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[2371] NARUTO ~大切なこと~
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2007/12/04 23:34
初めまして、小春日と申します。
初投稿で初めて小説というものを書かせていただくので、拙く読みにくいと思いますが、お時間がありましたら読んでくださると大変嬉しいです。









厚い雲に覆われ、不気味な色に包まれた世界。

ある一つの里に災厄が降りかかった。

その里は“木の葉の里”

今、そこに見えるのは禍々しい妖気を放つ九つの尾を持った大きな狐と

それに対峙する山のようなカエルと、そのカエルの頭上に乗った見事な金髪に晴れ渡った空のような青い目をした青年。

そしてその青年の腕の中には・・・




NARUTO ~大切なこと~




――妖気が一瞬にして消えた・・・四代目やったのか・・・!

さっきまで感じていた妖気のあったほうへ顔を向ける。
とそこへ突然

「三代目!!」

呼ばれたほうを振り返ると銀髪にオッドアイの少年が泣きながら走ってきた。

「三代目!!先生・・・四代目は九尾を自分の息子に封印すると・・・その子を俺に任せる・・と言って行かれたんです・・・!!俺は止めることができませんでした!うっ・・・く・・・先生は・・・先生は・・・!!」

少年は嗚咽を耐えながら必死に話す。

「なんじゃと!!」

この里を襲った九尾とは尾獣の中でも最も強い。いくら忍といえども人間、尾獣には太刀打ちできるはずがなかったのだ。

――封印・・・尾獣は人を器にして押さえ込むことができる。
   しかし、その器とされたもの―人柱力―は・・・

「いかん!!早くその子を見つけなければ!!」




少年と三代目と呼ばれた年老いた男は先ほどまで九尾と争っていたところへひたすら走る。
地面には壊された建物の残骸や人だったものが転がっている。


そしてひたすら走っていたところに金に輝くものが目に入った。


「・・・四代目・・・・・・。」

力なくうつ伏せて倒れている男。
体中血だらけだが、部分的に見えている見事な金の髪はこの里には一人しかいない。
そう、彼が四代目火影。

「先生・・・!!せんせぇー・・・!!」

少年の叫び声ではっと三代目は遠退いていきそうだった意識をしっかりと保つ。
少年が倒れ伏している男にすがり付いている。と、そのそばに場違いなほど綺麗な白い紙が落ちていた。
三代目はカサリッとその紙を拾い上げると、どこかあわてたような字が書いてあった。


    この子の名前は「ナルト」

    俺とうずまき クシナの子です。

    この子の臍に九尾を封印した。

    この子は里の英雄として育ててほしい。

    辛い思いをさせてしまうだろうが、この里の人はみな家族だ。

    きっとナルトなら大丈夫だよ。


――あぁ・・・。

頬に涙がつたう。

――四代目・・・。おぬしは馬鹿な父親じゃ。
   ・・・人柱力がどのような扱いを受けるかわかっておろう・・・。
   四代目、・・・おぬしの気持ちはわしがしかと受け取った!
   ナルトはわしが立派に育てよう!

泣き叫んでいた少年は落ち着きを取り戻し、三代目が手にしている手紙を覗き見る。

「・・・ナルト・・・。三代目!!ナルトは!!・・・ナルトはどこにいるんですか!?」

そう、そこには倒れている四代目しかいなかった。
生存者の気配はない。少年と三代目を追いかけてきている他の忍びたちの気配が近づいてくるだけだった。

三代目はおもむろに四代目の顔を覗き込んだ。
そこにはやさしく微笑んでいる顔があるだけだった。

「おぬし・・・。ナルトは、・・・ナルトはどうしたのじゃ・・・?」

その疑問に答えるものはいなかった。




「ナルトーー!!!!」

後から駆け付けた忍びたちが見たものは、力なく倒れ伏している四代目と、涙を流す三代目、しきりに叫んでいる少年の姿だった。




後に四代目の葬儀が厳かに行われた。その時、四代目のあるものが無くなっていることに誰も気づくことはなかった。

そしてある噂が里中に広まった。

―九尾は生きていて、その九尾は「ナルト」と言うらしい―と。










これは三代目と少年が来る少し前のこと。

里から少し離れた森から何かが里に向かって走っていた。
それは普通より倍ほど大きい狐だった。

「父上ーーー!!!!」

その狐は叫ぶ。先ほどまであったはずの大きな妖気に向かって。
消えた妖気の場所へ近づくにつれて、赤子のような泣き声が大きくなってきた。

いや、赤子のようなではなく、本当に赤子だった。
地面の上で、白い布に包まれた赤子は泣いていた。赤子の隣には微笑んだまま倒れている男。


――あぁ・・・、父上は殺されたんだ・・・。

先ほどまで狐がいた場所には、女性というにはまだ少し幼く、すらりとした体型に淡い金髪を腰まで伸ばし、紅い目をした少女が立っていた。

少女はまだ泣いている赤子に近づき、手を赤子の細い首にかける。

「お前らのせいで・・・。お前らのせいで!!!!」

少女は泣きながら力いっぱい叫ぶ。手に力をこめようとした瞬間、赤子の泣き声がやんだ。


「う・・・あ・・・あー?」

少女と赤子の回りはまるで地獄絵図。そんな中、赤子が微笑んだのだ。
赤子は目の前の少女に向かって短い腕を伸ばす。その姿は必死に愛を求めているただの赤子だ。抱きしめてほしいと声を出して微笑んでいる。

少女は目を見開いた。赤子の目はこんな中でもとても澄んだ青をしていた。
まるで雲ひとつない空だ。


――私はなんて馬鹿なことを・・・。

少女の目には先ほどとは違う涙がつたう。そして、赤子の首から手を離し布に包まれた赤子を抱きかかえようとすると、カサッと何かが落ちた。
それは白い手紙のようなものだった。

少女はそれを手に取り読む。

――ナルト・・・。父上はナルトの中に・・・。

布を少し広げると確かに封印をするためらしい模様が臍を中心に描かれていた。
ナルトと呼ばれる赤子を壊さぬよう大切に抱くと、まだ生えそろっていないがとても綺麗な金髪が目に入った。そして隣の男を見た。

――・・・そっくりね。

少女からやわらかい笑みがこぼれる。
少女は倒れている男に近づき、男の身に着けている首飾りを静かに手にとり、赤子と一緒に森の奥へと消えていった。

その姿を見たものは誰もいない。









あとがき

最後まで読んでくださり本当にありがとうございます!!
改めまして、小春日と申します。
小説というものを今まで一度も書いたことが無かったので、これを小説の言ってよいのか・・・。
こんなものでもしよろしければ、しばらくお付き合いいただけると幸いです。

これからしばらくオリジナルの設定で話は進んでいきますが、ほぼ原作沿いになる予定です。
がんばりますので、よろしくお願いいたします。



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 第1話
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2007/12/06 19:28





僕の名前はナルト、2歳です。僕には姉が一人います。姉の名前は華代(カヨ)です。


姉はとても厳しい人ですが、僕は大好きです。


姉は僕が2歳になると、まるで地面を歩いているような木登りや水の上を歩く水面歩行を教えてくれました。これを修行と言うそうです。


1歳の頃はとにかくずっと気配を消す訓練をしました。気配を消さないと回りの動物たちに気づかれてしまい、ご飯の食材が上手く手に入らないのです。


最初の頃は気配を消すなんてことはできなくて、姉に迷惑ばかりかけてしまいました。でも、姉の厳しい指導のおかげで2ヵ月後には姉でも分からないというくらい気配を消せるようになりました。


今やっている木登りや水面歩行は“チャクラ”というものをコントロールするのに大切なことなんだそうです。


木の天辺まで行くのに1ヶ月近くかかりました。今は水面歩行の修行中です。
だいぶできるようになってきたのですが、まだまだ姉のように長い時間できません。

「ナルト!修行するわよ!」

あ!もうそんな時間。姉は厳しいですが、やったことが成功したり、失敗しても成功するまでがんばって、それができるようになったりするととても喜んでくれます。そんな姉が大好きです。

「は~い!!」




だから僕はとても幸せです。





NARUTO ~大切なこと~ 第1話





木の葉の里から少し離れた森の奥深く。
滅多に人の入らないところに、金髪青目、頬の3本のひげのような傷が特徴的なナルトと呼ばれる幼子はいた。

ナルトの今いるところはとても澄んだ水が流れている川の上だ。早朝の日差しが森の木々の間からこぼれ、川に反射してキラキラと輝いている。そんな中、ナルトは川の上に沈むことなく見事に立っている。ナルトにはまったく気配がなく、目に映っているはずなのに全くいないかのような錯覚を引き起こす。

「今日は午後から里に行くわよ。お昼まで川に沈んじゃダメよ。お昼ごはんについでに魚を取ってきてね。」

その言葉を聞いてナルトは顔を輝かせる。

「は~い!姉さん、里に行ったら本読んでもいいですか!?」

九尾の襲撃があって2年が経った。
里は復興に向けて里人も忍びも力を合わせがんばっている。ナルトはそんな人たちを見るのが好きだった。人々の輝きがまぶしくてキラキラしていて。
姉は苦笑をする。

「お昼まできちんと川に立っていられたらね。」



ナルトが里を姉と訪れるようになったのは2歳になって木登りができるようになってからだった。そして初めて習った忍術が“変化の術”だった。
これを境にナルトはますます修行に励むようになった。忍術に興味を持ったのだ。

変化をしたまま初めて里を訪れたナルトは本というものにふれて感激し、里に行くたびに図書館に篭もっては本を読み漁っている。今ではそれが里に行く一番の目的になっている。

本当だったら毎日でも行きたいのだが、姉が一緒に行かないとダメだと言っていたので、しぶしぶ我慢をしながら森で修行に励む。

初めて里に変化をしたまま行った時は何も思わなかったが、2回目、3回目も変化をして行くことに疑問を覚え、4回目の時、どうして変化をして行かないとダメなんですか?と尋ねたところ、

「ナルトが3歳になったら教えてあげるわ。」

と返された。

1歳の時は気配の消し方、2歳になって木登りや水面歩行・・・だんだんと修行は厳しくなるが姉の喜ぶ顔が嬉しくて、3歳になったら何を教えてくれるのかとナルトは楽しみでしょうがなかった。





「変化!」

ボンッと煙を上げ、その中から12歳ほどのTシャツに短パン、つま先だけ見える黒い靴を履き、その足首にはさらしを巻いた少年が現れた。見事な金髪に、大きな青い目。それはただ、今のナルトを10歳ほど成長させ、頬にあるひげのような3本の傷をなくした姿だ。
違うところと言えば綺麗な金髪が腰まで長く、それを下のほうで一つに束ねているところくらいだ。
そして、この姿に変化した時は“神影 ミコト”と名乗っている。姉がつけた名前だ。


お昼頃になり、ずっと川の上で立っていたナルトは腰を曲げて手だけを川の中に突っ込む。そして川を泳いでいる魚を難なく捕らえ、姉と過ごしている小屋のような家に持ち帰り、食事を済ましたと思ったらすぐに変化をしたのだった。ナルトはとにかく早く里に行きたくて、それが行動に表れている。


「早く早く!!姉さん行きましょう!!」

食事の片づけをしている姉の服の袖を満面の笑みで引っ張る姿は、見た目は12歳でもまだ中身は幼いのだと主張をしているようで苦笑がもれる。

「ちょっと待ちなさい。すぐに片付けるから。」

片付け終えると、姉は変化で茶髪・茶目に変化をし、すぐに里へと出かけて行った。








里に入るとナルトと姉は別行動をとる。


「あら。ミコトちゃんお久しぶりね。」

「こんにちは!」

図書館に着いて司書のお姉さんに声をかけられたナルトは挨拶をし、静かに目的の本を取り、空いている席へと座る。手に取った本はどうやら歴史書らしい。


――何冊も読んだのに、九尾の封印場所がわかりません・・・。

何度か里に訪れたナルトはまず、図書館に置いてある忍術の本を片っ端から読み倒し、それからいろいろな種類のものを読み始めたところ、疑問を持ったのが歴史関係だった。
この里には深く九尾が関係している。ナルトが好きだという里の人々の復興への努力の輝きはまさしく九尾の所為だ。しかし、その九尾に関して記録がほとんどない。九尾の封印場所だけではなく、なぜ九尾に襲われたのかさえ全く記されていないのだ。

ナルトはふと、このことに関して姉に尋ねた時を思い出す。
その時の姉は痛みを堪えたような辛い笑みで

「ナルトが3歳になったら教えてあげる。」

と言っていた。
・・・何があったのだろう。どうして姉にこんな顔をさせてしまったのかとナルトは後悔した。
がしかし、それでもナルトの好奇心は冷めることなく燃え続けている。

今日も今日とて本を読み漁り、一生懸命調べるナルトだったが、真実を知るのはやはり3歳になってからだった。






ナルトと別れた華代はひたすら里中を歩き回る。

・・・いまだに消えない里の噂。

華代は空を見上げる。
そこにはナルトの目のような青い空が広がっている。

――いつか・・・いつかはナルトも里で暮らせるように・・・。

華代の願いとは裏腹に無くならない噂。
そう、―九尾は生きていて、その九尾は「ナルト」と言うらしい―という噂だ。
今では、また襲ってくるのではないかなどと恐れられてしまっている。

まだナルトの耳には入っていない。

華代が里へ来るのはナルトのためである。
ナルトが少しでもこの里に馴染めるように・・・。
里には「ナルト」の名は広がっているが、姿は知られていない。現に、年齢は違うが、ほとんど見た目の変わらない“神影 ミコト”は図書館の人たちを中心に可愛がられている。いつも森で過ごしているナルトに人との触れ合いをしてもらいたかった。

と言うのも、早くナルトに森から出てもらいたいからだ。
年々ナルトと華代の住んでいる森に入ってくる人の気配が増えている。その気配は普通の人よりもかなり薄い。それを示すものは―忍者―だ。
華代はナルトに気づかれないようその忍びたちの行動をいつも見ていた。


・・・それはひどい光景だった。

忍びたちは森に住んでいる狐を狩っていたのだ。逃げ回る狐をまるで遊ぶかのように殺していく。

怒りで我を忘れそうになる華代はなんとかしてその怒りを静める。

――やり返してしまっては、父上の二の舞だ!!

ナルトを悲しませるわけにはいかないと必死に気を静める。
そんなことが年々増えてきているのだ。


一刻も早くナルトには里で過ごしてもらいたいと思う一方、「ナルト」として過ごせそうにない里の様子。だが人との触れ合いができなければ、もしナルトが「ナルト」として里で過ごせるようになったとしてもナルト自信が心を開かなければ意味がない。だから、時々里へと出かけて「ナルト」ではないが、人と会話をさせるようにしている。

華代はこの2年ずっと里を観察してきたが、まだナルトには危険だと確信するだけだった。しかし、そんなことを言ってはいられない。
家には華代が幻術をはっているが、狐を狩る忍びたちに見つからないとは言い切れない。


――里人は家族・・・・・・か。

ふいにあの男の顔を思い出す。

――私も、ナルトなら大丈夫と思うわ。

私も大概親馬鹿ね、と苦笑をもらす。
華代は上げていた顔を前に向けひたすらまた歩き続けた。





そしてまた、森では修行をし、時々里で過ごす日々を繰り返し、ナルトは3歳になった。










あとがき

最後まで読んでくださりありがとうございます!!
誤字がないか何度も読み直して、やっぱり下手だなぁと嘆いています、小春日です。
小説というものを書くのは本当に難しいと痛感しております。
里とナルトの関係が上手く表現できるよう精進します。



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 第2話
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2007/12/08 11:57





10月10日。僕は3歳になりました。


ずっと待ち遠しくて楽しみにしていた日。


本を読んで気づいたことは九尾が封印された日も10月10日だということ。


時々里に行くようになって知ったことがあります。
僕の誕生日と同じ日に里では“慰霊祭”というものがあっているそうです。


慰霊・・・死者の霊魂を慰めることですよね。九尾によってたくさんの死者が出たのは本を読んで知っています。きっとその人たちのことですよね。


僕は午前中の修行の時に姉に内緒で変化をしてこっそり里に行きました。
もしかしたら九尾について詳しく知るチャンスだと思ったんです。


里を歩いていると、知り合いの人に会いました。
里の噂話を聞かせてもらいました。




・・・あぁ、そうか。




九尾は僕に封印されていたんですね。

水面歩行の修行のとき、始めの頃はすぐに川の中に沈んじゃって、服が濡れちゃうから上着を脱いで練習していた時、チャクラを練ろうとするとお腹に浮いてくるうずまきのような模様は九尾を封印するためのものだったんですね。


でも、僕は僕だよ?九尾なんかじゃない。ねぇ、そうだよね、姉さん。







NARUTO ~大切なこと~ 第2話







里では慰霊祭が行われている、そんな日の午後。
ナルトはいつもの川の上で修行していた。
何か思いつめた表情のまま、その修行は夕飯の前まで続いた。




「ナルト!いつまで川の上で突っ立っているの!今日はあなたの誕生日だから午前中だけで良いって言ったじゃない。もう夕飯の準備できてるわよ。」


「・・・姉さん。」

ナルトはゆっくりと顔を姉の方へ向ける。

「どうしたの?そんな暗い顔をして。」

いつもと違うナルトの雰囲気に華代は首を傾げる。

「ううん。なんでもないです・・・。」


そう?と明るい華代の返事を聞いて、ナルトは迎えに来てくれた姉の後を静かについて歩く。しかし、数歩進むと立ち止まり下に向けていた顔を正面へともどす。
その目には火が灯っていた。

――家に着いたら姉さんに聞いてみよう。









そのまま無言で家へと帰り、いつものように向かい合って食事を済ませたナルトはおもむろに口を開いた。

「姉さん。」

静かな小さい部屋の中、小さな呟きもハッキリと響く。

「ん?」

華代は食器を片付け終え、ナルトの正面へと座る。
ナルトの視線は先ほどから下の方をふらふらとさまよっている。


「ごめんなさい。・・・僕、姉さんの言いつけを破って今日の午前中、里に行ったんです。」

しんと静かな空間に息を飲む音が響いた。


「今日は里の慰霊祭だって聞いて、見に行ったんです。僕が九尾について興味を持っていたことは知っていますよね?九尾について詳しく知るチャンスだと思ったんです・・・。そこで里の噂も聞きました。」

華代は無表情で淡々と話を聞いている。しかし、その紅い目には悲しみが湛えられていた。

「姉さんは知っていたんですよね?だから里に行く時は変化をするように言っていたんですね。・・・僕は・・・僕は九尾なんですか?」


それを最後にナルトは押し黙り、華代の顔をじっと見つめた。
ナルトの顔は辛さや悲しみなど微塵も感じられない、前を見据える凛とした表情だった。

――あぁ、変化をしている時も思ったけれど・・・ナルトは本当によくあの男に似ている・・・。

そっと目を閉じた華代の瞼の裏には3年前、ナルトの横で倒れ伏していた男の顔が見えた。
そして華代は表情を和らげ、ナルトとの約束を果たすために話し始めた。


「ナルトは気づいているでしょう?ナルトは九尾ではないわ。九尾を封印するための器だったのよ。」

ナルトはおもむろにお腹を撫でるような仕種をする。

「そう。ナルトのね、お臍に九尾は封印されているのよ。そして、九尾は・・・私の父上よ。」

「えっ!!」

青い目を真ん丸くして、姉を凝視する。

――九尾がお父さん・・・?

そしてふと疑問に思ったことを口にする。

「僕のお父さんでもあるの・・・?」


ナルトはいままでずっと親のことを気にしたことはなかった。
姉がいるだけで十分幸せだったからだ。里で親子連れを見てもうらやましいとは一度も思わなかった。しかし、どんな親だったのかは何度か疑問に思ったことはある。まだどこかで生きているのか、それとも死んでいるのか。僕のことをどう思っているのか・・・。


「いいえ。ナルトと私は血がつながってないわ。私はね、妖狐なの。でも、ナルトは人間よ。」

「っっ!!!!」

ナルトは驚きを隠せなかった。
自分と姉は、歳は離れているが実の姉だと思っていたのだ。髪の色も多少違うが金色だ。
今まで疑うことが無かった。

しばらくして落ち着きを取り戻し、

「・・・姉さんのお父さんなら、僕のお父さんでもありますよ。」

ナルトはニコリと歳相応の笑顔を浮かべ、続ける。

「僕、いっぱい本を読みましたが、九尾の・・・お父さんの封印場所がやっとわかって嬉しいです。でも、お父さんは何故里を襲ったんですか?本には全然理由なんて記されてなくて・・・一方的にお父さんが悪いという風にしか載っていなかったんです。」

華代はとても驚いた。3歳になったら全てを話そうと決意していたが、やはり、心のどこかではこのまま知らないままで過ごしてほしいと思っていた。しかし、ナルトは華代の話を受け入れ、しかも

――父上をお父さんと呼んでくれるなんて・・・。

自然と目に涙がこみ上げてきそうなのをぐっとこらえ、ナルトに微笑む。


「ナルトはもう本を読んで、この里ができたときのことを知っているわよね。」

ナルトはコックリとうなずき、
「うん!初代火影様がここの土地神様と契約をして、里を作らせてもらったんですよね。」

「そう。その土地神様が父上だったんです。」

ナルトはその言葉に驚いた後、すぐに不思議そうな顔を浮かべる。

「お父さんはそんなにすごい神様だったのに、どうして・・・。」

「父上と初代火影はいろいろな条件で契約を結んだの。だけど、時代が経つにつれてその契約の内容を里の人々は忘れていったわ。

その契約の中に、“森の生き物を荒らすべからず”というものがあるの。
もちろん里の人々も生きていくために森の生き物を狩るわ。それはお互い生きていくために必要なことだもの。殺してしまった命を無駄にしなければいいの。

でも、3年前の今日、里人は契約を破ってしまったの。」

ナルトは姉の気配が徐々に殺気立つのを感じ、ゴクリと唾を飲んだ。





「3年前の今日、里人は私の弟を遊びで殺してしまったの。」












あとがき

短くてすみません。中途半端ですみません。
本当に小説は難しいです。
今まで学校の教科書ぐらいしかまともに読んだことがありません。
本は読んだほうが良いですね。語彙が足りなくて表現が拙いです。



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 第3話
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2007/12/09 13:40







「姉さん!早く妖術教えてよ!」


弟は私の袖を引っ張りながら修行場へと急かす。


「ちゃんと教えてあげるから、そんなに急かさないの。」


自然と顔が緩む。幸せだと感じる。振り返った弟は満面の笑みだ。




あぁ・・・幸せです







NARUTO ~大切なこと~ 第3話







空は澄み切った青が広がっている。
そんな空の下、弟は一生懸命私が教えた術を練習している。なかなか上手くいかなくて、悔しがったり、ちょっと成功しそうになって喜んだり、コロコロと変わる表情が楽しくて私は飽きることなくそれを眺めていた。


「姉さん姉さん!!ほら!ほらできたよ!!」

よほど嬉しいのか、ぴょんぴょんと跳ねながら小さな狐火を出して笑っている。

私はそんな弟に手招きして、トコトコと近づいてきた弟の頭に手を置き撫でる。

「よくできたわね。」

たった一言だけど、いっぱい気持ちをこめて。

それに弟はまた喜び、笑う。


幸せだった。




そんなことをしながら、また今日も過ぎていくはずだったのに。






ふと私は空を見上げた。
空の青が雲に遮られ、どんよりとしている。


――嫌な天気ね。

雨が降る前にと思い、いつのまにか狐の姿に変化していた弟に声をかける。

「私は先に帰るから、雨が降る前に帰ってきなさいね。」

は~い!!と元気な弟の返事を聞いて、私は家へ帰っていった。






夕飯時、いまだに帰ってこない弟と父を不審に思い、外へ出ると、空はますます暗さを増して不気味な世界を作り上げていた。


――弟の気配が無い・・・?

父の気配は私なんかでは全く分からないが、弟の気配の消し方はまだまだ拙く、私でも簡単に見つけられるはずなのに、いつの間にか全く感じられなくなっていた。

私の鼓動がだんだんと速くなり、手が汗ばんでくる。
そんな時だった。



「ウ゛ォ゛ォォォーーー!!!!!!」


耳を劈くような咆哮が聞こえた。

――父上!!?

咆哮のした方へ顔を向けると、そこには九尾となった父が、けたたましい咆哮を上げ、それとともに何かが崩れるような破壊音が続く。

――父上があんなに怒り狂うなんて・・・!!


私は父のほうへと走ると同時に狐の姿に変化した。

我を忘れたように暴れ続ける父を視界のすみに留めながら早く、早く!と必死に足を動かす。
どうしてもっと早く走れないのか・・・!!




ひたすら走っていると、道にポツリと何かが転がっていた。


――もしかして・・・

私の鼓動がこれ以上ないというくらいバクバクと音を立てて速くなる。

――もしかして!もしかして!!!!

先ほどまでの力強い走りが、まるで嘘だったかのように、足が前へと進まない。


しかし、だんだんと、ゆっくりとその塊へと近づいていく。




それは子狐だった。

鼻を近づけてみる。


――あぁ・・・弟の匂いだ。

体中クナイか何かで切り刻まれ、血だらけではあるが、弟の匂いがかすかにする。
毛がこんなに血だらけでは毛皮にも使えないだろう。
・・・ということは

――弟はただ殺されたのか・・・!!!!


人の生きる糧として殺されたならば、悲しいがしょうがない。
弱肉強食の世界。それは覚悟の上だ。
しかし、しかしだ!!

何の意味も無く殺されてしまった弟はどうなる!!?


――・・・熱い・・・

子狐のそばにいた狐の身体から殺気がもれはじめ、もともと紅かった目はさらに深みを増し、その眼差しを里へと向ける。

――殺してやる!!!!



2匹の狐がいたところには、いつの間にか血だまりしかなかった。







里へとひたすら走る狐。
普通の狐より倍ほど大きい狐が眼光をギラギラとさせて走っている。

すると、突然大きな妖気が一瞬にして消えてしまった。

――っっ!!!!

先ほどまで視界に留めていたはずの父の姿が無い。気配さえなくなってしまったのだ。

――父上が・・・?父上が・・・まさか?

ひたすら走る。

走る。




もうすぐ里のそばというところで私はとにかく叫ぶ。

「父上―――!!!!」



森から抜け視界が広がるとそこは見るも無残な地獄絵図。
その中で泣き声だけが響いている。


――・・・赤子・・・?


そう、そこに近づくと、泣き声を上げている赤子がいたのだ。












あとがき

またまた短くてすみません。
書けるときにがんばって書きます!



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 第4話
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2007/12/10 18:47





誕生日って、本当は周りの人に感謝をする日なんだと思いました。


姉さんは正直にすべて話してくれました。


姉さん、辛かったね。悲しかったね。


そんな中でも僕を見つけてくれて、


育ててくれてありがとう。





心からの感謝を







NARUTO ~大切なこと~ 第4話







「最初ね、ナルトを見つけたときは殺してやると思ったわ。」

話し始めた頃に出ていた殺気は次第におさまり、今では淡く微笑みながらナルトを見つめている。

「でもね。ナルトの首に手をかけた時、ナルトが一生懸命私に手を伸ばして笑ったの。」

その時のナルトが私には天使に見えたわ。と少し涙声。

「なんて私は馬鹿なことをしているんだろーって。復讐なんかどうでも良くなっちゃったの。」

今度は笑いながら。

「私はナルトの笑顔で救われたのよ。」

じっと黙って聞いていたナルトの目からポツリ、ポツリと雫が落ちる。


「封印を解こうとは思わなかったんですか・・・?」

華代はニコリと微笑んで言う。

「思わなかったわ。それに私にはその封印の仕組みがわからなかったの。でも、もしわかっていても解かないわ。言ったでしょう?私、ナルトに救われたの。ナルトが笑ってそばにいてくれるだけでいいの。」

ポツリ、ポツリと涙の雨が降る。

――ありがとう・・・姉さん。

ナルトは恥ずかしくて顔を下に向け、涙と赤くなった顔を隠そうとする。そして、そのまま思ったことを口にした。

「お父さんは、妖狐でも姉さんと弟さんの立派な親だったんですね。悪いのは先に手を出した里人です・・・。」

ナルトの口から漏れた言葉に華代は首を振る。

「確かに、親としては立派だったかもしれないけれど、里のほとんどを壊すだなんて・・・父上はやりすぎてしまったわ。いくら先に契約を破ったのが里人だからって、そこまでする必要はなかった。その所為で里に大きな悲しみと怒りを残してしまったもの・・・。」

ナルトは全く関係ないのに。そんな言葉が続きそうだった。

ナルトは手の甲でぐいっと涙をふき取った。その顔はとてもすがすがしい。
知りたかったことがやっとわかったのだ。内容は辛いものだったが、それでもナルトの好奇心を静めたことに変わりない。



すると、華代がナルトに向かって手招きしている。手招きしている反対の手では自分の膝に座るように指示している。

ナルトは立ってトコトコと歩いて姉のそばに行くと脇の下に手を入れられ膝の上に乗せられた。そして姉はそのままナルトを羽交い絞めするかのように抱きしめる。
そのせいでお互いの顔を見ることができない。



「ナルトのお父さん・・・人間のお父さんのお話をしましょう。」

その言葉にナルトの小さな肩がピクリと反応した。


「僕のお父さん?」

「そう。」

姉の顔は見えないままだ。

正直に言うとナルトはとても不安だった。確かに知りたいことではあったが、同時に知りたくないことでもある。
一度も見たことも聞いたこともない父。
僕のことを嫌いだったのかもしれない。
僕は捨てられたのかもしれない・・・。


「ナルトの名前はね、あなたのお父さんがつけたのよ。」


あの手紙からすると、きっと親馬鹿になっていたわね。と楽しそうな姉の声が上から降り注ぐ。

「ナルトに九尾を封印したのはお父さんよ。でもね、ナルトに九尾を封印したのはあなたが嫌いとかそんなことじゃないわ。あなたは誰よりもお父さんに愛されていたわ。」


その言葉を聞いて、ナルトからくぐもった嗚咽がもれる。

――良かった・・・。

ナルトの目からは止めどなく涙が落ちる。

――良かった。

その姉の言葉だけで、心が満たされる。


「あなたのお父さん・・・四代目火影は九尾を封印して死んでしまったけれど、その時の顔は父親の顔だったわ。」

いつの間にか姉の腕は解けていて、すっとナルトの首に何かをかけた。


「あなたの誕生日プレゼントよ。」

ナルトの首には数本の棒がぶら下がっている首飾りがかかっていた。


「それはね。四代目火影がしていた首飾りよ。どう?あなたのチャクラと似たチャクラを感じるでしょう?」

そう聞かれてナルトは首飾りに触れる。


本当だ。
僕のチャクラと似ています・・・。


「僕、大事にします・・・!!」

ナルトの顔は涙でもうぐしゃぐしゃだった。
華代はやさしくナルトの頭を撫でる。

「里の人間は、「ナルト」が九尾だなんて言っているけれど、あなたはあなたよ。父上なんかじゃないわ。」

ナルトは力強く頷いた。


「ナルト。どんなことがあっても負けてはダメよ。」

その言葉にナルトは首を傾げる。

「でも、僕はまだ姉さんにも勝てませんよ?」

姉は首を振って答える。

「そうじゃないの。“心”が負けてはダメなの。辛い時はね、無理にでも笑いなさい。笑っていると自然と力がわいてくるの。ナルトの笑顔は私に力をくれるわ!」

だからどんなことがあっても負けてはダメよ。しっかり胸を張って生きなさい。と、姉は笑いながら言った。

「僕はずっと姉さんのそばにいますよ。僕も姉さんがそばで笑ってくれるからがんばれるんです。姉さんが嫌だって言っても離れません。」

涙の痕が残った顔に満面の笑みでそう告げるナルトをまた華代は羽交い絞めする。
華代の目には涙が浮かんでいる。



「誕生日、おめでとうナルト。」








華代の目に浮かんだ涙は嬉し涙だったのか・・・それを知っているのは華代だけだった。














あとがき

なんとか今日更新できました!
ちょうど2ヶ月前はナルトさんの誕生日でしたね。おめでとうございました。
なんだか暗い話で申し訳ございません。



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 第5話
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2007/12/12 16:44






僕にとって最高だった誕生日が終わろうとしていた夜、


夢を見ました。


いつもと違ってやけに現実味があって、目の前には大きな牢獄のような格子があります。


その向こうには




・・・狐?


大きな、大きな九つの尾を持った狐がいます。


僕の身体は少し震えて格好悪いけれど、しっかりその狐を見ながら声をかけました。




「お父さん?」





目の前の大きな狐の目から涙がホロリと落ちました。







NARUTO ~大切なこと~ 第5話







早朝、5時ごろだろうか、ナルトはむくりと上半身を起こした。

なにやら夢でたくさんの会話をした気がする。

九尾の封印を解くとナルトは死んでしまうとか、九尾のおかげでナルトの怪我はすぐに治るとか、四代目火影が九尾を封印する時に使った術だとか、この封印は九尾の力を使えるような仕組みになっているとか・・・。

夢の中の九尾のお父さんは最後に

――「ワシのチャクラを使え。」

と言っていたような、言っていなかったような・・・。如何せん夢だったので、寝起きの頭でははっきりしなかった。


姉はもう朝食の支度を終え、ナルトを起こそうと思っていたところ、その場でボーっとしているが起きているナルトに顔を洗ってくるように言い、二人で朝食を済ませた。






「今日から、忍術の修行をするよ!」

2歳になって1年間チャクラコントロールだけをひたすら修行してきたナルトはチャクラの使い方は非常に上手くなった。
使う忍術によってチャクラの消費量は異なるが、ナルトのチャクラは父親譲りのものすごい量を持っている。
そして、知識だけではあるが忍術の本を大量に読んでいたので、ナルトはこの姉の言葉に顔を輝かせる。


「姉さん!妖術も教えてください!」

華代ははっとナルトの顔を見た。そこには弟の顔が見えた気がした。

「ナルトには妖のチャクラが無いでしょう?」

だから無理よと苦笑をもらす。しかし、


――父上のチャクラ!!?

突然、目に見える赤いチャクラ―九尾のチャクラ―が小さなナルトを包んでいた。
ナルトの目はいつもの空のような青ではなく華代のように紅くなっている。

「僕、夢の中でお父さんに会ったんです。」

お父さん、チャクラを使えって言っていたけど・・・、まさか本当に使えるなんて。となんとも無い様子で告げるナルトに華代は驚く。

――父上のチャクラを使いこなすなんて・・・。1年間しっかり基礎をつけただけあるわ!

無言でうんうんと頷いている華代をナルトは不思議そうな顔をしてコトリと傾けた。





その日から、午前中はチャクラを全身に行渡らせて肉体を活性化し、その状態で体術の訓練や、チャクラコントロールの応用の形態変化に、性質変化を増やす訓練をし、午後は忍術と妖術の修行をする日々をナルトは過ごし始めた。



体術の訓練の前にチャクラを身体の隅々まで行渡らせるのは至難の業だった。
華代はそれを難なくやってみせ、拳を地面に叩きつければ地割れが起きた。
ナルトも時間をかければ隅々までチャクラを上手く行渡らせることは1ヶ月ほどでできるようになったが、まだ姉のように一瞬ではできないでいた。
しかも、全身にチャクラを行渡らせた状態をこの訓練を始めた頃は5分ほどしか保てなかった。
しかし、努力を惜しまないで訓練したおかげで、今では一瞬でチャクラを身体全体へと行渡らせ、その状態をほぼずっと保つことが出来るようになった。
その2ヵ月後には姉に勝るとも劣らないほどの体術をつけていった。



それと同時進行で形態変化を身体に叩き込んだ。
チャクラコントロールは本当に見事で、具現化するのに対して時間はかからなかった。
ナルトは指先から長くて細い、しかし切るのに非常に困難な糸状のチャクラを出したり、チャクラを凝縮して指から切れ味の良いチャクラ解剖刀を出したりすることが出来るようになった。
その調子でトントン拍子に進むと思いきや、すぐにできることばかりではなかった。
夢の中でお父さん(九尾)と語った四代目の技―螺旋丸―を修得するにはとても難しかった。
螺旋丸とはチャクラの渦を手のひらの上で最高まで凝縮した技だ。それはまるで小さな台風だ。当たれば一溜まりもない。その技をナルトは発想の転換で会得する。

いきなり台風のような凄まじいチャクラを手のひらに収まってしまうようなサイズにしようとするから無理が生じるのだ。
だからまずは形にかまわず手の上に大きな台風を作るかのようにチャクラを発生させる。これ以上無いというくらい荒れたチャクラの台風が手の上に発生できるようになってから、徐々に周りから圧力をかけるつもりで丸く縮めていく。
それをナルトはひたすら繰り返し、1ヶ月でようやく螺旋丸は完成したのだった。



そして楽しみにしていた忍術・・・。
姉は実を言うと忍術にはあまり詳しくなかった。
変化の術は姉も使うので2歳の頃には教えてもらったが、それ以外は人間の術に興味を持たなかった姉にはナルトに忍術を教えることは出来なかったのだ。

――姉さん・・・。

それを知った時ナルトは少し呆れてしまったが、里の図書館で本を読みつくしていて心底良かったと思ったそうだ。
そしてナルトは本から得た知識を元に、分身の術や変わり身の術、簡単な幻術などはすぐに使えるようになった。

ナルトは図書館で忍術について学んでいる時、自分のチャクラの性質を紙で調べて見たところ、紙が切れたことによって風の性質だと分かった。なので、風遁系の術は得意だ。
しかし、風遁以外の術を扱えるように様々な術にも挑戦し、ほとんどの属性の術も会得してみせた。
高度な忍術は印が増えるため、とにかく印をすばやく組めるようになる訓練をした。
世の中に禁術というものがあることは知っているが、図書館に禁術関連のものが置いているはずもなく、どんなものなのか気になって気になってしょうがない日々を過ごす。
しかし、それも2年後には解消される。



ここから姉の本領発揮だ。
妖術―妖魔だけが使える術。
姉はさすが九尾の子ということでほとんどの妖術を修得していた。
特に九尾の得意としている妖術は“火”だ。

基本の“狐火”から九尾最強の技“狐皇炎(ココウエン)”と様々な火属性の妖術をナルトに叩き込んだ。ナルトも父、九尾のチャクラのおかげでそれらを難なく修得し、それらの技を磨くために毎日修行に励んでいた。


そんな充実した日々を二人で過ごしていた。
いや、実際には森の動物たちとも華代はもちろんのこと、ナルトも仲良く過ごしていた。

生きるために狩ることもあるが、無駄な殺生は絶対に行わない。
森の動物たちに二人はとても信頼されていた。


二人は幸せだった。このままずっと続くはずだったのに




終わりを告げる事件は起こった。












あとがき

今、必死に原作を読んでおります。
自分でオリジナルの技を作るのは大変難しいですね。



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 第6話
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2007/12/12 16:50






木の葉の里のそばにある森の奥深く、


金髪青目の幼子が気配もなく川の上に立っている。


ナルトだ。


今日も欠かさずチャクラコントロールに励んでいた。


その子の周りには様々な動物たちがくつろぐように集っている。


ナルトは川の上に立ったままおもむろに印を組み始める。


一瞬で組んだ印から火遁豪火球の術を発動させると、周りの動物たちはビクリと驚いたような反応を見せる。


もちろん動物たちに当てるようなまねはしない。


その反応が楽しくて声を出して笑うナルト。


その姿は歳相応だ。







NARUTO ~大切なこと~ 第6話







時は夕刻、もうだいぶ空は赤から夜の色へと変わり始めている。

――そろそろ夕飯ですね。

ナルトは川から上がり、動物たちに別れを告げる。
帰るついでに寄り道をして山菜を摘み家へと向かう。


――なんだか、今日は森がざわついている・・・?

ナルトはいつもとどこか違う雰囲気に首を傾げた。


ナルトは年々森に入っている薄い気配を感じ取ってはいたが、姉が気にしているような素振りを見せたことが無かったので、気にすることはなかった。

――今日もまた5人の気配がしますね・・・。

ナルトにとって気配をよむことは姉のとても薄い気配を探り慣れているため、人間である忍の気配はいくら上忍や暗部といえども簡単に探ることが出来る。それとは対照に、ナルトは森では常に気配を消して過ごしているため、磨きがかかり今では空気同様の存在となっている。

――早く帰って姉さんの夕飯作りの手伝いをしましょう。

何故かざわつく胸を気にしないように、採ったばかりの山菜を抱えて家へと帰っていった。







――姉さんの気配が無い・・・?

家のすぐそばまで来たが、そこから全く何の気配も感じられない。

――入れ違いになってしまいましたか。

姉の華代は時々、ナルトの帰りが遅いと迎えに来てくれる。
今日も川へ行くと言ってから出かけて行ったのできっと入れ違いになったのだ。
最近では出かける場所を言ってから出かけなければ姉でさえナルトを見つけることが出来なくなっていた。

ナルトはとりあえず家に入り、山菜を置いてからまた川へと向かった。






ナルトの胸は川の方に近づくにつれてざわつきがひどくなる。

――どうしたんでしょう。今までこんなこと無かったのに・・・。

嫌な感じがする。とても。



歩がいつの間にか走りへとかわり、ついにはチャクラを全身へと流し込む。
その走りはもう人の目では捉えられない。

姉に近づいているはずなのに、胸の不安が拭えない。修行の最中だってこんなにも息苦しいことは無かった。

川へたどり着いたが、華代の気配は感じられない。ナルトは必死になって川の周辺を探し始めた。


――少し、落ち着かないと。

そう胸に言い聞かせ、落ち着きを取り戻そうとする。すると、さっきから森でずっと感じていた忍びの気配が意外に近いことに気づいた。
物音一つ立てずに忍びたちに近づくと、忍びとは思えない大きな声で会話をしていた。


「だいぶ狐も減ってきたと思ったら、今日は大物だったな。」

「ああ。もっと甚振ってやりたかったのによ。すぐに逃げちまって。くそ!あ~ぁ、残念だぜ。」

「ま、とは言ってもあれじゃぁ、すぐに死んじまうだろ。かなり強力な毒だしよ。」

もろ刺さったからな。と笑い声が聞こえる。


ナルトの顔は次第に青ざめていった。

姉はナルトの3歳の誕生日を境に時々狐の姿にも変化をするようになった。姉曰く、「この姿のほうが走りやすいのよ。」ということらしい。
ナルトも何度も姉の狐姿を見ている。
普通の狐よりも倍ほど大きいが、すらりとしていて、姉の綺麗な毛並みが好きなナルトはよく背中にも乗せてもらった。


――姉さん!!!!

ナルトは忍びが行く方とは逆の方へと走り出す。

――姉さんに限って、そんなことは絶対無い!!

そう信じているのに。鼓動はどんどん速くなる。







そして、少し藪の開けたところにそれはいた。





呼吸が止まる。

息が出来ない。

目が閉じられなかった。


綺麗な毛並みの大きな狐がそこに倒れていた。


「姉さん!!」

ナルトは狐に変化している姉の首を両腕で抱きしめる。
まだ姉は温かかった。しかし、呼吸は浅く、息は絶え絶えとしている。

「姉さん・・・!!どうして。」

声が震えて上手く言葉にならない。すると、狐は閉じていた瞼をゆっくりと持ち上げ、ナルトを見つめた。

「ナル・・ト・・・。あなた・・の・・名前は・・う・・ずまき・・・ナルト・・よ・・・。」

ナルトはその言葉に目を見開き、息を呑んだ。

「あなたの・・おと・・さんは・・・、里人は・・みんな・・家族と言・・・って・・いたわ・・・。」

「ねぇ、姉さんどうしたの・・・?こんな時にそんな話・・・。」

これじゃあ、お別れみたいじゃないですか。
ナルトは涙でにじむ目で必死に姉を見つめる。

「ナ・・・ル・・ト・・・・・・。ねぇ・・・笑・・って・・・?私・・・ナルト・・・の・・笑顔が見たい・・わ。」

「姉さんしゃべらないでください!!姉さん・・大丈夫ですよね・・・?ただの風邪ですよね・・・?」

風邪なんかでないことはナルトにだって分かっている。
ただ姉が死ぬかもしれないだなんて考えられないのだ。

「私・・は・・・もう・・・・・・助からないわ・・・。死ぬ・・前に・・・ナルトの・・笑顔が・・・見たいの。」

「死ぬなんて言わないでください・・・!!僕を一人にしないで・・・?」

ナルトの目から堰を切ったように涙があふれ流れている。その顔を姉の毛皮へと埋め、嗚咽を堪える。

「あな・・たは・・・一人・・・なんかじゃ・・ないわ・・・。ねぇ、・・・笑ってよ・・・。最後の・・・お願いよ・・・?」

ナルトの肩がピクリと跳ねる。そして、毛皮から上げた涙と鼻水でグシャグシャの顔に笑顔を浮かべようとしている。
頬が引きつって上手く笑顔が作れないのをごまかし、一生懸命作ろうとする。

「姉さん。ほら、ヒック・・・僕笑ったよ・・・?姉さんも笑ってよ。うっ・・・僕も姉さんが笑ってくれたらもっと笑えるよ・・・?」

狐はナルトの顔をじっと見つめ、少しだけ口角を上げたような気がした。そして何かをつぶやいたが、それが音として出ることは無く瞼を下ろした。


「・・・姉さん・・・?姉さん!!姉さん!!!!」

狐の身体を揺り動かすが、動く気配は全く感じられなかった。


――どうして・・・!!どうしてですか!!

ナルトは堪えられなくなった嗚咽を上げ、姉に縋り付いた。
森には小さな幼子の悲痛な叫びが響き渡る。




と、急に途切れた嗚咽。そこには禍々しい目に見える赤いチャクラをまとい、紅い目をギラギラとさせた幼子が倒れている狐のそばに立っていた。







そして、そこには狐しかいなくなった。












あとがき

華代さんごめんなさい!!



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 第7話
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2007/12/13 18:18





――負けないで。


音にはならなかったけれど、


姉さん。


僕にはちゃんと聞こえたよ。


何に負けてはダメなの?


さっきのあいつらですか?


そうだね。


僕は負けないよ?


あんなやつらになんか負けない。


だって姉さんが一緒に修行してくれたんだから。


あんなやつらに負けるわけない。




・・・殺してやる!!







NARUTO ~大切なこと~ 第7話








「ねぇ、お兄さんたち何しているんですか?」


忍びたちはふと声をした方へ振り返った。
そこには無邪気に微笑む金髪青目の小さな男の子が立っていた。

「お兄さんたち、忍者ですよね?こんな森の中で何をしているんですか?」

好奇心か、弾んだ声で幼子はまた尋ねる。

「坊主、迷子か?」

5人の忍びの中の1人が少し警戒をしながら幼子に尋ねる。
幼子に声をかけられるまで、そこに人がいたことに気づけなかった。
たとえ中忍といえども忍び、こんな幼子の気配を探れないわけがないのだ。

「いえ、僕は薬草を採りに来たんです。」

幼子はニコニコと微笑んでいる。
人懐っこい笑みに忍びたちは警戒を解いた。

「俺たちはな、この森にいる狐を狩ってたんだよ。」

「九尾の襲来があったのは坊主も知ってんだろ?」

依然として微笑んでいる幼子はコクリと頷く。

「その九尾はまだ生きているって噂が里中まだずっと広まっててよ、だったら俺たちが退治してやろうってわけなんだよ。」

「今日も狐を狩ろうとして追い込んでたら突然大きな狐が飛び出てきてよ、そいつに俺が猛毒の吹き矢を当ててやったぜ。」

あの毒は妖狐でもイチコロよ。きっとあいつが九尾だったんだぜ!
ゲラゲラと下品に笑う忍びたち。


しかし、その笑いは突然止まった。


一瞬にして忍びたちの周りに殺気が充満したのだ。
忍びたちは体中から汗が吹き出るような感覚に襲われ、立っているのも困難に近い状態だ。

その殺気を放っているのは、

そう、金髪の幼子だ。

さっきまで青だと思われた目は真紅へとかわっている。幼子を包むチャクラは九尾そのものだ。


「僕の名前ね。「ナルト」って言うんですよ。」


妖艶に微笑んだ幼子に忍たちは声の出ない口をパクパクとさせている。

「バイバイ。お兄さん。」

その言葉とともにナルトは狐皇炎を発動させる。
姉から習った九尾最高の技は九尾のチャクラを使用してもナルトには一回しか使えない。

ナルトの周りに黒いメラメラとした炎が集まりだす。それを見た忍びたちの1人が何とか手を吹き矢へとのばし、ナルトへと構えた。
その瞬間ナルトはさっと右腕を前へ突き出す。それと同時に黒い炎が忍びたちを一瞬で飲み込んでいった。

忍びたちは悲鳴を上げることなく何も残さず消えていった。






――痛っっ!!!!

突然痛みを感じたナルトの右腕には針のようなものが刺さっていた。
その針の部分からじわじわと熱を持ち始め、見た目でも肌の色が変色していく様がわかる。
しかし、死の恐怖は無い。

――姉さんがいなかったら僕は一人です・・・。

そばにあった木の幹の下に膝を抱えて座り込み涙を流す。

――姉さん・・・。辛い時は笑いなさいって、言っていましたよね。姉さん・・・僕、笑えないよ・・・。

腕の痛みにじっと堪え静かに泣いていると、ナルトの目の前に人が飛び出してきた。

先ほどの忍びたちよりもかなり気配が薄い。そのことが示すのは、先ほどの忍びたちよりも上の忍者と言うことだ。

その忍びは、額に小さな青い菱形の模様があり、長く色の薄い金髪をゆるく二つに束ね、半被のような上着を着ている妙齢の女性だ。


「おい、お前こんなところで何をしてるんだい?」

どこか偉そうな口調で話しかけてくるくの一。
しかし、声をかけた幼子は無言のままだ。

――痛みなんかで人間の気配に気づけなかったなんて!!

ナルトは無言のまま立ち上がる。そしてギラリと目の前のくの一を睨みつけ、次第に殺気を放ち始めた。

――殺してやる!!殺してやるんだ!!

忍びというものに対しての怒りが再び燃え上がった。
狐皇炎を使った所為で、九尾のチャクラはもう底を突いたが、ナルト自体のチャクラは有り余っている。

「お前怪我して・・・?」

くの一が声を出すと同時に幼子は目の前から消えた。

――いったいどこに!!?

くの一は一瞬の出来事に少し混乱する。
幼子には気配が全く感じられなかったが、さっきまで確かに目に映っていた。
だから、声をかけてみたのだが・・・。

すると突然首の項に激痛が走った。

――っっっっ!!!!

その衝撃に耐えられず、受身も取れずに前へと倒れた。

――いったいなんだってんだい!!!!

なんとか意識は保っているものの、すぐに身体の異変に気がついた。

――右腕を動かそうとすると左足が動く・・・?乱身衝!?まさかあんな幼子が!!?

なんとかして首を横に向けると、幼子の足が目に入った。

――これはやばいね・・・。でもどこを動かせばいいのかもうコツは掴んだよ!!

さっと両腕を立て身体を起こす。膝立ちの状態になるとすぐそばにいた幼子を見下ろす形になったが、その幼子の手にしているものに驚き目を見開く。

――螺旋丸!!!?やばいっ・・・!!

幼子の左手にはチャクラを凝縮させた塊が乗っていたのだ。




パァンッッ・・・!!!!


乾いた音が森に木霊した。

その音の発生源の場所には膝立ちのまま右腕を斜め上へ振り上げた状態のくの一と
左頬が少し赤くなっている幼子がいた。

そう、くの一が幼子の頬を叩いたのだ。

そのことによって幼子の左手の上にあった螺旋丸は霧散していた。

「姉さん・・・?」

幼子の震えた声がする。
すると幼子の青い目からボロボロと滝のように涙がこぼれ始め、目の前のくの一に泣きついた。

「姉さん!!姉さん姉さん姉さん!!」

仕舞にはうわぁぁぁぁああ!!!!と泣き声を上げる幼子。

――何があったんだろうね・・・。

くの一は幼子が落ち着くまでそっとしておいた。






「ヒック・・・ヒッ・・・・姉さん・・・。」

「私はお前の姉さんなんかじゃないよ。」

「っっ!!」

幼子の泣き声がおさまってきたとき、くの一はぶっきらぼうに声をかけた。
幼子が泣き止む頃には乱身衝もとけ、上手く動けるようになった。

「何があったか知らないけど、お前右腕に毒が回ってるよ。」

ちょっとじっとしてな、と言って幼子の紫色に変色していた右腕に手のひらを当てる。その手のひらはチャクラに包まれ毒を吸い上げるように抜いていく。

――温かい・・・。

そのくの一の手はとても温かかった。

いつの間にか、くの一の手の上には毒と思われる球体のものが浮いている。

「こりゃぁ、猛毒だね。お前運が良かったね!!あたしゃ医療忍術のスペシャリストだからね。こんな毒抜き取れるのは私くらいよ。」

ふふんっとくの一が堂々と胸を張って言う。

「医療・・・忍術・・・。」

幼子が呟いた。
そうよん。と音符がつきそうな返事をするくの一の服に幼子は縋り付いた。

「あの・・・あの!!お願いがあるんです!!姉さんを、姉さんを助けてください!!」

幼子は青い目をこれ以上無いというくらい開いて、くの一を見つめた。
















あとがき

やっと少しずつ話が進み始めました!
原作沿いになるのはまだもう少しかかります・・・。
できるかぎり早めに更新して原作沿いに入りたいと思います。



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 第8話
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2007/12/14 19:29






――私はただシズネから逃げるのにたまたまここを通りかかったんだが・・・
   いったいこの子に何があったんだい。


目の前にはくの一の腕を引っ張って歩いている幼子。


――それにしても、この子の髪といい、目といい・・・この色を見ていると思い出すねぇ。




   なぁ、四代目。







NARUTO ~大切なこと~ 第8話







木の葉の里と反対方向である森の奥へとひたすら歩く。
幼子が必死にくの一の手を取って引っ張っている。
ずっと同じような景色の森の中をしばらく歩いたところでくの一は口を開いた。

「お前、こんなところに姉さんなんて・・・?」

最後まで言い終わる前に幼子はパッとくの一の手を放し、目の前の少し開けたところへとトコトコと走っていった。
くの一は幼子を目で追っていると、毛で覆われた塊に気づき息を呑んだ。


――でかい狐・・・。


幼子が狐の首の部分にしがみつき、今にも泣きそうな顔をくの一に向けている。

「姉さん・・・助かりますか・・・?」

消え入りそうな涙声でポツリと呟く。
それを聞いたくの一はハッとして、すぐにその狐のそばに寄る。



――あぁ・・・、もう死んでいる・・・。

すでに狐は冷たくなっていた。
じっとしているくの一を見て幼子もこの狐が助からないことに気づいたのだろう。

我慢していた涙がこぼれた。






「お墓を作ろう。」

しんと静まり返っていた空気をくの一が揺らした。

「お墓・・・?」

幼子は首を傾げくの一を見上げた。

「そう。お墓。この狐、お前の姉ちゃんなんだろう?何かい?お前姉ちゃんをこのままにしておく気かい?」

幼子は目を見開いてぶんぶんと首を横に振った。
くの一はそんな幼子の様子を見て苦笑する。




幼子は花好きだった姉のために、花がたくさん咲いているところに埋め、上に木で作った十字架を立てた。その十字架には作った花冠をかける。

できたお墓の前で二人は目を瞑り両手を合わせた。
そしておもむろに幼子は口を開いた。

「あ・・の・・・ありが「綱手様ーーーー!!!!」っ!!?」

幼子がお礼を言おうとした瞬間、先ほどから気づいてはいたが、自分たち二人に近づいていた一人と一匹の気配から突然声が上がったのだ。

「うぉっ!!!!こうしちゃいられない!!坊主、元気でな!!」

綱手と呼ばれたくの一は声のする方の反対側へと消えていった。

幼子はポツンとその場に一人になる。



「・・・・・・・・・お礼言いそびれてしまいました。」

――ツナデ様・・・。

綱手が消えていったほうを見て、先ほどの綱手の慌て様を思い出し、幼子は目を細めクスリと微笑む。
そのまま目の前のお墓へと目を向ける。


――・・・姉さん。僕は独りになってしまいました・・・。
   僕はずっと姉さんのそばにいたかったのに。

また幼子の目からホロリホロリと涙が落ちる。

と、そこへ湿った温かいものが幼子の頬に触れた。
幼子は驚き、目を向けると周りには狐やウサギ、熊や鳥などが集まっていた。


――・・・あぁなんだ。僕はいつも独りになったことなんか無かったんですね。

幼子は頬を舐めてきた狐の頭を優しく撫でる。

――負けてはダメ・・・やっと思い出しました。
   “心”が負けてはいけなかったんです。・・・僕は勘違いをしてしまいました。
   姉さんを殺した忍者に復讐しても、何も残らなかったです。
   姉さんがもどってくるわけでもない・・・。
   僕は“心”に負けてしまいました。感情に流されてしまいました。
   でも、


忍びたちは、姉が狐の前に飛び出してきたと言っていた。と言うことは、姉は忍びたちを攻撃することはしなかったのだ。憎い相手を前にして、感情に流されず、その狐を守ろうとした姉。なんて強いのだろう。

姉は“心”に負けることはなかったのだ。

いつの間にか涙の止まった幼子の青い目には火が灯っている。

――でも、もう絶対に負けません!
   僕の周りにはたくさんの守るものがあったんです。
   大切なものはすぐそばにあったんです。
   姉さん僕は今度こそ、失わないように守って見せます・・・!


幼子は立ち上がり動物たちと共に森の奥深くへと姿を消した。





それから幼子は医療忍術に興味を持ち、里へ変化をして行っては本を読み漁り、森では今まで以上に修行に励む幼子の姿が見られたと言う。





しかし、幼子は知らない。
ナルトによって殺された忍のうち1人は殺気で震える身体をクナイで切りつけ、痛みで恐怖を押さえ込み里へ逃げ帰ったことを。


そうして新しい噂が里中に広がることとなった。





―九尾の「ナルト」は3歳くらいの金髪青目の小さな子供だった― と・・・













あとがき

とても短くて申し訳ありません!
綱手様にご登場いただきました。
原作に入る前にあと何人か原作のキャラが登場する予定です。
こんな小説ですが、お時間があるときに読んでくださったら大変喜びます。



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 第9話
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2007/12/15 19:13






姉さんがいなくなって2年が経ちました。


僕はその間、医療忍術の修行に励みました。


医療忍術はとても細かなチャクラコントロールが必要で、すごく難しいですが、


やりがいがあってとても楽しいです。


その修行の中で、


失敗するたびに姉さんを思い出すんです。


姉さんは僕の中でずっと生きていました。


独りなんかじゃなかったです。


だいぶ使えるようになった医療忍術は森の動物たちの治療にとても役立っています。


忍術以外にも薬草とか、いろいろ勉強するために時々変化しては里で本を読んでいます。


里では新しい噂が流れていました。


「ナルト」としてはますます里に近づけそうにありません・・・。


そうそう、医療忍術に興味を持ったのは「ツナデ様」のおかげです。


腕の毒を抜いてもらった時のあの温かい手。


本を読んで分かったことは、
ツナデ様に手刀を打ち込んだ時、神経系にチャクラを流し込んだのですが、
それは乱身衝と言う医療忍術だったんです。
時々僕も姉さんにやられて、身体を上手く動かすためのコツを掴むのに一苦労しました。


それをツナデ様は一瞬で・・・よく動けましたよね。


また会えるでしょうか?


もし、もう一度会えたら


精一杯のごめんなさいと




たくさんのありがとうを







NARUTO ~大切なこと~ 第9話








ナルトは姉が亡くなっても、一人でまたいつものように変化をして里へと行き、図書館の本は読みつくしたため、今はある本屋に通っている。医療の本はとても高くて買うことなんかできないが、その本屋のおばさんと仲良くなったナルトは立ち読みの許可をもらったのだった。






「ミコトちゃん。」

これは去年、ナルトが4歳(見た目14歳)の時のある日のこと、いつものように医療の本を立ち読みしているとそこの本屋のおばさんから声をかけられた。

「はい?」

おばさんとは時々談笑するが、おばさんは今までに見たことも無い真剣な顔でこちらをじっと見ていた。

「最近ね、また「ナルト」の噂が流れてるのよぉ。」

「はぁ。」

噂好きのおばさんはよくいろいろな話を聞かせてくれる。

「それが今までは姿かたちについては何にもわかってなかったんだけどね、新しい噂によると、なんでも金髪青目の幼子らしいのよ。噂が流れはじめた頃は3歳くらいって言われていたんだけど、その噂はもう1年も前らしいから今じゃぁそいつも4歳になってるのかねぇ。」

怖い怖い。と腕をさするおばさんが目に入る。
ナルトは内心冷やりとした。それに気づかずおばさんは続ける。

「ミコトちゃんも、綺麗な金髪に青目だけど、歳が全然違うからね!でも、もし見た目だけでいじめられたりしたら私に言いなよ。」

そんなやつ私がはっ倒してやるよ。ミコトちゃんみたいに良い子が九尾なわけあるもんかい。とおばさんは豪快に笑う。

「・・・ありがとうございます。」

ミコトことナルトはにこりと微笑んでおばさんにお礼を言う。


――チャクラの質を変えたほうが良いかもしれないです・・・。

噂が去年ということはきっとあの忍びを倒した時のころからだろう。
その後ツナデ様には自分のチャクラで攻撃したのでチャクラの質を知られている。
いくら変化をしていても忍びにはチャクラの質でわかってしまうかもしれない。

その日からナルトはミコトに変化した時、チャクラの質も変える修行を始めた。

ミコトのときのチャクラ質は服の下にいつもつけている首飾りのチャクラ質、四代目のチャクラ質に出来る限り近づけようと努力した結果、5歳になる頃には全くといってよいほど四代目と同じチャクラ質に変えることが可能になった。
ナルトのチャクラ質と四代目のチャクラ質、どちらのチャクラ質でも忍術が使えるように今までの倍は修行に励んだ。

その甲斐あって今ではどちらのチャクラの質でも全く同じ術を使えるようになっていた。


そうして今に至る。






真夜中の森の中、ボンッと煙が上がった。
その煙の中からは15歳ほどの金髪青目の少年が姿を表す。
そう、ナルト(ミコト)だ。
空のような青い目と綺麗な腰まである金髪を一つに束ねている姿は変化ができるようになった頃と何も変わっていないが、顔は精悍さが増している。
変わった点と言えばチャクラの質だ。変化と同時にチャクラ質を首飾りに残っているチャクラ質と同じものに変える。


――・・・姉さんごめんなさい!!僕は犯罪者になります・・・!

今夜ナルトは罪を犯そうとしていた。
その罪の名は“住居侵入罪”だ。

狙うは火影邸。

なぜそのようなことに思い至ったかというと、医療忍術をもっと極めたいという純粋な思いからだった。
忍びが集う里の中心地「火影邸」。ナルトはもう里にある本という本はほとんど読みつくし、それでも足りないと思う知識欲から、そこに行けばきっと読んだことも無いような本を読めるだろうと考えたのだ。

――もっともっといっぱい勉強して、
自分の手で大切なものを守れるようになりたいんです!

ナルトは目にも留まらぬ速さで里の中心地へと闇の中を疾走する。







そして、火影邸の中へ。
意外なほどにすんなりと中へ入れてしまったことにナルトは驚いた。

――こんな状態で里は大丈夫でしょうか・・・?

確かに火影邸には何人もの忍びの気配がしている。だからナルトは見つからないようなルートを通ってきているのは確かだ。しかし、気配をよむことに長けているはずの忍びがナルトの侵入にまったく気づいたような様子も見せない。

実はナルトは自分の気配が全く無く、いかに自分が空気同様の存在になっているのかということを知らなかった。
ナルトの中では何に対しても姉が全て一番であり、自分は姉には勝てないと思い込んでいるのだ。(余談だが、姉の次は綱手が位置している。)




火影邸の暗い廊下を小さな青い炎―狐火―で照らしながらどんどん奥へと進んでいく。

――こ、ここは!!

ナルトはある扉の前で足を止めた。
その扉には“禁”の文字がでかでかと書かれているのだ。
そう、この部屋にはナルトがずっと知りたがっていた禁術の巻物が保管されているのだ。

――・・・分かりやすすぎやしませんか・・・?

そんなことを思いながらも、ゴクリと咽を鳴らす。
そしてナルトの手がまるで引き寄せられるかのように扉へと触れる。

カチッ

ナルトの手が触れた瞬間扉から小さな音が鳴った。

「?」

どうやら鍵が開いた音らしい。
ナルトはそのまま扉を開け中へと入り込み、また扉を閉じた。
部屋の中を見ようと狐火を少し大きくすると

――!!!!

そこには大量の巻物が棚の中に並べてあったのだ。
おもむろに一番近くにあった巻物を手に取り広げてみる。

――多重影分身の術・・・やはり禁術の巻物です!!!!

ナルトは宝を見つけたかのように目をキラキラとさせ、その巻物を読み始めた。

そうして読みふけっているといつの間にか朝が近いことに気づき、また忍びに見つからずにナルトは森へと帰っていった。







初めて罪を犯した日から約1ヶ月は経った。
あの日からナルトは夜になるたびに毎日不法侵入を繰り返している。

例のごとく今日もミコトとなり火影邸へと忍び込む。
しかし、今日はいつもと違ったことがあった。













あとがき

がんばって早く原作に入りたいと思います。



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 第10話
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2007/12/16 19:35






九尾の襲来からもう5年も経った。


里の復興もほとんどが終わったが、なにやら里では「ナルト」の噂が絶えんようじゃのう。


口外無用との掟も出したのじゃが・・・。


如何せん、気づくのが遅かったせいで里の大人たちはみなが口々にその噂をしておる。


「ナルト」は里の英雄じゃ。「ナルト」のおかげで今があるんじゃ。



・・・しかし、今度の噂は信憑性が出てきたのう。


金髪青目・・・四代目と同じではないか。


2年前、どこからともなく突然広がった噂じゃが・・・。


「ナルト」や、おぬしはまだ生きておるのか・・・?


「ナルト」を守ることができんかった自分が憎くてしょうがない!!


おぬしがまだ生きておるのなら、


わしの前に姿を見せてくれ




ナルト







NARUTO ~大切なこと~ 第10話







木の葉の里の中心部、火影邸の中を一人の老人が歩いている。
その老人こそ、この里で「プロフェッサー」の異名を持つ三代目火影である。
四代目火影の亡き後、再び火影として里の復興に力を注いできた。
そんな三代目火影様はなんとも疲れたご様子でトボトボと廊下を歩いている。

――今日は一段と疲れたのう・・・。もう真夜中じゃ。

そう、今の時間は丑三つ時と呼ばれる午前2時。
ご老体にはきついものがあるだろう。
しかし、何故か今日はすぐに寝ようという気分にもなれず、火影邸の中をさまよい歩いていたのだ。

――・・・?

行方も決めずひたすら歩き続けている時だった。
今歩いている廊下は禁術の保管されている部屋へと続く。

――部屋の扉が開いておる・・・?

まだその部屋の近くではないのではっきりとは分からないが、部屋の扉の隙間から青白い光がもれているように見える。

――あの部屋はわしのチャクラにしか反応せんはずじゃが・・・。

この部屋の鍵は火影のチャクラに反応して開くような仕組みになっている。
今では三代目火影しか開けられるものはいないはずなのだ。
部屋の中からは全く気配がない。
三代目は恐る恐るその部屋の扉の前へと近づいていった。







――1人誰かが近づいています・・・

ナルト(ミコト)はさっと扉を振り返った。
この1ヶ月、今まで一度も自分がいる頃にこの部屋へと近づいた者はいなかった。
ナルトは扉を見てさっと顔を青くする。

――扉が少しだけ開いています・・・!!やばいです!!ばれちゃいましたよね!!?

内心パニックを起こしていた。

――さっきまで普通にしていた気配を薄くさせてもう扉のそばまで来ています・・・!!
   かなり気配が薄いです・・・。それってすごい忍びさんですよね!!?

どうしよう!!殺されちゃう!!と声に出そうになる口を両手で押さえ、気を落ち着かせる。

――まずは、やっぱり謝るしかありません!!・・・許してもらえるでしょうか・・・。

額には汗が吹き出てくる。

そして扉が開いた瞬間、それと同時に狐火を消し、ナルトは瞬身の術でその扉から部屋を飛び出し、扉を開けた人物の後ろに立った。







三代目火影は部屋に近づく前にさっと気配を消し、扉の前へと移動した。

――確かに扉が少し開いてはおるが・・・。全く気配がせぬ。
   しかし、明かりが漏れているとな・・・?

意を決して扉を開くと

――っっっ!!!?

開けた瞬間、部屋の青白い光が消え、その部屋の中には巻物以外何もない。

――何があったんじゃ!?

目を見開いて驚きを隠せないでいると、突然背後から声がした。

「ごめんなさい!!!!」


「・・・・・・はぁ?」

三代目の理解の範疇から超えてしまったようだ。
突然聞こえてきた少年の声にもう頭の中はパニックである。
三代目の頭の中は白くなりかけていたが、なんとかして振り返る。

するとそこには金髪の頭をさげて必死に「ごめんなさい」と連呼している少年がいた。

――こやつ全く気配がない・・・?

目に映っているはずなのに、まるでいないかのように感じられる目の前の少年をじっと凝視する。そしておもむろにその少年の肩に手を置いた。

「おぬし、どこの忍びじゃ。」

よかった、人間だ。と思ったのは秘密だ。

――わしの後ろをとるなんてよほどの忍びじゃ・・・。

気配が全く無いこともだが、とりあえずこの部屋にいたのは確実のようだ。それを部屋から出て一瞬にして背後に回ったのだ。
とにかく少年を落ち着かせ、顔を上げさせる。

「え?あ・・・、えっと、木の葉の忍び・・・?です。」

何やら自信のなさそうに答える少年の顔を見て再び驚く。
老人の驚きに気づかずに少年は何かを考え込んでいた。

――父が木の葉の忍びだったのですから、一応僕も?木の葉の忍びですよね?

――こやつの顔は・・・!!四代目!!?
   この髪の色といい、目の色といい・・・。何者じゃ!?

「おぬし、ちょっと着いて来い。」

三代目はそう言うと、少年の返事も聞かず少年の手をとって歩き始める。
ナルトは掴まれた手に驚いたが、黙って三代目の後についていく。




しばらく歩いていると、おもむろに三代目が口を開いた。

「おぬし、もう少し気配を出してはくれぬか。」

後ろにいるはずの人間から全くといってよいほど気配を感じられない。
手をとってはいるので、後ろにいることは確かなのだが、なんだか四代目にそっくりなこともあり、幽霊をつれているような感覚なのだ。

すると、少年からやっと、わずかに気配がもれてきた。
それでもとても薄い気配。

――こやつの気配の消し方は尋常じゃないぞ。
   今でこそやっとわしでつかめるが、他のやつらでは掴めんじゃろう・・・

そのまま後は無言のまま目的地まで歩いていく。




ある部屋の扉を開け明かりを点ける。
火影室だ。
少年を中へ連れ込みソファーに座らせ、三代目も少年と向かい合うように置いてあるソファーへと座る。

「おぬし、木の葉の忍びと言ったな。」

静かな部屋に老人の声が響く。

「・・・はい。」

少年は真っ青な顔で返事をする。

――どうしましょう!!この方三代目火影様です!!
   木の葉の里の忍術は全て知っているというあの有名な「プロフェッサー」様です!!!!
   うはぁ。僕はやっぱり殺されてしまうでしょうか・・・。そうですよね・・・。
   何せ禁術の巻物を読んでしまったのですから。

ナルトの顔色は悪くなる一方だ。

「おぬし、名はなんと申す?」

三代目は睨みを利かせたまま少年に尋ねる。

「神影ミコト・・・と申します。」

刺すような視線にナルトはじっと耐える。
1秒がとても長く感じるこの状態はとにかく精神的に辛い。まるで時が止まっているかのように感じる。この空間にいることがとても痛い。
まるで静止画のような状態が続く。
そしてその止まっていた時間を老人が動かした。


「おぬし、特別上忍をやらんか?」


ナルトはその言葉をすぐには理解できなかった。

――特別上忍・・・?それはえっと、中忍と上忍の間の忍者のことですよね。
   うわぁ、上のほうですねぇ。・・・って!!えぇ!!?

やっと理解したのか驚愕の表情を浮かべた少年を見て三代目は苦笑する。

「いやなに、今里はおぬしも知っておるだろうが九尾のことがあって忍び不足。おぬしはワシの背後を意図も簡単に取ったのじゃ。そこから考えると、おぬしの実力は上忍くらいありそうなのだが・・・まずは特別上忍で様子を見たいんじゃ。おぬし、下忍ではなかろう?おぬしの顔は見たことが無いからのう。上忍や特上はわしの推薦でなることができる。木の葉の忍びと言うなら、ぜひとも頼みたい。」

そう言って軽く頭を下げるその様子に、ナルトは慌てた。

「あの、僕・・・勝手に忍び込んで禁術の巻物を読んでいたんですよ・・・?それにまだ火影様とはお会いしたばかりで・・・、こんな怪しい僕なんかを正式な忍者にだなんて。」

顔をお上げください。としどろもどろになりながら少年は言う。

「そういえばおぬし、いつから忍び込んどったんじゃ?まさか今日が初めてではあるまい。」

今思い出した、というような表情で尋ねる三代目。
全く気配のない少年のことだ、少し前から忍び込んでいたのだろう。

「えっと・・1ヶ月前くらいから・・・です。」

「1ヶ月!!?」

2、3日前くらいと高を括っていた三代目は目を見開いた。そしてふと疑問に思っていたことを尋ねる。

「あの部屋には鍵がかかっておったのじゃが、おぬしどうやってあの扉を開けたんじゃ?」

そう、あの扉は己しか開けることが出来ないはずなのだ。
少年はコクリと首を傾げながら三代目を見た。

「簡単に開きましたよ?」

触ったらそのまま。
それがどうしたんですか?というような眼差しでじっと見つめてくる少年には嘘の色は見られない。

――故障したか・・・?

あとで他のやつらに確認させようと三代目は決め込んだ。しかし、調べてみても故障など見つからず、さらに謎を深めるだけだったが、後にこの鍵のシステムは廃止され、火影邸にいる忍びたちがそれぞれ個々で警戒するという対策をとることになった。

「ま、そのなんじゃ。禁術の書を読んで悪いと反省しておるなら、ぜひ忍者として働いてもらいたい。それに、もうわしはおぬしの名前を知っておる。正直者の良い子のようじゃ。それにの、おぬしを見ていると四代目を思い出しての・・・。」

正直者という言葉でナルトはピクリと反応し、少し顔を下げる。
ミコトの反応に気づかないまま三代目は顔を上げ、歴代の火影たちの写真が並んでいる中の1枚をじっと見つめる。ナルトはチラッと三代目の動きが目に入り、下げていた顔を三代目が見ている同じほうへと向ける。

――・・・お父さん。

四代目火影にミコトは本当にそっくりだった。

――あの写真の首飾り・・・。

ナルトは服の上からぎゅっと首飾りを握る。

「こんな爺の願いなんぞ迷惑かもしれんがの、頼む、この通りじゃ。」

また軽く頭を下げる。
そこに「頭を上げてください」と声がかかる。
顔を上げると、何かを少年は考え込んでいるような顔をしていたが、すぐに三代目へと顔を向ける。

「その話、お受けします。」

先ほどまでのおどおどしていた態度はそこにはもうなかった。
その言葉に火影は表情を明るくする。そしてそのまま少年は言葉を続ける。

「でも僕はまだまだ修行中の身です。ですから、すぐに忍びとしての仕事にはつけないと思います。それでもよろしかったら、ぜひやらしてください。僕は医療忍術に興味があります。実はここに忍び込んだのも医療関係の本が読みたかったからなのですが・・・つい禁術にも興味があったので、先に見つけてしまった禁術書を読み漁ってしまいました。」

本当にすみませんと言って頭を下げる。

――医療忍術じゃと!!?

三代目はこの目の前の少年に驚かされてばかりである。

「おぬし、医療忍術が使えるのか?見たところ14、5歳のようじゃが・・・。」

「はい、少しだけですが・・・。」

少年は遠慮勝ちに答える。そして、僕は15歳ですと付け加える。
三代目は少し考えてから

「医療忍術を使えるものは本当に少ない。おぬしが特上となってくれたら、いくらでもここにある医療の本を読んでよいぞ。」

その言葉に少年は輝くような笑顔を見せる。

「喜んでお受けします!!」

それはもう満面の笑みだ。
その少年につられて三代目も微笑む。

「おぬしに忍服と額あてを渡しておく。それを着て明日からでもここに来なさい。」

それを聞いて少年は
「あの、特上として来るのは夜だけとかでもよろしいですか・・・?まだいろいろと修行をしたいんです。」
と申し訳なさそうに言う少年に、三代目は微笑んだまま「好きにしてよい。」と答えた。













あとがき

火影様視点から始まりました。
ミコト(ナルト)さんの特別上忍になったお話でした。
こんな小説(と呼んで良いかわからないもの)ですが、読んでくださっている人がいらっしゃるのかなと思うと、すごく嬉しいです。
あと2話で原作にもどりますが、その前にちょっとした番外編を入れようと思っています。明日も更新できるようがんばります。
お時間があるときにお読みください。これからもよろしくお願いします。



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 第11話
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2007/12/17 20:32






忍服をいただいてしまいました。


三代目火影様はとても心の広いお方でした。


さすが火影様になるだけの器をお持ちの方です。


僕のことを正直者とおっしゃってくださいましたが・・・僕は大嘘つきです。


結局最後まで自分が「ナルト」であることを言う勇気がありませんでした。


もし僕が「ナルト」だと分かったら・・・またあの忍びたちのように僕を殺そうとするのでしょうか・・・。


考えるだけ無駄ですね!


せっかく医療忍術をもっと詳しく勉強するチャンスです!!


・・・でも、いつか僕を「ナルト」を人間として見てくれる人が現れると信じています。


だって


姉さんと四代目火影・・・お父さんが里の人たちはみんな家族だと言っていたんですから。




そのいつかができるだけ早く来ることを祈って







NARUTO ~大切なこと~ 第11話







いつの間にか頭上に浮いていた星や月は流れ、濃い青の空に赤い光が差し込む朝焼けが目に入る。ナルトが歩いているところは、まだ里の中にある森の中だ。正確に言うと、まだ変化を解いていないミコトの姿のナルトが森の中を歩いている。
うっすらと空にはまぶしい白が見え始める。

――まずは特別上忍見習いからです!!

ナルトはよほど忍者になれたことが嬉しかったのか、のんびりと遠回りをしながら帰っている。
そしてすでに額には木の葉のマークの額あてをしており、忍服である黒い上下にベストを羽織り、右足の付け根より少し下にホルスターを付け、つま先だけ見える靴を履き、足首にはさらしを巻いている。
そう、特別上忍見習いとして火影邸の出入りを許されたのだ。医療の本は読み放題、もし分からないことがあれば他の忍びの方々に学ぶことが出来る、ナルトにとってそれはまさに天国だった。
ナルトはふと歩を止めた。

――1人・・・誰かこの森に入っていますね。

まだ日が昇り始めたばかりなのに出歩いているなんて、と少し首を傾げる。

――忍びの気配では無いですね。

森の侵入者の気配はどうやら里人のようなものだった。
その気配にもう一つの気配が接触したその瞬間、少女の悲鳴らしき声が森の中を駆け巡った。

――ッッ!!!!

ナルトはさっと表情を引き締め、身体にチャクラを張り巡らし瞬身の術でその悲鳴の場所へと向かった。







――なんなのよなんなのよなんなのよー!!!!
   お父さんに頼まれて薬草を摘みに来ただけなのに熊に遭遇するなんて!!
   ありえないわー!!
   しかもその熊ったら爪で引っかいてきたのよー!怪我しちゃったじゃない!

薄い金色の髪を高い位置で一つに束ね、水色の目をした少女が怪我をした左肩を右手で抑えながら熊を睨めつけている。
一方熊も興奮気味に少女を威嚇している。

――もー!!こんな時はどうすればいいのよ!?
   死んだ振り!?そんなのダメ!!!!私は忍びになるのよ!?
   こんな熊なんかに負けてたまるもんですかー!!

どうやら少女にはもう正しいことを判断する思考をなくしてしまったようだ。
じっと睨み合う1人と1匹。そして熊が動いた次の瞬間

バキィ!!!!

まさに一瞬。
金色の光が走ったかと思ったら熊の右頬のあたりを拳で少年が殴りつけていたのだ。
熊はそのまま左にある木へと吹っ飛び、バコンッ!!と音を立てて衝突した。

――なにが起こったの・・・。

少女はたった今目の前で起こったことについていけないでいた。
熊を殴りつけたと思われる少年は、そのまま熊の下へと行き、

「こらゴン太!!人間を襲っちゃダメっていつも言っているでしょう!?後で怪我は治してあげるから、しばらく痛いの我慢して反省してなさい!」

叱りつけていた。
そしてこちらに振り向いて近づいてくる少年を見て少女は目を見開いた。

少年は少女よりも濃い綺麗な金髪を一つに束ね、澄み切った空のような青い目をしている。一見華奢に見えるが、無駄などどこにも見当たらないような体つきをしている。
少女はだんだん顔が赤くなってくるのがわかる。少年が少し不思議そうな顔で少女を見ている。そして少年が口を開いた。

「あの、怪我痛いです・・・よね?」

すぐに治療しましょう、と言って少年がチャクラを練りこんだ手のひらを少女の肩へと近づけた瞬間だった。


「王子様・・・。」

「・・・・・・え?」





二人の空気が固まった。
一方は先ほどからずっと赤い顔をしており、もう一方は間抜けな顔に間抜けな声を発した。
そしてその空気を壊したのも少女だった。

「あの!!私、山中いのって言います!!お名前教えてください!!!!」

「は・・・?」

再び沈黙がその場を制した。







「ミコトさんはその服を着ているってことは忍者なんですよね。」

歳からすると・・・中忍ですか?と少女は薬草を摘みながら尋ねる。

さっきまで続いていた沈黙を破ったのはナルトだ。
とりあえず無言で少女こと山中いのの肩に掌仙術をあて綺麗に傷跡を消し、ニコリと微笑んで「神影ミコトです。」と名乗るとすぐに熊の下へと向かった。そして熊の頬を治療し、殴ったことを謝って熊を森の奥へと帰らせたのだった。

「まだ今日なったばかりで、しかも見習いです。」

一応特別上忍ですけど、と言ってミコトは苦笑をもらしている。
その顔を見てまたもや顔が赤くなってきているのを感じたいのは自分に落ち着け!と心の中で言い聞かせる。そして思ったことを尋ねてみた。

「さっき、あの熊のことを“ゴン太”って言ってましたけど・・・知ってるんですか?」

「え・・・、あ、あぁ。あの熊は気性が荒くて困っているんです。すぐに攻撃的になっちゃって。何度も言いつけているのですが、なかなか言うことを聞いてくれないんです。」

こんなところまで来ているなんて・・・あ、ちなみに名前は僕がつけたんです。とはにかみながら言う。

――・・・微妙なネーミングセンスねー。

その顔は可愛いけど。と心の中でつぶやく少女いのであった。
そしていのはそのまま質問を続ける。

「薬草に詳しいんですね。」

私は親が花屋なんで、よく手伝わされるんですー。と言い方は嫌そうだが、少女の顔は優しい。その顔を見て、ミコトは目を細めて微笑む。

「僕は医療忍者を目指しているんです。」

いのさんが僕の初めての“人間の”患者さんです、とどこか嬉しそうに言った。
少し疑問に思うところもあったが、その言葉にまたいのは顔を赤らめる。

――今の何か・・・反則よ・・・!!!!

いのは薬草を摘んでいた手を止め、頬を両手で挟む。そんないのの様子に一切気づかないミコトは黙々と楽しそうに薬草を摘んでいた。
いのは話題を変えようと、自分が楽しみにしていることを口にする。

「私も忍者を目指しているんです。もう少ししたらアカデミーに通うんです。」

嬉々として話すいのはキラキラとまぶしい。

「アカデミー?」

ミコトはコトリと首を傾げた。歴史書を読んで、二代目火影がアカデミーというものを創設したこと自体は知っていたが、アカデミーの内容は全く知らなかった。
その様子に気づいたいのはふと尋ねる。

「アカデミー通わなかったんですか・・・?」

ミコトさんもう忍者をされていますよね、ミコトさん何歳なんですか?といのは問う。

「え・・・、あ、はい。」

歳は15です、とミコトはまじめに答える。
いのは信じられないものを見たという目でミコトを見つめる。

「ミコトさんすごいんですね。」

いのは素直に述べる。

「え、そんなことは全然ないですよ。」

と、ミコトはその言葉の通り、自分は忍者としてたいした事はないという顔をしている。
たいした事がなかったら、特別上忍のような役職につけるはずがないのだが・・・といのは心の中で思う。

「えっと、アカデミーって忍者になるためにいろいろなことを学ぶところで、卒業したら下忍になれるんです。」

まぁ、簡単に言うと忍者を育てるための学校なんです、といのはまたキラキラと輝く目で語っている。

「学校・・・ですか。」

そんなところに行ったことも無いナルトにとっては想像もつかなかった。
ミコトは腕を組みう~んと唸りながら考え込んでいる。いのはその姿に苦笑して、そのまま話を続ける。

「忍者になりたい子供たちが入学するんですよ。私の友達も一緒に入学する予定なんです。」

まぁ、友達って言うか、幼馴染って言うか、腐れ縁と言うか・・・とだんだんと渋面になるいの。その姿に今度はミコトが苦笑をもらす。

「楽しみなんですね。」

とやわらかい笑みでミコトは言う。いのを見ていればそれがとても伝わってくる。
渋面をしていたいのだが、すぐに満面の笑みになる。

「はい!!」

そんな会話を続けながらいつのまにか籠いっぱいになっていた薬草に気づき、いのはミコトにお礼を言って家へと帰っていった。


「・・・友達・・・か。」

1人になったナルトはポツリと呟いた。







そんなことがあってから数ヶ月が経ちナルトは6歳になっていた。そして、ナルトはミコトとして火影邸へと行っては医療関係の書物を読み漁っている日々を過ごしていた。ナルトにとってそれはまさに天国だろう。しかし、ナルトはその数ヶ月の間ずっと悩んでいることがあった。その悩みとは、

――ナルトとしてアカデミーに通ったら、少しでも里の人たちと和解できるでしょうか・・・。

里人がナルトを恐れていることは知っている。しかし、ナルトはナルトだ。九尾への誤解を解くにはやはり早いほうが良い。それに

――友達がほしい・・・です。

それが一番の理由かもしれない。
数ヶ月前に触れ合った同い年の女の子。
会話がこんなにも楽しかったことをすっかり忘れてしまっていた。

――こんなに悩んでいるんです、実行しなかったらきっと後悔します!!

ナルトは数ヶ月を経てやっと決意し、これからについて考え始めた。







そしてこれからについて考えていたある日のこと。
その日は珍しく午後から火影邸へと行き、今は夜中の森をミコトは走っている。

――今日は帰ってもう寝ましょう・・・。

そう、火影邸に毎日通っているわけではないが、午前中から午後までは修行をし、夜は読書三昧・・・かなりの疲労が溜まっていたのだった。
瞬身の術で走っていたところ、今にも消えてしまいそうな薄い気配を感じた。

――誰か怪我をされているようですね。

そう判断したミコトはすぐにその気配のあるほうへと向きを変え、先ほどとは比べものにならないくらいの速さで駆けていった。


そして、目に入ったものは木に寄りかかった血だまりの中の暗部だった。

――腹部の刀傷のようなものが深いですね・・・。毒も仕込んであったのでしょう。
   それに出血がひどいです。

ミコトは暗部を平地へと移動させ傷の具合を確かめる。
出血量が多いため増血丸を飲ませたいが、暗部の面を勝手にはずしてよいものかと悩み、とりあえず毒抜きとその傷を縫合しようと試みることにした。






――・・・なんだか温かい・・・?

気を失っていた暗部が、腹部に変化を感じ、閉じていた目を面の中で開いた。
すると面の穴の向こうには金色が広がっていた。それが人間だと気づくのに少し時間がかかったが、その金色が一瞬顔を上げた。
面越しからでは見にくいが確かに青い目が見えた。

「せんせっっつ!!」

突然声を上げ、上半身を起こそうとした暗部に目の前の金色は驚いた様子を見せたが、

「動かないでください。出血がひどいです。できれば増血丸を飲んでいただきたいのですが・・・。」

あぁそうか、と暗部は状況を把握する。
今日は珍しく任務で大怪我をしてしまい、出血が酷くて里までたどり着けずに倒れてしまったのだ。そして今、治療をしてもらっているらしい。

――面・・・人前でとっちゃダメだけど、死ぬよりはマシでショ・・・。

暗部は重くなった右腕を上げ、面をはずす。そして、視界が広がり鮮明になるとますますまぶしいくらいの金色に目を細めたが、すぐにそれは驚愕で見開かれた。

――・・・先生・・・?

面越しで見えた青い目は、本当に綺麗な青をしていた。そして何よりその金と青の持ち主は一人しかいない。暗部がかなり動揺をしていると

「これ増血丸です。飲んでください。」

と手に持った薬を口に近づけられ思わず口を開くと放り込まれる。
そして飲み込んだのを確認した金色は腹部の傷を治していく。

――このチャクラの質は・・・先生と同じ・・・!?
   それにしても見事な手つきだ。無駄が無い。
   額あてからすると木の葉の忍びだが・・・こんな医療忍者いたか?
   気配も全く無い。何者なんだ・・・?

金色は淡々と毒を手のひらで吸い上げ、掌仙術で傷を治していく。



――はたけカカシ上忍ですね・・・。

面をはずした暗部は銀髪に左目に縦に傷のある忍者だった。
特別上忍として火影邸に行ってからいろいろな忍びの噂を聞くようになった。
特にそう、“はたけカカシ”という忍者はとても有名であった。
5歳で下忍、6歳で中忍、13歳で上忍という天才忍者。今では暗部をしており、コピー忍者のカカシや写輪眼のカカシと言われ他の里の忍びにまで恐れられている。

とりあえず増血丸も飲まし、治療もすんだのでカカシの顔をじっと見る。
じっと見られているカカシは何故か固まっている。

「はたけ上忍、ちゃんと寝ていらっしゃいますか?血が足りないのを引いても顔色がひどいですよ?」

まぁ、僕も人のことは言えませんけど、と苦笑をしながら話す金色の表情は本当に先生にそっくりだった。はたけカカシが先生と呼ぶものは一人しかいない。四代目火影だ。

――本当に何者なんだ?

カカシが口を開こうとした瞬間、金色がカカシの額に右手のひらを当てた。
するとカカシは異様な眠気に襲われる。もう口も動かせない。

「2時間くらいで起きられると思いますよ、ゆっくり少し寝てから帰られてください。」

閉じそうになる目に映るのはニコリと微笑む先生。

――待ッ・・・て・・・





カカシはきっちり2時間後に目を覚まし、金色を探そうとしたが、気配が全く感じられないため、しぶしぶ火影邸へと任務の報告のために帰っていった。













あとがき

掌仙術って、チャクラを必要以上に流し込むと眠らせることができるんだそうです。
知らなかったです。小説のためいろいろ調べているのですが、いろんなことを発見して面白いです。
いのさんに登場していただきましたが、自分にはカップリングというものは書けませんので、何か発展とかはしていかないはずです。すみません。
カカシさんにも再びご登場していただきました。カカシさんはどのくらい暗部をされていたのか分からなかったのですが、暗部として登場していただきました。
明日も更新できるようがんばります。



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 第12話
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2007/12/18 19:24






ある日の正午、木の葉の里の入り口の門の前に一人の少年が立っていた。







NARUTO ~大切なこと~ 第12話







見事な金髪に、空のような青い目、頬には3本の髭のような傷がある少年は黙って里の門を通り抜け、堂々と里の商店街のほうへと歩いていく。

その少年はうずまきナルトだ。


ナルトがアカデミーに通うと決心してからもう1年近く経っていた。ナルトは7歳になった。
その約1年間はナルトにとっての準備期間だった。
まず、アカデミーに通うといっても親のいないナルトには頼る相手は一人しかいない。そう、それは三代目火影様だ。しかし、ミコトとして三代目とは接触をしている。

ナルトはミコトと同一人物であることを知られたくなかった。火影様をだましているのだ。ばれたら資格剥奪だけですむとは思われない。しかも里の噂である「ナルト」なのだ。まだ誤解の解けていない状態でばれるわけにはいかない。

そのため、ナルトとミコトの境界線を作ることにしたのだ。

ナルトの場合はまず気配を消さないことが必要だった。
ナルトはもう無意識に気配を消している。ミコトとナルトの気配の消し方が同じだったら見た目が似ている分、すぐに疑われてしまうだろう。そのために気配を出す練習をしたのだが、これに約1年という時間をかけてしまった。
2歳の頃から気配を消す訓練をし、できるようになってからはもうほぼ無意識に気配を消してきたのだ。身体で覚えたことはなかなか変えることはできない。

ミコトとして火影邸へ行くついでに、里の子供たちの気配の観察をしては森に帰って練習をするという日々を過ごした。そのおかげで、人それぞれの気配の違いがはっきりと分かるようになった。
以前は気配の濃淡と人数くらいしか捉えられなかったのだが、今では知り合いの人の気配であればその気配が誰であるか見分けられるようになったのだった。

そうして何とかして気配を一般の子供より薄い程度に出せるようになったナルトは言葉遣いも変えることにした。とは言っても、一人称を「僕」から「俺」に変えただけだ。

そしてミコトの時はもう行っていることではあるが、チャクラの質を四代目のチャクラの質に近づけることである。ナルトとミコトのチャクラ質が全く同じなんてことが分かればすぐにばれてしまう。それは必須の項目だった。


そして準備が整った今日、「ナルト」として木の葉の里にやって来たのだった。

目指すは里の中心、火影邸だ。






がやがやと活気溢れる商店街。
そんな商店街を歩いている少年に里人たちが気づき、その賑やかな雰囲気はがらりと一変した。

この里の者の中には誰も持っていない色彩をした少年。それだけであれば単なる興味だけで済んだだろう。しかし、その少年は金色の髪と青い目を持っていたのだ。

そう、それを示すものはあの「ナルト」だ。

商店街は騒然とする。
子供を抱いて建物の中へと隠れる者や悲鳴を上げる者、ギラギラとした目で睨みつける者・・・


――あぁ、すごい殺気です。

ナルトはカラカラに乾いてきたのどに無理やり出した唾をゴクリと飲み込む。
一般の人とは思えないほどの殺気を放ち、みなナルトを睨めつけては口々に「九尾」や「ナルト」の名を発している。
ナルトはわざと正午という時間と商店街を通ることを決めた。

それはナルトにとっての決意の表れだった。

これから里で過ごすのだ。どんなことがあっても負けるつもりは無い。それは姉とのたった一つの約束でもある。「心」が負けてはならない。

――負けません・・・!!

ナルトは黙々と足を進めていく。
里人たちは、商店街の太い道の中心を通るナルトを避けるように開けていく。と、その時、

ガッ!!

音とともにナルトの足が止まった。
その足元には石がコロコロと転がっている。

「出て行けッッ!!!!」

一人の男性の叫び。
ナルトに石を投げつけたのだ。
そこからまるで連鎖反応のように里の人々はみなその場にある石を投げつけてはナルトを罵倒し始めた。

しかし、ナルトは無表情のまま、また歩を再開する。
石の雨が降りそそぐ。

そんな中を無表情のまま歩く少年に里人たちの恐怖は膨れ上がった。

「この化け物めッ!!」

「あの人をかえして!!」

「お前のせいだ!!」

「お前なんか死んじまえ!!!!」

里人たちの叫びがとても痛かった。
投げつけられる石よりも痛かった。

ナルトは唇をかみ締め黙って歩き続ける。とその時

ゴッ!!!!

鈍い音が響いた。
それはナルトの右目のすぐ上にあたり、そこから血が流れ落ちる。
しかし、ナルトはもう歩を止めることはしなかった。
血を拭うこともせず、前だけを見据えて歩いていくと、開けた道の向こうに見知った気配を感じた。












ペタペタと紙に判子を押す音がその部屋に響いている。

――今日も書類が多いのぅ・・・

紙をとっては上から下へと目を通し、判子を押す。ただそれだけの繰り返し。
しかし今日はそのいつもどおりの日常を覆す事件が起こった。


立派な椅子に座り、目の前の机の上の紙の束から一枚ずつ取っては判子を押す一人の老人。時々、首を回したり、肩を回したり、ついには立ち上がって窓から雲を眺めたりまでしている。
言わずもがな、この老人は里を治めている三代目火影様だ。
いくら仕事とはいえ、老体をじっと椅子に縛り付けることはとにかく辛い。

――あぁ、雲が綺麗じゃ。

とうとう現実逃避が始まった。
その時の時間はちょうど正午だった。
そろそろお昼にするかと思い、窓から離れたその時、

「三代目!!!!」

バンッ!と勢いよく開いた扉から、額に汗をびっしょりかいた中忍が飛び込んできた。その中忍の顔をよく見ると、かなり青い。その慌て様が尋常でなかったため、不審に思った老人は声をかける。

「何事じゃ?」

至って冷静に言葉をつぐむ姿は、やはり里の長というだけあって人を落ち着かせる力を持っている。その言葉で落ち着きを取り戻した忍びは片膝を地に着け頭を下げ、すぐに事の次第を申し上げた。

「は、突然の非礼申し訳ございません。今、里の門の警備をしていた忍びのものから伝言があり、一人の少年が門をくぐって里の商店街へと向かっているとのことです。」

「少年?」

それの何がおかしいのか、と疑問を顔に乗せる三代目を一見した忍びは更に言葉を続ける。

「はい。その少年は6、7歳くらいなのですが、その容姿が金髪に青い目をしていたとのことです・・・。」

おそらく「ナルト」ではないかと。

老人の目が驚愕によって見開かれる。
今まで噂でしかなかった「ナルト」。それも7年も前のものだ。生きているかさえわからなかったあの「ナルト」が姿を現したというのだ。
いくら経験豊富な老人であっても、その驚きを隠すことなど出来なかった。

「そ、それで、その少年はどこにおる!?」

こんなに慌てている老人をいまだかつて見たことがあっただろうか。

「は、おそらくもう里の商店街を通っている頃ではないか・・・と・・・。」

ふと顔を上げた中忍の前にはもう誰もいなかった。






――こんなに激しく動いたのは久しぶりじゃのう・・・

老人は息が切れそうになる自分の身体に嫌気がさす。
しかし、自分には一生をかけて果たすべき約束があった。こんな身体でもまだ出来ることはある。悲鳴を上げる身体に構わず足を前へと進めていく。





ぜぇぜぇと切れる息。
立ち止まった場所はもう商店街の出入り口だ。
老人の目に映るその光景はまるで切り取られた別世界だった。

自分が治めてきた里とはとても思えなかった。
里の大人たちの尋常でない殺気でそこは満ち溢れ、もう言葉としては理解できないような叫び声が飛び交っている。

そしてだんだんと里人の間が開けていくと、その中心から見えてきたものが老人の目を釘付けにする。

――あぁぁ・・・。

雨のように降る石の中をしっかりと前を見据えた少年が歩いている。

――あぁぁぁぁ・・・。

老人の視界はだんだんとぼやけてくる。そのぼやけた視界の中で更に輝きを増して広がる金色の色彩。

――ナルト・・・












その老人の姿に気づいた里人たちは歓喜の声を上げ始めた。

「火影様だ!!」

「九尾を殺しに来てくださったんだ!」

途端に石の雨はやんだ。
ナルトはその歓声の中、黙々と歩み続ける。
そして、ついに老人の目の前まで来たナルトは立ち止まり、顔を上げる。
と、その時、ナルトの頬に温かい雨が降ってきた。


――な・・んで・・・?

ナルトは目を見開いた。
それは老人の目からこぼれる涙だった。
老人はじっとナルトを見つめている。

里人たちは動こうとしない火影様を不審に思い、だんだんとさざめき始める。

「火影様!!早く、早くそいつを追い出してください!!」

「そいつはあの九尾ですよ!?」

里人たちの叫びは大きくなる。

「早く殺して「黙れッ!!!!」ッッ!!?」

誰もがその一言で一瞬にして硬直した。老人の怒りに場の空気が静まる。
今まで、こんなにもこの老人が怒りを顕にしたことがあっただろうか。
里の長である忍びの殺気に息をするのも苦しくなる。

そんな誰もが動けない中、老人が静かに少年の前にしゃがみこみ、手を伸ばした。
その瞬間、少年の身体がビクリと跳ねたが、老人はそのまま伸ばした両手で少年を思い切り抱きしめた。


「ナルト」


たった一言だった。しかし、それは本当に温かかった。
姉が死んでから呼ばれることの無かった名前。
ずっと呼んでもらいたかった名前。
里の中でささやかれる「ナルト」はまるで塵やゴミのようで。
「ナルト」は恐怖の対象でしかなくて・・・。

ナルトの目から涙がボロボロと溢れてこぼれた。

恐る恐る腕を上げ、老人の背中へと回し、老人の服にしわが出来るのも構わずぎゅっと握り締める。

ぅあぁぁぁああぁぁぁあ!!!!

まるでそれが合図だったかのようにナルトは声を上げて泣く。

――ナルト、もう大丈夫じゃ。

老人は抱きしめる腕をさらに強める。

――四代目・・・。遅くなってしまったの・・・。
  おぬしとの約束を果たそう。
わしがナルトを守り、立派に育て上げてみせる。


いつものこの時間、賑わっているはずの商店街。
しかしそこは今、静寂につつまれ、少年の泣き声だけが響き渡っていた。












――うっ・・・。

金色の少年がむくりと上半身を持ち上げると、体にかけてあったらしい布がパサッと落ちた。
少年はどうやら眠っていたようだ。現在、少年はソファーの上にいた。
まだ霞んでぼやけている目をこすると、右目上にはガーゼがテープでとめられていることに気づいた。九尾のおかげでもう傷など残っていないだろうに、治療されていたことになんだか心が温かくなる。

部屋にはペタペタという音が響いている。と、その時、不意にその音が止んだ。

「おや。ナルト、もう目が覚めたんか?」

声のしたほうへ少年は振り向く。そこには紙の束を前にしてやさしく微笑んで椅子に座っている老人がいた。

――夢・・・ではないですよね。

ここは火影室だった。
老人はおもむろに立ち上がり、扉を開けて出て行ったかと思うと、すぐに盆の上にお茶と茶菓子を乗せて部屋へと戻ってきた。そして、少年の向かい側にあるソファーに座り、少年の前にお茶を差し出す。
淹れたてのお茶の香りが鼻腔をくすぐる。

「あの後おぬし眠ってしまってのぅ。勝手にここまで運んだのじゃが・・・。」

次第と頭がハッキリとしてきた少年はその言葉に顔を青ざめ、ソファーから飛び降り、額が地に着かんばかりの勢いで土下座する。

「ご迷惑を・・・申し訳ありません!!!!」

少年の肩はカタカタと震えている。
その行動に老人は驚いたが、

「謝るのはこちらのほうじゃ。里の者がひどいことをした・・・。里の長として、非礼を詫びたい。」

本当にすまなかった、と老人は深々と頭を下げる。
それに気づいた少年は慌ててソファーに座りなおし、老人に頭を上げるように頼む。
しかし老人はなかなか頭を上げようとしない。

「そのことはいいんです。」

老人の頭上から少年の言葉が降り注ぐ。ゆっくりと顔を上げた老人の目に飛び込んできたのは少年のやわらかい笑みだった。

「そのことは、もういいんです。」

少年は続ける。

「ご存知の通り、俺はうずまきナルトです。」

老人は目を見開く。目の前の少年、ナルトは自分の苗字まで知っていたのだ。いったい誰から・・・?
さらに少年は続ける。

「俺の中に九尾が封印されていることも知っています。」

里の人たちのあの反応は当たり前です。と、さも同然といったように答える。
老人は更に驚いたが、先ほどから気にしていたことを口にする。

「・・・里の者たちを嫌ってはおらんのか?」

その言葉にも少年は依然とやわらかい笑みを浮かべている。

「俺も、わかりますから。」

あの気持ち。

「もう、7年も経ったのに・・・それでもその亡くなった人を忘れないでいるなんて、」

それはすごいことなんです。

「俺も・・・姉を殺されましたから。」

老人はその言葉にはっとする。この7年間ナルトが一人で生きてきたわけがないのだ。
ナルトは続ける。

「姉は、4年前、俺が3歳だったころ、狐狩りをしていた忍びたちに殺されました。」

狐をかばったそうです。

「俺は・・・我を忘れてその忍びたちを殺してしまいました。」

でも、むなしかった・・・。

少年の顔はくしゃっと歪む。

「忍びたちを殺しても、姉はもどってこない・・・。ただ自分自身の弱さに気づかされただけでした。」

俺にはその時、姉を守る力を持っていなかったんです。

「憎い相手を殺しても何も生まれないんです。」

それをいつか里の人たちも気づいてくれることを俺は信じています、とナルトはじっと老人の目を見つめる。老人はナルトの眼光の強さにゴクリと唾を飲む。
4年前といえば、ナルトの容姿についての噂が広がったころだ。
その年、忍びの中で任務でもないのにいなくなった中忍が4名出た。
そしてその4名と、もう1名の中忍がよくつるんでいたのは知られている。

――あやつらか・・・。

老人はこの少年に謝っても謝りきれないものを感じる。


「四代目・・・父が封印したことも知っています。」

その言葉に老人はビクリと肩を揺らす。それに気づいた少年は苦笑をもらし、

「父を恨んでなんかいません。むしろ感謝しています。」

そのおかげで姉に出会えたのですから。
そして少年はどこか懐かしむように語りだす。

「俺は九尾の封印後、たまたま俺に気づいた姉が拾ってくれて、木の葉の里から少し離れたところで姉と二人で暮らしていました。姉はとても厳しい人でしたが、俺の自慢の姉でした。姉は俺の名前や四代目の話をしてくれました。」

姉は・・・それと父はこの里を信じています。

「だから俺も信じています。だって、里の人たちはみんな家族ですから。」

そう言い切ったナルトの顔には柔らかな笑みが湛えられている。


――四代目・・・おぬしの意思はしっかりと受け継がれておるぞ。

老人は溢れ流れ落ちそうになる涙を隠すために下を向く。
ナルトの顔が四代目と重なったのだ。
老人はナルトに火影の器となる何かを感じ取ったのだった。

「俺はもう逃げないって決めたんです。里の人たちには・・・恐怖かもしれませんが、俺は人間です。九尾ではありません。それに」

九尾の力はコントロールできます。

その言葉に老人は驚き、パッと顔を上げて

「おぬし、九尾のチャクラをコントロールできるのか?」

老人は純粋に疑問をぶつける。

「はい。だから、里の人たちにも安心して過ごしてもらいたいんです。」

それで、その・・・三代目火影様にお願いがあって俺は里に戻ってきました。と真剣な面持ちでナルトは三代目を見つめた。確かに、意味も無くナルトが自分を恨んでいると知っている危険な里へとわざわざもどってくるはずがないのだ。

「あの・・・・・・アカデミーに通いたいんです・・・。」

三代目は一瞬、その言葉を頭で理解し損ねた。
アカデミーとは忍者を養成する学校のことだ。
しばらくしてやっと理解した三代目は口を開く。

「そ、それはよいが、なぜ忍者になろう・・・と?」

慎重に尋ねる。

「俺はもう自分の力が足りないせいで大切なものを失くすのはイヤなんです。それに・・・実は友達が・・・ほしいんです。」

今、三代目の目の前には、頬を少し赤くさせ、視線を斜め下のほうへ向けて恥ずかしそうにしているただの少年がいた。やっと子供らしい反応を見せたナルトに自然と頬が緩むのを感じる。

「おぬしより少し年上のものから下は、おぬしのことは知らぬ。きっと友もできるだろう。九尾にかかわった大人たちだけは知っておるが・・・それを口外せぬようにすることしか、わしにはできんかった。」

本当に済まぬ。

「わしにできることは協力するぞ。」

三代目は満面の笑みだ。その言葉にナルトも子供らしいキラキラとした笑顔を浮かべる。





その後、二人はお茶を啜りながら、ナルトの家のことや、アカデミーの手続きなどをし、慌しくその日を過ごした。

そうして家も決まり、ナルトは無事アカデミーへの入学を果たしたのだった。












あとがき

ついに原作に近づきました!大変遅くなってしまいすみません!!
この話を書いているとき、全部書き終えて、また後で誤字などがないか確かめようとデータを残しておいたのですが、次に見たときには何故か半分くらい消えていて泣きそうでした。
1回目に書いたものと内容は同じですが、なんとなく1回目のほうがよかったなぁと思っていますが、無事更新できたことにほっとしております。
次は初めての番外編です。
これからもよろしかったらお読みください。



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 番外編
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2007/12/19 19:38






これはまだナルトが6歳だった頃の話。





ある日の甘栗甘を覗いてみると・・・







NARUTO ~大切なこと~ 番外編 『噂のミコトくん』







「おい、カカシ。こんなところで話って何だよ。人生色々じゃダメなのかよ。」

「俺だって聞かれたくない話だってあるんだよ。失礼しちゃうネ。」

「何だよ・・・お前の聞かれたくない話しってぇと、これか?(ニヤニヤと小指を立てる)」

「はぁ?なんでそうなるんだよ。今日はちがーうの。今日はね、少年の話。」

「はぁ!?お前いつ宗旨替えしたんだよ!?」

「何言ってんの、クマ。(ギロリ)」

「うっ・・・、わ、わかったからその殺気抑えろって。それに俺はクマじゃねぇ、アスマだ!!んで、その少年の話とやらを聞こうじゃないですか。」

「もう!今度ふざけたら容赦しないからな。まぁ、そのなんだ。ちょっと前にさ、俺の任務の帰りが遅い日があっただろ?」

「ん?あぁ、確か暗部の任務だったよな?確かにてめぇにしてはちょっくら遅い日があったな。」

「ん。その日、実は俺死に掛けたんだよネ。」

「・・・はぁ!?お前その日ピンピンしてたじゃねぇか!?」

「イヤほんと。油断して見事に毒を塗った刀で腹をスパーッと切られちゃったのよこれが。」

「お前が油断って・・・どんだけ油断してたんだよ・・・。」

「まぁ、その日さ、連続徹夜5日目でもうフラフラだったわけよ。」

「それでスパーッと。そりゃ他のやつらに聞かれたくねーな。」

「そ。で、里まで帰り着けなかった俺は森の中で倒れてしまいました。」

「で、そんなてめぇを助けてくれたのがその少年ってか?にしても帰ってきたてめぇは無傷だったよな?その少年・・・医療忍者か何かか?」

「ピンポーン。そうなんだよネ。」

「おいおい、お前帰ってきたの、いつもよりちょっくら遅いだけだっただろ?何か?そんなに早くお前の傷を治しちまったのか、その少年!?」

「そうなのよ。それはそれは手際よく毒を抜いて傷を塞いじゃったのよ。」

「毒を抜くなんて・・・かなりのチャクラコントロールが求められるぞ。それを短時間で・・・。いったいどんな少年だったんだよ。」

「それがさぁ・・・、先生にそっくりだったんだよね。」

「先生・・・?先生ってぇと、・・・四代目火影かぁ!?寝不足のせいで見間違えたとかじゃねぇのか?」

「いやいや、あの金髪を見間違えることはないでショ。それに目も青かったし・・・。」

「それは何か?四代目の幽霊がお前を助けたのか?」

「なわけないでショ!!それに俺言ったよね。その子、少年なの。先生に似てても歳が全然ちがーうの。」

「あ、そっか。で、俺にその四代目そっくりな少年が誰なのか聞きたいってわけか。」

「そ。」

「う~ん・・・。俺もそんなやつ見たことも聞いたこともねぇなぁ。他に分かることねぇのかよ。どこの忍びのものかとかよ。」

「それがさぁ・・・、木の葉の忍びっぽいんだよね。一応額あてしてたし・・・。」

「はぁ!!?んなやついたらいやでも目立つだろ!?なんたって四代目そっくりなんだろ?」

「そう思ったんだけどねぇ、全然見つからないわけよ。それにそいつ、全く気配がなかったんだよね。もう空気と同化してんの。あんな気配の消し方いったいどうしたら出来るんでしょーネ。」

「なんだかスゲー野郎みたいだな。その少年。」

「ん~、あ、あとチャクラの質が先生と全く一緒だったんだよね、これが。」

「まじかよおい・・・。お前がそう言うんだったら間違えねぇだろーけどよ・・・。いったい何者なんだよそいつ。」

「それは俺が聞きたいの。あ、でも俺らと同じ服着てたよ。その少年。」

「ってことは中忍以上の忍びってわけじゃねぇか!!まぁ、それだけの技術があったら上忍かもしれねぇが・・・そんな少年の噂なんざ聞いたこともねぇな。」

「でショー。俺も探してるんだけどさ、全くわかんないんだよねぇ。」

「金髪青目の少年・・・か「ちょっと待ったーーーーーー!!!!」っっっ!!??」

「「ア、アンコ!?」」

「その噂、このアンコ様抜きじゃぁ語れないわよ!!」

「「はぁ?」」

「何言ってんの、アンコ。・・・もしかしてずっと聞いてたの?」

「いいや、“金髪青目の少年”って言葉が聞こえたからつい身体が反応したわけよ。」

「「・・・・・・。」」

「何!?その怪しいものを見るような目は・・・!!その少年のこと知りたいんじゃないの?」

「・・・んじゃ、そんなこと言うんなら、知ってるんだよネ。その少年。」

「もちろんじゃない!!その少年はねぇ、“神影ミコト”って言うのよ。」

「神影ミコト・・・聞いたことねぇなぁ。」

「そりゃそうでしょ。まだ特別上忍になって数ヶ月しか経ってないもの。」

「へぇ、特別上忍なんだ、その子。」

「そ。正確に言うとまだ見習いなんだけどね。」

「「見習い?」」

「そうなのよ。んで、特別上忍になったのも火影様の推薦なんですって。」

「火影様の推薦っつーと、よっぽどだよな。まぁ、カカシの話聞いたところでは上忍でも良さそうだけどな。」

「そうだよネ。その子の医療忍術、綱手様並みかそれ以上だもん。」

「ミコトはアカデミーに通ってなかったから忍びでもなかったらしいのよ。全て独学だそうよ。」

「「独学!?」」

「独学っつーと・・・かなりの天才じゃねぇか!?しかも医療忍術だぞ!?」

「でも、そんな子がどうやって火影様と知り合ったんだ・・・?」

「それがなんと!火影様の背後をいとも簡単にとったんですって。」

「「!!!!」」

「・・・・・・お前それどうやって知ったんだよ・・・。」

「え?それはもちろん・・・(満面の笑み)。」

「「あー・・・(二人同時に合掌)」」

「ミコトは16歳、身長は165センチ(アンコの目測)で、IQは200以上!今はまだ任務にはつかないで、ひたすら火影邸にある医療関係の本を読み漁ってるわ。」

「なんだお前・・・やけにそいつのこと詳しすぎねぇか?」

「当たり前でしょう?ミコトはくの一の中では有名なのよ。」

「「は?」」

「綺麗な長い金髪にあの青い目!女のあたしたちの方がうらやましくなるような白い肌!頭が良いのにかなり天然で・・・もうくの一たちがこぞって騒いでるのよ。それなのによく気づかなかったわね。」

「「・・・・・・。」」

「・・・で、お前はその“ミコト”とやらには会ったことがあるのかよ。」

「聞きたい?(怖いくらいの満面の笑顔)」

「「・・・・・・はい。」」

「そう、それは私がこの前の任務で少し怪我をしたときのことよ・・・」












月が綺麗な真夜中。
火影邸の廊下を2人のくの一が医療班の部屋へと向かって歩いている。
やはり、真夜中というだけあってか忍びの数は少ない。
2人は音も立てずに静かにその廊下を歩く。と、前を歩いているくの一が口を開いた。

「あんたもドジったわねぇ。」

まぬけね、その顔。とクスクス笑う。

「うるさいわね!!たまたまよ!た・ま・た・ま!!」

前を歩くくの一ははいはい、と受け流す。
後ろを歩くくの一は、その反応にムスッとする。
後ろを歩くくの一、そう、みたらしアンコだ。
アンコは今日の任務で左頬を敵のクナイに当たって切ってしまったのだ。
前を歩くくの一は、顔に傷が残るといけないと言って、別にいいと言っているアンコを無理やり医療班のところへと連れて行こうとしているのだった。

しばらく歩いていくと医療班の部屋の扉の前へとたどり着いた。そしてくの一がノックをして扉を開ける。

扉を開けたその先には本、本、本がズラーッと棚に並んでいる。すべて医療関係の本である。アンコは思わずウゲーっという顔をする。忍術には興味があっても、どうも医療忍術には触手が伸びなかった。

「誰かいませんかぁ?」

扉を開けたくの一が部屋の中へ声をかける。しかし返事は返ってこなかった。
おやっと思ったくの一は中へと勝手に入っていく。その行動に慌てたアンコがとっさにくの一の腕を掴む。

「何勝手に入ってるのよ!」

誰もいないみたいだし、もういいわよこんな傷くらい。
しかし、くの一は

「顔に傷なんて女は残しちゃいけないの!いくらアンコが男勝りだからって、あんたは女なの!アンコがよくても私が許さないわ!」

こう言ってくれる友達のくの一には本当にありがたい。が、誰もいない部屋に無断ではいるのはいかがなものかと考える。
もしかしたら奥にいるかもしれないから私が呼んでくるわ。と言って、くの一は中へと入っていってしまった。アンコはため息をつき仕方なく部屋へと入る。
しかし、アンコはとくに人を探すわけでもなくぶらぶらと中の本棚に並ぶ本の背表紙を眺め歩く。

――うひゃぁ、こんなの読む医療班に尊敬するわ!!

その棚にあるのは全て薬の調合について記したものであった。
それらをただただボーっと眺め歩いていると、ある本棚の一角で金色に光るものが目に入ったような気がした。そのまま通り過ぎようとしていたアンコはふいに立ち止まり、もう一度ある本棚の一角へと顔を向ける。

――・・・人よね?

