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[2301] ファイアーエムブレム=鬼畜の剣=(鬼畜王ランス+烈火の剣)
Name: Shinji◆9fccc648
Date: 2008/03/03 11:09
序章:草原の少女


かつて『人』と『竜』が共存する大陸があった

彼らはともに英知をもち 住処を侵すことなく

穏やかな生活を営んでいた

しかし突然 『人』の侵略によって

そのバランスは破られる

どちらともが 大陸の覇権をかけ争い

それは大自然の理をも

変化させるほどの大戦となった……

のちに『人竜戦役』と呼ばれる戦いである

その結果 敗れた『竜』は 大陸から姿を消し

『人』は戦いの痛手を乗り越えて

大陸全土に その勢力を広げていった……

それから千年近い時が流れ……


……


…………


『これこれ……このちっちゃな魂……
 君が大事に大事にしてる、これ、ひとじーちッ……えい。』

「きゃああぁぁ……!!」

≪ビキッ、ビキビキッ……≫

「シィルッ!?」

「……らっ……ンス……さっ、まぁぁッ!!」

≪――――ズシィンッ!!≫

「シ……シ、シィル!? シィル、シィル、シィルッ!!」

『おやぁ、いきなりどうしたのさ~? この娘がそんなに大切なのかいッ?』

≪ガンッ! ガンガンッ! ガシガシッ!!≫

「き……きっさまああぁぁッ!!!!」

『くすくすくす……ダメだよ……そんな事しても……
 ぼくじゃないと、どーしよーもないよ。 これ……返して欲しいでしょ?』

「……っ……」

『ふふ……楽しいな……君の心……怒ってる怒ってる……
 ぼく、そーいうの大好き……くすくすっ。』

「くじらの分際でなんて事しやがるッ!?
 さっさと、シィルを元に戻しやがれ……!!」

『やだ。』

「なぁぁにぃぃ……ッ!?」

『返して欲しかったら、言ったと~りぼくを楽しませてよ。 OK?』

「ぐっ……ぬぬぬぬッ……」

『ぼく、ここでちゃんと見てるよ。
 "ゲーム"をクリア出来なかったら、この子、ばらばらにしちゃう。』

「……ッ!?」

『だからね……"あそこ"が良いかな~?』

「"あそこ"……だとッ?」

『くすくす、なんでもないよ……それとね……早く動かないとね。
 この子、このまま年取らないの。 ずっと、このまま。』

「…………」

『と、いう事は、君がさっさと動かないと~~……』

「やかましい!! この俺様を誰だと思ってる、ランス様だッ!!
 俺様がやると言ったら、やる!! この俺様に、二言はない……ッ!!」

『くす、くすくす……なら、本気になったみたいだね……
 それじゃあ……"送ってあげる"から君の活躍、楽しみにしてるね……』

「えっ……何っ!? 何処へ……うぉあッ!!」

≪シュインッ……シュィン、シュィン、シュイィィ~~ンッ……≫

『ばいばーーい。(え~と、この辺かなぁ?)』

「畜生っ……覚えてやがれええぇぇーーーーッ!!!!」

≪バシュウウゥゥ……ッ!!!!≫


……


…………


「うっ……?」

「……気が付いた?」


≪チュンッ、チュンチュンッ……≫


"あの一件"から、どれ位経ったのだろう。

創造神の光を浴びさせられ、暫くの間意識を失っていた"ランス"に対して、
小鳥の囀(さえず)りと強い朝日の日差しが彼の目を開かせた。

すると彼の薄い視界に、自分の顔を覗き込んでいる女性の姿があった。

黒と緑の大きな瞳と、緑のポニーテールが印象深く、若そうだが大人びた顔立ちをしていた。

その女性の顔を見て、ランスは初めにこう洩らした。


「おぉ……95点。」

「な、何? いきなり……」

「いや、こっちの話だ……って、何で俺様は……」

「貴方は草原の入り口で、倒れていたのよ。」

「……(シィルやリア、マリスはどうした? 何か忘れてる気がするんだが……)」

「(大丈夫かしら?)私は"リン"、ロルカ族の娘……貴方は? 貴方の名前を教えて。」

「ん? あぁ、俺様の名は"ランス"だ。」

「"ランス"っていうの? 不思議な響き……でも、悪くないと思う。」

「うむ、格好良い名前だろ? がははははッ。」


意味の無い事で笑うランスに、リンは苦笑いする。

初めてランスが倒れていたのを発見した時、悪人面とも言えなくも無い見た目に少し躊躇ったが、
この様子だと思ったより悪い人では無さそうだと解釈することにした。

そんな訳で、リンは誰でも思いつく疑問をランスに投げ掛ける。


「それで……見たところ、貴方は旅人みたいだけど、このサカ平原には何しに?」

「……旅人? (そう見えるって事は……)俺様の剣や鎧は一緒じゃなかったか?」

「えぇ、"そのままの姿"で倒れてただけよ? もしかして、追剥にでもあったの?」

「う~む……(それ以前に"サカ平原"って何だ? ワケわかんねぇぜ……)」

「それじゃあひょっとして、記憶喪失? 覚えてる範囲で良いから、話を……」


この時点で、ランスはリーザス王となり魔王城を制圧した事までは覚えているが、
神の扉を潜り、創造神ルドラサウムと出会った事については全て忘れてしまっていた。

彼の手によって遥か遠い別世界……"エレブ大陸"に飛ばされてしまった事を覚えていないのだ。

よって、黙って考え込んでしまうランスだったが、それをリンに記憶喪失なのかと解釈された。

それもその筈、ルドラサウムに"魔剣カオス"と"リーザス王の鎧"を没収されたのだが、
ランスは当然それを知らず、逆にリンに"知らないか"と聞いているからだ。

それに対し、久々に人と接したリンは目の前の"ランス"と言う男に興味が湧き、
腕を組んで何かを思い出そうとしているランスに耳を傾けようとしていたが――――


≪うおおおぉぉぉーーッ!!!!≫


「なんだぁ?」

「ッ!? 外が騒がしい……ちょっと見てくるから、ランスさんは此処に居て!」

「(チッ、何か思い出せそうな気がしてたのによ。)」

「大変! ベルンの山賊どもが山を降りてきたわ!
 また、近くの村を襲う気ね……そうはさせないッ!!」

≪チャキッ≫

「おい、まさか……」

「あれくらいの人数なら、私一人で追い払うわ!!」

「(……って言うか、"ベルン"って何だ?)」

「ランスさんは隠れて……」

「俺様よりな、村の連中を逃がす方が良いんじゃないのかー?」

「それは大丈夫、もう私しか……いないから。」

「……(ふ~む、最初の妙な殺気もその為か。)」


突然男達の叫び声が響き、ランスとリンは咄嗟にその方向を見据えた。

だがゲル(遊牧民の住む円形の住居)に遮られ、リンが早足で外の様子を伺う。

すると、入り口が捲られた時、ランスにも遠くにあったもう一つのゲルを荒らしている、
数人の山賊の姿が確認でき、その中の人間が多少だが気になり、
取り合えず(世界最強な)自分の事より"そっち"の方を優先させてみた。

だが要らぬ気遣いだったが、此処は村や集落ではなくリンが"一人"で住む場所でしかなかった。

壊されていた"ゲル"も、たった二つのうちの片方のゲルだったのだ。

その事を遠まわしに告げるリンの表情は、本人にそのつもりは無くても悲しみに満ちていた。


「それじゃあ、行……」

≪ザッ……≫

「待て待てッ! 一応借りを作っちまったからな、さっさと清算しておく事にするぜ。」

「えッ!? 一緒に来るつもり? 何か武器を使えるのッ?」

「おォ、何でも良いぞ? 何なら手ブラでも構わんが。」

「そ、それなら、魔法が使えるのッ? 生憎魔法書は無いから、余ってる"鉄の剣"で……」

≪ガチャッ≫

「おう、借りとくぜ。(う~む、へなちょこな剣だが……まぁ良いか。)」

「腕には自信があるみたいね? なら二人で行きましょう!」

「(朝っぱらから仕掛けてくる山賊なんぞ大した事ァ無ぇだろうが、
 こんな可愛い娘にイキナリ死なれたんじゃ、勿体な過ぎるからなぁ~。)」


……


…………


ゲルを勢いよく出ると、ランスとリンの視界に5人の山賊が飛び込む。

リーダー格の山賊は壊したゲルの中を物色しており、
4人の手下山賊は、二人が入っていたゲルの中に近寄って来ている最中だった。

その様子を見て、リンとランスは互いに正反対な感想を心の中で出していた。

リンは既に相手を威嚇するように構えているが、ランスは頭を掻いているあたり、行動も正反対だ。


「(ご、五人か……思ったよりも多いわね……)」

「(ヘッ、たったの五人かよ。)」

「おォッ? ロクなモンが無ぇと思ったら、掘り出しモンがあったじゃねぇか!!
 野郎どもッ、男は殺せ!! 女は高く売れそうだ、傷モノにはするんじゃねぇぞッ!?」

「がってんでさァ!!」

「おりゃああぁぁーーッ!!」

≪だだだだだッ!!≫

「来たわ!? ランスさん、無茶しないでッ!」

「がははははッ! 俺様に刃向かうとは良い度胸だ!!」

≪ズザッ……≫

「えっ? ち、ちょっと……」

≪ざしゅううぅぅ……っ!!≫

「ぎ、ぎゃあああぁぁぁッ!!!!」

≪――――ドドォッ!!≫


雄叫びと共に斧を振り上げ、斬り掛かってくる4人の山賊。

それに対しリンは身構えて迎え撃とうとしたが、ランスは逆に前に向かって足を踏み出す。

その直後、ランスは鉄の剣をスイングさせて一人の山賊を真っ二つに切り裂いた。

素早いスピードとパワーによる両断……それが見えた者は、居なかった。


「!? こ、こいつ……!!」

「こ、今度は三人同時に行け! 結構強ぇみてぇだぞ!!」

「"結構強い"だァ~? 見くびられたモンだぜ。」

「(ハッ)ちょっと! 私の事も忘れないでよねッ!」

≪ヒュンッ!≫

「うぉッ!? こ、このガキィ!!」

「(ふ~む、あの程度の"相手"なら、勝ちそうだな。)」


山賊達はランスが"手慣れ(どころではないが)"と判って、
今度は三人同時に斬りかかろうと、少しづつジリジリとすり足で距離を詰める。

だがリンが手前の山賊を牽制すると、注意は彼女に移り、その山賊はリンと対峙した。

ランスは、そのリンの太刀だけで大まかな彼女の力を見抜き、
結局山賊のリーダー格も混ざった三人の山賊達と対峙する事となった。

だが山賊三人は斧をしっかりと両手で構えているが、ランスは鉄の剣を肩に担いでいる余裕ぶり。


「こ、このバッタ様を含めた三人相手に勝てると思うなよ!!」

「五月蝿ぇブ男、さっさと来やがれ。」

「……っの野郎ォォッ!!」


……


…………


≪ぶんっ、ヒュッ!! ……ザシュッ!!≫

「ぐわぁッ!!」

≪――――ドサッ!!≫

「はぁ、はぁ……やった、今度は……」

「もう必要無~ぜ?」

「え……えぇッ!?」

「そっちも終わったみてぇだな。」


数十秒の戦いの中、斧の大振りを掻い潜って剣の一撃を食らわせ、一人の山賊を倒したリン。

その死体を見下ろしながら、汗と付着した返り血を拭っていると、後ろから近づいてくるランス。

ニヤける彼の後方には、既にランスによって成敗された山賊・バッタの死体が転がっていた。

どうやら残り二人の山賊は逃げたようで、皆殺しにしなかった辺り、ランスも多少は丸くなったのだろう。

……対して、リンは普通にランスの桁違いな強さに口を開いたまま驚いている。

行き倒れていた記憶喪失の男がこうも強いとは……しかも、本当の実力を殆ど出していなそうな様子。


「……(う、嘘……こんなに強かったの?)」

「ん? どうした、俺様の強さに惚れたか~?」

「そッ、そんなんじゃないけど……少し驚いただけ。」

「まぁ、驚くのも無理は無ぇわな。 何てッたって、俺様は世界最強の男だからな!!」

「(自分で言う事じゃないと思うけど……)凄いわ、どうやったら貴方みたいに強くなれるのッ?
 私も強くなりたい……もっと、誰にも負けないくらいに、強く……」

「ほぅ、そんなに強くなって、どうする気なんだ?」

「それは…………あッ、悪いけど"こんな状況"だし、積もる話は後にしましょ?
 暗くなる前に"こいつら"や壊された"ゲル"をどうにかしなくっちゃ。」

「むっ? まぁ……良いだろう。」


……


…………


この後、ランスはリンに色々と後片付けを手伝わされた。

こんな事を彼が進んでやる事はまず無いが、手伝った理由は只単にリンが"良い女"だったからだ。

よって恩を売る事にしたようで、できれば……というか、むしろ普通に犯ってしまうより、
自分興味を持っていそうなリンを"俺様(自分)"に惚れさせる方が良いと考えていた。

この上なく贅沢なハナシだが、誘拐や陵辱は王様のときに好き放題できていたので、
リンに対しては方向性を変えてみることにしたらしい。

さておき、この日の晩のリンの話で、ランスは"この世界"についてほんの僅かだが学習した。

自分はどうやら"エレブ大陸"に何らかの力で飛ばされてしまったようであり、
此処はエレブ大陸の"サカ平原"と言う場所であるということ。

……と言う事は、リンに自分の境遇を放しても無駄だと思うので、何だか納得がいかないが、
"記憶喪失の旅人"と言う事で話を済ませ、さっさと元の大陸に戻る方法を探さなければならない。

となれば、ランスが今のところ気になるのはリンの強くなりたい"理由"であったが、
彼女は結局"明日話す"とだけ告げると、もう片方の"ゲル"へと駆けて行ったのだった。


……


…………


≪ピカッ……≫


「ランスさん、おはよう!」

「んぁ……シィルか~……?」

「や~ね、寝ぼけてるの?」

「……(あ~そうか、俺様は……やっぱり夢じゃ無かったか。)」

「昨日の戦いで、疲れてた?」

「何を言うか、俺様がそんなタマだと思うかッ?」

「ふふっ、それもそうよね。」


翌日、この日は朝の日差しとリンの元気な声がランスの目を覚まさせた。

この時点で、彼はトランクスとシャツだけの姿だったが、
リンは気にしない性分なのか、気にしないようにしているのか、
ランスに背を向けて何やら持ってきた物をテーブルに広げ始めていた。

その間にランスは無造作に放り投げられていたズボンと上着をゴソゴソと着るが、
視線はリンの後ろ姿……特にスリットから出る生足に向かっていた。


「(良い太股だな、う~む……立っちまってるし、やりたい。)」

「ランスさん、口に合うかは判らないけど、食べて貰えるッ?」

「お? なかなか気が利くじゃねぇか。(まぁ、今の所は性欲よりも食欲だ!)」

「…………」

「むしゃむしゃ、ガツガツ……(流石にアイツの料理迄とはいかんが、悪くは無ぇな。)」

「ねぇ、ランスさん。 食べながらで良いから聞いて貰える?
 ちょっと、大事な話があるんだけど……」

「ぱくぱく、ごっくん。 ……話だとォ?」

「貴方は記憶を取り戻す為に、エレブ大陸を旅するつもりなのよね?」

「ゴクゴクッ……そうだな、こんな所に居ても何も変わらんだろうし、
 早いうちに此処を出て、記憶が(実際は元の世界に)戻る方法を探さねぇとな。」


実際のところ、ランスはリンの体をゲットするまではサカ平原を離れる気は無かった。

かと言って、いくら強さを上回るとは言え無理矢理襲っては、
リンは色気に反して"そう言う事"は嫌いそうなので、思い切った行動に出れなかった。

ランスは記憶喪失では無いのだが(本人がそう思ってるだけで重要な記憶は無い)、
エレブ大陸についての知識はゼロなので、今リンが居ないとサカ平原で行き倒れる可能性もある。

リーザス王で好き放題やっていた時、襲った人間や魔人が何度か自害した事もあり、
多少この件においては自重する事にしており、女性としてレベルが高いリンには尚更気を遣う必要があった。

理想としては、先日述べたように方向性を変えて、リンを自分に惚れさせる事なのであるが……

思ったより早く、そのチャンスがやってきそうなのかもしれない。

昨晩一人で色々と思い悩んでいたようで、リンはランスを上目遣いで見ながら言葉を洩らした。


「あの……私も一緒に、行っちゃダメかな?」

「付いて来るだとッ?」

「う、うん……父も母も半年前に死んで、私の部族……ロルカ族は、もう存在しない。」

「……(昨日、もう自分一人しか居ないとか言ってたな。)」

「山賊団に襲われて、かなりの数が死んでしまって……部族はバラバラになっちゃった。
 私は……父さんが族長だったから、代わりにこの部族を守りたかったけど……
 こんな子供……しかも女に……誰もついてこなかった……」

「だから、強くなりたいとか言ってたんだな?」

「うん、貴方みたいに強ければ、きっと皆も付いて来てくれたのに……」

「…………」

≪ポタッ……≫

「えへへ、ごめん。 ……ッ……ずっと一人だったから……
 ……っ……うーん、ダメだ……もう、泣かないって決めたのに……」

「ケッ、強いアタマが居ないからって諦める奴らは、只単に根性が無かっただけだ。
 俺様は族長が"可愛い"だけで、付いて行く価値は十分にあったと思うけどな。」

「ッ!? か、からかわないで……こんな時に……」

「これがからかってる顔に見えるか? 事実を言ったまでだ。」

「(私が泣いてたから、お世辞を言ってくれたのね……やっぱりこの人に……)
 えへへ……ありがとう、お陰で落ち着いた。
 ランスさん、とにかく私、父さん達の仇を討つ為にも強くなりたいのッ!
 昨日、ランスさんの戦いを見て判った……一人で此処に居ても、強くなれない。」

「むぅ……(思ったより立ち直りが早ぇんだな。)」

「だから、ランスさん! 私を連れて行って! そして、私に剣を教えて!
 無理な頼みって事は判ってます、でも……お願いしますッ!!」

≪ガバッ!!≫


椅子に座ってテーブルに置かれている食事を食べ続けているランスに、
リンは立ち上がると、勢い良く頭を下げた。

彼女は切実に強さを求め、ランスとの同行を望んだのだ。

良く考えてみれば、ランスは記憶喪失の男と言うことから、実は悪党という可能性もある。

しかし、リンはランスを悪人だと思う気持ちは、何故か一切無かった。

ランスが実はどんな奴であろうと、自分に手を貸してくれた事は事実なのであるし、
この"一人ぼっち"が続く生活から抜け出したいという気持ちが強かったのだ。

よってランスに付いて行く事を決めたリンは、彼に頭を下げたまま微動しない。

(彼女にとって)無理な頼みをしている以上、
ランスの返事を聞くまでは面を上げないのが礼儀と思ったからだ。

対してランスは、彼女の体を堪能できるまでは此処から離れないつもりだったのに、
リン本人が自分から付いて来ると言ってくるなど、願っても無かった。

彼は意識して表情を変えないまま、口に入っていた食べ物を飲み込むと、アッサリ言った。


「良いぜ、付いて来たいんなら、好きにしな。」

「ッ!? ほ、本当ですかッ!?」

「まぁ、俺様一人のままじゃ"この大陸"の右も左も判んねぇしな。
 それに……リンが足手纏いにならん為にも、俺様がしっかりと稽古をつけてやろう。」

「あ、有難う……凄く嬉しい! 絶対ランスさんが居れば、心強いと思ってたのッ!
 貴方は記憶を取り戻して、私は一人前の剣士! 頑張りましょッ、ねッ!?」

「がはははは、大船に乗ったつもりでいるといいぞ。」

「こ、こうしちゃいられない! 早速旅の準備をしてこなくっちゃ!!」

≪だだだだッ!≫


ランスの許可を貰うと、リンに表情がパァ~っと一変する。

暗かった雰囲気は消え、瞳はキラキラと輝いており、余程嬉しかったのだろう。

見た目や言動は大人びているが、この辺が幼さを感じさせる。

そんなリンに悪い気はせず、ランスは何時もの様に笑うと、
慌しくこの場(ゲル)から出てゆくリンの背中を眺めながら思った。


「(くくくっ、アイツが俺様に惚れるのも、時間の問題だな。
 だが……な~んか重要なことを忘れてる気がするんだよなぁ……)」


……


…………


『あれ……少し失敗しちゃったかな。 彼の記憶の一部が、抜けちゃったみたい。
 まぁ、ぼくには関係無いけどね……君は、ぼくを楽しませるだけの道具なんだよ。
 記憶があろうと無かろうと、ぼくを楽しませてくれれば、それで良いのさ……
 "こっち"に戻って来れても、例え戻って来れなくてもね……くす、くすくす……』


あとがき:
御都合主義で鬼畜王のランスが烈火の剣の世界に登場です。
基本的にストーリーに忠実で、若干丸くなったランスが好き勝手やります。
とりあえずリン編完結に向けて頑張ります、エロ描写は少な目の予定@w@;



[2301] ファイアーエムブレム=鬼畜の剣= 1章
Name: Shinji
Date: 2006/10/20 18:52
第一章:運命の足音


鬼畜戦士ランスと、少女剣士リン。

奇妙な二人旅がこうして始まった。

二人はまず旅装を整えるため、

サカの交易都市
ブルガルへ向かうことにした。

この街での出会いが
リンの運命を大きく変える事を
彼女はまだ知るよしもなかった……


……


…………


ランスの世界とこの"エレブ大陸"の相違点は多々ありそうだが、一つだけ大きな違いを挙げるとしよう。

それはエレブ大陸には"モンスター"というモノが存在しないと言うこと。

ランスはそれをリンとの話で理解し、"思ったより戻るのは楽そうだ"と勝手に解釈していた。

しかしその反面、この大陸には東の"ベルン王国"と西の"エルトリア王国"を中心に、
"サカ諸部族"、"イリア諸騎士団"、"西方三島"、"ナバタ砂漠"、"リキア同盟"と、
多くの勢力に分かれており、その分治安が悪く、山賊や盗賊・海賊団がかなりの数らしい。

ランスの居た大陸と違い、リーザスとヘルマンを結ぶ"一部隊しか通れない山道"や、
戦闘領域の非常に狭い難攻不落の"パラパラ砦"や"アダムの砦"のように、
国と国を繋ぐ"境目"が少なくは無いので、今の場所で儲からなければ、
リンとランスを襲ったベルンの山賊達のように、サカ平原やエルトリアに赴いて略奪を行う事は安易なのだ。

戦争を起こすのも、リーザス・ヘルマン・ゼスが互いに仕掛け難かったようにやり辛くは無く、
ひとたび誰かが野心を爆発させれば、たちまち各国を巻き込む戦いが始まる事も考えられる。

……そんな争いの耐えないエレブ大陸だが、ランスはそれでも気楽だった。


……


…………


「えぃッ! やぁぁっ!!」

≪ヒュンッ、ヒュッ!!≫

「おッ……とぉ。」


父が育てていたと言う、リンの逞しい馬に二人乗りし、サカ平原を出発して数日。
(馬上でリンと密着することによって、ランスの股間が反応したのは言うまでも無い)

基本的に馬が疲れたら休憩・出発の繰り返しだったが、その合間にランスはリンの修行に付き合っていた。

彼は今まで人に剣を教えた事など無かったが(メナドと健太郎の時も適当だった)、
リンの気を引くには、彼女に自分は凄い奴なんだと思わせるのが一番なのだ。

現在は修行の真っ最中で、リンは旅の合間に拾った長い棒を武器代わりにしてランスに攻撃を仕掛けていた。

対して、素早く棒を振り回すリンの攻撃を、ランスは武器(棒)を使わず、
難なく回避するが、最後の連撃を避けてある程度後退すると同時に低姿勢になると、
それを好機と上段で構えて更に早いスピードで距離を詰めてくるリン。

よって前に出ていた左足を折り、後ろの右足で踏ん張ることでリンの攻撃を迎え撃つランス!


「ハアアァァっ!!」

「なんのォッ!!」

≪ガコ……ッ!!≫

「え……っ!?」

「がはははは! 甘いぜ、うらぁッ!!」

≪ガキィンッ!!≫

「きゃああぁぁっ!!」

≪――――どさっ!!≫

「(おぉッ? パンチラゲット。)」


……何と、左手の力だけでリンの攻撃を、棒で防御してしまったランスは、
武器(棒)を素早く右手に持ち替え、左に薙ぎ払ってリンの武器を強打すると、
彼女はその攻撃で棒ごと左に弾かれ、その場に倒れてしまった。

リンとしては攻撃を避けられる中、ランスの油断を狙って一本を取ろうと考えていたのだが、
"今回"もランスに軽く捌かれてしまったのである。

そんな手が痺れているのを感じながら上半身を起すリンに、
良いモノを見てしまったランスは、少しだけ鼻の下を伸ばした後、棒を肩に近づく。


「っ……」

「勝負あり~ってとこだな。」

「ま、参りました。」

「手加減したつもりだが、大丈夫だったか~?」

「私なら大丈夫……ところで、今回の私はどうだったかな?」

「……そうだなぁ、手数を増やして牽制した後の隙を狙ったんだろうが、
 それを防御された後の"引き"が甘かったな。 まぁ、悪くは無かったぜ?
 大抵の奴は今ので仕留められてたんじゃねぇか? たぶん。」

「成る程……」

「じゃあ、今日はこれで仕舞いだ。 暗くなっちまいそうだし、俺様は休むぞ。」

≪ザッ……≫

「(はぁ……未だに一本も取れないなんて、私ってまだまだなのかしら……)」


良い男を演じる訓練を終えて、馬と荷物がある場所にへと戻って行くランス。

一方、立ち上がった後、その場から動かないリンだが、
ハンデを貰っても彼女はランスにまるで敵わない事から、今のように自分の力不足を感じていた。

しかし、そうではない……いくら実戦経験が薄いとは言え、
リンは一人で生活する中、両親の仇を討つ為に暇な時あらば剣を振る生活をしていたので、
彼女はそれなりの腕の剣士であり、何よりランスが強過ぎるのである。

"元の世界"の魔人を倒すほどの超人的な力を今のランスは持ってはおらず、
ルドラサウムに"エレブ大陸"相応の"強さ"に調節されてしまったのだが、
それでもランスが強い事は変わらず、もはやリンのランスを見る目は、最初とは違っていた。


「(記憶が無いみたいだけど、一体どんな人なのかしら? きっと凄い人に違いないわ。)」


……彼女の考えたように、確かにランスは彼女の想像を絶する凄い境遇の男だ。

しかし、リン自身も"特別"な存在な女性と言えるだろう。

その事を知る筈も無いリンは、ホコリを祓うとランスの後を追ってゆくのだった。


……


…………


≪パチッ、パチパチッ……≫

「(やりたい、やりたい。 そろそろ溜まって来ちまったぜ。)」

「ランスさん。」

「な、なんだ?」

「長旅で疲れてるだろうと思うけど、明日の昼にはブルガルに到着すると思うわ。」

「ほう。」

「だから、明日からは忙しくなりそうだし、今日は早めに休みましょう。」

「それが良さそうだな。」


辺りが暗くなり……動物の遠吠えが聞こえる時刻。

腕を枕代わりにして横になっているランスに、焚き火の管理をしていたリンが声を掛ける。

……実を言うと、食事の支度や野宿の準備等は、全てリンが行っていた。

ランスに剣を教えて貰う代わりなのか? 彼と同行できるのが嬉しかったからなのか?

イマイチ、リンが自分の事をどう思っているのか良く判らないが、
此処で無理な行動に出て"俺様に惚れさせる作戦"を台無しにする訳にはいかない。

明日になれば"ブルガル"という都市に到着するようであるし、
其処で山賊からくすねたお金を使って女と寝るのも悪くは無いだろう。


「それじゃ、ランスさん。 おやすみなさい!」

「うむ。」

「…………」

「(……ま、楽しみを後に取っておくのも、悪く無ぇわな。)」


旅の中、ランスの何倍も動いているリンは、コテンと横になると、すぐさま寝てしまった。

最初は女として少しだが彼のことを警戒しているようで、あまり寝ていなかった様子だが、
今はランスの事を信用してしまった為か、いとも無防備な格好で寝ている。

衣服を肌蹴させてたりして寝ていると言う訳では無いが、
あどけない寝顔とスリットからこぼれる太股が、何とも色気を出しており、ランスの股間を疼けさせていた。

普段ならこうも"慎重"にいかないランスだが、彼も23歳……新しい事に挑戦するのも悪くは無い。


……


…………


「ほぉ~、なかなかデカい所なんだな。」

「うん、此処がサカで一番大きな町だから。
 さてと……まずは旅に必要な物を揃えましょう。」

「ちょっと待て、その前に飯だッ!」

「なら、そうしましょうか。 え~っと、確かあっちの方に……」


翌日、予定通り昼過ぎにブルガルに到着したランスとリン。

現在はリンは馬から下り、馬に乗ったランスごと綱で誘導している。

そして、ランスは馬上から街中を見渡し、"あまりあっちの街中と変わりは無ぇな"などと考えていた。

確かに彼の考えたように、"こっち"と"あっち"の文明の差は大きくは無いようだ。

そんな中……二人と一頭がようやく人ゴミを抜けると――――


「おぉっ! これは! 何て美しい女性なんだっ!!」

「……っ?」

「待って下さい、美しい方ッ! 宜しければ、お名前を! そして、お茶でも如何ですか!?」

「(何だ、このアホは?)」


何者かの声が響き渡ったと思うと、馬に乗った騎士が近付き、
騎士はヒラリと地面に華麗に着地すると、怪訝そうな表情をするリンの前に跪いた。

黒いバンダナと緑の鎧が印象深く、性格はランスのまれに見るタイプであり、
はっきり言って彼の大嫌いなタイプなのだが、いきなり連れをナンパされる事など、
滅多に経験したことが無かったランスは、まだリアクションができていなかった。

一方、先に口を開いたのはリンであり、"このような相手"は好きでは無いようで、
ランスの知る"トンガリ帽子の魔法使い"が取りそうな対応をした。


「……貴方、何処の騎士?」

「良くぞ聞いて下さいました! 俺は、リキアの者。
 もっとも情熱的な男が住むと言われる、キアラン地方出身です!!」

「"最もバカな男が"の間違いじゃないの?」

「うっ……つ、冷たい貴女もステキだ。」

「行きましょ、ランスさん。 付き合ってられな……」

≪ダカカッ!! ――――ゲシィッ!!≫

「ぐはぁ……ッ!!」


軟派な男は嫌いなリンは、緑の鎧の男に毒舌をぶつけると、馬の向きを変えようとした。

その時、リンの真横を横切る馬、緑の鎧の男の顔面に炸裂する蹴り(正確にはランスの右足)。

彼をリンに纏わり付く悪い虫と判断したランスが、
僅かな助走ながら見事なまでな馬捌きで加速をつけ、男をぶっ飛ばしたのだ。

ランスの世界の馬は"うま"なので、"馬"を見るのは初めてだったのだが、
この世界の彼には馬を操る"才能"と言うモノがあるようだ。


「……ふんっ。」

「痛ッ……な、何をするんだ~っ……俺はこのお嬢さんに……」

「ふざけろ! "俺様の女"に何も断りも無く話し掛けやがってッ!
 この場でブッタ斬られなかっただけ、有り難く思いやがれっ!!」

「……ッ!?(お、俺様の女って……私が?)」

「おい、リン。 行くぞ~。」

「あっ……う、うん。(い、嫌だ……何ドキドキしてるのよ、私……)」

「……(おっ、良いな! やはり脈有りと見たぜッ!)」

≪パカッパカッパカッ、ドスッ! パカッパカッパカッ≫

「げっ、げぶぅっ……」


ついでに蹴りのダメージで起き上がれない"ナンパ男"を馬の片足で踏み潰し、
何事も無かったようにその場をさっさと離れてゆくランスと、少し顔の赤いリン。

この男の犠牲でランスはどさくさに紛れて言った言葉でリンの反応を見たが、
思ったより意識しているようなので、内心ニヤけていた。

対してリンは、ランスが自分とセックスしたいと思っているという事に気付いていない。

だが彼女も彼に多少好意は抱いており、ランスの"俺様の女"という言葉に胸が熱くなるのを感じたが、
「た、確かにそう"見せ掛けた方"が安全よね」と解釈する事で、今は深くは考えない事にした。

自分の剣の腕にまだまだ満足していないリンは、ランスと釣り合う女だとは思っていないのだ。
(ランスにとっては釣り合いもクソも無く、相手が可愛く、抱ければそれで良いのだが)

……一方、蹴られた上に馬に踏まれ、虫の息の緑の鎧の男に、赤い鎧の騎士が近付いてきた。

ちょうど今、この場を去ったランスとリンの横をすれ違った騎士だ。


「せ、セイン! 何故そんな所で死に掛けているんだ、しっかりしろ!」 

「おお、ケント……わが相棒よ……どうした、そんなに慌てて。」

「貴様がそんな状況でなければ、もっと普通の顔をしている!
 セイン! 我々の任務は、まだ終わっていないのだぞッ!!」

「わかっているさ……だが、美しい女性を目の辺りにして、
 声を掛けないのは……れ、礼儀に反するだろうッ?
 例え連れが居ようと、このように返り討ちにあって……馬に踏まれようとね……」

「なんの礼儀だ! とにかく、さっきすれ違った娘を追うぞッ! 彼女は多分……」

「あぁ、そう言えば……今ナンパしようとした素敵な女性も、
 なんとなくリンディス様の肖像画にに似てた気がするなぁ~……」

「き、貴様と言う奴はッ! とにかく傷薬だ! 寝ている場合じゃないぞ!!」

「好きで寝てるワケじゃ……ないんだけどね……」


……


…………


「……ランスさん。」

「なんだ?」

「多分、つけられてる。 しかも、殺気が物凄い。」

「どうするつもりだ?」

「良く判らないけど、追い払いましょう!」

「うむ。(散々溜まってんだ、ストレス発散してくれる!)」


昼食を取る為に目的地へと向かう中、リンは尾行されていることに気付く。

ランスも当然察し、二人+一頭は人目を避ける為に、早足で人気の無い路地に入った。

……すると、それを待っていたかのように、幾つもの人影が現れ、路地の出口を塞いだ!

それにリンが身構えると(ランスは馬から下りている最中)、一人の大男が前に出た。


「ぐへっ、ぐへへへ……可愛い嬢ちゃん! あんた……"リンディス"ってんだろ?」

「!! 何者……!?」

「勿体無ぇ、全く勿体無ぇが……これも金の為だ、消えて貰うぜ!!
 だが、それはタップリ楽しんでからだッ! 行けッ、捕まえろ野郎ど……」

≪――――バッ!!≫

「死ね、このデブ!!」

≪どぶしゅ……っ!!≫

「ぎゃあああぁぁぁッ!!」

「か、頭ァ!?」

「な、何なんだ! こいつッ!?」

「俺様ぁ今、ご機嫌ナナメなんだ! 次に死にてぇ奴ァ誰だ!?」

≪――――ドシュッ!!≫

「ひ……ひぃぃい!!」

「話が違うぜ! こ、小娘一人ダケじゃ無かったのかよぉ!?」

「(やっぱり、デタラメな強さだわ……)」


大男(名前はズグ)がリーダーなのか、彼は手下の"ならずもの"を嗾(けしか)けようとした。

しかし、それよりも早く馬から降り終わったランスがズグに斬り掛かり、一瞬で"あの世"に送った。

一方ドサクサに紛れて自分を捕らえようとしてくる"ならずもの"を軽く捌いていたリンは、
この時のランスの"ご機嫌ナナメ"を、記憶が戻らない事からの苛立ちだと思ったが、それは違う。

……お気付きの通り、彼は只単にセックスができなくて溜まっていただけなのである。

そんな訳で一分も経たないうちに10名近かった"ならずもの"達は半分が倒され、
残りは二人の(特にランス)強さに恐怖して、逃げ出してしまった後だった。

それを追わず、ランスは何事も無かったように鉄の剣を鞘に収めると、リンのほうを向く。


「片付いたな。 さて、メシだ飯。」

「…………」

「どうした~、リン?」

「ねぇ、変だと思わない? どうしてこいつら、私達を襲って来たのかしら?」

「そういや、お前を狙っている感じだったな。
 "リンディス"とか言ってたが、それがリンの本名なのか?」

「うん……私は父さんと母さんに、家族三人だけのときはリンディスって呼ばれてた。
 でもおかしいわ、あんな男が私の本名を知っていたなんて……」


リンが最初尾行されているのを感じたとき、てっきりランスを追う刺客だと思っていた。

例えそうだったとしても、ランスに付いて行くと決めた以上……むしろ望むところだった。

だが、狙われていたのは自分であり、その理由が判らない。

当然エレブ大陸に来たばかりのランスに言っても、真相が判る筈も無いのだが……

リンが首を捻って考える中、適当に流していたランスの表情が、何かに気付いたようで変わる。


「……おい、其処で隠れてる奴ら。 出てきたらどうなんだ?」

「あれ、バレちゃいましたか?」

「手を貸すつもりでしたが、必要なかったようですね。」

「むッ? お前はさっきのナンパ男。 ……そうか、
 今度は命を掛けて、俺様の女を奪いに来たという訳だなッ?」

≪チャキッ≫

「ちちち、違いますって! ケントッ、説明してくれよ!!」

「(この男……只者じゃないな……)わかっている。」

「何よ、貴方達……何か知っているの?」

「はい。 申し送れました、私はリキアの騎士ケント。 この男は連れのセイン。
 我らはリキアのキアラン領より、人を訪ねて参りました。」

「リキア……南西の山を越えた所にある国ね?」

「そうです。 16年前に遊牧民の青年と駆け落ちした、マデリン様への使者として。」

「……マデリン?」

「ふぁ~あ……(何だか長くなりそうじゃね~か。)」


……


…………


ランスはケントの話を良く聞いていなかったが、要点だけを纏めよう。

リンはキアラン侯爵のたった一人の令嬢、マデリンの実の娘だったのだ。

だが、駆け落ち後ずっと消息が知れず、侯爵も"もう娘はいないもの"と諦めてしまっていた。

そんな中、今年になって初めてマデリンより便りが届き、
"サカの草原で、親子3人で幸せに暮らしている"という内容を読んで侯爵はとても喜び、
幸せそうな顔で、死んだ妻(リンの祖母)と同じ名でもある"リンディス"という存在を発表した。

その娘達に会いたいと思い、優れた騎士であるセインとケントを此処まで送ったのだが、
半年前にリンの両親は山賊に殺され、死に際の手紙でブルガルにて二人はそれを知った。

しかし、リンという希望は失われておらず、とうとう二人は彼女を発見できたと言う訳だ。

あまりの真実に、リンは気持ちがこんがらがっている様だが、一つの疑問が湧いた。


「そう言えば、さっきのヤツも私を"リンディス"って呼んでたわ。」

「!? セイン、まさか……」

「たぶん、ラングレン殿の手の者……かな?」

「ラングレン……誰ッ?」

「彼は――――」


……ラングレンは、キアラン侯爵の弟。

駆け落ちしたマデリンは、戻らないモノと誰もが思っていたので、
その場合、ラングレンが次の爵位を継ぐハズだった。

つまりラングレンは、継承権を持つリンに生きていられると困ると言う事になる。

リンは爵位に興味は無いが、そう言う事が通用する相手ではなく、
今回は退けたモノの、これからもリンの命を執拗に狙ってくるだろう。

だとすれば、気ままな旅をしている場合では無くなってしまった。


「……どうすれば良いの?」

「我等と共にキアランへ。 此処に居ては危険です。」

「それしかなさそうね……でも……」

≪ちらっ≫

「リンディス様?」

「何だ? 話は終わったのか~?」

「(一緒に、来てくれるのかしら……?
 彼の強さなら、私やこの二人なんて邪魔なだけかもしれない……
 でも、まだ私はこの人と一緒に……剣だってもっと教わりたいし……)」

「おい、なに固まってんだ?」

「……ッ!? そ、それより聞いてたでしょ?
 私、キアラン領に行く事になったんだけど、ランスさんも一緒に……」

「キアラン領だぁ? なんか勝手に話が進んじまったみてぇだな。」

「うっ……」

「南西か~ッ、俺様はなんとなく北東に行きたい気がしてたんだよなぁ~。」

「うぅっ……」


ランスとしては、未だにこの世界についての知識は皆無なので、
最初の方はリンが行きたい所に行かせるつもりだった。

だが、素直に従うのは自分らしくなく、男が二人も加わるのもイマイチ納得がいかない。

よって……少し捻くれてみる事にしてみた。

すると、彼が捻くれるたびにリンの表情が涙目になってゆき、
ランスはリンの可愛さを再認識すると共に、やはり自分に気があるのだと気分を良くした。
(余談だが、小耳に挟んだ北のイリア諸騎士団の傭兵"天馬騎士団"に、既にランスは興味を持っている)


「だが、リンが"どうしても"と言うなら行ってやらん事も無いがな、がはははは。」

「なら……い、良いの? 本当にッ? ランスさん……改めて、これから宜しくね!」

「どうやら、話は纏まったようですね。」

「お二人とも、宜しくお願いしますよ~ッ?」

「うむ、セインとケントだったな? もし俺様の足を引っ張るようなら、
 構わず後ろから叩き斬るか、見捨てるかするから、覚悟しておけよ?」

「ふっ、望むところです!」

「は、は~い……(ケントくん、この人多分本気だと思うんですけど……)」


……


…………


「それじゃあ、私は宿の手配をしてくるわ。」

「このケントは、物資の調達を。」

「ではでは、俺は行き交う美女達に愛の手をッ!」

「ふざけるな、お前は私と来るんだッ!」

「そ、そんなに怒るなって! 言ってみただけだよ。」

「ランスさんはどうするの?」

「ん? 俺様は適当に散歩だ、少し食い過ぎたみてぇだからな。」

「ふふ、わかった。 それじゃあ皆、3時間後にまた此処でね?」

「承知しました。」

「リンディス様ッ、また後で~!」


セインとケントの加入後、4人は食事(昼食)を済ませると、
町の中央で役割分担を決め、一旦別行動する事にした。
(ランス以外は顔を隠すために、フードを覆って行動するようだ)

腕を組んでその場に立っているランスに、リンがチラりと彼を横目に去って行き、
ケントはセインの腕を引っ張りながら人込みに消えていった。

リンは何度か後ろを振り返っていたので、ランスと一緒に行動したかったのかもしれず、
それも悪くは無いと考えたランスだが、彼には他に"やりたい事"があった。


「(……さて、残りは三時間だ、溜まったもんをどうにかしねぇとな。)」


それは、数日間で溜まった"性欲"の発散。

食事の時、ドサクサに紛れてセインから娼婦館の場所を聞き出しており、
"山賊"や"ならずもの"から奪った金を使って女を抱きに行くのである。

当然、セインにはリンとケントに対する口止めも行っており、
セインはセインで出会った直後にあっさりとブっ飛ばされた事から、
ランスの邪魔するのは避けた方が良いと直感で感じ、口止めを承諾した。

セインも一流とまでは言わずとも、優れた騎士なのだが……ランスとはレベルが違うのだ。

……と言う訳で、三人が去った事を確認すると歩き出すランスだが、一つだけ思う。


「(しっかし、リンがまだ15だったとはなぁ……だが、
 もう食べ頃だし、予習しておかんとな! がはははははッ!!)」



[2301] ファイアーエムブレム=鬼畜の剣= 2章
Name: Shinji
Date: 2006/10/24 01:14
第二章:精霊の剣


ブルガルの街のはずれに、
小さな祭壇がある。

精霊が宿るというその場所は、
古来よりサカ族の聖地とされていた。

一行は旅の安全を祈るため、
そこへ立ち寄ることにする。

大いなる何かに導かれるように……


……


…………


リン達と合流する3時間の間に、性欲を発散させようとしたランス。

しかし、たったそれだけの時間で彼が満足するハズは無く、
結局夜にも宿を抜け出して、ランスは暗い街中にへと出向いていった。

その時バッタリと鉢合わせした、セインの驚きといったら無かったが、
自分に謙(へりくだ)る態度にランスは、勝手に彼を"俺様の手下"と解釈する事にした。

そんな訳で本日、昨日と違って専ら機嫌の良さそうなランスがリンは気になったが、
今は"キアラン領"を目指す事が先決なので、それは心の中に閉まっておくしか無かった。

ちなみにランスは、そのリンの仕草の意味に気付いたが、
あえてしらばっくれる事で、この状況を楽しんでいたりした。


……


…………


≪ダカパッ、ダカパッ、ダカパッ!!≫

「リン、今度はどっちに曲がりゃ良いんだぁ~?」

「え~と、そっちを右よ!」

「よしきた、そりゃッ!」

「ブヒヒィィ~ンッ!!」

≪ダカカッ、ダカカッ、ダカカッ!!≫

「そ、それにッ……しても、少しッ、飛ばし過ぎ……じゃないっ?」

「それは間違いだ! 只単に、俺様が馬を操るのが上手すぎるだけだからなッ!」

「(最初は馬なんて"始めて見た"って感じだったのに……)」

「ぬぉッ、障害物か! じゃ~んぷ!」

≪ダカパッ――――ブァッ!!≫

「きゃあ! ち、ちょっと……お願いだから無茶しないでッ!」

「がははははは!! 愉快、愉快ッ!」

「(でも、ひょっとして……馬の使い方を"思い出せた"のかしら?)」


性欲を発散させたランスは、この日そのままの勢いで自分がリンに変わって騎手をすると言い出した。

対して初めは不安だったリンだったが、なんとランスは抜群の馬捌きで、
荒れた街道を速いスピードで突き進める腕を持っていた。

ランス自身は"自分は天才だから出来るのは当たり前"程度にしか思っていないが、
リンにとっては更に彼について色々と考えさせられる一件となる。

……だが、振り落とされないようにランス腰に手を回してしがみ付いている状況なので、
考える心の余裕は無く、リンの不安は別の意味で的中したと言えている。

特に、たった今岩をジャンプで飛び越えた時にはかなりの力が込められていただろう。

セインとケントが操る二頭の馬も、街道を駆けている真っ只中であり、
そんな岩(障害物)を左右に分かれて回避したところだった。


≪ダカパッ、ダカパッ、ダカパッ!!≫

「うへ~、二人乗りでジャンプ? 何てテクニックだよ。」

「全くだ……"ソシアルナイト"である我々が、付いて行く事さえやっとだとはッ。」

「こりゃ~負けてられないな……ケントッ、遅れるなよ!?」

「ふんっ! 貴様こそな!」


セインは遠方のランスの手綱捌きを見て、"やっぱり逆らわなくて良かった"と実感する。

ケントはまだ彼に対する警戒心を、完全には解いてはいないが、
"ならずもの"との戦いやこのテクニックを見て、何処かの優れた騎士なのかと勘違いしていた。
(セインもケントもランスに気付かれないよう、リンから彼は"記憶喪失"だと聞かされた)

何故なら、このエレブ大陸では"馬上"で剣を扱える兵種は、
ソシアルナイト、その上位のパラディン……そしてサカの"遊牧騎兵"しか存在しない。

まだ馬上でランスが剣を扱っている様を見た事は無いが、
この一流のテクニックから、それなりに扱えるだろうと考えざる得ない。

よってランスはどう見てもサカの人間には見えないので、
前者に該当する事を考えれば"何処かの優れた騎士"と推理するしかないのだ。

実際は見当違いなのだが……それも仕方ないコトだろう。

さておき、妙にライバル心を燃やして"レース"を行うケントとセインだが……


「またか! ランスじゃ~んぷ!!」

「きゃああぁぁっ!!」

≪ぎゅうっ!!≫

「(おぉ? ぐふふっ、今のは良い感触だったな。)」

≪ダカカッ、ダカカッ、ダカカッ!!≫

「くっそ~っ! マジで早いッ!」

「(ランス殿、あくまで我々を試すおつもりか!? 面白い!!)」


他の三人は気付いていなかった。

ランスが妙にスピードを出していたのは、
セインとケントと試していた訳でも、"乗馬そのもの"を楽しんでいた訳でもない。

只単に自分にしがみ付く、リンの胸の感触を楽しみたかったダケと言う事に……


……


…………


「うぅ……し、死ぬかと思った……」

「がははは、まだまだ修行が足らんな!」

「リンディス様、しっかり!」

「セイン……ありがとう。 でも、変なトコ触ったらひっぱたくわよ。」

「わ、わかっていますとも!」

「まぁ、お陰であっという間に着いてしまいましたが……」

「そ、そうね。」

「そういや寄り道したいとか言ってたが、此処には何があるんだ?」

「えっと……此処にある祭壇には、宝剣が祭られてるの。
 サカの民が長い旅にでる時には、此処で無事を祈っていくのよ。」


ブルガルの外れ……目的地である小さな村に到着したランス一行。

そんな中、馬から下りたリンはヨロヨロと膝を笑わせていた。

一方、リンを"そんな風"にした自覚が無いランスが当たり前のことを聞き、
リンが答えると、彼女に押しのけられながらもセインが口を開く。


「ほほぅ、それは興味深い。」

「エレブ大陸で信徒が一番多いのはエリミーヌ教ですが、
 この地では、太古の慣わしが受け継がれているのですね。」

「エリミーヌ教だぁ?」

「えッ? ランスさん、ひょっとして"エリミーヌ教"も知らないの?」

「あぁ、普通に知らん。」

「なんとまぁ。」

「多分、AL(アリス)教団みたいなモンだとは思うけどな。」

「AL教団……? 聞いた事が無いですね。」

「まぁ、"俺様の居た所"にはそう言う教団が流行ってるってダケだ。
 とにかく祈ってくんだろ? さっさと済ませちまおうぜ。」

「……そうしましょうか。 みんな、祭壇はもう少し東の方にあるわ。」


……


…………


「祭壇に祭られてる剣の事を知ってますか?
【マーニ・カティ】という名前の剣で、精霊の祝福を受けているそうです。
 祭司様から聞いた話だと、
【マーニ・カティ】はずっと自分の持ち主を待っているんだとか。
 ……持ち主は、剣が自分の意志で選ぶそうなんですけど、
 なんだか不思議な話ですよね。」


そんな情報を仕入れ、4人の視界に例の"祭壇"が見えて来たとき。

ランスの前に一人の中年の女性が、慌てた様子で声を掛けてきた。

彼女の話によると、何やらこの辺りでも評判の"ならずもの"の一味が、
祭ってる剣を奪いに祭壇に向かって行ったとの事。

どうやら4人(特にランス)が強そうなので声を掛けてきたらしいのだが、
それに"面倒臭ぇな"としか思わなかったランス。

……しかし、彼とは逆にリンは怒った様子で声を荒げた。


「剣を……奪うですって!? そんな事、許せないわッ!」

「あんた達なら強そうだ、祭司様を頼んだよ!」

「なんか面倒な事になっちまったな。」

「リンディス様、どうします~?」

「助けに行くとしても、何か準備が必要では?」

「そうね……」

≪ちらっ≫


此処で三人はランスを見る。

いずれも彼を頼る……若しくは彼に期待している眼差しだ。

この程度の騒動なら、リン・セイン・ケントの実力があれば切り抜ける事も可能なのだが、
三人ともランスの実力だけでなく、彼の"そのもの"の行動に興味があった。

そんな寄せられる視線を物ともせず、ランスは祭壇の方向に向かって足を踏み出す。


「中の祭司ってのは、人質になってる訳じゃあ無ぇんだよな?」

「うん……そうみたい。 奥に押し込まれてるだけらしいわ。」

「だったら即効で終わらすぞ! 行くぞ皆の者ッ。」

「し、正面からですかぁ~?」

「それでも良いんだがな、俺様が壁をブッ壊してやるから、
 残り三人で一気に入って中の奴等を叩け。 ……良いなッ?」

「確かに多少、外壁が傷んでいるようですが……」


……1発で壁を壊す事などできるのか?

それはランス以外の誰もが思った事だった。

リン達でも数撃なら壊すのも可能そうだが、モタモタしていれば中の敵に警戒される。

となると一撃で壁を破壊する必要があるのだが、そうすれば"奇襲"を行うことができる。

しかし"一撃"で壊す事が一番の難関なのだが……

ランスは"鉄の剣"を肩にスタスタと外壁に近寄る(馬からは既に下りている)。

どうやら冗談は無さそうなので、リンは駆け寄り、セインとケントが馬に跨った時だった。


≪――――ばっ!!≫

「行くぜぇ~! ランス・アタックッ!!」

≪ずがあああぁぁぁんッ!!≫

「おわっ!?」

「な、なんだぁ~ッ!?」

「見たかお前ら、一気に行けッ!!」

「は、はいっ!」

「うへ~……」

「セイン、ボサっとするな! リンディス様に続けッ!」

≪ダカカカッ!!≫

「ありゃ? 剣が折れちまったか。(……まぁいい、あのくらい殺れるだろ。)」


……


…………


「そなた達のお陰で大事にならずに済んだ、礼を言うぞ。」

「おう、運が良かったな、じいさん。」

「う、うむ。」

「ところでだが、剣も無事なのか?」


こちらには無い必殺技……"ランスアタック"。

その絶大な威力で壁を吹き飛ばし、リン・セイン・ケントが雪崩れ込む事で、
"ならずもの"たちはいともあっさりと斬られ、逃げれる者は逃げて行った。

その後、奥から祭司が現れると、三人(特にリン)は必殺技の事をランスに聞きたかったようだが、
彼は何事も無かったかのように"マーニ・カティ"について祭司に聞くので、
仕方なく彼の必殺技の事は保留にしておき、ランスと祭司に近付き、後ろに控えた。


「ああ。 この剣はわしが封印しておるからな。
 封印を解かぬ限り、この剣を抜く事はできんよ。
 ……さ、礼と言ってはなんじゃが、おまえさん達には、
 特別に【マーニ・カティ】に触れることを許そう。
 剣の柄に手を当てて、旅の無事を祈るが良い。」

「へっ……俺様はガラじゃ無ぇよ、遠慮しとくぜ。
 その剣を貰えるんなら、話は別だったんだがな~。」

「そ、それなら私が!」

「おお、そなたは確かロルカ族の……」

「族長の娘、リンです。 では……」


……


…………


1時間後、祭壇を引き返して行く4人。

そんなリンの右手には、精霊の剣"マーニ・カティ"が握られていた。

彼女の手が剣の柄に触れたとき、マーニ・カティが輝き、光を放つ。

その光が"精霊そのもの"であり、リンを自分の持ち主と認めた証拠だった。

よって祭司に"マーニ・カティを持って行け"と言われ最初は躊躇ったリンだったが、
まるで彼女の帯剣になるのを望むかのように"マーニ・カティ"は祭壇からスッポリと抜けた。

……こうなれば、リンの答えは一つしかなかった。


「これが【マーニ・カティ】ですか~、成る程、珍しい剣ですねえ。」

「……なんだか、信じられない気分だわ。
 サカで1・2を争う名剣が……この手の中にあるなんて。」

「(俺様は"リーザス聖剣"よか、使い勝手が悪そうな気がするけどな。)」

「優れた武器は、己の持ち主を選ぶ……
 それは、サカだけでなく大陸中で良く耳にする話ですよ。
 私は、リンディス様の剣技を拝見して常人ならざるモノを感じていました。」
 貴女こそ、剣に選ばれてしかるべき方だと思います。」

「や、やめてよ! 私は、そんなんじゃ……」

「? リン、そこで何故俺様を見るんだ?」

「だって、私よりもランスさんの方がずっと強い人だわ。
 だからこの剣は、貴方が使った方が……」

「おいおい……何言ってやがるッ?」

「ちょ~っと待って下さい! では、こう考えてはどうでしょう?
 武器にも使い易いとか使い辛いとか、自分との相性ってありますよねッ?
 この【マーニ・カティ】はリンディス様の気にとても合う……
 そんな風に思っていれば良いんじゃないですか?
 この剣……俺達には使えないみたいですし。」

「……私に合う、私にしか使えない剣……
 そうね……それなら、何となく理解できるわ。」

「うむ。 そのうち俺様に相応しい、物凄い剣が出て来る筈だろうしな!」


"マーニ・カティ"の入手出来た事は普通なら、素直に喜んでおくべきだろう。

だがリンにとって、自分はまだまだ修行の足りない剣士であり、
ケントの褒め言葉を聞いても、実感が微塵にも湧かない。

ランスが何気なく言った"修行が足らんな"という言葉も地味に響いていたようだ。

それに、ランスの剣が折れてしまったので、入手したタイミングも悪かった。
(今はリンの持っていた"鉄の剣"を手渡され、使うことにしたようだが)

……しかし、セインとランスのフォローもあってか気分も改めたリンは、三人に向き直る。


「それじゃ、今日はこの辺で一泊しましょ。 どこか泊めてくれる場所を探さないと。」

「……そうですね、では我々が。 セイン、行くぞッ!」

「セイン。」

「えっッ? (なんすかランスさん?)」

「(なかなか、やるじゃね~か。)」

「(へへっ、どうも。) おい! ちょっと、待てよケント~!」

≪ダカパッ、ダカパッ、ダカパッ!!≫

「……(ど、どうしよう……二人っきりになっちゃったわ。)」


気を改めて、この後の予定を提案したリンだったが、いきなり誤算が生じる。

すぐさま責任感が強いケントが行動に移り、セインも後を追って行ってしまったのだ。

ケントはともかく、セインは二人に気を遣っているのだが、リンはそれを知る筈も無い。

対して肝心なランスは、こういう雰囲気には慣れているのか、
"剣を無理に抜こうと思って恥を掻かなくて良かったぜ"みたいな事を考えていた。

そんな中、視線を"言葉を選んでいる最中のリン"に向けると、彼はニヤリと笑って口を開く。


「なんだリン、また稽古でもつけて欲しいのか~?」

「え、あ、うんッ……少し時間が有りそうだし、ランスさんが良ければだけど……」

「構わんぞ、"さっきの件"は準備運動にすらならなかったからな。」

「……(そ、そうだわ! 私はその時の技を……)」

「まぁ、リンの腕がもうちょい上がりゃあ、"あの技"の事も教えてやるからな?」

「……ッ!? は、はいっ!」

「がはははは、良い返事だ。」

「(そうよ、これで良いの……でも……稽古とは何か違う気がする……
 確かに"あの技"についても気になったけど……もっと、別の……)」



[2301] ファイアーエムブレム=鬼畜の剣= 3章
Name: Shinji
Date: 2006/10/27 16:15
二騎士の口から聞いた、自分の出生の秘密。

リンは祖父に会う為、西のリキアへと出発する。

サカ草原とベルン王国の間を遮る山脈……
そこには悪名高いタラビル山賊を筆頭に、
複数の山賊団が潜んでいる。

どの山賊団も強欲にして残忍で、
サカ・ベルンどちらにも被害は広がっている。

サカを離れて5日目……
ランス達はその惨状を目の当たりにするのだった。


■第三章:小さな傭兵団■


マーニ・カティの祭壇はブルガルの東にあったので、ブルガルもそれなりに広い事から、
南西にあるリキアへと向かうには、少々遠回りになってしまった。

しかし、祈るだけの予定が"その剣"を入手できてしまった事で、
得るものは大きく、ランス達は特に気にすることも無くリキアを目指していた。

この辺りの大まかな地理としては、大陸の東に大きく広がるサカ・南東の軍事国家ベルン、
そしてランス一行が目指す南部に広がるリキア同盟の、一諸侯に含まれるのがキアランだ。

さておき一行の旅の進行はとても早く、まだまだ馬に飽きていないランスが、
それなりのスピードで馬を走らせるので、10日掛かる筈の予定が、
僅か"5日"で中継地点として考えていた"村"に到着してしまった。

この頃には馬は疲労し、ランスはランスで若干乗馬に飽き始めてきており、
"丁度良いタイミング"での寝床への到達と言えただろう。

また、5日間もランスの"無茶な乗馬"に付き合わされていたリンも一安心と言ったところ。

流石に慣れてきたようでは有るが……辛いものは辛いようだ。

……余談だが、それでもリンはランスと"二人乗り"をする事を望んでいた。

"修行が足らん"と言われた事に対する意地であるのが大きいが、
好意の表れでもあり、リンはまだその事には気付く事ができていなかった。


……


…………


≪ダカパッ、ダカパッ、ダカパッ≫

「おっ? 見えてきたぞ~。」

「や、やっと到着ね。」

「これで一息つけますねぇ、野宿のときは安心して眠れませんでしたし。」

「しかし、何か様子が……」


馬を走らせる三人の遠目に、小さな村が見えてきた。

それにより安堵の言葉を口にするセインだが、ケントが村の様子に違和感を感じる。

……そのまま馬に乗ったままで村に進入すると、其処は村と言うより"廃墟"。

家屋は半分が壊されており、地面には血の跡も残っている(死体は村人が安置したのだろう)。

そんな中、視界の悪いリンはいち早く馬を降り、セインも馬を下りてリンに近付く。


「こ、これは……」

「そこらじゅう荒れ放題ですね、此処の領主は何やってんでしょう?」

「北西の山、タラビル山には……領主達も手出しできないような、
 とても凶悪な山賊団が巣食ってるの。」

「なら、其処の奴らに"この村"はやられちゃったって訳ですか……
 俺達がサカに来る時は、こうじゃ無かったんですけどねぇ。」

「……山を挟んで丁度反対側に、私の住んでいた村があった……
 でも私の部族も、タラビル山賊の一団に夜襲をかけられて一晩で潰されて……
 運良く生き残ったのは、私を入れて、10人に満たなかった。
 血も涙もないヤツら……絶対に、許さないッ!!」

「リンディス様……」

「…………」


肉親を目の前で殺された悲しみは、リン本人しか判らない。

拳を握り締めるリンに、お調子者のセインも今回ばかりは慰めの言葉が出て来ない。

一方、馬上で周辺を警戒するケントがふと、同じく馬上のランスのを見ると……

リンの言葉に何かを感じてか、彼は腕を組んで瞳を閉じ、黙っていた。

ケントもリンの辛かった気持ちを痛いほど理解できていたので、以下のように考えた。


「(何時もはセインのようにチャラけてはいるが……
 ランス殿もリンディス様の心境を、今は重く受け止めているのだろう。)」

「(う~む……そろそろリンを頂こうと思ったんだが、何か"きっかけ"が欲しいよな。
 だが村が"こんな有様"じゃあ、ベットで寝ることさえ難しそうで、参ったぜ。)」

「ここから逃げるんじゃない……私は、何時か必ず戻ってくるわ。
 強くなって……アイツらなんか歯牙にもかけないくらい強くなって……
 みんなの仇をとってやる。 その為には、何だってするわ!!」

「……その時は、俺も連れて行ってください。」

「セイン。」

「私も、お忘れなきよう。」

「ケント……」

「≪ピクッ≫("何でもする"だとォ~ッ?)
 それなら、今からでも潰しに行くかぁ? 何なら俺様一人で行っても構わんが。」

「ッ!? ランスさん、貴方まで……」

「さっすがはランスさん、言うことが違いますね~!」

「ランス殿、お気持ちは判ります……しかし、
 今はリンディス様をキアランにお送りするのが先決です、どうか御容赦を。」

「みんな……ありがとう。」

「……(いや、冗談じゃなかったんだが……チッ、この手はダメか。)」


……


…………


「どうしてここまで……酷いわ。」

「山賊団によっては、荒らした村の様子を、
 そのまま自分の"強さ"としてアピールするみたいですからねぇ。」

「自分勝手な話だ……許せん。」

「そうだな、俺様だったらもっと穏便にやるぜ。
 (金とAランク以上の女だけ奪って、殺すのは邪魔する奴だけだったしな。
 だがあの時は"盗賊団"だったし、山賊じゃあ無かったか。)」


気を取り直して、村の様子を見て回るランス達。

どうにか馬を休ませ、自分達の寝床も確保する必要があるからだ。

ランスが何やら冗談(本人は素で言った)を言ったが、それは置いておこう。

その最中……村の奥の方までやって来てみると、
何やら数人のガラの悪い連中が、一人の少女を取り囲んでいた!

気の弱そうな少女は震えており涙目、しかし容赦なく罵声を浴びせる男達。

男連中は山賊のようだが、少女は見てくれで"イリア"の者と一目で判る。


「……私はどうなっても良い、から……
 その子は……逃がしてあげてください、お願いです……」

「へっへっへ、おねえちゃん!
 ペガサスってのはなぁ……イリアにしかいねぇ、珍しい生き物だ。
 売り飛ばしゃあ、高い金になる! 逃がすなんて、とんでもないぜ。」

「そ、そんな……」

「おらっ、いくぞ!!」


何故なら"ペガサス"が一緒であり、それに跨る"ペガサスナイト"とは、
イリアでも有名な"天馬騎士団"のトレードマーク。

しかし、そのペガサスも、リーダー格の手下たちによって押さえられてしまっている。

どうやら少女とペガサスは山賊に連れて行かれようとしているようで、
リーダー格(名はミガル)が少女の腕を強引に引っ張り、村の外に出ようとした時だった。

数十メートル先で、場を先行していたケントが、遠方の様子をリンに伝えた直後に……


「ッ!? リンディス様、お気をつけください。
 あちらで何か、騒ぎが起きているようです。」

「おぉ~ッ?(ムサい連中に連れ去られようとしている女の子……という事はッ!)」

「……あれは、ペガサスッ? まさか……!」

≪ドパカッ、ドパカッ、ドパカッ!!≫

「がはははは! 山賊どもめ、退治してくれるわッ!」

「うおッ? なんだ、てめっ……」

≪――――ザシュッ!!≫

「きゃっ……」

「み、ミガル!?」

「アニキィ~!!」

「い、いきなり何しやがんだぁーッ!?」


いち早く山賊たちに馬で接近したランスが、すれ違い様に剣でミガルを斬り倒した。

そのミガルが倒れると同時に連中の間を駆け抜け、馬を旋回させると、
村の出口を遮るように、慌てて武器を構える山賊達の前に向き直る。

ランス一人……たった一騎なのだが、感じる威圧感に山賊達は押される。

この容赦ないランスの突撃に、リン達は一瞬固まったが、
直ぐ我に返ると駆け出し、山賊の手から離れた"少女"に近付いた。
(セインとケントは慣れていないのか、行動が若干遅れていた)


≪だだだだっ!≫

「フロリーナ、フロリーナでしょ!?」

「……!? リン……」

「貴女、こんな所でどうしたのッ?」

「リン、本当にリンなの? 私、私っ……ぐすっ。」

「もう。 ほら、泣かないの!」

「うん……」

「お知り合いですか?」

「ケント、私の友達よ。 イリアの"天馬騎士見習い"のフロリーナ。
 この子は、もの凄く男の人が苦手で……
 ねぇフロリーナ。 何があったのか、私に話してちょうだい。」

「……あのね。 私……リンが旅に出たって聞いたから、追いかけてきたの。
 それで、この村が見えたから……リンの事を聞こうと思って、下に降りたら……
 この人たちが居たのが見えなくて……その……(ごにょごにょ)」

「ペガサスで踏ん付けちゃったの!?」

「(コクリ)」

「ほ、ほらっ、聞いただろうが!」

「悪いのはな、その女なんだよっ!
 だから、アニキを踏みつけた"落とし前"をつけて貰おうとしてたんだぜ!」

「なのにいきなり斬りかかってきやがってッ、只で済むと思ってんのかぁ!?」

「ちゃんと謝ってた? フロリーナ。」

「うん。 ごめんなさいって何度も言ったけど……
 その人達、聞いてくれなくて。 ……うっ、うぅ……」

「泣かないで。 ……大丈夫よ。」


どうやら、"フロリーナ"という少女はリンの知り合いらしい。

フロリーナは数年前、リンがサカに居た頃に出会った友人で、
彼女が狩りに行こうとした時、ペガサスから落ちた彼女が偶然木に引っ掛かっていたそうな。
(ペガサスから落ちる事はとても不名誉な事なので、二人だけの秘密のようだが)

さておき……今から事を治めようとしても、もう遅いだろう。

何故ならランスがリーダー格の男を、斬り殺してしまったのだから。

……だが、もしランスが斬ってなかろうが、事が穏便には済みそうに無い事を、
この場に居るリン・ケント、そしてフロリーナも何となく感じていた。

何故なら、この村を"こんな有様"にしたには、この山賊たちなのだろうから。


≪ダカッ……≫

「へっ……落とし前なら、俺様がつけてやるぜ。」

「な、何ぃ~?」

「"俺様の寝床"になる筈だった村をこんなにしやがった。
 その落とし前は、テメェら全員の命だ。 それで問題無ぇな?」

「!? ふ、ふざけるんじゃねぇッ!!」

「野郎ども、出て来いッ!!」

「……ちょっと、待ちなさい!」

「あァ? 今更命乞いかぁッ!?」

「ひとつ、聞きたい事があるだけ。 貴方達……タラビル山賊団?」

「"タラビル"だとぉ? あんな強欲な奴等と一緒ににすんじゃねぇ!
 あいつら、女子供も殺っちまうそうじゃねえか。
 オレら"ガヌロン山賊団"は違う。 オレらは女を殺ったりしねぇ。
 へへへへへ……おまえも可愛がってやるぜッ?」

「……タラビルじゃないなら見逃してあげてもいい。
 尻尾巻いて逃げるなら、今のうちよッ?」

「ど、どこまでも馬鹿にしやがって! 根性叩き直してやるッ!」

「お前のな。」

≪――――ざしゅっ!!≫

「ぐわあぁッ!!」

「こ、こいつ……強ぇッ!!」

「(ふ~む、逃げねぇだけ多少は"根性"がありやがるってか。)」

「(ランスさん……さ、流石ね。)」


リーダー格のミガルと言う男の実力が、他の山賊達と大差が無いのか。

もしくは、"ガヌロン山賊団"の連中は、そこそこ名の知れた山賊団なのか。

どちらかは判らないが、逃げ出そうとしない辺り、"面子"というものがあるのだろう。

よって一旦はランス達から距離を取ったモノの、直ぐ他の山賊達も合流してきた。


「あいつらだ、キョウダイを殺りやがった!」

「女は傷つけるな、男はブッ殺せ~ッ!」

「ランスさん、ケント、応戦しましょう!!」

「よしきた!」

「承知ッ!」

「り、リン……私……」

「あなたも天馬騎士の端くれでしょ。 ……戦えるわね?」

「う……うん! ……あ、ところで……この方は……」

「ランスさん。 わ、"私専属"の剣の先生よ! ……ねっ?」

「うむ。 まぁ……そんなところにしておくか。
 宜しくなッ! フロリーナちゃん。」

「は、はい……よろしく……おねがい、します……(びくびく)」

「それにしても、セインの奴はどこに……」


数はおよそ十数人……これまでで一番多い数だ。

こうなってはもう、戦うしか選択肢は残されてはいないだろう。

よって武器を構えるランス達だが、姿が見えなかったセインが4人の元に戻ってきた。

……だが、セインだけでなく、弓を持った若い男も一緒だった。

弓を持っており、右肩と胸に防具を着けている事から、きっと"それなりの腕"なのだろう。


「皆さん、お待たせしました!」

「セイン! 今まで何処に行ってたのッ?」

「いや~、そろそろ戦いが始まると思ったんで、
 村の人に避難して貰おうと民家を訪ねていたんですよ。
 それで、"協力してくれる"って言う人が居たんで……」

「じゃあ……彼が?」

「俺はウィル。 君たちと同じ旅の者だ。
 世話になったこの村を守る為、良かったら協力させてくれないか?」

「そうね、戦力は多い方がいいわ! よろしくね、ウィル!」

「まぁいい……しっかりやれよ、ヘマしたらはっ倒すからなッ!」

「あ、あぁ。(何か怖い人だなぁ。)」

「!? あ、危ないです……矢が!」

≪――――ダダンッ!!≫


これでウィルが加入し、6人となった。

しかし、のんびり話してる場合ではなく、遠距離から弓が数本飛んで来る。

幸い、やや上空を飛んでいたフロリーナの言葉で全員が避けるが、少し予想外の事態だ。

周辺に岩壁も多い事から弓の攻撃は厄介であり、やはり"それなりの山賊団"だったようだ。


「おわっ、危ねぇ……」

「ランスさん、また来るッ!」

≪ヒュヒュッ……!!≫

「うわっと!!」

「くっ……」

≪――――ズダダンッ!!≫

「くそっ、これじゃ~狙いが……」

「……っ……」

「んっ? フロリーナちゃん、どうしたッ?」


ランスにとってこの程度の弓など、どうと言う事も無いが、
戦いに不慣れな他のメンバーの顔には緊張の色が走る。

それにより"俺様が突っ込んでさっさと終わらすか"などとランスが考えていると、
馬上の彼の横にフロリーナが乗るペガサスが下りてくる。

それが気にならない筈も無く、何気なく顔を向けると、
彼女は固まっており、良く見ると小刻みに震えてしまっていた。


「……あ、あの……ごめ、んなさい……
 弓を見たら……どうしても……ふ、震えて……」

「まずいわ……ランスさん、この子は元々男の人が苦手なのに加えて、
 相手が弓を使う山賊(アーチャー)だから……」

「ふ~む……俺様はともかくとして、
 フロリーナちゃんを放って置いたら、弓矢にやられちまいそうだな。」

「!! そ……そんな……」

「ら、ランスさんッ! "そんな事"言わないでよ!」

「アホか! まだ話は終わってねぇ、俺様に良い案があるッ!」

≪……がばっ!!≫

「き、きゃああッ!」


矢に怯えるフロリーナ、間も無く飛んで来ると思われる複数の矢。

このままでは、フロリーナは矢を避ける事はできない。

かといって"近接武器"を持った山賊も数名近付いてきており、
セインとケントが迎え撃とうとしているモノの、宥(なだ)めている場合ではない。

よってランスは大胆にも、馬上からフロリーナに乗るペガサスに乗り移った!

それにより、フロリーナは小さく悲鳴を上げたが、ランスは負けない声で叫ぶ。


「フロリーナちゃん! 今からペガサスってのを飛ばして"奴等"の上まで行くんだ!
 そしたら俺様が飛び降りて、アーチャーを全員始末してやるッ!」

「!? で、でも……飛んだら、矢が……」

「そんなもんは、俺様が捌いてやる! 怖がらなくて大丈夫だ!!」

「む、無理……無理……です……」

「フロリーナ、心配しないで……大丈夫ッ!」

「リン……?」

「ランスさんなら、絶対に何とかしてくれるわ!
 私よりも全然強いものッ……だから平気よ!」

「……!!」


フロリーナはランスという男を何も知らないので、いきなりの提案に無茶を感じるのも仕方ない。

性格からしても、フロリーナのかなり苦手と言えるタイプだからだ。

だが……今はそんな場合では無く、リンもランスをペガサスに乗せることを促す。

"彼なら何とかしてくれる"……その言葉は、リンはランスを信頼していると言うことだ。

それに、彼女が嘘を言う性格では無いのをフロリーナは良く知っており、
リンの剣の実力を考えると、ランスの実力は相当なモノだと言う事も理解できる。

そうなれば……フロリーナも、リンのようにランスを"信じる"しかない。

考えてみれば、いち早く連れて行かれようとしていた自分を救ってくれたのは、彼なのだから。


「フロリーナ、早く!」

「うん……ヒューイ……!」

≪――――ブアッ!!≫

「うぉっ!?」

「し、しっかり……掴まって……くだ、さい……」

「おう! 頼んだぜ、フロリーナちゃんッ!」

≪バサッ……バサッ!!≫

「おぉ~ッ? ペガサスが来たぜッ!」

「仕方ねぇ、ペガサスは諦めだ! ペガサスだけを狙えッ!!」

「……注意が"あっち"に向いたわ! セイン、ケント、行くわよっ。」

「了解~ッ!」

「ぬおぉっ!」

≪ダカパッ、ダカパッ!!≫


フロリーナはランスを乗せたままペガサスを操り、急上昇させる。

そのまま10メートルほどの低空飛行で壁を越え、
弓を持つ山賊達の上空まで接近すると、案の定・弓矢を構えている山賊達。

そんな、彼らの矢が一斉にヒューイ(ペガサスの名)に放たれるが……


≪ヒュヒュンッ!!≫

「(来たかッ)」

「……っ!!」

「ラ~ンス・スイングッ!!」

≪バッ……フオオォォンッ!!≫


手綱を握る片手(もう片手には槍を持っている)に力を混めるだけのフロリーナの後ろで、
立ち上がったランスはヒューイの背中を蹴ると、その勢いで剣をスイングさせる。

それにより、放たれた矢は風圧で軌道を変えられ、地面に落下していった。

同時に、ヒューイの背を蹴ったランスも地上に真っサカサマに落下し……


「何ぃっ……!?」

「な、なんて奴だッ!」

≪――――ズダァンッ!!≫

「……ッてぇな! 足が痺れただろうが~ッ!」

≪ざしゅっ!!≫

「ひッ、ひぃぃ!」

「そりゃ関係無……ぐわぁッ!!」

≪――――ドドォッ!!≫

「……す、凄い……」


膝を折って着地すると、アーチャー達を斬って捨てるランス。

そにより弓矢による脅威は無くなり、彼がアーチャーを始末した時には、
リン達によって殆どの山賊達は倒されてしまっていた。

それにランスが加わることになると、もはや勝負は目に見えている。

よって2分も経たないうちに戦いは治まりかけ、残り一人となった山賊は……


「ち、畜生! ここは出直して……

≪ズダンッ!!≫

 ――――おがぁッ!!」

「……娘を慰み者にされた挙句に殺された、
 お袋さんの悲しみを……あんたも味わいな。」

「ぐっ……後悔、させてやるッ……
 ガヌロン山賊団の……兄弟たちが……黙って、ねえからな……」

≪ドサッ≫

「ふぅ、片付いたわね……フロリーナ、大丈夫?」

「私は、平気……でも……つ、強いんだね……ランスさんって……」

「ふふ、だから言った通りでしょ? 何とかしてくれるって。」

「……うん。」

「フロリーナ、それにしても危ないじゃない。 どうして私を追って来たの?」

「そ、それは……」


遠距離から矢を放ったウィルによって仕留められ、これで山賊達は全滅した。
(最後の一人の死に際の言葉は、誰にも聞こえてはいなかったようだ)

特にメンバーも馬も、負傷する事は無かったようである。

よって分散していたメンバーが一旦集合すると、
リンが空から降りてきたフロリーナに、何故"彼女が此処に居るのか"を問う。

するとフロリーナは、ランス・セイン・ケント・ウィルの目もあることから、
はじめは言うのを躊躇っていたが、やがて自分の境遇を語り始めた。


……


…………


イリアの天馬騎士が、一人前になるための儀式。

それは、何処かの傭兵団に所属して、修行を積んで来ると言うこと。

この儀式は非常に厳しく、年に何百もの天馬騎士見習いが命を落としている。

場合によっては皮肉にも、傭兵団に所属するのが条件という事から、
例え敵で天馬騎士同士が出会ってしまっても、命を掛けて戦わなければいけないのだ。

イリアの傭兵騎士団は、寝返らないという事でも有名なので、その名を汚す事はできないのである。

そんな見習いであるフロリーナは、"傭兵団を探す旅"に出る事を、
リンに話して置こうと思ったのだが、イリアからサカに出向いた時、
彼女は見慣れない連中と旅立った事を知り、わざわざ此処まで追いかけて来たらしい。

その気持ちをリンは素直に嬉しく思ったのだが……逆にフロリーナの事が心配になった。

普通に考えて、傭兵団に所属するのは男ばかりなのは当たり前。

なのに男性が苦手なフロリーナが1人で入って修行なんぞ、無茶にも程がある。

その事はフロリーナも薄々感じており、"必死になれば何とかなる"とは考えていたものの、
今回の事で自信を無くし欠けてしまったようだが、セインが"とある提案"をした。

セインが"馬鹿な事"を言わないように、幾度と止めていたケントの制止も、今回は聞かずに。


「俺に名案があります、可憐なフロリーナさん!」

「セイン!」

「貴女も、俺たちと一緒に旅をすれば良いのです!
 我らはこのウィルを加えて、今や立派な傭兵団も同然ッ!」

「お、俺も!?」

「此処でお会いしたのも、神のお導き! 運命だったのです!
 ささ、この"リンディス傭兵団"で……」

「…………」

≪ギロッ≫

「い、いえっ……"ランス傭兵団"と共に、修行を積もうではありませんかッ!」

「うむ。」

「セイン……この、お調子者が!」

「"リンディス"? ねぇ、リン……傭兵団って?」

「詳しい話は、追い追い話すわ。 ……フロリーナ。
 ちょっと乱暴な気もするけど、セインの言う通り一緒に来る?」

「……リンと旅ができるの? 本当にっ? だったら私……凄く嬉しい!」

「やったーっ! 美しいフロリーナさんッ、
 俺はキアランの騎士、セインと申しま……」

「きゃあ! ……ち、近寄らないで……ください……」

「ああ~、なんて奥ゆかしいんだ~。」

≪ポンッ≫

「がはははッ、そんな訳だ……改めて頼むぜ、フロリーナちゃん!」

「あっ……ランスさん……よろしく、おねがいします……」

「あれぇ? こ、この違いは一体……」

「(驚いたわフロリーナ……ランスさんに対しては"さっき"ので平気になっちゃったの?)」


セインの考えとは、"この6人"を傭兵団にしてしまい、
其処にフロリーナを加入させてしまえば良いと言うのだ。

確かにフロリーナにとっては願っても無い条件であり、
ランスの凝視で一度は改名されたが、"ランス傭兵団"が今此処に誕生した事になる。

それにより、フロリーナ大いに喜んだ様子で、
ランスによる"耐性"も何故か"若干"だが、付いてしまったようだ。
(少なくとも今のように、肩に手を当てられても大丈夫な様子)

セインに対してはダメのようだが、フロリーナが"こんな"であるからこそ、
若干15歳であるリンが、このようにしっかりした性格をしているのだろう。

一方ケントは、セインの強引さに溜息を漏らしながらリンに近付くと、軽く頭を下げた。


「すみません。 傭兵団などと、ふざけた事を。」

「うぅん、私は賛成よ フロリーナの事、放っとけないもの。
 それより、面倒をかけると思うけど……頼んでも良い?」

「はっ! お任せください。」

「あの……俺も、本当に付いてって良いのかな?」

「あっ、ええ、勿論よ! ウィルが嫌じゃなければ。」

「でも~。」

≪ちらっ≫

「むっ? 俺様も構わんぞ、そこそこ弓の腕はあったみたいだしな。」

「それなら、助かるな。 実を言うと……
 旅の途中なのに、金を盗まれて途方に暮れてたんだ。
 じゃあ、俺も今日から傭兵団の一員ってことで、宜しくお願いしますッ!」

「うむッ、"俺様"の傭兵団に入る事を許可してやろう!」

「ランス傭兵団、か……ランスさん、何だか賑やかになってきたわね。」

「……じゃあ俺、村の人達に聞いてみますよ。
 山賊も追い払えたし、部屋を貸してくれないかって。」

「ありがとう、ウィル。」


ウィルという青年は、最初は固い性格をしているように見えたが、
実は気さくな人間であり、山賊が相手なので気を引き締めていたダケらしい。

そんな訳で……成り行きで"小さな傭兵団"のリーダーになってしまったランス。

元の大陸に戻るという目的があるのだが、少しその事を忘れかけている彼であった。

また、リンのランスに対する気持ちだが……親友である"フロリーナ"の加入で、
この後ランスとの関係に微妙な影響を与える事になるのである。



[2301] ファイアーエムブレム=鬼畜の剣= 4章
Name: Shinji
Date: 2006/10/30 10:59
山賊たちを撃退し、リンは更に西へ進む。

途中、古びた砦で一夜を明かす事になった。

一方、仲間を失って怒り狂うガヌロン山賊は、リン達を狙って追跡を開始。

その不気味な足音はすぐ背後まで迫っていた……


■第4章:正業の影で■


≪バサッ、バササッバサッ!!≫

「うおぉ~ッ、こりゃ爽快だぜ!」

「……っ……」

「フロリーナちゃん! もうちょい高く飛んでくれっ!」

「……は、はい……」


フロリーナとウィルが加入した村で一泊したランス達は、
山賊達から奪ったお金でウィル用の馬を一頭確保し、街道を西へと走っていた。

状況としては、リンが乗る馬を先頭に、後ろを駆けるセイン・ケント・ウィルの馬。

そして彼女達の上空を、ランスを乗せたフロリーナのペガサス(ヒューイ)が飛んでいる。

このペア(組み合わせ)は、ヒューイに乗りたいランスに押されるがまま、
彼を乗せる事になってしまったのだが、ハシャいでいる彼とは逆に、
フロリーナは男性と触れる緊張のあまり、体をカチコチさせながら手綱を握っていた。

……余談だが、ちゃんとランスの分も鐙(あぶみ)が用意されている。

滅多に人を乗せる事の無かったフロリーナだが、リンの事を考えてスペアを持ってきたのだろう。

さておきリン達なのだが、若干だが状況が変わり、
先頭を走るリン・続くケント・そして、並んで走っているケントとウィル。

リンの様子が気になったウィルが、真横を走っているケントに話し掛けたのだ。


「…………(じ~……)」

≪ダカパッ、ダカパッ、ダカパッ!!≫

「あの、ケントさん。」

「どうなされた、ウィル殿?」

「はは……俺の事は"ウィル"で良いですって。
 それよりもリンディス様、さっきから上ばかり見てますけど、どうしたんでしょ?」

「恐らく、フロリーナ殿のことが気になるでは無いだろうか。
 彼女はリンディス様以外の者を乗せた事は無いらしく、彼女を心配なされていたからな。」

「あぁ、成る程……やっぱりそうですよね~。」

「……(ウィル君、"この線"については、キミもケントと似たようなタイプだったか。)」

≪ドカパッ、ドカパッ、ドカパッ!!≫

「(ああもうッ、どうしてこんなに気になるのよ~……)」


ウィルはリンがキアラン領の令嬢と知り、"リンディス様"と呼ぶ事にしたようだ。

彼はキアラン出身ではないが、身分が違いすぎるので目上の者と敬うことにしたらしい。

その彼がリンに対して疑問に思った事をケントに質問するが、
ケントらしい答えが返ってくると、ウィルはあっさりと納得してしまう。

一方二人の話が聞こえていたセインは、短く"ダメだこりゃ"という仕草をカメラ目線でとった。


≪バサッ、バサッ、バササッ≫

「全く風が気持ち良いぜ! そう思わんかッ、フロリーナちゃん!」

「……ぁ……はい、そう……ですね……」

「しかし便利な生き物だ、俺様もひとつ欲しいところだな。」

「と、ところで……あの……」

「んッ?」

「……そ、その……リン、とは……」

「なんだなんだ、聞こえんぞ?」

≪ずいっ≫

「きゃ!」

≪――――ガクンッ!!≫

「どわッ!!」


フロリーナは、昨日からランスに聞きたい事があった。

率直に言えば、彼とリンとの"関係"についてだ。

実際のところは本当に"剣の先生と生徒"でしか無いのだが、
リンの仕草から見ると、どうもそのように考えることが出来なかった。

今まで男縁が無く、"男なんて~"という話を良くしていたリンだからこそ、尚更気になった。

よって聞こうと思い、緊張の中何とか質問しようとするのだが、
あまりにもフロリーナの声が小さ過ぎて、ランスはイマイチ聞き取れない。
(男を後ろに乗せ、質問の手前まで行く時点でフロリーナにとってはかなりの冒険)

その為ランスはフロリーナの顔に自分の顔を寄せたが、その時!!

動揺したフロリーナの体がビクりと跳ね上がり、反動でペガサスのカラダが揺らいだ。

下のリン達にとっては多少、風に煽られたようにしか見えないので、
今の様子は大した事だと認識できなかったが、実は結構危なかった。


≪――――バササッ!!≫

「……っ……す、すいませんッ……危険な、目に……」

「び、びっくりした。」

「さっきの……事は、もう……良いです……」

「そうか。 残念だが、あまりお喋りはせん方が良さそうだな~。」

「……はぃ……ご、ごめん……なさい……」

「(う~む……冗談で尻でも触りたかったんだが、本気で危なそうだぜ。)」


……


…………


……数時間後、辺りが暗くなり掛けている時刻。

そうなれば暗くなる前に休める場所を探す必要があるのだが、
丁度良く空を飛ぶランスとフロリーナの視界に、古びた砦が見に入った。

よって下に合図を送ると、フロリーナが乗るヒューイは砦の傍に降り立ち、
リン達も馬から下りて、砦を見上げつつ、これからの事を話すべく集まる。

ちなみに結局リンの心配は取り越し苦労であり、フロリーナも何も聞けず仕舞いだった。


「ここで良いんじゃないですか? 今夜の寝床。」

「え~、こんなボロ砦しか寝る場所がないなんて……」
 あんまりじゃないか? ウィル。」

「この辺りのモノは、山賊団が荒らし尽くしてて、
 旅人をもてなす余裕は無いんですよ……まして、この人数ですしね。」

「迷惑な話だぜ、金はあるのによ。」

「私はちゃんとした建物の中より、風を感じられるくらいのほうが好きだけど。」

「……私は、リンと一緒ならどこでも平気よ。」

「それでは、私が中を確認してきましょう。」

「お願い、ケント。」


……


…………


ケントが一人で中の様子を見に行ったのは正解であり、先客が居た。

それは"ナタリー"という近くの村に住む女性であり、
足に何やら"生まれた時からの病"を煩(わずら)っているらしい。

足が不自由な彼女が何故"こんな場所"に居るのかを皆、疑問に思ったが、
彼女の"夫"が病を治す為に金を稼ぐと言って戻ってこないので、
心配になって此処まで何とか歩いてきたが、疲れ果ててこの砦で休んでいたらしい。

そんなナタリーは絵が上手いらしく、一枚の似顔絵をランスに差し出した。


「なんだ、こりゃ?」

「あの、これ夫の似顔絵です……あんまり上手くないですけど、
 夫の名前は"ドルカス"って言います。 ご存知ありませんか?
 少し怖そうですけど……とても優しい人なんです。」

「う~む、俺様は案の定だが……リンはどうだ?」

「……ごめんなさい。 会った事のない人みたい。」

「そ、そうですか……もし夫に会ったら、伝えてください。
 "ナタリーが探していた"と……」

「わかった、必ず伝えるわ。」

≪グツグツグツッ……≫

「うん、良い味だ!」

「凄い良い匂い……ウィルは料理が上手いんだなぁ、なあケント?」

「あぁ、驚いた。」

「でも後30分くらい掛かりそうですね、もうちょっと待ってて下さい。」

「ほお、こりゃ少しは期待できそうだな。 ……だが、30分か。」

「そ、それならランスさん! またお願いして良いッ?」

「んっ? あぁ良いぜ、暇だしな。」

「そ……それじゃフロリーナ、ナタリーさんのことは宜しくね?」

「う、うん……(良いなぁ、リン……)」


……


…………


「では、宜しくお願いします。」

「うむ。」

≪ザッ……≫

「(今日こそ、一本を……)」

「(おぉ! そうだ、名案を浮かんだぜッ。)」


古びた砦に到着してから30分近くが経過する頃、
ランスとリンは、砦からやや距離が離れた林の中で向かい合っていた。

セインとケントが加入した辺りから、毎日とはゆかなくなったが、
ちょくちょくリンはランスに稽古をつけて貰う事で、確実に力をつけてきた。

ブルガルに来るまでは実戦が無かったので判らなかったが、
今や下っ端の"ならずもの"や山賊相手であれば、一対一で負ける事はまず無いと考えて良い。

強いランスと練習試合が出来ていると言うだけで、彼の教え方が良いと言う訳ではないが、
リンにはそれだけの"才能"と"実力"があり、何より"タラビル山賊団"への"恨み"が強いのだ。

しかし、その自覚が無いリンは"ランスのお陰"で強くなれていると思ってしまっており、
両親が山賊に殺されるまで剣を知らなかった彼女にとって、剣を教えてくれる者の存在は大きかった。

そんなリンの稽古を受けようとする気持ちは、今回も真剣。

対して、ランスは何か良からぬ事を考えたようで、ニヤけながら構えたときだった!


≪……ガサガサガサッ!!≫

「テメェらだな!? ミガル達を殺ったってぇのはッ!」

「丁度良いぜ、二人だッ! 殺っちまえー!」

「……ッ!? 囲まれてる……」

「しつけぇ野郎どもだな。」

「ランスさんッ、他にもまだ気配がある! これじゃナタリーさんがッ!」

「なら、さっさと片付けるぜ!」

「はいっ!!」


周囲から荒々しい声が響いたと思うと、二人の周囲に山賊達が現れた!

15人ほどに包囲されており、咄嗟にリンは足元にあったマーニ・カティに手を伸ばす。

遅れてランスも"鉄の剣"を拾い、心の中で舌打ちをした。

どうやら彼らは、先日全滅させた"ガヌロン"山賊団の者達のようで、問答無用で襲い掛かってきた!


「ナメやがって!!」

≪ダダダダダッ!!≫

「ガヌロン山賊団をナメんじゃねーぞぉ!!」

「くっ!」

≪ブゥンッ!! ドシュ……ッ!!≫

「この野郎ッ!!」

「へっ!」

≪――――ザシュッ!!≫

「ぐわあぁ!!」

「がはははは!! オラァ、次はどいつだぁ~!?」

「チッ、なかなかやりやがる……おい、ドルカス!!」

「…………」

「てめぇ確か、仲間になってからマトモに働いてねーよな?
 そのガタイが飾りもんじゃ無ぇなら、今日こそはきっちり役目を果たしやがれっ!」

「…………」

≪ザシャッ……≫


襲い掛かる山賊に対し、リンは巧みに斧を回避して素早い反撃を決め、
ランスは圧倒的なスピードとパワーで山賊を一刀両断にする!!

その様子を見ていたリーダー格の山賊(名はカージガ)は、
横に控えていた巨漢の男に声を掛け、その男は無言で前に出てくる。

今現在は、一筋縄でいきそうもないランスに山賊は集まっていたので、
1メートル90センチ近い巨漢の男は、自然とリンの前に出てくる形になった。


「(鍛え方が違う……他の山賊とは、ワケが違いそうね。)」

「(相手は、女か……ナタリーが知ったら悲しむだろうな。)」

「(あれ? でもどこかで……)」

「……ふんっ!」

≪ビヒュルルッ!!≫

「きゃあッ!?」

≪――――パシッ!!≫

「おし! 良いぞ、ドルカスッ!!」

「えっ……("ドルカス"?)」

「…………」


リンはその男と向かい合ったとき、相手がそれなりの強さを持っていると感じた。

無駄に腹が出ていたり、贅肉が付いている山賊と違い、鍛え上げられている肉体。

だが彼を見たとき、肉体だけでなく他の違和感を感じたとき、男の手から放たれる"手斧"。

"手斧"とは近接だけでなく遠距離攻撃も可能な斧であり、リンは咄嗟に回避したが、
斧はロープで男の手と繋がっており、再び彼の掌(てのひら)に収まった。

この様子を見て気を良くしたカージガは彼の名前を叫んだが、
その"ドルカス"と言う名を聞いた時、リンは瞳を見開き、彼の顔をしっかりと確認した。


「!? 間違い無いわ! ねぇ貴方、ドルカスさんッ?」

「……何故俺の名を。」

「ナタリーさんから聞いたの! どうして山賊団に加わっているの!?」

「金の為だ。」

「だからって、山賊なんてっ!」

「この辺りで稼ぐには……これしかない。 汚い仕事でも、俺には金が要る。」

「お金の為なら、奥さんを傷つけても良いって言うの!?
 ナタリーさんは今、砦の中で震えてるかもしれないのにッ!!」

「なんだとっ? あいつが……ナタリーがここに!?」

「あなたが心配で、あの足でここまで来たのよ。
 ドルカスさん! こんな事をして、ナタリーさんが喜ぶと思うのッ!?」

「…………」

「ドルカス! 何してやがるッ、さっさとその小娘を捕まえねぇか!!」

「貴方はそんな人じゃないわ! さっきの攻撃だって、殺気を感じなかったもの!」


この男……ドルカスは、"ナタリーの似顔絵に描かれていた男"だったのだ!

