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[2299] ランスⅦ ~魔人の娘 黒姫~
Name: Shinji
Date: 2007/01/23 23:38
――――島津家。

カイロ・モロッコ・アマゾン・南アフリカの4ヵ国、
"アフリカ大陸"を領地とする、4人の優秀な兄弟が治めている国である。

各々がどれ程優秀なのかと言うと、彼らの生まれる代がそれぞれ違えば、
その一人一人が国主に相応しい人間になっていたと言うほどだ。

その為か女性達に圧倒的支持があり、とにかくモテてモテてモテてモテまくっているらしい。


≪ヒュウウゥゥ……≫


「…………」


そんな島津家の客将として生活している、"黒姫"。

彼女は島津の城の天守閣で風を感じ、遠い"東の方"を眺めていた。

黒檀の着物に、風に揺らぐ黒く長い髪……肌も薄黒く、その名の通りの"黒の女性"。


「……(刻が、近付いて来ている……)」


何故か何百年と年を取らず、その理由を知るものは島津でも彼女自身しかいない。

そうなれば恐らく人間では無いだろう……とは言え、
4兄弟達は彼女を慕っており、敬愛するあまり抜け駆けすら許されない存在である。

また黒姫にとっても、愛とまではいなかいが、彼らは可愛い息子のような存在であり、
だからこそ……こうして"あの者"に対しての不安を募らせていた。


「……(そうなる前に、私は此処から離れる方が……でも……)」

「黒姫。」

「……ッ? ヨシヒサ。」

「また、此処に居たのか?」

「ええ。」

「最近、そうしている事が多いようだが……何か悩みでもあるのか?」

「……ッ!」


そんな一人考える黒姫の後ろから、渋い男の声が聞こえた。

島津ヨシヒサ……タバコを咥えるこの良い男は、島津四兄弟の長男であり国主だ。

よって振り返る黒姫に、勘の良い彼は彼女の心境を察するが、
ヨシヒサの言葉に黒姫は一瞬だけ瞳を見開くだけで、ゆっくりと彼に近付き――――


「黒姫?」

≪――――ぱっ≫

「もうッ、ヨシヒサ。 煙草は此処では吸わないでって言ってるでしょ?」

「おっと、すまない。 "そのまま"来たのでな。」

「全くもう……その癖は何度言っても直らないんだから。」

「ふっ……それより黒姫、皆が待っている。」

「……ごめんなさい、行きましょう。」

「ああ、冷える前にな。」


厳格な表情で黒姫はヨシヒサの咥えているタバコを奪い取り、
彼は"やれやれ"と彼女からソレを受け取り、携帯用灰皿に吸殻を入れた。

ヨシヒサが何度言われても直らない癖……それは、
"女と寝た後"の一服であり、戦の前や戦の後の一服も、彼の生活の一部なのだ。

さておき、ヨシヒサは夕食の時間になっても現れない黒姫を迎えに来たので、
何気なく肩に手を掛けられながら、黒姫は天守閣から戻って行った。

――――最後にもう一度だけ、東の方向を振り向きながら。


              ラ ン ス Ⅶ 
            ~魔人の娘 黒姫~


翌日、天満橋を渡り終えた2人の旅行者の姿があった。

どちらもJAPANの民には"異人"と呼ばれる、大陸の人間。

……まずは鬼畜戦士・ランス。

いつもの緑の衣服の上からの鎧姿で、偉そうにマントを靡かせている。

……もう片方は奴隷兼、魔法使い・シィル。

天満橋を渡る前、既にJAPAN風の歩き易い着物姿に着替えているようだ。


「ふ~む、やれやれ。 やっと到着か。」

「まずはどうしますか? ランス様。」

「そうだな……まずは茶店でのんびりしたい。」

「あっ、そうですね。 私もお腹が空いちゃいました。」

「馬鹿者、お前は水だ。」

「うっ……しくしく。」


そんな何時もの会話の中、2人はモロッコの街中を歩く。

モロッコと言っても、どこぞの発展途上国(失礼)なような街造りでなく、
列記としたJAPANの町並みであり、ランスの視界に一軒の茶店が入った。

よって2人は自然とその茶店に足が進んでいったのだが――――


「おっ……おぉ~ッ?」

「どうしたんですか、ランス様ッ?」

「ぐふふふふ、なんか変な格好をしてるが、なかなか可愛いなぁ、あの女。
 少し腹が減ってはいるが、あの娘をJAPANセックス旅行の第一号にしよう。」

「えっ、えぇ~ッ!?」

「良し! 善は急げだーッ!」

「いきなりそんな~っ、ちょっと待ってくださいよランス様ぁ~ッ!!」


≪だだだだだだっ!!≫


茶店の近くの公園の前で、一人の女性が立っていた。

誰かを待っているのか、右足の爪先をトントンと鳴らしている。

しかし、JAPANの女性にしては変な格好をしており、着物姿では無く槍を持ち、
色黒の肌に刺青、頭にはヤシの葉と仮面のような装飾品をしていた。

ランスはそんな娘といきなりセックスしようと決めて走り出し、
シィルはツッコむ暇も無しに彼の後を追うしかなかった。


「まったく、何時まで掛かってるんだ、カズヒサの奴……

≪ぺろんっ≫

 ……ひゃあぁっ!?」

「おぉ、なかなか良い尻だ。」

「こッ、こらぁ! いきなり何をするんだっ!?」

「何って……尻を触っただけだぞ。」

「そんなのは判ってる! ナンなんだ、お前はッ? チカンか!?」

「チカンじゃあ無いぞ。 ところで君、名前は?」

「わ、ワタシは……アギレダだが?」

「ほぉ、アギレダちゃんか。 どうだ、俺様とセックスせんか?」

≪グッ≫ ←親指を人差し指と中指の間に挟む。

「は……はあぁぁ~~ッ? 何言ってるんだお前、頭オカしいのかッ!?」

「なんだと、失礼な。 俺様はナンパをしてるだけだぞ?」

「(ランス様~……いきなりお尻を触ることから始まるナンパなんて、聞いた事ないですよぉ……)」

「ふざけるな! 誰に破廉恥な行為をしたのかを、教えてやるッ!!」


≪――――チャキッ≫


アギレダと名乗った女性の後ろから近寄り、いきなりお尻を触ったランス。

それにアギレダは当たり前の反応をするが、ランスは全く悪ぶった様子は無い。

するとアギレダは"異人のチカン"に槍を構えて威嚇するが、
このようなタイプの女性に対して、ランスはどうセックスまで漕ぎ着けるかを学習している。

よって彼もカオスに手を掛けると、不敵な笑みを浮かべながら抜こうとするが――――


「ほぉ、やる気か~? それなら、俺様が勝ったら君がセックスさせてくれると言うのはどうだ?」

「面白い冗談だな! やってみろ、ワタシは負けないッ!」

「(ぐふふふ、勇ましくてグットだ! 第一号だし、これくらいじゃねぇと――――)」

「……やめときな、アギレダ。」

「んっ……?」

「か、カズヒサ。」


自分のペースだ……と、ランスが心の中でも笑った時、
公園の公衆便所から、一人の男がズボンのベルトを締めながら現れた。

"熱くさっぱり"女を翻弄する島津カズヒサ……島津四兄弟の次男であり、
アギレダが待っていたのは、この男だったのである。

そのカズヒサの登場にランスとアギレダの注意が向くが、彼はハッと何かを思い出したようだ。


「あッ……いけねぇ、手ぇ洗うの忘れたぜ。」

≪たたたたたっ……≫ ←公衆便所に走る。

「…………」

「…………」

≪すたたたたっ≫ ←戻って来た。

「ふ~、危うくションベン付いた手で過ごすトコだったぜ。」

「んで……何処のどいつだ、お前は?」

「んっ? あぁ……俺はな。」

「カズヒサ! 邪魔するな、ワタシはコイツを懲らしめてやるんだッ!」

「おぉ、そうだったな。 熊男、お前いいから帰れ。」

「いんや~、そうもいかねぇぜ。」

≪がしっ≫


マヌケだが何故か憎めない登場に若干脱力したランスを、
カズヒサはひとまず無視し、水の慕った手をズボンで拭きながらアギレダに近付く。

すると、カズヒサはいきなり武器を構えるアギレダの腕を掴み、槍を奪った。

そして"ずいっ"とアギレダを庇うように立ち、何とも正義の味方のような行動だ。


「か、カズヒサ!?」

「やめとけ、こいつは強いぜ? 多分、お前じゃ勝てね~よ。」

「そんな……でもッ!」

「いいから、いいから。 俺に任せとけって。」

「カズヒサ……」

「ランス様ぁ~、この人強そうですよ? あ、謝って許して貰った方が~……」

「うるさい! 奴隷が主人に口出しするなッ!」


ニヤりと口元を歪ませながら宥めてくるカズヒサに、アギレダの頬が赤くなる。

こうなれば、傍から見るとランスは完全に悪役と撮られても仕方ないだろう。

ランスもそれを何となく自覚してしまったのか、結構ご立腹のようだ。

こうして、ランスvsカズヒサと言う対戦カードとなり、2人はジリジリと距離を詰める。


「さ~て、悪党退治と洒落込むかぁ~?」

「えぇい不愉快だ。 殺す、絶対殺す!」

「イクぜ!!」

「どりゃあぁーーーーッ!!」


≪がしいいぃぃんっ!!≫


……


…………


ランスとカズヒサとの戦い。

その決着はナカナカつかず、約30分にも及んだ。

戦いの場も何時の間にか公園の中央に移り、二人とも肩で息をしている。


「ふひぃ~……」

「ぜぇぜぇっ……」

「あ、アンタ……なかなかヤルじゃね~か……
 俺に勝てる奴なんて、ヨシヒサの兄貴くらいしか居ねぇってえのによ……」

「当たり前だッ、くそう……レベルさえ下がってなきゃあ、てめ~なんぞ……」

「そんじゃまあ、そろそろキメさせて貰うぜぇ!」

「ぬかしやがれッ、ランスアタックで吹っ飛ばしてやらぁ~ッ!」

≪ぐぐっ……≫

『おいおいランス、こんな戦いにムキになってどうするッ?』

「うるせぇ、カオスッ!」

「カズヒサ! そ、そいつはキケンだぞッ、危ないんじゃ……!」

「い~や! こ~なったらもう、負けれぇぜッ!」


島津家では最強の武士であるカズヒサ。

ゼスでの戦い以来、サボった為か若干レベルが低下したランス。

この2人のパワーバランスは絶妙であり、今となっては公園に野次馬も集まって来ている。

それが鬱陶しくなった為か、このままでは埒があかない為か、
決着を付ける為に……2人は身を低くして互いの武器を構えた。

その時! 人込みを掻き分けて来た"女性"が近付き、カズヒサの姿を見た直後――――


「何やってるのッ、カズヒサ!?」

「く……黒姫ッ?」

「!? おぉ、美人の姉ちゃん……」

「あれ程言ってるでしょうッ? 街中で喧嘩しないでって!」

「ち、ちょっと待ってくれよ……このヤロ~がアギレダを……」

「言い訳は聞きませんッ!」

「うっ……」

「良い!? 大体いつも貴方は――――」

「(……ったく、ツいて無ぇぜ。 今日は折角待ちに待った、
 "黒姫と買い物に行ける日"だったって言うのによぉ……)」


若い"女性"の声が響き渡り、2人は咄嗟にその声の方向を見た。

すると黒姫が厳しい顔をしてカズヒサに近付いてきており、
ランスが彼女に見惚れて構えを解く中、何やらカズヒサを叱り付けはじめていた。

対してカズヒサは参っている様子であり、アギレダは複雑そうな表情でそれを眺めていた。

余談だが……各兄弟、毎月一度だけ"黒姫と街に出れる日(抜け駆け禁止)"と言う物があり、
カズヒサは"両手に花"を計画してアギレダと公園で黒姫を待っていたのだが、
そこで不運にも、アギレダに目をつけたランスと戦う羽目になってしまったのである……


「ほほぉ、黒姫ちゃん……ねぇ。」

「ら、ランス様。 大丈夫ですかッ?」

「当たり前だ、とりあえずヒーリング。 んでもって野次馬どもを追っ払え。」

「うっ……わ、わかりました。」


……


…………


「すみません、お騒がせして、すみません~。」

≪ぺこぺこ≫

「見世物じゃないんだぞ、帰れーっ!」


数分後、場所は変わらず公園の中。

シィルが謝り、アギレダが叫ぶ事で、野次馬達を追い払う。

それにより、公園には5人だけが残され、ひとまず一段落と言ったところだ。

……で、現在は黒姫がランスの前に向き直り、ぺこりと丁寧なお辞儀をしていた。


「申し訳ありません、あの子がご迷惑をお掛けした様で。」

「う、うむ。」

「あのなぁ、黒姫……元はと言えば、この異人がチカンを~……」

「カズヒサは黙ってて。」

「なんだよ、ヒデェなチキショ~ッ。」

「ところで、黒姫ちゃんとか言ったな?」

「……はい。」

「君は見てくれから、どっかの姫様なのか?」

「いえ……黒姫と言われてはおりますが、今は島津家の客将として暮らしております。」

「島津家だとぉう?」

「ランス様、此処一帯の領地を治めている国ですよ。」

「ほほぅ。」

「あなたは……ランスさん、ですね。 何かお詫びができれば良いのですが……」

「おッ? それじゃあ、何かご馳走でもしてくれッ!
 こっちに来たばっかで無駄な運動までしたモンだから、腹が減っちまってなぁ。」

「そうですか……そんな事で良ければ、喜んで。」

「おぉお、マジか!? そんじゃ~頼むぜッ!
(なんだか、黒姫ちゃんは俺様に気があると見た! こりゃ頂けるチャンスがあるなッ!)」


話の中……どうしてか、黒姫はランス側の肩を持ってしまい、
カズヒサの非礼を詫びる為に、ランスとシィルを城に招待する事にしてしまった。

本来ならばこんな事は言わないハズなのだが、ランスの自意識過剰のように、
黒姫は何故か無意識のうちに、ランスという"異人"に非常に興味が湧いてしまったのだ。

それは、"このまま"では"どうしようもない事"を何とかしなくてはいけないと言う焦りと、
彼に感じた"直感"からなるモノから来た行動であり、この選択は島津の"運命"を変えたとも言える。

さておき……黒姫の招待はランス&シィルにとっては願っても無い事であり、
ランスは早くも黒姫とエッチする事も視野に入れてしまったようだ。

一方、黒姫の選択が正しい方向に導かれてゆくとは言え、
常識的に悪い事はしていないカズヒサにとってはあんまりで、流石に指摘する。


「おいおいおい、本気かよ黒姫~ッ?」

「本気です。 ……と言う事で、カズヒサ。
 私はランスさんとシィルさんをお城に御案内しますから、今日は帰ります。」

「えぇ~ッ? そ、それじゃあ、俺の一ヶ月分の我慢がパァかよぉ!?
 せめてどっかで一緒に茶ぁ飲むくらいは――――」

「帰ります。」 ←低く強い声で。

「チぇッ……しゃ~ねぇなあ。(そう言う時の黒姫にゃあ、何言っても無駄だしねェ……)」

「カズヒサ……」

「ん、悪ぃなアギレダ、こ~なったら2人でデートでもしようぜ。」

「う、うん。」

「ピー、ピーピピー♪」 ←口笛。

「(くっそ~……丸腰だったし、隙があれば懲らしめてやろうと思ったのに、
 まさか助けられるなんて……何でこうなっちゃうんダよ……)」


……


…………


……数時間後。

ランスとシィルは黒姫の案内で島津の城に案内された。

そしてどう言う訳か、カズヒサを除く三人の兄弟と対面し、昼食を馳走になっていた。

現在は大広間に、ランス&シィルとヨシヒサ&トシヒサ&イエヒサが向かい合っており、
その間に黒姫が正座し、機嫌が良さそうな様子で互いの仲介役を担っている。


「シィルさん、お口に合いますか?」

「ぱくぱくぱく……えっと、凄く美味しいです!」

「何ぃ~、こいつに出すのは水だけで良いって言ったハズだぞ。」

「そう言わないで、ランスさん。 おかわりは沢山ありますから。」

「ふっ……まさか、カズヒサと引き分ける男が居るとはな。」

「本当なのかい、黒姫? ……信じられないな。」

「黒ねーちゃん! 何でこんなヤツ連れて来たのさぁ~っ?」


ランスとシィルは美味い飯にありつけたので、今の所不満は無い。

しかし島津兄弟達にとっては、憧れの黒姫がある日突然、
男(+シィル)を連れて来たので、各々は良い顔をしていなかった。

ヨシヒサに限っては冷静だが、彼も黒姫の異例な行動に疑問を抱いている。

逆にイエヒサは、先程からランスを挑発する言動ばかりである。


「"こんなヤツ"とは何だ、クソガキッ!
 あの勝負はなぁ、黒姫ちゃんが止めなきゃ俺様の勝ちだったんだぞ!」

「ウッソだぁ~カズヒサ兄ちゃんより強いやつなんて、居てたっまかよ~!」

「多少引っかかるが、その意見には同意だね……」

「パツキンまで疑いやがって! 俺様はなぁッ、大陸じゃ~無敵の男なんだぞ!?」

「ほぅ……≪ジュボッ≫……大陸の、ね。」

「信じて無ぇってツラすんじゃねぇ! 俺様は、アイスの街のキースギルドの……」


馬鹿にしたような素振りのイエヒサ、髪を掻き揚げながら全否定するトシヒサ。

そして……タバコに火を点けて口元を歪めるヨシヒサに、
ランスはムキになって自分がいかに強くてカッコイイ男であるかを話し始めた。

大人気無い事この上ないが、何故だかこの兄弟達に強い対抗心を抱いてしまったのだ。


……


…………


「……と言う訳でだな、ポルトガルの南に"闘神都市"ってのがあるだろ?
 あれは何を隠そう、俺様の活躍で"堕ちた"と言って良いって事だ。」

「ふっ……」

「ハハっ。」

「あははは! ……バッカでぇ~、そんなホラ話、信じるワケ無いじゃん!
 話の内容は面白いとは思うけど、魔人とか魔王を倒したなんて、ありえないしッ。
 それに"そいつら"って、普通の武器じゃ絶対に殺せないんでしょ?」

「……(魔人と、魔王を……それが本当なら……)」

「なんだとォ~ッ!? だからこの"カオス"で、
 バッサバッサと魔人どもを斬り払ってだなぁ……!!」

「ほぉ、その……喋る剣が、か。」

「確かに、変わった剣だが……いかんせん下品で、美に欠けるな。」

「そういや面白い剣だよねぇ、何処で売ってんの~、それ? 僕のお小遣いで買えるのかなぁ?」

「下品なのと、売っても5ゴールド位にしかならんのは否定せんが、
 "これ"のお陰で魔人を斬る事ができるんだぞッ!?」

『な、なんか酷い言われ様じゃ……』

「ダメダメ、そんなんじゃ信用できないよ。 だから、もっと聞かせてよ。」

「うぬぬぬぬッ……こうなったら、とっておきの話をしてやるッ!
 お前ら田舎者でも、此処最近ゼスで一波乱が起きたのくらいは知ってるだろうッ?」

「うん、マジノラインがナンとかカンとか……それがどうかしたの?」

「それは俺様が"アイスフレーム"の隊長になってだなぁ~……」


……


…………


……数時間後。

話を全く信用しない島津兄弟に、ランスは更に自分の偉大さを話し続けていた。

その必死の説明を、イエヒサは楽しいホラ話しとして聞いているようだが、
トシヒサは何時の間にか火縄銃の手入れをしながら適当に相槌を打つだけで、
ヨシヒサに至ってはデートから戻って来たカズヒサと将棋を指していた。
(アギレダも少しだけ聞いていたが、数分後アクビをして去って行った)

すなわち、思いっきり馬鹿にされてしまっており、
やはり黒姫に連れて来られたの彼が気に入らないのだろう。


「ぜぇぜぇっ……と言う話でだな、俺様は魔人・カミーラをも倒した最強の男なのだ。
 ゼスの王女も俺様にゾッコンで、その気になればリーザスとゼスの王になる事もできるんだぞ!」

「ふ~ん、成る程ねぇ、なかなか面白かったよ。
 ランスって、戦士より作家の方が向いてんじゃないの~?」

「はーーッ……≪キュキュッ≫……ダメだ、まだ銃の輝きが足りないな……
 この俺に相応しい武器は、もっと美しくなくては……」

「王手。」

≪パチン≫

「えぇっ!? うはッ、やられたぁーーーーっ。」

「むき~~ッ! 何なんだその態度は! 折角説明してやったと言うのにっ!」

「信じろって言うのが無理な話だろぉ? カズヒサ兄ちゃんと引き分けたのが本当なら、
 確かに凄いけど、魔人をやっつけるんなら、もっともっと強くないとダメなんだろうし。」

「うっ……それは、レベルが下がってるダケであってだなぁ……」

「さて、そんなに喋れば疲れただろう。 晩御飯も手配する。」

「もうそんな時間か……武器の手入れをしていると、つい時間を忘れてしまう……」

「僕もお腹減ったなぁ。 カズヒサ兄ちゃん、今日の晩御飯な~に~っ?」

「そういや調理場通った時に、良い匂いしてたなぁ。 ちょっくら摘みに行くか?」

「うん、行く行く~!」

≪ヒュウウゥゥゥ~~……≫


……と、ランスが話しているうちに空は暗くなり、兄弟達は広間を出て行った。

そしてその場にはワナワナと震えるランスと、シィル・黒姫だけが残され、
何故か室内だと言うのに、冷たい風がランスのマントを舞わせた。

彼の必死の説明も空しく、最初から四兄弟は彼をからかっていたダケだったのだ。


「む、むかつく……アイツら馬鹿にしやがって……」

「ラ、ランス様~、こらえて、こらえて。」

「…………」

≪げしっ!!≫ ←無言でシィルにキック。

「いたっ! ……ひんひん。」

「あの、ごめんなさい……あの子達には同性の友達が殆ど居ないから、
 ランスさんなら良いお友人になれると思ったんですけど……全くもう……」

「黒姫ちゃん……あいつら全員斬って良いか?」

『ワシは一思いに、心臓を一突きしてやりたいぞ。』

「い、いけませんッ。」

「じゃあ、腕一本で許してやるから……」

『ならワシは、ち○ちんを斬り落すのでも構わんぞい。』

「そ……それもダメですっ。」

「つまらん、不愉快だ。 もう帰るッ!」

「そんな! 折角ですから、どうか夕飯も召し上がってくださいッ。」

「……ったく、仕方ねぇなぁ。 しかし黒姫ちゃん、
 ソコまで言うって事ァ~、そんなに俺様が好きなのか~?」

「!? ち……ちがいますっ。」

≪もじっ≫

「ん~? (ありゃ、もしかしてホントだったりするか?)」


バカにされる事にあまり慣れていなかったランスは、
本来ならば斬るところを、ショックでタイミングを逃してしまった。

よって本気で城から出ようかと思っていたが、どうしてか黒姫に止められた。

何故か哀願するような瞳であり……かといって、ヨシヒサ達の態度から、
黒姫も話を信じてくれていないと考えていたランスは、何となく冗談を返してみた。

すると……"俺様が好きか?"という言葉に、少しだけ黒姫の顔が赤くなり、
視線を逸らし、どう見ても照れている様子だった。

それをランスは妙に感じたのだが、ムカつく四兄弟の事に今は気が向いており、
現時点では深く考えない事にしてしまった。

だが、ランスの勘は正しく……彼の英雄伝を信じていた者も居たのだ!


――――魔人ザビエルの娘である、黒姫ただ一人だけ――――


……


…………


その後……黒姫も広間を去ってから、20~30分後。

2人がその場で待っていると、次々と料理が運び込まれ、宴の準備が始まった。

そして瞬く間に料理が並び終え、盛大な夕飯が始まったのだが、
宴が始まって5分も経たずに、ランスの機嫌が更に悪くなっていった。


「ヨシヒサ様ぁ、どうですか~? 私の作った手料理の御味はッ?」

「相変わらず、俺好みの仕上がりだな……だが、あまりカラダを押し付けるのは頂けん。
 胸の感触は心地良いが、いささか食べにくいのでな。」


「カズヒサ様~、おかわりどうぞー。」

「モグモグモグ……おっ、良いねぇ! 文句無しだぜッ!
 それにお前達の顔をオカズにすりゃあ~、何杯でもイケるってもんだ!」


「わ……悪いですよぉ、トシヒサ様ぁ~。」

「なに、俺が食べさせてあげると言ってるんだ……
 さぁ遠慮せず……小鳥のように、小さく可憐な口を開けてくれないか……?」


「ど、どうぞイエヒサ様ッ。 あ……あ~ん。」

「あ~――――パクッ。 モグモグ……うん、イケてる! 今度はそっちを食べさせてよ~ッ。」


何故なら……こんな感じで、四兄弟は各々何人もの、
美女とか美女とか美少女とか美女とか美女とか美少女とかを侍(はべ)らせながら、
なんとも贅沢なディナーを味わっているからである。

中にはJAPANなのに、異国の料理を口にしている者も居る。

そんな中、ランスは広間の隅でポツンと用意してくれた夕飯と向かい合っているのだから、
機嫌が悪くなったり、頭に来たりするのも仕方ないかもしれない。

横に居るのはシィルだけで、傍から見ると苛められている様にも撮れる。

決して粗末な持て成しでは無いのだが、島津兄弟達に華が有り過ぎなのだ。


「ぐぐっ……な、なんなんだアイツらわ……何て贅沢に飯食ってやがる~!」

「ど、どの人も……すっごく綺麗な人達ですね……」

「あの熊男とは俺様が勝利予定の引き分けだったと言うのに、
 何だこの敗北感はッ……シィルしか居ない時点で、もう勝負アリじゃねぇかぁぁ!!」

「が、が~ん。」

「こら~ッ、一人や二人くれぇこっちに回しやがれってんだーーッ!!」

「(あう、ランス様……酔っ払っちゃってる……)」

「そんなんじゃ、仕舞いにゃ後ろから女に刺されっぞーッ、ちくしょうがーーっ!!」

「……全くですね。」


摂取量は少ないが、ヤケ酒で早くも酔っ払ったのか、
"ムガーッ"と自分の事を棚に上げ、喧しく叫び散らすランス。

ソレを遠めに、島津兄弟の取り巻きの女性達には白い目で見られているが、
そんな近寄り難い様子のランスの元にも、近付く女性が居た。

準備を手伝っていたのか、ついさっき広間に現れた"黒姫"である。


「んガッ、黒姫ちゃん?」

「ランスさん、できればお付き合いさせて頂きます。」

「く、黒姫ちゃぁ~ん……」

≪ぶわっ≫ ←涙を流すランス。

「どっ、どうしましたか?」

「いや……何でも無ぇぜ、とりあえず酎してくれ~。」 ←涙を袖で拭いながら。

「はい。」


黒姫の追加により、ランスの取り巻きが二人になったのだが、
島津兄弟達の取り巻きは高ランクが4~6名である。

しかし、黒姫の追加は兄弟達にとってはショックであり、
彼らは揃ってランスと黒姫の様子をチラチラと見るようになったりした。

それに酔っ払っているとは言え、ランスが気付かない筈は無く、
彼は僅かな優越感を感じてしまうと、これはチャンスと黒姫への接近を図った。


「なあ、黒姫ちゃん。」

「どうしましたか?」

「あいつ等も女を侍らせてんだ、もうちょい近付くのだ。」

「で、では……」 ←おずおずとランスに近付く。

「隙ありぃ~ッ!!」

≪がばっ!!≫

「きゃっ!?」

「がははははッ、よいではないか、よいではないかーッ!!」

≪もみもみもみっ≫

「あのっ……そ、そんなところッ……」


更に"酔い"が進行しているのか、右隣に近付いてきた黒姫を、
酔っ払い親父よろしく、ランスは強引に引き寄せて肩を抱いた!

しかもそれだけでなく、下品に笑いながら、
肩から回した右手で彼女の右乳房をモミモミと揉んだりまでしている。

……それに4兄弟達が黙っているハズもなく、真っ先に反応したのはイエヒサだった。


「こ……こらーッ、お前! 何て事してんだよーッ!」

「五月蝿ぇぞ、ガキんちょ。 お前だって似たような事してんじゃねぇか。」

「うるさーい! 黒ねーちゃん相手なら、話は別だ~っ!」

「ちょっと……落ち着いてイエヒサ。 今貴方の方に行くから……」

「そうだよ! 黒ねーちゃん、こっち来てよこっちぃ~!」

「え~、黒姫ちゃ~ん……」

「では、ランスさん……(ボソッ)……」

「――――んっ? お、おう。 それなら行ってこいだッ。」

「ランス様……何を言われたんですか?」

「いや、何でも無ぇぜ。 ぐふっ、ぐふふっ、ぐふふふふふっ……」


島津四兄弟にとって黒姫に対してダケは、覗きやセクハラ行為もしてはいけない、
"抜け駆け禁止"の存在なので、イエヒサが怒り出すのも当たり前。

カズヒサとトシヒサも咄嗟に立ち上がろうとしてしまったが、
黒姫が直ぐにランスの元を離れたので、取り巻きの抑制もあってか、ひとまず座った。

ランスにとっては早くも黒姫が自分の元から離れてしまった事になったが、
彼を恐る恐る見たシィルは、デレデレと鼻の下を伸ばしている表情を確認した。

口では"何でも無い"と言ってはいるが、だらしない顔でバレバレであり、
シィルはこの先の展開に不安を感じるのであった。


「(黒姫が異人に? ……いや、まさかな……)」

「(くっそ~! ランスの野郎……俺だってまだ揉んだ事無ぇのに……
 ん……待てよ? 酔っ払ったと見せかけちまえば、胸揉んでも不可抗力に……)」

「(ふむ、まさか黒姫は……あのような男が好みなのか?)」

「(へっへ~んだ、黒ねーちゃんは最後は絶対に僕の者になるんだもんねッ。)」


……


…………


「なぁ~、兄貴ぃ? 黒姫どーしちまったんだ?」

「馬鹿な……あの異人を、今宵は泊めるなどと……」

「只単に、客人に対する善意だろう。 黒姫らしい事だ。」

「黒ねーちゃんらしいッ? そんな訳無いって!
 今迄あんな事一度も無かったのに、あの口のデカいヤツの事、絶対気に掛けてるよぉ~!」

「おいカズヒサ! 冗談にも程があるぜ?」

「全くだ……世の中には言って良い冗談と、悪い冗談が有る。」

「うッ……だ、だけど……」

「落ち着け。 確かにその可能性が無いとは言い切れんが……
 例えそうだったとしても、俺達は実力で黒姫を振り向かせる。 それだけだろう?」

「兄貴……」

「そうだね、兄さん……」

「わかってるよ! でもそんな事、絶対無いけどねっ!
 ……あぁ、トコロでさぁ? 異人の奴隷とか言う女の子、結構可愛くなかった?
 結構酷い事されてたみたいだし、僕達が一緒に居てあげる方が良いんじゃない?」

「おっ? そりゃ~俺も思ったぜ!」

「確かに……あの女性はあんな男とより、島津と共に有る方が幸せになれそうだ。」

「……どうかな?」

「兄貴ッ?」

「先程、目を見て判ったが……あの娘は手強い。
 今迄……俺達が口説いて来た女達よりも、ずっとな……」

「珍しいな、兄さんがそんな事を言うなんて……」

「くっそぉ~、ホントなんなんだよあの異人~ッ。
 それじゃあ、もしかして、あの"ホラ話"も本当だったんじゃ――――」

「イエヒサ。 俺あんま覚えて無ぇんだが、凄い事でも言ってたのか?」

「将棋に集中するフリをして、一応耳を傾けてはいたが……
 流石に、あの話が本当だとは考えられんだろう……とにかく、もう少し様子を見るか。
 何も無ければ、明日には土産でも渡して帰って貰えば良いだけの事だ。」

「ん~……そうか、そうだよな~。」

「確かに、勘繰り過ぎかもしれないな……」

「まぁいいや、僕もう眠いし、誰かに添い寝して貰お~っと。」


……


…………


「何だか今日は、黒姫さんにお世話になりっ放しでしたね。」

「うむ……あの4バカどもはこの上なく不愉快だったが、
 一応飯は美味かったし、この部屋もなかなか良い造りだしな。」

「…………」

「ん? どうした、シィルー。」

「あ、あの……部屋を別々に用意してくれましたけど、大丈夫なんでしょうか……?」

「まぁ、黒姫ちゃんが"大丈夫"と言ってくれたから、問題無いだろ。
 あのバカ兄弟どもが夜這いに来たら、焼き殺したり・斬り殺しても良い許可も貰ったしな。」

「それなら、大丈夫なのかなあ……」

「そう言う事だ……黒姫ちゃんが折角、奴隷には勿体無い程の部屋を用意してくれたんだ。
 素直に寝ておけ。 何なら、そっちのベランダで寝させても良いんだぞッ?」

「うっ……ぷるぷる。」

「じゃあ、さっさと行け~っ。」

「はっ、はい~ッ。 お休みなさい、ランス様。」

「うむ。」


……


…………


……深夜0時。

すっかり静かになった島津城の廊下を、ひとつの人影が歩く。

その影は、"ある者"の部屋の前まで静かに歩み寄ると、
キョロキョロと辺りを確認し、静かに襖(ふすま)を開いて中に入った。

すると、明かりの点いた部屋で"その影"を待っていたのは、
シャツとトランクス姿で布団に横になっていた、ランスであった。


「来たか、黒姫ちゃん。」

「……夜分に、申し訳ありません。」

「いやあ今夜、俺様の部屋に来るなんて言われた時ァ空耳だと思ったが、
 どうやら、俺様に惚れたようだなッ! ……そうだろう~ッ?」

「は……はい。」

「あらっ? や、やっぱそうなの?」

「……私は、カズヒサと戦っていたランスさんを一目見た時……
 何か"感じたモノ"がありました。 そして……ランスさんの大陸でのお話を聞いた時……
 あの時に"感じたモノ"が間違いで無かった事に気付いたのです……」