確かにそこには見事な腰まである長い金髪を頭の下のほうで一つに括った人間が、立ったまま開いた本を左手で持ち、右手をあごにあて本を読んでいる。その人間は木の葉の額あてに中忍以上が着る服を着ている。背格好からすると少年のようだ。

――気配がまるでよめないわ・・・。

そう、その少年にはまったく気配というものが無かった。少年はこちらに気づいているのかいないのか、全く分からないが黙々と左手の上の本を読んでいる。
アンコはおもむろにその少年のすぐそばまで寄り、上から下までじっくり眺める。

――うわぁ、こんなに近くにいるのに全然人がいるなんて実感わかないわ。

と下を見ていた顔を上げると、少年がじっとこちらを見ていた。
その目はとても澄んだ青だった。

――うっわ、きれい・・・

思わず心の中で呟く。
すると少年がすっと右手をアンコの左頬へと寄せた。その瞬間左頬がぽかぽかと温かくなる。

「早く傷は治療しないと化膿しちゃいますよ?」

少年は目を細めにこりと微笑み、右手を頬から離す。

「へ?」

思わず間抜けな声を発する。そして左頬を触ってみるともう傷は無くなっていた。
ほんの一瞬だった。ちょっと温かいと思ったらいつの間にか治っていたのだ。

「あ、ありがとう・・・。」

アンコはなんだか現実感が無くてぼそりと呟くようにお礼を言う。
すると目の前の少年はまたにこりと笑って、

「いえ。せっかく治る傷が化膿して(あなたのように綺麗な)肌に傷跡なんか残してしまっては、女性にはよくありませんからね。」

アンコには何故か括弧内の言葉が聞こえたらしい・・・。
アンコの顔はボボボッと赤くなる。
それを見て少年はリンゴ?と呟きながら首を傾げる。
その瞬間アンコは少年の肩をガシッ!!と掴み、

「あんたの名前は!?」

と叫んだ。きょとんとしていた少年の顔はすぐに笑みに変わり、

「神影ミコトです。」

と答えた。そして続けて

「あの・・・すみません・・・。手を離していただけませんか・・・?」

ちょっと痛いです。と呟いた少年は顔にうっすらと汗をかいている。
アンコはミコトの肩においていた自分の手に視線を向けると、かなり指がミコトの肩に食い込んでいる。
これはちょっと痛いどころではないだろう。それにやっと気づいたアンコは顔が青ざめ、すぐさま飛びのくように手を離し、ごめん!!!!と叫んで部屋の扉のほうへと走っていった。

「?」

ミコトはそのくの一の一連の行動に少し驚いたが、またすぐに視線を本へと移した。







「アンコどうしたのよ。何かあったの?」

思わずくの一は声をかけた。
医療班の部屋の外にいたアンコは両手を壁につけ、ぶつぶつと何かを呟いている。
それはちょっと不気味だ。

「え、あ、なんでもないのよ、なんでも。」

ははははは、と明らかに動揺を隠しきれていないアンコに疑惑の目を向ける。
その目でアンコの顔をじっと睨むと、先ほどまであった傷がなくなっていることに気づいた。

「あれ?アンコいつ治療してもらったのよ。」

私が部屋の奥に医療班の人探しに行ったけど、誰もいなかったわよ?と不思議そうな顔でアンコを見つめる。するとアンコは突然機嫌が良くなりニコニコと笑って、

「ん、ちょっとねぇ。」

と今にも歌いだしそうである。そしてアンコはここまで来た道をスキップで帰っていく。くの一はアンコの不可思議な行動に疑問符を頭に浮かべながらもその後をついていった。












「ということがあったのよ!!」

「「・・・・・・。」」

「何よ、その哀れむような目は。」

「なんだか途中幻聴が入ってたよネ。」

「あ、あぁ、そうだな。」

「・・・・・・そんなことないわ!!!!」

「「(自覚あるんだなぁ・・・。)」」

「というか、アンコ。そのミコト君はお前の名前知らないんじゃないの?」

「そうだぜ。今の話だと一方的に名前を聞いただけじゃねぇか。」

「うっ・・・。ま、まぁ、それはこれから教えればいいんだし?きっと覚えていてくれてるわ!!」

「「(覚えているとは思うよ・・・。)」」

「それにしても、どうしてこんなにくの一の間にミコトの噂が広がったのかしら!私が治療してもらったことを友達に話しただけなのに!」

「「・・・・・・。」」

「あ、今日はミコトが昼から医療班の部屋にいるらしいのよね!!おばちゃ~ん!ダンゴごじゅ・・・いや100本くださーい!!」

「はいよー。」

「「・・・・・・。」」

「はい、お待ち。」

「ありがとー。ではお二方、お先に失礼します。(スキップをして出て行った)」


「・・・・・・ねぇ、クマ。ダンゴ100本って・・・やっぱりそのミコト君に持っていくのかな。」

「俺はクマじゃねぇ・・・・・・突っ込むところはそこか?」

「「・・・・・・・・・はぁ。」」





二人はなんだかとても疲れた様子で甘栗甘を後にした。











あとがき

読者の皆様に笑っていただけたら第1弾でした。
・・・笑っていただけたでしょうか・・・?
私はよく人の作品を読んで笑ったり泣いたりしてしまうのですが、私の書いている小説ってどうなのかなぁと思い、この番外編は笑いを狙ってみたのですが・・・すみません!!私の文才ではこれくらいしか書けませんでした。
今回は演劇の台本のような書き方をしてみました。
会話だけで話が進んでいく演劇の台本ってすごいですよね!
でも私が書くと・・・本当にすみません・・・。
これは11話のカカシさんのその後でした。
読者の皆様が少しでも笑ってくださったらいいなと祈っております。
これから原作へと入ってまいりますが、少し更新が遅くなってしまうと思います。
でもがんばって書きますのでこれからもよろしかったらお読みください。



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 第13話
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2007/12/21 18:21




木の葉の里から少し離れた森の奥、
そこに一人の少年がお墓の前で手を合わせていた。





姉さん、


僕は三代目火影様のおかげで無事、アカデミーに入学することができました。


入学式での里の大人たちの反応は・・・やはり、すぐに解決できることではないのは分かっています。


僕は理解してもらえるように、里に来たんです。


あきらめません。


でも、この前のように石を投げつけられるようなことはなくなりました。


あとは僕のがんばりしだいですね。


姉さん、また来ますね。





そう、あとは僕のがんばりしだい・・・







NARUTO ~大切なこと~ 第13話







アカデミー入学後、初めての授業、僕はとても楽しみにしていた。
授業が始まると周りの子供たちも新しい教材を睨むように一生懸命見ている。
その教材を使って分かりやすく説明している教師。本当に楽しくて、僕はつい質問をしてしまった。

その質問の内容は今日学んだことの応用のようなことだ。
周りの子供たちは僕の質問自体が分からなかったようで首を傾げながら、教師の返答を待っていた。
教師は「あー・・・」と言葉を濁している。と、その時ちょうど終わりの鐘が鳴った。
すると教師は、

「お前、ちょっと来い。」

と僕を呼んだ。僕は嬉々として着いていった。
だって、質問の答えを聞かせてもらえると思っていたから。

教室から出て廊下を歩く。僕の前を教師は無言で歩いている。
教員室にでも行くのだろうか、と思いながら僕は着いていく。

しばらく歩いていたその時、突然教師は立ち止まった。
僕は教師があまりにも急に止まったので、教師の足にぶつかりそうになるが、なんとか立ち止まる。僕は教師を見上げる。するとゆっくりと教師は振り向いて無表情で僕を見る。
周りを見ると、ここは使われていない教室の前の廊下で、滅多に人が通らないようなところだった。

「先生?」

僕は先生を見上げて首を傾げる。質問に答えてもらえる・・・はずがない。
僕だってここまで来たらわかっている。

そして先生は腕を振り上げて僕の頬を思いっきり叩いた。

僕の身体は叩かれた反対側へと吹っ飛び、壁へとぶつかる。痛いのは当たり前だ。頬が赤く腫れていくのが触らなくたってわかる。
先生は僕をギラギラとした目で睨みつける。

「お前はもう、授業に出るな。」

あまりにも理不尽な要求だ。僕は「はい、わかりました。」なんて簡単に言ってやらない。

だって、負けるわけにはいかないのだから。

忍者について学ぶことももちろんだが、僕は友達を作りたいのだ。
こんなことで負けるわけにはいかない。
せっかく忙しい中、僕のために火影様が準備をしてくれたのだ。

先生は気が済んだのか、そのままどこかに行ってしまった。


負けるものか。



そして次の授業ために戻ると、教室に入れてもらえなかった。全ての授業に参加できなくなった。仕様が無い。担任があの先生なのだから。
僕は仕方なく、放課後になるまでひっそりと修行をする。そして放課後、誰もいなくなった教室に自分の荷物を取りに行き、里中にある新しい家へと帰っていった。


次の日、やはり全く授業には出られなかった。
とりあえずその日にある授業の教材は持ってきていたので、使われていない教室に行き、一人で勉学に励み、時には修行をした。
そして学校が終わるとミコトとして火影邸へと行き、医療の本を読み漁る。


そんな毎日を過ごしていると、アカデミーには試験というものがあった。
とりあえずそれにはさすがに先生も僕を参加させた。
久しぶりに姿を現した僕は、クラスの子供たちの中で不良と思われていた。心外ではあるが仕方が無い。授業に参加していなかったのは本当だ。そう思われても無理は無い。


手裏剣投げの試験。
僕の番がやってくると、決まった枚数の手裏剣を手渡される。
僕は気づいてしまった。
その手裏剣の一枚一枚が部分的に重さの違うことを。
これをそのまま投げては、あらぬ方向へ飛んでいくのは投げなくても分かる。
それでも僕は意地でも的の中心へと当てて見せた。試験しか参加できないのだ。ただでさえ授業に出ていないのだから、試験で良い点を出して挽回しなければならない。
試験だけではとても挽回できるとは思わないが・・・。

先生の悔しそうに歪んだ顔が見えた。



筆記試験。授業に出てはいなかったが、教科書はしっかり読み込んで覚えている。
まだまだ初歩的な問題しか出ていない紙に答えを書き込む。

そしてその試験の採点が終わった頃、僕は初めて教員室に呼ばれた。

僕はその部屋の扉を開き顔をのぞかせると、僕の担任がおそらく僕のだろう答案を手に持ち、椅子に座って眺めているのが見えた。
僕は先生の前まで行く。
そして、僕に気づいた先生はこちらを向き、鋭い目つきでこう言った。

「お前、カンニングしだろう。」

するはずがない。僕は先生が持っていた紙をちらりと盗み見る。
答案には全て丸がついていた。しかし点数は書かれていない。
僕は思わず眉をひそめる。
先生はその僕の反応が気に入らなかったのか、大声で叫ぶ。

「どうせカンニングしたんだろ!?そんなことわかってんだよ!!」

突然の大声に、教員室にいた教師たちがこちらを見る。しかし、僕を見た瞬間その内容に納得したという顔をする。

あぁ、そうか。

僕は今やっと気づいた。
僕は自分のことを「人間」だと思っている。
でも、この人たちにとって僕は「九尾」なのだ。
「九尾」である僕が力をつけることに恐怖しているのだ。
そのことに気づいた僕だが、気づくのが遅すぎた。

それからというものの、やはり授業は出られないが、試験だけは参加していた。







「くそぅ!なんでできないんだってばよぅ!!」

唯一クラスの子たちと会える試験の時。
僕は少しでもみんなと話したくて、わざと派手なオレンジ色の服に頭にはゴーグルなんか着けて、わざと変な口癖でみんなの気を引こうとした。

今の試験は変化の術の試験だ。もう前みたいなことはしない。
別に担任の先生に負けたとかそういうのではない。先生にも僕が「人間」であることを認めてもらいたいんだ。だから、無害であることを示さなければならない。

クスクスと教室内の子供たちの微笑がもれる。
得意な術で失敗をして笑われるのはとても恥ずかしいが、みんなが僕を見ている。
それは少し嬉しかった。
先生はニヤニヤとしながら僕を見ていた。・・・まだまだ道のりは遠い。


僕は時々いたずらをするようになった。
僕は学校に来ているんだ、とクラスのみんなに気づいてほしかったから。
すると何人かの男の子が僕に気づいて一緒に遊んでくれた。本当に嬉しかった。
だけど、次の日にはもうその子たちとは遊べない。
遊んだ次の日には、その子たちは僕に言いに来るのだ。

「親がさ、お前と遊ぶなって・・・。ごめんな!」

みんなそう言って僕の前から去っていく。

すごく寂しい。

でも、これもわかっていたことだ。
みんなのすまなそうな顔を見れただけでも、その子たちの意思ではないことが窺える。
それだけでも今は良いじゃないか。


そうして3年はあっという間に過ぎ、卒業試験がやってきた。
一緒のクラスだったみんなは、全員その試験には合格して額あてをつけて親たちと喜んでいる。

僕は問題外だ。

授業の出席日数が足りなくて試験さえ受けさせてもらえなかった。





次の年も同じ担任だった。やはり僕は授業に出させてもらえず、試験ではヘマをやってはみんなの笑いをとっていた。

その年は同じクラスに日向ネジという少年がいた。日向一族は白眼という血継限界の持ち主である。

僕はネジが正直うらやましかった。

ネジは授業でも試験でも遺憾無く己の力を発揮していた。うらやましくないわけが無い。でも僕は確実にみんなに認められるために試験で失敗する。
きっとネジの目には僕のことなど入れたこともないだろう。だけど、僕はよくネジを見る。
僕にとってうらやましい環境にいるのに、ネジの目はどこか達観していて、何かあきらめたような感じがする。

なんだかそれがとてももったいないと思った。


その年には他にもすごい少年がいた。

ロック・リーという少年だ。彼は忍術を使うことが出来なかった。
だけど、あきらめず必死に自分のできることを磨き続けていた。
僕はそれを見て励まされた。
僕も負けてはいられないと思えた。
だから、もっとみんなが僕に気づいてくれるようにいたずらをする。

長く付き合える友達はできないけれど、その一つ一つが今の僕の宝物。



そしてその年も僕は去年と同じ理由で卒業は出来なかった。




しかし、そんな僕にもチャンスが訪れた。





「今日からお前たちの担任のうみのイルカだ!」

よろしくな!

そう言ったのは、今僕たちの目の前にいる鼻の上の一文字の傷に、髪を高い位置で結んでいる先生。

今年は担任の先生が変わったのだ。




僕はこのチャンスを手に入れてみせる。













あとがき

まだ原作一歩手前でした!すみません。
しかも短くて申し訳ございません。
今回は全てナルトさん視点からでした。
次の話から本当に原作通りに話は進む予定です。



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 第14話
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2007/12/23 23:41






今年は担任の先生が変わりました。


名前はうみのイルカ先生です。


いまどき珍しいくらいの熱血教師です。


先生が変わったおかげで授業には参加できるようになりました。


でも、油断は出来ません。


もう2回も落ちてしまいました。今回が最後のチャンスだと思ってがんばらないといけません。


そのために僕は落ちこぼれを演じ続けます。


授業中は寝た振りをします。もちろん、授業を聞き逃すなんてもったいないことは絶対にしません。


でも、チョークを投げられたのはビックリしました。寝たふりをしているので避けるわけにもいけませんし・・・。


まさか叱られるとは思いませんでした。


こんな大人もいらしたんですね。


僕はつい嬉しくていつも寝た振りをしました。


いたずらをするとイルカ先生は本気で叱ってくれました。


前の先生はいつも無視を決め込んでいたので、反応を返してくれるイルカ先生が楽しくて、よく困らせてしまいました。


それでもイルカ先生はそんな僕に時々一楽のラーメンをごちそうしてくれます。


そして、なんと僕に3人の友達が出来ました!


キバにチョウジにシカマルと言います。


彼らは変な口癖で話す僕と一緒に会話をしてくれたり、時にはいたずらを考えたり、実行してくれたりします。


彼らの親は四代目の知り合いで、僕のことを「九尾」とは見ていないようです。


今の僕は本当に幸せです。


だから、今年こそ絶対に卒業して見せます!







NARUTO ~大切なこと~ 第14話







「で・・・・・・卒業試験は分身の術にする。」

よばれた者は一人ずつ、隣の教室に来るように。

しんと静まっている教室に担任の先生の声が響く。
とうとうやってきた卒業試験だ。
ナルトは今年、授業にも出席できたため、やっと試験にまで漕ぎ着けることができたのだ。他の子供たちとは気合の入れ様が違う。

先生が教室から出て行くと、教室の中は次第に騒がしくなる。

――今年こそはなんとしても合格するんです・・・!!

ナルトは静かに闘志を燃やしていた。
今年になって初めて離れていかない友達ができたナルトには、今回を逃してしまっては次の年にまた友達ができるかというと・・・望みは薄いだろう。
だからこそ今年は絶対に合格したいと思っているのだ。



「次!うずまきナルト!」

初めて卒業試験に名前を呼ばれたことに少し感動を覚える。
そして立ち上がると、キバやチョウジ、シカマルが声をかけてくれた。

「まかせろってばよ!!」

ナルトは3人に返事をして隣の教室へと移動する。
少し狭い教室に入ると、二人の教師が額あてを並べた机を前にして座っている。
ナルトにはその額あてがキラキラと輝いているように見えた。
そして、教室の中心へと歩いていく。

――印はゆっくり結んで、2体出せばいいですよね。

ナルトは頭の中でこの試験に合格するための手順を確認する。
なんといってもナルトはアカデミー切っての落ちこぼれだ。ここですばやく印を結び、見事にたくさんの分身を作ってしまっては「九尾」がどうのと勘違いをされてしまう。ここでそんな失敗をするわけにはいかない。

確認した内容を実行するため、腕を上げゆっくりと印を組み始める。
そして最後の印を組み、分身2体分のチャクラを練りこもうとしたその時だった。

――ッッ!!・・・これは金縛りの術!?

ナルトは最後の印の形のまま動かない。いや、動けないのだ。
その様子に担任の教師は首を傾げている。

――・・・イルカ先生・・・気づいて・・・!

ナルトはイルカと呼んだ教師を必死に見つめる。
が、しかしナルトの思いは無情にも流されてしまう。

「ナルト・・・印はできてたんだけどな・・・、チャクラを練りこむこともまだまともにできないなら、卒業は無理だな・・・。」


・・・失格だ。










明るい空の下、アカデミーの校庭ではたくさんの子供とその親で溢れ、喜びの声を上げている。その子供たちの額には木の葉のマークの新しい額あてが光っている。
そこここで子供を誉める親の声が飛び交う。それはとても幸せな光景だ。
そんな光景を木陰にあるブランコに座って眺める金色の少年がいた。

その金色の少年に気づいた二人の大人が、先ほどまで子供と一緒に笑っていた顔に、突如怒りを浮かべ、キッと少年を睨む。しかし、金色の少年はその視線に気づいていないのか、ただただ下を見ていた。

「ふん!!いい気味だわ・・・あんなのが忍びになったら大変よ。」

だって本当はあの子、と言いかけた大人をもう一人が制している。


いつの間にかその木陰にはブランコだけが静かに揺れていた。










金色の少年はトボトボとアカデミーの出口へと向かっていた。その足取りはかなり重い。ふと少年は後ろに知っている教師の気配を感じた。

「ナルト君。」

唐突にその教師から声をかけられた。

「・・・ミズキ先生。」

ナルトは振り返り、そのミズキと呼んだ教師を見る。
するとミズキはナルトにいろいろと話し始めた。イルカ先生はああだとか、ナルトにこうだとか・・・。しかし、ナルトは聞く気になれなかった。
それもそのはず、ナルトがこの試験に落ちたのは今隣でペラペラとしゃべっている教師の所為だったのだ。
額あての並べた机の下で金縛りの術の印を組み、ニヤニヤと笑いながら見ていたミズキにナルトは気づいていた。
そんなミズキの話など興味もない。


「・・・・・・卒業したかったんです・・・。」

ナルトは下を向いたままポツリと呟く。つい、本音が出てしまった。
その呟きが聞こえたのか、ミズキが突如嬉々とした表情になり、ある提案をしてきた。

「火影邸の・・・にある部屋の・・・・・の巻物の術ができたら、」

きっと卒業できるよ。

誰にでも好かれそうな笑みを浮かべるミズキ。その顔をナルトは表面では卒業できるかもしれないという喜びに満ち溢れた表情をしているが、その下では胡散臭そうにミズキを睨んでいた。

――・・・それが目的で僕を落としたんですか・・・。

そりゃぁ、その術ができれば卒業は楽勝でしょう。なんせ禁術なんですから。と心の中で呟く。

これはナルトを使ってその巻物を盗ませ手に入れようというミズキの魂胆だ。

ミズキは人当たりのよい、アカデミーでは人気のある教師だ。他の教師からも信頼を得ている。
しかし、ナルトを見る目だけは違った。決して顔には出していなかったが、まるで汚いものか何かを見るような目をしていた。そんな視線をいつも受けていれば、ナルトじゃなくても気づくだろう。

――巻物を手に入れたら僕を始末・・・ですね。

ナルトはミズキの意図を理解し、このままこの教師を放っておくのは危険だと確信する。そしてミズキの言われた通りに、今晩それを実行に移す。










辺りが暗闇に包まれ、満月の柔らかい光だけが木々の隙間から射している中、ナルトは言われた通りの巻物を持って、指定された場所でその人物を待っていた。
とナルトはふと顔を上げた。

――・・・イルカ先生・・・?

今ナルトのいる場所に急速に近づいている2つの気配があった。
一つはもちろん、ミズキのものだ。しかし、ミズキよりも早くこちらに近づいている気配があったのだ。
それがイルカだった。
ぱっとナルトの前に現れたイルカはものすごい形相でナルトを睨みつける。

「・・・・・・見つけたぞ、コラ!!!!」

ナルトはイルカの表情に少したじろいだ。
今までかなり叱られてきたが、ここまでイルカを怒らせたのは初めてだ。

――火影様ですか・・・。

確かに巻物を盗む時に火影様がこっそり見ている気配を感じてはいた。あの後、火影様が自分を探すように言いつけたのだろう。
ナルトはハッと近づいていた気配が近くの木の上で止まったことに気づいた。

「あの、イルカせんせ、あぶっっ!!」

危ないと言おうとした瞬間、イルカは思い切りナルトを突き飛ばした。
そしてイルカは突然降ってきたクナイの雨を身体に受ける。
その光景を視界に入れたナルトは目を見開く。

――どうして・・・?

イルカが他の大人たちと違うことはこの一年でわかったことだ。しかし、まさか自分をかばってくれるとは思わなかった。

「なるほど・・・そーいうことか!」

イルカは刺さったクナイを抜きながら、木の上の人物へと叫ぶ。これがミズキによる策略だったことに気づいたのだ。とその時だった。

「ナルト・・・本当のことを教えてやるよ!」

クククとミズキは笑っている。イルカの行動に驚いて、呆然としていたナルトはハッとしてミズキへと顔を向ける。イルカはどこか焦ったようにミズキを見つめている。

「この里ではな、「ナルト」は「九尾」を指すんだよ!お前は化け狐で、イルカの両親を殺したんだ!!」

「やめろ!!」

イルカは突然の言葉に驚き、ミズキに制止をかける。しかし、ミズキの叫びは止まらない。

「イルカだって本当はなぁ、お前のことが憎くてしょうがないんだよ!!」

「やめ・・・・・・ナ・・ルト・・・?」

イルカがミズキの暴言を止めようとした時だった。
ナルトからハハ・・・という乾いた笑いがもれた。
それが今の状況に妙に浮いていた。
イルカは様子の変わったナルトを不審に思い、振り返る。


ナルトは自分が「九尾」だと言われていることはずっと前から知っている。今更そんなことを言われても、もう負けない。だけど

――苦しい・・・

ナルトはぎゅっと胸の辺りを強く握る。
わかっていたんだ。イルカが時々、自分を見る目が何かに迷っていることを。
気づいていた。
でも気づかないふりをしていたんだ。
そうすれば、まわりの子と同じように自分が扱われているように見えたから。
一楽に連れて行ってくれるイルカに、お父さんってこういうのかなって想像してしまって。
それが嬉しかった。本当に嬉しかったんだ。でも、

――やっぱり・・・無理なのかな・・・

ナルトから一筋の涙がこぼれた。




――ナルト!?

イルカはナルトが流した涙に驚き目を見開いた。
確かに自分にとって「九尾」は親の敵だ。憎くないはずがない。
正直に言ってしまえば、自分の受け持ちのクラスにあの「ナルト」がいるということが分かった時には、自分はどうすればよいのか分からなかった。
でも、いざ授業をやってみれば、「ナルト」は普通の子供だった。
ただ少しやんちゃなだけで。よく笑う悪ガキで。
そう思っていた。
そう思っていたナルトが今、自分の目の前で泣いている。

――俺のせいだ・・・!!

イルカはキュッと唇をかみ締める。
己の少しの気の迷いのせいで、ナルトを苦しめていた。
なんてことだろうか。
これでは教師失格だ。

「ナルト!!」

イルカは思い切りナルトの名を叫ぶ。しかし、ナルトはこちらを見ようとしない。
いや、全く反応していない。自分の呼びかけにまるで気づいていない。

――もう・・・見てくれないのか・・・?

あの輝くような笑顔に、己の汚い心がどれだけ救われただろうか。

――ナルト・・・お前は知らないだろう?

伝えなければ。今、言わなければ二度とあの笑顔を見れない。そう思うんだ。
イルカは反応を返さないナルトに向かって再び叫ぶ。

「ナルト!!俺は確かに「九尾」は憎い!!殺せるなら殺したい!!けど・・・「ナルト」は違う!!お前は俺が認めた」

優秀な生徒だ!

その言葉にナルトの肩がピクリと揺れる。さらにイルカは続ける。

「お前は努力家で一途で・・・そのくせ不器用で誰からも認めてもらえなくて・・・お前はもう人の苦しみを知っている・・・今はもうバケ狐じゃない。お前は木の葉隠れの里の・・・」

うずまきナルトだ。

イルカはそう言ってじっとナルトを見つめる。しかし、ナルトの顔は下を向いていて、全くこちらを見ようとしていない。それを見たイルカは顔を歪ませる。とその時だった。

「ケッ!めでてー野郎だな。」

お前が殺さないなら俺がやってやるよ!

そう言ったミズキが背中の手裏剣へと手を伸ばし、ナルトに向かって勢いよく投げつける。

ザシュッ!!!!


「・・・・・・え?」

突然、地面に押し倒されたナルト。見上げたそこには口から血をたらしているイルカが目に飛び込んできた。今の音、それはイルカの背に刺さった大きな手裏剣によるものだった。イルカの口からはぼたぼたと血が流れ落ちる。
ナルトはただそれを呆然と眺めていた。すると、今度は血ではない何かが降ってきた。ナルトは頬に当たった何かを手で触れる。それは透明な液体だった。ナルトが恐る恐る再びイルカへと視線をもどす。

「ナルト・・・やっと見てくれたな・・・。」

そう言ってイルカは微笑む。しかし、すぐにひどく悲しそうな表情へと変わった。

「さみしかったんだよなぁ・・・苦しかったんだよなぁ・・・ごめんなぁ・・・ナルト。」

そこには涙を流し、自分に謝っているイルカがいた。
ナルトは思い切り目を見開いた。

――違うんです・・・!

さっきのイルカの叫びはしっかり自分に届いていた。
イルカの必死な声が、その言葉が嘘ではないと伝えるのに十分だった。
顔を上げられなかったのは、嬉しすぎて、幸せすぎて、涙と鼻水でぐしゃぐしゃだったからなんだ。どうしてイルカが謝る必要がある?

――あぁ、やっと

やっと自分を本当に認めてくれる大人が現れたのだ。
里にもどってきてから5年間。自分を「ナルト」として見てくれる大人は三代目火影しかいなかった。1人でもいてくれたことに自分はとても感謝していた。しかしそれは

――孤独・・・

本当は寂しかった。苦しかった。どんなに人が集まっている中にいても自分は孤独だった。
長かった。それでも負けないで、諦めずに今までこれたのは姉と父と火影様、そして友達のおかげで。
そうしてようやく手に入れた理解者。

――イルカ先生・・・ありがとう。・・・もう許しませんよ・・・

ナルトはイルカの下から抜け出て、イルカの制止も聞かず、立ち上がる。
それを見たミズキは木から飛び降り、ナルトに巻物を寄越すように叫んだ。
しかし、ナルトはずっと顔を下げたままだ。全く表情が伺えない。と、その時ナルトはすっと十字の印を組み、二体の分身を作り出した。
いや、その分身は実体を持っているため、ただの分身ではなかった。
そう、それは盗んできた巻物の中の一つである禁術、“影分身の術”だ。
イルカはナルトの影分身の出現に目を見開く。


「ミズキ先生・・・、何か言い残すことはありますか?」


顔を上げたナルトは目を細めにこりと微笑んでいる。いつもの大口を開けて笑う笑みとは全く異なっていた。
ミズキは突然雰囲気の変わったナルトを不審に思ったが、

「お前なんかに何ができんだよ!」

化け狐が!!と叫び背中にあった大きな手裏剣へと手をかけようとした瞬間、

「「油断大敵だってばよ!」」

2重の声が聞こえたかと思うと、二体のナルトがミズキの両腕を固定していたのだ。
いつの間に!?と焦るミズキにだんだんと本体であろうナルトが近づいてくる。そして、ミズキの目の前へ来て立ち止まると、またにこりと笑う。

「それが最後の言葉でいいんですね?」

それじゃぁ、先生さようなら。

そう言い残すと、ナルトは右手にかなりの量のチャクラを溜め込み始める。
ミズキは「へ?」という声とともに間抜けな顔をした次の瞬間、ミズキの顔に黒い影がかかる。それは、自分の目の前にナルトが跳び上がったためにできた影だった。そしてその次の瞬間には

バキィッッ!!!!!!

ミズキの顔面が一瞬へこんだかと思うような強烈な鉄拳が入った。それと同時に二体の影分身は煙を上げて消える。ミズキは後方へと吹っ飛び、背後にあった木をなぎ倒していく。そして10本近くほど木をなぎ倒した後、やっとミズキの体は止まった。今の一撃の威力がその倒れている木々で伺い知れる。


イルカは今目の前で起こった事態に理解できず、頭が真っ白になっていた。いったい何がどうしたのか。とりあえず分かることは、ミズキをナルトが倒したということくらいだ。
そしてそのナルトはというと、自分の方を向いてこちらに歩み寄ってきている。

「ナ、ナルト・・・?」

なんとも間抜けな声を発する。イルカの目の前で立ち止まったナルト。すると、ナルトは無言のまますぐにイルカの背後へと回り込み、イルカの背に刺さっていた大きな手裏剣を慎重に抜いた。
それには大して痛みを感じなかった。
手裏剣を抜いた直後、背中に温かいものを感じる。と、その時、ナルトが口を開いた。

「ごめんってばよ、イルカせんせ。」

怪我させて。と、くしゃっと歪んだ笑みで呟く。

「それと・・・ありがとう!」

さっきの言葉・・・届いたよ、と言って背後からニシシと笑い声が聞こえる。イルカもさっきの自分の言葉を思い出し、少し顔を赤くさせる。と、突然ナルトの笑い声が止まった。

「俺さ・・・・・・医療忍者になりたいんだってばよ。」

ナルトのその言葉にイルカはハッと目を見開いた。
そういえばナルトの将来の夢など今まで一度も聞いたことが無かった。
いたずらばかりして自分を困らせていたこの少年。授業はまともに聞かないし、成績ではいつもドベだった。そんな少年がなぜアカデミーに通っているのか・・・少年に振り回されるばかりで、少年の将来の夢など考えたことも無かった。
イルカの背後からナルトはそのまま話を続ける。

「そんで、いっぱいたくさんの人を助けるんだってばよ!」

もう俺ってば2回もアカデミー落ちてるだろ?俺さ・・・今年こそは卒業したかったんだぁ。

最後は涙声になっていた。
イルカはふと背中の痛みがなくなっていることに気づいた。
そのことに少し驚いてイルカが振り向くと、そこには涙をポロポロとこぼしているナルトがいた。

「でもさ、でもさ、イルカせんせ。かばってくれてありがとう!」

イルカ先生がまた担任なら、俺、がんばっちゃうもんね!

涙を流したままナルトは満面の笑みでそう告げる。イルカは声が出せなかった。
ナルトはそんなイルカの様子に気づかず、こっちを向いたイルカの体中の傷の一つ一つに手のひらを順々に乗せていく。ナルトの手のひらが当たったところにはもう傷など見当たらなかった。
それに驚いたイルカはやっとのことで口を開いた。

「ナルト・・・お前、掌仙術できたのか・・・。」

それに影分身まで、と呟いたイルカをナルトはふと見上げる。

「掌仙術は医療忍術の基本だってばよ。影分身はミズキ先生が持って来いって言った巻物に書いてあったんだってば。」

本当はもうちょっと前からできましたが、というのは心の中にしまっておく。
イルカはそれを聞いてナルトの背負っている巻物に気づいた。
それは火影様の言っていた巻物だろう。
イルカはふっと笑みを浮かべて、掌仙術を自分の身体にせっせ施しているナルトを見つめる。

――俺はこいつの何を見てきたんだろうな・・・

この1年間、ずっと見てきたつもりだった。しかし、それは自分の勘違い。
試験の時の不自然だったナルト。確かにナルトは授業でも忍術が成功することなんてなかったが、術は失敗しても、チャクラ自体は練ることはできていた。
あの時の試験でナルトは何かがあって術を発動することができなかったにちがいないのだ。だからあんなにも必死な目をして自分を見ていたのだ。

――それに気づけなかったなんて・・・情けない・・・

目の前では自分の前で見事な医療忍術を使いこなしているナルト。イルカはその様子に微笑みながら、ナルトに気づかれないようにこっそりと何かをし始める。そして、


「ナルト。」


ちょうどイルカの傷を全て治療し終わったところで、頭上から降ってきたイルカの声にナルトはパッと顔を上げる。その時の目に入ってきたイルカの顔が眩しくて、ナルトは初めて今がもう朝になっていることに気がついた。
すると額につけていたゴーグルを取られ、何かを巻きつけられる。イルカはずっと満面の笑みだ。今のイルカはどこかいつもと違う気がするのはなぜだろう。


「卒業おめでとう。」


ナルトは一瞬その言葉を理解できなかった。
額に巻きつけられたものに手を触れる。と、そこには額あてがあった。
自分がほしくてほしくて、でももらうことができなかったもの。

――だからイルカ先生がどこか違うと思ったんですね。

イルカの額にはいつもつけている額あてがなくなっている。
やっとその意味に気づいたナルトはさっき止まったばかりの涙がまた溢れ出てくる。
そしてイルカに思い切り抱きついた。

「お前なら、立派な医療忍者になれるさ。」

と、人差し指で鼻をかきながら、少し恥ずかしそうにイルカは笑う。

「おうってばよ!」

ナルトもつられてニカッと笑う。
卒業祝いだ!と言ってイルカはナルトの手をとった。
ナルトはつながれた自分の手を見てはにかむ。
卒業という言葉は嬉しかった。でも、イルカの言葉がもっともっと嬉しかったんだ。

――この気持ちが伝わりますように。

ナルトはつながれた手にぎゅっと少し、力を入れる。そうしたら、イルカがこっちを見て苦笑をして、ぎゅっと握り返してくれた。

そんなことと言われるかもしれないが、それが本当に幸せで。


その日の早朝、一楽では楽しそうな、どこか幸せそうな笑い声が響いていた。










一方、ミズキはというと、ナルトの捜索にあたっていた他の忍びたちに発見された。
ミズキは生きていた。それはもちろんナルトが死なない程度に殴ったおかげだ。
イルカから全ての事情を聞いた火影様がミズキの治療後、厳重な処罰を下したのは言うまでもない。














あとがき

今日から少し忙しくなってきました小春日です。
このお話は何度も何度も書き直しましたが・・・自分の文才の無さに涙が出てきます。



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 第15話
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2007/12/27 19:27





姉さん!!


僕はやっとアカデミーを卒業しました!


7歳のころからもう5年が経ちました。


5年が経ってもまだまだ里の人たちとは分かり合えていませんが、


絶対にあきらめません!!


それに、「僕」のことを見てくれる大人もまた一人増えました。


理解してもらえることがこんなに嬉しいなんて!


少しずつ、少しずつ、あせらないで。


だから僕はがんばれます。




今日はアカデミー合格者の説明会です。


では、いってきます!!







NARUTO ~大切なこと~ 第15話








ざわざわと騒がしい教室。そこにいる子供たちの額には真新しい額あて。
そんな子供たちの中に、金色の少年はにやけた顔を隠そうともせず机についていた。
その怪しい少年はついには「へへへへ」とまで笑い出す。
すると、一人の少年がその怪しい少年に気づき、なんでここにいるのかと尋ねてきた。
そう、確かに卒業試験でこの怪しい少年、うずまきナルトは落ちていたのだ。合格者だけの説明会に来ていること自体おかしい。
ふとナルトは尋ねてきた少年に顔を向ける。

「この額あてが目に入んねーのかよ。」

ナルトは聞かれたことが嬉しくて額あてを指差し自慢する。それは

――なんていったって、イルカ先生の額あてですから!!

ナルトの中では、卒業したことよりもイルカ先生に認められたことのほうがよっぽど嬉しかったようだ。ナルトはにこにこと笑っている。と、そこへ突然、怒声が飛んできた。

「ナルト!どけ!私はあんたの向こう側に座りたいのよ!」

と、向こうを指差しながら怒るピンク色の長い髪の少女は、くの一の中で一番頭の良い春野サクラだ。
ナルトはその言葉に少し眉間に皺を寄せ、サクラの指差す方向へ顔を向ける。
するとそこには机にひじを乗せ、手を軽く組んで、どこかを見ている黒髪の少年がいた。

――うちはサスケですか・・・

彼は今年のナンバーワンルーキーだ。
成績が良いだけではなく、顔まで良いということでくの一クラスの中でかなりの人気だ。
しかし、彼は人当たりが良いわけではない。むしろ悪いと言っても過言ではない。
くの一たちはサスケのそんなところもクールでかっこよいらしい。

「てめぇーナルト!そんなところにいたらサスケ君の邪魔じゃない!!」

いつの間にかナルトは、サスケの目の前の机の上にしゃがみこみ、じっと見つめている。
それには更に声を荒げて怒るサクラ。その形相はまさに鬼のようだ。それはサクラだけではなく、周りで見ていたくの一たちも同様の反応を見せている。
しかし、ナルトは全く動こうとしない。

――サスケってどこか焦っているように見えて仕方ありません・・・

今年の卒業生では断トツトップのサスケ。
サスケは教師たちにとって期待の星だろう。しかし、サスケがそれだけで満足していないのは見ているだけではっきりとわかる。

――実は僕、サスケに助けられたことがあるんですよ?

知っていますか?



ナルトはアカデミーに入学して、初めて本当の孤独を味わった。
どこにいても自分を見てくれる人はいなくて。
家に帰って「ただいま」と言っても、もう誰もそれに返してくれる人はいなくて。
負けないって覚悟していたのに、負けそうになってしまった。

そんなある日、いつものアカデミーの帰り道で自分を見たんだ。
いや、自分がもう1人いるわけがない。
そう、それがサスケだったんだ。

――・・・彼も独り?

自分と同い年くらいの少年が普通だったらもう帰らないといけない時間だろうに、川辺でポツンと佇んでいる。
ナルトは思わず口角が上がるのを感じた。
独りが、孤独が嬉しいわけじゃない。
ただ、自分の中にとらわれすぎて、周りが見えていなかったんだ。
自分1人ではなかった。
もっと周りを見てみれば、自分と同じような人間はどこにでもいる。
それを教えてくれたのがサスケだった。サスケは自分の心を救ってくれたんだ。



その時のことを思い出し、ナルトは思わずふっと微笑んだ。
サスケは自分の顔を見て笑ったナルトに眉を寄せる。どうやら、からかわれていると勘違いをしたらしい。サスケは眼光鋭くナルトを睨みつけ口を開いた。

「おい。」

どけ、と言った次の瞬間、サスケの机の前に座っていた少年の肘が、机の上でしゃがんでいるナルトの背中をポンッと押した。

――え?

ナルトの目の前にだんだんと近づいていくサスケの顔。
その瞬間、くの一たちの文字にできないような悲鳴が上がる。このままではサスケとナルトが・・・!!みなの顔が真っ青になったまさにその時だった。

トスッ

サスケの後ろで軽い音が鳴った。くの一たちはその音でハッと正気を取り戻し、今起きているだろう非常事態に恐る恐る目を向ける。
しかし、そこには予想に反して黒髪の少年しかいなかった。


――今のあいつの動き・・・何なんだ・・・!?

サスケの目前に迫っていた金髪の少年が突然消えた。
それはほんの一瞬の出来事。
こちらに倒れてきていたナルトがとっさに両腕を伸ばし、手をサスケの肩に乗せ、トンッと軽やかにサスケの頭上をバク転し、見事に後ろの机の上に着地したのだった。

くの一たちはホッと安心のため息をつく。
しかし、サスケは今目の前で起こったことに固まっている。
ナルトはあの至近距離をとっさに回避してみせた。
自分には回避することができたか?
あいつ・・・ナルトはこんなことができる奴だったか?
今まで一度も相手にしたこともなかったナルト。こんなたまたまのような出来事だが、ナルトだからこそ、今目の前で起こったことを信じることができないのだ。
後ろの机の上から「ふー、危なかったぁ」という声でサスケは我に返った。
そしてパッと振り返り、

「おい、おま「おまえらー、席に着けー。」・・・チッ。」

サスケが声をかけようとした瞬間、教室にイルカが入ってきた。






「えー、これからは君たちには里からの任務が与えられるわけだが、今後は3人1組の班を作り、各班に一人ずつ上忍の先生方が付く。」

祝いの言葉から始まり、淡々とイルカは説明していく。
ナルトはあの後結局、ナルト、サクラ、サスケの席順で落ち着いたのだった。
イルカの話しにみな嬉々として聞いている。そんな中、

――まずは下忍選抜試験・・・ですね。

分身の術ができただけで任務がもらえるようになるとは思いませんからね。とナルトは頭の中で分析する。
下忍とはいえ、任務となれば生死に係わってくる。
定期的に行われていたテストとなんら変わらない卒業試験。
普通に考えてもそれだけで下忍になれるなんてどう考えても怪しい。
やっと手に入れた下忍への切符を無駄にしてたまるものかとナルトは気合を入れる。

「班は力のバランスが均等になるよう、こっちで決めた。」

イルカの言葉に対して、子供たちの非難が飛び交う。

――僕の成績では間違いなくサスケと一緒ですね・・・

自分の成績はわかりきっている。
スリーマンセルには必ず1人女子が入ることになっている。
誰となるのか・・・考えても自分より成績の悪い者はそうはいないはずだ。
ナルトは自分の名が呼ばれるのを楽しみに待つ。
そしてついに自分の番がきた。

「じゃ、次7班。春野サクラ、・・・うずまきナルト!それと・・・うちはサスケ。」

ナルトはちらりと横を見るとサクラががっかりしたり喜んだりしているのが見えた。
と、その時、サクラが思い切り立ち上がった。

「先生!!何でサスケ君とナルトが一緒なんですか!!」

ナルトじゃ足引っ張っちゃいますよ!

表向きはサスケの心配をしているサクラ。しかし、その言葉の端々にはナルトとだなんてイヤという思いが篭もっている。
ナルトは顔を少し歪めた。
こんなにもはっきりと言われてしまうと、さすがに辛い。
イルカはそんなナルトの様子を視界に納め、ゴホンと咳払いをしてその質問に答える。

「初めに言っただろう?サスケは卒業生27名中一番、ナルトはドベだ。班の力を均等にすると、自然とこうなる。」

力のバランスを均等にするには確かにこうするしかない。
その説明にサクラはしぶしぶ納得するしかなかった。

「フン・・・せいぜい俺の足引っぱってくれるなよ、ドベ。」

イルカの話を聞いて先ほどの出来事もそこまで深く考える必要はないと判断したサスケはナルトへそう告げる。


――・・・上手くやっていけるでしょうか・・・

ナルトはサクラとサスケの言葉を聞いてこれからのことに不安を抱き始めた。
この班はもう絶対だ。変更などない。
この2人は自分のことを見てくれるだろうか?
・・・いや、なんとしても見てもらうんだ。
そのためにはたぶんあるだろう下忍選抜試験に合格すること。
ナルトの顔にはもう迷いは消えていた。








午後になり、上忍の先生たちが自分の班の子供たちを呼んで教室から出て行く。
ナルトたちの班はかなり待たされたが、やっときた上忍と教室から場所を変える。

「まずは自己紹介をしてもらおう。」

そう言ったのはナルトたちの班の担当上忍だ。
その人物は銀髪の微妙な髪型に、額あてを左目が隠れるように斜めにつけ、目から下をマスクで覆っている怪しげな上忍。
そんな怪しげな上忍は3人の前で遅刻に対して謝ることもなく、勝手に話を進めていく。
上忍の言葉にサクラはどんなことを言えばよいのか尋ねる。

「そりゃぁ、好きなもの嫌いなもの、将来の夢とか趣味とか・・・ま!そんなのだ。」

と、上忍は肩を竦めながら言う。
そんな上忍に、サクラがまずは先生から自己紹介をするように頼んだ。
とにかく目の前の上忍は見た目からして怪しい。

「あ・・・俺か?俺は、はたけカカシって名前だ。好き嫌いをお前らに教える気はない!将来の夢って言われてもなぁ・・・ま!趣味は色々だ・・・・・・。」

「ねぇ・・・結局分かったの・・・名前だけじゃない?」

「「・・・・・・。」」

確かにカカシの自己紹介は結局名前しか分からない。

――忍びが簡単に情報を言ってはいけませんからね。

ナルトはカカシをじっと見つめながらそんなことを思う。が、

――まぁ、僕たちはしっかり自己紹介しないと信用なんてしてもらえませんからね。

なんて答えましょう。と考え始めたところ、カカシがナルトから順に自己紹介するよう促す。

「俺さ!俺さ!名前はうずまきナルト!好きなものはイルカ先生におごってもらった一楽のラーメン!!嫌いなものはないってばよ。あえて言うなら、無力な自分・・・かな。将来の夢は医療忍者!!いっぱいの人を助けるんだ!んでもって、里の人たちに俺を認めてもらうんだ!趣味は新しい薬を作って実け・・ん・・・・・・いえ、いたずらです、はい。」

――そんなに意外でしたか!?

ナルトは3人の様子を見て思わず趣味を言いなおした。
というのも、みなしんと静まり返り、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているのだ。
ナルトの自己紹介が済んだのに、いまだに沈黙が続いている。
しかし、この沈黙はサクラによって破られた。

「あんたが医療忍者なんてなれるわけないでしょ!!」

アカデミーの勉強さえできないのに!とサクラが笑いだす。サクラに引き続き、サスケも「フン」と言ってナルトを少し馬鹿にしているようだ。やっともとに戻ったみんなに安心したナルトだが、言われたことにプクっと頬を膨らまして、「絶対なってやるんだってばよ!!」と言い返す。
そんな子供たちのやり取りをしている中、カカシ一人は、ナルトの言葉にマスクで見えないがやわらかい笑みを浮かべてナルトを見つめていた。

――こいつ、おもしろい成長をしたな・・・

四代目から自分に託された子、それがナルトだ。
しかし、ナルトは忽然と姿を消し、噂だけの存在になっていた。が、5年前、この里に戻ってきたのは話に聞いていた。
すぐにでも会ってみたかった。
どんな子に育っているのか。
やっぱり先生に似ているのかな。
とても気になっていたんだ。
だけど、自分からは会いにいけなかった。
自分には会いたいと思う気持ちと会いたくないと思う気持ちが存在している。
ナルトがいなくなってしまってから自分は探し続けていたわけではない。
そんな自分がナルトに会っていいものか。
自分をこんなにも悩ませたナルトを前にしてみて、自分が何を迷っていたのかと馬鹿らしく思えてきた。
カカシは思わず苦笑をもらす。が、それはすぐに真剣な表情へと変わる。

――無力な自分・・・か。

火影様から話には聞いていた。
ナルトが一人の姉に育てられていたということを。でもそれは3歳まで。
姉が何者かに殺されてしまったからだ。もう大切なものを失くさないように、里のものに自分が「九尾」でないことを証明するために、ナルトは忍びになることを決意し、この里に帰ってきたというのだ。その話を聞いて、とても胸が苦しくなったのを覚えている。
しかし、

――なんだか聞いた話とかなり違うような・・・

そう、火影様から聞いた話では、7歳にしてはとても大人びているが、時々見せる子供らしい表情がかわいらしいとかなんとか・・・。
でも、今はどうだ。
キャンキャンと班の2人に吠えている金色の犬。
大人びているなんてお世辞でも言えないくらい子供らしい。

――ま、元気ならいいか!

と結論を出し子供たちを見ると、まだ金色の犬、ナルトは吠えていた。


「次!」

カカシが無理やり犬を黙らせ、隣の黒髪の少年を見る。するとナルトの隣に座っていた黒髪の少年が口を開いた。

「名はうちはサスケ。嫌いなものならたくさんあるが、好きなものは別にない。」

それから

「夢なんて言葉で終わらす気はないが、野望はある!一族の復興と、ある男を必ず」

殺すことだ。

そう告げたサスケはどこか遠くをきつく睨みつけている。
その場はナルトの時とは違った沈黙が支配し始める。
サクラはサスケのことをポーッとしながら見つめている。カカシは目を細め、何か思い当たることがあるような顔つきをしている。ナルトはというと、

――僕・・・もう1つ夢ができました。

医療忍者になることと、もう1つ成し遂げたいこと。

ナルトはサスケを見て微笑んでいた。
サスケの言っているある男、それはおそらくうちはイタチだ。
7年前からミコトで火影邸を出入りしているため、うちは一族の話は聞いている。
サスケの兄であるイタチが一族を皆殺しにした事件。その後、イタチは里抜けしている。
自分の幸せを奪った者を憎むのは当たり前。
だって自分もそうだったから。
だから気づくことができた。
復讐というものの意味の無さを。
しかし、それを止めるように言って、止められるものならとっくに捨てている。
他人がどうにかできる感情ではない。
自分で気づかなければいけないんだ。
そんな彼に僕ができること。

――サスケを死なせないこと。

自分がサスケに感じた焦り、それは“死”だ。
決して死にたいというわけじゃない。彼の復讐は“命”を懸けているのだ。
サスケは復讐を果たすまで死ぬことはしない。
しかし、復讐が終わった後、待っているのは“死”。
だって自分もそうだったから。
忍者たちを殺した後、自分には何も無いことに気づいた。
独り・・・それは人として生きるにはあまりにも辛いこと。
その時の自分には“死”に対する恐怖がなかった。もう、これでいいと思ったんだ。
だけど、今はどうだ。
ある人に救われて、夢というものまで見つけて。
自分を認めてくれる人まで現れて。
生きるってこういうことなんだ。
生きているってなんて素晴らしいんだろうって、分かったんだ。
それでも時々挫けそうになることだってある。
そんな時、サスケに出会えたことは自分にとってまさに奇跡だったんだ。
自分しか見えていなかった僕に世界を与えてくれた。
大げさかもしれないけれど、それくらいサスケは自分にすごいことをしてくれたんだ。
そんな彼に復讐というもので人生を終わらせてほしくない。

――僕はサスケと友達になりたいんです。

スリーマンセルだからとかそういうのではなくて。
サスケに出会ったあの時からずっと思っていたこと。
孤独は寂しいから、辛いから、今は復讐という気持ちのおかげで生きていけるけれど、その後は?
サスケの言う「一族の復興」など、二の次の話だ。
彼を死なせないためにも、自分は彼の支えになりたい。
サスケはまだ周りを見る余裕はないけれど、どうか独りでないことに気づいてほしい。
死なせてたまるものか。

だって彼は僕の光なのだから。




「よし、じゃあ最後に女の子。」

2回目の沈黙はカカシが破った。
カカシ言葉にポーッとしていたピンク色の髪の女の子はハッとしてすぐに話し始めた。

「私は春野サクラ。好きなものはぁ・・・ってゆーかぁ、好きな人は・・・。」

サクラはチラチラと隣を見ている。その視線の先にはサスケ。

「えーとぉ、将来の夢も言っちゃおうかなぁ・・・」

キャーーーー!!と一人興奮し叫び声を上げる。

――サクラちゃんもサスケの支えになりたいんですね!

僕とはちょっと違うような気もしますが、と心の中で呟くナルト。
カカシは軽くため息をついていた。




「明日から任務やるぞ。」

話は突然変わる。

「まずはこの4人だけであることをやる。サバイバル演習だ。」

「何で任務で演習やるのよ?」

演習なら忍者学校でさんざんやったわよ!とサクラは文句をつける。それに対しカカシは、

「ただの演習じゃぁないさ。これ言ったらお前たち」

引くぞ?とにこやかに言う。
そんなカカシにサスケとサクラはゴクリと唾を飲んだ。

――サスケと友達になるのはかなり大変ですよね・・・
   焦りすぎて周りが見えていませんからね。
   サクラちゃんとも友達になりたいです。
   そのためにもゆっくり自分を分かってもらえればいいですね。

カカシをボーっと見ながらこんなことを考えているナルト。
別にカカシの話を聞いていないわけではない。
1名反応がおかしい奴がいるが、カカシは話を続ける。

「卒業生27名中、下忍になれるのはわずか9名。残りの18名は再び学校に戻される。この演習は」

脱落率66%以上の超難関試験だ。と見えている右目だけで3人を睨みつける。
サスケとサクラは完全に引いている。が、しかし、

――9名だけなんですか。

それは知らなかったです。とずれた思考をして、ふむふむと頷いているナルト。
そんなナルトを見たカカシは

「お前、驚かないの?」

27名中9名だけなんだぞ?と再び言う。思考の世界へ飛んでいたナルトはハッと気づき、今更もう遅いが、驚いた顔をする。

「びっくりしたってばよ!でも、絶対下忍になってみせるってばよ!」

と満面の笑みで答える。

「でもどうして卒業試験なんか・・・。」

サクラが疑問に思っていたことを尋ねる。

「あ、あれか?あれは下忍になる可能性のある者を選抜するだけだ。」

しかしその説明でもサクラはまだ納得していないようだ。

「サクラちゃん。」

そこへナルトが声をかける。

「分身の術ができたくらいで、任務はできないってばよ。」

そりゃぁ、

「下忍じゃ敵の忍びと戦うなんてことは無いだろうけど、いつかはあることなんだってばよ。だからさ、」

その覚悟を見るための試験でもあるんだよ。と、にこりと笑うナルト。
いつかは人を殺す。それは忍びにとって当たり前のこと。
いくら下忍といえども、その覚悟が無ければ切り捨てられる。

3人はナルトを凝視する。

――・・・ナルトはあるんだな。

人を殺したことが。カカシは目を細め、ナルトを見つめる。
サクラとサスケはいつもと雰囲気の違うナルトに驚いただけだ。
ナルトの言葉に納得したサクラと他2名にカカシはその演習について書いてあるプリントを配る。

「とにかく明日は演習場でお前らの合否を判断する。忍び道具一式持って来い。それと、朝飯は抜いて来い、吐くぞ!では、明日遅れて来ないよーに!」


解散後、一旦家へと帰ったナルトは、ミコトに変化して火影邸の医療の本を読みに行くついでに、気になることを調べることにした。













あとがき

サスケさんとナルトさんの話にちょっとだけ触れてみました。
やっと下忍試験ですね。どうなるでしょうね。



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 第16話
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2007/12/28 19:25






今日は下忍になるための演習があります。


僕たちの班の担当上忍は、はたけカカシ先生です。


カカシ先生も、僕のことを「九尾」とは見ていないようですが・・・


やけに僕のことを懐かしむような目で見ているんです。


それで昨日の夜、火影邸でカカシ先生についてちょっと調べてみたら、


カカシ先生は父、四代目のお弟子さんだったそうです。


以前、カカシ先生を森で発見した時、


カカシ先生は僕・・・その時はミコトの姿でしたが、


僕を見て、確か「先生」と言っていましたよね。


・・・そんなに似ているのでしょうか。


今は四代目と重ねて僕を見ているのでしょう。


父には悪いですが、僕として見てもらえるようがんばらなくては!


あ!それとカカシ先生を調べてみると、カカシ先生の担当の下忍班は今まで一度も合格が出ていないようです。


上忍と下忍では差がありすぎます。


真剣勝負では絶対に勝てません。


きっと力ではないものをこの試験では求めているはずです。


班で一緒になったサスケ!


やっと彼に近づくチャンスができました。


僕は彼と友達になりたいです。


だけど彼は今、力を求めるために焦りすぎです。


僕は目立つ忍術は使わないようにしましょう。


そうしないと、彼はどこかへ行ってしまいそうで・・・


とは言っても、僕は医療忍者になるのですから、目立つ忍術なんてないんですけどね!


サスケが独りじゃないことを教えてあげたいです。


サスケとサクラちゃんの3人で下忍になってみせます!







NARUTO ~大切なこと~ 第16話







ナルトは言われた通り、朝食を抜いて家を出た。集合場所は試験の行われる演習場だ。
力勝負でないと分かっているナルトは朝食を抜くのも何か心理的に使われるのだろうと予測をつける。
3人とも集合時間前に着き、あとは先生が来るのを待つだけだ。

――気配は近くにあるのですが・・・

そう、カカシの気配は確かに近くにある。しかし、こちらの様子を見ることができるような位置でもなく、カカシの気配はじっとその場に佇んでいる。

――何かそこにあるのでしょうか?

ナルトは疑問を浮かべるが、カカシが来ないことには始まらないので、とりあえず待ち続ける。
その間、その場所では、サスケは木に寄りかかり澄ましているようだが、よく見ると眉間がピクピクと動いており、サクラは苛立って暴言を吐き始めるのをナルトがなだめるという珍しい構図が見られた。



それからだいたい3時間くらい過ぎた頃だろうか。

「やー諸君、おはよう!」

「「おっそーい!!!」」

――本当にサクラちゃん怖かったんですよ!?

片手を上げながらカカシはやっと現れた。それに対し、サクラとナルトが非難する。
なぜか少し涙目になっているナルトにカカシは首を傾げた。










丸太が三本並んだところに移動をして、カカシはその中心の丸太の上に12時にセットした目覚まし時計を乗せる。
今はまだ11時を少し過ぎたところだ。

「ここに2つの鈴がある。これを俺から昼までに奪い取ることが課題だ。」

カカシは2つの鈴を3人の前に掲げながら、今日の演習の内容を説明する。

「もし昼までに俺から鈴を奪えなかった奴は昼飯抜き!あの丸太に縛り付けた上に目の前で俺が弁当を食うから。」

そう言うと、子供たちの方からぎゅるるるる・・・という音が鳴り始める。
みな朝飯を抜いてきた証拠だ。

「鈴は1人1つでいい。2つしかないから必然的に1人丸太行きになる。そしてそいつは任務失敗とみなし」

学校へと戻ってもらう。

その言葉に子供たちはゴクリとのどを鳴らす。

――そういうわけですか。

ナルトはその話を聞いてふむと考え始める。

――わざと鈴は2つにする・・・

上忍から1人で鈴を奪うことなど困難だ。よって3人で協力しないと無理だろう。しかし、鈴は2つ。それによって仲間割れを生じさせる。
そしておまけに空腹だ。空腹は思考を鈍らせてしまう。

――まずはどうやって2人を協力させるかですね・・・

サクラちゃんはなんとかなりそうですがサスケは・・・

ナルトは1人、思考の海へと飛び込んでいる。その最中もカカシの説明は続く。

「手裏剣を使ってもいいぞ。俺を殺すつもりで来ないと取れないからな。」

これによってますます“1人で奪う”という意識を子供たちに植え付ける。
この言葉にサクラは困惑する。

「でも!!危ないわよ先生!!ねぇ、」

ナルトもそう思うでしょ、と言いながらサクラはナルトを振り返った。それにつられてカカシやサスケもナルトの方を見る。
しかし、そのナルトは腕を組み、何かをぶつぶつと呟いている。
まるで話を聞いていないその様子にカカシが口を開く。

「ま、話を聞かない“ドベ”はほっといてッッ!!!!」

ナルトから目を逸らした瞬間、突然カカシの語尾が強くなった。それとほぼ同時にカカシの後ろの方でドスッ!!!!と何かが刺さった音がする。カカシを見ると、首を思い切り右に倒している。
そして後方にあった木には、カカシのちょうど頭くらいの高さのところにクナイが深々と刺さっている。しかも煙まで立てて。
かなりの摩擦が起こらなければ煙など立つはずがない。
一体どれだけの速さでそのクナイが投げられたのか・・・。

その木を振り返って見ていたカカシとサクラとサスケはもとの位置に顔を戻す。と、そこにはまるで野球のピッチャーが振りかぶって投げたあとのフォームをしているナルトがいる。そして

「ほら、サクラちゃん。全然大丈夫ってばよ。」

姿勢を戻したナルトはニコリと笑ってサクラを見る。

「まぁ、“ドベ”である俺のクナイなんか簡単に避けられるだろうけど!」

腕を頭の後ろで組みながらニシシと笑うナルト。どうやらナルトは“ドベ”という言葉が癇に障ったらしい。

――正直、あれは危なかった・・・

反射神経がよくて本当に良かったとカカシは内心冷や汗をかきながらも己に感謝した。

「ま、まぁこれでわかったろ?じゃ、始めるぞ!よーい」

スタート!!

カカシの合図で3人は一斉にその場を離れた。








――忍びの基本、気配を消して隠れなければなりませんが・・・
  “ドベ”としてやりますか!

まずサスケとサクラにはこの演習が1人では無理なことに気づいてもらわないといけない。だからまずは1人1人戦わせよう、と考えたところでナルトはカカシの前に飛び出す。

「いざ尋常に勝ーーー負!!」

カカシの目の前で腕を組み、堂々と立ちふさがる。

「あのさぁ・・・お前ちっとズレとるのぉ・・・。」

カカシは呆れた顔でナルトを見る。それでもカカシは相手をしてやろうと思い、

「それ、なんだってばよ・・・。」

ナルトは思わず突っ込んだ。そう、カカシは“イチャイチャパラダイス中巻”と書かれた本を取り出し、読み始めたのだ。ナルトにはこれで十分ということだろう。

「ふんっだ!!“ドベ”でもやるってところ」

見せてやるってばよ!

実はナルト、先ほどの“ドベ”という言葉をかなり気にしていた。
強さで認められようというわけではないが、見下されるのは癪なのだ。

ナルトは言葉とともに一瞬でカカシの目の前へと迫り、右腕を振りかぶる。

――速い・・・!!

カカシはその一瞬で間をつめた速さに驚いたが、後ろへと跳び退いて、その攻撃を回避する。その瞬間、

ドゴォォオ!!!!

音とともに先ほどまでカカシが立っていた地面はひび割れ、でこぼこと隆起している。
それを隠れて見ていたサスケやサクラは目を見開いた。それはそうだろう。その状態を作ったのはあの「ナルト」なのだから。

――うっわ、やりすぎました!!

ちょっと叩くつもりだったのですが・・・とナルトは心の中で呟く。これが人にあたったら、ちょっと叩くどころではなかったことは間違いない。

「・・・おい、お前・・・。」

今の出来事で静まり返っていたところにカカシが呟く。

「お前、綱手様を知ってるか?」

「え?あ、はい。」

その言葉にナルトはパッと顔を上げ、思わず素で返事をする。そして、

「俺が医療忍者になろうと思ったのも、綱手様のおかげだってばよ!」

前に1度、助けられたんだ。と懐かしむようにナルトは言う。
その顔を見たカカシはそうか、と呟き、

「綱手様もかなりの怪力の持ち主だった。」

医療に関しては右に出る者はいないぞ。と、にこやかにカカシは話し始める。
その話に飛びついたのはもちろんナルトだ。

「そんでそんで!!」

ナルトはキラキラと目を輝かせ、綱手の話を聞きだそうと促した瞬間、

「油断は禁物だよ。」

突然ナルトの背後でしゃがんでいるカカシから声がかかる。ナルトの目の前にはもうカカシはいない。一瞬でナルトの背後に回ったのだ。
そのカカシの手には虎の印が構えられている。
その印を見たサスケとサクラは動揺する。まさかこの演習で下忍にもなっていない自分たちに忍術を使うとは思っていなかったのだ。そして

「木の葉隠れ秘伝体術奥義!!」

千年殺しーっ!!!!という声とともに、ものすごいカンチョウがナルトに決まるところだった。が、

「え?」

サクラが思わず呟く。
技が決まったと、思いきや、そこにはナルトくらいの大きさの木があるだけだった。

「変わり身の術・・・ね。」

ポツリとカカシが呟く。そう、ナルトは咄嗟に変わり身の術でその技を回避したのだ。

――・・・ただのドベじゃなさそうだね・・・

カカシは頭を掻きながら、ナルトの評価を付け直した。





変わり身の術で回避したナルトはというと、

――あんなの食らったら、痔になってしまいます!!

木の葉隠れ秘伝体術奥義・・・恐るべし・・・!!

近くの森の中で、腕をさすりながら先ほどの技に恐怖していた。

――ま、でもこれで2人も何かを起こすでしょうし

なんとか協力してくれるよう頼んでみましょう、とその場を後にした。














あとがき

中途半端なところで切ってしまいすみません!
次が少し長くなりそうだったので、こんなところで切ってしまいました。
すぐに続きは更新します。



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 第17話
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2007/12/28 19:44





サクラは森の中を走っていた。

――サスケ君・・・どこにいるのかな!?

サスケを探してひたすら走ると突然、

「サクラ、後ろ」

背後からかかった声にサクラはパッと、振り向く。そこにはカカシが立っていた。そして目の前でバラバラと葉がサクラの周りを舞ったと思った後には、もうカカシの姿は消えていた。
先生が一瞬で消えてしまったことにサクラは動揺するが、背後から自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。その声は自分が探していた人物のもの。
サクラは嬉々として振り返った。しかしそこには・・・






サクラの悲鳴が森の中で木霊した。







NARUTO ~大切なこと~ 第17話







――今のはサクラちゃんの悲鳴ですね。

ナルトはサクラとサスケに協力を求めに2人の気配を探していた。
今いる場所からはサクラの気配のほうが近かった。

――悲鳴も聞こえましたし、もう先生とは接触済みですね。

行ってみますか。とナルトはサクラのもとへと向かった。










「今の声・・・。」

サクラに何かがあったことを知ったサスケの背後から、

「サクラのやつ簡単に幻術にひっかかっちゃってな・・・。」

カカシの声がかかった。その言葉にサスケは苦笑したが、すぐに真剣な顔へと変える。

「俺はあいつらとは違うぜ。」










しかし、

「ぬおぉ・・・!!」

その叫びとともにサスケは地中へと引きずり込まれる。そしてサスケの頭だけが地面から生えている。
カカシの土遁心中斬首の術を食らったのだ。

「ま、あの2人とは違うってのは認めてやるよ。」

サスケの頭上からカカシの声が降り注ぐ。

「・・・にしてもお前はやっぱ早くも頭角を現してきたか。でもま!出る杭は打たれるって言うしな。」

ハハハと笑ってカカシは去っていく。
そう、サスケはもう少しで鈴を取るという、とても好い線まで行ったのだ。

トラップや体術、下忍程度ではできない火遁豪火球の術まで駆使し、あと少しというところまでカカシを追い詰めたのだ。一人でここまでできたことは賞賛に値するが、

「くそ!!」

結果としては鈴を取れてはいない。と、その時、

「よ!サスケ!」

悔しがるサスケの目の前にナルトが片手を上げて現れた。その背後にはサクラもいる。

「好い線行ったみたいだってばね。」

微笑みながらそう言って、サスケを土から出そうとナルトは素手で掘り始める。それを見てサクラも手伝う。その数分後にはサスケの身体は地上に出ることができた。
そして3人落ち着いたところでナルトが口を開いた。

「サクラちゃんには言ったんだけどさ。どう考えても一人じゃ鈴を取れそうに無いってばよ。」

その言葉にサクラは頷く。しかし、

「俺なら、次いける。」

そう呟いたのはサスケだ。そう呟いたその時


パンッ!!


「ナルト!?」

サスケ君になんてことするのよ!?とサクラはナルトを咎める。
ナルトは突然サスケの頬を叩いたのだ。サスケの左頬が少し赤くなっている。
驚いて一瞬固まったサスケだったが、すぐにナルトをキッと睨んで

「おま「サスケは焦りすぎだ!!」っ!?」

怒鳴ろうとした瞬間、ナルトがそれを遮った。ナルトの顔はいつになく真剣だった。
その場の熱気が少しおさまったところでナルトは話を続ける。

「サスケはアカデミーの誰よりも強いってばよ。今はそれだけで」

十分じゃないのか?

「カカシ先生との差に気づいたんだろ?まずは下忍に合格しないと前に進めないってばよ。お前は力が必要なんだろ?だったら」

協力しやがれ。

そう言い切ったナルトの目はとても力強かった。
2人は思わず息を飲む。そしておもむろにサクラが口を開いた。

「でも、どうして鈴を2つにしたのかしら・・・。」

これじゃぁまるで、と言った所でサクラはハッと気づく。それを見たナルトは

「その考えであっていると思うってばよ。これはわざと仲間割れを仕組んでいるんだ。」

それに

「イルカ先生言ってたってば。今後は3人1組の班で任務をこなすって。だから一人だけ落ちるなんてことは無いってばよ。」

2人はイルカの言葉を思い出し、確かにそうだと頷く。そして

「私は協力するわ!」

とサクラが力強く言葉を返す。

「・・・・・・今回だけだからな。」

サスケは目を合わせずぶっきらぼうに呟く。
その2人の言葉にナルトは微笑んだ。

「ありがとう。それと、」

サスケ叩いてごめんってば。



3人の気持ちが1つになった時、そばの木の陰でひっそりと微笑んでいる者がいた。


と、そこへ12時を知らせるベルが鳴り響いた。










4人は演習が始まった丸太のある場所へと集まっている。

「お前たち、この演習の意味に気づいたみたいだな。」

カカシは少し嬉しそうに話す。その言葉に3人は頷き、

「“協力”ですよね。」

サクラはカカシに自信を持って答える。それを見たカカシはうんと頷き、

「そうだ。協力・・・それは“チームワーク”だ。」

そう言ったカカシはその場にあった四角い石のそばに近づく。

「この石に刻んである無数の名前、これは里で英雄と呼ばれている忍者たちだ。が、」

ただの英雄じゃない。

「任務中に殉職した英雄たちだ。」

その言葉に誰一人声を出すことが出来ない。

「これは慰霊碑。この中には俺の親友の名も刻まれている・・・。」

カカシはそれをじっと見つめている。その目は悲しみにくれていた。

――うちはオビトさんですね・・・。

カカシのことを調べていてわかったことだ。四代目を上忍とした3人の班の中に、うちは一族がいた。それがうちはオビトだ。オビトはある任務で亡くなったらしい。

――その写輪眼は・・・オビトさんのものなんでしょうね。

カカシはうちは一族ではない。移植しない限り、その左目の写輪眼は手に入るはずがない。
ナルトはふと思い出す。

――カカシ先生が集合場所に来る前、ここにいらしていたんですね。

カカシが集合時間になっても来なかった時だ。近くにはいたけれど、ずっとその場で佇んでいたカカシの気配は確かにここだった。
カカシの話は続いている。

「忍者は裏の裏を読むべし。忍者の世界でルールや掟を破る奴はクズ呼ばわりされる。・・・けどな!仲間を大切にしない奴は、」

それ以上のクズだ。


――・・・あぁそうか。

そう告げたカカシをナルトはじっと見つめる。
カカシが自分を見ているのは、父と重ねているとかそんなことではなくて、

――過去のことに苦しんでいるんですね。

ナルトと、それにサスケを見るカカシの目はどこかいつも悲しみに沈んでいた。
カカシは過去に縛られている。

――僕たちを見ると、先生がスリーマンセルを組んでいたことを思い出すんですね。

今の先生の言葉、それには後悔の念が込もっていた。
・・・きっとそれはオビトと何かがあったから。

――カカシ先生には今を見てもらわないと。

自分は過去を思い出すものじゃない。ましてや四代目でもない。
カカシ先生に前を向いて歩いてもらわなければ。







「今から1時間後、また鈴取り合戦するぞ。」

その言葉に午前中の頃より少し成長した3人が頷く。

「で、お弁当はそこにあるから食べとけよ。」

と言ってカカシは消えた。そこと言われたところ、慰霊碑の上を見るとお弁当は2つしかなかった。

「なんで2つなのよ!?」

ケチくさいわね!!と怒るサクラにナルトが声を掛ける。

「俺ってば、実は朝ごはん食べてきたからお腹減ってないんだ!」

だからさ、2人で食べてよ!と笑って言う。
もちろんこれは嘘だ。しかし、ナルトはよく食事を抜かすことがある。
ミコトとして火影邸に行くようになって、時々食べ忘れるのだ。それに慣れてしまっているナルトはあまり空腹を感じなくなったのだった。

何いきなりルール破ってるのよ!とまた怒っているサクラと無言のサスケはとりあえず弁当に手をつけ始めた。
そして2人の弁当が残り半分というところで、

「ほらよ。」

サスケがナルトの前に弁当を突き出した。ナルトはそのサスケの行動に目を開いた。すると、すぐにサクラもナルトへと弁当を突き出す。

「お前ドベなんだからよ・・・これ以上足手まといになられたら困るからよ。」

そう言ったサスケの耳が少し赤かった。サクラも頷いている。
ナルトは2人の行動がすごく嬉しかった。

「へへへ、ありがとう!でもこんなにいらないってばよ。」

だからみんなで食べよ?そう言って今度は3人で食べ始める。
と、そこでナルトが2人に聞こえる程度の声で話し始めた。

「2人とも・・・午後の試験、俺に任せてくれってばよ。」

「ナルト!?何言ってるのよ!?あんたが1人じゃ無理って言ったんじゃない!!」

「・・・・・・。」

ナルトの言葉に思わず声を荒げるサクラ。サスケは無言だが、ナルトをきつく睨みつけている。しかしナルトはじっと何かを見つめていた。
サクラとサスケがナルトの視線の先をたどっていくと、そこには先ほどカカシが説明をしていた慰霊碑があった。

「もちろん、協力してもらうってばよ。でも、俺たちこのままじゃ下忍になれないんだ。」

「「?」」

そう言ったナルトは、いつの間にか視線を慰霊碑から森の中の一点へと移し、目を細めて見つめている。
サクラとサスケはその視線の先が何を見ているのか分からず首を傾げるしかなかった。



――そう、僕たちはこのままでは下忍になれません。

だってカカシ先生は・・・












昼食後、再び演習が始まった。

少し開けたところに1人佇んでいるのはカカシだ。
カカシは先ほどと同じように開けたところで森の中に隠れた3人が行動を起こすのを待っている。
そんなカカシの顔は午前中の生き生きとしたものではなかった。


――お前たちには悪いが、俺は部下を持つ気はない。

俺にはそんな資格がないんだ。

カカシは腰につけている2つの鈴を見つめる。
火影様に頼まれて下忍選抜試験の担当上忍として何度も、この演習を行ってきた。
しかし、それはあくまで形だけ。
自分が部下を持つなんてことはありえないのだ。
自分にはそんな資格がない。教えられることがないんだ。
唯一初めて、この3人だけが気づいた“協力”という言葉。
それさえわかってくれれば、もう自分の役目は終わったも同然だ。

“仲間を大切にしない奴はそれ以上のクズだ”

これは馬鹿だった自分にくれたオビトの言葉。
あの頃の自分はなんて馬鹿だったのだろうか。
やっとこの言葉の意味に気づいたのに、気づいたときには遅かった。
教えてくれた大切なものはもういなくなっていた。
こんな自分が部下を持って良いはずがない。


――オビト・・・お前が最後に何て言っていたか・・・

もう思い出せないんだ


少し思い出に浸っていたカカシは、あとは3人に鈴を取られないようにするだけだ、と顔を真剣なものへと変える。
いまだに3人の気配は森の中にある。
なかなか動き出さない3人にカカシは少し不審に思ったその時だった。



「カカシ君。」



カカシは呼ばれたほうへと振り返る。そこは慰霊碑のあるところだ。
しかし、先ほどまで誰もいなかったその慰霊碑に今は座っている人物がいた。
その人物は金髪に青目の青年。

「・・・先生・・・?」

そう、その青年はどう見てもカカシの師である四代目火影だった。
四代目火影はやわらかく微笑んでいる。が、

「誰だ、お前は・・・!」

カカシは唸るように目の前にいる青年に告げる。
当たり前だ。この青年はもう12年も前に亡くなっているのだ。
自分の目の前で冷たくなっている先生を見たのだ。それに

――3人の気配はまだ森の中だ。

演習を行っている子供たちの気配はずっと森の中にきちんとあるのだ。
目の前の青年はその3人以外の何者かが変化をしているしかありえないのだ。
その青年の気配はかなり薄い。それは本当に先生みたいだ。
こいつは自分を狙ってきた刺客だろうか?
カカシはスッと低く姿勢を構える。しかし、青年は微動だにしない。それどころか、

「ひどいなぁカカシ。」

そう言って先生は生前と変わらない苦笑をもらす。
それには思わず、カカシも臨戦態勢をといてしまった。すると、青年はおもむろに立ち上がり、自分が座っていた慰霊碑を見つめる。
そして、しゃがんで慰霊碑に手を伸ばし、指である人物の名前をなぞりながら呟いた。

「カカシ、もう自分を許しても良いんじゃないかい?」

「ッ・・・・・・!!」

その言葉にカカシは目を驚愕で見開き、声を出すことが出来なかった。

目の前の青年はなぜ自分が欲しかった言葉をくれる?
いや、欲しくなかった。
自分を許してはいけないんだ。
この慰霊碑は自分の罪の証であり、過去の馬鹿な自分を咎めるものだ。
大切なものを守りきることができなかった自分への戒め。
自分を許せるはずが無い・・・はずが無いのにどうして迷ってしまうのだろう。
それは目の前の人間の姿が先生だから?

青年はそっと立ち上がり、カカシへと顔を向けた。


「もう君は十分自分を苦しめ続けてきたよ。よくがんばったね。・・・だからもう過去に縛られないで」

自分の人生を楽しまなくちゃ。








――「お前はお前の人生を楽しめ!」








「あ・・・・・・。」

カカシはまるで時が止まったかのような感覚を受けた。
周りは風がおこす木々のざわめきや鳥の鳴き声がしているはずなのに、自分の耳には全く入ってこない。
そんな中、ただ自分に聞こえてきたのは大切なことを教えてくれたあの少年の声。


――思い出した・・・

少年が最後に自分に向かって叫んだ言葉。
なんで今まで忘れていたのだろうか。
彼は自分がこうなることを望んでいなかった。
彼は自分がこうやって過去に縛られないように、言葉にしてくれていたんだ。

そのことを思い出した今、カカシの目に映るもの全てが今までと違って見え始める。
こんなにも世界には色が溢れていただろうか?
こんなに綺麗なものだっただろうか?
そんな輝く世界の中には金色に輝く青年がいる。
青年は笑っていた。そして、


「オビトもきっと、そう思っているよ。」


青年はカカシの思い出に残っているものと全く変わらない笑みを浮かべている。
目を細めて、歯を見せながら、ニカッと笑っている目の前の青年。それはまさしく


「せんせい・・・。」


カカシはポツリと呟いた。
と、その時だった。


チャリン・・・


へ?とカカシが後ろを振り返るとそこにはそれぞれ鈴を持ったサスケとサクラがいた。
そしてその後ろには地団駄を踏んでいる金色の犬。

「取ったわよ!!」

サクラは満面の笑みでカカシの前にいる青年に声をかける。

「ん!よくやったね、サクラにサスケ。」

青年は依然として微笑んだまま返事をする。それに対しサクラは、

「ナルト!早く変化解きなさいよ!あんたが影分身使えたのには驚いたけど、いくら影分身とは言え、あんたが四代目火影様に変化するなんて火影様に失礼よ!」

「影分身・・・。」

カカシはちらりと金色の青年を見て呟く。
その言葉でやっとカカシは今の状況を理解した。
ナルトが影分身を使えるのはこの前の事件で知っていた。
目の前の青年は影分身。
だから3人の子供たちの気配はずっと森の中にあったのだ。

「サクラちゃん!俺にも鈴持たせて!」

「何言ってるのよ!あんたがよーいドンで森から出て、先に鈴を取ったほうが勝ちっていったじゃない!」

「フン。ウスラトンカチが。」

「うっ・・・でもさでもさ・・・・・・いいじゃんかケチー!!」

カカシは楽しそうに笑いあっている子供たちと吠えている犬を見やる。
それには思わず笑みがもれた。と、その時、

「“仲間を大切にしない奴はそれ以上のクズだ”・・・って良い言葉だね。」

カカシの肩に腕を回してそう言ったのはナルトの影分身。
いまだにその姿は変化をといていなかった。
ふとカカシはおかしな点に気づいた。
影分身は術者と全く同じ能力を持っている。
しかし、隣に立っている金色の青年は本体のナルトと気配の消し方が全く違うのだ。
カカシが口を開こうとした瞬間、

「カカシはその言葉の本当の意味を知っている・・・カカシはもう大丈夫だよ。」


お前が未来を育てるんだ。


カカシは開こうとした口を閉じた。
自分が未来を育てる?
そんなことができるのか。
困惑しているカカシに、青年は苦笑し、話を続ける。

「カカシの左目・・・オビトの写輪眼でもずっと先の未来は見えないけど、ほら。」

そう言って青年は指をさす。カカシはその方向へと顔を向けると、そこにはまだ鈴のことで言い合っている子供たち。

「まだ先の分からないことに目を向けるのはこわいことだけど、きっと楽しいこともあるから・・・」


未来を任せたよ、カカシ。


カカシは再び青年へと顔を向け、目を開いて凝視する。

「お前・・・どこまで知ってるの?」

カカシは思わず尋ねた。
この青年はナルトだ。
オビトのことやまだ見せてもいない写輪眼のことまで・・・。
ましてや、先生のことまで知っているのだ。
しかし、青年はカカシの質問に答えず、目を細め、まるでいたずらっ子のような顔をしてカカシに微笑む。そしてボンッと煙をあげて目の前の青年は消えてしまった。
カカシはその場で固まっている。と、そこへ、

「カカシせんせー?」

カカシは呼ばれた方へ顔を向けると、自分の袖を引っ張っている金色の犬がいた。
その顔はまるで捨てられた子犬のようだ。その子犬の後ろには先ほどまであんなに笑っていたのに、心配そうにこちらを見つめているピンクと黒の子犬。


――あぁ、そうか。

俺は未来に恐怖していたんだ。

自分の過去よりももっと辛いことが未来には起こるかもしれない。
そう思うと怖くて、ずっと止まってしまっていたんだ。


カカシは空を見上げる。
やわらかい青色の空に白い雲が気持ち良さそうに漂っている。
あの雲たちはどこへ行くんだろう?
・・・そんなこと、分からない。
先は見えないから面白いんだ。

――オビト。遅くなったな。

でもこの時間はきっと無駄ではなかった。
だって、そのおかげで目の前の未来に出会えたんだ。
後ろに振り返って見てみれば、そこには英雄として誇らしげにある慰霊碑。
それはもう自分の過去を咎めるための道具ではない。

――もう、俺は大丈夫だ。

過去を捨てたわけじゃない。
あれは忘れてはいけないことだ。だから、自分の中でずっとあり続ける。
それでいいんだ。
カカシは空に向かって微笑む。
そして子犬たちへ、



「お前ら!」





――先生、








「合格!!」






――俺が未来を育てて見せます。










こうしてここに新たな下忍班が誕生した。










あとがき

下忍選抜試験ではカカシさんについてとりあげてみました。次は番外編ですが・・・温かい目で読んでいただけたら幸いです。
カカシさんの遅刻の原因の話から考えたお話です。
本当に申し訳ありません!!皆様楽しんでいただけたでしょうか・・・。
これでカカシさんの遅刻が改善されたかというと、下にちょっとしたおまけを書いてみました。読んでも読まなくてもどちらでも構いません。














おまけ


僕たち3人は無事、下忍になることができました。
下忍としての任務と、僕はミコトとしても病院を回るという忙しい日々を過ごしております。
僕たちの担当上忍のカカシ先生。今では僕たちのことを温かい目で見守ってくれています。
本当に良かったです。だけど・・・










太陽がほぼ真上に来た頃。演習場にある慰霊碑のそばで楽しげな声がしている。


「ねぇオビト!ちょっと聞いてよ!」

その声に返事をする者はいない。

「この前の任務、子供のお守りだったんだけどさ、あの時のサスケったら・・・プッ!子供がサスケの顔見て泣いちゃってさ。あの時のサスケの慌てようが面白いのなんのって!」

そう言ってまた笑い出す。

「その子供にサクラが怒ってまた泣かせちゃってね、結局ナルトがほとんど1人で面倒見てたのよ。」

めずらしいこともあるもんだ、と微笑む。

「いつもはナルト、任務で上手くいったことがなかったからねぇ。この前の任務はめずらしくサスケも感心してたよ。」

サクラもね、と言ってやさしく笑う顔はまるで親のよう。

「あ、でもナルトったら「カカシ君。」ッ!!」

「せんせ・・・ってミコト君!?」

カカシがバッと振り返ると、そこには時々火影邸で会う人物、ミコトが立っていた。

「カカシ君・・・ってどうしてミコト君がここに?」

カカシはどぎまぎしながら尋ねた。
ミコトは気配がないため、背後に立たれても全く気づくことができない。そんな人物から突然声がかかったら、上忍であるカカシでもビクリとしてしまう。

「そのようにお呼びしてすみません、はたけ上忍・・・でもあなたもいつまでこんなところにいるんですか?」

今日は8時から下忍の任務があるのでしょう?と言いながら苦笑をする。
その言葉にハッと気づいたカカシは慌て始める。もう太陽は真上。

「だいたい、任務の話は終わったその日に言いにくれば・・・・・・ってもういませんね。」

いつの間にかそこには慰霊碑しかなくなっている。
ミコトは再び苦笑をもらす。

カカシの言葉の続き・・・この前の任務では、子供がナルトになつきすぎて、任務が終了してもなかなか離れなくて苦労をした、というものだ。


――幸せ・・・ですね。

ミコトは空を見上げる。

――お父さん・・・今日も木の葉は平和です。



そしてボンッと煙が上がったかと思うと、その場は静かに慰霊碑だけが佇んでいた。











あとがき2

結局カカシさんの遅刻癖は直りませんでした、というお話でした。
下忍任務のある日はこうやってナルトさんがカカシさんにミコトさんの影分身を送っているようです。



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 番外編
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2007/12/29 20:55






これは今より十数年前のお話。










あいつ・・・いつも俺に文句言いやがって・・・


何がルールだ!!


・・・・・・いや、間違ってない・・・あってるんだ・・・あいつは正しいことを言っているんだ・・・


でもよ!俺に対して厳しすぎないか!?


俺はうちは一族のうちはオビトだぞ!


・・・俺だって写輪眼さえ開眼すれば・・・


くそっ!あいつのスカした顔を1度でもいいから歪めてみたいぜ!!


ってうぉっ!!や、やばい!!!!


・・・このままだと・・・




殺される!







NARUTO ~大切なこと~ 番外編 『こんな俺にできること』







鬱葱と生い茂る森の中、呼吸を乱しながら必死に走る1人のゴーグルをつけた黒髪の少年がいた。

――間に合うか!?

少年はひたすら走る。と、その時、木々に巻きついていたツタが左足に引っかかってしまった。

「うわぁぁ!」

走ってきた勢いのまま少年の身体は止まることなく地面をすべるように引きずられる。
やっと制止したかと思い、顔を上げると、そこには銀髪の少年が立っていた。黒髪の少年は目の前の少年を見上げて口を開く。

「ギリギリか?」

「いや遅いから!」

オビト!

そう言って黒髪の少年、オビトの前で怒り始める銀髪の少年。

――また始まった・・・。

銀髪の少年はまたいつものように忍びならルールがどうのと説教をし始める。
確かに集合時間に遅れたのは悪いと思っている。

「いや・・・途中荷物持ったヨタヨタおばあさんに道聞かれちゃってさぁ・・・つーか目にゴミが・・・。」

「はい!ウソでしょ、それ!」

銀髪の少年は自分の言葉をすぐに否定する。

――・・・いつからこんな風だったっけ?

それはもうこいつとスリーマンセルを組み始めた頃からだ。
なんでこいつはこんなにルールや掟というものに固執するのだろうか。

「ん!そう言うなカカシ!おばあさんに付いていってあげたんだよオビトは・・・ね!」

「荷物を持ってあげましたー!」

俺たちの先生は本当に優しい。
先生もそう言ってくれているのに、銀髪の少年、カカシはまだ文句を言っている。
俺はカカシの言う、忍びとしてのルールをよく破ってしまうから、カカシは俺を嫌っている。

「てめーは心の優しさってもんがねーのか!いつもルールだ掟だ、うっせーんだよ!要は自分の自制心だろーがよ。」

俺もそんなカカシが嫌いだ。
カカシはその言葉にピクリと反応している。
これから発展しそうな俺たちの言い合いを止めてくれたのはこの班のくの一であるリンだ。

「まぁまぁ2人も止めなよぉう。同じチームなんだからさーあ。」

「リンは甘いんだよオビトに・・・今日は俺にとっても大切な日なんだからさ・・・・・・。」

そうだった。
今日はこいつの上忍としての初任務だったんだ。








「そんなわけで・・・今日からカカシは俺と同じ上忍に就任したんだよね。そこで任務は効率を考えて俺とカカシ班に分かれてやることにするから・・・何せ木の葉も今や未曾有の戦力不足だからね。」

そう言ったのは金髪の青年だ。
その青年合わせた4人の忍びは今、草原を歩きながら任務の場所へと向かっている。

――ってことはまさか・・・

俺は先生の言葉を聞いて堪らず尋ねた。

「分かれてやるって・・・じゃぁ・・・」

「ん!そうだね、カカシを隊長にオビトとリンでスリーマンセルね・・・で、俺は1人。」

――やっぱりか・・・。

俺はどうもカカシが苦手だ。

「この前ちゃんと話したでしょ・・・オビト。カカシにプレゼントあげよって・・・。」

「・・・・・・悪りぃ・・・聞いてなかった。」

そう言ってきたリンに嘘を吐いた。
ちゃんと聞いていた。
その話を聞いた時はなんでこいつがって。
なんでこいつが上忍なんかになれたんだよって思って・・・結局プレゼントのことなんか考えもしなかった。


「俺はコレをあげるね。特注クナイだよ。」

金髪の青年はカカシにいびつな形のクナイを渡している。リンは個人用の医療パックをプレゼントした。そして、

「・・・な、なんだよその手は?」

カカシは俺に向かって無言で右手を差し出してきた。

――・・・それはいわゆる催促か!?

「お前にやるもんなんてなーんにもねーよ!」

プレゼントなんて用意していなかった。あの話を聞いてから俺は焦るばっかりで。
そんな俺にカカシは言った。

「ま・・・別にいい・・・どうせロクなもんじゃないでしょ・・・役に立たないもんもらっても荷物になる!」

「・・・大体何でお前が上忍なんかになれたのかが不思議だ!」

俺は思わずそう言ってやった。
しかし、カカシはお前に言われたくないと軽く受け流す。

――けっ!ほんと嫌な奴!

本当に嫌な奴だ。

嫌な奴・・・なのになんで俺は傷ついているんだろう。
何かが胸の辺りに刺さっているみたいに痛いんだ。その理由は

――・・・そんなのわかってるよ!

本当は仲良くしたいんだ。
だけど自分は素直なんかじゃないから、いつもすぐにこいつに楯突いてしまう。
それに、こいつが上忍になれたのだって分かってるんだ。
こいつは忍びとしての才能に溢れている。
・・・俺と違って。
だけど!俺は今のこいつは認められないんだ。
ルールばかりが絶対じゃないと思うんだ。
上忍になるなら、それを知ってほしい。
だから、それを俺が証明してやりたい。
・・・でもその前に

――プレゼントくらい用意してやれば良かった。


はは、俺は馬鹿だ。








4人が国境付近へと近づくと、金髪の青年が任務の説明を始めた。


現在、忍び五大国による統治が揺らぎ、各国の国境付近にて小国や忍び里を巻き込んでの小競り合いが続いていた。この小競り合いは火の国の軍事力である木の葉隠れにも多大な打撃を与えている。
これはのちに“第三次忍界大戦”として伝えられる。


「今土の国が、草隠れの里を侵略侵攻してきているラインね。」

そう言って金髪の青年は広げた地図の一点を指差しながら子供たちに説明をしていく。
土の国、それは岩隠れの忍びだ。今回の任務の敵は岩隠れの忍び。
すでに敵の前線には千の忍びがいるという情報が回ってきている。

「この前よりさらに前進してる・・・。」

前まではこんなに迫ってきていなかった。
これだけの進撃を見せているということは後方の支援がスムーズに働いているからだ。

「そこで今回の任務・・・ここね・・・。」

金髪の青年が指差すところにある地図のマーク、それは「橋」だった。
カカシ隊の任務、それは敵の後方地域に潜入し、物資補給に使われているこの橋を破壊し、敵の支援機能を分断し、速やかに離脱することだ。

その内容に子供たちは真剣な顔で了承の返事をする。

「先生は・・・?」

金髪の青年、自分たちの先生は1人で行動すると言っていた。
きっと自分たちよりも危険な任務をするに違いない先生に俺は思わず尋ねる。

「俺は前線で直接敵を叩く。君たちの陽動にもなるからね。とりあえず今日はカカシ君が隊長ね。国境までは一緒に同行するけど、そこから分かれて任務開始だよ!」

「「「ハイ!!」」」

4人はスッと中心に向かって片腕を伸ばし、手のひらを重ね合わせてこれからの任務に対して気合を入れる。これは、みなの無事を願う儀式のようなもの。
これから本当の忍びの戦いが始まるのだ。








竹やぶの中、金髪の青年が前に並んでいる子供たち3人に忠告をする。

「ここからは二手に分かれる。みんな、頑張るんだよ。」

子供たちの顔は真剣そのものだ。



任務が始まって今はもう2日目。
昨日は単独で来ていた岩隠れの忍びに襲われ、カカシが1人でその敵に対して立ち向かい、右肩に軽くはない怪我を負ってしまった。
しかし、そんなことでカカシは後退することなくここまできたのだった。
その時、俺はカカシを罵った。
カカシが先生の言うことを聞かずに無茶をしたからだ。
それに対してカカシも言い返し、また口げんかへとなりかけたところで今度は先生が止めたのだった。


「忍びにとって何より大切なのはチームワークだよ。」


そう言った先生の言葉が自分たちの心の中に重く圧し掛かった。





――カカシがあの“白い牙”の息子だったなんてな・・・

ちらりと隣に緊張した面持ちで立っている銀髪の少年を見る。
昨日の夜、リンとカカシが寝入った後、先生から聞いた話だ。
俺は先生の言った“チームワーク”が大切だとは分かっている。
だけど、つい俺はカカシに反発してしまう。
そう言ったら、先生はカカシの父である“白い牙”の話をしてくれた。
任務遂行よりも、仲間の命を選んだカカシの父サクモ。
しかし、そのために任務を中断したため、大きな損失を出してしまった火の国や里の仲間がサクモを責めたのだ。挙句の果てには助けた仲間たちでさえも彼を中傷した。
そして心身ともに悪くした彼は自ら命を絶った。

――カカシがルールだなんだっていうの・・・分かった気ぃする。

でも、ルールとか掟とか、それだけが正しいとは思えないんだ。
簡単なルールでさえ守れていない俺が偉そうなことは言えないけれど。
サクモさんはまさに俺の理想だ。
忍びは道具なんかじゃない。人間だ。
サクモさんは人間の命を救ったんだ。
それのどこが悪い?
・・・俺はお前が“白い牙”の息子だと信じてる。







「さっさと行こうぜ・・・隊長さんよ。」

金髪の青年が分かれて行動するということで緊張に包まれていた場に、ボソリと呟いた。それに対し、隊長と呼ばれた銀髪の少年が驚いた顔をしている。同じく班の少女もだ。

――悪りぃかよ!俺が素直になっちゃ!

俺は恥ずかしくなってそっぽを向いた。







それから自分たち3人は地図を見ながら慎重に目的の橋へと向かって行った。
そして小さな池の水面を歩いている時だった。
カカシがスッと右手を挙げた瞬間、上から降ってくる大量の竹やり。

――火遁!豪火球の術!

俺はすぐに印を結び、それを一瞬にして燃やしてその攻撃を防いだ。
そして前から現れた敵にカカシが対峙する。しかし敵は少し攻撃してきた後、すぐに離れていった。カカシはすぐに俺の隣へと着地する。と、その時、

「キャーッ!!」

後ろを歩いていた少女からの悲鳴が上がった。
その悲鳴にバッと振り返ると、そこには銀髪の少年と対峙していた男と、もう1人別の男がいた。その男の腕の中には仲間の少女。

「こいつは預からせてもらう。」

「待て!!」

カカシの言葉を聞くはずも無く、敵の忍びたちは消えてしまった。


「ちくしょう!!」

俺はすぐさまその忍びたちの後を追おうとする。が、しかし、

「オビト!奴等を追うな!!」

「ッ!?何だと!?お前今何言ってんのか自分で分かってんのか!?」

「ああ・・・二人でこのまま任務を続行する。」

そう言い切ったカカシの目は本気だった。

「リンは・・・リンはどうすんだよ!!」

――なんでそこまで“掟”にこだわるんだよ!?

「リンは後回しだ。敵はこっちの作戦を知りたがってる。すぐに殺されることはない。・・・それより問題は敵にこっちの作戦を知られることだ。そうなれば任務はより困難になる。」

「お前の言うリンの無事ってのは想像の範疇じゃねーか!」

俺だってお前の気持ちはわかってるんだ。

「今は任務の事よりリンを助ける方が優先だ!!」

でも、お前は“白い牙”の背を見て育ってきたんだろ?

その背はどうだった?
お前がそんなになるほど、かっこ悪かったのか?


・・・そんなわけねーだろ。


「・・・忍びに必要なのは任務に役立つ道具だ・・・感情なんてのは余計なものなんだよ。」

目の前のこいつはいったい何を言ってるんだ?

「・・・本気で言ってるのか・・・!?」

じゃぁ、どうしてそんな辛そうな顔してんだよ。

「お前は本気でそう思ってんのか!?」

そんなこと思ってねーだろ?
そう言えよ。
お前はあの“白い牙”の子なんだろ?


「・・・ああ・・・そうだ・・・。」


カカシは俺の言葉を肯定した。
その言葉が、この場をしんと静まり返らせた。



「・・・やっぱりお前は嫌いだ・・・。」



ポツリと呟いた。

――はは、なんだ。お前も俺と同じだ。

素直じゃない。

お前、気づいてるか?
肯定の返事をするまでの間、とても辛そうな顔をしていたんだ。
いつもルールだ、掟だと言っているお前が俺の言葉に悩んでくれたんだよな。
俺とお前の忍びとしての才能は全然違うけど、俺たち似たところもあるんだな。

「・・・もういい。俺はリンを助けに行く。」

お前はきっと来てくれるから。

「お前は何もわかっちゃいない!掟を破った奴がどうなるか・・・」

すぐさま制止の声をかけてくるカカシ。

――また掟か・・・

きっとその言葉はお前の逃げ道だ。

「俺は“白い牙”を本当の英雄だと思っている・・・」

“白い牙”の背中は最高にかっこよかったんだろうな。

「確かに忍者の世界でルールや掟を破る奴はクズ呼ばわりされる・・・けどな・・・」

お前が“父”を認めないでどうすんだよ。


「仲間を大切にしない奴はそれ以上のクズだ。」


俺はお前を隊長と認めることができたように、
俺が少し素直になれたように、
お前も素直に行動してみろよ。


「どうせ同じクズなら俺は掟を破る!それが正しい忍びじゃないってんなら・・・」

気づけよ。

「忍びなんてのはこの俺がぶっ潰してやる!!」

――お前は英雄の息子だ。

俺はお前を信じてる。


黒髪の少年は背を向けたままそう告げると、敵の去っていった方へ向かっていく。
銀髪の少年はその背をじっと見つめていたが、振り返り、黒髪の少年と逆の方向へ去っていった。








――見つけたぞ・・・!

見つめる先には先ほどの敵が隠れているだろう洞穴のような場所だ。

――・・・カカシ・・・来なかったな。

本当に素直じゃない。・・・俺もだけど。

結局あの後、あいつは追いかけてこなかった。
でも、俺は1人でもリンを助ける・・・それは俺の言ったことを嘘にしたくないんだ。
あの言葉だけは嘘にしてしまってはいけないんだ。だって、

――お前に証明したいから。

俺はお前みたいに強いわけじゃないけれど、
ルールを破ってでも守るものがある。
それはとても大切なことだろう?
俺たちは人間だ。どんなに感情を殺したって、殺すことなんてできない。
お前は今も悩んでいるはずだ。
俺はそう信じてる。いや、信じたいんだ。


「よし・・・行くぞ!」

気合を入れ、今まさに敵の巣へと向かおうとした直後だった。

「何処へだ?」

「!!?」

突然背後から聞こえてきた声。

――俺はいきなり自分の言ったことを守れねーのか!?

急いで振り返った瞬間だった。



「カ・・・カカシ・・・!」

チャクラ刀を振りかざし、声をかけてきただろう敵に攻撃をしているカカシがいた。

「ま!お前みたいな泣き虫忍者に1人で任せておけないでしょ。」

そんなことを言っているカカシ。

――やっぱり素直じゃない!

でも・・・ありがとう。
お前はもう俺の認める上忍だ。

俺も素直じゃないから言葉になんかしてやんないよ。


「白銀の髪にその白光のチャクラ刀・・・まさかお前・・・“木の葉の白い牙”!?」

カカシの攻撃を受けた敵はムクリと立ち上がり、カカシを見てそう叫ぶ。

「これは父の形見だ。」

カカシはそう言って再び敵にチャクラ刀を構える。

――あ・・・そう言えば、カカシのやつ・・・それずっと持ってたな。

カカシの言葉に驚き、じっと見つめる。
感情なんて余計なものと言ったこいつが、“父の形見”と言ったのだ。
それは自分の感情だ。
カカシは自分の父を認めていたのだ。
ただその気持ちに目を背けて逃げていただけ。
でも、もうこいつは目をそらさないで忍びとして邪魔な“感情”に立ち向かっている。

――かっけーよ・・・

ほんとお前はかっこいい。
俺がそんなことを思っていた瞬間だった。

「オビト後ろだ!!」

カカシがそう叫んで、俺の背後へと回った。
ハッとしてすぐに振り返った。

それはまるでスローモーションに見えた。

背後に回ったカカシがこちらに向かって倒れてくる。

――俺がボーっとなんかしてるから・・・!!

「カカシ!!大丈夫か!?」

急いで駆け寄る。
カカシが左目に置いていた手をどけると、そこには縦に深く走った傷。
この傷からしてもう左目は使えないだろう。

「敵の奴・・・やり手だよ・・・俺の血の匂いのついたクナイはちゃんと捨ててやがる。」

そう言ってカカシは右目だけで俺を見る。
何言ってんだよ。それ痛いだろ?
すると、またカカシが口を開いた。

「・・・またゴミでも入ったのかよ。忍びが泣くなっての。・・・まだ死んだわけじゃない。」

その言葉にはっとして、自分が泣いていることに気づいた。

――お前・・・やっぱりスゲーよ。

ずっと自分はゴーグルをしていた。
ゴミなんか入るわけが無いだろ?
その傷は痛いだろうに、俺の心配なんかして。
俺はほんとに口先ばかりだ。
お前は強くなった。
ルールとかそんなものだけじゃないことに気づいたお前はもっと強くなった。
それなのに、

――偉そうなことを言った俺がこんなんじゃダメだろ!

涙を拭った少年は立ち上がった。
そして

「オビト・・・お前・・・」

カカシが敵の攻撃に備えようと立ち上がろうとした瞬間、目の前にうちはのマークが広がった。それは黒髪の少年の、オビトの着ている服の背中についていたもの。
そのオビトの前には迷彩隠れの術によって姿を消していたはずの岩隠れの忍びが立っていた。

「な・・・なぜだ・・・見えるわけはない・・・何だ?その目は・・・!?」

その忍びはそれだけを言うとドサッと倒れ、ピクリとも動かなくなった。そして倒れたところからはじわりと赤い液体が流れ出す。


「ここは・・・仲間は俺が守る!!」


そう言ったオビトの両目は赤く、2つの巴の文様が浮いていた。


――俺は弱い上に泣き虫だ。

カカシは今、誰もが認めるほど強くなった。
俺が足を引っ張って、こんなところで死なせるわけにはいかないんだ。

じっと両手を見つめてみたら、そこには手の中のチャクラの流れが見えている。

やっと開眼した写輪眼だけど、すぐに使いこなせるはずがない。
今の俺にできること。それは

――もう絶対に泣かない!

ちょっと怖いことがあっただけですぐに泣いてしまう自分。
恐怖なんて忍びに付き物だ。いちいち泣いていたら限がない。
俺も強くなるんだ。


オビトの様子にカカシは驚いているが、左目の痛みに思わず「ぐっ」と声を
出してしまう。その声にハッと気づき、「大丈夫か!?」と声をかける。

「ああ・・・どうやら左目はもうダメそうだが・・・」

そう言いながら腰についているポーチから取り出したもの。

「リンからもらったこれがある。応急処置ならすぐできる。」

すぐにリンを助けに行くぞ!

カカシは額あてをとって包帯を巻き始める。


――カカシ・・・ほんとお前すごいよ。

俺のせいで怪我したのに、そうやって平然として。
こうやって素直に感情を曝け出してる。
お前はほんとすごい。

「おう!」

俺も自分の言葉、絶対守ってやるからな!















「オビト!!くそ!!」

カカシが俺の上にある石をどけようとしている。

「やめろ・・・いいんだ・・・カカシ。俺は・・・もうダメみたいだ。体の右側はほとんどつぶれちまって・・・感覚すら・・・無ぇ・・・。」

「・・・イヤ・・・そんな・・・・・・どうして・・・オビト・・・!」

「ちくしょう!!俺が・・・俺が初めからお前の言う通りに一緒にリンを助けに来ていたら・・・・・・こんなことにはならなかったんだ!」

そう言って腕を地に叩きつけているカカシ。
リンは泣いている。



――俺たち・・・初めて息が合ったな・・・

リンを助けるために2人で敵の巣穴に入って、岩隠れの忍び1人と戦った時、初めて俺はお前の役に立てた。
敵の両腕を俺が押さえて、カカシがそいつの肩をチャクラ刀で切りつけて、そのおかげでこうやって、幻術をかけられていたリンを助けることができたんだ。それに、

――お前は掟を破ってきてくれたじゃねーか。

俺がルールを破るのとはわけが違う。
カカシ、お前がそれを破ってきたんだぞ?
それがどんなにすごいことかお前はわかってねーだろ?
俺はお前が来てくれることを信じていたけれど、どこかで信じきれない部分もあったんだ。
だから俺にとって来てくれたことさえ奇跡なんだ。

――俺に・・・勇気をくれたお前を助けられたなんて・・・すごくないか?

カカシの攻撃は敵の肩にあたっただけだったため、その敵は巣穴ごと土遁の術によって崩してきた。すぐに出口に向かって走り出したけれど、カカシの左目が死角になっていたため、そこに小さな岩が当たって倒れてしまった。
すぐに起こそうとしたけれど、すでに上には大きな岩が迫っていて、俺はお前をそこからどけることで精一杯だった。当然俺はそのまま岩の下敷きで。
それを見たカカシがこんなにも俺なんかのために自分を責めている。

お前のそんな姿初めて見たよ。

「・・・何が隊長だ!何が上忍だ・・・!」

カカシは顔を歪めながらそう吐き捨てる。

――はは、何言ってんだよお前。

「そう・・・いや・・・忘れてたぜ・・・。」

お前のそんな顔、ずっと見たいと思ってた。

だけどな・・・それはこんなことじゃなくて、俺が自分でお前の顔を歪めてやりたかったんだ。

「俺だけ・・・お前に・・・上忍祝いのプレゼントやってなかったな・・・。」

そう言ったらやっとカカシはこっちを見てくれた。

――そう、そんな顔だよ。

今のお前の面・・・かなり間抜けだ。

「何・・・安心しろ・・・役に立たない・・・余計なもんじゃない・・・。」

俺は生まれて初めて自分がうちは一族であることを感謝した。
この写輪眼はうちは一族しか持たないもの。
うちは一族っていうのはみなエリートばかりだ。
なのに俺は、落ちこぼれ。
うちはという檻が苦しくて、辛くて、でもそれはいくらもがいても付き纏う。
だから俺は“うちは”が嫌いだった。
・・・でも、“うちは”という名にすがっていたのも確か。
俺は本当に弱い。
だけど、そんな俺がこうしてお前を助けることができて、やっと俺は強くなれたんだ。

「この・・・俺の写輪眼をやるからよ・・・。」

俺の残っているのは左目で、カカシの潰されてしまったのも左目。
なんて偶然だろうか。
これはお前が開眼してくれたも同然なんだ。
だからお前は迷わず俺の気持ちを受け取ってくれよ。


「里の奴らが・・・何て言おうと・・・・・・お前は・・・立派な上忍だ・・・!」


俺はリンに医療忍術でカカシに目を移植することを頼む。
リンは涙を拭って、それに力強く頷いてくれた。

「・・・俺はもう死ぬ・・・けど、お前の目になって・・・これから先を見てやるからよ・・・。」

俺は自分の言葉を守り抜いたんだ。
でも、このまま死ぬなんてことしてたまるもんか。
こんな俺にも最後まで何かできることがある。







「・・・カカシ・・・・・・リンを・・・頼むぜ・・・。」

移植が無事終わってカカシは敵のもとへと向かった。
きっとその背中は“白い牙”と同じなんだろうな。
・・・それが実際に見れないことが残念だけど、俺の中では見えてる。
お前はもう先生に負けないくらい、かっこいい上忍だ。

そんなお前と仲良くなれて本当に良かった。



「・・・あわてるなよ・・・リン・・・。」

俺の手を握っていたリンが緊張したように強張ったから、安心するように呟く。
今のカカシが負けるはずがないだろう?

「・・・カカシ・・・リンを・・・リンを連れて・・・早く・・・ここを離れろ・・・・・・て・・・敵の援軍が・・・く・・・来るぞ・・・。」

「オビト・・・・・・。」

「・・・いいから・・・行け・・・!」

いつまでも繋がっているリンの手を振り払う。

ありがとう、リン。
そんなリンが大好きだよ。
でもそれは言わない。だって、お前の視線の先にはいつもあいつがいたから。

俺は言わないよ。

カカシがリンの名を呼んでいる。カカシの声が焦ってるから、きっともう敵の援軍が来てしまったに違いない。
リンの俺の名を呼ぶ声がする。

あぁ、俺の役目はもう終わったんだな。








・・・そうか?


もし、俺がカカシだったら、絶対後悔する。
俺のせいであいつを死なせてしまったってな。
それじゃぁ駄目なんだ。俺なんかに縛られてちゃいけない。
あいつは本当の強さを手に入れた。
俺のせいで立ち止まったりなんかしちゃいけないんだ。





「カカシ!!」


だったら、最後に、こんな俺にできること


「             」







・・・ちゃんと届いたよな?
きっとあいつ、また間抜けな顔しただろうな!
だってさ、やっとお前に素直に言ってやったんだ。

・・・もし聞いてなかったら殺してやる!!っていうのはもう無理だけどな。
何てったって俺のありがたいお言葉だからな!!・・・というのは冗談。

初めてきちんと正直に言えたんだ。
もう言えないけれど、言えても言ってやらないからな。

いつもお前に突っかかってごめんな?
・・・遅刻癖直せなかったな。
厳しすぎるけど、正しいことを言っていたお前を俺は尊敬してた。
忍びとしての才能に溢れてて、みんなから注目されて、俺は悔しかった。
いや、悔しいんじゃなくて羨ましかったんだ。
そんなお前はきっと俺が死んだことを自分のせいだと思ってしまうから。
だって、お前は“白い牙”の子だから。
俺は本当に“白い牙”を尊敬している。
お前なら絶対超えられるから。俺が保証してやる。
だからさ、俺なんかに縛られるなよ?

最後まで俺にできることを教えてくれてありがとう。



カカシ


お前はお前なんだ


俺の言葉・・・



聞こえたよな?







「お前はお前の人生を楽しめ!」














あとがき

ごめんなさい!!!!(土下座)
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます!
オビトさんのお話を入れてみました・・・。もう土下座するしかありません。
次のお話はミコトさんの番外編(?)です。
軽く受け流すつもりで読んでくださると嬉しいです。



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 番外編
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2007/12/30 10:32





*季節はずれな話を更新してしまってすみません。読み流してくださって構いません。








山のような小箱が歩いている。







NARUTO ~大切なこと~ 番外編(?) もしもNARUTOに○○があったら







ここは火影邸の廊下。今はまだ夜の9時頃だろうか。
その廊下に髭面の熊と顔の大半が隠れている怪しい男がいた。そして彼らの目の前には、

「・・・箱が歩いてる・・・。」

どちらかが呟いた。
そう、彼らにだんだんと近づいてくる、可愛い包装紙で包まれた小箱の山。しかし、よく見るとその箱たちの下には人間の足がついている。そしてその箱の山の横からちらちらと金色の尻尾のような髪の毛が見え隠れしている。

「ミコト・・・君?」

怪しい男がその小箱の山に声をかけると、その小箱の山の持ち主がひょこりと顔を覗かせた。

「こんばんは。はたけ上忍、猿飛上忍。」

小箱の山の持ち主、それは特別上忍見習いの神影ミコトだった。そのミコトは目の前の2人にニコリと微笑む。

「その箱・・・どうしたんだよ・・・。」

やけに可愛いのが多いな・・・。

そう呟いたのは髭面の熊こと猿飛アスマだ。

「アスマ知らないの?」

アスマの質問に答えたのは、顔の大半が隠れている怪しい男ことはたけカカシだ。

「え!はたけ上忍は何か知っていらっしゃるんですか?」

カカシの言葉に驚いたのはミコトだった。

「ミコト君・・・。何も知らないでそんなにもらったの?」

「え・・・いや、今日はやけに怪我をしたくの一の方たちが多くて・・・。それで治療をしていたのですが、そのくの一の方々が治療のお礼と言ってみなさんが置いていったもので・・・。」

いつもはこんなことなかったのですが・・・。と苦笑いを浮かべているミコト。
物をもらうなんてことは今までに無かったために、もちろん袋などというものを持っていなかった。捨てるなんてことは考えられなかったミコトはこうして腕に抱いて歩いていたのだった。





――もしかして・・・

あれか?

アスマはふと今日の出来事を思い出す。

それは今日の昼過ぎ頃だっただろうか。
下忍の任務が早く終わり、報告書を持ってきている時だった。
その時たまたま通った医療班の部屋の前の廊下に、大きな塊があったのだ。

「なんだ・・・あれ?」

その塊を良く見ると、どうやら中忍以上のくの一たちのようだった。その人数は数えるのも面倒だ。というか、みなそんなに暇なのだろうか?

「私が先に渡すのよ!!」

「何言ってるのよ!!私に決まってるでしょ!」

「私よ!」

「私が!!」

くの一たちの怒鳴り声が廊下に響き渡っている。と、そこへ

「あんたたち!!何言ってるの!!私が一番に決まってるじゃない!!」

「「「「「アンコ!!?」」」」」

くの一たちの塊に腕を組んで立ちはだかった特別上忍みたらしアンコ。

「いくらアンコが初めて見つけたからって、そうはいかないわ!!」

「「「「そうよそうよ!」」」」

「フン・・・こうなったら・・・。」

アンコはそういうとサッと印を組み始める。

――おいおいおい・・・!!

こんな狭いところで忍術かよ!?

そう、ここは火影邸の中の廊下だ。こんなところで忍術を発動なんてしたら、たまったものではない。アスマは持っていた報告書をちらりと見る。そしてアンコのほうへと目を向けると、もうアンコの印は組み終わった。逃げている暇はないようだ。

――まじかよ!?

アスマは報告書をサッと後ろに隠す。どうやらアスマは混乱して、報告書だけでも守ろうと思ったようだ。そしてアンコがチャクラを練りこもうとした瞬間、

「やめぇぇぇい!!!!」

「「「「「ッ!!!!」」」」」

怒鳴り声とともに現れたのは三代目火影様だった。火影様はなんだかげっそりとしている。

「お願いじゃ・・・こんなところで忍術や忍具を使わんでくれ・・・。」

屋敷が壊れてしまう、と呟くように懇願する火影様は、いつもの威厳が全く感じられなかった。
それを聞いたくの一たちは目の色を変える。と、突然殴りあいに発展したのだ。

――・・・・・・怖すぎる!!!!