それを理解したリンは、彼を斬る事よりも、説得することを優先させた。

その言葉をどう受け止めたか、ドルカスはその場で動くことが出来なくなっていた。

だがリンもその場から動かず、その隙を狙って後ろから山賊が斧を振りかぶるが――――


「痛い目あってもらうぜぇッ!!」

≪ガバァッ!!≫

「!? こらリン~ッ! 何ボサっとしてやがる!!」

「……ッ!?」

「おおぉーッ!!」

≪ビュフッ!! ――――ドスゥッ!!≫

「ぐわああぁぁ……ッ!!」

「えっ……」

≪――――ドサッ!!≫


数人目を斬っていたランスが叫び、リンは慌てて避けようと身構えた。

その時、動かなかったドルカスが咄嗟に"手斧"を投げ付け、山賊のカラダを切り裂いた!

そのまま絶命した山賊が後ろに倒れ、リンがドルカスを見ると、彼は静かに言った。


「……あんたの言う通りだ。」

「だったら!!」

「わかっている。 ……今この時を境に、賊団からは抜ける。」

「ほ、本当!?」

「……ああ、お陰で目が覚めた。 それからナタリーが世話になった分、
 お前達を助けよう。 俺も仲間に加えてくれ。」

「ド、ドルカス!! てめぇ……裏切りやがったなぁッ!?
 野郎どもっ、こいつも纏めて殺っちまえ……ッ!!」

「ほぉ、偉そうに誰に命令してんだ~?」

「なっ……(ぜ、全滅だとォ!?)」


山賊団に入っていたが、ドルカスはナタリーの言っていた様に、良心ある男だったようだ。

よって彼は仲間となり、リンが破顔した時、既に他の山賊達はランスによって倒されていた。

リーザスの王として前線に出ていた頃は、20人は容易く斬り捨てることが出来ており、
弱い者を踏みにじるだけでしかなかった山賊が15人程度では話にならないのだ。

先日の村での戦いの件では、生き残りが居なかった為、
極端に強いランスの存在が判らなかったのが、ガヌロン山賊団の大きな誤算だった。

夜を待たずに攻撃を仕掛けて来たのは、女混じりと言う事でランス達を甘く見ていたからなのだ。


「俺様の貴重(エッチ)な時間を台無しにしやがって! 死ねッ!!」

「ち、ちょっと待……ぎゃああぁぁ~ッ!!」

≪ブシュッ!! ……ドドォッ!!≫

「……(き、"貴重な時間"って……ランスさん……)」

「おいリン! 戻るぞ~ッ!」

「は、はい!」

「(……強いな。)」


……


…………


一方山賊団の強襲により、セインとウィルは貴重な馬達を守る為に外で相手を迎え撃ち、
ケントとフロリーナはナタリーを守る為に砦の中で山賊を相手していた。

相手はそこそこの数であり、苦戦を強いられていた4人だったが、アーチャーもおらず、
ランスとリン……そしてドルカスの助けで、見事ガヌロン山賊団の一味を返り討ちにしたのだった。

結果、1時間後……再会を果たしたドルカスとナタリーだが、
他のメンバーを置いて、二人は砦の外でランス・リンと何やら話している。
(セイン達は砦の中で、メチャクチャにされた食事の作り直し中らしい)


「……村はこの近くだ。 ナタリーを送って、明日の朝に戻ってくる。」

「えっ? お別れなら、別に今でも……」

「……いや、その……ランスに聞いたんだが、
 俺を傭兵として雇ってくれるそうだ。」

「でも、私たちはリキアに……」

「まともに金を稼ぐには、どうせ遠出しなきゃならん。
 それに、こんなに"前金"を貰ったしな。」

「えっ? ランスさん、どう言う事……?」

「大した事じゃねぇ。 ただ、山賊どもが落とした金をくれてやったダケだ。
 良く判らんから適当に渡したが、村で馬を買って来る金も入ってるぞ。」

「……妻を助けてくれた、礼がしたいと思ったが、
 5000Gも貰えるなら満足だ。 是非、俺も連れて行ってくれ。」

「良いだろう、だが"俺様の傭兵団"は甘くないからなッ、覚悟しとけよ!」

「ふふっ、ランスさんリンさん。 私からもお願いします。
 夫を……ドルカスを宜しくお願いしますね。」

「え、えぇ。」

「(ふふふふ、これで俺様の手下が増えたな!)」


……


…………


≪パチッ、パチパチッ……≫

「ふぅ……フロリーナ、そろそろ寝ましょうか。」

「……うん、でも……その前に……」

「どうしたの?」

「一つだけ、リンに聞きたい事があるの。」

「えぇ、別に良いわよ。 何? 聞きたいことって。」


……ドルカスとナタリーが村に戻りに行ってから数時間後。

食事を終えた一行は男女に分かれて、寝る支度をする事にしたようだ。

その女性組みであるリンが、支度を終え少しだけ焚き火を弄って火を弱めてから、
フロリーナの横に戻って腰を下ろすと、フロリーナは一つリンに質問した。

ランスに聞く事ができないのなら、リンに聞けば良い事と思ったようで……


「リンは……ランスさんの事が好きなの?」

「……ッ!? ちっ、違うわよ……別に、そんなんじゃッ……」

「本当に?(誤魔化しても判るんだけど……)」

「ほ、本当よ……じゃあ、フロリーナの方はどうなのッ?」

「……私は、良くわからないけど……素敵な人だとは思う。」

「え……(ガーン)」

「……だって……私が始めて、ヒューイに乗せれた……男の人だから……」

「あっ……」

「じゃ……リン、それだけだから……」

「…………」

「おやすみなさい。」

「え!? あ、うん……お休みっ。」


フロリーナに率直な質問をされ、動揺するリンだが、答えは正しいモノではなかった。

数年前のサカ時代、男性が苦手と嘆くフロリーナに対してリンは、
"女性は男よりも強く有るべし"と元気付けており、自分が安易に男に惚れる訳にはいかず、
今のフロリーナの質問に"YES"と答えるワケにはいかなかったのだ。

よって誤魔化し、逆に聞き返してみると、意外な返事が戻ってきてしまった。

その返事にリンが固まっていると、コロリと横になってしまうフロリーナ。

実は彼女はリンがどう答えるにしろ、ランスは自分にとって"遠い人間"であり、
リンが彼が好きならそれはそれで良く、彼を乗せれた"喜び"を伝えたかったのだ。

しかし、リンはフロリーナの言葉を重く受け止めてしまい、この夜なかなか寝付けなかった。


……


…………


一方同時刻、焚き火を囲んでいる4人中3人の男性陣(セイン・ケント・ウィル)。

彼らも(ランス以外で)一人の見張りを残して、後は寝るだけのようだ。

ちなみに焚き火を離れているのは、ご存知ランスなのだが、
そんな彼を遠目に、まずは焚き火を管理していたウィルが小声で言う。
(12歳から旅を続けているウィルはこのような野宿に慣れている様子)


「…………」

「(セインさん。 ランスさん腕を組んで胡坐かいたまま動きませんね。)」

「(記憶喪失みたいだからね、何か思い出そうとしてるんじゃないかい?)」

「(う~む、一体どの国の方なのだろうか。)」

「(……考えてみれば、さっきの時点で"あの作戦"を使うのは、少し早かったかもな。
 "国境の宿"ってのがあるみたいしだし、其処で犯るか……ぐふふふふ。)」


……………………


……………………


■妄想強さ表■
ランス>>壁>>リン>>ドルカス>>セイン=ケント>>ウィル>>山賊>>フロリーナ>>ならず者


■妄想の備考■
ビーストファイター:ランス専用のクラスで鬼畜戦士の意味であり、かなり強力。
S~F:武器においてはC~Bで一人前、A以上で達人クラスとなります。
    E以上で実戦で扱えますが、F以下はまだ実戦で扱うことが出来ません。
馬:いわゆる馬術の上手さ、C以上であれば乗馬での戦闘が可能、Eあれば乗れます。
  F以下は同乗はできますが、自分では操る事ができずに落馬する危険あり。
空:PナイトやDナイトに乗る為のスキルで、C以上ならば空中での戦闘が可能。
  F以上で同乗可能ですがスキル無しで乗ると、下手したら落ちて死にます。
  一応E以上で専門職以外でも操れますが、馬や竜に懐かれてなければなりません。
年齢:公式に設定があるようですが、何名か私の都合で付けているキャラが居ます。


■ランス:ビーストファイター(闇)
剣A 斧F 槍C 理F 馬A 空E

創造神ルドラサウムによってエレブ大陸に飛ばされた鬼畜戦士、23歳。
女好きで自分勝手な性格をしているが非常識に強く、本人にその気は無くても、
何故か人の心を掴むカリスマ性を持っている。必殺のランスアタックを持ち、
他様々な技能を秘めている。マリスの影響でやや策士ではあるが、鈍感な一面もある。


■リンディス:ロード(風)
剣C 弓F 馬D 空F

サカで生まれ育った、リキア同盟の一諸侯・キアラン公爵の孫娘、15歳。
山賊団に両親を殺されて半年、剣の師となるランスとの出会いで旅立ちを決意する。
幼い頃から苦労が多く、若いながらも非常に大人びた容姿と気丈な性格をしているが、
ランスに対しては淡い恋愛感情を抱いている。精霊の剣マーニ・カティを持つ。


■セイン:ソシアルナイト(風)
剣E 斧F 槍D 馬C

キアラン領の公爵であるハウゼン、そしてリンに仕える緑の騎士、20歳。
軟派で女好きだが、ランスが怖くてリンとフロリーナには手を出せないでいる。
かといってランスの強さと思い切りの良さから、彼に従うのに抵抗は無い様子。
相棒であるのケントよりも、"力"と槍の扱いに若干秀でている。


■ケント:ソシアルナイト(理)
剣D 斧F 槍E 馬C

キアラン領の公爵であるハウゼン、そしてリンに仕える赤の騎士、21歳。
生真面目な性格をしており、いつもセインの行動に頭を痛めている。
ランスもセインと似たタイプだが、強いと言うだけで一目置く辺りやや単純か。
相棒であるセインよりも、"技"と剣の扱いに若干秀でている。


■ウィル:アーチャー(風)
弓D 馬E 空F

リキア同盟のフェレ侯爵領出身の青年で17歳、ちなみに天然な性格。
12歳の頃から家を飛び出して旅をしているので、料理や野宿に慣れており、
旅の助けとなっている。最初それを知らなかったランスが彼の加入を許可したのは、
山賊に放たれた鋭い矢の一撃を、彼はそれなりに評価したのかもしれない。


■フロリーナ:ペガサスナイト(光)
剣F 槍D 馬F 空C

リンの親友であるイリア諸騎士団出身の天馬騎士見習いの少女、15歳。
極度の男性恐怖症の上、泣き虫で口下手で引っ込み思案かつ臆病な性格。
しかし、何故かリンの影響も有ってランスが唯一の気を許せる男性となる。
ちなみに三姉妹の末娘であり、ペガサスはヒューイという名前らしい。


■ドルカス:ファイター(炎)
斧C 弓F 馬E

ベルン王国端の小さな村出身の木こりであった巨漢だが物静かな男、28歳。
愛妻家であり、足に病を煩う妻"ナタリー"の薬代を稼ぐ為に山賊団に加入していた。
そんな中ランス達との出会いで改心し、キアランまで行動を共にする事になる。
妻が居る事から"俺様の邪魔にならない上そこそこ強い"というのはランス談。



[2301] ファイアーエムブレム=鬼畜の剣= 5章
Name: Shinji
Date: 2006/11/03 09:31
……翌朝。

リンは山賊たちの追撃をかわし、リキア・ベルン国境へと急いだ。

此処さえ抜ければ、目的地のキアランは近い。

リンは、まだ見ぬ祖父の顔を思い描いていた……


■第5章:国境を越えて■


翌朝ドルカスと合流したランス達は、リキアを目指しひたすら西へと進んでいた。

状況としては、リンが手綱を取り、ランスが後ろに乗る馬を先頭に、
計五頭の馬が街道を駆け、彼女達の上空をフロリーナが操るヒューイが飛んでいる。

流石に三頭だけの時よりかは進行ペースが7割~8割程に落ちているが、
今はランスが操っていないので、なかなかの進行速度であろう。

そのままのペースで数時間後、7名の中で唯一手綱を持たず暇であるランスは、
直ぐ後ろを走っているケント達に向かって声を掛けた。


≪ダカパッ、ダカパッ、ダカパッ!!≫

「ケント! まだ着かねぇのか~ッ?」

「そうですね……間もなくリキアとの国境の筈ですが。」

「其処を抜ければ、山賊たちともお別れってワケかい? ウィル。」

「多分、大丈夫ですよ。 流石に国境は越えてまで追って来ないでしょう。」

「それにしてもやっと、リキアか! 長かったなぁ~。
 明日には名物のタル酒と、あぶり肉を口にできますよ!
 ……それに国境の宿の女主人は、評判のリキア美人だったな。
 酌をしてもらいながらゆっくり疲れを取って……」

「おぉ! そりゃ~、たまらんなッ!」

「俺はゆっくり寝れれば、それで良い。」

「ドルカス殿……全くです。」


……この時既に昼に入ろうとしており、他愛の無い会話で盛り上がるランスとセイン。

皆が朝食を抜いていたのもあり、二人にとって国境の宿は期待せずにはいられない楽しみ。

何せ、まともな宿にありつけるのはサカの大都市"ブルガル"以降なのだから。

そんな雑談で盛り上がる(?)中、上空を飛んでいたフロリーナが何かを確認したようで、
速度はそのまま落とさず、徐々に高度を落としてランス達の横に接近して言った。

余談だが今は男性と密着していないので、フロリーナはちゃんと一行に聞こえる声が出せている。


≪バササッ、バササッ……≫

「あの……みなさん、国境が見えて来ました……」

「おぉ~ッ、遂にか~!」

「ならばリン、ペースを上げるのだ!」

「…………」

「リン、どうしたッ?」

「え!? あ、はいっ。」

≪ドカパッ……ドカパッドカパッドカパッ!!≫

「へへっ、お先にッ!」

「ぬっ!? おいリンッ、セインなんかに抜かれるな!!」

「セインッ、貴様また勝手に……!!」


一部のメンバーが馬のペースを上げ、後続の馬を引き離すと、
後続であるメンバーも自然と速度を上げざる得なくなり、些細なレースが開始される。

それはさておき……先程の雑談だけでなく、何度か会話はメンバーの間で有ったが、
今日はどうしてかリンだけが全く会話に参加していなかった。

一人ぼっちの生活を数ヶ月経験していたリンにとって、仲間との会話は大切なモノなのであるが、
今のように、何やら"考え事"をしており、無言のまま手綱を握っていた。

……何故なら、昨夜のフロリーナの"ランスさんの事が好きなの?"という言葉を、
無駄に意識してしまい、フロリーナまでとはいかないがランスと密着する事に緊張感を抱いていたのだ。

フロリーナに言われて始めて判った、"好き"という初めて感じた"気持ち"。

その事を考えると、妙に恥かしくなってしまい、今日も昨日と同じように、
ランスに"フロリーナのペガサス"に乗って貰おうとしていたが、それをフロリーナに促す前に、
彼女はヒューイを飛び立たせてしまい、逆にリンはフロリーナに"気を遣わされて"しまったのだ。


「(……私、嘘を言った……フロリーナに……)」


フロリーナにとって、ランスは昨夜彼女が言ったように"素敵な人"。

すこし勘違いから生まれたモノでもあるが、これは紛れも無く事実だ。

かといってまだ出会って間も無いので恋愛感情とまではゆかず、リンに頑張って欲しいと彼女は思っている。

……だが、それをリンは鵜呑みにした上、フロリーナに"ランスを好きではない"と嘘を言ってしまった。

フロリーナはリンがただ誤魔化しで言ったダケだと気付いているので、
彼女の言葉に"嘘"という認識は無かったが、リンは逆であり、フロリーナに対する罪悪感さえあった。


「(私はランスさんの事が好きみたい……でも……)」


それだけでなく、ランスと言う人間自体にも問題がある。

一番問題なのは、間違いなくランスの"性格"なのだろうが、リンが考える事は他にあった。

……まず第一に、ランスの強さ。

自分の実力は彼の足元にも及ばないのに、ランスを好きになる"権利"があるのかと言う事。

……第二には、ランスの境遇。

リンは記憶喪失と思っているのだが、記憶が戻ったランスに強さ"以外"の壁が生じるのでは無いかと言う事。

……最後第三には、女としての自分。

いくら強くなったとしても、ランスが自分に"魅力"を感じてくれるのかと言う事。

……第三に関してはランスにとって全然問題無いのだが(というかいつでも歓迎)、
リンはこれ等の事にも思い悩んでおり、つくづく不器用な性格と言える。

だが、それもその筈……彼女にとって人を好きになるのは、これが初めてなのだから。


≪バサッ、バサッ、バサッ!!≫

「!? あっ、あのっ……!」

「んんっ? どうしたフロリーナちゃん!?」

「て、敵です! 多分……待ち伏せだと、思います……」

「何ぃ~ッ!?」

「セイン、それ以上先走るな! 止まれ、皆急停止だッ!!」


そんなリンが思い悩む中のレース中。

再び高度を上げていたフロリーナが、直ぐに高度を下げてランス達の横に張り付いてきた。

……どうやら、遠くで待ち伏せする"ガヌロン山賊団"を確認したようで、
フロリーナに慌てた様子で告げられると、ケントの叫び声でメンバーはその場で馬を停止させた。

それにより、先走っていたセインが馬の向きを変えて戻り、
遅れていたウィルとドルカスの馬が近付き、馬上で7名全員が集合する。


「何だよ全く、良い所だったのにな~。」

「二度返り討ちにしたと言うのに、まだ懲りていないと言うのか。」

「そこそこ名の知れた山賊団ですからね、面子ってものがあるんでしょう。」

「……仕事か。」


……


…………


……一方、ランス一行から数百メートル離れた森の中。

二人の男女が、険しい森の山道を歩いていた。

片方はピンク色のツインテールが印象深いシスター。

もう片方は疲れた表情でシスターの後を付いて行っている、魔導師の少年。

この二人がどっちに向かっているのかというと、リキアの国境とは反対方向だ。


「う~ん、迷ったかなあ……もう! やんなっちゃう!」

「……君が、こっちの道だと自信満々に言ったんだよ。」

「何よエルク! 文句でもあるの?」

「君の護衛なんて、引き受けるんじゃなかった……」

「何よ、どういう意味!?」

「リキアの"かよわい"シスターが、オスティアに戻る為の護衛をさがしてるって……聞いた。」


溜息を漏らしながら告げる"エルク"と言われた魔導師の少年。

ハイテンションなシスターよりは2~3歳若そうだが、落ち着いている性格のようだ。

ちなみに、彼の口から出た"オスティア"というのは、リキア地方最大の諸侯であり、
リキア同盟の"リーダー役"を務めている大国である。


「あら、その通りじゃない。」

「……かよわい? セーラが? 冗談はよしてくれ。
 もうお金は返すから、一人でオスティアに戻ってくれないかな。」

「嫌よ! エルクはやっと見つけたむさ苦しく無い護衛なんだもの!
 ……第一、高貴な女性が1人の供も連れてないなんて、おかし~でしょ?」
 あんた、性格はイマイチだけど、見た目はまあまあだから。」

「それは、こっちの台詞だよ。 ……このままリキアまでなんて、僕の神経が耐えられない……」

「なにブツブツ言ってんの、暗いわねっ!
 ……あら? 向こうがヤケに騒がしいわ。 行ってみましょ!」

「……ついでにその、すぐ厄介事に首を突っ込むところ……
 割増料金貰っても御免だよ……ふうっ……」


……


…………


「フロリーナちゃん、数は判るか? 大体で良いが。」

「この街道沿いに、10人ほど……でも、
 森の中にも沢山……20人は居た気が、します……」

「ランス殿、どう見られますか?」

「そうだなぁ……多分、街道で10人で囮になってるトコを、
 森の中から出てきた山賊どもが、背後から来るって感じだろ。」

「おぉ~、成る程。」

「……森の敵も合わせれば、30人か。」

「相手もかなり必死みたいですね……だ、大丈夫かな……」

「う~む……」


ウィルの言うとおり、弱気になるのも当たり前。

単純に考えて、7対30……4倍もの戦力差があるからだ。

ランスにとっては問題無い人数だが、戦い方によっては誰かが死傷する可能性がある。

このまま街道沿いに進めば尚更で、それがリンやフロリーナがであれば、冗談ではない。

よって何か策は無いものかと、ランスが首を捻った時だった。


「キャーキャーキャー、きゃぁーーーーッ!!」

「むむっ……これは女性の悲鳴ッ!?」

「森の方からだわ!!」

「まさか、関係ない人間が山賊に襲われているのかッ!?」


突然女性の悲鳴が響き、黙っていたリンも流石に声の方向を咄嗟に見た。

当然他のメンバーも森の方向に顔が向き、顔色を変えた。

こうなれば、じっくり作戦を立てている場合ではなく、それが女性であれば尚更。

ランスにとっても"女性の悲鳴=俺様に助けを呼ぶ声"という価値観から、
急がねばと考え、"思いつきで浮かんだ事"をメンバーに声荒げに叫ぶ!


「リン、フロリーナちゃん、セイン、ケント、ウィル、ドルカスッ!
 お前らはそのまま道沿いに進んで、待ち伏せてる山賊どもを叩け!」
 俺様が森に隠れてる奴等を纏めて潰してやるぜ!!」

「ま、マジですかあ~!?」

「ランス殿、それでは我々はともかく……」

「あっ、でもランスさんなら~……」

「……(確かに強いとは思うが……)」

「"10人程度"ならお前らで何とかなるだろ? 判ったらさっさと行けッ!」

「あの……い、いくら何でも……」

「そ、そうよッ! 20人どころかもっと居るかも知れないのに、無茶よ!」

「何言ってやがるッ、二十人以上だからこそ俺様だけで良いのだッ!
 生憎俺様は何人も"守りながら"戦える程、器用じゃ無ぇからなっ。」

「……ッ!!」

「判ったんならリン、さっさと降りろっ!
 それじゃ~俺様は行くからな、道沿いの相手は全員仕留めろよッ!」

≪ダカパッ、ダカパッ……ガサッ、ガササッ……!≫

「あっ……」

「リンディス様、俺達も行きましょうよ!」

「……(やっぱり……私は、ランスさんとは……)」


……何と、ランスは"一人だけ"で森の中に潜む山賊を抑えると言い出した!

その言葉に一同は動揺を隠せなかったが、一番過剰に反応したのがリンだった。

ランスの強さを一番知っているのはリンなのだが、
彼を想う気持ちが一番強いからこそ、"死んで欲しくない"という気持ちも強い。

だが……彼に遠回しに"足手纏い"のような事を言われ、
絶句してしまい、言われるがままに馬から下りる羽目になった。

その合間にランスは馬を操って森の中に入って行き、直ぐに見えなくなってしまう。

この様子を見ていたケントだが、彼はまた勝手にランスの事を"勘違い"していた。


「……リンディス様……ここはランス殿の御好意に甘えましょう。」

「こ、好意?」

「リンディス様はキアラン公爵の血を引く、たった一人の存在。
 万が一にも命を失わせてしまう訳にはいきません。
 だからこそランス殿は、自分から貴女を突き放すような事を言ったのでしょう。」

「(そうじゃないと思うけどねぇ……)」

「それ以前に、ランス殿のあの自信……絶対的な自信があるのでしょう。
 ならば我々も、任された敵を討たねばなりません。」

「ケント……(そ、そうよね……ランスさんが死んじゃう筈ないわッ!)」

「まっ、そんなワケです! それではリンディス様ッ、
 どうかこの馬に……セインの後ろにお乗りください!」

「……遠慮しとくわ。 フロリーナ、お願い。」

「うん!」

「そ、そんなぁ~。」

「待たせてごめんなさい、みんな行きましょうッ!」

≪バササッ! ドカパッ、ドカパッ、ドカパ……ッ!!≫


ランスに対する"気持ち"が大きい事から感情的になってしまったリンだったが、
ケントの言葉もあり、改めてランスの"強さ"を振り返る事で冷静さを取り戻すに至る。

何より、馬を操って森に侵入できるテクニックがあるのがランスだけであるし、
気を取り直してリンは、フロリーナのペガサスに乗せて貰うと、
自分達の役割を果たすべく、いつもの調子でマーニ・カティを抜くのだった。

しかし実はランス、"女の子を助けた礼に青姦するぜ!"程度にしか思っておらず、
一人で"森に潜む山賊を倒しに行く"と言い出したのも、
誰にも邪魔されずに、助けた女性とセックスしたい為ダケだったのである……


……


…………


「た、助けなさいよ! エルクッ!」

「五月蝿いし押さないでくれよっ。」

「うらぁっ! 一撃で始末してやるよ!!」

「くっ……ファイアーッ!!」

≪――――ズボォォンッ!!≫

「ごはぁっ!!」

「うぉッ、このガキぃ~ッ!!」

「なァ~に、たった二人だ! さっさと始末するぞ!」

「"奴等"の仲間なら女でも容赦する事ァねぇ!
 俺達の仲間を大勢殺りやがったんだ、捕まえるのが無理そうなら殺せッ!」

「ダメだっ、数が違いすぎるよ……」

「そ、それ以前に"奴等"って何の事よ~!」

「そんな事、僕が知る訳無いだろッ? でも、油断した……
 ここ一帯の山賊団は、最近"何か"を目的に動いてるって聞いてたのに……」

「ど、どうすんのよ~! アンタの所為よぉ~!?」

「丸ごと返すよ、その言葉……(ここまで……かな)」


ランス一行がセーラ悲鳴を聞いてから一分後。

二人は偶然ランス達を倒そうと森に潜んでいた"ガヌロン山賊団"と鉢合わせしてしまった上、
ランス達の仲間と勘違いされ、20人以上の山賊達に襲われてしまっていた。

少年魔導師と、戦えないシスター……どう考えても勝ち目が無いし、
既にエルクが一人の山賊に致命傷を与えてしまったので、謝ってもどうしようもなさそうな状況。

"ガヌロン山賊団"は若い少年や女性は、奴隷として売り飛ばして金を稼いでいるので、
本来ならヘタに殺したりはしないのだが、仲間を失った事により殺気が凄い。

よって……今まさに、数人の山賊が二人に斧を振り下ろそうとした時!


≪ザカパッ、ザカパッ、ザカパッ!!≫

「な、なんだ……ぐわぁ!!」

「ぎゃああぁぁっ!!」

≪ザシュッ!! ――――ドドォッ!!≫

「がははははッ! ランス様、推参!!」

「……ッ!? あ、あいつは!」

「知ってんのか?」

「し、知ってるも何も無ぇッ! "奴等"の一人だ!」


後方から馬を操り、高速で駆けて来たランスが、エルクの目の前の山賊を斬り倒した!

そして二人を庇う様に立ちはだかると、山賊達の注意は完全にランスに向いた。

一瞬で仲間を二人斬り殺したほどの男……エルクとセーラに少しでも注意を向ければ、
その隙を突かれてランスに斬られるという恐怖心を直感で感じたからだ。

……だが、山賊団の"メンツ"に掛けて引くワケにもゆかず、斧を構えて距離を詰める。

対してランスは、相手の人数に全く動じる事も無く、山賊達を見下ろしながら言う。


「最初に、俺様は優しいから言っとくが……死にたく無ぇ奴は帰るこったな!
 (セックスの前に)余計な体力使いたく無ぇんだよ。」

「う、うるせぇっ、引き下がれるかッ!」

「お前らを逃がしたとなっちゃ、ガヌロン山賊の名折れなんだよ!」

「……お前らの顔が潰れよ~が恥になろうが、こっちには関係無ぇ!
 俺様はリキアへ急いでんだ! 邪魔すんなら……死ねッ!!」

「ぐっ……たった一人だ、殺っちまえ!!」

「うおおォぉ……ッ!!」

≪ブゥンッ……ガキイイィィンッ!!≫

「おいッ! 死にたくなきゃ其処でじっとしてな!」

「は、はあ。」

「…………」

「(馬に乗ってると戦い辛ぇな……けど"この方"が良いぜ! だが……)」

≪ドシュッ!! ――――ザシュッ!!≫

「ぐわッ!!」

「つ、強ぇ……バケモンか、こいつッ!?」

「(う~む、ガキだが男連れとは計算外だったぜ。)」


ランスは最初に"死にたくなければ帰れ"と言ったが、
本人は挑発したつもりでは無く、本当に体力を使いたく無い気持ちで言ったのだ。

だが当然相手に引き下がる気は無く、1対20の戦いが開始される!!

今のランスは馬上なので若干豪快さが足りないが、
これも彼にとって"自分を格好良く見せる為"には必要な事なのである。

……かといって、ランスの実力は馬上でも本物であり、
片腕ながらも(左手は手綱)剣の一撃は山賊達を圧倒していた。

その戦いをセーラを庇い、少し避難して見ていたエルクは、唖然とするしかなかった。

それはセーラも同様で、彼女はランスの戦いに魅入ってしまっており――――


「な、何て強さだ……ありえないよ。」

「かっ……」

「えっ? セーラ?」

「カッコイイ……(ぽわ~……)」

「……(……また、嫌な予感が……)」


……


…………


「……で、その二人が……山賊に襲われていた人なのね?」

「しかしまあ、ホントに全員片付けちゃうなんてねえ……」

「お、俺には絶対真似できませんね……」

「がははははッ、最強の俺様には容易い事だ!」

「……ところで、お二人の御名前は?」

「あ、私はセーラで~す。 オスティア家のシスターやってます!
 ……でこっちは、私の雇った"護衛"で~す。」

≪ゴンゴンゴン≫

「杖でッ人の頭をッ叩かないでくれ……っと、申し送れました、僕はエルク。
 エルトリアの者です。 危ない所を助けて頂いて、有難う御座いました。」

「ぶ、無事で……良かったですね。」

「はい、お陰様で。 ですけど、山賊達は今まで貴方達を狙っていたんですね。
 まさに"その時"という場面に遭遇してしまって、本当についていませんでしたよ。」

「そう考えてみれば、迷惑な話だったわよね~。」

「君がヤジ馬根性を出さなければ、巻き込まれて無かっただろ……?」


……十数分後、山賊達を倒したランスはリン達と合流するべく、街道に出た。

すると同様に10名前後の山賊達を倒したリン達が待っており、
互いに被害を出さずに合流でき、一行はセーラ&エルクと顔を会わせていた。
(今現在は人数が増えてき来たので、全員馬から下りている)

そんな中、各々が(セイン以外)簡単に名乗る自己紹介をしていると、
セーラは左腕を負傷しているケントの傷を見た直後、声のボリュームを上げた。


「あっ、ケントさん! その傷ッ!」

「そうよ、大丈夫? ケント。」

「……大した事は無いです、旅には何の支障もありません。
 ですが情けない話です、私もまだまだ未熟と言う事ですね。」

「それならッ、私に任せて! ちょちょいのちょいで治してあげるからッ。」

「え? そんな事ができるの……?」

≪きゅいいぃぃんっ……≫

「こ、これは……傷が……」

「うふふふ、神に仕える者にだけ許されるのよ。」

「ほほぉ、"回復魔法"みたいなもんか。」

「そうそう! ランス様ぁ~、私凄いでしょ~?」

≪べた~……≫

「……っ……」

「(あわわ……り、リンが怒ってる……)」


実は、先程からセーラはランスにべったりだった。

ランスの服装がリーザス王時代の私服だったのもあり、貴族と勘違いしているのか、
彼のあまりの強さに心を奪われたのか、それは良く判らないが、第一印象は最高だったようだ。

ケントの傷を治療するときは一旦ランスから離れたものの、
それが済むと再びランスに張り付く辺り、彼がかなりのタイプだったようである。

考えてみれば……自分がピンチの時にたった一騎で登場し、20人以上の"悪者"を、
自分の為(思い込みだが)に成敗してくれれば、惹かれるのも仕方ないのかもしれない。

そんなセーラの表情はキラキラしており、ランスも満更では無い様子だが、
逆にリンは平然を装いながらも、嫉妬の為かピクピクと青筋を立てていた。

……だが、セーラはリンの気持ちを直ぐに察したものの、
意図的にスルーし、未だにランスの片腕に自分の腕を絡めたまま言った。


「そう言えば……セインさんの長ったらしい自己紹介とかで判ったけど、
 もしかして、誰かに狙われてたりしてるんですか?」

「ええ、相続相続争いに巻き込まれて、刺客がゴロゴロと。」

「へぇ~、ならリンディス様が命を狙われてるって事になるのかしら。」

「(セーラ……何か変な事考えてない?)」

「(ウフフ、権力ある人に恩を売っとくと、この先良い事あるかもね~。
 それに素敵な出会いをしてしまったんだし、このままじゃ勿体無いわ!)」

「(ま、まさか……!)」

「何を、ごちゃごちゃ言ってるのッ?(というか、何時までランスさんにくっ付いてるのよ!)」

「何でもないで~す! とにかくそれなら、
 私の"回復の杖"とエルクの"魔法"は御役に立てますよねっ?」

「ぼ、僕はそんな危険な旅には……」

「そんなッ、私は嫌――――」

「いやいやいや、杖も魔法も大助かりです! では、これで"ランス傭兵団"も9名ですねッ!」

「こらセイン! 貴様、また勝手に……!」

「ん~? まぁ良いじゃねぇか、オスティアってトコに行くんなら、
 ど~せキアランも通らなきゃなんねぇんだろ?」

「そ、そうだけど……」

「まぁまぁリンディス様……賑やかになるんですし、良いじゃないですか!」

「……そうだな。」

「ウィル!? ドルカスさんまで……」

「ランス様、見ててね。 どんどん癒してあげちゃいますよ~!」

「そうかそうか、良い心掛けだ! がははははッ。」

「き……気が、変になりそうだ……」


……


…………


こうして"ランス傭兵団"にセーラとエルクが加入し、9名となった。

リンは案の定、気に入らないようだったが、ランスが認めてしまえば逆らう事は出来ない。

30人という山賊が相手で誰も死傷者が出なかったのも、ランスの存在が大きいからだ。

よって9名で国境を越える事になったワケだが、馬の追加は無かったので、
ランス&セーラ・ケント・セイン・ウィル&エルク・ドルカスという馬五頭。

そして、ペガサスにフロリーナ&リンと言う編成で旅を続ける事にしたのだった。


≪ダカパッ、ダカパッ、ダカパッ≫

「それにしてもランス様、めっちゃくちゃ強いんですね!」

「そうか~?」

「はい! オスティアにも、あそこまで強い人は滅多に居るもんじゃないですよ!」

「ちなみにあの程度なら、50人くらい居ても負けんぞ。」

「キャー、凄~い!」

「(ぐふふふ……青姦はできなかったが可愛いし、これは良い"拾い者"したぜ!)」

「(うふふふ、この強さと馬術……何処かの騎士には違いないし、玉の輿ゲットよ!
 この人の身分が高いほどオスティアにも有益だし、ウーゼル様も喜ばれるわッ!)」

≪バサッ、バサッ……≫

「ねえ、リン……下ばかり見てたら危ないよ……」

「…………」

「(き、聞こえてない~……)」


街道を駆ける"良い雰囲気"なランスとセーラが乗る(リンの)馬。

上空ではリンが頻繁に下を見て二人の様子を確認しているのだが、その視線を受け付けない。

また、後ろを走るセインはランスとセーラの様子を羨ましそうに見ているが、
ケント・ウィル・ドルカスは各々の性格により、特に何も感じてはいなかった。

ランスが馬を操っているのにも関わらず、マシンガントークのセーラとの会話で、
若干速度が落ちているのか、余裕を持って進行もできており、
ウィルは何となく後ろに乗っているエルクに問う感じで口を開く。


≪ダカパッ、ダカパッ、ダカパッ≫

「セーラさんって人、すっかりランスさんに懐いちゃったみたいだねぇ。」

「……そうですね。」

「エルク君は気にならないのかい?」

「いえ、むしろ助かりますよ。 散々我侭を言われてましたし。」

「へぇ~、なら良いんだけどね。」

「(それより、僕が気になるのはあの"ランス"って人の方だ……
 何処かしら"理"の力も感じるし、何者なんだろう……)」


エルクはエルトリア王国の屈指の名門貴族である賢者に弟子入りしているのだが、
その人間と比べても遜色ない強さを、ランスは持っていたのだ。

本来ならセーラの"お守り"をランスに任せてエルトリアに戻っても良いのだが、
ランス程の強さを持つ人間にはそうそうお目に掛かれるモノでも無く、
まだまだ若いエルクにとって、ランスの非常識な強さはとても興味深いモノだった。

それに、キアランのイザコザにも多少興味が湧いたので、彼はランス達との同行を決めたのである。

最初はセーラの勝手な提案に頭痛を感じたが、冷静になってみるとそうでもなかった。


「(まぁ……あのままセーラと進んでいたら、確実にオスティアは遠くなっていただろうし、
 山賊と鉢合せしたのも、ある意味……運が良かったのかもしれないね。)」



[2301] ファイアーエムブレム=鬼畜の剣= 5章外伝
Name: Shinji
Date: 2006/11/06 03:41
"ガヌロン山賊団"との三回目の戦いに勝利し、ようやくリキアに入ったランスだったが、
その後の彼の一日は、思ったよりも早く終わってしまった。

山賊20人を倒す事に体力を使ったか、馬を長い事操るのに神経を使ったか。

考えてみれば、リーザス王の時は軍を長距離に渡り進軍させる事は多々有ったが、
それらは全て部下が行っていたし、女と寝たければ何時でもメイドや侍女を抱けた。

つまり野宿の日々など数年振りで、久々の宿への到着で疲れがドッと出るのも仕方なかった。

しかもそれだけでなく、宿に到着してもセーラの相手や、
セインに勧められて飲んだタル酒も効いており、この日ランスが寝たのは21時だった。


■第五章外伝■


……翌日、午前6時。

カーテンを閉め忘れたランスが泊まる宿の室内に、朝の日差しが入り込む。

部屋の割り当てはランスの我侭で、彼は贅沢にも一人部屋。

そして女性陣三名(リン・フロリーナ・セーラ)の中部屋と、
残りの男性陣(セイン・ケント・ウィル・ドルカス・エルク)の大部屋で分かれていた。


≪むくっ≫

「ふぁ~あ……朝か。」


強い日差しによって目を覚ましたランスが、上半身を起こす。

夜遅くまで女を抱いて、起きる時間帯が昼なのが日常だった彼にとっては、
6時起きとは、異例な時間の起床なのだと言えるだろう。

そんな彼の姿はトランクスのみで、この姿で寝るのも"こちら"に来て初めてになる。

サカ平原ではリンに出会って間も無かったし、ブルガルの宿ではリンと相室だったのだ。

……それはさておき、ランスは自分の上半身を起こしたまま、自分の股間を見る。

すると案の定……今日は一段と元気良く"立って"いるハイパー兵器。

昨晩は良く眠れ、良い物を食べれた事もあってか、"ギンギン"な状態だ。

何より此処最近はブルガルの"娼婦"以降女性を抱けておらず、女日照りが続いているからだ。


「う~む……抜いておく方が良いかな……」


ランスはそう漏らすと、寝ボケ顔で自分のハイパー兵器に右手を添える。

だが、やはり気乗りしないのか、添えられた手がピタリと止まる。

もはや自慰行為などでは自分の欲望を抑えられないのは、ランス本人が一番判っている。


「そういやあ……この宿の女主人は、セインの言う通りなかなかの美人だったからな。
 まだ寝てるだろうし、頂いちまうのも悪くね~かもなッ。」

≪ガバッ!!≫


自分勝手な思い付きをし、ベットから離れると、早速着替え出すランス。

昨日まで着ていた服は、宿に洗濯を頼んでいるので、
着ているのはサカ(ブルガル)で購入した、緑色のTシャツとズボンだ。

……どうやらランスは言葉通り、女性の寝込みを襲う事にしたらしいが、
まだネボけているのか、襲った後の始末どうするか等まで頭が回っていない。

頑張って抑えていたのだが、余程性欲が溜まってしまっているようで、
素早く着替え終えたランスが、部屋を出ようとドアを開けたその時!


≪ガチャッ≫

「うぉっ?」

「きゃっ!」


ドアを開けたランスの部屋の正面で、何故かリンが立っていた。

彼女は突然の彼の登場に驚いた様子で一歩下がり、ランスも半歩下がると、
瞬時にポケットの中からハイパー兵器を掴んで、股間の誇張を悟られないようにした。

それと同時にランスは、自分の眠気が一気に覚めたのを感じていた。


「(焦ったぜ)リン……何してんだ? こんなとこで。」

「あ、あのっ……私……また、ランスさんに稽古をつけて貰いたくって……」

「何っ? もしかして、そこで待ってたのか?」

「う、うん。 起こしちゃまずいと思って……」

「(なんとまぁ、ご苦労なこった。)」

「勿論っ……ら、ランスさんが良ければだけど……」


情けない事に、ランスはついさっきまでリンの事を忘れてしまっていた。

昨日はセーラの相手ばかりで、リンと接する事が少ないまま寝てしまい、
寝ボケもあってか、彼女が目の前に登場する迄にはリンの顔が出てこなったのだ。

そんなオタオタした様子で、ランスとの"剣の稽古"を望むリン。

今は最初から持っていた二本の木刀を手に、上目遣いでランスの返事を待っている。

その表情に対し、ランスは心の中でニヤリと笑うと、
片手はポケットの中に入れたまま、頭を掻きながら何気ない様子で言った。


「前は邪魔が入っちまったしなぁ……そのやる気に免じて、相手してやるぜ。」

「ほ、本当っ? それじゃ、行きましょう!」

「(こりゃ~チャンスだな。 これを逃がさねぇ手は無ぇぜ!)」

「(私はランスさんに剣を教えて貰いたい……それだけよ、それだけなんだから……)」


……


…………


この宿は二階が宿・一階が酒場兼、料亭になっており、
国境付近にある宿であれば、造りは定石と言えるかもしれない。

よってランスらが寝ていた部屋は二階なので、廊下を歩き階段を下りる二人。

すると良い匂いと同時に、朝食の準備をしていた女主人が微笑みながら声を掛けてくる。

この時点で、もしリンに二階で会わなければ、
ランスは恐らく厨房で彼女を襲ってしまっていたのかもしれない……


「あっ……お客さん、お早う御座います。」

「おはよ~さん。(ありゃ、もう起きてたのかよ……)」

「昨日は御世話様でした。」

「いえいえ。 ところで、こんな時間にどちらに?」

「こ、これから剣の修行なんです。」

「あら、それはまぁ……」

「そんな訳だ、美味いモン拵(こしら)えといてくれよ?」

「ふふ、わかりました。」

「(ちょっと勿体無ぇが……また寄った時がありゃ、犯らせて貰うとするかな。)」


この宿は、朝食を食べた後には出発してしまう。

目的地は……現在ランス達が居る"アラフェン侯爵領"にある一番大きな街。

そうなると、今リンの稽古に付き合えば、女主人を犯る機会が失われると言う事になる。

それは確かに勿体無い事ではあるが、今のランスの目標はリンの貞操なのであった。


……


…………


……この日リンは、セーラに邪魔(?)をされないようにする為、
ランスが起きる一時間前から、彼が部屋から出てくるのを待っていた。

昨晩のフロリーナとセーラはやはり慣れない旅で疲れたか、
自分が寝る前に床に就いており(就寝はランスよりは遅かったが)、
当然今朝の朝五時に部屋を出る時も、静かな寝息を立てていた。

よってその二人よりもランスと早くに接触するべく、ドアの前で待機していたが、
思った以上にランスが出てくるのが早かったので、リンは驚いていたのだ。

その"ランスの目覚めるのを待ってまで剣を教えて欲しい"と言う気持ち……

どうやら彼に(違う意味で)しっかり届いたようで、リンはランスと外へと出て行った。

場所は国境の宿から数百メートル離れた、木々の少ない林の中。


「……この辺にしとくか。」

「そうね。」

「よし! 何時でも良いぜ、掛かって来なァ~。」

「…………」

≪ザッ……≫


既に木刀を受け取っているランスは、振り返ると片手で木刀を構える。

それに対して、リンも木刀を両手で構えて意識を集中させている。

だが……未だにランスがポケットに手を突っ込んだママなのが気になるようで、仕掛けてこない。

これはランスのハイパー兵器が依然カチカチなので、手で根っこを曲げており、
彼自身の興奮をも抑えているのだが、リンはそれに気付いていないのだ。


「どうした~?」

「ランスさん、手……そのままで良いの?」

「あぁ、これか? ハンデだ、遠慮はいらんぞ~。」

「……(くっ……それだけ、甘く見られているって言うの? 私……)」

「(正直これで捌くのはしんどそうだが、此処で躓(つまづ)くワケにもいかねぇしな。)」

「はあぁぁーーっ!!」

≪ダッ……!!≫

「……ッ!?(ここを凌(しの)ぎゃリンの処女だ、気張るぜ!!)」

≪――――ガコォンッ!!≫


……


…………


ドルカスを仲間にする直前、ランスがリンに対して閃いた"名案"。

それは意図的にリンの衣服を攻撃によって偶然を装って破き、
恐らく恥らう彼女を"それでは甘い!"と一喝し、"それ"に慣れるよう、
優しく"男"と言うモノを教えてあげるつもりだったのだ。

何となくリンは自分に惚れていると判っていたので、
詳しい根拠は無いのだが、"たぶん"成功する予定ではあった。

しかし……山賊の邪魔や場所の事もあってか、結局作戦は実行に移せなかった。

よって今回こそリンを頂くつもりで稽古に臨(のぞ)んでいるのだが、
どうしてかリンの攻撃はかなり激しく、ハイパー兵器を掴んだままなのもあって、
ランスは結構本気になって、必死そうな様子のリンの相手をしていた。

その稽古の"模擬戦"は数分に及んでおり、なかなか決着がつかない。


「やああぁぁッ!!」

「チィっ!!」

≪ブゥンッ、ブゥンッ!! ――――ガツッ!!≫

「くっ!」

「ぐぉっ?」

≪グッ……ぐぐぐっ……≫


気合と共に木刀を振るう、リンの二段薙ぎをバックステップで回避。

だが、直後に素早く距離を詰めてくると同時に振り下ろされる彼女の攻撃を、
ランスはステップの反動と右手のパワーで防御する。

普段通りの調子なら此処まで苦労する事もないのだが、
片手なダケでなく股間が前途の様であり、何よりリンの"気迫"が強かった。

……かと言ってランスも"リンを頂きたい"と言う気持ちは負けてはおらず、
この"模擬戦"にだけは何としてでも勝たねばならない。

しかもランスの十八番である卑怯な手を使わず、"正攻法"での勝利だ。

よって今は力比べの最中だが、ランスはリンの木刀を弾こうと力を込める!


「(やっぱり力押しじゃ無理ね! は、離れないと――――)」

「うぉらァッ!!」

≪――――ガツンッ!!≫

「きゃあっ!?」

「(良しッ!)」

≪バッ……!!≫


リンもランスが混めた力を察してか、一旦彼から離れようと思ったようだが、
若干遅れた為か、ランスのパワーによってリンの木刀が弾かれる。

だが……以前と違って木刀はリンの手からは離れておらず、
ランスに悪条件が重なっているのもあるが、状態を崩しただけで済んでいた。

そんなリンはよろめきながらも後方に下がろうとするが、
ランスは逃がすまいと前に踏み込み、太刀を素早く横に薙ぎ払ってくる!

対して、避ける事を諦めたリンは、態勢を崩していながらも、
咄嗟に両手に木刀を構えてランスの攻撃を迎え打とうとするが――――


「しまっ……!」

「おおぉぉッ!!」

≪フォッ――――ガキィィーーンッ!!!!≫

「あうっ!!」

「ふぃ~……」

≪ドサ……ッ!!≫

「……ッ!!」

「勝負あったな。(ちょっとばかし本気になっちまったぜ……)」

「……(やっぱり……敵わないッ……)」

「今回もそのまま押し込もうとしたんだろ~が、俺様を甘く見ていたようだな!」

「…………」


中途半端な防御では流石に耐える事は出来ずに、弾き倒されてしまうリン。

狙ったのは木刀なのだが、カラダごと持っていかれ、彼女は地面に転がった。

よって起き上がろうとしているリンだが、そのリンの動きは途中(四つん這い)で止まる。

対してランスは何時もの様に、リンに注意点を自分なりに教えてあげている。
(直前まで気付かれない様に、未だに立ちっぱなしのハイパー兵器は押さえている)


「引き際は若干早くなったかもしれんが、弾かれた時点で結果は同じだ。
 スピードはかなりのモンだが、動きを鈍らされたら御仕舞いだな。」

「……っ……」

「んっ、どうした? どこか痛めたのかッ?」

「う、うぅん……大丈夫ッ……」

≪むくっ≫

「そうか、なら良いんだが。」

「……(まだ、"こんなモノ"なの!? 私ッ……)」


……この時、リンは自分の"情けなさ"を感じていた。

好きであるランスに追いつきたいが為、相当な意気込みで臨んだ試合だったが、
片手しか使わないというハンデを貰いながらも、あっさりと負けてしまったのだ。
(ランスが平然を装っているだけで、実は結構必死だったのだが)

このままでは、何時まで経ってもランスとは釣り合わず、ましてや両親の仇も討てない……

そう考えると涙が滲みそうだったが、彼に心の弱さを悟られる訳にもいかないので、
リンは何とか涙を堪えると、ゆっくりと立ち上がった。

しかしランスは、リンが今泣いていた事に何となく気付いてしまっており、
今朝の様子から"自分に惚れている"のだと言う、絶対的な確信を持っていた。

よって今まさに……リンを自分の"女"にする為に、
ランスはポケットに突っ込んだ片手をそのまま、ポンポンッと木刀で肩を叩くと、
気まずそうに自分を見上げているリンを見下ろしながら、表情を改めて言う。


「ま……俺様の教えられる事は、もうこの位か。」

「えっ!?」

「今回の稽古はまだ終わりってワケじゃねぇが……そろそろ、な。」

「そんな……ランスさんッ、どうして!?」

「どうしてって言われてもなぁ~……リンと稽古すんのは、ちょっと疲れてきたんだよな~。」

「い、嫌よッ! 私まだ、貴方にちっとも追いついてないものっ!」

「(おぉ~、思った以上の反応。)」

「まだ、ランスさんに教わりたい事ッ……沢山あるのに……」

「ほお……そんなに俺様に、剣を教えて貰いたいのかッ?」

「は、はい! お願いしますッ! 私……何でもしますからッ!!」


ランスが言い出したのは、リンとの"関係"の打ち切り。

"剣の先生と生徒"と言う関係の事なのだが、剣を教えて貰えなくなるダケでなく、
リンにとっては"ランスの存在"が掛け離れてしまう事になるので、それだけは止めたかった。

また、セーラが今後もランスにべったりするのは勝手だが、
自分のランスとの特別な関わりが潰(つい)えるのは嫌なので、とにかくランスを引き止めたいのだ。

稽古をつけて貰えなくなっても、リンもセーラのように積極的に彼に接すれば良いのだが、
そこまでの度胸がとてもじゃないが、不器用なリンには無いのである。

そんなリンの気持ちの捌け出しを受けていたランスは、最後の彼女の"言葉"に、
作戦の成功をも確信し、内心の興奮を抑制しながらリンにゆっくりと近付いて言った。


「ほぅ……そう言えば、タラビルの連中を倒すには、"何だってやる"とか言ってたよなぁ?」

「そ、そうよ……奴等を倒せるのなら、何だって……」

「それは、"嘘"じゃねぇんだな?」

「う……嘘じゃ、ないわ……」

「ふ~む。」

「あっ……」

≪くいっ≫


"嘘"という言葉を強調し、ランスはリンの決心を確認する。

そうすると、ランスは持っていた木刀を投げ捨てて、リンの顎(あご)を人差し指で上げる。

それに若干カラダを震わすリンだったが、ランスは気にせず彼女の顔を覗き込んで言う。


「……それなら、俺様の"女"にもなれるって訳だな?」

「お、女……?」

「判らねぇか? 恋人とか、そんな優しいモンじゃねぇ……もっとドライなヤツだ。
 俺様が剣を教えてやる代わりに、リンの"体"をくれって言ってんだよ。」

「!? そっ、そんな……私……」

「"何でもする"んだろ? まさか、嘘じゃねぇんだよな?」

「うっ……」


真剣なランス(心の中では鼻の下伸ばしまくり)の言葉に、リンの顔が赤くなる。

こう言ってくるという事は、ランスが自分の体に少しでも魅力を感じてくれていると言う事だ。

……かといって、簡単に許容できる事でもないので、
返事にに迷っていると、彼の"嘘"という言葉に選択の道を塞がれる。

そうなれば……純粋なリンにとって、辿るべき道は一つしかない。

リンは目の前にあるランスの顔に対し……唇を受け入れようと、瞳を閉じた。


「へっ……そうそう、人間素直が一番だぜ。」

「……っ……(そうよ……私はサカの、ロルカ族の女……)」

「(がはははは! とうとうこの時が来たぜッ!)」

「ん……っ!(嘘なんて、つか……ない……)」


……


…………


ランスによって"落とされた"リンは、林の奥に連れ込まれると、
近場の大木に背を預けさせられ、暫くの間は彼に唇を弄ばれていた。

今までキスなど一度もした事の無かったリンが、まともな口付けができるハズも無く、
相手が恋心を抱いていたランスであれば、尚更無理な話だ。

それが何分も続いてしまえば、やがて頭がショートするのも仕方なく、
彼女に出来た事は、絡めてきたランスの舌とヘタクソなダンスを踊るだけだった。

となると、ようやく唇を離された時には、彼女の頬は上気し、
表情はきつい酒を飲んだようにトロンとなり、既に参ってしまっていた。

そんな涎の拭く余裕も無いリンの衣服に、ランスは容赦なく手を伸ばした。


「がはははは、次のステップに行くぞぉ~。」

「あっ……やぁ……」

≪ごそっ……≫


抵抗したくても体に力が全く入らず、成す術も無く服を脱がされるリン。

よってあっという間に、彼女は白いパンティーと黒のTシャツだけの姿になっていた。

かといって衣服がスリットである事から、膝のやや下までの高さであるブーツと、
剣を握る時はいつでも欠かさず付けている手袋はそのままなので、
妙なフェチック(?)とも取れる、アダルトな違和感があった。

そんなリンはパンティーを両手で隠しているものの、
ノーブラの為か、黒いTシャツからは突起していないにしても乳首の位置が判り、
ランスは"それ"を楽しむ為に、リンの後ろに回り込み、シャツの中に手を伸ばす。


「(う~む早く入れたい! "前座"はさっさと済ませちまおう。)」

「きゃっ! 手……入れないで……ふ、あっ……」

「ほほぉ~、なかなかデカいな! 15の乳とは、とても思えん。
(これで成長途中ってんだから、信じらんねぇな……)」

≪もみもみもみ≫

「はぁ……ぁっ……うっ、ンッ……」

「どうだ、気持ち良いか~?」

「……い、言えるワケ……ないでしょッ? ……そんな……ことッ……」

「そうか~? だが此処は"立ってる"ぞぉ?」

≪――――くりっ≫

「!? ひうぅ……ッ!!」

≪びくっ!≫


キスと同様、初めて感じる乳房への感覚に対し、リンは唇を噛み締めて耐える。

既に乳首が突起し始めてる事から、感度はなかなかの様で、
ランスが少し乳首を捻っただけでリンは体を震わし、
宙を舞っているポニーテールが、大木に背を預けているランスの鼻を僅かに弾く。

そしてそのまま、暫く乳房及び乳首責めが続けられると、
リンは立っているのもままならず、ずるずるとその場に崩れてしまった。

達してはいないようだが、快感に足が耐え切れなくなってしまったのだろう。


「おいおい、まだ始まったばっかりじゃねぇか。」

「そ、そんな事ッ……言われて、も……」

「……まぁいい。 "俺様の方"も何とかして貰いたかったトコだしな。」

「えっ……きゃっ!」

≪ジャキーン≫

「もしかして、立ったの見るのは初めてか?」

「あ、当たり前……でしょッ……」

「だが怖がらんで良いぞ、やる事も判ってるよなッ?」

≪ビクッ、ビクンッ……≫

「……っ……」


その場にリンが崩れ、彼女の頭が"良い位置"に来たので、
ランスは自分のハイパー兵器を取り出して、姿形を露にさせた。

以前から準備OKのソレは、リンの瞳を見開かせた上に生唾をも飲ませた。

彼女はランスの言葉に対し、"フェラチオ"と言う専門用語は判らないが、
ハイパー兵器を銜(くわ)えなくてはならない……と言う事は何となく判った。

しかし、初めてでいきなりそんな度胸が有るハズも無く、
暫くハイパー兵器との"睨めっこ"で動けないでいると、ランスの声が頭の上から聞こえてくる。


「正直、このままじゃ辛ぇんだ。 なんとかしてくれ。」

「…………」

「案ずるな、いきなり出したりはせんぞ。」

「つ、辛いの?」

「ああ、かなりな。」

「……(確かに……こんなに膨らんで、痛そう……)」


ランス側としては、自分の"それ"を沈めてくれるのはリンしかおらず、
彼女の膣に入れるか、フェラチオをして貰うしかないのだ。

よって頼むように言うランスに、リンのハイパー兵器に対する"怖さ"が徐々に引いてゆく。

また、リンの優しい性格もあって、彼女は"ランスの為"にと、
ゆっくりとハイパー兵器に手を添えると、"それ"に口を近付け――――


≪すっ……≫

「おぉっ?」

「ンふッ……」

≪――――ぱくっ≫

「あへっ……(こ、これは……たまらん!)」

「んンッ、ふっ……んッ、ンん……」


リンはハイパー兵器を口に含み、自分の"やってしまった事"に戸惑いを感じながらも、
顔をぎこちなく動かしてフェラチオというモノを開始した。

その最中、時より上目遣いで自分の様子を確認するリンに、
ランスは興奮を禁じ得ず、いつの間にか彼女の頭を掴んでスピードを上げさせていた。

やがて、その興奮はリンにも伝わり、彼女の片手はハイパー兵器に添えられているが、
もう片方の手は自然と自分のパンティーを擦っていた。

……そして、互いに達するのが迫って来た時、我に返ったランスは、
リンの顔を離し、危うく"気持ち良さ"で我を忘れてでの皇帝液の発射を免れた。

多少は出したい気持ちもあったが、初めてなリンに対してソレは気が引けたのだ。

対して、自分がフェラチオのスピードを上げていたのも、
自分のアソコを擦っていたのも無意識であったリンが、ランスの次の言葉で目を覚ます。


「リン、そろそろ本番だぜ。」

「!? は、はい……」


……


…………


≪くいっ≫

「こ、こう……?」

「う~む、もうちょい尻を高くだな。」

「……っ……」

「そうそう、そんな感じだ。」


ランスに言われるがままに、リンは立ち上がらせられると、
大木に両手を付かされ、お尻を突き出す格好をさせられる羽目になった。

いわゆる"立ちバック"と言うヤツで、背後位はランスが好む体位のひとつだ。

ではこうして本番……と言う訳なのだが、まだリンのパンティーと黒Tシャツはそのままなので、
ランスは鼻の下を伸ばしながら、微かに染みついたパンティーに手を掛ける。

そしてそのままスルスルと下ろすと、間に一本の糸が引かれており、
リンのアソコは既に"準備"ができていると言う事が伺えた。

その期待にランスが応えないハズも無く、彼は不適な笑みを浮かべながら、
ハイパー兵器をリンの股間の"割れ目"に近付けて行った。

それがピタリと当てられると、リンは焦った様子でランスの方に首を向けた。


「らっ、ランスさんッ……わ、私っ……」

「判ってる、初めてだってんだろ? 優しくしてやるから安心しとけ。」

「う、うん……」

「よォ~し、それじゃ、力抜けよー?」

≪ずぶぶ……≫

「ひっ……!」

「痛いか?」

「だ、大丈夫ッ……遠慮、しないで……」

「それなら、止めずにゆっくり行くぞ~ッ。」


ランスのハイパー兵器はとてもデカいので、処女であれば誰でも痛みを感じるのは当然。

だがリンとて、ハンパな気持ちでランスに体を捧げるのでは無い。

純粋に強くなりたいからこそ、この程度の痛みでとやかく言う気は無いのだ。

かといっても……リンの体は震えており、ランスには彼女が無理しているのが安易に判る。

ノリで犯してしまう相手には"手加減ナシで一気に挿入"が主なのだが、
一気にはいかずにしても、ランスはゆっくりとハイパー兵器をリンの膣に埋めていった。


≪ぐぶ、ぐぶぶ……ぐぶぶっ……≫

「う、くっ……っ……うぅっ……」

「良し、リン……全部入ったぞ~。」

「ほ、本当……? それじゃ……動いて、好き……にっ……」

「それじゃ動くが……痛くても徐々に慣れてくるからな~?」


濡れていた事もあってか、リンの我慢もあってか、
膣に大きな抵抗を受ける事も無く、ランスのハイパー兵器は全てリンのナカに入った。

そんな割れ目とハイパー兵器の間には血が垂れ落ち、"初物"を物語っていた。

しかし、これからが本当の本番……ランスはこれまでの締め付けでかなりの快感を感じたが、
射精とまではいかなかったので、更なる快感を求めて腰を動かし始める。

リンが痛さをまだ感じているのは承知の上だが、これ以上我慢出来る程人間ができてはいない。

しかも久しぶりの女性の肉体……もはや気持ちを制御する事など、考えられない。


≪ジュプッ、ジュプッ、ジュプッ、ジュプッ!!≫

「痛ッ……ふぁっ! ひっ……くっ、うぅぅ~っ!!」

「くぉっ……どうだぁ~、リン!?」

「ふっ、ひぅ……ンッ、あぁっ……! せ、セックス……してるっ!」

「おうとも! まだまだ行くぞぉ~ッ。」

「ンぁッ……わ、私ぃッ……ランス、さんとっ、セックス……してるぅぅッ!!」

「(聞こえて無ぇか~) その通り、これがセックスと言うモノだッ!
 がはははは! どうだ、気持ち良くなって来ただろうッ?」


両手でお尻を鷲掴み、ガンガンと腰を突きまくるランス。

肉と肉がぶつかり合う音と、リンの愛液とランスの我慢汁で、
膣が嫌らしく混ぜ合わせられる音が林の中に響く。

その影響でリンの自我は早くも崩れそうになり、涙を流しながら快感に耐え、
必死に崩れ落ちまいと、震える両足・両手に力を込める。

しかし手足に意識を集中させた為か、膣の締めが若干甘くなって来た上に、
腰のペースはどんどん上がる事によって快感が重なり、リンはランスとセックスしている、
繋がっているという事を、今まさに最大限に痛感させられている。

同時にリンは、今まで感じたことの無い"何か"が迫っているのを感じていた。


≪チュブッ、チュブッ、チュブッ、チュブッ!!≫

「あ、あぁっ……イッ……良い……気持ち良いよぉッ……!」

「そうかッ、ならっ……そろそろイクぞぉッ!?」

「私も……くるッ! な、何か……何か来ちゃう……っ!!」

「ぐォっ……(たまらん! 出るッ……)」

「あ"っ……ふあ"あああぁぁぁぁ~~ーーッ!!!!」

≪どくっ! ドクドクッ……どくんっ……!≫

「ふぃ~……」

「あ、あぁ……出てッ……る……」

≪ヌルッ……――――がくんッ≫

「(この瞬間の為だけに、今まで我慢してきたんだよな~。)」


互いに気をやり、ランスは歯を食いしばってリンの膣に皇帝液を吐き出す。

そして、リンは顎で空を仰ぐほど体を逸らし、汗と涙とポニーテールを舞わせ、
初めて達した快感と、膣に精を放たれる感触を同時に味わうのだった。

その直後、ランスのハイパー兵器が抜かれるのと同時にリンの体が崩れ落ち、
彼女が一度呼吸する度に、リンの割れ目からは皇帝液が流れ落ちた。

この感覚でリンはこれで"セックス"と言うモノが終わったと思ったのだが、
性欲旺盛であるランスが、たったコレだけで満足しているはずが無かった。

よってランスは腰を下ろすと、セックスの余興に浸っているリンの片足を掴む。


「はぁっ、はぁっ……ハァッ……」

「…………」

≪グイッ≫

「えっ!? な、何を……」

「決まってるだろうが、第2ラウンド開始だッ!」

「そ……そんなッ、私……もうっ…………ひぅッ!?」

≪ぐぶぶ……っ!!≫


"信じられない"という表情をするリンに、ランスはリンの両足をV字に開く。

それにより、背後位では見れなかったリンの陰毛が露になるが、
率直に述べるとまだ薄く、ランスのハイパー兵器を受け入れれる程、
成熟しているカラダとは言え、このあたりに15歳という年齢を感じさせられた。

さておき、まだ皇帝液が半分ほど残っている膣に、ハイパー兵器が容赦なく押し込まれる。

よって"正上位"でのセックスが始まってしまい、
ランスは余裕が出てきたか、Tシャツに隠れているリンの乳房に手を伸ばす。

当然、腰を動かすのも止めておらず、リンは更なる衝動を感じ、
自我が崩れようとする中、薄目でランスの表情を見上げながら思う。


「だが安心しろ! これでもう契約成立だからな!」

「あ、ありがとうっ……ふぅっ……ござい、ます……
(そうよ……ランスさんはッ、私の先生なだけ…………)」

「それじゃ~、ガンガンいくぜ!」

「うん……来てっ……もっと、気持ち良くさせて……
(好きなワケじゃない……彼を好きなのはッ、フロリーナ……)」

「任せておけぇ~い!」

≪ぬるっ……――――ずぐんっ!!≫

「ひぁあッ!!」

「がははははは!!」

「(セックス、してるのはッ……剣を……それだけ、なんだから……)」


ランスとの関係を何とか自分に思い聞かせると、やがてリンは快楽に身を委ねた。

彼女はセックスにより、ランスを愛するのでは無く、
強くなる為の代償として抱かれるのであり、あくまで"割り切る"事を決めたのだ。

つまり、彼が他の女性を抱こうが自分には関係無く、それがフロリーナでも同じ。

自分とランス間に愛が無ければ、ランスを好きなフロリーナが悲しむ事も無いのだ。

これはリンの余計な気の遣いであり、フロリーナにとっては、
それを望んでも・ランスを想っても無いのであるが、
ランスの性格からすると、ある意味都合の良い方向に話が進んだ事になったと言える……


……


…………


結局5ラウンドまでリンは付き合わされ、達した数はランスの回数以上。

一方問題の彼は、十分に満足した様子でズボンを直すと、
黒Tシャツの中で足を折り曲げて体育座りをしているリンを見下ろして声を掛けた。

ちなみにセックスを終えてそれなりに間を置いたタイミングなので、
この時点のリンの意識はしっかりとしている様子である。


「それじゃ~、俺様は先に戻ってるからな。」

「う、うん……でも、これからも……」

「それは大丈夫だ! 今回は大して稽古してやれなかったが、
 今度はしっかり教えてやるから、勘弁してくれ。」

「……約束、だからね?」

「うむ、任せておけッ。 それじゃ、また後でな~。」

≪ガサッ、ガササッ……≫


手をヒラヒラさせて何事も無かった様に去っていくランスだが、
リンは顔の向きを変えず、黙ってそのまま俯いているだけだった。

だが沈んでいるのではなく、ランスに抱かれた事に悪い気はしない。

割り切ったセックスではあるが、思い返せば気持ち良かったし、
その上ランスとの稽古で強くなれるのならば、言う事無しではないか。


「そう、良いのよ……これで。」


かといって、ランスが"微妙な距離"に行ってしまったのは事実であるが、
リンは自分に前途のように言い聞かせる事で、前向きに考える事にした。

考えてみれば、キアランへ辿り着かなければならないと言う重要な目標があるし、
今までのように、ランスの事ばかりを考えてもいられない。

刺客を倒し、無事祖父に会えた後にも、やる事は沢山あるだろう。

しかし……今だけは全ての事を忘れ、リンは未だに体育座りをしたまま、
暫くの間初めての相手となった、ランスの事を考えていた。



[2301] ファイアーエムブレム=鬼畜の剣= 6章(前編)
Name: Shinji
Date: 2006/11/10 23:47
リンはついに母の生まれた地、リキアの土を踏む。

リキアは細かく分かれた領地を、各々の領主が治める国。

リンは現在居るアラフェン領から、
祖父の待つキアラン領まで向かう事になる。

しかし、キアランの支配を企む侯弟ラングレンは、
リンを亡き者にすべく既に配下を放っていた……


■第六章:誇り高き血(前編)■


朝食後アラフェン公爵領の"国境の宿"を出発した一行は、
そのまま"アラフェンの首都"を目指して更に西にへと進んでいた。

こうなってしまえばベルンはどんどん遠くなり、もはや山賊の脅威は無くなった。

サカは大陸の中心の"やや西から東端"まで伸びているので、
西へ進んでもサカは近いが、肝心な山賊はベルンに巣食っているので問題ない。

そうなれば次に警戒するべきは、ハウゼンの弟……ラングレン。

つまりラングレンの妨害なのだが、"アラフェン領"はオスティアに次ぐ広さであり、
"アラフェンの首都"は領内の西の方に位置する為か、
国境を越えて直ぐには、流石に刺客を放ってくると言う事は無かった。

ブルガルで一度"ならずもの"を雇ってはいたもモノの、
彼らがあっさりと倒された事から、次はそれなりの準備をしているのかもしれない。

当然一日やそこらで到着する距離でも無いので夜は当然警戒を怠っていないが、
各々がそれなり(平均以上)の実力を持つ"ランス傭兵団"の人数も増えたので、
たった二人で旅を始めた時よりは、そんなに疲労が蓄積する事はなくなっていた。


……


…………


そうなれば、ランスとリンの稽古の数も、若干だが増えていた。

内容も"(あくまでランスにとって)それなり"に教えてあげているようだ。

かといっても、試合であれば一瞬で終わる両手での"いきなりランスアタック"を使用せず、
模擬戦と称して普通にリンの攻撃を捌き、一段落後"注意点"を伸べてあげる事の繰り返しだが……

強い相手と戦えると言うダケで、リンの目と体の能力は少しづつ上がっていた。

少なくともランスとしては、もう悪条件での"片手のみ"と言うハンデは付けたくない程である。


「ふぅ~……良しッ、今日はこの辺にしておくか。」

「お、終わった……の?」


しかしお気付きの通り、剣の稽古だけで二人の時間は終わらない。

ランスが稽古に付き合っているのも、何よりリンの体を好きにできるのが大きい。

基本的に疲れがそれなりに出る前に、ランスは稽古を打ち切ってしまうので、
セックスに慣れている彼は、全てが終えてもケロりとしているが、
リンにとっては稽古の疲労の上での慣れないセックスなので、かなり堪えている。


「もうちょい犯りたいトコなんだけどな、止めといてやる。」

「そ、それじゃあ……戻らなきゃ……」

≪……むくっ≫


今現在は、野宿を準備し終えた稽古の後のセックスが終わった所だ。

最初の一発目はつい中に出してしまい、次から"なるべく"外に出しているのだが、
それはそれで半裸のリンは、皇帝液や泥で汚されてしまっている状態。

その"後始末"をする為に、ゆっくりと体を起こすリンなのだが、
やはりカラダが慣れていないのか、行動が若干スローになっている。

……対して、いつもは最後まで"この場"に居なかったランスが、
今回は皇帝液を拭き取り、服装を直すリンの一連の行動を見ていた。

その視線が気にならない筈も無く、ようやく始末を終え、
体の鈍さも徐々に戻り、立ち上がって腰の帯を締めたリンは、
いつの間にか岩に背を預けて座っていたランスを見下ろしながら首を傾げている。


「終わったのか?」

「え、えぇ。 それより、どうしたの?」

「ちょっと、聞きたい事があってな~。」

「……何を?」

「剣を"本格的"に初めて、まだ一年も経って無ぇんだよな?」

「あっ……そうね……基礎を父に教えて貰ってた程度でしかなくて……
 基本的にサカの女は弓を扱うんだけど、私は族長の娘って言う立場だったから……
 だけど、私は昔から弓がそんなに得意な方じゃなかったから、
 初めて剣を教えて貰った時は、楽しくさえ感じていたわ。」

「リンの親父は、ナントカ族とか言う部族の、"族長"だったんだよな?」

「ろ、ロルカ族よ。」

「確か剣も弓も……"それなり"だとか言ってたよな?」

「……うん、少なくとも、"その時"の私は……
 父よりも優れた"使い手"は居ないんだと信じてた……」

「ふ~む……そこで気になってたんだが――――」

「…………」

「何で殺られちまったんだ?」

「……!!」


リンことリンディスは、見た目に反して若干15歳。

それなのに、これほどの"剣"の実力がある女性はランスは殆ど知らない。

実際に述べると"ウィチタ・スケート"と"ラファリア・ムスカ"あたりだろうが、
今となっては彼女二人も18歳になるかならない辺りの年齢であり、
それ程の力を秘めたリンの父親であれば、そう易々と山賊に殺られるとは思えない。

よって今を機会に何となく聞いてみる事にしてしまい、
質問が質問なので、彼女が思い出したくも無い過去なのも承知の上でだ。

対してランスの問いに対し、リンはやはり言うのを躊躇ってはいたが、
ここまで"関係"が進んでしまったランスに隠しても仕方が無いとも感じていた。


「(大体、予想はつくけどな……)」

「……毒よ。」

「ほぉ。」

「奴等は飲み水に"特殊な毒"を入れて、気付いた時には皆……立つ事さえ出来なかった。
 それを待ち構えてた奴らに、集団で襲われたのよッ。」

「なら、リンは何で助かったんだ?」

「……私は一人……馬の背に乗せられた。
 父さんも苦しい筈なのに、最後の力を振り絞って……震える腕で、私を馬に……」

「…………」

「それから私は、近くの部族に助けられて……十日目に目を覚ました。
 死体は……もう葬られてたから……別れの言葉一つ、掛けれなくて……
 最後に見た父さんの姿は……地面に崩れて、頭の上に山賊の斧が打ち下ろされ――――」

「もういい! そこまで聞いて無ぇ。」

「!? あっ……ご、ごめんなさい。」


ランスにとっては本当に"何となく"リンの両親の最期について知りたかっただけだ。

セックスが終わったからと言って、タダその場から去るだけなのは、
リンに対して(あくまでランスにとって)多少は可愛そうに感じたので、
この場に留まった理由の"誤魔化しである意味"での質問だった。

しかし……予想以上にリンが経験した悲劇が酷なモノだった上、
今まで誰にも喋る事が無かった為か、無意識に一番思い出したくも無い事まで話そうとした。

そのリンの言葉をランスは止め、その言葉には少なからず重みがあり、
俯いて話していたリンは、思わず反射的にランスに謝ってしまった。

するとランスはようやく立ち上がり、頭を掻きながら沈んだ顔をしているリンに向かって言う。


「成る程な……俺様に剣を教わるのも、その為か。」

「……そう。 だから私は、もっと強くならないと……」

「ふ~む、まぁ……約束は約束だしな、キアランに行くまでは付き合ってやるよ。」

「…………」

「なんつ~か……俺様も好きなようにやってるが、色々と修羅場は潜ってるぜ?
 死に掛けた事なんて10000回くらいはあるしな。」

「ランスさん……」

「さ~て、そろそろ寝に戻るか~。」

「…………」

「何してんだ、行くぞ~?」

「う、うん……」


リンはキアラン公爵の血を引きながらも、辛い過去も合わせ持つ、複雑な境遇の女性。

かといっても、"こちら"の人間ではないランスにとっては、
"良い女"である彼女のカラダを楽しめればソレで良く、深い関わりも持つつもりは無い。

もうちょっと位優しくするのも良いのだが、高確率で辛い別れが待っていると予想できるからだ。

勿論ランスは、リンがただ"強くなりたい為だけ"に自分との稽古をしているとは思っておらず、
彼女自信も彼に対する感情を抑えているだけで、強さのみを望んでいる訳でも無い。

しかし、気の利いた言葉を掛けてやるような甲斐性は無く、
ランス本人にも"元の大陸に戻る"という重要かつ必至な目的があるので、
それらの意味を踏まえて"キアラン迄付き合う"という言葉を投げ掛け、
その直後はランス独特の言葉で励ましてみる程度しかできないのだが……

案の定、期限を遠まわしに告げられて複雑な視線を向けるリンに対し、
彼は背を向けて歩き出すと、慌てて彼女もランスの後を追った。


……


…………


『へぇ~、この世界……なかなか面白いなぁ……あちこちで、混乱や混沌が渦巻いてる……
 秩序が何処も中途半端で、モンスターが居ない事もあって……
 人間同士が四六時中、つまらない争いをしてるよ……成る程ねぇ……』

≪ピクッ≫
 
『……でも、失敗して記憶を無くしちゃったのはダメだったかなぁ~……
 何だか彼……"馴れ合ったり"してるみたいで……記憶があった方が必死になって、
 もうちょっと"楽しく"なってたと思うんだけどねぇ……
 何かの拍子に、思い出してくれると良いんだけど……残念……
 ぼくは大きいから"あっち"に直接は干渉できないし~……』

≪ピクピクッ≫

『あっ……そうだ! コスモス、居るかい?』

≪スウッ……≫

『ここに。』

『良い? 彼と適当に接触して、ちょくちょく"遊んで"あげてよ。
 そのやり方だけど……君はぼく。 "何をどうすれば良いか"は任せるよ。』

『はっ。』

『それに……"あっち"の知識も、ぼくの一部だし……判ってるよね?
 それじゃ、行っておいで。 たま~に、確認してみるから。』

『わかりました、では。』

≪バシュッ……≫

『さ~て、"その世界"で色々と楽しませてくれると良いなぁ。
 くすくす……その"ゲーム"、クリアーできるかな~?』


……


…………


「ランスさん、リンディス様。 此処がアラフェンですよ!」

「ほぉ、思ったよりも早く着いたな。」

「賑やかなところね。」

「な、なんだか……目眩(めまい)がします……」

「そうでしょうね~、リキアではオスティアに次ぐ大きな街ですから。」


国境の宿を出発して数日、ランス達はアラフェンに到着していた。
(ケント以外の馬やペガサスは、既に街の入り口に預けている)

それまでにランスはリンと最初を除いて三回ほど"楽しんで"おり、
溜まっていた性欲は、ほぼ発散されたと言って良いだろう。

しかし稽古はともかく、セックスの間にはランスに懐くセーラの存在が厄介だったが、
セインにセーラの"足止め"をさせる事で二人の関係を知る者は居ない。

多少セインは察してはいるようだが、深入りは怖いのか確認する気は無い様である。


「そう言えばセイン、ケントは何処に行ったの?」

「先に城に行くと言ってましたけど……あっ、戻って来ましたよ。」

≪……ダカパッ、ダカパッ、ダカパッ≫

「リンディス様! 城に参りましょうッ。
 ここの領主殿に、キアランまでの道中の援助を承知して頂きました。」

「!? 助けて下さるのッ?」

「はい。 ここアラフェンは、昔からキアランと親交が深い土地。
 アラフェン侯に事情をお話ししたところ、力添えを約束して下さいました。」

「だったら、ここから先は楽ができるな!」

「馬で走りっ放しってのもしんどかったしな、馬車でもありゃ楽にはなるか。」

「それだけでなく、此処で少しなり兵を借りることができれば、
 キアランまでの道中はかなり安全なものになります。
 これまで不自由な思いばかりさせ、本当に申し訳ありませんでした。」

「ふ~む、これで女も何人か借りれりゃ、パーフェクトなんだがなぁッ。」

「おぉ、流石ランスさん! 判っていらっしゃるっ!」

「ちょっ……ば、ばっかじゃないのッ!?」

「がはははは。 冗談だリン、本気になるな。」

「(しかし、このセインが言いたくても言え無い事をあっさりと言ってしまうとはッ。)」

「~~……(何よ……私の体だけじゃ満足してくれて無いの?)」

「で、では城に。」

「あの~。」

「どうしたの、ウィル?」

「俺とかも行って良いんですか? ちょっと、ああ言う場には慣れてなくって……」

「謁見するならば、なるべく少人数で行った方が良さそうですね。
 リンディス様とセインさんとケントさん以外で行かれるのはランスさん位にして、
 僕達は宿の手配でもしている方が良いかもしれません。」

「ならば……宿は俺が取って置こう。」

「ドルカスさん、良いの?」

「……1人で時間を潰すのは、慣れてるからな。」

「それなら……フロリーナも入れて5人で行きましょうか。」

「うん、なるべくリンと……一緒に居たいな……」


アラフェンの街に到着して十数分で、数時間前の今朝、
一足先に街へと走り、公爵と謁見を済ませたケントが戻ってくる。

どうやら話をつけたようで、この辺りがケントが有能であると言う点だろう。

……だが、9人全員で謁見しに行く訳にもいかないので、
ウィル・ドルカス・セーラ・エルクは街に残り、5人で謁見する事になる。

よってランス達は城の方角に向かい、ドルカスは近場の宿へ向かい、
セーラはウィルとエルクの間で、街の様子をキョロキョロと眺めながら言う。


「う~ん……そう言えば、アラフェンでじっくり買い物したいと思ってたのよ!
 エルク、ウィル! ちょっと私に付き合いなさいッ!」

「なッ……どうして僕が行かなきゃならないんだ?
 付き合ってもらうなら、ランスさんと行けば良いじゃないか。」

「というか、何で俺まで?」

「セーラ……第一、買い物をしても荷物になるだけだろ?
 この旅にはそんな余裕なんて、有る訳が無いじゃないか。」

「何を言うの! 品物を見るだけでも立派な買い物よッ! それに、あんた達は付き人なの。
 "高貴な女性"が二人くらいお供の男性を連れ歩かないでどうするのッ?」

「だから、それをランスさんに……」

「あんた馬鹿ね、ランス様にそんな事させられる訳無いでしょ!
 良いから黙って付いてくれば良いのよエルク、付き人も仕事のうちでしょ~?」

「……はぁ。」

「まぁ、俺は構わないよ。 どうせ暇だし……」


……


…………


城を目指して歩くケントの馬と、ランスら5人。

流石にリキアで二番目の街だけあって、かなりの広さのようである。

そんな中ようやく視界に城が入ってくるが、城の"様子"に、一行は異変を感じた。

何故か城に煙が上がっており、皆が顔を上げる中、最初に口を開いたのはセインだった。


「なんだ、どうしたんだッ?」

「煙……城が燃えているのか!?」

「焚き火でもしてるだけなんじゃねぇか?」

「!? う、後ろに……」

≪ザザン……ッ!!≫

「貴様が"リンディス"だな!?」

「な、何者!?」

「問答無用ッ、覚悟おおぉぉーーッ!!」

「おぉッ? 何か刺客みてぇだぞ、リン!」

「もうっ、こんな時に!」

≪――――ガキィィンッ!!≫


突然の出来事に皆状況が掴めないが、それを確認する暇も無かった。

人に対する警戒心が強いフロリーナの言葉で全員が後ろを振り向くと、
顔を黒いターバンやマスクで覆った、武器を持った人間達が襲い掛かって来る!

それを咄嗟に抜いたマーニ・カティで防御するリンだが、
彼女はランスの"刺客"と言う単語で、彼らはラングレンの放った配下だと言う事を察した。

どうやらこの騒ぎで、周囲の人間達は家に避難してしまっているようであり、
肝心な衛兵の姿も見当たらず、ランスら5名は十数名の刺客達に囲まれてしまっている。


「フロリーナちゃん、ペガサスが無いんだから離れんなよ!?」

「は、はいっ……」

「死ねえぇッ!!」

「五月蝿ぇ、邪魔だ!!」

≪――――どしゅっ!!≫

「ぐわぁぁ……っ!!」

「セイン、リンディス様をお守りしろッ!!」

「わかってますって!!」

「甘く見ないでッ、これくらい……」


ペガサスを預けて本来の戦い方が出来ないフロリーナを庇うように戦うランス。

そんな彼の後ろでは、リンが常に2名の刺客を相手にしているが、
一度に3名以上の数に襲われない様に、セインとケントが彼女を援護している。

しかし相手の数が多く、セインとケントも馬上ではない上に、
今までに無い戦いを強いられているので、山賊達相手とは違ってかなり戦い辛い様子だ。

相手が若干手馴れているのもあるが、かといってセインとケントも若いとは言え、
キアランの騎兵としては一流なので、確実にリンへのフォローを入れている。

そんなリンも、ランスの稽古により実力がついており、刺客の攻撃を問題なく捌いていた。


≪ブゥンッ! ――――ザシュッ!!≫

「グフッ……」

「(これで五人目……)」

「リンディスッ! くたばれえぇッ!!」

「このッ……」

≪――――ズダンッ!!≫

「ごはァぁ……ッ!」

「!? ……弓矢……?」

「リンディス様~ッ。」

「ご無事ですか!?」

「えぇ、とりあえず全員倒したわね……けど……」

≪ダカカッ……≫

「…………」


残った最後の一人が、突然中距離から放たれた矢に射られ絶命した。

矢の軌道を追うと、其処には馬に乗った男が静かにリン達を見ており、
彼は馬を操って瞬時にランス達の方へと近付いてきた。

年齢はランスと同じくらいかそれ以下だろうが、彼とは違って無表情。

身形(みなり)からしてみると、サカ族の人間のようであり、かなりの"腕"を持っている様子。

そんな彼をケントは見上げると、浅く礼をした後に口を開く。


「失礼だが、貴方は?」

「……俺はラス。 城主に雇われている護衛隊長だ。
 サカの民が襲われているように見えたが……違ったようだな。」

「!? 違わないわ! 私はサカの者。 ロルカ族長の娘……リンよ!」

「ロルカ? ……生き残りがいたのか。」

「ええ。」

「……早く立ち去るが良い。 城を中心に火の手があがっている。
 剣の腕は立つようだが……命の保障は出来ない。」

「貴方、お城からきたの!? だったら教えてッ!
 アラフェンの城が……領主様がどうされたのか!」

「今、街を騒がせている者どもの仲間が城を襲い、城主を捕えている。
 ……俺は、奴らを倒し……城を取り戻さなければならん。」

「そう……じゃあ、私達にも手伝わせて!」


"ラス"と名乗った男は、身形がサカの者であるリンが襲われているのを見て矢を放った。

しかし、よく見るとセインとケントのような"サカの者"ではない人間が同伴しており、
勘違いと思ったようだが、リンがサカの民である事をアピールして引き止めた。

そんなリンがいきなり"城主の救出の手伝い"を言い出して面食らったようだが、
この騒動の狙いが"リンの命"である事を説明されると、手伝いを許可した。

ラスはサカの民でも"クトラ族"という部族で、リンとは違うのはさておき、
リキアで二番目の領地であるアラフェンの"護衛隊長"と言うことから、
その実力は定かではないが、少なくともリンを凌ぐと考えられるハズである。


「……他の部族とは言え、同じ草原の民の女を見捨てておけん……」

「ありがとう、ラス! 貴方に、母なる大地の恵みがありますように!」

「そして、敵に……父なる空の怒りを……」

「こら、テメェ! "俺様の女"に色目使ってんじゃねぇッ!」

「あっ、あの……あっちからも、敵が……(ビクビク)」

「う~む、仕方ねぇ……(此処はフロリーナちゃんのポイント稼ぎでもするか)
 セイン、ケント! リンとラスとか言う野郎に付いて行け、此処のは俺様が殺ってやるッ!」

「わっかりました~ッ!」

「ランス殿、お気をつけて!」


……


…………


「このっ……サンダーッ!!」

≪ズドオオォォンッ!!≫

「ぎゃああぁぁッ!!」

「もうッ、何なのよ一体~?」

「それは僕達の台詞だろ? いくら街を荒らしてる奴等が居るからって……」

「"そこまでよ、悪者! エルク&ウィル、やってしまいなさい!"は無いと思うよ?」

「ウィル、貴方なかなかモノマネ得意ね。」

「えっ、そう? ははは。」


一方、セーラ・エルク・ウィルも、街中の刺客たちとイザコザを繰り広げていた。

ランス達が遭遇した数よりは遥かに少なく、リンを狙った刺客という事も知らないのだが、
自称"正義の乙女"であるセーラが喧嘩を売り、エルクとウィルが仕方なく相手をしたのだ。

ちょっぴり命が危なかったのでエルクは流石に頭に来ているようだったが、
天然なウィルはセーラが言った台詞をそのままのノリで言ってたりする始末。

エルクは三年間休む事無く、数時間の魔力の自己鍛錬を行う等して日々精進しており、
ウィルも本人に自覚があまり無いだけで、かなりの弓の腕があるからこそ刺客を捌けたのだが、
問題のセーラ本人はそれらが当然だと思っている事から、一番タチが悪い。

そんな擦れ違っている街中の三人の所へ、騒ぎを聞きつけたドルカスが走ってくる。


「……何の騒ぎだ?」

「あっ、ドルカスさん!」

「ドルカスさ~ん、いきなりこの賊達が襲って来てぇ、大変だったんですよぉ~?」

「どの口から、そんな事が言えるんだよ……」

「ランス達は、どこだ?」

「……僕も気になります、合流した方が良さそうですね。」

「そうしましょ、そうしましょ!」

「あまり街中で弓は使いたく無いんだけどなぁ。」


――――――――後編に続く――――――――


■あとがき■
長くなってしまうので前半・後半に分ける事にしました。
ニューフェイスはエンジェルナイトのコスモス(一発で判ればかなりの通です)と、
唯一の遊牧騎兵のラスでで、後編は例の盗賊の男が初登場します。



[2301] ファイアーエムブレム=鬼畜の剣= 6章(後編)
Name: Shinji
Date: 2006/11/20 13:31
■第六章:誇り高き血(後編)■


アフェランの街中で突如開始された戦闘。

それにより、殆どの住民が家に逃げ込むなどして避難している。

そんな中……一人だけ屋根の上で、戦いの様子を遠くから眺めている男の姿がある。

野次馬する者は、二階の窓を少しだけ開いて覗く程度の勇気しか無いのだが、
"高みの見物"をしているあたり、少なくとも身のこなしには自身があるのだろう。


「おぉ、やってるやってる。」


急な斜面である屋根の上に立つ、盗賊風の男。

彼は遠くであれど目が良いのか、3箇所での戦いの様子が確認できている様子。

ご存知の通り、各ランス・リン・セーラ達が戦っているのだが、
先程からこの男は、彼・彼女らの戦いの様子を此処で眺めていたようだ。

そんな彼の一番目に止まったのは当然ランスであり、男は少しだけ目を細めて言う。


「凄い強いな、あの騎士……一体何処の者なんだ?
 それにあのキアランの孫娘とか言うのも、やるもんだねー。
 戦い方の雰囲気があの騎士に似てるような気もするけど、気のせいか?」


男は流石にランスが誰かは判らないが、リンの正体は知っていた。

彼女を襲っている者の仲間では無いようだが、それなりの情報を持っているようである。

ランス同様に、ウィル・ドルカス・エルクも知らないが、
アラフェンの護衛隊長ラス・キアランの二人の騎士も知っていたようで、
彼は闘いの様子を見ながら、腕を組んでウンウンと呑気に頷いてた。

それが終わると、男は再び目を細め、腕を組んで斜面の屋根に立ったままの状態で再び嘆いた。


「しかしなぁ……いくらキアランの孫娘を消したいとは言え、
 こんな所で仕掛けるなんて、正気の沙汰とは思えねーぜ……」

≪バッ! ――――スタッ≫

「こりゃあ、決まりだよな。」


盗賊風の男は何か考えを纏め終えたようで、家の屋根から飛び降りる。

2階建ての家の屋根からだったのだが、全く足が堪えた様子が見えない。

どうやら見た目の通り、"盗賊"としての技能に優れた男だったようだ。

彼は着地すると直ぐ、走り出すのだが、その直前に一度だけ大きな溜息を吐いていた。


「(ったく……それとこれとは別として、何で"アイツ"があんな所に居んだよ……)」


……


…………


リンを追おうとしていた刺客達に応戦したランスとフロリーナ。

基本的にランスが向かって来る敵は斬り捨て、
フロリーナは無理をしない程度に、細い槍で刺客の急所を外して突いていた。

槍は急所さえ突けば小さな力でも相手を仕留めれるが、
逆に外しさえすればトドメを刺しにくい事から、フロリーナ向けの武器と言えよう。

さておき、もし刺客と一対一の戦いであればフロリーナは、
刺客相手に殺されてしまう"可能性"があるが、それはただ単に彼女が非常に"臆病"であるからである。

以前はリンと稽古をしていたのもあり、本来の実力はなかなかなのだが、
実戦で一人とあらば足がすくんでしまうという致命的な欠点を持っている。

しかし、強力な前衛であるランスが一緒に戦っている事から、
彼女は本来の力を出す事ができており、ランスも思ったよりも彼女が戦える事を感じた。


「おらぁッ!!」

≪ガキィィンッ!!≫

「ぐあっ!?」

「えぃっ!」

≪――――ドスッ!≫

「がは……ッ!!」


戦いの中、今もランスが(彼にとって)軽い一振りで剣を弾き飛ばすと、
フロリーナがその刺客の利き腕の肩を突き、苦痛で無防備にする。

その直後、ランスはソイツの腹部に蹴りをお見舞いすると、
10メートルほど後方に吹っ飛ばされ、そのまま伸びてしまう。

フロリーナがここまで戦えなければ全力で全員斬り捨てるつもりだったのだが、
無理に体力を使うほどの状況ではなかったようだ。

刺客達も思ったより大した事は無く、"プロ中のプロ"を雇ったようではないようだ。


「おいおい、そんなへっぴり腰で俺様が倒せると思ってんのか~?
 来るなら全力で来やがれ、その代わり命は保障できねぇけどなッ。」

「く、くっそおぉーーッ!!」

≪ガバァッ!!≫

「がはははは! 大馬鹿者め!」

≪どしゅぅぅっ!!≫

「ぐわああぁぁッ!!」

「(や、やっぱり……凄い……)」

「……ありゃッ?」


相手がランスを恐れ、本気で向かって来ないのであれば、急所は一応外せる。

だが本気で突っ込んでくるのならば、手加減は難しい(面倒な)ので斬り捨てる。

これらを使い分け、結果相手が逃げるのであれば、余計な消耗がさらに減る。

相手を殺せば殺すだけ戦利品としてゴールドが手に入るので、
冒険者の時は安易に逃がすような戦いはしなかったが、彼は王様になった事によって、
お金に対する価値観が若干変わっており、お金よりも消耗の軽減が優先されていたのだ。

結果ランスにその気は無いのだが、フロリーナには好印象であったのは別な話として、
ランスの挑発によって逆上した刺客が、彼の太刀によって斬り殺された時だった。


「ら、ランスさんの剣が……」

「げげっ……マジかよ、また折れちまった。」

「し、しめたッ!」

「チャンスだぞ、殺れ!!」

≪だだだだっ!!≫

「きゃっ……!」


リンから借りていた二本目の"鉄の剣"が、先程の刺客を斬ると同時に折れてしまった!

