序章:草原の少女
かつて『人』と『竜』が共存する大陸があった
彼らはともに英知をもち 住処を侵すことなく
穏やかな生活を営んでいた
しかし突然 『人』の侵略によって
そのバランスは破られる
どちらともが 大陸の覇権をかけ争い
それは大自然の理をも
変化させるほどの大戦となった……
のちに『人竜戦役』と呼ばれる戦いである
その結果 敗れた『竜』は 大陸から姿を消し
『人』は戦いの痛手を乗り越えて
大陸全土に その勢力を広げていった……
それから千年近い時が流れ……
……
…………
『これこれ……このちっちゃな魂……
君が大事に大事にしてる、これ、ひとじーちッ……えい。』
「きゃああぁぁ……!!」
≪ビキッ、ビキビキッ……≫
「シィルッ!?」
「……らっ……ンス……さっ、まぁぁッ!!」
≪――――ズシィンッ!!≫
「シ……シ、シィル!? シィル、シィル、シィルッ!!」
『おやぁ、いきなりどうしたのさ~? この娘がそんなに大切なのかいッ?』
≪ガンッ! ガンガンッ! ガシガシッ!!≫
「き……きっさまああぁぁッ!!!!」
『くすくすくす……ダメだよ……そんな事しても……
ぼくじゃないと、どーしよーもないよ。 これ……返して欲しいでしょ?』
「……っ……」
『ふふ……楽しいな……君の心……怒ってる怒ってる……
ぼく、そーいうの大好き……くすくすっ。』
「くじらの分際でなんて事しやがるッ!?
さっさと、シィルを元に戻しやがれ……!!」
『やだ。』
「なぁぁにぃぃ……ッ!?」
『返して欲しかったら、言ったと~りぼくを楽しませてよ。 OK?』
「ぐっ……ぬぬぬぬッ……」
『ぼく、ここでちゃんと見てるよ。
"ゲーム"をクリア出来なかったら、この子、ばらばらにしちゃう。』
「……ッ!?」
『だからね……"あそこ"が良いかな~?』
「"あそこ"……だとッ?」
『くすくす、なんでもないよ……それとね……早く動かないとね。
この子、このまま年取らないの。 ずっと、このまま。』
「…………」
『と、いう事は、君がさっさと動かないと~~……』
「やかましい!! この俺様を誰だと思ってる、ランス様だッ!!
俺様がやると言ったら、やる!! この俺様に、二言はない……ッ!!」
『くす、くすくす……なら、本気になったみたいだね……
それじゃあ……"送ってあげる"から君の活躍、楽しみにしてるね……』
「えっ……何っ!? 何処へ……うぉあッ!!」
≪シュインッ……シュィン、シュィン、シュイィィ~~ンッ……≫
『ばいばーーい。(え~と、この辺かなぁ?)』
「畜生っ……覚えてやがれええぇぇーーーーッ!!!!」
≪バシュウウゥゥ……ッ!!!!≫
……
…………
「うっ……?」
「……気が付いた?」
≪チュンッ、チュンチュンッ……≫
"あの一件"から、どれ位経ったのだろう。
創造神の光を浴びさせられ、暫くの間意識を失っていた"ランス"に対して、
小鳥の囀(さえず)りと強い朝日の日差しが彼の目を開かせた。
すると彼の薄い視界に、自分の顔を覗き込んでいる女性の姿があった。
黒と緑の大きな瞳と、緑のポニーテールが印象深く、若そうだが大人びた顔立ちをしていた。
その女性の顔を見て、ランスは初めにこう洩らした。
「おぉ……95点。」
「な、何? いきなり……」
「いや、こっちの話だ……って、何で俺様は……」
「貴方は草原の入り口で、倒れていたのよ。」
「……(シィルやリア、マリスはどうした? 何か忘れてる気がするんだが……)」
「(大丈夫かしら?)私は"リン"、ロルカ族の娘……貴方は? 貴方の名前を教えて。」
「ん? あぁ、俺様の名は"ランス"だ。」
「"ランス"っていうの? 不思議な響き……でも、悪くないと思う。」
「うむ、格好良い名前だろ? がははははッ。」
意味の無い事で笑うランスに、リンは苦笑いする。
初めてランスが倒れていたのを発見した時、悪人面とも言えなくも無い見た目に少し躊躇ったが、
この様子だと思ったより悪い人では無さそうだと解釈することにした。