アスマと火影様の心の声が見事に一致した。
それをしばし呆然と眺めていたが、アスマはハッとして、そのまますぐに報告書の提出に行ったのだった。





――アレは本当に怖かった・・・

まるで一種のトラウマのようになってしまったアスマだった。
そんなアスマに気づかないミコトは、

「今日のくの一の皆さん・・・何故か打撲がひどかったんですよね。」

何か激しい体術の訓練でもしたのでしょうか?と首を傾げる。カカシはふ~ん、とどうでもよさそうに相槌をしていたが、すぐにニヤニヤとした顔でミコトを見る。

「ミコト君。今日は何月何日でしょう?」

「え?」

カカシの突然の質問に思わず呆けるミコト。

「・・・・・・あぁ、そうか。」

今日だったか。とカカシの言葉で納得しているアスマの顔は何故か青白い。
アスマの反応にミコトは首を傾げながらも、カカシの質問に答える。

「今日は2月14日・・・ですよね。」

それがどうしたんですか?とますます首を捻るミコトを見た2人は顔を見合わせて笑っている。

「最近ね、里である噂が流れているんだ。」

「噂・・・ですか?」

ミコトは少し嫌な顔をする。
噂といえば自分には良くないものばかりだ。今でこそだいぶ落ち着いてきた「ナルト」の噂。しかし、また新たに何かできたのかと不安に思ったのだ。

「そう。実は今日、女の子たちがチョコをあげる日なんだって。」

「チョコ?」

「本当に何も知らないんだな。今日はな、バレンタインって言って、好きな奴にチョコをあげるんだとよ。」

アスマの言った“好きな奴”という言葉にミコトは思わず顔を真っ赤にさせる。
そんなミコトにカカシはまたニヤニヤとした目で見る。

「ミコト君、22歳だったよね?好きな子とかいないの?恋人は?」

ミコトは設定上22歳だ。見た目もそれくらいに変化している。しかし、まだ中身は12歳の少年。色恋沙汰にはかなり疎いナルトは、カカシの質問にブンブンと顔を横に振っている。そんなミコトを見て楽しんでいるカカシに呆れたアスマが、

「バレンタインは今年が初めてなんだとよ。去年までなかったもんな。でも必ずしも好きな奴にあげるってわけじゃぁねぇんだ。そういうのを義理チョコって言うらしいぜ。」

その言葉にミコトはほっと息をつく。しかし、アスマは

――お前の場合、全部本命だと思うぞ・・・。

とか思っていたりする。
落ち着きを取り戻してしまったミコトをつまらないと思うのは、ミコトをからかっていたカカシだ。カカシは何かを考え、ニヤッとした目でミコトを見る。そのカカシにアスマはまた何か企んでやがるな・・・とこっそりため息をついた。

「バレンタインにはまだ続きがあるんだ。」

「え?」

そうなんですか?と首を傾げながらカカシに尋ねるミコト。その顔は本当に22歳なのだろうかという可愛さがある。

「実はね・・・来月、3月14日をホワイトデーって言うんだけど、その日にチョコをくれた子にお返しをしなくちゃいけないんだ。」

「そうなんですか!それは良かったです!何かお返しをしなくてはと考えていたんです。」

そんな日があるなんて、良かったです。
と素直に笑って喜んでいるミコト。しかし、

「でもね・・・お返しにはくれたチョコの値段の倍以上のものをお返ししなくちゃいけないんだ。」

「え!」

もちろんこれはカカシの嘘だ。そんな決まりなど聞いたことも無い。
見たところミコトの持っているチョコは30個以上ありそうな勢いだ。しかも

「うわぁ。アスマこのチョコ見て。」

そう言ってカカシはミコトの持っているチョコの箱の山から崩れないように上手く何個か取り出す。

「このチョコなんかゴ○ィバだし、ほら、こっちなんてピエール○コリーニのだよ。うわ!ロ○ズにモ○ゾフまで!」

むしろそんなことを知っているカカシのほうに驚きである。

「ていうか、ほとんど高級チョコレートだね。あ~ぁ、ミコト君大変だね、こりゃ!」

そんなことを言いながらカカシはミコトの持っているチョコを漁る。
そして変なものを発見した。
それはプラスチックの入れ物に入っていて、中身が見えている。

――アンコだな・・・。

カカシとアスマの心の声が重なった瞬間だった。その中身・・・串に刺さった3つの丸い物体が、チョコでコーティングされている。きっとチョコの下はダンゴだ。しかもそれが10本近く入っている。
カカシは見なかったものとしてそれを箱の山の中へと戻した。

「じゃ!がんばってね!」

カカシは片手を上げてそのままミコトの横を通り抜けていくと、アスマは「おいっ!」と言ってそのままカカシを追いかけていく。ミコトはじっとその場に佇んでいた。

その時のミコトの顔は真っ青だった。








「おい!カカシ!何あんな嘘ついてんだ!」

あいつお前の命の恩人だろ!

カカシを追いかけてきたアスマはそう告げる。そう、以前カカシはミコトに助けられたのだ。そんな恩人に向かってあれはないだろう。

「だって。俺だってあんなにチョコもらってないんだよ!」

ずるいよね!先生に似てるからって!

カカシは擬音語で表すならプンプンと怒っている。はっきり言って可愛くは無い。
アスマは呆れるしかない。思わず「そんなことで・・・」と呟く。その呟きに透かさずカカシは攻撃をしかける。

「何?アスマは悔しくないの?」

「・・・・・・俺は1個で十分だ。」

「どうせ紅でしょ。」

ラブラブだねぇ。とからかうように言うカカシにアスマは少し頬を赤くする。こちらも可愛くは無い。と、アスマはふと思い出したようにカカシに言う。

「お前ミコトにあんな嘘吐いてたけどよ・・・お前はどうすんだよ。」

お返し。

カカシはその言葉に腕を組んで、う~んと何かを考えているようだが、

「それはひ・み・つ。」

何も考えてはいなかった。アスマはもう呆れてものが言えなかった。と、その時歩いていたカカシが「ねぇ」と言って足を止めた。つられてアスマも止めてしまう。

「ミコト君これからどうすると思う?」

「・・・どうするだろうな・・・。」

真っ青だったからな・・・顔。

アスマはミコトのことを思い少し不安に思う。きっとカカシの話を鵜呑みにしてしまっている。あの高級チョコレートの山だ。本当に倍返しをするとなると、とんでもないことになるだろう・・・。ますます心配になるアスマだが、逆にカカシは何だかわくわくしていた。








そして次の日。
火影室に行くと、ミコトがSランク任務をください、と額を床につけて土下座している姿が見られた。しかし、ミコトはまだ特別上忍見習い。正式な忍者ではない。
見習いになってからもう7年も経っているがいまだに任務に行っていないのは、ミコトの医療忍術が綱手並み、もしくはそれ以上の腕があったため、危険なことをさせるわけにはいかないと過保護な火影様によって禁止されている。
結果はミコトの敗退。Sランクおろか、まだ任務は早いと他のランクでさえもらうことはできなかった。


それからというもの、ミコトは病院の手伝いを今まで以上にがんばった。朝から晩までは当たり前。そしてそれはもう里の民家の方まで出張するほどに。しかし、それはほぼタダ働きに近い。必要最低限しかミコトはいただかないようにしている。

そしてついにはミコトが倒れてしまった。まさに医者の不養生である。これによってミコトは病院に何日か入院することになったが、その入院期間中にたくさんのくの一が見舞いに来ていたという。なんともうらやましい奴め。(カカシ談より抜粋。)








そしてあれから1ヶ月近く経ち、次の日にはホワイトデーが迫ってきている。
ミコトはなんとかお金を貯めることに成功した。が、しかし、

「みなさんの好きなものがわかりません・・・。」

チョコレートの値段の倍以上といわれても、相手が気に入るものでなければお返ししても意味が無い。ミコトはかなり悩んだ。
チョコをくれた人に尋ねる?
いや、もうホワイトデーは明日だ。間に合わないだろう。そして悩みに悩んだミコトの考え出したお返しはというと・・・








「これミコトさんが作ったんですか!?」

「うわ!すっごいおいしそう!!」

はしゃいでいるくの一たちの手に持っているものは、可愛くラッピングされたもの。それを開けてみると、そこにはチーズケーキが入っていた。

「僕、お菓子作りとかそういうの好きなんです。料理とかも自分で作りますからね。」

チーズケーキ嫌いだったらごめんなさい。

そう言ったのはミコトだ。
ミコトは結局、値段よりも彼女たちの喜ぶものを選んだのだった。女性が好きなもの、それは一般的には甘いものだろう。そう考えたミコトは1日でせっせと大量に1人用の小さなチーズケーキを次々と作り、自分でラッピングしてくの一たちにプレゼントしたのだった。

それをもらったくの一たちは、それはもう大喜びしていたそうだ。





そしてその日、信じられないものを見た特別上忍たちがいた。

「アンコが・・・ケーキを食ってる・・・。」

「・・・食べてますね・・・ゴホ・・・。」

「あぁ・・・食べてるな。」

くわえていた千本を落とす者や、思わず咳をする者(それはいつものこと)、拷問・尋問部隊隊長を驚愕の表情に変えてしまった人物。
それは目の前でおいしそうにチーズケーキを食べているみたらしアンコだ。
それを見た特別上忍たちは、アンコがそれを食べ終わるまで動くことができなかったそうだ。










そんなことを起こした張本人、ミコトはというと・・・



「これあんたが作ったの?・・・意外ね。あんたがこんなのできるなんて・・・。」

「ひでーってばよサクラちゃん!俺ってばお菓子作り得意なの!」

「うん!ほんと!このクッキーおいしいわよー!」

「あ、あの・・・ナルト君、あ、ありがとう・・・。」

ナルトはにっこりと笑う。
そう、ナルトはナルトとしてもサクラ、いの、ヒナタからチョコをもらっていたのだった。
この3人にはクッキーを作って、きちんと包んでプレゼントしたのだ。
みんなに喜んでもらえて大満足なナルトだが、気になることがあった。

それはサスケだ。

サスケはとにかくアカデミー時代からモテていた。そんな彼はやはり、バレンタインデーに大量にもらっていた。サスケは甘いものが苦手だが、そんなことを言ってはいられないようなほどの量をもらっていた。

そんなサスケがもらった相手にお返ししていないのに気づいたナルトは、サスケに尋ねてみたのだった。
サスケは「別に何も返さなくてもいいんだぜ。」(それはそれで失礼)なことを言っていた。
それを聞いたナルトはあの必死でがんばったのは一体・・・と少し気を落としたが、みんなの喜ぶ顔を見れたからいいか、と思い直した。








そしてここにも1つ疑問を抱いている者が1人。




「ミコトさんとナルトの包みが一緒?」

実はミコトとナルト、2人にチョコを渡した人物がいた。

「どうしてかしら。」

そう言って首を傾げているくの一。

「ま、偶然よねー。」

チーズケーキもクッキーもおいしいわー。

その人物はいのだった。








さて、2月14日に猿飛アスマの見たくの一たちの争いがあったが、いったい誰が一番にミコトにチョコを渡したのだろうか。それは・・・





「ミコトさん!!」

里中を火影邸へと向かってのんびりと歩いていたミコトはふと歩を止め、後ろに振り返ると、そこには1人の少女。

「いのさん。」

どうしたんですか?と言って、目を細めて微笑むと、いのと呼ばれた少女の顔はだんだんと赤くなってくる。と、その時、バチンッ!と両手でいのは自分の頬を叩いた。そして、思い切り深呼吸をすると、きょとんとしながらこちらを見ていたミコトに向かって叫ぶように声をかけた。

「ミ、ミコトさん!今お時間はありますか!?」

「え・・・あ、はい。ありますよ?」

今ちょうど病院の手伝いが終わって、火影邸に帰るところなんですよ、と言ってまた微笑むミコトにいのは見えないようにガッツポーズをした。そして、

「私も今下忍の任務が終わったんです。ちょっと一緒に来てくれませんかー?」

と尋ねてはいるが、そう言い終わる前にミコトの腕を取って引っ張り始めていたいのに、ミコトは苦笑をもらした。

「下忍の任務って、まだお昼過ぎたばかりですよ?」

早いですね、と誉めるミコト。ミコトの腕を前で引っ張っているいのは、そんなことないですよーと答えているが、こちらから見える耳が赤くなっている。いのの返答にミコトは本当にすごいですよ!と言い返す。なぜなら、

――僕たちの班では考えられませんからね・・・

まずはカカシ先生が来ないことには・・・と内心だけで苦笑する。
そんなことを話しているうちに、どうやらいのの目的の場所に着いたらしい。
その場所は、

「ただいまー!」

「お帰り、いの・・・って、やぁミコト君!」

よく来たね、と言ってにこやかに迎えてくれたのはいのの父、いのいちだ。
そう、ここは「やまなか花」だ。

「こんにちは、山中上忍。」

実はミコトはよくこの花屋に訪れている。植物好きなミコトにとって、ここは本当にありがたいのだ。

「今日はどうしたんだい?何かまたほしい花があるのかな?」

「いえ、今日は・・・。」

「もう!お父さん!私が今日はミコトさんに用があるの!」

ミコトさんちょっと待っててー!と言って、いのは店の奥へと入っていく。そんな娘の慌てように、いのいちは「あ、あれね。」と言って笑っている。それを見てミコトはこくりと首を傾げた。

と、そこへ小さな箱を持ったいのが奥から戻ってきて、はい!とその箱をミコトの目の前へと突き出した。ミコトは突然のことに困惑していると、その様子に気づいたいのが口を開いた。

「これチョコレートケーキです!」

自分が作ったんですけどー・・・食べていただけませんかー?と上目遣いでミコトに尋ねる。と、そこには目をキラキラとさせたミコトの顔があった。

「これ・・・僕が本当にいただいてもいいんですか?」

「・・・もしかして嫌いでしたか・・・?」

いのは心配になってそう呟く。その後ろではいのいちがものすごい形相でミコトを睨んでいたが、そのいのいちに気づいていなかったミコトは本当に運が良かっただろう。

「いいえ・・・僕、お菓子大好きなんです。作るのも好きですが、食べるのも大好きです。」

男がそんなこと言うのって・・・やっぱり変ですかね、といのから受け取った箱を、頬を赤く染め、はにかみながら見ているミコト。

――か・・・可愛すぎる!!!!

そんなミコトの様子に思わずいのといのいちは顔を真っ赤にしてミコトから目をそらした。
私より可愛いじゃない・・・反則よ!!と、いのが少し落ち込んでしまったのに、いのいちがハッと気づいてミコトに声をかけた。

「ミコト君!良かったらそのケーキ、食べていきなよ。」

紅茶も出すからさ、と言って有無も言わさずミコトを店の奥へと連れ込む。そのいのいちの提案に透かさず元気を取り戻したいのが、私が紅茶入れるわー!と言ってミコトの背中を押しながらついていった。
そしてそれからだいたい3時間がたった頃、いのがサクラたちと他の男の子たちみんなにチョコを渡しに行ってくると言うまで、楽しくケーキと紅茶をいただいたのだった。

ミコトがやまなか花から出る時に、こっそり影分身を家に送ったのは言うまでもない。




――ケーキと紅茶おいしかったです!

ミコトはにこにこと機嫌よく火影邸の中を歩いている。そして、医療班の部屋へと向かう廊下を歩いているときだった。

「ッッ!!!!」

ミコトの目の前の廊下には無数の何かが倒れている。
まだ時間帯的に夕方だが、この廊下は明かりが少なく暗いため、夕方にはもうはっきりとものが見えなくなる。ミコトは恐る恐るその物体に近づいていくと・・・

「だ、大丈夫ですか!?」

それは人間だった。しかもみな中忍以上のくの一たちだ。ミコトはそばに倒れていた1人を抱き起こそうとしゃがんだその時、その倒れているくの一たちの中心から、ガバッと立ち上がった“何か”。

「ひッ!」

ミコトは驚きで声を上げる。そしてその“何か”はのろのろとこちらに近づいてくるではないか。

――ま、まままままさか・・・幽霊!!?

この前の下忍選抜試験で、自分は父に変化をした。もしかして、それが父の怒りに触れてしまったのだろうか!?
ミコトが混乱している間にもだんだんと迫ってきている“何か”。思わず、

「わぁぁ!!!!ごめんなさい!!父さ「ミ・・・ミコト・・・。」ん・・・って、」

アンコさん!!?

もう目の前へと来ていた“何か”が自分の名を呼んだ。その声はアンコの声だった。
今にも倒れてきそうなアンコにミコトはサッと立ち上がると、アンコはそのままミコトの胸の中へと倒れてきた。そして、

「か・・・勝ったわ・・・。」

「あ、アンコさん!?」

謎の言葉を呟き、幸せそうな顔を浮かべて気を失ったアンコ。それを見たミコトは、廊下へと顔を向ける。そこには足の踏み場もないほどにたくさんのくの一が倒れている。そしてそんな倒れているくの一たちを見て一言。

「いったい何があったんですかー!!!!」

その問いに答えてくれるものはいなかった。

とりあえず、ミコトは腕の中にいるアンコから治療を始めると、すぐにアンコは意識を取り戻し、これ!お礼ね!と言って何かを置いて去っていった。それに唖然としたミコトだったが、そんな暇はない!とばかりに廊下中に倒れているくの一たちを治療していく。

そして冒頭へと戻る。







こうして木の葉の里初めてのバレンタインデーとホワイトデーは過ぎていった。









あとがき

バレンタインの頃はちょうど受験の真っ只中のため、こんなにも早く書かせていただきました・・・本当にすみません。
これは波の国後に入れる予定にしておりましたが、皆様がミコトさんのことを気にしてくださっていたので、ここで入れさせていただきました。
皆様に少しでも笑っていただけたら幸いです。
来年の木の葉の里のバレンタインはなくなります。それは男性陣がホワイトデーなるものを知らなかったためです。(知っていて返さなかった者もいたそうです。)女性陣は、もちろん好きだからあげた方(主にサスケにあげた方々)もいらっしゃいましたが、大半はお返し目当て(酷)だったそうです。この年だけのバレンタインでした。

ミコトさんの任務に出られない理由は本当のことです。なんとも過保護な火影様です。
そしてミコトさんのホワイトデーまでの行動を追ったのはカカシさんです。途中の“カカシ談より抜粋”というところに私情が入ってしまっていたのはそのためです。文章は抜粋したものなので他にもこんな話をアスマさんにしていたそうですよ↓





おまけ


「ミコト君ったらさ、火影様に土下座までしてたんだよ!ほんと面白いやつだよね!
そのときのミコト君がさぁ・・・ブフッ!ご、ごめーんね・・・ぶっ!!いや、ちょっと思い出しちゃって。え、何がって?そりゃぁ先生のことだよ。そ、四代目のこと。先生さぁ、よく火影の仕事サボるから、俺が探して見つけ出しては火影室に連れ戻すんだけど、その時の先生、いつも額を床につけて俺に土下座して謝んの。ミコト君って先生とそっくりでショ?もうそれが面白くて・・・懐かしくて。・・・・・・なーにクマしんみりしちゃってんの!あ痛っ!・・・別にクマでもいいじゃん、ケチ。う、ごめーんって!ま、あんな先生を見れたのって俺だけだろうなぁ。あの情けない顔!!・・・ブッ!まさかまた見れるなんて思わなかったよ。いやぁ、あんなこと言ってほんと良かったなぁ!」

と全く反省の色など皆無なカカシさんでした。



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 番外編
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2007/12/30 10:31






あいつが何かを抱えてるのは知ってるけどよ。


辛い時は泣いてもいいんじゃねぇか?


・・・メンドクセー奴。


辛い時は辛いって言えよ。


だって俺らは・・・・







NARUTO ~大切なこと~ 番外編 『それは何気ない一言だけど』







これはまだアカデミー卒業前の話。



「今日はここの・・・・・・で・・・して・・・・・・のルートで逃げるっと。」

4人の少年が円になってしゃがみこみ、その中の一人が何かの説明をしている。
少年たちがいる場所はアカデミーの屋上だ。
この4人組、アカデミーの中では有名ないたずら少年たちだった。

「さっすがシカマル!」

いつも完璧だってばよ!と元気な声を発しているのは濃い金髪に青目の少年、ナルトだ。
そしてシカマルと呼ばれた少年は先ほどから今回のいたずらの作戦を話していた少年だ。シカマルは黒い長い髪を高い位置で一つに括っているのが特徴だ。

他の2人の特徴はと言うと、1人は茶色い髪に、口から覗く犬歯が少し鋭く、頬には赤い長細い逆三角の模様があり、そして必ずそばには赤丸という子犬を連れている少年、キバだ。

もう一人は金髪を立たせ、頬には渦巻きの模様があり、いつもお菓子を食べている自称ぽっちゃり系の少年、チョウジだ。

こうやって4人でいたずらの会議をするのはしょっちゅうのことだ。

そんないつもの光景。
ただ今日はちょっと違った。




「しっかし、お前も毎回よくこんないたずら思いつくよな。」

勉強全然できないくせによ、とニカリと笑ったキバがナルトに向けて言う。
それを聞いたナルトは思わず頬を膨らませる。

「勉強といたずらはカンケーないってばよ。」

プイッと顔を背ける。そんなナルトをチョウジはまぁまぁと言いながらなだめている。
「お菓子あげるから」と言われてナルトはすぐに機嫌をなおし、お菓子にパクつく。
おいしそうに、嬉しそうに食べているナルトを見たキバは笑って言った。

「お前って悩みなさそうだよなー。」

そうやってすぐに機嫌よくなるし、うらやましい頭だぜ。
たったその一言。
その瞬間、シカマルは見てしまった。

ナルトの青い目が一瞬曇ったのを。

それは本当に一瞬のこと。
そんなことがなかったかのようにナルトはすぐにいつもの笑みを浮かべ、

「おうよ!」

と返事をしてニシシと笑っている。


――・・・・・・。

シカマルは「おい。」と言ってキバの肩に手を乗せる。
振り向いたキバの目に映るのはいつも以上にムスッとした表情のシカマルだった。そしてそんなシカマルが口を開く。

「・・・謝れよ。」

「え?」

シカマルの言葉に声を上げたのはナルトだった。いつになく真剣な顔をしたシカマルがキバを睨んでいる。雰囲気の違うシカマル驚いたものの、

「俺、気にしてないってばよ?」

本当のことだし、と言ってまた笑った。
それを見たシカマルはくしゃっと顔を歪める。

「テメーが気にしなくても俺が気にしてんだ。」

だから謝れ、と再度キバに言う。シカマルの態度に今度はキバがムスッとする。

「なんでだよ。」

だってほんとのことじゃん、ナルトもああ言ってるし?とシカマルを睨む。
それに怯まずシカマルは、

「とにかくあやま「コラーーーー!!!!」っ!!?」

謝れと言おうとした瞬間、屋上の扉の方から怒鳴り声が飛んできた。
4人の少年は恐る恐るそちらのほうへと振り向く。と、そこには鬼のような形相をした担任、イルカが立っていた。
イルカはズンズンと少年たちに近づいてくる。そして、

「おまえら!!こんな時間に何やってるんだ!もう下校の時間だろ。」

そう、今はもう授業が終わり、放課後と呼ばれる時間帯だ。イルカは続ける。

「それに!!ナルトとシカマルは今日の放課後に追試って言っておいただろう!」

お前らはそろいもそろってひどい点数を出しやがって・・・先生泣けてくるぞ、と泣きまねをしている。

「「あー」」

すっかり忘れてた(ってばよ)、という言葉にイルカはガクリと肩を下げる。
今からやるから早く来い、と言ってイルカは先ほど入ってきた扉から出て行く。
その背を見送ると、シカマルはまたキバを睨む。そんなシカマルをナルトが行こうと促し、イルカの後へと着いていった。








ある教室の中でカリカリと鉛筆の書く音だけが響いているそこへ、

「できたぁ!!」

静かだった教室に元気のよい声が上がった。

「お、もうナルトできたのか。」

ちゃんとできてるんだろうなぁ?と教師が声をかけた少年、ナルトをジロリと睨む。

今、ナルトとシカマルは追試の真っ最中だった。
しかしまだ追試が始まって間もない。かなり短時間でナルトはできたと言ったのだ。

「もぉ!!イルカ先生ひどいってばよ!」

ちゃんと見てから言ってくれってばよ!と頬を膨らまして担任であるイルカを睨む。
そのかわいらしい反応に苦笑し、イルカは採点していく。

「61点・・・ギリギリ合格だな!」

よくやったな。と言ってナルトの頭を撫でる。ナルトはへへんっと鼻をさすって、得意げな顔をする。

本試験は40点以上が合格だが、追試は60点以上を出さなければならない。追試の問題は本試験と違うが、同じ程度の問題を出す。
今回の本試験ではナルトは29点、シカマルは34点だった。ナルトとシカマルはいつもこのような点数を取るため、ドベ1、2の名をもらっている。

「お前もなぁ、本試験の時にこれくらいとれたらいいんだがなぁ。」

追試はきちんと取れるのになぁ、とイルカはため息混じりに呟く。そこに、

「俺もできました。」

シカマルが紙をイルカの前へと突き出す。そのぶっきらぼうな言い方にシカマルらしさを感じ苦笑しながらその紙を受け取り、採点していく。

「62点。」

お前も合格!と言ってシカマルの頭をポンッと叩く。そしてイルカは

「2人ともおつかれ!」

早く帰れよ、と言ってその2枚の紙を持って教室から出て行った。
しんと静かになった教室には2人の少年が佇んでいた。


しばらくしてナルトが口を開く。

「シカマル、帰ろ!」

あ、もうあいつら帰ってるかな?と言ってシカマルに顔を向ける。シカマルはまだどこかムスッとしている。いつも以上に機嫌の悪いシカマルに首を傾げるものの、ナルトが教室から出て行くとシカマルも後を無言でついてくる。
そして後ろで歩いていた気配がふと止まった。

「シカマル?」

ナルトは振り返ってシカマルを見る。シカマルは下を向いていて表情が読めない。ナルトは思わず眉間を顰めた。
反応を示さないシカマルとナルトの間にしばらく沈黙が続く。と、その時、

「なぁ、ナルト。」

シカマルがやっと口を開いた。

「ん?」

シカマルの暗い口調に合わない能天気な返事を返すナルト。それに構わずシカマルは続ける。

「お前さ、本当はできるんじゃねえか?」

勉強。

その言葉にナルトは軽く目を見開いた。

「はぁ?何言ってんだってばよ。シカマル。」

できないから追試受けてるんじゃん!と苦笑する。しかしシカマルは、

「お前いつも追試では短時間で解いてるし、」

しかも必ず60点か61点なんだぜ?と言って、バッと顔を上げてナルトの目を見つめる。
その問いにナルトが口を開こうとした瞬間、

「たまたまなわけねぇだろ。」

先に言葉をとられてしまった。そして、俺ら何回一緒に追試受けてると思ってるんだよ、とナルトを睨む。その目にナルトは少し怯んだが、

「そんなこと言うならシカマルだってそうだってばよ。」

シカマルもいつも追試はすぐに合格するってばよ。と腕を組みながらナルトは言う。

「それに、シカマルがいつもいたずらの作戦を考えてくれると失敗したことがねぇし。」

シカマルはすごく頭が良いってばよ、とニコリと微笑む。

「俺はただ「メンドクセーんだろ?」!!」

シカマルの言葉をナルトが遮る。そう、その通り、シカマルは極度のめんどくさがりだ。自分の興味あるものしか頭を働かせようとはしない。
今度はシカマルが軽く目を見開く。そのシカマルの反応に苦笑し、

「俺さぁ・・・今年こそは卒業したいんだってばよ。」

お前も知ってるだろ?俺が2年も落ちてるの、とナルトはやわらかな笑みを浮かべ、両腕を頭の後ろで組む。

「だから俺はこのままでいいの。」

このままがいいの。とナルトは目を細めて微笑む。


――・・・・・・。

シカマルはただじっとナルトを見つめる。
こいつは一体何を抱えているのだろうか?
どうしてイルカ以外の教師はこいつを嫌っているのだろうか?
いや、教師たちだけではない。
この里のほとんどの大人たちがこいつを嫌っているのだ。

――なんでだよ・・・

そんな環境の中でもこんなにもやわらかい笑みを浮かべているこいつが信じられない。
なんで泣かないんだ?
こいつの泣き顔なんて見たことがない。
でも見たいわけじゃないんだ。
・・・俺はこいつの笑顔をなくしたくない。

じゃあ、俺に言えることは1つ。

「メンドクセー奴。・・・なんかあったら俺らに言えよ。」

いくらでも聞いてやるからよ。

そう言ってナルトの頭を軽く拳で押す。ナルトはその言葉に少し驚いたが、すぐにはにかむような笑みで「おう」と答えた。

この時、泣いてしまいそうだったのはナルトの中だけの秘密だ。


と、そこへ向うの方から2人くらいの足音が近づいてくる。
近づいてきた足音、それはキバとチョウジだった。
2人を見たナルトは、

「なんだぁお前らまだ帰ってなか「ごめん!!!!」・・・?」

ナルトの言葉は途中で遮られた。ナルトの前には頭を下げているキバがいる。

――・・・あぁ

ナルトは自然に頬が上がるのを感じた。それはもう満面の笑みだ。

「気にしてないってばよ!」

キバが謝るなんてキモチワルー!と、腕をさすりながらふざけて言う。

「なんだとぉ!!?」

俺様が心を込めて謝ってやったのに!!
ガバッと身体を起こしたキバはナルトに飛び掛ろうとする。しかしそこは、

「はいはい、2人ともけんかしないの。」

お菓子あげるか、と言ってチョウジが間に入る。

「メンドクセー。」

そう言ったシカマルの顔は、いつの間にか優しい表情をしている。

「よし!もう帰るぞ!」

「おう!」

キバが駆け出し、ナルトもそれを追いかける。
シカマルとチョウジはそんな2人に、顔を見合わせて苦笑する。

「待ってよー。」

「ったくメンドクセー奴ら。」

そう言って2人も駆け出す。






4人の子供たちの笑い声が、赤い夕焼けの空へと溶けていった。







――友達ってあったかい
















あとがき

ホッとするようなお話を、と思って書いてみたのですが・・・苦笑するしかないですね。
次から原作沿いに戻っていきます。
今度の番外編は波の国後にまた入れようと思っております。



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 第18話
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2008/01/01 19:42






無事下忍の試験にも合格できました。


何回か任務もこなしています。


でもどれも報酬が少なくて・・・買いたい医療の本がまだまだ買えません・・・。


いつまでもミコトの姿で立ち読みは申し訳ないですからね!


ミコトはまだ見習いのため、任務にはついていませんし、


もう少し下忍でも高いランクをお願いしてみましょうか・・・せめてCランクのものを・・・


聞いてもらえればいいのですが・・・。


とりあえず!今日は迷子のペットの捜索です。


この森は・・・今日朝の散歩で来たところですね。


先生が懐から何やら出しています。


あ、写真か。


その写真のペットを探せばいいんですね。


・・・ん?


この猫は・・・







NARUTO ~大切なこと~ 第18話







「プー助。」

「「「・・・はぁ?」」」

ナルトの呟きに、カカシ、サクラ、サスケの3人の間抜けな声が見事にハモる。
そのハモりにナルトはコクリと首を傾げ、口を開いた。

「これプー助だってばよ。」

この右耳にリボンつけた猫、今日の朝友達になったってば。

3人はその言葉を聞いて胡散臭そうな眼でナルトを見る。その視線に気づき、ナルトは頬を膨らませ、ほんとなんだってば!と言い張っている。

「・・・その、プー助ってお前・・・まぁなんだ!こいつの名前はトラだ。」

今から探して来い。とカカシが3人に指示を出す。が、ナルトは何故かその場で思い切り空気を吸い始める。そして、

「プー助ーーーーー!!!!」

突然、大声で叫んだ。
しーん、と静まり返る空気。しかし、どこからともなく地を走る小さな獣の足音がだんだんと近づいてくる。と、その時だ。

「にゃーーーー!」

一匹の猫が藪から飛び出し、綺麗な空中回転を決めてナルトの腕の中へと納まった。その猫はゴロゴロとのどを鳴らし、ナルトの胸に頭をこすり付けている。

「「「・・・・・・。」」」

突然のことに唖然とする3人。
そんな3人の様子に気づいていないナルトは優しく猫の喉を撫でていた。
本当にその猫は写真どおり、右耳にリボンをつけた猫だった。

「お前、トラって言うんだな!」

ナルトは猫を両腕で高く掲げて微笑んでいる。そのナルトの声にやっと我に返ったカカシは、

「よ、よし、迷子のペット“トラ”捕獲任務終了!」

換金所にもどるぞ!と元気よく言うものの、今日の任務はなんとなく納得行かないと思うサクラとサスケだった。








「ああ!私の可愛いトラちゃん!死ぬほど心配したのよぉ~。」

いい体格をした女性、火の国の大名の妻であるマダム・しじみが先ほど捕獲してきた猫をぎゅうぎゅうと抱きしめている。トラはその締め付けに窒息しそうだ。

「あぁ、プー助・・・。」

ナルトは思わず猫に向かって手を伸ばし、自分でつけた猫の名を呼ぶ。

「プー助じゃないでしょ。あれはトラよ。」

それに“プー助”って微妙・・・とサクラは思わず突っ込みを入れる。
マダム・しじみは大人しくなった猫を抱いて、依頼料を支払って帰っていった。
そこへゴホンッと咳払いをかける人物、

「・・・さて!カカシ隊、第7班の任務はと、」

それは三代目火影様だ。火影様は依頼に対してその能力に合った忍者に任務を振り分ける仕事もある。

「んー・・・、老中様のぼっちゃんの子守に隣町までのお使い、芋ほりの手伝いか・・・」

どの任務も忍びとしては物足りないものばかりだ。この内容に対して透かさず

「ダメーーーッ!そんなのノーサンキュー!!」

俺ってばもう少しランクの高い任務がやりてーの!とナルトが腕を交差させて、バツの形にして反対の声を上げる。

――・・・一理ある・・・

――もーめんどいやつ!

――はー・・・そろそろダダこねる頃だと思った

上からサスケ、サクラ、カカシの心の呟きである。
ナルトの言葉に、火影様の隣に座っていた鼻の上に一文字の傷がある中忍、イルカが怒鳴り声を上げる。

「バカヤローー!!お前はまだペーペーの新米だろーが!誰でも初めは簡単な任務から場数を踏んで繰り上がってくんだ!」

隣の火影様はやれやれと言いながら、被っている“火”の文字が書いてある笠をいじりながらその場が収まるのを黙って見ていた。

「だってさ!だってさ!お金が「いい加減にしとけ、コラ!」っ!!」

足りないんだってばよう!と言おうとしたところをカカシは言葉とともにゴチン!とナルトの頭に拳骨を落とす。それでもナルトは、頭を抑えながらだって、だって・・・と呟いている。その様子にため息をついた火影様。

「ナルト!お前には任務がどーいうものか説明しておく必要があるな・・・。
いいか!里には毎日多くの依頼が舞い込んでくる。
子守から暗殺まで。
依頼リストには多種多様な依頼が記されておって、
難易度の高い順にA・B・C・Dとランク分けされておる。」

火影様は丁寧に説明し始める。しかし、

「あの本を買うにはあと・・・両か・・・。」

はぁ・・・とため息をついているナルトとどこか上の空のカカシ。全く話を聞いていなかったようだ。

「きけぇぇぇい!!!!」

思わず火影様もその2人の様子に怒鳴り声をあげてしまう。
それに素直に謝るカカシ。だが、

「あーあ!そうやっていつも説教ばっかりだ!けど俺ってば、早く医療忍者になるためにどーしても買いたい本があるんだってばよ!!」

こんなわがままを言ってすみません、と心の中で謝るナルト。
この言葉を聞いてイルカはハッとし、拗ねているナルトを見て優しい笑みを作る。
その様子に気づかないナルトはサクラに「あんた医療の本なんて理解できるの?」とからかわれ、「俺ってば早くいっぱいの人を助けられる医療忍者になるの!」と言い返していた。
それを見ている火影様も思わず顔を緩ませる。そして、

「分かった。お前がそこまで言うならCランク任務をやってもらう。」

ある人物の護衛だ。

ナルトはそれを聞いて顔を輝かせる。

「ありがとうってばよ!!」

素直にお礼を言うナルトを視界におさめた火影様は依頼人に部屋に入ってもらうように促す。そして入ってきた人物は、

「なんだぁ?超ガキばっかじゃねーかよ!」

酒を片手に、入ってきた扉に寄りかかる体格の良い老人だ。その老人がまた口を開く。

「とくに、そこの一番ちっこい超アホ面!お前それ本当に忍者かぁ!?」

お前ぇ!

その台詞にナルトは左右に立っているサクラとサスケをキョロキョロと見る。

「お、俺だ・・・。」

ナルトはずーんと肩を下げる。

――もっと寝ないとダメですかね。

睡眠時間はいつもバラバラですからねぇ、と心の中で呟く。
落ち込んでいるナルトにサクラは口を開く。

「医療忍者になるなら、まず背を伸ばす忍術でも考えたら?」

サクラに馬鹿にされ、ナルトはますます落ち込んだ。それを無視して老人は話を続ける。

「わしは橋作りの超名人、タズナというもんじゃわい。わしが国に帰って橋を完成させるまでの間、命をかけて超護衛してもらう!」








「出発ーーー!!」

ナルトが木の葉の里の出入り口である門のところで叫ぶ。
あの後、護衛につくためにカカシたち4人は必要な荷物を準備してこの門に集合した。

「何はしゃいじゃってんのアンタ。」

ナルトのはしゃぎ様に呆れたように言うサクラ。それに対しナルトは、

「だって、俺ってば始めて違う国に行くんだってばよ!」

楽しみなんだ!と子供らしい笑顔で答える。その様子に心配になった依頼人のタズナは思わず、

「おい!本当にこんなガキで大丈夫なのかよぉ!」

と、カカシに文句をつける。カカシはハハハと笑いながら、

「上忍の私がついております。そう心配いりませんよ・・・。」

そう言うものの、ナルトを見ていると少し心配に思うカカシだった。とそこへ、

「だいじょーぶ!!」

ナルトが腕を組んでタズナの前で胸を張っている。

「俺が絶対守ってみせるってばよ!」

そう言い切ったナルトの顔は先ほどのはしゃぎ様が嘘のように落ち着きのある笑みだ。

――こんなところが先生に似てるよなぁ・・・

とカカシは目を細めて見つめながらそんなことを思う。
その時、ナルトは目だけでちらりとそばにある木の上を見ていた。

――さっそく2人の忍びの気配ですね。

忍びと戦うのはCランクなのでしょうか?とナルトは疑問に抱きながらも、木の葉の里を後にした。









波の国へと出発してからしばらく歩いていた時だ。
サクラがふと、波の国には忍者がいるのか?という疑問を投げかけた。その質問に答えるのはカカシだ。

「波の国には忍者はいない。が、たいていの他の国には文化や風習こそ違うが、隠れ里が存在し、忍者がいる。」

大陸にある国々にとって忍びの里の存在は国の軍事力にあたる。
これによって隣接する他国との関係を保っているのだ。
かといって、里は国の支配下ではなく、あくまで対等な立場にある。
干渉を受けにくい小さな島国なんかでは、忍びの里が必要ない場合もある。
忍びの里の中でも木の葉、霧、雲、砂、岩の五ヶ国は国土が大きく、
力もあるため“忍び五大国”と呼ばれている。
その里の長は“影”の名で語られる。
火影・水影・雷影・風影・土影を『五影』と総称する。
五影は全世界、各国何万の忍者の頂点に君臨する忍者だ。

――火影様は本当にすごいんです!!

なんせ木の葉の里の全ての忍術を使いこなせるんですから!とナルトはカカシの話を聞きながらうんうんと大きく頷いている。しかし、他の二人は何やら違うことを考えていそうだ。そこにカカシが

「お前ら、今火影様のこと疑ったろ。」

サクラとサスケがギクリというような反応をする。
そんな2人を見てナルトはコクリと小首を傾げた。

「ま、安心しろ。Cランクの任務で忍者対決なんてしやしないよ。」

サクラはそれを聞いて安心していたが、一人だけ違う反応を示した。それはタズナだ。
タズナはビクッと肩を揺らし、少し沈んだ表情をしている。

――やはり、あの忍びの気配はタズナさんを狙ってですか・・・。

タズナを観察していたナルトは確信する。しかも、

――前方にさっき感じた同じ気配があります。

中忍くらいの気配ですかね、と判断をつけ、カカシがどう出るかを待つことにした。
そしてそのまま歩いていくと水溜りが目に入った。

――・・・・・・。

ナルトは思わず無言になる。その目の前には水溜り。このナルトの反応は当たり前だろう。
この何日か雨など降ってもいないのだ。それなのに水溜りがあるなどありえない。
その水溜りからは先ほどの2人の忍びの気配が漂っている。

――・・・カカシ先生も気づいていますね。

カカシはちらりと水溜りを見て、そのまま何もせず通過していく。

――誰が狙いかをはっきりとさせるんですね。

ナルトもカカシを見習い、無視を決め込むことにした。そして水溜りを通り過ぎた次の瞬間、


「一匹目・・・。」

カカシを二人の忍びが長細い刃のついた鎖で拘束した。カカシは驚いた素振りを見せている。

「キャーーー!!!!」

サクラが悲鳴を上がった。
カカシは鎖が引っ張られたことによって身体がバラバラに千切られ、空を舞った。

――そこまでサービスしなくても・・・

ナルトは千切られたカカシの場所をちらりと見てため息をつく。そこにはただ何本もの木が落ちているだけだった。そう、カカシは本当に死んだように見せかけておきながら、変わり身の術を使って、道の横に生えている木々に隠れてこちらを観察しているのだ。
ため息をついていたナルトの背後に近づく気配、

「・・・二匹目。」

カカシを襲った忍び2人がすでにナルトの背後へと回り、鎖を大きく振りかぶっていた。と、そこに一枚の手裏剣がその鎖を後方の木へと固定し、その手裏剣が外れないようにクナイを投げ手裏剣の穴へと突き刺した。そして鎖を拭いとめた人物はその忍びたちの頭を同時に思い切り蹴る。

――さすがサスケです!!

何も動かなかったナルトはサスケの判断に心の中で拍手を送る。
サスケは一瞬のうちに2人の忍びを相手してみせたのだ。しかし、忍びたちもそれだけでは怯まず、鎖を切り離し1人はサクラとタズナのほうへ向かっている。

――あちらはサスケに任せましょう。

そしてもう1人はナルトのほうへと迫ってきていた。忍びは鋭い爪のような武器を手に装着している。

――爪には即効性ではないですが毒が塗られていますね。

ナルトは忍びの武器を落ち着いて観察する。そしてその忍びがナルトに向かって腕を振り上げた瞬間、

「う、動かない!?」

忍びはピタリと動きを止めた。いや、動きを止められたのだ。しかし、声を出すことはできるので金縛りの術なんかではない。
ナルトを見るとただ胸元らへんの高さまで片手を上げて5本の指をこちらに向けているだけだ。と、そこにカカシが一瞬でその忍びの首を拘束する。そのままカカシはもう一人の忍びへと向かい、同じくあっという間に拘束してしまった。

「お前ら良くやった。」

カカシは子供たちを素直に誉める。が、

「ナルト・・・お前何やったの?」

一瞬こいつ動き止まってたよね?と拘束している忍びを見ながらナルトに尋ねる。
ナルトはニコリと笑って、

「別にたいしたことしてねーってばよ!」

と言って結局説明をすることはなかった。
それはナルトにとって本当にたいしたことではないことだった。小さい頃から形態変化を修行してきたナルトだからできたことだ。
ただナルトは、それぞれの指からチャクラの糸―傀儡師が主に使用する―を使って拘束していただけだった。チャクラでできた糸のため簡単には見えない。

カカシはじっとナルトを見ていたが、話す気配が感じられないため、あきらめて話を戻す。

「タズナさん。」

雰囲気の変わったカカシにタズナがギクリとたじろぎながらも返事をする。

「ちょっとお話があります。」

そう言ったカカシはいつになく真剣な目をしていた。















あとがき

あけましておめでとうございます。
とうとう波の国編に入ってしまいました。
書こうか書かないかで迷ったのですが・・・結局書いてしまいました。
波の国のお話は4話くらいになってしまうと思いますが、できれば早く更新したいと思います。
今年もよろしくお願いします。



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 第19話
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2008/01/01 19:59






波の国の任務がはじまりましたが、少し長くなりそうな予感です。


影分身のミコトを置いてきて正解でした。


ミコトがナルトと同じ期間いないなんて怪しすぎますからね。


波の国までの護衛任務の幸先に襲ってきた忍びは霧隠れの中忍でした。


その忍びたちを泳がせて判明したことはタズナさんが狙いということです。


きっとこの後も忍びが襲ってくるでしょう。


でも、忍びとの対決はBランク以上になってしまいます。


そのことについて今、カカシ先生はタズナさんに問いただしています。


どうやらタズナさんはガトーという男に狙われているようです。


ガトーは忍界でも有名です・・・。


海運会社の大富豪で、裏ではギャングや忍びを使い、麻薬や禁制品の密売、それに企業や国までのっとる悪どい商売をしている人物です。


そんなガトーが波の国に目をつけて、島国国家の要である海上交通・運搬を独占してしまったそうです。


今タズナさんたちが作っている橋が完成すれば、物流と交通をもたらすようになります。


それに困るのがガトーというわけですね。


今まで独占していたものができなくなる・・・と。


橋作りの中心人物であるタズナさんを狙って忍びまで使うとは・・・。


これはなんとかしないとです!







NARUTO ~大切なこと~ 第19話







「相手は忍びすら使う危険な相手・・・なぜそれを隠して依頼されたのですか?」

カカシが真剣にタズナに尋ねている。その問いにタズナの顔は暗く沈む。

「波の国は超貧しい国で、大名ですら金を持っていない。」

もちろんそんな国の住民が金を持っているわけがないのだ。高額なBランク以上を依頼するようなことは到底できない。タズナの話は続く。

「まぁ・・・、お前らがこの任務をやめればワシは確実に殺されるじゃろう。が、」

突然タズナは明るい顔を作り、

「なーに!お前らが気にすることはない!ワシが死んでも10歳になるかわいい孫が1日中なくだけじゃ!!あっ!それにワシの娘も木の葉の忍者を一生恨んで寂しく生きていくだけじゃ!いや、なに、」

お前たちのせいじゃない!と殊更明るく叫ぶ。これに対し、カカシやサクラはげんなりとしているが、

「それは大変だってばよ!!」

そんなことにはさせないってばよ!とナルトはこの任務を続行する意思をみせる。それを見たサクラは慌てて

「でも!この任務はまだ私たちには早いわ!」

やめましょう!とカカシを見つめて訴える。しかし、

「サクラちゃん。この任務には人の命がかかってるんだってばよ?それにカカシ先生がついてるんだから」

大丈夫!とナルトがニコリと微笑む。それでもサクラは

「あんたはお金がほしいだけでしょ!?」

私たちだって死ぬかもしれないのに!!

サクラの悲痛な叫びに、ナルトはやわらかく微笑んだ。

「最初はお金がきっかけだったけど、お金と命は別物だってばよ。俺は一人でも多くの人を助けるんだ。」

サクラはしんと静かになり、ナルトの話を聞いている。

「助けられるかもしれないものをほっておくなんてできない。もちろん、自分たちの命も危険にさらされるかもしれない。でも、それはみんな平等だってば。それに、もしみんなが危なくなったら」

俺が守るから。

ナルトがニシシと笑う。冷めていた空気が温かくなるのを感じる。
サクラはそんなナルトをボーっと見つめていたが、「ナルトにあんたなんかに守られなくても自分で何とかするわよ!」と先ほどの慌て様が嘘のように落ち着きを取り戻し、サスケは「ウスラトンカチが何言いやがる」とナルトに軽い蹴りを入れている。
それを見ていたカカシは苦笑し、

「ま!国へ帰る間だけでも護衛を続けましょう!」

タズナは頭に被っている笠で顔は見えないが、ポツリと小さなお礼を呟いた。








「よーしぃ!ワシを家まで無事送り届けてくれよ!」

船に乗って波の国に上陸した5人はタズナの家を目指して歩き始める。と、

――もういらっしゃいましたか・・・

ナルトはすぐに2つの気配を感じとった。しかし、

――1つはすぐそばなのですが、もう1つは・・・少し離れた木の上ですね。

様子見だろうか?と、疑問に思いながらもとりあえず行動を起こすことにした。

「そこかぁー!!!!」

叫びとともに手裏剣を木々の中に隠れている気配に向かって投げつける。それに驚いたカカシたちが何かを言っているが、ナルトは気にせず手裏剣が刺さったところへ向かう。
するとそこには、泡を吹いている白いうさぎが倒れていた。それにはナルトも驚き、すぐさまウサギを抱きしめて謝る。

――これは変わり身用のユキウサギですが・・・

生き物をこんな風に扱うなんて許せません!と心の中でナルトは怒る。
カカシはそのウサギの色を見て敵が近いことに気づいた。
ユキウサギとは太陽の光を受ける時間の長さによって毛の色が変わる。
冬の毛は白い。しかし、今の季節は春。春にはこのウサギの毛は茶色をしているはずなのだ。
このウサギが示していることは、

――さっそくお出ましか・・・

カカシはさっき襲ってきた忍びが中忍だったため、次は上忍が来るだろうと予測をつける。
ナルトは意識をとりもどしたウサギをすぐに森の中へと放す。と、その時だった。

「全員伏せろ!!」

カカシの声にナルトはタズナを押し倒すように伏せ、サクラとサスケも続けて伏せる。
5人の伏せた上をブンブンと音をたてて何かが通過すると、ガッという音とともに、それは止まる。5人は音が止まったところへ顔を向けると、そこには大きな包丁が木に真横に突き刺さり、その包丁の柄の部分に人影が立っていた。

「へー、こりゃこりゃ、霧隠れの抜け忍、桃地再不斬君じゃないですか。」

カカシが再不斬と呼んだ包丁の柄に立っている男は、上半身には何も着ておらず、顔は目から下を包帯で覆っている。

――この方が噂の無音殺人術(サイレントキリング)の達人ですか!

ナルトは以前見た抜け忍リストの内容を思い出す。

「写輪眼のカカシと見受ける・・・悪いが」

じじいを渡してもらおうか。

再不斬はそう言ってカカシを睨む。それに対し、カカシは子供たちに卍の陣でタズナを守るように指示する。

「お前たちはこの戦いに加わるな。それがここでのチームワークだ。・・・再不斬、まずは」

俺と戦え。

その言葉とともに、いつも左目を隠していた額あてをグッと持ち上げ、隠れていた左目を顕にする。その左目は紅く、3つの黒い巴の文様が浮かんでいる。再不斬はそれを見てニヤリとする。

「噂に聞く写輪眼を早速見れるとは、」

光栄だね。

そう、カカシは左目にうちは一族の中でも一部の家系にしか表れない特殊な眼である写輪眼を持っていたのだ。その眼を見てサクラは「写輪眼って何!?」と尋ねる。

「・・・写輪眼。」

その疑問に答えたのはサスケだ。サスケはただじっとカカシを見つめている。

いわゆる瞳術の使い手はすべての幻・体・忍術を瞬時に見通し、
はねかえしてしまう眼力を持つという。
写輪眼とはその瞳術使いが特有に備えもつ瞳の種類の1つ。

「それだけじゃないってばよ。」

ナルトがサスケの説明を補う。

「写輪眼は相手の技を見極めてコピーすることができるんだ。」

サクラとサスケはバッとナルトのほうへ顔を向ける。
まさかナルトが知っているとは思わなかったのだ。サクラとサスケの何かを疑うような視線に、ナルトは「俺ってば医療忍者目指してんの!それくらい勉強してるってば!!」と言い張る。とそこへ再不斬が口を開く。

「俺様が霧隠れの暗殺部隊にいた頃、携帯していたビンゴ・ブックにお前の情報が載ってたぜ。それにはこうも記されていた。千以上の術をコピーした男・・・コピー忍者のカカシ。」

そう言い切ると再不斬とカカシが睨み合う。

――サスケがカカシ先生のことを気にしていますね・・・

うちは一族でもないのに写輪眼を持っていますからね。

ナルトはちらりとサスケを見る。サスケはカカシをじっと見つめて何かを考えていた。

「さてと、お話はこれくらいにしとこーぜ。俺はそこのじじいをさっさと殺んなくちゃならねぇ。」

その言葉が合図となり、再不斬が木に刺さっていた包丁から降りると同時に包丁を抜きさり、包丁を背負い、そばにあった水の上へと降り立つ。その水の上に浮いたまま、左手の人差し指と中指の2本だけを空へと指し、右手も同じ指を胸の前へ持ってくる独特の構えをしている。

――すごいチャクラを練りこんでいます・・・これが霧隠れの術ですか!

ナルトは感嘆の声を心の中で叫ぶ。それと同時に再不斬は霧の中へと消え、姿が見えなくなる。

「消えた!?」

サクラが動揺の声を上げる。そこにナルトが小声でサクラを呼ぶ。

「声を出しちゃダメだってばよ。あいつは音に反応して攻撃をしてくるってば!」

その言葉にカカシが軽く目を見開いたが、すぐに真剣な顔へともどす。

「ナルトの言う通りだ。まずは俺を消しに来るだろうが・・・。桃地再不斬はサイレントキリングの達人として知られた男だ。」

気がついたらあの世だったなんてことになりかねない。

「俺も写輪眼を全て上手く使いこなせるわけじゃない・・・。お前たちも」

気を抜くな!

子供たち3人はカカシの言葉に気を引き締める。しかし、

「8か所・・・。」

その気を削ぐような不気味な声が霧の中を木霊する。

「・・・咽頭・脊柱・肺・肝臓・頸静脈に鎖骨下動脈・腎臓・心臓・・・さて・・・」

どの急所がいい?

再不斬の不気味な笑い声が響く。そしてカカシがさっと何かの印を組んだ時だ。
ものすごい殺気が子供たちとタズナを襲う。が、

――木の上の気配は何がしたいのでしょうか?

ナルトはその殺気に平然とし、それどころかもう一つの隠れている気配を気にしていた。
その間にもサスケはカカシたちの殺気に汗が吹き出てくる。

「サスケ・・・。」

サスケはビクリと顔を上げ名を呼んだカカシを見る。

「安心しろ。お前たちは俺が死んでも守ってやる。俺の仲間は絶対」

殺させやしなーいよ!

子供たちのほうを見てカカシは微笑む。その瞬間、

「それはどうかな・・・?」

再不斬がタズナと子供たちの中心に姿を表し、背負っていた包丁の柄に手をかけたが、カカシが一瞬で間合いをつめ、再不斬の腹へとクナイを突き刺す。しかしそれはパシャッと音をたてて水になって融ける。

「先生後ろ!!」

サクラが叫ぶ。いつの間にかカカシの後ろに現れた再不斬がすでに包丁を振りかぶり、カカシを切りつけた。が、そのカカシも再不斬と同じように水へと変わる。再不斬はそれに一瞬動揺してしまった。そして、

「動くな。」

終わりだ。

いつの間にかカカシが再不斬の背後から首筋にクナイを当てている。
それなのに再不斬は不適に笑い始めた。

――それは本物ではありません。気配はそう・・・

「先生後ろだ!」「俺もそう甘かぁねーんだよ。」

ナルトと再不斬の声が重なる。カカシの前にいた再不斬は水となって消え、すでにカカシの背後に立っていた。
再不斬の切りかかってきた包丁をカカシは咄嗟にしゃがむことで逃れたが、再不斬は透かさずカカシに蹴りを入れる。その蹴りで吹っ飛ばされたカカシは水の中へと逃げ込んだ。再不斬はすぐに追いかけようとするが、カカシが蹴られると同時に撒いたまきびしが邪魔して追撃はできなかった。

――な、なんだこの水・・・やけに重いぞ・・・

水の中に逃げ込んだカカシだったが、その水の異変に気づくのが遅かった。

――水牢の術!

再不斬がカカシを水でできた玉の中に閉じ込める。

「ハマったな。脱出不可能の特製牢獄だ!」

再不斬が右手をその水牢に入れたまま話し出す。

――あれはずっと手をあの水の中に入れていないとダメなんですね・・・。

ナルトは一瞬のうちにそう判断する。すぐにでも助けに行こうとしたナルトだが、行く手には一体の再不斬の水分身がズズズ・・・と音をたてて現れる。そいつはまた霧隠れの術によって姿を消す。

――僕からきますね。

ナルトが身構えると同時に、再不斬の蹴りを額に受けて吹っ飛んだ。それと同時にサクラが自分の名を叫ぶ声が聞こえる。そのナルトはというと、

――あちゃぁ、もうちょっと体重がないと飛ばされちゃいますね・・・。

と、的外れなことを考えていた。吹っ飛ばされた割には怪我などしていないナルト。
実は今の蹴りに対し、ナルトは“陰癒傷滅”という医療忍術を使った。
その術は攻撃される箇所を的確に分析し、攻撃を食らう前からそこにチャクラをためて治療に費やすという超高等忍術だ。
ナルトはふと頭が少し軽くなっていることに気づいた。

――額あてが・・・!!

蹴られたと同時に額あてがとれてしまったようだ。
必死に目で額あてを探していると、再不斬が何かを思い切り踏みつけた。
それはまさしく自分の額あてだった。

「ナルトぉ!!」

再びサクラが名前を呼んでいる。と、その時だ。

「あなたなんかがその額あてを踏んではいけません・・・。」

確かに思い切り蹴られたはずのナルトはすっと立ち上がった。

「ナ、ナルト!?」

サクラの動揺も気にせず、ナルトはずんずんと再不斬の方へと向かっていく。

ドカッ!!!!

再不斬に今度は腹を蹴られ、サクラとサスケのところに吹っ飛ばされた。
しかし、またムクリと立ち上がる。それも全くの無傷で。

「な、なんだお前!?」

再不斬がそんなナルトを見て思わず叫ぶ。確かに水分身では本体の10分の1ほどしか力はないが、下忍が食らってはただでは済まない威力はあるはずだ。

「医療忍術をなめないでください・・・僕の大事な額あてを踏みつけた礼は」

たっぷりお返しさせていただきますよ。

ナルトはニコリと微笑みながら取り戻した額あてをつけなおす。そして、

「サスケ!ちょっと耳を貸せ。作戦がある。」

サスケはナルトの意外な言葉に驚いたものの、カカシが捕まったこの状況を打破できるならと思い、その作戦にのる。それを見ていたカカシは焦り、

「お前ら何やってる!逃げろって言ったろ!俺たちの任務はタズナさんを守ることだ!! それを忘れたのか!?」

「忘れるわけないってばよ!」

ナルトが目を細めて微笑む。

「俺が絶対守るって約束したからな!!」

そう言ってタズナを振り向く。その顔にタズナはうんと頷き、

「もとはといえばワシがまいたタネ・・・」

思う存分闘ってくれ!と了承する。それを聞いてやる気満々の2人に、再不斬が不気味な笑い声を上げる。

「いつまでも忍者ごっこかよ。俺ぁよ・・・」

お前らの歳の頃にゃもうこの手を血で紅く染めてんだよ・・・

再不斬の殺気にサスケとサクラとタズナはビクリと怯んだ。が、

――・・・・・・。

ナルトは顔を少し歪めていた。
それに気づいたのはカカシだけだった。

「鬼人・・・再不斬!・・・その昔、“血霧の里”と呼ばれた霧隠れの里には忍者になるための最大の難関があった・・・。」

カカシが再不斬に向かって言う。再不斬はカカシをちらりと見てその続きを話し始める。

「そう、それは」

生徒同士の“殺し合い”だ。

子供たちは驚愕で目を見開く。

「楽しかったなぁ・・・アレは・・・。」


――・・・僕がもし綱手様に会えなかったら、力だけを求めて

再不斬みたいになっていたかもしれない

それは本当に楽しそうに笑っている再不斬。それを見ていたナルトは恐怖を感じた。
押し黙った子供たちに再不斬の水分身が襲い掛かる。
ナルトはサスケの方に向かっていることに気づき、すぐさま数体の影分身を作り、再不斬の行く手を阻む。しかし影分身はすぐに再不斬の水分身に消されてしまう。が、それだけで十分だった。

「サスケー!!」

ナルトは離れたところに置いてあった自分の荷物から、忍具をサスケに投げ渡す。それを受け取ったサスケはその忍具の仕掛けにすぐに気づいた。

「風魔手裏剣・・・」

影風車!!!

サスケは思い切りその手裏剣を投げる。

「手裏剣なぞ、俺には通用せんぞ!」

再不斬の水分身は言う。確かに水分身には手裏剣なんて意味は無い。だから、

「なるほど、今度は本体を狙って来たってわけか・・・。」

そう、サスケの狙いは水上に立っている再不斬本体への直接攻撃だった。が、しかし、

「甘い!」

と言って再不斬は水労に突っ込んでいない左手で手裏剣の穴を上手く掴む。

「!!!」

攻撃を防いだはずの再不斬が目を見開いた。
掴んだ手裏剣の影からもう一枚の手裏剣が現れ、再び再不斬を襲ってきたのだ。がしかし、

「やっぱり甘い!」

それも難なく水の上を跳び上がることによって避けられてしまう。と思った瞬間だった。

「言いましたよね。」

お返しさせてもらうって。

すぐそばから聞こえてきたのは声変わり前の少年の声。
それは再不斬の背後から聞こえてきた。
跳び上がっている再不斬の背後に、突如ボンッという音とともに出現したナルト。

――水の上に立っている・・・!?

すぐそばで再不斬に捕まっていたカカシは、ナルトが水の上に浮いていることに驚愕で目を開いた。サスケやサクラには少し遠くてこちらの状況がよく見えていないようだ。
ナルトの唐突な出現に、まだ着地さえしていなかった再不斬は顔だけを背後に向けようとした瞬間、

メリッ!!!!

「グォッッ!!」

再不斬の短い音が響いた。
その声に驚いたサスケやサクラが目を凝らして水上を見る。が、こちらからではよく見えなかった。しかし、カカシだけはしっかりと見ていた。
それは、再不斬の顔の高さまで跳び上がっていたナルトが振り向いた再不斬の頬を思い切り殴りつけただけだ。
再不斬は防御もできなかったため水牢から腕がはずれ、そのまま水の中へと落ちる。
水労から出られたカカシはパッとナルトを見た。

――さっきのは見間違えか・・・?

再不斬に攻撃する前、ナルトは水の上に立っていたはずだ。
今ナルトは、再不斬に一撃を入れた後そのまま水の中に落ちて顔だけ出している。カカシが疑問に思っていたそこに、

「このガキィ!!」

頬を腫らした再不斬がすぐに目覚め、持っていた手裏剣でナルトに襲い掛かる。しかし、それはすぐにカカシによって防がれた。

「・・・ナルト“作戦”見事だったぞ、成長したな、お前ら・・・。」

カカシは本当に感心したように子供たちを誉める。
ナルトもへへっと笑って、岸に向かって泳いでいく。

「へっ、餓鬼の拳なんかで水牢の術をといちまうとはな・・・。」

「術はといたんじゃなく、」

とかされたんだろ。

カカシの言葉に再不斬は顔に怒りを顕わにする。

「言っておくが俺に2度同じ術は通用しない。」

さてどうする。

カカシはさらに再不斬を挑発して冷静さを欠かせる。それに気づかず、再不斬はさらに激昂しカカシと距離をとり、ものすごい量の印を組み始める。
それを透かさずカカシは写輪眼でコピーし、印の組み始めは遅かったものの、再不斬が組み終わると同時にカカシも組み終わった。
そしてその印によって発生した2匹の水竜―水遁水竜弾の術―が宙で激しくぶつかり合う。それによって起こった波がサスケやサクラたちの下まで迫り、水浸しにする。その波に押され、ナルトは無事岸へと上がった。

再不斬が次の術を仕掛けようとするが、カカシは洞察眼で再不斬の動きを真似て動揺を誘い、再不斬の心の声を言うことによって、ますます焦りを煽った。

――俺?

再不斬は目を疑った。
カカシの背後に自分が見えているのだ。
これはカカシの催眠眼による幻術。そして、

――水遁大瀑布の術!!!

再不斬がかけようとした術をカカシが先にかけてしまった。
大きな波のうねりが再不斬に襲い掛かる。

「ぐっ・・・!」

再不斬はその波によって木に思い切り叩きつけられる。カカシはもうその木の上でクナイを持って構えていた。

「なぜだ・・・お前には未来が見えるのか・・・!?」

再不斬がそう言った時だった。

――木の上の気配が動きました!

ナルトはずっと気にしていた気配が動き出したのだ。

「ああ・・・」

お前は死ぬ。

カカシが再不斬の問いに答えた瞬間だった。

ザクッ!!

「「「「!!」」」」

一瞬にして再不斬の首を2本の千本が突き刺さった。

――あれは仮死のツボ!

やはり再不斬の仲間ですね・・・。

刺さった千本の位置をすぐにそう判断し、ナルトは千本を投げたと思われる人物に目を向けた。

「フフ・・・本当だ」

死んじゃった。

楽しそうに話す声はまだナルトたちに近いものを感じる。背格好からしてもあまり変わらないだろう。
カカシは倒れている再不斬の脈を取り、死んでいることを確認する。

「確かそのお面・・・お前は霧隠れの追い忍だな・・・。」

カカシは再不斬を殺した子供のつけている仮面を見てそう判断する。子供はそれを肯定し、再不斬に近づいていく。それを見ていたナルトは、

「せんせ・・・」

カカシに呼びかけようとすると、カカシがナルトの頭の上に手をポンと置いて

「安心しろ、ナルト。敵じゃないよ。」

と微笑む。しかし、

「そうじゃなくて、あの千ぼ「信じられないかもしれないが」・・・」

ナルトの言葉はまたカカシによって遮られる。

「この世界にゃ、お前より年下で、俺より強いガキもいる。」

――そうじゃあなくて!!!!

ナルトは話を聞いてくれないカカシを心の中で怒鳴る。
そんなことを言っている間に、仮面の子供は再不斬を背負って消えてしまった。

「さ!俺たちもタズナさんを家まで連れていかなきゃならない。」

元気よく行くぞ!

とカカシが子供たちに指示を出す。

――・・・もう知りません!!

ナルトは声に出さずに愚痴を呟いた。




直後、カカシが倒れた。















あとがき

波の国編は早く更新していきます。
明日にも更新できればと思います。
戦闘シーンを文章にするのは大変難しいですね・・・。
本当に下手ですみません。中忍試験の話も戦闘があるので、それの練習だと思って書いています。
あと2話でまた番外編です。



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 第20話
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2008/01/02 15:46






カカシ先生が倒れてから、なんとか先生を連れてタズナさんを家まで送ることができました。


写輪眼を酷使すると、体にかなりの負担があるようですね。


そうですよね。カカシ先生の写輪眼はきっと開眼したままのものを移植したのでしょう。


だから額あてで隠していないと、常にチャクラを消費してしまいます。


それでもそれを受け入れたカカシ先生の覚悟はとてもすごいです。


しかし・・・あの再不斬という人物・・・


あった時はどこか感情が欠落していると思ったのですが、


カカシ先生との対戦で焦っている姿を見て。


あぁ、人間だと思えました。


霧隠れの里の卒業試験・・・


今では行われていない生徒同士の殺し合いを経験された方にしては


とても人間らしいと思いませんか?


そんな経験をして感情があんなにあるのは・・・


大切な人がいるのでしょうか。


それはあの仮面の子?


あの仮面の子の千本の技術はとてもすごかったです。


一瞬で正確に仮死のツボに入れるなんて、相当の使い手です。


あ、カカシ先生がみんなに暗部・・・追い忍について説明しています。


死体処理はその場で処理するか、殺した証拠に首だけを持ち帰ればいいんですか・・・。


へぇ。


ますます仮面の子は再不斬の仲間だと断定できますね。


・・・・・・はぁ。







NARUTO ~大切なこと~ 第20話







「おそらく再不斬は生きている!」

上体を起こしたカカシがあの仮面を被った追い忍の怪しい点を上げ、そう叫んだ。
その言葉に部屋の者たちは息を呑む。しかし、その中に1人だけけろっとしている者がいた。

「そんなの当たり前だってばよ。」

この口調、ナルトだ。
ナルトの言葉に驚き、みな一斉にナルトの方を向く。それを見てナルトは続けた。

「だって、あの千本は仮死のツボを突いてたってばよ。」

あの仮面すっげー千本の使い手だ!と、首のおそらくその仮死のツボというところを指さしながら言う。それに対し、

「ナルト・・・お前それわかっててなんで言わなかったんだ・・・。」

カカシがギロリとナルトを睨む。が、ナルトはそんなカカシに対し白い眼を向けた。

「あ、確か、あの仮面の子が木から下りてきた時、カカシ先生に何か言おうとしていたわよね・・・。」

それってこのこと・・・?と尋ねたのはサクラだった。その言葉にナルトが大きく頷く。
そう、あの時カカシにこのことを指摘しようとしたのだ。

「あんた・・・本当に医療の勉強してたのね・・・。」

いかにも意外という口調と眼でサクラはナルトを見た。それにはさすがのナルトもガックリと肩を下げて落ち込む。その落ち込み様に慌てたサクラは、

「ねぇ!ナルト。カカシ先生の身体は治してあげられないの?」

と、医療を勉強しているというナルトに、何かできないのか尋ねた。その質問にう~んと腕を組んでナルトは唸っている。そして、

「こればっかりはすぐにはなんとかならねーってば。」

これはかなりのチャクラの消費によるもの。
傷などであればなんとかできるが、チャクラは休むか何かして回復するのを待つしかない。
ナルトの言葉を聞いたサクラはなんだ使えないわね、と吐き捨てる。ナルトはただ苦笑いをした。と、その時ナルトはふと思い出したように言う。

「あの仮死の状態から完全に回復するには一週間くらいはかかるってば。」

先生もその頃には治るよね?とカカシの方を見て首を傾げる。カカシはその言葉に頷き、肯定を示すと、

「お前たちに修行を課す!!」

と子供たちに告げた。
それを聞いたサクラはちょっと修行しただけでたかが知れているとカカシに訴えるが、カカシはにこりと笑う。

「サクラ・・・苦戦している俺を救ったのは誰だった・・・。」

お前たちは急激に成長している、と子供たちを見渡す。

――とくにナルト・・・

お前は何をまだ隠し持ってるんだろうね。

カカシはちらりとナルトを盗み見るが、ナルトは何も気づいていない素振りで、カカシの“成長している”という言葉に喜んでいる。と、その時だ。

「おおイナリ!どこへ行ってたんじゃ!!」

タズナが部屋に入ってきた帽子を被った少年、イナリに声をかける。

「イナリ、ちゃんとご挨拶しなさい!おじいちゃんを護衛してくれた忍者さんたちだよ!」

イナリの母であるツナミも声をかけるが、しかし、

「母ちゃん・・・こいつら死ぬよ。・・・ガトー達に刃向かって勝てるわけがないんだよ。」

ナルトたちを指差してイナリは呟く。

――・・・・・・。

ナルトは目を鋭くしてイナリを見つめる。
そのイナリの目がとても暗くて、胸にチクリと何かが引っかかった。
どうしたらそんな苦しそうな目になるのだろうか。
ガトーだけが原因ではないように思う・・・。が、まずはガトーをどうにかしなければならないようだ。

「イナリ!ガトーは俺が何とかしてみせるってばよ!」

俺がヒーローになってやる!!

ナルトはイナリに向かって拳を突き出して叫んだ瞬間だった。帽子で顔が隠れていたイナリはナルトを睨みつけるように見て、

「ヒーローなんてバッカみたい!!」

そんなのいるわけないじゃん!!

そう言ってイナリは部屋から飛び出してしまった。サスケやサクラは突然のことに驚愕しているが、タズナやツナミはどこか暗く沈んでいる。
部屋はしんと静まり返ってしまった。

――“ヒーロー”という言葉に何かあるのでしょう・・・ね。

イナリの過剰な反応でそれはすぐにわかった。
ナルトは失敗してしまったとしゅんと反省する。
静寂の中、イナリの態度に対してタズナが4人に謝ると、カカシが口を開いた。

「お前ら外でちょっと待っとけ。」

今から外で修行の説明をする。

暗くなった場の雰囲気を変えようと、3人にそう告げる。
3人はその言葉に素直に従い、部屋から出て行く。が、サスケとサクラが部屋から出ると、ナルトが「あ」と言ってカカシの方へと振り返った。その顔は目を細めて笑っていた。
カカシが「どうした?」と声をかけると、ニッと笑って、

「万華鏡写輪眼まで使いこなせるようになったら、通常の写輪眼では倒れなくてすむようになる・・・」

先生ならできるってばよ。

そう言い残しナルトは部屋から出て行った。
カカシはその言葉にしばし呆然とした。
あいつは今なんと言っただろうか。
“万華鏡写輪眼”とは写輪眼よりさらに上の段階の瞳術のことだ。
しかし、それを開眼できた者はほとんどいない。
いったいなぜナルトはその名を知っているのだろうか・・・。

「あいつ・・・ほんとどこまで知ってるんだろうね・・・。」

その呟きを聞いたものはいなかった。








仮面の子供が再不斬の死体を前にして持ってきていた布切りバサミをスッと左手に構える。

「まずは口布を切って・・・血を吐かせてから・・・。」

仮面の子供は口に出して今から行う手順を確認している。そしてハサミを再不斬の口を覆っている包帯へ近づけた瞬間だった。

「いい・・・自分でやる・・・。」

「なんだぁ・・・もう生き返っちゃったんですか・・・。」

さっきまで死んでいたはずの再不斬がガシッと仮面の子供の腕を掴み、自分で首に刺さっていた千本を引き抜き、血を吐き出した。

「お前、いつまでそのうさんくせー面つけてるんだよ。」

再不斬の指摘で思い出したかのように、その子供は仮面をはずす。

「僕が助けなかったらあなたは確実に殺されていましたね。」

そう言って子供は並べていたハサミの数々を片付け始める。それを見ながら再不斬が口を開いた。

「仮死状態にするならわざわざ首の秘孔を狙わなくても・・・相変わらず嫌なヤローだな・・・」

お前は・・・

その言葉を聞いて子供はそうですね!と言ってにっこり笑う。それを再不斬はどこか複雑な気持ちをのせた目で見ている。と、

「一週間程度はしびれて動けませんよ。でも・・・再不斬さんならじき動けるようになりますかね。」

次・・・大丈夫ですか?

子供はまたにっこりと再不斬に向かって微笑む。

「ああ、・・・次なら写輪眼を見切れる。」

2人の周りはいつの間にか霧が晴れていた。








カカシと子供たち3人が今いるところは高い木が立ち並ぶ森の中。ここが修行場だというならば、することは1つ。

――木登りですか。

最近していませんでしたねぇ、とナルトは木を見ながらそんなことを思う。
両脇に松葉杖を挟んで立っているカカシは修行の内容を話し始めた。

「お前らには木登りをしてもらう。」

その言葉にサクラとサスケは不思議そうな顔をする。それを確認したカカシは続ける。

「それはただの木登りじゃぁない。」

ま!見てろ

そう言って木のそばへ近づくと、そのままスタスタと木の表面を垂直に歩き始めた。それには2人も驚愕する。そしてカカシは上の方の太い枝で逆さまの状態になるとニコリと笑って、

「チャクラを足の裏に集めて木の幹に吸着させる。チャクラは上手く使えばこんなこともできる。」

と言って下にいる3人を見る。

「この修行によってチャクラのコントロールとそのバランスよくコントロールされたチャクラを維持するスタミナを同時に身につけることができる。」

カカシは3人の前にそれぞれ1本ずつクナイを投げる。
そのクナイを使って今の自分の力で登りきれる高さの所に印をつけるのだ。

「お前らは初めから歩いて登るほど上手くはいかないから、走って勢いにのり、だんだんとならしていく・・・」

いいな!

それを合図にサクラとサスケがそれぞれの木に向かって走り出した。しかし、

――僕はこの修行に1ヶ月もかかりましたねぇ。

ナルトはのほほんと2歳の頃を振り返っていた。

バキィ!!

サスケが木を数歩登ったところではじかれた。チャクラが強すぎたのだ。

「ナルト、お前は行かないの?」

カカシはボーっとしているナルトに声をかける。それにナルトはハッとして、ちらりとサスケを見ると思い切り走り出し、

「いってぇぇ!!」

木に登る一歩目からツルッとこけ、後頭部を思い切り地面に打ち付けた。
頭を押さえて悶えているナルトを見て、思わずカカシはため息をついた。

――・・・やっぱり、あれは見間違えだったのか・・・

カカシは再不斬との対戦でナルトが水の上に立っていたように見えたのだが、たった今それが見間違いだと確信した。と、その時、

「案外簡単ね!」

サクラはすでに木の上の枝に座り、舌をチロっと出してへへへと笑っている。
それを見たカカシはサクラを誉める。サスケはチッと舌打ちし、悔しがっている。

――サスケはこれができるようになったらかなり成長することができます。

それまで僕が付き合います。

ナルトは悔しがるサスケの様子を見て、微笑む。
サスケにはサクラとは比べものにならないチャクラの量を秘めている。このチャクラコントロールができるようになれば、大いに前進することは間違いないだろう。
そしてまたサスケが木に向かって走り出す。それに続けてナルトも木に向かう。が、再びゴツンッと後頭部を打ち付けていた。


そんな修行の風景を木陰からこっそり帽子を被った少年が見ていた。








「あんたまでやられて帰ってくるとは、霧の国の忍者はよほどのヘボと見える!!」

再不斬がベッドで横になり、その隣に子供が椅子に座っていたところに、そう言って扉から入ってきた丸いサングラスをかけた小柄な男、ガトーだ。ガトーは傍らに2人ボディーガードを引き連れている。

「部下の尻ぬぐいもできんで何が鬼人じゃ・・・」

笑わせるな!

ガトーはズンズンと再不斬たちの方へと近づいていく。しかし再不斬はガトーの言葉にも全く反応を示さない。歩いていたガトーの前に2人のボディーガードが立ち、腰に差している刀をいつでも引き抜けるように構えた。それを子供はちらりと確認する。

「まぁ待て。」

ボディーガードたちを制し、テクテクとガトーは再不斬のそばへと近寄り、いつまでも黙っている再不斬に痺れを切らし、手を伸ばした瞬間、

「汚い手で再不斬さんにさわるな・・・。」

ガトーの腕を掴んだ子供から低い声が発せられる。そして子供はそのまま掴んでいる腕に力を入れてゴキリとガトーの腕を折ってしまった。それには透かさずボディーガードたちが子供に向かって刀を向けようと鞘から抜こうとしたその時、

「やめたほうがいいよ・・・僕は本気で怒っているんだ・・・。」

その2人の間にいつの間にか立っている子供。そしてその2人の首筋には2人が鞘から抜くはずだった刀が添えられている。それはなんて速さだろうか。子供から出ている殺気に冷や汗が流れ始める。

「次だっ・・・次失敗を繰り返せば・・・ここにお前らの居場所はないと思え!!」

子供の強さに圧倒され、えらそうにしていたガトーはボディーガードをつれて慌てて扉から出て行った。


「白・・・余計なことを・・・。」

白と呼ばれた子供はやっと声を出した再不斬の方へと振り返る。布団を軽く持ち上げ、中を見ると、再不斬の手にはクナイが握られていたのだ。それを見て「分かっています」と呟いた白は、またもとの椅子に座る。そして、

「今ガトーを殺すのは尚早です。ここで騒ぎを起こせばまた奴らに追われることになります。」

と言って再不斬に微笑みかける。先ほどの冷酷な表情が嘘のようだ。

「・・・ああ」

そうだな。

そう呟きながら天井を見ている再不斬はどこか悲しげな目をしていた。








「いってぇぇ!!」

ナルトは木から落ちて何度もぶつけた頭の痛みに耐えている。その頭には何重ものたんこぶがある。そんなに頭をぶつけて脳細胞は大丈夫だろうか。頭を押さえているナルトはというと、

――みんなで修行するのは楽しいですね!
   姉さんがいなくなってからいつも1人でしたから。

心の中では痛みとは関係ないことを思っていた。
そんなナルトのそばの木の根元近くに幾重にもクナイの傷があるが、それは修行を始めてからほとんど上達していないことを示している。
近くにいたサスケもほぼ同じような状態の木のそばで息を荒くつきながらしゃがみこんでいた。

――このままじゃ埒が明きません。

修行を始めてから、木登り以外何も行動を起こさないサスケを見てそう判断したナルトは、木にへたり込んでいたサクラを見る。
サクラは、ナルトがそろそろ駄々をこねるだろうなぁなんて予測している顔でこちらを見ていた。それを都合が良いと思い、「くそ!」と呟いて、

「あのさ!あのさ!コツ教えてくんない?」

わざとサスケに聞こえるようにサクラに尋ねた。
その問いにサクラはちょっと意外だという顔をしたが、しっかりコツを教えてくれた。
チャクラを絶えず一定量を出すにはリラックスした状態で集中すること。
それはチャクラを使うのに基本的なことだ。

――これでサスケが少しでも変わってくれたらいいのですが・・・。

ちらりとサスケを見ると、こちらを少し気にしているようだったので、ナルトは思わず目を細めて微笑んだ。






「どあぁあ!!」

ナルトが思い切り叫びながら木を駆け登る。
隣の木には同じようにサスケが木を駆け登っていた。
サスケはやっと木の半分より上の方まで登れるようになった。
今そこには2人しかいない。
サクラは木登りが完璧にできるようになったので、タズナの護衛任務にもどったのだ。

――なかなか手強いですね。

ナルトはサスケを見ながら思う。
ナルトがサクラに木登りのコツを聞いている時、ちらちらと視線をこちらの方に向けていたサスケだが、尋ねてくる気配はない。
ナルトは駆け上っていた木をクナイで傷つけ、地上へともどる。もちろん今登っているサスケよりも下のところで降りている。

――少しでも早く力をつけたいのなら、
   自分がほしい力を持っている人に尋ねるのが一番早いです・・・。

それは本当に簡単なことだ。
自分が上手くいかないことを1人でずっと練習しても、上手くいかないことのほうが多いだろう。そのままずっと1人で続けていては上手くいかないことに対して焦りを募らせ、そしてまた失敗してしまう。それはまさに悪循環だ。
まだ自分を自分で冷静に見つめることができないのならば、他人の目を借りるしかない。
そうすることで視野を広げるのだ。
今サスケは冷静さに欠けている。
彼が人に尋ねることをしないのは、きっとプライドのせいだろう。
成長を妨げてしまうプライドなど、捨ててしまえばいいのに。

――それを教えるにはどうすれば・・・

ナルトはまたすぐには木に登らず、悩んでいるその時だった。

「おいナルト!」

振り向くと地上にもどっていたサスケが頬を少し赤くして目線をどこかにそらしているが、とりあえずこちらの方を向いているのは確かだ。そして、

「サ・・・サクラお前に何て言ってた・・・?」

そう言ってサスケはますます頬を赤くする。
そんなサスケを見てナルトは一瞬きょとんとするが、

――まずは第一歩・・・ですね。

サスケを見ながらフッと微笑んだ。
やっと彼はプライドを捨てたのだ。
そんな彼にナルトはこう言ってあげた。


「教えな~い!!」


その場が凍りついた瞬間だった。
サスケの顔は引きつっている。一方、ナルトはニコニコと笑っている。

――教えなくても彼は落ち着きを取り戻しましたし、もう大丈夫です。

内心ではそんなことを考えているナルトだったが、サスケが尋ねてくるのにちょっと時間がかかったため、意地悪しようと思ったのは内緒だ。















あとがき

申し訳ありません!!
波の国のお話は4話と書いていましたが、書いているうちに全部で5話になってしまいました。本当にすみません。
あと2話で終わりです。すぐに更新したいと思います。



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 第21話
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2008/01/02 16:15






修行一日目が終わって今はタズナさんの家でお食事をさせていただいています。


たくさんの人とのお食事は本当に楽しいです。


あぁサスケはあんなにがっついて・・・・・・吐いた!!


吐いちゃいましたよ!!なんてもったいない!!


はっ!すみません・・・姉さんに食べ物を粗末にすると大変叱られていたので、つい条件反射のように突っ込んでしまいました。


今静かに一緒に食事をしているイナリの気配は・・・修行を始めた頃にあったものと同じです。


イナリはあの修行を見てどう思ったのでしょうか・・・。


サクラちゃんが壁にかかっている破れた写真のことを尋ねています。


・・・イナリが部屋を出て行ってしまいました。


く、空気が重く・・・?


・・・破られた部分に写っていた人・・・イナリのお父さんなんですか。


英雄と呼ばれたお父さん・・・。


なんだか僕と一緒だね。







NARUTO ~大切なこと~ 第21話







タズナが涙を流しながらこの波の国の英雄について語りだす。

3年ほど前、
イナリのたった1人の友達である犬、ポチを悪ガキ3人組に海に落とされ、そのままイナリも一緒に海へと落とされてしまったことがあった。
イナリは泳ぐことができず、海の中で意識を失ってしまった。しかし、

「気がついたか、ボウズ。」

イナリが目を開けるとそこにはねじり鉢巻をした、あごにバッテン傷のある男が魚を焼いていた。

「あの悪ガキどもは俺がモロ叱っといてやったからな。・・・ほら食え!」

そう言ってイナリに焼いた魚を突き出す男、この男こそ波の国の英雄、カイザだ。
イナリは目が覚めてカイザを見たとき、神様だと思った。
その男は言った。

「男なら後悔しない生き方を選べ。」

自分にとって本当に大切なものは

「つらくても、悲しくても、頑張って頑張って、たとえ命を失うようなことがあったって」

この2本の両腕で守り通すんだ!!

・・・そしたら

「たとえ死んだって男が生きた証はそこに残る・・・永遠に。」

そう言った男の顔は輝いていた。

物心のつかないうちに本当の父親を亡くしていたイナリはカイザを慕うようになった。
そんなカイザが家族の一員になるのにそう時間はかからなかった。

カイザは大雨で川の堰が開いてしまった時も、1人激流の川へと飛び込んでロープをかけにいった。カイザはこの国に本当に必要な人物だった。しかし・・・


「いいか!この男は我がガトーコーポレーションの政策に武力行使でテロ行為を行い、この国の秩序を乱した。よって制圧しこれより処刑する!」

ガトーに刃向かったらどうなるかという見せしめの公開処刑。
木の十字架に縛り付けられたカイザ。
彼にはもう自慢の2本の腕がそこには無かった。
イナリは必死に父を叫ぶ。その時だ。

「イナリ!」

カイザは笑った。イナリに向かって。


そして英雄は消えた。




――ヒーローなんてバカみたい・・・か。

ナルトはふと修行前にイナリが言っていた言葉を思い出す。
その言葉はいまだに自分の胸に引っかかっている。
だって、その言葉は自分の父親を指すものでもあるから。
だから絶対に否定なんてしたくない。

――イナリは信じていた父が裏切った・・・とでも思ってしまったのでしょう・・・ね

そんなことは決して無い。死してなお残っている彼の名。
彼は最後まで自分の言ったことを貫き通したんだ。
それはなんてかっこいいのだろうか。
最後まで笑っていたカイザ。今から死ぬと分かっていてそんなことができるだろうか。

――僕の父さんも・・・笑っていたのかな。

ふと頭に浮かぶのは写真の中の父の顔。
その写真はいかにも里の長と言う威厳のある顔をしていた。
里を救った四代目。
死ぬと分かっていても使ったあの術。
笑った顔なんて見たことがないけれど、でもきっと最後は、

――笑っていたのでしょうね。

僕も笑えるかな

そんなことを考えて、

「修行してくる。んでもって、英雄はいるってこと」

証明してやる!!

そう、英雄はいるんだ。イナリ、お前の父は英雄だ。








修行が始まってから6日がたった早朝。
森の中で金髪青目の少年が頭や肩、伸ばした腕に乗った小鳥たちと楽しげに何やら会話をしている。その少年はナルトだ。と、その時、一斉に小鳥たちが空へと羽ばたいていった。
ふとナルトが空から木々のほうへと顔を向けると、そこにはナルトより少し年上で、黒髪を背中へ流したとても綺麗な子供が立っていた。

「おはようございます。」

こんなところで何をしているんですか?とニコリと微笑んだ子供はナルトに尋ねる。
しかし、ナルトは質問には答えず、その子供が持っている籠の中身を見て目を輝かせた。そして、

「あの!!一緒に薬草取っても良いですか!!」

ナルトの声が森の中を木霊した。

2人の間に沈黙がおとずれた。





「えっと、さっきはすみません。」

ナルトが薬草を取りながら目の前の子供に謝る。
自分の言葉に「いいえ」と言って苦笑をしながら薬草を摘んでいる子供をちらちらと盗み見る。

――とても綺麗でいらっしゃいますが・・・体付きからすると男性ですね。

ナルトはミコトとして忍びの任務はしていないが、里の病院の手伝いなどをしている。そのおかげで体格を見ただけで身長や体重などほぼ正確に分かるようになった。そんなナルトが男性と女性を見分けることは容易い。

「お兄さん。この薬草で良いですか?」

この問いに少年は頷いた。
今2人で摘んでいるこの薬草は、化膿止めや腫れに使えるもの。ナルトはじっと少年を見つめた。

――やっぱりあの時の仮面の子ですね。
   ・・・再不斬に使うんでしょうね。

ナルトはこの少年の気配と、今取っている薬草からそう判断する。
小鳥が飛び立つ前から感じていた気配は見知ったものだった。
そして、先ほどの少年の質問に答えるために、口を開いた。

「ここで僕は修行していたんです。」

最近ちょっとサボり気味だったので・・・と片目を瞑って軽く舌を出す。
その表情に目の前の少年はクスクスと笑っている。

「君はもう十分に強そうに見えますよ?」

そう言ってやわらかく微笑む少年。ナルトも一緒になって微笑む。

「僕にはもっともっと力が必要なんです。人を守るにはどんなに修行したってまだ足りないんです。それでいつかは医療忍者になるんです。」

目線をまた下へと戻し、せっせと薬草を摘む。だからナルトは気づかなかった。
少年が顔を強張らせたのを。
少年は目の前の金色をしばらく見つめ、そっと口を開いた。

「君には大切な人はいますか?」

ナルトは唐突な問いに薬草を摘んでいた手を止めた。顔を上げてみると、その少年の目がじっとこちらを睨むように見ていた。その目がとても力強くて、思わず目をそらしてしまいそうだ。
しかし、何故だろう。

――どこか再不斬と似ている・・・?

全然再不斬とは性格も違う目の前の少年。
おそらく少年の言う大切な人とは再不斬のことだろう。
ナルトがじっと見つめていると、再び少年の口が開いた。

「人は・・・大切な何かを守りたいと思った時に」

本当に強くなれるものなんです。

力強く言い切った少年の顔はとても真剣だった。ナルトは息を呑んだ。
その少年の言葉はナルトが常に思っていることだ。
姉が亡くなってから分かった、周りにあった大切なもの。
今ではその大切なものが少しずつ広がって、そのうち自分の手から零れ落ちてしまいそうで。
零れ落とさないためにも力が必要なんだ。
大切なものがあるから自分を強くしてくれる。

「うん!それは僕もよく分かります。」

そう答えたナルトに少年はやっと優しく微笑んだ。

でも、なんでだろう。

――どうして悲しそうな目をしているの?

目の前の少年には大切な人がいるはずなのに、どうしてだろうか。
ナルトは笑っている少年の目を見て不思議に思う。
大切な人と一緒にいられるなんて、とても幸せなことだ。
なのにどうして?

「君は強くなる・・・またどこかで会いましょう。」

少年はスッと籠を持って立ち上がり、帰っていく。ナルトはにこりと笑って少年に手を振った。

――次・・・ですか。
   再不斬との対戦ですね・・・

今度はあの少年とも戦うのでしょう・・・。

ナルトの顔にはいつの間にか笑顔は消え、目を細めて少年の背中を見つめていた。








三日月の綺麗な夜のこと。

「帰るか。」

そう言ったサスケが今いる場所は森の中でもかなり背の高い木の天辺だ。

「おう!」

ナルトもサスケと同じくらいの高さの木の頂上に登っている。
やっと2人も木登りができるようになったのだ。
ナルトはサスケを見ながら優しく微笑んでいる。

――サスケもよくがんばりましたね!

下忍のルーキーナンバーワンは伊達じゃありませんね、と口には出さずに誉めていた。




「おう今帰ったか!・・・なんじゃお前ら、超ドロドロのバテバテじゃな。」

タズナの家に帰ってくると、すでにタズナ、カカシ、サクラはテーブルを囲んで座っていた。
修行を終えてタズナの家に帰ってきた2人にタズナが声をかける。
ナルトはニコリと笑いながら、

「へへ!2人とも天辺まで登ったぜ!」

その言葉にカカシも微笑む。そしてサスケとナルトに明日からはタズナの護衛につくように指示を出した。やっと任務である護衛ということに2人は気合を入れる。
サスケはそのまま席へと座り、ナルトは夕食の準備をしているツナミを手伝い始めた。

そんなドロドロのナルトたちを見ていたイナリにどんどんと何かがこみ上げて、

「なんでそんなになるまで必死に頑張るんだよ!!」

ついに膨れ上がった感情が爆発した。

「修行なんかしたってガトーの手下には敵いっこないんだよ!いくらかっこいいこと言って努力したって、本当に強い奴の前じゃ弱い奴はやられちゃうんだ!」

泣きながら叫ぶイナリ。しんと静まり返った中、そんなイナリを見てフフッと笑った者がいた。イナリはその声のした方へと視線を向ける。と、そこにはオレンジ色の服を着た奴が手に皿を持って立っていた。
オレンジ色なんて派手な服を着て苦笑をしている者、そう、ナルトだ。
ナルトは苦笑しながらテーブルの上に出来上がっている夕食をせっせと運んでいる。そんなナルトの様子にイナリはギリッと歯を食いしばった。

「何がおかしい!お前に僕の何がわかるんだ!つらいことなんか何も知らないでいつも楽しそうにヘラヘラやってるお前とは違うんだよぉ!!」

以前からナルトの行動にイライラしていたイナリはとうとうナルトに怒りをぶつけた。
すると、パタリと動きを止めたナルト。そして、きつい眼差しでイナリを睨み付けた。
イナリを見ていて思ったこと、それは、

――・・・甘やかすだけでは成長なんかしません・・・

タズナやツナミはイナリに対して本気で叱ったりなどしていない。それは2人ともがイナリの悲しみを分かっていると思っているから。しかし、それは違う。
このままではイナリはダメになってしまう。
イナリが前に進むためにはきちんとその悲しみを受け止めないといけないのだ。
ナルトはイナリを睨み付けたまま、口を開いた。

「笑ったのは悪かった・・・懐かしいなぁって思って。でもな・・・」

イナリはナルトの突き刺さるような視線にゴクリと喉を鳴らす。

「そうやって泣いているうちに大事なものが無くなるかもしれないんだぞ?いつもそばにあって気づかないかもしれないけどな・・・早く気づかないと無くなってからじゃ間に合わないものがあるんだ。」

ナルトはギンッとさらに鋭い眼光でイナリ睨む。

「それでもいいならずっとそうやって泣いてろ!泣き虫ヤローが!!」

イナリはナルトの最後の言葉にビクリと肩を揺らした。
そう吐き捨てるように言ったナルトにサクラが言いすぎだ、と注意をしているのにも構わず、ナルトはそのまま部屋を出て行った。

バタンッという音の後、その場は静寂に包まれた。








三日月の優しい光が窓から注いでいる部屋の中、ナルトが布団からむくりと上半身を起こした。
ナルトはあの後、夕食も摂らずに自分が使わせてもらっている布団の中へと入ってしまった。しかし、なかなか寝付けないでいたのは頭の中にイナリがいたからだ。
いつまでも苦しんでもらいたくなかった。ただそれだけで言ったけれど、

――・・・少し言い過ぎてしまいました・・・

いや、かなり・・・

じっとその場で悩んでいたナルトは、そっと布団から出て気配を探り始める。すると、探していたその気配はすぐに見つかり、部屋から物音立てずに出て行った。
そして外まで出たナルトの視線の先、それは海をぼんやり眺めているイナリだ。
ナルトは先ほどのことを謝ろうと思ったのだ。
しかし、そこにはもう一つの気配があるのに気づいた。それは、

――カカシ先生・・・?

なぜでしょう?と首をかしげながらも、ナルトはその気配たちに近づいていく。
どうやら2人が会話をしているようだった。その2人に気づかれないよう気配を消してじっと待っていた。





「ちょっといいかな。」

家の外でしゃがんで海を見ていたイナリにカカシが声をかけた。
イナリが振り向いてカカシの顔を見ると、顔の大半を隠しているため何を考えているか分からない。カカシはイナリの返事も聞かずに隣へと座る。

「ま!ナルトの奴も悪気があって言ったんじゃないんだ・・・あいつはちょっと不思議なんだよな・・・。」

そう言ったカカシは空にある三日月を見つめていた。

「お父さんの話はタズナさんから聞いたよ。ナルトの奴も君と同じで子供の頃から親がいない・・・というより両親を知らないんだ。ホント言うと君よりつらい過去を持っている・・・。」

「え?」

イナリはここで始めて声を出した。カカシはやっと反応を示したイナリに顔を向ける。その顔はなんとなく優しく笑っているように見えた。

「ナルトは姉が1人いたんだ。実の姉ではないけどね・・・その姉さんに育てられていたんだ。だけどその姉さんもナルトが3歳の頃に亡くしている・・・。」

・・・あいつはもう泣き飽きてるんだろうなぁとカカシがポツリと呟く。

「それからずっとナルトは1人だったけれど、自分で見つけた“夢”のために今は必死で努力しているんだ。それにね・・・」

カカシはまた目を三日月へと移した。

「俺はナルトに救われたんだ。」

その言葉にイナリは驚いた。

「カカシ先生って、ナルトの兄ちゃんの先生なんだろ?」

なのにどうして?

カカシをじっと見つめてそう言った。カカシは空を見ながら苦笑している。

「んー・・・あいつは本当に不思議なんだよなぁ・・・・・・俺に、ほしい言葉をくれたんだ・・・。」

え?と首を傾げるイナリ。
カカシはあの下忍選抜試験の時を思い出す。
“過去”に逃げていた自分に“今”を教えてくれたナルト。
どうしてあんなに人のことがわかるのだろうか?
・・・それは

「あいつは良く人のことを見ているんだ。それで、その人のことを良く考えて言葉をくれる・・・。」

そう言ってカカシはやっとイナリのことを見た。

「君にはちょっと辛いことを言ったけど・・・ナルトは君の気持ちを一番分かっているはずだよ。あいつどうやら・・・」

君のことが放っておけないみたいだから。

そう言ったカカシを見れば、今度ははっきりと見えている右目だけでも微笑んでいるのが分かった。

イナリは海に視線を戻して、ただ黙ってそれを聞いていた。



いつの間にか気配を消して待っていたはずのナルトの姿はそこにはなくなっていた。








「ナルトちょっと起きなさいよ!」

朝からサクラの声がタズナの家に響く。サスケもいつまでも布団の中にいるナルトに「ウスラトンカチが」と言っている。しかし、ナルトは起きる様子が無い。
すでにみな朝食を終えていて、タズナの護衛のために橋に向かう時間が迫っているのだ。
ナルトを起こそうとしていた2人をカカシが先に外に出ているように言うと、いまだにピクリとも動かないナルトを睨む。そして、

「お前起きてるでしょ。」

決して疑問系ではない。カカシにはナルトが起きているという自信があった。
修行1日目から、ナルトは夕食後にまで1人で修行をしに行っていたが、いつの間にか帰ってきて寝ているのをカカシは知っていた。そして、まだ誰も起きていない早朝に1人起きてまた修行に行っているのだ。
それを今までずっと続けていたナルトは、1度も疲れた様子など見せたことも無かった。
しかし、今のカカシの言葉にもナルトは反応を示さない。
そんなナルトにカカシはふぅと息を吐いた時だった。

「いいや。寝てるってばよ。」

「・・・・・・。」

寝てると言う割にはかなりはっきりとした声で答えたナルト。それには思わずカカシも黙ってしまった。カカシは頭を掻いて、

「まぁ・・・お前のことだから何かあるんだろうけど・・・」

迷惑はかけないようにな、と言って部屋から出て行く。すると、

「カカシせんせーたちも気をつけて。」

布団の中に入ったままそう言ったナルト。

――・・・嫌な予感がするなぁ・・・

内心そう呟いたカカシはそのままタズナたちと橋へ向かって行った。


ナルトは「ごめんなさい」と、もうここにはいないカカシに小さく呟いた。

――でも確かにこちらに2つの気配が近づいているんです。

忍びではなさそうですが・・・

ナルトは2つの気配がこの家の方へと来ていることにだいぶ前から気づいていた。だからわざと寝坊などということまでしたのだ。
カカシたちの気配はどんどん遠ざかっていく。それとは逆に近づいてくる気配。

――来た・・・!

ナルトがそう思った瞬間だった。
何かが壊れる音とともに、女性の悲鳴が上がった。その声に一番に反応したのはイナリだった。

「母ちゃん!!」

イナリが悲鳴を上げたツナミのところへ駆けつけると、そこには2人の侍がいる。
侍たちはイナリの方をジロリと睨み付けるように見た。それに慌てたツナミはイナリに逃げるように叫ぶ。
しかし、イナリは目の前で起こっていることに泣くだけで動けないでいた。
侍たちが人質は1人でいいと判断すると、1人が刀をイナリに向けようとした、その時、

「待ちなさい!!・・・その子に手を出したら・・・舌を噛み切って死にます。」

人質が欲しいんでしょう?

そう言ったツナミは母親の顔をしていた。
我が子を守る強い母親の顔。
「母ちゃんに感謝するんだな」と言って侍たちはツナミを連れて行ってしまう。
ただただイナリはそれを見ていることしかできなかった。

――母ちゃんごめん・・・ごめんよ・・・

イナリはその場にうずくまり嗚咽を抑えて心の中で母に謝る。
謝ることしかできない。だって、

――僕はガキで弱いから母ちゃんは守れないよ・・・

それに

――死にたくないんだ・・・

僕、怖いんだ・・・
イナリがそう思った瞬間だった。


――「泣き虫ヤローが!!」


ふと頭の中によみがえってきた派手な色を持った少年の声。

――「そうやって泣いているうちに大事なものが無くなるかもしれないんだぞ?」

――「・・・あいつはもう泣き飽きてるんだろうなぁ」

――「それでもいいならずっとそうやって泣いてろ!泣き虫ヤローが!!」

次々に聞こえてくる声に、イナリは涙を拭う。

――母ちゃんも・・・父ちゃんも・・・みんなすごいよなぁ・・・

カッコいいよなぁ・・・

――みんな強いよなぁ・・・

・・・僕も・・・

――僕も・・・強くなれるかなぁ・・・!・・・父ちゃん!!

立ち上がったイナリの目には、もう涙は無かった。





腕を縛ったツナミを侍たちは早く歩くように急かしている。と、その時だった。

「待てぇ!!」

3人が振り向くとそこにはイナリが立っていた。

「かっ・・・!母ちゃんから離れろー!!」

うおおおお!!

イナリは目を瞑って侍たちへと思い切り走る。
自分が母を助けるんだ。自分だってきっとできるから。
突っ込んできたイナリに侍たちは嬉々としながら刀を抜いて切りつけた。が、

「イナリよくやったな!」

そう言って突然現れたナルト。それと同時にドサッと2つの何かが倒れる音。
イナリは何が起こったのかと、瞑っていた目を開き、侍たちを探すと、さっきまで自分のいた場所にはぶつ切りになった木が落ちていた。そして侍たちはいつの間にか倒れている。

「遅くなってごめんな。」

ナルトは内心、イナリがこんなにがんばってくれるなんて思わなかった。
本当はもっと早く助けに入るつもりだったが、イナリが閉じこもっていた殻から自分で抜け出したから。イナリができるところまで見たいと思ったのだ。

「それと・・・昨日は悪かったな。」

へへっと苦笑いで謝るナルトに少し驚いたような顔をするイナリ。

「泣き虫なんていったけど・・・あれは無しだってばよ。お前は強えーよ!」

そう言ってナルトはイナリの頭の上に手をポンと乗せる。
すると、途端にイナリの目からボロボロと涙が溢れ出てくる。イナリは「もう泣かないと決めたのに」と言いながらその涙を必死に拭う。そんなイナリにナルトは思わず微笑んだ。
それはイナリの勘違いだから。
くそ!と言って止まらない涙に困っているイナリ。
そんなに必死になって止めなくていいんだよ。だって、

「嬉しい時には・・・泣いてもいいんだぜ!」

ナルトは腕を頭の後ろに組んで満面の笑みでイナリに言う。
火影様が初めて自分の名前を読んでくれた時、イルカ先生が自分を認めてくれた時、自分も涙を止めることができなかったから。

それは幸せな涙だよ。

イナリの目にはますます涙が溢れた。
イナリはこれからもっと強くなれるから。泣ける時には泣けばいいんだよ。
ナルトは流れる涙を拭っているイナリを見て、目を細めて微笑んだ。そして、

「さーて、ここが襲われたって事は橋の方もヤベーってことだ。」

イナリはハッとしてナルトの顔を見る。いつの間にか侍たちは縄で縛られていた。

「もうここはお前に任せて大丈夫だよな。」

イナリならできるよ。だから疑問系なんかじゃない。


「まったくヒーローってのは大変だってばよ!」


そう言ったら、イナリが笑って「だってばよぅ!!」と答えてくれた。
もうイナリは大丈夫だね。

ナルトもつられて笑った。



しかし、笑っているナルトには気にかかることがまだ残っている。
頭の中にちらついている悲しげな目をした少年。

――仮面のお兄さんにはサスケがなんとかしていると思いますが・・・

まだサスケには敵わないでしょう・・・

大切なものがいるあの少年は強い。
しかし、自分も大切なものを守らなければならない。

ナルトは周りの景色が見えないほどの速さで駆けていった。















あとがき

自分の書いている小説を読み返すと、サスケさんは本当に台詞が少ないなぁと笑ってしまいました。「ウスラトンカチ」という台詞ばかりです。
そんなサスケさんが大好きです。



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 第22話
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2008/01/02 17:55





僕の予想通り、仮面のお兄さんも戦っていらっしゃいますね・・・


あれは・・・氷?サスケがたくさんの氷でできた鏡に囲まれています。


その全ての鏡の中にお兄さんが・・・


あのお兄さんは血継限界だったんですね!!


水と風の性質による氷遁忍術だなんて!かなり興味があります!!


カカシ先生と再不斬は・・・カカシ先生がサスケを気にしていてなかなか上手く戦えないようです。


サスケもかなり苦戦を強いられていますね・・・。


あ!サクラちゃんが氷の鏡の一つにクナイを・・・見事にキャッチされてしました。


・・・って、暢気に実況している場合じゃありませんでした!!







NARUTO ~大切なこと~ 第22話







ガッ!!という音とともに、サクラのクナイをかわしたはずの仮面の少年が、突然氷の鏡から引きずり出された。その仮面には斜めに大きな傷が走っている。
氷の鏡に囲まれていたサスケは、目の前の出来事に一瞬動きが止まった。と、その時だった。

「よっ!助けにきたぞ!」

サスケの目の前に片手を上げながら突如現れたオレンジ色の目立つ服を着た人物。

「ナルト!?」

思わず声を荒げたサスケに離れた場所にいたカカシやサクラも反応する。
助けに来たはずのナルトだが、ナルトのいる場所はサスケと同じ氷の鏡に囲まれた中心部。

――さすが不思議な奴だ・・・助太刀に来たはずなのに状況を悪化させてやがるな・・・。

カカシは小さくため息を吐いた。


「こっ、このウスラトンカチ!忍びならもっと慎重に動け!」

「だってさ!だってさ!俺ってばこの忍術に興味があったんだってばよぅ!!」

「・・・・・・。」

戦いの最中とは思えないようなナルトの言葉にサスケは呆れるしかない。
そんなナルトに、頬を殴られたことを恨んでいた再不斬が氷の鏡の隙間を狙って手裏剣を投げつけた。が、それは仮面の少年の千本によって全てはじかれてしまった。

「白・・・どういうつもりだ。」

再不斬はそう言って仮面の少年、白を睨みつける。

「・・・再不斬さん、この子は僕に・・・この戦いは僕の流儀でやらせて下さい。」

そう告げた白の表情は仮面で伺えない。

「・・・手を出すなってことか・・・白。相変わらず甘いヤローだ。」

・・・お前は・・・

白は気づかなかった。そう言った時の辛そうな再不斬の目を。
そして白はそのまま氷の鏡の中へと再び戻っていく。

――甘い・・・か。本当に甘い方ですね。

ナルトはサスケの傷を見てそう思う。
まだ急所というところは狙われていない。それにしても、白は再不斬に非常に信頼されている。先ほどの会話の時に見せた再不斬の目がそれを如実に表していた。
しかし、どこかそれがこの仮面の少年に伝わっていないような気がする。

――どうしてでしょう・・・?

そんなことを考えている間に、白の千本による攻撃が始まる。
サスケはこの鏡が氷であるならばと、火遁豪火球の術を使うが全く溶けた様子が無い。
ボーっとしていたナルトは目の前に突然出現した火で、ハッと今の状態を思い出す。
そして、その火を起こしただろうサスケをチラッと見た後、

「俺には夢があるんだ!」

こんなところでくたばってられるか!

白に向かって叫んだ。
サスケの戦意が失われてきていたから、そう叫んだのだ。
すると、白の攻撃がピタリと止まった。

「・・・・・・僕にとって忍びになりきる事は難しい。出来るなら君たちを殺したくないし・・・君たちに僕を殺させたくもない・・・。」

けれど

「君たちが向かってくるなら僕は忍びになりきる。あなた達を」

殺します。

その直後、千本の雨が降り注ぐ。
白は鏡の中を高速で移動するため目で追うのは非常に困難だ。しかし、

――急所には1つもあたっていないです・・・

こんなに刺さっているのに。
だんだんと身体に突き刺さってくる千本はどれも全て急所には入っていないのだ。
必死に避けようと動いているサスケにさえ急所には1つも刺さっていない。
なんて優しいのだろうか。
白の腕であれば一瞬で殺すことは可能なはずだ。
しかし殺さないのは・・・

――夢・・・でしょうか。

ナルトの言った“夢”という言葉。
確かに白は一瞬だけその言葉にピクリと反応していたのには気づいていた。
白の夢はなんだろうか?
大切な人がいる白の夢。
こうやって戦っているのも、その人のためなのは間違いないだろう。
そんなことを考えながらナルトはうつ伏せになった。その間もサスケは必死にこの状況を何とかしようと千本を避ける。

「君はよく動く・・・けれど」

次で止めます・・・

白がサスケに向かってそう告げると手に2本の千本を構え、そして最後の攻撃を仕掛ける。しかし、

――完全に見切った!?そんな・・・!!

白は内心驚きの声を上げた。
サスケは今まで避けきれなかった千本を、今のは見事に避けきったのだ。

――あ・・・開眼したんですね。

ナルトは白の手が止まったことに疑問を抱き顔を上げると、そこには赤い目をしたサスケが白を睨んで立っていた。その目はまさしく写輪眼だ。
戦いの最中で成長を遂げるサスケはまだまだ強くなるだろう。
しかし、そろそろサスケを治療しないと出血がひどい。それに・・・

――お話ししてみたいです・・・

先ほどからずっと白を気にしていたナルト。敵ではあるのだが、なんとなく気になってしょうがない。ナルトがゆっくり立ち上がると、目の前には治療をしようと思っていた人物が立っていた。

「・・・サスケ?」

ナルトはポツリと呟く。
そばには鏡から出ている白が倒れている。どうやらサスケの攻撃を食らったらしい。

「まったく・・・お前はいつまでたっても・・・足手まといだぜ・・・。」

そう言って振り向いたサスケの首には今までなかったはずの千本が何本も突き刺さっている。

――僕をかばった・・・?

ナルトは目を見開いた。
まさかサスケが自分を守るようなことをするなんて思いもしなかった。
同じ班になってからナルトとしては友達になりたいと思っていたが、なかなか人に寄り添うなんてことをしないサスケ。
そんなサスケが今、自分の目の前に立っている。

「お前なんか大嫌いだったのによ・・・。」

体が勝手に動いちまった・・・。

そう言って倒れてくるサスケをナルトは腕で受け止める。

「あの男を・・・兄貴を・・・殺すまで・・・死んでたまるかって・・・思ってたのに・・・」

お前は死ぬな・・・

そう告げたサスケは目を閉じていった。

「サスケ・・・」

ありがとう。そして、

――僕が絶対に死なせません。

それはナルトが誓っていること。
絶対に死なせたりなんかしない。
初めて彼が自分のために動いてくれた。
そう思うと、顔が自然に緩んでしまう。
と、その時、倒れていた白がムクッと立ち上がる。

「彼は僕に一撃をくれ・・・ひるむことなく君を守って死にました。」

仲間の死は初めてですか?

白が顔を上げ、ナルトを見る。しかし、視線の先のその人物は何故か倒れている仲間を見ながら微笑んでいる。

「・・・何を笑っているんですか・・・。」

仲間が死んでしまったんですよ・・・?

白の声は少し震えているようにも感じる。それはそうだろう。
死んでいる仲間を見て微笑んでいるなんて奇妙だ。
その微笑んでいる人物、ナルトはゆっくりとサスケを地面に横たえ、慎重に首に刺さっている千本から抜き始めた。

「僕はサスケがかばってくれるなんて・・・思いもしなかったんです。」

それが嬉しくて。

「やっと・・・やっと少しずつですが、サスケが自分たちに近寄ってきてくれて・・・。それに」

サスケは死んでなんかいませんよ。だって、

「どの千本も急所には入っていないんですから。」

僕も千本練習してみようかなぁ、なんて言いながらナルトは笑っている。そう言いながらも手は休めることなく掌仙術をサスケに当てて傷を塞いでいく。
白は思わず息を呑んだ。
確かに白は急所をずらして千本を刺していった。しかし、サスケの首に刺したものは本当に急所擦れ擦れのもので、それが急所からずれていることを判断するには大変困難なほどだ。現にサスケは息をしていないはずだ。
しかし、ナルトはパッと見ただけでそう判断し、治療を施していく。手の当たった所は傷跡など見当たらない。

「・・・・・・話し方が違いませんか・・・?」

白はふと沸いてきた疑問をナルトにぶつけると、ナルトはフフッと苦笑した。

「僕もいろいろとあって・・・」

こちらが素の話し方ではあるんです。

そう言っていつの間にか治療が済んだナルトは、自分の身体に刺さっていた千本を抜き始める。しかし、ナルト自身には何もしないようだ。
そして全部抜き終えたナルトが口を開いた。

「お兄さんの大切な人って再不斬ですか?」

目を細めて微笑んでいるナルト。白はただその問いに首を傾げた。が、

「薬草を摘んでいるとき・・・お兄さん“大切な人はいますか?”って尋ねましたよね。」

「・・・気づいていたんですか・・・。」

僕の正体に・・・。

そう言って白はつけていた仮面をはずす。
それを見てナルトはますます笑みを濃くする。その笑みに敵同士であるにもかかわらず、つられて白も笑みを作ってしまう。するとその瞬間、突然目の前のナルトが消えた。

――は、速い・・・!!

いや、消えたのではない。一瞬にして白の目の前へと移動し、

バコッ!!

思い切り白の顔面を殴ったのだ。
吹っ飛ばされた白が鏡にぶつかり、その鏡は粉々に砕け、地面に倒れた白はゴボッと血を吐いた。

「いくらサスケが死んでいないからって・・・僕も怒ってはいるんです。」

1発だけ殴らせていただきました、と白に向かって頭を下げたナルト。
白は先ほどからナルトに驚かされてばかりだ。白はなんとか立ち上がり、ナルトの方へと顔を向ける。すると、今度は

「白の夢ってなんですか?」

「・・・え?」

また突然の質問。ナルトはニコニコと微笑んで白の顔を見ている。
白はどうしてそんなことを?という疑問が浮かんだが、ナルトの顔を見て、何故かそんなことはどうでもいいかと思い、ポツリポツリと呟くように話し出した。

「僕の夢は・・・大切な人を護りたい・・・。」

その人のために働き
その人のために戦い
その人の夢を叶えたい・・・

「それが僕の夢です。」

・・・でも

「僕は君に敵いそうもありません・・・。」

さっきのナルトの動きを全く見ることができなかった。それは自分よりも速いということ。そして重みのある拳で軽く自分の身体は吹き飛ばし、鏡まで割ってしまった。
それは完全なる自分の負け。

「僕を殺してください。」

そう告げた白がじっとナルトを見つめる。視線の先のナルトはただ不思議そうに首を傾げている。

「再不斬さんにとって弱い忍び・・・道具は必要ない。」

白はニコリと微笑んで、また口を開こうとした時だった。

「お兄さんは再不斬にとって道具なんかじゃありませんよ?」

ナルトはまだ首を傾げて白を見つめている。白はその言葉に一瞬理解できなかった。

――再不斬さんにとって僕は道具ではない?

・・・では僕は何?

今までずっと道具として育てられた自分に、道具という価値をとってしまったら、自分は自分でなくなってしまう。
それはなんて恐ろしいことなのだろうか。

「僕は再不斬さんの道具だ!でもこんな弱い道具はいらない!君は」

僕の存在理由を奪ってしまった!

先ほどの落ち着きが嘘のように怒る白にますます不思議そうにナルトは見ていた。

「僕はただ殴っただけですよ?」

「僕は・・・!一回でも負けてはダメなんです!君は強い・・・道具の僕はもう再不斬さんの役には立てない。」

だんだんと冷静になってきた白はまたニコリと微笑んで「殺してくれ」と頼む。
するとナルトの顔が無表情になった。そして、

「お兄さんには再不斬以外に大切な人はいないんですか?」

真剣な面持ちで白を見つめている。
白はその迫力に身体を全く動かすことができなかった。冷や汗まで出始める。
ゴクリと喉を鳴らすと、ゆっくり話始めた。

「・・・ずっと昔にも・・・大切な人がいました・・・。」

僕の・・・両親です。

「僕は霧の国の雪深い小さな村に生まれました。幸せだった・・・本当に優しい両親だった。」

・・・でも

「僕が物心ついた頃・・・ある出来事がおきた。」

この血。

白は口についていた血を腕で拭う。

「父が母を殺し、そして僕を殺そうとしたんです。」

「・・・血継限界ですね。」

ナルトはポツリと呟く。白はその言葉に頷いて、話を続ける。

「血継限界・・・特別な能力を持つ血族は様々な争いに利用されたあげく・・・国に災厄と戦禍をもたらす汚れた血族と恐れられたのです。・・・僕の母は血族の人間でした。それが父に知られてしまって・・・気づいたとき僕は殺していました・・・。」

実の父をです・・・・・・!!

「そしてその時、僕は自分のことをこう思った・・・。自分がこの世にまるで・・・」

必要とされない存在だということです。

「・・・再不斬さんは僕が血継限界の血族だと知って拾ってくれた。誰もが嫌ったこの血を・・・好んで必要としてくれた・・・。」

嬉しかった・・・!!

そう言った白の目からはポロポロと涙がこぼれ始めた。
それをナルトはただじっと見つめていた。

――そうでしたか・・・。

白と再不斬がどこか似ていると思ったのは・・・これだったんですね。

鬼人と呼ばれて恐れられた再不斬が、いくら血継限界だからといって子供を拾うだろうか。ましてや自分の時間を削ってまで忍術や体術などをおしえるだろうか。
そんなことするはずないだろう。
霧の里の残酷な卒業試験を受けた再不斬。きっと白を拾う前の再不斬は人間らしい感情など持っていなかっただろう。そんな再不斬を今の人間らしく変えたのは

――お兄さん・・・あなたです。

しかし、再不斬は白を道具というふうにしか表現できなかった。
それはどう人間に接していいかわからなくて。
そのせいで白は自分を道具という価値でしか見ていないのだ。

――でも今の涙は・・・人間のものですよ?

白が流している涙。それはとても綺麗で。
そんな白が道具なわけがない。

――2人も不器用すぎます・・・。

大切だと思っているのに言葉に出せない再不斬。
道具としてでしか自分の価値を見出せていない白。
そんな2人の共通点。不器用で頑固で、だけど純粋すぎるくらい綺麗で・・・。
白は過去を乗り越えて大切な人を見つけて前に進んでいるようだけど、まだ止まっていた。

人間は道具になんかなれないんだ。

だって、白の目は悲しんでいるから。道具には感情なんてないんだよ。
ずっと道具だと思って生きてきたのは苦しかったでしょう?



「僕を殺してください。」

白はナルトに向かって再びそう告げる。

――伝えなきゃ

「お兄さんは道具に信頼できますか?」

ポツリと呟いたナルトに白は首を傾げる。

「再不斬はあなたを信頼しています。道具に信用はできても信頼はできません。」

――あなたは道具じゃないですよ?だからそんな悲しい目をしないで。

白はハッとして息を呑んだ。

「あなたは道具なんかじゃ・・・!!」

ナルトの言葉は途中で途切れた。
それは再不斬たちのいる方からものすごいチャクラを感じたのだ。あれは、

――カカシ先生の雷切・・・!!