ランスは王になってから、"リーザス聖剣"と"魔剣カオス"しか使った事が無く、
イマイチ武器に対する気遣いが衰えてしまっていたのだ。

冒険者にとって武器の手入れは基本中の基本なのだが、
これはランスが王になって欠かす事になってしまった件の一つといえるだろう。

よって一気に絶体絶命となってしまい、身体を強張らせるフロリーナだったが――――


「借りるぜ!」

「えっ?」

≪……ブオオォォンッ!!≫

「おわッ!?」

「ぐぉっ!!」

≪――――ドドォッ!!≫


ランスはフロリーナの手から素早く槍を奪うと、
それを大きく薙ぎ払い、襲い掛かって来た刺客達を吹き飛ばした!

その動作は若干遅れた為か、槍の矛先は当たらず、
ただ斬り掛かって来た数人の刺客を吹き飛ばしただけだったが、
無防備と思われていたランスの行動は、驚き以外の何物でもなかった。

これによりフロリーナは丸腰になってしまったが、
逆にランスが新しい武器である槍を構えており、鉄の剣を失った事は無意味となった。


「な、何て奴だッ!」

「たった一振りで……や、槍も扱えるのか?」

「さ~て、まだやるのか? 今度は一突きで"あの世"に送ってやるぜ~?」

「く、くそっ……やってられるか!」

「ダメだ、逃げろ~っ!!」

「まっ、待ってくれ!」

≪ダダダダッ……≫


ラングレンに雇われた刺客なのであれば、金より命の方が大事だろう。

"鉄の剣"が折れた事により、ランスを倒せると一瞬だけとは言え思ったが、
流石に槍をも使えなくなるまで戦う気は起こらなかった。

こうして逃げていってしまう数人の刺客達だが、リンが去った方向とは別なので、
ランスは彼らが完全に戦意を無くし、依頼を放棄したのだと断定した。

よってランスは死体から三本目である"鋼の剣"を拾うと、フロリーナに槍を手渡す。


「行きやがったか……ほれ、返すぜ。」

「あ……ど、どうも……」

「奴らは諦めたようだし、リン達の所に行ってやるとするかな。」

「そ、そうですね……」

「ちなみにだが。」

「えっ?」

「思ったよか~槍を扱えるみてぇだが、諦めが良すぎるぞ。
 俺様が槍を借りなかったら、どうするつもりだったんだ?」

「……っ……す、すみませ……」

「泣かんでいい、泣かんで。 とにかくだ。
 死にたくねぇなら簡単には諦めるな、わかったなフロリーナちゃん?」

「はぃ……グスッ……」

「だから泣くなと言うのにッ!」

「…………」


ここでランスはガラにも無くフロリーナにアドバイスをしてあげた。

リンは別として、彼としても人の戦い方をとやかく言う気は無いのだが、
フロリーナの臆病さは折角の戦いの才能を台無しにしてしまっており、
せめて諦めの良さくらいは指摘しておかないと後が怖そうな気がしたのだ。

リックの兜の様な"まじない"みたいなモノがあれば良いのだが、
戦い"そのもの"に対して慣れる様な方法などそう有る訳でも無いので、
ランスは今後の予定をブツブツと考えながら、リン達と合流するべく歩き始めた。


「(う~む、フロリーナちゃんは後回しにしておくか……
 ど~にかして、先にセーラちゃんを……だが難しそうだぜ……ぶつぶつ。)」

≪すたすたすた≫

「……で、でも……ランスさんと一緒で……さ、最初は……
 あ、あ、あ、安心して……戦えましたっ……………………あれっ?」


……


…………


「はああぁぁっ!!」

≪――――どしゅっ!!≫

「ぎゃあぁッ!!」


一方、リン・セイン・ケント・ラスの4名。

彼女達もランスが戦った同等数の刺客を相手にしていたが、
今のリンの一太刀で、街を襲っていた刺客たちが全滅した事になる。

目的である"リンディス"が目の前に前衛として向かって来ていた事からなのか、
ランスと違って格段に大きな実力の差が無かった事からなのか、
刺客に逃げ出した者はいなかったが、4名の連携で傷を負った者は居なかった。

その理由としては、前衛としてリン・セイン・ケントが戦う中、
ラスが近付かれる前に何本も弓を放って刺客を仕留めていたのが大きかった。


「ふぅ……セイン、これで街中の連中は退治できたのかしら。」

「そうですね~、プロの暗殺者ってワケじゃなくて助かった~。」

「では、次は領主殿をお助けしなければなりませんね。」

「ならば……隠し通路を使いたいが……」

「隠し通路?」

「城の"玉座の間"へと続く地下通路だ。
 目の前にある兵舎に仕掛けがなされている……」

「通路を使って、玉座の間に行き侯爵を救い出す。
 そうすれば……敵を城から追い出せるのね?」

「……ああ。 しかし、兵舎には頑丈な"錠"が掛けられている。
 鍵が有った筈なのだが……いつの間にやら奴らに盗まれてしまっていた。」

「盗まれた? それじゃ入れないじゃない。」

「それは参りましたね、如何致しましょう?」

「またランスさんに、がつ~んと壊して貰いますッ?」

「だ、ダメよ……ランスさんばかりに頼るわけにもいかないじゃない……」


兵舎から王座にへと伸びる隠し通路。

緊急時の為にこのような代物を用意しておくのは、アラフェンの城とて例外では無い。

しかし鍵が無い事により中に入る事は叶わず、ランスを頼ると言っても、
彼を待っている最中に領主が危険な目にあってしまうのもマズい。

かと言って直ぐには良い方法が浮かぶ訳でもなく、リンが首を傾げていた時だった。


「あんた達、何か困ってるみたいだな。」

「えっ……誰?」

「俺はマシュー、ケチな盗賊さ。 なぁ、あんたさ、俺を雇わないか?」

「盗賊? 盗賊に用は無いわ!」

「そんなこと言わないで。 この兵舎の扉を開けたいんだろ?」

「!? 確かに、そうだけど……」

「悪いこたぁ、言わねぇ。 俺を雇いなって!
 今なら、格安料金にしとくからさ。」

「……悪いけど、私だけの判断で雇う事は出来ないわ。」

「ランスさんにも相談しないといけないですしねぇ。」

「ですが、彼の手助け無くては、鍵を開けれそうにありません。」

「う~ん、そうよね……それじゃあ、マシュー?
 後でお願いしてみるから、この扉を何とか出来ないかしら?」

「扉の鍵を開けるだけで、報酬を出しても構わん……」

「おぉ~、頼りにされちゃってるねぇ。 それじゃ、お仕事といきますか!」

「ちょっと、その前に。 どうして私達に手を貸すの?」

「ん? ああ、上から戦ってんの見てて、面白そうだったから。」

「……変な奴ね。」

「(へへへ、嘘だけどね。)」


音も立てずに現れた、"マシュー"という盗賊。

妙に軽いノリをしているが、腕には自身があるらしく、それはリン達も察せた。

そう……腕の良い盗賊であれば、この兵舎の扉を開ける事など造作も無いのだ。

そんなマシューは自分を雇うよう持ち掛けてくるが、いつの間にやらリン達には、
ランスがその気ではなくても、彼が傭兵団の全権限を持っているという認識ができてしまい、
直ぐにはマシューを雇う事をOKしなかった。

かといって、扉を開けて貰う事は彼の手助け無しには出来ないので開錠を任せると、
マシューは"盗賊の鍵"を取り出し、鼻歌交じりで作業に取り掛かった。

その様子を馬上で見下ろしていたラスは、馬から下りると静かに言う。


「……直ぐに開くのか?」

「ああ、チョチョイのチョイさ。」

「ならば、注意しろ……中を抑えられている可能性がある。」

「それなら、開いたら私が斬り込むわ。 セイン、ケント。 援護してね?」

「了解、お任せを~!」

「やるしかありませんね。」

「……良し、開いたぜッ。」

≪ガチャッ≫

「――――行くわよっ!!」


……


…………


同時刻、セーラ達4人もメンバーと合流するべく街中を歩いていた。

アラフェンの街はかなり広いのだが、戦闘領域は限られており、
血痕や死体やらを辿る事で、そろそろ近くなって来たようだ。

先頭を堂々と歩いているセーラは、死体に視線を送りながら言う。
(後ろでは他の三人が直ぐに対応できるように警戒している)


「うわ~、死体が転がってるぅ~……」

「所々……矢で射られている死体もあるな……」

「弓で戦うのは俺だけだし、ランスさんやリンディス様がやったんじゃ無いのかな~?」

「でも、僕が覚えている限りでは、この凄い"太刀傷"は間違いなくランスさんですね。」

「へぇ~、流石はランス様だわ! やっぱり悪を放って置いてはいないのよッ、私と同じで。」

「あの人は強いから良いと思うけど、君はもっと自重してくれよ……」

「……居たぞ、リン達だ。」

「あっ、ホントだっ!」


適当に話しながら歩き続ける4人の前に、大きな兵舎が見えてくる。

するとその兵舎の入り口に、リン達と思われる人影が居るのを確認できた。
(ランスとフロリーナはまだ合流していない様子)

よってセーラ達が駆け出すと、それに気付いたリンが振り返った。


「……みんな!」

「リンディス様ー、どうしたのこの騒ぎ~?」

「おぉッ、セーラさん! ご無事でしたか!」

「セイン、貴様は黙っていろ。」

「聞いて、実は――――」


状況が掴めないセーラ達に、リンは今の状況を手短に説明した。

襲ってきた街の刺客は倒したが、城にはまだ賊がおり、
たった今制圧した兵舎の"隠し通路"を使って、領主を助けなければならないと言う事を。

それをフンフンと聞いていたセーラだったが、見知った顔を見つけて声を上げる。


「あぁっ! マシュー、あんたマシューじゃないっ!」

「げッ……」

「ちょっとちょっと、こんな所で何してんのよ~っ?」

「知り合いなの?」

「うん、私と同じオスティアの――――もがっ!?」

「(バカ! ちょっと来いッ!)」

「(な、何すんのよ~!)」

「(折角取り入ろうとしたのに、いきなりバラす奴があるかッ?
 ウーゼル様の命令で、キアラン後継問題について探る事にしてんだよ。)」

「(じゃあなんで、私に何も言わないのよ!)」

「(普通、お前が此処に居るなんて思わねーだろーが! とにかく……俺の事は黙っててくれ。)」

「(仕方ないわねぇ~、貸しひとつよ?)」

「(わかったわかった、どうにでもしてくれ。)」

「……何をブツブツ言ってるの?」

「えっ? い、いや~ハハハ、なんでもないっす。
 ちょっとこいつとは、オスティアで知り合いだったもんで……
 それ以上でもそれ以下でもないっすから、念の為。」

「何か引っかかる言い方ねー……」


どうやら、マシューはセーラと知り合いだったようだ。

立場もタダの"オスティアの盗賊"と言うワケでは無いようだが、
状況が状況なので、この時のリンは深くマシューについては考えなかった。

逆に仲間であるセーラの知り合いと言う事から、警戒心が薄れてしまったのもある。

よってマシューとセーラの関係は置いておく事にしておき、
隠し通路を使おうと兵舎に入ろうとする一行だったが、遠くから兵士が数人駆けて来る。

格好から、今まで沈黙していたアラフェンの衛兵のようである。


「……ラス隊長!」

「お前達か……どうした?」

「領主様を捕らえていた賊達が撤退しました!」

「何だと……?」

「詳しくは判りませんが、賊の一人が"もう必要が無くなった"と言い残したようです。」

「成る程……標的(リン)を仕留められなかった以上、領主に用は無いと言う訳か……」

「とにかくラス隊長、領主様がお呼びです! 至急お戻りください。」

「わかった。」

「ラス……?」

「聞いた通りだ。 お前達には後で使いを送る。」

≪ダカカッ、ダカカッ、ダカカッ!!≫


衛兵と手短に話を済ませると、ラスは馬に乗って去って行った。

話によると、領主を捕らえていた刺客達が撤退したとの事。

つまり、これらの一連は全てはリンを殺す為に行った事であり、
城を騒がせてリン達が動揺したところで、一気に仕留める寸法だったのだが、
ランスと言う強力な戦士や、ラスと言う護衛隊長……そしてセーラ達の妨害もあり、
見事"リンを殺す"という作戦は失敗したのである。

領主を捕らえていたのも、衛兵を動かせない様にして妨害を防ぐ為だったのだが、
リン含めて彼女達の戦闘能力は高く、衛兵の力無くしても殺す事は出来なかったのだ。

また、アラフェン公爵を誤って殺害してしまったとしても、
犯人がラングレンの手の者であると直ぐにバレてしまい、
リキアの二番目の領であるアラフェンを敵に回す事は、オスティアは勿論、
他の領主も黙っていないだろうし、ラングレンにとっても冗談では無い。

いくらラングレンであろうとも、流石にキアランと親交が深い、
"アラフェンの公爵"の命を奪うほど愚では無いのである。

彼にとって欲しいものはキアラン公爵の地位であって、
奪う必要があるのはリンディスと、自分を邪魔をする者の命だけなのだ。

……結果、アラフェンがキアラン相続争いのとばっちりを受けたと言え、
それはリン自身にとっても十分に判っていた。

リンが此処に居なければ、街中で戦闘が行われる事も無かったのだ。


「私の所為で……アラフェンの領主様だけでなく、街の人たちにも……迷惑を掛けちゃったわね。」

「何を仰いますッ、リンディス様が気にする必要はありませんよ!」

「全てはラングレン殿の暴挙……まさか他領の街中で仕掛けてくるなどと、
 こんな思い切った行動に出て来るとは……思いもしませんでした。」

「おぉッ? お前ら揃って何やってんだ~?」

「あぁ! ランス様~っ!」

「ランスさん、フロリーナも……無事だったのね?」

「う、うん。」

「ところで、コイツは誰だ?」

「へへへ……ど~も、リーダさん。 俺はマシュー、ケチな盗賊ですよ。」


……


…………


騒動の後、ランスはドルカスが取った宿に入って休んでいた。

リン・セイン・ケントはラスが送った使いに連れられて城へ向かったが、
当初の予定と違い、ランスは"疲れた"と言う理由で行かなかった。

フロリーナも行っていないが、理由はランスと同じでは無く、ヒューイの様子を見に行っている。

さておき、マシューも"ランス傭兵団"に入ってしまったが、
この時のランスは、あっさりと彼の加入を許可してしまった。

男性比率が更に上がってしまうのだが(7:3)、
狙える女性がまだ二人いることから、そんなに抵抗は無かったようだ。

それ以前に、彼らとは長い付き合いになる訳でも無いので、無理に拘る必要も無い。

……元の大陸で、自分だけの傭兵団を作るのであれば、少しは話が変わって来るのだろうが。


「うむ、やはり寝るのはベットに限るな。」

≪コンコンッ≫

「ども! ランスさん、俺です。」

「その声は……マシューとか言うヤツか?」

「えぇ。 それよりもリンディス様達、戻って来たみたいですよ~?」


……


…………


宿のロビーに、6名が集まっていた。

ランス・リン・セイン・ケント・ドルカス・マシュー。

フロリーナは前途のようにヒューイの様子を見に行っており、
セーラはウィルとエルクを無理矢理引き連れ、気を取り直して買い物をしに行った様だ。

だがそれも正解かもしれず、数えればランス傭兵団は10名……

集まってみればそれなりにスペースを使うので、6名でロビーに集まるのは妥当と言えよう。


「それで……結局は駄目だったんだな?」

「う、うん……」

「しかしどうしてだ? ケントは"約束してくれた"とか言ってたじゃねぇか。」

「やっぱ、相続争いに巻き込まれたのが感に触ったんですかねぇ?」

「ただ単にそれが理由で断られれば良かったんですけどね……言い方が酷くて……」

「……サカの血が混じっている者に……手は貸せないそうです。」

「はぁ~? なんだそりゃ。」

「それで私、頭にきちゃって……城を出て来てしまったの。
 私はサカの血を誇りを持ってる。 それを侮辱された事が、許せなくて……」

「アラフェン公爵はサカの民を毛嫌いしてるって聞いてましたけどね。
 いや~、まさか其処までとは思いませんでしたよ。」

「(……差別か。)」

「まぁ、俺はスッキリしましたけどね! あの公爵、何て嫌なヤツなんだっ!」


リンの母親であった、キアラン公女のマデリン。

彼女を現アラフェン公爵が好きだった時があったのだが、
マデリンはリンの父であるサカの遊牧民"ハサル"と駆け落ちした。

それが原因でアラフェン公爵はサカの者を毛嫌いするようになった。

ケントとの約束ではそれを知らずに力添えを許可したのだが、
リンと対面してみると一目でサカの者と判るので、考えを逆転させてしまったのだ。

結果……彼の助力を受ける事が出来なくなり、自分はまだ良いが、
ランスや他の仲間に苦労を掛ける事になるので、リンは申し訳無さそうに言った。


「ごめんなさい。 期待に応えられなくて。」

「まぁ、気にすんな。 女を借りれなかったのは残念だが、
 手を借りたら借りたで、何日か準備に足止めを食らうんだろうしな。」

「そうだな……急がねば、"奴等"の思うままだろう。」

「……ドルカス殿の、言う通りかもしれません。 アラフェン殿が口にしていましたが、
 キアラン公爵ハウゼン様は、病に倒れられていらっしゃるようです。
 リンディス様の到着が間に合わねば、ラングレン殿が次の公爵となってしまうでしょう。」

「それなら、気に病む必要は無いって事じゃーないですか!
 まぁ、ランスさんもリンディス様も強いみたいだし、なんとかなりますって。
 俺は力に自身は無いですけど、きっとお役に立ちますよ~?」

「キアランに近づくほど、ラングレン殿の妨害は激しくなるでしょうが……
 リンディス様……このケントが、守り抜いて見せましょう。」

「俺もお守りしますよ!」

「ケント、セイン……そうよね。 ありがとう、みんな……
 私、頑張らないとね! 挫けてなんていられないわっ!」

「(……まぁ、もう暫くは付き合ってやるかな~。)」


……


…………


リン達が新たな決意をしている頃……

アラフェンの城の一番高い場所で、翼を持った影が街を見下ろしていた。

誰もその者には気付いておらず、その者も気付かれるつもりは無いようだ。

気配は完全に消えており、いかなる者でもこの者に気付く事は叶わないだろう。


『…………』


翼を持った影は、僅かにだけ顔をナナメに動かし、
ランス達が泊まる宿を遠距離から確認すると、その場から音を立てずに消えた。

実は今までの戦いの一部始終をも見ていたのだが、誰も影に気付く者は居なかった。

そして……影が消えると、風は変わりなくアラフェンの旗を扇ぐだけだった。


■戯言■
恐らく次も外伝ですorz


…………


…………


■セーラ:シスター(雷)
光F 杖D 馬F 空F

オスティア公爵家に仕える無邪気で我侭で毒舌家なシスター、ツインテールの17歳。
ベルンへの遣いの帰り、ランスに一目惚れしてキアランまでの同行を決意する。
自称エトルリアの貴族の娘だが、実は孤児院出で辛い幼年時代を過ごしていた。
その辛い過去を忘れ去ろうと気を強く持ってゆくうちに、現在の破天荒な性格となる。


■エルク:メイジ(雷)
理D 杖F 馬E 空F

エトルリア生まれの孤児だったが、3年前にパントという魔道軍将に拾われ弟子入りしている。
まだ15歳と若いながらも冷静で礼儀正しく、少年魔道師として各地を旅しはじめていた。
修行の一環として初めての仕事(シスターの護衛)で意気込むも、依頼人がセーラだったのが運悪し。
しかし、その旅路でランス一行と出会い、ランスの桁違いに強い力に興味を持って同行する。


■ラス:ノーマッド(闇)
剣F 弓C 馬C 空F

サカ平原随一の部族であるクトラ族の族長、"灰色の狼ダヤン"の実の息子、23歳。
幼い頃に修行の旅に出され、孤独な戦いを繰り広げており、その弓の腕は一流。
無表情で感情をあまり表に出さないが、人と接するのが不器用なだけである。
3歳に旅に出されて現在18歳と言う設定には納得がいかないので、年齢は高めにしました。


■マシュー:シーフ(風)
剣D 馬E 空E

オスティア腕利きの密偵であり、キアランの相続争いを調査しに来た25歳。
どちらに付くかは自分で判断しろとの事だったが、リン側に手を貸す事にした様子。
陽気でお調子者だが、実のところフレイア・イズンのように"知性派"の"やり手"。
それなりに年齢を高くしましたが、彼の恋人の"レイラ"がこの位かと思いまして。


■コスモス:エンジェルナイト(光)
剣A 光S 杖C 馬C 空A

全ては"ルドラサウムを楽しませる"という任務を忠実に果たす為、やってきた第四級神。
強力なエンジェルナイト(本物)との能力に大きな差は無いが、彼女達を纏める隊長格なので、
その力はランスに匹敵するも、エレブ大陸での戦いに干渉する事はつもりは全く無い様子。
彼女の名前を聞いて一発で何処で登場するキャラかわかった方は、かなりの通かと。



[2301] ファイアーエムブレム=鬼畜の剣= 6章外伝
Name: Shinji
Date: 2006/11/28 19:11
アラフェン公爵の勝手な言い分で、期待していた"手助け"を断られたものの、
ランス達は翌日、すぐにはアラフェンの街を離れなかった。

リンとしては印象を大きく悪くしたアラフェンの街などに居たくないのが本音だが、
無理な旅が続いていたのもあるし、もう一日留まる事にした。

それがリンにとって、アラフェンの手を借りられなかったにも関わらず、
自分の手助けをしてくれる仲間達への、せめてもの心遣いだったのかもしれない。

だが……仲間達以上に、リン本人の体力もかなり消耗されていた。

ランスと二人で旅立ってから、セインとケントに出会うまでは、
稽古だけでなく、殆ど全ての旅の雑用を行っていた(多少ランスも手伝う事もあったが)。

二人の騎士が加入してからは、ケインが率先して雑務をこなし、
やがてウィルやフロリーナやドルカスが加入するとなると仕事は若干減ったが、
ランスに抱かれるようになってから、また身体への負担が上がった事になる。

よってアラフェンでの二泊は妥当と言え、各々のメンバーは束の間の休息を味わっていた。


■第六章外伝■


アラフェンの宿に一泊した翌日、ランスは昼まで寝ていた。

彼はリンと比べれば疲労はそれ程でも無いのだが、
ここ数週間ベットで寝れている事の方が少ないので、12時間以上寝てしまった。

それ以前に、ランスの元々の私生活がだらしないダケなのだが、
メンバーの中では"彼に疲労が溜まっていたのも仕方ない"と解釈する者もいた。


「ふぃ~、食った食った。」


現在の時刻は午後二時。

ランスは何をしているのかと言うと、一人部屋のベットで大の字になり天井を眺めていた。

前日"俺様の眠りを妨げたら殺す!"と言って寝てからの起床後、
一人で遅れた朝食を満腹になるまで食べ、食堂に居たマシューと話した後は一旦自室に戻った。
(何やら謙るマシューだが、彼にはランスと似たような性格の主君が居るらしい)

彼の話によると、リンは疲れているのか部屋で寛(くつろ)いでおり、
フロリーナはリンとセーラと同室で、彼女もそれなりに疲労が溜まっているのか、
リンと久しぶりの会話を楽しんでいる最中らしい。

ではセーラは何をしているのかと言うと、セインを引き連れてまた街に出ているとの事。

他の男連中にはランスは興味が無いのか、マシューに聞いたのはそれだけだった。

……ちなみに、この時点でマシューの情報収集能力が優れている事に、
勘の良い者は気付くのだろうが、ランスにはカオルやウィチタのような、
"忍者"が身近に居た事から、相手が男なのもあって、全く気にかけなかった。


「う~む、これからどうするか……」


全員での夕食の時間は19時。

10名が集合して食事をするワケなのだが、即席の傭兵団だからこそ、
このような"馴れ合う場"は必要であると言えよう。

しかしまだ5時間もあるのだが、睡眠は十分過ぎる程取ったので必要ない。

だとすればこの間、女性とエッチでもするのが理想なのだが、リンは取り合えず外す。

外で稽古をしてあげればその後に好き放題できるので、一応襲えば抱けそうだが、
彼女は他の連中に……特にフロリーナには知られたくないようなので、
今部屋に押し入ってリンを連れ出してしまうと、何だかんだで面倒な事になりそうだからだ。

ランスは公衆の面前でシィルにフェラチオさせる程の男なので、
そんな気遣いなど本来ならば糞食らえなのだが、今リンが居るランスとの"位置関係"が、
元の世界に帰らなければならない彼にとっては"定位置"と言えるので、
無理に"師匠と弟子"との関係を崩す事は無いのではないかと彼は考えていた。

もし、まだリンに手を出せていなかったら、多少……いや、
かなり大きなリスクを負っても行動していただろうが、今はそこまでこだわってはいない。


「だとすれば……」


此処でランスは思考モードに入った。

野宿では何か考える事も無く直ぐに寝てしまったし、
前回泊まった国境の宿では酔っていたので、ゆっくりと考えている暇は無かったのだ。

そんな彼が考えている事は……二人の女性の事。

まずはフロリーナなのだが、彼女の顔が浮き出たと思ったら直ぐに消えた。

現在はリンの部屋に居るようだし、この5時間の間に落とす事は難しいだろう。

となれば、次に浮かぶのはセーラの顔なのだが……彼女はやたら自分に接触してくる。

それなりに自分を好いているようなのだが、自分の部屋には来ず、
お供を引き連れて街に買い物に行く辺り、"本気"では無いのだろう。

セーラのようなタイプはランスの身近にそんなに多くは無かったが、
ああいうタイプの女性は、いざと言う時に迫ればエッチを躊躇うかもしれない。


≪ごろっ……≫

「あ~、そういやぁ……」


気まぐれなランスは身体を横にすると、女性に対する思考を早くも止めた。

そして考えるのは、何で自分が"こんな所"に居るのかと言う事。

リン達にはいつの間にか記憶喪失扱いされてしまっているのが気に食わないが、
確かに"こちら"に来る間の記憶がすっぽりと抜けてしまっている。

ケイブリスを討ったまでの事はハッキリと覚えているのだが、
リーザス城に戻ってから"こちら"に来るまで内容がどうにも思い出せない。

それは問題であり、本当の"飛ばされた理由"を知ればランスは恐らく激怒するだろうが、
一部の記憶を失っている彼は、飛ばされた理由についてはそんなに深く考えなかった。

となると……考えなくてはいけないのは、どうやって元の世界に"戻る"のかと言う事。

記憶があろうと無かろうと、あちらに戻らなくてはならないという目的は同じだ。


「たぶん、意味ね~んだろうなぁ~……」


現在進行中の、リン達とのキアランへの旅。

成り行きで同行しているが、リンが無事キアランに辿り着いたと言えども、
恐らく"元の世界"に戻る糸口さえ見い出せないだろう。

旅の途中でエレブ大陸の地図を眺めた事があったが、それなりの広さであるし、
キアランもリキア同盟に数ある領地のひとつでしかないのだ。

……つまり、それなりに"こちら"の概要についても判ってきたし、
同行を放棄して元の世界に戻る手がかりを探しに行っても良いのである。

しかし、あえて同行しているあたり、初っ端に95点を付けたリンの魅力が大きい。

それにフロリーナとセーラも居るし、彼女達の元を離れるのが勿体無いのだ。

彼女たち三人のようなレベルの女性には、"あちら"でも早々お目に係れるものではない。

それに"あちら"であれば、"生きてりゃ~そのうちまた会えるぜ"という価値観だったが、
"こちら"では一旦離れてしまえば……二度と再会できないと考えるのが妥当だ。

それが"あちら"に戻る手がかりを探す旅と言うのであれば、尚更だろう。
(リンはキアランの公女と言う立場なので、別れた後会いに行こうと思えば可能かもだが)


「ウィリス、システム神! 居ねぇか~?」

≪し~ん……≫

「やっぱり出ねぇわなぁ……ふんっ……まぁ良いぜ。
 とりあえずどうするかは、キアランに着いてから考えるとするかな。」


"こちら"に来て、"あちら"の人間が一緒に居ないのも多少ランスを不安にさせる。

地面にシィルが何時ものように正座していれば、
こうして考える事も無く、夕飯までの一時を彼女と過ごしていた確率は極めて高い。

かと言ってシィルはおらず、彼女の事を考えると不思議と胸が締め付けられ、
それが気に食わないのか、ランスは無理矢理シィルに対する思考を中断させた。

それならば……と上半身を起こし、呼び掛け一つで出てくる"筈"の者を呼んでみるが、
やはり反応が無いので、ランスは頭を掻きながら立ち上がった。

この時点で、ランスの思考モードは終了したと言って良いだろう。

今の彼にとっては、一番の脅威であるケイブリスも倒したのだし、
そこまで急いで"あちら"に戻る必要は無いと思っており、今のところ真剣に考える気も無いようだ。


「次の飯まではまだあるし……セーラちゃんの様子でも見に行く事にするか~。」

『…………』
 

セインが彼女のお供に居るようだが、殴って気絶でもさせれば良い。

そう自分勝手な事を考えて、ドアの方へと向かうランス。

一旦部屋に戻った時は、そのままベットに横になったので、身支度などは必要ないようだ。

……しかし何かを忘れたようで、ランスは後ろを振り返ると――――


「あぁ、そうだ。 剣と金を忘れ……」

≪くるっ≫

『…………』

「どわっ!? な、なんだお前はッ! 何処から入りやがった!?」

『…………』


ベット越しにいつの間に現れたのか、何者かが静かに立っていた。

その姿は、一言で表すと天使……答えは"エンジェルナイト(本物)"である。

元カラーとしての額の青い宝石、腰以上にまで伸びる長い金髪に隠れる横長の耳。

胸元だけの露出は意外にあり、豊満な胸なのも確認できるが、
胸の谷間は美しい大小幾数もの宝石で隠されており、上品な色気を感じさせる。

つまり"エンジェルナイト"と言っても、ランスが知っている女の子モンスターとは、
"見た目"も"感じる力"も全く違うので、彼は咄嗟に立て掛けていた"鋼の剣"を取り構えた。

初めからランスが武器を構えているという事は、相手が相当な実力を持っているからである。


≪――――チャッ!≫

「……っ……(何なんだコイツ……只モンじゃねぇぞ……)」

『……先程。』

「はぁ?」

『……呼んだだろう? ……私を。』

「何ィ? ……って事は――――レベル神とか何かかッ?」

『そのような者だ。』

「なんだ、そうなのかよ……それならもっと判り易く出てきやがれっ。」

『……現れる時の気配を制御できないのは、未熟な証拠……
 "それなり"であれば……気配を出さずに出てくる事など、造作も無い事……』

「!? それなら、俺様が呼んだ時には……」

『真横に。』

「うへ……」

『……私は、コスモス……貴方を導く者だ。 ……以後、お見知りおきを。』

「それじゃ、"あっち"の奴なのかッ?」

『そうなる。』


再び頭を掻きながら、向けていた剣をゆっくりと下ろすランス。

どうやらこの"何らかの神"は、ランスがレベル神やシステム神を呼んだ時から、
気配を全く出さずに、この部屋に現れていたのだ。

極端な話、彼を殺そうと思えば、あっさりと殺す事も可能だったのである。

そう考えれば……正直失礼な登場であるが、神と言えども"あちら"の者が居た事が、
多少嬉しく感じたのか、ランスは深くツッコまずに色々と聞いてみることにした。


……


…………


「俺様は何で"こっち"飛ばされちまったんだ?」

『それは、判らない。』

「ならなんで、あんたがこんな所に居んだ?」

『貴方を導く為に。』

「う~む……何だかなぁ~。」

『何か?』

「手っ取り早く、"あっち"に戻してくれたりはできねぇのか?」

『それは、無理だ。』


自称"何らかの神"である、無表情な天使・コスモス。

多くを語らないので胡散(うさん)臭いが、強い力を持っているのは確かだろうし、
自分の手助けをしてくれるそうなので、とりあえずランスは警戒心を解いている。

よってその場から微動すらしない冷めた雰囲気のコスモスに対し、
彼は椅子を逆にして座って向かい合い、質問している真っ最中である。

しかしコスモスの返答は非常にシンプルであり、やはり余計な事を話そうとしていない。


「だったら、俺様は"あっち"に戻れねぇとか言うんじゃ無ぇだろうな?」

『それは無い。』

「なら、どうやったら戻れるんだ?」

『自分自身の力で、"あちら"への帰路を切り開くのだ。』

「やっぱりかよ……で、具体的にゃ~どうすりゃ良いんだ?」

『今から一年あまり経てば、"その刻"が来る。』

「何ぃ! 一年だとぉッ!? そんなに待てって言うのかよ!?」

『私の"力"を使えば……時を駆け上がる事は可能……』

「おぉッ? それなら、今直ぐにでも出来るのか?」

『まだ"こちら"に来たばかりなので、力を蓄えなければならない……』

「そうか~。(まぁ、一年も無駄に過ごさねぇだけマシか……)」

『しかし、今の貴方には遣らなければならない事がある……』

「なんだ、そりゃ?」

『キアラン公女の保護……彼女無くして、貴方は"あちら"に戻れない。
 貴方の力無くして、彼女は生きてキアランに辿り着く事はできない。』

「マジかよ、リンがそんな……」

『信じるか信じないは、貴方の勝手だ。』

「ぬぬぬ……」

『その頃には、私の"力"も蓄えられている筈……』

「う~む、まぁ……何だかんだで当たり籤(くじ)を引けてたってワケか?」

『…………』


コスモスは、嘘と真実を旨く使い分けている。

ランスが"こちら"に来た理由が判らなかったり、ランスを導く為に来たというのは嘘だが、
"あっち"に戻れる条件が整うのが一年後であったり、その為にリンの存在が必要だったり、
まだコスモスに本来の"力"が蓄えられていないと言うのは本当である。

それらが判らないランスは、初めて出会った人間が"リンディス"である事に、
運の良さを感じたが、それも"彼女達"に描かれたシナリオであるとも気付いていない。

よってコスモスは頷かなかったが、ランスはそれを不審に思うことも無かった。

相手が美人だという事でこうも疑り深く無くなってしまうのは、ランスの悪い癖だ。


「……で、なんだ? それだけか~?」

『最後に、ひとつ。』

「んっ?」

『専ら、記憶喪失などと言われているだろう?』

「ああ、そういやそうだな。」

『ならば、"身分"をはっきりさせて置く方が良い。』

「身分だァ?」

『"それなり"の身分があれば、動き易い筈だ。』

「ほう。」

『一つ、用意しておいた。』


……


……………


十数分間、ランスは偽りの"身分"の説明を受けた。

"こちら"でもゼス程では無いが、身分や貧富の差は当然あり、
例えばエトルリアの名の知れた貴族であれば、剣闘士や傭兵は並んで立っている事も許されない。

よって確かに高い"身分"があれば、ランスにとって色々と利点があるだろう。

勿論女性にも支持されウハウハになり、かといって山賊等にも悪い意味で人気が出るが、
それはランスの"強さ"が完全にカバーしてしまうので問題ないだろう。


「ふむふむ、成る程な。」

『理解したか?』

「まぁな。 だが……エトルリアの事をあ~だこ~だ聞かれても、わかんねぇぞ?」

『それは、記憶喪失と言う事で済ませれば良い。』

「しかしなあ、"最後の件"についてはどうすりゃ良いんだ?」

『私が言った事以外は、好きに話を作れば良い。 そう言うのは得意だろう?』

「言ってくれるぜ。」

『……それでは、私はこれで失礼する。』

「何ぃ、行くのか? その前に一発……」

『何時までも"この姿"で居るには消耗するのでな。』

≪スゥッ……≫

「!? (消えやがった。)」

『私は引き続き、"こちら"について調べて回る事にする。
 よって"呼び掛け"には応えられんが、時が来ればまた現れるとしよう。』

「そうか、そん時は犯らせろよ~!?」

≪ガタンッ≫

『……(噂通りの男だ……)』

≪フッ……≫


一瞬ランスはコスモスが消えたと感じたが、そうではなく、
"小さな光の塊"となっただけであり、その光の塊もやがて消えていった。

この時ランスは、逆に座っていた椅子から立ち上がっており、
彼女の気配が完全に消えると(元々殆ど無かったが真剣に五感を働かせれば感じる)、
夕飯まで外に出る気は無くなったのか、再びベットに横になった。

そんな彼の仕草は、数十分前と比べれば多少はリラックスしている様子だ。

突然現れた謎の神コスモス……無愛想で無口だが美人であり、
"あちら"に戻る為の手助けをしてくれるそうなので、何となく気分が良くなったのだ。

しかし……彼女に踊らされようとしている事には気付いていない……


「がっはっは! さ~て、あの娘がどう反応してくれるのか見物だぜ。」


……


…………


「俺様とした事が、寝ちまったか。」


19時過ぎ、うっかり寝てしまったランスは廊下を早足に歩いていた。

そして食堂へとやって来ると、待っている筈のリン達の姿を探す。

騒がしい酒場であれば探し当てるのには若干手間取るだろうが、
アラフェンの首都の宿だけあって、食堂は全体的に広く、
テーブルとテーブルの間にも余裕がある事から、彼女達の発見は容易だった。

それと同時にランスを待っていたリンも彼の姿に気付き、立ち上がって席を示す。


「ランスさん! もう、何してたのッ?」

「リンったら、もう少しでランス様を呼びに行こうとしたトコだったんですよぉ~?」

「がはははは、すまんな。」

「とにかくこれで、全員揃ったわね。」

「俺腹ペコペコだったんですよ、それじゃ頂きま~す。」

「こらセインッ、まだ食べて良いとは……」

「……聖女エリミーヌ様、今日も私に食事をお与え下さったことを、感謝します。」

「へぇ、セーラさんでもそんな事するんだね。」

「何よウィルっ? 随分と失礼な事言うじゃないッ!」

「あっ、いや……ごめんッ。」

「……(僕も始めて見た時、同じことを思ったけどね……)」

「モグモグ……美味いな。」

「リン……これ、食べて……」

「フロリーナ、好き嫌いはダメよ。」

「うぅん……私、そんなに食べれないから……」

「それなら尚更ダメよ、騎士たるもの沢山食べなきゃ。」


ランスがドカりと椅子に腰を降ろすと、各々が食事を始めた。

そして数分が経過すると、ランスはタイミングを計って"例の話"を切り出すことにした。

まずは飲み干したコップを置くことを合図に、皆の注意を自分に向ける事から始める。


≪――――ドンッ≫

「皆の者、食いながらで良いから聞け。 俺様から話がある。」

「ランスさん、話って?」

「……今まで記憶喪失、記憶喪失と言われていた俺様だったが、重要な事を思い出したのだ。」

「えっ……ほ、本当ッ?」

「えぇ~ッ! ランス様って記憶喪失だったのぉ~!?」

「あぁ、セーラさん知らなかったんだ。」

「そうだったんですか、僕も初めて知りました……」

「思い出した事ですか~、それは興味深い。」

「ランス殿、それは一体ッ?」


得意気に何やら思い出したような事を語るランスに耳を傾ける各々。

この時点でセーラとエルクはランスが"記憶喪失"と思われていた事を知らなかった。

マシューは特徴柄それを耳に入れていたが、仲間が記憶喪失と言う事など、
そうそう聞き出して良いモノでも無いし、言い出すモノでも無いのだ。

ランスの玉の輿を狙っていたセーラはかなりショックだったようだが、
彼のこの後の言葉は、彼女に"一番"大きな影響を与える事になる。


「どうやら俺様はな……エトルリアの人間だったようだ。」

「ほほぉ~、エトルリアの方だったのですか。」

「だがな、エトルリアの只の一般人だったってワケじゃねえ。
 聞いて驚け……俺様は"エウリード家"のモンだったのだッ!」

≪ビシィィッ!!≫

「…………」


自信満々で親指で自分を指すランスに各々は固まる。

どうやら"エウリード家"が何かという事を考えているようなのだが、
殆どのメンバーは答えが判らず、ケントでさえもセインと顔を見合わせていた。

しかし判った者もおり、それはエルクとマシューだった。

エルクはエトルリアの者であり、マシューは密偵なので、知識が有ったのだ。


「エウリード、エウリード…… !? もしかして、あの"エウリード"なんスかッ!?」

「おう、そのエウリードだぜ。」

「そんな……まさか、ランスさんがエウリードの人だったなんて……」

「エルク、あんた知ってんの?」

「勿論だよ。 エトルリアの中じゃ、ある意味"伝説"だからね。」

「へ、へぇ~。(伝説~!? 何よ、やっぱり凄い方だったんじゃないっ!)」

「エルク、お前は知った顔みてえだな。 判らねぇ奴等に説明してやってくれ。
(しめしめ、俺様が応える必要が無さそうでラッキーだったぜ)」

「あっ、はい。 そんなに詳しくは無いんですが……15年程前……
 エウリード家とは、"名門中の名門"とまでは一歩手前でゆきませんでしたが、
 十分"名門"と言っても良い地位にある、由緒ある文武両道の貴族でした。
 ですが……先代の死により爵位が移ってから、新公爵は全ての財産を貧しい人達に与え、
 妻と子供と共に、宛の無い旅に出て行かれてしまったと言われています。
 それからの生息は一切掴まれてはおらず……今は既に亡くなられているとも、
 今でも他の地で、また貧しい人達の手助けをしているのではないかと言われています。」

「へぇ……す、凄いわね……」

「貴族の、鑑だな……」

「エトルリアに、そんな味なマネをする貴族が居たんですねぇ。」

「それではまさか……ランス殿はそのご子息とッ?」

「うむ、そう言う事だ。」


突然明らかになったランスの予想外の"身分"に、各々は動揺を隠せない。

エトルリアの貴族の間では有名な"エウリード家"の血を引く者が、目の前に居るからだ。

そうなればいくら財産が無いとは言え、ランスは立派な貴族だ。

ランスが"それなり"の身分であるとはケントを一番に、誰もが予想していたのだが、
それが"伝説の貴族"とくれば、普通に驚くだけで済まないのは仕方ないかもしれない。

しかし……当然それは真っ赤な嘘であり、コスモスが用意した言葉を言っただけだ。


「嗚呼、エリミーヌ様! やっぱり私の目に狂いは無かったのですねッ?」

「セーラ、何処見て言ってるんだい?」

「そ……それじゃランスさん、ご両親はどちらにいらっしゃるの?」

「リン、それは……聞いたら……」

「あぁ~、両親は死んだぜ。 山賊どもに殺られた。」


エウリード公爵家と言うのは、架空ではない。

実際本当の話なのだが、彼らは"ほぼ全て"の財産を寄付したという事で、
山賊や盗賊などに"わざわざ目を付けられて襲われる"という事は無かった。

……だが、そうでなくとも旅の者が襲われるのは日常茶飯事。

エウリードの名を隠して旅をしていた彼らは、山賊に親子諸共殺された。

そんなエウリード元公爵を殺した山賊達は、彼らの正体には気付かず、
エトルリアにとっても彼らの生死は確認できなかったので、伝説となってしまったのだ。

その伝説をコスモスはランスに利用させ、ランスは生き残ったエウリードの息子と言う事になる。

かと言って"ハイそうですか"と納得してしまうのも変だが、
ランスの段違いな強さは、二階級特進のように伝説に格上げされた名に相応しく、
一番疑り深いマシューでさえ、信じかけてしまいそうだった。

マシューはさり気なくランスがサカで行き倒れていた事も聞き出していたので、
"聞いてはいけない事"を言ったと思ってしまって申し訳なさそうな顔をしている、
リンのフォローもするつもりで、ひらひらと手を上げて間から口を挟んだ。
(ランスは当然"気にすんな"という素振りを見せているが、リンは自重したようだ)


「そういや~、ランスさんは何でサカで行き倒れてたんですか?」

「あっ……わ、私も気になる! エウリードの人が……どうしてあんな所に?」

「おぉ、それが重要なとこなんだよなァ。」

「(さ~て、ホントなのかウソなのかは、この辺で判断できるな。)」


ウィルやセーラのような人間はランスの身分を鵜呑みにしてしまったが、
マシューのようにまだ信じていない者もいる。

とは言えそれは予想通りなので、彼らには一つ決定的な証拠のようなモノが必要だ。

勿論、それもコスモスの助言で考え付いており、ランスは腕を組んで言う。


「どうやら……俺様には生き別れの"キョーダイ"が居たみたいでな。
 そいつが一旦ベルンに向かったって噂を聞いて探してたんだが、
 不覚にも迷った挙句にサカに入り込んで、ぶっ倒れちまってたってワケだ。」

「ほほぉ~、しかしどうしてまた、生き別れに?」

「……両親が旅に出る時、もう一人のガキはまだ小さ過ぎてな。
 事前に召し使いに孤児院を兼ねた修道院に預けさせたのだ、俺様は大丈夫だったがな。
 だが……財産を寄付しちまって金も無かったようだし、
 俺様が探し当てた修道院の中は、結構酷い有様だったぜ。」

「そこには、キョウダイの人は居なかったのね?」

「うむ、なんか"オスティア"の連中に引き取られた後だったらしい。」

「オスティア? それじゃ~、その修道院はオスティアにあったんスか?」

「あぁ、オスティアに修道院は一つしかなかったし、探すのは楽だったが……
 ガキの頃はリキアとエトルリアの区別さえついて無かったしな、
 それはそれでオスティアに"生き別れ"が居たって知るまでは苦労したぜ。」

「……オスティア……修道院……生き別れ……」

「(セーラ?) 僕は感激ですよ、かの有名なエウリードの方に会う事ができたなんて。」

「ら、ランスさん……や、やっぱり凄い人……だったんですね……」

「よせよせ、俺様は"凄い奴"なのは元からじゃねぇか。
 お前らも余計な気なんぞ使わんで良いからな~? これで俺様の話は仕舞いだ!」

「で、でも……キョウダイの人がベルンに居るかもしれないのに、
 私達とキアランを目指していても良いの? ベルンとは逆方向なのよッ?」

「こらリン、"余計な気を使うな"と言ったばっかじゃねぇか。」

「あっ……」


ランスの言葉で更にメンバーの、彼に対する目が変わってしまったが、
エウリードの件に関してはハッタリであり、彼の言うよう、
ランスの"凄さ"は元々有るモノであり、エウリードの名を超える強さを持っているからである。

そんな彼の"生き別れのキョウダイ"についての話が出ると、
流石のマシューも認めざる得ないと感じたか、片手を顎に添えて話を整理していた。

さておき、ランスが"やめだやめだ!"と言い放つと食事が再スタートする。

しかし真横に居たリンはまだ気になるのか声を掛け、それをランスに軽く流されるが……


「まぁ、大丈夫だ。 多分"そいつ"は生きてるぜ。 それにな……」

「……?」

「なんとなく、"近く"に居る気がするんだよなぁ~。
 ちなみに……勿論"妹"だっ! これだけは譲れんッ。」

「もう、弟さんだったらどうするのよ……」

「……ッ!?」

≪ビクッ≫

「……(まさか……セーラが、なぁ。)」


この時点で、リン含めて全員が食事の為に腕を動かしていたが、
セーラの動きだけが完全に止まってしまっていた。

真横に座っていたマシューは彼女の心境を何となく察せたので、
難しい顔をしながら果実酒を口に含んでいた。

そして翌日から……ランスに対するセーラの行動が、180度変化する事になるのである。


■戯言■
外伝6終了です、物語進展皆無@w@
次は本編に戻りますが、今回の話の進展は次回の外伝と言う事になります。
ちなみに"エウリード家"と言うのはランスの身分を作る為に設定したオリジナルです。



[2301] ファイアーエムブレム=鬼畜の剣= 7章
Name: Shinji
Date: 2006/12/05 02:01
アラフェン侯の援助に見切りをつけ、
リンたちは一路キアランへと行軍を続けた。

祖父の身が危ない今、事は一刻を争う。

焦る気持ちに押されるように、リンは先を急ぐ。

そんな時……一人の少年が助けを求めてきた。


■第7章:旅の姉弟■


アラフェンで二泊したランス達は、キアラン領を目指して南に進んでいた。

期待していた援助は受けれなかったので、馬車や兵隊は追加されておらず、
一行は変わらないペースで長い街道を進んでいた。

しかし、何も変わってないワケでは無く、挙げれば"二つ"だけ変化があった。

その前に今の状況を説明すると、ランスを後ろに乗せて馬を走らせるリンの横に、
セインの操る馬が左に、ケントの操る馬が右に並んで走っている。


≪ダカパッ、ダカパッ、ダカパッ……≫

「セイン、ケント。 今はどの辺なの?」

「確か"カートレー公爵領"ってトコですねぇ~。」

「即ち……アラフェン領とキアラン領で挟まれている領地です。
 此処を南に抜ければ、キアラン領内に入れます。」

「ほほぉ~、それなら後どれ位で着くんだ?」

「う~ん、キアランの城までなら、歩きだとざっと10日以上。
 このペースで行けば、3日から5日あれば着くんじゃ無いですか?」

「ふん、何の邪魔も入らなかったらの話なんだろうがな。」

「最もです。」

「(ランスさんと居られるのも……それまでなのね。)
 ……ところで、ラス。 本当に良かったのッ?」

「ああ……後悔はしていない。」


それなりに長かった旅の中、そろそろキアランが近くなってくる。

この時リンにとっては祖父であるハウゼンの身が心配で急がねばならないのだが、
到着してしまうと、ランスとの稽古及びセックスの時間が終わってしまう。

よって……あまり深く考えるのは止める事にしたか、
リンはすぐ後ろで馬を操って就いて来ている、ラスに声を掛けた。

ついさっき述べた、"二つ"挙げられるうちの一つが、
アラフェンで護衛隊長をしていた筈の、"ラス"の加入なのである。

彼はリン達のアラフェン公爵との謁見の話を一部始終聞いており、
サカの者であるラスは、とうとう彼を見限って護衛隊長の職を退職してしまったのだ。

それで何故、リン達に力を貸す事になったのかと言うと……


≪ドカパッ、ドカパッ、ドカパッ……≫

「……ったく、物好きな奴だぜ。」

「私をキアランに送り届けてくれる事が、"修行の"一環だなんて。」

「……修行としてであれば、"あのような者"に仕えるよりは……
 お前達と行動する方が……色々と"得る物"がありそうなのでな……」

「まぁ、修行料(5000G)払ってまで来たかった様だし、好きにすりゃ良いぜ。
 俺様としては、修行になろうがならまいが、挙句に死のうが関係無ぇけどな。」

「な、何言ってるのよ……とにかく、ラスが居てくれれば心強いわっ。」

「……(それに、この"エウリードの者"にも興味が湧いた……)」


話のように、ラスがサカを離れているのは、全て己の"修行"の為。

よって直感でリン達の旅に同行する事が、"修行"に通じると感じたラスは、
アラフェンを出発しようとした一行を街の出口で待っており、
自分の同行を頼むダケでなく、返事を渋るランスにゴールドを躊躇い無く差し出した。

対してランスは、勝手にそれを自分の都合に良い様解釈し、彼の同行を認めたのである。

今のランスには金に対する執着は冒険者であった頃よりかは、
かなり無くなってしまっているのだが(ラスにしては"皆無"である)、
ラスのした"行動そのもの"が、ランスの首を縦に振らせる要因となったのだ。


≪バササッ、バササッ、バササッ……≫

「ふぅ……」

「…………」

「はぁ……」

「あ、あの……セーラさん……」

「えっ? フロリーナ、ど~したの?」

「最近……どうしちゃったんですか……?」


そして、"変わった事"でもう一つ挙げられる事が……

アラフェンの街に到着するまでは、ランスにべったりだったセーラが、
逆に彼を避けるようになってしまい、リンを押し退けてまで、
ランスと同乗していたリンの馬に、ここ数日全く乗せて貰っていないと言う事だ。

アラフェンを出発してからは、彼女はずっとフロリーナと共にペガサス(ヒューイ)に乗っている。

実質フロリーナにとって、ヒューイに乗せたのはリンとランスだけなのだが、
セーラにしつこくお願いされた為、結局断れなかった。

相手が女性なのに性格のタイプが全く違うので最初は緊張していたフロリーナだったが、
ここ数日で慣れたのか、思いのほかセーラが大人しかったのか、既に飛行に支障は無い。

今になっては、急に"変わってしまった"セーラを気遣う余裕も出てきているようだ。


「な、なにが?」

「前までは……ランスさんに付きっ切りだったのに……」

「……っ……」
 
「それに、何だか……元気が無いみたいですから……」

「!? そ、そんな事無いわよ~、これも作戦の内なのよっ。」

「さ、作戦……?」

「いくら私みたいな美少女とは言え、四六時中付き纏われたら多少は迷惑ってもんでしょ?
 時にはこうやって距離を取って……そうよ、様子を伺う事も大事なのッ!
 ランス様も……い、今頃きっと私の事が恋しくなってるに違いないわ……っ!」

「はぁ……そ、そうなんですか……」


思いつきの考えで誤魔化してくるセーラの言葉を、コミュニケーションに疎いフロリーナは鵜呑みにする。

……だが実際は、セーラがランスが明かした身分と境遇について意識しているのは知っての通り。

もし明かしたのが"身分"だけであれば、変わらずランスに付き纏っていただろうが、
彼の"境遇"によると率直な話、ランスは"自分と血の繋がりの有るエウリード家の兄"と考えられてしまう。

セーラは自分が修道院(兼孤児院)に預けられた時の記憶は小さ過ぎて全く無かったのだが、
"自分はエトルリアの貴族の娘であり、いつか優しい両親が自分を迎えに来てくれる"と信じ込む事で、
飢えや寒さに苦しむ、辛い孤児院生活に耐え、持ち前の性格も持てる様になった。

現在もセーラは、自分が貴族であり、何時か迎えに来てくれる両親の事を信じているのだが、
心の何処かでは僅かながらも"自分は只の孤児だ"と言う事も感じている。

しかし、後者を受け入れてしまうと"今のセーラ"は"セーラそのもの"でなくなる。

それ故に現実的に考えず、理想を信じて今の性格を決して曲げる事は無かったのだ。

そんな中……突然自分の前に現れた"ランス"の明かした境遇は衝撃的で、
彼が生き別れの孤児をオスティアに探しに来た"エウリード"の貴族なのであれば、
自分の考えとマッチし、ランスがサカで行き倒れていたのも、
"妹であるセーラをベルンまで追って来ていた"と考えれば、辻褄も合ってしまうではないか。

……かと言って、ランスはまだ自分を妹と確信していないようであるし、
自分から名乗りを上げても、ランスが認めてくれなければ理想は一瞬で崩れ去る。

だとすると……彼から声を掛けて貰えれば良いワケなのだが、今までのように、
彼を"落とす"為にベッタリしていては、"妹"と言う存在からは掛け離れてしまうので、
ひとまずランスから距離を置くことにするしかなかったのだ。

フロリーナや周囲には"気持ち良さそうだしペガサスに乗りたい、それダケなのよ"と言っているが、
実際はいきなりランスから距離を取るのに、この手段が一番自然だと感じたからだ。


「(キアランに着くまで、もうあまり残ってないじゃない……どうしよう……)」

「(今回の旅で……私、色々と変われた……)」


フロリーナにとっては、ランス達との旅は、得れた事が沢山ある。

男性をヒューイに乗せれたり、ヒューイ無しに槍を持って刺客を相手にできたりと、
天馬騎士としては基本的な事でしか無いのだが、足が竦んでまともに戦う事さえできなかった彼女にとって、
今回の旅で得れた内容は、この上なく大きな事だったと言える。

……だが、セーラにとっては一目惚れしてしてしまった上、
兄ではないかと言う可能性を秘めたランスとの"別れ"が近付く事に焦りを感じていた。

ランスにとってはコスモスの言葉を借りたダケなので、
セーラが"エウリード"の者である確率はあるとは言え、彼の妹である可能性はゼロなのだが、
時と場合によっては偽りの幸せも必要であり、セーラはその偽りの真実の間で葛藤していた。

そんなセーラの焦りの気持ちを、ランスは当然気付いており、
心の中でこれからの彼女との展開を楽しみにしていたりする。

彼自身も……エンジェルナイトである"コスモス"に踊らされているとも知らずに。
(ランスはコスモスを見た目の違いから、天使や神ではあるがエンジェルナイトだとは思っていない。)


……


…………


≪ドドドドドドドドッ……≫


総勢11名、計7頭(+天馬1頭)の馬が街道を駆ける。

リン&ランス、セイン、ケント、フロリーナ&セーラ、ウィル&エルク、ドルカス、マシュー、ラス。

この人数と馬になると、野宿の準備等には手間が掛かるので、
村があれば多少距離があっても、其処の宿の世話になるのが定石。

かと言って地上からは距離があれば、視界が良くない限り村を見つけられないのだが、
空を飛んでいるフロリーナとセーラには見えるので、発見次第低空飛行し、ランス達に近付く。


「リンディス様ぁ、ランス様ぁ~!」

「少し東に、村がありました……この先の分かれ道を、左に行けば……」

「そう、距離はどれくらい?」

「う~ん、5キロ程度ってところじゃないですか~!?」

「5キロか~、それなら野宿の準備するよか早く着くかもなぁ。」

「なら、今日は村に寄りましょう。 ここ最近、野宿ばっかりだったし……」

「がっはっは、街や野宿よか"稽古"もし易いしな~、そうだろぉリン?」

「う、うん……」

≪ダカパッ、ダカパッ、ダカパッ……≫

「……と言う訳で、其処を左らしいぞ。」

「わかったわ。 ……あらっ?」

「あ、あの……っ! すいませんっ!!」

「!? ……みんなっ、止まって!!」

≪――――ドカカカカカッ!!≫


一行が分かれ道に差し掛かった時。

突然のリンの大声で、皆が走らせる馬を急停止させた。

分かれ道に居た"人物"を、先頭を走っていたリンだけが確認したのだ。

その人物とは"少年"であり、まだ12~3歳と言ったところだ。


「こらリン! 何で止まらすのだッ!?」

「ご、ごめんなさい。 何かその子が叫んでいたんだけど……
 ちょっと普通じゃない様子だったから……」

「……むっ? 何だガキんちょ、こんな所でヒッチハイクか?」

「お兄さん達、もしかして……傭兵団か何かですかッ?」

「だとしたら……なんだ?」

「力を貸して欲しいんだ!!」

≪ダカパッ……≫

「ランス殿、子供とはいえ、気をお許しになりませんよう。」

「わかっておるわ。(ガキんちょになんぞ何が出来るってワケでもねぇしな。)」

「……悪いけど、私達は急いでるの。 他をあたって貰える?」

「い、今すぐじゃないとダメなんだよ!
 ニニアンが……ぼくの姉さんが、あいつらに連れて行かれてしまうっ!!」

≪ドカパッ……≫

「お、お姉さんっ!? 君のお姉さんが、誰かに捕まってるのかいッ?」

「……セイン。(また、こいつときたら……)」

「うん! すごく悪い奴らなんだ。
 ニニアンを連れて行かれたらぼく……どうしたらいいか……」

「リンディス様、ランスさん! これは人助けですよッ!」

「セインッ! 我らは急ぎの旅なのだぞ。
 侯爵のご病気が本当だとすれば、こんな所で無駄な戦いは……」

「何、だったら被害を出さなきゃ良いんじゃねぇのか?
(考えてみりゃ、このガキんちょの姉ちゃんなら、美人そうだしなッ。)」

「やりましょう。 おじい様のことは心配だけど……
 子供から家族を奪うような奴らを許してはおけないッ!!」

「……わかりました。 どの道近くの宿に泊まりますし、リンディス様のご命令とあらば。」

「良しッ、それならフロリーナちゃんはウィルを誘導して村に行って、
 宿を取って来い! セーラ含めて他の奴らは残ってろッ! "悪い奴等"ってのを叩くぞ!」

「わ、わかりました……」

「じゃあ行って来ますけど、気をつけてくださいねッ!」

≪ドカカッ……≫

「すんません、ランスさん。 俺も村に先に行っても良いですかね?」

「なんだとマシュー、怖気づいたのか?」

「いや~、そうじゃないんスけど、実際賊が相手なら、
 俺が居てもあんま役に立ちませんし、あの村に"知り合い"が居るハズなんですよ。」

「ほう、そいつは女か?」

「いやいや、男ですって。」

「そうか、それなら行け。 代わりに宿代値切れよ?」

「へへっ、わかってますって!(会う相手が自分の主君だなんて、口が裂けても言えないけどね。)」

「……おう、ガキんちょ。 俺様らに感謝しろよ?」

「う、うん……ありがとう。 でも、凄い強い奴らだから、気をつけてね……」


突然、"自分の姉を助けて欲しい"と無理な願いをする黄緑色の髪をした少年。

ハッキリ言ってしまえば、"何人もの悪者を殺してでも姉を助けて欲しい"という頼みなので、
普通の傭兵団であれば、一蹴されてしまうのが当たり前だ。

だが……少年の容姿が良かった為、ランスはアッサリと"人助け"を認めてしまった。

そんな中、フロリーナとウィルがセーラとエルクを降ろして村の方へと向かって行き、
ランスはランスで"晩飯前の一運動"程度にしか思っていないようだ。

ついでにマシューもウィルを追って行ってしまうが、実は本日の寝床の村に、
オスティアにおける彼の"主君"が居るらしいので、ランス達と鉢合わせしないよう、
主君を宿から別の場所へ"誘導"するつもりなのである。

……と、そんな遣り取りも束の間、南の方から数名の黒い影が近付いてくる!


≪ダダダダダ……ッ!!≫

「くくく……見つけたぞニルス。 さあ、"あの方"の元へ大人しく戻るのだ!」

「い、嫌だ! ニニアンを返せっ!」

「ふっ……命さえ残っていれば、多少傷ついても問題なかろう。」

「そうだな、行く――――」

≪ダダッ! ――――ドシュゥッ!!≫

「ぐわああぁぁ……ッ!!」

≪――――ドどぉっ!!≫

「!! な、何者だッ!?」

「馬鹿者、これはこっちの台詞だろうが。」


ランス達の前に、"黒尽くめの男"が5名現れた。

その男達のうちの2名が、ランス達をまるで居ない者かのように、
馬を下りたランスの後ろに隠れている"ニルス"と呼ばれた少年に近付くが、
いきなり踏み込んできたランスによって片方の男が斬り殺されたのだ!

彼らは腕に自身があり、ランスが自分に向かって来ようと返り討ちにしようと考え、
早い話"ナメていた"のだが、彼の太刀が早過ぎ、避ける事が出来なかったのである。

いきなりの宣戦布告だが、ランスは話し合っても無駄な事は最初から判っていた。

それにより、もう片方の近付こうとした男は、咄嗟にランスと距離を取った。


「この子供を……助けようというのか!?
 哀れな話だ、関わらなければここで死ぬ事も無かっただろうにッ!」

「ケッ! その"哀れな奴"にいきなり仲間殺られてザマぁね~ぜ!!」

「き、貴様ああぁぁーーッ!!」

「リン! こいつ等プロだぜ、本気で掛かれッ!!」

「はいっ!」


男達には"恐怖"が無いのか、4vs8ながらも戦いを挑んでくる。

現在は、二人の男がランスと対峙しており、残り二人は"ニルス"を捕らえるべく、
ランスを避けてリン達の左右に回り込んできた。

この時ランスは心の中で舌打ちしながら、皆に手加減しないよう声を張り上げた。

黒尽くめの男の一人をあっさりと斬り殺したランスだったが、
山賊や刺客を斬った時よりは若干手応えが無く、僅かながらも反応されていた事から、
相手が"プロの暗殺者"である事を察してしまったのだ。

軽い気持ちで山賊でも成敗しようと考えていたのだが、これはランスにとって予想外。

ランスの強さだと、これ程の相手でも不意を突けば、
今のようにあっさり倒せてしまうのだが、彼にとっては楽勝でも、
他のメンバーが"プロの暗殺者"と戦うとなれば、話は若干違ってきてしまう。

ラングレンとの戦いを控える"この戦い"では、だれも被害者を出してはいけないのだ。


……


…………


突如開始されたランス達の戦いは、僅か30秒程度で終了する。

「どけええぇぇっ!!」

「くっ……!」

≪ギャリイィーーンッ!!≫

右方向から襲ってくる暗殺者の剣を、馬を降りているリンがマーニ・カティで受け止め――――

「でえぇいッ!!」

≪ばきいいぃぃんっ!!≫

「ぐお……っ!?」

セインが槍で馬上から暗殺者の剣を弾き飛ばし――――

「ぬんっ!!」

≪――――ざしゅっ!!≫

「ごはぁッ!!」

怯んだ暗殺者を馬上のケントが剣で斬るという連携で、二人目の暗殺者が仕留められ――――


「うおぉッ!!」

≪ぶうぅんっ!!≫

「う、うぉぁっ!?」

左方向から襲ってくる暗殺者に対しては、ドルカスが手斧を投げて牽制する事により、
回避行動を取らせて一瞬だけだが無防備にし――――

「ファイアーッ!!」

≪ずどおおぉぉん……っ!!≫

「ぎゃああぁぁあっ!!」

エルクがその隙を突いて火炎魔法を直撃される事で、三人目の暗殺者も倒され――――


「ぐわあぁぁ……ッ!!(つ、強すぎる……)」

≪――――どさっ≫

「うむ、さすが俺様。」

4人目の暗殺者も、いつの間にかランスによってあっさりと倒され――――


「くっ……(い、いかん! ここは一旦退いて報告を――――)」

「ラス!!」

「……(仕留める。)」

≪ヒュッ……――――ズダンッ!!≫

「ごがっ……!? ば、馬鹿……なッ……」

≪――――ドッ≫

5人目の逃げようとした最後の暗殺者も、ランスの呼びかけと共に矢を放ったラスにより、
矢で胸を射抜かれ、瞬く間に全滅してしまったのである――――


……


…………


「……ったく、おせーなエリウッドの奴。
 時間に遅れる奴じゃねえのに、どうしたんだ? あー、腕が鈍っちまうぜ。」

「あれ? 若さま! なにやってんです? こんなところで。」

「ん……マシューか。 判ってんだろ?」

「へへ、エリウッド様とのふた月に一度の手合わせでしたよね?
 いわゆる恒例の武術訓練会。 相変わらず仲いいですね~、お二人とも。」

「たまに使っとかねーと腕が鈍るからな。
 お前こそ、この"カートレー"で何やってんだよ?」

「ウーゼル様の命令で、キアランの後継問題をちょっと……
(とりあえず、ランスさんの事は言わない方が良さそうだな~。)」


……


…………


≪ドカパッ、ドカパッ、ドカパッ……≫


……考えてみれば、相手がプロの暗殺者であろうと、
リンやラスあたりはそれ以上に強く、数で勝っていれば被害が出ることなど無かった。

かと言って実際に戦ってみなければ判らなかったのだが、結果は快勝であった。

5名の暗殺者を倒したランス達9名は、"ニルス"の案内を受けながら、
馬で"彼の姉が連れて行かれた"という場所を目指していた。

今度はランスが馬を操り、リンは後ろに乗っている。
(ランス&リン、セイン、ケント、ドルカス、エルク&セーラ、ラス&ニルス)

そんなランスの後ろに乗っているリンは、直ぐ横を駆けている、
ラスの後ろに乗せて貰っている、"ニルス"に早口に声を掛ける。


「ニルス、この辺なのッ?」

「うんッ、でも……もしかしたら、今頃はもう……」

「!? ……待てガキんちょ! 何か小競り合いしてるぜ!?」

「……そのようだな。」


ニルスの姉……"ニニアン"が連れ去られた現場に行っても、彼女が居るハズが無い。

その場所でのイザコザは15分以上前のことなので、現場を確認してからどうするかが重要だ。

よって誰も居ないハズだったのだが……"何か"が起きている事を、
先頭を走っているランスとラスが確認していた。

その様子をよく見てみると……"一人の青年"が、複数の黒尽くめの男を相手にしていた!

暗殺者の相手は6人のようだが、一人は青年によって殺られたのか、地面に倒れている。


「くっ……」

「なかなかできるようだが、それまでのようだな。」

「何処かの貴族のようだが……この人数相手に一人で挑んだ、己の愚かさを悔やむが良い。」

「……ところで、小僧を追った仲間がまだ戻らないが?」

「なに、もうじき帰ってくるだろう。 それより、早くこっちの"処理"を済ませろ。」

「わかった。」

「(まずいな……助けようと思ったけど、只の刺客じゃない……)」


人の良さそうな青い瞳と、赤い髪。

見てくれから何処かの貴族の坊ちゃんと言ったところだが、
正義感があるのか、連れ去られようとすた"ニニアン"という女性の助けに入ったのだろう。

しかし相手はプロであり、相手が6名という事から、彼は所々切り傷だらけだった。

一人の暗殺者は"ニニアン"と思われる気絶している女性を抱えているので、
彼を囲んでいるのは実質4名だが、それでも彼を仕留めるのは十分そうであり、
各々の仕事を遂行する為、ジリジリと距離を詰めてくるのだが――――


「んっ?」

「なんだ、アイツらはッ?」

≪ドドドドドドドドッ……≫

「誰だか知らねぇが足止めしてたみてぇだな!」

「数は5人ね。」

「……おいリン! 俺様が最初に斬り込むから、直ぐ馬を下りて女を助けてやれ!
 今のお前になら、そんくらいは楽勝だろッ?」

「わかったわ!」

「ラスはリンを援護しろ! 他の野郎どもは赤い髪の奴を助けてやれ、良いな!?」

「……わかった。」

「お願い、ニニアンを助けて!」


タイミング良く、遠方から駆けて来るランス一行。

それにより暗殺者達は咄嗟にその方向に身構える!

だがそんな事など全く気に掛けずに、一騎で暗殺者達に突撃するランス。


「がはははははッ!!」

≪どしゅううぅぅ……ッ!!≫

「ぐおぁあッ!!」

「な、何者だッ!?」

≪――――スタッ≫

「それは、こっちの台詞だって言ってるでしょッ!?」


……


…………


……数分後、暗殺者達を倒したランス達は、ニニアンと赤髪の青年の介抱を行っていた。

今現在はランスが、腰以上にまで伸びる薄緑色の髪が何とも美しい女性……

"ニニアン"の身体を抱いており、その直ぐ横で赤髪の貴族の青年は、
セーラに杖による回復魔法を掛けてもらっている最中だ。

そこで判った事として、世間は狭く……セーラは青年と面識があったようだ。


「ど~やら、気絶してるみて~だなぁ。」

「そのようですね、大事無くて良かったです。」

「それにしても、この上なく美しいお嬢さんではないですかっ!」

「だな、98点ってとこか……それにセイン、この娘の結構デカかったぜ?」

「な、何がー!?」

「98点……?(おかしいわね……何でムカムカするのかしら……)」

≪きゅいいぃぃんっ……≫

「エリウッド様~、大丈夫ですか~?」

「ああ、もう何とも無いよ。 ありがとう、セーラ。」

「んっ? セーラちゃん、知った顔かー?」

「あっ、はい。 私の主君と仲の良い方で――――」

「それは僕から言うよ。 ……僕はフェレ侯公子、エリウッド。」

「"フェレ侯公子"だァ?」

「リキアの南東に位置する領地さ。 この地に少し用があって訪れていた。」

「だったら、何であんな奴らと"殺り合って"たんだ?」

「……暴漢たちが、嫌がるその娘を連れ去ろうとしていた。
 咄嗟に、取り返すよう動いてしまったのだが……僕はまだまだ未熟らしい。
 危ない所を助けてくれて、ありがとう。」

「そ、そんな事ないです! 貴方が居なければ、今頃ニニアンは……」

「うん、こっちこそ助かったわ。 私はリン。 サカから来た、キアラン侯爵の……孫。」

「えっ? キアラン候の……?」


……


…………


ニニアンの件から、フェレ侯公子である"エリウッド"が信用できる者だと感じ、
十数分掛けて自分の境遇の説明を説明したリン。

その内容を黙ってエリウッドは聞いており、所々頷いていた。

同様に、彼女たちのことを良く知らないニルスも、興味深そうに耳を傾けていた。

それらの話を、リンは簡単に信じてもらえないかと感じていたが、エリウッドはあっさりと信じてくれた。

何故なら、エリウッドの父はキアラン侯・ハウゼンと良い友人であり、
リンの"目元"が、何度か面識があったハウゼンと似ていたという事が挙げられる。

またエリウッドは、誇り高いサカの民が"嘘をつかない"と言う事を知っていたのだ。

そんな彼は本当に人が良い性格なのか、"何か自分に力になれる事は無いか"と言って来たが、
リンは気持ちだけ受け取って置く事にしておき、話は"別の件"に移った。

エリウッドは、気絶しているニニアンを抱いている、ランスに興味を持ったのだ


「……ところで、その方は?」

「えっ? ランスさんの事?」

「うん。 僕は今まで、あれほどまで強かった人を見た事が無くてね……」

「う~む、ニニアンちゃん、良い匂いだ。」

「クゥ~ッ! ランスさん、羨ましい!!」

「がはははは、これは俺様のだ、やらんぞ。」

「(嫌な冗談言う人だなぁ……でも、ニニアンが助かったのはこの人のお陰でもあるし……)」

「……んっ? なんだ、坊ちゃん?」(ガキんちょ=ニルス 坊ちゃん=エリウッド)

「すいません、貴方はどちらの"騎士"なのでしょうか? かなりの実力者と見受けましたが……」

「ふむ……それならば答えてやろう、俺様はランス。
 エトルリアの由緒有る、エウリード家のモンだぜッ!」

≪ビシィィッ!!≫

「エウリード家ッ!? あ、貴方が!?」

≪ガバッ!≫

「なんだ、知ってんのか~?」

「勿論ですッ、僕の名前は……父があの"エウリード家"に肖(あやか)って付けた名前でもありますから!」

「んっ? エウリード、エリウッド……そう言やぁ似てんな~。」

「ずっと、エウリード家の方に一目会いたいと思っていたんです! いやぁ、感激だッ!」

≪ギュッ!!≫

「そ、そうか。 そういや、お前は幾つなんだ?」

「まだ16ですが、今年で17ですッ。」

「(17か……エルクは15年前と言ってたが、こりゃ一つ勉強したぜ。)」


優しくあるが冷静な雰囲気も感じるエリウッドだったが、
ランスが"エウリード"の人間と知って、大袈裟に喜んでしまい、彼の手を握る。

エリウッドがリンと似て大人びているのはさておき……

彼の名は、エリウッドの父がエウリード家の"行い"に感激した事により付けられた名前だったのだ!

故……以前からエリウッドは、財産を捨てて旅に出たエウリードの人間に会いたいと思っていた。

しかし、それは叶わない望みと諦めていたが……偶然自分を助けたランスが、
"エウリード家"の人間であれば、こうも喜ぶのも無理は無かった。

本当の"エウリード家"の人間は既に皆死んでいるのだが、
偽りとは言え、一人の若者の決して叶わぬ"望み"を叶えた事になるので、
ランスがコスモスによって与えられた"身分"は決して無意味な事ではないだろう。

それにフェレ領とはリキアでも良い領主が治める諸侯として有名であり、
その現侯爵に肖られてしまったと言う事から、他のメンバーのランスを見る目が更に変わった。

また……それらを踏まえて改めて考えてみると、現在17歳のセーラが孤児院に預けられたのは、
生まれてから数ヶ月しか経ってないと言うことになり、記憶が無くても仕方ないと言う事になる。


……


…………


「もう少し、ランスさんと話をしたかったんだけど……
 残念なんだけどリン。 僕はそろそろ、これで失礼するよ。」

「傷は大丈夫なの? エリウッド。」

「セーラのお陰で、今はなんとも無いよ。 それより近くの村に用があるんだ。」

「近くの村? それなら私達も、今夜は其処に……」

「うっ……ん……」

「おっ? リン、ガキんちょ! ニニアンちゃんが目を覚ましたぞ~!」

「本当!?」

「ニニアン!!」

「"彼女"も目を覚ましたみたいだし、君達は急ぐ事も無いさ。
 僕は村に人を待たせているしね。 とにかく……リンディス、僕は君の味方だよ。」

「エリウッド……ありがとう。」

「……僕は暫く、この近くの村に居る。
 もし、僕の助けが必要になったら何時でも訪ねてくれ。」


■外伝に続く■


原作では、エリウッドが"○い○"(拙作ではまだ名前が出ていません)数人?相手に、
一人でニニアンを助けてしまいますが、彼の初期パラメータを考えると、
どう考えても一人で救出は無理と考えて、今回はこう言うお話になりました。
エリウッドの名前については、オリジナルに対するご都合主義です。
例の女男のキャラは、一応出しますが登場は(短い)外伝の終わり辺りになると思います。



[2301] ファイアーエムブレム=鬼畜の剣= 7章外伝
Name: Shinji
Date: 2006/12/08 08:46
ニニアン、ニルス姉弟を執拗に狙う謎の一団……

その残党達は南西の方角にも居ると言う。

事の真相を確かめる為、ランス達はその行方を追った。

辿り着いた先は、カートレー領にある古城。

その奥には、いくつもの黒い影が蠢(うごめ)いていた。


■第7章:外伝■


エリウッドが去ると同時にニニアンは目を覚ますと、
まず彼女はニルスの無事を喜び、彼の手を借りてゆっくりと立ち上がった。

その直後、ニルスに自分達を助けてくれた、ランス達の事を告げられ、
ニニアンは丁寧に頭を下げると、美しい唇を静か開く。

……この時、若干言葉を選んでいるような仕草が見られたが、皆察する事は無かった。


「皆様……有難う御座います。 私は"ニニアン"と申します。
 弟のニルスと、芸をお見せしながら……旅をしています……」

「芸だと? ガキんちょは笛を持ってたみてぇだが、君は何をするんだ?」

「私は、踊りを……」

「お、お、おっ! 踊り子さんですかーーッ!?」

「じゃかぁしい!!」

≪ゴンッ!!≫

「うげッ!?」

≪――――ばたっ!!≫

「ふんっ。」

「……ケント、悪いけど片付けておいて。」

「はっ。」


ランスにゲンコツを食らって気絶したセインはさておき。

言動からして大人しめの性格であるニニアンは、静かな服装から見て踊り子には見えない。

……だが、ニルスの説明によれば、"神に捧げる踊りの舞い手"との事。

それが"どんな踊り"なのか気になるランス達だったが、
立ち上がる時ニルスに手を借りていた為か、足を捻ってしまって今は踊れないらしい。

よって二人の今後の"旅"の心配をリンがした時、ニルスがハッと何かを閃き"提案"をする。
(セインは気絶しているが、この時点で彼含め現在居るメンバーの紹介は済ませている)


「ねえ! もし良かったら、ぼくらもリン様達について行っちゃダメかなっ?」

「だ、駄目よ! 私達の旅はとても危険なの。
 私は命を狙われていて、いつ刺客が襲ってくるか判らないような状況だから……」

「それなら、ぼくら凄く力になってあげられるよ! ねッ? ニニアン。」

「そうね。 私達の"特別な力"で恩返しができるかもしれない……」

「特別な力だと~?」

「私達、自分達に起きる危険を……"少し前"に感じる事ができるんです。」

「本当にッ? 凄いじゃな~い! ねぇ、エルク?」

「予言みたいなモノなのかな……それなら、確かに凄い力ですね。」

「さっきみたいに、判ったところで防ぐ力が無いと、どうしようもないんだけど……
 リン様達だったら、その点は心配ないでしょ?」

「う~ん……ランスさん、ケント。 どう思う?」

「そうだな~。 このまま置いて行くよりは、同行させた方が良いんじゃねぇのか?」

「私も、そう思います。」

「ならセインは……聞かなくてもいいわね。 起きるまで待ってもどうせ、答えは判ってるし。」

「一応聞いてやるが、ドルカスとか……他の奴らはどうだッ?」

「……俺は雇われた身だ。 お前がそうするなら、文句は無い。」

「僕も構いません。 野宿の時は、特に助かりそうですし。」

「ふ~ん、まぁ良いんじゃない?(こんなにキレイじゃなかったら、もっと良かったんだけど。)」

「右に同じだ……」

「……じゃあ2人とも、一緒に行く?」

「もちろん!」

「皆さん、宜しくお願いします……」

「(うむむ、滅茶苦茶可愛いぜ。 絶対犯ったる!)」


謎の暗殺者集団に狙われているニニアンとニルス。

ラングレン及び、彼の配下に習われている、ランス傭兵団のリン。

どちらの危険もかなりのモノだが、いざ襲われても防ぎ様の無い二人より、
襲われても何かしらの応戦を出来るランス達の方が遥かにマシ。

よって一行はニニアンとニルスを旅に加える事にしたのだが、
正直な話……二つの危険が合わさってしまう事となり、
ニニアンの"特別な力"があるとしても、それで相殺できるとは言え無いだろう。

しかし、ランスにとっては美少女とも美女とも言えるニニアンを、
心の中では興奮を抑えているがかなり気に入ってしまい、それだけで危ない橋を渡る価値はあった。

他のメンバーにとっても"ランス"が居る事から、更なる危険も承知な上で二人の同行を認めた。

そうなれば、"今回の件"に関してはこれで終了するハズなのだが、ニニアンは一つの事に気付く。


「……あっ。」

「どうしたの? ニニアン。」

「指輪が無くなっているわ……」

「指輪だァ?」

「も、もしかして"ニニスの守護"がッ?」

「ええ……」

「奴らに奪われちゃったんだ……っ!」

「それって、大事な物なの?」

「亡くなった母の……形見でした……」

「氷の精霊"ニニス"の加護を受けた、この世に1つしかない指輪……
 でも奴らに持って行かれたのなら、諦めるしかないよね。」

「……そうね。」

「ほほぉ、"こいつら"にねぇ。」

「ランスさん?」


"ニニスの守護"と言う、二人の名前を合わせたような名称の指輪。

それには対象の"防御力"を上げる支援を行えると言う、特別な力を秘めた指輪。

故にかなり貴重な品なのだが、どうやら倒した暗殺者はこれが全てでは無く、
エウリッドがニニアンの救出に入るよりも前に、"指輪だけ"他の暗殺者に渡ってしまったようだ。

そうなると、取り返すと言うのは容易では無く、相手が相手なので、
ニニアンとニルスは潔く諦めたようだったが、"気落ち"を隠している様子なのは一目瞭然。

それに対して、ランスは遠目に転がる暗殺者達の死体に少しだけ視線を送った後、一歩踏み出す。


「ニニアンちゃん。 危険を察せるとか言ったが、"奴等"の場所とかも判るのか?」

「騎士様、それは……」

「俺様は"ランス"だ。 それより、わかるのかッ?」

「ニニアンっ。(まさか、この人……)」

「は、はい……[目を閉じている]……見えます、南西の……小さな古城に……」

「遠いか?」

「いえ……そんなには……」

「ランスさん? まさか――――」

「がはは、その"まさか"だぜ。 モノは"ついで"だ、やったろ~じゃねぇか。」

「そう……そうよね! ランスさんならそう言うと思ってたわ。
 ケント! セインを起こしてあげてっ!」

「ははっ。」

「お前らも良いなッ? 俺様が居りゃあ余裕だ!」


……


…………


セインが何やら背中を痛そうにしているのは、またもさて置いて。

ニルスを先程と同じようにラスの後ろに乗せ、渋るリンをケントの後ろの乗せ、
ニニアンを半ば強引にランスの後ろに乗せ……馬を走らせる事20分。
(ランス&ニニアン、セイン、ケント&リン、ドルカス、エルク&セーラ、ラス&ニルス)

ランスの馬を先頭に、ニニアンの誘導で目的地へと到着した一行は、
暗殺者達が潜んでいるらしい古城から200メートルほど離れた場所で馬を下りた。

どうやら中の連中は、ランス達が近付いて来た事は勿論、
仲間の暗殺者達が殺られた事も知らないようで、姉弟が連れて来られるのを待っているようだ。

……よって、古城は静かに佇んでおり、その様子を木の陰から伺うリン。


「奴等は、あそこに潜んでるのね。」

「……お兄さん、あの……ほんとに取り返しに行くの?」

「うむ、行くぞ。 ニニアンちゃんの為にもな。」

「でも! あそこは奴らのアジトだよ?
 もっともっと強い奴が……沢山居るんだよッ?」

「指輪の事はもう良いのです。 ですから……」

「そんな病んだツラすんな。 大丈夫だ、安心しておけッ。
 それよかニニアンちゃん、中に居るヤツらの数は判るか~?」

「……っ……見えました……10人……いえ、12人ほど居るようです……」

「そ、そんなにですかぁ?」

「まだ、かなりの数が潜んでいたようですね。」

「ふむ……だがそうなりゃ、そいつらを片付けちまえば、
 ひとまずニニアンちゃんとガキんちょは、"安心"ってワケだな?」

「う、うん……奴らは"追手"だから、ず~っとって訳じゃないけど……
 少なくとも、リン様達の旅が終わるまでは大丈夫になると思う……」

「ほぉ、それなら尚更殺っちまわね~とな。」

「でもそうなると……あなた達を狙ってるのは、他にも居るって言うのッ?」

「はい……」

「まぁ、追手さえ撒きゃあ大丈夫だろ。」


実を言えば、"追手を放った者"は、かなりの力を秘める存在であり、
一年後に起こる"戦い"に大きく関わる者なのだ。

また、ランスにとっても"その者"は彼に大きな影響を及ぼす事になる。

そんな"強大な相手"であれば、追手を撒いた程度では諦めるハズは無いだろう。

しかし……ニニアンとニルスは、これ以上一行に迷惑を掛けたくないと思い、口を挟まなかった。


「じゃあ、ランスさん。 ……行く?」

「うむ。 その前に言っとくが、全員じゃ中に入らんぞ。」

「えっ? どう言う事?」

「行くのは俺様とリン、ドルカスとラス。 そんでもって、セーラちゃんだ。」

「ご、5人だけで入るのッ?」

「!? ら……ランス殿! どう言う事です!? 何故私が居ないのですかッ!?」

「セインとケント、エルクは此処でニニアンちゃんとガキんちょを守ってろ。」

「く……っ! しかし……私にはリンディス様を守る"使命"がありますッ!」

「お、落ち着けよケント~。 中はランスさん達に任せてみるべきだよ。
 それ以前に、ニニアンさんやニルスを中に入れる方が危ないじゃないか。」

「わかっているッ、だが……!」

「ケント……私だって5人だけじゃ不安よ。 でもランスさんは、このメンバーで戦うことを選んだ。
 勝算が無ければそんな選択をする人じゃない……私は、ランスさんと一緒なら勝てると思う。」

「若干面倒臭いが、別に俺様一人でも良いんだがな。 そうなりゃ~"俺様以外"は此処に残るか?
 それとも……俺様と姉弟だけ此処に残って、他全員で中に入るってのかッ?」

「……っ……」

「それ以前に、あの数の"黒装束"ども相手だと、お前ら三人じゃ下手したら死ぬぜ?
 お姫様を守ってやりてぇなら、もっと強くなるこったな。」

「はい……悔しいけど最もですね、正直僕は生きて戻れる自身はありません……」

「俺も、多分運良くないとダメかな~……」

「……判りました、ランス殿。 リンディス様を……お願い致します。」

「任せておけい。 リン死なすとか、そんな勿体無い事できるワケね~だろうが。」

「ば、馬鹿っ……(バレちゃったらどうするのよ~!)」


今更だが、ランスがわざわざ古城までやってきたのは、当然ニニアンに対するポイント稼ぎ。

そして……セーラに対するポイント稼ぎの"仕上げ"である。

その"ポイント稼ぎ"をするに当たってランスは自分の他に4人のメンバーを選出したが、
リンに対する忠誠度が極めて高いケントは不服そうで、柄にも無く声を荒げてしまった。

セインもこう見えてリンに対する忠誠度は高く、彼とケントはランスの強さを十二分に判っているが、
この"違い"はケントの真面目な性格と、セインとの僅かな忠誠度の違いから出たモノと言える。

しかし、ランスが言う事は最もで、全員で入ってはニニアンとニルスの命に危険が生じる。

最近ではすっかり戦争での出撃が板についてしまったランスとは言え、
狭い迷宮での"乱戦"こそ彼の十八番であり、正面から来る暗殺者が彼の命を奪う事は出来なそうだが、
迷宮や建物内は戦争とは違って背後からの攻撃が安易に可能であり、
後ろから10人中3人の"戦えない者"を狙われてはランスもフォローし難い。

また10人中3人(セイン・ケント・エルク)が、暗殺者と戦って苦戦する者であれば尚更全員生存が困難なのだ。

それらの理由により、リン・ドルカス・ラスと言う"暗殺者相手に引けを取らない者のみ"を選んで、
最大人数を減らし、守るべき者を一人(セーラ)にする事で、もしセーラが狙われても、
前途の三人や、いざと言うときはランスが手を貸す事で、被害を出さない戦いができる筈なのである。

……ケントも、以上の事が判らないような男では無いので、
更に精進するよう考えながら拳を握ると、古城へと歩いてゆく5人の背中を見送るのだった。


「あの~……ところでぇ、ど~して私が入ってるんですか?」

「んっ? セーラちゃんは、もしもの為の回復役だ。
 俺様に限って"もしも"なんぞ100%起こらんが、他の奴らの為に一応な。」

「へー。(あぁッ、やっぱり私の事を! ど、どうしよう……エリミーヌ様~。)」

「なんだ? その間の抜けた相槌は。」

「……エッ? な、何か考えてたワケじゃないですよ!? 絶対何も考えてませんからっ!」

「(ぐふふふふ……ココで良いトコ見せりゃあ、間違いなく頂けそうだ!)」


……


…………


古城が近付いてくると、ランス・リン・ドルカス・セーラ・ラスは忍び足で入り口に接近する。

既に門は朽ちて無く、ランスはそこから顔を出して内部の様子を伺った。

そんな中の様子は……と言うと、まずはいきなり逆T字に通路が伸びており、
左右に敵は居ないが、15~20メートル程真っ直ぐゆくと大部屋に入るらしく、
見張りの暗殺者と思われる一つの"影"があった。

その"影"の奥にはもっと暗殺者が居るのだろうが、目が良いランスにも確認できなかった。


「よ~し、居やがるな。 皆の者、心の準備は良いか~?」

「ええ。」

「大丈夫だ。」

「みんな頑張ってくださいね~。」

「…………」

「それじゃ~ラス、最初にお前が手前の野郎を射れ。 それが合図だ。」

「……距離は問題無いが、少し視界が悪いな……急所を射るのは難しいかもしれん……」

「それができるなら此処から動かんわ。 リン、ドルカスは後ろから来い。
 だが俺様の前には絶対出るなよ? セーラちゃんを守ってやる事も忘れるな。」

「うん、任せて。」

「ああ。」

≪キリリッ……≫

「では……良いのか?」

「おう、何時でも良いぜ。」

「ふ……ッ!!」

≪ザッ……――――バシュッ!!≫


ラスは見張りが後ろを向いた直後、入り口の影から飛び出し矢を放った!

その時かなり体が揺れた上に標準を合わす間も無かったのだが、
普段から流鏑馬(やぶさめ)をしながら戦っている彼にとっては問題無い事だ。

それと同時にランス達も飛び出しており――――


≪ドッ……!!≫

「痛ッ!? や、矢だと……何処から……うォッ!?」

「(死ねッ!!)」

≪ドシュウゥッ!!≫

「ぐわぁぁ……ッ!!」

「!? だッ、誰だ貴様――――」

「おらァッ!!」

≪――――ドンッ!!≫


無言で矢が肩に刺さった一人目を斬り、近くに居た二人目をもアッサリと仕留める。

ここでようやくランス達の存在が気付かれ、暗殺者達が武器を構え目の前に集まってくる。

よってランスは大部屋の入り口の通路に下がり、追い付いたリン達も彼の後ろで武器を構える。


「し、侵入者だーーッ!!」

「何だと!? 必ず仕留めろッ、一人も生かして返すなっ!!」

「遅すぎると思ったが……ま、まさか、貴様らはあの姉弟をッ!?」

「今はそんな事はどうでも良い! 一瞬で二人殺った相手だ奴だ、相当出来るぞッ!?
 3班は後ろに回り込めッ、1・2班は正面から行くぞ!!」

≪ダダダダダッ!!≫

「お前ら、後ろからも来るぜ!? 前は俺様に任せろッ!」

「それじゃ、私達は後ろね!」

「そうなるな。」

「キャーッ!(やっぱり来るんじゃなかったぁ~!)」

「……来たぞ。」

≪――――チャキッ≫

「挟んだぞッ!」

「良くも同胞を! 死ねええぇぇーーッ!!」

≪ガバァッ!!≫

「!? ドルカスさん、まずは私が行くッ!」

「無理するなよ?」

≪ブゥンッ! ヒュンッ!!≫

「(見えるわッ。)」

「くっ!? 小娘ッ、ちょこまかと!!」

「はぁあ……ッ!!」

≪バキイイィィンッ!!≫


大部屋の入り口で三人ほどを一度に相手にしているランスだが、
リン達が戦う通路はかなり狭く、一対一で戦う程度のスペースしかない。

よって先ずリンが後ろから襲ってくる暗殺者を迎え撃ち、
ドルカスとラスは勿論、後方から襲って来た三人のうちの二人の暗殺者も手を貸す隙を伺っていた。

そんな中……リンは剣を持つ、一人目の暗殺者と力勝負をしていたが――――


「グぉッ……」

「(力でも負けてないわッ、ランスさんと比べればこの程度ッ!!)」

≪グッ……ぐぐぐっ……ガキィィンッ!!≫

「う、うぉおっ!?」

「隙あり!!」

≪――――ざしゅっ!!≫

「ぐは……ッ!!」

「き、貴様ぁァ!!」

≪だだっ!!≫

「……!?(や、槍ッ!?)」


ランスとの稽古での教訓により、暗殺者の力が自分よりも勝っていれば、
直ぐに剣を引こうとしたリンだったが、思ったよりもリンの腕力が上がっており、
相手の剣を弾くと、無防備な暗殺者をマーニ・カティで斬り倒した。

それにより、後ろの"槍"を持った暗殺者が直ぐリンに向かって突っ込んでくる!

その攻撃は死角からの上に速く、若干反応が遅れてしまったリンだったが――――


「おオぉぉッ!!」

≪ドゴ……ッ!!≫

「な、なにッ!?」

「(今だわ!)」

≪――――カヒュッ!!≫

「が……っ!?」


ドルカスが振り下ろした斧が、槍の矛先を上から地面に叩き付けた!

その隙を逃さずに、リンがマーニ・カティを払って二人目の暗殺者の喉を裂いてしまう!

