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[2377] 魔法の世界での運命 (FATE×ネギま)
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:e7f442ff
Date: 2008/02/11 12:05
 〔??? START〕

 
 歩き出してから止まることは無かった―――いや、止まることなど許されない。
 
 選んだのは立ち止まることを許されない、立ち止まった時は自らの生き方を否定すること。
 ならば立ち止まることなく前に進むしかない。

 前に進むにつれて環境は変わっていく。
 ある者は近づき、隙を狙って殺す為。ある者は暗殺の為……
 殺害の対象になったことを上げれば数え切れない。
 
 それが裏の世界だろうが表の世界だろうが関係なく世界から否定されることになった。

 何度死にかけ、信用した人間に裏切られようとも、受け継がれた理想を実現させることが無理なのではないかと何度考えたことか……
 それでも……最初に選んだ道を変えず、進んでこれたのは彼女との約束があったからかもしれない。

“アンタは私がいなかったらダメなんだから、私が行くまで死ぬんじゃないわよ。
 今はまだついていくことはできないけど、力をつけてアンタを追い抜いて絶対に私を追いかけるようにさせてあげるからね。
 ……アンタだけに辛い思いはさせないわ。
 いい? 士郎。私はアンタをハッピーにさせることが夢なんだからね。
 だから士郎もみんなを救う正義の味方を諦めるんじゃないわよ。途中で投げ出してアイツみたいになったらどこに行ったって見つけ出してガンド打ち込んであげるんだから。
 約束ね、士郎―――”

 
 あんなに綺麗な笑顔で言われたんじゃ是が非でも諦められないじゃないか。
 いや、諦めるつもりはないのだが……見つけ出してガンドを打ち込むなんてことは遠坂なら本当にやりかねない。
 あれだけはどれだけもらっても慣れるどころか、月日を重ねるごとに威力が増ものだから慣れることがないんだからな。

 だが、正直な所、遠坂が俺と一緒に行動することはいい気はしない。
 俺は協会から粛清命令が出ているどころか、表の世界からもテロ犯として国際指名手配されている。
 俺はもうこれについてはなんとも思わない。それだけのことをしてきたのだから。
 戦争に介入、されに一般人に魔術を見られることも多々あった。
 
 そんな存在になってしまった俺に、時計搭でそのまま魔術の研究をしていれば魔法にまで手が届くかもしれない遠坂がついてくることはマイナスにしかならないのは明らかだ。

 だが……それでも遠坂が俺についてくるというならば、その時は遠坂に俺がついていくのではなく逆に俺についてこさせてみたい。
 いつも遠坂がリードしていたのだから、このぐらいのわがままは許されるだろう。
 遠坂がそれを良しとするかはわからないが。


 遠坂と共に倫敦に渡り二年が過ぎたころに俺は時計搭から離れる。
 当初、俺は時計搭で魔術を学ぶのではなく、登録してフリーランスとして裏の仕事をするようになった。
 
 
 二年間は時計搭で小さな依頼をこなし、徐々に強くなっていく。そしてせめて自分の身を守れるぐらいには強くなれたと思っている。
 ……自分の身ひとつ守れないというのは正義の味方以前の問題だ。

 普段使う武器は干将・莫那……戦い方も認めたくは無いがアイツそのもの。


 そして一般人に魔術を見られ、粛清を受けることになったのは時計搭を離れて三ヶ月も経っていなかった。
 だが、俺はそのこと自体に後悔はしていない。そうしなければ……俺が守ろうとした人は死んでいたのだから。


 俺はどこにだって行った。
 内戦、戦争……人も射った。最初は殺すことは無かった。

 だが、そんな生易しい行動がいつまでも通じる世界ではない。

 俺が絶望するのにそれほど時間はかからなかった。

 人を殺した……堕ちた魔術師で協会からも粛清される予定だったのだが……それでも俺が人を殺したということに変わりはない。
 殺さなければ殺される。そのような世界だとわかっていたはずなのに……

 だが、俺は立ち止まらなかった。
 それで諦められるはずもなく、遠坂との約束を守り……オヤジの夢を叶える為に……

 
 戦い続ける。
 時に魔術師、時に死徒、時にこの世界に迷い込んだ幻想種……
 殺したくなくても殺さなければいけないというのは……辛かった。

 何人もの人を殺した。それによってどれだけ血を被ったかもわからない。

 
 日本を離れて7年。
 あの戦争のと時からは考えられない程、俺は強くなった。
 27の魔術回路は全て開き、魔力は多くなり、スキルといってもおかしくは無い力を得た。
 だが、その代償は白髪に……アイツほどじゃなくとも黒くなった肌。
 この姿を見たら遠坂は……なんて言うだろうな。


 そして俺は封印指定を受ける。
 きっかけは俺を粛清する為に協会から派遣された魔術師が来たときの事。

 その人たちは素晴らしい才能と能力を持っていて、俺は傷つき、相手はほぼ無傷。
 弓で射るにしても森の中、俺に攻撃する手は無く、相手は森の木ごと俺を吹き飛ばそうと魔術を放ってくる。

 俺は賭けに出た。
 魔力は……遠坂に及ぶわけも無い。だが、それでも十分だろう。
 遮蔽物が邪魔なら……取り払ってしまえばいい。

 それを使った時、粛清に訪れた魔術師の表情は驚愕。それに畏怖の念を抱いていただろう。
 
 その眼に見るは荒野。
 荒野に突き立つ無限の剣。
 魔術師は語る。
 最も魔法に近い魔術。禁忌の中の禁忌、奥義の中の奥義、魔術師の到達点の一つ 名を“固有結界” 術者の心象世界を現実に侵食させ、現実を現実ならざるものに変化させる能力。

 俺の固有結界の名は“無限の剣製” 一度オリジナルの剣を見ればそれを能力ごと複製することができる。

 だが、俺の魔力では良くて数十秒。それまでに勝負をつけなければならなかったのだが……それでも十分だった
 
 魔術師は倒れ、俺は満身創痍ながらも生きている。
 ただ甘かったといえば、魔術師を一人たりとも殺さなかったということだろうか。
 それによって俺が固有結界をもっていることが明らかとなり、封印指定を受けることになってしまった。
 粛清と大して変わりはないが、厄介なことに変わりはない。


 そして……運命の時は訪れる。

 俺は堕ちた魔術師……いや、死徒と言った方がいいだろう。
 死徒に成ったばかりで力は俺の方が上、戦いの末、そいつを灰にするのにも時間の問題の問題かと思ったのだが……
 死徒は俺から逃げた。俺よりも速く、とてもではないが追いつけそうになかった。

 死徒が向かった先には……俺が数日前に立ち寄った村。
 その村の人々は俺が犯罪者であることも知らずにとても良くしてくれて、人の好い人達ばかりだ。
 小さな村だがそれでも笑顔が絶えず、とても争いとは無縁。
 
 それが今、崩れようとしている。
 死徒が力を失っている時に必要なもの……それは血。
 今、あの村で死徒が村人を襲いその血を啜れば……瞬く間に村は死都と化すだろう。

 足を強化しても追いつけない、どうしても追いつけない。
 もう死徒は村に入る直前。惨劇の魔の手は村人の首元に迫っている。

 力が欲しい……村人を守れる力が必要だ。
 今の俺の力では守れない、それどころかさらになる犠牲者を生み出してしまうかもしれない。
 
 力が……力があれば……!!


 その時、声が聞こえた。

 俺の周りには誰もいない、視界の先には村に入る死徒だけ。
 だが、その動きが止まっているように見える。

 姿無き声は俺に囁く。

 その声の主は考えるまでも無い。
 そしてそれに対する答えもすでに決まっている。

「契約しよう。
 我が死後を預ける。
 その代わりに力を授けてもらいたい。この身が滅びるその時まで、人々を救う力を」

  
 契約が完了しただろう瞬間、魔力が俺の身体に溢れ出す。
 そして身体も羽の様に軽い。


 死徒は滅びた。
 被害は無い、一つの事実として俺が死徒を殺す場面を村人に見られたことぐらい。
“人殺し” “出て行け” 憎しみの篭った声は俺に突き刺さる。
 だがそれでも構わない。俺は村人を救えた、それだけで俺には十分だ。


 村を出て行き、改めて確認する。
 この身に与えられた魔力はもはや人間の域を超えている。
 身体能力も契約以前とは比べものにならない。

 契約してから数日後、俺は本物の化け物に遭遇することになった。
 眼は真紅、威圧感は一般人がいたならば卒倒していることだろう。
 手には杖、紳士のような格好をした化け物。

「ふむ、久々に興味を持てる者に出会ったものだ。
 この現代で英霊となるか……
 ワシはキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグという。魔術師ならば知っておるだろう?」
 
 ……知ってるも何も第二魔法の担い手にして遠坂の家の大師父じゃないか。
 だが、名乗られたからには名乗り返すのが礼儀というものだ。

「衛宮士郎。
 本当はあなたの弟子の弟子です」
「ほう、ワシの弟子の弟子とな?
 はて、このような弟子を育てられる弟子がおったかどうか……
 ……まさかとは思うがエーデルフェルトではなかろうな? 確かに優秀ではあるが代々、性格に難ありだ」

 そこは同意した方がいいのだろうか?

「違います。
 あなたが立ち会った儀式にいた家の弟子です。大聖杯、と言えばわかりますか?」

 大聖杯と言った瞬間、ゼルレッチ老は目を見開き、大笑いする。

「はっはっはっ! 
 そうか、まさかあの永人の末裔……いや、娘の方か?
 まぁ、どちらでも構わんか。
 して、現代の当主の名は」
「遠坂凛。
 今は時計搭にいるでしょう。
 もしかするともうすぐ魔法に手が届くかもしれません。それほどの才能と惜しむことなく努力する」

 そうか、とゼルレッチ老は頷き、少々俺の方を見て……貫く様にその真紅の眼で俺を見据える。

「さて、衛宮士郎よ。
 お前は英霊となり、そして今なにを望む」

 何を? そんなことを決まっているだろう。

「救いを求めるのならどんな状況であろうとも救うことの出来る存在に……
 俺は正義の味方になる」

 俺がそう言うと予想を裏切られたことか、もしくはあまりにバカげたことを言った俺に呆れているのか……どちらとも取れない表情をしている。
 
 だが、それもすぐに笑いに変わってしまった。

「はっはっはっはっ! 
 一日にこれほど笑わせてもらったのは何百年ぶりだろうか、それも思い出せんわ。
 そうか正義の味方を望むか……だが衛宮、お前の理想とするものは英霊となった今をもってしても困難な道。
 その道を踏み外すことも無いとも言いきれんが?」
「無い。
 これは俺が選んだ道、そして俺にはこの道以外に望むこともなくこれだけを歩いていきます」

 これだけは断言できる。
 約束したのは一人じゃない。オヤジも遠坂とも約束した。
 この言葉に嘘は無い。

「ふむ……お前のようなバカ者が最後の魔法を成し得るのやもしれんな。
 うむ、決定だ。
 お前に宿題を出す」
「なんでさ?
 俺はあなたの弟子じゃないんですけど」
「遠坂の弟子ならワシの弟子も同然。それに宿題を出さないことがあるだろうか……いや無い!
 それと、これを嵌めろ」

 出されたものは指輪?
 指輪を手にとってそれを一応嵌めては見たが。

「俺は同性結婚するような趣味は持ち合わせてないんですが……
 ん? 何か違和感が……」
「そんな阿呆なことをいえるのであればいいだろう。
 それは魔力の保有量を下げ、かつ身体能力を下げるものだ。
 魔力を強制的にいつまでも一定量を世界に放出させ続けるものだ。英霊のように桁外れの魔力では半分程度持っていかれるだろう。
 本来ならば新たな弟子の宿題だったのだが、お前にはちょうどいいだろう」

 魔力がホントにさっきより半分なくなっている!? それでも遠坂よりも多いが……身体能力が下がっているかは今はわからない。
 だが、そんなものすぐに外して……!?

「外れない!?」
「それにはあるステッキの力を応用している。
 遠坂の弟子であるのなら見たことあるのではないのか? 赤い杖で先端に星と羽がついているのだが」
「そんなあくしゅみな物は知りません。
 だから早くこの指輪外してください」
「安心するがよい。
 お前が真に必要になったときのみ外れるしておいた。
 さて、そろそろ衛宮を異世界に飛ばずとしようか」

 聞いてないし。それにそれっていつ外れるか俺にもわからないってことじゃないか。
 ん? それに今聞いてはいけないこと聞いたような気が……

「いったい何するつも……ってなにこの穴!?」
「言っただろう、お前を異世界に飛ばすと。
 そうでもしなければ固有結界を持つお前のことだ。封印指定でも受けているだろう。
 それに捕まってしまってはワシの宿題の意味もなくなってしまう。そこでお前を異世界に飛ばす。
 その方がおもしろいだろうしのう」

 聞こえたぞ。何がおもしろいだろうだ。
 俺は全くおもしろくない。普通に考えて……
 ってこの人物は気に入らないからって最初の真祖倒したんだっけ。普通なんて通じないか。
  
 だが、それとこれとは話が別だ。

「ちょっと待っ「加えて宿題の内容じゃが」聞けよ」

 もう敬語もあったもんじゃない。

「衛宮よ、お前のその自分を犠牲にしてすべて解決しようとする考えを改めよ。
 お前が死んで助けられたものはお前の死を背負うことになるのだからな。
 ワシの言えることはそれだけじゃ、それ以上は衛宮自身で考えることだな。
 
 それと……お前に渡した指輪はもう一つあってな、これは遠坂の娘に渡すとしよう。
 この指輪とお前の指輪にはラインが通しておる。遠坂の娘が魔法に届きそのラインをたどり、お前のいる世界につなぐことができて、そこにいるお前をこの世界に戻すことが出来た時が宿題の終了の時じゃ。
 ただし、それまでにお前がこの宿題の意味に気がつくことができればの話じゃがな」

 そんな……これはもう拒否権などないな。
 逃げようにもこの人が相手なら逃げられないだろう。

「遠坂の娘に伝えることはあるか? 伝えよう」

 伝えること……俺は強くなった? 違う。
 研究がんばれ? 違う……

「……俺は諦めてない。
 それだけを伝えてください」
「承った。
 心掛けよ衛宮。我が宿題は過酷にして苛烈。
 廃人になりたくなければ努力を怠るでないぞ。遠坂の娘を信じて待つがよい」

 そして俺は異世界に続く穴に落ちていく。


 そして穴から出て最初の景色は……散らばる星、白く光る満月。
 あぁ、とても綺麗だ。

 そして……浮遊感?

「っておわぁっ!?」

 眼下200メートル先には地面。
 俺は今、空を落ちている。あのクソ爺……なんてところに落としてくれる。
 
 それにしても、こんなこと体験したことも無いのにすごいデジャヴを感じるのは気のせいだろうか。

 ともかく、このまま落ちれば死ぬだろう。

「同調・開始」

 俺は足を強化して衝撃に備える。


 木を何本か折って俺は着地することに成功。
 だが結構痛かった。

 さて……ここはどんな世界なんだろうな。
 幻想種だけの世界とかは勘弁願いたいが、先ほどの空からの景色でそれはないと判断できる。
 ここは森の中でこの向こうには明かりが見えた。あれは生活している光……と、そう判断していると人のような気配が近寄ってくるのが感じ取れた。
  
 足音から数はおそらく二人、こちらに敵意を向けている。
 だが……足音が軽いな。


「まったく、なんだってこんなところに侵入者が。
 どうせなら私の家から離れた所に現れろというものだ。こっちの迷惑も考えろ」

 愚痴りながら姿を現したのは金髪の小さな子供と……ロボット?

「む、貴様か。いきなり結界の内部に現れたのは。
 運が無かったな。貴様がもう少し離れた所に現れたのであれば私の怒りを買うことも無かったかもしれんのに。
 行け、茶々丸。死なん程度に痛めつけろ」
「了解しました」

 いきなり物騒だな。
 それにしても何でいきなり攻撃される?

 茶々丸と呼ばれたロボット風な女の子は俺に対して突きを繰り出し……む、動きが少々鈍い。
 そうか、これが指輪の効果か……
 おそらく3分の1ほど動きが制限されているな。

 突きを避け、避けることを予想していたのだろうかそこから裏拳に変わる。
 それを頭を下げて避けたのだが……木に裏拳が当たるとミシッと音を立てる。
 昔なら絶対にもらいたくなかったな。今なら耐えられるだろうが。

「ふん、なかなかやるようだが……運が悪かったな。今夜の私は魔力を補充していたのでな。
 リク・ラク・ラ・ラック・ライラック。
 氷の精霊17頭。集い来りて敵を切り裂け。魔法の射手・連弾・17矢!」

 くっ! 魔術が数で17……避けきれないことは無いが動きに不安がある。
 ここは叩き落とす。

「投影・開始」

 その手に干将・莫那を投影。
 それで確実に避けられるもの以外を叩き落す。

「ちっ! アーティファクトか!?」

 ? 意味はわからないがチャンスだ。
 俺の後ろに小さな空間があることを見つけ、そこに移動する。

「逃がすな茶々丸!」

 予想通りこちらに近寄ってくる。好都合だ。

 俺は相手の視界から外れて干将・莫那を消して新たに弓を投影する。
 つがえるのはさすまた状になった矢。
 それでまずロボット風の女の子の動きを止める。

 距離は30メートル。射程距離としてはいいだろう。
 女の子も俺が弓を持っていることで多少動揺したようだ。

 両手両足に瞬く間にそれぞれ二本打ち込む。矢はそのまま木に中りロボット風の女の子の動きを止める
「これは……」
「茶々丸!?」

 よし、動揺した。
 この間に金髪の女の子にも動揺に矢を打ち込んで木に射止める。
 
「くあっ!?」

 これで動けないだろう。
 本当なら子供に攻撃したくはないのだが……すまないな。


「さて、何で俺は襲われたのか教えて欲しいのだがいいか?」
「何をとぼけている。それにこれで終わったと思うなよ。
 茶々丸!」
「はい、了解しました」

 ミシミシと音を立てて矢を木から抜かんとする。
 おいおい、さすがロボットって言うべきか? だが、今は大人しくしててほしい。

 俺はさらにそれぞれに二本追加して打ち込む。これならいくらなんでも動けないだろう。

「すいませんマスター。行動不能です」
「すまないな。少し大人しくしててくれ。
 怪我とかはさせたくないんだ」
「はっ。どうだかな。
 それで私達をどうするつもりだ。煮て食うか?」

 そんなことするつもりなどさらさら無いのだが……しかし、聞きたいことはある。

「聞きたい事を聞いたら解放する。
 だから大人しくしてくれないか? 悪い話ではないと思うんだが」
「だったら今すぐ解放しろ。
 そうすれば考えてやらんこともない」

 ……直感だがこの子は信用してもいいだろう。

 俺は矢の幻想を解き、魔力へ霧散させる。
 そして彼女達は解放されたのだが、それにとても驚いているのも彼女達だ。何故?

「お前バカじゃないのか?」
「いきなりバカときたか」
「そうだろう、解放すればまた攻撃してくるとか考えなかったのか?」

 考えたが……

「君なら攻撃したりしないだろうと判断した」

 俺の答えに眉を顰めるが……殺気は解いてくれた。

「それで聞きたいこととは何だ?
「それじゃ遠慮なく…ここはどこだ?」
「そんなことも知らずに乗り込んできたのか。やはりバカではないのか?
 まぁ、いい。ここは日本の麻帆良学園だ」

 ……聞いた事もない。
 仕方ないことか。何せ異世界なのだから。こっちの街がそのままあるわけも無い。

「じゃあ君はなんで俺に攻撃してきたんだ?」
「それが仕事だからだ。やりたくはないがな。
 そろそろこちらからも質問させろ」

 それぐらいは構わない。ただ俺の投影のことなどを聞かれたら教えられないが。
 俺は頷いて了承の意を示すと質問を始める。

「お前はどこから来た? いきなり結界の内部に現れるなど転移魔法でも使ったのか?」
「……似たようなものだ」

 一応、ウソはついてない。
 並行世界への移動なのだから、移動ということにかわりはない。
 だが、その考えは甘いことを示される結果になった。

「ウソだな。
 この結界は外から中に移動先を指定することはできん。この結界は魔法で中にはいることは敵わん」

 計られたな。引っかかる俺も俺だが知らないのだからしょうがないと言えばしょうがないのだが……
 ん? ちょっと待て。さっきから魔法魔法と言っているが、それは子供だから勘違いしているのか?
 だが、それにしては年季の入った話し方をするのだが……

「加えて先ほどの魔法はなんだ? 
 始動キーにしても短すぎる。アーティファクトということはないだろう。来れ(アデアット)と唱えていない」

 参った……言ってることがほとんど理解できない。
 アデアット? 何それって話だな。それにまた魔法と来たか……

「聞きたいんだが……この世界に魔法使いは何人いる?」

 この方が手っ取り早い。
 俺の世界には五人。その内一人はすでに死んでいる。
 ちょっとやそっとじゃ魔法を扱う者はいないのだ。

「はぁ? そんなことも知らんのか。本当に貴様は魔法使いか?
 まぁ。いいだろう答えてやる。
 約6千7百万人だ」
「……もう一回いいか?」
「だから約6千7百万人だと言っているだろう。
 この距離で聞こえないと言うなら貴様は耳鼻科に行け」

 6千7百万人…六千七百万人…67000000…ろくせんななひゃくまんにん…ロクセンナナヒャクマンニン……
 そんなに魔法使いが? ここは神代ですか?

「……そんなにいるのか」
「お前ホントにどっから来たんだ? そんなとこも知らぬなど無知にも程がある。
 記憶を何処かに置き忘れてきたのか?」

 信じられない…俺は魔法使いの国にやってきたのか…

「お前ホントにどこから来た? 
 かなりショックを受けているようだが…」
「信じられないかもしれないが……俺は異世界から来たんだ…」

 ほらみろ、予想通りの反応だ。何言ってるのお前みたいな目で俺のことを見ている。
 ロボット風な女の子もそんな哀れむ目で見ないでくれ。
 君達から見て確かに異常な事を言ってるのはわかるが、それでも俺はウソは言ってないんだ。


「わかった、今はお前の言う事を信じてやろう」
「マスター?」

 ……驚いた、こんな普通なら信じられない事を信じるって言ったのか?
 
「こいつが言った事が本当ならば先ほどの不可思議な魔法にも説明がつく。
 異世界があり、私達の世界とは違う魔法の文明があるとしてだ。ならば数百年生きてきた私が見たこともないというもの現時点では説明できる。
 それがそいつの世迷言でなければな」

 見た目と年齢が違うのだろうか、下手をするとこの子300百年ぐらい生きてるんじゃないだろうか。
 俺の世界には秘術を使って延命してる魔術師もいるからな。
 こちらの常識が通じないというのが異世界の前提だ。

「茶々丸、こいつをジジイのところに連れて行く。
 こいつの侵入には気がついているだろうからな。こいつが説明すれば手間が省ける」
「よろしいのですか? この方が手を出さないという保障はありませんが」

 俺は出すつもりは無いと言っても信じられないのはしょうがない。
 いきなり現れた白髪に色黒の長身男、怪しむなと言う方が無理がある。

「その心配はないだろう。
 こいつがその気なら仲間を呼ばせる前に私達を殺しているだろうしな。 
 それにこいつが言った事がウソならばここまで私と話す意味が無い。それにこの話も解放などせずともできたところをわざわざ解放するのだからこの男には本当にそのようなことをするつもりはないんだろう」
「わかりました。
 マスターがそう仰るなら私はそれに従うまでです」

 
 金髪の女の子がジジイといった人物の所に案内するというのだが、そこまでは歩いて40分、走っても30分はかかるらしい。
 だが茶々丸と呼ばれた子に運んでもらえれば15分ほどらしいのだが……それはこの金髪の女の子の場合だろう。
 体重の軽い彼女と俺とは訳が違う。俺を運ぶと言うのならさらに時間がかかるだろう。

 だが、その前にやることがある。

「君の名前を聞いていいか? いつまでも君じゃあいい気はしないだろう。
 俺は衛宮士郎だ」
「そんなの貴様が勝手に決めろ。
 だが、名乗られたからにはな……私はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。
 こいつは絡繰茶々丸だ」
「よろしくお願いします」

 
 自己紹介も済んだ所で移動手段について俺が提案したことは、俺がエヴァンジェリンを抱えて運び、彼女が道を案内するというもの。
 これにエヴァンジェリンは“仕方あるまい”と、渋々ながらに了承し、絡繰は後ろからついてくるという形になった。

「おい、衛宮士郎。変な行動をするなよ」
「? どんなだ?」
「うるさい! さっさと行け!
 あの桜並木の向こうだ! もたもたするな!」

 何かおかしなことを俺は言ったのだろうか…

「わかった。
 それじゃあ摑まっていろよ。それと道を外れた時は口で言わずに胸を叩いてくれ、でないと舌を噛む」
「おい、それはどういう―――いむっ!?」

 俺は駆け出し、エヴァンジェリンが指差した方向に向かう。
 急いで知りたいというものあるが俺の今の身体能力の確認の意味も兼ねている。
 
 やはり身体が契約した当初よりも重い。小さな変化だが、こんな差異でも確認しなければ命をかける戦いには決定的な隙に成りかねない。

 
 
 時間を短縮するために俺は建物の上を駆け桜並木の場所まで一気に来た。
 まだその先だろうと思い、そこらの建物よりもさらに大きな建物に跳躍しながら登っていくと、エヴァンジェリンが胸を叩いて……いや、殴っているのを感じた。

 俺はそこで立ち止まり、抱えているエヴァンジェリンを地面に立たせるとその身小さな身体は震えている。
 
 怖かったのか? 怖かったのだろうか? きっと怖かったんだろう。
 なにせ建物を跳躍しながら駆けて行くと50メートル程の高さの場所も通ったからな。

 すると突然―――殴られた。が、全く痛くない。
 逆にエヴァンジェリンが痛がって手を押さえている。

「おい! 衛宮士郎! 貴様どういうつもりだ!?
 いきなり跳んだり下りたり……口を閉じていても舌を噛むとはどういうことだ!!」
「む、噛んだのか。それはすまない」
「あぁ、マスター。
 落ち着いてください。そのようにされると血圧が……」
「私を年寄り扱いするな!」

 ……これは俺が悪いんだろう。素直に謝っておこう。

「すまない、舌は大丈夫か?」
「……ふん。そんな貧弱な舌ではない。
 それと着いたぞ。ここにジジイがいる」

 ここか。先ほどの場所からここまで約10分。
 なかなか俺の動きの確認も取ることができた。これで大まかなものはよしとしよう。

 エヴァンジェリンがついてこいと言って先導し、俺はそれにしたがってついていく。

 
 中に入り、着いた場所は……学長室とプレートが掲げられた場所だった。




 あとがき

 初めまして快晴と申します。
 初めてSSを書くので至らぬ点や、自分勝手な自己解釈などしていることがあるかと思いますがよろしくお願いします。

 この作品はネギまは最初から、FATEは凛True Endからです。

 指摘・感想も“これは違う” “これはこういう意味だ” というようなものもお待ちしております。



[2377] 魔法の世界での運命
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:a3755e82
Date: 2007/12/07 00:37
 〔士郎 start〕


 案内された先には学園長室と書かれた部屋の前
 何の変哲の無いただの部屋
 茶々丸さんが扉をノックし、扉を開けて中に入る
 先頭はエヴァンジェリン(ちゃんをつけたら殴られた)いかにも私の部屋だと言わんばかりの堂々さだ
 中に入ってみると広い部屋の中に俺たち以外の人間がいた
 和服のようなものを着た老人。・・・頭がなんか長い
「ふむ、なんの用じゃ?」
「見てわからんかじじい。お前に客だ」
 もう少し目上の人に対する尊敬の念を心掛けたらどうだろうか
 入っていきなりじじいはないだろう
「はじめまして。衛宮士郎といいます。
 突然で申し訳ないのですが聞きたいことがあってここまで案内してもらいました」
「ふむ・・・衛宮君とやらはなぜここに来たのかのう」
 俺は俺のこと以外は全て話した
 異界から来たこと、この世界の魔法が俺の世界と異なっていること・・・
 それを聞いた老人は俺の言ったことに頷きながら無言で聞いていてくれた
 話し終わったときにはその場には静寂しか残らなかった
 静寂を破ったのはエヴァンジェリンだった
「そのお前が言ったものが先ほど使ったものなのか。魔術と魔法違いは理解したがそれでもお前のはそれとまた違うもののように感じたのだが・・・
 あれはアーティファクトではないんだな?」
 鋭いな・・・俺のことはなるべく話したくなかったんだけど・・・しょうがないか
「そうだ、俺のは魔術でありエヴァンジェリンの言う魔法やアーティファクトじゃない。
 もっとも、俺の魔術も俺の世界だったら異端なんだけどな・・・」
 俺のは禁忌のものだ。俺に常識的な投影は通用しない・・・俺は常識から外れてしまった
 ・・・あの火災の時から・・・
「・・・ふむ、見せてはくれないかの・もちろん他言はせんよ」
「絶対に言わないでくださいよ・・・エヴァンジェリンもな」
「な、なにを言っている!私はそんなに口は軽くない!」
 さて、どうだろうね。子供だし
 でも、わかっていることはこの人物たちは信用できるということだ
 それだけでもありがたい
「いきます・・・投影・開始」
 投影するのは夫婦剣、干将・莫那。最も信頼していて幾たびの戦いを共に駆け抜けてきた愛刀だ
 他にも宝具はあるんだけど・・これが一番いいだろう
 カリバーンとかエクスカリバーなんか投影なんかしたらややこしいことになりそうだし
「投影・完了」
 この手には干将・莫那。投影を始めてから5秒も経ってない
「ほぉ・・・これは・・・ワシは見たことがないのう。
 それはアーティファクトではないのじゃろ?だとしたらこの世界ではまさに魔法じゃ」
 ここで見たことがないのならそうなのだろう
 でも、俺にとっては魔法だろうが魔術だろうがどうでもいい
 俺にとって魔術は人を救う手段でしかない。だから俺は根源とかもどうでもいいし魔法使いにもなるつもりもない
 だから俺はいつまでも魔術使いなのだ。俺にはそれで十分だから・・・
「・・・それを貸せ、衛宮士郎」
 エヴァンジェリンが興味をもったのか俺から奪い取って観察している
 まぁ、わからないと思うけどね。遠坂だって大丈夫だと言って俺の作った物を売ろうとしたぐらいなんだから
 俺の作ったものはその幻想が壊れるぐらいまでしないと大抵のものは半永久的に残る
 一回見たものであればそれを完全に投影できる。ただ英雄王のような乖離剣は無理だけどな
「これは本物だな・・・魔力も帯びている・・・切れ味も悪くない・・・
 こんなものをお前の世界では作ることができるのか・・・この世界より恐ろしいな」
「たしかに俺の世界だったらこの世界に事ができるかもしれないけど・・・これができるのは俺しかいない。
 ・・・ただ一つの例外を除いて、な・・・」
 そう、あいつも俺だから・・・あいつが現界したならばその世界には二人の俺がいることになる・・・
「お前だけの魔法か・・・それではお前は私に匹敵する化け物だな。
 おい、今度私と勝負しろ。その時に今回の決着をつけてやる」
「俺は子供に手は上げないよ。
 それに・・・俺は戦わないことに越したことはないと思ってる。戦わないことが一番なんだ」
 俺は救う為に戦う。その為にだけ剣を振るう
「ふん・・・つまらんな。ただの腰抜けだったか」
 言ってくれるな。まぁ、罵声の類に比べたらまだいいか
「そうそう、ワシの紹介を忘れておった。ワシは近衛近右衛門という。
 これでも魔法使いじゃ。そして関東魔法協会の理事もやっておる」
 理事というならかなら偉い立場なんだろう
「ところでこの世界で・・・裏の世界で困ったことがあったら俺に言ってください。教えてもらったお礼になんでもしますから」
「いやいや、そこまでしなくても結構じゃよ。
 それに裏の世界では危機的な状況というものはほとんど無いんじゃ。あっても東西の協会で言い争いをしているぐらいだからのう」
 それなら良かった。。それならここを離れて旅をするのもいいかもしれない
 遠坂がいつ魔法に到達してこの世界に繋がるかはわからないけどそれまでは旅をしながら困っている人を助けよう
「ときに衛宮君、君はこれからどうするのかの?」
「はい、ここを離れて旅をしようかと思ってます」
「金も無いのにか?身分だって無いのだぞ?」
 あ、しまった・・・それを忘れてた
 お金だってもしかしたら違うかもしれない。この世界が俺の世界と同じはずがない・・・俺の世界だったら密入国はしてたけど・・・
 どうしよう・・・このままだったら俺野垂れ死ぬしかないじゃないか・・・遠坂、せめて二週間以内に俺を迎えに来てもらえないだろうか・・・無理だよね・・・
「ふむ、それではここで働いてみないかね?」
「え?」 
 いや、ありえないでしょ。こんな見ず知らずの俺を雇ってくれるなんて
「そうじゃのう、本当のことを言うと監視も兼ねてじゃよ。
 君の話には嘘はないようじゃし君の人柄も信用できる。しかし、それだけじゃ。
 もしものことがあってからでは遅い、ならばここで監視した方が得策というわけじゃ」
 たしかにそうだろう。俺は何もする気はないけど向こうからしてみればそんなの信じられるわけじゃない
 ならここに置いておく方が監視もしやすいだろう
 俺としてもそれでいい。俺のせいで騒ぎを大きくしたくはないし、ここならこの世界の情報も入ってくるかもしれない。完全に信用してくれたらだけどね
「どうじゃ?働いてみる気はないかのう?」
 それにお金が無ければ何もできない。職をくれると言うなら願ったり叶ったりだ
「はい、ここで働かせてください。よろしくお願いします」
「本気かじじい。こんな変人の塊みたいな奴をここに置くつもりなのか?」
「変人とは人聞きが悪いのう。
 何もお主にも悪い話ではあるまい。もしかしたら衛宮君と戦えるかもしれんぞ?」
「む・・・たしかに・・・」
 こそこそと何かを話してるけど聞こえない。聞くわけにもいかないけど
「どうじゃ?良い案じゃろ?」
「たしかに良い案だ。じじいの今世紀最大の良案だ。
 よし、それでいくぞ。衛宮士郎、ここで働け、これは決定事項だ」
 俺の人権は無視ですか?そうですか、俺に決定権は無いんですね
 でも、俺としても悪い話ではないから断る理由がないんだけどな
 でもエヴァンジェリン、俺のことを変人て言うんじゃない。一応普通のこと考えられるんだからな
「衛宮君もこれでいいかの?」
「はい。
 あ、一つだけありました」
「大抵のとこには応じよう」
 これは俺のわがままだ。ただそれだけなんだけど・・・俺はあいつとは違うということを証明したいだけかもしれない
 ただ区別してほしいだけかもしれない。でも俺はそれで満足できるだろう
「俺のことは衛宮と言わないんでほしいんです。別にこの名前に不満があるわけじゃないんですが・・・
 俺のことは士郎と呼んでほしいんです」
「・・・なんじゃ、そのぐらいなら何も畏まることはないんじゃぞ。
 明日はもう一人人が来ることになってるんじゃが・・・まぁ、この時間にまでに来てくれればよい。 今日はゆっくり休むがよいぞ、士郎君」
 ・・・俺は恵まれているのかもしれない。俺の周りには厄介な人物が集ることが多いけど・・・それでもとても俺にとってはありがたかった
 優しい人が多かったから。ここでもいい人たちに会えたことに俺は感謝したい
「それとこのお金で今日はホテルにでも泊まってくれんかの。
 明日には何とか部屋を探しておくからこれで勘弁してほしい」
 そう言って出したのは三枚の万札だった
「こんなに受け取れませんよ。職まで探してくれるっていうのにここまでされたら申し訳ないです」
「そんな気にするでない、これはさっきの話の代金だと思って受け取ってほしいんじゃ。
 ワシの知らない話はとても興味深かった。
 それにのう・・・その格好で歩き回るつもりだったかのう?」
 う、たしかにこんな格好で歩いてたら捕まってしまう
 俺はお金を持ってないし・・・
「すいません・・・ありがたく頂戴します・・・」
「うむ、それでいいんじゃ。
 明日、その紙に書いた時間までに来てほしい。それとこの時間に動いてる電車はあと一本じゃから・・・案内してくれんかのう?」
 そう言って学園長は・・・エヴァンジェリンを見た
「何で私がそんなことをしなければいけないんだ。勝手に行かせればいいだろう」
「あぁ、最近は桜通りで吸血鬼が出ると・・・」
「衛宮士郎、さっさとついて来い」
 おぉ、移動が早いな
 それにしても吸血鬼?この世界にもいるのだろうか・・・まぁ、二十七祖級でなければそれなりに戦えるからいいけど・・・

 
 駅には人の気配が無く、もうすぐ来るだろう電車を逃せばここも闇に包まれるだろう
 どうのように行けばホテルなどがあるというのは茶々丸(呼び捨ててでいいとのこと)に教えてもらった。エヴァンジェリンは何も教えてくれなかった
 茶々丸に教えてもらって二人に帰るように言った。送っていこうかと言ったらさっさと失せろときつい一言をもらってしまったからしょうがない
 別れを告げて去ろうとしたとき、エヴァンジェリンが口を開いた
「お前はなぜそんなにも血の匂いがする。
 お前の話は出てこなかったが・・・お前は戦いを求めないと言っていたが、ではなぜお前から血の匂いがするのだ。
 それも人間の血ではないものまで混ざっている・・・
 衛宮士郎・・・お前は何者だ?」
 ・・・血の匂いか・・・俺からはその匂いがするのだろう。それは間違いではない
 俺は人を殺した、人以外もたくさん殺した、幻想種も倒したこともある
 その血の匂いが俺からするのだ。不審に思われてもしょうがない
「・・・いずれわかるさ。
 ただ言っておくなら・・・俺は子供なのかもしれない」
 切嗣が言っていたのは正義の味方は期間限定で大人になったら名乗るのが難しくなるのだと言っていた
 だから・・・俺は子供のまま正義の味方になったのかもしれない。俺はそれでもいいと思っている
「ふん・・・私から言わせればお前もじじいもみんなガキだ。
 ・・・ただお前はその中でも一層おかしなガキだよ。私はそこまで真っ直ぐな眼をする奴は少ない。
 なによりお前のように血の匂いをさせた奴は特にな・・・くだらない話をしたな、さっさと帰るぞ茶々丸」
 茶々丸を引き連れて闇に消えていく。俺はそれを呼び止めた
「おやすみ、エヴァンジェリン、茶々丸」
 二人はこっちに振り返って驚いた顔をしていた。そんなに意外だったのだろうか
「はい、おやすみなさい。士郎さん」
「・・・は、変な奴に関わってしまったものだ。
 あぁ、おやすみ」
 その背中を見て俺は電車に乗った
 

 翌日

 俺は電車の中で少々孤立していた
 俺の背は187cm、周りは高くても高くても165㎝程度
 この電車の中で俺は頭一つ出ている
 おまけに私服だ。こればっかりはどうしようもなかった。学園長から貰ったお金でどうにかしようかと思ったがその時間には店など開いているはずもなく今に到る
 赤いマントで出歩くわけにも行かないから投影で上着を投影し、ついでにコートも投影した。色は赤
 だはそれだけでは目立たないと言えるはずもない。白髪頭で肌こそまだ褐色ではないが少々黒い
 とても日本人には見えないだろう