そんな訳で、リンは誰でも思いつく疑問をランスに投げ掛ける。
「それで……見たところ、貴方は旅人みたいだけど、このサカ平原には何しに?」
「……旅人? (そう見えるって事は……)俺様の剣や鎧は一緒じゃなかったか?」
「えぇ、"そのままの姿"で倒れてただけよ? もしかして、追剥にでもあったの?」
「う~む……(それ以前に"サカ平原"って何だ? ワケわかんねぇぜ……)」
「それじゃあひょっとして、記憶喪失? 覚えてる範囲で良いから、話を……」
この時点で、ランスはリーザス王となり魔王城を制圧した事までは覚えているが、
神の扉を潜り、創造神ルドラサウムと出会った事については全て忘れてしまっていた。
彼の手によって遥か遠い別世界……"エレブ大陸"に飛ばされてしまった事を覚えていないのだ。
よって、黙って考え込んでしまうランスだったが、それをリンに記憶喪失なのかと解釈された。
それもその筈、ルドラサウムに"魔剣カオス"と"リーザス王の鎧"を没収されたのだが、
ランスは当然それを知らず、逆にリンに"知らないか"と聞いているからだ。
それに対し、久々に人と接したリンは目の前の"ランス"と言う男に興味が湧き、
腕を組んで何かを思い出そうとしているランスに耳を傾けようとしていたが――――
≪うおおおぉぉぉーーッ!!!!≫
「なんだぁ?」
「ッ!? 外が騒がしい……ちょっと見てくるから、ランスさんは此処に居て!」
「(チッ、何か思い出せそうな気がしてたのによ。)」
「大変! ベルンの山賊どもが山を降りてきたわ!
また、近くの村を襲う気ね……そうはさせないッ!!」
≪チャキッ≫
「おい、まさか……」
「あれくらいの人数なら、私一人で追い払うわ!!」
「(……って言うか、"ベルン"って何だ?)」
「ランスさんは隠れて……」
「俺様よりな、村の連中を逃がす方が良いんじゃないのかー?」
「それは大丈夫、もう私しか……いないから。」
「……(ふ~む、最初の妙な殺気もその為か。)」
突然男達の叫び声が響き、ランスとリンは咄嗟にその方向を見据えた。
だがゲル(遊牧民の住む円形の住居)に遮られ、リンが早足で外の様子を伺う。
すると、入り口が捲られた時、ランスにも遠くにあったもう一つのゲルを荒らしている、
数人の山賊の姿が確認でき、その中の人間が多少だが気になり、
取り合えず(世界最強な)自分の事より"そっち"の方を優先させてみた。
だが要らぬ気遣いだったが、此処は村や集落ではなくリンが"一人"で住む場所でしかなかった。
壊されていた"ゲル"も、たった二つのうちの片方のゲルだったのだ。
その事を遠まわしに告げるリンの表情は、本人にそのつもりは無くても悲しみに満ちていた。
「それじゃあ、行……」
≪ザッ……≫
「待て待てッ! 一応借りを作っちまったからな、さっさと清算しておく事にするぜ。」
「えッ!? 一緒に来るつもり? 何か武器を使えるのッ?」
「おォ、何でも良いぞ? 何なら手ブラでも構わんが。」
「そ、それなら、魔法が使えるのッ? 生憎魔法書は無いから、余ってる"鉄の剣"で……」
≪ガチャッ≫
「おう、借りとくぜ。(う~む、へなちょこな剣だが……まぁ良いか。)」
「腕には自信があるみたいね? なら二人で行きましょう!」
「(朝っぱらから仕掛けてくる山賊なんぞ大した事ァ無ぇだろうが、
こんな可愛い娘にイキナリ死なれたんじゃ、勿体な過ぎるからなぁ~。)」
……
…………
ゲルを勢いよく出ると、ランスとリンの視界に5人の山賊が飛び込む。
リーダー格の山賊は壊したゲルの中を物色しており、
4人の手下山賊は、二人が入っていたゲルの中に近寄って来ている最中だった。
その様子を見て、リンとランスは互いに正反対な感想を心の中で出していた。
リンは既に相手を威嚇するように構えているが、ランスは頭を掻いているあたり、行動も正反対だ。
「(ご、五人か……思ったよりも多いわね……)」
「(ヘッ、たったの五人かよ。)」
「おォッ? ロクなモンが無ぇと思ったら、掘り出しモンがあったじゃねぇか!!