これで二人が倒され、三人目の男が怒りを露にするが――――


「おッ、おのれ……!!」

「…………」

≪――――ドスッ!!≫

「ぐガッ……!?」

≪ドドォッ……≫

「ラス、流石ね。」

「これで……後ろは片付いたな。」

「ええ。 ドルカスさん、助かったわ。」

「礼などいらん。」

「……(妙だな、数日前よりもリンのスピードが若干上がっているような気がするが……)」

「じゃあ、直ぐランスさんを援護しないと――――」


既に弓を引いていたラスが、三人目を仕留め、彼らは自分達の役目を果たしたと言える。

この時、ラスは"アラフェンの街"でのリンの戦いを近くで見ていたが、
その時と比べれば、全体的に彼女の動きが良くなっている事に気が付いた。

これはランスとの"稽古"の成果なのだが……只普通に剣を交わしただけでは、
こうも人間はパワーアップする事は無いだろう。

それならば何故かと言うと……実は、ランスとの"稽古後のエッチ"で彼女は強くなっていると言える。

リンがランスに抱かれるようになったのは国境を越えてからであり、
(こなした回数は別として)数で言えば10回近くにもなっているのだ。

つまり……一回で強くなるのは微々たるものだが、
エッチ後のパワーアップ効果が、ようやく今になって現れて来たのである。

そのランスの皇帝液による"パワーアップ効果"はランスやリンでさえ気付いていないのだが、
何となく妙に感じたラスは、相当勘の鋭い男なのだと断言できる。

さておき、後ろから襲って来た連中を倒しても戦いは終わらないので、前に向き直るリン達だったが――――


「がはははははッ! ランスアターック!!」

≪ズガアアァァン……ッ!!≫

「ぎゃああぁぁーーッ!!」

「な、何と言う強さだ!?」

「ランス様~、やっぱり素敵だわぁ~。」

「も、もしかして援護なんて、必要無いかも……」

「そうかもしれん。」

「……(リン以上に強い男、"ランス"か……)」


……


…………


ランスの活躍により12人全ての暗殺者を倒した一行。

一応セーラの出番はあったが、五人とも大きな傷は無かった。

よって待っている筈の5名と合流するべく、さっさと古城を出て来たランス達。


「がっはっは、楽勝だったな。」

「ランスさんにとってはね。」

「しかし……最後は自ら命を絶つとは思わなかったな……」

「ですよねぇ~、なんか毒みたいなの飲んでたし。」

「只の賊では無かった……サカの戦士にも引けを取らぬ程の、
 かなり訓練された"組織"の一員なのだろう……」

「う~む、そんなヤツらがなんでニニアンちゃんとガキんちょを?
 頭のヤツでも締め上げりゃあ、何かわかると思ったんだけどな。
 金もチっとも持ってなかったし、やっぱプロってとこか~。」

≪ガチャッ……≫

「武器は、沢山持っていたようだがな……」

「うむ、ドルカス。 その武器は全部売っぱらって傭兵を雇うんだ。 一つも落とすなよ?」

「ああ……」


戦いの後、一部の者は自殺してしまっており、それが気がかりだった。

ニニアンとニルスは、余程危険な組織に狙われているのだろう。

実は組織の名は"黒い牙"と言うのだが、相手が証拠を全く残さなかった事により、
誰も名に気付く……及び、察する事は出来ず仕舞い。

かと言って"黒い牙"との関わりはひとまず終わるが、いずれまた彼らと戦う事となる……


……


…………


「り、リンディス様! 良くぞご無事でッ!」

「心配しすぎよケント。」

「結果は上々だったみたいですねぇ~。」

「愚問だなセイン、当然だろう。」

「(どうやって戦ったかは知らないけど、やっぱり凄いんだなぁ……)」


戻って来たランス達を出迎える、セイン・ケント・エルク。

ランスが居るとは言え流石に心配だった三人だが、彼等の無事を素直に喜んでいた。

しかし、反して眉を落としていたニニアンとニルスに、リンが気付く。


「…………」

「リン様……」

「……ッ? ニニアン、ニルス。 そんな顔しないで。 大丈夫、私達と一緒に居れば安全よ。」

「ですが……」

「それよりも、ランスさん。」

「うむ。」

「あ……それは……」

「"ニニスの守護"って名前だったか? 奴等が持ってたぞ。」

「お、お兄さん! ありがとう。」

「本当に……有難う御座います……」

「がははははは、ついでに俺様がハメてやろう。」

「あっ……」

≪キュッ≫

「ニニアンちゃん、俺様と結婚してくれ! なんつってな?」

「け、けっこ……えっ?」

「な!? なぁに馬鹿な事言ってんのよーーッ!!」

≪――――ドスッ!!≫

「ぐほぉッ!!」

「きゃ……」

≪ばたんっ!!≫


ニニアンにランスが指輪を渡す時、その"冗談"で怒ってしまったリンが、
ランスの背中に一歩踏み込んだ肘鉄を食らわせ、彼は正面にぶっ倒れる。

それはニニアンを巻き込んでしまうほど威力があったのだが、
ニニアンの左手の薬指に"ニニスの守護"を嵌め、しかも両手で彼女の左手を包んだので、
リンが嫉妬して怒るのも仕方なかったのかもしれない。

そんな肩で息をして一歩踏み出そうとするリンを、セインが宥め様と羽交い絞めにする。

普通は彼女の反撃が怖いものだが、彼はリンの身体に触れられれば反撃上等だった。


「り、リンディス様! 落ち着いてくださいよ! "冗談"ってヤツじゃないですか!」

「冗談ッ? サカには"冗談"なんて言う人は居ないのよーっ!」

「痛てててッ……全く、凶暴なヤツだな。 なぁ、ニニアンちゃん?」

「そ、そうですね……」

「うッ……ご、ごめんなさいニニアン。(できれば、否定して欲しかったけど……)」

「ニニアン、大丈夫!?」

「…………」

「あれッ、ニニアン?」

「良~し、じゃあとっとと戻るぞー?(ぐふふふ、ご馳走様だぜリン。)」

「(ふぅ~ん、やっぱ彼女ってランス様の事~……)」


この時、何故だかニニアンは上の空だったが、ランスが邪魔になって誰も判らなかった。

リンにランスがぶっ飛ばされた時、彼はニニアンの唇を奪ってしまったのだ!

やろうと思えば胸を揉めない事も無かったが、それはそれで効果があったようである。
(ランスの"凶暴"という言葉をウッカリ肯定してしまったのもその為)


……


…………


「何~ッ? "こっち"の俺様にゃそんな力があったのか?」

『そうだ。 貴方に抱かれた女は……僅かながらも"力"を得る事が可能……』

「ほほぉ~、そりゃ良い事聞いたぜ! これで女を頂ける大義名分が出来たってワケか?」

『貴方のその"能力"で女を強くし、駒として使う事が……"あちら"に戻る糧となる……』

「駒とか変な言い方すんなッ、だがこの方法でニニアンちゃんも~……」

『……あの姉弟は"人"ではない。』

「なにッ?」

『彼女は"あちら"に戻る為に、最も欠かせぬ存在……また時が来れば巡り合うだろう……』

「"最も"だとォ? それならちったあ慎重にいっとくか~……」

『それは好きにするが良い……では、今回はこれで失礼しよう。』

「何ぃ~、もうか? 次来た時は犯らせろと――――」

『間も無く、人が来る……』

≪スゥッ……≫

「こらっ、いきなり消えんな~!」

『(お前の"能力"で、多くの女を犯すのだ……)』

「チッ……つまらん。」

『(それに、次に起こるのはキアランでの決戦……あの方もお楽しみになられよう……)』

≪フッ……≫


暗殺者との戦いの後、村に向かったランス達は、ウィル・フロリーナ・マシューと合流した。

これにて総勢13名となり、男性9名・女性が4名となった。

その後のランスは、マシューに戦利品(武器)をドルカスと売りに行くよう命令し、
遅れた夕食を済ませると、ランスは一旦一人部屋に戻ったが、直ぐ姿を現した"コスモス"。

彼女は今回、ランスが女性を抱く事で"パワーアップ"させてあげる事が出来る事と、
ニニアンとニルスが彼にとって"最重要人物"である事だけを告げると、早々に去っていった。

それは"誰か"が部屋に迫ってきた事を察したからであり、
コスモスが消えると、すぐさま扉をノックする音が部屋のナカに響いた。


≪コンコンッ≫

「あの、ランスさん……私だけど……」

「リンか、入れ。(丁度良い、俺様の"能力"の事でも話してやるか。)」

≪ガチャッ≫

「あれ……誰か居た気がしたのに。」

「そう見えるか? 気のせいだろ。」

「なら良いんだけど……さ、さっきは御免なさい。」

「ンな事、気にすんな。 それよか謝りに来たダケじゃねぇだろ? "稽古"か?」

「う、うん。」

「こんな時間だが、多少ならしてやろう。 ちょ~ど"言いたい事"もあったしな。」

「言いたい事……?」

「あぁ。 ついさっき、また"思い出した事"があってな――――」


■戯言■
今回のポイントは、ランスが"女性とエッチすれば対象は1%程度強くなる"という事です。
リンは一応ロードなのですが、終盤は守備が低すぎ、専用武器が重すぎて使い物になりません。
現実的に考えれば三人の主人公のうち、モルフとの激戦で真っ先に死ぬのは彼女っぽいです。
つまり、只単にリンはランスと稽古しただけで強くなったのでは無いと言う事なのです。
また、今回書きたい事がまだ幾つかあったのですが、長くなってしまったので待て次回@w@
次の戦闘シーンをなるべく削って、セーラ関連や男女の加入など消化していかなければなりませんね。



[2301] ファイアーエムブレム=鬼畜の剣= 8章(前編)
Name: Shinji
Date: 2006/12/15 10:46
アラフェン領、カートレー領を抜け、
リン達は、ようやくキアラン領へと入った。

しかし、今のキアランは侯弟ラングレンの支配下にある。

リンの抹殺を図るラングレンの部下は、
ある特殊な兵器を用意し、彼女を待ち受けていた。


■第八章:謀略の渦(前編)■


「それにしても……ランスさんに、あんな力があったなんて。」

「言っちまってなんだが、ホントかどうかは知らねぇぞ?」

「し、知らないって?」

「思い出したこと自体が間違ってるかもしれんし、俺様は"抱かれた側"でもないしな。」


リンからの誘いを受けたランスは静かになった村を出て、
村からの明かりが辛うじて届く程の距離の"林の中"まで歩くと、早速稽古を開始した。

しかし、30分も経たないうちに村の明かりが次々と消え、
元々遅かった時間もあってか、ランスは稽古を早めに打ち切った。

対してリンはそれに不満は無かったようだが、彼に歩きながら告げられた、
ランスの"女と寝れば強くさせてやれる"という能力が、やはり気になっていた。

彼の立場からすると、"あちら"で女性を抱く事で僅かな"経験値"が得られる事も、
女性の"才能限界値"を上げる事ができる事も良く知らなかったのだが、
コスモスにそれらを告げられて何となく気分を良くした直後にリンが訪ねて来た為か、
場の流れで自慢気に、リンに自分の"特別な力"について語ってしまったのだ。

ランスは"その能力"をダシに女性を口説くような男では無いのだが、
リンにとっては"へぇ、そうなの"で済ませるワケにはゆかず、複雑な心境だった。


「私は本当だと思う。 確かに、強くなってるって気がするもの。」

「ただ稽古して実力が付いたってダケかもしれんぞ?」

「だ、だけど……リキアに入った辺りから、急に調子が良くなったし……」

「どうだろうな、リンが男とセックスすりゃあ強くなれるって答えもある。」

「うっ……」

「まぁ、どっちだって良いじゃねぇか。」

「良くないわよッ!」

「じゃあ、なんだ? 仮に俺様が"男と寝たらリンは強くなる"とでも言ったら、
 他の男と寝まくるつもりだったりするのか~?」

「!? そ、そんな訳……」

「安心しな、"これ"をダシに女と寝たりはしね~よ。
 そうすりゃあ、また"あの時"みてぇに肘鉄でも食らいそうだしな。」

「わ、私はそんなつもりで言ったんじゃ……」


タラビル山賊団を倒す為には、"何でもする"と豪語していたリン。

しかし信念はあり、自分が抱かれる相手は気の許せる相手だけであるし、
罪の無い者の命を奪ってまで、力を求める気も無い。

それならば、気を許せる男性であるランスに、
"女性を抱く事で強くできる能力"があってくれた事は喜ばしいハズだった。

だが……考えてみれば、そんな能力を持つ上に強力な戦士であるランスであれば、
自分以外に抱いた女性は何十人も居ると予想でき、何だか腹が立ってしまったのだ。
(何十人どころではなく、何百人以上に及んでいるのだが)

そんなリンの心情を何となく察する事ができたランスは、
能力を安易に告げてしまったのを多少後悔し、能力に対しての拘りを否定する。

……勿論、女性自体を口説く事に関しては、止める気は皆無なのだが。


「とにかく、この話題についてはヤメだッ。
 強くなってんならそれで良いじゃねぇか、ついでに気持ち良い思いもできるしな。」

「…………」

「それじゃ~また犯るぞ! こっちへ来いッ。」

「えっ!? そんなっ、は、早く戻らないと時間が――――」

「がはははは。 安心しろ、さっさと済ませてやる!」

≪ぐいっ≫

「この前、そんな事言って四回もしたじゃないッ!」


稽古の誘いに来た時点で、今夜リンとエッチすると決めていたランスは、
強引に腕を引っ張って茂みの方へと連れてゆく。

リンにとっても、ほぼランスがセックスを求めて来ると予想していたので、
性分からか口では抵抗しているものの、身体は無抵抗のようである。

よって彼女は両手を樹の幹に付けるよう命令されると、
頭下げお尻を上げ、そのままの服装で"立ちバック"の体形をさせられた。

初めて体験したときと同じ体位だが、このセックスが一番汚れないのだ。


「脱がすと後始末が面倒そうだしな、このままで犯るぞ。」

「す……好きすれば良いわ。」

「よ~し、それじゃあ邪魔なのはコレだけだな。」

≪するるっ≫

「……っ……」


対してランスは、リンの後ろに回り込むと、
彼女のスリットに手を入れて"パンティーだけ"をゆっくりと膝まで下ろした。

直後お尻を隠す上着を捲り上げると、腰の帯に押し込み、露になったお尻に手を伸ばした。

それにリンの顔が強張るが、それだけであり、彼女は全く動かなかった。


≪もみもみもみ≫

「うむうむ、相変わらず良い手触りだッ。」

「う、くっ……ンっ……」

「それじゃ~こっちは、と……」

≪むにぃ~っ≫

「……っ!?」

「ほほぉ、ちゃんと俺様の為に身体を綺麗にして来たんだな。 感心感心。」

「い、嫌ァッ……"そっち"は広げないでって何度も言ってるじゃないっ……」


リンのお尻の感触を楽しんだ後、ランスは両手の親指で彼女の菊座を広げる。

しかし、それでもリンの身体は動かず、首を彼の方へと向けただけだった。

最初やった時はあまりの恥かしさに泣かれてしまったのだが、
既に彼と行われたセックスの一連は十を越えているので、慣れてしまったようだ。

"それ以上"の事をされる訳でもなく(ランスの気まぐれでされていないダケだが)、
視界が暗いのでハッキリと見られていない事もある。


≪くちゅっ……ぬち、ぬち、ぬちっ≫

「おっ? 前はヌレヌレだな。」

「あ……ぅっ……」

「大方、ずっと濡れてたんだろぉ~? 淫乱なヤツめっ。」

「何よ……こ、こんな風にしたのはっ……ランスさん、でしょ……?」

「がははははは、そうだったなッ。」

「馬鹿ぁッ……それより、早く済ませてっ……」


早くも我慢できなくなったか、くねくねとお尻を動かすリン。

ランスに抱かれるようになってから、彼とセックスしない夜は必ず自慰行為に及びたくなっていた。

だが……旅中は野宿か相部屋だったのでオナニーすることは叶わず、
唯一ランスとのセックスが、彼女の性欲を満たせる時間になると言えるのだ。

よって"早く済ませて"と言うより、"早く入れて"の方が正しいかもしれない。

かと言って、ランスも人の事は言えず、既に誇張しているハイパー兵器を取り出すと、
亀頭を既に愛液を零しているリンの割れ目にへと持ってゆく。


「ちょっと暗くて見えんが……この辺か~ッ?」

≪ずぶぶぶぶっ!≫

「んあぁあああぁぁ……ッ!!」

「……ぐッ……相変わらず凄ぇ締まりだ、それじゃガンガンいくぜ~。」

「うッ、うん……はやくっ……」


入れたと同時にハイパー兵器を強く締め付けられ、片目を瞑るランス。

だが射精には及ばず、"もしかして与えらる感度も抱く度に上がってんじゃねぇのか?"などと考えながら、
ガッシリとリンのお尻を両手で掴むと、遠慮無しに腰を振り始めた。

するとリンは、ランスが一突きする度に甘い声を漏らし、今や感じるままに感じていた。


≪じゅっぷ、じゅっぷ、じゅっぷ、じゅっぷ!≫

「そうだそうだっ、良いぞォ? 腰の合わせ方はッそんな感じだ!」

「あッ、ぁんっ、アんっ、あァッ……!」

「こらこら、あまりデカい声ッ出すんじゃねぇぞ~?」

「だッ、だって……! 気持ちッ良くてっ……こ、声が出ちゃうぅ……ッ!」

「がははははは……」

「(私……もう、自慰やセックス無し……じゃ……)」


……こうして二人の時間は過ぎ、皆の元に戻っても何食わぬ顔をして接するだろう。

リンはランスに対する想いが、若干嫉妬となって皆の前に出ているが、些細な事だ。

よって今回も大きくは変わらない、割り切ったセックスにまで及ぶ為の"稽古"であった。

只一つだけ……今回の一連を"セーラ"が見ていた事ダケを除けばの話なのだが……


……


…………


――――金は命よりも重い。

"あちら"の世界の魔人領でそんな事を言えば鼻で笑われるダケだろうが、
人間界においては否定できず、多くの者が金の為に他の命を奪う。

しかし、エレブ大陸では"あちら"以上にその言葉が当て嵌まると断言できる。

それは何故かと言うと……その前に、ひとつエレブ大陸が"あちら"より勝る事を述べよう。

率直に言えば、"人は容易に空を飛べる"という事だ。

"あちら"でも人を乗せて飛行できるモンスター等は存在するが、
エレブ大陸のペガサスやドラゴンのように繁殖度は高くなく、
手懐ける事も簡単では無いので、それが唯一"あちら"よりも勝る事だと言える。


……では話を戻すとするが、エレブ大陸の文明は"あちら"と比べれば正直遅れている。

剣と魔法が戦いの主軸となっているのは同じなのだが、
"魔法ビジョン"・脳を使った"コンピュータ"・カメラといったような物が、"こちら"には存在しないのだ。

よって魔法の技術は"白色破壊光線"等には当然及ばす、武器の量産さえ"こちら"では難しい。

ランスが何人か敵を斬ったり、必殺技を使っただけで剣は折れてしまい、
斬れ味そのものは悪くは無いのだが、"耐久度"が遥かに劣る。

それなのに"こちら"では物価が高く、剣を一本買うだけでもそれなりのお金が必要で、
"マーニ・カティ"のような剣にもなると、値が付けられないほどの価値がある。


物価の例えでは、並みの傭兵一人を雇うのに掛かるお金が高くても1000G。

見習いの天馬騎士を雇うのに掛かるお金が、ペガサス合わせても高くても1500G。

期限無しの契約になるとしても、名の知れていない傭兵であれば高くても3000Gにしかならない。

傭兵隊長をしていたあの"ラス"でさえ、受け取った契約金が5000Gなのだ。
(そう考えれば、ランスがドルカスに渡した5000Gという金額は異例と言える)

傭兵が嫌であれば"闘技場"で稼ぐのが手っ取り早いのだが、
参加するにしても掛け金が決められており、命を掛けて相手を倒したとしても、
高くても1000Gでしかない掛け金の、二倍の金額が返ってくるだけなのである。

これは、エレブ大陸では娯楽が少ない上、自分の腕を頼って金を稼ごうとする者が多い為であり、
この所為で人の命の重みがどんどん下がってしまっていると言う訳である。

モンスターが存在しないのも、資源の供給が"あちら"より大きく劣る理由のひとつだろう。


……それならば、ランスのような人間もお金を稼ぐのは難しい……筈なのだが、
彼は何十人もの山賊を倒してきた事により、何万Gかのお金を奪っている。

"黒い牙"に襲われた時は、彼らはプロな為かお金を一切持っていなかったが、
物価が高い武器を売り飛ばす事で、それなりの資金を調達できた。

有る意味……罪ある者の命を奪い、お金や武器を手に入れるのが理想的な稼ぎ方かもしれない。

しかしそれをするには何十人もの兵力が必要であり、人数で等分すれば分け前は減るだろう。

つまり、ランスのようにデタラメな強さを持っていない限り、
傭兵達にとってお金を一気に儲けるのは、夢のような話なのだ……


……


…………


「……で、志願者はこの二人だけか。」

「そうみたいね。」

「ケッ、根性無しどもが。」

「まぁ……仕方無いんじゃないスか?
 これからキアランの軍隊を相手にしなくちゃならないんですし。」


翌日、一泊した村にある酒場で、ランスはリンとマシューで"何か"をしていた。

ちなみに他のメンバーは、旅の支度をしている最中である。

ではランス達が何をしているのかと言うと……"傭兵の募集"を行っていた。

だが、こんな小さな村で"キアランの軍を相手にする"と言われ、自分から志願するような者は少なかった。
(エリウッドが此処に居るのは、自分が目立たない様にする為らしい)

言い方を変えれば違ったかもしれないが、それなりに腕に自信があり、
キアランの兵隊が相手でも望んで傭兵になるような者でなければ意味が無いのだ。

かと言って二名の志願者はおり、一人はランスよりも若干背が高く、
紺の旅装束を纏い、人を寄せ付けない雰囲気を持つ鋭い瞳をした茶髪の男。

ランスよりも若そうだが、腕はその辺の傭兵よりは遥かに立ちそうだ。

……そしてもう一人は、逆に優しそうな瞳に、美しく長い金髪が印象的な男性。

最初ランスは彼を女性と勘違いしてしまったのだが、
"カーチス・アベレン"のように直ぐに相手を口説きに入ってしまったので直ぐ男と判った。

その綺麗な男性は、気が弱いが芯は強いのか、
腕を組んで偉そうにしているランスに、オドオドしながら名を名乗る。


「あ、あの……わたしはエリミーヌ教の修道士"ルセア"と言います。 それで、この方が……」

「レイヴァンだ。」

「ルセアさんとレイヴァンさんね。」

「はい。 宜しくお願いします……」

「…………」

「俺様らはな、これからキアランに行くワケなんだが~、
 レイヴァンとか言うのは多少は腕は立ちそうかもしれんが、
 ルセアとかいう女男は大丈夫なのか? 役立たずに金は出せんぞ。」

「何言ってんスかランスさん、傭兵の"修道士"って結構珍しいですよ?」

「そうなのか?」


"修道士"とはシスターとは違って杖は使えないが、"光の魔法"を得意とする。

一応それなりに多い職種なのだが、基本的に修道院や教会を守る為の者達であり、
彼のように傭兵として戦いに出る事は滅多に無い。

そう考えれば、彼は何か"こうしている"理由があるのだろう。


「わたしの力不足は承知の上ですが……どうか、お願いします。」

「ふん……命知らずヤツだな、ま~勝手にしな。
(う~む、年がありそうな分、かまチスよりも女っぽいな……)」

「でも死んじゃってからじゃ遅いのよ? 無理して傭兵をして貰わなくても……」

「構わん、"俺達"はキアラン公爵に用がある。」

「レイモ……レイヴァン様。」

「ほぉ、なんかワケ有りか?」

「(ルセア)」

「(はい)……実は……これから傭兵としてハウゼン様に仕える筈だったのですが……
 急に候弟ラングレン殿に実権が移ってしまい、面会ができなくなってしまったのです。」

「!? どう言う事ッ?」

「たぶん城を追い出されて、カートレーの此処に来て居たって事じゃないんですか?」

「候弟ラングレン……あのような男には反吐が出る。
 お前が本物のキアラン公女であるのなら、ハウゼン殿の傭兵として同行させて貰おう。」

「それなら拒む理由は無いわ。 二人とも、宜しくねッ?」

「ああ。」

「こちらこそ。 あなたに、聖女エリミーヌのご加護を。」


こうして、謎の傭兵"レイヴァン"と修道士"ルセア"が加入する事となった。

どうやら無口なレイヴァンに、ルセアと言う綺麗な男性は仕えている身のようだ。

さておきこれで総勢15名となり、男性11名:女性4名である。

しかし全員が戦えるワケでもなく、それは今居るマシューも該当される。


「それじゃ~ランスさん、リンディス様。
 俺は一足先にキアランに行って、色々と調べて来ますよ。
 敵の偵察も兼ねても良いんスけど、あの姉弟に任せたほうが良さそうですしねぇ。」

「悪いわね、マシュー。」

「だが、実はラングレンからのスパイだったなんてオチはやめろよ?」

「冗談! それじゃ行ってきますッ!」


……


…………


二人の新しい傭兵を加え、マシューを除く14名での移動を開始したランス達。

男性はランス・セイン・ケント・ウィル・ドルカス・エルク・ラス・ニルス・ルセア・レイヴァン。

女性がリン・フロリーナ・セーラ・ニニアンと言う面子だ。

彼らは2日後にキアラン領内に入ったが、それを見張る者が居た。


「……偵察からの報告が来ました! ヨーギ様ッ、偽公女の一行です!」

「やっと来おったか、待ちくたびれたぞ!」

「直ぐそこまで来ているようですが、如何いたします?」

「聞くまでも無いわ! "シューター"の準備を急げ! 一人も逃すなっ!
 偽公女の首を取った者には、報酬は思いのままだぞ……ッ!!」


リンディスを討つべく駐屯していた数十名のキアラン兵達を纏める隊長は、
伝達を受けた側近に内容を報告されると、目の色を変える。

そして部下にリンディス討伐を指示し、とある"兵器"の準備を急がせる。

……それが自分達にとって、間違っている事なのだと知りながらも。


……


…………


キアランの部隊長であるヨーギが報告を受けたとき。

キアラン兵達よりもそんなに距離が無い地点で、ニルスとニニアンが"シューター"による危険を察していた。

よって皆は急停止し、一旦馬を下りてランスを中心に集まる。


「"キケン"ってのは何だ? ニニアンちゃん。」

「今のところ、何も見えませんけどねぇ?」

「でも……強く感じます。 40名以上の気配と……もうひとつ、矢を放つ特殊な兵器……」

「兵器だとォ?」

「ケント、もしかして……」

「……恐らく、"シューター"だろう。」

「やっぱりか~、ラングレン殿も必死だな。 あんな物まで持ち出してくるなんて。」

「なんなんだ、そりゃ?」

「遠距離に一度に"数十本もの矢"を射出できる兵器です。
 近付いてしまえばどうと言う事はありませんが、これは厄介ですね……」

「下手な弓矢も、数放ちゃあ当たるか。」

「セイン、ケント。 何か判る事は無いの?
 キアランの騎士である貴方達二人の情報だけが頼りよ。」

「う~ん……シューターを任されてるって事は、相手はヨーギ隊長でしょうね。」

「そうだな、数を考えても相手はキアランの一般歩兵でしょう。」

「セイン、下っ端の実力はどれ位なんだ? "黒装束"以上って事は無いと思うが。」

「正規兵で無ければ、カートレーの街で襲って来た連中と変わりないでしょうねぇ。」

「ヨーギ殿はラングレン殿の部下でもありますが、腕が立つと言うわけではありません。」

「成る程な……まぁ、それだけ判りゃあ十分だぜ。 でかしたぞ、ニニアンちゃん!」

「い、いえ……」


シューターとはケントの言った様に、30~40本もの矢を一度に射出できる兵器だ。

"あちら"のチューリップやゴリアテ等に比べれば大した事は無い兵器だが、
"こちら"においては一台あるだけで戦況を変える事が可能なとんでもないモノだ。

ドラゴンナイトやペガサスナイトの一団が襲ってきた時、
人の手による弓だけでは手に余るので開発された兵器だが、当然陸戦においても重宝する。

しかし非常にコストが高いので、リキアでは一つの領地に一つや二つ程度しか存在しない。

それだけでなく、40名以上のキアラン兵が待ち構えているようなので、
山賊達との戦いと比べれば、苦戦は必至になるだろう。

……かと言って、ランスにとってはどうと言う事では無いので、
うろたえる様子も無く、何時ものように偉そうに腕を組みながら話を切り出す。


「それじゃ~これから俺様が作戦を告げるワケだが、その前に言う事がある。
 まずはセインとケント、相手は同僚になるようだが、構わず叩き斬れ。
 うろたえる事は許さんからな?」

「大丈夫ですよ、こうなる事は判ってましたからね……」

「御心配なく。 あそこに居ると言う事は、ラングレン殿に寝返った者達なのでしょうから。」

「俺様がお前らに"最初に言った言葉"を忘れんじゃね~ぞ?
 ……で、他の連中だが、相手の数は三倍だ。 逃げるなら今のうちだぜ?」

「…………」

「…………」

「へっ、それなら勝手にしな! まずはシューターをどうするかだが――――」


ランスがリーザス王になって反乱が起きた時、戦場では味方同士が殺し合う羽目になった。

しかしバレス・リック・ゴルドバ等、皆手加減する事無く相手を叩き伏せていた。

リンに忠誠を誓う者として、それができなければセインもケントも騎士とは言え無いのだ。

よってまずはそれについてセインとケントに釘を刺しておき、
次にウィルやドルカス等、傭兵として此処に居るメンバーにランスは視線を送った。

……だが、ウィル・フロリーナ・ドルカス・セーラ・エルク・ラス・ルセア・レイヴァン。

誰もその場を動かず、普通なら立ち去るものだが、やはりランスとリンの存在が大きいと言える。

それを彼は当然のように受け止めると、組んでいた両腕を腰に移すと、再び口を開くのだった。


「ところでセーラ、君さっきからどうしたんだい?」

「……え、何が?」

「今朝から珍しく大人しいじゃないか、怖いんだったら帰った方が良いよ?」

「う、うるさいわね……私は今日も、絶好調よ~。」

≪どよ~ん≫

「……(……何処が?)」

「(まさかあの二人が"あんな関係"だったなんて……どうすりゃ良いのよぉ……)」


……


…………


「ふん、どうやら我々に気付いたようだな……
 良いか!? シュータの射程に入ったら、直ぐ矢雨を放て!!」

「はっ!」

「それだけで相手は浮き足立つだろう……その後は全員で突撃を掛けろ!
 小娘の生死は問わんとの事、皆殺しにするのだッ!!」

「はっ!」

「……んっ? あれは何だッ。」

「ヨーギ様! 一騎のペガサスが近付いて来ますっ!!」


≪バサッバサッ、バササッ……!≫


「フロリーナちゃん、行くぜぇ~っ!?」

「は、はい……怖いですけど、頑張りますッ……」


――――――――後編に続く――――――――



[2301] ファイアーエムブレム=鬼畜の剣= 8章(後編)
Name: Shinji
Date: 2007/01/06 15:19
■第八章:謀略の渦(後編)■


"ヨーギ"という青の全身鎧を身に着けている、口髭の男が纏めるキアランの歩兵隊。

彼らのこれからの任務は、"シューター射出後に突撃し偽公女の首を取る"という内容だったが、
突然遠方からペガサスが飛んできた事により、早くも対応に困り隊長に指示を仰ぐ。

本来なら後方に数名控えている弓兵に任せるところだが、
シューターで始末すると言う手もある事から、隊長の指示無しに行動に入る事が出来ない。


「ふん、たった一騎のペガサスで何ができると言うのだ。」

「如何なされますッ?」

「多少経費が掛かろうが構わん、さっさとシューターで打ち落とせ!
 ラングレン様は、偽公女一味を全力で潰せとのご要望だッ!」

「……聞いての通りだ、シューターの照準を合わせろ!」

「はっ!」


≪ギイィッ……≫


「……おっ? やっぱり狙ってきやがったか。」

「そうみたい……ですね……」

「フロリーナちゃん、ビビんなよ? 俺様が何とかしてやるからなっ!」

「は、はい。」


段々とキアラン歩兵達に近付いてゆく中、
"シューター"の照準が自分に向いた事を確認したランスとフロリーナ。

そして照準を合わせる者、矢の束をセットする者、射出の合図をする者等……で、
数人がかりで射出準備をも終わらせた事も何となく察すと、
ランスは両足の鐙(あぶみ)に力を入れ、フロリーナの槍を手にそのまま立ち上がる。
(ついでに元気付けの為に、フロリーナの頭をわしゃわしゃと撫でる事も忘れない)

たった一本の矢がシューターから射出されるのであれば距離に余裕があるので避ければ良いが、
何十本もの矢が一度に狙ってくるのであれば、そうもいかないのだ。


「準備完了しました!」

「良し! ……放てぇ!!」


≪――――バシュッ!!≫


ヨーギの合図と同時に、シューターから矢束が射出される。

発射直後は矢は固まっているが、直ぐに広がり、まるで"ショットガン"のように二人へと向かってゆく。

確かにコレならば、数十単位で強襲してくるペガサスナイトやドラゴンナイトの部隊を、
必ず何騎かは撃ち落とす事が可能かもしれない。

……かと言って、ランスとフロリーナが撃ち落されるワケにはいかない。

ランスのことを信用しているとは言え、流石に身体を強張らせるフロリーナの後ろに立つランスは、
飛んでくる矢々に対し、両手に持つ槍をぶぅんッ……と振りかぶると――――


「どりゃああぁぁーーーーッ!!」

≪ばひゅひゅん!!≫


「……わぁ……」

≪パラっ……≫


∞の字に槍を素早く薙ぎ払い、数十本射出された矢のうち、
自分達に当たろうとしていた5~6本の矢を払い落としてしまった。

それにより、フロリーナの口から安堵の声が漏れ、払われた矢が落下してゆく。

もっと距離が近かったり、人の手による矢であればいくらランスでも払い落とせなかった可能性もあるが、
100メートル以上離れた距離でもあった為か、矢のスピードがランスの振りの速さに負けたのである。

シューターの使い方においては100点満点だったのだが、
キアランの歩兵達にとって、相手が想定範囲外の"ランス"だったのが誤算。

ルドラサウム大陸で随一の強さを持つ人間である彼には、"こちら"の常識など通用しない。


「なっ……」

「う、嘘だろ……?」

「馬鹿なッ……シューターの矢を落としただと!?」

「よ、ヨーギ様、どうすれば……」


信じられない光景を目の当たりにしたキアラン歩兵達。

ある者は閉口し、ある者は開いた口が塞がらない。

……それは、隊長であるヨーギも同じだった。


≪――――バササッ≫

「おし、この辺で良いぜ? フロリーナちゃん。」

「あ、あの……ランスさん……気をつけて……」

「がはははは、安心しておけ。 それじゃ~あいつらに合図を出すんだ。」

「わ……わかりました。」

「急げよ~ッ!?」

≪……ばっ!!≫


一方、そのお陰でいつの間にかキアラン歩兵達の真上まで接近できてしまった二人。

どうやら、ランスが一人でその場から飛び降りるようで、
フロリーナは何とか"気をつけて"と、危ない地へと赴こうとする彼に言う。

仲間を気遣う当たり前の言葉だが、フロリーナにとっては"精一杯"の部類に入る会話だ。

それに対し、ランスは意図的にキラリと歯を光らせながら笑い返すと、
多少重量感のある、"鉄の大剣"を肩に、ヒューイの背中から落下していった。

この直後、フロリーナはヒューイを方向転換させると、飛んできた軌道を戻っていった。


「くっ、何時の間にあんな距離まで……」

「ヨーギ様!」

「わかっておる! 弓隊、矢を放てッ! 真下からの矢を払える者などおるまい!」

「はっ!」

「……ッ!? な、何か落ちて来ます!!」

「ひ、人だっ!」

「落ち様ラーーンス、あターーーーっく!!」


≪――――ズゴオオォォンッ!!!!≫


「何が起こった!?」

「た、隊長! シューターがやられました!!」

「何だとッ!?」

「がははははは! エウリード家のエリート貴族っ! ランス様の登場だ!!」

「お……おのれぇッ!! ラングレン様から預かったシューターをよくも……!」

「相手は一人だっ、かかれーー!」


空中から振り下ろされたランスアタック。

その必殺技での一撃は、シューターを粉々に粉砕した。

これで一番厄介な兵器が消えた事となり、遠方のニニアンも"危険"が減った事を感じているだろう。

そんな砂煙の舞う中、"鉄の大剣"を肩に担いだランスが立ち上がる。

……ちなみに、ランスの持っている"鉄の大剣"は、流石に某狂戦士の武器程の迫力はなく、
長さは並みの剣とは変わらず、刃が分厚く広く重くなっているだけなのだが、強度がかなりあり、
このように落ち際によるランスの必殺技が炸裂しても、耐えれる武器のようだ。

さておき、既に周囲を20名程の歩兵が囲んでいるのだが、彼は全く怖気ずいている様子も無い。

かと言ってそれは歩兵達も同じで、複数の兵達がランスに向かって剣で斬り掛かろうとするが――――


≪――――ドンッ!!≫

「えっ……」

「な……っ!?」

「(へっ、やっぱ雑兵らしいな。)」

≪ザッ……≫

「き、貴様ァッ!!」

「死ねぇぇっ!!」

「そりゃ~こっちのセリフ……だ!!」

≪――――ドシュウッ!!≫

「ひ……っ!?」

「う、うわああぁぁッ!!」


まず、左から斬りかかって来た歩兵の二人を大剣の一太刀で、一度に両断する。

そして、それに臆せず右から斬りかかって来た二人の歩兵も、
くるりと方向転換したランスのスイングにより上半身と下半身が離れる。

このたった二回の斬激により、初めて目の前の"落下してきた貴族"が、
とんでもない力を秘める者だと判り、大きく動揺してしまうキアラン兵達。


「えぇい、何をしている!? 早くペガサスを撃ち落とさんかッ!」

「ダメです、既に射程外です!」

「そ……それよりもヨーギ様ッ、ペガサスから落下して来た男が……」

「そんな事は判っておる、さっさと始末せんか!」

「しかし尋常ならぬ強さです! す、既に10名以上が殺られておりますッ!」

「!? ぬぅっ……矢を落とした時点で尋常では無いが……そ、それ程だとは……
 やむをえん! これ以上被害が出る前に下がれッ、弓兵は"あの男"に狙いを定めよ!」

「はっ!」

≪ギリリリッ……≫


ヨーギのキアラン兵達の編成は、40名。

その内、25名が歩兵、5名がシューター兼歩兵、残り10名が弓兵となる。

どうやら兵の質は悪いのか、既に十数名の歩兵がランスによって倒され、
未だに彼は暴れまわっているが、10名の弓兵がヨーギの指示を受け、狙いをランスに定めていた。


「がはははははッ!!」

≪ざしゅぅッ!!≫

「ぎゃああぁぁっ!!」

「(シューターさえ壊しゃあ烏合の衆かよ、こりゃ~俺様一人でも……)」

「……ってぇい!!」

≪バヒュヒュッ!!≫

「うぉ……ッ!?」

≪――――ドスッキィンッドスッ!!≫

「や、やったか!?」

「迂闊には近付くな! 第二射撃、構えッ!」

「はっ!」

「ちィッ……(そうでもなかったかもなぁ……)」


剣を持った歩兵達は、ランスが恐ろしくなり、距離を取るしかなかった。

それにより、ランスが最後の歩兵を倒した時には、周囲に立っている者はおらず、
15名ほどの歩兵がランスを囲むように腰を引きつつ剣を構えているだけだった。

しかし、それが弓兵に矢を射らせる絶好の機会となり、ランスに向かって十本の矢が放たれる!

それに対し、ランスは反応したものの若干遅れ、咄嗟に"鉄の大剣"を盾に構えて防御したが、
右肩と左足に矢が刺さり、ランスはザシャりと右膝を地面に落とした。

これはダメージによるものダケでなく、落下時による衝撃も重なっていた。

……どうやら、隊長であるヨーギは、優秀では無いが、無能と言う訳でも無かったようだ。

しかし……優秀でなければ、できるのは此処までと言ったところだろう。


「よ、ヨーギ隊長ぉ~ーッ!!」

「むっ……今度は何だっ?」

「リンディス……いえ、偽公女の連中が、打って出てまいりました!!」

「な、何ィッ!? いかん、陣形を整えろ!!」


……フロリーナが"戻って"くる。

それがランスがリン達に指示した"突撃"の合図だった。

よって、セインとケントを先頭に、馬に二人乗りしたリン達も遠方から走ってくる。

そのスピードは速く、ヨーギが彼女達に対しての陣形を整える前に接触し……


≪ドドドドドドッ……≫

「キアランの騎士、セイン! いくぞ~っ!?」

「同じく、ケント! 参るッ!」

≪――――ガガシュ……ッ!!≫

「ぐわああぁぁっ!!」

「おのれ、裏切り者めッ!!」


セインは槍で、ケントは剣で。

最初の突撃の交差で、しっかりと二人は一人づつをあの世に送った。

しかしたった2騎なので即10名程の歩兵達に囲まれてしまうが、
セインとケントの突撃中に、やや後方で馬を下りたリン・ドルカス・レイヴァンが走り込み、
二人が相手をしきれていない歩兵に斬り込んで、援護に入った。

そして後衛のウィル・エルク・ルセアが漏れた歩兵に矢や魔法を叩き込み、完璧である。
(フロリーナは別の場所で、ニルスとニニアンの護衛を任されている)

馬上で弓を操れるラスに至っては、かなりの距離があるキアランの弓兵を次々に仕留め、
逆にラスまでの距離が射程外である彼らは大きく動揺し、まるで役割を果たせなくなっていた。

……こうなれば、もはや今のキアラン兵達に勝つ手段は残されてはいない。


「くそっ……引け、引けェいッ!!」

「逃げろ、撤退だーーっ!!」


よって、もはや適わぬと判ったか、ヨーギは兵たちを引かせる。

勝てないと気付いた以上、これ以上被害を出す必要は無いのだ。

こうして、彼らは誰も倒せる事なく7~8割の兵とシューターを失い、敗走したのである。


「(ほう……レイヴァンってのも、まぁまぁやるな。)」


……対してリン達の被害は、ランスが多少怪我を負った程度で済んだと言う訳だ。

ランスは右膝を付いた格好から動けていなかったが、
正しく言うと、既に自分が動く必要は無いと感じたか、リン達の戦いを見ていたダケだった。

そろそろキアランの正規軍との戦いが近付いて来ているし、
彼にはリン以外の者の実力をもそれなりに見極める必要があり、
それ以前に、"この程度"のキアラン兵達が相手なら、捌いて貰わなくては困るのだ。


……


…………


……十数分後。

ヨーギの部隊を撃退した一行は、戦場から少し離れた場所でキャンプを開いていた。

戦いが終わったと言ってもこの規模になると"戦後処理"と言う物があり、
相手が残した武器や物資(戦利品)など、確認しなくてはいけない事もある。

よってランスの指示によって殆どの男性陣がシューターの残骸辺りを調べている中、
唯一怪我を負ってしまったランスは、セーラーの杖による治療を受け終わろうとしていた。

片膝を付いているランスを発見したリンの慌てっぷりはなかなかのモノだったが、
只単に彼はリン達を観察していて動いていなかっただけなので、今後の戦いには支障は無い。

リーザス王として何度も戦場に出ていた彼にとっては、
手足に矢が二本刺さった程度の傷は、どうという事も無いのだ。

ランスは見かけによらずかなりの筋肉を持っており、
矢が彼の皮膚を大して貫けていなかったという事も軽傷の理由としてある。

そんな木陰で腰を降ろしている彼の周囲には、リン・フロリーナ・セーラ・ニニアンと、
小さなハーレムが出来上がっており、今現在は唯一の衛生役であるセーラがランスに包帯を巻いている。

"昨日見たこと"を考えると自然と頬が赤くなってくるが、
自分の役割を果たさない訳にもゆかず、ランスと接する今のセーラは"いつもの"彼女だ。


「ランス様~、大丈夫ですか~? ぐる ぐる ぐる。」

「おろおろ……」

「がははは。 そんなに心配しそうな顔すんな、フロリーナちゃん。
 俺様は英雄だから、この程度の傷なんぞ屁でもないぞ。」

「ランスさんったら……英雄と矢傷は別物でしょう?」

「……(本当に、不思議な人……)」

「(う~む、思ってみりゃあ、女に囲まれるのも久しぶりだなぁ。)」

「おっ! シューターまで始末できましたか! 凄い、凄いっ!」


……包帯を巻いていたセーラの反対側に居るリン。

リンの横でランスを心配そうに気遣っているフロリーナ。

そして、少し距離を置いて立ち尽くしながら、ランスを見下ろしているニニアン。

前途の通り彼の傷は持ち前の丈夫さから大した事は無いのだが、
現在の状況が気に入ったのか、素直に女性達の介抱を受けていたランス。

しかしそのひと時も長くは続かず、何処からか、ここ数日偵察に出ていた"マシュー"が現れた。

空気を読まない登場だが、躊躇っていては何時までも経っても出てこれないので、仕方ないかもしれない。


「何だ、マシューかよ。」

「あ! あんた、今迄どこ行ってたのっ?」

「戻ってきたのね、で……どうだった?」


そんなマシューの登場で、ランスはあからさまに怪訝そうな顔になった。

また、男性恐怖症(ランスのみ例外)のフロリーナはビクりと身体を震わせて距離を取り、
ニニアンもあまり男性と話す事は慣れていないのか、一歩下がる。

そしてセーラは同じ主君に仕えるオスティア出身で、マシューの後輩にあたるのだが、
いきなり"あんた"呼ばわりして礼儀がまるでなっていない。

勿論、始めの内は注意したものだが、言っても無駄だと大分前から理解しており、
彼女達の行動を当たり前のように流すと、人当たりの良い笑みを浮かべながら口を開く。


「町で色々と情報収集して来たんですけどね。 色々な事がわかりましたよ。」

「! 聞かせてッ。」

「それじゃ~、まずはキアラン候の病気の話。 これは真実なようで――――」

「(面倒臭ぇな、また長くなりそうだ。)」


……


…………


マシューが抱えてきた情報は幾つもあった。

それらの殆どを、相変わらずランスは真面目に聞いていなかったので、また要点だけを纏めよう。

まずは、キアラン公爵・ハウゼンの病気について。

これは本当のようであり、既に三ヶ月は寝込んでいるらしい。

だが……それは病によるものでは無く、何者かに"毒"を盛られている為の病気であると言う。

その張本人が誰かとは、町の人々は怖がって滅多やたらに口にする事は無かったが、
マシューが酒場の人間に金を握らせて聞き出した情報によると、
"その者"とは、ハウゼンが病気になった途端に、我が物顔でキアラン城を仕切っている……


「――――候弟、ラングレン。」

「……ッ! どうしてっ? どうしてそんな事が許されるのッ!?
 おじい様は、毒を盛られていてその犯人もわかってる!
 なのに、どうして……どうして誰も辞めさせないの!?」

「リン、落ち着け~ッ。」

「……ッ……」

「証拠が無いんスよ。 民のウワサだけじゃあ、どうにもなりませんしね。
 それにマズいことに、証言できそうなキアラン侯を慕う家臣たちは、
 ここのところ姿を見せなくなったという事です。」

「口封じまでしてんのか、ご丁寧なこったな。」

「……っていうか、良くそんなんで領主なんかになろ~としてるわよねぇ?」

「全く。 でも、最悪な報告は、ここからですよ……」


マシューの話を聞いて、流石に怒り出すリン。

反面、王様をやっていたとは言えど、決して"まともな王"では無かったランスは、
"ふ~ん"と普通に聞く事ができており、リンを所々宥める役にもなっていた。

確かに、こんな所で一人で怒っても、何の解決にもならないのだ。

……だが、次のマシューの"報告"で再びリンは怒り出す事になる。


――――キアラン侯爵の孫娘を名乗るニセモノが現れた――――


リンの存在を恐れるラングレンは、領地中にこう振れ回っていた。

また"裏切り者"のケント、セインの両騎士がニセモノの公女を連れ、
"キアラン城の乗っ取りを狙っている"という、悪役のシナリオまで作っていた。

……リンにとって、自分が"キアランの公女"であるという証明は、
ハウゼンの妻であったリンディス(同名)そっくりのリンの"顔"なのだが、
証明できる"者"あれど"物"は何も持っておらず、似た娘を連れて来たと言われればそれまで。

セインとケントの"騎士の誓い"も、"裏切り"という言葉で何の意味も持たなくなるのだ。

そうなれば……リン自身がキアラン公爵に直接会う事しか、自分を証明する手段が無い。


「だったらさっさ城に行こうぜ。 死んじまってからじゃ遅ぇんだろ?」

「そうよ! 時間がな無いわッ! ……お会いする! 例え、力尽くでも!!」

「……それしかないスかね。 でもいきなり城を攻めて、
 近くの領地から"援軍"がきたりすると厄介ですねぇ。」

「今の頭数だけで攻めんならともかく、傭兵でも雇って攻めんなら、
 それなりの人数になっちまうだろうしな。
(それなりにデカかったカートレーの城も楽に落ちてたし、
 俺様が居りゃあ今の面子で落とせない事も無いかもしれんが……しんどそうだ。)」

「うん、流石に十数人でお城を落とすなんて無理だろうし……
 それ以前に、いくら傭兵を雇っても、キアランの騎士団を相手にできるかさえ判らないのに、
 援軍なんかに来られたら、勝ち目なんて……」

「世間的にはこっちが"悪者"ですからねぇ。」

「……ッ! そうだわ、エリウッド……」

「エリウッド? ……あぁ、あの"坊ちゃん"がどうかしたのか~?」

「ランスさん。 彼なら話を聞いてくれるかもしれない。
 今ならまだ、カートレーの村に居る筈だし……」

「成る程! エリウッド様に頼むのは、確かに良い案かもしれないスね。」

「でもカートレーまで戻んだろ? めんどいな。」

「ら、ランスさん! そんなこと言ってる場合じゃ……」

「リンディス様、大丈夫ですよ~? その為にマシューが居るんじゃないですか、ねぇ?」

「ハァ、やっぱそうなんのか?」

「あ……あの、平気……なんですか?」

「一応エリウッド様とは面識がありますからね。
 二日待って貰えれば、キアランの城に出発しても大丈夫なようにして見せますよ。」

「何だ、思ったよりも役に立つんだな、お前。」

「へへっ、褒め言葉として受け取っておきますよ。 それじゃっ!」


話の流れにより、近隣の領からの援軍を止める為の助力を借りる為に、
ランス達の変わりに、マシューがエリウッドの元へ赴く形で話が纏まる。

本来ならば礼儀としてリンが行くべきなのだが、時間がそんなに残されてはいない。

よって一番身軽なマシューがカートレーの村に戻る事となり、
この時点で初めて彼が"有能"な男だとランスは気付いた。(←ハッキリ言って気付くの遅い)

それを悪くは思わなかったマシューは、再び人当たりの良い笑みを浮かべながら、
まるで盗賊とは思えないような身のこなしで、その場から姿を消した。


……


…………


「…………」

≪ぼ~~っ……≫


……数分後。

ついさっきまでランスが背を預けていた木陰に、セーラが一人で腰を落としていた。

彼女の視界には、まず戦後処理から戻って来た男性陣に先程の話をしているリンと、
リンの後ろで相変わらずビクビクとしているフロリーナの姿。

次に、リン達から少し距離を置いて夕飯の調理をしているウィルと、
彼が作り終えた幾つかの食事を摘み食いして、"やめてくださいよ~"と注意されているランス。

そして、その様をみて笑っているニルスと、直ぐ傍に居る複雑な表情のニニアン。

13名全員がセーラの視界に入っている訳だが、やはり彼女の焦点はランスに合っていた。


「……(ホントどうしよ? これから……)」

「おい。」

「きゃっ!? ち、ちょっとマシューッ? あんた、何でまだ居んのよ!?」

「準備が終わって、これから行くんだっつーの。 それよりも。」

「な、何よ?」

「聞いてたろ? タイムリミットは、後二日だぜ。」

「……ッ!?」

「キアランの城に向かい始めちまったら、もうチャンスなんて無さそうだろうしなぁ。」


ついさっきまで、ボーっとランス達を眺めているだけだったが、
ようやく昨日の事を思い出すと同時に"これから"について考えようとした矢先。

突然、木の反対側からマシューの声が聞こえ、それにセーラはドキりと反応した。

彼はまだカートレーには向かっておらず、一抱えの荷物を背負っていた。


「それじゃ、あんたもやっぱり……」

「こればかりは"どっち"かわっかんねーけどな。 まぁ、言いたかったのはそれだけだ。」

「…………」

「安心しな、お前がエウリードと無関係でも、骨は拾ってやるからよ。」

「ば、馬鹿なコト言ってんじゃ無いわよッ!
 もし関係無かったからって、私は列記としたエトルリアの……!」

「おぉ、怖ぇ怖ぇ。 まぁ、テキトーに頑張んな。」


セーラが思い悩んでいる事は知っての通り、
"ランス"という人間が、エウリード家における自分の兄では無いかと言う事。

それをずっと確認したかったセーラだったが、
彼女はランスと距離を置く事にしており、聞き出せそうな状況が今迄無かった。

そんな内に、目的地であるキアラン城に迫り、残された時間は少ない。

よって同じように、ランスとセーラの関係が気がかりなマシューに煽られたと言う訳だ。


「……ふんっ。(未だに"あの人"に告白できないアンタが、何言ってんのよッ。)」


しかし、彼に言われても言われなくとも聞き問うつもりはあったのだが、
昨日"目撃してしまった"ランスとリンのセックスが、
先程のように、セーラに"ボーーーーッとした時間"を作らせている原因でもある。

セーラがエウリード家の者で、ランスが兄であれば、二人がセックスしていようが咎められないのだが、
普段から見せているランスの女好きな性格は、セインのように中途半端なモノでは無く、
本物だったようで、心の何処かで"ランスに抱かれる"と言う事を意識してしまっていたのだ。

もしセーラがエウリードの者で無かった場合、自分の体を求められる可能性も否定できず、
ランスと絡むリンの顔を、自分に摩り替えてみてはカラダが疼いた。

……だがそうなれば、兄弟という概念は捨ててしまわなければならず、
エトルリアの貴族と言う憧れの"身分"が失われる事となり、
確かにランスの事は好きなのだが、それはそれで悩むところなのだ。


「…………」


さておき、この時点でマシューは去っており、変わらず目の前の光景は続いている。

そんな中でセーラは、ただこれらのか事を考えながら、膝を抱えていた。

相変わらずのデカい口で、ニニアンと会話(セクハラ発言有り)をしている男を眺めながら……


――――外伝に続く――――



[2301] ファイアーエムブレム=鬼畜の剣= 8章外伝
Name: Shinji
Date: 2007/01/20 05:37
●8章外伝の前に●
今回はランスの性格を私なりに考えた上での、強引なランス×セーラなので、
原作のカップリングを大事にする方は読まない方が賢明かもしれません@w@;


ヨーギの部隊を追い払ったその後の野宿では、
ランスはいつもの様にリンとエッチし、彼女も彼との残り少ない一時を味わった。

もし今が"こんな状況"で無ければ、ランスに想いをもっとブツけたいものだったが、
危険な状態である只一人の肉親、ハウゼンの事を考えれば、
真面目なリンにとって、ランスに天秤を傾けさせる訳にはいかなかった。

……さておき、その翌日、リン達はキアランの外れの街中で傭兵の募集を行った。

いくら城がラングレンの支配下になったとは言え、領地全土という筈は無く、
あんな男が公爵となって何の不満も感じない人間ばかりの訳がなかった。

よってセインとケントが中心となって傭兵を少しでも多く集めているのだが、
この時点でランスは、今更になって重要な事に気付いたのであった。


■第八章:外伝■


「う~む……俺様とした事が、迂闊だったぜ。」


傭兵の募集を指示したモノの、ランス本人は昼になっても何もしておらず、
何時もの様に借りた一人部屋の宿でのんびりとしていた。

そうなれば自然と一人で考える時間ができるのだが、その"考える時間"の中で、
彼は"今居るメンバーの中でリン以外とエッチしていない"事に焦りを感じていたりした。

今現在のランスは、ベットの端に腰を降ろし、難しい顔をしながら腕を組んでいる。


「リンの抱き心地が良いもんだから、アイツとばっかセックスしてて、
 他の娘を落とす事を疎かにしちまってたとはなぁ~……」


リンは15歳でありながらも、スタイルが良く、膣の具合も最高だった。

また、普段は誰にでも強気でありながら、自分と2人っきりの時は……というか、
ランスにとっては自分に憧れている少女でしかなく、
自分の"責め"で時より魅せる涙が、ランスのハートを微妙な角度で刺激していたのだ。

彼女のような女性は"あっち"では皆無だったので、新鮮に感じたのか、
リンに夢中になっていたのは仕方ないのかもしれないが、まだ魅力的な女は3人も居るのだ。


「思ってみりゃ~、いつの間にかあと一日しか無ぇじゃねえか。
 それ以降はゴタゴタしそうだし、あと一人位は頂いておかねぇとな~。」


目を瞑って考えている仕草は、傍から見ると真剣だが、考えている事はロクでもない。

かと言ってランスにとっては重要な事であり、この旅で出会った残り三名の顔を思い浮かべる。

フロリーナ・セーラ・ニニアン……どの娘も、ランスがつけた得点はかなり高い。

イキナリその中の一人を選べと言われれば彼は2時間以上は迷うだろうが、
今迄の旅での出来事を考えてみると、案外と早く彼は決断に至った。


「……良し、それじゃ~あの娘にするか! 善は急げだぜ、がはははは!!」


……


…………


たまたま、なんとなく、なりゆきで。

そんな些細な事がキッカケとなり、大きな物事へと繋がる。

……人生とは、そう言うモノだ。

セーラにとってもそれは同じであり、カートレーの村の宿を、
リンと共に出てゆくランスが気になって"なんとなく"後を追ったダケだった。


「(始めはただ……訓練でもしてるだけだと思ってたのに……)」


リンが不器用な性格の女性であると言う事は、誰にでも予想できる。

よって、辺りが暗くなり剣の訓練が終わろうとしている頃、
"なんだやっぱりか"と解釈し、セーラは気付かれる前にソコから離れようとしたのだが……

――――突然リンがランスに腕を掴まれ、茂みの方へと連れ込まれた。

それにハッとなったセーラが、声を潜めて様子を伺ってみると、
リンは後ろからいきなりパンティーを下ろされ、簡単な愛撫をされると、
セーラが口をパクパクさせてる間にランスのハイパー兵器を突っ込まれていたのだ!

しかしリンは抵抗する様子も無く、喘ぎ声までも響かせ、
あれはまさに、男と女が快楽を求めて行うセックス以外の何物でもなかった。

それが判った直後、セーラはその場から逃げ出してしまったが、
ランスとリンが何食わぬ顔をして戻って来たのは、彼女が戻ってから30分後だった。


「(2人はどんな関係なのッ? わからない……)」


リンとフロリーナは傭兵の募集により外出しており、
ニニアンとニルスの部屋は別にあるので、広い部屋の中で一人考えているセーラ。

かといって何度考えても答えは出ず、真実を知りたければランス本人に聞くしかない。

セーラがエウリードの人間であるかと言う事も、彼の答え無くして判らない。

しかし……その時間も残り少なく、どうにか決意を固めようとしているセーラ。

普段の彼女であれば、どんな切羽詰った事であれど楽天的な性分あまり、
自分本位な行動を取る……いわゆる即聞くのだが、今回の件ばかりは素の自分との戦い。

今の無邪気な性格も、辛い孤児院生活との節理として築いたものなのだ。

そんな訳で、未だに一人休んで居るハズのランスの部屋に訪れるのを渋っていると――――


「セーラちゃん! 居るかーッ?」

「……っ!?」

「居ないのか~っ?」

「あっ! います、いますっ!」

≪――――ガチャッ≫


なんの唐突も無く、問題の男の声がドアの向こうから聞こえてきた。

それにより慌ててその方向に振り返ったセーラは、ドアまで走ってノブに手を掛けた。

するとそこには、腰に両手に当てて仁王立ちしているランスの姿があった。

ノックをしていなかったのもこの為であり、自分では格好よくキメているつもりらしい。


「おっ、一人か。(こりゃ丁度良いなッ。)」

「え、えぇ……サボってた訳じゃなくって、どう言う訳か……あはは。」

「ん? そんな事を言いたかったんじゃないぞ。」

「…………」

「ちょっと色々と話したい事があってな……来て貰うぞ。」

「は、は~い……」


心の中でどう思っているのかは別としてだが、
ランスはふと渋い顔をして、セーラに付いて来るように言った。

そんな彼の"話したい事"の内容が安易に察せたセーラは、素直にランスの後を追って行った。

この時のセーラは柄にも無くかなり緊張しているが、"嬉しい"という気持ちも高かった。

まだ"本当"かどうかは判らないが、ランスは行き倒れるまで自分を探してくれており、
こうして今も自分が尋ねる前に、彼から訪れてくれたのだから。

繰り返すがあ・く・ま・で、心の中でランス本人がどう思っているのは別として……


……


…………


「ここだ、ここにでも座れ。」

「…………」

≪ぽすっ≫


多少距離のあるランスの部屋までやってきたセーラは、彼に促されて部屋に入る。

そして、すぐさまベットに腰掛けたランスがバシバシと叩いたすぐ左側に座った。

ただ話をするだけにしては距離が近すぎるかもしれないが、
王様の時のランスにとっては定石だったので、当たり前のように言ったつもりだ。

対してセーラも緊張しているのか、こんな事など疑問にすらならなかった。

……で、状況はどうかと言うと、少しの間だが沈黙が続いている。


「(う~む、勢いで連れて来ちまったが、どうやって頂こう……
 セーラちゃんは、俺様が兄貴だと思ってるハズだしな。)」

「(い、言うのよっ、私っ! ちゃんと聞くのよ!)」

「(まぁ、話さなきゃ始まんねぇか……成るようになるぜ。)」

「あ、あのっ!」

「んっ? なんだ?」

「単刀直入に聞きますけどッ……ランス様は、私のお兄さんなんですかッ?」

「こりゃまた、唐突だな。」

「い……言ってましたよね? ランス様は、生き別れの"キョウダイ"を探してるって。」

「ああ。」

「そんな旅中……オスティアの修道院……兼、孤児院を尋ねた時、
 "その孤児"は既にオスティアに引き取られてたって……」

「うむ、骨折り損だったな。」

「で、その後……ベルンに向かったって聞いた"キョウダイ"を探しに行ったら、
 迷っちゃって、行き倒れて、記憶喪失になっちゃったんですよね?」

「そんなとこだな。」

「え~っと……その探してる"キョウダイ"が~……」

「…………」

「わ、私の事だと思うんですけど……」

「……なんでだ?」


上目遣いでランスを見上げながら、遠慮がちに言うセーラ。

ランスの口から言って貰うのも良かったが、訪ねてきたのは彼なので、
この聞き出しは自分から言わなければならない、という気持ちがあった。

しかし言ったら言ったで、内容はハジけているので、"あはは…"と苦笑いをしながら、話を続ける。


「私……赤ん坊の頃、オスティアの孤児院に預けられたんです。
 その頃は食べる物も、着る物もロクに無くて、凄く苦しかったけど……
 一応真面目に暮らしていた事もあって、オスティアの人達が私を引き取ってくれたんです。」

「"真面目"に……ねぇ。」

「はい。 そうすれば、エトルリアの……美形でお金持ちで優しい両親が、
 私を迎えに来てくれるって信じてましたから。」

「……(ツッコむところなのか?)」

「でも……何時からか、薄々思うようになりました。
 私はただの戦災孤児で、"自称"エトルリアの貴族の娘なんだって。」

「ふむ。」

「そんな時……現れたのが、ランス様なんですっ!
 助けてくれた時から、何かくるモノがあったんですけど……
 記憶が戻った時の話で、私は本当にエトルリアの人間で、
 あの"エウリード家"の人間なんじゃないかって考えるようになったんです。」

「…………」

「ランス様がサカで行き倒れた時、丁度私、ベルンに居た筈だし……
 話の辻褄も、合ってたような気がして……」

「……(成る程な、やっぱりそう思ってたか。)」

「だ、だから……私はランス様の~……」

≪もじもじ≫

「……(だが、この時点で認めちまったら、君を頂けなくなっちまうのだよ。)」

「妹なんじゃ、ないか……って……」

「そうだな、そうかもしれん。」

「え……っ!?」

「根拠は何も無ぇんだけどな、始めて見た時、何となくそんな気がした。
 セーラちゃんが、俺様の生き別れの妹なんじゃ無いかってな。」

「じ、じゃあ! やっぱり私はエトルリアの貴族だったんですねっ!?」


自分の境遇を説明するセーラだが、ランスはコスモスに彼女の過去は聞いていた。

"貴方がエウリード家の人間と名乗る事に関して、都合の良い人間が居る"と、
セーラを身分の糧として利用する事を予め促されていたのだ。

しかし……利用せずとも、ランスのインパクトが強かった所為か、
リン達は彼をエウリードの者と既に信じ切ってしまっているのだが、
"生きる証拠"であるセーラの存在は、有って都合の悪くなる者ではない。

マシューはランスの言葉だけで信じ切れていなかったが、
生き別れの者がセーラであると考える事で、納得したという事実があるのだ。

かと言って……ランスにとってはそれらは"どうでも"良く、
ルドラサウム大陸から来た彼が、セーラの兄である可能性なんぞ有るワケが無い。

要はセーラとエッチできれば良いダケなので、
ランスの肯定にパァっと明るい表情になってしまったセーラに言う。


「こらこら、早とちりするなッ。 かもしれねぇダケで、
 まだ決まった訳じゃ無いぜ? 重要な"証拠"が無いだろうが。」

「うっ……」

「それよりも――――」

≪ギシッ……≫

「きゃっ! ら、ランス様ッ!?」


相手がランスでなければ、ここで"感動の再会"の抱擁を済ませ、終わっていただろう。

……だが、セーラの喜びを"早とちり"と言って止めると、
ランスは動きが止まったセーラの肩を掴むと、そのまま押し倒した。

それに慌てた様子で自分を見つめるセーラに対し、ランスは口を開く。


「……セーラちゃんは、それで良いのか?」

「な、何がですか?」

「俺様が兄貴で、良いのかって事がだ。」

「あ、当たり前じゃないですかッ……
 家族に迎えに来て貰うのは、私の夢だったんですよ……」

「そんじゃ~、もし兄貴の俺様がエトルリアの貴族じゃなくても、良かったんだな?」

「そ、それは……そのッ……」

「むむっ……セーラちゃん、今迷っただろう?」

「えぇっ?」

≪すっ……≫ ←セーラから身を離す。

「そうか~、やっぱり俺様が兄貴なんかじゃ嫌か~。」

「ちッ、違いますよ! ランス様の顔が近くにあったから、驚いただけで――――」

「ところで、話は変わるんだが。」

「……っ?」

「最初、やたら俺様に懐いてくれたよな?」

「えっ、あっ、はい……あの時のランス様、すっごく格好良かったから……
(半分は"玉の輿"狙いだったなんて事は言え無いけど……)」

「そん時のセーラちゃんにな、俺様は結構、興奮しちまっていたのだ。」

「!? ま、まぁ……その気持ちは、判らなくも無いですけどねっ。」

「そんなセーラちゃんが、俺様の妹となってしまう。 これは非常に残念だ。」

「残念ッ?」

「うむ、残念。 確かに、セーラちゃんみたいな娘が妹になるのは嬉しいぞ。
 しかし俺様は、可愛い娘は必ずゲット(=セックス)すると決めているのだ。
 それなのにセーラちゃんが妹になってしまえば、俺様は何もできなくなってしまう。」

「って事は、つまり……」

「その通り、セックスしよう。」

「~~……!!」


ランスの言葉に、顔を真っ赤にして呆気に取られるセーラ。

幾らなんでも、ここまで正直に言われると言葉すら出てこなくなる。

実際の血の繋がりは皆無でも、この辺は二人は似ているかもしれない。

彼は到って当たり前のことを言ったつもりなのだが、セーラは沈黙の後、苦笑した。

……エウリード家のランス……妹と恋人。

この狭間で毎日悩んでいた自分だったが、こうも正直なランスの言葉に、
真剣に考える事が馬鹿らしくなってしまったのだ。

同様に、リンがランスとセックスしていた事も、些細な事と思えてしまう程に。


≪くすっ≫

「なんだ、どうした?」

「あははは、良くそんな事言えますね~。
 これからお互い、兄妹になるかもしれないんですよ?」

「大丈夫だ、俺様が認めないと兄妹は成立せんからな。
 それに認めても、血の繋がりが有るとは、結局は言い切れんぞ。」

「それはそうですけど……」

「まぁ、細かい事は良い。 セックスしよう、セックス。」

「……(でも、私はもう……)」

「ありゃ、もしかして嫌なのかッ?」

「いえ……わかりました。 リンディス様をメロメロにしたテクニック、みせてくださいね?」

「むっ? ッて事ァ――――(見られてたか)」

≪ずいっ≫

「正~直に言ってくださいッ、リン以外の娘とは、エッチしたんですか!?」

「いや……フロリーナちゃんとニニアンちゃんとは何も無いぞ。
 リンとは……多分、キアランまでの付き合いだ。」

「……そうですか。(三番目とか四番目じゃあ、なかったのね)」

「じゃあ、犯るぞ~。 良いんだな?」

「はい、優しくしてください。 んっ……」

≪ギシッ……≫


セックスした後に、妹にすれば良い。

それは、セーラとエッチしたいランスの、超自己中心的な考えであり、
詳しく言うと、どう口説こうかと考えるのが面倒臭くなった事から生まれた結論である。

しかしランスという男を、異性とも兄とも見ていたセーラにとっては好都合であった。

相手が彼で無ければ未だにその狭間で悩んでいたかもしれないが、
セーラはランスの我侭を受け入れ、唇を奪われると、再びベットに押し倒された。


……


…………


久しぶりに、他の女を抱ける。

その女の性格はある意味良くとも悪いとも言えるが、容姿は90点以上の良い女。

しかも、(ランスにとって)義理の妹という、何とも燃えるシチュエーションだ。

よって興奮を抑えながら、なるべく優しくセーラの服を脱がし、
愛撫してゆく事によって、既に彼女はランスのテクニックに参っていた。

セーラもセーラで、(実際は義理だが)兄に抱かれていると言う興奮があり、
何処を触れられても、彼女は甘い喘ぎを出してランスの心を煽った。


「あんっ、ランス様ぁ……そこぉっ……」

「がはははは、それじゃ~そろそろ御開帳だ~。」

≪ギシッ……≫


お互い裸になり、肌と肌を重ね合う。(ランスだけトランクス着用)

そんな中、ランスはそろそろ頃合だと思ってか、
セーラの両足を掴むと前に押し開き、彼女の大事な部分を露にさせた。

すると視界に飛び込んでくるのは、ピンク色の陰毛と、蜜を僅かに漏らす秘所。


「やんっ、恥かしい……」

「じ~……(う~む、何となくアイツのアソコの似てる気もするな。)」

「ち、ちょっとランス様ッ?」

「んっ?」

「私のデンジャラス・ゾーンに見とれるのも判らなくないですけど、
 何もしないで見てるだけって言うの、趣味悪いですよ……っ。」

「あぁ~、そうだったな。 それじゃ~味見でもするかッ。」

「そんなっ……」

「(まずは、漏れてるのを……)」

≪ぺろっ≫

「ん……っ!」

「うむ、良い味だッ。」


一旦押し開いた足から手を離したランスだが、
セーラは足を戻さなかったので、嫌がっているワケでは無いようだ。

よって彼は彼女の秘所を両手の親指で広げると、まずは零れる蜜を舌ですくい、
すぐさま割れ目に舌を持ってゆくと、クリトリスをコロコロと愛撫した。

それが暫く続き、突起したのを舌の感覚だけで察すると、
ランスは直ぐ下の、開いたままの割れ目の中に口を埋めた。

……勿論、舌を使ったり、吸ってみたりする事も欠かさず、
彼の口元はセーラの愛液でどんどん濡れていってしまっていた。


≪ちゅっ、ちゅちゅっ、ちゅるっ、ちゅぅ~っ≫

「んぁ! ふぁんっ、あっ……あぁッ!」

「…………」

≪ちゅっ、ずるっ、ちゅちゅっ、ちゅる~っ≫

「ひっ!? そこっ……そこダメぇッ! ふぁ、あ、ア、あっ……!」

「――――ぷはぁっ。」

「ふぁっ……?」

「がははは、もう少しでイキそうだったって顔だな。」

「……ぅっ……」


口元を拭いながら不敵な笑みを浮かべるランスに、
セーラは再び真っ赤になりながら、顔を逸らした。

達しそうだった瞬間に愛撫を止められ、彼の言った通りだったからだ。

……とは言え、ランスも今すぐにでもセーラの中に入りたい気持ちであり、
絶頂に達した後の彼女の余興に付き合う余裕が無く、
早く入れたいが為に、セーラの割れ目から口を離したと言っても良かった。

よってランスはトランクスをスパパーンと脱ぐと床下に放り投げ、
再びセーラの両足を掴むと、ずいっと腰を近づける。

それにより、セーラの目に初めてランスのハイパー兵器が目に入った。


「"セーラ"、それじゃ~入れるぞ?」

「!? あっ……ランス様の……お、おっきっ……!」

「そうだろう、そうだろう? だが、安心しろ。
 最初は痛いだろうが、直ぐに気持ち良くなるぞぉ~。」

≪ぴとっ≫

「いえ、あのっ、私は……」

「がはははは、初モノゲットだ、とーーーーっ。」

≪ずぶぶぶっ……≫

「ふああぁぁ……っ!!」

「むっ?」

≪ぐぶぶぶ……ぶっ……≫

「んあぁっ……奥、までっ……」

「ありゃっ? セーラ……もしかして……」


いつの間にかセーラを"ちゃん付け"で無くしたのは些細な事として。

セーラの初めてを奪うつもりで、ゆっくりとハイパー兵器を沈めていったランスだったが、
特に大きな抵抗も無いまま飲み込まれ、それは膣の奥まで届いてしまった。

よって動きが止まってしまったランスに対し、
セーラは涙を浮かべながらも微笑み、ランスを見上げながら言った。


「ら、ランス様……私、初めてじゃ無いんです……黙ってて、ご免なさい。」

「う~む……誰がセーラの処女を奪いやがったんだッ?
 オスティアの連中か? ぐぬぬ……主君であろうと許せんっ!」

「違いますよ~、初めてを奪われたのは……孤児院・時代です。
 あ、あそこには、とにかくお金がありませんっでしたから……
 私みたいなッ娘が……お金持ちの人達の、餌食になる事がッ多かったんです。」

「なんてこったい……」

「ぐすっ……ランス様……嫌ですかっ? こ、こんな娘が……妹じゃ……」


繋がったまま、会話を続ける二人。

どうやら、セーラは(推定)10代前半の孤児院・時代、
可愛い容姿もあってか、何度か修道院の"資金集め"をやらされていたのだろう。

初めてランスのハイパー兵器を見た時、リンは男性の突起したペニスを見たことが無かったので、
それ相応の驚きをしたのだが、セーラの反応が彼女とは違ったのは、
セーラは処女では無く、ランスのハイパー兵器の大きさ"そのもの"に驚いたからだ。

……さておき、娼婦紛いの事は資金不足の修道院や孤児院だけでなく、
お金が無ければ誰でもやっているような、"こちら"では当たりな事なのだ。

そんな"汚れた自分"を知られたくなかったセーラ。

貴族という身分に就く立場であれば、そんな過去は常識的に有ってはならないのだ。

しかし……こうやってセックスをすれば、必ずバレてしまう。
(ランスに抱かれようとする前に、若干躊躇ったのはこの為である)

もし、セックスをしなければランスにバレる事は無く、
違う手段でランスの妹となる事を考えれば良かったのだが、
何だかんだでセーラは彼に惹かれており、損得無しで抱かれる気持ちも有ったのだ。

かと言ってランスに嫌われたくは無く、今までの様子からは考えられない程、
怯えた表情で自分を見上げるセーラに対し、ランスはしっかりとした口調で言った。

王様の時の自分の立場を棚に上げて、彼女を売った人間達に怒りを感じながら。


「そんな訳、あるか。 "それ以外"で抱かれたのは、俺様が初めてなんだろ?」

「は、はい……」

「なら、問題無いぞ! そんな屑ども相手ならノーカウントだ、良いな~?」

「そ、そうです……私、処女なんですからっ……!」

「うむ……と言う訳で、処女開通式は終了だ。 ガンガンいくぞ~ッ!」

≪ぬる~……じゅぷっ! じゅぷっ! じゅぷっ!≫

「んっ……あっ!? あんっ! ひあぁっ!」


こんな話を続けていると萎えそうだと感じたランスは、
さっさと"この件"についてを打ち消すと、唐突にピストン運動を開始した。

それにより乱れるシーツ、ベットが軋み、肉と肉がぶつかる音……そして、甘い喘ぎ声……

娼婦を抱いて以来、久しぶりの室内でのセックスに、
ランスは全てを忘れてセーラに自分の欲望をぶつけていた。

セーラにとっても、こんなに感じるセックスは生まれて初めてであり、
両手両足をランスの首と腰に回し、快楽に身を委ねていた。

その為か、行為が続くに連れてセーラも理性が飛び掛けてゆき、
"この状況"ではある意味禁句の言葉さえも、遂に出てきてしまった。


≪ずぷっ、ずぷっ、ズプッ、ずぷっ!!≫

「うおぉ~ッ、良い具合だッ!」

「おにぃ……お兄様ッ、お兄様ッ……」

「むっ、むむむっ……むおおぉぉっ……!」

≪じゅぷっ、じゅぷっ、じゅぷっじゅぷっじゅぷっ!!≫

「んあああぁぁぁ……ッ!! ランスお兄様ぁぁーー……っ!!」

「……ッ!? ぐぉッ、出る……っ!!」

≪――――ずるっ≫

「ぁっ……」

≪びゅっ! ビュルッ! ビュビュッ!!≫

「……っ……」

「あ、熱っ……ぅ……」

「ふぃ~……えがった。(これで中に出せりゃ、最高なんだがなぁ……)」

「せ、せ~液っ……いっ……ぱい……」


"ランスお兄様"のあたりでセーラは達し、ランスも直ぐハイパー兵器を抜くと、
セーラのヘソの辺りに皇帝液をぶっ掛けまくった。

リンの時も同じだが、膣出しできないのは残念ではあるが、
セーラはリンにも劣らぬ抱き心地であり、ランスは満足げに額の汗を拭った。

しかし数分後、直ぐに2ラウンド目が開始され、
セーラは苦笑しながらも、ランスとのセックスを受け入れていた。


……


…………


……あれから2~3時間後。

正上位から始まり、色々な体位でのセックスを堪能し終えた時、
セーラはダウンしてしまったので、ランスは早めに共同入浴場へと向かった。

そして、30分後に戻ってくると丁度セーラの意識が戻ったので、
彼女もこっそりと入浴しに行き、夕方になった頃、
ツインテールを解いた姿のセーラが、湯気を僅かに出しながらランスの部屋に戻って来た。

ちなみに、この時点で、セーラはランスの事を"お兄様"と呼ぶ事となった。
("お兄様ぁ"と語尾を僅かに伸ばすのが、彼女がランスを呼ぶ時のポイント)

つまり……セーラは晴れて立派な"エウリード家"の人間となったのである。


≪ガチャッ≫

「お兄様ぁ~、戻りました~。」

「おう。」

「なかなか、良い湯加減でしたねー。」

「がははは、そりゃ~ひと運動した後だからなッ。」


部屋に入るとセーラは直ぐに、ベットの上で寝そべっていたランスに近付く。

そして彼に密着すると、体をすりすりとしながら甘えている。

それだけ貴族となった事が嬉しく、ランスが義理であれど兄であるのが嬉しかった。

その愛情表現は物凄いスキンシップだが、ランスはリアで慣れているのか、動じる様子は無い。

今までのセーラのスキンシップにうろたえ無かったのも、その為なのだ。


「……お兄様ぁ。」

「んっ? なんだ?」

「えへへっ、言ってみただけです。」

「なにをう、こいつめ~ッ。」

≪くしゃくしゃっ≫

「きゃあ♪」

「……っ……!」

「あれ? どうしたんですか、お兄様ぁ?」

「いや、なんでも無ぇ……ところでだが~。」

「はい?」


何となく水気を帯びているセーラの頭を掻き回したランスだが、
その時の嬉しそうな彼女の顔を見て、彼の表情が一瞬固まった。

僅かにしか似ていないが……ピク色の髪に、ランスは"シィル"を思いだしてしまったのだ。

ルドラサウム関連の事を思い出す事は一切無かったが、
コスモスの"例の言葉"は思い出し、表情を改めてランスはセーラに告げた。


「……セーラ、もう俺様とセックスするのは嫌か?」

「えっ? あっ、い、嫌じゃないですけど~……私達はもう……」

「判ってる。 それを踏まえて、嫌か良いかで構わんぞ。」

「い……良いですよ、でも……絶対にバレないようにシテくれるのが条件ですけど。」

「そうか。 それなら、大丈夫だな~。」

「???? 話が見えませんけど……?」


――――貴方のその"能力"で女を強くし――――


  ――――駒として使う事が――――


 ――――"あちら"に戻る糧となる――――


駒として使う気は無いが、確かに一人だけの力だけで"あちら"戻るよりは、
信用できる女とセックスして強くさせれば、旅の助けになる事は間違いない。

今現在ランスの"力"を最も受けているのはリンなのだが、
彼女はキアランの公女という立場なので、今のところ"新たな旅"での仲間はゼロと言う事になる。

ランスが"あちら"に戻る為にはリンは生きていなくてはならない存在のようなので、
キアラン城までの道のりを手伝っているのだが……これから一年後、
直接ランスの旅にリンが絡んでくるかは、今のところは判らない。

つまり、リンを一年後に"ランスの宛の無い旅"に連れ出せるとは断定できないのだ。

……そんな訳でセーラをお供として考えた訳なのだが、彼女の返答でランスは口元を歪めた。

一応セーラは妹と言う立場になるのだが、公では兄妹だとしても、
結局真実は闇の中である上、セーラにもランスにまだ抱かれたい気持ちが有ったりする。

まだ判らないが、只のセックスでなく"強くなるセックス"であれば、尚更だろう。


「な~に、詳しくはキアランの馬鹿どもを片付けてから話すぜ。」

「約束ですよ~?」

「うむ。 それよりも、リン達にセーラの事を話しておかんとな~。」

「あっ、そうでしたね!」

「(まぁ……出発に、一年は待って貰う事になっちまうんだけどな。)」

「うふふふっ……これで私も貴族の仲間入りっ!
 ヘクトル様やエリウッド様の、驚く顔が見物だわーッ!」


上半身を起こし、ぐぐっ……と拳を握り締めるセーラ。

彼女はランスとの出会いによって、大きく運命が変わった一人と言える。

……また、彼が本来セーラとは全く血縁の無い人間であろうと、
エリウッドのように、ランスの存在は一人の女性の"決して叶わぬ望み"を叶えた事になる。

よって、こうして"エウリード家の兄妹"となってしまったランスとセーラは、
暫くして夕食の為に戻って来たリン達に自分達の件を発表し、
それは微妙ながらも雇った傭兵達にも影響を与える事となった。

偽りとは言え、貴族の後ろ盾があるだけで、人はこうも変われるのである。


――――キアラン正規軍と戦いは、翌日だ。



[2301] ファイアーエムブレム=鬼畜の剣= 9章
Name: Shinji
Date: 2007/02/02 15:30
反逆者の汚名を着せられたリン達。

侯弟ラングレンは、反逆者討伐の名のもとに他の諸侯に援軍を求めていた。

諸侯がラングレンに協力すれば、孤立したリンに勝ち目はない。

よってリンはエリウッドを信じ、待った。

そして……


■第9章:悲しき再会■


ランスとセーラが兄妹になってしまった後。

宿に戻って来たリン達にその事を伝えると、当然皆……驚きを隠せなかった。

何せ伝説の貴族である、エウリード家の兄妹と今迄旅をして来た事になるのだから。

それが、いままで散々セーラの我侭に付き合わされていたエルクにとっては、
色々な意味でショックであり、彼女への対応をどうするか迷っていると……


「あっ、エルク。 今迄無理言ってごめんね?」

「え……えぇっ?」

「お兄様の為にも私……もう少し、淑やかになるようにしてみるわ。」

「……えと……じゃあ、これからどう呼べば良いかい?」

「うん? 今迄通りで良いわよ、特別に許してあげるっ。」

「それはどうも……」


……そんな事を言われ、少しの間、開いた口が塞がらなかった。

セーラにとって今迄自分がして来た事、全てが天然な性格から成るモノでは無く、
少しはエルクやその他諸々の人間に我侭を言ってきた自覚はあったらしい。

よって貴族となった以上、それらに関しては謝罪の必要があると感じたのだろう。

エルクにとっては、貴族となった事で更にワガママ度が増すかと考えていたのだが、
そうでは無く、貴族となった事で、元(孤児院時代)のセーラに近付いたと言えるのだ。


「ランスお兄様~、今日は一緒に寝ましょっ。」

「ち、ちょっとセーラ! 何言ってるのよッ!?」

「何ですかぁ、リンディス様~? 折角再会した兄妹が、一緒に寝たら悪いんですかぁ?」

「うっ……わ、悪いってワケじゃないけど……」

「だったら問題無いですよね~、お兄様ッ?」

「がははははは。 まぁ、可愛い妹の頼みを聞かん訳にはいかんからなぁ~。」

「くっ……(そ、そうよ……考えてみれば兄妹なんだから、あくまで寝るだけなんだし……)」


そんなセーラは、兄となったランスにベッタリで、再びリンの嫉妬心を買ってしまった。

常識的に考えれば、兄妹とのセックスはタブーであるのに対し、
リンはランスと何度もセックスしているので、女としてはセーラに勝っている筈なのだが……

リンはランスと青姦しか経験した事が無いので、
同じベットで彼と寝れるセーラを、羨ましく思いでもしたのだろう。

とは言え……リンの考えは甘く、ランスという男に"常識"という言葉は通用しない。

今夜は早くも一時的に"兄妹の関係"をキャンセルしてしまうと、
二人は遅くまでエッチし、お互い裸で抱き合ったままの朝を迎えてしまった。

そして目覚めると……再び兄妹に戻ると言う、何とも"ご都合主義"な二人である。


「お兄様。」

「おう、セーラ。 起きたか?」

「はい。 ところで、私達……これで良いんですよね~?」

「当然だ! いずれ(強くなったのが)分かる時が来るだろうしな。
 それよりも、俺様のハイパー兵器は今朝もギンギンなのだ。 鎮めてくれ。」

「はぁ~い。 ……んフっ……」

「あ、あへっ……」


……


…………


……正午。

マシューの言った通り、二日待つと同時に一行はキアランの城にへと出発した。

その為に抑えなくてはいけないのは、このまま進めばやがてぶつかる、
最後の難関と言っても差し支えない"イーグラー"という将軍の館。

もし彼が倒されれば、ラングレンは必死になって隣接する領地の領主に援軍を求めるだろうが、
今頃エリウッドが動いてくれている筈なので、イーグラーを倒す事にだけ集中できる。

かと言ってイーグラーの率いる軍は、キアラン最強クラスの部隊であり、
本来ならば太刀打ちできない相手だと言っても良かった。


「集まった傭兵どもは50人ってとこか~。」

「うん。 少しでも多く募集したつもりだけど……」

「ランスさんとセーラさんのお陰もあるかな? 思った以上に集まりましたねぇ。」

「それに、金で雇った者も居ますが……中には"反ラングレン派"の者もおります。
 どちらにしろ、頼もしい存在になりそうですね。」

「そうかぁ? 女で腕の立つ奴が居た方が、可愛がってやれもしたのにな~。」

「も、もうっ……ランスさんってそればっかりなんだからッ!」


50名の傭兵団の歩調に合わせて馬を進ませる、マシューを除くランス達14名。

そんな中で、ランスが操る馬の後ろに乗っているリンの二人の左右を、
セインとケントが守るようにしながら話し掛けて来ている。

……彼らの言うように、傭兵の人数は50を越えており、
昨日まで戦える者が実質10名程度しか居なかったのと比べれば、かなりの戦力アップだ。

これがリンにとっては"自分に味方してくれる人たちが居る"と、嬉しく感じた。

勿論、ランスたち旅の仲間の存在も、彼女を勇気付けるのに居無くてはならない存在だった。


≪ダカパッ、ダカパッ!≫

「……お兄さんっ!」

「んっ? どうした、ガキんちょ?」

「もう、その呼び方は止めてって言ってるのに……」

「ごめんなさい、それよりどうしたのニルス?」

「そうそう、此処から先はキケンだよ! 敵が待ち構えてると思うッ!」

「なんだとォ~?」

「教えて、数はどれ位なの!?」


そんな時……後方から慌てた様子で、ニルスとニニアンが馬で駆けて来た。

どうやら、この先の危険を察したようで、それを報告しに来たらしい。

対して当然、危険の内容を言うよう促すリンだが、
ニニアンは少しだけ渋る仕草を見せながら、ランス達にしか聞こえないように言った。


「えっと……その、300程かと……」

「さ、三百ッ! ……ムグッ!?」 ←ランスに口を塞がれるリン。

「うへぇ~、予想はしてましたけど、殆どを集めて来たって感じですねぇ。」

「キアランの最大兵数は1000と言ったところでしょう。
 その半分をラングレン殿が掌握しているとすれば、300あたりが先発隊として妥当な数です。
 残りはキアランの城を守っていると考えるのが定石ですね。」

「ふ~む、ニニアンちゃん。 もうちょい詳しく判るか?」

「そうですね……軍は二つに分かれている様で……100と200でしょうか……」

「布陣は判るか? 大体で良いぞ。」

「100の部隊が前に……200の部隊が"かなり後方"に控えているようです……」

「それじゃ~隊長格は二人居るって事ですねぇ、後方の一人はイーグラー将軍として……」

「もう一人は誰だッ? 生憎、予想がつきませんが……」

「それにしても、変な布陣をしてるみたいね。 一度に300相手にするって事じゃないの?
 "かなり後方"って事は、援護もできない距離なんでしょうし。」

「まぁ、何だって良いじゃねぇか。 まずはたった100だろ?
 こっちは60居るんだ、正面から突っ込んでさっさと敵将を討ち取るぞ。
 そしたら、残りは200になるってワケだ。」


敵の総兵数は、約300人との事。

5倍の兵力差があり、前途のように、本来で無くとも太刀打ちでき無さそうな数だ。

しかし……ランスだけにとっては驚くような人数ではなく、
盗賊時代・負けはしたものの、20倍近い兵力差でありながら、
敵将(ルーベラン)に辿り着くまで後一歩と言う所まで、戦えた事があるのだ。

その時よりもランスは更に強くなっているし、傭兵も居る事から、300という数に怯む様子は無い。

しかも、相手はまだリン達を舐めているのか、いないのか。

折角の部隊を大きく"2つ"に分けてしまっている様であり、これは好都合だ。

ニニアンがそれ以上の危険を察知していない事から、
シューターや伏兵なども無いようなので、さっさと100人の部隊の敵将を討ち取り、
そのままの勢いでイーグラーをも討ってしまえば良いと、ランスは考えていた。

よって、それらを早速部下(傭兵)達に伝えようとした時――――


「ランス、リン。」

「んん~っ?」

「ラス、どうしたの?」

「何者かが……前方から一人で近付いて来ている。」


……


…………


≪――――ガシャンッ≫


「げげっ!?」

「貴方は……ワレス殿ッ!」

「なんだセイン、このハゲたオッサンと知り合いか?」


キアランの騎士隊長・ワレス……アーマーナイト。

坊主頭に屈指の肉体を持っている彼だが、今は引退して畑を耕している筈だった。

しかし、ラングレンの"公女リンディスを語る不届き者を討つべし"と言う命により、
再び兵を従えて、この戦場へと赴いて来たのである。

そして前方に確認したリン達の傭兵団……いつ戦いが始まっても不思議ではなかった。

だがワレスは直ぐに兵に突撃をさせず、なんと一人でこちらにへと向かって来たのだ。
(ラスは兵種柄、目がかなり良いので、いち早く彼の接近に気付いていた)

そんな彼の接近に、顔見知りであったセインとケントは驚きを隠せずにいた。

対してワレスは、リンを自分の前に出すように良い、返答次第では"討つ"とまで出た。

ランスはその言葉で剣を抜こうとしたが、それに気付いたリンは慌てて馬から降りた。

直後、走ってワレスの元へ近付くと……彼はリンの瞳をしっかりと見据え、そのまま口を開いた。


「……ふむ。 綺麗な目をしているな。」

「えっ?」

「わしは三十年騎士として生き、一つ学んだことがある。
 こんな澄んだ瞳をもつ人間に悪人はいない。 ……ふはははははははっ!
 良いだろう、気に入った! わしも、お前達と戦わせて貰うぞ。」

「おォ? 本気か、オッサン?」

「このわしは、キアランに忠誠を誓った身。
 そうならば、正当なる主君に仇なす輩を許してはおけん。」

「うはぁ……ワレス様、相変わらずですねぇ。」

「でもケント、良い人みたいね。」

「はい。 尊敬できる方です。」


……


…………


"お前達は此処で待っていろ"

ワレスにそう命令を受けて、彼を待っていた100名の重装歩兵達。

そんな彼らの元に、ワレスはリン一行と傭兵達と共に戻って来た。

つまり……これはワレスは偽公女一行を"信用"した事を意味し、動揺を隠せない重装歩兵達。

その中で、いち早くワレスに食って掛かったのは、前回の戦いで敗走したヨーギだ。


「わ、ワレス様! どう言う事なのですかッ? まさかこの連中を……!」

「うむ。 この方はリンディス様に間違い無い。
 そうならば、我々もキアランの騎士としてラングレンを討つのだ。」

「しかしっ!」

「ヨーギッ、この大馬鹿者がっ!! 貴様はわしの元で何を習って来たのだ!?」

「ひぃ……っ!」

「本人か否かを確認もせずに、シューターで射ようとするなど、言語道断ッ!」

「そういやあ、こいつ……俺様に矢を当てやがった奴だな?
 オッサンが殺らねぇなら、俺様が殺っちまっても……」

≪――――チャキッ≫

「ランス殿、お待ちくだされ。 このような男であっても、
 これから多くの兵を失う事になるキアランには必要なのです。
 此処で散らせるのであれば、潔く戦場で散って貰う方が良いでしょうぞ。」

「ふん……まぁ、どっちでも良いんだけどな。」

「良いかヨーギ! この場で命断たれたく無ければ、キアランへの忠義を尽くしてみせよ!!」

「は、はは~~っ!!」


ワレスに怒声を浴びせられ、巨体ながらも縮こまるヨーギ。

そのヨーギの顔をランスは思い出したのか、剣を抜いて彼に近寄った。

止めなければ、そのまま彼を斬り殺していたのかもしれないが、
寸前でワレスに止められ、特に気に触る事も無く剣を戻した。

この時点で、ワレスはランスがエウリード家の貴族だと聞かされており、
リンの恩人と言う事もあってか、(彼にとっては)丁寧な言葉遣いをしている。

また、それをワレスは良い意味で利用させて貰う事にしたようだ。

未だに動揺を隠せない重装歩兵達に、ワレスは大声を張り上げて士気の上昇を図る。


「では、聞けぃ! 皆の者ッ! この方は、正真正銘のキアランの公女・リンディス様御本人!
 リンディス様を偽公女に企て、公爵の地位を奪わんとするはラングレンなのだッ!!
 そうならばキアランの騎士として、我らが務める事はただひとつっ!
 裏切り者どもを蹴散らし、リンディス様を城にお送りし、ハウゼン様を救出するのだ……!!」

『そ、そうだ! 悪爵ラングレンを討てーーッ!!』

『リンディス様を……ハウゼン様をお守りするのだっ!!』


≪うオオオおぉぉぉぉ――――ッ!!!!≫


兵の多くはラングレンが必死になっている相続争いの真意を知らない。

いわゆる、"偽公女討伐"という偽りの徴兵に借り出されたに過ぎないのだ。

しかし偽公女を討てば膨大な資金を受け取れる事から、躊躇せずリン達に襲い掛かってきた。

セインとケントが居たとしても、偽公女に加担する者と考えれば、情けなど無用だったのだ。

かと言って……リンが"本物"であるなら、もはや下っ端の兵達が手を出そうとは思う筈は無く、
ワレスの激励で、重装歩兵達の気合の矛先はすぐさまラングレンへと向かってしまう。

その様子を見て満足気に口元を歪めるワレスに、ランスとリンが乗った馬が近付く。


「何にせよ、これで兵隊が増えたな。」

「160人位になったから……後方の200人の敵兵とも渡り合えそうね。」

「そうですな……ですが、イーグラーは強敵ですぞ。 油断なされるな。」

「がははははは、そんな心配など無用だ。
 元々傭兵だけで、お前らごと蹴散らすつもりだったしな~。」

「ふはははははっ! それは頼もしい! ……皆の者ッ、
 この方はあの"エウリード家"の御子息! その後ろ盾がある以上、迷う事は何も無いッ!」


≪うオオオおぉぉぉぉ――――ッ!!!!≫


「……別に後ろ盾なんか無ぇんだけどな。」

「まぁ良いんじゃないですか? 士気も更に上がった事ですしねぇ。」

「はい、大義は多いに越した事は無いでしょう。」


≪バササァッ!!≫


「お兄様ぁ~ッ!!」

「んっ? セーラにフロリーナちゃんか。 どうした?」

「あの……遠距離から騎馬隊が……近付いてきます……」

「ぬぅ、イーグラーめ。 早くも痺れを切らしおったか。」

「どう言う事?」

「わしらが何時まで経っても偽公女一味を攻撃せぬ故、纏めて潰す気なのでしょうな。」

「やっぱり片方の敵将は、イーグラー将軍でしたか~。」

「まさか、あの方と戦う事となろうとは……」

「だがキアランの騎士である以上、戦わねばならん。 ゆくぞっ! 全軍突撃ぃぃッ!!」


≪ドドドドドドドド……ッ!!≫


ワレスの合図により槍を構え……彼を先頭に、
一斉に向かい来る騎馬隊にへと突撃してゆく、キアラン重装歩兵達。

キアランはリキア同盟の中での兵力は中の下と言ったところだが、
ワレスのキアラン重装歩兵団は、彼のスパルタ教育もあって屈指の実力を持っている。

リキア同盟の重装兵と言われて真っ先に挙げられるのが"オスティア重騎士団"なのだが、
知名度と兵数が低いだけで、兵の質はかなりのモノなのである。

そんなキアラン最強の騎士団が仲間になった事になるので、
死をも覚悟していた傭兵達の士気もそれなりに上がったようで、
ランスはそれに"面倒臭ぇ"と思いながらも、馬上で剣を振り上げて鼓舞に移る。

……先程セーラと共に、鎧と一緒に購入したマントを揺らしながら。


「良~し、俺達も行くぜ! 食いっぱぐれたく無ぇ奴は適当に殺して生き残れッ!
 リンの為に戦う奴は、目の前の奴らを片っ端から殺せッ!
 ハゲたオッサンに遅れんなーーっ、突撃いいぃぃーーーーっ!!」


≪ドドドドドドドド……ッ!!≫


「お兄様ーーッ、頑張ってぇ~~ーーっ!!」

「あ、あの、セーラさん……そんな暴れたら、落ち……」


「さて、行くとするか。」

「レイモンド様、お気をつけて……」


貴族は平民を嫌い、平民は貴族を嫌う。

そうでない貴族が居たにせよ、民が辛い生活を強いられている領地であれば、
"嫌いで無い事"など綺麗事であり、嫌ってもらわ無かろうと、空腹は治まらない。

それにより、前途のような方式が、エレブ大陸の常識として固定されてしまっていた。

その常識を覆してしまったのが、今迄サカ平原で貧しい暮らしをしていたリンの存在。

また、財産を全て寄付してしまった"エウリード家"のランス(偽者)とセーラの存在だった。

キアランの公女であるリンはともかく、エトルリアのエウリード家の存在は、
遠い国でもあるので傭兵達の中の数人しか知らなかったのだが、
瞬く間に話は広がり、リン達と戦える事に誇りを感じるようになっていた。

それ故に、ワレスの重装歩兵達に負けない勢いで、傭兵達はランスを先頭に突撃していった。


……


…………


……一方、イーグラー将軍の指揮するキアランの騎馬隊。

彼らもラングレンの命令で偽公女討伐に繰り出されたのだが、それが本位では無い。

どの者も不服を申し出たのだが、家族や部下を人質に取られ、止むを得ず出陣した。

そのキアラン騎馬隊の士気は著しく低く、それはイーグラーとて同じだった。


「イーグラー将軍。 間も無く前方の敵と接触します。」

「数はどれ程だ?」

「約150……どうやらワレス様は、"あちら側"に付いた模様です。」

「……そうか。 フッ……ワレス殿らしい。」


先程ケントも述べていたが、彼ら以外にも約200の兵が、
ラングレン及び、ハウゼンが囚われていると言っても良い"キアランの城"を守っている。

それらの兵はラングレンに従い、身を堕落させた者達であり、
イーグラーとワレスが偽公女を討てば、自分達の手を汚す事無く甘い汁が吸える。

もしリンが本物であったと公に出て、他領に追及されようが、
イーグラーとワレスを反逆者に仕立て、処刑してしまえば済むと考えていた。

……また、二人が討たれたとしても、諸侯の援軍に偽公女一味を討って貰えば良く、
どちらにせよ自分達の手を汚さずに済むシナリオだった。


「如何なされますッ?」

「答えは一つだ、我々は守るべき者の為に戦わなければならん。」

「我々は、将軍に付いて逝く所存です。」

「……すまない。 ……全隊! もはや小細工などいらぬっ。
 リンディス様の名を語る不届き者を討つのだーーーーッ!!」


≪ドドドドドドドド……ッ!!≫


しかし……既にエリウッドがマシューの言葉を受けて動いており、援軍は来ない。

剛直の士であるワレスと、彼に教育された部下達には、脅しなど通用しない。

そしてイーグラーはあえて汚名を被り、果てる事を選んでいた。

セインとケントの実力から言える事だが、キアランの騎馬兵隊も中堅クラスの実力を持っているのだが、
桁違いの士気の差に、最初から勝負は決まっていたのかもしれない。

最終的には、イーグラーは馬を下りて戦っていたリンとの一騎打ちになったが、
ランスに抱かれてパワーアップしている彼女に勝てる者は、そうそういない。

かと言って、イーグラーは"現在のリン"に太刀打ち可能な実力を持っているのだが、
初めから死ぬ気であり、本物のキアランの公女であるリンを殺す事などできなかった。

ワレスと同様、彼もリンの瞳を見て偽者だとは感じなかったが、彼に投降は許されなかった。


≪――――ざしゅっ!!≫

「ぐっ!? は、早く……行け。 侯爵は、何も知らぬまま……病と見せかけ……
 毒で……命を、削られているッ。 ハウゼン様を……キアランを……頼む……」

≪……ガシャンッ≫

「はぁっ、はぁっ……どうして、こんなっ……!」

「イーグラーよ……貴様の願い、しかと受け止めたぞ。」


――――キアランを頼む。


それが、キアラン最強の騎士ある、イーグラーの最期の言葉だった。

イーグラーが死んだ事でこの戦いの勝利を意味し、喜び勇む傭兵や重装兵達。

しかし、リンやセイン・ケント・ワレス等にとっては、悲しい勝利であったのだが……

騎馬兵隊の屍の中で、馬鹿笑いをする馬上のランスと、
何時の間にか後ろに乗るセーラ……その様子を近くで見ているウィルとエルク。

彼らだけでなく、旅中で仲間になった者達に、戦死者は出なかったようだ。


「がははははは!! 俺様に掛かればこんなモンだぜッ!!」

「お兄様ぁ~、もう少し空気読みましょうよ~。」

「あれ? セーラさんがツッコミ役になってるよ。」

「今はセーラよりも、ランスさんの方が一枚上手みたいだね……」



[2301] ファイアーエムブレム=鬼畜の剣= 10章(前編)
Name: Shinji
Date: 2007/02/18 09:16
イーグラー将軍を倒し、リン達は、いよいよキアラン城へ迫る。

城には、リンの仇敵・侯弟ラングレンがいる。

キアラン侯の座を得んがため、リンと祖父の殺害を目論んだ男……

災いの元凶を断つべく、リンは駆ける。


■第10章:遥かなる高原(前編)■


イーグラーの部隊との戦いが済んだ直後。

戦い自体はランス達の傭兵団及び、ワレスの重装歩兵隊の圧勝で終わったものの、
今までに無い規模の戦いであったので、むしろ戦後処理に手間が掛かっていた。

リーザスで戦争をしていた時は"戦後処理班"などがおり、
余程の大敗をしない限り、全て計画的な処置というものができていた。

しかし、イーグラーとの戦いは総計500名にも満たない戦いだったにも関わらず、
組織的な戦いでは無かったので、後始末に時間が掛かっていた。


「ワレス様! 投降した者達の処理をお願い致しますッ。」

「中には共に戦いたいと言っている者もおり、我々の一存では……」

「わかった、すぐ行こう。 ……ケント・セイン。
 少々、人手が足りん。 すまぬがお前らにも手伝って貰うぞ!」

「はっ! 承知いたしました!」

「わっかりました~。」

「リンディス様、ランス殿。 貴方がたは明日以降に備えて、体をお休めくだされ。」

「言われなくても、そのつもりだ。」

「えっ? そんな、私も――――」

「いえいえ、イーグラー程の者と一騎討ちを成されたのです。
 この中ではリンディス様が一番お疲れの筈、ですから何卒。」

「でも……」

≪ずいっ≫

「……俺で良ければ、何かできる事は無いか?」

「むっ? お主は……ドルカスと言ったな? 良い体をしておる。」

「ならば、少しは役に立つか?」

「ドルカスさん……」

「リン、力仕事なんて野郎がすりゃ~良いんだ。 立場も立場だし、休んどけ。」

「!? う……うん、そうするわ。」

「ドルカス、傭兵の奴らで使えそうな奴も手伝わせてやれ。」

「……わかった。」

「ふはははッ、助かる! 人手は多い方が良いからな。」


"時間が掛かる"……いわゆる"人手不足"と言う事なのだが……

勿論、面倒な事が嫌いなランスに手伝う気などある筈も無かった。

リンはそうでも無いようだったが、丁度良くやってきたドルカスに手伝いを任せると、
ランスはズカズカと歩き出し、リンも彼の後を追うようにその場を離れて行った。

そんなランスとリンの後ろ姿を見て……ワレスはこう考えた。


「(流石エウリード家のご子息……この様な場には慣れておられるようだな。)」


エウリード関連の事を信じている時点で半分は見当違いだが、残り半分は正解である。

また、イーグラーを一騎討ちで倒してしまったリンの実力も、彼にとって気掛かりだった。

いくら才に恵まれているとは言え、若干15歳の少女がキアラン屈指の騎士を倒すとは……

イーグラーに彼女を討つ気が無かったような雰囲気は、ワレスにも感じられたのだが、
それを踏まえても、リンの実力は確かなものだったのだ。

だが……いくら考えようと、ランスに抱かれる事で強化されていたのだとは思うはずも無い。


……


…………


……翌日、変わらずキアラン領内。

戦後処理を済ませたランス達は、キアランの城へと向かっていた。

かと言ってそのまま城を攻めるのでは無く、作業で疲労した兵達を休める時間が必要だ。

ハウゼンの事を考えると、一刻も早くラングレンを倒したい気持ちにもなるが、
そうしなければ万全な状態で、奴の部隊と戦う事が出来ないだろう。

そんな訳で、キアランの城から約10キロ程度しか離れていない、
村の宿で休む事となったのだが……何故か、村の者達はランス達を大歓迎。


――――リンディス様は偽者ではない、本物だ!!


