん」
デスティニーのつっこみと同時に爆煙が晴れる。
「あ! あいつも来てたのか!」
「あの人……!」
シン達の視線の先にはシグナムを爆風から守った銀髪の少年が居た。
『気をつけて二人とも!!』

一方その頃、スウェンとシグナムは、
「来てくれたのか……すまないスウェン」
「気にするな、それにしても身動きの取れないシグナムに追い討ちを掛けるとは…下郎め!」
「うん、俺もそう思う」
スウェンの怒りに同意するシン。
「もー! シンまでひどいよ!」
フェイトはそんなシンの肩を、頬を膨らませてぽかぽか叩く。
「はっはっはっ、よせよ~」
「なんだこれ?」


その頃別の場所では、連絡を受けて救援に来たなのはとヴィータ、アルフとザフィーラが戦っていた。
「ヴィータちゃん!今日こそお話聞いてもらうよ!」
「望むところだこの野郎! 帽子も戻ってきたし全開でいくぞ!」


「さて…アタシ等もそろそろ決着つけようじゃないか。」
「……望むところだ。」


(二人とも気を付けてね。)
シャマルを探しているユーノから念話通信を受けるシン。
(まあアイツが強いのは知っているけどな。)
「シン……シンはシグナムをお願い、一度彼女に勝っているシンなら……」
「わかった、気をつけろよ……アイツは強い。」
「うん、任せて。」


一方スウェン達は、
「どうやらあの子は俺をご指名のようだ」
「オイラロリには興味ないッス」
「気をつけろよ……もし前みたいなことになりそうだったらすぐに逃げるんだ」

「作戦会議は終わりか……デスティニー!」
「いくよ、バルディッシュ!」
「ノワール、出るぞ。」
「レヴァンティン、行くぞ!!」
そしてシンとシグナム、フェイトとスウェンは各々散らばり、そしてぶつかり合った。



シンはシグナムと対峙しながら右手にアロンダイトを召還し、構える。
(カートリッジシステム…一時的に魔力を上げる機能か…厄介だな。この前は奇襲で勝てたけど…。)
(奴のあの目……まだ変わっていないな、恐らくは切り札なのか。)
しばらく続く相手の動きの読み合い。
ふと、シンは少し足をずらす、その刹那。
「はあああああああ!!!!」
一気にシグナムがシンとの距離を詰め、レヴァンティンを振り下ろす。それをシンはアロンダイトで受け止める。
(ヤバイ、この人強い!フェイトが苦戦するわけだ…!)
シンは片手でアロンダイトを持ったまま、もう片方の手にフラッシュエッジを召還しシグナムのわき腹目がけて振る。
シグナムはバックステップでかわし、距離をとる。
シンはそのままフラッシュエッジを彼女に向かってなげるが簡単に切り払われてしまう。
「手数の多い奴だ……ん!?」
シンはさらにシグナムから距離をとっていた。
「接近戦じゃ分が悪い……なら!」
右腰に緑色の砲身を出し、シグナムに向けて特大の赤いビーム砲を発射する。
「くっ!」
シグナムはなんなく避けるが、
「まだまだぁ!!」
そのままビーム砲は薙ぐようにシグナムを追い続ける。そしてシンは左手にビームライフルを出し、シグナムに向け数発発射する。
「しまった!?」
シグナムはビームの牽制で動きを緩めてしまい、そのまま特大の方のビームに飲まれてしまった。
「やったか!?」
衝撃で砂埃が巻き上がる。
「まだです!」
そこから一筋の矢が、シンの脇をかすめる。


「どわっ! あぶねえ!」
砂埃が収まるとそこには弓のような武器を構えたシグナムが立っていた。
「あの剣……弓にもなるのか」
「私にボーゲンフォルムを使わせるとは……おもしろい!」
そのままレヴァンティンは剣形態にもどる。そして、
[シュランゲフォルム!]
レヴァンティンの刃がワイヤーに繋がれたまま多数に分離し、そのまま大蛇のようにシンに襲い掛かる。彼はもう一本のフラッシュエッジでそれを打ち払うが、連結された刃はいまだシンの周りを迂回していた。
「やべ、もしかして怒らせた?」
「むしろ喜んでいるみたいですが」
「なんだ!? 変態なのか!?」
「誰が変態だ誰が!?」
そうこうしてるうちに、刃はシンに襲い掛かる。
「こうなったら…デスティニー!!」
シンは背中から紅の翼を大きく広げる。
「翼…!? 一体なにを!?」
「うおおおおおお!!!」
そのままシンはシグナムに突撃する。
「甘い!!」
刃はそのままシンを貫いた、かに見えた。
「幻影!?」
シンはデスティニーのフルバーストによる高速移動で光の分身を作り出し、シグナムを翻弄する。
「おのれ!」
「うらああああああ!!!」
一気にシグナムとの距離を詰めたシンは彼女の腹部に青い籠手のついた右手を押し当てる。
「パルマ……!」
「その技は……!」
シグナムはその瞬間、自分の敗北を悟った。
「フィオキーナ!!」


「う……」
シグナムは気が付くと、バインドで体をグルグル巻きにされながら倒れていた。
「主、起きたようです」
「いや~今回も俺の勝ちだな!」
「くっ……主、申し訳ございません……」
シグナムは同じ相手に二度も負けてしまったことが悔しくてたまらなかった。
「そんなに落ち込むなよ、俺が勝てたのは偶然みたいなもんだからさ」
そのままシンはシグナムを抱えてフェイトの様子を見に行った。


シン達から少しはなれた場所、ここではフェイトとスウェンが対峙していた。
「はあああー!!」
「くっ!」
フェイトが放つ光弾を岩場に隠れてやり過ごすスウェン。
「アニキ! 上!」
「!」
我に返ったスウェンはフェイトが放ったサンダースマッシャーをギリギリでかわした。
「く……!」
「貴方は何者なんです!? 守護騎士達とは違って普通の人間のはずなのに…なんで彼らに協力するんですか!?」
「……」
スウェンは何も答えない。
「何か言ったらどうです!?」
「問答している余裕があるのか?」
「!!!」
スウェンは背中からリニアガンを放ち、フェイトをひるませてそのまま自分も空中に飛ぶ。
「はああああ!!!」
「フラガラッハ!!」
すぐにフェイトのバルディッシュザンバーが襲い掛かるが、スウェンは背中の羽から二本の剣…フラガラッハをとり、それを受ける。
(この人……強い!)
(くっ! シグナムが苦戦するわけだ……!)
お互い冷や汗をかきながら一旦距離をとる。
「バインド!」
フェイトの詠唱でスウェンの手足にバインドが掛かった。
「しまっ……!!」
「終わりです!!」
フェイトはすぐさま地上に降り、いくつもの光弾を召還する。
「私には守りたいものがある! だから絶対に負けない!!」
なのはを倒した時の気迫のこもった目で、フェイトはスウェンを見る。
「プラズマランサー! ファイア!!」
そして幾つもの光弾が、スウェンに襲い掛かる。
「守りたいものか……」
スウェンは一言呟くと、右手に掛かっていたバインドを解いた。
光弾の直撃による大爆発。だが爆煙が晴れるとそこにスウェンはいなかった。
「えっ!? どこに!?」
すると突然、横からアンカーランチャーが射出され、フェイトの腹部に巻きついた。
「こ、これは!?」
アンカーランチャーがきた方角を見ると、そこには体がボロボロになりながらも、左手からアンカーランチャーを出しているスウェンが立っていた。
スウェンは光弾が当たる直前、自由にした右手からアンカーランチャーを出し、地面に突き刺して移動し弾をかわして、空いているほうの手でフェイトを捕まえたのだ。
「ふん!」
「きゃあ!?」
そのままフェイトが絡みついたアンカーランチャーをハンマーのように振り回し、彼女を地面に叩き付ける。
「あぐっ……!!」
フェイトは地面に叩きつけられた衝撃で気を失ってしまった。
スウェンはフェイトが目を覚ましても反撃されないよう、彼女の体にバインドを掛ける。
「俺ははやて達を守りたい……守りたいものなら俺にもある」
スウェンは気絶しているフェイトに構うことなく宣言する。


「フェイト!!」
そこにシグナムとの戦闘を終えて様子を見に来たシンがやってきた。
「シグナムは……敗れたのか」
シンに担がれているシグナムをみるスウェン。
「フェイト!! 大丈夫か!? すぐに助ける!」
「コーディネイター……!」
スウェンはシンに対して殺意が湧き上がるのを感じ、すぐさまそれを抑える。
(いかんいかん……! 俺は彼と話に来たんじゃないか!)
自分の中の黒い感情を振り払うように頭をぶんぶんと振るスウェン、すると次の瞬間シンがスウェン目掛けてアロンダイトを振り下ろしてきた。
「ぐっ!?」
スウェンはそれをフラガラッハで防ぐ、そしてシンはそのままスウェンに語りかけた。
「答えろ……! あんた達の目的は何だ!? どうして人を襲う!?」
「お前に答える義理はない」
「答えてくれなきゃ解らないだろ! 助けてあげられるかもしれないのに!!」
「!?」
飛び跳ねるように距離をとる二人、そしてシンの必死の説得は続く。
「俺……あんたのあの時の目を思い出すと……助けられなかったあの人のことを思い出すんだ、俺が弱かったから……フェイトに悲しい思いをさせて……」
そしてシンはそのまま、アロンダイトをしまってスウェンに敵対する意思はないということをアピールした。
「このままじゃ取り返しのつかないことになるかもしれないんだぞ……! お願いだ! 俺達の話を聞いてくれ!」
シンの言葉はスウェンだけでなく、シンに捕えられているシグナムの心を激しく揺らしていた。
「……俺も一つ、お前に聞きたいことがある」
「? なんだよ?」
「お前は……何者なんだ? コーディネイターとはなんだ?」
「……?」
スウェンもまた武器を下し、自分が知りたいことを聞いてきた。
「スウェン、貴様は……」
「大丈夫だシグナム、お前は絶対助けてやる まずは捕虜の交換を……」



(シン君! フェイトちゃん! 大変だよ! なのはちゃんが……!)
その時突然エイミィがシンに念話通信を行ってきた。
「……!? なのはがどうかしたのか!?」
(なのはちゃんが仮面の男に……!!)
その時、突如スウェンは何者かに蹴り飛ばされ、遠くに吹き飛ばされてしまう。
「ぐぁ……!」
「なっ!? お前は!」
そこには先日クロノと戦った仮面の男が立っていた。
「今……和解されては困る、邪魔者には消えてもらう」
そう言って仮面の男は気絶いているフェイトを抱き上げる。
「お前! 何を……うわ!」
すぐさま駆け出そうとするシンの周りを檻のような拘束魔法が囲む。
「クリスタルケージ……! こんな魔法を……!」
「くそっ! フェイトに何する気だ! まさか……!?」
そして仮面の男はフェイトのリンカーコアを奪おうと、彼女の胸に手を添えようとする、その時……。
「はいどーん!!!!」
「ぐぉ!!?」
突如スウェンが吹き飛ばされた方角からノワールが飛んできて、仮面の男の顔面に直撃した。
「貴様……いきなり何をする!?」
「のおおおお! 脳がゆれるううう!!」
脳天にたんこぶを作りのた打ち回るノワール、彼が飛んできた方角には野球のピッチャーがボールを投げた後のような格好をしたスウェンがいた。
「貴様……! 自分のデバイスをそのように扱うとは!」
「大丈夫だ、ノワールは昨今の若手お笑い芸人のごとくおいしいことには貧欲なんだ」
「オイラそんなこと一言も言ってないッスよ」
「い、一体なんだお前!? 守護騎士の仲間じゃないのか!?」
閉じ込められたシンは目の前の状況が理解できず困惑していた。すると傍にいたシグナムが代わりに答える。
「我らはあんな者は知らん、それにスウェンに危害を加えたとなれば……容赦はできんな」
「シグ姐さん!」
ノワールはそのままシグナムのもとに飛び立ち、彼女のバインドを取り払った。
「これで二対一だ……貴様らの目的を教えてもらうぞ」
「くっ……! 分が悪いか……!」
自分にとって今の状態はよろしくないと感じた仮面の男は、フェイトのリンカーコアをあきらめてそのままどこかへ転移していった。
「逃げたか……スウェン、我々もヴィータ達と合流して行くぞ、管理局が増援を送り込んできたら厄介だ」
「……わかった」
そしてスウェン達もまたこれ以上の戦闘は無意味と判断してその場を去ろうとしていた。
「お、おい! あんた達……!」
「テスタロッサに伝えてくれ、次こそ決着をつけると……」
「……すまなかったな」
そして二人はシン達を残してそのままどこかへ飛び去っていった。
「お、おい! 誰かこのバインド解いてくれよー!」
「そのうちアルフさんが来ますって」
「う、うーん……あれ? 戦闘は……?」



それから数分後、アースラに収容されたシンとフェイト、そしてアルフはブリーフィングルームで事の顛末をリンディとエイミィ、そしてクロノやリーゼ姉妹から聞いていた。
「な、なのはのリンカーコアが奪われた!?」
「大丈夫なんですかあいつ!?」
「うん、命には別条はないし、数日もすればもとにもどるらしいよ、今はユーノが付き添っている」
クロノの説明にほっと胸をなでおろすシンとフェイト
「よかった……後でお見舞いに行かないと」
「それで? リンカーコアを奪ったのは誰なんだ? まさかあのチビ?」
「いや……例のあの仮面の男だよ」
そう言ってエイミィは端末を操作し、ヴィータと戦っている最中のなのはが、リンカーコアを抜き取られる瞬間の映像を二人に見せる。
「そんな……管理局の監視をくぐりぬけて、なのはを襲うなんて……」
「管理局のシステムには異常は無かったんだよ、それなのに……」

クロノ達の説明を聞きながらデスティニーは頭の中で自分なりの推測を立てていた。
(外部から管理局のデータをハッキングするのはほぼ無理……となると、一番怪しいのは……)

「とりあえず私達はなのはのお見舞いに行ってきます……」
「お、俺も……」
「私も行くよー」
一通りリンディ達の説明を聞いて、シンとフェイトとアルフはなのはのお見舞いに医務室に向かうことにした。
「ええ、行ってあげなさい、それと……あまり落ち込んじゃだめよ」
「管理局でもあの奇襲は察知できなかったんだ、仕方のないことだったんだよ」
二人が落ち込んでいるのに気付き、リンディとクロノは優しく励ます。するとシンはとても悲しい顔で自分の考えていることを語り始めた。
「リンディさん……どうにかしてあいつらと戦わないで済む方法ってないんですか?」
「それができればとっくにそうしているわ、でも……」
「先に仕掛けてきたのはあいつらのほうだぞ?」
「このままだと……なんかあの人の時みたいに取り返しのつかないことになるような気がして……」
リンディはシンがプレシアの事を言っているのに気付き、ふうとため息をついた。
「そうね、せめてもうちょっと早い段階で闇の書の主が発見できたなら、何らかの対策が打てたのだけれど……」
「彼らはすでになのはを含めて何人も傷つけている、無罪放免にもできないだろう……」
「……そうですか」
「シン……」
望んだ答えをもらうことが出来ず、シンは肩を落としてそのままフェイトと共になのはのいる病室に向かった。

「シン君……相当PT事件のこと、引きずっていましたね」
「気にする必要はないってのに……あの事件も今回の事件も、未然に防げなかった僕らにこそ責任があるっていうのに……」
クロノもまた、これまでのことを通じて自分の無力さを嘆いていた。
「クロノ……」
「もっと僕達管理局がしっかりしていれば、あんなことが起こることも、民間人であるなのは達を戦わせることもなかったんだ……!」


数分後、ブリーフィングルームからでたリーゼ姉妹は誰もいない格納庫で、こそこそと何かを話し合っていた。
「ロッテ……私達のしていること、本当に正しいのかな……?」
「アリア……! 突然何を言うの!? お父様の目的は何なのか……! クライド君の仇を討ちたくないの!?」
「で、でも私達のやり方は確実とは言えないし! 私達ならもっとうまく出来たはずなのに! これじゃあ……」
「アリア……! お父様を裏切るの……!?」
ロッテは鬼の形相でアリアの胸倉をつかむ。
「ろ、ロッテ……」
「私達は……今さら後には退けないのよ!? もし私達を裏切るつもりなら……!」
「そ、そんなことしないよ! 変なこと言ってゴメン……」
あたりに険悪な空気が流れ、ロッテはアリアから手を離し、何も言わずにその場を去っていった……。


同時刻、八神家に戻ってきたシグナム達は砂漠に現れた仮面の男について話し合っていた。
「あいつら一体何もんだ? 折角あの高町なんとかをぶっ飛ばそうと思ったのに横から水を差しやがって……」
なのはとの決着がつけられず、面白くなさそうに頬を膨らませるヴィータ。
「でも……彼らのおかげでページも大分集まったわ、あとちょっとで完成よ」
「もうひと踏ん張りだ……皆、がんばろうではないか」
「……」
それぞれが決意を新たにする中、ヴィータだけは何やら不安そうに考え事をしていた、そしてそれに気づいたスウェンは彼女に話しかける。
「どうしたヴィータ? 何か考え事か?」
「うん……何だかさ、このまま闇の書を完成させてもいいのかなって……なんか大事なことを忘れている気がするんだ」
「……何を言っている? お前達は闇の書の騎士なのだろう? なら間違いは……」
ヴィータはスウェンに向かい合い、彼にある頼みごとをしてきた。
「なあスウェン……私達に何かあったらはやてをよろしくな」
「よせ、縁起でもない……お前らしくないぞ、さては何か悪い物でも食べたか?」
「うーん、しいて言えばシャマルの料理?」
「聞こえているわよヴィータちゃん!」

そのとき、二階のはやての部屋から誰かがバタンと倒れる音がした。
「なんだ!?」
全員が様子を見に行くと、そこには苦しそうに胸を抑えて倒れているはやてがいた。
「ううう……うう……」
「はやて!」
真っ先にヴィータが駆け寄る。
「動かすな! 頭を打っているかもしれん!」
「シャマル! 救急車だ!」
「は、はい!!」
「はやて! はやてぇ!」


数十分後、はやてが担ぎ込まれた海鳴大学病院のとある病室。
「みんな大げさやなあ~。胸がつっただけやん」
すっかり持ち直したはやては心配そうにしている皆に自分の元気さをアピールする。
「ですが頭を打っていましたし……」
「一応大事をとって入院することになりましたので……」
「もう、みんな心配性やなあ」
呆れたようにふふふと笑うはやて、しかしシグナム達ははやてが倒れた本当の原因を察知しており、心苦しい思いをしていた。
(闇の書の呪いが進行しているわね……)
(ああ、急いだほうがよさそうだ)
はやてが弱っていく姿を見て、決意を新たにするシグナム達だった……


数日後、聖祥大付属小学校のなのは達のクラス……そこでアリサ達は数日ぶりに学校に来たなのはに色々と質問していた。
「まったく、いきなり風邪ひいて休むなんて驚いたわよ、心配かけさせないでよね」
「でも完治してよかった……」
リンカーコアを奪われたなのはは風邪をひいたという理由で学校をしばらく休んでいた。
「にゃはは……ごめんね」
「今の時期って風邪が流行りやすいからね……」
「なのはも普通の女の子だったわけだ」
「むー! ひどいよシン君! それどういう意味!?」
そう言ってなのははシンの肩をポカポカ叩く。
「はっはっは、よせよ~」
「シン、このネタ二回目だよ」
そんなシン達の様子を見て、アリサはふうっとため息をついた。
「まったく……風邪には気をつけなさいよね、25日はウチでみんなを招いてパーティーを企画しているんだから」
「そっか、たしかその日にルイスちゃんと留美ちゃんが日本に遊びにくるんだっけ?」
「るいす? りゅーみん? 誰だそれ?」
知らない人間の名前を聞いて首を傾げるシンとフェイト。
「そっか、フェイトちゃんとシン君は知らなかったね、その二人はアリサちゃんのメル友なんだよ」
「確かとってもお金持ちだとか……学校の冬休みを利用して遊びにくるんだって」
「へえ……あのわんこの家でクリスマスパーティーか、マユも喜ぶだろうなー」
(早く終わらせないといけないね、パーティーを楽しむためにも……)

その時、すずかが何かを思い出しシン達にある提案をしてくる。
「あ、そうだ……みんな、ちょっとお願いがあるの……私の友達にはやてちゃんって子がいるの」
「ああ、すずかが図書館で会ったって子? その子がどうかしたの?」
「うん……実ははやてちゃん、この前入院しちゃったみたいなの、だから今度お見舞いに行こうと思っているんだけど……」
「ええ!? 大変だね!」
すずかの話を聞いて会ったことのないはやての事を本気で心配するなのは達。
「その前に励ましのメールを送ってあげたいと思っているんだけど……みんなも手伝ってほしいの」
「いいよ、俺達に出来ることならなんでも言ってくれよ」


それから一時間後、八神家で夕飯の準備をしていたシャマルは、自分の携帯電話にすずかからのメールが届いていることに気づく。
「あら……すずかちゃんからだわ」
メールには「はやてちゃん、早く良くなってね」というメッセージと、一枚の写メールが添付されていた。
「あらあら……」
はやてちゃんもいいお友達をもったわね、とシャマルは嬉しそうに添付された写真を見る。

そして衝撃でもっていたお玉を落としてしまった、写真にはすずかの他に、自分達と何度も戦ったなのは、フェイト、そしてシンが映っていたから……。









今回はここまで、残すは最終決戦のみとなりましたね。
とりあえず次回をお楽しみに、月曜日に投稿します。



[22867] 第六話「蒼き嘆きの詩」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/02/14 19:52
第六話「蒼き嘆きの詩」


12月23日の夜、アスカ一家とフェイトとアルフは翠屋のクリスマスパーティーにお呼ばれされていた。
「いやいやすみませんね、態々招いていただいて……」
「いいんですよ、はいこれ」
そう言って士郎は隣に座っていたシンの父のコップにビールを注ぐ。シン達が座るテーブルには桃子が作った様々なごちそうが所狭しと並べられていた。
「桃子さんってパティシエだったんですよね? 今度レシピとか教えてくれません?」
「ええ、いいですよー」
そうして大人達が会話に花を咲かせている一方、シン達子供組も料理に舌鼓を打ちながら和気藹々としていた。
「マユね、明日ね、お兄ちゃんとパパとママと一緒に遊園地に行くの!」
「ふふふ、よかったねマユちゃん、でも残念だったね、クロノ君とリンディさんが来れないなんて……」
「なんだか急に仕事が入っちゃったみたいなんです」
「まあその代わり、桃子さんが作ったケーキ持って帰るんだからいいんじゃね?」
「アルフもおいしい?」
「くうーん」
美由希はテーブルの下で嬉しそうに肉を頬張るアルフ(こいぬフォーム)を見て微笑む。
「今年もイブは地獄の忙しさだな……」
「いいよねー恭ちゃんは、忍さんとお店の中で一緒にいられるんだからー」
忍とはすずかの姉で恭也の彼女であり、この翠屋でアルバイトをしているのだ。
「それじゃ私、今夜のうちに値札とPOP作っておくね」
「よかったら俺達も手伝うか? みんなでやったほうが早く終わるだろ」
「なのは、私も手伝うよ」
「わあ! ありがとう二人とも!」
そんな和やかな空気の中、マユは料理をおいしそうに食べながらシンに話しかけてくる。
「ねえお兄ちゃん、今年もサンタさん来てくれるかな? マユね、お姉ちゃん達みたいな携帯電話がほしー」
「そうだな……マユはいい子だったしきっと来てくれるさ、あと携帯電話は4、5年早いんじゃね?」
「シン? サンタさんって何?」
シンとマユの話を聞いてフェイトも質問してくる、今までクリスマスの無い世界で暮らしてきたフェイトはサンタという存在を知らなかった。(クリスマスというイベントもこの世界に来て初めて知った)
「フェイトお姉ちゃんサンタさん知らないの? サンタさんはクリスマスにプレゼントを配ってくれるおじさんなんだよ、良い子のところに来てくれるんだって」
「そうなんだ……じゃあ私のところには来てくれないね、今年は私、いっぱい悪いことしちゃったから……」
PT事件の事を思い出し軽くへこむフェイト
「こら! 暗くなるな!」
そんな彼女の口にシンはパンを押しこむ。
「もごっ!?」
「もーだめだよフェイトちゃん、暗い話はノンノンノン! だよ!」
「ふぉめんなふぁい……(訳:ごめんなさい……)」
口にパンを咥えたまま謝るフェイト。
「……? あの子達は一体何の話を?」
「あー……それより士郎さんもほら! ぐいぐいーっと!」
「桃子さんもほら! 美由希ちゃんもどう!?」
「あはは、私は学生なんでお酒はダメですよー」
怪しがる士郎達の注意を反らすため、アスカ夫婦は慌てて酌を注いだ。



同時刻、海鳴総合病院でははやての病室にスウェンとノワールがお見舞いに来ていた。
「皆最近お見舞いに来てくれへんな……お仕事忙しいんやろか?」
「実はそうなんスよー、ごめんなさいねー姐さん」
ノワールはスウェンが切ったリンゴをシャクシャク食べながらはやてに謝る。
「私のことは別にええんよ、うっ……」
その時、はやては急に胸が苦しくなり、ベッドの上で蹲ってしまう。
「!! はやて!」
「はやて姐さん!」
異変に気付いたスウェンとノワールはすぐさまはやてに駆け寄り、背中を優しくさすってあげる。
「大丈夫か? 石田先生を呼ぶか?」
「へ、平気よ……心配かけてごめんな……」
「謝らなくていい」
そう言ってはやてを優しく寝かせるスウェン、するとはやてはポツリポツリと昔話を始めた。
「もう皆と出会ってから半年以上経つんやね……月日が経つのは早いもんや」
「何ババくさいこと言っているんスか、まだ年齢一桁なのに」
調子よくはやてをからかうノワール、しかしはやては答えることなく窓の外の景色をじっと見つめていた。
「……見て、外はもうクリスマス一色や、この町の人皆、大切な人と一緒に幸せな時間を過ごしているんやろうな……」
「……はやてには俺達がいるだろう、弱気になるんじゃない」
「うん……でもな、なんとなくわかるんよ、もうすぐ私にお迎えが来るって……天国にいる両親と会えるんや」
「「…………」」
病室に重苦しい空気が流れる、それでもはやては話を続けた。
「本当は皆を残して死にたくない……でも、最近思うんや、これが私の運命なんだって、神様がそう定めたのなら……従うしかないんやろうな」
「はやて」
弱気になっているはやてに対し、スウェンは手を握って彼女を励ました。
「はやて……まだ家に俺とはやてだけだった頃を覚えているか?」
「うん……覚えとるよ、短い間やったけど……」
「その時に花火大会があったのを覚えているか? あの時は結局雨で中止になって見ることが出来なかったが……それなら来年、今度はシグナム達と一緒に見に行こう、約束してくれ」
「え? でも私は……」
それまで生きられない、その約束は果たせない、と言おうとしたはやての言葉を、スウェンは少し大きな声で遮った。
「お願いだ、約束してくれ……」
はやてはその時初めて、スウェンが悲しそうな顔をしていることに気付いた。
「……分かった、約束する……」
「ありがとう……それじゃもう遅いし、俺達はそろそろ帰る、ちゃんと寝るんだぞ」
そう言ってスウェンははやての毛布を掛け直し、頭を撫でて病室を出て行った。
「お休みはやて」
「お休みッスはやて姐さん」
「うん、帰り道に気をつけてな」



そして病院を出たスウェンは、何も言わずに近くにあった電柱に額をゴンとぶつけた。
「アニキ……?」
ボックスの中からスウェンの様子を窺うノワール、そして彼はスウェンが声を殺して泣いていることに気付いた。
「ノワール……! もし神様が本当にいるのなら、俺はそいつをぶん殴ってやりたい! なんではやてがあんな苦しい思いを……シグナム達が背負いたくない罪を背負わなきゃいけないんだ!! みんなが一体何をしたっていうんだっ……!」
「……変えてやりましょう、人の不幸を見てゲラゲラ笑ってる糞以下の運命の神様なんてぶっとばして、オイラ達で運命を切り開こうじゃないですか」
「ああ……そうだな……!」
スウェンは涙をぬぐい、決意を新たにして八神家に向かって歩き出した……。


一方スウェン達が去った病室では、はやてベッドの中で先ほどの出来事を思い出していた。
(スウェンのあんな顔……初めて見た、いっつもクールなのにあんな顔もするんやな……)
はやて先ほどから胸が苦しくなっていくのを感じていた、ただしそれは先ほどのと違って温かさも感じられていた。
(なんでやろ……なんで私、こんな気持ちになっているんやろ……確かベランダでお姫様だっこされたときもこんな気持ちになったな……)
いつの間にか、はやての頭の中はスウェンとの思い出で一杯になっていた。
(なんかちくちくする……もしかして私、スウェンの事……)
その途端、はやての心にとてつもない気恥ずかしさが襲い、彼女は毛布の中に潜り込んでしまった。
(あ、あかんあかん! 何考えとんの私!? もう寝よ! 寝よ!)
しかしはやては興奮する自分を抑えられず、その晩は一睡もできなかったそうな……。



そんなこんなで次の日、なのはとフェイトはアリサとすずかと共に、街中のバス停でとある人達が来るのを待っていた。
「それにしても今日はシン君いないんだね」
「うん、今日は家族水入らずで遊園地に行くんだって」
「そっかー、今の時期ってパレードが豪勢だもんね、よくチケット取れたよね、羨ましいなー」
「マユちゃんが楽しみにしているって言っていたっけ? まあ引っ越してきたばかりだしたまには家族水入らずってのもいいと思うわよ」

その時、バス停に一台のバスが停まり、そこから金髪の少女が出てくる。
「あ! アリサー! 迎えに来てくれたのね!」
「ルイスひっさしぶりー!」
金髪の少女……ルイスはアリサの姿を見ると、すぐさま彼女に抱きついた。そしてすぐそばにいたなのは達にも次々と握手していった。
「あなた達がアリサの友達ね! 私ルイス・ハレヴィ……って、ビデオメールで何度もあいさつしていたっけ?」
「直接会うのは初めてだよー、会えて嬉しいー」
なのは達もまた、ルイスに会うのを楽しみにしており彼女との出会いを喜んでいた。

「あれ?なんかこっちにリムジンが来るよ?」
その時、今度はバス停に黒塗りのリムジンが停まり、中からお団子ヘアーの黒髪の美女と、彼女より一回り大きい凛とした少年が出てきた。
「お嬢様、おぼっちゃま、念のため護衛の者たちを近くにつけておきます」
「わかりました……行ってよろしいですよ」
お団子頭の少女の指示で去っていくリムジン、そして少女はアリサ達のほうを見てぺこりとお辞儀した。
「ごきげんようアリサさん……態々待っていただいて嬉しいですわ、それにお友達の方々も……」
「あんたも相変わらずねー、留美」
アリサはお団子頭の少女……王 留美の年に似合わない圧倒的な風格に感心していた。そして……彼女の後ろにいた少年の存在に気づく
「そういえばその人は?」
「この人は私の兄の紅龍です、私は一人で来ると行ったのにこの人は勝手に……」
「お前に何かあったらどうするんだ」
「にゃはは、なんだかシン君みたいだね」
「妹のいるお兄ちゃんってみんなこうなのかな……?」
「ま、とりあえずみんな揃ったわね、それじゃ目的地へれっつごー!」
そして一同はアリサを先頭に海鳴総合病院に向かった、目的は……はやてのお見舞いをするために。



それから一時間後、はやての病室、そこでシグナム、ヴィータ、シャマルは、はやてのお見舞いに来ていた。
「ごめんねはやて、あんまりお見舞いに来れなくて……ていうかなんで寝むそうなんだ?」
「ちょ、ちょっとな、それより元気にしてたか~?」
「うん! めっちゃくちゃ元気!」
ちょっと眠そうなはやてに撫でられて、ヴィータは気持ちよさそうだった。
「そういえばゴハンとかどないしてんの?ちゃんと食べとる?」
「え、ええ……」
しどろもどろに答えるシグナム。
「大丈夫ですよ~私が毎日愛情をたっぷり込めて作ってますから~」
「そうか……ご愁傷様やね……」
はやては毎日シャマルのお世辞にも美味しいと言えない料理を、毎日食べている皆に哀れみを感じていた。
そしてそんな中シグナムとシャマルは念話で現在の状況について話し合っていた。
(そういえばザフィーラとスウェンは?)
(一緒にこの世界で蒐集を行っている……時間がないからな、こうしているうちにも主は目に見えるほど衰弱している……急がねば)



すると病室のドアが何者かにコンコンとノックされる。
『失礼しま~す。』
「あっ! すずかちゃんや! どうぞ~。」
「「!?」」
突然の来訪に、シャマルとシグナムは嫌な予感がしていた。そして病室のドアが開かれ、そこからなのは達が現れる。
「じゃ~ん!遊びに来たよ~!」
「お邪魔しま~す。」
「いらっしゃ~いみんな~」
「「「!!!!!」」」
シグナム達はすずか達の後ろにいたなのはとフェイトの姿に驚く、彼女達はなのは達がすずかの友人だと知って以来、今日まで定期的にお見舞いに来る彼女達と会わないよう色々と手を回していたのだが、はやてを驚かせようとしたすずか達の行動が今日の事態を招いてしまったのだ。
「「!!!?」」
なのはとフェイトもまさかここに闇の書の守護騎士達がいるとは思わなかったのか、少しばかり動揺していた。そして直感的に、はやてが闇の書の主ということに気付いてしまった。
「今日はサプライズプレゼントを持ってきたよ~!」
すずかとアリサは掛けていたコートを取り、プレゼントが入った箱をはやてに渡す。
「うわぁ~ありがとうな~」
はやては嬉しそうにプレゼントを受け取る。
「……」
そんな中、ヴィータはずっとなのは達を刺すように睨んでいた。
「あの……そんなに睨まないで……」
なのははそんな視線に耐えられなかった。
「睨んでねーです、元々こういう顔なんです」
「コラッ! ヴィータ!」
はやては態度の悪いヴィータの鼻を躾として摘みあげる。
「あうあうあうあうあう~~!」
「悪い子はこうやで~!」
その微笑ましい光景をみて、一同の重苦しい緊張が少し解れる。
なのは達は何故シグナム達が必死になって主のために戦うのか判った気がした。
(二人とも、少しいいか?)
そこにシグナムが小声で話しかける。
(管理局に通じない……通信妨害を?)
(シャマルはサポートのエキスパートだからな、とりあえず今は主達がいる、後で屋上に来てくれないか?)

その時、はやてはすずか達の他に自分の知らない少女達がいることに気づく。
「そういえば後ろの子たちは何方?」
「この子たちは私の友達なの! 日本に遊びに来ていて一緒にはやてのお見舞いに来てくれたの!」
「ルイス・ハレヴィです!」
「私は王 留美、後ろにいるのは兄の紅龍ですわ」
紅龍は何も言わずぺこりと頭を下げた。
「いやー、今日は大所帯やねー、こんなにお見舞いに来てくれるなんて私嬉しいわー」
「なんの病気か知らないけど早くよくなってね」
「よろしければわたくしがもっといい病院を紹介させていただきますわ」
ルイスと留美もまたはやての身を案じて励ましの言葉を贈る。

その時……シグナムは紅龍がじっとこちらを見ていることに気付いた。
「……何か?」
「いえ、失礼ですが何か武術を嗜んでいるのですか? 立ち振る舞いが様になっていたので……」
「シグナムは町で剣道場の師範の仕事をしてはるんですよー」
代わりにはやてが答え、紅龍は納得してうんうんと頷く。
「なるほど、俺も武術を習っているのです、よろしければ今度手合わせを……」
「はい、そのうちに……(ほう、よい目をしている……)」
シグナムもまた、紅龍の隙のない立ち振る舞いに感心していた……。


数十分後、夜の海鳴大学病院の屋上でなのはとフェイト、シグナムとヴィータとシャマルが対峙していた。ちなみにすずか達は先に帰している。
「もうやめてください!沢山の人を傷つけて…こんなことをしてもはやてちゃんは喜ばない!」
「闇の書が完成したら大変なことになるんです! 悪意ある改変をうけて……だから!!」
なのは達の言葉にシグナム達は首を横に振る、そして辺りに結界が張られる。
「それでも……主のためなのだ」
「クラールヴィントの結界からは出しません!!」
「邪魔すんなよ……もうすぐ終わるんだ! はやてとみんなで静かに暮らすんだ……だからお前ら邪魔すんなぁ!!!!」
ヴィータが先陣を切り、なのはに襲い掛かる。
それを、なのはが受け止める。
「わかった、その代わり…私が勝ったらちゃんとお話聞いてもらうよ!!」
そしてなのは達は互いの守りたいもののためにぶつかり合う、その戦いを何者かに監視されていることに気付かずに。


一方、スウェンは帰りが遅い皆に代わりに夕飯の買い物をすませ、帰宅の路についていた。
「シャマルがメールで帰りが遅くなると言っていたが……何かあったのだろうか?」
「うーん……何事もなければいいんスけどね」
そう言って街中を歩くスウェン、その時、彼の視界にクリスマスセールの真っ最中であるおもちゃ屋が入ってきた。
「……ノワール、少し寄り道をするぞ」
「おう? アニキがおもちゃ屋に行くなんて珍しいッスね」
そしておもちゃ屋に入るスウェン、彼はそのままぬいぐるみのコーナーに足を運んだ。
(見舞いに行けない間、はやては一人ぼっちだからな……ぬいぐるみがあれば少しぐらい寂しくはなくなるだろう)
そしてスウェンは商品棚の奥に狐耳と尻尾を生やした巫女服の女の子のぬいぐるみを発見する。
「『もふもふ久遠ちゃん』……そう言えばニュースで人気商品だとか何とか言っていたな、よし」
スウェンは即決してそのぬいぐるみを手に取る、その時……その商品棚に一人の女の子が近付いてきた。
「あー! 久遠ちゃん売り切れてるー! そんなー!」
「ん? この声は……」
スウェンは聞き覚えのある声に反応して振り向く、するとそこにはコートに身を包んだマユがいた。
「あ! スウェンおにーちゃんだ! こんにちはー」
(おやー、マユ嬢ちゃんじゃないッスか)
「君は……こんなところで会うとは奇遇だな」
「うん! マユねー、家族みんなで遊園地に行ってたの! それでね! パパがプレゼント買ってくれるって言うからここにきたの、でも……」
マユはスウェンが持つぬいぐるみを羨ましそうに見つめる、マユもまた「もふもふ久遠ちゃん」を欲しているのだ。
「……よかったらどうぞ」
スウェンはそんな彼女の様子に気付き、迷うことなく自分のもふもふ久遠ちゃんを手渡した。
「え!? いいのお兄ちゃん!?」
「ああ、別にそれに拘っていないからな、大事にしてくれるなら譲ってやろう」
(アニキってばおっとなー)
「ありがとう! スウェンお兄ちゃん!」

「マユー、プレゼント決まったかー?」
その時、マユ達の元に一人の少年が駆け寄ってきた。
「あ! お兄ちゃん! 久遠ちゃんあったよ!」
「そうか、それはよかっ……た……!!!?」
その少年……シンはマユの傍に今まで自分と何度も戦った闇の書の守護騎士の仲間であるスウェンがいることに気付き、表情を変える。
「!!!!!?」
そしてスウェンもまた、シンの姿に気付き咄嗟に身構える。
「……? お兄ちゃん達、どうしたの?」
「マユ……そいつは誰だ?」
「スウェンおにーちゃんの事? 私のお友達の家族の人だよー」
(これはこれは……意外な接点でしたね)
「お前が……マユの兄だったのか」
互いの間に流れる険悪なムード、その間に挟まれているマユはどうしたらいいか解らずオロオロしていた。するとそこに、今度はシンの両親がやってきた。
「シン、どうしたんだ?」
「マユは見つかったの……ってアラ? スウェン君じゃない、一体どうしたの?」
「母さん……彼なんだ、守護騎士達と一緒にいた、俺と戦った少年っていうのは……」
「え!?」
「何だと!?」
シンの言葉に二人は目を見開いて驚く、その間スウェンは脳内で様々な思考を巡らせていた。
(どうする? ここで戦う訳にもいかない……みんなを呼ぶか? しかし……)
「ねえ、お兄ちゃん」
そんな一発触発の空気をマユの一言が振り払った。
「? どうしたマユ? マユは後ろに下がったほうが……」
「お兄ちゃん……もしかしてスウェンお兄ちゃんと喧嘩するの?」
「「は?」」
予想外の言葉に呆気にとられるシンとスウェン。
「喧嘩は駄目だよ、だってスウェンお兄ちゃんはいい人だよ、マユが悪い人に襲われないようにいっつも送り迎えしてくれるもん」
「で、でもなマユ、こいつは悪い奴の仲間で……」
「ヴィータちゃん達が悪い子な訳ないよ! そうだとしてもきっと理由があるんだよ!」
「ま、マユ……」
その時、シンの父が彼の肩をポンと叩いた。
「シン、ここで戦うのはあまりよろしくないだろう、まずは話し合ったほうがいいんじゃないのか?」
「父さん、でも……」
「戦わずに済めばそのほうがいい、シンだってそう言っていたじゃないか」
「う、うん……」
シンは父に言われた通り構えるのをやめ、スウェンに歩み寄った。
「……ちょっと場所を変えよう」
「わかった」



数分後、人気のない工事現場……そこでシンとスウェンは、マユ達に見守られながら自分達のデバイスを出し、向かい合っていた。
「まずは……お前達の目的を聞きたい、なんでリンカーコアを集める? 闇の書は悪意ある改変を受けているから完成させても主は死ぬだけなんだぞ、それどころか周りのものまで滅ぼして……」
「出鱈目じゃ……ないのか」
シンの言葉にウソ偽りを感じない上に、先日のヴィータの言動の事もあってスウェンはシンの言葉を信じかけていた。
一方その言葉を投げかけたシンも、スウェンの挙動を見てデスティニーと共に色々と思考を巡らせていた。
(あの様子を見ると……どうやら知らないで集めていたみたいですね……)
(防衛プログラムにまで異常をきたしているのか……それであいつは守護騎士達の行動を鵜呑みにして……)

「……今度は俺から質問していいか?」
「いいぞ」
「お前は……“コーディネイター”なのか? コーディネイターとは一体なんだ?」
スウェンの質問に言葉を詰まらせるシン、そして息を思いっきりはいたあと、意を決っして答えた。
「俺は……俺とそこにいるマユはコーディネイターだよ、コズミックイラっていう世界の技術で、遺伝子を調整して普通の人より免疫や運動能力が上回っているんだ」
「遺伝子を調整……」
スウェンは自分の中から沸きあがってくるどす黒い感情を抑えながらシンに再び語りかける。
「俺の本当の家族は……コーディネイターに殺されたらしい、本当のことは解らないけど……」
「……確かにコーディネイターの中には、ナチュラルを妬んだり恨んだりする人もいる、でも……でも俺達はそんなひどいことはしない! 遺伝子がどうとか! 生まれ方がどうかなんかで誰かを恨んだりしない!」
プレシアの事を思い出しながら、シンは必死に訴えかけた。
「……なるほど、お前は信じるに値する人間だろう、でも……!」
スウェンは無言のままセットアップし、ショーティーの銃口をシンに向けた。
「スウェンお兄ちゃん!」
「マユ、シンに任せてあげなさい」
止めに入ろうとするマユを、シンの両親が制止する、対してシンもセットアップしてビームライフルの銃口をスウェンに向けた。
「そうだよな……それでも守りたいものがあるんだよな」
「ああ、そうだ……お前達にはやてが救えるのか? それが解らない限り、俺ははやてを守ろうとする皆を信じる」

両者の間に張りつめた空気が充満する、その時……ほぼ同時に二人の脳内に念話が聞こえてきた。
『シン! 聞こえているかい!?』
「アルフ? どうしたんだ?」
『さっきからお友達の病院の見舞いに行ったフェイト達から連絡がつかないんだよ! なんか病院の周りに結界が張ってあって……!』
「フェイトが!?」

『スウェン! 聞こえるか!?』
「ザフィーラ……一体どうした?」
『シグナム達と連絡がつかん! 病院で何かあったらしい……一足先に行っているぞ!』
「……わかった」

念話を切ったシンとスウェンは、そのまま海鳴総合病院に向かって飛び出した。
「シン!?」
「父さん母さん! マユを連れて先に帰っていてくれ! フェイト達に何かあったみたいだ!」
「わ、わかった!」
「お兄ちゃん! 気をつけてねー! スウェンお兄ちゃんもー!」

そしてシンとスウェンは全く同じ方向に向かって海鳴の夜空を飛翔していた。
「あ……あれ!? そっちも同じ方角!?」
「どうやら俺たちの仲間が戦っているらしい、勝負は向こうについてからだな」
「あ、ああ……」



その頃海鳴総合病院の屋上では、なのは達とヴォルケンリッターによる激しい戦いが繰り広げられていた。
「吹き飛べええええ!!!」
「きゃ~!!」
ヴィータの攻撃に吹き飛ばされ、なのははフェンスに激突する。
「なのはぁ!!!」
シグナムと鍔競り合いをしていたフェイトはなのはに声を掛ける。
「余所見をしている暇があるのか?」
シグナムの斬撃をギリギリでかわすフェイト、だが、
「でええええええい!!!」
そのスキにシグナムの蹴りを腹部に喰らってしまう。
「がはっ……!」
フェイトはそのまますべるように地面に倒れた。
「すまないテスタロッサ、私は主のためなら……たとえ騎士道に反してしまっても……!!」
シグナムは自分の卑怯な行いを悔いてか、一筋の涙を流していた。そしてそのまま彼女はフェイトを抱き起した。
「フェイトちゃん! 起きて!」
フェンスに叩きつけられたなのはは、ダメージが深い体で必死に親友の名前を呼ぶ。
シグナムはフェイトのリンカーコアを獲るため、彼女の胸に手を伸ばす。
(くっ……! このままじゃ……!)
フェイトもダメージが深く体の自由が利かなかった。
そして、フェイトのリンカーコアが獲られようとしたその時、

突然、ヴォルケンリッター全員にそれぞれ四重のバインドが掛かったのだ。
「なぁ!?」
「うわぁ!」
「え、えぇ!?」

「今彼女の力を奪われては困る……」
そこに現れたのは仮面の男だった。
「貴方達は……!?」
続けざまに、今度はなのはとフェイトにもバインドが掛かった。
そして仮面の男はヴォルケンリッターに手をかざす。
「足りないページは貴様達のリンカーコアで補う……今までもそうしてきたはずだ」
「な……何なんだよ、何なんだよお前!!!?」
「それでは……さようならだ。」
そして、騎士達はリンカーコアを奪われ、魔力で姿を保っていた彼女達はヴィータを除いて、この世から消えてしまった。
「さて……」
「うおおおおおおおお!!!」
その時、突如仮面の男に異変を察知して駆けつけてきたザフィーラが殴りかかってきた。
「そうか、もう一匹いたな」
魔力障壁でザフィーラの攻撃を防ぐ仮面の男、そしてザフィーラの胸からリンカーコアが摘出された。
「奪え……!」
「ぐっ……! うおおおおおおおお!!!!」
ザフィーラの最後の一撃もむなしく、彼のリンカーコアも仮面の男によって蒐集されてしまった……。



はやては胸騒ぎがして目を覚ました。
窓の外はもう夜、そのせいか病室も暗くなっていた。
体を起こした瞬間、胸の辺りに激しい痛みが襲い、視界が真っ暗になったかと思うと、いつのまにか屋上に来ていた。そして彼女は信じられないものを目にする。
「なのはちゃん……!? フェイトちゃん!?」
そこには空中でヴィータを磔にしてデバイスを向けているなのはとフェイトがいた、地面にはザフィーラも倒れている。
「はやてちゃん、あなたはね……病気なの、闇の書の呪いっていう病気、もう治らないんだ」
「闇の書が完成しても治らない、はやてが助かることはないんだ」
はやては二人が何を言っているか理解できず涙声で二人に懇願した。
「何言うてるん? ウチはそんなこと命じてへん……それよりもヴィータを離して!」
二人ははやての言葉に耳を貸さず、話を続ける。
「みんなもう壊れていたんだ、俺がこうする前から……とっくの昔に壊れていた闇の書の機能を、まだ使えると思い込んで無駄な努力を続けていたんだ」
「無駄ってなんや!? シグナムは……シャマルは!?」
ふと、はやては後ろを見る、そこには2人の服だけが抜け殻のように落ちていた。
悪い予感が頭を駆け巡る。信じたくない、あんなに優しかった二人がこんな事をするなんて信じたくなかった。
「壊れた兵器は役にたたないよね、なら……壊そう」
なのはが一枚のカードを取り出し、ヴィータにそれをかざす。
「やめて……やめてぇ!!」
「やめてほしかったら……力ずくでどうぞ」
そしてカードがヴィータの魔力を吸い上げ、彼女をこの世界から消し去ろうとしたその時だった。
「「やめろおおおおおおおおお!!!!!!!!!」」
「「!!?」」
天空から一足遅く駆けつけたシンとスウェンが、なのはとフェイトにビームライフルの弾を当てて儀式を中断させた。
「スウェ……ン……?」
「はやて! みんなはどうし……!!!?」
シンがヴィータを救出している間、スウェンはあたりを見回して状況を確認する、そして……脱け殻になったシグナムとシャマル、そしてピクリとも動かないザフィーラを見て、完全に頭に血を登らせていた。
「きっ……貴様らああああああああ!!!!!!」
「くっ、こんな時に邪魔が……!」
タイミングの悪い増援に悪態をつくなのはとフェイト、その時……シンの傍にいたデスティニーが彼女達に指をさして言い放った。
「正体はもうわかっています、仮面の男……いえ、リーゼ姉妹!」
「「!!?」」
正体を見破られ動揺するなのはとフェイト……に変装したリーゼ姉妹。
「アリアとロッテなのか!? どういうことだよデスティニー!!?」
「どうも砂漠での一件以来、この二人があやしいと思ったのです、管理局の監視から逃れて戦場に乱入なんて内部の人間にしかできませんし、ブリーフィングルームでの挙動が怪しかったですしね……それに聞くところによると、お二人は変身魔法が大層お上手なようで……なので心苦しいかったですが、クロノさんとリンディさんに調査を依頼していたのです」
「いつの間にそんなことを……なんでグレアムさんの使い魔がそんなことを!!」
「グレアム……!?」
スウェンはなぜシンが八神家に資金援助してくれるグレアムの名前を知っているのか不思議だった、するとノワールがある答えを導き出す。
「なるへそ、グレアムの旦那は管理局の人間だった訳ッスか、そんでこの事件の黒幕でもあると……」
「な、なんの為にそんな……!」
するとリーゼ姉妹は変身を解除し獣人の姿に戻る。
「11年前……闇の書がクライド君を……クロノのお父さんの命を奪ったからよ……!」
「クロノの……お父さん!!?」
初めて知る事実に驚愕するシン達、そしてリーゼ姉妹は声高らかに話を続けた。
「当時の闇の書の主を護送していたクライド君は、暴走した闇の書からクルーを逃がすために一人艦と運命を共にした……!」
「お父様はそのことをすごく負い目に感じて今まで生きてきた……だけど今日でそれも終わり! そいつを暴走させて封印してしまえば!」
「馬鹿な……はやてには何も罪は無い! それなのに……!」
スウェンの主張に、ロッテは鼻で笑って一蹴した。
「いいじゃない、その子はどうせ天涯孤独の身、居なくなったって誰も悲しみやしない!」
「そ、そんな……」
惨酷な言葉を浴びせられ、呆然自失となるはやて。


「……あんた達も、あの人とおんなじなんだな」
「?」
その時、シンは静かな声で、助け出したヴィータを床にやさしく寝かせながらリーゼ姉妹と向き合った。
「あんた達もプレシアさんと同じだ、誰かのためと言い訳ながら、自分の自己満足のために悲しみを振りまいて、大切に思っている人たちの気持ちを踏みにじる……それは、それはとても悲しいことなんだよ!!!」
シンはリーゼ姉妹とこの場にいないグレアムを、かつて悲しい運命から救いだすことができなかったプレシアと重ね合わせていた。
「もう……もうあんな悲しいことはたくさんだよ……! なんで! なんでみんなそんな悲しいことを繰り返すんだよ! そんなの絶対におかしいよ!」
目を覚まさないヴィータの頬に、シンの流した涙が滴り落ちる、すると魔力を失って意識を失っていたヴィータがうっすらと眼を開いた。
(あいつ……泣いているのか? なんで……?)
「もうこんなことは沢山だ! だから俺は……あんた達を倒す! 倒してこんな馬鹿げたことは繰り返させない!」
シンは力いっぱいアロンダイトを握りしめ、リーゼ姉妹に向き合った。
それを見ていたスウェンもまた、両手にショーティーを握ってリーゼ姉妹と対峙する。
「今わかった、俺が戦うべきなのはコーディネイターなんかじゃない、歪んだ性根を持つ者なんだと……誰と戦えばいいのか、今はっきりとわかった!」
そしてスウェンは、呆然としているはやてに言い放った。
「はやて、少し待っていてくれ、直ぐに片付ける……そしてみんなで家に帰ろう」
「スウェン……!」
その逞しく心強いスウェンの言葉に、絶望に彩られたはやての心に一筋の希望の光が差し込んだ。
「スウェンだったっけ、今からこいつらをぶちのめすぞ!」
「わかった……シン!」

そして4人は寒空の下、互いの信念を胸に激しくぶつかり合った……



その頃時空管理局本部では、クロノが今まで集めた証拠を手にグレアムを逮捕しようと武装局員を集めてグレアム提督の部屋の前にやってきていた。
「いくぞみんな……相手が提督だからって油断するな」
グレアムがかつての自分の恩師とはいえ、これまでの事態を引き起こした黒幕である以上クロノは管理局員として逮捕に踏み切っていた。
そして武装局員の一人がロックを解除し、クロノは部屋の中に入る。
「ギル・グレアム提督……あなたにお話……が……!?」
しかし、その部屋の中には……誰もいなかった。
「しまった!! 逃げられた!!!」




数分後、リーゼ姉妹と戦っていたシンとスウェンは、経験で勝っている彼女らを勢いとコンビネーションで圧していた。
「主、どうやらなのはさんとフェイトさんは別の場所で捕まっているようです、ですがもうすぐアルフさんとユーノさんが来てくれるそうで」
「その前に終わらせてやるよ!!!」
シンはビーム砲を薙ぎ払うように放ち、リーゼ姉妹を分散させる。
「当たれ!」
その隙をついてスウェンが背中のレールガンを連発し、何発かを彼女達に当てる。
「くそ! 私たちが圧されているなんて……!」
「あれで本当に即席チームなの!!?」

「ナイスショット!」
「いいサポートだ」
「いやー、オイラ達なかなかいいチームじゃないッスか」
「ええ、超不本意ですけど」


その頃、屋上に残ったはやては床を這いつくばり、いまだに自由に動けないヴィータを抱き起した。
「はやて……ごめん……私達……はやてとの約束を……」
「ええんよ! もうええんや! 全部私の為やったんやろ!? 怒らないから……消えないで……!」
はやては声を殺し、ヴィータが生きながらえるよう神に祈った、その時……
「!!! ぐわああああああ!!!!」
突如近くで倒れていたザフィーラが、光の粒子となって消えてしまったのだ、そして彼の傍には……リーゼ姉妹が落としたカードを手に持ったグレアムがいた。
「ぐ、グレアム……さん……?」
「……怨むなら好きなだけ怨んでくれ、君の生まれが悪かったのだよ」
そう言ってグレアムははやてを突き飛ばし、ヴィータにカードをかざした。
「て、テメエ……うわああああああ!!!!」
「これで……これですべてが終われる!!!」
「やめて! やめてええええええ!!!!!」
グレアムははやての悲痛な叫びを聞き入れることなく、ヴィータをこの世から消し去ってしまった。



ドクンッ



その時、はやての胸の奥から言いようのないどす黒い何かが湧き上がってくる。


ドクンッ


なんでこんなことに、


ドクンッ


みんな消えてしまった。


ドクンッ


いつも私たちを助けてくれた、グレアムおじさんが消してしまった。


ドクンッ


なんで? 私はただ、みんなと幸せに暮したかっただけなのに!


ドクンッ


ああそうか、この世界は夢なんだ、これは悪い夢なんだ。


ドクンッ


だったらこんな世界、わたシガスベテブチコワシテヤル



はやてを中心に白く光る魔法陣が展開される、そして目の前に闇の書が現れる。
『グーテンモルゲン、マイスター。』
そして闇の書が、覚醒の時を迎える。


「!! この魔力反応は……!」
「んな!! 畜生……まだネズミがいやがった!」
デスティニーとノワールは異常に気付き、病院の屋上を見る。
「やった! お父様が来てくれたんだ!」
「これで闇の書は完成した……! 後は!」



「うわああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
憎悪の叫びと共に、はやては光の中に取り込まれる。
「我は闇の書の主なり……この手に力を……」
はやての手には闇の書が握られていた。
「封印、開放」
その声と共に、はやての骨格がメキメキと音を立てて変わっていき、髪の色が灰色になり、顔と腕に赤いラインが入る。
漆黒の騎士服に身を纏い、六枚の黒い羽が背中に生える、そして瞳の色が光のない血のような紅の色に変わった。


「はや……て……?」
眼の前で何が起こったか判らず、呆然とするスウェン
「そんな! 間に合わなかった……!!」


「また……すべて終わってしまった、幾度この悲しみを繰り返せばいいのか……」
はやてを取り込んだ闇の書は、天を仰ぎ涙を流していた。















次回予告


それは、小さな願いでした

欲しかったのは、温もり

欲しかったのは、傍にいてくれる人

欲しかったのは、悲しい過去が霞むほどの幸せな今と未来


それなのに、運命は彼らから一つ残らず奪い去っていきました


だからその子は祈りました、運命ではなく……夜空に浮かぶ星達に、すべてを取り戻す為の一歩を踏み出す勇気が欲しいと。



それは、星の海を掛ける“白い悪魔”と呼ばれる機械人形が、世界を平和へ導く英雄として君臨するいくつもの物語と、数多なる世界を駆け秩序を管理する魔導師達の世界が、一つの物語として融合していく物語。


それは、時を越えて刻まれた悲しみの記憶を打ち消す、ちょっと変わった家族の“絆”の物語


どこかの誰かが願いました……重き十字架を背負ってしまった星を見ることが大好きな少年が、何も背負うことなく、永い時を大切な人たちと過ごし、やがて彼が目指した星の世界に到達してほしいと


みんなで歩いていこう……歪み塞がれた、星の扉の向こうへ



Lyrical GENERATION STARGAZER 最終話「STARGAZER ~星の扉~」



星に込められた願いを、届かせろ! ガンダム!










本日はここまで、次回は最終回をお送りいたします。本当はクリスマスの時期に投稿したかったんですけど結局間に合いませんでした……。

As編もいよいよクライマックス、以前の作品より色々改変するつもりです! それではまた明後日!!!