「良く判らんが……なんだ? 早い話、俺様に抱かれても良いって事なのかッ?」

「か、構いません。 それ以外でも、私に出来る事であれば、
 何でも致しましょう。 ですから、どうかッ……どうか――――」

「……っ? (何だ何だ、凄ぇ切羽詰った顔してるぞ……)」

「JAPANを……お救いください。」


……


…………


突然黒姫はランスを慕っていると言い、流石に焦るランス。

そんな彼女の口から次に出て来たのは、"JAPANを救って欲しい"という言葉。

対して話が見えないランスが首を傾げると、黒姫は自分の境遇を語り始めた。


……自分は"魔人ザビエル"の娘であり、その為か約500年も若いまま年を取っていない事。


……魔人ザビエルは500年程前に封印されたものの、復活の時期が迫って来ていると言う事。


……そのザビエルは非常に危険であり、彼が暴れればJAPANの民は皆殺しにされる事。


よって、黒姫は魔人を倒せる力を持っている"ランス"という男に力を借りるしかなく、
彼にどうにか復活したザビエルを倒して欲しいとお願いしてきたのだ。

かといってランスも"よし、わかった"とアッサリと認めるワケにもゆかず、
難しい顔をして腕を組んでいると、遂には土下座をしてまで頼み込んでくる黒姫。

この様子から、余程ザビエルは危険な存在であり、倒さねばならない者だと言うのが伺えた。

それによって首を縦に振ってしまいそうだったランスだが、
引っ掛かる点が幾つかあったので、話題を逸らすのも兼ねて黒姫に聞いてみる。


「確かに、俺様の"カオス"で魔人を殺す事ァできるが……
 ザビエルってのは、何処で復活するんだ?」

「……今、父……いえ、ザビエルは……8つの瓢箪に封印されています。
 織田・上杉・武田・毛利・北条・伊賀・明石・足利家に各一つ存在し、
 そのうちのいずれかが割れるだけで、近くの者に憑依し……いずれ復活を遂げるでしょう。」

「それなら、瓢箪ってのを割らないようにすりゃあ良いんじゃねぇのか?」

「いえ、刻が来れば……瓢箪は必ず割れてしまうでしょう。
 それと同時に次々と使途やザビエルの手の者が瓢箪を割り……
 いずれザビエルは復活を遂げてしまいます。
 かといって、"天志教"が蘇ったザビエルを再び封印しようと動いておりますが……
 例えまた封印しても……復活の刻は必ず再び訪れるでしょう。」

「となると……」

「はい。 魔人を"倒さ"なくては、JAPANに安息は、訪れないのです……」

『ランス、ワシは賛成じゃぞ? 魔人を封印なんぞするなどヌル過ぎる。
 五寸刻みにして地獄を魅せるだけでなく、魔血魂をこの世から消し去るのが道理じゃ!』

「それじゃ~バカ兄弟達はどうすんだ、黒姫ちゃんにゾッコンなんだろ?
 頼んだから、喜んで強力でもしてくれんじゃねぇのか?」

「……いえ……あの子達は巻き込みたくありませんし、
 私の私情で島津の者達をも巻き込む訳にもいきません。
 ランスさんが力を貸してくださるなら、私は明日にでも島津を出ます。」

「う~む……バカ兄弟と協力するとか言うなら嫌だったが、そこまで言うか……」

『良し! 魔人殺そう、魔人っ。 さっさと殺そう、ずばっと殺しに旅立とう~♪』

「五月蝿ぇ、バカ剣! ……しかし、そうだな。
 元々はJAPANの可愛い娘ちゃん達を堪能しに来た訳だし、
 魔人に暴れて貰っちゃあ、それどころじゃ無くなっちまうしな~。」

「そ、それでは……」

「うむ、乗ったぜ! ザビエルだか何だか知らんが、英雄の俺様の敵では無い。
 旅行の"ついで"にアッサリと殺してくれるわ。」

「!? あ……ありがとうございます!」

「ぐふふふっ、その前にだ。 黒姫ちゃん……さっき言った言葉は覚えてるな?」

「あっ……は、はい。 不束者ですが……宜しくお願いします……」

「がはははははっ!! 馬鹿兄弟どもめッ、黒姫ちゃんは俺様のモンだーーッ!!」


ランスは黒姫の強い決意を感じ、結局彼女の願いを聞き入れた。

中でも、"島津家を捨ててランスに付いて行く"という事が、決め手となったと言っても良い。

あの島津四兄弟に敬愛されまくっていた黒姫が、
"自分の方が好き"だと言ってくれている様なモノなのだから。

よって正座している黒姫は、再び深々と頭を下げると、
ランスのJAPANセックス旅行の第一号として、一晩中可愛がられてしまうのであった。


「そうだった……カオス、お前はベランダでマスでも書いてろ。」

≪ぽいっ≫

『ぐおぉ~ッ! 酷いぞい、やっぱりこうなるのかーッ!?』


……


…………


――――狂子。


それは、黒姫がザビエルから与えられた名前。

そんな名を付けられただけあってか、ザビエルに狂子への愛は一切無く、
幼い頃から彼女はザビエルの"遊戯"の相手として弄ばれていた。

早い話……簡単には死ねない体である、彼女への度の過ぎた虐待であり拷問。


≪――――ざしゅっ!!≫


縄代わりに両手の手首と両足の足首にクイを打ち付けられ……

四肢の骨が見えるまで肉を切り裂かれ……

全裸のまま沸騰した油の中に投げ込まれ……

時には、腸(はらわた)を引きずり出されたまま虐待を受け、
終わればそのまま放置される事もあった。


≪――――びちゃっ!!≫


その地獄は幸い長くは続かず、ザビエルは勇者の命と引き換えに封印され、
狂子は島津の旧国主に拾われた時……彼と恋仲となり、初めてを捧げた。

その者が老衰で逝去してからは、子供達の母親代わりとして生きる事にした。

よって450年客将として生活して来たが……それ以来、誰にも愛を感じる事は無かった。

島津の者達は確かに優秀だが、ザビエルに対抗できる力を持つ程の人間はおらず、
ここ50年は、ザビエルの復活の刻が迫っている事を感じ始め、
ただ……客将としての役目を果たしながら、ザビエルに抗う術(すべ)を探していた。

しかし、何も見つかる事は無く……そんな中で、狂子は苦悩し理解した。

自分が愛する事ができるのは、魔人を……ザビエルを倒す事の出来る者だけ。

そうでなければ、例え再び愛した者が居たとしても、ザビエルによって殺され、その者達は滅ぶ。

つまり……今、自分が此処に居ては、島津の四兄弟は成す術無く、
ザビエルに殺され、一度狂子が愛した島津・旧国主の武家は、滅んでしまう事となるのだ。

だとすれば……島津を離れなくてはいけないが、自分には行く宛が無い……そんな時、現れたのが……


――――魔剣カオスを持つ男、ランスである。


……


…………


ランスとのセックスは黒姫にとって、新鮮だった。

ザビエルが封印されたばかりとはいえ、島津の旧国主に抱かれた時は、
いずれ復活を遂げるザビエルに怯える気持ちが何処かにあった。

それは今でも同じハズなのだが……ランスはザビエルの事を話した唯一の男であり、
今迄"全て"を自分の心に閉まっていた事から、話すだけで気分がかなり楽になった。

また……彼の根拠の無い"絶対的な自信"で勇気付けられたり、
自分の胸元と左手のアザ(印)を見ても気にする様子皆無の優しさ(勘違い)もあって、
"あのような気持ち"で抱かれたのは、生まれて初めてだった。

ランスのセックスのテクニックは、島津4兄弟よりも遥かに劣るのだが、
黒姫は島津の旧国主以来、誰にも抱かれた事は無く、むしろ感じてしまっていた。

故に心臓が高鳴り、顔が火照り……あまりよくは覚えていないが、黒姫は乱れていた。

最後は自分からも体を動かし、快楽に身を委ね……何度も果てる自分があった。

そして全てが終わった後は、恥かしさにランスに背を向けて寝ようとしたが、
無理矢理彼の胸元に引き寄せられた時……それが非常に心地良く感じた。


――――そして、早朝。


「シィル、支度は終わったかッ?」

「は、はいっ。」

「良し、それじゃ~ズラかるぞ!」

「こちらに……あの子達でさえ知らない、抜け道があります。
 私が封印を解きますから、そこから外に出ましょう。」

「おぉ~、用意良いじゃねぇか!」

「いつか……このような日が来るのを、待っていましたから。」


……


…………


「カズヒサ、トシヒサ。 落ち着いて聞いてくれ。
 ……黒姫が、異人と共に……島津を去ったようだ。」

「あちゃぁ~、なんてこったい……」

「イエヒサは、何を?」

「あいつは今、島津領・全域に探索隊を出すよう指示している。
 目撃者の話によれば東に向かったとの事だが、
 念の為に……天満橋の監視も強化するようにしなくてはな。」

「チンタラ探してて良いのかよッ? もう"戦艦長門"に入っちまってるんじゃねぇのか?」

「だとしたら、島津領以外にも探索の手配を……」

「それはできん。 そこからは、毛利領だ。
 忍者でも使わない限り、まともに探す事など無理な話だ。」

「確かにアイツら、獰猛みてぇだしなぁ~。」

「しかし……黒姫は、本当にあのような男が好みだったのか……
 俺達がいくら迫っても、靡かないワケだ。」

「そんな簡単な事で、黒姫が付いて行く筈が無い。
 あの異人には、俺達には"無い物"を持っていたとしか考えられん。」

「はぁッ? なんなんだよそりゃ~?」

「兄さん、あの異人より、俺達が劣っていた事でもあると言うのかい……?」

「……あぁ。 "あの話"が本当だったのなら……な。」

「あの話って……あの魔人とか魔王を倒した事があるとか言う、"ホラ話"がかッ?」

「馬鹿な……」

「そうとしか考えられん。」


朝起きて四兄弟がする事は、黒姫との朝の挨拶。

その黒姫が何処にも見当たらないので、彼らは城中を探し回った。

そんな中で……判ったのは、二人の異人も姿を消していたと言う事。

そうなれば答えは一つで、彼らはランスの存在を甘く見ていたと言う事を痛感した。

即ち焦っており、流石のヨシヒサも煙草を逆に咥えるミスを犯した。


「とにかくヨォ、これからどうすんだよ、兄貴ッ?」

「一刻も早く、黒姫を異人から取り戻さなくては……」

「……(だが……取り戻したところで、どうなる? となれば……)」

「兄貴!!」

「……兄さん。」

「これから島津は……JAPANの統一に移る。」


……魔人・魔王を倒した事があり、リーザスとゼスを救った事もあるらしいランス。

その話が本当で、それが理由で黒姫がランスに付いて行ったのであれば、
いくら優れてモテている島津四兄弟でも勝負にならない。

かといって、無理矢理連れ戻しても、"無理矢理"と言う言葉は彼らが女性を口説くのに、
"邪道"と考えている手段であり、彼らは実力で黒姫を振り向かせなくてはならず、
今までも"黒姫は俺の嫁だ!"という理由で競争し、常に努力してきたのだ。

よって黒姫に近付く為には"JAPAN程度"は自分達で統一できなくてはならぬと考え、
すぐさま他の国全てに"宣戦布告"をしてしまったのである!

そして、統一の暁には大陸に進出し、ランスの話に負けない程の実績を出してみせる。

普通なら気の遠い話なのだが、彼らは黒姫の為であれば、
世界制覇でも本気で成し遂げようとする迄の覚悟があるのだ。

この騒動により、元々仲の良かった四兄弟だが……更に結束を固める事となる。


「(……ヨシヒサ・カズヒサ・トシヒサ・イエヒサ。
 貴方達は私が居ない方が幸せになれるの。 だから、私の事は忘れて……)」


――――魔人ザビエル、この存在の抹消だけが、黒姫の願いだとも知らずに。


……


…………


「ふぃ~、結構歩いたなぁ。 シィル、此処は何処だ?」

「え~っと……地図によると、"戦艦長門"に入ったところですね。」

「ひとまず、此処までくれば、いくらあの子たちでも追っては来ないでしょう。」

「う~む、本当なら島津領で50人は犯るつもりだったんだが、予定が狂っちまったな。」

「え……そ、そんなつもりだったんですかぁ?」

「申し訳ありません……折角の旅行を、台無しにしてしまって……」


島津の城を離れて暫く経ち、ランス・シィル・黒姫は毛利領に辿り着いた。

思ったより追手は早く諦めたようで拍子抜けしてしまったが、相手はあの四兄弟。

警戒心を消すつもりはないが、とりあえず三人は一安心していた。

それはさておき……現在の黒姫は、今までの黒い着物姿ではない。

頭の鬼のような髪飾りはそのままだが、額のメイクを落とし、
軽装甲の黒い武者鎧を着用しており、手頃に脇差を腰に刺している。

こうならば、四兄弟の手の者であっても、一目では黒姫と判りにくく、
抜け道で保管してあった鎧を着用したその姿に、ランスも一瞬別人だと思ってしまった。

また……決して見掛けだけでなく、黒姫は魔人の血を引く相応の力を持っている。


「がははは、その分これからも、カラダで返してくれりゃあ問題無いぜ。(嘘だし)」

「ハァ……魔人ザビエルをやっつける旅ですかぁ~、何だか大変そうですね。」

「とりあえず、まだ瓢箪は割れておらず、復活の前兆は感じません。
 その前に出来る限りの事を致しましょう。 勿論、私も戦わせて頂きます。」

「そうだなぁ~、いくら英雄の俺様とは言え、魔人相手だともう少し"仲間"が必要だ。
 そう言う訳で、噂の毛利3姉妹とセックス……いや、仲間にでもしてみるかな。」

「ほ、本気ですかぁ? 毛利家って凄く乱暴な人達ばかりって聞きましたけど~。」

「私は……ランスさんの言葉に従わせて貰います。」

「おぉ、そうかそうか、黒姫ちゃん。 だったら、これから宿でセックスしよう。
 シィルはマッサージな。 今日は一日中歩きっぱなしだったから疲れた。」

「くすん、私も荷物を殆ど持ってるから、足痛いです……」

「あっ……ら、ランスさん……そう引っ張らずとも……」

「がはははははははっ!!」


……こうして、ランスのJAPANでの旅が始まった。

奴隷のシィルと、魔人の血を引く黒姫と共に、彼はJAPANを歩きはじめる。

間も無く激しい戦いが繰り広げられようとしている、戦国の時代の海を……


――――続く――――


ランスLv40/99 シィルLv30/80 黒姫Lv25/99

ヨシヒサLv40/49 カズヒサLv40/49 トシヒサLv35/49
イエヒサLv20/49 アギレダLv30/37


●あとがき●
お世話になっております、Shinjiです。
現在=鬼畜の剣=の連載をさせて頂いておりますが、ネタを投下してみました。
今作は天満橋から最も近い島津スタート?ですが、私なりに戦国ランスの客観的意見を、
そこらへんのサイトで調べたところ、3点程要点がチョイスでき……

①上杉謙信萌え。
②美樹と健太郎ウザい。
③島津4兄弟氏ね。
(誤解の無いように言っておきますが、私の意見ではなく、
良く聞く声を3点挙げているだけで、著者は謙信属性と言うワケでもなく、
魔王カップルや島津4兄弟が嫌いと言うワケでもありません。)

……だと分析でき、①と②はSSとしてこれから増えそうなので、③を考えてみました。
=鬼畜の剣=の区切りが付くまで次回の投稿はしないつもりですが、
仕事の状況等次第では精力を尽くして、同時連載をさせて頂く事も考えております。



[2299] ランスⅦ ~魔人の娘 黒姫 其の2~
Name: Shinji
Date: 2007/01/26 13:21
――――天志教。


JAPAN最大の宗教組織で、全ての国民に影響を及ぼしている団体。

いわゆるJAPAN版の"AL教団"と言っても良く、
全ての地域に寺があり、全ての大名が何らかの関わりを結んでいる事から、
野蛮な者達が多い毛利家であっても、天志教だけには手を出せない。

かと言って……それだけが"天志教"そのものでは無く、
本来は復活した"魔人ザビエル"を再び封印する為の組織なのである。

その"本来の活動"で欠かせないのが、一年に一度の"8つの瓢箪"の確認。

いわゆる、ザビエル復活の有無の確認であり、
天志教の使者が瓢箪を所持している、各国主の元を訪れるのだ。


しかし、北条家を除き、大名達は瓢箪の本当の役割を知らない。

野心ある者の心を煽ったり、民の不安を募らせないようにする為、
瓢箪は"JAPAN(天志教)に認められた大名"にしか与えられない、
貴重な品だと言う事で、瓢箪を"守って貰って"いるのだ。

その方法は、天志教が本部(なにわ)の宝物庫で瓢箪全てを保管するよりは遥かに安全で、
例え一つが割れたとしても、他の7国の大名に使者を送って協力を促し、
不完全なザビエルを討つ事で、再び封印してしまえば済むのだ。

だが……瓢箪はひとつも割れる事無く、500年以上が経過した。

それにより、代々語り継がれてきた"魔人ザビエル"という存在の恐怖が、
段々と薄れてゆき……民から忘れられようとしてきた時。


――――第4次戦国時代。


愚かにも、多大の犠牲によって生まれた平和までをも、人々は忘れた。

それにより、JAPANは確実に悪き方向へと動き始めていたのだった。


               ランスⅦ
         ~魔人の娘 黒姫 其の2~


……ランス達が毛利領に入ってから数日。

島津家は宣戦布告及び、戦の準備中であり、今の所は動きを見せない。

それを悪い意味で勘違いしたランス達は、まだ焦る必要は無いとのんびりと旅を始めていた。

現在は"戦艦長門"を通り抜け、出雲でたま~に遭遇したモンスターを蹴散らしつつ、
ランスが狙っている"毛利3姉妹"の情報を中心に仕入れていた。

その旅中で、何匹か鬼のような敵を倒したりもしたが、三人は大して気に掛けなかった。

……それに遅れて来た北条家の陰陽師が、鬼を討伐した異人の噂を広めたのは別の話。


「毛利家……ねぇ。 もっと荒れた治安だと思ってたんだけどな。」

「住んでる人達は普通ですし、町並みも島津領とあまり変わりませんね。」

「ええ……民達にとっては、国を毛利が治めていようが、島津が治めていようが、
 平穏な暮らしができれば……それで良いのですから。」

「ま~、町の奴等の事なんてど~でも良いんだが、
 旅先で普通のもん食えて、普通に寝れ無ぇと困るからな。」

「私は旅行が終わったら、家で普通にしてたかったですけど~……
 ザビエルと言う魔人は放っておけませんからね。」

「……ご迷惑を、お掛けします。」

「がはははは、まぁ任せておけ! ……それとシィル、余計な事は口にするなッ!」

≪ゴチンッ≫

「あうっ……」

「あ、あの……だからランスさん、奥さんはもっと大切にしませんと……」

「だ~か~ら、違うと言ってるじゃないか黒姫ちゃんっ! こいつは奴隷なのだと!」

「うぅっ……そ、そうなんです……」

「そう言われましても、JAPANにはそのような言葉は使われてないものですから……」


……


…………


――――毛利三姉妹。


長女の毛利てる……美人で小柄だが、冷酷との事。


次女の吉川きく……美女で巨乳だが、乱暴者らしい。


三女の小早川ちぬ……美少女だが、毒殺が趣味だったりする。


これからランスがセックス、いや……仲間にしようとしている三姉妹は、
どの娘も美しいらしいが、性格が奇特と言う致命的な欠点がある。

だがランスは、全く奇特な性格については気に掛けず、
"可愛いくて強いならグットだ、絶対仲間にするぞ"程度にしか考えなかった。

しかしながら……三姉妹は毛利家国主・毛利元就の娘であるので、
そう簡単にゲットはできそうに無いのは当たり前な話。

よって"三姉妹をゲットする"という事が軽率な判断であり、
一筋縄では成し遂げられない事であるのだと、ランスがようやく気付こうとしていた時……

宿でのんびりとしている中、何やら出雲で毛利軍の動きがあり、
黒姫と共に様子を見に行っていたシィルの2人がパタパタと戻って来た。


「ランス様、ランス様!」

「只今戻りました。」

「おう、何か判ったか?」

「はい。 どうやら毛利軍は姫路の方に向かったみたいですよ?」

「今度は恐らく……明石家に戦争を仕掛けるようですね。」

「ったく、こんな小さなJAPANでドンパチやって、何が楽しいんだかなぁ~。」

「確かに、勢力が凄く多いみたいですよね~……」

「ところで、どうされますか? ランスさん。」

「良し。 それじゃ~ちょっくら、高みの見物といくかッ!」


……


…………


――――毛利家の国主である、毛利元就。


元々から強力な武人であり、軍も屈指の実力を持っていたのだが、
肝心な"作戦"に欠いていた為、大内家や尼子家などの強国を討ち滅ぼす事ができずにいた。

しかしある時……毛利元就が"呪い付き"になってからは、
巨大化した彼の実力だけで、勝ち戦を続ける事ができるようになった。

作戦もクソも無く、突撃のみと言うのは相変わらずなのだが、
体長6メートル以上の巨体で暴れまわる彼を止める事ができる者は誰もおらず、
真っ先に正面から突っ込んだ毛利元就が大剣の一振りで数十名の人間を薙ぎ倒し、
浮き足立った敵軍に全軍が突っ込むだけで、もはや圧倒的な勝利。

また、彼の妻が残した三姉妹のうち二人が吉川家と小早川家を乗っ取ることで、
今や4つの国を支配する西の大勢力となってしまった。


「クッ……ク クくククッ……!! た "楽し" かった、の……ぉお!!」

「ふっ……」

「これが"あの"明石かよ、他愛ねえもんだぜ。」

「い~っぱい殺しちゃったね~☆」


そんな毛利家の次の標的は中堅クラスの勢力の"明石家"であり、
明石家は姫路に向かおうとしてくる毛利軍を、出雲と姫路の境で迎え撃った。

だがその結果は、明石側の負け……7割の兵を失うと言う、大惨敗であった。

兵の質は決して毛利に負けてはいなかったのだが、
巨大メカのように暴れ回る元就を止める事は叶わず、最初の突撃で勝負は決まっていた。

毛利元就を止めれなくして、毛利軍を破る事は不可能なのである。


「ふぅ~む……どうやら毛利側の勝ちらしいな。」

「圧倒的みたいでしたね……」

「巨大な人間……彼が呪い付きの"毛利元就"ですね。」

「いや……あれって人間か? 殆どバケモンじゃね~か。」

「うぅ、見てるだけでも怖かったです。」

「協力を仰ぐのは、難しいかもしれませんね……」


戦に勝利して喜び叫んでいるチンピラ集団。

その毛利軍の様子を、数百メートル離れた草陰で、ランスら三人は見ていた。

いわゆる"偵察"であり、聞くよりも見るほうが手っ取り早いのだが、
想像を上回る"毛利元就"の強さに、ランス達は正直驚いていた。

……かといって、それだけで毛利3姉妹を諦めるつもりの無いランスは、
以前マリアから無理矢理譲って貰った双眼鏡を必死に覗き込んでいた。


「確か三姉妹は四六時中メイド服らしいが……どいつだ、どいつだ?」

「結構遠いですからね……」

「ところで、ランスさんが使っている物は何なのですか?」

「お……おぉっ!? それっぽいのがいた! だが良く見えん~ッ!」

≪ずりずりずり……≫ ←匍匐(ほふく)前進し出すランス。

「えっ~とですね、黒姫様。 あれは"双眼鏡"と言われるものでして~……」

「はい。」

「がはははは。 見えてきた、見えてきたぞぉ~。」


……


…………


「くくくっ、これでは死体の"掃除"に手間取りそうだな。」

「んん~っ?」

≪キョロキョロ≫ ←辺りを見回すきく。

「あれぇ? どしたの、きくおねーたま。」

「へへっ……何だか、ネズミが覗いてやがるみてぇだなぁ。
 親父、姉貴。 ちょっくら片付けてくるわ。」

「そぅか!! い いッい…… "行って" こぉい!!」

「ふっ、勝手にしろ。」

「行ってらった~い☆」

「そんじゃな~ッ。」


……


…………


……数分後。

双眼鏡を覗きながら、匍匐前進で無意識のうちに10メートル程進んだランス。

既に思いっきり草陰から出てしまっているが、
それに気付かないほど、ランスは3姉妹の顔を確認するのに必死になっていた。

そうなればツッコミを入れなければならないシィルの出番なのだが……

彼女は黒姫に双眼鏡の説明をした後、何やら二人で雑談を始めてしまっていた。


「え~っと、確かあの小柄なのが、長女の"毛利てる"で……」

「それにしても、黒姫さんが500年以上生きてるなんて、びっくりしちゃいました。」

「失礼な質問かもしれませんが……シィルさんは、お幾つなのですか?」

「あのアホそうなのが、三女の"小早川ちぬ"って娘だな。」

「私は、もう少しで20歳になりますッ。」

「お若いのですね……羨ましいです。」

「となると後は次女だが……何処行ったんだ? 見失っちまった。」

≪ズザッ……≫ ←着地音。

「それは黒姫さんも一緒……あっ!?」

「!? ランスさん、何時の間にそんな所にまで……」

「んんっ? 何だぁ、大事なトコだったってのに、急に見えなく……」

「そりゃそうだ、あたしが邪魔してんだからな。」


そんな時……未だにうつ伏せで双眼鏡を覗き込む、ランスの前に降り立つ影。

それにより視界が塞がれ、ランスが双眼鏡から顔を離してみると……

メイド服を着て、鍋に繋がった鎖鎌を持った女性が、薄笑いを浮かべて立っていた。

彼女は吉川きく……ランスが見失っていた三姉妹の一人なのだが、彼はきくを見上げて一言。


「じ~っ……」

「さ~て、誰だか知らねぇけど、死んで貰――――」

「黒のレース。」

「!? て、てめぇっ! 何処見てやがる!」

≪――――バッ!!≫ ←ランスから飛び退く。

「あの状況で、それ以外どこを見ろと言うのだ。」

「見つかってしまったのですか……」

「ランス様、この人は……?」

「美人で巨乳でメイド服~……多分、毛利3姉妹の次女だ。」

「そう! 毛利三姉妹の次女、料理魔王。 "吉川きく"たァあたしの事だッ!」

「は? 料理? ダサい肩書きだな。」

「う、五月蝿ぇッ! ところでお前らは、明石のモンじゃねーな?」

「あぁ……俺様はな、ただの大陸から来た旅行者だ。
 戦いを見学していただけで、決して怪しい者ではない。」

「……(ら、ランス様、それは無理があるんじゃ……)」

「へ~っ、大陸の奴がわざわざ見学に来るなんて、あたしらも有名になったモンだねぇ。」

「まぁ、そんな訳で。 俺様とお茶でもどうだ?」


立ち上がるとランスはシィルに双眼鏡を渡し、じろじろときくを見る。

それにより彼女が三姉妹の次女と判り、ランスは心の中でガッツポーズをしていた。

きくは双眼鏡のレンズが浴びた僅かな逆行を察してしまい、
それを怪しく思った事から、相手が偵察であれば皆殺しにしてやろうと考えていた。

忍者10名程度なら、同様に一流の忍者でもある、きく一人で勝つ事ができるからだ。

……だが、どうしてか"見ていた者"は異人であり、妙な性格をしている。

それに何度かペースを崩されそうになるが、きくは異人のナナメ後ろに立つ黒姫を指差した。


「はっ、騙されねーよ! ……そっちの"黒いの"は日本人だろ?」

「そうですけど……」

「それが、どうかしたのか?」

「つまりだなあ……死ねって事だよォっ!!」

≪じゃらっ……ヒュッ!!≫

「うぉッ!?」

≪ギイィンッ!!≫

「ら、ランス様!!」

「加勢しますっ!」

「いや、必要ね~ぜ! お前らは見てろっ!
(仲間にするにゃあ、タイマンで勝たんとダメだろうしな)」

「ははっ……楽しませてくれそうじゃないかッ!」


きくの鎖鎌による、突然の不意打ち。

それをランスは咄嗟にガードし、響いた金属音が戦いのゴングとなった。

直後にシィルと黒姫も構えるのだが、ランスに止められたので、
周囲を警戒しつつ、二人の戦う様子を見ているしかなかった。

シィルにとってはランスが戦っている姿を見るのは日常茶飯事なのだが、
黒姫は此処で初めて、(きくの体が目当てで)本気の彼の実力を知る事となる。


……


…………


吉川きくは抜群の武器捌きで、まるで生き物のように鎖鎌を操っていた。

時には鍋をも武器代わりにし、ランスを叩くなどして、
素早い動きで翻弄されていたランスは、攻撃の隙をなかなか見い出せない。

パワーは圧倒的にカズヒサの方があったのだが、戦い難さはこちらが断然上だった。

しかし……魔人をも倒した事もあるランスにとって、
彼女の不意を突く方法を思い浮かぶ事に、そう時間は掛からなかった。

彼は自分放たれた鎖鎌を、カオスに巻き付けさせたと思うと、
それを手放し、反動できくのバランスを崩させ、懐に入ると――――


「もらったぁッ!!」

「!? う、うそっ……」

「ランスぱ~んち!」

≪――――どすっ!≫

「ぐぅっ……!?」


腹部にパンチをお見舞いして、彼女を気絶させた。
(それ以前の細かい戦いの内容は、実際のゲームと殆ど同じです)

それによりこの時点で、ランスが勝利した事となる。

負けたきくは地面に倒れそうになるが、はっしとランスは彼女の体を支えられ、
彼は今までの戦いをハラハラと見守っていた二人に向き直る。


「よ~し、きくちゃんゲットだ。 ズラかるぞ。」

「そ、そうですね。 私達に気付いたのは、この人だけみたいですし……」

「……(やはり、この方なら……きっと魔人を……)」

「んっ? どうした黒姫ちゃん……心配せんでも、
 流石の俺様でも、こんな所で青姦なんぞせんから安心して良いぞ。」

「いっ、いえ……そう言う訳では……」

『うぉ~い、助けてくれーっ、ワシはこんな趣味は無いぞーっ。』

「今解きます、カオスさん。」

「それにしても……ぐふふふっ、やっぱデカいな。」


完全に意識を失っているきくの胸の感触を楽しみ、ランスは鼻の下を伸ばす。

この後、元就達はきくが帰ってこない事が気掛かりになり、
毛利領に探索隊を出すのだが、結局最後まで彼女の姿は発見できなかった。

再び……吉川きく自身で、元就達の元を訪れるまでは。


……


…………


――――同時刻、カイロ。


「カズヒサ。 そろそろ、毛利が動いた後か?」

「そ~らしいな、今頃明石が敗走でもしてんじゃねぇの?」

「どちらが勝とうと、しった事では無いけどね……」

「……ヨシヒサ兄ちゃん! 軍の配備は完璧だよッ!」

「偵察は?」

「アイツら馬鹿だから、殆どの兵を明石に行かせてるらしいよ。
 毛利に仕掛けるなら今しかないみたいだね。」

「そうか。 トシヒサ、火を。」

「はい、兄さん。」

≪ジュボッ≫

「ふぅ~……良し、出よう。」

「なら、いっくよ~っ! 右翼、左翼からカズヒサ兄ちゃんとアギレダの隊が進軍!
 その後ろをソウリンとトシヒサ兄ちゃんの隊が追う!
 中央からヨシヒサ兄ちゃんのと僕らの隊が進軍だ~ーっ!!」

「よっしゃ! 今日中に"戦艦長門"を落としちまおうぜッ!」

「さて……蹂躙しよう。」

「主戦力は出雲の端みたいだし、反撃戦の事は考えなくて良いよ~ッ!」

「……(黒姫……全ては貴女の為だ……)」


……


…………


……翌日、朝。

吉川きくを捕虜にしたランスは、気絶した彼女を縛って抱えると、
そのまま毛利ではなく、明石領に進んで行った。

そして最寄の宿に入ると、ひとまず一日休んで朝食を取り、
偵察で得た情報を元に、三人は居間で今後について話し合っていた。


「しっかし、えらくデカかったな、毛利元就ってのは……」

「もしかして、魔人よりも強いんじゃ~……」

「確かに無敵効果を除きゃあ、それくらい強いかもしれんなぁ~。」

「まさかあれ程とは思いませんでした。」

「ところで黒姫ちゃん、呪い付きって何なんだ?」

「はい。 呪い付きとはいわゆる、妖怪に掛けられた呪いを意味します。
 大抵デメリットばかりなのですが……中には強い力を得れる者もおります。
 毛利元就と言う男は、その中でも特別強い力を得れたのでしょう。」