雷切、それはカカシのオリジナル術である。
白もそのチャクラを感じ取り、一瞬こちらを向くと、そのチャクラの塊へと向かって行ってしまった。



――・・・ありがとう・・・ですか・・・。

白がこちらを向いて一言、小さく呟いた言葉。その顔は柔らかく微笑んでいて。

白は行ってしまった。
カカシの雷切は簡単に防げるものではない。
防げなければ待っているのは“死”だ。白には防げるほどの力はない。
白は自分がこれから死ぬと分かっていて行ったのだ。
自分の心を、夢を殺して白は行ってしまった。
大切なものを守るために。

ナルトは白の後を追っていった。

白はどんな顔をしている?
自分の言葉は届いたと思っている。
白は道具なんかじゃない。
道具としてではない白を見たかった。
白は道具として死ぬのではない。
白は1人の人間として、大切なものを守ったんだ。

霧の向こうに見えたのは、カカシの腕が左胸を貫通している白の姿。


その顔は嬉しそうに微笑んでいた。




――お兄さん・・・気づいていますか?

白の後ろに立っている再不斬の目の色。鬼人と恐れられていた再不斬が顔を歪め、悲痛な目をして白の背を眺めているのだ。
しかし、再不斬はすぐに白もろともカカシを殺すために切りかかる。
それは、必死に何かを断ち切ろうとしているようにしか見えなくて。
でもそれは簡単に断ち切れるものでもなく、再不斬はカカシに両腕をクナイで刺されてしまい、腕が使えなくなってしまった。
今の再不斬がカカシに勝てるわけがない。
白の死で気を乱してしまった再不斬に、勝ち目などない。

「再不斬。」

突然呼ばれた名前。その声の方へと、その場にいた者たちがみな顔を向けると、そこにはガトーが武器を持ったたくさんの部下を引き連れていた。どうやらガトーは再不斬たちもろとも殺すつもりだったらしい。
ガトーは死んでいる白を見て、腕を折られた恨みだと言ってゴッと白の顔を蹴りつける。

それを見た再不斬はピクリと反応するだけだった。

――なんて不器用・・・

ナルトは心の中で呟く。
本当になんて不器用なのだろうか。
白が死んであんなに苦しそうだったのに、表に出せないでいる再不斬。
これでは白がかわいそうだ。

キッとナルトはガトーを睨みつける。

「てめー!なにやってんだってばよぉコラァ!!お前も何とか言えよ!仲間だったんだろ!!」

振り返って再不斬に向かって叫ぶ。

今の自分にできること・・・それは

「あんなことされて何とも思わねぇのかよぉ!!お前ってばずっと一緒だったんだろ!!」

この不器用で頑固な鬼人に

「あいつは・・・あいつはお前のことがホントに好きだったんだぞ!!あんなに大好きだったんだぞ!!」

白は

「あいつはお前のために命を捨てたんだぞ!!自分の夢も見れねーで・・・道具として死ぬなんて・・・」

道具なんかじゃ無いって

「・・・そんなのつらすぎるってばよぉ・・・」

言わせること。



「・・・・・・小僧。」

再不斬がポツリと小さく呟いた。

「それ以上は・・・何も言うな・・・。」


そう言った再不斬の目には涙が溢れ、流れた。



――やっと言いました・・・

白、聞こえましたか?
ほら・・・あなたは道具なんかじゃなかったでしょう?
再不斬があなたのためだけに涙を流している。
あなたの死を心から悲しんでいる。

「小僧、クナイを貸せ!」

そう言ってナルトのクナイを、包帯をほどいた口にくわえガトーへと突っ込んでいく。
白の言っていた通りだった。

――大切な何かを守りたいと思ったときに本当に強くなれる・・・

次々とガトーの部下たちが再不斬に武器を突き立てる。それに怯むことなく突き進んでいく鬼。
白は見ているだろうか?
大切なものを守るために戦っている再不斬。
今、再不斬は本当の強さを手にいれたのだ。

再不斬の背中にはたくさんの武器が突き刺さったまま。しかし、一度も倒れることなくガトーの下へとたどり着き


首を切り落とした。


その直後、初めて再不斬は倒れた。
その再不斬の周りにはまだガトーの部下たちはたくさんいる。
その部下たちはナルトたちへと襲い掛かってくる。が、その時、橋の反対側からイナリたち島の人たちが武器を持ち、立ち上がっていた。
それを見て、ナルトとカカシは影分身を作る。
突然こちらの人数が増えたことに、ガトーの部下たちは青い顔をして逃げ帰っていった。




「カカシ・・・頼みがある。」

まだ息をしていた再不斬がポツリと呟いた。

「あいつの・・・顔が・・・見てぇんだ・・・。」

カカシは「ああ」と言って、写輪眼を額あてで隠し、再不斬を白の隣へと運び横たえる。

曇っていた空からは、春だと言うのにチラチラと雪が降り始めた。

再不斬は横にいる白の顔を見ようとゆっくり手を伸ばす。こちらに振り向かせると、白の顔に落ちた雪が、白の代わりに泣いていた。でも、その顔は微笑んでいて。そして、


「・・・できるなら・・・お前と同じところに・・・行きてぇなぁ・・・」

・・・俺も・・・



そう呟いて泣いた鬼の涙は綺麗な人間の涙だった。








それから2週間が経ち、無事橋は完成された。

そして今、ナルトたちの目の前には2つの墓がある。
片方の墓には首切り包丁が突き刺さっている。

それは、再不斬と白の墓。

その墓の前には饅頭や花が供えられてある。


――僕は大事なことを学びました・・・

ナルトは墓の前で手を合わせ、心の中で白に呼びかける。
大切なものを守るにはいろいろな形があるということ。
白は自分を道具だと言っていたけれど、白は立派な人間だった。
白は再不斬の心を溶かした温かい光だった。
見えるものだけではなく、“心”も守ってきたんだ。
それは簡単にはできないこと。
人間の心はその人にしか見えないから、他人が支えることは本当に難しい。
それを白はすることができたのだ。
とてもとてもすごいこと。

――僕もそんな人間になりたい。

ナルトは目を細めて微笑んだ。
小さく「ありがとう」と呟く。
今度会うことができたら、友達になろうと胸に誓って。

生き物には絶対に訪れる死。またいつかあえるから。

柔らかい春の日差しに、空には白い雲が漂っている。

「よし、お前ら帰るぞ!」

カカシの声に3人の子供たちはお墓を後にする。と、その時、後ろから暖かい風が吹いてきた。
その風にナルトは振り返る。




そこには白が笑っているような気がした。








「お前、ほんとに医療忍術使えたんだね。」

「それがどうかしたのかってばよ。」

波の国からの帰り道、後ろを歩いていたカカシがふと立ち止まり、前を歩いていた金髪の少年に声をかける。その道にはそこかしこに春の花が咲いている。あの時、雪が降ったのが幻だったかのようだ。
呼ばれた少年は振り返り、カカシの見えている右目をじっと見つめる。
前を歩く二人はそれに気づかず、ピンクの髪の女の子が一方的に黒髪の男の子に話しかけている。

「いや、あの仮面ちゃんとの戦いでサスケが受けた傷がさ・・・綺麗になくなってたから。」

すごいなぁって感心したんだよ。

そう言ってニコリと笑うカカシ。
再不斬が倒れた後、意識が戻ったサスケは全くの無傷だった。ナルトが途中で助けに来ていたのは気づいている。しかし、助けに来たものの、2人は仮面の少年の千本によってハリネズミのようになっていたはずだ。それを全て治療したナルトには感心するしかない。
アカデミーでは基本的なことしか習わない。
体術はもちろん、手裏剣などの忍具の扱い方やチャクラの練り方、簡単な忍術しか教わらなかったはずだ。ましてやナルトの目指している医療忍者など、アカデミーを卒業してやっと勉強できるものだ。

――・・・あいつの関係者か?

ふと頭に浮かんできたのは金髪の青年。7年前ほどから火影邸で特別上忍見習いとして医療に携わっているその青年。よく見ると、気配やチャクラの質は全然違うが、目の前の少年は彼と同じ色を持っている。

「ねぇ、ナルト。おまえ神影ミ・・・」

不自然なところで言葉を切ったカカシ。それはナルトがカカシに呼びかけて遮ったからだった。

「カカシせんせ!俺ってば医療忍者になるって言ったってばよ!少しは自分でも勉強してるの!」

そう言って目の前の少年はプンプン怒っている。と、その少年はカカシを見ていた視線を前の黒髪の少年へと向ける。

「先生が、俺の・・・九尾の監視役なのはなんとなくだけど知ってるってばよ。」

カカシはギクリッとしてナルトをじっと見る。しかし、ナルトの顔は前を向いているため表情を見ることができない。

――なんでそれを知っているんだ・・・?

カカシは部下を持つ気がなかったが、この班を持つことになったら、九尾の監視役を頼まれていたのは確かだ。
火影様が言うには、ナルトはすでに九尾の力を扱えるらしい。が、それは言葉で聞いただけなので暴走する可能性がないとは言えないのだ。

「俺は大丈夫だからさ・・・サスケ見てやってよ。」

そう言ってクルリと振り向いたナルトは満面の笑顔だった。ナルトの話は続いている。

「俺・・・サスケと友達になりたいんだけどさ、まだ無理みたい。サスケ・・・このままじゃ」

どっかに行っちゃうかも。

その言葉にハッとして、カカシはだいぶ前へと行ってしまっている黒髪の少年を見る。その少年は隣の少女に少しうんざりしたような雰囲気でとにかく歩いていた。
それを見てなんとなくだがホッとしたカカシが再びナルトに目を向けると、ナルトは目を細めて笑っていた。そして、前を歩いている2人に向かって話しに入れてくれと言って走り出した。
カカシはまだそこにポツンと佇んでいる。

――結局何も分からなかった・・・

前で楽しそうに騒いでいる3人の子供。

「・・・不思議な奴だ。」

カカシはポツリと呟き、歩を再会させる。


忍びとして“死”を見てしまった子供たち。
それでも自分の目の前でこんなにも輝いている。
その光景は自分には眩しすぎるけれど、

願わくば、この時間がずっと続いて欲しい。

忍びの世界では無理なことだけれど、そう思わずにはいられないのだ。

「せんせー!早くー!」

「はいはい。」

そう返事をしたものの、全く急ごうとしないカカシにナルトとサクラがやってきて、腕を引っ張り始める。サスケは腕を組んでじっと来るのを待っていた。
こんなところにも子供たちの性格が出ていて、カカシは思わず苦笑をもらした。

そんな4人を見ていたのは春の花たちだけ。





空にはタンポポの綿毛が舞っていた。















あとがき

ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございます!!
次はまた番外編です。なるべく早めに更新します。
中忍選抜試験から少しペースを落とすと思いますが、これからもよろしかったらお立ち寄りください。



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 番外編
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2008/01/03 09:15










「父さん、ほら!また降ってきたよ!」










NARUTO ~大切なこと~ 番外編 『僕は化け物』







どこもかしこも真っ白な世界。
そこに頬を赤くして空を見上げている少年がいる。
黒髪のとても綺麗な可愛い子。
その子はまるでその景色の一部かのように、真っ白な世界に溶け込んでいる。

その光景はとても幻想的だった。


「本当だなぁ。」

また積もりそうだ。


少年の言葉に返事をしたのはその子の父親だ。

「白、あんまりはしゃぐなよ!」

転ぶぞ!


自分の目の前で真っ白な中を駆け回っている息子。小さな体をいっぱい使って喜びを表現している。あんな小さな体にどうしてそんなエネルギーがあるのかと父は苦笑する。
ここは霧の国の中でも雪深い小さな村。
今日は父と白の2人で買い物へと出かけていた。
今はその帰り道。もうすぐで家に着く。
雪がひどくなる前に帰りたいものだと男が思った直後だった。


ズシャァ・・・


前のほうでサクサクと雪を踏む音が途絶えてきて聞こえてきた何か。

「ほら言わんこっちゃない!」

父親は雪の中にダイブするように見事な転びっぷりを披露した息子にすぐさま駆け寄る。
すると、息子はガバッと雪から顔を上げ、こちらを向いてへへへ、と笑った。
息子の頭や服に付いた雪や、頬だけじゃなく顔中が真っ赤になっていて、思わずこちらも笑ってしまう。

「ほら、早く帰るぞ。」

風邪ひくぞ、と言って荷物を持っていないほうの手を差し出してきた父。白はすぐに立ち上がって、体中の雪を掃い、その手をとる。
そしてまたへへへ、と笑った。

「どうかしたか?」

「ううん、なんでもない!」

そう言うが、いまだにニコニコと笑っている息子。父もつられて笑った。


――僕は雪が大好きだ!

白はどこを見ても雪しかない景色を見て微笑む。
ここはとっても寒いけれど、

――僕は大好きなんだ

つないだ手を大きく揺らしながら、家へと歩く。








「ただいまー!」

そう言って家の扉を開けると、出てくる母親。
優しく微笑みながら、「おかえり」という。
母親は白の格好を見て少し笑って、抱きしめて抱っこをしてくれる。
これはいつものこと。


――ほら、

雪って良いでしょう?

ここは寒いから、人の体温がとても温かく感じられるんだ。
父とつないだ手、母の抱擁。それがどんなに嬉しいことか。

――だから僕はここが大好きなんだ!

母親は白をそのまま風呂場へと連れて行き、父に早く家に上がるように声をかける。
とても温かな家庭の光景。

これが白の幸せ





だったんだ。








「ただいまー」

母さん? 父さん?

今はもう夕方。白はいつものように外で遊んで帰ってきた。
しかし、今日はいつまで待ってもすぐに抱きしめてくれた母親が現れない。今日は父親も家にいたはずだ。
もう一度呼びかけても返事のない家の中。
白は首を傾げながらも、そのまま家へと入っていく。

――母さん、今日は父さんがいるから張り切って料理しているのかな!

もうすぐうちでは晩御飯の時間だ。
今日は何だろう?と考えるだけでつい、ふふっと笑いがもれる。


「母さーん!」

ただいま!

そう言いながら白は思い切り台所の部屋の扉を開けた。しかし、そこはいつもと景色が違っていた。


壁に飛び散った赤。
床にできた赤い水溜り。
その中心に倒れているのは長い髪を持ったおそらく女の人。


「か・・・さん・・・?」


その女の人の隣に立っているのはこの景色と同じように真っ赤に染まった男。
その男の手に握られている物は、母親がいつも使っていた包丁にそっくりだ。それは母のおいしい料理を作り出すために必要な道具の1つ。
母が持っていた包丁はそんな色をしていただろうか?
・・・それはもう、どんな色をしていたのか思い出せない。

白はその光景に声を出すことができなかった。
そして、その場に佇んでいた男がこちらを振り返った。


「お・・・と・・・・・・さ・・・」

やっと出せた声もそれは意味を成さないただの音となって、その部屋に消えていく。


「化け物め・・・。」


低く唸るように呟いた男。

これは誰?
この男の顔はいつも見ている顔だ。だって毎日会っているから。
白は目の前の男が自分の父親だとは思えなかった。
男はブツブツと何かを呟きながら、だんだんとこちらに近づいてくる。
それが恐ろしくて、白は1歩1歩後退る。しかし、男は大人。
歩幅が違いすぎる。
男が白にもう触れることができるところまで来ると、握られている赤い物体を振り上げた。

「騙しやがって・・・血継限界だったなんて!!・・・死ね!!」

化け物が!!!!


「やめてぇぇぇえ!!!!」


白は耳を塞ぎ、目をぎゅっと閉じて有らん限りの力で叫ぶ。
自分に襲い掛かってくるだろう凶器。
逃げるにはもう身体に力が入らなくて。

もうダメだと思った。



しかし、いつまで経っても何も起こらない。
白は恐る恐る目を開いてみると、目の前にはたくさんの赤い氷のような棒が突き刺さっている物体があった。
見上げると、それは自分を襲ってきた男だった。
男は立ったまま動かず、口からゴボリと血を吐き出した。
白は息を呑んだ。
すると、男は膝をつき、そのまま倒れていった。
白にはそれがとてもゆっくり見えた。
そして、男が倒れると同時に小さく呟いた一言がやけにはっきりと聞こえて、自分の胸に突き刺さった。



「化け物」








――あれは父さんじゃない・・・

小さな少年が、降り積もる雪の中を覚束無い足取りで歩いている。
もう空は真っ暗だ。
そんな中でも雪は輝いている。
少年は暗い中でも輝きを放つ雪の景色が好きだ。
しかし、今はそれがとても恐ろしく見えた。
ここは自分が住んでいた場所のはずなのに、そう感じることができないのだ。

――母さん・・・父さんも、道に迷ったのかな・・・?

だって僕が道に迷っているんだもの。

きっとそうだ、と胸の中で決め付ける。
さっきの光景は自分が見た幻だ。本当のことじゃない。
だから、早く僕が母さんと父さんを迎えに行かなくちゃ。
そう考えると、少年は真っ白い世界に目を向ける。そして、今度はしっかりと足を踏み出そうとした時だった。


ザザザザザ!!


少年の目の前に2人の影が降り立った。少年は突然のことに驚き、腰を抜かして雪の中にズシッと尻餅をついてしまった。
その音に気づいた影たちがパッとこちらを振り向く。

「へぇ、驚いた。こんな時間に何やってるのかな?迷子か?」

「おい、もう真夜中だぜ?迷子なんかじゃねぇだろ。」

それもそうか、と笑い出した影。その影たちの額には何かがきらりと輝いている。
声からすると男性だった。
少年はその影たちが同じ人間に見えなかった。
自分の分かる言葉を発してはいるが、突然前に出てきた時の目の前の男たちの動きは、いままで生きてきた中で見たことがなかったのだ。

「・・・・・・ッ!!」

だんだんと近づいてくる男たちに声にならない叫びを上げる。そんな少年の様子に男たちはニヤニヤとしながらこちらに向かってくる。

「こいつ、高く売れるんじゃねぇか?」

「あぁ、この顔だったら買う奴らも山ほどいるだろ。」

まるで自分を何か物のようにじっくりと眺めている男たちの目がふと、あの男と重なった。

――や・・・やめて・・・!

赤い、赤い光景がよみがえってくる。
アレは夢だ、幻なんだ。
もうそんなの見せないでよ。
母さんと父さんが僕を待っているんだ。だから、僕を苦しめないで。

少年は頭を抱えながらポロポロと涙を流し始める。そんな少年の様子に構わず、男たちはさっさと連れて行くぞ、と言って少年に向かって手を伸ばした時だった。

「ぼ・・・さ・・・・・・な・・・。」

「ん?」

「僕にさわるなぁぁあ!!!!」

突如少年が大声を上げたことに、男たちは驚愕する。そして、

「こ、これは氷!!?」

男たちの周りには大量の氷の千本が取り囲んでいる。

「こいつ・・・血継限界か!?」

氷の千本が次々に男たちに襲い掛かる。しかし、男たちは霧隠れの里の忍びだった。
一般の家庭で育てられた少年が、いくら不思議な能力を持っているからと言って、まだ使いこなせていないその能力。忍びたちはなんとか大量の千本を避け、少年の首筋にトンッと手刀を入れる。その途端に、氷の雨は止んだ。
少年の意識が落ちたことを確認した忍びたちは少年を脇に抱えてその場を立ち去っていった。








――鎖・・・?

ジャリッという音で目を覚ました少年の首もとには太い鎖が付いていた。キョロキョロと周りを見てみると、そこはとても暗くて、頑丈そうな格子が目の前にあるだけだった。
と、そこに聞いたことがあるような声が聞こえてきた。

「あいつ血継限界だったなんてな。よく今まで生きてきたぜ。」

「ま、そのおかげで予定よりもっと高く売れるだろう!」

だんだんと近づいてくる男たちの声。

「まったくだ!このままあいつは里の兵器として役立ってもらうからよ!」

「はは!上手くいけば最強の道具だぜ!」

「なんてったって“化け物”だからな!」

高笑いをしている男たちの声が響いている。

――ケッケイゲンカイ・・・兵器・・・道具・・・・・・

“化け物”

あれは本当のことだったんだ。
少年は静かに涙を流した。
今の男たちの会話でだいたいのことを理解したのだ。血継限界というものがよくわからないが、それはおそらく自分の不思議な能力のことを言うのだろう。
あの赤い光景は現実のことだったのだ。
そして、あれは父で、その父を殺したのは“僕”なのだ。

――父さん・・・母さん・・・!

少年の目から流れる涙が、床に染み作り始めた時、キーッと格子のあったほうから音が聞こえてきた。少年はその音にパッと顔を上げる。と、そこには自分をここに連れてきたであろう2人の男たちが立っていた。
男たちは無言のまま、少年の首に繋がれている鎖を唐突にグイッと引っ張って、この暗い部屋から少年を出す。そして、ただ「歩け」とだけ言ってまた鎖を引っ張り始める。

――僕を見る目・・・

男たちの目、それは人間を見る目ではなかった。
自分は知っている。父や、母のような温かい目を。
それを奪ったのは“僕”。

――嫌だ・・・嫌だ!!!!

そんな目で見ないで!!

少年は男たちの後ろを黙って歩いていたが、建物の中から出た直後、

「お、お前!!?」

「クッ!」

男たちが振り返ったときにはもう遅かった。
ここには雪はないが霧の濃い場所だったため、少年の能力を使うことができたのだ。
男たちにたくさんの氷の千本が突き刺さった時には、もう少年の姿は消えていた。








ハァ・・・ハァ・・・

まだ幼い子供の荒い息遣いだけが、その場に妙に目立っていた。
いつの間にか霧が晴れ、次第と空が明るくなってきた。しかし、まだ早朝。
荒い息をしながら走っている少年の周りにはいろいろと建物があるが、人はまだ寝静まっている時間帯だ。まだ誰1人会っていない。
と、少年はふと足を止める。その少年の足はガクガクと震えている。もう走ることはできないだろう。

――僕は・・・人間じゃないんだ・・・

だから父さんは僕を殺そうとしたんだ・・・!

少年はその場に座り込み、じっと自分の手のひらを見つめる。
“ケッケイゲンカイ”とはきっと人間ではないんだ。
だってあの時、父は自分を見てなんと言った?


――「化け物」


人間じゃない僕を誰が必要としてくれるのだろう。
どうして僕は生き残ってしまったの?

・・・全部、全部、僕が人間じゃないせいだ!


僕は“いらない”存在なんだ。


少年は自分の手が、もう人間としての手に見えなかった。
少年がじっと見つめていた手のひらから視線を上げる。と、そこには1人の人間が立っていた。少年は驚愕で目を開いた。

――初めて見る目をしてる・・・

目の前の人間は、顔の目から下を包帯で覆っている男だった。その男のこちらを見つめてくる目、それは少年にとって初めて見る目だった。
父や母のような温かい目でもなく、先ほどの男たちのように自分を物として見るような目でもない。それは、

――僕と同じ・・・?

目の前の男の人も“人間ではない”のだろうか。と、突然目の前の男が自分の目線に合わせてしゃがみこんできた。そして、

「憐れなガキだな。」

ククッと笑い出した男。

――この人の目、僕と同じだ!

自分の前で笑っている男の目は、きっと今の自分と同じ目をしている。
僕だけではないんだ。

「お前みたいなガキは誰にも必要とされず、この先自由も夢もなくのたれ死ぬ・・・。」

僕と同じ“人間ではない”存在が今、目の前で僕に話しかけている。
そう思うと口が笑みを浮かべてしまう。
だって、この人も“いらない”存在なんでしょう?

「・・・お兄ちゃんも・・・僕と同じ目してる・・・。」

自然と口から音となって出た言葉。本当にそう思ったから。
そう言うと、男は目を見開いてこちらを見ている。

「僕はケッケイゲンカイです。」

僕にとって“ケッケイゲンカイ”の意味は“人間ではないもの”。
だから、お兄さんと一緒でしょう?

「父さんが母さんを殺して僕は父さんを殺してしまいました。僕は大好きだった父さんを殺してしまったんです!」

僕の目から勝手に何かが出てきた。
あれ?おかしいな。
僕は“人間ではない”のに、“化け物”なのに、まだ“涙”なんて出るんだね。
目から出てきたものを拭おうとしたその時、突然懐かしい体温を感じた。

――かあさん・・・?

まだ目が霞んでいて良く見えない。一生懸命瞬きして目を凝らしてみたら、さっきからずっと目の前にいたお兄さんが自分を抱きしめていた。

――違った・・・

この人は人間だ。

この温かさは母がくれたものと一緒だ。それは自分にとって人間である証拠。

――・・・僕は独りなんだ。

やっぱり“いらない”存在だ。

そう思った瞬間、抱きしめていた人の声が頭上から降ってきた。

「今日から」

抱きしめてくれている体温が温かくて。
その声はまるで自分を“必要”としているような声音で。

――僕に期待をさせないで・・・?

もうこれ以上苦しい思いをしたくないよ。

「今日からお前の血は俺のものだ。」

ついて来い!

――・・・え?

僕は思わずお兄さんの顔をじっと見る。その目は優しくて、どこか笑っているように見えて、今の言葉が本当だと思った。
でも、今の言葉の中で自分のことを“お前の血”だと言った。ということは、やはり、僕を人間としては見ていないのだ。

――・・・それでもいい。

そのお兄さんの言葉に微笑もうとしたら、また少し目が霞んできた。
この人は僕の嫌いな目、物を見るような目をしていない。
それだけでいいではないか。
きっと、僕が“人間ではない”から、拾ってくれたんだ。
さっきの男たちは僕のことを“ケッケイゲンカイ”の他に“道具”とも言っていた。
そんな僕のことを必要としてくれる人がこれから先に現れるだろうか?

・・・僕は本当に運が良い。

「俺は桃地再不斬だ。お前の名は?」

「白です。」

拾ってくれてありがとう、再不斬さん。








それから再不斬さんは僕にたくさんのことを教えてくれた。
体術や忍術、それに“血継限界”のことも。
あの時の父のことを思い出すと、母が“血継限界”だったということに今更気づいた。
でも、後悔なんてしていない。


「白・・・残念だ・・・今宵限り俺はこの国を捨てるつもりだ・・・」

高いところから霧の国を見下ろしてそう言う再不斬さん。
僕に修行をつけてからもう何年か経った。
今日、水影暗殺のクーデターに失敗してしまった再不斬さんと僕はこの国から去る。

「しかし・・・!必ず俺はこの国に帰ってくる・・・この国を手中にしてみせる!!」

これは再不斬さんの夢。
それは僕の夢。

「そのために必要なのは慰めや励ましじゃあない・・・本当に必要なのは・・・」

「分かっています・・・」

それは僕にとって当たり前のこと。

「安心してください・・・僕は再不斬さんの武器です・・・言いつけを守るただの道具としてお側に置いて下さい。」

そう言うと、再不斬さんはいい子だと言って笑ってくれた。

父さん、母さん、僕を生んでくれてありがとう。
僕はこうしてまた大切な人を見つけることができた。
僕は本当に幸せです。
この幸せは、僕が“血継限界”だったから手に入れることができたんだ。
だから、父さんと母さんには本当に感謝をしています。

再不斬さん、こんな僕を育ててくれてありがとう。

僕はずっとあなたの道具だ。

他の人たちは道具になんてなれない。僕だから道具になることができるんだ。だって、



――僕は“化け物”なんだから





少年は隣に立っている男に向かって微笑んだ。













あとがき

ごめんなさい!!(土下座)
オビトさんに続いて書いてしまいました・・・。
白さんのお話ですが・・・すみません!本当にすみません!!
あぁ、ものすごい下手な奴が書いてしまって申し訳ないです。



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 番外編
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2008/01/03 09:21






これはある鬼が人間になった時のお話。








今日もまた人を殺す。


俺にとってそれは物を壊すのと同じことだ。


何にも感じやしねぇ。


いや・・・唯一感じるのは“楽”だな。


忍者の資格もとっていない頃にやった生徒同士の殺し合い・・・


あれは本当に楽しかった。


あれ以来、俺は人を殺さねぇと俺が人間なのかもわかんねぇ。



ハハ・・・もう人間じゃねぇな。




さて、今日も殺るか。







NARUTO ~大切なこと~ 番外編 『愛し子』







桃地再不斬は霧隠れの里の暗部に所属している忍びだ。
彼は無音殺人術(サイレントキリング)の達人であり、霧隠れの鬼人として名を轟かせた。
そして霧隠れの実力者・霧の忍刀七人衆の1人であった。








――今日も雑魚だったな・・・

つまらねぇ。

再不斬は任務を終え、使用した首切り包丁についた血を振り払う。
それは彼の日常。
毎日のようにくる暗殺任務。

――世の中そんなに殺してぇやつばかりなのかね。

まぁそのおかげで俺も楽しめるけどな。

そして殺した遺体の首を切り取り持ち帰る。
今日の任務は殺した証拠が必要だった。

――あ~ぁ。今日はあれが見れねぇのか。

人間を燃やした時の火っつぅのは綺麗なのによ。

再不斬は今日の任務に文句をつけながらも、仕事として割り切る。
そしてそれを持って水影邸へと戻り、報告をする。
それは彼にとっていつものことだ。



人を殺すことに感情は邪魔なものだ。
それは忍びの世界では特に重要なことだろう。
人を殺せない忍びは生きてはいけない。
そういうわけでは再不斬はとても優秀と言えるかもしれない。

しかし、彼には感情が抜け落ちてしまった。
その彼を生み出してしまったのもこの“霧隠れの里”だ。



霧隠れの里は以前まで“血霧の里”と呼ばれていた。
その名前の由来は、アカデミーの卒業試験からきている。
その卒業試験とは
2人1組となり、どちらかの命が尽きるまで殺しあうというものだった。

そんな残酷な卒業試験にある事件が起こった。

それは、ある1人の少年が100人を越えるその年の受験者を全てくらい尽くしてしまったという事件だ。
そう、その少年こそが桃地再不斬だった。
彼は幼くしてなんの躊躇もためらいもなく、同じ釜の飯を食ったり、助け合ったり、夢を語ったり、競い合ったりした仲間を全員殺してしまった。
このことは他の忍びの里にまで届くほど有名な事件となった。
この事件により、霧隠れの里は変革せざる終えなくなり、今ではその卒業試験も廃止されている。

再不斬はそんな幼いころからすでに感情というものを捨て去っていた。

いつものように任務をこなし、
唯一感じる“楽しみ”を味わう日々を過ごす。
それが彼の生きがいだった。
そんなある日のことだ。








――人間か・・・?しかも子供だな。

奴隷か。

再不斬はたまたま通りかかったあまり人の通らないような路地のゴミ捨て場に小さな塊を見つけた。
よく見るとボサボサの黒い髪に汚いボロボロのTシャツと短パンを着た子供だ。その子の首には太くて頑丈そうな首輪がはめられている。
その首輪に中途半端についている鎖は切れているため、どこからか脱走してきたのだろう。

――こういうやつを見たら“悲しい”とか思うのか?

いや“かわいそう”・・・か?

再不斬はこんな時に浮かぶ感情というものを想像するが、全く掴むことができない。
子供に近づいてみると、子供がこちらに気がついた様で、大きな目を見開いている。
そんな子供の様子になんとなく再不斬は声をかけたくなった。
何も感じていないはずなのに、なぜだかよくわからない。
子供の前へと行き、しゃがみこんで子供の目線へと合わせる。

「憐れなガキだな。」

自然と出たその言葉。その言葉にククッと笑いが漏れる。

――なんだ、ただ見下げたいだけか。

再不斬は自分の感情の変化に気づいていない。
今まで人に興味を持つことさえなかったのだ。
こんなどうでもいい子供に興味を持っていることさえ再不斬にとって不自然なことである。
その子供はただただ再不斬を見つめている。

「お前みたいなガキは誰にも必要とされず、この先自由も夢もなくのたれ死ぬ・・・。」

そう、それは本当のこと。
奴隷となってしまった人間には人間としての生き方はできない。
同じ人間であるはずなのに、まるで物のように扱われ、使えなくなったら捨てられる。
きっとこの少年にもわかっていることだろう。見ればもう6、7歳だ。
再不斬の今の言葉も理解できただろう。
そして言いたいことだけ言い終えた彼は帰ろうと立ち上がったときだった。

「!」

少年がこちらをみてニッコリと微笑んでいる。

――何こいつ笑ってんだ!?

俺の言った意味が分からなかったのか!?
再不斬には人の感情が分からない。
他人のことならなおさらだ。
なぜこのように見下された状況に笑っていられる?

――おかしいだろ・・・?

立ち上がろうとしていた動作はピタリと止まり、思わず少年を凝視する。と、その時だった。

「・・・お兄ちゃんも・・・僕と同じ目してる・・・。」

少年は微笑んだまま再不斬にそう言った。
再不斬は目を見開いた。

――俺がこいつを喜ばしている・・・?

少年は再不斬の目を見て微笑み、“喜び”を表している。
再不斬は周りから恐れられる対象であり、そういう存在であった。
このような感情を向けられたことがなかった。

――“嬉しい”・・・のか?

自分の中に確かに今までと違う感情があるのに気づき困惑する。
少年は依然として再不斬を見ながら微笑んでいる。
しんと静まった空間にまた少年の声が響く。

「僕はケッケイゲンカイです。」

その言葉に再不斬はさらに驚いた。
片言だったが、確かに“血継限界”だと言った。
血継限界とは特殊な能力を秘めた血のことであり、
その強い力ゆえに迫害されることがほとんどである。

「父さんが母さんを殺して僕は父さんを殺してしまいました。」

僕は大好きだった父さんを殺してしまったんです!

少年は今まで笑っていたのが嘘のようにボロボロと涙をこぼし泣いている。
再不斬そんな少年を見た瞬間

――あぁ

彼は思い切り少年を抱きしめた。
少年は突然のことに驚き、流していた涙もピタリと止まる。

「今日から」

ふいに少年の頭上から声が降ってくる。

「今日からお前の血は俺のものだ。」

ついて来い!

少年は目をあらん限り見開いた。そして名も知らぬ青年の顔を見つめる。
青年は鼻と口を包帯で覆っているため表情はよく分からないが、目は笑っているようだった。
その言葉と青年の目に思わず少年は目に涙がにじみ、口には笑みを浮かべている。

――そうか・・・

俺はこいつに笑っていてほしかったんだ。

少年がまた自分を見て笑っている。
嬉しい・・・これが嬉しいんだ。
少年が自分の言葉に対して頷いている。あぁなんて

――愛しいんだろう

「俺は桃地再不斬だ。」

お前の名は?

「白です。」

少年が微笑みながら答える。

少年の言葉と動作のひとつひとつが自分の心に何かを与えている。
それはとても温かいんだ。

――こいつといたら

忘れないだろうか?




再不斬が歩き出すと少年は後をひょこひょことついてくる。
それがまた嬉しくて


――俺はこいつといれば


人間になれる・・・そう、こいつは俺の




――愛し子















あとがき

申し訳ございません!!(土下座)
白さんに続いて書いてしまいました・・・。
もうどんなに謝っても謝りきれませんね・・・。
あと番外編が2話ほど続いて原作へもどります。



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 番外編
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2008/01/04 23:12






黒髪を高い位置で結わえ、鼻の上に一文字の傷のある中忍が仕事を終え、火影邸を後にしようとした時だった。







NARUTO ~大切なこと~ 番外編 『イルカの意外なお友達』







「イルカ先生!一緒に一楽に行きませんか?」

「・・・ミコトさん。」

イルカが振り返るとそこには目を細めて微笑んでいる、木の葉の里の忍びの中での有名人、神影ミコトがいた。
うみのイルカは中忍だ。今声をかけてきた忍びは特別上忍(見習い)のミコト。なぜそんな接点のなさそうな彼らが親しそうにしているかというと・・・








「うみの中忍!」

あの時もそう、イルカがちょうど家へと帰ろうとした時だった。

「えっと・・・神影特別上忍ですよね。」

俺に何か用ですか?

イルカは振り返り、木の葉の忍びの中でも珍しいほどの見事な金髪に青目をもつ青年にそう告げる。その青年は火影邸の中ではとても有名な医療忍者として15歳の頃から特別上忍(いまだに見習い)をしている。彼の医療忍術は、それはもうすばらしく、綱手を継ぐものとして忍びたちから敬われているほどだ。そんな彼から声をかけられたイルカ。それは・・・

――俺のどこか身体が悪いのか!?

イルカはハッとする。医療スペシャリストのミコトのこと。身体を見ただけで悪いところがわかるのかもしれない(実際にだいたいのことは見ただけでわかるらしい)。その証拠に、

「あ、突然すみません。実は・・・その・・・。」

とても言いにくそうに顔を俯かせているミコト。イルカはそんなミコトの様子にますます不安に駆られる。

――俺の人生も短かったなぁ・・・

中忍止まりかぁ、とすでに自分の生に見切りをつけ、黄昏れ始めたイルカに思いもよらない言葉が耳に入ってきた。

「実は!・・・イルカ先生・・・って呼ばせてもらってもいいですか・・・?」

「は?」

ミコトの声はどんどんと小さくなっていったが、しっかりと聞き取ることができた。
黄昏れていたイルカがパッとミコトの方を見ると、まるで捨てられた子犬のような目をしてこちらを見つめている青年がポツンと立っていたのだ。
イルカはそんな青年に思わず苦笑して「いいですよ、別に」と答えると、ぱぁーっと華が咲いたかのような輝く笑顔に変わっていくミコト。

「ありがとうございます!! あ、僕のこともミコトって呼んでくださっていいですよ。」

「あ、じゃぁミコトさんで。」

イルカにはいくら年下だからといって、呼び捨てにすることに抵抗を感じ、とりあえずさん付けで呼ぶことにする。
そう言ったイルカに対し、ミコトが嬉しそうに頬を赤くしている姿は本当に二十歳過ぎか!?と疑わんばかりの可愛さだ。

――うっ!!なんか急に悪寒が・・・

イルカが腕を摩る。そんなイルカの行動にミコトはコクリと首を傾げている。
イルカが感じた悪寒、それは周りにいた忍びたちの羨ましげな視線(主にくの一)からくるものだった。

それからというもの、ミコトがイルカに声をかけては一楽に行く仲となったのだった。








「へい。みそとしょうゆお待ち!」

ありがとうございます、と言ってミコトは受け取ったみそを自分の前に置き、しょうゆをイルカの前へと置く。そして、

「はい、どうぞ。」

と言って割り箸の柄のほうをイルカの前へと差し出してニコリと微笑んだ。イルカは「ありがとうございます」と言ってその箸を受け取り、割ってから食べ始める。
ちらりと横を見ると、ミコトが礼儀正しく両手を合わせ、いただきますと言っているのが目に入った。

――そういえばミコトさんとこうやってラーメン食いに来るようになったのって、
   ナルトが下忍になってからだなぁ。

イルカはミコトの髪と目の色を見て、ふと自分の生徒だったナルトを思い出す。

――それにあいつ、いたずら小僧のくせに、
   一緒にラーメン食った時とかえらく礼儀正しくて、丁寧に食べるんだよなぁ・・・。

ちょうどこんな風に、とまたちらりと横を見る。隣にはミコトが綺麗な箸使いで本当にラーメンを食べているのだろうかと思わんばかりの優雅さで食している。

――・・・ナルトは今Cランク任務中だし、帰ってきたらラーメンおごってやるかな。

あいつ初めてのCランクだからってはしゃいで、みんなに迷惑かけてんだろうなぁ、とイルカは苦笑する。
そう、今ナルトは波の国の任務中。それなのにミコトがいるわけはというと、もちろん影分身だ。しかもとても精巧に作られていて、ちょっとやそっとじゃ消えやしない。
もし消えるとしたら禁術や超高等忍術などレベルA以上のものを食らってしまったときだろう。しかし、任務に就かないミコトがそんなものを食らうはずもなく、影分身が消える心配は皆無だ。



無言で食べ続けるミコトとイルカ。
実はこの2人、仲良しと思いきや、こんな風に食事を一緒にしてもほとんど会話が無い。

――だってなぁ・・・ミコトさん四代目火影様にそっくりで話しづらいって言うか・・・

ミコトが特別上忍なりたてのころは、四代目火影に似てるなぁくらいのものだった。しかし、年が経つにつれて、似てるなんてものではなく、瓜二つというほどになっていったのだった。
ミコトはイルカの視線に気づき、こちらを向いてまたニコリと微笑む。

――あぁ四代目・・・

思わず視線を逸らしたくなったイルカだったが、意を決して思っていたことを口にすることにした。

「あの、ミコトさん。ミコトさんはナルトをご存知ですか?」

「え?」

ミコトはイルカの言葉に首を傾げる。ミコトとしては知ってるも何も自分なので、ばれないようにいかにもわからないというようなふりをする。

「あ、知らないなら俺の勘違いです。ミコトさんの髪とか目とかって、この里ではあとナルトくらいしかいないもんで・・・もしかして兄弟かなぁなんて思ったんです。」

いやぁ失礼しました、と笑うイルカに目を細めて見るミコト。
一般として知られている「ナルト」は親無しの孤児である。ミコトは苦笑をしているイルカにポツリと呟いた。

「僕には1人、姉がいました。」

イルカは苦笑を止め、複雑な表情でミコトを見つめた。
だって、今のミコトの言葉が過去形だったから。それが示すものは、

「僕が小さい頃になくなってしまったんですけどね。」

だから今は1人です、と淡い笑みを見せているミコトにイルカは“同じだ”と思った。
イルカも九尾の襲来で両親を亡くし、今まで1人で生きてきた。ミコトも自分と同じだったのだ。

淡い笑みを浮かべていたミコトは、ハッとこの場がしんみりとした雰囲気になっているのに気づき、

「この話は内緒ですよ。」

そう言って、1本だけ立てた人差し指を口に当て片目を軽く瞑る。その突然のミコトの言葉と動作にイルカ目をパチパチとして少し見惚れるが、次の瞬間には微笑む。
「ミコト」に姉がいたという話は誰も知らない。
「ナルト」に姉がいたことを知っているのは三代目火影様とカカシだけである。そんなナルトとミコトの共通点が知られては困るので、ミコトはイルカに口止めをしたのだった。



もう少しでラーメンを食べ終わるという時、

「ミコトさんと俺ってどんな関係なんでしょうね。」

と、イルカのちょっとした質問に、ミコトはうっ、と食べ物をのどに詰まらせた。
めずらしいミコトの失態に驚いたイルカだったが、水を差し出し、軽く背中を摩る。

「いや、その、俺って中忍だし、まだミコトさんには治療とかしてもらったことないし・・・」

こんな風に一緒に食べに来てもあんまり会話もしないし・・・ミコトさん楽しいのかな?なんて思って、と苦笑するイルカに、ミコトは顔を伏せ、

「僕はイルカ先生のことを・・・おと、おと・・・」

「おと?」

ミコトがどもっている言葉を促そうとするイルカ。そしてバッとミコトは顔を上げ、イルカにニコリと微笑み、

「僕はお友達と思っていますよ。」

と言った。しかし、ミコトの内心はというと・・・

――僕がミコトの姿でイルカ先生を“お父さん”と思っているだなんて言ったら失礼すぎます!

と思っていた。
イルカはその言葉にポカンと呆気に取られていたが、徐々に、そうかそうか、友達か、と言って頬を赤らめ、人差し指で軽く鼻の頭をかき始める。

――ミコトさんのことも少し知れたし・・・これからはもっと話そう。

とか心の中で決めたイルカだった。



2人が食べ終わり、イルカがお金を出そうとすると、

「僕が払いますよ。」

と言って、いつも支払ってしまうミコト。イルカは以前、なぜ自分なんかにそんなことをするのか?と尋ねたところ、

「イルカ先生にはご恩があるんです。」

と身に覚えの無いことを言われたのだが、ま、いいか、と軽く受け流すイルカだった。

「イルカ先生、今日も付き合ってくださってありがとうございました。」

「いえ、こちらこそいつもご馳走になってすみません。」

今日もお疲れ様でした。それではまた、と言って軽く会釈をしてミコトは帰っていく。
イルカも、俺も帰るか、なんて思った時だった。

「なんで、あんたがミコトと仲良しなのよ。いつも思うわ。」

「アンコさん!?」

おどかさないでください!と突然背後に立って声をかけてきた女性にイルカは振り返って声を上げた。そんなイルカを無視して、その女性は尋ね始める。

「で、今日はミコト、何頼んだの?」

この前はとんこつだったわよね、という女性の手には手帳と鉛筆が握られている。
この女性、アンコはいつもイルカとミコトの一楽での食事後に現れて、こういった質問をするのだ。そんなアンコに思わずため息をつくイルカ。

「今日はみそを頼んでいましたよ・・・。」

もう勘弁してください、とうんざりした面持ちでそう告げるイルカを完全に無視し、せっせとメモをとり、「ミコトはこってりしたものが好きなのねぇ」などとぶつぶつ呟いている。そして、

「今日は何か他に会話しなかったの?」

「・・・・・・。」

突然黙ってしまったイルカにアンコの視線が突き刺さる。
今日は確かに会話をした。しかし、それは2人だけの秘密だ。イルカはしばらく押し黙っていたが、「今日も特に会話しませんでしたよ」と言うと、

「いつもながら使えないわねぇあんた。」

チッという舌打ちとともに貶される。イルカはいつもこれに耐えなければならないのだ。
以前、アンコに

「俺たちが食べている時にくればいいじゃないですか。」

食事に誘うとか・・・と提案すると、

「私がミコトと一緒に食事できるはずないでしょう!」

と顔を赤らめて叫ぶアンコは珍しく女性に見えた。案外シャイな性格らしい。それならばと思い、

「じゃぁ、隠れて伺うとか・・・。」

とイルカが言った瞬間、ものすごい形相でアンコが睨んできた。そして、

「それができたらいいわよ!ミコトったら、人の気配にかなり敏感で、近づいてもすぐにどこか行っちゃうのよ。それにミコトって気配が全く無いでしょう?火影邸で見つけるのも一苦労なのよー。」

と今度は泣き始める始末だ。イルカも呆れてものも言えない。
ミコトは人を避けるようなことは決してしない。確かに人の気配をよむことには他の誰よりも長けているだろう。しかし、アンコの場合、偶然が重なって上手く会うことができないだけだった。それをアンコが勘違いしているだけだ。





どうしてこのようにアンコがイルカのもとにくるようになったかというと、

――あれが原因・・・だろうなぁ・・・

目の前でぶつぶつといまだに何かを呟いているアンコを見ながらイルカはまたため息をついた。




ミコトが初めてイルカに声をかけてきた日のこと。
あの後すぐに2人は別れて、イルカは火影邸を出ようとした時だった。

「ん?」

誰のだろう・・・と落ちていた手帳を拾ったイルカ。その手帳のカバーからでは誰のものか全く分からなかった。火影邸に来る忍びたちの中で誰か手帳なんてものを使っていただろうか?

――・・・開けてみるか?

イルカはゴクリと唾を飲み込んだ。
自分の手の中には他人の手帳がある。気にならない・・・はずがない。
いや、イルカ・・・ダメだろう、お前は教師だろう?と自分に言い聞かせる。しかし、

――気になる・・・

見た目はかなりシンプルな手帳だ。きっと使用者は男性の物だろう。
再び喉がゴクリと鳴った。
そして、誘惑に負けてバッと手帳を開いてしまったそこには、

――今日もまた病院に行っていた・・・その病院に来た子供に微笑む姿はまさに天使・・・・・・

なんだこれ?とイルカは首を傾げる。
詩(?)のような文章がほぼ毎日のように書かれてあるそれ。読んでいるこちらが恥ずかしくなりそうだ。イルカはとりあえずペラペラとめくっていると、あるページで目を疑った。

――ミコトさん!?

先ほど会話したばかりのミコト。
目の留まったページを広げると、そこにはミコトの名前が書いてあったのだ。
いや、正確に言うと、名前だけではなく身長や体重まで書かれてある。

――22歳、身長173cm・・・体重「ちょっとアンタ!何見てるのよ!!」・・・え?

イルカの手からいつの間にか消えてしまった手帳。それに気づいた時には前から声がかかったのだ。イルカは声には出なかったが、かなり驚いてパッと顔を上げる。
そこには目を細めてこちらを睨みつけている女性。

「ア、アンコさん!!?」

「アンタ・・・これ読んだの・・・?」

え・・・あ、あの・・・とイルカはおどおどとする。すぐに謝るべきなのは分かっているが、アンコからものすごい殺気を感じるのだ。

――こ、殺される!?

中忍止まりかぁ・・・俺の人生短かったなぁと、もう開き直ったイルカだった。が、

「アンタ・・・うみのイルカよね?」

「・・・へ?」

そ、そうですけど・・・何か?とアンコの突然の問いにイルカは間抜け面で答える。
アンコはそんなイルカをしばらくじーっと見つめていたが、突如ニヤッと怪しげな笑みを浮かべた。そして、

「ま、今日のことは許してあげる。」

「え?」

いいんですか?とイルカが問い返した時にはもうアンコの姿は消えていたのだった。






そんなことがあって、アンコは必ずこうやってイルカの前に現れるようになった。

――・・・特別上忍って暇なのだろうか?

と思っているのは心の中だけの秘密だ。



「アンコさん・・・俺もう帰りますね。」

目の前でまだぶつぶつと呟いているアンコに声をかけるが、きっと自分の声は届いていないだろう。
イルカはため息をついてやっと自宅へと帰っていった。








そしてイルカと食事をしてから数日後、本体であるナルトがCランク任務を終え帰ってきた。


ナルトが帰ってきたその日のナルト宅を覗いてみると・・・



「なんであなたがイルカ先生と一楽に行ったんですか!!」

僕が行きたかったのに!!と怒っているナルト。
ナルトはたまたま家に帰る時に通りかかった一楽のテウチのおじさんから、「またミコト君とイルカ先生が食べに来たよ、仲がいいねぇ。お前も食べに来いよ!」と声をかけられたのだ。

今、ナルトの前には忍服を着たミコトが正座をしてその説教を受けている。しかし、

「あの・・・本体さん?ちょっと落ち着いてください。僕を消せば、その記憶はあなたのものですよ?」

ね、だから落ち着いて、と影が本物を慰めるが、

「わかっています・・・わかっています、けど!僕が行きたかったんです!」

と言って泣き出してしまい、泣き止むまで自分が自分を慰めるという不思議な構図が見られたらしい。IQ200以上の頭脳を持ってはいても、まだまだ子供なナルトさん。





そしてそんな不機嫌だったナルトに、任務を終えたことを知ったイルカが一楽に行こうと誘いをかけると、その機嫌もすぐになおったそうだ。











あとがき

ミコトさんの番外編でした。今日はなんだか目が霞んでいます。
イルカ先生大好きです。そしてまたもやアンコさんが。ミコトさんの体重はいくつでしょうね。
読んでくださっている皆様が少しでも楽しんでくださっているといいなと願いながらこれからも書いていきます。
次も番外編です。よかったらお読みください。



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 番外編
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2008/01/05 09:50






最近めっきりこなくなったねぇ・・・


ん?誰って、そりゃぁミコトちゃんよ。


ミコトちゃんは勉強熱心だったからいつも本を読みに来てくれてねぇ。


私が見込んだだけあるよ!


ミコトちゃんたら、15歳で特別上忍になったんだから!


そんなミコトちゃんももう22歳。いい男になったよまったく。


でもね、やっぱり忍者ってのは大変なんだろうねぇ・・・。


ここ最近近く、全く来てないのさ。


そのミコトちゃんの代わりに来るようになったのが・・・







NARUTO ~大切なこと~ 番外編 『本屋のおばちゃん』







「おばちゃ~ん!!新しい医療の本入ったぁ!?」

バンッ!と店の中に入ってきたのは金髪青目の元気な少年。

「・・・入ったよ。」

ほれ。と本屋のおばさんは少年の言った本を投げ渡す。少年はおっと、と言ってキャッチし、本の表紙を見て目を輝かせ、パラパラとページをめくり始めた。

――ミコトちゃんと同じ色を持ってるんだけどねぇ・・・。
あの「ナルト」じゃぁ全然違って見えるねぇ。

おばさんはため息をつく。そう、ミコトが来なくなってから、この有名な少年、「ナルト」が来るようになったのだ。こちらの嫌そうな態度をナルトは本を見ながらも、ちらちらと伺っている。

――こいつもミコトちゃんと同じで医療忍者を目指してるなんて・・・

おまえなんかには無理だよ、と心の中で罵倒する。
おばさんがはっきりとナルトにものを言わないのは、ナルトが一応この店の常連だからである。ナルトはかなり高額な医療の本を買ってくれる。とても高い医療の本はなかなか買い手がいない。そんな本を好んで買ってくれるなら、こちらとしては大助かりである。

「ちゃんとそれ買えるのかい?今までのよりずっと高いよ。」

「大丈夫ってばよ!この前Cランク任務もらって、お金貯めてきたからさ!」

ナルトは今下忍である。アカデミーを卒業したと聞いた里人たちは大いに恐れたが、今のところ何も起こってはいないため、そのままにされている。

――ま、私はきちんとお金さえ支払ってくれればいいさ。

心の中ではそんなことを思っているが、思い出すのはある日に商店街で見かけたこの少年こと。








「お前なんかに売るものなんてねぇよ!!」

帰んな!!

昼前の商店街。たくさんの里人で賑わっている中、大きな罵声が飛んだ。
その時たまたま通りかかっていた本屋のおばさんは、何事かと思い、声のほうへと顔を向けると、そこには八百屋の前でポツンと突っ立っている金色の子供。

――ああ、噂の。

オレンジ色の服に、見事な金色の髪、あれは噂の「ナルト」だ。そいつはなんでも、先日下忍になったらしい。少し前まで忍術アカデミーに通っており、落ちこぼれのドベで、2回も卒業試験に落ち、今年やっと卒業したダメ忍者。
おばさんはそいつを見て不愉快に思う。バケ狐のくせに、それは自分のかわいがっているミコトと同じ色を持っているからだ。そんなやつをもう視界に入れたくないとばかりに目を逸らしたその時だった。

「あぁ・・・!!」

悲鳴とともに次々に何かが落ちる音がする。おばさんはすぐにそちらへと顔を向ける。と、そこには地面に膝をついている1人の老婆。その老婆の周りには色鮮やかな果物が転がっていた。

――あのおばあちゃん・・・確か目が悪いのよね。

何かにつまずいてしまっただろう老婆はよく見かけることがある。その見かけるときは決まってミコトがいたのだ。
老婆は目が悪いため、1人で買い物が困難だった。それに気づいたミコトは以前から荷物持ちを進んでしていた。その光景は実に微笑ましいものだ。しかし、今日はいつも付き添っていたミコトがいない。そういえば最近、自分の店にも訪れないミコト。

――やっぱり・・・忍者ってのは忙しいのかねぇ。

おばさんは軽くため息をつき、まだ動けないでいた老婆に手を貸そうと思った時だった。

「おばあさん、大丈夫ですか?」

老婆を立たせて、足についた泥を払い、にこりと微笑んだ「ナルト」。老婆はその少年を見てただ呆然としている。ナルトは落ちていたリンゴやオレンジを老婆の持っていた袋に入れなおし、その袋を抱きかかえるように持った。

「僕が家まで運びますよ。」

そう言って優しく微笑むナルトに、老婆はハッとして初めてそこで口を開いた。

「ありがとう、ミコトちゃん。」

老婆が微笑んだ。するとその言葉にナルトは苦笑をしていた。
その老婆はとにかく目が悪かった。ものの輪郭などがぼやけてしまい、唯一まだ分かるのは色彩くらいだ。「ナルト」の色彩だけを見れば「ミコト」と勘違いをしてもしょうがないだろう。
ナルトはその言葉を否定せずに荷物を片手に持ち直し、老婆の手を取ったその瞬間、

「ばあちゃん!!そいつの手を離しな!そいつは」

あの“ナルト”だ!

その言葉に金色の少年の顔が強張った。繋いでいるおばあさんの手が震えているように感じた。いや、震えているのは自分の手だった。
大声でそう叫んだのは先ほど「ナルト」を追い出していた八百屋の男だった。この里では子供以外、「ナルト」を知らない者はいない。
男はすごい形相で「ナルト」を睨みつめている。ナルトには背後にいるおばあさんの顔を見ることができなかった。震えている手をおばあさんから離そうとしたその時、

「あなたナルトちゃんって言うのねぇ。」

後ろから聞こえてきたのは老婆の声。ナルトは恐る恐る振り返った。老婆の声音はとても優しかった。いったいどんな顔をしているのだろうか。

「ごめんねぇ、私、目が悪いから、知り合いの男の子と間違えちゃったみたい。ナルトちゃん、」

荷物お願いしてもいいかしら?

そう言った老婆の顔は柔和に微笑んでいた。それを見た瞬間、ナルトの体の震えが止まった。その手はしっかりと繋がれたまま。

「・・・うん!」

ナルトが返事をすると、ますます笑みを濃くした老婆。2人はそのままゆっくりと商店街を後にしたのだった。

本屋のおばさんはそれをただじっと眺めていた。最後に見せた「ナルト」の顔。
泣きそうな顔をくしゃっとして、いかにも笑うのに失敗してしまったというような微笑みが忘れられなかった。


それからというもの、商店街では「ナルトちゃん」と呼んでいるおばあさんの声と、それに嬉しそうに付いて歩いている「ナルト」が見かけられるようになったのだった。








本をめくる音でハッとしたおばさん。
その音のした方を見れば、もう4分の1ほど読んでしまっているナルトが目に入ってきた。どうやら長いことぼうっとしていたらしい。
ああ肩が痛い、と言ってナルトを視界にいれないように後ろを向いてから、おばさんは肩を回し始めた。あの時見せた顔が忘れられないが、なんといっても目の前の少年はあの「ナルト」だ。やはり、嫌なものは嫌である。
回している肩は一向に良くなる気配がない。

――ミコトちゃんが来てくれるときは、いつも治療してもらってたからねぇ。

13歳の頃から来ていたミコト。いつもお金も払わずに読ませてもらっている代わりだと言って、腰痛や肩こりを治療してくれていたのだ。
本屋の仕事は重労働もある。本の持ち運びはもちろんのこと、こうやってお客を待つのにずっと座っていたりするのだから、身体が悲鳴を上げるのも時間の問題だ。
歳には勝てないねとため息混じりに呟き、今度は首を回した時だった。

――・・・あれ・・・肩が痛くない・・・?

ふと突然肩が軽くなったように感じた。それと同時に肩に別の重みを感じ、見てみると、そこには小さな手があった。その手を辿っていくとたどり着いた先には、閉じた本を片手に持った「ナルト」がいた。
「ナルト」は振り返って目が合ったおばさんに、にこりと微笑む。

「おばちゃん、無理しちゃダメだってばよ!」

お金置いていくね!!

と言って本を持って「ナルト」は飛び出していった。
おばさんはあっという間の事に目をぱちぱちとしている。と、今の出来事にふと違和感を覚えた。


「あれ・・・?」

今の言葉はそう、





――「コムギさん、無理しないでくださいね。」

そう言って微笑む金髪の青年。





おばさんの目に映った今の「ナルト」と重なったあの青年。


――・・・・・・なんだいミコトちゃん・・・そういうことだったのかい。




おばさんは少年が出て行って虚空になった店の中をぼんやりと眺めていた。








――コムギさん・・・肩こりがひどかったです。

明日にでもまた行ってあげましょう。

本を持って自分の家まで走っているナルト。心の中では本屋のおばさんのことを思って。








次の日。里のとある本屋を覗いてみると、

「コムギさん、肩こりがひどいですよ。」

無理はよくありません、と金色の青年が本屋のおばさんの肩に触れて注意している。

「なぁに!まだまだ若いもんには負けられないよ!」

はっはっはと笑うコムギに青年は苦笑する。と、コムギの笑い声が突然止まった。
どうしたのかと青年は治療していた手を止め、コムギに顔を向けると、そこにはやけに真剣な面持ちをしたコムギの顔があった。

「ねぇミコトちゃん。」

「はい?」

どうしたんですか?とにこりと微笑むミコト。その笑みにコムギはさっと顔を背けて、ポツリと呟いた。


「あの坊主・・・いつでも来いって言っときな。」

本代は・・・肩こりと腰痛の治療してくれればいいよ。


それはほんとに小さな呟きだった。
ミコトは一瞬何のことだかわからず、きょとんとする。が、その言葉の意味がわかり次第に満面の笑みへと変わり、

「はい!」

と、嬉しそうに返事をした。








その後、その本屋には金髪の青年が来ることはなかった。
が、しかし、



「おばちゃん!今日も来ちゃったってばよ!」

「お!ナル坊!ちょうどよかった。今肩が痛くてねぇ。」

「よぉし!まかせろってば!」



その本屋の前を通ると、よく2人の明るい声が聞こえるようになったそうだ。












あとがき

ナルトさんと里人のちょっとしたお話でした。
オリキャラができてしまいました!
本屋のおばさんは名前を考えていなかったのですが、電車に乗っていてふと思いついたので勝手につけてしまいました。
ついでにおばあさんはヨモギさんだそうです。どうでもよい設定ですね。
次からやっと原作沿いにもどります。
もう、本当に下手な小説で申し訳ございません!!



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 第23話
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2008/01/07 23:00





波の国の橋も完成し、無事任務を果たすことができました。


木の葉の里に帰ってきてから、イルカ先生ともラーメンを食べれましたし、医療の本も買えましたし、嬉しいことばかりです。


帰ってきて、また里内の任務をするのはいいのですが、何故かサスケが僕とギクシャクしているそうです。


きっとサスケはまた焦っているのでしょうね。


波の国で出会った、歳の近い白の強さに焦りを感じて、それが僕に出ているのでしょうね。


ん?なぜ他人から聞いたように話すかというと・・・実は僕は最近サスケやサクラちゃんたちと会っていないからです。


僕の影分身に行って貰っています。


それは何故かと言うと・・・フフフ・・・秘密です。


カカシ先生が僕たちのことを中忍選抜試験に推薦したのを火影邸で聞きました。


僕もこれから忙しくなりそうですね!







NARUTO ~大切なこと~ 第23話







「いいかお前ら!絶対に見落とすんじゃないぞ!」

顔に深い傷のある男の声が、ある教室内に響く。
その男の周りを囲んでいる何人もの忍びたちが、その男の言葉に頷いている。
今日は中忍選抜試験だ。もうすぐ始まろうとしている第一の試験の最終確認をしている真っ最中だった。しかし、

――あぁ、影分身の僕とリーが接触して・・・サスケも!
・・・サスケはまだリーには勝てませんよ。
わ!ガイ上忍まで出てくるなんて!

金髪青目の青年は1人、なぜかアワアワとしている。
そんな青年を見ていた傷の男はまた口を開いた。

「ミコト、初任務だからってそんなに緊張すること無いぞ。」

ミコトと呼ばれた青年にニコリと笑う傷の男。先ほどまで厳しい顔をしていたこの男。突然見せた笑顔に周りの忍びたちがどよめく。が、そんな周りの反応を傷の男は全く気にしていない。
その傷の男の言葉に青年はハッとして、意識をこちらにもどし、

「すみません。イビキさん。」

大丈夫です、とこちらもニコリと微笑み返す。そう、実は

――ついに僕の初任務なんです!

とは言っても任務という程でもないのですが・・・。

ミコトが特別上忍(見習い)になって7年が経った。しかし、今まで一度も忍びとしての任務をさせてもらえなかった。そのため、病院など医療関係しか関わってこなかったミコト。
はっきり言って、ミコトが医療以外の忍術が使えるのかどうか火影様さえ知らない。それでも、ミコトの医療忍術は綱手に匹敵するものだから、とても大事に扱われてきたのだ。
そして今年初めてこの中忍選抜試験の試験官のお手伝いとしての任務をいただいたのだった。

――火影様がこれだったら安心だとかなんとかおっしゃっていましたが・・・

何が安心なのでしょう?と内心疑問だらけのミコト。
ミコトは自分がどれほど大事にされているかを知らない。
そんなミコトは火影様にそろそろ僕にも任務をくださいと言い続けてきていた。何とかしようと思った火影様は、毎年行われる中忍選抜試験を見て試験官なら安全だと判断し、今年の試験官のお手伝いとしての任務を与えたのだった。しかし、ナルトはその試験に出る身。それなのにこちらのほうに本体が来ているのはというと、

――初任務は自分でしたいじゃないですか!

中忍試験くらいでしたらあの影分身が消えることはないでしょう、なんてことを考えていたのだった。
目を輝かせ、わくわくしているミコトを見て、傷の男こと森乃イビキはよしよしと頷いてまた厳しい表情へともどした。

「よし、もうすぐ時間になる」

行くぞ!

その声に静かにみな頷き、その場を後にした。








「静かにしやがれどぐされヤローどもが!!」

たくさんの下忍たちの集まる教室の中、その声とともに黒板の前でボンッ!と白い煙が立ち上る。
先ほどまでざわざわとうるさかった教室がしんと静まり返る。その煙の中からたくさんの木の葉の忍びたちが姿を現した。そして、

「待たせたな・・・“中忍選抜第一の試験”試験官の森乃イビキだ。」

イビキは下忍たちに睨みを利かし、ついでに騒ぎを起こしていた音隠れの下忍に注意を入れる。

「俺様に逆らうようなブタどもは即失格だ。」

分かったな。

イビキの言葉にみな息を呑む。もちろん例外もいた。それは先ほど注意をしたばかりの音隠れの者だった。甘っちょろい試験だと言ってニヤニヤと笑っている。

――影分身のそばにいるあの木の葉の下忍・・・薬師カブトさん

緊張感が漂うこの教室内で、ミコトはある1人を気にしていた。

――いやな気配をしていますね・・・。だけど僕と同じタイプのような気がします。

ナルトの隣には音忍の攻撃にやられて吐いてしまった青年がいる。ミコトはその青年から出ている気配が妙に気になった。しかも

――彼の気配は下忍クラスのものではありません。それ以上です。

彼には何かあると判断する。と、その時、

「ではこれから中忍選抜第一の試験を始める・・・」

イビキの今から行われる試験について話が始まった。

「志願書を順に提出して代わりに座席番号の札を受け取り、その指定通りの席に着け!その後、筆記試験の用紙を配る・・・。」

「ペッ・・・ペーパーテストォォォ!!」

イビキの言葉に透かさず反応したのはナルトだった。

――いいドベっぷりですね・・・僕。でもその顔はダメですよ・・・。

ミコトは叫んでいるナルトを見つめる。なぜその顔はダメなのか・・・それはナルトの輝くような笑顔だった。
今までアカデミーの筆記試験でことごとく酷い点を取っていた万年ドベのナルト。しかしそれはわざとしてきたものだ。本当は解きたくてしょうがなかった。
ナルトはもうアカデミーを卒業した身ではあるが、急にできるようになれば、また「九尾」として騒がれるのは目に見えている。
それに、サスケと同じ班ということでいまだにドベを続けているが、

――・・・大丈夫でしょうか・・・。

波の国から帰ってきてからは、ほとんど「ナルト」のことは影分身に任せてきた。
影分身を作ってからは、その影分身を一度も消すことはしなかった。それはただ面倒臭かったというのもあるが、自分だけ試験の内容を知っているのは良くないと判断したからだった。(その間ナルトの家では2人のナルトが生活している姿があった。)
そのため、影分身には一切ミコトの任務内容は教えず、試験ではドベを続けるように言い続けてきたが、今のナルトの表情を見て一抹の不安を覚えたミコトだった。

「試験用紙はまだ裏のままだぁ。そして俺の言うことをよく聞くんだ。」

イビキがこの第一の試験のルールについて説明を始める。それが始まると、他の試験官たちは自分の持ち場へと移動し始める。

――えっと、コテツさんの席っと。

ミコトは自分の席を見つけ、座って準備をし始める。
ミコトはイビキに「ただ俺の横に立っていればいい」と言われたが、何かさせてほしいと頼んだところ、はがねコテツと入れ替わってもらったのだった。そのコテツはというと、本当にイビキの隣に立っている。

この第一の試験のルールは、各自10点の持ち点があり、筆記試験問題は各1点の10問。そして、この試験は減点式となっている。つまり、全問正解すれば持ち点はそのまま10点であり、3問間違えれば持ち点は7点となる。
この筆記試験はチーム戦、3人1組の合計点数で合否が判断される。合計持ち点である30点をどれだけ減らさずに試験を終えられるかをチーム単位で競うのだ。
そして、試験途中にカンニング及びそれに準ずる行為を行ったと下忍たちの周りに座っている監視員たちが見なした者は、その行為1回につき持ち点から2点ずつ減点されるという仕組みだ。

「不様なカンニングなど行った者は自滅していくと心得てもらおう。仮にも中忍を目指す者、忍びなら・・・立派な忍びらしくすることだ。」

イビキは下忍たちにニヤっとした笑みで告げる。

――イビキさんも優しいですよね。

そんなヒントまで出して差し上げるなんて、とイビキを見ながら心の中で思うミコト。
ちらっとナルトを見ると、ナルトの横にはヒナタが座っていた。

――白眼・・・やっかいですね・・・。

この試験に嬉々としているナルトにこっそりため息をついた。

「そして最後のルール・・・この試験終了時までに持ち点を全て失った者・・・および正解数0だった者の所属する班は・・・」

3名全て道連れ不合格とする!!

そのイビキの言葉に下忍たちは驚きの表情を浮かべている。例に漏れず

――サクラちゃんとサスケが影分身を睨んでいますよ・・・。

そうですよね、仕方ないですよね、なんせドベですから・・・と心の中の落ち込みが表にまで出てしまっているミコトに、横に座っていた神月イズモが不思議そうに首を傾げた。


「試験時間は1時間だ。よし・・・」

始めろ!!

下忍たちは一斉にザッと問題用紙を裏返し、教室にはカリカリと鉛筆の走る音だけが響き始める。そしてそんな中、頭を抱えながら問題用紙を見ているものが1人。

――・・・またそんな目をして・・・

ミコトは頭を抱えている人物を見る。それはナルトだ。ナルトは頭を抱えていかにも問題が解けないという雰囲気を醸し出しているが、実際のところ、その問題を見る目はとてもキラキラと輝いている。
この筆記試験の問題は下忍程度では解けるような問題ではない。しかし、

――ああ!!ついに書き始めちゃいましたよ!!

思わず額に手を当てたくなる衝動をなんとか抑えたミコトはナルトを睨む。しかし、気づいているだろうが全くの無視を通しているナルト。片手はまだ頭を抱え込んでいるが、もう一方の手はものすごい速さで問題を解いている。

――ほら!白眼使っているヒナタが驚いてますよ・・・!

あ、今僕の担当列の子がまたカンニングしました・・・これで4回目っと。

とりあえず自分の仕事のため、ミコトはメモをとる。
試験が始まってから、次々とこの試験の意味に気づき始めた下忍たちは持てる技を尽くして忍びらしいカンニングを始める。

――ネジは僕のこと覚えていらっしゃらないだろう・・・し・・・?
って、ネジが白眼で影分身を見てかなり動揺していらっしゃいますよ!!

ドベの僕のこと覚えていてくれたんでしょうか!と内心喜んでいたミコトだったが、唐突にすっとクナイを持ち出した次の瞬間、

トスッ

「え?」

声を出した下忍の前には、問題用紙にいつの間にかクナイが突き刺さっていた。そのクナイは軌道さえ見えず、静かに、でもしっかりと机の上に刺さっている。そのクナイの柄の向きからして投げられたと思う方向に顔を向けると、そこにはニッコリと笑った金髪の青年がいた。そして、

「5回カンニングをされました。残念ながら失格です。」

と告げる金髪の青年。その声で下忍たちはみなそちらの方に顔を向け始める。その青年の顔を見た下忍たち、特に木の葉の者たちは突如驚愕の表情になった。

――四代目火影様!!?

みな心の中で叫ぶ。驚きで声も出すことができないでいた。下忍たちが口を鯉のようにパクパクしているのに、ミコトは首を傾げるが、

「すみません、今の方と同じ班の方々はすぐに教室から出ていただけますか?」

疑問系だが有無を言わさぬ笑顔で退室を請う。その言葉でハッとした失格となった下忍はしぶしぶ仲間を連れて教室から出て行く。が、しかし、下忍たちの視線はいまだに金髪の青年へと注がれている。その視線に気づいたミコトはまたニコリと目を細めて微笑んだ。

――くっ!頼むからミコト、笑うんじゃない!

アンコに殺される!と冷や汗をかきながらいまの出来事を見ていたのはイビキだった。
今のミコトの行動で、ミコトがいることを下忍たちに知られてしまった。実際、今の今まで、ミコトは全く気づかれていなかった。というのも、ミコトには気配が無い。一瞬目に入ったくらいでは、下忍では見逃してしまうような存在だ。
しかし、今のではっきりと存在がばれてしまった。

――そりゃ驚くよな・・・なんせ四代目そっくりだからよ。

俺も初めて会った時は驚いたなぁと懐かしむイビキ。それほどミコトと四代目はそっくりなのだ。それに、

――ほんとお願いだから笑わないでくれ・・・

表には出さないがイビキはミコトに懇願し始める。今の下忍たちを見ると、主にくの一たちが顔を赤らめ、ちらちらとミコトを盗み見ているのだ。こんな光景をアンコが見たらと思うと・・・イビキは急に寒気を感じた。そんなイビキの気持ちも知らず、ミコトは自分の仕事をこなしていた。

そんなくの一たちの中で1人違う反応をしているのは

――ミコトさん中忍試験の試験官してるなんてー!

なんとしてもこの試験受かって見せるわ!と気合を出しているのは山中いのだった。
いのにとってミコトは命の恩人であり、憧れの忍びである。そんなミコトのいる前で失格なんてことはできないと誓ういの。
いのは回答を書いていたサクラの手が止まったことに気づき、心転身の術をかけてサクラの回答を暗記し、すぐさま班の2名に同じ術を使って問題用紙を埋めていった。



「102番立て、失格だ。」

「ちっ・・・ちくしょう・・・。」

「23番、失格!」

「嫌だーー!!」

「43番と27番、失格!」

時間が経つにつれて、どんどんと失格者が増えていく。

――13組が失格になりましたね。

今のところ、僕の担当の子達はあの子以来失格にまでは達してないですね。と少しのほほんとし始めたミコトだった。と、その時、

「俺が5回もカンニングした証拠でもあんのかよ!!」

失格と言われた砂の下忍がバンッ!と机を叩いて立ち上がり、監視員を睨みつけてそう叫ぶ。

「あんたらホントにちゃんとこの人数を・・・」

下忍が言い終わる前に、1人の監視員がその下忍を壁へと叩きつける。そして、

「いいかい・・・私達は中忍の中でもこの試験の為に選ばれ、編成されたエリートなのだよ。君の瞬き一つ見落としはしないんだよ。言ってみれば」

この強さが証拠だよ。

それを見ていた下忍たちはゴクリと喉を鳴らし、再びピリピリとした緊張感がこの教室に漂い始めた。しかし、やはりそんな雰囲気の中でも例外はいる。

――あの額に“愛”って書いてある子・・・

僕と同じものを感じます・・・ね。

ミコトはある1人を、目を細めて見ていた。その下忍は砂の下忍で、誰もが冷静さを欠いている中、着々と事を運んでいる。どんなに周りが騒ごうとピクリとも反応せず、自分のことを成し遂げている。でも、

――嫌な目をしています・・・。

誰も信じていないような・・・そんな目をしている、とミコトは感じ取った。
実はこの緊張感の中、もう1人例外がいた。
それはナルトだ。
だいぶ前に答えを書き終えたナルトは腕を枕代わりにして顔を伏せて眠ってしまっている。
もうミコトはそんな自分に呆れるしかなかった。

「すみません。」

1人の下忍が手を上げて立ち上がる。独特なメイクに黒ずくめの服を着ている砂の下忍が監視員にトイレに行きたいことを伝え、1人の監視員がその下忍に手錠をかけて連れて行く。それに対しミコトは、

――あれが傀儡ですか!

傀儡を使う時のチャクラの糸はあんなふうに使われるんですね!と感心していた。
そう、今砂の下忍を連れて行った監視員は、その下忍の傀儡人形だったのだ。

「よし!これから第10門目を出題する・・・。」

試験開始から45分が経ち、イビキがそう告げる。
この問題用紙の最後の10問目だけは試験官が出題する仕組みとなっていた。
イビキの声に、みな一斉に顔を上げる。寝ていたナルトもこの時ばかりは伏せていた顔をさっと上げる。

「・・・とその前に一つ、最終問題についてのちょっとしたルールの追加をさせてもらう。」

このイビキの言葉に下忍の誰もが息を呑んだ。と、その時、トイレに行っていた砂の下忍が教室に入ってきた。その下忍を見たイビキはフッと笑い、

「強運だな。お人形遊びがムダにならずにすんだなぁ・・・。」

その言葉に下忍は少し動揺を見せたが、そのまま自分の席へと戻っていく。その時、その下忍の班のくの一にさっとこの筆記試験の答えを書いたものを渡すのを気づかないふりをしてイビキは話始める。

「では説明しよう。これは・・・絶望的なルールだ。」

絶望的なルール、それはまず、この第10問目の試験を“受ける”か、“受けない”かを選択する。もちろん、“受けない”を選べば、その時点でその班の者たちは失格となる。となれば、みな“受ける”を選ぶだろう。しかし、

「もう一つのルール・・・」

それは“受ける”を選択し、その問題を正解できなかった場合、その者については今後永久に中忍試験の受験資格を剥奪するというものだ。

「そ・・・そんなバカなルールあるかぁ!!現にここには中忍試験を何度か受験している奴だっているはずだ!」

頭に犬を乗せた木の葉の下忍がそのありえないルールに騒ぎ立てる。が、イビキからクククという笑い声が漏れ始める。

「運が悪いんだよ・・・お前らは・・・・・・今年のこの俺がルールだ。その代わり引き返す道も与えてるじゃねーか・・・。自信のない奴は大人しく“受けない”を選んで・・・来年も再来年も受験したらいい。」

イビキはそう言って、下忍たちを睨みつける。

「では始めよう。この第10門目・・・・・・“受けない”者は手を挙げろ。番号確認後ここから出てもらう。」

教室は静まり返っている。みな下を向いてこの問題を“受ける”か“受けない”かで思案している。そんな中、

――さすがイビキさん!木の葉暗部、拷問・尋問部隊隊長ですね。
  話すときの間の取り方といい、表情といい・・・よく考えていらっしゃいます。

この絶望的なルール、冷静に考えてみればおかしなものだ。
1人の試験官によって、中忍試験の受験資格を剥奪なんて無理な話だ。しかし、イビキの精神的な追い詰めによって、下忍たちは冷静に判断することができないでいるのだ。
ミコトは憧れの眼差しでイビキを見つめている。と、その時、スッと座っている下忍たちの中から手を挙げている者が現れる。

「お、俺はっ・・・やめる!“受けない”ッ!!」

す・・・すまない・・・!!源内!!イナホ!!

「50番失格。130番!111番!道連れ失格。」

一番初めに手を挙げたものはナルトの隣に座っている者だった。
その者が引き金となり、みな次々に手を挙げ、自ら試験を辞退していく。そして

――サクラちゃんが影分身のことを気にかけてくれていますね。

でも心配しなくても大丈夫ですよ・・・一応この試験には関係ないですけど、問題は全て回答しているはずですから・・・と心の中で呟き、サクラを見つめる。しかし、そんなことを知るわけが無いサクラがスッと手を挙げようとした、まさにその時だった。

「なめんじゃねー!!!俺は逃げねーぞ!!受けてやる!!もし一生下忍になったって・・・意地でも医療忍者になってやるから別にいいってばよ!!」

怖くなんかねーぞ!!

机をバンッ!!と叩き、立ち上がってイビキに向かって叫んだのはナルトだった。ナルトは後ろに座っているサクラの考えていることに気づき、それを止めるために“受ける”を選択した。実はナルトはこの試験のルールを始まってからすぐに理解していたのだった。

「もう一度訊く・・・人生を賭けた選択だ。やめるなら今だぞ。」

イビキはナルト凄み、最後の選択の余地を与える。しかし、

「まっすぐ自分の言葉は曲げねぇ・・・俺の忍道だ!!」

ナルトの言葉に、その場にいた下忍たちの不安を蹴散らしてしまった。

――ふ・・・複雑です・・・。

今のやり取りを見ていたミコトの顔色は少し悪い。
自分にはもちろん試験に合格してもらいたいが、今教室に残っている下忍は、予想以上の人数がいる。予定ではもっと減らすはずだったが、これ以上粘ってももう無理だろう。

――イビキさん・・・ごめんなさい!!

心の中では土下座をしているミコトだった。イビキはそんなミコトに気づくはずもなく、周りの監視員たちに目配せをして、一回軽く頷き、

「いい“決意”だ。では・・・ここに残った78名全員に」

イビキがそこで区切ると、みなゴクリと唾を飲む。そして


「“第一の試験”合格を申し渡す!!!」


教室に残っていた下忍たちは今までの緊張感のある顔から、驚愕の表情へと変わる。
そして、この合格に疑問を抱いたサクラが口を開いた。

「ちょ・・・ちょっとどういうことですか!?いきなり合格なんて!10問目の問題は!?」

「そんなものは初めから無いよ。・・・言ってみればさっきの2択が10問目だな。」

サクラの質問にニカッと笑ってイビキが答える。しかし、

「ちょっと・・・!じゃあ今までの前9問は何だったんだ・・・!?まるで無駄じゃない!」

思わず砂の下忍のくの一が叫ぶ。
そう思うのも無理はない。結局この試験は解かなくても10問目で“受ける”を選択していれば合格できるというわけだ。が、

「無駄じゃないぞ。9門目までの問題はもうすでにその目的を遂げていたんだからな・・・。」

そう、それはこの試験に受けに来ている下忍たち個人の情報収集能力を試すものでもあったのだ。
このテストは、最初に言われた“常に3人1組で合否を判定する”というルールによって、“仲間の足を引っ張ってしまう”という想像絶するプレッシャーを与えたことがポイントとなっている。
このテストの問題は下忍レベルでは解けるものではない。そうなると点を取るためには“カンニングしかない”と結論が自然と出てくる。これは初めからカンニングを前提とした仕組まれた試験だったのだ。
そのため、“カンニングの獲物”として全ての回答を知る中忍を2名ほど下忍たちの中に潜り込ませていたのだった。しかし、ただ愚かなカンニングをした者は当然失格である。なぜなら

「情報とはその時々において命よりも重い価値を発し、任務や戦場では常に命がけで奪い合われるものだからだ・・・。」

イビキがその言葉とともに、自分の頭につけていた額あてをはずした。そこには無数のネジ穴や切り傷、火傷と拷問の痕がしっかりと残っていた。その場にいたものはみな息を呑む。

敵や第三者に気づかれてしまって得た情報は“すでに正しい情報とは限らない”。
誤った情報を握らされることは、仲間や里に壊滅的打撃を与えてしまう。そのため、この第一の試験ではカンニングという情報収集を余儀なくさせ、それが明らかに劣っていた者を選別したのだ。

「しかし・・・この10問目こそが・・・この第一の試験の本題だったんだよ。」

頭に額あてをつけなおしたイビキが話を続ける。
この最後の10問目は“受ける”か“受けない”かの苦痛を強いられる2択だ。
“受けない”を選べば班員諸共即失格。“受ける”を選択し、問題に答えられなければ“永久に受験資格を奪われる”という実に不誠実極まりない問題だ。

「じゃあ・・・こんな2択はどうかな・・・。君たちが仮に中忍になったとしよう。」

イビキが第一の試験合格者たちに例を一つ上げる。
任務内容は秘密文書の奪取。敵方の忍者の人数・能力・その他軍備の有無一切不明。
さらには敵の張り巡らした罠という名の落とし穴があるかもしれない。この任務を“受ける”か、“受けない”か。
命が惜しい、仲間が危険にさらされる、そんな危険な任務は避けて通れるだろうか。
いや、できない。
どんなに危険な賭けであっても、おりることのできない任務もある。
ここ一番で仲間に勇気を示し、苦境を突破していく能力、これが

「中忍という部隊長に求められる資質だ!」

いざという時、自らの運命を賭せない者、“来年があるさ”と不確定な未来と引き換えに心を揺るがせ、チャンスを諦めて行く者。

「そんな密度の薄い決意しか持たない愚図に中忍になる資格などないと俺は考える!!・・・“受ける”を選んだ君たちは、難解な“第10問”の正解者だと言っていい!これから出会うであろう困難にも立ち向かっていけるだろう・・・」

入り口は突破した・・・

「“中忍選抜第一の試験”は終了だ。」

君たちの健闘を祈る!

イビキの声が教室に響く。下忍たちの顔は華やかになる。が、ナルトだけは黙々と何かを問題用紙に書いていた。と、その時だ。


バリン!!


突如教室の窓が割れ、それと同時に黒い塊が飛び込んできた。その塊は四方につけたクナイによって天井に突き刺さり、バッと大きな布が広がると、その布にはでかでかと「第2試験官 みたらしアンコ 見参!!」と書かれている。そしてその前には

「あんたたち喜んでる場合じゃないわよ!!!」

1人のくの一が立っていて、合格者たちに叫ぶ。

「私は第2試験官!みたらしアンコ!!次行くわよ次ぃ!!!」

ついてらっしゃい!!!と言って右拳を天井へと突き出す。しかし、

「空気読め・・・」

ボソリと布の後ろから顔を出したイビキがアンコに呟く。
そう、みなイビキの言葉に感動している最中だったため、アンコのノリについていけなかったのだ。が、

――アンコさんこのためにずっと窓の外にいらしたんですね!!

かっこいいです!!とキラキラと輝く目で見つめている2名。それはミコトとナルトだ。2人は分かれていても所詮同一人物である。
ようやくアンコも場の雰囲気を理解し、咄嗟に話を変える。

「78人・・・!?イビキ!26チームも残したの!?今回の第一の試験・・・甘かったのね!」

アンコはイビキを睨みつける。「今回は優秀そうなのが多くてな」と言い訳をするイビキだが、アンコは納得していない。と、その時、

「アンコさん。イビキさんはよくやっていらっしゃいましたよ。」

そう言ってアンコに近づいてきたのは金色の青年。

「ミコトが言うなら仕方ないわ。」

ミコトの言葉にコロッと機嫌をなおしたアンコにほっと胸をなでおろしたイビキは、ミコトに向かって両手を合わせ、軽く会釈をしている。その仕草にミコトは首を横に振る。

――もとはと言えばこんなに人数を残してしまったのは僕のせいですし・・・

ミコトはギロリとある1人を睨む。その人物はミコトに向かってぺこぺこと頭を下げていた。それを見て軽くため息をつき、気を取り直してアンコに顔を向ける。すると、

「次の“第二の試験”で半分以下にしてやるわよ!!」

ああーゾクゾクするわ!と、アンコは不気味な顔で下忍たちを見る。そして、

「詳しい説明は場所を移してやるからついてらっしゃい!!」

ほら!ミコトも行くわよ!!と言ってアンコはミコトの手を取り、その教室を出て行った。
突然のアンコの出現に下忍たちみな呆気にとられていたが、

――あの人ミコトさんって言うのね!!

ほとんどのくの一たちは違うところに反応していた。








「ん?」

イビキが下忍たちの問題用紙を回収していると、変な答案を見つけた。
いや、別に回答がおかしいというわけではない。むしろ、カンニングの獲物として潜り込ませておいた中忍2名の答えよりも詳しく回答されており、この問題自体をしっかりと理解していることが伺える。その答案に書いてある名前は、

――うずまきナルト・・・か

イビキは10問目を出した時に、自分に向かって叫んできた少年の顔がふと頭を過ぎった。
ふと思い出した少年に自然と口が緩む。そんな少年の答案のおかしいところ、それは・・・

――ごめんなさい、許してください・・・?

・・・なんだそれ・・・

10問目のところに書いてある謎の言葉。思わずイビキは苦笑する。

――うずまきナルト・・・本当に面白い奴だ・・・

と、思ったその時、何か引っかかることがあることに気づいた。

――確かこいつ・・・アカデミーではずっとドベだったはず・・・

・・・・・・・・・不思議な奴だ・・・

イビキはどこか納得のいかないまま再び答案を回収し始めた。











あとがき

やっと中忍試験のお話ですね。
これから更新のペースが遅くなってしまう(書き溜めしておいたものが減ってきたため、またとにかく書きまくります!)と思いますが、こんな設定の中忍試験のお話でよければ、お暇な時に足を運んでいただけるとかなり喜びます。



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 第24話
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2008/01/07 23:04






第二の試験はアンコさんが試験官です。


僕は全ての試験のお手伝いをするのですが、今回の試験はまた厳しいですね。


「第二の試験」会場、第44演習場・・・別名「死の森」です。


アンコさんが只今この試験について説明を始めようとしているのですが、


・・・・・・影分身が何やらアンコさんに向かって楯突いていますね・・・。







NARUTO ~大切なこと~ 第24話







「“死の森の所以、すぐ実感することになるわ”なーんておどしてもぜんっぜんへーき! 怖くないってばよ!」

ナルトがアンコの言った口調を真似て指差し叫ぶ。すると、アンコはニコッと笑い、

「そう・・・君は元気がいいのね。」

そう言ってシュッとクナイを取り出した。それを見て、ナルトは少し姿勢を低くしたその時、

――うっ・・・さ、寒気が・・・

突然ひどい悪寒を感じた。やたら視線を感じるのだ。
ナルトはギギギ・・・と首を動かしたそこには、にこやかに笑ってこちらを見ているミコトがいた。顔はニッコリ笑っているはずなのに、ミコトの視線がものすごく痛い。
ミコトの目は、さっきの試験の仕返しだとでも言っているようだった。
ナルトはしぶしぶ直立不動の姿勢をとると、アンコの投げたクナイが左頬を掠っていった。

「あんたみたいな子が真っ先に死ぬのよねぇ。私の好きな赤い血、ぶちまいてね。」

クナイを投げてすぐにナルトの背後をとったアンコがフフフと笑いながらナルトの頬の傷をなめ、なんとも恐ろしいことを告げる。と次の瞬間、アンコがまた手にクナイを持ち、バッと後ろに振り返った。

「クナイ・・・お返ししますわ・・・。」

そこには、人間ではありえない長さの舌を出している忍が立っていた。
その舌には先ほどアンコが投げたクナイが乗っている。アンコがそれを受け取ろうとする。が、しかし、

「試験官に殺気を向けるのは良くないですよ。アンコさん、クナイなら僕があげますから。」

とりあえず試験の説明をしましょう、とアンコとその後ろに立っている不気味な忍びの間にいつの間にか割って入ってきたミコトがそう告げる。
突如目の前に現れたミコトに、不気味な忍は軽く目を開き、驚いた様子を見せたが、すぐに平静を装いながら自分の班の仲間のもとへと戻っていった。
その忍の姿をじっと目を細めて見つめるミコト。

――あの草忍の気配・・・気味が悪いです・・・

第一の試験ではあんな気配の持ち主はいなかったはずだ。
教室で受験していた下忍の気配はほとんど把握している。今の下忍の気配は明らかにおかしいのだ。

――この試験・・・何か起こりそうですね・・・

ただの勘だが、そんな気がしてならない。
“死の森”という名前通り、おどろおどろしい森をミコトは睨むように眺めた。

ミコトがそんなことを考えている間、アンコは「ミコトのクナイがもらえる!」とはしゃいでおり、「早く試験の説明をしてくれ」と下忍たちに文句を言われていた。




「ゴホン! それじゃ、第二の試験を始める前にあんたらにこれを配っておくね!」

やっと落ち着きを取り戻したアンコが懐からバッと紙の束を取り出した。その紙の束を見ている下忍たちは頭の上に疑問符を浮かべている。

「同意書よ。これにサインしてもらうわ。・・・こっから先は死人も出るから。それについて同意とっとかないとね!」

私の責任になっちゃうからさーと、これからの試験のことをさも楽しそうに笑いながら説明していく。

第二の試験、それは極限のサバイバルだ。
この第44演習場の地形は鍵のかかった44個のゲート入り口に円状に囲まれており、川と森、中央には塔がある。その塔からゲートまでは約10キロメートル離れている。
この限られた地域内では各々の武具や忍術を駆使してよい。これは、

「なんでもアリアリの“巻物争奪戦”よ!!」

そう言ってアンコは2つの巻物を下忍たちに見せる。

表に“天の書”、“地の書”と書かれた2つの巻物をめぐって闘ってもらうのだ。
現在残っている下忍は78名。つまり26チームが存在している。
その半分の13チームに“天の書”を、もう半分の13チームに“地の書”を与える。
そして、この試験の合格条件は、

「天地両方の書を持って中央の塔まで3人で来ること。」

つまり、巻物を取られた13チーム半分は確実に落ちるようになっているのだ。
ただし、この第二の試験は120時間、ちょうど5日間という時間制限つきだ。この説明にものすごい速さで反応した下忍が1人。

「ごはんはどうするのぉ!?」

木の葉の下忍、秋道チョウジだった。
ミコトとナルトはチョウジに哀れみの眼差しを向ける。
この試験は5日間自給自足で過ごさなければならない。いつでもどこでもお菓子を手に持って食べていたチョウジにはこの試験はかなり過酷なものだろう。
自給自足と聞いたチョウジがガクッと項垂れている。

自給自足といっても、森は野生の宝庫だ。食べ物はたくさんあるだろう。しかし、人食い猛獣や毒虫、毒草なども存在するから気をつけなければならない。
そして半分の13チーム全てが合格することはまずありえないだろう。
行動距離は日を追うごとに長くなり、回復に充てる時間は逆に短くなってゆく。それに辺りは敵だらけでうかつに寝ることもままならない。
つまり、巻物争奪戦で負傷する者だけでなく、コースプログラムの厳しさに耐えきれず死ぬ者も必ず出るのだ。

「続いて失格条件について話すわよ!」

アンコがさわやかな笑顔で説明を続ける。
失格条件1つ目は、時間以内に天地の巻物を塔まで3人で持ってこれなかったチームだ。
2つ目は班員を失ったチーム、又は再起不能者を出したチームだ。ルールとして途中のギブアップは一切無しで、必ず5日間は森の中にいてもらう。
そして最後、巻物の中身は塔にたどり着くまで決して見てはいけない。中忍ともなれば超極秘文書を扱うことも出てくるため、信頼性を見るのだ。

「説明は以上! 同意書3枚と巻物を交換するから・・・その後ゲート入口を決めて一斉スタートよ! 最後にアドバイスを一言、」

死ぬな!

初めて真剣な表情を見せたアンコに、下忍たちも気を引き締める。
この試験では3人のうち誰が巻物を持っているかもわからない。と言うことは自分の班以外の全員が敵なのだ。同意書を受け取り、その意味を理解した下忍の中には深刻な顔をしている者もいる。
その中にはサスケもいた。
緊張した面持ちで同意書にサインをしているサスケをミコトはじっと見つめていた。

――サスケは僕が死なせませんよ。

とは言っても影分身の僕ですが・・・

それは心に決めていたことだから。それに、サクラだって守ってみせる。
まだチームワークというものは上手くいっていないが、初めてできた仲間だ。
絶対に自分が守ってみせる。

ミコトはフッと柔和に微笑んだ。





全ての班に巻物が行き渡り、それぞれのゲートへと移動する。そして、

「これより中忍選抜第二の試験! 開始!!」

アンコの合図で一斉に下忍たちは死の森の中へと入っていった。








「うむ! ダンゴにはやっぱおしるこね! そう思わない?」

「そ、そうですね。」

アンコはダンゴ片手におしるこをズズッと飲み、満面の笑みでミコトに尋ねる。そんなアンコを見ているミコトの笑顔はどこか引きつっているようにも見える。しかし、アンコはそれに気づかず、「もう一本ダンゴどう?」と勧めてくる。ミコトはそれに対し、「いえ、もう結構です」と丁寧に断る。

――もう3本もいただいたのですが・・・アンコさんすごいです・・・。

あ、今ので53本目です・・・。

ミコトは吐き気が催してきて、思わずうっと口を押さえる。
アンコはたった今おしることともに食べ終わったダンゴの串を木に投げつけると、

「木の葉マーク完成!」

串で木の葉のマークを作っていた。

今は試験開始から2時間ほど経っただろうか。
アンコとミコトはのんびりと、先ほど試験を説明していた場所で茶などを啜っていた。
この試験での試験官としての仕事は、はっきり言ってほとんどない。
だから5日間、あとはひたすら待つしかないのだ。

――アンコさんがそばにいろって言っていましたが・・・

ちょっと辛いかもです・・・とどこか遠くを見ているミコトだった。が、

「ッ!!!!」

ミコトはバッと森の中のある一点を険しい目つきで見つめる。その視線の先である森は特に変わったところなどない。しばらくじっと睨んでいると、今度はにこっと笑顔になり、アンコへと視線を戻す。

「すみません、アンコさん。やっぱりダンゴもう一本いただいてもいいですか?」

綺麗な笑みでアンコにお願いする。その顔にアンコは顔を赤くしながらも、「待ってて!」と言ってダンゴを取りに行った。
アンコの姿が見えなくなったことを確認したミコトはスッと十字の印を組み、1体の影分身を作り、その影分身をさらにミコトに変化させる。

「・・・・・・。」

ミコトはその影分身の目をじっと見つめる。すると、影分身は無言で頷いた。
それを見たミコトは変化をとき、サッとその場からいなくなった。


「はい。ミコト。」

「・・・ありがとうございます。」

アンコがダンゴを持って戻ってきた。しかし、そのミコトが影分身であることに全く気づいていない。影分身はそのダンゴを笑顔で受け取る。が、

――本体さんひどすぎます!

もう食べれませんよ!! と笑顔の下では嘆いている影分身であった。
それをなんとかおいしそうに食べた影分身を嬉しそうにニコニコと見ていたアンコが突如ハッと何かを思い出したような顔をした。そして、

「さーて、そろそろ私たちも突破者を塔で待つとするか。早い奴らは24時間もあればクリアするプログラムだからね。」

アンコがそう言って立ち上がる。ミコトも「そうですね」と相槌を打って立ち上がったその時だった。

「大変ですアンコ様!!」

突然現れた木の葉の忍の慌て様にアンコもミコトも目を細めてその忍を見る。

「何よ、急に・・・。」

「死体です! 3体の・・・。」

「死体・・・!?」

それを聞いてアンコとミコトはさらに眼光を鋭くする。ただの死体であればすでに忍者である目の前の忍がこんなに慌てるはずもない。

「しかも妙なんです・・・とにかく来てください!」

アンコたちをその現場へと連れて行こうとする忍。だが、

「ミコト・・・ミコトは先に塔に行ってといて。」

「え?」

ミコトはアンコの言葉に思わず目を開いた。そう言ったアンコは、何やらその死体に思い当たることがあるらしく、自分だけで行くと目で訴えていた。
ミコトは真剣な顔で頷き、サッと塔のほうへと消えていった。
アンコはミコトが行ったことに安堵し、死体を見にその忍について行った。








――まさか僕の影分身が消えるなんて。

本体であるナルトは瞬身の術で死の森の中のある一点を目指し走っていた。
そう、先ほどミコトが一瞬だけ森の中を睨みつけたのは、ナルトの影分身が消えて今までの影分身の記憶が全て戻ってきたからだった。
試験開始早々雨隠れの1人に襲われたようだがその場はサスケのおかげでなんとかなっていた。

――僕の影分身、役立たずだなぁ・・・

走りながら少し落ち込むナルト。その雨隠れの下忍に襲われたとき、影分身はトイレをしようと1人藪の中に行ったところを縄で拘束されたのだった。
ため息もつきたくなる。いくらドベでも限度というものがあるだろう。しかし、

――やっぱりあの草忍・・・只者じゃなかったです。
  なんせ“五行封印”をしたんですから。

今現在、ナルトたちの班は1人の忍に襲われている。
“五行封印”とは超高等忍術の一つだ。
ナルトたちの班に突如襲ってきた草忍は、ナルトが九尾の力を使って攻撃してきたところをその封印術によって九尾の力を封じようとしたのだ。
でもそれは影分身。ナルトの影分身では禁術や超高等忍術以上のものには耐えられない。
結果としてその技によって影分身が消えてしまったのだった。
・・・それにしても、

――もうちょっと太るべきでしょうか・・・

草忍が姿を現す前に仕掛けてきた“風遁大突破”によって班の3人のうちナルト1人だけが軽く吹き飛ばされてしまった。他2名は飛ばされていなかった。それはやはり自分の体重が軽いからだろうか・・・。
影分身が吹き飛ばされた先には大蛇がいたが、それは瞬殺した。たった1発の鉄拳で。
そしてサスケたちの下へと駆けつけた影分身。しかし、サスケはその草忍に対して、自分たちでは勝てないと悟り、命乞いのために自分たちの巻物を投げ渡していたのだ。

――あんな目をした奴が、そんなことで見逃すはずがありません・・・

殺すことに戸惑いのない目。それに気づいていた影分身は透かさずサスケの手から離れ、宙に浮いた巻物を取り、サスケを殴りつけて目を覚めさせた。が、感情が高ぶりすぎて九尾の力が漏れ出てしまったようだ。

とにかく今は急がなくてはいけない。
ナルトはひたすら木々を飛び移り、サスケたちの下へと向かって走る。








ボンッ!!

「ナ、ナルト!!?」

サクラたちの目の前で音とともに煙が上がった。
今、ここにいる4人の下忍は大木の枝の上で争いを繰り広げていた。
しかし、その1人であるナルトが、草忍の何かわからぬ攻撃を受け、突然煙を上げて消えてしまったのだ。サクラたちは目の前の事態に混乱する。
事を起こした草忍も一瞬驚愕の表情を浮かべた。が、

――これは影分身だわ・・・。あんなに攻撃を食らっていたのに消えなかったなんて・・・

草忍はすぐに冷静に今のことを把握し始める。しかし、まだ混乱状態のサクラはキッと草忍を睨みつけ叫ぶ。

「あんた!! ナルトを一体どうしたの!?」

「今の消え方で分からなかったの? ・・・あれは影分身よ。」

その草忍の言葉にサクラはハッと消えたナルトのいたところをじっと見つめる。
落ち着いて考えてみれば今のナルトの消え方は確かに影分身によるものだった。ということは、本体のナルトは無事であるということだ。
では、どこにナルトはいるのだろうか?
しかし今はナルトを探す余裕などない。目の前にはまだ不気味な草忍が立っているのだ。

――でも私にはあいつと戦える力はない・・・。

サクラはキッとこの草忍に対し動けないでいるサスケを睨む。そして、

「サスケ君!!」

サクラの呼びかけに振り向かないサスケ。サスケはわずかに震えているように見える。

「ナルトはどこにいるかわからないけど・・・絶対生きてるわ! 今のナルトは影分身だったけど、ナルトと変わりないの! ・・・ナルトは確かにサスケ君と違ってドジで・・・変な奴だけど・・・少なくとも臆病者じゃないわ!」

――自分で戦わないなんて卑怯なのは分かってる・・・サスケ君ごめんね。

でも、今のサスケ君は見たくないの!!

「ねぇ!! そうでしょう!!」

サクラは眼光鋭くサスケを睨む。と、その時、サスケの震えが止まった。
そしてサスケが目を開くと、そこにはうちは一族特有の写輪眼があった。
その目を見た草忍は心の中で喜びの声をあげ、口寄せで呼び出していた大蛇を消す。
サスケはザッと口にはクナイをくわえ、左手に4本ものクナイと右手には手裏剣を持ち、草忍を睨み付ける。そして

カッカッカッカッ

まずは左手のクナイを投げつけるが、まるで蛇のような動きで避けていく草忍。しかし、

――見えるぞ!!

サスケには次に草忍が来るだろう場所が見えていた。
サスケはその場所に勢いよく右手の手裏剣を投げつける。しかし、それも草忍は飛んで避けてしまう。が、

バシュッ!

今度は口にくわえていたクナイを草忍へと投げつけた。

――まずまずね・・・私の動きを先読みして確実に急所を狙ってくる・・・

攻撃をかわしながらサスケを観察する草忍。
サスケは写輪眼によって、こちらの動きが見えている。しかし、そんな急所を狙って投げているクナイを草忍はいとも簡単に避ける。が、

「これは・・・写輪眼操風車三ノ太刀!!」

サスケが放ったクナイと手裏剣には糸がついていたのだ。草忍は目を見張った。
“操風車三ノ太刀”とは手裏剣2枚をワイヤーで結び、木などを軸としてそのうちの1枚をヨーヨーのように引き戻すことで相手の死角から攻撃することができる技だ。写輪眼と一緒に使われるとさらに確実になる。
草忍はすぐさま避けた手裏剣のほうへと振り返る。と、そこには糸によってこちらに戻ってくる手裏剣がすでに目の前に迫っていた。それを見たサクラは思わず声を出して喜ぶ。今の手裏剣は草忍の顔面に刺さったはずだ。しかし、

「フフ・・・残念だった・・・」

その手裏剣を口にくわえた草忍は振り返りながら言った言葉は中途半端なところで途切れた。その草忍は驚愕で目を見開いている。
草忍の口にくわえている手裏剣の糸、それはサスケの口につながっていたのだ。

「フン」

サスケは口にくわえたままの糸を組んだ寅の印で挟み、

――火遁龍火の術!!

糸を伝って火が草忍の顔へ燃え移る。
サスケとサクラはじっとその草忍を見つめた。さすがにこの攻撃には耐えられないはず。しかし、

「その歳でここまで写輪眼を使いこなせるとはね・・・さすがうちはの名を継ぐ男だわ・・・やっぱり私は・・・君が欲しい・・・。」

火が消えて顔を上げながら不気味に呟く目の前の草忍。
その顔は火傷で爛れ、なぜか目のところは皮膚がめくれた下に先ほどとは違う目が覗いている。本当にこいつは人間なのだろうか。
サクラは「サスケ君!」と叫んで急いでサスケの隣に移動する。が、

――ぐっ・・・金縛りか・・・体が動かない・・・!

相手の目を見た途端、サスケたちはピクリとも身体を動かすことができなくなった。
そして目の前の忍の額あてがいつの間にか草隠れのマークから音符のマークへと変わっている。

「やっぱり兄弟だわね・・・あのイタチ以上の能力を秘めた眼をしてる。」

その言葉にサスケは目を見開き、叫ぶ。

「お前は一体何者だ!!」

「私の名は大蛇丸・・・もし君が私に再び出会いたいと思うなら・・・この試験を死にもの狂いで駆け上がっておいで・・・。僕の配下である音忍三人衆を破ってね・・・。」

そう言いながら大蛇丸は影分身のナルトから奪った天と書かれた巻物を燃やし灰にしてしまう。
サクラは「あんたなんかの顔、こっちはもう2度と見たくない」と反抗するが、大蛇丸はそっと手で何かを組むといきなり首が伸び、サスケの首へと噛み付いた。と、次の瞬間、

バキッッ!!!!

「え?」

サクラが突然のことに声をもらした。
音とともに目の前から消えたサスケ。そして大蛇丸と名乗った忍の長い首があらぬ方向へと曲がっている。いったい今度は何が起こったのか。
サクラは一瞬の出来事にかなり動揺していると、スッと目の前に金色の何かが現れた。
サクラは目を見開いた。その金色はさっき消えてしまった人物、

「ナ・・・ルト?」

「サクラちゃん、サスケ頼むってばよ。」

サクラの前にはサスケを小脇に抱えて立っているナルト。
「遅くなってゴメン」と謝るナルトは場違いなほど穏やかな表情をしている。
そしてサクラに向かってにこりと微笑むと再び口を開いた。

「サスケのやつ・・・これからちょっと熱が出たりすると思う。だからサクラちゃん、早くこいつ連れて寝かせてあげて?」

抱えられているサスケはピクリとも動いていない。どうやら眠っているらしい。
サクラは思わずその言葉に従おうとするが、ハッと何かに気づいたようにナルトの顔を見つめた。

「ナルトはどうするのよ!!」

そうだ。この言い方ではナルトは囮になると言っているようなものだ。

「俺がこいつの相手をする・・・大丈夫。」


俺が絶対、サクラちゃんたちを守るから。


そう言って微笑むナルトにサクラは息を呑んだ。
サスケが持てる力を使って戦っても平然としている相手に、あのナルトが敵うはずがないのは目に見えている。でも、

――なんでだろう・・・

いつもあんなに騒がしいだけの変な奴なのに、今のナルトの顔を見たら、信じることができる。ナルトのやわらかい笑みが一つの希望に見えるのだ。

サクラはうんと頷き、サスケを背負ってその場を後にする。一回だけちらりと振り返ったサクラにナルトは思わず苦笑をした。そして、その姿を見届けたナルトはやっぱり笑っている。

「あなたが相手をしてくれるの?」

ナルトはパッと振り返った。
そこにはナルトに蹴られて曲がっていた首がもとの位置へと戻って不敵に笑っている忍。しかし、それを見てもナルトはまだ微笑んだままだ。
不気味な忍はそんなナルトの様子に首を傾げる。と、

「サスケが自分の命をかけてサクラちゃんを守ったんです。」

フフッとやわらかい笑みで笑うナルト。
サスケには野望がある。それはなんとしても叶えるという強い意思を持っていた。それまで絶対に死ぬわけにはいかない。それなのに、サクラを守ったのだ。

「死ぬかもしれないと分かっていても戦ってくれたんです。だから俺も2人を守るんだ。」

鋭く前の忍を睨み付けるナルト。もうその顔には笑みなどどこにも見つからない。

「・・・あのサスケの呪印・・・お前、大蛇丸だな。」

草忍はその言葉にニヤリと笑った。
大蛇丸、その名は木の葉の里の伝説の三忍の1人である天才忍者だ。しかし、大蛇丸は里抜けし、一時期“暁”という組織にいたがその後はよく知られていなかった。

「あら知ってるの?でもちょっと遅かったわね。」

あの呪印でサスケ君死んじゃうかも、と大蛇丸はフフフと笑う。
そんな大蛇丸の挑発に乗らず、ナルトはただじっと睨みつけている。

「それにしてもさっきの影分身・・・すごいわねぇ。でも、あなたはサスケ君より弱い。そんなあなたに何ができるの?」

大蛇丸は余裕の笑みを浮かべている。すると、今まで睨んでいたナルトがフッと笑った。
しかし、そんなナルトに対し、だんだんと場の緊張感は高まってきている。

「俺は確かにアカデミーではいつもドベだった・・・・・・だけどな、仲間は俺が守るんだ。」

ナルトが大蛇丸の目を見てそう言った瞬間だった。

――消えたっ!!?

大蛇丸の目の前から一瞬で姿を消したナルト。

いや違う。
消えたのではなく一瞬で大蛇丸の目の前へと間合いをつめたのだ。

「くッ!!」

大蛇丸の目の前にはナルトがそのままの勢いで迫ってきている。大蛇丸は咄嗟に後ろへ飛び退こうとするが間に合わず、両腕を交差させ防御をとる。が、

――何もしてこなかった?

ナルトは大蛇丸が交差させて上にきていた右腕に手のひらで軽く触れただけだった。
そしてナルトはそのまま大蛇丸の脇を通り抜けていく。

大蛇丸は今のナルトの不可解な行動に疑問を抱いた。
今の速さで間合いをつめられれば、どの忍も油断するだろう。
しかしナルトはただ軽く腕に触れただけなのだ。この後に何かまた仕掛けてくるのでは?
サッとナルトの方へと振り向こうとした時だった。

「右手が・・・動かない?」

異変は起こっていた。
触れられた右腕は見た目も何も変わっていない。が、何故か指を動かすことができないのだ。大蛇丸はバッと後ろを振り返る。

「あなた・・・一体何したの。」

そこにはナルトがこちらを睨んで立っていた。
そう言った大蛇丸の顔にはわずかに汗が出ている。
あの一瞬、ただ触れただけではこんなことにはならない。ナルトは質問にも答えず、無言で大蛇丸を睨みつけている。
指が動かない・・・それ以外におかしなところはない。
指だけが動かない、それは神経が切られない限り起こらないだろう。

――まさか!!

大蛇丸はハッとナルトを見て告げる。

「あなた・・・医療忍術を使ったわね・・・!」

外傷を与えず神経だけの切断。それは医療忍術の“チャクラ解剖刀”によってできることだ。それはチャクラコントロールが難しいため、解剖刀のリーチが短くなってしまうという欠点があるが、目立たない動作でダメージを与えることができるのだ。

――・・・聞いてないわよ・・・

大蛇丸はこの森のどこかにいる自分の1人の部下をこの場で呪う。ナルトが医療忍術を使うなど、そんな情報は聞いたことがなかった。それに、

――どこがドベなのよ・・・

自分でさえ油断させるあの速さ、正確に神経だけを切断させるチャクラコントロール。下忍なんてレベルの問題ではない。九尾の力を使っている様子も見えない。
そんなナルトに大蛇丸にも焦りの色が出始める。と、その時ナルトがまた何かを仕掛けようと姿勢を低くした。
それを見た大蛇丸は咄嗟にあるものを地に叩きつける。

――閃光弾ですか・・・!

その瞬間あたり一面に広がった眩い光。
すぐにナルトは目を腕で覆い隠す。が、突然のことだったためにもう目は強い光にやられてしまった。強すぎる光を受けた目の視力はすぐには回復しない。
この隙にも大蛇丸は逃げてしまっただろう。
しばらく瞬きを続けていると、視力もだんだんともどってきた。
そして落ち着いて相手の気配を探っていく。と、その気配はすぐに見付けることができた。しかし、

――大蛇丸のそばに・・・アンコさん!?

どうして!?

大蛇丸の気配のそばにはアンコの気配があった。
どうやら2人は接触しているらしい。
ナルトはその2人のいる方角を睨みつけると、スッと印を組みだす。
ボンッと煙を上げた中から出てきたのはミコトだった。
先ほどまでの争いが嘘のように静けさを取り戻した現場。

「・・・・・・先手は打たせてもらいました。」

その現場でミコトがポツリと呟いた瞬間、



ミコトの姿は消えてしまった。




ただそこは争いの跡だけを残し、静寂に包まれていた。












あとがき

第二の試験が始まりました。
戦闘シーンは本当に難しいですね!
私の文章では臨場感があまり出ていないです・・・。
もっと上手くなれるようがんばって続きを書いていきます!



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 第25話
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2008/01/11 16:43
*少し書き換えてしまいました。
 こちらのほうが自分らしさが出たかなと思っております。
 ナルトさんの視点に変わってからは書き換えていませんので、
 一度読んでくださった方は、もしお時間がありましたら、
 アンコさんと大蛇丸さんのお話だけでも読んでくださったら大変嬉しいです。





ミコトを先に塔に向かわせて正解だったわ・・・。


もう夕刻・・・早く見つけないと!!


完全な暗闇になればこっちがますます不利になる・・・!!


しかし・・・いったい今ごろなぜあいつが・・・


目的は何・・・!?


・・・まぁいいわ。


この里に来たのなら今日ここでケジメをつける!


あなたはもう・・・ビンゴ・ブックレベルSの超危険人物・・・


ここで私が命に代えても仕留めなきゃ・・・


それがあなたから全てを教わった・・・


あなたの部下だった・・・



「私の役目よね大蛇丸。」



「・・・無理よ。」







NARUTO ~大切なこと~ 第25話







アンコがミコトを先に塔へと行かせた後、妙だと言われた3体の死体を見に行くと、その死体は顔が溶かされたようになくなっていたのだった。
それを見てアンコは確信した。
その術はそう、今アンコの背後にいる大蛇丸の“消写顔の術”だ。

アンコはシュッと武器を構える。が、すぐに大蛇丸がそれに気づき、長い舌をアンコの武器を持った腕に巻きつける。しかし、アンコはそれを利用し、放さないために“潜影蛇手”でアンコの腕から出現した蛇が大蛇丸の舌に噛み付く。そして木に張り付いていた大蛇丸を引きずり出し、ドンッと木に叩きつける。

「へっ! つかまえた。」

そう言ったアンコの左手は大蛇丸の右手とともにクナイが突き刺さっていた。
それはアンコ自ら大蛇丸の動きを封じるために突き刺したのだ。

「大蛇丸、あんたの左手借りるわよ。」

そう言って組み始める印。それは“双蛇相殺の術”。その術は対象者とともに術をかけた者も死ぬという捨て身の禁術だ。

「あなたもここで死ぬのよ。」

――私がここであなたを止めないといけないの。

あなたから教わったこの術で、一緒に死のうじゃないか。
今掴んでいるこの手はもう、以前とは違うものだから。










「ねぇ、先生。どうして私は1人なの?」

ある晴れた日の演習場。そこにいた黒髪の女の子が、長い黒髪の男に術を教わっている最中、ふと思ったことを尋ねてみた。その演習場にはたった2人だけ。質問を投げかけた女の子、それはみたらしアンコだ。
アカデミーを卒業して下忍になったアンコは、みなスリーマンセルで1人の上忍がついて任務を行っているのに対し、自分は1人だということに疑問を抱たのだ。

「急にどうしたのよ。」

早く今教えた術をやってみなさい、と急かす黒髪の男。
まるで蛇みたいな顔をしているこの男の名前は大蛇丸という。アンコは初めてこの名前を聞いた時ピッタリだと思ったが、口にしたことはない。
質問に答えてくれない大蛇丸にブスッと膨れっ面になったアンコ。
だって、おかしいではないか。基本的には下忍はスリーマンセルで活動するもの。
まあ、1人がイヤというわけではない。むしろ良かったのかもしれない。
3人になれば先生がそれぞれ面倒見なければならない。でも、自分は1人だから、こうやって修行する時は自分だけを見てくれる。
それは自分にとって最高の環境だ。だけど

――気になるものは気になるの!