[22867] 最終話「STARGAZER ~星の扉~」前編
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/02/16 21:09
闇の書が完成したころ、なのはとフェイトはリーゼ姉妹によって展開されたクリスタルゲージの中に閉じ込められていた。
「くのー! 全然出れないー!」
「こうしている間にもはやてが……!」

「フェイト! なのは!」
するとそこに救援に駆け付けたアルフとユーノがやってきた。
「ユーノ君! アルフさん!」
「待ってて! 今助ける!」
そう言ってユーノはクリスタルゲージを粉砕し、なのはとフェイトを自由の身にする。
「よし! 出れた!」
「早くはやてを助けに行かないと!」
「うん! 急ごう!」


一方その頃、闇の書を完成させたグレアムは、後方でシンとスウェンと戦っているリーゼ姉妹に指示を出していた。
「二人とも急げ! 奴を完全に暴走させるんだ! デュランダルはもう完成している!」
「「はい!!」」
「あ! 待ちやがれ!!」
シンの制止も聞かず、リーゼ姉妹はそのまま闇の書に突撃していった。
「積年の恨み!」
「今日こそ晴らさせてもらう!」
「……」
それに対し闇の書は、彼女達に向かって自分の手を翳した。
「星よ集え……すべてを導く光となれ」
「!! まずい! 避けろ!」
「……」
「アニキ! しっかりしてください!」
変わり果てたはやてを見て呆然とするスウェンを、シンは手を引っ張って安全なところまで移動させる。
「「はああああ!!!」」
「スターライトブレイカー」
目と鼻の先まで接近してきたリーゼ姉妹を、闇の書はスターライトブレイカーで吹き飛ばしてしまった。
「「ああああああああ!!!!?」」
「あ、アリア! ロッテ!」
自分の使い魔達があっさりやられ動揺するグレアム、そんな彼のもとに闇の書はつかつかと歩いて近づいてきた。
「くっ……ぐぉ!!?」
グレアムは何とか反撃しようとするが、片手で首をつかまれそのまま持ち上げられてしまった。
「貴様……よくも主を傷つけてくれたな、死をもって償え」
「あっ……! がっ……!」
闇の書は殺すつもりでグレアムの首をつかむ手の力を強めた。
「やめろおおおお!!!」
その時、管理局本部から転送されてきたクロノがスティンガーレイを放ち、グレアムから手を放させた。
「貴様……邪魔をするな」
「彼は管理局が裁く! 君に手を下させたりはしない!」
するとそこに、クリスタルゲージから脱出したなのは、フェイト、そしてユーノとアルフもやってきた。
「クロノくん! はやくその人を安全なところへ!」
「後は私達に任せて!」
「解った……頼んだ」
クロノはそう言ってグレアムと地面に落下していったリーゼ姉妹を連れて管理局へ転移していった。
「我は闇の書、我が力のすべては……」
闇の書のただならぬ雰囲気に、なのは達は飲まれそうになっていた。
「みんな気をつけて! 彼女は強い!」
「そうだね……でも私達も負けないよ!」



その頃、スターライトブレイカーの砲撃から逃れたシンは、先ほどから目に生気が宿っていないスウェンを叱咤していた。
「おいどうしたんだよ!!? しっかりしろよ!」
「俺は……守れなかった……みんな……」
スウェンはシグナム達が消えてしまい、はやてが変わり果てた姿になってショックを受けていた。
「ああもうめんどくさいな! まだ助けられるかも知れないだろ! あきらめんなよ!」
「無理だ……どうやって助けられるというんだ? 保証も無いのに無責任なことを言うな」
「こ……! この!」
頭に来たシンはそのままスウェンの顔を拳でぶん殴った。
「ぐっ……!?」
「おおう、青春ッス」
「ふざけんなよ……保証なんて無くったって、俺は可能性があればそれがどんだけ小さくても賭けてやる! もうあんな悲しい思いはたくさんなんだよ!!」
「一度機能停止になるまでぶちのめせば可能性は出てくるかもしれないッス」
「そのためには戦力が一人でも多いほうがいいでしょうね」
デスティニーとノワールの説明を聞いて、若干瞳に生気が戻るスウェン。
「……わかった、見苦しいところを見せた」
「別にいいよ、俺だって泣いているところ結構いろんな人に見られたことあるし……」
「ふっ、そうか」
(お! アニキが笑ったところ初めてみた!)
そしてシンとスウェンは戦列に加わるため、隠れてい場所から勢いよく飛び出した。

一方なのは達は、闇の書が召喚したこれまでヴォルケンリッターが集めたリンカーコアの主である怪獣達と戦っていた。
[アクセルシューター]
[プラズマランサー]
追尾弾と直進弾をトカゲのような怪物に放つなのはとフェイト、その間ユーノとアルフは闇の書にバインドを試みる……が、
「無駄だ」
簡単に引きちぎられてしまった。
「くそう、生け捕りは無理かい!」
「せめて周りの怪獣達をなんとかしないと……!」
その時、地面から突如触手をもった怪獣が現れ、他の怪獣を倒して油断していたなのはとフェイトを触手で絡め捕った。
「きゃあ!!!」
「ううっ!!?」
「フェイト! なのは!!」
それを見て慌てて助けに行こうとするアルフ、しかしよそ見をしていたせいで闇の書の蹴りを横っぱらに受けてビルに激突してしまう。
「わあああああ!!!」
「アルフ! くっ……このままじゃ!」
闇の書の息もつかせない攻撃に思うように行動できないユーノ、そうしている間にもなのはとフェイトは触手によって少しずつ締めあげられていった。
「あっ……ぐっ……!」
「し、シン……!」
二人は意識が遠のいていくのを感じていた、だがその時……上空から雨のようにビームの弾が降り注ぎ、彼女達を触手から解放した。
「フェイト!」
「ふっ!」
力なく落下していく彼女達を、駆け付けたシンとスウェンが抱きとめる。
「し、シン……来てくれたんだ……」
「ごめん! 遅くなった!」

「うにゃ!? あなたはヴィータちゃん達の!!?」
「事情は後で説明する、俺も一緒に戦わせてくれ」

「お前は……」
闇の書はなのはを抱くスウェンの姿を発見すると、悲しそうな顔で胸に手を当てる。
「お前が滅ぶのは主も騎士達も望まない……だから退いてくれ」
「断る、俺ははやてと約束したんだ、みんなと帰ると」
「デスティニー! あれを使うぞ!」
「はい!」
そう言ってシンは翠色のクリスタルをポケットから取り出し、目の前に展開した魔法陣にそれを投げ入れる。
「「クリエイション(創成起動)!」」
そしてクリスタルは周りの物質を取り込んでいき、白と翠のカラーリングの巨大な二頭身のゴーレムに変化していった、シンの新しい魔法、ゴーレムクリエイトである。
「おおお!? すごいシン君!」
「これがヴィアさんが作った新しい魔法……」
なのはとフェイトはシンの新しい魔法を見て驚きの声をあげる。
「主、この子は砲撃が主体なのでブラストと呼びましょう」
「わかった! ブラスト! 周りの怪獣達をぶっとばせ!」
シンの指示を受けブラストは腰辺りに巨大な魔法陣を展開し、そこから二本のビームを放った。
「ギャオオオオオン!!!」
「ウオオオオオオン!!!」
そのビーム砲は地面にいたすべての怪獣を跡形もなく吹き飛ばしてしまった。
「す、すさまじいね……」
「あれがシンの新しい魔法かい」
そんな風に皆がシンの新しい魔法に気を取られている中、スウェンは闇の書から巨大な魔力を感知する。
「おいお前ら! 来るぞ」
「星よ集え、すべてを導く光となれ……」
「まずい! さっきより大きなのがくるぞ!」
「はやく距離をとるんだ!」
シン達はスターライトブレイカーの直撃を避けるため、ブラストをクリスタルに戻し散開して闇の書から距離をとることにした。

「ここまでくれば……」
同じ方向に逃げてきたシンとスウェン、その時シンにアースラにいるエイミィから通信が入ってきた。
(シン君大変だよ! 結界の中に取り残された子達がいるみたい!)
「なんだって!!? 早く助けに行かないと!」
「俺も手伝おう、人手は多いほうがいいんじゃないか?」
「ありがとう! フェイト達も向かっているみたいだから早く行こう!」


そのころ、病院から帰る途中だったすずか、ルイス、留美は街の中から人が消えて呆然としていた。
「なんだろう、アレ……」
「急に人がいなくなっちゃったよ!」
「携帯も通じませんわ、日本ではこういうことしょっちゅうですの?」
「う、うーん……違うと思う……」
すずかは空に浮かぶ桜色の光に不安を感じていた。そこにあたりの様子を見に行っていたアリサと紅龍が戻ってくる。
「やっぱり誰も居ないよ…辺りは暗くなるし、なんか光っているし……一体何が起きているの!?」
「こっちにも人はいなかった、この現象は一体……」
その時、桜色の光から一筋の巨大な光線が大地に向けて放たれ、その衝撃波がアリサ達に襲い掛かる。
「!!?」
「こ、こっちにくるよ!」
「留美!」
思わずお互いを守るように抱きしめあうアリサとすずか。ルイスと留美を庇う様に抱きしめる紅龍。
だが、衝撃波が5人に直撃することはなかった。
「え?」
「一体何が…?」
恐る恐る目を開ける5人、そこにはなのはが、フェイトが、シンが、そしてスウェンが衝撃波から光の壁を展開して自分達を守っているのだ。
「なのは……? フェイト……!?」
「シン君!? それにスウェンさん!?」
「お二人とも、何ですかその格好? コスプレ?」
「確かこの子シン君ってこだよね? アリサの友達の……」
背中から羽根を生やしたり、見たことも無い格好や物騒な武器を持っている彼等に、5人とも頭が混乱していた。
そして衝撃波が収まり、二人は改めていつもと様子の違う彼等を見る。
「アンタ達……その格好は何!?」
「フェイト、水着なんて着て寒くないの?」
「ゴ、ゴメン! 訳はちゃんと後で話す!」
「だからちょっと待っててね!」
シンとなのはが両手を合わせて謝罪のポーズをとる。すると二人の足元が光り、何処かに転送されていった。


「バレちゃったな。」
「そうだね……」
「これ……やっぱり水着に見えるかな?」
悲しそうなシンの言葉に頷くなのは、そして先ほどのルイスの言葉を気にするフェイト。
そんな彼女達の前に闇の書が降り立つ。
「もうやめてくれ……無関係の奴まで巻き込むな!」
スウェンは必死に闇の書に訴えかける。
「我が主はこの世界が、愛する者達を奪った世界が、愛しき者が奪った世界が、悪い夢であって欲しいと願った、我はそれを叶えるのみ。主には穏やかな夢のうちで永久の眠りを……」
「なぁにがはやての願いだ! はやてがこんなこと望むはずがないだろ!!」
「そうだよ! はやては悲しむよ! だからもうやめて!」
シンとフェイトは闇の書がプレシアと重なって見えていた。
「あなたは……それでいいの!?」
「あなたは主の願いを叶えるだけの道具なんかじゃない!!」
「だから武装を解除して、はやてを開放しろ!!」
なのは、フェイト、シンの訴えに、闇の書は目に涙をためて答える。
「我は魔道書……ただの道具だ」
その言葉に、スウェンの堪忍袋の緒が切れる。
「ふざけるなああああああ!!!」
「「「「!!!!?」」」」
スウェンの突然の叫びに、その場にいた全員が驚く。
「お前は戦うだけの……壊すだけの存在なんかじゃない! 兵器がシン達の言葉を聞いて涙を流すものか!!!」
闇の書は慌てて涙を拭った。
「これは主の涙だ……私には悲しみなど……」
「そんな悲しい顔で……! 悲しみなんかないなんて誰が信じるか!!」
その時、結界内に地響きが立ち、地面が割れ、至る所に火柱が立った。
「うわ!? なんだなんだ!?」
シンは火柱に巻き込まれそうになったが、服が焦げる程度ですんだ
「崩壊が始まっています、あの子の暴走が本格化してきたようです」
「早いな……もう崩壊が始まったか、私もじき意識をなくす、そうなればすぐに暴走が始まる。意識のある内に主の望みを叶えたい」
「そんな……! どうしたら!」
その時、スウェンは勢いよく闇の書に向かっていく。
「いいかげんにしろ! 力ずくでも俺が止めてやる!!」
スウェンはフラガラッハを振り下ろすが、防御魔法で簡単に防がれてしまう。
「二人とも……主と騎士達に本当によくしてくれた、だから……」
「……!? ヤバイ! アニキ離れて!」
ノワールは危険を察知したがすでに遅く、スウェンの体は光の粒子になって徐々に消えていった。
「な………!?」
「スウェン!!」
「すべては……安らかな眠りのうちに……」
そしてスウェンとノワールは完全に消えてしまった。
「お前! なにしたんだ!」
シンは訳も判らず闇の書に怒鳴り散らす。
「彼等は私の中で覚めることの無い眠りの中にある。そのほうが……心置きなくこの世界を破壊できる」
「この……駄々っ子!」
「話は終わりだ、デアボリック……」
その時オレンジ色の光弾が飛来して闇の書に直撃し、詠唱を止める。
「よ~し! ストライク!」
「ゴメン! 遅くなった!」
光弾が放たれた先には合流してきたアルフとユーノがいた。
「ユーノ君! アルフさん!」
「たく……遅れた分キリキリ働けよ!」
「何人こようとも……」
闇の書は集まったなのは達五人を見る。
「いっくよーみんな! あのワガママ娘を止めるよ!」
「「「「おー!!!!」」」」
なのはの号令に他の四人も答える。そしてなのは達と闇の書の激闘の火蓋が切って落とされた。










スウェン……スウェン……。


誰だ……俺を呼ぶのは?


起きなさい……スウェン……。


この……懐かしい声は……。


「スウェン、もう朝よー、起きなさーい」
スウェンは気が付くと、どこかの部屋のベッドで寝ていた。
「あれ? ここは……?」
身を起こし、辺りを見回すと、彼は信じられないものを目にする。
「マ……マ……!?」
数年前、自分を庇って命を落としたはずの母親が、何事も無かったかのように自分に微笑み掛けていたのだ。
「ママ……なの?」
「何を言っているの? 早く顔を洗って朝ごはんを食べましょう」
そういうと、スウェンの母はスウェンの部屋から出て行った。
「ここは……」
スウェンは改めて辺りを見回す、そこは自分があの爆発事件に巻き込まれる前の、幼き日を過ごした家そのものだった。そして自分の体を見る、体は先程よりも縮んでいた、つまりスウェンは父と母が生きていた頃にもどってきたのだ。
「これって一体……?」
リビングに行くと、父親が新聞を読みながら朝食をとっていた。
「おはようスウェン、どうした? 狸に化かされたような顔をして?」
「……なんでもないよ、パパ」
何事も無かったかのように、スウェンは朝食が並べられたテーブルに座る。
「もう、スウェンったら……また遅くまで星の映像を見ていたのね、どうやら寝ぼけているようね」
「全く……スウェンは本当に星が好きだな、そういえばこの前プレゼントした望遠鏡はどうだ?」
「うん! とってもよく星が見えたよ! ありがとうパパ!」
「ふふふ……よかったわね、もうすぐ学校へ行く時間よ、早く支度をしなさい」
「わかったよママ」
朝食を食べ終えた後、スウェンは洗面台で顔を洗う。ふと、鏡に映る自分の顔を見る。
「もしかして……これは夢?」
スウェンは鏡に映る四歳若返っている自分の顔を見て戸惑う。
「スウェーン! 時間よー!」
母に呼ばれたスウェンは、慌てて着ていた学校の制服を直し、カバンを手に取った。
「行ってきまーす!」
「いってらっしゃいスウェン」
「車には気をつけるんだぞー?」
父と母に見送られ、スウェンは学校へ向かった。


学校の通学路、そこでスウェンは二人のクラスメートと合流した。
「おはよースウェン、今日も元気かー?」
「シャムス、ミューディー……おはよう」
「あら? どうしたのその本?」
ミューディーと呼ばれた少女はスウェンが抱えている本について聞いてくる。
「ああこれ? 図書室で借りてきた星座の本、今日返さなきゃいけないんだ」
「まったく、おめえはホント星が好きだよなー」
「でもそこがおしゃれでカッコいいわよねー」
「スウェン、今度俺も天体観測に連れて行ってくれ」
ミューディーのセリフを聞いて意見を180度変えたシャムス。
(シャムス……下心見え見えだよ……)
(うっせ! 女子にモテモテなお前に俺の気持ちが解るかよ!)
スウェンはそんなシャムスの三枚目な行動に苦笑いしていた……。

そしてスウェンは学校へ行き、授業を受け、昼休みは友達のシャムスとミューディーと楽しくおしゃべり、放課後は図書室で星の勉強と、他の子供達と変わらない一日を送って行った。

帰宅後、スウェンは今日学校であったことを夕食の食卓で両親に話していた。
「でね、あの後ダナとエミリオがアグニスに突っかかってきて…大変だったよ」
楽しそうに話すスウェンを、父と母は微笑ましく見ていた。
「ハハハ、スウェンのクラスには面白い子が沢山いるんだな」
「そういえばお隣のルーシェちゃんも同じ学校だったわね。見たことある?」
「校庭に迷い込んだ犬と戯れていたよ、動物好きだよね、あの子。」
和やかに続いていく時間、ふと、スウェンはテーブルから立ち、外出の準備をする。
「じゃあいってくるね、父さん、母さん」
「そうか……今日はこと座流星群がやってくる日だったな。」
「気をつけるのよ?夜道は危ないから……」
「うん、わかった」


スウェンは父が誕生日に買ってくれた望遠鏡を持って、いつも星を見る丘にやってきた。
「うわぁ……」
空を見上げると、銀河に浮かぶ幾億の星が宝石のように辺りを照らしていた。
「こんなに星が……すごい……でも……」
先程までの嬉しそうな顔とは打って変わって、とたんに悲しそうな顔になる。
「これは……夢なんだよね」
そこに、スウェンの両親がすまなさそうな、許しを請いたいといった表情でやってきた。
「パパ……ママ……」
「スウェン……ごめんなさい、今まであなたに辛い思いをさせて……」
「ここなら私達がいる、友達もいる、望遠鏡も、星がよく見える場所も、暖かい家もある。夢だっていいじゃないか、だから行かないでくれ……」

「「スウェンが欲しかった幸せ、みんなあげる」」

「僕が望んだ幸せ……」





とてもとても深い闇の中にはやてはいた。
とても眠たく、いつ瞳を閉じてもおかしくなかった。
「そのままお眠りを我が主、貴方の望みは全て私が叶えます」
目の前にいる灰髪の女性……闇の書が語りかける。
(私は何を望んでいたんやったっけ……?)
「夢を見ること、悲しい現実はすべて夢となる、安らかな眠りを……」
「私の……本当の望みは……」





一方なのは達は、戦う場所を海上に移したなのは達は引き続き闇の書との戦闘を続けていた。
「おらぁ!!」
「たぁー!!」
「甘い……」
バルディッシュとアロンダイトの攻撃を同時に防ぐ闇の書。
「穿て、ブラッディダガー」
シンとフェイトは距離をとって襲い掛かる爆発を避ける。
「「バインド!!」」
その時、ユーノとアルフが放った鎖型のバインドが、闇の書の足に絡みつく。
「今だ! なのは!!」
「うん! スターライト……ブレイカー!!」
桜色の閃光が闇の書を包み、爆発が巻き起こる。
「やった!?」
だがその時、爆煙の中から複数のビーム弾が放たれ、なのは達に襲い掛かる。
「きゃあ!?」
いきなりの反撃に避けるのが精一杯の一同。
その時、ビームの一つがフェイトに直撃する。
「あ……」
防御力のないソニックフォームだったフェイトはダメージをモロに受け気絶し、海に落下していった。
「フェイトー!!!」
アルフの悲痛な叫びが木霊する。そして追い討ちを掛けるように、闇の書はフェイトに向けて手をかざす。」
「ディバインバスター」
光線が無防備なフェイトに襲い掛かる。
「こなくそー!!」
シンは全速力でフェイトの下へ飛び、寸でのところで彼女を抱きかかえ救出する。
「大丈夫か! フェイト!」
息を切らしながらもフェイトの無事を確認するシン。
「ご……ごめんねシン、いつも迷惑をかけて……」
「いいんだよ、ちゃんと守るっていったろ?」
「う……うん」
その光景を見ていた闇の書は、シンに問いかけた。
「貴様……なぜそうまでして戦う? この世界はお前とは関係ないのだろう?」
負傷したフェイトをアルフに預けて、シンは改めて闇の書を見る。
「確かに俺は望んでこの世界に来たわけじゃない、でもこの世界には友達が沢山いるんだ! お前なんかに……!!!」
シンの頭の中にこれまで出会った大切な人の顔が浮かんでくる、背中の羽から光の粒子がばら撒かれ、そのまま彼は闇の書に突撃する。
「スターライト……」
その時闇の書の右の掌に桜色の魔力が収束されていく。
「壊されて……!!!」
同時にシンの右腕には青い籠手が装着される。
「ブレイカー」
「たまるか――――――!!!!!!」
次の瞬間、シンの右腕と闇の書の右手がぶつかり合い、彼等を中心に大爆発が起きる。
すると爆煙の中から、ボロボロになったシンが海へ向かって落ちていった。
「シン―――!!!」
思わず悲鳴に近い声でシンの名前を呼ぶフェイト。
「危ない!!」
海に激突する前にユーノがシンを救出する。
「ちくしょー……相討ちかよ!」
ユーノに抱きかかえられながら悔しそうに舌打ちするシン。
そして爆煙が晴れると、そこにはボロボロになった右腕を抱えた闇の書がいた。
「くっ……」
「シン君!」
なのはは慌ててシンの下に駆け寄る。
「ごめん……後は頼んだ」
「わかったよ、私に任せて」
そしてなのはは闇の書のもとへ飛び立った。
対峙するなのはと闇の書。
「お前も……もう眠れ」
「いつかは眠るよ、でもそれは今じゃない」
そしてなのはは大きく深呼吸し、レイジングハートを構える。
「カートリッジロード!! エクセリオンモード……ドライブ!!」
レイジングハートから数個のカートリッジが排出される。
制御を誤ればレイジングハートが壊れてしまうかもしれないエクセリオンモードを起動する、それだけの覚悟で挑まなければ闇の書には勝てないのだ。
(撃てるチャンスさえあれば……! 私だって皆を守りたいんだ!)
そしてなのはは、闇の書へ突撃していった。



「ありがとう……でも僕はもう行くよ」
スウェンは首を横に振った。
「スウェン!? なんで……!?」
「あそこにもどっても辛い思いしかしないのよ!? それならずっと私達と暮らしましょう!」
「パパ……ママ……」
悲しそうな顔でなおも引き止めようとする両親、そんな彼らに、スウェンは笑顔で答えた。
「僕ね……家族ができたんだ」
「家族……?」
首をかしげるスウェンの両親。

「不器用だけど、家族のことをいつも思ってくれているお姉ちゃん」
「料理は下手だけど、それ以外の家事はなんでもこなすお姉ちゃん」
「僕が迷っていたり、辛い思いをしているとき、黙って話を聞いてくれて、相談に乗ってくれるお兄ちゃん」
「ガサツで乱暴だけど、本当は誰よりも家族のことが大好きな妹」
「辛いときも……太陽みたいに笑ってみんなを支えてくれる妹」
「そして……僕の一番の味方の弟」

「僕は今兄弟達に囲まれてとっても幸せだよ、だから心配しないで」
『幸せ』という言葉を聞いて、スウェンの両親は彼を引き止めるのをやめた。
「そうか、スウェンは幸せなんだな……安心したよ」
「なら私達は何も言う事はないわ……」
スウェンは両親のもとに駆け寄り、二人に抱きつく。
「ありがとう……パパとママにもう一度会えてよかった」
「スウェン……」
すると二人の体が、光の粒子になって徐々に消えていく。
「私達は遠く離れてしまうけど……」
「いつまでも、貴方の近くで見守っているよ」
「「だから……」」
そして完全に消える寸前、その言葉をスウェンに贈る。


「「がんばれ!! スウェン!!」」





スウェンだけになった丘。相も変わらず星達は彼を照らす。
「マスター……」
するとそこに、妙にかしこまった様子のノワールが現れた。
「ノワール……行こう、はやて達を迎えに」
「……仰せのままに!!」
そして、その丘からスウェン達の姿は消えていた。





「私が……欲しかった幸せ……」
「ええ、愛する者達とずっと続いていく暮らし」
はやての頭の中に、次々と大切な家族達の顔が浮かぶ。
「眠ってください……そうすれば夢の中で貴方はずっとそんな世界にいられます」
その時だった。
「それは違うよ、それは逃げているだけだ。その夢はカケラでしかない」
突然の来訪者に驚く二人
「スウェン・カル・バヤン……!?」
「スウェン……? なんかちっこくないか?」
はやてはいつもと性格も身長も目つきも違うスウェンに驚く。
「確かに思い通りに生きられないのは辛いけど……夢って見るだけじゃなく、叶えるものでもあるんだよ」
「叶える……もの……」
半開きだったはやての目が徐々に開いて行く。
「僕……思い出したんだ、僕の夢は将来天文学者になることなんだ、でも……眠ったままじゃ叶わない、だってそれは……」
「それは、ただの夢の欠片や」
はやての目ははっきりと開かれ、しっかりと闇の書を見据える。
「私らこんな事望んでへん、貴方も同じはずや……違うか?」
すると、闇の書はポロポロと涙を流し始めた。
「……私の心は騎士達と深くリンクしています。だから騎士達と同じように私も貴方達を愛おしく思っています……」
そして闇の書は固く目を閉じリ、
「だからこそ! 貴方を殺してしまう自分自身が許せない!!」
いままで溜め込んでいた思いを、さらけ出した。
「……覚醒の時、少しは解ったんよ、望むように生きられない辛さは私にもわかる、せやけど忘れたらアカン……」
はやては手を伸ばし、両手で闇の書の頬を触る。
「あなたのマスターは今は私や、マスターの言う事はちゃんときかなあかん」
はやての足元に白い魔法陣が現れる。
「名前をあげる、闇の書とか呪いの魔道書なんて呼ばせへん。私は管理者や、私にはそれができる」
闇の書の目から涙が溢れ出す。
「無理です、自動防御プログラムが止まりません、管理局の魔導師が戦っていますがそれも……」
すると、スウェンが闇の書の頭を優しく撫でる。
「大丈夫だよ、はやてを……みんなを信じて」
「止まって」
その時、魔法陣の輝きが増した。


「動きが……とまった?」
闇の書の動きが止まり、戦っていたなのは達は様子を見る。
『外の方! 管理局の方! こちら…その、そこにいる子の保護者の八神はやてです!!』
「はやてちゃん!?」
「はやて!?」
「無事だったのか!? よかった~。」
『その声はなのはちゃん?それにフェイトちゃんにええっと……シン君!? あの、なんとかしてその子止めてあげたげる!?』
「どうすればいいのはやて!?」
『魔導書本体からコントロールを切り離したんやけど、その子がああしてると管理者権限が使えへん、今そっちに出ているのは自動行動の防御プログラムだけやから……』
「ど……どうすればいいの?」
理解しきれず、なのはは他の仲間達に聞いてみる。
「つまり……アイツにでっかいダメージを与えればいいんだな」
「じゃあなのはの得意なアレだね」
アルフ(大型狼型)の上に乗っていたシンとフェイトは互いに頷く。
「なのはの全力全開を……アイツにぶつけるんだ!!」
ユーノの説明を理解したなのはは、パアっと笑顔になる。
「さすがユーノ君! 解りやすい!!」
そしてなのははレイジングハートエクセリオンを闇の書へ向ける。
「エクセリオンバスターバレル展開、中距離砲撃モード!」
柄が伸び、レイジングハート本体から桜色の翼が生える。
そして、魔力による衝撃波を放った。防御プログラムの自由を強制的に奪う。
「エクセリオンバスターフォースバースト!! ブレイクぅ……シュート!!!」
放たれたエクセリオンバスターは四つに裂け、そのすべてが闇の書に襲い掛かる。


「はやて……先に行っているよ」
「うん、気を付けてな」
スウェンはノワールとユニゾンし、自分の目の前に銀色の魔法陣を展開する。
「いくぞノワール、悲劇の闇を切り裂く銀の閃光、その名は……」


そしてエクセリオンバスターが闇の書を飲み込むのと同時に、その光を貫くように銀の閃光が天に向かって放たれた。


「夜天の主の名に於いて汝に新たな名を送る、強く支えるもの、幸運の追い風、祝福のエール」
辺りが白い光に包まれる中、はやてはその名前を呼ぶ。


「あなたの名は……リインフォース」










ちょっと長くなったので前篇後篇に分けました、後編は明日に投稿します。感想のレス返しは明後日投稿予定のエピローグ後にまとめて書きますので……

ちなみにシンの使った新たな魔法はVividのコロナの魔法を参考にさせていただきました。
クリスタルを使ってSDサイズのインパルスを召喚するってイメージですかね。



[22867] 最終話「STARGAZER ~星の扉~」後編
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/02/17 21:03
最終話「STARGAZER ~星の扉~」後編


『リインフォースを認識、管理者権限の使用が可能になります。ですが防御プログラムの暴走が止まりません、管理から切り離された膨大な力がじきに暴れてしまいます』
「うん……まあなんとかなるやろ、ほな行こかリインフォース」
『はい、我が主』


海上に張られた結界内に大きな地響きが起こる。
『皆気をつけて! 闇の書の反応消えてないよ!』
シン達の目の前には大きな黒い塊と小さな白い塊があった。
『下の黒い淀みが暴走が始まる場所になる。むやみに近づいちゃだめだよ!』
その時、白い塊の周りに赤、赤紫、緑、白の光が囲むように現れた。そしてそれは強い光を放ち人の形になった。
「ヴィータちゃん!」
「シグナム!」
そこにはリンカーコアを修復し、復活したヴォルケンリッターがいた。
「我ら夜天の主に集いし騎士」
「主ある限り我らの魂尽きる事なし」
「この身に命ある限り我らは御身の下にあり」
「我らが主、夜天の王、八神はやての名の下に!!!」
その瞬間、中心の白い塊にヒビが入り、杖を持ち騎士甲冑に身を包んだはやてと、ノワールとセットアップしたいつものスウェンがいた。
「はやて! スウェン!」
ニコリと微笑み返すはやてと、コクリと頷くスウェン。
はやては杖を天に掲げて叫ぶ。
「夜天の光よ、我が手に集え、祝福の風、リインフォース、セーット、アーップ!!」
はやての頭が白く染まり、黒い羽が六枚ついたバリアジャケットに身を包む。
「はやて……」
「はやてちゃん……」
ばつが悪そうにはやてを見るヴォルケンリッター。
「リインフォースが全部教えてくれた、けど細かい事は後回しや、皆……お帰り」
「はやて……はやてー!」
目に涙を流し、はやてに抱きつくヴィータ、そんな彼女の頭を、はやては優しく撫でた。そしてヴォルケンリッターはスウェンの方を見た。
「スウェン……ありがとうな」
「お前が頑張ってくれたおかげで、我々はまたこうして主と巡り会うことができた」
「本当に感謝している」
皆、次々とスウェンにお礼を言う
「なに、家族として当然のことをしたまでだ、それより……」
スウェンは黒い淀みを見る。
「あれをなんとかしなければな」


そこになのは達管理局魔導師達が合流する。
「はやてちゃん! よかった~!」
「なのはちゃん、フェイトちゃん……迷惑かけてごめんな。」
ふとはやては体中ボロボロになっているなのは達を見る。
「大変! シャマル、お願いできるか?」
「はい、クラールヴィントの本領発揮ですね」
シャマルは指輪型のデバイス、クラールヴィントに軽くキスをする。
するとなのは達の周りに暖かい光が纏われ、傷はおろかバリアジャケットの綻びまで治ってしまったのだ。
「すっげー! アロンダイトが新品みたいだ!」
シンは腕をぐるんぐるん回しながら、自分が全快になった事を確かめる。その他も皆シャマルの治癒魔法を絶賛した。


「皆、集まっているな、時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ」
そこにクロノがやってくる。
「時間が無いので簡単に説明する、あそこの黒い淀み……闇の書の防衛プログラムが数分で暴走を開始する、僕らはそれを何らかの方法で止めなければならない」
そしてクロノは一枚のカード型デバイスを取り出す。
「何だそれ?」
「これは氷結の杖デュランダル、この氷魔法であの防御プログラムを停止させる。もしくは軌道上で待機しているアースラの魔導砲、アルカンシェルで消滅させる、今あるプランはこの二つだ」
「あの……多分二つとも難しいと思います。」
シャマルが恐る恐る手を上げて意見する。
「主のいないプログラムは魔力の塊みたいなものだからな」
「アルカンシェルも絶対だめ!はやての家が吹っ飛んじゃうじゃんか!」
「そんなにすげえの?」
シンはヴィータの必死な意見を聞いて、デスティニーに聞いてみる。
「先程データが送られましたが……ここで使えば半径数十キロは消滅します、海鳴は壊滅しますね」
「それではここでは使えないな、俺達の帰る家がなくなってしまう」
「だな……じゃあ別の方法を考えないと」

そんなわけでシン達は闇の書の闇を倒すための作戦会議を始める。
『はーい、みんな後五分だよー』
「アレをもっと沖合いに移せないの?」
「海の上でも空間歪曲の影響は出る」
「我らのありったけの魔力をアイツにぶつけて……」
「でも確率は低そうだな」
「あーもうめんどくさい!! みんなであれをズバッとやっつけることはできないのかい!?」
「それが出来たら苦労しないよ……」
会議は平行線になっていた、その時……
「……? なあ、あそこに人がいるぞ?」
ヴィータは海岸沿いに数人分の人影がいるのを発見する。
「あれ!!? 本当だ!」
「逃げ遅れた人かな……」
一同は慌ててその人達のもとに飛び立った……。

その頃海岸沿いでは、安全な場所に転送されたアリサ達が、海上に現れた闇の書の闇を見て混乱していた。
「何あの怪物!? でっかー!!」
「ユニオンの新型MAでしょうか……?」
「そうは見えないが……」
「ねえアリサちゃん、あそこにいるのって……」
「うん、なのは達よね? あんな格好で何をしているのかしら?」
そして彼女達のもとになのは達が集まってくる。
「アリサちゃん!!? すずかちゃん!! それにみんなも!!?」
「どうしてここに!?」
『あらー……安全なところに移動させたつもりが、また巻き込んじゃったみたいだねー』
「なのはちゃんにフェイトちゃん!? はやてちゃん達まで!?」
すずかはなのは達の中に八神一家までいることに驚く。
「今日は仮想パーティーでもありますの? 随分と奇特な格好をしていますわね……」
「すごいね! どうやって飛んでいるのそれ!? CG!? ユニオンの兵器!!?」
「こ、これはその……そうCGなんだよ! ルイスちゃん正解!!!」
なのはは誤魔化す為ルイスの意見を敢えて肯定する、しかし……
「んなわけないでしょーが!!! ちゃんと説明しなさいよ!」
「いひゃひゃひゃ~!!!」
アリサに嘘と見破られ、頬を思いっきり引っ張られる。
「ああアリサ、落ち着いて……」
「こ、コエ~」
「どうします艦長……?」
『もうこうなってしまっては隠せないでしょう』
そしてなのは達はこれまでの事、そして自分達の事をアリサ達に洗いざらい説明した。
「時空管理局……魔法……どれもにわかには信じられないことばかりですわ、でも実物が目の前にありますし……」
「なのはとフェイトは魔法少女なんだ! すっごーい!」
「なるほど、そしてあなた達は今、あれを倒す為に四苦八苦していると……」
「うむ、そういうわけだ」
なのは達の事情を理解したところで、アリサ達も闇の書の対処について意見を出してくる。
「あれを消しとばす方法ね……なんかでっかい大砲みたいなの無いの? それで吹き飛ばしちゃえばいいじゃん」
「それはもう考えたよ……それだとアリサちゃん達が余波に巻き込まれちゃうの」
「軍に協力を要請することはできませんの? これほどの事態なのに……」
「うーん……この世界の軍にアレをどう説明すればいいのか解らないし、後々面倒なことになる」
「完全にお手上げか……」

腕を組んで悩みだす一同、その時……ルイスが手を元気よくあげて意見を出した。
「はいはーい! しつもーん!」
「はいルイスさん、なんでしょう?」
「オイラの好みのタイプはまどか☆マギカのほむほむちゃん!」
「お前は黙ってろ!!」
ノワールがシグナムに頭をはたかれているのを尻目に、ルイスは天に向かって指をさした。
「ねえねえ、魔法であれを宇宙とかに放り出すことはできないの? あそこならここで暴れられるより幾分マシだと思うけど……」
「あれほどの質量の物を宇宙に放り出すのは無理だ……」
「うーん……じゃあゴリゴリっと削って小さくしちゃえば? さっき見た女の人の攻撃がみんなにも出来ればイケるんじゃない?」
「ルイスさん、そう簡単には……」
「いやまて」
そのルイスの意見を聞いて、スウェンが思考を巡らせる。
「管理局の人、ちょっといいか? そのアルカンシェルとやらは宇宙でも撃てるのか?」
『撃てますよー! 宇宙だろうとどこだろうと!』
「スウェン、何かいい方法を見つけたのか?」
「ああ……」
スウェンは自分が思いついた作戦をみんなに話す。
その内容はまず皆で闇の書の闇に総攻撃を行い、戦闘不能まで追い込み、露出させたコアのみを宇宙に転送し、アルカンシェルで消滅させる……というものだった。
「どうだ? これならいけると思うが……」
「俺はスウェンの意見に賛成だ!」
「私もや! 今はこれしか方法があらへん!」
スウェンの提案した作戦に反対するものはいなかった。
『どうやら結論は出たみたいね、相変わらず無茶言うわ』
『でも計算上では可能なんですよね』
「ていうか素人の意見が一番まともな答えを導けるって……あなた達本当にプロですの?」
「ぐっ……!」
『め、面目ない……』
留美の手厳しい意見に、クロノとエイミィは返す言葉もなかった。

「俺はこの作戦は絶対成功すると思う」
「なんだ? 随分と自信満々だな」
クロノは妙に自信に満ちたスウェンを不思議がる。
「ああ、なぜならここにはみんながいる」
「うん、そうだよな」
スウェンとシンはお互い目を合わせ、仲間達を見る。
「守りたいものは皆同じなんだ」
「ぶつかり合ったりもしたけど、味方同士になったらすんげー頼もしいよな!」
「だから皆で守ろう、そうすれば守り抜く事が出来る」
「シン君……そうだね!」
「我々が手を組めば阻める者などいない」
「アタシ達が全部ぶっ飛ばしてやるよ!!」
「ああそうさ、やってやろうじゃないかザフィーラ」
「応!」
「僕もやれる事、全力全開で挑むよ」
「治癒は任せてね、どんな大怪我も直しちゃうから!」


「ウチも皆を守りたい……リインフォースも一緒や!」
「私も……シンと守りたいものは一緒だよ!」


『さあみんな! もうすぐ暴走が始まるよ!』
エイミィの通信を受けて、皆一斉に頷く。
「さあ皆! 全力全開でいくよ!」
「「「「「「「「「「「おう!!!」」」」」」」」」」」

そして、皆は再び闇の書の闇がいる海上に向かった、この世界の未来を賭けた最終決戦が始まったのだ。










見上げる空、哀しみの蒼き嘆きの詩がただ聞こえる

優しい白い瞬き、奪い去った風……彼方

逃げない、僕は決めたよ、君の温もりを傍に感じて

目をそらさずに、全てこの胸に刺さる真実ならば

歩いていこう、歪み塞がれた星の扉の向こうへ……


最終話「STARGAZER ~星の扉~」





「来るぞ!!」
黒い塊が弾け、暴走した防御プログラム…闇の書の闇が姿を現す。至る所に生物的な触手や蛸の足のようなものなどがうねりを上げ、中心には紫色の体をした巨大な女性が張り付いていた。
「デカイな……」
「ああ、でも俺達は絶対負けない!」

そしてそれを見守るアリサ達もなのは達にエールを送る。
「がんばれー! なのは! フェイトー!」
「気をつけてねー!」
「あんな怪物! ぱぱっとぶっとばしちゃえ!!」
「すごい……ちょっと昂揚してきましたわ!」
「これが……世界を守る力……」


「チェーンバインド!」
「ストラグルバインド!」
アルフとユーノのバインドが触手を引き千切り
「縛れ!鋼の軛!でぇえええええい!!」
ザフィーラが残りを切り払っていく。
「ちゃんと合わせろよ! 高町なのは!」
「ヴィータちゃんもね!」
「鉄槌の騎士ヴィータと! 鉄の伯爵グラーフアイゼン!」
カートリッジがロードされ、アイゼンは普段より数十倍巨大なハンマー、ギガントフォルムに変形する。
「轟・天・爆・砕! ギガント・シュラァァァ―――――――ク!!!」
バリアにアイゼンが叩き付けられ、闇の書の闇を守っていた一層目のバリアが破壊される。
「高町なのはとレイジングハートエクセリオン! 行きます!」
魔法陣を展開し、カートリッジをロードする。レイジングハートに桜色の羽が生える。
「エクセリオンバスター! [バレルショット]」
レイジングハートから放たれた衝撃波が闇の書の闇の動きを止める。
「ブレイク……!」
四つの桜色の魔砲がバリアに当たり、
「シュート!!」
五本目が二層目のバリアを破壊する。


「次! シグナムとテスタロッサちゃん!」
「剣の騎士、シグナムが魂、炎の魔剣レヴァンティン、刃と連結刃に続く、もう一つの姿」
剣の柄と鞘を合わせ、カートリッジをロード。
[ボーゲンフォルム]
一つの弓となるレヴァンティン。さらにカートリッジをロードし、矢が形成される。
「駆けよ隼!」
[シュツルムファルケン!]
一直線に放たれた矢は、三層目のバリアを破壊した。
「フェイト・テスタロッサ、バルディッシュザンバー……行きます!!」
魔法陣を展開し、カートリッジをロード、バルディッシュザンバーを振りかぶる。
「撃ちぬけ! 雷神!」
[ジェットザンバー]
バルディッシュザンバーが振りぬかれ、そこから放たれた魔法刃が数十倍に伸び、闇の書の闇を切り裂いた。


「はやてちゃん!」
シャマルの合図と共にはやては杖を構える、だがその時、闇の書の闇がはやて達に向けて触手から複数の魔力弾を発射したのだ。
「アアアアアアアアアアアアアア……」
「なんてしぶといんだい!?」
「このままでは主が……!」
魔力壁を展開しながら皆を守るアルフらサポート班。
「それなら……!」
「俺達に任せろ!」
シンとスウェンは天空高く舞い上がり、ビーム砲、ショーティー、リニアカノンの銃口をすべて闇の書の闇に向ける。
「マルチロック完了、全武装チャージOK、いつでも行けますッス!」
「ビーム砲フルチャージ完了、射線上に味方はいません」
「シン、タイミングを合わせてくれ」
「わかった!!」
それぞれの銃口に光が収束される。
「シン・アスカ、デスティニー行きます!」
「流星の騎士スウェン・バル・カヤンと銀河の騎士ノワール、出る!」
「喰らえ! これがオイラ達の!」
「コンビネーション・アサルト!!」
そしてノワールのショーティー、リニアカノン、デスティニーのビーム砲の順番に光線が放たれる。
闇の書の闇にショーティーの銃弾の雨が降り注ぎ、リニアカノンの光の矢に貫かれ、ビーム砲の雷に薙ぎ払われた。
休む事の無い疾風怒濤の連撃に、闇の書の闇の再生は追いつかなくなってきた。
「「今だ! はやて!」」


「ありがとう二人とも……彼方に来たれ、宿り木の種、銀月の槍となりて、撃ち貫け!」
はやての頭上に展開される魔法陣から、七つの光が現れる。
「石化の槍、ミストルティン!」
七つの光は槍になって突き刺さり、闇の書の闇の本体は石化していく。
「アアアアアアアアアア………」
それでも闇の書の闇は生態部分を増やし、禍々しい姿に変貌していく。
「うわ……こりゃ……」
「なんだかスゴイことに……」
あまりの気持ち悪さに顔をしかめるアルフとシャマル。
「だが俺達の攻撃は通っている……」
「今だクロノ! ぶちかませ!」
「命令するな! ……いくぞデュランダル」
[OK、ボス]
グレアム提督から借り受けたデュランダルを構え、魔法陣を展開するクロノ。
「悠久なる凍土、凍てつく棺の内にて、永遠の眠りを与えよ」
凍りだす闇の書の闇。
「凍てつけ!」
[エターナルコフィン]
闇の書の闇は完全に凍りつき崩れ始めるが、すぐに再生し始める。


「いくよ! フェイトちゃん! シン君! はやてちゃん! スウェンさん!」
なのはの言葉に呼応するように頷く四人。


「全力全開! スターライト……!!」
レイジングハートの先端に桜色の光が収束されていく。


「雷光一閃!プラズマザンバー!!」
バルディッシュの刀身に魔力が蓄積される。


「ごめんな……おやすみな……」
闇の書の闇に一言謝罪し、夜天の書を開き、詠唱を始める。
「響け終焉の笛、ラグナロク……!!」


「デスティニー、俺に……フェイト達を守り抜く力をくれ!!」
ビーム砲を構えるシン、その銃口には紅の魔法陣が展開されていた。
「悲しみの運命を薙ぎ払え!イグナイデッド……!!」


(父さん、母さん、星達と共に見守っていてくれ、俺は……僕は……)
「悲劇の闇を切り裂く銀の閃光、その名は……」
(兄弟達と…仲間達と共に、生きて行くよ。)
スウェンの目の前に、銀色の魔法陣が展開され、背中の羽が変形し、リニアカノンの銃口に銀色の光が収束される。
「星の扉へ導く光、ハルバート……!」


「「「「「『ブレイカー!!!!!!!!』」」」」」
桜、金、白、紅、銀、五色の閃光が、闇の書の闇を飲みこんだ。


「本体コア露出! つかまえ……た!」
シャマルはクラールヴィントが形成した空間から禍々しく輝くコアを捕まえる。
「強制転移魔法発動!!」
「目標! アルカンシェル射線上!!」
「「「転・送―!!」」」
シャマル、アルフ、ユーノの手によってアースラがいる宇宙へ転送される。


地球」の軌道上に待機していた巡洋艦アースラは、地上から転送されてくるコアの到着を待っていた。
「コアの転送来ます! 転送されながら生体部品を修復中! 凄い早さです!」
「アルカンシェルバレル展開!」
アースラの前に三つの環状の魔方陣が展開され、中央に青白い光が集束していく。
「ファイアリングロックシステムオープン!」
リンディの声に反応し、リンディの目の前に鍵穴が着いた球体を立方体で囲んだものが現れる。
「命中確認後反応前に安全距離まで待避します! 準備を!」
転送されながら、禍々しい姿で再生していく闇の書の闇。
それが到達直前まで来る、リンディはアルカンシェルの鍵を鍵穴へと差し込んだ。
立方体が赤く染まり、発射準備が完了し、その瞬間闇の書の闇が軌道上に到着、アルカンシェルの射線上に現れた。
「アルカンシェル! 発射!!」
リンディは鍵を回し、引き金を引くと魔力でレンズ状の物体が生成され、それを通して青白い魔力が撃ち出される。
闇の書の闇に着弾し、一定時間を経過すると、発生した空間歪曲と反応消滅で闇の書の闇が消えていき、巨大な爆発が起こった。
爆発が集束していき、映像から闇の書の闇の姿が消えた。
「効果空間内の物体、完全消滅!再生反応、ありません!」
「うん、準警戒態勢を維持、もう暫く反応空域を観測します。」
リンディの言葉と共に、クルー達は安堵した……。



やるべき事をやり終えた一同は、アースラからの連絡を待った、そして、エイミィから一本の通信が入る。
『みんな! 防御プログラムの消失を確認! 反応はゼロ! 作戦は成功だよ!』
その瞬間、一同は歓喜の雄叫びをあげた。
「やったよー! シン!」
嬉しさのあまり、フェイトはシンに抱きつく。
「ああ! 俺達やったんだな!」
「な、なのは、や……」
「やったねー! シン君!」
なのはも嬉しさのあまり、ユーノの話を聞かずそのままシンに抱きつく。
「うわ!? なのはまで!?」
「シーン!!!」
「ちょ! アルフまでくんな! く、くるし……」
「………………………」
「その……なんだ、生きろ」
「うわ~~~ん!! クロノ~~~!!」
「だあああああ!!!! 抱きつくんじゃない!!!」
そんな微笑ましい(?)光景を八神家はちょっと距離を置いて見つめていた。
「ふふ、騒がしい連中ですね……人のこと言えませんが。」
「ホンマや……な……」
はやては急に体が重たくなり、その場にへたり込む。
「は……はやて!」
「大丈夫やヴィータ……ちょっと魔力使いすぎて疲れただけや。」
「とにかくどこかで休ませましょう」
「だな……行くぞスウェン……スウェン?」
ザフィーラは返事のないスウェンとノワールを不信に思い、肩をポンと叩く。
「どうした? 何を見ている?」
「空……」
ふと、皆は一斉に空を見る、空は先ほどの騒動で雲が晴れており、満天の星が輝いていた、そしてそれだけではない。
「ねえこれ……雪じゃない!?」
「すごい! 天気雪だね!」
しんしんとスウェン達の周りに雪が降ってきていたのだ。
「うわあ! 俺雪なんて初めて見たよ!」
「まるで星が降ってきているみたいだね!」
幻想的な光景にはしゃぐシン達。そしてスウェンはヴィータ達に支えられているはやての傍に寄って行った。
「さあ約束だ……みんなで家に帰ろう」
「待ってえなスウェン、もうちょっとこの光景……みんなで見ていよう」
「……ふっ、それもそうだな」
スウェンははやてに微笑みかけながら、大切な家族、そして新たに出来た仲間達と一緒に、雪降る星空を眺め続けた。










こうして、後に「闇の書事件」と呼ばれる出来事は終わりを告げた。
事件の重要参考人である八神はやてとヴォルケンリッター、そしてスウェン・カル・バヤンは裁判に掛けられる事になるが、裁判終了後の管理局従事の約定により大幅な減刑が見込まれている。

なお今回の事件に関わったギル・グレアム提督とその使い魔の処遇について、
彼はかなり早い段階で八神はやてが闇の書の主と知っていたにも関わらず、管理局にそのことを報告せずなんの防止対策を打たなかった、その行為は悪質でありアースラへの事件捜査の妨害工作も含めてその罪は極刑に値していた。
しかし上層部はグレアム提督を重く罰することにより民衆の管理局への不信感の増大、下部局員の上層部への不信感が増すのを懸念し、提督の罪状を隠匿、彼を降格するのみに留めた。

なお、闇の書の防衛プログラムに関しては、アースラによるアルカンシェルによって消滅したと見なされ、管理局上層部の指示のもと防衛プログラムの所在の調査は完全に凍結されることになった……。










本日はここまで、明日にエピローグを投稿いたします。
あの子の運命ははたしてどうなるのか……奇跡は起こるのか。



[22867] エピローグ「大人になっても忘れない」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2012/01/27 10:53
少女は夢を見ていました、とある少年の、歩むことになるかもしれない未来の話の夢です。

少年は幼い日に両親を亡くし、そのまま軍に引き取られ生粋の兵士として育てられました。

そして世界で戦争がおこり、成長した少年は黒いロボットに乗って人を殺し続けました、戦えるもの、戦えないもの、戦わないもの関係なく、無慈悲に、残酷に、無感情に……

少女はその姿を見て泣いていました、どうして大人達は……優しい彼にあんなひどいことをさせるんだろうと、戦争さえなければ、人間同士が争ったりしなければ、きっと彼は今頃大切な人達と幸せな日々を送れていただろうに、神様は彼になんて残酷な運命を課したのだろうと……

だから少女は神様にではなく……星に祈りました、せめて少年の未来が幸せいっぱいでありますようにと……





「はやて……目を覚ましたのか?」
「スウェン……?」
海上での決戦から数時間後、倒れたはやては眠ってしまい、管理局で治療を受けた後自分の家に戻ってきていた。
「はやて……泣いていたのか?」
「うん、ちょっと悲しい夢を見たんよ、男の子がな、軍人になって沢山の人の命を奪ってしまうねん、男の子……涙を流さないで泣いていてな……それがとっても悲しくて……」
スウェンは何も言わず、はやての頬を伝う涙を指でそっと拭いてあげた。
「優しいんだなはやては、知らない子の為に涙を流せるなんて……」
「違う……違うんよ、なんかその子な……いや、なんでもない……」
「そうか……」
しばらくの間、二人の間に沈黙が流れる。
「……そういえばみんなはどこ行ったん? なのはちゃん達にもお礼を言わな……」
「みんな用事があると言って出掛けたぞ」

「お! はやて姐さん起きたんスかー」
すると二人のいる部屋にノワールがやってきた。
「ノワール……今までどこへ?」
「ちぃーっと昔の知り合いに会いに! ところで……もしかして二人っきりだったのにお邪魔でしたッスか?」
そう言ってノワールはにやにやしながら二人を見た。
「のののノワール! からかったらアカン!」
「……? なんでそんなに顔を赤くしているんだ?」
はやては顔を真っ赤にして俯き、スウェンはそれを見て首を傾げた。

「それにしてもみんな遅いな……朝っぱらから一体どこに行っているんだ?」
スウェンはいまだ帰らないシグナム達の身を案じていた、すると……ノワールが真剣な面持ちで語りかけてきた。
「多分……公園のほうに行ってるッスよ、リインフォースの見送りに……」
「見送り……? どういうことだノワール」
「あー、やっぱりあいつらアニキ達にもしゃべっていなかったんスか、オイラも盗み聞きしたんすけどね、リインフォースは自ら消えることにしたそうッス」
「え……? 何? どういうことノワール?」
ノワールははやてが時空管理局に運び込まれた際、リインフォースがなのは達にしていた話の内容を語った、それによると融合騎であるリインフォースの破損は致命的な部分まで至っており、防御プログラムは停止したがゆがめられた基礎構造はそのままであった、その為遠からず新たな防御プログラムを生成し、また暴走を始めてしまうのだそうだ。

「もとに戻すことはできないのか?」
「管制プログラムであるリインフォースの中から本来の姿のデータが消えているそうッス、浸食は止まっているからはやて姐さんの足はそのうち動くようになるし、シグナム姐さん達も本体から解放されているらしいからそっちの方は心配ないそうッス、んで、今リインフォースは空に帰るからアニキと姐さんに内緒でみんなでお見送りに行っていますッス」
「おまえ! なんでそんな重要な事黙っていた!!?」
やけに落ち着いた様子のノワールにスウェンは激昂する。
「言ったでしょう? さっきまで知り合いに会いに行っていたって」
「は、早く止めな!」
そう言ってはやてはベッドから這いずり出ようとするが、そのまま床に転がってしまう。
「はやて! 無茶をするな!」
「でもでも! 早くしないとリインフォースが……」
「まーまー落ち着いてくださいはやて姐さん」
「お前はもうちょっと慌てろ! なんでそんな冷静なんだよ!」

「なんだなんだ? 何騒いでいるんだ?」
するとそこに、なぜかシンとデスティニーがやってきた。
「あれシン君!? なんでうちにいるん!?」
「ちょっと知り合いを連れに……」
「ノワール……またあなた、なにかやらかしましたね? いやいやまったく、うちの弟が皆さまにご迷惑を……」
「「弟!!!?」」
デスティニーのさらっと重大発言に度肝を抜かれるスウェンとはやて。
「俺のデスティニーとノワールはGデバイスっていう同系列機なんだよ」
「いやー、初めてアニキがセットアップした時に出会った時にこいつの顔見たときはびっくりしたッスよ~、こっちにも色々と事情があったんで今まで言い出せなかったんスけど~」
「おまえなあ……」
頭痛がするのを感じ、眉間を抑えるスウェン、するとそこに……今度は白衣の女性がはやて達の部屋に入ってきた。
「シン君、準備できたわよー」
「あ、ヴィアさん、それじゃ俺達も行こう」
そう言ってシンはスウェンに手を差し出した。
「行く……一体どこに?」
「決まっているだろう? リインフォースを迎えにさ」






海鳴にある桜台林道、そこでリインフォースは雪が降る海鳴の街を見つめていた。
そしてそこになのはとフェイトがやってくる。
「あぁ、来てくれたか」
「リインフォースさん……」
「そう呼んでくれるのだな」
「あなたを空に帰すの私たちでいいの?」
「お前たちだから頼みたい……お前たちのおかげで私は主はやての言葉を聞くことが出来た。主はやてを喰い殺さずにすみ、騎士たちも生かすことが出来た……感謝している、だから最後はお前たちに私を閉じて欲しい」
「はやてちゃんとお別れしなくていいんですか?」
「主はやてを悲しませたくないんだ」
「でもそんなの……なんだか悲しいよ」
「お前たちにもいずれ分かる。海より深く愛し、その幸福を守りたいと思える者と出会えればな」
そう言ってリインフォースは優しく笑う……フェイトはその顔を見てシンやリンディ達の顔が頭の中に浮かんでいた。
(そういえばシン……まだ来てないな、ヴィアさんに呼び出されたみたいだけど……)
そして、シグナムたちも到着する。
「そろそろ始めようか……夜天の魔導書の終焉だ」

そしてみんなに見守られる中、リインフォースは足元に展開された魔法陣から放たれる光を浴びていた。
[Ready to set.]
[Standby.]
レイジングハートとバルディッシュが準備完了を告げた。
「あぁ、短い間だったがお前たちにも世話になった」
[Don't worry.]
[Take a good journey.]
「あぁ」
そしてリインフォースは瞳を閉じ、満足そうな表情で天に……




「させるかああああああ!!!!!」
「二度目のどーん!!!」
「はうあ!!!?」
還るところをスウェンに投げられて飛んできたノワールを顔面に受けたことにより阻止された。
「ふおおおおお!!! 今度は前歯があああああ!!!」
「え!? ちょ!!? おま!!?」
「ノワール!!? スウェン!!? 貴様たちなぜここへ!!?」
突然の乱入者に慌てふためく一同、そしてスウェン達の背後から、シンに車いすを押されたはやてとヴィアもやってきた。
「リインフォース待って! お願いだから待って!」
はやては自分で車いすを漕ぎ、赤くなったおでこを涙目でさするリインフォースに近寄った。
「あ、主!?」
「なんで!? なんで私に黙ってこんなことを!!?」
「……私のこのプログラムの所為でまた主を危険にさらしてしまいます」
「あたしがちゃんと抑える! 大丈夫や! こんなんせんでえぇ!」
「主の危険を払い、主を守るのが魔導の器の務め……あなたを守るための最も優れたやり方を私に選ばせてください」
それでもはやては目に涙を溜めて首を横に振った。
「ずっと悲しい思いをしてきてやっと……やっと救われたんやないか!」
「私の意志はあなたの魔導と騎士たちの魂にあります……私は何時もあなたの傍にいます」
「はやての願いはお前を今以上に幸せにしてあげることなんだぞ? それなのに……」
引き留めようとするスウェンから視線をそらすリインフォース。

「ねえ……あなた、リインフォースさんといったかしら?」
その時、ヴィアが一歩前に出てリインフォースに話しかけてきた。
「貴女は……?」
「私の名前はヴィア・ヒビキ、管理局の研究員をやっているわ……リインフォースさん、私の話をちょっと聞いてくれるかしら?」
そう言ってヴィアは一枚のレポート用紙をはやてとリインフォースに見せる。
「なんですかコレ……? 薬の成分表?」
「『Rebirth』……これが一体なにか?」
リインフォースは訝しげな表情でヴィアに質問する。
「これはね……フューチャーセンチュリーってところで開発されたアルティメット細胞っていう細胞と魔導の力を用いたワクチンなの、今の今まで作っていたんだけど……ようやく完成の目処がたったの」
その場にいた一同は興味深そうにヴィアの話を聞いていた。
「この試薬は異常をきたした体内の細胞の動きを正常化させるだけでなく、魔力による何らかの異常も治療できるのよ、つまり……自己再生を促進、自然治癒の力を一時的に高めるための薬ね」
「自己再生の促進……?」
「そう、例えば……あなたのその改変による破損も、これを接種することにより治る……かもしれないわ」
「リインフォースが助かるんですか!!?」
はやては藁にもすがるような思いでヴィアに話しかけた。
「100%とは言い切れないわ、なにせ臨床実験がまだなの、私は検体になってくれる人を探しているのよ」
そしてヴィアはリインフォースの手をぎゅっと握った。
「リインフォースさん……お願い、このワクチンの検体になってほしいの、このワクチンが完成すれば悪意によって心身を歪められた人たちを助けることができる、もちろん貴女の未来も守る事ができるわ」

リインフォースはヴィアの申し出に対して……首を横に振った。
「ダメです……私にも防衛プログラムがいつ暴走するかわからないんです、貴女の提案はリスクが高すぎる……」
「大丈夫、そうならない為にはやてちゃんがいて、そうなったときの為にシン君たちがいるのよ」
「でも……それでも……」



「逃げるな!!!」



「!!!?」
愚図るリインフォースをヴィアは一喝した。温厚そうな彼女の意外な行動になのは達は目を見開いて驚く。
(な、なのは……今……)
(うん、ヴィアさんの後ろにメスのライオンさんが見えたよね……)

「貴女は生きなきゃダメ、つらい運命からようやく抜け出せたのに、消えてしまうなんてダメ! 生きるほうが……戦いよ!」
「生きるほうが……戦い……」
そのヴィアの言葉に心打たれたリインフォースは、目から大量の涙を流した。
「私は……生きてもいいんですか? 主達と一緒に……」
するとはやてが、シグナムが、ヴィータが、ザフィーラが、スウェンが、リインフォースのもとに集まった。
「生きていいに……決まっているやろ!」
「そうだ、今から、そしてこれから……私たちで主を守っていこう」
「一人だけ天に還るなんて……そんなの寂し過ぎるだろ!」
「私たちは貴女を歓迎するわ!」
「来い、リインフォース」
「もう俺は……家族が目の前で居なくなるのは見たくないんだ」
「うぅ……うううあぁ……あああああ!!!」
運命が自分が生きていくことを受け入れてくれたのを感じたリインフォースは、顔を涙でぐしゃぐしゃにしながらはやてに抱きついた。


その様子をノワールは一歩離れた場所で見守っていた。
「よかったな、リインフォース……」
「ハッピーエンドじゃないですか、よかったよかった」
ノワールのそばにデスティニーが近寄り、彼に称賛の言葉を送った。
「うんうん、陳腐と言われようが、ありきたりと言われようが、やっぱり物語の締めはだれも死なないハッピーエンドが一番だ」
「締めじゃないでしょう? 貴方の、私たちの物語はこれから始まるんです」
「ははは、その通りだ」


12月25日、海鳴は空から降る雪で真白に染まっていた……。










エピローグ「大人になっても忘れない」









バニングス邸、そこでアリサ、すずか、ルイス、留美、紅龍はクリスマスパーティーの準備をしながらなのは達のことについて話していた。
「ねえアリサちゃん、なのはちゃん達もうすぐ来るかな?」
「そうね、昨日のことも聞きたいし……やっぱり半年前のあれも管理局ってところが関わっていたんでしょうね」

「いいなー魔法少女! 空をビュンビュン飛んで……私も飛んでみたいなー!」
「ルイスさん、はしゃいでないでツリーの飾り付けを手伝ってください、まったくもう……」
(留美……あんな楽しそうな顔、久しぶりに見るな……)




その後なのは達は友人と家族に魔法や管理局、そしてPT事件や今回の闇の書事件についてすべて話し、彼らから理解を得て今後も管理局で働くことを許された。

八神家には一応しばらくの間保護観察が付き、彼女達はそれが終われば管理局に入って罪滅ぼしをしたいという意向を固めていた。

なおリインフォースは接種することを受け入れたRebirthの成果もあってか、防衛プログラムが暴走することは二度となく、今も家族と幸せに暮らしている。











それは、星の海を掛ける“白い悪魔”と呼ばれる機械人形が、世界を平和へ導く英雄として君臨するいくつもの物語と、数多なる世界を駆け秩序を管理する魔導師達の世界が、一つの物語として融合していく物語。


それは……重き罪の十字架から解放された少年が、新たにできた家族から祝福の風を受け、夢見た星の世界へと旅立つ物語。

やがて少年は少女に守りたいものを守る銀色の矢を貰い、数多の世界を守る“ストライカー”へと成長していく……。






























数ヵ月後、管理局本部……そこで局員達は怒号を響かせながら自分達に迫ってくるある人物に杖を向けていた。
「医務室の患者が起きたぞ! 取り押さえろ!」
「信じられない……壁を突き破ったのか!!?」
「武装局員を招集しろ! あいつ転移装置に向かっている!」

局員達はその人物を足止めしようと魔力弾で牽制するが……
「す、素手で払っただと!」
「だ、ダメだ突破される! うわあああああああ!!!!」

その人物は……自分が丸裸であることを気にもせず、立ちふさがる者をすべて退け転移装置の前に立った。
「お母さん……どこ? どこにいったの? 私を一人にしないで……」










同時刻、海鳴にあるビルの屋上、そこで三人の少女が真下の街の光景を眺めながらあることについて話し合っていた。
「ねえねえロード、僕達これからどうするのー?」
「闇の書の闇の再生を果たすには、まず大きな魔力が必要に……」
「ククク……そう慌てるな、まだまだ時間はある、まずは……」



















第98管理外世界「フューチャーセンチュリー」、その世界にあるギアナ高地というジャングルに武闘家とその弟子が激しいって言葉じゃ表現できないほどの修行に励んでいた。
「そらそらそらそらぁー!!! どうしたドモンよ! その程度でへこたれるとはなっちゃいない! なっちゃいないぞおおおおおおお!!!!」
「うおおおおお!!! まだまだぁー!」
そう言って「足をものすごく速く動かして湖を走り抜ける」という修行に励む赤い鉢巻を付けた弟子。
「ふむふむ、大分距離が延びてきたのう……ん?」
その時、武闘家は何かの気配を感じて空を見上げた。
「!!!? 如何いたしましたししょ……ぬおわああああああ!!!!」
武闘家の様子に気を取られて湖に沈んでいく弟子。
「この馬鹿弟子がああああ!!! 修行中によそ見するとは何事ぞおおおおお!!!?」
「すみまごぼごぼごぼ!!!!」



(ぬう、嵐が来る……!!)
武闘家……東方不敗マスターアジアは、もうすぐ自分の前に強敵が現れるのを感じ、不敵な笑みを浮かべていた……





Next Stage “超級! 魔法武闘伝!”