「それじゃあ……呪いを落とす事ができれば、あの人は元に戻るんですかっ?」

「そうなりますね。」

「それは、どうやるんだ?」

「呪いを掛けた妖怪を、倒さなくてはなりません。」

「シンプルだな。 それじゃ~その妖怪を殺して、あのジジィも殺そう。」

「でも、その妖怪が何処に居るかわかりませんよ?」

≪ぼかっ!!≫

「そんなん、いちいち言わんでもわかっとるわッ!」

「い、痛い……」

「黒姫ちゃんはどうだ、何か知らんか?」

「生憎ですが、私もその知識は……あっ、でも……」

「どうした?」

「定かではありませんが、呪いを掛けた妖怪が判るという者が……
 織田に居ると言う噂を聞いた事がありますね。」


とりあえず"吉川きく"はゲットしたので、次にランスが狙っているのは、
長女の"毛利てる"と、三女の"小早川ちぬ"。

しかし、あんなモン(元就)が傍に居るのでは口説く事すら出来そうも無いし、
きくが居なくなった事で警戒していると思うので、先に元就を何とかしなくてはならない。

かと言って彼は呪い付きの巨大な化け物……戦闘力は尋常では無さそうだ。

よって、呪いを落として弱くなったトコロをどうにかしようと考えたワケなのだが、
問題の"妖怪"が何処に居るかが分からないので、とりあえずランスはシィルを殴る(酷ッ)。

そうなれば頼みの綱は黒姫の知識なのだが……

彼女は何かを思い出したようで、織田に行けば"判るかもしれない"と言った。

その言葉を聞いた直後、シィルは即地図を取り出してランスの前に開き、
尾張を指差し、殴られた直後だと言うのに何とも健気な娘である。


「ふ~ん、織田に……ねぇ。」

「えっと……ここが尾張という場所、ですね。」

「結構遠いな~。」

「そうですね……"なにわ"と"大和"を越えなければなりません。」

「良し、それなら忍者を使おう。」

≪すくっ≫ ←立ち上がった。

「忍者? ランス様、何処にそんな人が……」

「馬鹿者、そこに"凄腕"が居るではないか。」

≪ガラッ≫ ←襖を開いた音。

「……っ……」


ランスが"くいくい"っと親指で指した先には襖(ふすま)があり、
それを開くと猿轡(さるぐつわ)をされた"吉川きく"が、柱に縛られてこちらを睨んでいた。

昨日の夜からずっとこのままなので、すこぶる機嫌が悪そうだ。

それをスルーしながら、ランスは彼女に近寄ると、腰を落として猿轡に手を掛ける。

それと同時にシィルと黒姫も襖を潜り、きくを見下ろしている。


≪ぐいっ≫

「よぉ、きくちゃん。 気分はどうだ?」

「……最悪だね。」

「それはこっちの台詞だ、昨日は喧しくてセックスする気にもならならんかったわ。」

「馬鹿言ってんな! それより、さっさと解きやがれッ!」

「何を言うか。 俺様が勝者、君は敗者。 
 犯されて拷問されて殺されるよりは、遥かに寛大な扱いではないか。」

「ぐッ……あ、あたしをどうするつもりなんだ?」

「とりあえず、犯そうか?」

「なっ!?」

「あの……ランス様、私に振られても困ります……」

「おっ? 何だか顔が赤いな、ひょっとして処女かぁ?」

「わ、悪ぃか!? だったら何だってんだよッ!」

「(ほぉ、苗字が違うのに処女だとは……そりゃ結構、結構。)
 ま~~冗談はさて置いて、本題に移ろう。 きくちゃん。」

「な……何だよ? (び、びっくりさせやがって~……)」

「縄を解いてやるから、俺様の部下になれ。」

「……っ!?」

「嫌なのか?」

「当たり前じゃね~か! "ハイそうですか"って言えた事かよっ!」

「それなら、俺様にも考えが有る。」

「殺す気なのか? だったら、さっさと――――」

「シィ~ル、カメラ。」

「はい、ランス様。」

≪ぽすっ≫ ←シィルからポラロイド式カメラを受け取った音。

「……(きくちゃんは処女みたいだからな……"この方法"が効果的かもしれん。」

「なっ、何だよ……何持ってんだ、それ……」

「シィルさん、ランスさんに何を渡したのですか?」

「えっと、カメラと言って写真を……」

「がははははは!! ヌード撮影会だぁ~ッ!!」

≪がばあぁっ!!≫

「う、うわああああぁぁぁぁ~~ーーっ!!」


……


…………


「こらっ! ジタバタするな!」

「や、やめろっ! 放せーッ!」

「良し、まずは手堅く下着の撮影からいこう。」

「止めろっつってんだろ! ……って言うか、何なんだよ"それ"!?」

「"魔法ビジョン"って言葉くらいは知ってんだろ? 似たようなモンだ。」

「……と言うわけで、あれで"写真"という紙を作る事が出来るんです。」

「なるほど……生憎、大陸の知識に関しては疎いもので……」


≪――――カシャッ≫


「さ、触るなっ、触んじゃねぇーっ!」

「ブラ剥いでおっぱい御開帳~。 うお、デカ乳!」

「ほ、ほっとけ畜生~っ!」

「これもレンズに収めなければならんな、さ~てこの角度で……」


≪――――パシャッ≫


「こ、これ以上どうするってんだ! いい加減にしやがれ~っ!」

「まだ暴れやがってッ。 黒姫ちゃん、しっかりとそっちを押さえておくんだぞ。」

「は、はい……ですが、何故このような事を……」

「これは大陸の尋問では常識的な事なのだ。 無論、俺様とシィルとて例外では無い。」

「(ありません……そんな常識、ありません……)」

≪するっ≫

「黒レース頂き! これで素っ裸だな、がははははは。」

「い、い、何時までこんな事すんだよッ! さっさと終わりに――――」

「ダメだ、これは素直に俺様に従わなかった、きくちゃんへのお仕置きなのだ。」

「くっ……こ、これならまだ、殺されてた方がマシだッ……」

「おいシィル、しっかり全身を撮れよ。 だが、俺様と黒姫ちゃんの顔は入れるな。」

「うぅ……流石に可愛そうになってきました……」


≪――――カシャッ≫


「さ~て、最後は大事な割れ目の中まで撮ってやらんとな。」

「うっ、うぅっ……ひっく。」

≪びろ~≫

「おぉ、やっぱり処女なんだな。 あんまり開かんわ。」

「……わ、わかった……が……ぅ……から……」

「では膣と顔をこのアングルで撮影……んっ? シィル、どけ。
 そこに居ると影になって、奥の方がしっかりと撮れん。」

「あ、あの……ランス様、きくさんが何か……」

「いや、俺様は何も聞こえんな。 最近耳が遠くてな。」

「従う……従うっから、もうやめろっつってんだろーーッ!!」

「っ? がはははは、そうかそうか。 一番良いトコだったんだが、仕方ないなぁ~。」

「ほっ……」

「シィル~、何だその溜息は。」

「ぷるぷるぷる……な、なんでもありません。」


――――吉川きくのヌード撮影会。


撮影会と言っても、無理矢理服を脱がしながら写真を撮るだけである。

それに最初は暴れていたきくだったが、脱がされてゆく度に体の力が弱まる。

そして……全裸にされて秘部の中までランスの持つカメラに収められようとした時は、
既に顔を真っ赤にしながら顔を手で隠し、恥かしさのあまり泣きが入ってしまっていた。

よって彼女は半ば強引に、自分からランスの部下になる事を選択せざる得なかった。

普段は物凄く強気なきくだが、この方面に関しては物凄く疎かったようである。

その為か、ひとまず介抱されたきくは、メイド服を抱いてベソを掻いしまっている。


「ぐすっ……うぅッ、畜生~……」

「(きくさん……不憫です……)」

「成る程、ランスさんは初めからこうやって彼女を仲間にする気で……」

『いや彼、ただスケベな事しか考えてませんよ?』


……


…………


……数分後。

弱点を突かれ、仲間に"させられた"吉川きくは、立ち直りはそれなりに早いのか、
しぶしぶメイド服を着用すると、早速ランスに最初の命令を受けていた。

その内容は――――

"織田の城に行って、毛利元就に呪いを掛けた妖怪が、何処に居るか聞いて来い"

――――と言う非常に面倒な事。

つまり……きくに実の父である元就に、親不孝をさせなくてはいけないので、
当然彼女は良い顔をせず、直ぐには首を縦に振らなかった。


「いきなり、そんなめんどそ~な事言いやがって……」

「断るのか?」

「いや、そうじゃねぇけどよ……親父の呪いを落としてど~するつもりなんだ?」

「俺様はきくちゃんの姉と妹にしか興味は無いんだが、
 デカいのが邪魔そうだったから、呪い落として殺そうと思ってな。」

「わかんねぇ……ホントは何が狙いなんだ、あんた?」

「それは、きくちゃんがちゃんと働いてくれたら話してやろう。」

「……っ……」

「ほれ、返事はどうした? 従わんと写真バラ撒くぞ。」

≪ぴらぴら≫ ←きくの目の前で泣き顔の写真を振る。

「~~……っ!? わ、わかったよ! 行きゃ~良いんだろ、行きゃ~!」

「そう言う事だ。 それじゃ~待ってるから、さっさと行って帰って来い。」

「だッ、だから……それは絶対バラ撒いたりすんじゃね~ぞ!
 そしたら、そしたら絶対にブッ殺すからなぁーーッ!?」

「がはははは、安心しておけ。 これは個人で楽しむ。」

「くっ……屈辱だ~ッ……!」


≪だだだだだっ!!≫


きくは再び恥かしくなったか、顔を真っ赤にしながら部屋を出て行った。

対してランスは立ち上がり、部屋の窓から下を見ると、
尾張の方向へと颯爽と走ってゆく、きくの後ろ姿を確認できた。

……どうやら、しっかりと命令に従う気になったようである。(殆ど脅しだが)

よって……口元を歪ませながらランスが外の景色を見ていると、
後ろからゆっくりと黒姫が近付き、ランスの横までやってきた。


「魔人の事は、言わなくて宜しかったのですか?」

「な~に、残りの二人を仲間に出来たら、セットで話してやるぜ。」

「それにしても……まさか、あの毛利3姉妹の一人をこんなにも早く……
 ランスさんの話されていた事は、本当だったのだと実感します。」

「そうだろう、そうだろう。 あのバカ兄弟はちっとも信じて無かったけどな。」

「……申し訳ない限りです。」

「おあぁッ!?」

「ど、どうなされましたかっ?」

「そういや~、俺様とした事が……すっかり忘れてたぜ。」

「え……(ゴクリ)」

「きくちゃんの処女、頂いてなかった……」


≪ガタンッ≫ ←布団を運んでいたシィルが転ぶ音。


……こうして、吉川きくに遣いを頼んだ(正しくは命令)ランスは、
そのまま数日間、明石領の宿屋で過ごす事にした。

きくが帰って来れば、元就に呪いを掛けた妖怪を倒しに行き、
その後の事は、また状況を見てからでも考えれば良いのだ。

だが数日後、島津家が毛利領の"戦艦長門"を落とした事が一行の耳に入るのだった。


――――続く――――


ランスLv42/99 シィルLv32/80 黒姫Lv28/99
吉川きくLv32/42


●あとがき●
まだ書く予定は無かったんですが、予想以上に感想をいただけたので続編です。
描写がかなり少なくて恐縮ですが、物語の展開はこの位早くしようと思っております。
細かく書いていては1年経っても終わらない気がしますのでスイマセンorz
元就についてはタグが面倒なので特攻の拓みたいになってしまいました。
ちなみに、ランスは今回勢力を持ちません。 題してRPG版黒姫ルート?



[2299] ランスⅦ ~魔人の娘 黒姫 其の3~
Name: Shinji
Date: 2007/02/04 16:34
吉川きくは走った、とにかく走った。

ランスという異人に受けた屈辱を振り払わんが如く、ひたすら走った。

姫路の左端から始まり、"なにわ"と"大和"をあっと言う間に越え……

その結果、気付いた時には……彼女は尾張に到着していたのだが……


「う゛~っ……」


休憩がてらに入った茶店の席に腰掛けると、彼女は一人唸っていた。

眉間にシワを寄せながらであり、怖い顔が更に怖く見え、少し近寄り難い。

そんなきくが考えている事は、やはり異人の事について。


「(一体なんだってんだ、奴等の目的ってのは……)」


あの時は写真で脅され、勢いで命令を聞き入れてしまったが、
良~く考えてみれば、ランス達の存在は謎過ぎでワケが判らない。

ランスと言うスケベ野郎は元就の"呪い付き"を落として彼を殺すと言っていたが、
自分達・毛利家はJAPANの者達に恨みを買わせた覚えは多々あるのだが、
大陸の人間(異人)まで敵に回した覚えは今の所は無い筈だ。

奴は"きくちゃんの姉と妹にしか興味は無い"とも言っていたが、
そんなバカな理由で元就を殺そうとするワケが無い(実はそのバカな理由なのだが)。

それ以前に、奴は毛利元就を"殺す"と言った事が常識的に考えてありえない。

殺すっ? あの元就を? 呪い付き状態こそ殺すのは寿命にでもならない限り不可能。

いや……そもそも寿命では、"殺す"では無くて"死ぬ"だ。

それはさておき、呪い付きの前の状態であったとしても、
勝てる可能性がある者など、あの"上杉謙信"くらいしか居ないだろう。


「(畜生~、あの写真さえ無きゃあ、帰って新しいレシピでも考えんのになぁ。)」


まさか自分が、"魔人ザビエルを殺す旅の仲間"に加えられているなどと思っていないきくは、
ついさっき頼んだお茶と団子を待ちながら、腕を組んで考えている。

しかし考えが纏まる筈も無く、段々とイラつきが溜まってゆく中……

お茶と三本の串団子を乗せたお盆を持った少女が、おずおずと近付いてきた。


「あ、あの。 どうぞ、ご注文のお団子ですっ。」

≪……ことん≫

「んっ? あぁ……あんがと。」

「ごゆっくり、していってください。」

≪とたたたっ≫ ←小走りで店の奥へ消える。

「(……まぁ、悩んだって仕方無~し、団子でも食って気分転換するっきゃないか。
 それにしても……茶店の運びにしちゃあ、随分と綺麗なカッコした娘だったな~。)」


                 ランスⅦ
          ~魔人の娘 黒姫 其の3~


――――伊賀家。

JAPANに多数存在している"忍者"や"くのいち"が、
武家から消耗品のように使われ続けていた事に不満を持ち、大和の地に作り上げた国。

そこの頭領である"犬飼"は、城の上座で静かに瞑想をしていた。

周りには数匹の"わんわん"もおり、犬飼を守るようにして丸くなっていたが――――


「イガイガとう!! したたんっ!」

≪したんっ≫ ←着地音。

「…………」

「伊賀家の忍者、犬飼 鈴女! 只今参上~ッ!」

≪ビシィッ≫ ←キメポーズの音。

「……鈴女……なんだ、それは?」

「これは徳川家に斥候に行った時、たぬきの忍者がやっていて、
 あまりにも可愛かったので、今回鈴女も真似してみたのでござる。」

「……(そもそも、お前は"くのいち"だろう……)」

「ちなみに、その忍者には苗字があったのでござるが、
 鈴女にはフルネームが無いので、犬飼様の名前を勝手に苗字にしたのでござる。」

「…………」

「にゃっ? どうしたでござる、犬飼様。」

「……もういい。 それより鈴女、戻って来たと言う事は……」

「うい。 言われた通り島津家の事を色々と調べて来たでござる。」

「やはりか。 相変わらず仕事が速いな。」

「うししし。 では報告でござるが、ど~やら島津が全国に宣戦布告したとゆ~のは、
 間違い無いようでござる。 既に毛利領の"戦艦長門"が落とされたのを確認したでござるよ。」

「ふむ。 しかし何故、突然……」

「何か島津の4兄弟は"黒姫"と言う客将にゾッコンらしいでござるが、
 黒姫が偶然招いた"異人"に惚れて、一緒に駆け落ちしてしまったようなのでござる。」

「異人に……?」

「うい。 その異人は黒姫と東の方へ向かったようなのでござるが、
 探そうにもその先は毛利領なので、思い切って宣戦布告したのでござろうかね~?」

「島津の4兄弟がその客将を慕っていると言うのは以前から聞いていたが……それ程とはな。
 とは言え……それだけで宣戦布告をする程、島津の者達は迂闊では……しかし……」

「犬飼様、どうするでござる?」

「そうだな……いくら島津と言えど、最初に当たるのはあの毛利。
 そう直ぐには勢力を拡大できまい。 ……暫くは様子を見る事としよう。」

「うい。」

「だが……"異人"の存在が気になるところだな。」

「そうでござるねぇ。 その"異人"についても調べてみないと、
 島津家の宣戦布告の真意は分かりそうに無いでござる。」

「うむ。」
 
「それにしても……プレイボーイで有名な島津4兄弟が、
 いくら口説いても靡かなかった"黒姫"のハートを、異人はゲットしてしまったのでござるねぇ。」

「お前はその4兄弟に、何か感じなかったのか?」

「にゃっ? 特になに~も感じなかったでござるよ。
 鈴女は万人受けタイプよりも、マニア層受けタイプの方が良いでござる。」

「そこまでは聞いておらん。」

「うい。」

「では鈴女。 お前はこれから"異人"について調べろ。
 それでまた目新しい情報が入ったのならば、報告に戻るのだ。」

「わかったでござる、にんにんっ!」

≪――――ッ≫ ←音も立てずに消える。

「ふっ。 島津も多少、忍(しのび)を放ってはいるだろうが……
 流石に"鈴女よりも早く見つけ出す"事はできぬだろう。」


犬飼の元に現れた天才くのいち"鈴女"は、偵察の情報を元に彼と島津家の宣戦布告について話し合った。

結果、再び鈴女は偵察へと出発し、残された犬飼は、ひとまず島津についての思考を中断する。

他にも彼が考え・成すべき事は多々あり、"今の件"に関しては、
鈴女に任せておけば大丈夫であろうと言う考えが強かった。

何時もフザけているかような言動だが、彼女はJAPANで最も優れた"忍び"なのだ。

そんな間に……鈴女は早くも城の外に出ており、これから"異人"を探すべく街道を颯爽と走っていた。

その彼女が心の中で思っているのは、天才くのいちとしての生活の"不満"だった。


「(ふい~。 やれやれ……犬飼様も人使いが荒いでござる。
 どこか鈴女がイーッってならない場所は無いでござるかねぇ……イーッって。)」


……


…………


「!? (なんだ、この団子……)」

≪ぱくっ、ぱくぱくっ≫

「(――――美味ぇ!!)」


有耶無耶な気持ちが少しでも紛れればと、団子を口にした吉川きく。

そんな彼女は料理にはかなり五月蝿く、団子とて例外では無い。


――――掃除の長女。


――――料理の次女。 ←きくのポジション。


――――作法の三女。


……のように、死んだ母に料理の云々(うんぬん)を叩き込まれていた。

そのきくの感想がいきなり"美味い"と言うのは、滅多に無い事だった。

故にか、三本の串団子を一瞬で食べてしまったきくは、
ポケットに手を突っ込むと、出て来た小銭を素早く数え始めた。

傍から見れば貧乏臭い仕草だが、今の彼女には非常に重要な事だ。


「ひ~ふ~み~……良し。 お~い! コレ同じの、もう三皿くれ~っ!」

「は~い!」

「ずず~っ……ふぅ。 (いや~、まさかこんなに美味ぇ団子が食えるとは思わなかったぜ。)」


持ち金ギリギリまで団子を頼んだきくは、お茶を啜る。

冷静に考えてみれば、団子だけでなくお茶もかなり美味しい。

どっちかと言えばJAPANのお茶は作法にあたるので、
茶道は姉や妹よりも得意では無いが、彼女達が入れたお茶の味にも匹敵する味わいがあり、
先日受けた辱めをも取り払ってくれるような癒しがそれにはあった。

そんな表情がすっかりと柔らかくなっていたきくの元に、
一皿の団子を持った可愛い少女と、二皿の団子を持った無精髭を生やした男が、
互いに団子を届けるべく、きくの元へ近付いて来た。


「お客さん、お待たせしました~。」

≪コトンッ≫

「お~ッ、サンキュ。」

「それだけ一人で頼んでくれたって事は……気に入ってくれた? ウチの団子。」

≪コトンッ≫×2

「あぁ。 自分で言うのもなんだけど、あたしは料理にゃあ五月蝿いんだ。
 でも、こんな美味い団子はあたしにだって作れないよ。」

「そうなんですか。 良かったですね、兄上。」

「うん。 異人の人にそう言って貰えると、自信が出てくるね。」

「ん~っ? こんな格好してるけど、あたしゃこう見えても日本人だよ。
 それより……あんたがこの団子、作ったのか?」

「そうそう。 俺、俺。」

「お茶は私が入れたんですよ~。」

「へーっ。 できれば、どうやって作ったのか教えて欲しいもんだ。」

「それは内緒。 可愛い妹以外には、教えてあげれないな。」

「そいつは肖(あやか)りたいもんだねぇ。」

「まぁ、いくら教えても何故か虹色になるから、あまり意味は無いんだけどね。」

「虹ぃッ?」

「う~っ。 それは言わないでください、兄上~!」

≪ぽかぽか≫

「はははは。 可愛いな~、香は。」

≪ぽんぽん なでなで≫

「うぅっ……」

「……(やばっ……なんか、和む……って、香?)」


和気藹々で、ふにゃふにゃとした雰囲気の兄妹。

二人でこの茶店を経営しているのだろうか。

そんな二人の会話の中で、"香"という名前が出てきた時、
きくはその名に聞き覚えがあったので妙に感じたが、とりあえずそれについては置いておき……

何となく話題を振ってみるつもりで、この兄妹に質問してみる事にした。


「なぁ……ところでさぁ。」

「はい?」

「なんだい?」

「"呪い付き"にさせた妖怪ってのが判る奴を探してんだけど、おたくら何か知らねえか?」

「妖怪……?」

「ん? あ~、それなら――――」


……きくが情報を入手できたのは、案外早かった。


……


…………


吉川きくが尾張に出発して数日後。

前話の通り、姫路の宿でのんびりとしていたランス達にも、
島津家が全国に宣戦布告し、戦艦長門を落としたと言う噂が耳に入った。

それにランスは"ふ~ん"としか思わなかったが、黒姫はかなり驚いてしまい、
慌てた様子でランスとシィルに今後の予定を仰いだ。

本来ならば、島津4兄弟達にはアフリカ大陸で大人しくしていて貰い、
ザビエルが復活したとしても、島津家には瓢箪が無いので、
危害が及ぶ事無く、これからも平和な生活をしていて欲しいと思っていた。

しかし……全国に宣戦布告してしまったとなれば、
ザビエルと何らかの関わりを持ってしまう確率は極めて高いと言えるのだ。


「ランスさん! これは大変ですっ!」

「なんでだ?」 ←寝っ転がりながら煎餅を齧っている。

「私達は今、魔人ザビエルを倒す為に島津を出て、旅をしているのですよね?」

「あぁ。 可愛い娘ちゃん達とセックスする旅でもあるけどな。」

「……それなのに……あの子達は、全国に宣戦布告してしまいました。」

「らしいな~。 大方、黒姫ちゃんを取り戻す為にでも起こしたんじゃねぇのか?」

「そうかもしれません……そんな事をしても、私の気持ちは変わらないのに……」

「そうだそうだ、黒姫ちゃんは俺様のものなのだッ。」

「う~ん、島津の人達が領土を広げれば、私達の旅にも支障が出てしまいそうですよね~。」

「それなのですっ。」

「それなの? 何がだ~?」

「島津家が領土を広げれば、私達の旅の範囲が狭くなってゆくだけではありません。
 瓢箪を持つ国が制圧されてしまえば、島津領でザビエルが復活すると言う事もありえるのです。」

「それでも別に良いんじゃねぇのか? あいつら気に食わんし。」

「しかしそれではッ、天満橋がある国を確保される事にもなり、
 端からどんどんとJAPANの領土が飲み込まれる事となってしまいます。
 それに……島津の方達には代々お世話になりましたし……どうか……」

「まぁ……黒姫ちゃんが一番困るのは、後者なんだろうがな。」

「……っ……」

「ら、ランス様~、できれば黒姫さんのお願いを~……」


どんな場所でザビエルが復活しようと、ランス達は仲間を率いて魔人を倒さねばならない。

ランス達がしているのは、"その為"の旅なのだ。

しかし黒姫は……どうしても、島津家の者達を巻き込みたくは無かった。

確かに天満橋の制圧なども頂けないのだが、黒姫が気にするのは島津の安否だったのだ。

それにランスは気分を良くしなかったが、島津が領土を広げる事は、
比例して女性たちが彼らの手に掛かる可能性も出てくるので、できれば何とかしたい。

だが、ランス・シィル・黒姫(・きく)のたった4人だけで数万の進軍を止める事など無理なので、
とりあえず……今のランス達にできる事を考えなければならない。


「それなら、こうしよう。 その前に……シィル。」

「はい?」

「瓢箪がある国は、何処だ?」

「え~っと……織田・上杉・武田・毛利・北条・伊賀・明石・足利……だったと思います。」

「北東の事ァ良くわからんが、今のトコ一番近いのは、明石で……次が毛利になるか。」

「そうなりますね~。」

「黒姫ちゃん、要は島津でザビエルが復活しなきゃ良いんだろ?」

「は、はい。」

「だったら簡単だ。 島津が瓢箪がある国を滅ぼすよりも先に、
 俺様がさっさと瓢箪を手に入れてしまえば良いのだ。
 まぁ……島津が領土を広げられ無けりゃあ、それはそれで良いんだけどな。」

「!? で、ですがそれでは国を……」

「国ごと滅ぼすなんて、そんな面倒臭い事するかッ。
 ど~にかして瓢箪だけ手に入れちまえば、その国には用無しだ。
 可愛い娘だけ味見したら、とっとと違う国の瓢箪を手に入れに行けば良いのだ。
 瓢箪の数が減った方が、ザビエルが復活する場所の特定もし易いだろうしな。」

「名案ですね、ランス様ッ!」

「そうですね、驚きました……ですが、その方法は……」

「そりゃ~これから考えてきゃ良いのだ。
 とりあえず、きくちゃんが戻るのを待つ事にするぞ。」

「そうですね。 頑張りましょう、ランスさん……」

『う~ん、何か回りくどい。 さっさと魔人殺したい。』

「うるさい。」


まずは仲間を増やす事しか考えていなかったランスだったが、島津が動いた結果。

"島津よりも先に瓢箪を回収しつつ、仲間を集めてザビエルを殺す"

……と言う予定に変わり、島津の侵攻によっては急がなければならない旅となった。

島津の侵攻速度・ザビエルの復活の時期……それはどちらも判らないのだが、
瓢箪を少しでも回収できれば、それだけザビエルの復活場所の特定もし易くなる。

その大まかな手順を見い出したランスの存在は、
島津が動いた事で慌てる事しかできなかった黒姫にとって、とても頼もしく映った。

簡単な事では無く、詳しい方法もこれから考えるとの事なのだが、
ランスであれば"どうにかしてくれる"と言う、頼もしさが彼から感じられたのだ。

それは黒姫が代々島津家に仕えた中……一度も感じなかったモノであった。


≪ギシッ≫

「お~っす、戻ったぜ~。」

「!? おぉ、きくちゃん。」

「あれぇ? 出発されたのは2・3日前だった気が~。」

「お早いお帰りですね……」

「なんだ、もう"呪い付けた妖怪"ってのが判ったのかッ?」

「おう……その前に、ほらよ。」

≪ぽいっ≫ ←投げてよこされた物をランスがキャッチ。

「ん~っ? なんだ、この可愛い小袋は。」

「土産だよ。」


……


…………


「親父に呪いを掛けたのは、"黄泉平坂"にいる"だいだーら"って妖怪らしいぜ。」

「ほほぅ。」

「黄泉平坂、黄泉平坂は出雲の……ここですね、ランス様。」 ←地図の出雲を指差しながら。

「……って言うか、地図にも載ってるくらいの場所なのに、何でそのままなんだ?」

「ウチの奴らは迷宮に潜るぐらいなら、喧嘩したり・酒飲んでる方が好きだからなぁ。」

「それにしても、きくちゃん。 随分と戻ってくるのが早かったな。」

「あぁ……一応、それなりに早く尾張には着いたんだけど、
 まさか蜻蛉帰りできちまう事になるとは思って無かったよ。」

「何でだ? 宛なんて無かったんだろ?」

「そりゃそうだ。 だけど、偶然――――」


――――以下、回想シーン。


「それなら、ウチの3Gが知ってると思うよ。」

「さんじい?」

「織田家に代々仕えている妖怪だよ。 良くわからないけど、
 "呪い付きにさせた妖怪"を探してるなら、3Gに聞けば判ると思うね。」

「織田家に仕えてる妖怪? ……って事は、もしかしてあんたら……」

「あれ、判っちゃったかい? 俺は織田信長。 そして、この娘が香姫なんだよ。」

「……やっぱりかよ……周りに幾つも忍んでる気配があったから、
 もしやと思ったんだけど……まさか本物だとはねぇ~。」

「気付いてたのか。 狙いは何? 俺の命?」

「へっ、よしてくれよ。 こっちは長い距離走って疲れんだからさ。」

「はははは。 そいつは済まなかったね。」

「だったら"3G"ってのに会わせてくれよ、親父の"呪い付き"を落としたいんだ。」

「君のお父上の? ……それなら、紹介しないわけにはいかないね。」

「兄上っ、そう簡単に……」

「なになに、良いじゃないか。 それより香、俺の事は"あんちゃん"と――――」

「……(マジかよ、何あるかわかんねぇモンだなぁ~……)」


――――回想シーン終了。


「……ってワケで、その後城に招かれて、普通に聞きだせちまったよ。」

「奇特な国主だな……」

「織田信長の事は噂で聞いておりましたが……野心が皆無と言うのは本当のようですね。」

「それでも……"毛利家"は織田家と仲が良いワケでも無いんですよね?
 織田家の家臣でもある妖怪が、良く教えてくれましたね~。」

「そりゃ親父の名前を出したら、周りの連中は驚いてたけどさ……
 信長が"別に良いじゃん、減るもんでもないし"とか言って、あっさりと……」

「なんだそりゃ……」

「ともかく……命令には従ってやったんだ。
 し、写真ってのをバラ撒いたりはすんじゃねーぞっ!?」

「良いだろう。 ちゃんと変わらず、個人で楽しむ範囲で留めといてやる。」

「ぐうっ……!」

「それじゃ~シィル、旅の準備だ。 "出雲"に行くぞ~。」

「はいッ。」

「毛利領ですから、注意しなければいけませんね。」

「そうだったな……きくちゃん。 出雲に入ったら、気配を消しながら付いて来るんだぞ?」

「わかったよ。 まぁ、あたしの気配が判る奴なんて、
 毛利じゃたったの三人しか居ないから、安心しときな。」

「……ところで、話は変わるが。」

≪ずいっ≫ ←きくに顔を近付ける。

「なっ、なんだよ?」

「きくちゃん。 信長を見たって事は、JAPAN一美人の"香姫"も見たって事だよな?」

「それがど~したんだよ?」

「この小袋に顔が描いてあるが、噂通り可愛そうだなぁ~。」

「あぁ、確かに可愛くて良い娘だったぜ。」

「そうか~。 ぐふふふふふ……いずれはその"香姫"とセックスだ。 それが俺様の野望ッ!」

「はいはい、せ~ぜ~頑張んな。 でもロリコン趣味なら、あたしなんて用無しだろ?」

「はぁッ? 失礼な、俺様はロリコン趣味など無いぞっ。」

「けど香姫ってコ――――お子様だったぜ?」


……


…………


「とぉーーーーうっ!!」

≪ざしゅーーっ!!≫

「炎の矢ぁっ!!」

≪ずどおおぉぉんッ!!≫


……数日後。

目的地の出雲に辿り着いたランス達は、近場で宿を取りつつ。

"立ち入り禁止"の看板を無視して、黄泉平坂の迷宮に進入した。

旅の目標の筈の香姫が幼すぎると言う事に、少しヘコんでしまったランスだったが、
シィルを苛めたり、黒姫にフェラチオまでをもさせる事により、気合は元通り。

さておき黄泉平坂の内部はそれなりの広さであったが、ゼスのダンジョンに比べれば規模は小さく、
凄腕の冒険者であるランスとシィルにとっては、特に難易度が高いと感じる迷宮では無かった。

階層(深さ)はそれなりのようなのだが、ランス達の目的は迷宮の"制覇"では無い。


「ふぅ~、おっ? 階段発見だ!」

「やれやれ、やっとこさ6階かよ。」

「黒姫さん、平気ですか?」

「はい、この程度で音をあげる訳には……」

「しっかしお前、モンスターとの戦いに、随分と慣れてるみて~じゃね~か。」

「がはははははッ、俺様が殺してきたモンスターは星の数程いるからな。
 きくちゃん、そろそろ俺様に惚れただろう? 戻ったらセックスしよう。」

「しねーよ、ばか。 何度も言わせんな。」

「なにをう?」

「あたしゃ~脅されて、仕方なく付いて来てやってるだけだ。
 どうしても抱きて~って言うんなら、親父を倒してからにでも言うこったな。」

「ほぉ~。 その言葉、忘れるなよ~?」

≪ニヤリ≫ ←顎に手を添えながら、

「へんっ、やれるもんならやってみろってんだッ!」

「(うぅ……きくさん、軽率です。 ランス様はきっと……)」


妖怪"たいだーら"を探し、黄泉平坂を探索する4人。

そんな中、迷宮探索に慣れていない黒姫ときくは、ランスとシィルの手際の良さに感心していた。

だが……きくにとっては感心すれど、まだ本当の目的を話して貰っていないので、
まだまだ謎の多い異人を、彼女は信用するつもりはなかった。

それにより、すっかり御馴染みになったランスとの会話で、
ついつい"自分の貞操を与える条件についての話"を流すようにしてしまうが、
そこでランスが"しめた!"と思った事に、きくは気付いていなかった。

きくの処女を頂くのなら、写真について脅せばできない事は無さそうだったが、
思い直してみれば仲間として迎える以上、ドタンバで裏切られても困るし、
最近は"和姦"のスタイルを築いてゆこうとしているランスは、無理にきくを抱く事はしなかった。


……


…………


――――二時間経過、地下6階。


「さ~て、今日はそろそろ戻るか。」

「もうか? あたしゃまだまだイケるぜ?」

「私も、この程度の疲労など……」

「それは俺様も同じだけどな、"たいだーら"がどれくらい強いかが判らん。
 だから、疲労が溜まる前に引き返すのが基本なのだ。」

「そうですね。 目的が未知の力を持つ、特定のモンスター(妖怪)であれば、
 常に万全な体で戦える状態を、維持していなくてはなりませんからッ。」

「なんだかなぁ~。」

「まぁ、ベテランの俺様の言う事だ、素直に聞いておけ。」

「わかりました……」

「シィル、帰り木を出せ。」

「はいっ。」


黄泉平坂の6階を攻略した時点で、ランスは本日の探索の切り上げを言い出した。

これで、この迷宮の探索を開始して二日が掛かる事になるのだが、
きくと黒姫は"まだ行ける"という気持ちが強かった。

特に黒姫は"急がなければならない"という気持ちを強く持っており、
既にそれなりに疲れているのだが、やせ我慢していると言っても良かった。

今の所黒姫はまだ、戦いに慣れようとしている段階なので、主力では無いが、
ランス達、"主力"の疲労が溜まってから帰ろうと思った時に"強敵"が出ては困るので、
早いうちに迷宮から脱出しようと、道具袋からシィルが"帰り木"を取り出した時だった!