野郎どもッ、男は殺せ!! 女は高く売れそうだ、傷モノにはするんじゃねぇぞッ!?」
「がってんでさァ!!」
「おりゃああぁぁーーッ!!」
≪だだだだだッ!!≫
「来たわ!? ランスさん、無茶しないでッ!」
「がははははッ! 俺様に刃向かうとは良い度胸だ!!」
≪ズザッ……≫
「えっ? ち、ちょっと……」
≪ざしゅううぅぅ……っ!!≫
「ぎ、ぎゃあああぁぁぁッ!!!!」
≪――――ドドォッ!!≫
雄叫びと共に斧を振り上げ、斬り掛かってくる4人の山賊。
それに対しリンは身構えて迎え撃とうとしたが、ランスは逆に前に向かって足を踏み出す。
その直後、ランスは鉄の剣をスイングさせて一人の山賊を真っ二つに切り裂いた。
素早いスピードとパワーによる両断……それが見えた者は、居なかった。
「!? こ、こいつ……!!」
「こ、今度は三人同時に行け! 結構強ぇみてぇだぞ!!」
「"結構強い"だァ~? 見くびられたモンだぜ。」
「(ハッ)ちょっと! 私の事も忘れないでよねッ!」
≪ヒュンッ!≫
「うぉッ!? こ、このガキィ!!」
「(ふ~む、あの程度の"相手"なら、勝ちそうだな。)」
山賊達はランスが"手慣れ(どころではないが)"と判って、
今度は三人同時に斬りかかろうと、少しづつジリジリとすり足で距離を詰める。
だがリンが手前の山賊を牽制すると、注意は彼女に移り、その山賊はリンと対峙した。
ランスは、そのリンの太刀だけで大まかな彼女の力を見抜き、
結局山賊のリーダー格も混ざった三人の山賊達と対峙する事となった。
だが山賊三人は斧をしっかりと両手で構えているが、ランスは鉄の剣を肩に担いでいる余裕ぶり。
「こ、このバッタ様を含めた三人相手に勝てると思うなよ!!」
「五月蝿ぇブ男、さっさと来やがれ。」
「……っの野郎ォォッ!!」
……
…………
≪ぶんっ、ヒュッ!! ……ザシュッ!!≫
「ぐわぁッ!!」
≪――――ドサッ!!≫
「はぁ、はぁ……やった、今度は……」
「もう必要無~ぜ?」
「え……えぇッ!?」
「そっちも終わったみてぇだな。」
数十秒の戦いの中、斧の大振りを掻い潜って剣の一撃を食らわせ、一人の山賊を倒したリン。
その死体を見下ろしながら、汗と付着した返り血を拭っていると、後ろから近づいてくるランス。
ニヤける彼の後方には、既にランスによって成敗された山賊・バッタの死体が転がっていた。
どうやら残り二人の山賊は逃げたようで、皆殺しにしなかった辺り、ランスも多少は丸くなったのだろう。
……対して、リンは普通にランスの桁違いな強さに口を開いたまま驚いている。
行き倒れていた記憶喪失の男がこうも強いとは……しかも、本当の実力を殆ど出していなそうな様子。
「……(う、嘘……こんなに強かったの?)」
「ん? どうした、俺様の強さに惚れたか~?」
「そッ、そんなんじゃないけど……少し驚いただけ。」
「まぁ、驚くのも無理は無ぇわな。 何てッたって、俺様は世界最強の男だからな!!」
「(自分で言う事じゃないと思うけど……)凄いわ、どうやったら貴方みたいに強くなれるのッ?
私も強くなりたい……もっと、誰にも負けないくらいに、強く……」
「ほぅ、そんなに強くなって、どうする気なんだ?」
「それは…………あッ、悪いけど"こんな状況"だし、積もる話は後にしましょ?