プイッとそっぽを向くと、先生のため息が聞こえた。
怒らせてしまっただろうか。
先生はなかなか笑わない。それに怒るととても怖いのだ。恐る恐る顔を向けてみる。と、そこには何か諦めてしまったような顔をした先生がいた。
やはり怒らせてしまったのだ。もしかしたらもう修行を見てくれないかもしれない。
アンコが急いで謝ろうと口を開こうとしたその時、先生が何かを呟いた。

「え?」

アンコは謝罪のことで頭がいっぱいだったため、大蛇丸が何を言ったか聞き取ることができなかった。そのアンコの反応にまたため息をつく大蛇丸。そして、

「あなたはね・・・・・・選ばれたのよ。」

この私にね、と無表情で告げた先生にアンコは思わず目を見開いた。
下忍になったものたちから自分だけが選ばれた。それはとてもすごいことで。
今の先生の言い方はえらそうだったけれど、この先生がすごいことは自分もよく分かっている。きっと、今の自分の顔はかなり緩んでしまっているだろうな。
アンコはなんと返事してよいか分からず、照れを隠すために、修行のほうに集中する。

「で、できた!!」

アンコの目の前には口寄せされた大量の蛇。これは“潜影蛇手”というのに使う蛇たちだ。この蛇たちを使って相手を捕らえるのだ。
アンコはその蛇たちを見て喜び、そのままパッと大蛇丸を見る。

――あ、

笑ってる。

滅多に表情を変えない先生が、笑っているのだ。その先生が、スッと手を伸ばしてきた。

「よくやったわね。」

その手はポンと自分の頭の上に乗せられて、先生はそう言った。

すごく嬉しかった。

先生は時々、人間ではないのではないか? と思うこともあったけれど、今、頭の上に乗っている手は人間のものだ。

「先生! もっといろいろ教えてください!」

「フフ・・・今日はここまでよ。」

先生と生徒だったら、さっきのは当たり前のことだったのかもしれないけれど、アンコにはそれが本当に嬉しかったんだ。
また撫でてもらえるように次もがんばるんだ。

先生のその手に撫でてもらえるように。





しかし、今は違う。

――もうこの手は私の知っている手じゃない。

“双蛇相殺の術”の印を一緒に組んでいるこの手は、もうあの時のあたたかさは感じられない。これは危険な忍術を生み出す悪魔の手だ。そんな手はあってはならない。
だから、ここで一緒に死のう。自分はあの時の思い出を失くしたくない。
アンコが最後の印を組み終わる。
これで終わりだ、と思った次の瞬間、

「フフ・・・自殺するつもり?」

突然背後から聞こえてきた声にアンコはバッと振り返った。
そこには、自分がつかまえたはずの人物が笑いながら立っている。

「影分身よ・・・。」

その言葉にアンコはハッとして前を向きなおすと、ボンッと煙を上げて消えてしまった大蛇丸。

――なんてこと!

自分がこんなミスを犯してしまうなんて。

「仮にもお前は里の特別上忍なんだからね・・・私の教えた禁術ばかり使っちゃ駄目だろ。」

大蛇丸がそう言いながら左手の人差し指と中指をスッと立てて胸の前へと構えると、その途端、首に激痛が走り始めた。

「ぐっ・・・」

この痛みはずっと自分を苦しめ続けてきた。
この痛みは“呪印”によるもの。
忘れることはなかった。これを封じ込めて痛みが消えても、ずっとずっと痛かった。

「・・・今更・・・何しに来た・・・!!」

「久しぶりの再会だというのに・・・えらく冷たいのね・・・アンコ。」

そう言った大蛇丸が、火傷で爛れていた顔の皮膚を剥がすと、下には傷一つない本来の大蛇丸の顔が現れる。その顔は不気味に笑っていて。
アンコも首の痛みに堪えながら鼻でフンと笑う。

「ま・・・まさか、火影様を暗殺でもしに来たっての?」

大蛇丸が里抜けした理由に、少なくとも三代目火影は係わっていたはずだ。
しかし、意外にも大蛇丸はすぐにアンコの言葉を否定した。

「いーやいや! その為にはまだ部下が足りなくて・・・この里の優秀そうなのにツバつけとこうと思ってね・・・さっきそれと同じ呪印をプレゼントしてきたところなのよ・・・。」

欲しい子がいてね・・・と言う大蛇丸は見たことが無いくらい微笑んでいた。

「勝手ね・・・・・・まず死ぬわよ・・・その子」

この呪印をつけられて生き残る確立は10分の1。こうやって生き残っているアンコは本当にすごいのだ。

「お前と同じで・・・死なない方かもしれないしね。」

「・・・えらく・・・気に入ってるのね・・・その子・・・。」

アンコは大蛇丸の顔を見て思ったことを口にする。
大蛇丸は先ほどからずっと笑ったままなのだ。
きっとそれは呪印をつけられたその子は生きていると確信しているから。

「嫉妬してるの? ねぇ・・・!? お前を使い捨てにしたこと、まだ根に持ってるんだ・・・。」

アハ・・・と不気味に笑う大蛇丸。その言葉に思わず顔を歪めた。

――悔しい・・・!

どうして、どうして・・・!!


どうして自分を捨てたの・・・?










「先生・・・どうして!!」

ポツポツと雨が降り注ぐ中、1人の黒髪の女の子が演習場で声を荒げて叫んでいる。
その子といつも一緒にいた長い黒髪の男はもういない。

「どうして里を抜けたりなんかしたんですか・・・!!」

そう、長い黒髪の男、大蛇丸は禁術の開発をしていることがバレ、そのまま里を抜けてしまったという。

「どうして・・・どうして・・・・・・!!」

叫ぶ少女の首には何かの模様が付いている。

「私が生き残ったのをあんなに喜んでくれたじゃないですか・・・。」

その首の模様は大蛇丸が施した呪印術。
与えられた時は激痛が走り、本当に死ぬかと思った。
でもこうして生きていられたのはあの言葉のおかげ。


――「あなたはね・・・・・・選ばれたのよ。」

“この私にね”


その言葉をずっと信じて、痛みに耐えた。必死に耐えた。
そうしたら、今まで見たことも無い笑顔で喜んでくれた。
痛かったけれど、それもどうでも良かった。
生きて先生の笑顔を見ることができたのだから。なのに、今日の任務に訪れない先生を不審に思い火影邸に行けば、先生の里抜けしたという知らせ。

そんなことってあるだろうか。

「先生・・・せんせい・・・・・・大蛇丸・・・!」

もうわがままを言わないから、戻ってきてよ・・・


先生。



ポツポツと降っていた雨は次第にひどくなり、少女の涙を隠していた。










今目の前にいるのは、自分が生き残った時よりも嬉しそうに笑っている大蛇丸。
そんな顔は見たくない。だからなんとかして自分が殺さなければ。

「お前と違って優秀そうな・・・」

大蛇丸の言葉がふと途切れた。それと同時にアンコも顔を強張らせる。
周りの雰囲気が突如一変したのだ。
木々たちが何かに怯えるようにざわつき始め、鳥や昆虫の一斉に飛び立つ羽の音が聞こえたかと思えば、それとは逆に猛獣たちの鳴き声は全く聞こえなくなった。
と、その時だ。

――金色・・・?

そんなものさっきまでなかったはずだ。
目の前にいる大蛇丸の後ろにちらっと見えている金色に輝くもの。あれは・・・

「ミ、ミコト!? どうして!? というか、今どうやって・・・!?」

突然大蛇丸の背後に現れた金色の青年に、痛みを忘れて驚愕で目を見開いた。
そう、あの輝くような色を持っているものは、この試験が始まるときに会った威勢のいい少年と、目の前の青年しかいない。
その青年は静かに目の前の男の首筋にクナイを当てて、後頭部を睨みつけている。
目の前の男、大蛇丸の顔には汗がにじんでいるようにも見える。
すると、大蛇丸はわざと首に当たっていたクナイで己の首を傷つけ、青年の前から飛び退いた。そして、青年のほうに振り向いた大蛇丸の顔は驚愕で彩られた。

「お前は・・・」


四代目・・・!


大蛇丸が目を細めてそう呟いた。
その反応は全く持っておかしくないだろう。誰もがそう思うはずだ。
特に大蛇丸にとって、この青年の顔は嫌悪しかないだろう。
以前、四代目火影を決める時、大蛇丸は自分こそがふさわしいと主張したが、結局三代目火影が四代目に指名したのは違う人物であった。
その人物が、この青年にそっくりなのだ。
青年はクナイを持つ手を下ろし、大蛇丸をじっと睨んでいる。
こんな青年は見たことがあっただろうか・・・。

「残念ながら・・・僕は四代目ではありません。」

そう低く呟いた青年の放っている殺気は尋常ではない。
あの大蛇丸でさえ体が竦んでしまっているようだ。

「・・・くれぐれもこの試験・・・中断させないでね。」

大蛇丸はその一言だけを言い残し去っていった。
それと同時にだんだんと森にもとの静けさが戻り、何かに開放されたように猛獣たちの咆哮も上がり始める。

――・・・殺せなかった・・・

アンコは大蛇丸がいた場所をボーっと眺めていた。
いや、自分が殺せるとは思っていなかった。だから死ぬ覚悟で挑んだのに。

自分は生き残ってしまった。

「グッ・・・」

忘れていた。この青年が来て痛みなどどこかに消えてしまっていた。
確かにでも、ここに痛みは残っていて。

――ハハ・・・泣きそう・・・

これのせいで嫌でも思い出してしまう。自分のために喜んでくれた大蛇丸の顔を。
アンコが首筋を押さえつけていると、青年が自分のもらした声にハッとして駆け寄ってきた。そして、青年が押さえていた手をどけて、首筋の“呪印”を見ると複雑な顔をして見ている。
いくら医療忍術でもこれを取り去ることはできない。
いや、できても自分は頼まないだろう。

この呪印から開放された時は自分の過去とも開放された時。

「アンコさん。今から塔に向かいます。」

我慢できますか? と言って、青年はアンコの背中と膝裏に腕を通し、軽々と持ち上げた。

「え?」

アンコは突然の青年の行動に、言葉が出なくて口をパクパクさせた。
確かにこれからのことは塔に行ったほうが何かと都合が良いだろう。
しかし、この体勢はいただけない。が、今はまともに動けないのも確か。
このまま任せよう。

「火影様には申し訳ないですが、今のことを知らせるためにも塔に来ていただきましょう。」

――ん?

ちょっと待て。
「塔」と言えば、ミコトもそこに行っているはずではなかったであろうか?

「そ・・・そうね・・・っじゃなくて!! ミコト!」

危ない。ミコトの笑顔でそのまま流してしまうそうだった。
アンコはぜぇはぁと絶え絶えになった呼吸を深呼吸で落ち着かせる。
こちらをきょとんとした顔で覗き込んでくるミコトはかわいい。
・・・かわいいが、訊かなければ。

「ミ、ミコト? 先に塔に行ったわよね・・・どうしてここにいるの?  私は確かにあなたが塔へ向かうのを見送ったわ。」

そう、確かに自分は見送ったはずなのだ。
そう言うと、ミコトは少し考え込むような顔をした。が、すぐにニコリと笑い、

「実はそのあとアンコさんが気になって・・・こっそり来ちゃいました。」

すみません、と謝るミコト。そして、

「しっかりつかまっていてくださいね。」

優しく微笑んだミコトはアンコを抱えたまま走り出した。

――あれはこっそりだなんてものじゃなかったわ・・・

アンコはずっと大蛇丸を見ていた。こちらは死の覚悟をしていたのだ。一瞬でも見逃すはずが無い。が、青年が移動している姿など目に入らなかった。瞬身の術であれば、自分でも目で追うことはできる。しかし、金色の青年は本当に突然出現したのだ。

あれは瞬身の術などではない。

今のミコトの言葉には納得できないけれど、今は一刻も早くこの里の緊急事態を伝えなければいけないことは明らかである。

――大蛇丸・・・

次こそはあなたを・・・

そう気合を入れようとしたアンコ。が、しかし、上手く気合がいれられない。
それは今のこの状態のせい。

「ミコト・・・重いでしょ? 自分で歩くわよ。」

ミコトにこうやってしてもらえるのは嬉しいけれど、今はこのぬくもりが苦しい。
この首の痛みと一緒にあの嬉しかった時を思い出してしまう。
本当に泣いてしまいそうだ。

「重くなんてないですよ。それに・・・もっと人を頼ってください。」

「え?」

何を言っているのだろうかと見上げた先には前をただじっと見据えているミコトの顔。
とても真剣な顔をしていた。じっと見ていたら、またミコトの口が開いた。

「アンコさん・・・大蛇丸と死のうとか思っていたんじゃないですか? ・・・簡単に死ぬなんて考えちゃダメですよ。」


死んでしまったら、もう誰にも会えないでしょう?


そう言って微笑んだミコト。

――ああ、そうね。

呪印を施されて死ぬような思いをしても生き残りたいと思ったのは、会いたい人がいたから。
その人は自分にとって憎い相手となってしまったけれど、自分には他にも大切な人がいるではないか。
今こうやって自分を抱えているミコトや、同じ特別上忍たち。
他にもいっぱい、いっぱい。
そう思ったら、あの時のことよりも、今のことが幸せに思えてきた。

「お願い。」

――ミコト、ありがとう。

顔を見られないように、ミコトの首にきつく腕を回したら、


ミコトの苦笑している声が聞こえた。










「アンコさん。」

塔までもう少しというところだろうか。
もう自分の顔も大丈夫だろうと、アンコが顔を上げると、前を見据えて真剣な面持ちをしたミコトが目に入った。自分の名前を呼ばれたような気がしたけれど聞き間違いだろうか、と首を傾げる。
するとミコトがポツリと呟いた。

「大蛇丸の狙いは、“うちは”です。」

「ッ!? ・・・やっぱり・・・・・・。」

大蛇丸が言っていたこの里の優秀そうな子、それはやはり血継限界の持ち主を指すだろう。
そしてこの里で唯一の写輪眼を持つうちはサスケ。下忍の中でも群を抜いている。
大蛇丸が目をつけるのも頷ける。

「その子生きてるかしら・・・。」

何せ呪印を施されて生き残るのは10分の1。
身をもって体験している自分だからこそ、この恐ろしさはわかっている。

「大丈夫です。彼は生きていますよ。」

「どうしてそう言えるの・・・?」

力強く断言したミコトに少し驚く。
ミコトもきっとこの呪印について何かしら知っているだろう。火影邸にある本や巻物はほとんど読みつくしているのだ。
ミコトがそう言い切れるものが彼にはあるのだろうか?

「彼には・・・絶対に死ねない理由があるんです。」

だから彼は何が何でも生きますよ、と言ったミコトは少し悲しそうな顔をしたため、それ以上訊くことはできなかった。



そしてそのまま2人は無言のまま塔に着いた。
いつの間にか首の痛みがだいぶ治まっていた。

「ありがとう。」

ここまで運んでくれたミコトにお礼を言うと、いいえ、と笑顔で返してくれた。

――本当にありがとう。

もう、死ぬなんて考えない。だってあなたにも会いたいから。

「よーし! さっさと行くわよミコト!」

早く火影様に伝えないと。しかし、

「すみません、アンコさん。」

先に塔に入っていてください、と言うミコトに少し疑問を抱いたが、アンコは早くきなさいよと言って塔の中に消えていった。と、その時だ。

「すみません・・・アンコさんについてくるなと言われて・・・。」

ミコトの背後にもう1人のミコトが現れた。それはナルトが置いてきた影分身。
影分身はアンコの言われたとおり塔へと来たが、アンコたちがくるまでずっと外で待っていたのだった。

「あなたはこのままアンコさんと一緒に塔へと入ってください。僕がサスケとサクラちゃんの方に行きます。」

本体であるミコトは変化をときナルトに戻る。そしてそのまま立ち去るかに思われた。が、

「・・・あの砂の下忍さんたちもう塔に着いているんですね。」

ナルトは振り向かずにただポツリとそう告げる。影分身のミコトは静かにはい、とだけ答えた。
塔の中からする砂忍3人の気配。
砂の下忍の1人、額に“愛”の文字が書いてある少年は、第一の試験から気にしていた。周りは全て敵というような目。そしてその目の周りのひどい隈。

――あの子には何かあります・・・ね。

ナルトはサッと瞬身の術でまた森の中へと駆けていく。
ミコトはそれをじっと見ていたが、

「ミコト! ちょっと早く来て!」

中からアンコの声が聞こえてきた。
その声は何やら驚いている様子だ。きっと砂の下忍たちのことだろう。
ミコトは今行きます、と言ってそのまま塔の中へと入っていた。


いつの間にか、空には朝日が昇り始めていた。








先ほど塔から離れたナルトは何やら複雑な顔をして走っている。

――サクラちゃんとサスケ・・・のほかにリーと音忍の3人ですか。
   サスケはまだ寝ていますし・・・これはちょっときつそうですね。
   ・・・シカマルたちは何をしているのでしょう・・・?

気配をたどって向かっていると、サクラたちはどうやら音忍の3人に襲われてしまったらしい。今その音忍たちとはリーが戦っているようだ。その少し離れたところにはシカマルたちの班の3人がいる。
音忍の3人は大蛇丸の部下だ。きっとまたサスケに何か関係があって現れたのだろう。
ナルトはとにかく木々の枝の上を飛び移るように駆けていく。
もう空は明るくなっていた。

――サクラちゃん寝ていらっしゃらないでしょうね・・・

すぐに行ってあげられなくてすみません・・・

サクラの気配の動きが少し鈍い気がする。
ナルトは思わず苦い顔をするが、もう目指している場所はすぐそばだ。と、突然その足が一本の木の枝の上で止まった。
ナルトの顔を見ると目を見開き、驚愕の表情を浮かべている。
そんなナルトの視線の先、そこには音忍のくの一によって掴まれていた長い綺麗なピンクの髪をバッサリと切り取り立ち上がった、今まで見たことも無い真剣な顔をしたサクラがいた。
サクラはそのまま音忍の1人に立ち向かっていく。そして忍術の基礎ともいえる変わり身の術で上手く相手の隙を作り、相手の腕を噛み付く。
ただ必死に噛み付いて相手を放さないサクラ。

――サクラちゃん・・・

サクラは噛み付いた相手の音忍に頭を殴られても決して離そうとしない。

――そっか。

ナルトは思わず微笑んだ。
いつの間にか、守ろうとしていた相手が、守る側へとなっていたのだ。
守るものが増えれば増えるほど、全員を守りきれなくなってしまう。そのためにナルトは今も力を求めている。でもそれは違った。
自分の仲間は守られるだけの存在ではなかった。“仲間”とは守り守られる関係なのだ。

――姉さん・・・父さん・・・見えますか? 木の葉の里はこんなにもすばらしいです。

投げ飛ばされたサクラの前にはいのにシカマル、チョウジが姿を現す。そしてもう少しでこの場に来るであろう2つの気配。それはリーの班であるネジたちだ。
この試験ではどの班も敵同士である。しかし、サクラやリーを助けるためにみんなが駆けつけてくれたのだ。

――サスケも大丈夫そうですし・・・僕の出る幕はないですね。

ナルトはその光景をしっかり目に留めると、次の瞬間にはもうそこには誰もいなくなっていた。


しかし、今のナルトの考えは1つはずれていた。
それはサスケのことだ。





「サクラ・・・誰だ・・・・・・お前をそんなにした奴は・・・。」

サクラたちはみな声のしたほうへ振り向く。そこはサスケが寝ていたはずだった場所だ。
今そこにいるのは、写輪眼でこちらを見ているサスケ。それだけならいい。が、そこには体の半分近くが黒い何かの模様に侵されているサスケが立っていたのだ。
いつもと様子が違うサスケに木の葉の下忍たちは息を呑む。しかし、そんな様子に気づかない音忍の1人が、サスケの問いに俺らだよ!、と答えている。

「サスケ君・・・その体・・・!?」

サクラはサスケの異変に怯えながらもなんとか声を出す。

「心配ない・・・それどころか力がどんどんあふれてくる今は気分がいい・・・。」

そう言って自分の手を眺めているサスケ。

「あいつがくれたんだ。・・・俺はようやく理解した。俺は復讐者・・・。」

忘れることは決してないあいつの目。

「たとえ悪魔に身を委ねようとも力を手に入れなきゃならない道にいる・・・さぁてお前だったよな。」

サスケは先ほどの問いに答えてくれた音忍の1人をギロリと睨む。
それを見ていたシカマルはすぐにいのとチョウジをつれてその場を離れる。
サスケの身体はどんどん黒い模様が広がっていく。そしてそれが顔のほとんどを埋め尽くすと、サスケの身体からものすごいチャクラの量が溢れ出した。

「ドス! こんな死に損ないにビビるこたぁねぇっ!!」

「よせ! ザク! わからないのか!」

サスケの状態に気づけていないザクと呼ばれた音忍の1人が、顔のほとんどを包帯で覆っているドスの制止も聞かずにサスケに向かって攻撃をしかける。

――斬空極波!!

空気圧と超音波によってその場がまるで爆発したかのような現象が起こる。
そこにはサスケの姿など見当たらなかった。ザクはサスケがバラバラに吹っ飛んだか、と言って笑みを見せる。しかし、

「誰が?」

いつの間にかザクの隣に立っているサスケがポツリと呟く。そしてその瞬間、サスケの左腕で殴られたザクが吹っ飛んだ。ザクが立ち上がろうとした時には、サスケが放った火遁鳳仙火の何個もの火の玉が目前に迫っていた。
ザクはすぐにその火を斬空波によって消し去る。が、

「なに!!」

その火の中には手裏剣が仕込まれていた。その手裏剣が襲い掛かり、ザクが油断していた時だった。

「くっ・・・!」

すでにザクの背後に回ったサスケがザクの背中に片足を乗せ、ザクの両腕を後ろへと引っ張り上げる。

「お前・・・この両腕が自慢なのか・・・。」

サスケはさも楽しそうにククと笑いながらそう問いかける。ザクがその問いかけに振り向こうとした瞬間、

ゴキッ!! ボキッ!!

その場に不快な2音が響く。それとともに腕を掴まれていた音忍の叫び声が上がった。
音忍の両腕が折られたのだ。もう立ち上がることもできない。
サスケはその様子を見ながら平然と笑っている。楽しそうに振り返り、残りはお前だけだなともう1人の音忍を見る。

「お前はもっと楽しませてくれよ・・・。」

そう言ってサスケは歩き出す。目の前の出来事を見ていたドスは動けないでいた。

――こんなの・・・

サクラの目にはじわじわと涙が溢れ始める。
今のサスケが先ほどの大蛇丸と重なって見えてしまう。
それがとても怖くて。でも、

――こんなのサスケ君じゃない!!

サクラは震える身体を必死に動かし、やめて!!と叫んで目の前のサスケを抱きしめた。

「お願い・・・やめて・・・。」

自分にはこんなことしかできない。だけど、このままではいけない。
震えてまともに言葉を言えた気がしないけれど、その声が届いたのかサスケの動きが止まった。するとサスケの体中に広がっていた黒い模様も見る見る首筋のほうへと戻っていく。その瞬間、その場に倒れそうになったサスケをサクラが支えた。

「君は強い・・・サスケ君・・・今の君は僕たちでは到底倒せない。」

今まで黙っていた音忍の1人、ドスがそう言って自分たちの持っていた地の書の巻物を置いて、他2名をつれて去っていった。と、その時、

ガサガサ・・・

音忍の去った方向とは違うところの藪が動き始めた。
木の葉の下忍たちは一斉にその藪の方へと顔を向ける。みな新手の敵か!? と眼光鋭く睨み付けた次の瞬間、

「ナルトー!? あんたどこ行ってたのよ!!」

サクラが大声で叫ぶ。
その藪から現れたのは金髪にオレンジの服を着た少年、ナルトが出てきたのだ。
みな敵ではないことにホッとするが、拍子抜けでガックリと項垂れる。そんなみんなの姿にナルトはただ首を傾げた。しかし、ナルトがある一点を見ると、ドサッと何かを地面に下ろし、その一点に向かって行く。
そこにはリーが倒れていた。
ナルトはすぐにリーの身体の状態を見てホッと息をつき、リーの左耳に軽く手をあてる。リーの左耳は音忍によってやられたところだった。木の上にいたテンテンが降りてナルトとリーのそばに近づくと、すでにナルトは手をそこから離しており、リーを起こしていた。

「ん・・・あ・・・ナルト君・・・どうしてここに?」

「俺は今来たばっかなんだ。」

耳の具合大丈夫?、とナルトはニコリと笑っている。リーはそういえば、と思い、左耳に手をあててみるが先ほどの痛みが完全に消えている。そのことに少し驚いた顔をしてナルトを見たが、もうナルトはサクラの方へと行っていた。

「もうほんとどこ行ってたの!? それにあんた・・・あの大蛇丸ってやつどうしたのよ!?」

サクラはリーの下から戻ってきたナルトに怒鳴る。ナルトはサクラの剣幕に押され気味だ。

「その・・・蛇ヤローはあの後すぐにどっか行っちゃったってば。遅くなってごめん・・・。それと・・・これ。」

と言って先ほど地面に置いていたものを持ち上げてサクラに見せる。
サクラは目を見開いた。
ナルトは木の実やキノコ、魚などがたくさん入った葉で編んだ籠を持っていたのだ。

「サクラちゃんたちお腹減ってるかなって思って取ってきたんだってば!」

ナルトがいつものようにニシシと笑っている。
サクラはどれほど心配したか!、と思ったが、その笑顔を見て怒る気も失せてしまった。

「リー大丈夫? 音忍の奴らはサスケって子が追い返しちゃったわよ!」

リーに駆け寄ってきたテンテンが今までの出来事を簡単に述べる。それにまた驚いたリーは思わずサスケを見る。そのテンテンの言葉に反応したのはもう1人いた。

――サスケがやったんですか!?

てっきりネジが助けてくれたのかと・・・

ナルトもサスケを凝視する。
サスケは大蛇丸に呪印をつけられてしまったため、ナルトが掌仙術で眠らしておいたのだ。ナルトの予定ではもう少し寝ていてもらうはずだった。しかし、サスケを見るともう目が覚めてサクラに手伝ってもらいながら立ち上がっている。
確かに、あの時咄嗟に眠らせたため掌仙術に籠めるチャクラの量を上手く調節できていなかった。それでもまだ寝ているはずの量は注ぎこんだつもりだ。

――呪印ですか・・・

大蛇丸との戦いですでに限界に近かったサスケが3人もの相手を1人で相手できるはずがないのだ。
ナルトはじっとサスケの様子を見るが、今のところどこか悪そうなところは見当たらない。が、呪印を使って体の疲労がかなりひどいはずだ。あと2日ほどは安静にしないと進めないだろう。サスケは音忍が置いていった地の書を拾いに行く。とその時、ポツンと1人になったサクラにナルトは声をかけた。

「サクラちゃん・・・その髪・・・。」

サクラは不意に声をかけてきたナルトに顔を向けると、ナルトはじっと真顔でこちらを見つめていた。サクラは自分の髪を触りながら苦笑する。

「あ! コ、コレね・・・イメチェンよ! イメチェン!」

私は長い方が好きなんだけど、ホラ・・・こんな森じゃ動き回るのに長いと邪魔なのよね!、と言って無理に笑っている。そんなサクラにナルトは目を細めてやわらかく微笑んだ。

「サクラちゃん頑張ったんだね。」

「え・・・?」

サクラは表情を消してナルトを見た。そこにはこちらを見て微笑んでいる顔があった。
いつもの煩さはどこへ行ったのか、少しだけ大人びて見えた。

「カッコイイよ、サクラちゃん。」

そう言ってにっこりと微笑む。サクラはそんなナルトに何故かドキリとして、あ、ありがとう・・・と小さく呟いた。ナルトを見るともうサスケの方へと行っていて、地の書が手に入ったんだってば!?、と大喜びをしている。いまだに速い鼓動を落ち着かせようと、サクラは気のせい、気のせいよ、と言い聞かせて手のひらで胸を押さえつける。
その鼓動もちょっとするとすぐにおさまり、ホッとしたサクラはテンテンと会話をしているリーの下へと向かう。

「リーさん・・・ありがとう。私、リーさんのおかげで目が覚めました。ちょっとだけ・・・強くなれた気がするんです。」

ニコリと微笑んでいるサクラに、リーは思わず瞳を潤ませる。

「僕はまだまだ努力が足りなかったみたいです・・・。」

落ちてきそうになる涙をごしごしと袖で拭う。と、唐突にサスケ君、と呼びかけるリー。すると、うるさいナルトを無視してサスケはリーの方を見る。

「さすがはうちは一族・・・音忍を追い払うなんてやっぱり君は凄い力の持ち主だ・・・僕はコテンパンにやられた。」

サスケは下を向きながらそう告げるリーを見て驚愕する。
リーは第一の試験の前に少しだけ戦ったが、その時はサスケが負けてしまった。そんなリーが今の音忍たちに負けたと言っているのだ。
リーは禁術である“蓮華”を使ってでも勝てなかったという。リーはサクラをちらりと見る。

「サクラさん・・・木の葉の蓮華は2度咲きます。」

サクラはその言葉を理解できず、頭に疑問符を浮かべる。そんなサクラの様子に構わず、リーは続ける。

「次に会う時はもっと強い男になっていることを誓います。」

顔をまっすぐサクラに向けて、堂々と言ったリー。それにはサクラも笑顔になり、うん!、と素直に返事をした。すると、いのがサクラのバラバラな長さの髪を整えてあげると呼ぶ。
それに対し、サクラは好戦的な顔をしてお願いする。

そして一段落着くと、それぞれの班に別れ、巻物を求めに去っていった。








「そういやナルト・・・お前大蛇丸と戦った時、影分身だっただろ。いつ入れ替わったんだよ。」

サスケがぶっきらぼうにナルトに話しかける。
今ナルトたちは焚き火を囲い、魚やキノコを焼いていた。その光景はなんともほのぼのとしている。ナルトは焼けた魚をサクラとサスケに手渡すと、その質問に答えた。

「俺ってば、あの蛇ヤローが出てくる前にぶっ飛ばされただろ? そしたら、そこに大きな蛇がいてさ。サクラちゃんたちも危ないんじゃないかなーって思って、影分身を1体だけそっちに向かわせたんだってばよ。」

ナルトはおいしそうに魚を食べながら言う。サスケもそれを見て魚を食べ始めるが、どこか納得がしない。それに先ほどからずっと気になっていること。

「俺が大蛇丸に首をかまれた後・・・そこから俺は何も覚えていない。それからどうなったんだ・・・?」

「それはね。ナルトが」

サクラがもが、と言ってそこで言葉を切った。不自然な切り方にサスケがサクラを見ると、ナルトがサクラの口を押さえていた。

「俺が駆けつけた時にはサスケ、気を失ってたってばよ。蛇ヤローはなんか不気味なこと言ってそのまま逃げちまうし・・・それでとりあえずサクラちゃんにサスケを任して、俺は食料取りに行ってたんだってば。」

まるでそれが真実だというようにペラペラと話すナルトにサクラは目を見張った。
あの時助けてくれたのはナルトだ。なぜそれを言わないのだろうか。
サクラはそんな目でナルトを見ていると、その視線に気づいたナルトがこちらを向き、ウインクをする。またしてもサクラは何故かドキリとした。
先ほどから不自然なサクラにサスケがじっと見つめている。サクラはサスケがこちらを見ていたことにようやく気づき、そ、そうなのよ~ははは、と笑ってごまかす。
やっと納得したサスケのその様子にナルトは胸をなでおろす。と、今度は真剣な顔をしてサスケに向かって口を開いた。

「サスケ・・・お前の首のやつ、呪印って言って、使えば確かに力を得ることができる・・・だけどな、今のお前が使うと身体がボロボロになって死ぬかもしれないってば。」

2人の息を呑む音がする。
なぜそんなことをナルトが知っているのか不思議ではあるが、サスケはその言葉に思い当たることがある。今の自分の身体ははっきり言って使い物にならないくらい動きが鈍い。
やっと手に入った力。これを使えば遥かに強くなれるのは実感した。しかし、死んでしまってはどうしようもない。
ナルトは黙っている2人に話を続ける。

「それと、その呪印はチャクラに反応して広がるってばよ。むやみに写輪眼を使わねーほうがいいってば。」

あと2日間は休養だってば、と言ってまた魚にかぶりつき始めるナルト。
2人はナルトの言葉に無言で頷き、また魚を食べ始めた。


この後、ナルトたちは2日目、3日目を休養に充て、4日目に再び活動し始めるのだった。








あとがき

読んでくださって本当にありがとうございます!!
今、第三の試験の予選のところを書いていたのですが、あまりにもこの話が読み返してみて自分らしくなかったので、書き直してしまいました。
いろいろなすばらしい作品を読みすぎて、自分の書くものに自信が持てなくなってしまったようです。
・・・どうだったでしょうか?
少し番外編っぽいものを織り交ぜてみました。
まだまだ拙い小説ですが、よろしかったらこれからも足をお運びください。

↓に魚を食べ終わった後のナルトたちのお話を少し書いております。








おまけ



「あーおいしかった!!」

魚やキノコを食べ終わり、満足そうに言うサクラ。それはよかったってば、とナルトは微笑みながら火の後始末をしている。と、サクラはナルトが食べたもの以外にも何かを入れた小さな袋を腰につけていることに気づいた。

「あんた、その袋何入ってるの?」

ちょっと見せなさいと言ってその袋を取り上げ、バサッと入り口を開いて覗き見る。そして、

「な、何よこれ・・・。」

サクラがそれを見て引きつった顔をする。サクラの様子に気になったサスケもその中身を覗き込むと、あまり表情の変わらないサスケでさえサクラと同じように引きつった顔をしている。

「あ、触らないほうがいいってばよ。それ」

毒キノコだから。

ナルトがにこりと微笑みながら言う。
袋の中身、それは色とりどりの不気味なキノコたちだった。
2人はなんでそんなものを!?、という顔でナルトを見る。ナルトはきょとんとして口を開いた。

「ここの森の中ってめずらしい毒キノコがいっぱいあったんだってば。」

それが嬉しくってつい採ってきちゃった、とそれはそれは嬉しそうに言うナルトに2人はますます顔を引きつらせる。そして気になること。

「あんたこれ・・・どうするのよ。」

「ん? それってまだ効果とか知られてないキノコだから試すんだってば。」

「試すって・・・ど、どうやって・・・?」

思わず2人はじっとナルトを見つめる。ナルトはニヤリと擬音語がつくような笑みを浮かべる。それは明らかに何か企んでいる顔だ。2人はゾッとして腕をさする。

「それは・・・・・・秘密だってばよ。」

ナルトはそれだけ言ってその場に何も残さないように片付けを再開する。
2人は顔を見合わせ頭に疑問符を浮かべるが、とりあえず自分たちには関係ないことにホッとして、その片付けを手伝い始めた。









「くしゅっ」

「あれ、ミコト風邪?」

大丈夫?、とアンコがミコトのくしゃみに反応してそう尋ねる。ミコトはアンコに向かって微笑みながら大丈夫です、ありがとうございます、と言ってごまかす。
突然ミコトに感じた悪寒。

――・・・本体さん・・・また何か実験を・・・

そう、ナルトは医療を学び始めてから、いろいろと薬の作り方などを本で読んできたが、読むだけではいけないとたびたび練習のために作っていた。本に載っているものであれば完璧に作れるようになったナルトだが、知識欲のせいか何か新しいものを発見するたびに影分身を実験体として用いるのだ。

――苦しむのは僕たちなんですよ・・・!!

実験されて苦しみ、消されていく影分身。消えた影分身は本体のもとへともどり、その薬の効果を本体は知識として得られるのだ。まあ他人に迷惑をかけるよりかはマシである。
だんだんと顔が青ざめていくミコトにアンコは自分の呪印よりもなんだか深刻そうだ・・・と思ったらしい。



そんな実験を繰り返し、ナルトはますます知識を得ていくのだった。









あとがき2

大蛇丸さんも出てきましたし、早く自来也さんも出てきてほしいです。
まだ道のりは遠そうです・・・。
がんばります!!



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 第26話
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2008/01/13 19:48






2日間しっかり休んで、ただ今4日目のお昼です。


僕はせっせと川の魚を獲っています。


サクラちゃんとサスケは火の準備をしていて・・・


なんだか懐かしいですね。こういうの。


やっぱりみんなでこうやって活動するのは楽しいですね!


でもそろそろ天の書の巻物を見つけないといけません。


それにさっきからずっとこちらを見ているあの第一の試験でも感じた嫌な気配・・・


そうか、彼の気配はあの大蛇丸と似ているから嫌な気配をしているんですね。


大蛇丸の部下ですか・・・木の葉の額あてをしていますし、スパイってやつですかね。


・・・サスケの様子を見にきたのでしょうね。


サスケが試験に落ちると困りますからね。


んー、特に何もしてこないですが・・・


もう少ししたら出てきてもらいましょうか。







NARUTO ~大切なこと~ 第26話







パチパチと音を立てて燃えている火を3人の子供たちが囲んでいる。
火の周りには木の枝に刺さっている3匹の魚が立てられ、おいしそうに焼けている。

「ナルトって魚獲るの上手よね。」

あんたがいて食事だけはまともにとれるわ、と言うのはピンク色の短い髪の少女、サクラだ。サクラの言葉にナルトと呼ばれた金髪の少年は満面の笑みを作る。そして焼けた魚をサクラと黒髪の少年サスケに手渡し自分も食べ始める。
しかし、元気そうだったサクラもその魚を一口だけ食べて、地面に置いてある1つの巻物をじっと見つめた。

「もしかしたらもう・・・天の巻物は無いのかも・・・。」

ボソリと呟くように言ったサクラ。
第二の試験の期限は5日間だ。それに対し今はもう4日目。
ただでさえ合格は最大で13チームだ。しかし、自分たちの初めにもらっていた“天の書”は大蛇丸によって燃やされてしまった。
ということはすでに合格チームが1チーム減ったことになる。それに、他のチームの巻物も全て無事とは限らないのだ。

「いずれにしても・・・次の敵がラストチャンスだな!!」

サクラの言葉にサスケが気を引き締めると、水を汲みに行く、と言って水筒を持ち、川の方へと行ってしまった。
サクラは心配そうにそれを眺めている。しかし、

――ん・・・? サスケが動いたのに、そばにいる気配さんはずっとこちらを見たままですね。

いったい誰の観察をしていらっしゃるのでしょう?

ナルトは先ほどから藪の中からこちらを見ている気配をずっと気にしていた。が、それをわざわざサクラたちに言って、怯えさせるのもよくない。
ナルトは全く考えていることを表に出さず、おいしそうに魚をきれいに骨だけ残し食べてしまう。最後にはきちんと手を合わせて「ごちそうさまでした」と言って。
こちらを見ている気配には自ら出ていただかなくては。
相手が出てこなくてはならなくなるようなことをこちらで起こすしかない。
そう思ったナルトは下に置きっぱなしの“地の書”を見てニヤリとする。
今いるのは自分とサクラだけ。このやり方はサスケがいないのはちょうどいい。

「あのさ! あのさ! 敵と戦わないで“天の書”を手にする方法があるってばよ。」

この言葉に「え!?」と少し嬉しそうに振り返ったサクラに少し心が痛い。しかし、これは1人でやるよりは、2人のほうがいい。
ナルトは自分の荷物からゴソゴソと持っている巻物を出していく。その巻物の中に“新薬~毒キノコ編~”という文字を発見したサクラは2日前のことを思い出し、思わず顔を引きつらせた。が、

「ま・・・まさか・・・!」

サクラはナルトのしようとしていることに気づいた。それにナルトは頷く。
ナルトのしようとしていること、それは“天の書”の偽者を作ることだ。しかし、それには今持っている“地の書”を開かないといけなくなるだろう。

――僕はもう中身を知っていますが・・・ね。

ナルトはミコトで試験官たちのお手伝いをしている身。この中忍試験の内容はほぼ全て把握しているのだ。
大蛇丸のせいで、せっかく試験の内容を知らない影分身のナルトをずっと消さずにこれまで過ごしてきていたのに、その苦労も水の泡である。アンコを助けに行った時のミコトの殺気はこの理由も含まれているようだ。

「この巻物を・・・開いてみるってばよ!」

ナルトは“地の書”をサクラの前へ突き出す。
この試験のルールで巻物の中身は決して開いてはいけないと言われているため、サクラはこのナルトの提案に一度は否定する。しかし、確かに今のままでは間違いなく合格できないのだ。
サクラは覚悟を決めて、ナルトに巻物を開くことを承諾する。

――サクラちゃん・・・だましてごめんね。

先ほどからチクリと胸が痛いが、今はおびき寄せることに集中しなくては。
ゴクリと喉を鳴らし、巻物を開こうとした次の瞬間、

「やめた方がいい・・・。」

ルールを忘れたのかい? と、ナルトの手を掴んで現れたのは丸眼鏡をかけた木の葉の下忍だった。突然現れた下忍に2人は驚愕する。が、

――遅いですよ!!
   このままでしたらサクラちゃんを巻き添えにするところでしたよ!!

ナルトは内心怒っていた。
すると、そこへ水を汲みに行っていたサスケが戻ってきて、事の次第を聞くと呆れて2人を叱る。


「危ないところだった・・・。」

そう言って、この巻物について語り始める青年。
ルールを無視した者は必ずリタイヤせざるをえない状況に追い込まれる。
前回の試験は、途中で巻物を見た者には“催眠の術式”が目に入り込むように仕込まれていたという。それによって試験終了まで眠らされてしまうのだ。

――今回は巻物によって口寄せされた先生方が気絶させることになっています。
   僕たちの班はイルカ先生のはずです。

ナルトはあの時のイルカのことを思い出し、苦笑をもらす。


あの時はそう、










中忍選抜試験があと数日と迫っていた日のことだ。


「あれ? イルカ先生どうされたんですか?」

ミコトはこの時間帯に火影邸にいたイルカに驚き、思わず声をかけた。
今はまだお昼前。イルカはまだアカデミーで授業を行っている時間ではないだろうか。振り返ったイルカは自分の顔を見て苦笑している。

「いえ、ちょっとお願い事を・・・。」

「お願い事・・・ですか?」

イルカがアカデミーを抜けてまでするお願い事とは何だろうか。
首を捻ったミコトにイルカは恥ずかしそうに話し始めた。

「第二の試験、今回の巻物は口寄せになっているでしょう? それで、ぜひともあるチームのその口寄せされた時の担当にお願いできないかと、アンコさんに頼んできたところなんです。」

ミコトもその言葉に「そうでしたか。」と納得を返す。
しかし、その話を聞いて気になってしまうのはその“あるチーム”。
ミコトはちらちらとイルカに視線を送ると、ニッコリ笑って教えてくれた。

「前、一楽に行った時に名前を出したやつ・・・ナルトがですね、今度の中忍試験に出るんですよ。ほら、ミコトさんの兄弟かって訊いた子なんですけど。」

それにミコトは「ああ」と言葉を返す。
あの時は影分身だったが、髪と目の色が同じだと指摘されて、内心ヒヤッとした記憶が残っている。

「そいつが第二の試験で塔までたどり着いたら、俺が引導を渡そうと思いまして。」

「え?」

ミコトは思わず自分の耳を疑った。
まだ試験が始まってもいない。しかし、今のイルカの言葉が聞き間違いではないのならば、それはまるでナルトが第一の試験を突破し、第二の試験も合格までたどり着くと言っているようなものではないだろうか。
第二の試験では試験の途中で巻物がそろっていなくても開けてしまう者がいるというのに。
ミコトが驚いた顔をすると、イルカははにかみながら話を続ける。

「あいつ・・・ナルトには医療忍術を使える素質があるんです。」

ほら、医療忍術なんてみんながみんな使えるものではないでしょう? とそれは嬉しそうに語るイルカ。顔では自慢の生徒なんですと物語っている。

「だから、ナルトにはこんなところで潰れてほしくないんです。」

そのためにも俺が今回は止めてやらないと、と少し厳しい顔になったイルカに今度はこちらがはにかんでしまう。
卒業してまでこんなに思ってもらえて、自分はなんて幸せ者なんだろうか。
嬉しすぎてミコトの姿なのに抱きついてしまいそうだ。
しかし、イルカがそんな恨まれごとをする必要はない。

「イルカ先生は、そのナルト君が第二の試験も塔までたどり着けるとお思いなのでしょう?」

「ええ。」

イルカは当たり前だというような顔で頷く。それには思わず苦笑してしまう。

「でしたら、きっと大丈夫ですよ。なんせ、イルカ先生にそこまで思われている生徒さんなんですから。こんなことで潰れるなんてことはないですよ。それとも・・・イルカ先生はその子がそんなに心の弱い子だと思っていらっしゃるんですか?」

と言えば、首をブンブンと横に振るイルカ。そして、少し下を向いてポツリと呟いた。

「・・・そうですね。あいつは・・・心がとても強い奴です。」

俺が信じないでどうするんだって感じですね、と言って笑ったイルカにミコトもそうですよ、と言って一緒に笑った。

「あいつが塔に来て俺を口寄せしたら、一番に“おめでとう”と言ってやります。」

では、これからアカデミーに戻るので、とそのまま帰っていくイルカ。
ミコトはその背が見えなくなるまでじっと見つめていた。










突然ナルトは強い視線を感じ、ハッとして今の状況を思い出す。
強い視線はそばにいたサクラやサスケ、カブトからのものだった。
ナルトは苦笑いを浮かべて、「開けなくて良かったってば! カブトさんありがとー!」と言ってその場をしのいだ。



「ところで・・・確かカブトとか言ったな・・・こんなとこ1人で何ウロウロしてんだ。」

サスケが偉そうな口調で先ほどまで説明していた青年、カブトに問いかける。
カブトはすでに2つの巻物をそろえ、はぐれた仲間を塔付近で待とうと急いでいる途中だったと告げ、再び塔へと向かおうとして別れの言葉を言う。しかし、サスケが「待て!!」と声をかけギロリとカブトを睨む。そして、

「勝負しろ・・・。」

「・・・・・・勝負だって・・・?」

サスケの突然の申し出に去ろうとしたカブトは振り返る。サクラがサスケを止めに入るが、サスケは焦っていた。もう自分たちには時間がない。ここでカブトから巻物を奪わなければ自分たちはこの試験を合格することができないだろう。

――サスケ相当焦っていますね・・・

巻物を本気で奪う気ならカブトが去ろうとした時など、油断をしている隙に奪えばいいのだ。カブトはそのことを指摘し、一緒に行動することを提案した。






「本当にまだ敵はいるのか?」

「ああ、間違いなくね・・・。」

今ナルトたち3人とカブトは塔へと向かって木々の枝の上を飛び移るように移動している。
サスケが走りながら尋ねると、カブトはこれからどうすれば良いか説明し始めた。

この試験の受験者の共通ゴールはこの森の中心にある塔だ。
試験最終日となった時点で最も巻物を集めやすいのはその塔の付近ということになる。
塔付近で両方の巻物を持っているチームの巻物を狙うこともできるが、すでに塔付近で罠をはって待っているチームがいる。そのチームを狙うのが良いだろう。しかし、そのようなチームばかりではない。

「この手の試験で必ず出現するのはコレクターさ。」

コレクターとは余分な巻物を集めようとする者たちのことだ。
そのような者はかなりの実力者であり、決して慢心しない最悪の敵である。
と、ようやく塔の見える位置までやってきた。ここからが正念場だ。しかし、

――う~ん、どうやら幻術の中に入っちゃいましたね。
   ・・・これは“狐狸心中の術”ですね。

カブトさんは気づいていますが・・・とナルトは判断する。
“狐狸心中の術”とは、術のかけられた特定の区域に入ると、同じ場所を繰り返しずっと歩くことになる術だ。
その術に気づいているだろうに、カブトはここから時間の許す限り身を隠しながらゆっくり行こうと提案する。サスケたちは静かにそれに頷き、木から下りて地を歩き始める。それをナルトは1人だけ少し後ろについて歩き始めた。

――この術をかけている気配は・・・雨隠れさんですか。

ナルトはカブトに注意しながら、こっそり幻術をかけている敵の気配の正確な位置を探る。そしてふと立ち止まると、カブトたちがこちらに気づいていないのを確認し、バッと何かの印をかなりの速さで組んでいく。そして印を組み終えた直後、

「俺ってばちょっとしょんべん!」

と、前を歩く3人に叫んだ。

「もう! ナルト! さっさとしてきなさい、置いてくわよ!」

ほんとに緊張感がないんだから! とサクラが振り返ってナルトに怒る。サスケやカブトも呆れた顔をしている。
ナルトはすぐにもどるってばー、と言って藪の中へと入っていく。そして、



――成功ですね。

ナルトが入った藪の中。
そこには雨隠れの下忍の3人が倒れていた。その3人はただ眠っているようだ。
そんな3人の周りに散らばっている白い羽。
これは先ほどのナルトが組んでいた印、“涅槃精舎の術”によって発生した羽だ。
これは鳥の白い羽を降らせて眠りを誘う幻術の1つだ。
ナルトは心の中でちょっとすみません、と謝って、眠っている者たちから巻物を探し出す。すると出てきたその巻物は都合よく“天の書”だった。

――これ以上サスケを戦わせるわけにはいきませんからね。

そう、サスケは少しでもチャクラを練れば呪印が発動してしまう。
おそらくカブトはそれを見に来たはずだ。
サクラも精神的疲労が大きいため、できれば敵などというものに今は遭遇させたくない。ナルトは雨隠れの下忍たちに手を合わせて軽くお辞儀をすると、サクラたちの下へ戻っていった。



「俺ってばラッキー! みてみて“天の書”だってば! あっちに落ちてたってばよ!」

ちょっと無理があるなぁと思いながらも、顔は満面の笑みで3人の目の前に“天の書”の巻物を見せるナルト。みな目を見開いて驚いている。

「ちょ・・・ナルトでかしたわ!」

あんたって運がいいわね! と喜ぶサクラに、口角が少しだが上がっているサスケもどうやら喜んでいるようだ。が、

――幻術が消えた・・・?

カブト1人だけはじっとナルトを見つめている。カブトは幻術をかけている者たちがどこにいるかは把握できていなかった。しかしいつの間にか消えている幻術に疑問を抱く。

――もしかしてナルト君が・・・?

目の前でサスケたちと喜んでいるナルト。
ナルトの情報ではアカデミーでは万年ドベ。下忍の任務も大して活躍していない。
それを思い出し、カブトは考えすぎだと軽く頭を振る。でも、疑ってみる価値はあるかもしれない。

「・・・ナルト君すごいね。」

そう言ってナルトに微笑む。
あまり直接的に聞いてしまってはこちらのことがバレかねない。
当たり障りのない言葉を選んで言ってみた。
すると、ナルトはとても嬉しそうに笑い、「俺ってば天才!」と騒ぎ出すナルト。それに対し、「何言ってんのあんた! 天才はサスケ君のことをいうのよ!」とナルトの頭を殴るサクラ。「このウスラトンカチが」と言って蹴りを入れるサスケ。すっかり先ほどまでの緊張感がナルトのせいでなくなってしまっている。
そんな様子を見ていたカブトはやはり自分の思い違いだと確信し、4人はそのまま塔へと向かっていった。


そして塔へとたどり着くと、カブトの仲間である2人が現れ、カブトは別れを告げると2人とともに去っていった。
サスケとサクラも自分たちの入る扉へと向かっていく。が、しかし、ナルトはその場で佇んだままだ。

すると、いつの間にかナルトの背後にミコトが立っていた。

「たった今、火影様も到着しました。」

部屋に戻るときは、アンコさんの呪印を心配してあげてください、と言ったミコト。
ナルトたちが帰ってくるのを見計らって、抜け出してきたのだ。
そのミコトがボンッとナルトに変化し、サクラたちの後へと駆け寄っていく。
それをナルトは無言で見送ると、ポツリと呟いた。

「イルカ先生・・・遅くなってすみません。」

その場に佇んでいたナルトはミコトに変化をして、サクラたちが入っていった扉をじっと見つめ、目を細めて微笑む。
中ではきっと、イルカの喜ぶ顔が見れるはずだ。
その顔が目に浮かぶようで思わず顔が緩んでしまう。
しかし、今はそんな場合ではない。
ミコトはアンコと三代目のもとへと急いだ。










「収穫は・・・?」

カブトたちが入った扉の中には、長い黒髪の男が壁に寄りかかって立っていた。

「・・・・・・特にありませんでしたよ。大蛇丸様。」

カブトは目の前の男にそう告げる。カブト以外の2人は先に会場のほうへと向かうと言って、その部屋から出て行った。
長い黒髪の男、大蛇丸はその言葉に少し意外そうな顔でカブトを見つめる。

「お前がわからないなんて・・・。」

「でも急にどうしてナルト君を調べろだなんて。」

まぁ、すごく運のいい子ではあると思いましたよ、とよく意味の分からないことを言うカブトに説明するように大蛇丸は命令する。

「実は僕が一緒にこの塔に来る途中で、ナルト君が落ちていた巻物を拾ったんですよ・・・本当に運がいいですよね。その時に少し気にかかったのは、その場にかけられていた幻術が消えたことくらいですかね。」

でも、ナルト君には関係なさそうでしたよ、と呆れたように言うカブト。

――そんな偶然・・・あるはずないわ。

巻物を落とすなんてことはいくら下忍とはいえしないだろう。それに幻術をかけている者が、わざわざ自分からその術を解除するだろうか。
・・・するはずがない。
きっと、ナルトはその時に何かしら行動を起こしているはずだ。しかも、カブトに探られないように。
自分と対戦したナルトの医療忍術は、カブト以上だったと、考えたところで大蛇丸は再びカブトの方へと顔を向け、無言で右腕を差し出す。
その動作を見て首を傾げたカブトに、大蛇丸はニヤリと笑った。

「右手の指が動かないのよ。」

これ誰がやったと思う? とニコニコと気味の悪い笑みをする大蛇丸に、カブトは近づいてその右腕をとる。そしてハッとした顔をする。

「・・・腕の表面や筋肉などには全く傷つけず、神経だけが切断されている・・・これは治るのに少し時間がかかりますね・・・・・・この切断はチャクラ解剖刀・・・。」

一体誰が大蛇丸様に・・・!? と驚きを隠しもしないカブトに大蛇丸はクククと笑いをもらした。

「ナルト君がやったのよ・・・そう、あなたよりも精確なチャクラコントロールを持っているわ。」

「まさか・・・あのナルト君が!?」

カブトは驚愕する。
塔まで少しだけだが一緒にいたナルトが目の前にいるこの大蛇丸に一撃を入れるなど想像も付かない。どう見てもただの騒がしいガキだった。

「フフ・・・まぁいいわ。ところで・・・どうだったの?  サスケ君。」

と言ってそれは嬉しそうな顔をしている大蛇丸。そんな大蛇丸を見ていれば、カブトは特に言うこともないだろうと思い、全てをお決めになるのはあなたなのですから、と言ってカブトも仲間の下へと行こうとする。が、その時、

「ねぇカブト・・・ミコトっていう木の葉の忍、知ってる?」

突然の問いかけにカブトは振り返った。そこには先ほどまでの笑みが消え、真剣な表情をした大蛇丸がいた。カブトは少し考える素振りを見せると、「あぁ」と言って答える。

「今回の中忍試験で初めて姿を現した忍者ですよね・・・僕もその方の情報は一切持っていません。彼は今まで一度も任務をなされていないようなので・・・。」

カブトの言葉に今度は大蛇丸が驚愕した。

――・・・一度も任務をしていないですって!?

アンコと接触した際に突如背後に現れたミコトという木の葉の忍。殺気がなければ己でさえ気づかなかったあの気配の無さ。それにミコトが現れたときに見せたアンコの驚愕の表情。あれは・・・

――瞬身の術ではなかったのよね・・・

そう、アンコほどであれば瞬身の術なら術を使っている相手の姿を目で追うことは可能なはずだ。しかし、あの驚き様から見て明らかにミコトが唐突に現れたと考えて間違いないだろう。

――・・・一体どうやって・・・


何か深く考え込んでいる大蛇丸にカブトは首を傾げ、とりあえずそのまま次の会場のほうへと向かった。
大蛇丸はそれに気づかずじっと考え込む。そして左手が右の脇腹に触れたときだった。

「ん? 何かしら・・・。」

右の脇腹の服の上についている文字のようなもの。

――ッ!!・・・これは術式!?

いったいいつの間に!? とその文字を見て驚く。
しかし、この文字によって1つの謎は解けた。
これは時空間忍術の1つである“飛雷神の術”に使用するものだ。この術式のある場所に神速に移動することができる。ミコトはこれを使用したのだ。しかし、

――あのミコトって子に会ったのは・・・

第二の試験が開始される前に自分が草忍の下忍に成り済まし、アンコにクナイを返そうとした時に会っているが、あの時は特に何もされなかったはずだ。では一体いつ己の身体に術式を残すことができたのか・・・

――私の身体に触れたのは・・・

大蛇丸はそこまで考えるとハッとする。そして不気味にクククと笑い始めた。


「・・・そういうことね。」



そう一言だけを残し、大蛇丸の姿はその部屋にはなくなっていた。










「アンコさん、まだ呪印は痛みますか?」

ミコトがアンコを見て心配そうに声をかけた。
戻ってきたミコトにアンコはだいぶ良くなったわ、と返事を返す。すでにこの試験に関わっている木の葉の中忍以上の者たちはもう大蛇丸がこの里へ入ってきていることを知っている。
ソファーに座っているアンコの後ろに立っていたコテツやイズモが、里抜けをした大蛇丸が今更この里に何の用があってきたのか、と疑問を口々に言っている。それを聞いていたアンコは顔を歪め、口を開いた。

「・・・それは」

「サスケじゃろう・・・。」

アンコの言葉をつなぐように呟かれた三代目の言葉にみな一斉に顔を向ける。

――・・・火影様は大蛇丸の考えていること知っていらっしゃる・・・?

まだ火影様にはサスケの呪印に対しての話はしていなかったのだ。ミコトはじっと三代目の顔を見つめる。ミコトも大蛇丸がサスケを狙っているのはこの第二の試験ではっきりとわかった。しかし、

――それだけのために・・・?

大蛇丸はビンゴ・ブックS級の抜け忍だ。危険を冒してまでわざわざサスケだけのために来るだろうか。他にも何かがあると考えるが、相手が行動に移さない限り、こちらが下手に動いても無駄だ。と、思案しているところで、第二の試験の結果が報告された。


“第二の試験”通過者総勢21名を確認。
中忍試験規定により“第三の試験”は5年ぶりに予選を予定いたします。

“第二の試験”終了です。


この報告を聞いて、三代目が口を開いた。

「・・・とりあえず試験はこのまま続行する。あやつの動きを見ながらじゃがな・・・。」

アンコはそれを聞いて静かに頷き、予選の会場へと向かう。ミコトもそれについていこうとする。ミコトの次のお手伝いは予選の審判である月光ハヤテの手伝いだ。
次は何かさせてもらえるだろうか、と思いながらこの部屋を出ようとしたその時、

「ミコト。」

背後から声をかけられ振り返る。と、そこには真剣な面持ちをした三代目火影が立っていた。

「おぬしはこの予選、わしの隣におれ。」

唐突なその申し出にミコトは少し眉間に皺を寄せた。
火影様の命令は絶対だが、突然の変更に少し戸惑う。そんなミコトの様子を見た三代目は苦笑をもらした。

「なぁに、予選ではおぬしの仕事は何もない。それに見ることも勉強になろうて。」

三代目はニコニコと笑っている。先ほどの緊迫していた空気がそれによってどこか晴れたような気がする。ミコトは「わかりました」と言ってその部屋を出て行く。すると、

「ふぅ~・・・。」

火影様はなぜかほっと息をついていた。

――この試験はあやつが関わったせいで危険じゃ・・・
・・・ミコトの医療忍術はこの里に必要なものじゃ。

ミコトに目をつけられたら困るからのぅと内心ではそんなことを考えていらっしゃった火影様であった。










会場の中央には“第二の試験”を突破した21名の下忍が班ごとに整列している。そして、その下忍たちの前には各班の上忍たちや試験官、三代目火影が立っていた。

「まずは“第二の試験” 通過おめでとう!!」

高らかにアンコの声がこの会場内に響く。その言葉に下忍の一部の者たちは声には出さないが喜び、周りを見て合格者たちの顔ぶれを確認している。それは上忍たちでも同じだった。


「なかなかやるじゃないかお前のチーム・・・運が良かったかな・・・だが俺のチームがいる限り、これ以上は無理だな。なにせ次の関門では否応なしに実力が物を言う。まぁ青春とは時に甘酸っぱく、時に厳しいものだよ、カカシ・・・。」

長々と隣の男に話しているのは、おかっぱ頭に濃ゆい眉、下睫毛が印象的なマイト・ガイだ。隣の男、はたけカカシはガイの最後の自分の名の呼びかけで、ようやく自分に向かって話をしていたことに気づき、「ん? 何か言った?」と問う。
ガイはそのカカシの反応に右手で作った拳がふるふると震えている。
きっと、「さすがは我がライバルだ、お前のそういうとこがまたナウい感じでムカツク」とでも思っているのだろう。


――・・・大蛇丸・・・今度は音の下忍たちの上忍としていらっしゃいますね。

そんな少し和やかな雰囲気になりつつあるこの会場の中、ミコトは大蛇丸の気配に気づき、ちらりと目線を音符の額あてをした上忍に向けた。その上忍はこちらには気づいておらず、整列している下忍たちの中の1人へ何か目で合図を送っているようだった。

――術式に気づかれてしまったようですね・・・

大蛇丸につけていた術式はもう反応しなくなっていた。それは大蛇丸が術式に気づいて、なにかしら使えないようにしたからに違いない。

――今ここで大蛇丸がいることを告げたら会場がパニックを起こしてしまいます・・・
・・・今は特に行動を起こさないようですし

見張っておきましょう、と心の中で決定を下す。とその時、三代目火影から“第三の試験”の説明が始まった。

「これより始める“第三の試験”・・・その説明の前にまず、一つだけはっきりお前たちに告げておきたいことがある!!」

下忍たちは息を呑んで三代目火影を見つめている。いったい試験の前に何の話をする必要があると言うのか。

「・・・この試験の真の目的についてじゃ。何故・・・同盟国同士が試験を合同で行うのか? “同盟国同士の友好”、“忍のレベルを高めあう”・・・その本当の意味をはき違えてもらっては困る! ・・・この試験は言わば・・・同盟国間の戦争の縮図なのだ。」

下忍たちはその言葉に疑問の声を上げる。それに対し、三代目は落ち着いて話し始める。
同盟国とはかつて勢力を競い合い、争い続けた隣国同士だった。
中忍選抜試験の始まりとはその国々が互いに無駄な戦力の潰し合いを避けるために敢えて選んだ戦いの場なのだ。
この試験が中忍に値する忍を選抜するとともに、国の威信を背負った各国の忍が命懸けで戦う場でもある。

「国の威信・・・?」

下忍の1人がポツリと呟いた。
“第三の試験”には忍びの仕事に依頼をすべき諸国の大名や著名な人物が招待客として招かれる。そして何より各国の隠れ里を持つ大名や忍頭がお前たちの戦いを見ることになる。
国力の差が歴然となれば、“強国”には仕事の依頼が殺到し、“弱小国”と見なされれば依頼は減少する。
それと同時に隣接各国に対し、“我が里はこれだけの戦力を育て有している”という脅威、それは外交的、政治的圧力をかけることができる。

「国の力は里の力・・・里の力は忍の力・・・そして忍の本当の力とは命懸けの戦いの中でしか生まれてこぬ!!」

その言葉にみな緊張感を持ち始める。三代目はさらに話を続ける。
なぜ“友好”などという言い回しをするのか。
忍の世界の“友好”、それは命を削り戦うことで力のバランスを保ってきた慣習であるのだ。

「これはただのテストではない・・・これは己の夢と里の威信を懸けた命懸けの戦いなのじゃ。」

全てを聞いて愕然とする者、逆にこれからの試験に胸を弾ませる者と下忍たちはそれぞれの反応を見せている。その中の砂の下忍の1人が、早く“第三の試験”について説明するように催促をする。と、そこへ火影様の目の前にサッと現れた片膝を地に着いて礼をとる木の葉の忍。

「・・・恐れながら火影様、ここからは“審判”を仰せつかった、この月光ハヤテから・・・。」

火影はその忍びを見て、任せよう、と呟いた。すると、ハヤテと名乗った忍びは立ち上がり、下忍たちの方へと振り向き、再び自分の名前を名乗る。この忍、とても忍者としてやっていけるのか心配になるほど具合が悪そうな顔色をしている。

「えー皆さんには“第三の試験”の前にやってもらいたいことがあるんですね・・・。」

そう言っている間にもゴホゴホと咳をするハヤテ。下忍たちは試験の内容より、ハヤテの体調のほうが気にかかってしまう。しかし、次のハヤテの言葉にみな驚愕する。

「えー・・・それは本選の出場を懸けた“第三の試験”の予選です・・・。」

“予選”と言う言葉に文句の声が飛び交う。そんな中、なぜ今残っている受験生で次の試験をやらないのかと尋ねるサクラ。その質問に対し、ハヤテは答え始める。

「えー、今回は・・・第一・第二の試験が甘かったせいか・・・少々人数が残りすぎてしまいましてね・・・。」

そう、第三の試験を行うにはこの人数では多すぎるのだ。
“第三の試験”、それにはたくさんのゲストが訪れるため、だらだらとした試合はできず、時間も限られてしまう。

「えー・・・というわけで、体調のすぐれない方・・・これまでの説明でやめたくなった方、今すぐ申し出て下さい。これからすぐに予選が始まりますので・・・」

ハヤテのその言葉に下忍一同がざわつき始める。第二の試験が終了してすぐ予選となると、5日間ぎりぎりまで死の森をさまよっていたチームにはとてもきつい。
しかし、審判の言うことは絶対だ。
ここまで残ったのだ。みな予選を受けてでも次に進もうと挑むだろう。そう思われていた中、下忍たちの中からスッと手を挙げるものがいた。

「あのー・・・僕はやめときます。」

そう言ったのは丸眼鏡が特徴的な木の葉の下忍。

「えーと・・・木の葉の薬師カブト君ですね・・・では下がっていいですよ・・・。」

ゴホゴホと咳をしながら、ハヤテは他に辞退者がいないか、と下忍たちに問いかける。

「何度か見る顔じゃな。」

カブトの顔を見てそう呟いたのは火影様だった。
カブトは前回も本選で途中棄権していたのだ。

「薬師カブト、データでは・・・6回連続不合格です。」

火影様の呟きに、手に持っていた下忍たちのデータを見ながら答えたのはアンコだ。
カブトは、アカデミー時代からあまり目立たず、成績も平凡、3度目にしてようやく卒業試験に合格し、その後こなした任務はCランク2回、Dランク14回と、とりたてて目立った戦歴は持っていない。しかし、

「アカデミー以前の話なんですが・・・」

アンコはデータから目を離し、火影様の顔を見ながら話し始める。

「覚えておられますか。あの桔梗峠の戦いで連れ帰られた1人の少年の話。」

「覚えておる・・・確か、」

アンコの話を引き継いで、火影様は記憶の中からそれを引き出し、ポツリポツリと口にし始めた。

「戦場で生き残っていた敵の少年を・・・医療部隊の上忍が引き取ったという話しじゃったな・・・奴がその子というわけか・・・。」

そう言っているうちにも、話の人物であるカブトはこの会場から退場していく。

――カブトさんの雰囲気・・・変わりましたね・・・

何かウズウズと血が騒いでいるような・・・

ミコトは退場していくカブトの豹変に少し悪寒を感じた。
先ほど音の上忍に成りすましている大蛇丸が何か目で合図を送っていた下忍はカブトだった。それを見て、明らかにカブトが大蛇丸と繋がっていることに確信を持った。

――これから大蛇丸が直接サスケの観察ですか・・・

と考えたところでサスケを見ると、サスケが首を押さえながら、サクラと何かもめているようだった。それを見ていたアンコが火影様に口を開く。

「彼は試験から降ろし・・・暗部の護衛を付けて隔離すべきです。」

「そう素直に言うことを聞くタマでもないでしょ、あいつは・・・」

突然アンコの話に口を挟んだのはカカシだった。

「なんせあのうちは一族ですからぁ。」

その口調と表情はなんとも暢気なものだ。

「何バカ言ってるのよ! 力ずくでも止めさせるわ!」

アンコはそんなカカシに声を荒げるが、そこにまた誰かが割り込んできた。

「アンコさん・・・僕もまだ彼を止めなくていいと思いますよ。」

その声にアンコたちが顔をバッと向ける。そこにはにこやかに笑っているミコトがいた。

「でも、呪印が開いて暴走し始めたら、その時には止めに入りましょう。」

「うむ。大蛇丸の言ったことも気にかかる・・・サスケはこのままやらせ、様子を見ていく。」

ミコトの言葉に火影様も賛成をすると、アンコは不安そうな顔をしたが、とりあえずこのまま予選を開始することにもう反論はしなかった。その間、カカシはただじっとそのやり取りを眺めていた。


「えーでは、これより予選を始めますね。」

この予選の辞退者がもう出ないと判断したハヤテは説明を再開させる。

これからの予選は1対1の個人戦、つまり実戦型式の対戦となる。
カブトが抜けたため、ちょうど20名となり、合計10回戦行われ、その勝者が“第三の試験”に進出できる。

「ルールは一切無しです。」

どちらか一方が死ぬか倒れるか、あるいは負けを認めるまで戦い続けてもらう。
死にたくなければすぐに負けを認めたほうが良い。

「ただし、勝負がはっきりついたと私が判断した場合、えーむやみに死体を増やしたくないので、止めに入ったりなんかします。そしてこれから君たちの運命を握るのは・・・」

そこまで言うと、アンコが「開け」とマイクを使ってどこかに指示を出す。すると、会場の壁の一部が音を立てながら開いていく。と、そこには電光掲示板が隠されていた。
それが姿を完全に現したのを確認して、再びハヤテが口を開いた。

「えーこの電光掲示板に・・・一回戦ごとに対戦者の名前2名ずつ表示します。ではさっそくですが第一回戦の2名を発表しますね。」

下忍たちは緊張した面持ちでその掲示板を見つめている。
そしてバンッと表示された名前に、サクラだけが不安な顔をした。
それもそのはず、第一回戦に挙がった名前は、先ほどまでもめていたあの黒髪の少年のものだったのだから。

「第一回戦対戦者・・・赤胴ヨロイ、うちはサスケ、両名に決定・・・依存はありませんね。」

ハヤテの言葉に名を呼ばれた2名はそれぞれ了承の言葉を返した。
対戦者2名を除く他の者たちは上の方へ移動するように指示が出ると、カカシがこっそりサスケに近づいた。そして、

「写輪眼は使うな。」

ポツリと呟いたカカシ。

「知ってたのか。」

サスケはそれに軽く驚いた。

「その首の呪印が暴走すれば・・・お前の命に関わる。」

「・・・知ってる。ナルトが言っていた。」

今度はカカシが軽く驚いた。が、

「まー・・・その時は試合中止・・・俺がお前を止めに入るから。」

よろしく、と言って去っていく。
その言葉にサスケは目の色を変えた。そして睨むのは目の前の黒頭巾に黒いレンズをした対戦相手。


みなが上から静かに下の2人を見つめる中、

「それでは・・・始めてください!」

ハヤテの合図により、予選第一回戦が開始された。












あとがき

イルカさんにまた少し登場していただきました。
イルカさんとの番外編より少しだけ成長したナルトさんです。
自分の書く小説は本当にかなり原作沿いですね。
今日は何故か最終話を書き上げました。
この最終話を見ながら、完結できるようがんばります!!
今やっと予選のナルトさん対キバさんのお話を書き始めています。
今日のうちにそれも書き上げてしまいたいです。
次の更新もできれば早めに・・・と言いたいですが、もうすぐセンターですね・・・。
受験に負けず、完結目指してがんばります!



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 第27話
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2008/01/16 19:00






“第三の試験”の予選が始まりました。


第一回戦はさっそくサスケですが、サスケなら大丈夫です!


・・・と言いたいところですが、音の下忍たちのそばに立っている上忍・・・大蛇丸が、


なにやらニヤニヤと、とても不気味な顔でサスケを眺めております・・・。


あの赤胴ヨロイという方はカブトさんと同じ班でしたよね・・・。




何かありますね、これは・・・







NARUTO ~大切なこと~ 第27話







開始直後、ヨロイの投げた手裏剣がサスケに襲いかかった。が、

「うらあぁぁあ!!」

すぐにそれをサスケはクナイではじき返す。しかし、サスケの首の痛みが尋常ではないらしく、はじき返すとともに倒れてしまった。そこをヨロイが透かさず鉄拳を振り下ろし、攻撃を仕掛けるも、サスケは転がるように避け、そのままヨロイの腕を掴み、足と腕で固定をした瞬間、

「 !!? 」

サスケの目が驚愕で見開かれた。そして、

「ぐォ!!」

ヨロイは掴まれていた腕でそのままサスケの腹を思い切り殴りつけ、立ち上がると今度は起き上がろうとしたサスケの顔をガッと片手で掴んだ。サスケはなんとか抵抗しようとする。が、

「・・・お前・・・・・・俺のチャクラを・・・・・・」

抵抗しようと上げた腕がバタッと下へ戻ってしまった。

「・・・フフフ・・・今頃気づいたか・・・。」

「ぐぅわぁああ!!」

ヨロイの言葉とともに、会場にサスケの声が響き渡った。
ミコトは思わず眉間に皺を寄せる。
赤胴ヨロイの能力、それはチャクラの吸引だ。サスケのチャクラを全て吸引して、呪印を発動させようとしているのだ。
こんなところでもうすでに大蛇丸によって仕組まれたものを感じる。

「コノォ・・・やろぉ!!!」

サスケは蹴りでヨロイの手から上手く抜け出すと、相手のあごを思い切り蹴り上げた。そしてサスケも一緒に飛び上がり、宙に浮いている相手の背後をとる。
その動きはまさしく“影舞葉”だ。
“影舞葉”とは、相手を木の葉に見立てて追尾する木の葉流体術で、次の技へのつなぎとなるものだ。

――あの時、写輪眼を使ったのですか。

“第一の試験”が開始される直前に感じたリーとサスケの気配。その時、リーと接触したサスケがきっと食らった技なのだろう。それを今この場でそれを使うことができるサスケは本当に天才だと言える。

「くっ・・・影舞葉だと・・・・・・!」

「くらえ!」

影舞葉から次の技を繰り出そうとしたサスケ。が、しかし、サスケの動きが一瞬止まった。





「火影様! もうこの試合は止めます!!」

アンコがサスケの動きが止まったことに反応して透かさず止めに入ろうとする。
見れば首のアザが広がってしまったのだ。しかし、

「アンコさん、止めなくて大丈夫です。」

「何言ってるのよミコト! 呪印が広がってるのよ!?」

アンコが今にも飛び出そうとしているのをミコトは腕を掴んで止める。視線はずっとサスケに向けたままで。アンコもミコトの視線に気づいたのか、「あっ」と言う顔をした。





「いくぜ。」

そう呟いてニヤリと笑ったサスケの首にはもうアザが退いていた。
サスケは気力で呪印を押さえ込んだのだ。
宙に浮いたままのヨロイに激しい蹴りを入れ込み、最後には強烈な踵落とし―獅子連弾―を食らわせて地面に叩きつけた。
地面に倒れたままピクリとも動かないヨロイ。
もう確かめるまでもないだろう。
静まった会場の中を、サスケがムクッと立ち上がる。と、

「これ以上の試合は私が止めますね・・・よって・・・第一回戦、勝者うちはサスケ・・・予選通過です!」

ハヤテの声が会場に響き渡った。その瞬間、ナルトが「やったー!!」と声を上げる。
しかし、その直後サスケがふらりと倒れ掛かった。それにサクラがハッと心配そうな顔をしたが、

「ま! よくやったな」

サスケの背後に現れたカカシが足でサスケの背中を支えていた。

「サスケー!! へへ・・・お前さ、お前さ、ダッセー勝ち方しやがって! ボロボロじゃねーか、バーカ!!」

ナルトのその言葉に上で見ていた者たちは次々に声を上げ始めた。その中でも、

――お、大蛇丸が気持ち悪いです・・・!!

サスケが呪印を押さえ込んでしまったことに驚愕の表情を見せたかと思えば、ヨロイを倒してしまったことに舌なめずりをしながらじっと見つめているのだ。よほど嬉しかったのだろう。

そのサスケはというと、そのままカカシにつれられて会場の奥へと行ってしまった。
そして、電光掲示板に第二回戦のザク・アブミ対油目シノの表示が出ると、その2名が下へ移動し、すぐに戦闘が開始された。

その直後、スッと消えた1つの気配。
ミコトはその消えた気配のあった場所をじっと睨み付け、静かに口を開いた。

「火影様。」

「・・・どうした。」

唐突に声をかけられた火影様が振り向くと、いつになく真剣な面持ちをしたミコトの顔があった。

「突然すみません・・・僕もはたけ上忍のところへ行きたいのですが・・・。」

「おお、そうか。おぬしも行ってくるがよい。」

今カカシが行おうとしていることは、サスケの呪印を押さえ込むための封印だ。その封印術は超高等忍術で、使用できる者もなかなかいないだろう。それを見るのは勉強になると、火影様はミコトの申し出に快く了承を出すと、ミコトは「ありがとうございます」と言って瞬身の術で消えてしまった。










何本もの柱が立っている中、少し空いている空間に黒髪の少年が座り込み、その少年の周りの床には円状にクナイが突き刺されている。そして、少年の首のアザを中心にして、周りに何列もの文字を己の血で書いている銀髪の青年が、「よし!」と言うと、その少年の背後に立った。
どうやら何かの準備が整ったらしい。

「少しの辛抱だ。」

すぐ終わる、と言って青年はすばやく印を組み、少年の首のアザに手を押し付ける。すると、その途端に苦しみ始めた少年。少年の周りに書かれていた血文字がズズズ・・・とアザの方へ吸い込まれるように消えていく。
青年が手を退けたときには、アザの周りを血文字が囲っていた。
これで全てが終わったようだ。
それを施された少年は息も絶え絶えとなっている。

「今度、もしその呪印が再び動き出そうとしても・・・この“封邪法印”の力がそれを押さえ込むだろう。ただし・・・」

全てが終わって話し始めた銀髪の青年。この青年こそ、先ほどの“第三の試験”の予選第一回戦で勝利したうちはサスケを連れ出した人物、はたけカカシだ。そして、“封邪法印”をされた黒髪の少年がサスケである。

「この封印術はサスケ・・・お前の意思の力を礎にしている。」

“封邪法印”とは、呪印の効果を最小限に留める法印術だ。
しかし、その術を施された者が、己の力を信じず、その意思が揺らぐようなことがあれば、呪印は再び暴れだしてしまう。

「ガラにもなく、そーとー疲れたみたいだな。」

その説明が終わった直後、ドサッと倒れてしまったサスケにカカシがポツリと呟いた。と、その時だった。


「封印の法術まで扱えるようになったなんて・・・成長したわね・・・カカシ。」


カカシは背後からかかった声に「アンタは・・・」と言いながら、振り返る。と、そこには忍服を着た長い黒髪の男。

「お久しぶりね、カカシ君。」

「・・・・・・大蛇丸・・・。」

にこやかに挨拶をしてきたこの男こそ、この現状を作り出した張本人、大蛇丸だった。
カカシの顔にはわずかに汗が浮かんでいる。その様子に大蛇丸はニヤリと笑った。

「でも、悪いけどカカシ君には用ないのよ。あるのはその後ろの子。」

「・・・なぜサスケをつけ狙う・・・!」

カカシは大蛇丸から視線を外さず、じっと睨み付ける。すると、視線の先の相手はフンと鼻で笑い、嫌な目つきでカカシを見つめながら言う。

「君はいいわよね・・・もう手に入れたんだからね・・・。昔は持ってなかったじゃない・・・それ。その・・・左目の写輪眼!」

視線はカカシの斜めにつけている額あてへと注がれている。

「私も欲しいのよ・・・うちはの血がね。」

その言葉に、眼光を鋭くしたカカシ。

「サスケにこれ以上近づくな・・・。」

そう言うと己の右腕に雷撃を溜め始める。これはカカシの技である“雷切”だ。

「いくらアンタがあの三忍の1人でも・・・今の俺ならアンタと刺し違えることくらいは出来るぞ・・・!」

すでにカカシの右腕からはバチバチと音が鳴り始めている。しかし、

「何がおかしい・・・・・・。」

目の前の相手は突然笑い出したのだ。そして、その笑いが止まると、カカシをじっと見つめてこう言った。

「すること言うこと・・・全てズレてるわね。」

ニヤニヤと笑っている大蛇丸に、ますます睨みを利かせるカカシ。緊張感が高まってきたその時だった。


「はたけ上忍、もう封印術終わってしまいましたか?」

「え?」

間抜けな声を出したのはどちらのほうだったのか。

「ミ、ミコト!?」

どうしてここに!? と目を開いて驚愕しているカカシの前には、大蛇丸の隣に並んで立っている金色の青年。その青年、ミコトは目を細めて微笑んでいる。

「はたけ上忍、少し落ち着いてください。早くサスケ君を病室に連れて行きますよ。」

そう言うと、すぐに気絶しているサスケのそばへと行き、「うわぁこれが“封邪法印”ですか!」と目を輝かせながらサスケの首もとを見つめるミコト。その言葉にハッとしたカカシは、右腕に溜めていたチャクラを消し去り、大蛇丸に「目的は何だ?」と問いただす。

「最近できた音隠れの里・・・・・・アレは私の里でね・・・これだけ言えば分かるわよね・・・。」

「くだらない野望か・・・。」

「まぁそんなよーなものね・・・で、その為には色々・・・いいコマが必要なのよ。」

大蛇丸の言葉にサスケを診ていたミコトがピクリと反応した。が、カカシはミコトが背後にいるため、そんな様子に気づくはずも無く、大蛇丸をずっと睨み付けている。

「サスケもそのコマの・・・・・・1人ってわけか・・・。」

カカシのその言葉に笑みを濃くした大蛇丸が答える。

「違うわ。サスケ君は・・・・・・優秀な手ゴマ・・・。そして今試験を受けている彼らは・・・ただの・・・」


捨てゴマよ


しんとその場は静まり返った。大蛇丸は依然として笑っている。それにカカシは再び右腕にチャクラ溜め込もうとした瞬間、

「・・・彼らは」

「・・・・・・ミコト・・・?」

カカシは突然背後で声を出したミコトに振り返って顔を向ける。そのミコトはサスケをじっと見ているため、表情は分からない。が、ミコトのこんなに低く、唸るような声は聞いたことがなかった。

「彼らはあなたのことを信じて必死に戦っています・・・そのあなたがそのようなことを言うのでしたら、」

ミコトがスッと立ち上がる。そして、

「!!?」

カカシの目が驚愕で見開かれた。目の前に立っていたミコトが消えてしまったのだ。
カカシは突然消えてしまったミコトを探そうとしたその瞬間、

――なんて殺気なんだ・・・!!!!

クッと思わず声をもらしたカカシ。ミコトが消えた直後、この空間をものすごい殺気が充満したのだ。この殺気のせいで上手く身動きがとれない。
いったいどこから? と動く眼球で探すと、殺気が発せられている場所、それは大蛇丸の背後だった。大蛇丸の背後から見えているのは金色の光。


「僕が許しませんよ・・・。」


その声はミコトのもので、それは大蛇丸の後ろから聞こえたのだ。

――今のは・・・飛雷神の術か・・・!!

じっとミコトを見つめていたカカシが、ミコトの動きを見ることができなかったのだ。目の前で消えた。・・・そんなことはありえない。
考えられることは自分の先生である四代目の異名の由来にもなった術である、“飛雷神の術”しかない。しかし、あれには必ずあれが必要になるはず・・・と考えて思い出すのは、

――あの時か!

ミコトが現れたとき、大蛇丸の横に並んで立っていた。
きっとそのときにこの術に必要不可欠である“術式”を貼り付けたのだろう。
大蛇丸相手にそんなことができるミコトは一体何者だろうか。それに、なぜこの術をミコトが知っているのか。
大蛇丸の背後で殺気を放っているミコトにカカシは息を呑んだ。
その姿があまりにも先生に似すぎていたから。
と、その時、ミコトの前に立っている大蛇丸からククク・・・と笑い声がもれだした。そして、

「あなた・・・まだ1度も任務に就いたことがないんですってね。・・・・・・もったいない。」

舌なめずりしている大蛇丸にカカシは思わず眉間に皺を寄せる。この殺気の中、平然としている大蛇丸はさすが伝説の三忍と言われるだけの忍である。が、カカシは今の大蛇丸の言葉に疑問を感じた。

――すでにミコトと大蛇丸は接触したのか・・・?

大蛇丸はミコトのことを何かしら知っているようだ。
確かにミコトは今まで1度も任務には就かず、医療関係だけに従事してきた。そのため、他の里の者たちには全く知られていないのだ。
医療以外の忍術は見たことがない。が、しかし、今目の前では簡単に大蛇丸の背後をとってしまったミコトがいる。ミコトは他に何を隠し持っているのだろうか。

「大蛇丸・・・」

ミコトが低く呟く。と、その時、大蛇丸の口からゴボッと血が吐き出された。
カカシは突然のことに目を見張った。
大蛇丸の左胸からクナイの先が見えているのだ。
そのクナイは背後に立っているミコトが刺したものだろう。
そこを刺されれば人間であれば死んでいるだろうに、ミコトの殺気は一向に消えない。
それどころか一層増したような気がする。
この場にいるのが耐えられなくなってきたカカシがなんとか口を開こうとする。と、

「きちんと姿を現してください・・・。」

カカシは首を傾げた。ミコトがどこかに向かってそう呟いたのだ。
何のことかと訊こうとした次の瞬間、ボンッと音を立ててミコトの前にいた大蛇丸が消えてしまった。

「影分身か・・・!」

カカシはすぐに姿勢を低くして本体である大蛇丸を探す。が、簡単には見つからない。しかし、ミコトはじっと暗闇の中のある一点を見つめていた。カカシはそれに気づき、その方向へと顔を向ける。と、そこはやはり暗闇だけが広がっているように見えた。が、

「フフ・・・バレてたみたいね。」

あなた、厄介ね・・・、と言って暗闇から出てきた大蛇丸はうっすら汗をかいている。やはりこの殺気の中では誰も平然とはしていられないようだ。眼光がさらに鋭くなったミコトに、大蛇丸がクッと声をもらす。しかし、

「・・・そんな封印してみてもまるで意味ないわ。」

「何!?」

薄笑いを浮かべて言った大蛇丸に透かさず反応を示したカカシ。

「分かるでしょ・・・・・・目的のため・・・“どんな邪悪な力であろうと求める”心・・・彼はその資質の持ち主・・・復讐者なのよね。」

「そこにつけこんだのか・・・だがサスケは・・・」

「いずれ彼は必ず私を求める。力を求めてね・・・!!・・・・・・それとミコト君?」

大蛇丸がにこりと微笑む。

「私はあなたとじっくりお話がしてみたいわ。」

「・・・・・・僕はあなたと話すことなんてありません。」

「あら・・・私はあるのよ・・・・・・ねぇ、ナッ!!」

大蛇丸の言葉は唐突に切れた。
それと同時にガッという音がこの空間に響く。
その音のした場所は大蛇丸がさっきまで立っていた場所だった。深々と地に刺さっているクナイを避けた大蛇丸はニヤニヤと笑っている。

――ミコト・・・?

カカシは大蛇丸の視線の先にいるミコトを見て驚いた。
クナイを投げたのはミコトだと分かっていたが、その彼は何故かかなり動揺しているのだ。こんなミコトは見たことがない。
大蛇丸はそんなミコトにクク・・・と笑いをもらす。

「まぁいいわ。サスケ君、お願いね。」

そう言い残すと大蛇丸はどこかへ去っていってしまった。大蛇丸の姿が見えなくなると同時に消えた殺気。
カカシはやっと身動きが取れるようになると、ミコトをじっと見つめた。
先ほどの動揺はどこへいったのか、もうミコトはサスケのそばに立っていた。

「ミコト・・・大丈夫か?」

「え、ええ・・・あまりにも大蛇丸の視線が気持ち悪かったので、つい・・・。」

苦笑いをしているミコトにホッと息をついた。が、

――それだけであんなに動揺・・・・・・


するかもしれない。

思い出すのは舌なめずりをしてじっとミコトを見つめていた大蛇丸の顔。
誰でもあれには動揺してしまうだろう。少し顔色が悪くなったカカシにミコトは首を傾げたが、サスケを抱きかかえると、

「サスケ君を病室に運びますね。」

はたけ上忍は先に会場に戻られてください、と言ってここから立ち去ろうとする。が、

「ミコト・・・お前、大蛇丸に会ったことがあるのか・・・? それにあの“飛雷神の術”は一体・・・。」

ミコトが振り返ると、真剣な目をして見ているカカシがいた。その目があまりにも鋭かったため、ミコトは思わず苦笑をもらした。

「大蛇丸とは第二の試験でちょっと・・・それと、その術に関しては・・・僕はよく物を口寄せするんです。」

「口寄せ?」

ミコトは抱えていたサスケをまた下にゆっくりと寝かせ、ベストの胸元の所から巻物を取り出した。それは口寄せ用の巻物だ。「見ていてください」と言って、その巻物を広げたミコトはポンッと何かをさっそく口寄せする。それは、

「包帯・・・?」

「そうです。」

にこりと微笑んだミコト。

「患者を治療するのに道具が足りなくなることはあってはならないことです。もちろん、できる限りは自分で持ち運びますけど、緊急の時はこれを使うんです。」

また包帯を巻物に戻すと、ミコトはそれをベストへと仕舞いなおす。
カカシはただそれを唖然として見ていた。もしかして、ミコトは・・・

「口寄せって時空間忍術じゃないですか。物だけでなく動物にも使えますよね。だから人間にも使えないかと思ってやってみたんです。・・・それって“飛雷神の術”って言うんですね。」

知らなかったです、とのほほんとした口調でそう言ったミコトにカカシは開いた口が塞がらなかった。
やはりミコトは知らなかったのだ。
“飛雷神の術”は奥義・極意レベルの忍術。それを知らないとはいえ、いとも簡単にやって見せたミコトの力はいったいどれほどのものなのか・・・。

そんなミコトはと言うと、

――本当は知っていましたけどね。

九尾から四代目の“黄色い閃光”の異名にもなったこの術の話は聞いていた。しかし、ここでそんなことを言うわけにはいかない。それに、自分が四代目の名前を出すのもあまりよくないだろう。何故かみんなから“似ている”と言われるのだ。自分の存在自体ただでさえ怪しいのに、これ以上怪しまれても困る。
さっきの説明の中で、この術を会得するのに物の口寄せから考えたのは本当のこと。とは言っても、普通の口寄せのようにはいかず、術式を考えるのに大変苦労したのは記憶に新しい。

それはともかく、今の説明でおかしいところはないだろう、と腕を組んでうんうん頷いているミコトにカカシは首を傾げた。



ミコトがサスケを再び抱き上げ、やっと病室に運ぼうと歩き出したが、その足はすぐに止まった。カカシはミコトの話を聞いて呆然としていたが、動きが止まったミコトを不審に思い「どうかしたのか?」と声をかけると、パッと振り返ってきた。

「はたけ上忍、サスケ君の病室に暗部をお願いしてもよろしいですか・・・?」

「・・・・・・ああ、そうだな。」

カカシはミコトの言葉に頷く。
またいつ大蛇丸がサスケを襲ってくるのか分からないのだ。ミコトに何人か暗部を送ることを伝えると、そのままミコトは去っていった。それを見送ってカカシも会場に戻ろうとする。が、その歩をふと止める。そして思ったこと。


――・・・・・・ミコトは大丈夫なのか・・・?

大蛇丸はミコトと話をしたいと言っていなかっただろうか?
カカシは手をあごにあてて、う~んと考えていたが、


「ま、あいつなら大丈夫だろう。」


その呟きとともにカカシは消えた。










白い空間に囲まれた中、ベッドに寝かされた黒髪の少年。
その少年の口には呼吸器がつけられ、目の上にはコードのようなものが何本か繋がっているものがのせられている。そして、ベッドの横には金色の長い髪を1つに括った青年が気配なく立っていた。その青年はじっと少年を見つめている。と、突如青年が振り返った。

「ミコトさん、ご苦労様です。ここからは我々が見ていますので早く会場へとお戻りください。」

そう言ってサッと金色の青年の後ろに現れたのは動物のお面をつけた3人の男たち。
その独特な格好は暗殺戦術特殊部隊ものである。
彼らがカカシの送ってくれた暗部だろう。

「よろしくお願いします。」

金色の青年、ミコトは真剣な顔で頷くとまた黒髪の少年へと顔を戻した。
その様子をじっと静かに見つめる暗部。

――こいつも厄介な奴に狙われたな。

暗部3人ともが思ったことかもしれない。
呪印はいくら、綱手を継ぐと言われているミコトでさえどうにもならないものである。
押さえ込むことはできても完全に取り去ることなどできない。ミコトを見れば、複雑そうな顔で黒髪の少年を見つめている。

――まぁ、しかし、ミコトさんがいる限り、呪印で死ぬことはないだろう。

この暗部たちはよくミコトのお世話になっている。
暗部の任務はほぼ死がつきものだ。怪我無しで帰ってこれることなど滅多にない。どんなにひどい怪我でも、帰ってくればミコトがいつも治療してくれるのだ。こうして自分たちが生きているのもミコトのおかげだ。
いくら感謝してもしきれないものがある。
と、考えたところでなかなか会場に戻ろうとしないミコトに再び声をかけようと口を開いたその時、

突然ミコトがフッと少年を見たまま微笑んだ。そして、

「失礼します。」

と言って静かに去っていった。



ミコトの最後の笑みに、暗部たちはただ呆然と立ち尽くしていた。










「よろしくお願いします。」と言うと、ミコトはベッドに寝ている黒髪の少年をじっと見つめた。

あの時の大蛇丸の言葉、

――「目的のため・・・“どんな邪悪な力であろうと求める”心・・・彼はその資質の持ち主・・・復讐者なのよね。」

ニヤリと笑った大蛇丸の顔。

――「いずれ彼は必ず私を求める。力を求めてね・・・!!」

今、目の前で寝ている黒髪の少年、サスケの野望は兄であるイタチを殺すこと。そのために彼は今まで必死に生きてきたのだ。
どんな力でも強くなれるのならば、きっとそちらを選んでしまうのだろう。
できれば大蛇丸などについていって欲しくはない。でもそれは、

――僕のわがままですね。

全てはサスケが決めること。復讐というものを止めることができないのは一番自分が分かっている。

サスケがどこかへ行ってしまう前に、“友達”になりたい。
彼を死なせたりなんかしない。これは自分が誓ったこと。



ミコトはフッと笑うと、後ろの暗部たちに「失礼します」と言って、戻っていった。











あとがき

ものすごく原作で申し訳ございません。
私の書くお話は、ナルトさんが関われば多少変わりますが、ここら辺ではなかなかそういうわけにもいかず、この第三の試験の予選はほぼ原作です。
最後のミコトさんの視点のお話はやめておこうかと思ったのですが、あんまりサスケさんのところを削りすぎるのもよくないかな・・・と思い、残しておきました。
続けて2話更新しようと思いますので、もしよろしかったらお読みください。



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 第28話
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2008/01/16 19:05






本体さん、カカシ先生についていったんですね・・・。


ずるいです!!


僕も封印術見たいですよ。


でも、大蛇丸も行かれたみたいですし、きっと何かあっているはずですね。


本体さんも大変です。


あ! 今シノの勝ちが決まりました!


シノの冷静さは本当にすごいです。


音忍の手の風穴に蟲を入れてあっただなんて、焦っていた音忍には気づかなかったでしょうね。


風穴で攻撃しようとした音忍の腕は蟲たちが詰まっていたせいで暴発してしまい、右腕が弾け飛んでしまいましたが・・・


医療班の方々でどうにかなるでしょう。


ん? やっとカカシ先生が帰ってきましたね。



・・・・・・大蛇丸とは何があったんでしょうね。







NARUTO ~大切なこと~ 第28話







「よっ!」

暢気な声がナルトとサクラの後ろから聞こえた。
2人が振り返ると、そこには片手を軽く上げたポーズをとっている銀髪の男。

「カカシ先生!」

「“よっ”じゃないわよ! カカシ先生、サスケ君は? サスケ君は大丈夫なの!?」

ナルトは銀髪の男の突然の出現にいかにも驚いたという顔をし、サクラは先ほどから気にしていたサスケのことを一方的に捲くし立てた。

「ま、大丈夫だ。今、病室でぐっすりのはずだ。」

カカシから出たその言葉にサクラは少し疑問を抱いたがホッと息を吐く。と、その時、電光掲示板に第三回戦である“ツルギ・ミスミ”と“カンクロウ”の名前が表示された。
ナルトは“カンクロウ”の名前を見て眉間をしかめた。

そんな反応を示したナルトにもわけがある。
実は中忍試験前にカンクロウを含めた砂忍3人にはナルトやサクラ、サスケは会っていたのだ。




まだ中忍試験を受けることさえ聞いていなかった(大蛇丸に消される前の影分身の)ナルトと、(ナルトがアカデミーを卒業したことを報告しに火影様に会っていた時、突然飛び込んできて「勝負だ、コレ!」とか失礼なことを言ったので叱りつけたら子分になった)木の葉丸と他2名が忍者ゴッコをしようとしていた時のことだ。

その時、ナルトのそばで何故かかなり落ち込んでいたサクラを木の葉丸が怒らせてしまい、何故かナルトまで一緒に追い掛け回されていると、木の葉丸が“カンクロウ”にぶつかってしまったのだ。
たいして痛くもないだろうに、「いてーじゃん」と言って木の葉丸の胸倉を掴んで殴ろうとするカンクロウに木の上にいたサスケが石を投げつけ、カンクロウが手を離した隙にナルトが木の葉丸をキャッチした。
その後、額に“愛”の文字がある少年が出てきてその場は納まった。が、木の葉丸に怪我がなかったものの、ナルトは子供たちに怖い目を見させたカンクロウにわずかに嫌悪を抱いたのだった。




――まぁ、ミコトとしては彼も受験者ですし、嫌悪なんてしちゃいけませんね。

ナルトの見つめる先にはすでに名前を表示された両名が下へと降りていた。そして、

「それでは第三回戦、始めてください。」

ハヤテが合図を出すと、ツルギがカンクロウに言葉による挑発をかけ、「速攻でケリをつける」と凄む。しかし、

「なら俺も・・・速攻でケリつけるじゃん。」

背負っていた包帯で何重にも巻いている物体を下ろし、堂々と宣言するカンクロウ。

そうして始まったこの試合は本当に速攻で終わってしまった。








バキッ!! ゴキッ!!

「骨まで砕けばもっとグニャグニャになれるじゃん・・・。」

「ぎ・・・ギブアッ・・・あぐわあぁああ!!」

「ただし・・・首以外にしといてやるよ。」

会場に何かが折れる音とツルギの悲鳴が響き渡った。
誰もがツルギの勝ちだと思っていた。しかし、それはカンクロウが傀儡師だったことによって覆された。

戦闘が始まってすぐ、ツルギがカンクロウを捕らえた。ただ捕らえたのではない。
情報収集の為、どこにでも忍び込めるようにと体を改造したツルギは、あらゆる関節をはずし、グニャグニャになった体をチャクラで操るという、人間離れした技を持っていた。
そのグニャグニャの体で巻きつかれたカンクロウは、「ギブアップしろ」というツルギの言葉を聞かず、挑発までして、仕舞にはゴキッと首の骨を折られてしまった。
これでツルギの勝ちは決まりだろう。
と、思われた次の瞬間、首を折られたはずのカンクロウが振り返り、ツルギの体を拘束していく。実は、カンクロウだと思われていたものは傀儡人形だったのだ。

本体のカンクロウはというと、初めにカンクロウが床に置いていた包帯でぐるぐる巻きにしていた物体にじっと隠れていたのだ。
そしてそのままツルギを拘束していた人形でツルギの骨を砕いたのだった。

「試合続行不可能により、勝者カンクロウ!!」

では続いて第四回戦を始めますね、とあっさり進めていくハヤテ。その時、ナルトはいまだに帰ってきていないミコトに疑問を抱いていた。そしてナルトと同じことに対して疑問を抱いていたのはもう1人。





――ミコトさん・・・第二回戦からいなくなっちゃったけど・・・どこにいったのかしらー・・・

白金の長い髪を高い位置で結わえている少女がため息をつく。
先ほどからこの少女はちらちらと火影様の横に立っていた金髪の青年を見ていたのだが、第一回戦が終わるとその青年はどこかへ行ってしまったのだ。
その青年は少女にとって憧れの存在だ。青年が見ているからがんばろうと思っていたが、もしこのまま戻ってこなかったら・・・と思うと、せっかくのその気合も下がってしまう。
少女はまたため息をついた。と、その時だ。

「おい、いの。さっきから何ため息ついてんだよ。」

メンドクセーと呟いている黒髪を結だ少年は同じ班である奈良シカマルだ。そして、

「そうだよ、いの。あれ見てみなよ。」

そう言ったのはぽっちゃり系の秋道チョウジだ。白金の髪の少女、いのはチョウジがどこかを指差していることに気づき、顔をそちらのほうに向ける。と、

「あ!」

そこにはハルノ・サクラVSヤマナカ・イノと書かれた電光掲示板があった。








会場の中央には2人の少女が睨み合っている。
彼女たちは第四回戦の対戦者たちだ。

「まさかサクラー。アンタとやることになるなんてね・・・。」

いのが目の前の少女、サクラに向かって呟く。すると、サクラはまるでリボンか何かのように頭にしていた額あてを取り去った。そして、

「今となっては・・・アンタとサスケ君を取り合うつもりもないわ!」

「なんですってー!」

サクラの言葉にいのは怒りの声を上げる。そんないのに対し、サクラはまだ続ける。

「サスケ君とアンタじゃ釣り合わないし・・・もう私は完全にアンタより強いしね! 眼中なし!!」

どうして突然そのようなことを言い始めるのか。
サクラはじっと睨み付けるようにこちらを見ている。
そんなサクラに対し、いのも顔には怒りを浮かべている。が、

――ありがとう、サクラ。

サクラの言いたいことが本当はそんなことじゃないのは気づいている。
サクラがこんなことを言うような子じゃないのは自分が一番知っているから。
これでサクラに言ってないお礼は2回目。

「サクラ・・・アンタ誰に向かって口きいてんのか分かってんの!! 図に乗んなよ泣き虫サクラがー!!」

自分に本気でぶつかろうと思っているサクラに応えなければ。

――それに・・・

いのはちらりと上にいる1人の人物を見る。それは金髪の青年。そう、ミコトだ。
いのたちが下におりるとほぼ同時に戻ってきたようで、今は火影様と何かを話している。
これからきっとミコトも自分の試合を見るはずだ。
こちらも負けるわけにはいかないのだ。

いのも腰に巻いていた額あてを取り去る。そして2人はそれをきっちり額に巻きなおす。

これは2人の決まりごと。


――正々堂々・・・勝負!!


2人が同時に駆け出すと、すぐにサクラが分身の術の印を組み、3人になっていのに迫る。

「アカデミーの卒業試験じゃないのよー。そんな教科書忍法で私を倒せると思ってんのー!」

いのは冷静にどれが本物かを判断しようとする。が、しかし、

「キャ!!」

いのは思い切り殴り飛ばされた。
突然目の前で速さの上がったサクラの拳が顔にあたったのだ。

「今までの泣き虫サクラだと思ってると、痛い目見るわよ。本気で来てよ、いの!」

そう言ってすごい剣幕で凄むサクラ。それに対し、

――やっと私の名前呼んだわねー・・・

いのは口の切れた部分を拭いながら立ち上がる。
思えば、サクラがサスケを好きだと言った頃からだろうか、サクラは自分のことをまともに呼んだことがなかったような気がする。
今の、本心からのサクラの言葉が嬉しかった。
いのはニッと笑うと、

「そう言ってもらえると嬉しーわ・・・お望み通り・・・本気で行くわよ・・・・・・!」

立ち上がり、再びサクラに向かって駆け出す。
そして取っ組み合うが、両者とも一歩も引かないためその場をザッと離れる。と、今度は手裏剣を投げ合う。しかし、その手裏剣も相打ちし、床へと落ちていった。

それは10分間にも及んだ。


――サクラ・・・いつの間にこんなに強くなったのよ!!

いのとさくらの拳がお互いの顔にガッと当たった。そのまま2人は後方へと吹っ飛び倒れてしまう。しかし、2人はすぐにまた立ち上がった。

会場には2人の苦しそうな息遣いが妙に耳に付く。

「アンタが私と互角なんて・・・あるはずないわよー!」

いのの叫びにサクラはフンと鼻で笑い、

「見た目ばかり気にしてチャラチャラ髪伸ばしてるあんたと・・・私が互角なわけないでしょ!」

いかにもいのは劣っているという態度で話すサクラにピクリといのは反応した。
いのの長い髪、これはサクラのために伸ばしたようなものだった。
自分を見てくれなくなったサクラに気づいて欲しくて、伸ばし続けていた髪。でも、

――もういらないわー

今こうして、サクラは自分をきちんと見てくれているから。
だからもうこの髪はいらない。

「アンタ! 私をなめるのも・・・たいがいにしろ!」

いのは左手で自分の髪を掴み、右手に持っていたクナイでザクッと切る。

「オラァァァァア!!」

こんなものー! と言って地面にその髪を投げつけると、キラキラと輝き舞いながら散らばっていった。

これでいいのだ。

「さっさとケリつけてやるわ! すぐにアンタの口から参ったって言わせてやるー!」

いのはさっと独特な印を結ぶ。すると、

「心転身をやるつもりだ!!」

同じ班の黒髪の少年の焦った声が聞こえてきた。あいつのあんな焦った声は珍しい。

「焦る気持ちも分かるけど、それはムダよ。」

この印を見てサクラはニコリと笑う。しかし、

「フン! どうかしらねー!」

そう言っていのはサクラを挑発する。すると、サクラはこの術について説明を始めた。

忍法・心転身の術とは、術者が自分の精神エネルギーを丸ごと放出し、敵にぶつけることにより、相手の精神を数分間のっとり、その体を奪い取る術。しかし、この術には重大な欠点がある。
第一に術者が放出した精神エネルギーは直線的かつゆっくりしたスピードでしか飛ばない。
第二に放出した精神エネルギーは相手にぶつかりそこねてそれてしまった場合でも数分間は術者の体にも戻れない。さらに言うならその間の術者の本体はピクリとも動かない人形状態になってしまうのだ。

「だからって何よー! やってみないと分かんないでしょ!」

いのはサクラを睨み付ける。

「はずしたら終わりよ・・・分かってるの・・・・・・ねぇ?」

そう言うと、サクラはザッと走り出す。それを見ていのは透かさず心転身の術を発動した。
それによりいのはガクリと急に座り込み、項垂れる。走り出したはずのサクラはその場にただじっと突っ立っていた。
いったい術は成功したのだろうか。
と、その時、サクラからフフ・・・と笑い声がもれた。そして、


「残念だったわね・・・いの。」


顔を上げたサクラはいのではなかった。
誰もがもうサクラの勝ちを感じただろう。だが、しかし、

「こ・・・これは!」

サクラの足に巻きついた髪の毛。それはいのが切り捨てたものだ。

「かかったわねサクラー。」

いのはいつの間にか顔をあげ、床に手をついている。その手からは髪が一本の縄のように繋がって、それがサクラの足を拘束していた。

「さっきの印を結ぶ行為はただの芝居。ちょろちょろ動くアンタをこの仕掛けに追い込むためのね。」

いのはニヤリと笑う。

「どう? 全然動けないでしょ。私の髪にチャクラを流し込んだ特製の縄よ。」

床についていた手をどけ、その髪でできた縄を足で踏みつけると、再び心転身の術の印を組む。これでこの術がもうハズれることはないのだ。

「これでアンタの体に入って“ギブアップ”って言えばおしまい! じゃ・・・」


――心転身の術!!!


今度こそ本当にいのの体はガクッと床に座り込んだ。
そしてサクラからはまたフフ・・・という笑い声がもれる。そして、


「残念だったわね・・・サクラ!」


顔を上げたサクラはサクラのはずなのに、いつもと違っていた。
それはいのの術が成功したからだ。これで勝敗は決まってしまった。

――じゃあね・・・サクラ

「私・・・春野サクラはこの試合・・・棄権・・・・・・」

サクラはスッと右手を上げ、この試合を終わらせるための言葉をつむぎ始める。が、しかし、


「ダメだぁっ!! サクラちゃん!!」


バッと振り返ったサクラの目には金色が飛び込んできた。サクラは目を見張った。それは、

――ミコトさん・・・?

いや、違った。

「ガンバってここまで来たのに・・・・・・ここで負けたら女がすたるぞー!!」

ミコトがあんな風に吼えるはずがない。そう、あれはナルトだ。
サクラの体でいのは軽く首を振る。
ナルトとミコトを見間違えるなんて、ありえない。今の自分は思っている以上にかなり疲れているようだ。
早く終わりの言葉を言わなければ。
でも、

――なんなのよー・・・!!

なぜか今のナルトの応援が気になって、心がモヤモヤしている。
ちらっとミコトを見れば、心配そうな面持ちでこちらを見ている。
その目にはどちらが映っているの?
サクラ? それとも私?
ミコトに、いや、誰でもいいから自分の名前を読んで欲しいと思った。と、その時、

――・・・ナルトの奴うるさいわねー・・・

頭の中に聞こえてきたのは体の持ち主であるサクラの声。

――それにしてもそうだわ・・・私がこんな奴相手に・・・

サクラが目を覚ましたらしい。
いったいどういうことなのか。今までこんなことはなかった。

頭が割れるように痛い。

「どうしたんですか? 棄権ですか?」

審判の声が聞こえる。そうだ。自分はなんとしても勝ちたいのだ。早く言ってしまわなければ。“棄権する”のたった一言。しかし、


「棄権なんかして・・・・・・たまるもんですかーーーーッ!!」


開いた口から出たのは否定の言葉。
頭の中では自分よりもはるかに大きなサクラが早く出て行けと手で握り締めてくる。
これではこちらのほうがもたない。

――解!!

いのはすぐに自分の体へと戻っていく。その途端に膝をついたサクラ。

「精神が2つあるなんて・・・あ・・・あんた何者よ!?」

いのは荒い息をしながら、自分の精神を追い出してしまったサクラに驚きの声を上げる。

「ふ・・・知らなかった? 女の子はタフじゃないと生き残れないのよ!!」

同じくサクラも荒い息をしながらいのに言葉を返す。
もう2人とも疲れ果てている。が、ゆっくり立ち上がると、ニッと笑って駆け出す。そして、

ガッ!!!!

2人の右拳はお互いの右頬を殴りつけた。


――あ・・・

いのは目の前が薄れていくのに対し、頭の中に鮮明に見えてきたのは、

――コスモスとふじばかまとそれから・・・



優しく笑った幽霊みたいな女の子。



フッと幸せそうに笑うといのの意識はそこで途絶えた。






ドサッと2つの倒れた音のあと、この試合の終わりを告げるハヤテの声が会場に響いた。











あとがき

予選の戦闘は飛ばして書いてしまおうかと思ったのですが、せっかくなので粘って書いています。でも、一番かわいそうなのはシノさんです。
シノさんは冒頭のナルトさんの話の中で終わってしまっています。

このお話の中で、予選後に入れる番外編の内容が少しだけ出ていました。
予選後の番外編は楽しく読んでいただけるよう、がんばりたいと思います。
次はちょっと番外編らしきものです。
よろしかったら、お読みください。



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 第29話
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2008/01/16 19:17










高く澄み渡った青空の下、アカデミーの花壇の前にポツンと佇む1人の少女。







NARUTO ~大切なこと~







その少女は膝を抱え、顔を伏せて座っている。長い白金の髪を高い位置で結わえているこの少女、山中いのだ。彼女は今年アカデミーに入学した忍者の卵。
くの一クラスでは成績もよく、彼女の周りにはいつも同じくらいの子供たちがいて、明るい声が絶えることはなかった。
しかし、そんな彼女が今は何故かたった1人。
顔を伏せているいのからはしゃくりあげる声がもれている。
それとともにポツリポツリと混じっている言葉。


「み・・・んな・・・ヒック・・・本当・・・の、友達・・・な・・・んかじゃ・・・ない・・・!」

みんなみんな、友達なんかじゃない。

思い出すのは今日の手裏剣投げの試験のこと。










「何やってんのよ、いの!」

「あ、あれー?」

おかしいなーと苦笑いを浮かべるいのに、周りの子供たちは一瞬驚き、ひそひそと小さな声で話し始める。
今は手裏剣投げの試験中。
いのはこの子供たちの中で群を抜いて成績が良かった。手裏剣の練習でもいつも的の中心に当てていた。それなのに、今いのの目の前にある的には何も刺さっていなかった。
その的の横には2枚の手裏剣が転がっている。
そう、いのが投げた手裏剣が2回とも的に掠りもせずに落ちてしまったのだ。

――なんでよー・・・!!

いのはじっと的を睨み付け、この最後の一枚に集中しようと試みる。が、周りの子供たちの小さな声が妙にはっきりと耳に聞こえてしまった。


「あのいのがねぇ。」

「私でさえ的には当たったのに。今までまぐれだったのかしら。」

「はは、運良すぎだろ! でも次当たらなかったら決定だね。」


そんな囁きがだんだんと広がっていって。
気にしちゃだめだ、といのは顔を振り、今度こそは当てなければ、と再び構えて最後の手裏剣を思い切り投げた。しかし、

「あ・・・。」

今度はさっきよりも大きく逸れて、的の上を越えていってしまった手裏剣。
いのはキュッと下唇をかんで的を睨み付けた。
どうしてだろうか。なぜ、今日に限って失敗してしまったのだろうか。
あんなに練習したのに。
本当にどうして・・・。
いのは泣きそうになるのを必死に堪えて他の子たちが座っているところに戻っていく。



「やっぱり」と小さく笑った子供たちの声と、先生の吐いたため息が耳に残った。








ざわざわと騒がしいくの一の教室。もう今は全てが終わり、放課後の時間だ。
みなが談笑している中、いのはホッと息をついた。

――やっと終わったー・・・

今日はあの試験のせいもあってか、アカデミーが終わるまでが長く感じられた。
いのは急いで荷物を片付けて、目指すは友達のところ。

「アミちゃん一緒に・・・」

いのが明るく声をかけようとした長い黒髪の女の子は荷物を持つとスッと立ち上がり、

「ねぇ、今日はあそこによってかない?」

ほらぁ前から行きたいって言ってたとこ! と言って、こちらを見もせずに他の2人のところに行ってしまった。いのはアミの行動に少し呆然としたが、またすぐに笑顔になる。

「私もそこ行きたかったんだー! 一緒に行ってもいいでしょー?」

アミと話している2人も含めていのの友達だ。いつも一緒に行動している。だから今日も一緒に行けると思っていた。しかし、

「いのぉ・・・アンタ手裏剣術の練習したほうがいいんじゃない?」

振り返ったアミはニヤリと嫌な笑みを浮かべている。それを聞いた2人はクスクスと笑う。
いのは突然のアミの豹変に息を呑んだ。いや、変わったのはアミだけではない。アミの後ろにいる2人もだ。と、思ったら、

「な・・・んで・・・?」

笑っているのは2人だけではなかった。
周りのみんながこちらを見てひそひそと話したり、笑ったりしている。
一体自分は何かしたのか。どうしてみなそんな風に自分を笑うのか。

――わかんない・・・

わかんないよ!!



ドンッ!