≪オオオオォォォッ!!≫

「うぉっ!? なんだァこいつはッ!?」

「もしかして、コイツじゃね~のかッ?」

「"たいだーら"……」

「黒姫さん! 危ないっ!!」

≪――――ガつッ!≫

「きゃあッ!!」

「ッ……の野郎っ!!」

≪じゃらっ――――ガシュッ!!≫

「浅ぇぞ、離れろーー!!」

「ちぃっ!!」

≪ドゴオオォォン……ッ!!≫


何処からとも無く現れた"たいだーら"が、不意打ちを仕掛けてきた!

まずは、最も近くに居た黒姫が弾き飛ばされ、尻餅を付き脇差が転がる。

それに追い討ちを仕掛けようとした"たいだーら"だが、
中距離からきくが鎖鎌を命中させる事により、相手の注意を自分に向けた。

……だが、大して効いていないようであり、
きくが後ろに飛んだと同時に、彼女が居た地面を粉砕させた"たいだーら"。

それにより、ランスが構えて前に飛び出し、シィルが遅れて詠唱に入り、
カオスと魔法による一撃を繰り出そうとした時――――


≪ひゅひゅひゅんっ!≫

「んんっ?」

≪――――どかかかかっ!!≫

「なんだッ?」

≪オオオオォォォォ~~ッ!!≫ ←断末魔。

「ら……ランスさんッ、それよりも!」

「むっ、そうだったな。」

「えいっ! 火爆破!!」

≪どごおおぉぉん……っ!!≫

「必殺ッ! ランスあたーーっく!!」

≪――――ゴブシュゥッ!!≫


突然遠距離から、手裏剣やらクナイやらが飛んできて、"たいだーら"に全て命中した。

その軌道を妖怪の近くに居たランスときくが追おうとしたが、
立ち上がった黒姫に声を掛けられ、武器を構え直した。

一方……その硬直を狙い、シィルが魔法(火爆破)を対象に打ち込み、
ランスが必殺技を命中させる事によって、"たいだーら"はどうと倒れた。

それにより"毛利元就"の呪いが落ちた事になったのだが……

まずランス達が気にしたのは"その事"では無く、"援護をした者"が誰かと言う事。

よって4人が視線を向けた先には……岩陰から体半分を出している"くのいち"の姿。

彼女は無意識のうちに今の行動に出てしまったようで、
引っ込みがつかなくなり、どうして良いか分からず、しばしその場で固まっていた。


「(はっ……しまったでござる! つい楽しそうだったから、
 手が勝手に動いて、いらぬ援護をしてしまったでござる~!)」


その"援護をした者"とは、伊賀の"くのいち"の、鈴女であった。

大和を出て早々とランス達を発見した鈴女は、此処までずっと4人を尾行していたのだが……
(鈴女が一行を発見したタイミングは、明石領を出て出雲に入った辺り)

彼らの旅の一部始終を見ているうちに、何だか体が疼いて来てしまい、
ついさっき、"たいだーら"に武器を投げてランス達の援護をしてしまったのである。

本当ならば、ランスが魔人についての話題を再び話すまでは、
何も手を出さずに尾行を続けていたのだろうが、ランスと言う"異人"の言動全てが、
くのいちでの生活を余儀無くされている鈴女にとって、斬新に映っていたのだ。


「おぉっ、なかなか良い女だな~。」

「誰なんでしょうか~?」

「マジっ? 尾行されてたのかよ、全然気付かなかったぜ……」

「島津の くのいち では、無いと思いますが……」

≪じ~っ……≫×4

「(えぇい! もう、こうなったら仕方無いでござるっ!)」

≪ばっ! ――――スタッ!!≫ ←跳躍&着地音。


4人の"視線を受ける中、鈴女は考えた末……自分の正体を明かす事に決めた。

何も根拠は無いのだが……そうする事によって、楽しい"これから"があるような気がしたからだ。

鈴女は高い跳躍でランス達の前に着地すると、くのいち らしからぬ、笑顔とポーズでこう言った。


「伊賀家 くのいち、鈴女! 只今参上でござる~っ!」

≪ビシィ……ッ!!≫


――――この直後、鈴女の髪を一陣の風が、虚しく揺らした。


――――続く――――


ランスLv44/無限 シィルLv34/80 黒姫Lv30/99
吉川きくLv33/42 鈴女Lv39/49


●あとがき●
少々スランプ気味なので、楽しめない内容だったかもしれません。
さて、島津の動きをいち早く察するのはやはり伊賀だと思い考えていたのですが、
その結果鈴女が二人目の仲間になる事となってしまいました。
それでもアップする予定は無かったのですが、メモしてゆく中で何故か……
掴みにくいキャラなので書くのが難しそうですが、役に立って貰う事にします。
ちなみに、流石にランス達が手に入れた瓢箪が割れたりはしないのでご安心を。



[2299] ランスⅦ ~魔人の娘 黒姫 其の4~
Name: Shinji
Date: 2007/02/09 17:32
≪ひゅうぅう~~……≫


「只今参上って……ずっと尾行してたんだろ?」

「うッ、いきなりそうくるでござるか。」


キメポーズをとって名乗った鈴女に、ランスはいきなり手痛いツッコミを入れた。

くのいち らしく、ランス好みの際どい姿をした女ではあるが、
尾行していたのなら今のところ味方とは言い難いし、本来ならば警戒が必要だ。

それもその筈……ランスから見ても"それなり"の腕と認めてやっても良い、
"吉川きく"が気配に気付かなかった程の"忍び"でもあるからだ。

しかし先程、鈴女が"だいだーら"との戦いで援護をしてくれた事で警戒心が相殺され、
ランスは決して、悪気があったツッコミをした訳では無かった。

むしろ、可能であれば仲間に引き入れ……セックスしようと言う考えまでにも到達した。


――――たった、鈴女が登場して十数秒の間での思考時間だけで。


「それはまぁいい、伊賀家の"くのいち"とか言ったな? 名前は……」

「鈴女でござる。」

「……島津の くのいち では無いのですよね?」

「違うでござるよ。 言っての通り、鈴女は生まれも育ちも伊賀でござる。」

「じゃ~、アタシら毛利のモンでも無ぇって事だな?」

「以下同文でござる。」

「ならなんで、伊賀の"くのいち"が俺達を尾行してたんだ? 何が目的だ~?」

「それはこっちが聞きたいでござる。」

「なぬっ?」

「そっちの"黒い人"は、島津4兄弟がぞっこんの客将"黒姫"でござるね。」

「……ッ! どうして私を……?」

「こっちの中華鍋の人は毛利家の次女。 忍者としての腕は、伊賀にまで届いているでござる。
(鈴女も載ってるでござるが) 毎週読んでる伊賀の瓦版に、何度か名前も出てたでござる。
 その有名は二人が、何で"こんな所"で異人と一緒に居るのかが、気になるのでござるよ。」

「おっ、マジで? ……ってか、アンタって島津のモンだったのかよ。」

「は……はい。」

「ほほぉ、良く知ってたな。」

「当然でござる。 情報収集力で、伊賀に勝る国なんて無いでござるよ。」

「それなら、俺様もさぞかし有名なんだろうなぁ~?」

「んにゃ、あんたの事は知らないでござる。」


≪――――ガシャンッ!!≫ ←ずっこけたランス。


                  ランスⅦ
            ~魔人の娘 黒姫 其の4~


きっぱりとランスの事を"知らない"と言った鈴女に、盛大にズッコけるランス。

立った状態から真後ろに倒れたので、仰向けになったランスはシィルに慌てて起こされる。

そんな"よっこらせ"と立ち上がったランスの表情は……すこぶる機嫌が悪そうだ。


「ら、ランス様! しっかり~!」

≪むくっ≫

「何が"勝る国なんて無い"だ~! 英雄の俺様の事さえ知らんと言うのに!!」

「全くだ、ガッカリさせやがって。 あたしだってこの野郎の事、
 教えて欲しかったのによ。 何考えて……"こんな事"してんのか分かんね~し……」

「仕方ないでござるよ、範囲は"JAPAN限定"なのでござる。」

「ふんっ、まぁ……この際細かい話は抜きだ。 鈴女とか言ったな?」

「にん。」

「お前、なかなか腕が立ちそうだな。 それに良い女だ、俺様の仲間になれ。」

「!? ……そうきたでござるか。」

「嫌か?」

「鈴女、あんたの命を狙ってるかもしれないでござるよ?」

「ほぅ。 だったらチャンスは何時でもあったハズだ。 ずっと尾行してたんなら、
 ど~せ俺様と黒姫ちゃんがセックスしてる時も、覗いてたんだろ?(かなみ みたいにな)」

「むむ、お見通しでござったか。 あれは中々"えろす"でござった。」

「えっ……覗、え? え……っ!?」


ランスは自分の経験から、忍びである鈴女の行動を予測できていた。

その予測は当たっており……鈴女がランス・シィル・黒姫・きくの誰かを殺したければ、
寝込みやセックスの時を狙えば、殺す機会はあったのである。

きくは忍者としてのスキルに優れているので、並の忍者が相手であれば、
寝ている間でも気配を察して目が覚めているのだが、相手が鈴女だったので気付かず仕舞い。

だが、鈴女は偵察の任務を受けていたので殺害する気持ちはこれっぽちも無かった。

殺すのであれば、偵察した情報を犬飼に話し、彼の判断を仰いだ後のハズだった。

……かと言って……ランス達の"仲間"になる事に関しては話は別だ。

鈴女は今の所ランスの敵では無いのだが、味方と言う訳でも無い。

よって黒姫が真っ赤になってランスと鈴女を交互に見る中、二人の会話は続く。


「まぁ、それはどうでも良いのだ。」

「にん。」

「(どっ、どうでも良くないです……っ!)」 ←黒姫・魂の叫び。

「それじゃ~、何でさっき援護しやがったんだ?
 今迄尾行してたんなら、俺様の実力も判ってた筈だろう?
 何もせんでも俺達は"だいだーら"を倒せて、そのまま尾行を続けれたってな。」

「……っ……」


――――ランスの言う事は正しかった。


鈴女の尾行スキルと、ランス一行の実力を元に考えれば、
このまま変わらず尾行は行われていた筈……少なくとも魔人の話題が出てくるまで。

なのに鈴女はランス達を援護してしまい、こうして一行と向かい合っている。

それは鈴女自身も理由がハッキリと判らず、彼女は俯いて黙り込んでしまった。

その影響で、猫耳のような鈴女の髪の毛が、しゅんっと下がっているようにも見て取れた。


「それはつまり! お前は俺様の仲間になりたかったと言う事なのだッ!」

「……!(鈴女が……この異人の仲間になりたかったのでござるか……?)」

「いや、俺様に惚れたと言った方が正しいかもしれんな! がははははは!!」

「その自信過剰は、どっから来んだよ……」

「決まってるだろう、此処からだ!!」 ←股間を指差す。

「ばかたれ……」

「……(確かに、面白そうでござる……もうイーッて、なりたくないでござるし……)」

「と言うわけで、仲間になれ。 嫌なら一発犯らしてくれれば、逃がしてやる。」

「わかったでござる。 仲間になるでござるよ。」

「むっ、本当か!?」

「おいおい、本気かよ! お前、伊賀の"くのいち"なんだろッ?」

「そうでござるが、ど~したでござる?」

「あたしらの仲間になるって事は、"抜け忍"になるって事だろ?
 そう簡単に決めちまっても良いのかよっ?」

「きくちゃん。 何か悪い事でもあるのか?」

「ああ。 抜け忍になれば……そいつを殺す為、絶えず刺客が何人も襲って来るハズだ。
 四六時中……寝る暇さえ無いくらいにね。」

「う~む、それはそれで面倒そうだなぁ。 シィルに一晩中見張りをさせるのも悪くないが。」

「あうぅ……さ、流石にそれは無理ですぅ~。」


鈴女は強く、忍びの中でも屈指の実力を持っている。

抜け忍となったとしても、一人で刺客を撃退し続けれる実力を持っているのだ。

かと言って……ランス達の立場からすれば、巻き添えを食らうのは頂けない。

裏切り者の鈴女の仲間とみなされ、寝る暇が無くなってしまえば困るどころではない。

何処かの国主であるのならまだしも、ランス達の位置付けただの冒険者。

忍者達に狙われていては、ザビエルを殺す旅どころでは無くなってしまうだろう。

よって言いだしっぺにも関わらず、渋り出すランスだったが……鈴女は良い案を思い浮かんだ。
 

「……"抜け忍"には、ならないでござるよ。」

「なぬっ?」

「ぶっちゃけてしまうでござるが、鈴女は島津が全国に宣戦布告をした真意を知りたくて、
 今迄……あんたたちを尾行していたのでござる。」

「真意だと?」

「うい。 その真意の鍵を黒姫殿と"駆け落ち"した異人が、
 握っているとの事でござるが……今のところまでは、何も判らなかったでござる。」

「だろうな。 判って無いって事は、尾行され始めてからは喋って無かったんだろうし。」

「(ら、ランスさんと駆け落ちだなんて……そんなっ……)」

「へっ? 島津がウチら(毛利)を攻めやがったのは、"お前ら"の所為だったのか!?」

「そうかもしれんが……実際にゃあ、アイツらのやってる事は意味の無い事だ。
 それよりも俺様は、もっと大事な目的があって動いてるんだぞ。 なぁ、黒姫ちゃん?」

「はい、その通りです。 JAPAN全てに関わる事と言っても、過言では……」

「そりゃなんなんだよ……ホント、ワケ判んねぇ……」

「成る程でござる、"駆け落ち"とは違う理由があったみたいでござるね。」

「そう言う訳だ。 まぁ~、もうちょっと経ったら、纏めて話してやるぞ。」

「ならランス……これから宜しく頼むでござるよ?」

「あぁ、宜しくしてやるが……抜け忍とか言うのは、ならんのだな?」

「鈴女はランス達の仲間になるでござるし、伊賀を裏切るつもりも無いでござる。
 伊賀の国主……犬飼様には"異人"について調べろ~と命令されてるのでござるが、
 建前を"異人について知る為に一時的に仲間になったでござる~"と言う事にすれば、
 疑わずに"仲間"になれるでござるから、問題無いでござるよ~。」

「犬飼とか言う奴は信用できるのか?」

「口煩い人でござるが、悪い人では無いでござるよ。」

「そうか……まぁ、面倒な事にさえならんのなら、良しとしてやろう。」

「うい。 それじゃ~、張り切って行くでござるよ! ににんにんっ!」

「あ~、気になる! あたしにもちゃんと話せよな~ッ?」

「がははははは。 真意を聞いて、驚きのあまりに腰抜かすなよ?」

「(その為には……信頼を得る必要があるでござる。 鈴女の事は話したでござるが、
 まだこっちは何も教えて貰って無いでござるからねぇ……)」

『嗚呼……なんかすっごい喋りたい、もう喉まで出掛かってる……』

「言ったら、そこで転がってる"だいだーら"のケツにお前を刺すぞ。」

『いやんっ。 それは勘弁して……』

「おぉ、喋る剣! 近くで見ると、面白いでござる~。」


こうして、天才くのいち"鈴女"が仲間になった。

彼女だけでなく吉川きくも、この旅の本当の意味を知らないが、
それは時が解決してくれるであろう。

そんな訳でシィルが再び"帰り木"を取り出すと、5人の体は光に包まれ、消えた。


……


…………


――――出雲にある、毛利家の本城。


「そうか、きくの奴はまだ見つからんのか。」

「へ、へい。」

「続けて探索しろ……他国に悟られぬ範囲で構わぬ。」

「わかりやした~ッ!」

≪だだだだだっ≫ ←広間を出てゆく部下。

「きくおねーたま……大丈夫なのかな~。」

「明石の手の者に、殺られるような奴ではあるまい。」

「うむ。 儂より先に死ぬような、親不孝者でも無かろう。」


上座に座る"毛利元就"と、左右に立っている"毛利てる"と"小早川ちぬ"。

今現在は、行方不明の"吉川きく"の探索についての報告を受けたところだ。

だが……聞いての通り見つかってはおらず、今は異人と共に行動している最中だ。

それが判るはずも無く、広間に自分達三人だけが残ると……

毛利てるは膝を折り、元就の表情を確認するかのように、彼を覗き込んだ。


「……元就。 体は何とも無いのか?」

「なぁに、心配するでない。 ただ、誰かが"だいだーら"を倒しやがって、
 元の体に戻っちまったただけじゃあ~。」

「そうか。」

「それよりも、島津をどうにかせにゃあならん。
 全く……きくの事と言い、儂の体の事と言い、妙な事ばかり起きよるわ。」

「厄日~……うぅん、厄月ってヤツかもしれないね~☆」

「馬鹿を申すな、ちぬ! いずれきくは我らの元に戻り、島津も叩き潰す!
 そして元就はJAPAN最強の武人……それは、何が起ころうと変わらんッ!」

「く……クカカッ、そうじゃな! それに、例え毛利が押されようと、
 儂らは戦いに始まり、戦いにより終わる家系! それも一緒じゃあ~!」

「……うむ。 それではちぬ、戦の指示を出して来るが良い。
 我はこれから きく に変わり、島津に斥候を出さねばならん。」

「はあ~い。」

「島津が きく を狙った可能性も考えられるな……どちらにしろ、叩き潰してくれるッ。」

「……(できれば娘達には生きて貰いたいものだが……売られた喧嘩は買わにゃ~なるめぇ。)」


今までは元就を"見上げて"いたモノだが、彼はランス達により、
呪いを掛けた妖怪を倒され、今は小さな老人の姿に戻ってしまった。

小さい老人……と言っても毛利家最強なのは変わらないが、
強大化していた時よりは格段に弱体化してしまったのは紛れも無い事実。

そのタイミングで島津が宣戦布告し、未だに"きく"が見つからない等、
毛利にとってどんどんと悪い方向にへと進んで行ってしまているが、
こうなったら徹底的に戦おうと、元就達は気分を切り替えた。

そんな中……元就は"娘達を巻き込みたくない"と言う気持ちを僅かに感じたが、
根っからの猪突猛進な性格が、この年になって改められる筈も無かった。


……


…………


――――出雲の宿。


ランス・シィル・黒姫・吉川きく・鈴女のメンバーは、宿の一室に集まっていた。

ランスときくは胡坐をかき、シィルと黒姫は正座し、鈴女は体育座りをしている。

そろそろ宿一室だけでは狭くなって来たかもしれず、
快適なセックスを楽しむ為には今後部屋を分ける方が良いかもしれないが、
それは今の段階では、置いておく事にしよう。


「……と言うわけで、これであのジジィが弱くなったって事だ。」

「"だいだーら"をやっつけましたからね~。」

「では、これからどうするのですか?」

「そりゃ~勿論、ジジィを殺して、瓢箪と残りの姉妹も頂くのだ!」

「へんっ、簡単に言ってくれるねぇ……」

「毛利は2万の大部隊を抱えてるでござるよ? 一応言っておくでござるが、
 いくら鈴女でも、毛利元就を暗殺して・姉妹を攫って・宝物を盗むのは無理でござる。」

「忍者にそれができりゃ~、毛利も島津もとっくの昔に滅びとるわッ。」

「それもそ~でござるね。」

「きくちゃんは、何か良いアイデアは無いか? ジジィの事は、良く知ってんだろ?」

「う~ん……親父もあたしらも、楽しけりゃ~何でも良かったから……そうだな~。」

「何か案があるのか?」


ランスに話を振られたきくは、"まだ言ってんのかよ"と、彼の事をバカにしていた。

元就の呪い付きを落としてしまったのは、確かに行動力があるが、
だからと言ってたった5人で国主である元就を殺す事など、非現実的すぎる。

それに、彼を殺す事に直接関わるのは、元就の娘としてはゴメンだ。

よって頭の後ろで腕を組みながら、ランスを馬鹿にするような仕草で答えてやったが……

その答えに……ランスは信じられない反応を示す事になる。


「あぁ。 大方あたしを人質にでもして、一対一で勝負しろ~ッ!
 ……とか言えば、喜んで受けてくれんじゃねえの? 親父、強いヤツと戦うの好きだし。」

「成る程な。 じゃあ、それで行こう。」

「へっ!?」

「明日には毛利の城に出発するぞ。 シィル、準備しておけ。」

「は、はいっ。」

「……先ずは一つ目の瓢箪ですね。」

「あやや……本気で行くのでござるか? (それに、瓢箪って何でござろう)」

「当たり前だ、俺様を誰だと思っている。」

「お……おい、やっぱホントだったのかッ? 本気で親父の事……」

「きくさん、鈴女さん。 ランス様って、こういう人なんです~……」

「それなら、勝手にしなッ! お前なんか、親父に殺されちまえってんだ!」

「そいつは御免だな。 俺様は勝って、きくちゃんの処女を頂くのだ。」

「ぐっ……(な、なんなんだよコイツ……何であたしの事、怖くないんだ……?)」


……


…………


――――同日深夜、ランスと鈴女以外は夢の中。


「まさか明日から、いきなり正念場になるとは思わなかったでござる。」

「怖気づいたか?」

「うんにゃ。 面白そうで結構でござる。」

「そんな事はさて置いて……鈴女。 お前は実にエロい格好をしているな。」

「そうでござるか?」

「うむ、だからセックスしよう。」

「良いでござるが……"覚悟"はあるでござるか?」

「覚悟?」

「鈴女は くのいち でござるから、えっちして相手を殺す時の為に、
 体に毒や仕掛けを施しているでござる。 下手したらあの世逝きでござるよ?」

「む……それは困るな、何とかしろ。」

「うい。 それじゃ~、一日だけ待って欲しいでござる。
 それまでに毒や仕掛けを抜いておくでござるよ。」

「うぅむ、待たねばならんのか……溜まっていると言うのに。」

「なら、口で御奉仕するでござる。」

「大丈夫なのか?」

「口の中には下手な仕掛けをするよりも、喉元やイチモツを噛み切る方が効率的でござる。
 鈴女の体に無闇に触れたりしなければ平気でござるよ。」

「う~む……それはそれで、我慢せにゃならんのか。」

「止めるでござるか?」

「いや、やってくれ。」

「うい。 (本当に、変わった男でござるな~)」


……


…………


――――翌日、出雲城。


「(い……何時までこんな屈辱的な格好のままで居りゃ良いんだよ~ッ。)」

「(もう暫くの辛抱でござる。)」

「(うぅっ、くっそ~……キツく縛りやがって……)」

「(鈴女もこんな事、していたくないでござるよ。)」


毛利家の軍勢が出雲の西へ集まって行く中、突然姿を現した"吉川きく"。

体も五体満足であり、これで毛利軍の士気も元通りになると思われた。

……だが、彼女は上半身だけを"亀甲縛り"のようにされており、
鎖付きの首輪を付けられ、謎の"異人"に引っ張られながらの帰還だった。

それが恥かしいのか、きくは泣きそうな顔をしながら異人(ランス)に引っ張られ、
城門を潜り、三人の女性(シィル・黒姫・鈴女)も彼の後を追って行った。

そして今現在、元就・てる・ちぬは、十数名も部下達に囲まれ、きく含む5名と向かい合っていた。

そんな、、きくを捕まえたと思われる、偉そうな男……彼は元就を見るなり、こう言った。


「弱そうだな。」

「貴様ッ、元就を侮辱するか!?」

「待てい、てる。 ふむ……ランスとか言ったか? 異人が、儂に何の用じゃあ?」

「細かい話は抜きだ。 きくちゃんを返して欲しけりゃ~、俺様と勝負しろ。」

「なんと!?」

「俺様が負けた場合は、俺達の命でも何でも好きにしやがれ。
 だが、俺様が勝った場合は……残りの姉妹と、"瓢箪"を頂くぞ。」

「ほう~。 つまり、毛利の国主の座が狙いと言う事か?」

「そんなのはいらんわ、欲しいのは姉妹。 瓢箪は"ついで"だ。」

「カハハハッ……面白い事を言いよる! 良いだろう、受けて立つぞッ!」

「本気か元就っ!?」

「おとたまぁ~。」

「安心せい、てる・ちぬ。 元に戻った体を解すには、丁度良い相手じゃ!」

「がはははは、それなら話は早ぇな。 ……カオス、殺るぞ。」


いきなりの侮辱的な発言に、てるは立ち上がるが、元就が止める。

この時元就は……目の前の異人に、かなりの興味が湧いていた。

大事な娘である"きく"が鈴女によって、先程からず~っとクナイを首筋に這わせられているが、
数百と言う多くの部下に囲まれながらもここまでやって来ると言う、
こうも堂々と自分に勝負を挑んできた人間は、100年生きた中で一人も居なかった。

自分の経験でも、自分が尼子や大内の武将を一騎打ちで倒そうにも、
応じられずに数で撃退された事が何度もあり、昔の自分と照らし合わせてしまったのだ。
(当たり前だがシィルと黒姫は、何も喋れ無い程緊張している)

それにより元就は立ち上がり、これは戦いに応じるという合図と言っても良かった。

対して……ランスは元就の姿に、完全に油断してしまっていた。

たった5人での出雲城への入城……この一連の行動は、元々ランスの……


"魔人(カミーラ)に捕らえられながらも、目の前で自分から全裸になる"


……という、超絶に図太い神経からくる賜物なのだが、"油断"の理由は別にある。

身長1メートル弱の老人……こう見えても元就はかなり強いのだが、
巨大化していた時のインパクトが強過ぎ、早い話"ナメて"しまっているのだ。

よってランスも立ち上がり、今まさに"死合い"が始まるところだったのだが……


『……ランス。』

「なんだ、どうした?」

『どっかに"使途"が居る、やたら近い。』

「なぬっ?」


――――魔剣カオスが、何処かで使途の気配を感じた。


――――続く――――


ランスLv44/無限 シィルLv34/80 黒姫Lv30/99
吉川きくLv33/42 鈴女Lv39/49

毛利元就Lv50/51 毛利てるLv33/47 小早川ちぬLv31/50


●あとがき●
次回で毛利編が終わると思います、その次は明石編ですね。
ランスよりも元就の方が現時点では強いのですが、その辺は待て次回。
明石編後は足利or伊賀に進むワケなのですが、スルーしてしまうキャラも居るかと。
しかし、話が進むと登場する"可能性"もあるので、その辺はご勘弁を。
それ以前に誰とは言いませんが、名前すら出る事が無かったり、
何の活躍もできないまま死んでしまうキャラも出ると思いますので@w@;



[2299] ランスⅦ ~魔人の娘 黒姫 其の5~
Name: Shinji
Date: 2007/02/15 00:19
もし魔人ザビエルが復活したのであれば、黒姫は恐らくそれに気付く筈。

はっきりとした根拠は無いのだが、復活の兆しを既に感じている事を考えると、
いざ復活した時も"何となく"気付いてくれる、と言うのが予測できる。

……だが、やはり根拠が無いので、結局は実際に復活されてみないと判らない。


「どうした、若造! 怖気づいたかッ?」

「ちょっと待て。 ……おいカオス、"使徒"が居るってのはどう言う事だッ?」

『言葉の通り。 でも、"居る"とはちょっと違うかもしれん。』

「違う?」

『そうだな……しいて言えば、入ってる。』

「……入ってる?」


一方、カオスはザビエルの復活の"瞬間"や"兆し"を察する事はできないが、
使徒や魔人の気配を敏感に察する事ができる数少ない存在だ。

例えとして、カオスと人間の(魔人等を)察する能力を比較してみると、
犬と人間の嗅覚程の差(3000:1)があると言えるのだ。

よって……元就達と対面した時から、何か妙な雰囲気を感じていたカオスだったが、
その"何か"が間違いでない事を察しただけでなく、"その者"をも特定してしまうと、
ランスと元就が立ち上がった間の、僅かなタイミングを見てランスに指摘した。


