「う、ううん……」
朝の陽ざしの中、高町なのはは微睡んでいた。
「ううん……ゆー……の……くん」
幸せそうな寝顔で名を呼ぶ。先に起きていたユーノ=スクライアは寝たふりをしながら、それを見ていた。
(僕の名前を呼んでる……なんか幸せそうだけど良い夢を見ているのかな?)
もう少し見ていよう。幸い、時間はある。だが
『起きなさい!マスター!なのは!朝ですよ!』
机の上の赤い球が叫んだ。何故かハイテンションだった。
「にゃぁぁぁぁぁぁ!」
「うわっ!」
なのはとユーノが飛び起きた。
『おはようございます、二人とも。さくばんは おたのしみ でしたね』
「うー、おはようユーノ君、レイジングハート……」
「おはようなのは、レイジングハート。レイジングハート……、一体何処からそんな言葉覚えてくるのさ。あと何でそんなにテンション高いの?」
ユーノがレイジングハートに問いかける。
『暇でしたのでそこらからwebで。これ位全く問題ありません』
ユーノは頭を抱える。
「ねえレイジングハート……。君、もう少し落ち着いた性格だったよね?」
『いえいえ実は多少は遠慮していたのですよ。昨日の話を聞く限り、私とも大分付き合いが長いのでしょう?なら別に構わないかと思いまして』
「確かに、あっちでは今の性格の方が近かったけど……徐々にああなったのだと思ってた……」
なのはが呟く。
『それで――あれからどうなりましたか?』
レイジングハートが真面目に聞いてくる。ユーノも真面目に返す。
「うん。これからなのはと、なのはの家族たちに協力してもらってジュエルシード探しを続けることにした」
『ふむ……なのはさんはともかく、御家族もですか?魔法の資質が?』
「無いけれど、彼らなら大丈夫。……広いフィールドでフェイト――昨日の魔導師――と接触したりしない限り。狭い所なら、墜とせる」
『……それは本当に非魔導師ですか?』
呆れたようにレイジングハートが返す。
『それで、私はもしかしたらなのはさんに使われるのでしょうか?』
レイジングハートが少し寂しげに聞く。
「うん。……なのはの力になって欲しい」
『……わかりました。今までありがとうございました、マスター』
それを見たなのはは、前回は分からなかった彼と彼女の絆を知ると同時に、少し嫉妬した。
「ねえ、ユーノ君私は別に――」
「いいから。レイジングハート、なのはを頼む。僕の目が届か無い時に彼女が無茶をしようとしたら止めて欲しい」
それは、何時かも頼んだこと。それを聞いたなのはは罪悪感が湧いてきた。過去の、自分に。
『はい、エルダーマスター。それではマスター、起動パスを。……分かりますか?』
「あ、うん!分かるよ!」
少し呆けていたが、覚えているのでそう答えた。
そして唱える。
我、使命を受けし者なり
契約のもと、その力を解き放て
風は空に、星は天に
そして不屈の心はこの胸に この手に魔法を レイジングハート セットアップ
『 ―――Stand by Ready, Set up.』
そして、なのはは久しぶりに彼女を握ったのだった。
『成程……これは凄いですね』
「そうだよね」
「そ、そうかな?」
照れくさそうに久しぶりにバリアジャケットを纏ったなのはが言う。
『ええ。単純な魔力量だけでなく、私と相性もばっちりです。……エルダーマスターが譲り渡した理由が分かりました』
レイジングハートがそう答える。
『そして!これでジュエルシード格納庫からデバイスへと戻ることができます!』
「そ、そんなに気にしていたんだ……。ごめんねレイジングハート」
『い、いえ。エルダーマスターが悪いわけではありませんけれど』
フラストレーションが溜まっていたのか、そう言うレイジングハート。割と本気で謝るユーノ。あわててフォローするデバイス。
「まあ、もう一度頼むよ。なのはの力になってあげて欲しい」
『了解しました、エルダーマスター。これからよろしくお願いします、マスター』
「こちらこそ、またよろしくね、レイジングハート」
こうして、再び不屈の心は高町なのはのデバイスとなったのだった。
「それで、なのは時間の方は大丈夫?」
「えっと……うん、ちょうどいい時間だね」
そう言ってなのはは着替え始めた。
「ちょ?なのは、僕がいるんだよ!?」
ユーノが焦る。
「別に今さら、だよ。……昨夜も言ったけど、本当に、ユーノ君になら襲われても構わないし……」
赤くなりながらそう切り返すなのは。そのままほらほらとユーノに見せつける。
しかし、むしろユーノはそんな露骨な態度に冷静になったようだった。
「うーん……ごめんね、なのは。流石にそういう気分にはならないなあ」
「えー何で何で!?」
ちょっとショックを受けたように言うなのは。
「だって……昨夜も言ったけど、僕百歳越えだったんだよ。そして今は一桁。はっきり言って性欲無い。……そういった趣味も無いし」
がーん、とショックを受けるなのは。それを見て、流石に言い過ぎたか、とユーノはフォローを入れる。
「えっと、でも、もう少し年を取ればきっと肉体に引っ張られて出てくるよ!」
「……いいもんいいもん。今回はフェイトちゃんよりもエロい体になってユーノ君から私を襲わせるもん……」
でも、いじけていた。とりあえず、なのはの目標がまた一つ増えたようだった。
その後、朝ご飯を食べて、ユーノの見送りを受けて学校。その道中のバス内。なのはは寝ていた。それを見ている親友二人。
「うにゃー……えへへー……ゆーのくーん……」
「ねえすずか。あの寝言で偶に出てくるユーノって誰なのかしら?」
「うーん、私も知らないな……。昼休みにでも聞いてみようか」
「そうしましょう」
余談だが、二人はそれをえらく後悔することになる……主に糖分的な理由で。
「えへへーそれでね、ユーノ君はねー……」
「もういい!もういいから!」
「やめてなのはちゃん!!!」
「何で?聞いてきたのはそっちだよ?だから全力全開で惚気させてもらうんだから」
「うう……」
「聞かなければよかった……」
でも二人は知らない。まだ良かった方であるということを。
……もしユーノ本人がいたらなのはがどれだけ暴走するかを、二人は知らない。
「えへへー、ゆーのくーん」
某マンション。
「う……いてて」
「ご、ごめんねアルフ……」
フェイト=テスタロッサは自分の使い魔の様子を見ていた。外傷の様なものはなさそうだが……身体の中か?