はい、というわけでAs編はこれにて完結です。

では今回も一区切りついたことですし、今回はスウェンについて語ります。
ではまず、なんでAs編の主人公をスウェンにしたのかというと、前に自分が投稿していたサイトにはシン、キラ、アスラン、時々アストレイキャラが主人公をいている作品が多くてスウェンが主人公である作品は全くなかったんですよね、それでもしスウェンを使えば自分の書いた作品が目立てるんじゃないか? と思って採用したという経緯がありました。


初めはスウェンとくっつけるのはリインフォースの予定でした、銀髪つながりだしクールだし共通点が多くてお似合いかなーって……でも彼に無いものを補う人と考えるとやっぱりはやてかなーと思い現在の組み合わせになりました。


個人的な見解ですが、スウェンはなんていうか部下とか自分を慕うものにはすごく優しそうですよね、一見冷血に見えるけど、本当は熱い男なんだなとDVDと漫画見て感じました、きっとシンみたいな年下の部下がいればいい兄貴分になると思うんですよ。ガンダムで例えるならクワトロ大尉やニールのような感じですかねー。


五年も前になりますか、あるアニメ雑誌でスタゲ制作発表の記事を見てワクワクしたのは……あの頃はまだリリカルなのはにハマる前だったなあ……ガンプラのストライクノワールも発売日当日に買ったっけ。時が経つの速いよなあ……そう言った意味でもスタゲは思い出深い作品です。


これからスウェンにはシンの兄貴分として活躍してもらいます、もちろん彼に関する複線もまだまだ沢山残しているのでこれからちゃんと消化しなきゃですね。
もっともっと沢山彼を活躍させて、モニターの前にいる皆さんがスターゲイザーに興味を持ってくれると嬉しいです。


次のシリーズは外伝的な話、ハラオウン一家とマテリアル三人娘、そして目を覚ましたあの子にスポットを当てていこうと思っています。
あの二人も大暴s……大活躍させるつもりなのでお楽しみに。



[22867] TIPS:ある教授の日誌 +???
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/02/20 09:07
TIPS:ある教授の日誌 +???


2300年06月04日、
私は軍の要請で所属不明艦が収容されているハワイの基地にやってきていた。
何でも一週間前、太平洋を訓練飛行中だったリアルド隊が、大破し海に浮かぶその艦を発見したらしい、
調査隊が艦を調べてみると中にはクルーらしき人間の死体が二十体ほどあったらしく、生きている人間は発見できなかったそうだ。

ちなみに死体の中には、以前データでみた人革連の超兵のように体に様々な強化が施されたものもあったそうだ、ただ似たようなものであって人革連とはなんら関係ないのは確かなようだが。



私は軍に依頼されその所属不明艦を調べていくうちにある発見した、その艦がこの世界に存在しない技術で作られたということだ。
動力部は海や空、宇宙を航行するには過剰といえるほどのエネルギーを放出することができ、装甲はこの世界に存在しない材質が使われていた。

さらによくよく調べてみると、その艦に搭載されていたコンピューターににユニオンやAEU、人格連のモビルスーツのコピーデータが記録されていたのだ。
私の仮説が正しければ……この艦のクルー達は我々の世界のMSのデータを収集し、、それに気付いた何者かによって消されたということになる。

彼らが何の為にMSのデータを集めていたのか、そして何に消されたのか、クルーが全員死んでいるうえ目撃者もいないので真実は闇の中だ。



もっとも、調査隊の報告によればその艦に搭載されていた筈の救命ボートが一隻なくなっていたそうなので、生存者がいる可能性は否定できないが……
何にせよこの世界全体が得体のしれない何かに狙われているのは確かだ、我が国も早くリアルドに代わるMSを開発し、有事に備えて軍備を増強する必用があるかもしれない。


                                                                   レイフ・エイフマン
















































~???~

「御苦労様……どうだった?」
「僕としたことが少し手こずったよ、まさかあそこまで抵抗するとは、おかげで破壊するのに手間が掛ったよ、一人取り逃がしてしまった」
「いいのかい? 消さなくて……?」
「構わないさ、ネズミ一匹逃げたぐらいで何にもならないさ、でもこれでCEのやつらはこの世界の足がかりを失ったわけだ、しかしうざったいものだね……ブルーコスモスというのは、能力が劣るものは支配されて当然なのにそれに抗うとは」
「もしこの世界が統一されたら、今度はCEにでも行くかい?」
「いや、それより先にミッドチルダだろう? 次元世界はあんな奴らより僕達が支配したほうがいいのさ、それじゃ僕はアレハンドロの所にいくからあとは頼んだよ」














「ふふふ……スウェン・カル・バヤンか、ちょっと興味が湧いてきたかな」 



[22867] 超級! 魔法武闘伝! プロローグ「交わる物語(ストーリー)」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/05/05 21:33
※引き続きやりたい放題書かせていただきます。


プロローグ「交わる物語(ストーリー)」


闇の書事件から四カ月経った頃、第98管理外世界、通称“フューチャーセンチュリー”と呼ばれる世界、その世界にあるギアナ高地と呼ばれるジャングルに、顔に大きな傷を持った13歳ぐらいの少年が、白い髪を三つ編みにした中年の男と漫画みたいな拳のぶつけ合いをしていた。
「そらそらそらそら!! どうしたドモン! そのような打ち込みではワシに一発も当てることはできんぞおおおおお!!」
「はい! ししょおおおおおおお!!!!」
目にも止まらぬ速さでぶつけ合う二人。しかし少年……ドモンと呼ばれた彼はスタミナが切れたのか一瞬拳の切れが鈍った。
「! 隙ありいいいいい!!!」

―――ドッゴオオオン!!!

「ブホアアアア!!!?」
師匠と呼ばれた男はその隙を見逃さず、ドモンの顎に強烈なアッパーカットを喰らわせ、彼を天高く打ち上げた。


「ふむ、まだまだ修行が足りんぞ、ドモンよ」
「は、はひ……」
それから一時間後、吹き飛ばされて近くの川に落下した後戻ってきたドモンは、師匠と共に今日の修業の反省会を行っていた。
「む! そう言えばもうこんな時間か! 夕食の支度をせねば!」
「では俺は川で魚を取ってきます!」
「じゃワシは火を起こす! 暗くなる前に済ますのだぞ!」
「はい師匠!」


数分後、ドモンは先ほど自分が落下した川にやってきた。
「うん! 今日も沢山泳いでいるな! では……」
そう言ってドモンはおもむろに服を脱ぎだし、パンツ一丁の姿で準備運動を済ませる。そして……
「せやせやせやせやー!」
川に入るや否や泳いでいた魚を次々と素手で捕まえて陸にポイポイと放っていく。
「よし! 今日はこのぐらいでいいか!」
漁を終えて川から上がり服を着るドモン。
「ん?」
ふと、彼は周辺から異様な気配を感じ取り、反射的に身構えた。
(なんだこの気配は……獣のような、そうじゃないような……)
そしてドモンは近くの草むらで何かが動いているのを発見する。
「だ、誰かいるのか……!?」
その草むらの音は少しずつ大きくなっていき、ドモンは緊張で息を飲んだ。
「く、来るなら来い! 俺は逃げも隠れもしないぞ!」

すると草むらの物音はぴたりと止んだ。
「……? 逃げた……?」
ドモンは恐る恐る物音がした方に近づいていく、次の瞬間。


「ウオオオオオオオン!!!」

突如草むらから何か獣のようなものが飛び出し、ドモンに覆いかぶさるように襲いかかってきた。
「わああああああ!!!?」


ギアナ高地に、襲われたドモンの悲鳴が木霊した……。


そして数分後、ドモンの師匠である東方不敗は彼の帰りを今か今かと待ち続けていた。
「遅いのうドモン……もしや野生動物に後れをとったのか? 仕方ない……助けに行くか」
そう言って立ち上がろうとした時だった。
「し、師匠~!」
草むらからドモンが地面を這いつくばりながらやってきた。そしてその背中には……
「ウルルルル……!」
胸と腰にボロキレを巻いただけの姿の金髪の少女がドモンの頭に齧りついていた。
「ドモンよ……なんじゃその娘は?」
「わかりません! 魚を取っていたら急に襲いかかってきて……!」
「ウウウウウ……!」
少女は獣の如く目を赤く光らせながら東方不敗を威嚇していた。
(ほほう、こやつ生意気にワシを威嚇するか……!)
少女からの殺気を受けて身構える東方不敗、その時……

グゥゥゥ~

突如少女の方から腹の虫のような音が鳴った。
「ん? なんじゃ?」
「う……」
すると少女はドモンから離れ、地面にうつ伏せになって倒れた。
「お腹へった……でも母さんを探さないと……」
「た、助かった……」
「うむ、どうやら腹が減っているらしいのう」
「どうするんですか師匠?」
「うむむ……」










さてみなさん、ドモンと東方不敗マスターアジアが遭遇したこの不思議な少女、一体何者なのでしょうか? いずれにしろ武術に秀でたドモンに後れを取らな所をみると只者ではないことは確かです。


はたしてこの少女はどこから来たのか、そもそも“この世界”の人間なのか……おっと、これ以上は言わないでおきましょう。私が言わなくても、知っている方は知っているでしょうし、知らない方はこれから知ることになるのですから。

はたしてドモン達に待ち受ける新たな出会いとは? それにより訪れる新たな運命とは? そして……彼らが目にする世界の真実とは!?


それではいつもの参りましょう。





























参りますよ?





























いいですね?





























ホントに行きますよ?






























それでは!!! ガンダムファイトッ!! レディィィィッッッ……!!! ゴォォォォォォォッ!!!!


LG another episode

超級! 魔法武闘伝!







プロローグは以上です、ストーカーの語りの雰囲気は出ていたでしょうか?

まずストーリーは暴走師弟とアリシアを中心に進ませていきます。



[22867] 第一話「姉妹」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/05/11 21:18
 第一話「姉妹」


その日、リンディはミッドチルダにある本局に赴き書類整理を終えて家族の待つ第97管理外世界に帰ろうとしていた、すると彼女のもとに親友であるレティ・ロウラン提督が近づいてきた。
「あ、リンディー、いま帰る所なの?」
「ええ、今日はフェイトの進級祝いをするからね……仕事を早めに片付けたの」
「そう言えばもう養子の手続きをとったんだっけ? 妹も出来てクロノ君喜んでいるんじゃない?」
「そうね、本人はあまり顔に出さないけど……家族が増えて嬉しそうだったわ」
「最近クロノ君もしっかりしてきたし、そろそろ自立してもいい頃合いよね……」
「私もそろそろ隠居とか考えたほうがいいかしら」
そんな世間話に花を咲かせるリンディとレティ、ふとレティはあることを思い出しリンディに伝える。
「そう言えば……今度私のお隣さんの奥さん、今度社交ダンスで出会った人と再婚するらしいのよ」
「あら本当に? 確か息子さんはこの前食品会社に就職したとか言っていたわね」
「ええ、子育ても終わったしちょうどいいって言っていたわ、あなたはそういう予定あるの?」
「え!!?」
レティの予想外の質問にリンディは面喰ってしまう。
「いや……クロノ君もフェイトちゃんも何年かすれば自立するだろうし、何十年もある老後の事も考えて一緒になる人を探したらどう?」
「えー……ちょっと考えた事なかったわ、再婚ねえ……」
リンディはまんざらでもない様子でしばらく考え込んでいたが、すぐに手のひらをぶんぶん振って否定する。
「まあクライド君並みにいい人が居れば考えるけど……今はまだ自分の事を考えている暇はないわ、この仕事の事もあるし……」
「ふーん……まあいいわ、もし何かあったら私も相談に乗るからね」
「ありがとうレティ」

その時、リンディの持っていた通信機に着信が入る。
「あら? 何かしら、緊急事態……?」
リンディはすぐさま通信機を取ると、通信を入れてきた相手の要件を聞く。
「もしもし、どうしたの……え!? アリシアさんが!!?」










同時刻、第97管理外世界の海鳴市にあるはやての家では……
「はやてちゃん! スウェンさん!」
「「「「「「入学おめでとー!!」」」」」」
4月から学校に通うことになったはやてとスウェンを祝いに、なのは、フェイト、アルフ、アリサ、すずか、シン、マユが八神家に遊びに来ていた。
「わあ! 皆ありがとうな!」
「今学期から同級生だね! はいこれうちのケーキ!」
そう言ってなのはは自分の家で作ったケーキをシャマルに渡す。
「それじゃ私、お台所で切り分けておきますねー」
「いやいや、今学期から二人とも学生なんだな、早いもんだー」
「だな……これもリンディ提督が尽力してくださった結果……感謝してもしきれん」
そう言ってこいぬフォームなアルフとザフィーラはテーブルの下で一緒に七面鳥をかじった。
「保護観察期間も終わったからな……これからは管理局の手伝いをしながら学校に通うことになる」
「二人と一緒にいられる時間が少なくなっちまうのがちょっと寂しいけどな……」
「じゃあマユがヴィータと遊んであげる!」
「お前……ホントいい奴だなぁ」

「スウェンさんも良かったですね」
「ああ、でもいいんだろうか……俺まで学校に通わせてもらって……」
「いいと思いますよ、母さんもスウェンさんが勉強好きって事は知っていますし、学校は楽しい所ですよ」
そんなすずかとスウェンとフェイトの会話を聞いて、リインフォースは隣にいたシンとアリサにある質問をする。
「なあ……学校とはやはり楽しい所なのか?」
「うーん、人それぞれなんじゃないか?」 
「リインフォースは学校に行きたいの?」
「いや……だが生まれてこの方、そう言ったところに通った事がないから興味はある」
「リインフォースが学校か……」
シンとアリサは頭の中でリインフォースの色んな学校の制服姿を想像する。
「あー、似合うかもな制服―」
「学校といえば今月はルイスと留美も転校してくるのよね」
「む……確か4カ月前にアドバイスをしてくれた子達か、その子達も海鳴に?」
「ええ、なんでもうちの学校で留学生を募集していたらしくて、二人ともそこに応募したんですって、だからルイスはすずかのおうち、留美と紅龍さんは私の家でホームスティすることになったの」
「へー、またあの二人が来るのか、ここもにぎやかになるだろうなー」


そして一同が和気藹々と会話している一方、デスティニーとノワールは一歩離れた場所で互いの近況を報告しあっていた。
「そういやデス子」
「デス子はやめなさい黒坊主」
「ヴィアのおばちゃんの所のあの子は元気でやっているんスか?」
「アリシアさんですか……実はここ最近、こちらの呼びかけに反応するようになってきたんです、リバースの効果でしょう」
「リインフォースが体張って検体になったお陰ッスねえ、アイツもあれ以来暴走する素振りもないし、ヴィアおばちゃんはホントチートッス」
「アルティメット細胞のおかげでもあるでしょう、あれも……イレギュラーな出来事が無ければ人類を救う夢の技術というわけです」
「いやあ、まさか魔法系統にも効果有りとは……このまま“あの世界”も別の未来を歩めればいいんスけどねえ……」


プリンセスローズ♪キミートー♪
「あ、着信だ」
その時、なのはの携帯から着信を告げる音楽が鳴り響き、彼女は友人たちとの会話を切り上げて電話に出た。
「はーいもしもし、なのはでーす」
『な、なのはちゃん! フェイトちゃんもそこにいる!?』
電話の相手は今アースラにいる筈のエイミィからだった。
「エイミィさん? どうしたんですかそんなに慌てて……」
『そ、それが大変なんだよ! アリシアちゃんがー!』
「……!? アリシアちゃんがどうかしたんですか?」
そのなのはの只ならぬ雰囲気に、フェイトを始めとした他の面々は一斉になのはの方を向いた……。


30分後、アースラのブリーフィングルームに集まったなのは達(アリサとすずかとマユはお留守番)はクロノとエイミィとユーノ、そしてリンディからある映像を見せられていた。
「これは二時間前……管理局本部で保護されていたアリシアさんの病室の前で撮られた映像よ」
モニターには管理局のスタッフや武装局員を次々と電撃で倒していく、長い金髪の少女が映っていた。
「これって……!」
「アリシア!?」
フェイトとシンはモニターに映る少女……アリシアを見て目を見開く。
「現場にいた局員の報告によればアリシアさんは突如目覚めた後、制止しようとした局員を排除して転移装置に入って何処かの管理外世界に転移してしまったそうよ」
「目覚めたって……そんないきなり!?」
「どうしてアリシアちゃん、転移装置なんかに……」
皆の疑問に、フェイトが俯いたまま確信を持って答えた。
「きっと……母さんを探しに行ったんだ」
「確かプレシアは暴走したアルティメット細胞に取り込まれた時の庭園と一緒に虚数空間に入ってそれっきり……」
「まさかアリシアは虚数空間に!?」
「いや、それは無いわ」
するとブリーフィングルームに、沢山の資料を抱えたヴィアがやってきた。
「ヴィアさん、それは無いってどういうことですか?」
「実はアリシアさんが使った転移装置は、ある世界に向かうようあらかじめ設定されていたの、多分あの子は使い方が判らなくてそのまま転移したみたい」
「そ、その世界ってどこなんですか!?」
フェイトはいてもたってもいられずヴィアに詰め寄った。
「場所は……第98管理外世界、ギアナ高地よ」
「第98管理外世界って確か……アルティメット細胞を作った人がいる世界じゃ……!」
「ええ、ちょうど私が赴こうとした時、アリシアちゃんが目覚めて装置を使っちゃったのよ、タイミングが悪かったわね……」
ヴィアの話が一通り終わり、今度はリンディがブリーフィングルームにいた全員に通達する。
「私達アースラはこれより第98管理外世界のギアナ高地に向かい、アリシアさんの行方を捜査します、ギアナ高地は危険が多いので細心の注意を払う様に、以上」

ブリーフィングが終わり、シンとなのはとアルフは顔色の悪いフェイトに話しかけた。
「フェイト……大丈夫か?」
「し、シンどうしよう……アリシアに何かあったら私……私……」
「顔真っ青だよフェイトちゃん、大丈夫、大丈夫だから……」
「震えているじゃんフェイト! 私達がちゃんと見つけるから安心しなよ……」
「でも……でも……!」


一方、微妙に蚊帳の外の八神一家は、フェイト達の様子を窺いながら話し合いをしていた。
「な、なんかフェイトちゃん大変そうやな……」
「私達は何の事だかさっぱりわかんねえよ」
「しょうがないだろう、PT事件は我々の事件の半年以上前に起こった事なのだから」
「聞きたくても聞きにくかったしね……聞いちゃいけない事みたいだし」
「テスタロッサとアスカにとっては相当トラウマになる事件だったらしい……」
「後でエイミィさんに資料を見せてもらいましょう」



そしてさらに30分後、シン、フェイト、アルフ、クロノ、スウェン、リインフォース、ザフィーラ、そしてデスティニーとノワールはアースラからギアナ高地に降り立った。
「うは、蒸し暑いねここ……」
「なのはやユーノ達は上空からアリシアを探してくれ、僕達は地上から彼女を探す」
『おっけーだよクロノ君! それじゃまたあとで!』
『うわー、上空から見てもずっとジャングルやん……早く見つかるとええなあ』
「しっかし……いかにも猛獣とかが居そうな場所だよねえ……」
「我々はそれ以上のものと戦った事があるがな」
「とにかくぐずぐずしていられない、早くアリシアを見つけよう」

そして一行は間髪いれずアリシア捜索を開始した。
「む……羽が木に引っ掛かった……」
「リインフォース……お前は主はやてと共に空で捜索した方がよかったんじゃないか?」

「あーなんか大蛇の映画思い出したッス、日曜の夜にやってたやつ」
「なら貴方は真っ先に食べられるガイド役ですね」
「ひでえー!」

「アリシアー! お願い! 返事してー!」
「ダメか……もっと奥に行かないと」
「においとかで追えればいいんだけどねえ、これだけ広いと……」
「とにかく日が落ちる前に見つけ出す必要がある、急ごう」
「うん……」
クロノの提案にフェイトは半泣き状態で頷く。

(なんかもうボロボロッスね彼女)
(仕方ないだろう、アリシアはフェイトにとって最後の血のつながった家族だ……)
先ほどPT事件の資料を見てだいたいの事情を把握していたスウェン達は、フェイトに聞こえないような声で話し合っていた。
(アルフからも聞いたが、テスタロッサと母親の関係は随分と複雑なのだな)
(ああ、私もヴィアさんから彼女の事はちらほらと聞いていた、なんと言っていいのか……)

そして一行は三本に分かれた道の前までやってくる。
「どうするクロノ? 一本ずつ行くか?」
「その時間は無い、ここはメンバーを三つに分けよう」
「じゃあ一時間後にここで落ち合おう」

そしてシンとフェイトとデスティニー、アルフとクロノとリインフォース、スウェンとノワールとザフィーラはそれぞれ分かれてさらに奥へ奥へと進んでいった……。




シンとフェイトはアリシアの名前を呼びながら森の奥へ奥へと進んでいった。
「アリシア! どこー!?」
「いたら返事しろー! ダメか……やっぱりこの辺にはいないのかな」
「も、もしかしたら何かあったのかも……!」
フェイトは最悪の未来を想像し顔から血の気が引いて行くのを感じていた。
「だ、大丈夫だよ、アリシアはきっと見つかるって!」
「うん……」
シンはそんなフェイトを必死に励ます、しかしフェイトの気持ちは晴れることなく、二人は重苦しい空気のまま奥へ奥へと進んでいった。
(どうしたらいいんだろう……あ、そうだ!)
ふと、シンはあることを思いつき、隣にいたフェイトの手を握った。
「シン……?」
「はぐれるといけないからな、手を繋いでおこう」
「わかった……」
シンはフェイトの不安を少しでも和らげようと手を繋ぐ事を提案し、フェイトはそれを受け入れた。
(そ、そう言えば今、私シンと二人っきりなんだよね……)
手を繋いで今更その事に気付いたフェイトは、今度は顔を赤くしていた。
「あれ!? 今度は顔が赤いぞフェイト?」
「そ、そう? 気のせいじゃないかな……」
その時、フェイトは足に何か絡みついている事に気付き、足元に視線を移す、するとそこには……。
「シャー」
とても小さな、鉛筆程度の大きさの蛇がフェイトの足に絡みついていた。
「ひっ……ひやああああ!!!」
「うわ!?」
突然の事に驚いたフェイトはシンにそのまますがるように抱きつき、そのまま二人一緒に地面にドテンと倒れ込んだ。
「ど、どうしたんだよフェイト!?」
「あ、足に蛇が! と、とってー!」
「蛇ぃ? ああ本当だ、でもまだ赤ちゃん蛇じゃんこれ」
そう言ってシンはフェイトに抱きつかれたまま彼女の足に絡みつく蛇の赤ん坊を手でつまんだ。
「ははっ、こんなに可愛いのに……フェイトは怖がりだなあ」
「だって……いきなり巻きつかれたら誰だって驚くよぉ……」
シンはそのまま涙目のフェイトに、チロチロと舌を出す蛇の赤ん坊を見せる。そして……あることに気付き顔を赤くした。
「そ、それと……そろそろ降りてほしいかな……」
「へ?」
フェイトは自分がシンを押し倒したまま露出の高いバリアジャケット姿のまま抱きついていることに気付き、赤かった顔をさらに赤くした。
「はわわ! ごごごめんね!」
「しょ、しょうがないよ、びっくりしたんだろう?」
慌てて離れたフェイトに対し、シンは赤ちゃん蛇をぽいとそこら辺に逃がしながら彼女にフォローを入れる。
「……」
「……」
そして二人は互いに視線を反らしながら黙りこんでしまう。
「えっと……俺達何していたんだっけ?」
「あそうだ! アリシアだよ! 忘れちゃだめじゃん!」
「そ、そうだった! こんな事している場合じゃない!」
そして二人は本来の目的を思い出して立ち上がり、再びアリシアの捜索のために歩き出した。


「ふっ、お二人とも私の存在も忘れていますね……あれ? 目から汗が……」
その二人の様子を、デスティニーは目からきらめくものを流しながら見守っていた。


数分後、さらに奥に進んだシン達は一旦別ルートを通っていたクロノ達と通信を行っていた。
「じゃあそっちもアリシアは見つけられていないのか……」
(ああ、とにかく君達はこの先に見える滝まで向かってくれ、そこで落ち合おう)
「わかった、フェイト……」
通信を終えてシンはフェイトに話しかける、すると彼女は険しい表情でシンにすり寄ってきた。
「ど、どうしたんだフェイ……」
「しっ、静かに……あそこ見て」
フェイトはシンの口を自分の手で塞ぐとある場所を指差す、そこには……
(……!? 虎!?)
(いえ、あれはピューマですね)
「ウオルルルル……!」
顔に十文字の傷を付けているピューマが、シン達に今にも襲いかかりそうに唸っていた。
「どうする? やっつける?」
「適当に魔法でも見せて追い出そう」
「それがよいでしょうね」
そしてシン達もピューマに対して戦闘態勢をとった、すると……
『ほう、逃げぬとは意外な!』
「「「?」」」
突如ピューマが人間の声でシン達に話しかけてきた。
「今あのピューマ……喋らなかったか?」
「もしかして誰かの使い魔さんなのかな?」
「この世界に魔法は無いですよ?」
ピューマが人語を話す事に対し、あまり驚かないシン達。
『あれ? 全然驚かんのだな』
「いやだってピューマが喋ったぐらいじゃ……」
「この世界には不思議な生き物が沢山いるんですよ、この子とか」
そう言ってフェイトはピューマにデスティニーを見せた。
「ハロー」
『ぬおっ!? 喋っただとおおおおう!!?』
「いやいや……自分も喋るくせに何言ってんだ」
「あ、よく見たら後ろに誰かいるね」
「腹話術でしたか」
するとピューマの後ろにいる人影は、大量の汗を撒き散らしながら必死に誤魔化そうとしていた。
『ち、ちがうぞ! ワシはピューマじゃ!』
「腹話術お上手ですねー」
「あの……俺達暇じゃないんでもう行っていいですか?」
「ていうか無視してさっさと行った方がよろしいかと」
『え……ええいもういい! グッタグタじゃもう!』
するとピューマは糸が切れたように地面に倒れ、その後ろから長い白髪を三つ編みでまとめた40代ぐらいの男が現れた。
「なんじゃいもう! 最近の少年少女はドライすぎる! もっといいリアクションはとれんのか!」
「ご、ごめんなさい……」
「フェイト、謝らなくていいから」
「逆切れですか」

「シーン!」
「テスタロッサー」
するとそこに、別ルートを通っていたスウェン、ノワール、ザフィーラ、リインフォースが騒ぎを聞きつけてやってきた。
「あ、スウェン」
「何をしているんだこんな所で、早くクロノ達と合流しないと……」
「ん? この男は何者だ?」
「いや、なんか急にピューマを使った腹話術を見せてきて……」
「腹話術?」
「い、犬が喋っただとおおおお!!?」
男は狼形態のザフィーラが喋っているのを見て、滝のような汗をかきながら驚いた。
「く……くくく、まさかこの東方不敗マスターアジアが同じ日に二度も驚かせられるとは……! 貴様ら中々やりおるのう!」
「何ッスかこの濃いオッサン?」
「あの……このオッサンはほっといて早くアリシアさんを探しにいったほうが……」
「アリシア? む?」
その時、自分で東方不敗と名乗った男はフェイトの顔を見るや否や、目にも止まらぬスピードで彼女の背後に回り込んだ。
「「「「!!?」」」」
(い、いつの間に!?)
「失礼するぞ」
そして東方不敗は一瞬でフェイトのリボンを取り、髪を下ろした状態の彼女の顔を超至近距離で見つめた。
「じー……」
(うう!? 顔が近い……)
「お、おいオッサン! 何する気だよ!」
シンは東方不敗をフェイトから引きはがそうと彼に掴みかかろうとするが、一緒で後ろに回り込まれてしまう。
「落ち着け……貴様、名をなんと申す?」
「ふぇ、フェイトですけど……」
「フェイト、貴様はアリシアの姉妹か何かか? 瓜二つじゃのう」
「「「「「「「アリシア!!?」」」」」」」
東方不敗からアリシアの名前が出てきた事に驚き、彼に詰め寄った。
「あ、アリシアの事を知っているんですか!?」
「落ち着けと言っておろうが!」
東方不敗は問い詰めるシン達をのらりくらりと避け、フェイトの後ろに再び回り込んで彼女のほどいたリボンを再び結んであげた。
「この娘とよく似た娘なら昨日、弟子に襲いかかってきたのでワシが保護した」
「あ、アリシアは生きているんですか!? よかった……! ううう……!」
フェイトはリボンを結ばれながらうれし涙を流していた、そんな彼女を見てリインフォースがもらい泣きをしていた。
「よかったな、テスタロッサ……グスッ」
「なんでおめーまで泣いているッスか」
「ああ、ええっと……東方不敗マスターアジア、その子は今どこへ?」
「うむ、この先にあるワシのテントで弟子と一緒におる、良ければ案内しよう」
「よし、クロノ達にも知らせよう、合流地点の変更だ」



そして数分後、一行は東方不敗の案内で彼のテントがある場所にやってきた。
「おいドモン! 今帰ったぞ! お客様も一緒だ!」
「ふぉえ? ふぃひょう!?」
すると焚火後から焼き魚を頬張ったままの赤い鉢巻の少年が近づいてきた。
「貴様! 口に物を含んだまま喋るでない!」
「んぐ……ごくん、は! すみません!」
(弟子も暑苦しい……)
「ん? お前達は何者だ?」
「うむ……どうやらアリシアの保護者らしい、今彼奴はどこに?」
「はい! 川に魚を取りに行っております、もうすぐ帰ってくると思いますが……」

「おーい、フェイトちゃん、シンくーん」
「おーいたいた、ここにいたんかスウェンー」
するとそこに、空で捜索活動をしていたなのは達が降りてきた。
「あ、なのは達だ」
「こっちだぞ皆―」
すると鉢巻を巻いた少年……ドモンは空から降りてきたなのは達を見て滝のような汗をかいて驚いた。
「なっ……!? 空から人が!? お前達何者だ!?」
「な、なんだこの暑苦しい奴は……」
「ふっふっふ、ドモンよ……その程度で驚くとはまだまだ修行が足りんのう」
「そういうオッサンだってさっきザフィーラとデスティニーを見てビビって……」
次の瞬間、東方不敗は次の言葉を喋ろうとしたシンに目にも止まらぬ速さで接近して、無言のまま彼の顔を至近距離で見つめていた。
「近っ!? あ、いやその……」
「……」ゴゴゴゴゴ
「なんでもないです……」
シンは東方不敗の放つ威圧感に負け、口をつぐんだ……。


「師匠! ドモン―!」
その時、シン達のもとに巨大な魚を抱えた金髪の少女がやってきた。
「あのねー! さっき池でおっきな魚捕まえたから一緒に食べ……よ……!!?」
「あ、アリシア……?」
フェイトは現れた少女……アリシアの予想外すぎる再会に固まってしまう、そしてそれはアリシアも同様だった。そんな中スウェンはこの中で唯一彼女と面識があるシンとデスティニーに確認をとる。
「シン、あれがアリシアなのか?」
「う、うん……一応……」
「随分とまあ……ワイルドになりましたね彼女」

「ふぇ、フェイト……!?」
「アリシア……アリシアなの!?」
フェイトはアリシアを無事発見でき嬉しくて泣きそうな顔になっていた。
「……!!」
するとアリシアは抱えていた魚を投げ捨てると、そのまま森の奥のほうへ逃げて行ってしまった。
「逃げた!?」
「ちょ、ちょっとアリシア!!? どこいくのー!」
フェイトは慌てて彼女のあとを追って森の中に入っていく。
「フェイトちゃん!? まってー!」
「我々も追いましょう主!」
「解った! シン君とスウェンはここで待っててな!」
そして一歩遅れてなのはとはやてとヴォルケンズもフェイトの後を追って森の中に入っていった……。

「アリシア……」
「ふむ、どうやら複雑な事情があるようじゃのう、良ければワシらにも説明してほしいんじゃが」
突然の事に呆けるシンに質問する東方不敗。
「う、うん……実はあの二人は……」
シンは隠す必要はないと思い、PT事件の事、そしてフェイトとアリシアの関係について東方不敗とドモンに包み隠さず説明した。
「ふぐっ……! まさかアリシアにそんな悲しい過去があったなんて……!」
「ほほう、だからあやつは母親を探していると言っておったのか」
「プレシアさんを? どういうことですか?」
「わしらと出会った時、アリシアは母親を探しにここまで来たと言っておった、しかし貴様の話を聞く限りでは母親はもう……」
「…………」

「シーン、スウェーン」
するとそこに別行動をとっていたクロノとおとなフォームのアルフがやってきた。
「お、クロノ達も来たか」
「待たせて済まない、ところでそこの二人は?」
「ええっと……この辺に暮らしている東方不敗さんと、えっと……」
「ドモン・カッシュだ、なんだお前達は、こいつらの仲間か?」
「カッシュ……?」
クロノはドモンのカッシュという名字に聞き覚えがあるのか、彼にある質問をする。
「もしかして君は……ライゾウ・カッシ博士の関係者か?」
「……? 何故お前が父さんの名前を知っているんだ?」
「実は……」


その頃フェイト達は逃げたアリシアを追ってジャングルの中を右往左往していた。
「まって! どうして逃げるのアリシア!」
「……!」
アリシアはフェイトの言葉に耳を貸すことなく、一心不乱に彼女達から逃げていた。
「ヴィータ! 空から捕まえるんや!」
「わかった!」
ヴィータははやての指示に従い一旦空に上がり、急降下してアリシアに掴みかかった。
「おら! 大人しくしやがれ!」
「う~!! 離せええ!!」
するとアリシアは髪の毛をバチバチと鳴らすと、なんと全身から電気を放流しヴィータをしびれさせた。
「あががががが!!?」
「ヴィータ!!?」
「アレは……テスタロッサの魔法!?」
「バルディッシュ無しで使えるの!?」
一同は逃げるアリシアを追うのを一旦止め、黒こげになっているヴィータに近寄った。
「あがが……しびれる~」
「こりゃアカン、シャマル……ここでヴィータを治療してあげて、私らは引き続きアリシアちゃんを追う」
「は、はい……あら?」
その時、シャマルは自分達が来た方角から誰かが走ってくることに気付いた。
「こっちに向かって誰かきますね」
「アレは……東方不敗さん!!?」

「こらぁぁぁぁ!! またんかアリシアぁぁぁぁ!!」
東方不敗は猛スピードで走りながらフェイト達の横をあっという間に通り過ぎていった。
「足早!?」
「魔法を使っていないのに私達より早いよね……」
「あ、あの人は人間なのでしょうか?」
東方不敗の人並み外れた身体能力を目の当たりにして呆然とするフェイト達、するとそこにシンとスウェンもやってきた。
「みんな! 早くあのオッサンを追うぞ!」
「わ、わかった!」


一方アリシアを追っていた東方不敗は視界に彼女を捉えていた。
「コラアリシア! 家族が迎えに来たのになぜ逃げる!」
「師匠には関係ないもん! あっち行って!」
「ぬうううう! このバカ者があ!!」
東方不敗は懐から長い布を出すと、それをワイヤーのようにアリシアに向かって放つ。
「わああ!?」
アリシアは一瞬のうちにその布にぐるぐると巻きつかれる、そして東方不敗は彼女を捕えたまま木に釣るした。
「ぐわっはっはっは! ワシから逃げられると思うてか!!」
「うう~……無念」

するとそこにシン達と合流したフェイト達が追いついてきた。
「「アリシア!」」
「あ……! フェイト……シン……」
アリシアは彼らの姿を見るや否や逃げ出そうとするが、東方不敗の布はほどけることは無かった。そしてフェイトとシンは彼女に詰め寄った。
「アリシア! どうして逃げるの!?」
「やっぱりプレシアさんを助けられなかった俺達が嫌いなのか……?」
「ち、違うよ! そうじゃない!」
悲しそうな顔をするシンの言葉を慌てて否定するアリシア。
「じゃあなんで私達から逃げるの?」
「だ、だって……私、フェイトとシンに一杯ひどい事したんだよ? それに私のせいで母さんが居なくなっちゃったんだよ、今更会わせる顔がないよ……」
そう言って吊るされたままシュンとしてしまうアリシア。
「違う! アレは誰のせいでもない!」
「そうだよ! 俺はアリシアの事怒ってないよ!」
「でもでも……! 私は母さんをあんな風にしちゃって、フェイトに一杯ひどい思いをさせちゃって、沢山の人を悲しませて、だから……せ、せめて……」
「母親を見つけて、そこの娘に会わせようとしたのか」
すると話を聞いていた東方不敗が初めて会った時のアリシアの言葉を思い出し会話に割って入ってくる。
「プレシアさんを……? でもあの人は見つかる事はないって……」
「嘘だもん! 母さんはきっとどこかで生きている! 私はあきらめないもん!」
アリシアはシンの言葉を拒絶するようにじたばたと暴れ出す。
「どうやら聞く耳持たずやな」
「どうしたらいいんだろう……」
後ろで話を聞いていたなのは達もお手上げ状態といった様子だった。すると……
「あの……マスターさん、アリシアを降ろしてくれますか?」
「……いいだろう」
東方不敗はフェイトに言われた通り、彼女に巻きつかせた布を解き地面に下ろした。
「フェイト……?」
「……」
フェイトは何も言わず、アリシアを優しく抱きしめた。
「ふぇ、フェイト?」
「アリシア……私はね、あなたの事も母さんのことも、全然憎んでなんかいないよ」
「え……?」
フェイトはアリシアの赤い瞳を自分の赤い瞳でじっと見つめながら言葉を続けた。
「私は確かに母さんの本当の子じゃない、アリシアのクローンでこの命は作られたものだけど……でもその代わり、大切なものが沢山出来たんだよ」
フェイトはそう言って後ろにいたなのはやはやて、そしてシン達を見る。
「母さんが私を生み出してくれなかったら、私はなのはやはやてやシグナム達に出会えなかったし、シンと出会えなかった……だから恨んでなんか全然ないよ」
「「フェイトちゃん……」」
(何気にシン・アスカを特別扱いか……)
ちょっと感激するなのは達の中で、シグナムはフェイトの発言の中に含まれているものを感じ取っていた。
「ほ、本当に怒ってないの?」
「うん」
すると、アリシアは目からボロボロと涙を流してフェイトに抱きついた。
「ご、ごめんね……! 私バカだから、またフェイトに迷惑かけたね……!」
「いいんだよ、アリシアの気持ち……私にも十分理解できたから……!」
そう言ってフェイトもまた、アリシアを抱きしめながら大粒の涙を流していた。
「フェイト……フェイトぉ……!」
「アリシア……グスッ……」

「よかった、二人とも仲直りできて……」
そんな二人をシンとなのはは心からほっとした様子で見守っていた。
「そうだね、あの事件で叶えられなかった願いの一つがようやく叶えられたんだ」


「こちらはやて、アリシアちゃんは無事保護出来たで、クロノ君」
『そうか、それじゃ一旦合流してアースラに戻ろう……ドモン・カッシュと一緒にね』
「わかったでー」



こうしてFCでの騒動はあっさりと幕を引いた、しかし……彼らは知らなかった、戻った矢先にまた新たな騒動に巻き込まれる事に……。










とりあえず今回はここまでにします、次回は舞台をアースラに移します。



[22867] 第二話「ガンダムファイター(見習い)VS守護獣」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/05/16 21:59
 第二話「ガンダムファイター(見習い)VS守護獣」


アリシアが保護されてから数十分後、シン達はアースラに戻りリンディにこれまでの事を報告していた。
「皆御苦労さま、それじゃ私達はカッシュ博士の元に行った後、第97管理外世界に戻ることになります」
「アルティメット細胞の事を話すんですね、俺とフェイトと……アリシアも付いて行ったほうがいいですか?」
「いえ、私とヴィアさん、それに……ドモン君だけで大丈夫よ、ちょっと事情を話すのに一苦労しそうだけど……」
「事情は聞いています、ちゃんと俺が父さん達を説得するんで安心してください」
「ありがとう、ドモン君」
そうしてリンディとヴィア、そしてドモンはカッシュ博士のいるネオジャパンコロニーに向かい、その間シン達はアースラで待機する事になった。
「それじゃアリシアの様子でも見に行くか」
「そうだね、確か今クロノと話し合っているんだよね」
「確か逃げる時に局員の人達をボコボコにしたんやったっけ?」
「それじゃみんなで行くとするかのう」
「いや、皆で行くと騒がしくて迷惑だろう」
「ここはシン君とフェイトちゃんが代表して行ったほうがいいんじゃない?」
「シャマル姐さんの意見に賛成っす」
そう言ってシンとフェイトと東方不敗がアリシアの元に行こうとした時、ヴィータがあることに気付き呼びとめた。
「ちょっとまて!! なんでオッサンまでここにいるんだよ!?」
「オッサンじゃないマスターアジアじゃ!」
「うわ本当や! ナチュラルに混じってて気付かんかった! しかも二人だけ行かそうとしてるのに付いて行こうとしとる!」
ギアナ高地で待っている筈の東方不敗がここにいる事に今気付きずっこけそうになるシン達。
「実はのう、貴様らの所属する時空管理局とやらに興味を持ち、見学させてもらうことにした!」
「いやことにしたって言われても」
「フリーダムすぎだこの人……」
破天荒な東方不敗に脱力する皆を尻目に、東方不敗はシンとフェイトと共にクロノとアリシアのいる病室に向かった……。

三人が病室に着くと、そこでアリシアがクロノに説教を喰らっていた。
「ったく……そんな理由で局員たちをぶっとばしたって言うのか君は!? ふざけているのか!?」
「だって~」
「どうしたのクロノ? そんなにカリカリして……」
「フェイトか、聞いてくれ……アリシアに本局から逃げ出した時の状況を聞いていたんだ、そしたら……」
「ああ、局員の人達を何人かぶっ飛ばしちゃったんだっけ? どうしてそんなことを……? もうあの時のように暴走はしてないんだろう?」
「だって……私目が覚めた時裸だったんだよ?」
「検査の為だったらしいがな」
「それがどうかしたの?」
「普通……そんな状況で知らない男の人が出てきたら殴り飛ばすじゃん?」
「「はい?」」
アリシアの信じられない動機に空いた口がふさがらないシンとフェイト。
「んで、一人目を殴ったら警報が鳴って、次々と男の人(武装局員諸々)が出てきて、次々とぶっ飛ばしていくうちに……」
「全滅させたっていうのか!?」
「しょうがないじゃん、狭い通路を利用して一人一人相手にしていたらいつの間にか全員のびていたの」
「ほう、以外と頭を使ったんじゃな」
「何関心しているんだよ」
「んで、騒ぎがさらに大きくなってきたからそこら辺にあったタオルを体に巻いて、近くにあった転移装置を使って母さんを探しにいったの」
「まったく……とんでもない子だな君は」
「女の子は誰だってそうするわよ、ねえフェイト?」
「え!?」
アリシアの突然の無茶振りに驚くフェイト。
「そ、そうだね! 女の子なら殴りとばしちゃうかもね!(相手がシンならいくらでも見せるけど……)」
「そう言えばスウェンも前にシャワー中のシグナムと遭遇して攻撃されたとか言っていたな」
「でしょ!? でしょ!?」
「でしょじゃない!」
もうツッコミが追いつかずイライラしだすクロノ、するとそんな彼の肩を東方不敗はポンと叩いた。
「まあまあそうカリカリするな、ここはこの東方不敗マスターアジアに免じて許してはくれんか?」
「あなたに免じられても困るんですけど!!?」

結局襲われた武装局員は全員たいした怪我もしてなかったので、アリシアは反省文を書いて一週間アースラでのトイレ掃除をするということで簡便してもらったという……。


3時間後、ネオジャパンコロニーに行っていたリンディとヴィアがブリッジに戻ってきた。
「あ、おかえりなさい艦長、首尾はどうでした?」
ずっとジュースを飲みながらモニタリングをしていたエイミィが2人に話しかける。
「ええ、実行犯がもうこの世にいない事もあるし、こちらで調べたアルティメット細胞の研究結果を見せてくれるなら何も言わないと言ってくれたわ、ドモン君が間に入ってくれたおかげね」
「本当は一緒に研究をしたかったのだけれど……まあさすがに虫のいい話だから切り出せなかったのよねぇ」
「そうですか……ん?」
ふと、エイミィは二人について行った筈のドモンが居ないことに気付く。
「あれ? そう言えばドモン君はどこにいったんですか?」
「今スウェン君が艦内を案内しているわ、さっきはここに来てすぐに里帰りしちゃったからね」


その頃ドモンはスウェンとノワールの案内でアースラの艦内を歩いて回っていた。
「ほう、お前は俺と同い年なのか……その年でこの艦で働いているのか?」
「いや、俺達の場合少し事情が複雑でな……今はただ管理局に協力しているだけなんだ、もっともはやて達はその後もずっと管理局で働くつもりらしいがな」
「あの歳でもう自分の進む道を決めているのか……しっかりしているな」
「そういうお前はどうしてあんな危険な所で武道の修業を?」
「俺の家族は皆学者でな……ギアナ高地には三年前に動植物の生態調査の為に訪れていたんだ、その時俺はそこで師匠に出会い、あの人に自分の進むべき道を示してくれたんだ、そして師匠のようなガンダムファイターになる為に弟子入りしたんだ」
「……それがお前の夢か、叶うといいな」
「ああ、その為にも俺は強くなる……!」

(ほほう、アニキにも同世代の友達が出来てなによりッス)
歩きながら楽しそうに話しているスウェンとドモンを、ノワールは一歩離れた場所で見守っていた。
そして一行は模擬戦ルームのモニタリング室にやってくる。
「ここが模擬戦ルームだ、今は……シグナムとヴィータが闘っているのか」
「おお!?」
模擬戦ルームの中ではシグナムとヴィータが互いのデバイスを激しく打ち合っていた。
『でやあああああ!!』
『はああああああ!!』
「こ、これが魔導師ってやつの戦いなのか……!」
ドモンは初めて見る魔導師同士の戦いに興奮していた。
「すごいな、あの赤い子は小さいのにあんな大きなハンマーを振りまわせるのか!」
「あいつは少し特殊というか……だがパワーがあるのは確かだ」
「これなら二人ともガンダムファイトでいいところまで行けそうだな、もっともガンダムがなければどうしようもないが……」


「あ、ドモンさんとスウェンさんだー」
「スウェンも模擬戦するんー?」
すると彼らの元になのは、アルフ(人形態)、はやて、シャマル、ザフィーラ(狼形態)、そしてリインフォースがやってきた。
「はやてか、今ドモンを案内していたんだ」
「な、なあ、お前達もあんな風に戦えるのか? 一番強いのは誰だ?」
ドモンは目を輝かせながらなのは達に質問する。
「うーん、一応戦えるっちゃ戦えるけど……」
「皆それぞれ戦闘スタイルが違うから誰が一番っていうのは解らないよね」
「そうなのか……」
なのは達はドモンが妙にソワソワいている事に気付く。
「どうしたんだいアンタ? 妙に落ち着かないね」
「い、いやその……よかったら俺も模擬戦をやらせてくれないか?」
「え?」
ドモンの提案に、なのは達は一斉に目を合わせる。
「も、模擬戦をしたい言うても……」
「魔法も使えないしデバイスも持っていないんじゃいくらなんでも危ないですよ」
回復専門のシャマルを始めとして、みんな素人の人間が魔導師に挑むのは無謀だと考えていた、その時……。
「はあなしは聞かせてもらったぞおおおお!!!」
突如東方不敗がモニタリングルームに飛び込んできた。
「うにゃ!!?」
「なんだよ! いきなり出てくんな!」
東方不敗の突然の乱入に驚くなのはやヴィータ達。
「師匠! 俺の話を聞いていたんですか!?」
「うむ……ドモンよ、ワシもそろそろ貴様に実践を経験させようと思っていたところじゃ、皆の衆……ドモンの相手をしてやってはくれんか?」
「ええ? でも……」
東方不敗の提案にまだ尻ごみするなのは達。
「なあに、そう簡単にくたばるほど柔な鍛え方はしておらん! やるなら全力でやってくれい!」
「うーん、そこまで言うなら……ザフィーラ、相手になってあげてえな」
「御意」
はやての呼びかけに応え、ザフィーラは狼形態から人形態に変身する。
「!! 人間だったのかそこの犬!?」
「犬ではない守護獣だ!」
「シャマル、万が一の為にスタンバッててな、私はリンディ提督とクロノ君に報告しておくわ」
「わかりました」


こうして恐らく史上初、FCの人間と魔導師の戦いがアースラの模擬戦ルームで行われようとしていた……。



数分後、模擬戦ルームに入ったドモンは軽く準備運動をしながら、目を瞑って精神統一しているザフィーラを見て戦力を分析する。
(さっき戦っていた二人は光の壁みたいなので互いの攻撃を防いでいた……ということはあの男にも使えるのか?)
ドモンは程良く緊張しながら頭に巻いたハチマキをギュっと締め直した……。


一方モニタリング室ではなのは達がドモンとザフィーラの戦いをハラハラしながら見守っていた。
「だ、大丈夫かなドモンさん……」
「一応ザフィーラには手加減するよう言っておいたけど……」
「ふん、そんなものすぐに必要無くなる」
「ほう、大した自信ですね」
「それだけ自分の弟子が可愛いのかよー」
シグナムとヴィータの質問に、東方不敗は鼻で笑いながら答えた。
「いや、ドモンは恐らく勝つことはないであろう、相手に全力を出させてな、見たところあのザフィーラという男、立ち振る舞いからしてお主達同様相当の修羅場をくぐり抜けていると見る……簡単に勝てる相手ではないことぐらいはわかるわ」
(この男……この短期間で騎士たちの力量を見極めたのか)
東方不敗の並み外れた観察眼にリインフォースは心の中で関心する。
「なのはー、来たよー」
「ドモンが戦うの? 見せて見せてー」
するとモニタリング室に、今度はシン、フェイト、そしてアリシアがやってきた。
「お! 今始まる所なのか?」
「シン達も来たか……」
「今始まる所や、静かにしたほうがええな」

そして沢山のオーディエンスの中、ドモンとザフィーラは模擬戦ルームの中心に立ち互いに向き合いながら身構える。
(ほう、中々様になっている……)
(すごい闘気だ……! 油断すると押し潰される……!)
『それじゃ互いに構えて……試合開始―!』
ブリッジでモニタリングしているエイミィの合図により、戦いの火蓋は切って落とされた。
「先手必勝! てやあああ!!」
開始早々ドモンがとび蹴りを繰り出す、ザフィーラはそれを片手で受け止めた。
「まだまだ! はあああ!!」
ドモンは臆すことなく地面に着地すると、そのままザフィーラに拳の連撃を浴びせる。
『おお! すげえ攻め……! まるで手が何本もあるみたいだ!』
『だがザフィーラはすべて捌いている』
「くっ! これだけやっても一撃も当たらないのか!」
「次はこちらから行くぞ」
「!」
ザフィーラはそう言って拳を振りかぶり、ドモンはすぐさま腕で腹部をガードする。
「せいいいいい!!!」
ザフィーラはそのままドモンの腹部を撃ちぬく、するとドモンはそのまま数メートル後方に下がっていった。
「がぁ……! ガードしているのに……! なんて重い一撃だ……!」
ドモンは攻撃を防いだ腕にいままで感じたことのないしびれを感じ、ザフィーラの想像以上の戦闘力に戦慄する。
「ほう、今の一撃を生身で耐えるか……」
「当然だ……! こんな一撃! 師匠に遠く及ばない!」
「ならば効くまで撃ち続けるのみ! ぬううううん!」
「でやああああ!!!」


「ふむ……中々やるなあの少年」
「またリンディ提督やレティ提督が欲しがりそうな人材よね」
一方モニタリング室でシグナムやシャマル達は二人の戦いを観戦しながら、戦況を冷静に分析しながら勝敗の予想を立てていた。
「でもちょっとザフィーラが押しているんじゃないかい?」
「だよな、チャンスがあればザフィーラが一撃入れて終わりだろ」
「ほほう、貴様らはそう予測するのか」
「ふっふっふ……解ってないなあ皆」
「……? アリシアはドモンさんが勝つと思っているの?」
「当然! だってドモンにはとっておきの必殺技があるんだから!」
「その通り! ドモン!」
東方不敗は不敵に笑うと、マイクを使って模擬戦ルームのドモンに大声で呼びかけた。


『ドモン! 今こそあの技を使うのじゃ!』
「あの技……! 解りました!」
ドモンは東方不敗の言うことを理解し、両手と片足をあげてザフィーラに向き合う。
『なんッスかあの荒ぶる鷹のポーズ?』
『何となくですがとんでもない事が起きそうです』
「いくぞ! 流派! 東方不敗の名の元に!」
(何をする気だ……!?)
ザフィーラはドモンの構えを警戒し、全面に魔力シールドを展開する、するとドモンは低く飛び上がると、渦巻きのような気を全身に纏った。
「超級……! 覇王! 電影だあああああああん!!」
ドモンは全身に気を纏いながら顔面からザフィーラに向かって突撃する。
「!?!?!?」
ザフィーラの魔力シールドとドモンの顔面が激突した瞬間、模擬戦ルーム全体に衝撃波が襲い、モニタリング室に映像を送るカメラの画像に一瞬ノイズが混じった。

「な、なんや今の技!?」
「魔力反応はありませんでしたが……」
ドモンの技を見て度肝を抜くはやてやリインフォース達に対し、何故かアリシアがふふんと自慢げに説明した。
「アレが流派東方不敗の奥義の一つ! “超級覇王電影弾”!」
「ほほう、この前教えた技なのだが、大分モノにしたようじゃのう」
「すっげー! よくわからないけどすっげー! 俺にも出来る!?」
そしてカメラの画像が回復すると、そこにはスタミナ切れで地面でへばっているドモンと、籠手が破壊されて腕を抑えているザフィーラの姿があった。
「どうやら引き分けたみたいだね……」
「なるほど、確かに東方不敗さんの言うとおり負けなかったですね、彼」
「あいつに本気出させるなんて、あいつすごいじゃないか!」
「当然じゃ、何せワシの一番弟子じゃからのう」


こうしてドモンとザフィーラの模擬戦は両者引き分けとなり、シン達はシャマルに二人を預けてリンディ達のいるブリッジの方へ向かった……。


一方ブリッジでは、先ほどの模擬戦についてクロノとエイミィが話をしていた。
「いやーすごかったねさっきの模擬戦!」
「ああ、まさか魔法無しであのザフィーラと互角に近い戦いが出来るなんて……あれがマスタークラスだったらどれだけのものになるか……」
「? どうしたのクロノ君? そんなに怖い顔して……」

「ほほう、ワシらの世界が主らに牙をむいた時、とてつもない脅威になると考えておるのか?」
するとそこにモニタリングルームから呼び出された東方不敗やシン達がやってきた。
「あ、いや、そういうわけじゃ……」
「なあに気にするな、常に最悪を想定するのは指揮官として必要なことじゃ、のうリンディ提督とやら」
「ふふふ、その通りです」
東方不敗は艦長席でお茶をすするリンディに問いかける、その二人の間には少しピリピリとした空気が流れていた。
(どうしたんだ艦長? いつになくおっかないな……)
(師匠さんも同じだね、二人ともどうしたんだろう?)
シンやフェイト達は訳も分からず二人の動向を見守っていた、するとそこにヴィアがブリッジに現れ、東方不敗に話しかける。
「東方不敗さん……貴方の事はプレシアの調査やFCに関する報告書を読んで知りました、貴方は……」
その時、続きを言おうとしたヴィアを、東方不敗は手で制する。
「お二方……少しワシにも質問させてくれ」
「はい、なんでしょう?」
「いや主たちではない、この子達にじゃ」
そう言って東方不敗は、後ろにいたシン達の方を見る。
「のう、高町なのは」
「は、はい?」
「フェイト・テスタロッサ」
「はい……?」
「八神はやて」
「はい? なんです?」
「シン・アスカ」
「お、俺も? はい」
「スウェン・カル・バヤン」
「はい」
「主たちは何故武器を持って闘う? 何故時空管理局に籍を置いておるのじゃ?」
東方不敗の質問に、名前を呼ばれた五人はしばらく考え込む、そして……まず最初になのは達女の子組が答えた。
「私は皆を守りたいから管理局にいます」
「私は……私みたいな悲しい境遇の子が少しでも減らしたいからここにいます」
「私が今ここにいるのはみんなのおかげです、だから命の恩返しがしたくてここにいます」
そして今度はシンとスウェンが答える。
「俺も……皆を守りたいからここにいる……と思う」
「俺はただはやて達の手伝いをしたいだけだ、大切な家族だからな」

東方不敗は5人の目を見て、満足そうにウンウンと頷いた。
「ふむ……貴様達もまた進むべき道がしっかりと見えているようじゃの、道は迷うものではない! 貴様達の歩む方向がすべて道となる! 自信を持って進めい!!」
「「「「「……………………?」」」」」
(いいこと言っているっぽいけど滅茶苦茶じゃねえか……)
そして東方不敗は再びリンディ達の方を見る。
「ふふふ、年端もいかない子供達を危険な任務に就かせるとはなんと外道な組織だと思ったが、どうやら杞憂だったようじゃ……少なくともリンディ・ハラオウン、お主は信頼に足る人物じゃ」
「それはどうも、貴方のお眼鏡には叶いましたか?」
「ああ、ワシ単騎でこの船を沈めずにすんだ」
(……!?)
(冗談に聞こえんな……)
シグナムやリインフォースは東方不敗が一瞬見せた殺気を感じ取り冷や汗をかく。
そして東方不敗は自分の右手の甲を皆に見えるようにして翳した。
「では改めて名乗らせてもらおう……ワシの名前は東方不敗マスターアジア、シャッフル同盟のキングオブハートでもある」
すると彼の手の甲に13の数字と交差した剣が描かれたハートマークの紋章が浮かび上がっていた。
「キングオブハート……?」
聞いたことのない単語に首を傾げる一同、その時……リンディとヴィアはその意味を知っているのか目を見開いて驚いていた。
「シャッフル同盟……! FCの世界で“秩序の守り手”と呼ばれた歴史上の戦いや事件を陰から調停してきたという最強の武装集団ですね」
「東方不敗さんは元ネオジャパンのガンダムファイターで、今はネオホンコンのガンダムファイターだって調べは付いていたけど、まさかそれ以上に大物だったとは……」
「へー! ししょーってすごい人だと思っていたけどもっとすごい人だったんだね!」
「ふふ、まあな……主達時空管理局が故意にワシらの世界に厄介事を持ちこまないのならば、今回のアリシアのような事があった際シャッフル同盟が力を貸そう」
東方不敗は目をキラキラさせているアリシアの頭を撫でながら、自分の所属する組織は今後時空管理局に協力するという約束を取り付けた。
「……どうやらアリシアさんを探しに来て、幸運な拾いものをしたみたいね」
「上にも報告しないといけませんね、報告書になんて書こう……」




こうして時空管理局は、シャッフル同盟の信頼を勝ち取り彼らとの協力関係を結ぶことになった。
この事が後にいくつもの次元世界の歴史を大きく変えることになるのだが、その時は誰も知る由はなかった……。










今回はここまで、次回はドモンと師匠が海鳴に行く話になります、留美やルイスも出ますのでお楽しみに。

そう言えば師匠、スパロボJでナデシコとアークエンジェルを生身で落とそうとしていましたもんね、あの人ならアースラを生身で破壊する事は可能でしょうね。



[22867] 第三話「師匠、海鳴でテロリスト退治をするの巻」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/05/22 21:58
 第三話「師匠、海鳴でテロリスト退治をするの巻」


アリシアが保護されてから数日後、シンとマユとハラオウン家一行はある人物達を連れて高町家にやって来ていた。

高町家の剣道場……そこでシンは剣道の防具に身を包み竹刀を構えながら、同じく竹刀を構えているなのはの兄、恭也と対峙していた。
「……はあ!!」
「むっ!」
一歩踏み出して竹刀を恭也に向かって振り上げるシン、しかし振りおろされた竹刀は恭也に当たることはなかった。
「はい面」
「あう!?」
そして恭也はそのままシンの頭に竹刀を優しく当てた。
「一本、それまで~!」
審判役のなのはの姉美由希が試合終了を告げ、シンは残念そうに面を取った。
「くっそ~! また負けた……」
「いやいや、初めて竹刀を握ったときより大分上達しているよシン君は! ねえ恭ちゃん!」
「ああ、まだまだ修練を積めばもっと強くなれるよ、それじゃ次は……」
「はい! よろしくお願いします!」
そう言って防具に身を包んだドモンが、竹刀を持ったまま恭也の前に立った。


何故ドモンが海鳴にいるのかというと、話は数日前のアースラでの出来事がきっかけだった。
その日、なのはとフェイト、そしてはやては食堂で何気ないおしゃべりをしていた。
「そーいえばなのは、道場でのシンってどんな感じなの?」
「一生懸命やっているよー、たまに見学しに行くけど竹刀を持っているシン君、カッコよかったなー」
「なのはちゃん、あんまり褒めるとフェイトちゃんがヤキモチ焼いちゃうでー?」
「も、もう……はやてったら……」
するとそこに、たまたま通りかかったドモンがなのは達の話を聞いてやってきた。
「なんだ? なのはの家は道場なのか?」
「ドモンさん? ええ、お父さんとお兄ちゃん、それとお姉ちゃんが経営しているんですよ、三人とも凄く強いんですから!」
「へえ……なら今度手合わせ願いたいな、武器を持った相手とも闘ってみたい」
「修業熱心やなあドモンさん、もしかしてシグナムやフェイトちゃんみたいなバトルマニア?」
「ちょっと違う……のかな?」

「はあなしは聞かせてもらったぞおおおお!!」
すると、なのは達の座るテーブルの下から、東方不敗がニュっと顔を出した。
「ひゃん!!?」
「ほわっ!?」
「変な所から出てこないでください!」
「師匠! 話を聞いていたんですか!!?」
「うむ! ワシもリンディ提督から第97管理外世界の話は聞いていてのう……あの世界はワシらの世界同様、MSが存在し宇宙で暮らす人類もいるようじゃ! 見解を広めるためにもちょうど貴様を連れて行こうと思っていた所!」
「なんと!? さすが師匠……! いつも俺の考えの先を行く!」
そう言ってドモンは感激しながら東方不敗と拳を一度ぶつけ合う。
「ぬわっはっはっは! それではいざ参ろうぞ! 海鳴とやらへ!」
「どこまでも付いて行きます! ししょおおおおお!!!」
そう言って二人は夕日に向かって駆け出し、何もない空間にとび蹴りを繰り出しながら飛び出した……。