―――――この近くに"使徒"が居る……という事をだ。


その言葉を受け、ランスは元就を無視して周囲を見渡したが、
戦士……いや、人間としての洞察力は、特に使徒と思われる気配を察する事はできなかった。

カオスは逆に、黒姫も"兆し"は判っても"気配"は判らないのか、
使徒という言葉に少し顔を青くし・腰を浮かせて、辺りを見回している。

だが見当たらない……使徒は"居る"のでは無く、カオスの言うよう"入って"いるのだから。


「なんじゃ若造ッ、さっさと構えんかぃ!」

「だから待てと言ってんだろうが! 使徒が居んだぞッ?」

「貴様、我らを舐めておるのか……? 使徒? そんな者が何処におると言うのだッ。」

「(使徒~? なんでござるか、それは?)」

「(あたしが知るワケね~だろ……)」

「黒姫さん、どうしたんですか? そんなに慌てて……」

「あ、慌てますッ。 使徒が既に"出て"しまっているのなら、
 既にザビエルは復活している事になりますから……!」

『それは大丈夫かもしれん。 "入って"いるようだからな~。』

「えぇい、入ってるのは分かったから、何処に入ってんのかを、さっさと言えッ!」


異人と剣が喋っている意味が全く分からない、きく・鈴女・元就・てる・その他毛利の部下。

魔人や使徒については知っている為、半分程度は理解しているシィル。

意味がほぼ分かっているランス・カオス・黒姫。

そんな中……カオスは滅多に出さない"オーラ"の手を"ニュッ"と一本伸ばすと――――


≪――――ピッ≫

『……その娘。 そこの嬢ちゃんの体の中に、使徒が入ってる。』

「なんだとォ~?」

「えっ、ちぬの……中にぃ?」


……カオスの"オーラ"の手は、"小早川ちぬ"を指した。

対してキョトンとした表情の ちぬ は……いや、黒姫以外の全員の者達は。

彼女の体の内に潜む、醜い僧侶の姿を知る筈も無かった。


                  ランスⅦ
            ~魔人の娘 黒姫 其の5~


「へっ? 使徒って……その娘がか?」

『間違いない。 まだ"入ってる"段階だけどな。』

「その、"入ってる"ってのは、どう言う事なんだ?」

『主人の魔人が"復活"したら、そのうち出てくる。 使徒がその嬢ちゃんの中から。』

「出てくる……?」

『まぁ、言葉の通りだ。』


今のランスとカオスの会話は、元就達にも聞こえている。

よってカオスは気を使ってか、それ以上は言わなかった。

詳しく言うと……体の中の使徒が、意思に反して飛び出してくると言う事なのだが……

それでは間違い無く"その人間"は残酷な死に方をするので、本人の前で言うのを避けたのだろう。

さておき……この時、"入っている段階"と言う言葉で少しだけ安心したような素振りを見せた黒姫。

また、魔人や使徒という言葉を聞いた者達は、疑問を隠せなかった。

魔人・使徒と言う単語自体を知らないと言う訳では無いが、
いきなり"居るハズも無い使徒"の存在を、ランス(異人)に聞かされたのだから。


「魔人と使徒……それにランスは関わっているのでござるか?」

「ちぬに使徒が"入ってる"? ど~言う事だよ、そりゃあ!?」

「異人、貴様……そのような事で、元就との戦いを避けれるとでも言うのかッ?」

「へぇー、使徒かー。」

「ちぬ! この者の戯言に耳を貸すでないッ。」

「うぅん……てるおねーたま。 それ、ほんとーかもー。」

「何だと!?」

「時々するのー。 中に何か居るなぁって感じ?」

『なら、間違い無いかもな。』

「やっぱりその魔人にも、使徒ってのは居るのかよ。」

「ランス~、どういう事なのでござるか~?」

「丁度良いじゃね~か、いい加減話せよなッ!」


"魔人と使徒"の話を最も信用していなかったのは、毛利てる。

よって ちぬ が悪い影響を受けないように声を掛けたが、
ちぬ は自分の内の"使徒の存在"を肯定するような返事をしてしまう。

一方、鈴女は きく の首筋へのクナイはそのままだが、魔人の話に興味津々。

そしてきくは、ちぬ に対する姉としての気遣いか、縛られていながらも声を荒げた。

それらのやり取りを見て、立ち上がっていた元就は、大剣を静かに降ろした。


「う~む、これでは"死合い"どころでは無くなってしまったのう。」

「後回しにするか~?」

「良かろう。」

「元就ッ!?」

「落ち着けい、てる。 ……ちぬ、茶を入れい。」

「はぁ~い☆」

「くっ……我らはこんな事をしている場合ではあるまいに……」

「それじゃあ、黒姫ちゃん。 話してやれ。」

「……宜しいのですか?」

「少し順番がズレちまったがな……使徒の事もあるし、まぁ良いだろ。」

「そうですね……わかりました。」


元就がドカりと元の位置に腰を降ろすと、ランスもその場に腰を降ろした。

納得のいかない様子の てる は元就が宥め、ちぬはお茶の用意を始めた。

対してランスは、自分は説明するのが面倒なのか、黒姫に説明を任せた。

すると黒姫は、緊張を隠しながら前に出て正座すると、彼女は元就に軽く会釈して言った。


「私は元……島津家・客将の"黒姫"と申します。
 島津の宣戦布告……そして、復活が近い魔人について説明させて頂きます。」


……


…………


黒姫が(元)島津の者と知って、周囲の部下の中には思わず抜刀する者も居た。

しかし、元就に"喝"を食らって押し止められると、数人の腹心以外は退去を命じられた。

いわゆる人払いも済んだ事により、黒姫の"魔人ザビエル"についての説明が始まった。

順を追って……まずは島津に仕えていた黒姫の元に、ランスとシィルが訪れた事から始まり……


――――島津を飛び出したのは、異人(ランス)と魔人を倒す旅に出る為だったと言う事。


――――島津の宣戦布告は、自分を慕う4兄弟の意思によるモノと言う事。


――――吉川きくを捕らえたのは、毛利の"瓢箪"を手に入れる為だと言う事(半分は嘘だが)。


――――自分は魔人の娘であり、8つ瓢箪には父(魔人)が封印されていると言う事。


――――いずれ別の場所で復活した"ザビエル"を倒す仲間として、毛利3姉妹の力を借りたいと言う事。


500年以上に渡って生まれ変わりを繰り返した結果として、
ちぬの体に使徒が入っていたと言うのは予想外だったが、黒姫は元就達に以上の事を話した。

その話は元就達だけでなく、鈴女やきくも、予想以上の内容に驚きを隠せなかった。

戦国時代の真っ只中、まさかJAPAN全土を滅ぼす力を持つ、
"魔人ザビエル"の復活が近付いて来てしまっていたとは……


「……何と、まさかお前らが"魔人"を倒す為に、儂らの元に訪れていたとはのう。」

「そう言う事だ。」

「ねぇ、ちぬ って死んじゃうのー?」

『それは判らん。 だが……嬢ちゃんが儂らと来る事で、その"確率"が下がるかもしれん。』

「へーっ。」

「だからジジィ、てるさんと ちぬ を寄越せ。 セックス……じゃなかった。
 "魔人"を殺す戦力として、必要になる娘達なのだ。」

「…………」

「おいこら、ジジィ。 返事はどうした?」

「(う~む。 良くこの状況で、ああも挑発できるでござるな。)」

「(あたしゃ~親父があそこまでナメられて、怒り出さないのが意外なんだけど……)」

「……なかなか面白い話だったのう。 本当ならば、乗ってみるのも悪くはあるめぇ。」

「"本当ならば"だと? まだ信用して無いとでも、言うつもりかぁ?」

「そりゃ~、"お前ら次第"じゃあ。 良いな? てる・ちぬッ!」

「くくくっ……良かろう。」

「まー、しょーがないねー☆」


黒姫の話は、元就・てる にとって、とても興味深い話だった。

戦う事を生き甲斐にする二人にとって、魔人との"死合い"など願っても無い事だ。

戦った結果……例え、抗えずに殺されようとも。

かと言って、元就達は"毛利家"を背負っており、話だけで全てを認めるワケにはいかない。

よって元就は再び立ち上がると、それに てる と ちぬ も続く。

ちぬ はやる気が無さそうな、のんびりとした立ち上がりだったが、
元就と てる には、常人を震え上がらせる様な闘気を感じた。


――――――――やる気だ。


「"儂ら"と勝負せい、異人! お前らが勝ちゃあ、話を信じてやろう!
 それに当然、娘でも何でもくれてやるわぁー!!」

「我ら3人と死合うが良い……貴様らも3人だ……丁度良かろう?」

「お手柔らかにねぇー?」

「へっ、やっぱそ~なるか。 ……って、3人だとォ?」

「鈴女は動けないでござるね。 ファイト~頑張れ~、でござるっ!」

「あたしも御免だ、ホント~なら勝ってみやがれッ。」

「チッ、仕方無ぇな~。 シィル、黒姫ちゃん! 行くぞ~ーッ!!」

「わかりました、ランス様ッ!」

「はいっ! (足手纏いには、ならない……)」


……


…………


――――織田城、謁見の間。


「はぁ……」


現在は評定の真っ最中で、上座には"織田信長"の姿。

そして、彼の傍に控えるように、香姫と3Gが座っていた。

今現在は……集まった諸武将たちの、意見の交わし合いが続いている。

しかし信長は会話に混ざる事もなく、欠伸(あくび)のような溜息を漏らしており、
流石にそれはどうかと思ったか、香姫は彼に小声で呼び掛ける。


「兄上、兄上。 評定の最中に怠けないでくださいッ。」

「あぁ、ごめんごめん。 昨日、本を遅くまで読んでてね……」

「もう、夜更かしはしないでくださいとあれ程――――」

『……と言うわけで、信長様。』

「んっ、何?」

『今後の方針の。』

『ご決断を。』

『お願い致します。』×3


こんな場であれど、香姫の小言が始まろうとしていたが……

諸武将達の会話は長引きそうだったので、3Gが信長の判断を煽る事にしたようだ。

それによって信長に視線が集中し……彼はボリボリと頭を掻くと、こう告げた。


「田畑を増やしたり町を発展させたり……色々と案が出てたと思うけど……
 どんな方法にせよ、民や香達が幸せに暮らせれば、それで良いよ。
 もう領地は一つしか残って無いけど、各々が良いと思う方法で、尾張を豊かにして行こうね。」

「はっ!」

「畏まりました! その一環として是非、寺子屋を……!」


興味が無さそうに評定の様子を眺めていた信長だったが、
話の内容はしっかりと頭の中に入っていたようだ。

だが……具体的な事は告げず、諸武将達に任せるような事を言っただけだ。

かと言って信頼は厚いようであり……乱丸と勝家を中心に、武将達は威勢良く応えた。

それに信長が、にこりと顔を歪めた時――――


≪だだだだだッ!!≫

「評定中、失礼致します!!」

『なんじゃ"えっぢ"、どうした?』

「大変です、"足利"が織田に宣戦布告してきましたッ!」

『な、何じゃと!?』×3

「それと同時に、4つの部隊が織田領に接近中との事です!!」

「へぇ……数はどれくらい?」

「合計、約1000名規模になります!」

「そうか……」

『信長様、如何なさいますか?』

「仕方無いね……勝家、お乱。 頼むよ?」

「わかり申したッ! 行くぞ、お乱~!」

「ああ。」

「光秀ぃ! 拙者はだから言ったのだ、足利など信用できんとッ!」

「くっ……」


突然耳に飛び込んできた、足利の宣戦布告及び、領地への侵攻。

それにより直ぐ様、迎撃準備が必要であり、勝家の大声で武将達は、
自分達の役割を果たす為、慌(あわただ)しくその場を離れて行った。

本来ならば既に評定が終わり、信長はのんびりできる筈だったのだが、
領地が侵されそうになるからには、そうも思ってられない。


「3G。 ハチスカ殿と滝川殿に、力を貸してくれるよう交渉を。」

『ははっ、お任せくだされ! ……ゆくぞ、えっぢ。』

「はい!」

≪どたどたどた……≫

「はぁ……久保田達の離反が、片付いたばかりだって言うのにね。」

「兄上……」

「はははは、大丈夫だよ。 香は必ず皆が守ってくれるよ。」

「……はい。」

「そう言えば……あの娘、無事に"呪い付き"を落とせたのかな?」

「どうでしょうか……?」

「まぁ……今はそんな事を考えてる場合じゃ無かったね。」

「そうですよ、これから戦が始まりますっ。」

「(やれやれ、これからまた戦場か。 ……保つかなあ……)」


――――こんな状況であれど、直後また何時ものように、信長は香の頭を優しく撫でた。


……


…………


ランス・シィル・黒姫vs元就・てる・ちぬ。

初めはランスと元就との一騎打ちの筈だったが、元就は3対3を選んだ。

元就側としては、この戦いでランスら3名のいずれかの命を奪う事は当然として、
一騎打ちで無ければ、逆に自分の娘が死傷する可能性もある。

だが、それでも戦わせるという事は、この異人との戦いで死ぬようであらば、
決して"魔人"との戦いで生き残る事ができないだろう……と言う、
彼なりの厳しい方法で、娘たちの実力・覚悟を試すつもりのようだ。

……勿論、ここで異人達が自分らに劣るようであれば、
ランスを殺してカオスを自分の物にし、魔人と戦ってみるのも悪くない。


≪がきいいぃぃんっ!!≫

「ぐぉッ!? このジジィッ!!」

「ふはははっ!!」

≪――――ガヒュッ!≫

「あだーっ!?」


そんな元就と、てるの気合は……物凄かった。

小さい体ながらも大剣を振り回し、ランスをよろめかせる程のパワーを持つ元就。

同じく小柄ながら、硬直を狙って鉄製のハタキを薙ぎ払い、ランスの肉を削ぐ てる。

その激しい連続攻撃の合間に、シィルと黒姫が援護しようにも、
後方で舞って前衛二人の傷を癒す ちぬ の存在で、ランスは防戦一方だった。


「どぉりゃああぁぁッ!!」

「おわっ!」

≪――――フオォンッ!!≫ ←元就の大剣を回避するランス。

「カハハハッ! どうしたぁ異人、逃げてばかりではないか!!」

「その程度か……? 貴様の実力は……」

「ぜぇぜぇっ。 ……アホ言うな! い、今のはまだ準備運動だぞ~ッ。」

「ひぃ、ふぅ…… (元就さんて、呪い付きじゃなくても凄い強いじゃないですか~っ。)」

「さ、流石……毛利元就……」


勝負開始の刹那、勢い良く元就に突撃したランスだったが、割り込んできた てる によって、
若干勢いが下がってしまった剣撃が、彼女の父譲りの怪力によって止められる。

その直後に薙ぎ払われた元就の斬撃を受け止め、大きくランスがよろめくと、
そのまま数分……ひたすら彼は防戦を強いられていた。

完全な回避が難しい てる のハタキによる攻撃は、シィルがその都度で癒しているが、
疲労だけはどうにもならず、肩で息をしているランス。

それはシィルも同じであり、黒姫の与えるダメージも、ちぬの回復範囲内。


『ランス、ひょっとしてマズくないか?』

「……そうかもしれん。」

『う~む、毛利元就か。 まさかこうまで強いとは、こりゃ驚いた。』

「他人事みたいに言うなッ!」

『とにかく、このままじゃいかんぞ? どうする?』

「少しでもジジィが攻撃できる隙がありゃ~良いんだけどな……
 もう片方を斬るワケにもいかんし、ど~したもんか。」

「ん~……何だかヤバそうでござるな。 毛利元就、強さは噂通りでござる。」

「な、なんだよ……負けちまうのかッ?」

「ランスが勝つほうが、い~のでござるか?」

「そ……そんなんじゃね~けどよ……あたしの立場自体、微妙だし……」

「……(このままじゃいけないっ……なら……!)」


早い話……今のランスはピンチと言う事だ。

前話の通り呪い付きを落とした事で油断し、元就"そのもの"の強さを考えなかったのが悪い。

彼がここまで強くなければ、最初の てる との交差の直後に彼女の武器を弾き、
さっさと元就を討ってしまえば良かったのだが……

元就はそれをさせてくれず、てるとのコンビネーションは抜群で、何もできないまま今に至る。

もう一日か二日……経験値を稼いでいれば違っただろうが、今更考えても遅い。


「どうやら見込み違いのようじゃなぁ! 決めるぞ、てるッ!」

「うむ。」

≪――――ダッ!!≫

「チッ……"二人"にゃ期待でき無ぇし、こうなったら鈴女を使うか。」

『万が一でしか使わないのでは無かったのか?』

「姉妹か俺様が死ぬよか~マシだ。」

『それもそうだな。』

「不本意だけどな……鈴――――っ!」


そうなれば、卑怯な手を使うしかない。

自分が負けそうになる事など考えていなかったのだが、その時の為に鈴女がおり、
事前の夜に、ランスは鈴女と二人だけで"作戦"の打ち合わせをしていた。

彼女の腕であれば最良な援護ができるし、これが原因で三姉妹が仲間にならずとも、
自分と三姉妹、及び仲間が此処で死なず……元就を倒し、瓢箪を奪えればそれで良い。
(鈴女が何時でも援護できるよう、クナイをずっときくに這わしているのはこの為)

正直不甲斐無いが、元々たった数人で"あの"毛利から瓢箪を奪う事自体、無理な話なのだから。

よって……ランスが突撃してくる二人に構えながら、鈴女の名を呼ぼうとした瞬間――――


≪――――ガシュッ!!≫


「ぬぅっ……!?」

「な、何ッ!?」


……止める力が無いのであれば……体ごと割って入ってしまえば良い。

鈴女のクナイが放たれる前に、ランスと親子の間に、黒姫が割り込んだのだ!

だが、今の彼女には元就が振り下ろした太刀を無傷で止める力は無い。

ランスが一人で二人の攻撃を防いでいたのも、黒姫とシィルが深手を負わないようにする為だった。

よって……黒姫から見て左から突っ込んで来た てる のハタキは、
両手で構えている脇差で、しっかりと止めらてはいるが……


――――元就の大剣は、黒姫の右胸を肩から両断していた。


≪ギチっ……≫


「……う、ぐっ……」

「んな……ッ!?」


それなりに"レベル"があるので、完全に真っ二つにはなっていないが……

臍(へそ)の位置辺りまで大剣は食い込み、大量の血が湧き出てくる。

いくら強かろうと、人間であれば致命傷であるそのダメージに、
黒姫は歯を食いしばりながらも両手に力を入れ――――


「はあああぁぁぁッ!!」

≪ガキ……ッ!!≫

「が……っ!?」

≪――――どっ≫


予想外の行動で動きが止まっていた一瞬の"隙"を見逃さず、
黒姫は てる に"みね討ち"を叩き込み、彼女を気絶させると、がくりとその場に膝を付いた。

それと同時に脇差が地面に転がり、無理に腕を動かした為か、
両断された右肩から先が、右腕の重さで右に傾こうとしていた。

それによって傷の根元が更に開こうとしており、黒姫は左手で右肩を掴むと、
あまり意味が無い事だとしても、傷口と傷口をくっ付け、更なる激痛で顔を歪めた。

一方、ランスも信じられない黒姫の行動に動きが止まっており、それは元就も一緒だったが……


「ら、ランス……さんッ!」

『チャンスだぞ!』

「うっ……うおおおぉぉぉ~~ーーッ!!」

≪ギャリイイィィーーーーンッ!!!!≫

「ぐわぁっ!?」

「このクソジジィがぁ! 何てことしやがる……ッ!?」

「ぐぬっ……! (いかん、今ので腰を……)」


ランスは吐血をしながらの黒姫の言葉に、我に返る。

直後怒り心頭で、血だらけになった元就の大剣を気合諸共に弾き飛ばす。

その衝撃で元就は地面に尻餅を付き、年相応の事態が彼を襲った。

よってすぐには起き上がれずにいる元就に、ランスはゆらりと近付いた。


――――本気で怒っている。


「許さん、死ね!!」

「……儂の負けか……」

「まぁ喜べ、一発で終わらしてくれるわ! ランスアタッ……!!」

「やめてーっ。」

≪がばっ!≫

「!? ちぬ、よさんかっ!」

「勝負はついてるのー、おとたまを殺さないでー。」

「うるさい、どけ。 お前ごと殺すぞ。」

『ランス……落ち着け。』

「十二分に落ちついとるわッ。 そういや使徒だったな、いっその事――――」

『嬢ちゃん"そのもの"が使徒と言う訳では無いんだぞッ?』

「黙れ。」

≪ゆらり……≫


ダメージは無いが、腰を痛めて動けない元就にカオスを振り下ろそうとしたランス。

しかし、ちぬが元就を庇うように覆い被さり、ランスの腕がピタリと止まった。

だが……彼の怒りを鎮めたワケでは無く、再びカオスを振りかぶった時――――


「ランスさんッ……ま、待って下さい!」

≪ごほっ……≫ ←吐血が続く黒姫。

「……黒姫ちゃん?」

「わ、私なら……大丈夫ですから……」

「大丈夫? だって、あの傷じゃ~幾らなんでも……」

「ランス様! 本当に大丈夫だと思いますッ。 気休めになれば……と思ってましたけど、
 私のヒーリングで、黒姫さんの傷がどんどん回復していってくれてます!」

「何だとォ……?」

「私には……魔人の血が、混ざっていますから……か、簡単には……
 死なない体なのです……この程度の傷では……し、死にませんので……
 ゴホッ! お二人を、殺さないで……あげてください。」

「ダメですよ、黒姫さん。 重傷には変わらないんですから、喋らないで……」

『成る程な。 だから、あんな無茶をしおったのか。』

「…………」

『ランス、今回は黒姫の顔を立ててやったらどうだ?』

「なら、ならー。 おとたまを殺さないー?」

「……うぬぬぬっ……まぁ、良いだろう。 有り難く思う事だな。」


≪すたすたすた≫ ←元就とちぬの前を離れる。


「おとたま、大丈夫ー?」

「安心せい、何とも無いわぁ~。」

「良かったあー。」

「しかし……無念じゃ……儂らの完敗のようじゃのう。」

「あは☆ そーだねー。」

「儂は てるを起こす。 ちぬは治療を手伝ってやれい。」

「わかったー。」

「カハハ……まさか島津の客将が、あれ程だとはのォ。」


……あの致命傷では黒姫は助からない。

そう思い込んでいたランスだったが、黒姫は"死に難い体"を利用して、
身を挺してランスを庇い、彼に攻撃する隙を与えたのだ。

もしも心臓がある左胸に食らっていれば、幾らなんでも死んでいたかもしれないが、
黒姫はそれも計算のうちに入れて攻撃を受けたのだ。

その結果、ランス達は勝利し……元就達の信用を得る事ができたのだった。

ランスは黒姫が傷付けられた事に少し納得のいかない様子だったが、
言葉を選んで でのカオスの言葉に納得したか、無言で鈴女に近寄ると――――


≪ゴチンッ≫ ←軽くげんこつ。

「あててっ。 ……なにするでござるか~。」

「もう良いぞ、きくちゃんを解いてやれ。」

「了解でござる。」

≪――――しゅぴぴっ≫ ←あっと言う間に きく を縛っていた縄を切る。

「ふぃ~……やっと自由の身かよ。」

「うむ、そんな訳だ。 きくちゃん、毛利に戻りたいなんて言うなよ?」

「わ、わかったよ……」

「そんでもって、きくちゃんの処女も俺様のモノだ。 がははははっ!」

「うぐッ……」

「とにかく、これで謎が解けたでござるよ。」

「怖気づいたか?」

「いやいや、面白さアップで文句無しござるよ~。
 ……昨日の夜に、同じ質問をされた気がするでござるが。」

「気のせいだ。」

「ところでござるが、ランス。」

「なんだ?」

「ど~して鈴女、殴られたでござるか?」

「ん~……何となく。」

「うにゃ……」


……


…………


――――翌日、毛利家で一泊したランス達。(昨夜は鈴女とエッチしている)

その出雲城の一室に、ランス・シィル・黒姫・鈴女・元就の姿がある。

彼らは"既に腰が治った元就"が取り出した、"何か"を5人で囲んでいた。


「これが約束の、瓢箪じゃあ。」

「ほぉ~、こんなのがか。」

「確かに父の……ザビエルの力を感じます。 これに間違い無いようですね。」

「それを後7つ集めないとダメなんですかぁ~。」

「いえ……8つ全て集める前に、必ずいずれかの瓢箪が割れてしまうでしょう。
 私達がしている事は、あくまで魔人が復活した場所の特定をし易くするだけです。」

「まぁ~、とにかく。 もう毛利領には用無しって事だな。」

「元就さんは、これからどうなされるんですか?」

「儂はこれから毛利を率いて、島津の野郎どもを蹴散らすつもりじゃ。
 ランス殿に敗れて瓢箪と娘達を持って行かれはぁしたが、
 毛利の国主の座までも奪われちまったワケじゃァ無えからのう。」

「おう、いっその事滅ぼしちまえ。 4兄弟ごとな。」

「グハハハハ! それも良いかもしれんなッ、ついでに良い女も頂きじゃあ!」

「……っ……」

「黒姫殿、仕方ないでござるよ。 それが戦争なのでござるから。」

「そう……ですね。 (島津が毛利を滅ぼしてしまう事も考えられるのだから……)」


現在の黒姫の傷は、あれ程酷かったにも関わらず、
シィルと ちぬ の献身的な治療により、完全に塞がってしまっている。

鎧は壊されてしまったので新しいのを買わねばならないが、着物は毛利の物を借りていた。

そんな彼女は……ザビエルに島津4兄弟が襲われない事ばかり考えていたが、
全国に宣戦布告をした時点で、戦(いくさ)で戦死する事も十分に考えられると言う事を、
間も無く島津と正面から衝突しようとしている、毛利家の真っ只中に居る事で痛感した。

可能であれば戦っては欲しくは無いが、いくら魔人を倒す必要があるとは言え、
自分達の所為で島津が戦争を起こした事は事実なので、口を挟むだけ野暮と言うモノだ。

もし黒姫が島津に戻り、ランスに全てを託せば戦争は止められるかもしれないが……

黒姫も重傷を躊躇い無く負ってまで勝利に貢献すると言うまでの、"覚悟"を持っており、
進んできた道を引き返すというような中途半端な気持ちでは無いのだ。


「……元就。」

「準備できたぜ~。」

「わーい、冒険ー☆」

「おう! 三人とも来よったか。」

「できれば、我も残りたいところだが……勝負に負けた以上、武人として抗う事はできぬ……」

「ま~、乗り掛かった船だしな。 魔人討伐っての、手伝ってやるよ。
(こうは言ってるけど、姉貴もそれなりに乗り気だしな)」

「ちぬもー、頑張って死なないようにするー。」

「がはははは。 三人とも可愛がってやるから、仲良くするんだぞ~。」

「よろしくでござるよー。」

「良いかぁ~? てる・きく・ちぬ。 毛利の名に、恥じぬ戦いをして来るんじゃぞぉ!」

「うむ。」
「応ッ!!」
「はーい。」

「言い方は見当違いだが、タイミングは同じだったな。」

「元就殿の娘さん達らしいでござる。」


……こうして毛利3姉妹は、正式にランス達の仲間となった。

三女である、ちぬの体には使徒が居るようではあるが、
今では助ける術(すべ)は無いようなので、それも考慮して旅を続ける必要がある。

3姉妹は元就の元を……毛利を離れるのには、やはり負い目がありそうだが、
約束は約束であるし、同じ女性として、黒姫の覚悟に何か惹かれるモノを感じていた。

特に てる は武人として、黒姫の戦い身を挺した振りを、かなり評価したようだった。


……


…………


……同日の夜中、毛利領の宿。

何となくいつもより、モンスターと戦った回数が多かった気がするが、
一日を通して歩き続けたランス達は、明石領の一歩手前までやって来ていた。

その中で、ランスは黒姫の受けた大きな傷がまだ気になっており、
何気なく何回か聞いたりしていたが、どうやら本当に今は何の痛みも無い様だ。

しかも、"あの位の傷であれば……"とまで言っていたのだが、
それは決して強がりでは無く、過去に虐待で受けた傷と比べれば、大差なかった。

よって数多く受けた虐待の傷痕が、今は何も残っていないと言うのに、
先日の傷が残る事など無く、それ程までの回復力を黒姫は持っているのである。

さておき、旅の人数はこれで7名となったので、部屋は2つ借りているのだが……

片方の部屋の明かりは完全に消えている一方、もう片方の部屋にはランスときくの姿があった。


「ちぬは、シィルと何だか仲が良さそうだったな。」

「姉貴はど~してか、黒姫に懐いてた気がするぜ?」

「うむ。 黒姫ちゃんは、ああ見えても500歳以上だからな。」

「らしいな。」

「となると……忍者同士の鈴女ときくちゃんで、3本の百合の出来上がりだな。」

「何で"百合"なんだよ?」

「そんな事も知らんのか……これから待ちに待ったセックスだと言うのに。」

「は、はっきり言うなよッ!」

「ぐふふふふっ、こりゃ~しっかりと"教育"してやる必要があるなぁ!」

「えっ? ちょっ……まっ!」


≪がばあぁっ!!≫ ←襲い掛かる音。


……


…………


「さぁ、舐めろ。 こことか、こことかも。」

「んっ……ちゅっ……」

「そこじゃないぞ、まぁ~だ俺様が気持ち良くなる場所が判らんのか~?」

「うぅぅ……そんなの判んねぇよ、ちきしょー! ちきしょ~っ!」


……けど今回は、パイズリだけで済んだようだ。


――――続く――――


ランスLv45/無限 シィルLv35/80
黒 姫Lv32/99 鈴 女Lv39/49
毛利てるLv34/47 吉川きくLv33/42 小早川ちぬLv32/50


●あとがき●
黒姫が頑張る話を書きたかったのですが、違和感ありまくりですね……
ここでスキル妄想、みね討ち(HPに反比例した確率で相手を気絶さる)とか。
さておき、これでランス含めて7名になったワケですが、彼らがメインキャラです。
正直に言ってしまえば、これ以上主要キャラを増やす執筆力が私には無くて@w@;

PS:
基本的に誤字修正版は本家掲載時にUPするのですが、今回は誤字が多すぎたので、
早めに修正する事にしました。 お詫びのしようもありませんorz
ご指摘くださったabacbaさん、Willさん、ありがとうございます。



[2299] ランスⅦ ~魔人の娘 黒姫 其の6~
Name: Shinji
Date: 2007/02/25 00:59
「信長様、やりました! 足利の軍が撤退して行きます!」

「わははははは!! おととい来おぉい!!」

「ふん……思ったよりも、手応えが無かったな。」

「全くだ、こうなったら足利を攻め滅ぼしてくれるわぁ!!」

「そう簡単にもいくまい。」

「そうでしょうねぇ……」


尾張に攻め込んできた足利家の軍に対し。

織田家は勝家(450名)・乱丸(350名)・光秀(250名)の纏める軍で追い返した。

兵数としてはたった50名の上回りであれど、質が勝っている事から大勝利と言えた。

よって騒いでいる勝家を中心に、乱丸と光秀を傍に、
信長は腰掛けたまま、微笑みながら"ぱちぱち"と手を叩いた。


「はははは、やったやった。 よ~し、それじゃ~後始末だね……っと。」

≪ぐらっ≫

「あ、兄上!?」

『信長様!』

『いかん。』

『これはいかん。』

『……熱が出ておる。』×3


戦いが終わったにしても、まだやる事はあり "よいしょ"と信長が立ち上がろうとした時。

彼はバランスを崩して倒れそうになり、その体を香姫と3Gが慌てて支えた。

そんな信長は熱を出しており、苦笑いをしながら口を開く。


「参ったね……こんな筈じゃ~無かったんだけど……」

「信長様ッ! 後は拙者達に任せて、城にお戻りください!!」

「勝家、こう言う時位は声を抑えんか。」

「香様、3G殿。 信長様を お早く……」

「わかりました。 さぁ、兄上……」

『お先に失礼しますぞ~。』×3

「みんな悪いね、手間掛けて……」

「いえ、お気になさらずとも。」

「ごゆっくり、御身体をお休め下されぃ!!」


戦いには参加しなかったにせよ、信長は無理に戦場に赴いていたようだ。

よって今は手を借りずに立ってはいるが、表情には覇気が感じられ無い。

そうならば、直ぐにでも城に戻って休む必要があり、彼は此処での後始末を勝家達に任せた。

何時もであれば最後まで残っていたのだが、今日は特別 彼の様態は芳しく無かったようだ。

そんな信長達が完全に去ってゆくまで、三人の武将は彼の背中を眺めていたのだった。


                  ランスⅦ
            ~魔人の娘 黒姫 其の6~


――――島津の城。


各々の役目を果たした4兄弟達は、大広間に集まっていた。

大抵女を侍らせながら行動する彼らなのだが、こう言う真面目な時だけに限っては、
必ず誰も女性を引き連れて来ない事から、彼らの仲の良さが窺えた。

そんな戦艦長門での戦い・及び戦後処理を終わらせた4兄弟達は、
ひとまず国境に偵察を置いて、一旦本城に引き返していた。

一万五千の大軍を動かすに当たって、そのまま次の領地に侵攻できる余裕は無く、
そもそも彼らの宣戦布告自体がイキナリだった為、それなりに彼らは忙しかった。

だが……有能である彼らは気にする事無く、こうして顔を合わせている。


「……イエヒサ。 毛利の動きはどうだ?」

「う~んと、ようやく出雲の西に部隊を集め始めたみたいだね。」

「赤ヘルには?」

「居ないよ、出雲にだけみたい。 それはそうと、やる気満々みたいだよ~?」

「やっぱりかよ。 まぁ、毛利だしなぁ。」

「だが……相手の作戦に注意を払う必要は無さそうだ。
 思った通りに動かれると、蹂躙のし甲斐が無いんだけどね……」

「トシヒサ。 毛利元就の力は侮れないらしいぞ?」

「確か馬鹿デカい化け物らしいんだよなぁ?
 それに関しちゃあ、トシヒサの鉄砲部隊に任せるって事で良いんだよな?」

「ふふ、任せてくれ……」

「あ~……毛利元就の事なんだけどさぁ、何だか"その必要"は無くなっちゃったみたい。」

「……何だって?」

「アイツが"呪い付き"だったって事だけど、その呪いが"落ち"ちゃったみたい。」

「ほう。」

「おぉ~ッ。」

「…………」

「あはは、だからトシヒサ兄ちゃんが考えた作戦、無駄になっちゃったね~。」

「な、なんて事だ。 敵将を討つ……その大役を任され、
 ずっとそれだけを考えた結果、最も無害で華麗な蹂躙方法を考えたと言うのに……」


本城に戻ってからは主に、ヨシヒサは内政関連・カズヒサは軍事関連。

そして、イエヒサは毛利の動きの監視を中心に行っていた。

勿論アギレダを初め、他の家臣達も内政や軍事を行っていたのだが……

トシヒサだけは強力な人間である"毛利元就"を討つ為の作戦をひたすら考えていた。

だが元就が元の姿に戻ってしまったので、実行できないのは勿論、内容も割合するとしよう。


「ま~ま~、気にすんなって。」

「そうだぞトシヒサ。 どちらかと言えば"良いニュース"なのだからな。」

「仕方ないな……不本意だけど、そう思う事にするよ……」

「では話を戻そう。 イエヒサ、毛利の数はどうだ?」

「えっと、それに関してだけど……"悪いニュース"になるかもね。」

「構わん。 言ってくれ。」

「うん……聞いたところによるとね、2万前後だってさ~。」

「ゲぇッ、二万ん!? 毛利のほぼ全軍じゃねぇかッ!」

「参ったね……何処にそんな兵が……」


毛利の全兵力は、約2万前後。

戦艦長門では不意を突いたので1000名にも満たない数だった事から、
残っているのは少なくとも、19000前後の兵数と予測できる。

しかし、それはあくまで"全軍"であり、常識的に考えるのであれば多少は減るハズだった。

毛利は姫路を攻めたばかりであるし、いくら明石が著しく兵力を失ったとは言え、
数千名の兵を姫路と出雲の境に残しておくのは定石だろう。
(島津の全兵力は15000だが、隣接敵国が毛利だけなので全軍を出せる)

実際に油断の為に戦艦長門を落とされているのだし、
4兄弟達は必ず明石の存在の為に、全軍では向かって来ないだろうと考えていたのだが……


「余分な兵を加えたワケじゃ無いみたいだよ? 全兵力で対抗してくるみたいだね。」

「明石と不可侵でも結んだのか?」

「うぅん、そういう話は今の所聞いてないけど……」

「結局どっちにしろ、厄介な事になっちまったなぁ~。」

「そうだね……数で負けないのであれば、勝負は最初から決まっているようなものだったのだが……」


いわゆる4兄弟達の予想では、"15000+呪い突付き元就"が毛利家の戦力だった。

そうなれば、呪い付き元就の脅威が無くなったと言う事で戦いが楽になったと言えた。

……だが、20000前後が相手だと判ると、また作戦自体を練り直さなければならない。

その時間はそんなに残されてはおらず、少し難しい顔をするイエヒサ以外の3人。

そんな兄達を見ながら、若干複雑そうな表情をしているイエヒサが気になったか、
ヨシヒサはタハコに火を点けると、彼に向かって表情を改めると言った。


「心配いらん、俺達は負けん。 黒姫の為にもな……」

「そうそう! イエヒサ、少し読みが外れただけでヘコむのは、お前の悪ぃ癖だぜッ?」

「へんだっ、ヘコんでなんか無いもんねっ!」

「まぁ……毛利さえどうにかすれば、JAPANの"半分"は貰ったようなものさ……」

「あぁ、東JAPANは未だに抗争が絶えないようだしな。」

「とっとと漁夫の利でも狙って、統一しちまお~ぜ~。」

「うんッ。 その為にも、まずは毛利だね。」

「そう言えば……噂の毛利三姉妹……後何ヶ月か貰えれば、
 戦わずして、毛利の領を我が領地にする事もできた だろうけど……」

「そうだな。 三人の内 皆、俺達 誰かの妻になった可能性もある。」

「でも、チンタラしてらん無ぇしなぁ~。」

「黒ねーちゃんの目を、少しでも早く覚ませてあげるんだいッ!」

「三姉妹を俺達の女にできるチャンスが、潰えた訳でも無いしね……」


15000対20000規模の戦い。

有能で優秀である島津4兄弟とは言え、それまで大きな戦いをした事は無い。

その為か少なからず緊張はあるようだが……黒姫の為にはそうも考えてはいられない。

一刻も早く"異人"から彼女を振り向かせる為、彼らは進まなくてはならないのだ。

しかし……4人は、彼女の心意に気付いている筈も無い。

黒姫の気持ちは"こんな事"では変わらないのは勿論……

モチベーションを保つ為の一環である、今回の口説き対象"毛利三姉妹"の存在も、
既に"魔人討伐"の為、ランス達の仲間に引き入れられたと言う事に……


……


…………


毛利の本城を出発し、明石領までやってきたランス達は、何時ものように宿を取った。

そんな彼らの此処での目的は、"明石の瓢箪"を入手する事だ。

だが毛利と違い、明石は先日の戦いで壊滅的な打撃を受けている為か――――


"毛利の瓢箪を手に入れられて、明石の瓢箪を手に入れられない筈無いだろ!"