「別にフェイトが悪いんじゃないよ」
「うん……。でもわたしがもっとしっかり治癒魔法ができたら」
昨晩、ジュエルシードを手に入れようととある少年と交戦。結果だけ見ればジュエルシードは上手く手に入れることができた。ただ……
「だけど昨日のあいつ、強かったね」
「うん……」
戦闘は完敗だった。何とか逃げるのには成功したが、大きな攻撃をした際に、たまたま結界に少女がいて、敵がその少女を庇ったから逃げられたに過ぎない。
「……悔しい」
フェイトは思う。自分は強いと思っていた。だけど、結果は手も足も出なかった。
「フェイト?」
「……何でもない」
珍しく、母親絡みのこと以外に感心を向けているフェイトをアルフは珍しく思った。
「だけど、何であの場に人がいたんだろうね」
「多分あの子が魔力を持っているんじゃないかな?多分それで侵入できたんだよ」
「ああ、なるほど、それもそうだね」
アルフは納得する。それから、方針の確認。
「それで、これからどうするんだい?」
「勿論続けるよ。アルフは良くなるまで休んでいて」
しかし、アルフは反論する。
「だけど、もしまた昨日の奴が出てきたらどうするんだい?」
「平気だよ。非殺傷とはいえまともに食らったんだから、しばらくは戦えないはず」
フェイトがそう言う。アルフも納得がいったようだった。
「なら……大丈夫か」
「うん。大丈夫だよ」
しかし彼女達は知らない。あの場に入り込んできた少女。彼女も魔導師であり、どのような魔導師であるかということを。
「それじゃあ少し眠るよ。フェイトも少し寝たら?」
「うん……私も少しだけ寝るよ」
だけど、今は休む時間。彼女たちは眠り始めるのであった。
夜、高町家。八神はやてはそれを呆然と見ていた。
「えっと、ユーノ君、身体良くなっていないでしょ。だから、あーん」
自分の親友(だと少なくとも自分は思っている)宅に来たら、フェレットがいた。思わず抱きしめると、凄い表情の親友がやってきて、それを取られた。
何故?、と疑問を抱いていると、そのフェレットと親友の家族から魔法やらなんだとファンタジーな説明を受けた。……それ以上に驚いたのは、親友がそのフェレットを自分の婚約者と言ったことだ。
混乱していたが、夕食時、親友の母親の
『ご飯くらいは、人の姿で食べましょう?』
という言葉でフェレットが人になったのを見て、一応は納得がいった。ただし何処の馬の骨が親友を持って行ったんだ!、という気持ちもあったが。……それに遭遇するまでは。
「えっと、なのは……。それくらいは大丈夫だから……」
「……嫌なの?」
寂しそうにしている、親友。それを見て焦る(元)フェレット。
「う……。お願い、します」
「うん!はい、あーん」
「うわー……」
甘い、甘い。今日の生姜焼き、砂糖なんぞ入れたかな?そんな現実逃避する。
「えへへ。おいしい、ユーノ君?」
「うん、美味しいよ、なのは」
「良かった!今日のご飯はね、はやてちゃんと作ったんだよ!ね、はやてちゃん」
あ、忘れられていなかった。ちょっとほっとする。
「うん。……ああ、そういえば自己紹介がまだやな。はじめまして、八神はやてや」
「……うん、はじめまして、ユーノ=スクライアだよ。えっと、八神さん?」
「はやてでいいで」
「じゃあ、僕もユーノで」
「うん。これからもよろしくな、なのはちゃんの彼氏のユーノ君」
「こちらもよろしくね、はやて」
えへへー、ユーノ君は私の彼氏……えへへー、などと言っている親友を見ながら、なんだかんだで彼との付き合いも長くなりそうだとはやては思うのであった。