「いやー、相変わらずアッツイ二人やな」
「つまり二人とも、海鳴に来るってことかな……?」
「だ、大丈夫かな、大変な事にならなきゃいいけど……」


こうして熱血師弟は半ば強引に第97管理外世界に渡り、ドモンはまず高町家の道場で恭也達の剣術の稽古を受けることになったのだった……。


ちなみに東方不敗はシンやドモン達のすぐ傍で、アリシアに武術の稽古をつけていた。
「せいせいせいせいせーい!!!」
「うむ! よいぞアリシア! もっと打ち込んでくるのじゃ!」
「はい! ししょおおおおお!!!」

「あわわわ、アリシアが目にも止まらない早さでパンチを繰り出している……」
「……なんだか滅茶苦茶変わっちゃったねあの子」
「あれもアルティメット細胞の影響なのかな? とても最近まで眠っていたなんて信じられないよ」
道場の見学に来ていたなのは、フェイト、そしておとなフォームのアルフはアリシアのすさまじい変わりように呆気にとられていた。
「あの爺さんが言うには、あの力が暴走しないようにするには体を鍛えてコントロールできるようにするのが一番だって言っていたけど……」
「よくわからない理屈だね」
「でもアリシアが楽しそうならそれでいい……のかな?」



そして一時間後、稽古を一通り終えた一同は翠屋に向かった。
「そろそろお昼だし、何かウチで作りますよ」
「すまんのう、ワシらまで馳走になって……」
「いいんですよ、なのはの友達とそのお師匠さんなんですから」

「そう言えば俺……店とかで飯を食べるのは久しぶりか」
「ドモンは三年間ずっとあのジャングルで暮らしていたんだっけ?」
「アタシも最初の頃は森で獲物狩ったりしてたっけねえ……」


そして一行が店に入ろうとした時、一人の長い髪を後ろにまとめた中年男性とすれ違った。
(む? あの男の刃のような闘気……只者ではないな)
「父さーん、戻ったよー」
「あ、ああお疲れ様皆……」
「? どうしたのお父さん? 怖い顔して……さっきの人と何かあったの?」
美由希はいつもと雰囲気の違う士郎に疑問を持つ。
「あ、いやなんでもないさ、それじゃお客さんもいることだし、桃子においしいもの作ってもらおう、何がいい?」
「な、なあなのは、ここのお勧めってなんだ? 食べたいのが多すぎてその……」
「それならお母さんの作ったイチゴパフェなんてどうです? とってもおいしいんですよー」
そうやってドモンやなのは達子供組がメニューを見てワイワイやっている一方、東方不敗はカウンター席に座り士郎や美由希と話をしていた。
「士郎殿……お主中々の立ち振る舞いじゃのう、何処かの戦場でも渡り歩いていたのか?」
「へえ、マスターさんすごいですね、そんな事見抜くなんて……確かに昔父さんはボディガードをしていたんですよ、今はもう引退していますけど……」
「成程……」
東方不敗は何故そんな士郎が今は喫茶店のマスターをしているのかは敢えて聞かなかった。
(ま、これ以上詮索する必要はなかろうて、何やら複雑な事情があるようだしのう)
「それじゃマスターさんは何を食べます? 今日は張り切ってなんでも作りますよー」
「ふむ、では……」



それから数日後、海鳴聖祥大付属小学校の屋上……そこでシン、なのは、フェイト、アリサ、すずか、そしてつい最近転入したばかりのはやてが、持ってきた弁当を広げて食べながら何気ない日常会話を行っていた。
「それでね、ドモンさんったらパフェを十杯も平らげちゃったんだよねー」
「あの人絶対胃袋が鋼鉄で出来ているよね……」
「俺だったらあれだけ食べるのは無理だなー」
「ふうん……あんた達また妙なのと知り合いになったのね」
「もしかしてその妙なのって私も入っとるん?」
「知り合いと言えば……今日のお昼ぐらいだよね、人類革新連盟から留美さん達が来るの?」
話題は今日引っ越してくる留美たちの話題に移っていた。
「そうそう、留美は一学年上のクラスに編入されるんですって、後から来るルイスも一緒よ」
「じゃあ私の家のお隣の沙慈さんと同じクラスになるかもね」
「ああ、たまに肉じゃがとかおすそ分けしてくれるあの人か、あの人本当に料理上手だよなー」
「それじゃあ今日の放課後、留美ちゃんの歓迎パーティーをしなくちゃならんなぁ」
「そうね……」
そう言ってアリサは少し不安そうな顔で、弁当箱に入っていたサンドイッチを一口頬張った。
「どうしたのアリサちゃん? 折角留美ちゃん達に久しぶりに会えるのに……」
「何か心配ごと?」
なのはとすずかの質問に、アリサはため息混じりに答えた。
「うん、実はこの前メールで教えてくれたんだけどね、あの子……家の当主を継がなくちゃならなくなったみたいなの」
「当主って……王家の? 確かすごいお金持ちだって聞いたな」
「ええ、本当は兄の紅龍さんが継ぐ筈だったんだけど……あの子それでちょっと機嫌悪いみたい、大人になったらもう自由じゃなくなるからって……」
「そうなんだ、この世界のお金持ちって大変なんだね」
「ま、留美ちゃんがどんなに偉くなろうと、私達の関係は変わらへんけどな」
「そうね……」



その頃、海鳴市近郊にある国際空港……そのロビーに数人のボディガードを連れた留美と紅龍が歩いていた。
「よ、ようやく日本に着いたな、留美……」
「……」
留美は不機嫌そうに紅龍の言葉を無視し、つかつかと前へ前へと歩いていってしまった。
「留美……」

そして二人はバスターミナルに用意されていたリムジンに乗り込む。
「それではバニングス邸に向かってくださる? 運転手さん」
留美は行き先を運転手に告げる。
「…………」
しかし運転手は返事をしない。
「あの、聞いてます? 早くアリサさんの家に……」
「!? まて留美、何かおかし……」

―――シュー……

その時、リムジンの中にガスのようなものが充満していく。
「きゃ! うぅ……!?」
「くそっ! 罠か……!」
留美と紅龍はそのガスを吸ってしまい意識を失ってしまう。
「目的地は変更ですよ、おぼっちゃま、お嬢様……」
そう言ってガスマスクを付けた運転手はにやりと笑い、リムジンをある目的地に向かって進めて行った……。



数時間後、翠屋では留美達が何者かに浚われた事を受け、高町一家がお店を早めに閉めて事件の推移をニュースで確認していた。
「犯人は留美ちゃん達のお父さんに身代金を要求しているみたいね」
「お父さん……大丈夫だよね、留美ちゃんと紅龍さん無事に帰ってくるよね?」
「ああ、大丈夫さ……」
不安そうななのはを、士郎は冷静を装って励ます。その時、テレビ画面に映っていたキャスターがこんな一文を読み上げていた。
『なお、王家に送られてきた脅迫状にはデスサイズと黄色のクローバーのエンブレムがマーキングされており、警察は国際テロ組織の犯行によるものとして捜査を進めており、JNNは引き続き取材を続け……』
「……!」
「クローバー……!」
「ど、どうしたの皆、顔が怖いよ?」
なのはは自分以外の家族皆の顔が険しくなっている事に気付きおびえる、その時……。
「はぁなしはきかせ(ゴンッ!) っ……! 話は聞かせてもらった!」
「もらった!」
「もらったー!」
「うにゃ!? マスターさん!? それにドモンさんとアリシアちゃん!!?」
テーブルの下から東方不敗、ドモン、そしてアリシアが飛び出してきた。
(一回テーブルに頭ぶつけたよね)
「東方不敗さん!? なんて所から出てくるんですか!!?」
「ふっふっふ、修業が足りんのう……ワシらが30分も前にここにいたことに気付かんとは! ところで士郎殿、大体の事情はリンディ殿からも聞いているのだが……」
東方不敗は恭也のツッコミを軽くあしらい、カウンターで呆気にとられている士郎に話しかける。
「士郎殿……先ほどニュースで言っていたテロ組織とやら、どうもお主と関係があるようじゃのう」
「え!? そうなのお父さん!?」
「なのは……」
士郎達はなのはの前でその事を話すのに抵抗があるのか、一斉に視線を反らした。
「なあに、この娘は歳に似合わずしっかりしておる、お主のどんな過去でも受け止められるじゃろう」
「……わかりました」
しかし東方不敗に諭され、士郎はなのはに自分と留美をさらった一団との関係について話した。
「なのは……昔、父さんが大けがをして前の仕事を辞めたのは覚えているかい?」
「うん、みんな看病で忙しかったよね」
「あの大けがは……その黄色いクローバーの組織に負わされたんだ」

士郎は昔、フィアッセという少女のボディガードをしていた際、花束に仕掛けられた爆弾から身を呈して彼女を庇い重傷を負ってしまったのだという。
「その爆弾を仕掛けたのが黄色いクローバーの組織なの?」
「ええ、あの後士郎さんの知り合い……美沙斗さんって人にその組織の事を色々調べてもらったんだけど、結局捕まえられなかったみたいで……」
「……」
“美沙斗”という名前を聞いた途端、不機嫌そうに険しい表情になる美由希、それを見たドモンとアリシアは疑問に思いなのはに小声で質問する。
(? 何故美由希さんは不機嫌そうなんだ?)
(えっと……実はお姉ちゃん、お父さんとお母さんの本当の子じゃなくて……その美沙斗さんって人の娘なの、それでその人に捨てられたって思っているらしくて相当憎んでいるみたいなの)
(へえ、複雑なんだねなのはの家って……)
そして東方不敗は、昼間ここに来た時店先ですれ違った男の事を思いだす。
「ふむ、さしずめあの時ここにいた男は、その組織の事を教えに来たと言ったところか」
「ええ、あの人はユニオン軍のホーマー・カタギリさん、美沙斗さんの知り合いなんです、黄色いクローバーの組織が来ている事を知らせに来てくれて……」
「成程成程、事情はよく解った」
そう言って東方不敗は翠屋の入り口に向かう。
「東方不敗さん? 一体どこへ?」
「少し……散歩に行こうと思ってのう、ドモンよ、ついてきなさい」
「あ! 私もいくー!」
「アリシアはここに残っていなさい」
「ぶー」
そして東方不敗はドモンを連れて翠屋から出て行った。

「東方不敗さん、一体どうしたんだろう? 急にフラッと現れて、フラッと去っていって……」
「ま、まさか……」
皆より東方不敗との付き合いがちょっとだけ長いなのはは、彼が何をしようとしているのか何となく感じ取り冷や汗をかいた……。
一方アリシアは、
「あーあ、私も留美ちゃんを助けに行きたかったなー」
不満そうに口を尖らせていた。


一方、留美達が捕えられている場所を勘で探りながら町中を駆けまわっている東方不敗とドモンは……。
「しかし師匠、何故態々こんな危ない事に首を突っ込むんですか?」
「ふん! 修業じゃ修業! 別に昼に御馳走になったコーヒーの礼をしたいわけじゃないんじゃからな!!」
40超えたオッサンのツンデレである。
「さすがです師匠! 俺もあんなカッコいい事が言える男になりたい……!」


数分後、とある港にある古びた倉庫……そこに何人もの仮面を付けた男たちが、猿轡をされ喋れない上にロープで縛られて身動きの取れない留美と紅龍を囲んでいた。
「んー! んー!」
(お兄様……暴れてもしょうがないでしょう? まったく……まさか誘拐されるなんて……)
すると二人の前に、精悍な顔つきの白髪の男が歩いてきた。
「ふふふ……お待たせいたしましたお嬢様、おぼっちゃま、我がアジトにようこそ……」
そう言って男は二人にされた猿轡を外す。
「ぷはっ……! お前達は一体何者だ!!? こんな事をしてただで済むと……」
「落ち着いてくださいましお兄様、喚いても何も事態は好転しません」
「ほほう、妹のほうは中々利口だな」
「貴方達、さしずめ私達を餌にお父様から身代金をふんだくろうとしているのですね?」
「ふふ、まあそんな所だ、テロを起こす為の兵器を揃えるにしても金が必要なのだよ、只でさえ我々は正体不明のMSに追いかけられて身を削られているのだし……」
(俗物が……! これだからテロリストは乱暴で嫌いなのよ、もし私が当主になったら傭兵か何か雇って全滅させてやるわ)
留美がそんなことを考えていると、白髪の男はナイフを持って彼女に近づいた。
「さて……何故私達が君達二人を連れてきたかわかるかい?」
「……? 身代金を多く手に入れる為?」
「それもある、だが我々は確実に金を入手したい、そこで……」
そして白髪の男は留美の首筋にナイフの刃を当てた。
「娘のバラバラの死体でも送れば、向こうは残った方を何が何でも救う為嫌でも取引に応じるだろう」
「!!?」
留美は白髪の男の並々ならぬ殺気を感じ恐怖する。
「や、やめろ! 留美に手を出すな!」
その時、紅龍が縛られたまま白髪の男に体当たりを喰らわそうとする……が、ひょいと避けられてしまった。
「安心しろ、君は大事な金づるだ、そこで大人しくしていれば命はとらない」
「くっ……! くっそおおお!!」
紅龍はなおも白髪の男を止めようとするが、回りにいた仮面の男たちに取り押さえられてしまった。
「は、離せ! 殺すなら俺にしろ! 俺は……!」
「はっはっは、勇ましい限りだ、だが子供に何ができる」
「ひっ……! だ、誰か助けて……!」
紅龍は怯える留美の顔を見て自分の無力さに怒りを感じていた。
(くそ! 俺に、俺にもっと闘う力があれば……!)
そして彼は歯を砕けそうになるくらい噛みしめる、その時だった。


―――ドォォォン!!


「!? なんだ!?」
突如工場の外から爆音が響き、一同は何事かと狼狽する。するとそこに外で見張りをしていた白髪の男の部下が駆け寄ってきた。
「ファン様大変です! 侵入者です!」
「警察か? それともユニオンの奴らが嗅ぎ付けたのか?」
「そ、それが……!」


―――ガァンッ!!


その時、突如何者かが壁を破壊して留美達のいる工場の中に侵入してきた。
「ふん! 拳銃ごときでワシを止められるか!」
「さすがです師匠! 勘で犯人達の居所を突き止めるとは!」
「な、なんだお前は!?」
「ほう、貴様が主犯格か……子供を誘拐するなど愚の骨頂! このワシ直々に成敗してくれるわああああ!!!」
そう言って侵入してきた男……東方不敗は、手に持ったタオルをビンと伸ばして戦いの構えをとる。
「ちっ! よくわからないが相当のバカか……おいお前ら撃て!」
「は……ははっ!」
白髪の男……ファンと呼ばれた男は周りにいた部下達に銃撃の指示を出す。すると部下達は持っていた拳銃を構え、銃弾を東方不敗に向かって発射した。
「あまぁい!!」
対して東方不敗は右手を円のように回し、銃弾を“素手で”掴み取ってしまった。
「ゲェー!? 銃弾を!?」
「なんだアイツ!? 化け物か!?」
「ふん……返すぞ」
東方不敗はそう言って掴み取った銃弾を、親指で次々と弾き飛ばした、銃弾を使った指弾である。


―――コココココン!!!


「あだ!?」
「ぐえ!?」
「ぎゃふ!?」
その指弾の直撃を受けた部下達は次々と倒れ、起きているのは東方不敗とファンだけになっていた。
「さて……残るは貴様だけだな」
「な、何を言っている! こっちには人質が……!」
ファンはそう言って留美達を盾にしようとするが……。

「おい、大丈夫か?」
「あ、貴方は?」
「助かった……」
二人はいつのまにかドモンによって解放されていた。

「なっ……! なっ……!」
「さて、ではそろそろトドメと行こう、超級……!」
東方不敗はファンにトドメを刺す為、超級覇王電影弾の構えをとる、その時。
「! 師匠上です!」
「ひいいいいやあああ!!!」
突如上から左目を前髪で隠した白いコートを着た男が大剣を持って襲いかかってきた。
「ぬう!?」
東方不敗はすかさずバック転して男の攻撃を避けた。
「もう一人いたとは……!」
「グリフ! 時間を稼げ! 俺はアレを持ってくる!」
「了解しました……」
ファンは白いコートの男……グリフに殿を任せてどこかに行ってしまった。
「師匠! 助太刀しますか!?」
「たわけ! 貴様にはその兄妹を守る役目がある! 大人しくそこで待っておれ!」
「は、はい!」
そして……グリフと呼ばれた白いコートは地面に突き刺さった大剣を抜くと、気味の悪い笑みを浮かべて東方不敗と対峙する。
「はは、ははははは……! 剣と剣との戦いのほうがいいが……アンタ相手なら楽しめそうだ!」
「ふん! 流派東方不敗に人切り包丁など効かんわ!」
そして東方不敗はグリフの大剣の攻撃を掻い潜りながら、パンチやキックで反撃する。

「あ、あの方は一体何者なんですの!?」
一方、ドモンと紅龍とともに留美は少し離れた木箱の裏から、東方不敗とグリフの人の域を超えた戦いを目の当たりにして驚愕する。
「あの人は俺の師匠東方不敗マスターアジア、なのはの親父さんには大きな借りがあるから助けに来た」
「なのはさんのお知り合いでしたか……」

一方、紅龍は東方不敗の戦いっぷりに見入っていた。
(すごい、あんな大きな剣を持つ男に臆することなく立ち向かうなんて……!)

「トドメだ……!」
そして数分後、激しい戦闘に終止符を打つため、グリフは高く飛び上がり東方不敗に向かって剣を振りおろした。
「あまぁい!!」

―――ガッ!!

東方不敗はそれをピンと張らしたタオルで受け止めてしまった。
「なっ!? 俺の剣が布で!?」
「流派東方不敗! 光輝唸掌! 覇っ!」
そして東方不敗は驚愕するグリフの胸に、気を溜めた掌を当てて吹き飛ばした。
「ぐわあああああ!!!!?」
グリフはそのまま壁を突き抜け、海にどぼんと落ちてしまった。
「ふん! その腕でワシに挑もうなど……百年早いわ!」
「さすがです! ししょおおおおおお!!!」
そう言って感激したドモンが駆け寄ろうとした時、辺りに突如爆音が響いた。
「!? 外か!」
東方不敗が先んじて外にでると、そこには空に浮かぶ一機のMSがいた。
「むう! MSか!」
「あれはリアルドですわ!」
『よくもやってくれたなカンフーマスター……! ここは一旦退かせてもらう!』
そう言ってファンは乗っていたリアルドをMAに変形させてその場から飛び去った。
「師匠! あいつ逃げますよ!」
「解っておる、あの悪党をあのままにはできんな」
東方不敗は拳を握りしめて精神を集中させる。
「もしやあの奥義を!? 皆離れろ!」
ドモンは東方不敗が何をしようとしているのか察知し、留美達を安全な場所に移動させる。

「流派! 東方不敗が最終奥義ぃ……!」
すると東方不敗の周りの空気が震えだす、そして彼の右手にシャッフルハートの紋章が浮かび上がった。
「ワシのこの手が真っ赤に燃える! 勝利を掴めと轟き叫ぶ!」
東方不敗の両手に強大な気が収束していく、そして彼はそれをリアルドに向かって打ち出した!

「石破! 天驚けえええええん!!!!」

『な……うわあああああ!?』
ファンは東方不敗から撃ち出されたエネルギー弾を避ける事が出来ず……


―――チュドォォォン!!!


撃墜されてしまった。



数分後、東方不敗達がいる倉庫の周りにパトカーのサイレンが鳴り響いた。
「ふむ……後は警察に任せよう、行くぞドモン」
「はい師匠!」
そして二人はそのままどこかに走り去っていった。

「もう見えなくなってしまいましたわ……とりあえず明日、なのはさんにあの人たちの事を聞かなければ……」
「東方不敗……マスターアジア……」
あまりの怒涛の展開に付いていけない留美を尻目に、紅龍は興奮冷め止まぬと言った様子である決意をしていた……。



同時刻、倉庫の遥か上空……そこに一機の白いMSが、赤い粒子を撒き散らしながら留美達の様子を窺っていた。
「ふふふ……スポンサー候補の子に恩を売ろうと思って来てみれば、とんだ場面に遭遇してしまったようだね」
『三人目、四人目の招かれざる客……僕達と同じ“黒歴史の再現者”……』
「面白くなってきたよ、それで君はどうする?」
『僕はちょっと海鳴を観光していくよ、会いたい人もいるし』
「わかった、それじゃ数日経ったら迎えに来るよ」
そして白いMSはそのまま何処かに去って行った……。




数日後、翠屋のオープンカフェ、そこでなのは、フェイト、はやて、アリサ、すずか、そして留美と最近越してきたルイスは一緒に午後の紅茶を嗜みながらお喋りをしていた。
「いやー、この前は散々だったね留美―」
「散々どころの話ではありませんわルイスさん……でもあの後首領を失ったクローバーの組織はユニオン軍に壊滅させられたらしいですわね」
「うん! カタギリさんが頑張ってくれたおかげだってお父さん喜んでいたんだよ!」
「そっか、これでなのはちゃん達も枕を高くして眠れるわけやな」
「しっかしすごいわねその……東方不敗さんだっけ? 生身でMSを壊すなんて……」
「なのはちゃん達とどっちが強いかな?」
「う、うーん……出来れば戦うのは御免こうむりたいよ……そう言えば紅龍さんは? いつも一緒にいるのに?」
フェイトの質問に、留美はうんざりといった様子で答える。
「あの愚兄ですか? なんでもマスターアジアさんの戦いぶりに魅入られたらしくて……」



同時刻、高町家の剣道場、そこで紅龍はドモンやアリシアに稽古を付けていた東方不敗に向かって土下座をしていた。
「お願いします! 俺を……俺を貴方の弟子にしてください!」
「ほう、ワシに弟子入りとは……何故じゃ?」
「俺は留美を……妹を守りたいんです! そのために……貴方みたいに強くなりたいんです!」
「妹を守るか……それが貴様の選んだ道か! よかろう弟子入りを許可する!」
「あ……ありがとうございますマスターアジア!」
「バカ者! ワシの事は師匠と呼べ!」
「はい! 師匠!!!」
「ふふ、俺にも弟弟子が出来たわけか……」
「二番弟子は私だかんねー!?」
「よし! 弟子が一人増えたところで! 早速修業開始じゃああああ!!!」
「「「おおー!!」」」


そんな東方不敗の様子を、すぐ近くで剣の稽古をしていた恭也と美由希、そしてシンはやれやれといった様子で見守っていた。
「すみませーん、張り切るのはいいですけど道場壊さないでくださいねー」
「まったく……なのはの友達は本当に変わった人ばかりだな」
「え? もしかして俺も含まれています?」


こうして東方不敗は訪れた第97管理外世界で、新たな弟子を得たのだった……。




















月夜の高層ビルの上、そこに一人の16歳ぐらいの少年が下に広がる街を見回していた。
「ここは……どこだ? 俺はデスティニーに乗って……あいつと戦っていたら光に包まれて……」
するとそこに、変わった服装を着た三人の少女達が彼の元に降り立った。
「……? なんだお前達は?」
「くくく、どうやら貴様も闇の書の残滓らしいな」
「やったね! また仲間が増えたよ!」
「とにかく私達と来てください、記憶が混乱しているでしょうから私達が一から説明いたします」
「……わかった」



海鳴に三度目の嵐が巻き起ころうとしていた……。










今回はここまで、これで留美と紅龍は将来訪れる死の運命から逃れることができますね、流派東方不敗に銃弾は効きません。

さて、次回よりマテリアル三人娘と、闇の書の残滓の設定を利用したあるオリジナル?キャラが活躍する予定です、なるべくゲーム版の雰囲気が出るように頑張りたいと思います。



[22867] 第四話「迷子の魔法使い」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/05/27 23:05
 第四話「迷子の魔法使い」


東方不敗らが海鳴に来てから数日、マユはヴィータとここ数日で仲良くなったアリシアと共に近くの公園で遊んでいた。
「だーるーまーさーんーがこーろーんー……」
鬼役のマユは電灯に顔を当ててカウントをしている、すると……

――ドヒュン!

「だ! ってうひゃ!? アリシアちゃんはやーい!」
「へへん! 一番乗り!」
東方不敗の元での修業の成果で脚力を鍛えていたアリシアは一瞬のうちに、振りむいたマユと目と鼻の先にまで移動していた。
「てめえ! マユは子供だぞ! ちょっとは手加減しろ!」
「はっはっは! 勝負の世界は厳しいのだー!」
「でもうごいたからアウトだよー」
「ぬわんってこったー!!?」



「何をしとるんだあいつら……」
「でも楽しそうよね」
そんな三人の様子を、シャマルとこいぬフォーム状態のザフィーラは暖かい目で見守っていた。
「今日はいい天気ね~、はやてちゃんはなのはちゃん達と一緒にすずかちゃんのおうちに遊びに行っているし、スウェンとノワールとリインフォースはシン君とドモン君と一緒にアースラ……シグナムも走ってくるとか言ってどっか行っちゃったし」
「平和だな……」
「平和ねー」
そして二人はまったりゆっくりと遊んでいるマユ達の様子を眺めていた……。



その頃アースラにある模擬戦ルーム、そこでノワールとセットアップしたスウェンと生身のドモンが模擬戦を行っていた。
「いくぞ! 超級覇王電影弾!!」
「見切った」
「避けながらショーティー連射―!」
「ぐわ! 俺の必殺技が防がれた!?」

そしてその様子を、シンとヴィアはモニタリングルームで見ていた。
「すげー、どっちも互角だー」
「フューチャーセンチュリーの人は基本的に身体能力の高い人が他の世界と比べて多いのよね、それでもごく少数、ガンダムファイターと呼ばれる人のみだけど」
「そう言えばヴィアさん、話ってなんですか? 俺とスウェンだけ呼び出すなんて……」
「実はスウェン君の体の事なんだけど……」
「スウェンの?」
「うん、彼が何故魔法を使えるのかさっき調べてみたんだけど……彼の体の中にジュエルシードが入っていたわ」
「……!」

「ジュエルシード……一年前のPT事件の時、貴方がシンやテスタロッサ達に集めさせていたロストロギアですね」
するとそこに“リバース”の接種に来ていたリインフォースが現れた。
「うん、あの時俺の中にある以外の20個のジュエルシードはプレシアさんと一緒にどこかに行っちゃったんだけど……」
「それがどうしてスウェン君に……彼に記憶が無いのと何か関係があるのかしら?」
「スウェンが何故この世界に来たのかも気になります、何者かに連れてこられたのでしょうか……」

数分後、模擬戦を終えたスウェンとドモンはシャワールームに赴き、大量にかいた汗をシャワーの水で洗い流していた。
「? そう言えば今日はお前の師匠の姿が見当たらないな」
「師匠なら今俺の世界の方へ行っている、なんでも他のシャッフルの方達と話があるそうだ」
「シャッフル同盟って五人で編成されているんスよね? あんなのがまだ四人もいるんスか……」
「あんなのとはなんだあんなのとは!? 確かに俺も初めて師匠が戦っている姿を見た時は宇宙人か何かかと思ったが……!」
「お前も大概だな」


それから一時間後、アースラでの用事を終えたシンとドモン、スウェンとノワールはある用事の為それぞれ海鳴市の中を歩いていた……。





「それにしても珍しいな、ドモンが買い食いしたいなんて」
そう言ってシンはいまだに海鳴の町に不慣れはドモンを案内していた。
「いやー、師匠とずっと一緒にギアナ高地で修業していたから、全然甘いものを食べてないなーと思って……翠屋のケーキを食べてその欲望が一気に解放されてしまったのだ!」
ドモンは胸を張りながらお腹をグーと鳴らせて堂々と答える。
「それならまた翠屋に行けばいいんじゃね?」
「いや、実はこの前おいしい鯛焼き屋の話をアリサ達から聞いてな、是非食べてみたいと思ったのだ!」
「ふうん、まあ別にいいけど……」

そして二人はその鯛焼きが売っている露店のある公園にやってきた。
「お、アレかな……すっげーいいにおいがする」
「おおお……よだれが出てきた! 早く行くぞ!……ん?」
その時二人は露店の前で鯛焼きが作られていく行程をじっと見つめている青いツインテールの女の子がいた。
「じー……」
「あのお嬢ちゃん? 買わないなら離れてくれると助かるんだけど……他のお客さんにも迷惑だし……」
露店の店主はその場から石のように動かない少女に弱り果てていた。それを見たドモンは彼女に怒鳴りこむ。
「コラお前! 店の親父が困り果てているだろうが! それと俺が鯛焼き買えないだろ!!」
「うっさいなぁ……なんだよ……」
少女は怒鳴られて不快に思ったのか、不機嫌そうにシンとドモンの方を向いた。
「「……?」」
二人はその少女の顔を見て、思わず首を傾げる。
「……フェイト……じゃないよな?」
「アリシア、イメチェンか?」
その少女の顔は、フェイト、もしくはアリシアと瓜二つだったのだ。
「誰だそれは? 僕の名前は雷刃の襲撃者、レヴィ・ザ・スラッシャーだ!」
(あらやだあの歳で邪気眼に覚醒していましたか)
シンの背負うリュックの中に隠れていたデスティニーはレヴィと名乗った少女を憐れむ目で見ていた。
「む? なんだお前らそのバカにしたような目はー!? 僕は強いんだぞ!」
「強い……? それは聞き捨てならないな」
そう言ってドモンは手をぽきぽきと鳴らした。
「やるかー? 僕にかかればお前なんてケチョンケチョンだ!」
「ふっ、流派東方不敗の俺に敵う敵などいないのだ!」
二人は向き合うと不敵な笑みを浮かべて身構える、その時……。

―――ぐぅ~×2

二人のお腹から腹の虫が鳴いた。
「くっ……ダメだ! お腹が空いて力が出ない……!」
「お、俺もだ……!」
「何やってんだよお前ら」


数分後、三人は露店で買った餡子入り鯛焼きを頬張っていた。
「うまああああああい!」
「鯛焼きはうまいぞはやいぞかっこいいぞー!」
「とほほ、俺のおごりかよ……考えてみればドモンってこの世界のお金は持っていないよな……」
そう言ってシンは軽くなった自分の財布を見て涙をきらりと流した。
「いやーシンって言ったっけ? お前いい奴だなー、おかげで助かったよ! 僕の仲間が皆迷子になっちゃってさー」
レヴィは鯛焼きを平らげると、おごってくれたシンにお礼を言った。
「なんだ友達とはぐれたのか? 何なら一緒に探してやろうか?」
「いーよいーよ! エネルギーも補給したし僕一人で大丈夫! じゃあねー!」
レヴィは再びシン達にお礼を言うと、何処かに走り去って行った……。
「変わった奴だなあ、モグモグ……」
「世の中には似た奴が三人いるっていうけど、本当だったんだなー」
(あの子、どこかで会ったような……)


数分後、レヴィは少し離れた場所で、仲間である少女二人と再会していた。
「あ! シュテル! それにロード! やっと見つけた~! どこに行ってたんだよ?」
「それはこっちのセリフだ塵芥!」
「勝手にふらふらと……あの人も心配していましたよ」
するとレヴィは“あの人”という言葉を聞いて手をポンと叩いた。
「あそっか! さっきのシンって子……アイツとそっくりだったんだ!」
「何を言っている? それよりそろそろ始めるぞ……!」



一方その頃、スウェンはノワールと共にある本を探しに海鳴市の商店街にある本屋にやって来ていた。
「お目当ての本が売っててよかったッスねアニキー」
「ああ、それじゃ家に帰ろう……!?」
その時、二人は異様な気配を察知して立ち止まる。
「人が消えた? 結界か?」
「去年シグ姐さん達が使った結界と似てるッスね」
突如人が消え、辺りが不気味なほど静まりかえった事に気付いたスウェンはバスケットの中から出てきたノワールと共に辺りを見回す。
「とにかくはやて達と連絡を取ろう、それとリンディ提督とエイミィとも……」
「! ちょっと待ってくださいアニキ! あそこに人がいるッス!」
「何?」
ノワールが指差す方向には、空を不思議そうに見上げているメガネをかけた天パーの少年がいた。
「取り残されたのか……ノワール、もう一度隠れてくれ」
「へーいッス」
そう言って再びバスケットの中に入るノワール。それを確認したスウェンはその少年の元に向かった。
「おいそこの君……ここは危ないぞ」
「うん? ああ……解っているさ」
スウェンに声を掛けられた少年は頬笑みながら彼の方を向いた。
「ふふ、どうやら大変なことになっているみたいだねえ……これも魔導の力なのかい?」
「? 魔法の事を知っているのか?」
(……! こいつまさか……!)
ノワールが何かを感じ取る一方、少年は笑顔を絶やさず懐からある物を出しながら言葉を続ける。
「うん、よく知っているよ、魔法の事も……スウェン・カル・バヤン一等兵、君の事もね」
「……!?」
少年の手には、スウェンの名前が刻まれた軍人が首に掛けるダグが握られていた。
「お前はなんだ!? 何故俺の事を知っている!?」
「ああ、そう言えばまだ名前を名乗っていなかったね、僕はリジェネ・レジェッタ……イノベイドさ」
「イノベイド……?」
リジェネと名乗った少年は、ノワールのいるバスケットに声を掛ける。
「君も出てきたらどうだい? 久しぶりに話でもしようじゃないか」
「……あーあ、やっぱりバレてたか……」
そう言ってノワールはひょっこりとバスケットから顔を出す、すると彼の頭の中にリジェネの声が聞こえてきた。
(大丈夫、君の正体は彼に話したりしないよ)
(……一体何が目的だ?)
(つれないなあ……僕はただ真実というカードを持って彼に協力してほしい事があるんだ)
(協力?)
そしてリジェネは再びスウェンの方を向く。
「僕はね……君に会いに来たのさ、真実を伝え、協力してもらうために……」
「協力だと?」
「ああ、それは……」

―――ドゴォォォォン!

その時、スウェン達から少し離れた場所で大きな爆発音が響いた。
「……話は後だ、リジェネだったか……話は後で聞くからここで待っていてくれ」
そう言ってスウェンはノワールとセットアップし爆発音が響いた方へ飛翔した……。


「ふふふ、魔導師の戦いか、今後の為にちょっと覗いてみようか」
リジェネは妖しく微笑みながらスウェンが飛んで行ったあとを追いかけて行った……。





その頃、外でランニングをしていたシグナムもまた、異変に気付きバリアジャケットに身を包んでいた。
「なんだコレは……シャマルの仕業ではないようだが……」
その時、シグナムは何者かが近づいてくるのに気付き、レヴァンティンを構える。
「なんだこの魔力は……かつて感じた物が色々と混じったような……!?」
するとシグナムの目の前に、赤い髪の16歳ぐらいの身丈の少年が降り立ち、彼女はその少年の顔を見て驚愕した。


「シン……シン・アスカ!?」
その少年の顔は、髪の毛の色が違うとはいえ、顔はシンそっくりだったのだ。
(どういうことだ!? まるで……アスカが成長したような姿だ……!)
「へえ、アンタ俺の名前を知っているのか」
シンに似た少年はシグナムを見て不敵に笑う。
「貴様一体何者だ!? 何故アスカと同じ顔をしている!?」
「質問しているのはこっちだぜ、まあいい……今の俺はシンじゃない、俺は……」


少年は自分の身長より大きい剣を構えて答える。
「俺はヴェステージ……今からアンタをたたきのめす男だ」











本日はここまで、短いですね……まあ超級編第二部のプロローグ的位置づけですからね今回の話は。
そう言えばなのはゲーム第二弾の発売日が決まりましたね、そのゲームの内容によってはここの内容も修正しなきゃいけませんかもね。

※補足説明
リジェネには魔法は使えません、作中に出てきた念話は脳量子波によるものです、なんでノワールがそれを受信できたのかはまだ秘密です。



[22867] 第五話「接触」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/06/19 22:57
 第五話「接触」


海鳴に異変が起こって数分後、シンとドモンもまた誰もいなくなった街の中を駆けまわっていた。
「どういうことだコレは……!? 人が消えたぞ!」
「この結界、去年ヴォルケンリッターの皆が使ったのと似てるけど……」
「念話とやらは繋がらないのか?」
「うん、妨害されている……一体だれが?」
その時、外に出ていたデスティニーが何かに気付いた。
「主、この先に魔力反応がします」
「反応……? フェイト達かな?」
「これを創り出したものかもしれないぞ、注意したほうがいい」
二人はデスティニーが示した方角に向かう、するとそこには……。
「ヴィータ?」
「シャマルか!?」
何故かバリアジャケットに身を包んだヴィータとシャマルがいた。
「お前らもこの結界に閉じ込められたのか? よかった、知り合いに会えて……」
「あん? なんだお前ら?」
「え?」
駆け寄ろうとするシンに対し、ヴィータは冷たい目で睨みつける。
「お、おい、こんな時に冗談言っている場合じゃ……」
「ヴィータちゃん、この子魔力反応があるわよ」
「魔導師か……ならちょうどいい!」
ヴィータはにやりと笑うと、グラーフアイゼンを構えてシン達にじりじりとにじり寄る。
「お、おい! どうしたんだよヴィータ!? 俺が判らないのか!?」
「主、この二人どうもおかしいです……とりあえずセットアップの許可を」
「ええいもう! どうなってんだ!?」
シンは今だ状況が掴めないままデスティニーとセットアップし、背中に赤い羽根を展開する。
「やる気になったか……シャマル! 私が囮になるからその隙にリンカーコアを奪え! その後でシグナム達を探すぞ!」
「解ったわ!……ん?」
するとシンの隣に、ドモンが身構えながらシャマルの前に立った。
「何が何だか分からないが、二対一は卑怯だぞ、俺も加勢しよう」
「ドモン! でも……!」
「よそ見すんな! うりゃああああ!!」
その時、ヴィータがシンとドモンに襲いかかり、彼らのいた場所にグラーフアイゼンをたたき込んだ。

――ドゴォォォン!

「うわ!」
「迷っている暇はありません主! とにかくあのヴィータさんを戦闘不能にしましょう!」
「くっ! 分かったよ」
そしてシンは再び襲いかかってきたヴィータが振り下ろしたアイゼンをアロンダイトで受け止めた。
「ちっ! さっさと倒れろ!」
「何なんだよもう! いい加減にしろ!」
シンはアイゼンを払って空に飛びあがった後、ヴィータに向かってビームライフルのビームを急所に当てないように発射する。
「うぉ! こんにゃろう!」
そしてヴィータも空へ飛びあがり、二人は激しい空中戦を繰り広げる。その一方でドモンはシャマルと対峙していた。
「今のうちにあの子のリンカーコアを……あれ? 何これ?」
「おい! 何をするつもりか判らんがやめろ!」
「ああんもう! 邪魔しないでください!」
そう言ってシャマルは向かってくるドモンに対して指輪型のデバイス、クラールヴィントをワイヤーに付けたまま飛ばした。
「うお!? 訳の分らん武器を!」
驚いたドモンは目の前で手を円に回してクラールヴィントを払った。
「えええ!? 何なのこの子!?」
「次はこちらの番だ!」
ドモンは助走をつけてシャマルに飛び蹴りを繰り出す、しかし彼女の目の前に現れた緑色の風の壁で弾かれてしまった。
「むう!? 中々やる!」
「もう! 邪魔しないでください!」


そのころ上空のシンは、建ち並ぶビルの合間をすいすい飛びながらヴィータの魔力弾……シュワルベフリーゲンを防いだり回避していた。
「くそっ! やめろヴィータ!」
「気安く呼ぶんじゃねえ! アタシはお前なんか知らねえぞ!」
(どうなってんだ……!? あいつは冗談であんな事する奴じゃないし……)
すると隣で並んで飛んでいたデスティニーが声を掛けてくる。
「……主、少し私に考えがあります、一度あの子を撃墜しましょう」
「で、でもヴィータを攻撃するなんて……!」
「私の考えが正しければ問題ない筈です」
「う~ん……! ええいもう! やけくそだ!」
シンは散々悩んだ末にその場で急停止し、突っ込んでくるヴィータに対してビーム砲の銃口を向ける。
「うわ!? おまっ! 急に止まんな……!」
「ゴメンヴィータ!」
急停止したシンを見て慌てて止まるヴィータに対し、シンはビーム砲の引き金を引いて赤い光線を放つ、放たれた光線はそのままヴィータの腹部を貫いた。
「うわああああ!!」
「ヴィータ!」
シンはダメージを受けて墜落していくヴィータを追いかける。そしてようやく追いついた時、彼女の体は本のページとなってバラバラと崩れていった。
「う……あ……!? な、なんだよコレ……!? ああああ!!」
「な……!? ヴィータが消える……!?」
「やはり偽物でしたか」
「偽物? どういう事だよデスティニー?」
ヴィータが完全に消えたの確認してから、シンはデスティニーに話しかける。
「あのヴィータさんはおそらく去年戦った闇の書の闇の残滓が創り出した幻影でしょう」
「ええ!? だってコアはアースラのアルカンシェルで完全に破壊した筈だろ!?」
「うーん、コアは破壊出来てもその残りカスが意志を持ったとしか……ですが先程の攻撃ですぐに消えたということはあまり形を維持できないようですね」
「どうしてヴィータの姿を……?」
「恐らく闇の書に残っていた戦いの記憶を再現したのでしょう、あのヴィータさんが主の事を知らなかったのは闇の書がヴィータさんが主と仲直りしたことを知らなかったからでしょう、その時のヴィータさんしか再現出来なかったのです」
「成程じゃああのシャマルも……!」
シンはふと、先ほど出会ったフェイトそっくりの青髪の少女の事を思い出す。
(それじゃさっきの子も闇の書の? でもフェイトとは似ても似つかない性格だったぞ……)
「とにかくドモンさんの元に行きましょう、あのシャマルさんを止めるのです」
「う、うん……わかった」


数分後、ドモンはシャマルからの攻撃を軽快に回避しながら反撃の機会を窺っていた。
「な、何なのこの子!? 魔導師でもないのになんて人間離れした動きを……!」
「うおおおお!!」
ドモンはピョンピョンとバッタのように跳ねまわりながらクラールヴィントの攻撃を回避していく。
「もう! いい加減当たってよ!」
(ううう……! やはり女の人に拳を振るうのは……!)
その時、シャマルの背後から何者かがこっそりと近づいて来た。
「えい!」

――ポカッ!

「きゃん!?」
その人影……シンはアロンダイトの峰の部分をシャマルの後頭部にポカッと当てた。
「いった~! 背後から叩くなんてひっど~い!」
「ご、ごめん……」
するとシャマルの体は本のページとなって崩れていった。
「あ、あれ!? 私の体が!? なんで!?」
「この程度で消滅するとは……ある意味シャマルさんらしいですね」
「そんな~!」
そしてシャマルが完全に消滅した後、ドモンがシンの元に駆けつけてきた。
「おいシン!? シャマルさんが消えたぞ! というかヴィータはどうした!?」
「実はかくかくじかじか……」
「成程……つまりあの二人は偽物だったのか!」
「この結界も闇の書の闇によるもの……恐らく今のようなヴィータさん達のような偽物が他にもワンサカいるんでしょうね」
「他の皆は大丈夫かな……?」





その頃スウェンとノワールはリジェネと名乗る少年と共に轟音が聞こえたビル街にやって来ていた、そして彼らはそこである人物と出会う。
「シグナム……なのか?」
「……? 何者だ貴様? 何故私の名前を知っている?」
そこにはバリアジャケットに身を包んだシグナムがいた、ただし彼女はスウェンを見るや否やレヴァンティンを構えた。
「どうしたんだシグナム!? 俺が判らないのか?」
「待ってくださいアニキ、なんかこのシグ姐さん様子がおかしいッス」
「……よくわからないが我が主の為、貴様のリンカーコアを戴く!」
シグナムはそのままスウェンに向かい斬りかかってくる。

――ガキィンッ!!

スウェンはそれを反射的にフラガラッハで受け止めた。
「問答無用か」
「こーなったらちょっと縄で縛って動けなくしてムフフな事をするしかないッス!」
「はあああ!!」
シグナムはそのままスウェンの腹部にミドルキックを繰り出し彼を突き放す。
「ぐ……? 何かいつものシグナムのリアクションが違うな」
「いつもならオイラの方が縛りつけられて蚊取線香の上に吊るされている筈なのに……は!? まさかこのシグ姐さん偽物!?」
「それで判断するのもどうかと……」
「勝負の最中に何をゴチャゴチャと! 飛竜一閃!」
シグナムはそう言って空へ飛びあがりレヴァンティンからスウェンに向かって衝撃波を放つ。
「く……仕方ない、少し手荒にいくか」
スウェンは背中のレールガンでその衝撃波を相殺する。
「まだまだ!」
シグナムは臆すことなく次々と衝撃波を放つ、対してスウェンもレールガンで相殺していった。
「我が剣撃について来られるとは……!」
「この距離なら俺にも分がある」
「ショーティー召喚ッス!」
スウェンはレールガンを発射し続けたまま両手にそれぞれビームライフルショーティーを召喚して、ビーム弾をシグナムに向かって放つ。
「うおおおお!?」
シグナムはレールガンとショーティーの容赦の無い銃撃にさらされダメージを蓄積させていく。
「最後はこれだ」
スウェンは右手のショーティーをしまい、代わりに大きめで下にグレネードランチャーが付いているビームライフルを召喚して、グレネードランチャーの弾をシグナムに向けて発射する。

――ドォォォン!

「うわああああ!!!?」
シグナムはグレネードランチャーの弾の直撃を受けてそのまま地面に落下していく。
「シグナム!」
スウェンは慌ててシグナムを助けに行こうとする……その時、彼女の体は本のページとなって崩壊していった。
「こ、これは……ああああああ!!!」
「アレは!?」
「おおう……どうやらあのシグ姐さん、本当に偽物だったんスね」


そしてシグナムだった本のページの一枚一枚が地上に舞い落ちる、そのうちの一枚をすぐ近くで戦いを観戦していたリジェネが拾い上げる。
「へえ、あの剣士は本で出来ていたのか……魔導とは面白いね」
「お前……まだ避難していなかったのか、ここは危ないぞ」
「まあそう目くじら立てなくてもいいじゃないか、僕は君と話がしたいんだから」
そう言ってリジェネは消えて行くページの一枚から手を離して、降りてくるスウェンに歩み寄る。
「話か……まずは俺に質問させてくれ、イノベイドとはなんだ? お前は俺の事を知っているのか?」
「それじゃ散歩でもしながら話そうか」

そしてスウェンはリジェネと一緒に誰もいない街中を歩きながら、彼からの話を聞いていた。
「僕達イノベイドはこの世界の人類を正しく導く為にイオリア・シュヘンベルグに生み出された人間……君の故郷の世界で言うコーディネイターに近い存在かな? 出来る事は僕達の方が圧倒的に多いけどね」
「イオリア……太陽光発電の基礎理論を提唱したこの世界の歴史上の人物と同じ名前だな」
「それは彼の表向きの顔だよ、今はある場所でコールドスリープで眠っている、彼は戦いを繰り返す人類を変革するためある組織を作り行動を起こそうとしているんだけど……ここ最近少し厄介な問題に直面してね」
「厄介な問題?」
「ああ、CEの……ブルーコスモスって組織だっけ? 彼らが時空転移の技術を得てこの世界に調査隊を派遣してきたのさ」
「……!? CEが時空転移を? どうしてまた?」
「どうやら時空管理局の誰かが、ブルーコスモスと接触して彼らに技術を提供したらしい……ギブアンドテイクとして代わりにブルーコスモスが持つ技術を欲しがってね」
「そんな事をした奴がいたのか……時空管理局が得たCEの技術とはなんだ?」
「それはこっちでも調査中さ、そして時空転移の技術を得たCEは次にこの第97管理外世界に標的を定めた、僕達イノベイドを捕獲するためにね」
「お前達を? どうして?」
「君達の世界ではブルーコスモスを組織するナチュラルとコーディネイターが争っているんだろう? だからブルーコスモスはコーディネイターに対抗できる戦士がほしいのさ」
「それが……お前達イノベイドだと?」
「その通り、そして彼らは去年の五月、この世界に調査隊を派遣した……戦闘力に特化したファントムペインという特殊部隊で組織された……ね」
「ファントム……ペイン……」
スウェンは何となくそのファントムペインという組織に聞き覚えがあった。そしてそれを察知したリジェネはにこにこ笑いながら彼にある事実を伝える。
「君がその部隊の事を知っているのは当然さ、何せ君はその組織に所属していたのだから」
「…………なんだと?」





一方その頃、シンとドモンは仲間達と合流するため結界の中の街中を歩き回っていた。
「シン、まだ念話とやらは使えないのか?」
「うん、アースラとも他の皆とも繋がらない……早くこの状況をなんとかしないと」
「皆さんご無事だといいんですけど……ん?」
その時、デスティニーはこちらに近づいてくる魔力を感じて動きを止める。
「お二人とも、ここに接近する魔力が二つあります、これは……!」
「どうしたんだデスティニー……あれ?」
そしてシンとドモンはその魔力の発生源である人物を視認する。
「おい、あの二人はまさか……」
そしてその二人の人物はシンの目の前に降り立つ。
「あれ? ジュエルシードの反応がしたと思ったのに……」
「まさか、この子がジュエルシードを持っているの?」
「フェイト!? アルフ!?」
その人物はバリアジャケットに身を包んだフェイトとアルフだった。
「おいフェイト、お前達も結界の中に閉じ込められたのか?」
試しにドモンが彼女達に質問してみる、すると……。
「はあ!? なんでアンタフェイトの名前知ってんだい?」
「私、貴方達の事なんか知りません……それよりもジュエルシードを渡してください」
案の定、シンとドモンの事は知らない素振りを見せていた。
(どうやらこいつらも偽物みたいだな)
(うん、しかも記憶はPT事件の時のままだ)
「渡さないというのなら……バルディッシュ」
[Get set]
フェイトはそのままバルディッシュを構えて戦闘態勢をとる。
「や、やめろフェイト! 俺はフェイトと戦いたくなんか……!」
「私は貴方なんか知りません、邪魔しないで……!」
「よっしゃ! それじゃアタシはこのハチマキの小僧を相手にする! フェイトはそいつからジュエルシードを!」
「またこうなるのか……しょうがない、相手になってやる!」
ドモンは突然繰り出されたアルフの飛び蹴りを腕で防御し、シンはフェイトのバルディッシュの奇襲にシールドで対処した。
「くそ……! 偽物とはいえフェイトと戦うなんて……!」
シンは心苦しい思いをしながら、襲いかかるフェイトと刃を交えた……。










今回はここまで、こっちの更新がおろそかになってしまってすみません……。
次回は闇の欠片フェイトとアルフのダッグ戦と、スウェンとあるキャラとの戦いを描く予定なのでお楽しみに。



[22867] 第六話「運命の連鎖」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/07/06 22:14
 第六話「運命の連鎖」


闇の欠片のシグナムを倒し、近くのベンチで一息入れていたスウェンは、リジェネから自分の事について聞いていた。
「それが……俺の正体だというのか?」
「ああ、信じるも信じないのも君の自由だ、でももし事を成したいと思ったのなら……“僕”の仲間にならないかい?」
「……? “僕達”のじゃないのか?」
「僕はただ自分自分の定められた運命ってのを変えたいだけさ、それに……支配者ぶっている誰かさんにほえ面書かせたくてね」
「はやて達は……管理局に言うのは?」
「やめておいたほうがいい、さっきも言った通り管理局の幹部クラスの中にブルーコスモスの息が掛かった者がいる、下手をしたら君の家族にも危険が及ぶよ」
「そうなのか……ノワールはどう思う?」
スウェンは自分の肩に乗るノワールに意見を求める。
「……アニキは今日初めて会った奴の言うことを信用するんスか?」
「もちろん今すぐに信じる事はできない、だから俺は自分で確かめてみる」
「ふふふ……いいよ、僕はいくらでも待ってあげる、次に物語が動き出すのは大分先だしね」

「……! アニキ!」
その時、ノワールはこちらに接近する魔力を探知して警戒を促してきた。
「今度は誰の偽物だ……? お前は安全な場所へ!」
「ああ」
リジェネを逃がしセットアップしたスウェン、そして彼の目の前に……黒いバリアジャケットに身を包んだショートヘアで青い瞳の少女が降り立った。
「欠片達が次々と消滅していると思えば……何者ですか貴方は? リンカーコアとは違う力を感じます」
「なの……は?」
スウェンは目の前にいる少女が何となくなのはに似ている事に驚く。
「持っているデバイスもなんとなくレイジングハートに似ているッス、でもこいつ……」
「私の名は星光の殲滅者、シュテル・ザ・デストラクター……我々の目的の障害になる貴方を排除しに参りました」
「こいつも偽物か、なのはは排除なんて言葉は使わない」
現れた少女……シュテルを敵と判断したスウェンはフラガラッハを手に持って身構える。
「この町を守るためだ、もう一度眠ってもらうぞ」
「闇の書完成の為……礎になりなさい」
そして両者は高く飛び上がり、互いの武器を火花を散らしてぶつけ合った。



一方シンとドモンは闇の欠片のフェイトとアルフ相手に苦戦していた。
「ちい! 猿みたいにすばしっこい奴だ!」
「これぐらいの攻撃、見切れなきゃやってられんからな! そっちはどうだシン!?」
地上ではドモンが闇の欠片のアルフの連撃を凌いでいる間、シンは空中で闇の欠片のフェイトの攻撃から逃げ回っていた。
「くそ! やめてくれフェイト! 俺は戦いたくないんだ!」
「私はそうはいかないのです……! ジュエルシードを渡してください!」
本物じゃないことが判っていても、シンはフェイトを攻撃することが出来ないでいた。
「どうするんだ!? こいつらを倒しちゃダメなのか!?」
「ど、どうする……! このままじゃ二人とも……!」
「何をゴチャゴチャと! そろそろ本気にさせてもらうよ!」
そう言って闇の欠片のアルフは人間形態からメキメキと狼形態に変身する。
「お、狼……! そう言えばお前もザフィーラと同じだったな……!」
「なんだい!? 私の姿を見てブルっちゃっているのかい!?」
「く、くっそ~!」
「大ピンチだなコレ……!」
そう言ってシンはドモンの様子に目配せしながらビルの影に隠れる。
「あの子、一体どこに……!?」
闇の欠片のフェイトはシンの姿を見失い、辺りをうろうろと飛びまわる。一方シンはビルの中から彼女の様子を窺っていた。
「あーもう! フェイトの姿をしているとやりにくいなー!!」
「大声出すと見つかりますよ、それにしても偽物と判っているのに攻撃しないなんて……主はフェミニストなんですね」
「そんな事言ったって……」
デスティニーに指摘されシンは不機嫌そうに頬を膨らませた。



一方ドモンは闇の欠片のアルフの爪や牙の攻撃を凌ぎながら、反撃の糸口を探していた。
(どうすればいい!? どうすればこのアルフに勝てる……!?)
「おらおら! このまま噛み砕いてやるよ!」
そう言ってアルフは牙をむき出しにしながらドモンに襲いかかる。

――びりっ!

「うお!?」
するとアルフの牙はドモンのわき腹辺りをかすめ、ジャケットの一部を噛みちぎってしまった。
「あ、危なっ……! 危うく腸を持っていかれる所だった……!」
回避が失敗した時のもしもを思い浮かべて、ドモンは汗をだらだらとかき始める。
「はっはっは! ビビってんのかい!? ガキは大人しく家でゲームでもしてな!」
「な、なにおう……! む?」
ふと、ドモンは先ほどからアルフから牙による攻撃しか受けていない事に気付いた。
(そうか、狼は武器を持つことが出来ない上に、足は飛びだす時に使うから牙でしか攻撃できないんだ……!)

そしてドモンは、過去に東方不敗から教わった事を思い出していた。
『よいかドモン、狼にとって牙は最大の武器にして最大の弱点でもあるのじゃ』
『最強の武器が弱点……!? 何故ですか師匠!?』
『狼にとって牙は唯一の攻撃手段……もしそれを失えば戦う術を失う、狼には武器を持つ手を持っていないのじゃからな』
『成程……! では牙による攻撃を無効化すれば!』
『後れを取ることは無い、ただしその方法を取るには十分な度胸と勇気が必要になるがのう』
『そ、その方法とは!?』
『それはな……“肉を切らせて骨を断つ”!』



「肉を切らせて骨を断つ……そうか!」
するとドモンは徐に破れた上着のジャケットを脱ぎ、自分の右腕に巻き付けた。
「何してんだい!? あきらめたってんならこっちから行くよおおおお!!」
闇の欠片のアルフは動きを止めたドモンに襲いかかる、するとドモンは上着を巻き付けた右腕をアルフに向かって突き出した。

――ガチィィィィ!!

「ふがっ!?」
アルフはそのまま右腕に噛みつくが、頑丈に巻きつけられて固くなっている上着に思ったように牙を差し込む事が出来ず、噛みついたまま動けなくなってしまった。
「肉を切らせてぇぇ……!!!」
ドモンはそのまま腰を落とし、空いていた左腕でアルフの顎を抱える。
「ふごごご!!?」
「骨をぉ……!」
そしてアルフの大きな体を、腕を噛ませたまま天高く持ち上げる……例えるならプロレス技のブレンバスターの態勢だった。
「たあああああつ!!!」
そしてドモンはそのまま背中から地面に倒れ込み、腕に噛みついたままのアルフを背中から地面にたたきつけた。

―――ドッゴォォォォ!!

「ぎゃいん!!?」
背中と、おまけに脳天に強い衝撃を受けてアルフは痛さのあまり地面に転げまわる。
「どうだ!? 流派東方不敗を舐めるな!!」
そう言ってドモンは一旦アルフと距離を取る。
「や、野郎……! あったまきた!!」
すると闇の欠片のアルフは人間形態に戻り、手をペキペキと鳴らしながらドモンに一歩一歩近づいていった。
「ん? もしかして怒らせた?」
「もうアンタは許さん! 全身の骨という骨を粉々にしてやるよ!」
そしてアルフは駆け出してドモンとの距離を一気に詰める。
「うお!?」
「くたばれええええ!!!」
アルフの怒りのこもった右ストレートがドモンの顔面目掛けて放たれる、対してドモンはとっさに右掌を出してストレートを受け止めた。

――バチィン!!

掌から乾いた音が鳴り響いた。ドモンはそのまま足を地面にしっかり引っ掛けて吹き飛ぶのを防いでいた。
「ん!? んぐうううううう!!!」
「な、なんだ!? 掌が光って……!?」
ふと、アルフは自分の拳を受け止めているドモンの掌が光っている事に気付いた。

――ドォン!!!

「う、うわあああああ!!?」
そして急に熱くなったかと思うと、アルフはそのまま遥か後方に吹き飛ばされ、近くのビルの壁に激突していた。
「が……はっ……!」
「な、なんだ今の技は……!」
ドモンは自分自身、先ほど自分が出した新たな技に驚いていた、そしてビルに激突したアルフの体は、そのままいくつもの本のページとなってバラバラと消滅していった。
「な、なんだコレ……うわああああ……!!!」
「む……偽物とはいえ少し複雑な気分だ……」


一方アルフの消滅を確認したフェイトは、何が起こったか解らずオロオロしていた。
「あ、アルフが消えた!? 一体何を!?」
「お、それはその……」
シンは闇の欠片のフェイトに対し真実を言うのを躊躇っていた。
(本物のフェイトはプレシアさんに出自を明かされ傷ついていた……俺に同じ事なんて出来ないよ……!)
「アルフを……返して!」
闇の欠片のフェイトは隠れていたシンを発見すると、鬼の形相で切りかかってきた。
「うわ!? や、やめてよフェイト!」
「主! 彼女は……!?」

その時、デスティニーはこちらに近づいてくる二つの反応を感じ取る。
「……! こちらに誰か近づいてきます! 警戒を!」
「だ、誰かって誰!?」

その時、シンと闇の欠片のフェイトの間に一筋の光線が割って入り、二人は互いに距離を取ることでその攻撃を回避した。
「っ……! 今のは!?」
「アレはスウェンさんと……なのはさん?」



スウェンはシュテルの攻撃から逃げ回っているうちに、シンと闇の欠片のフェイトが戦っている場面に遭遇する。
「シン!? 無事だったか!」
「スウェン! あのなのはは……!?」
「なのはの偽物だ、どうやらそっちも同じ状況らしいな」
「まあね……!」
そう言って合流したスウェンとシンは背中を合わせながら互いの敵に向かい合っていた。

「む? あれは……」
シュテルはスウェンとシン、そして闇の欠片のフェイトを見て自分のデバイス……ルシフェリオンの先端を彼らに向けた。
「ちょうどいい、一気に片付けてしまいましょう」
するとルシフェリオンの先端に膨大なエネルギーは収束されていく、それを見たシンは慌てて下にいるドモンに声を掛ける。
「まずい! ドモン逃げろ! スターライトブレイカーが来るぞ!!」
「ん? なんだそれは?」
「いいからはやく! そこにいると吹き飛ばされるぞ! そこのフェイトも!」
「え?」
闇の欠片のフェイトは自分まで逃げるよう指示されるとは思わず、間の抜けた声をだしていた。

「集え明星、すべてを焼き消す焔となれ!」
詠唱と共にシュテルの足元に巨大な魔法陣が展開されていく。
「ルシフェリオンブレイカー!!」
そしてルシフェリオンの先端から膨大なエネルギーがシン達に向かって放出された。
「うわ!!」
「くっ!」
「きゃ!!」

――ドォォォォン!!