暗くなる前に"こいつら"や壊された"ゲル"をどうにかしなくっちゃ。」
「むっ? まぁ……良いだろう。」
……
…………
この後、ランスはリンに色々と後片付けを手伝わされた。
こんな事を彼が進んでやる事はまず無いが、手伝った理由は只単にリンが"良い女"だったからだ。
よって恩を売る事にしたようで、できれば……というか、むしろ普通に犯ってしまうより、
自分興味を持っていそうなリンを"俺様(自分)"に惚れさせる方が良いと考えていた。
この上なく贅沢なハナシだが、誘拐や陵辱は王様のときに好き放題できていたので、
リンに対しては方向性を変えてみることにしたらしい。
さておき、この日の晩のリンの話で、ランスは"この世界"についてほんの僅かだが学習した。
自分はどうやら"エレブ大陸"に何らかの力で飛ばされてしまったようであり、
此処はエレブ大陸の"サカ平原"と言う場所であるということ。
……と言う事は、リンに自分の境遇を放しても無駄だと思うので、何だか納得がいかないが、
"記憶喪失の旅人"と言う事で話を済ませ、さっさと元の大陸に戻る方法を探さなければならない。
となれば、ランスが今のところ気になるのはリンの強くなりたい"理由"であったが、
彼女は結局"明日話す"とだけ告げると、もう片方の"ゲル"へと駆けて行ったのだった。
……
…………
≪ピカッ……≫
「ランスさん、おはよう!」
「んぁ……シィルか~……?」
「や~ね、寝ぼけてるの?」
「……(あ~そうか、俺様は……やっぱり夢じゃ無かったか。)」
「昨日の戦いで、疲れてた?」
「何を言うか、俺様がそんなタマだと思うかッ?」
「ふふっ、それもそうよね。」
翌日、この日は朝の日差しとリンの元気な声がランスの目を覚まさせた。
この時点で、彼はトランクスとシャツだけの姿だったが、
リンは気にしない性分なのか、気にしないようにしているのか、
ランスに背を向けて何やら持ってきた物をテーブルに広げ始めていた。
その間にランスは無造作に放り投げられていたズボンと上着をゴソゴソと着るが、
視線はリンの後ろ姿……特にスリットから出る生足に向かっていた。
「(良い太股だな、う~む……立っちまってるし、やりたい。)」
「ランスさん、口に合うかは判らないけど、食べて貰えるッ?」
「お? なかなか気が利くじゃねぇか。(まぁ、今の所は性欲よりも食欲だ!)」
「…………」
「むしゃむしゃ、ガツガツ……(流石にアイツの料理迄とはいかんが、悪くは無ぇな。)」
「ねぇ、ランスさん。 食べながらで良いから聞いて貰える?
ちょっと、大事な話があるんだけど……」
「ぱくぱく、ごっくん。 ……話だとォ?」
「貴方は記憶を取り戻す為に、エレブ大陸を旅するつもりなのよね?」
「ゴクゴクッ……そうだな、こんな所に居ても何も変わらんだろうし、
早いうちに此処を出て、記憶が(実際は元の世界に)戻る方法を探さねぇとな。」
実際のところ、ランスはリンの体をゲットするまではサカ平原を離れる気は無かった。
かと言って、いくら強さを上回るとは言え無理矢理襲っては、
リンは色気に反して"そう言う事"は嫌いそうなので、思い切った行動に出れなかった。
ランスは記憶喪失では無いのだが(本人がそう思ってるだけで重要な記憶は無い)、
エレブ大陸についての知識はゼロなので、今リンが居ないとサカ平原で行き倒れる可能性もある。
リーザス王で好き放題やっていた時、襲った人間や魔人が何度か自害した事もあり、
多少この件においては自重する事にしており、女性としてレベルが高いリンには尚更気を遣う必要があった。
理想としては、先日述べたように方向性を変えて、リンを自分に惚れさせる事なのであるが……
思ったより早く、そのチャンスがやってきそうなのかもしれない。
昨晩一人で色々と思い悩んでいたようで、リンはランスを上目遣いで見ながら言葉を洩らした。
「あの……私も一緒に、行っちゃダメかな?」
「付いて来るだとッ?」
「う、うん……父も母も半年前に死んで、私の部族……ロルカ族は、もう存在しない。」
「……(昨日、もう自分一人しか居ないとか言ってたな。)」
「山賊団に襲われて、かなりの数が死んでしまって……部族はバラバラになっちゃった。
私は……父さんが族長だったから、代わりにこの部族を守りたかったけど……
こんな子供……しかも女に……誰もついてこなかった……」
「だから、強くなりたいとか言ってたんだな?」
「うん、貴方みたいに強ければ、きっと皆も付いて来てくれたのに……」
「…………」
≪ポタッ……≫
「えへへ、ごめん。 ……ッ……ずっと一人だったから……
……っ……うーん、ダメだ……もう、泣かないって決めたのに……」
「ケッ、強いアタマが居ないからって諦める奴らは、只単に根性が無かっただけだ。
俺様は族長が"可愛い"だけで、付いて行く価値は十分にあったと思うけどな。」
「ッ!? か、からかわないで……こんな時に……」
「これがからかってる顔に見えるか? 事実を言ったまでだ。」
「(私が泣いてたから、お世辞を言ってくれたのね……やっぱりこの人に……)
えへへ……ありがとう、お陰で落ち着いた。
ランスさん、とにかく私、父さん達の仇を討つ為にも強くなりたいのッ!