 電車を降りるとそこは昨日と別世界。昨日の闇を感じさせない姿だった
 生徒であろう姿はまばら、この時間ではまだなのかもしれない
 移動用だろう電車に乗っている生徒も少ない

 しばらく歩いていると徐々に人が少なくなっていた
 いや、それには間違いがある。正しくは男子生徒がいなくなっている
 かわりに女子生徒が多くなっている。そして俺は目立っていた
 現在ただ一人歩いている男、白髪頭、これが示すものは不審者だ
 
 そんなことを考えていると足元から振動がしてきた。地震だろうか
 否、それは地震などではなく後ろから近づいてくる集団が原因だった
 女子女子女子・・・数え切れるはずもない膨大な人数が俺の後ろから近づいてきている
 追い抜かされながら嫌な予感がしていた。俺の予感なんてセイバーに遠く及ばないが一つ持っているものがある
 それは女難の相に関係する直感A
 どういうわけか俺にはこれが付加されていた。おそらく遠坂とルヴィアのせいだろう
 二人が何かしでかすと、俺のこの直感が働いてくるのだ
 それはルヴィア二人きりの時は半端じゃない。これが働いた後には必ず俺は遠坂に殺されかけていたから・・・
 今回の間違いではないだろう
 俺は走り出した。抜かしていった女子を抜き返して昨日エヴァンジェリンに案内してもらって入った出入り口まで走り抜けた

 ここまで来れば大丈夫だろう 
 後は学長室まで行くか・・・
 後ろから女子生徒の叫び声が聞こえたような気がしたけど気のせいだろう

「おぉ、よく来てくれた士郎君。
 ・・・服はどうしたんじゃ?」
 まぁ、聞かれるよな。あの時間にやってる店なんて無いんだから
「投影でなんとかしましたよ。
 上着とコート意外は昨日のままです」
「・・・便利じゃのう・・・ワシもそれ覚えようかの・・・」
「やめといたほうがいいでしょう。これができるのは俺だけでしょうから」
 気づいたら素っ裸だったなんて洒落にならないからな。普通の投影なんてすぐに消えてしまうんだから
「それで話すことがあるんじゃないですか?」
「そうじゃったそうじゃった。
 士郎君には今日来る新任の先生の補佐をしてほしいんじゃ。
 ちなみに教科は英語、担当は二年生じゃ。世界を旅していたんじゃろうから英語はできるんじゃろ」
 たしかにできるけど・・・当然だけど俺教師の免許なんて持ってないぞ
 そんなので教えたら問題なるんじゃないか?いやなるだろう
「心配はいらんよ。その程度のことを怖がっていたら何にもできん。
 それにのう・・・今日来るのはなんと・・・」

 コンコン

 ん?誰かが来たみたいだけど・・・俺がいていいのかな・・・
 扉が開き入ってきたのはジャージを着た少女、おっとりした少女・・・それと
「おぉ、来たか。待っていたぞ」

 まだ遊び盛りであろう少年が入ってきた・・・



[2377] 魔法の世界での運命
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:a3755e82
Date: 2007/12/07 23:28
 〔士郎 START〕


 入って来たのは遊び盛りであろう少年
 身長は140cm程、赤毛の髪・・・この少年も魔法使い。それもかなり膨大な量の魔力を保有してる
 そして後ろのおっとりとした少女も・・・
 ジャージの少女はなぜか不満そう。目はオッドアイだが・・・何か気になる。俺の見たことのない不思議な存在だ
「おぉ、よく来てくれた。
 士郎君、この子が先ほど言おうとした新任の先生じゃ」
 はい?なんて言いましたか?俺の耳がおかしくなってなければこの子に先生を?
 いや、冗談は溺死してからにしてくださいよ
 常識的に考えて無理でしょ。年齢だってまだ小学校ぐらい・・・
「・・・何やら物思いに耽っているようじゃの。
 まぁ、よい。話を聞かせてもらおうかのう」

 話は俺が呆けているうちに終わってしまったようだった
 部屋に残っているのは俺と学園長と少年の三人のみ
「さて、こちらの世界に帰ってこれたかのう、士郎君?」
「・・・何とか無事に。
 それよりどういうことなんですか、説明してもらわないと納得できません」
 俺が新任の補佐というのは納得しよう。予想ではちゃんとした大人の先生だったからだ
 それがどういうわけかこの少年になってしまったという・・・何がどうなっているのだ
「ふむ、聞いてなかったようじゃの。
 最初から説明すると、彼はネギ・スプリングフィールド君じゃ。彼は魔法学校を卒業してこの学園に教師として修行をするために来たんじゃ。
 ちなみに数えで10歳じゃ。君はネギ君の補佐として側にいてやってほしい」
 10歳!?それで魔法学校卒業!?いや、ありえないしょ
 それに数えで10ということは・・・9歳!?
「あの・・・学園長、この人は誰なんですか?それに魔法のことを言ってもいいんですか?」
「おぉ、紹介を忘れておったのう。
 彼は衛宮士郎君じゃ、ネギ君の補佐をしてもらうことになっていて、ワシ等の関係者じゃよ」
 軽く無視されながら淡々と説明をしていく学園長
 少しは俺のことを考えてほしい。いきなりこの状況で理解なんてできるはずがないんだから
 ・・・でも挨拶はしないとな、子供だからといっても失礼だ
「はじめまして、紹介の通り俺は衛宮士郎というんだ。
 ・・・学園長の説明では君の補佐をすることになっている。
 少々混乱しているが気にしないでほしい。それと気軽に士郎と呼んでほしい」
「僕はネギ・スプリングフィールドです。
 いろいろと失敗すると思いますけどよろしくお願いします」
 ぺこりとお辞儀をするネギ君。礼儀正しい子だ
 この歳でこれほどしっかりしてるのも珍しい。・・・微力ながら支えられるように俺もがんばろう

 学園長が用意していたスーツに着替えてからネギ君と学長室を出る
 外にいたのは女性と最初にいた二人の少女。女性は源しずなといい、ネギ君の指導教員らしい
 少女二人の内のオッドアイの子がネギ君に何か言い、おっとりした少女を連れて去っていった
「本当に大丈夫なんでしょうか。ネギ君はしっかりしていると言ってもまだ子供です。
 それなのにいきなり教師なんて大役は重すぎないでしょうか」
 俺はしずな先生に不安を打ち明けてみた
 それにしても・・・ある一部分に目がいってしまう。いかん、これではいかん。
 煩悩退散・・・渇!
 ・・・遠坂がこの人見たら怒り狂いそうだな
「大丈夫よ、学園長も無理だと考えたのであれば担任なんてさせないはずよ。
 不安はあるかもしれないけど必要な時以外はも見守っていましょうね、衛宮先生」
 ・・・そうか、俺も一応は教える立場になるのか
 それにしても先生ね、少し前まで生徒、もしくは弟子だった俺が先生と呼ばれる立場か。なんとも数奇なもんだな、人生ってやつは
 
 ネギ君が教室に着き、覗いてから意を決したように入っていった
 すると・・・
  
 ボフッ

 扉を開け、何かが落ちてきた。黒板消しだ
 日本古来?より伝わる伝統的な罠であり一番用意がしやすいもの
 ただその黒板消しはネギ君の頭の上で止まった。おそらく障壁でも張っていたんだろう
 ただそれでは不自然だからネギ君は甘んじて黒板消しの洗礼を受けた
「ゲホゲホ、あははゴホ、引っかかっちゃったなぁゴホ」
 頭を粉まみれにしながら笑っているが・・・ネギ君どうでもよくないけど足元に気をつけろ
 注意するまもなくネギ君は足元のロープに足を引っ掛け、転んだ所で水の入ったバケツを被り、お尻におもちゃの矢をつけながら二回転ほどして教卓にぶつかって止まった
 ちなみに状況が理解できずに半泣きである
 ・・・俺はこの光景を見たことがあるな・・・そうだ、藤ねぇが教室に入って来る時に仕掛けてもいないのに勝手に転んで気絶してたっけ・・・
 懐かしいんだけど・・・今もそれをやっているのかもしれないと思うと少しだけ涙が出てきそうになった・・・哀れ、虎・・・

 ・・・なんてことだ・・・俺としたことが今気がついた・・・
 この教室には・・・女子しかいない・・・いや、この校舎に来る時から嫌な予感はしてたんだけどまさか・・・女子オンリーとは・・・
 あえて説明しなかったな、あの爺さん・・・わかってたら断ったのに・・・

 女子生徒たちは最初こそ笑っていたが、被害者がネギ君という子供気がついて近寄ってきている
「子供~!?」
「ゴメン、てっきり新任の新任の先生かと思って・・・」
 まぁ、当然な反応だ。普通なら俺が引っかかってると思うだろうけど残念
 その子が本当に担任なんだ

 しずな先生が彼女たちを静かにさせ、俺もネギ君は教壇にあがった。俺はしずな先生の隣で立っている
「え、えと・・・その、ボク・・・ボク・・・
 今日からこの学校でまほ・・・英語を教えることになりましたネギ・スプリングフィールドです。
 三学期の間だけですけど、よろしくお願いします」
 緊張しながらも言い切ったネギ君。教室には静寂が流れたが・・・それも一瞬だな

 キャァァアァアァァッ!かわいぃぃ~!

 大絶叫のような叫び声
 ・・・ただ、虎の咆哮にはまだ及ばない。虎、恐るべし
 
 ネギ君が質問攻めにされ、しずな先生が年下だからと言いもみくちゃになっていたが・・・動きがあった
 動いたのは今朝のジャージのオッドアイの少女。ネギ君の胸倉をつかんで教卓に持ち上げている
 片手で上げていることからして結構力持ちのようだ
「あんた黒板消しに何かしなかった?おかしくない?あんた」
 ネギ君が動揺している
 よし、ここは俺がいこう。俺のこの世界での初仕事だ、ちゃんとやり遂げよう


 〔ネギ START〕

 
 ど、どど、どうしよう・・・いきなりこんなことになるなんて思ってもいなかったよ・・・
 それにこの人朝の時もつかみかかってきたし・・・このままじゃ魔法が・・・
「それぐらいにしておいた方がいい」
 え?
「・・・なんですかあなたは。朝の時も学園長の所にいましたけど・・・
 それとやめておいたほうがいいってどういうことですか。私はネギ先生に用があるんですけど」
「なに、私としてもネギ先生をこのまま君につかみかかられている状態にできないものでね。
 あぁ、言い忘れていたが私はネギ先生の補佐をする者だ。それに君のクラスの英語をネギ先生が教える際にも私が参加することになっている。
 そろそろ手を離したらどうだね。君としても新任の教師につかみかかったというレッテルは貼られたくはあるまい」
 あ・・・士郎さん
 よかった、助けてくれた・・・すごい堂々としてるんだなぁ・・・
 羨ましい、僕もこれぐらいとまでいかなくても10分の1でもあればいいのに・・・
 でも、最初と会った時と口調が違うような・・・

 士郎さんが止めてくれたおかげでつかんでた手を離してくれた
 ふぅ、なんて野蛮な人なんだ。他の人は優しくしてくれたのに
「衛宮先生、自己紹介していただけませんか?」
 しずな先生がそう言って士郎さんに場所を譲る
「はじめまして。私はネギ先生の補佐をすることになった衛宮士郎だ。
 基本は補佐だが場合によっては君たちに教えることもあるかもしれないがよろしくたのみます。
 それと私はちゃんとした教師ではないから・・・そうだな先生と呼ばないで士郎とでも呼んでくれて構わない」
 それだけ言って士郎さんは教卓から降りた
 みんなはなんかハトが豆鉄砲で打たれたような感じで何もしゃべらない
 えと・・・どうしたらいいんだろう・・・
 でもその心配はいらなかった

 おぉぉぉぉ・・・
 
 その声は感嘆のもの、僕も士郎さんのあの堂々とした応じ方はすごいと思った
 堂々と、そしてその眼は強い意思が感じられた。何者にも負けることのないとういう意思が
「は~い、質問です。先生じゃなかったらなんでもいいんですか?
 それとも先生と呼んでもそれは自由なんですか?」
「そうだな、私としては名前で呼んでほしい。苗字が嫌なわけではないが思うところがあってな」
「はい!そしたら士郎さんは名前からして日本人なんですか?」
「あぁ、少し前まではロンドンにいたが生まれも育ちも日本だ」
「は~い。趣味はなんアルか?」
「それはまた次の機会にな。
 ほら、時間が押している。ネギ先生、授業を始めてくれ」
「は、はい!
 え~と、それでは128ページを開いてください」
 よし、少しごたごたしたけど・・・ここからは気を取り直して・・・
 よっ・・・ほっ・・・
「と、届かない~」
 背が届かなくて書けて下の方にしか書けない
「センセ、この踏み台を・・・」
「あ、ありがとうございます・・・えぇと、あなたは・・・」
 まだクラス名簿を少し見ただけだからどんな人がいるかはわからないんだった
「はい、私は2-Aのクラス委員長の雪広あやかです。お見知りおきを・・・
 ネギ先生、支えて差し上げましょうか?」
「いえ、それは・・・」
 さすがにそこまでやってもらっては・・・さすがに先生としてはね

 さぁ、あと少ししか時間はないけどがんばるぞ!



[2377] 魔法の世界での運命
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:a3755e82
Date: 2007/12/08 14:46
 〔ネギ START〕


 うぅ・・・僕って先生に向いてないんじゃないかな・・・
 授業はできないしケンカを止まることもできなかったし・・・士郎さんも僕に呆れただろうなぁ・・・
 でもなんであの女の人は僕になんかしてくるんだろう?
 ただ僕は朝に困ってたから占いして結果を教えてあげただけなのに・・・アーニャ程じゃないけど僕の占いはそれなりに当たるんだから
「ネギ先生、そんなに気を落とすことはない。まだ初日なんだ、これぐらいはしょうがない。
 これから徐々に慣れていけばいい」
 慰めてくれるんだ・・・呆れてるかと思ったのに・・・
 士郎さんって以外に優しいんだ。最初の印象は冷たい感じがしたし、それにさっきも口調が変わってたから・・・
 でも士郎さんの言う通りだよね。まだ初日、これからこんなことがないようにしていけばいいんだ
「ネギ先生、初授業はどうでしたか?」
「あ、タカミチ・・・それが「た、高畑先生、こんにちは!」わぁ!?」
 
 何この人、どこから来たの?いきなりタカミチに話しかけてるけど・・・
 
 ・・・話を聞いてたらこの人のおかげで授業が成功したなんて言ってるけどそんなの嘘っぱちじゃないか
 本当はこの人が僕の頭になにかぶつけて、それをいいんちょさんが教えてくれて・・・それからケンカになったんじゃないか

「アスナ君。じゅあ、ネギ君のことは頼んだよ」
「は、はい!」
「それと衛宮先生、学園長が呼んでるから来てくれないかい?」
「わかりました、すぐにいきます。
 ・・・私も学園長に言いたいことがあったので・・・」
 あれ?士郎さんなんか感じがまた変わってない?なんか怖いんですけど・・・
「神楽坂、ネギ先生をいじめるのもほどほどにしておいた方がいい。それと嘘も良くない。
 考えを改めなければ後で後悔することになるだろう、気をつけることだ」

 そういい残して士郎さんはタカミチと行ってしまった
「ふん、余計なお世話よ。なによえらぶって・・・
 なんであんたが高畑先生と知り合いかは知らないけど絶対面倒なんか見ないし認めない。
 あんたが見たいな奴が先生よりあの衛宮って人の方がまだいいわ」
 ・・・なんでここまで僕が言われなくちゃいけないの?
 あの乱暴な人は行っちゃったけど隣にいた人が“気にすんなや~”と言って慰めてくれた
 

 〔士郎 START〕


 ネギ君がタカミチといっていたこの男性・・・この人も只者ではないことがわかった 
 空気が違う。この人の感じは最高まで鍛練をした人物しか出せないものだ
 うまく隠してはいるようだけど、俺はこういうことには敏感だ。そうでなければいつ死んでもおかしくない所に俺はいたんだから
「自己紹介が遅れたね。
 僕は高畑・T・タカミチです。ネギ君が来る前まであのクラスの担任をしていたんだよ」
「そうですか。
 俺は衛宮士郎です。学園長から話は聞いていますか?」
 高畑さんもこちらの関係者だろうし、あの学園長のことだ、関係者には俺のことを話しているだろう
「うん、話は聞いたよ。それと僕のことはタカミチでいいよ、それに敬語で話すことにそんなに慣れてないようだからもっと崩してくれて構わないよ。
 衛宮先生も大変だね。いきなり来たと思ったらいきなり先生になれって言われるんだから。
 あ、君がこちらの世界にやって来たというのは僕しか知らないからね」
 ・・・そこまで見てるか・・・やっぱり只者ではないな
 学園長も俺の話を大勢には伝えてないようだし、今はこれでいいとしようか
「わかった。それじゃあタカミチと呼ばせてもらうよ。俺も士郎って呼んでくれ。
 たしかに驚きはしたけど俺にとっては働く場所をもらえるんだから文句は無いさ。
 ・・・あるとすれば務めるところが女子中等部ということを教えてもらえなかったことにね」
 教えてくれれば少しは対処できただろうに・・・学園長め・・・
「学園長はおもしろうそうだったらそういうこともやるからね。覚えていた方がいいよ、士郎君」
 

 学園長のところについて俺はまず文句を言い、これからはこんなことがないようにと言った
 ・・・でもこの人ならそれを無視しそうだ
「フォフォフォ、すまんの。この老い先短いじじいには娯楽が少ないんじゃ、許してくれい。
 それと士郎君にはネギ君の補佐の他に二つやってほしい仕事があるんじゃ。いいかの?」
 ・・・まぁ、働かせてもらってる立場として断れない。俺の素性だって隠してもらってるわけだし
 できる範囲ならやろう
「その仕事はなんですか?」
「ふむ、一つはタカミチ君と同じ学園の広域指導員じゃ。腕に覚えはあるようじゃし問題はあるまい。ちなみに多少に怪我は許可するのであしからず」
 おいおい、このご時世に体罰上等ですか
「もう一つは君の住む場所に関することなんじゃがいいかの?」
 住む場所を提供してもらえるんならなんでもしよう。お金のかかるホテル暮らしよりマシだし食事も俺が作れるからな
 あいがたいことこの上ない
「えぇ、なんでもしますよ。むしろありがたいぐらいです。
 それでどんなことなんですか?それを知らなければなにもできないので」
「おぉ。そうかそうか。引き受けてくれるか。
 なに簡単じゃよ。仕事は士郎君が住む所の管理じゃ。
 ちょうどそこの管理をしていた人が還暦を迎えて退職したんじゃ。新学期になってから新しい人を雇おうかと思ってたところへ君が来たのでの、ちょうど良いから君に任せようと思った次第じゃ。
 仕事は玄関などの戸締りの確認や不審者が来た際の対処じゃ。なに、戸締りの確認以外はほとんど何もすることがないからのう。なんの問題もあるまい」
 確かにそれなら問題はないな。逆に申し訳ないぐらいだ
「わかりました、引き受けます」
「すまんの。
 ではタカミチ君、士郎君が君と担当する地域を案内してくれんかの」
「はい、わかりました。
 じゃあ、行こうか士郎君。結構歩くけどいいかい?」
「問題ないよ。
 じゃあ、失礼します。学園長」
 学長室をタカミチと出て行く。その時、俺の直感が一瞬働いたような気がしたのは気のせいだろうか・・・


「士郎君は中等部から大学部までを担当してほしい。
 僕から見る限りは士郎君なら問題はないだろうしね。血気盛んな人がおおいけどがんばってね。
 学園長も言ってたけど多少の怪我なら大丈夫だからね」
 いや、そんなのん気なこといってていいんですか?
 ・・・それにしても・・・結構歩いてきたけどタカミチを見てる人が多いな
 なんかに怯えるようにしてるし・・・デスメガネって聞こえるし・・・
 ん?なんかあそこが騒がしいな
「おや、士郎君さっそくだけど仕事だよ。
 彼らは麻帆大と工科大の格闘団体なんだけど仲が見ての通り悪い。
 僕が行けばすぐに大人しくなるけど今日は君のお手並みを拝見しようかな」
 大学生か・・・まぁ、一般人だしそんなに力使うこともないだろうしいいかな

「おい、それぐらいにしておけ」
 二つ団体に話しかける。もちろん気が立っているからものすごい睨まれる
「あぁん?なんだてめぇは。関係ない奴は引っ込んでろ!」
「そういうわけにもいかなくてね。私は今日から広域指導員になったんでな、君たちのよう者を無視するわけにはいかない」
「うるせぇ!背がでかいからって調子乗ってんじゃねぇぞ、こらぁ!」
 うん、やっぱり話してわかる連中じゃないな
 さて、どうしたもんかな?剣は投影できないし・・・だからといって拳でやったら俺の力では死ぬ可能性も・・・
 あ、いいのがあるじゃないか。かつてそれを見たものは恐怖に震え、未だに封印されているであろう妖刀・・・ 
 これなら計30名程の彼らを鎮圧できるだろう

 俺は口の中で呪を紡ぐ“投影・開始”
 あいつもこうしていたのかもしれない。俺はあいつがこの言葉を紡ぐのを見たことがない
 俺に感ずかれるのを嫌がってこうしていただろうし、遠坂にバレたりでもしたら鉄建制裁がきただろう
 創造の理念を鑑定
 基本となる骨子を想定
 構成された材質を複製
 製作に及ぶ技術を模倣
 成長に到る経験に共感
 蓄積された年月を再生
 この手には黒と白の柄の竹刀・虎のストラップ付き
 ここに虎竹刀が完成した
 
 それを俺の背中に隠して投影したから見えてはいないだろう
「おい!やっちまいなぁ!!」
 どこかで聞いた事のある掛け声だ
 ・・・10人ほどが来たか、だが問題は皆無
「ふっ」
 虎竹刀を正眼に構え、迎え撃つ
 彼らの動きは遅く、ただ殴りかかってくるだけ。これで格闘団体だといってるんだから呆れる

 一人一撃、面を打って倒す
 さすが虎竹刀。威力はすごいものだ・・・竹刀で気絶までするとは思わなかった
 時間にして20秒ほどで最初の10人は片付いた
「てめぇ・・・一斉にかかれぇ!!」
 やれやれ、まだ向かってくるか・・・手に負えないな

 制圧するのに二分程度だろう。俺の周りには気絶した奴らのみ
 いつの間にかギャラリーができていた。見世物になってしまったがこれでいいだろう
 ・・・虎竹刀・・・一応剣の範疇にあるんだろうけど30人倒して壊れないか・・・
 恐るべし、虎
「お疲れ様、いやぁ、圧巻だね。清々しいまでやってくれるね。
 僕も勝てないかなぁ?」
「まさか。タカミチだってこれくらいなんでもないだろ?
 それに勝負って奴は戦ってみるまでわからないさ」
 まぁ、彼らと俺のように圧倒的に実力が離れていたなら相手を見て判断するんだけどな
 ・・・俺も昔はこんなだったのかな
「ハハハ。それじゃ、帰ろうか。
 あ、そうそう。これから少し付き合ってくれないかな?時間は大丈夫かい?」
「ん?大丈夫だけど・・・なんで?」
「それは着いてからのお楽しみということでね」
 タカミチは楽しそうに笑顔のまま歩いていった
 俺はそれを追いかけていく
 ・・・まさか戦えなんていわないよな?

 
 中等部の校舎の方へ歩いていると林の方に誰かが駆けていった
 あれは・・・名簿だと神楽坂明日菜と・・・ネギ君?
 何か嫌な予感がするような・・・いや、ネギ君が神楽坂に連れて行かれる時点で怪しいか
「あれ?今、誰か林の方に走っていかなかったかい?」
 タカミチは林に向かっていく。俺が止めようか迷っていると・・・魔力の気配?
 ・・・なんか最悪の状況じゃないだろうか・・・タカミチは気づいてなかったみたいだけど・・・こういう魔力に対するものは疎いのか?

 俺もついていき林を覗く・・・
「お~い、そこの二人何をしてるんだ?」
 タカミチに続いて俺も見てしまった・・・
 そこには制服の上しか着ていない神楽坂。つまり、ほぼ裸同然
 俺もタカミチも固まっている。来てみればこの状況・・・俺としてはネギ君が何かしでかしたんだろうと予測している
 この後は当然・・・
「ひっ・・・いっ・・・いやぁ~~~~~っ!!」

 はぁ・・・俺の周りが静かになることはないんだろうか・・・



[2377] 魔法の世界での運命 第5話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:a3755e82
Date: 2007/12/08 22:32
 〔士郎 START〕
  

 あの後は困った
 見たら裸同然の神楽坂の状況、ネギ君の魔法・・・俺は仕方なくタカミチとその場を離れた
「士郎君、さっきのことは忘れよう。
 あれは教育者としても見られた人にしても忘れた方がいいものだ。
 僕たちはタイミングが悪かった。この件にはもう触れないでアスナ君に普通に接しよう」
 あぁ、その優しさが痛いかもしれないけど・・・忘れた方がいいのは俺も賛成だ

「タカミチ、2-Aの教室の前まで来たけど・・・なにあるのか?」
 忘れ物かと考えたけどそれはないと思い、却下した
 俺が朝持ってここに来た時はクラス名簿と教科書だけ
 それも職員室に行った際に教科書は置いてきたのを覚えているからだ。クラス名簿は今持っている
「うん、そうなんだけど・・・それは内緒さ。
 ネギ君たちもここに来たようだし、後のお楽しみにしておいてほしいな」
 タカミチの視線の先を見てみたらネギ君と神楽坂が一緒に来た
 ・・・よかった、着替えてきたみたいだ。まぁ、あの格好で歩くはずもないけどな
「あれ?士郎さん、ここで何をしてるんですか?それにタカミチも一緒で」
「た、高畑先生!・・・と衛宮先生も・・・
 コホン。それじゃあ、私は荷物を持ってきますから」
 俺はおまけですか?
 ・・・神楽坂はネコを被ったな。どういうわけかは知らないけど・・・まだまだ甘いな
 俺はそれ以上のネコを被っていた奴を知っている。それも二桁被ってるやつを
 神楽坂が教室の扉を開けた瞬間

 ようこそ!ネギ先生!士郎先生!

 クラッカーの音、2-Aの生徒、これからわかることは
「そうだ!今日はあなたたちの歓迎会をするんだっけ・・・忘れてた!」
 ・・・もしかして神楽坂にはうっかりスキルがあるんだろうか?
 まぁ、ランクはDぐらいだな。遠坂みたいにランクAなんてなったらものすごいうっかりするからな
 それに比べたらかわいものだ
「これがあったから俺を呼び止めたのか?」
「うん。僕もここの元担任だから断れなくてね。でもいい機会じゃないか」
 ・・・たしかにそうだな
 俺の第一印象は悪いだろうと思ってた。みんな怖がっていたようだったしな

「ほらほら、主役はまんなか。士郎先生も立ってないでこっちに来てよ」
「む」
 言われるがままに俺はネギ君の隣に座らせれた
 
 並べられた机の上には・・・ケーキに飲み物、お菓子に・・・なんで肉まん?

 ネギ君の周りには生徒がいて質問攻めにされているが・・・俺の周りには生徒はいない。質問もされていない
 まぁ、予想はしていたんだけどな
 物事には第一印象が大切なのだ。最初が悪ければ後でそれを挽回することは難しい。俺はそれになってしまったようだ
 俺はコップに注がれていたジュースを飲み干して席を立とうとした
 ネギ君が楽しんでいれば良いだろう。俺は影で支えればいいんだ。タカミチとでも話していようか
「ちょ~っと待った!士郎先生はどこにいこうとしてるのかな?
 今大体ネギ君への質問が終わったから今度は士郎先生の番なんだからね」
「へ?いや、なんか遠ざけられているような気がしたから席を外そうかと・・・」
「そんなわけないでしょ?士郎先生に近寄っていくのがちょ~っとだけ勇気がいるというかなんというかね。
 まぁ、いいや。インタビューさせてよ」
 い、インタビュー?なんでさ近づくのに勇気がいるのはわかるけど・・・インタビューはわけがわからないぞ
「あ、私は朝倉和美。出席番号は3番だよ。
 それでさ、士郎先生のそうだね、好きな食べ物とか趣味とか教えてくれない?」
 まぁ・・・それぐらいならいかな
「えぇと、好きな食べ物は和食で嫌いなものは梅昆布茶。趣味は一応料理を作ることかな?
 これでいいか?」
 趣味っていうか特技だな。親父に引き取られてから始めて、今は和洋中を大体作れるようになったからな
「ふんふん。
 それじゃあ・・・先生はこのクラスでかわいい子見つけ「先生~」ップア!?」
 あぁ!朝倉が吹き飛ばされた・・・この子は・・・椎名桜子だな
「ちょっと桜子。朝倉が跳んでいっちゃったじゃない」
「そうだよ後で怖いよ?」
「いいのいいの。今は先生に質問することが大切なんだから」
 次に来たのは・・・釘宮円に柿崎美砂か・・・三人ともチアリーディングに所属だな
「ねぇねぇ、士郎先生は紹介の時に名前で呼んでいいって言ってたけど本当にいいの?」
「あぁ、構わないよ。ちゃんとした先生じゃないから名前で呼んでいいぞ」
「じゃあ士郎さんで。
 士郎さんはロンドンにいたって言ってたけど何してたの?
 まさか彼女追いかけてそこまでついていったなんて言わないよね?」
 ははは・・・笑えない・・・実際そうだから
 椎名は感がいいな
「一応勉強しに行ったんだ。料理の勉強だ」
「イギリス料理はまずいって評判なのに?」
 うぐ・・・痛いところを突いてくるじゃないか、柿崎・・・
 イギリス料理はまずい。俺も体験したし、本場のセイバーも“雑でした・・・”って言わすぐらいなんだから
「ま、まぁ、それ以外にもあるんだけどな」
「ふぅん・・・まぁ、いいや。
 これが一番聞きたかったんだけど・・・先生って彼女いるの?」
「うわ、桜子直球」
「いや、ここにはいないよ、今はね」
「今ってことは前はいたんだ~。
 うぅん、先生って結構かっこいいよね。ちなみにあたしのストライクゾーンでバッターアウト」
 ? 意味はわからないけどこれは褒められてるんだろう
「そうか、ありがとう」
「い、いやぁ~。照れるにゃ~」
「はいはい、士郎先生が困ってるでしょ。
 それじゃあ、先生。楽しんでくださいね。ほら美砂も行くよ」
「は~い。じゃね、士郎さん」

 むぅ、このクラスは色恋沙汰に敏感だな・・・椎名達がさっきの話をしてからそれに関する質問をされまくった
 誤魔化すのに少し疲れた
「士郎さん、なんか気になっていたアルが口調が違わないアルか?」
 この子は・・・クーフェイだったな
「あぁ、授業の時と今みたいな時とで分けてるんだ。
 今の口調だったらなんか頼りないだろ?一応教える立場としてはあの口調の方がまだいいと思ってね?」
 ・・・俺としてはアイツの真似をしてみただけなんだけど、それが思いのほかできてしまった・・・
 ・・・ちくしょう
「へ~そうアルか。
 それにしても士郎さん、強いアルね。今度手合わせ願いたいネ」
「いやぁ、そんなたいしたもんじゃないよ。
 それにいくら生徒でもそれはできないからね。諦めてほしいな」
「むぅ、そしたらどうにかしてやってもらうように考えとくネ」
 うん、諦めてくれないんだね


 ん?いつの間にかネギ君が教室にいない
 それに神楽坂も雪広・・・その他もいないな
 ・・・あの子は綾瀬夕映だな。聞いてみよう
「ちょっとごめん、少しいいか?
 ネギ君がいないみたいなんだけどどこに行ったか知らないか?」
「ネギ先生ですか?ネギ先生はアスナさんが教室を出て行った時に一緒に飛び出していったです。 
 それを追っていいんちょさん達が出て行きました。心配は要らないと思うです」
 ・・・委員長である雪広が行ってるなら綾瀬の言う通り問題はないだろう
 たださっき、神楽坂と雪広がケンカしている時、雪広に不穏な言葉を言ったような気がしたんだけどな

 ネギ君に神楽坂が抱きついていたということを聞いたのは三日後だった


 歓迎会も終わり、俺は学園長に書いてもっらた地図で俺の住む所を目指していた
 でも困った・・・ここら辺には教員の寮などは見当たらない。俺はてっきり寮のようなものだと思ってた
 もしかしたら駅を間違えたかもしれない。ここには女子寮があるだけだ

 駅に戻ろうと少し歩いた所でネギ君と神楽坂、それに近衛に会った。学園長と同じ苗字だけど・・・偶然だな
「あ、士郎さん。ここでなにしてるんですか?」
「げ、衛宮・・・先生」
「げ、とはひどい挨拶だな、神楽坂。それとできれば名前で呼んでほしい」
「気にしなくていいえ。
 それで士郎さんはここでなにしてるん?」
 近衛が一番話がわかりそうだと判断して聞いてみることにしよう
「悪いけどここの場所を知らないかな。学園長に書いてもらった地図なんだ・・・それに従ってここまできたんだけど迷ったみたいでな。
 この場所を知ってるなら教えてほしい」
「え?おじいちゃんが?」
「おじいちゃん?もしかして学園長は近衛の・・・」
「そうや、学園長はウチのおじいちゃんなんや。
 それとな、ウチのことはこのかでええよ。近衛って堅苦しいやんか」
 本人がそう呼んでもいいというならそう呼ばせてもらうことにしよう
 そうか・・・学園長の孫なんだ。ん?ということは・・・このかも魔法使い?
「あ、なんや。ここから近いやん。
 士郎さんちゃんとついてきてな~」
 地図、間違っていなかったのか・・・でもこの先って・・・

 
 ・・・これはなんかも間違いだよな?そうだ、そうに決まってる。でないとありえない
 いくら学園長でもここまでしないだろう。もし故意なら・・・本当に性質が悪い
「えと・・・士郎さん?一応ここが地図に載ってる場所なんやけど・・・」

 着いた場所は・・・俺がさっきまでいた場所“女子寮”前だった


 あとがき

 すいません。クーフェイの古(クー)はわかるんですがフェイがわかりませんでした



[2377] 魔法の世界での運命 6話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:a3755e82
Date: 2007/12/09 02:10
 〔ネギ START〕


 僕はアスナさんに連れてこられてアスナさん達の部屋に来た
 このかさんは士郎さんを紙に書いてあった部屋に連れて行ったけど・・・士郎さんのおの落ち込みようはひどかったなぁ
 アスナさんから許しをもらって部屋に来たのはいいんだけど・・・僕ちゃんと寝れるかな?
 いつもはお姉ちゃんと寝てたから・・・一人で寝るのはちょっと怖い・・・
 
 今日は大変だったな~
 宮崎さんを助けたところをアスナさんに見られて、それから記憶を消そうと思ったら失敗しちゃってアスナさんを裸にしちゃった・・・
 歓迎会でアスナさんがタカミチの思ってることを知りたいって言うから読心術をして教えてあげたらなぜか教室を出て行ったし・・・
 アスナさんにほっぺた引っ張られてる時に写真を撮られたりして大変だった

 このかさんが帰ってきて、夜ご飯を食べてからアスナさんと話していると
「なぁ、ネギ君。士郎さんて遠い所からきたんよね?」
 士郎さん? ・・・どうなんだろう、僕も今日初めてあったし、そんなに話をしたわけでもないから・・・でも悪い人ではなさそうだったなぁ
 僕がアスナさんにつかみかかられた時に助けてくれたしね
「士郎さんがどうかしたんですか?」
「そうなんよ。士郎さん、荷物が無さ過ぎるんよ。
 ネギ君も大きな荷物抱えて来たやろ?でもな、士郎さんの荷物は小さい鞄一つだけやってん。
 これしかないんかって聞いてみたら“うん、あとは服を少し買うだけだ”って言ってたんや。な?変やろ?」
 うん、たしかにそれは変だと思う
 僕も必要不可欠なもの以外は置いてきたつもりだけど、それでも結構な量になった
 部屋を紹介してもらうぐらいなんだからこの付近には住んでないんだろうし・・・
 ちょっと気になるかも
「まぁ、ええわ。もしかしたら荷物は後で来るのかもしれんしな。
 アスナ、ウチはお風呂行ってくるんやけどアスナはどうするん?」
「私は部屋で済ますからいいわ」
「わかったえ。したらな、行ってくるえ~」

 
 このかさんが出て行って僕も出て行こうとした
「ちょっと、あんたどこ行くのよ?」
「え?ちょっと士郎さんの所に行ってきます。
 今日初めて会ったので少し話を聞きたいので行ってきます」
「待ちなさいよ。それなら私も行くわ
 ・・・弱み握って私に跪かせてやるわ・・・ふふふ・・・」
 アスナさん・・・本当に怖いです・・・

 僕が見た部屋番号は・・・ここだ
 でもここってアスナさんたちと全然変わらないんじゃないかな?それにこの隣って佐々木まき絵さんと和泉亜子さんの部屋だ
 ・・・いいのかな?いいだよね、僕だって男だけどアスナさんの部屋に泊めさせてもらってるんだし
「さ~て、化けの皮剥がしてあげるとしますか。
 ほら、ぼさっとしてないで行くわよ」
 ここまで来たら最後までいかないわけにはいかないよね

 僕はドアをノックする
 すぐに返事が返ってきてドアが開けられ、士郎さんが出てきた
「ん?なんだ、ネギ君に神楽坂じゃないか。
 どうしたんだ?二人して来るなんて。もしかして・・・ネギ君、神楽坂にいじめられたのか?」
「そんなわけないでし・・・ないじゃないですか!」
「冗談だ。
 立ち話もなんだから上がってくれ。さっき買い物を少ししてきたからお茶ぐらいは出せる」
 士郎さんに促されて部屋に入る
 アスナさんがなにかぶつぶつ言っていたけど・・・怖いから今はそっとしておこう

 士郎さんは黒いパンツに黒いシャツをというラフな格好で僕から見てとてもかっこよかった
 このかさんの言った通り、部屋には者がほとんど無い
 あってもスーツと学校から持ってきた書類だけだった
「何も無い・・・これで本当に生活なんてできるの?」
「できるさ。もともと持っている物なんて少なかったし欲しいともそこまで思っていなかったからな。
 ほら、お茶だ」
 お茶を出されてからも僕はしばらく部屋を見回していた
 まさか僕もここまで無いとは思ってもいなくて見たところをもう一度見たりしていた
「・・・何も無いわりにお茶は良いの買ってるんだ。おいしいじゃない」
「それは俺がここで買ったものだぞ。値段だってそんなにしないからな。
 ほれ、これが茶葉だ」
「・・・嘘!?これ私達が飲んでるお茶じゃない!なんでこんなにおいしいのよ!」
 ・・・そんなにおいしいのかな?僕は日本のお茶を飲んだことないから不安なんだけど・・・
 恐る恐る一口飲んでみると・・・おいしい・・・
 ほどよい苦味・・・それで優しい味がする
「入れ方にコツがあるんだよ。それを守ればまずくなることはないぞ。
 ネギ君は紅茶がよかったか?気に入らなかったら紅茶淹れるぞ?」
「い、いえ、大丈夫です。
 でも日本のお茶っておいしいんですね。
 調べたら日本のお茶はとっても苦いと聞いていたので・・・」
「まぁ、それは淹れ方がダメなんだな。
 ちゃんとした淹れ方を知っていればそこまで苦くなることはないよ」
 そうなんだ・・・今度、紅茶を淹れてもらえないかな。士郎さんが淹れるものならとてもおいしそうだから

 お茶を飲みながら僕は士郎さんと楽しく話していた
 趣味を教えてもらったり、これからどのようにクラスのみんなに教えてこうかと話したりもした
 すると、それまで会話に入ることのなかったアスナさんが僕に耳打ちしてきた
「ねぇ、この人も魔法使いなの?」
「!? えぇとですね・・・それはですね・・・
 あははは・・・ち、違うんじゃないですか?こ、こんな近くに魔法使いがいるわけないじゃないですか・・・」
 ど、どど、どうしよう・・・学園長は士郎さんのことを関係者だって言ってたけど・・・
 僕は詳しくは知らないし、アスナさんに教えられるわけもない
 何とか誤魔化さないと・・・!