ルシフェリオンブレイカーはそのままシン達をかすめて、すぐ後ろにあったビルを木端微塵に破壊してしまった。
「! 気を付けろ! 破片が降ってくるぞ!」
スウェンはとっさにシン達に注意を促す、するとシンは何を考えてか、突如闇の欠片のフェイトに飛び付いた。
「危ない!」
「え?」
すると二人の頭上に破壊されたビルの細かい破片が降り注ぎ、シンは身を呈してフェイトを守った。
「痛っ! くっ!」
シンは後頭部や額に破片をぶつけて頭から血を流しながらも、フェイトを傷つけさせまいと彼女を必死に庇い続けた。
「な、なんで……」
闇の欠片のフェイトはシンの行動が理解できなかった、そして二人はそのまま地面に着地する。


「仕留めそこないましたか、ではもう一発……」
シュテルはシン達が無事なのを確認すると、すぐさまルシフェリオンブレイカーの二射目の態勢に入った。
「シン! もう一発くるぞ!」
スウェンはすぐさま地面にいるシンに警告するが……。
「や、やばっ……頭がふらふらしてきた……」
闇の欠片のフェイトを庇った事により頭を負傷したシンは、スウェンの声が届いていなかった。
「ルシフェリオンブレイカー!!」
するとシンに向かって二発目のルシフェリオンブレイカーが発射される。すると……。
「! 危ない!」
闇の欠片のフェイトがシンの前に立ち、魔法障壁を展開して彼をルシフェリオンブレイカーから守ったのだ。
「フェイト!?」
「ううううう!!」
闇の欠片のフェイトは苦痛に顔を歪ませながらもルシフェリオンブレイカーを耐えきり、攻撃が終わると前のめりに倒れてしまった。
「フェイト!」
シンは必死に意識を覚まさせながら倒れたフェイトを抱き上げる、すると彼女の体は徐々に本のページとなって消えて行った。
「そっか……私は幻だったんだね……」
闇の欠片のフェイトは自分が何者なのかを悟り、自嘲気味に笑みを浮かべていた。
「ゴメン……本当の事を言ったら傷つくと思って……」
「優しいんだね、君は」
「そ、そんなことないよ……」
本物ではないとはいえフェイトに褒められ、シンは顔を赤くしていた。
「迷惑かけてごめんね、助けてくれてありがとう……本物の私によろしくね」
「あ……」
そう言い残して闇の欠片のフェイトは消滅し、シンはやりきれない気持ちに苛まれていた。


「また仕留めそこないましたか……」
その様子を見ていたシュテルは、自分の中いある魔力残量に歯噛みしながら、近づいてくるスウェンを見て身構える。
「これ以上罪を重ねるのはやめろ」
「罪……ですか、生き延びたいと思うのは罪ですか?」
「何?」
シュテルは向かってくるスウェンに対してルシフェリオンを振り下ろす、対してスウェンはフラガラッハで受け止めた。
「生き延びる……? どういうことだ?」
「貴方はただ大人しく魔力を提供してくれればいいのです、何も知る必要はないのです」
そしてスウェンとシュテルは激しいつば競り合いを展開する。
「武器のリーチはこちらの方が上です」
「成程……接近戦もこなすか、なのはも鍛えればこれぐらいいけるか?」
スウェンはシュテルの戦力を冷静に分析しながら状況を打開する為の作戦を考えていた。
「なら……これだ」
そしてスウェンはシュテルから三メートルほど距離を離し、腕からアンカーランチャーを発射した。
「……!!」
発射されたアンカーランチャーはシュテルの持つルシフェリオンに巻き付いた。
「油断しました……まさかそんな武装まであるとは」
「すまないがそのデバイスは破壊させてもらう」
スウェンは空いている方の手でビームライフルを持つ。

――バキンッ!

そして銃口からビームを放ってルシフェリオンを破壊した。
「……私の負けです」
「あっさりと認めるんだな」
「ルシフェリオンが壊された以上、私に戦う術はありません」
「そうか……」
そう言ってスウェンはアンカーランチャーでシュテルの両手を背中で縛り、そのままシンとドモンの元に降り立った。
「おお! 生け捕りにしたのか! やるなスウェン!」
「まあな……大丈夫かシン?」
スウェンは闇の欠片のフェイトが消えた事にショックを受けている様子のシンを気遣う。
「……俺は大丈夫だよ、それにしても助かったよスウェン」
「いや……俺の戦闘に巻き込んですまなかった、お前達もなのは達の偽物と戦っていたのか?」
「ああ、ヴィータとシャマルとフェイトとアルフが現れた、まあ全部倒したがな」
「そっちも大変だったみたいだな」
「こっちではシグナムの偽物が……そう言えば一般人を保護したんだ、今連れてくる」
スウェンはリジェネの事を思いだし、安全な所に避難しているであろうリ彼を探しに行こうとした。

「スウェン! シン! ドモン!」
その時、彼らの元にアースラに残っていた筈のリインフォースとクロノがやってきた。
「あ! リインフォース! それにクロノも!」
「あいつが来たということは……」
するとシンとスウェンの元にアースラにいるエイミィから念話が入ってくる。
『やっと繋がった~! 三人とも無事!?』
「エイミィ!」
「どうやらこいつを無力化したお陰で結界が弱まったみたいだな……」
「……」
そう言ってスウェンは自分が捉えているシュテルの顔を見る、彼女は騒ぎもせずただただじっと眼を瞑っていた……。










その頃、スウェン達から大分離れた場所に移動していたリジェネは、ある人物が迎えに来るのを待っていた。
「……来たか、0ガンダム」
すると彼の目の前に、背中から光の粒子を撒き散らしている白いMSが降りてきた。
『迎えに来たよリジェネ、観光はどうだったい?』
「楽しかったよリボンズ……よい友達も出来た」
『そうか、それはよかった……それじゃ管理局に補足される前に戻ろう、GN粒子の事を勘づかれたら厄介だからね』
「ああ」
そしてリジェネはスウェンがいる方向を一瞥した後、白いMS……0ガンダムに向かって歩いていった。





(待っているよスウェン・カル・バヤン……君が僕の同志になってくれるのを……)










本日はここまで、これにてリジェネの出番は一旦終わりです、しかし彼は後に色んな意味でこのSSの重要なキーマンとなっていきます。今後の動向にも注目です。

ちなみにドモンが途中でアルフを倒す際に使った技はシャイニングフィンガー(未完成)です、握りつぶすタイプというより石破天驚ゴッドフィンガーに近いタイプですね。

超級編もエピローグ含めると残り3話、なるべく今月中に終わらせられるよう頑張ります。


それとその他板の方にガンダムWとそらのおとしもののクロス小説を投稿させていただき、先日完結しました。
このSSと話が繋がっていますのでそちらの方も見ていただけると嬉しいです。



[22867] 第七話「闇を統べる者」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/07/12 22:29
 第七話「闇を統べる者」


無事リインフォースとクロノと合流できたシン、スウェン、ドモンは彼らから今の現状を聞いていた。
「じゃあフェイトやなのはやフェイトも事態の収拾にあたっているんだ?」
「ああ、騎士達が結界の中にいて連絡が取れなくてな……皆で探し回っていた所だったんだ」
「確かマユとアリシアも遊んでいて一緒にいた筈だけど……」
シンはマユ達がヴィータ達と遊びに行っていた事を思い出し不安がる、そんな彼に対しスウェンは肩に手をポンと置いた。
「ヴィータ達が一緒なら大丈夫だろう」
「アリシアもいる、あいつも師匠の弟子だからな」
「それでも急いで見つけたほうがいいのには変わりない、でもその前に……彼女をどうするかだな」
そう言ってクロノは縛られたままのシュテルを見る。
「敵の施しを受けるつもりはありません、好きにしてください」
「ドライな奴だ……どうするんだクロノ?」
「うーん……彼女はいわば闇の書の防衛システムだったものだ、言いたくないが最悪消滅させなければならないか……」
クロノはドモンの質問に歯切れの悪い答えしか出せなかった。
「そもそもどうしてこいつらなのは達と同じ姿をしているんだ?」
「恐らく闇の書の戦いの記憶が騎士達を創り出したのだろう……この子は核となる存在だから独自の自我を持っているようだが」
「ふーん」
リインフォースの説明を聞いて、シンはまじまじとシュテルを見つめる。
「そんで? このなのはさん2Pカラーは結局どないするんッスか?」
「……なあハラオウン、この子を消してしまうのは待ってくれないだろうか?」
「何?」
リインフォースの提案にクロノは意外そうな顔をする。
「この子もいわば闇の書が悪意ある改変を受けた結果生まれた者だ……出来る事なら生きる道を示してあげたい、お前達が私にしてくれたように……」
「そうだな、救う術があるなら俺もリインフォースの意見に賛成だ」
スウェンもリインフォースの意見に賛成し、シンやデスティニーやノワールもこくりと頷いた。
「それもそうだな、母さ……艦長もどうせ“また使える戦力が増えてラッキー”とか言いそうだし……」
「このまま倒しても半年後くらいに復活しそうですもんね、未来人引きつれて」
「いや、なんか私を助ける方向で話が進んでいますけど……私魔力を集めないと消えるんですけど?」
シン達の話し合いを聞いて横やりを入れてくるシュテル。
「安心しろ、管理局には私が信頼する腕の立つ科学者がいる、お前もお前の仲間もきっと救ってくれるだろう」
リインフォースは自信満々といった様子でそんなシュテルに微笑んだ。
『おーい皆―、話は終わったー?』
するとそこにアースラからエイミィが通信を入れてきた。
「大体終わった、とりあえずこのマテリアルの子は僕がバインドを掛けておく、今からアースラに転送させるからヴィアさんを呼んでおいてくれ」
『りょーかい!』
エイミィに指示を出しながらクロノはシュテルにバインドを掛け、彼女をアースラに送った、そして……今後の方針についてシン達に意見を求めた。
「さて、今後についてだが……この子のような闇の欠片のコアはあと三つ確認されている、僕らはシグナム達を探しながらその三つの捕縛を行おうと思う」
「異議なし! いいかげんこんな結界ぶっ飛ばして家に帰りたいよ!」
「だな、このままでは夕飯が間に合わなくなる」
「我が主と高町なのは、フェイト・テスタロッサがそのうちの一つと接触しようとしている、だから我々は二手に分かれて残り二つの確保に向かおう」
「チーム分けか……ここには五人いるがどうする?」
「ならアニキとリインがいっしょのほうがいいッス! 家族だしチームワークいいだろうし!」
「なら僕とシン、そしてドモンでチームを組んでもう一つの反応に向かおう、それじゃ行動開始だ!」

そしてシン達は二手に分かれて闇の欠片のコアを捕縛しに動き出した……。

「あ、そう言えばリジェネは……保護しなければ」
「まあ飛びながら報告しとけば、後が管理局の人達が探してくれるッスよ(もう帰ったっぽいけど……)」



~スウェン、リインフォースチーム~
シン達と別れたスウェンとリインフォース、そしてノワールは闇の欠片の反応がした海鳴の海上を目指し魔法で飛翔していた。
「確かに反応はこの先なんだな?」
「ああ、アースラが発見したから間違いな……!?」
その時、リインフォースはある者を発見して急停止する。
「どうしたリインフォース?」
「アニキ! あそこで誰か倒れているッス!」
「あれは……シグナム!!」
リインフォースの視線の先には、腕に怪我を負って木に寄りかかっているシグナムの姿があった。
「シグナム!?」
スウェン達は慌ててシグナムの元に降り立つ。
「三人とも……無事だったか」
「姐さんは無事っぽくないッスよ!」
「今治癒魔法を掛ける」
そう言ってリインフォースはシグナムを座らせ、血がにじみ出ている右腕に治癒魔法を掛けた。
「シグナム、一体何があったんだ?」
「すまない、私とあろうものが油断した……気を付けろお前達、我々の偽物の中に飛びきり強いものが……」


「くっくっく……見つけたぞ塵芥!!」
その時、スウェン達の元に黒いバリアジャケットに身を包んだミルク色のショートヘアに蒼い瞳の少女が降り立った。
「……!!? 主!?」
「いや違う、こいつは……」
「今度ははやて姐さんの2Pッスか!」
スウェン達はその少女の姿がはやてに似ているのに驚く。
「ヴェステージめ……獲物にトドメを刺し損ねるとは、こうなれば闇を統べる王である我、ロード・ディアーチェ自らが引導を渡してやろう!」
「なんか……あのシュテルってやつもそうッスけど、こいつも性格ははやて姐さんと全然違うッスね」
「個性的だな」
するとシュテルと名乗ったはやて似の少女はスウェン達に気付き、持っていた杖……エルシニアクロイツの先端を向けた。
「何をぶつくさ言っている塵芥……そいつと共に我に狩られたいか!」
「……リインフォース、シグナムを連れて離れていろ」
「わかった、無茶をするなよ」
「す、すまない……」
リインフォースはスウェンの指示に従い、シグナムを連れてその場を離れて行った。
「ふん、雑魚は雑魚同士傷のなめ合いでもしているがいい、我が後で残らず我が狩ってやるがな」
「ますますはやてと似てないな……もう別人と言ってもいいか」
「ですねえ、自分で闇を統べるとかイタイこと言わないッスよねあの人」
「そこの羽虫……! 我を愚弄したな! 我が魔法で串刺しにしてくれる! エルシニアダガー!!」
そう言ってロードは手からはやての使うブラッディダガーに似た魔力弾をスウェンに向かって放つ。
「おっと」
スウェンはそれを横っ跳びで回避してそのまま空へ飛びあがる。
「これ以上街を破壊させるわけにはいかない、海まで誘導するぞ」
「ぶ・ラジャー!」
そう言ってスウェンはショーティーでロードを牽制しながら海の方へ向かう。
「チッ! 小癪な!」
ロードは舌打ちしながらスウェンを追いかけて海のほうへ飛んで行った。


数分後、二人は海鳴市近海の上空で対峙する。
「さて……ここなら好き勝手暴れられるな」
「ふん! どのような策を練ろうと我に勝つことはできん! ドゥームブリンガー!!」
ロードは広範囲の放射弾をスウェンに向かって発射する、対してスウェンは魔力障壁で防ぎながらロードに突進していく。
「はっ!」
そして目と鼻の先まで接近し、フラガラッハを振り下ろした。
「なんの!!」

――ガキィン!

ロードはそれをエルシニアクロイツで火花を散らしながら防いだ。
「我に斬りかかるのは百年早いわ無礼者!!」
ロードはそのままスウェンの腹部に膝を蹴り込み、彼との距離を離した。
「ぐ……! 接近戦もそれなりにこなすのか」
「それでもあの子ははやて姐さんと同じ指揮官タイプ、一対一のガチンコでぶつかるのは苦手と見ましたッス」
「距離を離しすぎないよう一定に保つしかないか……」
スウェンはこれまでの戦いでロードの戦闘力を冷静に分析しながらアンカーランチャーを発射した。
「ふん! こんな低レベルの武器で!」
ロードは自分に向かって発射されたアンカーランチャーを魔力障壁で防ぎ、エルシニアダガーで反撃する、対してスウェンは飛翔する高度をあげて回避しながらショーティーやレールガンで反撃する。
「ふん! 塵芥のくせに中々やるな……! だがこれならどうだ! アロンダイト!」
「アロンダイト?」
するとエルシニアクロイツの先端から魔力の光線が発射される。
「あ、そういうなのか技か」
「デスティニーのと同じ名前だからてっきり剣でも出すのかと思ったッス」
そう言ってスウェンは光線をあっさり回避する。
「おのれ! そんな余裕たっぷりでいられるのも今のうちだ!」
ロードはエルシニアダガーの量をさらに増やしてスウェンに浴びせる。
「くっ! うう……!」
スウェンはあまりの猛攻に耐えきれず、ロードからさらに距離を離してしまう。
「ふはははははトドメだ! 絶望にあがけ塵芥!」
そう言ってロードはエルシニアクロイツを天高く掲げ、巨大な魔法陣を展開させる。
「ん……これはヤバいな」
「ならこっちも必殺必中ぅ!」
対してスウェンも足元に巨大な魔法陣を出現させ、瞳を閉じて深呼吸しながら両手にショーティーを持ったまま詠唱を開始する。
「悲劇の闇を斬り裂く銀の閃光、その名は星の扉へ導く光……」
すると彼の目の前に、今度は銀色の魔法陣が展開する。
「滅びろ! エクスカリバー!」
次の瞬間、ロードから巨大な三つの光線がスウェンに向かって発射される。
「ハルバートブレイカー!!」
対してスウェンは目の前の魔法陣にショーティーの弾を撃ち込み、さらに二本のフラガラッハを手に取り、交差させるように振り下ろした。

――ドォォォォォォォォォォォォォン!!!

両者の最大の魔法が空中で激突し、辺りに衝撃波が襲いかかる。
「ふん! そんな矮小な魔力で……!」
ロードは自分が放ったエクスカリバーの方が威力が高いと確信しにやりと笑う。するとスウェンは……。
「ならダメ押しだ」
背中のレールガンを発射態勢に展開し、銃口にエネルギーを充填させる。
「な、なんだと!?」
「終わりだ、闇統べる王」
そしてレールガンのビームが魔法陣に向かって発射され、ハルバートブレイカーの威力が増大する。
「う、うわあああああ! この……この我があああああ!!!」
ロードは目の前の出来事を受け入れられないまま、エクスカリバーごとハルバートブレイカーの光に飲み込まれて、意識を失いそのまま海へと落ちていった……。
「とりあえず助けるか……」
スウェンはロードが海に落ちた事に気付き、彼女を追って自分も海に入って行った。
「がぼ! がぼぼぼ!! 我は泳げないのだー! 誰か助けろー!」
「落ち着け、力抜けば自然と浮け(ゴッ!)痛っ!」
「うわー、もろ鼻に入った」
溺れて暴れまわるロードを助けようとして、彼女に鼻を痛打されるスウェン。
「ノワール……後でティッシュくれ」ダクダク
「はー! はー! 殺す気か塵芥!」
スウェンはロードを抱えて陸に上がり、ノワールにティッシュを鼻に詰めてもらう、するとそこにリインフォースが現れた。
「終わったようだなスウェン」
「ああ、この子を管理局に送ってくれ」
「管理局だと!? いやだ絶対行かん! 貴様らそうやって我を実験動物にする気だろう! くそっ……離せ!」
そう言ってロードはスウェンんに抱えられたままジタバタと暴れ出す。
「落ち着け」
スウェンは彼女を落ち着かせるため、彼女の瞳をじっと見つめる。
「うっ……?」
「少なくともリンディさんやヴィアさんはお前にひどい事はしない、お前達を救うためだ……俺達を信じてくれ」
ロードはスウェンにじっと見つめられ、思わず頬を赤らめる。
(な、なんだこやつ……よく見ると中々端正な顔立ちではないか、そんな情熱的な目で見られたら我は……!)
「……判った、言うとおりにする……」
ロードは自分の胸の鼓動が高鳴るのを感じながら、スウェンの提案を飲み大人しくなる。
「よし、彼女は私に任せてスウェンは……」
「……少し休ませてくれ、流石に大きな魔法を使って疲れた」
そう言ってスウェンはリインフォースにロードを託すと、その場に座り込んだ。
「あと2つか……シン達は大丈夫か?」



~シン、ドモン、クロノチーム~
その頃シン、ドモン、クロノは闇の欠片の反応があった公園にやってきた。
「確かこの辺に反応があった筈なんだが……」
「誰もいないのか? ん? あそこにいるのは……」
すると公園に置いてあった土管の陰から……。
「あ! おにーちゃん!」
「クロノ君にドモン君! 来てくれたのね!」
マユとシャマルとアリシアが出てきた。
「マユ! 無事だったか~! よかった!」
そう言って駆け寄ってきたマユを抱きとめるシン。
「このシャマルは……どうやら本物らしいな」
「その口ぶりから察するにドモン君達も偽物と遭遇したみたいね」
「こっちもザフィーラとかなのはとかユーノとかの偽物が出てきて大変だったんだよ~!」
よく見るとシャマルの体は数々の戦いで少しボロボロになっていた。
「そうだったのか……他の皆は一緒じゃないのか?」
「実はさっきテスタロッサちゃんのそっくりさんが襲ってきて、今ヴィータちゃんとザフィーラが上空で戦っているわ」
「あのね! あのフェイトちゃん髪の毛水色だったよ!」
「水色の髪のフェイト……!」
シンとドモンはマユの証言で先程のタイヤキ屋での一件を思い出し、互いに顔を見合わせる。
「どうした二人とも? 何か心当たりがあるのか?」
「ああ、実は結界が張られる前、俺達水色の髪のフェイトのそっくりさんと会っているんだ」
「あいつが闇の欠片だったのか……」
「とにかく僕達も援護に行こう、ドモンは空を飛べないだろう、ここでシャマル達と待っていてくれ」
「くっ……! わかった!」
ドモンは口惜しそうにヴィータ達の援護に向かったシンとクロノを見送った。



数分後、シンとクロノはヴィータとザフィーラが戦っている海鳴市上空にやって来た。
「あ! あそこだ! おーいヴィータ!」
「おおシンじゃねえか! それにクロノ! 遅いぞバカヤロー!」
そう言ってヴィータはシュワルベフリーゲンを放ちながら二人の元にやってくる。
「目標は?」
「ほら、あそこでザフィーラと戦っている」
ヴィータの指差す先には……。


「とおりゃああああ!!」
「くっ!」
ザフィーラがフェイトに似た蒼い髪の少女の攻撃を凌いでいた。


「あれは……やっぱりレヴィ!」
「知っているのかシン」
「ちょうどいいや! アタシ等であいつを仕留めようぜ、すばしっこくって攻撃が全然当たらねえんだ」
「ちょ! ちょっと待ってくれよ!」
皆で攻撃しようと提案するヴィータに対しシンは待ったを掛ける。
「なんだよ、あいつはフェイトじゃねえぞ、あいつは闇の書の……」
「そ、それは判っているけどちょっと待ってくれよ、あのレヴィって子はそんなに悪い奴じゃない、リインフォースも言っていたけど改変ってやつでこんな事しているだけで……話せばきっと判ってくれるよ!」
(それにさっきみたいにフェイトの顔をした子を倒すような真似はしたくないし……)
「話せばか……何か勝算でもあるのか?」
「うん……一応作戦はある、やるだけやってみるよ」

そしてシンはザフィーラと戦っているレヴィの元に向かい、彼女に大声で話しかけた。
「レヴィ俺だ! 話を聞いてくれ!」
「シン……?」
「あ! タイヤキくれた奴! お前管理局の仲間だったのか!」
レヴィはヴィータやクロノと一緒にいるシンを見て自分のデバイス……バルフィニカスを構える。
「落ち着け! 俺は君と戦いに来たんじゃない! 話し合いに来たんだ!」
「話し合い!? なんだそれ!?」
「レヴィが俺達と戦う必要は無いんだよ! 闇の書を完成させる必要はないしヴィアさんが君達を助けてくれる! リンディさんだって悪いようにはしないよ!」
「嘘だ信じないぞ! 今までだって僕は管理局にひどい目に遭わされたんだ!」
レヴィは過去の闇の書の記憶から管理局を信用していなかった。
「大丈夫だって! 俺達が守ってやるから! 現にレヴィの仲間のシュテルはもうこっちが保護したんだぞ!」
「シュテルが捕まった!? そんな……」
「レヴィもこっちに来い! 大丈夫だから!」
手を差し伸べるシンに対し、レヴィの心は揺れ動き始めた。
「でも……それでも僕は雷刃の襲撃者として……」

その様子を見ていたクロノとヴィータは、シン達に聞かれないよう小声で合図を送り合っていた。
(クロノ、もし相手が応じなかったら……)
(僕達で止めるしかないか、とにかくもう少し様子を見よう)

一方中々折れないレヴィに対し、シンはある提案をひらめいた。
「そうだ! もしこっちに来てくれるならタイヤキ好きなだけ奢ってやるよ!」
「え! ホント!?」
「おいシン、そんな提案に相手が応じる筈が……」
「うぅ―――――ん……毎日食べさせてくれる?」

「おい応じようとしてるぞ」
「あれー!?」
レヴィの予想外の反応にずっこけそうになるクロノ。

「毎日……こ、小遣い足りるかな……なるべく頑張ってみるよ!」
「ど、どうしよう……こんな時レヴィがいれば相談に乗ってくれるのに……」
シンの提案にかなり心が揺れ動いているレヴィ。
(よし、後ひと押しだ……あと少しで……)
対してシンは彼女に自分の手を差し伸べようとした、その時……。
「! シン!」
突如ザフィーラがシンの首根っこを掴み、その場から下がらせる。
「ぐぇ!? 何を……!」
次の瞬間、さっきまでシンがいた場所に無数のビーム弾が降り注いだ。
「な、なんだコレ……」
「もしかして!」
レヴィはビームが放たれた方角を見る、それにつられてシン達も同じ方角を向いた、そこには……。
「な、なんだと!? アレは……」
「俺……なのか?」
シンとよく似た顔をした、16歳ぐらいの少年がビームライフル片手にシン達を見下ろしていた。
「おいおいレヴィ……食べ物なんかに釣られるなよ」
「ご、ごめんねヴェステージ!」
そう言ってレヴィはヴェステージと呼んだシン似の少年に抱きついた、
「な、なんだアイツ……どうして俺の顔を……!」
シンはヴェステージが自分が成長したような容姿をしる事に驚いていた、だがそれ以上に驚いている者が彼の隣にいた。




(成程……シン・アスカ自身の記憶ではなく、私の記憶を使って彼を作り出したのですか、闇の書……!!!)

デスティニーは目を見開いて、しかしどこか納得している様子でヴェステージを見ていた……。










今回はここまで、次回で超級編はとりあえずの最終回を迎えます。
ホントはこのままレヴィが仲間になって一緒にヴェステージと戦うという展開にしようと考えていましたが、それだとあまりにもレヴィひどいだろうということでやめました。そのうちマテリアルズとヴェステージの関係を補足する短編も書くつもりです。

それと今回出したスウェンのオリジナル必殺技ハルバートブレイカー、As編で出した時より演出を変えてみました。 目の前に展開した魔法陣にショーティーの弾を撃ち込んでエネルギーを溜め、膨れ上がった所でフラガラッハで打ち出す、調子がいいとレールガンでさらに追撃が可能……と、演出はちょっと最近ハマッた龍が如くやゴーカイジャーの影響も受けています。



[22867] 最終話「Silent Bible」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/07/15 16:34
シンはクロノ達と共にレヴィと……自分とそっくりな顔をした男と対峙していた。
「なのは達同様闇の書がシンの姿を真似たのか、でも何故成長した姿で……?」
「なんにせよ、どうやらあいつは説得には応じてくれそうにねーぞ」
対してシンとそっくりの男……レヴィにヴェステージと呼ばれた男は、シンの姿を見て自嘲気味に笑う。
「ハッ、なるほどなあ……闇の書の記憶で見た時は信じられなかったが、どうやら本当に過去の俺が魔法を使ってやがる」
「過去? どういうことなのヴェステージ?」
「なんでもない、そんなことよりボヤボヤするな、あいつらの魔力を狩ってシュテルとロードを取り戻すぞ」
「う、うん……」
レヴィは一瞬迷いながらも、バルニフィカスを強く握りしめて先端をシン達に向ける。
「くっ……もう少しでシンの説得が成功したものを……!」
「仕方ない、皆行くぞ!」
それを見たクロノ、ヴィータ、ザフィーラもそれぞれ身構えて戦闘態勢に入る。
「主、我々も……」
「う、うん」
シンもデスティニーに促されながらアロンダイトを手にとって身構えた……。





その頃、公園で待機していたドモン、シャマル、アリシア、マユはシン達が戻ってくるのをずっと待っていた。
「遅いわねヴィータちゃん達……苦戦しているのかしら?」
「俺達も援護に行った方がいいか? だが……」
「……」
その時、アリシアはマユが何か考え事をしていることに気付き、彼女に話しかける。
「? どしたのマユ? シンが心配なの?」
「……あのね、何となくだけど……マユ、おにいちゃんのところにいかなきゃいけないきがするの」
そう言ってマユは突如走り出し、公園を出てシン達が戦っている場所に向かって行った。
「あ! マユちゃん待って!」
「おいおい! どこに行くんだ!」
そしてドモン達もマユを追いかけて公園を出て行った……。





一方シンとクロノはヴェステージと、ヴィータとザフィーラはレヴィと二手に分かれて戦っていた。
「このぉっ!」
シンはクロノの援護を受けながらヴェステージに接近しアロンダイトを振り下ろす、しかしそれはビームサーベルによって防御された。
「おらよ」
ヴェステージはそのままシンの腹部に右ひざをけり込む。
「うぐぅっ!」
「シン! くそっ!」
クロノはシンが落下していくのを見て舌打ちし、そのままヴェステージに向かって魔力弾タイプのスティンガーレイを放つ。
「甘いな……」
対してヴェステージは左腕に持っていたシールドを投げつけ、スティンガーレイを弾いてしまった。
「な! あんな防ぎ方を……!」
「おまけだ」
ヴェステージはビームサーベルをビームライフルに持ち変えると、その弾を投げつけたシールドに向かって撃った。
「うわっ!」
「あああ!!?」
シールドに弾かれた複数のビーム弾はそのまま軌道を変えてシンやレヴィと戦っているヴィータやザフィーラに直撃した。
「流石ヴェステージ! 強いぞ早いぞかっこいいー!」
「よそ見してるな、落とされるぞ」
「あ、うん……ゴメン……」
レヴィは善戦するヴェステージに称賛の声を送るが、逆に怒られてしまう。
「くそ! なんなんだよお前―!」
シンはダメージを受けながらも再びヴェステージに接近する、すると……。
「動きが単調だバカ」
「うわっ!?」
彼にうまく首根っこを掴まれて、身動きが取れなくなってしまった。
「シン!」
「ダメだ、助けようにも邪魔が入って……!」
射撃魔法で助けようにもシンが盾に恐れがあってクロノ達は何も出来なかった。
「くそ! 離せよこのバカ!」
「自分にバカっつうなよ、てかなんでお前魔導師なんかになったんだ?」
「うっせー! 自分で決めたんだ! もっと強くなって皆を守るために……!」
「ふうん、まあ騙されているだけだろ、お前には何も守れない……守らせてくれねえよ」
「な!?」
シンは自分の目標を否定したヴェステージをにらみつける。
「管理局はお前のようなガキを前線に出して戦わせるような組織だぞ? お前……都合よく利用されているだけだ、使えなくなったら捨てられるだけだ」
「なんだよ! リンディさん達がそんな事するわけ……!!」
「いいや判るね、お前はそう言う星の下に生まれたんだ」
ヴェステージはシンと話を続けたまま、死角から襲いかかってきたクロノの顔に空いていた左手のパンチを放った。
「がっ!」
「クロノ!」
「ついでに忠告しておく……友達や仲間なんて作るな、そんなもの錯覚だ、相手はただお前が利用しやすいから付いているだけだぞ」
「う、うるさいうるさいうるさい!!! 何も知らないくせに好き勝手言うな!!!」
シンの怒りは頂点に達し、首根っこを掴まれたまま力の限り暴れまわる。
「しょうがないな……」
するとヴェステージはシンを掴んだまま空高く飛び上がり、そのまま地面に向かって急降下していった。
「うわあああああ!!!」
「し、シン!!」
その様子を見ていたヴィータが止めに入ろうとしたが、レヴィに行く手を遮られてしまう。
「ヴェステージの邪魔はさせないよ……!」
「くそ! どけよこの野郎!」
そうこうしているうちに、シンはヴェステージに地面に叩きつけられる。
「がはっ……!」
魔法で軽減しているとはいえダメージはすさまじく、シンの全身に電流が流れたような衝撃が襲う。
「……」
ヴェステージは間髪いれずシンの顔や体を踏みつける。
「あがっ! がっ!」
「徹底的に叩きのめせばもう戦いたいなんて思わないだろ……悪いな、これもお前の為だ」
「やめろおおおお!!!」
見ていられなくなったザフィーラがレヴィに目もくれずヴェステージに殴りかかる、しかし彼の拳はひじ打ちで防がれてしまった。
「邪魔くせえな……この駄犬」
「うおおおお!!!」
ザフィーラはそのままヴェステージに掴みかかり、彼をシンから引き離した。
「シン……!」
そこにクロノが降りてきてシンに治癒魔法を掛ける。
「ごめん……油断した……」
「仕方ないさ、とにかくなのは達がくるまで……」
その時、
「うおおおおお!!!!」
「ぬううううう!!!?」
突如ヴェステージがザフィーラの首を掴んだまま戻って来て、そのままザフィーラをクロノに向かって投げつけた。
「うわ!!」
ザフィーラと共にビルの中まで吹き飛ばされるクロノ、そしてヴェステージはそのままシンへのリンチともとれる攻撃を再開した。
「回復魔法はやめておいたほうがいいぞ……苦痛が長引く」
「うわあああああ!!!」
その様子を、クロノは瓦礫にまみれ戦慄しながら見ていた。
(なんだ奴のあの執拗さは……まるで鬼じゃないか!)
「ボサッとしている暇はないぞ……早く助けなければ……!」
すると次の瞬間、彼らのすぐ傍にヴィータがレヴィによって吹き飛ばされてきた。
「うわあああ!!」
「ヴィータ!」
「ふふん! この僕にスピードで勝てるわけないだろ!」
そしてすぐレヴィがヴェステージの元に降りてくる、レヴィはシンを執拗に攻撃しているヴェステージに引きつった顔で止めに入ろうとする。
「あ、あのヴェステージ……もうそのへんにしたほうが……その子、僕にタイヤキ奢ってくれたんだ」
「黙ってろ」
「うっ……」
しかしヴェステージに鬼の形相で睨まれ縮こまってしまう。
「お前はあいつらを相手にしてろ、俺はこいつを痛めつけるのに忙しい」
「う、うん……」
そう言ってレヴィはクロノ達の方に向かって行った。
「さて、俺は……ん?」
ふと、ヴェステージは自分の足がシンに噛みつかれている事に気付く。
「ふー! ふー!」
「ったく悪あがきを……そんな事しても無駄だっていうのに……」
「まるで昔の自分を見ているよう……ですか?」
「あん?」
ヴェステージはふと、シンの傍に30センチ程度の大きさの女の子……デスティニーがいる事に気付く。
「誰だお前? コイツのデバイスか?」
「ええ、デスティニーと申します」
「デスティニー……?」
ヴェステージはその名前に聞き覚えがあるのか、首を傾げる。
「なんでお前、俺のMSと同じ名前してんだよ、しかも武装までそのままだ」
「まあ私は……貴方が知っているデスティニーと“同一人物”といっても過言じゃありませんから」
「はあ? 何言ってんのお前?」
「そんなことより……」
デスティニーは少し殺気の籠った目でヴェステージを睨みつける。
「その足……どけてもらえませんかね? いくら前の御主人とはいえ今の御主人を傷つけられるのは……自傷行為見てるみたいで辛いんですよ?」
「は! 止められるものなら止めてみろよ、お前のその小さな体で出来るならな」
「いえ、止めるのは私ではありません」
その時、突如ヴェステージの頭上から黄色い魔力弾が降り注いできた。
「……!!?」
「止めるのは彼女達です」
ヴェステージはすぐさまその場から離れて攻撃を凌いだ、すると彼の目の前になのは、フェイト、はやてが降り立った。
「シン君大丈夫かいな!?」
「遅くなってゴメン!」
「さ、三人とも……」
シンははやてに抱き起こされ、すぐさま治癒魔法を掛けられる。
「ち、援軍か……管理局の奴らか」
ヴェステージは鬱陶しそうになのは達に向かってビームライフルの弾を放つ……が、なのはが展開した魔力障壁によって防御される。
「あー、こいつは手強そうだ」
「よくも……よくもシンを!」
フェイトは傷ついたシンを見て完全に頭に血が上っており、今にもヴェステージに飛びかかろうとしていた、その時……。
「待ってフェイト……! こいつは俺が倒す!」
治療を終えたシンがむくりと起きあがり、飛びかかろうとしたフェイトの肩を掴んで制止した。
「大丈夫なの? まだまだひどい怪我だけど……」
「平気だよ、なのははあのレヴィって子を止めてくれ」
「んじゃ私となのはちゃんが行くわ、シン君はフェイトちゃんと一緒に戦うとええ」
そう言ってはやてはなのはを連れてレヴィの方に向かって行く。
「フェイト……無茶はするなよ、あいつは強い」
「シンこそ、怪我しているんだから無理しないで、クロスレンジは私に任せて」
対してヴェステージはシンとフェイトを見て鼻で笑っていた。
「はんっ! 仲間なんてそんな下らないものに頼っているようじゃダメだな」
「うるせえ!! お前は俺がやっつけてやる!」
そう言ってシンはフェイトと共にヴェステージに向かって行った……。



一方なのはとはやては消耗しきっていたヴィータ達を安全な場所に移動させ、レヴィと戦っていた。
「くそっ! 二対一なんてひきょーだぞ!」
「これ以上被害を増やすわけにはいかんからな! 手段は選んでられへん!」
「大人しくしてもらうよ!」
そう言ってなのははレイジングハートの先端からディバインバスターを放つ、しかし動きの速いレヴィには当たらなかった。
「へへーんだ! そんなノロい攻撃当たらないよーだ!」
「あーん! どうすればいいのー!」
「フェイトちゃんと同じタイプなんやな、流石似てるだけある……でも本人と比べて慎重さが足りひん」
そう言ってはやてはなのはにレヴィの相手を任せ、自分は魔法の詠唱を始める。
「させないぞー!」
「それはこっちのセリフ!」
はやての詠唱の邪魔をしようとするレヴィの往く手をなのはが阻む。
「むー! 邪魔するな!」
「ごめんね……でもこっちも必死なんだ!」
火花を散らしてぶつかり合うレイジングハートとバルニフィカス、そして一瞬の隙をついてレヴィはなのはを吹き飛ばした。
「くっ……はやてちゃん今だよ!」
「わかった! 響け終焉の笛……!」
次の瞬間、はやての頭上に三つの魔法陣が現れる。
「ラグナロク!」
そしてそこから放たれた光線はすべてレヴィに向かっていった。
「うわわわわわっと!!?」
レヴィはあまりの魔力量に驚きながらもすべて回避してみせた。
「だから何度も言っているだろう! 僕にこんなノロい攻撃は……」
「うん、当たると思ってへんよ」
「え?」
その時、レヴィの両手両足に桜色のバインドが掛かった。
「なっ!? バインド!?」
「私の攻撃は囮や! なのはちゃん!」
「いくよレイジングハート! カートリッジロード!」
なのははレイジングハートからカートリッジを排出して魔力を高め、先端をバインドで動けないレヴィに向ける。
「くそ! 動けない!!」
[Excelion mode]
「いくよ! 全力全開……! スターライトぉ……ブレイカー!!!」
次の瞬間、レイジングハートから特大の桜色の光線が放たれ、レヴィを飲み込んだ。
「うわああああ!! そんな~!!」
レヴィはそのまま力尽きて地面に落下していった。
「ザフィーラ!」
「御意!」
はやては落下していくレヴィをザフィーラに受け止めるよう指示して救い出した。
「ナイスだねザフィーラさん!」
「なのはちゃんも! これで後はあのシン君のそっくりさんだけや!」





一方シンはビームライフルでヴェステージと激しいつば競り合いを繰り返すフェイトを援護していた。
「たあああ!!!」
「ふーん、意外とやるなお前、レヴィと違って冷静さがある」
「くらえこの野郎!」
シンはフェイトに当てないようビームライフルの弾を放つが、ヴェステージに中々当たらなかった。そんな時ヴェステージは必死になって戦っているフェイトに話しかける。
「なあ……君も大切に思っていた人間に手ひどく裏切られた口だろ? 闇の書の記憶が教えてくれたぞ」
「フェイト! 耳を貸すな!」
ヴェステージの問いかけに何も答えないフェイト、それでもヴェステージは話を続けた。
「そんな目に遭って人を信じるなんてバカらしく思わないか? どうせなら一人で生きて行く方が楽でいいぞ」
「母さんの事ですか……確かにつらい思いはしました」
「だろう? なら……」
その時、フェイトのヴェステージへの攻撃にキレが増し始めた。
「でも私には……私を信じてくれている人がいるんです、私はその人達を裏切る事はできない」
「……!?」
するとバルディッシュの刃がヴェステージの頬をかすり、そこから一筋の血が流れた。
「私も、シンも……自分の信じるものと信じてくれている人の為に戦う……! 何もかもあきらめた貴方とは違う!」
「……!!」
するとヴェステージは額に青筋を浮かべながらビームサーベルを振りまわしてフェイトを追い払う。
「何も知らないガキが偉そうなことを! お前は信じてきた仲間に……友達に利用された事はあるか!? 家族と好きだった子を殺した奴に頭を下げる屈辱が判るか!? 尊敬してたやつに理不尽に殴られた上に裏切られて! 挙句の果てに訳の分からない事言って平和になる筈だった世界をぶち壊された奴の気持ちが判るか!? 恋人がそんなカスを庇って土壇場で裏切った奴の気持ちが判るか!? 判んねえだろクソガキ! お前も綺麗事がお家芸か!」
「……」
怒気混じりのヴェステージの言葉にフェイトは何も言わない。
「結局……訳の分からない綺麗事でできてる奴が世界を殺すんだ! 実際殺されたしな!お前らもあの四人と同じだ!」
「うるさい……!」
するとフェイトはスピード形態のソニックフォームに変身する。
「皆をそんな人達と一緒にしないで! 皆……こんなはずじゃなかった世界を生きて生きて生きて今も一生懸命生きているんです! 訂正してください!」
するとフェイトの隣にシンがアロンダイトを持って構える。
「なんでアンタが俺の顔をしているのか知らないけど……俺は絶対アンタみたいにはならない! 一人じゃ何も出来なかったけど、プレシアさんを助けられなかったけど……フェイトやスウェンやなのは達と一緒ならなんでもできるって判ったから!」
そして最後にデスティニーが静かな口調でヴェステージに語りかける。
「貴方は……確かに酷い思いをしてきました、私にはそれが良くわかります……でも、人を信じる事をやめないでください、そんなの……悲しいです」

「……ぅぅぅぉおおおおおおおああああああがあああああああ!!!!! だまれえええええええええ!!!!!」
するとヴェステージは突如狂ったように怒り始め、シンとフェイトに向かって突撃した。










「……もうお休みくださいシン・アスカ、この時間は……彼らの物なのです」
最終話「Silent Bible」










「シン!」
「ああ!」
対してシンとフェイトは互いに頷き合うと、まずシンがヴェステージに向かってビームライフル、フラッシュエッジ、ビーム砲と順番に放っていった。
「く……!」
容赦ない怒涛の砲撃に怯むヴェステージ、そして彼はそのおかげで接近するフェイトに対処することが出来なかった。
「やあああああ!!!!」
光の閃光となってヴェステージを何度も斬りつけるフェイト、するとシンもまたアロンダイトを持ってヴェステージに突撃する。
「あぐっ……! なめるなああ!!!」
ヴェステージは向かってくるシンに対してビームサーベルを振りはらう、しかし……そこにはもうシンの幻影しかなかった。
「エクストリームブラスト!」
シンは一瞬のうちにヴェステージの背後に回り込み、エネルギー態となったアロンダイトを彼の背中に突き刺した。
「やれ! フェイト!」
「せやあー!!!」
フェイトはそのままヴェステージの体をバルディッシュで斜めに袈裟切りした。
「う……ごお……!」
するとヴェステージはそのまま力尽き、ゆっくりと地面に落ちていった……。
「終わった……のかな?」
「みたいだな……」



シンとフェイトが地上におりると、そこには本のページとなって少しずつ消えて行くヴェステージの姿があった。
「アンタ……!」
「ははは……俺はもうこれまでらしい、まあいいさ、こんなクソみたいな記憶もっているくらいなら消えた方がマシさ」
そしてヴェステージは優しい目でフェイトを見つめる。
「俺の傍にも……君みたいな子がいればあんな事にはならなかったのかな?」
「貴方は……」

その時、消えかかっているヴェステージの元に、なのは達に敗れたレヴィが駆け寄ってきた。
「ヴェステージ! どうしたの!? なんで消えかかっているの!?」
「レヴィ……いいんだ、俺はもう色々と疲れた」
「ヤダよ! また面白い話聞かせてよ! 一緒に遊んでよ! おいしいごはん作ってよぉっ! うわあああああああああん!!!」
そう言ってレヴィはヴェステージにしがみ付きながら大声で泣き始めた。
「レヴィ……」
「消えちゃうなんてヤダよぉ! ううぅぅ……! グスッ……!」
「なんだよ、あんたにもいるじゃん、信じてくれる人……」
シンの皮肉に対し、ヴェステージは自嘲気味に笑う。
「ははは、そうみたいだ……俺は……目を背けていたらしい」
「よかったじゃないですか、自分の為に泣いてくれる人がいてくれて……」


その時、シン達の元にある人物が駆け寄ってきた。
「おにーちゃん!」
「あ! マユ! なんでこんな所に!?」
「……!!?」
シンはシャマル達と一緒にいる筈のマユが突然現れた事に驚く。
「あのね、わたしなんだかおにいちゃんのところにいかなきゃいけないとおもってね、あれ?」
その時マユは初めてヴェステージの存在に気付いた。
「おにーちゃんがふたりいる……どうして? フェイトちゃんもふたりいるー」
「私達にもよくわからないんだ、ごめんね」
「マユ……!」
その時、ヴェステージは消えかかっている体を必死に起こしてマユの方を向く。するとその様子を見ていたデスティニーがマユにある提案をする。
「マユさん……その人はもうすぐ消えてしまいます、だから怖くないよう手を握ってあげてください」
「てを? わかったー」
マユはデスティニーの言うことに従い、消えかかっているヴェステージの手を握る、すると……ヴェステージの目から沢山の涙があふれてきた。
「はは……は……まさか、マユとまた出会えるなんて……ごめんな、守ってあげられなくてごめんな……」
そしてヴェステージはそのまま、自分達の様子をじっと見守っていたシンの方を向く。
「シン・アスカ……ちゃんと妹を……家族を守ってやれよ」
「当たり前だ、マユは俺がちゃんと守る」
「私達も一緒です」
シンとフェイトの力強い言葉に、ヴェステージは満足げな表情で眠りに付いた。
「ありがとう……レヴィ、怒ってばっかでごめんな、シュテルやロードにも……よろしく伝えてくれ」
そして、ヴェステージの体は完全に本のページとなってパラパラと消滅していった……。
「ヴェステージ……!! うう……ひっく……!」
「よしよし、もうなかないで」
マユは隣で泣いているレヴィの頭を優しく撫でた。するとそこに……。
「おーいシン君―! フェイトちゃーん!」
「おーい! 終わったのかー?」
「マユちゃーん!どこ行ったのー!」
「主―、皆―」
それぞれ別の場所で戦っていたなのは達、ヴィータ達、スウェン達、そしてマユを探しにやってきたシャマル達が集まってきた。
「これで……一応終わったのか」
「そうみたいだね」
シンとフェイトは集まってくる仲間達を見て、今回の事件が終わりを告げたことを悟り安堵の表情を浮かべていた……。










こうして、後に闇の欠片事件と呼ばれる出来事は終わりを告げた。
シン達に保護されたレヴィらマテリアルズは管理局によって引き取られ、リバースの接種を受けながら更生施設に入り罪を償う事になった。

なお、スウェン・カル・バヤンが発見したというリジェネ・レジェッタという人物に関しては、その後の管理局の調査でも彼を発見することが出来ず、彼は行方不明者として処理される事となった。
だが彼が最後に目撃された前後に管理局のレーダーに強い電波障害が発生していたことが判り、管理局はその事象とリジェネ・レジェッタとの関連性を調べる方針でいる。










今回はここまで、つづけてエピローグを投稿いたします。



[22867] エピローグ「安息」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/07/15 16:36
エピローグ「安息」


闇の欠片事件終結後、負傷していたシンはアースラの医務室に収容され、シャマルからの治療を受けていた。
「はい終わり、しばらくすれば傷も消えると思うけど……無茶しちゃだめよ?」
「ありがとうシャマル……」
するとシン達のいる医務室に、フェイトが見舞いにやってきた。
「シン……怪我はもう平気なの?」
「なんとかね、心配してくれてありがとう」
「あらあら、それじゃお邪魔虫は退散しましょうか」
そう言ってシャマルはニヤニヤと笑いながら医務室から出て行った。
そして二人きりになった医務室にしばらくの間沈黙が流れる、するとフェイトが意を決してシンに話しかけてきた。
「ごめんねシン……私達がもっと早く駆けつけていれば大けがすること無かったのに……」
「気にすんなよ、こんな傷いつものことだ」
「あはは……」
そして二人は死闘を繰り広げたヴェステージについて話し合った。
「あのヴェステージって人何者だったんだろうね? レヴィ達と同じっぽかったけどマユちゃんの事を知っていた……」
「デスティニーは何も教えてくれない……でも俺思うんだ、あいつはもしかしたら未来の俺かもしれない」
「シンの……未来の姿?」
シンは自分そっくりなヴェステージが辛い過去をさらけ出す様子を見て、自分も将来ああなってしまうのじゃないかと不安に陥っていた。
「何となくだけどね……俺ももしかした将来ああなっちゃうのかな? もしそうだとしたら……」


「邪魔するぞ」
その時、シン達のいる病室にマスターアジアが入ってきた。
「あれマスターさん? 戻ってきたんですか?」
「うむ、つい先ほどな……これまでの事はドモンから聞いておる、災難じゃったのう」
「ええ、まあ……」
ふと、東方不敗はシンの様子がいつもと違う事に気付く。
「む? どうしたのじゃシン、何か考え事か?」
「ええっと、実は……」
シンは先ほど戦ったヴェステージとのやり取りを東方不敗に余す事なく話した。
「成程のう……自分と瓜二つの相手にそんな事を言われたのか」
「うん……俺、このままでいいのかな? もしかしたらあいつみたいになっちゃうのかな……」
すると東方不敗はシンの悩みを鼻で笑った。
「バカ者、貴様は守りたいものがあって強くなろうと思ったのじゃろう? ならその道を信じて突き進めばいいのじゃ」
「でも……力はあればいいってわけじゃ……」
「その通りよ……力あれども、魂なき拳は無用の長物、一人前の武闘家となれ! その拳で自分の歩んできた道を表現できるようにな」
「……! はい! ししょおおおおおお!!!」
シンは悩みが吹き飛んだのか、東方不敗が突き出した拳に自分の拳をこつんと当てた。

「シン!? ドモンみたいになってるよ!!?」



その頃別室では、八神一家が今回の事件の反省会を行っていた。
「ごめんな、私がもっと早く駆けつけていれば皆怪我しなくて済んだかもしれへんのに……」
「そんな! はやてのせいじゃねえよ!」
「しかし……今回の敵は強敵でした、私達ももっと強くならなければなりません」
「うん、そのことでな……皆に相談があるねん、向こうでなのはちゃんとフェイトちゃんと話し合ったんやけどな……私、新しいユニゾンデバイスを作ろうと思うねん」
「「「「え?」」」」
はやての思わぬ提案に、ヴィータ達は目を丸くする。
「リインフォースはヴィアさんのおかげで本調子を取り戻そうとしているけど、すぐにとはいかん、そうしているうちに今回みたいな事件が起きたら大変や、だから新しいデバイスが必要になってくると思うんや」
「むう……悪くない考えだとは思いますが……」
「私に妹みたいなのができるのか……ちょっと楽しみだ」
「名前はどうするのです?」
「そうやなあ、リインフォースが一番目でアインスやし、その子はツヴァイって名前にしようと……ん?」
その時はやては、スウェンが話の輪に加わらず何か考え事をしている事に気付く。
「どないしたんスウェン? 話聞いとった?」
「ん? ああすまない……聞いていなかった」
「もう、しょうがないなスウェンはー」
「……」
その時、スウェンは真剣な面持ちではやて達に話しかける。
「なあ皆……もし俺が居なくなったらどうする?」
「あん? なんだ急に? お前いなくなるのか?」
「いや、もしもの話だ」
「嫌やなー、そんな仮定の話なんて考えたくないわー、永遠ってわけにはいかんけど私はスウェンとずっと一緒にいたいわ」
「……そうか」
スウェンはそれ以上質問することなく、はやてが今度作るデバイスについて意見を出し合った……。















スウェンとノワールがはやて達の前から姿を消したのは、それから三年後の事だった。















CE67、月面都市コペルニクス、その中に一人の少年が一匹のロボット鳥を追って公園を走り回っていた。
『トリィ』
「まってよトリィ、どこ行くのー?」
少年はトリィと呼んだロボット鳥が入っていった草むらの中を覗く、するとそこである物を発見した。
「あれ? なんだろうこの石……とっても綺麗……」
そう言って少年は、その妖しく輝く石に手を伸ばし……。















運命という名の物語が動き出す、舞台を種の運命が巡る世界に変えて……。
Next Stage “Lyrical GENERATION SEED”



















これにて超級編の本編は終了です、うーん……もっとヴェステージとマテリアル三人娘の関係を描けばよかった。後日番外編で補完します。
この後師匠に関する外伝を4話ぐらい書いたら、リメイク前の作品ではやらなかったCE71編、もしくはあの人かあの人をヒロインにした外伝のどちらかをやろうと思っています。
どちらにしろシンとGガン勢には少し休んで充電してもらいます、ヒロインもあの子に変更です、ただいま他の作品を書きながら構想を練っていますので、みなさん気長にお待ちください。



[22867] Lyrical GENERATION SEED+プロローグ
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:cb9981f1
Date: 2011/12/14 21:30
Lyrical GENERATION SEED (SEED中心のガンダムシリーズ×リリカルなのは)


※今まで以上にSEED以外のガンダムの関わりが強いです、その他は今までと変わりません。
※クオリティは低いですがよければどうぞご覧になっていってください。






























新暦70年、第一世界ミッドチルダのとある山奥にある研究所、そこに二人の若き魔導士が、バリアジャケットを身に纏い奥へ奥へと歩みを進めていた。


「はやてちゃん、もうすぐ目標の地点に着くよ」

白いバリアジャケットに身を包む少女の名は高町なのは、時空管理局の戦技教技官であり階級は二等空尉、これまで様々な事件を解決に導いたエースオブエースである。


「別ルートから来ているアルフと合流してから向かうね」

白いマントにミニスカート型の黒いバリアジャケットに身を包むのはフェイト・T・ハラオウン、時空管理局の執務官として数々の事件を解決に導いてきたなのはと並ぶ実力の持ち主である。

二人とも小学生だった五年前と比べて色々と成長し、若干ながら大人びた雰囲気を纏っていた。



一か月前、時空管理局でとある高官が局の資金を横領していた事が発覚した。
しかしその罪を追及する前に、高官は自宅で何者かに暗殺された姿で発見された。

その時押収された証拠の中に、なのは達が今現在いる研究所の事が記されているメモが発見されたのだ。
なのは達は高官が流した資金の行方を探るため、こうしてこの研究所の調査にやってきたのだ。

『二人とも、私らも後で合流するわ』
「なにか見つけたの? はやてちゃん」

なのはと念話で会話している相手は八神はやて、5年前の闇の書事件の中心人物であり、事件解決後は捜査官として管理局で働いている、現在は仲間であり家族であるヴォルケンリッターと共になのは達とは別の場所を捜索している。

『うん……資料室のような所を発見してな、押収にしばらく時間がかかりそうや』
「でも変だよね、私たちが来たときは蛻の空だったのに……普通は廃棄なりなんなりするんじゃないの?」
『相当慌てて逃げ出したのやろか、消し忘れるほどのお間抜けさんとは思えへんのやけど……』





数分後、資料室でははやてが近くにあったノートを一枚一枚捲って内容を確認していた。

「なんやろうコレ、見たことのない生き物が映っとる……こっちのは天使?」

ノートにははやてが見たことのない、海の上を飛行するクジラのような巨大な黒い生き物と、黒い翼を生やした少女達が映った写真が貼られていた。

「皆、とにかくここにあるもの全部本局に持ち帰るで」
「はっ」

そう言ってはやてはノートをパタンと閉じると、ヴォルケンリッターの面々と共に資料を回収し始めた……。





その頃、なのはとフェイトは目的地に向かって歩き続けていた、その道中で……。

「フェイト! なのは!」

別ルートを探索していたフェイトの使い魔……アルフ(人型)が合流してきた。

「アルフ、何か見つかった?」
「一通り回ってみたけど、人の匂いはしなかったねえ、ただこの施設の地下は戦艦が入りそうなくらい広いみたいだよ、一体何をするつもりだったんだろうねえ?」
「まさか戦争とか?」
「戦争か……」

なのはの一言に、フェイトはある事を思い出す、それは自分の大切な人の故郷の事だった。

「戦争といえば……CEも今、戦争で大変な事になっているんだよね」
「うん、ユニウスセブンってところが核で破壊されて、その報復にニュートロンジャマーキャンセラーっていうのが地球に打ち込まれて沢山の人が死んじゃったんだよね」

CE……第101管理外世界は現在地球軍とプラントという宇宙に浮かぶコロニーの国が大規模な戦争を行っており、そのあまりの壮絶さにCEとあまり関わりのない管理局でも話題に上がっていた。

「シン達も危なかったねえ、もしかしたらその戦争に巻き込まれていたのかもしれないんだからさ」
「「うん……」」

“シン”という名前を聞いた途端、なのはとフェイトは歩きながらしゅんと俯いてしまう。
それを見たアルフは慌ててフォローをかける。

「ふ、二人とも元気だしなよ! 確かにあのことは不幸だったけど、なのはは今こうして元気になったし、フェイトだって執務官になれたんだ、あいつもすぐに立ち直ってくれるさ!」
「そうだね……」



そして三人は微妙な雰囲気を纏いながら、目的地である研究所の奥にやってきた。
奥には戦艦が何隻も入りそうな広大な空間が広がっており、中心には柱のように聳え立つ巨大なコンピューターの様なものが置かれていた。

「これってもしかして……転移装置?」
「今は動いていないみたいだね」

なのははレイジングハートで光を照らしながら、辺りを見回して調査を続ける。
一方フェイトとアルフは中心にある装置に歩み寄った。

「うーん……こういうのはエイミィに任せたほうがいいんじゃないかい?」
「そうだね、私たちが見てもちんぷんかんぷん……!?」


その時、突如装置が起動し、フェイトとアルフの体を紅色の光でスキャンし始めた。

[“ジェネレーションシステム”起動 転移対象:人1、使い魔1 転移先:第101世界インド洋研究所]
「え!? 何!? 何!?」
「どうしたの二人とも!?」

異常事態に気付いたなのははすぐさまフェイトとアルフの元に駆けつけようとする……しかしその時、二人の足元に巨大な魔法陣のようなものが展開され、なのはは見えない壁に行く手を阻まれる。

「転移魔法!!?」
「フェイトちゃん!! アルフさん!!」
[転移開始します]


フェイトとアルフは抗う暇もなく、魔法陣の放つ光に包まれて、その場から姿を消してしまった。
そしてその様子を、なのははただ茫然と見ているしかなかった。

「ふ、二人とも消えちゃった……!」










「う、ううう……?」

フェイトは気が付くと先ほどと似たような場所で倒れていた、そしてすぐ傍にはおとなフォームからこいぬフォームになったアルフが倒れていた。

「アルフ、大丈夫アルフ?」
「う、ううん……フェイト? ここは……」
「解らない、なのはも見当たらないしさっきの場所じゃないみたい……ちょっと待って」

そう言ってフェイトは瞳を閉じて念話を試みる……が、結果は著しくなかった。

「ダメ、皆とも繋がらない」
「一体ここはどこなんだろうねえ? あの機械が私らをここに転移させたのかね?」
「とにかくここから出よう、ここがどこなのか調べないといけないし……」



その時、フェイトとアルフはここに近付いてくる複数の足音を聞きつけ、その場で足を止める。

「誰か来る?」
「もしかしてなのは達かい?」

するとフェイト達のいる部屋に、ライフル銃のような武器を持った緑色の軍服を着た5、6人の男たちが入ってきた。

「何者だお前達!? 連合軍か!?」
(銃……!? 本物……!?)

フェイト達は見たことのない軍服に身を包む兵達に銃口を突き付けられ、思わず反射的に両手を上げて無抵抗の意思を示す。

(どうする? 蹴散らすかい?)
(ダメだよ、この人たち銃を持っている)

フェイト達の所属する時空管理局及びミッドチルダを始めとした管理内の各次元世界では、銃を始めとした質量兵器の所持は禁止されており、基本的に非殺傷設定のデバイスしか使うことは許されなかった、つまり質量兵器を使用する人間がいる所は違法な場合を除いて管理外世界ということになる。

ふと、フェイトの脳裏に先程の機械が発していた言葉を思い出していた。

(あの機械、転移先を第101世界に指定していた……じゃあここは……!)



「何か見つけたのかね?」

その時、兵達の後ろから白い仮面を付け白い軍服を身に纏った男が現れた。

「隊長! エネルギー反応の中心地にこの女が……」
「む? ほう……これはまた可愛らしいお嬢さんだ」
(この人が隊長?)