――――イーグラー将軍の部隊を撃退した、それが何よりの証拠!!


――――ラングレンの統治などまっぴらだ、ハウゼン様をお救いしろ!!


などの声が多く、いかにラングレンと言う者が腐った男であるかが分かる。

キアランの民は皆……彼に脅されて渋々統治に従うしかなかったのだが……

本物なのに消されようとしていたリン達が、ワレスの部隊を仲間に入れ、
その混合部隊がイーグラーを倒し、ラングレンに対抗できる実力を持っていると知ると、
それを待ち望んでいたかのように活気を取り戻し、リンの存在を受け入れたのだ。

それによって士気が更に上がるだけでなく、兵達の休息による処置も十分となった。


≪ブゥンッ! ヒュッ……ガキッ!!≫


「せぇいっ! はあぁぁ……ッ!!」

「おっとッ、なんのォ!!」


……そんな決戦を翌日に控えた昼時。

昼食後にリンはランスを何とか連れ出し、残り僅かな時間を彼と過ごそうとしていた。

しかし"デート"のような甘々とした時間が過ごせる筈は無く、
何時ものようにランスと、剣の稽古を行って貰っているだけだった。

ランスにとっては、こう何度も剣の相手に付き合う事自体ありえないのだが、
相も変わらずリンの体を好きに出来る事が、未だに大きかった。

セーラともエッチできるようになった今、リンばかりにも構っていられないのだが……

彼女を強くする事が自分の"帰還"に繋がるかもしれないとは言え、
一度別れると暫くはリンとセックスできそうもないので、今日はとことん抱くつもりらしい。

だが他にも付き合う理由として、剣の師として・リンの熱心さ・H時の可愛さ等、
色々と挙げられるのだが、それら全てひっくるめて、今の二人がある。


「とおーーーーぅっ!!」

≪がきぃ……っ!!≫

「くぅっ!?」

≪――――がらんっ≫ ←木刀が転がる。

「がはははは、まだまだ甘いなっ!」

「痛ッ……ま、参ったわ。」

「だが、上達したな。 初めと比べたら桁が変わったぞ?」

「そ、そうなの? 強くなったって言われても、ランスさんには相変わらず、
 一度も勝てないから……そんなに自覚が無くって……」

「何を言うか。 黒装束の奴らとか、イーグラーとか言うオッサンとかと戦って、
 何も違和感を感じなかったのは、それだけリンが強くなってるって事だ。」

「そうよね……以前の私だったら、イーグラー将軍には勝てなかったと思うし……」

「まぁ、俺様が強くなってると言うのだから間違いないぞ。
 強くなってる自覚が無いのは、俺様がそいつらより遥かに強いからだッ。」

「うん……私もいつか、ランスさんみたいに……」

「がははっ、俺様の域に達したいのなら、最低後10年は修行する事だな!
(もし抱き続けりゃ~、一年くらいで俺様以上になるかもしれんが……流石にそれは御免だな)」

「…………」


ここでのランスとリンの稽古の内容はと言うと……

最初の最初はランスに片手で制されてしまっていたが、
かなりのパワーアップを遂げた、現在のリンの攻撃は素早く・重くなり、
今は両手でしっかりと相手をしてやらないと、いくらランスでも油断できなかった。

即ち、防戦一方では万が一に一本取られてしまう恐れがあり、
負けず嫌いであるランスとしては、それは頂けないので、
両手で適当に捌く中隙があった場合は、容赦無くリンの木刀を弾き飛ばしていた。

防戦一方で防御の隙を突かれるよりも、自分が先にリンの隙を突いてしまうほうが楽なのだ。

……かと言って、リンにとってはその方がランスの強さを痛感でき、
得意げにふんぞり返って自分を見下ろしている彼を、頬を朱に染めながら見上げている。


「よ~し、休憩は終わりだ! またやるぞ~。」

「えっ? え、"えっち"するの……?」

「誰がセックスすると言ったッ? 稽古を続けるのだ。」

「あっ……」

「返事はどうした~!?」

「は、はいっ!」

「全く、俺様はそんなエッチな弟子に育てたつもりはないぞ。」

「!? だっ、誰の所為だと思ってるのよッ。」

「えぇい、弟子が師匠に口出しするな。」

「~~……ッ。」

「ほれほれ、構えろ。 時間が勿体無いぞ。」

「そ、そうよねッ。 明日にはラングレンを……!」

≪チャキッ≫

「そう言う訳だ、何時でも来~い。」

「……っ……はぁあッ!! (それにしても……)」

「おっと。」

≪がきん……っ!!≫

「("弟子"って事は……少しは私を認めてくれたのかしら?)」


そんな中、自分を見るリンに、ランスは稽古の続行を告げた。

対してリンは、この後セックスが始まるだろうと思っていたので、首を傾げたが、
その時"言ってしまった事"が違った事を言われると、更に頬を染めた。

だからと言って、稽古の続行に異議があるハズも無く、
リンは再度構えると、素早く距離を詰め、ランスに木刀の一撃を放った。

それと同時に、"弟子"を言って貰えた事を、心の中で嬉しく感じていたが――――


「(ぐふふふふ、汗を掻いたリンの抱き心地は勿論、匂いも格別……)」


ランス君は、稽古後のリンと青姦のし過ぎで……

本人の自覚無しに、妙な性癖に目覚めそうになっていたりした。

そしてこの一時間後……ランスにたっぷりリンが可愛がられたのは、言うまでも無い話。


……


…………


……更に翌日、決戦の日は来た。

それにも拘らず、緊張感の無いランスは昨夜セーラとエッチをし、
まだ数回と地味であれど、彼女の強化を図っていた。

まだセーラにとって自分の"力"が上昇している自覚は無いだろうが、
ランスの性欲は無限なので、抱く回数には問題ないだろう。

だが、あと僅かで一年の間が空いてしまうので、更なる強化はそれ以降となる。


「あれがキアランの城か。 大したデカさじゃ無えなあ。」

「あのお城に……おじい様が……」

「ケント、相手の数はどれ位だ?」

「援軍が来ないと知って必死で兵を掻き集めたのでしょう、約350と言ったところですね。
 こちらも義勇兵を入れれば400を越えた数になります。」

「ランスさ~んッ!」

「どうした、マシュー?」

「ど~やら、ラングレンの軍は篭城しないみたいですねぇ。
 部隊を城の前に展開させているみたいですよ?」

「とことん呆れた野郎だな……そんなに城や金が大事なのかよ。」

「みたいッスね。 負けようとしてる戦であっても、それを認めようとしない上、
 自分の物だと思い込んでいる城を汚したくは無いんでしょうね~。」

「マシュー、ありがとう。 貴方がエリウッドにお願いしてくれたお陰よ。」

「へへっ。 勿体無いお言葉をどうも、リンディス様。」


現在は、遠距離で展開しているラングレンの軍を前に、ランス達も部隊を展開させている。

前方にワレスが率いる重装歩兵団と騎馬兵団の混合軍200。

その隣にはセインと、たった今合流しに行ったケントが纏める、100人の傭兵部隊。

そして、ウィル・フロリーナ・ドルカス・マシュー・セーラ・エルク・ラス・レイヴァン・ルセアの、
ランスとリンを含む旅の仲間達を挟んで、後方に集まっている約100名の義勇兵部隊。

また……ニニアンとニルスも近くにおり、その二人にランスは目を向けた。


「ニニアンちゃん、ガキんちょ。 何か"危険"ってのを感じたか?」

「……いえ、特に脅威は感じません。」

「今のお兄さん達のチカラなら、絶対に勝てるよ……頑張ってっ!」

「ふむ、伏兵も何も無いのか。 つくづく無能な野郎なんだな。
 フロリーナちゃんは……さっき空から見て何か判ったか?」

「あ、はい……あのっ……」

「ランスお兄様ぁ~、陣形はテンでバラバラですよ~っ!
 悪者なんかケチョンけちょんにしちゃいましょうよーっ!」

「で、ですね……特に気になる事は……無いかもしれません……」

「そうかー。 それじゃ~楽勝だな。」

「そうっスね、数で既に勝ってますし。」

「ならこの際、中途半端な戦力は要らんなぁ~。
 マシュー。 義勇兵どもは邪魔だから、帰らせておいて良いぞ。」

「成る程~、無駄な血は流さないに限りますからねぇ。」

「勘違いするな、足手纏いはいらんだけだ。」

「それじゃ~おっ始まる前に、俺が話をつけてきますよ。」

「うむ。 (殆ど素人で女も混ざってたからな……役に立たんだろう)」


相手は戦いの元凶とも言えるラングレンなので、念には念を入れ……

姉弟に続き、先程までペガサスで空を飛んでいたフロリーナ(+セーラ)にも聞いてみるが、
特に警戒すべき部隊は無いようで、戦う前から拍子抜けするランス。

他のメンバーは全員(僅かでしか無い者も居るが)緊張しているのだが、
ランスが考えるに、ラングレンと言う男は全く持って無能である。

ハウゼンの孫であるリンディスが現れようと、ラングレンが有能であれば、
リンは身分には興味が無い事から、キアランの全てを彼に任せる事もできた。

それなのにリンを殺す事しか考えず、何も考えずに他領の城を抑えてまで彼女を襲う始末。

しかも民や部下の不満を募らせる事も多々あり……挙げてみればキリが無い。

よって結果……兵数は既にランス側が上回っており、それが彼の"全て"と言える。

ラングレンはキアランの公爵になる以前に、人間として最低の男なのだ。


「とにかく、ようやく此処まで来れたわね。」

「あぁ、それなりに色々とあったな~。」

「ランスさん……私達、勝てるわよね?」

「当たり前だ。 侯弟は大した事無さそうだ、今のリンなら一瞬で殺せると思うぞ。」

「そうよねッ。 あいつは、私の手で必ず……」

「がはははは、雑兵と間違えて俺様が始末しちまっても恨むなよ~ッ?」


この時点で渋々ながら義勇兵が去り、ランス達の部隊は300名前後となった。

だが士気は抜群であり、陣形も敵側と違ってしっかりと整っている。

一方、この報告を受けたラングレン側なのだが……

本気で"相手の100名の兵が恐れを成して逃げ出した"と思っているのだから救い様が無い。

本来ならばワザと兵を下がらせた事を察して、意図的な鼓舞をするのが妥当だが、
そこまでリン達の抵抗に怒りを感じ、無能っぷりを発揮し続けていた。

リーザスの反乱で半分の兵を掌握したエクスと比べると、桁違いのダメさである。

だが……情けなど必要なく、必ず殺さねばならない相手。

ランスは相手の軍が(義勇兵が去った事の油断で)動き出した事を確認すると、馬に跨り剣を抜く。

今や何処からどう見ても"騎士"であり、彼も彼で自分の立場を楽しんでいた。


「……来たみたいね。」

「そうだな、とっとと蹴散らすぞ~。」


ある日、サカ草原で運命の出会いを果たしたランスとリン……その後に出会った……


「後は親玉だけか……しっかり援護しないとな~。」

――――ウィル。


「立派な、天馬騎士になる為にも……この戦いを……」

――――フロリーナ。


「5000G……高く評価してくれた期待に応えよう……」

――――ドルカス。


「俺ができるのは此処まで ですねぇ。 後は皆さんに任せましたよ~!」

――――マシュー。


「この戦いが終わったら、お兄様とオスティアに戻って、自慢しよ~っと!」

―――――セーラ。


「ランスさん。 貴方の事は、いい土産話になりそうですよ。」

―――――エルク。


「良い経験だった……これが終われば、また戦場へ……」

―――――ラス。


そして……最も早く傭兵として加入したレイヴァン・ルセア。

皆これまでの旅を振り返りながら、各々の役割を果たすべく動く。

個人差はあるが、ひとまず終わりを遂げるこの旅を、名残惜しく感じながら。


「がはははは!! 行くぞ~、突撃だーーッ!!」

≪ドカパッ、ドカパッ、ドカパッ……≫


「ランス殿が出られたな……良し! 行くぞ、者どもぉ!!
 若い者達に遅れをとるなぁッ、ラングレンを討つのだーーッ!!」

≪ズドドドドドドドッ……!!≫


「ワレス様も動いたなぁ~。 行くか? ケント。」

「うむ、我々も突撃だッ! 足並みを合わせろーーッ!!」


左に展開するキアランの混合部隊と、右の傭兵団の間を通り抜けたランスの姿を合図に、
彼の後を追う様にして、300名が一斉に突撃を開始した。

単騎突撃が戦いの開始の合図と言うのは、ただのランスの我侭によるモノなのだが、
彼は今やリン側で最強の(実際は鬼畜戦士だが)騎士と言われている為、
本人の自覚が無しにして、味方側の心をしっかりと掴んでいるのだった。

……その戦いの始まりを遠目にしながら、ニニアンとニルスは口を開く。


「ニニアン。」

「ニルス……どうしたの?」

「これで少しは、助けて貰った恩を返せたのかな?」

「そう思いたいけど……私たちは"危険"を教えてあげただけ。
 それを潜り抜けた力があったから、リンディス様たちは此処まで来れて……」

「そうだね。 特にランスのお兄さんは、凄く強かったよね……」

「…………」 ←少しだけ顔が赤い。

「ふふ、思い返してみれば あの人。 ニニアンに色々と冗談言ってたよね?
 ニニアンちゃんは俺様のモンだぞ~とか、俺様と結婚してくれ~とか。」

「そ……そうね。 だけど……」

「うん。 いくら強いからって、"アイツ"には勝てない。
 それに……これ以上迷惑は掛けれないし、頑張って逃げようっ。」

「……えぇ……」


今までの旅の中、ランスは何度かニニアンを口説こうとしていた。

しかし、彼女の傍には何時も弟のニルスがおり、セクハラ発言をする程度でしかなかった。

それにリンやセーラ・その他諸々の目もあったので、
ニニアンとエッチまで持って行く事は、結局できなかったのである。

もし……金輪際会えないと言われれば、98点を付けた事からレイプしたかもしれないが、
コスモスにいずれ"また巡り合う"という情報を得たので、何とか我慢する事に至った。

あの姉弟は人間では無いらしいが、それも後のお楽しみと言うワケだ。


「がはははははッ!!」

≪ざくーーーーっ!!≫

「ぎゃあああぁぁぁ……っ!!」

「ひぃいーーッ!」

「だ……誰か止めろぉッ!!」

「こ、こいつが"エウリード家"の……ッ!?」


だが……その前にラングレンを倒し、リンを無事にキアランの城に送り届けなくてはならない。

この為に、ランスはリンを襲う多くの刺客を斬り倒し、抱く事で強化をも行ってきた。

即ちコスモスの言う通り……彼の存在を無くして、
リンは此処まで生き抜く事は、到底できなかったのである。

さておき間も無く……キアランでの彼の役割は、この戦いを最後に終わるだろう。


――――多くの仲間達との、別れと同時に。


――――――――後編に続く――――――――



[2301] ファイアーエムブレム=鬼畜の剣= 10章(後編)
Name: Shinji
Date: 2007/03/19 00:25
『……ふむ。』


キアランの混合部隊とラングレンの部隊がぶつかり合った時。

その瞬間をキアランの城の天辺から見下ろしていた者が居た。

翼を持った天使……なのだが、その者に気付いている人間は"やはり"居ない。

それもその筈、アラフェンの城の時と同様に、"見下ろしている者"は気配を意図的に消しているからだ。


『少々呆気なく、事が済みそうだな。』


その翼を持った者の正体は、お気付きの通り"コスモス"。

自分の用事は一通り済み、後はランスを"一年後のエレブ大陸"に送るだけなのだが……

思ったよりもランスは簡単にリンをキアランの城に送り届けてしまえそうで、
コスモスはあまり面白くなさそうな様子で、戦いの様子を見下ろしていた。

だが"面白く無さそう"……と言っても、彼女は"無表情"であり、
面白く無さそうなのは、あくまで雰囲気のみで察せられる事であり、実際は定かではない。


『まぁ良い……こんな事など、"物語"の前座に過ぎぬのだからな。』

≪スウゥッ――――≫

『(助けられるか? 辿り着けるか? そして……)』


■第10章:遥かなる高原(後編)■


「うおおぉぉッ!!」

≪――――ガシュッ!!≫

「どりゃああぁぁーーっ!!」

≪ドス……ッ!!≫


戦いが始まり、ある者はドルカスの斧に斬られ、ある者はワレスの槍に突かれる。

両翼はランスが居ないので最初は"若干"一進一退だったのだが、
ドルカスやレイヴァンを初め、強い力を持つ者が前線に現れると、
直ぐ様ラングレンの兵達は混合部隊の勢いに押され始めてしまっていた。

特にランスを先陣とする中央の勢いは止まらず、既にラングレンが居る一歩手前で乱戦となっている。


「ぐわあぁッ!!」

≪――――ドドォッ!!≫

「がはははっ、まぁこんなモンか~……んっ?」


乱戦と言っても、現在ほぼラングレン側は決壊している。

残っているのはラングレンを守ろうとしている周囲の数十名程度であり、
両翼の敵兵は少なく配置されていた為か、ほぼ全滅もしくは逃げ出してしまっている。

つまり、いまランスが居るのはラングレンを囲んでいる兵達の真っ只中なのだが……

彼が強すぎる為か、襲い掛かろうとしている者はおらず、
それにより余裕な表情で周囲を見渡した時、敵兵達の注意は"他の者"に向いていた。


「リンディスだぁーーッ!!」

「殺せッ、殺せーーっ!!」

≪がきんっ、がきいいぃぃんっ!!≫

「くっ……邪魔よ!!」


狙われているのは、リンディスことリン。

彼女もラングレンを討つべく前に出ていたが、リンを討てば全てを覆す事ができる為か、
敵の兵達は彼女の姿を見るなり、一直線に突撃してゆく。

もっとじっくりと攻めればリンが狙われる事は無いのだが、
ランスの背中を追いながら戦っていた結果、ランスの次に彼女は前に出てしまっていたのだ。

……だが、彼女を討たれるどころか 襲い掛かる敵兵達を正面から迎え打っている。

その心意気に押されてリンを守ろうとする味方の兵達も続き、
こうなれば もうランスが手を貸さずとも、じきに戦いは終わるだろうが――――


≪……ドカパッ!!≫

「あっ……ランスさん!?」

「リン、乗れ!!」

「う、うんっ!」

「良し! 掴まっとけよ~っ!?」

≪――――ダカカカッ!!≫

「し、しまった! 抜かれたぞ!?」

「おのれ、リンディス……ッ!!」

「おっと! 追わせるかぁ!!」

「ラングレンは御二人にお任せするのだ……!!」


ランスは敵と味方の間を潜り抜け、味方が前に出てくれた事により、
手が空いたリンの真横まで馬を走らせると、彼女を後ろに乗せた。

そして即走り出し、素早く敵兵の間をすり抜けると、後方に控えるラングレンの方へと一直線に向かった。

間も無く来ると思われる、両翼を蹴散らした左右の部隊が中央を挟撃してしまえば、
この様な事をしなくてもランス達の勝利は決まっていたのだが……

リンがラングレンとの一騎討ちを望んでいた事を思い出したランスは、
その願いを叶えてやる事にしたらしく、敵の全滅の前に敵将を討たせる事にしたようだ。


≪ドカパッ、ドカパッ、ドカパッ……!!≫

「居たぜッ! アレが敵将だな!?」

「護衛が4人居るわ!!」

「がはははは! 任せておけぇいッ!!」

「ランスさん、アーマーナイトよッ? 無茶しないで――――」

≪ガシュッ!! ガシュガシュゥ……ッ!!≫

「ぎ、ぎゃあぁ~~っ!!」

「ばっ、馬鹿なあぁぁ……っ!?」

≪――――ガシャアァンッ!!≫

「……(よ、余計な心配だったわね……)」


ラングレンらしき姿を発見すると、近衛兵と思われる4人のアーマーナイトが、
"鋼の槍"を構えながら時間差で迎え討ってくる。

それに対して一騎(しかも二人乗り)では到底太刀打ちできそうに無いが、
ランスは接触前に馬を減速させると、持ち前のパワーで次々と相手を斬り倒した。

本来ならばアーマーナイト程の鎧を斬るには、名剣であるマーニ・カティでもないと無理なのだが、
その装甲を容易く両断するパワーがランスにはあるのだ。

そんなアーマーナイト達の屍を踏み越え、口元を歪ませるランスに対し、
ラングレンは動揺を隠せぬまま、槍を構えて彼に言う。


「な、何者だ! 貴様……ッ!!」

「ふんっ、お前に名乗る価値など無いわ。 それよりもだ、リン。」

「……えぇ。」

≪――――トッ≫

「!? お、お前が"リンディス"の名を語る者かッ!!」

「あくまでも、私を偽者扱いするつもりねッ、ラングレン!!」

「ふんっ、名門キアラン家にサカ部族の血などいらぬわッ!」

「くっ……貴方は自分の欲の為に……絶対に許さないッ!!」

「ぬかせえぃ、小娘! 此処で儂が討ち取ってくれる!!」

「……リン、1分以内で終わらせろ。 見ていて不愉快だ。」

「はいっ!!」

「(あんな奴さっさと殺したいとこだが、まぁ良いか……
 ラングレンと一騎討ちさせてやりゃあ、何でも言う事聞くとか言ってたしな~……)」


……この後、リンはラングレンを打ち倒し、キアランに再び平和が戻る事となる。

毒を盛られて伏せっていたハウゼンも、リンとの再会で元気を取り戻し、
これから一年余りの時を、彼女と共に過ごす事となるのである。

しかし、その"一年余り"が過ぎ去ると、再びキアランは戦渦に巻き込まれる。

幾つかの出会いと別れ……そして、リンが再びランスと出会う事と共に。


……


…………


「ようやく一件落着しましたね~。」

「そうだな。」

「セインさんとケントさんは言わずともながら……
 ウィルとフロリーナはキアランに雇って貰える事になったみたいで、喜んでましたよ?」

「らしいな。」


……数日後、夜。

キアランの城を出たランスの傍には、何故かセーラが一緒に居た。

オスティアの密偵であるセーラの同僚・マシューでさえ参加していた、
リンディスを迎えるキアランの城での祝勝パーティー等を"めんどい"の一言でキャンセルし、
ランスは城を去り、セーラは(一応)兄である彼を追い掛けたのだ。

基本的にセーラは高価な物や甘い物には目が無い筈なのだが……


「でもお兄様ぁ、良かったんですか?」

「何がだ~?」

「直ぐにキアランを出ちゃって……色々と報酬とか勲章とか、貰えたかもしれないんですよぉ?」

「それはお前も一緒だろ?」

「そ、そうですけどぉ……私はお兄様ともっと一緒に居たいですから……」

「がははははッ。 俺様の女だったらそれも当然の事だがな!」


ランスと天秤に掛ければ彼の方に傾くらしく、セーラはランスの後を追ったのだ。

よって現在の二人は全裸であり、キアランの城を出てから最初に泊まる事にした宿の一室で、
セックスが終わると、ベットの上で今までの旅の事を振り返っていた。

セーラと出会ったのはリキアへの国境の手前だったが、ランスはともかく、
彼女は今までの生活では到底考えられない、様々な体験をする事ができていた。

極めつけは、"エウリード家の人間"という身分を手に入れさせてくれ、
彼女の(義理の)兄となったランスの存在であり、暫くは彼の元を離れる気は無い様だ。

反面 ランスを一番慕っている様子だったリンの姿は無く、少しだけ気分が良さそうに言うセーラ。


「でもリンディス様は、流石に病気がちの祖父を放って付いて行く事はできなかったみたいですけどね~。」

「うむ……まぁ、その為に遥々 サカからやって来てた訳だしなぁ。」

「リンディス様には 何も言わずに出て来ちゃって、良かったんですか?」

「んっ? ちゃんと"やる事"はやって置いたぞ、たっぷりとな。」

「やる事って、まさか~……」←ジト目。

「今なら判るだろ、大体。 例えば~……」

≪もみっ≫

「きゃっ! お、お兄様ッ、そこは――――」

「あれだけ犯ったばっかだしな、"今回"は触るダケだぞ。」


ランスがキアラン城を去った"今朝"は、リンと顔さえ合わす事も無かった。

だが、それも仕方無いかもしれない……公女となってしまった彼女には、
祖父の為にも これから覚えなくてはならない事が山ほどあるのだから。

それなのに、前の日にランスはこっそり リンと最後のセックスをしていたようで、
ソレを彼の言葉で察せたセーラは、少しだけ怪訝な様子でランスを見るようになった。

対して、ランスはニヤりと口元を吊り上げると、セーラを自分の胸に抱き寄せ、
右手を彼女のお尻を伸ばし、人差し指は菊座の方へと伸びていた。

……そう。 このように、もはやランスはリンの"全て"を奪ってしまったのだ。


……


…………


――――昨日の夕方、キアランの城の外れ。


「…………」

「…………」

≪ジャリッ≫

「……(す、隙が無い……)」


ランスとリンが、互いの武器を構えて向かい合っていた。

リンの表情は真剣で、ランスも無表情で暫くそのまま動かなかった。

そんな中……リンに見えない角度で彼は一瞬口元を歪ませると、素早く踏み込み――――


「いきなりランスアタアアァァーーーークッ!!!!」

≪がしいいぃぃぃぃん……っ!!≫

「……えッ!?」

≪――――ガチャッ≫

「がははははは! リン、終わりだ!!」

「う……嘘ぉっ……」


気合諸共、一瞬でリンが持っていたマーニ・カティを叩き落した。

それにより、メナドと同様 リンは構えた格好のまま信じられない表情をしている。

……もうランスと共に居られる時間が少ないと感じた彼女は、
今までの自分の実力を試すつもりでランスに勝負を挑んだのだが、
このように あっさりと"ランスアタック"を放たれた事により、負けてしまったのである。

ランスとしては、今のリンを真面目(必殺技を使わず)に相手していては疲れるので、
さっさと勝負を決めてしまったダケなのだが、それはそれでリンにとってはショックな決着だった。


……


…………


……数分後。

人通りの少ない街道沿いの芝生に、ランスは胡坐を掻いて座っていた。

その左横ではリンが左足を崩し、右膝を両手で抱えて座っている。

あまり この場所からキアランの城は遠くは無いのだが、前途のように人影は無い。

キアラン領の自然は豊かで、南には港町がある事から食べ物も美味いのだが、
そんなに人が多いと言う訳では無く、それもラングレンの一連の影響であろう。

さておき、今のリンにとってはそんな事はどうでも良く、彼女は静かにランスに語り掛ける。


「ランスさん……貴方は、行ってしまうのね?」

「あぁ、明日には此処を出るつもりだ。」

「……っ……」

「やっぱり寂しいか~? まぁ、気持ちは判らなくも無いが――――」

「ち、違うわよ! 引き止めようとしてるんじゃ無いの。
 ただ、寂しくなるなって思って……」

「そりゃ~俺様と稽古やセックスできないと寂しくなるだろうなぁ?」

「いっ、いちいち茶化さないでよ!」

「茶化してたか?」

「はぁ……もういいわ。 それにしても……」

「んっ?」

「草原で貴方を助けた時は、こんなに長く一緒に旅する事になるとは思わなかったわ。
 私に色々な事を教えてくれもしたし……これからどうするの?」

「…………」

「ランスさん、どうしたの?」

「いや、何か綺麗だなーって思ってな。」

「綺麗って、"海"が? 私も始めて見たけど……素敵よね。」

「そうだな~。」


二人が座る視界には、"港町バトン"が見え 海が広がっている。

その海の景色はちょうど夕焼けと合わさっており、なんともロマンチックだ。

ランスは"海"と言うものを生まれて初めて見たのだが、
それに夕日の美しさが重なると、彼の目を無意識のうちに奪うのは仕方無いのかもしれない。

また……初めて海を見たのは、サカ暮らしだったリンも同じであり、
彼女は今のロマンチックな雰囲気に飲まれたようで、コテンとランスに体を預けた。


「……♪」

「おい、何してんだ?」

「え!? もっ……もう暫く、こうしていても良いでしょ?
 今度、何時また会えるか判らないんだし……」

「多分、一年ばかし経ったら また会えるかもしれんがな~。」

「えっ? どうして そんな事が分かるの?」

「んんっ? あぁ……"何となく"だから深い意味は無ぇぞ。(話すとややこしくなるしな)」

「何よそれ……」

「でもまぁ、その間に精々腕でも磨いておくんだな!」

「当たり前よっ、あんな負け方 納得できないわ。」

「ほう、結構 負けず嫌いなんだな。」

「今更気付いたの? ランスさん、私の事ちっとも判って――――」

「何を言うかっ。」

≪ぷちゅっ≫

「――――んんっ!?」


リンは"良い雰囲気"を維持できる程 器用では無く、ランスにも気を利かせる甲斐性は無い。

それによって情景は良いのに早くもムードは壊れてしまうが、
ランスに体を預けながらも頬を膨らませるリンの唇を、いきなり奪った!

この不意打ちにより瞳をパチパチとさせているリンに対し、
リアクションをさせる前に彼は唇を離すと、不適な笑みを浮かべながら口を開き……


「俺様はなぁ、リンの事はちゃんと判ってるぞ~。 お前は今なぁ……」

「い、今……?」

「セックスしたいって事もなーーーーっ!!!!」

「きゃあああぁぁぁっ!!」


――――――――襲い掛かった。


「あまり声を出すな、こんな場所だしな。」

「"こんな場所"って……そ、それ以前の問題でしょッ?
 街道が直ぐ近くなのに、人が通ったらどうするのよ!」

「決闘する時から誰も通ってなかったし、大丈夫な筈だ。
 まぁ見られても、こんな所でキアランの公女がセックスしてるなんて思わんだろ。」

「そういう問題でも無いわよぉっ!!」

「(無視)がはははは、まぁ 少なくとも一年は会えん"気がする"のだ。
 その間にリンが浮気しないようにする為にも、しっかりと抱いてやろうッ。」

≪ぐいっ≫

「んぁっ……!」


リンを押し倒したランスは、彼女をすぐさま仰向けにさせると、
細い両手の手首を腰の後ろで 左手で掴んだ。

それと同時に右手を少し浮いているお尻に伸ばすと、スリットをペロりと捲り、
直ぐ様パンティーをずり降ろし、何とも素早い手付きだ。

また、片手なのに器用なものだが……これはリンだけが相手で成された技術では無い。


≪ふにふにふに≫

「う~む、相変わらず綺麗な尻だな。」

「ふぁ……ァ……んっ……」

「むっ? 今日はやけに大人しいな。」

「だ、だって……ひとまず、最後だし……どうせ言っても 無駄なんでしょっ?」

「がはははは、その通りだ。 良く判ってるじゃないか。」

「じゃあ……は、早く済ませてよ……」

「へっ、何だかんだで期待してたんだろ? こんなに濡れているではないか。」

「……ッ!? どっ、どうして貴方はそんなに野暮なのよっ!」

「野暮? ちっとも相手の事を判って無いってのは、お互い様だな。」

「うぅ~~っ……」


街道が近いというのに襲って来たランスに対し……

リンは腰を少しだけクネクネと動かすだけで大した抵抗はしなかった。

もしも人に見られればスキャンダルも良いトコロだろうが、
この無抵抗は ランスと暫く会えない寂しさからなるものだろう。

……ランスは元から"こういう事"に抵抗は無いので、只のスケベ心から来る行動だが。


「それはともかく……だ。 最後も同じように犯っちゃあつまらんし、今回は~……」

≪ぐに~っ≫

「えぇっ!? そっち、違ッ……」

「リンは"俺様の女"だという事を、とことん教えておいてやろう!」

≪――――つぷっ!≫

「ひッ!? ふああぁぁぁ~ー……っ!!」


リンの気持ちも分からなく無いので、自分なりに応えてあげようと彼女のカラダに手を伸ばすランス。

だが"応えてやる"と言っても相手がランスなので、甘い言葉などが出てくる筈が無い。

むしろ何時もより悪化したか……彼はいきなりリンのお尻に掌を這わせると、指を入れたのだ。

何時もなら"こんな事"はしないが、稽古後だけでなく、
稽古前にもリンがカラダを川や風呂等で綺麗にして来る事は知っていたので、躊躇いなど無かった。

しかし、リンにとってはたまったモノでは無いようで、
中で動かされる人差し指の感触に瞳を見開き、口をパクパクとさせている。


「結構 弄繰(いじく)り回したからなぁ、結構楽に……」

「あっ……アッ、がっ……」

「よ~し、それじゃ~喜べ! 初アナルだぁ!!」

「ま、待ってよ! 嬉しくなんか――――ひっ!?」

≪ぐぶぶぶ……っ!!≫

「リン、力を抜かんと辛いぞ~。」

「い……ぎっ、お尻なんて嫌ぁっ! 抜い……っ!」

「こら、あんまり騒ぐと誰かに聞こえちまうぞ~?」

「うぅぅ……無茶っ、言わないでっ……よぉ!!」

「そ~いや"こっち"なら中に出せるなぁ!」


――――この後 空気を読まないランスに、リンはこれでもかと言うくらいに弄ばれる。


「ち、ちょっと! ……くっ……何で普通にしてくれないのッ?」

「ラングレンと一騎討ちさせてやりゃあ、"何でも言う事聞く"とか言ってただろ? 我慢しろっ。」

「うぅぅ……折角のっ……お別れのッ、Hなのにぃ~……」

「がはははははっ!!!!」


……


…………


「……そんな訳でだな、ケツの中に3発は出したかな?」

「…………」

「終わったらリンはフラフラしながらも、一人でキアランの城に戻って行ったぞ。
 まだまだ若いが、一応は俺様の弟子と言った所か。」

「~~……」

「ちょっとやり過ぎたかも知れんが~、セーラちゃんとニニアンちゃんを我慢する分、
 あの時はリンに頑張ってもらったという訳だ。」

≪もみもみもみ≫

「へぇ~……お兄様、見境無いんですね~……」

「勘違いするな。 見境無いんじゃなく、可愛い娘限定だぞ! ……勿論セーラもな。」

「ふ~ん、それはど~もぉ……でも――――」

「んっ?」

「何時までお尻触ってんですか~~ーーッ!!!!」

≪ばちーーーーんっ!!!!≫

「あだーーーーッ!?」


……


…………


こうして、ムード皆無なリンとの別れを済ましたランス。

後は再びコスモスと接触し、"一年後のエレブ大陸"に飛ばして貰うダケとなった。

よって……宿に泊まった翌日、人気の無い場所で彼女と接触するつもりだったのだが……


「それじゃ、お兄様! 早くオスティアに行きましょッ!」

「オスティアだぁ~?」

「私がお世話になって……いえ、"お世話してた国"ですよ! リキアでは一番大きな国なんですよッ?」

「ふ~ん。」

「その"オスティア"のウーゼル様に、お兄様を紹介するんです! きっと皆 驚きますよ~っ?」

「…………」


――――今になって ランスは、重大な事に気が付いた。


「どうしたんですか お兄様? 速く出発しましょうよ~。」

≪ぐいぐいっ≫

「……(う~む……)」


自分の腕を執拗に引っ張る……こいつ(セーラ)どうしよう……と。



[2301] ファイアーエムブレム=鬼畜の剣= エピローグ
Name: Shinji◆9fccc648 ID:37b9b89a
Date: 2007/12/30 22:21
ファイアーエムブレム =鬼畜の剣=


リン編 終了時 各々の その後


■セイン&ケント■
公女リンディスの帰還を助けた功績により、互いにキアラン騎士隊隊長に任命される。
セインは地位を得てもナンパ癖は変わっておらず、憎めない一面として民に愛された。
ケントは若いながらも真面目な性格ゆえ、領地の誰もが敬意をもって接したという。


■ウィル&フロリーナ■
ランス傭兵団が解散する事になったと同時に、キアラン公爵家に仕える事となる。
ウィルは公女の臣下として恥じぬ立ち振る舞いをケントから学んでいるようだ。
フロリーナはリン付きの傭兵としての契約を済ませ、彼女と特訓している様子が確認された。


■ドルカス■
リンがキアラン侯公女と認められたのを確認した後、ベルンへと帰っていった。
その後は旅で得た大金を元にリキア同盟に移り、妻とフェレ領で時を過ごす。
ナタリーの足の病気もそれなりに良くなったが、完治にはまだお金が必要らしい。


■エルク■
無事に役目を終えたエルクは、直ぐにエトルリアに向け旅立った。
傭兵稼業は修行の一環だったようで、師匠の元に戻る彼の顔は明るかった。
そんなエルクの報告を受けて、師匠のパントがランスに興味を持ったのは言うまでも無い。


■ラス■
リンが気付いた時には、ランス・セーラと同じように姿を消していた。
草原に帰ったのか、まだ傭兵稼業を続けているのか……その行方を知る者は居なかった。
しかし数ヵ月後、リンは風の便りで彼がまた何処かで傭兵をしていると言う事を耳に挟む。


■マシュー■
戦いの後はオスティアに戻り、主君のウーゼルにキアランでの騒動についてを報告した。
当然ランスの事についても報告したが、流石のマシューでも彼の"全て"は判らない。
その為かランス(+セーラ)の姿を探す事も有ったが、全てが無駄骨に終わった。


■ニルス&ニニアン■
キアランの城で数日過ごしたのち、2人はまた旅立っていった。
聞くものをな和ます姉弟の笛の音は、今もどこかで奏でられているのだろう。
……だが、ニルスとニニアンの後ろには未だ"黒装束"達の影が迫ってきている。


■レイヴァン&ルセア■
ラングレンが倒れた事により、予定通りにキアランとの傭兵契約を済ませた。
レイヴァンはかなりの腕なので数ヵ月後に仕官に誘われたが、それを断っている。
ルセアは彼に仕える身のようであり、毎日の"光の魔法"の修行を欠かしていない。


■ワレス■
久しぶりに戦うことで血が騒いだという彼は、戦いの勘を取り戻す為に旅立っていった。
噂では極度の方向音痴らしいので、戻ってくるには何年もかかりそうだ。
しかしながら、彼の"旅"には一つの目的があり、道に迷うのはその後の話である。


■リン■
キアラン侯公女リンディスとして、祖父ハウゼンの元で暮らす。
彼女の手厚い看護のもと彼は生きる力を取り戻し、庭を散歩できる程まで回復した。
時折サカの方向を丘の上で眺め、故郷やランスの事を思い出す彼女の姿が目撃されている。


■セーラ■
戦いの後、何故かオスティアには戻らずに忽然と姿を消してしまった。
領主のウーゼルに手紙は送ったようなので、どうやら深い事情があるようだ。
それから一年間、少なくともオスティアの人間やセーラの知人が彼女を目撃する事は無かった。


■ランス■
大活躍後、キアランを去ると同時に唐突に歴史の表舞台から姿を消す。
伝説の貴族と言われたエウリード家の剣士の噂はそれなりに広まったが、
"とある事情"により一年の間、彼の姿は全く目撃されなかった。


次回、本編スタート!



[2301] ファイアーエムブレム=鬼畜の剣= 本編 その1
Name: Shinji◆9fccc648 ID:37b9b89a
Date: 2008/01/07 16:11
かつて人と竜が相争った"人竜戦役"。(序章参照)

その戦いにおいて竜を討ち倒し、人に勝利をもたらした八人の英雄が居た。

"八神将"と称えられる彼らはエレブ大陸に平和を齎(もたら)し、
人々は様々な国に分かれながら、ゆるやかな繁栄をとげていった。


……英雄ハルトムートが興した、東の武勇の国"ベルン王国"。

ドルカスの故郷であり、初めにランスが戦ったのも、ベルンの山賊であった。


……聖女エリミーヌの御名が広まる、西の芸術の国"エトルリア王国"。

セーラの我侭に付き合わされていたエルクがやってきた場所である。


……神騎兵ハノンの愛した草原を駆ける、遊牧民たちの"サカ諸部族"。

言わずともながらランスが目覚めた場所であり、リンとラスの育った場所。


……騎士バリガンの故郷イリアに集う、傭兵たちの"イリア諸騎士団"。

リキア同盟を南にサカ諸部族を挟み、ヘルマンを思わせる北の雪国で、フロリーナの故郷。


……狂戦士テュルバンが最期を遂げたあらくれ者たちの未開地"西方三島"。

エトルリア王国よりも更に西に位置し、あちらにない"島"なのでランスが最も知らない地域。


……大賢者アトスが隠遁したといわれる、不毛の大地"ナバタ砂漠"。

大陸南西に位置する故 西方三島と同じく遠い地域だが、砂漠での酒池肉林はランスの記憶に新しい。


……そして、勇者ローランを祖先にもつ諸侯たちの"リキア同盟"。

ランスとリンが目指した"キアラン"もリキア同盟の領地のうちの一つである。




――――そんなエレブ新暦980年。

忽然と姿を消した"あの男"が、約一年間もの空白の後に。

再びリキア同盟の"とある領地"に姿を現していた。




ファイアーエムブレム =鬼畜の剣=

本編 その1 鬼畜戦士と毒舌義妹




「ぐがぁ……ぐぅぐぅ……」

「……むにゃ……」


……とある昼時まで、一寸前の一室。

太陽が眩しく輝き続けているが、その部屋のカーテンは閉じており、
僅かな光は差し込んできているモノの、2人の男女の寝息が聞こえてくる。

とっくに起きて良い時間だが、この様子では少なくとも正午まで起きなさそうだ。

だが誰かに迷惑を掛けるワケでも無いし、そのまま時間が過ぎてゆくと思われたが……


≪……ガシャーンッ……≫


「ふぁ?」


扉越しに、何やら五月蝿げな音が聞こえてきた。

此処は2階であるが、丈夫な造りでは無い為か、それなりに振動も伝わってきた。

……と言うか、かなり"暴れている"ようであり、その根元がこちらに来たのだろう。

よって目が覚めてしまった女性は、目をコスりながら上半身を起こした。

しかし、男性のほうは未だに爆睡のようであり、この騒動でも起きる気配が無い。


「小さな村だけど、お城も近いし平気だと思ったのに……」


男性が起きないのは"何時もの事"なので、女性は気にも掛けずにベットから離れる。

ちなみに全裸であり、彼女は先ずピンク色の髪をお馴染みのツインテールに変えた。

そしてせっせと修道服に着替えると、カーテンを少しだけ開けて寝ている男性に近寄って言う。

言うまでも無くその女性は"セーラ"であり、寝ている男は"ランス"である。


「ど~やら、こんな所にも山賊が来てるみたいですよ? "お兄様"ッ!」




……




…………




リキア同盟の南東に位置する、フェレ侯爵領。

名君と称えられ民達から慕われていた、エルバードにより治められており、
この地域の者達は、長らく争いとは無縁な安定した生活を送れていた。

だが、一ヶ月前に彼は部下の精鋭の騎士隊を連れて"謎の失踪"を遂げてしまう。

その噂は2週間後にはかなり広まってしまい、最近になっては他領の山賊までもが耳にした。

それ故に今こそはと金を求めて、多くの山賊達がフェレ侯爵領に進入。

エルバードの存在の為に手を出せなかった鬱憤を一気に晴らすような暴れっぷりを見せていた。


「フェレの騎士どもは"全滅した"って噂だよなぁ~?
 良いかぁ? 今日からこの村の支配者はこの俺、グロズヌイ様だ!
 とりあえず金目の物をありったけ持ってきやがれッ!!」

「わはははははっ!!」

「ナメた真似しやがると、お前等もぶっ殺しちまうぞぉ!?」


≪ガシャアアアアァァァァンッ!!!!≫


彼ら山賊にとっては、"支配者"と言う言葉さえ、過ぎた単語。

ただ金を奪い、女を襲い、逆らえば容赦なく殺す。

山賊達は村に侵入すると、まずは抗おうとした十数人の勇気有る者達を始末し、
村長の家と思われる場所を聞き出すと襲い、金品の要求をする。

しかし、捧げられた金品が"全て"では無いのは判り切っている事なので、
山賊達は"道具屋"をも襲って金を奪うと、宿屋にも入り込み、
食堂も兼ねている一階のテーブルの一つを容赦なく蹴飛ばして店主を脅す。

不幸な事にこのような小さな村では、宿屋は山賊達の塒(ねぐら)としても利用されるようで、
リーダーのグロズヌイは手下達に、引き続き各所での金品の巻き上げを命令すると、
自分は一息入れようと、5名ほどの山賊達を率いてでの侵入である。

対して宿屋の人間たちは、既に村の人間の血を見ている事から、ただ怯えるだけだ。

故にグロズヌイは気分が良さそうに、食堂の客を追い出している手下達の様子を眺めながら叫ぶ。


「おい、酒と食い物を用意しろ! 急がねぇと頭叩き割るぞ!?」

「は、はい~っ!」


頭を抱えて震えていた店主は、罵声を浴びせられると厨房へと消える。

そして直ぐ様お酒が運ばれると、十数分後に食事も用意された。

そうなると早くから酒盛りとなり、山賊達は巻き上げた金品を傍に大騒ぎする。

同時に村の女性たちもお酌を強制させられるだけでなく、
気に入られてしまった女は半ば無理やり、上の階の部屋へと連れて行かれてしまう。

何をされるかは言わずともながら、もはや村人達は"早く帰ってくれ"と思うしかなかったが……


≪ギシッ、ギシッ……≫


「良いんですか? あんな事しちゃって……」

「パンチ1発で済ませてやったんだ、何の問題も無いぞ。」

「でも、鼻がヤバいヘコみ方してた気がしましたけど。」

「いいのだ。」


酒盛りの雰囲気を読まずに、二人の人間が階段を降りてくる。

片方はセーラ。 回復効果のある杖を片手に、少し後ろを気にしている。

もう片方はランス。 緑の衣服に腰に剣を挿し、何やら手首を動かしていた。

どうやら女を部屋に連れ込もうとした山賊を殴り倒したようであるが、
何事も無かったような本人(ランス)の様子に、山賊達はそれを察していないようだ。

故にリアクションもできずにいると、2人は山賊達の横を素通りすると、
ランスはカウンターで小さくなっている店主に声を掛ける。


「おい、何か適当に食い物 拵(こしら)えてくれ。」

「えっ? あっ、はぁ……」

「お前はどうするんだ?」

「う~ん……それじゃあ、私はスパゲティでっ。」


ランスとセーラは、臆さずに注文を済ませると、
食堂の端っこの丸テーブルに腰を降ろすと、運ばれてきたドリンクを口に含む。

まるで周囲の事など気にしていない雰囲気であり、
その様子を見て山賊・村人 問わずに、ヒソヒソと何やら言葉を交わしていた。

それもランスは気にしていないようだが、流石にセーラは彼の空気に合わせていたダケであった。


「おっ? なんだこれ、美味いな。」

「ですよね~、これってフェレ領でも特産の……って、そうじゃなくて!」

「なんだ?」

「村……襲われちゃってるみたいですよ? 良いんですか? このままで。」

「良くは無いけどな、いい加減 面倒臭いぞ。 これで何度目だ?」

「確かに、今のフェレ領は山賊の恰好の的みたいですけど~……」

「おいッ! てめぇら、さっきから何シカトしてやがんだ!?」


セーラは小声で話し掛けるが、ランスは普通に受け応える。

そんな2人に、ようやく一人の山賊の手下が近付いて勝手なイチャモンを付けてきた!

シカトと言う言葉は基本的に、何か言われても無視する事を意味するのだが、
そもそも何も話し掛けられていないので、シカトした事にはなっていない。

だが、自分達を見て怯えない時点で侮辱になるらしく、カップル?であれば尚更だ。


「……何の話だ?」

「トボけんじゃねぇ、旨くやり過ごそうったってそうはいかねぇ。
 見てくれから金は持ってそうだな、出して貰おうじゃねぇか!」

「…………」(ピクッ)

「……ん? よく見たら良い女 連れてんじゃねぇか! へへっ、こっちに来いよ!」

「ちょっと、私には触らない方が良いわよ?」

「何言ってんだぁ? 嬢ちゃん。」

「う~んと、高貴な私に触れちゃダメなのもあるけど、それと違う意味で言ってあげてるの。」

「はぁ? とにかくきやがれッ! それと勿論、金も忘れんじゃ――――


≪――――バコッ!!!!≫


 ぎゃああああぁぁぁぁっ!!!!」

「キャーーーーッ!!」

「!? 野郎、何しやがるっ!!」

「これはこっちの台詞だぞ、勝手な事ばっか抜かしやがって。」


少々暴走癖が有るが、自称の通りセーラは美少女である。

それ故に山賊は早速目を付けたが、その手が触れようとした時!

いきなり山賊は情けない声をあげながら吹っ飛び、そのまま壁に叩きつけられた。

言うまでも無くランスが殴り掛かった為であり、彼の女に"手を出そうと"してしまった。

これはランスにとっては"やれやれ"と言ったところだが、
山賊達とっては間違いなく、予想もできない不幸な遭遇と言って良いだろう。

だが、そんな事を理解できる脳を持っていない山賊達は揃って立ち上がる!


「良い度胸じゃねぇか、ぶっ殺してやるッ!」

「たたんじまえーー!!」

「セーラ、テーブルの下にでも隠れとけ。」

「は~い。」

「うおおおおぉぉぉぉっ!!!!」


≪ガッ!! ボコッ!! ガッタアアァァンッ!!≫


「ぐわぁッ!? な、なんだ……コイツ……」

「……つ、強ぇっ……」


居合わせた山賊達は酔いがまわっているのか、斧を持たずに素手で殴り掛ってくる。

その"勢い"は泣く子が黙る程 迫力が有ったが、何でどうして!?

片っ端からランスに殴られ、蹴られ、殴られ、彼の後方の壁には、
伸びてしまった山賊達の山が積み上げられてゆく。

"初め"は乱闘になり、店の中を滅茶苦茶にしてしまったモノだが、
これを"何度も"経験した事から学習したようで、ランスはその場から殆ど動いていない。

そんなこんなで、あっという間に無事な山賊はグロズヌイだけになってしまい、
彼は一気に酔いが冷めてしまうと、斧を手にとって立ち上がった。

目の前の男は恐らく只者では無く、外に逃げれば手下が残っているのだが、
武器(斧)を持った自分が負ける筈が無い……自分は強いからこそ、リーダーになれた。

その自惚れと山賊としての"面子"が、彼に最悪の選択を導かせてしまった。


「とっとと失せろ、飯の邪魔だ。」

「ぬかしやがれ。 ここまでコケにされて、引くワケにゃあ~いかねぇな。」

「……ったく。」

「お兄様~、頑張って~!」

「フザけやがって、その脳天 叩き割ってやる……」

「ほほぅ。 俺様に武器を向けたと言う事は、覚悟はできてるんだろうなぁ?」

「ナメやがって……死ねええぇぇっ!!!!」




……




…………




戦いの勝負はアッサリとついた。

ランスはグロズヌイが振り落としてきた武器を弾き飛ばすと、
斧は天井に突き刺さり、慌てて命乞いを"しようとした"彼を容赦なく斬り殺す。

"以前"のように盗賊団を支配するのであれば殺すのはボスだけで良く、
その気が無い今であれば皆殺しにする方が世の為なのだが、非常に疲れるので却下。

しかし、リーダーであるグロズヌイに限っては、生かしておけば間違いなく、
仲間を再び集めて似たような事をするだろうし死んで頂くに限る。

本来であれば領地の役所に引き渡すのが定石だが、
面倒事が嫌いなランスは、さっさとその場を去ろうと宿の手続きに移る。

いや……既に彼にとっては此処で食事ができなくなったダケで"面倒な事"になっており、
何時もの馬鹿笑いが無かったのは、山賊達が現れた事で こうなる事が判っていたからだ。

"最初"は調子に乗ってフェレ領の村を襲う山賊を蹴散らしてはいたが、今はもう飽きていた。


「もうこの村にも居られねぇな、行くぞセーラ。」

「あ~あ、スパゲティ~食べたかったのに……」

「おい、預けてた荷物は無事か?」

「え、えぇ……此方に……」

「うむ。 そんじゃ~、邪魔したな。」


未だに状況が飲み込めていない店主から荷物を受け取るランス。

それを確認すると、彼は数十ゴールドをカウンターに置いてその場を後にした。

セーラもランスに続き、二人の背中を村人たちは未だにポカンとして見送るしかなかった。


「これからど~します?」

「とりあえずフェレの城を目指す、其処で何か有るみたいだしな。」


宿を出たランスとセーラは、足代わりとなる馬に荷物を掛けるとそれに乗る。

かなり値段が張ったので更に2人の体重がプラスされても平気な頼もしい馬だ。

ちなみに今更だが、ランスは普通に跨っているのだが、
セーラは修道服の関係で両足を片側で泳がし、彼の腰に掴まっている。


「そろそろ、お城も近いですね。 今日中には着けると思います。」

「しかしなぁ~……あいつ、"飛ばした"までは良かったが、
 "後は好きにしろ"とか適当な事 言いやがって……」

「それ以前に、お兄様の知り合いに"あんなもの"が居た方に驚きですよ。」

「好きで知り合った訳でも無ぇんだけどな。」


セーラの言う"あんなもの"とは、エンジェルナイトのコスモスの事である。

何故そんな呼び方なのかと言うと、コスモスはセーラに天使の姿は見せておらず、
光の球体として現れており、ランスとセーラを未来へと転送させたからだ。

実際なら"ランスだけ"が一年後に飛ぶ予定であったが、
セーラはランスの適当な言い訳で彼の元を離れる気はサラサラなかった。

ランスにとってはセーラは"一年後も役立つ回復役"くらいの認識であったが、
彼女にとってのランスは只一人の肉親(実際違うが)であり、片時も離れたくない存在。

当然、一年以上も彼と会えないオスティアでの生活など、考えられなかった。

これはリンも同じような心境であるが、彼女は真面目な性格と立場上我慢しているし、
そもそもセーラの性格を考えれば当たり前であり、ランスはセーラの気持ちを甘く見すぎていた。

かといって、"真実"を話して突き放すワケにもいかないし、
ランスはコスモス(光の塊)を呼ぶと、彼女の正体を隠して"セーラごと"転送を頼んだ。


『2人同時の転送は可能……だが、時差が生じる。』

「なんでだ?」

『元々貴方のみを転送するだった故、少々"力"が足りない。
 ……だが、その娘の"力"はまだまだ弱いもの……
 故に、一年より何週間か早く未来に転送する程度で済むだろう。』

「お兄様……こ、これって一体……」


好奇心旺盛で無邪気なセーラであっても、これは衝撃的な事であった。

エレブ大陸には多くの伝説が存在しているが、ランスがそれに関わっているかもしれないからだ。

当然 流す事はできないので聞いてみると、彼は少しだけ考えると、
"最近こいつ(コスモス)に世界を救う旅を任されたのだ"と答えた。

ハッキリ言って嘘だが、コスモスが話を合わせる事で納得するしかなく、
若干迷ったが、セーラはオスティアに手紙を送るとランスと共に未来へと飛んだ。

その、飛んだ期間は11ヶ月後……セーラの追加で、一か月分 飛ぶ"力"が足りなかったようだ。

さておき"11ヶ月後のキアラン"に飛ばされた直後、
ランスがコスモスに何をすれば良いかと聞くと、彼女?は無責任にもこう告げた。


『後は好きにするが良い。』


コスモスはランスが"あっち"戻れる情報に関して、僅かしか告げていない。

リンをキアランに送り届け、"一年経てばその刻"が来る事。

ランスが"あちら"に戻る為として、リンとニニアン(+ニルス)の存在が必要不可欠と言う事 程度だ。

それなのに"好きにしろ"と言われて目的が見つかるハズもなく、
追求すると、最後にコスモスは"フェレ領で動きが有るだろう"と残して消え去った。

それ以来彼女は姿を見せず、ランスとセーラはフェレ領を目指してのんびりと旅を続ける事にした。

そんなうちに、フェレ領の騎士団が領主 共々消えたという情報を耳にしたので、
2人はコスモスの言葉は本当だったと理解し、フェレの城を目指していた。

だが、"一ヶ月"というのは長く、その時間の指定があるからこそ、
ランスとセーラは大して急ぐ事もなく、今になってようやく城に辿り着こうとしていたのだ。

その為か、セーラはランスとのエッチで、かなりの"強化"がなされていた。

無論、今となればランスから説明も受けており、彼に対する想いも上がっており、
ランスもランスでセーラみたいなタイプと旅をするのは、満更でもないらしい。


≪――――キィンッ! ざしゅっ!!≫


「……ん、何の騒ぎだ?」

「何か戦ってるみたいですけど……」

「"珍しい"な、役人でも来たのか?」

「そうじゃないみたいですね。」

「まぁ、関係無ぇな。 どにかく何処かで腹拵えだ。」


そんな、カポカポと馬で村を出ようとする中。

何やら視界に戦いが繰り広げられている様子が飛び込んでくる!

どうやら宿に居なかった山賊達と、何者か達が戦っているようだ。

戦いは山賊側が圧倒的に劣勢のようであり、彼等を倒しているのはざっと見て6名。

馬に乗り槍で戦うのが2名、斧を振り回す戦士が2名、赤髪の剣士が1名、弓を持つ少女が1名。

そのうち2名は、ランスとセーラも見た事がある人物であった。


「でも……あれ? お兄様、あの人達って……」

「おぉっ、エリウッドとドルカスじゃね~か?」


これが未来へと飛ばされて、初めての"仲間"との再会であった。



[2301] ファイアーエムブレム=鬼畜の剣= 本編 その2
Name: Shinji◆9fccc648 ID:37b9b89a
Date: 2008/01/13 06:58
ファイアーエムブレム =鬼畜の剣=

本編 その2 フェレ侯公子




「くっ……逃げろ!」

「覚えてやがれぇッ!」


リーダーのグロズヌイと、他の数人の山賊達は宿で酒盛りをしていたが、
下っ端の残りの山賊達は引き続き村の略奪を続けていた。

そんな中、エリウッド・ドルカスを含む6人の人間の奇襲による攻撃を受け、
大して頭に対しての忠誠心は無いのか、斬られた者以外の山賊達は逃げ出し始めた。

しかし馬に乗る人間の足には敵わず、2騎のナイトに数名の山賊は回りこまれる。


≪――――ダカパッ!!≫


「逃げても無駄だ、大人しく武器を捨てて投降しろ。」

「くっ……この野郎……」

「ど、どきやがれっ!!」


その2騎のうち、片方の男は黄緑色の短髪だが、
前髪は彼の両目が見えない程に微妙に長く、先程の戦い方のギコち無さから、
そんなに階級の高い騎士では無さそうな様子である。

だが、彼の前方で山賊達に警告している騎士はなかなかの実力であった。

年齢は三十半ばあたりで、薄紫色のオールバックの堅物そうな騎士。

ドルカスやエリウッドも確かに腕は立つが、ランスがザっと見るに、
このオールバックのオッサンが、6名の中では最強だろうと捉えた。

勿論 自信過剰なランスは、自分より強い確率は0%だろう……と付け足す事は忘れない。

さておき、"投降しろ"などと言われて山賊達が素直に従うハズも無く斧を振り上げるが……


「ふんっ!」


≪――――ドシュッ!!≫


「ぎゃああああぁぁぁぁっ!!!!」

「どうした、まだやるかッ?」

「お、おい……どうする?」

「強ぇよ、多分"お頭"でもコイツにゃあ……」


瞬く間に騎士の槍に胸を突かれて絶命し、一歩引く山賊達。

だが後ろをチラりと見ると、ドルカス含む2名の戦士がドスドスと迫って来ており、
彼らの実力も相当なモノと言う事から、山賊達は次々と武器を地面に捨てた。

流石 略奪を続けさせられていた下っ端だけあって、面子を保つ気も無い様である。


「ロウエン、この者達を捕らえろ。」

「はいッ、マーカス将軍!」

「ドルカス、バアトルとやら。 雇ったばかりですまぬが、ロウエンを手伝ってやってくれ。」

「わかった。」

「おう、任せておきな!」


ロウエンと呼ばれた両目が隠れている騎士は、マーカスと言われた騎士に指示されると、
やはり彼の部下なのか、馬を降りて武器を捨てた山賊達を拘束しはじめ、
ドルカスとバアトルと言う戦士もロウエンの手伝いを初めた。

その様子を警戒しつつ見守りながらマーカスが ふとエリウッドの方を見ると、
彼は何時の間にか走り出し、屈指の馬に跨る"見た事も無い男"に話し掛けていた。

それを見てマーカスは思わず顔を歪めたが、エリウッドの親しそうな表情の横顔。

つまり山賊の類では無く、どうやら彼の知人のようであり、
マーカスは気になりはしたモノの、ひとまず山賊達の様子を見張っていた。


「ランスさんッ、まさか こんな所で会うなんて!」

「おう、"久しぶり"だったな。」

「はい……1年以上になりますね。」

「うむ。」

「ところで、ランスさんは何故フェレにまで?」

「そんな事よりだ。」

「え……っ?


≪べしっ!≫


 ――――あいたっ。 な、何を?」


一方、エリウッド。

彼は山賊達の追撃をマーカス達に任せると、すぐさまランスとセーラの姿を発見した。

直後 マーカスの見たように走り出し、2人が跨る馬の傍までやってくる。

その表情は見るからにランスとの再会を喜んでいる様子であり、
早速フェレまで彼がやってきた理由から聞き出そうとしたが、
ランスは仏頂面で鞘に納まったままの剣でエリウッドの頭をベシんと叩いた。

対して、何故 叩かれた判らないエリウッドは、頭をさすりながら、彼の言葉を待つしかなかった。


「……6回だ。」

「ろ、6回とはっ?」

「セーラ、合ってるよな?」

「え~っと、1・2・3……はい、今回で6回目ですね~。」

「そうか。 あのな、それは俺様が村で山賊どもと鉢合わせた回数だ。」

「えぇえっ!?」

「お前の領地に山賊が現れようが、知った事じゃあ無いんだが、
 俺様に尻拭いをさせるな。 親父の失踪か何だか知らんが、山賊 如きにナメられるんじゃねえ。」

「す、すいません……」


ランスがエリウッドを小突いた理由は、山賊達の進入にフェレ領の対応がズさんだったからだ。

エリウッドの父であるエルバートが失踪したのには深い訳がありそうだが、
領民達にとっては突然山賊が襲って来るという事実しかなく、全く迷惑な話だ。

かと言ってもランスにとっては、無責任にも関係ない事としか思わず、
普通にフェレの城を目指していたが、運悪く"全て"の山賊の来襲に遭遇。

結果、6つ全ての山賊団のアタマを斬り殺すという働きをしたのだが、
初めはともかく、こうも巻き込まれると、役人も来ない領地の対応に呆れていた。

理由としてはエルバート(+騎士隊)の捜索に殆どの兵を使ってしまっていたからなのだが、
そもそも今のフェレを含めて、エレブ大陸の治安の悪さはランスの世界を遥かに越えていた。

セーラの話によると、貧しい雪国の"イリア諸騎士団"に限っては、
"略奪する物"自体が少なく山賊も同じらしいが、どの国も賊の略奪には頭を痛めているらしい。

だが、ランスの世界では賊の力を大きく上回る"モンスター"という存在が、
賊達の行動範囲を大きく狭めており、モンスターだけでなく、
彼らをも狩る"冒険者ギルド"と言うのも機能しており、賊とは正直割に合わない商売と言える。

元々 治安自体も"こちら"よりは悪くなく、王様をしていたランスは確かにダラけてはいたが、
マリスのような有能な人間達が居た事から、住民達は幸せな暮らしをできていた。

……しかしながら、代わりにフェレを治めなければならないエリウッドは、
山賊を放置する人間ではなく、遅れはしても、山賊討伐を命じていただろう。

現にランスの存在を知らずとも、鉢合わせた山賊達を、こうして撃退している。

つまり、山賊に何度も鉢合わせたのは運の問題であり、エリウッドの所為ダケにする事も無いのだが、
彼は元からの真面目な性格もあってか、素直にランスに対して謝った。


「まぁいい……じゃあ、先に答えろ。 "こんな所"で何してんだ?」

「山賊をやっつけに来たってワケじゃ無いですよねぇ?
 この村が襲われてから来たって言うのにしては、早すぎますし。」

「……それはですね……」




……




…………




……数十分後。

ランスとセーラは再び宿に戻っていた。

今現在は再び借りた2階の部屋で椅子に腰掛け、セーラはベットに腰掛ける中、
エリウッド・そして聖騎士の"マーカス"は立って二人と向かい合っている。

ちなみにマーカス直属の部下であるロウエンはフェレの城に蜻蛉帰りして、
捕らえた山賊の処罰を任せるべく、兵を呼びに行っており、
マーカスの指示でロウエンが雇ったドスカス・バアトルの傭兵2人組みは、
既に片付けられている一階の食堂で、賄(まかな)いを受けている最中だろう。

さておきマーカスは初めはランスの無礼な態度に反感を感じていたが、
ランスが山賊達を6度も追い払い、エルバートをもが肖っていた、
あの"エウリ-ド家"の人間と言う事を知り、はやくも一目置く事となっていた。

またエリウッドにランスの強さを何度も聞いていたし、それ以前に、
マーカス程の人間であれば、ランスが"只者ではない"事をも既に理解できていた。

しかしフェレ騎士でも屈指である彼は、自分はともかくとして、
エリウッドにまで立ち話をさせている事が気になっていたが、
目線は自分達のほうが上と言う事で渋々 口を出さすに今至っている。


「……と言う事で、僕はこれからマーカス達と、父を探す旅に出ようとしていたんです。」

「そんな矢先に、山賊達と鉢合わせたって事か?」

「はい。 既に頭の山賊は、ランスさんが倒してくれてたようでしたけどね。」

「好きで相手した訳じゃねぇけどな。」

「それだけでなく……山賊が現れた所々で、彼らを撃退する剣士の報告を受けました。
 噂に詳しい者からは、"剣魔"では無いかと言う話もありましたが、まさかランスさんとは……」

「セーラ、"剣魔"ってなんだ?」

「う~んと……なんでも、妖刀を使う人斬りって聞いた事が有ります。」

「なんだとぉ~? そんなヤツと一緒にするなッ。」


話によると、エリウッドは母(侯后エレノア)を残して父を探す旅に出た直後だったようだ。

今までは父を探す為に兵を出し、その所為で治安がどんどん下がっていってしまったが、
自らが旅に出る事で兵による探索を終了し、治安の回復と同時に父との再会を果たそうとしていた。

先程エリウッドがエルバートの代わりにフェレを治めるべきとも言ったが、
考えてみれば若い彼よりも、母であるエレノアに任せる方が適任とも考えられるのだ。

……と、そんな話を聞いて、ランスとセーラは理解し顔を見合わせた。

コスモスが言った"フェレ領で動きが有るだろう"というのは、どうやらこの事だったらしい。

つまりエリウッドの旅が、ランスが"元の世界"に戻る為の"何か"に繋がる可能性が高い。

セーラはセーラで、エリウッドの父親(エルバート)探しの旅が、
後にランスの嘘である"世界を救う旅"の一貫として関わってゆくのでは無いかと考えていた。

……ちなみに、この事はセーラには口止めさせている。

信じ難いし、わざわざコスモスを見せて信じさせるワケにもいかないからだ。


「僕はそんなところです。 ではランスさんは、何故フェレに?」

「ん……特に理由は無ぇんだが、たまたまフェレの近くまで来たし、
 例の噂も耳にしたしで、なんとなくお前等の様子でも見に行こうかと思ってな。」

「!? そ、それでは、ランスさんは僕達の力になってくださるつもりで?」

「まぁ、どう考えるかはお前の勝手だけどな。」

「……(この男……思ったよりも情がある人間なのか?)」


実際のところ、男であるエリウッドの力になってやるつもりはサラサラない。

だが彼に協力しなければ"あちら"に戻れないのであれば、手を貸してやるしかないのだ。

かと言っても自分の腕を安売りするつもりは無く、やはり偉そうなランスであった。


「そ……それでは、改めて。 ランスさん、先程は有難うございました。
 もし、今仰られた事が事実であれば、このまま僕の旅にご同行願えませんか?
 いざと言う時に貴方のような方が側に居てくださると、とても助かるのですが……」

「だとよ、どうする?」

「良いんじゃないんですかぁ?(お兄様、素直じゃないわね~。)」

「……と言う訳で喜べ、この俺様が付いて行ってやろうッ。」

「!? 宜しいのですか? 有難うございますっ!
 では、これから暫く宜しくお願いします!!」

「えぇい寄るなッ、男に手など握られても嬉しくないわ!」

「セーラッ、君も宜しく頼むよっ?」

「は~い。」

「人の話を聞かんか~っ!」


ランスは性格はアレだが、エリウッドが知る限り最強の"騎士"。

この少数での旅に、彼ほど頼りになる人間は居ないだろう。

しかも憧れの存在であれば興奮もするハズであり、彼は思わずランスの手を握ってしまう。

それに対してランスはあからさまに嫌そうな顔をする中、セーラとも言葉を交わすエリウッド。

……と、こうして2人はエリウッド達と合流でき、これが"新たな旅の始まり"であった。




……




…………




「ところでドルカス、何でお前がフェレに居るんだ?」

「……あんたに貰った金でフェレに移り住んでな。 今はエリウッド様に雇われている。」

「嫁はどうした?」

「"仕事"の間はフェレで待たせるつもりだ。 病気を治すにはまだ金が必要でな。」

「まぁ、俺様が来たからには金なんぞ簡単に稼げるぞ。
 役に立てば少しは分け前もくれてやるから、精々俺様の足を引っ張らんようにするんだな。」

「……善処する。」


1時間後、ランス達は一階で食事をしながら雑談をしていた。

ロウエンはまだフェレの城から戻っていないので、
ランス・セーラ・エリウッド・マーカス・ドルカス・バアトルの6名での食事だ。

だが、そのうちのバアトルはテンションの高い巨漢の暑苦しい男……いわゆる熱血タイプ。

それ故に唐突にランスに勝負を挑み、今は彼の鉄拳で気絶し地面にうつ伏せに倒れている。

そんなバアトルの背中を雑談中チラリと見たランスは、無意識に顔を歪めていた。

エリウッドの旅に加わってやる事にしたのは良いが、思えば"女"が居ないではないか!

確かにエリウッド・マーカス・ドルカス・バアトルはその辺の山賊達よりは遥かに腕が立つ。

ロウエンも従騎士だが素質は有るらしく、話によると料理の腕が一級品らしいが、
男である事が最大のネックであり、このままではとても"つまらない"旅になってしまいそうだ。

よって、しきりに話しかけてくるエリウッドに対して、
普通に雑談の相手をしてやっているモノの、心の中で色々と対策を練っている時。

宿の入り口から2人の人間が姿を現し、一人はこの村の村長・もう一人は村長の娘。

その2人はエリウッドの側までやってくると、村長は頭を下げて言った。


「これはこれは、エリウッド様ですな?
 この度は村を救って頂き、誠にありがとうございます。」

「いえ……礼には及びません。 領民を守るのは、当然ですから。」

「いやいや、そんな事はありませんぞ。 西の方にあるラウス領……
 あそこは酷いもんで、領主"ダーレン"は戦の準備に忙しく、
 領内の村々が山賊や盗賊どもに襲われても、知らぬふりとか。」

「!? 戦の準備……まさか。」

「嘘ではございませんぞ? つい先日の事ですが、ラウスに住んでいたワシの弟が、
 住む家を焼かれ、どうにもならなくなり、此処まで逃げてきましてな。
 弟の話では、もう直ぐにでも戦が起こせるような状態だとか……」

「マーカスッ?」

「はい、エリウッド様! 今の話が事実だとすると……」


村長の話を聞くと、思わず立ち上がるエリウッド。

……リキア同盟の領地であるラウスが、独断で戦を起こそうとしている……

それは相手が同じリキア内の領地である事を意味しており、
深く考えてみれば、フェレ領はラウス領に近い事もあり、
エリウッドはエルバートの失踪が"この件"に関わっているのでは無いかと考えた。

確実性は無いが、他に手掛かりは無いので、ラウスに向かって調べるしかないだろう。

そんな訳で、その場で"打ち合わせ"を始めてしまうエリウッドとマーカス。

一方、ドルカスは雇い主の決めた事にはハナから従う気なので静かに食事を続けており、
好奇心旺盛なセーラはエリウッドとマーカスの会話に聞き耳を立て、バアトルは未だに気絶。

そしてランスはどうかと言うと……横に居る"村長の娘(15)"に目を付けていた!

緑のセミロングの髪に、前髪を残して頭を薄緑のバンダナで覆い、
後ろ髪を半分に分けて三つ編みにしており、小柄だが可愛い美少女だ。


「むっ? 君は確か……さっき戦ってなかったか?」

「あっ……は、はい。 わたしは"レベッカ"って言います。
 村が山賊に襲われたから、助けを求めに行ったんですけど……」

「偶然エリウッド達と会って、一緒に戦ってたってトコか?」

「はいっ、正解です。 ……ところで、えっと……」

「俺様は"ランス"だ。」

「その、ランスさん。 貴方が山賊のリーダーをやっつけちゃったんですか?
 凄く強かった……って、村で噂になってたんです。」

「うむ。 俺様は最強だからな、山賊なんてペッだ。
 そういうレベッカちゃんも、なかなかの弓の腕だった気がするが?」

「えへっ。 毎日狩りをしていますので、少しは自信があります。」


少女は"レベッカ"と名乗り、その名を聞いてランスは真っ先に、
ブルーペットから奪い取った(?)レベッカの事を思い出した。

無表情で不感症な彼女だったが、僅かに心を取り戻した彼女は今は何をしているのか。

だが、目の前のレベッカとは関係ないので、ランスは考えを止めると会話を始める。

そんなレベッカは"とある目的"があって、村長に付き添ってエリウッド達の元へ訪れていた。

一つは宿屋内から始まり短時間で、瞬く間に噂が広まった"ランス"との会話。

初めは彼の見てくれから緊張していた様子だったが、直ぐに馴染んだようである。

では、次の目的だが……それは意外にも、ランスの口から発せられた。


「ところでレベッカちゃん、提案なんだが。」

「はい?」

「君の弓の"腕"を俺様が買おう。」

「えぇ……っ!? 」

「結構 村も荒らされたようだし、悪い話じゃ無いと思うが?」

「そ、それって本当ですかッ? 実は私も、エリウッド様の旅に付いて行こうって思ってたんです!」

「こ……こら、レベッカ! 馬鹿な事を言うんじゃないッ。」

「……父さん、この方達は村の恩人よ。 わたしにできるお礼なんて、
 弓で戦うことぐらいだけど、それでも お役に立ってみせるわ!」

「じゃが……」

「それに、もしかしたら旅先で"お兄ちゃん"に会えるかもしれない。
 父さんには村長の役目があるし、わたしだって一人で旅なんて無理だから、
 この機会を逃したらダメだと思うの。 だからお願い、わたしを行かせてッ!」

「ふぅ……やれやれ、死んだ母さんに似て頑固な娘だ。」

「ごめんなさい……」

「エリウッド様のお父上……侯爵様には本当に良くして頂いた。
 お前も心を込めてお仕えし、エリウッド様のお力になって差し上げるんじゃよ。」

「はいっ!」


レベッカと言う少女は、以前から村を出て旅つ事を考えていたらしい。

だが一人では無謀な事は判っていた故に諦めていたが……機会が来た!