「あ、アスナさん。そろそろ帰りましょうか。
 このかさんも帰ってきてるはずですし、僕達がいなかったら心配しますよ?」
 ・・・アスナさんは僕の方を見てくれない・・・ずっと士郎さんを見て視線を外さない
 それを士郎さんはわかっているのかわかってないのか、お茶を飲んでいる
「衛宮先生」
「名前で呼んでくれて構わないと言ったろ?それと神楽坂、俺に敬語はいらないぞ」
「そしたら士郎さん。あんたは魔法使いなんでしょ?」

 あわわわわ・・・どうしよう、とうとう言っちゃったよ・・・
 こ、こんな時はどうするんだっけ?そ、そうだ!落ち着こう、深呼吸だ
 吸って~吐いて~吸って~吸って~すっ・・・ぶはぁ、く、苦しかった・・・
 
 ・・・どうしよう、すごく部屋が静かだ・・・ 士郎さんが無言で僕を見た・・・
 すごく怖い・・・一瞬しか見なかったけど怒ってるだろうなぁ・・・ここは言った方がいいのかな・・・?
 いや、言わない方がいい。・・・でも、後でバレちゃったらもっと怒られるし・・・
 あぁ、もうどうすればいいんだろう・・・


「ごめんなさい・・・アスナさんに魔法のことバレちゃいました・・・」
 耐え切れなかった・・・この緊張感、それに士郎さんのあの視線は怖かった・・・

 そしたら士郎さんは深いため息をついた
「はぁ・・・ネギ君。ネギ君がここで違うといってくれたら俺も笑って神楽坂を誤魔化したのに・・・
 君が白状したら俺も関係者だってわかるだろう?」
 あ、そうだった・・・しまった、僕が自分で墓穴を掘っちゃったよ~!
 
 うわぁ~ん、僕のバカバカ!
 これじゃあ、マギステル・マギになれないどころか・・・オコジョにされちゃう・・・
「ごめんなさい・・・」
「泣くな、ネギ君。
 どうしてバレたのか話してくれるかな?」
 うぅ・・・全部僕が悪いんです・・・

 僕はバレるきっかけを話した
 宮崎さんを助けたところをアスナさんに見られて、それで僕が魔法使いだと言った事も・・・記憶を消そうとして服を消してしまったことも・・・
 士郎さんは目を瞑ったままなにもしゃべらない
 やっぱり怒ってるんだ・・・僕が軽率なことをしたから怒ってるんだ・・・
 少しの沈黙の後、士郎さんは口を開いた
「宮崎は怪我をしたのか?」
「え?」
「宮崎は怪我をしたのかって聞いてるんだよ」
 士郎さんの声は優しかった。怒るのではなく、僕に優しく話しかけてくれた
「い、いえ。怪我はしていません。階段から落ちて地面にぶつかる前に助けましたから」
「なら、それでいいじゃないか。
 怪我は無かった。それは良いことじゃないか。
 たしかに魔法がバレてはしまったけどネギ君の行動は間違いじゃない。
 それとも魔法がバレて君は宮崎を助けなければよかったと思ってるのかな?」
 ・・・そんなことはない。宮崎さんを助けらて僕は良かったと思ってる
 もし、あのまま宮崎さんが落ちてしまったら大怪我をしてしまったかもしれないんだから
「・・・助けたことに後悔はしてません。
 宮崎さんが無事で本当によかったと思ってます」
「そうか・・・それならよかった。
 もし、後悔してるなんて少しでも言ったら怒ったけどね」
 うえぇ!?よかった・・・そんなことを思わなくってよかった・・・
 でも、そんなことを思っちゃいけないんだ。誰かを助けるというのは僕の意思でやることだから
 あの時、僕が宮崎さんを助けたいという気持ちに嘘はなかった
「神楽坂、たしかに俺はネギ君の関係者だ。
 だけどそれを知った所で君はどうするんだ?テレビなどに告発するか?」
「あんたが私に変なことをしたらバラすわ」
 そ、そんなことをされたら僕は・・・僕は・・・オコジョに・・・
「そうか。それは大変なことだけど・・・はたしてどれくらいの人が信じるかな?」
「・・・どういう意味かしら?」
 ? 僕にも士郎さんの言ってることがよくわからない
 魔法使いということがバレたらすごい騒動になることは間違いないのに・・・
「神楽坂がネギ君を魔法使いと言ったとして、それを正直に信じる人が何人いるかということだ。 
 いきなりネギ君が魔法使いだと言っても誰も信じないだろうな。それは魔法使いなんてものが空想上のものだからだ。
 普通の人ならそんなファンタジーな世界なんてないと思ってるだろう?それを常識的に捕らえてるからさ。神楽坂自信がそうじゃなかったか?
 君がもしクラスで俺達二人が魔法使いだと告発しても誰も信じないだろうな。君は彼女達にそんなのいないと言われ、俺達もそう言うだろう。それで終わりだ。
 証拠はあるのか?ネギ君が魔法を使った所をカメラやビデオに撮ったのか?証拠がかければ信じるものはいないよ」
 ・・・おぉ・・・たしかに士郎さんの言う通りだ
 僕だっていきなり士郎さんが火星人なんて言われても信じない。そんなのいないと思っているから
「うぅ・・・で、でも私はこいつに裸にされたのよ!?
 それを泣き寝入りしろっていうの!?そんなことできないわ!」
「それは俺の知る所じゃない。
 そこら辺はネギ君と話して決めたらいいさ。今、俺ができることはないんだからな」
 

 士郎さんの部屋を出てから僕達はアスナさんの部屋に戻った
 アスナさんは何もしゃべらない。ずっと俯いて目も合わせない
 相当、士郎さんに言われたことがショックだったみたいだ。アスナさんは士郎さんを魔法使いということでどうにかしようとしてたから・・・
 それが反撃され、正論だからアスナさんは何も言うことができなかった
「アスナさん、僕にできることならしますよ?
 そ、そうだ!少し期間はかかりますけどホレ薬は作ることができますよ?」
「・・・気持ちだけ受け取っておくわ・・・おやすみ・・・」
 
 そう言ってアスナさんはベッドに入ってしまった
 やっぱりそうとうショックだったみたいだ

 すぐにこのかさんも帰ってきて就寝することになった
 ・・・やっぱりホレ薬作ってみよう。それでアスナさんに今日のことを謝ろう

 僕はそう決めて眠りについた・・・



[2377] 魔法の世界での運命 7話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:a3755e82
Date: 2007/12/09 23:52
 〔ネギ START〕


 朝、僕はアスナさんのベッドに寝てしまった
 いつもお姉ちゃんと一緒に寝てたから・・・つい癖で・・・
 でもアスナさんはとってもいい匂いがして、とても落ち着いて寝られたんだよね
 
 アスナさんは起きてからすぐにどこかに行ってしまったんだけど、このかさんが言うにはバイトに行ったらしい

 ・・・今日もがんばって先生やるぞぉ~!
  それと今日からホレ薬も作り始めよう。時間はかかるけどちゃんとアスナさんに謝らなきゃね

 学校へ行く前に僕達は士郎さんの部屋に寄った
「ねぇ、別にいいんじゃないの?もう行ってるってば。
 それにあんまり会いたくないし・・・」
「でも、まだ行ってないかもしれないじゃないですか。
 それにですね、今日の授業の計画を考えたのでそれを聞いてもらいたいんですよ」
「ネギ君の言う通りやよ。でも、なんでそんな士郎さん嫌がるん?
 一緒にいった方が楽しいやんか。それにな~、ウチまだ聞いてないこともあるんや。だからそれも聞けたらええなと思ってるんや」
 それは僕も賛成ですね。士郎さんに昨日聞けなかったこともあるし

 士郎さんの部屋をノックしてみたけど返事は返ってこなかった
 もう学校に行ってしまったみたいだ。でも、アスナさんはそれがうれしかったみたいだ
「あ、ネギ君だ~!おっはよ~!」
「ネギ君、おはようさん。
 こんな所で何してるん?ここ女子寮やで?」
「佐々木さん、和泉さん、おはようございます。
 えぇとですね、士郎さんと一緒に学校に行こうかと思ったんですけど、もう行ってしまったみたいなんです」
「え?なんで士郎先生を迎えに寮に来るん?」
「それはな~。ここの部屋に士郎さんが住んでるからやえ。おじいちゃんに言われてここに住むことになったらしいんや」
「「えぇ!?」」
 あれ?なんか驚いてるけどどうしたんだろう。
 僕だってここに住むから士郎さんが住んでても問題はないんじゃなかな?
 ん?でも女子寮?
「だ、大丈夫なん!?男の人が女子寮にいて!?」
「うぅ~ん。大丈夫やと思うえ?
 士郎さん真面目そうやし、昨日ウチがここに来た時も“迷惑だったら言ってくれ。すぐ出て行くからさ”っていうてたし」
 士郎さんが迷惑かけるってあんまり想像・・・あれ?なんかできる
 僕達にどうかするってわけじゃないけど・・・なんかできる


 士郎さんの寮問題は解決しないまま学校についてしまった
 このかさんたちは色々な案を行ってたけど、アスナさんは一言・・・
「さっさと出てけばいいのに・・・」
 と言って教室に行ってしまった

 士郎さんは職員室にもいなかった
 しずな先生に聞いてみたら学園長のところへ行ったみたいと言っていた
 もしかして何かあったのかな・・・

 教室に行こうとして出て行くと士郎さんと会った
 なぜかとても疲れたような顔をしてたからどうしたのか聞いてみたら
「ちょっとした裏切りにあってね・・・大丈夫だよ、ネギ君。
 俺、がんばるから・・・」
 士郎さんのあがっている髪が落ちて、士郎さんは苦笑した
 ・・・僕は聞かない方がいいかもしれないと思った


 今日は1時間目から授業が入っていて、僕は気持ちを切り替えて教科書を開いた
 士郎さんは窓側で教科書を見ている。僕は座ってもいいって言ったんだけど“補佐といっても教える立場だ、座るわけにはいかないだろう”と言って断られた
 
 僕が言った英語を訳してもらおうと思ってみんなを見たら・・・誰も目を合わせてくれなかった
 アスナさんも目を合わせてくれなかったけど・・・泊めてもらったしお礼に当てよう
「じゃあ、アスナさん」
「な、何で私に当てるのよ!?
 普通は日付とか出席番号とかで当てるでしょ!?」
「でも、アスナさんア行じゃないですか。
 それに感謝の意味を込めて・・・」
「アスナは名前でしょ!?それに何の感謝よっ!?」
「要するにわからないんですわね、アスナさん。
 では、委員長のわたくしが代わりに・・・」
 いいんちょさんにまで言われて渋々教科書を持って訳し始めたけど・・・

 ・・・ちょっと?違うね。これはちょっとじゃないや
「アスナさん英語ダメなんですねぇ」
「なっ!?」
 あれ?僕なんか間違ったこと言ったかな?
 みんなが口を開いて、アスナさんは数学はダメ、理科もダメ、社会もダメ・・・
 とどめはいいんちょさんの“ようするにバカなんですわ”と言ってアスナさんが・・・
「ちょっと!士郎さん!あんた今笑ったでしょ!?私見たんだからね!」
 どういうわけか士郎さんに詰め寄っていった
 僕から士郎さんは見えたけど・・・ただ教科書にペンで何か書いてるようにしか見えなかった
 
 アスナさんに詰め寄られても士郎さんは慌てないで
「それは見間違いだろう。私は笑っていないし君に呆れたわけでもない。
 私は教科書に要点を書いていただけだ。
 それでも笑ったと言い続けるなら謝罪しよう。それで授業に戻るのであれば私は気にしない」
「気にしないってなによ!それって形だけの謝罪じゃない!
 それにね!あんた本当に英語なんて話せるの!?こいつの補佐やるくらいなら話せるわよね!話して見せてよ。
 話せなかったらちゃんと私に謝ってよね!」
 あわわわわ・・・どうしよう・・・また授業が・・・
 士郎さん、英語話せるのかなぁ?外国にいたって聞いてるけど・・・
「ふむ・・・それでは私が話せたならちゃんと授業を受けると約束してくれ」
「いいわ。話せるものならね」
 うわぁ、アスナさん自信満々だよ・・・
「では行くぞ、ネギ先生
 
 “ここからは英語で話していると思ってください”快晴
 
『ネギ先生は日本に来てどんな印象を持ったかな?
 もし、わからないことがあったら遠慮しないで聞いてほしい。これでも日本人だ』
『は、はい!
 でも本当に話せたんですね、僕てっきり話せないと思ってました。
 外国にいたっていうの本当だったんですね』
『なんだ、信じてくれてなかったのか。私は隠し事はするが嘘はつかない。
 さて、これくらいで神楽坂も満足するだろう』

 そう言って士郎さんはアスナさんの方に向いた
 アスナさんは俯いて士郎さんを見ていない。少し肩を震わせてるのは気のせいかな?
「これくらいでいいか?」
 士郎さんが話しかけてもアスナさんは何も言わない

 教室が静かになった時にやっと口を開いたんだけど・・・
「いいんちょ・・・あれ、本当に英語に聞こえた・・・?」
「え、えぇ・・・士郎先生は確かに英語を話していましたわ」
 アスナさんはいいんちょさんの意見を聞いて僕の方に近づいてきた
 なぜか近づいてくるだけでとても怖くて逃げ出しそうになっちゃった・・・
 アスナさん、本当に怖いのでせめて何か話してくれませんか?
 僕の前まで来て一言・・・
「あんたのせいなんだからね・・・覚えてなさい・・・」
 
 僕・・・またやっちゃったの・・・?


 授業が再会してからアスナさんは大人しく席に戻ったんだけど、ずっと僕を睨んでたな・・・ 
 士郎さんのことも睨んでたけど・・・あれは寒気がするほど怖かった・・・

「あの、ネギ先生。
 スイマセン、朝の授業について質問が」
 えぇと、この人は・・・出席番号14番の早乙女ハルナさんと4番の綾瀬夕映さん
 それに・・・昨日助けた宮崎さんだ
「いいですよ。
 ・・・あれ?宮崎さん髪型変えたんですね、似合ってますよ」
「え?」
「でしょでしょ!?
 かわい~と思うでしょ!?
 この子、かわい~のに顔出さないのよね~」

 そう言うと宮崎さんは顔を赤くして走り去ってしまった
「あん、ちょっとのどか~?
 ごめん、先生。またね」

 なんだったんだろう・・・質問はいいのかな・・・?
 ・・・アスナさんもあれくらい大人しかったらなぁ
 
 ん?鞄からなにか・・・こ、これは!?
 昔おじいちゃんがくれた“魔法の元、丸薬七色セット(大人用)”じゃないか!
 これならホレ薬見たいのが作れるかも・・・あ、でも、どうしようかな・・・
 アスナさん、今日の朝に“自分でどうにかするわよ”って言ってたけど・・・でも僕にできることこれくらいしかないし・・・ 
 これで許してもらえるかはわからないけど・・・やるだけやってみよう!


「アスナさ~ん」
「・・・また来たわね・・・ネギ坊主・・・
 何の用よ。くだらないことだったら許さないんだからね」
 う、こ、怖い・・・まだ怒ってたんだ・・・
 で、でもせっかくできたんだから作ったことを言わなきゃ!
「できたんですよ、僕が言っていたホレ薬ができたんです」
「・・・はぁ? 
 ・・・別にいらないわよ」
「あ、待ってください!本当にこれ効くんですよ?
 本当なんです、だから騙されたと思って少しだけ「ならあんたが飲みなさい」もぎゅ!?」
 の、飲んじゃった・・・僕がホレ薬飲んじゃった・・・
 ・・・あれ?なんともない?
「ほら、何にも起こんないじゃない。
 それにパンツを消しちゃう奴の作ったものなんて飲むわけないでしょ。
 そんなんじゃ、キゲンは直らないわよ」
 あれ?おかしいな・・・ちゃんとできたと思ったんだけどな・・・

 失敗かぁ・・・また最初から作るしかないかなぁ
「ネギ君って良く見ると・・・なんかすごいかわえ~な~」
 え?


 ど、どうしてこんなふうになっちゃったのかな!?
 このかさんには抱きつかれるし、いいんちょさんからはバラの花、それに脱がされて着せ替えられそうになったよ・・・
 
 逃げてる途中で宮崎さんが助けてくれて図書室に入ったのはいいけど・・・
 こ、こんどは宮崎さんが転んだ拍子に押し倒されて・・・なんにもかわってな~い!
 せ、生徒とこんな関係になったらダメだってお姉ちゃんが言ってたんだもん
 誰か助けて~!

「この・・・なにをやっとるか~!?」
 うわぁ!?扉がこっちに飛んで・・・は、弾かなきゃ宮崎さんも危ない!
 
 バシッ

「あ、アスナさん!!危ないじゃないですか!?」
「あ、本屋ちゃん・・・じゃなくて宮崎まで!?ご、ごめんね!?」
 危なかった・・・宮崎さんに当たらなくてよかった・・・
 それに図書室にも誰もいなかったみたいだし・・・よかったよかった

「まったく・・・危ないじゃないか。これ図書室の扉だろ?
 こんなのどうやって飛ばすんだ?・・・ってネギ君に神楽坂?
 ・・・宮崎はどうして倒れてるんだ?」

 あ・・・この声は・・・

 僕が後ろを見るとそこには扉を引っ張っている士郎さんがいた



[2377] 魔法の世界での運命 8話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:a3755e82
Date: 2007/12/10 22:52
 〔士郎 START〕


 俺は朝早くに学校に来ていた
 この時間に登校している生徒は少なく、まばらにしかいない

 俺がなぜこの時間に学校に来ているのかというと・・・

「学園長、俺の住む場所をお願いですから変えてください」
 女子寮からの脱出のためだった
 
 常識的に考えて男が女子寮に入寮なんて考えられない
 俺は間違っても問題を出すつもりはないが、それでも寮に入ってる女子生徒たちにしてみれば迷惑に違いない
 今までは男子というものがいなかった。その男がいきなり入寮、それも大人・・・不安に思って当たり前だろう
 しかし、意見というものはなかなか通らないものだ
「ダメじゃ」
「なんでさ!?学園長は生徒のことが心配じゃないんですか!
 俺は間違いを起こすつもりはありませんが、寮の女子生徒からしてみれば不安でしかたないでしょう!男がいるんですよ!?」
「たしかに生徒のことは心配じゃ。
 だがのう・・・ここ以外どこも空いてなかったんじゃ、・・・てへ」
「なにが“てへ”ですか!老人がそんなことをしても哀れむ目で見られるだけです!
 それに職員寮などに空室がなかったにしても他にはなかったんですか!?」
「戸籍などが必要になるがいいのかのう?」
「うっ・・・」
 そうだ・・・俺はこの世界にいなかったんだから戸籍とかの問題があるんだ・・・
 学園の管理下を離れたら俺はただの不法滞在者にされかれないんだ・・・
「それにホテル暮らしも無しじゃぞ。先日はしかたなかったがこれからは別じゃ。
 ホテルに滞在するお金は君が自分で払うことになるんじゃが・・・士郎君、君はお金は大丈夫なのかの?」
 まさか・・・このじいさん、ここまで読んでたんじゃないだろうな?
 ホテル暮らしなんてしたら、たしかにお金が足りない・・・それはいろいろと困ることになる
「それに士郎君は寮で問題を起こすつもりなのかの?」
「だからそんなことするつもりは全くありません!」
「じゃったら問題はなかろう?
 士郎君が問題を起こさなければ生徒もなにをするでもないんじゃからのう。
 それにみんな良い子ばかりじゃよ。君が寮に住むことにしても快く承諾してくれるじゃろう」
 そんなバカな・・・そんな簡単に受け入れてくれるわけが・・・

「ほれ、そろそろ戻らんと授業に遅れるぞい。
 今日も一日がんばって勤労に励んでくれい。フォフォフォ」
 俺はあそこに住むしかないのか・・・

 学園長にはめられてから俺は精神的少しやられてしまった
 時間が経つにつれて回復はしてきたが・・・それでも気は重い
 俺が迷惑をかけるつもりはなくても、俺がそこに存在することで迷惑になるなら俺は出て行こう
 これは決定だ。もし住める場所がなければ野宿でもすればいい

 
 放課後、時間があったから俺は図書室に来ていた
 ここが日本だということはわかったのだが、ここ以外の世界はわからない。もしかしたら俺の知らない大陸があったりするかもしれない
 歴史にしてもそうだ。どこかで歴史が改変しているかもしれないし・・・元からないかもしれない
 指導員の仕事の時間まで、調べてみよう

 ・・・ふぅ・・・大きな変化は認められない、か・・・
 俺が調べたものは世界地図や日本史、世界史、それに神話だ
 ケルト神話、ギリシャ神話・・・アーサー王伝説まで俺のいた世界と違いはなかった
 
 ・・・ただ俺の町が無かった。冬木という町が無かった
 それは少なからず俺を気落ちさせるには十分だった
 ここが並行世界なのは承知していた。でも、どこかで期待していたのかもしれない
 俺が育った町があることを・・・俺が理想を追い求めるきっかけになった思い出の地を・・・

 俺は何をやってるんだ・・・いまさら後悔したってしょうがないじゃないか
 切り替えろ、そして前を見ろ。俺が今いるのはこの世界なんだから・・・

 時間もいいぐらいだ。そろそろ本を片付けて・・・ん?後ろに何か・・・
 振り返った俺の目に映ったものは・・・こちらに向かって飛んでくる未確認飛行物体
 否、それは扉。それもこの図書室の扉だ・・・でもなんでそれが俺に向かって飛んでくるんだ?
 誰かが狙った?いや、そんな気配はしなかったし殺気もなかった

 まぁ、そんなこと今はどうでもいい
 今は扉をどうするかだ。避けることは簡単だが・・・それでは俺の後ろの本棚に激突して被害が大きくなってしまう。それは避けたい
 
 しかたない、受け止めるか

「ふっ」
 ・・・よし、扉をつかむことに成功。これでも眼には自信が・・・って関係ないか
 ・・・でも、こんな広い所で俺にピンポイントで飛んでくるなんてな。さすが幸運Eだな。不運の方が強いんじゃないだろうか

 扉が飛んできた方向に誰かいるようだ。これは一応注意しておかなければ
「まったく・・・危ないじゃないか。これ図書室の扉だろ?
 こんなものどうやって飛ばすんだ?・・・ってネギ君に神楽坂?
 ・・・宮崎はなんで倒れてるんだ?」
「し、士郎さん!」
 む、なんでネギ君は悪いことをして見つかったような顔をしてるんだ?
 それに俺は怒ってないんだから怖がらないでほしい。少し傷つくから

「・・・なるほど・・・ネギ君。ホレ薬はもう作ったらダメだからな?
 いいか?約束できるか?」
「はい・・・ごめんないさい・・・」
 話を聞いたところによると、ネギ君は神楽坂を喜ばせようとホレ薬も作ったらしいが、それを神楽坂が信用しなかったらしい
 ホレ薬を逆に飲ませれたネギ君は生徒に追いかけ回され、途中で宮崎に助けられるが、それもホレ薬の影響で同じことになった
 ネギ君を探していた神楽坂が図書室前で宮崎の声を聞くが扉が開かず、我慢できなくなり扉を蹴破った

「はぁ・・・ここはいいから早く宮崎をつれて帰った方がいい。
 扉の修理や後始末は俺がやっておくから」
「・・・すいません、士郎さん。
 また、後でちゃんとあやまりますから。失礼します」
「・・・悪かったと思ってるわ」

 まったく、もう少し考えてから行動してほしいもんだな
 ・・・まぁ、俺の言えたことじゃないか。今、改めて考えてみると遠坂にかなり迷惑かけてたんだな。あいつがよく我慢してくれたもんだよ

 よし、人が来る前にさっさとやってしまうか



 ふぅ・・・今日も大学部の奴らが騒いでいて帰るのが遅くなってしまったな
 夕食も手の込んだものを作ってられないし・・・炒飯でいいだろう
 昨日買ったもので足りるだろうし・・・また明日にでも買い物に行けばいいか

 ん?あそこで何をやっているんだ?それにあそこは・・・俺の部屋の前?
 ここから見える手前の顔は・・・朝倉に佐々木、椎名、古(クー)か・・・

「ここで何やってるんだ?」
 俺が声をかけると
「お、やっと帰ってきたね。
 私達は士郎さん待ってたんだよ」
 俺を?なぜ?
「そうネ、まき絵が士郎さんがここに住んでるって聞いたアルね」
「えへへへ、隣の住人としては気になっちゃって・・・でも先生何でここに住むことになっちゃったの?」
「そうだそうだ~!気になるぞ~。
 あたし的にはおもしろくなりそうだからいいんだけどね」
 椎名、それはおもしろいとは言えないぞ。むしろ危険と思うべきなんじゃないのか?
 ・・・その後ろにはまだいたか・・・たしか鳴滝姉妹にこのかまで・・・

 さすがに邪魔だからどこかに行けとも言えるはずもなく、部屋に通すことになってしまった
 朝倉、部屋を見るのはいいんだけどなんで写真を撮るんだ?クーと佐々木、押入れを開けるんじゃない。そこには外套やらなんやらがしまってあるんだから
 おい、鳴滝姉妹。冷蔵庫を漁るんじゃない
「はぁ・・・それで椎名は何をしてるんだ?ベッドの下なんか覗いて」
「え?いやぁ~。士郎先生も男だから・・・ねぇ・・・あっち系な本の一つや二つはあるんじゃないかと」
「あるわけないだろ・・・ここにそんなの持って来ていたらただの変態じゃないか・・・」
「HENTAI?」
「YES。
 少しかっこよく言ったって無いものは無いんだからな」
「みんな興味あるんやな~」
 まったく・・・何をしに来たかと思えば遊びに来ただけか・・・


 それからやっぱり質問攻めだった
 また彼女はいないのか、部屋に荷物が少ないのはなぜか、外套も見つかってしまい、それがなんなのか・・・
 
 そんな時・・・

 グゥ~・・・

 ・・・たしかに聞こえた。それもステレオで
「あ、あははは~。鳴っちゃった」
「えへへへへ・・・楓ねぇが週末なので出かけちゃって・・・めんどくさくて夜ご飯食べてなかったんです~」
 ・・・しょうがないか

「あれ?士郎さん、なにしてんの?冷蔵庫なんて開けて」
「腹が減ってるのにそのままにしたらかわいそうだろ?
 簡単なものでいいなら作るから待ってろ」
 
「え?本当!?やった~!」
「ごめんなさいです士郎先生~」
 ・・・懐かしいものを思い出させてくれたからな・・・
 
「士郎さん、ウチも手伝うえ」
「いや、大丈夫だよ。慣れてるし。
 それに俺が作るって言い出したんだから俺が作らないとな」
「ほか、そやったら作ってるとこ見ててもええ?」
「いいけど・・・おもしろいものじゃないぞ?」
 ただ作るだけだし・・・まぁ、いいか

「ほら、できたぞ」
「「わぁ~い!」」
 できたものは当初の予定通り、炒飯にした
 本当ならもう少し手の込んだものを作りたかったんだけど材料が無かったからそれで我慢してもらおう
 ・・・これで冷蔵庫のものがなくなったから明日は忘れないで買わないとな

 ・・・こうして大勢でいるのは久しぶりだな・・・少し前まで火薬と血の匂いのするところにいたなんて信じられないぐらいだ
「お、おいしい~!」
「おいしいです~」
 そうか、それならよかった
 料理を作った人にとって最もうれしいのは作ったものをおいしいと言ってもらうことだ
 それに・・・こんなにも笑顔で食べてくれたら俺も嬉しくて笑ってしまった
「あ~。士郎先生笑ったな~!」
「笑うなんてヒドイです~」
「いや、ごめんごめん。
 人に食べてもらっておいしいって言われたのは本当に久しぶりだったから・・・ついな。
 笑って食べてくれたから嬉しかったよ。ありがとう」
 本当に嬉しかった。俺はそれだけで満たされる
「へぇ~・・・。士郎さんってそんな感じで笑うことできるんだ。
 私はてっきり授業の時みたいな鋭い眼だけしかしないのかと思ってたよ」
「あ、それはウチも思ったわ~。
 ウチはまだ士郎さん笑ったとこ見たこと無かってん。新鮮や~」
「にゃ~。なかなか・・・グッジョブ!」
「・・・それ食べさせてくれないアルか?」
 
 残念だがそれはできないな。なぜなら・・・
「ダメ~。くーふぇにはあげないも~ん。おなか減ってるんだからさ~」
「ごつそうさまでした~」
「早っ!
 士郎さん、まだ残ってるアルか!?」
「残念だけどそれでお終いだ。冷蔵庫も空っぽになったし」
「そ、そんな殺生アルよ~・・・」
 
 ・・・今度は・・・いや、今度も材料を多めに買っておこう
 また、大勢で食卓を囲めたら俺としてはとても嬉しいから・・・



[2377] 魔法の世界での運命 9話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:a3755e82
Date: 2007/12/11 23:58
 俺とネギ君が学園に来て数週間
 わずかな期間だけしかいないが、それでも充実した日々だった
 明るく、楽しく、俺の入寮さえも受け入れてくれる・・・優しい生徒達・・・
 俺はこの空間を壊したくない。いや、壊してはいけないものだ
 だから、それを脅かすものを俺は許すことはしない。もしも、その時が来たのであれば俺はこの身で守ろう

 この身体は折れることのない・・・剣でできているのだから・・・



 もうすぐ新学期になる。春の足音も聞こえてくる
 そうなれば今よりもさらに元気な声が響くだろう。新たな目標を目指すものも出てくるかもしれない

 だが、その前に超えなければいけない試練が待ち構えている

 その名は・・・“学期末試験”


 学期末試験の一週間前、俺は学園長に呼ばれて学長室にいた
「学園長、用件はなんですか?
 英語の試験対策プリントが未完成なので、申し訳ないんですが早めにお願いします」
「ふぉふぉふぉ。士郎君も教師の姿が板についてきたのう。
 なに、時間はとらせんよ。用件はネギ君についてじゃ」
 ? ネギ君のことなのになぜ俺が呼ばれるんだ? ネギ君に直接話せばいいことじゃないだろうか

 学園長の用件はネギ君のこれからについてだった
 ネギ君は今、教育実習期間で正式な教員ではないらしい
 だが、それもある課題を乗り越えることができたら新年度からは正式な教員のなるという
 それは“2-Aを学年最下位から脱出させること”
 ・・・正直な所、それは簡単なことと考えたが・・・それは甘かった
 学年の成績順位表では、学年トップクラスが3人、上位が数人、中の中~下が大多数・・・
 そして、学年“逆”トップクラスが5人・・・これが特に厳しい
 ・・・これではもしものことが十分に考えられる為、俺は不安なのである

 このバカ五人衆(バカレンジャー)が居残りをした際、俺も見ていたのだが・・・正直、酷いものだった
 まさか、あそこまでとは思わなかった・・・あの五人に“三人寄れれば文殊の知恵”は適用されない
 勉強の類のもので答えが五人で考えても出ることはないからだ
 加えて、なぜか神楽坂が居残りでは機嫌が悪い。それは俺にはわからかった

「ネギ君の課題についてはわかりました。
 ですがそれだけではありませんよね?」
「もちろんじゃ。
 士郎くんは学期末試験に関わるネギ君の補佐はしないでほしいんじゃ」
「・・・それはどうしてでしょうか」
「それは君が手伝ってしまってはネギ君が自分の力でやったことにならないからじゃ。
 士郎君が課題を手伝い、最下位を脱出したと考えよう。
 それからなにかあるごとにネギ君が君を頼ったらどうするんじゃ?自分の力ではなく士郎君の力で解決しようとするかもしれん。
 それでは意味がないんじゃ。自分の力で乗り越えてこそ、これからを進んでいく自信をもつことができるんじゃからのう」
 ・・・学園長の言う通りだ
 
 俺も遠坂に助けてもらったことはあったが・・・それは些細なことがほとんどだ
 俺の道は自分で決めた。覚悟を持って一歩を踏み出した
 自分の問題を他人の力に頼って、それを支えにしていてはダメなんだ
 他人の力に頼って進むことは、足に重りをつけているのと変わりはない。いざ、壁を一人で乗り越えようとした時に他人の力に依存していると、その重りが邪魔になり、決して壁を登りきることができないのだ

 だから俺は学園長の言ったことに賛成した
「わかりました。俺はネギ君を今回、助けることはしません」
「うむ、結構じゃ。
 これでワシの用件はこれでお終いじゃ。仕事中に悪かったのう」

 俺は退室しそようと扉を開けると
「やぁ、士郎君か」
「あれ、タカミチも学園長に呼ばれてたのか?」
「うん、ちょうど仕事が終わったところだったからよかったけどね。
 じゃあ、またね」
 
 タカミチが扉を閉め、俺は歩き出した
 手伝うのがダメなら・・・今作ってるプリントはどうしようかな・・・

 あ、そうだ。寮の自販機が壊れて飲み物出てこなくなってたな
 一応、学園長に報告しておかないと

 俺はもう一度学長室の前まで来た。扉に手をかけようとしたら・・・扉が開いてる・・・?
 タカミチが閉め損ねたんだな
 話を盗み聞きする趣味はないし、わからないように閉めておくか

 扉を閉めようとした時・・・俺は聞き捨てならないことを聞いてしまった
「・・・では一般人に被害が・・・。・・・・、・・死ぬ・・・」
 ・・・なんだって・・・?一般人に被害?死ぬ?それはどういうことだ?