フェイトは兵達に隊長と呼ばれた男と向かい合う。

「あ、あの……あなたは……」

恐る恐るその男の名前を聞くフェイト、対して男は落ち着いた態度でフェイトに自己紹介した。



「これは失礼……私はザフト軍クルーゼ隊の隊長、ラウ・ル・クルーゼだ」





この時のフェイトはまだ知らなかった、このラウ・ル・クルーゼとの出会いが自分の人生を大きく変えていくことに……。










プロローグはここまで、リメイク前では見送ったCE71が舞台の話になっています。

今後は様々な視点から物語が展開する予定です。
場合によっては後日修正するかも……。



[22867] 第一話「出発」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:cb9981f1
Date: 2011/12/29 22:25
 第一話「出発」


~Side:N~

次元世界の狭間にある時空管理局本局……そこで研究所から戻ってきたなのは達は、ブリーフィングルームに集まって状況報告と今後の指針について話し合っていた。

「ゴメン……私が付いていながらフェイトちゃんとアルフさんが……!」

研究所で二人と共に行動していたなのはは、二人が突如起動した転移装置に巻き込まれ行方不明になったことに責任を感じていた。
そんな彼女を隣にいたヴォルケンリッターの将の一人……ヴィータが強い口調で慰める。

「泣いている場合じゃねえぞ、二人はまだ死んだって決まったわけじゃねえんだ、今はエイミィ達の報告を待とうぜ」
「うん……」

一方、なのはから提出された報告書を読んでいたはやては、彼女にいくつかの質問をぶつけてくる。

「なのはちゃん……その転移装置が第101世界と言っとったのか?」
「うん、その後にフェイトちゃん達は……」
「第101管理外世界……コズミックイラか」

はやては何故その装置が突如起動してフェイト達を転移させたのか、何故行先をコズミックイラに指定したのかあれこれ思案していた。

(何かが起動キーになっていたんやろうか……とにかくもうちょっと調べなきゃあかんな)



「皆、揃っているようだね」

するとなのは達のいるブリーフィングルームに、アースラの現艦長であり今回の調査の司令官であるクロノ・ハラオウンが入ってきた。

「クロノ君……フェイトちゃん達の行先はわかったの?」

なのはは真っ先にフェイト達の安否をクロノに確認する、対してクロノはふうっとため息をついて答えた。

「ああ、エイミィ達の調査結果、なのはの言うとおりフェイトとアルフは第101管理外世界に飛ばされたらしい」
「我々はどうすればいいのだ?」

話を聞いていたヴォルケンリッターの将の一人、シグナムは今後の行動方針について質問する、するとクロノはブリーフィングルームに設置されている巨大スクリーンを操作して、そこに今回の事件の発端となった管理局員の顔写真を表示させる。

「殺されたムラヤマ少将は局から横領した資金、そして時空航行船の設計図をある組織に流していた、その組織が何者なのかを調べる為、僕たちはムラヤマ少将の自宅に残されたメモに記されていたミッドチルダの廃研究所の捜査に向かった……という所までは解っているな?」

クロノの問いにブリーフィングルームにいたなのは達は一斉に頷く。

「その中にあった転移装置で、フェイトとアルフは第101世界に飛ばされた、その後の調査で基地のコンピューターや転移装置のデータはすべて消去されていた、つまり今回の事件の真実を知るにはコズミックイラに直接赴くしかないということだ」
「うーん……確かにそうなるなあ」

そしてクロノは再び端末を操作し、スクリーンに第101管理外世界の主要都市を複数映し出した。

「我々はこれよりアースラで第101管理外世界に向かう、目的はムラヤマ少将の取引相手の調査と、フェイトとアルフの救出だ、出発は三日後……メンバーは追って伝えるからそれまで各自待機していてくれ」





一時間後、なのはは本局の廊下をとぼとぼと歩いていた。

(はあ……まさか復帰第一戦目がこんな事になっちゃうなんて、どうして私はこうも……)
「あら、なのはちゃんじゃない、どうしたの?」

するとなのはの前から、本局で技術官として働いているヴィアがやってきた。

「あ、ヴィアさん……」
「話は聞いたわ、フェイトちゃんとアルフ……心配ねえ」
「ごめんなさいヴィアさん、私がもっとしっかりしていれば……」

ヴィアはなのはが出会う前からのフェイトとアルフと知り合いであり、よく可愛がってもらったとなのははフェイトから聞いていた。それ故になのははヴィアに対して申し訳ない気持ちで一杯だった。
そんな彼女に対し、ヴィアは少し厳しい口調でなのはを叱った。

「なのはちゃん……あまり自分で何もかも背負うのはよくないわ、あの時だって……」
「ご、ごめんなさい……」

ヴィアに叱られなのはは、三年前に自分が引き起こした自己の事を思い出し、さらに落ち込んでしまう。
それに気付いたヴィアは慌てて言葉を取り繕った。

「あ、その……こっちもごめんなさい、思い出したくないことを思い出させて……とにかくジュースでも奢るわ、お互い忙しかったし久しぶりにお話でもしましょう?」

数分後、休憩所にやってきたなのはとヴィアは、ジュース片手に置いてあったソファーに並んで座りながら互いの近況を語り合った。

「そう言えばシュテルちゃん達は元気ですか? 別世界の任務に行っているみたいですけど……」
「ええ、毎日同じ時間に電話を掛けてきてくれるのよ、三人ともとても元気でやっているわ」

シュテル、レヴィ、ロード……四年前に起こった闇の欠片事件の主犯格だった三人は、裁判終了後にフェイトやはやて達のように管理局で働くことでその罪を償っていた。
そして身寄りのない彼女達をヴィアは養子として引き取り、現在も良好な関係を続けていた。

「ドモンさん達も二年後のガンダムファイトの代表に選ばれる為に元の世界で修業中ですし……なんだか昔の仲間がバラバラになっちゃって寂しいですね」
「そうねぇ……でもきっかけがあればまた会えるわよ、生きていればね……」
「……?」

なのははヴィアの表情に一瞬陰りが見えた事に気付く、しかしヴィアはすぐに表情を明るくしてある事を伝えてくる。

「そうだ、今回の調査任務……リンディさんに頼んで私も同行させてもらえることになったの」
「ええ!? どうしてまた!?」

なのはは技術部の人間であるヴィアが、何故このような危険な任務に同行するのか不思議で仕方がなかった。

「一応コズミックイラは私の故郷だし……一度様子を見ておきたいと思ってね」
「あ……」

なのはは以前フェイトやシンから、ヴィアもまたコズミックイラ出身の人間で、とある事故に見舞われてこの世界にやってきたということを教わっていた。
その故郷は現在、世界規模の戦災に見舞われている……そういう事なら気になってしょうがないのだろうと心の中で納得した。

(でもすぐに帰ろうとしなかったのは何か理由があるのかな……うーん、聞き辛いかも……)





その頃、ブリーフィングルームに残ったはやては、ヴォルケンリッターの面々と共に任務に赴くメンバーを選出していた。

「戦闘要員は私らとなのはちゃんで行くことになったわ、アースラの乗員にはヴィアさんやユーノ君も同行するそうや」
「あら? ヴィアさんは聞いていますけどなんでユーノ君まで?」

そう質問してきたのはヴォルケンリッターの将の一人シャマル、仲間内では回復・サポート役を担っている。

「うん、なんでもコズミックイラで調べたいことがあるそうや、最近無限図書で珍しい本を発見したらしくてな……それに関係しとるらしいで」
「調べものねえ……とにかく早い所終わらせようぜ、戦争している世界になんてあんまり長く居たくないからな」
「リインも頑張るです!!」

そう言ってヴィータの頭の上にちょこんと乗っかるのはリインフォースツヴァイ、八神一家専用のユニゾンデバイスであり、ユニゾンデバイスとしての機能を失ったリインフォースアインの妹分として四年前に生み出されたのだ。
そんな元気一杯のリインを見て、すぐ傍にいたリインフォースアインは優しく微笑みかける。

「ああ、二人で頑張ろうツヴァイ」
「はいアイン姉さま!」

その様子を見ていたシグナムもまた、釣られて微笑みながら決意を新たにする。

「こうやって家族みんなで揃っての任務は久しぶりですからね……気を引き締めなければ」
「シグナム」

その時、守護獣のザフィーラ(おとなフォーム)はシグナムの制服をクイクイと引っ張って無言で何かを伝えようとしていた。

「あ! す、すみません主……!」

シグナムはすぐに自分の過ちに気付き、すぐさまはやてに謝罪する。
対してはやてはにっこり笑って首を横に振った。

「大丈夫やでシグナム、あの二人がいなくなってもう何年も経つんや、流石に怒ったりせえへんよ」
「で、ですが……」
「大丈夫、二人はそのうち帰ってきてくれる、置手紙にそう書いてあったやないか」

そう言ってはやては自分は怒っていないとアピールするが、ヴォルケンリッターの面々は気まずそうにはやてを見ていた……。





その頃アースラのブリッジでは、クロノとエイミィが地上本部にいるリンディと今後について話し合っていた。

『それじゃクロノ、フェイトとアルフの事……よろしく頼むわね』
「任せてください! フェイトちゃんは私たちが必ず連れて帰りますから!」
「こっちの事は任せるよ、何かわかった事があったらすぐに伝えてほしい」
『ええ、わかっているわ、それと……』


「クロノクロノクロノー!!!!」

その時、突如ブリッジに金髪を水色のリボンでポニーテールにまとめた少女が飛び込んできた。

「あ、アリシア!? どうしてここに!?」

その少女の名はアリシア・T・ハラオウン、フェイトの双子の姉(戸籍上)でクロノの義妹であり、現在は第98管理外世界で武道の修業中……であるはずだった。

「いやね! 遊びに行こうと思ったらフェイトとアルフが行方不明だって母さんに教えてもらってさ!! 姉としてじっとしていられなくて飛んできた!!」
「飛んできたって……フェイトが行方不明になったのは4時間前だぞ!?」
「スピードが私の持ち味だからね!!」

そう言ってふんすと鼻息荒げに胸をはるアリシア、それを見たクロノは彼女の破天荒さに頭痛がしていた。

「双子なのにどうしてこうも違うもんかねー?」
「やっぱりあの二人が原因なんだろうなあ……」

クロノとエイミィはアリシアの武道の師匠であるおさげ頭の男と、その暑苦しい弟子の顔が頭に浮かぶ。
一方アリシアは気合一杯で目にもとまらぬ速さでシャドーボクシングを行っていた。

「お願いお義兄ちゃん! 私もコズミックイラに連れて行って! フェイトとアルフを助けたいの!」
『クロノ、連れて行ってあげなさい、どうせ断っても無理やりついて来るんだろうし……上には私が説明しておくわ』

モニターの向こうのリンディの一言に、クロノははあっとため息をついて観念する。

「わかった、連れて行こう……」
「さっすがお義兄ちゃん! 大好き!」
「ただし、君は管理局員じゃないんだ、ちゃんとこちらの指示に従って、勝手な行動は慎むようにね」



こうしてコズミックイラ捜索隊のメンバーは出そろい、後は三日後の出発を待つだけだった……。










~Side:F~

ザフト軍所属の大型潜水母艦ボズゴロフの内部、そこにある薄暗い個室に連れて来られたフェイトは兵達から尋問を受けていた。

「で? 貴様は何故あそこにいたのだ? 一体何者なのだ?」
「……」

緑色の軍服を着た男の質問に対し、フェイトは黙秘を貫く……というよりも何も話すことができなかった。

(どうしよう、コズミックイラって管理局や魔法が認知されていない世界だから、話そうにも話すことはできないし……)
(いっそのことこいつをブッ飛ばして逃げ出すかい?)

椅子の下に寝転がっているこいぬフォームのアルフの意見に対し、その椅子に座るフェイトは意見を却下する。

(無理だよ、逃げるにしてもここは海中だし、とにかく機会を伺わないと……)

フェイトは、ここが管理外世界で魔法を使用している所を見られてはいけないという規則を律儀に守ったとはいえ、今いる潜水艦の中に連れて来られる前にさっさと逃げておけばよかったと心の中で少し後悔していた。

(とにかく、今は大した危害は加えられていないんだし……もうちょっと様子を見よう)
(わかったよフェイト)



「どうだね? お嬢様の様子は?」

するとフェイト達のいる部屋に、先ほど研究所で出会った仮面の男……ラウ・ル・クルーゼが入ってきた。

「それが一向に口を割らなくて……お手上げ状態ですよ」
「ふむ……なら私が代わろう、君は自分の職務に戻りたまえ」
「はっ!」

そう言って軍服の男はラウに言われた通り、敬礼してすぐに部屋を出て行った。

「さて……こんな薄暗い所に拘束して申し訳ない、だがこちらも軍人という職業柄、怪しい人物をホイホイと見逃すわけにはいかないのだよ」
「はい……」

机を隔てて向かい合うラウ、フェイトはそんな彼の眼……というよりマスクのレンズをじっと見据える。

(この人……どうして仮面なんて付けているんだろう? 顔に傷でもあるのかな?)
「まずは君の素性を教えてもらおう、見たところ学生のようだが……それは学校の制服か何かかね? それともどこぞの軍の物かね?」

ラウはフェイトが着る黒い執務官の制服を、どこかの学校の制服か、または自分の知らない軍服かと思っていた。

「……私は軍人じゃありません」
「ふむ、では学生か何かかね? 今のご時世君ぐらいの年の子が軍人であっても驚きはしないがな」
「戦争をしているんですよね、あなた達は……」

フェイトはこの世界の現状を、以前管理局で見たデータから大体の事は把握していた。

「まあその通りだ、詳しい内容は話すことはできないが、我々はある任務の途中で君のいた研究施設のある無人島を見つけてね……ついでだから調べていたのだよ」
「そうだったんですか……とにかく私たちはあの施設とは何も関係はありません、ただたまたまあそこにいただけで……」
「たまたま、無人島に、ねえ……まあいい、何か話したくなったらすぐに伝えてくれたまえ」

ラウはこれ以上何を聞いてもフェイトは何も答えないと思い、そのまま部屋から出て行った。

「あの男、行っちゃったね」
「うん……」





取調べを終え、ラウは艦長室に戻ろうと廊下を歩き始める、するとそこに……先ほどフェイトを取り調べていた緑の軍服の兵が慌てた様子で駆け寄ってきた。

「クルーゼ隊長! 少しよろしいでしょうか!」
「どうしたのだね? そんなに慌てて?」
「実は研究所に残って調査をしていた兵達から、こんな物が送られてきたのです」

そう言って兵はラウに一冊の資料を渡す。

「あの研究所で発見されたそうです」
「どれ、ふむ……ふむ………………!?」

資料の中身を確認するラウの表情は仮面に隠れて見えなかったが、それでも激しく動揺しているのが肩の震えでわかった。

「これは大変なことですよ……ナチュラル共め、まさかこんな計画を行っていたとは! あの女もきっと関係者ですよ!」
「ああ、そうだろうな……」

ラウはふうっと息を吐いて自分自身を落ち着かせた後、改めて資料を持ってきた男に命令を下す。

「君……しばらくこの事は他言無用でお願いするよ、事態は思ったより大きなことになりそうなのでね」
「了解しました」



数分後、ラウはフェイトのいる部屋に戻ってきた。

「やあ、少し聞きたいことがあったのを思い出してね、また少し付き合ってもらうよ」
「は、はあ……」

そう言ってラウは先ほどのようにフェイトに向かい合うように座り、先ほど部下に渡された資料を彼女の前に置いた。

「これは先ほど部下達があの研究所で発見した物だ、目を通してみてくれないか?」
「……? はい」

フェイトは首を傾げながらも、ラウに言われたとおり資料の中身を確認する。

資料の中には透明なガラス管に入れられた赤い髪の男の子の写真が載っていた。

(何かの人体実験……? ミッドの研究所とこの世界と何か関係が……?)

フェイトはふと、写真の下に記載されている文章を見る。


資料にはこう記載されていた。

---------------------------------

“プロジェクトFによるクローン実験の経過報告”

被験者名:エリオ・モンディアル

死亡年齢:**

クローン製造日:*****

---------------------------------


「え……!? なっ……!?」

その途端、フェイトは全身から血の気が引いていくのを感じた。
プロジェクトF……自分の出生、人生、実の母の運命に大きく関わるその単語を目の当たりにして、頭を鈍器で殴られたような激しい動揺が襲い掛かった。

「やはり何か知っているのかね? “フェイト・テスタロッサ”君?」

突如目の前にいるラウが、名乗った覚えのない自分の名前を口にし、フェイトは現実に引き戻されはっと顔を上げる。

(なんでこの人、私の名前を……!?)

ラウは何も言わず、ただ頭をくいっと上に小さく振る、おそらく次のページをめくるよう催促しているのだ。

「……!!」
(フェイト!? どうしたんだいフェイト!?)

椅子の下にいたアルフが心配して念話で声を掛けてくる、対してフェイトは何も答えることが出来ず、震える手で資料の次のページを捲った。


まず彼女の目に飛び込んできたのは、そのページのタイトルだった。

---------------------------------

“プロジェクトFの成功体、フェイト・テスタロッサの観察結果報告”

---------------------------------


そこには、自分が管理局に提出した顔写真のコピーと、その下にはずらっと管理局に入局してからの経歴や模擬戦での成績が記載されていた。



フェイトの思考はグチャグチャになっていた。何故自分の個人データがここに記されているのか、これを記した者は何をしようとしていたのか、母との関わりは、あの赤い髪の少年も自分と同じなのか。
いくつもの疑問が頭を駆け巡り、フェイトは次第に五年前の……愛しく思っていた母から虐げられ、あまつさえ出生を明かされ存在を全否定された時の事を思い出した。


――やっぱりアナタは欠陥品ね、顔だけはあの子に似ているのに、それ以外は何も似ていない――


「う……!」

思い出したくなかった今までで一番辛かった出来事を思い出し、フェイトは眩暈と吐き気を催し、そのままバタンと倒れて意識を失ってしまった。

「ふぇ、フェイト!!」
「むっ……いかんな、医療班!」

ラウはすぐに手元にあった通信機で艦内にいる衛生兵を呼び出した。










何も知らない方が幸せだった、真実なんて知りたくなかった、でも二人は知ってしまった、自分たちが生まれたことで、不幸になってしまった子がいることを。

その真実を知って彼女は逃げなかった、かつて最愛の友達が自分にしてくれたように、自分のすべきことをするために。

その真実を知って彼は迷っていた、その彼女の気高き生き方を目の当たりにして、これから自分のすべきことが正しいのか、本当にすべきことは他にあるのではないのかと。

運命は二人を飲み込んでいく……。










本日はここまで、フェイトとラウの出会いはこのSEED編の三つある話の主軸の一つとなっています。

次回はなのは達アースラ組がオーブに行く話になります、あの少年もついに登場?

ちなみに前回書き忘れていましたが、SEED側の時間軸はキラ達アークエンジェルがアフリカからオーブに入港した頃になっております。



[22867] 第二話「3人目の少年」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:cb9981f1
Date: 2012/01/16 00:17
第二話「3人目の少年」


フェイトが行方不明になってから三日後、戦力を整えたアースラは僅かな手がかりを頼りに、本局から一路コズミックイラへ出発した。

アースラ艦内のブリーフィングルーム……そこで艦長であるクロノはなのはら主要メンバーを集めて今後の行動方針を説明した。

「皆知っての通り今現在コズミックイラは世界規模の戦争をしていて非常に危険な状態だ、しかし幸いにも僕たちがこれから向かう座標の近くには中立国であるオーブがある、僕達はその領域を拠点として行動することになる」
「オーブ……マユやシン達が前に住んでいた所だな、あんなひどい情勢で中立を保っているのか」

ヴィータは先日資料で見たコズミックイラの戦場の様子を思い出し、はやてと出会う前の自分たちヴォルケンリッターの暗い過去を思い出し俯いてしまう。
そんな彼女を尻目に、クロノは拠点となるオーブの説明を続ける。

「オーブはナチュラルとコーディネイターが共存している国だ、どちらかに付くことは出来ないのだろう、しかし……ナチュラル側の陣営である連合軍にMSの技術を提供していたという話もある、あの国にも色々と事情があるのかもしれないな」
「? クロノ艦長、そのナチュラルとコーディネイターってなんですか?」

リインツヴァイはあまり聞いたことがないその二つの単語に首を傾げる、それに対してはやてが代わりに答えた。

「ナチュラルは私やなのはちゃんのような普通の人間、コーディネイターはそんな普通の人の遺伝子を弄った人の事を言うんや」
「遺伝子をですか……? なんでそんなことを?」
「何でも環境の厳しい宇宙に適応する為だとか……普通の人より病気に強かったり運動神経がよかったりするんやて」
「へえ~」

そしてツヴァイとはやての会話に、アインが割って入ってきた。

「しかしナチュラルはそんなコーディネイターの能力をねたみ、これまでいくつもの問題が起こったそうだ、そして極めつけが……“血のバレンタイン事件”だ」
「確かナチュラルの人たちが宇宙船の事故で亡くなったお偉いさんの仇を討つとかで、核ミサイルでコーディネイターが沢山住むコロニーを爆破してしまったんよな」

そのテロ事件でどれだけの罪のない人が死んでいったのだろうと思い、はやては心を痛めつつもクロノの説明の続きに耳を傾けた。

「その後、コーディネイターは地球にニュートロンジャマー……原子力を使えなくする兵器を地球に打ち込んだ、その結果またも沢山の人が死んでしまい、両陣営はついに戦争を始めて一年後の今に至るというわけだ」
「恐ろしいことやね……」
「さて、だいぶ横道に逸れたが話はこれでおしまいだ、到着は明日になる……それまで各自自由行動とする、以上」


ブリーフィングが終わり、部屋にいた面々がバラバラと散っていく中、アリシアはすぐ傍にいたシグナムに話しかける。

「ねえねえシグナム! 久しぶりに模擬戦やらない!? どれだけ強くなったか見てほしいんだ!」
「お前とか……ふむ、たまにはいいな、東方先生にどれだけ鍛えてもらったのか見せてもらうぞ」
「よっしゃ! んじゃ30分後に模擬戦ルームでねー!」

そう言ってアリシアはシャドーボクシングをしながらブリーフィングルームから出て行った。
その後姿を見送ったシャマルは、少し乾いた笑いを浮かべながらシグナムに話しかける。

「アリシアちゃんってすごいわよね、魔法も何も無しにシグナムに張り合えるんだもの」
「ああ、テスタロッサとはまた別系統の強さを持っている、こちらも色々と勉強になる」
「この前みたいに暴れすぎちゃ駄目よ? 模擬戦ルームを破壊して莫大な修理費を請求されるのはもう御免だから」
「それは向こうに言ってくれ……あの時のは私のせいじゃない……」

一方、はやては部屋から出ようとしたなのはを呼び止めた。

「なのはちゃん……少し時間ある?」
「うん? いいけど……どうかしたの?」
「ちょっとな……」



数分後、誰もいない廊下ではやてはなのはにある確認を行っていた。

「なのはちゃん大丈夫……? フェイトちゃんとアルフの事で自分を責めちゃあかんよ?」
「でも……私がもっとしっかりしていれば二人は……」

なのはは自分が一緒にいたのにフェイト達を救えなかったと思い、ここ数日思いつめた表情をしていた、それを見たはやては彼女をフォローしようとこうして二人で話す場を作ったのだ。

「あれは……現場の指揮官だった私にも責任がある、なのはちゃん一人の責任やあらへん」

はやてはなのはの沈んだ心を奮い立たせようと、懸命に励ましの言葉を贈る。

「大丈夫……フェイトちゃん達はきっと無事や、私らはそう信じるしかあらへん、だから私らは一秒でも早く見つけてあげよう?」
「うん……そうだね、そうだよね」

はやての言葉を受けて、なのはは気持ちが少し軽くなるのを感じた、それと同時に励ましてくれたはやてに感謝の念を抱いていた。

「ごめんねはやてちゃん……私また同じ間違いをするところだったよ」
「ええんよー、私はヴォルケンズの皆の事でなのはちゃんとフェイトちゃんに沢山助けてもらったからな……今度は私らが二人を助ける番や」

そう言ってはやてはなのはのおでこに自分のおでこをこつんとぶつけた。


「あら? 二人ともこんなところで何を……?」

するとそこに、沢山の資料を抱えたヴィアがやってきた。

「ああヴィアさん、少しなのはちゃんに元気を注入しとったんです」
「ヴィアさんこそどうしたんですか? そんなに沢山の資料を抱えて?」
「え? あ、うん、その……ちょっと調べたいことがあってね」

何故か歯切れの悪い返事を返すヴィア、その時……一枚の写真がヴィアの元からはらりと落ちた。

「これは……?」

なのはは写真を拾い上げる、その写真には今より若い姿をしたヴィアが、金髪と黒髪の赤ん坊を抱える姿が映し出されていた。

「あ、そ、その写真は!」

するとヴィアは血相を変えて持っていた資料を放り投げ、なのはが拾い上げた写真を奪い取った。

「ヴィ、ヴィアさん!?」
「どないしたんですか急に……!?」

ヴィアの突然の行動に驚くなのはとはやて、すると我に返ったヴィアは慌てて笑顔を作り自分の行動を誤魔化した。

「こ、この写真はその……なんでもないの!! それじゃあね!」

そしてそのまま床に落ちた資料を拾い上げ、そのまま走り去っていった……。

一方、呆気にとられて立ちすくむなのはとはやては、そのまま不思議そうに互いの顔を合わせた。

「どないしたんやろうなヴィアさん?」
「さっきの赤ん坊の写真、あれってもしかしてヴィアさんの子供……?」





次の日、アースラはコズミックイラに到着し、厳重に結界を張って衛星軌道上に停泊した。

「ふわー! ここがコズミックイラですかー!」
「なんかあたしらが過ごしていた地球とそっくりなんだなー」

窓の外に広がるコズミックイラの地球を見て、ツヴァイとヴィータは感慨深い声を上げる、しかしその後ろではシグナムとザフィーラが複雑そうな顔をしていた。

「似ているのは星だけのようだ」
「ああ……」

シグナム達の視線の先には、衛星軌道上を漂う戦艦や戦闘機、そして人型機動兵器……MSの残骸があった。

「これって……!」
「恐らくこの辺りで戦闘があったのだろう、よほど激しいものだったらしい」
「あのロボットさん、頭に大きな鶏冠が付いているです!」

ツヴァイは目の前を通り過ぎた灰色で一つ目のMSの残骸を指差す。


「あれはザフト軍の“ジン”という物らしい」
「ふむ、資料で見た我らの地球のティエレンやアンフやヘリオンとは全く違うものだな、戦闘力も侮れない……ザフト軍はあのMSで数で勝る地球軍と互角の戦いを繰り広げているらしいからな」
「あれには人が乗っているんですよね、中の人が無事だといいんですけど……」





数分後、クロノとユーノによってブリーフィングルームに集められたなのは達は、そこである報告を受けていた。

「皆集まってくれたな、実はこの世界に到着した時にある反応が見つかったんだ」
「ある反応?」

ユーノの説明になのは達は首を傾げる。対してユーノは訝しげな表情でモニターを操作する、モニターにはオーブ沿岸にある軍港の見取り図が表示されおり、その中心部に赤い光が点滅していた。

「実はこの施設の中に……僕らのよく知っているロストロギアの反応があったんだ」
「私たちの知っているロストロギア……?」
「ああ、5年前のあの日……僕となのは、そしてフェイトやクロノ達を引き寄せたアレだ」

その瞬間なのははハッとなって顔を上げる、後ろではヴィアも顔色を変えてユーノを見て口を開いた。

「ジュエルシード……ね」
「はい、5年前のPT事件の際に散らばり、所在はシンとスウェンの体の中にある二つしか確認できていない代物です……残り19個のうち一つがあそこにあるのです」

PT事件の当事者ではなく資料でしか詳細を把握していないはやてとヴォルケンリッターは、なのは達の真剣な表情を見て口出すことではないと思い口を紡ぐ。
そしてユーノの隣にいたクロノが沈黙を破った。

「フェイト達の所在と研究所の事もあるが……見つけてしまった以上放置する訳にもいかない、そこで僕たちはここを拠点として二手に分かれてジュエルシードと研究所の捜査を行おうと思う、研究所への調査にははやて達ヴォルケンリッターとアリシアに、なのはとユーノにはオーブに降りてもらいたい」
「二手っつても随分偏っているんだな、オーブには二人だけかよ」

ヴィータの質問に、クロノはため息交じりに答える。

「仕方ないだろう、ここでジュエルシードが見つかるなんて思いもよらなかったんだから……ここは当事者に任せた方がいいだろう、僕達もアースラでできる限りのバックアップをするから」
「まあしゃあねえよな……ユーノ、なのはの事ちゃんと見張ってろよ、そいつ復帰したての病み上がりなんだから」
「にゃはは……ヴィータちゃん厳しいなあ」

ヴィータの苦言になのはは思わず乾いた笑いを起こす。
それを見たヴィータらその場にいた者たちは不安そうになのはを見ていた……。





数時間後、オーブ領オノゴロ島オーブ軍港付近の街にある人気のないビルの屋上、そこになのはとユーノはアースラから転移魔法で降り立った。
ちなみになのはは街に溶け込んで怪しまれないようにするため、軍服っぽい教導隊の白い制服から、あらかじめ持ってきておいた海鳴中学校の茶色の制服に着替えていた。
一方のユーノは普段通りワイシャツに紺のネクタイという格好である。

「着いた……ここがオーブか」
「なんていうか、雰囲気が海鳴と似ているなー、海が近いからかな?」

なのはは自分が生まれ育った故郷と同じ雰囲気を持つオーブに親近感を抱いていた、すると彼らのすぐ後ろに……ヴィアがアースラから転移してきた。

「ヴィアさん? どうしたんですか?」
「う、うん……少し故郷の空気を吸いたいなーと思って……調べたいこともあるし」
(……?)

なのはは昨日写真を見られた時と同じような反応を見せるヴィアに疑問の目を向ける、しかしユーノは気にすることなく、屋上から見える軍施設らしき場所を指差す。

「とりあえず反応があったあそこに向かおう、ヴィアさんはどうします?」
「ごめんなさい……その、ちょっと行きたいところがあるの、すぐに戻ってくるから」
「解りました、それじゃなのは……行こう」
「う、うん」

なのははヴィアの態度を不思議に思いつつも、ユーノと共に徒歩でオーブ軍施設に向かって行った……。



その頃アースラでは、ブリッジでモニタリングをしていたエイミィがクロノにある質問をしていた。

「ねえクロノ君、どうしてヴィアさんまでオーブに降ろしたの?」
「いや、出発する前に母さん……リンディ提督から言われていたんだ、もし彼女が何かしたいようだったらできる限り許可してくれって」
「提督が……?」

ヴィアとリンディ、ついでになのはの母桃子やシンの母親は齢が近くママ友のような関係を持っていた。
故にクロノは彼女達同士で自分達には話せないような話をしていたのかもと半ば納得していた。

(考えてみればあの人……謎が多い人だよな)

PT事件の時はプレシア・テスタロッサの協力し、FCの技術であるアルティメット細胞のデータを盗み出し独自に研究を重ねていたヴィア、その後彼女は管理局に保護観察兼専属の研究者となり、リバースという薬を作りリインフォースアインを消滅の運命から救った。
その後も彼女は管理局で数々の功績を上げ、何気に局内で確固たる地位を築いていた。

しかし彼女のそれ以前の経歴はCE出身だという事以外は解っておらず、何故リバースを作ったのかという詳細な行動目的も不明なままだった。

(……少し調べてみるか)





数十分後、なのは達はジュエルシードの反応があったオノゴロ島基地の入り口前にやってきた。

「この中だね、ジュエルシードの反応があったのは」
「よかった、まだ発動していないみたいだ、でもこのまま中に入ることは出来なさそうだね……」
「うーん、私たちを中に入れては……くれないよね、軍施設だし」

なのはとユーノはどうしたもんかとうーんと悩み始める、その時……なのはがある事を思いついた。

「そーだ! ユーノ君久しぶりにフェレットになってみれば!? そうすればこっそり中に入ることができるよ!」
「成程、じゃあ早速……」

そう言ってユーノは人目の付かない草場に移動し、約5年ぶりにフェレットに変身した。

(それじゃなのは、僕はこのまま中の様子を見てくるからここで待っていて)
(わかった)

ユーノはなのはと念話でコンタクトを取った後、基地の門の隙間から中に入って行った。
その様子を確認したなのはは、そのまま近くに立ててあったフェンスに凭れ掛かった。

「さーて、ユーノ君の連絡があるまで待ちますか……」

そう言ってなのはは日が沈みかけてオレンジ色に染まる空を見上げる。

[トリィ]
「ふえ?」

その時、どこからともなく緑色の羽をもった小鳥のような生き物が飛んできて、そのままちょこんとなのはの肩に泊まってしまった。

「あ、あの君……? どうしたのかな?」
[トリィ!]
「??? 変わった鳴き声をするんだね?」

なのはは訳が解らず頭を傾げる、その時……フェンスの向こうにある基地施設から、黄色の作業服を着た、茶が混じった黒髪に紫色の瞳をした16歳ぐらいの少年が駆け寄って来た。

「どこいったのトリィー? ……ってそんなところにいたんだ、あ……」

少年はなのはの姿を見て思わず立ち止まり、そのままぺこりと頭を下げた。

「す、すみません、それ僕のなんです、迷惑を掛けてしまって……」
「……? い、いえいいんですよ、可愛らしいペットですね」

なのはその少年の顔を見て一瞬口籠ってしまった、何故なら彼の顔が自分のよく知っている誰かと似ていると感じたからである。

(あれ? この人誰かに似ているような……ああそうだ! ヴィアさんに似ている!)

なのははヴィアも彼と同じ茶色の髪に紫色の瞳だった事を思い出し、納得してうんうんと頷いた。

すると少年はにこやかな笑顔でなのはと肩に乗る小鳥に話しかける。

「でもトリィが人に懐くなんて珍しいなあ」
「と、トリィってこの子の名前ですか? 可愛らしいですね……」
「ははは、やっぱり安直ですかね……でも友達からもらった大切な物なんですよ」

するとなのはは5年前のPT事件の後、フェイトと再会を約束してリボン交換をした事を思い出し、目を細めて微笑みながら小鳥……トリィを優しく撫でた。

「私にもありますよ、友達にもらった大切な物……今は離れ離れになっちゃいましたけど」
「……離れ離れですか」
「はい、今その子を探しているんです」

すると少年は深刻そうな顔をして俯いた後、再び顔を上げてなのはを見る。

「僕も……仲良しだった友達と離れ離れになっちゃったんです、トリィも……彼が作ってくれた物で……」
「“作った”? え? この子作り物だったんですか!?」

なのはは本物と見間違えるほどのトリィの精巧な出来に驚く。

(魔法は無い世界だけど、やっぱり私の世界のように科学技術が進んでいる世界なんだね……)
[トリィ!]

するとトリィは何かを見つけたかのようになのはの肩から飛び立ち、そのままどこかに行ってしまった。

「あ! トリィ!」

少年はすぐさまトリィの後を追おうとする……が、途中で足を止めてなのはの方を向いた。

「僕はキラ・ヤマト! 君は!?」
「私……私は高町なのはです!」
「高町さん! トリィを見てくれてありがとう! それじゃ!」

そう言って軽く自己紹介をした後、キラと名乗った少年はそのまま走り去って行った。

「キラ・ヤマト……か」
[マスター、少しよろしいでしょうか]

不意に待機状態のレイジングハートがなのはに話しかけてくる。

(? どうしたのレイジングハート?)

なのはは念話でレイジングハートの問いに答えた、するとレイジングハートは……驚くべき事実をなのはに伝えた。

(先ほどの少年……キラ・ヤマトから微弱ながらジュエルシードの反応がしました、恐らくシン・アスカと同じように、体内にリンカーコアとして取り込んでいる模様です)
「え!!?」

なのははすぐにキラが先ほどまでいた方角を見る、そこにはもう誰もいなかった……。










一方その頃、インド洋に浮かぶ無人島……地図にも載っていないこの半径1キロメートルほどの大きさの島の中心には、白いコンクリートでできた建物がある。
数日前、たまたま近くを通ったザフト軍所属の潜水艦ボズゴロフがこの建物を発見し、中を調査した結果、何者かが建物の中で何かの人体実験や、見たことのない技術を使ったエネルギー実験が行われた形跡が残っていた。

現在はボズゴロフが基地から大半の証拠物件を持ち出し、ジブラルタル基地に帰還後は基地の兵達が入れ替わりに捜査を付続けていた。
そして現在、島の周辺には調査にやって来た数隻のザフト軍所属の戦艦が巡回しており、何やら物々しい雰囲気を醸し出していた。



「うーん……中には入れそうにないなあ」

研究所から数百メートル離れた丘の上、そこではやては研究所周辺を巡回するザフト兵達を遠目で眺めながら、はあっとため息をついた。
その後ろでは、シャマルがクラールヴィントを使った探索魔法でフェイトとアルフの反応を探していたが、良い結果は得られなかったようだ。

「はやてちゃん……あそこにはフェイトちゃんとアルフちゃんはいないみたいです」
「そうか、まさかあの人たちに連れ去られちゃったんかなあ……」

はやては考え付く歓迎しがたい展開に眉を曲げる、するとそこに……偵察に出ていたヴィータとザフィーラ、シグナムとリインツヴァイが戻ってきた。

「はやてー! 今戻ったー!」
「はやてちゃーん!」
「皆おかえりー、どうだった?」

はやては皆の報告を聞くが、その中身は。

「すみません、あの研究所以外に怪しい物は発見できませんでした」
「周りも厳重に警備されています、強行突破できなくもないですがこの世界の人間に魔法攻撃を行うのは……」
「うーん、今のところ私らは入り込めへんなあ、フェイトちゃんがどこに行ったのかだけでもわかればええんやけど」
「とりあえず今はアインとアリシアちゃんが戻るのを待ちましょう」



その頃、偵察に出ていたアイン・アリシア組は、沿岸を歩いて捜索中だった。

「フェイトー! アルフー! どこいったのー!!?」
「おい、大声で叫ぶな……ザフト軍に見つかったらどうする?」
「? 私はこれでいつも紅龍やドモンを見つけるけど?」
「……」

アインは心の中で自分とアリシアの考え方の違いに頭を抱えていた。
アリシアはヴィータよりも冷静さが足りず、猪突猛進で戦術を考えずに本能で突き進むタイプであり、何か起こるか解らない戦場では真っ先に命を落とすタイプであるとアインは分析していた。

(私が何とかしなくては……)

アインが心の中で決意する一方、アリシアはどんどん先に歩いて行きフェイト達の名前を大声で叫ぶ。

「フェイトー! アルフー! どこいったのー!? お姉ちゃんが迎えに来たよー!」
「だから……お前はさっき言ったことを聞いていなかったのか? ……ん?」


その時アインは、砂浜で釣りをしている水色の天然パーマの青年を発見する。
すると釣りをしていた青年はアインとアリシアに気付き、ぽやーとマイナスイオンのようなものをまき散らしながらにこやかな笑顔で挨拶をしてきた。

「おや? こんにちは……観光ですか?」
「こんにちわー!!! 釣れますか―!?」
「お、おい……!」

対してアリシアは何も考えなしに青年に大声で挨拶し、アインの制止も聞かずそのままトコトコと彼に近寄っていった。

「ちょっと聞きたいんですけど、この辺に私そっくりの子とオレンジ色の子犬、もしくはオレンジ色の髪をした女の人を見かけませんでした?」
「あなたそっくりの人? ふむ……」

青年はアリシアの顔を見てしばらく考え込み、そしてにっこりと笑って口を開いた。

「そう言えば数日前……君そっくりの子がザフト軍の船に乗せられているのを見ました、きっとジブラルタル基地に向かったと思いますよ」
「おおお!? そりゃ本当に!?」
「ジブラルタル基地……ザフトの本拠地か、まずい事になったな……」

そう言ってアインは頬杖をついて今後どうしていくべきかを思案する、一方青年は急に釣り道具を片付け始めた。

「あれ? もう釣りはやめるの?」
「ええ、もうすぐここも爆破されてしまいますから」
「何?」

その時、基地周辺に異常事態を告げるサイレンが鳴り響き、周辺にいたザフト兵達が慌てて戦艦に乗り込み始めた。

「……! 何かあったみたいだね!」
「どうやら爆破装置を解除したことがバレたみたいですね、改めて証拠隠滅するようです」
「何……!?」

アインは何かを知っている風の青年を引き留めようとするが、青年は足早にその場を立ち去ろうとしていた。

「あなた達も早く逃げた方がいい、世界が混ざり合ったことで助かることができた命なのだから」
「貴様!? 何を知って……!?」

すると青年の足元に魔法陣が出現し、彼はそのまま光と共に何処かに去って行った……。

「行っちゃった!? 魔法!?」
「なんだったんだ奴は……!?」

その時、アインの脳内にシャマルからの念話が届く。

(アイン聞こえる!? 基地からものすごいエネルギーが膨れ上がっているのが感知されたの! 急いでここから離脱するわよ!)
「なんだと!? くっ……アリシア、ここから逃げるぞ!」
「へ!? はわわわわ!!」

アインは飛ぶことができないアリシアを抱えて飛び立ち、その場から大きく離れる。
その数分後に研究所は突如大爆発を起こし、無人島の中心に巨大なクレーターを作って跡形もなく吹き飛んでしまった……。










今日はここまでにします、補足を加えるとキラはなのはと出会った後、原作通り潜入捜査に来ていたアスランたちと出会います。

次回はフェイトやザフト側の話をメインに進めていこうと思います。



[22867] 第三話「原罪の創造主」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:cb9981f1
Date: 2012/01/28 08:08
 第三話「原罪の創造主」


ザフト軍ジブラルタル基地にある医務室のベッド……そこでフェイトは目を覚ました。

「あ、あれ? 私一体……」
「フェイト!? 起きたんだね!」

すると病室の扉が開け放たれ、そこからおとなフォームのアルフが入ってきた。

「アルフ? 私一体……」
「フェイト、あのクルーゼって男が見せた資料を見て倒れたんだよ、無理もないさ……小さい頃のトラウマが掘り起こされたんだから」
「あ……」

フェイトは自分が気を失う直前の出来事を思い出す、クルーゼが持ってきた資料に自分の出生に関わるプロジェクトに一端が乗っており、母に虐げられた過去がフラッシュバックしてしまったのだ。

「ごめん、迷惑掛けて……母さんのことは吹っ切ったつもりだったんだけど……」
「しょうがないよ、私だってあの女のしたことは今でも許せていないんだから」
「うん……あれ?」

その時フェイトはふと、アルフが犬耳を生やした人間の姿になっていることに気がつく。

「アルフ、どうしてここで人型に? 誰かに見られたら……」
「あ、あのぉ、それがね……」

対してアルフはなにやらバツが悪そうに、フェイトの機嫌を伺うかのようにチラチラと彼女の顔を見る。



「おや、どうやら目が覚めたみたいだね」

するとそこに、クルーゼが病室に入ってくる、するとフェイトはすぐにアルフに小声で話しかけた。

(アルフ! 早く耳隠して!)
「そ、それがねえ……」
「もう隠す必要はない、君が倒れた時に彼女が子犬から人間の姿に変わったのを目撃したからね」
「えっ」

クルーゼの言葉を聞いてフェイトはアルフのほうを向く、対してアルフはとても気まずそうにフェイトから目を逸らした。

「大変だったよ、君に駆け寄ったと思ったら、今度はこちらに襲い掛かってきてねぇ……まあすぐに大人しくなってくれたが」
「す、すみません」

フェイトは主人の責任と言わんばかりにクルーゼに頭を下げる、対してクルーゼはフッと笑い近くに置いてあった椅子に腰掛けた。

「そんなことはどうでもいい、それよりもその少女……いや、君たちは何者なのだ? 子犬が人間に変わるなんて技術、聞いたことが無い」
「「……」」

クルーゼの質問に、フェイトとアルフは身構えながら何も答えない。

「……君たちの正体は口外しないことを約束しよう、幸い彼女が変化した姿は私しか見ていないからね、ただし黙秘を貫くようならこちらも手段を選ぶことはできない」
「……わかりました」

クルーゼの要求に、コクリと頷いて了承の意思を示すフェイト。

「フェイト!?」
「言うとおりにするしかないよ、信じてもらえるかどうか微妙だけど……」


フェイトはクルーゼに自分たちの正体を明かした、時空管理局の存在、自分たちが事故でこの世界に来たこと、自分たちが知っている限りのあの研究所の事などを……。


「…………異世界、そして魔導……にわかには信じがたいが、そこのアルフ君の事もある……頭から否定することはできないな」
「は、はあ……」

クルーゼはフェイトの話を半分ほどしか信じていなかった。そしてこれからどうしようかと考えているフェイトに話しかける。

「それに……先ほどの君のリアクションを見る限り、今回の件に深く関わっているのは間違いないだろう、そこでだ……君達、私に協力する気はないかね?」
「「え?」」

クルーゼの提案に、フェイトとアルフは互いに顔を見合わせ、そのまま同時にクルーゼの方を見る。

「君たちはあの研究所の真実を知りたいのだろう? つまり我々の目的は同じという訳だ……君達が私に協力してくれるのなら、私達が集めた情報を君に提供しよう、そして……」
「私たちが集めた情報をそちらに提供しろと……」
「そういうことだ、どうだね?」

フェイトはクルーゼの提案に対し、しばらく自分だけで思案する……そして結論を出した。

「解りました、あなたに協力します」
「フェイト!?」
「仕方ないよ、私達には今なのは達の元に戻る手段が無いんだし、今やれることはやっておこうと思う、それに……」

フェイトは一度クルーゼの方をチラッと見て、ふふっと微笑んだ。

「クルーゼさんは……悪い人じゃないと思う」
「あの仮面男がぁ? うーん……フェイトがそう言うなら従うけど……」

フェイトは何故かクルーゼに対し親近感のようなものを抱いていた、対してアルフは無理やり自分を納得させた。

「話は纏まったかね? ではこれからよろしく頼むよ、フェイト君だったかな?」
「はい、フェイト・T・ハラオウン、こっちはアルフです。よろしくお願いしますクルーゼさん」



こうしてフェイト達は管理局への連絡方法が見つかるまでの間、クルーゼに協力することにした……。





その頃、オーブ国内にある街中の図書館……そこでヴィアはここ数年間CEで起こった出来事を手当たり次第に調べていた。

「ナチュラルとコーディネイターの戦争……しかもこの世界でもMSが開発されていたなんて……」

ヴィアはぶつぶつと呟きながら、本棚から手当たり次第持ち出したスクラップ記事を読み漁る、すると……ある出来事を記した記事が目に留まった。

「これは……! メンデルの……!」

それは約16年前に起こったとあるコロニー事故の記事だった、その記事は新聞の片隅に小さく載っているだけで、行方不明者が数名出ていることしか記されていなかった。

(やっぱりそう記されているだけよね、生存者の事も書いていない……)

ヴィアは少し落胆した様子でそのスクラップ記事を閉じ、集めた本を片付け始めた……。



そして数分後、ヴィアは深くため息をつきながら図書館を出た。

(できればあの子達がどうなったか知りたかったけど、仕方ないわね……)

ヴィアはそのまま通信機を取り、アースラから迎えを呼ぼうとした、その時……。

「……姉さん?」
「え?」

突然、近くを歩いていた中年夫婦がヴィアに話しかけてきた。

「あ、あなたは……!」

ヴィアはその中年夫婦を見て、まるで金縛りにあったかのように動けなくなっていた、そして夫婦の片割れ……紺色の髪をウェーブ気味に伸ばしている女性が、ヴィアに歩み寄って肩を掴んできた。

「姉さん! ヴィア姉さんなんでしょ!! 私よ! カリダよ!」
「か、カリダ……それにハルマさんまで……」
「なぜあなたがここに!? 生きていたんですか!?」

夫の方……ハルマも、ヴィアの姿を見て駆け寄ってくる、対してヴィアは戸惑うばかりで何をすればいいのか解らないでいた。

「生きていたのならどうして連絡をくれなかったの!? 私たちがどれだけ心配したと……!」
「あのっ、それは……」



「ヴィアさん……お取込み中でしたか?」

するとそこに、どういう訳かクロノがヴィア達の前に現れた。

「クロノ君!? なんでここに!?」
「失礼ですが、あなたを監視させてもらいました、僕自身のちょっとした疑問を晴らす為に……そちらの方達は?」
「なんですか貴方!? 姉とどういった関係なんですか!?」

突然現れたクロノに対し、カリダは取り乱した様子で喚き散らした。そんな彼女をクロノは軽く受け流し、そのままヴィアの方を向く。

「成程、妹さんでしたか、そう言えばどことなく似ているような……」
「……そんな話をする為に迎えに来たんじゃないんでしょう?」
「はい、少し聞きたいことがあるんです、取りあえずアースラに帰りましょう、なのは達も任務を終えたようですしね」





それから数分後、ヴィアと共にアースラに戻ってきたクロノは、調査を終えて戻ってきたなのはやはやて、ヴォルケンリッターの面々とユーノ、そしてアリシアをブリーフィングルームに集めた。

「二人とも報告書は読んだよ、まさか施設が爆破されるとはね……」
「研究所の持ち主はもっと早く爆破するつもりやったらしいけどな、リインフォース達が会った男の子が爆破装置を解除したらしいんや」
「誰なんだろうねその子、その子の正体も調べる必要があるね」
「ああそうだな、それともう一つ君たちに聞いてほしい事があるんだ、ヴィアさんの事でね……」

そう言ってクロノは座ったまま俯いているヴィアの前に、ある生物学雑誌を置いた。

「この世界の事を調べているうちにあなたの名前を見つけました、ヴィアさん……あなたはミッドチルダに来る前、彼と一緒に働いていたんですね」

その雑誌の表紙にはある男性研究員の写真が大きく載っており、見出しには“コーディネイター研究の第一人者、ユーレン・ヒビキ博士のインタビュー”という文字が書かれていた。

「ヒビキって……ヴィアさんと同じ名字じゃん」
「司令、この男がどうしたのですか?」

ヴィータとシグナムの質問に、クロノは雑誌を手に取ってぱらぱらとめくりながら答える。

「ユーレン・ヒビキ博士……コーディネイター研究の第一人者であるが、16年前にコロニーの事故で妻と二人の子供と共に行方不明になってしまった……ユーレンの妻であり、同僚でもあるその女性の名前はヴィア・ヒビキ、あなたの事ですよね?」

クロノはとある女性の写真が載っているページをヴィアに見せる、写真の女性は……16年前の若き日のヴィアだった。

「え……!?」
「ど、どういうこと……!?」

自分たちの知らないヴィアの過去を目の当たりにし、なのは達の間に動揺が走る。するとヴィアは顔をふっと上げて、少し自嘲めいた笑みを浮かべて語り始めた。

「その通りよクロノ君、そこに映っているのは私……夫のユーレンと共にコーディネイターの研究を……いえ、もっとひどい事をしてきたわ」
「ひどい事って……?」
「ええそう、自らの欲望の為に、我が子すら実験台にした悪魔の所業よ」

ヴィアは遠い目をしながら、自分と夫が犯した罪をポツリポツリと語り始めた。

「あのね皆、コーディネイターって言ってもシン君は幸運なパターンなの、遺伝子をいじくった胎児を育てる母体っていうのはものすごく不安定なものでね、親の希望通りに生まれてくる子は100%じゃない……瞳の色が希望と違うというだけで捨てられる子もいたわ」
「…………」

ヴィアの話に真剣に耳を傾けるなのは達。

「だから私たちは……夫は、そんな不幸な子が生まれないように、人類のさらなる発展の為に研究を重ねたわ、でも夫はそのうち暴走し始めたの、中々成果を見せない研究に道を見出す為に、人体実験や禁止されているクローニング技術にも研究資金目的で手に染めたわ」
(クローンって……)

ヴィアの瞳には次第に涙が溢れていた、それでも彼女は声を振り絞って話を続けた。

「そして……そして数多の子の犠牲の末、あの人は私のお腹の中にいた子を実験台にしたの、人類の夢……スーパーコーディネイターを生み出す為に、実験は成功……あの人はついに自分の野望を果たしたのよ、でもその後にあの事件が起こった」
「……16年前のコロニーメンデルの事故ですね」

クロノの質問に、ヴィアは首を横に振った。

「あれは事故じゃない……テロだったの、恐らくブルーコスモスがスーパーコーディネイターと、それを生み出した私たちの事を脅威に思ったのでしょうね、死んでいくコロニーの中で私はまだ赤ん坊だった子供たちを妹に託して死ぬつもりだった、でも……」

ヴィアは涙をぬぐい、話を昔の友人の思い出話に切り替える。





気が付いたら私はミッドチルダの山奥にいた、どうして自分が生きているのか、そこがどこなのか解らなかった私は、数日ほど当てもなく森の中を彷徨ったわ。

そして衰弱して行き倒れていた私は、いつの間にか誰かに助けられて山の中の小屋のベッドの中で眠っていた。傍には……カプセルの中で眠っているデスティニーとノワールがいたわ。



自分が助けられた理由もわからず、私は小屋に置かれていたミッドの本を読みながら死人のようにその小屋で暮らしたわ、そして十数年後……私はプレシアに出会った。

あの頃のプレシアはまだ心に余裕があったし、私も久しぶりに人と話せるのがうれしくて、すぐに友達になって、プレシア達の屋敷に招かれたわ。

ある日私はプレシアがプロジェクトF……クローンを使ってアリシアちゃんを生き返らせようとしている事を知った、私の夫と同じような過ちを彼女に犯してほしくなくて必死に止めたわ、でも彼女は聞く耳を持たず、やがてフェイトちゃんが生まれた……。

案の定、プレシアの望むような結果は得られなかった、だってそうでしょう……? クローンとはいえ、フェイトはフェイトちゃんという一つの命なのだから、アリシアちゃんになれないのは当然だわ。

でもそれが解らないほどプレシアの心は壊れ始めていた。彼女は次にアルハザードの地でアリシアちゃんを生き返らせようとして、無理な魔導実験を繰り返して死の病に侵されてしまった。私は……そうなっていく彼女を止めることができなかった。





「あとはみんなの知っての通り、プレシアは標的をジュエルシードに変えてアルハザードにあると言われている蘇生の秘術を使ってアリシアを甦らせようとした、そうして起こったのがPT事件よ」


ヴィアの話が一区切りし、ブリーフィングルームを沈黙が包む。



「……この十六年の間に、そんなことがあったのね」



するとブリーフィングルームに、何故かカリダ、ハルマ夫妻が入ってきた。

「え? あの、どちら様……」
「この方達はヴィアさんの妹さんと、その旦那さんだそうだ」
「ええ!? ご家族の方ですか!」

クロノの説明を受けて驚愕するツヴァイ、その他のメンバーも似たような反応だった。

そしてカリダは瞳に涙を溜めて、項垂れているヴィアにすり寄った。

「姉さん……! どうしてもっと早く帰ってきてくれなかったの!? 私達がどれだけ心配したと思っているの!?」
「……私がこの世界でしたことは許されることじゃないわ、あなた達にも多大な迷惑を掛けてしまったし……ここに戻るには私の手は血で汚れすぎている……」

そう言ってヴィアは自分の震える両手を見つめる。するとその震える手を、ずっと黙って話を聞いていたアリシアがそっと握った。

「……ヴィアさんの手は汚れてなんかいません」
「アリシアちゃん……」
「確かに……確かにヴィアさんは昔、沢山悪い事をしたかもしれません……でも私が今こうしてこの場に居られるのはヴィアさんが母さんを支えてくれたから……だから汚れてなんかいません……!」

アリシアは震える声で自分の心の内をさらけ出す、すると後ろからアインが彼女の肩をポンと叩いた。

「……私が天に帰ろうとした時、あなたが私に送ってくれた言葉は今でも忘れません……あの言葉があったから、私は今も主と騎士達と一緒にいることができるのです、だから私はあなたの力になりたい、あなたの背負っている物を少しでも軽くしてあげたいのです、だから……自分だけで苦しまないでください」

そして最後に、クロノが優しい口調で語りかけてきた。

「あなたは今回の件……参加しなくてもいいはずだった、でもあなたは逃げずにこの世界に戻ってきた、自分の罪に向き合おうとしている者を責める者はここにはいません」
「みんな……」

ヴィアはブリーフィングルームにいるなのは達が、自分に対し暖かい視線を送っている事に気付く。クロノの言うとおり、ヴィアの過去を聞いて彼女を軽蔑したりする者は一人もいなかった。

「みんな……ありがとう……」

ヴィアはこんな自分がいつの間にか沢山の子達に慕われている事を知り、言いようのない嬉しさを感じていた。すると……それまで話を聞いていたカリダも優しい口調で語りかけてきた。

「姉さん……私達と離れ離れの間も色々なことがあったのね、でも元気そうで安心したわ」
「ええ……私は幸せ者よ……」

そしてカリダは何かを思い出したのか、急にヴィアの前に立っって彼女の肩を掴んだ。

「そうだ……! 今ならまだ間に合う! 姉さん、今すぐオーブに戻って!」
「ど、どうしたの急に? 私の都合でアースラをここに留まらせるわけには……」
「姉さんの子供……まだ生きてるの! キラもカガリもこのオーブにいるのよ!」
「「えっ!!?」」

ヴィアと、“キラ”という名前を耳にしたなのはは思わず驚愕の声を上げた……。





数日後、オーブのモルゲンレーテ港……そこから一隻の白い戦艦……アークエンジェルが、いくつものオーブ軍の軍艦に護衛されながら出港していた。

そしてその様子を、オーブ領海の外から監視している一隻の潜水艦……ザフト軍のクストーがあった。
その艦の発令所に、ザフト軍服の上着を着込んで駆け込んでくる一人の若者がいた。

「演習ですか?」

若者が尋ねると、艦長らしき男がデータパネルに顎をしゃくってみせる。

「スケジュールにはないがな、北東へ向かっている……艦の特定はまだか?」

艦長らしき男はオペレーターに反応の特定を急かす。そして……そのまま深くため息をついた。

「しかし……我々も運がない、この反応があの足つきだったとしても、四機のGが動かないのではどうしようもないな」
「原因究明は進んでいるのですか?」
「技術班の話ではあと半日は掛かるらしい、まったく……この肝心な時に、地球軍の兵器だからか?」
「何にせよ次の機会を伺うしかないでしょう……」

そう言って若者は憂鬱そうな顔で物思いにふけっていた……。










オーブ沿岸にある人気のない崖の上……そこに以前無人島でアインとアリシアと出会った青髪の少年が座ったまま海を眺めていた。その膝の上には……ノートパソコンが置いてあった。

「さて……お膳立ては整ったね、それでは動くとしますか……」

少年はノートパソコンを畳むと、すくっと立ち上がる。
そして……背中に生えた青い翼をバサッと広げた。



「君達には死んでもらうよ、キラ・ヤマト、アスラン・ザラ……この世界が生きるために」










本日はここまで、この時点で色々と原作と変わっていきます。ある人も死なずに済みましたね。やったね○○○! もう死亡シーンを使い回されずに済むよ!
今は説明不足な点が多いですが、これからちょっとずつ明かしていくつもりです。

次回はストライクとイージスが死闘を繰り広げたあの回をやります、なのは達を関わらせるなど原作と展開を大幅に変えてあるのでお楽しみに。ジャンク屋の彼も出すかも?



[22867] 第四話「雷雨の中で」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:cb9981f1
Date: 2012/02/20 17:32
 第四話「雷雨の中で」


アークエンジェルがオーブから出向して数日後、艦は目的地のアラスカに向かって航行を続けていた。
そしてそのアークエンジェルの居住区……そこでキラは窓から見える暴風雨が降り注ぐ景色を眺めながら、これまでの事を思い返していた。

(ヘリオポリスでカガリと出会って、ストライクに乗り込んでから3か月近く経つんだ……)


三か月前、キラの暮らしていた中立のコロニー“ヘリオポリス”は、クルーゼ率いるザフト軍に襲撃された、ザフト軍の目的はヘリオポリス内で製造されていた地球軍の勢力の一つ、大西洋連邦が製造した4機の試作MSであり、キラは逃げる最中にそのうちの一機“ストライク”に乗り込み、ザフト軍を撃退した後に、友人たちと共にストライクの運用艦であるアークエンジェルに乗り込み、ザフト軍の攻撃で崩壊しようとしていたヘリオポリスから脱出した。

その後宇宙要塞アルテミスでユーラシア連邦に拿捕されそうになりつつも危機を脱し、地球に降下しようとした際にザフト軍の強襲を受け、地球連合軍第8艦隊の犠牲の末にアークエンジェルは降下目的地のアラスカから大きく離れた、ザフトの勢力下であるアフリカに降下してしまった。

アフリカでは砂漠の虎バルドフェルド隊の攻撃を受けつつも、現地のゲリラの援護を受けて撃退し、マラッカ海峡でも攻撃を受けるが凌ぎ、艦に乗艦していたカガリの手助けで中立国であるオーブに逃げ込んだ。

そして修理を終えたアークエンジェルは現在、アラスカの連合軍本部のあるJOSH-Aに向かって航行していた。


「色々なことがあった……本当に……」

そう言ってキラは自分の手を見つめる、キラはストライクに乗ってこれまで何度も生死を掛けた戦いを繰り広げてきた、奪ってしまった命の数も決して少なくない、守れなかった物もあった……その現実が彼の心を苦しめていた。
そしてキラ自身にはもう一つ、気がかりなことがあった。

(アスラン……君たちはまた僕らの前に立ち塞がるのか)

それはヘリオポリスのMS……イージスを奪ったザフト兵の中に、幼馴染のアスランがいた事であり、彼は幾度となく他のザフト兵と共にアークエンジェルの前に立ちはだかった。

戦場で再会した二人は幾度となく言葉を交わした、しかし互いの守りたい物の為に、現在は袂を別っていた。

(恐らくアラスカに着く前にもう一度襲撃してくるだろう、本当はオーブから出てすぐに攻撃してくると思ったけど……)

実はオーブに滞在していた際、キラはモルゲンレーテの作業員に変装して偵察に来ていたアスランと出会っていた、キラは出港してすぐにアスラン達が仕掛けてくると予想していたが、特に何もなくここまで来ていた。


「また僕達は戦わなきゃいけないのかな……」
[トリィ]

するとそこに彼のペットロボット……かつてアスランに作ってもらったトリィが現れた。

「そうだねトリィ、僕がこの艦を守らないと……」
[トリィ]

ふと、キラはオーブで出会ったサイドテールの少女の事を思い出す、彼女の花のように優しい笑顔が、何故かキラの脳裏から離れなかった。

[トリィ]
「そうだねトリィ、また高町さんに会えるといいね」

そう言ってキラはトリィを優しく撫でる。彼の表情は自然と微笑んでいた。

「お! キラじゃん!」
「こんな所で何しているの?」

するとそこに、キラの友達で現在は連合軍の軍人としてアークエンジェルに乗艦しているトールとミリアリアがやって来た。

「トール、ミリィ……ちょっと外の景色をね……」
「キラ、なんだか疲れた顔しているわよ、大丈夫?」
「うーん、スカイグラスパーが不調にならなきゃ、俺も援護してあげられるんだけどなあ」

そう言ってトールは残念そうな顔でうんうんと頷いた。

「どうして急に動かなくなっちゃったのかしらね……おかげで今はフラガ少佐の一号機しか使えないのよね」
「せっかくシュミレーターで何度も訓練したのに……! ごめんなキラ、お前ばかりに戦わせて……」
「いいんだよトール、気持ちだけでも嬉しい」

そう言ってキラは乾いた笑みを浮かべる、するとミリアリアはある事を思い出しキラに質問する。

「そう言えばキラ……なんだかフレイと話していないみたいだけど、何かあったの?」
「……何もないよ」

キラの脳裏にヘリオポリスから一緒に逃げてきたフレイが浮かび上がる、キラは宇宙でのザフトとの戦いの際、フレイを迎えに来た彼女の父親の艦を落とされてしまい、“何故守ってくれなかったの!?”と激しい罵声を浴びせられていた。
しかしその後戦いを重ね心身を疲労させていくキラをフレイは“体”を使って慰め、二人は肉体的な関係を持っていた、フレイにはサイという婚約者がいるにも関わらず。
ちなみにサイはキラの友達でもあり、アークエンジェルに兵隊として乗り込んでいる彼はフレイをキラに奪われた事に激怒し、彼に殴りかかるが簡単に抑え込まれてしまい、現在は口も聞いていない状態だった。

「あのさ……なんて言ったらいいか解らないけど、愚痴や悩みなら聞くことぐらいはできるとおもうから、だから……あまり自分だけでしょい込むなよ」

トールは友人達がいざこざを起こしている事に、キラに任せきりで何も力になれなかった自分自身に責任を感じていた。
ストライクの支援機である戦闘機……スカイグラスパーに乗ろうとしたのも、もうこれ以上キラに重荷を背負わせたくないと思ったからなのかもしれない。

「うん……そうだね……ありがとう」



その時、アークエンジェル全体に敵襲を告げる警報が鳴り響く。

『総員第一戦闘配備! 総員第一戦闘配備!』
「警報!? ザフト軍がまた攻めてきたのか!」
「もうすぐアラスカなのに……!」
「二人はブリッジへ! 僕はストライクで出る!」

そう言ってキラは一目散に格納庫に駆けていく。
その道中で彼は同じくアークエンジェルに乗艦している金髪の連合軍軍人……ムウ・ラ・フラガ少佐と合流する。

「よう坊主! 今回もよろしく頼むぜ!」
「はい!」

二人はパイロットスーツに着替えそれぞれの機体……キラはストライク、ムウはスカイグラスパーに搭乗する。

「装備はランチャーストライカーで出ます! 換装を!」

キラの乗るGAT‐105……ストライクはストライカーパックと呼ばれる装備を換装することで様々な戦況に対応することができる。
先程キラが言っていたランチャーストライカーは砲撃による長距離戦闘を得意としており、多大な火力を保有している。
ちなみにストライカーパックは他に近接戦闘を得意とするソードストライカー、高機動戦闘を得意とするエールストライカーがある。

そしてキラの乗るストライクの目に前にあるハッチが開け放たれる、外には雷雨が降り注ぐ薄暗い空が広がっていた。

『ストライク発進どうぞ!』
「キラ・ヤマト、ストライク、行きます!」

オペレーターのミリアリアとシグナルの合図と共に、ストライクはすべるようにカタパルトを使って勢いよくアークエンジェルから出撃した。

『キラ君、敵影は4、恐らくクルーゼ隊に奪われたGよ……またよろしくね』
『もうすぐアラスカだ、我々はこんなところで落とされる訳にはいかないぞ』
「わかりました、マリューさん、ナタルさん」

キラは通信を送ってきた艦長のマリューと、副長のナタルのエールを受けながら戦場へ飛んでいく。





一方その頃アークエンジェル付近にある無人島……そこでは四機のMSが茂みに隠れながら戦闘態勢に入っていた。

『ストライク……今日こそ落としてやるぞ!』
『熱くなるなよイザーク、焦ってちゃ取り逃がすぜ』
『何としても足付きをアラスカに辿り着かせる前に落としませんとね』
(キラ……)

四機のMSのパイロット達はそれぞれの思惑を秘めながら、海を渡るアークエンジェルを待ち構えていた。

『よし……今なら背後から足つきを狙える! いくぞディアッカ!』
『おう! 俺もこんなジメジメしたところに座っているのはごめんだぜ!』

そして青と白のカラーリングを施した右肩に砲台を乗せているMS……デュエルと、緑と薄い黄色のカラーリングの砲撃機……バスターが、MS支援空中機動飛翔体「グゥル」に乗ってアークエンジェルに向かって行った。

『ニコル、君はミラージュコロイドで足付きに接近してくれ、俺は後ろからイザーク達を援護する』
『解りましたアスラン……ご武運を』

そう言って全身に黒いカラーリングを施したMS……ブリッツはふっと蜃気楼のようにその場から姿を消してしまった。

『キラ……! 俺はもう迷わない! 行くぞ!』

そして赤とピンクの中間ほどのカラーリングのMS……イージスもまた、他の三機と一拍遅れて行動を開始した。



~アークエンジェルブリッジ~

「後方レーダーに反応! 機種特定! デュエルとバスター! 距離96000、相対速度およそ270ノットで接近中!!」
「きたか!!」
「やはり来たわね、ザフト……!」

オペレーターからの報告を受け、マリューはどう立ち回るか思案を巡らせる。

「さらにレーダーに反応! デュエルの後方5000にイージス!」
「ブリッツは!?」
「反応なし!」
「全方位警戒! 音紋索敵怠るな!」
「デュエル・バスター設定ラインまで5百……三百……踏みます!」

レーダーにはデュエルとバスター、そしてイージスの物と思われる反応が三つ映っていた。

(キラ君……ムウ……頼むわよ)



~ザフト側~

『ヒュー! いいねえ! 今度来る時はぜひバカンスで来たいもんだなイザーク!』
『ふふん……今日足つきをやれば明日にでも実現するさ! もっとも俺はこんな所に興味はないがな!』

バスターのパイロット……ディアッカと、デュエルのパイロット……イザークは、眼下に広がる南国の島々を眺めながらアークエンジェルに接近する。

するとアークエンジェルは浮上して船頭を180度回転させる。

『何!? 足つきが反転!?』
『ふんっ! 観念して反撃に出ようってのか!? 望むところさ!』

そう言って二機は接近する速度を速める、その時……海中から二機の背中に目掛けて極太のビームが発射される。

『何いいいいい!!?』
『後ろだと!!?』

ビームはバスターの脚をグゥルごと破壊し、バスターは海へ墜落していく。
そしてビームが放たれた地点からランチャーストライクが浮上してきた。

『ディアッカ!! おのれえええええ!!』

仲間が撃墜され激昂するイザーク、しかし怒りのあまりランチャーストライクの主要武器……アグニの二射目に反応することができず、直撃を受けグゥルから無人島に墜落してしまった。

『ぐぉ……! ストライクめ……!』
『デュエルのパイロット! 聞こえているか! この戦いは君たちの負けだ! 今すぐ機体を捨てて退却するんだ!』
(ストライクのパイロット……!?)