よってエリウッド達に付いて行く事を決め、父親を無理矢理 説得した。

大人しそうな娘だと思ったが、どうやら村長の言う様に、それなりに気は強いようだ。

……かと言っても、村長が"エリウッド"を強調するのは若干 気に食わないが、
自分から旅に参加する事を望むレベッカは、むしろランスにとっては評価できる点であった。


「おいおい、何を勘違いしてやがるんだ?」

「……えっ?」

「俺様は"雇う"と言ったのだ。 ……おい、ドルカス。 お前は幾らで雇われてるんだ?」

「……前金で2000。」

「ほほぅ。 それなら、レベッカちゃんも……


≪――――ズシッ≫


 2000で雇ってやる、どうだ?」

「そんな、ランスさん! わたしは、お金なんて……それに、そんな大金~……」

「まぁ、ぶっ壊された村の修理費の足しにはなるだろ?」

「そ、そうですけど……」

「だったら素直に受け取るのだ、じゃないとレベッカちゃんの同行は認めん。」

「……うッ……わ、わかりました。」

「おい、ドルカス。 まだ20000近くあるんだが、必要だったら貸してやるぞ?」

「ほ、本当かッ?」

「がははははは、山賊どもから巻き上げた金が、重くて仕方無いのだ!」


ランスは自分の座る椅子の後ろの荷物からお金を取り出すと、テーブルの上に置いた。

その2000ゴールドという金額はレベッカのような村娘には始めて見る大金である。

故に当然 躊躇うが、同行を既に決めている事から断れず、渋々お金を受け取る事にしたレベッカ。

だが、それを確認してランスは満足そうに口元を歪めたので、左程 後ろめたい気はしなかった。


「……それじゃあ、ランスさん。 宜しくお願いしますっ!」

「うむ。」

「私、お兄様の"妹"のセーラ。 よろしくね~?」

「は、はい! 私はレベッカって言って――――」


この後、ランスは進んでいなかった食事に精を出しまくり、
レベッカはセーラと会話を初め、そんなうちに日は沈んでゆくのだった。

そんな中、ロウエンが戻り後処理を兵に任せる事で、山賊の件は一件落着となった。

しかしながら……レベッカは、気付いていなかった。

非常に遠まわしながら、彼女はランスに"買われてしまった"事を意味する事に。


「(ぐふふふふ、この調子でどんどん女を増やしてやるか~。)」



[2301] ファイアーエムブレム=鬼畜の剣= 本編 その3
Name: Shinji◆9fccc648 ID:37b9b89a
Date: 2008/01/26 12:51
ファイアーエムブレム =鬼畜の剣=

本編 その3 オスティア侯弟




「がはははははッ!!」

「うあ……っ!?」


≪――――ガコッ!!≫


「ダメダメだな、威力は安いし遅い。 ……で、まだ続けるのか?」

「……ッ……も、もう一本 お願いします!」


いきなりだが、ランスはエリウッドに剣の稽古をしてやっていた。

だが男 故にリンの時とは違って武器を叩き落とすダケでは済ませてやらず、
手首・肩・胸などに木刀を叩き込み、その痛みでエリウッドは武器を落としてしまう。

これが何度も続けば直ぐに音を上げるとランスは考えていたのだが、
エリウッドの"やる気"は途轍もなく、ここまで熱心だと鬱陶しさを通り越して笑えてくる。

よって木刀を食らった右腕をブラブラとさせながら、左手で武器を拾うエリウッドに対し、
ランスは苦笑しながら、少し離れた位置で稽古の様子を見学していたセーラの方を向く。

そんな地面に足を投げていたセーラの横では、レベッカも立って稽古を見学している。


「セーラ、また出番だぞ。」

「は~い。」

「す、すまない……セーラ。」

「これはこれで私の"信仰"も上がるんで構わないんですけど、程々にしてくださいね?」

「判っているよ、ありがとう。」

「済んだのか~?」

「はい、もう痛みは消えました! 今度は負けませんッ!」


ランスの言葉でセーラは察し、エリウッドの方へと近付く。

すると"杖"による回復魔法を掛けてやり、エリウッドの右腕が淡い光で包まれた。

実はこの稽古……一応 エリウッドの熱心な要望から成されたモノでもあるが、
ランス側にとっても意味があり、セーラの"信仰"を上昇させる役目も担っていた。

シスターはある程度 経験を積めば"司祭"になれるらしいのだが、
それにはとにかく"杖"を使う事によって人を癒し続けなければならないらしい。

つまりそれが"信仰"と言う意味であり、セーラが司祭となれば、
只でさえランスとのHで能力が強化されているので、更なる底上げとなるだろう。

しかし、ランスはかなり強いので、シューターを破壊した時のように、
一人で敵陣に突っ込む程の事が無い限り、負傷する事など殆ど無いだろう。

それ故にエリウッドを稽古で(軽く)負傷させる事により、セーラの信仰を上げさせていたのだ。

……かと言っても、杖は使い続けていると、全ての魔力を使い切って壊れてしまう。

そんな杖は一番安いモノでも田舎の家くらいは買えてしまう程の値段であるので、
オスティア時代のセーラであれば転職はかなり遠かっただろうが、今は手に届く距離にある。

そう考えるとランスの自覚無しに、セーラには様々なモノを与えてあげているのだ。

……と、そんなうちにエリウッドは再びランスに挑み、武器が交差する音が響き渡る。

今現在は旅の休憩時間であり、別の場所ではマーカスがロウエンに槍を教え、
ドルカスはバアトルと腕試しでもしている最中であろう。

そしてセーラは信仰の上昇となるが、レベッカは弓使いなので相手がおらず(一人でも訓練できるが)、
稽古を見ているだけな為か、何となく気後れしているらしく、横のセーラにおずおずと口を開いた。


「あの……セーラさん。」

「ど~したの?」

「私 お食事の準備や弓の訓練でもしていた方が良いんじゃないんでしょうか……?」

「あれ、見てるダケじゃつまらない?」

「!? そッ、そう言うワケじゃ無いんですけど、私も皆さんに負けないようにって。」

「そんな事 気にしてたの? 私が見た限りは、レベッカって凄い腕だと思うし、
 お兄様達の足を引っ張る事なんて無いと思うんだけど? ……って言うか、誘ったの私だし。」

「そ、そうですか?」

「うん。 だって、お兄様も褒めてくれてたじゃない。」

「……ランス様……」

「……まぁ、もっと"強く"なりたいのなら、手っ取り早い方法があるんだけどね。」

「えっ!?」

「でも、それは事の"後"から語られる。 強くなれるかなれないかは、レベッカ自身の選択次第ね。」

「???? そ、それってどう言う――――」

「おいセーラッ! また出番だぞ~!」

「あっ、は~いっ!」

「あっ……」


レベッカは今年で15才ながらも、驚異的な弓の腕を持っていた。

それはランス傭兵団で活躍したウィルにも劣らず、頼りになる後衛と言える。

彼女はどう見ても、美少女ではあるがやや小柄な田舎の村娘と言ったトコロだが、
極端な話、小さな"女の子モンスター"が不相応な腕力を持つように、
"こちら"でも見た目だけでは実力を測れない人間も居る……と言う良い見本の少女だ。

……しかしながら、当然 本人の自覚など無いし、村娘であるレベッカが、
目の前で貴族同士が汗水垂らして訓練をしているのを見れば、ソワソワしてくるのも当たり前。

よってセーラに話を振ってみるが、返って来たのは"気にするな"と言う能天気なモノと、
ランスの"隠れた能力"(H強化)を知った上でのセーラの意味深気なメッセージ。

当然 その意味が判らず、目を丸くするレベッカであったが、
再び負傷したエリウッドの治癒をするべくセーラが側を離れると、
レベッカは仕方なく、弓の手入れをしながら稽古の様子を眺めているしかなかった。




……




…………




≪ガラガラガラガラ……≫


エリウッド達と合流してから、一週間後。

適当にエリウッドの相手をしてやりつつ、ランスは馬車で揺られていた。

旅立つにあたり徒歩では無謀なので、一行は真っ先に馬車を購入。

そして戦争の準備をしていたと言う"ラウス領"へと向かっているところだった。


「ふぁ~……暇だなァ。」

「そうですね~。」


セーラに膝枕をして貰いながら、寝っ転がっているランス。

馬車の中にはエリウッドとレベッカもおり、馬の手綱はエリウッドが握っている。

マーカスとロウエンは馬で馬車の前方を常に警戒中であり、
ランスに金を借りて更にやる気になったドルカスも、ランスが買っていた馬に跨り外に居る。

そしてバアトルだが……彼は暑苦しいので走って来いと言ってみれば、本当に実行した。

……アホである。 ドルカスが言うには、彼は馬鹿だが"良い馬鹿"らしい。


「いい加減、セーラの太股の感触も飽きてきたな~。」

「え~っ、それってどう言う意味ですかぁ?」

「なら逆で言おう。 俺様の頭の感触も、そろそろ飽きてきただろ?」

「……うッ。」

「そんな訳でだ、レベッカちゃん。」

「は、はいっ?」

「ちょっくら膝を貸してくれ。」

「!? どどどどうして私がッ?」

「今 話してた通りだ。 そのまま動かんで良いからな。」

「~~……ッ!?」


そんな中、膝枕をさせられてレベッカが真っ赤になったりする中。

既にランス一行はフェレ領とラウス領の間にある、サンタルス領へと進入していた。

エリウッドの提案によると、このままラウス領に入るのではなく、
先ずはサンタルス侯爵と謁見して、ラウスの調査の力添えを頼みたいとの事。

更なる彼の話によれば、サンタルス侯の"ヘルマン"(あちらのヘルマンとの関係は皆無)は、
エルバートだけでなく、エリウッドも良く知る間柄であるらしい。

そうなれば断る理由など無くランスは頷くと、馬車は若干進路を変えてサンタルス城を目指した。

……だが、謁見などはエリウッドに任せるつもりであり、暇そうなのは変わらない気がするランス。

よって再びレベッカの膝に顔を埋め、セーラに白い目を向けられながら、ウトウトとしていた。


≪――――ダカパッ≫


「マーカス将軍ッ、あれは一体?」

「賊のようだな。 ロウエン、エリウッド様に至急 知らせろ!」

「はい!」

「……どうしたんだ?」

「ドスカスか、あれを。」

「あれは、まさか……判った。 あいつ(バアトル)にも知らせておこう。」

「私が時間を稼ぐ。 頼んだぞ?」


一方、前方を警戒するマーカスとロウエンは、待ち構える"集団"を確認した。

それを見ていち早く状況を察したマーカスは馬を止め、ロウエンを馬車へと下げる。

そして、何事かとやってくるドルカスも直ぐに察すると、馬車の後ろへと向かってゆく。

……賊が約20人以上。 全員が武器を持っているので、
明らかに自分達を狙っているとしか考えられないが、理由を考えるのは後だ。


「エリウッド様ッ!」

「何があったんだ、ロウエン?」

「どうやら賊のようです!」

「!? 判った! ランスさん、敵襲のだそうですッ!」

「何ィ~? 良い時に来やがって。」

「(ナイスタイミング!) ささ、お兄様。 やっつけちゃいましょ!」

「判っとるわ! 行くぞ、レベッカちゃんッ。」

「は、はいっ!」


ロウエンの報告を受けて、エリウッドは真っ先に剣を取って馬車を降りる。

そして、一寸 遅れてランス・セーラ・レベッカが合流するのだが、
まだ戦いは始まっておらず、マーカスは一人で近付いて来た賊たちと向かい合っていた。

20人以上の相手を前にして全く臆しておらず、流石は聖騎士と言うべきか。

だが、それは頭数で圧倒的に優位である賊たちも同じであり、下品な笑みを浮かべている。


「へっへっへっ、旦那方。 哀れな村人に、お恵みくだせぇ。」

「お前等のどこをどう見たら村人に見えると言うのだッ!?
 大人しく道をあけて貰おう。 さもないと――――」

「さもないと? ……へへっ、大変な目に遭うのは どっちですかねぇ?」

「なにッ?」

「その坊ちゃんに生きてられると困る人が居るんでね。
 可愛そうだが消えてもらうぜッ、野郎ども 始末しちまえ!!」

「面白いッ、殺ってみるがいい!!」


≪おおおおぉぉぉぉ……っ!!!!≫


「やれやれ、やっぱりか。」

「……"仕事"だな。」

「うおおぉぉッ! この俺に任せておけぇい!!」

「う~む、暑苦しい。 間違って斬ったらどうしよう。」

「そんな時は、私の杖がありますよ~?」

「冗談だ、冗談ッ。」


威嚇するマーカスに、賊の頭の掛け声で一斉に襲ってくる賊達。

そんな彼らを、フザけた事を言いながらも、次々と蹴散らしてゆくランス達。

ランスとセーラは当たり前だが、やはりエリウッドたちも強い。

マーカスは言わずともながら、エリウッドは賊2~3人を前にしても斧はカスりもせず、
ロウエン・ドルカス・バアトルにはランスが適当に手を貸す事で、事無きを得ている。


「女は頂いたぜぇッ!!」

「きゃあっ!?」

「……えい!!」


≪――――ガコッ!!≫


……その中で、ランスがあからさまに手を抜いている事も有ってか、
一人だけレベッカを襲おうとしていた賊も居たが、セーラに杖で殴られて昏睡する。

ランスにとって これも計算のうちであり、強化によって既に腕力すら並の女性の比ではないのだ。

熟練の戦士と比べれば遥かに劣るが、油断して襲い掛かる賊を殴り倒すには十分なのである。

また、レベッカも接近さえ許せば無力だが、何人もの賊の肩や腕を矢で撃ち抜いている。


「うおおぉぉッ! どけどけ~!」

「ヘクトル様、全く……」

「張り切ってるな~、若さま。」


そんな戦闘中、突然 賊達の後方から何者かが突っ込んでくる。

青い髪の若い大男で、斧を振り回して山賊達を薙ぎ払いながらの突進であり、
片方が彼の名前であろう"ヘクトル"という言葉を漏らしながら、2人の人間も近付いてくる。

そのうち一人は30~40代位の堅物そうな男で、青年と同じアーマーナイトのようだが、
もう一人はランスもセーラも、見覚えがある人物……"マシュー"であった。

この時、ランスは"マシューじゃねえか"程度の認識であったが、
セーラは流石に驚いたようであり、既にリラックスしていたランスの後ろに身を隠す。


「ありゃマシューだな。 あいつ、何しに来たんだ?」

「そ、それよりもお兄様……あの、暴れてる人が~……」

「こりゃまた暑苦しそうなのが出て来たな。 誰なんだ?」

「……ヘクトル様です。 私が以前仕えてた、オスティアの~……」

「あぁ……確か、ウーゼルとか言う奴の弟だっけか? 何でそんなヤツが来るんだ?」

「さぁ……」


ヘクトルの事について、名前程度はセーラから聞いていたランス。

しかし会う事も無いと思っていたが、何故か(恐らく)エリウッドを助けにやってきた。

それはそれで良いかも知れないが、セーラは前途のようにドキドキしている。

何せイキナリ世話になっていたオスティアを、手紙一つで離れてランスと行動してしまっており、
それっきり一年間 何も連絡をして無い事になっているので、侯弟に対し後ろめたいからだ。

今は自分は貴族なので強気に出ても良いのだが、彼らが咎めてはいけない理由も無いのだ。

よってセーラが言い訳を考える中、賊達は大男の手もあり、片付こうとしていた。




……




…………




「ヘクトル! まさか、君が来てくれるとは……」

「よおっ、久しぶりだなエリウッド。」

「どうして、此処に?」

「……水臭ぇよ、お前。」


戦闘終了後、エリウッドはヘクトルを向かい合っていた。

ヘクトルの横にはマシューと"オズイン"というアーマナイトが控えている。

……対して、エリウッドの横にはマーカスが控えており、
ランスとレベッカは一寸距離を置いて立ち、セーラは変わらず彼の後ろに隠れている。

ちなみにロウエン・ドルカス・バアトルは、ランスの指示で戦利品を物色中だ。

さておき、オスティア侯弟とありながら、2人の部下と共に現れた"ヘクトル"。

どうやらエリウッドの父親探しの旅を手伝いに来たようで、バシバシと彼の肩を叩く。

対して、ヘクトルの兄である新侯爵によるオスティアの過酷な現状を知っているエリウッドは、
素直に喜べない様子であったが、次のヘクトルの言葉により、
彼を見逃したのは兄のウーゼルの配慮によるものと知ると、素直に厚意に甘える事にした。

よってエリウッドとヘクトルは握手を交わすと、エリウッドは"オズイン"に向き直る。

マーカスと似たような雰囲気な堅物そうな男ではあるが、忠誠心も相当なモノなのだろう。


「お久しぶりでございます、エリウッド様。」

「オズイン、君も来てくれるのかい?」

「はい。 ヘクトル様 一人では心配だからと、ウーゼル様より目付け役を任(にん)じられました。」

「はははっ、やっぱりか。 とにかく、宜しく頼むよ。」

「こちらこそ。 ……さておき、話は変わりますが。」

「どうしたんだい?」

「おう、オズイン。 お前の言いたい事は判るぜ? ……なぁ、マシュー?」

「勿論ですよ、若さま。」

「さっきから、そこに隠れているのだろう?」←オズイン

「……にゃっ!?」

「さ~て。 何でイキナリ居なくなったか、じっくり聞かせて貰おうじゃねぇか。」

「……ってワケでお久しぶりです、ランスさん。
 突然で何ですけど、コイツをちょっと借りていきますね?」

「んっ? あぁ……」


≪――――がしっ≫


「!? ち、ちょっとヘクトル様!? 放してください~っ!」

「ま~ま~、遠慮すんなよ。」

「そもそも2行で終わらせる手紙など聞いた事も無いぞ。」

「心配すんなって、納得できたら解放してやるからさ。」

「キャーッ!! イヤーッ!! 助けてお兄様ああああぁぁぁぁ~~~~っ!!!!」


そんな訳で、ヘクトル・オズイン・マシューが加わったのだが。

挨拶が終わると3人はセーラを捕らえ、馬車の裏へと引っ張っていった。

普段ならソレを許す事は無さそうなランスだが、何だか面白そうな気がしたので放置。

この後、何とか誤魔化したセーラがフラフラと戻って来たのは1時間後だった。




……




…………




……数時間後。

思わぬ戦闘と再会があった事もあり、ヘルマンとの謁見は明日に持ち越す事となり、
ランス達は久しぶりに宿を取る事にし、今現在は食事を摂っていた。

その最中で、始めは思い出話に花を咲かせていたエリウッドとヘクトルであったが、
当然ながら"今回の旅"についての話もする事となり、ヘクトルは驚くべき事を言う。


「――――城を抜け出す時に、暗殺者に襲われただって!?」

「あぁ。 かなり手馴れた奴らだったんだが、あそこは俺の"庭"でもあったし。
 マシューも加勢してくれたしで何とかなったけどな……」

「エリウッド様、その暗殺者達なんですけどね。
 一年前に旅の姉弟を襲ってた"黒装束"と同じだったと思うんですよ。」

「!? マシューッ、それは本当か!?」

「はい。 でも、一年前との関連性が有るかは判りませんね。
 何で若さまを襲って来たのかは、今のオスティアの状況を考えれば何となく察せますけど。」

「まぁ、済んだ事はそれで良しとするが……最近、嫌な噂ばかり耳にするな。
 あいつらみたいにベルンの暗殺団がリキアで不審な動きをしてるとか、
 腕に覚えのある賞金稼ぎや傭兵なんかが、相次いで失踪してるとか……な。」

「……そう言う事なら、先程 襲って来た賊も、気になる事を言っていました。」

「マーカス?」←ヘクトル

「"エリウッド様が生きていては都合が悪いものが居る"……と。」

「……ふん、臭いな。 そういや、ここの役人の態度も妙だったぞ?
 貴族のお前等が目の前で襲われようとしてんのに、判ってて見殺しにしようとしてたぜ。」

「…………」


先程までとは違い、エリウッド達の間に重苦しい雰囲気が生じる。

一連の会話に参加していなかったロウエンとオズインも、
サンタルス領の役人の対応には納得がゆかず、難しい表情をして事の真相を考えていた。
(傭兵であるドルカスとバアトルは別の席で食事中である)

……そんな様子を蚊帳の外で眺めているのはランスで、セーラとレベッカも同席している。


「お兄様。 今回の事、どう思います?」

「ま~、城で直接 話でも聞かねぇ限り、なに考えても無駄だろうな。」

「…………」←レベッカ

「リキアのこれから、大丈夫なんでしょうかね~?」

「まぁ、俺様にはしったこっちゃ無ぇが……付き合ってやるしかないだろ。」

「ですね~。」

「でもなぁ……う~む……」

「ら、ランス様?」

「ど~したんですか?」


唐突だが、ランスとヘクトルの関係について説明しよう。

ランスは持ち前の性格上、初対面で偉そうに彼を"ヘクトル"と呼び捨てにしている。

対してヘクトルだが、エリウッドに一年前に憧れの貴族に会えた話を聞き、
先程の一時間でセーラに(義理だが)兄・ランスの素晴らしさを聞かされ、
再びエリウッドにランスについてどうかと聞くと、手合わせしても全く敵わなかったと聞いた。

よってエリウッドと引き分ける程の実力であるヘクトルは、
"ランス殿"と呼ぶ事にし、ランスはランスで男はどうでも良い的な考え故、
特に指摘する事も無く、今に至っているのである。

……さておき、エリウッド達を眺める中、急に難しい顔をしだすランス。

それをセーラとレベッカは、"先程の件"について考えていると思ったが、そうではなかった。


――――男が三人も増えた。


ヘクトル・オズイン・マシュー。

彼らは確かに腕は立つが、マシューはともかくヘクトルとオズインはゴツい男。

もし、キセダとカネオのように役に立たない男であれば気兼ねなくクビに出来るのだが、
エリウッドと知り合いな時点で無理であり、ランスは面白くなかった。

つまり、考えているのは……どうやって今の状況を"ハーレム"にへと持ってゆくかだ。

そう言えばエリウッドと合流してからは、セーラとセックスしたのは皆の目を盗んでの一度だけ。

それなのに、男が三人も新たに加わるという事は、更に性の自由が制限されてしまう。

だから、ランスは考えた末に決めた。 すると……顔を上げると、セーラとレベッカに言う。


「いや……何でも無ぇ。 ところで、大方 ラウスと殺り合う事にでもなりそうだな。」

「そうですね~。」

「ら、ラウスと戦うんですか? 私達、11人しか居ないのに……」

「そこでだ。 俺様はキアランに行こうと思う。」

「えぇ~っ!?」

「な……何をしに行くんですかッ?」

「勿論、戦力の増強だッ!!」


……イキナリのキアランへの移動宣言。

これはエリウッド達との"別行動"を意味し、驚きを隠せないセーラとレベッカ。

そんな2人に対し、ランスは腕を組むと堂々と"嘘"をつく。

確かにランスが願い出れば、エリウッドの旅に同行してくれる頼もしい人物が、
キアランには何人か居るだろうが、明らかに"別の目的"による宣言であろう。


「(こんなムサい集団になんぞ、何時までもおれんわッ!
  丁度良い機会だし、俺様との再会を心待ちにしてるアイツに会いに行ってやるか~!)」


――――よって この翌日、彼はセーラとレベッカを連れてキアランへと向かう事になる。



[2301] ファイアーエムブレム=鬼畜の剣= 本編 その4
Name: Shinji◆9fccc648 ID:37b9b89a
Date: 2008/02/19 23:11
ファイアーエムブレム =鬼畜の剣=

本編 その4 真実を求めて




"明日キアランに向かってリン達を連れて来てやる"

このランスの突然の提案にエリウッド達は面食らったが、
一人でも戦力が欲しい今、リン達が力を貸してくれるのは願っても無い事だ。

よって一旦ランス(+セーラ+レベッカ)とは離れる事となってしまい、
次の日の朝には、3人は北へと旅立って行ってしまったのである。


「行っちまったか。」

「……そうだね。」


そんなランス達を見送っていたエリウッドとヘクトル。

そのうちヘクトルは特に何とも思っていないようだが、エリウッドは少し残念な様子だ。

今や彼にとってランスは、父・エルバートに次ぐ"剣の師"のような存在であるのだから。

故にか眉を落とすエリウッドに対し、ヘクトルは彼の気を察して口を開く。


「おい、何 落ち込んでんだよ?」

「そう見えてたかい?」

「あぁ、お前らしくないぜ。」

「それは大丈夫。 元々 僕とマーカスだけで始めるつもりだった旅だったんだ。
 例えランスさんが"この旅"から抜けようと、それはそれで仕方無い事だよ。
 ……なのに、新しい"助け"を連れて来て頂けるんだ、願ってもないじゃないか。」

「だったら何で――――」

「それは今迄、何度か手合わせして貰っていたからね。
 また問題なければ付き合って頂けた筈だったんだけど……」

「居なくなっちまうと出来なくなるからか?」

「ご名答。 」

「チッ、ズりぃな~。 お前の話だと相当な"使い手"らしいし、俺も手合わせ願いたいもんだ。」


≪――――だだだだっ!≫


「ヘクトル様、エリウッド様ッ!」

「ん、どうしたんだ? マシュー。」

「何か有ったのかい?」

「マーカス殿からの伝言です。 サンタルス侯との謁見に関してなんスけど、
 城の前でも賊達が邪魔をしてて、今にも襲い掛かってきそうな感じなんですよ!」

「何だとォ!?」

「どう言う事なんだっ!?」

「余程エリウッド様とサンタルス侯を会わせたくない第三者が居るか、
 最悪ヘルマン様が嗾(けしか)けて来たってところですかね?
 とにかく今、オズインさんとマーカス殿とロウエン殿が睨み合ってる状態ですッ!」

「そんなら、こうしちゃいられねぇな。」

「あぁ! マシューはドルカスさんとバアトルさんを呼んで来てくれッ!」

「わっかりました~!」

「ヘクトル、先にマーカス達の所へ行こう!!」

「――――応ッ!!」


エリウッドはランスと一旦別れるのは確かに残念ではあったが、
心配にまでは至らないらしく、気持ちは既に切り替え終えていたようだ。

さておき、唐突に2人の後方から全速力で走って来た密偵・マシュー。

どうやら先に城へと向かったマーカスら3人が賊と交戦間近と言うらしく、
エリウッドとヘクトルは軽く頷き合うと、戦いの場にへと駆けて行った。




……




…………




……一方ランス達。

ひたすら北へと向かい、エリウッドの元を離れてはや10時間が経過していた時。

男だらけの旅から解放されたいと言う、ランスの気持ちを表すかのように、
3人はかなりのペース馬を走らせ、キアランとの距離をどんどん詰めていっていた。


「セーラ、今どの辺りだ~?」

「え~っと……そろそろサンタルス領を出るってトコロですね。」

「そうか。 城は後どれくらいだ?」

「このペースだと、もう1日あればキアランのお城に着いちゃうと思います。」

「何だ、思ったより近かったんだなぁ。」

「どっちのお城も領地の境から、そう遠くない位置にありますからね~。」


セーラの言う通り、既にキアランの城への"距離"は近いらしい。

"サンタルス領"とはリキア同盟の最も東に位置する"フェレ領"の西に広がっており、
"キアラン領"はサンタルス領の北西にかけて広がる領地なのだが、
フェレ城とサンタルス城との距離は馬車で一週間掛かる程離れているのとは逆に、
サンタルス城とキアラン城は近く、馬で急げば2日と掛からない距離のようである。

ランスは最初はこの事をたった今まで全く知らなかったのだが、
エリウッド達がランスの提案を直ぐ飲み、セーラが同意したのも"この事"が大きかった。

例え何か問題が起きた時でも、マシューを通じての伝達がし易く、
距離が近いのであれば再び合流するのも、そう遅くはならないのだから。


≪――――ダカパッ≫


「……むっ、そろそろ馬が限界か?」

「ずっと走りっぱなしでしたからね~。」

「だったら今日はこの辺で野宿にするか……レベッカちゃん! この辺で、止まるぞ!?」

「あっ、はい!」


ちなみに、ランスとセーラは何時ものように二人乗り。

後方ではレベッカが馬を操り、2頭での進行であった。

だが……流石に"こちら"の馬は長距離移動用に調教されているとは言え、
昼を挟んで10時間近くの移動は厳しく、ペースは落ちていた。

よって適当な位置で3人は馬から降り、明日に備えて休む事にした。


「それじゃあ、俺様は此処で荷物の見張りをしておく。
 セーラとレベッカちゃんは、まずは枯れ木を拾って来い。
 少しでも怪しい奴が居たら直ぐに戻って来い、俺様が叩き斬ってやるからな?」

「はぁ~い。」

「は、はい。」


街道から外れて数分で手頃な広さの場所を見つけ、馬を休ませると、
ランスは荷物を降ろしながら指示を出し、セーラとレベッカは茂みへと消えていった。

数分で荷物を降ろし終えると、ランスは早くも腰を降ろして木に背を預けるが、
今の彼の位置付けは最も適しており、荷物の見張りダケでなく、
セーラとレベッカが山賊に襲われるという緊急時でも、この場所であれば直ぐに対応できる。

シィル・プラインを買ってからは、"戦い"以外はまるで何もしなくなってしまったが、
それ以前は一人で冒険を続けていたし、そのノウハウを今になって再び活かす事となっていた。

あくまでランス程度のノウハウなのだが……それであれど、
セーラとレベッカは安心して"枯れ木拾い"に行けてしまうので心憎いものである。


「コスモスーッ、居るか~?」


そんな中、何となく"天使"の名を呼んでみるランス。

しかし彼女は姿を見せず、今 彼女は此処に居ないのであろうか?

居ると考えても現れないと言う事は、姿を見せる気が無いか、
若しくは現れると"二人"に会話しているのを見られる可能性が有ると言う事だろう。

ランスはそんな事を考えていたが直ぐに飽き、かといって"元の世界"の事を思い浮かべても、
それで戻れる訳では無いので却下し、近いうちに会う事になるリンの裸体を思い出すに至る。

一年経ってるみたいだしアイツの事だから色々と成長してるんだろうな~等と思っていると、
セーラとレベッカが戻り、ランスは何事も無かったかのように対応するのであった。




……




…………


同時刻、夕暮れ時。

エリウッド達は難なく賊達を撃退し門番と接触すると、ヘルマンとの謁見を求めた。

対してその兵士は城内へと入っていったが、暫くして慌てた様子で戻ってくる。

……何と! サンタルス侯であるヘルマンは、既に何者かによって殺されていたと言うのだッ!


「ヘルマン様……どうして、こんな事に……」

「畜生ッ、どうなってんだよ!?」


エリウッド達はヘルマンの突然の死に驚愕し、これで彼から情報を得る事は不可能となってしまった。

……だが、側近は皆 命があり、ヘルマンがエリウッドを襲う賊を止めようとしなかったのは、
家臣達も良く知らない"何者か"がヘルマンを脅していたからのようで、
恐らくその"何者かの脅し"に抗おうとした結果、ヘルマンは殺されてしまったのだろう。

彼は"真実"を知っていそうだったが、家臣達は詳しくは判らないとは言え、
西のラウス侯の"ダーレン"が何か企んでおり、それをヘルマンがエルバートに相談した所為で、
エリウッドの父が謎の失踪を遂げた事くらいは察していたようで、間違いなくラウスが怪しい!


「……とにかく、ラウスへ行こう。
 ラウス侯・ダーレン殿に話を聞かなくては……」

「そうだな、直ぐに発(た)とうぜ。 今日中に、
 何処まで行けるか判んね~けど……じっとしてらんねぇ。」


今やサンタスル領はヘルマンを失い、家臣達は何をどうして良いか判らない。

しかし、ラングレンのように野心ある者が居ないだけマシであり、
この事は諸侯同盟で協議すると言う事で、とにかくエリウッド達は急ぐ必要が有る。

よってエリウッドはヘルマンの遺体を手厚く葬るよう願うと、既に城を後にしていた。


「ところでよぉ、マシュー?」

「何ですか? 若さま。」

「さっきの戦いで、何時の間にか一緒に戦うようになってたヤツは誰なんだ?」

「それは僕も気になったな。 敵から寝返ってくれたみたいで、
 動きも良かったけど、何だか複雑そうな表情をして戦っていたからね。」

「そいつは、"ギィ"って言って歳は若さまよか下ですけど、なかなか腕の立つサカの剣士ですよ。
 以前メシを恵んでやった事がありまして、そのツケを今回払って貰う事にしたんです。
 これから戦いダケじゃなく、雑用にでも何でも使ってやってください。」

「それは頼もしい限りだけど……良いのかい?」

「何がです?」

「どうせお前のことだ、上手い事 丸め込んだんだろ?」

「バレてましたか? まぁ、今回の件は結構ヤバそうな感じですからね。
 只の勘ですけど、腕の立つ剣士が1人や2人程度じゃ足りない気がするんですよ。」

「…………」


新たな仲間……サカの少年剣士、"ギィ"の加入。

何やら痛い所を突いたようだが、マシューの言う通り今回の旅はやけに"黒い物"を感じる。

現にサンタルス侯が殺されているダケで只事では無い事態であり、
ラウス侯と接触できたとしても、そう簡単に事が済みそうに無い気がしてならないのだ。

よってエリウッドとヘクトルはマシューの言葉に同意するように沈黙し、
仲間の待つ場所へと早足で歩んでゆくのであった。




……




…………




「はい、お兄様。 あ~ん♪」

「あ~っ……パクッ。 ……もぐもぐ。」

「…………」


サンタルス侯の死を知る由も無いランスは、暢気な野宿の最中であった。

……とは言え、それが判っても特に何も思うところは無いであろうが。

さておき、セーラとレベッカが食事の支度を終えた時は既に空は暗くなっており、現在は夕飯中。

たった今はセーラがランスにスープを食べさせているところであり、
そんな様子を焚き火を挟んで正面に座って居るレベッカは、ボーッとしながら2人を見ている。

実のところ、今迄道中は宿に泊まってばかりで、"こんな様子"のセーラと見たのは初めてなのだ。

初めて見た時から仲の良い兄弟(くどい様だが実際違う)とは思っていたが、まさか其処までとは……

そんな2人を見て何か思うところが有ったのか、レベッカは未だに視線を外さない。

……対して、ランスはようやく彼女の視線が釘付けなのに気付いたようだ。


「んっ? レベッカちゃん、どうした? さっきから。」

「え!? ごッ、ごごご御免なさいっ!」

「いや、ちっとも悪く無ぇが……」

「もしかしてレベッカ、キョウダイでも居るの?」

「……ッ……はい、お兄ちゃんが居ました。」

「今はど~してるんだ?」

「えっと……5年前に家出したっきり、そのままなんです。」

「ほほう。」

「…………」

「だから、お2人を見て何か羨ましいなって思っちゃって……い、今の事は忘れてくださいッ。」


どうやらレベッカには家出した兄が居たようで、
今のランスとセーラを、昔の自分と兄とで重ねでもしたのかもしれない。

そんなレベッカの言葉に対して、ランスは意味も無く無表情になり、
セーラは結構 可愛そうに思ってしまったか、ランスにくっ付いたままながらも、
少しだけ眉を落としながらレベッカを眺めていた。

だが、自分は村娘……そして(望んではいないが一応)雇われた身。

故に貴族の2人に余計な心配を掛ける訳にはゆかず、慌てて忘れるよう促すが、
相手がランスな時点で無理であり、彼は無表情からニヤけ顔に変わると口を開く。


「なになに。 兄貴が居なくて寂しかったり、人肌が恋しかったりするなら、
 遠慮する事は無いぞ? 右は(セーラで)埋まってるが、左なら今は空いてるぞ~?」

「えぇっ!?」

「もう、お兄様ったらッ。」

「……あ、うっ……」

「レベッカちゃん、今度はどうした?」


ランスはバシバシと左の地面を叩きながら、レベッカに傍に来るよう言っているのだ。

となると、以前ランスが接近して膝枕を"させた"のとは逆と言う訳だ。

これでレベッカが自らランスに近付いてくれれば、
彼女にようやくセクハラ紛いな事が出来ると目論んでいたのだが……


「わ、私ッ! 少し夜風に当たって来ます!!」


≪たたたたたたっ≫


「ありゃ、レベッカちゃ~ん。」

「あんまり遠くに行っちゃダメよぉ~?」


やはり村娘が貴族に近付くのは恐れ多いのか、或いは勇気が出ないか恥かしいのか。

レベッカは顔を赤くしながら立ち上がり、茂みの中にへと走って行ってしまった。

そんなレベッカの背中を見送りながら、ランスは仏頂面にへと表情を変えた。


「う~む、そう簡単にはいかねぇか。」

「お兄様……やっぱりレベッカも~……」

「んっ? 可愛いくて中々良い腕だろ? このままにしておくのには惜しい娘だしな。」

「それは私も認めるところですけど。」

「だが、まだあんな感じだと、今はキアラン云々を先にした方が良さそうだな。
 まだ俺様の偉大さについても、イマイチ判っとらんだろうし。」

「戦いは無いに越した事はないんですけどね~。」

「あぁ、疲れるしな。」


ランスは女性を抱く事で、その女性を僅かに強くできると言う謎の特性を持っている。

それの影響をセーラも受けている事から、彼女は"強化"を大きく認識しており、
"世界を救う旅"故に自分以外の女性を強くする事も、それはそれで仕方無いと考えていた。

だからランスがレベッカを狙おうとも、そもそも(義)妹と言う事なので口は出せない。

……しかしながら……ランスにとっては相手が可愛いければ何も問題は無いのは知っての通り。

彼は"強化"をダシに女性を抱く気は全く無く、リンはそれを知っているが、
セーラはまだ知らないので、彼女は仕方無いと思いながらも口を膨らませている。


「でもぉ~。」

「どうした?」

「いくら女の人を"強く"できるからって、程々にしてくださいね?
 私って、こう見えてもすっごく嫉妬深いんですからッ。」

「……お前 何か勘違いしてないか?」

「へっ?」

「強くしてやるのは"ついで"だ、知ったのはリンと犯った後の事だったしな。
 セーラだって、そんな事より"俺様自身"に惚れて付いて来たんだろ?」

「ま、まぁ……そうとも言いますけど。」

「つまり! 美人だったり可愛いかったりする女は、全て俺様のモノと言うワケだ!
 その"良い女"に腕の立つ奴が居たなら、強くもなれて一石二鳥ではないかっ。」

「そう言う事だったんですか~……って、そっちの方がタチ悪くないですか!?」

「強くしてやれる事をダシに犯るよりはマシではないか。」

「うッ。」

「良しッ、じゃあ寝るぞ! お前も適当に休んどけ。」

「あっ、ちょっと お兄様!? ……もうっ!」


ランスの言葉にセーラはまだ納得していない様子だったが、
彼は食事が終わったばかりだと言うのに、その場で横になると瞳を閉じてしまう。

これは今に至るまで、セーラを誤魔化す時に良くしていた仕草であり、
彼女はランスを揺すってみるも、直ぐに諦めると仕方なく片付けを始めた。

そして数分後レベッカが戻り、特に問題も無く夜は更けていった。




……




…………




「さて、出発するか。」

「はぁ~い。」

「…………」

「レベッカちゃん、返事はどうした~?」

「な、何でもないですッ。 わかりました!」


……翌日、昼時。

ちゃっかり10時頃迄寝ていたランスは準備を終えると、
キアランの城を目指すべく、今まさに馬に跨ろうとしていたところであった。

よって目的地を指差して何か言い それにセーラが応えるが、
レベッカは無言だったので指摘すると、どうやら昨日の件を少し引き摺っている様で、
ランスと目が合うと彼女は慌てて視線を逸らし、自分の馬の方へと走って行ってしまう。

そんな彼女の後姿を見ながら、ランスはポリポリと頭を掻くと、
気を取り直して馬に跨り、自分に手を伸ばすセーラの右手を掴んで引っ張る。


「セーラ、乗れ~。」

「よいしょ……っと。」

「乗ったな? そんじゃ~行くぞ。 レベッカちゃん! ちゃんとついて来いよ~?」

「…………」

「返事~!」

「あっ、はぃい!」


今のレベッカの様子……思ったよりも、ランスの事を意識している様だ。

だが、今はリン達の事を優先させる事にしてしまったので、とにかく目指すのはキアラン。

故にその後、本日中にランス達はキアランの城にへと到着するのだが……

ラウス侯ダーレン……彼の"企み"はキアランにも大きく影響し、
その"危険"が今まさにリン達 迫っている事を、ランス・セーラ・レベッカは勿論、
後続問題から一年経った今……キアランの人間たちも知る由は無かった。



[2301] ファイアーエムブレム=鬼畜の剣= 本編 その5
Name: Shinji◆9fccc648 ID:37b9b89a
Date: 2008/03/03 15:46
ファイアーエムブレム =鬼畜の剣=

本編 その5 キアランの公女




ランスら3人が目指している、リキア同盟に属するキアラン。

そこは一年前の侯弟"ラングレン"の反乱により、危うくロクでもない領地になりかけた。

だがランス達の活躍でラングレンは倒され、民は以前と変わらぬ生活を送れている。

……いや、むしろ以前よりも良くなっているかもしれない。

キアランの城での戦いでは民衆が結束して進んで戦いに参加する一面が有ったし、
何より"公女リンディス"の人気は凄まじく、ケントを中心に優秀な人材の活躍をもあり、
内政面においては"あんな事件"が有ったにも関わらず、他領に引けを取らない芳しい状況であった。


≪ドドドドドドドドッ……≫


≪――――キィンッ!! ギィンッ!! ガキィィンッ!!≫


≪ドカパッ、ドカパッ、ドカパッ……≫


しかし軍事面では、キアランは大きく弱体化してしまった。

言わずともながら領内抗争で半数以上の兵が命を落とし、兵数は500を下回っていたのだ。

キアランはリキア同盟の領地に囲まれているので、普通に考えれば兵など要らない気もする。

だが、誰もが知る歪な形の島国でも莫大な税金を使って自衛隊を抱えているように、
ある程度の軍事力は維持する必要が有り、キアランの課題は其処にあった。

よって今現在……キアランは城近辺の平原で、月に一度の"軍事訓練"を行っていた。

未だ兵数は傭兵を含めても600~700前後なので大きな規模では無いが、
軍事訓練を行う領地は実はリキアでも少なく、演習ともなれば更に費用が掛かる為に稀となる。

……さておき訓練の内容だが、その前に。 其処へやってくる一人の男と二人の女性。

今更説明する必要は無いだろうが、ランス・セーラ・レベッカ(+馬2頭)。

3人はキアランの城を目指す途中故に、何も知らずに"その場所"を通過しようとする直前であった。




……




…………




「んっ、なんだありゃ。 何やってんだ?」

「さあ~。」

「!? あ、あの……此処からは……」

「まぁ、関係無ぇな。 さっさと抜けちまおう。」

「ですね。」


≪――――ドカパッ、ドカパッ≫


ランス側からすると、キアランの城が見えて来たと同時に、
"何か"をしている集団が見え始めてきたダケである。

訓練でもしているのか、或いは政(まつりごと)か。

初見では判らないが近付けば判るし、どちらにしろ自分達とは関係ない。

よってランスはそのまま馬のスピードを変えず、城を目指す事にした。

何やら声を掛けられた気がした……が、恐らく空耳だろう。


「ち、ちょっと……待って下さい~ッ……」

「お? 今 何か声がしなかったか?」

「空耳じゃないですかぁ?」

「ら、ランスさん! セーラさんッ!」

「どうした~、レベッカちゃん?」

「幾らなんでも、衛兵の人を無視しちゃ駄目なんじゃないですかッ?」

「なんだとぉ?」

「!? お兄様、良く見たらあの娘って――――」


実はランスは一人の"衛兵"の横を素通りしていた。

後から聞いた話によると、あそこから先は一般人には立ち入り禁止だったらしい。

だが意図的にではなく、"気付かなかった"ダケなのであるが、
レベッカは気付いていたらしく、彼女の声にランスは後ろを振り返った。

すると涙目になりながら、追いつく筈もない馬を追いかけてくる少女。

その妙に守りたくなるメソメソな表情は、一年前に何度か見た事の有ったカオであった。


「……フロリーナちゃんか。」

「そうみたいですね~。」

「お知り合いなんですか?」

「あぁ、一年前の仲間だ。 そ~いや今はリンに仕えてたんだったな。」

「はぁっ、はぁっ……あの、あのっ……此処からは、危ないので……」

「よォ、久しぶりだな。」

「!? ら、らららランスさんっ……」

「私も居るわよ~?」

「せ……セーラさん……」

「全く、居るなら"居る"と言わんか。 気付かなかったぞ。」

「は、はい……ごめんなさい。」

「……(あ、謝るところじゃないと思うけど……)」

「ところで、貴女 何してるの?」

「そ、それは――――」




……




…………




何やら周辺の警備をしていたのは、以前共に戦ったフロリーナであった。

彼女は今現在、笛を吹いてヒューイ(彼女のペガサス)を呼び、
飛ばずにカポカポとランスの馬の斜め後ろを進んでいる。

さておき聞き出すのには時間を要したが、目の前の"様子"は軍事の訓練であるようだ。
(フロリーナの口から聞いた時には既に何となく判ってしまっていたが)

だが……"軍事訓練"と言ってもむしろ"闘技会"と言う方が近いかもしれない。

何故なら、各兵種に分かれて己の技量を発揮させている様子が目に入るからだ。


≪――――ダンッ、ダンッ!! ダダンッ!!≫


『おおおおぉぉぉぉ~~っ!!!!』

「……へへっ。」


右を向けば、弓を持った男女(弓兵)たちが遠方の的に矢を放っている。
(余談だが、キアランの女性兵士はフロリーナと一部のシスターを除いて皆 弓兵である。)

たった今はウィル(ランス達からは顔は見えないが)が連続で中心に矢を命中にさせ、
周囲から男女問わず歓声が沸きあがっているところであった。

彼はキアランに仕えて一年足らずの新人であるが、弓の実力はもはや領地 随一である。


≪ガキイイィィィィ~~ンッ!!≫


「ぐあぁッ!?」

「次、誰でも来い!!」


左を向けば、キアランに雇われた傭兵達が対峙する二人の周囲を囲んでいた。

その勝負は一瞬でつき、片方の男が模擬剣で相手の武器を弾き飛ばしてしまう。

すると負けた傭兵はスゴスゴと退場し、新たな傭兵(挑戦者)が勝者と対峙する。

だが次の勝負もアッサリつき、キアランの傭兵で最強らしいこの男はレイヴァン。

ウィルと同様ランス達から顔は確認できていないが、彼も一年前の"仲間"である。


≪ドドドドドドドドッ……!!≫


「はああぁぁぁぁっ!!」

「でぇぇいッ!!」


≪――――ガコォンッ!!!!≫


更に進んで右を向けば、100メートル程離れた距離から対峙する2騎の騎士。

合図があると双方は槍と盾を片手に突進し、互いに槍と盾を交差させる。

直後 すれ違い様に片方が落馬し、勝者の騎士は周囲から声援を受け、手を振って答えている。

そんな調子の良さそうな騎士は"セイン"であり、同じく一年前の仲間。

馬上での槍を使った戦いに関しては、キアランで彼の右に出るものは居ないようだ。


「ほ~、なかなか頑張ってんじゃねぇか。」

「やるもんですね~っ。」

「…………」←緊張気味なレベッカ。

「ところで、フロリーナちゃんは"訓練"しないのか?」

「えっ……あの、私は……人が多いと、きッ、緊張してしまうので……警備を……」

「う~む、納得。」

「でも……訓練はリンディス"様"と、毎日のように……してます。」

「なるほど。」


周囲の様子を眺めながら、カポカポと進み続けるランス達。

どうやら"連携"よりも各々の"技量"を上げる事に重点を置いた訓練のようだ。

それはそれで良いので気にする事も無く、フロリーナがリンに"様"付けしていた事も、
ランスは特に気にせず……むしろ気付かず、周囲を何となく眺めながら会話を続けていた。


「ねぇ、フロリーナ。 リンディス様は"この何処"で訓練してるの?
 私たち、リンディス様に用があって此処まで来たんだけど。」

「んっ? リンなら城に居るんじゃなかったのか?」

「い、いえ……リンディス様なら、あちらに……」

「なぬっ?」




……




…………




≪――――ザッ≫


変わらぬ緑のポニーテール、キアランの公女になろうと変わらぬサカの衣服。

リンディスこと"リン"は模擬刀を片手に、3名のキアランの騎士と向かい合っていた。

周囲を囲んで居る人間の数も他の集いの倍近く、それだけ注目されているのだろう。

彼女を見守る人間には祖父"ハウゼン"も含まれており、近衛兵を左右に見守っている。

始めは可愛い孫が訓練に参加すると聞いて動揺したモノだが、
ここ一年間でリンの実力は理解し、ランスの"強化"もあり彼女はキアラン最強の剣士である。

よって、もはやハウゼンは文化祭や学芸会で孫の晴れ姿を見に来る感覚で、
今年の軍事訓練の様子をわざわざ見学しに来ていたりするのだ。


「遠慮は要らないわ、全力で来て。」

「はっ。」

「……ッ……」

「…………」


リンと対峙している騎士は勿論、他の兵達も最初は公女自ら訓練に参加するとは思わなかった。

彼女が"強い"のはラングレンとの一件で誰もが知っている事だが、
例え訓練であろうと、公女様を傷つけるのは最初はやはり躊躇われていた。

……だが、訓練 当初はリンへの手加減を意識して叩きのめされる騎士達が続出。

同時にあの"リンディス様"がケントやセインよりも強い事も明白となってきた時。

今となっては手加減できる相手などでは無く、3対1とは言え模擬剣を握る騎士達の表情は真剣。


「――――はじめ!」

『おおおおぉぉぉぉッ!!!!』


剣を使った腕では、騎士の中ではNo2の"ケント"の合図により、
キアランでも上位の3人の騎士がリンに模擬剣を振り上げる!!

しかし、初回の攻撃は全て回避され、直ぐ様 一人目の騎士が一撃で武器を弾き飛ばされる。

これで残り二人となり、残った騎士は必死になって模擬剣を振るうが、
同時に繰り出す太刀を難なく捌き、数秒後 リンは一度の反撃で二人目の武器も弾き飛ばしたッ!

そして、最後に残った騎士も30秒ほど善戦したが、武器は落とさなかったモノの、
やがては背後を取られて首筋に模擬刀を突き付けられると降参し、これで勝負がついた事となった。

それと同時に此方でも拍手と歓声が上がり、これが今回の軍事訓練のメインイベントだったらしい。


「……まず貴方、武器は戦場では自分の命と同じなのよ? 簡単に手放しちゃ意味が無いわ。」

「は、ははッ!」


リンが3名の騎士と共に引っ込んで彼女への注目が止んでいる中、
騎士達に対し、リンは先程の一戦についての"注意"を彼らにしてあげていた。

この面倒見の良さも騎士達に評判がよく、彼女の自覚無しにリンディスの人気は鰻登りだ。

特に女性からの支持が高く、彼女に憧れる民衆は決して少なくはない。

少なくともランスが初めてサカで出会った時、5人の山賊相手に冷や汗を流していた面影は薄い。

そんな彼女のアドバイスが終わると、3名の騎士は解散しケントがリンの方へと近付いてくる。


「リンディス様、お疲れ様でした。」

「ありがとう。 ケント、後はお願い。」

「畏まりました。」

「その前にだけど……今回の様子はそんな感じかしら?」

「はッ。 回を重ねるに連れ、着実に我が軍の錬度は上がっております。
 今回とて例外ではありません。 報告によると各兵種のトップは、前回と同じのようですが。」

「そう、判ったわ。」

「詳細は不明なので、後ほど御報告します。 それでは――――」

「えぇ。」


簡単な報告を終えると、彼女の元を離れるケント。

リンは立ち去る彼の背中から視線を外すと、一人空を見上げると同時に溜息を漏らした。

――――何だか、"物足りない"のだ。

サカでの生活が長かった事があって、彼女が政治面でハウゼンの役に立てるのは軍事程度。

だからこうして、公女でありながら剣を振るっているのだが、やはり物足りないモノだ。

不謹慎と言う事は判っているが、ランスと旅した"あの時"が懐かしくも思えてしまう。

今回の以外で稽古しようにも、相手は直属の傭兵フロリーナ位しか居ないのだが、
彼女の実力はなかなかであるし、そもそも公女なので贅沢は言えない。

だが"サカの血"がそう思わせるモノの、無理なのは仕方ないので何となく周囲を見渡した時だった。


「――――ッ!?」


「おいおい、公女 自ら訓練に参加かよ。」

「他の領地じゃ考えられませんね~。」

「しかも、お強いですね……」

「まぁ、考えてみりゃあ、リンはそう言うヤツだったな~。
 ……とにかく見つかったんなら話は早ぇな。」


≪――――スタッ≫


遠方で試合の様子を眺めていた、ランスの姿を発見したのだ。

この時 思わず彼女は模擬刀を落としそうになってしまい、胸の鼓動が高まるのを感じていた。

だが鼓動に反比例して体は動かず、そんな間にランスは馬を下りて自分に近付いて来た。

以前と変わらぬ緊張感の無い表情で。 そんな彼を見ていると、何故か無性に腹が立ってきた。


「……ッ……」

「お~い、リン!!」

「ランス……さん。」

「久しぶりだな、元気してたか~?」

「えぇ、貴方も。 それより……どうして此処にッ?」←妙に声が低い

「ちょっとお前に用が有ってな、良いか?」

「話を聞くくらいなら……構わないわ、その前に……」

「んっ?」


一年ぶりの再会なのに、何故ランスはこうも"あの時"のままなのだろうか?

自分は彼を久しぶりに見ただけで、胸の鼓動が高まっているのに。

"あれだけ"の事を自分にしておきながら、ひょっこり"言った通り"の一年後に現れるなんてッ。

リンはランスに"あれ程"女性としての快楽を味合わされたのだ、当然 彼を想って自慰もした。

特に彼と別れてからの2~3ヶ月は切なく、半年ほど経ってようやく自重に至った。

そして、今となっては彼の噂さえ聞かないので諦めかけてもいた程だったのだ。

なのにランスは現れ、彼の登場で再び忘れ様としていた快楽を思い出し、身体が疼いてくる。

同時に彼に抱き付きたい感覚にも襲われる……が、それをリン自身が許せなかった!


「――――私と戦いなさいッ!!」




……




…………




≪ざわっ、ざわざわ……≫


……何で、こんな事になっちまってるんだ?

ランスはそう思って頭を掻きながら、目の前の少女と対峙していた。

言うまでも無くリンであり、周囲にはリンと騎士達との試合を遥かに凌ぐ、
500人以上の人間が二人を囲み、戦いの様子を見守ろうとしていた。

中にはセーラとレベッカ・案内役だったフロリーナ・ハウゼンは当然として、
ケント・セイン・ウィル・レイヴァン&彼に仕えるルセアと言う、一年前の仲間達も含まれていた。

自分がリンと剣を交わさなくてはいけない理由がイマイチ理解できないが、
何やら凄い剣幕でリンに言われたので、勢いに押されてOKしてしまったのだ。

だが、リンが一年でどれだけ"成長"したのかも気になるし、まぁいいか~程度に考える事にした。


「さぁ、何時でも良いぞ~?」

「……ッ……」


模造刀を構えるリンは、妙に殺気も感じるし、先程の試合とは偉い違いだ。

表情は真剣なだけで周囲の人間はエウリード家vsリンディス様のカードに、
興味深い眼差しを向ける者が大半だが、ケントやレイヴァン等 勘の良い者は気付いているようだ。

それはランスも同じであり、ちょっとは真面目にやった方が良さそうだな~と思って居る。

しかし"いきなりランスアタック"を使わない程度には空気を読んでいる様で、
よく判らないがリンは真剣らしい事から、自分も礼儀として武器を構えてやる。


≪――――――――ダンッ!!!!≫


それと同時に、リンが鋭い目つきと格段に上がったスピードで斬り掛かって来る。

もし、彼女が持っている武器が模擬刀でなくマーニ・カティであり、
相手が並みの相手であれば、一瞬で命は断たれていただろう。

だがランスは一撃を模擬剣で防御するが、リンは過去の教訓を活かして数撃で 距離を取り、
再び鋭い一撃を何度か放っては彼に反撃をする隙を与えぬべく距離を取る。


≪おおおおぉぉぉぉ~~ッ≫


キアラン最強であるリンディス様の攻撃を、エウリードの剣士はあそこまで受けれる!

その事実は周囲を騒がせているが、彼らはリンの勝利を信じて疑ってはいない。

エウリード家のランスは当時 強い事で評判であったが、今や一年が経ち知名度も落ちている。

故にリンの口から彼の方が強い事を一部の者が聞かされようと、その事実は霞んでいた。


「ほぉ、なかなかヤるようになったじゃね~か。」

「くっ……」


……だが、いくら霞もうと事実は事実。 それは揺らぐ事は無い。

一見 リンの攻撃にランスが手も足も出ていないように見えるが、
逆に考えれば"リンの渾身の攻撃もランスには通じない"と言う事になるのだ。

確かにランスにとってリンの攻撃を受けるには多少の体力を要したが、
いくら"こちら"に来て弱体化したとは言え、ケイブリスをも仲間と共に倒した、
彼の防御を弾くには役不足であり、既に"それ"にリンは気付いてしまったのである。

一年間の成果とも言える先程の連撃を全て退けられた今……もはやランスに勝つ手段は無い、と。

よってリンが武器を構えたまま動く事ができないでいるので、今度はランスが攻勢に入る番だ。


「それじゃ~、今度はこっちから行くぞ!」

「……ッ!?」

「(ラーンス)……アタックッ!!!!」←前者は小声で

「(ま、負けるッ!?)」


≪――――――――バキィッ!!!!≫


以前の最後の戦いでは、一撃でリンの武器を叩き落した必殺技。

しかも、"あの時"は威力をセーブしていたらしく、今回は更なる勢いを感じる。

その為かリンは情けなくも一歩引くだけで目を瞑ってしまうが、
彼女には何も衝撃は来ず、目の前で何やら大きな"音"がしたダケだった。

同時に周囲は静まり返り、リンが構えたまま目を開けると、
"ランスアタック"は"外されて"おり、ランスが振り下ろした模擬剣は折れてしまっていた。

"模擬剣"と言う事から強度は鉄の剣 以下であり、彼の必殺技に耐える事はできなかったようだ。


「ありゃ、折れちまったなァ~。」

「……ッ……」

「お~い、セイン! こんな場合はどうすんだ~!?」

「えっ!? じ、じゃあ……"引き分け"って事で!!」


≪おおおおぉぉぉぉ~~っ!!!!≫


リンは唖然としているが、セインに話を振ったあたり、
どうやらランスは意図的に"引き分け"を狙ったと言える。

他の者達から見てみれば、リンは目を瞑ってしまったモノの、
しっかりを武器を構えて一撃を回避したようにも見えているので、
"引き分け"と言う結果で満足だったらしく、皆 二人の強さについての感想を話し始めていた。

この結果はともかく、ランスとの勝負が終わった事から、
リンは自分の彼への"怒り"が一気に冷めてゆくのを感じていた。

よって ゆっくり模擬刀を下ろして立ち尽くしていると、何時の間にか目の前にランスが立っていた。


「きゃあッ! ら、ランスさん!?」

「何だ何だ、怒ったり驚いたり忙しい奴だな。」

「あっ……ご、ごめんなさい。」

「まぁ、それは良い。 それより、満足したか?」

「う、うん……結局、勝てなかったみたいだけど。」

「一応 空気を呼んで"ああして"やったが、俺様の勝ちだろうなッ。」

「そうね。 やっぱり強いわ、ランスさんは。」

「がはははは、当たり前だ。 ……とにかく、場所 変えるぞ?」


その言葉に、リンは黙って頷くしかなかった。




……




…………




あれから人の目を盗んで、ランスはリンをキアラン城の外れへと連れて行った。

現在は軍事訓練の後片付けの最中であり、彼女と二人きりになるのは思ったより簡単だった。

彼のお供であるセーラは一年前の仲間達と色々と情報交換をしており、
レベッカは何やらキアランに"知り合い"が居たらしく、彼の邪魔をする者は誰も居ない。


≪ずちっずちっずちっずちっずちっ≫


「あッ、あッ、あッ、あッ、あッ!」

「どうだ~? 一年ぶりの尻穴の感触はッ?」


たった今は、なんとアナルセックスの真っ最中。

本来なら色々と会話した後にでも抱こうと思っていたのだが、彼はすぐさまリンを襲った。

何故ならエリウッドと行動し始めてからセーラを抱く数も極端に減ったし、
レベッカが加入してからはずっとご無沙汰だったからだ。

それに、一年ぶり(ランスにとっては一ヶ月程度)にランスと再会し、
公衆で戦いを挑んだ事を思うと恥かしくなってモジモジとしていたリンが魅力的だったのもある。

今は16歳らしいが、一年経った事で相応の成長を見せており、
サカの民族衣装は相変わらずだが、キアランの気品も重なり、彼は欲望を抑える事ができなかった。

よって、どう話を切り出そうか迷っていた段階であったリンに、
イキナリ口付けをすると押し倒し、リンの抵抗が薄いと判ると早くもハイパー兵器を膣に押し込む。

そして数分後、ランス最初の皇帝液をリンのお尻に放ったが、
彼が出すまで彼女は既に3回ほど果てており、既に立ってでの背後位は叶わず、
ずるずるとカラダを崩してしまっていた。

そんなヒクヒクと痙攣するお尻を見て更に欲情したランスは、
皇帝液をローション代わりにし、ハイパー兵器をリンの尻穴にねじ込んでいた。

その不意打ちに目を見開き、ガクガクと身体を揺らした彼女だったが、
驚愕が快感に変わるのはそう時間が掛からず、突かれるリズムに合わせて暫く喘ぎ続け、
ずっとずっと待ち望んでいた、久しぶりの快感に耽っていた。


「き、気持ちイイッ……お尻の穴"も"……ひゥっ……気持ち、良いよぉっ!!」

「がははははははは、それじゃ~2発目だ~ッ。」

「アぁッ!? お、お尻熱いいぃぃぃぃ……っ!!」

「ふぃ~……まだ出る、ぞっ。」


≪――――ずぐんっ≫


「ンぎぃィっ!!」

「うほほ。 こりゃ~、まるで水飴だなァ。」


≪にゅぢっにゅぢっにゅぢっ≫


「うッ、う"ぅッ、う"ッ!」

「がははは、余程 堪ってたみてぇだなぁ?(俺様もだが)」


ランスはリンのアナルに大量の精を放ち始めると、完全に終わるまでピストン運動を続けた。

その一突きの度に、リンの喉の奥から呻く様な声が漏れる。

初めて出会った時の彼女を考えると、先程の勇ましいリンは想像できなかったが、
先程の彼女と比べる今のリンのギャップも非常にそそるものがある。

そんな事を考えながら、射精が終わりハイパー兵器を抜くと、
休憩の意味でランスは座ると大木に背を預け、何時の間にか失神したリンの頭を見下ろしていた。


「…………」

「こんな姿、あの爺さんが見たらショック死するだろうな~。」


見られる心配は無いだろうがランスはそう漏らすと、
露になっているリンのお尻を、捲り上げた衣服を元に戻して隠す事にした。




……




…………




「そうだったの、エリウッドの父上がそんな事に。」

「あぁ。 だからお前の手を借りに来たんだが、どうだ?」

「……先に言っておくけど、一応 私はキアランの公女よ?」

「それで引き下がる位なら、わざわざ来んわッ。 ……で、どうなんだ~?」


十数分で目を覚ましたリンは、慌てて衣服を正すと、ランスに本題を聞く。

対して彼の説明は大雑把であったが、一年前に世話になったエリウッドが助けを求めており、
その使者としてランスがやってきたような事 程度には話を理解した。

かと言って彼女の言う通りリンはキアランに必要とされている人間である。

常識的に考えて、そう易々とランスに付いて行く事は出来ないのだが……


「――――良いわ。」

「ほんとか?」

「うん。 一年間キアランで過ごしてきたけど、やっぱり性に合わないもの。
 勿論、おじい様のキアランは私にとって掛け替えの無いモノになったけど……その……」

「なんだ?」

「や……やっぱり私、ランスさんと一緒に居たいのッ。 貴方とまた戦って、理解した。
 皆にはエリウッドの事を言えば判ってくれると思うわ、長く離れるワケじゃ無いだろうし……」

「それじゃあ、決まりだな~。」

「うん。 私は貴方に付いて行くッ。」


≪――――がばっ≫


思ったよりも、簡単にリンはランスに力を貸す決心をした。

本来であれば自分の一存ダケでは決めず、まずやハウゼンや直属の騎士である、
ケントとセインに相談する所から始めるべきなのだが、
やはりサカの血の所為もあり、戦いの場を求めてしまうのであろうか。

他にも、キアランで社交のダンスや貴族の嗜みを学ぶ事等にウンザリしていたのかもしれない。

だが何より……目の前の自己中心的な男の存在が何よりも大きい。

例えいずれ別れる事を想像できようと、それはその時 また悲しめば良い。

故に今はこの再会を喜ぶべく、彼女は横で背を大木に預けて座るランスの首に抱きついた。


「おわッ。」

「……っ……ずっと、会いたかったん……だからあッ……」

「お前……」

「ぐすっ……」


そんなリンの声はカラダと同じく震えており、涙を流しているに違いない。

再会した時は想像できなかったが、言葉通り余程ランスに会いたかったのだろう。

そうとなれば、普通ならリンの顔を正面に戻し、口付けを交わすのがベターだが……

リンはランスに抱き付いている中、唐突に"何か"が当たる感触を感じた。


≪ジャキーン≫


「そうか。 そんなに また犯って欲しいのかッ!」

「……へ?」

「がははははは、だったら仕方ないなぁ! 丁度 物足りないと思ってたところだッ。」

「えっ!? ちょ、ちょっと……違ッ、ああぁぁぁぁッ!!」


結局 甘いムードにはならず、ノリと勢いだけの第3ラウンドが開始された。

その久しぶりのセックスは5ラウンドまで続き、再びリンは男を言うモノを教え込まれた。

だがリンは文句を言う事も無く、キアランの者達にエリウッドに助力を貸す事を告げると、
正直 後ろめたさは否めないが、翌日にはキアランの城を離れる事にしてしまった。

そんなランスたちが目指したのは……キアランの"港町バトン"に存在する"闘技場"。

どうやら新たな"戦力"を加える為らしく、新たな"出会い"が彼ら一行を待っていた。



[2301] ファイアーエムブレム=鬼畜の剣= 本編 その6
Name: Shinji◆9fccc648 ID:37b9b89a
Date: 2008/03/10 00:46
ファイアーエムブレム =鬼畜の剣=

本編 その6 黒髪の女性剣士




――――闘技場。


名から想像できる通り、参加者同士が武器を用いて戦う場。

また、その様子を見に多くの観客が訪れ、歓声や罵声が飛び交う熱気は凄まじいものだろう。

もう一寸考えてみると、闘技場と言えば"賭け事"若しくは"ギャンブル"という単語が浮かんでくる。

簡単に述べれば、殆どの観客達が勝者を賭け合い、たった一日で膨大な金額が動く場所。

それが"闘技場"と言うモノであり、戦いを観るよりむしろ賭け事をする場と言う方が妥当だろう。


≪ワアアアアァァァァーーッ!!!!≫



……だが、"こちら"においての闘技場と言うモノはちょっと違う。

まず第一に、試合は本当の"殺し合い"であると言う事。

一応ギブ・アップはできるが、誤って殺してしまっても、勝者は全く咎められない。

即ち 相手が命乞いをしようとも、主催側が止める前に殺してしまっても構わないのだ。

故に血の快楽を求めて参加する人間もおり、そんな相手とぶつかれば絶対に勝たなくてはならない。


第二に"こちら"では観客はギャンブルをしないと言う事。

何故なら、エレブ大陸の人間は貴族を除いて皆が貧しく、
特に北の"イリア地方"はあまりの寒さと貧しさに、生まれてくる殆どの人間は、
始めから傭兵をする為ダケに育てられるような有様である。

あの性格で傭兵をするフロリーナや、愛妻家の木こりであるにも関わらず、
山賊団に加入する羽目になったドルカスを考えれば、エレブ大陸の環境は大体察せるだろう。

只でさえ貧しいのに、賭け事をして多くの敗者が生まれれば、それでこそ取り返しがつかなくなる。

よって観客は純粋に"命懸けの戦い"と言う"娯楽"を求めて闘技場に訪れ、
その入場料もほんの僅かなので、気軽に入れる施設となっている。

その収入の一部を領地に進呈し、それは領地の貴重な"税"として使われるのである。


第三に、むしろギャンブルをするのは"戦う者"である事。

本来であれば闘技場には無料で参加し、良くて賞金を受け取り、悪くても重傷で退場程度だ。

だが"こちら"では参加者は料金を払ってまで参加し、勝てば倍の金額を受け取れる。

逆に負ければゴールドを失うダケでなく、重傷どころか高確率で命を失う。

重傷であれど勝ちさえすればお金は貰えるので、互いは確実に息の根を止めに掛かる。

そうなると命が惜しくて降参するのであれば、かなり早い段階でギブ・アップする必要が有るのだ。


≪オオオオォォォォーーーーっ!!!!≫


「只今の勝者、剣士……ッ……!!」

「おおおおぉぉぉぉーーーーっしゃああああぁぁぁぁッ!!!!」


……こう述べてみれば、勝てば料金が倍になるダケだが、負けるとリスクが高すぎると言える。

しかし、たった今 戦いで勝者となった無名の剣士の勝利の雄叫び。

主審の勝ち名乗りは声援に掻き消されるが、彼のような瀬戸際の人間の参加が後を断たない。

それだけ纏まったゴールドを手に出来る事が難しいからであり、今日も闘技場は大喝采だった。

しかしながら、人生の勝者の影では敗者となった屍が多く居る事も、決して忘れてはならない。




……




…………




「おい、おっさん。」

「あん?」


エレブ大陸における、キアランの闘技場in港町バトン。

時刻は午後4時であり、現在は試合の真っ最中で其処は非常に騒がしいが、
参加者の受付には人影が少なく、カウンターの内側では3名の人間が雑務をこなしていた。

その中で、一番手前のスキンヘッドの中年が責任者のうようで、書類を黙々と弄っている。

そんな彼に、それなりに良い身形(みなり)の茶髪の男が、唐突に声を掛けて来た。

対してオヤジは、あからさまに怪訝そうな表情で彼を少しだけ睨む。

つまり"忙しいから邪魔だ"とでも言いたいのだろうが、一応客で貴族らしいので口にはしない。

だが彼の威圧は全く通じず、身形の良い男は偉そうに腕を組みながらオヤジを見下ろして言う。


「俺様と"良い女"と戦わせろ。 一番強い奴とだ。」

「はぁ~?」


……滅茶苦茶な事を言って来た。

基本的にキアランの闘技場に置いて、参加者は午前のうちに受付を済ませる。

そして、他の闘技場での情報や見てくれ、名が知られているか否か、
提示して来た金額は幾らか、条件が近い参加者が居るか……などなど、
スタッフで検討するに検討して対戦カードを決め、午後と同時に全ての"死合い"が行われるのだ。

どの闘技場でも似たような参加方式であり、暗黙のルールと言っても良いのだが、
目の前の"貴族っぽいマントの男"はそんなルールなど糞食らえな様子だ。

しかも強い女と戦いたい? 人生ナメてるのかッ!?

この闘技場で働いて20年以上であるオヤジは、此処における黒い部分を全て知っている。

一切れのパンを求めて決死の覚悟で金をかき集めて参加するモノの、
アッサリと殺されて遺族すらも借金地獄に巻き込むような者もいるのだ。

何年か前からはそのような参加者の受付は断るようにしているが、
それでも貧しさから抜け出したいが為に死ぬ気で"死合い"に来る人間が毎日やってくる。

それ故に、"お気楽"な気持ちで参加しようとしてきた目の前の男が非常に気に入らなかった。


「此処が受付じゃなかったのか?」

「……いや、そうだが受付はとっくに締め切ってるぜ。
 今俺ァ見ての通り忙しいんだ、冷やかしなら帰ってくんな。」

「何だとッ? わざわざ来てやったんだ、さっさと紹介しろ!
 "参加費"とか言うヤツなら、幾らでもあるぞ!」

「…………」


なんと自己中心的な男であろうか。

丼勘定な如くゴールドの入った袋をドスンとカウンターに置く辺り、
間違いなく貴族に近い存在のようであり、"死合い"に参加する気もあるようだ。

どうやら本当に"暗黙のルール"を知らないようで、溜息を漏らしながら作業を中断する。

この時オヤジがふと後方に目を移してみると、何と其処には4名の美少女達の姿がッ!

何やら"一名(セーラ)を除いて"ソワソワしながら自分たちの様子を眺めており、
悪く言えば"田舎者"なのだろうが、周囲に人も少ないし、目の前の男の"連れ"なのだろう。

それなのに"女と戦わせろ"とは、欲張りにも程があり過ぎる。


……ところで話は変わるが、"貴族"が闘技場に顔を出すのは非常に稀である。

"顔を出す"とは客として観に来る事 自体が稀と言う意味であり、
ゴールドを賭けて実際に戦いに来るなどと言う事はまず"ありえない"。

噂によるとオスティア侯弟(ヘクトル)のような"物好き"が城を抜け出して、
参加したりもするらしいが、何より命に関わるし、
強い者と戦いたければ城の騎士でも相手にしていろと言う話だ。

だが、純粋に"様々な強い者"と戦いたければ、闘技場程 打って付けの場所は無いし、
少数だが金でも名誉でも無く、強い者と戦いたいが為だけに参加する"御目出度い奴"も居る。


「おいこら、さっさとしろ! 俺様は忙しいのだッ。」

「へ~い、判りましたよ。 ちょっくら待っててくんなせぇ。」


方向性は前途と若干違うが、目の前の男も"御目出度い奴"なのだろう。

何処の貴族なのか、どれだけ強いのは知らないが、何だか気に入らない。

別に貴族は好きでも嫌いでも無く、むしろ今のキアランは良くやっていると思うが、
この"御目出度い奴"がキアランの者であろうと、来るものは拒まないのが、
闘技場の"暗黙のルール"であり、こいつには責任者権限でちょっくら地獄を見てもらおう。

地獄どころでは無くなるかもしれないが、オヤジはそう考えると急に謙り、
そのまま作業を続けていた片方の若い部下に声を掛けた。


「おい、参加者 一人追加だ。」

「えぇッ? どうしたんですか、いきなり?」

「あそこのボンボンが一戦やりたいらしいんだ、折角だし殺らせてやろ~じゃね~か。」

「はぁ。」

「……確か、"例の女"が来てたよな? 」

「あぁ~、そういや~余りにも早く勝負が着いて、客が興ざめしてたらしいっすよ。」

「おぅ、それだ それ。 まだ控え室に居るよな? 話し付けて来いッ!」

「全くもう、おやっさんも人が悪いっすねぇ。」

「"条件"が揃ってる奴がそいつしか居ねぇんだ、仕方ねぇさ。 死んでも文句は言えねぇよ。」

「条件? なんすかそれ?」

「話は後だ、さっさといけッ。」

「わかりましたよ~。」


こうして、オヤジは無理矢理手続きを済ませると、部下に案内される男の背中を見送った。

その際 何やら4人に美少女達と言葉を交わしていたあたり、やはり"連れ"だったのだろう。

楽しそうな様子であり"ちょっとだけ悪ィ事しちまったかな"とも思ってしまう。

だが"この一件"は、彼に対して何のデメリットにもならず、オヤジの記憶に長く残る事になった。




……




…………




リンを連れてキアランの城を離れたランスは、闘技場を目指し、港町バトンへと向かった。

何故そうなったかと言うと、新たな"仲間(女性限定)"を探す為である。

運良くリンの直属の傭兵であるフロリーナも付いて行く事となったので、
このままエリウッド達と合流しても良かったのだが、まだまだ男性比率が高いのが現実。

また、思ったよりも簡単にリン(+フロリーナ)を連れ出せた事から、
時間の余裕もあるだろうし(ランスの思い込み)、どうしたモノかと考えていた。

そんな彼にセーラが"闘技場に行けば良いかも"と提案し、2日掛けてバトンへとやって来たのだ。


「いけーーっ!! 良いぞォーーっ!!」

「殺せぇぇーーーーッ!!!!」


そんなこんなで、ランスは受付を強引に済ませると、控え室へと案内されて行った。

リンは"闘技場"に自分も参加したいような事をボヤいていたが、
公女と言う立場 故にアッサリ却下され、ちょっとだけションボリしていたのはさておき。

ランスと一旦 別れたセーラ・レベッカ・リン・フロリーナの4名は、
闘技場の内側に入ると、観客席にへと歩いて腰を降ろした。

たった今も、白熱した"死合い"の決着の直前だったらしく、
決着 直後の途轍もない歓声で、フロリーナがぶっ倒れそうになった。

……が、死合いが進むに連れてフロリーナの顔が青くなり、
やはり仕舞いには意識を失ってしまい、真横のリンに肩を預けている。


「す、凄い熱気ね……」(互いに顔を近付け合いながら)

「何てったって、ストレス発散の場ですからね~。」

「わ、私も目眩がしてきたかもッ……」

「こんなんじゃ私、きっと集中して戦えないわ。」

「悪い事は言わないから、止めて置いた方がいいですよ~?」

「そ……そうね、少し興味有ったけど、もう良いわ。」


観客の熱気に、流石にリンも飲まれてしまっていた。

軍事訓練どころの騒ぎではない、もはや完全な"見世物"だ。

しかしながら、参加者の戦士や剣士は全く眼中に無い様子で戦っているようで、
まだまだ自分は技術だけでなく、精神的にも未熟なのだと痛感するリン。

一方セーラは涼しい顔をしているが、田舎娘であるレベッカも、顔が少し青いようだ。
(余談だが、レベッカはキアランを出てから、今ひとつ元気が無い)

つまり、セーラの言うように此処は"ストレスを発散させる為だけの場所"であり、
ただ"連れ(ランス)"の死合いを見守るのダケが目的なのであれば、
完全に場の雰囲気に飲まれ、浮いてしまっているのも否めないのである。

しかし流石はエレブ大陸の人間……既に何人か選手が死んでいるが、
ランスを差し引いても それで帰ろうとしないあたり、やはり"こちら側"の人間だ。

そんな中……ようやく場の雰囲気にも慣れて来た時、場内が唐突にザワついた。


「お、おいっ……あの女……」

「また出て来たぞッ?」

「……ほらッ、例の……」

「―――――――"剣姫"だッ!!」


実は張り出されていた対戦カードが全て終わったらしく、観客達は帰ろうとしていた。

だがリン達はそれを知らない……そもそもランスが出て来ないと終わる筈が無い。

よって新たな人影が出て来ようが違和感は無かったが、他の者達は騒然となるッ!

一度 勝負を終えた者が再度出てくるとは思わないのは勿論、追加試合 自体が珍しいからだ。

そんな観客達の中から"剣姫"と言う言葉が出てきた時、
リンは反射的にセーラに顔を向けたが、視線に気付いたセーラは黙って首を横に振った。

流行に敏感(自称)なセーラではあるが、約一年間(正確には11ヶ月)時と駆け昇っているので、
最近の話題にはかなり疎く、キアランで以前の仲間と色々と話したのも それ故だった。

対してリンは其処までは理解できるハズも無いが、セーラが知らないと察すると、
自分達の直ぐ近くで"剣姫"を眺めている観客の一人に声を掛けた。


「ねえ、ちょっと。 あの"剣姫"ってなんなの?」

「んっ、あんたァ知らねぇのか? あちこちの闘技場にやってきては、
 其処最強の"闘士"を倒して、また違う場所に行っちまう剣士だよ。」

「"また出て来た"って言ってたけど、どう言う事?」

「なんだ、見て無かったのか? さっきはバトン闘技場で一番の剣闘士と殺り合ったんだが、
 あっという間に終わっちまってよ、首から大量の血ィ噴出してお陀仏さ。」

「……!」

「闘技場の常連客にとっちゃあ、一度ァ"剣姫"を見てみたいってヤツも多かったが、
 ああも強ェと逆につまんねぇわな~。 "こっち"にとっちゃあ人気の剣闘士が一人死んだダケで、
 美味しい事なんて何一つ無かったって風にも言えるんだからな。」

「そ、そんなに強かったの?」

「あぁ。 まぁ、相手にゃ気の毒かもしれねぇな。」


"剣姫"について観客の一人に聞き終えると、リンは遠方に佇む女性に視線を移した。

……長い黒髪に、青を次点に白を主体としたサカの衣服に身を包む美女。

彼女が"剣姫"であり、キアラン最強の剣闘士を一瞬で倒したらしく、本名は謎との事。

"剣姫"とは自然に付けられた呼称であり、基本的に闘技場において、
参加者は無理に自分の所在を明らかにする必要は無いのだ。

さておき、ランスが唐突に言い出した、"闘技場で腕の立つ女を捜す"と言う目的。

当初は、何処に美味い話が……と若干 嫉妬交じりのネガティブな考えをしていたリンであったが、
この瞬間それは余計な心配であり、"剣姫"が只者では無い事を理解してしまった。

彼女は只 ザワついた歓声がまるで聞こえていないかのように、立っているダケだが、
その隙の無い様子は、一流と言うレベルに足を踏み入れたリンであれば察する事が出来た。


「おいおい、居るのか? あいつに勝てる奴なんて……」

「!? やっぱり闘(や)るみたいだぞッ! 対戦相手が出てきやがった!!」


≪ざわざわっ……≫


……と、剣姫を眺めているのも束の間。

彼女が出て来た反対側。 リン達が座る手前から、挑戦者?が姿を現す。

言うまでも無くランスであり、真剣勝負なのも有って、鎧(+マント)を装備している。

剣姫と同様、闘技場の雰囲気に飲まれないどころか、むしろ楽しんでいる様子であり、
後ろ頭しか見えないが、そんな様子なのだと軽い足取りから何となく予想できた。

だが今回の相手は強敵なので生唾を飲むリン、目を覚ましたがハラハラしているフロリーナ、
ランスを最も信じているセーラ、良く判らないがとりあえずランスを応援するレベッカ。

それぞれ違う様子で対峙する二人の様子を眺めており、妙に周囲の口数も少なくなる。

そんな中、ランスと剣姫はスタッフから武器(鉄の剣)を受け取った直後、
何やら会話をした……と思うと、唐突に互いの剣が火花を散らしたッ!!




……




…………




「(何故だッ!?)」


黒髪の剣士、剣姫は焦っていた。

自分が捜し求めている唯一の存在以外に対し、このような感情を抱いたのは初めての事だった。

結局 此処でも手掛かりは無し……そう思っていたのだが、
バトンそのものを離れようと思っていた時、"自分との戦いを望む者が居る"と聞き、
余り気は乗らないモノの、再びいつもの"騒がしい場"へと赴いた。

其処で現れた男が、勝負の直前にニヤけながらこんな事を要求してきたまでは良かった。


――――俺様が勝ったら、何でも言う事を聞いて貰うぞ?


剣姫の一族は、剣の為に生まれ、剣によって死ぬ。

しかし女の身である故か、闘技場での対峙において、この様な事を言ってくる輩は多い。

故に"何時もの様"に聞き流し、戦うからには、いかなる相手であれど全力を持って挑む。

そんな彼女を、女と言う事で僅かでも甘く見た者は、一瞬で命を断たれる。

本来 剣姫は争いを好む人間ではないが、全ては捜し求める存在に少しでも近付く為なのだ。


≪キィンッ、ギィンッ!! ギイイィィンッ!!≫


「どわッ!? 何ておっかねぇ攻撃しやがん……だぉあっ!?」

「……ッ!!」


≪ヒュッ! ブゥンッ! ガキィン……ッ!!≫


『オおおおぉぉぉぉーーーーッ!?!?』

「ちょ、危ねぇだろッ! ちょっとは喋らせろ!!」

「(――――馬鹿な!?)」


……どんな相手でも瞬時に殺めてきた太刀が、目の前の男には通用しない!?

最初の一撃を防がれた時点で只者では無いとは思ったが、
全力を持ってしての連撃を凌がれてゆく度に、どんどん焦りが生じてくる。

真剣勝負なのに何故か自分と会話しようとする様……つまり"余裕"が見られるからだ。

だが、これは相手の心理作戦かもしれない。 あくまでこれは"殺し合い"なのだ!

よって手を休めず斬り掛かるが、やはり通じないばかりか、フザけた様子は変わらない。

慌てた様子で避けるダケで、全く殺気の篭った攻撃をしてくる様子が無いのだ。

何故だッ? 何故なのだ? 何故反撃しない? 殺る気が無いなら、何故勝負などするのだッ!?

浮かんでくる疑問。 それが剣姫の心理を著しく害した時、彼女の攻撃の腕が一瞬 止まる。


――――その瞬間を、目の前の男は見逃さなかった!!


「そこだぁ!! ランス・スイィィーーングッ!!」

「な……ッ!?」


≪ギャリイイイイィィィィーーーーンッ!!!!≫


『うおおおおぉぉぉぉーーーーっ!!!!』


男の一撃が自分に炸裂すると同時に、より大きな歓声が響き渡る。

一撃を食らった? 何処をやられた? 腕が飛んだか、或いは……?

そう考えながら剣姫は覚悟を決めていたが、直後 回転して地面に突き刺さった彼女の武器。

ランス・スイング(正しくは破壊力をセーブしたランスアタック)は、
剣姫にはダメージを与えず、彼女の武器を弾き飛ばしたダケの技だったようだ。

まさかこんな不覚を取るとは……剣姫は、"そのまま"の体勢で動く事が出来なかった。


「おい、相手の武器が無くなったぞ~。 これって俺様の勝ちだろ?」

「ハッ!? し、勝者ランス!!」

「……ッ……」


『わああああぁぁぁぁーーーーっ!!!!』


「おいおいおいッ、信じらんねぇ……"剣姫"に勝ったぞ!?」

「だ、誰なんだよッ? アイツ!?」

「ランスぅ? 聞いた事ねぇぞぉ~ッ!?」


互いに五体満足は勿論、無傷で決着。

これは極めて異例であり、物足りない気もするが、かつてない大盛況で幕を閉じようとしていた。

だが、負けた剣姫は呆然とその場で立ち尽くして居るしかなかった。

そんな彼女に、男は自分と戦っていた事など嘘のような表情で近付き、口を開く。


「がはははは、俺様の勝ちだなッ。」

「そ……そのようだな、完敗だ。」

「しっかし、肝が冷えたぞ? 少しズレてたら、君の身体に傷を付けちまうとこだったな。
(最初の一撃で少し反応が遅れてたら、俺が死んだかもしれんが……)」

「…………」

「ん? どうした~?」

「……お前は、そんな事を考えて私と剣を交わしていたのか?」

「そりゃそうだッ! 俺様は"良い女"に傷をつけるのは、膜一つだけと決めているからな!」

「???? …………膜?」


……そうか……この男は最初から私を殺す気など無かったのだ。

始めからこうして武器を弾き飛ばす事が目的で……殺気など、感じない筈だ。

剣姫はそう考えて心の中で苦笑し、同時に目の前の男に非常に興味が湧いてしまった。

本来であれば真剣勝負で負けたとなれば、命有れど自害すべきなのだろうが、
こうも惨敗(若干勘違い)してしまうと逆に、生きて更に精進したくなってしまったのだ。


「ともかく……だ。 勝負の前に、俺様の言った事を覚えてるか?」

「……そうであったな、何でも言ってみると良い。 私のできる事であれば行おう。」

「(何か世間知らずっぽいな~)あぁ、その前に。」

「なんだ?」

「名前は何て言うんだ? まさかケンヒメとかじゃ無いだろうな?」

「お前はランス……だったな。 私は、カアラだ。」


この後の"黙って俺様に付いて来い"と言う要求に、カアラはアッサリ首を縦に振った。




……




…………




「ねぇねぇねぇねぇ! お兄様ッ、すっごかったよね~!?」

「えぇ、本当に凄いわ。 "剣姫"にさえ、あんな勝ち方しちゃうなんて!」

「わ、私……感動……しました……」

「私達、あんな凄い人と旅してたんですねッ。」


黒髪の女性剣士、カアラ。

その実力は一級品であり、流石のランスも若干油断した状態だった為、
実は初太刀で反応が遅れていればその命が無かった程の相手であった。

よって肝が冷えたモノだが、それは勝負を見守っていたリン達も一緒。

ランスとカアラの決着がつくと、4人は闘技場を出て、
それぞれ様々な感想を互いに言いまくりながら、ランスが戻るのを待っていた。

リンは改めてランスの事を好きになり、フロリーナは更に彼に憧れ、
レベッカは敬い、セーラに至っては知名度で"剣魔"と双璧を成す"剣姫"に勝った事が、
今になってたまらなく嬉しくなってしまったようである。

そんな4名の少女達は、何だかんだ上手くやっていけているようで、
妙に会話が弾んでいる中、30分ほど経ってからランスが姿を現した。


――――案の定、"剣姫"を引き連れて。


「……と言う訳で、新たに加入することになった"カアラちゃん"だ。
 皆より年上みたいだが、気にせんで仲良くしてやるよ~に。」

「カアラだ。 生憎 剣以外には疎いが、宜しく頼む。」

「…………」×4


なんとまあ、アッサリと。

浅く礼をするカアラを見て、少女達は暫し呆然としていた。

かの有名な"剣姫"だが、こんな短時間で同行を決めると言う事は、
単純と言うか何と言うか……案外 取っ付き易いタイプなのかもしれない。


「えっと、カアラ……さん?」

「カアラで良い。 お前は?」

「リンディスよ、リンって呼んで。 ところで……良かったの?」

「何がだ?」

「大体の事はランスさんから聞いてると思うけど……危険な旅かもしれないから。」

「構わぬ。 私は、己を手玉に取った男……ランスの旅に興味が湧いた。 それに……」

「それに?(あら、結構可愛い顔もするじゃない)」

「……兄者は……強者のもとに現れる……
 お前達の旅が危険な道中とあらば、むしろ好都合と言うもの。」

「お兄さん? どう言う事?」

「は~い、私はセーラね。 こっちはフロリーナで、こっちはレベッカ。
 それよりもカアラさ……カアラって、もしかして、お兄さんを探して旅をしてたの~?」

「うむ。 お前達の旅を利用するような形ともなり、すまぬと思っている。」

「――――そんな事ないわ!!」

「む……?」

「カアラの気持ち、良く判るわ! 私もその"お兄様"とめぐり逢うのに17年も掛かって、
 それまでずっと寂しかったものっ! だから、貴女の事 応援するわ!!」

「何と。 ランス、と言う事は……」

「あぁ、こいつ妹。 一応。」

「ちょっとッ、"一応"って何ですか"一応"って~!?」

「ふむ……不思議と親近感が沸く。 お前達とは仲良くやってゆけそうだ。」

「そ、そうだと良いわね。」


義兄を追いかけるセーラ、義妹から逃げるランス。

ここ2日でよく見る光景であり、そんな様子をカアラは過去の自分と兄を重ねたのか、
若干表情を和らげながら二人の天然漫才を眺めている。

これ以外にも、兄の事を言い出そうとしていた時の表情をも考えると、
とても"剣姫"と呼ばれている殺しの達人とは思えず、リンは無意識に苦笑いしていた。

剣姫が現れて少しビクついていたフロリーナとレベッカも、かなり安心した様子である。


≪だだだだだだだだっ!!≫


「ランスさぁーーーーんっ!!」

「……む? 誰か来るぞ。」

「おッ? もしかして、あいつ……」

「あれ~、もしかしてマシュー? あんた、何してんの?」


そんな中、唐突に遠方から聞こえて来た呼び掛け。

振り向くとオスティアの密偵"マシュー"がこちらに走ってきていた。

かなり急いでいたようであり、ぜぇぜぇと息を切らしている。


「はぁッ、はぁッ……こんな所に居たんすか、探しましたよ~。 いや、ホントっ。」

「わざわざ来たって事は、何か有ったのか?」

「そりゃもう、大変ですよッ! ラウス領の大軍勢が、
 キアランに向かって進軍して来てるらしいんです!!」

「何ですって!?」

「そ、そんな……!」

「ラウスって~と……戦争の準備してたってアレか? 何でまたキアランなんだ?」

「判んないっす! とにかく、すんませんけどキアランに戻ってください!
 俺は先にエリウッド様達に報告してきますから、詳しくは後程って事でッ!」

「あ!? ちょっと、待ちなさいよマシュー!」

「ほんじゃまた~!」


今現在、ランスとエリウッドのパイプ役とも言えるマシューが伝えに来た情報。

どうやら無関係のキアランをラウスが何故か攻めるようであり、
公女であるリンと、傭兵のフロリーナの表情が驚愕へと変わった。

対してマシューは、それだけ伝えると即 走り去ってしまい、人込みの中にへと消えていった。

……こうして新たな女性、カアラを加えたランス一行であったが。

多くを伝えられないまま、キアランにへと蜻蛉帰りする羽目になってしまうのであった。


「ふむ……"戦"か。 面白い。」

「か、カアラさん……」

「あのっ、空気……読んで……下さい……」


……何時の間にか言う様になったね、フロリーナ。



[2301] ファイアーエムブレム=鬼畜の剣= 本編 その7
Name: Shinji◆9fccc648 ID:37b9b89a
Date: 2008/03/12 19:14
ファイアーエムブレム =鬼畜の剣=

本編 その7 リンディスの憂鬱




「う~ん、戻るのは明日にするかな。」


流れ的にキアランへ直ぐ様 蜻蛉帰りな感じであったが、
ランスの全く深い理由も無い一言で、その日はバトンに留まる事となった。

彼の考えは只"何となく"だが、既に時刻は既に午後の7時を過ぎているし空は暗く、
いまから出発するには非常に中途半端な時間である。

また、馬が疲労しているし、野宿は準備に時間が掛かるしで、
何より新たに加入したカアラの馬を調達するにも手間が掛かる為だ。

キアランの危機に、リンは特に焦っている感が否めない様子だったが、
それらの事が判らない人間では無いので、ランスの提案を大人しく飲むと、
直ぐ様フロリーナと宿を探しに走って行き、其処にはランス・セーラ・レベッカ・カアラが残った。


「セーラ、それ幾ら入ってたんだ?」

「えっと……ざっと見で"にまんごーるど"程……」

「にッ、にまん~!?」

「ここのところ重くなってきたが、捨てる訳にもゆかぬしな。
 いずれも闘技場で得たものだ。 必要とあらば使うと良い。」

「いいのか? そんなアッサリと。」

「うむ。 お前達に付いて行くからには、委ねておくべきだろう。」

「す、凄いですね……一生暮らしていける金額じゃないですかッ。」

「う~ん、生憎 俺様は"こっち"の金の価値ってのはどうもな~。」

「お兄様、"こっち"の価値って?」

「いや、こっちの話だから気にすんな。」

「???? まぁ、いいですけど……私もお兄様の所為で金銭感覚が狂いっぱなしですよ。
 道具屋で杖を10本も一気に買うなんて、普通 やりませんもん。」

「がははは、それは俺様が偉大だから仕方無いのだッ!」

「あはッ。 既に半分壊れてますから、またお願いしますね~?」


カアラの持ち物は、彼女の愛刀の"倭刀(わとう)"と僅かな着替え。

そして大量のゴールドを持っており、彼女の言う通り全て闘技場の"賭け"で得たようだ。

それだけで二百枚前後もの金貨を稼ぐには、何度も何度も"死線"を潜り抜けなくてはいけないのは、
もはや言うまでも無く、彼女の実力有ってこそ出来た"ありえない"事だと言える。
(通貨は金銀銅で価値が別れ、金貨一枚が100Gと言う設定でお願いします)

ランスもランスで鉢合わせた山賊を倒すダケで数万Gを稼いでおり、
もし闘技場を利用するのであれば、ゴールドを稼ぐのには左程 苦労しないだろう。

こんな二人が並んでいると、エレブ大陸の貧しい現実など考えられない雰囲気である。

……さておき、カアラは主に目的地が近ければ歩くが、遠出は護衛&食事付きの馬車で行っていた。

その為 荷物は前途のように少なく、ゴールドは何かと必要な為に取っておいたらしい。

確かにサービス(?)付きの馬車での遠出はそれなりに値は張るのだが、
逆に増える一方だったのは、カアラは必要最低限 以外で消費する発想すら無かったのだろう。


「それじゃ~、カアラの馬でも調達せんとな。 ……馬、乗れるか?」

「問題ない、私はこれでもサカの民だ。」

「なら、大丈夫そうだな~。」

「…………」

「……? セーラさん、どうしたんですかッ?」

「う~ん……リンディス様やフロリーナの前じゃ言い難いんですけど、
 キアラン大丈夫なんでしょうかね~? 結構マズいと思うんですよ。」

「なんでだ、セーラ?」

「ラウスって言ったら、ホントろくでもない領地なんですけど、
 軍事とかには何故か熱心で、全軍だと二千は下らなかった気がするんです。 」

「に、二千……」

「ふむ……流石にそれだけの数となると骨が折れそうだな。」


本日はバトンに留まる事が決まったので、もはや焦っても仕方なく、今は休む時だ。

よって4人で会話する中、ランスがカアラの馬の調達について言い出したところで。

何時の間にかセーラが難しい顔をしており、どうやら"これから"が心配らしい。

リキア同盟の中心であるオスティアに何年か仕えていた彼女は、
殆ど無知であるランスと比べれば、他領の情勢を良く理解しているらしく、
今のキアランでラウスの軍勢に対抗するには厳しいと既に察してしまったのだろう。

確かにリンが聞けば怒り出しそうな事だが、現実を受け入れるのも重要とは言え……


「な~に、心配するな! 俺様が行ってやるんだ、何も問題は無いぞッ?」

「……お兄様……」

「それとも何だ? キアランに戻ってラウスと殺り合ったら、俺様が死ぬってのか?」

「!? そ、そんな事 思ってる訳ないじゃないですかっ!」

「そうだろう? だったら余計な心配はせんで良いんだ、お前らしくも無ぇ。」


≪ぐわしぃっ≫


「あうっ……わ、わかりましたッ。 それじゃ~無かった事にして、用事 済ませちゃいましょうっ!」

「うぉッ? おいこら、引っ張るな~!」


ランスは軽く受け流し、セーラは意外そうな顔をする。

相手の軍は3倍以上の兵力差……彼の実力には何度もに驚愕したモノだが、
"今回の件"ばかりは、こうも"何時ものような義兄"であるとは思わなかったからだ。

以前にも述べたが……彼女にとって今や、ランスは片時も離れたくない存在。

いくら神?から与えられた"世界を救う旅"であろうと、死んでしまっては意味が無く、
少しでも彼が迷いを見せれば思い留まって貰うのも良いとも考えていた。

しかし、ランスは"あちら"で10倍もの戦力差を覆した魔人領戦をも経験している。

故に600前後の対し2000程度であれば、"何とかなるだろう"と言う価値観しかなかった。

よってランスに頭をわしゃわしゃと掻き回されたセーラは、もはや彼の自身を信じるしかなく、
"何時もの彼女"に戻ると、元気にランスの腕を引っ張ってその場から離れてゆく。

そんな兄妹の背中をレベッカとカアラは数秒眺めていたが、
お互い目を合わせてから苦笑すると、すぐさま二人を追っていった。

カアラはあんな性格なのでともかく、今の遣り取りでレベッカもランスを信用する事にしたようだ。




……




…………




≪――――ガッ!! ブゥンッ、フォンッ!!≫


……2時間後、辛うじて町の灯りがともる星空の夜。

海側とは反対側の町外れの林で、二つの"影"が何やら素早い動きをしている。

遠目から見る程度では誰が何をしているのか察しにくいその様子は、
一年前のように剣の相手をしてやっているランスであり、相手は勿論リンだ。


「ほぉ、なかなか避けれるよ~になったじゃねぇか!」

「……っ!」


宿に入ったモノの、やはりキアランが気になってソワソワしていたリン。

何気に言葉にも若干トゲが有ったので、ランスは彼女の気が紛れればと、外へと連れ出したのだ。

この際"邪魔"が入らないように、セーラに"あいつらの相手を頼む"と釘を刺したが、
舌をべ~っと出しながら軽く手を振ってランスとリンを見送った様子が健気とも言えた。


≪ヒュッ! ――――ガコォンッ!!≫


そんな二人の"稽古"には、以前とは大きな違いが有る。

以前はリンの攻撃を防御し、隙が出た時点で初めてランスが反撃していたのだが、
今では彼が(当然手加減しているが)攻撃し、リンが避ける側となっていた。

もはや、回避や防御ばかりしていると"精神的"に疲れるので、攻撃側の方が良いらしい。

対してリンは、ある時はランスの太刀を受ける事もあり"強化"無くとも確実に彼女は成長していた。

たった今も彼の一振りを後退して回避し、追撃してきた太刀はしっかりとした態勢で防御している。

かと言っても……回避と防御で精一杯とも言い、ランスは強く速く 隙が無い。

その為 模造刀に力を込め、リンは何とか反撃に移ろうと試みるのだが……


「そこだぁッ!!」

「えっ!?」


≪がしいいぃぃん……っ!!≫


武器を握り直した僅かな隙を突かれ、模造刀を弾き飛ばされる!

これで5度目の勝負が終了し、ランスは若干だがリンは流石に疲れたようで、静かに膝を付いている。

そろそろ頃合かと言ったところだろうか……これ以上は明日 以降に障ってしまう。


「お~い、大丈夫か?」

「うん……平気。 少し休めば、問題ないわ。」

「そうか。」

「それにしても、やっぱり全然敵わないわね……結構 強くなったと思うんだけど。」

「がははは、そりゃ~俺様は強過ぎるからなッ。 だがカアラとなら、良い勝負するんじゃねぇか?」

「……今の私じゃ、まだあの人にも勝てないと思うけど……ほんと、世界って広いのね。」

「まぁ、手合わせして貰うのも悪く無いと思うぞ。」

「そうね……」


よって流れ的に稽古は終了となったようで、ランスは地面に座るリンを見下ろして会話する。

それが何分か続くとリンの呼吸が戻ったので、彼女は立ち上がって身形を正すが……

何時の間にかランスはリンの至近距離にまで近付いており、彼女を抱き寄せた!