 俺が気がついた時には扉を開け放っていた
「学園長、その話を詳しく聞かせてもらえないでしょうか」
「! 士郎君、聞いていたのか・・・」
「聞いてしまったことはすいません。 
 ですが扉が開いていたので聞こえたんです。それよりもどういう意味ですか?
 ・・・一般人に被害や・・・死ぬというのは」
 確かに聞こえたもの。それは俺が嫌うもの。絶対に無視できないこと
「すいません学園長・・・僕が閉め忘れてしまったようですね。
 でも士郎君、これは君に関係のないことだよ。僕としてはそのまま部屋を出て行ってほしいな」
「・・・俺のことなんてどうでもいい。
 教えてくれ。誰かが傷つくかもしれないのに大人しくなんてしてられないんだ」
「では、なぜそこまで士郎君がこの話を聞きたいのか理由を教えてもらおうかのう。
 ただ聞きたいからなどということであれば退室してもらうがかまわないかな?」
 
 ただ聞きたい?違う。話がおもしろうそうだったから?違う
 俺はそうやって生きてきた。俺がそうありたいと思い、生きてきた
 ただ一つの理想。決して揺らぐことのない、それだけを心に決めてここまで歩いてきたんだ
 世界がかわったなんて些細な事でそれが変わるはずもない

「俺は正義の味方になりたいんです」
 学園長もタカミチも笑わないで俺を見ていた
 だから俺も眼を逸らすことなく真っ直ぐ見つめて言葉を続けた
「俺は全てを救いたいんです。
 理不尽なことで無意味な死を遂げさせたくないんです・・・死んでいいものなんていないんです。
 俺はそうやってしか生きていけません。誰かを救う為にここにいるんだから・・・。
 世界が変わったから決めた理想が変わるなんて事はない、世界のどこかで救いを求める人がいるのなら俺はどこにだって行く。それが俺の生き方・・・。
 そのためならこの命を差し出します。俺は誰がなんと言おうとこの生き方を変えるつもりはありません」

 それがどこまで達成できたかは・・・わからない
 それでも・・・それでも!俺は絶対に諦めない!
 もらい物の理想だと言われようとも関係ない。俺は憧れたんだから・・・切嗣が果たせなかった理想、アイツが諦めた理想・・・
 俺はオヤジとの約束を守る。アイツのようにもならない。
 これは俺が選んだ道だから・・・決して間違いなんかじゃない

 学園長もタカミチも何も言わない。呆れているのか、それとも笑うのを我慢しているのだろうか
「ふむ・・・危うくワシらが彼の生き方を否定するところじゃったのう」
「そうですね。・・・士郎君は彼に少しだけ似てますね」
「うむ、自分のことを勘定に入れてない辺りがそっくりじゃのう。
 それに士郎君はすでに“立派な魔法使い”じゃったようじゃ。
 失礼したのう、士郎君。君の決意は確かに受け取ったぞい」

 学園長から許しを得て、俺は先ほどの話を聞いた

 話の内容はやはり裏の世界のことだった
 依頼は本国というところ。この世界には俺達が今いる場所とは違う“魔法界”というものがあるらしい
 その依頼内容が違法魔法薬の売買を止めること。違法魔法薬というものは言ってしまえばアヘンやコカインなどの麻薬のようなものらしい
 この手のものは規制がとても厳しく、簡単には作ることもできないし売ることもできない
 それが今回、秘密裏に売られることが判明した。情報源は売ろうとしていた売人で、違法魔法薬の効果があまりに強すぎ、怖くなって逃げたらしい

 ただそれを許すわけもない。麻薬というものは大金が動くものだから、その計画を知っている奴の口を封じなくてはいけないんだから
 ・・・密告した売人は殺される数分前に違法魔法薬の売買の場所、日時などを記したものを残して殺されてしまったという・・・
 確かに売人は悪いことをしていた。だが最後にはあやまちに気づいて足を洗おうとした。それは難しいことだ
 一度入ったものはなかなか抜け出すことができない。まして、殺されるとわかっていながら密告した売人は勇気ある人間だったんだ

 助けることはできなかった・・・が、それを無駄にするわけにはいかない

 本来であればタカミチが行くはずではなかったのだが、状況が変わった
 売買する連中が裏の世界のボディーガード雇ったらしい。それに加えて悪い魔法使いもいるというのだ。結果、危険度が上がり、タカミチに依頼がきたんだという

 そしてこれが最も重要なこと・・・それは、違法魔法薬を一般人に売買しようというものだ
 魔法使い相手でも危ないものなのに・・・それを一般人に使用したらどうなるか・・・
 良くて廃人・・・悪くて死だ・・・

「それでどうするかのう、士郎君。
 ・・・まぁ、聞くまでもないようじゃがのう」
「はい、俺も行きます。
 俺がいない間のことはお願いしますね、学園長」
 これは最初から決めていたこと。話を聞いてしまったからには誰がなんと言おうとも、俺は行くつもりだ
「それはかまわんのじゃが・・・どうやって行くつもりじゃ?
 パスポートはないんじゃし・・・密入国するつもりではあるまいな?」
 ・・・ぶっちゃけ、そのつもりでした・・・
「まったく、しょうがないのう。
 士郎君、三日待ってくれんかのう。三日待ってくれれば必要なものをこちらで用意することができるでのう」
「三日ですか・・・もっと早くにできないんですか? ・・・と言いたいところですが、それが限界なんですよね」
「すまんのう、こちらにも色々と手段を踏まないといけないのでな。
 安心しなさい、まだ時間はあるんじゃ。気休めかもしれんが今は大丈夫じゃから。
 今は士郎君が用意できるものを用意しておいてほしい。
 場所と日時はタカミチ君から聞いてほしい。
 以上じゃ。二人そろって無事に帰ってくることを約束してほしいのう」
「わかってますよ、学園長。
 必ず士郎君と帰ってきますから安心してください」
「そうですよ。
 それに、俺はまだまだ死ねませんからね。帰ってくるのを待っててください」
 
 俺とタカミチは学長室を出て、これからの予定を話すことにした

 絶対に阻止する。誰も傷つかないことを誓おう・・・この剣(身)にかけて・・・



[2377] 魔法の世界での運命 10話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:332f0e77
Date: 2007/12/14 00:11
 〔士郎 START〕


 タカミチからの説明によると、俺達が行く目的地はオーストラリア
 アリススプリングスという町外れの廃墟で売買が行われるらしい。加えて、その場所で違法魔法薬も作っているらしい
 タカミチが依頼された内容は売買の阻止、その魔法薬の痕跡を消すこと

 俺は疑問をタカミチに言ってみた

 違法魔法薬を売るのはわかったが、それを買う一般人が薬に疑問を抱いたりしないのかと

「それはどうだろうね。今の世の中じゃ麻薬なんて簡単に買えるものだし。
 成分を知ってる人はいるにはいるんだろうけど・・・でもね、薬物に依存してしまった人はさらに強い物を欲しがるんだ。
 最初は興味本位で使ってみた、それが徐々に増えていった。そしたら一つでは足りなくなった、じゃあ今度は二つ使ってみよう。これがいわゆるカクテルってやつだね。
 でも混ぜるものを間違えてしまうとこれはとても危険なんだ。だからよほどの人じゃなかったら手を出さないんだ。
 でもね、今回のものが今までの薬より強いとわかったら手を出す人は多いだろうね。成分的には同じだけど効果が強いから完全な薬物依存者だったら購入する。
 そこから不信感を持つような感情がなくなる。 

 先に買ってる人がいるならその薬を大丈夫だと言う人が出てくるだろうし・・・なにより、薬に嵌まってしまった人たちが一番怖がる症状があってね。
 それは禁断症状。最初はただの空耳程度の幻聴、それが幻覚になり、声だけ聞こえる脅迫になったりする。
 最終的には身を裂くような激痛が襲うこともあるんだ。
 今回の違法魔法薬を使った人はすぐに禁断症状に陥るだろう。強い薬ということもあるんだけど・・・その薬が続けられないんだ。
 売人が一つの場所に留まっていたらすぐに僕みたいな魔法使いが売人達を捕まえに来るからね、少し売ったら次の場所に行く。
 残された使用者は禁断症状で、良くて廃人、最悪で死ぬだろう。
 これは使用者の口封じ。
 それにこういう連中は人が死ぬことなんてなんとも思わない奴らがほとんどだ」

 だから僕の所に依頼が来た、と・・・タカミチは臆すこともなく言い切った

 それが二日前。俺は学園長から偽造のパスポートをもらい、今は飛行機の中だ
 ネギ君には悪いと思ったが今日まで俺が少しの間いなくなることを言わなかった。学園長に頼み、俺はただの出張ということにしてもらってる
 ネギ君がこんな暗いことを知るには早すぎる

 さぁ、これから命を懸けた戦いが始まるかもしれない。油断をするな、衛宮士郎


 〔タカミチ START〕


 オーストラリアに着いたのが昨日、僕達はアリススプリングスに来ている
 観光なんて生易しいものなんかじゃない。生きるか死ぬかという仕事に僕達は就いているんだ

 もうすぐ日付が変わろうとしている
 僕と士郎君は宿に泊まることもなく、借りた車の中で一夜を明かし、この時間まで会話らしい会話もなく身体を休めるだけだった

 けど、それも終わり
 
 出発する時刻となり、僕達は車を出る

 住民は寝静まり、外を歩いている者はいない。その中を二つの影が移動していく
 
 目的の廃墟が見えてきた。これを見るのは今が初めてだ
 不用意に近づいて相手に感づかれたくなかったからだ

 僕達がいる場所から廃墟までは約500m、月明かりだけが頼りで視認している
 そんな中で士郎君が口を開いた
「・・・結界が張ってあるな。たぶん人払いの結界だろう。
 タカミチ、護衛のような人間はいない。入り口より上の階には人の姿はないよ。
 たぶん地下で売買するつもりだろう」
 まるで目の前で見ているかのように彼は言った

 僕は廃墟があって、それぞれの階には明かりがないぐらいのことしか見えなかった
 僕の予定としてはそれぞれの階を見て判断しようとしていた。だから、その情報はありがたくもあり、驚きもあった
「よく見えるね。よほど眼が良いんだね、士郎君は」
「まぁね。眼には自信があるんだ。
 それじゃあ・・・行くか」

 僕は何も言わずに立ち上がり、士郎君も隣を歩いてる

 士郎君は黒い鎧のようなものに赤いマント姿
 僕はスーツ姿でポケットに両手を入れている

 士郎君は何も言わないし、僕も彼に何も言わない。今は必要がないから
 
 廃墟に着き、中を見渡す
 ・・・人払いの結界で安心しているのか、僕達の足元には薄い明かりがついていた
 これならば間違いはない。僕達以外の誰かがこの建物の中にいる

 階段を見つけたが上に行けそうにはない。階段は上に続いているのではなく、崩れてその役割を果たせないでいた
 でも、行けないこともない。僕達なら軽くジャンプしたら上の階に行ける
 僕は士郎君が壁に手を当て、眼を瞑っているのを見た
 士郎君を待っていたのは20秒ほど、それから士郎君は僕に振り向き
「やっぱり地下だ。
 そこの壊れた台の下に地下に続いてる道がある」
 士郎君はあると言った。あると思うではなく、そこにあると言った

 僕は音がしないように台をどかし、下の石畳を外した
 そこには地下に続く階段があり、薄い光も下にのびていた
 なぜ、彼はこれがわかったんだろう。死んだ売人はこの情報は残していない
 なのに彼はこの道を見つけた。どんな魔法を使ったのか・・・いや、彼の場合は魔術か・・・

「この下に部屋は一つしかない。
 そこを制圧してしまえばこの仕事は終了だ」
 なんの感情もない、僕が聞いた事のない冷たい士郎君の声
 士郎君はこの世界に来る前にどんな経験をしたのか、僕は知らない。彼が話す時まで僕も学園長も聞かないだろう
 
 ・・・今はもうこの考えは必要ない。今、僕達がするべきことは薬を売買させないこと
 
 階段を降りていき、扉の前に止まる
 扉の向こうからは人の気配がする。売人にボディーガードだろう
 それに魔法使いもいることだろう
 士郎君の実力を疑うわけではないけどすぐに終わらせよう
 魔法使いの戦いを見たことがあるわけでもない、どんなものが飛んでくるかもわからないんだから

 僕は士郎君に目で合図を出した。“ここは僕が扉を破る”と
 士郎君は頷き、僕から少し離れる。僕も射程距離まで下がる

 左腕に“魔力”。右腕に“気”・・・合成!

 豪殺・居合い拳

 それを扉に放ち、轟音と共に部屋の中に侵入する

 さぁ・・・はじめようか



[2377] 魔法の世界での運命 11話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:332f0e77
Date: 2007/12/16 23:03
 〔タカミチ START〕

 
 部屋の中に侵入し、状況を確認する
 売買の関係者は10人ほど。その内二人が居合い拳で気絶している
 
 向こうはいきなりのことに状況が読み込めてないがそれもすぐになくなるだろう
「何だ貴様は!」
 ボディーガードのような者が近づいてきた

 杖は持っていないが指輪をはめている。魔法剣士か・・・けど問題はない

 魔力も気も使わず、拳圧を打ち出す居合い拳で相手の体勢を崩す
 敵の背後に出ていた魔法の射手をキャンセルして本命を打ち出す

「くぁっ! なんだこれグボァ!」
 魔力と気の合成する技法。感卦法
 これによる威力は絶大。魔法使いではないものがこれを受けたものなら重傷は避けられないだろう

 でも、相手は魔法使い。遠慮などしない
 地下が崩落しては大変だから威力は抑えるけど、それで十分みたいだ

 さらに二人が近づいてくるが・・・二人まとめて片付ける
「ぐがっ!」
「ずぁ!?」
 
 彼らは決して弱くはない。ただ強くもない。まだまだ修練が足りない
 一撃で気絶し、壊されてしまうような障壁。相手を観察せず、考え無しに突っ込んでくる行動。これは未熟としか言いようがない
 少しは相手の力量を測るような行動をするものだけど、それをしない
 おそらく報酬だけで引き受けたんだろう
 僕達が来るかもしれないということを想定しない。僕から言わせてもらえば思慮が浅い
 
 おまけに首謀者のような者も抵抗すらしないで逃亡しようとしている。僕の背後を通って
 逃げ出したのを確認したからそのままにしておいたんだけど、それでも後ろから攻撃もしないなんてね
 ・・・最近の悪党は根性がないなぁ

 ここまで約一分。だいたい半分を倒したことになるな
 残り半分は心配要らなかったかな

 すでに残りの敵は地に伏している。その中心には長身、白髪の男がたたずんでいた
「終わったかい?」
「・・・いつもはこんなんじゃないんだろ?
 これじゃあ、情報の方が強い感じがする。それにこんな小物が人の命を持てあそぼうとしたんだから気分が悪い」
 士郎君は呆れたような顔をしながら倒れている敵を見ていた

 たしかにたいした心構えもできていないのにこんなことをしようとするんだから世も末だ

 
 僕達がこの部屋を出て、彼らを連行する魔法使いを待とうとすると

 後ろで何かが動く音がした

 僕と士郎君はその場から飛び退くと、僕達が立っていた場所に炎が通り抜けた
「・・・どうやら本命が隠れてたみたいだね」
「そうだな。こっちは本当の悪党みたいだ」
 後ろを見ると気絶している女性を腕に抱えて、僕達に手を向けている黒いローブを着た男がいた

「念のためと思い、雇っておいて正解だったな。役立たずでも盾ぐらいにはなるようだ」
 なるほど、こいつの近くにいた人を盾にして防いでいたか
 それに女性を前にして僕達が攻撃できないようにしている。これは場慣れしている
 少しでも動けば殺すと脅しをかけることも忘れていない
 女性の首に腕をまわして折ろうとしている
「白髪の男、これが見えないのか。その弓を下ろせ」

 男がそう言って僕も見てみると、そこにはいつの間に出したのか弓を構えた士郎君がいた
「さっさと下ろさんと間違ってこの首を折ってしまいそうだ」
 そう言われて士郎君は弓を下ろした
 士郎君の眼は怒りが篭っていた。それを男もわかってるのか口元を歪めている
 ・・・僕の居合い拳では女性も巻き込んでしまう。士郎君が弓に自信があっても巻き込まないで男だけを打つなんてことはできないだろう
「ふん、それでいい。
 二人だけでここに乗り込んでくるとは良い度胸だが・・・それも貴様だから可能なわけだ。
 なぁ、タカハタ・T・タカミチ。
 “悠久の風”で貴様に目をつけられようものなら逃げられないというが・・・それも今回で終わりだな。私が最初だ
 ・・・それに貴様の命もな」

 呪文が唱えられ、僕達に向けられた手に魔力が集っていく
 ・・・これは少し危険だな・・・なんとか注意を引きつけられればいいんだけど・・・
 それだったら女性に怪我をさせてしまう・・・でも・・・それもしかたないのか・・・

「お前はここから逃げられると思っているのか?」
 士郎君が男に言い放つ。それを男は少し呪文を唱えれば完成するところを中断して笑う
「そうだな、貴様等を殺して私は逃げる。ここに来たということは他に魔法使いが来る可能性が高い」
「それはどうかな。もしかしたら人払いの結界を見つけて来たのかもしれない」
「それこそまさかだ。
 人払いの結界を張ったということはそこで何かあるということを示しているんだ。
 そこに来るということはただのバカか、もしくはやることを知っている者だ。君たちのような者が来ただけとは考えられん。
 計画を知ってるからここに来たんだろう?」
「そうだな。俺達はお前を倒して仕事を果たす。
 だからここで死んでられない。まだまだやることがあるからな」
「それは命乞いかね?
 だとしたら興ざめだ。君のような者が人質を無視し、立ち向かってくる所を殺すのがいい・・・それが人を殺すことで最も愉快!」
 これまでで見たことのないほど顔を歪めて笑う男

 だがそれも一瞬だった

「ぐおぉぉぉおぉぉっ!!??」
 男がいた場所には女性が倒れている。男は僕達に向けていた手を壁に矢で貫かれ、動けなくなっていた
 僕も反応できないほど士郎君の行動は速かった
「ぐぉぉ・・・貴様・・・いったい何をした・・・」
「ふん、人質を取っている時は捕らえてる腕に気をつけることだな。
 お前が笑う瞬間、腕が緩んだぞ」

 そんなことができるのか・・・?僕だってそんな緩んでるなんてわからなかった
 それに・・・反応できたとして向けられている腕に弓で照準を合わせることができるんだろうか・・・
 人質を傷つけることなく、敵だけを射抜くことが・・・

「これ以上何も言うことはない」
 士郎君は男を殴り、気絶させた


 〔士郎 START〕


 女性に怪我はなく、薬を使われた形跡はなかった
 おそらく、彼女に薬を打ってその反応を見るための者として使うつもりだったんだろう・・・
 
 この世界でもこんなことをする腐った奴がいるのか・・・どの世界に行ってもこれだけは変わらないのか・・・
 
 売買関係者を外に運んで、タカミチがどこかに連絡すると少ししてから魔法使いが転移してきた
 ・・・俺の世界では純粋な転移は魔法だ。これをたくさんの人が使えるというなら、改めてここが魔法の世界なんだと実感してくる

 タカミチが連中を引き渡すと魔法使いの一人が俺の方に近づいてきた
「・・・今回、私達が依頼した仕事を果たしていただきありがとうございます。
 この後の破壊についてはあなた方にお任せします。その処理、破壊した際の裏工作は私達がやっておきますので」
「・・・わかった、そっちは頼んだ」
 この仕事が終わったら俺にできることなんてない。だからここはこの人たちに任せよう

 俺は廃墟の中に入り、地下に下りた
 ・・・ここで人を殺してしまうようなものが作られていた。これは事実だ
 そんなものはもう作ってはいけない。いや、作らせない

 タカミチに聞いたところ、痕跡を残しておくと優秀な魔法使いであれば時間かければ同じものが作れるらしい
 タカミチがこの建物と地下の部屋の物を破壊できないといって後できた魔法使いに任せようとしたけど、それを俺は止めた
 これは俺達が引き受けたのもだから最後まで自分がやらなくてはいけないと思った
 タカミチがどうしてできないかは知らないが・・・俺ならできる

 部屋に着いた。俺は誰もいないことを確認して
「投影・開始」
 魔剣など、いくつかの剣を投影する。機材がある場所には囲むように剣を突き刺す
 これだけすれば痕跡などほとんど残らないだろう

 廃墟を出るとタカミチが待っていた。他の魔法使いはどこかに行ってしまっていた
「やぁ、準備はいいのかい?」
「あぁ、それそれの階にも仕掛けてきたからすぐに倒壊する。
 タカミチは先に戻っててくれないか?」
「わかったよ。
 あぁ、そうだ。結界はさっきの魔法使い達が改めて張ってくれたよ。防音結界だから心配はいらないってさ。
 連中を連行し終わったらまた戻って来るって言ってたよ」

 タカミチは俺から離れていった
 
 あとは・・・廃墟を破壊するだけだ
 
 意識を集中して、中にある剣を感じとる・・・そのまま剣の幻想を限界まで膨らます
 その数は10。ランクは低いが地下に重点的に剣を刺してきた
 剣が耐え切れなくなったとき俺は呪を紡ぐ

 ブロークン・ファンタズム
   「壊れた幻想」

 地を揺らす大規模な爆発。それにより廃墟はたちまち倒壊していく
 
 もうこんなことは起きてほしくないと願いをこめながら・・・



 仕事を終えて一日休みがあった
 学園長が成功したときは羽を伸ばしてこいと言っていたらしい
 なんか悪い気もしたけど・・・クラスのみんなにお土産を買うのにはいいかもしれない
 外国の出張だったといえば彼女達ならどんな仕事だったとか聞くこともないだろう

 一度飛行機に乗ってアデレードまで飛んだ
 そこからはどんなお土産がいいかタカミチと考えながら散策しよう

 空港に着き、タカミチとロビーへ出ると
「士郎君、君とはここでお別れだ」
「え?」
 タカミチがそんなことを言ってきた

「昨日、君とわかれた後に電話があってね。これからまた仕事に行かなきゃならないんだ」
「それなら俺も行く」
「それはできない。今度の仕事は本国、“魔法世界”なんだ。
 行くには手続きが必要なんだけど、士郎君はそれをしてないからね。行けないんだ。
 詳細な情報がなかったら入国できないんだ。頭の固い人達ばかりだからね。
 ・・・それでもというなら今回は諦めて、学園長に頼んでみるといい。時間はかかるかもしれないけどちゃんと次にはちゃんと行けるようになると思うよ」
 
 ・・・それならばしょうがない・・・今は急遽手配してくれたもので俺はここに来たんだから
 本国に行くとなれば今回みたいに簡単には無理なんだろう
 ・・・本当に悔しい・・・今の俺は誰かの助力がなかったら何もできない・・・
「そんな顔をしないでほしいな。
 今回のことは僕は感謝してるんだ。あの状況だったら僕はあの男を逃がしていただろう。逃がしてなかったとしても人質の女性は怪我をしていただろうし。
 それが怪我をしないで主犯の奴を捕まえることができたのは士郎君のおかげなんだからね。
 女性の記憶は消しておいたから心配はいらないよ。ただこれを伝えておこうと思ってね。
 記憶を消す前に気がついて“助けてくれてありがとう”って言ってたんだ」

 ・・・よかった・・・その言葉を聞くだけでよかったと思える・・・
 怪我もしないでよかった・・・何かをされる前に助けられてよかった・・・
「それじゃあね、また学園でね」
「またな、タカミチ。怪我とか気をつけろよ」
「ははは。努力するよ」

 タカミチは飛行機でどこかの国に旅立って行った
 それから本国に行くんだろうな・・・


 さて、クラスの学期末テストはどうなったんだろうな 
 ネギ君は大丈夫だと思うけど、ちゃんと謝っておこう。大事な時に補佐とはいってもいなかったことにかわりはない
 みんなにも喜んでもらえるようなお土産を買うとしようか・・・



[2377] 魔法の世界での運命 番外
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:332f0e77
Date: 2007/12/16 10:08
 〔明日菜 START〕


 春休みになって新学期までの少しだけの休み
 その間はクラブ活動に励む人、実家に帰省する人などする人がたくさんいる
 
 そんな中で私は早朝から新聞配達のアルバイトをしている
「アスナちゃん、今日もお疲れ様。これ、お給料ね」
「はい、ありがとうございます。
 それじゃあお疲れ様でした~」

 今日の配達も終わって部屋に戻ってもう一度寝ようかと考えていたら・・・また見つけてしまった・・・

 もう、何でいつもこの時間になったらあいつがあそこいるのよ
 バイトがあるたびに毎回毎回・・・なんか私に恨みでもあるの!?

 寮の近くの小さい林のなかにそいつはいる
 長身、白髪、少し黒い肌・・・その名は衛宮士郎・・・先生
 何であんなのが教師なのかしら・・・最初に会った時も私に好き勝手言ってきて・・・
 私があいつが魔法使いだってことで少し脅してやろうかと思ったら叩きのめしてくるし・・・あいつ絶対に私に個人的な恨みがあるに違いないわ
 このかとかくーふぇは料理がおいしいし勉強とかでわからないところがあったらわかりやすく教えてくれる良い人だって言ってたけど・・・
 私はなんか信用できないのよね

 クラスのみんなやネギがなんかやってるときにあいつの眼が私は嫌い
 遠くを見ているような悲しい眼差しで見るときがある。それが気に入らない
 たしかにたまには笑う時もあるけど・・・その笑顔が本心で笑ってるように見えない。まるで何かを諦めたような感じがする

 ・・・いつもは木刀振ってるけど、今日もそうなんでしょうね
 無視。無視しよう。それが一番いいわよね。あの人がなにしようと私には関係ないんだし

 でも私は見てしまった
 今日も木刀を振ってるんだろうと思ってたらその手には木刀がなかったから
 それに少し変な構えをしてるし
 半身で中腰、手を突き出してるのではなく、胸の前にある・・・何かを抱いてるように・・・
 私にはそれが何かに巻きついてる蛇に見えた

 その体勢からパンチを突き出すように動いた
「え?」
 それは目の錯覚だったのかもしれない。でも私には腕が曲がったように見えた
 それからもパンチをしたりしているけど・・・腕が曲がったりするようには見えなかった
 ・・・あれは私の見間違い。うん、きっと見間違いだったんだ。少し疲れてるのかもしれないし、早く帰って寝よう

 そう思って寮に戻ろうとしたら・・・げ、目が合っちゃった・・・
 うわぁ、それにこっちに来るし・・・別に来なくてもいいのに・・・
「おはよう、神楽坂」
「・・・おはようございます、士郎さん」
 うぅ・・・逃げればよかったかなぁ・・・でもそれはさすがに失礼だし・・・
「今日もバイトだったんだな。いつもご苦労様」
「別にたいしたことじゃないわ。もう慣れちゃったし、それに必要なことだからね」
 私には親がいないから、ここに来た時は学園長が学費を出してくれてた。でもそんな迷惑をいつまでもかけてられないから私はバイトをはじめて、少しずつでも返そうとしている
「そうか、それならよかった。
 それじゃあ行くか」
「・・・はい?」
「だから寮にだよ。この時間にここにいるってことはバイト終わって寮に戻る途中なんだろ?
 俺も朝の鍛練は終わったから寮に戻るんだ。帰り道は同じなんだし一緒に行こうと思ってな」
 ・・・頷くしかなかった・・・・

 ・・・気まずい・・・士郎さんは何も言わないし私も何も言わない・・・
 それが無性にダメな気がする・・・何か・・・何か話すことは・・・そうだ。さっきやってたこと聞けばいいんだ
 私が見たときにやってなかっただけかもしれないけど初めて見たことにかわりはないから
「士郎さん、さっきやってたのって拳法とかなんか?」
「ん? さっきの?
 あぁ、あれは人のマネだ。俺が見たものを思い出しながら長いことやってるんだけど・・・なかなか・・・」
 完成しないというわけね・・・そりゃそうよね。真似なんだから
「それだったらそれをやってる人に教えてもらえばいいんじゃない? マネるよりいいと思うけど」
「・・・それはできないんだ。
 さっきやってたのは故人のものだからな。教えてもらうこともできなければ、この世にあれを知ってる人もいないだろうし」
 ・・・やば、余計なことを聞いちゃった・・・
 まさか死んだ人のマネをしてるなんて夢にも思わなかったから・・・
「気にすることはないさ。神楽坂は知らなかっただけだし、故人のだって教えたのは俺なんだからさ」
 たしかにそうなんだけど・・・それでもなんか悪い気が・・・

 そのまま会話は続くまもなく、寮に到着
 士郎さんとわかれることとなった
 
 ・・・ちゃんと話してみて思ったんだけど・・・話せば悪い奴じゃないことだけは少しわかった


 午後になって私はネギとこのかと学園の中を歩いていた
 この間の図書館島のことで私が噂を信じてネギに迷惑をかけてしまったそのお詫びとしてカフェに向かう所だった
 それにこのかがネギが正式な教員となったことのお祝いがしたいということもあった

「わぁ~、やっぱりこの学園って広いんですね~」
「そうやえ~。ウチらも学園全部歩くんに結構かかったんや。
 まだここに来て経ってへんネギ君がびっくるするもんはまだまだあるんやえ~」
「そうね、私も驚くようなものがいっぱいあったし・・・」
 たとえばネギみたいな魔法使いがいることとかね・・・この学園に魔法の力があるなんて思いもしなかったし

 カフェに着いて紅茶を飲んでいると怒鳴り声が聞こえてきた
「わ・・・あ、あれなんですか?」
「あれは工科大と・・・外部の人たちね。
 はぁ、こんな昼間からケンカするなんて暇ね。それにお酒も入ってるみたいだし」
 どうしてこうも血の気が多いのが多いんだか・・・麻帆大と工科大の仲が悪いのは知ってるけど、外部の大学とも仲が悪いなんてね
「ぼ、僕、止めてきます!」
「ちょっと待ちなさい。あんたが言ってどうにかなるわけないでしょ?それに怪我でもしたら大変なんだからね。
 あっちが勝手にやりはじめた事なんだからあの人たちがちゃんと治めるわよ」
「で、でも・・・」
「でももストもないの。あんたが相手にされるかだって怪しいんだから大人しくしてなさい」
 
 まったく、こういう教師としての責任感とかはいっちょまえなんだから
 いくらネギが魔法使えたってあれをどうにかしようとしたら魔法使っちゃうだろうし、絶対にバレちゃうじゃない

「あ、士郎さんや」
「え?」
 私達が注文したものが来たと同時にこのかが指をさした
 その先を見ると竹刀袋を持った士郎さんが見えた

 そうだ、士郎さんは広域指導員だった。こういう事態を治めることもするのよね
 でも大丈夫なのかしら? あの人たちって格闘団体の人だと思うんだけど・・・いくら士郎さんでも危ないんじゃない?

 何を言ってるかは聞こえないけど、説得してるように見える。けど外部の人たちはそれに耳を貸すどころか手を振り払うように殴ろうとした
 それを軽く後ろに避けてやれやれという感じで肩をすくめて竹刀袋に手をかけた
 その中から出したものは・・・竹刀?
 ・・・いや、普通の竹刀ならあの黄色と黒の虎模様は・・・それに虎のストラップまで・・・
 あれならバカにしてるようにしか見えないじゃない。ほら、外部の人がいっせいに殴りかかって来たし
 
 あれ? なんで工科大の人はそんなに悲しそうな目で外部の人を見てるの?

 その理由はすぐにわかった

 襲い掛かる拳に臆すこともなく迎え撃ち、避け、返り討ちにする
 士郎さんが動き出すとパンチは空を切り、竹刀で面や胴を捕らえる

 最後の一人は・・・でかっ!? あれって2メートル超えてるんじゃないの?
 大男は叩き潰すように両拳を握って振り下ろした
 それを懐にもぐり込むように避けて・・・突いた

 大男が宙を舞う。ただの竹刀であんな大男が5メートルも飛ぶって・・・どうやったの?
 
 士郎さんが竹刀袋に虎柄竹刀を納める。周りには気絶した外部の人
 士郎さんは工科大の人たちに何か言ってるけど・・・すごく工科大の人たちがペコペコしてる・・・
 いったいなにやったらそうなるのよ・・・

 士郎さんがその場を去ると、工科大の人たちは外部の人を引きずって去っていった
 それまでの時間は・・・5分? 
「士郎さんって強いんですね~」
「そやな~。怖い人たちあっという間に倒してしもうた」
「あれ異常じゃない? 5メートルも飛ばされるって・・・」
「く~ちゃんは士郎さん以上に飛ばすの見たことあるんやけど?」
 ・・・そういえばそんなところも見たことあるわね
 そう考えたら別に士郎さんってちょっとすごい程度なのかな? いやいや、常識的に考えなきゃ・・・って、士郎さん常識的な人じゃなかったか
 ネギと同じだったもんね

 
 そんなことがあった春休み

 少しだけ士郎さんの見かたを変えた春休みだった



[2377] 魔法の世界での運命 12話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:2594695f
Date: 2007/12/22 00:50
 〔ネギ START〕


 今日から新学期だ。
 僕が正式な先生になって初めてクラスのみんなと顔を合わせるんだな~。
 
 よし! こういう時は最初が肝心だし、失敗しないようにがんばろう!

 職員室には士郎さんがいなくてしずな先生に聞いてみたら“私が来た時に少しだけ見たけどその後から見てないわ”とのことだった。
 士郎さんは学校に来るのが僕より早いけど、しずな先生は士郎さんと同じぐらいに来るらしい。
 それだったら少なくても数回は顔を合わせると思うんだけどな。

 士郎さんは学期末テストの後、僕に会ってすぐに謝ってきた。
 本当は僕が図書館島の地下のことを話してアスナさん達を危険な目にあわせてしまった事を謝ろうとしてたんだけど・・・
 僕がなんで謝るのかと聞いてみたら。
「俺はネギ君の補佐だ。それなのに肝心な時にいなかったからね・・・。
 今だから言っちゃうけど、学園長に君の課題を手を出さないように言われてたんだ。これはネギ君のやるべきことだからってね。
 でも、それは言い訳にしかならないと思ったんだ。
 ネギ君の課題の手助けはできないとしても他のことぐらいはできたと思う。
 だけど俺はいなかった。俺があやまる十分な理由があるんだ」
 
 僕はそんなことは全然気にしてなかった。
 出張は仕事だし仕方ないことだと思うし、学園長が手助けをしないように言ったのは当然だと思うから。
 
 だから僕は士郎さんは何も悪くないんだから謝らないでほしいと言ったんだけど・・・士郎さんは苦笑しながら言った。
「今回の出張は俺が行くと言い出したんだ・・・俺の勝手な判断でね。
 ちゃんとした仕事が与えられてるのに、本当なら俺に関係ない仕事を優先してしまった。
 今回のことは本当に申し訳なかった」
 僕はそのまま士郎さんに謝られるがままになっちゃったんだよね。
 僕は気にしてないのになぁ・・・勝手にとは言っても、それは士郎さんがやらなきゃと思ったからそっちを優先したんだと思う。
 だから僕は士郎さんに怒りを感じてもいないし不満もない。
 士郎さんに図書館島のことを話したら苦笑しながら“次にこんなことがないようにすればいいよ”と言ってくれた。
 

『3年!A組! ネギ先生~っ!』

 元気良くHRが始まって僕は改めて自己紹介をした。
 
 このクラスの中には僕がまだ話しかけていない生徒さんもいるんだなぁ。
 一年で31人、みんなと仲良くなれたらいいなと思う。
「ネギ先生」
「はい、なんですかいいんちょさん?」
「士郎先生がいませんがどうかしたのでしょうか?」
「はい。それなんですけど、用事で遅れるとのことです。
 それともう一つ連絡があります。士郎さんも僕と同じく正式な先生となりました。
 このクラスの副担任をしてもうことになりました」
 朝、学園長に会って教えてもらった。なんでも出張先で士郎さんはすばらしい働きをして、学園長がそれを評価、昇格にしたらしい。
 補佐の立場にそれほど変わりはないけどいつも僕の側にいられなくなるかもしれないらしい。
 
「そうなんですか。それは喜ばしいことですわ」
「そうですね。僕としても心強いです」

 そんな話をしてたら・・・とても鋭い視線を感じた。
 視線のする方を見てみると・・・僕がまだ話しかけたことのない生徒と目が合った。
 すぐに目を逸らされたけど、一瞬、寒気がした。

 あの人は・・・エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルさん・・・タカミチが名簿に困った時に相談しなさいって書いてあるけど・・・
 さっきの視線はいったいなんだったんだろう。

 
 しずな先生が身体測定の準備をしてほしいと言われたからみんなに言ったんだけど、間違えて準備と言う所をすぐに脱いでくださいといってしまった。
 うぅ・・・ちょっと落ち着かなきゃ・・・
 
 しずな先生は少し慌てた感じで亜子さんを呼んで保健室に行くように促してたけど仕事かな?
 亜子さんは保険委員だから、もしかしたら身体測定で必要なものがあるのかもしれないし。

 みんなの身体測定が終わるまで教室の外で待ってたら、少しだけ変な感覚があった。気にするほどのものじゃないけど・・・
 そしたらすぐに亜子さんが慌てたようにこちらに走ってきた
「先生ーっ!大変やーっ!まき絵が・・・まき絵が!」
 亜子さんの慌てぶりは今まで見たことがないぐらいだった。何かあったんだと思って話しを聞こうと思ったら。
「何!? まき絵がどうしたの!?」
「うわぁ~!?」
 
 イギリス紳士として目をそらさなくてはいけないものがたくさんあった・・・


 保健室の扉を開け、中を見ると士郎さんとベッドに寝ているまき絵さんがいた。
「士郎さん、どうしてここに?」
「俺が佐々木を見つけたんだ。昨日、和泉に佐々木が帰ってきていないと聞いて今日は朝から探してたんだ。もしもということがあるからね。
 少し前に桜通りで寝ている所を見つけてここまで運んできたんだ。その後はしずな先生に会って和泉を呼んでもらって今に到るというわけだよ。
 怪我などはしていない。ただの貧血のようなものだろう」
 みんなは安心したようにしてるけど・・・桜通り・・・?
 
 何でそんなところで寝るようなことになったんだろう・・・
 ・・・いや、まき絵さんからほんの少しだけだけど‘魔法の力’を感じる・・・
 どういうことなんだろう・・・僕の他に魔法を使える人がいる?
「ネギ、なに黙っちゃってるのよ」
「あ、はいすいません。
 ・・・まき絵さんは士郎さんの言う通り貧血みたいですね。
 それとアスナさん。僕、今日は帰りが遅くなりますから晩ご飯いりませんから。
 もう少ししたら僕も教室の方に戻りますから先に言っててください」


 アスナさんたちが教室に戻って保健室には僕と士郎さんが残った。
 士郎さんはまき絵さんに残った魔法の力に気づいてるのかな・・・

 すると、士郎さんの方から声をかけてきた
「ネギ君、ここに残ったということは・・・気づいてるんだね?」
「・・・はい。士郎さんも気がついてたんですね。
 ほんの少しだけですけど、まき絵さんから魔法の力を感じます。
 でも、どうして魔法使いとは関係ないまき絵さんから魔法の力がするんでしょう・・・」
「・・・こんな噂話を知ってるかな?
 満月の夜になると桜通りに現れるという吸血鬼の話を」
 僕は知らない。アスナさんやこのかさんに聞けばわかるかもしれないけど、今は関係ない。
「佐々木の首筋を見てほしい。赤い点のようなものがあるんだ」
「え?」
 僕が確認してみると、たしかに良く見ないとわからないぐらいの赤い点があった。塞がって見えにくくなってるけどこれって・・・
「わかるかい?たぶんこれは噛み跡だ。
 ・・・噂の吸血鬼のものだと俺は考えてるんだけど、佐々木は死者にはなってないから違うかもしれない・・・ネギ君はどうだい?」 
 
 僕は士郎さんのいう死者というものがわからないけど、これは噛み跡で間違いないと思う。
 もしかしたら残された魔法の力は記憶を消す為に使ったのかもしれない。
「これは噛み跡ですね。士郎さんの死者というのはわからないですけど、もしかしたら・・・本当に吸血鬼がこの学校にいるのかもしれません」
 これが本当だとしたら見過ごすわけにはいかない。これ以上被害者を出さないためにも、魔法使いとしても。
「僕は今日の夜から見回りをします。
 黙ってるわけにはいきませんから」
「・・・そうか。
 それなら俺も同行しよう。一人よりは二人の方が見つけやすいだろうし捕まえられる確立も高くなるだろう」
「だ、ダメですよ。危ないじゃないですか。
 それに僕はまき絵さんの担任なんですから、この事件を解決しなくちゃいけないんです。
 だから士郎さんは・・・」
「関係ない、と言いたいのかな?
 それなら心配はいらない。俺も佐々木の副担任なんだからね。だからこれに関わる権利は持ってるんだ。
 なにより見過ごせない」
  
 う・・・そうこられたら僕はどうすれば・・・
 いや、いくら士郎さんが魔法使いの関係者でもこれはさすがにマズイんじゃないかな?
「ついでに言わせてもらえばネギ君が拒否しても俺は勝手に動くからそのつもりでな。
 俺から言わせてもらうと協力した方が効率がいいと思うんだけど・・・どうかな?」
 うぅ・・・士郎さん、その笑顔はいじわるに見えます・・・
 
 僕は士郎さんに言い包められてしまい、協力することになった。
 士郎さんのいうことに一理あるんだけど・・・嫌な予感がする。
 
 今日の夜、桜通りで待ち合わせになった。



[2377] 魔法の世界での運命 13話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:2594695f
Date: 2007/12/22 23:24
 〔ネギ START〕


 士郎さんはまだ桜通りに来ていない。
 もしかしたら仕事が入ったのかもしれない。士郎さんは広域指導員の仕事もしてるから。
 
 ・・・夜の桜通りってちょっと不気味だなぁ。
 たしか日本には桜の木の話で怖いものがあったような・・・

 そんなことを思いながら桜を見ていたら通りの向こうで黒い影が見えて・・・誰かを襲おうとしてる!?

 すぐに通りの向こうの方から叫び声が聞こえた。
 距離は近い。杖で飛んでいけば間に合う!
 それに襲われてる人は・・・宮崎さんだ! 
「待てっ!
 ぼ、僕の生徒に何をするんですか!」

 宮崎さんは驚きと恐怖で気絶してしまったみたいだ。
 でもそれは魔法を見られることがないからいいけど・・・ここにいたら危険なのにかわりはない。宮崎さんを守らなくちゃ!
 
 吸血鬼を捕まえる!
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル。
 風の精霊11人、縛鎖となりて敵を捕まえろ。
 魔法の射手・戒めの風矢!」

 魔法の射手が吸血鬼を捕まえる為に向かっていく。
 でも、それは氷の盾にはね返されてしまった。
 やっぱり犯人は・・・魔法使い・・・!?