「痛ッ!!何するのよ、いの!!」

アミはいのの行動に声を荒げる。突然いのがアミを押し倒し、教室から出て行ったのだ。
いのはアミの怒鳴り声にも構わず、走った。

その空間にいることができなかった。



みんなの視線と声がうるさくて耐えられなかった。










そうして飛び出してきて、今の状態に至る。
今日の試験や、さっきのクラスのみんなのことを思い出すだけで苦しくなるが、一頻り泣くとだんだんと呼吸がもとに戻ってきたいの。しかし、ずっと頭から消えてくれない友達の嫌な笑顔。
いのはくしゃっと顔を歪めた。
初めて試験で失敗してしまった。あんな失敗は初めてだった。でも、

――力みすぎた・・・

失敗の原因は分かっている。落ち着いた今だからこそ分かったことだ。
たった一回の失敗だけど、みんな離れていってしまった。
悲しい、寂しいよ。
・・・・・・でもそれも本当は分かっていたこと。

みんなが自分の表面しか見ていないって。

良い成績をとれば、みんなが自然と集まってきてくれた。
だから必死で嫌いな勉強もがんばってきた。
全部、全部がんばってきた。
・・・・・・でも失敗してしまった。
成績が良い自分にみんな近づいてきていたから、失敗すればみな離れて行く。それは分かっていたことなんだ。
だからいのは“独り”。
たった一回の失敗で独りになってしまった。

いのはギュッと抱えていた膝をさらに強く掴む。目にはじわじわと涙が迫ってくる。
泣くもんか、泣くもんか!!
そう思った時だった。


「この花、綺麗だよね。・・・あれ? 名前なんだっけ?」


いのは突然横から聞こえてきた声にビクッと肩を揺らしたが、声をかけてきた人物を見ようと横目でちらりと伺う。すると、目に入ってきたのは暗い色。どうやらその人物の着ている洋服の色らしい。
返事をしないいのに構わず、そのままその子は隣に座ってきた。声からして女の子。
いのは顔を見られないように伏せて、またちらりと横を見ると、そこには、

――うわー・・・ゆーれーみたい・・・

長いピンクの前髪が目まで隠してしまっている女の子。
その子はまだ前を見ながらう~んと悩んでいる。
そう言えば、自分の前には何があっただろうか。教室を飛び出して、とにかく誰もいないところに行きたいと思ってたどり着いたのがこの場所だった。全く周りのものなど目に入らなかったから、ここがどこであるか実は分かっていない。
先ほど隣に座っている子が“花”と言っていた。自分の前にはいったい何の花が咲いているのだろうか。

いのは少しだけ顔を上げて見た。それを見たいのはまた顔を歪めた。
目の前には、まるで失敗した自分をあざ笑っているかのように咲いている赤や桃色、白の様々な花たち。それは、

「・・・・・・コスモスよー。」

秋の代表的な花、コスモス。花言葉は“乙女の真心”。
“真心”だなんて、今の自分とは正反対の言葉だ。

いつも自分は自分を偽ってばかり。

いのはちらりと横を見る。
短い一言だったが、少し涙声になってしまった。隣の少女は気づいただろうか。

「あ! それだ! コスモスだよね。」

そうそうと言って頷いている少女。気づいていないのか、それとも気づいていても気にしないふりをしてくれているのか、どちらでも良いがちょっと安心した。すると、

「髪、とってもきれいだね! ・・・・・・本当はね、コスモスよりもあなたの髪がきれいで、近くで見たいと思って来たの。」

そう言ってこちらに向かってはにかむように笑った少女に、いのはまた顔を歪めた。
確かに自分は髪に気を使ってきた。長い髪の毛は痛みやすいから、かなりの注意を払っている。綺麗にしておけば、みんなが声をかけてきてくれたから。
いつもなら誉められて嬉しいはずなのに・・・・・・今は嬉しくない。
と、その時、コスモスの花壇の中に違う花が咲いているのが目に入った。あれは、

――ふじばかま・・・

花言葉は“ためらい”、“遅延”、“躊躇”だっただろうか。

そうだ。
自分はいつもためらってばかりだ。
いつも周りばかりを気にして、自分を出さないように、みんなに好かれるようにと自分を偽って、そのままずっと流されていた。言いたいことも言えなくて。こんなことを言ったら嫌われると躊躇して。

なんて馬鹿なんだろう。

自分を出さなければ人の中身なんて他の人が分かるわけがない。
表面しか見てもらえないのはそれが一番の原因ではないか。
ちらりと横を見れば隣の少女はずっと自分の髪を見てニコニコと笑っている。何も言葉を返さない自分にずっと笑いかけている。不思議な子だ。
そんな少女に今の自分の気持ちを言ってみてもいいだろうか。

・・・いや、今言わないと変われない気がする。


「・・・・・・私、髪切ろうかな。」


意地悪なことを言ってしまったのは自分でも十分わかっている。
でも、今はこの長い髪を切ってしまいたい気分。
それに、隣にいる子は他の子たちと違う気がしたんだ。
そっと覗いてみれば、少女は驚いたような顔をしてこちらを見ている。

やっぱり、こんな自分は嫌われるだろうか。

本当の自分がどんなものかだなんて、はっきりとは言えないけれど、今思った気持ちは嘘でもなんでもなくて。本物なんだ。
やっと素直に言えた言葉は、大変意地悪なものだったけれど、どうか許してほしい。

いのは泣きそうな顔を隠すために自分の膝を見つめていた。が、次の瞬間、


「うん! とっても似合うと思うよ!」


思わずバッと顔を上げた。
この子は他の子と違うと思ったのは自分だったけれど、こんなにしっかりと肯定してくれるとは思わなかった。この子が誉めた髪を切ると言ったのだ。
普通だったら、怒るでしょう? それなのに、

そう言ってくれた少女は今まで見た中で一番綺麗な笑顔をしていた。


「ど、どうしたの・・・?」

どこか痛いの? と今度は不安そうな顔をして慌てている隣の少女。

泣いてしまった。

今の自分の顔はすごく汚いだろう。
ボロボロと涙が零れて、鼻水が止まらない。
その子のエメラルド色の目があんまりにも綺麗だったから。
そんなに必死になってがんばらなくていいんだよって言っているみたいだったから。

「ううん。・・・大丈夫、どこも痛くないよ。」

そう言ってまた顔を伏せた。
本当は心が痛かった。でも、この痛みは嬉しさからくるものだったから言わなくていい。
“自分”を認めてくれたこの子の言葉が本当に嬉しかったんだ。

横から「そっか・・・良かった」って声が聞こえて今度は声を上げて泣いて。



無言で背中をさすってくれる手があたたかかった。





どのくらいそうしていただろうか。
やっと止まった涙に、フーと息を吐く。そして恐る恐る顔を上げたら、少女はさっきと変わらない笑顔でこちらを見ていた。
驚いた。結構長い時間が経ってしまっている。見れば高い空はもう赤く染まり始めている。涙のせいかキラキラと輝いて見える空をボーっと眺めていたら、横に座っていた少女から「バイバイ」と聞こえて、慌てて顔を戻した。もうその子は隣にはいなくて、走って去っていく小さな後姿があった。
その子の後姿はすぐに見えなくなってしまった。

顔を前に戻せば、秋風に揺られているコスモスとふじばかま。


「ありがとー」


本当はあの子に言いたかったけれど、あなたたちがいてくれたおかげで、あの子が自分に話しかけてくれたのだ。

だから、そこにいてくれてありがとう。





その日、家に帰ったいのは髪をバッサリ切った。
髪が短くなったいのを見て父、いのいちは一瞬気を失いそうになったが、

「うちの娘はどんな髪型でもよく似合う!」

と言って微笑むと、珍しくいのが小さく「ありがとう」と呟いた。










髪を切ってから、肩から力が抜けたいのは今まで以上に成績が上がり、友達と呼べる子も何人もできた。それと、すぐにあの子を発見した。
同じクラスにその子がいたなんて今まで気づかなかったことにいのは驚いた。しかし、なかなか自分から声をかけられなかった。あの時のことが恥ずかしくて。

なかなか話しかける勇気が出せなくて、話せないままあの時からもう半年以上経ってしまった。自分が情けないと思ういのだったが、やっとそんないのにもチャンスがやってきた。でも、やっと話せた少女はあの時の笑顔じゃなくて、

泣いている幽霊だった。







「うえ~ん、うっうっ・・・」

木々が多い公園の中、1人の少女の泣き声が聞こえてくる。たまたまそこを通りかかったいのはその声のする方へ、まるで引き寄せられるように歩いていく。と、そこで聞き覚えのある声が。

「あースッキリした!!」

アミの声だ。
アミとはあれ以来ほとんど会話をしていない。

「ほんと、ほんと! デコリーンでストレス解消よね。」

アミといつもの2人が楽しそうに笑っている。いのは思わず眉を顰めた。
アミとつるんでいた時、アミはたまに弱いものいじめをしていた。自分にはそんなことができなくて、でも止めることもできなくてただただじっと見ていた。
そんな以前の自分が今では憎くてしょうがない。

――またアミのやつ・・・誰かいじめてー・・・!!

“デコリーン”と呼ばれていじめられている子は今まで聞いたことが無い。
いのはこうしちゃいられないと急いで泣き声の方へと向かう。そこには、

「あ・・・!」

いつも気にしていたあの子。ピンク色の髪の女の子。
いのはゆっくり泣いているその子に近づいて、しゃがみこむ。その子はまるで前の自分みたいだった。膝を抱えて座り込んで泣いている目の前の少女。これはあの時の自分だ。
あの時、この子のことを“幽霊みたい”だと思ったが、今は本当の“幽霊”になっていて思わず苦笑してしまう。

「アンタ、いつも“デコリーン”っていじめられてんのねー。」

ビクリとかわいそうなくらい肩を揺らしたその子。ゆっくりと顔を上げたその子の目はやっぱり綺麗なエメラルド色。
あなたに話しかける勇気が持てなくて。どうしてもっと早く声をかけられなかったのか。

――遅くなってごめんね。

まさかいじめられているなんて思いもしなかった。
でも、もう大丈夫だよ。

「・・・・・・だれ・・・?」

いのはニッコリ微笑んだ。
この子が自分のことを分からないのも無理は無い。なんせあれから半年以上の月日が経っているのだ。しかも、あの時の長い髪はもう無い。
髪を切った次の日のくの一クラスの反応も、一瞬見ただけでは誰か分からない、と言われたほどだ。この子にはあの時の一回しか会っていないのだから、今の反応はしょうがない。

「わたしはー“山中いの”ってーの。アンタはー?」

「アタシ、サクラ・・・春野サクラ・・・・・・。」

ヒックヒックとしゃくりあげながら答えてくれるサクラ。

「ふーん、なるほどー。アンタおでこ広いんだー。」

で、デコリーンねと言いながらいのはサクラのおでこを人差し指でつつく。

「それで前髪でおでこかくしてんだー。ゆーれーみたいに・・・。」

今度は手のひらでスッとサクラの前髪を上げる。そのいのの行動にますます大粒の涙を流すサクラにいのはニコリと微笑んだ。

「サクラだっけー・・・アンタ明日もここに来なよ。」

「え?」

「いいものあげるからさー。」

サクラが不思議そうな顔をしたけれど、それは明日のお楽しみ。

サクラの目は前と全く変わらなかった。きっとアミたちのことだから何回もいじめているに違いない。それでも、サクラの目はとても優しい色をしていた。


その目を隠すなんてもったいないよ。







「ホラ・・・こっちの方がかわいいよーサクラは。」

そのリボンあげる、と言って笑ったいの。
次の日、いのはサクラにリボンを持ってきて頭につけてあげた。もちろん前髪で目が隠れてしまうなんてことがないように、前髪は中央で分けて。
おどおどとお礼を言うサクラは、やはり前髪を分けたことで出てしまったおでこを気にしているようだ。

「それってー隠してるからよけいバカにされんのよぉ! サクラは顔かわいいんだから、堂々としてればいいのー!! 堂々とー!」

そう言うと、少し涙を浮かべて小さく頷いたサクラに、いのは笑みを濃くした。
自分はまだサクラの本当の笑顔を見ていない。前見せてくれたあの綺麗な笑顔。
サクラも自分が出せていなかったんだね。
今度は自分があの時のサクラのようになるから。

だから、もう泣かないで。







「いのちゃん待って・・・!」

サクラの呼びかけにいのが振り返った次の瞬間、

「キャ!」

サクラが盛大に転んだ。
あれからいのとサクラはいつも一緒にいた。だいぶ明るくなってきたサクラだけど、まだ前のようには笑ってくれなくて。それでもいのは嬉しかった。こうやって自分を頼ってくれるサクラが可愛くて。

「もードジねー!」

今はアカデミーの授業の中でも生け花の授業だ。ここはたくさんの花が咲き誇っている森の中。みなそれぞれ思い思いの花を摘んでいる。
さっそくいのとサクラも花を摘み始める。が、

「私こーゆーの苦手・・・いのちゃんは?」

サクラは一本花を摘んで、それを眺めながらポツリと呟いた。いのはサクラの摘んだ花を見て思わずフフ・・・と微笑む。

「アンタ“サクラ”って花の名前持ってるくせにダメねー! こーゆーのはポイントがあんのー!」

いのは花屋の娘だ。この授業は得意中の得意。さっそくサクラに説明し始めた。
花というのはメインになる花を決めたら、それを飾りたてるように他の花を添えてやるのが良い。

「花は主張し合っちゃダメなのよねー。例えばーホラ。」

いのの指差す先にはコスモスが咲いていた。そう、今はまたあの時と同じ秋。
その花を見てはあの時を思い出す。

「この・・・“コスモス”がメインならー、サクラがさっき採った“ふじばかま”はオマケ!」

コスモスは春のさくらに対して、秋桜の呼称があり、秋で一番綺麗な花である。
それの原語は“調和”というくらいなので、どんな秋草でも相性がいい。
いのは懐かしい目でサクラの持っているふじばかまを見つめた。
あの時、家に帰ってふじばかまについて調べてみた。
ふじばかまは小さなピンクの花がたくさん咲く、秋の七草の1つだ。一見地味だが、干すといい香りのする花である。
そしてあの時は知らなかったが、花言葉には“ためらい”などの他に、“あの日を思い出す”、それと、

“優しい思い出”。

いのはコスモスも好きだけれど、サクラが一番にふじばかまを摘んでくれてなんだか嬉しかった。あの時のことは自分の中でずっと残っている。優しい、優しい、思い出。
忘れるなんてことはないと思うけれど、もしも忘れてしまっても、この季節になれば必ず思い出させてくれるから。
コスモスとふじばかまは自分にとって特別な花なんだ。
サクラが覚えていなくても、自分は絶対忘れないよ。

いのはサクラの持っているふじばかまをじっと見つめていた。が、今が授業中だったことを思い出し、自分も何か摘まなければ、と少しサクラから目を離したその時だ。

「今日はやけに楽しそーねぇ・・・デコリーンちゃん!」

いのはハッとサクラに顔を向ける。そこにはまたアミを含めた3人が立っていた。

「アンタ、最近色気づいてんじゃない? あんまり調子乗ってんじゃないわよ!」

調子に乗っているのはどちらのほうか。
いのはサッとある花を何本か摘むと、大口を開けてサクラを罵っているアミに投げつけた。
それは見事にアミの口の中へと入り、アミがドサッと倒れると、残りの2人が「アミちゃん!」と言ってすぐさま駆け寄る。

「ゴメーン! あんまりキレーなずん胴なんでー、花ビンと間違えて生けちゃった。」

「ビボォー(いのぉー)!」

さっと体を起こしたアミが花を加えたままいのに怒声を上げるが、いのはニヤリと怪しい笑みを浮かべ、アミに重大なことを告げた。

「忍花鳥兜だから毒性は弱いけどー、有毒植物だから早く吐き出した方がいいわよー。」

それを聞いたアミたちはキャー先生ー! と叫びながらドタバタと去っていく。その3人の背中に、

「毒があるのは根だけどね。」

と言っていのはチロッと舌を出した。今はとにかくサクラに笑ってほしかった。
しかし、そのサクラはいのを見て目を見開いたかと思えば、すぐに手に持っていたふじばかまに目を移し、どんどん暗い表情へと変わっていく。
そしてポツリと呟いた。

「いのちゃんがコスモスなら・・・・・・私はふじばかまかなぁ・・・。」

今度はいのが目を見開いた。

「何言ってんのー!」

本当にサクラは何を言っているのか。

「んー言ってみれば、サクラはまだ花どころか・・・・・・つぼみっつーとこねー!」

そう、サクラは自分が見つけた花だ。
“サクラ”という名前だけど、花屋の自分ですら名前の知らない花なんだよ。
それはきっと見たことも無い綺麗な花なんだ。

サクラはハハハ・・・そうだよねぇ、と苦笑をしてまた沈んだ顔になってしまった。言い方がまずかったと思い、続きを話そうとしたその時、サクラが「・・・ねぇ、いのちゃん・・・」と声を出した。見れば、サクラはチラッとこちらに目を向けて、おどおどしながらまた尋ねてきた。

「・・・な・・・なんで・・・私なんかに・・・・・・このリボンくれたの・・・。」

いのがリボンをあげて以来、サクラはいつもリボンをつけてきてくれた。
それは本当にとても似合っていて。
そんなサクラの問いに、いのはニコッと笑った。

「フフ・・・それはねー・・・あんたがつぼみのまま枯れちゃうのは・・・もったいないと思ってねー。」

あんなに綺麗な笑顔を失くすなんてことしちゃダメ。

「・・・花は咲かなきゃ意味ないでしょ。もしかしたらそれが・・・・・・」


コスモスよりもキレーな花かもしれないしねー!


そう言ったらサクラは少し泣いてしまった。「どうしたの?」って聞いたら、「さっきコケた時・・・目に砂が入っちゃって・・・」と言い訳したサクラに笑った。

サクラは自分が見つけた花なんだ。

絶対に綺麗な花が咲くから、もっと自信を持って?


「サクラ! 早く花摘んじゃおー!」

「うん!」


あの時、“自分”を見つけてくれたサクラに、「ありがとう」はもう言わない。
そのたった一言で済ますなんてことできないから。

サクラがまた笑ってくれるように、ゆっくり、ゆっくり、この気持ちを伝えていくよ。







あの授業以来、サクラが涙を見せるようなことはなかった。いのはそのことを良かったと思う反面、寂しいと思っている自分がいることに気がついた。
あれからサクラはとても明るくなって、前と変わらない笑顔を見せるようになった。それは本当に良かった。が、明るくなるにつれてだんだんといのからサクラは離れていった。


「みんな聞いて聞いて。私・・・好きな人ができたの! 誰だと思う!?」

「手短に話せ!」

「サスケ君とかいわないでよ?」

「え・・・なんでわかったの?」

サクラにも友達がたくさんできた。そして突然のサクラの好きな人発言にいのは驚いた。
このままではサクラはますます遠くに行ってしまう。そう焦るいのに対し、サクラはその頃からいつも“サスケ”の話をするようになった。




「いのちゃん・・・! サスケ君て長い髪の女の子が好きらしーのね・・・それで・・・」

どこからそんな情報を得てくるのか。
楽しそうに語るサクラはとてもかわいい。しかし、いのは内容が気に入らなかった。
これからきっとサクラは髪を伸ばすのだろう。
なんだかサスケに負けた気がして悔しかった。
そこまで考えて、いのはハッと気づいた。

――そうよ! 髪があったじゃない!

自分も髪を伸ばせばいいのだ。
あの時、サクラは自分の髪を見て誉めてくれたではないか。


「いのちゃん・・・どうかしたの?」

「ううん。なんでもないわよー。」

突然鼻歌でも歌いだしそうなほど機嫌の良くなったいのにサクラは首を傾げた。が、最近いのは話をしてもすぐに機嫌が悪くなってしまっていたので、楽しそうだからいいか、とサクラも一緒に微笑んだ。



それからいのは髪を伸ばし始めたが、それは逆効果になってしまった。
いのは前よりも一生懸命髪の手入れをして、またサクラに振り向いてもらいたかった。
しかし、サクラはそれをサスケのためだと勘違いをしてしまい、仕舞には・・・





以前に比べてはるかに髪が長くなったサクラといのが睨み合っている。すると、スッとサクラが右手を差し出した。そこに握られているのはいつもサクラがつけていたリボン。

「このリボン返すわ・・・。」

いのはサクラの握っているそれを見て眉を顰めた。
そう言ったサクラの頭には、リボンのあった場所に額あてが居座っていた。いのの腰にも同じ額あてが巻かれている。2人とも無事、アカデミーを卒業したのだ。

「そのリボンはあげたのよー! それに、額あては額にするものでしょー・・・。」

とうとうこの時がきたか、といのは苦虫を噛み潰したような顔をした。

「これからはもう、いのの後を追いかけてる女の子じゃない。」

「 ! 」

「これを額にする時は女の忍として・・・アンタに負けられない時・・・・・・。」

サクラがあまりにも真剣に自分を見て言うから、

――私がいなくても・・・サクラはきっと花を咲かせられる・・・

いのはニッと笑った。

「いい案ね・・・私も・・・」

サクラが離れていくのは寂しい。
だけど、いつまでもずっと一緒なんていうのはありえないから。


「その時まで・・・・・・。」


とりあえず、リボンは受け取っておくけれど、


アナタが花を咲かせたときは一番に見せてほしい、



そう思った。












「ん・・・ここは・・・?」

いのはどこかまだ夢心地のような状態で目を覚ました。
なんだか懐かしい夢を見た気がする。
ぼやけた視界の中で見えたのはいつも憧れていた金色。いのはパチパチと何度も瞬きをすると、だんだんとそれははっきり見えて、その金色の周りにはクマと、銀色がいて、何か会話をしていた。

「悪いな、ミコト。あいつらの治療してもらって。」

あれくらいなら治療の必要もなかったけどな、と苦笑するクマ。

「いえ、僕には何もすることがないので。」

少しでもお役に立てて光栄です、と微笑む金色。

「ナルトとサスケはともかく・・・あの頼りなかったサクラまでがこんなに成長してるとはな・・・。」

この中忍試験に出して良かったと心から思っているよ、と言う銀色。

いのはその銀色の言葉にハッとして、やっと完全に夢心地から覚め、今が中忍試験中で、先ほど自分とサクラが戦ったのだということを思い出した。
最後の一撃で自分が立てなかったのは今の状態で明らかだ。ということはサクラが勝ったのだろうか? そう思った、その時、

「そうだな。あのサクラがいのと引き分けだなんて。」

ほんと成長したな、とクマが笑っているのが聞こえた。

――引き分け・・・かぁ・・・

ミコトの前で勝ちたかったと落ち込むいのは、自分の手に何かを握っているのに気づいた。それは木の葉のマークの額あて。でも自分のものではなかった。周りのみんなはそれぞれ身につけている。ということは、サクラのものだろう。さっきの試合できっと取れたのだ。
そう言えばサクラはどこだろうかと探せば、それはすぐ隣にあった。

昔の夢を見ていたせいか、あの頃より大きくなったサクラに思わず微笑む。
穏やかに眠っている顔が前と変わらなくて、勝ち負けなどどうでもよく感じられる。
サクラは前より目に見える成長とともに、心も強くなっていた。
サクラは立派な花を咲かせた。

「サクラ・・・ありがとー。」

いのは小さく、小さく呟いた。
サクラが花を咲かせたきっかけが自分だと思うと、不覚にも泣きそうになった。
サクラのおかげで、今の自分があって。それをやっと今返せた気がするよ。

だから、ありがとう。



「ん・・・うん・・・」

隣から声がもれてきたのに、いのは慌てて目に浮かんできた涙を拭う。

「やっと目が覚めたみたいねーサクラ。」

いのはわざとニヤリというような笑顔でサクラにそう告げる。と、その時、

「テンテーン、青春パワーでーす!!」

「いいぞー! もっと応援だ!!」

いのたちの前では、濃ゆい2人の大きな声援が送られていた。

「私たちの試合はもう終わったのよ・・・。」

今はどうやらガイ班のテンテンが戦っているらしい。いのがそう言うと、サクラの目にじんわりと涙が浮かんできた。

「私・・・負けたの・・・?」

それはそれは悔しそうに言うサクラにいのはフンと鼻で笑った。

「泣きたいのはこっちの方よー・・・。」

悔しいというのもあるけど、今は嬉しくて泣けそうだ。

「アンタみたいなのと・・・引き分けなんてね・・・。」

え? と聞き返したサクラにハイ! と右手に掴んでいた額あてを差し出す。

「アンタも咲かせたじゃない・・・」


キレーな花


いのがニカリと笑ったら、サクラも額あてを受け取って、今度は笑ってくれた。
生け花の授業の時は泣いてしまったけれど、やっとこうしてサクラは笑うことができるようになった。
本当に綺麗だよ。・・・・・・だけどね、

「だけどね・・・次戦う時は気絶じゃ済まさないわよ!!」

前はあの頃のサクラとの関係に戻りたいと思ったけれど、サクラと離れている時間が長かったから、

「それから・・・サスケ君もアンタに渡すつもりはないからー!!」

本当はアンタをサスケ君に渡すつもりがないのだけれど、

「その台詞・・・そっくりそのままアンタに返すわ!!」

このサクラの反応がおもしろいから、

「「フン!」」

今はこの距離でちょうどいい。

怒りを顕にしているサクラを見て、いのがフッと笑うと、サクラはスッと立ち上がった。どうやらナルトたちのところに戻るらしい。いのも、自分の班に戻るか、と立ち上がろうとした時だった。


「いの・・・ありがとう。」


いのはバッと顔をサクラに向ける。確かに今の声はサクラだった。
しかし、サクラはずっと背を向けたままで。どんな顔をしているのか見えなかいけれど、きっと笑っているんだろう。
呆然としているいのを尻目にサクラはナルトのところへ戻っていく。
いのはまた泣きそうになったけど、

――サクラが笑っているのよー!

ナルトと楽しそうに話しているサクラ。そんなサクラに自分が負けてたまるもんですか、と涙を堪えて立ち上がろうとする。と、突然目の前に額あてが差し出された。

「いのさん、お疲れ様です。」

いのが顔を上げたそこには金色の青年が立っていて。

「いのさん、がんばりましたね。」

そう言って笑った青年の顔が眩しかった。いのははにかみながら、ありがとうございます、と言って自分の額あてを受け取る。と、その時、青年がポツリと「でも」と呟いた。

「でも・・・いのさん少し力が入りすぎていたように見えましたよ。第一の試験の時から気合を入れていたようですし・・・。」

――あ・・・あの時と同じ・・・

今の青年の言葉はその通りだ。
自分はこの青年のためだ、とかなり気合を入れて張り切っていた。それが裏目に出て力んでしまっていたのだ。
前を見れば、苦笑をしている金色。でも、その表情はすぐに穏やかなものになって、


「そんなに必死になってがんばらなくてもいいんですよ。」


いのさんはいのさんなんですから。


そう言って笑った青年に、堪えていた涙が流れた。
まるであの時みたいだ。
今の言葉がすごく嬉しかった。

「い、いのさん!? どこか痛いんですか!?」

いのの涙を見てうろたえ始めた青年をいのはフッと笑った。

「痛い・・・」

「え!? どこがですか!」

「胸が・・・心が痛いのー。」

今度はきちんと言葉にして言ってみた。
幸せで胸がいっぱいで痛いよ。すごく痛い。
心・・・って心臓ですか!? と勘違いをしてアワアワとしている青年にいのは思い切り抱きついた。

「これは治さなくていいのー。」

こんな痛みならいくらでも耐えられる。むしろ、この痛みを忘れたくない。
急に抱きつかれた青年は顔を真っ赤にしている。すると、

「アンター!! 何ミコトに抱きついてんのよ!!」

離れろー!! と、どこからやってきたのか、ものすごい形相でいのを睨み付けるアンコ。

「これは治療してもらったお礼よー!」

おばさんには関係ないでしょー、と言い返すいのにアンコはさらに激怒する。
離れろ、とあまりにもアンコがうるさいため、いのは仕方なくミコトから離れた。
すると、突然2人の言い合いが始まった。

「この小娘が!! 私だってミコトに治療してもらったことがあるわ!」

「私なんて命を助けてもらったのよー!」

「フン・・・アンタ、ミコトの身長とか知ってるの?」

「ッ!! 私なんか一緒にケーキ食べたんだからー!」

「クッ!! 私なんてミコトが一楽で何を注文してるかいつもチェックしてるのよ!」

「え・・・・・・あ、あの、お2人ともなんの言い合いを・・・」

「「ミコト(さん)は黙ってて!!」」

「は、ハイ!」

何か分からぬ言い合いを続ける2人の剣幕にミコトはビクビクと怯えながら眺めていたが、戻ってくるミコトが遅いのを心配してか、火影様がやってきて、怯えているミコトをつれて戻っていった。

2人はミコトがいなくなったことにも気づかず、しばらく言い合いを続けていた。








「サクラちゃん、どうしたってば?」

サクラが突然振り返った。ナルトも一緒になって振り返ると、そこにはいのとアンコが大声を上げていた。・・・・・・一体何があったのだろうか。
それをサクラは無表情でじっと眺めている。
先ほどまで自分と楽しそうに会話していたサクラの豹変振りに、思わず首を傾げる。と、

「ううん、なんでもない。」

「そうだってば?」

「うん。そうよ。」

そう言って今行われている試合の方に顔を向けなおしたサクラは、いつの間にか無表情から


とても綺麗な笑顔に変わっていた。










いのとサクラの試合が始まろうとしていた時だ。


「火影様、只今もどりました。」

「うむ。少し遅かったようじゃが・・・」

何かあったのか? と隣の青年を横目で見る火影様。
第一回戦後に抜けたミコトがやっと戻ってきたのだ。

「・・・いえ、特には何もありませんでしたが、サスケ君を病室に運んでいたもので。」

遅くなってしまいすみませんと謝る青年に、まぁ良いと声をかける。

「ところで・・・そのサスケなんじゃが・・・お前はどう思う?」

火影様の唐突な質問に、一瞬きょとん、としたミコトだが、すぐに真剣な顔に変わった。

「呪印で死ぬようなことはないと思いますが・・・後は彼次第です。」

この出来事で彼の人生が大きく変わることは明らかだ。

「・・・そうじゃな。」

ごくろうだった、と一言告げると、2人は無言でその試合を眺めていた。











あとがき

ここまで読んでくださって本当にありがとうございます!!
第11話に出てきたいのさんが髪が長かったことを覚えていらっしゃる方は・・・いらっしゃったら、本当にありがとうございます。
ミコトさんと初めて出会ったいのさんの容姿の説明に髪が長かったことを書いたのですが、原作のいのさんのアカデミーの頃が髪が短かったので、このお話を考えてみました。
次のお話はキバさんとナルトさんの対決が中心のお話になっています。

今はヒナタさんとネジさんのところを書いているのですが、先に番外編の方に手を付け始めてしまって、あまり進んでいません・・・。
原作沿いのお話が進まないと、番外編も載せられないので、がんばって少しずつ書いていきます!
次の更新はセンター後ですね・・・。今から勉強します。

もしこのようなお話でもよろしかったら、また足をお運びください。



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 第30話
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2008/01/21 18:32






本体さんもいろいろと大変そうですね。


アンコさんたち、ちょっと怖いです・・・。


それにしても砂忍のくの一の方は強いです。


テンテンの武器攻撃を完封してしまうなんて・・・。


意識のないテンテンが投げ飛ばされたのをリーが受け止めましたが、あれはひどすぎます!


一生懸命戦った相手にそんなことするなんて!


テンテンを助けたリーを「いつまでもそんな見苦しい保護者同伴の男」なんて言うひょうたんを背負った少年の目は、


やっぱりとても冷たいです。


見ているこちらも辛くなってきます・・・。


あ、ガイ上忍がリーの隣に立って・・・


「この子は強いよ・・・覚悟しといた方がいい・・・。」


砂忍の方々に向かって宣言しましたよ! かっこいいです!!


そうです、リーはとっても強いんですよ。


って、あれ、サクラちゃん・・・前に出て一体何を・・・?







NARUTO ~大切なこと~ 第30話







突然一歩前に出たサクラは、思い切り息を吸い始めた。そのサクラの行動にナルトはどうしたのだろうか、と首を傾げた次の瞬間、


「あんな奴らに負けるんじゃないわよ、ナルト!」


そう叫んだサクラに目を見開いた。

「サ・・・サクラちゃん・・・!」

サクラが今まで自分にこのようにはっきりと応援してくれることはなかった。
初めの頃は邪魔者扱いだった自分が、やっとここまでくることができたなんて。
ちょっとしたことだけれど、それがすごく嬉しくて。
はにかむように笑ったナルトにサクラは話を続ける。

「こんなとこで負けたら男がすたる! あとでサスケ君に合わす顔がないわよ!」

「オウ!!」

その通りだ。自分をこうやって見てくれているサクラやカカシ、ここにはいないけれどイルカだって応援してくれている。
少しずつ増えてきた大切な人に応えたい。
ナルトが威勢よく返事をすると、サクラは顔を背けてボソリと呟いた。

「それと・・・さっきはアリガト・・・。」

その言葉にナルトは一瞬だけ驚いて、すぐにニッコリと笑った。
きっと、そのお礼はいのとの試合の時のことを指しているのだろう。

「サスケとサクラちゃんががんばったんだから、俺もがんばるってばよ!!」

そう言ってナルトは第六回戦がもうすぐ表示されるだろう電光掲示板をじっと見つめる。

「よーし! 早く! 早く! 俺の番!!」

「次は! 次は! 僕の番の気が・・・!!!」

ナルトの隣に下からスッと戻ってきたリーがそう言った瞬間、ナラ・シカマルVSキン・ツチの文字が現れ、2人ともガックリと項垂れた。








「勝者、奈良シカマル!」

すぐに始められた第六回戦はあっという間にシカマルの勝利で終わった。

シカマルの影真似の術は第二の試験の時にすでに対戦相手である音忍のくの一、キンには見られている。が、シカマルにはこの術しかなかった。
試合開始とともに影真似の術を仕掛けるがそれは簡単に避けられ、相手は鈴の付いた千本を投げつけてきた。それをしゃがむことで避ける。その鈴の付いた千本の意味、それは、

「古い手使いやがって・・・お次は鈴を付けた千本と付けてねーフツーの千本を同時に投げんだろ!!」

これは鈴の音に反応してかわしたつもりでいたら、音のない影千本に気づかず刺されてしまっていたということになるような攻撃だ。しかし、

チリン チリン

背後で突然鈴の音が鳴ったため、シカマルは振り返ってしまった。そこには先ほど投げられた千本があり、その鈴に糸がついていたのだ。
しまったと思い、すぐにキンの方に振り返るがそれは少し遅く、すでに3本の千本が襲い掛かっていた。それを腕で防ぐが、ドサッと倒れてしまう。倒れたシカマルに止めを刺そうとしたキンはすぐに異変に気づいた。

「フー・・・ようやく影真似の術成功・・・。」

そう、シカマルは倒れている間にも相手に気づかれないように影を伸ばしていたのだ。
その言葉にどこに影なんかあるのか、と驚いているキンに、親切にも教えてあげる。

「こんな高さにある糸に・・・影が出来るわけねーだろ!!」

キンの持っていた糸の下には糸と同じくらいの太さの影が出来ている。それは次第に太くなり、完全にシカマルとキンの影は繋がった。そして、

「手裏剣の刺し合いだ。どこまでもつかな!」

シカマルは相手も同じ動きをするというのに手裏剣を投げつけ、

ゴン!!

明らかに手裏剣が刺さった音ではない音が会場に響いた。

「へへへへ・・・いっちょあがり・・・。」

そう言ったシカマルはブリッジの状態から体を起こした。

「忍ならな・・・状況や地形を把握して戦いやがれ!」

お互い同じ動きをしていても、シカマルとキンの後ろの壁との距離が違ったのだ。
先ほどの鈍い音はキンが壁に頭をぶつけた音だった。

「手裏剣は後ろの壁に注意がいかないよう・・・気をそらすのに利用しただけだ・・・・・・。」

起き上がらないキンは医療班によって運ばれ、シカマルの勝利が決まったのだった。
シカマルの勝利にいのやチョウジが喜びの声を上げる。

――シカマルは中忍になりそうですね。

シカマルの試合をじっくり見ていたナルトは思う。
相手の鈴に一度は動揺しているように見えたが、その間にもすぐに次のことを考えられる冷静さは、忍として絶対に必要なことである。シカマルの頭の良さはずっと前から知っている。おそらくこの下忍たちの中で一番に中忍になるだろう。

「シカマルスッゲーってばよ!!」

いのたちに負けじとナルトも声を上げた。
少し照れたように帰ってきたシカマルから「お前もがんばれよ」と声をかけられ、ますます気合を入れる。
第六回戦を終え、残り4つとなった試合。いったい誰と戦うことになるのかと、電光掲示板を見る。と、そこには、

「来た来たぁよっしゃー!! おまたせしましたぁ! やっと俺の出番だってばよぉ!!!」

掲示板に現れた文字はウズマキ・ナルトVSイヌヅカ・キバだった。








「ナルト・・・か。」

掲示板を見てそう呟いたキバに赤丸はクゥ~ンと鳴く。
できればナルトとは当たりたくなかった。しかし、当たったからには戦わなければならない。
よしっ! とキバは覚悟を決めて赤丸とともに下へと行く。

「第七回戦!! うずまきナルト対犬塚キバ!」

ハヤテの声で向かい合う形になった2人。ナルトはやる気満々のように見えるが、どこか様子が違う。

――そりゃそうだよな。

キバとナルトはアカデミーからの友達だ。ナルトが誰よりも優しいことを知っている。
自分もここで負けるわけにはいかないが、やはり戦うならば本気で戦ってもらいたい。
そう思ったキバはニヤリと笑った。

「お前、医療忍者になりたいんだってなぁ。」

「そうだってばよ。」

怪訝な顔でそう返したナルトにキバはクク・・・と笑う。

「あの時風邪引いた奴が医療忍者なんかなれるのかよ?」

あの時、大丈夫だと言ったくせに風邪を引きやがったこいつ。

「ムっ・・・あの時は油断したんだってばよ!」

「へっ、何が油断だよ。」

あの時、それはキバとナルトが初めて会った時のことだ。










――やべぇ!! 赤丸のやつ大丈夫か!?

アカデミーも残すこと1年となったある日、キバはある先生に赤丸を連れていることを注意され、その日はしぶしぶ校舎の外に置いておいた。そして放課後である今、その先生に呼びだされて「もう連れてくるな」と叱られていたのだった。
赤丸を迎えに行こうと外を見れば雨がザーザーと降っている。
たまたま置き忘れていた傘があったからいいものの、いつから降りだしていたのか、地面を見ればもう乾いたところなど見当たらない。
キバは傘を差して急いで赤丸を置いてきた場所へと向かう。
人に見つからないように木陰に隠しておいたが、この雨の中ではきっとずぶ濡れだろう。
ビチャビチャと音を立てながら校舎の裏へと回る。そして、そこに生えている一番大きな木の下にいるはずだ。

「え・・・。」

しかし、そこにいたのは赤丸ではなかった。

――こいつは確か・・・

キバの目にまず飛び込んできたのは金色の髪。その色はこのアカデミーの問題児が持っている色だ。キバも時々その色を目にすることがある。
そいつは2回も卒業試験に落ちていて、今年初めて同じクラスになった。いつもいたずらをしてはイルカに追いかけられて楽しそうにしているそいつ。
変な奴だ、と思ったが、金髪にオレンジと派手な色をしているためつい目で追ってしまう。しかし、今この場にいるそいつの髪や服の色はいつもより少し暗い色をしていた。

――何やってんだよこいつ・・・!!

色が違うのは当たり前だ。
どこをどう見てもそいつはびしょ濡れなのだ。傘も差さずに膝を抱えて座っている少年。唯一濡れていないのは、お腹の部分だけではないだろうか。キバが唖然としていると、その子がこちらに気づき、顔を向けてニコリと笑った。

「俺、うずまきナルトっていうんだ! お前、犬塚キバだろ?」

そう言って立ち上がり、上着のお腹の部分に手を入れた少年。

「独りは寂しいからさ・・・・・・一緒にいてあげろってばよ。」

一瞬、なんのことか、と思ったキバの目の前にズイッと出されたのはここに置いていた赤丸だった。突然のことに目を丸くしたキバと、雨の中でニシシと笑うナルト。

これがキバとナルトが初めての出会いだった。
この後、ずぶ濡れのナルトを心配したキバに対し、ナルトが大丈夫だと言ったのだ。

そしてその次の日、見事にナルトは風邪を引いた。










――何が大丈夫・・・だ。

キバはあの時を思い出して苦笑する。しかし、今は試合だ。思い出に浸る時ではない。

「そう簡単に油断する奴が医療忍者なんかなれるわけねーだろ! それに万年ドベのお前が医療忍術なんて使えるのかよ!」

その言葉にさすがのナルトも怒りを顕にした。

「俺の夢をバカにする奴はいくらキバでもゆるさねー!! いいってばよ・・・医療忍術、見せてやるってばよ!」

ナルトがそう言うと、ハヤテが試合開始の声を上げた。
その直後、キバは赤丸に手を出すなと指示を出す。

「せめてもの情けだ・・・キレーに一発でのしてやんよ!」

そう言ってキバはバッとしゃがみこみ、印を組む。

――擬獣忍法・四脚の術!!

これは一時的に獣のように四本足で走り、速力を上げる術だ。

「行くぜ・・・。」

その瞬間、キバは一瞬でナルトのお腹に肘鉄を食らわせる。
それを直撃したナルトは吹っ飛び、ドカッと思い切り床に叩きつけられた。

――頼む・・・立たないでくれ・・・!!

キバは倒れているナルトをじっと見つめる。
今の攻撃をまともに食らったナルトが立てるとは思わない。が、こいつが何か力を隠しているのはアカデミーの頃から薄々感じていた。
本当はドベだなんて思っていない。
ああでも言わなければ、ナルトが本気で戦ってはくれないと思ったからつい口から出てしまった言葉。きっと傷つけたに違いない。
思えば自分はいつもナルトを無意識のうちに傷つけていた。すぐに思ったことを口にしてしまうから、いっぱい傷つけてきた。それは目に見えるものではなくて。
目に見えない傷は一度つけたらなかなか治るようなものではない。
お前はどれだけ見えない傷を抱えているのだろうか。
だから、せめて目に見える傷だけでも増やさないでほしい。しかし、


「俺をナメんなよ!!!」


ナルトは口から血をたらしながらもその場にしっかりと立ち上がった。

「血ィ流して何言ってやがんだ・・・強がんのもたいがいにしろ!」

自分はこんな言い方しかできないから、立ってほしくなかった。

「手ェ抜いてやったんだってばよ! お前の力みるのにな! お前こそ強がってねーで赤丸使いやがれ!! 手加減なんていらねーってばよ!」

キバはその言葉にハッとした。
ナルトに本気で戦ってほしいと思いながら、自分は手加減をしている。
なんて矛盾だろうか。
この自分の思いはただの自己満足であって、相手にとって失礼ではないか。このこと自体がまた相手を傷つけている。

――俺ってつくづくバカだよな。

これは忍の戦いだ。
いつだって目に見える傷は付き物だ。ナルトはそのことをよくわかっている。
きっとあんな酷いことを言わなくてもナルトだったら本気で戦ってくれたはずだ。

「・・・後悔すんなよ!」

この戦いが終わったら謝ろう。

「行くぜ、赤丸!!」

その言葉にワン! と返事した赤丸とともにキバも走り出す。その時、こっそりポーチから取り出したもの、それは、

「くっ・・・」

ナルトの周りを白い煙が覆い尽くしていく。そう、キバが取り出したものは煙玉だった。ナルトは視界が塞がれるが、キバには匂いで場所を掴むことができる。
煙の中でキバはナルトに攻撃を加えていく。それから逃れるためにナルトが煙から出ると、

「ワン!」

襲い掛かってきたのは赤丸だった。それにはキバもニヤリと笑みを浮かべ、煙から出る。

「うわぁ!」

赤丸に腕を噛まれたままナルトは煙の中へと倒れていった。そして、

「ワン!」

煙が晴れたそこには倒れているナルトとおすわりをしている赤丸がいた。その赤丸はキバに向かって元気よく戻ってくる。キバはその赤丸を良くやったと誉めてやろうとした次の瞬間、

ゴンッ!!

勢いよく飛び跳ねた赤丸がキバに思い切り頭突きをしたのだ。

「ぐっ・・・!!」

1人と1匹は無言で頭を押さえて悶えている。が、赤丸が突然ボンッと煙を上げた。

「いってぇぇえ!!」

煙を上げた中からはやっぱり頭を押さえて悶えているナルトが出てきた。
キバはそれには頭の痛みがどこかにいってしまうほど驚いた。
アカデミーでは一度も変化の術など成功したこともなかったナルトが目の前で自分がだまされてしまうほど完璧に変化してみせたのだ。
やはり、今目の前にいるナルトはあの頃のナルトではないのだ。
そこまで考えたキバはハッとする。

「くそ! 赤丸はどこだ!!?」

自分の目の前には痛みに悶えているナルトしかいない。キバはキョロキョロと赤丸を探しはじめると、視界に入ったのはもう1つの金色。

「ナルト!? お前赤丸に何したんだよ!!?」

もう1つの金色、それはもう1人のナルトだった。そのナルトの腕の中にはピクリとも動かない赤丸がいる。己の声にも全く反応を返さない赤丸に顔が青ざめていくキバ。そのキバの様子に赤丸を抱いていたナルトが苦笑をもらした。

「寝てるだけだってばよ。」

「へ?」

キバは思わず間抜けな声をもらした。
ナルトは優しい顔で赤丸の頭を撫でている。それはずっと前から変わらない。赤丸はナルトに撫でられるのがとても好きだった。しかし、戦いの場で撫でられただけで眠ってしまうだろうか。
キバが不審な眼差しでナルトを伺うと、ナルトはゆっくり赤丸を床に置き、キバに説明し始めた。

「医療忍術の1つ、掌仙術だってばよ。これは治療だけじゃなくて、相手を眠らすこともできるんだ。」

赤丸はあと30分くらいは眠ってるってば、と言うナルトにカカシとサクラ以外の者たちが驚愕し始めた。それはそうだろう。影分身や変化がまともにできることでさえ驚きなのに、医療忍術である掌仙術まで扱えるのだ。
あのアカデミーの頃のナルトとはまるで別人である。しかし、カカシとサクラ以外にも驚いていない者はいた。





「ちょっとー! あんたたち、なんでそんな平然としてるのよー!?」

あのナルトが影分身に変化の術までしておまけに掌仙術まで使ったのよー!? と、驚くいのに対し、平然としている者。それは、

「だって、なぁ。ナルトだし。」

「そうそう、ナルトだもん。」

メンドクセーと呟くシカマルと、当然でしょ、とでも言うように言葉を返したチョウジだった。
4人はアカデミーでもずっと友達だったのだ。ナルトに何かあるのはみな薄々気づいていた。それはもちろんキバも同じで。

――メンドクセー奴。

どちらのことを言ったのか、シカマルは心の中で呟き、じっと試合を眺めていた。
2人の言葉にいのはただただ首を傾げた。





「お前が医療忍術を使えることは分かった・・・・・・ナルト! 遠慮なく行かせてもらうぜ!」

キバはそう言うと、ポーチから何かを取り出しそれを口に含んだ。それを見て、悶えていたナルトも慌てて立ち上がり呟いた。

「兵糧丸・・・!」

キバが食べたもの、それは兵糧丸だった。
兵糧丸とは服用した兵が三日三晩休まず戦えるとまで言われる秘薬である。
高蛋白で吸収もよく、ある種の興奮作用、鎮静作用の成分が練りこまれている。
これによって、今のキバのチャクラは一時的に倍増しているのだ。

――赤丸は眠っちまって戦えねぇが・・・

1人で十分だ、とキバは判断し、スッと印を組むと、

「擬獣忍法!!」

まるで本物の獣のような目つきと動きになった。

「行くぜぇ!! 四脚の術!!」

キバはまず赤丸を抱いていた方のナルトへと攻撃を仕掛ける。この術と兵糧丸によって、上がった速さに狙われたナルトは避けることができず直撃した。しかし、

「チッ、影分身か!」

それはボンッと煙を上げて消えてしまった。本体はどうやら頭突きをかましてきたほうらしい。

――これ以上また増えられたら困るからな!

クルッと振り返れば、こちらを睨んでいるナルトがいる。すると、ナルトが十字の印を組もうとしているのが目に入った。

「させるかよ!」

キバは再び四脚の術でナルトに襲い掛かる。それに必死で避けるナルトの体にはだんだんと傷が増えていく。そしてナルトがキバの攻撃を避けるために高く跳び上がった時だ。

「食らえ!! 獣人体術奥義!!」

――通牙!!!

キバは体を高速回転させ、その状態でナルトに体当たりを食らわせる。空中での攻撃だ。ナルトは避けることができるはずがない。そう思われた。が、

「影分身の術!!」

咄嗟にナルトは影分身を一体作り、その分身を踏み台にしてさらに高く跳び上がり、クルクルと回転しながら地面に着地する。踏み台となった影分身はキバの通牙によってボンッと煙を上げて消えた。
そんなナルトに、なかなかやるじゃん、と呟いたキバに対し、当たり前だってばよ、と返したナルトの顔には少し焦りが見えていた。
そしてそれはもう1人。





「どうかしたのか、ミコト。」

火影様は今までじっと黙っていたミコトが、突然片手を胸に当ててほっと息をついたのを不思議に思い尋ねた。

「いえ、なんでもありません。」

その問いにすぐに笑顔になって答えるミコトに火影様はそうか? と言ってまた試合の方へ顔を向けなおす。しかし、ミコトはまた今度は火影様に気づかれない程度に息を吐いた。

――獣人体術奥義・・・いくら下忍とはいえ、奥義は奥義です・・・。

そう、奥義を食らってしまえばあのナルトは消えてしまうのだ。
「ナルト」はドベのままでいることを決めたのは自分だが、見ているこちらはヒヤヒヤしてしまう。
上手く決着がつくことを祈って、ミコトもその試合をじっと見つめた。





「上手く避けやがったな!」

次はそうはいかねぇよ! とキバは冷静に分析を始める。
ナルトは実際、自分の動きについてこれていない。だから、よく見てまた隙をつけば、四脚の術で確実に後ろを取れるはずだ。
キバがサッと手裏剣を両手に構える。すると、

「俺もとっておきの新必殺技でケリつけてやるってばよ!!」

ナルトはそう言ってスッとまた十字の印を構える。キバはナルトの“新必殺技”という言葉に反応したが、

「どんな技か知らねーが! そんなもんやらせなきゃいい!!」

持っていた手裏剣をまだ術を発動させていないナルトに投げつける。それをナルトは上手く避けると、「うオオオ!!」と叫び、術を発動させようとする。が、

「遅い!」

キバはもうすでにナルトの背後をとっていた。

「くらえーー!!」

おそらく最後の一撃になるだろう攻撃をナルトに食らわせようとした、まさにその時、


ぷぅ~

「あ!」

「ウギャーーーー!!」


気の抜けた音の後、ナルトが短く声を出し、キバが叫んだ。
試合を見ているもの全員が絶句した。
しんと静まり返った中、キバの苦しそうな叫び声が木霊している。

「くっそー! 力みすぎた・・・・・・!」

そう、ナルトは術を発動しようとして力みすぎて屁をしてしまったのだ。
獣化しているキバは今、通常の何万倍もの嗅覚になっている。その状態でナルトの背後に回ってほぼそれを直撃してしまったのだ。

「ぐくぅ・・・。」

いまだにキバは鼻を押さえて苦しんでいる。

「こ、こっから新技の見せどころだってばよ!!」

キバが動けないのをチャンスに、ナルトは4体の影分身を作り出す。そして、

「う!!」

1体がキバを殴りつけ、5体のうち1体だけが高く跳び上がる。

「ず! ま! き!」

残りの3体がかけ声に合わせてキバを下から思い切り蹴り上げた。そして最後に、

「ナルト連弾ー!!」

宙に浮いたキバを、初めに跳び上がっていたナルトの踵落としで地に叩き付けた。それによって、もうキバが立ち上がることはなかった。そして、ナルトの影分身が消えたその瞬間、

「勝者、うずまきナルト!」

ハヤテの判定が下された。





「・・・・・・本当にどうかしたのか、ミコト。」

今度は額を押さえて顔を青ざめているミコトに心配して火影様が声をかける。すると、ミコトはすぐに手をどけて笑顔を作った。

「い、いえ、なんでもりません・・・。」

大丈夫です、お気になさらないでください、と言ったミコトの顔色はものすごく悪い。本当にどうしたのだろうか。無理せず寝てろと言いたいが、ミコトが頑固者であるのは自分が良く知っている。

「あまり無理するでないぞ。」

そう言うと、ミコトは素直に「はい。」とだけ返事をした。


――あれは自分であって自分じゃないあれは自分であって自分じゃ・・・・・・

ミコトは先ほどのナルトのあれをずっと気にしていた。
あれは人間としては当たり前のことであって、しょうがないものがある。が、しかし。
しかしだ。

あの隙の作り方はあんまりではなかろうか・・・。

それにあの最後の新技は明らかにサスケを意識したものである。
そう考えるとますます落ち込んでいくミコト。と、その時、

「のう、ミコト。」

ミコトがパッと顔を上げると、前を向いたままの火影様。ミコトが「どうかなさいましたか?」と首を傾げると、火影様は顔をこちらに向けることなく話し始めた。

「あの、今勝ちおったナルトなんじゃが、おぬしのように医療忍者になりたいそうじゃ。」

「・・・ええ、そうみたいですね。」

第一の試験でそう宣言していましたよ、と苦笑する。

「今の試合でも掌仙術を使いよったし・・・あやつももしかしたらおぬしのような医療忍者になるかもしれん。」

その時はしっかり見てやってくれないか、と言う火影様。
ミコトはちらりと火影様の顔を伺い、そして、

「・・・はい。」

火影様があまりにも嬉しそうに柔和に微笑んでいたから、ミコトも目を細めて微笑んだ。



チクリと痛んだ胸に気づかないふりをして。








「おい、ナルト。」

キバは医療班の担架に乗せられ、連れて行かれそうになる前にナルトに手招きをして呼ぶ。
それに気づいて「キバ、大丈夫か?」と言いながら近寄ってくるナルト。
それがなんとも無邪気で。

――本当にお前は変わらねぇな。

どんなにいつもひどいことを言ったって、自分を友達だと言ってくれたこいつ。
だからせめて、試合の初めに言ったことを謝らなければ。

「あのさ・・・お前が医療忍者になれないなんていうのは・・・あれ嘘だ。」

そう言うと、ナルトはきょとんとして、すぐにニカリと笑い、腕を頭の後ろで組んで言った。

「うん、わかってるってば。」

「え?」

思わず間抜けな声を出すと、ナルトは苦笑をもらした。


「お前さ、嘘つくとき人の目見ねぇからさ。」


俺のために嘘吐いたんだろーなーって、サンキューな、キバ! と言ってまた笑うナルトにキバは目を見張った。
ナルトは何もかもお見通しだったのだ。それに、

――あぁ、そうだったな。


あの時も目が合わせられなかったんだ。










「独りは寂しいからさ・・・・・・一緒にいてあげろってばよ。」

雨の中ニシシと笑って、子犬を差し出してきたナルトと名乗る金髪の少年に、キバは目を丸くしたが、すぐにその子犬を受け取って腕の中におさめる。

「か、簡単に言うなよな!! お前だって知ってるだろ!?」

キバは思わずナルトの言葉に反抗してしまった。それも仕方ないだろう。
先ほどある先生にこの子犬、赤丸のことで叱られたばかりなのだ。そのことはクラスのみんなが知っている。突然声を荒げたキバにナルトは苦笑した。

「お前、あの先生に謝ったのかよ?」

「え?」

「だってさ、あれはお前が悪かったと思うってばよ?」

「うっ・・・・・・。」

そう言われたキバは押し黙ってしまった。
ナルトの言う、“あれ”。それは、昼間の出来事だ。



校庭でキバは赤丸とある修行をしていた。それは、

「いけ、赤丸! ダイナミック・マーキングだ!」

「ワン!」

“ダイナミック・マーキング”とは、小便をふりかけて、相手に“マーキング”を施すことだ。その臭いで赤丸とキバは追尾ができるようになる。
キバの命令に返事をした赤丸は高く跳び上がり、見事な小便を披露した。それに喜ぶキバだった。が、

「あ。」

キバの目に入ったのは無言で立っている先生。その先生は心なしか濡れているようにも見える。いや、思い切り濡れていた。
そう、たまたまそこを通りかかった先生にそれがかかってしまったのだ。

そして今の状況に至る。




「お前、見てたのかよ・・・。」

「たまたまだってば。」

苦笑するナルトにキバはため息を吐いた。
確かに自分はあの先生に謝るということをしなかった。しかし、

「あいつが許すわけねぇよ。あいつ、“動物”はだめだって言うしよ。」

キバはそう言って落ち込んだ。先生に呼び出されてこっぴどく言われたのだ。
“動物”をここにつれてくるな、と。と、その時、

「キバ・・・。」

ナルトの雰囲気が突然変わった。ナルトに名を呼ばれたキバはビクリと肩を揺らして恐る恐る顔を向ける。低く己の名を呟いたナルトの顔は無表情だった。しかし、雨のせいか、それは泣いているようにも見えた。

「キバは、赤丸のこと“動物”だと思ってんのかよ。」

「はぁ? 何言ってんだよ・・・赤丸は動ぶ・・・」

キバの言葉は途切れた。ナルトが唐突にキバの肩をガシリと掴んだのだ。

「キバ・・・俺の目を見てもう一度言ってみるってばよ。」

「え・・・。」

「だから、もう一度、おんなじこと言ってみるってば。」

そう言ってじっとナルトは目を見つめてくる。キバはゴクリと喉を鳴らした。
ナルトの目はとても澄んだ青をしていて、見ているこちらが吸い込まれそうだ。

そんな目に耐えられるわけがない。


「赤丸は動物・・・・・・なわけねぇだろ!! 赤丸は」


友達だ!!


キバは心の底から叫んだ。
あの先生に動物だと言われてものすごく腹が立った。先生は赤丸をただの動く塊だというような目で見ていた。その目が気に食わなかった。
赤丸は動物なんかじゃないんだ。
やっと自分だけの忍犬を親から渡されたのだ。
自分のかけがえのないパートナーだ。それをバカにした先生に謝ることなんてできなかった。
思い切り叫んだキバはハァハァと荒い呼吸を繰り返す。すると突然、ナルトが手に掴んだ何かでキバの頬を撫でて、そっと口を開いた。


「うん、赤丸はキバの友達だ。だから、」

泣かないで?


そう言ってニコリと微笑んだナルト。

「・・・・・・はぁ?」

思わずキバは目を見開いた。
自分が泣いている?
手で触れてみれば本当に濡れていて。
自分はいつの間にか泣いていたのだ。それほど悔しかった。

悔しかったんだ。


「俺もあの先生苦手だけどさ・・・明日一緒に謝りに行こうってば。」

「へ?」

キバがナルトの顔を見ると、とても優しく笑っていて。
キラキラと輝いて見えた。

――あ、涙のせいか。

まだ少し目が潤んでいるせいで、ナルトの顔がキラキラしている。でも、そうでなくてもきっと輝いているんだろうな。

「明日、逃げんじゃねーぞ!」

「お、おい!!」

突然振り返って去って行こうとするナルトにキバは声をかける。しかし、

「それ、あげる!」

捨てていいからな! と言って去っていくナルト。

「・・・・・・それ?」

いつの間にかキバの手の中に握らされているそれ。キバはそれを見て驚き、すぐにまたナルトに向かって叫んだ。

「お前!! 明日風邪でも引いて休むんじゃねぇぞ!! 約束だかんな!!」

大声で叫んだら、ナルトがこちらに振り返って、満面の笑みで、

「だいじょーぶ!! 俺ってば風邪なんか引かねーもんねー!!」

そう言い残して、雨の中を走っていった。
キバは去っていくナルトの姿が見えなくなるまでその雨の中を傘を差し、犬を抱いたままポツンとしばらく立っていた。ぼーっとしているキバに赤丸がクゥ~ンと心配そうに鳴いている。その声で下を見れば目に入ってきたのは手の中のそれ。

「・・・・・・湿ってんじゃん・・・。」

手の中のそれは綺麗なハンカチだった。
でも、それはだいぶ湿っていて。
自分が流した涙でこんなに湿ってしまうわけがないじゃないか。

「あいつ・・・バカだよな。」

いったいいつからここにいたんだろうか。
まだ季節は新学期が始まったばかりで。
どう考えたって寒いのに。
ずっと赤丸を抱いていてくれたのだろうか。

「・・・・・・バカだよな。」

捨てられるわけねぇだろ、これ。

キバはポツリと呟いた。


「クゥ~ン。」

赤丸は降ってきた雨に顔を上げる。


そこにはくしゃっと嬉しそうに顔を歪めて泣いている“友達”がいた。








次の日、それはそれはいい天気になった。

「お前、いつにもまして今日はダメダメだったな!!」

そう言ってキバは思い切りナルトの背を叩いた。
全ての授業が終わり、頭の上に赤丸を乗せたキバはこれからさっそく謝りに行こうと思い、ナルトに声をかけたのだ。そのナルトは今日の授業の忍術や体術、全てにおいていつも以上にできが悪かった。まぁ、いつも悪いのでそう大差ないのだが。
キバに思い切り叩かれたナルトは少しよろめいたが、振り返ってニカリと笑った。

「ウッセーてば!! キバもよく逃げなかったな!」

そう言ってニシシと笑う姿は昨日と少し違うような気がするのはなぜだろうか。
キバは少し首を傾げたが、ナルトが「早く行くってば!」とキバの腕を掴んで教員室へと歩いていく。

その掴まれた腕がとても熱かった。





教員室に着くと、「失礼しま~す!」と勢いよく扉を開けてズンズンと入っていくナルトに、キバはまだ心の準備が・・・! と思ったが、もう遅い。
ナルトが立ち止まった先には、昨日自分を叱り付けてきたあの先生が机についていた。

「先生。赤丸のこと許してほしいってば。」

ほら、キバも謝れ、と言って振り向いたナルト。キバはゴクリと唾を飲む。
突然声をかけられた先生は少し驚いた様子でこちらを向き、ナルトを見た途端、目つきが変わった。それは赤丸を見る時とは比べ物にならないくらい嫌な目だった。

「き、昨日はすみませんでした・・・。」

キバは赤丸を腕に抱いて頭を下げる。
確かにあれは誰だって怒るはずなのだ。謝らなかった自分も悪いと思い直すと、意外にすんなりと謝罪の言葉は口から出てきた。しかし、

「お前・・・また“それ”連れてきたのか。」

顔を上げれば、先生が赤丸に指を差していた。その目は昨日と全く一緒で。
そんな先生の態度にキバはギリッと歯を食いしばり、反論しようとしたその時だ。

「“それ”なんかじゃねー!! 赤丸はキバの友達だ!! 先生だからって言って良いことと悪いことがあるってば!!」

「ナルト・・・。」

教員室はしんと静まり返った。そこにいた全ての人がナルトを凝視している。
・・・それだけならいい。

――なんだよ・・・これ!?

その目はまるで汚いものを見るような目で。こんな目は見たことがなかった。
これが本当に同じ人間の目なのだろうか?
ナルトはその視線に気づいているだろうに、ずっとその先生を睨みつけている。

――・・・もういい。

もういいよ。
お願いだからお前がこんなところにいないでくれ。
あんなに綺麗な目をしたお前がこんなところにいなくていいんだ。
キバはもう行こう、と声をかけようとした次の瞬間、

ドカッ!!!!

「ナルトっ!!」

突然立ち上がった先生がナルトを蹴りつけたのだ。
ナルトの小さな体は吹っ飛び、後ろにあった机に思い切りぶつかり、「うっ」と短いうめきをもらした。慌ててキバはナルトのそばへと駆け寄る。
ナルトの顔を覗き見れば、口から血がたれていた。

「・・・おめぇ!!」

キバはナルトを蹴りつけた先生をギロリと睨み、立ち上がる。が、

「・・・・・・ナルト。」

キバの服をナルトはギュッと掴んで放さなかった。ナルトは血を片手で拭い、首を横に振って、にこっと笑った。

「・・・何笑ってんだよ・・・!」

――どうしてだよ?

なんでだよ。おかしいだろ。突然そんなことされてなんで笑っていられるんだよ。
キバはまたギリッと歯を食いしばる。と、その時だ。

「一体どうされたんですか!?」

扉から入ってきたのは鼻の上に一文字の傷がある男。

「イルカ先生!! こいつがナルトのこと蹴りやがったんだ!!」

その一文字の傷の男、イルカにキバはナルトを蹴った人物を指差しながら訴える。イルカは倒れているナルトを見て驚き、すぐに駆け寄った。

「ナルト、お前・・・・・・熱があるじゃないか!!」

「え!?」

どうりで今日はおかしいと思ったんだ、と言うイルカの驚いた声にキバは振り返った。そういえば先ほどからナルトの息遣いは少し荒かった。それに、手だってとても熱くて。
こんな高熱でお前・・・と呟いたイルカは、キバが指差した人物を睨み付ける。

「先生・・・生徒に暴力を振るいましたね。」

そう言いながらイルカはそっとナルトを背負う。

「フン・・・先にわけのわからないことを言ってきたのはそいつだ。」

「何言ってんだよ!! ただ俺たちは昨日のことを謝りに来ただけだろ!!」

蹴ったことを謝りもしない教師にキバは怒鳴りつけた。それでも飄々としているそいつ。しかし、

「先生、このことは火影様に報告させていただきます。」

「なっ!! そ、“それ”はそういうことをされてもおかしくないだろ!?」

イルカの一言で態度をがらりと変えた教師。その言葉にナルトを背負い、教員室から出て行こうとしていたイルカがピクリと反応した。そして、ゆっくりと振り返ったイルカが口を開いた。

「・・・こいつは俺の生徒です。“それ”なんて言い方は許しませんよ・・・。」

そう低く唸るように言ったイルカに教師だけでなくキバまで驚いた。
いつもナルトを叱る姿は見たことがあったが、ここまで怒っているイルカは見たことがなかった。イルカに睨まれた教師は「ヒッ!!」と声を上げて、ズルズルとその場に座り込んでしまった。
それを見たイルカはフンと鼻を鳴らし、部屋から出て行く。それを呆然と眺めていたキバはハッとしてすぐにイルカを追いかけた。





「ねぇ、イルカせんせー。」

「ん? なんだぁ、ナルト。」

イルカがのんびりした歩で、ナルトの呼びかけに応える。キバはイルカの後ろを黙ってついて歩いていた。

「キバの友達の・・・赤丸さぁ、連れてくるの・・・許してほしいってばよ・・・。」

「 !! 」

苦しそうな呼吸でそう呟いたナルトにキバは驚き、足を止めた。
もとはといえば、ナルトがこんな熱で来たのも自分のためだったのだ。
熱でうなされるように「お願いだってばよ、イルカせんせー」と何度も何度も呟いて。
どこまでこいつはバカなのだろうか。
その呟きにイルカは苦笑した。

「俺はダメなんて言ってないぞー。」

イルカのその言葉に「あ、そっか」と言ってナルトはにこっと笑うとそのままスッと眠ってしまった。イルカはまた苦笑をして、ナルトを起こさないように振り返り、キバにニコリと笑う。
その笑顔はいつもの笑みだった。

「キバはこいつの友達か?」

「え・・・あ、その・・・。」

イルカの唐突な問いかけにキバは口を噤んだ。
そういえば、ナルトとは昨日初めて話したばかりだった。今日だって放課後になって初めて話しかけたのだ。なぜ、ナルトは己のためにこんなにがんばってくれているのだろうか。
首を捻ったキバに、イルカは微笑む。

「こいつさ、いい奴だろ? いつもはいたずらばっかするけど・・・ちゃんと謝るんだよ。」

「え?」

「たいしたいたずらじゃないのに、つかまえた後は必ず謝ってくるんだよ。」

イルカはその時のナルトを思い出しているのか、少し悲しそうな顔をした。

「なのにどうしてかな・・・・・・こんなにいい奴なのに友達がいなくてさ。」

「あ・・・。」

――あ、そういえば・・・

ナルトは何をするのにもいつも1人だった。
いたずらをするのも1人。お昼を食べるのも1人。
組み手の相手さえなかなか決まらなくていつも困っていた。

「ま、キバも赤丸を連れてきてもいいが、あれは誰もいないことを確認してから行いなさい。」

「げっ!! 先生知ってたのかよ!?」

ハハハと笑いながら再び歩き出したイルカに、キバはその場に佇んでいた。すると、イルカは振り返らずに、「俺はこいつを送って帰るから、お前も早く帰れよ。」と言って去っていく。

イルカが去った後も、キバはその場でじっと地面を睨み付けていた。










――そう言えばあの時、お礼言ってねぇなぁ。

担架に乗せられて横になったままボーっとナルトを眺めていると、またナルトはニカリと笑った。

「キバ! 早く怪我治せってばよ!」

そう言って会場の上へと戻ろうとするナルトに、結局自分はまた何も言えていないことに気づく。これでは呼び止めた意味がない。

「ナルト!」

呼びかければすぐ振り向いてくれて、優しく笑って、「なんだってば?」と言葉を返してくれる。そんなお前に言う言葉は、


「ありがとな!!」


“ごめん”じゃなくて、“ありがとう”だ。

その言葉にきょとんとしたナルトは、またすぐ笑って、


「俺も! ありがとな!! 俺、」


お前と友達で幸せだ!!


あの頃と全く変わらない笑顔で、そう返してくれた。
キバはちらりと横を見る。担架に乗せられたのは自分だけではない。
横には何の夢を見ているんだか、

幸せそうに眠っている赤丸の顔があった。










これはイルカがナルトを連れて去っていった後のお話。


キバはじっと地面を睨み付けている。その場に残ったのはキバと腕の中の赤丸だけ。
そんなキバの様子に心配した赤丸がクゥンと鳴いた。が、

「よっしゃぁあ!! 赤丸!! 俺はあいつの友達だ!!」

突然ガバッと顔を上げて拳を握ったキバに赤丸は腕から飛び降りる。
そう叫んだキバはとても楽しそうだった。


「帰るぞ!! 赤丸!」

「ワン!」


駆け出したキバに赤丸もついて走る。



1人と1匹は嬉しそうにアカデミーから帰っていった。





その次の日、すっかり元気になったナルトのまわりをうろつく1人と1匹が見られるようになった。

そして、ナルトの周りにはまた1人、また1人、と増えていったそうだ。





ナルトを蹴りつけた教師はイルカが火影様にそのことを報告したため、辞めざるを得なくなった。











あとがき

読んでくださってありがとうございます!!
今回はキバさんとナルトさんメインのお話でした。キバさんの攻撃で、赤丸さんと一緒だと“牙通牙”で、1人だと“通牙”になることを今回初めて知りました。
キバさんの過去話に出てきたあの先生は、ナルトさんの初めての担任です。気づいてくださった方、本当にありがとうございます。

実はナルトさんと一番初めに友達になったのはキバさんでした。この過去のお話を書きながら初めてボロボロと泣いてしまった作者です・・・。いったいどこで!? と思われますよね。自分でもビックリしました。自分の妄想はすごいな、と思います。読者様が泣けるようなお話が書ける文才がほしいです・・・。

センターを受けた皆様、お疲れ様でした。なんとか無事に目標の点数を取ることができました(驚くほど低いですが・・・)。
自分はこれから大変がんばらなくてはならないため、極端に続きを書く時間が減ってしまいます・・・。このお話が書き溜めされている最後のお話だったので、これから暇をみつけては書こうと思いますが、更新がかなり遅くなってしまうと思います。
がんばって書き続けますので、これからもよろしかったら読んでいただけると大変喜びます。
↓にちょっとしたおまけを書きました。よろしかったら、お読みください。












おまけ




「ナルト? 空に何かあるのか?」

「あ、イルカせんせー。」

アカデミーの教室の中で、珍しくおとなしくしているナルトにイルカは思わず声をかけた。そのナルトはずっと空を眺めているのだ。何かあるのだろうか。

「今日、雨降りそうだなぁって思ったんだ!」

「雨?」

イルカも一緒に眺めると、空には太陽が高い位置に見えている。雲など全然見当たらなかった。とても雨が降りそうな天候ではない。

「本当に雨なんて・・・」

イルカがナルトに尋ねようとすると、ナルトの視線が空から校庭の方へと変わったことに気づき、イルカもその視線の先へと顔を向ける。そこには、

「あのバカ!」

あちゃぁと頭を抱えるイルカ。

「あれって・・・犬塚キバと赤丸だってば?」

「お、ナルト知ってるのか。」

たった今、校庭ではキバが赤丸を抱いたまま、ある先生に怒られていた。

「あの先生厳しいんだよなぁ・・・赤丸・・・連れてくるなって言われそうだな・・・。」

あいつもバカなことをして、と呟くイルカに対し、ナルトはずっとその光景を見ていた。しかし、

「あ、おい! ナルト! どこに行くんだ!」

突然教室から飛び出て行こうとするナルトに呼びかける。すると、立ち止まって振り返り、ニカッと笑った。

「独りは寂しいからさ!」

そう言い残し、ナルトは教室を出て行った。
イルカはそんなナルトにため息を吐く。と、窓から校庭を見れば、キバがいつの間にか1人だけになっていることに気づいた。そして、

「あ、雲。」

空にはいつの間にか黒い雲が見え始めていて。
本当に雨でも降ってきそうだった。


――独りは寂しい・・・か。

イルカはじっとその黒い雲を睨み付けて、


――どうか、あいつが独りになりませんように。


そう祈る。





その祈りが叶うのも、


もうすぐ。










あとがき2

ここまで読んでくださって本当にありがとうございます!
次のお話はネジさんとヒナタさんの試合ですが、今度は少しミコトさんが活躍されます。
完結までのプロットは作っているのですが、とにかく時間がなくなってしまったため、書きたくても書けない状態です。それでもなんとか書いていきます!
このような感じでこれからもお話は進んでいくと思いますが、続きを楽しみにしていただけたら・・・と願っております。



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 第31話
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2008/01/26 13:48






「ナルト! あんたすごいじゃない!」

「へへへ。」

下から戻ってきたナルトはサクラに声をかけられ、満面の笑みを作る。と、その時、

「・・・ナ・・・ナルト君・・・・・・。」

声をかけてきたのは白い眼が特徴的な黒髪の短い女の子。

「ヒナタどうしたってば?」

ナルトはビクビクと震えている黒髪の女の子、ヒナタにできるだけ優しく問いかけると、ヒナタはスッと何かを差し出してきた。

「ナ、ナルト君は掌仙術使えるけど・・・よ、良かったら・・・・・・使って?」

そう言われてナルトがヒナタの持っている何かに目を向けると、それは小さなビン。

「それって・・・」

「塗り薬よ。」

その声に振り返れば、黒髪の長い女性、紅が「もらってやりな、ナルト」と、ニコリと微笑んだ。

「うん! サンキュー、ヒナタ!」

お前っていー奴だな! と言ってそのビンを受け取ると、嬉しそうにヒナタが笑った。
そんな和やかな雰囲気になりかけた時だ。


「次の試合を発表します。」


ゴホッと咳をしながらハヤテが次に進めていく。そして電光掲示板には・・・







NARUTO ~大切なこと~ 第31話







上からみんなが見つめる中心、そこには同じ白い眼をした黒髪の短い少女と黒髪の長い少年が立っている。
第八回戦、それは日向ネジ対日向ヒナタだった。


「まさかアナタとやり合うことになるとはね・・・・・・ヒナタ様。」

「・・・ネジ兄さん・・・。」


そう呼び合う2人の関係、それは日向家の“宗家”と“分家”だ。





「何とも面白い対戦になったもんじゃ・・・。」

「・・・ええ、そうですね。」

火影様の言葉にミコトは歯切れ悪く答える。
日向一族とは、木の葉で最も古く、優秀な血をくむ名門だ。その中でも、ヒナタは日向流の“宗家”にあたり、ネジはその流れをくむ“分家”の人間。つまり2人は親戚同士である。しかし、“宗家”と“分家”の間には昔から色々とあり、今はあまり仲の良い間柄ではないらしい。

――とうとうこの戦いがきてしまったんですね・・・。

ネジのヒナタを見る目が、とても鋭い。しかし、それはヒナタを見ているようで、何か違うものを見ているようにも見える。
ネジの視線の先には何があるのだろうか。





「では、始めて下さい!」

ハヤテがゴホッと言いながら、試合開始の声を上げる。しかし、

「試合をやり合う前に1つ・・・ヒナタ様に忠告しておく・・・。」

そう言ったネジにヒナタは首を傾げた。すると、ネジが眼光鋭くこちらを見据え、そして次に出た言葉にヒナタは思わず眉間に皺を寄せた。


「アナタは忍には向いていない・・・棄権しろ!」


ネジはそう言うと、続けてヒナタに指摘を加えていく。

「あなたは優しすぎる。」

ネジはずっとヒナタの目を見つめたまま言葉で責めていく。

「調和を望み、葛藤を避け、他人の考えに会わせることに抵抗がない。そして自分に自信がなく、いつも劣等感を感じている。だから下忍のままでいいと思っていた。しかし、中忍試験は3人でなければ登録出来ない。」

ヒナタはネジの目を見ていられなくなって顔を逸らした。

「・・・同チームのキバたちの誘いを断れず、この試験を嫌々受験しているのが事実だ。」

違うか? とネジは顔を逸らしているヒナタに尋ねる。すると、ヒナタはその言葉に反応して、一瞬だがネジを見つめ返し、

「・・・ち・・・違う・・・違うよ・・・・・・私は・・・私はただ・・・」

すぐにまた視線を落として、ポツリと呟いた。


「・・・・・・そんな自分を変えたくて、自分から・・・・・・。」


その呟きはとても小さかったけれど、会場にいた者全員に聞こえていた。
棄権しようと思えばすぐにできるのに、ヒナタは目を合わせることができなくても、こうやってその場に自分で立っているのだ。それは本当に自分を変えたくて。ただその一心でこうやってここまでやってきた。
それはとても難しいこと。
逃げることは簡単だ。しかし、ヒナタはそれに自分から立ち向かっている。
ミコトはネジの強い視線に耐えて、じっと佇んでいるヒナタを見て微笑んだ。

――ヒナタは強くなりましたよ。

ヒナタは本当に強くなった。
見た目では分からないかもしれないけれど、“心”が本当に強くなったのだ。
それに、ヒナタが努力をしているのは誰だって気づいているはずだ。それなのに、

「ヒナタ様・・・アナタはやっぱり宗家の甘ちゃんだ。」

ネジはそんなヒナタを鼻で笑う。


「人は決して変わることなど出来ない!」


そう言ったネジが一番苦しそうに見えたのは自分の勘違いだろうか。

「落ちこぼれは落ちこぼれだ・・・その性格も力も変わりはしない。」

いや、勘違いではなかった。
ネジはヒナタに言っているようで、自分に言い聞かせている。
ネジは何かに縛られているのだ。しかし、

――今の言葉はいただけませんね・・・。

“落ちこぼれ”

それは自分を指す代名詞みたいなものだ。
ネジは確かに落ちこぼれではない。ネジは“天才”だ。
才能に溢れていて、誰もが羨ましいと思っただろう。しかし、今のネジはどうだろうか。
・・・少しも羨ましくなんてない。
ミコトがちらりと横に目を向ければ、今の自分の感情を顕にすることができる「ナルト」がギリギリと歯を食いしばってネジを睨んでいる。

「人は変わりようがないからこそ差が生まれ・・・エリートや落ちこぼれなどといった表現が生まれる。顔や頭、能力や体型、性格の良し悪しなど・・・変えようのない要素で人は差別し、差別され、分相応にその中で苦しみ、生きる。」

そこまで言うとネジはスッと目を細め、ヒナタにはき捨てるように呟いた。


「俺が分家で・・・アナタが宗家の人間であることは変えようがないようにね・・・。」


その言葉にヒナタは息を呑んだ。いや、ヒナタだけではない。日向一族について知っている者たちは同じ反応を示しただろう。ミコトもそれを聞いて顔を顰めた。
火影邸に行くようになってからいろいろと資料を読んできた。日向家の血継限界を調べようとすれば、自然と目に付いた言葉が“宗家”と“分家”。あまり詳しくは載っていなかったが、“分家”が“宗家”のために存在するのは明らかだ。
それがずっとネジを縛って、苦しませていたのだ。

「今までこの白眼であらゆるものを見通してきた。」

“白眼”は写輪眼に似た瞳術だが、特に洞察力に長けている。ほぼ全方向を見渡す視野、かなり先を見通す視力、物体の透視や体内のチャクラの流れる経絡系までも見ることができる眼だ。ネジの話は続いている。

「だから分かる・・・! アナタは強がっているだけだ。本心では今すぐこの場から逃げ去りたいと考えている。」

「ち・・・違う・・・私はホントに・・・」

ネジの言葉を必死に否定しようとするヒナタだったが、

「俺の目はごまかせない。」

ネジが白眼を発動させてこちらを見据えていたため、声を出すことができなかった。
ヒナタは咄嗟に目を逸らし、手で唇に触れる。すると、

「今の仕草・・・アナタは昔の自分をイメージし、これまでの経験から・・・この試合の結果を想像した・・・・・・負けるという想像をね!」

それを見たネジはどんどんヒナタを言葉で追い込んでいく。

「アナタ・・・本当は気づいてるんじゃないのか・・・“自分を変えるなんてこと絶対に出来・・・”」

ネジが最後の止めだと言わんばかりの台詞に、


「出来る!!!」


ナルトが切れた。

「人のこと勝手に決め付けんなバーーーカ!!! んな奴やってやれ、ヒナタ!!」

あまりのその言い草に思わずミコトは苦笑する。
ネジの言っていることは実際正しいこともある。
人はこの世に生を受ければ、自分ではどうしようもないことに縛られ、苦しみ続ける。しかし、それに必死に抵抗して、もがいて、なんとかしようとがんばってみてもいいのではないだろうか。

――ネジはもう、諦めてしまったのでしょうか。

アカデミーの頃からずっともったいないと感じていたのは、きっとそれだ。
ネジは自分の中のものに抵抗することを止めてしまった。でも、

――そんな人生はつまらないですよ。

あがいて、食らいついて、どんなに惨めでも、格好悪くても、自分を変えようと努力してもいいのではないだろうか。

「ヒナタ! ちょっとは言い返せってばよー!! 見てるこっちが腹立つぞ!!」

会場内に、ナルトの大声が響き渡る。すると、

「棄権しないんだな・・・どうなっても知らんぞ。」

ヒナタの目つきが変わったことに、ネジが気づいた。そして、ヒナタがギュッと目を瞑り、

「私はもう・・・逃げたくない!」

開いた次の瞬間には、白眼が発動されていた。


「・・・・・・ネジ兄さん・・・勝負です。」

「いいだろう。」


そう言って、2人は腰を低く落とし、手のひらを相手に見せるような構えをとる。
それは木の葉で最も強い体術流派の構えだ。
日向は、敵の体内のチャクラの流れる“経絡系”にダメージを与え、内臓などの内面を壊す“柔拳”を用いる一族なのだ。

ザッとヒナタが駆け出し、ネジに向かって手のひらを当てようとする。しかし、ネジはそれを全て手でいなしていく。が、

「くっ・・・」

ヒナタの攻撃がネジの腹をかすった。
“柔拳”には見た目の派手さはないが、かすっただけでも効果がある。“経絡系”は血管のように体の隅々まで行き渡っており、体内のチャクラを練りこむ内臓と密接に絡み合っているため、そこを攻撃すれば内臓にダメージを与えられるのだ。
いくら頑強な奴でも、内臓だけは鍛えられない。そのために日向流が最も強い体術と言われているのだ。
ネジに一撃を入れると、その流れに乗り、ヒナタがネジを押し始める。そして、

ドコッ!!

みなヒナタの攻撃がネジに入ったと思った。しかし、ゴホッと血を吐いたのはヒナタだった。

「・・・・・・やはりこの程度か・・・宗家の力は・・・!」

ヒナタの胸の上にはネジの右手のひらが当たり、左手はヒナタの右腕のある一点を突いている。

「はっ!」

しかしヒナタはそれでも再び攻撃に転じる。思い切り左腕をネジへと突き出す。が、その手をパシッと左手で掴まれ、そしてネジは右手でそのヒナタの左腕のある一点をまた突いた。
それにハッとしたヒナタ。

「・・・・・・ま・・・まさか・・・それじゃ・・・最初から・・・。」

ネジがスッとヒナタの左腕の袖をめくっていくと、そこには何箇所もネジが指で突いた痕が残っていた。

「そうだ・・・俺の目はもはや“点穴”を見切る・・・。」

ネジはヒナタの攻撃をいなすだけではなく、その“点穴”をついていたのだ。それを見て驚愕している上忍や下忍たちとは違い、ミコトは眉を顰めた。

――それだけの才能があって、どうして・・・

諦めてしまうのか。

経絡系上にはチャクラ穴という針の穴ほどの小さな361個のツボがあり、その中の“点穴”のツボを正確に突くと相手のチャクラの流れを止めたり、増幅させたり、思いのままにコントロールできるとされている。

「キャ!」

ネジはドカッとヒナタを突き飛ばした。

「ヒナタ様・・・これが変えようのない力の差だ。“逃げたくない”と言った時点でアナタは後悔することになっていたんだ。今アナタは絶望しているハズだ。」

ヒナタはその言葉に無言で地面を見つめている。

「・・・・・・棄権しろ!」

ネジは再びヒナタにそう告げる。しかし、

「・・・私は・・・」

ヒナタは口から血を吐きながらもゆっくり、

「ま・・・・・・まっすぐ・・・・・・自分の・・・言葉は曲げない・・・私も・・・それが忍道だから・・・!」

ゆっくり立ち上がった。そのヒナタの目は、とても力強かった。
そしてヒナタはある一点を見上げてニコリと笑った。ヒナタの視線の先、それは金髪の元気な男の子。



「ヒナタ・・・あいつスゲーってば。つえーってばよ。」

「君に良く似てます・・・。」

「そうね。・・・そういえばあの子・・・いつもアンタ見てたもんね。」

ナルトの呟きにリーとサクラがそう答えた。
ヒナタがアカデミーの頃から自分に気づいてくれていたのは知っていた。いたずらばかりする自分を、くの一たちは嫌そうな目で見ていたが、ヒナタだけはいつも楽しそうに見てくれていた。
声をかけてはくれなかったけれど、そのあたたかい視線が心地よかったのは自分だけの秘密。そう言ったら、薬を受け取った時みたいに、ヒナタは笑ってくれるだろうか。


「ヒナターガンバレーーー!!」


本当はさっきのネジの攻撃で、ヒナタの体がボロボロなのは分かっている。
だけど、今止めたらヒナタはきっと後悔してしまうから。
だから、今はがんばって、ネジに変わった自分を見せ付けてほしい。

それを見て、ネジも変わってほしいんだ。

ナルトの声援でヒナタは再び白眼を発動させて、ネジに向かって思い切り駆け出した。
何度も何度も柔拳を入れようとするが、ネジはそれを防いでいく。そして、ヒナタのある一手に手刀を下ろし、体勢を崩すと、あごを下から打ち上げた。

「ゴホッゴホッ・・・!」

その一撃にヒナタは思わず咳き込む。しかし、その目はずっとネジから離さなかった。そしてまたネジに向かって走り出し、突きを入れようとしたその瞬間、

ドスッ!!!!

ネジの攻撃がヒナタの胸に入った。

「アナタも分からない人だ・・・・・・最初からアナタの攻撃など効いていない・・・。」

ネジがそうはき捨てるように言うと、ヒナタはガハッと血を吐き、その場にドサッと倒れてしまう。ネジの攻撃は心臓を狙った決定打だった。これはもう、ネジの勝ちだと誰もが思っただろう。

「これ以上の試合は不可能とみなし・・・」

ハヤテもこれ以上の戦いは命に関わるため、試合の終わりを告げようとする。しかし、


「止めるな!!」

「何言ってんのよバカ! もう限界よ! 気絶してるのよ!!」


ナルトの叫びに思わずサクラが突っ込みを入れる。が、ナルトはじっと倒れているヒナタを見つめた。
ヒナタはもう十分戦ったことは分かっている。これ以上動けば死んでしまうかもしれないのも分かっている。でも、ヒナタはそれに勝つくらい強くなったんだ。

ほら、


「・・・何故立ってくる・・・無理すれば本当に死ぬぞ・・・・・・。」


ヒナタは自分の力で立ち上がった。それを見て驚いているのはみな同じだが、やはり一番驚いているのはネジだ。ネジは立ち上がってうっすら笑っているヒナタにそう呟く。

「ま・・・まだまだ・・・。」

「強がってもムダだ。立ってるのもやっとだろ・・・この目でわかる・・・。」

ネジは白眼でヒナタを睨み付けている。

「アナタは生まれながらに日向宗家という宿命を背負った・・・力のない自分を呪い、責め続けた・・・・・・けれど人は変わることなどない・・・これが運命だ。」

その言葉にヒナタは顔を歪めた。

「もう苦しむ必要はない・・・楽になれ!」

そう言って白眼をといたネジ。しかし、

「・・・・・・それは違うわ・・・ネジ兄さん・・・だって・・・私には見えるもの・・・私なんかよりずっと・・・」

ネジはそう言ってくるヒナタにまた白眼でギロリと睨み付け、ダッと駆け出した。

「ネジ君・・・もう試合は終了です!!」

それを見たハヤテが慌てて声をかける。と、その時だ。


「ネジ、いい加減にしろ・・・! 宗家のことでもめるなと私と熱い約束をしたはずだ・・・!」


ネジを止めに入ったのは、ハヤテだけではなく、そう言ったガイにカカシ、紅だった。
そんな上忍たちの態度に、ネジは「宗家は特別扱いか・・・」と睨み付ける。が、

「ガハッ・・・ガハッ!」

「ヒナタ!」

なんとか立っていたヒナタが急に咳き込み始め、また倒れてしまい、紅が急いで駆け寄る。それを見ていたサクラやリー、ナルトも上から飛び降り、ヒナタのそばへ寄る。
覗き込んだヒナタの顔色はひどく悪くて。ナルトは顔を顰めた。
医療忍者を目指す者としては失格なことをしてしまった。本当は止めるべきだったけれど、でも、

「ヒナタ・・・お前、変わったよ! ヒナタは自分に勝ったってばよ!!」

本当にヒナタは格好良かったんだ。きっと、みんなもそう思っているから。
ナルトのその言葉に、ヒナタが少し笑ったような気がした。

「おい・・・そこの落ちこぼれ。」

ナルトが振り向けば、目を細めてこちらを睨んでいるネジがいる。今の自分の言葉が癇に障ったのだろう。

「お前に2つほど注意しておく・・・・・忍びなら見苦しい他人の応援などやめろ! そしてもう1つ・・・しょせん落ちこぼれは落ちこぼれだ・・・」


変われなどしない!


鼻で笑うようにそう言ったネジにナルトは思わず眉を顰めた。
ネジはこんなに変わったヒナタに気づいてくれなかったのだろうか。
力が強くなったわけではないから、気づきにくいかもしれないけれど、ヒナタを知っている者たちだったらみな気づいたはずだ。
ヒナタは心が本当に強くなった。
今まですぐにあきらめてしまうようなヒナタが、こんなになるまであきらめなかったのだ。
それはすごい変化なのに。ネジだって気づいているはずなんだ。

――あ、そうか。

ナルトはスッと目を細めて、ネジを見た。

「お前・・・焦ってたんだな・・・。」

「 !! 」

そう言うと、ネジは激しく動揺した。
やはりそうだ。ネジは変化していく周りに焦っていたのだ。
自分は“運命”というものに縛られているから、変わることが出来なくて。
それなのに周りはどんどん変わっていってしまう。それには誰だって焦るだろう。
だから、ネジは“運命”だとか、“変われない”と言って、その自分の焦りを隠し、ごまかしていたんだ。
その言葉はネジにとって魔法の呪文のようなものだったのだ。
ネジの“運命”とはきっと“分家”のことを示しているのだろう。
確かに、日向家の“分家”は理不尽な問題があるかもしれない。
それでもネジはこんなにもその“運命”に逆らおうとしている。だって、“宗家”であるヒナタを最後には殺そうとまでしたではないか。
でも、そんなことをしてもネジの思っている“運命”からは逃れられない。
“分家”というものが檻か何かと思い込んでいるネジには、どんなに焦っても変わることが出来ない。変わるためには、それが檻なんかじゃないことをネジが気づかなければならないんだ。そうすればもっと今が楽しくなるから。
ナルトがそれを伝えようと口を開いた次の瞬間だった。

「グフッ!!」

仰向けになっていたヒナタが突然また血を吐き出した。
慌てて紅がヒナタの胸に手を当てると、ハッとした後すぐにネジを睨み付けた。

「俺を睨む間があったら・・・彼女をみた方がいいですよ。」

紅の凄みにフンと鼻で笑って返すネジ。そんなネジの態度は気に食わないが、言われたことは本当のことだ。

「医療班は何してる! 早く!!」

「す・・・すみません。」

紅の怒声に、医療班の3人が急いで駆けつける。すると、ヒナタの状態を見てみな顔色を変えた。

「このままでは10分ともたない!」

その叫びに、周りの人々もうろたえ始める。と、その時だ。


「僕が診ますよ。」

「ミ、ミコトさん!!」


いつの間にか下へと降りてきていたミコトが、ヒナタへと近づいていく。それには医療班は少し顔を顰めた。
彼女は今、心室細動を起こしている。
“心室細動”とは、心臓の動きが不規則になる不整脈のことだ。心臓全体で収縮や弛緩ができないため、血液を体全体に送れなくなっているのだ。これを治すには必ずある機械が必要になる。そのためにも早く道具の揃っている緊急治療室に運ぶべきだ、と医療班の1人が口を開こうとしたその時だ。

「皆さん少し下がっていてください。」

そのミコトの言葉の直後、聞こえてきたのはチッチッチッ・・・という鳥の鳴き声。

「何この音!!?」

ナルトとともに下におりてきていたサクラが思わずその音に耳を塞いだ。それはサクラだけではない。他の者たちも全員耳を塞いでいる。

「千鳥か・・・!!」

その音を聞いて真っ先に反応したのはカカシだった。“千鳥”とは、今聞こえている独特な音が鳥の鳴き声に似ており、まるで千の鳥が地鳴きしているようであることから名付けられた術のことだ。しかし、この音量は半端なものではない。
その音の発生源、それは倒れているヒナタのそばにいるミコトからだった。

「ミコト!? それは・・・・・・!?」

カカシは千鳥を発動しているミコトを見て目を見張った。
“千鳥”とは、片手に電撃を溜めて対象を貫く術だ。しかし、目の前のミコトは片手だけではなく、両手に電撃を溜め込んでいるのだ。しかもかなりの量の電撃をだ。一体何をする気なのか。そう思った次の瞬間、

「何・・・!?」

突然止んだ鳥の鳴き声に、思わず声をもらした。そのカカシの声が聞こえたことで、鳥の鳴き声が止んだことに気づいた他の者たちも耳から手を次々と離していく。

電撃が目に見えるほど溜め込まれていたにも関わらず、それが一瞬にして消えてしまった。
いや、消えたのではない。

――なんだあれは・・・

カカシの視線の先、ミコトはじっと自分の手のひらを見つめていた。
その両手のひらの上には小さな丸い光が浮かんでいる。その光をミコトはグッと握りつぶし、手を開いた次の瞬間にはその光の球はなくなっていた。

――何をしているんだ?

カカシだけではなくみなそう思っただろう。
千鳥を出したかと思えば、今度はそれを消してしまったミコトの行動の真意が分からない。
そのミコトは周りからの不審そうな眼差しを気にすることなく、両手のひらをそれぞれヒナタの右胸と左脇腹の位置にそっと当てた。その直後だ。

ドンッ! という音とともにヒナタの体が一瞬だけ浮き上がり、再び力なく倒れた。

しんと静まり返った会場内にその音の残響だけが目立っていた。
みなが突然のことに息を呑み、絶句している中、カカシはただ呆然と今の出来事を眺めていた。

――今のは何なんだ・・・!?

ミコトが初めに術を発動した時、音からして千鳥だったことは間違いない。
“千鳥”はただでさえチャクラの消費が大きな術だ。片手で電撃を溜めても何発しか使えないような術を今、自分の目の前でミコトは両手でやってみせたのだ。それもかなりの電撃の量を溜め込んで。
しかし、それだけではない。
鳥の鳴き声が消えたとき現れた手のひらの中の光の球、あれは千鳥を形態変化させたものだ。それまではなんとか自分でも分かった。が、最後にそれを握りつぶしたミコトの行動・・・それはもう自分には理解ができない。
カカシは混乱してきた頭を軽く振り、考え込むことを止めると、目に入ってきたのはミコトがヒナタの胸の上に両手を重ね、心臓マッサージを行っているところだった。そして、その心臓マッサージを止めた直後、ピクリと動いたヒナタの指。

「ヒナタ・・・」

ミコトのそばでヒナタを見ていた紅が、体から力が抜けたのか座り込んでしまった。その紅の様子に気づいたミコトが優しく微笑み、口を開いた。

「ヒナタさんはもう大丈夫ですよ。」

ボーっとヒナタを見つめていた紅が、ゆっくりミコトに顔を向けた。

「さっきのはただの電気ショックです。ヒナタさんは心室細動を起こしていました。これには電気ショックを与えて心臓の不規則なリズムを整え、心拍を正常に戻さなければならないんです。」

そう言われてヒナタの顔を見れば、顔色も先ほどよりも幾分良くなっているように思われる。それに、呼吸が安定している。が、しかし、その言葉で気になることがある。

「・・・・・・ミコト。さっきの術は千鳥だったはずだ。」

あれはただの電気ショックなんかではない。
今までいろいろと考え込んでいたカカシがミコトにそう問いかける。
その質問は千鳥を知っているものならみな訊きたかったことだろう。

「そうです。あれは千鳥から医療用に改良した術です。」

そう答えたミコトは何故か悲しげに笑った。


「僕は医療忍者になりたくて、たくさん勉強してきたつもりでした。・・・・・・でも、それはただの思い込みでした。」

15歳からと特別上忍見習いとして勉強させてもらって、1年も経たないうちにほぼ全ての医療忍術を会得した。それなのに、どうにもできなかったあの時。

「特別上忍の見習いになった頃、僕にはそれよりも前から親しくしてもらっていたおばあさんがいました。」

いつものように、一緒に商店街で買い物をしていたあの日。
楽しく会話をしながら、一緒に笑って。それは本当にいつも通りだったのに。

おばあさんから消えてしまった笑顔。

「おばあさんが僕の目の前で突然倒れたんです。」

そう言うと、みなが眉間に皺を寄せたため、「今は元気にしていらっしゃいますよ」と苦笑しながら告げる。

原因はすぐにわかった。
人が急に倒れるなんて、脳か心臓くらいしか原因はない。


「僕はその時、自分の無力さを知りました。」


倒れたおばあさんの心臓は不整脈を起こしていて。

それは“心室細動”だった。

「心室細動には絶対に電気ショックの装置が必要で。僕はただ病院に急いでおばあさんを連れて行くことしかできなかった。」

心室細動を起こしてしまった場合、一分一秒でも早く電気ショックを与えて、心臓を正常な状態に戻さなければ蘇生率はどんどん下がってしまう。

「病院についてすぐに電気ショックを与えて、おばあさんは何とか一命を取り留めました。」

その後のおばあさんは何度も自分にお礼を言ってくれた。

・・・それがひどく悔しかった。

「包帯などの・・・ちょっとした道具ならいいんです・・・・・・でも、命に関わるような事態に必要な道具がそばにあるとは限らないじゃないですか。」

ミコトは顔をくしゃっと歪めた。
楽しげに話して、笑っていたおばあさんが目の前で倒れて。
いつも「ミコトちゃん」と呼んでくれたあのおばあさんが。
道具がないと何もできなかった自分が、本当に悔しかった。

「だから、僕はこの術を作り出したんです。」

あの時からずっと研究して編み出したこの術。
それはただの電気ショックだけど、自分にとってはとても必要な術だと思ったんだ。

「でも、僕はもともと雷の性質ではなかったため、新しく自分で術を生み出すことはできなかったんです。」

「それで千鳥か・・・。」

カカシの呟きに「そうです」とミコトは頷く。

「雷遁の中でも形態変化ができそうな千鳥を会得しようと思ったんです。」

しかし、それには問題があった。
電気ショックをするには2箇所から同時に心臓に刺激を与えなければならないのだ。

「本当の千鳥でしたら、片手だけですが・・・心臓には2箇所からショックを与えなければならないため、どうにかして両手でできないか、と考えたんです。」

それが思った以上に上手くいかなくて大変でした、と苦笑するミコトに上忍たちは開いた口がふさがらない思いだった。ミコトの発想からしてもう呆れるしかない。
それに、実際は“大変”どころではない。

「そんなこと・・・下手したら死ぬぞ!」

千鳥は雷遁系の超高等忍術の1つだ。
その千鳥を両手でやるなど誰がそんな馬鹿なことをするだろうか。はっきり言って自殺行為だ。片手でさえチャクラ量の激しい技であるのに、両手でやるなど、自分の命を削るようなものだ。しかも、さっき見たミコトの千鳥は、通常溜める電撃よりもはるかに多かったのだ。
カカシの怒号に一瞬きょとんとしたミコトだったが、すぐに真剣なものへと変わった。


「人の命が救えないのなら、僕は医療忍者なんて辞めます。」


そう言い切ったミコトにカカシは思わず息を呑んだ。ふと頭に蘇ってきたのは、九尾が襲ってきたあの日の先生の言葉。

「なんでそこまで・・・」

今の言葉はまるで、先生みたいだ。
言葉だけじゃない。真剣なその顔も先生そのもので。
カカシの小さな呟きに、ミコトは表情を和らげ、


「だって、里の人たちはみんな僕の家族ですから。」


そう言って目を細めてニカッと笑った。





「火影様、どうかされましたか?」

アンコは突然、三代目が片手で顔を覆ったことに気づき、具合でも悪くなったのかと心配して声をかけた。しかし、三代目は「なんでもない」と首を振った。

なんでもない・・・わけじゃない。

――今の言葉は・・・

四代目とナルトが言ったものと同じではないか。

ミコトが15歳の頃からずっと見てきたが、ミコトは年を取るに連れて四代目火影に瓜二つになった。まるで自分の目の前に彼が戻ってきたようだ。
しかし、そんなことはありえない。
四代目が死んだのを見たのはこの自分だ。人間が生き返るはずがない。
我ながらおかしなことを考えてしまい、苦笑をもらす。

あぁ、ここにも・・・

「火影様、何かおっしゃいましたか?」

顔を覆っていた手を離し、フッと笑った三代目が何かをボソリと呟いたのに、アンコは首を傾げて聞き返す。しかし、

「なんでもない。」

そう言って優しく笑った三代目の視線の先は金色の青年。


――ここにも、火の遺志は受け継がれていた。


アンコはそんな三代目の態度に、首を捻った。





――何か変なことを言ってしまったでしょうか・・・?

突然しんと静まってしまった場の雰囲気に、ミコトはコクリと首を傾げる。が、すぐにまたヒナタの方へと顔を向けた。
電気ショックによって心拍が戻ったヒナタだが、内臓器官がかなり傷ついているのは、白眼がなくても分かることだ。先ほどの戦いでネジが本気で柔拳を入れていたのだから。

ミコトはスッと右手を持ち上げチャクラを溜め始める。今度は掌仙術だ。
しかし、内臓まで届かせるにはかなりのチャクラが必要になる。ミコトが集中してチャクラを溜め込み始めたその時だ。


「もう止めろ!」

「は、はたけ上忍・・・?」

突然カカシがミコトの右腕をガシッと掴んできたのだ。
その力はとても強くて、思わずミコトは顔を歪める。が、そのミコトよりもカカシのほうが辛そうな顔をしているのだ。その目は自分を見ているのに、見ていなかった。

「もう・・・やめてくれ・・・。」

カカシはそう何度も呟いて。掴んでいる手はわずかに震えている。
そんなカカシの様子を見て、ミコトはハッとし、ゆっくりその手を左手で上から包み込んだ。

「はたけ上忍。・・・僕は大丈夫です。」

さっきの術は自分以外の者が使ったら、確かに命に関わるような術かもしれない。それでカカシはこれ以上チャクラを練ることを止めに入ってきたのだろう。
しかし、このカカシの怯えようは尋常ではない。きっと父のことを思い出しているのだ。
父がどんな風に亡くなったかは知らないけれど、今のカカシを見ていれば、カカシが自分に父を重ねているのは明らかで。

「現に、さっきの術を使っても平気じゃないですか。」

そう言うと、カカシの震えが止まった。

「それに、僕は“神影ミコト”です。」

と笑えば、カカシがやっと自分のことを見てくれた。
大切な人の死を経験した者が、そう簡単にそれを乗り越えることなどできないのは自分も良く分かっているから。

「わ、悪い・・・。」

平常心を取り戻したカカシがミコトの腕をパッと放そうとする。が、

「・・・ミコト?」

ミコトはその手をガシッと掴んで、ニコリと笑う。

「心配してくださって、ありがとうございます。」

それだけ言うとやっとカカシの手を開放し、再び集中して掌仙術を発動する。
右手は目に見えるほどのあたたかい光で包み込まれていく。そして、それをゆっくりヒナタの胸へ当てると、その光はスッと体の中へと消えていった。
その途端、みるみる顔色が良くなっていくヒナタに、みなホッと息を吐いた。

「もう大丈夫です。」

ミコトはそう言って医療班にヒナタを病室に運ぶよう指示をする。それをただ呆然と見ていたカカシは、ふと思い出したように今まで考えていたことを尋ねた。

「・・・その両手の千鳥を形態変化まで持っていったのは分かったが、その後の行動・・・消えた千鳥どこにいったんだ?」

最後に光の球を握りつぶした動作はいまだに分からない。
担架で運ばれていくヒナタを見送っていたミコトが振り向いて、またニコリと笑う。

「あれは消えたのではありません。千鳥を形態変化で球にして圧縮したものを、手のひらに薄く均等にのばしただけなんです。」

「へ?」

カカシの間抜けな声に、ミコトはクスクスと笑う。

「電気ショックには電圧などの微調整が必要です。それの微調整を兼ねるのと、球体のままでは均等に心臓に向かって当てるのはとても難しいので。」

最後のあれが一番大変です、と笑うミコトは全然大変そうには見えないが、きっと誰も真似ができないのは間違いないだろう。
その術の後、見事な掌仙術まで行ったミコトは今こうやってけろりとしているが・・・・・・ミコトのチャクラ量の多さに驚きである。唖然としていたカカシは、クスクス笑うミコトを見て、何か引っかかることがあることに気づいた。

「ミコトの性質は何なんだ?」

そうだ。ミコトは雷の性質ではないと言っていたではないだろうか。
確かに、違う性質のものは修行することで扱えるようになる。あそこまで見事に雷遁が使えるようになるには、かなりの訓練をしたのだろう。
もともと、医療忍術は使える者は限られているが性質などは関係ない。なので、ミコトが何の性質を持っているかは今まで誰も知らなかったのだ。
そう問われたミコトは、何故か少し困ったような顔をしている。そして、しぶしぶといったように口を開いた。

「・・・・・・僕は猿飛上忍と同じ風の性質です。」

「風・・・。」

そのミコトの返答にみな驚きを隠せなかった。
下忍たちは、風の性質であるにも関わらず、他の性質を扱ったことに対して驚いているのだろう。しかし、上忍たちは違う。
確かに風の性質は猿飛アスマの性質でもある。が、それと同時にあの四代目火影も風の性質だったのだ。



――ミコトのやつ・・・まさか風の性質じゃったとは。

上でその話を聞いていた火影様はフムと顎に手を添えて、下にいるミコトを見つめる。
ヒナタが倒れた後すぐ、「僕に行かせてください」と言われ許可を出したが、まさかこのようなものが見られるとは思わなかった。

「まさか、ミコトが風の性質だったなんて・・・。」

アンコが驚いたように呟いた。アンコ以外の上忍たちも呆然としてミコトを見ている。
そんなみなの反応に火影様は思わず苦笑する。今が中忍試験の途中ということを忘れているのではないだろうか。

――じゃが、それも無理ない。

この自分でもかなり驚いているのだ。
どこまで本当に似ているのだろうか。・・・だが、ミコトはミコトだ。

木の葉の火の遺志を継いだ立派な医療忍者だ。

下では無事ヒナタの治療を終え、話のほうも一段落着いたようだ。そろそろミコトも上に戻ってくるだろうと思った火影様だったが、そのミコトはと言うと、彼は目を細めてじっとヒナタの対戦相手だった少年を見つめていた。
その少年は試合が終わってからずっとその場に佇んでいたが、ミコトの視線に気づき、フンと鼻を鳴らして上の階へ戻ろうとする。が、


「あなたもとても苦しんでいるんですね。」


ミコトのその言葉にピクリと反応し、立ち止まって少年は振り返った。その顔はとても険しいものになっていて。上忍たちもみな、眉間に皺を寄せている。
今のミコトの台詞は、少年の地雷を踏んでしまったのだ。

「ミコトとか言ったな・・・。」

「はい。」

少年の言葉ににこっと笑って返事をしたミコト。その態度はさらに少年の感情を高ぶらせてしまった。


「・・・お前に俺の何が分かる!!」


何が分かるというのだ。
今までこんな木の葉の忍を見たことがなかったが、どうやら目の前のこいつは医療忍者として活躍しているようではないか。自由に、自分の好きなように。束縛されるものなど何もなく。
そんな奴が己の苦しみを分かるはずがない。

分かるはずがないのだ。

「確かに、僕はあなたではないので、あなたの感じている苦しみを知ることはできません。」

依然として微笑んでいるミコトにいらついてしまう。もう話すことなどない、という風に少年が向きなおして歩き始める。と、「でも」とミコトが呟いた。

「僕は医療というものが、体を治すものだけではないと思っています。」

突然話が変わったことに不審に思い再び振り返れば、ミコトは自分の胸の上をギュッと掴んでいた。

「心にも見えない傷ができるんです。それを治すのも、医療の役目だと僕は思います。」

そう言って微笑んだミコトに、少年は目を見張った。
まるで自分が見透かされているようで、少し恐怖を感じた。人を見透かすことなど、己が一番得意なことだというのに、こいつの青い目を直視することができない。

「ネジ君は、変われますよ。」

「ッ!!」

「変わらないと・・・もったいないです。」

ネジは息を呑んだ。
こいつは何を言っているのだろうか。
何がもったいないというのだろうか。
・・・頼むから


「そんな目で俺を見るなッ!!」


何もかも見透かしてしまいそうなその目で俺を見ないでくれ。

「人は変われなどしない!」

変われないから、己はこうやって苦しみ続けなければならない。
それは“運命”なんだ。


「ネジ!!」


突然違うところから自分の名を呼ぶ声が聞こえてきた。
そこへ顔を向ければ、ミコトとかいう奴と同じ色を持ったあの“落ちこぼれ”が己を睨んで立っていた。
その落ちこぼれが床についていたヒナタの血を手につけて、グッと握り、


「俺がお前をぜってー変えてやる!!」


その拳をネジに突きつけるように掲げた。

「フン・・・」

それを見たネジはクルッと回って、もう振り返ることなく上へと戻っていった。

そして、今までの出来事に呆然としていた者たちも我に返り、ハヤテを残して上に戻っていく。が、



「ミコトはどこに行ったのじゃ?」

火影様の呟きに「え?」とアンコが振り返り、パッと下を探せば、そこにはハヤテしかいなかった。上へあがってきた者たちを見ても、そこには金色は1つしか見当たらず、それは青年のものではなかった。


「では、これから・・・次の試合を始めます!」


ハヤテはみなが上に行ったことを確認して、ゴホッゴホッと咳をしながら次に進めている。

「ミコトは・・・きっと、気分転換に外に行ったのではないでしょうか?」

さっきの術でかなりチャクラを消費したみたいですし、とアンコがミコトを心配してキョロキョロと視線をせわしなく動かしている火影様に、苦し紛れな言い訳をする。

――ミコト!! どこに行ったのよ!?

火影様が何かとミコトに過保護なのは火影邸の中では有名な話だ。もし、ミコトに何かがあったら・・・・・・想像するのも恐ろしい。

「・・・・・・だといいんじゃが。」

ブスッとそう答えた火影様に、アンコはこっそり息を吐いた。
その間にも、下では


「では第九回戦、始めて下さい!!」


ひょうたんを背負った砂の少年と、緑のスーツにおかっぱ頭の木の葉の少年の戦いが始まっていた。










あとがき

お久しぶりの更新です。つまらないお話で申し訳ないです・・・。
夜寝る前にコツコツ書いています。
ミコトさんに少しでも医療忍者らしいことをしていただこう、と勝手に術を作り出してしまいました。この術を名付けるならば・・・除細動の術? ですかね。そのまんまですね。(笑 
すみません! 自分にはネーミングセンスが全く無いのです。
なんとか週1回更新したいなと思っております。
↓にまたおまけを書いています。よろしかったらお読みください。













明日は念願の卒業試験です!

・・・でも、その前に




おまけ




澄み渡る青空に、ぷかぷかと浮かんでいる白い雲。
今日も木の葉の里は平和・・・かと思いきや。



「見てみろよ・・・あれ。」

「なんちゅーバチ当たりな!」


早朝であるのに関わらず、たくさんの人々が集まって声を荒げている場所、それは火影邸の屋上だ。その人々が見上げている先には、この里を見守るようにある歴代火影様の顔岩だった。そして、そこには上から縄でぶら下がって、その顔岩にペンキで落書きをしている金色の少年。

「おーおー! やってくれとるのぉ。」

「ほ、火影様!」

突然屋上に現れた三代目火影様に、そこにいた人々はざわめき始める。人々の雰囲気が変わったことに気づいた金色は振り返り、ニシシと笑った。少年の顔はかなり満足気だ。

その少年の背後には、いろいろな落書きを施された間抜けな歴代火影たち。

――最後くらい盛大にやらなくては!

今までアカデミーに入学してから、様々ないたずらをしてきたが、ここまですごいいたずらはもちろん今回が初めてで、最後。

すごいといっても、ただの幼稚な落書きだが。
初代様や二代目、四代目が父だからといって容赦はしない。それぞれの頬にうずまきを書いたり、下まつげを書き足したり、そんなくだらない落書き。

何と言っても明日は卒業試験だ。

だからこれでいたずらは最後。

「ん? わしの顔には何か文字が・・・。」

三代目が目を細めて、自分の顔岩の額の文字を読もうとする。自分の顔岩だけはその文字以外の落書きはないことに少しホッとする。

――気づいたようですね。

金色はその火影様の様子に気づき、うんうんと頷いている。
今回のいたずらは恩を仇で返すようなものだが、これだけは言っておきたかったのだ。

「た・・・べすぎ・・・注意・・・? 何のことじゃ?」

額には「たべすぎちゅーい!」という大きな文字。・・・一体何のことだろうか。
首を傾げた火影様にナルトがその説明をしようと、息を吸い込んだ瞬間、


「何やってんだ!! もうすぐで授業が始まるぞ! 早く降りてこい!」


ナルト! と大声で叫んだのは、鼻の上の一文字傷の男。彼は金色の少年、ナルトの担任だ。

「イルカせんせーごめんってばよ!! これ、アカデミー終わったら消すからさ、ちょっとこれだけは言わせて!」

ナルトはそれだけ言うと、思い切り息を吸い込んだ。それを見ていた火影様は、なんとなく身構えた。おそらく今から言うことは己のことだろうから。そしてナルトが口を開いた次の瞬間だ。


「火影室の机の右の上から2番目の引き出し! また新しく大福がたくさん増えてたってばよー!!」


この前は大量の饅頭だったってばー!! と大声で叫んだナルトにギクリと肩を揺らした火影様。そこにいた人々は思わず、ジロリと白い眼で火影様を見ている。

「火影様・・・。」

イルカにいたっては呆れてため息まで吐いている。

「甘いものの食べすぎはちゅーい!! 糖尿病になっちまうってばよ!」

健康第一!! とまで叫ぶと、ナルトはすっきりした顔で体につけていた縄をつたって上へとのぼっていこうとした時、ふと目に入ってきた下の人々の顔。

――あ、また笑ってる。

アカデミーに向かっている子供たちが立ち止まり、みながこっちを向いているのは気づいていた。その中には、

「ひゃっほー! また今度はすげーことやってんなー!」

犬を頭に乗せた少年が、眩しそうに目を細めて上を見ながら声を上げる。

「・・・・・・メンドクセー。」

ちらりと少しだけ上を見た黒髪を高い位置で結んだ少年がそう呟く。

「あ~ぁ、僕、消すの手伝わないよ。」

朝食を食べてきただろうに、お菓子を片手に食べながら登校しているポッチャリ系の少年がそう言うと、他2名もその言葉に頷いてまたアカデミーへと歩き出している。

そんな3人の態度に、ナルトは苦笑をもらす。

しかし、ナルトが気にしているのは、落書きを始めた頃からずっとこちらを見ていた黒髪の短い少女。その少女は真っ白なとても綺麗な目を持っている。

その少女は、くの一クラスでもおとなしくてあまり笑わないと言われていた女の子だ。そんな子が今、自分を見て笑っているのだ。それは楽しそうに口を手で押さえてクスクスと。

ナルトはその子と同じ学年になってから、その子をよく見かけるようになった。それも、だいたいいたずらをしている最中に。その時見る顔はいつも笑顔だった。
くの一たちは、自分を見るときはほとんどが嫌そうな目で睨んでくるけれど、この子だけはいつも楽しそうに見てくれていた。それが嬉しくって。

クスクスと笑っていたその子が自分の視線に気づいたのか、パッと顔をこちらに向けた。バチッとあった目に、ナルトはニコッと微笑む。すると、その子の顔がボッと赤くなって、それを隠すようにアカデミーの方へと駆け出した。

突然のことに、きょとんとしたナルトだが、今度はこちらがクスクスと笑った。
その女の子は日向ヒナタ。
ヒナタは自分のいたずらを見始めてからよく笑うようになったらしい。
いたずらを始めた頃は自分のためだったけれど、いつの間にかその子のためにしようと思うようになっていた。

このいたずらはヒナタへのプレゼント。

ちっぽけでくだらない最後のプレゼント。こんなくだらないものに、意味を与えてくれた君に心からのありがとうを。
これからもずっとあんな風に笑っていてほしい。もう、ヒナタにはこんないたずらがなくても笑えるはずだから。

時々立ち止まっては振り返る、それを繰り返しながらだんだんと小さくなっていくヒナタの背にナルトは目を細めて微笑んだ。


「ナルトー!! その落書きはアカデミーが終わったら、きっちり綺麗にしてもらうからな!」

とにかく早く降りて学校に行かないと、遅刻するぞ! と叫ぶイルカに慌てて縄を上っていく。そのイルカの後ろでは、「なぜナルトはあのことを知ってるんじゃ・・・」とぶつぶつ呟いている火影様に、「お菓子は没収させていただきますよ」と忍たちが言うと、「くっ・・・これも里のためじゃ・・・」と、ひどく辛そうに火影様が言葉を返しているのが聞こえて、思わず笑ってしまった。


これで、もういたずらはおしまい。


顔岩の上までたどり着けば、気持ちの良い風が吹いていて。
朝のさわやかな空気を思い切り吸って見おろせば、いまだに「頼む! 5個・・・いや3個残しておいてくれんか!」と頼んでいる火影様に、首を振っている忍たち、こんなことをした自分に怒っているだろうがどこか楽しそうな里の人々が目に入った。
そんな人々を、いつも厳格な表情で見守っていた歴代火影様たちは、今日だけ落書きのせいで少し笑っているようにも見える。

それを見てニッコリと微笑んだナルトは、


――今日もみんなが笑っていられますように。


見上げた空にそう願った。







太陽が少し傾きかけた頃。

「今回はやけに派手ないたずらだったな。」

アカデミーが終わって、歴代火影様の顔岩のペンキをナルトがせっせと消していると、上からイルカの声が降ってきた。それに顔を上げてナルトは口を開いた。

「んー、これで最後だからかな。」

「最後?」

「それと、プレゼントなんだ!」

それだけ言ってナルトは頭に疑問符を浮かべて首を傾げたイルカに構わず、また手を動かし始める。
そう、これが最後。明日はやっと受けられる卒業試験だから。絶対に卒業するんだ。
それにはいたずらからも卒業しておきたかったから。

「それにしてもお前・・・今日はやけに機嫌がいいな。」

また顔を上げれば、満面の笑みでこちらを見ているイルカがいた。ナルトはそれに、へへっと笑って返す。

機嫌がいいのは、あの子が笑ってくれたから。

このいたずらが最後だから、思いっきり笑ってもらいたくて。
今回は大成功だったと思っている。でも、先生には悪いことをしてしまった。

「イルカせんせー・・・ごめんってばよ。」

手を休めずに、呟くように謝った。
わざわざ見張らなくてもきちんと消すつもりなのだが、アカデミーが終わってすぐに一緒に行くと言ってくれた先生にはとても悪いと思っている。これから明日の準備だってあるだろうに、1人の生徒のために付き合ってくれている先生は、本当に優しい。
その優しさが嬉しくて。あったかくて。

「ありがとー。」

謝っても返事をしない先生が、どんな顔をしているか見るのが怖いから、じっと間抜けな顔の父を見つめたまま、小さく小さく呟いた。
すると、上から笑っている声が聞こえてきた。恐る恐る顔を上げれば、やっぱり楽しそうに笑っているイルカ。何が楽しかったのか分からないが、ナルトも一緒に笑うと、イルカが視線を空に向けて、口を開いた。

「これで最後かぁ・・・・・・ってことは、明日は絶対卒業してくれるんだよな。」

空からナルトに視線を戻したイルカがニヤリと笑う。
ナルトは一瞬きょとんとしたが、

「まかせろってばよ!」

笑って言葉を返す。

そう言ったら、先生が少し寂しそうな顔をしたのはきっと気のせい。

父の顔がきれいになれば、この時間ももう終わり。
もう、イルカ先生に追いかけられて、叱られるのもこれで最後。
これで本当に最後なんだ。

・・・・・・寂しいな。

「ナルト・・・」

あと少しで終わりというところでイルカに呼びかけられ、顔を上げる。
そのイルカは恥ずかしそうに目をそらし、頬をかきながら、

「ま・・・なんだ・・・今晩ラーメンおごってやる!」

そうぽつりと呟いた。
その言葉に、ナルトの顔はみるみる輝きを増していく。

「よーし!! 俺さ! 俺さ! がんばっちゃお!!」

そう言った自分に、「おう、がんばってくれよ」と嬉しそうに笑ってくれた先生。
先生も、寂しいと思ってくれたのかな。

・・・そうだといいな。


フフッと笑ったナルトは、それから黙々と父の顔をきれいにしていった。

心の中では「落書きをしてごめんなさい」と「ありがとう」を呟きながら。











あとがき2

この日の夜、イルカ先生とラーメンを食べて、家に帰ったナルトは次の日の卒業試験が楽しみすぎて、あんまり眠れなかっただろうと思います。そして第14話になってしまうのです。
アカデミーの頃のちょっとしたお話でした。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

そしてなんと、↓にもう1つおまけを書いてしまいました・・・。
番外編『本屋のおばちゃん』のお話です。もし、お時間がありましたら、読んでくださると大変喜びます。












おまけ


商店街から少し離れたところ。
金色の少年が大きな袋を片手で持ち、もう片方の手は後ろにいるおばあさんの手を引いて歩いている。その歩はとてもゆっくりで。と、その時、おばあさんがおもむろに口を開いた。

「さっきは本当にごめんねぇ。」

さっき、自分はこの少年を知り合いの青年と間違えてしまったのだ。

「いえ・・・こちらこそ、怖がらせてしまいすみません。」

そう言って、顔だけこちらに向けた少年はどんな表情をしているのだろうか。唯一見えている色で判断するならば、2つの青色が少し細くなっていたから、“苦笑い”というところだろうか。じっと見つめてしまったせいか、少年はまた前を向いてしまった。
・・・目が悪いのは本当に不便だ。ものの輪郭がぼやけてはっきりとしない。
それでも、この少年の持っている色が見えるだけでもありがたい。今目の前に広がっている金色が髪の色で、さっき見えた2つの青、それは目だ。服の色はオレンジとどれも派手な色彩で、自分にはちょうどいいくらい。
そして、繋がれた手がとてもあたたかい。その手はあの青年とそっくりだ。背とかはよく見れば違うけれど、雰囲気とか、歩く早さがあの青年とそっくりなのだ。
おばあさんは繋がれた手を見てフフッと笑う。

「ナルトちゃんも、忍者さんなのよね。」

そう言うと、ピクリと震えたナルトの手。その反応が少し悲しい。
自分が「ナルト」の噂を知らないわけではない。大人たちならみんな知っていることだ。だが、自分はどうしてもあんな風に嫌う気にはなれなかった。
というのも、いつも一緒にいてくれたミコトも今のナルトと同じ反応をしていたからだ。
一緒に買い物に行くと、時々何かに反応して震えていたミコトの手。それはだいたいが「ナルト」の名が聞こえてきた時だった。
その震えも一瞬のことで、ミコトの声には全く変化がないから、初めは自分の気のせいかと思っていた。でも、それは一度や二度じゃなかった。「ナルト」という名が聞こえるたびに震えていたミコトの手が何かに怯えているようで。そんなミコトの様子を感じていたから、「ナルト」という子が嫌いになんてなれなかった。
おばあさんの問いに、ナルトは静かに「はい」とだけ答えた。

「さっきね、あなたと間違えたミコトちゃんもね、忍者さんなのよ。」

あなたとそっくりなの、と言えば、そうなんですか、ときちんと言葉を返してくれたナルトの手は、いつの間にか震えが止まっていた。

「あなたの手、ミコトちゃんとおんなじだわ。」

「同じ・・・ですか?」

「ええ。」

また見えた綺麗な2つの青に、おばあさんはにこりと微笑む。

「何年も前から今のナルトちゃんみたいに、一緒に買い物に行ってくれてた子なんだけどね・・・ある日、私が倒れてしまったことがあったの。」

気づいた時には白い空間の中にいて。自分のそばには金色がぽつんと佇んでいた。
それが見えたとき、ここは天国かと思った。そしてその金色は天使。
天使って言ったら、笑っているものだと思っていた。だけど、その天使は自分の想像しているものとは違った。

「死んでもおかしくないような状態だったのだけど、泣き虫な天使さんに助けてもらったのよ。」

天使がぎゅっと自分の手を握って、「良かった」と呟いた声が震えていたから、顔を見なくても泣いていることが分かった。天使も泣くんだな、と思ってその子の顔を覗き込んだら、2つの青い目とぶつかった。

「その天使さんが、ミコトちゃんだったの。」

その目を見て、初めて自分が生きていることが分かったのだ。
助けてくれただろうミコトにお礼を言うと、

「その子ね、『絶対に立派な医療忍者になります』って、私に言ってくれたの。」

泣きながら、何度も何度も。

「本当にとてもいい子なのよ。」

と笑えば、ナルトは何故かサッと顔を隠すように前へ戻した。
おばあさんの話が始まってから、ナルトはずっと黙ったままだ。しかし、おばあさんは気にせず話し続ける。

「そのミコトちゃんとあなたは同じ手をしているわ。」

とっても、とってもあたたかい、泣き虫な天使とおんなじ手。

「忍は、人を殺めなければならない時もあるけれど・・・あなたの手は人を救うことができる手だわ。」

この里で暮らすには、あなたにとってとても厳しいだろうに、こんなにも優しい心を持っている。
それは本当にすごいこと。


「大丈夫よ。あなたなら、きっと幸せになれるわ。」


先ほどからずっと何も反応を示さない金色を見ながら、おばあさんはニコリと微笑んだ。と、その時、ナルトが突然立ち止まった。それに気づいて周りの景色を見てみたら、見覚えのある色彩ばかりに囲まれたところで。
どうやら、自分が話している間にも、家に着いてしまったらしい。もう少し、この色を見ていたかったのだけれど、しょうがない。
そう言えば、何故この子が自分の家を知っているのだろうか、とふと思ったが、

「今日はありがとうねぇ。」

そんな些細なことは気にしない。
おばあさんが荷物を受け取りながらそう告げると、「いいえ」と言って、ナルトはすぐに駆け出してしまった。突然のことに少し驚いてしまったが、小さくなっていくオレンジに笑って、

「ナルトちゃん。また一緒に買い物、お願いできないかしら。」

いつもより、大きな声を出して言ってみる。すると、立ち止まったオレンジが、振り向きもせずに、


「うん!」


と返事をして、そのまま走り去っていった。






家の中に入ったおばあさんは、さっそく荷物の整理を始めていた。が、

「あら・・・?」

一番上に乗っていた果物を掴むと、何か液体のようなものが手についたことに気づいた。他の果物を調べてみたら、濡れているものはそれしかなくて。
その果物は、さっきからずっと見ていた色と同じ色を持っていた。おばあさんは手に乗ったそれを見て、フフッと笑う。


「泣き虫なオレンジさん。」


そのオレンジは、キラキラと輝いていた。
泣いているオレンジの涙を拭ったおばあさんは、それを机に置くと、そのまま何かを探しに行ってしまった。
数分後、戻ってきたおばあさんの手にはかわいらしいバスケット。そのバスケットを机に置き、袋に入っていた果物たちを次々に乗せていく。
そして、最後に乗せたのは泣いていたオレンジだ。


「これでもう、大丈夫ね。」


そう言って、目を細めて微笑んだおばあさんの目の前のバスケットには、


泣き虫なオレンジがたくさんの果物に囲まれて、笑っていた。











あとがき3

ここまで読んでくださって本当にありがとうございます!!
このお話のヨモギさん(おばあさんのお名前です)たちを気に入ってくださった方がいらっしゃって、あまりの嬉しさに書いてしまいました。
いかがだったでしょうか・・・?