デュエルのコックピットに、ストライクに乗るキラから降伏勧告が来る。

『僕は……!』



~ストライクのコックピット~

「君達を殺したくはないんだ!」

キラはなるべく誰も殺さないように、デュエルに降伏を促した。

『キサマ……! 俺を馬鹿にするのか!?』
『何をしている!! さっさと撃たないか!』

しかしデュエルはまだまだ戦う意思があるのかギギギと起き上がり、アークエンジェルのナタルからデュエルを攻撃するよう催促の指示が出る。
それでもキラは自分の意思を変えない。

『もう一度頼む! 退いてくれ!!』

するとデュエルは自身の装甲……アサルトシュラウドを脱ぎ捨てて身軽な状態になる。

『このままおめおめと生き恥をさらすぐらいなら……!! キサマと刺し違える!! ストライクうぅぅ!!』

そしてそのままビームサーベルを持ってストライクに急接近する。

「くっ……! ばかやろう!!!」

キラは叫びながら迎撃を試みる、しかし今度は別の方角からビームが飛来し、アグニを真っ二つに破壊する。

『キラああああああ!!』
「アスラン!?」

ビームが飛来した方角にはMA形態に変形したイージスがいた。
そうしてキラが怯んでいる間にデュエルが背後から斬りかかってくる。

『もらったぁ!!』
「……!」

しかしキラは冷静にストライクをしゃがませ、サーベルを降り下ろそうとしたデュエルの手を取った。

『!!???』

そしてそのまま一本背負いの如く、デュエルを地面に叩きつけた。

『ひ、ひいいい!!?』

そして腰に装備してあったナイフ型の武器……アーマーシュナイダーをデュエルのコックピット付近に突き刺した。

『……!? な、何が起こっている!? 何故俺を殺さない!? 俺を殺せ……! ストライクうううううう!!!』

イザークはモニターが死んで真っ暗になったコックピットで叫び続けた。


『イザークが!? キラぁ!』

一方キラは肩に装備してあったバルカン砲で、飛来してくるイージスを迎撃する。しかしバルカン砲はすぐに弾切れを起こす。

「くっ……!」
『どうしたキラ!? 持ち駒はそれだけか!?』

アスランはイージスをMS形態に戻し、ビームライフルでストライクを攻撃する。

『キラ! 今日こそお前を……!!』
『させるかよ!!』
『!?』

しかしそこに、ムウの乗るスカイグラスパーが飛来し、スカイグラスパーが放ったビームがイージスのビームライフルを破壊した。

『ムウさん! ありがとうございます!』
『いいってことよ! ソードに換装しろ!』

ムウはそのままスカイグラスパーに搭載されていたソードストライカーを放出する、対してキラはストライクに装備していたランチャーの装備を外し、代わりに落ちてきたソードストライカーを装備した。

「アスラン!!」
『キラ!!』

ビームサーベルで斬りかかってきたイージスに対し、ストライクは大剣型武器……シュベルトゲベールで受け止める、そして両者はそのまま海上で何度も何度もぶつかり合った。



~アークエンジェルブリッジ~

「う、撃ち方やめ! ストライクに当たるわ!」

マリューはストライクを援護しようとする砲撃手を慌てて止め、現状を確認する。

「ストライクのエネルギー残量は!?」
「大丈夫! 一対一ならこちらが圧倒的に有利です!ストライクにはまだエールがありますがイージスには換装システムはありません!」

ナタルは勝ちを確信しながらマリューに報告する、そして他のブリッジクルーも次々と自分の責務を全うする。

「バスターの収容が了しました! パイロットも拘束しました!」
「フラガ機はストライクの傍に付き待機してください!」
『了解だ!』
「なあ、もしかして俺達勝てるぞ……」
「ああ、四機のG相手に……ん?」

その時一同は、相手がいつも四機で襲い掛かってくるのに今回はまだ三機しか出てきていないことに気付く。

その時、オペレーターの一人がアークエンジェルに接近する新たな機影に気付いた。

「左舷水切り音……!? これは……ブリッツ!!」
『これでおしまいにしましょう!』

突然現れたブリッツはアークエンジェルのブリッジに肉薄し、左腕に装備しているアンカー……グレイプニールを構える。



~ストライクのコックピット~

「! アークエンジェルが!」

アークエンジェルの窮地に気付くキラ、その瞬間彼の脳裏に種の弾けるイメージが浮かび上がり、頭の中がクリアになってくる。

『うわ!?』

そしてイージスを蹴り飛ばすとすぐにアークエンジェルに向かい、ブリッツの左腕を自身の右腕に装備していたロケットアンカー……パンツァーアイゼンを発射して掴み、自身に引き寄せる。

『くそっ!』
「……」

キラはそのままブリッツの右腕を切り落とす。

『う、うわあああ!!』

武器をすべて破壊され、ストライクに背を向けて逃げようとするブリッツ、しかしキラは容赦なくそのブリッツの機体を背後から真っ二つにしてしまった。

『あ……あ……! ニコル!!』

アスランはその様子を驚愕しながら見ているしかなかった……。



~ブリッツのコックピット~

(そ、そんな……母さん……! 父さん……!)

今にも爆発しそうなブリッツの中で、パイロットのニコルは故郷のプラントにいる両親の事を思い浮かべる、しかしその時……突然破壊されたはずの機器が再起動した。

「え?」

そして彼はそのまま、脱出装置により機体の外に放り出された。



~ストライクのコックピット~

ストライクに切り裂かれ、ブリッツは海面に落ちる数秒の内に爆散した。

『ニコルううううううううう!!!!』
「はっ! 僕は……!」

キラはアスランの叫びを聞き我に返る、そして爆散したブリッツを見て涙を流した。

(そうか……今のMSパイロットはアスランの……僕はもう……!)

イージスから放たれる怒りに、キラはもうアスランとは昔の様な親友の関係に戻れないという事を感じ取った。

「キラあああああ!! 俺はお前をおおおおお!!!」
「アスラン……! うわっ!!」

そしてMA形態に変形したイージスは、そのままストライクに組み付き、アークエンジェルから離れて近くの無人島に激突する。



そして次の瞬間、ストライクとイージスのいる無人島から、天を引き裂くような大爆発が起こった。
イージスがストライクを道連れに自爆したのだ。





~アークエンジェルブリッジ~

「キ……ラ……?」

ブリッジクルーたちはその光景を見て呆然としていた、そしてレーダーに新たな敵影が映し出される。

「ザフトの援軍……!? 艦長! このままここに留まっていては危険です!」
「ですがキラ君が……!」
「このままここで全員に死ねと命令するおつもりですか!!?」

ナタルの進言を受け、ナタルは歯噛みしながらも支持を出した。

「くっ……我々は撤退します、捜索はオーブに任せましょう……」


アークエンジェルはそのまま、ストライクらの残骸が残る戦場から撤退していった。……。










~十数分前、アースラの食堂~


「はあ……」

アースラの食堂、そこでヴィアはテーブルに座りながら深いため息をついていた。

そしてその様子を、なのはとヴィータは少し離れた位置から眺めていた。

「ヴィアさん元気ねーな」
「うーん、仕方ないんじゃない? 自分の子供が軍に入って戦争しているなんて聞かされて、私だったら色々考えちゃうよ……」

アースラは現在、ヤマト夫妻をいったんオーブに置いて行き、彼らが提供したジュエルシードが取りついているキラがアークエンジェルに乗っているという情報を元に、アークエンジェルの後を見つからないように追跡していた。

「しかしあのヤマト夫婦もよくわからねえなあ、預けられた双子の片割れ……カガリだっけ? オーブのお偉いさんに預けるなんて……」
「何か深い事情があったのかもね、でも辛いよね……互いに兄弟がいるってことを知らないらしいし」

ヤマト夫妻の話によれば、ヴィアの子供であるキラはヤマト夫妻が育て、もう一人の子供であるカガリは、現在オーブを束ねているウズミ・ユラ・アスハの後継ぎとして育てられているらしい。そしてキラには兄弟の存在は話していないそうだ。

「ヴィアさんどうするんだろう……子供には会わないのかな?」
「これから任務でそのキラって奴に会うかもしれないのになあ……まあこればっかりは本人の意思次第だしな、あたしらが強制できることじゃねえよ」
「うん……」

そう言って話をしているなのはとヴィータの元に、エイミィからの通信が入ってきた。

『二人共そこにいる!?』
「あん? どうしたエイミィ? そんなに慌てて……」
『緊急事態なの! すぐにブリーフィングルームに集まって!』


数分後、ブリーフィングルームに集められたなのは達は、神妙な顔つきのクロノからある説明を受けていた。

「キラ・ヤマトのMSが撃墜された……!?」
「先程アークエンジェルがザフト軍に襲撃され、ストライクが敵機の自爆に巻き込まれているのをモニタリングしたんだ、アークエンジェルはザフト援軍の追撃を逃れるためにアラスカに向かった」
「つまりキラ・ヤマトは置いてきぼりを喰らったと……?」
「……」

クロノとシグナムのやり取りを聞きながら、ヴィアは真っ青な顔で俯いていた。

「ヴィアさん大丈夫ですか? 医務室で休みます?」
「だ、大丈夫よシャマルさん……」

シャマルの気遣いに対し、ヴィアは無理やり作った笑顔で答える。
一方クロノはモニターを使って説明を続けた。

「アークエンジェルはオーブに行方不明者の捜索を任せたらしい、しかしキラ・ヤマトにはジュエルシードが憑依している、もし何かのきっかけで暴走でもしたら……」
「成程、キラ・ヤマト君だけでなく救援に来たオーブ軍の皆さんも危ないっちゅうわけやな、じゃあ私らのやることは……」
「ああ、僕達はオーブ軍より先にキラ・ヤマトを保護する、メンバーは……なのはとシャマル、それと念のためもう一人行ってほしいのだが……」

すると真っ先にアリシアとアインが手を上げた。

「はいはいはいはい!!! 私が行く!」
「ヴィアさんには色々と世話になった……その恩を今返したい」
「一人と言ったろうが……」

積極的な二人にクロノは思わず苦笑いし、その二人の気持ちを汲んだ。

「じゃあこの四人で行ってもらおう、僕たちは緊急事態に備えてアースラで待機だ」

クロノの指示に、その場にいた一同は一斉に頷いた。
そしてなのは俯いているヴィアを一瞥する

(ヴィアさん……キラ君は必ず見つけ出します、だから待っていてください……)





十数分後、なのはとシャマルとアリシアとアインは激しい雨が降りしきる中、ストライクが墜落した無人島に飛んでやって来た。
ちなみにアリシアは魔法が使えず自力では飛べないので、アインに抱えてもらっている。

「ひどい雨ね……風も出てきた」
「早い所終わらせよう、このままではキラ・ヤマトの命が危ない」
「そうだね……ん?」

その時、アリシアは海辺に誰かが打ち上げられている事に気付く。

「ねえねえ! 誰かあそこで倒れているよ!」
「ほんとだ! もしかしてキラ・ヤマト……!?」

四人は慌ててその人物の元に駆け寄る、そして……顔を覗き込んで確認した。

「うーん……この人は違うみたいね、キラ君は栗色の髪だけどこの子は黄緑色」
「一緒に撃墜されたのかな? ひどい怪我……」

「ううう……」

その時、倒れていた黄緑色の髪の少年はうめき声を上げる。

「どうやら生きているみたいだな、だがすぐに応急手当をしないと危険な状態だ」
「任せて、クラールヴィント」

シャマルは魔法を使って少年の傷を癒す、しかし少年の意識はいまだに戻らなかった。

「もっとちゃんとしたところで治療しないと……」
「どうします? オーブ軍の人たちがこの人を見つけてくれるかどうかわからないし……」
「少し待て、クロノ指令官に確認する」

そう言ってアインは念話でクロノに確認を取る。

「司令官から許可が出た、クルーが後でこの少年を回収するそうだ」
「それじゃ私たちはキラ君の捜索を続けよっか!」


なのは達は少年の保護をアースラに任せ、自分たちはストライクが墜落した現場に向かった……。



数分後、なのは達は薬品が燃えたような不快な異臭が漂うストライクの墜落現場に到着した。

「うわー、こりゃひどいね……」
「これではキラ・ヤマトも……」

なのは達は全壊のストライクを見てキラの生存を絶望視する、しかしその時……アリシアがあるものを発見する。

「お? 足跡発見!」
「足跡……?」

アリシアの指差す先には、天から降る雨がポタポタと落ちる地面しかなく、なのは達は首を傾げる。

「師匠達と修業してた時に、獲物を捕まえる為の足跡の見分け方を教わったんだ! どうやら男の人の物だよ!」
「流石アリシアちゃん……! 師匠さんもすごいね……!」

なのははアリシアと彼女の師匠のサバイバルスキルを目の当たりにして乾いた笑いが浮かぶ。

「それじゃ私とアインはもうちょっとここを調べてみるわ、なのはちゃんとアリシアちゃんはその足跡を追ってちょうだい」
「わかった!!」

なのは達は二手に分かれてキラの捜索を開始した……。





その頃、なのは達から大分離れた森の中……そこで一人の逆立った箒頭に青いバンダナを巻いた男が、パイロットスーツ姿の少年……キラの肩を持って歩いていた。

(まったく、偶然通りかかった所にMSの戦闘に出くわすなんてよ……とりあえずこいつを病院に連れていかないと……)

男は降りしきる雨に体力を奪われながらも、キラを助けるため必死に歩いていた。

「ん? あれは……?」
「……」

その時、男は前方から青い髪の少年が歩いて来ている事に気付いた。

「ちょうどよかった! あんた手を貸してくれないか! こいつ怪我をしていて……!?」

男は歩いてきた少年に助けを求めようとする……が、その少年がこちらに拳銃の銃口をむけている事に気付いた。

次の瞬間、辺りに火薬の破裂音が鳴り響き、男の横に銃弾が通り過ぎて行った。

「お、おい! なんだよあんたいきなり!? ザフト軍か!?」
「ごめんね、僕はどうしてもそこの彼を殺さないといけない……」
「な、何を言って……!」

男が抗議しようとする間もなく、今度は三発の破裂音が鳴り響き、男は慌ててキラを抱えたまま木陰に隠れた。

「馬鹿野郎! そんなものこっちに向けるな!」
「邪魔をしないでくれ……この世界で余計な殺生はできないんだ」
「な、何を訳の分からないことを……うわ!」

少年は容赦なく男とキラが隠れている木に銃弾を撃ち込んでいく。

「仕方ない、これはあまり使いたくなかったんだけど……」
「待って!」

その時少年の背後から、銃弾の音を聞いて駆けつけて来たなのはが、レイジングハートを構えて現れた。

「君は……管理局の……」
「動かないでください、動くと……吹き飛ばしますよ」

なのははキラを守るため、少年の背中にレイジングハートの先端を突き付けて脅す。
しかし少年はハッとなのはを馬鹿にするように鼻で笑った。

「君には撃てないさ、優しいからね」
「え?」

少年の言葉に戸惑うなのは、その隙に少年は拳銃の引き金を引いた。

「あ!」

銃弾は男とキラのいる方向に飛んでいく。このままでは命中するであろうコースに。
しかし銃弾は、横から現れたアリシアによって空中で“掴まれて”しまった。

「!」
「おお! ナイスアリシアちゃん!」
「流派東方不敗に鉛玉は通用しない……って! あなたは!?」

アリシアは銃弾を放った少年を見て目を見開く。

「君は……無人島の時の!? 何でこんな事を!?」
「アリシア・テスタロッサか……やれやれなんてことだ」

アリシアはその少年が、数日前無人島で警告してくれた少年と同一人物だという事に気付き驚愕する。
その時、上空から複数のヘリの音が聞こえてきた。

「……あーあ、時間切れか、こんな事なら先にアスラン・ザラを仕留めるべきだったよ」
「何を……!?」

その時、少年は懐から野球ボール大の物体を取出し、ピンらしきものを引っこ抜いた。

次の瞬間、辺りは強い光に包まれた。

「うわっ!!?」
「発光弾!?」

突然の事に目を覆うなのはとアリシア、そして数十秒後に目を開くと、そこに少年の姿は無かった。

「一体どこに……!?」
「なのは! それよりもキラ君だよ!」
「あ、うん!」

なのははすぐさま男とキラの元に駆け寄り、安否を確認する。

「大丈夫ですか? 怪我の方は……」
「俺は大丈夫だ、それよりもこいつが……」
「彼は私達が責任を持って助けます、彼を私達に預けてくれませんか?」
「ああ、あんた達は助けてくれたしな」

男はなのは達が信頼に足る人物と判断し、意識のないキラをなのはとアリシアに預けた。

「ありがとうございます、ここで待っていればオーブの人たちが救助してくれると思いますので……」
「いや大丈夫だ、俺は相棒でオーブに帰るからさ、それにしてもあんたらすごいな、一体どこの軍の人間だ?」
「ごめんね、それはちょっと言えないんだ」
「ふーん……まあいいさ、そいつの事絶対助けてくれよ、そいつの相棒が体を張って助けたんだからな」

そう言って男は親指をグッと立てながら、なのは達の元を去って行った……。

「これにて任務完了……早くシャマルさん達と合流しよう」
(あの人……なんでキラ君を殺そうと……)

そしてなのはとアリシアもキラを抱えたままその場を去って行った……。





数分後、しばらく歩いた男は白と赤のカラーリングのMSの前に辿り着いた。

「ロウ~! ようやく見つけた~!」

するとそこに……ボサボサ髪にヘソだしルックの少女が半泣きで駆け寄って来た。

「樹里……お前どうしてここに……?」
「胸騒ぎがして輸送機で飛んできたのよ! もうボロボロじゃない!」
「ああ……早く帰って飯にしたいぜ……」

ロウと呼ばれた男は、半泣きの少女……樹里を諫めながらMSコックピットに向かっていった……。


(あいつら、変わった奴らだったな……なんかまた会えそうな気がするぜ)


やがて雨が止み、雲の隙間からは日の光が漏れていた……。










本日はここまで、今回のMS戦は高山先生の漫画版を参考にしました。
次回はアラスカ戦直前までの話をやろうと思います。ロウ達は後半の方にも出番がある予定です。



[22867] 第五話「戦いの前夜」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:96695c6b
Date: 2012/05/16 10:06
 第五話「戦いの前夜」


アークエンジェルとザラ隊の死闘から数日後、カーペンタリア基地のとある一室……そこで一人戦場から帰還したイザークはクルーゼに報告をしていた。

「ディアッカとニコルはMIA、アスランは負傷してオーブ軍に保護され、バスターは敵に収容され、イージスとブリッツは大破……申し訳ございませんクルーゼ隊長……!」

イザークは悔しそうに歯をぎりぎりと噛みしめながら報告を終える。
対してクルーゼはイザークを励ますように声を掛けた。

「なあに、地球軍に渡る前にストライクを撃破できたのだ、それだけでも良しとしよう、君が生き延びたことだけでも儲けものだ」
「ありがとうございます隊長、ところで……」

イザークは話題を変えて、クルーゼの後ろに立っている二人の人物を指差した。

「この女共は一体何者です?」
「彼女はフェイト・T・ハラオウン君とアルフ君、君もインド洋の無人島の研究所の話は聞いている筈だ、彼女はその件に関して有益な情報を持っている、だから傍に置いているのだよ」
「有益な情報ぉ? この女が?」

イザークは半信半疑といった様子でフェイトとアルフを見る、対してフェイトはその視線が辛いのか顔を逸らした。
ちなみにフェイトとアルフは今、基地の中で行動しやすいようにクルーゼからザフト軍の緑服を渡され、それを着用していた。

(ううう……なんでこの人喧嘩腰なの……?)
(気に食わないねえ、こっちを見下すようなツラしちゃってさ)
「そう邪険にするな、現に彼女は我々にいくつもの有益な情報を提供してくれた、今後の捜査にも協力してくれる」
「はあ……隊長がそうおっしゃるのなら……」

イザークは不満そうにしながらも、クルーゼのいう事に従う。

「とにかく君はしばらく療養していたまえ、もうすぐ大規模な作戦が展開される予定だからな」
「はっ」

そう言ってイザークは敬礼の後、さっさと部屋を出て行った……。

「なんだいあいつ! いーっだ!」
「すまないね、彼は少し気難しい性格をしているものでね」
「気にしていませんよ、それにしても作戦って?」

フェイトは先程のクルーゼの話を思い出し、彼に質問する。

「これから我々は連合軍のパナマ基地に総攻撃を開始する、私とイザークも参加する」
「本部に総攻撃……戦争をするんですね」

これからの戦いで傷つく人達の事を思い、フェイトは悲しい顔をして俯いてしまう。

「君たちはこの基地で待っていてほしい、作戦が終わったら改めてあの研究所の事について一緒に調べよう」
「はい……」

「なあフェイト」

その時、アルフは何かを思い出したかのようにフェイトに話しかける。

「どうしたのアルフ?」
「あのさ……連合軍ってので思い出したんだけどさ、スウェンと初めて出会った時の事覚えているかい?」
「スウェン……?」

フェイトは今現在行方不明のスウェンの名前を聞き首を傾げる。

「なんかあいつ、初めて会った時シンに対してエライ殺意を持ってたじゃん、ブルーなんたらがどうとか連合がどうとか……」
「あ……」

フェイトの脳裏に闇の書事件の時の記憶が呼び起される、そしてスウェンがぽろっと漏らした言葉を思い出した。

「確かに事件が終わった後ぐらいに言ってたね、母さんやクロノも色々調べていたらしいし、確かブルー……ブルー……」
「ブルーコスモスかい?」

二人の会話を横から聞いていたクルーゼが、フェイトが思い出そうとしていた言葉を言い当てる。

「そうそうそれです! ……ってクルーゼさんよく知っていますね?」
「それはそうだ、ブルーコスモスは我々にとって最大の敵なのだからね」
「最大の敵……?」

 クルーゼはフェイト達に、この世界にブルーコスモスという反コーディネイター組織があり、その組織に多くのコーディネイターが命を奪われた事を教えた、対してフェイトは五年前に出会ったスウェンについて自分の知る限りの情報をクルーゼに教えた。

「成程、そのスウェンという少年がシンというコーディネイターを殺そうとしたと……」
「おにい……兄の話では何らかの洗脳工作を受けたのではないのかという話です」
「それにしてもそのブルー何たらって奴らひどい奴らだねぇ、この戦争を起こした原因もあいつらがコロニーに核をぶち込んだからなんだよねえ」

アルフはクルーゼから聞いたブルーコスモスの数々の非道を聞き、怒りを露わにする。

「ふむ、君たちの話は中々興味深い、そのスウェンという人物と話をしてみたいものだ」
「それは難しいと思います、彼とは数年前から音信不通ですから」
「あいつもそれ以上の事は話してくれなかったしね、なんかコソコソと調べ物していたみたいだし……」
「そうか、そう言う事なら仕方ないな、ふむ……」

クルーゼはフェイト達の話を聞いてしばらく考え事をした後、二人にある提案をする。

「二人とも……よければ私の任務に同行するかい?実は私は上の方から、総攻撃の際敵本部に潜入し情報を集めろという指示を受けている、もしかしたら君達にとって有益な情報が得られるかもしれない」
「クルーゼさんに……ですか?(クルーゼさん偉い筈なのにそんな危険な任務を?)」

フェイトはクルーゼの質問を疑問に思いながらも、悪くない提案かもと思い考え込む。

(五年前にスウェンが海鳴に来た理由や、私達の前から姿を消した理由……それが解るのかもしれない、そうすれば……)

 フェイトの脳裏に、スウェンが居なくなってから元気のないはやての顔が浮かび上がる、彼女の心を救うためにも、少しでも彼の行方に関する手掛かりが欲しかった。

「……わかりました、潜入捜査なら私も役に立てると思います、同行させてください」

 だからフェイトはクルーゼの提案を了承した。

「ありがとう、こちらでも君に危険が及ばないよう極力善処する、作戦開始までまだ日はあるから、それまで基地内で自由に過ごしているといい」
「わかりました」



 それから数時間後、特にすることが見つからないフェイトとアルフは、フラフラと基地内を探索していた。

「なんだか基地の中がピリピリしているねえ」
「もうすぐ決戦だからね、私達がいたら邪魔になるかも……」

 数日後に迫るパナマ基地攻略作戦を前に、ここにいるザフト兵達は様々な思惑を胸にその時を待っていた。フェイトはそんな彼らを見て、少し悲しい気持ちになっていた。

(みんな戦争をしに行くんだ……死んじゃうかもしれないのに)

 この作戦で恐らく多くの命が失われるであろう、そうなれば残された者達の悲しみは計り知れない、かつて間近で同じような境遇に見舞われ、心を壊してしまった人物を知っているフェイトは、目の奥から込み上げてくる物をぎゅっと抑え込んだ。

「ん? ありゃあ……」

 その時、アルフが前方にある人物を発見する、それは先程クルーゼに紹介してもらった彼の部下であるイザークだった。

「イザークさんだ……何しているんだろう?」

 二人は何となく気になって彼の後を付いていく、そして……とある部屋にやって来た。

「イザークさん?」
「貴様らか……俺に何の用だ?」

 話し掛けてきたフェイトに対し、イザークは半ば威嚇するような口調で返事をする。それを見たアルフはムッとして彼を睨みつけた。

「あ、あの……偶然ここを通りかかって……」
「ならいちいち話し掛けてくるな、俺は忙しいんだ」

 イザークはそのままぷいっとフェイトに背を向けて、部屋の中にあった段ボールに衣服や写真立てなどを仕舞い込んでいった。

「あの……何を?」
「死んだ者達の遺品を片づけているんだ、本国の遺族に送らねばならないからな、本来なら別の奴がする作業なのだが、生憎そいつは入院中だ」
「「!!!」」

 フェイトとアルフはその時ようやくイザークが今している事が何か気付き、強い衝撃を受ける。

(そっか、さっき行方不明になった人がいたって言っていたけど……)

 恐らく戦死扱いになったのだろう、イザークはその者達の遺品を片付けていたのだ。
 そして彼の作業の様子をフェイトとアルフはじっと見ていた。

「……手伝います」

しばらくして自分達も手伝うを提案する、対してイザークは黙々と作業を続けていた。
 フェイトとアルフはそれを了承と受け取り、空の段ボールの中に、集められていた衣服や、私物であろう楽譜や音楽雑誌を綺麗に畳みながら入れていった。

 数分後、衣類をしまい終えたフェイトは、部屋にあったベッドの脇に写真立てがあるのを発見する。

「これは……」

 その写真立てには、まだ自分と同い年ぐらいであろう少年と、その母親と父親らしき人物が写った写真が入れられていた。

「死んだニコルの両親だ、あのバカめ……俺達の中で一番若いくせに先に死にやがって……」

 ぎりっと歯を噛み締めながら吐き捨てるように呟くイザーク、一方フェイトはその写真をじっと見つめていた。

(両親……)

 自分と同い年ぐらいの子が戦争で命を落とした事も十分衝撃だが、フェイトはそれと同時に彼の両親の心情を思い、思わず堪えていた涙をポロポロと流し始めた。

「フェイト、大丈夫かい?」
「ご、ごめんアルフ、でもこの人達が母さんと同じ思いをしているのかと思うと……」

 そう言ってごしごしと涙を拭くフェイト、それを見たイザークは皮肉を込めてふっと笑った。

「はんっ、会ったことも無い奴の為に涙を流せるとは……お前はとんだ甘ちゃんだな」
「お前……!」

 イザークの馬鹿にしたような態度に、アルフは激昂して飛びかかろうとするが、フェイトの声がそれを遮った。

「流せますよ、大切な人がいなくなると残された人がどれだけ悲しいのか知っていますから……イザークさんだって悲しいでしょう?」
「まあな、だが俺に悲しんでいる暇はない、一日でも早くナチュラル共を滅ぼして、死んでいった仲間達を弔う事が俺のすべきことだ」

 イザークは鬼気迫る決意を目の当たりにし、フェイトはさらに悲しい気持ちになっていた。

「そんな事していたらいつか死んじゃいますよ……イザークさんにだって大切な人がいるでしょう? その人を悲しませちゃ駄目です……」
「それでも……それでもやらなきゃ駄目なんだ!!」

 イザークはそのまま部屋を出て行った、一方フェイトはアルフに宥められながら、彼の後ろ姿を悲しそうな顔で見送った……。




 ~同時刻 アースラブリッジ~

 その日、クロノはモニターで医務室にいるシャマルから報告を受けていた。

「それじゃあニコル・アルマフィはもう大丈夫なんだな?」
『ええ、脱出装置が作動したお陰で軽い脳震盪と擦り傷で済んでいます、シン君もそうでしたけどコーディネイターって回復が早いんですね、数日経てば元の世界に返すことが出来ますよ』

 数日前のキラ・ヤマト捜索の際、アースラは彼と同時に撃墜されたブリッツから脱出したニコルを救助していた、重症を負って意識不明だったキラとは違って、軽傷で済んでいたニコルは数日程このアースラで治療を受けていた。

『本人はザフトに戻りたいと言っていますし、早く降ろしてあげた方がいいと思いますけど……』
「一応我々はオーブに引き返すつもりだ、その時に降ろしてあげることができるだろう」
『それじゃそう伝えておきますね』

 通信を終え、クロノはシートに凭れ掛かりふぅっと溜息をついた、ここ数日の行動で行方不明だったジュエルシードの一つを確保することに成功はしたが、本来の目的である謎の研究所の手掛かりやフェイトの行方がまったく掴めないでいた。
おまけにこの世界は大規模な戦争の真っ最中……あまり長居をすると自分達も巻き込まれかねない、そうなる前にこの件に早めにケリをつけたいとクロノは考えていた。

(だがどうする? 唯一の手がかりの研究所は爆破されてしまったし、これ以上どこを調べればいいんだ……せめてフェイトを見つけることが出来れば何か解るかもしれないのだけど……)





その頃医務室では、シャマルが治療を終えたベッドの上のニコルに対し、先程のクロノの指示を伝えていた。

「という訳で私達はオーブに向かいます、君はその時に降ろすけどいいですね?」
「は、はい……」

 そう言ってニコルはオドオドした様子でシャマルの話を聞いていた、ちなみにアースラや魔導に関しての事は事前に説明してあるのだが、いまだに信じきれないのが彼の今の心情だ。

「その……助けてくれてありがとうございました、貴方達が来てくれなかったら僕どうなっていたか……」
「いいんですよ、私達は人助けが仕事ですし……ああでも、私達の事は軍の人達にはなるべく内緒にしておいてくださいね? じゃないと色々大変な事になっちゃいますから」

 シャマルはまるで悪戯をした子供を優しくしかる親のようにニコルに言い聞かせた、それに対してニコルは、何やら神妙な面持ちで思案し始めた。

「……隣の病室にはストライクのパイロットがいるんですよね?」
「え?」

 突然の質問に動揺するシャマル。ニコルの表情は真剣だった。

「僕はストライクに落とされました、でもそんな事はどうでもいいんです……彼のせいで僕達は多くの仲間を失いました、ミゲルだってあの人に……」
「……」

 シャマルはニコルが何が言いたいのか悟り、彼の手を握って落ち着かせた。

「ごめんね、私が命を救う職務に付いている以上、貴方が考えている事を実行させる訳にはいかないの、なんとしてでも止めるわ」
「……わかりました」

 ニコルはあっさりと引き下がり、そのままベッドに横になった。



数分後、シャマルが医務室から出ると、入口のすぐ傍にシグナムが立っている事に気付き話し掛ける。

「シグナム、さっきの彼の話……」
「ああ、聞いていた……やりきれんな、戦争というものは」
「でもニコル君の気持ちも少し解るわ、私だって皆に何かあったら……そう思うと強く言えないわ、それに……」

 自嘲気味に笑うシャマル、彼女の脳裏にはまだはやてが主になる前、様々な主の元で戦いばかりを繰り返してきた自分達の姿が浮かび上がっていた。

(ニコル君のような子は今まで沢山見てきた、世界や時代が変わっても……人間って同じことを繰り返してしまうものなのかしら……)

 何だか居た堪れない気持ちになるシャマル、その様子に気付いたシグナムもまた、憂鬱そうに溜息をついた。

「……とにかく考えるのはよそう、我々はこれ以上この世界に関わることは出来ないんだ、どうこう言っても変わる物はない」
「……そうね」





 その頃、隣の部屋では……意識を取り戻さずベッドに寝かされているキラと、その彼に四六時中付き添っているヴィアがいた。

「あの……失礼します」

 するとその部屋に、スープやパンなどの食事が乗ったトレイを持ったなのはが入って来た。

「あ、なのはちゃん……お食事持ってきてくれたの? ありがとう」
「ヴィアさん、少し休んだらどうです? ここ数日ずっと眠っていないんじゃ……」

 キラがアースラに収容されてからの数日間、ヴィアは寝る間も惜しんで彼の看病を続けていた。なのははそんな彼女を心配して、時折こうやって病室に足を運んでいた。

「私は平気、ここ最近は調べるものが無くて暇だし……それに……」

 そう言ってヴィアは眠り続けるキラを見つめる、子を心配しない親はいない……彼女の横顔がそう語っていた。

(16年ぶりの再会だもんね……なるべく一緒に居たいんだろうな)

 親子水入らずの所を邪魔してはいけないと思い、なのはは食事を置いてそのまま部屋を出ようとした。

「う、うう……?」

 その時、突然キラが目を覚ました。

「……!? 起きた!?」
「ああ! まだ無理に起き上がっちゃ駄目よ! 貴方は重症なんだから!」

 無理に体を起こそうとするキラを、ヴィアは慌てて手で制する。

「あ、あの……貴方は一体……? お医者さんですか?」
「え、ええ、そんな所……」

 キラにとってヴィアは初対面(正確には生まれたばかりの頃に出会っているのだが)であり、彼女は咄嗟に自分の正体を誤魔化してしまう、そしてキラは彼女の後ろにいたなのはに気が付いた。

「あ、君は確かオーブで会った……なのはさん?」
「覚えていてくれたんですね、キラさん」
「彼女が貴方を救ってくれたのよ、彼女が居なかったらどうなっていたか……」
「ここは一体……見た所アークエンジェルじゃないみたいですけど……」

 キラの質問に、なのはとヴィアはどう説明したらいいか解らず口籠ってしまう、その時……キラはある事を思い出して突然飛び起きた。

「そうだ! アークエンジェルは……皆はどうなったんですか!?」
「ええっと、エイミィさんの話じゃアラスカに向かったそうです」
「こ、ここで寝ている場合じゃない……!」

 そう言ってキラはベッドから降りて立ち上がろうとする、ヴィアはそれを見て慌てて制止しようとした。

「ね、寝てなきゃ駄目って言ったでしょう!? 貴方本当なら死んでもおかしくない怪我だったのに!」
「そんな事言っている場合じゃないんです! 早く戻らないと……あの艦は僕が守らないと……!」
「だ、駄目ですって!」

 怪我を押して無理やり部屋から出ようとするキラを、なのはとヴィアが二人掛かりで止めようとする。

「邪魔をしないでくれ! 僕が行かないと……僕が守らないと!」
「お願い……! 大人しくして……!」

 まるで懇願するように言い聞かせようとするヴィア。

「邪魔を……するなぁ!」
「きゃ!」
「!!」

 するとキラは自分の手を掴むヴィアを半ば乱暴にふり払い、突き飛ばしてしまう。
 その光景を見たなのはの目の色が変わった。

「いい加減にしなさい……!」

 なのはは怒気を含んだ声色で人差し指に光を収束させる。すると突然キラの体にバインドが掛かり、手足を封じられた彼は前のめりに倒れてしまった。

「!? これは!?」

 自分の身に起きた未知の現象に戸惑うキラ、そんな姿の彼を、なのははまるで死んだ魚のような目をしながら見下していた。

「ちょっと……頭冷やそうか」
「ひっ!?」
「な、なのはちゃん!?」

 そのあまりの威圧感に、キラとその場に居合わせたヴィアは猛獣に睨まれた小動物にように縮み上がってしまう。

「何だ!? 何の騒ぎだ!?」

 その時、廊下で騒ぎを聞きつけたシグナムとシャマルがなのは達のいる部屋に入ってくる、そしてバインドを掛けられたキラの姿を見て口をあんぐりと開けた。

「え? 何これ? どういう状況?」
「何かあったのか?」


 その後、少しやりすぎたなのはがクロノからお叱りを受けたのは言うまでもない……。





 数日後、プラントのとある建物の中にある執務室……照明が落とされ薄暗くなっているこの部屋で、一人の男がモニターを使いある人物と通信を行っていた。

『スピットブレイク、全軍配置完了しました』

 通信相手はラウル・クルーゼ、彼の部下のうちの一人である。
 この同時刻、地球の衛星軌道上には多くのザフト軍の輸送艦が、MSを収容したカプセルを降下ポイントへ輸送していた、一方地球上でも各ザフト軍基地から輸送機が離陸を始め、先行していた潜水艇も予定ポイントに集結し、待機している。
 目的はただ一つ……地球軍の本拠地へ総攻撃を行うためだ。今モニターでラウと話している男……パトリック・ザラが一言発すれば集結している軍団はすべて動き出す。

『後はご命令を待つのみです』





 同時刻、アラスカ基地付近にある無人島、その海岸沿いで双眼鏡で基地の様子を眺めている一人の少年の姿があった。
 黒いコートにサングラスといった格好は、存分に彼の特徴的な銀髪を際立たせている。
 そんな彼の元に、長い髪をツインテールにまとめた15,6歳ぐらいの少女と、少し背の高い鋭い眼光を持つ18歳ぐらいの少年が歩み寄ってきた。

「もうすぐ始まりますのね、ザフトと連合軍との戦いが……」
「ああ、だが本当にここが線上になるのか? 俺の予想だとマスドライバーのあるパナマが戦場になると思うのだが……」
「私達の戦術予報士は優秀ですわ、加えて私達が収集した情報と照らし合わせれば、ザフトがここを狙う事も、連合があえてそうさせる事を見抜くなど簡単な事ですわ」

 戦術予報士……聞いたことない職業だが、古くからの友人である彼女がそういうのなら信じていいのだろう、そう思った少年は森の方へ歩いて行った。

「作戦時間まで俺はMSで待機している、お前達も退避していた方がいいぞ」
「お気遣いありがとうございます、では……」

 そう言って少女は眼光の鋭い少年と共に去ろうとした……が、途中で振り向いて銀髪の少年に話し掛けた。

「お気をつけて、スウェンさん」
「ああ」



 二人と別れた後、銀髪の少年……スウェンは森の奥に入って行く、そして葉で覆ってカモフラージュしているオレンジと白のカラーリングを施しているMSの前に立った。


「もうすぐだ……もうすぐ真実に辿り着ける、待っていてくれ……」

 スウェンは自分が置いてきた大切な人達に向けた、謝罪にも似た言葉を呟いた……。










 短いですけど本日はここまで、次回はアラスカ基地攻略戦の話をやります、原作とは大幅に物語の展開を変える予定です、物語の都合上オリジナルキャラや00からの新キャラを出す予定なので、その辺を留意して読んでいただければ幸いです。



[22867] 第六話「オペレーション・スピットブレイク」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:96695c6b
Date: 2012/05/19 09:10
 第六話「オペレーション・スピットブレイク」


 プラント本国にいるパトリック・ザラは、地球上で待機している全軍に通信で号令を下した。

『この作戦により、作戦が早期終結に向かわんことを切に願う、真の自由と正義が示されんことを……オペレーション・スピットブレイク、開始せよ!』

 その号令を待ってましたと言わんばかりに、待機していたザフト軍は唸りを上げるように、目的地である連合軍の基地に向かっていた。
 もっとも、その目的地というのが一部を除いた者達を除いて予想外の場所だったのだが……。





「パナマじゃなく……連合軍本部を攻めるんですか!?」

 オペレーション・スピットブレイクを実行する艦隊の列に加わったクルーゼ隊の母艦クストー、フェイトとアルフはその廊下で前を歩くラウに作戦内容を聞いていた。

「戦争は頭を潰した方が早いだろう? 向こうも大慌てだろうさ」
「アンタ……もしかしてこの事を知っていたのかい?」
「部下には内緒にしておいてくれよ」

 そして三人はMS格納庫にやってくる、そしてそこで今出撃しようとしているイザークと鉢合わせた。

「隊長……!」

 クルーゼの姿を見るや否や、パイロットスーツ姿のまま敬礼するイザーク。そんな彼にクルーゼはねぎらいの言葉を掛けた。

「この場に居ない者達の分の活躍も期待しているぞ、イザーク」
「はっ!」

 直立不動で敬礼したままの体勢のイザーク、そんな彼を見て……フェイトは懇願するように話し掛けた。

「……ちゃんと帰ってきてくださいね」
「……ふん」

 イザークは何も言わず、そのまま自分の乗機であるデュエルの元へ歩いて行った。

「なんだいあいつ! いーっだ!」

 素っ気ないイザークの態度に怒るアルフ、それを見たラウはふっと笑っていた。

「彼も照れているんだろう、君のような美人に帰りを待ってもらっているのだから」
「び、美人!? そんな私なんて……」

 いきなり褒められてアワアワと顔を真っ赤にしながら慌てるフェイト、普段は管理局の仕事ばかりで、異性に褒められることはあまりないので耐性が無いのだ。

「私もしばらくしたらディンで出撃する、早くパイロットスーツに着替えておきたまえ」
「私達は大丈夫ですよ、バルディッシュ」
[イエッサー]

 バルディッシュに指示を出したフェイトは、そのまま金髪を下してザフトの緑の軍服姿から、黒いミニスカートのバリアジャケットに黒いコート、そして白いマント、黒いリボンで結んだツインテールといった格好にセットアップした。

「「「!!!?」」」

 突然フェイトの格好が変化し、ラウや周りにいた兵士達はあまりにも(自分達の)常識外れの光景に驚愕していた。
 それに気付いたアルフは、冷静にフェイトに突っ込みを入れた。

「フェイト……この男にはバレてるとはいえ、ここは管理外世界なんだよ」
「……あ゛」

 フェイトはようやく自分の失態に気付き、顔を徐々に青くしていった。
 それを見たクルーゼはとっさに目撃者である兵達に声を掛けた。

「何をぼーっとしている? 敵の本拠地はすぐそこなのだぞ」

 すると正気を取り戻した兵達はすぐに自分の持ち場に戻って行った。あまりにも現実離れした光景だったので見なかった事にしたらしい。

「す、すみませぇん……」
「次は気をつけたまえ、それにしても君はそんなことまでできるのか……まるでコミックだな」

 そしてクルーゼはフェイトとアルフと共に自分の乗機であるMS……空中戦に特化したディンを自分のパーソナルカラーである白で染めた期待に乗り込んだ……。



 数分後、クストーから発進したクルーゼのディンは、主戦場から少し離れた場所を飛行していた。

「すっげー! MSに乗るなんてあたし初めてだよ!」
「アルフ、はしゃいじゃ駄目だよ」
「しっかり掴まっていたまえ、敵影の無いルートを通っているとはいえ、万が一見つかる可能性もあるのだからな」
「は、はい」

 そう言ってフェイトはクルーゼが座るシートをぎゅっと掴む、そして……コックピットのモニターに映る連合とザフトの激しい戦闘の様子を眺めた。
 とはいえ、連合軍は主戦力をパナマに集結させており、ここに居るのは大した装備を持たない留守部隊……ジンやディン、バクゥなど大量のMS、MAを投入してくるザフト軍に敵うはずもなく、一方的に蹂躙されていた。

「酷い……」

 フェイトは凄惨な光景に思わず目を逸らす、時空管理局執務官という職務上、人の死というものには何度か触れたことがある彼女だったが、殺意が渦巻く戦場の空気にはさすがに適応できなかった。

そうこうしているうちに、クルーゼは基地から発射される対空砲火を回避し、地球連合軍本部……JOSH-Aのゲートに迫る、そしてディンの武装の一つであるMM-M76mm重突撃銃の銃弾を発射し、ゲートを守っていた砲台を潰す、そしてそのまま近くの滝に突っ込んでJOSH-A内部に潜入した。

「……アンタ、こんな裏口を知っていたのかい?」
「事前に情報を集めていてね、すんなり入ることが出来て良かったよ」

 クルーゼのあまりの手際の良さに不信感を抱くアルフ、クルーゼはそんな彼女の視線に意を返さず、どこから手に入れたのかJOSH-A内部の正確な見取り図を開いて進み続けた、そしてしばらくしてディンは動きを止めた。

「よし、ここからは足で進むぞ」

 クルーゼは小型コンピューターを片手に、フェイトとアルフと共にディンから降りて、内部通路を進んでいった。

「変だよ……人気が全くない」
「ここに来る途中も全然攻撃されなかったし……ここって本当に連合軍の本拠地なんですか?」

 フェイト達は銃しか装備していないクルーゼを守るように進みながら、先程から感じている違和感を彼に訴えた。

「ふむ、確かに変だな、とにかく我々は自分のすべきことをやろう」
「……」

 フェイトはクルーゼの余裕の態度にも違和感を抱き始めた、この人……もしかして初めからここに人がいない事を知っていたんじゃないか? そんな疑念がフェイトの中で少しずつ大きくなっていった。

 そしてしばらく進むと、彼らは目的地である管制室にやってきた、するとクルーゼはフェイト達を手で制止させ、銃を構えながら管制室の中の様子を伺う。

(……誰かいる)

 部屋の奥からカタカタとキーボードを叩く音が聞こえてくる、クルーゼ達よりも先にここに来ていた者がいたのだ。

(……? 変だな、アズラエルの情報ではもうここに人はいない筈……)

 クルーゼは銃を構えたまま、ゆっくりと管制室の中に入って行く、するとキーボードを叩いていた人物がクルーゼの存在に気付き、そのままクルリと彼の方を向いた。

「……ザフト軍か」
「ほう、まさか先客がいたとはね」
「「!!!」」

 その時、管制室の出口から中の様子を伺っていたフェイトとアルフは、その人物を見て目を見開いた。なぜならその人物が……彼女達のよく知る人物だったからだ。


「「スウェン!!?」」


 その人物の名前はスウェン・カル・バヤン、5年前起こった闇の書事件の中心人物であり、親友達の大切な家族、そしてフェイト達の大切な仲間でもある男だった……。

「……!? フェイト!? それにアルフまで……なぜこんな所に?」

 スウェンもまた、ここに居る筈のないフェイトとアルフを見て驚愕する。するとフェイトとアルフは数年ぶりの再会を喜ぶよりも、彼がしでかしたある事について憤怒しながら問い詰めはじめた。

「そりゃこっちのセリフだよ! アンタこの数年どこほっつき歩いていたのさ!?」
「そうだよ! はやて達も心配してたよ!」
「あ、いや……これはだな」

 二人に問い詰められ、珍しくクールなキャラを崩して狼狽えるスウェン、すると一人展開から置いてきぼりを喰らったクルーゼが満を持して発言した。

「……知り合いかね?」
「知り合いもなにも! この家出野郎はこの前話したスウェンさ! アンタこんな所で何やってんだい!!」
「それよりお前たちこそ何故ザフトの将校といっしょにいる?」
「それが……」

 フェイトはこの世界に来てクルーゼに保護された時の経緯を簡潔にまとめてスウェンに話した。

「成程、そんなことが……」
「今度はこっちが質問する番だよ、なんでアンタ連合軍にいるのさ?」

 アルフの質問にスウェンは答えず、先程まで操作していたコンピューターからフロッピーディスクを取り出した。

「すまない、説明している時間は無い、ここはもうすぐサイクロプスによって焼かれる」
「「サイクロプス?」」
(この男……なぜその事を?)

 聞いたことのない単語に首を傾げるフェイト達の後ろで、心の内で予想外の事態に動揺しているクルーゼ、するとスウェンはそんな彼に話し掛けてきた。

「見た所アンタはザフトの将校だな? なら早く部下達に撤退命令を出すんだ、そうしないと全員死ぬぞ」
「なぜ君がそのような事を知っているのかね?」
「俺の知り合いが調べたんだ、連合……大西洋連邦はユーラシアの兵を生贄にザフトをおびき寄せ、サイクロプスで皆殺しにするつもりなんだ、俺達はそれを止めに来た」

 そしてスウェンはフェイトの方を向き、先程コンピューターから取り出したフロッピーディスクを彼女に手渡した。

「フェイト、念の為にこのコピーを渡しておく、もし俺に何かあったらこれをリンディさんやクロノに渡してくれ、彼等ならこれをちゃんと使ってくれる筈だ」
「これは……?」
「これにPT事件や闇の書事件の真相が記されている、頼んだぞ」
「お、おい!?」

 スウェンはそのまま、アルフが止めるのも聞かずに管制室を出ようとする……が、途中で立ち止って最後の一言を伝えた。

「はやて達に伝えてくれ……俺とノワールは元気だ、やるべき事が終わったら必ず帰ると」
「スウェン!」

 フェイトは去っていくスウェンを追いかけようとするが、彼はすでにその場から姿を消していた。

「スウェン……」
「何なんだろうねそのディスク? PT事件の真相って……」

 フェイトはそのディスクを懐にしまい、クルーゼの方を向いた。

「クルーゼさん、私達も行きましょう、イザークさん達を助けないと」
「待ちたまえ、先に私もやらなければならないことが……」

 そう言ってクルーゼがコンピューターに向かおうとした時、彼の所有する通信機にクストーから通信が入って来た。

『クルーゼ隊長! 緊急事態です! 早くお戻りください!』
「なんだ? 私は今忙しいのだが……」

 切羽詰った様子のクストーの指揮官の声にクルーゼは顔を顰める。

『そ、それが……地球軍が降伏してきたのです!』
「なんだと……!?」

 クルーゼが驚愕するのと、管制室のモニターに髭面の厳つい顔の男が映し出されたのはほぼ同時だった。



 ~数分前、アークエンジェルブリッジ~


(何故こんな事に……)

アークエンジェル艦長のマリュー・ラミアスは、ブリッジでクルー達に迫りくるザフト軍のMSの迎撃を命じながら、このような状況に陥った自分達の運命を呪っていた。
キラとストライクを失いながらも、命辛々味方の本拠地があるアラスカに逃げ込んだアークエンジェルに待っていたものは、手薄になった本拠地に迫りくるザフト軍を迎撃するという、とても生きて帰れそうにない厳しい任務だった、さらにムウとナタルは転属命令が降りてこの場にはおらず、マリュー達は苦戦を強いられていた。

「司令とコンタクトは!?」
「とれません!!」

 カズイの悲鳴のような声がブリッジに響く、マリューは本部に援軍を要請しようとしているのだが、この時の彼女はまだ司令部の人間達がこの基地から脱出している事に気付いていなかった。

「どのチャンネルを開いても『各自防衛線を維持しつつ臨機応変に対応せよ』って……!」

 そんな馬鹿なとマリューは歯噛みする、もうすでに防衛線は崩され、本部に敵の侵入を許してしまっている、戦況を見て兵を動かす司令部が一体何をやっているのだと心の中で毒づいていた。
 その時、ブリッジにいたトールがインカムを投げ捨ててマリューにある提案をしてくる。

「艦長! 俺がスカイグラスパーで出撃します! いないよりはマシでしょう!!?」
「駄目よ! フラガ少佐のは押収されて、今あるのは不調で動かない2号機だけなのよ!!」
「でも……このままじゃ皆死んじゃいますよ!!」

 その時、二人の会話を遮るように、バリアントで撃墜されたディンが爆散し、ブリッジの閃光が照らされる。

「ひいいい!! もう駄目だー!!」

 ついにカズイが死の恐怖に耐えかね、頭を抱えて俯いてしまう。
 それを見たブリッジクルー達は、自分達の死期が間近に迫ってきている事を感じ始めていた。

「やっと……やっとここまで辿り着いたのに、こんなのってアリかよ!」
「まだ諦めるな! 私達は……!」

 マリューがクルー達を励まそうとした時、ミリアリアがまさに死神の到来を告げる報告をしてきた。

「前方より敵影1! デュエルです!」
「!!」

 一同がモニターに視線を向ける、そこにはグゥルに乗ったデュエルが一直線にこのアークエンジェルに向かっている様子が映し出されていた。

「回避―!!!」
「間に合いません!」

 マリューはとっさに、操舵手であるノイマンに回避を指示するが、度重なるザフト軍の猛攻で稼働率を低下させていたアークエンジェルではとても間に合わなかった。

『これで終わりだああああ!! アークエンジェルぅぅぅ!!!』

 デュエルの……イザークの仲間を奪われた憎しみを込めたビームが銃口から発射される、それは一直線にアークエンジェルのブリッジに向かっていた。

「……!」

 その一瞬、マリューは自分の運命を悟り、悔しそうに自分に迫りくるビームを睨みつけた。
 自分達はこんな結末を迎える為にここまで生き延びてきたんじゃないのに……! そんな悔しい思いが彼女の心を駆け廻っていた。



 しかし、その瞬間は訪れる事はなかった。ブリッジに突然閃光が走る、しかしそれはマリュー達の命を脅かすことはなかった。

「え……!? な、何? 私達生きているの……?」

 ミリアリアを初めとしたブリッジクルー達が戸惑いの声を上げる、そしてモニターを見ると……そこには見たことのない青いGタイプのMSが、背中に装着されてある大きな二本の房状の装備の先端を前方に向けながら、数本のアンテナを出し球形のエネルギーフィールドを展開してアークエンジェルとデュエルの間に立っていた。

「あれは……アルテミスの傘!?」

 ふと、サイがそのMSが展開しているフィールドを見てぽつりと言葉を漏らす。
 アルテミスの傘とは、アークエンジェルがヘリオポリスから脱出し、ユーラシア軍の宇宙基地であるアルテミスが展開していた防衛用光波防御帯である。

『基地残留の連合軍、およびザフト軍、聞こえるか』
「……! あのMSより通信です!」

 ミリアリアはすぐさま、謎のMSから発せられた通信をマリューの通信機に繋いだ。

『こちらはユーラシア連邦軍特務部隊X所属、カシェル・ベルヴィルだ、両軍ただちに戦闘を停止せよ、繰り返す、両軍ただちに戦闘を停止せよ』
「ユーラシア軍……!? 特務部隊Xって……!?」

 突然の乱入者に戸惑うマリュー達、それはデュエルに乗るイザークも同じだった。

『何を突然……! そこをどけ! 俺は足つきを討つんだ!!』

 突然現れたMSの停戦勧告も聞かず、ビームライフルを乱射するイザーク、しかしそれはすべてアルテミスの傘……アルミューレ・リュミエール(装甲した光)によって阻まれた。

『俺達は非武装だ、一時武装を捨てて話を聞いてくれ』
『ぬう……!?』

 よく見ると周辺では謎のMSを緑色にカラーリングしたMSの大群が、アルミューレ・リュミエールを展開して、ザフト軍の攻撃を防いでいた。

「どうなっているんだ!? ユーラシア連邦があれほどのMSを量産していたなんて!」

 明らかにストライク以上の性能を見せつけるそのMSを見て、マリューらアークエンジェルのクルー達……否、その場にいたザフト軍や連合軍も混乱し始めていた。



『えーゴホンゴホン、ただ今マイクのテスト中―……連合、ザフト両軍聞こえていますかー』

 するとその時、アークエンジェルのモニターに髭面の厳つい顔の男が、戦場というこの場所に似合わない呑気な声で通信を入れてきた。

「!? 何この人……」

 また新たな介入者に戸惑う一同、そんな彼らに意を返さずモニターの男は演説を始めた。

『私はユーラシア連邦所属のアリューゼ・ベルヴィル少将……これよりアラスカ基地はザフト軍に降伏する、繰り返す、アラスカ基地はザフト軍に降伏する、なので両軍は速やかに武装を捨てて戦闘を中止してくださーい』

「……は?」

 アリューゼ・ベルヴィルと名乗った男は突然、連合軍は降伏すると言い出し、アークエンジェルブリッジ内の空気が一瞬凍りついた、すると地上で連合軍を守っていたMSらが白い旗を振り始めた。

「お、終わったんですか? 戦闘……?」
「は! そ、そうなのかしら?」

 カズイの一言で現実に引き戻されたマリューは、とりあえず現状を把握しようとモニターで基地周辺の様子を確認する。

 基地周辺では突然の降伏宣言に戸惑うものや怒る者、いまだに戦闘を続けようとするものの謎のMSによって鎮圧される者など様々だった。

『とりあえずザフトの司令官、説明したい事が色々ある、会談の場を設けたいのだが……』

 アリューゼの要求に対し、ザフト側は慌しく状況を把握しようとしていた、するとアークエンジェルの元に、一機の戦闘機が飛来してきた。

『おいアークエンジェル! 無事なら応答しろ!』
「フラガ少佐!?」

 通信を入れてきた戦闘機のパイロットは、転属命令によりこの基地を去ったはずのムウだった。

「ど、どうしてフラガ少佐がここに……!?」
『嫌な胸騒ぎがして戻って来たんだよ、それにしてもお偉いさん方に一杯食わされたぜ!』
「どういう事ですか?」
『俺達は生贄にされたんだよ! 地下にサイクロプスが仕掛けられていたんだ! 発動したら半径10キロは溶鉱炉になっちまう代物だ!』



 その頃、アラスカ基地に接近している一隻の海上戦艦……そのブリッジでアリューゼ・ベルヴィル少将は、先行してアラスカ基地内部に潜入していた部下からある報告を受けていた。

『少将の予測通り、サイクロプスは何者かによって破壊されていました』
「やっぱりねえ……お陰でこちらの手間が省けたってもんだ、お前達は基地内部の兵士達の救護に当たれ、連合とザフト、分け隔てなくな」
『了解しました』

 アリューゼは通信を切ると、どかっと艦長席に背を齎せた。

「ま、トール・ケーニヒの生存が確認された時点でもしやとは思ったが……あの“人形”が動いているのか、こちらとしては好都合、んっふっふっふ」

 アリューゼは不敵に笑う。するとオペレーターがアリューゼにある報告をしてきた。

「少将、ザフト側はこちらの要請に応じるそうです」
「そうかそうか! それじゃ行くとしますか! 私の舌にこの世界の命運が掛かっている!」

 アリューゼはやる気満々といった様子で、片腕を軽くぐるぐると回しながらブリッジを後にした……。



 その頃、アークエンジェルでは……ブリッジに上がって来たムウが、クルー達に自分が基地で見てきた真実を話していた。
 それによると、地球連合軍……大西洋連邦はザフト軍がこのアラスカ基地に大軍勢を投入してくる事を何らかの方法で知り、それを逆手にとってユーラシア軍やアークエンジェルのような向こうの都合で切り捨てた部隊を囮に、サイクロプスですべてを焼き払おうと画策していたのだ。

「急いでその事を伝えようとして慌てて戻って来たんだが……なんか変な事になっているな」
「え、ええ……」

 命が助かったのは良かったが、突然の降伏に戸惑いを隠せない一同。

「艦長、MSのパイロットをお連れしました」

 するとそこに、謎のMSのパイロット……カシェルを連れたサイがやってくる。パイロットの方はというと、全身が紺色のパイロットスーツ、おまけにヘルメットとバイザーまで紺色といった紺色ずくめの姿をしていた。

「よお、君がアークエンジェルを守ってくれたのかい、礼を言わなきゃな」

 真っ先にムウがフレンドリーに話し掛ける……が、彼はそれを無視してヘルメットを外す。
 カシェルの素顔はキラやムウのように短く切りそろえた黒髪、俳優のように整った顔立ち、そして何より鋭い目つきの奥で輝く紫色の瞳が特徴的な美少年だった。

「あ、ちょっとカッコいい……」
「ミリィ!!?」

 ミリアリアの思わぬ一言に凹むトール、そんな二人を無視してカシェルはマリューに向かって敬礼する。

「マリュー・ラミアス艦長ですね? これまでの勇名は我々の間でも有名ですよ」
「あ、はい……」
「君はユーラシア軍と言ったな? あのMSは一体何なんだ?」
「あれは……CAT1-Xハイペリオン4号機、我がユーラシアで量産目的で開発されたMSです、皆さんはご存知かもしれませんが、あれにはアルテミスの傘の技術が使われています、ちなみに他の機体はハイペリオンFと呼称しています」
「……」

 MSを持たないユーラシアがいつの間にあんなMSを? 自分達がアルテミスに寄港した時はストライクの技術欲しさに拘束された程なのに、こんな短期間であれ程の数を量産できたのか? そんな疑念がムウ達の心の中で渦巻いていた。
 するとカズイがとても嬉しそうな声で、カシェルにお礼の言葉を述べた。

「と、とにかく助かりました! お陰で僕達生き延びる事が出来て……」
「お礼は少将に言ってください、あの人はここがサイクロプスで焼き払われる情報を事前に入手し、独断で部隊を動かしてくれたのですから」
「アリューゼ・ベルヴィル少将ね……あら?」

 その時マリューは、自分達を助けに来てくれたユーラシア軍将校と、目の前にいるカシェルの苗字が一緒だという事に気付く。

「もしかして貴方……アリューゼ少将の?」
「ええ、あんなのですが俺の父です」

 カシェルは少し苦い顔をしながら答える、親子関係はそんなに良くないのかしら……そんな考えがマリューの脳裏をよぎった。

「とにかく……司令は今ザフト軍と停戦協議中です、いずれ貴方達の方にも来るでしょう、それまで基地で待機していてください」
「……了解しました」

 そしてカシェルは伝言を終えると、そのままブリッジから出て行った……。

「……艦長、私達これからどうなるんでしょう?」
「さあ、私にも解らないわ……」

 その場に残ったマリュー達は、今後自分達にどのような運命が待ち受けているのかが解らず、ただただその場で立ち尽くしていた……。

 一方、ブリッジを去って廊下を歩いていたカシェルは、とある人物と通信を行っていた。

「……プラントの方はどうだ?」
『はい、プランは順調に進んでおります、少将の思惑通りになるかと……』
「油断するなよ、いつイレギュラーが起こるか解らないんだからな」

 そしてカシェルは通信を切ると、溜まった疲れを吐き出すようにはあっと溜息をついた。

「はあ……こういうのは疲れるな、俺の性に合わない……」





 その頃クストーに戻ったクルーゼは、集まって来た他のザフト軍司令官と共に、会談にやってきたアリューゼの話を聞いていた。

「では貴公は……基地に残された友軍を救う為に、独断で兵を動かしてここに来たと」
「その通り! 大西洋連邦やユーラシアの上層部はあろうことかこの基地の兵達を見捨てようとした! あまりにも非人道的! あまりにも筋違い! だから私は信頼のおける部下達と共にここに来たのです! いやあ間に合ってよかった! 部下達がサイクロプスを破壊していなければ皆さん今頃どうなっていたことか! 本当に良かった!」

 大勢のザフト兵を前にベラベラと演説を繰り広げるアリューゼ、そんな彼をクルーゼは半ば呆れたように見ていた。

(よくもまあ……これだけの大勢を前に舌が回る物だ)

 そんな時一人のザフト軍司令官がアリューゼに問いかける。

「しかし……貴方は何故我々ザフト軍まで助けたのです? 我々は貴方達の敵なのですよ? あの時介入したときだって、貴方達は一発も銃を使っていない……」

 殺し合いの戦争をしている相手を態々助けるなど、その司令官には理解しがたい行動だった。

「うっ……ううっ……!」
「「「!?」」」

 するとクルーゼ達の目の前に予想外の光景が映し出される、アリューゼが突然、声を殺して泣き始めたのだ。

「私は……私は悲しいのです! ユニウスセブンで24万3721名の命達が、一部の愚か者達によって失われた事に……そしてその愚か者達は、貴方達や私が愛する国をも巻き込んでこの世界を殺戮の世界に変えてしまった! 実に嘆かわしい……! だから私は決意したのです! この世界の真の害悪である愚か者達を倒し、この戦争を一刻も早く終わらせると!」
(愚か者達……恐らく大西洋連邦か、それともブルーコスモスの事を指しているのか……確かにそういう考え方もできるな)

 この戦争の発端になった血のバレンタイン事件、ユニウスセブンが核攻撃されたこの事件は一部のブルーコスモス派の地球連合の将校が独断で持ち出した核爆弾によって引き起こされたもの、さらにブルーコスモスの盟主ムルタ・アズラエルは大西洋連邦軍の総司令ウィリアム・サザーランドと親密な関係があると噂されており、見方によってはユーラシアや他の国は大西洋連邦が引き起こした戦争に巻き込まれた事になる。

「ですが……我々だってニュートロンジャマーを地球に打ち込み、沢山の人間の命を奪っているのですよ?」
「それは致し方ない! 大切な人の命を奪われて怒り狂わない方がどうかしている! 私は……引き金を引いた貴方達よりも! 貴方達に引き金を引かせ! 私達を利用しようとした者達を討ちたいのです!! ありきたりな言葉ですが……貴方達は私達と同じ赤い血が流れる人間じゃないですか!!!」
「え、ええ……それはそうですが……」

 アリューゼの涙交じりの演説の迫力に飲まれかけている司令官たち、しかしクルーゼだけは冷静に、アリューゼがどういう人物なのか見極めようとしていた。

(口も達者で演技力もいい……胡散臭いセリフも勢いで誤魔化している……)

「とにかく……私はこれ以上貴方達と戦う気はない! ただ基地にいる兵達の命だけは助けてください!」

 そう言って膝に頭が付くんじゃないかと思うくらい深く頭を下げるアリューゼ、それを見たザフト軍司令官達は戸惑いを隠せないでいた。

(どうします? とりあえずオペレーションスピットブレイクは成功したと言えますが……)
(アラスカ基地に残っていた兵すべてが捕虜か……何かの交渉材料に使えるか?)