「くっ・・・驚いたぞ。凄まじい魔力だな・・・」
 えっ? この人は・・・
「き、君はうちのクラスの・・・エヴァンジェリンさん!?」
「新学期に入ったことだし、改めてご挨拶といこうか、先生・・・いや、ネギ・スプリングフィールド。
 10歳にしてこの力とは・・・さすがに奴の息子のことだけはあるな」
 え・・・? どうしてそのことをエヴァンジェリンさんが・・・
 いや、今そのことは関係ない。
「何者なんですか、あなたはっ!
 僕と同じ魔法使いなのに何故こんなことを・・・!?」
「・・・この世にはいい魔法使いと悪い魔法使いがいるんだよ、ネギ先生。
 氷結・武装解除!」

 そう言って魔法薬を触媒に武装解除の魔法を使ってきた。
 とっさにレジストはしたけど、少しだけ魔法を受けてしまった。
 ! 宮崎さんはっ!?
「宮崎さん、大丈・・・わぁ!?」
 宮崎さんの制服のほとんどが今の魔法で氷になって散ってしまって・・・ダメッ! 見ちゃダメだ僕!
 どうしよう、どうしよう・・・そんな時。
「何や、今の音!?」
「あっ! ネギ!
 ・・・ってあんたそれ・・・!?」
 アスナさんとこのかさんが来た。
 
 あわわわわ! アスナさん誤解してますよ! 宮崎さんをこんな風にしたのは僕じゃないんですよ!
「ネ、ネギ君が吸血鬼やったんか~!?」
「ち、違います! 誤解なんです!
 あっ! 待てっ!」
 そんなやりとりをしてたらエヴァンジェリンさんが離れていってしまった。

「アスナさん、このかさん!
 宮崎さんを頼みます! 僕は事件の犯人を追いますから心配しないで先に帰っててください!」

 そういい残して僕は急いでエヴァンジェリンさんを追った。
 このかさんとアスナさんがなにか言ってたような気がしたけど、もう聞こえない。
 風の魔法で足が速くなってるからずっと後ろにいる。

 それにしても・・・なんでエヴァンジェリンさんはこんなことをしてるんだろう?
 それに言い魔法使いが悪い魔法使いがいるなんて・・・世のため人のために働くのが魔法使いの仕事なのに・・・
 それにエヴァンジェリンさんは僕のお父さんのことを知ってるみたいだった・・・
 
 ・・・いや、今そのことはいいんだ。今僕がやることはあの人を捕まえて話を聞かなきゃ!



 僕はエヴァンジェリンさんの魔法の威力が弱いことを感じ取り、お父さんのことを聞きたくないのかと言われて勝負に出た。
 精霊を召還し、エヴァンジェリンさんを武装解除して寮の屋根の上に追い詰めることができたんだけど・・・
 エヴァンジェリンさんのパートナーである絡繰茶々丸さんが出てきて、魔法の詠唱を邪魔されてしまい、逆に僕が捕まっちゃった・・・

 その後、僕が知らないことをエヴァンジェリンさんに言われたんだけど・・・お父さん、何をしたんですか? 呪いのせいで長いこと学園にいることと魔力が低く封じられてることがわかった。
 だから触媒を使ってたんだ・・・それに溜まってた怒りで僕につかみかかってきてがぁ~っと不満をぶつけてきた。
 く、苦しい・・・

「このバカげた呪いを解くには奴の血縁者たるお前の血が大量に必要なのだ。
 ・・・悪いが死ぬまで血を吸わせてもらう・・・」
「うわぁ~ん、誰か助けて~!」
 
 カプッ

 か、噛まれちゃった・・・僕、噛まれちゃった・・・
 死んじゃうのかな・・・。こんなことになるなら誰かパートナーを探しておくんだったよ~・・・

 僕が諦めかけたその時。
「コラ~~ッ! この変質者ども~!
 ウチの居候に何すんのよ~!」
 アスナさんが文字通り、飛んできた。
「はぶぅっ!?」
 エヴァンジェリンさんと隣にいた茶々丸さんがアスナさんに蹴り飛ばされて僕から離れた。
「か、神楽坂明日菜!?」
「あ、あれ~? あんたたち、ウチのクラスの・・・。ちょっとどういうこと~!?
 ま、まさかあんた達が今回の事件の犯人なの!? それに二人がかりで子供イジめるような真似して・・・答えによってはタダ済まないわよ!」
「ぐ・・・よくも私の顔を足蹴にしてくれたな・・・神楽坂明日菜・・・。
 だが残念だったなネギ先生。たかが素人が増えた所で仮契約さえしていないのでは茶々丸の相手にならんぞ!」
 う、たしかに言う通りだ。運動神経が良くたって相手は戦ったりする人なんだから・・・いくらアスナさんでも危ない。

 でも、その考えは僕の後ろから聞こえた声で消えてしまった。
「だったら素人でなければいいんだな。それなら俺が相手をしよう」

 後ろから現れたのは黒いスーツと赤いシャツに身を包んだ白髪、長身の人がいた。
「士郎さん・・・!」
 士郎さんは射抜いてしまいそうな視線でエヴァンジェリンさんを睨んでる。
 とても怖かったけど・・・同じくらい安心してしまった。
「くっ。さすがに貴様がいるのであれば分が悪い。
 今日のところは引いてやるが・・・覚えているがいい」
「あ、ちょっと!
 ・・・ここ8階よ・・・?」

 エヴァンジェリンさん達がいなくなったことで僕は緊張の糸が切れてしまい抱きついてしまった。
「まったく・・・あんたは犯人を一人で捕まえようなんてカッコつけて!
 取り返しのつかないことになったらどうする・・・って何してるの?
 何で士郎さんに抱きついてるの? 士郎さん、教えて?」
「俺にもわからないけど・・・。
 怖かったんだろう。先生とはいってもまだ子供なんだ。
 今回みたいに命の危機にさらされれば泣いても不思議じゃないさ」
「うわぁ~~ん、士郎さ~ん! ぐすっ・・・」
 僕は士郎さんに抱きついたまま思い切り泣いてしまった。
 とても怖かった・・・。本当に死んじゃうんじゃないかと思った・・・

 泣いてる僕を撫でてくれるアスナさんと士郎さんの手がとても温かかった・・・



[2377] 魔法の世界での運命 14話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:2594695f
Date: 2007/12/24 20:07
 〔士郎 START〕


 夜になり、俺はネギ君と待ち合わせのため桜通りに向かっていた。
 このままでは約束した時間に遅れてしまう。今日も大学部の格闘団体が大騒ぎをしていたので俺が鎮圧に出ていたのだ。
 全く……文句を言うわけじゃないがもう少し大人しくしてもらえないだろうか。
 加えて麻帆良工学部がグラサンかけたロボットを暴走させるし……壊さないで止めることが無理だったから壊させてもらったけどな。
 ・・・ただ、暴走したことに落ち込むのではなくどうやって俺に勝てるように作るかという咆哮に走っていた。
 挫けないその精神はすばらしいが、そこに俺を出すことはやめてほしい。

 雲に隠れた月の下、学園の中庭を通っていると魔力を感知した。
 ……そして俺に向けられた敵意。
「とうとう見つけましたよ、吸血鬼。
 この私に見つかったことを後悔しながら捕まりなさい!」
「!?」
 いきなり俺に向かって放たれる魔法。数は11。避けられないことはないが……なんで俺が狙われる?
 
 これはたしか魔法の射手だったな。エヴァンジェリンが使っていたものと似てる。
 俺は魔法を放った人物から距離をとる。建物の上に杖を持った長髪で金髪の女の子と・・・黒いマントと仮面姿の人間のような者が4人いた。
「隙を突いたつもりなんですが……なかなかやりますね。
 ですが、それもここまでです。影よ、行きなさい!」
「ちょっと待て! 俺は吸血鬼じゃない!」
「そんな白髪で長身な怪しい人を私は見たことがありません! だとしたら今考えられることは吸血鬼以外ないでしょう!」
 完全に勘違いしてるから言ってはみたけど意味は無かったみたいだ。
 
 号令と共に俺に襲い掛かってきた奴らは人ではなかった。人の形をした影だ。
 ……このまま逃げることもできるけど、それだったらどこまででも追いかけてきそうだしな。
 俺は虎竹刀を構えて迎え撃った。

 影の動きはたしかに速いが、俺の抑えられた身体能力と比べてみたも遅い。
 連携はとれているがまだ甘い。あの女の子は戦闘経験が少ないようだな。
 俺は避け、相手の攻撃を受け流して攻撃し、影を倒そうとした。だが思ったよりも頑丈で虎竹刀では少々力不足のようだった。
 だからといって干将・莫那を使うのはマズイだろうし……このままでは時間がかかってしまう。……これならどうだろう。

 “投影・開始”

 影から離れ、腰の辺りに手を隠して投影する。
 投影したものは二振りの木刀。ただの木刀ではなく干将・莫那ぐらいの長さにのものを投影した。
 それを魔力を通して強化。これで木刀は鋼鉄の強度を誇る。
「くっ、まだ武器を隠し持ってましたか。
 ですがその程度で私の影を倒せませんよ。それにもうすぐ仲間が来ます。
 観念した方が身のためです」
 仲間が来るか……その仲間が話のわかる奴だったらいいがわからなかったら今の状況が悪くなるだけだ。

「お姉さま! お待たせしました!」
 ちっ、仲間が来たか……一応言ってみるか。
 雲に隠れた月も出て、より見えやすくなる。
「遅いですよ! 吸血鬼はあそこです。一気に仕留めますよ!」
「待った! おい、君! ……ってあれ? 君は……」
「え? あなたは……ぷぎゅ!?」
 あ……建物から降りてこちらに近づいてこようとしたら……転んだ。
「メイ!? よくもメイを!」
「いや、俺は何もしてないんだけど……」
「あなた以外誰がするんですか! それとも勝手に転んだとも言うのですか!?
 いくらメイでもそこまでドジではありません!」
 いや、何も無いところで転ぶのはちょっとドジ入ってるんじゃないだろうか……
「もう謝っても許してあげません!」
 そう言うと同時に影がさらに増えた。
 合計で12。……しょうがない。怪我しないようにはするから勘弁してくれよ。

 俺は強化された木刀を振るって攻撃する。
 よし、これで十分影を倒すことができるな。
 それにこれ以上長引かせたら一般人がこの中庭に来てしまうかもしれない。早く終わらせよう。


 ドガッ

「詰みだ。これ以上は意味が無いことはわかるだろう?」
 俺は金髪の女の子を壁際まで追い詰めて、女の子の顔の横の壁に木刀を突き刺す。
「くっ……。
 それでこれからどうするんですか? 私の血を吸いますか?」
 はぁ……まだ勘違いしてるのか……。
「さっきから言ってるだろう。俺は吸血鬼じゃないって。
 俺はこの学園の教師だ。まだ新任だけどな。まだ信じられないと言うなら気絶してる彼女……佐倉愛衣に聞いてみたらいいさ」


 数時間前

 学園長に呼び出されて俺は学長室に来た。
 なんでも紹介したい人たちがいるということらしい。

「うむ、よく来てくれた士郎君。
 君に紹介したい人とは……まだ来ていないんじゃがもうすぐ来るじゃろうし待っててくないかのう」
「わかりました。
 先にどんな人物か聞いてもいいですか?」
 
 学園長の話では俺に紹介するのはこの麻帆良学園の魔法先生、魔法生徒らしい。
 俺が正式な先生になるということでちゃんと紹介したいとのことだった。

 5分ほど待ってると扉がノックされて数人が入ってきた。
 ……その中にはやっぱりと言うべき人物もいた。
「おや、士郎先生じゃないか。学園長が紹介したいって言うからどんな人物だと思ったんだが」
 龍宮真名か……彼女は最初に見たときからこっち関係の者ではないかと思っていた。
 普通の生徒とは空気が違う。それは戦場を体験してきた空気だとわかってるからだ。
「期待を裏切ったみたいだけど俺が裏の世界の関係者だとはわかっていたんじゃないのか? 
 桜咲もな」
「……はい、私は士郎先生がただの人間ではないことは最初に見たときにわかりました」
 桜咲刹那。いつも長い竹刀袋に入った日本刀をを抱えている少女。
 俺が最初に見た時は何で他の人は気がつかないんだろうと思ったものだ。まぁ、普通に考えたら日本刀なんて持ってるわけがないと判断しちゃうのかもしれないけど。
 それともう一つ気づいたことがあった。
 桜咲からは血の匂いがした。ただ人の血ではなく、人外の血の匂いがした。おそらくその日本刀で魔を殺してきたんだろう。
 これは勝手な推測だが、彼女は退魔一族ではないかと俺は思っている。

「ごほん。さて、知っている者もいるかもしれんが衛宮士郎君を紹介したい。
 彼は前学期の終わりに来たことは知っておるとは思うが、彼は魔法使いの関係者じゃ。
 今回、正式な職員になるということで君達に顔を合わせておこうと思ってのう。
 では自己紹介をしてもらおうかの」

 学園長が呼んだのは他にも4人。
 瀬流彦先生、葛葉先生、明石裕奈の父親の明石教授、中等部2年の佐倉愛衣が学園長に呼ばれて来たようだった。
 学園長は他にも声をかけたらしいが仕事などで来れないと言われたらしい。

「じゃあ士郎先生でいいかな? 君は魔法使いなのかな?」
「いいえ、違いますよ、明石教授。
 俺は魔法使いではありません。ただそれに近い存在であるというだけです」
 魔法使いだって言ってもいいかもしれないけど、なんかそこは違うような気がして……やっぱり俺は魔術使いなんだなぁ……
「へ~、士郎君ってこっちの世界の人だったんだね。
 僕は結構、顔を合わせてたけど気がつかなかったよ」
 瀬流彦先生は俺が職員室にいるときに最初に話しかけてくれた先生だった。
 とても明るい彼の人柄はとても好ましい。

 紹介も終わって、それぞれの道に分かれて行ってしまうなか、俺と佐倉愛衣は同じ道を歩いていた。
 
 ……会話がない。俺が視線を向けるとすぐに俯いて視線を逸らしてしまう。
 これは話しかけないほうがいいな。怖がってるのかもしれないし。
 そんな勝手な考えをしていたら向こう方から話しかけてきた。
「え、衛宮先生は最近来ましたけど、それまでどこにいたんですか?」
 緊張しているような口調で話しかけてくる。
 さすがに異世界にいましたなんて言えるわけもないから。
「そうだな、外国にいたよ。
 旅をしながら色々な国を見てきた」
「そ、そうなんですか。
 きょ、今日は来れなかったんですけどお姉さまも来るはずだったんですよ」
「お姉さま?」
 お姉さまって……まさか……いや、そんなはずないと思う。いや、思いたい……
「はい、いつもお姉さんみたいに接してくれるので私もそう呼ぶようになってしまったんです」
「そ、そうなのか。
 その人は学生なのかい?」
 
 そんな会話をした後、俺は佐倉と別れて大学部の方に向かった


 現在

「と、言うわけなんです。おわかりになりましたか?」
「……申し訳ありませんでした。私の勘違いで……」
「気にすることはないさ。誰も怪我してないし、君も吸血鬼を探してたんだし」
 なんとか誤解を解くことができて和解ができた。
 
 彼女、高音・D・グッドマンは今回の吸血鬼の事件を調べる為に学園長の呼びかけに行くことができず、ここで待ち伏せをしていたらしい。
「それじゃあ、俺は行くから……っ!」
「どうしたんですか?」
 これは……魔力! それも桜通りの方向からか!
「すまない、またいつか!」
 俺はそう言い残してその場を離れた。


 俺が走り出してから戦闘が始まったようで魔力が移動しているようだった。
 俺はネギ君との待ち合わせの場所から離れていたから追いつくには時間がかかる……

 魔力の気配に近づいてきて、俺は建物の上に飛び、辺りを見回した。
 すると500mほど先にネギ君が見えた。寮の屋根の上にいる。それにあれは……エヴァンジェリンと茶々丸か?
 だが……ネギ君が捕まっている!? 
 俺は狙撃しようと弓を構えたが……くそっ! ネギ君が茶々丸の身体に近すぎる! それにエヴァンジェリンがネギ君と重なっていて狙えない。
 あれでは狙撃したら下手をすると屋根から一緒に落ちてしまうかもしれない…!
 
 俺は狙撃をやめ、全速で寮まで駆けて行った。
 すると……
「士郎さん!? なんでここに!?」
「それは俺のセリフでもあるぞ、神楽坂。
 君は何でここにいる?」
「私はネギが誰かに捕まってるの見えたからよ! あれ変質者でしょ!? だってあれって下着姿だったもん!」
 ……たしかにエヴァンジェリンは何故か下着姿だった。
 ……趣味なのか?
「そうか。俺もそれを見てここまで来た。
 ここからは危険だぞ。ここに残れ」
「いやよ! あいつは私の部屋の居候なんだから、ほっとけないわ!」
 まったく……これは言うことを聞きそうにないな……


 俺と神楽坂が寮の屋根の上に着いたときに見えたのは……エヴァンジェリンがネギ君の首筋に噛みつこうとしてるところだった。
 まさか……あいつが吸血鬼?
「! 士郎さん、私をあそこまで投げられる!?」
「いきなり何を言い出すかと思えば……どうするつもりだ?」
「投げてもらって私がネギを助けるのよ! そのほうが走っていくより速いし。
 できる? できない?」
 ……このままではネギ君が死者になってしまうかもしれない……でも神楽坂を投げることは可能だけど……危険だ。
「できるが・・・君を危険にさらすわけには「そんなこと言ってネギがどうなってもいいの!?」……」
 たしかにこのままでは……
「わかった……覚悟はいいか?」
「いつでも!
 ……でも屋根を飛び越さない程度には加減してね?」
 もちろんだとも。

 
 神楽坂を投げるために身体をを持ち上げて振る被る。
「もう少し丁寧に扱えない?」
「この状況で文句を言うな」
 そのまま……投げた。

 神楽坂は狙い通り、エヴァンジェリンと茶々丸の方向に飛んでいき、神楽坂が蹴り飛ばした。
 力加減も良かったようだ。

「ぐ……よくも私の顔を足蹴にしてくれたな……神楽坂明日菜……。
 だが残念だったなネギ先生。たかが素人が増えた所で仮契約さえしていないのでは茶々丸の相手にならんぞ!」
 たしかに神楽坂が力は強くても戦闘をするものからしてみれば相手にならないだろう……だが。
「だったら素人でなければいいんだな。それなら俺が相手になろう」

 さすがに俺も少しだけ頭にきていたから殺気のこもった視線で睨みつける。
 あいつは死者を作ろうとしたのかもしれない……それは許せない……
 エヴァンジェリンは分が悪いと感じとって逃げた。
 俺はそれを追いかけようとしたら……腹の辺りに何かがぶつかった。
 何でと思って見てみると……泣いているネギ君だった。

 ……追いかけたがったが俺も人の子。泣いてる子供を置いていけるほど非情ではない。
 俺は神楽坂と泣いているネギ君の頭を撫でていた。


 このことは学園長に報告しよう。ネギ君は噛まれているが死んでない。
 もしかしたらこの世界の吸血鬼は俺の世界のものと異なるのかもしれないから。



[2377] 魔法の世界での運命 15話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:2594695f
Date: 2007/12/26 00:19
 〔士郎 START〕


 早朝、登校する生徒も少ない時間に俺は学長室にいた。
 理由は昨日の事件のことについてだ。
 エヴァンジェリンが吸血鬼なのはわかった。だが、危険な存在である者をなぜ学園にいるのか。
 そして血を吸われた者が死者にならないのか。
 俺の世界では血を吸われた場合、死者になってしまうことがある。
 大体は間接的に死徒が作った死者から間接的に送られた血で力をつけていく。死者は死者を作っていき、最終的には町一つを埋め尽くして死都をつくることがある。
 この世界ではどうなのかはわからない。

 ……これは俺のミスだ。違う世界だからと思って危険な存在を把握していなかった。
 

「学園長、お聞きしたいことがあります」
「うむ、なんじゃね、士郎君」
 ……わかってないのか、それともとぼけるつもりなのか……。学園長なら昨日のことをわからないはずがないだろう。
 どちらにせよ聞かなければならないことがあるには変わりない。

「学園長、エヴァンジェリンが吸血鬼ですね?」
「はて、なんのことやら」
「ではそのまま聞いてください。
 昨夜、エヴァンジェリンが3-Aの生徒を襲う所をネギ君が発見。幸い、怪我などはありませんでしたが、逃げたエヴァンジェリンを追跡したところ彼女の協力者である絡繰茶々丸に捕まり、血を吸われました」
「……そうか、やはりやってしまったか」
「やはりということは知っているんですね? なぜ隠したんですか」
「これは本来、エヴァンジェリンとネギ君の問題だったんじゃ。したがって士郎君には関係ないことだったんじゃ。
 隠したことはすまなかったと思う。じゃがわかってほしい、これはネギ君とエヴァンジェリンが解決しなければならない問題なんじゃ」
 
 ……俺が関係ないことはいいとしよう。でもなぜここに来て間もないネギ君が関係あるのか気になってしまう。
 俺が知っていいことではないのだろうが俺が関わってしまったことに変わりはない。ちゃんと理由を話してもらえなければ納得できない。
 もう被害が出てしまっているのだから。
「……やはり話さなければ納得はできんかの?」
「そうですね、多少といっても関わってしまいましたから。
 なぜネギ君とエヴァンジェリンの問題なのか気になりますね」
「しょうがないのう。ただし、今後彼らにあまり干渉しないでもらえないかのう?
 これはネギ君のためでもあり、エヴァンジェリンのためでもあるんじゃ」
「それは内容によりますね」
 命に関わったり大怪我などをするようなことであれば……俺は干渉しないわけにはいかない。


 学園長が話してくれたことはネギ君の父親のことだった。
 ネギ君の父親はこの世界であった大戦の英雄であり、魔法使いの間では知らぬもののいない強大な力と千の魔法を使いこなす“サウザンドマスター”と呼ばれていたという。
 彼は旅の途中でエヴァンジェリンの危機を救ったらしい。
 その彼、ナギ・スプリングフィールドをエヴァンジェリンは恋い慕い、、追い続け極東の島国に追い詰め勝負をしたが……結果は敗北。加えてその強大な力で“登校地獄”という……言ってしまえば変わった呪いをかけられた。この呪いと学園に張ってある結界で極端に魔力を封じられている。
 そしてこの学園に当初、卒業するまでということで編入し、警備員としても雇われたのだが……その呪いをかけた彼が行方不明になってしまったという。
 公式記録では死亡ということになっているがその死を見た者はなく、行方不明として扱っているらしい。
 
 これによって問題が起きた。
 あまりに強大な魔力でかけた呪いを解くことができなくなってしまったのだ。
 そのせいで15年間、卒業することも叶わなかった。
 しかし、そこに血縁者であるネギ君が現れた。ナギ・スプリングフィールドからの遺伝で強大な魔力を有していることから呪いを解くチャンスが来た。
 おそらく、今回の吸血事件は低下している魔力の補給で事を起こすための準備だろうと……

 
 加えて俺はこの世界の吸血鬼についても聞いた。
 エヴァンジェリンは真祖の吸血鬼だという。それだけでも驚いたものだか、この世界では血を吸っただけでは死者にならない。
 血を注入された対象を使役することができるが治療は可能らしい。
 やはり真祖であるから本来なら血を吸う必要はないから魔力の補給なのだろう。

「エヴァンジェリンがネギ君を殺してしまう可能性は」
「まず、ないじゃろうな。
 女子供に手をかけたという記録はない。それがエヴァンジェリンのポリシーだからじゃ」
 ……それならば最低限俺が手を出すことは避けた方がいいな。
 もしも俺がこの事件を解決してしまっては今後、ネギ君は自分の力で物事を解決しようしなくなるかもしれない。
 エヴァンジェリンにしても第三者である俺が解決したのであれば納得しないだろう。
 下手をしたらまた、このような事件が起きてしまうかもしれない。それは避けたい。

「……わかりました。この件について俺は最低限、干渉しません。
 ですが、大怪我などにつながる場合には手を出すことを許可してほしいのですが」
「それくらいなら構わんよ。ただし士郎君は中立として干渉を許可する」
 中立か……
「もし、エヴァンジェリンの呪いが解けたらどうするんですか? 一応600万ドルの賞金首なんでしょう?」
「そうなった場合にはワシが責任をとる。じゃから心配はいらんよ」
 


 教室に向かっていると……頑なに教室に行くことに抵抗しているネギ君の姿があった。
 神楽坂から聞いた話だと、エヴァンジェリンが怖いらしい。
 まぁ、しょうがないことなのかもしれない。昨日あんな目にあったのでは会いたくないという気持ちもわからないではない。
 だけどなネギ君。怖がってばかりでは前に進めないぞ。

 教室に入るとエヴァンジェリンはいなかった。
 茶々丸の言うには来てはいるがサボタージュしているという。
 まったく、さっそくサボりとは……
「ネギ君、俺はエヴァンジェリンを探してくる。このままでは他の授業までサボりかねないからな」
「えぇ!? い、いいですよ……。
 サボってるところを邪魔するのも悪いですし……」
 ここまでか……怖いのはいいとしても立場として容認できないこともある。
「……それは教師としてどうなんだろうな、ネギ先生」
「え……」
 神楽坂は一瞬、俺を見たが何も言わなかった。
「エヴァンジェリンを探してくる。もしかしたら授業に参加できないかもしれない」
 俺はそう言い残して教室を出て行った。



 俺は校舎の中を探して回った。
 そして屋上で見つけた。
「衛宮士郎か……何をしにきた。
 昨日のことを聞きにきたのか? そうだとしたら何も話すことはない」
「何をしにきたじゃないだろう? 授業をサボってるから呼び戻しに来たんだ。
 それに昨日のことに俺は干渉しないようにと学園長に言われたんでな。君が派手なことをしない限りは何もしない」
 すると、睨みつけるように見られた。
「そうか。では聞いていると思うが私は呪いのせいで卒業できん。
 それならば意味の無い授業を聞いてもしかたないだろう。それにぼーやにしても私がいないほうが授業がやりやすくてうれしいのではないのか?」
 たしかに卒業もできない、15年も同じ事を聞いていては意味がないようにも感じるだろう。
 だが。
「君は学生だろう。学生は授業を聞くことが仕事だ。
 そして俺は仮にも教師だ。サボりを許可することはできない」
 この学園の生徒である以上、俺は平等に接する。例外は無い。
 それにこのままでは他の授業にも迷惑がかかる。
「は、何かと思えばそんなことか。くだらん。
 意味の無いことをする以上に退屈な……む」
 急にエヴァンジェリンが何かを感じとったかのように俺から視線を外した。
「どうした?」
「……の結界を越えたものがいる。学園都市内に誰かが入り込んだようだ。
 衛宮士郎、これからは私の仕事だ。これ以上はついてくるな」
「それはできないな。ちゃんと授業に参加すると言うならいいだろうがな」
「バカか貴様。もしも害あるものだったらどうするつもりだ。
 めんどくさいが、それを調べる為に私が行くのに授業なんかに出てなんかいられるか」
「だったら俺も行こう。
 二人の方が見つけるのが早いし、サボらずにちゃんと授業に出させることもできるだろう」
 実際、危険な者であれば二人の方が安全だ。なにしろ魔力を封じられて10歳の少女と今は変わりないのだから。
 それならエヴァンジェリンを俺が守れる。
「ふん、それが嘘だったらどうするつもりだ」
「問答無用で連行する。
 嘘だった場合、最終的に困るのは君じゃないかな?」
 あ、思い切り睨まれた。侵入したものがいるというのは本当のようだ。
「……勝手にしろ」

 俺はエヴァンジェリンと共に侵入者を探すことになった。
 ネギ君、申し訳ないが授業に出れなさそうだ。



[2377] 魔法の世界での運命 16話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:2594695f
Date: 2007/12/28 00:33
 〔士郎 START〕

 
 
 本当なら今は小・中・高問わずに授業を受けている時間だ。
 だからこの時間に通学路を歩いている学生は少ない。いたとしても早退などの事情を持つ生徒がほとんどだ。
 その中を見た目、フランス人形のような金髪の少女、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。そしてその少し後ろを歩く見た目、白髪に長身というなかなか不可解な姿をしたこの俺、衛宮士郎。
 
 そんな二人がどうしてこの時間に歩いているのかと言えば。
「まだ見つからないのか?」
「そんな簡単に見つかったら苦労せんわ。
 それよりいつまでついてくるつもりだ。いい加減うっとおしいのだが」
「早く離れたいというなら侵入者を見つけるしかないな。
 そしたら教室に戻って俺から離れて授業を受けることができる」
「誰が授業なぞ受けるか。私は早く見つけてまた寝る。昼間は眠いんだ」
 というようなやり取りをしながら侵入者を探しているのだった。
 
 エヴァンジェリンの話では侵入者は魔力が微弱で追跡し辛いらしい。
 俺も遠坂に魔力の探知については叩き込まれた。だが、それでも得意になったわけではない。
 大きな魔力などや戦闘の気配は何とか感じとることができるようになったのだが、小さい魔力やその痕跡を追うということは苦手なのだ。
 ようするに……今の俺はほとんど役に立たないのである。

「まったく、大して役に立たないくせに私に意見するなど100年早いわ」
「……その件に関してはすまないとしか言いようがないな。
 けどな、捕まえるとか見つけて逃げたりしたのを追うのはできるからな。適材適所ってことで勘弁してくれ」
 俺は投影や強化の魔術以外はダメなのだ……どんなに練習しても良くて及第点。悪くてできないのだから……
 時計搭で落第しないように遠坂のガンドをもらいながら必死に勉強したなぁ……それに付き合ってくれた遠坂には本当に感謝している。

 しばらく歩いて探し回ったが侵入者は見つからなかった。
 よほど隠れるのが上手いのか、それとも俺達と違う所で行動しているのか。
 確かなのは少々エヴァンジェリンが不機嫌になってきたことだ。
「……いい加減にめんどくさくなってきたな。のこのこ出てきたならどうしてくれよう……」
 などと不穏な言葉を言っているのだ。
 正直、怖い。昔の何かを見ているような感じなのだ。

 そう、エヴァンジェリンの今の姿は俺が元の世界にいた時のことだ。
 俺と遠坂の生活費を稼ぐ為に働いていた場所の主、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトに似ているのだ。
 共通点は金髪だけだが、似ているのは今の行動だ。
 彼女は遠坂と同じ鉱石学科に所属していて、遠坂に魔術の理論なり実験結果で負けた時などはエヴァンジェリンのようにどうやってこの屈辱を晴らしてくれようかと恐ろしい言葉を残して自分の屋敷の工房に入っていくのだ。
 俺を遠坂の弟子ということを知った後も執事見習いとして雇ってくれたのはうれしかった。 
 そして工房にも入ることを許されたわけだが……その不機嫌な中に昼食なり夕食を運んでいくのは勇気が必要だった。
 彼女の屋敷のメイドや執事さんが俺を見送る様は戦場に向かう兵士を送り出すようだった。
 その後、どうなったかは……思い出したくない……

「おい、どうした。いきなり空を見上げて」
「昔のことを思い出してた……」
 それ以上は聞かなかった。


 学園長に支給された携帯で結界に侵入した者を捕まえるまで授業に出れないことを伝えた。 
 学園長は笑って了承してくれた。そしてエヴァンジェリンのことも頼むと言われた。

 結局、侵入者は見つからなかった。
 授業が終わって合流した茶々丸が合流し、これからは私がやると言われた。
 俺はまだつき合うと言ったが丁重に断られ、さらに止めの一撃。
「貴様より茶々丸の方がよほど役に立つな」
 ぐうの音も出なかった……
 だがそれで諦めるはずもなく、やむなく別れた後も一人で探していた。


 日が暮れてきた。その中を俺はまだ歩いていた。
 そして建物の路地に入って、跳んだ。
 人目が無いことを確認して建物の上に立ち目を凝らす。
 この行動も何回もした。それでも侵入者と思わしき姿は見つからなかった。

 ふと中等部女子寮の方を見ると……白い何かが駆けていた。
 それはイタチのようだった。そしてなぜか……下着のようなものをくわえていた。
 そして集中してみるとその小動物からは微弱な魔力を感じた。
 俺は何故という疑問を抱えながら建物から降り、気配を消し、音をたてないように近づいていった。
 
 その小動物は寮の方を見ながら立ち止まっていた。
 俺は捕まえるチャンスと思い、一気に近寄った。

 すぐに俺に気づいて逃げようとするがもう遅い。胴体の部分をつかんで捕獲した。
 やはりかすかに魔力を感じる。たぶん、これが結界に反応した原因ではないだろうか。
 キーキー鳴いて暴れている。さて、これをどうしようか。
 エヴァンジェリンに渡すか、それとも学園長に報告するか……
 そんなことを考えていると、暴れていた小動物が大人しくなった。
 もしや握る力が強くて殺してしまったかと思い、視線を向けると目が合った。
「……あんた、もしかして魔法使いじゃないのかい?」
「……」
 しゃべった……! この小動物しゃべったよ!
 と、少し驚いてしまったが魔力を感じることから考えたらありえないことでもないのだ。
 俺の世界でも珍しいが猫の妖精がいる。人語を理解し、話すこともできる幻想種がいる。
 俺は見たことはないが存在は確認されている。
 これもそれに近い存在なのだろう。
「もしそうだとしたら?」
「俺っちの話を聞いてもらいたいんでさぁ」

 俺は捕まえた手を離しはしなかったが少し緩めてやった。
 すると小動物は一気に語りだした。

 ここに来たのはある人に会うためにだという。
 その人の匂いを覚えており、それをたどってここまで来た。だが、その匂いがある場所から途切れてしまった。
 その場所というのが……この女子寮の大浴場である“涼風”らしい。
 こいつは探すために中に入ったらしいが、見つかってしまい大騒ぎになってしまい逃げたという。
 それを俺が見つけて今に到るという。

「そのお前が探してる人は女性なのか?」
「いや、男っスよ。ここから匂いがするのはおかしいなとは思ったんだが、ここが一番匂いが濃いんスよ」
 ……まさか。
「その人の名前は」
「ネギ・スプリングフィールドっス」
 ……俺の予感は当たった。


 
 俺はネギ君が居候している部屋の前で立ち止まり、チャイムを押した。
 すぐに中から返事がして、扉が開いた。
「は~い、どちらさま……って士郎さんか」
「こんばんは、神楽坂。
 突然で悪いがネギ君はいるか?」
「ネギ? いるけど、あいつ何かやらかしたの?
 どうする? 入る?」
 本来なら生徒の、まして女の子の部屋に進んで入るようなことはしたくないのだが……今回はしかたない。
「あぁ、すまないがお邪魔する。
 それとこのかはいるのか?」
「いるけど、今はお風呂に入ってるわ。
 ……変なこと考えたりおかしな行動したら殴るわよ」
「わかってる。早く用件を済ませて出て行くさ」
 俺は神楽坂に促され、中に入った。
 そして俺の右手には不気味にうごめく巾着が握られていた。


「こんばんは、士郎さん。
 どうしたんですか? 士郎さんが僕を訪ねてくるなんて」
「……ネギ君、君は人以外の知り合いはいるかい?」
「「は?」」
 神楽坂はやっぱり“何言ってんのこの人、大丈夫?”という目で俺のことを見ている。その目はやめてくれ、俺だって変なことを聞いてるっていうのはわかってるんだから。 
 ネギ君も俺を“疲れてるんですね”って目で見るのは止してくれ。傷つく。
「変なことを聞いているのはわかってる。それでどうなんだ?」
「えぇと……ごめんなさい。ちょっと心当たりがないです」
「お邪魔した」
 俺はそう言い残して出て行こうとした。
 そして一層、巾着がうごめきだした。
「ちょ、ちょっと士郎さん。その動く巾着は?」
「気にしなくていい」
「……ちょっと貸しなさい」
「断る」
「なんでよ、変なものが入ってるとかじゃないんでしょ?」
「いや、相当変なもの入ってる」
「だったらやっぱり貸しなさいよ。
 その変なものをこの部屋に持ってきたんだから見る権利はあるはずよ」
「そんな権利はない。だからその手を離すんだ」
「士郎さんが見せてくれるって言うならね」
 見せられるわけがないだろう。こんな精神衛生に悪いものが入ってるんだ。
 下手すれば子供の夢を壊しかねない。

 そんなやりとりをしていたら……嫌な音が聞こえた。
 ビリビリと布が破れる音がした。あぁ、この音は……。
 視線の先には中ぐらいから現在進行形で破れている巾着があった。
 強い力で引っ張りあったせいで布が耐えられなくなったのだ。
 俺が神楽坂に引っ張るのをやめるように言う前に……巾着は無残にも破れてしまった……

 中から飛び出す白い物体。
 華麗に中を舞いながらネギ君の視線の先に着地した。
「久しぶりでさぁ、ネギの兄貴。
 アルベール・カモミール、恩を返しに来たぜ」

 部屋に広がる静寂はいったいどのようなものだろうか。



[2377] 魔法の世界での運命 17話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:2594695f
Date: 2007/12/29 01:40
 〔アスナ START〕


 
 綺麗な放物線を描いていき、着地する白い何か。
「久しぶりでさぁ、ネギの兄貴。
 アルベール・カモミール、恩を返しに来たぜ」
 
 少しの間、私は頭が真っ白になった。
 お、おこじょがしゃべった……なにそれ……
 いや、これは夢なのよ。そうきっと夢。
 でも、ちょっと待った。ゲームとかの中の話だと思ってた魔法があるんだからおこじょがしゃべるなんてことたいしたことじゃないんじゃない?
 ネギだって魔法使いで杖で空飛ぶし……


 このおこじょの話だと、5年前に罠にかかっている所を助けられてネギのことを兄貴と呼ぶようになったらしい。
 ネギがさっき心当たりがないと言ったのは、まさかここ日本いるとは思ってもいなかったから。それに今日の大浴場のこともあって思い出せなかったという。

 こいつが日本に来た理由はネギのパートナーを探す為。
 なんでもネギのお姉さんに頼まれて日本に来たらしいけど……こうも自然に動物が話すなんてね、魔法ってなんでもありね。
  
 そしてこいつが……さっきの大浴場の騒ぎになった張本人。
 私のクラスにネギのパートナーになる人がいるって言ってるけど……怪しいわね。本当のこと言ってるのかしら。
 士郎さんは大浴場であったことを聞いてカモを思いっきり睨んでた。
 まぁ、カモも一応は男なんだし許せないってことなんだろうか?
 あれ? でもこの場合、羨ましいってことも考えられない? 士郎さんも男なんだし。

 すると突然、扉が開いた。
「何や何や、さわがし~な~。
 誰か来とるんか~?」
 このかが入ってきてしまった。ある意味、タイミングばっちりね。
「ちょ! このか待った! ちゃんと着替えて入ってきなさい!」
 ネギはしょうがないとしても士郎さんがいるんだから危ないって!
 と思って士郎さんの方を向いてみたら……
 このかや私達に背を向けいた。速い。
「なんでなん? ってひゃ~! 士郎さんなんでここにいるん~?」
 やっと気づいたわね……ちょっと遅いわよ。
 
 このかはすぐに扉を閉めて戻っていったけどこの間にこいつに言わないといけないことがある。
「いいこと? 絶対にこのかや他の人の前でしゃべるんじゃないわよ。
 もししゃべったらどうなるかわかってるんでしょうね?」
「えぇ~? そんなのつまらないじゃないスか~。
 それに今の嬢ちゃんも結構上玉……」
 このエロおこじょ……一回とっちめてやろうかしら。そう思い、行動しようとしたら士郎さんが口を開いて。
「俺は昔にサバイバルをやっていたことがあってな。
 お前のような小動物を捕まえて調理して食べていたことがある。なかなかそれがおいしくてな……。
 久しく食べていないから今度捕まえてこようかと思うんだが……どうかな?」
 うわぁ……士郎さんがカモに向けてる視線は捕食者の眼だわ。それに少し笑って言うもんだからそれがまた怖いし。
 カモなんてネギにしがみついて。
「ごめんなさいごめんなさい。悪かったですから食べないでください……」
 ってマジで怯えてるし。
 でもサバイバルって……士郎さん、どんな生活してたんだろう。

 その後、戻ってきたこのかにカモが見つかってクラスのみんなにバレた。
 でも、このこの寮はペットがOKなのでネギのペットとして飼っていいこになった。
 
 部屋に戻ってこのかが外にいることを確認してカモは言った。
「あの衛宮の旦那の眼……マジで鷹に狙われてると思ったぜ……」
 などと震えながら話してくれた。


 そしてカモは本当にくせ者だった。
 ネギのお姉さんから手紙が来ていて、それをカモがネギに渡すって言うから渡したんだけど、次の日に寮に戻ってくるとゴミ箱にその手紙が捨てられてたのよね。
 開いて呼んでみたらみたらあのエロおこじょ、あっちで下着二千枚盗んだ挙句に脱獄したとんでもない奴だった。
 慌ててネギを探してみつけたと思ったら……宮崎さんと仮契約寸前だったし。
 妹のために下着盗んでたって言うけど……本当なのかしらね。
 ネギは全面的に信じちゃったけど。

 士郎さんはネギにエヴァンジェリンのことを手伝ってほしいと言われてたけど、本当に申し訳なさそうに“それはできなくなった”と言った。
 でも、少しだけでも手伝えることがあたらなんでもすると言ってその場は去った。
 でも、どうして手伝えないのかしら。あんな顔するなら素直に手伝うって言えばいいのに。
 

 その後の数日は本当に大変だった。
 カモの話術にかかってネギと仮契約しちゃったし……まぁ、キスしたのはおでこだったけど……それでも恥ずかしいんだからね!
 その後に茶々丸さんを襲っちゃったし……あれは罪悪感たっぷりだったわね。
 茶々丸さん本当にいい人?だったし。
 失敗はしちゃったけど私はそれで良かったと思ってる。
 2年間クラスメイとだったわけだし、それに一人の所狙って襲うのだって卑怯だしね。

 それにネギが家出したのも大変だったわ。
 カモと私がいろいろ話してたらネギを精神的に追い詰めちゃって杖で飛んで行っちゃったし。 
 カモに匂いで追いかけてもらったらどんどん山の中に入って行っちゃって一晩中探した。あれは少し死ぬと考えちゃったわ。
 結局は杖で飛んでたネギを見つけて私達は助かった。
 なにか吹っ切れた顔をしてたけどどんなことがあったのかしらね。今度聞いてみよう。
 
 ネギは士郎さんに言われた事を気にしていたみたいだった。
 たしかに士郎さんの言った言葉はきつい一言だった。でも、私はネギも少しばかり悪いと思った。
 どういうふうに悪いかはわからないけど、それをネギは教えてくれた。
「あの時、僕はエヴァンジェリンさんが怖くてサボりを許してしまいました。
 でも、それは本当なら許していけないことなんです。それに僕はエヴァンジェリンさんの担任なんですからちゃんと授業を受けてもらわないといけないんです。
 なのに僕は逃げちゃいました。できないと思ったことから逃げ出しちゃったんです。 
 “わずかな勇気が本当の魔法”だってアスナさんには言ったのに僕はその勇気がでなかった。
 でも、困難なことに立ち向かってこそ意味があるんです。 
 僕の先生という立場にしても他の仕事にしても楽なものなんて無いんです。逃げてばかりじゃ答えなんてない、困難を乗り越えてこそ答えがあるんだって僕わかったんです。
 士郎さんはそれをわかって僕に言ったんですよ。だから、僕はもう逃げません。
 正面から立ち向かうことにしたんです!」
 なんてことを言った。
 こいつは本当に子供なんだか大人びてるんだかわからないわね。
 でも……私はがんばってる奴はガキだろうが何だろうが嫌いじゃない。


 それにちょっとしたらあのエヴァンジェリンを授業に来させてたしね。
 カモは何か裏があるとか言ってたけど私はそんなに気を止めていなかった。
 もうわけのわからない契約に付き合わされることも無いと思って気を抜いていた。

 停電の日の夜。
 私は眠っていた所をカモに叩き起こされた。



[2377] 魔法の世界での運命 18話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:2594695f
Date: 2007/12/29 20:39
 〔士郎 START〕


 俺は学園都市内の森の中を歩いていた。
 ただ歩いてるわけではない、エヴァンジェリンに話があってここまで来た。

 クラス名簿の住所確認した場所に来て目的の家を見つけて、俺はその家のベルを鳴らした。
 すぐに誰かが扉を開けて、その顔を確認すると……
「……こんにちは、士郎先生。
 何か御用ですか?」
「こんにちは、茶々丸。
 あぁ、エヴァンジェリンに話があってきたんだ。いるか?」
「はい、マスターはいますので中にはいってお待ちください」
 俺は中に促され、それに従う。
 しかし……なぜに茶々丸はメイド服を着てるんだ?