受験ももう1ヶ月をきっていますが、少しずつ気分転換に書いていきたいと思います。
これからもよろしかったら、足をお運びください。



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 第32話
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2008/02/02 12:34


*読んでくださってありがとうございます。
 何度も修正を入れてしまい、申し訳ありません!
 少しだけですが火影様とアンコさんとミコトさんの部分を変更させていただきました。
 よろしかったらお読みください。
 






“第三の試験”の予選、第九回戦が始まった頃。


塔付近の死の森に、金髪の長い髪を1つに括った青年が立っていた。


その青年は何故か険しい面持ちをしている。


すると突然、パッと振り向いた青年は、塔のある方角を睨み付け、


静かに口を開いた。







NARUTO ~大切なこと~ 第32話







「いつまで隠れているつもりですか。」

ジロリと森のある一点を睨みつけ、実に嫌そうにそう告げた金色の青年。しかし、青年の視線の先にはただ鬱蒼とした森が広がっているだけだ。が、青年はじっとその一点を見つめ続けている。
すると、ククク・・・という不気味な笑い声が、だんだんとその青年に近づいてくるではないか。そして、笑いながら姿を現したのは、忍服を着て、額に音符のマークの額あてをつけた黒髪の長い男。


「あなた、医療忍者だったのね。」

「・・・・・・大蛇丸。」


やっと姿を見せたその男、大蛇丸に青年はなんとなく後退る。出てくるように言ったのは自分だが、その視線がどうも慣れそうにない。

「三代目があなたを任務に行かせないのも分かった気がするわ。」

舌なめずりをしながらそう言った大蛇丸に、鳥肌が立ち、思わず腕をさする。

「でも・・・さっきは私と話すことなんてないって言ってたじゃない・・・?」

まぁ、私としては嬉しい限りだわ、と言葉通り本当に嬉しそうに微笑む大蛇丸に、青年は顔を引きつらせる。どうも、この人は苦手だ。

「・・・先ほどから僕に視線を寄こしていたのはあなたじゃないですか・・・。」

そう、さっきの第八回戦終了後のヒナタの治療の時、痛いほどの視線を感じていたこの青年は、耐え切れなくなって塔から出てきたのだった。
青年のその言葉に、大蛇丸はフフッと笑う。

「だって、あんな術初めて見るんだもの・・・それに、私はあなたと話がしたかったのよ。」

大蛇丸の視線から青年はバッと目を逸らす。逸らしても、穴が開くほど見つめられているのが全身でひしひしと感じられる。恐ろしい眼力だ。

「あの・・・お話というのは・・・。」

こうやって会ってしまったのだ。きちんと話をしない限り、この視線からは逃れられないだろう。

「そうね・・・まずはこれかしら。」

そう言った大蛇丸は、どこから出したのか、手には見覚えのある術式がのっていた。それを見て青年は諦めたようにため息をつく。大蛇丸が言いたいことは分かっている。

「この術式はアンコと会っている時に使われたものよ・・・。これを貼れたのはあなたじゃない・・・そう、ナルト君よね。あなたの存在は一度も聞いたことがないから・・・」

ナルト君の方が本当の姿なのよね、と楽しそうに告げた大蛇丸に、「そうですよ」と軽く答える。
その術式は、ナルトと大蛇丸が戦闘したあの時、大蛇丸の気を逸らすために右腕の神経を切断すると同時に右脇腹に貼り付けたものだ。
青年のそっけない返事に、「あら、つまらない」と呟いている大蛇丸に、思わず顔を顰める。

「それで、お話と言うのはそれだけですか。」

とにかく早く話とやらを終わらせて、塔に戻りたいと思う青年だった。が、

「まさか、これだけじゃないに決まってるじゃない。」

やっぱりか。青年は、覚悟を決めて大蛇丸を見据える。すると、大蛇丸はニコリと笑った。

「その姿だったら・・・ナルト君よりもミコト君のほうが良いかしら?」

「そうしてくださったほうがありがたいです。」

そうねぇ・・・何から訊こうかしら、と考え始めた大蛇丸に、自分にそんなに訊くことがあるのだろうか、とミコトは内心げっそりした。と、その時、なにやら大蛇丸がふと思い出したように尋ねてきた。

「そういえば、あなた・・・殺気は出さないのね。」

会った時はいつもすごい殺気を放っていたじゃない、と少し目を細めてそう言った大蛇丸に、ミコトはきょとんとした。確かに、大蛇丸に会った2回とも殺気を放っていた。が、今は必要ない。

「会話に殺気はいりませんからね。それとも、出して欲しいんですか?」

ミコトがそう告げると、大蛇丸が顔を歪めた。

「いや・・・好き好んであんな殺気を受けるほどマゾじゃないわ。」

「マゾ・・・。」

大蛇丸の言葉にミコトは真剣な顔をした。突然の変化に、大蛇丸が少し身構えると、ミコトが口を開いた。

「マゾヒズム・・・被虐症のことですね。異常性欲の一種、別に恥ずかしがるようなことではありませんよ。」

医療忍者としてそんなことは気にしませんから、と笑ったミコトに、大蛇丸は一瞬、ぽかんとしたが、透かさずそれを否定する。その焦り様に、ミコトはフフッと笑う。

「冗談は置いておいて、早くその訊きたいことをおっしゃってください。」

「冗談・・・。」

どうやらミコトは大蛇丸の扱いを覚えたようだ。少し悔しそうにした大蛇丸だったが、「まぁいいわ・・・」と早速ミコトに尋ね始めた。

「その変化の術、見事ね。」

今のミコトの姿をじろじろと見ながら呟く。
この自分でさえ、目の前にいるのが本当にナルトかどうか確かめなければ分からなかったのだ。もし術式に気づかなかったら、ミコトの姿が変化だなんて思いもしなかっただろう。それほどこの変化の術が見事なのだ。

「この姿は2歳の頃からずっと続けているので、もう慣れてしまいました。」

ミコトはその頃を思い出して、優しく笑う。これは姉から教えてもらった初めての術だから。大蛇丸は「そう・・・2歳の頃から・・・」と、ちょっと驚いているようだ。

「それと・・・あなたは本体かしら? それとも影分身かしら?」

大蛇丸がナルトと初めて会った時、あの時は影分身だったのだ。それも五行封印をするまで全く消えることのなかった影分身。別に今は話ができればどちらでも良いのだが、先ほど予選で戦っていたナルトを見ても、自分ではどちらが本体か分からなかった。
その問いに、ミコトは「僕が本体ですよ」と答えると、ニコッと笑った。

「あの影分身は、1体しか作れないんです。それに、禁術以上の忍術や、急所への攻撃には消えてしまいますし・・・。」

それはそうだろう、と大蛇丸は思う。あんな分身がたくさん作れたら大変なことになってしまう。しかし、次の言葉で大蛇丸の顔は驚愕で彩られた。

「でも、まだ研究中ですが、禁術以上のものにも耐えられる影分身が作れるかもしれないんです。」

「な・・・・・・!」

本体とほぼ変わらない影分身ですね、と子供らしく目を輝かせて話すミコトは大蛇丸の驚き様に気づいていないらしい。今の大蛇丸の顔は本当に伝説の三忍と言われた忍なのか、と疑わんばかりにかなり間抜けだ。
いや、そんな大蛇丸の反応は決しておかしくはない。どんな忍でも、今の言葉を聞けば驚くだろう。と、突然ミコトが「あ」と声を上げた。
その声で大蛇丸が我に返り、何事かと顔を向ければ、ミコトがこちらをジロリと睨みつけていた。そして、

「もちろん教えませんよ。」

と言ってミコトはニヒッと笑った。それがまた子供らしくて可愛らしい。

「そう・・・残念だわ。」

大蛇丸はそう言うが、はっきり言ってそんな術、己にはできないだろう。
いったいどんなことをすれば本体と変わらない影分身などできるのだろうか・・・。

――・・・恐ろしい子ね

ニコニコ笑うミコトを見ながら内心ため息を吐いた。



「そう、残念だわ」と言って口を閉ざしてしまった大蛇丸を見て、ミコトは口を開いた。

「では、そろそろ塔に戻りますね。」

案外慣れてしまうものだな、と内心で驚きながら、ミコトは「失礼します」と告げてそのまま大蛇丸の横を通り過ぎていく。が、しかし、

「まだ話はあるわ。」

そう言った大蛇丸に、ミコトは舌打ちしたくなったが、なんとか我慢して振り返り、「何ですか」と答えた。いつの間にか大蛇丸の顔は先ほどとは違って真剣なものへと変わっている。それになんとなく嫌な予感がした。

「率直に言うわ・・・・・・あなた、音の里に来ない?」

その一言で、先ほどまでの少し和やかな雰囲気が一変した。
嫌な予感は的中した。ミコトは目を細めて眼光鋭く大蛇丸を睨み付ける。しかし、大蛇丸は何故か嬉しそうに舌なめずりをしてこちらを見据えている。・・・やはりマゾなのだろうか。

「その姿だったらこの里でも良いでしょうけど・・・ナルト君にはどう?」

あの噂のせいで、大変でしょう? とニヤリと笑う大蛇丸に対し、ミコトは平然とした態度を崩さなかった。大蛇丸の言っていることが分からないはずがないけれど、それを覚悟の上で自分はこの里にきたのだ。

「塔の中でも言いましたけど・・・僕にとって、里の人たちはみんな家族なんです。」

その言葉に大蛇丸が眉間に皺を寄せた。が、ミコトは気にせず話を続ける。

「確かに、辛いこともあります。それでも、だんだんと僕のことを認めてくれる人が増えてきたんです。だから僕は諦めない。」

絶対に諦めない。父が守ってきたこのすばらしい里を、自分も守りたいんだ。
そのために医療を学んできたのだ。辛くなったら、笑えば良い。
笑うと自然に力が湧いてくるから。
悠然と微笑んだミコトに、大蛇丸は憎々しげに顔を歪めた。

「やっぱりあなたはあいつの子ね・・・。」

その大蛇丸の呟きを聞いて、ミコトはフンと鼻を鳴らし今度こそ体を塔へと向ける。すると、


「せいぜい守れるなら、守ってみなさい。」


あなたの無力さを思い知るがいいわ! と声を上げた大蛇丸に、ミコトはちらりと横目を送ると、また前を向いてそのまま口を開いた。

「僕が無力なのは十分知っています・・・それに、あなたがサスケだけが目的じゃないことも分かっています。」

後ろで小さく喉が鳴る音が聞こえた。
何を企んでいるのかはまだはっきりとは分からないが、サスケだけではないことは確かだ。今の反応がそのことを証明している。

「今あなたをどうにかすることもできますが・・・・・・それはきっと火影様が望んでいないから。」

ミコトは塔を見てスッと目を細めた。
大蛇丸は三代目の部下だった。三代目のこと、大蛇丸の里抜けの時には駆けつけていたはずだ。しかし、大蛇丸はこうしてまだ生きている。三代目だったらどうにかできていただろうに。でも、それができなかった。
里抜け、つまり“抜け忍”となった者は抹殺しなければならないのだ。
もし自分が三代目の立場であったなら、自分の部下を殺すことができただろうか?
・・・・・・できるはずがない。
信じていた者に裏切られても、やはりどこかでまだ信じたいと思う心があるから。
しかし、それが結果として里に危険をもたらしてしまった。きっと、三代目はその責任を誰よりも重く感じているはずだから。
だから、自分が勝手に何かするわけにはいかない。

「僕1人ではこの里を守りきることは、はっきり言って無理です。」

たくさんの大切な家族を全て守りきることなんて自分だけでできないのは、考えなくたって分かる。

「だけど、この里を守るのは僕だけじゃない。火影様や上忍、特別上忍、中忍の皆さん、・・・下忍の方々はまだまだこれからですが、僕はみんなを信じています。」

みんなが里を守ってくれると。


「“仲間”とはそういうものですから。」


この里にきて、教えてもらったんだ。
“仲間”とは、守り守られる関係であると。
あの時、第二の試験でみんなに教えてもらった大切なこと。

ミコトはフッと微笑み、振り返ることなく塔へと戻っていく。


そこに残った大蛇丸は、突如フフフ・・・と不気味に笑い出し、その場から去っていった。










「ではこれから・・・“本選”の説明を始める・・・。」

ミコトが塔の中へ戻り会場へ入ると、すでに予選が終わり、火影様の説明が始まっていた。本選進出を決めた下忍8名が会場の中心に横1列に並び、緊張した面持ちで話を聞いている。そして、ふと気づいたことはカカシがこの会場の中にはもういないということ。
そのことにミコトは視線を鋭くした。

――・・・サスケですね・・・。

ここに戻ってきたのは自分だけ。大蛇丸はあの後どこかに行ったようだ。が、大蛇丸自らサスケのためだけに人の集まる病院に姿を現すことはないだろう。
もし病院に来るのであるならば・・・恐らくカブトだ。

――とりあえず、カカシ先生なら大丈夫・・・ですよね。

ミコトは“カカシ”の名でふとサスケに封印術を施した時の大蛇丸の様子を思い出す。
第二の試験でサスケに接触した大蛇丸は、サスケの変化にどうやら焦っているらしい。
サスケが“復讐者”であることは確かだが、サスケは少しずつ変わり始めている。
兄を殺すために“生”に固執していたはずのサスケが、サクラを助けるために命を懸けて大蛇丸に挑んだのだ。それは大蛇丸にとって予想外だったのだろう。
何せ、わざわざカカシが封印術を施しているところに姿を現してまで、予言のような言葉を残していったのだから。

――大蛇丸が何のためにサスケを欲しているのかは分かりませんが・・・

大蛇丸が里抜けした理由は禁術の開発が発見されたからだ。
その禁術と何か関係があるのだろう、とミコトがそんな思考の海に潜っていた時だ。


「ミコトさん!!」


その声で我に返ったミコトが振り向けば、そこには息を切らした医療班の1人がいた。

「どうかされましたか?」

彼の慌て様に少し目を見張ったが、落ち着いて返事をする。その医療班の1人は自分を見てホッとしたのか、火影様の話の邪魔にならない程度の声音で話し始めた。

「見ての通り、もう予選は終了しました。」

「ええ、そのようですね。」

ミコトがちらりと横に目をやれば、火影様が「本選は1ヵ月後に行われる!」とおっしゃっているところだった。

「第十回戦で負けた秋道チョウジ君の怪我は軽かったのですが・・・その・・・第九回戦で負けたロック・リー君の容態が・・・。」

途中からとても言いにくそうにそう告げた医療班の1人に、ミコトは一瞬内容に驚いたものの、スッと目を細めて「詳しくお話ください」と言葉を返す。

「はい。第九回戦の砂瀑の我愛羅君とリー君の試合だったのですが・・・」










「では第九回戦、始めて下さい!」

ハヤテの声とともに、ダッと駆け出したリーは我愛羅にさっそく木の葉旋風を繰り出す。“木の葉旋風”とは、上段蹴りと下段蹴りを組み合わせた連続体術のことで、リーの場合、上段蹴りを囮に相手が回避したところに下段蹴りを放ち、命中させるのだ。が、その蹴りは我愛羅の砂によって防がれてしまった。

「くっ!」

その砂がリーの背後にも回ってきたため、リーはすぐさまそれを飛び退いて回避する。そしてすぐに体勢を立て直し、突きや蹴りの攻撃を開始するが、それも尽く砂に邪魔をされ、本体に当てることができない。
リーはそれでも諦めずに体術を繰り出していく。
もうこの時点で、我愛羅に体術が利かないことは見ている者も含めて分かったはずだ。誰もが、忍術で距離をおいて戦うべきだと思っただろう。
しかし、リーは忍術を使うことができなかった。リーには忍術・幻術の技術が無い。忍者としてリーにできる技は唯一体術しか残されていなかったのだ。

襲い掛かってくる砂をバク転で避けるリー。その息は少しだけ上がっていた。が、その時、

「リー! 外せ!!」

聞こえてきた声に、一同そちらへ顔を向ける。その声は上の階からだ。
そこにはリーと似たおかっぱに、眉と下まつげの濃ゆい担当上忍が親指を立てていた。リー以外の者たちはその上忍の言葉が何のことかわからず、頭に疑問符を浮かべている。

「で・・・でも、ガイ先生! ・・・それは―――大切な人を“複数名”守る場合の時じゃなければダメだって・・・!」

ガイの言葉にリーは右手で敬礼をしながらそう答える。すると、

「構わーん!! 俺が許す!!!」

シュッと再び親指を立てて濃ゆい担当上忍、ガイはリーに微笑んだ。それに一瞬ぽかんとしたリーだったが、すぐに「アハ・・・ハハハ・・・」と笑い出し、嬉しそうに足に巻いていた“根性”と書かれた何枚もの重りを外していく。

「よーしぃ!! これでもっと楽に動けるぞーーー!!」

そう言いながら落とした重りは、

ドゴッ!! ドゴッ!!

地面に穴を開けた。
その音の大きさに、みな唖然としている。が、

「行けー!! リー!!」

ガイはニヤッと笑ってリーに指示を出す。
その指示に「オッス!!」と答えたリーは立っていた場所から一瞬で消えてしまっていた。それには我愛羅も軽く驚いている。そして、

「 !! 」

振り向いた我愛羅の後ろにはすでにリーの拳が迫ってきていた。それを顔面ギリギリのところで防ぐ砂。その攻撃から、我愛羅の砂も段々と追いつかなくなり、

ガッ!!

初めてリーの踵落としが我愛羅の頬をかすった。

「さあ・・・これからです!」

地面に着地したリーは体勢を整え、すっと右手を軽く出し、構えをとる。我愛羅はただじっとリーを睨みつけている。

「リー!! 爆発だぁー!!!」

再びガイの声援が会場内に響き渡る。

「オッス!!」

気合を入れなおしたリーはまたスッと我愛羅の前から消えた。それにすぐに反応した我愛羅は背後に砂の盾を作る。が、

「こっちですよ・・・」

確かに後ろにフッと現れたリーが、いつの間にか前から拳を突き出していたのだ。

ガッ!!

その拳は、今度はしっかりと我愛羅の頬へと直撃し、我愛羅は後方へと飛ばされ、ガフッと砂の上に倒れた。この攻撃には手応えを感じたリーは、それでも油断をせずに我愛羅を見据える。
上で見ている者たちには、この試合のレベルの高さに息を呑む者までいた。
と、その時、

「なっ・・・」

リーが思わず声を上げた。それは、ゆっくり立ち上がった我愛羅に驚いたわけではない。
その立ち上がった我愛羅の顔の半分がボロボロと崩れたからだ。顔中にはヒビが入っている。その下から見えている口元は、ゾッと背筋が寒くなるような笑みを浮かべていた。
そして、うごめき始めた砂が、我愛羅を包み込み、再び無表情の彼に戻っていった。
そう、先ほどの顔面の崩れは纏っていた砂によるものだったのだ。

それは“砂の鎧”と呼ばれるもので、自分の意思で薄い砂の防御壁を身にまとい、防御するものだ。自動で防御する“砂の盾”とは違う、絶対防御だ。
しかし、それは自動でない分、チャクラを膨大に消費し、何より“砂の盾”より防御力が劣っている。その上、本体に砂が密着しているために体は重くなり、体力も使ってしまう。
それを使用させるまでリーは追い込むことができたのだ。

「それだけか・・・・・・。」

完全に砂をまとい終えた我愛羅がリーに向かって呟く。リーはその砂の鎧をじっと見つめた後、パッと顔を上げた。顔を上げた先には、ガイが微笑みながらうんと1回頷いていた。
それにリーはニコッと笑い、腕に巻いていた包帯を少しほどき始める。そして、

「 ! 」

目にも留まらぬ速さで我愛羅の周りを走り出した。そんなリーに対し、一瞬驚いたものの、我愛羅は「さっさと来い」と挑発をかけている。すると、

「お望み通りに!」

突然我愛羅の前に現れたリーがゴッ! と我愛羅の顎を下から蹴り上げ、

「まだまだぁ!」

空中に浮いた我愛羅に影舞葉で追尾し、何度も攻撃を与える。と、その時、一瞬だけリーの動きが止まった。が、それもほんの一瞬のことで、次の瞬間には我愛羅の真後ろからほどいていた包帯で拘束し、

「くらえ!」

――表蓮華!!

受身の取ることができなくなった我愛羅とともに脳天から高速落下し、

ドカッ!!!

地面に叩き付けた。地面に叩きつけられる直前にリーは相手に巻きつけていた包帯をほどき、ザッとその場から飛び退いた。
叩きつける勢いがすさまじかったため、その場は砂煙に包まれ、中の状況を把握することができない。今のリーの技にみなが驚愕の表情を浮かべている。
そして、砂煙が晴れてくると、会場の床に開いた大きな穴の中心には、我愛羅が静かに倒れていた。

「よし!」

それを見て、思わずガイがグッと拳を握りながら声を上げる。
リーは飛び退いた後、上手く地面に着地して相手を伺っていたが、その息遣いは荒い。倒れている我愛羅を見て少しホッとしたリーだったが、すぐに目が驚きで見開かれた。上で見ていた一同もリーと同じ反応を示している。

倒れていた我愛羅がサラサラと崩れ始めたのだ。それに気づくのが遅かった。

「クク・・・・・・」

気づいたときにはもう、リーの背後に我愛羅が笑いながら砂の中からムクッと立ち上がっていた。
あの一瞬、リーの動きが空中で止まってしまったその隙に、我愛羅は砂の盾だけを残し、技をくらうことを回避していたのだ。
振り向いたリーの目に入ったものは、砂の大津波だった。

「うわぁ!!」

リーはその津波に押し流され、会場の壁に激突し、「ぐぅ!」と声をもらす。そして、続けざまにまた砂がリーへと襲い掛かる。
リーはそれを避けなかった。いや、避けることができないのだ。
“表蓮華”とは禁術だ。あれだけの高速体術は、足や体に多大な負担をかけるため、今は体中が痛み、動き回るなんてことはできないのだ。

リーはそれでも砂の攻撃から転がるように避けていく。
なんとか立ち上がったリーはもうふらふらだ。しかし、

「くっ」

リーは砂を走って避け、立ち止まることはなかった。
そして、もう避けられないだろうという砂の攻撃に、

「・・・リーさん、ダメ! これ以上は死んじゃうよ!!」

思わずサクラが叫ぶ。しかし、突然リーは体中の痛みを全く感じさせないほどの速さでその砂を避けきったのだ。それには口を開けて驚いている。

そんなみなの驚きの中心であるリーは、ゆっくりと、剛拳の構えをとった。
そのリーの顔はしっかりと前を見据え、微笑んでいた。

「・・・・・・お前はここで終わりだ。」

笑っているリーを睨みつけながら我愛羅が呟く。

「・・・・・・いずれにせよ・・・次で終わりです・・・。」

我愛羅の呟きに、やはり笑って返したリーは、スッと目を瞑り、両手を交差させた。すると、段々とリーの体は赤くなっていく。それは“八門遁甲”の第三の門、“生門”を開けた状態だ。
チャクラの流れる経絡系上には、頭部から順に体の各部に、開門・休門・生門・傷門・杜門・景門・驚門・死門と呼ばれるチャクラ穴の密集した8つの場所がある。それを“八門”と呼ぶ。この“八門”が体を流れるチャクラの量に制限を設けているが、“蓮華”はその制限の枠を無理やりチャクラではずす技なのだ。
先ほど、リーが砂を見事に避けたのは、すでに“休門”を開けて体力を上げていたからだ。
“表蓮華”は一の門である“開門”を開けるだけである。

今からリーが行おうとしている術、それは“裏蓮華”だ。

“裏蓮華”とは、“八門遁甲”の第三の門である“生門”を開けた状態で行う技のことだ。
この技はまさに諸刃の剣。“表蓮華”でさえあんなに体がボロボロになるというのに、“裏蓮華”を使えばどうなるか分かったものではない。
“八門”全てを開いた状態を“八門遁甲の陣”と呼び、少しの間、火影をすら上回る力を手にすることができる。が、しかし、その者に必ず訪れるものは、“死”だ。

「ハァアァァア!!!」

すでに第三の門まで開けたリーが、さらに第四の門、“傷門”までこじ開けた。そして、リーがダッと駆け出した次の瞬間、会場には床の破片が飛び散り、いつの間にか我愛羅が宙に浮いているではないか。

あまりの速さに、ほとんどの下忍たちにはもう目で追うことができていない。

空中にいる我愛羅は全くリーの動きについていくことができず、ものすごい回数の攻撃を受けている。しかし、我愛羅には体中にまとっている“砂の鎧”がある。リーの攻撃は食らっているように見えるが、まだ我愛羅の本体までは届いていなかった。が、それでも段々とはがれていく砂の鎧を見てリーは、

「これで最後です!!」

第五の門、“杜門”を開けた。それと同時にリーの腕からはブチッと何かが切れる音がした。しかし、リーはためらわずに我愛羅の腹に肘鉄を入れ、我愛羅はそのまま床に叩きつけられる。かと思いきや、我愛羅の体は床に叩きつけられる前にガクンッと唐突に止まった。その我愛羅の腹にはリーの左腕の包帯がいつの間にか付けられていた。

「はあああ!!」

かけ声とともにリーはその包帯を思い切り引っ張り上げ、再び我愛羅を自分のところへ引き戻す。そして、

――裏蓮華!!!

我愛羅の腹に渾身の鉄拳を打ちつけた。それによって我愛羅はものすごい速さで地面に落下し、ドゴォッ!! という轟音を立てた。リーの体はもう悲鳴を上げている。そのため、受身も取れずに地面へと落ちた。

しかし、気を失ったわけではないリーはゆっくりと立ち上がろうとする。が、

「 !! 」

いつの間にか左手足に砂がまとわりついていた。我愛羅が落ちたところを見れば、彼の背負っていたひょうたんが砂になっており、それで叩きつけられた衝撃を減らしていたのだ。
リーはなんとかその砂から逃れようと最後の力を振り絞って飛び退けようとする。が、

――砂漠柩!!

我愛羅がギュッと手を握り締めると同時に上がるリーの悲鳴。その悲鳴には、ゴキッという鈍い音が混じっている。
倒れたリーに、再び手のような形をした砂が襲い掛かる。が、


「なぜ・・・助ける・・・。」


その砂をかき消して、我愛羅の前に立ちふさがったのは、ガイだった。
我愛羅はそのガイの顔を見て、何かに苦しみ始め、頭を押さえながらそう問う。その問いに、ガイは視線を下に落としたが、すぐにしっかりと我愛羅の目を見据えて告げた。


「愛すべき俺の大切な部下だ。」


その言葉に我愛羅は視線を鋭くした。が、

「やめだ・・・。」

振り返って立ち去っていく。

「勝者、我愛羅!」

ハヤテの審判がくだったその時だった。

「え!」

誰が声を上げたのか、みなが目を丸くしてある一点を見つめている。

そこには、リーが立っていたのだ。

八門遁甲の五門まで開き、左手足を潰されているにも関わらず、スゥッと立ち上がり、剛拳の構えをとっているリーに誰もが声を出せないでいた。

「リー・・・もういい。終わったんだ。」

お前はもう立てる体じゃない、とガイがリーの肩に手を置いて告げる。リーは軽く肩に触れられただけなのに、グラッと体が揺れた。ガイはそんなリーの顔を覗きこみ、ハッとして、じわじわと溢れる涙を流しながら、ギュッと抱きしめた。










「彼は気を失ってもなお、立ち上がったのです・・・。」

ミコトはここまでの話を聞いて、顔を歪めそうになるのを必死で堪える。

――あぁ、・・・・・・彼らしい。

アカデミーで同じクラスになった頃、自分が授業に参加することは無かったが、こっそり覗いた時のリーはいつもみんなにバカにされていた。
忍術が使えない上、当時のリーは体術も人並み以下だった。
そんな彼がいつ頃か、何かに目覚めたように体術を磨き始めたのだ。自分はそれを見ていつも励まされていた。人になんと言われようと、負けないで、努力し続けるリーはとても格好良かった。
その彼は「体術だけでも立派な忍者になれることを証明する」ことが夢だった。その夢のためにひたすらがんばって。
リーは最後まで自分の忍道を証明しようとしたのだ。
それはなんてすごいことだろうか。

黙っているミコトに、医療班は話を続ける。

「その後私たちが駆けつけたのですが、かろうじて呼吸のあった彼は、全身の粉砕骨折と、筋肉断裂、それに攻撃された左手足のダメージが特に酷くて・・・。」

その言葉を聞いてハッとした顔をしてミコトが医療班を見つめる。が、医療班は何故か視線を火影様たちのいる方へと向けていた。そして、視線をそこに残したまま「それが」と呟いた。

「彼に駆けつけたのは私たちだけではなくて・・・。」

「え?」

ミコトはサッと医療班の視線の先を探す。そこには、

――・・・僕ですか・・・。

医療班の視線の先、それはオレンジの服を着た少年だった。

「・・・ナルト君が何か余計なことでも?」

ミコトは思わず顔を顰めた。
この中忍試験を受けるにあたって、いくつか自分の中で決まりごとを作った。
まずは今まで通りドベらしく振舞うこと。最近のサスケはかなり焦りの色が濃くなっている。これ以上サスケを刺激するのはなんとしても避けたいことだ。
そして、医療忍術を使うならば“掌仙術”だけ。この術は医療忍術の中でも基本的なものであるため、医療忍者を目指すものであれば初めに修得するだろう術だ。これくらいならば大丈夫だろうと考えたのだ。
ナルトは恐らくリーに“掌仙術”を使ったのだろう。
しかし、ここには医療班がいるため、ナルトの姿では手出しをしない決まりも作っていたのだ。が、

――もし僕がナルトだったら・・・

同じ事をしていただろう。

今の話からすれば、リーの容態はもう忍としてはやっていけるような体ではない。
・・・誰がそんなことを認められるだろうか。
ナルトが動いたのも、元はと言えば自分がここを離れたことにあるのだ。

ミコトはため息を吐いて、医療班の返事を待つ。
なんと言ってもあの“ナルト”だ。ここにいる下忍たち以外はみな“ナルト”の噂を知っている。医療班の口からどんな言葉が出ても、動揺を今の自分が出すわけにはいかない。身構えたミコトだったが、医療班の口から出た言葉は意外なものだった。

「余計なことだなんてとんでもない!!」

「・・・・・・は?」

ミコトの問いにブンブンと首を振る医療班に、思わず間の抜けた声を出してしまった。
その医療班の声が大きかったため、説明をしていた火影様や話を聞いていた者たちがこちらにバッと顔を向けている。その火影様の視線が痛いのは・・・気のせいではないようだ。
ミコトは冷や汗をかきながらもニコッと微笑むが、その視線は鋭いままだ。

医療班もその視線たちに気づき、再び小声で話し始める。すると、すぐに火影様たちの方も話が再開され、ミコトはほっと息を吐いた。

「彼・・・ナルト君は掌仙術だけで、リー君をほぼ完治の状態まで治療したんです! 左手足なんかはとても酷くて、私たちでは完治まではできないと思われたのですが、それもほぼ治してしまったんです! その術が見事で我々の出る幕がないくらいだったんですよ!」

小声ではあるが、興奮して話す医療班の様に、ミコトは目を丸くした。
その言葉には全く“ナルト”に対しての嫌悪が含まれておらず、純粋に誉めてくれているのが伝わってくる。
そこまで勢い良く話した医療班だったが、すぐに視線を落とした。

「しかし・・・、リー君はもう・・・。」

ミコトもスッと視線を落とす。
その先は言わなくても分かっている。

「・・・そうですね。五門まで開けてしまっては・・・後遺症が残ってしまったでしょう。」

“八門遁甲”の半分以上も開けて、何もないはずがないのだ。
ミコトは医療班を見据えて、やわらかく微笑んだ。

「リー君は僕が診ます。」

視線を下げていた医療班は、パッとミコトを見つめると、「お願いします」と言って頭を下げた。ちょうどその時、火影様の「1月後まで解散じゃ!」という声が聞こえ、ミコトは火影様のところに向かおうとする。と、その時、

「ナルト君の医療忍術は本当に見事でした。」

ミコトが振り向けば、ナルトのことをじっと見ている医療班。そのナルトはと言うと、上にいるサクラにカカシ先生はどこにいるかと尋ね、返答を聞くとお礼を言って会場から飛び出していった。
それを見ながら医療班はフッと笑う。


「彼にはぜひ、医療班に来てもらいたいですね。」


微笑んだ医療班に、思わずミコトははにかむような笑みを作る。
少しずつ、周りに認められていく自分。
今の言葉なんて、どんなに嬉しいことか。

「きっと喜びますよ。」

彼の夢は医療忍者ですから、と言えば、それは良かった! と返してくれた医療班に、背を向けてミコトは火影様の下へ向かう。が、

「・・・どうかされたんですか?」

唐突に歩を止めたミコトに、医療班が声をかける。すると、振り返ったミコトは何故かぎこちない笑みを浮かべており、「なんでもありません」と言って、今度は止まることなく火影様の下へと歩いていった。

医療班はそんなミコトにただ首を傾げた。










木の葉の里内にある、立派な柱が何本も立った厳かな建物に、2つの人影があった。
1人はその建物の柱に寄りかかった、音符のマークの額あてをつけた黒髪の長い男。もう1人はその男のそばで膝をついて頭を軽く下げていた。
膝をついている丸眼鏡をかけた青年の額には木の葉のマークの額あてが光っている。

「予選は無事終わり・・・本選に入るようです。」

丸眼鏡の青年がそう告げるとしばらく沈黙が流れた。
建物の欄干には3羽の小鳥がさえずっている。それをぼんやりと眺めていた黒髪の男がやっと口を開いた。

「・・・それにしてものどか・・・。」

今のこの光景を見たら誰でもそう思うだろう。

「いや・・・本当に平和ボケした国になったわ・・・・・・どの国も軍拡競争で忙しいっていうのにねぇ。」

そう言ってフッと笑った黒髪の男に、

「今なら取れますか・・・。」

スッと立ち上がった丸眼鏡の青年が尋ねる。

「まあね・・・。」

答えた黒髪の男の視線はそのまま里の景色の方へと注がれている。

「・・・大蛇丸様・・・何か良いことでもあったのですか?」

丸眼鏡の青年は先ほどから気になっていたことを訊いてみた。
目の前にいる黒髪の長い男、大蛇丸はどこかいつもより楽しげなのだ。

「フフ・・・ジジイの首を取ったらあの子、どんな顔をするかしら・・・。」

「あの子・・・?」

丸眼鏡の青年が訊き返しても、大蛇丸は勿体つけるように薄気味悪く笑っている。
教えるつもりはなさそうだ。

――大蛇丸様に目を付けられている子・・・?

サスケ以外にいるのだろうか、と丸眼鏡の青年が首を傾げる。
今の大蛇丸の言い方だと、サスケのように欲しがっているようではないが・・・。
しかし、今の一言で気になることがある。

「僕にはまだ・・・アナタが躊躇しているように思われますが・・・。」

そう言うと、初めて視線を寄こした大蛇丸。
大蛇丸の言う“ジジイ”とは木の葉の里の長、三代目火影のことだ。大蛇丸の師であった人物を殺すのに、里抜けしてからこんなにも時間が経っている。もちろん、ここまでくるのにかなりの時間が必要だったことも確かだが、本当に殺したいと思っているならば、こんなにゆったりとはしていないはずだ。

――まぁ、僕としては上手くいけば良いのですがね。

青年はかけている眼鏡をクッと上げる。

「これから各隠れ里の力は長く、激しくぶつかり合う・・・音隠れもその1つ・・・アナタはその引き金になるおつもりだ・・・。」

大蛇丸は無言のまま真剣な表情で青年をじっと見つめている。

「そして彼は、その為の・・・弾なんでしょう?」

うちはサスケ君でしたっけ・・・と言いながら視線を大蛇丸に向ければ、大蛇丸はフフッと笑い出した。

「お前は察しが良すぎて気味悪いわ・・・。」

笑ってそう言う大蛇丸に、青年も軽く口角を上げる。

「そうでもありませんよ。ドス・ザク・キンのことは知りませんでしたからね・・・。サスケ君の情報収集にあたって、彼ら音忍3人の能力を知っておきたくて、攻撃をわざとくらうような要領の悪いこともしましたし・・・・・・。」

買い被りですよ、と大蛇丸に告げる。そして、青年は表情を少し険しくした。

「・・・私はまだ・・・完全には信用されていない・・・みたいですね・・・。」

自分は音忍3人がこの中忍試験に出るという話を全く聞かされていなかったのだ。
大蛇丸はその言葉に、目を細めて微笑む。

「彼らごときの話を私の右腕であるお前に言う必要はあったかしら・・・。」

それこそ信頼の証よ・・・と言った大蛇丸に、青年は口を閉ざしたまま視線だけを向ける。

「だからこそ・・・・・・サスケ君をお願いしようかしら。」

サスケに与えた呪印は、カカシに封印されてしまったのだ。だからといって、それはあまり関係ないのだが、サスケの“心の闇”が消えてしまってはこちらとしては大変困るのだ。

「今すぐ攫って欲しいのよ。」

大蛇丸のその台詞に、青年は面白そうに笑う。

「ガラにもなく・・・焦ってらっしゃいますね。」

そう告げれば、「少し気になることがあってね・・・」と言葉を返した大蛇丸に、ニヤッと笑う。

「うずまきナルト・・・ですか。」

サスケを変えているのはこの少年だという確信はあるが、青年はどうもその少年のことがいまだによく分からないでいた。
その少年、ナルトは大蛇丸に一撃を与えたというではないか。
今そのことを考えていてもどうにもならないか、と青年が目の前の大蛇丸に意識を戻せば、大蛇丸はまた楽しそうに笑っていた。

「サスケ君は兄を殺す為に生きてきた復讐の塊。その目的を遂げるまでは絶対死ねぬ子・・・。」

それなのに、サスケは敵うわけがないと分かっていながら死を恐れずに自分に向かってきたのだ。

「本当にあの子は厄介だわ・・・。」

目を細めながらどこか遠くを見てそう呟いた大蛇丸に、青年はハッとした。
どうやら、初めに大蛇丸が言っていた“あの子”とは“うずまきナルト”のことのようだ。
大蛇丸は続けて口を開く。

「早く引き離すに越したことはないわ・・・。」

早く私色に染めないとねぇ・・・

そう告げた大蛇丸に思わずゾッとした青年。舌なめずりをして、サスケのことを考えている大蛇丸の姿はとても恐ろしい。そんな大蛇丸を見て、青年はキッと視線を鋭くする。

「では・・・。」

青年はそう言ってその場を立ち去る。が、しかし、

「カブト・・・お前・・・。」

大蛇丸に呼び止められ、ギクリとした青年。そっと振り返ると、己を鋭く睨みつけている目とぶつかった。

「私を止めたいなら・・・今サスケ君を殺すしかないわよ・・・。」

「 !! 」

その言葉に青年、カブトは目を丸くする。そのカブトの反応に、ニヤリと笑みを浮かべながら大蛇丸は続ける。

「お前じゃ私を殺せないでしょ・・・強いと言っても・・・カカシと同じ程度じゃねぇ・・・。」

カブトはゴクッと喉を鳴らす。すると、フフッと笑った大蛇丸。

「冗談よ・・・。」

さぁ、行っていいわよ! お前を信用しているから、とにこやかに告げた大蛇丸を一見して、カブトは今度こそ立ち去ろうとする。が、

「カブト・・・。」

また呼び止められた。
今度は何かと振り向けば、いつになく真剣な面持ちをした大蛇丸がいた。

「ミコト君が来たら・・・逃げなさい。」

あなたじゃ敵わないわ、と真剣な表情から笑みに変わった大蛇丸がそう告げる。

「ミコト・・・。」

その名前を聞いてカブトは首を傾げた。
この名前を大蛇丸から聞いたのはこれで2度目だ。

「大蛇丸様は、そのミコトとかいう忍を何かご存知なのですか?」

第二の試験終了後に訊かれた時は何も思わなかったが、これほど大蛇丸が気にするような忍なのだろうか。しかも

――僕が敵わないとなると・・・

カカシ以上ということになる。
カブトが眼光を鋭くすると、大蛇丸はフフッと笑い、

「秘密よ。」

と、至極楽しそうに告げた。
カブトは首を捻りながらも、その場を去った。










白が基調となった部屋に、ドサッという音が響いた。
部屋の入り口には動物のお面をつけた3体の人間だったものが転がっている。そして、その場で唯一動いているのは、その部屋の中心のベッドに近づいていく丸眼鏡をかけた青年だけだった。
その青年はフー・・・と息を吐く。

「優秀過ぎるってのも、考えものだね・・・。」

ベッドの前で立ち止まり、そこに寝ている黒髪の少年を眺めながらそう呟く。

「僕らは目立ち過ぎた。」

大蛇丸様の目に留まったのはお互い不幸だったかな・・・と哀れみの眼差しを向ける。
こんなに幼くても心に悪魔が巣くっているとは。

――そこを利用され・・・いずれはあの忍術でこの子も・・・

そこまで考えた青年は、突如視線を鋭くし、スッと所持していたメスを取り出した。そのメスをじっと見つめていた青年は、唐突にシュッと背後に投げつけた。
その背後でパシッという乾いた音が鳴った。青年はその音を聞いて口を開く。

「さすがカカシさんだ・・・僕の死角からの攻撃を止めるなんて・・・。」

青年はメスを振り返ることもなく、最小限の動きだけで背後にいる人物に投げつけたのだ。そのメスを片手で止めた銀髪の青年、カカシはじっとその青年の背後を睨み付ける。

「お前・・・ただの下忍じゃないでしょ・・・。」

カカシの視線は鋭いまま、その青年に向かって話す。

「俺の気配に気づき、すぐに武器を構えるなんてのは・・・大した奴だ。」

青年はその言葉を聞いてフッと笑う。

「あなたで良かったです。」

「・・・・・・何の話だ。」

突発的な青年の言葉に、カカシは思わずそう尋ねる。しかし、青年は「いえ、こちらの話です」とカカシの問いを流した。

「サスケに何の用だ。事と次第によっちゃあ・・・捕まえて尋問する。」

話を戻したカカシに、青年はニヤリと笑いながら振り返った。


「出来ますかねぇ・・・アナタごときに・・・。」

「そのごときと・・・試してみるか・・・?」


2人の間に沈黙が走る。
それを破ったのはカカシだった。

「お前は何者だ?」

カカシが用意しておいた暗部たちがこうもあっさりと目の前の青年に皆殺しにされてしまったのだ。

「お前・・・確か木の葉の忍医の息子だったな・・・うだつの上がらないダメ忍者で・・・名前はカブトだっけか?」

そう尋ねられた青年は口を閉ざしている。それは今の言葉を肯定しているも同じだ。

「・・・・・・今度からは最低10人は・・・用意しておいた方がいいですよ。」

青年はカカシを挑発するような笑みでそう告げる。それを聞いてカカシは口を開いた。

「黙って質問に答えろ。」

「“イヤだ”と言ったら?」

カカシはさらに眼光鋭く睨み付ける。

「質問してんのはこっちだ・・・大人しく答えろ。」

そう言うと、青年はまた口を閉ざした。

「お前は・・・大蛇丸と繋がってるのか?」

サスケを狙っているのは大蛇丸だ。今この青年、カブトは暗部を殺してまでサスケに何かをしにやってきたのだ。大蛇丸と繋がっていないはずがない。
カカシの問いにニッと笑ったカブト。

「・・・・・・今ここで僕を捕まえたら、大蛇丸との繋がりを証明できないかもよ。・・・どんな拷問や幻術をかけられたって僕は口を割らないしね・・・。それに僕はケンカはあまり好きじゃないし・・・。泳がせとけばいずれ分かることなんだから・・・」

今回は見逃してくれないかな・・・とこの場に及んでふざけたことを言うカブトに、カカシはスッと目を閉じる。

「お前・・・わがままなガキだね、どーも・・・。」

・・・大人をあんまりなめるなよ、コラ

カカシはカブトにスゥッとクナイを突きつける。すると、

「やっぱり素直にゃ帰してくれないか。」

カブトもスッと先の少し曲がったクナイを取り出した。

「この里の掟は知ってるよな・・・・・・スパイ行為はどうなるか。」

カカシがカブトにそう告げる。しかし、

「あまり偉そうにしないで下さいよ。状況はこっちが有利なんですから・・・・・・。」

そう言ったカブトは、持っていたクナイを寝ているサスケの首もとに近づけた。それにカカシはスッと目を細める。そして、カブトの手がピクッとほんの少し動いた瞬間、カカシはダッと駆け出し、カブトのクナイを弾いて腰を蹴りつけた。その蹴りによってカブトがドサッと倒れた。と、その時、ザッと立ち上がった1人の動物のお面をつけた暗部。

その暗部は部屋の出口へと向かって走っていく。それに反応するのが少し遅かったカカシだった。が、

「影分身!!」

暗部が驚きの声を上げた。
暗部の向かった出口には、もう1人のカカシが腕を組んで立っていたのだ。
2人のカカシに挟まれた状態になった暗部はくっと声をもらし、首をキョロキョロとしている。段々と寄ってくるカカシにオロオロとし始める暗部。と、その時だ。

ガッ ガッ ガッ

突如倒れていた暗部の1人が起き上がり、窓にクナイを投げつけたのだ。そして、その暗部はクナイの刺さった窓を突き破って飛び降りた。

突然のことに、カカシは急いでその窓から下を眺める。すると、そこにはお面をスッと外してニヤッと笑ったカブトがいた。カブトはそのまま下に生えている木の上へと落ち、姿を消した。


「大した奴だ・・・。」

しんと静まり返った病室にカカシが憎々しげにそう呟くと、先ほどまで立って動いていたもう1人の暗部がドサッと倒れた。それと同時にボンッと煙を上げて消えたカカシの影分身。
カカシがそっと倒れているカブトに近づく。もちろんそれはカブトではないが。
カブトだと思っていた者の顔の横を見れば、顎から耳裏にかけてしっかりと縫いつけた後が残っていた。

――やはり・・・これは死体の心臓を一時的に動かして操る死魂の術・・・

しかも、死体の顔を整形で自分の顔に変えていた。
ご丁寧に鼻でバレてしまわないように体臭まで消し、カブトは心音を止めて殺した暗部の1人になりすまし、逃げ支度を整えていたのだ。

「医療班長の養子として育てられただけはある・・・。」

死体をここまで弄びやがって、と呟くカカシ。
死体処理班も顔負けなことをカブトはやってのけたのだ。そのカブトが大蛇丸の下にいるとなると・・・

「俺もこのままじゃあな・・・。」

そう言ったカカシは倒れている暗部を見つめ、顔を歪めた。

――この場にミコトがいなくて良かった・・・な

倒れている暗部たちは、「ミコトからの依頼だ」と言うと、喜んで引き受けてくれた者たちだった。ミコトが今の出来事を見ていたら、どんなに自分を責めるだろうか。
黒髪の少女を助けた時のミコトを思い出すと、ますますカブトのしたことには許せない。

カカシは割れている窓をじっと睨みつけた。










医療班と別れたミコトは、本選の話を済ませた火影様の下へと向かうと、そこにはまだアンコもいた。が、とりあえず火影様に先ほど会場から抜けてしまったことを謝らなければ、と思い、口を開こうとした瞬間、

「へ?」

ガシッとアンコが腕を掴んで、自分を火影様から少し遠ざけたのだ。
そして、火影様に背を向けた状態で、アンコがじろりとこちらを睨み付けた。そのアンコの目に、思わずミコトは「ひっ」と声を上げる。

「ミコト・・・一体どこに行ってたのよ・・・。」

アンコの声は小さいが、かなりの迫力を持っていた。
ミコトは自分の顔が引きつっているのを感じた。自分がいなくなったことはアンコをここまで怒らせるようなことだったらしい。

「すみません・・・少し気分転換を・・・。」

ミコトはなんとか笑顔を作ってアンコにそう返す。

――アンコさんには・・・言えないです。

大蛇丸に会っていただなんて・・・

第二の試験で大蛇丸とアンコはいろいろとあったばかりだ。
大蛇丸はこれから木の葉の里に何かを起こすようだから、自分が今言わなくたても必ず関わることになるのだが、やはりできれば少しでもその傷を塞いでおいてもらいたい。

――火影様にはきちんと報告しなければ・・・

最後に言った大蛇丸の言葉、あれは里全体に危害を加えると言っているものだった。とりあえずそのことを火影様だけには伝えておく必要がある。

笑顔の下でそんなことを考えているミコトの返答に、アンコは一瞬きょとんとして、次には満面の笑みになった。

「そうよね! 気分転換よね!」

良かった! と機嫌を直したアンコに、何が良かったのか分からないが、とりあえずミコトはホッと胸をなでおろす。が、

「あれ?」

胸をなでおろしている間に忽然と消えたアンコ。ミコトがハッとして振り向けば、

「火影様! ミコトは気分転換で風に当たりに行ったようですよ!」

ほら心配しなくても大丈夫だったじゃないですか、とアンコが火影様に嬉々としながら伝えていた。それに「うむ・・・」とどこか納得いかないような返事をしている火影様にミコトは苦笑いをする。

「勝手に抜け出してしまいすみません・・・。」

少し気分が悪くなったもので・・・と今はアンコに合わせてミコトはそう告げる。すると、火影様がとても心配そうな顔になってしまったため、慌てて「もう大丈夫ですよ」と付け加える。
実際気分が悪かったのは本当だったりする。

――大蛇丸の視線・・・

だいぶ慣れたと思ったが、今思い出すとまた鳥肌が立ちそうだ。
ミコトは軽く頭を振って、それを頭から追い出そうとする。そんなミコトの様子に火影様とアンコが首を傾げたが、火影様がミコトに口を開いた。

「先ほどの・・・千鳥のようなあの術、見事じゃった。」

ミコトがパッと顔を向ければ、やわらかく微笑んでいる火影様の顔が目に入った。

「おぬし、あの術には名はつけておるのか?」

「え?」

火影様の問いに、ミコトは目を丸くする。正直何も考えていなかったのだ。
ミコトの様子を見かねてアンコは、「あれだけすごい術なら名前が必要よ!」と真剣な顔をして言う。う~んとミコトは少し悩むと、ポツリと呟いた。

「除細動・・・の術?」

“除細動”とは、心臓の心拍異常の原因となる心室細動や心房細動を抑えて、正常な調律に戻す治療法のことだ。

「そのまんまじゃない。」

「う・・・・・・。」

アンコの突っ込みに、少し落ち込むミコト。そんなミコトを気にせず、アンコは「そうねぇ」と考え始めた。と、その時、

「ならわしがつけてもいいかのぉ?」

2人は声を出した人物、火影様に顔を向ける。その火影様はというと、ニコニコと笑っていた。その顔は、ミコトに尋ねる前からもう術名を考えていた、という顔だ。
苦笑をしてアンコが「どうぞ」と返すと、火影様はゴホン、と1つ咳をして告げる。

「“掌雷纏の術”なんてのはどうじゃ?」

「ショウライテン・・・ですか?」

アンコが首を傾げた。火影様は、うむ、と頷いて話を続ける。

「“掌”に“雷”を“纏う”と書いて“掌雷纏の術”じゃ。」

「掌雷纏・・・響きも良いですし、いいんじゃないですか。」

ね、ミコト! と子供のようにはしゃぐアンコに、ミコトは「いいと思います」と苦笑する。その返事に満足げな火影様だったが、その顔はすぐに険しくなった。


「その“掌雷纏の術”なんじゃが・・・ここぞという時だけにしか使ってはならぬ。」


急に重くなった空気に、2人は思わずゴクッと喉を鳴らす。
たった一言であるにも関わらず、ここまで相手を緊張させることのできる火影様は、さすがである。

「あれはチャクラの消費が多すぎる・・・絶対に一日に何度も使ってはならん。」

一日にそんなに心室細動を起こす者がいても困るがのぉ、と笑った火影様にようやく2人は緊張から解放され、ミコトは「はい」と言葉を返した。すると、火影様がふと思い出したようにこれからについて話し始めた。

「おぬしも知っておるだろうが、本選は1ヵ月後じゃ。」

ミコトはその言葉に頷くと、火影様はニコッと笑った。

「おぬしもすることがあろう・・・火影邸には来られる時に来れば良い。とは言っても・・・おぬしの場合、毎日来そうじゃのぉ。」

とりあえず今日はゆっくり休むが良い、と言う火影様にきょとんとしたミコトだが、すぐにニコリと笑う。

「ありがとうございます。」

火影様のその言葉は、こちらとしても都合が良かった。が、ミコトはスッと目を細めた。

「火影様、少しお話があります。」

ミコトの雰囲気が真剣なものに変わると、アンコがそれを察して「失礼します」と去っていく。火影様も、ミコトに変化に顔つきを変えた。

「話とは?」

「・・・・・・先ほど会場を出た時、大蛇丸と会いまして・・・。」

「・・・そうか。」

ミコトの言葉に驚くことなく、言葉を返す火影様。やはり、気づいていたのだろう。

「アンコがいては言いにくかったのじゃろう?」

苦笑をした火影様に「ええ」と言って頷く。するとすぐにまた真剣な顔に変わった火影様が口を開いた。

「して、あやつはなんと?」

「はっきりとはわかりませんが・・・木の葉の里全体に何かを起こすと思われます。」

曖昧で申し訳ありません、と顔を顰めたミコトに、火影様はフッと息を吐く。

「あやつは木の葉に恨みをもっておるからの・・・。」

そう呟く火影様に、ミコトは眉を顰める。火影様の表情には出ていないが、どことなくその呟きには悲しみが含まれていて。今、火影様は何を思ったのだろうか。
大蛇丸の里抜けを止められなかったことを悔いているのだろうか。それともこうなってしまったことに自分を責めているのだろうか。・・・たぶん両方だろう。

「大蛇丸が何か起こすのは恐らく中忍試験本選・・・。」

ミコトのその言葉に「そうじゃろう」と火影様も頷く。
大蛇丸はわざわざアンコの前に姿を現して、中忍試験を止めるなと言ってきたのだ。
何か起こすとするならば、その時しかないだろう。

「まぁ何! まだあまりに情報が少なすぎるからのぉ。こちらがうかつに動いて、そこをつかれてはお仕舞じゃ。」

今は様子を見よう、と告げた火影様に静かに頷くミコト。それを見て、やっと火影様の顔も明るいものへと変わった。

「とりあえず、おぬしは今日は休め。チャクラを使いすぎだからのぉ。」

「・・・はい。」

ニコニコと笑ってそう言う火影様に軽くため息を吐くミコト。
以前休むように言われても、それに反して働き続け、倒れてしまったことがある。その時の火影様の怒り様はかなり恐ろしかった・・・。それからというもの、火影様はこのように気がついたら自分に「休め」と言うようになったのだ。

――こんなに気にしてくださってありがたいですけどね。

ミコトはまだ自分に優しく微笑んでいる火影様の顔を見て苦笑をもらす。
話が済んだミコトはさっそくこれからの予定を立て始める。
この1ヶ月は影分身を作らなくて済みそうだ。
昼間は修行をして夜に火影邸、その合間に病院に行けばいいだろう。

影分身のナルトはというと、火影様の話が終わった後すぐ、サクラにカカシの居場所を尋ね、カカシがサスケのところにいる、と聞いて会場から飛び出していったが、会場を出ると人に見つからないように消えていたのだった。

消えた影分身の記憶が戻ってきた時、それはミコトが医療班と別れた時だ。
あの時ミコトが立ち止まったのは、影分身の記憶の中にあるリーの姿を見たからだった。
潰されてしまった左手足はナルトの掌仙術でもまだ治りきれていない。それほどひどい状態だったのだ。それに、

――恐らく神経系に支障があります・・・

記憶の中でのリーしか見ていないため、はっきりと断言できないが、全身の粉砕骨折により、その骨の破片が神経に支障をきたしているだろうと予測をつけたミコトは、顔を歪めた。もしも予測通りであるならば、手術は極めて困難だ。その場合、リーにはとても辛いことを言わなければならないのだ。
自分が顔を歪めたちょうどその時、どうかしたのか、と声をかけてきた医療班。それになんとか笑みを作ってごまかしたが、ごまかしきれた自信はない。

これからまずリーを診に行かなければならない。カカシに会うのはその後だ。
ミコトは「では失礼します」と火影様に告げて背を向ける。と、

「本選、実に楽しみじゃのぉ。」

おぬしも医療班と話している時、聞こえておったじゃろ? と笑う火影様に、ミコトは立ち止まり、目を瞑った。

「・・・ええ、そうですね。」

聞こえていたわけではないが、影分身の記憶で分かっている。
第一回戦、それは日向ネジ対うずまきナルトだ。
いきなり当たることになるとは思いもしなかった。が、

――ネジは変えてみせます。

このチャンスを逃すわけにはいかない。
自分を“運命”というものに縛り付けてしまったネジ。なんてもったいないことだろうか。
決まっている“運命”ほどつまらないものはない。
そんなものは気持ちしだいで変えることができるはずだ。
見方を変えれば、ネジの言う“運命”は辛いものでもなんでもなくなるはずだから。
だから、ネジにはそれに気付いて欲しいんだ。

ミコトはスッと目を開けると、会場を後にした。










木の葉病院のある一室、そこは重い緊張感に包まれていた。
そこにいるのは、丸いすに腰をかけた上半身の服を脱いだおかっぱ頭の少年と、その少年の背中をしゃがんで診ている長い金髪を括っている青年。
そしてもう1人、その2人のそばにそわそわとしながら立っている、少年と同じような髪型の濃ゆい男だ。

「どうだ? ミコト。」

濃ゆい男が金色の青年、ミコトにいてもたってもいられず声をかけた。ミコトは先ほどからずっと、眉を顰めた状態で少年の背中を見つめているのだ。
その問いかけで視線を少年の背中から下へと移したミコトに、男は嫌な予感を覚えた。

「・・・はっきり申し上げます・・・・・・忍は・・・諦めたほうがいいです・・・。」

静かな部屋に息を呑む音が響いた。その音が溶けて消えると、次にはハハハ・・・と乾いた笑い声。

「ミコト、そんなボケはいらないぞ。」

それにしても面白くない冗談だ、と笑う男にミコトは顔を顰めた。
大人しく黙っている少年の肩は震えている。

「・・・重要な神経系の周辺に、多数の骨破片が深く潜り込んでいます。とても忍としての任務をこなしていけるような状態ではないです・・・。」

そのミコトの言葉に、再び静寂がその場を支配し始める。が、その静寂を破ったのもミコトだった。

「・・・可能性が無いわけではないんです。」

バッと顔を向けた男に、ミコトは「でも」と続きを話し始める。

「この手術はとても難しく、時間がかかりすぎてしまうために・・・大きなリスクを伴います。」

「・・・リスク・・・?」

また視線を落としたミコトに、男は焦りを見せた。その続きはここで言わせてはならないような気がするのだ。しかし、

「手術が成功する確率は良くて二分の一・・・」

ミコトは重い口を開いて言葉を紡ぎだしていく。


「失敗すれば・・・死んでしまいます。」


思わず息を呑んだ男は、少し気を落ち着かせてからミコトに問いかける。

「・・・綱手様ならどうだ?」

ここにはいない医療スペシャリストの綱手なら、この少年、リーを治すことはできるだろうか。男の問いに、ミコトは苦笑いを浮かべる。

「綱手様でしたらもう少し成功する確立が上がるかもしれません・・・でも・・・。」

そこで言葉を切ったミコトの顔を見れば、続きは聞かなくたって分かる。

「お前に診せるんじゃ・・・」

なかった、という言葉は男の口から出ることはなかった。なぜなら、先ほどまでずっと黙っていた少年が初めて声を発したからだ。

「ミコトさん・・・僕はその手術を受けます。」

「リー・・・!?」

いつの間にかリーの体の震えは止まっていた。男はそのリーの言葉に驚愕で目を見張る。
確かに忍を彼に諦めてなんてほしくはない。が、リーはミコトの説明を聞いていなかったのだろうか?

「リー・・・これはお前の人生を左右することだぞ!? そんな簡単に・・・」

またも男の言葉は途切れる。
振り返ったリーが笑っているのだ。

「自分を信じない奴なんかに、努力する価値はない。」

男はハッとした顔をした。
その台詞は、昔リーに自分が言った言葉なのだ。

「先生・・・僕にそうおっしゃいましたよね。」

そう言ってニコリと笑うリー。しかし、これは努力でどうにかなる問題ではない。
リーはそれを分かっているはずだ。男はリーの言いたいことが分からず、眉を寄せた。
それを見て、リーはまた口を開く。

「自分を信じたいんです。そして、また努力を積んでいきたい。」

それに・・・と言ってリーは窓に視線を移した。

「・・・それに、ナルト君が言ったんです。」


あきらめるなって。


その言葉に今度はミコトがハッとした顔をする。
影分身がリーの治療中、確かに「あきらめんな!」と叫んだのだ。しかし、あの時のリーは気を失っていたはずではないだろうか。

「今こうやって座っていることさえ、ナルト君がいなかったらできなかったですよね。」

リーは自分の手を眺めて微笑む。
まだ完全とは言えないが、左手も動かないことはないし、何より歩くことができるのだ。
あんなに酷い怪我をしたのに、今こうやって動いていられるのはナルトのおかげ。

「ナルト君に助けられたのはこれで2回目です。」

1回目は第二の試験の時、そして今。

「それなのに・・・僕はまだナルト君にお礼が言えていません。」

そう言ってリーはミコトに顔を向ける。

「だから僕は、これを乗り越えてからナルト君にお礼を言いたいんです。」

その顔は自分を信じているという顔で。リーは手術が成功すると確信を持っているのだ。
ミコトはフー・・・と息を吐くと、真剣な眼差しをリーに向ける。

「手術が成功しても、長いリハビリを続けなければなりませんよ。」

それでも受けますか、と訊いたミコトにリーは力強く頷いた。

「努力は僕のモットーです!」

そう言うと、リーは先ほどからずっと黙っている濃ゆい男、ガイに顔を向け、ニコリと笑った。呆然とリーとミコトの会話を聞いていたガイは、その視線に気づき、リーを見つめる。ガイはずっと眉に皺を寄せている。と、次の瞬間、笑っているリーから出た言葉に、ガイの表情が歪んだ。


「先生! その時はよろしくお願いします!!」


ニッと笑った顔とともに見せた、親指を立てたポーズ。
それは2人の中で特別な意味を持つ“ナイスガイポーズ”だ。
それは、ナイスガイなポーズをしてまで男が格好つけた以上は死んでも約束を守る、という意味を持っているのだ。
それを見て歪んだガイの顔、それは驚愕と嬉しさによるもので。

「リー・・・お前って奴は・・・。」

リーはすでに自分で覚悟を決めていたのだ。
自分が言った言葉をいつも真剣に受け止め、ひたすら努力し続けてきた。そんなリーに手術が失敗することなど

――あるわけないに決まってるだろう?

リーに会った時から自分の“忍道”は「リーを立派な忍者に育てること」だった。
「たとえ忍術や幻術が使えなくても、立派な忍者になれることを証明する」というリーの忍道を支えるのが自分の役目ではないか。

「リー!」

突然大きな声を上げたガイに、呼ばれたリーはビクリと肩を揺らした。その顔はどこか不安げだ。しかし、

「せんせい・・・。」

リーはガイを見て目を丸くした。
ガイはリーに向かってニカッと笑い、その手には“ナイスガイポーズ”を作っていて。

「お前の手術は必ず成功する!! もし一兆分の一、失敗するようなことがあったら・・・俺が一緒に死んでやる!」

さっきのリーが見せた“ナイスガイポーズ”の手はわずかに震えていた。
怖くないわけないじゃないか。
それでもリーは笑ってそのポーズを出したのだ。
自分はそれを押してやらなければ。


「約束だ!」


自分はリーを笑って見ていればいいのだ。
その言葉で、リーの目からはボロボロと涙がこぼれた。その涙をごしごしと腕で拭いながら、「はい!」と返事をするリーに、ガイとミコトは目を細めて微笑む。

リーが泣き止むまで、そこはあたたかい空気に包まれていた。





「手術はそうですね・・・本選の2日前でどうでしょうか?」

しばらくしてから、ミコトが口を開く。泣き止んだリーは、それを聞いて眉に皺を寄せた。恐らく、本選を見に行くことはできるのだろうか、と思っているのだろう。
ミコトはリーにニコリと微笑む。

「手術後1日しっかり休めば、もうそれからすぐにリハビリを始められますよ。」

本選を見に行くのはちょうど良いリハビリになるのではないでしょうか、と言えば、リーの顔はみるみる輝くような笑顔に変わる。そのリーの様子にミコトは苦笑し、「でも」と付け加える。

「長時間、試合の観戦をするには体に負担がかかります。ですから見たい試合に絞って行く事をお勧めしますよ。」

「ならもっと早くに手術はできないのか?」

そうすればその頃には試合観戦くらいできるんじゃないか? とミコトの言葉にガイが思ったことを口にした。
確かに今日明日にでも手術を行えるなら、本選までには全ての試合を観戦するくらいの体力は戻っているかもしれない。しかし、

「リー君の左手足はまだ完全には治っていません。」

その言葉にガイとリーはハッとした。

「急激な回復は体に負担をかけてしまいます。今回の場合は致し方ありませんが、できればゆっくりと治すべきです。」

だからまずはその手足を本選2日前までに治してしまいましょう、と微笑んだミコトにリーも笑って頷く。が、

「絶対に手術まで無理をしてはいけませんよ。」

ミコトはじっと真剣な眼差しで告げると、リーはギクリとした。
やはりリーは何かしようと考えていたようだ。小さく頷いたリーは少ししょんぼりとしているが、こればかりは守ってもらわないとこちらとしても困る。
そんなリー様子を見て苦笑したミコトは「では」と言ってこの部屋から出て行く。と、その時、

「すみません、ガイ上忍。」

少し良いですか? とミコトがその部屋から出てすぐのところでガイを呼ぶ。そのガイは何か用か? というような顔でミコトに近づいていく。
そして誰もいない廊下に出ると、ミコトがガイに口を開いた。

「リー君にああは言いましたが、きっと彼、無理するはずです。」

なんせあなたの部下ですからね、と笑うミコトにガイは苦笑いを浮かべる。
リーのことだ。間違いなく無理して修行をするだろう。

「だから、時々リー君を見に来てあげてください。」

「それはもちろんだ。」

ガイの気持ちの良い返事を聞いたミコトは、スッとリーのいる病室の壁を見つめた。

「リー君はもう立派な忍者ですね。」

ガイが顔をミコトに向ければ、そのミコトは柔和に微笑んでいた。ガイの視線に気づいたミコトが、顔を向けてニコリと笑う。


「彼なら手術を乗り越えて、きっとあなたのように素晴らしい忍者になるんでしょうね。」


そう告げるとミコトは「ではお願いします」とこの場を去っていく。
ガイは今のミコトの言葉に動けないでいた。
今の言葉で、この成功の確率の低い難しい手術も大丈夫な気がした。いや、絶対に大丈夫だ。彼なら成功させてくれるはずだ。
何て言ったって、ミコトは今木の葉の里にいる最高の医療忍者だ。


「ミコト!」

ガイの呼びかけにミコトが振り向けば、ガイは背中を向けていた。

「リーを・・・頼む!」

そう言ったガイに、ミコトは目を細めて微笑み、「はい」と言ってまた歩を再開させる。
ガイの背中が震えていたのに気づかないふりをした。










ガイと別れたミコトは一旦病院の外に出た。そして誰もいないことを確認すると、ミコトは変化をとき、ナルトの姿へともどる。
今からカカシに会いに行くのだ。
カカシはまだこの病院内にいた。しかし、

――暗部の方たちの気配がないんですよね・・・。

この病院に来てから気づいていたが、サスケのそばにはカカシの気配しかないのだ。
ナルトはそのことに首を傾げるものの、

――暗部の方々も暇ではいらっしゃらないですからね。

暗部とは特殊な任務をこなす影の部隊だ。彼らが任務に行っては怪我をして戻ってくるのを自分が良く知っている。それも何回も。彼らはとても忙しいのだ。
カカシがきっと彼らを帰したのだろう、と納得したナルトはまた病院へと入り、サスケの病室に入れないことは知っているが、とりあえず受付に「サスケの病室はどこだってばよ」と尋ねる。すると、

「ナルト、サスケは今面会謝絶だ。」

「あ! カカシ先生!!」

ナルトはカカシの声で振り返り、駆け寄っていく。カカシも自分の言いたいことが分かっているような顔をしていた。

「あのさ! あのさ! 俺には誰が修行見てくれんの?」

「へ?」

いや、カカシはどうやら今の自分の言葉が予想外のものだったらしい。その証拠にカカシの右目が大きく見開かれている。そんなカカシにナルトはニコリと笑う。

「だってさ、カカシ先生はサスケ見るんだろ?」

「あ、ああ・・・。」

カカシは先ほどからずっと鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。

――そんなに意外でしたかね・・・。

思わずナルトは苦笑する。
写輪眼の使い方を教えられるのはカカシだけだ。カカシがサスケを見なかったら誰が見るというのだろうか。
ナルトの苦笑でやっと我に返ったカカシが口を開いた。

「・・・ま! お前には俺よりしっかりした先生を見つけてきたからな!」

それを聞いて、ナルトは目を輝かせる。
久しぶりにまともな修行ができると思うと楽しみで仕方がないナルトは、「誰!? 誰!?」とはしゃぎだす。と、その時だ。


「私だ!!」


その声で振り向いたナルト。そこには黒い丸サングラスをかけた忍が立っていた。その人を見てナルトは、「あ」と声をあげ、


「ムッツリスケベ。」


ポツリと呟いた。

「エビス先生が・・・ムッツリスケベ・・・?」

カカシのその台詞でハッとしたナルト。
ナルトは自分の口から出てしまった言葉に自分で驚き、バッと口を両手で押さえる。が、それはもう遅かった。












あとがき

更新速度が遅くなってしまい、すみません。
そして、前回ミコトさんが使った新術の名前なのですが、感想に書いてくださった方のを使わせていただきました。
初めにこのお話を書いているときは、ただ火影様が「あの術は使うな」とおっしゃって終わるようにしていたのですが、あまりにも素敵な術名だったので、勝手ながら使用させていただきました。感想にはもっと詳しく術名の説明を書いてくださっています。本当にありがとうございます!
ナルトさん(ミコトさん)のネーミングセンスのなさは、私のせいです。
このお話でなんとか予選を終わらせようと張り切ったら、とても長くなってしまいました。次はなんと番外編です。中途半端なところで切っていますが、次の番外編、楽しく書かせていただきたいと思います。

そしてまた↓におまけが少しあります。よろしかったらお読みください。












おまけ





アカデミーの校庭のトラックを走る子供たち。規則正しい足音を鳴らし、集団で列を乱さないように走る子供たちは、授業中であるにも関わらず走りながら何かを言い合っていた。


「ハハ・・・バーカ! お前が忍者になれるわけねーだろー!」

「だいたい忍術使えない奴が忍者になれるわけねーじゃん・・・なぁ!?」

このクラスには1人、忍術が使えない子がいる。その子は黒い髪を三つ編みにしている子で、今は走っているためそれがぴょんぴょんと跳ねている。
その子はいつもこうやってみんなからからかわれていた。

「なれます!!」

その話の中心の子が、声を張り上げて主張する。しかし、

「てゆーかよぉー・・・人並み以下の体術以外なにもできねぇお前が・・・この忍者アカデミーに居ること自体ナンセンスなんだぜ・・・。」

三つ編みの子の隣を走っていた少年がその主張を否定する。その言葉に三つ編みの少年はプイッと顔を背ける。そして、

「フン・・・お前ここで何て呼ばれてっか知ってっか・・・!?」

その言葉を聞かないようにサッと耳を塞ぐと、ダダッと駆け出した。
突然のその少年の行動に、みながきちんと並べと怒っている。と、その時、誰にも気づかれずにフフッと笑った金色の少年。

「“熱血おちこぼれ”・・・ですか。」

その少年のいる場所は走る子たちの見える葉が生い茂った木の枝の上だ。
枝の上に座って、その子たちを眩しそうに眺める少年、それはこのアカデミーの問題児、うずまきナルトだ。
彼は担任の教師によって授業に参加することはない。そのため、時々こうやってこっそり覗いているのだ。

――リーはすごいです。

三つ編みの少年の名はロック・リー。子供たちの間では“熱血おちこぼれ”と呼ばれている子だ。今もその子は1人列を乱してみんなより先を走っていた。
そんな彼にまたナルトはフフッと笑う。
リーはどんなにみんなからバカにされようと、決して屈することはなかった。今年初めて同じクラスになって、まだ話したことはないけれど、こうやっていつも彼のことを目で追っていた。
そんな彼の精神が清清しくて、いつも自分にやる気を出させてくれた。
今こうやって見ているのも、1人での修行が辛かったから。

試験以外はずっと1人。
修行と言うものは1人でやるものかもしれないけれど、こんな風にみんなと一緒に混じって授業をしてみたいんだ。
でも、負けるわけにはいかない。
みんなに自分を認めてもらいたいから、こうやってこの里に来たのだ。

――僕もがんばらなくては!

枝から静かに下りたナルトの背後で、またリーがみんなから「列にもどれ!」と怒られているのが聞こえ、思わず笑ってしまった。





そんなある日のアカデミーの放課後のことだ。

――あれは・・・

リー・・・?

帰ろうとしていたナルトがたまたま校庭へ顔を向けると、そこには1人ポツンと立っている三つ編みの少年。なんとなく気になって、こっそりとその少年、リーを見ていると、リーは突如印を組んだ。そして、


「分身の術!!」


リーがそう叫ぶ。その叫びは空へと溶けていき、しんと静まり返った。


「変化の術!!」


またもリーは叫ぶ。しかし、何の変化も見られない。
リーはじっとその印を組んだまま佇んでいた。


――・・・・・・リー・・・

ナルトはサッと顔を伏せた。
彼が泣いていたのだ。
声を上げることもなく、ただ静かに頬を流れる涙。
忍術ができなくても忍者になれると主張していたあの彼が、泣いているのだ。

――・・・僕はバカです

リーは強い人間だと勝手に決め付けていた自分はバカだ。
そんなわけあるわけないじゃないか。
信じるものを持っていても、やっぱりどこかで挫けそうになることはある。

でも、それを乗り越えなければ、その信じているものにはたどり着けない。

――僕が今リーに何か言うことはできません・・・

自分の言葉はきっと彼には届かない。
だって、自分は忍術を使うことができるから。そんな人から励まされたって、リーにとってただ辛いだけだ。でも、

――何故かガイ上忍がこちらにいらっしゃるんですよね・・・。

リーを見ているのはナルトだけではなかった。
先ほどからずっとあるガイの気配に、ナルトは小さく苦笑をもらす。ガイは忍術が苦手で、体術を極めた忍者だ。どうやらガイは、自分と同じリーを気にしているらしい。
ナルトが顔を上げれば、リーの背後にいつの間にか立っているガイがいた。
ナルトはそれをじっと見て、フッと笑うと歩を再開させる。

校庭ではガイの熱い言葉が響いていた。





次の日、アカデミーの校庭のトラックを走る子供たちは、いつものようにまたリーをからかっている。しかし、今日のリーはいつもと違った。


「忍術が使えなくたって、立派な忍者になれることを僕が証明するんです!」


そう言って微笑むリー。
いくらからかってもリーは前のように列を乱したり、ムキになったりすることは無かった。
そんなリーの反応に、子供たちはつまらなそうにしている。

それをまた木の枝の上から見ていたナルト。その顔はとても嬉しそうで。
サッと枝から飛び降りると、ナルトは自分の修行へと戻っていった。



その日からもう、リーがからかわれることはなくなり、ただひたすら努力する彼の姿があった。


そして同じくその日から、いつにも増していたずらに精を出しているナルトの姿が見かけられるようになったそうだ。













あとがき2

ここまで読んでくださって本当にありがとうございます!!
このおまけは第13話のところです。リーさんが大好きで、自分もリーさんみたいに努力しなければ! といつも励まされます。

毎日本当に少しずつですが書かせてもらっています。
できれば週1回更新したいと思っていたのですが、それも危うくなってしまい・・・すみません! これから受験が終わるまでますます更新が遅くなってしまうと思います。
次の番外編まではなんとか受験前に更新したいです。
書けない時に、何かふと浮かぶと携帯にメモをとるのですが、もう携帯には完結までのメモだらけです。完結までどのくらいの話数になるのかはまだわかりませんが、まだまだ道のりは長そうです。頭の中ではお話ができているのに、パソコンに書き出すとすぐには文章にできなくて、落ち込みそうな時もありますが、そんな時は皆様の感想を読んでやる気を起こしております。
皆様の心優しい支えがあるおかげで書いていけそうです!
これからもがんばりますので、よろしかったらまた足をお運びください。




*いろいろとおかしなところがあり、申し訳ございません!!
 更新が遅くなる代わりにしっかりとお話を練って書こう!
 と意気込んでいたのですが、さっそくおかしなことを書いてしまいました。
 申し訳ありません。
 まだまだおかしなところはあると思いますが、一生懸命がんばりますので、
 よろしかったらお読みください。



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 番外編
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2008/02/10 23:03
*誤字を発見して修正させていただきました。
 本当に申し訳ありません!
 投稿するときはもっと気をつけて投稿させていただきます。






俺には2人の兄ちゃんがいるんだ、コレ!


2人ともすっごくかっこよくて、俺の憧れなんだ。


俺は火影になる男だ!!


まだ兄ちゃんたちより弱いけど・・・



俺が絶対兄ちゃんたちを守るんだ!







NARUTO ~大切なこと~ 番外編 『俺が絶対守るんだ』







火影邸のある廊下を走る小さな足音。その足音を慌てて追いかけるのは黒い丸サングラスをかけた特別上忍だ。
その小さな足音は、ある一室の前まで行くと、手裏剣を片手に持ち、静かにその部屋の扉を開けて、


「じじぃ!! 勝負だぁ、コレ!!!」


勢いよく飛び込んだ。その部屋は忍者登録室だ。
部屋に飛び込んだ小さな足音はまだ小さな少年で、その子は頭の天辺だけ開いたヘルメットのような帽子をかぶり、少年の背よりも明らかに長いマフラーを首に巻いている。

――それが俺、木の葉丸だ、コレ!!

今日、じじぃはこの時間に忍者登録室にいるという情報を手に入れた俺は、早速じじぃに勝負を挑みに来たのだ。(この情報を手に入れるのに、じじぃの孫であることを利用・・・してないぞ! コレ!)
その部屋に飛び込むと、目に入ったのはじじぃだけではなかった。
時々火影邸で遊んでくれる兄ちゃんと同じ金髪を持ち、何故か頭にゴーグルをつけた奴がいた。俺がそいつの髪に見とれていたら、


「いってぇぇーーー!!!」


思い切りこけてしまった。

「くっそぉお、トラップか、コレ!?」

いや、きっとトラップに違いないんだ。痛む額を押さえながら立ち上がると、

「だ・・・大丈夫でございますか!? お孫様!! ちなみにどこにもトラップはありません!!」

後からついて来ていためがね教師が、俺のトラップ説を否定しやがったんだ、コレ!! それにいつもこいつは俺をお孫様、お孫様って・・・俺にはちゃんと名前があるんだ。俺はキッとめがね教師を睨み付ける。すると、めがね教師は俺の鋭い睨みに構わず、金髪に顔を向けた。と、その途端、めがね教師は今まで見たことも無いような目でそいつを見た。それはすごく冷たい目で。
金髪はその視線を気にしないで俺の前まで歩いてきて立ち止まった。そこで俺はハッと気づいた。


「フム! そうか!! 貴様が何かしたんだな、コレ!!」


めがね教師はトラップなんてないって言ったけど、こいつが何かしたに決まってるんだ。
そう言うとそいつは、

ガッ!

いきなり俺の胸倉を掴んで持ち上げてきた。その顔は無表情だけれど、目がすごく怒っているのが分かった。・・・でもこいつも俺を殴ることなんてできない。

「コラ!! ナルト!! 手を放さないか! その方は三代目火影様のお孫さんだぞ!!」

メガネ教師がそう叫んだ。こいつナルトっていうのか。


「なぐれるもんならなぐってみろ!!」


そうなんだ。俺はこの部屋にいるじじぃの孫だから、みんな俺を見てくれないんだ。だから早くじじぃを超えたいんだ。そして、俺を認めさせ・・・


「んなの知るかってばよ、ボケ!!!」

「いってぇぇえーーー!!」


こいつ俺を殴りやがった。しかも容赦なく思い切りだ。

「何が“勝負”だ!! 今は俺が下忍になれたことを報告しに来てたんだってばよ!! その時間をとりやがって・・・!」

こいつはどうやら今年下忍になったらしい。
そう言えば・・・部屋の前に来た時、こいつの嬉しそうな声が聞こえたっけ。


「お、俺は早く火影の名前がほしーんだ!! みんな俺が火影の孫だからって、俺自身を認めてくれない・・・もうやなんだ、そんなの!! 俺は早くみんなに認められる名前がほしーんだ!!」


みんながみんな見てくれてないわけじゃないけれど。でもそれもたった1人。あの兄ちゃんだけ。そんなの辛いんだ。それにみんな気づいてくれないんだよ。
殴られたところを押さえながらそう叫んだら、急におとなしくなったそいつ。
それを不審に思い、顔を上げたら、


「俺も・・・俺を認めてくれる人がやっとできたばかりなんだ。」


そいつはひまわりみたいに笑っていた。

「それでもスゲー大変だったんだぞ!!」

その“大変だった”時のことを思い出しているのか、苦笑いを浮かべたそいつ。
こいつも俺と同じなのか・・・?

「・・・みんながみんな認めてくれる、火影ってスゲー名前を語るのに、ぜってー近道はねぇってばよ。」

今度は目を細めてすごく優しく笑った。

――やっぱりこいつ、あの兄ちゃんに似てるよ、コレ。

ボーッと見つめていたら、そいつはまた口を開いた。

「1つ1つ小さなことを積み上げて大きくしていくんだ。それがとっても大変なんだってばよ。でも、お前が今のこの辛い、苦しいって気持ちを忘れなかったら、ぜってースゲー火影になれるからさ。だからさ、がんばれよ!」


木の葉丸!!


そう言って二カッと笑ったそいつに、思わず目を丸くする。
確かに、みんな俺がじじぃの孫だから、火影になることを否定する奴はいなかった。でも、こんな風に心の底から思ったことを言ってくれたのはこいつが初めてだ。それに

――木の葉丸って呼んでくれた・・・

いつ俺の名前を知ったのか分からないけれど、しっかりと俺の目を見てそういったこいつは、確かに俺を認めてくれていた。

こいつの言った通り、本当に大変なんだ。

人に認められるって、すごく難しいんだ。無条件で認めてくれる人なんて、自分の親くらいだ。でも、俺には親がいない。それで俺の面倒を見てくれているのはじじぃとめがね教師。じじぃが俺を認めていないわけではないけれど、忙しくてなかなか会えないし、めがね教師は問題外だ。
目の前の金髪は俺を見ながらずっと笑っている。
俺がこいつの楽しみにしていただろうこの時間を奪っているのに。


「ごめんなさい。」


ごめんだなんて、こんなに素直に言えたことがないのに、今日はすんなり出てきた。
そいつを見ればきょとんとして、すぐにニシシと笑った。

――あぁこれはもう決まりだ、コレ!!

俺はガシッとそいつの腕を掴んで、


「ナルトの兄ちゃん!! 俺を子分にしてくれ!!!」

「「えぇ!?」」


部屋の中にわんわん響くくらいの声で頼んだ。兄ちゃんはそれはそれは驚いた顔をしている。兄ちゃんの声にかぶったのはめがね教師だ。何をそんなに慌てているのだろうか。・・・ムッツリスケベのくせに。(なんでこいつがムッツリスケベだというと・・・おっと、これはあとで話すぞ、コレ!)
こんなにかっこいい兄ちゃんはあの兄ちゃんの次だ。あの兄ちゃんは病院のお仕事が忙しいから時々しか会えないけれど、ナルト兄ちゃんは下忍だっていうじゃないか。
俺はナルト兄ちゃんについて行くぞ!

「お、お孫様!! そいつは・・・」

慌てているめがね教師に口を挟んだのはじじぃだった。

「エビス・・・それ以上はわしが許さん。それと、ナルト。」

めがね教師を一度睨んだじじぃはナルト兄ちゃんに向きなおすとニコリと笑った。

「木の葉丸を子分にしてやってはくれんか。」

「え・・・でも、俺に子分だなんて・・・と、友達なら・・・。」

さっきの威勢はどこにいったのか、ナルト兄ちゃんはじじぃにたじたじだ。いや、正確に言うと俺に困ってるんだな。

「いや! ナルト兄ちゃんは俺の親分だ、コレ!! 一生ついていくぞ、親分!」

そう言うと、兄ちゃんは苦笑した。

「そういうわけじゃ・・・忍者登録書は受け取ったから、そいつと遊んでくれんかの?」

じじぃがそう言ってくれて、俺は思わずニカッと笑ったら、兄ちゃんはフッと息を吐くと、

「じゃぁ、木の葉丸! 修行しに行くってばよ!!」

「オウ!!」

またひまわりみたいに笑って、俺の腕を掴んでくれた。



この時から俺はナルト兄ちゃんの子分になったんだ、コレ!!

それからナルト兄ちゃんとはよく遊んでもらった。この前の兄ちゃんなんて、最高にかっこよかったんだ。その話をする前に、もう1人の兄ちゃんの話をするぞ!

・・・ついでにムッツリスケベの話だ、コレ・・・。










これはナルトの兄ちゃんに会う前の話。


ある日の火影邸の廊下での出来事だ。

めがね教師から見事に逃げきった俺の目の前には、見覚えのある長い綺麗な金髪を1つに括った兄ちゃんが歩いていた。


「ミコト兄ちゃん!!」


そう呼べば、振り向いてニコリと笑ったその人。ちょっと前、俺が火影邸でこけた時(ト、トラップがあったんだ、コレ!!)、たまたま通りかかったこの兄ちゃんが手を貸してくれたんだ。その手があったかくて、やさしくて。
その時名前を訊きたかったのに、めがね教師がやってきて結局訊けなかった。が、めがね教師に訊いたらあっさりと分かった。
ミコト兄ちゃんはめがね教師と同じ特別上忍というじゃないか。しかも医療を専門とする忍者。

「木の葉丸君、どうし・・・!」

振り向いた兄ちゃんの言葉が言い終わる前に、思いっきり飛びついた。
この兄ちゃんはめったに昼間にはいないから、こうやって会うのは久しぶりだ。
兄ちゃんは驚いた顔をしたけど、またニコリと笑って俺を下におろす。と、


「兄ちゃん・・・どおしたんだ?」

俺の背丈に合わせてしゃがんだ兄ちゃんが、突然目をぎゅっと瞑った。
何か目にゴミでも入ってしまったのだろうか。
パチパチと何度か瞬きを始めた兄ちゃんの目から涙がじわじわと出てきている。

「ちょっと目にゴミが入ってしまったみたいです。」

「わ! 兄ちゃんごめん!」

きっと俺が飛びついてしまったからだろう。慌てて謝ると、兄ちゃんはピンと人差し指を立てた。

「こういう時は、目をこすらないで涙と一緒に出してしまうのがいいんです。」

目薬があればそれを使うといいですよ、とちょっと得意げに役立つ情報を話す兄ちゃん。ゴミの入ってしまったほうの目を閉じたままにしているので、まるでウインクをしているようだ。なんだかそれがかわいらしい。
しばらくすると、瞑っている目からゆっくりと涙が流れてきて。

思わずドキッとしてしまった。

流れてきた涙を拭おうとしている兄ちゃんは、なんか、なんか・・・

――色っぽいぞ! コレ!!

兄ちゃんはかっこいいのだけれど、綺麗でもある。男の色気とでもいうのだろうか・・・? 兄ちゃんの場合、髪が長いから女の人に間違えられそうだ。
今自分の顔は赤いかもしれない。バッと自分の顔を手で隠そうとしたその時、


「お孫様!!」

「げ!!」


しゃがんでいるミコト兄ちゃんの後ろに現れたのはめがね教師だ。
そのめがね教師はいつもに比べて息が荒い気がするが・・・そんなことは関係ない。
せっかくミコト兄ちゃんと会えたのに。
兄ちゃんが俺の名前を呼ぶと、すごく嬉しいんだ。じじぃの孫じゃなくて、“木の葉丸”っていう1人の人間として認めてくれているのが伝わってくるんだ。
めったに会えない兄ちゃんとの時間をとりやがって・・・!
兄ちゃんは涙を中途半端に拭うと、立ち上がって振り返ると、「エビスさん、こんにちは」とあいさつをする。今は兄ちゃんの背中しか見えないけれど、振り返る前の兄ちゃんの目は涙でキラキラとしていた。

――まだドキドキするぞ、コレ・・・

俺が兄ちゃんの色気でやられて目を瞑って胸をぎゅっと押さえたその時だ。

「あっ!」

兄ちゃんが突然声を上げた。何事かと思い目を開けると、兄ちゃんが腰につけていたポーチから何かを取り出した。それは

――ティッシュ・・・?

兄ちゃんが取り出した物は確かにティッシュだった。「これを使ってください」という兄ちゃんの横からサッと顔を出せば、


「げっ!!」


めがね教師が鼻血出していた。しかもダラダラ出と。めがね教師も兄ちゃんの色気にやられたのだろうか・・・いや、そうに違いない。
「ありがとうございます」とお礼を言っているめがね教師に兄ちゃんは、

「顔は上げないで下さい。」

顔は下に向けたまま鼻を強くつまんで、壁に寄りかかってしばらく安静にしておいてください、と医療を勉強しているだけあって、適当な対処をしている。さすがだ、コレ!・・・って感心している場合じゃないぞ!


「逃げるぞ兄ちゃん!」

「へ?」

「お、お孫様!?」


ガシッと兄ちゃんの手をとると、ダッと廊下を駆け出す。突然のことにめがね教師が驚いているが、そんなことは気にするもんか。

――お前なんか今日からムッツリスケベだ、コレ!!

どこか怪しいと思っていたんだ。まじめな顔しておいて、スケベだったとは・・・!
ムッツリスケベの前にいたら兄ちゃんは危ない。





「こ、木の葉丸君!」

無我夢中で走っていると、兄ちゃんが俺の名前を呼んだ。その声でハッとしたら、もうムッツリスケベはとっくに見えなくなっていた。

「急にどうかしたんですか?」

立ち止まって振り返れば、兄ちゃんが不思議そうな顔で俺にそう尋ねる。
・・・・・・どうかしたに決まってる。


「あの・・・めがね教師・・・・・・ムッツリスケベだ、コレ!」

「ムッツリスケベ・・・?」

「そうだ、コレ!!」


はぁはぁと息を切らしながら叫ぶ。走ったせいで俺は息が上がってしまっているのに、兄ちゃんは全く息を乱していない。さすが兄ちゃんだ。
なんとか息を整えるが、あのめがね教師・・・兄ちゃんの顔を見て鼻血を出すなど、ムッツリスケベすぎる。
俺の言葉にきょとんとしていた兄ちゃんが、突然クスクス笑い始めた。

「ミコト兄ちゃん?」

何が面白いのか分からなくて首を傾げると、兄ちゃんがやわらかく笑った。

「エビスさん、今日熱があるんです。」

「え・・・?」

「今朝、エビスさんが医療班に薬をいただきにきたそうですよ。」

僕はその時いなかったのですが、と告げる兄ちゃん。ふと兄ちゃんの言葉であいつを思い出せば、確かに今日のムッツリスケベの様子はいつもと違った。簡単に逃げることが出来たし、何より追いかけてきたムッツリスケベはかなり息が荒かった。

「風邪をひくと鼻の粘膜が弱まりますし、それにエビスさん走ってこられたみたいじゃないですか。興奮したり、血の巡りが良くなったりすると出たりするんですよ。」

きっとそのせいです、と笑う兄ちゃんを見て顔を顰める。兄ちゃんはそう言うけど、さっきの兄ちゃんには俺もドキッとしてしまうくらいだったんだ。

――あいつの場合、“興奮”だけだ、コレ!

絶対にそうだ。それに、ミコト兄ちゃんは前から思っていたが、絶対に“天然”だ。
チラッと横目で見れば、兄ちゃんが視線に気づいてニコッと笑う。

間違いない、兄ちゃんは“天然”だ。

そこまで考えて、俺はハッとした。

「ミコト兄ちゃんはあーゆーのよく見るのか、コレ!?」

兄ちゃんは自分のことにはかなり鈍感だろう。兄ちゃんは自分がモテることに気づいていない。くの一からはかなりの人気だ。
それに、兄ちゃんは後姿だけを見たら、くの一と間違えられてもおかしくない。
・・・考えたくはないが、めがね教師以外にもあんな風に兄ちゃんの前で鼻血を出した奴はいるはずだ。

「ああいうの・・・ですか?」

俺の質問に首を傾げた兄ちゃんに頷いて見せれば、兄ちゃんは少し辛そうな顔をした。

「そうですね・・・よく見ますよ。」

できれば見たくはないですね、と困ったように笑った兄ちゃん。と、思ったらため息を吐いて目を瞑ってしまった。

やっぱりだ。

――よっぽど悩まされてるんだな・・・コレ。

ちらりと伺えば、兄ちゃんはまだ目を瞑ったまま顔を下に伏せていた。

めがね教師がムッツリスケベと分かった以上、ミコト兄ちゃんに近づけないようにしなければ。めがね教師は・・・一応俺の家庭教師(悔しいけど、教えるのは上手いんだ、コレ・・・。)だし、今の俺でもめがね教師1人見張ることならできる。

ミコト兄ちゃんは俺が守らなければ。
兄ちゃんに背を向けて、そう固く誓う。と、その時、


「木の葉丸君。」


ギクリとして振り返り、顔を上げれば兄ちゃんがニコリと笑った。

「僕はそろそろ行きますね。」

「・・・・・・あ。」

そうだ。兄ちゃんはいろいろとムッツリスケベと違って忙しいんだ。
「またね」と言って背を向けた兄ちゃんに慌てて叫ぶ。

「兄ちゃん! 困ったことがあったら俺に言っていいぞ、コレ!」

そう言うと、振り向いた兄ちゃんが苦笑をして「ありがとうございます」と言った。そして、背中を向けて歩き出した兄ちゃんに、ぶんぶんと手を振る。

兄ちゃんの背中が見えなくなると、軽くため息を吐いた。
兄ちゃんにはいろいろと悩みがありそうだ。

――ミコトの兄ちゃんは俺が絶対守るんだ、コレ!!

兄ちゃんはめがね教師のことをああ言ったけれど、

――あいつは絶対ムッツリスケベだ、コレ・・・

兄ちゃんの顔を見た瞬間に鼻血を出すなどタイミングがよすぎる。
まずはムッツリスケベから兄ちゃんを守らなければ。拳を握りながら、再び心に誓っている時だ。


「お孫様、探しましたぞ!」

「・・・・・・。」

兄ちゃんと別れて少してから、鼻血が止まったらしいムッツリスケベが現れて、思わずジロリと睨む。しかし、ムッツリスケベは俺の睨みに怯むことなく(フッ・・・さすがムッツリスケベ。なかなか強敵だ、コレ!)、俺の襟首を掴んで引きずっていく。俺はふとミコト兄ちゃんの言葉を思い出し、

「今日熱があるのか?」

引きずられながらもムッツリスケベに訊いてみた。
ミコト兄ちゃんが嘘を吐くはずがないから、疑ってはいないけれど。

「え、ああ、ミコト君からお聞きしたんですか?」

実はそうなんですよ、もうだいぶ下がりましたけどね、と言うムッツリスケベに「フム」と言葉を返す。と、なぜかムッツリスケベは少し嬉しそうにフフ・・・と笑った。

「私のことは大丈夫ですから、きちんと修行しないと火影にはなれませんぞ!」

「・・・・・・ムッツリスケベの心配はしてないよ、コレ。」

そう言ったムッツリスケベにボソリと呟けば、「・・・何かおっしゃいましたか?」と振り向いてきたのでニコリと笑ってやった。すると、ムッツリスケベは何か言いたそうな顔をしたが、何も言わずに顔を戻して、また俺を引きずりながら歩く。

――そうだ、コレ!

突然ポンッと手を叩いた俺に、ムッツリスケベが何事かと振り返ってきたが、それは無視だ。今のムッツリスケベの言葉で、良い事を思いついた。

火影に早くなればいいのだ。
いや、もとから俺の夢は火影なのだが。
少しでも早く火影になればいいのだ。

じじぃを倒せば、自分も認められる。それにミコト兄ちゃんも守ることができる。

――そうと決まればじじぃに奇襲だ、コレ!

俺はその日そう決意したのだった。





でもそれはナルト兄ちゃんのおかげで、少し考えは変わったけれど、ミコトの兄ちゃんを守ると誓ったことは変わってない。










思い出したくもないムッツリスケベの話の後は、かっこいいナルトの兄ちゃんの話で気分を変えるぞ、コレ!


ナルト兄ちゃんとはよくモエギとウドンも一緒になって修行という名の遊びをしてもらっている。ナルト兄ちゃんと一緒にいて気づいたことは、やたらと人の視線が多いということだ。あの時のめがね教師みたいに冷たい目で大人たちが兄ちゃんを睨んでいるんだ。
・・・わけがわからない。
兄ちゃんに訊いたら、ただ優しく笑うだけで結局分からないけれど。何かあるのは分かった。でも、俺はそんなの気にしない。だって、兄ちゃんは最高にかっこいいんだ、コレ!





それはある日のこと。

今日は兄ちゃんが下忍の任務が早めに終わると聞いて、モエギとウドンと一緒に兄ちゃんを待ち伏せすることにした。任務が終わった兄ちゃんを発見した俺たちは、驚かそうと思って岩の中(ダンボールで作った自信作だ、コレ!)に隠れてこっそり後をついていった。だが・・・


「木の葉丸とモエギにウドン・・・どうしたんだってばよ。」


すぐにバレてしまった。さすがナルト兄ちゃん。

「さすが俺の見込んだ男! 俺の親分なんだな、コレ!!」

そう言っている間にも、兄ちゃんは早速俺たちの頭の上の物に気づいてくれた。

「木の葉丸たち・・・それ。」

「へへへぇ昔の兄ちゃんのマネしちゃったのさ、コレ!」

俺たち3人はみんな頭にゴーグルを着けている。今の兄ちゃんの額には額あてが光っているけれど、前はゴーグルを着けていたから。少しでも兄ちゃんに近づきたいんだよ。でも、

「ふ~ん。」

「“ふ~ん”ってコレ!! 兄ちゃんリアクション冷たいぞぉ!!」

笑ってくれると思ったのに、予想外に冷めた反応をした兄ちゃん。俺が透かさず言い返せば、兄ちゃんはプッと笑った。


「だってさ、お前たちのそこにはすぐに額あてがくるだろ?」


そう言って、兄ちゃんが指差すのは自分が着けている額あて。その言葉にモエギとウドンも目を開いて驚いて、その後は目をキラキラと輝かせている。それは俺も同じだ。

――ほんと、兄ちゃんは最高だ!

すごく、かっこいい。
兄ちゃんの言う通り、俺たちの額にも早く額あてがくるように今はがんばるんだ。だけど、今日はあの約束の日。

「あのね! リーダー! これからヒマ?」

「ん? 特に何もないってばよ。」

モエギの質問ににこやかに答える兄ちゃん。


「今日は忍者ゴッコする日だ、コレ!」


そう、今日は兄ちゃんと約束した忍者ゴッコの日だ。
忍者ゴッコは、逃げる兄ちゃんを忍者らしく気配を消して追いかけ、つかまえるゲームだ。
それがなかなか難しい。手裏剣やクナイなんか使ったら危ないから使用禁止だ。でもそれは本当の忍ならありえないから、忍者“ゴッコ”なんだ。
兄ちゃんが俺の言葉を聞いて、「よし、行くってばよ!」と笑ったその時だった。


「フン・・・忍者が忍者ゴッコしてどーすんのよ・・・。」


暗い雲を背負ったピンクの髪の女が突っ込みを入れてきた。俺は思わず顔を顰める。
なんだ、この失礼な女は。
そう突っ込んだかと思えば、ナルト兄ちゃんをジーッと見つめているその女。

――兄ちゃんのこと、食い殺すような目で見てるな、コレ。

その女の視線を見てふと浮かんだのは・・・まさか兄ちゃんの“アレ”だろうか。
いや、その視線の意味は“アレ”しかない。

「兄ちゃんもスミにおけないなぁ。」

フッと笑ってそう言うと、兄ちゃんは「え?」と俺に顔を向けた。

「あいつって、兄ちゃんの・・・コレ?」

小指を兄ちゃんに立てて見せる。この女はきっと兄ちゃんの彼女なのだろう。
しかし、兄ちゃんは首を傾げた。その眉間には皺が寄っている。
・・・・・・兄ちゃんのこの反応は、もしかしてこの意味を知らないのだろうか・・・。


「彼女かって訊いてんだ、コレ!」


ニヤリと笑って告げる。すると、突然兄ちゃんの顔がボッと真っ赤になった。
そして、「な・・・え、う・・・」と慌てている兄ちゃんは、この女よりよっぽど可愛いと思った。と、突如、


「しゃーんなろーー!!!」

ドゴッ!!!!

「兄ちゃん!!」

ピンクの髪の女がわけの分からない言葉を言いながら兄ちゃんを殴り飛ばしたのだ。

「な・・・なんてことすんだ、コレ!!」

兄ちゃんに突然なんてことをするんだ、この女は。すると、その女はハッとした顔をして、

「つ、ついナルトがなんか私よりも可愛かったように見えたから・・・思わず突っ込んでしまったわ・・・。」

ごめんね、と舌をペロッと出し、たぶんかわいらしく言ったつもりであろうこの女は、はっきり言って非常に恐ろしい。

「やだぁー、リーダー!! 死んじゃやだー!!」

モエギが急いでナルト兄ちゃんに駆け寄る。その兄ちゃんはかなり吹っ飛ばされており、木で出来た塀に思い切り叩きつけられていた。
兄ちゃんからは「う~」とうめく声がもれている。

「このブース! ブース!!」

本当にこの女はブスだ、コレ! 兄ちゃんになんてことしてくれたんだ。俺がずっとそいつに向かって「ブス」を連呼していると・・・





「木の葉丸君、大丈夫?」

頭を押さえている俺に、ウドンが声をかけてきた。今、俺の頭には大きなたんこぶができている。
その女は俺を殴って、しかもまたナルトの兄ちゃんまで殴り、「フン」と鼻息荒く去っていったのだ。なんで兄ちゃんまで・・・。


「・・・ったく、あのブスデコぴかちん・・・アレで女かよ、マジでコレ・・・ねぇ、兄ちゃん!!」

「こ、木の葉丸・・・!」

俺の言葉に兄ちゃんが怯えたように声を上げた。どうしたのか、と思い、ナルト兄ちゃんの視線の先を見れば、


ドタタタタ!!


去っていったはずのあの女が鬼のような形相(いいや、あれは本物の鬼だ、コレ!!)で追いかけてきていたのだ。


「ぎゃぁぁああ!!」


俺たちは必死に走って逃げた。それはもう我武者羅に。と、その時だ。

「イテッ!」

何かにぶつかってしまった。その衝撃に耐え切れなくて、尻餅をついてしまう。


「いてーじゃん・・・・・・」


上から降ってきた声に、ぶつかったのが人間だと分かった。
恐る恐る顔を上げてみると、そこにはまるで歌舞伎のような模様を顔に施した男が立っていた。その男は背中に包帯でぐるぐる巻きにした何かを背負っている。隣には、大きな扇子を背負った女がいた。

――なんだよこいつら・・・!

腰が抜けてしまってなかなか立ち上がれないでいると、その男は俺の胸倉を掴んで引っ張りあげた。


「木の葉丸!!」


兄ちゃんの声が聞こえた。ここはかっこよく

「大丈夫だ、兄ちゃん!」

と言いたい。が、息が苦しくて、口から出たのは「ぐっ」という蛙のような声。

「いてーじゃん、くそガキ!」

「やめときなって! 後でどやされるよ!」

扇子の女がそう言うのに、歌舞伎の男は放そうとしない。

「こら、お前! その手を放せってばよ!! そいつを放さないと俺が許さないぞ!!」

――兄ちゃんかっこいいぞ、コレ!!

そう言いたいのに、やっぱり開いた口からは蛙の短い鳴き声がもれた。

兄ちゃんが本気を出したらきっとすごい。
まだそんな兄ちゃんは見たことないけれど。
そう叫んだ兄ちゃんに歌舞伎の男はニヤッと笑った。

「俺・・・大体チビって大嫌いなんだ・・・。おまけに年下の癖に生意気で・・・殺したくなっちゃうじゃん・・・・・・。」

「ッ!!」

ナルト兄ちゃんが息を呑んだ。この男の隣の扇子の女が、「あーあ、私は知らないよ」と呟いている。あのピンクのブス女といい、今日はいったいなんなんだ。

――く・・・苦しい・・・コレ・・・

もう息が苦しくて。ダメかもしれない、そう思ったその時だった。


ガッ!

「くっ・・・!」

何かがぶつかる音の後、歌舞伎の男が短く声をもらすと、体が急にフッと浮いた。

――え・・・

掴まれていた手が放されたのだ。

――ぶつかる!!

このままでは地面にぶつかってしまう。
俺は咄嗟に目を閉じた。が、



「あ・・・れ?」

その衝撃はこなかった。そして、


「大丈夫か、木の葉丸。」


地面にぶつかる音の代わりに聞こえてきたのは信じていたあの声。

「に、兄ちゃん・・・!」

閉じていた目を開ければ、ニコッと笑った兄ちゃんの顔があった。俺は驚いて、目を丸くしてしまった。
歌舞伎の男の手を放した瞬間、落ちる距離はそんなにあるわけじゃなくて。ほんの一瞬のはずだ。なのに、兄ちゃんはその一瞬で俺を助けてくれたんだ。兄ちゃんから俺の距離は結構離れていたというのに。

兄ちゃんはやっぱりすごいんだ。


「よそんちの里で何やってんだ、てめーは。」

「サスケくーーん!!」

兄ちゃんと俺を放っておいて、あちらでは誰かまた現れたらしい。
俺もそちらに顔を向ければ、木の上に黒髪のなんだかスカした男が座っていた。

「クッ・・・ムカつくガキがもう1人・・・。」

歌舞伎の男は腕を押さえながら振り返って、木の上にいるスカした男にそう呟く。すると、


「失せろ。」


その男はスカした顔してスカした台詞をのたまった。

「きゃーーーカッコイイーーー!!」

その男に向かってそう叫ぶピンクの女の目はハートになっていた。ピンクの女だけなら俺も別に気にしない。が、その女の隣にいたモエギの目までハートになっているのだ。
俺はそんなモエギをジトッと睨んだが、モエギは一向に気づく気配がない。

――どこがだ、コレ!!

ちらりと横を見れば、視線に気づいたナルト兄ちゃんがまたニコッと笑った。俺は兄ちゃんの笑顔が眩しくて、思わずサッと顔を背けた。
あのスカしたヤローのどこがいいんだ。ナルトの兄ちゃんのほうがよっぽどかっこいいじゃないか。


「ナルト兄ちゃんのほうがかっこいいよ。」


なんだか悔しくてそう言ったら、頭に何かがポンッと乗った。
顔を上げれば、兄ちゃんが少し頬を赤くしながら俺の頭に手を乗っけていて。そして

「ありがと。」

と小さく呟いた。
兄ちゃんが恥ずかしそうにするから、俺もちょっと恥ずかしくなったけれど、へへッと笑ってごまかした。



「おい・・・ガキ、降りてこいよ! 俺はお前みたいに利口ぶったガキが一番嫌いなんだよ・・・。」

歌舞伎の男がスカした男にそう言うと、背中の何かを下ろし始めた。それを見た扇子の女が「おい、カラスまで使う気かよ」と慌てている。と、その時だ。

「兄ちゃん?」

ナルト兄ちゃんが突然スカしたヤローのいる木を睨み付けたのだ。その視線を辿っていけば、そこには不気味な人影が。


「カンクロウやめろ。」


そう呟いたその人影は、木の枝にこうもりの様にぶら下がったひょうたんを背負った男だった。どうやらこの歌舞伎の男はカンクロウというらしい。

「里の面汚しめ・・・。」

ひょうたんの男はカンクロウを責めているが、どう見てもカンクロウより年下に見えるのは自分の気のせいだろうか。

「ガ・・・我愛羅。」

カンクロウが呟いた名前、それがひょうたんの男のものなのだろう。

「喧嘩で己を見失うとは、あきれ果てる・・・何しに木の葉くんだりまで来たと思っているんだ・・・・・・。」

俺はその言葉で今更だがハッとした。

――そうだ、コレ!

こいつらの顔は見たことが無い。それに、額あてのマークも木の葉のものではない。

「聞いてくれ・・・我愛羅。こいつらが先につっかかってきたんだ・・・!」

慌てて言い訳をするカンクロウに思わずムッとする。
確かに先にぶつかったのは自分だが、これほど騒ぎを大きくしたのはお前だ、コレ。


「黙れ・・・殺すぞ。」


ひょうたんの男の鋭い眼光に歌舞伎の男はかなり怯えている。まるで蛇に睨まれた蛙だ。

「わ・・・分かった、俺が悪かった。」

「ご・・・ご・・・ゴメンね・・・ホントゴメン。」

ひょうたんの男の言葉に、歌舞伎の男だけではなく扇子の女まで急に謝りだした。きっと、このひょうたんの男がこいつらのリーダーに違いない。

「君たち、悪かったな。」

そう言ってひょうたんは歌舞伎と扇子の間に下りてきた。

「どうやら、早く着きすぎたようだが、俺たちは遊びに来たわけじゃないんだからな・・・。」

行くぞ、と言って去っていこうとする、それぞれ背中に不思議なものを背負った3人組。しかし、


「ちょっと待って!」


その3人組にピンクの女が止めに入った。

「額あてから見てあなたたち・・・砂隠れの里の忍者よね・・・。」

ピンクの女は3人に疑問に思ったことを告げる。

「確かに、木の葉の同盟国ではあるけれど・・・両国の忍の勝手な出入りは条約で禁じられているはず・・・目的を言いなさい!」

場合によってはあなた達をこのまま行かせるわけにはいかないわ、と3人を睨み付けたピンクの女はここで初めて、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけだが見直した。
その台詞にフンと鼻で笑ったのは扇子だった。

「灯台下暗しとはこのことだな。」

何も知らないのか? と言って通行証を見せる扇子の女。何かこの里であるのだろうか。

「お前達の言うとおり、私達は砂隠れの下忍・・・中忍選抜試験を受けにこの里へ来た。」

腰に手を当てて扇子の女は偉そうに話している。

「中忍選抜試験・・・だ、コレ?」

聞きなれない単語に、兄ちゃんに向かって尋ねた。その問いに兄ちゃんはニコッと笑って、口を開かけたその瞬間、

「本当に何も知らないんだな・・・。」

訊いてもいないのに扇子の女が勝手に説明を始めた。

――兄ちゃんに訊いたんだぞ・・・コレ。

兄ちゃんは開きかけた口を閉じて、俺がムスッとしたのに気づいたのか苦笑をもらした。

「中忍選抜試験とは・・・砂・木の葉の隠れ里と、それに隣接する小国内の中忍を志願している優秀な下忍が集められ、行われる試験のことだ・・・。」

「なんで、一緒にやるんだ? コレ。」

親切にも説明してくれているので、気になったことを質問してみる。すると、律儀にも話してくれる扇子の女。

「合同で行う主たる目的は同盟国同士の友好を深め、忍のレベルを高めあうことがメインだとされてるが、その実隣国とのパワーバランスを保つ事が各国の緊張を・・・」

「ナルト兄ちゃん! 兄ちゃんもそれに出るべきだ、コレ!!」

なんだか説明がよく分からなくなってきたので、とにかく中忍になれるという試験ならば、絶対に兄ちゃんは参加するべきだと思い、そう兄ちゃんに言った。しかし、兄ちゃんは「う~ん、どーかなー・・・まだわかんねーってばよ」と首を捻っている。と、


「てめー! 質問しといてこのヤロー! 最後まで聞けー!」


扇子の女が怒ってしまった。あんな説明で分かるか、コレ。
ジトッとその女を睨み付けると、唐突にスカしたヤローが木から忍らしくスッと下りてきた。

「おい! そこのお前・・・名は何て言う?」

「え? わ・・・私か?」

スカしたヤローの視線はどう考えても扇子ではないのに、そのスカしたヤローの台詞に顔を赤らめて反応を返した扇子。

――世の中不思議だ、コレ・・・

本当に、このスカしたヤローのどこがいいのだろうか。

「違う! その隣のひょうたんだ。」

スカしたヤローがそう言うと、扇子が少し落ち込んだ。逆に、呼ばれたひょうたんは好奇の目でスカしたヤローを見つめ返した。

「・・・・・・砂漠の我愛羅・・・・・・俺もお前に興味がある・・・・・・名は?」

そう問い返したひょうたんに、スカしたヤローは少し笑みを浮かべて

「うちはサスケだ」

と答えた。なんだか面白くなくて眉間を顰める。

――みんな間違ってるぞ、コレ!!