 そうしてザフト軍司令官が小声で話し合っている時、ふとアリューゼはクルーゼに向かって手招きをしていた。

(クルーゼ殿、少しよろしいでしょうか?)
(……?)

 クルーゼは何事かと思い、アリューゼによって別室に連れてこられる。するとアリューゼは目をゴシゴシと涙を拭うと、ケロッとした顔でクルーゼの方を向いた。

「さてと……ちょっと私、貴方とお話したい事がありましてね」
「ほう? 私に話とは?」
「いえいえ、そんな重大な事じゃないんです、実はうちの部下が面白い情報を入手しましてねぇ」

 そう言ってアリューゼは一枚の写真をクルーゼに見せる。

「!!!?」

 その写真を見た途端、クルーゼは急に汗をだらだらと流し始めた。
 写真にはとあるバーで、変装をしたクルーゼが隣の客らしき男からフロッピーディスクらしきものを受け取っている様子が映し出されていた。

「んふー、ちょっとこの写真の男を絞り上げた所、貴方の事やディスクの内容をゲロッてくれましてねえ、貴方って本当にひどい人だなあ! 基地の情報と引き換えに、アズラエルと共謀して味方もろともサイクロプスで焼こうとするなんてねえ!」
「貴様……!」

 クルーゼは咄嗟にアリューゼの口封じをしようと飛びかかろうとするが、アリューゼが差し出した掌で止められてしまう。
 クルーゼはこの作戦の前に、ブルーコスモスの盟主であるアズラエルの、息の掛かった部下と接触しアラスカ基地の情報を入手しており、あろうことか味方にはその事を伝えずそのままサイクロプスの餌食にしようとしていたのだ。

「いやはや、この証拠のお陰で私はいち早くここに駆けつけることが出来た訳ですが……いけませんねぇ、味方を見殺しにするような真似は……」
「……何が望みだ?」

 クルーゼは次の一手をどうするか頭の中で思考を巡らせながら、アリューゼの腹の内を探る、するとアリューゼはさらにクルーゼを畳み掛けてきた。

「いや実は私……今回の件で貴方に興味を持ちましてねえ、色々調べさせてもらったんですよ、そしたら面白い事が解っちゃったんですよ」

 アリューゼはそのままクルーゼに近付き、彼の耳元で囁いた。


「貴方……ナチュラルでしょ? おまけにクローンときた」


「貴様は……!」

 親しい友人しか知らない筈の秘密を知られ、クルーゼは完全に動揺しきっており、頭の中がパンクしそうになっていた

「おおっとそんな怖い顔しないで! 別に私は貴方を陥れようと思っている訳じゃあないんです! ただちょっと……頼みたい事がありましてねえ」
「頼みたい事だと……!?」

 クルーゼは必死に心の内で自分に落ち着くよう言い聞かせながらアリューゼの話を聞いた。

「秘密をばらされたくない代わりに、貴方が今抱いている野望……それを諦めて欲しいのです、“この世界すべての人間を道連れにする”という野望をね」
「何故……それを……!」

 それは誰にも言っていない、自分の心の内に留めていた思いの筈、なのにこの男はそこまで見通していたのか……! クルーゼは心の内でそう叫んでいた。

「ですが、ですがその代り! 貴方にはとっておきの情報を教えてあげましょう! これを見てください!」

 そう言ってアリューゼは小さな携帯端末の画面を見せる、そこには南太平洋が映し出されており、真ん中にチカチカと赤い光が点滅していた。

「これは一体……」
「んっふ~! 実はこのマーカーはとある所属不明艦をマーキングした物でしてね、この艦……アースラにはある人物が乗っているんですよ、貴方ととても因縁深い、ある人物がね」
「ある人物……?」

 アリューゼは携帯端末を操作し、今度はオーブの街並みをバックにとある中年女性が映し出されていた。

「こ、この女は……!」

 クルーゼはその女性を見た途端、心臓が鷲掴みされたかと思うぐらい強い衝撃を受ける。
 それを見たアリューゼは勝ちを確信したと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべていた。

「アースラには……貴方を生みだしたユーレンの妻……ヴィア・ヒビキがいます、さあどうします? 秘密をばらされて破滅するか! 私達に協力するか!」

 クルーゼは完全に、アリューゼという男の、魔術のように不可思議で悪魔のように狡猾な雰囲気に飲まれていた……。





 同時刻、北太平洋上を一機のMSが飛行機型に可変して飛行していた。そしてそのコックピットには……アラスカ基地から脱出したスウェンと、MSのパイロットであるオレンジ色のパイロットスーツを着た男がいた。

『お疲れ様ですスウェンさん、作戦はうまくいきましたか?』
「ああ、何とかな……」

 若い女性らしき人物からの通信を聞きながら、スウェンは一仕事を終えてふうっと息を吐いた、すると……それを見たパイロットはふふっと笑っていた。

「……君でもそういう顔するんだね」
「まあな、感情というものは家族から嫌という程学んだ」
「ははっ、君っていつも家族の話をしているよね、もう何年も会っていないんだろう?」

 パイロットの問いに、スウェンはぐっと目を閉じて、大切な家族達の事を思い浮かべながら、自分の決意を語り始めた。

「俺が事を成す為に……家族に迷惑はかけられない、俺が今している事は……もしかしたら世の中がひっくり返る事かもしれないからな」
「そうかい……まあ僕も君と似たような境遇だからね、君が成そうとしている事も理解できるよ」

 親しげに語り合うスウェンとパイロット、すると通信相手の女性が二人の会話に入って来た。

『お二人とも……そろそろこっちに戻ってきてくださいな、ヴェーダの次の指示がいつ来るか解らないのですからね』
「わかった、では急ごう……紅茶でも淹れて待っていてくれ、留美」
「アレルヤ・パプティズム……キュリオス、これより帰投する」


 MSはそのまま赤い粒子をまき散らしながら加速し、目的地まで一直線に飛行していった……。










 本日はここまで、次回は大幅に変化していく世界情勢+αみたいな話になります。

 今回出てきたオリキャラのアリューゼとカシェル、二人ともリメイク前の作品に出したオリキャラの設定を一部流用して登場させました。今後も彼等にはこの物語を引っ掻き回してもらいます。実はもう一人登場予定?
 ちなみにカシェルが乗っていたハイペリオン四号機と引き連れていたハイペリオンFもオリジナルです、Fとは公式外伝のフレームアストレイズに出てきたハイペリオンGの一世代前の機体という意味で名づけました。基本デザインはFとGは同じですがアルミューレ・リュミエールの出力はFの方が上だけどすぐにバッテリー切れを起こすという設定です。何で量産できたの?という疑問はアリューゼ達の正体と共に明かしていく予定です。



[22867] 第七話「抱える想い」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:96695c6b
Date: 2012/07/11 20:46
 第七話「抱える想い」


 オペレーションスピットブレイクから一週間後、アースラのキラがいる病室、そこでキラはアースラスタッフが持ってきたこの世界の新聞に目を通していた。

「まさか……地球軍が分裂するなんて……」

 キラが目を通している新聞には、オペレーションスピットブレイクの後の世界情勢を伝える記事が載っていた、それによるとアラスカ基地での戦いの後、ユーラシア連邦はアリューゼを中心とした反大西洋連邦派やアラスカ基地で囮に使われた兵達による大規模な抗議運動が起き、ザフトとの戦いどころではない状況に陥っていた。
さらにアラスカ基地で大西洋連邦がユーラシア軍や自国の兵達を囮に、サイクロプスでザフト軍を焼き払おうとしたという情報が何者かによってマスコミにリークされ、世界中で大西洋連邦に対する批難が集中している等という記事が載っていた。

(ユーラシアって……あのガルシアって人達の事か……)

キラはヘリオポリスから脱出し、アルテミスに立ち寄った際ユーラシア軍によって一時拘束された時の事を思い出していた。

(トール達は……アークエンジェルは大丈夫なんだろうか……)

 そしてキラはもう一つ気がかりなことがあった、それは自分がアスランに撃墜された後、離ればなれになってしまった仲間達の乗るアークエンジェルの事だった、もしアークエンジェルが予定通りの航海を続けていたら、彼らはアラスカ基地の激戦に巻き込まれた筈なのだ。しかし生憎、アークエンジェルの所在に関しては新聞に載ってはいなかった。

(なんにせよ早くこの艦から降りて皆を探さないと……)

 そうキラが決心した時、彼のいる病室の自動扉が開かれ、そこからなのはが現れた。

「あ、あの……キラさん、体の具合はどうですか?」
「ええ、まあ……」

 先日、無理やりこの艦から降りようとしたキラはなのはから脅迫染みたお叱りを受け、彼女に対して少しばかり苦手意識……というより恐怖に近い感情を抱いていた。
 そしてそれをなのはも感じたのか、すごくばつが悪そうにキラに対して頭を下げた。

「ご、ごめんなさい……あの時の私、頭に血が上っていて……」
「僕も悪いとはいえ、まさかあそこまでされるとは思いませんでしたよ……」

 キラはちょっと不機嫌そうな口調で返事し、なのははさらにしゅんと落ち込んでしまい、部屋に重~い空気が流れる。

「よう、入るぞー」

するとそれを断ち切るかのように、今度はヴィータが病室に入って来た。

「ヴィータちゃんもキラさんに用事?」
「おう、クロノが言うにはこいつと隣のあいつの怪我も大分良くなって、次にやることもないし、とりあえずオーブに戻る事にするってさ、お前達もそこで降ろす」
「ようやくですか……」

 キラの不機嫌そうな返事に対し、ヴィータは眉をぴくっと吊り上げて反応する。

「んだよ、なのはがお前を止めた事、まだ怒ってんのか」
「別に……怒っていませんよ、ただ仲間達の事が心配で……」
「……」

 するとヴィータは近くにあった椅子に腰かけて、呆れたような様子ではあっと大きく息を吐いた。

「お前さ……スーパーマンじゃねえんだから一人でなんでも出来ると思ってんじゃねえぞ」
「な……!? なんで君にそんな偉そうなこと言われなきゃいけないんだ!?」

 自分より小さい子(に見える)であるヴィータに上から目線で指摘され、キラは思わず口調を荒げてしまう、しかしヴィータはそんな彼を無視して話を続けた。

「……なのはがお前を本気で止めたのは、お前が自分みたいになって欲しくないからなんだぞ?」
「……? それってどういう意味?」
「さあな、本人に聞けよ、この件に関しては本人の口から聞いた方がいい」

 そう言ってヴィータはなのはに目配せする、対してなのはは少しの間思案しながら、ふっと顔を上げて語り始めた。

「その……私も昔、皆を守ろうとして無茶ばかりして、結果的に皆に迷惑を掛けちゃったことがあるんです……」
「迷惑……」

 なのははぽつりぽつりと、三年前自分が犯してしまった過ちに付いて語り始めた……。

「私……この仕事を初めて五年になるんですけど、その切欠はユーノ君……私に魔法を教えてくれた人ととの出会いでした」

 なのははユーノと魔法との出会い、フェイト達とのジュエルシードを巡る争い、そしてクロノやリンディら時空管理局との出会い、そして……フェイトの母親であるプレシアに付いて語り始めた。

「当時の私は失敗ばかりで、沢山の人に迷惑を掛けてばかりでした、おまけに……プレシアさんが居なくなった時、私は何も出来なかった……守ることができなかった……」

 なのはは母親を目の前で失って悲しむフェイトの姿を思い出し、唇をぎゅっと噛んで悲しみを堪えていた。

「その後起こった闇の書事件……ここにいるヴィータちゃんやはやてちゃん達と出会う切欠になった事件でも、私はあまり力になれなかった……ヴィアさんやシン君、スウェンさん達が居なかったらきっと同じことを繰り返していたと思う……だから私はもっと皆を守れるだけ強くなりたいと思って、魔法の訓練を続けました、でも二年後のある日……」

 それは三年前、なのはが十一歳の時に起こった事件だった。

「吹雪が降り注ぐ世界での任務の中で……私は事故に遭いました」
「ありゃ事故なんかじゃねえ、あんな命令を下したあの糞野郎のせいだろ」

 なのはの説明に対して一言説明を付けたすヴィータ、その表情はどこか怒りを含んでいた。

「過酷な任務の中で……その……ちょっと大ポカをやらかしてしまいまして……お医者さんには過労だって言われたんですけど……ちょっとその時の怪我が……」
「下手したら魔法が使えないどころか、一生歩けなくなるかもしれなかったんだよな」
「えええ!!?」

 ヴィータの説明を聞いて驚くキラ、今彼の目の前にいるなのははピンピンしているにも関わらず、過去にそんな重症を負ったとは到底思えなかったからだ。

「い、今はその、リハビリを頑張ったお陰で何ともないんですけど……その時に沢山の人に迷惑を掛けちゃって……特にシン君には……」
「シン?」
「アタシらの仲間さ、もっとも……ここ数年一度も連絡をとっていないんだけどさ……」

 シンという名前を聞いた途端、なのはは酷く落ち込んだ様子で俯いてしまう、そしてそのまま彼の事に付いて語り始めた。

「シン君は私達の同僚だったんですけど、その……私が大怪我をした任務を指揮していた司令官さんに抗議したんですよ『アンタが無茶な指示をするからなのはが大怪我したんだ!』って……」
「馬鹿だぜアイツ……その司令官をぶん殴って管理局をクビになるなんて……まああいつが殴らなかったらアタシが殴っていたけど、それにその司令官……何年か後に自分のミスで死なせた自分の部下を無能呼ばわりして、局内や世間から大バッシングを受けて辞めて行ったけど」

 そう言ってヴィータはざまあみろと言わんばかりに鼻ではっと笑った、そしてなのははさらに話を続けた。

「それでも……私が無茶な事をしなければ、シン君は辞めなくて済んだかもしれない、お陰で彼とは全然連絡が取れなくなっちゃうし、フェイトちゃんにはもっと辛い思いをさせちゃって……!」

 なのはは今にも泣きそうな顔で、自分の制服のスカートをぎゅっと掴んだ、その様子をキラはただただ見ている事しかできなかった。

「解ったか? なのははな……お前に自分と同じ間違いをして欲しくなかったんだよ、なんでも自分でやろうとして、無茶ばかりして、結果的に守りたかった相手を苦しめたら意味ないだろ? お前がその怪我で助けに入ったって、お前の仲間達は悲しむだけなんじゃないのか?」
「あ……」

 キラはなのはの思惑をようやく理解し、言葉を失って俯いてしまう。
 ヴィータはそんなキラを見て大きく息を吐くと、そのまま立ち上がった。

「んじゃ、後は二人でご自由に……“お話”すればもっと理解できるだろ」

 ヴィータはかつて自分自身がなのはに言われた言葉をそのまま言った本人に返し、そのまま病室を去って行った。

「……」
「……」

 キラとなのはだけになった病室に沈黙が流れる。

「「あの……」」

 そして第一声が重なってしまい、再び沈黙する。

「その……お先にどうぞ」
「え、えっと……じゃあ……」

 なのはに促されるまま、キラは自分が言おうとした言葉を紡いだ。

「あの……よかったら君の子供の頃の話、もっと聞きたいかなって……オーブに帰るまでまだ時間があるし……」
「……いいですよ、その代り私もキラさんの子供の頃の話とか聞きたいな」


 こうしてキラとなのはは長い時間をかけて言葉を交わした、互いの事を“理解”するために……。



 ☆ ☆ ☆



 その頃、アラスカ基地の司令室……かつて大西洋連邦の司令部が使っていたその場所は現在アリューゼが使っており、そこにマリューとムウが呼び出されていた。

「私達をオーブへ……?」
「うむ、実は私はね……ユーラシア連邦をこの戦争から手を引かせたいと思っているんだ、ザフトに勝つために手段を選ばない大西洋連邦のやり方には付いていけない、このままだとユーラシアは奴等に食い尽くされてしまう、だがザフトに付くこともできない、彼等にはエイプリルフールクライシスで自国民を沢山死なせられた、その遺族達の感情も鑑みてオーブや賛同する他国と協力して中立を目指す事にしたんだ」
「んな事、向こうは承知しませんよ?」

 かなり無茶なアリューゼの目標にツッコミを入れるムウ、しかしアリューゼは不敵な笑みを浮かべた。

「なあに、ユーラシアの上層部の中にはこの戦争が終わったら大西洋連邦と事を構えるつもりの者も居るんだ、その為に設立されたのが特務隊Xな訳だし……奴等の元から離れるのがちょっと早まっただけさ、戦力が減ればこの戦争だって早く終わる、これが我々の取れる最善の手段なのだよ」
「はあ……」

 マリューはアリューゼの“最善”という言葉にどこか疑問を感じていた。
確かに大西洋連邦の次に強大な勢力であるユーラシアがこの戦争から手を引けば終戦に一気に近付くのかもしれない、しかしマリューはアリューゼが心の底に何かを抱えているような気がしてどこか釈然としない様子だった。

「君達は手酷く裏切られたクチだ、おまけにアークエンジェルにはオーブの人間が多くいると聞く、もう戦う気は起きないだろう? 元同僚と戦う事になるかもしれないし……一度オーブの人間を故郷に帰して今後どうするかゆっくりと考えるといい」
「……クルーと相談してみます」

 話が終わり、部屋から出ようとするマリューとムウ、その時ムウは足を止めてアリューゼに一つ質問をした。

「ちょっとよろしいでしょうか? ザフト側の司令官……ラウ・ル・クルーゼは今どこに?」
「彼なら次の任務があると言って後任を置いてこの基地から去ったよ、恐らく次はパナマを攻めるつもりなんだろう、彼がどうかしたのかい?」
「いえ……ちょっと気になっただけです、それじゃ……」



 ムウとマリューが去り、一人司令室に残ったアリューゼは不敵な笑みを浮かべた。

「そうそう、君達にはもっと生きてもらわなくてはならない、この世界の争いの火種を絶やさない為にもね……」

その時、彼の手元にあった通信機が鳴り、彼は受話器を手に取った。

「私だ……今は少将と呼べと言っただろう? ……ふむ、アースラを見つけたか、ならキラ・ヤマトとヴィア・ヒビキも居る筈だ、彼らはちゃんと保護するように」

 受話器を置き、シートに凭れ掛かるアリューゼ、そして顔を天井に向けながらぽつりとつぶやいた。

「困るんだよなあ、今管理局に我々の正体を知られちゃあね……」

 

 ☆ ☆ ☆



数時間後、オーブに向かう太平洋上のアースラ……そのブリッジでクロノはキラに渡した新聞と同じものに目を通しながら、頬杖をついて思い悩んでいた。

「クロノ君、どうかしたの?」

 するとそこに、緑茶を乗せたトレイを持ったエイミィがやって来た。

「いや、このアリューゼという男……どこかで見たことがあるんだよな……」

クロノは新聞に載せられているアリューゼの顔写真を見てデジャヴュを感じており、首を傾げていた。

「うーん……この世界の人間の事を知っているとは思えないし……誰かと勘違いしているんじゃない?」
「そうなのかな? うーん……」

 クロノは悩みながらエイミィが持ってきた緑茶に手を伸ばす。

 だがその時、ゴォォォンという轟音と共にアースラに強い揺れが起き、クロノは緑茶を取り損ねてアツアツのお茶を手に引っ掻けてしまった。

「うあっちい!!? なんだこの揺れは!?」
「これは……後方より砲撃!! MSによるものです! 機影は三つ!」

 オペレーターの報告を受けて顔色を変えるクロノとエイミィ、すると先ほどの揺れを感じたなのはやはやて率いるヴォルケンリッター、アリシアにキラ、ニコル、ヴィアがブリッジにやって来た。

「クロノ君! さっきの揺れはなんや!?」
「MSの攻撃を受けた! こっちに向かってきているらしい!」
「MS……!? ザフト!? それとも連合!?」
「まって! 今調べるから……嘘!? この機体は……!?」

 迫りくる機体のデータを照会して驚愕するエイミィ。

「該当データ有り! VMS-15……リアルド! なのはちゃん達の世界のMSだよ!」
「えええ!? なんでそんなものがこの世界に!? というかどうしてアースラを攻撃しているんですか!?」

 モニターにはグリーンのカラーリングが施された三機の巡航形態のリアルドが映し出されていた。
 予想外の敵の襲来に困惑するなのは達魔導師組、一方キラとニコルは状況が飲み込めず首を傾げていた。

「あの……リアルドなんて機体聞いたことが無いんですけど……どこの所属なんですか?」
「後で説明してや……うわっ!」

 ヴィータがニコルに返事をするよりも早く、アースラは突然現れたこの世界に存在しない筈のMSの攻撃で大きく揺らいだ。

「ディストーションフィールド展開! 破損個所もチェック! それとあのMSと通信を繋げ!」
「はい!」

 クロノは素早くクルー達に指示を出す、するとなのは達が真剣な面持ちでクロノに話し掛ける。

「私が行って迎撃します! その隙にアースラは撤退を!」
「いくら君達でもMSを相手にするなんて無茶だ!」
「このままじゃ撃墜されちまうだろ!」

 激しい言い合いをするクロノ達、その時クルーの一人が相手MSのメッセージを受信し、クロノに報告する。

「相手MSからの通信が来ました!『キラ・ヤマトとヴィア・ヒビキをこちらに引き渡せ、 さもなくば撃墜する』とのことです!」
「……!? 私とこの子を……!?」

何故自分とキラなのか、そもそもどうして自分達がアースラに居る事を知っているのか、ヴィアの脳内にそんな思考が巡る、するとアースラ全体にこれまで以上の強い衝撃が響き渡る。

「機関部に命中! これ以上攻撃されると墜落します!」
「なんだと……!?」

 あまりの展開に困惑するクロノ達、そしてリアルドの一機がリニアライフルからトドメの一発を発射しようとした、次の瞬間……。



『ちょっと待ったー!!!』



突然リアルドの右方向から一発のビームが放たれ、リアルドのリニアライフルを破壊した。

「新たな機影確認! ガンダムタイプです!」
「今度はなんだ!?」

 一同は一斉にモニターを見る、そこには赤い二本の角に日本刀のような剣を帯刀したMSが飛来してくる様子が映し出されていた。

「あれは……アストレイ? でもデザインは……」

キラはそのMSとよく似た機体をオーブで見たことがあった。オーブに滞在していた際、オーブの技術者に頼まれてその機体のサポートOSの制作に関わっていたのだ。
しかし今自分達を助けてくれたMSはそれとは少しデザインが違う……どこの所属かもわからないのだ。

「あの機体、オープンチャンネルで通信してきているようです!」
『こちらはジャンク屋連合のロウ・ギュール! この辺りでの戦闘行為は協定で禁止されているぞ!』
「……? あの声ってもしかして……」

 助けに入った謎のMSから聞こえてくるパイロットの声に、なのはは聞き覚えがあった、だがそうこうしているうちにリアルドは乱入者を排除しようとターゲットを変更して襲い掛かった。

『やる気かよ……! なら膾切りにしてやる!』

 そう言って謎のMSは白い刀身の剣を抜くと、襲い来るリアルドの小隊を次々と切り捨てていった。

「強い……!」
「ほう……あのMSの剣、中々の上物のようだ」

 シグナムは謎のMSの数の差を物ともしない圧倒的な戦いぶりを見て、剣士としてそのMSが使っている剣の切れ味とその使い手のレベルの高さに感服していた。
 
「リアルド隊、撤退していきます!」

 謎の機体から受けたダメージでこれ以上の戦闘は無理と判断したのか、リアルド隊はそのままどこかに飛び去って行った……。

『逃げたか……おいアンタら、大丈夫か?』

 戦闘が終わり、謎の機体のパイロットは改めてアースラに通信を入れてくる、するとアースラのモニターにパイロットの顔が映し出され、なのははその顔を見て驚愕した。

「貴方は……あの時の!?」
『おろ? もしかしてその声……あの時の変な嬢ちゃん達か!?』

 その男は以前、なのは達がキラを探している際に出会った逆立った箒頭に青いバンダナを巻いた青年だった。

「はい! 助けてくれてありがとうございます!」
『いやー、まさかこんな所でまた会えるなんてなー、それにしても変わった艦に乗ってんだな』
「そ、それはちょっと説明し辛いんですけど……」

 その時、アースラが突然ガクンと傾いた、恐らく度重なる攻撃で限界が来たのだろう。

「き、機関部の出力、どんどん下がっています!」
『おい大丈夫か? 何なら俺に付いて来るか? 修理できるところを知っているぜ』
「どうするクロノ君?」

 エイミィの質問に、クロノはやれやれと溜息をつきながら答えた。

「このままじゃアースラは墜落だ、ならお言葉に甘えるしかない……はあ、これは始末書じゃ済まないだろうな……」

 管理外世界でここまで自分達管理局の事が明るみになる事は、司令官である自分ひとりの首ではどうすることもできない事態であり、クロノは今後の事を考えて憂鬱な気分になっていた。
 そんな彼の気持ちなど露知らず、バンダナの青年は呑気な声でアースラの前に機体を移動させて誘導を始めた。

『安心しろ! ジャンク屋組合のロウ・ギュール……責任を持ってお前達の艦を直してやるよ! じゃあギガフロートに案内するぜ!』


 ☆ ☆ ☆


 北アメリカの大西洋連邦首都、ワシントン……その中にあるホテルの一室で、金髪に高級そうな水色のスーツを来た男が、パソコンのモニターの前で頭を抱えていた。

「ユーラシア連邦の奴等め……まさかこタイミングで裏切るなんて、おまけに南アメリカの奴等まで同調し始めるし、しかもあんなものまで作っていたなんて」

 モニターにはアリューゼが作った量産型ハイペリオンのデータが記載されていた、そしてその隣にはストライクに似たMSのデータが映し出されていた。

「折角ダガーの量産にも目途が付いてきたというのに、うまくいかないもんですねえ」

 男は自分が若干不利な状況に立たされているにも関わらず、余裕といった様子でコーヒーを啜った。。

「まあこっちにはまだパナマがある、もしそれが落とされてもビクトリアを奪回すれば済むし、オーブを従わせれば……まだボク達には勝てる要素が残されている」



数分後、男はある部屋にやってくる、そこにはヘッドホンを付けて音楽を聴いている緑の髪の少年、ジュブナイル小説を読んでいる明るい黄緑の髪をした少年、携帯ゲームで遊んでいる朱色の髪の少年がいた。

「君達……そろそろ出番ですからね、準備しておいてください」
「お、ようやく暴れられるのか!」
「じっとしているのも飽きちゃった所なんだよねー!」
「ウザい……」

 その時、男達のいる部屋に一人の研究員風の男が現れた。

「アズラエル様……例の融合騎の調整、終了いたしました」
「ほう? 彼女が使えるようになるんですか……」



 数分後、アズラエルと呼ばれた男は白衣の男にある場所に連れてこられた。
 その場所は一面が真っ白であり、中心には大掛かりな装置の真ん中に30センチ程の赤い髪の毛の小さな人形のようなものが両腕を拘束されて括りつけられていた。

「彼女……本当に使えるんでしょうねえ?」
「それはもちろん、何せ彼女はベルカの融合騎……実力の程は保障しますよ」
「頼みますよ、高い金を払って貴方達に研究の場を与えたんだ……ボクの命を守るぐらいの事はしてもらいませんとねえ」

 アズラエルはそのまま人差し指でその融合騎の顎を持ち上げ、虚ろな目をしている彼女の顔を見た。

「これからもよろしく頼みますよ……“アギト”」










今回はここまで、もうすぐ劇場版第二作が公開という事で書き上げました。
SEED編にシンがいないのはなのはの大怪我事件が切欠で、それ以来管理局の仕事で忙しいフェイト達と謙遜になってしまうというのが真相でした、ちなみに現在シンとその家族はまだ海鳴で暮らしているので、原作のような悲劇は起こさない予定です。

次回はギガフロートでの大きな動きを描こうと思います、アストレイキャラも多めに出演、青髪の彼も久々に登場しますのでお楽しみに。



[22867] 第八話「使命」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:96695c6b
Date: 2012/08/07 17:39
 第八話「使命」


 オペレーションスピットブレイクから2週間後、オーブの造船ドッグ……そこにはアラスカ基地から舞い戻ったアークエンジェルが収容されており、先刻の戦いで負ったダメージの修復がオーブ軍の手によって行われていた。
 その様子を、作業服姿のマリューと、相変わらず連合軍の軍服を着たままのムウが眺めながら、今現在変わって行く世界情勢について話し合っていた。

「パナマ基地……落とされたみたいだな」
「そうみたいですね」

 数日前、ザフト軍はグングニールという新兵器を用いてパナマ基地を落としており、連合軍は宇宙へ上がる為のマスドライバーを失っていた。
 非協力的になったユーラシアなどの事もあり、連合軍の弱体化は目に見えて明らかだった。

「アリューゼ少将は南アメリカやアジア諸国にも中立を促しているらしい、まったく……あの人の行動力は大したもんだよ」
「これで……この戦争は終わるんでしょうか?」
「さあ? 大西洋連邦とザフトは未だに戦い続けるみたいだがね、こっちに飛び火しなきゃいいんだがね……」

 そう言って憂鬱そうに溜息をつくムウ、かつてはその戦いに自分も身を投じてはいたが、軍を抜けた今ではこれからどうするかという考えで彼の頭はいっぱいだった。

「少佐―!」

 するとそこに、金髪の少しウェーブのかかった少女と、栗色のショートヘアーの少女、そしてピンクの縁のメガネを掛けた少女が駆け寄って来た。

「ん? モルゲンレーテの嬢ちゃん達……どうかしたのかい?」
「エリカ主任に修理したストライクとM1で模擬戦をしたいから呼んできてほしいって言われたんですけど……もしかして邪魔しちゃいました?」
「なっ……!? 邪魔ってなんですか!?」

 マリューは三人にからかわれた事に気付き、顔を真っ赤にして怒った、しかし三人はそんな事気にも留めずにワイワイ盛り上がった。

「いいなー、私もあんな大人の恋してみたいー」
「だよね! 憧れるよね!」
「あーあ、ロウに彼女さえいなきゃ私だって……」

 そんな彼女たちを見て、マリューは顔を赤く染めていた。

「も、もう……!」
「ははは、まあ悪い気はしないだろ?」



☆ ☆ ☆



 その頃、オーブ中央にあるとある屋敷、その一室にヴィアの妹でキラの育ての母親であるカリダと、その夫であるハルマが、テーブルを挟んで座っている少し齢を重ねたオールバックに髭面の男とある話をしていた。

「ヴィア・ヒビキが生きていた……!? それは本当なんですか!?」
「はい、本人と直接会いました……キラも姉達が保護して今一緒にいるみたいです、まだ本当の親という事は明かしていないみたいですけど……」
「なんと……神はなんという運命を用意しておられるのだ……」

 そう言って男は懐から一枚の写真を取り出す、そこには若い頃のヴィアがベッドの上で二人の赤ん坊を抱いている姿が映し出されていた。

「カガリさんには本当の事を言うのですか?」
「いずれは……と思っていたのですが、ヴィアさん本人に決めさせたほうがいいでしょう、彼女は今どこに?」
「ギガフロートというところで乗っていた艦を修理した後、ここに来るそうです、そこで一緒に保護したザフトの少年兵と共にキラを降ろしたいと……」
「そうですか……」

 男はそのままソファーから立ち上がり、憂鬱な溜息をつきながら窓の外に広がるオーブの街並みを眺めた。

(……カガリには辛い思いをさせてしまうだろうな……)

 オーブ連合首長国の代表首長ウズミ・ナラ・アスハは、これから自分の血の繋がらない娘に降りかかる苦悩を想い、父親として心を痛めていた……。



☆ ☆ ☆



同時刻、太平洋赤道近くの海域、そこには巨大な人工島……ギガフロートが浮かんでおり、その上にある造船ドッグでは作業員や作業用MSが忙しそうに働いていた。

「おら! その装甲板はあそこに貼るんだよ!」
「このチューブはもう使わないからどっか持って行け!」

 そして遠く離れた位置では、ヴォルケンリッターらが作業員達の様子を眺めていた。

「すげーなおい、民間人がここまでの設備を所有しているなんて……管理局でもここまでの物はないぜ」
「作業ロボットもいっぱいあるです! あれもMSなんでしょうか?」

 ツヴァイ(今は周りの人間を驚かせない為に人間サイズになっている)は機材を運んでいる作業用MSを指さして楽しそうにしている、その時……彼女たちの元にトランク状の物体を持ったロウとヘソだしルックの少女が近付いてきた。

「おーいお前ら―、こんな所にいたのかー」
「ロウ・ギュール……ん? 隣にいるのは?」
「山吹樹里です! 貴方達がオーブでロウを助けてくれたんですよね? ずっとお礼を言いたかったんです!」

 そう言ってヘソだしルックの少女……樹里は握手を求めて来た。その差し出された手を……当事者であるアインスが代表して握った。

「助けたのはなのはとアリシアだがな……あとで二人にも礼を言うといい」
「うん! そうするね!」

 そんな二人を尻目に、ロウはシグナムが腰かけていたレヴァンティンをまじまじと見つめていた。

「それにしてもあんたらのその……デバイスだっけ? 変わった技術を使っているんだなー、ジャンク屋として興味深いよ、カートリッジ入れるスロットがあるみたいだけど銃にもなるのか?」
「カートリッジシステムの事ですか? これは銃弾じゃなくて魔力を増幅するカートリッジを入れる為のスロットなんですよ」
「へー!? そんな仕組みでできているのか……面白い発想だな!? MSにも使えないかな……?」

 シャマルの説明に興味津々で耳を傾けるロウ、その時……ツヴァイはロウが手に持っているトランクに興味をもった。

「? ロウさんこれはなんですか? 工具箱ですか?」
『誰が工具箱だ!』
「ひゃわ!?」

 するとその工具箱は突然言葉を発し、ツヴァイは驚いてアインスの後ろに隠れてしまった。

「ああ、こいつは8(ハチ)、俺のレッドフレームのサポートOSだよ、口は悪いけど頼りになる相棒だぜ!」
「ふーん、アタシらんとこでいうユニゾンデバイスみたいなもんか」
『お前達の事は色々と調べさせてもらったぜ、興味深いテクノロジーを使っているんだな』

 そう言って8は先日撮影したなのは達の戦闘の様子を自身の体に写して見せた。

「おおー、8さんは万能ですー!」
「しかしあまり我々のデータを残されるのは困るのだが……」

 シグナムは自分の懸念を口にする、すると樹里が安心してと言わんばかりにふふっと笑いながら手を振った。

「ああ、その辺は大丈夫だよ! プロフェッサーに言われているからね、貴方達の事はあまり口外しちゃ駄目だって」
「……? どういうことだ?」
「さあ? 私達もたまにあの人が何を考えているか解らない事があるし……」



☆ ☆ ☆



 その頃、ギガフロートの管制室……そこでクロノとエイミィはロウのボス的存在である女性……プロフェッサーに呼び出されていた。

「では……我々の事は口外しないと?」
「ええ、貴方達の事情をよーく知っている人物からのお願いでね……無償で援助してやれって言われているのよ、だから機密とかそういうのは気にしなくていいわよ」

 黒いウェーブの掛かったロングヘアーにメガネのレンズに映る瞳と泣きぼくろ、そして赤いYシャツの上のボタンを外して胸の谷間がチラチラ見せて妖艶な雰囲気を醸し出すプロフェッサー、しかしクロノはそれに飲まれることなく話を続けた。

「僕達をよく知る人物……? まさか管理局の?」
「いいえ、私達の世界の人間よ、まあ詳しい事は私にもよくわからないわ、アレが何を考えているのかよくわからない……でも一つメッセージを預かっているわ、“今はその時ではないけれど、いつか我々の歩む道は一つになる、その時は良き友人として共に歩もう”とのことよ」
(我々の事を知っているコズミックイラの人間……? どういう事だ?)

 クロノは頭の中で色々と思案を巡らせたが、結局その時は結論を出すことは出来なかった。



☆ ☆ ☆



 その頃、ギガフロートのとある場所……人気が無く使われていない機材が放置されているこの場所に、キラは一人で海を眺めていた。

「……」
「キラさん、こんな所に居たんですね」

 するとそこに、Tシャツ姿のなのはとはやてが歩み寄って来た。

「二人共……どうしてここに?」
「アースラが直るまでの間、気晴らしに散歩でもしよかーって思ったんですけど……キラさんこそこんな所で何しとるんですか?」
「うん……初めて海に来たときの事を思い出していたんだ」

 キラはそのまま隣に腰かけたなのはとはやてにその時の事を話し始めた。

「僕……ずっと宇宙で暮らしてきて海なんて見たことなくて、アークエンジェルで地球に降りた時に初めて見たんだ。でもその時は……ちょっと友達と色々喧嘩しちゃってて、景色どころじゃなかったなーって思って……」
「友達とですか……」
「うん、その……友達の恋人を奪っちゃったって言うか……」
「「うわあ」」

 そのセリフを聞いて、思わずキラと距離を取ってしまうなのはとはやて。それを見てキラは思いっきり俯いて落ち込んでしまう。

「だ、だよね、ドン引きだよね……」
「す、すみません反射的に!」
「でも……私らもあまり責められんな、昔は私らもなのはちゃん達や沢山の人達に迷惑を掛けたからなあ」
「そうなの?」

 キラの質問に、はやては昔を懐かしむように語り始めた。

「うん……ちょっと話すと長くなるから省略するけど、私昔は重い病気に掛かっていたんですよ、シグナム達はそんな私を助けるために沢山の人と戦ったんですよ」
「懐かしいなあ……私もいきなりヴィータちゃんにアイゼンで殴り飛ばされちゃったっけ」
「ず、随分と波乱万丈な経験をしているんだね……」

 キラの言葉に、はやては笑みを浮かべながら答える。

「でもそんななのはちゃんが……それにフェイトちゃんとシン君が私の大切な子達を救ってくれたんです、何度も何度も語り掛けて、何度も何度も真正面からぶつかって……今私がこうやって生きて、愛しい子達と同じ時を歩んでいけるのもなのはちゃん達のおかげや」
「……すごいんだね、なのはちゃんは……」
「それしか方法が解らないから……でもキラさんにだってきっと出来ると思います、友達ともきっと仲直りできますよ」
「そうかな……」

 なのは達の話を聞いて少しずつ表情を明るくしていくキラ、これからどうしていくべきか、その悩みが少しずつ晴れているようだ。その時……。

「あれー? なのはにはやて、それに……」
「あ……」

 たまたま近くを通りかかったアリシアとニコルがやって来た、キラはニコルと目が合うと黙り込んでしまう。
 するとそれを見たなのはがキラの肩に手をポンと置いた。

「折角ですし……彼と話をしてみたらどうですか?」
「え、いや……」
「話してみなきゃ何も解らない……コレ、ヴィータがなのはちゃんに言われた言葉ですよ」

 そう言ってなのはとはやては立ち上がり、アリシアに耳打ちするとキラとニコルを残して離れていった。

「……」
「……」

 取り残された二人の間に、しばらくの時間沈黙が流れる、そして……ニコルはなのはが座っていた位置に腰かけた。

「僕は……貴方にミゲルを始めとした多くの仲間を奪われました、その事は許さない」
「……」
「でも……僕達だって、戦争とは関係のないヘリオポリスを……貴方の故郷を滅茶苦茶にしたんですよね……」

 再び二人の間に重苦しい沈黙が流れる。すると今度はキラの方が口を開いた。

「その……オーブを出てすぐの時の事……まだ謝っていなかったね……ごめん」

 キラはかつてニコルが乗っていたブリッツを撃墜した時の事を思い出し、彼に対し心からの謝罪の言葉を発した。

「僕だって……アスランを守る為とはいえ、貴方を殺そうとしました、おあいこですよ……」
「ははは……そっか」

 キラは少し空気が柔らかくなったのを感じ、自然と笑みが浮かんでいた、そしてそれはニコルも同様だった。

 そんな二人の様子を、なのはとはやて、そしてアリシアはじっと見守っていた。

「あの二人……分かり合えるとええなぁ」
「きっと出来るよ、だってあの二人はちゃんと言葉を交わしているから」
「なのはが言うと説得力あるよね」

 三人は離れた位置にいる二人を、かつての重ね合わせながら温かい視線を送っていた……。



☆ ☆ ☆



その頃ギガフロート付近の上空……そこに青いオーラを纏った一筋の光が接近していた。

「キラ……ヤマト! 君は僕が殺す……!」

 その一筋の光……青髪の少年は背中に対になった鉄の板でできている青い翼を羽ばたかせながら、目の前に上から2・1・2と言った並びで魔法陣を展開する、そしてそこから赤いエネルギー砲を何発も発射した。エネルギー砲はそのままギガフロートの至る所に直撃した。



☆ ☆ ☆



ギガフロートの至る所から轟く爆音、それに気付いたなのは達魔導師組は急いでクロノとの念話を繋いだ。

「クロノ君! 今の攻撃は!?」
『魔法による攻撃だ! 魔導師が上空にいる!』
「! あそこにいるのが……!」

 その時、はやては上空からの弾道を辿って上空にいる青髪の少年を発見した。
 そしてなのはもはやての視線を追い少年を発見し、彼が以前キラに襲い掛かった少年と同一人物だという事に気付く。

「あの人、キラ君を殺そうとした……!? 魔導師だったの!?」

 その時、騒動に気が付いたキラとニコルがなのは達の元に駆け寄って来た。

「なのはちゃん! 一体何が!?」
「キラさん! ニコルさんと一緒に安全な場所へ……!」

 その時、上空にいる少年はキラの存在に気付き、猛スピードで彼の元に接近してきた。

「! レイジングハート!」
[Set up]

 なのはは咄嗟にレイジングハートを取り出すと、キラと青髪の少年の前に割って入った。
 青髪の少年は止まることなくなのはに激突し、そのまま弾道を変えて海の方へ彼女ごと飛んで行った。

「なのはちゃん!」
『はやてちゃんとアリシアちゃんはキラ君を守って! この人の狙いは彼だから!』

 援護に向かおうとするはやてをなのはは念話で制する。

「邪魔をするな!!!」

 少年はそのままなのはを海へ突き飛ばす、しかしなのはは咄嗟に光を発して白いバリアジャケットを装備し、桜色の羽を散らしながら高度を上げて海への激突を避けた。

「いきなりこんな事をするなんて! 乱暴すぎるんじゃないの!!?」
「僕の邪魔をするから悪いんだ! 大人しくキラ・ヤマトを殺させろ!」
「そんな事……させる訳ないじゃない!」

 なのははそのまま少年の元に飛び立ち、レイジングハートを棍棒のように振り下ろした。
対して少年は腰から白い筒状の棒を取出し、先端から赤いビームの刃を展開してレイジングハートを受け止めた。

「どうしてこんな事をするの!? 沢山の人に迷惑を掛けて!」
「炙りだすにはこうするしかなかった、君達はあの男がどれだけの人間を不幸にするか解っていない……!」
「くっ……!」

 なのはは一旦距離を置くと、自分の十八番である遠距離戦闘に持ち込んだ。

「アクセルシュート!!」

 なのはから発せられた複数の魔法弾はそのまま少年を取り囲むように制止し、そのままいっきに襲い掛かる。

「甘い!」

 少年はそれを回避とサーベルによる切り払いで無傷で乗り切る。

(フェイトちゃん程じゃないけど早い……!)

 なのはは少年の予想外の機動力に戸惑いながらも、バインドで拘束したり魔力弾の牽制を試みる、しかしそのすべては少年に当たる事はなかった。

「鬱陶しい!」

 少年は腰から二対の魔法陣を出現させると、そこから同時に二発の魔力弾を同時に発射する。

「あぐ……!」

 なのははそれを冷静にシールドで防御するが、威力が高く腕に痛みを感じ顔を顰めた。

「なのは! 大丈夫か!」
「援護しに来たぞ!」

 その時、騒ぎを聞きつけたヴィータとシグナムがやってくる。 ちなみに他の面々はギガフロートの人々を守る為船上で待機している。

「ヴィータちゃん! シグナムさん! あの子意外と速いから気を付けて!」
「はん! あんなのどうってことねえ! 援護しろよ!」
「油断するなよ……まだ隠し玉を持っているかもしれん」

 そう言ってヴィータはグラーフアイゼンから二発のカートリッジを射出し、そのままジェット噴射を起こして少年の元に突撃していく、そしてシグナムはレヴァンティンを連結刃形態にし、鞭のようにうねらせて少年に攻撃した。

「邪魔するなって……言っているだろ!!」

 すると少年は怒気を含んだ表情で、襲い掛かって来たヴィータのグラーフアイゼンの先端、そしてレヴァンティンの連結刃を“素手”で掴み取った。

「な……!?」
「ば、バカかお前!? 無茶苦茶しやがる!」

危なすぎる防御法をとった少年にヴィータとシグナムは戦慄する、その時……彼女達三人の体に青いバインドが三重に掛けられた。

「しまっ……!?」
「う、動けねえ!?」

 そして少年は一気に三人との距離を広げると、再び目の前に五つの魔法陣を展開した。

「命までは取らない、しばらくじっとしていろ!」

 そして魔法陣から強大な魔力砲が放たれ、そのすべてがなのは達に襲い掛かる。

「くっ……!」

 覚悟を決めて目をギュッと閉じるなのは、そしてそれと同時に辺りに轟音が鳴り響いた。

「……ん?」

 しかし少年は違和感を感じていた、確かに自分は三人に向かって強大な魔力砲を放った、しかし直撃したのならあの爆煙から三つの人影が落下する筈……それは無いという事は彼女達はまだ撃墜されていないという事になる。

「……お前か……!」

 少年はその理由をすぐに知ることになる、何故なら爆煙の中にもう一人おり、しかもそれが“自分のよく知る人物”だという事に気付いたからだ。

「久しぶりの再会なのに、随分と連れないセリフ……ッスねえ」

 その人物……黒髪に褐色肌の少年は目の前に巨大な魔力シールドを展開してなのは達を守っていた。彼女達はそんな彼の姿を確認して驚愕する。

「ノワー……ル!?」
「お、お前!? どうしてここに!?」

 かつてノワールの家族だったシグナムとヴィータは、ここ数年音信不通だったノワールがリインのように人間サイズになって現れた事に驚愕する、するとノワールはビームライフルショーティーの銃口をなのは達三人に向け、そのまま引き金を引いた。発射された銃弾はそのままなのは達を縛るバインドを破壊し、彼女達を拘束から解放した。

「スンマセン、まずはあのアホを止めてからでいいッスか? お三方はとりあえず取り囲むように奴を遠距離から攻撃してくださいッス」
「……わかった」

 ノワールの指示に、シグナムはとりあえず従う事にし、なのはとヴィータも無言で頷いた。
 そしてなのは、シグナム、ヴィータは散開し、ノワールは正面から青髪の少年に突っ込んでいった。そして空中で剣とフラガラッハによる激しい鍔競り合いを展開する。

「ノワール! なんで僕の邪魔をするんだ! 僕達の使命を忘れたのか!?」
「忘れちゃいねえ、だけどお前のやり方は極端すぎるんだよ!」
「もう時間が無いんだぞ! このままじゃまた同じことの繰り返しになる!」

 ふと、少年は左右から寒気にも似た敵意を感じ、咄嗟にノワールから距離を取る、ヴィータが放った鉄球とシグナムのファルケンの矢が少年の居た場所を通過したのはその直後だった。

「隙ありぃ!!」

ノワールはそのまま両腕からアンカーランチャーを発射し、少年の両腕の動きを封じる。

「この……!」

 少年はすぐさま腰に二つの魔法陣を展開し、そこから魔力砲弾を放つ。

「ふっとぉ!!」

 しかしノワールはその不意打ちとも呼べる攻撃を、アンカーランチャーによる少年の拘束を解かないよう、体をうつ伏せに寝かせるようにして飛び上がって回避した。

「なっ……!?」
「てめえの手口なんてお見通しだ! 知り合いになってどれだけの時間が経っていると思ってんだ!」

ノワールはそのまま両足の爪先からもアンカーランチャーを発射し、少年の両足を拘束する。

「なのは姐さん! 今だ!」
「!!」

 その時、少年は背後から膨大な魔力量を感知して背筋を凍らせる、そして四肢を拘束されたまま後ろを振り向くと、そこには桜色の翼を展開したレイジングハートを構え、その先端をこちらに向けているたなのはがいた。

「何をしたいのかさっぱりだけど……何が何でもお話を聞かせてもらうよ!」
「よ、よせええええええ!!!」
「ハイペリオン……スマッシャー!!!!」

 レイジングハートの先端から桜色の光線が高速で撃ち出され、それは少年の背中を貫通した。

「うわあああああ!!!」

 少年はそのまま大爆発を起こす、それを確認したノワールは爆煙の下に移動する。

「ほいキャッチ」

 そしてそこから落ちてきた何かを片手でキャッチした。

「「ノワール!!」」

戦闘が終わったと判断し、シグナムとヴィータ、そして一拍遅れてなのはがノワールの元に駆け寄って来た。

「お疲れっすお三方」
「おい、あのガキはどうなったんだ!?」
「あいつなら……ホレ」

 そう言ってノワールは先程自分が拾った“ソレ”を三人に見せた。

「!!? こいつは……!?」

 三人はノワールの手の中にある“ソレ”を見て驚愕する。
 ノワールの手の中にあったもの……それは普段のツヴァイやノワールのように、三十センチほどの人形サイズに縮んだ青髪の少年だった。

「これは一体……どういう事なんだ!?」
「こいつはオイラやデスティニーと同じGデバイスって事ッスよ、ったく……姐さん達にまで迷惑かけるなんて……」

 ノワールは溜息をつきながら、気絶して動かない青髪の少年をなのはに手渡した。

「え!? ちょ!?」
「そいつ……目を覚ましたらキラ・ヤマトに会わせてやってください、オイラこれから用事があるんで」
「お、おい待て!」

 そのまま去ろうとしたノワールを、シグナムとヴィータは慌てて呼び止めた。

「お前今までどこほっつき歩いていたんだよ!? スウェンは……あいつは一緒じゃないのかよ!?」
「……スイマセン、今はまだ会う事は出来ないッス、でもオイラ達のやるべき事はもうすぐ終わるッス、だからもうちょっとだけ待っていて欲しいッス」
「なんだそれは!? ちゃんと説明しろ!」

 シグナムはそう言ってノワールの腕を掴もうとするが、ノワールはそれをすり抜けるように振り払うと、足元に魔法陣を展開して何処かに転移していった。

「ノワール……!」
「……」

 ようやく出会えたのに何も説明せずに去って行った家族に怒りを覚えるシグナムとヴィータ、一方なのはは手元にいる気絶したままの青髪の少年をじっと見つめていた。

「……貴方は……貴方達は一体何者なの……!?」



☆ ☆ ☆



 その頃、ギガフロートの管制室では海上の戦闘が終わったのを確認してクロノ達が一息ついていた。

「どうやら終わったみたいね……」
「プロフェッサーさん、今のは……」
「大丈夫、皆にも口外しないよう伝えておくわ、それよりも破損した場所の修復を……」

 その時、管制室にあった通信機が鳴り響き、プロフェッサーはすぐにそれを取った。

「こんな時に何? ……マルキオ神父が? わかった、受け入れ態勢を敷いておくわ」

 プロフェッサーは通信を終えると、すぐ近くにあったコンピューターのキーボードを叩き始めた。

「どうかしたんですか?」
「いえね、急にお客さんが来ることになったのよ、しかも超有名人の……」

 プロフェッサーは近くの複数のモニターにこの近辺の様子を映し出した。そしてモニターの一つに……ピンク色の戦艦が映し出されていた。

「この艦は……?」
「ザフトの新造艦“エターナル”、乗っているのはプラントの平和の歌姫……ラクス・クラインよ」





 プラントの元議長であり穏健派であるシーゲル・クラインが、スパイ容疑により逮捕されたというニュースが世界中に流れたのは、その次の日の事だった……。



☆ ☆ ☆



同時刻、ザフト軍カーペンタリア基地のとある一室、そこでフェイトはスウェンから預かったデータの中身をパソコンで閲覧していた。

「これ……って……」

 データの中身を見てフェイトは言葉を失う、その内容は彼女にとって信じがたい物ばかりだった。

「フェイト……大丈夫かい? 顔が青いよ」

 その様子を見ていたアルフは、フェイトに気遣いの言葉を掛ける。

「私は……平気だよアルフ」
「全然大丈夫そうに見えないよ、一体これには何が書いてあるんだい?」
「……」

 フェイトは唇をぎゅっと噛み締めながら、自分が今知った“真相”をアルフに説明した。

「管理局……といってもごく一部がこの世界の組織……ブルーコスモスと十数年前から裏で繋がっていたんだ、それに母さんが昔作っていた魔力動力炉の改良型が今、ブルーコスモスが所有する時空転移装置に使われている」
「え!? え!? この世界の人間が!? そんな馬鹿な事が……!?」
「しかもブルーコスモスの転移技術はすでに高水準の位置にまで達しているみたい、これがその証拠……」

 フェイトはパソコンを操作し、5年前にブルーコスモスが行ったある“自分達と同等、もしくはそれ以上の軍事力を所有する管理外世界への調査隊派遣”に関するデータを閲覧する、その中には作戦に参加した少年兵らの顔写真付きのデータが記載されており、その中に……当時のスウェンのデータも記載されていた。

「スウェンがこいつらの一味だったって言うのかい?」
「本人は記憶喪失とかで覚えていないみたいだったけど、コーディネイターだったシンに時折攻撃的になっていたのもこれで納得できる、他のデータを見る限りブルーコスモスは洗脳や人体改造で優秀な兵士を作っていたみたい、スウェンさんもその一人だったんだね……」

 フェイトはそのまま頭の中で今後起こるであろう最悪のシナリオを思い描いた。

(軍需で稼いだお金で管理局から転移技術を買い取って、コーディネイターとの戦争を有利に進めようと……? もしかしたら他の世界も視野に入れているのかもしれない、スウェンさんはそれを止める為に……? 私は一体どうしたら……)


 その時、フェイト達のいる部屋にコンコンとノック音が響き渡る。

『入っていいかね?』
「クルーゼさん……どうぞ」

 フェイトはやって来たクルーゼを部屋に招き入れた。

「……その様子だと、その中には君にとってとても有意義な情報が入っていたようだね」
「は、はい……」

 フェイトは一瞬、この中のデータをクルーゼにも見せようかと考えた、しかし彼はこの世界の人間……こちら側の事情は詳しくないだろうし、かえって戦火を大きくする原因になるかもしれないと思い、口を噤んだ。

「アンタ、アタシらに用があるんじゃないのかい?」
「うむ、実はね……偵察に出ていた部下からの報告で、オーブ近海に巨大なマスドライバーがある人工浮遊物が発見されたのだ、恐らくジャンク屋組合の物だろう、そこで小規模な戦闘が行われたらしいが……その部下の話では、人間が単体で空を飛びながら、杖のような物からビームを出していたらしい」
「……!」

 クルーゼの話を聞き、フェイトはすぐにそれが魔導師だという事に気が付いた。

(まさかなのは達が私達を探しに……? どうしてそんな所で?)
「フェイト! 言ってみよう! もしかしたらアースラの皆かも!」

 ようやく仲間達と再会できる……そう思ったアルフは尻尾をフリフリと振りながらフェイトに提案する。
 それを見ていたクルーゼはふふっと笑みを浮かべながらある提案をしてきた。

「ちょうどいい、我々は別件でユーラシア軍と共にオーブに向かう事になっている、大西洋連邦がオーブに対して不穏な動きをしているという情報を掴んだのだ」
「また戦争になるかもしれないんですね……」
「そうだ」

 また戦場に行かなければいけない、でも仲間達と再会できるチャンスはこれで最後かもしれない……そう思案を巡らせたフェイトは、すぐに結論を出した。

「私達も付いていきます、連れて行ってください!」
「いいだろう、出発は明日になるから準備しておきたまえ」



☆ ☆ ☆



 同時刻、オーストラリアのとある都市の片隅にあるビル、その中でスウェンは留美からある情報を聞いていた。

「ブルーコスモスの盟主……ムルタ・アズラエルがオーブに向かっている?」
「ええ、あそこにあるマスドライバーが目当てなのでしょう、どうしますか?」
「……決まっている」

 スウェンはベッドからすくっと立ち上がると、手元にあった拳銃に銃弾を込めた。

「ノワールが帰ってきたらすぐに出発する、俺の過去の因縁を断ち切る為に、そして……仲間達を助けるために」









 運命が交錯する日は、近い










 本日はここまで、次回からは色んな事を詰め込んだオーブ戦をやろうと思います。2,3回かに分けるかも。
 


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