≪――――ぐいっ≫


「それじゃ~、何時もの"アレ"といくかッ。」

「うっ……や、やっぱりするの?」

「嫌なのか~?」

「そ、そう言う訳じゃ無いけど、エッチすれば強……ハッ!?」


当然 セックスの事であり、予想はしていたが困った表情をするリン。

実は再会して稽古をしたのが今回が初めてであり、バトンまでの旅中はしていなかったのだ。

それはさておき……稽古はともかく、キアランが危ない状況だと言うのに、
公女である彼女がセックスなんかしている場合であろうか?

しようがしまいがキアランの状況は変わらないが、気持ちの問題である。

しかしながら、ランスに抱かれる事で自分は更に"強く"なれるので、それも構わないと思った時!

そう考えて抱かれるのを妥協してしまった自分に気付き、リンは急に身を硬くしてしまった。


――――"そんな事が理由"で抱かれてはダメだ。


「どうしたんだ?」

「……やっぱり今回は、ダメ。」

「何でだ? 気持ち良いし強くもなれるし、一石二鳥ではないか。」

「それがダメなのッ。 "強く"なれれば、少しでもキアランの為にはなると思うけど……
 "それだけの為"でエッチなんかしたら、ランスさんに対して悪いわ。」

「なぬ? 別に悪くも何とも無いぞ。」

「それを差し引いても、皆が危ないのに、私が……え、エッチなんかしてちゃダメだと思うの。」

「バレなきゃ余計な気遣いではないかッ。」

「気持ちの問題なのっ!」

「むぅ……」

「…………」


真面目と言うか、強い信念を持っているリン。

簡単に述べれば、今回はキアランが危ないのでセックスをしているどころでは無かったが、
"強く"なれると言う事で、ランスに抱かれても構わないと思った自分が許せなかったらしい。

別に誰も咎めはしないだろうが、それがリンの自分なりの信念と言うワケだ。

ランスにとってはぶっちゃけ関係無いのだが、少々対応が遅れており、
真っ直ぐな瞳で自分を見上げるリンを眺めていたが、状況の変化は直ぐに起きた。

徐々にリンの表情が朱に染まりはじめ、続いて僅かにもぢもぢとし出したのである。


「????」

「で、でも……ランスさんは、納得いかないわよね?」

「まぁ、そうだな。 俺様の辞書には我慢と言う文字は無いしな~。」

「それなら――――」




……




…………




殆どの灯りが消えてゆく中、ランスは同じ場所で仁王立ちしていた。

そんな彼の正面では……リンが跪いて"何か"をしている。

既に暗いので傍目では人が居るのさえ察せ無いが、"とんでもない事"の最中である。


「うぉッ……良いぞ~、そんな感じだ~。」

「んっ……フぅッ、ちゅっ……はむぅっ。」


≪ちゅぼっ、ちゅぼっ、ちゅぼっ、ちゅぼっ……≫


リンは自分が抱かれるのは拒んだが、ランスの事は決して蔑ろにしなかった。

故に彼女は、自らフェラチオすると言い出し、彼のハイパー兵器を咥えているところだった。

今現在は、ゆっくりとペース良く顔を前後に動かし、
切なげな息を漏らしながら、ランスにひたすら快感を与えていた。

そのペースは徐々に上がり、彼女も次第に股間が濡れ初めてもしていたが、
一度決めた事……そちらには一切手は伸ばさず、右手はハイパー兵器の愛撫に使い、
左手はランスの右膝をガッシリ掴み、懸命にフェラチオを続けている。


「……ッ……なんだなんだ、暫くのうちに"こっちの面"も上達したな。」

「ら、らんふはんっ……ひもち、良いの?」

「あぁ、最高だ。」

「……んっ……」


奉仕の途中、咥えながら何度も上目遣いでランスの様子を伺うリン。

対して彼が褒めると嬉しそうに奉仕を再開する様は正直 可愛いく、興奮は更に蓄積されてゆく。

そして、我慢など必要が無い事から、絶頂が訪れると彼はリンの頭を片手で掴む!


「うおっ。 リンッ、出るぞぉ~?」

「……ん"ンッ!?」


≪――――びゅっ! びゅくびゅくっ! びゅるるるっ!!≫


「~~っ。」

「ぐっ!? ゴクッ……ぎょくっ……ごくっ、う"ぅ……ッ……ごくんっ。」


ランスは達すると同時に、リンの小さな口の中に大量の精を放った。

サイズのデカいハイパー兵器を奥近くまで咥え込んでいると言うのに、
皇帝液を放たれるとなればやはり苦しく、リンは最初は苦しそうに呻き瞳を見開く。

だが何とか耐えると、溜まった皇帝液を、喉を大きく鳴らして一度で一気に飲み込み、
それが終わると、全ての射精を我慢していたランスが続いて精を放ち……それも飲み込む。

この繰り返しで全ての皇帝液をリンは全て飲み干してしまい、
ハイパー兵器はズルリと音を立てて、彼女の口から滑り出す様に離れた。


「ふぃ~っ。(何処であろうと中で出すってのは、やっぱ良いもんだな~。)」

「はーっ、はーっ……」


たった2日しかご無沙汰では無いが一旦溜まったモノを出せ、ランスは"一応"満足気に息を漏らした。

一方リンは虚ろな表情で息をつき、その様はまるでお預けを食らっている犬のようだ。

目尻には心なしか涙も溜まっており、彼女の表情は更にランスの欲望をそそった。

今は外なので無理だが、いずれ室内でセックスした時には、
顔にブッかけてみて、その反応を見るのも良いな~等と、考える始末である。


「気持ち良かったぞ~、リン。」

「はぁ、はぁ……そ、そうだった?」

「言った通りだ。」

「じゃあ……ま、満足してくれたのね?」


まだ呼吸が安定せずとも、ランスの様子を気にするリン。

そんな気遣いがあろうとも、彼は今の"奉仕"に非常に満足できていた。

……しかし、フェラチオ"そのもの"には確かに満足したが、ソレとは別に満足していない事がある。


「そんな訳が無いだろうが~ッ!!」

「き、きゃああぁぁっ!?」


≪――――がばぁっ!!≫


「さ~て、"前座"は終わりだ。 セックスするぞ、セックス。」

「ち、ちょっと待ってよ! 満足してくれたんじゃ無いの~!?」

「フェラにはなッ。 だが、あれだけで引き下がると思ったら大間違いだ!」

「ままま待って、待ってよ! お口でなら、またやるから……!」

「無駄無駄ァ! もはや俺様は止まら~ん!」

「でも、私はキアランの……い、嫌ああぁぁ~~っ!!」


つまり"本番"であり、この手の話でランスが我慢すると言う事は、まず無い。

よってリンに襲い掛かり、多少暴れるが無視し、直ぐさま濡れたパンティーを下ろすと、
リンの色気の所為で高度を維持していたハイパー兵器を、後ろから突き入れる!

同時に無理な体勢であった為か、そのまま二人はランスが抱えるような形で地面にゴロリと倒れた。

だが彼は全く気にせず、そのままの体位でガスガスと腰を振り始めた。

そのまま腰の動きは止めず、リンの片足を肩に乗せ、より深く彼女の膣をナナメから突く。


≪ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ!≫


「どうだ~? あんなにヌレヌレだったって事は、欲しかったんだろ?」

「ひうぅうッ! でもダメッ、ダメなのぉ……っ!」


カラダはしっかりと感じてしまっているようだが、心が妥協していないのだろう。

リンはランスの言葉に嫌々と首を振りながら、何とか快感に耐え様としている。

こうなってしまったからには、"イカない"事で罪悪感を募らせないつもりのようだ。

だが……容赦なく打ち付けられるハイパー兵器、同時に菊座にまで伸びる愛撫。

それに何時までも耐え切れるハズが無く、彼女が欲望に飲み込まれるのはそう時間は掛からなかった。




……




…………




≪ぶっちゅ、ぶっちゅ、ぶっちゅ、ぶっちゅ!≫


「……っ……むおぉッ、また出るぞ~ッ!」

「あッ! んあぁあっ! 出してッ、また膣に出してぇぇっ!」

「がははは、そんなにお願いされちゃぁ仕方無いないな! ……っとーーっ!」

「んああああぁぁぁぁ……っ!!」


≪びゅっ! びゅーっ! ……びゅく、びゅるっ……≫


体位は正上位で、両足を抱えたリンの膣に激しくハイパー兵器が出入りする。

もはや結合部は愛液や皇帝液で纏わりつき、以前の尻穴と同じような様となっている。

そんな膣に3回目となる皇帝液が注ぎ込まれ、リンも同時に気をやったところだった。

……ちなみに、以前まではランスは、セーラも同じくほぼ"外出し"だった。

"あちら"でやりたい放題だったのはシィルの避妊魔法の為であり、
意外にランスは無理に孕ませまくる事を望む男では無かったようだ。

膣に出して良いか聞くのも良かったが、ダメな日だったらテンションが下がるし自重していた。

だが……今回で初めて、快楽に埋もれたリン自ら中だしを望まれ、
それダケでなく"大丈夫な日"と言う事で、今は遠慮なく膣に出しまくっているのである。

こうなると、今度からは遠慮なく平気な時は膣に出せるだろうな~とご満悦の様子だ。

しかしセーラに限っては、安全日であるか無いかは彼女側から直ぐ言って来たが、
どちらにしろ"万が一"の事が有ってはとっても困るらしく、中だしはしていなかった。

リンも孕んでしまえば大変な事になりそうだが、もはやそれだけランスを愛してしまったのだろう。

セーラも彼の事は大好きだが、あくまで(義)妹だと言う現実を受け止めており、
彼女の方がずっと長くランスと一緒に行動しているとは言え、
"会えない事"により育(はぐく)んだ愛も、リンの性格も有ってかセーラを勝っていたのだ。


≪ずるぅっ……≫


「ふ~……やっぱ、出すなら中が一番だな~ッ。」

「あ……こぼれて、る……」

「ほれ、リン~。」

「……はむぅっ。」


最後の一滴までリンの膣に皇帝液を出し切ったランスは、
ハイパー兵器を抜くと、ヌメヌメのそれをリンの顔面に近付けた。

それを意識が朦朧としていたにも関わらず、無意識のうちに咥え込むリン。

そのまま綺麗にするべく顔を動かし、その様子を見て満足気に口元を歪めたランスだった。




……




…………




「フロリーナ、空の様子はどう?」

「はい。 風も少ないですし、問題なく飛べそうです。」


……翌日。

一日でキアランの城に到着しなければいけない故に、早起きしたランス。

今はリンを乗せているフロリーナのペガサスを上空に、
彼もセーラを後ろに馬に跨って、出発するところであった。

だが……妙に彼の表情に覇気が無く、それを気にして同じく馬上のカアラとレベッカが近付いてくる。


「どうしたランス? 顔色が優れんぞ。」

「ん~……そうか?」

「どうしたんですか? ランスさん。」


昨日の事が有ったので、最も体調が芳しく無いと予想できるのはリンであったが。

彼女は早くも、気持ちを"キアランを私達が救う"と言う事で清算するように切り替え、
恒例の"強化"も得れたり、何だかんだで気持ち良かったしで、妙にスッキリしていた。

実はランスの方が参っており、昨夜リンを散々犯して戻って来た後に、
嫉妬してしまった相室のセーラも抱く事となり、流石にアレだけ絞られるのはキツかったようだ。

よって今日は一日寝ていたい気分でもあったが、状況が状況なのでそうもゆかず、
疲労を誤魔化すかのように、彼は馬の前足を上げさせると走り出してゆこうとする。


「いや、ど~もせんぞ? それじゃ~出発だあ~っ!」


≪――――ダカパッ!!≫


「お兄様~? リンディス様を可愛がってあげるのも良いですけど、程々にした方が良いですよ~?」

「えぇい、うるさい。」


小悪魔っぽい表情でそう言って来るセーラに対し、"半分はお前の所為だろうがッ"と言う意味を込め、
言い返すランスであったが……リンの若さ不相応の色気に夢中になってしまったのも事実。

今度は多くても4発……いや、3発程度にしておこうかな~等と思いながら、彼は手綱を握っていた。

こうして12時間以上の移動の末……5人はその日のうちにキアランの城に辿り着くに至る。




■ランス:ビーストファイター(闇)
剣A 斧F 槍C 理F 馬A 空E 評S

■リンディス:ロード(風)
剣C→B 弓F 馬D 空F 評C

■フロリーナ:ペガサスナイト(光)
剣F 槍D→C 馬F 空C 評C

■セーラ:シスター(雷)
光F 杖D→C 馬F 空F 評-

■レベッカ:アーチャー(炎)
弓D 馬E 空F 評D

■カアラ:ソードマスター(闇)
剣A 馬C 弓F 空F 評B




■備考■
ビーストファイター:
ランス専用のクラスで鬼畜戦士の意味であり、そもそもランスそのものが強力。
職業特性として、ランスとエッチした女性は一晩で1%だけ強くなります。
思いっきり反則的な能力ですが、ランスは全く意識してないのがポイントです。

S~F:
武器においてはC~Bで一人前、A以上で達人クラスとなります。
E以上で実戦で扱えますが、F以下はまだ実戦で扱うことが出来ません。

馬:
いわゆる馬術の上手さ、C以上であれば乗馬での戦闘が可能、Eあれば乗れます。
F以下は同乗はできますが、自分では操る事ができずに落馬する危険あり。

空:
PナイトやDナイトに乗る為のスキルで、C以上ならば空中での戦闘が可能。
F以上で同乗可能ですがスキル無しで乗ると、下手したら落ちて死にます。
一応E以上で専門職以外でも操れますが、馬や竜に懐かれてなければなりません。

評:
超大まかな強さのランクです。 当然、同じランクでも強さの大きな差はあります。
一対一で戦ってランクが低い相手に負ける事はほぼ有り得無いという参考程度に。

他:
例えばカアラのように馬がCで剣がAの場合、馬上での戦闘の実力はC迄しか発揮できません。
また熟練度は熟練度でしかないので、剣Cの相手に剣Aの人間が負ける事は十分考えられます。
余談ですが、カアラの弓Fは一応サカの民と言うことで、Fのまま放置するつもりです。



[2301] ファイアーエムブレム=鬼畜の剣= 本編 その11
Name: Shinji◆9fccc648 ID:37b9b89a
Date: 2008/08/14 21:40
その8~10は、xxx掲示板休止時に本家にて掲載させて頂きました。
これから読まれ7から此方に飛んだ方は、お手数ですが其方を先に御覧下さい。
ファイアーエムブレム =鬼畜の剣=




本編 その11




リキアの中央に位置する、ラウス侯爵領。

此処は強欲な領主、"ダーレン"によって治められている。

フェレで村長(レベッカの父)から聞いた、強引な戦の準備……

エリウッドの父、エルバートの失踪……

ラウス侯が絡んでいると思われる、サンタルス侯・ヘルマンの死……

それら全てにダーレンが関わっているとすれば、もはや"強欲"などでは済まされない。

エリウッドには勿論、リキア同盟全ての敵として、彼を倒す必要がある。

……しかし、トップのオスティアは大きな"動き"を見せる事は叶わず、
エリウッド達は限られた戦力でラウスと戦い、ダーレンと接触し、真実を知らなければならない。

それは、ラウスの戦力を考えれば無理な話だと思われたが……


「…………」


≪ヒュウウウゥゥゥ……≫


ちょうど、キアランがラウスの"2000"もの軍勢と接触する同日の早朝。

エリウッド達は間も無く、ラウスの城に接触しようとしていた!

キアランの危機を知ってから、彼御一行は大至急ラウスへと向かっていたのだ。

確実とはまず言え無いが、臆病なダーレンを考えれば戦場には出て来ない可能性もあり、
キアランを狙うが為、手薄になったラウスの城を押さえようとしているのである。

例えダーレンがおらずとも、彼の息子の"エリック"は必ず居るだろう。

……故に、今 手薄なラウスの城を落とす事が出来れば、"真実"へと大きく近付く。

また、大きな"賭け"でもあり、エリウッドは若干 緊張気味な様子で静かな城を眺めていた。


「エリウッド。」

「……ヘクトル、どうしたんだ? まだ"出る"時間じゃないだろう。」

「そ~なんだけどな、黙りっぱなしってもの嫌な雰囲気だと思ってよ。」

「…………」

「……キアラン事、やっぱ気になるか?」

「当たり前さ。」

「ま、そりゃそうだろうな……今のキアランの戦力じゃ、半日も持たねぇだろうぜ。」

「……っ……やはり、僕達もキアランを助けにゆくべきだったのだろうか?」

「お前がどうしてもって言うなら、それでも良かったんだぜ?
 でもよ、お前は思ったんだろ? ランス殿なら何とかしてくれる……ってよ。」

「……!」

「気の毒な話だが、俺の答えは最初から"やめとけ"だ。
 だがお前は、そう簡単に"割り切れる"奴じゃねぇ"筈"だった。
 それなのに俺の提案(ラウス行き)に同意したって事は、やっぱり……」

「……あぁ、ランスさんになら、ラウスを食い止めてくれると思ったからだよ。」

「評価したもんだよな全く……それって俺ら全員より、
 ランス殿 一人の方が強いって言ってるようなもんじゃね~か。」

「ははっ、それは大袈裟なんじゃないかい? でも僕はまだ、
 ランスさんの"本気"さえ見た事がないし、あながち間違ってもないかもね。」

「……ったく、マシューの奴もかなり評価してたようだし、ホントに何とかしちまうかもな。」

「無事であって欲しいよ……キアランにも、ランスさん達にもね。」


エリウッドの感情は"緊張"だけでなく、真実を求める気持ちと、
知る事への恐怖をもが激しく入り乱れていた。

こんな様子では直後の戦いに支障があるかもしれないと思ったヘクトルは、
彼の背中に語り掛けるが、あまり気の聞いた事は言えなかった。

だが頼りになる"ランス"の事を聞いて若干 緊張は取れたようで、彼の表情は柔らいだ。


「エリウッド様! ヘクトル様!」

「そろそろ、見張りの交代の時間だと思われますッ。」

「マーカス、ロウエン。」

「時間みてぇだな、出るとするか。」


そんな中、後方で待機していたマーカスとロウエンが"時間"を告げる。

これからラウスの城への侵入を開始するようであり、面々は得物を手にする。

……余談だが、ラウス領のような"危ない"領地には、オスティアは少なからず"監視"をしている。

ダーレンの陰謀を知るにまでは至っていなかったようだが、
城内の構造や隠し通路は勿論、見張りの交代の時間などは予め解っているのである。


「……仕事だな。」

「城に突撃か! うおおぉぉッ、燃えてきたぞぉぉーーっ!!」


エリウッドらフェレ3人組と共に城に侵入する面子として、まずはドルカスとバアトル。

互いに斧を扱う大男で、頼りになる二人だが、性格は正反対で温度差が激しい。


「へへっ。 まぁ、こう言う作戦も悪くねぇな。」

「ヘクトル様、戦いは楽しむものではありませんぞ。」


親友のヘクトルと、彼のお目付け役のオズイン。

互いに重騎士でそれなりの巨漢であり、並の兵士では10人がかりでも圧倒されるだろう。


「くそっ、マシューの奴……これで"貸し"ふたつだからなッ。」


サンタルス領で加入した、クトラ族 出身の剣士"ギィ"。

彼は行き倒れていたところをマシューに助けられたのだが、
その為に"貸し"を4つ(肉4枚分)も作ってしまい、一つ目は敵からの寝返り。

そして二つ目は、今回の"進入"に付き合わされているというワケだ。

まだ少年だが、わざわざマシューが寝返らせた程なので、腕は確かなようである。


「エルク、宜しく頼むよ。」

「はい、お任せください。」


そして新たに加入した"エルク"。

エルクはご存知の通り、一年前"ランス傭兵団"にセーラと共に加入"させられた"一人だ。

……とは言え、キアランまでの旅は結局 満更でも無かったようで、
再び修行としてエトルリアの貴族の令嬢である少女の護衛をしていた時、
偶然エリウッド達と再会し、彼からランスの事を耳に挟むと、自ら進んで彼との同行を求めた。

どうやら先日、護衛していた少女がダーレンの目に留まったらしく、
城に招待しようとやってくる使者に、足止めを食らって途方に暮れていたらしい。

そんな時に現れたのが宿を求めて街に現れたエリウッド達であり、
フェレの名を出せば、ラウスの使者も諦めると思ったのだろう。

それなのに、ラウスの城に侵入する事となってしまったが、
前途の理由によりラウスは嫌いだし、修行にもなるしで、彼は"やる気"だ。


「プリシラも無理しないようにね。」

「……はい。」


同じく"プリシラ"。 エトルリア王国、カルレオン伯爵家の令嬢。

エルクが師匠から護衛を任されているのがこのプリシラであり、
栗色のショートヘアの美少女で、まさに貴族といった清楚な雰囲気が感じられる。

"戦い"ではどうかと考えれば、ちょっと頼り無げな気もするが、杖を使えるらしく、
杖を使えたセーラが居ない事を考えれば非常に有り難い存在だ。

様は守ってあげれば良く、狭い城内を考えれば、左程 難しくはないだろう。


「……ッ!!」


≪――――チャキッ!!≫


マーカス・ロウエン・ドルカス・バアトル・ヘクトル・オズイン・ギィ・エルク・プリシラ。

以上 総勢9名の人間の前で、エリウッドは無言で右手に持つ剣を城の方向にへと向けた。

それに対して全員が頷くと、一行は静かにラウスの城にへと接近してゆくのだった。


――――たった10人でのラウス領 攻略が、始まる。




……




…………




……数時間後、キアラン領内。

侵攻を開始したラウスの2000名の軍勢は、キアランの城を目指して東にへと進んでいる。

直ぐ北には険しい山が連なっている為か、キアランの本城は丘の上に存在する。

また、このまま進めば崖にぶつかってしまうので、やや右に迂回する遠回りの行軍となっている。

しかも遠回りのには森が存在し、それを抜けなければならなかったりと面倒だが、
抜けさえしてしまえば途中には"村"などがあるし、補給は容易に可能。

同時にキアランの城を攻める準備が整い、それからがラウス軍の"本番"となるのだ。


「がははははは、どうだ~フロリーナちゃん?」

「あっ、やっ……ぅっ、くぅっ……」


≪ずっ、ずっ、ずっ、ずっ……≫


さておき、ラウス軍が行軍しているやや東北の山の森林の中。

何故か"そんな場所"で、ランスはフロリーナをバックから突いていた。

大木に両手を添えさせ、(上着の上下は繋がっているので違うのだが)スカートを捲り、
ショーツを少しズりおろすのみで、ランスもズボンからハイパー兵器を出す姿でのセックス。

リンを相手にする時程 激しくはしておらず、ゆったりとしたペースだが、
まだ"2回目"である為か、程良い締め付けにランスは十分気持ち良いらしく、
フロリーナもちょうど良いのか、突かれる度に小さな甘い声を響かせていた。


「(ぐふふふ、リンのお陰で簡単にフロリーナちゃんを抱けるようになったなッ。)」

「……っ……あ、あのっ……ら、ランスさんっ……」

「ん? どうした~?」←腰の動きは止まっていない

「はやくっ、偵察……しないとッ……ら、ラウス、軍がっ……!」


両手でフロリーナのお尻を固定し、幸せ気分でセックスを楽しんでいる彼に対し、
彼女は流石に"今の状況"はマズいと感じ始めたか、涙目で指摘してくる。

そんなフロリーナの結合部は、既に一発膣で出されているのか、ドロドロである。

……さておき、当然 今の二人は"こんな事"をしている場合では無い。

二人にはラウスの軍勢を"偵察"すると言う役目があり、その途中だったのだ。

本来はフロリーナ一人で見てくるハズだったのだが、ランスが付き添うと言い出す。

それに若干 嫉妬心を感じるリンだったが、彼女は指揮の為に持ち場を離れられないし、
ランスは"別働隊"の隊長なので手間が省けるし、何よりフロリーナが妙に嬉しそうだったのである。

しかしながら……その"偵察"はランスの性欲によってムダに時間が掛かってしまう。


「そういや~そうだったな。 だったら、そろそろ終わらせるか!」

「ゃあっ!?」


≪――――ぐぃっ≫


以前のようにフロリーナの後ろに跨り、飛び立ったまでは良いが、
彼女と密着して暫く経つと、昨日の事も有ってか妙に興奮してしまったのだ!

よってハイパー兵器が反応し、それに気付いたフロリーナがかなり慌ててしまったので、
一旦着陸して妙な雰囲気になってから数十秒後……ランスは彼女に襲い掛かったのである。

対してフロリーナはそんなに抵抗しなかったとは言え、ようやく指摘し今に至る。

そんな今現在の状況は、そろそろ二発目を出すべくランスが動き始めたトコロだった。

フロリーナの左足を右肩に抱え、ガンガンと腰を振り、肉と肉がぶつかり合う音が響く。


≪ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ!≫


「うおお~っ、こりゃたまたんッ! 出る、出るぞぉ~?」

「あっ、あッ、あぁっ! あぁああぁぁぁぁ……っ!!」


≪――――どくっ!! ドクんっ……どくっ、びゅーっ……≫


「あ、あへあへっ……中だし最高~……」

「……っ……お、終わったみたい……です、ね……」


そして、互いに絶頂を向かえ、更なる皇帝液がフロリーナの小さい膣に注ぎ込まれる。

小さい為か早くも溢れ、昨日犯りまくった翌日と言うのに、相変わらず物凄い量を出す男である。

……ちなみに、彼も当然 今のキアランの状況は理解しているので、
本来なら一発で済ませる予定だったのだが、その場のノリで二発目もしてしまったランスであった。


「うむ、スッキリだ。 これで、心置きなく戦えるぞ?」

「それじゃあ……い、行きましょう……」

「う、うむ。」

「……(確かに、今ので少し……体が"引き締まった"気がする……)」


そんなセックスが終わると、数十秒の呼吸後……フロリーナは直ぐに立ち上がった。

同時にハンカチで皇帝液を拭くと、槍を手に若干のフラつきの後、
しっかりとした足取りで、待たせているヒューイ(ペガサス)の方向へと歩いていった。

……天馬騎士フロリーナ。 任務の途中で付き添いの人間に犯される……と言う、
とんでもない災難にあったが、彼女のリンを想う気持ちは誰よりも高いのは紛れも無い事実。

それはキアランを守る事にも結び付き、この切り替えの早さは"リン"を想っての事だった。

対して、本来であれば射精の余興の後に今の犯行のフォローを考える必要が有る筈のランスだったが……

意外にもフロリーナは直ぐ様立ち上がったので、考える必要は無く、意外そうな顔をする。

だが、その理由を深く考える事さえ無く、"まぁいいか"とフロリーナの後を追って行った。

実はフロリーナ……素直にランスに抱かれたのは"強化"を彼が考えてくれたと考え、
それが直ぐ立ち上がった事にも若干繋がっていたのだが、ランスは性欲のみで彼女を襲っていた。




……




…………




……20分後。


「フロリーナちゃん、しっかりやれよ~?」

「は、はいっ。 ランスさんも、お気をつけて……」


≪――――ばささぁっ!!≫


ランスとフロリーナがセックスしていた山の森林の更に東。

其処には約200名ものキアランの兵達が潜んでおり、ランスが戻るのを待っていた。

主にレイヴァンが纏める傭兵部隊が中心であり、彼は当然セーラ・レベッカ・カアラの姿もある。

では、"何故こんな場所"に200名もの傭兵団が居るのかと言うと……

一昨日の作戦会議でのランスの提案により、側面からラウス軍を奇襲する事となったからだ!

本来ならば正面から防衛するところなのだが、それは"こちら"での野戦での常識。

となれば王としてのランスの経験がモノを言い、それがキアランの者達を驚愕させたのだった。

その作戦内容としては、偵察の状況に大きく左右されるので、
たった今 本陣に戻っていったフロリーナに降ろされたランスにレイヴァンが近付いてくる。


「ランス殿……首尾はどうだったんだ?」

「おう、有り難く聞いて喜べ。 奴らは軍を真っ二つに分けてるぜ。」

「!? となれば……」

「うむ。 先ずは1000の敵軍の先陣をリン達に抑えさせて、その軍の敵将を俺達の部隊で殺す。」

「そして、総崩れした敵を殲滅しつつ合流し、援軍迄もう片方のラウス軍を抑える……か。」

「やっぱラウスはキアランを舐めてたみてぇだな。 1000で城を落とせると思ってやがる。」

「……見くびられたものだな。」

「ま~、どっちにしろやる事は同じだけどな。」

「そうだな。 では敵軍の構成を――――」


2000の軍を二つに分けていたという、おおまかな編成からはじまり。

ペガサスに乗り遠目から見た、覚えている限りの兵種やその位置等もレイヴァンに説明するランス。

今頃は、リン達 本軍と合流したフロリーナも、似たような事をしているだろう。

……ちなみに、もし2000もの軍が纏めて攻めて来ていたならば、
それなりに本陣に被害が及ぶ事となる戦いになっていたので、レイヴァンは一安心する。

具体的には、2000の軍勢を本陣500~600の兵で出来る限り抑え、
被害寛大が近付いたあたりで背面からランス達が奇襲し、本陣は北東の森に後退しランス達は西に撤退。

その後、本陣はサンタルス領の援軍と合流・ランス達はオスティア領の援軍と合流し、
左右からラウス軍を挟んで一気に殲滅するという手筈だった。

合流後は此方の方が安泰だろうが、初っ端のリスクが高いので、
1000の軍を2回相手にする方が、どちらかと言うと安心できる戦いと言う訳だ。

さておき、面倒臭い説明が終わると、レイヴァンはルセア従えて指示するべく去ってゆき、
入れ替わりで様子を見ていたセーラとカアラが近付いてくる。


「終わったんですかぁ? お兄様。」

「あぁ、慣れない事はするもんじゃないぜ。」

「そうか? それにしては"この状況"の指揮に慣れていたような様子であったが。」

「そう言えば"一年前"から思ってましたけど、結構 慣れてた感じでしたよね~?」

「そりゃ~、俺様だからな。 普通だ普通ッ。」

「ふむ。」

「とにかく、そろそろおっぱじまるぜ? 覚悟しとけよ。」

「お兄様ぁ、絶対に無茶しないでくださいね~?」

「がははははは、そんな心配などするだけ無駄と言うヤツだッ。」

「…………」

「おっ? カアラ、どうした?」

「ン。 私は"戦場"と言うのは始めてでな、少々"緊張と言うもの"をしているかもしれん。」


レベッカも"この場"に居るのだが、ランスの側に居るのが やや恥かしいようだ。

ご存知の通り、彼女は昨日ランスにキスされた事が気になっているのだが、
今回ばかりは"死"の危険性が有るので無理強いをしなかったリンやランスであったが、
非参加は勿論、若干 安全な本陣を希望せず"こちら"を選んだあたり、満更でも無いのかもしれない。

また、セーラは当然カアラも参加しているのだが……実は"戦争"の経験は無いと言うカアラ。

それをたった今知ったランスだったが、今更気付いたモノは仕方無いので頑張って貰うしかない。

しかしながら、一対一では最強であっても大多数が相手であれば戦い勝手など全く違う故に、
何かアドバイスが必要だろう……そう顎に手を添えながら考えると、ランスは口を開く。


「そうだな~、とにかく今回は相手に"掴まれない様"しろ。」

「何故だ?」

「俺様の見た限り、カアラはとんでもなく"速い"がリンよりは非力だからな。
 速くて叶わんと判ったら相手は"動きそのもの"を止めにくるだろ。
 その時 大勢に掛かられても同じような捌き方をしてると、あっという間に掴まる筈だ。」

「……ならば、どう立ち回れば良い?」

「下がれ、無理なら逃げろ。」

「承知した。」

「……(えぇ~っ、なにこの意思疎通ッ?)」


勘の鋭いカアラから見て、ランスはかなりの戦場を歩んでいる様子。

その為"何となく思い浮かんだ"でしかない彼のアドバイスを、カアラは普通に受け止めた。

"下がれ、無理なら逃げろ"と言うのはかなりシンプルだが、彼女にとってはその方が判り易かった。

一方、適当に見えるランスのアドバイスで納得しているカアラを見て、セーラはポカンとしていた。

……そんな中、傭兵団が集まる方から声が聞こえてきたので、3人は反応した。


「ふむ、武器の配給のようだ。」

「俺様のは有るからな、貰って来い。」

「判った、行ってこよう。」

「さ~て。 そろそろラウスの先陣が通り過ぎるってところか?」

「そうですね~。」

「ぐふふふふ……これが終わったら、俺様の事を惚れ直したカアラとセックスだ。
 おっと、レベッカちゃんも忘れちゃならんから、その後は……」

「もうッ、お兄様ったら そればっかりなんですからッ!」




……




…………




……1時間後。

キアランの城を目指すラウス軍に、早くも"誤算"が生じる。

てっきり篭城と思われたキアラン軍が、森の手前の平地で迎え撃って来たからだ!


≪ドドドドドドドドッ……!!≫


「うおおおおぉぉぉぉーーーーっ!!!!」

「がああああぁぁぁぁーーーーっ!!!!」


誤算が生じたものの、結局はキアランとの決戦が数時間 早まっただけだ。

よって先陣1000名を纏めるラウス侯の近衛隊長・バウカー(アーマーナイト)は、
直ぐ様500名もの騎兵を突撃させ、キアラン側は100名のウィルが指揮する弓兵隊が迎撃。

そして50名ほど数を減らした騎馬隊にヨーギ纏める100名前後の槍重装兵が接触。

それにより速度が衰えるモノの、突破してきた300~250程の騎兵に、
セイン指揮する200騎もの騎馬隊が迎え撃ち、激しい戦いを繰り広げている。

そして、開戦から30分……今のところリンが居る本陣まで、敵兵は辿り着けていない様子だ。


「ケント、状況はどうなっているの?」

「戦況は優勢です。 ヨーギ隊長が旨い具合で後退しており、弓隊に射撃の機会を与えています。」

「敵・味方の被害は?」

「訓練度で優位なだけでなく士気の差もあり、今のところ200前後、後者が50前後かと。
 弓隊の被害はありません。 ですが前言の通り被害を抑える為に徐々に後退している模様です。」

「……"本気"で来てくれなくて良かったわね。」

「全くです。 それで同じ戦いをしていたら、一気に潰されているところですね。
 勿論……全軍で向かってくれば、それ相応の迎撃をしますが。」

「うん。 でも、どっちにしても……"この戦い"はランスさん達だけが頼りね。」

「はい。」

「――――伝令ッ、後続300の歩兵が進軍中との事ですッ!」

「!? 来たわねッ!」

「バウカー将軍の動きはどうだ?」

「歩兵隊より遅れて、徐々に接近中です! 接触するのには5分の時差があると思われますッ!」


心の中では助けに行きたいが、あくまで冷静に戦況を見ているリンとケント。(+フロリーナ)

そんな3人の元に伝令兵が駆け寄り、報告を受けると、リンはフロリーナの方を向く。

対して、彼女もリンが何を言いたいのか判っていたのか、既にヒューイに跨っている。


「今しか無いわ! フロリーナッ、レイヴァンの部隊に"合図"をお願い!」

「は、はいっ!」

「ケント、私達も出るわよ!?」

「ははっ! ゆくぞッ、皆の者ーー!!」


≪うおおおおぉぉぉぉーーーーっ!!!!≫




……




…………




ランス達が潜んでいた山の中には、北側から険しい獣道を下ってやってきたので、
当然 此処までやってくるのは物資等の関係で困難であった。

……だが、例え敗走したとしても退路が有ると言う事である。

また知る人ぞ少ないので、ラウスの軍勢はまさか其処に兵を潜ませているとは考えなかったのだ。

逆に知ってさえいれば、其方にも数百の軍を進ませて挟撃してしまえば良いのだから。


「うわああぁぁ~~ーーっ!!!!」

「こ、こいつら何処から……ッ!?」


「――――何事だ!?」

「バウカー将軍、伏兵ですッ! 数は約200! もう、すぐ其処まで……!」

「何と言う事だッ、迎撃しろ!」

「只今交戦中ですが、精鋭揃いのようです! ま、全く止まりませんッ!」


合図を受けると、進軍中のバウカーの部隊を襲ったランス達。
(非戦闘員は既に物資を抱えて獣道を戻っている)

敵は主に重装兵での編成であり、進軍が遅かったのも その為でもある。

対するは軽い装備の傭兵団なので、本来ならば不利の筈なのだが……

殆どの傭兵達は"アーマーキラー"を持っており、容易く重装兵達の装甲を貫いている。

……これはランスの上空での偵察により配給された装備であり、
本隊の編成を見て、予め用意しておいた"最も戦い易い武器"を傭兵達に配ったのだ!

故に奇襲も有ってバタバタと重装兵達は倒されてゆき、ラウス側は士気の低下が著しい。

いや……"士気そのもの"は元々低く、何よりリキア領内同士での戦いこそ無謀と言うモノ。

例えキアランを落としたとしても、ラウスの勝手な行いをリキア同盟は許しはしないだろう。

では何故バウカー達が従って動いているのか? それは主君に忠誠を誓った騎士だからである。

例えると少し違うかもしれないが、ランスが即位した時、
エクス意外が皆従ったのも、似たような理由で彼が忠誠を誓うべき"王"だったからだ。


「がはははははっ!! どけどけ~ぇい!!」


≪――――ズドドドォッ!!!!≫


さてさて、真っ先に突撃したのは唯一の騎兵であるランスであり、
先ずは槍を片手に、矛先を一人の歩兵に引っ掛け、
そのままぶっ飛ばして後方の敵兵を巻き込みまくるような戦い方をしていた。

それは敵数が同じ事も有ってかなりの効果があり、遅れて斬り掛かる味方が非常に戦い易い状況だ。

そんな中でカアラは重装兵の胸や喉をアーマーキラーで的確に貫いて倒し、
女と言う事で複数で来た場合に限ってはアドバイスを思い出して一歩引く事は忘れない。

そして、(表向きだけ)部隊長故に突出できないレイヴァン及びルセア含む10数名を前に、
レベッカは射撃して味方を援護し、セーラは何本も用意した"リブローの杖"振りまくって味方を癒す。

その杖はランス一行の財布から出ているが、"アーマーキラー"等物資の用意には、
膨大な資金が必要だったが、勝利して戦利品の敵軍の武器を売るなりして資金を回収すれば良いのだ。

流石に全ては回収しきれないだろうが、これは真っ当な領地であるキアランの賜物だ。

ラウス領であれば、軍の維持は出来ようが、即席の資金による物資の調達など到底ままならない。

これならばもはや勝負は見えているのだが、ランスは止まらずに敵将・バウガーを目指して前進する。

士気が更に下がったラウス軍は、例え近衛軍であろうと、彼を止める事などできやしなかった。


「てめぇがボスだな!? 死ねえぇいッ!!」

「う、うおぉぉっ!?」


≪ガシャアアァァーーーーンッ!!!!≫


「そんな!? バウカー様がッ!」

「こいつ……ば、バケモノだぁ~っ!!」


ランスは突撃する中、敵隊長と思われる人間を発見するや否や、
ぐるんっ……と槍を頭上で回転させると、一気に距離を詰めて槍を薙ぎ払い、
他の敵兵にしたのと同じように、バウカーを十数メートルぶっ飛ばしてしまった!

それにより彼は仰向けに倒され、周囲のラウス兵達は呆気無くバウカーが倒された様に驚愕する。

"手槍"の扱いにかけてはラウスでも随一の彼が、アッサリと謎の騎士に倒されてしまったのだから。

そんなこんなで、既に200の兵達は半分が傭兵団に倒されてしまっているが……


『(お前の活躍で、無駄な血が流れない……)』


≪――――ブゥンッ!!≫


「んなぁ!?」


≪ずゥしゅぅっ!!≫


『(それでは、駄目なのだよ……)』


なんと、突然 ランスの方へと"手槍"が放たれ、彼が乗る馬の胸に突き刺さった!

それにより馬はどうと倒れ、ランスは馬から転げ落ちるように着地した。

そう……今の"手槍"は、倒されて気絶or死んでいたハズの"バウカー"が放ったものだったのだ。


≪ガチャッ……≫


『…………』

「ちっ、この野郎……!」


ダメージは無いので、ランスは直ぐに立ち上がり、奮発して買った"銀の剣"を抜いた。

そして、同じく手槍を馬から引き抜いて手元におさめ、
立ち上がった"バウカー"を睨みつけるのだが、ランスは彼を妙に感じる。

先程 軽くぶっ飛ばした人間とは同一人物と思えず、只ならぬ"殺気"を感じたのだ。


『……ふふっ……』

「……ッ!?」


≪――――ぞくっ≫


二人の"一騎打ち"を見守る周囲の兵達など、敵味方問わず今のランスの眼中には無い。

いや……むしろ無表情ではあるが静かに笑ったバウカーから、
"目を離したら殺られる"と言う危機感を感じ、迂闊に動く事が出来ないと言う方が正しいかもしれない。

それは"寒気"。 彼がエレブ大陸にやってきて初めて感じた感情であった。


『…………』

「(な、なんだ……こいつ……)」


……また、ランスは気付かなかった。

バウカーが自分によって倒された直後、彼に入り込んだ"光"の存在に。

同時にその"存在"のお陰で、彼は人を超越した精神と肉体を持つ生物へと変わってしまったのである。


「リンディス様ッ、出過ぎです! 焦らずともランス殿はやってくれましょう!」

「判ってるわ、無茶はしない!(でも、何か嫌な予感がするわ……)」


――――キアランでの接戦は、続いている。



[2301] ファイアーエムブレム=鬼畜の剣= 本編 その12
Name: Shinji◆9fccc648 ID:37b9b89a
Date: 2008/08/16 18:58
ファイアーエムブレム =鬼畜の剣=

本編 その12 ラウス侵攻・後編




「今のキアランの戦力じゃ、半日も持たねぇだろうぜ。」


ヘクトルが早朝エリウッドに言ったその言葉は、確かに間違い無かった。

ラウスとキアランの兵の"質"が全く同じレベルであり、
キアランを舐めずに2000兵を全て押し込んで来るのであれば、
3分の1である700の兵では半日も持たない……つまり、一日で潰されると言う事だ。

だがヘクトルは客観的に兵力だけ見て"その事"を言ったので、正しいワケでも無いのである。


「ほう、あんな場所で迎え撃ってくるとは……」

「如何致します? バウカー様。」

「どちらにせよ作戦の変更は無い。 相手の戦力はたった500だ、一気に押し込め!」

「はっ!」


……で、結局はどうなったのかと言うと"それ以前"の問題であった。

ラウスは前途のようにキアランを舐め、戦後処理の効率化などを優先させ半分の兵のみをブツけてきた。

これは流石に迂闊と言えるが、この後リキア同盟を敵に回す事を考えると、
"勝つ事を前提"とするのは勿論として、増援到着前に潰せるのであれば何の問題も無い。

だが、予想以上に訓練されているキアランの兵・無茶な侵攻で士気が低いラウス全軍……と、
ラウスが不利なポイントを挙げれば多々あり、有利なのは3倍近い兵数のみとも言える。


「ランスさんになら、ラウスを食い止めてくれると思ったからだよ。」


また、エリウッドの根拠の無い期待は的中し、それら以上に大きいのが"ランス"の存在である。

キアランに有利な点が多いにせよ、やはり3倍の兵力を退けるというのは至難の業。

彼なくして先程のように、バウカー将軍をアッサリと倒す事などできやしなかった。

そもそも、彼が"伏兵"の案を出していなければ、本陣は500名ではなく700名になっていたので、
バウカーが"勝利のみ"を優先させ、後続と合流する事を選ぶ事も有り得たのである。


「そんな!? バウカー様がッ!」

「こいつ……ば、バケモノだぁ~っ!!」


……さておき、ランスの活躍で先陣部隊が混乱すると、キアラン本陣は傭兵隊と合流しつつ殲滅。

これでたった100以下の被害でラウス1000名の兵が敗走する事となる。

コストが高く術者も消耗するが、セーラが杖の一振りで一人の兵の浅い傷を癒してしまうのも大きく、
600の戦力を残してラウスの本陣を叩きに行けると言う途轍もない戦果だ。

そしてこの後、先陣が逃げて来た事により慌て、隊列が乱れるラウス軍に、ランスを先頭に、
キアランの騎馬隊が突撃し、傭兵隊・重装歩兵隊・遅れてリン達が詰める事でラウス軍はアッサリ壊滅。


――――する筈であった。




……




…………




ランスには、これから"彼"と戦った僅かな間が、とても長く感じられた。

僅かな睨み合いであるにも関わらず、数分とも思える感覚。

対してバウカーがピクリと動いた瞬間に、無造作に繰り出される攻撃……!!


≪ぶぅんっ!!≫


「おわっ!?」


≪……どごっ!!≫


物凄いスピードで手槍を放たれ、ランスが"居た"地面を粉砕する。

対して彼は後ろに飛んで回避していたのだが、バウカーはその瞬間 既に手槍を引き抜いている。

同時に一気に距離を詰め、手槍が戻ってくる勢いに全く押されず、
両手で構えた手槍でランスを強襲してくるバウカー。


≪――――ひゅっ≫


「……うおっ!?」


≪ガキイイィィンッ!!!!≫


「――――がっ!!」


≪どどどどぉ……っ!!≫


てこの原理を無視した予想外の連続攻撃に、避けられず銀の剣を縦に構えて防御するランス。

銀製品の為に強度が高い剣は"何とか"折れなかったモノの、その一撃は強烈だった。

故にランスは10メートル程 吹っ飛ばされ、手前で数人の敵味方を巻き込んでダウンする。


「やったのか……!?」

「さ、流石はバウカー将軍!!」


≪――――どすっ!!≫


かなりの勢いで吹っ飛ばされたので、バウカーの部下達はランスが死んだと思った。

しかし、迂闊な事を叫んだ一人に槍が飛んできて、胴体に突き刺さって絶命する。

投げた者は 案の定ランスであり、今の攻撃で緊張の糸が解けたのか、怒りの形相だ。

彼らしく、恐らくバウカーに対して感じた危機感に、彼に対する"怒り"が勝ったのだろう。


「この野郎……さっきは手加減してやったのに良い気になりやがって!!」

『…………』


≪ばっ!!≫


「死ねーーっ!!」

『…………』


≪がきいいぃぃぃぃんっ!!!!≫


今度はランスが地面を蹴り、激しくバウカーに斬り掛かった!

だが一撃をバウカーは槍を横で構えて難なく受け、反動で一旦下がって着地するランス。

直後 同時に踏み込んで斬り合い・突き合いになり、周囲の者達は唖然と見守るしかなかった。

勿論その間に移動もしているので、手槍を持つバウカーの槍に巻き込まれる兵も続出している。


≪――――ばキンッ!!≫


「ちぃっ!!」

『ふふっ……』

「(まずい、まずいぞ。 何でこんな強いんだ、こいつッ?)」

『……もう終わりか?』


火花を散らしながら攻撃を互いに繰り返す中、戦況はバウカーの優勢。

パワーは同じ位なのだが精確さの違いでランスは傷付き始め、たった今は鎧の右肩を飛ばされた。

それらの傷は額にも及び、流血によりそろそろ右目の視力が危なくなりそうなのを感じた。

対してバウカーは全く疲れた様子ではなく、再び距離を置いたランスを挑発する。

……が、ランス 同様に動きが若干鈍くなっているバウカーだが、
それ以上にダメージを受け、動きが甘くなっているランスは気付いていなかった。


「(やばいなぁ……こんな奴が居やがるとは、死ぬかも……)」

『死ね。』

「!? アホか!! やっぱ死ねるかーーっ!!」

『……ッ?』


フラフラで意識が朦朧としてきたランス。

相手が未だに余裕そうなので、一瞬だけネガティブな考えさえもしてしまう。

だが、当然 死ねと言われて死ぬワケにはゆかず、最後の力を振り絞る!!


「ランスアタアアァァァァーーーーック!!!!」

『……!!』


≪ごき!! めきめき、ぼき……っ!!≫


火事場の何とやらと言う訳か、"こちら"に来て最も高い威力の"ランスアタック"が放たれる。

対してバウカーは再び槍を横に構えて踏み込み防御し、その周囲に"ぶぁっ"と風が吹く。

その直後、バウカーは身体を軋ませながらもランスを上回るパワーで、彼を押し退けてしまう!!


≪――――がしゃっ!!≫


「ぐぁっ!!」

『…………』


≪うおおおおぉぉぉぉっ!!!!≫


「こ、今度こそやったか!?」

「まさか、バウカー様が此処まで強かったなんて!!」


結果、ランスが地面に仰向けに倒され、周囲に喜びと驚愕の歓声が沸き起こる。

前者がラウス兵・後者が傭兵達のモノであり、その中には声は出さずともカアラも含まれていた。

エレブ大陸では上位の剣士とも言える彼女でさえ、二人のタイマンに介入する事ができなかった。

一方、ランスは何とか起き上がろうとしており、それが可能と言えど もはや戦えないだろう。


「(くそっ、ありえん……ま、まさかこの俺が……)」

『…………』

「(なんてこった、負けるならせめて美女相手の方が――――)」

『……っ……(無理か、この辺で良かろう。)』


≪ガシャアアァァン……ッ!!!!≫


『(多くの血も、流れようと言うもの……)』


必殺技を防がれたと言う事で、死を覚悟したランスだったが。

突然、バウカーは魂が抜けたように倒れ、再び大きな歓声が湧き上がった!!

誰も気付く事は無いが、彼はランスとの戦いで"肉体そのもの"が限界を迎えてしまったのだ。

痛みを全く感じていなかろうが、殆どの骨が折れてしまえば、もはや立つ事さえできない。

故に"入り込んだ者"は彼の肉体から離れたモノの、結果としては上場と言った考えであった。

……ちなみに案の定、バウカー"そのもの"の命は、既になくなっている。


「ありゃ……勝った?」

「ランスッ!」

「んっ? カアラか。」

「大丈夫か?」

「まぁ、なんとかな~。 立ってはいられるぞ。」

「それは良かったが……すまない。」

「なにがだ?」

「お前が"あれ程"の相手と戦っていながら、私は動く事さえできなかった……
 やはり大陸は広いものだ……恐怖さえしていた気がする。」

「ん~……まぁ、それで良かったかもな。(頂く前に死なれる訳にもいかんし。)」

「……っ……」

「んな事より、コイツの手下どもは逃げたみたいだな。」

「そのようだ。」

「それじゃ~チンタラやってるレイヴァン達を呼んで来い、リン達と合流だ。」

「わかった!」


実のところ、ランスがバウカーと戦っていた時間は1~2分程度であり、後続はまだ来ていないのだ。

よってランスの指示を受けると、彼女はその場から離れてゆく。

対して走る力も残っていないランスは、その場で佇みながら考え事をしていた。


「(カアラの後姿もセクシーだな……絶対犯そう。)」


――――先程の戦いとは全く関係の無い事をである。




……




…………




「おッ、お兄様! ボロボロじゃ~ないですかっ!」

「ど、どうしたんですか!?」

「ボロボロ言うな。」

「敵将を倒した結果だ。 見ていたが、バウカーと言う男は鬼神のような強さだった。」

「直ぐに治しちゃいますから、待っててくださいねっ!?」

「大丈夫か? それ以上 杖を使ったらお前の体が……」(レイヴァン)


合流した直後、ランスの姿を見てセーラとレベッカが大慌てする。

彼が死ぬとは思っていなかったが、ここまで満身創痍になるとは思っていなかったからだ。

よってセーラは直ぐ様"リライブの杖"を手に取るが、彼女の表情にも疲れが見えていた。


「お兄様の傷と比べたら、ど~って事 無いですよ!」

「いや、まだ歩けるから大丈夫だぞ。 さっさとリン達と残りを挟むぞ。」

「で、でもぉ~……」

「俺様を甘く見るなッ。 それに、お前もフラフラだろうが。」

「うっ……」


……実際、"杖"と言うのは多くの精神力を要する。

離れている者を癒す"リブローの杖"を振っていた時も、只 闇雲にぶんぶん振るのでは無い。

その場から動かず、しっかりと集中し相応のチカラを要する事で初めて効果を発揮する。

既に数十人を癒しているセーラだが、これもランスの"強化"による賜物であった。

彼女が使った精神力は、並みの僧侶であれば既に過労死している程である。

また……"ランス程"の人間の傷を癒すのには更なる精神力を必要とする。

強さや体力の関係で極端な話、普通の人間に必要な精神が"微"であれば、
彼の治療には"大"を必要とし、ランスによって強化されたり、それなりの戦士であれば、
"少"にも"中"にも増え、この状態でセーラがランスを癒すとなれば彼女が倒れかねないのだ。

それに回復の杖は"万能"ではなく、骨折など深い傷の全治は何時間も何日も掛かる時もある。


「だが戦えん。 レイヴァン、ルセア後は任せるぞ。」

「あぁ。 被害はごく僅かだ、後は俺達で何とかなるだろう。」

「はい、お任せください。」

「カアラ・レベッカちゃん、二人も頑張れ。」

「わかった。」

「は、はいっ!」

「(だが、また"あんなの"が出たら俺がやるしかないかなぁ……
 今のリンとかだと死ぬだろうし、援軍が来るまでにはセーラに回復して貰わんと……)」


そんな訳でランスはブツブツと再び考えながら、本隊と合流するべく進む傭兵団の後方を歩いていった。

この30分後ラウスの先陣・1000名は敗走し、キアラン側は600近い兵を残す事となる。

その時ランスと合流したリンも彼の姿に大慌てしたが、逆にラウスに対する怒りが湧く。

しかし後は援軍まで持たせれば良いダケなので、彼女はあくまでキアランの大将として務めた。

一方、ランスとセーラはほぼ戦線を離脱しており、本隊と本隊での戦いの様を遠くで眺めながら話す。


「お兄様~、だから無茶しないでって言ったのに~。」

「無茶などしておらんわ。 只 敵の中に化け物が一匹混ざってただけだ。」

「それが無茶って言うんですけど……」

「うるさい、うるさい。 お前も杖 振り過ぎだろうがッ。
 俺様が無茶して傷付く事を考えるんだったら、それ癒す体力くらいは残しておけ!」

「あうっ。(確かにそうだけど、ラウスに"そんな将軍"が居た事なんて、今までの情報には……)」

「まぁ、倒せはせんでも持たせる事はできるだろ。」


戦う前のセーラはランスが心配であったが、彼らが奇襲する兵は同数の200。

そうなると彼女の心配は全くなくなり、義兄は問題なく活躍してくれると確信していた。

よって杖を振りまくって犠牲を少なくする事に務めたのだが……

予想外のランスの負傷、精神力を大きく使ったセーラ。 即ち……治療は不可能。

一年前からラウスの情報を大まかに理解していた彼女は、まさかバウカーが強いとは思わなかったのだ。

確かにバウカーはダーレンに仕えている者としては非常に優秀だが、それにも限度と言う物がある。


『(これだ……殺せ、血を流せ……)』


それもその筈……バウカーの鬼神のような強さは、何を隠そう"コスモス"の存在の為なのだから。

"彼女"はランスの活躍でキアランの犠牲が少なく済むよりは、更なる犠牲を望んだ。

故にバウカーのカラダに入り込み、ランスを叩いて負傷させ、可能であれば命さえ奪うつもりだった。

これはルドラサウムが望んだ"ゲーム"なのだから、"ゲームオーバー"も十分に有り得るのである。

……だが、ランス相手にバウカーの肉体に負担を掛けすぎた事から、
直前であれ以上 肉体を動かす事ができず、"ステージクリア"となったワケである。

コスモスは入り込んだと同様に光の塊の状態をそのまま、戦いの様子を遥か上空で見下ろしている。


『(さて……次なる頃合はなにときか……)』




……




…………




……2日後。

キアラン領で繰り広げられたラウスとの決戦は、キアラン側の勝利で幕を閉じた。

ラウスの先陣隊・敗走直後には兵を吸収し1200名規模になったと言う事だけでなく、
もはや後が無いと言う事から決死の攻撃があったが、キアランは何とか防衛し持たせる。

結果 オスティアの傭兵隊長・ラス率いる200の騎兵とサンタルス領の援軍500が到着し、
ラウス軍は挟撃され、2日で傷が癒えたランスの介入もあり、メタメタにされたのであった。

一応 バウカーのような強力な将軍を警戒していたランスだったが、その様な敵は居なかった。

さておき、更に数日が経つと、決戦前にラウスの城に向かったマシューが再び現れ、
エリウッド達10名がラウスの城の臨時城主であり、ラウス侯爵の息子である"エリック"を押さえ、
貴重な情報を聞き出したと言うらしく、一行はそれを直接伝えるべく、今こちらに向かっているらしい。


「ラウスは倒した。 これでキアランは大丈夫だろうな。」

「うん。 有難う、ランスさん。」

「あんな"バケモノ"さえ居なきゃあ、もっと楽になったと思うんだけどな~。」

「そうね……勝てたけど、多くの命を失ったわ……」


キアランの公女であるリンは戦いの疲れを癒す暇なく、ここ数日忙しかったが、
戦後処理も大抵済み、後はケント達が何とかしてくれるらしく、ようやく暇ができた。

よってランスと自室にてセックスし、今は互い全裸で何やら話していた。

そこで出た内容とは、勝ったとは言えキアランは傭兵含む700のうち400以上の兵を失ったと言う事。

幸い隊長達は死ななかったが"何故か"強力な将軍であったバウカー相手に、ランスが苦戦して負傷し、
彼が2日戦いに出れなかったダケで、こうも被害が膨らんでしまったのである。

これでもし、ランスが居なかったらどうなっていたのか? リンはそれが悔しくて仕方なかった。


「まぁ、元々圧倒的不利だったしな~。 勝てただけ良いだろ。」

「そうなんだけどッ……ランスさんがあそこまで頑張ってくれたって言うのに、
 私は傷一つ付かずに指示してたダケなんて……腑に落ちないわ……」

「それでも100人は殺ったんだろ? 十分ではないか。」

「何人やっつけたとか、そういう問題でもないのっ!」

「……ったく、やっぱリンは公女に向いてね~な。 戦争の犠牲なんて"当たり前"だ。」

「~~っ……」


ランスの言葉が最も過ぎて、右隣の彼に抱きつく腕に力を込めるリン。

兵に愛着を持ち、素直な性格 故の怒りなのだが、彼女にはランスに矛先を向ける気にもなれなかった。

彼も彼で3つの国と魔人達を相手にして数万の命を勝利の為に犠牲にしているのだが、
性格は勿論"負ければそれ以上の人間が死ぬ"と言う価値観から、数百の兵など何とも思わない。

……だが、リンの気持ち"そのもの"は鬱陶しく思えど理解はできるので、彼女の頭を撫でて嘆く。


「まぁ、俺様の胸くらいは貸してやる。 泣きたきゃ泣け。」

「……っ!?」

「要らんのか?」

「……ら、ランスっ……さん……」

「(まぁ、こいつ。 これでも16だしな~……)」

「みんな……ぅっ……ひっく、うっ……ぅうっ……うぅう~~っ!!」


犠牲者は400名以上。 即ちリンがタラビル山賊団に滅ぼされた人数よりも多い。

また、一年自分に仕えてくれた者達であり、若い彼女が気に病むには十分な人数であった。

だが悲しみの涙はフロリーナにさえ見せ辛く、唯一 曝け出せるのは彼だけであった、

しかしながら、それさえ彼女の性格も有って遠慮していたが、彼の口から言われれば必要は皆無。

故にリンの瞳からボロボロと涙が流れ、彼女は彼の胸に顔を埋めて泣いた。

……だが、ランス本人はリンの頭を撫でながらも、全く空気を読まない事を考えていた。


「(う~む……早く3発目犯りたい……)」




……




…………




キアランの危機は終わったので、もはや此処に留まる理由は無い。

リン・フロリーナ・カアラ……そしてオスティアとの傭兵契約を済ませたラスも、
同行したいと言い出したので、"戦力の増強"は十分となったのだ。(その3ラスト参照)

そうなればエリウッド達との合流を急ぐべきなのだが、
伝達役のマシューは此処で自分達を待っていて欲しいと言う事を告げてきた。

……何故なら、ラウス侯爵・ダーレンの姿は、城主がエリックであった為 居なかったからだ。

それならば捕虜の情報もあり、ダーレンは侵攻してきたラウス軍を纏めていた事は決定的であるのだが、
彼は負けが見えると二人目の将軍・ベルナルドに全てを押し付けて、さっさと逃げ出していたのだ。

よってダーレンはラウス方面には居ない可能性が高く、ランス達が其方(そちら)に向かう必要が無い。

また、マシューは"同僚の密偵"とキアランで落ち合う事にしており、
その密偵……"キアランの危機を伝えていた密偵"が、ダーレンの居場所を知っているかもしれないのだ。


「ふぁ~あ、今日はどうするかな~。」


さておき、更に数日後……ランスは廊下をスタスタとだらしなく歩いていた。

キアランにとって、ほぼ一人でバウカーを討ち取った彼はもはやヒーローであり、
既にコッソリとキアランの女性兵や侍女を何名か頂いてしまっている。

故に機嫌が良いらしく、変わった事と言えばバウカーの存在が影響し、
セーラ・(戦後処理が落ち着いてから)リン・フロリーナをほぼ毎日抱く様になったと言う事だ。

これはランスの助けとなるべく強化するのが大きいが、今後 彼女達が死なない様にする為でもある。

あんな人間が後々何人も出て来てしまえば、ランス一人ではどうにもなら無い。

とは言え……あの後 警戒しつつもラウスにバウカーのレベルの人間は結局彼一人しか居なかったので、
寒気を感じた程の危機感は、結局 勝てたと言う事から衰え、本人はあまり意識していない。


「んぁ?」


そんなこんなで最近は3人娘の相手をしたり、キアランの女を摘み食いする事が多かった彼だったが。

強化が可能……いや、それは二の次で彼がセックスしたい女性はレベッカとカアラが残っている。

エリウッド達は間も無くやって来るだろうし、そろそろ迫ってみるかな~と考えていると……


「ランス。」

「カアラではないか。」

「……っ……」

「???? どうした?」


曲がり角から"カアラ"が現れるのだが、何だか覇気が無い。

ここ数日は普通であり、しっかりとした背筋で歩いていた筈だったのだが……

倭刀を腰にトボトボと歩いており、ランスが妙に思っていると、カアラも彼に気付く。

すると何やら迷いの表情を見せはじめ、妙に思っていると、彼女はランスを見据えて口を開いた。


「少し……話がある。」

「なんだ?(おぉっ? これは、もしや……)」


――――この時ランスが考えた予想は、強(あなが)ち間違いではなかった。




●あとがき●
ランスはバウカー?に勝ちましたが、最初は違うルートを考えていました。
もう展開が決まったので言ってしまいますが、ランスが敗走してキアランが壊滅すると言う展開。
メインキャラの犠牲が無いのは同じでしたがそれで次に食われるキャラ数名が大幅に変わりました。
次はカアラが毒牙に掛かります、多分。 ゆっくり続きを待っていってね!!!



[2301] ファイアーエムブレム=鬼畜の剣= 本編 その13
Name: Shinji◆9fccc648 ID:37b9b89a
Date: 2008/08/19 10:42
ファイアーエムブレム =鬼畜の剣=

本編 その13 剣の一族




内容はイマイチ理解できないが、カアラは"大事な話"をしたいようだ。

覇気の無いカアラであったが、たった今 自分に向けている真っ直ぐな視線がそれを物語っている。

故にそれを察しながらも、ランスは一応確認する事にしてみた。


「此処で話せる事か?」

「いや……できれば、場所を選びたい。」

「そうか。 それじゃ~俺様に付いて来い。」

「ん。」


……すると、彼女はやはり"場所を変えて欲しい"ような事を返答する。

よってランスはくるりと向きを変えると歩き出し、カアラも素直に彼の後に続いた。

その間は二人とも無言だったが……当然、ランスは彼女を抱く事ばかりを考えていたりする。




……




…………




≪――――カチャッ≫


……2~3分後。

ランスはキアランの城の長い廊下を歩き、"とある部屋"に辿り着くと、そのまま入室した。

此処で"客"として持て成されるにあたって、ランスが与えられた部屋と同じような造りの部屋だ。

当然、ランスが与えられた部屋では無いので相室であるセーラもおらず、室内は真っ暗である。


「暗いな。」

「そりゃ~カーテン掛かってるからな……っと。」


≪シャーーーーッ≫


入室し前に進むと、ランスは入り口の光を頼りにカーテンを開いた。

すると室内に光が宿り、彼は室内を見渡すと"うむっ"と一声漏らした。

何故なら、室内はメイドによって清掃されており、ベットメイキングも終わっていたからだ。

……では、ランスが"この部屋"にカアラを連れて来たのは何故なのか?

率直に述べてしまえば、カアラとエッチする状況を作る為なのであるが、更に詳しく述べると。

"この部屋"は、ここ数日ランスがセックスする為だけに使っていた部屋であり、
セーラは自室・リンは彼女の寝室で抱くので別として、フロリーナや侍女・メイド等は、
皆"この部屋"に連れ込んでエッチしており、"もう一つのランスの客室"と言っても良かったのだ!

部屋の片付けも、初っ端に頂いたメイドに任せているので、もはや"やりたい放題"である。


「良い部屋だ。」

「だろ? ともかく、此処なら問題ないな?」

「うむ。」

「……で、話ってなんなんだ?」

「それなんだが……」

「(見当が付かんな、まさか愛の告白か?)」


対してランスの下心を知る由もなく、此処が(題して)セックス部屋だとも知らないカアラは、
丁度良い場所を用意してくれたと素直に感謝までしていた。

しかも、これから"言う内容"を考えると、ランスに対し後ろめたさまで感じていた。

だが……彼女はどうしても言わねばならない。 故に振り返るランスに対し、口を開く。


「実は……負けてしまったのだ。」

「負けた~?」

「リンにだ。」

「ほぉ。」

「今朝、偶然 廊下で出会ってな。 話しているうちに試合う事になったのだが……」

「……(マジかッ? 何時の間にリンがそこまで……)」


眉を落として"リンに負けた"と言う事を、静かに告げたカアラ。

今は昼時なので今朝……と言うか、ランスが寝ている時にそんな事があったらしい。

それを聞いて、ランスは"リンがカアラに勝てた事"を妙に思った。

闘技場で戦った彼女の"速さ"を考えると、まだリンの実力では及ばないハズだったからだ。

だが……カアラが加入してから、ランスはリンを既に5回は抱いている。

故に、まさかそれらの"強化"でカアラを既に上回ってしまったのだろうか……と、彼は考えた。


「その"仕合い"のうち、5本中1本を取られたのだ。」

「……は?」

「彼女を甘く見たつもりは一切無かった。」

「……(なんだ……そう言う事かよ、紛らわしいな。)」

「それなのに、不覚を取るとは……」

「カアラ。」

「……ッ?」

「リンに負けたのは、"5本目"の勝負だろ?」

「そうだ……よく判ったな。」


今のリンであれど"一戦のみ"の真剣勝負であれば、カアラが間違いなく勝つ。

ランスはそう見ており、彼の剣士として一流の"洞察"は間違ってはいなかった。

それなのにカアラの口から"負けた"と言われ意味が判らなかったが、
"5本中1本"と言う言葉で、大凡(おおよそ)の事を理解してしまった。

……カアラはリンよりもパワーは劣るが、スピードが驚異的であり、
油断していたとは言え、ランスでさえ命が危なかった程のポテンシャルを秘めている。

だが一対一では無く多数を相手に戦い、それを想定して稽古もしていたリンに比べ、
"体力"が極端に無く、それ以前にカアラの"肉体そのもの"が丈夫な造りでは無かったのだ。

とは言え……戦争で戦い抜ける程の体力は有ったようだが、逆にリンが丈夫過ぎるとも言える。

その為、リンとの4戦で体力的な差が生まれ、5戦目で総合能力がリンに劣ってしまったのだろう。

そこまでランスは察してしまったのだが、カアラがそれを自分にワザワザ言ってくる理由は判らない。


「……で、それがど~かしたのか?」

「……ッ……」

「おいおい、そんなにリンに負けたのがショックだったのか? 良いだろ、一度くらい。」

「……良くは、無いのだ。」

「なぬ?」

「"つまらぬ話"になるが……聞いては貰えぬか?」

「まぁ、いいだろう。 遠慮はいらんぞ。(セックスの為だ)」

「……私の一族は、剣として生きる。 剣の為に生まれ、剣によって死ぬのだ。
 即ち、この体全てが一つの刃……私はその"宿命"を背負い、
 同様の宿命を背負って生きる、兄の背中をひたすら追い駆けて育ってきた。」

「(なんちゅ~つまんなそうな人生だ……)」

「だが、その一族の剣を継ぐのは一人。 既に残っているのは私と兄者のみ。
 父もそうして家族を斬り、一族の剣を守ってきたのだ。」

「む……って事は、お前の家族は……」

「父上達は、既に兄者に斬られているだろう。 ……だが、私は斬られなかった。」

「そりゃ~妹なんだしな。(両親を斬るのもアレだが)」

「違う。 "あの時"の私は斬るに値しない存在だったからだ。
 兄者が剣を父からひたすら熟知されながらも、私は何処かで安息を求めていたのだ。」

「その兄貴は何してんだ?」

「剣を継いだ今……更に道を究めるべく、強者を求めて大陸中を旅している。」

「そういや~お前、"剣姫"て言われてたよな? 兄貴ってもしかして……」

「剣魔だ。」

「やっぱりか。 だが、それならそれで放って置きゃ~良いじゃねぇか。」

「それはできぬ。 私は必ず"斬るに値する剣士"となり、再び兄者と再会せねばならんのだ。」


カアラの"一族"は、ランスの理解できない存在だ。 その辺はもうツっこむ気も起きない。

だが折角カアラの兄は命を助けてくれたと言うのに、彼女は再会を望んでいるらしい。

それはワザワザ死にに行く事にも繋がるだろうし、バカらしいにも程がある。

とは言え……カアラの表情は真剣そのもので、考えを改めさせれるような雰囲気では無い。


「お前が兄貴と再会したいのは判った。」

「…………」

「だがな、再会して"何をしたい"んだ? お前は。」

「判らぬ。 とにかく、兄者と釣り合う実力を付け、再会できる"時"を待つだけだ。」

「……(ふん、大方 殺されようが構わねぇって事か……)」

「だが……」

「稽古でもリンに一度でも負けてショックだったって事か?」

「!? ……その通りだ。」


言われた事から察せるに、彼女にとって"敗北"は許されない事なのだろう。

だがランスに負けたダケでなく、リンにも一度とは言え(稽古と言う名の)仕合で負けた。

前者は一人くらいは強力な騎士が存在したと考える事で何とか納得できたが、
年下であるリンにさえ負けた事は相当ショックであり、カアラは自信を喪失しかけていた。

ランスは年上だが、若干16歳のリンが"あれ程"の実力を持っているのならば、
驚異的な成長であるし、リンはあっという間に自分を追い越してしまうだろうと感じたのである。


「(だからさっき、落ち込んで歩いてたんだな~。)」

「……だが、リンは私を破った直後……妙な事を言ったのだ。」

「妙な事?」

「まるで、私に勝った事が"自分の実力では無い"ような事を……」

「あぁ~……」

「その理由を"詳しく"は教えてくれなかったのだが、リンは一つだけ教えてくれた。
 "自分が勝てたのはランスのお陰……ランスに聞けば判るかもしれない"……と。」

「(!? リンッ、でかした!)」

「だから……教えて欲しいッ。 私一人では、もはやこれ以上 歩める道が無いのだ……」


更に眉を落とし、哀願するような眼差しを向けながら告げてくるカアラ。

ランスにとって彼女の気持ちはイマイチ理解しかねるが、カアラは生きる道を見失っていた。

以前の戦場でランスとバウカーの一騎打ちにおいて、何も出来なかった事も大きい。

あの時の"彼"は第三者の所為で、もはや人の手に負える存在では無かったが、
それを知らないカアラにとっては、また一人 彼女より強い者が存在するとも言えたからだ。

……対してランスは、心の中でリンの健闘を褒め称えていた。

もしカアラに1本も勝てていなければ、カアラはまだ自信を喪失していなかったハズだからだ。

抱いて強化を続けていれば、いずれリンに負ける時も来るだろうが、
ランスが予想していた時期とは違って早く、しかも とても良いタイミングではないか。

しかし、此処からの言葉は選ばなければならない。 ランスは灰色の脳細胞をフル回転させる。


「……ふふん、ならば教えてやろう。」

「…………」

「リンはなぁ、1年以上前から俺様が鍛えてやっていたのだッ。
 最強の俺様が剣を教えてやるんだぞ? そりゃ~お前に1本取るくらいはして貰わんと困るぞ。」

「なっ!?」

「俺様はカアラよりも強い。 リンは俺様の弟子。 それなら合点がいくだろ?」

「……そうだったのか……」

「だから、お前が気に病む必要なんぞ元から無いってワケだが……
 もっと強くなりたいんなら、俺様が色々と鍛えてやろうか?」

「!? い、良いのかッ?」

「あぁ。 どうする?」

「ランスが良ければ、是非頼みたいが……」


リンがアソコまで強いのは、ランスは自分のお陰だと豪語する。

大きく影響しているのはセックスでの"強化"なのだが、それは伏せている。
(勿論リン本人の努力も、カアラに勝利した事に繋がっている)

……とは言え、リンが自分から"今の実力はほぼ全てがランスのお陰"のような事を言っていたので、
カアラはランスがそれだけ剣を教える事に秀でていると思い込んでしまった。

そうなれば、彼女は本気で強さを望んでくるだろう……そう確信したランスは、遂に行動に移る!


「それなら、決まりだな。」

「――――っ!?」


≪ちゅっ……≫


「…………」

「んんっ!? ……むぅッ……


≪――――ぷはっ≫


 い、いきなり何をするっ!」

「何を焦ってるんだ~?」

「唐突に接吻など……何を考えているッ?」

「……それだな。」

「なに?」

「一流の剣士たるもの、男にキスされた程度で動揺してはいかんぞ。
 今のはカアラの精神力が足らん証拠だ。 俺様があの野郎と戦ってたときの事を思い出してみろ。」

「……!?」


何とランスはいきなりカアラに接近して唇を奪った!

それは5秒ほど続いたが、ハっとなったカアラは彼から離れ唇を拭った。

対してランスが適当な言い訳をすると、彼女は以前の戦場での不甲斐無さを思い出した。

ランスがバウカーと戦っていた時……恐怖を感じ、加勢ができなかった事を。


「多分、あの時はリンならな。 俺様を手伝うべく割り込んできたと思うぞ。
 今のキスも、リンなら逆に舌を入れ返してくる程だ。 全くけしからんッ。」

「くっ……」

「……と言う訳で、早速修行だ! 先ずは精神的な訓練から始めるぞッ!」

「あ……っ!」


≪――――どさっ!!≫


"あの時"の恐怖は今のキスとは全く関係が無いのだが、ランスの言葉を真に受けてしまうカアラ。

その反応を見てランスは、やはりカアラは"こっち"には疎いと察し、ニヤりと口元を歪めた。

直後、彼女の肩を掴むとベットに押し倒し、困惑の表情のカアラに覆い被さる。


「ん~? "こう言うの"は初めてか?」

「あ、当たり前だ……」

「経験無し……と言う事だな?」

「……そうだ。」←視線を逸らしながら

「むむっ、それはいかん。 剣士として女の弱点を抱えていると言う事は、致命的だぞ?」

「そ、そうなのかっ?」

「そうなのだ。(しめしめ、やっぱ処女だったか! 結構 結構。)」

「ん……っ!」


≪むに、もみもみ……≫


ほぼ間違いないと思っていたが、やはりカアラの男性経験は皆無らしい。

セーラが非処女だったので万が一と言う事も考えたが、いらぬ心配だったようだ。

よってランスは心の中で鼻の舌を伸ばすと、再びカアラに口付けて右手を乳房に伸ばす。


「……おっ、思った以上に(胸が)デカいな。」

「これも、女としての弱点……か?」

「うんにゃ。 こんなのは強くなりさえすりゃあ、幾らでもカバーできるぜ。
 俺様が胸にこだわっているのは、精々カタチだけだ。 デカくても小さくても変わらん。」

「わ、わからんッ……女の弱点とは、一体何なのだ……?」

「ハッキリ言うと、"男を知る"って事だな。(嘘だけど)」

「おとこ……?」

「つまりはセックスだ、気持ち良い事だ。 深く考える必要は無いぞ。」

「そ、そんな事を言われても……」

「まぁ、今から男ってのは教えてやる。 だから俺様を信じろ、必ず強くしてやるからな?」

「……ッ……大した自信だな。」

「がははは、そりゃ~俺様だからな。 成果が出なかったら、斬るなり何なりしても構わんぞ。」

「そうか、それ程まで……ならば、私も覚悟を決めよう……だ、だがッ……」

「んん? まだ何か有るのか~?」

「言った通り……こ、この様な事は初めてなのだッ……手柔らかに、頼む……」


≪――――ドキュンッ≫


「…………」←凝視

「ら……ランス?」

「えっ? あぁ、判った! ちゃんと優しくしてやるから任せておけ~いっ!」

「あっ……!」

「(まぁ、ひとまず抱けりゃ~問題無いぜ。 兄貴が邪魔して来たら俺様が殺してくれるわ。)」




……




…………




先程のカアラの表情がツボに入ってしまったランスであったが。

今すぐハイパー兵器を突っ込みたい衝動を何とか我慢し、
言われた通りに優しく、カアラの愛撫に集中しながら衣服を脱がせてゆく。

その所々で流石の彼女も何度かカラダを堅くさせてはいたが、
強くなりたいという志(こころざし)は確からしく、特にランスに指摘される事無く耐えていた。


「~~っ……」

「(真っ白で綺麗な肌だな~、こりゃたまらんッ。)」

「くぅっ……(は、恥かしい……だが、耐えねば……!)」


そして今現在は……カアラは全裸にされ、枕を頭にランスの前で足をM字に開かされていた。

対してランスの衣服はそのままだが、股間を膨らませている彼の視界には、
リンよりは若干濃い 歳相応の陰毛と若干濡れみを帯びている秘所……そして白い肌が晒されている。

そんなエロエロな姿を前に、ランスの興奮度は限界に近いが、彼は未だに我慢し右手を秘所に伸ばす。


「どら。」


≪――――くちゅっ≫


「んぁっ!? ぅっ……く、ぁっ……」

「(約束しちまったし、もうちょっと濡らしておくとするかな。)」

「くっ、うっ……あっ、あぁっ、あっ! そ、そんな……汚っ!」


濡れが甘い秘所を愛撫する為であり、カアラは今まで感じたことの無い感覚に、
戸惑いの混じった声を漏らしながら快感に耐え、天井を仰いでいる。

そんなうちにランスは秘所に舌を這わしはじめ、更なる刺激をクリトリスに与える。

特にそれに効果が有ったようで愛液が更に纏わり、彼の唾液も加わる事で準備が万端となってきた。

そうと判ると、ランスはカアラが達しようとする前に手を離し、
ふぅふぅと息を漏らす彼女を他所に、衣服に手を掛けるとあっという間に全裸になる。

対して、呼吸が元通りになったカアラが何となく顔を起こすと、其処にはそそり立つハイパー兵器!

お馴染みの特大サイズであり、目を丸くする彼女の表情は、初めて"驚愕"と言う表情を表していた。


≪ジャキーン≫


「どうした~?」

「!? い、いやッ……そんなに大きなモノだとは……思わなかった……」

「がはははッ、凡人のモノと比べればそうだろうがな。 今のリンは勿論、喜んで受け止めるぞ。」

「そんな、モノが……し、信じられん……」

「ちなみに、尻にも入れる。」

「!? ば、馬鹿なっ……嘘だと言ってくれ……」

「しかも一年前に、だ。 勿論、お前にもできるよなぁ?」

「……ッ……」


ランスのハイパー兵器を初めて女性は、皆同じような反応をする。

それはカアラとて例外では無かったが、彼の言葉に彼女は覚悟を決めた表情で足を更に開いた。
(アナルセックスについての云々は、自分で"今のは冗談だ"と言い聞かせている)

"初めて"にしては大胆ではあるが、これも彼女の覚悟の表れと言う事なのだろう。


「よ~し、入れるぞ?」

「……ん。」

「最初は誰でも痛いからな、我慢しろ。 力は抜いた方が良いかもな。」


≪グチ……ミちミチッ……≫


「――――!? 痛……ぅっ!」

「(やっぱこの瞬間は最高だな! だが、そういやぁ"こんな機会"って……)」


よってハイパー兵器を割れ目に宛がうと、ランスは腰をゆっくりと押し込んだ。

同時にゆっくりと膜を破ってゆき、カアラは歯を噛み瞳を閉じて痛みに耐える。

……だが痛ましい様子は左程無く、既に成熟に近い肉体が、
此処最近 彼が抱いてきた処女の娘達よりも、痛みを抑えているのかもしれない。

考えてみれば……王であったランスとて、20歳弱の女性の処女を頂く機会は少なかった。

しかも"こちら"においては初めてであり、カアラの美しさと天然な性格もあってか、
ランスは今頃になって更なる興奮が湧き上がってくるのを感じた。

その興奮は腰を動かすスピードの上昇に繋がり、この状況の彼を誰が責めれようか。


≪ずっ、ずっ、ずっ、ずっ、ずっ、ずっ……!≫


「うッ、うぁあっ! あっ! あァっ! くッ、あぁあっ!」

「そうだッ、耐えるのだ! これも弱点克服のッ一貫だ~っ。」

「わ……わからないっ! 本当にこんなッ、こんな事……がっ! くぅっ……」

「うぉッ? やば……もう、出ちまうかも……」


偶然か、ランスのハイパー兵器とカアラの膣は抜群の相性だった。

それにより彼に与えられる快感は途轍もなく、更に腰を打つペースが上がってくる。

対してカアラも痛みが早くも和らぎ快感が増して来たのか、声色に甘みが帯びて来ている。

だが理解できない感覚に恐怖をも感じるのか、僅かながらも涙声が混じりつつある。


≪ずっぷ、ずっぷ、ずっぷ、ずっぷ、ずっぷっ!!≫


「わ、私も……何かッ……くっ!? あ、あぁああぁぁ……っ!!」

「ぐ……っ!?」


≪――――びゅっ! びゅるっ! びゅッ、びゅるるっ!!≫


「……ぁ……な……熱ッ……」

「ふぃ~……凄ぇぞカアラ、こんなに早く出しちまったのは久しぶりだ。」

「……っ……」

「(意識あらずか。 まぁ良い、今日はとことん楽しませて貰うとするかッ!)」


ハイパー兵器を挿入してから、約3~4分。

我慢していたのもあってか早くも限界に来たランスは、皇帝液をカアラの胸に撒き散らした。

達したのは事前に愛撫されていたカアラも同じだったようで、虚ろな目で付着した皇帝液を見ている。

いわゆる軽い"真っ白状態"のようではあるが、一発で終わらせる気はサラサラないランス。

故に今度はハイパー兵器を咥えさせるべく腰を浮かし、その表情は鬼畜な笑みを浮かべていた。




……




…………




……2時間後。

カアラのカラダを十分堪能したランスは、満足気でベットに横になっていた。

一方カアラは、流石に彼には抱き付いていないが、同じく抱布を被い全裸で横になっている。

セックスが終わり、呼吸が戻った時には着替え始めようとした彼女であったが、
ランスがそれを許してくれず、(一応)剣の師となってしまった彼に逆らう事が出来なかったのだ。


「ランス。」

「なんだ~?」

「これでは私は……"女の弱点"を克服できたのか?」

「あぁ、それについては大丈夫だ。」←適当

「……そうか。」

「だが、精神的な鍛錬については まだまだだな。」

「!? な、何だと……"あんな格好"や"あんな姿"をさせても、まだ足りんと言うのかッ?」

「そりゃ~"あの程度"で恥かしがってる様じゃ~なァ。
 それに、もっと色々な犯り方があるから、これから覚悟しとけよ?」

「くっ……リンの歩んだ試練の道は、それほどまで険しいものだったのか……」

「うむ、そう言う事だ! がはははははッ!」


こうしてランスはリンのお陰で、カアラを何時でも抱ける待遇を得れた。

カアラは当然ながら納得できていない様子だが、リンの事を考えると負けてはいられない。

だが彼女の自覚無しに、カラダの相性の関係で、セックス自体は悪くは思っていなかった。

5発付き合わされたうち、4発目辺りまで来ると、自分も腰を彼の動きに合わせていたからだ。


「(だが、興味深……否、私はどんな手を使おうと、剣を極めねばならぬのだ……)」

「(今日はリン様々だったなぁ。 フロリーナの件と言い、やってくれるもんだ。)」


しかしながら、カアラ自身は"それ"を認めず、兄の為に強くなる事を切に願う。

とは言え"あんな方法"と"既にやり尽くした剣の稽古"程度で更なる力を得れるかは疑問だったが……

想像以上に早く、カアラは自分の肉体の"変化"に気付き、彼の言葉が真実だった事を知るのであった。


――――そして翌日、ようやくエリウッド達がキアランにへとやってくる。




●あとがき●
今回のランスとカアラのやり取りはかなり気合を入れて書きましたが、これが限界でしたorz
しかも、思ったよりも行数を食ってしまったので、密偵の女性の登場は次回になります。
さておきプリシラとか含めてまたキャラが大幅に増えるので、なるべく皆を描写したいところです。
また、今更ですがこの作品はランスが烈火の剣の女性キャラを好き放題にこますSSなので、
原作のカップリングで健在なのはパント×ルイーズくらいだと予めご了承ください(;@w@A



[2301] ファイアーエムブレム=鬼畜の剣= 本編 その14
Name: Shinji◆9fccc648 ID:37b9b89a
Date: 2008/08/20 21:07
ファイアーエムブレム =鬼畜の剣=

本編 その14 鬼畜戦士の休息




カアラを抱いたその日、ランスは午後にはセーラに掴まって彼女と共に過ごす羽目となった。

本来なら続いてレベッカも落とそうと考えていた彼であったが、
セーラには"エウリード家"の名をリキア同盟に売る為に、彼の存在を借りたのだ。

彼女が調べた結果 貴族としてのランクは公爵>侯爵>伯爵>子爵>男爵 のうち、
何と公爵なのだが(六章外伝参照)セーラはランスの実力なら更なる高みを目指せると思っていた。

実はセーラもランスの影響で神官としてのポテンシャルはかなり上がったのだが、
彼のような男が直ぐ傍に居る事で、自分はあまり凄いとは思っていなかったりする。


「はじめまして、わたくしがエウリード公爵家、セーラ・エウリードです。」

「俺様はランス・エウリードだ。 我侭な妹の為に、わざわざ集まってくれて感謝するぜ?」

『まぁ~……』

『やはり、エウリード公爵家の噂は本当でしたのね。』

『それにしても、可愛らしい妹さんね。』

『お兄様の方も戦場で活躍しただけあって、ワイルドでなかなか……』


今の兄妹には数万ゴールド程度の資産しか無いが、どこぞの侯爵家は"人の良さ"で借金を肩代わりし、
財政を切迫させ諸侯連合の資金を横領したりと、落ちるに落ちる貴族も存在する。

……いくら善意から始まる末路であろうと、平民の憧れである貴族が罪を犯してはいけないのだ。

世間に知れ渡らないという意味では、裏で汚い事を行っている貴族は幾らでも存在するが、
ラウス程評判の悪い領地でも咎められない辺り、余程酷くないと爵位剥奪とはならないようだが……

それらを考えると逆に、資産を貧しい人間に与え、野に下った"公爵"は非常に興味深い存在だった。

またそれ以前に、いくら16年以上の年月で知名度は極端に下がったとは言え、
公爵位はエトルリア政府に剥奪されていないので、二人に会うだけでも十分価値はある。

名門中の名門とまでは言わずとも公爵は公爵……爵位だけで言えばハウゼンよりも高い。
(侯爵であってもオスティアのウーゼル等で言えば、ヘタな公爵よりも断然 発言力が有るのだが)

故にセーラはここ数日で色々と手を回し、"お茶会"と称して貴族の娘達をキアランに集め、
あくまで"さり気なく"エウリードの名を売り、再び知名度を上げる事にしたのである。

公爵位とランスを天秤にかければ、恐らく未練ながらも後者を選ぶであろうが、
両方あるならば前者は活かしたいモノだし、何よりセーラは貴族に幼少の頃から憧れていたのだ。

……さておき、ハウゼンが侯爵なので流石に強い影響力を持つ"公爵"クラスの人間は来なかったが、
評判の非常に悪いラウスを破り、キアランを救ったエウリード家の人間に興味を持ち、
セーラ呼び掛けに対して、他領の侯爵家の娘がはるばる足を運んでくる事もあった。

その数はおよそ20名……キアランのリンディスの評判も良いことも有り、殆どが呼び掛けに応えた。


「(お兄様~、お願いですから言われた通りに振舞ってくださいねッ?)」

「(判ってる。 その代わり、"良い女"を連れてけそうになったら色々と協力しろよ?)」

「(……背に腹は代えられませんね。)」

「(くそっ、どいつもこいつも良い女だってぇのに……我慢しなきゃならんのか。)」

「(そんな事 言わないでください。 よ、夜だったら私が相手をしてあげれるじゃないですかッ。)」

「(それとこれとは話が違うのだっ。)」


……勿論、何故娘ばかりなのかと言うと、ランスが女ばかりでないと気を乗せないからだ。

とは言え手は出せないので無意味かもしれないが、彼はセーラに"とある条件"を出していた。

それはランスが"強化する価値"のある女性を仲間にした場合、
"(あくまで)なるべく"彼女にも動いて貰う事で、抱く方向へと持ってゆき易くさせると言う事。

リン程まで役に立つとは限らない……と言うか、リンは"強化"を自分だけ受けているのは、
カアラに対しフェアでは無いと思っていたダケで、そんな気は無かったのはともかく。

邪魔されるよりは数百倍マシだし、またセーラはランスが戦いで傷付いた事を気にしており、
自分だけでは彼の力になり切れない事を理解し、彼が他の女を抱く事を許容するしかなかった。

ランスにとっては強化云々は"二の次"で、セックスさせる為だけに協力しろと言っていたのだが、
"こちら"では長く共に居るセーラでさえそれを察しない辺り、彼の心を計れる者は居ないと言う事か。


「それでは、今回はこの辺でお開きとしようと思います。 今日は有難うございました。」

「がははは。 皆 次に合う時にも、俺様の為に貞操はちゃんと守っておけよ?」

『ふふっ、ランス様ったら御冗談ばかり。』

『それにしても……今日は良い機会でしたわね。』

『えぇ、全く。』

『それでは、リンディス様にお声掛けして御暇 致しましょうか~。』

「(ち、ちょっと! 最後の最後で何を言ってるんですかーっ。)」

「(うるさい、最後くらい釘を刺しても良いだろうが。)」


そんなこんなでセーラを中心に、お茶会は終わりを迎えた。

流石にランスのセクハラ発言は皆無では無かったが、その度にセーラがフォローしていた。

……とは言え、彼の言葉の意味すら判らない女性が多く、世間知らずが多いのが幸いであった。

故に運良く"冗談"に受け止められ、しかもランスに皆が好印象を抱いて いてしまったりする。


「ケント……今日はどうして、こんなにお客さんが沢山来るの?」

「聞いた話によりますと、セーラ様が近郊の貴族を集い、ランス殿と懇談会を開いているそうです。」

「初耳よ?」

「えぇ。 そのついでに皆様は、公女リンディス様の顔を一目拝見したく訪れられているとか。」

「もう、何時の間にそんな事……」

「ですが、リンディス様。」

「判ってるわ……キアランの事を考えれば、むしろ感謝しても良い事よね?
 私が居る頃でタイミングも良かったし、おじい様に負担を掛けなくて済むわ。」

「お分かりでしたか。」

「でも……私が行ってからは、キアランの事……頼むわね?
 始めはエリウッドの力になれればって思ってたけど、ラウス侯を許すわけにはいかないッ。」

「それは私も同意故、後の事はお任せください。」

「(……それに、ランスさんの側にも居れるし……)」

「では……次の方、お入りください。」


一方、ハウゼンの代わりに謁見の間で貴族達の対応に追われているリン。

前途のようにセーラの影響であり、未だに"こう言う事"に慣れていない彼女は疲れている様子。

だが祖父に任せる訳にもいかないし、彼は平気と言うだろうが、自分が居る時 位は無理はさせれない。

よってカアラの"あの後"が気になるリンであったが、溜息交じりに自分の役割を果たしていた。




……




…………




……翌日、午前10時。

人気の無いキアランの城の外れに、4名の人間が集まっていた。

そのうち2名は互いに模造刀を持って対峙しており、それはランスとカアラである。

残りの2名はリンとセーラであり、前者は立って・後者は座って対峙する様子を見ている。


「カアラ、行くぞ~?」

「…………」

「とおぉっ!!」

「――――!?」


≪ガキイイィィンッ!!≫


「まだまだぁっ!!」

「く……っ!!」


≪ガッ! ゴッ! ――――コォオンッ!!≫


そんな緊張感の中、先に仕掛けたのはランスであった。

対して何故かカアラは避けずに、足を踏み込み彼の攻撃を"受ける"事でやり過ごす。

それに慣れていないのか、カアラの動きは10回もの防御により段々と鈍くなり――――


「今度はどうだっ!」

「うぁっ!?」


≪がしいいぃぃぃぃん……っ!!!!≫


勢い衰えないランスの攻撃に、カアラはやがて武器を弾き飛ばされる!