なんでナルト兄ちゃんにみんな気づかないのか。そう思った瞬間だった。


「そこの金髪・・・。」


サスケから視線を兄ちゃんに変えたひょうたん。

「・・・さっきの動きは俺も見えなかった・・・・・・。」

ひょうたんの男がボソリとそう呟いた。
俺はその言葉を聞いて自分のことのように嬉しくなった。
兄ちゃんが自分を助けてくれた時、こいつはきちんと兄ちゃんを見ていた。
でも、見ていたはずなのに、この3人の中のリーダーでも見えなかったと言っている。
それはすごいことではないか。

「・・・お前の名は?」

――やったぞ兄ちゃん!!

俺は尊敬の眼差しで兄ちゃんを見つめる。やっと兄ちゃんが注目されたんだ、コレ!
すると、尋ねられた兄ちゃんはフッと笑って、


「名乗るほどの者じゃぁねーってばよ!」


腕を組んで堂々と宣言した。
その直後、その場がしーんと静まり返った。みな目が点になっている。が、

「兄ちゃんかっこいーぞー、コレー!!」

思わずそう叫んだ。
ちょっと使うところが違うけれど、という突っ込みはなしだ、コレ。
俺の声で固まっていたひょうたんがハッとして、「行くぞ」と振り返り、扇子と歌舞伎を引き連れて去っていく。その姿をスカしたヤローはうっすら笑みを浮かべて見つめていた。
やっと平穏を取り戻したこの場に、俺はハッとした。

「・・・兄ちゃん、今日は忍者ゴッコしないのか・・・?」

ふと思ったことを隣に立っていた兄ちゃんに訊いた。
今の出来事で分かったことは、きっとナルト兄ちゃん達も中忍選抜試験とやらに出るんだろうなということ。出てもらいたいけれど、出るならやはり兄ちゃんは兄ちゃんの修行をしなければならないだろう。そう思うと少し悲しい。
しゅんと顔を伏せると、兄ちゃんが苦笑したのが聞こえた。


「何言ってんだ、木の葉丸。」


その言葉にバッと顔を上げる。

「今日は忍者ゴッコをする約束をしただろ? 約束は守るってばよ!」

「兄ちゃん・・・!!」

そう言ったナルト兄ちゃんはひまわりのような笑顔だった。

「行くぞ! モエギ、ウドン、木の葉丸!!」

「「「オウ!!」」」

兄ちゃんが駆け出した後を俺達も一緒についていく。その背後で、ピンクの女の「あんたも修行しなさいよ!」と叫んでいる声が聞こえた。すると、兄ちゃんは「わかってるってばー!」と走りながら返事をする。
あの女にあんなにひどいことをされたのに、怒らないナルト兄ちゃん。

――兄ちゃんは俺の尊敬する男だ!

走っている兄ちゃんの隣に並んでその顔を覗き見ると、こっちを向いて、目を細めてやわらかく微笑んでくれた。

こんなナルト兄ちゃんが、大人たちに睨まれるのはおかしい。
絶対におかしいんだ。だから、

――俺が守るんだ、コレ!!

兄ちゃんが、俺は火影になれると認めてくれたから。
いっぱい修行して、努力を積んで、兄ちゃんを守れる男になるんだ、コレ!


「よーし! もっとスピード上げるってばよ!!」

「な、ナルト兄ちゃん! 待つんだ、コレ!!」


ぜぇはぁと荒く息をついている俺たち3人に対し、1人だけ元気な兄ちゃん。
早くその兄ちゃんを抜かしたいと思うけれど、

今だけはまだ、こうしていたいんだ。

あっという間にかなり前へと行ってしまった兄ちゃんに、必死で追いつこうとする。
すると、兄ちゃんは必ずそんな俺達を振り返って待っていてくれて、

「よくがんばったな!」

と、嬉しそうに誉めてくれる。

その言葉が嬉しくて、つい甘えてしまうけれど、俺が兄ちゃんを絶対守るから。


「兄ちゃん! 今日はつかまえてみせるぞ、コレ!!」

「俺も負けねーってばよ!」


目の前には大きな兄ちゃんの背中。

いつか俺も兄ちゃんみたいになるから。

だから、もう少し待っててね。


ナルト兄ちゃん。














あとがき

申し訳ございません!!(土下座)
木の葉丸さんの視点から書かせていただいたのですが・・・本当にすみません。
サクラさんやサスケさん、砂忍の3人組みもみんな大好きです。ひどい言い方をしておりますが、本当に大好きです。
第28話に少しだけ触れている部分の番外編でした。
笑っていただけたら泣いて喜びます。
この更新から次はもしかしたら1ヶ月は開いてしまうかもしれません。これから今まで以上に集中して受験に励みたいと思います。
毎日少しずつは書いていこうと思いますが、これからもよろしかったら応援よろしくお願いします。
↓にミコトさん視点を少しだけ書いております。ミコトさんが木の葉丸さんの質問をされた時の心情です。












おまけ




突然走り出した木の葉丸は、立ち止まればエビスのことをムッツリスケベという。ムッツリスケベの理由はよく分からないが、エビスが風邪を引いていることを伝えると、

「ミコト兄ちゃんはあーゆーのよく見るのか、コレ!?」

唐突にそう尋ねてきた木の葉丸に思わず首を傾げた。

「ああいうの・・・ですか?」

聞き返せばうんと頷く木の葉丸。ああいうのとは、先ほどのエビスのことをいうのだろう。

「そうですね・・・よく見ますよ。できれば見たくはないですね。」

と言って苦笑する。
医療に関わるのだから、血を見るのは当たり前だ。今さっきのエビスの鼻からの出血は、白血病などのものではない、本当にただの鼻血であったから良かった。が、出血というものは病院にいればかなりひどいものも目にするわけで。

――血を流しているところなんて見たくないですよ・・・。

思わずため息が出てしまう。
ここは忍の里だ。怪我人が絶えることはない。
怪我をしても帰ってこられるほどであればまだいい。中には帰ってこられない者もいるのだ。彼らはどんなにひどい怪我を負ってしまったのだろうか。
確かに、いくら医療を学んでもどうしようもできないこともある。
だから、せめて帰ってきてくれた者たちには、持てる力の限り治療を施すのが自分の役目。

――たくさんの人を助けたい。

それはこの里に来てからいつも心に思っていたこと。
目を瞑れば浮かんでくる、怪我を治した人々の笑顔。
こうやって、ナルトではないがミコトとして医療に携わることができ、自分は本当に幸せだ。いつかはナルトとして医療に関わることができるよう、がんばらなければ。

目を開ければ、自分に背を向けている木の葉丸。どうかしたのだろうか、と首を傾げたがとりあえずそろそろ病院に向かわなければ。

「木の葉丸君。」

声をかければ肩をビクリと揺らし、ゆっくりと振り返った彼。突然声をかけて驚かせてしまったようだ。そんな木の葉丸にニコリと笑う。

「僕はそろそろ行きますね。」

「・・・・・・あ。」

その一言で、彼も分かってくれたらしい。少ししょんぼりとしている木の葉丸に「またね」と言って、背中を向ける。すると、


「兄ちゃん! 困ったことがあったら俺に言っていいぞ、コレ!」


木の葉丸が自分に向かってそう叫んだ。その内容に思わず苦笑する。

――困ったこと・・・か。

“ナルト”である自分にならたくさんあるけれど、これは自分でなんとかしなければならないこと。でも、

「ありがとうございます。」

その一言が、気持ちがとても嬉しい。
振り返ってそう言えば、木の葉丸が思い切り自分に手を振ってくれた。



それが自分を応援してくれているようで、なんだか心があたたかくなった。





それからというもの、エビスと会う時はほとんどの確率で木の葉丸が一緒にいるし、何故か火影様に木の葉丸が奇襲をかけているという噂を聞くようになった。













あとがき2

ここまで読んでくださってありがとうございます!!
鼻血って突然出たりしますよね。鼻血を止める時、顔は上に上げるものと思っていたのですが、上には向いてはいけないんですね。これを書いていて初めて知りました。上を向くと血が喉を通って飲み込んでしまい、それによって吐き気や嘔吐を引き起こしてしまうそうです。

このお話ではナルトさんが医療忍者ということで、チャクラの“陰”と“陽”について受験生にも関わらずいろいろと考えて、自分なりにそれの定義を作ろうかと試みた作者です。結論からするとできませんでした・・・orz
私の頭では無理でした。試みる前から分かったことでしょうに。(笑
ちなみにどんなことを調べて考えたかといいますと・・・


陰と陽というものがまず医療にかなり関係していたことを初めて知りました。そこからまず知らなかったです。(笑
“陰陽”とは古代中国に成立した基本的な発想法のことで、陰は山の日かげ、陽は山の日なたを表し、気象現象としての暗と明、寒と熱の対立概念を生み、戦国末までに万物生成原理となり、易(中国の周代に生み出された占いの方法)の解釈学の用語となって、自然現象から人事を説明する思想となったそうです。(百科事典より)
この思想がのち、五行説と結合して陰陽五行説となりました。

陰は女性、陽は男性と対立したものを2つに分けることができるのですが、人間の体を陰と陽に大雑把に分けると内部が陰で外部を陽と分けるそうです。が、肉体と精神を陰と陽で分けると、肉体が陰で精神が陽だそうです。
そこまで知った作者は、四代目の九尾を封印する時に持っていった陰のチャクラとは肉体のことなのか!? と思ってしまったのです。
陽のチャクラは精神だとして、それをナルトさんの臍の緒に封印されたのか!! とか考えたのですが・・・そんな単純なものではないですよね。謎です。


陰陽を調べていて出てきた陰陽五行説なるものも気になったので調べてみました。
陰陽五行説には五元素があり、それは「木・土・火・金・水」です。
この元素には「相生」と「相剋」という関係があり、「相生」は木が火を生じ、火は土を、土は金を、水は木を生じるという順序で、木・土・火・金・水の五気がそれぞれが相手を生み出して行くという関係のことです。
そして「相剋」ですが、水は火に勝ち、火は金に勝ち、金は木に勝ち、木は土に勝ち、土は水に勝つという関係のことです。図にすると・・・

水→火→金→木→土→水

これを見ておやっと思いました。
NARUTOではチャクラの性質に火・風・雷・土・水ってありますよね。この性質の強弱は・・・

水→火→風→雷→土→水

この性質の中で不思議に思っていたのは雷遁が土遁に強いというものです。
ポケ○ンをしていた私にとって、雷が土に強いというのが不思議でなりませんでした。
そこでこの陰陽五行説です。
金を風、木を雷に置き換えたら、確かに雷が土よりも強いとなりました。
NARUTOのチャクラの性質は陰陽五行説から取っているのかなぁなんて思った作者でした。
どうでもよいことですみません。
NARUTOに嵌り始めたのが最近のため、勉強不足です。

受験の最中にこんなことを調べている私・・・ダメですね。すみません。
これからもがんばりますので、よろしかったらまた足をお運びください。



[2371] NARUTO ~大切なこと~ 第33話
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec
Date: 2008/05/16 21:54






木の葉病院の受付の前に佇む3人組。


1人は黒い丸サングラスをかけた男に、


もう1人は顔の大半を隠した銀髪の青年、


そして口を押さえた金髪の少年だ。


その3人の間には、





気まずい沈黙が流れていた。







NARUTO ~大切なこと~ 第33話







口を押さえている少年、ナルトはあの一言から呼吸をするのも忘れて、ただじっと目の前のサングラスの男を見つめている。黒いサングラスから相手の目を窺うことはできない。しかし、その男の眉間には皺が深く刻まれ、口をへの字に歪めているのははっきりと見て取れた。
ナルトの顔はだんだんと蒼白くなっていく。
まさか自分の修行を見てくれるというのが、目の前のサングラスの男、エビスだとは思わなかったナルト。エビスに会ったのは、火影様に忍者登録書を提出しに行ったあの時だけだ。が、ナルトは覚えている。
あの時、チラッと見えたエビスが自分を見る目、あれは、

“九尾”を見る目。

人間ではない、化け物を見るような冷たい目。
その目を見るたびに思い出すことがある。それは、幼かった自分の愚かさ。
姉の言うことを理解できずに、殺めてしまった愚かな自分。それは薄れ行く幼い頃の記憶の中でも鮮明に覚えているもの。思い出すたびにナルトの胸を苦しめる。
そして、この里の人がこんな苦しい思いをしないよう、早く“ナルト”として、“人間”として認められたいと思う気持ちが今のナルトを支えている。その努力が報われたのか。

少しずつ、自分を認めてくれる人が現れて。

ナルトにとってだんだんと居心地の良い里へと変わりつつある。そのために、気を抜きすぎてしまったのかもしれない。
今、目の前には“ナルト”を嫌っている人がいる。
なぜ彼が自分などの修行を見ることを引き受けてくれたのか、ナルトには全く分からない。そんな相手に、あの言葉・・・「ムッツリスケベ」などと言ってしまった。木の葉丸に注意しておいて自分が言ってしまうなんて、気の抜きすぎだ。

この言葉は木の葉丸が使っていたものだ。
いつ頃からか分からないが、木の葉丸はエビスのことを話すとき、いつも彼を「ムッツリスケベ」と呼んでいた。分かっているのはナルトと会う前からそう呼んでいたということ。
以前、そのことについてミコトが木の葉丸に注意をしたことがある。しかし、

「だまされちゃダメだぁ、ミコト兄ちゃん! あいつはムッツリスケベだ、コレ!!」

とても必死だった。それはもう彼の目が潤むほどに。
ものすごく真剣な顔でそう言った木の葉丸に、逆にこちらが怯んでしまった。
・・・・・・木の葉丸は一体エビスの何を見たのだろうか・・・。

しかし、ナルトも諦めなかった。
木の葉丸がナルトと一緒に遊ぶようになってから、時々出るエビスとの修行の話。
「ムッツリスケベのくせに教えるのは上手いんだ、コレ」と悔しいのか嬉しいのかよく分からない表情で話す木の葉丸は見ていて微笑ましく思う。が、やはり「ムッツリスケベ」は教えてくれている人に対して失礼である。ここでナルトの姿でもさりげなく木の葉丸に注意を入れたのだった。すると、

「ナルト兄ちゃんは知らないけど・・・あいつ本当にムッツリスケベなんだ、コレ!! 兄ちゃんが狙われてて・・・とにかくピンチなんだよぉ!!!」

くそぉ、俺がもっと強ければ・・・とかぶつぶつと呟いている必死な木の葉丸を今でも鮮明に覚えている。・・・・・・本当にエビスは何をしたのだろうか。しかも、

“兄ちゃんが狙われてピンチ”とは、どういうことなのか。

エビスは“男”だ。そして「兄ちゃん」という呼び名も“男”を示すものだ。
そこに「ムッツリスケベ」が加わるとなると、エビスは・・・・・・ここまで考えてナルトは答えを出すことを放棄した。ただ確かなことは、あの時ナルトに言った木の葉丸の台詞から、その「兄ちゃん」というのがナルトではない、ということだった。

その後、2人の人物に注意を受けたこともあってか、木の葉丸がエビスに「ムッツリスケベ」とは言わないと、約束してくれた。だが、それはエビスの前だけであって、ナルトたちの前では相変わらずエビスは「ムッツリスケベ」と呼ばれている。
それはもういくら言っても直してくれなかった。
そのうちナルトも「ムッツリスケベ」で聞き慣れてしまい、エビスに会う機会が多いミコトの時には、いつも気をつけていたものだ。

それなのに。

言ってしまった。
たった今、確かに目の前の人物に、「ムッツリスケベ」と言ってしまった。
決して木の葉丸の所為ではない。気を抜いていた自分が悪いのだ。

――もうこれしか方法はないです・・・ね・・・。


ナルトは静かに口元から手を離し、腕を下ろすと、目を瞑って肺に溜まっていた空気をゆっくりと吐き出す。肺が空っぽになると、今度は新鮮な空気を深く吸い込む。長いこと息を止めていた所為か、いつもは慣れているため感じなかった病院の独特な匂いが鼻につく。それをゆっくり吸い込み、スッと開いた目は、前の人物を鋭い視線で捕らえていた。

雰囲気の変わったナルトに、先ほどまでボーっと眺めていた銀髪の青年、カカシの眉がピクリと反応している。が、手を出す気はなさそうだ。ナルトの視線の先の相手は、何故か「フフッ」と少しだけ笑ったが、それもすぐにもとの険しい表情へと戻る。

無言で、ただじっと前を見据えるナルト。

それは何かを決意したような眼差しで。その眼差しが再び閉じられると、ナルトはガクッと膝を折った。そして、


「ごめんなさい!!」


手を地に着けて土下座したのだった。しかも、ゴンッ!! という音のおまけつき。
今までずっと固唾を呑んで見守っていた病院の受付の者たちは、その音に思わず顔を顰めて己のおでこをさする。今の鈍い音、それはナルトの額が地にぶつかった音だ。
しかし、当の本人はと言うと、顔を上げる様子はまるでない。いくら額あてをしていたからと言って、綺麗に響いた今の音は相当の痛いはずだ。が、ナルトの額は今も床とお友達になっている。

――せっかくカカシ先生が僕のために頼んでくださったというのに・・・。

ナルトはぐっと下唇をかみ締める。
きっとエビスはカカシの頼みだったから、この話を引き受けてくれたに違いない。嫌っているはずの自分の修行を見るだなんて、どんなに嫌だっただろうか。それでも引き受けてくれたのは、偏にカカシのおかげだろう。
それなのに、自分がそれを台無しにしてどうするのか。

――これで許していただけなかったら・・・カカシ先生にも謝らないと・・・。

何故か土下座した時に、「ブッ」と誰かが吹き出したようだったが・・・・・・恐らく気のせいだろう。
ナルトはじっと、エビスの返答を待つ。そして、



「はぁー・・・」

エビスの深いため息がナルトの鼓膜を揺らした。
静まっていたその場に、それはとてもよく響いた。

――もう・・・ダメ、ですよね・・・。

ほぼ初対面に近い人間に、「ムッツリスケベ」などと言われたのだ。不快に思わないはずがない。しかも、それを吐いた奴が憎悪の対象。



「うっ・・・くっ・・・・・・」

ナルトの目からはとうとう涙がこぼれ始める。ずっと我慢して耐えていたものが。
拭うこともなく、流れ落ちる涙はそのまま。


そのまま、目の前の床にぽつぽつと、シミを作っていた。







ナルトが「ムッツリスケベ」と言ってから、エビスの中ではいろいろなものが渦巻いていた。

――ああ・・・・・・思い出してしまった・・・

あの小憎たらしく笑ったお孫様の顔を。

エビスの頭の中では、小憎たらしい笑みを浮かべた自分の生徒の顔が浮かんでいた。それは彼にとって頭の隅で、もうすでにほこりをかぶっている記憶だった。しかし、ナルトが「ムッツリスケベ」と言った瞬間、かぶっていたほこりが払いのけられてしまった。

そう、忘れていた記憶を引っ張り出されてしまったのだ。

思わずエビスは口をへの字に歪める。

――「・・・・・・ムッツリスケベの心配はしてないよ、コレ」

そう言った時の自分の生徒であり、火影様の孫、木の葉丸の顔は。
その笑顔はなんとも癪に障るものだったことか。しかし、自分は大人。カッとなりそうだったのを抑えることができた己を誉めてやりたい。
しかし、それからというもの、何故か木の葉丸は自分を「ムッツリスケベ」と呼ぶようになった。

・・・一体私が何をしたというのか?

「私が何かしましたか」と尋ねれば、ジト目でただ睨みつけてくるだけで、木の葉丸が答えてくれたことはない。が、それも中忍試験が始まる少し前には、「めがね教師」という呼び名に戻っていたため、すっかり忘れていたのだが・・・・・・そういえば、

――「ムッツリスケベ」と言わなくなったのも、ナルト君のおかげなんですよね。

ナルトが言ったからもう「ムッツリスケベ」とは呼ばない、と唐突に言ってきた木の葉丸。
・・・そう言ったときの木の葉丸の顔はとても不服そうだったが。
「ムッツリスケベ」と呼ばれるたびに、周りに人がいないかと確認していたエビスにとって、それはなんとありがたいことだったか。

ナルトに感謝していることはそれだけではない。

ナルトが以前、木の葉丸を叱ってくれたおかげで、木の葉丸が火影様への奇襲を止め、修行に集中して取り組むようになったのだ。

――お孫様が殴られるのを見て、ちょっとすっきりしたんですよね。

あの時のことを思い出して、エビスの口からは「フフッ」と笑いがもれる。
木の葉丸を殴るなんてことは、この里では火影様くらいしかいないだろう。自分は家庭教師として木の葉丸の面倒を見ているが、叱るのに体罰を加えるようなことはしない。
いや、できないのだ。
誰も火影様の孫に、体罰なんてできない。そう思っていた自分のなんと情けないこと。
不甲斐無かった当時の自分に、エビスは再び眉間に皺を寄せた。
あの時、ナルトは木の葉丸が火影様の孫だと知っても殴りつけた。その時の音がとても清々しくて・・・

ゴンッ!!

そうそう、そんな音・・・いや、もう少し鈍い音だったような。
何故かたった今、頭の中で思い出された音は、金属的なキンッという音が強かった。
それとほぼ同時に「ごめんなさい」という言葉が。

――私の耳も都合がいいですね・・・

「ごめんなさい」――それは木の葉丸に言ってもらいたい言葉である。
大体、木の葉丸が素直に自分に謝ったことなどない。ナルトに殴られた後、きちんと謝っていた木の葉丸を見て、謝ることのできる子なのは知っている。だからこそ、私にも「ムッツリスケベ」と呼んでいたことを謝れ! と何度思ったことか。
謝ってほしいとあまりに強く念じすぎたのか、謝罪の言葉が聞こえてくるなんて・・・

「はぁー・・・」

疲れているのだろうか。エビスは深いため息を吐いた。
殴られた時の音といい、謝罪の言葉といい・・・かなりリアルに頭の中で響いた音に、エビスはやっぱり疲れている所為だと判断する。最近、木の葉丸はまじめに授業を受けてくれるので、それほど疲れると言うことはないのだが。とりあえず、

――私はナルト君のおかげで目が覚めたんです。

ナルトが自分を変えてくれた。
ナルトの言動が、自分の凝り固まっていた頭をほぐしたのだ。

エビスは木の葉丸が殴られた音を聞いて目が覚めるのを感じた。
叱ることに体罰が必要だとは思わない。が、それも時と場合というものがあって。
痛みを知るということも大切なことなのだ。
忍になるのなら、なおさらである。そしてその後、

「火影の名を語るのに絶対に近道はない」

ナルトは木の葉丸に言った言葉だ。その言葉に、エビスは自分の間違いを思い知らされた。
エビスは、「自分の言う通りにすれば、火影になる一番の“近道になる”」と考えていた。それが当然であると思っていた自分はなんて愚かだろうか。

確かに、誰からも教わらずに火影を目指すよりかは断然近道である。しかし、小さなことをたくさん積み上げなければ火影になんてなれるわけがない。
それは決して“近道”なんかではないのだ。

――ナルト君は私よりよっぽど頭のいい教師だった。

そして、噂の化け狐でもない。
木の葉丸を真剣に叱る姿や屈託のない笑顔、木の葉丸のわがままにうろたえる姿は、ただの子供で。そんなわがままに本当に嬉しそうに笑った彼に、自分の、いや、自分たちの間違いに気づかされた。

あんなに優しく笑える彼が、化け狐?

とんだ笑い話だ。
確かに、アカデミーの頃、彼がよくいたずらをしていたことは有名だ。が、それは人に危害を与えるようなものではなかった。むしろ、こちらまで楽しくなるようなものばかりで。
そんな彼のどこが化け狐なのだろうか。
彼を初めて忍者登録室で会った時、睨んでしまった己が非常に恥ずかしい。
“ナルト”は化け狐なんかではない。

ナルトは立派な木の葉の忍者だったのだ。

しかし、彼の周りはそれに気づいていないものの方が遥かに多い。
自分1人がそれを何とかするのは困難なことだ。だから、せめて彼の力になれればとカカシの申し出を受けたのだが。

「はぁー・・・」

ナルトの自分に対する第一印象が悪いのは、仕様がないこと。
エビスは2度目の深いため息を吐いた。と、その時だ。

「あのぉ・・・エビス先生?」

エビスがハッとして、声のした方に振り向く。そこには小刻みに肩を揺らし、片手で口元を押さえた銀髪の青年、カカシがいた。その様子は必死に笑いを堪えているようだ。
そんなカカシにますますエビスの眉間の皺は寄るばかり。

「何かおもしろいことでも?」

ナルトがエビスに「ムッツリスケベ」と言ったことがカカシの笑いのツボに嵌ったのだろうか。いや、それにしては反応が遅いだろう。
そういえば、あれからどのくらい経ったのだろうか。
あまりに思考に耽っていたため、エビスにはどのくらい時間が経ったのか分からなかった。が、少なくともナルトの「ムッツリスケベ」発言からは何分かは経っているだろうと推測する。

「い、いえ・・・ブッ・・・その・・・」

カカシはちらちらと視線を下に寄こしては、吹き出しそうになるのを耐えている。
・・・・・・全く持ってよく分からない。
エビスは眉間の皺をそのままに、そんな怪しげな上忍の視線の先を辿っていく。と、そこには、カカシのように肩を小刻みに震わせながら土下座をしている金髪の少年の姿が。その少年からは「うっ」とか「くっ」とか、しゃくりあげる声が漏れている。

・・・・・・しゃくりあげる?

しゃくりあげる声など、泣く時くらいしか・・・と言うことは、泣いている・・・?
この目の前の少年は泣きながら土下座をしているというのか? いや、土下座をしながら泣いているというのか? いやいや、どちらもニュアンスの違いで、言っていることは同じだ。

「あの・・・これは・・・?」

混乱し始めたエビスがカカシに助けを求めると、カカシはゴホンッと1回咳払いをした。
それでようやくカカシの笑いは止まった。

「いやぁ~その・・・・・・許してもらえませんか?」

「・・・・・・は?」

カカシの唐突な物言いに、間抜けな声で返したエビス。
意味がわからない、という風なエビスに、カカシは少し白い眼を向ける。

「ナルト、ですよ」

ほら、と下にまたカカシが視線を落とす。それにエビスもついていけば、やはりそこには土下座した少年・・・・・・って。


「えっ!!!」


突然大声を上げたエビスに病院の受付の者たちは鋭い視線を向けた。それは、「病院で騒ぐな」という意味以外にも何か他の意味が含まれているようだ。

やっとエビスは今の状況を理解したのだ。
目の前の少年はどうやら、「ムッツリスケベ」と言ったことに対して、土下座までして自分に謝っているらしい。ということは、

――さっきの音と「ごめんなさい」って・・・

目の前の少年から発生したものだとしたら。

エビスはじんわりと汗が出てくるのを感じた。
ちょっとやりすぎではあるが、お孫様にはこういうところを見習って欲しいですね・・・なんてことを思うエビスだったが、慌ててナルトのそばに寄り、その震えている肩に手をポンと乗せる。
ビクッと跳ねた体に、エビスはできる限り優しく声をかけた。

「ナルト君・・・私は怒っていませんから、顔を上げてください」

ね? とナルトに笑いかけるエビスは、以前では考えられないものだ。
エビスの声音から、それが嘘ではないことを感じ取ったナルトはガバッと顔を上げる。すると、

「ブハッ・・・!!」

誰かが突如吹き出した。その人物は、

「・・・・・・カカシ君」

突然笑い始めたカカシを今度はエビスが白い眼を向ける。白い眼を向けながらも手は何かを取り出し、それをナルトの前へスッと差し出した。それを見て、ナルトが目を丸くしている。そんな様子のナルトに、エビスはフフッと笑った。

「鼻水出ていますよ?」

土下座から顔を上げたナルトは、目にはいっぱいの涙をため、鼻水を垂らしていた。

――また私は彼を傷つけてしまいましたね・・・

床にできた涙のシミが大きくて。
それは彼がだいぶ前から土下座をしていたことを物語っていて。
思い出に耽っている場合ではなかった、とエビスは反省する。
彼が泣き止むようにと、怒っていないことを示すために笑顔で差し出したティッシュ。しかし、それはいつまでたっても受け取られる気配はない。ナルトの様子を窺えば、差し出したティッシュと自分の顔を交互に見つめていた。
本当に自分が受け取ってもいいの? と困惑を表情にのせたナルトに、エビスは困ったように笑った。

「ほら、今から修行に行きますから」

これを使ってください、と勧める。
カカシの話から、ナルトは医療忍者を目指しているということを聞いた。
“ナルト”に冷酷な里で、医療忍者になるだなんて・・・・・・と、信じられない思いだった。が、彼の笑顔を思い出したら、ナルトはそういう子だ、とエビスはすんなりとそれを受け止めることができた。彼は本当に優しい。
・・・優しすぎるのだ。
それが悪いこととは決して思わない。むしろそのままでいてほしいと願う。
そんな優しすぎる彼の背を押してやるのが今回の自分の役目である。
本選前の修行だが、エビスはナルトのために先を見越した修行を考えていた。
中忍試験というものは本選にさえ残れば、後は勝つも負けるもあまり関係はない。
その一戦の中で、中忍に必要なものを見せられれば良いのだ。しかし、

――ナルト君には厳しいかもしれませんね・・・

彼がどんなに中忍としての素質があっても、周りが認めるかどうか。そればかりはエビスにはどうにもできない。ナルトが里のみなに認められるのも時間の問題だと、確信している。が、まだその時でないのは明らかで。
だから今は、ナルトに医療忍術に必要なチャクラコントロールの修行をつけようと考えたのだった。
医療忍術には繊細なチャクラコントロールが必要だ。
彼は掌仙術は使えるのに、チャクラコントロールの基本である木登りをすぐにできなかった、と言うではないか。なんとも不思議なことだが、教えがいがある、とエビスはこれからの修行に胸を弾ませていた。そんなところに、

「うぅー・・・」

何故かナルトが止まっていた涙をまたボロボロと零し始めた。それにギョッとしたエビス。

――また私は何かしてしまいましたか!?

でも思い当たることは何もない。
自分はただティッシュを差し出しただけだ。
何か彼の気に障ることを言ってしまったのだろうか、と不安に駆られ始めたエビスだったが、

「うっ・・・・・・ありが・・・と・・・ござぃ・・ます・・・!」

しゃくりあげる声の中から途切れ途切れに紡がれるお礼に、エビスは柔和に笑みを返した。




ナルトはとめどなく溢れてくる涙を自分の袖で拭う。
自分が泣き虫なのは自覚しているが、どうしても抑えられなくて。
この涙は、エビスが許してくれて、しかも修行まで見てくれると言ってくれたことに安堵した、というのもあるが、一番は、

――僕を認めてくれた・・・!

アカデミーを卒業してから今までのこの短い間に、エビスに何があったのか。
彼の心境の変化に戸惑いはあるものの、肩に置かれた手や声音はあたたかなもので。

確かに自分は認められている。

人間として。
ナルトとして。

人に認められることがこんなにも嬉しい。

――ありがとう

いくら言っても足りない言葉。
九尾によってできた過去の傷を乗り越えてくれてありがとう。

僕を認めてくれてありがとう。





しばらくして、だいぶ落ち着いてきたナルトは、エビスの持っていたティッシュを受け取り、ちん、と鼻をかむ。すると、エビスが再びフフッと笑った。どうしたのだろうか、と顔を見上げれば、「いえ、ね」と苦笑しているエビス。

「前にミコト君が・・・あ、ミコト君って言うのは今回中忍試験の試験官のお手伝いしていたんですけど・・・」

知っていますか? と尋ねられ、頷くナルト。
知っているも何も自分であるのだが。もちろんそんなことを知るはずもないエビスは話を続ける。

「以前鼻血を・・・ま、まあ、その、ミコト君が以前私にティッシュをくれたことがありまして・・・あれから私もティッシュは持ち歩くようにしているんですよね」

そこまで告げたエビスは、一体自分は何を言っているのだろうか、と自問する。
ナルトには全く関係のない内容に、どうして自分はこんなことを口にしているのか、と疑問しか湧いてこない。

――でも・・・なんとなく話したくなったのも分かるような・・・

目の前のナルトはミコトと同じ色を持っていて。なんだかミコトにあの時の恩を返せた気分になったのだ。

「ふ~ん」

鼻をかみ終わったナルトのそっけない返事。それも当然だろう。本当にナルトには全く関係のない話なのだから。

――ハハ・・・バカですね、私も。

エビスは自嘲の笑いを漏らす。
ナルトとミコトは全くの別人だ。これでミコトに恩を返せたなんて思っているなんて、勘違いもはなはだしい。

「さて・・・・・・」

行きましょうか、というエビスの言葉は飲み込まれた。
そっけない返事をしてから黙っていたナルトは、じっと、エビスの渡したティッシュをはにかんだ笑みで見つめていたのだ。とても嬉しそうに。

「それ、あげますよ」

そう言えば、ナルトがバッと顔をあげて、

「ありがとってばよ!」

その笑顔を向けてくれた。
彼には笑顔がよく似合う、とエビスは心からそう思った。ティッシュをポーチに仕舞っているナルトを見て、エビスはフッと笑うと、

「じゃ、行きますぞ・・・ってカカシ君?」

いつまで笑っているんですか、と再びカカシに白い眼を向ける。ナルトが土下座から顔を上げた後、吹き出したカカシは今までずっと笑っていたのだ。
爆笑と言っても過言ではない。
せっかくあたたかな雰囲気に包まれていたのに、カカシの所為で打ち壊しである。

「す、すみま・・・ブフッ!! お、親子・・・!!」

「・・・・・・さ、行きますぞ」

腹を抱えて笑っているカカシに、もう手遅れだと悟ったエビスは、カカシを困惑気味に見ていたナルトの背を押して、病院から出て行った。







病院から出てしばらくしてエビスは歩みを止めずに、軽く顔だけ振り返って、

「カカシ君にはあんな風に笑われるのですか?」

いつも・・・、と言って良いのかためらって、でも小さくナルトにそう尋ねた。
今は修行のできる場所へと向かっているところだ。
問われたナルトは、一瞬きょとんとしたが、すぐに腕を組んで「う~ん」と唸り声を上げ始める。それからしばらくして出た答えは。


「今日が初めてだってばよ」

「・・・・・・そうですか」


エビスは顔を前に戻すが、後ろをついて歩くナルトをちらっと盗み見る。そのナルトは軽く握り拳を作った右手を口に当て、視線を斜め下に落とし、まだ何やら考え込んでいた。
エビスはナルトをなんだか少し不憫に思った。

何の理由か、突然吹き出したカカシ。あそこで笑うのはいかがなものだろうか。
というか、担当上忍であるカカシはもう少しナルトのフォローをしてあげても良かったのではないのだろうか。カカシが自分に修行をしてくれるように頼んできた時の話からして、カカシがナルトを嫌っているようには思えない。
先ほどの様子から見ると、ナルトの土下座を見て楽しんでいたと言うかなんと言うか・・・。

――ここは私がしっかり修行をしてあげなければ!!

湧き上がる使命感に闘志を燃やすエビス。それに対し、



――カカシ先生の「親子」って言葉は・・・・・・

ナルトは最後に言ったカカシの言葉について考えていた。
自分が四代目の子供であることをカカシが知っているのは、ナルトも前々から知っている。

親子――親と子。

“親”と言うと、母と父の両方を指す言葉である。が、ナルトの母よりも、師弟関係であった四代目の方がカカシと付き合いが長いのは明らかだ。
よって、あの時の「親子」という言葉は、恐らく父、四代目とナルトを指す言葉なのだろう。土下座をした瞬間に「ブッ」と誰かが吹いたのは、気のせいではなかったようだ。
ナルトが土下座をしたことによって、カカシは笑った。その後、顔を上げた時の爆笑。

カカシは、ナルトを通して四代目を見ていたとしたら?

火影様の土下座。そして、ナルトのような泣き顔をカカシに見せたのだろうか。

――・・・・・・父さん・・・

これはただの推測に過ぎないのだが、ナルトは何故か、そうなのだろう、という不思議な自信があった。
意外な共通点に喜ぶべきなのか、恥じるべきなのか、そんなどうでも良い問いにぐるぐると悩まされながら、ナルトはエビスの後をついて歩いていた。







エビスとナルトがそんなことを考えていた頃、病院内では。



――親の背を見て育ったわけでもないのに・・・

遺伝ってすごいな、と感心するカカシの笑いはやっと止まっていた。(病院の受付の者たちが、酷く冷めた目で睨んでいたことに気づいたのだ。)
こんなに笑ったのも久しぶりではないだろうか? と、ふとカカシは思う。
ナルトのあの顔が四代目とあまりのもそっくりで、驚きと懐かしさがこみ上げてきたが、笑いが一番勝っていた。

面白いものは面白い。

「ま、これでナルトは大丈夫だろう。」

不安を飛ばすかのように口に出したその台詞だが、カカシの中にはしこりが残っていた。サスケのことがあって、ナルトに構うことができていないのだが、カカシはナルトに対して以前から不安を抱いていた。

初めてアカデミーでナルトに会ってから、段々とあの日――九尾が襲ってきた日について、カカシは思い出したことがある。どうして忘れていたのか不思議だが、確かに自分は生まれたばかりのナルトに会ったことがあるのだ。病院で先生の腕に抱かれたナルトを。
それはたった数分でしかなかったけれど、カカシは先生がナルトに封印式を描いているところを目の前で見ていた。そんなカカシが不安を抱いているのは、「九尾」に関して、というよりは、「医療忍術」に関してだ。

九尾が封印されてもなお、掌仙術を使ったナルトのチャクラコントロールは目を見張るものだ。しかし、それは同時にカカシの不安を大きくした。
九尾の封印式の仕組みがどうなっているのかなんて、カカシには分からなかい。ナルトの臍を中心にして封印式を描いていた四代目を見たのは自分だが、あれは見たこともない封印式だった。後から調べてみて、“四象封印”という術が尾獣に対して使う封印術だというのを知った。だが、あの時見た封印式は、それとはまた違ったのだ。

――「八掛の封印式」・・・か。

四代目が言っていた封印術。
八掛の封印式、それは資料に残されていない。なぜなら、九尾が襲来してきたその日に、四代目が“四象封印”を応用して作った術だからだ。いや、本当は前から四代目は作っていたものなのかもしれないが、記録に残してはいなかった。
もし、九尾が封印されてすぐナルトを見つけることができていたのならば、その封印術を詳しく調べることが可能だっただろう。が、それももう過去のこと。

今こうして、その封印術がきちんと効いている事は確かだ。

でなければ、ナルトが医療忍術のような繊細なチャクラコントロールをできるはずがないのだ。九尾のチャクラを完全にコントロールなどできるはずがない。あの巨大なエネルギーの塊を操るなど、不可能だ。その巨大なエネルギーを完璧に封じ込めている四代目の封印式はなんて強力なのだろう。そして、

――九尾のチャクラを還元できる・・・

確かに四代目はそう言っていた。それに、三代目火影様がナルトは九尾の力は扱えるようだ、と言っていた。それは九尾のチャクラが還元できている証拠だ。
しかし、ナルトが九尾のチャクラを使っているところはまだ見たことがない。

ということは、九尾のチャクラと自分のチャクラを使い分けることができている、と言えるのだろう。・・・が、どうも胸騒ぎがするのだ。

“八掛の封印式”を蛇口に例えるならば、「ナルトが九尾のチャクラと自分のチャクラを使い分けることができる」というのは、「ナルトは自由にその蛇口を閉めたり開けたりすることができる」ということだ。しかし、蛇口と言うものは劣化するもの。

もし、この蛇口と“八掛の封印式”が同じような仕組みだったとしたら?

劣化した蛇口はきっちり閉めても、ポツポツと水は漏れる。それには新しく蛇口を付け替えるか何かしなければならない。でも、それは蛇口だからこそできること。
ナルトの場合、蛇口が完全に閉められなくなれば、漏れ出すのはチャクラだ。
そんなことになれば、ナルトは医療忍者にはなれない。
自分の扱うチャクラに、漏れ出た九尾のチャクラまで加わってしまうのだ。そのような状況で、繊細なチャクラコントロールなど、誰もできるはずがない。そして、


もしも本当にナルトが医療忍術を使うことができなくなったら・・・?



――考えすぎだな・・・。

フー・・・とカカシは軽く息を吐く。
ナルトは医療忍術を使えている。今はそれだけで十分ではないだろうか。
心配していても何も始まらない。

「さて・・・と」

サスケはまだ起きないだろう。サスケが目を覚まさなければ、今のところカカシのやることは特にない。が、

――俺も負けてられないからな。

カカシは自分の手のひらをじっと眺める。

思い出すのは、サスケの病室での出来事。
丸眼鏡をかけたガキに、いい様にあしらわれてしまったのだ。

カカシは見つめていた手のひらをグッと握り締めると、ようやく病院を後にした。







空気が湿気を多く含み始め、ザーッと流れ続ける水の音が段々と近づいてくる。
エビスの後ろを黙って歩くナルトは、それに気づいた様子もなく、

――嬉しいですけど、やっぱり恥ずかしいですよね・・・だいたい火影様が土下座って・・・
   ・・・一体父さんは何をしたのでしょうか・・・

いまだにそんなことを悩んでいた。が、エビスが立ち止まったことによって、その思考も中断された。
周りを見渡せば、「ゆ」と書かれた看板がついた建物や、湯気が立ち込める池がある。その池の上にはかわいらしい小さめの欄干橋が。そしてそばには小さな滝。その滝からも湯気が立ち上っており、その水の温度は結構高そうだ。
そう、ここは温泉地。
それらを眺めて、なんとなく修行の内容が分かったナルトは、頬が緩んでしまいそうになるのを押さえ、エビスのほうに顔を向ければ、

「ささ! 着きましたぞ!」

振り返ったエビスの顔にはニヤリとした笑みが浮かんでいる。家庭教師の特別上忍だけあって、エビスはとても楽しそうである。そんなエビスにナルトが首を傾げれば、エビスはサングラスを押し上げながら、フフッと笑った。

「今からナルト君にしてもらうのは・・・この湯の上を・・・・・・歩く!」

それは手を使わない木登り修行の応用である。
木登りは一定量のチャクラを練りこむための修行であるのに対し、今からするものは一定量のチャクラを術などのために放出して使うコントロール修行だ。

その修行はナルトにとって都合の良いものだった。
本選2日前に予定しているリーの手術。それには集中力はもちろんのこと、チャクラコントロールが完璧でなければならない。

手術に失敗は許されないのだ。

もともと本選の修行以外でチャクラコントロールの修行をしようと思っていたナルトにとって、この修行内容は本当に都合がよい。
内心エビスに感謝しているナルトだが、それを表に出すわけにもいかず、腕を組んで、その修行がよく分からない、という顔で「ん~」と唸っている。と、

――・・・・・・なんてことでしょう・・・

ナルトは背後に怪しげな気配を感じた。背後と言ってもすぐそばに、と言うわけではなく、振り返ってみないとはっきりとは分からないが、恐らくそれは建物のすぐそば。
その気配は希薄で、忍であることは確かなのだが、如何せん気味の悪い気配を出している。さらに集中してみれば、そこから「ウヘヘヘヘ」という不気味な笑いが。
敵の忍だろうか? という疑いはナルトの頭からすぐに消去された。
敵であるものがそんな間抜けな笑いを漏らすわけがない。いや、でも、もしその忍のしていることが自分の思っているものと同じであるならば、間違いなくその忍は“敵”だ。
それも女性の。

どうするべきか・・・なんて考えなくても分かることだが、相手はかなり手強そうなのをナルトは感じた。気味が悪いのを除けば、その気配は三代目火影に近いものを感じるのだ。
そんな相手がこちらに気づいていないわけがないだろう。気づいていてもなお、その行為を続けているのならば、相手は自分に自信のある者で、それ相当に力がある者のはずだ。

「ん~・・・」

腕を組んだまま再び唸るナルトは、修行のことよりもそちらの方で悩み始めていた。

それを楽しそうに眺めるエビス。エビスには、ナルトがこの修行について悩んでいるようにしか見えていない。

「私がまずやって見せましょう」

いつまでも唸らせておくわけにもいかないので、さっそくエビスは足元にチャクラを集中させる。が、ナルトが全くこちらを見ていない。
エビスが声をかけたことで、唸り声を止めたナルトだが、妙に後ろのほうを気にしているように見えた。視線をチラチラと後ろに向けるナルト。
おかしなナルトの態度に疑問を抱いたエビスが、ナルトの背後に視線を向けてみる。と、そこには、


「エヘヘヘヘ」


怪しげな笑いを漏らし、長髪白髪を1つに括り、大きな巻物を背負った男が。
「女」と書かれた暖簾を掲げている建物の竹でできた塀のそばで、しゃがみこんでいるその男の顔は竹と竹の間に位置している。それはまさしく「覗き」・・・。

――なんてハレンチな・・・

男の存在に気づいたエビスと、エビスが気づいたことでようやく堂々と振り返ることができたナルトの心の声が重なった。男のあまりの大胆さに、しばし呆然としていた2人。だが、

「フッ」

エビスがサングラスを押し上げながら笑った。そして、

「どこの誰だか分かりませんが・・・ハレンチは私が許しませんぞ!!!」

「ちょっと待って・・・・・・!」

駆け出したエビスにナルトの言葉は届かず、


「ん?」

やっと振り返った覗き魔は、「ったく」と言いながらボンッと音を立たせ、あたりは煙に包まれた。

「こ・・・これは!!」

すぐに晴れた煙から現れたのは、「忠」と書かれた玉を首につけた大きな蝦蟇。その蝦蟇の背には覗き魔が乗っている。大の男1人が余裕で乗れているのだから、その蝦蟇はかなりの大きさである。
その蝦蟇を見て、まるでそれを知っているかのように声を上げたエビスを

「うぎゃぁあ!」

蝦蟇は長い舌で叩き落した。まるで虫のように、ベチン、と。

「騒ぐなっての・・・ったく」

バレたらどーすんだっての! と蝦蟇の上で胡坐を掻きながら言う男をナルトはただ呆然と見ていた。が、すぐにハッとして地面に倒れているエビスの下へ駆け寄る。

――のびてますね・・・

エビスの顔を覗きこんで状態を確認したナルトは、とりあえず先ほどエビスからもらったティッシュで鼻血を拭きとる。そしてきれいになったことを確認すると、蝦蟇の上の男をキッと睨み付け、ビシッと指を指した。


「お前はいったい何者だぁ!?」


初対面の相手にかなり失礼な態度だが、ナルトは怒っていた。それと同時に、どうか自分の予想が外れてくれ、と内心で願う。

まさか、まさかだ。自分の思っている人物であるならば。
蝦蟇を口寄せする忍の話など1人しか聞いたことがない。そう、それは、

伝説の三忍の1人。

ああ、自分の予想がぜひとも当たってほしくない。
女湯を覗いてニヤニヤしている伝説の三忍・・・・・・いや、伝説の三忍ほどのレベルだからこそできることなのかもしれない。

――うぅ・・・まだ希望は捨てちゃいけません・・・よ。

ナルトはこの目の前の人物――「油」と書かれた額あてをした男を伝説の三忍と認められないでいた。蝦蟇を出した時点でほぼ伝説の三忍と確定しているのだが。
眼光鋭く睨むナルトを見ながら男はニヤッと笑う。そして、拳を作った右腕を振り上げ、左腕を胸のあたりに水平に、手のひらが見えるように突き出すと、


「あいやしばらく!! よく聞いた! 妙木山蝦蟇の精霊仙素道人、通称・ガマ仙人と見知りおけ!!」


そのポーズはまるで歌舞伎役者のようだ。
下にいる蝦蟇まで左前足を上げて得意げな顔を見せている。その様を見て、ナルトは思わず頭を抱えた。

――やっぱりなんですか・・・!!

嫌な予感ほど当たるものはない。
この目の前の男は、三忍の1人であるガマ仙人こと、“自来也”だ。

実はナルト、この“自来也”に憧憬を抱いていたのだ。
何せ父、四代目の師匠でもあるのだから。
ミコトとして火影邸を出入りできるようになって、医療だけでなく、父のこともちゃっかり調べていたナルトは、すぐに「自来也」に興味を持った。自来也の師匠は三代目火影様ということで、ナルトは直接火影様に色々と話を聞こうと思ったのだった。

特別上忍見習いになってから、時々火影様と火影室でお茶をしていたミコトは火影様と話す機会は多かった。のんびりとお茶とお菓子を楽しみながら、医療についての話から綱手の話へ、そしてさりげなく自来也について火影様に尋ねてみたところ、

「あやつの実力はわしと同じくらいかのぉ」

なんて仰っていた。
それはなんとすごいことだろうか。里の長と同じくらいの実力だなんて。(実際、自来也の実力は火影以上と言われているのだが、そのことを三代目自ら言うつもりはないらしい。)
それ以外に自来也については、仙人であることと蝦蟇を口寄せするくらいしか、ナルトは火影様から情報を得られなかった。
彼がどんな人か尋ねれば、何故か話を逸らされてしまうのだ。弟子である自来也について話す火影様が、彼を嫌っているようには見えなかったが、彼には何かあるようだ。あまり自来也のことを尋ねていれば、怪しまれるのは自分なので、ナルトも深く探りはしなかった。が、彼はまだ生きていると言うではないか。
ぜひとも会ってみたいと思ったが、彼はもう数年も里に姿を見せていないらしい。

「残念です・・・」

諦めたようにそう漏らしたナルト――その時はミコトに、火影様は満面の笑みを返したとか・・・


しかし、少ない情報はナルトの中の憧憬をますます膨らませたのだった。
火影様とお話したあの時以来、ナルトが自来也について口にしたことはないが、ナルトはある物に非常によく反応を示す。それは、「カエル」グッズだ。
とは言っても、医療の本にお金を掛けるナルトには、カエルのグッズを集めることはできなかった。が、しかし、それでも1つだけ、役に立ち、尚且つ身につけられる物をナルトは買っていた。そう、それは、

がま口財布の“ガマちゃん”だ。

カエルを模したその財布。
ナルト曰く、「ガマちゃんは膨らんでいる時がかわいいので、お金がよく貯まるんですよ」とのこと。お金が貯まれば医療の本が買え、その貯めている間ガマちゃんが膨れて可愛い、とナルトにとっては一石二鳥らしい。でも、このガマちゃんを買ったのは“自来也が蝦蟇を口寄せする”、“自来也に憧れて”という理由だったり。

――ガマちゃんには罪はないガマちゃんには罪はないガマちゃんには・・・・・・

頭を抱えながら自分にそう言い聞かせるナルト。
全く持ってその通り。いくら覗きという罪を犯している自来也が蝦蟇を口寄せするからと言って、カエルさんたちには罪はない。

まさか自来也にこんな趣味があろうとは。
いや、よく考えれば、大蛇丸だって変わっているし、綱手だって賭博好きと言うではないか。その中の1人である自来也に覗き趣味があるのは、おかしなことではないような気がする。もちろん気だけだ。が、たった今目の前で起こった出来事に、ナルトはかなりの衝撃を受けていた。
それはそうだろう。5歳の時から今まで、ずっと目の前の人物に憧憬を抱いていたのだから。

――あれ・・・? もしかして・・・

頭を抱えていたナルトは、ハッと重大なことに気づいた。
自来也は父、四代目の師匠である。と、言うことは、


――・・・・・・・・・父さんも・・・覗き趣味が・・・?


覗きをしているところをカカシ先生にバレて、土下座?

・・・・・・話は繋がる。それも上手く。

――なんてこと・・・!!

師匠の趣味が弟子の趣味なんてことは決してないのに、自来也ことでかなりのショックを受けたナルトが、冷静に考えることはできなかった。



見得切りがきまった自来也は、口寄せした蝦蟇を消し、目の前の少年を見つめて眉間に皺を寄せた。

――・・・こいつ・・・・・・大丈夫だろーか・・・?

頭を抱えながら「ガマちゃんには・・・」とかブツブツ呟いているこの目の前の少年は。
一体どうしたのだろうか。謎の「ガマちゃん」の呪文が終わると、ハッと顔を上げ、段々とその顔を蒼白くしていく。

「お、おい、そこのボウズ・・・大丈夫か?」

内心あんまり関わりたくねーのォ、とか思いながらもとりあえず声をかけてみる。自来也は目の前の少年に、なんとなくだが自分が悪いような気がしたのだ。
その少年はと言うと、弾けたようにこちらに顔を向けた。・・・かと思えば、ズンズンと近づいてくるではないか。

思わず後退さる自来也。

先ほど睨みつけてきた目は生き生きとしていたのに、今はその目に何も浮かんでいない。無表情で近づいてくるその少年は、かなり恐ろしい。
後退さる自来也に、それよりも早く近寄ってきた少年は、

「な、なんだってーの!?」

突然ギュッと自来也のお腹辺りの服を掴んだのだ。背の低い少年を見下げる形になっているため、顔を一向に上げようとしない少年の表情は自来也には窺えない。
自来也が声を上げてからしばらくすると、少年からため息が聞こえてきた。そして、意を決したように顔を上げた少年は、


「と、・・・四代目は覗き趣味を持ってましたか・・・?」


震える声でそう尋ねてきた。その内容にポカンとする自来也。
突拍子もない内容に、ただただ唖然とする。
そんな自来也に少年は再び「持っていたんですか」と、先ほどよりも丁寧に、はっきりと問う。

――本当に・・・なんだってーの・・・。

頭を抱えながら呪文を唱えたり、顔を蒼白くさせたり、無表情で近寄ってきたかと思えば四代目の覗き趣味がどうの、と尋ねてきたり・・・変な少年である。
あまりに変な少年だったため気づかなかったが、そう言えばこの少年は四代目に似ているな、と自来也は今頃になって思う。
自分の顔をまっすぐ見つめる真剣な顔は、とてもよく似ている。

――・・・・・・ナルト、か。

もしもあいつの子であるならば、この少年の名は「ナルト」のはずだ。そして、この里で流れている噂の「ナルト」だろう。
じっと少年の顔を見つめていた自来也は、そっと両手でその少年の頬を包む。と、少年は少し驚いたように目を開いたが、すぐにまた真剣な眼差しで自来也を見る。

――そっくりだのォ。

自来也の行動、それは少年の頬の三本の髭を隠すためのものだった。それを隠してしまうと、目の前の少年は子供の頃の四代目そのものである。懐かしさに目元を和ませる自来也だったが、少年の目が段々と潤んできていることに気づいた。

「持ってたんですね・・・」

自来也の無言を肯定ととったのだろう。
今にも泣きそうな、どこか諦めたような声で少年は呟くと、掴んでいた服を放した。掴まれていたところはしっかりと皺がついていて、少年のこの質問がどんなに真剣なものだったかが窺える。内容はどうでも良さそうだが。
服から手を放した少年は、離れようと思っているのだろうが、自来也が頬を両手で包んでいるためかじっと突っ立っている。ふらふらと視線を漂わせて。少年の目には、もう先ほどまでの力強さはなかった。

――よくわからんがのォ・・・。

自来也は軽くため息を吐くと、

「いひゃっ――!!」

少年の頬を包んでいた両手で少年の頬をムギュッと掴み、そのまま横へと引っ張った。思い切り頬を伸ばされている少年の顔は、どこか笑いを誘っている。が、自来也は笑うことなく、痛がる少年を無視して口を開いた。

「四代目に覗き趣味はないってーの!」

ぐいぐいと四代目にそっくりな少年の頬を引っ張りながら、あいつは師匠である自分の取材を邪魔していたな、なんて懐かしく思う。と、ふと、

――なんでこいつ、ワシにそんなことを訊く?

そんな疑問が自来也の頭に浮かんだ。
確かに四代目の師匠であった自分に四代目のことを訊くのはおかしくない。そのことをこの少年は知っていて質問したのだろうか? とそこまで考えて、

――・・・あんな質問ならワシじゃなくても答えられるか。

と結論付ける。
四代目が覗き趣味を持っていないことくらい、四代目を実際に見たことのある者、この里の大人であれば知っている。たまたま近くにいた大人が自分だったからなのだろう。何故少年が突然、“四代目に覗き趣味がある”なんて思ったのか分からないが。

目の前の少年は自来也の言葉を聞いて、一瞬目を見開き、次の瞬間には安心したように目だけで笑った。口は自来也が頬を引っ張っているために真横にしか開かないのだ。
きっと手を放したら、満面の笑みが見られるだろう。が、

「ったく・・・取材の邪魔しおって」

そう、自来也はこいつらに取材の邪魔をされたのだ。

「イテッ!」

自来也が引っ張っていた手を放せば、赤くなった頬をさする少年。痛いと言いながらも、その口は次には「そっか、そっか」と呟いて、顔を綻ばせている。その様子を見ながら自来也は軽くため息を吐く。と、それを聞いた少年は我に返ったようにハッとして、自来也に向かって首を傾げた。

「・・・取材?」

先ほど頬から手を放す時に自来也が言った言葉だ。
首を傾けた少年を見てニヤリと笑った自来也は、

「わしゃあ物書きでな、小説を書いとる!」

右手を自分の懐に差し入れて、ゴソゴソと何かを取り出した。

「コレだ!」

バンッと勢いよく出したそれに、


「あーーー! それってばぁーー!」


ナルトは再び指を指して激しく反応を返した。
自来也が懐から取り出したもの、それは1冊の本だ。

「お! お前知ってんのォーコレ?」

ナルトの反応に嬉しそうにそう言う自来也をナルトは無視して、その本を鋭く睨み付けた。
その本の名は「イチャイチャパラダイス」。ナルトたちの担当上忍であるカカシの愛読書だ。下忍選抜試験の時、ナルトと1対1で勝負する際にカカシが読もうとしたものだ。が、実はナルト、それ以前にその本を見たことがあるのだ。
正確に言うと、聞かされた、のである。


下忍選抜試験前夜、カカシについて火影邸で調べ終えたナルト――もちろんミコトの姿――が帰ろうとしていた時だ。
たまたま廊下で本を読んでいたカカシに出会い、挨拶をして帰ろうとしたナルトだったが、ナルトはカカシの読んでいるものが非常に気になってしまった。とてもカカシが楽しそうにそれを読んでいたから。
その時カカシの手でその本の表紙は隠れており、全く中身の予測ができなかったナルトは、その本が何なのかを尋ねたところ、なんと、カカシがその本、「イチャイチャパラダイス」をナルトに音読し始めたのだ。
突然のことだったため、少し内容を聞いてしまったが、その後・・・・・・


・・・その後?


そういえば、その後何があっただろうか?
それに、自分はその日どうやって帰ったのかを全く覚えていない・・・。
・・・・・・いや、今はそんなことはどうでもいい。とりあえず、18禁を聞かされるという酷い目にあったのは確かだ。

そんなことがあったために、下忍選抜試験でカカシがナルトに“ドベ”と言ったことと、その本をナルトの目の前に出してしまったことが相俟って、あの時、ナルトはちょっと叩くつもりだった攻撃の力加減を誤ってしまったのだった。

まさかその本の作者が目の前の人物だったとは。
ナルトは無言でじっと本を睨み続けていると、


「なんだボウズ・・・この本が読みたいのか? ダメだダメだ! これは18禁だからの!」


ニヤニヤと笑う自来也に誤解されてしまった。

「ち、ちげーってば!!」

勘違いされては堪ったものではない、とばかりに慌ててナルトは首を振った。



――コロコロと表情が変わる奴だのォ

自来也はニヤニヤと笑いながら、本を懐へと仕舞う。と、顔を真っ赤にして首をブンブンと横に振る少年と一緒に視界に入ったのは、先ほど蝦蟇にやられてそのままになっている黒ずくめの男、特別上忍のエビスだ。この男と一緒だったということは、

「修行か・・・・・・」

確か取材中に、この倒れている男の「水の上を歩く」とかいう言葉が聞こえたな、と思い出した自来也がボソリとそう呟いた。すると、

「しゅ、修行見てくれんのか!?」

ナルトが透かさず反応した。それはもう目を輝かせて。
彼が覗き魔のスケベだと分かって、ショックを受けたナルトだったが、自来也への憧れは消えていなかったようだ。実力は火影様と変わらない(本当はそれ以上の)自来也に、もしかしたら修行を見てもらえるかも、と期待を大きく膨らませる。が、

「ワシは口の利き方を知らん奴が大嫌いでのォ!!!」

自来也が凄い形相で、少年の言葉を否定する。
まさか先ほどの小さな呟きが聞こえていたとは・・・内心軽く驚いた自来也は続ける。

「それにおと「俺さ!!」・・・・・・何だ?」

しかし、それはナルトによって遮られた。
ナルトは直感的に、その言葉の続きを言わせてはいけないと感じ取ったようだ。

「俺さ、うずまきナルト!! 今年アカデミーを卒業して下忍になったばかりだってばよ! 1ヵ月後の中忍試験本選のために修行しないといけなくて・・・修行見てくださいってば!!」

よろしくお願いします! と45度に腰を折ったナルトのお辞儀は、それはもう綺麗なものだ。突然のことに呆気にとられる自来也だったが、

――やはりナルト・・・か

ナルトだと分かってはいたが、こうして本人から言われると、感慨深いものを感じる。

ある組織を追っている自来也は、そこでナルトについての情報も耳に入れていた。とは言っても、それは木の葉の里に流れている噂や、里に戻ってきてアカデミーに入学した、とかそれくらいのレベルだ。アカデミーに入学すると言う情報が入るまでは、生きているかが問題だったのだから。自来也としては、生きていたことは嬉しいが、そのまま姿を現さないでほしかった、と思う。が、それはもう変えることはできない。

ともかく、目の前の少年には謎が多い。

今分かったのは、ナルトは四代目に興味があるらしい、ということだ。
こいつの夢も火影になることだろうか、と思うと少し複雑なものである。
その夢は彼にとってあまりにも難しい。かと言って、自来也がそれを止めるなんてことはしないけれど。

――ちょうど良い・・・

ここで修行を見れば、ナルトが今どんな状態かを見ることができる。
この短時間でコロコロと変わる彼の態度は、どれが本物なのか、見極めるのも面白い。
そして、一番肝心である九尾の封印がどうなっているか、確かめる必要があるだろう。何せ、今までナルトは姿を消してしまっていたために、その封印の仕組みがどうなっているかなど誰も知ることができていないのだから。
自来也はわざと「う~む」と唸り声を上げると、大きく頷いて言った。

「まぁ、良かろう。修行は見てやる」

それを聞いてガバッと姿勢を戻したナルトが、「よっしゃー!!」と叫ぶ。よほど嬉しかったのだろう、飛び跳ねてその喜びを表現している。なんとも子供らしい彼に、自来也は苦笑する。と、視線を池の方へと持っていく。

「水の上を歩くってのは・・・水面歩行の業だが、やり方は分かるか?」

自来也が呼びかけるまで「ひゃっほー」とか良いながら飛び跳ねていたナルトは、振り返ってニッと笑った。

「おう! 木登りの応用で、まず足にチャクラをためて、それから常に一定量放出! んで、体の重さと釣り合わせれば良いんだろ!」

「お、おお、その通りだのォ・・・」

エビスはそこまで説明していただろうか・・・と少し疑問に思った自来也だったが、取材の方に集中していたため、聞き逃していたのだろう、と自分を納得させる。

「まずはその通りにやってみろ」

「オウ!」

元気よく駆け出したナルトは、池へと向かっていく。そして、そのまま、


「どう、どう!?」

まるで地面と変わらないように水の上へと降り立ったナルトは、水の上ではしゃいでいる。

――ほう・・・

心の内で感嘆の声を上げる自来也は、それとともに違和感を覚えた。
水の上ではしゃぐナルトは、すでに完璧と言ってよいほど、チャクラコントロールができている。ただ水の上に立っているのではなく、歩き、飛び跳ねることまでできているのだ。
別に自来也はいきなりナルトがそれをできたことに驚いているのではない。
彼は謎の多い少年だ。これくらいの基礎に近いチャクラコントロールの修行は、もう身につけていたのだろう。いつから、と言うのは分からないが、あの様子だと相当この修行は積んできたようだ。

しかし、おかしくはないか?

彼がどうしてあそこまで完璧にできるのか。・・・とは言っても、自来也にはまだ九尾の封印がどうなっているかを知らないため、何ともいえないが。九尾の封印が完全にそれを押さえ込むような仕組みになっているならば、目の前のナルトの今の状態はなんらおかしくはない。が、

そんなことを四代目がするだろうか?

これからのナルトのことを考えれば、九尾のチャクラを完全に封じ込めてしまう、なんてもったいないことをするだろうか。いや、彼がそんなことするはずないだろう。もちろん、これからナルトの身に起こることを彼が予測できていた、とは言い切れないけれど。
それでも、自来也は彼が息子に無駄なものを残すなんて考えられないのだ。
自来也の推測が当たっているならば、恐らく九尾のチャクラが使えるような封印式になっているはずだ。しかし、そんな封印術は今現状には巻物のどこにも記されていない。巻物にある“四象封印”、あれはただ尾獣の力を押さえ込むものであり、尾獣のチャクラが還元できるようになってはいない。
そのため、彼が独自に還元できるような封印式を作ったと考えるしかない。もしそうならば、今のナルトは少し、いや、かなりおかしい。

チャクラコントロールが完璧すぎるのだ。
それは水の上で10分以上分経っても変わらず、あれからずっと池の上を歩き回っていたナルトは、疲れた様など全く見せていない。まだ、たった10分と少しだが、この修行が初めてであったならば、途中でバランスを崩したりするものだ。しかし、ナルトにはそんな様子が全く見られない。それは彼がこの修行が初めてではないことを示しているのだが・・・・・・それにしても、完璧すぎる。

「もう良いぞ」

ちょっと来い、と自来也が手招きをすれば、てくてくと嬉しそうに戻ってくるナルト。
その顔には「次は何をやるの?」と書いてある。なんとも分かりやすい子供だ。
自分のそばに寄ってきたナルトに、自来也は少し厳しい表情で口を開いた。


「脱げ」


それはたった一言だった。が、その内容についていけず、思わずナルトの口から「へ?」と間抜けな声が漏れる。それに自来也が大袈裟にため息を吐いた。

「聞こえなかったのか? 脱げと言っておる」

「と、突然なんだってばよ?」

訝しげに自来也を見れば、再び彼はため息を吐く。

「なんだ・・・1人で脱げんのか?」

「いや1人で脱げる・・・って、そうじゃなくて!」

どうも話が噛みあっていない。きちんと説明もせずにただ「脱げ」とだけ言う自来也に、ナルトは眉間に皺を寄せた。そしてついには、

「しょーがないのォ・・・」


ワシが脱がしてやる。


そう言って怪しげな手つき(何故か顔も怪しげに見える)で近づいてくる自来也に、声も出せずにいたナルトは――――








「お前、なかなか、やる、のォ・・・」

少し話し辛そうに呟いた自来也の左頬は大きく腫れ上がっていた。
先ほど、自来也がナルトの上着に手をかけた瞬間、ナルトの右ストレートが自来也の左頬に入ったのだった。それによって軽く何メートルか吹っ飛ばされてしまった自来也が、とぼとぼと歩いてもどってくる。
見得切りがきまった時には大きく見えた背中が、今は小さく見える。

――こいつのこの馬鹿力は・・・・・・綱手並みでは・・・?

左頬をさすりながら、恐ろしい考えに行き着いた自来也の顔色は悪い。
そのナルトはと言うと、まるで猫のように、近づいてくる自来也にフーフーと威嚇している。

「このエロ仙人!! いきなり何すんだってばよ!! ま、まさか、そんな趣味まで持って・・・」

「なっ!! 何を言っとる!! ワシは男は好かん!!!」

「じゃあ、今のはなんだってばよ!!」

「そ・・・れは、だな・・・・・・」

確かにいきなり服を脱がせにかかったのは失敗だっただろう。
封印式がどうなっているのかを見たかったのだが、よく考えたら九尾の封印式がナルトのどこにあるのか知らないことを今になって気づいた自来也だった。
気を落ち着かせるために、自来也はゴホンと1つ咳払いをした。

「あー・・・今のはすまんかったのォ」

「・・・・・・」

無言のまま腕を組んでそっぽを向いてしまったナルト。どうやら完全に彼の機嫌を損ねてしまったようだ。この状態では何も聞いてはくれないだろう。
ため息を吐きそうになるのをぐっと堪え、自来也はニッと笑う。

「これからとっておきの技を教えてやる!」

「なにぃなにぃ!」

なんと機嫌が直るのが早いこと。自来也の一言に間髪入れずにナルトが飛びついた。
そのたった一言で、ナルトはさっきまでの態度が嘘のように、綻ばせた顔を自来也に晒している。

――現金な奴だのォ。

目の前のナルトの変わり身の早さに苦笑を漏らす。と、わくわくしながらじっと見つめてくるナルトの目線に合うように、しゃがみこんだ。

「まずその前に・・・お前に理解してもらっとくことがある・・・」

何を? と首を傾げるナルトを見て、自来也は一呼吸入れ、いつになく真剣な表情を作る――が、それは左頬が腫れているため、半減してしまっている。

「お前はチャクラを2種類持っとる・・・」

四代目ならば、九尾のチャクラを使えるような封印式にしてあるはずだ、と自来也は確信していた。無駄なことをするような奴ではないのは、師であった自分が一番分かっているつもりだ。
今から教える術は、今のナルト自身のチャクラだけでは全然足らないため、必然的に九尾のチャクラを使わざるを得ない。のだけれど、

――いきなり九尾の名を出すのはのォ・・・

少年がどこまで自分のことを知っているのか分からない。いきなりそんなことを言われても彼を混乱させるだけだろう、と思い、このように言ったのだが―――


「・・・・・・ボウズ・・・お前、ワシの言ってることを分かっているな」

疑問ではなく、そう言い切った自来也に、少年の肩が揺れた。
「2種類のチャクラ」と言ったところで、少年の顔が一瞬強張り、手で咄嗟にお腹を押さえたのを自来也は見逃さなかった。

――そうか・・・腹か。

封印式のある場所はお腹で間違いないようだ。まさかそこまでナルトが知っていようとは。
無言のまま俯いてしまったナルトの表情は分からないが,服の上から下腹部を撫でる仕草が柔らかい。それはどこか、妊娠中の母を思わせるような仕草だ。
あまりにも穏やかなそれに、次のことを言い出せないでいる自来也に対し、ナルトは眉根を寄せ、複雑な表情で撫でている自分の腹を見つめていた。


――九尾のチャクラですか・・・。

自来也がこの話題を出したということは、「とっておきの技」というのが、自分自身のチャクラだけでは足りないということをナルトはすぐに理解した。が、

――・・・・・・使えません。

使えない。

いや、違う。


使いたくないんだ。


人の持つチャクラと明らかに異なるこのチャクラは、ナルトにとって懐かしく、心地よいものである。
姉と似ているこのチャクラは、姉を思い出すことのできるものの1つだ。父、九尾が封印されていることで、自分には姉がいたのだ、と確信が持てる。

今となっては、姉との唯一の繋がりだ。

しかし、里の者たちは違う。
この繋がりは、里の者たちにとって家族を奪った恐るべき“化け物”の力だ。

そんな力を誰が好んでこの里で使うだろうか。ましてや里中で、だなんて冗談ではない。
いくらコントロールができるとはいえ、これを使えばますます里の者たちに恐怖を与えることになる。誰もこのチャクラを忘れてはいないはずだから。
だから使いたくない。
人間として認められたいなら、使うわけにはいかない。

みんなを怖がらせたくないんだ。



――――でも本当は、



そんな綺麗な理由じゃないでしょう?




「 ! 」

頭の中に響いてきた声にハッとする。それは、

「ね・・・さん・・・」

もう会うことのできない、家族の1人。

「・・・何か言ったか?」

お腹を撫でる手を止め、何かを呟いたナルトに自来也が聞き返すも、それにナルトが答えることはなかった。

今のナルトには誰の声も届かない。



3歳の時に亡くなった姉、その姉の顔をナルトは今でも鮮明に思い出すことができる。
普通ならばその頃の記憶など薄れていってしまうもの。ナルトもそうだった。
姉に教えてもらったことは体で覚えているようなものの、姉の姿は段々と薄れていく。幼い頃の記憶など、余程衝撃的な事がない限り覚えているものではない。ナルトの記憶の中の最後の姉の姿は、一番姉の自然な姿で。それは狐の姿だった。

一緒に過ごした姉の人型の姿は、どんなものだったか?

そんなことを思ったのはこの里に戻って来てすぐの頃だっただろうか。
この疑問が頭に浮かんだ時、ナルトは恐怖した。唯一の家族と言っても過言ではない姉の姿を忘れてしまうなんて。思い出そうとしても、思い出せるはずもなく、自分に憤りを覚え、そしてどうしようもないことに失望しかけた。が、しかし、それは意外なところで解消されることとなった。

ある時から姉の夢を見るようになったのだ。

それはとても鮮明で。人の姿に変化している姉と自分がいる夢。
そのおかげで、今では姉の顔を思い浮かべれば、それははっきりと描くことができる。
でも、その夢も最近では見なくなっていた。その理由になんとなくナルトは気づいている。が、その夢は何度も何度も見ていたため、内容はすっかり覚えてしまっている。


・・・・・・今日は疲れているみたいだ。
まだ昼間だと言うのに、あの夢の中の姉の声が聞こえるなんて。



その声が頭の中でわんわんと響いて、痛い。



――人間ならそんなに早く傷は治らないものね。

・・・・・・姉さん・・・・・・。

――あなたの夢はそれを隠すためでしょう?

・・・ち・・・がいます・・・。

――いつまで隠せるかしら?

・・・・・・・・・やめて。

――あなたは九尾でしょう?

やめて!

――あなたは“人間”じゃないわ。

やめてやめてやめて!!!


耳を塞いで、必死にその声を頭から追い出そうとする。
姉はそんなことを言わない―――でも、

絶対に言わない?

・・・わからない。

「九尾ではない」と言ってくれた姉は本物だったのだろうか?

・・・わからない。

やはり今日は疲れているようだ。
いつもなら姉がこんなことを言わない、と言い切れるのに。

姉の夢を見始めてから、何度も思ったことがある。

自分がいなくなることがこの里のためになる、と。
みんな喜んでくれる、と。

でもそれは違う、と言い聞かせてきた。
初めて見た里中は、キラキラと輝いている中にも闇が潜んでいた。その闇を“ナルトの死”という形で晴らしたくはない。いくら里のためだと言われても、自分にもみんなと同じように好きなことがあって、今ではしたいこともある。

でも、それはもう無理かもしれない。
頭の中で響く姉の言葉は正しい。

正しいんだ。


視界が真っ暗になる。心が壊れてしまいそうだ。


――あなたは化けも・・・

黒く染まっていくナルトの心に――


「ナルト!」


―――小さな光が差し込んだ。


「あ、あ・・・」

暗いのは嫌だ。

もう1人になるのは嫌だ。

だって、姉といた時の温かさを、里に来て思い出してしまったから。
自分を認めてくれる人ができてしまったから。

その光に手を伸ばせば、


「おい、ナルト!」


その先には――――










「エロ仙人・・・」

「・・・・・・おい」

エロ仙人はないだろーが、と項垂れる自来也の顔が映った。その顔があまりにも近くて驚いたが、それもそのはずだ。しゃがんでいた彼に、両腕を掴まれているのだから。

「ボウズ・・・ワシの話を聞く気がないのか?」

ジトッと睨む自来也に、ナルトは「あ」と声を上げた。
そうだった、とっておきの技を教えてくれるんだった、とまだ少し痛む頭が思い出す。

「聞く聞く!! 聞くってば!」

だから手を放して、と顔に笑顔を乗せて自来也に頼む。自来也も言われて気づいたのか、パッとすぐに放したが、何故か自分の顔を見て、自来也はわずかに顔を顰めた。
しかし、それもほんの一瞬のことで、自来也はわざとらしいため息を吐くと、

「ボウズの腹に・・・何があるか分かっているな?」

両手の人差し指でナルトのお腹を指し、そう言った自来也の顔は真剣そのものだ。
その言葉に、ナルトは自分の顔が引きつったのを感じた。
ズキズキと頭の痛みが増してくる。が、それを気づかれたくない。それに、

「九尾・・・だろ」

嘘はつけない、そう思った。別に嘘を吐くつもりではないが。
頭は痛いが、もうあの声は聞こえてこないことに安堵する。
はっきりと答えたナルトに、自来也は特に驚いた様子もなく話を続けた。

「分かっているなら話が早い・・・お前の腹にはその九尾の封印式があるのだろ? とりあえずそれを少し見せてくれんかのォ」

その言葉にナルトはふと、「脱げ」と言った自来也のことを思い出した。

――ああ・・・このためだったんですか。

「・・・・・・それを早く言えってば」

あれじゃただの変態だってばよ、と愚痴りながら、上着に手をかける。その時、自来也が顔を引きつらせたのだが、ナルトは気づかなかった。
いそいそとナルトは上着を脱いでいく――――かと思いきや。


「・・・・・・ボウズ・・・その中途半端なのは、何だ?」

思わず自来也がつっこみを入れた。
今のナルトの状態は、ただ上着をお腹だけが見えるように捲っているだけなのだ。

「べ、別にこれで見えるだろ!」

「確かにのォ・・・、でも男なら堂々とだなぁ・・・」

と、そこで言葉を切ると、自来也は何故かニヤリと笑った。が、それもほんの一瞬のことで、すぐにそっけなく「まぁ良い」と言い直したので、ナルトはホッと息を吐いた。今の怪しい自来也の笑みは、まだ痛む頭のせいで見間違えたのだろう。
とは言っても、もうだいぶ頭痛は引いてきたのだけれど。

「・・・何もないようだが?」

視線を下に落とした自来也が、ナルトの腹を見てそう呟く。

「チャクラ練ると浮き出てくるからさ」

ちょっとこれ持ってて、とナルトは上着の裾を持つように頼む。が、

「これ以上服捲り上げたら変態とみなすってばよ」

しっかり釘を刺す。思わず眉間に皺を寄せる自来也。

「・・・扱いが酷くないか?」

「疑わしいことばっかしてるからだってばよ」

それを聞いて思い切り項垂れる自来也をナルトはクスクスと笑う。
そんなナルトをチラリと視界に納めて、自来也は大きくため息を吐いた。

――・・・手強い相手だの・・・。

とりあえず封印式を見せてくれるというのでそれに従う。が、自来也の顔は仏頂面だ。しかし、それは次の瞬間、

「お前・・・掌仙術を・・・!」

驚愕に塗り替えられた。
上着を持った直後、伸びてきたナルトの手が腫れた頬に当たった途端引いていく痛み。それと同時に感じるのは心地よいあたたかさ。
人を癒すことのできる高度な術だ。
自来也は驚きを隠すことができず、しばらくその状態で呆けていたが、視界の中で何かが変化していることに気づく。視線を落とすと、そこにはじわじわと臍を中心にした封印式が浮かんでくるのが目に入った。

――四象封印が2つ・・・二重封印・・・

四象封印は尾獣の力を押さえ込む封印式だ。
しかし、この子の腹(見たところ“臍”を中心にして封印式は描かれている)の中のものは尾獣の中でも最も強い「九尾」だ。完全に押さえ込めるはずがない。そこで四象封印を2つ重ねることで、封印の間から漏れる九尾のチャクラをナルトに還元できるように組んであるようだ。

しかし、それはあくまで“還元”できるように、だ。

それは自来也の予想通りではあった。
この子の未来を守るために、四代目が還元できる仕組みを作っていた。それはいい。
問題なのは、

――どうして掌仙術が使える?

この封印式が施されたナルトが医療忍術のような、繊細なチャクラコントロールを求められるものを使えるはずがない。
できるはずがないのだ。
しかし、確かに今、頬に当たっているナルトの手からはナルト自身のチャクラ以外のものが漏れ出ているようには全く感じられない。

この封印式は完璧に九尾のチャクラを封印しているわけではない。
四象封印を二重に施しているため、かなり強力なものとなってはいるが・・・還元されたチャクラはどこにいっているのだろうか?

ここで自来也は2つの仮説を立てた。
1つは、まだ体の小さなナルトのこと、無意識に体が負担を避けるために九尾のチャクラを拒絶している、というもの。
そしてもう1つの仮説は、ナルトが意識的に九尾のチャクラを抑えつけている、というものだ。

普通に考えれば1つ目に上げた仮説だと思う。だが、その仮説はなんとなく自来也にはしっくりこないでいた。いくら体が九尾のチャクラを拒絶しても、それは少しでも漏れ出ているはずなのだ。封印式がそのような仕組みになっているのだから。

おそらく、ナルトは意識的に九尾のチャクラを抑えつけている。

それは決して不可能なことではない。漏れている九尾のチャクラがほんの少量であれば、己のチャクラで抑え込める。ナルトはそれを自分のチャクラで抑えつけた上で、術を行使しているのならば。

――・・・一体どれだけの修行を・・・

ナルトはかなりの修行を積んでいる。それはさっきの水面歩行でも気づいたことだ。
チャクラコントロールにはこの修行が効果的である。が、何を思ってナルトは医療忍術を会得したのだろうか。

自来也は内心顔を顰める。
ナルトは自分に九尾が封印されていることを知っていた。それを知っていて医療忍術を会得するだなんて。いくら漏れ出る九尾のチャクラが少量だからと言って、それを完璧に抑えつけるなど至難の業だ。
それに、九尾のチャクラを抑え込むなど、それだけで体に負担がかかる。その上に医療忍術だなんて・・・―――


「さっきの、冗談だってばよ?」


その声にハッとして視線を上に戻す。そこにはいたずらっ子のような無邪気な笑みを浮かべたナルトの顔があった。
ああ、見た目だけなら父親似だが、こんなところは母親似だな、と唐突にそう思う。
じっとその顔を見つめていると、ばつが悪そうにナルトが頬をかいた。

「それと・・・殴ってごめんなさい」

自来也が上着を脱がそうとした時、ナルトは本気で焦っていた。なぜなら、彼の首には肌身離さず掛けている父の首飾りがあったからだ。そのため殴ると言う暴挙に出てしまったが、近づいてくる自来也があまりにも不気味だったためそれは仕方なかったかもしれない。

両腕を頭の後ろに回してニシシと笑うナルトを見て、自来也はもう治療が終わっていたことに気づいた。

「ワシがあれしきのことでやられると思うなよ」

ニヤッと笑った自来也。だが、その顔は心なしか青く、怯えているようにも見える。
それは何かを思い出しているようで・・・

「そ、そうだってばよね! なんせ仙人だもんな!」

何に怯えているのか訊いてみたいところではあるが、ナルトはあえてそれに触れないことにした。
ナルトの言葉に気をよくしたのか「そうだ、ワシは仙人だからの!」と高笑いする自来也を見て、ナルトは苦笑する。と、いまだに自来也が自分の服を持っていることに気づき、今度はそのことで苦笑する。結構な時間、自分はお腹を出しっぱなしにしていたのだ。

「もういいってば?」

服、離して? と言うと、自来也は高笑いを止め、ゆっくりとこちらに顔を向けた。そして。

彼は、ニヤッと笑った。

それにハッとしたナルト。
それは先ほど見間違えたと思った笑みと同じもので。

――まさか!!

いかにも怪しい笑みを浮かべた自来也に、慌ててナルトが服にかかっている自来也の手を払いのけようとする。が、


「――・・・ッ!!」


それは遅かった。
自来也がナルトの上着をガバッと上に捲り上げたのだ。
ナルトの首には四代目の首飾りがかかっている。自来也がその首飾りを知らないわけがないだろう。もしかしたら取り上げられてしまうかもしれない。
何せ、四代目はこの里の英雄だ。
その英雄の遺物を里の汚点である自分が持っているなんて、きっと里の者たちには耐えられないはずだ。いくら親のものとはいえ、そのことを里の者たちは知らない。
それをナルト自身、言うつもりもないが。
四代目が父だと言うことで、自分が里のみんなに認められるのは、何か違うのだ。

自分と言うものを知ってもらって、心から認められたい。

だから、ナルトは四代目が父であることを言うつもりはない。
とは言え目の前の人物、自来也は四代目の師である。恐らくは自分が彼の息子だと知っているのだろう。だからと言って、この首飾りを取り上げないとは言い切れない。

声にならない悲鳴を上げたナルトの胸元をじっと凝視する自来也。そして、

「なんだ・・・なんにもついてないじゃねーの」

マークでもあるのかと期待して・・・・・・などと実につまらなそうに呟く自来也に、ナルトは自来也の手を引き剥がし上着を正すと、眉間に皺を寄せた。
何もないはずはない。
・・・はずはないのだが、どうやら上着に上手く引っかかって、一緒に捲り上げられたようだ。
そのことにホッと息を吐くナルトだった。が、

――・・・・・・やっぱり“エロ仙人”です!!!

きちんと釘を刺したというのに。
このあだ名はパッと頭に浮かんだものだったのだが、これほどこの名が似合う者はいないだろう。男は好きではないと言っていたくせに。何を思って自分の服を脱がそうとしたのだろうか。キッと自来也を睨む。が自来也は気づいていないのか、顎に手を当てて何事かをブツブツと呟いている。「ネタ」とかどうとか・・・。
しばらく睨み続けていたが、なんだか馬鹿らしくなって、ナルトは小さくため息を吐く。と、ふと先ほどの自来也の言葉を思い出した。

――マークって・・・?

九尾の封印式以外に、何か自分の体にあるのだろうか。
自来也はいまだに何かをブツブツと呟いている。そんな自来也に、ナルトはコクリと首を傾げた。



――あんなに嫌がっていたから、どんなにすごいのかと期待していたのだがのォ・・・

ナルトくらいの少年相手だったら、きっと姉ちゃんが相手で、あーんなことやこーんなことを教えてもらって・・・なんてところまで妄想していたエロ仙人こと自来也は、それをネタにできないか、と考えていたようだ。しかしそれも少年の傷一つないきれいな胸元に、見事に裏切られることになったが。

はぁ・・・とため息を吐いた自来也は、ふと視線を感じた。
なんだろうか、とその視線に目を向ければ、澄み切った青にぶつかった。
雲ひとつない、澄んだ青。それを見ていられなくて、思わず自来也は顔を逸らした。

――・・・・・・ワシって、腐っとるの・・・・・・

そっと瞑った瞼の裏に、目の前の少年にそっくりな弟子が、大きく頷いているのが見えた。
なんだか急に悲しくなった自来也だったが、もう今更のことだ、と開き直る。
ゴホンと1つ咳払い。

「お前の腹の・・・九尾を知っているなら話は早い」

真剣な顔をナルトに向ける。そのナルトは、また顔を強張らせた。

「わしの教える技は「イヤだ!!」・・・オイ」

今から説明をしようとするところで、ナルトの声が割って入る。

「どーせ、そのチャクラを使え! とかなんとか言うんだろ! 俺ってば自分の力だけでもじゅーぶんつえーってばよ!」

そう言ってナルトはニシシと笑った。自来也と言えばポカンと口を開けて間抜け面を晒している。
今のナルトの言い方では、この封印式の仕組みを知っているような言い振りではなかっただろうか。と言うことは、やはりナルトは意識的に九尾のチャクラを抑え込んでいる、ということになる。それに、九尾のチャクラを意識的に抑え込んでいるのなら、それとは逆に九尾のチャクラを使うことができるということを知っていてもおかしくはない。

無意識に、頬の筋肉が緩むのを自来也は感じた。

ただ単に、面白い、と思った。九尾を抑えつけられるナルトのその精神力に。そして、こいつの父、四代目のような10年に1度の逸材と思われる人物を再び見つけることができた、という喜びに思わずニヤリといやらしい笑みが浮かんでしまう。
よほどそれが怪しかったのか、笑っていたはずのナルトは怪訝な顔でこちらを見ていた。さっきのこと――取材(覗き)や服を脱がすなど――もあって、これ以上怪しまれてはさすがにやばい、と自来也はその表情を内に引っ込める。と、

「そうは言うがの・・・それはお前の最大の武器になる」

ビシッと両手の人差し指でナルトの顔を指す。
自来也はぜひともナルトを育ててみたいと言う興味に駆られていた。九尾のチャクラを抑えつけることができるこいつなら、それをコントロールできるのではないか、という期待を胸に抱いて。

「・・・イーヤ!」

ついっと顔を逸らすナルトに、自来也は眉間を寄せる。

「何をそんなに・・・」

怯えているのか。
それは口には出さず、じっとナルトを見る。
確かに九尾の力を使いたくない、という気持ちは分かる。何せこの里の者たちは九尾に敏感だ。自来也自身は九尾のチャクラを知っているわけではないので、何ともいえないが、妖のチャクラということで明らかに異質なものなのだろう。
使えばすぐにこの里の者たちに気づかれてしまうほどのものなのかもしれない。が、ようは使いようだ。
それが危険ではない、と示せば良いだけのこと。お前にはそれができる、と。

「俺には必要ねーってば」

プクッと頬を膨らませてしまったナルトを見て、もう何を言ってもダメだろう、と自来也は判断する。

「今日はもう遅い」

ため息混じりにそう言って立ち上がる。すると、ナルトが弾かれたように顔を上げた。眉尻を下げ、オロオロとした目をするナルトに、自来也はプッと笑いを漏らす。

「明日またここへ来いのォ・・・」

もしかしたら自分が嫌いで反抗するのでは? と頭の片隅で思っていた自来也だったが、それは違ったようだ。その言葉に小さく「うん」と頷くナルトの目はとても嬉しそうだったから。

これから教えようとしていることが、自分のしたくないことだとナルトは分かっているはずなのに、その反応は・・・・・・おかしな奴だ、と心の中でまた笑う。と、立ち上がったと思われた自来也は、少し歩いてまたしゃがみこんだ。

「こいつはワシが宿まで連れて行く・・・」

「あ」

たった今思い出した、といわんばかりのナルトの口ぶりに、自来也は堪えていた笑いを吹き出しそうになったが、それをなんとか耐えることに成功する。
今まで忘れさられていたもの、それは黒い丸サングラスをかけた特別上忍、エビスだった。
「よっ」とそれを肩に担いで立ち上がると、歩き出した自来也。だが、


「それを使わないのは宝の持ち腐れだの・・・」


振り向きざまにそう言う。今の言葉の意味を本当はしっかり理解しているのだろう。ナルトが視線を下に落としたのを目に入れると、再び前を向いて歩き出す。と、背後でナルトが小さく、小さく、ぼそりと呟いた。


「それでも・・・イヤなんだってば。だって――――・・・・・・」


自来也は思わず立ち止まりそうになった。が、何も聞こえなかったふりをして、歩を止めることはしなかった。





自来也の背が見えなくなるまで、ボーっと眺めていたナルトは、

「あ・・・エビスさん・・・」

病院に連れて行ってあげればよかった、とふと思う。が、彼はのびているだけで、とくに酷い怪我をしていたわけでもないから大丈夫だろう、と思いなおす。と、ナルトはため息を吐いた。

――・・・修行・・・見てもらえて嬉しいのですが・・・

また「九尾のチャクラを使え」と言ってくるだろうか。
まあ、あれだけ頑なに拒否したのだ。それを使わないですむ他の技を教えてくれるかもしれない。

「だいじょうぶ、だいじょうぶ・・・」

開いた両手を見ながらそう呟く。
夢の中の姉の言葉が、まだ耳に残っている。

――いつまで隠せる・・・か。

大丈夫、僕は九尾じゃない、人間だ。

そう自分に言い聞かせて。
グッと手を握ると、ナルトもやっとそこから歩き出した。












あとがき

3ヶ月以上も開いてしまい、もう待っていてくださった方もいらっしゃらないかもしれませんが・・・やっと1話だけですが書き上げることができたので、投稿させていただきました。
入試のことで応援してくださった皆様、本当にありがとうございます!
無事大学に受かり、今ではあまりの忙しさになかなか小説を書くまとまった時間がとれず、毎日少しずつ書いてなんとか1話ですが書くことができました。
相変わらずの文章の拙さに涙が出そうです・・・。もっと小説を書くことも勉強したいです。

やっと自来也さんが登場するところまでやってきました。
これからまだまだ話は続きますので、全部で一体何話いくのだろう、と今更なことを考えています。初投稿、初小説で長編に挑戦する私は無謀ですね(笑

本当は次の話までがこの1話にしようと考えていたのですが、あまりの長さに切ってしまいました。次の話は執筆中なのでまた日にちが開いてしまいますが、完結目指してがんばりますので、応援よろしくお願いします。
大学に受かってから、私としては1ヶ月に1話は書きたい! と考えていたのですが、現実にはなかなか難しいようで・・・せめて2ヶ月に1度更新できるようにしたいと思っております。

感想の方に、前回私が陰と陽について書かせていただいたところ、いろいろとそれについて教えてくださった方々がいらっしゃり、とても勉強になりました! ありがとうございます!
ぜひそれを小説に生かせたら・・・と考えているのですが、生かせそうにないダメな作者です・・・。でも本当にありがとうございます!!

↓に15話と16話の間にあった出来事をおまけとして書かせていただきました。もしよろしかったらお読みください。











おまけ





カカシについて気になることを調べ終えたナルト――今はミコトの姿である――は、のんびりと火影邸の廊下を歩いていた。後はもう帰宅して、明日の下忍選抜試験に備えるだけだ。
しんと静まり返った廊下を歩いていると、ふと、ナルトは見知った気配を感じた。
自分が通る道に、静かに佇んでいる気配。
ナルトはそのままその気配に近づいていく。が、相手はまだこちらに気づいていないようだ。ゆっくりとしたペースで歩いていたナルトは、その気配の目の前で立ち止まり、口を開いた。

「お疲れ様です、はたけ上忍」

「うぉっ! ミ、ミコト君・・・!」

おどかさないでよ、と呟く上忍、はたけカカシにミコトはコクリと首を傾げた。

――おどかしたつもりはないのですが・・・

ミコトは自分の気配のなさに、いまだに気づいていなかった。カカシにとっては何もないところから突然声をかけられたようなものなのだから、堪ったものではない。

「ミコト君は今日も読書?」

平静を取り戻したカカシの質問に、「ええ、まあ」と言葉を濁す。
あなたのことを調べていました、なんて言えるはずもなく。

曖昧な言葉を返したミコトに、カカシは「熱心だねぇ」と素直な感想を述べた。
医療に関しての資料は一部屋を埋め尽くすほどある。それを15歳の頃から読み漁っているとはいえ、もうほとんどを読み終えたと言うミコトには感心するしかない。
しかし、医療と言うものは日々進化するもので、読んでも読んでもまた新しいものが出てくる。医者は、良いものを取り入れるために常に学び続けなければならないのだ。医療忍者であるミコトもそう。
新しい本が入れば彼はいつもすぐに読んでいる。が、その読む速さが尋常ではない。どんなに分厚い本も、彼はあっという間に読んでしまうのだ。それでいて、その本の内容を全て覚えている。

一体彼はどうやって本を読んでいるのだろうか。

ミコトの読書姿を見た者なら、このようなことを疑問に思う者も少なくないはず。

「ミコト君って、どうやって本を読んでるの? かなり読むのが速いよね。」

カカシはちょうど良いと言うばかりに、ミコトに尋ねてみた。聞いたからと言って、それができるようになるとは思っていないが。
なかなか彼とお話しする時間というものはない。
任務をもらっている正規の忍たちよりも、下手したら彼は忙しいかもしれない。
病院の仕事だけではなく、こうやってほぼ毎日、本を読みに来ているのだから。
カカシの問いかけに、きょとんとしたミコトは、次いで腕を組んだ。

「そうですね・・・」

腕を組んだかと思えば、軽く握り拳を作った右手を口にあて、視線を右斜め下に向けている。どうやら真剣に考えているようだ。
まあ、すぐに答えられるものでもないだろう。本を読むことなんて、意識してするものではない。本を大量に読むミコトにとって、そんなことを考えたこともないだろう。
カカシはミコトが思考をしている間、

――ほんと先生に似てるなぁ・・・

ぼんやりと、そんなことを思っていた。
初めて会ったときからずっと思っていたことだが、この真剣な時の雰囲気とか、流し目(ミコトが意識して使っていないのは確か)とか、ところどころに先生の面影がある。
しかも、髪や目の色彩、果てはチャクラの質まで同じなのだ。
そんな存在が目の前にいるのに、カカシは段々と不思議な感覚に引き込まれていく。
先生は生きていて、こうやって自分と話をしていて。
九尾の襲来なんてなかったのでは?

――・・・・・・なんてな

今日の出来事で、カカシは現実に引き戻される。
今日会った先生の息子の頬にあった3本の髭のような模様。あれは、生まれたばかりの彼にはなかったものだ。九尾が暴れている中、笑ったあの子にあんな模様はなかった。
怪我でできた傷ではないようだったから、恐らく九尾が封印されたことによって出てきた模様なのだろう。
九尾はしっかりと、この里に大きな傷を残したのだ。

「そうですね・・・なんと言いますか・・・」

今まで黙っていたミコトが声を発したことで、ハッとしたカカシは、目の前に意識が引き戻された。
先ほどまで斜め下を向いていた視線は、今はカカシをじっと捉えている。が、その目は少し不安定に揺れていた。質問の内容も内容だ。言葉にするのは難しいのだろう。
一体どんな言葉が返ってくるだろうか。
カカシはわくわくとしている子供のような好奇心に、内心苦笑を漏らした。そんな内なるカカシにミコトが気づくはずがなく、ミコトは思考したことを音にする。

「こう、開いたページを見た瞬間に、頭にそのページがそのまま飛び込んでくる・・・というのでしょうか・・・」

それはまるで一枚の絵のように。

「パッと見ただけで頭の中に内容が入ってしまう・・・というと、なんだかおかしな話ですが、一文字、一文字を読んでいる感覚はあまりないですね。」

分かりにくくてすみません、と頭を掻きながらすまなそうに謝るミコト。
それに対して、ああ・・・次元が違うな、とカカシは直感的に悟った。
でも、そうでもなければあれだけの量を忘れずに覚えておくなど、非常に困難なことだ。
「おかしな話」と笑ったミコトに、カカシは「へ~」とそっけなく返す。
「それはすごいことだよ」と言うべきか迷ったが、それはミコトにとっては普通なことであって、本人も誉められるようなこととは思っていないはずだ。
もし言ったとしても、

「そ、そんなすごいことではないですよ!!」

「いや、それってほんとすごいよ」

「いえ!」

「いやいや」

「いえいえ!」

「いやいやいや」

「いえいえいえ!!」

「いやいや・・・・・・・・・・・・」

「いえいえ・・・・・・・・・・・・!!!」

・・・容易に想像できてしまう。まさにエンドレス。
綱手様と肩を並べるほどの医療忍者だ、と言われていても、彼はまだ自分を認めていない節がある。
とにかく彼は謙虚なのだ。

――もう少し自信を持っても良いと思うけどネ。

カカシがそんなことを考えていることなど知るはずもないミコトが、苦笑をしながら再び「すみません」と謝った。

2人の間に沈黙が流れる。

なんとなく気まずい空気に、ミコトは別れの挨拶をしようとする。が、しかし。
ミコトはカカシの姿を見た時から気になることがあった。
ミコトの視線はカカシの右手に握られているもの。その視線に気づいていないカカシに、ミコトは思い切って尋ねてみた。

「あ、あの・・・はたけ上忍は何を読まれていたんですか?」

ミコトは先ほどからカカシが手に持っている本が気になってしょうがなかったのだ。ミコトが声をかける前から、カカシはその本を実に楽しそうに読んでいた。(だから自分に気づかなかった、とミコトは認識していたのだった。)
表紙は上手くカカシの手で隠れてしまっていて、ミコトにはどんな本か全く想像できないでいた。本を読むこと自体が好きなミコトにとって、カカシの読んでいる本に大変興味があった。が、尋ねてしまったことをミコトは大いに後悔することになる。

「あー・・・これ?」

右手に持っていた本をカカシはちらりと見る。
ミコトに声をかけられて、慌てて閉じてしまった本だ。
なんとなく、彼には見せないほうが良いような気がした本なのだが。

「・・・興味あるの?」

「え、ええ、まあ・・・?」

ニヤリとした笑み(見えているのは右目だけだが)を浮かべたカカシに、嫌な予感を覚えたミコト。ミコトから尋ねたのだから、興味がないわけないのだが、カカシの怪しげな笑みに思わず語尾が上がる。

「ふ~ん」

カカシは自分がニヤニヤと笑っているだろう事を自覚していた。が、隠す気もない。
恐らくミコトはこのような類の本は読んだことがないのでは?
浮いた話1つない彼は、この本にどんな反応を示すだろうか。

――気になるよねぇ?

色恋沙汰に興味がない・・・と言うよりは幼い彼の反応が。

「す、すみません。僕、お先に失礼しま・・・」

カカシの怪しい笑みに、ミコトは危険だと察知し、別れの言葉を告げて去ろうとするが、それはカカシがミコトの腕を掴んで阻止された。

「ね~ミコト君?」

「・・・・・・はい・・・?」

にんまりと笑ったカカシに、顔を引きつらせるミコト。

「俺さ、さっきまで任務に出ててさ」

「は、はあ、お疲れ様です」

「今、クマが報告書出しに行ってるんだよねぇ」

「猿飛上忍がですか?」

クマで通じてしまう・・・哀れ、アスマ。

「そ! それでクマを待ってる間、暇なんだよね」

だから話し相手になってよ、と言いながら掴んでいた腕を放したカカシに、渋々とミコトは頷いた。何故わざわざ待っているのかはよく分からないが、もとはと言えば、自分からカカシに声をかけたのだ。それに後はもう帰るだけ。付き合うくらい大丈夫・・・・・・だろうか? いやいや、きっと大丈夫・・・なはず・・・とミコトは自分に言い聞かせる。カカシが何かを企んでいるのは、さすがにミコトも気づいていた。

「さっきの質問だけど」

にまにまと笑ったカカシが、ミコトの目の前にその本の表紙を向ける。そこには、

「いちゃいちゃぱらだいす・・・」

ミコトは珍しく一文字一文字確かめるような口調でそう呟いた。
その文字の下には、男女の仲睦まじい絵が描かれている。

「そ! 略してイチャパラ!」

名作だよ、と言ってカカシが本を開いた時に、ミコトは見てしまった。
裏表紙にある、赤い丸に斜め線が入ったマークを。

「そ、それって・・・」

わなわなとその本を指差すミコトに、

「ん? 18禁だよ?」

ミコト君気づかなかったの? とカカシは至極楽しそうに言った。
それはミコトの嫌な予感が見事的中した瞬間だった。

「あの・・・それを読むのでしたら、僕は邪魔だと思いますので・・・」

やっぱりお先に失礼します、となるべく相手を不愉快にさせないように断りを入れるミコトは、内心必死だった。それもそのはず、ミコト――いや、ナルトはまだ12歳なのだから。その本が読めるようになるまでにはまだ6年もある。が、

「いや~ミコト君もこれに興味あるようだし? 一緒に読もうと思って」

カカシがそれを知る由もなく、

「それにクマが来るまでいてくれるんでショ?」

「・・・・・・はい」

ミコトの必死な思いも空しく、逃げ道はあっさりと塞がれてしまったのだった。
諦めて小さくため息を吐いたミコトは、ふと、今のカカシの言葉に首を捻った。

――一緒に読むって・・・

文字通りならば、1冊の本を2人で見るということになる。まあ、それしか方法はないだろう。
ミコトにとって18禁本というのは未知のものだった。内容すら思いつかないものである。表紙からして恋愛ものなのだろう、とは思ったが。
そんな本を火影邸の廊下で、しかも2人で見るというのは・・・・・・かなり怪しい。

――う・・・・・・

その様を想像して、思わず顔を顰めるミコト。
しかし、ミコトの予想に反して、カカシは有ろう事か、

「彼女のしっとりとした白い首筋にそっと」

その本を声に出して読み始めたのだ。
あまりの突拍子のなさと、その内容に固まってしまったミコトを尻目にカカシは続ける。

「唇を寄せ「うわぁぁあ!!」・・・って、もう、何?」

しかし、それはミコトの悲鳴のような叫び声によって中断された。

「そ、それはこっちの台詞です!! 何やってるんですか!?」

「何って・・・音読だけど?」

そんなのも分からないの? というカカシの視線に、ミコトは口を噤んだ。
とりあえず、落ち着け、と自分に言い聞かせるミコト。

――近くには・・・誰もいませんね

内心ホッと息を吐く。
音読・・・考えてもみなかった方法だ。それならば確かに2人で楽しめる(?)だろう。
今のカカシが読んだ、まだ一文にも満たないところだけでその本の内容をだいたい把握したミコトは、

――18禁って・・・・・・

何を想像したのか、突然ボンッと顔を真っ赤に染めた。
そんなミコトをカカシはにんまりと笑った右目で、それはもう楽しそうに観察している。
予想通りの反応、というところだろうか。

「あの、や、やっぱり僕、もう帰ります・・・」

自分の顔がどうなっているのか分かっているのだろう。カカシから顔を逸らしてそう告げたミコトに、

「じゃあ、耳塞いでていいからさ」

と言ったカカシ。それでやっとミコトは自分がからかわれていることに気づいたのだった。
ムッとして顔を向けなおせば、ニヤッと笑ったカカシが狙ったようにまた音読し始める。

「そっと唇を寄せて・・・つ・・・・・・あ・・・」

ミコトは慌てて両手で耳を塞いだが、多少聞こえてしまうのはしょうがない。ついでにギュッと目を閉じる。耳を塞いでいても、本を見せられたら一瞬でミコトは読んでしまうのだ。

――もしかして・・・さっきカカシ先生が尋ねたのもこのためですか!?

自分でカカシにその本について訊いたことをすっかり忘れているミコトであった。



カカシは音読しながらちらりとミコトを窺う。
耳を塞いでいても、結構聞こえるものだ。それを素直に言うことを聞いているミコトは、少々抜けていると言える。

――そこまで嫌がらなくても・・・

目までしっかりと閉じているミコトを見て、フッと笑ってしまう。
一応彼も22歳なのだから。
そこまで嫌がるのは、やはり彼には興味のないこと、苦手なことなのだろうか。

・・・・・・それはそれで心配である。

カカシは音読を止めて、何ともいえない眼差しでミコトを見つめるが、ミコトがそれに気づくことはなかった。

そんな2人にだんだんと近づいてくる1つの気配が。
カカシはすぐにそれに気づいたが、ミコトはまだギュッと目を瞑り、耳を塞いでいた。ミコトはどうやら、気づいていないらしい。

ニヤリと笑ったカカシ。

おもむろにカカシは持っていた本のページを捲る。それは何かを探しているようで。
そして、あるページでその手を止めると、カカシは少し大きめに声をかけた。

「ミコト君」

「・・・・・・」

しかし、全く反応しないミコト。かなりしっかりと耳を塞いでいるようだ。
ミコトが耳栓などを使っていないのをカカシはしっかりと見ている。医療を学んでいるだけあって、耳をしっかりと塞ぐコツでも知っているのだろうか。
呼びかけではダメだと判断したカカシは、ミコトの肩にポンと手を乗せる。カカシの顔は先ほどからずっとニヤニヤしっぱなしだ。
肩を叩かれてハッとしたミコトは、

「あ・・・猿飛上忍がもうすぐいらっしゃいますね」

目と耳を塞いだままホッとしたように呟いた。カカシはその間にも、開いておいたページがミコトにしっかりと見えるように彼の顔の前にセットする。と、

「じゃあ僕はしつれ・・・い・・・・・・」

ミコトが紡いだ言葉は最後まで発せられることはなかった。
今のミコトはもう、耳から手を離し、目もばっちり開いている。そして、その青い目に映るのは、しっかりと開かれた本の文字たち。

その場を静寂が支配した。

カカシは依然としてニヤニヤと笑っている。が、ミコトは固まったままだ。
ただ青い目に、文字の羅列が綺麗に映っている。
ミコトの見ているページ、それはこの本が18禁である所以のページだ。先ほどカカシが音読したところなど、今のページに比べればまだまだである。それでも、あんな反応したミコトなのだから、さぞかしすごいことになるのだろう、と思われた。が、しかし。

――・・・大丈夫・・・か?

刺激が強すぎたのだろうか。
本を見つめているミコトは瞬き1つせず、無表情でそれを眺めている。まるで人形のように。さすがに心配になってきたカカシは、本と一緒に怪しげな表情も引っ込め、ミコトの目を覗き込む。すると、やっと目を閉じたミコトは、

「フフッ」

何故か笑った。

――あれ?

予想外の反応に、思わずカカシは目を見開く。
ミコトは確かに本を見ていた。文字を追っている、という感じではなかったが、彼は見ただけで読んでしまうのではなかったのだろうか。
首を傾げたカカシに、ミコトがニコリと微笑む。

「じゃあ僕、失礼しますね!」

歌でも歌いだしそうなミコトは、そう告げると、しっかりとした足取りで去っていく。
一体彼に何があったのか。

「・・・・・・・・・」

カカシは1人、呆然と立ち尽くし、ミコトの去っていった方向を眺めていた。



ぼんやりとしばらく眺めていると、待っていた人物がこちらに向かって歩いてきているのが視界に入り、その人物が目の前で止まる。と、カカシは口を開いた。

「ねえ」「おい」

しかし、口を開いたのはカカシだけではなかった。

「おい、お前・・・ミコトに何かしたのか?」

一拍置いて先に声を出したのはカカシの待ち人、クマこと猿飛アスマだった。

「ミコト君・・・どうだった?」

「やっぱりお前に関係あるのか・・・」

「ま、まぁね・・・」

ハハッと乾いた笑いがカカシの口から漏れた。アスマは疲れたようなため息を吐くと、先ほど通ってきた廊下の方に顔を向ける。それは自分が通ってきた廊下だが、ミコトが去っていった廊下でもある。そこで会ったミコトは・・・

「・・・歌を歌ってたんだ・・・」

「・・・・・・歌?」

今度はカカシのほうに顔を向け、アスマは大きく頷く。
大きな声ではないが、確かに歌を歌っていたのだ。その歌が、

「あれは・・・キラキラ星だな・・・」

小さい頃に誰もが1度は聞いたことがあるだろうキラキラ星。

「お前、本当にミコトに何したんだよ」

歌いながらも、アスマの横を通り過ぎる時はしっかりと挨拶をして去っていったミコトは、足取りはしっかりしているのに、何故か酔っ払いのように見えた。
あんなミコトは見たことがない。
ある意味恐怖体験をしたアスマが、訝しげな眼差しをカカシに送れば、

「ど、どうしよう・・・ミコト君大丈夫、かな?」

カカシは大いにうろたえ始めた。こんなカカシを見るのは面白いかもしれない。
とりあえずミコトに何をしたのか、アスマが再び尋ねれば、

「イチャパラ読ませただけなんだけど・・・」

「・・・それだけか?」

「ん。それだけ」

「本当にそれだけか?」

「ほんとほんと」

「そう・・・か・・・・・・」

何と言えばよいのか。
結局原因はイチャパラらしい。が、それを読んだだけであのようになるとは。
ミコトにとって18禁は酒のようなものらしい。

「なんでそんなことしたんだよ」

「ミコト君が、興味がある・・・って・・・・・・」

アスマが睨めば、カカシは視線をさ迷わせる。カカシの言ったことは確かに間違っていないのだが、その本を読むことをミコトが嫌がっていたのはカカシも分かっていたはずだ。
しばらくその状態が続くと、カカシは観念したかのように、口を開いた。

「いや~ミコト君って、からかい甲斐があるじゃない?」

「・・・・・・お前は子供か?」

あまりにもくだらない理由に、アスマは呆れてしまう。今カカシが言ったことは本当だろう。しかし、きっとそれだけではない。
ミコトの容姿が問題なのだ。
そう、四代目そっくりのあの容姿が。
ミコトの容姿があれでなければ、カカシがここまで他人と関わろうとはしないだろう。

「だってさぁ・・・」

アスマのつっこみに、いじけたカカシがぶつぶつと呟いている。そろそろ何とかしないと、大の大人がいじける姿は見ていて気色悪い。そしてウザイ。

「ま、ミコトは大丈夫だろ!」

本当は少し心配ではあるが、18禁を読んだくらいなら大丈夫だろう。うろたえるカカシ、という珍しいものを見ることができたアスマは、上機嫌でカカシの背を叩いた。それによってジロッと睨むカカシは無視することにする。

――そう言えば、明日は下忍の選抜試験だな。

ふと、アスマは今日会った3人の顔を思い出した。いのシカチョウのあの3人。
あの3人なら下忍になること間違いないだろう。が、問題は、

――こいつの班だよな・・・。

チラッと見たカカシはぶつぶつと何かを呟きながら背をさすっている。少し強く叩きすぎただろうか。まぁ、そんなことは別に良い。

アスマは小さくため息を吐く。
カカシの担当した班が下忍になったことはない。確かに、下忍にふさわしくなかったのかもしれないが、“全て”というのはおかしいだろう。カカシが意図的に落としているとしか考えられない。カカシがそんなことをする原因は分かっているが。
カカシは部下を持つ気がないのだ。
何故持つ気がないのかは分からないが、そんなカカシを自分が何とかしようとは思わない。

――めんどくせーからな。

それもあるが、恐らく自分ではカカシを変えることはできない。なんとなくだが、アスマはそう思っている。何とかしようと思ったこともないが。

「お前、明日は遅刻すんなよ」

とりあえず釘だけは刺しておく。
カカシはとにかく、遅刻することが多い。今日だって遅刻したらしい。
その原因も分かっている。が、それも何とかしようとは思わない。

――めんどくせーからな。

これもその一言で片付けられる。
アスマの言葉に、カカシの背をさする手が止まった。そして、

「あ、おい、飲みに行くんじゃなかったのか?」

突然歩き出したカカシの背に、アスマが声をかける。
わざわざカカシがアスマを待っていたのは、それが理由だった。
これから部下を持つかもしれない(ほぼアスマは確定だが)自分たちに、飲みに行くなどというそんな時間がしばらく取れなくなるのは明らかだ。だから、今日は一緒に飲もうと約束していたのだ。とは言っても、明日があるためそんなにたくさん飲むことはできないが。
アスマに声をかけられたカカシは、立ち止まり、

「そんな気分じゃない」

背を向けたままそれだけ呟くと、また歩き出し、その背は消えていった。



「・・・・・・フー・・・」

1人残ったアスマは頭を掻きながら息を吐く。
カカシに明日のことは禁句だったようだ。“明日”と言うよりは、下忍選抜試験のことなのだろう。

「飲みたかったのによぉ」

誰もいない廊下に、その呟きは溶けて消えていく。こんな時はタバコを吸うのが一番だ。が、なんとなく吸う気にもなれず、アスマはゆっくりと廊下を歩き出す。
このままだったら禁煙できそうだ、なんて考えながら。

――あー、どうにかならねぇかなぁ。

禁煙のことはさておき、アスマは先ほどのカカシの態度にだんだんとイラつき始めた。
自分でどうにかする気はないが、あいつが変わってほしいとは思う。
人を育てる楽しさ、難しさ。
人を育てると言うことは、教えるだけでなく、教えられることもたくさんあって。とても大変だが、その分得るものがある。
とにかく、カカシも部下を持つべきなのだ。
もちろん試験に合格できる生徒でなければ無理だけれど。
カカシは良い担当上忍になるだろう。何せ四代目の部下だったのだから。

――確かカカシの班は・・・

階段を上りながら、カカシの担当する班のメンバーを頭の中から引っ張り出す。
いののライバルに、うちは一族の末裔、そして、

――うずまきナルト、か・・・

さっきまでのイラつきはどこへやら、アスマはフッと笑った。

明日は何か起こりそうだと、そんな予感がする。





「おー、星がきれいだ」

ゆっくりとした歩みでたどり着いた先は、火影邸の屋上だ。
アスマが見上げた先には、やわらかな光を灯して、こちらを見守っている幾つもの星たち。

――星といえば、ミコトだよな。

あの時のミコトを思い出して、思わず微笑む。
酔っ払いのようだったが、とても幸せそうに「キラキラ星」を歌っていたミコト。
それを見た時は、唖然としてしまったが、今思い出せばとてもあたたかいものだった。

――でもな・・・

アスマはブッと吹き出した。
ミコトの歌う「キラキラ星」はどこか調子がずれていたのだ。音痴・・・とまではいかないが、どこかおかしい「キラキラ星」。

・・・・・・このことは自分の胸にしまっておこう。

気分が晴れてきたアスマは、スッとタバコを1本取り出し、火をつける。それを口にくわえれば、酷く落ち着いている自分に苦笑をもらす。

短い禁煙だった。

やっぱり、タバコがないとダメなようだ。


「・・・うまいな」


珍しく、そう思う。
言葉とともに吐き出された煙が、夜空へ溶けていった。












あとがき2

ここまで読んでくださって本当にありがとうございます!!
あの・・・大丈夫だったでしょうか? カカシさんの台詞に多少如何わしいことを書いてしまったのですが・・・気分を害してしまった方がいらっしゃたら、申し訳ございません。私の書くものなどたいしたことはないと思いましたので、この話を書くのに少し悩みましたが、書かせていただきました。

これから本編を進めていくため、次の番外編はまだまだ先になると思いますので、おまけを書けたら書こうと思っています。
これから九尾とナルトが密接に関わってくる予定です。楽しみにしていただけたら幸いです。


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