 少しして明らかに不機嫌そうなエヴァンジェリンが二階から降りてきた。
「なんだ衛宮士郎。干渉しないなどと言っておきながらやはり見過ごせなくなったか?」
「……本当ならすぐにでもやめさせたいさ。
 でもな、ネギ君とエヴァンジェリンの問題ということだし、俺が解決しても君が納得しないだろう?
 今日は確認しに来たんだ」
「確認?
 ふん、まぁいい。暇つぶしぐらいには聞いてやるよ」

 俺が確認したかったことは簡単だ。
「ネギ君と戦うつもりなんだろう?
 その時に……エヴァンジェリン、君はネギ君を殺さないか?」
 殺す、人の命を奪うこと。
 俺はそのようなことをする人間を見過ごせない。どのようなことをしても止める。
 もしエヴァンジェリンが殺すというなら……俺は……
「なんだ、そんなことを聞きに来たのか。
 安心しろ、殺しはせん。ただ死なない程度には血を頂くがな」
 それを聞いて俺は一応安心した。でもそれで全てではない。
「戦うことをやめることはできないのか?
 呪いの話しは聞いたがそれをネギ君に教えればいいんじゃないのか?」
「戦うことをやめることはできん。
 これはぼーやと私の問題だ。性格には血縁者であるぼーやと私だがな」
 
 エヴァンジェリンはその容姿からは考え付かないような笑みを浮かべ、俺の提案を却下した。
 やはり戦うことは避けられないのか……ここでも俺は無力なのか……
 俺の世界でも俺は戦いを治めようと首謀者、またはその核となる人物に話をしたが……戦いは止めることができず、俺が戦いを治めた。
 俺は何もできず、誰かが傷つくことは確定している。
 ここでもそうなのか……

「これは決まったことだ。どう貴様が足掻いても覆ることはない。
 ……だが安心しろ。私はぼーやに興味を持っていてな。その興味を確かめたい」
「だから殺さない、と?」
「女子供を殺さんのは私のポリシーだからだ。まぁ、例外は出てくるがな。
 子供の姿をした者だったりしたら容赦はせん。
 これを聞いた貴様はどうするのだ、衛宮士郎。
 私を殺して自体を治めるか?」
 そんなこと……できるはずがない……
 もしも、エヴァンジェリンがネギ君を殺そうとしたら俺は身を挺して守ろう。
 ……もしも、殺さないで治めることができなかったら俺は……殺してしまうかもしれない……
 それだけはしたくない、それは最悪の手段だ。

「まったく……どんな話しかと思えばくだらん。
 ……そうだ、おもしろいことを考えたぞ。
 こっちに来い」
 エヴァンジェリンが置くの方に入っていく。
 俺はそれを追いかけていくと……何かの模型があった。
「いいか、そこに立て」
 俺は言われるがままにいわれた場所に立つと……景色が跳んだ。

 そして見たものは……南国のような景色だった。
「どうだ、これは私の別荘でな。ここなら思う存分暴れられるぞ」
 ……はい? 暴れるってなにごと?
「ここはマナが満ちていて今の私でも最低限、魔法が使うことができる。
 そしてここでは外と時間の流れが違う。言ってしまえば浦島太郎の逆だな。外の一時間がここでは一日になっているから安心しろ」
 それは固有時制御みたいなものではないのか?
 時計搭でオヤジのことを調べることができた。そしてその中に固有時制御のことがあった。
 簡単に言ってしまえば自分の速くしたり遅くしたりするものだ。
 自分の身体の時間を進めて他人から見たらとんでもない速さで行動が可能。もちろん制限はあるがオヤジはそれを駆使して……魔術師を殺していたらしい。

「さて、私が考えたことだが……お前の秘密を教えてもらおう。
 それによってはぼーやに手加減をしてやってもいい。
 そしてもしぼーやが私に勝ったのであればもう手を出すことはしない」
「……それでいいのか? もしも負けたらどうするんだ?」
「誰が負けてやるか、ハンデだ。これでぼーやにも万が一にでも勝てる可能性が出るのだからな。
 それにお前にも得るものがあるではないか。戦うことはやめられんが一つ、争いが減るのだ。
 さっきの物言いから言って、お前は誰かが傷つくのが嫌いなどという偽善が好きなのだろう」
 偽善か……そうかもしれないな。
 誰かを助ける為に誰かを傷つけてきたんだから……
 
 それにたしかに良い話だ。戦いがやめられないのは残念ではあるが……
「さっきの話に嘘は無いな」
「無論だ。
 加えてお前の秘密も口外せん」
「その言葉、信用したぞ」

 俺は呪を紡ぐ。
「投影・開始」
 俺の秘密は一つではない。エヴァンジェリンが知らないことが俺にはまだまだある。
 すべて話せとは言われてないからいいだろう。
 
 投影するのはランクがつくに及ばないただの剣。ただ魔力を付加された剣や業物を合計21投影する。
 さすがにここまでの数を投影できるとは思わないだろう。
「これでどうだ? 俺は27までであれば剣を投影することができる。
 それに壊すか俺が消すまで半永久的に存在する」
「ほう、それはなんとも詐欺にはもってこいだな」
 ぐ……ここで遠坂と同じ言葉を聞くことになるとは……
 あいつは“バレなきゃ大丈夫だからじゃんじゃんやりなさい”なんて自分がいくら金欠だからってそれはないだろう。
 そんなことをしたら魔術品を流したことが魔術協会にバレて粛清されてしまう。
 それを遠坂に言ったら……それを忘れていたらしい。なんとも言いがたいうっかりだな。
 まぁ、そこも……

「おい、何をニヤついている。気持ち悪い」
「すまんすまん。
 これくらいでいいか?」
 これでも十分俺の世界では封印指定をもらいかねない。もしくは実験体として脳髄引抜かれてホルマリン漬け?
 でも、あちらの金髪の吸血鬼さんはお気に召さなかったようだ。
「……まだだな。まだ弱い。
 もっと派手なものはないのか」
 なんて勝手なことを言ってくれる。
 
 どうしようか。さすがにカラドボルグとか投影するわけにもいかないし、真名解放なんて絶対にダメだ。
 となると……あれだな。
 
 俺はエヴァンジェリンに言って砂浜に下りていく
 
 俺は投影したものを一度幻想を解いて魔力に戻した。
 そして新たに5本ほどランクに該当する宝具を投影する。低ランクだがこれで十分だろう。
「おい、それではさっきと同じではないか」
「まぁ、見てろ。弱いというから次にいいものといったらこれしかないんだからな。
 それと離れてたほうがいい。水がかかるだろうからな」
 そう言って俺はこの別荘の海へ剣を打ち出した。
 もちろん、それだけでは水しぶきなど上がるはずもない。重要なのはそこからだ。
「なんだ、何も起こらないぞ」
「急かすな、少し待て」
 
 俺は打ち出した剣に集中し、その剣の幻想を膨らませる。
 
 そして限界はきた
「壊れた幻想」
 静寂であった海面が爆発によって乱される。
 上げられた水しぶきは俺のところまで届いている。もちろんエヴァンジェリンの所までもだ。
 いた場所が悪かったのか俺よりも水をかぶっていた。
 まぁ、今はしょうがない。
「これがもう一つの秘密だ。俺は投影した剣の魔力を爆発させるようなことができる。
 規模はそれぞれだけどな」
 その剣に籠められている魔力を解放して爆発のようになり、それを対象にぶつけるものだ。
 籠められている魔力の量でその規模も違う。
 もしカラドボルグだったら余波でこの別荘を壊してしまうかもしれないんだからな。

 エヴァンジェリンに視線を向けると……震えていた。
 何故? 驚いたのか? 違う。怖い? 違う。
 これは……
「貴様……よくも私に水をかけてくれたな!
 いくらここが温暖だといっても私は風邪を引いてるんだぞ!? これではまた風邪を引いてしまうかもしれないではないか!
 どうしてくれる!?」
 おぉっと。俺が思い浮かべたものとはずいぶん違うな。
 てっきり遠坂みたいに俺の魔術の非常識さに怒るのかと思えば水をかけたことか。
「いや、だから離れていた方がいいって言っただろうに。
 それを守らなかったのはエヴァンジェリン、君だろう」
「くっ……確かにそうだがもう少し離れろとか言うことはできんのか?」
「言って素直に言うことをきいたか?」
「……」
 やっぱりそうだったのか。

「それで? これぐらいでいいのか?」
「……あぁ、私にも水しぶきをあれぐらい上げることはできるが、それでもあの詠唱の短さであの規模は凄まじいな。
 お前を相手にしたむこうのやつが哀れだよ」
 そこまで言わなくてもいいだろうに。人に使うことはあってもせいぜい体勢を崩すぐらいにしか使わない。
 使い方を間違えるとこれは殺傷能力がありすぎる。

「それじゃあ出るか。
 エヴァンジェリン、戻してくれ」
 時間が遅いのはわかったがこの後は俺も仕事がある。それに長居しても迷惑だろう。
 おや? どうしてエヴァンジェリンはなに言ってるんだこいつって目で見ているのかな?
「おい、聞いていなかったのか?
 ここは入って24時間しなければ出られんと」
「……そういえば言っていたような」
 いや、確かに言っていた。これは俺が忘れていただけだ。
「ふん、特異なことはできても頭は一般人か……くしゅんっ」
「……おい、まさか」
「……貴様のせいだぞ」

 エヴァンジェリンは俺のせいで風邪を引いてしまった。
 俺はここを出るまで看病をしながら謝っていた。

 翌日、エヴァンジェリンはやはりというべきか、授業には出られなかった。



[2377] 魔法の世界での運命 19話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:2594695f
Date: 2007/12/30 01:09
 〔士郎 START〕


 停電の夜、エヴァンジェリンは動いた。
 その魔力は膨大なものだった。今の俺よりも強い魔力を感じる。
 これが結界によって封じられていたエヴァンジェリンの本当の魔力か……なんとも凄まじいものだな。
 
 ネギ君たちが大浴場を出て行ってから大河内と和泉の無事を確認。怪我などもなく、俺は風邪を引かないように一応バスタオルをかけてその場を後にした。
 何もやましいこともしていないし、そんな目でも見ていないことは確かである。
 そして建物の屋上で気絶していた明石と佐々木も大河内たちといっしょの所に移動させておいた。
 ……割れたガラスどうしようか…… 

 高い建物の上に立ち、ネギ君たちを探すと……いた。
 学園都市の端にある大きな橋の所に倒れていたネギ君が……ちょうど結界のようなもので捕まえたようだった。
 が、エヴァンジェリンもこれを予測していたのか結界は砕けた。
 俺はこれで勝負あったと思って橋に向かった。
 いくら干渉はしないとはいってもこのまま吸血行為をさせるのは考え物だ。
 
 距離は近い、すぐに向かって止めようとして……止まった。
 俺の視線の先には神楽坂とカモがネギ君に近づいていた。止めようとも思ったが……神楽坂の顔は覚悟を決めている顔をしていた。
 本当なら止めるべきなんだろうが……俺は止められなかった。
 その覚悟の邪魔をするべきではないと思ったからだ。

 カモが強い光で茶々丸の視界を遮って、その間に神楽坂がエヴァンジェリンに近づいていった。
 だがエヴァンジェリンは冷静に障壁を張ったようだったが……神楽坂の蹴りはその障壁を無視した。 
 待て、エヴァンジェリンは確かに障壁を張った。それなのに何故、蹴りの勢いが緩まない?
 障壁を抜けたとしても多少は勢いが弱まるはずだ。それなのに勢いは弱まらずエヴァンジェリンを蹴り飛ばした。
 まるで障壁が無かったかのように。

 蹴り飛ばした隙に神楽坂とカモはネギ君といっしょに隠れた。
 そして、隠れた場所から光が漏れた。
 当然、エヴァンジェリンが気づかないはずもなく、その場所に向かおうとすると逆にネギ君たちが出てきた。
 
 エヴァンジェリンになにか言われて覚悟を決めたようで、その顔はとても10歳とは思えなかった。
 神楽坂が来たことによって状況は良くなった。
 ただし、一人の時よりはだが。
 茶々丸と神楽坂は大体互角のようだが、ネギ君とエヴァンジェリンの勝負は違った。
 経験の差か、ネギ君が劣勢だった。エヴァンジェリンが放つ魔法に辛うじてついていってるようだった。
 加えてエヴァンジェリンはまだ余裕だ。
 
 ネギ君は賭けに出たのか強力な魔法を使おうとしていた。
 エヴァンジェリンも強力な魔法で迎え撃とうとしていた。だがその顔には笑みが浮かんでいた。
 放った魔法は俺から見て同じようなものに見えた。
 エヴァンジェリンも予想していた以上にネギ君の魔法の威力が強かったようだ。放つ魔法に力を籠めている。
 ネギ君の魔力にも驚いたものだが、それもここまでか。
 ここでもネギ君の魔法が負けている。徐々に押し負け、ネギ君の方へ魔法が向かっている。
 だがここで魔法を止めることはできない。出た魔法は戻すことはできない。
 だがこのままではどちらかが大怪我をしてしまうかもしれない。俺はいつでもでられるように橋にさらに近づいた。
 柱の辺りに身を隠しながら様子を見る。

 このままネギ君が負けてしまうかと思った時、ネギ君がくしゃみをした。
 その瞬間、ネギ君の魔力が一時的に跳ね上がって一気にエヴァンジェリンの魔法を押し返した。
 そのまま魔法はエヴァンジェリンに直撃したが大きな怪我はなく……着ていたものが脱げただけだった。
 何で脱げるんだ? 怪我が無いのはいいんだけどな。
 
 エヴァンジェリンはまだやるつもりのようでさらに魔法を放とうとしたが……停電が終わり、復旧した明かりが橋に灯っていく。それが俺には嫌な予感がした。
 気づいた時には俺は橋を駆け、橋にいるネギ君達に近づいていく。
 
 神楽坂が驚いたような顔をしているが今は気にしていられない。
「士郎さん?」
「エヴァンジェリン! 早くこっちに」
 来い、と言う前に……エヴァンジェリンは雷に打たれたかのように一度痙攣して、湖に落ちていった。

 吸血鬼は流水が苦手なのは知っている。それがエヴァンジェリンに適応されるかは知らないが、この高さから今や10歳の少女が頭から落ちるとなればどうなるかは容易に想像できる。
 俺はエヴァンジェリンが落ちるのに一瞬遅れて湖に飛び込むようにして追いかけた。
 
 くっ! このままでは頭からぶつかってしまう!
 手を伸ばしてもエヴァンジェリンには届かず、俺はただ落ちていくだけだった。
「杖よ!」
 声がした方に視線を向けるよりも早く、エヴァンジェリンの手が誰かに引かれていくのが見えた。
 
 それはネギ君の手だった。
 俺が飛び込むよりも早く行動し、杖を呼んでエヴァンジェリンをネギ君が助けた。
 俺がエヴァンジェリンが無事でよかったと思ったのはすでに湖の中だった。


 〔エヴァ START〕


 私はぼーやに助けられて湖に落ちることはなかった。
 変わりに落ちた奴はいたが……心配する必要はないだろう。

 ぼーやと授業にちゃんと出る約束をし、あのバカは自分がマギステル・マギになれたら呪いを解くなどということを言った。
 まったく、何年待てばいいのだ。

 ぼーやと神楽坂明日菜が離れてから私は茶々丸にあいつを引き上げてこいといった。
 ぼーやたちは心配して湖に向かうと言ったが、“私を仮にも助けようとして、結局はぼーやが助けた。そんな無様に落ちた奴が簡単に出てくると思うか?”と言うとぼーやは何か言いたそうだったが神楽坂明日菜に諭されて帰っていった。
 
 茶々丸が引き上げてきた奴は当然、ずぶ濡れ。
 だが、恥ずかしそうにはしていたが後悔は全くしていなさそうだった。
 なにか気に入らない。
「ふん、残念だが無事だったか」
「そんな冷たいことを言うもんじゃない、少しは心配してくれたっていいだろう。
 まぁ、茶々丸を俺の所によこしてもらっただけでもありがたいけどな。
 それと……無事で良かった、エヴァンジェリン」
 などとうれしそうに言っていた。その言葉に嘘は無く、ただ満足そうだった。
「……別にあの程度の高さから落ちたところで支障はない。
 流水が苦手というわけでもないのだ」
「そうか、平気なんだ」
「はい、ですがマスターは泳げないので溺れる心配がありました」
「茶々丸!」
 余計なことを言うな! 別に泳げなくとも生きるうえでなんの支障もないのだからいいのだ!

「あぁ、言い忘れてたけどありがとうな」
「あぁ? 私はお前に礼を言われるようなことはしておらんぞ」
 まったく心当たりが無い。ボケたか? それとも落ちた衝撃で頭をおかしくしたか?
「ある。
 約束守って手加減してただろう? ちゃんと約束を守ってくれたからありがとうって言ったんだ。
 礼を言うには十分な理由だろう」
「……ふん。何を言い出すかと思えばくだらん。
 私は遊んでいただけだ。それが油断につながり、結果として魔法に打ち負けたが停電が続いていれば私が勝ってたんだ。
 ……助けられたことでぼーやに借りを作ったがな」
「それでもいいさ。
 どっちも大きな怪我もなく無事だったことが俺にはうれしいんだから」
 ……変な奴だ。ただ無事だっただけでそこまでうれしいものなのか? 普通ならそれで済むが……こいつのは何かが違うような気がする。

「エヴァンジェリン、帰ってから暖かくして寝ろよ」
「……うるさい、余計なお世話だ」
 衛宮士郎と別れ、帰路についた。
 茶々丸に乗って帰りながら私は呟いていた。
「……助けようとしたことに変わりはないからな。貴様に借り一つだ」
「マスターなにか言いましたか?」
「なんでもない」



[2377] 魔法の世界での運命 20話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:2594695f
Date: 2007/12/31 01:53
 〔士郎 START〕


 修学旅行、それは小・中・高問わずに一大イベントである。
 思い出に残る楽しい旅行だ。まだ先であるのにもかかわらず用意を始めていたり行き先の名所を調べたりと考えるだけで楽しくなってしまう者もいるだろう。

 そしてこのクラスは他のクラスよりも修学旅行に対する意気込みが違った。
「皆さん、来週から僕達3-Aは京都・奈良へ修学旅行へ行くそうで……!」
 麻帆良学園は京都・奈良の他にハワイなど数箇所から修学旅行先を選択できるのだが、3-Aは留学生も多いがネギ君が日本に来るのが初めてなのだ。そこでクラスの総意が京都・奈良になったという。
 それにネギ君も喜んでとても楽しみにしていたのだが……

「え……!? 修学旅行の京都行きは中止~!?」
 天国から地獄はこのようなことを言うのではないだろうか。
 学園長がまだ話そうとしているのだが、この世の終わりのような表情をして壁際で落ち込んでいる。
 しずな先生にネギ君と学長室に来るように言われたのだが、その内容は修学旅行のことだった。
 
 正式に中止と決まったわけではなかったのだが、先方の関西呪術協会が嫌がっているというのだ。
 昔から関東魔法協会と関西呪術協会の仲は悪かったのだが今回、修学旅行で魔法先生が一人いると言ったら京都入りに難色を示されたらしい。
 俺はここでおや? と思ったが、それをネギ君が言ってくれた。
「あれ? 学園長。士郎さんも魔法先生なんじゃないんですか?」
「士郎君が魔法先生? ふぉふぉふぉ、それは違うぞいネギ君。
 士郎君は魔法先生ではないし、魔法使いでもないんじゃ。あっちは魔法先生と言ったんでのう、士郎君のことは言っておらんのじゃ」
 ……学園長、それは屁理屈ではないでしょうか?
 それに俺はまだ聞きたいことがあるんだが……
「とにかくじゃ、ワシはもう西とのケンカをやめて仲良くしたいんじゃ。
 そこでネギ君には特使として西にいてもらいたい。
 新書を向こうの長に渡してくれるだけでいい。
 ただ道中向こうの妨害があるかもしれん。
 まぁ、彼らも魔法使いである以上、生徒達や一般人に迷惑が及ぶことはしないじゃろうが……
 なかなか大変な仕事になるじゃろ……どうじゃな?」
「……わかりました。
 任せてください学園長先生」
 
 ネギ君が出て行ってから俺は学園長と向き合う。
 俺が言いたいことも学園長がおれに言いたいこともまだ話していないからだ。
「さて、士郎君。君が言いたいことはなにかな?」
「何故、瀬流彦先生をことをネギ先生に言わなかったんですか? 
 それと本当に関西呪術協会に一人と言ったんですか? 瀬流彦先生も行くのであれば二人と言うのではありませんか?」
「うむ、瀬流彦君のことはあちらには伝えておる。やはり難色を示されたがのう。
 ネギ君に伝えなかったのはネギ君に自信をつけてもらいたいのもあるんじゃが……本当はの、彼の父親であるナギ・スプリングフィールドの友が関西呪術協会の長なんじゃが、彼に会わせたいんじゃよ」
 それは……ならどうして仲が悪いんだ? さっきの話では彼らは魔法使いを嫌悪している。
 友というからには魔法使いを嫌悪していなかったということだ。それが今頃になって嫌になったというのだろうか……
 それに魔法使いを嫌悪しているならネギ君を会わせるのはどうなんだろうか。
「士郎君が疑問に思うのもわかる。
 じゃが彼は魔法使いを嫌っていないどころか魔法使いであるナギに同行しているほどじゃ。
 それにのう……西の長はワシの義理の息子じゃ」
「……はい?」
「加えてこのかの父親じゃよ」
 ……それはなんとも……ということは嫌悪しているのは……
「西の長の部下が……ということですね?」
「そうじゃ。
 婿殿は東西改善によくやっているんじゃがそれでも魔法使いなどをよく思わない者がいるんじゃ。
 その者たちがネギ君に新書を渡すことを阻止しようとするじゃろう。協定を結んでしまえばほぼ手出しはできんからのう」
「なるほど……わかりました。
 俺は西の妨害で生徒を巻き込まないようにすればいいんですね?」
 協定を結ばせないようにするとなれば大胆な行動に出る可能性もある。そうなっては生徒に被害が出るかもしれないだろう。
 修学旅行に行く生徒は3-Aだけではない。加えて生徒が行くのは京都だけではない、大阪にも生徒は行く。 
「そうじゃ。京都は瀬流彦君、大阪は士郎君にお願いしたいんじゃ。
 本当ならタカミチ君も同行するはずじゃったんじゃが出張での。その空いた所を士郎君に任せたい」
 そういうことなら俺も断るわけにもいかない。まぁ、断るつもりはなかったけどな。
「わかりました、引き受けます」
「うむ、よろしくたのむ。
 それともう一つあったんじゃ。刹那君は知っておるの?」
 桜咲? それはもちろん知っている。ネギ君のクラスの生徒でこの間の顔合わせでも見ている。あの時が初めて話したけど。
「刹那君は孫のこのかの護衛なんじゃが……今回の修学旅行で班を一緒にしてもらいえんだろうか?」
「? 桜咲はエヴァンジェリンと一緒の……あ」
 そうだ、エヴァンジェリンは呪いで……
「そうじゃ、呪いで学園から出られんのじゃ。 
 そこで余った者を他の班にいれるんじゃろ? それで刹那君をこのかの班にいれてもらいたんじゃ。
 刹那君は昔、このかと仲がよかったんじゃ。しかしどんな理由があったか知らないんじゃがここに来てから刹那君がこのかを避けているようでの……じじバカと言われるかもしれんがこのかが不憫での、できれば今回の修学旅行で仲が直ればいいと思うんじゃ」
 そうなのか……そういう理由なら俺もできる限りは努力しよう。
「わかりました、それでは失礼します」


 このかと桜咲の仲が悪くなった、か……何があったかはわからないが、それを直接聞くわけにもいかないし、どうするか……
 でもネギ君にはそのことは伝えないにしても桜咲とこのかを一緒の班にするのは伝えておこう。いきなりそうなったって言っても戸惑うだけだからな。
  
 そうだ、修学旅行といえば俺も買うものがあるんだった。
 スーツはいいとしてもシャツを買わないといけない。今持っている物でも足りるかもしれないが予備も一応買っておこう。
 さすがに学生生協には黒ワイシャツは売ってないだろうし学園都市に出ることになるな……
 そう思い、歩いていると。
「あ、士郎さんや」
「ん?」
 この声はと思って振り向くとそこにはこのかと神楽坂とネギ君がいた。
 どうやら買い物をしに来たようでこのかと神楽坂は私服だった。
「何してるん? 士郎さんも買い物しにきたん?」
「まぁ、そうだな。念のためにワイシャツを買いにな」
「え? その黒いワイシャツ?
 それならここに売ってるわよ」
「俺に合うサイズが学生生協に売ってるのか? 結構サイズがでかいんだが」
 俺は背が高い方だし体つきも小さくはない。それにいつも着ている黒ワイシャツはなかなかないのだ。サイズが大きくなればなおさらだ。
「売ってるとおもうえ~。高等部の生徒も買いに来るんや、だから士郎さんサイズのやつも売ってるんやないかな~?」
 そうか、それなら見てみよう。
 それにネギ君にも話ができるかもしれないしな。


 学生生協には黒ワイシャツがあった。サイズも色々なあるのだが……5XLって大きすぎないだろうか? 
 高校生でそこまで大きいのがいるのか?
 
 ネギ君はこのかに服を合わせられてはまた新しい服を合わせられてる。
 それを微笑ましく見ていると……ふと視界に誰かが見えた。
 あれは……
「神楽坂、すまないがこれ持っててくれ」
「え? うわっ! ちょ、なによ~」
 すまん、後でちゃんと謝るから。今は視界に入った人物が気になる。

 視界に入った人物は意外にもすぐに見つかった。
 他のことに気がいってしまって俺には気がついていないようだった。
「桜咲」
「っ!?」
 桜咲は相当驚いたようで俺を見るなり竹刀袋に手をかけて野太刀を出そうとしていた。いや、野太刀を抜くほどだったか?
「……士郎先生ですか。何の用でしょうか?」
「いや、そんな重要なことじゃないんだが……それよりそれ、どうにかしろ」
 俺は視線の先には……すでに野太刀の白木が見えていた。
「! す、すいません! つい条件反射で……」
「ま、まぁいいさ。俺もいきなり声をかけたからな。
 それよりここで何をしてるんだ?」
 本当はわかっていたが、意地悪だがわざと聞いてみた。
「……いえ、ただ通りすがっただけですが」
「そうかこのかを見ていたのか」
「!?」
 やっぱりな。いや、確信はあった。だが、それをそのまま言っても桜咲は否定するだろう。
 それに嫌いであればあんな穏やかな目で見ることはないだろう。
「一緒に買い物したらどうだ? このかなら喜ぶだろうさ」
「知ってたんですね……
 いいえ、私はお嬢様の護衛です、私は影から見守れればいいんです」
「それは本心か?」
「……はい、これは私の本心です」
 ……これは重症だな。
 責任感かどうかは知らないがこれではいつか、相手も……自分も傷つけることになるだろう。
「わかった、これ以上は何も言わない。
 だが一つ言っておこう。その気持ちは今もこのかを傷つけているだろう」
 俺はそう言い残して去った。桜咲がどんな表情をしていたはわからないが気にする必要はない。
 俺は少しだけ手助けをするだけ。解決するのは桜咲だ。





[2377] 魔法の世界での運命 21話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:d7dada07
Date: 2008/01/02 19:05
 〔士郎 START〕


 修学旅行の前日に俺はエヴァンジェリンのログハウスに行き、修学旅行に参加できない茶々丸を含めた二人のお土産が何がいいかと聞きにいくと……エヴァンジェリンが不自然に上機嫌だった。
 あまりにも不気味だったので茶々丸に話を聞いてみると、彼女の恋い慕っているというネギ君の父親のナギ・スプリングフィールドが生きているという情報が入ったらしい。
 それはネギ君からの情報だったのだが、エヴァンジェリンが知っていた情報とは違っていたのだ。
 それに気分を良くして、この頃は機嫌がいいらしい。

 一応、お土産を何がいいと聞いてみるとエヴァンジェリンは“何でもいいがつまらんものを買ってくるな。ただ楽しみに待っている”と言う。多少なりとも彼女を知っていれば誰しもが口を揃えて不気味というだろう。
 茶々丸は最初、エヴァンジェリンの物を買ってきてほしいと言っていたのだが、俺としては思い出に残らないのなら形に残る物を送りたかった。
 俺がなかなか折れず、最終的には茶々丸が折れてお茶の葉を買ってきてほしいとお願いされた。
 それだけでは足りないと思ったので急須も買ってくることにした。
 エヴァンジェリンも扇子を買ってこようと考えている。


 当日


 修学旅行当日、天気は良好。
 教員は生徒よりも早く駅に集合しなければならない。俺は間に合うように余裕を持って出たのだが少々早く着きそうだ。

 電車で瀬流彦先生に会って少し話をしたのだが……
 瀬流彦先生が戦闘には向いておらず、もしものことがあった場合には生徒の護衛に徹することになるというのはいいとしよう。
 ただ学園長から聞いた話しとして俺がタカミチに匹敵すると話していたらしい。
 俺としてはそれは過大評価だ。
 あのタカミチの技の威力は凄まじいものだ。
 アイアスであれば防ぐことはできる。干将・莫那だったら良くて体勢を崩して武器を吹き飛ばされ、悪ければ吹き飛ばされて大きなダメージを受けるだろう。

 そんな話をしながら駅に到着。
 新田先生やしずな先生など京都・奈良に行くクラスの担任などがすでに数人来ていた。
 生徒はまだ来ていないがおそらく、一番早く来るのは3-Aの生徒だろう。

 
 数分後、やはりというべきか3-Aの生徒が来た。
「おぉ~、士郎さん早~い。
 くっそ~食券3枚損した~!」
「おはよう、明石。
 一つ言っておくとしたら人を賭けの対象にするんじゃない」
「えぇ~、だってそうでもしないと集合するだけでつまらないじゃん。
 あ~あ、桜子の勝ちか~。ネギ君のほうが早く来ると思ったのになぁ」
 どうやら俺とネギ君のどちらが早く来るかとういう賭けだったらしい。

 その後ネギ君も生徒も到着し、無事に駅を出発することができた。
 ネギ君に桜咲とザジをどこの班に入れるかを話していたので問題はないだろう。
 俺が先に電車に乗り込んで生徒を誘導していた為、桜咲はネギ君に班をどうするか聞いていたようだった。
 俺の前に桜咲が通った時に睨まれたが気にしないようにしよう。
 
 桜咲は5班、ザジは3班に入れることにしたのだが……桜咲はまったくこのかと話す気はないようだ。
 俺が見回りをしているとこのかは桜咲の方を見ていることがあったのだが桜咲は気づいていて視線を外しているのか外を見ていた。
 
 時間が少々経ったころに桜咲が席を立った。
 俺に目配せをして車両の後ろの方に歩いていった。
 ついてこいということだろう。俺は距離を置いてついていった。

 ついた場所はお手洗いなどがあるスペースがあるところだった。
「士郎先生、私をこのかお嬢様と何故、一緒の班にしたのですか?
 私は影からお嬢様をお守りすると士郎先生には言っていたはずですが」
「確かに聞いた。だがそれだけだ。一緒の班にしないでほしいとは聞いていないからな。
 いい機会じゃないか、このかと仲良く話したりすればいい。
それに班の人数が少なくなったんだから他の班に入れるのは自然なことじゃないのか?」
「それはそうですが……
 しかし、お嬢様と会話を交わすなどは納得できません。私は影から護衛できればそれでいいのです」
 まだわかってなかったか……俺以上の頑固じゃないのか?
 このかが時々見ているのを知らないはずがない。あの悲しい視線を感じているはずだ。
「影で護衛するよりは一緒の班にいて近くから護衛した方がいい。
 もしこのかに西から襲撃があっても近くに桜咲がいれば対処できるだろう?
 自由行動の時、俺は大阪にいる。京都で何かあったときは瀬流彦先生に任せるしかないのだが彼は守りに向いている。先頭は失礼だが期待できないだろう」
 いざとなればすぐに駆けつけるが時間がかかる。少しでも時間を稼いでくれれば何とかなるかもしれない。

 桜咲は俺の説得で一緒の班にいることは納得したが仲良く話したりすることは納得しなかった。
 本当に頭が固い。
「士郎先生は学園長が私達に紹介するほどですから信用できるのでしょう。
 もしもの時はお願いします」
「任された。
 桜咲も守るから修学旅行を楽しめよ」
 桜咲は俺の言葉に苦笑しながら戻ろうとした。が、その時だった。
 
 明確な敵意。俺が感じたことのない気配。
「士郎先生……」
「あぁ、何かあったようだ。
 それに何かがこっちに来ている」
 何かおかしな気配がこちらに近づいてきているのを感じて俺は扉の向こうに視線を向けると……燕が手紙のような物を加えて飛んできていた。その後ろからは販売員にぶつかりながらも追いかけているネギ君の姿が見えた。
「士郎先生、私がやります」
 俺は頷き、数歩下がる。
 俺よりもあれに慣れているようだった桜咲に任せたほうがいいと判断したのだが、もしもという場合がある。
 干将・莫那を投影して俺も構える。

 燕はこの空間に入ってきて……桜咲の居合い抜きで切られ、紙になった。
 桜咲の居合い抜きは常人には抜いたところが見えないだろう。それ程の腕前。

「桜咲、その紙は」
「これは式神といって魔法使いからいえば使い魔のようなものです。
 呪符使いは式神を使役することで戦闘をします。それがここにいるということは間違いないでしょう」
 桜咲は野太刀を竹刀袋にしまいながら教えてくれた。
 式神が加えていたのはネギ君が持っていた新書だ。どうやら3-Aの車両でなにかって、その時に奪われたのだろう。
 そうでなければ簡単に新書をネギ君から奪うことはできないだろう。

 桜咲が新書を拾い、俺も干将・莫那を消していると……
「待て! ……あれ? さ、桜咲さんに士郎さん?」
「ネギ先生……あの、これ落し物です」
「え? あ~! これは僕の大切な新書!
 ありがとうございます! 助かりました!」
「向こうについてからは気をつけたほうがいいですよ……」
 そう言って桜咲は行ってしまった。

「士郎さん、ここで何をしていたんですか?」
「桜咲に呼ばれてな班分けのことでききたいことがあったらしい」
 ネギ君は式神を見て少し慌てたあと俺と話して3-Aの車両に戻った。

 カモが俺のことをちょくちょく見ていたがどうかしたのだろうか……

 新幹線は京都の到着。今日の宿でとんでもないことが起こるなど、俺は知るよしもなかった。



[2377] 魔法の世界での運命 22話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:d7dada07
Date: 2008/01/03 19:24
 〔ネギ START〕


 
 京都に到着したのは良かったんだけど……もしかしたらエヴァンジェリンさんに続いて生徒に敵ができちゃったかもしれない。
 しかもカモ君が言うには士郎さんも敵じゃないかって言ってるし……
 もうどうしたらいいんだろう……?
 僕から見たら士郎さんは厳しいけど優しいし、良くしてくれてると思うんだけどなぁ。でも、カモくんは今までしてくれたことは忘れて注意しろって言うからなぁ……


 清水寺に着いて3-Aの皆と集合写真を撮って、僕も皆もとても舞い上がっている。
 皆清水の舞台を見たり音羽の滝っていう所を見たりして思い思いに行動してるなぁ。
 でもこれが諺に則ってっていうのはこんなことをいうのかな? 風香さんが “誰か飛び降りれ”というと楓さんがそれを実行しようとする。それをいいんちょさんに止められる感じだ。

「兄貴、楽しむのはいいが注意しないとダメだぜ?」
 カモ君が周りに聞こえないように言ってきて、僕も確認する。刹那さんは見当たらないけど士郎さんは僕と同じく清水寺にいた。
 僕から見たら生徒の皆を注意してみてるようにしか見えない。
 やっぱり勘違いなんじゃないかなと思ったら。
「かえで姉! ここはやっぱり行ってみるしかないよね!」
「そうでござるな。
 清水の舞台から落ちたつもりでという諺があるぐらいでござるからな。
 ここは一つその気持ちを体験してみるでござる」
 そう言って……柵に手をかけた!?
「ちょ! 楓さ~ん! 危ないですからやめて」
 くださいという前に柵を越えて…身体が傾いていった。

 本当に飛んじゃう!? なんで!? いくら楓さんが忍者だからって……そんなことを思ってると。
「長瀬! なんて無茶を!」
 士郎さんも楓さんが落ちると同時に追いかけるように飛び降りた。
 ……ってえぇ!? 士郎さんも飛び降りた!?
 僕は柵に近づいて二人が落ちていったところを見たけど……小さな林に隠れて見えなかった。
 ど、どど、どうしよう……もし怪我なんかしちゃったら僕の責任だ……
 ちゃんと見てなかった僕が悪いんだ……
「あら、ネギ先生どうなさったんですか?」
「あぅ、いいんちょさん……えぇとですね……」
 混乱して何を言っていいかわからなくなって僕は慌てるだけだった。
 それが勘違いされたようで。
「あぁ、どこから見ていいかわからないのですね?
 安心してください。私が心を籠めてご案内いたしますわ」
「あ~! いいんちょずる~い。私も行く~」
 いいんちょさんに続くようにまき絵さんにも押されて清水寺から降りた。
 二人とも士郎さんと楓さんが落ちたところを見ていなかったようだ。無事だといいんだけど……

 下に降りてくると無事だった士郎さんと……頭にたんこぶを作って襟首をつかまれ、引きずられて来た楓さんがいた。
 いいんちょさんもまき絵さんもその後ろからついてきていた風香さんと史伽ちゃんもその光景に驚いているようだった。
「まったく、何か嫌な予感がすると思ったらいきなり飛び降りるなんてな。
 驚きすぎて言葉も出ん」
「しかしながら言葉は出ずとも手は出るのでござるな?」
「悪さをしたら叱る、これは当然のことだ。
 今回のことはあまりに危険だ。軽率にやることじゃないのだからたんこぶ一つですんだことに感謝するんだな」
「たんこぶでなかったらどうするつもりだったでござるか?」
「……仏像抱いて正座しろ」
「申し訳なかったでござる」

 即答する楓さんは怯えていた。
 士郎さんの目が本気だったからだ。もし今日泊まる旅館で何かしようものなら容赦なく今言ったことを実行しそうだ。
 士郎さんは僕に近づいてきて楓さんを離した。
「ネギ先生、私は清水の舞台で生徒を見ている。
 下は任せたいのだがそれでいいだろうか?」
「あ、はい。わかりました」

 僕は士郎さんと別れたんだけど変な様子はないように見えた。
 カモ君が言っていたことは間違ってたんじゃないのかな? でも、今はいいんちょさん達が側にいるからそれをカモ君に聞けない。
 ちなみに風香さんは楓さんが飛ぶところを見ていなかった。
 それにことわざも落ちるではなく飛び降りるつもりですよ?