それによりダメージは無くとも手が異様に痺れているのか、その場で膝をつく。

対してランスは構えを解くと、見学していた二人の方に向き直る。


「セーラ、治療。」

「は~い。」

「カアラ、今のは本気で受けてたのか?」

「……あ、あぁ。 そうだ。」

「成る程な。 やっぱり、思った以上にパワーが足りん。」

「そう言われても……私には、私の戦い方と言うものがあるのだが……」

「うむ。 お前の速さを活かした戦い方ってのは、確かに悪くねぇ。
 俺様も一人だけ、とんでもなく速ぇ"死神"みてぇな奴を知ってるからな。
 ……だが俺様みたいな奴に、御自慢のスピードを上回られたらどうする?
 今迄はスピードが相手に勝っていたからこそ、あっさり勝ててた事を忘れんな。」

「……っ……」

「で、話を戻すが……スピードで追いつかれようが俺様が"死神"ってのに負けねぇのは、
 奴以上のパワー、そんでもってビビらねぇ精神力がある。 だからこそ、俺様は最強なのだッ。」

「最強……」

「だからさっき、俺様の攻撃を全部"受ける"よう言った。 足りないモンを補う為にな。
 精神力は別の訓練(エロ)で補うとして……これからは力を徹底的に付けて貰うぞ。
 今ので反撃すらできないようじゃあ、話にならんからな。」

「……わかった。」

「お兄様~、治療終わりましたよ~。」

「ご苦労。 それじゃ~リン、カアラの相手をしてやれ。 手加減無用だ。」

「は、はいッ。」

「……だが、判ってるな? リンは避けて戦え、カアラはその逆だ。」

「お互い、短所を補うって事ね?」

「うむ。 まぁ……リンもそれなりに"速い"が、今回ばかりは同じ条件だとカアラが不利だからな。」

「成る程……な。」

「へぇ。 よく考えてるのね、ランスさん。」

「何だ、その意外そうな言い方はッ。」


カアラがランスに模造刀をあっさり弾き飛ばされたのは、避けないで受ける事を強要された為。

彼はそれで短所を補う事をアピールし、リンとカアラは納得してしまっていたが、
実のところ二人が戦い難い戦法の方がランス本人が余計な体力を使わないで済むからだ。

特にカアラの場合は全て防御しなくてはいけないと言う時点で、反撃しろと言うのが無理な話だ。

相手がランス程の実力であれば尚更で、回避が無理と言う事は常に攻撃していなくてはならない。

その攻撃もランスの一撃と交差して弾かれてしまえば、即 敗北を意味するのだから。

……そんな無茶ばかりの指導をするランスであったが、二人の剣に対する情熱は本物だった。


「やあぁぁ……っ!!」

「くっ……」


≪ガキッ、ゴカッ! ブンッ! ガコオオォォンッ!!≫


今度は女性剣士同士で稽古をはじめ、リンはの攻撃を回避し、カアラは全ての攻撃を防御する。

即ち……リンが攻撃する時はカアラに太刀を全て受け止められ、カアラの攻撃は空を斬っている。

そうなると勝負が付く時は……カアラはともかく、リンは攻撃を"体"で受けてしまうと言う事だ。

模造刀と言えども一撃を受ければ痛く、故に(エリウッド相手はともかく)ランスは武器を弾いていた。


≪――――どかっ!!≫


「ぐぅっ!?」

「……(良しッ)」


さておき、二人の勝負はアッサリついてしまった。

カアラの攻撃を避ける事が出来ないと最初から判っているリンは、先ずは自分から仕掛ける。

対してカアラも先に受けては不利と言う事は判っているが、
剣の方向性に対する僅かに気の迷いが、リンに先制を許す結果となってしまった。

……だが、体力では劣ろうと総合能力はカアラが上。 不得意な戦いは互いに同じ。

よってカアラが2撃防御し、リンが1撃回避し、更にカアラが1撃防御した後、
直後の激しい交差 故に二人の距離が離れると、リンの体勢が戻る前に素早く踏み込んだカアラ!

その瞬間 居合いのような攻撃をリンの胴に叩き込むと、彼女は模造刀を手落としてしまい……


≪カランッ≫


「うっ……」


≪――――どっ≫


「すまない、平気か?」

「痛ッ……な、何とか……」

「やっぱ、この条件でもカアラが強いな~。」

「また私の出番ですかねぇ?」

「……いや、今度は俺様がやってやろう。」

「えぇっ? お兄様、ちょっとぉ……」


腹部を押さえて地に崩れ落ち、カアラは振り返ってリンに近寄る。

そして声掛けると同時に、ランスが近寄ってくるのだが……

彼の手にはセーラから奪った"杖"が握られており、無造作に杖を振りかざした。


≪フイイイイィィィィッ……≫


「あ、あれ? 痛みが消えてく……」

「うっそぉ~っ!?」

「……ッ?」←ちょっとビックリしたカアラ

「やかましっ、いきなり大声あげんな!」

「だ、だってぇ~。 何でお兄様が杖を使えるんですかぁ!?」

「んっ? よく知らんが、適当に振ったらできたぞ。」

「何で何で~ッ? エリミーヌ様もびっくりですよぉ~……」

「がはははッ、そりゃ~俺様だからな! 今度は(こっちの)"魔法"にでも挑戦してみるかなぁ?」

「うぅ……ホントに魔法も使えちゃうんじゃ……」

「……(や、やっぱりランスさんって……)」

「……(凄い男なのだな……)」


結果……いとも普通に杖を使えてしまったランス。

勿論、当たり前の事では無いのでセーラは驚愕し、それはリンとカアラも同じだった。

しかしランスは深くは考えず、リンとカアラに新たな"指導"を告げた。

その内容は、今度は"仕合わず"にリンは攻撃のみを行い・カアラは防御のみを行う。

そして……カアラが攻撃のみを行い・リンが回避のみを行うのを"交互にやれ"と言う事をだ。

制限があろうと真面目な戦いであれば、互いに"不利な点を補わない行動"で勝ちを狙ってしまう。

つまりリンは回避する状況を・カアラは防御する状況を極力 作らないように戦うだろう。

よって片方が攻撃に集中する方が短所を補いやすく、バランス調整もする事で負傷も避けれる。


「じゃあ、私から攻めるわね。」

「……頼む。」

「まだ杖は使えるから、遠慮なくやって良いからね~?」

「(さて、なんか眠くなったし寝るか……)」


そんな訳で、あくまでリンとカアラは真面目に稽古を続けた。

セーラも杖は使える時に使う方が良いので、ランスの為にも 二人の様子を眺めていた。

だが……ランスに限ってはアバウトで、草々をベットに昼寝と洒落込んでいたりする。


『ランスさんッ。 き、昨日の事なんだけど……』


本当であれば本日ランスは、昨日の午後しようと思っていたように、
レベッカ 若しくは事前に目を付けていたメイドでも口説くつもりだった。

それなのに、朝食を終えてセーラと廊下を歩いていると、先ずやって来たのはリン。

カアラに何とか5戦目に勝ったモノの、目に見えて落ち込んでしまっていたので、
彼女のフォローをするつもりで、遠まわしに"ランスさんお陰"だと言ったのは良いが、
その後二人がどうなったのかが気になって夜も眠れず、ランスに話し掛けて来たのである。

その時 既にセーラにはカアラの件を言っていたのでランスが普通に"犯した"と答えると、
リンは"やっぱり~"と思いながらも、嫉妬心の反面・対等な立場になったと言うことで安心もした。


『……ランス、暇あらば剣を教わりたいのだが?』


それと同時に、空気を読まずにランスを探してやってきたカアラ。

やはり精神鍛錬(セックス)ダケでは納得できなかったのか、剣の相手を求めて話し掛けて来たのだ。

……対して、レベッカもメイドも確かに味見したいが、彼女と稽古後の青姦も捨て置けず、
意気揚々と受けようとしたランスであったが、セーラとリンの嫉妬Girlsが、
半ば無理矢理付いて来ると言い出し、何だかんだで今に至ったと言う訳である。

それが当然 癪であったランスだったが、自分が何故か杖を使える事が判ったし、
カアラを旨く丸め込めたしで、模造刀がブツかり合う音を聴きながら寝入る事にした。

ちなみにレベッカは故郷に手紙を書いており、フロリーナはもしもの時の伝達役を任されていた。

ついでにラスは何をしているのかと言うと、ウィルの弓の鍛錬に付き合ってあげているらしい。


「……ふぅ。 それじゃあ、また今度はそっちの番ね。」

「では、そうさせて貰――――」

「リンディス様~っ!」

「あっ! フロリーナ?」

「え、エリウッド様達が お見えになりました~。」

「ですって~、お兄様。」

「……ふぁあ……もう、そんなタイミングかよ。」

「むぅ……ならば、"またの機会"と言う事か?」

「残念だけど、そうなるわね。」

「ふっ……だが昨日と言い、良い鍛錬であった。 また頼みたい。」

「えぇ、こちらこそ。」


そして、セーラの杖による回復を受けながら稽古する事2時間……

丁度 昼過ぎあたり、リンの采配の通りにエリウッドがやって来た事を伝えるべく、
ペガサスに跨ったフロリーナが4名の元にへとやってきた。

それは稽古の中断と、間も無くの"出発"を意味しており、リンの表情が引き締まった。

ランスとセーラは相変わらずと言った所だが、カアラの言葉でリンは直ぐ笑顔を見せる。

この二人、互いにサカの民と言う事でもあり、良いライバルになりそうである。


「(ぐふふふ……そのうち、2人を誘って3Pってのも良いな~……)」


――――互いの師がランスで有るという事が、不憫でならないが。




……




…………




「これが、私がここ数ヶ月で得た"全て"の情報よ。」

「"黒い牙"……か。」


……一方その頃、キアランの城の一室。

先にキアランに訪れていたマシューは、同僚の女密偵"レイラ"から何やら報告を受けていた。
(当然ながらランスの世界のレイラとの関係は皆無である)

彼女はオスティア侯爵・ウーゼルの命により、フェレ公爵失踪について単身で調べていた者。

故にラウス侯・ダーレンの逃げた場所も知っているらしく、キアランの危機を伝えたのも彼女だ。

それらの詳細については後ほどマシューからエリウッド達に告げられるので割合するが、
"黒い牙"と言う存在だけで、レイラはかなり危ない橋を渡っていると言える。


「それじゃ、エリウッド様達への伝達、しっかりと頼むわね?」

「任せとけって。 ……けどよ。」

「どうしたの?」

「今回の件、かなりヤバいんじゃねぇのか? 何て言ったって"黒い牙"だぜ。
 しかも、"そんなの"を操ってる黒幕が居るなんてよ……」

「心配してくれるの?」

「一応な。」

「ありがとう。 でも、密偵の仕事にヤバくないものなんて無いんじゃない?」

「ま~な。 ……それで"その仕事"はどれだけ掛かりそうなんだ?」

「最終目的は貴方達と一緒。 フェレ侯の救出よ。
 だから、旨くゆけばオスティアには同じ頃に戻れるかもね。」

「ほんとか? そうなると良いんだがな……」

「ふふっ、大丈夫よ。 それじゃあ、私はそろそろ行くわ……」

「……ッ!?」←頬に口付けされた

「マシュー、また会いましょう。」

「あ、あぁ……」


≪――――バタンッ≫


「……くそっ。」


別れ際にキス……ぶっちゃけた話、レイラはマシューの恋人である。

故に家族に紹介する頃合も考えていたが、思うところあって、またもや機会を逃してしまった。

よってマシューは、軽くウインクして部屋を出てゆくレイラの後姿を見守るしかなかった。


「(レイラ、今回はヤバイいどころの話じゃね~かもしれないんだぜ?)」


そんな彼が考えていた事は……率直に言うと、敵地に赴くレイラが非常に"心配"だと言う事。

情け無い話だが、レイラはオスティアの密偵の中でも1・2を争う実力者であり、
個人戦に置いてはマシューの実力を大きく上回る程なのだ。

故に相手が"黒い牙"であろうとドジさえ踏まなければ彼女は無事任務を真っ当してくれるだろう。

……だが……ラウスとキアランとの戦いで入った、ある意味"信じられない"情報。

それは"ランスが苦戦する"と言う程の実力者がラウスに存在していたと言う事だ。

話ではバウカー将軍と言う事だが、マシューはイマイチ納得できず、
ランスが傷を負った"存在"は、何か別のモノ……それを黒い牙の"黒幕"迄に結び付けていた。

マシューはランスの実力を非常に高く評価しており、彼が苦戦する相手など、
剣姫にも無傷で勝った事から"リキア同盟には存在しない"とまで考えていたのだ!

だからこそ彼女の心配をしてしまい、今 何もしなければレイラが"しくじる"とまで考える。


「(だが……俺には俺の"仕事"がある。 何もできねぇ……が。)」


密偵として私情は挟んではいけない。 故にマシューは付いて行く事はできない。

しかし、何かしら手を回す事はできる……とは言え、自分に何ができる?

"黒い牙"の中に潜入し、黒幕をも欺(あざむ)きながらレイラの手を貸しやる方法が果たしてあるのか?

それは有る訳が無い……ところであったが、マシューはひとつの"可能性"を見出した。


「(癪だが……ひょっとして"アイツ"なら、レイラの力になってくれるかもな……)」


――――エウリード家と言う"可能性"である。




■ランス:ビーストファイター(闇)
剣A 斧F 槍C 理F 杖F→E 馬A 空E 評S

■リンディス:ロード(風)
剣B 弓F 馬D 空F 評C→B

■フロリーナ:ペガサスナイト(光)
剣F 槍C 馬F 空C 評C

■セーラ:シスター(雷)
光F 杖C→B 馬F 空F 評-

■レベッカ:アーチャー(炎)
弓D 馬E 空F 評D

■カアラ:ソードマスター(闇)
剣A 馬C 弓F 空F 評B




■補足■
偶然ですがカアラはランスと属性が同じなので、本作では最強クラスの女性キャラです。
その為肉体的な相性もよく、"強化"での効果も他のキャラよりも高い設定です。
イサドラも数少ない闇ですが、属性が無いソーニャ・リムステラあたりも闇っぽいですね。
ちなみに、ビーストファイターとは鬼畜を英語で色々と調べたら"ビースト"が多かった為です。




■余り参考にならないけど地味に重要な年齢■
○ランス組
ランス:25歳(リンとの旅立ち直後23→24、コスモスの影響により本来は24歳)
リン:16歳
フロリーナ:16歳
セーラ:18歳(ランスと同じく本来は17歳)
レベッカ:15歳
カアラ:22歳
ラス:24歳(公式設定よりかなり高いですが、リンとくっ付かないしOK)

○エリウッド組
エリウッド:17歳(間も無く18歳)
マーカス:30代
ロウエン:20歳
ドルカス:29歳
バアトル:20代
ヘクトル:17歳
オズイン:32歳(セーラ+14と言う設定だそうなので)
マシュー:25歳
ギィ:16歳(エルクとプリシラに合わせました)
エルク:16歳
プリシラ:16歳(6歳で養女+10年)

○その他
セイン:22歳
ケント:22歳
ウィル:18歳
レイヴァン:20歳(もっと高くしても良いんですがプリシラが……)
ルセア:20代
ヨーギ:30代
ワレス:50代
レイラ:25歳(マシューと同じにしました)




■あとがき■
ようやくランスの女癖が許容させて来たと言ったところですが、今回はお詫びがあります。
ランスの爵位なんですが、今頃になって公爵は高すぎると言う事に気付きました。
言い訳をさせて頂ければ、16年で知名度が下がっているのでバランスを取った感じです。
リキアトップのウーゼルが侯爵なので、エレブ大陸は爵位よりも実力主義と言う事でお願いしますorz
貧富の差は勿論ありますが、孤児のエルクも魔道軍将まで上り詰めたっぽいですし@w@
また、ランスとセーラが名乗るにあたって公爵なのに"ド・"とか"ラ・"とか名乗っていませんが、
その辺は意図的に省いています。しいて言えばセーラ・ド・ラ・エウリードとかになるのかなぁ。
封印・烈火に置いて、キャラがフルネームを名乗る事が全く無い事も理由の一つとして挙げれます。



[2301] ファイアーエムブレム=鬼畜の剣= 本編 その15
Name: Shinji◆9fccc648 ID:37b9b89a
Date: 2008/08/23 19:11
ファイアーエムブレム =鬼畜の剣=

本編 その15 コンウェル侯爵家


ラウスの城に進入後、完璧な段取りで攻略してしまったエリウッド一行。

城の外にはキアラン侵攻には使われなかった約100名の(名はユバンズ)傭兵団が駐屯しており、
20騎のドラゴンナイトを主体にかなりの実力を持っていたのだが、
城主のエリックが捕らえられては何もできず、戦わずして敗北する事となった。

その際 投降を促されたのだが、当然 納得がゆくわけも無く、
彼らは投獄より僅かな"未来への可能性"を望んで逃げていってしまったのだった。


「……"エフィディル"は一年前、突然ラウスに現れた。
 あいつが来てから、父上は"変わって"しまったんだ。
 以前からオスティアがリキアを纏めている事に不安を漏らしてはおられたが、
 まさか……"反乱"を起こそうとまで考えてはいなかったハズだ……」


さておき、ダーレンが居なければ息子のエリックに聞くしかない。

よってエリウッドはかつての学友に対し、あくまで堅実に・穏便に真実を追究した。

すると、彼の口から明かされた衝撃の"事実"の連続。


「……あいつは何か強い"切り札"を持っていて、それで父上を虜にしてしまった。」


……先ず、"エフィディル"と言う謎の人物。

彼がダーレンに"反乱"を決意させ、諸侯の何人かに使いを送らせ協力を呼び掛けた。

その無謀な"呼びかけ"に、なんとフェレ公爵は賛同してしまった一人らしい!


「まさか!? 父に限ってそんな事は無いッ!」

「信じようが信じまいが……勝手にすれば良い。」


当然信じられずエリウッドが激しく意見を言うが、エリックは続ける。

結局、ダーレンの"呼びかけ"に賛同したのはエルバートとサンタルス侯・ヘルマンのみ。

そのうちエルバートは半年前に反乱意思の最終確認をする為に、ラウスに訪れた。

……その際、ダーレンとエルバートは何やら激しく言い争いをしており、
理由はエフィディルが気に入らなかったようで、彼が連れて来た暗殺団"黒い牙"と共に、
リキアから追い出すようにダーレンに求めていたようだ。

だがダーレンは承知するハズも無く、エルバートはラウス城を離れる事となり……


「そして、例の失踪騒ぎだ。 もう生きてはいないだろうな。」


エリウッドが旅立ちを決意する一ヶ月前……及び、ランスとセーラが再び現れたのと同じ時期。

例の失踪騒ぎ……世間で言う"部下の精鋭騎士隊を連れての謎の失踪"が起きたと言うワケだ。

それにショックを隠せないエリウッドだったが、信じられるハズが無く、
父が反乱に荷担したのには、きっと"何か"有ったからなのだと、自分に言い聞かせる。

一方それはヘクトルも同じ心境であり、先ずはフェレ侯の生存と、
"事件"の真相を調べるのを優先させようと言い出し、エリウッドを元気付ける。

本来であれば即ヘクトルの兄・ウーゼルに報告し、全てを任せるべきなのだが、
エリックの情報をそのまま流してしまえば、エルバートをも裁かれる事となってしまう。

それは子息が居ないヘルマンはともかく、フェレ侯爵家の最期を意味するのだ。

故にエリウッドはヘクトルの気持ちに感謝し、父の無実を証明するべく決意を新たにした。


「良かった、キアランの無事は守られたみたいだ。」

「それにしても驚いたな~、まさかあの戦力差を覆(くつがえ)しちまうとは……」

「聞いた話によると、バウカー将軍はランスさん一人で討ち取られたみたいじゃないか。
 やっぱり、あの人の実力は本物だったんだ……ほんとに凄い人だっ!」

「そうだな、ベルンあたりなら喉から手が出る程 欲しがるんじゃねぇか?」


……そんな"比翼の友"と言われる二人は、キアラン城内の廊下を歩いていた。

馬車とは言え急いで此処まで来たし、ランス達もこれから昼食と言う事で、
密偵によるマシューの報告を皆で受けるのは、小休止を挟んでからにするようだ。

故に2人は暇潰し……と言えば不謹慎だが、エリウッドは久しぶりに、
ヘクトルは初めて入るキアラン城内を散歩していたのであったが……


「……(オスティア侯弟……)」


物陰で二人に気付かれないよう、様子を伺っている人物が居る。

それは"レイヴァン"であり、ご存知の通りキアランで一年傭兵を務めていた者だ。

どうやら、彼はヘクトル……いや、オスティアに因縁があるようであり、殺気を押し殺していた。


「……(まさか、こんな所で会えるとはな……)」


その"殺気"は爆発寸前であり、余程 彼はオスティアに恨みがあるのだろう。

故にか彼の手が、腰におさめている剣に掛かろうとしていた。

……そんな危険な状況のレイヴァン。 彼の本名は"レイモンド"と言う。

偽名を使っているだけあり彼はリキアの"元貴族"のコンウェル侯爵家の嫡男(ちゃくなん)であった。

だが彼の知らぬ間に2年前ウーゼルによって侯爵位が突然剥奪され、家族は城も身分も失ってしまう。

爵位 剥奪の罪は"横領"。 それは訴え後に直ぐ諸侯連合によって決定された。

それに当然レイヴァンは納得ゆかず、エリウッドが父の反乱を否定するのと同じような心境であった。

つまり両親を良く知る彼は、コンウェル家がオスティアに"陥れられた"としか思わなかったのだ。

よって復讐の為に生きてゆく事を決め、キアランでの傭兵は下積みとしての一環だった。


「……(殺るなら今しか無い、が……)」


今 ヘクトルを斬ったとしても、それから生まれるモノは何も無い事は判っている。

……だが彼の当時の絶望は計り知れず、憎む対象を作ることで、哀しみを紛らわせるしかなかった。

その為、必然的に彼の矛先はオスティアに向いており、復讐の機会に直面しているワケなのだが……


「……あっ。」

「(ちっ、見られたか……)」

「……っ?」

「!? ……お前は……まさか……」


今、まさにエリウッドとヘクトルが隠れている自分の前を通り過ぎようとした時!

レイヴァンは背後に気配を感じ、剣の柄から手を離すと、何事も無かったように後ろを振り返った。

するとその目の前には、彼がどこか懐かしく感じる"少女"が自分を見上げている。

その"少女"が何者かはレイヴァンは直ぐに判ったが、彼女は"思い出せない"ようで首を傾げている。


「あの……」

「……俺が……判らないか、無理も無い。 別れた時、お前はまだ小さかった。」

「えっ? もしかして、レイモンド兄さま、ですか?」

「あぁ、此処で傭兵をしている。 ……大きくなったな、プリシラ。」

「!? 兄さまっ、兄さま!!」

「何故此処に居るんだ? お前は10年も前に、エトルリアのカルレオン伯の養女に……」


少女はプリシラ。 エルクがラウスまで護衛していた者であり、何とレイヴァンの妹であるらしい。

どうやら彼女は、コンウェル侯爵家から養女としてカルレオン伯爵家に移り、
10年の月日を過ごす中、コンウェル家が"取り潰し"になったと聞き、
レイモンドは勿論 実の家族が心配になり、エトルリアからはるばるお忍びでやってきたらしい。

大陸で最も裕福なエトルリア王国は、貴族が多く男爵・子爵は数多く存在するのだが、
公爵・侯爵・伯爵の絶対数が圧倒的に少ない故、伯爵と言えどリキアの侯爵に近い位置付けを持つ。

その為 エトルリアの伯爵家も"リキアでラウスみたいな領が無事"な様に、
"アッサリ"と取り潰しに合うような事は まずありえないので、
コンウェル侯爵家には"余程の事態"が有ったのだろうとプリシラは考えていた。

実はリキアでトップのオスティア侯・ウーゼルの発言力がエトルリアの侯爵の常識を覆す程あり、
その為 同位のコンウェル侯爵家でさえ"アッサリ"と潰されてしまったのだが、
とにかくプリシラは"取り潰された理由"とレイヴァン達の安否を確かめたかったのである。

よってそれを"ある者"に相談したところ、弟子の魔道士・エルクを付けて貰ったのだが、
道中 ラウスで、彼女の素性を知ったダーレン(の使者)に付き纏われてしまったのだが、
エリウッド達と偶然再会……と言うか、彼との面識は僅かしかなかったが、
逆にそれなりに面識が有ったドルカスが話を通してくれ、結果ラウスを通過する事が出来ていた。


「奴らの……仲間になったのか?」

「はい。 エリウッド様は勿論、ヘクトル様もとても良い方で……
 私、リキアに来て本当に良かった。 こうして、兄さまにお会いできたし……」

「…………」

「如何なさいました?」


プリシラにとっては良い事尽くめだったが、レイヴァンは驚愕した。

"恨む者"であるヘクトルの一行に、彼女が加わってしまっているのだから。

彼は詳しくは聞かされていないが、リンがエリウッドを助けに旅立ったり、
ダーレンが乱心したのを考えると、プリシラはこれから、危ない橋を渡る事となるは確かだろう。

余談だが、ランスにそれなりの重傷を負わせた者がラウスに居た事は、彼も気になっている。


「……いや、何でもない。 それよりも、奴らはお前の素性を知っているのか?」

「いえ、お話していませんわ。」

「そうか……(それは好都合……だが……)」

「兄さま?」


プリシラの素性を知られていないと言う事は、同行すれば常にヘクトルを殺すチャンスが有る。

だがヘクトルを殺せば、彼は必ず元コンウェル侯爵家の人間だとバれてしまうだろう。

そうなればプリシラもカルレオン伯爵家の令嬢と判明してしまい、
自分が全て罪を被れば済む事だが、彼女への害は少なくあってもゼロにはならない筈。

詳しく述べれば、彼女は"オスティア侯弟を殺害した没落貴族の妹"と言う事となり、
罪は無くともその肩書きは一生纏わりついてしまう事になる。

此処に彼女が居なければ問題無いのだが、殺害の現場にずっと"居た"と言う事実が、
"共犯の可能性"や"兄と同様にオスティアを恨んでいた"と言う、あらぬ誤解を蒔いてしまうのだ。

それらの理由でレイヴァンは、これからどうするかを考えようとしたのだが……


「おぉっ! 可愛い娘 発見!」

「!?」

「……ランス殿。」

「おいレイヴァン。 誰だ、その娘? お前の"コレ"じゃね~だろうな?」

「なっ!?」

「違う。」


空気を読まずにランスがセーラを連れて登場。

直後、プリシラに目を付けたようで、近くまでやってくると(ランスにとっては)軽い冗談を言う。

それに対してプリシラは顔を赤くさせたが、レイヴァンの即答(否定)に瞬時に眉を落とした。

この2つの表情の変化も魅力的であり、ランスは既に脳内の"良い女リスト"の上位に彼女を入れてしまう。


「がははは。 まぁ、"兄さま"とか言ってたし、そりゃそうなんだろうけどな。」

「……!?(聞かれていたか……)」

「あ、あの……貴方は?」

「エトルリア王国、エウリード公爵家のランス。 そして、彼女は妹のセーラだ。」

「エウリード……公爵家? まさか、それは――――」

「お前も知っての通りだ。」

「……(へぇ~、直ぐにエウリードの事が判るなんて、エトルリアの貴族なのかしら?)」


そんなランスの耳は直前の"兄さま"と言う言葉が聞こえていたようで、
レイヴァンとプリシラトは自分達の迂闊さを後悔した。

だが聞かれてしまったのは仕方無いので、誤魔化すべく"ランス殿"と言われた男が何者かを問う。

それに乗るようにしてランスの口より先にレイヴァンが答えると、プリシラの目が見開かれる。

(自分も同じだが)公爵家の者がこんな所に居るのも珍しいのに、しかも伝説の貴族だとは……

何か下品そうな雰囲気の男ではあるが、公爵であれば礼儀は弁えなければならない。


「……失礼致しました。 私はプリシラ……訳有って、エリウッド様達と同行しておりました。」

「ふむ、プリシラちゃんか。 どうだ? 良かったら俺様とセッ――――ムグッ。」

「(流石に自重してくださいよッ!)それで、プリシラは何処から来たの?」

「エトルリアから……兄を訪ねてまいりました。」

「プリシラ!」

「良いのです、兄さま。 聞かれてしまった以上、やはり誤魔化す事は……」

「何か深い訳でも有んのか?」

「……あぁ。 この事はどうか、皆に内密に頼みたい。」

「どうか……お願い致します。」

「まぁ、プリシラちゃんの頼みなら仕方無いな~。 ……で、
 それはともかくだが、君もエリウッドの手伝いをしてるって事か?」

「はい。 そのつもりでした……が。」

「プリシラちゃん?」

「目的である兄さまと会えましたし、このままキアランに留まるのも……」

「……!?」


プリシラがエリウッド達にこのまま同行するのであれば、何時でも手を出すチャンスがある。

その確認をするつもりで彼女に問い掛けたランスだったが、プリシラは傾いていた。

レイヴァンがキアランで傭兵をしているのであれば、此処に留まれば兄と一緒に居られる。

だが……逆にレイヴァンは最初、プリシラと同行してヘクトルを殺す機会を伺おうと考えていた。

しかしながら、"兄さま"という言葉を聞かれた以上、直ぐ様 自分の正体はバレてしまうだろう。

エトルリアの貴族であるプリシラが、キアランの傭兵の妹と言う時点で不釣合いなのだから。

よってレイヴァンは"この機会"を諦め、プリシラをエトルリアに帰す事を優先させようと考えたが……


「――――それはいかんッ!!」

「……ランス様?」

「貴族たるもの、"恩"はしっかりと返さねばならん。
 エリウッドの世話になったのならば、もう少し頑張って協力してやるのだ。」

「で、ですが……」

「もうキアランは大丈夫だろうし、レイヴァンもエリウッドに協力してやれ。」

「なっ!?」

「そうなりゃ、兄貴と一緒だ。 問題ないだろ?」

「あっ……それならば……」

「プリシラ!!」

「プリシラちゃんは良いらしいぞ? レイヴァンも良いな~?」

「……ッ……」


プリシラがキアランに残っては、彼女を頂けなくなる!

それだけの理由で、ランスは無茶苦茶な事を言ってエリウッドの旅に付き合わせる事にした。

条件としてレイヴァンの同行を出すと、プリシラはアッサリと首を縦に振り、レイヴァンは再び驚愕。

ランスに兄妹で有る事を知られたと言うのに、彼らと同行しても意味が無いからだ。

それなのに同行を促すと言う事は、"脅されて"いるのだろうか?

……其処まで考えてしまうのだが、どちらにしろ選択肢は最初から無い。

脅しであれば勿論の事。 そうでなくとも、プリシラの顔を立てなくてはいけないからだ。


「無理なのか?」

「……判った。 フェレ侯公子の旅に協力しよう。 だが、先程の話は……」

「どうか……」

「二言は無い! 可愛い娘の為なら、約束は守ってやる。」

「済まん、では失礼する。」

「あっ、兄さま……」


よって仕方なく協力する事にし、レイヴァンはその場を去り、プリシラは後を追った。

……ここで余談だが、レイヴァンもランスの実力を高く評価している。

剣の腕では勿論、エウリード公爵家の息子として生まれるモノの、
野に下った直後に両親を殺されるも、ゼロからあれ程の自信と実力を身に付けているのは凄過ぎる。

セーラの境遇も、幼少に父母を殺され孤児で育てられたルセアと似ており、共感するものがあったのだ。

故にランスと同行すれば得る物が有るだろうと感じ、エリウッドへの協力にと繋がっていた。

対して、プリシラが引き続き同行する事となり、二人の背中を満足気に見送ったランスは言う。


「うむうむ、あれは良い娘だ。 絶対にセックスだ。」

「…………」

「だがレイヴァンめ、プリシラちゃんに手を出したら絶対死刑だッ!」

「お兄様、どの口からそんな事を言うんですか~?」←目が笑ってない




……




…………




結論から言えば、フェレ公爵・エルバートは生きている。

その情報は3ヶ月以上"黒い牙"の一員として成り済ましているレイラからのもの。

彼女から伝えられた情報は、全てマシューの口からランス達に伝えられている。


『この子供を……助けようというのか!?
 哀れな話だ、関わらなければここで死ぬ事も無かっただろうにッ!』


……"黒い牙"はブレンダン・リーダスと言う男が作り出した暗殺組織。

活動はベルンを本拠地として10年以上も前から始まり、次第に各国へと広がっていった。

その時の黒い牙の思想は、弱者を食い物にする貴族を狙うと言うものだったので、
民衆からは義賊と目(もく)され、活動への支持は高かったとの事。

しかし一年ほど前、ブレンダンが後妻を迎えた事をきっかけに、活動は少ずつ変わってしまう。

金を払えばどんなに難しいとされる暗殺もやってのけるのだが、
その対象は悪人だけに限らず、無差別な義賊とは程遠いモノへと……


『ヘルマン様……どうして、こんな事に……』

『畜生ッ、どうなってんだよ!?』


サンタルス侯・ヘルマンを殺害したのも、恐らく黒い牙の連中であろう。

さておき……後妻の影には"ネルガル"という謎の男が居る事が判っている。

黒い牙は今、ネルガルの指令によりリキアで暗躍(あんやく)しているとの事。

そんなネルガルの腹心の部下であるエフィデルはラウス侯を唆(そそのか)し、
オスティアへの反乱を企(くわだ)てさせ……反乱の呼び掛けに先ず動いたのがサンタルス公爵。

そして次がご存知の通りフェレ公爵・エルバートであるのだが、
彼が反乱に賛同したという事が真意かは、レイラにでも判らなかったらしい。


「まぁ大方……ヘルマンがフェレ侯に相談して、ラウスを止める意味で賛同したんじゃねぇのか?」


故に再び取り乱しそうになったエリウッドだったが、ランスの何気ない一言で安心する。

だが……それもさておき、フェレ侯は今、ラウス侯達と共に居るのは事実。

その場所とは"竜の門"……リキアの南の海に浮かぶ島、"ヴァロール"に存在する遺跡だ。

しかしヴァロールには"魔の島"と言う異名があり、一度足を踏み入れて戻った者は居ないと言われている。

とは言え、それで諦めるワケにもゆかず、エリウッドは"竜の門"を探し出すことを決意し、
ランス達も皆・ヴァロールに向かう事を決め、それらがレイラの情報の"全て"であった。


「マシュー。」

「なんですか? 若さま。」

「ネルガル……それからエフィデル? レイラは、どんなヤツらと言ってたんだ?」

「え~っと、"ネルガル"ってヤツはまだ見た事が無いらしいんですけど、
 エフィデルとは何度か言葉を交わす機会があったらしくて……」

「なんだ?」

「一言でいうと、不気味な男。 常にマントを目深に被って顔を見る事ができない。
 それなのに……金色に光る瞳だけが、ハッキリと見えるらしいんです。」

「…………」

「俺、あんな"何かを恐れた顔"をしてたレイラは見た事が無かったかもしれません。」

「……そうか。」




……




…………




≪コンコンッ≫


「すんません、俺です。」

「お前か。 入って良いぞ?」


≪――――ガチャッ≫


「ども、失礼しますよ。」

「……なんの用だ?」

「えっとですね……只の人間として、エウリード公爵家であるランスさんに頼みたい事があるんですよ。」


"魔の島"へと旅立つ戦闘メンバーは全員で何と20名。

"大まか"に言うとエトルリア王国より、ランス・セーラ・エルク・プリシラ。

リキア同盟・フェレ領より、エリウッド・マーカス・ロウエン・ドルカス・バアトル・レベッカ。

同じくオスティア領より、ヘクトル・オズイン・マシュー。

同じくキアラン領より、リン・フロリーナ・レイヴァン・ルセア。

最後にサカ平原より、カアラ・ラス・ギィとなる。

ついでに"マリナス"と言う中年の行商人と彼の部下数名がエリウッドの旅に加わっており、
荷物の管理を任せる事にしたようで、マリナスは貴族の家に仕える事が長年の夢だったらしい。

そんな面々は明日の出発に備えて、それぞれの時間を過ごしており、
ランスは一人で部屋に戻ったところ、同じようなタイミングで"マシュー"が訪ねて来た。

するとマシューは彼に"頼みたい事"を告げるが、ランスは即答してしまう。


「断る。」

「ですよねー。」

「一人で"魔の島"に行って黒い牙を装って、密偵の助けになってやれだァ?
 アホらしい、何でそんなリスクのデカい事をせにゃならんのだッ。」

「俺でも"こんな事"お願いするのもどうかって思うんスけどね、
 "出来そうな人"がランスさんの他に居ないんですよ~。」

「そう思って俺様を頼ったのは評価してやるが、面倒だし却下だ。 判ったら帰れ。」

「は~い。(くそっ、やっぱ無理か……)」


マシューはレイラが女だと言う事さえ告げていない。

彼が女好きと言う事を知っているからなのだが、それ以前にランスが密偵の性別を聞かなかったのは、
もし美人と言われても割りに合わな過ぎるので初めから却下するつもりだったからだ。

ランスが性別を聞いてくれば、レイラの容姿次第では受けてくれる可能性もあるので、
"良い女"で有る事をアピールするつもりだったが、"聞かれなかった"時点でアウトなのだ。

よってマシューは、ヒラヒラとウザったそうに手を振るランスの部屋から退室した。

……だが、希望は捨ててはいない。 エリウッド達が急ぐ事で間に合う可能性もあるのだから。




……




…………




『……良かったのか?』

「おわっ!? なんだ、いきなり出てくんなッ! ……って、何がだ?」

『"あの者"の頼みを聞かなかった事がだ。』

「俺様が一人で"魔の島"に行けって事か? アホくさい。
 それなら何の為に、リン達を鍛えてやったって事になるだろうがッ。」

『だが……"あの姉弟"もネルガルに囚われているとすれば……?』

「!? あの姉弟って……ニニアンちゃんの事か?」

『…………』

「もしかして、急がんとヤバい状況だったりする?」

『恐らく。』

「うむむむ……それは勿体無いではないかッ……ニニアンちゃんがピンチだとは!」

『貞操程度が危ういだけかもしれんがな。』

「!? それこそ一大事だ! あの娘の処女は必ず俺様が奪うと、最初から決めていたと言うのにッ!」

『ならば急ぐが良い。 そもそも彼女の存在無しに、貴方は"あちら"に戻る事は出来ないのだから。』

「そういや~そうだったな……なら、決まりか。」

『…………』

「とにかく、善は急げだっ! その前にもう一回、リン達を"強く"してやってくるぜ!」


≪だだだだだっ!! ガチャッ! ――――バタンッ!!≫




……




…………




マシューが退室してから、唐突に出現した久しぶりの"コスモス"。

彼女はレイラでも知らない、"ニニアン"と"ニルス"がネルガルに囚われている事をランスに教えた。

結果、"魔の島"に一人で乗り込む事を決め、もう一度リン達を抱くべく部屋を出て行ってしまう。

正直 無鉄砲にも程があり、彼が口説くべき女性はレベッカとプリシラが残っている。

それなのに行くという事は、初回で98点を付けた"ニニアン"を放って置けないのだろう。

レベッカとプリシラの貞操はエリウッド達と居ればまだ安全だが、
敵に捕らわれているニニアンは危険であり、最悪彼女が死んではランスは戻れなくなってしまう。

それら故の行動であるのだが、バウカーのような鬼神も存在する可能性も有る。

なのに行くという事は、それだけニニアンの処女を奪う事にランスは執着しているのである。

……と言うか、女性が絡めば周りの事が目に入らないと言う、彼の悪いクセが発動したのだ。

ところで話は変わるが、何故コスモスはニニアンの事をランスに促したのか?

その答えは、非常に簡単。 ランス一人に行かせた方が、"面白い"から……それだけだ。


「ランスさん……まさか、マジで行ってくれるとは思いませんでしたよ。」

「お前の為じゃねえ、俺様の助けを待ってる"女達"の為だ。
(ニニアンちゃんだけじゃなくって、他の女も囚われてるかもしれんしな~)」

「まぁ、何でも良いですよ。 俺の同僚の事、頼みます。」

「それは"ついで"だ。 んな事より、セーラを黙らせるのには滅茶苦茶 苦労したぜ。」

「ははっ。 あいつ、ランスさんにべったりでしたしね。」

「リンも五月蝿そうだが、誤魔化すのはお前に任せる。」

「やれるだけはやってみますよ。」

「それじゃ~行ってくるぜ。 さっさと追いついて来いよ~?」


≪――――ドカパッ!!≫


そんな訳で翌日の夜明け前……ランスはセーラを説得してキアランの城を離れようとしていた。

当然セーラには大反対されたが、彼女が納得してくれた条件は後日述べるとして。

ランスの外出を目撃したマシューは、慌てて彼に追い付き、別れの言葉を交わしていた。

マシューは"ニニアン"が捕らわれている事を知らないので、ランスを惚れ直してしまった程だ。

レイラが別の意味で危ないだろうが、それでもリスクが高過ぎるし、
何と言っても黒い牙の巣食う魔の島……生半可な覚悟で行けるような場所では無い。

なのに本当に一人で行ってくれるとは……これなら"何とかしてくれる"かもしれない。

一方、そんなマシューの気持ちを知るハズも無く、ランスはさっさと馬で走り去っていった。

……だが、彼はランスが見えなくなったあたりで、重要な事に気付いてしまった。


「そういやぁ、ランスさん……どうやって一人で"魔の島"に行くんだろ?」




……




…………




行きは2日、帰りは12時間掛かった"港町バドン~キアラン城"への往復。

今回はランス一人ダケと言う事で、僅か6時間で到着し、時刻は午前10時。

今頃は彼が一人で"魔の島"に向かったと言う事を知り、皆が驚愕している最中であろう。


「まずいぞ……どうすりゃ良いんだ?」


それはそれでランスはニヤりとするところだが、マシューの予感は的中した。

彼はランスの事だから何か策があるのだと考えていたが、本人は何も考えちゃいなかった。

故に馬を降り、海岸沿いで海を眺めるのだが……"船"さえイマイチ理解していないランス。

当然 それを"借りる"と言う案さえ浮かばず、再び馬に跨って街中へと戻ってゆく。


「……チッ。 愚民どもめ、魔の島と聞いた時点でビビりやがって……」


……そして30分間。

"魔の島"に行く方法が無いかと適当に聞いてまわったが、皆が存在を恐れ話にならない。

空いている酒場にも行って聞いてみたが、バカにされ……店主を殴り倒している。

船に対しての重要性を理解していないランスは、魔の島に行く方法"そのもの"を聞いていた為でもある。

そうなると もはや"自力"で探すしかく、彼は考えた"モノ"を入手するべく街を散策していた。

結構必死であり、エリウッドが追いつくまでバドンで足止めされていては、バカみたいだからだ。


「飛べるヤツ、飛べるヤツ~……おっ?」


そして、周囲を見渡しながら(馬で)歩く中……

ランスは宿の真横に立てられている小屋に、預けられていると思われる"ペガサス"を発見した。

何処の街でも、馬は勿論 竜や天馬に乗って宿を利用する者は多く、客のニーズに応えた結果だ。


とにかく――――発見した"それ"が彼が考える"魔の島"への、唯一の移動手段であった。




●あとがき●
今回はウンチクばかりで書く方も読む方も非常につまらない回だったと思いますが、
ようやく次回からは面白くなってくると思います。(彼が一人で行くのはキャラの書分けができな……)
原作をプレイした方は気付くでしょうが、次回はペガサスナイトのお姉さんが一緒です。



[2301] ファイアーエムブレム=鬼畜の剣= 本編 その16
Name: Shinji◆9fccc648 ID:37b9b89a
Date: 2009/05/07 23:44
ファイアーエムブレム =鬼畜の剣=

本編 その16 天馬騎士フィオーラ




「ありゃ~ペガサスだな!? こりゃしめたぜッ!」


≪――――ダカカカカッ≫


のんびりと餌を頬張っていると思われるペガサスを遠目に確認したランスは、
周囲の人間の都合を無視して馬を走らせ、(天)馬小屋にへと降り立つ。

そして馬を待たせて置く事にすると、またもや通行人を弾き飛ばして宿の入り口へと走った。

ちなみに宿に勝手に預けた馬や天馬は……宿泊代を払えば店の者が面倒を見てくれるのである。


≪カランカランッ……≫


「……ぐッ……」

「くっそ~……」

「(何だァ? こいつら)」


さてさてランスが宿に入ろうとしていると、丁度 入り口から2人の大男が出て来た。

何やら怪我をしており、片方の男がもう一人の男の肩を借りつつランスの横を通り過ぎてゆく。

その様子を訝しげな表情で少しダケ眺めたランスだったが、直ぐ忘却すると宿の玄関を潜った。


≪カランカランッ……≫


「あっ、いらっしゃいませ」

「おい」

「はい……な、何でしょうか?」

「何だァ~? この有様は」


宿に入ってみると、左右にはテーブルが広がり正面にカウンターが有った。

天井は低く左奥には2Fへと上がる階段が有り、右奥は食事を作る厨房となっている様だ。

……と周囲を見渡したランスは、まず最初に自分(客)を出迎えた給仕の女性に話し掛ける。

多少 片付けられた様子は有るが……まだ幾つかの椅子や食器が地面に転がっており、
接客をしている女性は、彼が入店した直後は"この有様"の片付けをしていた為だ。


「えっと、これは……ついさっき、イザコザが有りまして」

「そういやガタイの良い野郎が出て来てたが?」

「はい。酔った勢いでホラ……あの人に詰め寄っていったんですけど……」

「おっ? 美人っぽいな~」

「一瞬で弾き飛ばされちゃって、酔っ払いの方達には御引取りして頂きました」

「成る程な」

「何処の誰だか知りませんけど、強い女性って憧れちゃいますよね~?」


……余談だが"こちら"の世界の酒場には簡単な決まりがある。

娯楽が少ない世界 故に多くの人々は食事こそが楽しみであり、特に多くの大人は酒を好む。

よって"酔っ払い"が多いのだが、ソレで他人に絡んだ人間は叩きのめされても自業自得。

ついさっき擦れ違った2人の男は、大方 隅で静かに食事を摂っている女性に負けたのだろう。

しかし、軽傷で済んでいたので……まだ運が良かったのかもしれない。

最悪、殺される場合も有る。その逆のパターンも有るのだが、悪名の関係で皆が自重している。

さておき。ランスは何度かセーラ絡みで酒場で暴れた事も多々有るのだが、
そんな理由で今迄 店から一度も追い出されずに済んでいたのである。

大切な客に絡むような迷惑な輩が2度と自分の店に来ない代償と考えれば安いモノなのだから。

だが彼は店主含めムカついた相手を殴り倒したダケの事も多いが、それは彼の強さが成せる業だ。

それもさておき、ランスは強そうだと思われる長髪の女性に若干 興味が湧いたのだが……


「だったら1発……いや、そんな事よりもだ」

「何でしょう?」

「外にペガサスが居たが、此処の客のヤツだろ?」

「はい、そうですけど?」

「アレを持ってる奴に用が有るのだッ。直ぐに案内してくれ」

「それでしたら――――」

「むっ……(この階に居るのか?)」

「例のあの方がペガサスを御預けになっている人ですけど……」

「!?」




……




…………




≪――――どかっ≫


「おいッ! とりあえず先に酒以外で一番美味い飲み物を2つ出してくれ!!」

「か、畏まりました」

「……あの」

「んっ? 何だ?」

「他に沢山 席は有るでしょう? それなのに、何故 其処に座るのですか?」

「それはな、君と話をしたかったからだ。がははははっ」


給仕の女性から情報を得ると、ランスは真っ先に酔っ払いを倒したとされる女性に歩み寄る。

直後 テーブルの正面に腰を降ろすと、自分のダケでなく彼女の分のドリンクを注文した。

対して女性の顔には"迷惑"と書いており……ランスの馬鹿笑いに目を細めている様子。

そんな彼女の見た目は美人系。フロリーナと同じセミロングヘアだが、ウェーブが無い青色。

服装はフロリーナと酷似していたので、良く見てみれば聞くまでも無かったとランスは思った。


「……申し訳有りませんが、私は一人で食事を摂りたいので」

「まぁ、そう言うな。俺様はひやかしに来たワケじゃあ無い」

「…………」

「あんな奴等と一緒にしてもらっちゃ~困るぜ?」

「…………」

「君は見てくれからイリアの"天馬騎士"だろう?」

「そう……です」

「だとしたら、傭兵なんだよな?」

「……何が言いたいのですか?」


ランスが強引な介入をして来ようと初対面ゆえに敬語を使うあたり、女性は真面目な性格の様だ。

つまり酔っ払いでもない人間を無理に追い払ったりする様な考えは無く、立ち去る気も無い。

流石にしつこく絡んで来た酔っ払いは退けたが、軽傷で済ませたのは彼女の優しさなのだろう。

故に一応は話を聞くつもりの様だが、目の前の男の告げて来た話は女性の予想を遙かに越えていた。


「単刀直入に言おう、俺様に雇われろ!!」

「なっ?」

「礼なら弾むぞ? 見ての通り羽振りは良い方だからな」

「…………」

「それで、内容なんだが――――」

「折角なのですが……お断りします」

「なぬっ? 何故だ、傭兵なんだろ?」

「私は生憎 他の依頼を受けている最中なので……貴方の依頼を受ける事は出来ません」

「なんだとォ~?」

「ですから、奢って頂けるのも結構です。一人にさせて下さい」

「むむっ……」

「…………」


……傭兵とは基本的に個人ではなく、少なくとも10名以上の"小隊"を雇う事が多い。

イリア傭兵天馬騎士団の部隊長である彼女の経験からしても、今迄それが普通であった。

しかし目の前の初対面の男性は"自分ダケ"を雇いたいと申し出て来たので、正直 意外だったのである。

そう考えれば、同じ様に個人で雇われていたドルカスを初めエリウッドの傭兵達は揃って異例だ。

だからと言って彼女には"とある覚悟"が有り……ランスに雇われるつもりは無かったのだが……


「だったらペガサスだけでも貸して欲しいんだが?」

「そんな事を言われましても……」

「無理は承知なのだッ。俺様はどうしても"魔の島"に行かにゃ~ならん!!」

「!!!?」

「なに、着いたら蜻蛉帰りして良いぞ? だから命の危険も無いし期限も短――――」

「く、詳しく聞かせて下さいッ! その話!!」


≪――――ガタンッ≫


「おわっ!?」

「あっ……す、すみません」

「いや、構わんぞ。それよか、そっちにも"魔の島"に執着が有ったとはな~」

「……ッ……では、先ずは私の事情から御話する方が良さそうですね」




……




…………




「成る程、依頼で"魔の島"を調べに行ったのは良いが、敵に襲われて自分以外全滅か」

「……はい。大勢の部下を死なせた挙句……私だけが生き残ってしまいました」

「死んだ味方は、皆 天馬騎士だったのか?」

「そうです」

「クッ……(だとしたら全員女か!? 何て勿体無ェ事をしやがるッ!)」


≪――――ガンッ!!≫


「……っ……(ま、まるで自分の事の様に……思ったよりも優しい人なのかしら?)」

「それで"フィオーラ"。お前はこれからどうするつもりなんだ?」

「部下に命を救われ今に至りますが、再び"魔の島"に向かおうと思っています」

「折角 生還したのにか?」

「はい。一晩考えましたが……このままでは死んでいった部下達に申し訳が立ちません。
 ですから例え一人でも任務を果たすつもりです……イリア傭兵騎士団の部隊長として」

「…………」

「私は何が有ったとしても、一度請け負った仕事を投げ出してはならない。
 何せ自分はイリア傭兵騎士団……全ての誇りを背負って戦っているのですから」

「ほぉ、だったら都合が良いな。フィオーラ」

「えっ?」

「俺様を"魔の島"に連れて行け。ちゃんと賃金も払ってやる」

「!? で、ですが危険ですッ! 移動手段が有る私はともかく、貴方が生きて帰れる保障は――――」

「ちょっと待て。まだ"こっち"の話はしてないぞ?」

「あっ……」

「ちゃんと俺様にも行かにゃ~ならん理由が有るのだ」

「そ、それは?」


どうやら"フィオーラ"と名乗った天馬騎士は、死ぬ覚悟で再度"魔の島"に行く気らしい。

だが本当に彼女は真面目な上お節介らしく、一緒に行くと言い出したランスの身を案じてくれた。

そんな慌てるフィオーラの反応に苦笑しながら、ランスは自分が行く"理由"を話し始める。

最大の理由はニニアンの処女を奪う為なのだが……勿論そんな事は言わず、都合の良い説明をする。

その内容は至ってシンプルで、キアランを襲撃したラウスの親玉が"魔の島"に逃げ込んだので、
ダーレンの雇っている(適当)と思われる"黒い牙"を退けつつ奴を殺す……と言った感じだ。


「……と言うワケだ」

「黒い牙……ですか、道理で手に負えなかった筈だわ……」

「気の毒な話だけどな」

「!? だ、だったら尚更"魔の島"は危険な場所だと言う事になりますッ!」

「うむ」

「それに私の任務はあくまで"調査"ですが、貴方の目的はラウス侯を倒す事だなんて……
 無茶にも程が有りますッ、死ぬ為に行く様なモノでは有りませんか!!」


そのフィオーラの考えは最もだ。彼女も前途の通り"死ぬ覚悟"で赴くつもりなのだが、
ランスの"目的"は自分の何十倍も達成 難易度の高い内容であり、正気の沙汰とは思えない。

故に死ぬつもりの自分の境遇を棚に上げて、謎の男の無謀な考えを思い直させようとするが……

目の前の男は余裕の表情であり、フィオーラは意味が判らず無意識に興奮度が上がってゆく。

その様子を見て"こう言うタイプなのか"と心の中でニヤつくと、ランスは自分を演じ始めた。


「……だが、俺様は行かねばならん。奴等を倒す為にもな」

「!?」

「それに攫われた人間も居るのだ、殺されてしまう前に一刻も早く救出する必要が有る」

「で、ですが流石に一人では……せめて軍に……」

「今更 泣き付いて間に合うと思うか?」

「うッ……」

「だから俺様は一人でも行く。そんな訳で案内してくれ、良いなッ?」

「……ッ……わ……分かりました。それでは、貴方の御名前は……」

「あぁ、そう言やァ名乗って無かったか? 俺様は――――」

「(良く分からないけど、凄い人だと言うのは確かみたいね……)」




……




…………




……1時間後、港町バトンの町外れ。


「そろそろ準備できたか~?」

「あっ……はい、ランス様」

「荷物はこれだけだが……それなりに有るな、大丈夫なのか?」

「問題有りません。ペガサスは飛ぶ事 自体には殆ど体力を消費しませんから」

「便利なモンだな」

「そ、それよりも……」

「何だ?」

「先程は本当に申し訳有りませんッ、無礼な態度ばかりとってしまったダケでなく武器まで……」

「…………(またかよ)」

「まさか公爵様とは露知らず、今回の任務に関しましては共に戦える事を光栄に思いたいと存じます」

「……あぁ」

「ですが……やはりランス様。魔の島は危険な場所なので思い直す御つもりは――――」

「くどいぞフィオーラ、俺様は諦める気は無い。それに謝罪も礼も これ以上は要らん」

「す、すみません」

「だから謝るなと言うのにッ! いかんせん真面目すぎるぞオマエは」

「はい……う、上の妹にも良く言われていました……」


新たな仲間となった天馬騎士フィオーラと同行する事になったランスは、遠征の準備をしていた。

主にランスの資金によって賄われ、フィオーラは飛び回り物資を調達すると言った感じである。

その際 彼が貴族と知って大慌てしたり、高級品である"銀の槍"を買って貰って焦ったりと、
なかなか弄り甲斐の有る性格の様でランスは"良い拾い者"をしたと御機嫌であった。

しかし謝罪したり感謝したりする回数がウンザリする程 多く、彼女の真面目さは筋金入りらしい。

ちなみに彼の武器は重量を考え銀の剣が2本のみで、杖も2本。ついでに馬はそのまま預けてある。


「それにしても、フィオーラがフロリーナちゃんの姉貴だったとはなァ」

「私としてもランス様が あの娘と顔見知りだと思いもしませんでした」

「まぁ、今はキアランで旨くやってるぜ?」

「……それを聞いた時、本当に安心しました。本当に傭兵には向いていない性格の娘なのに、
 イリアでは自分も私の様になりたい……とばかり言っていましたから……」

「暫く会ってないんなら、かなり成長してると思うぜ? 色んな意味でな」(セックス含む)

「そうですか……また会うのが楽しみです」

「へッ、案外 早く会えるかもな」

「えっ?」

「いや……何でも無え、とにかく出発するぞ~っ?」

「承知しました……はァっ!!」


≪――――ばささあッ!!!!≫


「うおっ!?」

「し、しっかり御掴まりくださいッ!!」

「(速ぇな、流石は部隊長の手綱捌きってトコか~?)」

「(最初から生きて帰るつもりなんて、無かったのに……)」


≪へッ、案外 早く会えるかもな≫


「(本当に……不思議な方……)」←実は聞こえてた


ランスと出会う直前までは死ぬ気だった為、最期の食事を摂っていたフィオーラ。

彼女は ひょんな偶然からエリウード公爵のランスと知り合い、行動を共にする事となった。

そんなランスの"目的"は屈指の実力を持つ"黒い牙"に守られるラウス侯を倒すという無謀な内容。

故に互いの生還は絶望的なモノと言えるのだが、彼には途轍もない力を感じるのは確かだった。

少なくとも自身を遙かに凌ぐ事から、彼であれば何とかしてしまうだろうと言う頼もしさが有る。

その予想は大方 正解であり、今後 彼女の運命を大きく変えてしまう事となるのだが……


「(ともかく生真面目だが良い女だッ! 魔の島で隙を見てセックスだな、ぐふふふふふっ)」


――――肝心なランスはフィオーラの腰に手を回しつつ、早くも下半身が暴走しそうだった。



[2301] ファイアーエムブレム=鬼畜の剣= 本編 その17
Name: Shinji◆9fccc648 ID:37b9b89a
Date: 2010/03/20 17:16
ファイアーエムブレム =鬼畜の剣=

本編 その17 天馬騎士の決意




――――"魔の島"を目指し天馬騎士フィオーラと共に港町バドンを出発したランスは。




≪バサッ、バササッ、バサササ…ッ!!≫


「うおおおおぉぉぉぉ~~~~っ!!!!」

「あ、あの……ランス様?」

「絶景かな、絶景かなッ! こりゃ~たまらん景色だ!!」

「そんなに動かれると危ないのですが……」




――――彼女と共にペガサスに跨ぎ"無限の空"を駆けており、そんな彼の視界には青い海が広がっている。




「んっ? 何か言ったか~? フィオーラ」

「いえ、その……もしや空や海が珍しいのですか?」

「空はフロリーナちゃんのペガサスや"ソレ以外"でも多少は経験済みだがなァ」

「そうなると……」

「うむ。海ってのは凄いな。地上で見た時もエラいモンだと感じたが、空になると更に凄いではないか」

「はあ」

「どんなに飛んでも景色は大して変わらんが、妙に飽きんのが不思議だ」

「……ッ……」

「どうした~?」

「ま、誠に失礼ながら……海を御知りで無いのは珍しいと思いまして」


良く聞こえない為か耳を寄せて来るランスに対し、遠慮がちに告げてくる彼女だがランスの心境は無理もない。

"あの世界"ではAL教団の本部あたりに"似たようなモノ"は有ったが、無限に広がる海など存在しなかった。

よってペガサスで空に飛び立った事で、初めて視界に入った景色は"最高"なモノ以外の何物でも無かった。

それを既に慣れていたフィオーラは珍しく感じ、指摘してしまったが上機嫌の彼は気にした素振りもなく答える。


「そりゃ~こんな景色とは今迄 無縁だったからな。非常に良いモノが見れたぞ? うむ」

「な、成る程(……少し意外ね……でも貴族の方だし仕方無いのかもしれない)」

「ところで"魔の島"迄は どれ位 掛かるんだ?」

「2~3日は掛かりますね」

「ほう。だったら もう暫くは"この景色"を楽しめるってワケか」

「ら、ランス様ッ! 楽しまれるのも結構なのですが……」

「分かってる分かってる。魔の島の奴等なんぞ俺様が皆殺しにしてやるから安心しとけ」

「!? で、ですが私の部隊が全滅した程です。一筋縄でゆく相手では有りませんッ!」

「がははははは、その程度なら大丈夫だ。俺様は二筋や三筋だろうが殺られる気は無いからな」

「よ……余程 自信が御ありなのですね」

「むっ? 俺様を疑って居るのか?」

「い、いえ……そんな事は無いのですが……(嘘だけど そんな失礼な事を言う訳にはいかない)」

「だが顔は そう言っておらん様だな~」

「うぅッ」

「ふっふっふ。だったら後で試して見るか?」

「そ、そんな……宜しいのですか?(……だけどランス様が手合わせをしてくれると仰るなら……)」


此処でランスは内心ニヤりとした。実は彼女は既に彼の"標的"となっており、落とす気マンマンだった。

堅物なのが玉に傷では有るが、流石はフロリーナの姉と言ったトコロか……普通に美人なのだから。

されど彼が思うにフィオーラは筋金入りの真面目人間だったので、下手な攻めには出れそうも無かった。

彼が公爵の人間と言ったダケで態度を改めてしまう辺り単純なのかもしれないが、悪く言えば潔癖症。

恐らく男性と同乗する事など今迄 一度も無かったのだろう……フロリーナの姉とならば当然かもしれない。

だが"魔の島"へ行かねばならぬ執念とペガサスに乗せる事となったランスが貴族なので必死に我慢している。

ソレが何となく理解できたランスだったが、リン達が合流する期間で出来れば彼女を抱いてしまいたい。

そうなれば早急に"惚れさせる"必要が有ったが、今の会話で"やっぱりか"とランスは口元を歪ませた。


「当たり前だ。俺様としてもフィオーラの腕は見て置きたかったからな」

「し、しかし私の様な人間が……恐れ多いです」

「構わん構わん。そんな くだらん事で互いの実力を理解せず"奴等"と殺り合う訳にもいかんだろ?」

「……確かに……」

「だが今の状況じゃ~どうにもならんな」

「大丈夫です。暗くなり初めてからは孤島に降りて野宿をしますので……」

「成る程な~。だったら後の お楽しみって事にしとくか!」

「はあ……(いかんせん貴方は楽天的 過ぎます。もっと"魔の島"の恐怖を理解して頂かないとッ)」




――――此処でフィオーラは彼の為にもランスを倒す気でいたが、完全に予想を裏切られたのだった。




……




…………




……数時間後。


「はああああぁぁぁぁっ!!!!」

「うおっ?」


≪ガキンッ! ガキンガキンガキィィンッ!!!!≫


先程の会話の通りフィオーラは孤島にペガサスを着陸させるとランスの実力を見定める事となったが……

彼の実力は本物。たった今も矛先を逆に持った"銀の槍"による連続突きも横に構えた"銀の剣"で全て防がれた。

いくら矛が無いとは言え、しっかり重心を入れ一点集中させた攻撃を多少 踏ん張るダケで防御されるとはッ!

よってフィオーラは唇を噛み締めながら防御された反動を利用してクルりと回転しながら槍を薙ぎ払った。


「しっ!」

「おっと」


≪――――ブゥゥウウンッ!!!!≫


「(アレも避けられた!? あ、あんな僅かな動きダケでッ!)」

「流石はフロリーナちゃんの姉貴だ。なかなかヤるではないか」

「そ……それは此方の台詞です」

「がははははは、ソレは当たり前の事だから別に口に出さんで良いぞ」


しかしランスは顔を少し後ろに反らしたダケでアッサリと回避し、フィオーラは距離を取って槍を構え直す。

この時点で彼女はランスの実力を甘く見過ぎていた事を知る。最初は手加減無しで来る様に言ったのだが……

もし全力で来られていれば一瞬で勝負はついた。少なくとも彼女は こんな強い相手と武器を交えた事は無い。

対してランスは相変わらず余裕であり、フィオーラの実力は出会った時のリンよりも上だと感心していた。

リンは剣を始めてから日が浅いとは言え瞬く間に才能を開花させたが、フィオーラは天馬騎士団の傭兵隊長。

しかも彼女よりも4つ以上は年上とならば、実力が有るのは当然。勿論 現在のフロリーナをも凌いでいた。


「クッ……(じ、実力が違いすぎる……勝てる気がしない……)」

「どうした~? フィオーラ。息があがってるぞ?」

「!? こ、これからですッ!」

「……(飽きたな、大体は分かったし そろそろ終わりにするか~)」


≪ダンッ! ――――ヒュッ≫


左手の銀の剣を構えもせず降ろし、右手は腰に当てているランスに対しフィオーラの表情は真剣そのもの。

ランスには彼女を傷つける気なんぞ心身共に微塵にも無いが、気を抜けば首を刎ねられる危機感が有ったのだ。

さて置き。次にフィオーラは右足を強く踏み込むと一気に距離を詰め、彼に渾身の"突き"を放つのだが……


「ふんッ」


≪――――がきんッ!!!!≫


「なっ!? ……ぅあっ!」




――――ランスが右から左に剣を払う事により矛先(逆)が逸らされてしまい、彼の顔面の僅か左を通過してゆき。




≪ぼふっ!≫


「よっと」

「きゃっ」




――――結果 殆ど勢いを殺せなかったフィオーラは、勢いを そのままランスの胸にダイブしてしまった。




「大丈夫か?」(キリッ)

「……ッ……」


≪からんっ!≫


それにより左手でランスは剣を持ったまま右手でフィオーラを抱え込む感じになり、彼女は銀の槍を落とす。

コレはフィオーラにとっては余りにも予想外であり、騎士の命とも言える武器を手放してしまったのだ。

……対してランスには予定通りだった様で、彼の右手はしっかりと彼女のお尻を鷲掴んでいたりする。

胸当ての所為で乳房の感触がしないのは いささか残念だが……それは後で存分に楽しめば良いだろう。

しかしフィオーラが暫く固まっていたので、オシリの感触は今楽しむ事が出来ていた。……しかし十数秒後。


「フィオーラ~?」

「!? す、すすすすみませんっ! 失礼致しました!!」

「何だ大袈裟な」

「えっ? あの……そう言う意味では無く、ランス様の胸を借りてしまうなどと……」

「ンな事いちいち気にするな。ともかく勝負有ったな~?」

「……ッ……は、はい。私の完敗ですね」

「これで俺様の実力は少しは理解 出来たか?」

「非常に御強いと言う意味では……とは言え、まだまだ計り知れない気がします」

「がははははは、良く分かってるではないか」

「…………」




――――慌てて飛び退き少し呼吸の荒かったフィオーラだったが、何を思ったか姿勢を正し畏まった。




「何だ~?」

「ランス様……先程から貴方の実力を甘く見ており、誠に申し訳有りませんでした。御許しください」

「いや別に構わんが」

「故に今回 ランス様と共に戦える事を改めて誇りに思うと共に、足を引っ張らない様に務める次第ですので……」

「あ~っ! だから別に畏まらんで良いと何度も言ってるだろ~がッ!」

「し、しかし私とランス様は身分が余りにも離れておりますし……」

「そのエウリード家って"身分"も有って無い様なモンだと話した筈だぞ? だから無駄に気にせんで良い」

「そう仰いましても……」

「くどいッ! だったら頭の中で幾らでも思う様にしろ。もう俺様の前で口には出すな」

「も、申し訳有りません」

「だから謝らんで良いとも何度言わせれば気が済む?」

「うぅッ」

「お前は何と言うか……どう考えてもフロリーナの姉貴とは思えん真面目っぷりだな」

「そ、それも もう一人の妹に良く言われます」

「だろうな(フロリーナちゃんとフィオーラがコレなんだから、次女ってのも気になるなァ)」

「ところで……あ、あのッ」

「何だ?」

「誠に恐縮なのですが、ランス様が宜しければ……もう一本お手合わせを願いたいのですが……」

「おぅ。構わんぞ? 差し支えない範囲なら付き合ってやる」

「!? あ、有難う御座いますッ! 私などの為にランス様の手を……」

「礼なんぞ いらんいらんッ! 良いからさっさと掛かって来~い」

「は、はいっ! 宜しく御願いします!!」


……こうしてランスはフィオーラを落とすべく、他の女性達と同様 彼女の稽古に付き合ってあげた。

最初は面倒臭くってたまらなかったが、どうも"この世界"の剣士や騎士の女性は強くなる事に余念が無い。

よって非常識に強い彼が鍛えてやるダケで皆がランスに感謝し、大雑把な性格にも何故か惹かれてしまう。

自分は天才で最強で格好良いので当然なのだとは自負しているが、ソレまでの過程が中々 楽しませてくれる!

王様だった時の様に遣りたい放題も十分 良いが、己の身ひとつでイチから女を惚れさせるのも良い気分である。

そしてセックスは自分も相手も十分に感じ、加えて抱いた女性を強化できる。"あちら"には無い贅沢と特典だ。


≪ガキイイィィンッ!!!!≫


「どうした!? そんなモンじゃ欠伸が出るぞ~ッ?」

「くっ!(やっぱり桁が違いすぎる……それに……)」

「おっ? 今のは中々 早かったな!」

「ま、まだまだッ!(……ランス様なら本当に"魔の島"から生還してしまうかもしれない)」




――――こうしてフィオーラは段々とランスに惹かれつつも、2人の魔の島までの旅は続いていった。




……




…………




……3日後。ランス&フィオーラは"ヴァロール島"と言われる陸地に差し掛かろうとしていた。


≪バサッ、バササッ、バサササ…ッ!!≫


「見えました。あれが"魔の島"です!」

「ふ~む、思ったよりも普通なんだな」

「ですが潜んでいる者達の実力は生半可なモノでは有りませんでした」

「だが"魔の島"から湧いた化け物ってワケでも無いんだろ?」

「!? そ、それは その通りですが……」

「ならば気にする必要なんぞ無い。そのまま進むぞ?」




――――ランスにとって"魔の島"の威圧感など、魔人領に比べれば猫とライオンくらいの差が有った。




「あ、生憎なのですが空からは危険かと」

「何故だ?」

「以前 空から進入した際……弓矢による奇襲によって部隊が半壊したのです」

「そう言や~ペガサスは」

「はい。矢を一つ受けるダケで飛ぶ事は叶わなくなり、天馬を失った騎士は落下し命を落とします」

「だったら素直に降りた方が良さそ~だな。俺様は落ちた程度で死にはせんが帰る手段が無くなると困る」

「申し訳有りません」

「謝るな謝るな。ともかく、着陸だッ」

「畏まりました」


≪――――バササッ!!≫


正直なトコロ、後の事を何も考えなければ島の中心部に降下して奇襲し"ダーレン"を仕留める事は可能だろう。

辿り着くのは弓が届かない所まで上昇してから、ランスが飛び降りても大丈夫な程まで高度を下げれば良いのだ。

しかしペガサスやフィオーラの命が危ないのは勿論……暴れた後のランスの安全の保障もイマイチしかねる。

よってランスは彼女の忠告通り陸ルートで攻略する事にしたらしく、数時間ぶりの地面へと降り立つのだった。

そして此処で……彼はフィオーラを抱いてしまう為の過程の最終調整に入る。内心では鼻の下を伸ばしながら。


「フィオーラ」(キリッ)

「……はい?」

「今迄 御苦労だったな。後は俺様一人で良いから此処で待ってて良いぞ?」

「なっ!? そ、そう言う訳にはいきません!! このままランス様の御供をさせて下さいッ!」

「何を言うか。お前の任務は"調査"だろ? それは俺様が奴を殺した"ついで"に持って帰って来てやる」

「ほ、本当に最初から御一人で行くつもりだったのですね……」

「最初 会った時に言っての通りだ。そもそもオマエに死なれたら俺様は戻れなくなるだろうがッ」

「……っ……そ、それでしたら……私のペガサスは何故かランス様にも懐いている様ですし……
 もし私が命を落とす事が有っても、ランス様が"魔の島"から戻れなくなると言う道理は有りません」

「なん……だと?」




――――内心"しめた"と思ったが驚いた素振りを見せる彼に対し、根っからの天馬騎士であるフィオーラは跪く。




「無理な願いだとは分かっていますが、あえて申し上げますッ。私が足手纏いとなるのは百も承知ですが、
 どうか御傍に居させて下さい。そして私が命を落としたので有れば……待たせているペガサスに乗り脱出をッ」

「つまりフィオーラ。オマエは最初から死ぬ気で此処に来るつもりだったんだな?」

「はい……されどランス様と出会えた事には神に感謝しています。単身で"あの様な相手"に挑まれる程の、
 勇気と実力を兼ね添えた"騎士"に仕え果てる事が出来るのですから……私にとってはこの上ない名誉です」

「……(筋金入りだな)」

「しかしランス様は私の自己満足に付き合う必要は有りません。無理と悟れば直ちに此処を脱出して下さい」

「お前を見捨ててでもか?」

「はい。私の事は盾にでも囮にでも利用して頂いて結構です」

「こりゃまた随分と信用されたモンだな~」

「何故なら私とランス様の実力は余りにも違い過ぎていました。それなのに私に対しての様々な対応……
 それら全てを振り返って見ると、傭兵でしかない私の命と比較しても尚 賄えないモノでしたから」


このフィオーラの生真面目さには流石のランスは呆れ果てていた。今や死ぬ事を恐れもしていない様子。

しかも短い付き合いであるランスの為に死んでも良い様な気構えであるし……幾らなんでも命を易く見過ぎだ。

だがフィオーラにとって公爵に傭兵を雇うよりも高い1200ゴールド"銀の槍"を購入して貰い、
闘技場で金策してから行おうと思った旅の準備ダケでなく、貴族の身ながら鍛錬にも付き合ってくれた事は、
自分の命よりも価値の有る事だった様であり、もはやランスの為に命を投げ出す覚悟だったのである。

元から失った部下達の為に死にに行く様なモノだったし、目的が少し変わってしまったが今や些細な事だ。

されど度が過ぎる忠誠心とは言えランスは"今の言葉"に対する返答は既に決めており、腕を組みながら言う。


「ふむ、お前の決意は分かった」

「でしたらッ」

「うむ。連れて行ってやろう……だが一つ賭けをしないか?」

「……賭け?」

「もしオマエが生き残れたら"俺様の女"になれ。逆に死んだら素直に帰ってやる」

「!? ど、どう言う事なのですか?」

「つまりセックスしようって事だ。これからの戦いに生き残れる程であれば、俺様の女に相応しいからな」

「……(滅茶苦茶だけど……もしや私を励ましてくれているの?)」

「どうだ? 乗ってみるか~?」


勿論ランスは彼女を死なす事など微塵にも考えてない。フィオーラは必ず守りダーレンは殺す……それダケだ。

されどフィオーラは死ぬ気 満々なので彼が持ち前の性格で自分を励まそうとしてくれるのだと勘違いしている。

彼女を死なすつもりが皆無なランスと同じで、フィオーラも生きて彼の女になる確率などゼロと思ってるのだ。

よって普段の彼女であれば目上の彼に対してでさえ説教していたのかもしれないが、冗談だと受け止めている。

勿論 満更でもないのだが……彼女にとって後者の条件が非常の良かったので、自然な笑顔を作りながら口を開く。


「ふふふっ、分かりました。もし生きて帰れたのであれば……ランス様に御仕えするのも悪くは有りませんね」

「良しグットだ。だったら決まりだな~、さっさと終わらせて宿屋でセックスするぞ? 別に青姦でも良いけど」

「アオカン?」

「知らんのか? 青姦と言うのはな~、アウトドア・セックスとも言って……」




――――そんな会話をしながら歩き出す2人だったが、流石に緊張感が解けフィオーラは顔を真っ赤にさせた。




「な、何なんだァ!? この女達ァ~!?」

「特に黒い長髪の奴……有り得ねぇ強さだぞ!? ヤバいっすよ"お頭"!!」

「がはははははッ! こりゃ面白ェじゃね~か、気に入ったぜ!!」


≪がきいいいいぃぃぃぃぃんっ!!!!≫


「ライトニング・ライトニング・ライトニング~っ!」(ランスの説得時 指輪を買って貰い転職したセーラ)

「早く船を貸しなさいッ! 私達はランスさんを追わなきゃダメなのよ!!」

「悪いが今は不機嫌なのだ。この戦いが"遊び"とは言え痛い目は見て貰おう」




―――― 一方ランスを追うリン達は、港町バドンで屈強のファーガス海賊団 相手に怒涛の快進撃を続けていた。




●あとがき●
このままランス×フィオーラがもう少し続きます。なかなか書いていて楽しかったです。
お待たせしてしまって本当に面目ありません。本家での多くの投票有難う御座います。



[2301] ファイアーエムブレム=鬼畜の剣= 本編 その18
Name: Shinji◆9fccc648 ID:37b9b89a
Date: 2010/05/17 22:33
ファイアーエムブレム =鬼畜の剣=

本編 その18 魔の島の攻防




――――フィオーラのペガサスを待機させ【魔の島】の奥へと歩き出してから十数分後。




「ら、ランス様……危険なのでくれぐれも御気をつけ下さいとッ」

「えぇい十二分に分かっておるわ」

「ですが流石に歩くスピードが速い様な気がするのですが……」

「これで良いのだ」

「あうッ」

「んっ? これは……廃墟か~?」


守るべきランスの事を考え、彼の前に立ちつつ慎重に進んでゆこうと考えていたフィオーラに対し、
ランスは(彼女が見た感じ)何も考えずにスタスタと前に進んで行くので結局 彼の後を追い掛ける形となった。

もしランスに実力が無く こんな事をしているのであれば気絶でもさせて街に送り返しているトコロだが、
彼の実力は自身を遥かに凌いでいるので、強い制止が出来ず早くも焦りを感じているフィオーラだった。

そんな彼女の心情をランスは微塵にも察さないのは さて置き。ひたすら南下した事で視界に入って来た建物。

朽ちた橋越しに聳える廃墟の砦であり、ソレを見て ようやくランスは足を止め呟くが、相変わらず緊張感は無い。


「……砦の様ですね」

「何か分かる事は有るか?」

「いえ。"以前"はペガサスで進みましたので上を通り過ぎたダケでしたが――――」

「だったら問題無いな。行くぞ~」

「!? お、お待ち下さいランス様ッ!」

「何だ、どうした?」

「先程 私は部隊が半壊したのは……弓矢の所為と申しましたよね?」

「うむ」

「実際には続きが有るのです」

「どう言う事だ~?」




――――この時点でもランスはズンズンと砦を通過しようとしており、フィオーラが並びながら口を開く。




「此処から更に南下した所で弓矢の奇襲を受け私達は後退し、地上から"潜んでいた敵"を退ける選択をしました」

「妥当だな」

「しかし皆が一旦ペガサスを降り態勢を整えていた時……別の集団に襲われた事で壊滅したのです」

「"別の集団"だと?」

「恐らく全て"黒い牙"なのでしょうが、私達は殆ど抵抗する間も無く……皆殺しにされてしまいました」

「そう言えばフィオーラは何で生き残れたんだ?」

「部下が……身を挺して私ダケを逃がしてくれたのです」

「成る程な。ま~皆までは言わんで構わんからな?」

「は、はい」

「それ以前に聞く暇も無さそうだしなァ」




――――(彼が訪ねようとしなかったので)今更とも言える彼女の情報を聞き終えた直後ランスは足を止めた。




「ランス様……えっ?」

「(さてポイント稼ぎだな!)」


≪――――ザザザザッ!!!!≫


『侵入者は排除する』

「!? そ、そんな……何時の間にッ!」

「ふん。コソコソと鬱陶しい奴等だな」

『侵入者は排除する』

「す、すみませんランス様……私の警戒不足です」

「それは構わんがフィオーラ」

「はい?」

「"こいつら"がオマエの部下達を殺ったのか?」

「そ……そうですね。間違い有りません」

「フザけやがってッ(俺様の女に成れた娘が居たかもしれんと言うのに!!)」


フィオーラは察するのが遅かったが、ランスは砦(廃墟)に入った時から其処に潜む気配には気付いていた。

よって予想通り砦の広場辺りで10人以上の"黒い牙"と思われる者達に囲まれてしまい、その場で身構える2人。

この時フィオーラは緊張感の無いランスの事ばかり気遣って居た事で、警戒心が薄れていた事を猛省している。

いざと言う時は彼ダケを逃がす事に躊躇いは無かったのだが……こうも包囲されてしまってはソレすら難しい。

一応 専用の笛(犬笛の様なモノ)を鳴らせば自分のペガサスが駆けつけては来るが、状況を考えれば無意味だろう。

よってフィオーラは早くも絶望を感じていたが、ランスは多くの女性達を殺した周囲の敵に殺意を感じている。

僅かに感じた、以前に相手をした"黒い牙"よりも気配の殺し方が旨いと言う事など今の彼にはどうでも良かった。

対して怒りを露にして銀の剣を抜いたランスの横顔を見た事で、フィオーラは彼の気遣いに普通に感謝していた。


「ランス様……(其処まで私達の事をッ)」

「おい」

「は、はい?」

「囲まれてるし面倒だな。正面を崩したら壁を背にして戦うぞ」

「!? わ、分かりましたッ!」

『侵入者は排除する』

「五月蝿ェ殺人マシーンどもが!! 纏めて死ね~ッ!」

「はああああぁぁぁぁっ!!!!」


早くも死を覚悟していたフィオーラであったが、そんな思考など微塵にも感じさせないランスの闘争心。

しかも彼のソレは何故か包囲している"黒い牙"のチカラすら上回って居ると思え、彼女の士気も上昇する!

そうなればランスを守る為にも戦うしか無く、敵に斬り込む彼に続きフィオーラも叫びながら吶喊した。


≪――――ダダダダッ!!!!≫


『侵入者は排除する』

「ふん、遅ぇんだよ雑魚どもが!!」


≪ザシュッ!! ドシュウウゥゥッ!!!!≫


『!? 侵入者は……』

『……ッ……排除する』

「がはははははッ! テメェも死ね!!」

『侵入者は排除すッ』


≪――――どどぉっ!!≫


正面から突っ込んでくるランスに対し、2人を包囲していた4名が迎え撃つが彼は2名の胴を両断して瞬殺。

次の標的の1名は感情を察せ無いにせよ打ち合う事より防御を選んだ様だが、横に構えた剣など無意味だった。

即ち激しく剣を振り下ろしたランスの太刀にバッサリと体をナナメに両断され最後の1文字を喋る前に絶命する。

対して"この時"フィオーラは残りの1名の"黒い牙"と槍と剣を交差させていたのだが、瞬時にランスが対応した。


「くッ(殺気が読めない……本当に"人間"なのッ?)」

「ランス・バックアタック!!」(只の不意打ち)

『!?!?』


≪――――ガシュッ!!!!≫


「えっ? あッ」

「こらフィオーラ、足を止めるな!!」

「す、すみませんッ!(それにしても凄い……まさか"これ程"だったなんて……)」

「しっかし何なんだ? コイツ等は。斬った時の手応えが微妙だったぞ?」


4人目のフィオーラと交戦していた"黒い牙"は3人を瞬殺したランスに背後から斬られて地面に倒れる。

コレにより2人は包囲を免れ砦の壁を背に、残り7~8名の敵を相手にすれば良い事となったのだが……

今のフィオーラにとって問題なのはランスの圧倒的な"強さ"では無く絶命した"黒い牙"の最期であった。

ランスにとっても以前 倒した"黒い牙"は人間 相応の死に様を見せていたのだが、どう言う訳か"普通"と違う。




――――今倒した4人の"黒い牙"は斬られても血すら流さず、絶命すると消え去ってしまっていたのだ!!




「に、人間とは違う生き物……なのでしょうか?」

「そうみたいだな~」

「"黒い牙"の本性が人間では無いなんて、そんな話は聞いた事が有りませんッ」

「ともかく考えるのは後だ。自分の身は自分で守れよ?」

「は、はいッ!」

「……(まァ当然フォローはしてやるけどな)」


コレはフィオーラにとっては極めて注目すべき事実だと受け止めたが、ランスにとって大事なのは彼女だ。

つまり"この戦い"は自分に対するフィオーラの評価を上げる重要な役割を担うので、始めは全力全快で暴れる。

そして次は彼女のフォローをしながら戦う事で、自分が頼りに成る男だと言う事を十二分に実感させて置く。

そうならばフィオーラを頂くのに そう時間は掛からないと心の中でニヤつきながら彼は更なる戦いに挑んだ。


「(これ以上ランス様の足は引っ張れない……何としてでも御役に立たないとッ!!)」




――――既に彼女のランスに対する評価は鰻登りだった事には気付かずに。(抱かれたいのかは謎なのだが)




……




…………




……十数分後。


「もう腕は何とも無いか~?」

「はい。何から何まで有難う御座います」

「だったら この調子で進むぞ」

「か、畏まりました」


襲って来た"黒い牙"を全て倒したランスとフィオーラだったが、結局 相手の中に"人間"は混ざって居なかった。

皆"侵入者は排除する"と言うコトバしか喋らず、圧倒的な力を持つランスに対して臆する事無く向っては果てる。

人間が混ざっていれば勝手に自殺でもしない限りは脅して情報を聞き出すつもりだったが、不可能だった様だ。


「それにしても妙な奴等だったな」

「そうですね……まさか人間じゃ無かったなんて……」

「以前 相手にした"黒装束"の連中より腕はイマイチだったけどな」

「攻撃に感情が篭ってない辺り、相手にするのに苦労しました」

「でもフィオーラの部隊が全滅する程度だったか?」

「そ、それは先程の様に接近に気付くのに遅れてしまったので……ペガサスも近くに居りましたし」

「成る程な」

「面目有りません。せめて一人でも倒す事が出来ていれば情報を提供できたと言うのに」

「あ~あ~、イチイチ気にすんな」


この時点でランスは砦を抜けて更に奥を目指すべく進んでいる最中であり、休憩すら必要としない余裕っぷり。

その後を追おうフィオーラは、最初は前述の通りランスの事ばかり気遣っていて"敵"に対する配慮が遅れたが、
いざランスの圧倒的な実力を見せ付けられると士気が上がり、さっきの戦いでは3人の"黒い牙"を倒している。

先日 仲間達が皆殺しにされた時も、不意打ちにより動揺してしまった為 本来の力が出せなかったのだろう。

……とは言え流石に右腕を傷付けられたりはしていたが、それはランスの杖によって既に癒されていたりする。

勿論コレはランスにとっては更なるポイント稼ぎでしかない上、杖を使うのは面白いので行ったダケでしかない。

だがフィオーラにとって貴族(?)である彼に傷を癒して貰えるなど感謝してもし切れず、此処でも性分が出る。


「あの……ランス様」

「なんだ?」

「その実力ダケでなく神に仕える者でしか扱えない癒しの杖を使えるとは、本当に御見それしました」

「今更か? 杖を用意した時点で察してたと思ったがな」

「最初は半信半疑でした。騎士が杖を使えるなど聞いた事が有りませんでしたから」

「そうなのか?」

「はい。ですからランス様には本当に驚かされてばかりです」

「何となく適当に振ったら出来たダケなんだがな~」

「謙遜なされないで下さい。"それ程"の能力を身に付けられるまで、余程の道を歩んで来られたのでしょう」

「(杖については違うが)まぁ凡人にゃ真似出来ん人生を送って来てる事は否定せんがなッ」

「やはり……(だからこそ、こんな所で果ててしまわれるのダケは避けないと!!)」


……フィオーラは多少は学習したのか、今回は謝ったり礼を言ったりはせずランスの力を普通に評価する。

その際の会話で若干 擦れ違いが生じているが、この時点で樹海が見えて来たので2人の注目が其方に移った。

此処で浮かんでくるのが"黒い牙"の更なる出現であり、フィオーラの部隊を弓矢で牽制した者達が気になる所。


「フィオーラ」

「はい」

「弓矢は"どのタイミング"で飛んで来たんだ?」

「えっ? えっと、砦を越え"この樹海"に差し掛かった辺りでしたね」

「だったらソイツ等を殺れば邪魔者は無くなるって事か?」

「それは何とも……人間で無かった者達の事も有りますし」

「だよな~」

「でしたら無理せず引き返――――いえ、注意して進みましょう」

「当然だ。行くぞ~?」

「畏まりました」


≪――――ガササッ≫


「ふ~む」

「……ランス様?」




――――樹海に侵入して少しダケ進むとランスは足を止め、軽く周囲を見渡しながら呟いた。




「罠とか胡散臭い手は使って無いっぽいな」

「お、お解かりなのですか?」

「大体はな~」

「(信用して良いのかしら? ……でもランス様の仰る事だし……)」


こう見えてランスは とある"女戦士"に2年もの間 冒険のスキル云々を叩き込まれた経験が有ったりする。

よって"この程度"の樹海であれば周囲を見渡したダケで視界内に罠が有るか無いかは言葉通り"大体"判断できた。

また彼は凄腕の冒険者&世界の王 相応の勘も持っており、既に自分に刃を向ける存在に気付いてしまっていた。


「そんなワケで正攻法で来るらしい」

「!? そ、それは どう言う事――――」


≪――――ヒュンッ!!!!≫


「…………」

「矢ッ!?」


ランスの言葉にフィオーラが首を傾げた瞬間、彼の顔の直ぐ横を何処からか放たれた矢が通過していった!!

それに慌てつつ彼女が身構えると、樹海の奥から馬に跨ったサカの者と思われる風貌の男が静かに姿を現した。

先程の鋭い矢は彼が放ったモノなのだろう。そうなるとフィオーラの部隊を牽制したのも"彼等"なのだろう。

……お察しの通り、当然 潜んでいたのは目の前の"遊牧騎兵"ダケでなく弓矢を持つ"黒い牙"の面々が現れている。


「今ので全く動じんとは、なかなか肝が据わっている様だな」

「ふん。最初から当てる気の無い矢なんぞ何の脅しにもならんわ」

「ふむ……やはり"モルフ"どもを倒したのは お前達で間違い無かったか」

「モルフ?」

「なんだそりゃ?」

「貴様等に話してやる道理は無い」

「……このッ……」

「おいフィオーラ」

「な、何ですか?」

「弓矢の方はコイツ等か?」

「今の技量を考えると、そうだと思います」

「……と言う事は……その女は先日の生き残りか?」

「!? そうよッ! 私はイリア天馬騎士団のフィオーラ!!」

「ふん……愚かな。俺達が牽制した段階で素直に引き返していれば奴等に殺られずに済んだモノを」

「(牽制だと? だったらコイツ等はフィオーラの部隊を殺る気は無かったって事か? ……だが……)」

「他人事みたいに言わないでッ! とにかく仲間達の仇を討たせて貰います!!」

「仲間の後を追うつもりか? されど……もしも大人しく"この島"から去るのであれば見逃してやっても良い」

「この期に及んで戯言を……さぁ!! 貴方も名乗りなさいッ!」

「(生憎フィオーラは殺る気満々みたいだし、通してくれそうも無いしで皆殺しにするしか無いか~?)」

「良いだろう……我が名は"飛鷹"のウハイ……いざ」

「……ッ……」


ウハイと名乗った遊牧騎兵は弓矢を構え、周囲の"黒い牙"達も各々の武器を手に取る。その数は約10名前後。

対して たった2人のランスとフィオーラだが、臆する事なく彼女が構え彼が仕方なく剣を抜く事で空気が凍る。

故に恐らくウハイが矢を放ちランス側が避ける事で戦いの火蓋が斬って落とされると思われたのだが――――


「ちょいと待ちな!!」


≪――――ザクッ!!≫


「ぬぅ!?」

「えっ!?」

「何だァ?」


ウハイが矢を放とうとした瞬間、第三者からの介入が有り……互いの間の中心に短剣が勢い良く突き刺さった!

よって全員がナイフの軌道を追ってみると、今まで気配を殺していたのか其方から新たな人物が姿を現した。

額に紺のバンダナを巻いた薄紫色の長髪をオールバックにした青掛かった男で、掴み所の無い笑みが印象深い。

そんな彼の横槍によってウハイは矢を放つタイミングを逃してしまい、訝しげな表情で第三者の男を睨み言う。


「一体……何のつもりだ? ラガルト」

「"何のつもり"たァ心外だな。負ける勝負を挑むつもりか? ウハイさんよ」

「!? う、ウハイ様……」

「それってどう言う……」




――――突如 現れた"ラガルト"と呼ばれた男の言葉に、ウハイの部下達は信じられないといった表情になる。




「言った通りだ。俺達が束になって掛かっても"この兄さん"にゃ~勝てねぇよ」

「だが……戦いを止めて、どうするつもりだ? 我々は此処を"絶対に通すな"と言う命令を受けている」

「へへへっ、相変わらず御堅いねェ」

「茶化すな」

「おいフィオーラ、何が ど~なってるんだ?」

「わ、分かりません」

「ともかく。通せないんだったら通せる様にすりゃ~良いんだろ?」

「……何が言いたい? ラガルト。お前は まさかッ」

「その"まさか"って事よ!」


この時点で完全に"戦い"と言う雰囲気が消え去ってしまっており……ランスとフィオーラは顔を見合わせる。

それもムリは無い。いざ面倒臭くもフィオーラを守りつつ戦おうとした矢先、相手側に仲介者が居たのだから。

よって警戒を解かずにウハイとラガルトの会話を眺めて居ると、やがてラガルトがランスの方に視線を移す。


≪――――ザッ≫


「何だ? お前が俺様の相手をすると言うのか?」

「俺がアンタと? 冗談は止してくれよ。さっきのモルフとの戦いをコッソリ見てて分かったんだが、
 アンタとは100回 闘っても勝てる気がしねぇよ。何故か寝首を掻ける気もしね~とは困ったモンだ」

「それは当然だが……男が俺様を煽てても何も出んぞ? 死はくれてやっても良いがな」

「勘弁勘弁。それよりもアンタは何で此処に来たんだ?」

「勿論セッ……いや、ダーレンとか言うアホと(コスモスから聞いた)ネルガルとか言う馬鹿を殺す為に来た」

『!?!?』

「だから其処を退け。邪魔するなら殺すぞ」

「いやいや待ってくれって。だったらアンタに"良い話"が有るぜ?」

「……良い話だと?」


此処で"モルフ"が何かと言うのを説明して置くと、早い話ネルガルが生み出した人工生命体の様なモノである。

その"モルフ"にフィオーラの部下達が殺されてしまっており、逆にウハイ達は彼女達を追い返そうとしたダケだ。

しかし人形達は侵入者は皆殺しにする様に命を受けていたので、ソレを忠実に守りフィオーラの部下を殺戮した。

……されど今のランス&フィオーラにとっては、敵の筈のラガルトが何を述べたいと言う事の方が重要であった。


「――――アンタさ、黒い牙に入らねぇか?」

「なぬっ?」

「……!?」

「ラガルト!!」

「ダーレンとネルガルを殺りたいんだろ? だったら悪い話じゃ無いハズだぜ」

「……ふ~む」

「ら、ランス様!?」

「お前……一体 何を考えているッ? 裏切る気か!?」

「俺ァ"義賊・黒い牙"の一員として当たり前の事を考えたダケでしかね~ぜ? ウハイの方こそ何を考えて、
 文句の一つも言わずに奴等に従ってんだ? 生憎 俺は沈む船に何時までも乗ってるって気は無いんでね」

「……ッ……」

「ランス様ッ! こ、この者の話に耳を貸しては――――」

「おい」

「何だい? 騎士さん」

「詳しい話を聞いてやる。話はソレからだ」

「へへへっ、そうこなくっちゃな!」


……実際のトコロ、ランスも流石に気付いていた。ずっとフィオーラを守りながら標的を討つのは難しいのだと。

勿論 自分は英雄なので"難しい"ダケで不可能では無いと自負してはいるが、骨が折れそうなのは確かな話だ。

よって何となくラガルトの話を聞いてみるのも悪くは無いかな~? ……とか思ったりして銀の剣を鞘に収めた。

そのランスの変わり様に対しフィオーラは驚きを露にするが、後に"彼も心苦しいのだ"と勘違いする羽目になる。


「先ずは"魔の島"に配属されてる"黒い牙"の女の数を知りたいんだが……」

「おいおい? そんな事 聞いてどうすんだ~? まぁ構わねェが」

「(……ランス……と呼ばれていたが……確かに"この男"の雰囲気はネルガルのそれを……)」

「(ど、どう言う事なの? ……けどランス様の事だし、何か考えが有るに違いないわッ!)」




――――勿論 彼女の考えは外れており、只単に楽してニニアンとセックスする為に選んだ選択肢に過ぎなかった。




●あとがき●
ここに来て急展開。ランスがラガルトのサポートを受け黒い牙に進入します。まあ悪人面だし大丈夫だよね!?
そして振り回されるフィオーラに御期待下さい。早くウルスラとかニノとかリムステラとかランスに襲わせたい。
それにしても本家の人気投票でこの作品が"これはひどいオルタネイティヴ"を抜かすとかどう言う事なの……?


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