……と、言う気持ちがランスには強く、他の者達も彼の感情に感化されていた。
(毛利3姉妹のうち、てる と きくは最初から同じ考えであろうが)

かと言って、話し合いの場は必要であり……7人のメンバーが部屋の居間に集まる。

そう難しくは無さそうだが、より少しでも楽に手に入る方法を考えるのだ。


「さて、二個目の瓢箪だ。 どうしてくれよう。」

「何とか話し合う事で、譲って頂けないでしょうか……?」

「ランス様、それが一番良いと思います。」

「だが、それだと"魔人"の事も話す必要があるだろ。
 戦力になりそうな奴(女性限定)が居ないのに、わざわざ言ってもなぁ。」

『確かにそうかもしれんな。 魔人の事が他の者の耳に入れば入る程、
 それだけ儂らが動き難くなるかもしれん。』

「きくちゃん、鈴女。 お前らが手っ取り早く、瓢箪を盗んで来るってのはどうだ?」

「ん~? また面倒ごと押し付けよぉってのかよ?」

「やろ~と思えば、できるかも しれないでござるけどね。」

「は~い☆ お茶をどうぞ~。」

「もう毒は入ってないだろうな? シィル、飲め。」

「あ、はい。 んくんくっ……」

「むむっ……ど~してそんなにアッサリと……」

「ちぬ、お友達に毒なんて入れたりしたいも~ん☆」

「何時まで気にしてんだよ? 大丈夫だからさっさと飲めって。」

「何だか腑に落ちんな。 ……ごくごくごく……」

「それじゃ~、鈴女(+きく)がパパっと盗んで来れば良いのでござるか?」

「あぁ。 大した奴は居ないらしいし、それで――――」

「待て。」

「おっ? てるさん、どうした?」

「我に術(すべ)がある。 これから姫路城に赴くぞ。」

「交渉するのか? 面倒そうだし、盗んだ方がなぁ~……」

「"瓢箪のみ"を手に入れるのであれば、盗みも一つの手段と言えよう……
 だが我は"魔人"とやらと戦う為に貴様らと同行すれど、毛利を捨てた訳では無い。」


此処まで来る迄に仕入れた情報や、鈴女の意見からすると、
明石に有力な武将は殆ど残っていないらしく、国主の暗殺すら難しくは無いらしい。

即ち"瓢箪"を手に入れるのも、鈴女ときくの実力であれば厄介では無いのだ。

そうなれば無駄に自分が動く必要は無く、明石の未亡人を狙ってみるのも良い。

ランスは黒姫に頼まれての"魔人討伐"の旅の最中であるが、
JAPANセックス旅行を楽しむ気は依然有り、全てを二人の忍びに任せようとしていたが……

居間の隅で腕を組んで立っていた、てる が何やら口を挟んできたのだ。

そんな彼女の言葉の意味が良く判らず、ランスは首を傾げながら てる を見上げて言った。


「どう言う事だ~?」

「これから元就は……毛利は島津と決する事となろう。
 そうならば、いくら弱国となったとは言え……明石の存在は捨て置けぬ。」

「瓢箪を盗んでも、残った兵はそのままでござるからね~。」

「だったら国主ごと殺っちまうかぁ?」

「き、きくさんっ。 瓢箪さえ手に入れば良いのですから、できるだけ穏便に……」

「はいはい。 わ~ってるよ、姫さん。」

「それ故に毛利が島津との戦いに集中できるよう、明石と交渉を行う必要がある。」

「何だか厄介な事になりそうだな~。」

「案ずるな、既に書状は送り付けている。 瓢箪とやらは、"ついで"に受け取るが良い。」

「そんなに旨くいくのか?」

「明石の今の状況からすれば、この上無く良い条件を記している。
 国主が余程の暴君でもない限り、抗われる事などありえぬ。」

「へぇ~、姉貴。 何時の間にそんな事……」

「てる おねーたま、ちゃんと おとたまの事 考えてたんだー。」

「それって、俺様も行かなきゃ駄目なのか?」

「貴様らが瓢箪を欲しければな。」

「ちっ、めんどい……」

「ランスさん、そう仰らず。 毛利の事は他人事ではありませんし……」

「まぁ、島津を抑えて貰うに越した事は無いしな~。 良しシィル、準備だ。」

「はいっ、ランス様!」

「姫路城に出発~ッ、でござる!」


てる の考え……それは明石を動かさない・邪魔をさせない事。

そうすれば毛利は島津との戦いに集中でき、全兵力を出雲の西に集中させれる。

島津4兄弟の予想に反して、毛利が全軍を対島津として置いてきたのも、
"これから"不可侵を結ぶ配慮があったからであり、まだその情報は彼らに届いていなかったのだ。

本来ならば3姉妹とも残って、島津を戦う事になっていただろうが……

彼女達は異人との戦いと言う"賭け"に負けたので、それを突っぱねる事はできない。

確かに"魔人"との死合いは面白そうだが、元就の事は心配なので、
せめて てる は元就達が全力で島津と向かい合えるように動くようにしたのだ。

だが……彼女に出来る事は"それだけ"であり、後は元就に全てを任せるしかなかった。


「てるおねーたまー。」

「何だ、ちぬ。」

「お茶飲んでー、冷めちゃうよー。」

「……うむ。」

「おとたまなら大丈夫だよー、そんな心配しないでー。」

「そうだぜ~、姉貴。 書状の事だって、何で言ってくんなかったんだよ?」

「…………」

「姉貴ッ?」

「きく、お前は忍びとしてこれから奴に命令を受ける事もあろう。
 そして ちぬ……お前は魔人や毛利の云々よりも、自分の体を気遣う必要があるだろう。
 故に……我がお前らに代わり、面倒事を引き受けてやっただけの事だ。」

「は~いはい、あんがとさん。」

「でもー、今度からは隠し事はなしだよー☆」

「…………」

「親父達なら大丈夫だって! 心配しね~でも勝つよッ。」

「そそ、ランスたま 強かったけどー、おとたまも すっごく強いもーん!」

「……そうだな。 (だが……どちらにしろ、元就は……)」


……


…………


――――明石家、姫路城。


「……っ……」


先の毛利家との合戦で大敗を喫した明石は、国主である"明石風雷"の他、
将来有望とされていた、次期国主予定の三人の息子達も戦死した。

それ故に元服(15歳になった)したばかりの"明石風丸"が国主となり、
彼を中心に連日"白鷺"と呼ばれる姫路城で、連日会議が行われていた。

……そんな風丸の元に届いた、一通の毛利からの書状。

それに目を通した風丸は、意外な内容に別の意味で驚いていた。


「如何なされました、風丸様?」

「毛利からの書状の内容は、如何に……?」


隠居していた筈の元家臣、阿部平三・朝比奈百万が声を掛ける。

すると上座の風丸は顔をあげ、家臣達に顔を向ける。

この仕草はまだまだ頼り無いモノだが、違和感を感じる者は一人も居ない。


「うん、それなんだけど……内容は、暫く不可侵を結びたいと言う内容だった。」

「な、何と!?」

「毛利め……どう言う事だッ?」

「どうやら、今は島津との戦いに集中したいらしい。」

「確かに島津も、大国ですからな。」

「だが、それこそ好機では? いくら毛利と言えど、挟めれば……」

「僕もそう思う。 でも……だからこその、不可侵だと思うんだ。」

「ふ~む。 ですが、信用できませんな。」

「私も平三に賛成です。」

「あの毛利を信用する気は、僕も無いよ。 けど書状にはこう書かれてる。
『これから"毛利三姉妹"が直々に交渉にやってくる』……と。」

「ま、誠ですかッ!?」

「本来ならば、我々が逆の立場だと言うのに何故……?」

「それはわからない。 だけど、受ける事で少しは今の状況が変わるかもしれない。
 だから……追い返さずに話してみようと思うんだけど、良いかな?」

「はっ、風丸様。」

「畏まりました。」


明石の兵力数は、老兵達を入れても2000名足らず。

徴兵を繰り返せばもう少しは増えるかもしれないが、それだけ明石は壊滅的な打撃を受けていた。

もし、毛利が何も言って来ないで島津との戦いを始めても、
当分の間 明石は戦力の建て直しが必要であり、毛利を攻める事は無かっただろう。

それなのに、毛利三姉妹が直々に交渉に来る……これは意外だった。

まだまだ国主として、武士としての経験が足りない風丸にとっては深い意味は判らず、
そんなに動揺していない様子だが、歴戦の老兵達は色々と考えてしまう。


――――三姉妹のいずれかと、風丸との結婚が目的か?


――――島津との戦いが終われば、直ぐ様滅ぼしに来るつもりか?


――――謁見の時に、風丸の命を奪うつもりなのか?


その他にも様々な考えが浮かんで来たが、あの毛利の思惑など読めない。

故に、風丸の知らないところで……老兵達は静かに熱く、警戒を高めた。

……しかし、それらは思い過ごしであり、書状は毛利ではなく、
むしろランス達から……いや、毛利てる から送られた物である。

彼女を初め、毛利三姉妹が出雲を離れていなければ こんな事はしないのだが、
明石が攻めてくる危険性は ほぼ無いにせよ、僅かにでも可能性がある限り、
確実に確率をゼロにする事で、少しでも元就の為になろうと考えていたのだ。

実際の目的は"瓢箪"だが、島津と戦えない てる が元就に行える、唯一の親孝行だった。


……


…………


――――織田家、織田城。


「どうですか? 兄上。」

「うん、大分良くなったよ。」

「ほっ。 良かったです。」

「ありがとう、迷惑掛けたね。」

≪ぽんぽん なでなで≫

「あうっ、それより私によりも……」

「そうだね。 勝家やお乱達にも、お礼を言っておかないとね。」


城に戻ってから二日後……信長は、自室で横になって体を休めていた。

傍には香姫の姿があり、ずっと彼の看病をしていた。

そのお陰で大分 信長の様態は良くなり、今は上半身を起こして香姫と話をしていたのだが……


『信長様ーー!! 香様ーー!!』×3

「ん? この声は……」

≪――――すぱんっ!≫ ←襖を勢い良く開いた音。

『大変ですじゃーーっ!!』×3

「何なの? 3G、兄上の頭に響きでもしたらどうするのっ?」

「香、俺は大丈夫だよ。 それより3G、どうしたんだい?」

『はっ、それが……』

『厄介な事に。』

『伊勢の"原家"が。』

『宣戦布告をして来ましたッ!』×3

「!? そ、そんなっ……」

「3G、もう少し詳しく。」

『どうやら、足利からの誘いに乗ったようですな。』

『原家には"超神"の妹、"亜樹姫"が嫁いでおります。』

『それ故に、"原 昌示"殿は……』

『動かざる得なかったのでしょうな。』×3

「成る程ね。 それで、数は?」

「あ、兄上!? ……と言う事は、まさか――――」

『……お察しでしたか。』

『既に原家の軍勢が、尾張の領内に迫っておりまする。』

『その数、1500名。』

『原家の約4分の3の兵数になりますな。』×3

「そうか……足利にしては1000人で攻めて来たのは少ないと思ったんだけど、
 やっぱり原と挟んで来るのが目的だったのか~。」

「ど、どうしよう……勝家さん達はまだ、戻って来ていないのに……」

「3G。 兵はどれくらい動かせる?」

『二部隊・約750程かと。』×3

「そうだった、後は利家と長秀しか残ってないから……二人に頑張ってもらうしかないね。
 ハチスカ殿には合戦の準備を頼んでしまったし、滝川殿は足利に斥候してる最中だし……」

「で、ですがそれだけでは……」

「やるしかないよ。 少しの間だけ持たせれば、みんな戻ってくるだろうしね。
 3G……そんな訳だから、勝家達に直ぐに伝令を送って。」

『ははっ! ただちに!』


――――休んでいたのも束の間。


足利に続き 原家も織田に宣戦布告をして来たようで、3Gの言葉に驚きを露にする香姫。

信長は平然としているものの、内心では勿論 彼は頭を痛めていた。

ある程度 予測はしていたのだが、結局何も手を打たなかった 浅墓な自分に対して。


「信長様ーー!! 香様ーー!!」

≪だだだだだっ!≫

『なんじゃ? えっぢ。』×3

「尾張の北東から軍勢がやって来ておりますッ、その数1000前後!」

「今度は何処? 足利の新手か、徳川が動いたのかな……?」

「そんな、兄上……ど、どうすれば……」

『うぅむ、何と言う事じゃ。』

『こうなれば。』

『一部の領地を。』

『捨て置く必要があるかもしれんのう。』×3


だが……それだけでは済まなかった。

更にもう一つの勢力が織田に向かっているようであり、もはや絶体絶命だ。

尾張はそれなりに広いので一度で全てを手に入れられる事は無いが、
自分達の国が侵されるのは、決して良いモノでは無い。

かと言って足利家と原家だけでも手一杯であるのに……それ以上抗う事はできない。

そうなれば、戦わずして一部の領地を放棄する必要があるのだが――――


「いえ、向かってくる"もう一つ"の軍勢は、敵勢力ではありませんッ。」

「えっ……」

「なんだって?」

『どう言う事じゃ?』×3

「上杉軍です!!」


――――続く――――


ランスLv46/無限 シィルLv36/80
黒 姫Lv33/99 鈴 女Lv40/49
毛利てるLv35/47 吉川きくLv34/42 小早川ちぬLv33/50


島津 15000名
毛利 19500名
明石 2000名
織田 1800名
足利 8000名
原家 2000名
伊賀 1500名


●あとがき●
今更ですが、黒姫の私は"わたくし"と読んで頂くのが正解です。(ゲーム中では平仮名ですね)
今更ですが、エロシーンは殆ど無いと思いますので、期待しないでください@w@;
さて、私が個人的に思うに、てるさんは かなりの父親思いだと予想できますね。
上杉軍(謙信)は早めに出したいので、明石編はあっという間に終わると思います。
相変わらずスランプ気味なのでイマイチだったと思いますが、次回も宜しくお願いします。



[2299] ランスⅦ ~魔人の娘 黒姫 其の7~
Name: Shinji
Date: 2007/03/03 10:29
――――上杉家。


多くの女性武将が集まっている、一言で述べれば正義の国。

基本的に女性の地位が高く、主要武家の多く(約七割)も女性家長。

場所は佐渡に位置し、金山がある為に豊富な資金力を持っている。

故に東JAPANの治安を乱そうとする勢力は許さず、野心ある国とは常に敵対している。


「どうやら、間に合ったようだ。」

「そうですね。」

「やはり、愛の予想は当たったな。」

「今の足利の勢力と織田の状態を考えると、この程度の洞察は安易です。」

「そんな事は無い、流石は愛だ。」

「はいはい、どうもどうも。 でも、それよりも大変だったのは、この遠征の準備ですよ。」

「準備……?」


その上杉軍が今回 守ろうとしているのが衰退の一路を辿ろうとしている織田家であり、
今回 成敗しようとしているのは、弱者を滅ぼし勢力を拡大してきている足利家・そして原家。

今迄は一国にも満たない領地が、武田家に滅ぼされるのを止める事が多かったのだが……

こうも尾張のような大きな国の助けに入るのは、初めての事であった。

それに、此処まで遠くの距離を行軍させて来たのも初めて であり、
上杉家の参謀である"直江 愛"は裏で随分と手を尽くしていた。

逆にJAPAN最強の剣士である"上杉 謙信"は"何で?"とでも言いたそうな目で愛を見る。


「部隊の編成そのものには時間は掛かりませんでしたけどね。
 暫く上杉を留守にする事から、武田に妨害工作をさせておいたり、
 巫女機関を通る為に"うし車"を手配させたり、足利に察され無いように工作したり……
 とにかく色々と手を尽くした事から、此処まで来れているんです。」

「そうだったのか……すまない。」

「はぁ……貴女にJAPANの状況を把握して貰うのも大事ですから、
 織田が危なそうな事を告げた だけだったのに……
 "良し、助けに行こう"と言い出した時は、開いた口が塞がりませんでしたけどね。」

「だが、織田は"妖怪大戦争"でJAPANを救い、大きな功績を残した国だ。
 そう易々と滅んでゆくのを見ている訳には ゆかぬ。」

「それは否定しませんけど。」


……といった会話を交わしながら、丘の上から前方に広がる様子を見る二人。

数で大きく劣ろうが、尾張を守ろうと軍を展開させている織田軍。

そして倒すべき 原軍は、突然現れた上杉軍の"毘"の旗に動揺している様子だ。

織田側は事前に"えっぢ"等が彼女たちの接近に気付き、
部隊は既に報告を受けているので、特に気にしている様子は見られない。


「どちらの軍も見るのは初めてだな。」

「織田の兵の訓練は、思った以上に行き届いているようですね。」

「うむ。」

「では、そろそろ始めなければなりませんが。」

「愛、この状況はどう見る?」

「そうですね……数で勝っている事ですし、下手な小細工は無用。
 貴女の一番"得意"な方法で良いと思いますよ?」

「……そうか。」

≪つつつ……≫ ←謙信に近付く愛。

「それにしても、今日のあんたはヤケに慎重ね。」 ←この時点で幼馴染口調にチェンジ。

「当然だ。」

「なんで?」

「あの信長殿の危機とあらば、少しは慎重になると言うモノだ。」

「えっ? まさか……(恋!?)」

「何せあの方ほど美味な"団子"を作れる者は居ないと言うからな。」

「はぁ~? ……ってあんた、それなの? もしかして、それが目的だったの!?」

「そんな訳は無いだろう。」


この時点で愛は、いっつも直ぐ様 敵陣に突っ込んでいくハズの謙信を変に思った。

……何時も とは違って"慎重"であり、愛に作戦があるなら聞こうと 確認したからだ。

本当なら謙信が突っ込んで行く事を前提で"手"を考えている愛なのだが、
彼女が作戦を聞いて来た事を妙に感じ、謙信に近付くと口調が急に変わった。

この二人は小さな頃からの付き合いであり、これが本当の会話の交わし方なのだ。


「でも、どうして私も知らない事をアンタは……」

「私用で尾張に赴いていた、勝子と虎子が言っていたのだ。
 何故か彼(信長)が茶店で作っていた、団子の味は素晴らしく……
 最後の一本をめぐって、斬り合いになる程のモノだったらしい……」

「……仲の悪さもそこまでいくと、笑うしかないわね。」

「その噂の団子……私も是非、食べてみたい。」

「ふ~ん……って、あんたがいきなり変な事 言うもんだから、目的を忘れ欠けたわ。」

「変な事を言ったつもりは無いが。」

「いいから! そろそろ合図を出して!」

「わかった。」


≪ザッ……≫


大食漢である謙信が、信長の作った団子が気になる……と言っても。

彼女は慎重になるだけで、織田を助けに行くと言う結果は同じだっただろう。

さておき、愛が団子的な空気を元に戻すと、謙信も気持ちを切り替える。

だが今までの会話は他の者には聞こえていない為、戦場そのもの の雰囲気は変わっていない。

よって謙信がカタナを抜き 前に歩み出ると、整列していた女武士達も戦いに備え 身構えた。


「――――いざ突進!! 毘沙門天の加護ぞある!!」


直後 謙信はそう叫ぶと、一直線に原の軍勢にへと突進してゆく。

その素早さ……及び気迫は、まさに軍神。

JAPAN最強と呼ばれている剣士の姿が、其処にあった。


                    ランスⅦ
              ~魔人の娘 黒姫 其の7~


……一方、その頃。

てる の提案で明石と交渉する事となったランス達は、姫路城へと赴いた。

謁見をするのはランス・シィル・黒姫・毛利三姉妹であり、鈴女はこの場に含まれていない。

よって6名での入城となったワケなのだが……


「城自体は立派だな~。」

「そうですね、綺麗です。」

「別名"白鷺"……JAPANのお城では1・2を争う美しさですから。」

「今の兵達はいささか、美に欠けるようではあるがな。」

「へへっ、ブッ潰したのは あたしらだけどな~。」

「あはは、それ聞こえたら刺されちゃうよー☆」

「……って言うか、毛利の兵隊だってチンピラばっかじゃね~か。」

「それにしても、凄い警戒ですね……ランス様。」

「そうだなぁ。」

「それだけ、私達を警戒しているのでしょう。」


ランス達は、かなりの老兵達に囲まれながら歩いていた。

数は約4~50名……中には鉄砲を持った者もおり、それだけ毛利を危険に思っているのだろう。

毛利3姉妹は明石の兵を大勢 殺しているので憎まれるのも仕方ないが、
ランス・シィル・黒姫は明石とは何も関係は無いので、何だか腑に落ちない。

……かと言っても、毛利の城の中を案内されていた時よりは、プレッシャーは劣っている。

よってシィルと黒姫は そんなにビクビクしておらず、順応とは恐ろしいモノだ。

それをどう勘違いしてか、明石の兵達は女性であってもビビらない様子に内心肝を冷やしていた。


……


…………


「貴殿が、明石風丸か?」

「はい。 出雲からの赴き……ご苦労様でした。」

「労いの言葉、感謝しよう。」

「では早速、本題に入りますが……」


そして数分後、ランス達は少年国主"明石風丸"と対面していた。

彼の傍には"安部 平三"と"朝比奈 百方"を初め、数人の直属の年老いた家臣。

また生き残った20名ほどの屈指の若い武士がランス達を挟んでいた。

しかし一番前に出ている てる は雰囲気に押される事も無く、早速会話を始めていた。

立場上 必要は無いハズだが跪いており、この交渉は必ず成功させたいのだろう。

ランスに至ってはその場で胡坐をかいているが、"異人"という まれな者である事から、
敵として見なして良いのか判らず 扱いに困り、特に何も言われていない。

だが、それも妥当……警戒するべきは毛利三姉妹であり、彼女達こそ明石の敵なのだから。


「……うむ。 我等 毛利と、明石の不可侵条約についてだ。」

「やはり、この書状に間違いありませんでしたか。」

「こちらが出す条件も、記された通りだ。」

「では確認しますが……不可侵を結ぶと言う代わりに、
 "中っ国"を明石の領として頂けるという内容に、相違はありませんか?」

≪ざわっ……≫

「二言は無い。」

「こんな状況で言うのも何ですが、少し条件が……」

「良過ぎると言う事か?」

「はい。」

「……だが、貴殿も知っていよう? 隣接する"死国"で起こっている状態を。」

「"タクガ"と名乗る勢力が……動き始めたという事ですか?」

「そうだ。 不穏な動きを見せているが、生憎 我等は島津との戦(いくさ)で、
 様子を詳しく調べる事や、余計な兵を送る事はできぬ。
 だが"タクガ"が"中っ国"を手に入れたならば、明石にも危害が及ぶだろう。」

「……確かに。」

「とは言え……貴殿らは我等と停戦すれば、調べを出す程度はできよう。
 場合によっては交渉し タクガと結ばらば、勢力の拡大も可能となろう?」

「その結果、明石が毛利を轟かす勢力となろうとも……?」

「ふっ……それは貴殿の腕次第だろう。 再び死合うのも、望むところではあるがな。」

「…………」

「それでは問おう、停戦の程は如何に?」


――――不可侵条約を毛利と結べば、明石に"中っ国"を与える。


その言葉を聞いたとき、明石の者達の間で どよめき が聞こえた。

先日 てる が言っていた"この上無く良い条件"とは、この事だったのだ。

しかし……会話の中で出て来たのが死国の新勢力、タクガ。

てる は死国で彼等が動いている事に気付いていたのだが、今の毛利は あのような状況。

よって、明石に厄介事を押し付けるような意味で領土を差し出すことにしたのだ。

そうならば島津との戦いの最中、タクガ・明石 両国の邪魔立ての可能性はゼロになるからだ。

これは ある意味、策略……てるは あのチンピラ集団を纏めている三姉妹の長女であり、
コソコソと動いているタクガの動きに気付いていない訳では無かったのだ。

対して明石側だが……もし、此処で停戦を断ったとすれば、
後に毛利(場合によっては島津)と"中っ国"を占領したタクガと同時に戦う羽目になるかもしれない。

逆に中っ国を手に入れる事ができれば、風丸の言う様 勢力の拡大を図る事が可能だ。

だが最悪、タクガに滅ぼされてしまう事も考えられるが……

"死国門"がある時点で今の戦力でも格段に有利であり、旨く交渉をすれば手を組めるかもしれない。

つまり、明石を立て直す事ができる可能性が見えてくるのだ。

……それらの事を、書状に"中っ国を譲る"と記してあった事から、
風丸は死国の情報を参謀(平三・百方)に調べさせていたので、分かっていたのだ。

そうなれば……明石の国主として、答えは一つダケである。

今でもかなり無理をしているのだが、部下達が見守る中、
風丸は国主としての威厳を保つ為、数度目の踏ん張りを 心の中で利かせる。


「わかりました、毛利との停戦を受け入れましょう。」

「有り難い。 中っ国の兵は既に引かせておる、後は好きにするが良い。」

「はい……じゃあ、平三。 例の物を出して。」

「はっ、風丸様。」

「……(明石の家宝ではあるが……仕方あるまいな。)」

≪コトンッ≫

「これが、約束の瓢箪です。」


……かくして、てる の明石との交渉は終了した。


……


…………


姫路城 謁見の間。

交渉が終わった其処には人の姿は少なく、風丸・百万の姿だけがある。

政務に慣れていない風丸にとっては、"毛利 てる"と向かい合っていたダケでも厳しいのに、
謁見"そのもの"でもかなりの神経を使ったようで、今は溜息を漏らしていた。

そんな立派といえる彼を、"朝比奈 百万"はしっかりと気遣う。


「風丸様、お疲れ様でした。」

「ふぅ……ありがとう。 ところで、平三は?」

「若い者達を集め、中っ国へ向かう準備をしておるようです。
 年甲斐も無く張り切っておるようですな。」

「頑張ってるなぁ……それにしても、毛利か……」

「色々と警戒しておりましたが、特に怪しい行動は皆無でしたな……
 尾行している者からの情報によると、何故か東の方へ向かっている様なのですが……
 あやつら一体、何を考えておるのでしょうな。」

「今度は種子島とでも交渉をしに行くのかな……良くわからないね。」

「はい。 連れの中には"異人"もおりましたし……意図が全く読めませぬ。」

「だけど、今は明石を立て直す事の方が大事だよね。
 "タクガ"の事もあるし……これから もっと忙しくなりそうだ。」

「そうですな、風丸様。 くれぐれも無理はなさらぬ様。」

「うん、百万達もね。 ……あぁ、尾行は見つかったら厄介だし、深追いは止めるようにして。」

「ははっ。」


……


…………


――――伊勢、原の城・天守閣。


足利の誘いを受けて仕方なく織田を攻めた原家。

かと言って織田を倒せば一部の領地を貰えるとの事だったので、それなりに意気込んではいたが……

突如現れた"上杉軍"の増援により、原の軍勢は大きな打撃を受けてしまった。

それにより骨折り損となってしまった事となり、"原 昌示"は頭を痛めていた。

そんな彼の近くに現れた"亜樹姫"は、怪訝そうな表情で昌示を見て言う。


「負けたそうですね。」

「う……うむ。」

「不甲斐ない……全く、あれだけ追い詰めておきながら……」

「だ、だが仕方無いだろうッ? あの"上杉謙信"が現れたのだぞ!?」

「…………」

「そもそも阿樹、お前が兵を出せと申したから――――」

「言い訳は聞きたくありません。」

「……っ……」


亜樹姫、世間知らずな浪費家。

異常な美的感覚を持った兄の超神に、昌示が"美男子"と言うだけで嫁に出された姫。

ある意味、不幸ではあるが……原家では好き放題しているので、そうでも無いかも知れない。

夫に対しては……超神の価値観が異常なだけで、阿樹に昌示への愛は無い。

それなのに昌示は阿樹の美しさに夢中になっており、原家は衰退して行っていた。

その立て直しになると思われた今回の織田家への侵攻も失敗し、既に出奔した武将も居る。

本来ならば原の最大兵数は3000程であり、その人数を投入すれば まだ勝てたかもしれないが、
阿樹姫の浪費の所為で軍の数だけでなく、質も著しく下がっていたのだ。


……そんな原家を、"彼"が放って置いている筈は無かった。


≪――――スタッ≫


「自ら墓穴を掘ったな……原家の国主よ。」

「ッ!? ……何奴だ!?」

「きゃっ!」

「……忍者王 犬飼、推参。」

「に、忍者王だと? まさか、伊賀の……」

「いかにも。 ……"原 昌示"よ、年貢の納め時だ。
 妻に骨抜きにされた挙句、民の事を考えぬ圧政……"我々"が制裁を与えよう。」

「くそっ……曲者だ、であえぃ!!」

「無駄だ。」

≪――――ガブッ!!≫

「ぐぉ……ッ!?」


突然、二人の前に降り立った 忍者王 犬飼。

どうやら昌示を消しに来た様で、武器を構える。

それにより一歩引いて部下を呼ぶ昌示だったが、それよりも早く犬飼は、
何時の間にか現れていた"わんわん"をけしかけ 噛み付かせた。

その直後、犬飼も人間離れした素早い動きで昌示に突進し――――


≪ドスッ!!≫

「……成敗。」

「ぐふぅっ!?」

「…………」 ←無言で短刀を胸から抜く。

≪ずっ……≫

「あ、阿……樹ッ……」

≪――――どっ≫


短刀を左胸に突き刺すと、昌示は阿樹姫の名を漏らして倒れた。

もはや動かず 死んでいるようで、国主らしからぬ 呆気無い最期であった。

その亡骸を、阿樹は呆然と見下ろしていたが、直ぐ様 犬飼から距離を置いた。

だが……思いのほか、彼女はそれなりに冷静だった。


「……どうやら、原も終わりの様ですわね。」

「その通りだ。」

「――――犬飼様。」

「お前か、状況は?」

「はっ。 原の家臣の協力もあり、上層部は手中に治めております。
 伊勢が伊賀の物になるのは そう時間は掛からないかと。」

「そうか、よくやった。」

「この女は如何致します? 話によれば、この女狐めが原家 衰退の元凶と聞きまするが……」

「わ……わたくしは 足利の姫ですわよ? 忍者とて、女子供の扱いは心掛けているのでしょうね?」

「無礼な、犬飼様は一国の主で おられるぞッ!?」

「……(ここで始末するのも良いが、いずれ足利と戦う事となれば、少しは使い道があるかもしれぬな。)」

「犬飼様?」

「その女は捕虜としよう、連れて行け。 原の衰退は国主に器量が足らなかったと言う事だろう。」

「ははっ!」

「きゃ!?」

「殺しはせぬ……だが、贅沢な浪費も此処までだ。 暫くは牢で頭を冷やす事だな。」

「くっ……」

「さぁ、来いッ!」


忍者としての犬飼であらば、恐らく彼は阿樹を殺していたかもしれない。

だが彼は忍者と言えど今は立派な"国主"であり、
少しでも彼女が伊賀の為に"使える"のであれば、利用する事も必要だ。

その為、犬飼は亜樹姫を連れて行かせると、入れ違いで原家の家臣が天守閣に入って来た。

昌示が部下を呼んだ筈なのに未だに誰も現れないのも、彼等が手を回していたからだ。

……それだけ、昌示は信頼を失い、民に慕われていた国主の面影は無かったのである。


「――――犬飼殿。」

「そなたか。」

「これで、宜しかったのですかな?」

「ああ、お陰で既に片付いた。」

「そのようですな。 ではこれで……」

「うむ、このまま伊勢は伊賀忍の支配下となるが……圧政の解除と、民の安全は保障しよう。
 出奔するのであれば、無闇に止めたり等はせぬ。 何処へなりと行くが良い。」

「有難き事です。 ですが、私含め……多くの者は留まると思われます。
 我々の力であれば、犬飼殿のお役に立てて下され。」

「……感謝する。」

「それでは、私はこれから やる事があります故。」


こうして、原家は伊賀家に滅ぼされる事となった。

しかし……多くの武将は残り、心を改めて伊賀への忠誠を誓った。

全ては伊勢の民……そして、新しき国主 犬飼の為に。

そんな理想に燃える男 犬飼は、天守閣に一人だけとなると、伊勢の景色を見ながら嘆いた。


「さて、そろそろ鈴女も戻って来るだろう。」

「わん!」

「きゃん。」

「くぅ~ん。」

「島津の動きの意図……分かれば良いのだがな。」


……


…………


――――尾張、織田城。


上杉軍の活躍で原家を追い払っただけでなく、かなりの打撃をも与える事ができた。

よって反撃の機会有りか!? と思っていたのだが……数日後、直ぐ様 入って来た報告。

前途の通り"原家が伊賀に滅ぼされた"と言う事であり、その手際の良さに驚く織田家。

また……上杉の者(謙信と愛)にとっても、伊賀の動きに対し同じ心境であった。


「……やられましたね。」

「忍者王、犬飼……」

「"漁夫の利"って言うのを、持ってかれちゃったねえ。」

「ですけど兄上。 尾張を守れたんですし、此処は喜んでおくべきです。」

『そうですぞ。』

『これも上杉軍の方達のお陰。』

『いやはや。』

『謙信殿と直江殿には、感謝しても し切れませぬ。』×3


今現在は、信長・香姫・謙信・愛・3Gが謁見の間で顔を合わせていた。

他の者達は皆 忙しく駆け回っており、織田は明石のように大事な時期だった。

足利と交戦状態になった今……不本意であれど、戦力の補強をしなくてはならないからだ。

しかし、信長は相変わらず落ち着いており、それが少し妙に感じた直江 愛。


「そうだね、これで織田は暫くは安心だよ。」

「そうですか? 原が滅びたとは言え、伊賀の勢力が拡大した事になりますが。」

「そ~なんだけどね、何となく 伊賀が織田に手を出してくる様子が感じられないんだよ。」

「何故ですか?」

「頻繁に忍びを放って来ては いるようなんだけどね……
 犬飼も、まだ迷ってるんだと思う。 代々仕えていた織田を、本当に裏切っても良いのかって。
 本気で織田を潰したいんだったら、原と同じタイミングで織田に攻めて来れば良かったんだからさ。」