 やっぱり西からの妨害はあった。
 恋占いの石の所には落とし穴、音羽の滝の縁結びのところではお酒が流されていた。
 気づいた時にはクラスの人は酔いつぶれて寝てたし……士郎さんから携帯に電話があって、もし教えてくれなかったらもっと被害が大きくなってたかもしれない。
 最悪、修学旅行は中止。停学になる人も出てきたかもしれない。
「兄貴、騙されちゃいけないぜ?
 もしかしたらワザとこういうこと教えて信用させといて油断誘ってるのかもしれないぜ」
 う~ん、そうなのかなぁ?

 でも、士郎さんは新田先生達がいいんちょさん達に近寄らないように手を回してくれて、いなくなったと同時に僕と一緒にバスに酔いつぶれた人を運んでくれた。

 
 旅館に着いてからアスナさんに今回のことを話すと、アスナさんも意外そうな顔をしていた。
 僕は刹那さんは少し疑ってはいるけど士郎さんは疑う要素が少なくてなんともいえない状態だった。
 でも、アスナさんから聞いた話で僕が知らないことがあった。
 刹那さんはこのかさんの幼なじみだったらしいんだけど僕もアスナさんも話してるところを見たことはない。
 クラス名簿には……なんて読むのかな? かみ……なるりゅう?
 とにかく京都と書いてあるから関係はあるみたいだけどどうなんだろう?
 カモ君はもうこれで決まりだって言ってるけど……
 でも、それを考える前にしずな先生が来てお風呂に入ってほしいと言われた。 
 先生は生徒より早く入るらしいんだけど……どうしようかな? 僕、お風呂嫌いだし、頭も洗わなくちゃいけないだろうし。
 あ、でもアスナさんが一緒じゃないから別に洗わなくてもバレないかも。

「言っとくけど、ちゃんと身体も頭も洗いなさいよ。
 もし洗ってなかったら……誰も入らない時間にもう一回入らせるからね」
「……はい」
 先を読まれてた……


 お風呂に入るのが少し憂鬱だったけど、浴場に来てみたらその気分も吹き飛んだ。
 浴場は露天風呂で寮とはまた違う感じで新鮮だった。
 入ってみると温かいんだけど風が流れて顔が涼しい。これが風流なのかな?
 でも、問題は風に流れていくわけもなく、頭が重くなるような気分だった。
 すると。
 
 浴場の扉が開いて誰かが入ってきた。
 他の男の先生が入ってきたのかなと思って向いてみると……
 士郎さんが入ってきた。
「おや、ネギ君じゃないか。
 君も入ってたんだな、お邪魔するよ」
 士郎さんは自然に入ってこようとしたんだけど。
「やい衛宮士郎! しらばくれたって無駄だぜ!
 お前本当は西のスパイなんだろ! 桜咲刹那と一緒にいたのが何よりの証拠だ!」
 僕もカモ君の言葉につられるように念のためにと用意しておいた練習用の杖を士郎さんに向ける。

 士郎さんはカモ君の言葉に驚いてた。やっぱり士郎さんは……
「はっ」
 ん?
「あははははっ! 俺が西のスパイだと思ってたんだ。いや~、それには気がつかなかったな~」
 士郎さんは本当におもしろそうに笑って、僕とカモ君は少し呆然としちゃっていた。
「し、士郎さんは西のスパイなんですか?」
 僕は立ち直って一応聞いてみたんだけど、士郎さんはまだ少し笑いながら。
「それだったら学園長が俺を修学旅行に同行させないさ。
 最初はそんなに学園長にも信用されてなかったけど、一応は信用されたって事なのかな?」
 ……確かに学園長先生なら西のスパイかもしれない信用できない人を修学旅行に同行させないだろうし……

「で、でもなんで電車の中で刹那さんと一緒だったんですか?
 僕達はそれで士郎さんと刹那さんのことを疑ってたんですかど」
「まぁ、わからないでもないけどそろそろ風呂に入らないか?
 さすがに風邪引いちゃうかもしれないし」
 
 士郎さんが僕と一緒に露天風呂に入って、話をしようとするとまた浴場の扉が開いた。
 

 士郎さんは話すのを一旦やめ、僕は扉の方を見ると……刹那さんがいた。
「し、士郎さん! せ、せせ、刹那さんが入って……。
 そ、それより何で入り口は別なのに中は同じなんですか?」
 僕は刹那さんに聞こえないように小さな声で士郎さんに聞くと。
「あぁ~……。あれだ、ここは混浴で本当なら会わないように時間をずらすんだけど、今は教師の入浴時間、それも男の先生のな。
 それがどういうわけか桜咲が入ってきた。ということっじゃないか?」
 
 そうなのか……士郎さんは刹那さんの方を見ないけどそれであってるんだろうぁ。

「……背はちっちゃいけど綺麗な人だね~。肌が真っ白……八ッ!」
「こういうのを大和撫子っていうんだぜ~……って!」
「覗きはよくないぞ二人とも。  
 だがこのままだったら誤解を招くな。見つからないようにここを出よう」
 うん、僕もそれに賛成。
 
 見つからないように出て行こうとしたら不意に刹那さんの声が聞こえた。
「困ったな……。
 魔法使いでない士郎先生ならともかく、ネギ先生なら何とかしてくれると思ったんだが……」
 !? 僕が魔法使いだって事を知ってる!? 
 やっぱり刹那さんは西のスパイなんだ! 
 思わず杖を握る手に力が入ったとき。
「ネギ君!」
 士郎さんが小さく叫ぶように声をかけていた。

 その瞬間。

「誰だっ!?」
 しまった! 見つかった!?
 僕は逃げようとしたら……岩が切った!?
 僕は何とか避けられたけど背の高い士郎さんは避けられない! 嫌な場面が頭を過ぎった時。

 鉄と鉄がぶつかる音が聞こえた。

 士郎さんの方を向くと、白と黒の剣をを交差させて刹那さんの剣を防いでいる。
 でも、刹那さんの剣はすごい威力があったみたいで士郎さんは武器もろとも飛ばされた。
 防いだこともすごいと思ったけど、白と黒の剣はどこから出したんだろう……
 いや、そんな場合じゃない! 士郎さんの方に向かって走り出していた。
 このままじゃ士郎さんが!
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル。
 風花・武装解除!」
 僕の魔法で刹那さんの大きな剣を弾き飛ばしたけど、それでも刹那さんは止まらなかった。
 武器がないのは士郎さんも同じだけど刹那さんを迎え撃った。
 士郎さんは右手でパンチを出したけど避けられ、逆に刹那さんが手を動かした。
 なんとか左手で刹那の左手をつかんだけど、士郎さんは刹那さんに首をつかまれてる。
 そう見えた。
 でも、士郎さんの右手は刹那さんの首を捕らえていた。

 なんで? 刹那さんは確かに避けたはずなのに……
「敵ながらやるな……ってあれ? 士郎先生?」
「……やっと気づいたか。
 なんでここにいるかは聞かないでおくから……前を隠してくれないか……」
「え? わぁ! すいません!」
 士郎さんの言葉で慌てたみたいだったけど、カモ君が口を開いた。

「や、やい桜咲刹那! やっぱりてめぇ関西呪術協会のスパイだったんだな!?
「ち、違う! 誤解だ! 違うんです先生!」
「何が違うもんか! 
 ネタは上がってんだ! さっさと白状しろいっ!」
「わ、私は敵じゃない。15番、桜咲刹那。
 一応先生の味方です」
 へ? 僕の味方? いきなり攻撃してきたのに?

「それってどういう「ひゃあぁああぁ~っ!」この悲鳴は!?」
 脱衣所の方から叫び声が聞こえて、士郎さんと刹那さんは走り出した。
 僕も遅れながら二人の後を追いかけた。



[2377] 魔法の世界での運命 23話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:6dc717b4
Date: 2008/01/10 01:07
 〔士郎 START〕


 悲鳴の先は脱衣所。そしてこの声には覚えがある。
 俺と桜咲、すぐ後ろにいるネギ君も駆け出し、すぐさま脱衣所の扉を開ける。
 そこには……
「いやぁぁ~~ん」
「ちょっ……士郎さん!? それにネギに桜咲さんまで!?
 って士郎さんこっち見るな~!」
 
 ……これはどうするべきか? 
 襲われていることには変わりはないのだろうが、襲っているのが小猿。
 その小猿はおそらく式神なのだろうが力は弱い。せいぜい今のように服や下着を脱がしたり数でもって何かを運ぶ程度だろう。
 桜咲であればこの程度は問題なく倒すことができる。
 ただ問題なのは……
 神楽坂とこのかは下着姿。そして俺は腰にタオルを巻いて前を隠しただけでほとんど裸。
 ネギ君なら子供ということでまだいいだろう。
 加えて桜咲もバスタオルを巻いただけの姿だ。もしかするとこれではいらぬ問題を起こすかもしれない。
 術者が近くにいるかもしれないがこのかや神楽坂の精神面を優先しよう。気配を探したが少なくとも付近にはいないようだ。
 それでも油断はしない。

「桜咲、俺は着替えてくる。このままじゃいろいろ問題あるだろうからな。
 だがすぐに戻ってくる。それまでは申し訳ないがこのかたちを頼んだ」
「…………はい、わかりました。
 このかお嬢様に何をするか~!?」
 怒号とともに野太刀を抜く。
 俺はすぐに男性脱衣所に入り、普段着られる黒い軽鎧とスーツの下を着て浴場に戻る。
 
 出ると小猿にこのかが運ばれていた。
 干将・莫那を投影してこのかを助けようとすると……桜咲が野太刀を構えて駆け出していた。
 目にも止まらぬ速さの剣。その剣に切られた小猿は紙に戻り、まるで桜の花びらのように舞う。
 
 ネギ君と神楽坂が近づいていく。桜咲よりも出るのが遅れ―――!?
 

 〔刹那 START〕


 私は小猿にお嬢様をさらわれる所を百烈桜華斬で救った。
 よかった……お嬢様に怪我は無い。
 
 しかし……士郎先生が失礼だとは思うが役に立たなかったな。
 お嬢様に男の裸というものを見せないようにという行動はいいが、そのせいでさらわれるところだった。
 せめてもう少し早く来てほしい。そんなことをかんがえていると、すでに士郎先生は来ていて……弓を構えていた。
 何故? 浴場に持ってきていたのか?
 それに……今の士郎先生は緊迫した気配を持っている。

「どうしたんですか、士郎先生」
「……すまない、逃がした」
 逃がした? 誰を? ……まさか!?

「逃がしたとはまさか西の……」
「おそらくな……。手応えはあったんだが何かの守りがあったみたいだ」
 そんな馬鹿な……私も警戒はしていた。
 なのに近くにいたのか? 私が見落としたということに変わりは無いのだろうが……
 
「すまない、俺のミスだ。
 このかや神楽坂を危険にさらしてしまった……」
「だ、大丈夫よ。そんなに重く捉えなくていいってば。
 ね? このかもそう思うでしょ?」
「え? う、うん。
 よ~わからんけど助けてくれたんやろ? ありがとう士郎さん。せっちゃん」
「あ、いや……」
 不意に今の状況に気がつき、私はお嬢様に何も言わずに浴場を出た。

 かすかに聞こえるお嬢様の声が浴場を出た後も耳に残っていた……


 今は本来なら修学旅行の就寝時刻。
 その時間に私は旅館の出入り口に式神返しの結界を作る札を貼って回っていた。
 先ほどのことがあっただけに油断はできない。また私が到らぬばかりにお嬢様を危険にさらすわけにはいかない。
 士郎先生は自分のせいだと言っていたがあれは私にも責任がある。
 
 正面玄関で札を貼っているとネギ先生と神楽坂さんが声をかけてきた。
 
 ネギ先生達に私が貼っていたことなどを説明し、先程や新幹線のことなどを話した。
 西の行動はだんだんとエスカレートしていること、私がネギ先生たちの敵ではないことを話していると士郎先生がロビーに来た。
「あぁ、ここにいたのか桜咲」
「あれ? 士郎さんどうしたんですか?
 夜に見回りがあるから今の時間は寝てるんじゃなかったんですか?」
「いや、西からの襲撃があったのに寝てる訳にいかないだろう。 
 それに話したいことがあったからな。ネギ君たちがここにいるならちょうどいい」
 
 士郎先生がネギ先生達の味方だということは私が最初に説明していたので問題はなかったのだが、先ほどのことなど話すことはいろいろあった。
 士郎先生は学園長に生徒の護衛を任されていることを説明し、私に西のことを詳しく話してくれないかということで私はネギ先生達を含めて説明した。

 私は魔法使いと呪符使いの違いから話し始めて、私が元西の関係者であることを説明した。
「私は西を抜けて東につきましたが後悔はしていません。
 これは私が望んだこと。お嬢様を守ることができれば満足なんです」
 ネギ先生と神楽坂さんは少し黙っていたがすぐに立ち上がって。
「よ~し、わかったよ桜咲さん!
 あんたがこのかのことを嫌ってなくて良かった! それがわかれば十分!
 友達の友達は友達だからね、私も協力するわよ!」
「よし! じゃあ決まりですね!
 3-A防衛隊結成ですよ! 関西呪術協会からクラスのみんなを守りましょう!」
 ……私を信用してくれることは素直に嬉しいのだがその名前はどうなんでしょうか。
 いや、不満などいらない。協力してくれるというならお嬢様の安全がさらに上がるということなのだから。
 だが、士郎先生は目を瞑ったまま腕を組んで動かない。
 私の守れれば満足というのはいけないものなのだろうか……。これだけではダメなのだろうか……

 士郎先生は立ち上がって階段の方へ向かう。
「士郎先生……。これではいけないのでしょうか……」
「勘違いするなよ桜咲。
 俺は西が来た時、すぐにわかるように屋根に行くだけだ。
 ……そこまでの決意を見せられて手伝わないなんてできるはずがないだろう?」
「あ、ありがとうございます!」
「まぁ、もしもの時はすぐに連絡してほしい。
 西はどんな手で侵入してくるかわからないからな」
 そういい残して士郎先生は階段を上がっていき、その姿は見えなくなった。
 
 このかお嬢様を守る。その中で心強い味方ができた。


 ネギ先生は見回りのために旅館を出て行く際、従業員の方とぶつかってしまったが大丈夫だろう。
 
 私と神楽坂さんは時間交代で各部屋を見回ることになった。
 本来なら私一人でやるべきなのだろう。神楽坂さんは魔法のことなどを知ったとしても一般人の域からは出ないのだから。
 それでもやらせてほしいと言って、私が折れた。
 
 今日の3-Aの人たちはとても静かだ。
 いや、しかたないことだ。西の妨害で音羽の滝でお酒を飲んでしまったのだから。
 ……明日の夜がどうなるかは手に取るようにわかるのが怖いな。

 !? この気配は!?

 私は那波さんと村上さんにぶつかりながらお嬢様の部屋に向かう。

「神楽坂さん! お嬢様はっ!?」
 不安に駆られて部屋に入り、聞くと。
「え……そこのトイレに入ってるけど?」
「どれ位になりますか!?」
「10分ぐらいです……うぅぅ」
 綾瀬さんはぴょんぴょんと飛び跳ねながら答えてくれたのだが、トイレを我慢しているのだろう。
 しかし、今はそれに構っていられない。あの嫌な気配を忘れることができない。

 そんな中で携帯の着信音が鳴り響いた。

「どうしたのネギ?」
 そう神楽坂さんが携帯に出るが、しかしネギ先生の声は私の耳に届くほど大きな声だった。
『アスナさん! このかさんがおサルさんにさらわれちゃいました!
 今、士郎さんが追ってますからすぐに来てください!』
 !? なんてことだ……。
 トイレの扉を破ってみると、そこには札が置いてあった。
 その札からお嬢様の声で“入っとりますえ~”としゃべっていた。
 くそっ……! 私はその札を取って破り、駆け出す。

「神楽坂さんはここにいてください! 
 私はお嬢様を追います!」
「ま、待って! 私も行く!
 このままこのかをさらわれるわけにいかないわ!」
 危険なのでついてこない方がいいのだが……今はそんな会話をしてる場合じゃない。
「わかりました、では私についてきてください」
 

 神楽坂さんはネギ先生に連絡を取ってお嬢様がどこにいるかを聞くと、今は渡月橋をわたってそこから真っ直ぐ向かおうとしているらしい。
 そうなると……嵯峨嵐山駅か!
 それならここからそれほど離れていない。急げば何とか間に合うかもしれない!

 少し走るとネギ先生に追いついた。
「ネギ先生、お嬢様は!?」
「あそこです! 今は士郎さんがおサルさんに追いついて牽制してますけどあまり攻撃はできていません」
 ネギ先生が指差した方向には……確かにサルのような者。おそらく式神だろう。それに士郎先生が一定の距離を保ちながら並走している。
 お嬢様を気づかって攻撃できないようだが牽制していたおかげだろう、遅れて出てきた私達がなんとか追いつけた。

 士郎さんと式神が駅に入るのに少し遅れて私達も駅に入る。

 お嬢様……どうかご無事でいてください……



[2377] 魔法の世界での運命 24話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:6dc717b4
Date: 2008/01/10 19:14
 〔アスナ START〕


 桜咲さんと一緒にこのかをさらったおサルを追って駅に入ったけど人気が全くない。
 聞いてみたら人払いの呪符とかなんとかいうやつで一般の人は近づくことができないらしい。
 こんなものが駅に都合よく貼ってるわけないし……やっぱり計画的にこのかをさらおうとしてたんだわ。

 電車が出るギリギリになんとか飛び乗ることができたけど、おサルはこの車両にはいなくて、代わりに士郎さんがいた。
「士郎さん、このかは!?」
「……すまない、完全に人質にされて俺が動いたらこのかになにかするつもりだ」
 士郎さんの視線の先にはこのかをさらったおサルが前の車両に向かっている所だった。

「あんさんらしつこすぎますえ。そんなんやったら嫌われますえ?
 まぁええわ。そこの白髪のあんさんが動かなければ怖ないわ。
 勝手に動こうと思わんことや。あんさんが動けばお嬢様がどうなるか……わかってますな?」
 き、汚いわ! このかで士郎さんを脅すなんて!
 でも、このかのことをお嬢様って……どういうこと?

「ウチが他の車両に行ってからも動いたらあきまへん。
 まぁ、簡単には動けなくなるやろ」
「くっ、待て!」
 おサルがしゃべってると思ったら中に女の人が入っててそれがしゃべってた。
 でも、そんなことはどうでもいい。私の桜咲さんに続いて駆け出す。

「ふふふ、あんたらも余計なことせんと大人しくしとき。
 “お札さんお札さん、ウチを逃がしておくれやす”」
 女の人が何か呟いて隣の車両に行った瞬間。
 お札から大量の水が出てきた。

「わ~っ!?」
「な、何、この水!?」

 いきなり私達は大量の水に流されて溺れると思ったら……
 士郎さんが私の手を取ってくれて流されるがままになることはなかった。ネギも士郎さんにつかまれてたけど……でも桜咲さんは!?
 桜咲さんは水の中でもなんとかバランスを取ってるみたいだけど息が苦しそうだった。
 どうしよう、と思って士郎さんを見ると、私の考えてることをわかってくれたのか頷いて近づいていく。
 
 すると桜咲さんは剣を振って……何かが隣の車両に向かっていった。
 それが扉にあたって向こうにも水が流れ出していく。
 私にネギ、それに桜咲さんをつかむことができた士郎さんは私達が流されないようにしてくれた……だけど流れが強くて、士郎さんは私達をかばって流されながら鉄の支柱などにぶつかっていた。

 扉が開いて私達は外に出られたけど……
「士郎先生大丈夫ですか!?」
「士郎さん大丈夫!?」
 私達をかばったせいで士郎さんは頭から血を流していた。
「問題ない、俺よりこのかだ」
 私がこのかの方を見ると、おサルがこのかを抱えて立っている。
「よくもやってくれはりましたな……。
 しかし、このかお嬢様は渡しまへんえ」
 そう行ってまた走り出すおサル。
「ま、待て!」
 桜咲さんは追って行ったけど、士郎さんは動かない。
「くっ……。すまん、神楽坂、ネギ君。
 先に行ってくれ。当たり所が悪かったみたいだ。脳を揺さぶられて焦点が定まらない……。すぐに行くから」
「で、でも……」
 ネギが士郎さんに寄ろうとしたら。
「行け! このかがどうなってもいいのか!」
 ネギは士郎さんに怒鳴られて固まってたけど……私は意外にもすぐに反応できた。
「ネギ! 行くわよ!」
「でも士郎さんが……」
 あぁ! もう!
 私はネギをつかんですぐに桜咲さんの後を追う。
 まだ桜咲さんは見える位置にいる。少し遅れるかもしれないけどまだ間に合う。

「アスナさん離してください!
 士郎さんが怪我を……!」
「バカ! 士郎さんは怪我してくれてまで私達守ってくれたのよ! 
 それなのに私達のせいでこのかがさらわれちゃったら士郎さんは何の為に怪我したのかわからないじゃない!
 今、私達がすることはこのかを助けることなんだから士郎さんのしてくれたことを無駄にしないの!」
 桜咲さんもそれがわかってこのかを助けるために振り返らないで追っていったんだと思うし、頭の悪い私でさえわかるんだから絶対に士郎さんのしてくれたことを無駄にできない!
 ネギはそれがわかったみたいで顔つきが変わった。
 私もつかんでた手を離して追う。


 なんとか桜咲さんに追いつくと、桜咲さんはあのおサルのことを話してくれた。
「あのサルの式神に入ってる女は西の者の中でネギ先生達、魔法使いを嫌っている連中です。
 そして以前より呪術協会の中にこのかお嬢様を東の麻帆良学園にやってしまったことを心良く思っていない連中がいました……
 今回、お嬢様をさらったのは……お嬢様の力を利用して関西呪術協会を牛耳ろうと考えているからでしょう。
 関西呪術協会は裏の仕事も請け負う組織です。このような強行手段に出るものがいてもおかしくはなかった……くっ、私がついていながら……!」
 このかの力って……まさかこのかは……


 おサルに追いつくと女の人が立っていて……あぁ! あの人ってさっき旅館でネギがぶつかった人じゃない!
「よ~ここまで追ってこられましたな。
 そやけど白髪の男がいないんやったら怖ない。しょせんガキや。
 三枚目のお札ちゃんいかせてもらいますえ。あんさんらはここで立ち往生さなはれ」
「おのれ! させるか!」
 桜咲さんが女の人に向かって飛び出していくけど……私はとっさに危ないと思って後を追っていた。
「お札さんお札さん、ウチを逃がしておくれやす。
 喰らいなはれ! 三枚符術京都大文字焼き!」
 ものすごい炎が出てきて、桜咲さんは止まろうとしたけど勢いがついてこのままだったら炎に巻き込まれちゃう! 
 私がなんとか追いついて桜咲さんを引き寄せられた。

 でも……この炎じゃ……
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル。
 吹け、一陣の風。風花・風塵乱舞!」
 ネギの魔法で炎は吹き飛ばされた。よくやったわネギ!
「逃がしませんよ!
 このかさんは僕の大事な生徒で……大事な友達です!」


 〔刹那 START〕


「アスナさん、行きます!
 契約執行、180秒間! ネギの従者『神楽坂明日菜』」
 ネギ先生の呪文で神楽坂さんに魔力がまとわれる。
 そうか、神楽坂さんはネギ先生の契約してるといっていた。
「桜咲さん、行くよっ!」
「え……あ、はいっ!」
 それに神楽坂さんもネギ先生も……士郎先生もなんて心強い人がいるんだろう。
 これならお嬢様を救うことができる!

「アスナさん! パートナーだけが使える専用アイテムを出します!
 アスナさんのは『ハマノツルギ』! たぶん武器だと思います。
 受け取ってください!」
「武器!?
 よ、よ~し。頂戴ネギ!」
 西洋の魔法使いと契約するとそのような武器が手に入るのか。
 いや、今はこのかお嬢様をお救いすることを考えなければ!

 光が神楽坂さんを包み、その手に現れたのは……ハリセン?
 神楽坂さんはあのハリセンのことにネギ先生に文句を言ってるみたいですが今はそれで我慢してもらいましょう。
「神楽坂さん!」
 私は声をかけ、神楽坂さんも吹っ切れたようにハリセンを振りかぶり、呪符使いに振り下ろす。
 
 だが、それが届くことはなく、私の剣はクマのような式神阻まれ。神楽坂さんのハリセンは女が着ていたオオザルの式神に阻まれた。
 頭にあたって入るのだが威力は式神相手ではあまりないようだ。
「何これ? 動いた!?」
「旅館で説明した呪符使いの善鬼護鬼です。
 間抜けなのは外見だけです。気をつけて、神楽坂さん!」
 くっ! 防がれている間に女が逃げようとするか!
 早くこの式神を何とかしなければ……!

「このか……! このぉ~っ!」
 神楽坂さんが力を籠めたようにハリセンを振り抜くと……オオザルの式神が消えた!?
 いや……これは送り返されたのか……?
 どちらにしても一般人であることを考えればすごいことに変わりはない。

「な、何かよくわからないけど行けそうよ?
 そのクマ?は任せてこのかを!」
「すいません! お願いします!」
 ありがたい! 式神さえ離れてしまえば呪符使いは怖くない。
 一気に倒してしまおうと呪符使いに! 

 !? まだ仲間がいたのか!?
 しかもこの剣筋……まさか神鳴流が護衛についていたのか!?
 マズイ……!


 〔ネギ START〕


 いきなりおかしな格好をした人が刹那さんに切りかかって行って刹那さんも戦い始めた……
 でも今がチャンスかもしれない。女の人は僕のことを忘れて油断してるみたいだし!
 アスナさん、すぐにおサルから助けますから少しだけ我慢しててください!
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル。
 風の精霊11人! 縛鎖となりて、敵を捕まえろ!」
「あぁ! しまった! ガキを忘れてた~!」
「もう遅いです!
 魔法の射手・戒めの風矢!」
 このタイミングなら避けられないはず!

「あひぃっ! お助け~!」
 !? このかさんを盾に!?
「ま、曲がれ!」
 このかさんを盾にするなんて!
「このかさんを離してください! 卑怯ですよ!」
 今のが一番のチャンスだったのに……! でも、だからといってこのかさんに怪我をさせられない……

「は……はは~ん。読めましたえ。
 甘ちゃんやな……。人質が多少怪我するくらい気にせず打ち抜けばえ~のに。
 まったくこの娘は役に立ちますなぁ! この調子でこの後も利用させてもらうわ!」
 な、なんてことを……! あぁ! アスナさんがクマに捕まってる!
 刹那さんは今は近づけないし……
 士郎さんがいたら……!

「こ……このかをどうするつもりなのよ……」
 アスナさんが苦しそうにしながらなんとか言ってはいるけど……
「せやな~。
 まずは呪薬と呪符でも使て口聞けんようにして、上手いことウチらの言うこと聞く操り人形にするのがえ~な。くっくっくっ……」

 僕の中で何かが言っている。この人を許したらいけないと。

「ウチの勝ちやな。
 フフフ……このかお嬢様か……
 なまっちょろいおケツしよってからに、かわえ~もんやな。
 ほなな~。ケツの青いクソガキども。
 おし~りペンぺ……ひっ!?」
 女の人のほっぺたの横を一筋の光が通り過ぎ、赤い筋を残して、光は髪も奪っていった。
 でも、今はそんなことより……!

「「このか(お嬢様)に何をするか~っ(何てことすんのよっ)!」」
 アスナさんも刹那さんも本気であの女の人に怒って敵をなぎ倒した
 僕も一気に近づいて。
「風花・武装解除!!」
 このかさんを手放させる!
 そしてアスナさんのハリセンがお札を無視して頭を叩く。
 最後は……後ろに回った刹那さんが剣で女の人を吹き飛ばす!

 僕達が女の人に近寄ろうとしたら……横から冷たい何かが通り過ぎた。
 
 怖いと思った。冷たい空気が怖いと思った。
 僕の横を通り過ぎたのは……士郎さんだった。


 〔刹那 START〕


 呪符使いを百花繚乱で吹き飛ばし、お嬢様に対する無礼をどうしてくれようかと思い、近づこうとすると……私は思わず後ろを振り返った。
 あまりに濃い殺気。これが最初、人間が出せるものではないと私は思っていた。
 しかし、その殺気を放っているのは士郎先生だった。
 黒い弓を左手に持ち、私達の横を通り過ぎる。
 この殺気を私は体験したことはない。化け物に殺気を向けられてもこれほどの緊張感を持ったことはない。
 油断しているというわけではない。そんな化け物と比べることがおかしな話というほどに士郎先生の殺気は尋常ではないのだ。

 士郎先生はゆっくりと女に近づいていく。
 距離は10メートル程だが女は逃げない。逃げることができない。恐怖で足が竦んでいる。

「お前が言っていたことをこの子にやろうとしたのは本心なんだな」
 疑問として言うのではなく、それが決まっているかのように話す士郎先生。
 確かに呪符使いの女は先ほど言ったことを逃げた後に実行するだろう。
 カタカタと震えながら、女は背中が壁であることも忘れて立たぬ足の変わりに腕だけで後ろに下がろうとする。
「ひ……ひ……」
 声にならない悲鳴を上げながらも、女は士郎先生から視線を外すことはなかった。
 恐怖か、または眼で命乞いをしているのか……
 その立場になって見なければわからないだろう。

「安心しろ、俺は殺したりはしない」
 その言葉に青ざめた表情ながらも笑う。が……
「ただ、このかが受けるかもしれなかった仕打ちを……恐怖で味わえ」
 弓を引き絞り、放った。

 足、腕、胴、顔……すれすれに矢を打ち込む。
 すでに女は気を失っている。
 それを確認して士郎先生は殺気を霧散させるように解いた。
「桜咲、学園長に連絡して西の呪符使いを捕まえたと連絡してくれ」
「……は、はい。わかりました!」
 気づけば私だけではなく、神楽坂さんもネギ先生も滝のような冷や汗を掻いていた。
 これだけの殺気、慣れていない人が気絶しないだけでも大したものだろう。
「みんな怪我はないか? 
 そこでおかしな服を着た女の子はどうしたんだ? 無視してこっちに来たけどよかったのか?」
 私は士郎先生の指指すほうを向くと、月詠が……!?
 水にのまれて地面へ消えていくところだった。
 呪符使いの方へ向いてみると、こちらも水にのまれて消える寸前だった。
 
 士郎先生は駆け出し、手を出してそれを止めようとしたが……のまれて間に合わなかった。

 いったいなんだったのか……
 あれは呪符使いの仲間……なのだろうか……



[2377] 魔法の世界での運命 25話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:b62fc669
Date: 2008/01/11 16:06
 〔士郎 START〕


 西の呪符使いの女が水にのまれて消えた。
 逃がすまいと手を伸ばすが……逃げられてしまった……
 くっ……俺がすぐに捕まえておけば……
 
 だが転移を自分ではなく他人に使うか……よほどの優秀な魔法使いが西についているのか……油断ができないな……

 このかの無事だということを確認するとこのかが起きた。
「ん……あれ? せっちゃん……?
 ……ウチ……夢見たえ……
 変なおサルにさらわれて……でも、せっちゃんやネギ君やアスナが助けてくれるんや……」
 そうか、俺が来た所では完全に気を失ってたか。
 いや、そのほうがいいだろう。……呪符使いの言葉と行動で少し本気で攻撃するところだった。いかんな、あんな人を物のように言う人間は久々だったもんだから自分を自制することができなかった。
 もしこのかに意識があったら、もしかするといらぬ恐怖を持たせてしまうかもしれなかったのだから。

「……よかった、もう大丈夫です。
 このかお嬢様……」
「……よかった~。
 せっちゃん……ウチのコト嫌ってる訳やなかったんやな~」
「えっ……
 そ、そりゃ私かてこのちゃんと話し……はっ……」
 桜咲は自分でも驚いたようにこのかを地面に置いて一歩下がり。
「し、失礼しました!
 わ、私はこのちゃ……お嬢様をお守りできればそれだけで幸せ……
 いや、それも影からひっそりと影からお支えできればそれで……その………御免!!」
「あっ……せっちゃ~ん!?」
 ……桜咲はそのまま旅館に戻っていった。
 素直にこのかと一緒に友達として話せばいいものを……それではいずれ後悔するだろう。

 すると神楽坂が。
「桜咲さ~ん!
 明日の班行動一緒になら回ろうね~。約束だよ~」
 神楽坂のこの明るい性格は桜咲にとってもいい効果をあたえるだろう。それを受け止めていい方向へあの硬さが改善できればいいんだがな。
「あれ? でも何でウチこんなところにいるん?
 それにカッコ……ひゃっ!? 士郎さん見んといて~!」
「あぁ~! 士郎さん何このか方をジロジロ見てんのよ!」
 いや、このかが俺の前にいるから桜咲見ていると、視界に入ってしまうからしょうがないのだが……
 いや、これは問答無用で俺が悪いのだろう。

「すまん、でもこのままだったら風邪を引くから早く旅館に戻ろう。
 俺はやることがあるから三人で先に行っててくれ」
 主に壊したものを直さないとな……今夜は徹夜だ。
「あ、僕も残りますからアスナさん、このかさんは先に戻っててください」
「いや、ネギ君も戻っていいんだ。もう夜も遅い、さすがに眠いだろう?」
「大丈夫ですよ。士郎さんだけに任せたら申し訳ないですから」
 

 結局、ネギ君は帰らないで俺と一緒に壊れた物などの後始末を手伝ってくれた。
 しかし、やはりまだ子供、時々目を擦りながらも直していくがそろそろ限界だろう。
 それでも天才少年だけはある。当然といえば当然なのだろうが俺なんかよりも手際よく直していくのだから正直にすごいと思う。

 しかし、数分後には寝息を立てて地面で眠ってしまった。
 俺も強化の応用でネギ君に少々遅れながらも全て直すことができた。

 俺はネギ君を背負って旅館に戻った。
 


 ネギ君を布団に寝かせてから俺は部屋に戻ることなく旅館の屋根に向かう。
 西の襲撃を防いだとはいっても油断はできない。
 
 屋根に上ると、そこには桜咲がいた。
 桜咲は驚いたように俺のことを見ていたがすぐに立ち上がって頭を下げてきた。
「先ほどのこと、本当にありがとうございました。
 電車の中で士郎先生が私達をかばってくれなかったらお嬢様は西の者にさらわれていたかもしれません。
 ……怪我は大丈夫ですか?」
「怪我のことは気にしなくていい。これは俺がしたことだからな。
 このかを助けたことも仕事だからとかは関係ない。当然のことをしたまでだからな」
 人を助ける。それは俺のすべてであり、理想だ。
 どんなことがあっても俺は助けを求める人を見捨てない。それを枉げることは絶対にない。