昨日、ランスさんの戦いを見て判った……一人で此処に居ても、強くなれない。」
「むぅ……(思ったより立ち直りが早ぇんだな。)」
「だから、ランスさん! 私を連れて行って! そして、私に剣を教えて!
無理な頼みって事は判ってます、でも……お願いしますッ!!」
≪ガバッ!!≫
椅子に座ってテーブルに置かれている食事を食べ続けているランスに、
リンは立ち上がると、勢い良く頭を下げた。
彼女は切実に強さを求め、ランスとの同行を望んだのだ。
良く考えてみれば、ランスは記憶喪失の男と言うことから、実は悪党という可能性もある。
しかし、リンはランスを悪人だと思う気持ちは、何故か一切無かった。
ランスが実はどんな奴であろうと、自分に手を貸してくれた事は事実なのであるし、
この"一人ぼっち"が続く生活から抜け出したいという気持ちが強かったのだ。
よってランスに付いて行く事を決めたリンは、彼に頭を下げたまま微動しない。
(彼女にとって)無理な頼みをしている以上、
ランスの返事を聞くまでは面を上げないのが礼儀と思ったからだ。
対してランスは、彼女の体を堪能できるまでは此処から離れないつもりだったのに、
リン本人が自分から付いて来ると言ってくるなど、願っても無かった。
彼は意識して表情を変えないまま、口に入っていた食べ物を飲み込むと、アッサリ言った。
「良いぜ、付いて来たいんなら、好きにしな。」
「ッ!? ほ、本当ですかッ!?」
「まぁ、俺様一人のままじゃ"この大陸"の右も左も判んねぇしな。
それに……リンが足手纏いにならん為にも、俺様がしっかりと稽古をつけてやろう。」
「あ、有難う……凄く嬉しい! 絶対ランスさんが居れば、心強いと思ってたのッ!
貴方は記憶を取り戻して、私は一人前の剣士! 頑張りましょッ、ねッ!?」
「がはははは、大船に乗ったつもりでいるといいぞ。」
「こ、こうしちゃいられない! 早速旅の準備をしてこなくっちゃ!!」
≪だだだだッ!≫
ランスの許可を貰うと、リンに表情がパァ~っと一変する。
暗かった雰囲気は消え、瞳はキラキラと輝いており、余程嬉しかったのだろう。
見た目や言動は大人びているが、この辺が幼さを感じさせる。
そんなリンに悪い気はせず、ランスは何時もの様に笑うと、
慌しくこの場(ゲル)から出てゆくリンの背中を眺めながら思った。
「(くくくっ、アイツが俺様に惚れるのも、時間の問題だな。
だが……な~んか重要なことを忘れてる気がするんだよなぁ……)」
……
…………
『あれ……少し失敗しちゃったかな。 彼の記憶の一部が、抜けちゃったみたい。
まぁ、ぼくには関係無いけどね……君は、ぼくを楽しませるだけの道具なんだよ。
記憶があろうと無かろうと、ぼくを楽しませてくれれば、それで良いのさ……
"こっち"に戻って来れても、例え戻って来れなくてもね……くす、くすくす……』
あとがき:
御都合主義で鬼畜王のランスが烈火の剣の世界に登場です。
基本的にストーリーに忠実で、若干丸くなったランスが好き勝手やります。
とりあえずリン編完結に向けて頑張ります、エロ描写は少な目の予定@w@;