「確かに、そうですね。」

「ところで、直江さん。 早く佐渡に戻らなければ危ないのでは無いですか?」

「……それに関しては大丈夫らしい。 愛が色々と手を尽くして くれている。」

「はい、それはもう沢山と。」

「よって……もう暫く上杉は織田に世話になろうと思う。」

「今のうちに、少し足利を叩いておくのも良いですしね。」

『おぉ~。』

『それは有難い!』

『軍神である上杉謙信が居られる間は。』

『足利の軍勢など、恐れるに足りませぬぞ!』×3

「ははははは。 織田も上杉に負けないようにしないとね。」

「と……ところで、信長殿……」 ←急に もぢもぢ としながら。

「なんだい、謙信殿?」

「貴方は、団子を作るのがとても……」

「――――信長殿!」 ←明らかに声のボリュームが高い。

「んっ? 直江殿?」

「失礼ながら最近、病に伏せがちとお聞きしましたが……今 御身体の程はどうなのですか?」

「あちゃ~、俺の病気の事は他国にまで知られていたのか……恥かしいなあ。」

「団子……」

「――――そんな事はありません!」 ←明らかに声のボリュームが高い。

「ひゃっ。」 ←声に驚く香姫。

「知っていたのは、偶然ですから。」

『おお。』

『直江殿ッ。』

『信長様のお気遣い迄をもして頂けるとは。』

『重ねて有難い限りですな。』×3

「全くだね。 こうなったら、おちおち臥せってもいられないな。」

「だん……」

「――――香姫殿!」 ←明らか声のボリュームが高い。

「は、はい?」

「まだ元服していないと言うのに、織田を纏めてゆくのは、お辛くはありませんか?」

「そ……そんな事はありません、全ては尾張の方達の為ですから……」

『お……』

『おぉ~。』

『香様ッ。』

『立派で御座いますぞ!』×3

「私も肖りたいですね、謙信様には色々と苦労を掛けられていますから。」

「…………」 ←恨めしそうなつもりで愛を見る謙信。


……この調子で謙信の言葉は愛に意図的にスルーされ続けたが、
数時間後・信長は快く謙信の為に、串団子をたっぷりと作ってくれた。

そんな彼の串団子を、謙信は50本食べた。

その時の彼女は すこぶる幸せそうだったが……愛の無体は、今だ根に持っていた。

二人に貸し与えられた部屋の中、無表情で愛を見つめる謙信。

何も考えていないような視線だが、チクチクとした感情は伝わってくる。


「……愛は酷い奴だ。」

「酷いのは あんたよ。 病を患ってる信長殿に、あんなに団子を作らせるなんて。」

「うっ……」

「それに、さっきのは団子の為ダケに織田を助けに来たって、
 思われないようにした だけよ。 その代わりに、私は随分と失礼な事を言ってしまったけれど。」

「…………」

「それなのに、あんたが あんなに食べるもんだから、意味無かったじゃないの。」

「…………」 ←恨めしそうなつもりで愛を見る謙信・その2。

「はいはい、そんな目で見ない。 私の分、取っておいたから。」

「!? やっぱり、愛は良い奴だ!」

「あんたは……"幸せ"なヤツよね……」


……


…………


明石領……姫路の右端。

瓢箪を手に入れたランス達は、明石を離れるべく東へ向かっていた。

足利と伊賀、まだどちらへ行くか決めていないが、それは今夜にでも決めれば良い。

毛利3姉妹にとっては当分、毛利に戻れなくなってしまうが、それも仕方無いだろう。


「これで2つになりましたね、ランス様。」

「うむ。 それにしても、てるさん……最初から"瓢箪寄越せ"って書いてたんじゃ無いのか?」

「ふっ……人数は多い事に越した事は無かった だけの事だ。」

「なんか納得いかん……普通に話も進んでたし。
 こんなんだったら、明石の未亡人でもレイプしてる方が良かったな~。」

「じゃあー、ちぬ が後でさせてあげよっかー?」

「おっ、良いのか?」

「うん☆ ちぬ エッチするの好きだしー、レイプでも何でもして良いよー。」

「がははははは、そうかそうか。 だったら明石の件はチャラにしてやるとするかな!」

「お~い、ランス。」

「ん? どうした、きくちゃん。」

「"どうした"じゃね~だろ? 消えたぜ、気配。」

「あぁ。 それじゃ~居なくなったって事か。」

「おうよ、ヘタクソな"忍び方"だったけどな。」

「んじゃ~……"ニイヌマ ケンジ"は。」

「鳩が好き~でござる!」

≪したんっ≫ ←着地音。

「うわっ? やっぱ居たのかよッ!」

「あはは、不思議ー☆」


歩みを進める中、きくは ようやく"気配"が消えた事をランスに伝えた。

何故なら、ずっと明石の"忍び"と思われる者が一行を監視していたからであり、
それだと大事な話は交わせなかったので、居なくなるまで警戒する必要があった。

明石の"忍び"達は気付かれていないつもりなのだろうが、
一流の忍者である きくには、気配を察するのは容易だったのだ。

それだけでなく、全ての忍びを始末する事も可能だったが……

そんな事をしてしまえば、停戦がパァになってしまうので、止むを得ず放置させておいた。

よってようやく監視が終わると、ランスは変な暗号を言い、同時に何処からか現れる鈴女。

流石にその気配には きくは気付けず、少し悔しそうな様子である。


「おう、生きてたか。」

「勝手に殺さないで欲しいでござるよ。」

「で……何か目欲しい物はあったか?」

「それなのでござるが……お金や装備も、大した物は無かったござるよ。
 進入自体はランス達が引き付けてくれたから、簡単だったでござるけどね~。」

「なんだ、つまらん。」

「ランス様、やっぱり"盗み"は良くありませんよ~。」

≪ぽかっ!≫

「やかましいっ。」

「うぅ、やっぱり……」

「けど、"こんな物"を発見したでござるよ。」

≪ごそごそ≫

「んっ? なんだ~、こりゃあ?」

「姫路城にあった"掛け軸の裏"に隠してあったんでござるが、
 "面白そうな事"が書いてあったので、持って来たのでござるよ。
 もう少し早く見せたかったでござるが、忍者が見張ってたので無理だったでござる。」

「ふむ……"ぬへ"だと?」

「聞いた事ね~なぁ。」

「ちぬ も知らなーい☆」

「うぅ……良く見えません……」

「まさか、これは……」

「知ってんのか? 黒姫ちゃん。」


それは、"秘密生体兵器・ぬへ"の隠し場所が書かれた文書だった。

長い時を生きている黒姫は何か知っている様子だったが、他の者がそれを知る筈は無い。

よって6名全員が、鈴女の広げた文書を覗き込んでいた。

それに興味が湧いたランスであったが……隠されている場所は"姫路城の近く"との事。

つまり"ぬへ"を見る為には、今迄 来た道を引き返さなくてはならず、
ランスはそれが"面倒だ"と言う理由で、ひとまず置いておく事にしてしまった。

しかし"ぬへ"とは(女性型)戦闘兵器……ならば、いずれ役に立つ事があろうと考え、
"隠し場所"を鈴女に覚えさせておき、ランス達は更に東へと進んで行ったのだった。


……


…………


その頃、織田では――――


「おっしゃぁ! 傾奇御免状貰ったぁ!!」

『おぉ、利家……』

『いや、前田 慶次殿!』

『遂にやりましたな!』

『これで、織田も安泰に一歩 近付いたじゃろう!』×3


……前田利家が歌舞いて、少しだけ戦力がアップしていた。


――――続く――――


ランスLv46/無限 シィルLv36/80
黒 姫Lv34/99 鈴 女Lv40/49
毛利てるLv36/47 吉川きくLv35/42 小早川ちぬLv34/50


島津 15000名
毛利 19500名
明石 2000名
タクガ 不明
織田 1400名(-400)*1
足利 7200名(-800)
原  滅亡
伊賀 2000名(+500)
上杉 4900名*2

*1 カッコ内の数値は前話比。
*2 内900名は織田家に存在。


●あとがき●
今更ですが、原作では黒姫はランスに"黒ちゃん"と言われておりますが、
何となく響きが例の芸人みたいで違和感があるので、"黒姫ちゃん"と呼ばせています。
謙信については、いい台詞がちっとも浮かんでこなくて一週間何も書けませんでした@w@
原家は犬飼様にあっさりと滅ぼされましたが、この様な感じでJAPANはガスガス動きます。
原さんは嫌いでは無いのですが、亜樹姫はまた出てくるので勘弁してやってくださいorz



[2299] ランスⅦ ~魔人の娘 黒姫 其の8~
Name: Shinji◆9fccc648 ID:37b9b89a
Date: 2008/07/31 07:28
              ラ ン ス Ⅶ 
            ~魔人の娘 黒姫~




――――天志教。


"なにわ"の地を支配する、この巨大な一宗教組織が、
実は"魔人を再び封印する為に存在する団体"である事は以前述べた通りだが……

現在は、むしろ表向きである"宗教組織として"の活動に忙しく、
今日もなにわの総本山には、参拝しに来る多くの信者や"僧"がやってくる。

そんな天志教の最高権力者であり、大僧正の地位を持つ"性眼"と言う男。

見た目は30歳前後ながら、既にこの地位について50年以上が経過している。


「……以上が、全国の今月の収支です。」

「うむ。」

「続いて、各 寺院の状況ですが――――」

「…………」


……場所は、総本山 本堂の入り口。

性眼は多数の天志教の使者達の前で、様々な報告を受けていた。

その情報量は多大にも拘らず、全て頭に入っている様子。

これも"大僧正"の成せる業なのか、現代日本の聖徳太子を思わせる。


「最後に、瓢箪についてなのですが……」

「どうした?」

「上杉・武田・北条に存在する瓢箪の無事は確認されました。
 ですが、残り5つの瓢箪の確認が取れていないようです。」

「何故だ?」

「恐らく戦(いくさ)の所為でしょう。 織田・足利は互いに。
 伊賀は原と。 そして、毛利・明石も戦の為、確認が遅れている模様です。」

「直ぐに確認を急がせろ。」

「はっ!」

「だが各 国主には、極力 刺激を与えぬよう接触しろ。」

「はっ、そのように。」

「ご苦労だった、下がれ。」

「ははっ!」


瓢箪の報告により、全ての伝達が終了すると、使者達は礼をして立ち去って行った。

実は瓢箪に置いては一年に一度とは言え、このように戦等があると"全て"の確認が遅れる事が多い。

その為、使者達は"毎年の事だ"と特に危機感を感じている事は無かったが、
性眼だけは"使命"を最も重く背負っている事から、それだけでも危機感を募らせる。

今は第四次戦国時代。 瓢箪の確認の時期と同時に多くの国が戦をするのも仕方無い事だが――――


「(復活する事など有ってはならん……絶対にだ。)」


だからと言って、"魔人"に対する警戒を微塵たりとも緩めるわけにはいかない。

性眼は"この様な年"には何時も浮かんで来てしまう嫌な予感を、
只の思い過ごしであればと思いながら、手に持つ鎌を静かに握り締めた。

魔人ザビエル……三度目の封印が施されて、はや510年あまり。

彼は天志教に置いて唯一 魔人に対抗できる存在であり、死ぬまでそれに対する使命を背負う者。




……




…………




宣戦布告してきた足利家に続き、原家の突然の攻撃をも凌いだ織田家。

この2つの勢力において、原家は伊賀に滅ぼされ脅威は無くなったが……

足利は今だ7000以上の兵力を抱えており、決して無視できない存在。

よって本日行われている評定においては、雰囲気が若干重いようだ。

さておき、今現在の評定には援軍に来てくれた上杉謙信・直江愛の2名……そして、
2人直属の部下である、数名の女武将も参加している。

特に、謙信と愛は上座の信長の前の最前列で跪いている勝家・乱丸の横におり、
同じ国主と言う立場でありながら、かなり礼儀を弁えている。

実は謙信の我侭で大量の団子を信長に作って貰った事で、愛が"こうした方が良い"と言ったのだ。


『以上、内政においては。』

『これで終わりじゃな?』

『では信長様。』

『此処からが本題ですぞッ?』×3

「兄上。」

「……そうだね。」

『足利をどうにかせねば、なりますまい?』×3

「うん、今回ばかりは攻められて"ハイそうですか"ってワケにはいかないよねぇ。
 ……っと、その前に……上杉の人達には、織田の評定なんて退屈じゃなかったかな?」


ふと信長は軍事評定に入る前に、謙信と愛の方を見て言った。

何も考えていないように見える彼だが、客将を労う事は忘れない。

対して謙信はその辺には疎いので若干首を傾げるが、愛は直ぐ様 言葉を返した。


「いえ、とんでもありません。 良い機会を頂け、有り難い限りです。」

「そう? それなら良かった。 じゃあ、話を戻そうか。」

「信長様! 今度はこちらから討って出ましょうッ!」

「落ち着け勝家、今の戦力ではどうにもならんぞ。」

「上杉軍の力を貸して頂ければ、勝機が見えてくるところなのですが……」

「あぁ、光秀。 そういえば言って無かったね。」

「……信長様?」

「皆さん。 この度の戦いは、軍神・上杉謙信さんが力を貸してくれるそうなのですよ?」

『おオォォォーーーーっ……』


光秀に対し、信長の変わりに香姫が言った言葉に、勝家を含む多くの武将が驚きの声を上げる。

……普通に考えると、2国をも挟んだ場所に位置する上杉家が、
圧倒的に不利と思われる織田家に加勢するメリットなど何一つないハズだ。

だが、こうして1000もの精鋭を率いて援軍に来てくれたダケでなく、
原家よりも一層激しくなると思われる、足利との戦いにも力を貸してくれるとの事。

故に皆 驚いているのだが、"謙信として"は当然の事をしているだけだ。

一国にも満たない多くの国を武力で支配する足利は"悪"であり、偽善では無し、
根っからの"正義"である謙信にとっては、絶対に叩いておかねばならない存在なのである。

かと言って、上杉本領からは浅井朝倉を挟んでいるので決して手は出せなかったが、
軍を駐屯させてもらえる事によって、直接 足利を討つ事ができるのだ。

その協力する国が平和を願う織田であれば文句は無く、謙信はそれなりに"やる気"なっていた。

実のところ信長の"団子"の効果も大きく、彼女は面を上げると言う。


「足利を倒す……目的は一致しております。 我等の力が必要であれば、何なりと。」

「あいにく、期間は限られていますけどね。」


当然 愛の言う様に、何時までも謙信が織田に居れる訳ではないのだが。

"彼女達"が協力してくれれば、織田の兵数はハチスカ・滝川隊を入れれば約3000名となる。

足利は7000名以上だが、彼らの兵は殆どが"見掛け通り"で大した練度では無い。

対して織田の兵の質は言わずともながら、軍神に加え上杉の精鋭などに至っては、
女性ながら武田との厳しい戦いを何度も経験しており、かなりのポテンシャルを持っている。

作戦に置いてもリーザスのどこぞの侍女のように、上杉家をたった一人で影で支える"直江愛"の存在。

それら故に足利に対抗するだけでなく、"叩ける"と言う道が段々と見えてきた。

……しかしながら、"足りないもの"も多々あり、それは先ず出てくるのが"財力"。

3000もの兵を戦の為に動かすには、即席に幾らかの"金"が必要となる。

一方 足利は金ダケは多く持っており、それが足利の勢力を伸ばせている事にも繋がっている。

だが会議の進む中、上杉も金山を有しており、直江愛の計らいで資金の援助をも若干受けられる事となった。

となると、今の織田に"足りないもの"でもう一つ上がってくるのが――――


「忍者、かぁ……」


溜息を漏らしながら言う信長。

現在の織田には、斥候の為の忍者の数が明らかに不足していた。

それは犬飼の独立の為であり、残った忍者は信長や香姫を守る数十名のみだ。

その数十名は前途の通り"絶対に居なくてはならない"忍者であり、斥候に行かせるワケにはいかないのだ。

滝川の忍者を斥候に回すのも良いが、それでは兵数は3000を下回ってしまう。

要は、2600名程度で斥候有りか、3000名以上で斥候が殆ど無しなのかの問題なのだが、
極力可能であれば、3000以上で斥候の情報を元に作戦を立てる方が犠牲者が少なくて済む。

3000全てが織田の兵ならともかく、3分の1近くは上杉の兵であり、無茶な戦いはさせたくない。

謙信は其処まで気遣って欲しくは思っていないだろうが、信長にとって彼女達は大切な客将だ。

故に、彼は"う~ん"と何やら長く考えると、自分に注目する全ての者に対して向き直る。


「……兄上?」

「今、俺なりに"織田の事"を思って考えてみたんだけど、聞いてくれるかい?」

「…………」(全員)

「え~っと、いきなりだと思うけど、これから――――」




……




…………




ところ変わってランス一行。

彼らは明石領を東に抜け、天志教が支配する"なにわ"を進んでいた。

しかし、何時までも当ても無く歩くワケにもいかないので、
7人のメンバーは、なにわ領内に入ってから初めて泊まる宿で今後の予定を話し合う。


「さて、次は3個目の瓢箪か。」

「近いところは、足利の"京"か伊賀の"大和"になりますね。」

「ランスさん、どちらにされますか?」

「それだったら、次は伊賀が良いと思うでござるよ?」

「そういや~お前の国だったんだよな。 持って来れるか?」

「それは"盗み出す"って事でござるか?」

「さっさと手に入れられるなら、それはそれで良いんだけどな。」

「む~……正直、厳しいでござる。 頑張ればできるかもしれないでござるが、
 成功しても鈴女だとバレてしまうでござる。 となると、抜け忍 確定でござるよ。」

「そりゃあ頂けねぇよなあ~。」

「……右に同じだ。」

「ちぬもー☆」

「明石みてぇにゃいかねぇだろうしな、そうなると"魔人"について話す事になるのか。」

「多分、そうなるでござるね。 犬飼様を誤魔化す事は難しそうでござる。」

「そんなら、足利にしとくかぁ? アソコならあたしでも瓢箪盗める自身あるぜ?」

「そうなのか、きくちゃん?」

「うむ……きく ならば可能だろう。 足利など、今や殆どが雑兵の集まりに過ぎぬ……」

「そういえばー、昔は将軍家だったみたいなんだけどねー。」

「……だが、一部の武将に限っては有能な者も居よう。 100%確実とは言い切れんがな。」

「それにランス様、此処最近 足利は織田と戦争を始めたみたいです。
 足利に行っても、あまりゆっくりできそうにはありませんね。」

「う~む……なら、どうするかなぁ……」

「犬飼様なら、多分 協力してくれると思うでござるよ?」

「なんか"多分"ってのが引っ掛かるぞ。」

「ぶっちゃけ、何考えてるか判らない人でもあるのでござる。」

「…………」


ゆくべき場所は、いまのところ伊賀か足利の2択。

普通に考えて、鈴女がやってきた伊賀の方がメリットが多い気がしたランスだったが、
織田を裏切って独立した野心家である犬飼を、男と言う理由も有って、彼は余り信用して無かった。

その為か、伊賀で足止めを食らう可能性等を考えてしまい、若干 足利にも傾いてしまった。

つまり渋っているようで、何となく黒姫の方を見てみると、彼女は黙って成り行きを見ている。

よってランスは再び考えた結果……どっちにしろ伊賀の瓢箪も入手する必要があるし、
何より鈴女が"良い女"で信用できる人間なので、結局 彼は無難な方を選ぶ事にした。


「まぁいいか。 次に目指すのは伊賀の大和だ、判ったな? シィル!」

「はいっ。」

「……あっ!」

「むっ? どうなされた、黒殿。」←てる

「黒姫ちゃん?」

「すいません、いきなりですが……天志教の"大僧正"に相談してみる手もありますね。」

「大僧正~?」

「はい、本来"天志教"とは魔人を封印する為の組織ですから……力を貸してくれるかもしれません。」

「ほほぅ。」

「ですけど……天志教の切り札は"封印"すれど、倒す為のモノではありません。
 それに、"今"の天志教については、私は判りませんから、どう転ぶかは……」

「手っ取り早く"魔人"を封印したければ、天志教も選択肢のひとつかもしれないでござるね。」

「ほう……」

「結局ど~すんだよ?」

「ちぬは何処でもいいよー?」


天志教と魔剣カオスを持つランス一行。

これはある意味、対ザビエルにおける必勝の組み合わせとも言える。

それなのに黒姫を除く6人のメンバーは、迂闊にもその重要性に気付いていない。

黒姫も黒姫で、天志教は勇者の力を借りようとも封印"しか"できないと言う認識がある。

封印当時は自分を救ってくれた救世主のような存在であったが、
500年以上 客将として暮らしてきた中、島津には瓢箪が無く天志教の者との関わりは皆無であり、
長い年月で重要性が薄れ、今や魔人を"倒せる"ランスを頼りにし過ぎてしまっていた。

既に何度も抱かれている事もあり、大きな自覚は無しに彼に全てを委ね様としてしまっている。

今 彼女が天志教の重要性をもっとアピールしていれば違っただろうが、ランスの考えは変わらなかった。


「ふん、宗教団体など信用できんわ。 このまま伊賀路線でいくぞッ。」

「そうそう、伊賀にしておくのが一番でござるよ~。」

「どうやら余計な事を言ってしまったようですね。」

「そうだな。 この国にゃ坊主ばっかだったし、さっさと通過したいと思っていたのだ。」

『それは儂も同意ー。 ……と言うか、魔人はやっぱ殺すべき。 絶対、何がなんでも。』

「ふっ……封印が目的では、まともに死合う事はできそうも無かろうしな。」

「まぁ、瓢箪集めの方が面白そうだよな~。」

「あはは☆ ちぬは何でもいいやー。」

「だったらちぬ、これから俺様と一発どうだ?」

「いいけどー。 ランスたま、絶対に一回じゃ終わらない気がするのー。」

「がははは、良く判ってるではないかっ。」

「お、お前等……そういう話は日が暮れてからやれよ……」


……こうして、真面目とも言い難い話し合いは終了した。

そして各々は明日の出発まで自分の時間を過ごすと、一行は"なにわ"を抜け"大和"へと入る。

あくまで自分達の力で魔人を倒すべく、瓢箪集めを続けるのである。




……




…………




「中止~? どう言う事だよそりゃ!」

「落ち着けよバカ、今説明するからよ。」


陸を疾走するの、陸。

土地を作るという意味で、拓。

その二つの文字から生まれた流刑地・死国の新勢力――――タクガ。

新勢力……と言っても、1000名にも満たない兵力ではあるが、
絶えず鬼が出現し、資源も何も無い地獄のような場所で生き延びている猛者たちだ。

そんなタクガのリーダーとなった少女(?)の坂本龍馬は、
親友であり喧嘩仲間である、左目に眼帯をつけた"川之江譲"と何やら話している最中だった。


「"死国門"の門番が明石に変わったぁ!?」

「バッ……声でけぇぞ! 仲間に聞こえたら士気に関わるだろうがッ。」

「わ、悪ぃ。 ……って、何で士気に関わるんだ?」

「判んねぇのかよ、バカ。」

「!? バカバカうっせぇんだよ、このダボっ!」

「龍馬、譲! いい加減にしなっ、話が進まないじゃないの。」

「美禰。」

「ありゃ、何時の間に。」

「で、龍馬……明石に変わったから何だって言うのかしら~?」

「ん? あぁ……毛利の奴らと比べたら結構見張りの人数も多くなっててさ、リスクが高そうなんだ。」

「けどよ、毛利だろうが明石だろうがヤらなきゃしょうがねぇだろ?
 俺達の国を作るんじゃなかったのかよ? 折角此処まで辿り着いたってのによ。」

「そーそー、目指せ! 鬼の居ない国! ……じゃなかったのぉ?」

「そうなんだけどさ……」

「女子供が心配なの? 大丈夫よ~、あたしたちが守ってあげりゃ良いじゃない。」

「他に何かダメな理由でもあんのかよ?」


龍馬達が死国を脱出するには、外側から死国門を開かせるしかない。

その為 積んだ枯れ草を燃やして火事を装い、毛利の連中が慌てて門を開いた瞬間、
全員で門を潜って中っ国を一気に"自分達の国"にしようと考えていた。

……だが、直前のタイミングで何故か死国門の兵隊が明石の者達へと変わってしまった。

当然、毛利の兵のようにサボるような真似はせず、数もかなりの人数であった。

まさか自分達の動きが"毛利てる"の独断による斥候で察せられていると思っていないタクガは、
毛利と明石が停戦し、明石が中っ国を譲り受けたなどとは夢にも思っていない。

また それ以外にも龍馬が躊躇う理由があり、怪訝そうな表情の譲と、
何時の間にか現れた彼の姉である、左腕の無い"川之江美禰"に対して言う。


「……耳の良いヤツの話だとさ、なんだか見張りは子供や老人ばっかみたいなんだよ。」

「な、なんですってぇ~?」

「マジか? なんで?」

「聞いた話によると、よくわかんねーけど、明石が毛利に負けたから……らしい。」

「えっ? ちょっと待てよ、負けたのに何で中っ国で死国門の見張りしてんだッ?」

「毛利の属国にでもなったからなのかしら?」

「正直 判んねぇ……こっちが聞きてぇよ。」

「それで、中止なのか?」

「あぁ……流石に"子供"はさ……」

「それも毛利の策略なんじゃねぇのか?」

「だとしたらタチ悪いわね。」

「いや、それはありえねぇらしい。 一応 今も聞き取らせてる最中。」

「なら、ど~すんだよ、これから。」

「とりあえず、後ろから追っかけて来てる鬼どもが居るらしいからブっ殺す。
 んで、後の事はブっ殺してから決めるって感じ。」

「しゃ~ねぇなあ。」

「ま、良いんじゃない? まだダメって決まったワケじゃないしさ。」

「……ごめんな。」


毛利を敵に回す覚悟をし、本州への一歩を踏み出そうとしたタクガであったが、
明石の出現と言う思わぬ展開により、ひとまず今回の計画は見送る事となってしまった。

とは言え、彼らはまだまだ諦めてはおらず、ひとまず後方から迫る鬼の退治に集中する事にした。

……だが、この後思わぬ形で、タクガは死国門を潜る事ができるのであった。




●補足●
ランスLv47/無限 シィルLv37/80
黒 姫Lv35/99 鈴 女Lv41/49
毛利てるLv37/47 吉川きくLv36/42 小早川ちぬLv35/50


島津 15000名
毛利 19500名
明石 2000名
タクガ 1000名
織田 2000名(+600)*1
足利 7200名
原  滅亡
伊賀 2000名
上杉 4900名*2

*1 滝川一益・ハチスカ棟梁の加入比。
*2 内900名は織田家に存在。



[2299] ランスⅦ ~魔人の娘 黒姫 其の9~
Name: Shinji◆9fccc648 ID:37b9b89a
Date: 2008/08/03 06:37
              ラ ン ス Ⅶ 
            ~魔人の娘 黒姫~




――――島津家、本城。


"戦艦長門"と"出雲"の国境沿いにて、毛利との決戦を控えた島津四兄弟達は、
再び各々の役割を済ませた後、大広間で顔を合わせていた。

今現在は互いに伝達を行っている最中であり、長男・ヨシヒサが弟達を前に喋っている。

どうやら彼の話が最後だったようで、ヨシヒサは話を終えるとタハコを取り出した。


≪ジュボッ≫


「……俺からの伝達事項は、以上だ。 何か気になる点はあるか?」

「うんにゃ、特に何も。」

「では、会議は終了……とならば、後は毛利との"戦い"を待つだけだね……」

「ようやくって感じだよね~。」

「そうだな。」

「15000対20000か、ちっとばかし骨が折れそうだよな~。」

「そうだね……今までに無い戦いだ。」

「…………」


"15000+呪い付き元就"が毛利の予想戦力だったのだが、彼の呪いが落ちた代わりに、
何故か毛利の兵数が20000となってしまったので、急遽作戦を練り直した四兄弟達。

結果 全ての準備が整い、伝達も済んだ今、後は"その時"を待つばかりなのだが……

やはりトシヒサの言うよう"今までに無い戦い"の為か、緊張していないと言えば嘘になる。

それは部下達も同じであるからこそ、四兄弟達はその"弱さ"は決して見せる事が出来ない。

……だが兄弟同士であれば隠す必要は無く、最も神経をすり減らしていたのは、やはりイエヒサ。

元服すらしていない"少年"の彼にとって、島津全軍を指揮する軍師と言う責任は重い。

故にトシヒサの一言に眉を落として黙ったイエヒサに、ヨシヒサは煙を吐くと声を掛ける。


「イエヒサ、どうした?」

「!? な、なんでもないよ。」

「遠慮するな、言ってみろ。 お前の相談相手になれるのは俺達だけだ。」

「……っ……なら、言っちゃうけどさ。 ヨシヒサ兄ちゃん、これで本当に良かったの?」

「んあ? 何言ってんだよ、イエヒサ。」

「どうしたんだ……いきなり?」

「なんかちょっと、"急ぎ過ぎ"なんじゃないかと思うんだよね。」

「急ぎ過ぎている?」

「うん。 こんな正面から挑まなくたって、"前みたい"にする方が、
 こっちの被害が少なくて済むし、戦力をいくらか吸収できるしさ……」


イエヒサの言う"前みたい"と言うのは、四兄弟お得意の"寝取り作戦"だ。

いわゆるアギレダの国に行った戦法であり、敵対する女達を寝返らせて勝ち、
残った兵達をそのまま島津の軍に引き入れてしまうと言う、嫌らしい戦法だ。

しかしながら、女達は幸せになり無駄な血も多く流れず、"された側"は悲惨だが、
"やる側"は極めて安全に敵国を落とす事ができるのである。

故にイエヒサは以前から無理に毛利と正面から挑む必要は無いと考えていたのだが……

"寝取り作戦"には、一つだけ致命的な"欠点"が存在していた。


「確かに、あの毛利に正面から挑むのは馬鹿げている。」

「それなら!」

「だが、俺達には"時間"が無い。」

「……っ!」


その"欠点"とは、敵国の女を寝取り、寝返らせるには"時間"を要すると言う事。

いくら女を口説くことに関しては天下一品な彼らでも、
一日か二日で女武将達の軍までもを掌握する事は不可能なのだ。

しかし、一ヶ月や二ヶ月もあれば難しくなく、逆に時間にさえ余裕があれば成功する可能性は高い。

なのにそれが出来ないと言う事は……今は"時間"が無いのだ。


「黒姫を取り戻す為には、一刻も早く島津がJAPANを統一せねばならん。」

「うっ……」

「それ以前に、斥候によると毛利の3姉妹は留守にしているらしい。
 例え彼女たち以外の女武将達を手込めにしたとしても、
 大半が男で、猛者ばかりの毛利を揺るがす事は、時間を掛けたとしても難しいだろう。」

「…………」

「それに……お前は頭の良い奴だから判るだろう?
 島津は何故、毛利と正面から決するか。 ……いや、決しなければならないのだ。」

「……!」


島津四兄弟達に"時間"の余裕が無いのは、黒姫に一刻も早く島津に戻って欲しいが為。

そして、彼女に気兼ねなく戻って貰う為には、女を寝返らせて国を奪うと言う、
回りくどい方法ではなく、正々堂々と天下を統一せねばならないと考えていた。

あくまで目的は黒姫だけなのだが、JAPANを女を寝返らせながら統一したとしても、
半分は男……必ず、不満はいずれ爆発し、再びJAPANを混乱に落とし入れてしまう。

軍師であるイエヒサは、それも十二分に判っており、ヨシヒサの言葉に反論できない。

口を挟まないカズヒサとトシヒサも、既にその事は理解しており、
知っていながら聞いてしまったイエヒサは、精神的年齢から聞かずにいられなかったのだろう。

だが……答えたダケではイエヒサの"今後"に関わってしまう。

故にヨシヒサはタハコを灰皿に投げると、渋さは変わらないが優しい口調で言う。


「全ては黒姫の為……俺達は止まる事はできん。 わかるな? イエヒサ。」

「……わかってるよ。」

「その為、軍師であるお前に無理な作戦を任せて申し訳ないと思っている。
 ……だが、お前は"完璧"な作戦を立ててくれた。 流石に幾分かの被害は否めんが、
 カズヒサ・トシヒサ・そして俺でさえ立てれんような、立派な作戦だ。」

「だよなぁ~、やっぱ凄ぇって思ったぜ? イエヒサは。」

「そうだね……これでは、兄である俺達の立場が無いとも思ったよ。」

「に、にいちゃん……」

「だから、何の心配も要らん。 それに作戦を遂行するのは、お前の兄である俺達なのだからな。」

「そーそー、任せておけって!」

「ふっ……作戦以上の働きを、期待するんだな。」

「う、うんっ!」


長男ヨシヒサは四兄弟で最も優れ、尊敬されている存在。

そんな彼とカズヒサ・トシヒサに励まされ、イエヒサの蟠りは消えた。

まさに仲良し四兄弟……なんぴたりとも、彼らの絆は断ち切る事はできないだろう。

こうして島津家は、祝勝祈願と言う名のもと、夜更けまで酒盛りを楽しんだ。




……




…………




――――伊賀家、本城。


"原 昌示"を殺し、伊勢を手に入れた忍者王・犬飼は、
ひとまず伊勢を部下に任せ、大和の城にへと戻ってきていた。

今は以前のように上座で瞑想しており、やはり周りには"わんわん"が沢山居る。

……さておき、彼が考えているのは、今後の"伊賀"と言う国について。


「(原の国主を殺め、新たな領地を手に入れたのは良いが……)」


伊賀の忍軍とは本来、先代信長以前からの織田家・直属の部隊であった。

だが、織田が衰退すると同時に突然独立し、犬飼は伊賀に忍者の王国を築き上げた。

そんな彼の"理想"とは、武家に消耗品として扱われた忍者の、権利と身分を守る事。

そして、JAPAN各地に存在する"忍者の里"と連絡を取り合い、忍者組合を作る事である。

しかしながら……前者はおろか、後者の計画も全く進んでいなかった。


「(やはり、国を治めるというのは……難しいものだな。)」


犬飼は非常に優秀な男であり、部下からの信用も厚い。

だからこそ伊賀の国主となっており、伊勢を手に入れる事もできたのだが、
新しく国を造るに当たって、"やらなければならない事"があまりにも多すぎた。

故にまだまだ基盤が出来ておらず、伊勢の奪取で更にグラついている状況である。

朝倉義景や直江愛のような非常に政治に秀でている者が居れば、大分違うのだろうが、
元々部下は忍者ばかりであるし、犬飼は"北条早雲"のような完璧な国主でもなく、
武田の風林火山や島津四兄弟のように、国主を支えれる程の優秀な仲間が不足していた。

故に忍者の為に立ち上がったモノの、その難しさを痛感しているところだった。

……だが、鈴女のように"忍び"の質はJAPAN最高峰であり、
自分に付いて来てくれる部下達の為にも、もはや理想を投げ出す事はできない。

だがどうする……? そう、答えの出ない自問をしていた犬飼であったが……


「失礼致します。」

「どうした?」

「はッ、鈴女殿が戻られました。」

「そうか、やはり仕事がはやい……が。」

「……犬飼様?」

「何故、お前が言いに来る? あいつならば、直接 俺の元に来る筈だが。」

「それが……何やら客人を連れて来られたようです。」

「まことか?」

「はッ。 人数は6名、うち女性が5名。 2名は"異人"との事です。」

「ふむ……(まさか、例の異人を連れて来たのか?)」

「如何致しましょう?」

「……鈴女の客人とあれば興味が有る。 通せ。」

「ははッ。」


ひとり考え中の犬飼の元に、音も無く一人の部下が報告に来る。

どうやら"あの"鈴女が客を連れてきたようで、意外に思う犬飼。

しかも、うち二人は鈴女に調べさせた"異人"と関係がありそうであり、自然に興味が湧く。

よって犬飼は"伊賀の今後"の事についてはひとまず置いておき、客人との謁見に臨む事にした。




……




…………




――――1時間後。


「……と言う訳で鈴女達は、3個目の瓢箪を目指して、伊賀にやって来たのでござる。」

「むぅ……」


6名の客人を広間に通した犬飼は、鈴女から今までのランス達の旅路の報告を受けていた。

まずは鈴女が迷宮(黄泉平坂)でランス達の前に姿を晒してしまった事からはじめ、
毛利の城に乗り込んで瓢箪を手に入れたダケでなく、3姉妹をも仲間に引き入れた事。

そして姫路では、毛利と明石が停戦する為の交渉のついでに2つめの瓢箪を手に入れ、
次は3個目の瓢箪を手に入れる為に、此処"大和"にやってきた事 迄である。

……その説明にあたって、鈴女は瓢箪に関する"真実"は告げていない。

いわゆる"魔人"が封印されている事であり、それは黒姫に説明して貰うに限る。

その為か、"異人が島津の客将と瓢箪を集める"と言う謎の行動に、犬飼は疑問を隠せない。


「……って言っても、"肝心な事"は言ってないでござるから、本題は此処からでござるね。」

「そうだな、話の辻褄が全く合わん。」


それ以前に、島津の客将はまだしも、かの有名な"毛利3姉妹"が此処に居るのが驚きだ。

この3人が集えば、100や200の兵でさえ蹴散らせると言われている。

そんな3姉妹を"力"により従えた(?)とされる異人のランスと言う茶髪の男。

鈴女の話によると、なんと毛利元就とも決闘して勝ったらしく、かなりの人物なのだろう。

では、大陸では一体どれ程の……そう思っていると、問題のランスが口を挟んでくる。


「それじゃ~、瓢箪を寄越せって言っても駄目か?」

「……当然だ。 瓢箪は貴重な家宝。 "それだけの話"で渡す事は出来ん。」

「なら仕方ねぇな、力ずくで……と言いたいところだが、黒姫ちゃん。」

「はい。」

「また長くなっちまうが、話してやれ。」

「……わかりました。」

「おい、鈴女。 交渉してもダメだったら力ずくだからな?」

「大丈夫でござる、鈴女は犬飼様を信じているでござるよ。」

「(……全く解せんな。)」




……




…………




「……と言う訳で私たちは少しでも魔人の位置を特定し易くする為、瓢箪を集めているのです。」

「500年以上前にJAPANを恐怖に陥れた、魔人サビエルを倒す為……にか。」

「はい。」

「ふむ……(まさか、瓢箪にそんな秘密があったとはな……)」

「話は終わったな? さあ、とっとと瓢箪を出すのだっ。」

「ら、ランス様、だからそれはいきなり過ぎるんじゃ――――」

「うるさい。」

「……(今の話が本当であれば、島津の宣戦布告の件や異人の行動についての辻褄は全て合う。)」

「犬飼様、鈴女は本当だと思うでござる。 信じて欲しいでござるよ。」

「……(だが俺は忍者王として、国主として伊賀を……)」


……十数分後、黒姫は犬飼に瓢箪に封印されし"魔人"についてを話した。

その真実に犬飼は、顔には出さないが、流石に驚愕していた。

にわかに信じられる話では無いが、魔人ザビエルの娘・本人である不老の黒姫。

魔人を斬れると言われる"魔剣カオス"を持ち、魔人を倒した実績を持つと豪語する異人・ランス。

そして、魔人の"使徒"が体内に潜んでいるとされる、小早川ちぬ の存在。

完璧な証拠が揃っているワケでは無いが、これだけの素材を並べられると、
彼女が嘘を言っているとは思えず、何より鈴女がランス達を信用してしまっているのが大きい。

かと言っても、ハイそうですかと瓢箪を差し出すのも、国主としての威厳に関わる。

故に新たな悩みの種が現れた事で、犬飼は直ぐには答えを出せずにいると……


「い、犬飼様ッ。」

「どうした?」

「それが、お耳を――――」

「なんだぁ? 真面目な話だったってぇのに~。」

「!? ……まことか?」

「はッ、是非とも謁見を願いたいと……」

「そうか、直ぐ通せ。」

「ははッ。 では失礼致します。」


やや慌てた様子で先ほどの部下が現れ、犬飼に何やら耳打ちする。

それが終わると、彼は魔人の話と同じくらい驚いた様子であった。

直後 犬飼は部下に指示を出すと、その者は退室し、再びランス達7名と犬飼が残った。


「犬飼様、なんだったんでござるか?」

「おい、それより瓢箪の話はどうなったんだ~?」

「それについては……少し、考えさせて貰おう。」

「なぬっ?」

「鈴女。」

「んにゃ?」

「客人達を客間へ。 丁重に持て成せ。」

「は~い、わかったでござる。」

「伸ばすな。」

「はいはい。」

「"はい"は一度だ。」

「はい……って、こんな時に例の説教は無しでござるよ、犬飼様~。」

「お前が注意すれば良いだけの話だ。」

「おいッ、どう言う事だぁ!?」

「急用だ。」

「急用なら仕方無いでござる。 ランス、行くでござるよ~。」

「え? おいこらっ、まだ話は済んで――――」


……どうやら、今伝えられた事は急ぎの用であるらしく、
ランスは鈴女に引っ張られると、ずるずると広間から遠ざけられて行ってしまった。

それをシィルは慌てて追いかけ、毛利3姉妹も ちぬ 以外が"やれやれ"と言った様子で続き、
黒姫も立ち上がると、広間を出る前に一度振り返って軽く会釈をすると退室した。

そして広間には犬飼(+わんわん達)が残され、暫しの静寂の後――――


≪どすどすどすどす……≫


大きな足音を響かせながら広間に現れたのは、犬飼の部下数名と2名の武士(客人)であった。

以前は仲間であった者なのだが、犬飼が織田を離れて敵国となってしまった今、
この2人が何故 危険を伴う伊賀の城に、わざわざ訪れたのだろうか?

それは今から明かされるのであろうが……案の定、犬飼が察するには及ばない。


「…………」

「御免。」

「犬飼殿、お久しぶりでござるなぁ!」


さておき、訪れた2名の武士とは……信長の忠臣である、尾張の鬼武者"乱丸"。

そして足音を響かせていたと思われる、同じく鉄壁の足軽を率いる"柴田勝家"であった。

この2人との"交渉"の末、翌日 犬飼は、大きな"賭け"に出る事になるのである。




……




…………




……数時間後。

鈴女によって客室に案内されたランスは昼食後、夕方まで好き勝手に過ごしていた。

部屋割りはランス・シィル・黒姫&毛利3姉妹と言う分け方なのはさておき、
それまでの時間、シィルと黒姫が襖の向こうに居ながらちぬ を部屋に連れ込んでエッチしたり、
給仕(実は監視付きで仕方なく働かされていた阿樹姫)を口説いたりして、時間を過ごしていた。

ナンパは案の定 旨くいかなかったが、阿樹姫のように"良い女"が意外と多く、
最初は話を中断させられ機嫌の悪かったランスだが、今や明日をのんびり待つ事にしたようだ。


「もう少しで、夕飯が来ると思うでござる。」

「そうか。 がははは、そりゃ楽しみだな。」

「ご機嫌ですね、ランスさん。」

「…………」←シィル

「うむ。 飯は思ったより美味いし、"良い女"も居たしな。」

「あんなべっぴんさん、鈴女がいた時は居なかったんでござるけどねぇ。」

「しっかし、犬飼とか言う奴……明日 瓢箪、ちゃんと寄越してくれるのか?」

「最悪また、戦う事になってしまうのでしょうか……?」

「そ、それだけは避けたいですね。」

「どうかなぁ……」

「おい、鈴女。 お前が"そんな事"言ってどうすんだッ?」

「戦う事にはならないと思うでござるが、鈴女からは何とも言えないでござる。
 今 犬飼様は伊賀の"全て"を抱え込んでしまっているでござるしねぇ。」

「こんな小さな国なんかより、魔人のほうが重要だろうが。」

「ランスにとってはそうかもしれないでござるが、鈴女達にとっては大事な国でござる。」

「う~む、いっその事"協力"なんぞ要らんから、瓢箪だけ寄越してくれりゃ良いんだがな。」

「確かに、その方が良いかもしれませんね。 この旅に協力するという事は、
 実際にザビエルと見(まみ)える事にも繋がるのですから……」

「そう旨くもいかないでござるよ。」

「全く、お前が"伊賀は協力してくれる"って言うから選んだのに。」

「断定はしてなかった筈でござる。」


……こうして、ランス一行は伊賀で客人として一夜を過ごす事となった。

一応 鈴女に、瓢箪による交渉が中断された理由を聞いたが、良く判らないとの事。

正直 それは気になるところではあるが、ランスは性格故"まぁいいか"と思うだけで眠りについた。

ちなみに、夕食を運んできた給仕(阿樹姫)を再び口説きに入ったランスだったが、やっぱり失敗した。



[2299] ランスⅦ ~魔人の娘 黒姫 其の10~
Name: Shinji◆9fccc648 ID:37b9b89a
Date: 2008/08/07 11:07
              ラ ン ス Ⅶ 
            ~魔人の娘 黒姫~




「え~っと、いきなりだと思うけど、これから――――」


……俺、ちょっと伊賀の城まで行ってくるよ。


先日の軍事評定の最後に、信長はそんな事を言い放った。

それにより香姫・3G含む全員が驚き、真っ先に3Gが止めに掛かった。

続いて香姫も止めに入って来てくれたと思われたが……


「兄上を行かせるぐらいなら、私が行きますっ!」


香姫も信長と"同じ事"を考えていたようで、やはり兄弟と言ったところ。

だが、どちらが行こうが立場上・非常に危険な為、特に勝家が大反対した。

よって呆然とする謙信と愛を他所に、色々とゴタゴタとした結果……

結局、勝家と乱丸が犬飼の元に出向く事となり……今に至るのである。

ちなみに交渉に優れる光秀は、個人の武力の問題もあって、
織田の各部隊の武将や直江愛と、軍の編成等についての話し合いを行っている最中だ。


「(元は自ら……"信長"らしいな。)」

「……と言う訳で、拙者ら二人が出向く事になったのでござる。」

「直ぐ様 面会の機会を頂けた事、感謝致します。」

「ふむ……それでは、用件を聞こうか?」

「では、担当突入に言いまする。 足利との戦に備え、斥候の為の忍びをお借りしたいのでござる!」

「左様。」

「(……やはりか。)」


織田が足利に攻められていると言う事を、原を滅ぼした犬飼は当然 把握済みだ。

伊賀は織田を攻めるつもりは今のところ皆無なモノの、斥候だけは多く出している。

故に今の織田の欠点も把握できており、勝家の言葉も大体予想ができていたのだ。

……だが、犬飼は織田を裏切って伊賀と言う新しい国を創った。

その為、直ぐに答えを出す訳にもゆかず、ひとまず黙っている犬飼。

対してヒソヒソと話をしている彼の家臣達 約10名を左右に、二人の使者は続ける。


「無論、只とは言いませぬ! 足利と蹴散らした暁には、数国の領地を進呈する所存ッ。」

「我等が必要とするのは斥候の忍びのみ故、貴国に無駄な血れる事は少ないかと……」


≪ざわっ、ざわ……≫


「それは悪く無い話だ。」

「!? それは、まことでござるかッ?」

「だが……その前に聞きたい。 "その話"は信長公から、俺に対しての申し出か?」

「……いえ、あくまで織田と言う国から、伊賀に対してへの願いです。」

「そうか。」


犬飼の意味深な言葉に対し、乱丸が表情を変えずに即答すると、犬飼は再び沈黙した。

……もし、信長が"犬飼本人"にそう願い出るつもりであれば、交渉決裂の可能性が若干上がっただろう。

前途のように元々伊賀忍軍は織田家の直属の部隊であったが、それを裏切って犬飼達は独立した。

つまり今は信長の部下では無く、未だに主君を気取られていると、
例え条件の良さから犬飼が妥協したとしても、彼や信長を悪く言う者が出てくるだろう。

だが"対等の国同士"としての交渉であれば、織田も"忍者に対する立場を弁えている"と言う事になる。

それならば破格の条件からして、100前後の斥候の忍者を出す事など容易であるが……


「(…………)」


――――犬飼が沈黙した理由は、他にも有った。

実は……彼は以前から、"軽率"に思っていたのだ。

何が軽率かと言うと、"信長を裏切ってしまった"と言う事について……である。

故に今の機会であれば極端な話、織田に下る事も不可能では無いのだ。

しかしながら……そう簡単にいかないのは、犬飼本人が一番わかっている。

独立したのは確かに軽率だが、それには"理由"があり、
"その理由"を信長や香を信じて相談していれば、独立はしていなかったかもしれない。

かと言っても今はもう遅く、織田に下ろうとも伊賀の者達が納得しないだろう。

よって犬飼は沈黙の中、あくまで伊賀の"国主"として交渉を進めようとしたが――――


「(お乱ッ。)」

「(頃合か。)」

「……?」

「――――蜘蛛弾正。」

「!?」


≪ざわ……っ!!≫


乱丸は勝家とのアイ・コンタクト後、唐突に一人の武士の名を挙げた。

その名を聞いた直後、家臣達の表情が驚きの声を上げ、犬飼の目が僅かに見開かれた。

対して勝家と乱丸は動じず……数秒の間を置いて、再び口を開いた。


「今述べた名を含め……これからの話は、信長様 御本人からのお言葉です。」

「信長公の?」

「はッ。 武士、弾正は表向きでは善人を装い……忍びを消耗品に様に扱っていた模様……
 それに伊賀忍軍の不満が爆発するまで気付けなかった事を、心から詫びたい……」

「……ッ……」

「されど、今となっては遅し事……再び織田に仕えて欲しいと言っても、納得ゆかぬだろう……」

「…………」

「しかしながら、織田が足利を倒し……貴国の考え変わらば、共に弾正を探し討とう……と。」

「……ッ!」


≪ざわわっ……≫


「(終わったのか?)」

「(あぁ。)」

「…………」

「では犬飼殿、拙者らはこれで失礼しまするッ! 良い返事を期待しておりますぞ!?」

「近いうちにまた使者を送ります故、これにて御免。」

「…………」


――――蜘蛛弾正。


この男の所為で、伊賀は織田から独立したと言っても過言では無い。

故に鈴女含め伊賀忍軍、全ての者が弾正に殺意を抱いている。

その弾正の悪行に織田は気付かず、信長達も今になってそれを後悔していた。

……だが、独立して国を持った伊賀に"謝るから、また部下になってください"と言っても、
今更 遅い事など十二分に判っており、だからこそ今の機会でしか"この事"を言えなかったのだ。

いや、今の機会であっても既に遅いかもしれないが……信長は"言う人間"であり、
家臣に止められなければ直接 告げにに来たと言う事だろう。

さておき……信長の言葉をそのまま告げると、乱丸と勝家は早々と広間を去っていった。

そして、その場には突然の言葉に面食らった犬飼と、家臣達が残され、沈黙が訪れた。

沈黙はそのまま数十秒続き、何時の間にか家臣達は犬飼の言葉を待っているようだった。


「……俺は少々、浅墓だったのかもしれん。」

「い、犬飼様ッ?」


≪ざわっ……≫


「……疑心暗鬼に囚われていた。 例え相談しようが、無駄だと。」

「…………」

「ふっ、信長"様"であれば……そのような心配は無用だったと言うのに。」

「……っ……」

「だが、今すぐ"結ぶ"訳にもいかん。」

「…………」

「織田が足利を下せるか……お手並み拝見といこう。」

「はっ……」

「使者を待つ必要は無い、直ぐ忍びを集めろ。」

「ははっ!」


嘆くように言葉を漏らす犬飼。

その言葉に何も異論を唱えないあたり、家臣達も同じ事を思っていたのかもしれない。

だが犬飼を前にそんな事は言えなかったが……彼が言った今、気にする必要は無くなったのだ。

……とは言え、織田と"結ぶ"は否、伊賀が"下る"には相応の実力を見せて貰う必要が有る。

よって犬飼はひとまず織田を支援する事にし、全てをその"結果"に委ねる事にした。




……




…………




――――翌日。


伊賀の城内で一泊させて貰ったランス達は、再び犬飼と向かい合っていた。

昨日と同様 家臣達の姿は無いが、今は純粋に昨日の件の所為で忙しいのだろう。

そうなれば犬飼も忙しい立場なのだが、異人との件も彼にとっては無視はできない。


「……で、結局どうなんだぁ?」

「犬飼様~?」

「単刀直入に言う。 瓢箪が欲しければ、伊賀に協力して貰おう。」

「ちっ、やっぱりそうきやがったか。 武将とかならお断りだぞッ? 面倒だしな。」

「そうでは無い。 ひと働きして貰いたいだけだ。」

「それは……どう言った内容なのでしょうか?」(黒姫)

「……間も無く、織田が足利と交える。 その際、伊賀は斥候として織田に"忍び"を派遣する。」

「それがどうしたんだ?」

「あ~っ、その中に混じって、敗走した味方を助けたり、敵を捕まえたりすれば良いのでござるね?」

「むっ、まぁ……そう言う事だ。」

「ちょっと待て! 何でそんな事をせにゃならんのだ!?」

「我々の被害が抑えられるからだ。 俺が行く訳にはいかんからな。」

「いや、答えになってないだろうがっ。」

「お前達の理由で言えば、魔人の話を"信じる為"だな。 嘘を言っている気はせんが、
 確たる決定的な証拠も無い。 だが、お前達は"強い"と聞く。 その証明が信じる事に繋がる。」

「ほぅ……我を試すというのか? 面白いな。」

「そ~いやぁ、伊賀の忍者の質ってのも気になってたんだよな~。」

「ちぬもー、なんだか面白そー☆」

「!? おいこらッ、何で勝手に乗り気になってる!」

「……それならば、決まりだな。」

「決まりでござるね。」

「うが~ッ、決めてんじゃねぇ!!」

「ら、ランス様 落ち着いて……」

『全然良くない? 助けたり捕まえたりしたら、ご褒美に繋がるじゃん。』

「ごほうびぃ~?」ギロッ

『女だったらホラ、身体の。』

「!? あぁ、あぁ。 そうだったそうだった。 やはり瓢箪には変えられんな、受けて立とう。」

「(ランス様~……ぐすん。)」


……と、話は勝手に進んでゆき、ランス達は伊賀の為に働く事になってしまった。

内容は前日の斥候(偵察)では無く、戦(いくさ)真っ最中の斥候……

つまり、鈴女の言っていたように敗走する敵武将を殺したり捕らえたりし、味方はその逆に助ける。

だが……流石に敵武将となれば実力も有って逃げられる事も多く、そこでランス達の出番と言う訳だ。

それを最初は面倒臭いのか踏み倒そうとしたランスだったが、カオスの言葉にアッサリ承諾。

とは言え、まだ織田の開戦までには何日か掛かるとの事で、
再び伊賀の城の世話になる事となり、今現在 7人は廊下を歩いている。


「犬飼様も素直で無いでござるな~。」

「あの野郎がどうかしたのか?」

「以前から犬飼様は織田とヨリを戻そうとしてたのでござる。
 けれども一度裏切ったんで、今更無かった事になんかできなかったのでござる。」

「そりゃそうだろうな。」

「そんな中 織田の方から救援要請が来たんで、忍者を派遣する事になったんでござるが、
 あくまで同盟みたいな関係でござるから、斥候以上の事はする必要は無いでござる。
 でも、やっぱり織田の何らかの力になりたくて、ランス達の出番と言う事でござるよ。
 どっちが負けても伊賀の不利益にはならないでござるが、犬飼様は織田に勝って欲しいのでござる。」

「織田に勝って欲しかったら、伊賀が軍を出しゃ~済む話だと思うぞ。」

「そうなんでござるが、伊賀のプライドとか立場とか、色々と問題があるんでござるよ。」

「ふんっ、くだらん。」

「それは否定できないところでござるが、鈴女としては一安心でござる。
 前から伊賀の基盤はふにゃふにゃで、忍者組合を作ったりするどころじゃ無かったでござるからね。
 けど織田に下れば大和も伊賀忍も安泰でござるし、犬飼様もやりたかった事もできるでござる。」

「独立したって聞いたときゃ~忍者もやるもんだねぇって思ってたけど、
 伊賀も伊賀で難しい問題抱えてたんだなぁ~。 あたしら毛利みたいにさ。」

「そう言われると、鈴女も"あの"毛利の兵を統率できるのはすげ~って思ったでござるよ?」


ちなみに、犬飼にとって魔人は確かに無視できないが、今の彼には織田の方が大切である。

よって考えた結果……瓢箪の代わりに織田を異人に支援して貰い、
足利に勝った暁には伊賀は織田に下り、魔人については異人に任せれば良いと考えていた。

これは犬飼だけにではなく、北条家や性眼を除くJAPANの民・全員に言える事だが、
彼もまた魔人に対する危機感が若干少なく、あくまで戦に対しての織田家を重要視していた。

黒姫が魔人の恐ろしさについては十二分に語ってくれたが、勝家と乱丸が訪れたタイミングの悪さや、
"魔人なんぞ雑魚だ!"と豪語するランスの自身が、魔人と言う存在を疎かにしてしまっていた。


「まぁ……簡単に手に入ってもつまらんしな、やるとするか。」

「そうですね……頑張りましょう。」

「でも"その日"までは暇なんだよなぁ……おい、シィル!」

「はい、ランス様。」

「この辺にどっかダンジョンが無かったか~?」

「えっと……そう言えば"平城京"って言う迷宮が地図に載ってた気がしました。」

「おっ、行くのかよ? 其処。」

「うむ、お宝でもゲットだ。 てる さんはどうだ?」

「ふっ……よかろう。 慣れた戦場もたまらぬが、魔物と戦うのも一興よ……」

「(もっと、強くならなければ……)」


さておき、ランスは本日の予定を迷宮と決めると、伊賀の城を出発した。

傍から見ると魔人に対し危機感を全く持っていないように見えるランスだが、
魔人の恐ろしさ最も間近で感じた人間なのは間違い無く、"今のまま"では厳しい事は理解している。

よってあくまで"お宝"と言う目的を強調するモノの、レベル上げの為 彼は今日も戦うのである。

また、強くならなければと願うのは黒姫も同じであり、彼女は脇差を握り締めながら城を後にした。


「……ん? 黒姫ちゃん、なんだか冴えん顔だな。」

「そ、そうでしたか?」

「な~に、皆まで言うな。 俺様は判っているぞ?
 3日程やってなかったし、寂しがらんでも今夜はたっぷり抱いてやるからな?」

「え? あ、あの……」

「へ~☆ 黒たまー良かったねー。」

「その……違……」

「…………」←1週間程ご無沙汰なシィル。(涙目)




……




…………




――――足利家。


狂ったセンスを持つ魚類みたいな男、"足利超神"が当主の国。

原家を唆(そそのか)し、その原家は伊賀に滅ぼされてしまったが、それは何のその。

むしろ足利が織田を倒してしまえば原に余計な領地を与えずに済むし、兵力は織田の約3倍。

一度は退かれたモノの、現在の織田はガタガタ! もはや攻め滅ぼすのも容易ッ!


「そう思っていた時期が……俺にもありました……」

(足利武将・新田義貞さん)


……さて、現在は足利家・城内(まむし油田)の広間にて軍議の真っ最中。

其処に超神の姿は無く、数日後の織田侵略に掛けて第一陣を任された武将たちが連なっている。

各武将の側近は除外するが、その数6名……どの武将もセンスの悪い武者鎧を装備している。

だが、1名だけ例外がおり……その武将は美しい黒髪の女性である。

名は"山本 五十六"。 足利家に滅ぼされた小さな一族の姫であり、家族を人質に武将となっている。

彼女は無言で軍議の成り行きを見守っていたが、その内容は酷いものであった。


「衰退している織田など、我々だけで十分よ。」

「楠殿や新田殿、そして義輝殿が出るまでもあるまい。」

「運良く原を退け、伊賀が漁夫の利を得たようだが、もはや万策尽きたであろうな。」

「織田が手に入ったとならば、伊勢や大和もこちらのものよ。」

「はっはっはっは!」

「……お待ちを、まだ織田は甘く見れる存在では無いかと。」

「何ですと?」

「まだ情報が少なすぎでは無いですか? 戦いを楽にする為には、至急斥候を出し――――」

「これは可笑しい、この兵力差で何を恐れる必要がお有りかッ?」

「戦いを恐れてはおりませぬッ、しかし原を容易く退けた織田には必ず何か裏が有ると……」

「ふん、今の織田の"裏"など、たかが知れていよう?」

「五十六殿、いくら命 欲しくばとは言え、あからさま過ぎますぞぉ?」

『わははははははっ!!』

「……っ……」


五十六の意見はごく、当然のものだ。

だが足利は衰退している織田を舐めきっており、最初から勝つ気が満々である。

決めた作戦と言っても、数に任せて一気に織田を叩き潰す程度である。

ならば連中に代わり、最も織田を警戒している五十六が動きたいところだが……

彼女は弟を捕らえられて武将となっている身であり、部下は一兵卒含め、
足利に生かされた200程度の数しかおらず、側近となれば更に少なくなり、
斥候を出そうにも其処までのスキルを持っている"忍び"など居なかった。

故に織田を怪しく思うも、上杉軍はおろか、伊賀が斥候の為 動いている事も知らないのだ。

となれば足利に"忍び"を出す様 手配して貰うしか無いのだが、前途のように聞く耳無し。

しかも、何時の間にか彼女をバカにするような話に代わり、もはやこれは軍議とは言えない。


「な~に、五十六殿は超神様からしてみれば"醜女"ですからなぁ?」

「この度の戦で、少しでも点を稼いておきたいのでしょう。 はははははっ!」

「…………」

「(五十六様……)」

「(わかっている、今は……耐えねばならぬ……)」


侮辱される五十六。 だが、彼女は耐えるしかなかった。

残り5名の武将は皆、五十六の2倍以上の兵を任されており、人質も無く仕えている身。

故に彼らに逆らえば超神に逆らうと同じであり、弟の命さえも危ないのだ。

よって彼女はゴールの見えぬ未来であれど、僅かな希望を信じ、戦うしか無かった。


――――上杉の助力の基、織田と足利が決する日は近い。


「近いうちに、織田と足利。 そして、島津と毛利が決するそうです。」

「ふむ……性眼様が言うに、戦中での国主殿への刺激は避けるべきとの事だが……」

「では、伊賀を先に。 後に大敗した明石含め、落ち着いた国から順に確認へと移りましょう。」

「それでゆこう、任せたぞ?」


――――そして、瓢箪の割れる日も。




●あとがき●
次回でようやくランスと五十六or謙信を接触させる事ができそうです。
長かった……のですが二択……五十六を敗走させてランスが捕らえに入るか、
優勢ながらも謙信が殿している時にランスを乱入させて一目惚れさせるか……
じっくり考える事にします。それでは次回をお楽しみに@w@


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