「いえ、そういうわけにはいきません。
 この借りは必ずお返しします」
 むぅぅ……遠坂に“士郎が善意で人を助けるのはいいけど、それを全部押しつけないこと。借りとかお礼をあげると言われたらできるだけもらいなさい。それで助けられた人は気持ちが少しは楽になるんだから”と言われたことがあるが……
 そこまで大げさに……ん? いいことを思いついた。
 なんか、卑怯な気がしないでもないが、もしかしたら二人のためになるかもしれない。
「そうか、それだったら……このかともう少し仲良くしてくれないか? 
 明日……というか今日だな。班別で奈良を回る時にこのかに話しかけられたら少しは話してあげてほしい。
 それで貸しはないということでどうだ?」
「い、いえ……それは……ちょっと……」
「さすがにすぐに話せとは言わない。ただ少しだでも会話をしてくれ。
 ……桜咲もこのかの悲しい顔を見たくはないだろう? 俺もあの表情を見ると……悲しくてな」
 まだ桜咲とこのかの関係は戻すことができる範囲だと俺は考えている。
 二人にまだ話したい、一緒にいたいという気持ちがあることはわかってる。それを壊れる前に直すことができれば一番いい。
「で、ですが……私は影からお嬢様をお守りできればそれでいいのです……」
「いきなり話せとはいわないさ。少しずつ慣れていくようにすればいい。
 ……どこかのバカは誰かと話すことも一緒にいることも許されない、そんな孤独に自ら踏み出していったんだから……」 
 普通という平穏な日常に二度と戻れない道へ踏み出した。
 日常に戻れない、家族だった人間と話すこともできないようになった。
 共に旅立った友と話すこともできない立場に立たされた。それでも立ち止まることなく歩いていった先には……日常からも非日常からも否定された孤独だけが待っている。
 そんなことになるのは俺だけで十分だ。

 立場は違っていても桜咲やこのかに悲しいことをさせたくない。

 桜咲は何かを言うわけでもなく俺を見ている。
「……努力はしてみます……そんな悲しい表情で言われたら断れないじゃないですか」
「そうか……ありがとう。
 桜咲もそろそろ寝た方がいい。疲れただろうしな。
 もしあの部屋に戻ることを躊躇っているなら俺の部屋を使え。一人部屋だから誰かに見つかることもないだろう」
「……士郎先生はどうするのですか?」
「俺はこのままここにいる。
 追い返したとはいっても油断できないからな」
 協会の魔術師に追われてるときは一週間ぐらい追いかけられることもあったからな。
 隙見せて寝たらいつ殺されてもおかしくなかった。

「士郎先生、一つ聞いてもよろしでしょうか」
「俺が答えられる範囲ならな」
 質問されることについては心当たりがある。
「……先ほどの殺気はとても人間が出せるものではありません。
 仮に出せたとしても……どうすればあんな……」
 ……裏の世界のことを知っていたとしても、それでも知らない方がいいということもある。
 俺のは……あまりに血の匂いがしすぎてしまう。
「あれは少しやりすぎだったかもしれない。 
 自制がきかなくてな、俺も反省してる。
 ……桜咲の疑問に答えることはできないが、俺はまだ人間だよ」

 そう、俺が死ぬまでは……



 〔刹那 START〕


 士郎先生と別れ、私はお言葉に甘えて部屋を借りることにした。
 士郎先生の部屋は荷物の入ったカバンとところどころ破れているスーツが掛けてあった。
 先ほど士郎先生が着ていたものは黒いシャツに黒いパンツという姿だった。
 私達を守るためにダメにしてしまったのだから申し訳ない。
 
 それにしても……先ほどの士郎先生の表情はあまりに……
 悲しすぎる眼……そして私が知ることのできないような苦悩を士郎先生の瞳の中に見た。
 誰とも話すことも一緒にいることも許されない孤独……それはもしかして士郎先生のことを言っていたのではないだろうか。
 勝手な憶測だが……そう考えれば……いや、やめよう。
 勝手に人の過去を想像するものではない。


 私は布団を敷いてその中にはいるとすぐに眠りについた。 



[2377] 魔法の世界での運命 26話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:b62fc669
Date: 2008/01/12 01:23
 〔士郎 START〕


 早朝、俺は学園長に連絡しようと携帯を取りに部屋に戻った。
 
 部屋に戻ると桜咲はすでに出たらしく、布団がたたんでおいてあった。
 別にそこまでしなくてもいいのにと思いながらスーツに入っていた携帯を取り出すが……反応がない。ただの屍のようだ。
 ……って違う。

 西の襲撃の時、水に流された際に携帯が水没してしまったようだ。
 むぅ……これだったらいくらなんでも直せないな。
 しょうがない、受付の所に電話があったはずだ。それで連絡しよう。


「もしもし、学園長ですか?」
『おぉ、士郎君か。どうしたんじゃ?』
「昨夜、西から襲撃がありました。
 このかを狙ってきた計画的な犯行。加えて西の側に魔法使いがついているようです」
『……それは本当かの?』
「呪符使いが転移魔法の類を持っていなければですが」
『ふむ……士郎君。君の大阪の護衛を瀬流彦君と変わってほしい。
 士郎君の話を聞く限りではかなりの腕を持った魔法使いのようじゃ。できれば一緒に行動した方がいいんじゃが……無理であれば離れて警戒してほしい』
「わかりました。
 それと襲撃の際に携帯を壊してしまって俺との連絡がつかなくなります。これについては申し訳ありません」
『仕方あるまいよ、このかや君達が無事ならいくら壊しても構わんよ。
 帰ってきたときに新しいのを用意しておくので心配はいらん。
 それと、おそらくじゃが今日は西も襲ってこんじゃろ。あちらも用意もなしにすぐにこないとワシは考えておる。
 今日は奈良を楽しんでいいぞい』
 いいのか? そんな楽観的で。
 確かに昨日はあれだけやったから学園長の言うことはわからなくはないが……
「……油断はしませんが最低限で楽しみます」
『それでよい。ではの』
 そう言って学園長は電話を切った。

 まさか生徒に一緒に回ろうなんて言われるわけもないし、遠くから見てるか。
 学園長に楽しんでいいとは言われたがそれはできないな。


 朝食の時間になり、俺も大広間に向かう。
 途中で新田先生に俺の格好のことを聞かれたのだが、正直にスーツをダメにしてしまったと言った。
 俺としてはスーツがなくてもいいのだが教師としては示しがつかないということで今日、もしくは明日買うことになった。
 
 瀬流彦先生に昨日のことと明日、俺が大阪ではなく京都の警護になったということを伝えた。
 それを快く承諾してくれた瀬流彦先生に感謝して指定されている席に着こうとしたら背中に何かが当たった。
 振り向いてみると……とても顔色がいいとはいえない者達がいた。
「うぅぅ……おはようアル……士郎さん……」
「古(くー)か……。大丈夫……じゃないな」
 その後ろにも……顔色の悪い我が3-Aの生徒が数人歩いている。
 そうか、二日酔いか。
 昨日の音羽の滝の酒混入事件で酒に弱い者が他にもいた。
 雪広や佐々木はふらふらと席についているし……本当に大丈夫なのか?

「士郎さん、おはよ~」
「あぁ、おはよう椎名。
 よく眠れたか?」
 たしか椎名も酒を飲んだはずだったが、それほど残ってはいないように見える。
「うん、泥のように眠るってことを身をもって体験したよ~。
 ところで士郎さん、シジミのお味噌汁作って」
「……はい?」
「いや~、何か微妙~に頭が痛くてね。
 こんな時にはシジミのお味噌汁がいいって来たことがあるんだ~。
 だから作ってくれない?」
 今の状況だったら確かにあってるんだけど、二日酔いだってことわかって言ってるのか?
「い、いや。ここでそれは作れないが……
 それより大丈夫なのか椎名?」
「いやん、桜子って呼んで~」
 ダメだ、まだ酒が残ってるのか? いや、それはありえない。では何故?
「あ~、いたいた。
 ごめんね、士郎さん。何かさ、桜子朝から変なんだよね。ハイテンションというかなんというか……とにかく昨日の音羽の滝の後の記憶ないから何があったかわからないんだけどね」
 それは酔いつぶれて寝たからだ。
 釘宮は……椎名のようにはなってないのが救いか。
「あぁ、そうなのか。食後に頭痛薬を用意しておくから席に連れて行ってくれないか。
 そろそろ時間だからな」
「了解。またね、士郎さん」

 本当に大丈夫なんだろうか……
 あれはただの酒だったが何故、椎名まだ酔ってるような感じだったんだろう。
 いや、もしかしたら今日の班行動が楽しみで舞い上がってるのかもしれない。うん、そうなんだろう。
 

 朝食も食べ終わり、それぞれが班行動へ行く……と思ったら。
「ネギくん! 今日ウチの班と見学しよ~!」
「わ~っ!?」
 今日も今日とて、ネギ君争奪戦が始まった。
 雪広に佐々木に鳴滝姉。それに復活したらしい椎名も参加する。
 ネギ君楽しそうだなぁ。クラスの生徒と仲良くできることはいいことだ。ネギ君は良い先生になるな。

「ねぇねぇ、士郎さん」
「ん? 早乙女か。どうしたんだ?」
「いやね、昨日はスーツだったのに何で今日はそんなラフな格好なの?」
 それは昨日水に流されてボロボロだからだよ。とは言えないしな……
 それに早乙女に下手なこと話したら明日には学園にまでその話が届いていることだろう。
 まだ、会って間もないがそれぐらいのことはわかってきた。
「そ、それは……そう! 鳥のフンがスーツについちゃってな、それをそのまま着てるわけにもいかないからこれを着てるんだ」
 く、苦しいか? こんなベタな言い訳では早乙女に見抜かれてしまうか?
「へ~、士郎さんって運ないね。まぁ、そんな感じしてるけど」
 ……納得できるが納得できない。
 矛盾してるが……俺の心の中でこれを了承してはいけないと言っているのだ。

 早乙女と別れ、俺に割り当てられている部屋へ向かう途中。
「あ、士郎さん」
「ネギ君、どうしたんだ?」
 部屋の前でネギ君と神楽坂が立っていた。

 話を聞くとネギ君は宮崎に一緒に回らないかと誘われたという。
 宮崎とこのかが一緒の班で、守るにはちょうどいいと考えてその誘いにOKを出したということらしい。
 それでいざという時のために俺も一緒に来てほしいと思い、ネギ君はここで俺を待っていたという訳だ。
「それはいいんだが……俺がいると目立つぞ?」
 俺の身長はまだいいが髪が白髪というのは滅多にいない。
 俺はすでに慣れたからいいのだが、ネギ君が目立つのが嫌だというなら遠慮しよう。
 しかし、ネギ君は俺とは逆の考えを持っていた。
「士郎さんはいい気はしないと思いますけどそれでいいです。
 目立つってことはそれだけ人目につくということですから。そうなれば西の人も大胆に動かないと思うんです」
 なるほど……それは良い考えだな。
 さすが、と言うべきか。その発想は俺に浮かばなかった。いつも一般人が巻き込まれないようにと人目を避けるようにしていたからな。
 逆にあっちも裏の人間なんだから人目につくというリスクがあるから避けるはず。もし目立つことをすれば自らにそのリスクが返ってくるかもしれない。
 計画に支障がでるかもしれないことを好んでするとは思えない。
 これなら俺がことわる理由がない。

「わかった。そういうことなら一緒に行こう」
「わぁ、ありがとうございます!
 これでこのかさんも安全ですよ、アスナさん!」
「そうね、よかったわねネギ。
 でも、士郎さんはそれでよかったの? 仕事あるんじゃないの?」
「それは大丈夫だ。旅館で待機してる先生と見回る先生がいるんだが俺は見回りだ。
 それに明日は今日よりも大変だから俺は多少は自由に行動ができる」
 本当は瀬流彦先生も俺と同じなんだけどそれは言えないからな。ウソは言っていないし、これで許してくれ。


 行き先は奈良公園だったのだが……何やら早乙女が不穏な空気を出している。
 落ち着かないというか……舞い上がっているというか……とにかく何かをやるだろう。

 桜咲と神楽坂、ネギ君は早乙女達と離れて……いたがそれも無駄に終わった。
 早乙女と綾瀬が神楽坂に、このかが桜咲に猛スピードで迫っている。綾瀬、運動苦手じゃなかったか?
 このかは桜咲に任せよう。西の者が早乙女達に手を出さないとは限らない。それにもしもの時は念話ができるという札を桜咲からもらっているからすぐに連絡ができる。

「ほら! 士郎さんもぼ~っとしてないで行くよ!」
 どこにだ? そう言う間もなく腕をつかまれて引っ張られていく。
 むぅ、すごい力だ。これが女の子に出せる力なのだろうか? だが、それを言ったらいろいろ言われそうだからこのまま心に留めておこう。

 神楽坂はなんとか逃げたようだが……俺は逃げられず、今も早乙女に腕をつかまれて、何故か東大寺の仏像の影に隠れている。
「なぁ、早乙女。ここで何してるんだ?」
「シ~っ! 声が聞こえちゃうでしょ!? ほら! あれ見てよ!」
 早乙女の視線の先には……ネギ君と宮崎? 
 二人で仏像やおみくじなどを見ている。なんとも微笑ましいな。
「あれがどうかしたのか? 仲良く観光しているようにしか見えないが」
「士郎さんのその目はふしあな? どうみてもデートでしょ!? ちょっと違うかもしれないけど」
 デート? ……あぁ。それを考えて見てみたらそうかもしれない。が、それを俺に教えてよかったのか?
「早乙女、そのことを俺に教えたらまずいとか考えなかったのか? 
 俺も一応、教師なんだが」
「それが何か問題ある? 二人の恋を応援したいという気持ちは芽生えないの!?
 芽生えないんなら士郎さん、あんたはここで倒れろ」
 どこかで聞いたことのあるようなセリフだな。
「応援するしないという気持ちはあるにはあるが……どうなるかは本人の気持ちしだいだろ?
 まぁ、これを新田先生に伝えようとは思わないがな。二人がかわいそうだ」
 楽しそうに見て回っているし、ネギ君も楽しんでるように見える。宮崎も……どうなんだろう?
 慌てたり落ち込んだらしているんだが……

「士郎先生も良心あるのですね。見直したです。
 ですがよかったです。ハルナの被害者が出ることなく済んだのですから」
「被害者?」
「ふっふっふ……もしこのことを他の先生に伝えようものなら……士郎さんには私の同人誌の餌食になってもらうところだったよ」
 同人誌? まて、ドウジンシ? それはまさか……
 俺の過去の記憶を掘り起こして見ると……俺がまだ高校生の時だ……
 俺のクラスの後藤君が教室にその類の物を持ってきたことがあった。
 それを俺に見せてきたのだが、さすがに教室で見るわけにもいかない。
 結局はその本を藤ねぇに見つかって罰としてそれを持ってきたことをホームルームで暴露。哀れ後藤君は女子の皆さんに冷ややかな視線を浴びせられることになり、それは一週間続いた。

 内容は……いや、思い出すまい。
 俺が後藤君に見せられていたことが遠坂の耳に入り、俺は“ふ~ん、衛宮くんもそういうものに興味があるんだぁ。そうよね、男の子だもんね~。私よりそっちの方がいいのよね~”などと完全な濡れ衣であるにも関わらず冷ややかな視線を浴びせられたのだから……
 あの時の遠坂はとても怖かった……

「士郎先生? どうしたのですか? まるで思い出したくない過去を思い出して恐怖が増しているような表情をしていますが?」
「……なんでもない」
 まさに的確だったよ、綾瀬。あの体験をここでするとは限らないが、あの類に関するものに関わりたくない。
「まぁ、安心しなよ。
 このこと他の先生に言わなかったら載せないからさ」
 その言葉、信じてもいいんだな?


 ネギ君たちが柱の下に穴が開いてある所に来た時に念話が入った。
「“士郎先生、すいません……お嬢様の方へ向かってくれますか?”」
 何かあったのか?
「すまんが少し離れるぞ」
「あいよ~、ゆっくりしてきていいよ~」
「ハルナが暴走しないように見張っているので心配ないです」

 俺は札を頭につけ、集中する。
 なれないもので集中しないとあっちに俺の念話が届かないのだ。
「“どうしたんだ?”」
「“お嬢様から逃げてしまいました……”」
 ……まぁ、しょうがないか。すぐに話せるようになれという方が無理がある。
「“わかった。このかの方に向かう。
 ただ、もう少しがんばれよ?”」
「“はい……”」

 場所を聞いてその方向へ向かう。
 
 
 聞いた場所からすぐ近くでこのかはベンチで俯いて座っていた。



[2377] 魔法の世界での運命 27話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:b62fc669
Date: 2008/01/12 18:12
 〔このか START〕


 はぁ……せっちゃん何でウチから逃げるんやろ……やっぱり昨日のことはネギ君とたまたま一緒だったからなんやろか……
 一緒にお団子食べよ思て誘ったんやけど逃げられてしもうたし……ウチがせっちゃんに嫌われることしてそれのことまだ怒ってるんかなぁ……
 やっぱり昔みたいに仲良う遊ぶことできないんかなぁ……

「このえ、ここにいたのか」
「あ、士郎さん。どないしたん?」
 士郎さんがいつの間にかウチの近くまで来ていたんや、気がつかんかったなぁ。
「いや、このかが一人でここにいたからどうしたのかと思ってな。
 隣いいか?」
「あ、うん。ええよ」
「それと、ほら。これでも飲んでくれ」
 そう言うて士郎さんはお茶を渡してきた。でも、士郎さんはお茶を持ってない。
「これ士郎さんが飲むんやなかったん? 
 ウチがもらってもええの?」
「あぁ、いいんだ。気にしないで飲んでくれ」
 
 士郎さんは奈良はどうやとか自分は奈良に一度しか来たことないって言うてた。
 なんてことのない世間話をしてウチと士郎さんはしばらく一緒になったんやけど……どこかウチの中で士郎さんに聞いてみたいという気持ちが出てきよった。
 
 士郎さんは幼なじみに嫌われたとか、そのまんまのことは聞かんけど……それに近いことを話したいと思うてる。
 大人な士郎さんならそんなことを解決する答え持ってるかもしれん。
「なぁ、いきなりやけど士郎さんはずっと友達だった人といつの間にか距離があいてたことってある?」
「友達と距離があいてたこと?」
 士郎さんは考えるように腕を組んでウチの方に向いた。

「あるな。高校生の時に中学の時からの友達といつの間にか距離があいてた」
「士郎さんもあるんか。
 仲が悪なってたんか?」
 ちょっとそのことを聞いてみたなって話をしてみよ思うた
「俺はそんなことないと思ってた。
 そいつともたまに話すことはあったんだけどやっぱり疎遠になってたよ。
 それから少ししてそいつと大喧嘩したんだ」
「士郎さんが? 士郎さんケンカとか嫌いそうな感じするんやけど?」
 ウチは士郎さんが大学部の人のケンカを治めてるの見たことあるんやけど、その時の士郎さんは時々、悲しそうな眼をしとることがあったなぁ。
「ケンカは嫌いだよ。争うことが嫌いだ。
 でも、そいつとは絶対にケンカしなけければいけなくなってな……避けられなかったんだ」
 士郎さんは思い出したことを噛み締めるように遠い眼をしとった。
 ケンカしたないっていうのは本心なんや。

「それでどうなったん?」
「俺が勝ったんだけど……そいつとはしばらく話す機会がなかった。
 会う機会もなくて、しばらくしてやっと話す機会ができたんだ。俺はケンカしたことは忘れて話したかったんだけど、そいつはケンカしたことで俺に後ろめたい気持ちがあったんだ」
 ……似とる。ウチとせっちゃんに似とる。
 ウチはケンカした訳やなかったけど話せんようになってたんは似てる気がする。

「しばらくは避けられたよ。でも俺は話しかけ続けた。
 最後は俺のしつこさが勝ったよ。そいつも諦めて話してくれるようになったけど和解するときに謝ってきたよ。俺は気にしてないのにな。
 終わったことは戻らない。けど、俺は間違いを省みてこれからそんなことがないようにしてくれればそれでいいんだ。
 生きていれば直せるものはたくさんある。いなくなったりなくなったりしなければな……
 ちょっとじじくさかったかな? つまらない話してごめんな」
「そ、そんなことないよ? すごいタメになる話やったえ?」
 悲しそうに、そして懐かしむように士郎さんは話してくれた。 
 ちょっと難しいかったけど、わかったこともある。諦めたらダメなんや。ウチも諦めんでせっちゃんに話しかけよ。
「ありがとう、士郎さん」
「こんなつまらない話でよければいつでもどうぞ。
 それじゃあ、行くか。まだ他にも行く所あるんだろ?」
「うん、せっちゃん達のところ行こ、士郎さん」
 
 士郎さんに話してよかった。
 ウチも負けんようにせっちゃんに話しかけよ。

 ……ちょっと士郎さんからかってみよ。
 なんや士郎さん、さっきの話で少し暗なってもうたし。ウチが元気出させてあげないけないな。
 ウチは前を歩いてる士郎さんの腕に抱きついた。
「何をしてるんだ?」
「何かこうしてみたかったんや。ウチ、一人っ子やったから。
 ネギ君は弟やけど士郎さんはお兄ちゃんみたいや思うてな、どうやろ?」
「兄妹ね……見えなくもないかもしれないがどっちかというと血の繋がってない兄妹だな。まず、似てない」
「そんなこと気にしたらいかんえ~? 
 早う行こ、士郎さん。それと……元気出してな」
 そう言うたら士郎さんは驚いたみたいや。なんか意外な表情見られてウチも得した気分やなぁ。
「あぁ、ありがとう」

 ウチと士郎さんは少しだけやけど一緒に歩いてた。
 ハルナに見られたら厄介やもんな~。特に士郎さんが。


 〔アスナ START〕


 どうしようかな、この状況……
 本屋ちゃんがネギに告白して、そしたらネギが倒れて、倒れた所にパルに夕映ちゃんが来て、さらにそこにこのかと士郎さんが来て……これもしかしてヤバイ?

 集合時間まではまだ時間があるけど私達は旅館に戻ってネギを布団に寝かしておいた。
 それにしても知恵熱ってあったのね。まさか告白でネギの頭がヒートして38度も出るんだから。

 ネギはこのかと夕映ちゃんに任せておいた。大人数でいたらネギも心配かけたと思ってもっと悪化するかもしれないし。桜咲さんはネギの部屋の前でこのかの警護してるって言うし。
 
 私とパルは士郎さんがスーツを買いに行くということでそれについて行った。
 パルは完全に暇潰し、私も似たようなもんだけどね。
 
 旅館の近くにスーツを売ってるお店があったから士郎さんはそこに入って私達もそこに一緒に入っていた。

「いらっしゃいま……ご兄妹ですか?」
 店員の人が士郎さんに聞いている。でも、その気持ちもわからないでもない。似てないし、歳が離れてるように見えるんだろうしね。
「……いいえ、違います。
 俺は教師で彼女達は生徒。修学旅行で奈良に来たんですが自分がスーツをダメにしてしまって……
 それでここに買いに来たんですがそれに彼女達がついてきただけです」
「はぁ、そうなんですか……
 あ、どのような物をお望みでしょうか?」
 やっと店員が自分の仕事を思いだしたのかハッとした感じで動き出した。

 士郎さんが買ったのはダメにしてしまったのと同じ黒いスーツ。
 選んでいる時にパルの目を盗んで士郎さんにこのかについていなくていいのかと聞いてみたら“桜咲もついてるし、旅館には式神返しと敵意を持った人間に反応する結界を張ってある。それにいざとなれば念話がくる。近くだからすぐにいけるし、この時間帯は人が多いから大丈夫だ。桜咲にも行ってきて構わないと言われたからな”と言っていた。
 別に俺はスーツなんて要らないんだがな。と言っていたのは新田先生には内緒ね。

 士郎さんが買い物に付き合ってくれたお礼にとお店の前にあった和菓子屋でお団子をおごってもらった。ラッキー
 
 お団子を食べてたらこのかから携帯に電話があってネギが起きたという。
 でも、ロビーのところで放心状態で座っている状況らしい……これはかなり重症ね。さすがに10歳に告白は早かったのかしらね?

「あれ~? 士郎さんにアスナにパルじゃん。なにやってんの?」
「あ、なんだ柿崎たちか。
 別に士郎さんがスーツダメにしたって言うからそれについてきただけよ」
 本当にそれだけなんだけどね。
「へ~。
 そういえば士郎さんてその格好しか見たことないよね。他の格好してみたいとか思わないの?」
「そうだな、俺はそんなに格好にこだわらないというか興味が薄いな。
 そういうい意味では柿崎達が羨ましいな」
 確かに士郎さんがこの黒ワイシャツに黒いパンツ以外を着てるところ見たことないな~。似合ってるから良いと言えば良いんだけどね。

「なんて勿体無いことを! 素材は良いんだからオシャレしないと損だよ士郎さん!
 そんな時はチアリーダーの私達にお任せあれ!」
「いや、そんなことしなくてもいいんだが……迷惑だろ?」
「何をおっしゃる士郎さん! この桜子にド~ン大船に乗ったつもりで!」
 そう言ってチアリーダー三人組プラス鳴滝姉妹に連れて行かれた。
「あら~、士郎さんも大変だね~」
「……そうね。
 どうする? ついていく?」
「おもしろくなりそうだしついていくしかないしょ」
 そんな訳で私もついていくことになった。

 服屋に入ったらそれはもう大変だった。 
 いろいろな服を合わせられてああでもないこうでもないと士郎さんはなされるがままだった。
 私に助けてくれみたいな視線を向けてきたけど……ごめん、こうなったら私は止められないと視線で答えたら士郎さんは諦めたように渡された服を持って更衣室に入っていった。

 結局、柿崎達の納得のいくものがあまりなくてダメージの入った黒いジーンズを一本、黒と赤のジャケットで二着、それに合わせるシャツが四枚、黒のロングニット。
 合計、24550円。私からしてみればこれだけでも十分じゃないだろうか?
 だけど柿崎達は満足してないってどういうこと?
 士郎さんは……少し疲れていた。


 旅館に戻ると、ネギがロビーでまだ放心状態だった。
 カモが時々見てるけどそれにも気づかない。まだ本屋ちゃんからの告白が頭から離れないんだろうなぁ……
 いいんちょたちはそれを気にしてるように影から見てる。私がそれに話しかけたら何があったのか問い詰められそうだし、ネギには悪いけどここは離れよう。

 部屋に戻ろうとしたら桜咲さんに呼ばれた。
 ついてきてほしいって言われてついていった先は……士郎さんの部屋?
「何かあったの?」
「いえ、明日のことです。
 士郎先生が話しておきたいことがあるということでアスナさんも呼びました」
「ネギはいいの?」
 そういうことならネギも呼んだ方がいいと思うんだけど……
「士郎先生は“今はネギ君は大変だろうから余計な心配はかけたくない”とのことでしたので……やっぱり呼びましょうか?」
「うぅ~ん……いいんじゃない? 
 もし私達が必要だと思ったら後でネギに伝えればいいし、それに今ネギが大変なのは本当だし」
 桜咲さんもそれに頷いて私達は士郎さんの部屋に入った。

 
 士郎さんの話は明日のことだった。
 このかを西の人が狙ってくることはわかってるんだけどネギは新書を渡す役目があるからずっと一緒にいるわけにはいかない。
 私はネギと一緒に新書を届けに行くことを伝えた。
 士郎さんは学園長にこのかの護衛と京都でもし他の生徒が西の人に襲わる可能性がないとも言いきれないからそれの警護もしないといけないらしい。
 それは桜咲さんの式神を放ってもらうからいいがもしも新書を渡す私達が危険になったらすぐに駆けつけるという。
 ただ、場所が離れているから多少時間がかかることを説明してくれた。
 その時の士郎さんはとても申し訳なさそうに謝ってきた。

 でも、それはしょうがないんじゃないの? 士郎さんが二人いてそれぞれが私達とこのかにつけるわけじゃないんだし。
 それにいざという時に守ってくれるっていうんだからありがたいとは思っても役に立たないなんてことは思わない。
 桜咲さんも同じことを考えたのかそれを士郎さんに言ってる。
 それでも士郎さんはすまないと言って、また話を続ける。

 その途中に大声が聞こえた。
「な、何事!? で、でもこれっネギの声じゃない!?」
「そ、そうです、ネギ先生の声です!」
「しかも魔力も感じるな。
 嫌な予感がする、行ってみるぞ」

 声と士郎さんがいう魔力が感じる方に向かったらそこは……露天風呂?
「今は先生達が入浴する時間なんだが……」
 張り紙にもそう書いてあるわね……
「いったいどうしたというのですか!? あきらかにネギ先生の声でしたわよ!?」
 げ、いいんちょまで来た。
「俺が見てくるからここで待っててくれ」
 士郎さんが入っていくけど、それを、はいそうですかと聞く私のクラスじゃない。特にいいんちょはネギのことになったら本気で地の果てまで追いかけていくんじゃないの?
 ほら、やっぱりすぐに士郎さんの後ついて行った。

 私もついていって行ったけど……扉を開けた士郎さんがなんで固まってるの?
 いいんちょがその脇から中を見て、私もそれに続くと……
「朝倉さん!?」
 ネギと朝倉が同士で……あ、士郎さんが頭抱えて本気で悩んでるっぽい。


 いいんちょ達が朝倉を問い詰めている間に私と士郎先生はネギを露天風呂から連れ出した。
 あんた本当に何かしでかしたんじゃないの?



[2377] 魔法の世界での運命 28話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:b62fc669
Date: 2008/01/13 02:10
 〔士郎 START〕

 やはりというべきか……先ほどのネギ君の魔力は暴走したことによるものだった。
 原因は朝倉に魔法がバレたこと。
 ……ヤバイぞ、ネギ君。
「どうしましょう……朝倉さんにバレちゃいました……」
「あんたどうしてあのパパラッチ娘にバレちゃうようなことしたの?」
「しかたなかったんです……人助けとかネコ助けとか……」

 まぁ、いろいろな理由で朝倉にバレてしまったということらしい。
 うぅむ、これではネギ君は最悪、おこじょになるな。どうしたものか……俺は記憶を消すなんて魔術は当然使えない。
 
 ネギ君たちとこれからどうするか考えていると……朝倉とカモが一緒にやってきた。
「お~い、ネギ先生~」
 ……何か企んでそうな顔をしてるな……それにカモも同じ感じがする。

 朝倉はネギ君の秘密を守ると言ってネギ君が魔法を使った時に意図せず撮っていたものを返したが何か油断するなと俺の中で言っている。
「士郎さんもネギ君の関係者なの?」
「一応そうだ。
 だがな朝倉、生半可な気持ちでこの世界に踏み込むなよ。
 関わった者が平和に暮らせる保障はない。何かしらのリスクが返ってくることになるんだからな」
「りょ、了解……」
 俺は朝倉が関わることに反対だ。それだけじゃない。本当なら神楽坂であっても反対だ。
 だが、神楽坂はこの世界に関わることに覚悟を決めている。仮契約という形でだ。
 覚悟した者に考え直せと俺に言う資格はない。
 オヤジは俺が魔術の世界に入ることにずっと反対だった。それでも俺が頼み続けてやっと許しをもらえた。
 反対を押し切って入ったのだからもう後戻りはできない。覚悟するというのはそういうことなのだ。

「どうしたんですの、ネギ先生?」
「あ、皆さん、お疲れ様です。
 実は今、朝倉さんと仲良くなったとこなんですよ」
「そ~そ~」
 俺から逃げた朝倉がネギ君の近くで雪広を挑発するような顔でネギ君の頭を撫でている。
 でもネギ君。その言い方は誤解を招くから少し考えて話そうな。
「もう部屋に戻れ、そろそろ就寝時間だ」
 雪広がネギ君に何か言いたそうだったが、就寝時間だ。


 全員が部屋に戻って一安心……とはいかないようだ。
 子供であるネギ君を除いた俺や瀬流彦先生など、修学旅行の引率の先生で明日の予定や見回りなどの確認をしていると……叫び声や笑い声、ドタバタと騒がしい音が聞こえてきたのだ。
 新田先生は最初は我慢していた。“修学旅行なのだから浮かれてしかたありません”という立派なことを言っていたのだが、それも5分で撤回された。
 あまりのうるささに堪忍袋の緒が切れた。

「コラァ! 3-A!
 いいかげんにしなさい! 昨日は珍しく静かだと思ってれば!」
 新田先生、もう少し抑えないと血圧が上がりますよ?
 その後も少し説教をするつもりだったのだろうが、これ以上は身体に悪い。後は俺が引き受けることにした。
「新田先生、後は俺がやっておきます。先に先生方と打ち合わせしていてください」
「しかし……いえ、それでは任せます」
 そう言って瀬流彦先生たちと下の階に戻っていった。

「おぉ~、士郎さん私達かばってくれたんだね! ありがとう!
 よ~し! 今度はワイ談するよ~!」
「「「おぉ~」」」
 完全に勘違いしている。俺はかばったんじゃない、これ以上は新田先生の身体が心配なのだ。
「柿崎、勘違いしているようだから言っておこう。
 私は君達をかばったわけじゃない。決まりを守らないから叱りに来たんだ」
「えぇ~。士郎さんは私達の味方だと思ったのに~」
 柿崎や明石などは不満だと言って俺に抗議するが、雪広などは俺が仕事の口調になっていることを察しているのだろう。正座して何も言わない。
「味方も何もないだろう。決まりを守らない方が悪い。
 新田先生が言いたかったことを代弁すると……君達は朝まで班部屋から退出禁止、出ているのを見つけたらロビーで正座だ。
 無論、私も君達を見つけたら同じようにしよう。
 部屋で静かに話をする分にはまだいいだろう。だが、騒がしくしようものなら……わかっているな? 
 あぁ、一つ加えておくが私に期待しないことだ。もし、正座することになっても私は容赦はしない。朝まで正座ということに変わりもない。
 わかったら部屋に戻れ、解散」
 そう言って俺は階段を下りていった。

 この時、俺は見落としていた。あの中に朝倉がいないことを……


 〔和美 START〕


 うぅ~ん、やっぱり怒られたね~。
 予想通りと言えば予想通り。
 
 ここで私は隠れていた所から出てみんなの前に現れる。
「くっくっく……怒られてやんの……」
「あ、朝倉さん~!?
 ムキ~っ! 今までどこに行ってましたのひきょ~者~!」
「まぁまぁ、私からみんなに提案があるのよ。
 このまま夜が終わるのもったいないじゃない? 一丁、3-Aで派手にゲームして遊ばない?」
 ふっふっふ……まぁ、ただのゲームじゃないんだけど、どっちにしてもおいしい話なんだよね~。
 いいんちょは反対、鳴滝姉は賛成、妹は正座が怖いから反対。
 でも、この話聞いたら参加したくなるよ~? 特にいいんちょはね。
「ゲームってどんなゲームなの?」
 お、話がわかるね~椎名。
「聞いて驚け~。
 名付けて『くちびる争奪!! 修学旅行でネギ先生とラヴラヴキッス大作戦』!! ネギ君のマネージャーの了解もとってあるよ。
 あ、それとさっきのことでわかってると思うけど、士郎さんと新田先生に見つかったらそれでアウトだからね? 特に士郎さんに見つかったらどうなるかわからないからね。気をつけること」
 「「「「えぇ~? ネギ君とキス~!?」」」」
 コラコラ、大声出すなって。士郎さんに聞こえたら私まで正座させられるじゃん。つ~か私が言った注意事項聞いてた?

 みんなにルールを説明したら一気に目の色変わったね~。怖いくらいに。
 うんうん、ネギ君はかわいいし他のクラスにも人気あるしね。
「朝倉さん……」
 ん? やっぱりダメか、いいんちょ? いいんちょなら即効OK出すと思ったんだけどな~。
「やりましょう! クラス委員長として公認いたしますわ!」
「そりゃどうも」 
 怖ぇ~っていいんちょ。目が他の誰よりもマジだよ。


 開始時間と人数を教えてからみんなが部屋に戻っていった。
 誰もいなくなったらカモっちが私の懐から出てきた。いや、どこに隠れてんのさ。
「姉さん、士郎の旦那が会議してる間に旅館の周りに魔法陣描いてきたべ。
 これで兄貴が旅館のどこでチューしたら即パクティオー成立!」
「そして今回は班&個人の連勝複式トトカルチョも実施するよ!」
 これで私も食券長者!
 もう、笑いが止まらないね~!

 ネギ君にもしずな先生に変装して早く寝るようにって言っておいたし、これで大丈夫でしょ。


「なぁ、姉さん。士郎の旦那にも賞品対象になってもらわなくてもいいんかい?」
 カモっちが放送の用意してる時にそんなこと言ってきたんだけど。私的には無しなんだよねぇ。
「いやさ、士郎さんて確かにカッコいい方だけど私等と結構歳離れてるじゃん。
 みんなに好意的に接してもらってはいるけど恋愛対象にはならないでしょ? そこまで考えなかったとしても士郎さんにキスするってかなり恥ずかしいって。
 まだ子供なネギ君ならまだしも士郎さん大人だしね。まぁ、ネギ君のことを本気な眼で見てる人もいるけどね」
 いいんちょとか佐々木とかね。宮崎は言うまでもないけどね。
「そんなもんかねぇ? まぁ、儲かれば言うことなしだぜ。
 そしたら始めるか! 姉さん!」
「了解! 始めるよ~!」



『ネギ先生とラヴラヴキッス大作戦! いよいよスタート!
 実況は報道部、朝倉がお送りします!」


 〔NOSIDE START〕


 1班・史伽&風香 2班・楓&古菲 3班・いいんちょ&千雨
 4班・裕奈&まき絵 5班・のどか&夕映


『さぁ~、2班、3班、4班急速に接近中! 早くも大乱戦の予感だよ~!』

「どうなるんだろうね~! 私50枚も賭けちゃったよ~」
「うわ、桜子それ賭けすぎじゃない?
 それで誰に賭けたの?」
「うふふふ~、教えな~い」

(なぁ、いいんちょ。やっぱ私帰ったらダメ?)
(千雨さん! 往生際が悪いですわよ!
 私がネギ先生の穢れなき唇を護るのです!)
{私関係ないじゃん……やるなら一人でやってくれよ。HPの更新しなきゃいけないんだからよ~}

(ゆ~な、ゆ~な。ネギ君教師部屋にいるらしいけど士郎さんもそこの近くにいるんじゃない? 士郎さん本気で朝まで正座させそうだよ?)
(大丈夫だって。士郎さん優しいし、いくら何でも中学生の私達を眠らせないで正座させるとかないでしょ。
 やったら私明日の自由行動で絶叫マシーンに5回連続で乗ってあげるよ)
(それ何の罰ゲームになるの? ん?)

 3班、4班。戦闘開始。

(いいんちょ!?)
(まき絵さん!? 勝負ですわ!)
(あぁ~……、やってらんねぇなぁ。
 佐々木といいんちょ相打ちだし……明石もガキの遊びにムキになんなよ)
(あたたっ!?)
(はぁ……私はこれでもういいだろ? 後はいいんちょ一人でやってくれ)

(おぉ! エモノたくさん発見アル)

 2班参戦。

(おぉ、三人同時に攻撃するとはなかなかやるでござるな古。
 士郎殿は……今のところ動きはないでござるな。何故かはしらんでござるが屋根の上にいるようでござるな)

(付き合ってらんね~。じゃあな、いいんちょ。
 って!? 何だこれ……うおっ!?)
「コラ長谷川! 何やっとるか~!?」
「ぎゃぴいぃぃぃ!?」

 千雨、新田により捕獲。

(今の声は!?)
(やばい! 鬼の新田だ!)
(逃げますわよ皆さん!)

(お先~アル!)
(ぎゃふんっ!?)

「あっ! コラ明石! お前もか!」

 千雨、裕奈。新田により確保。3班・4班、戦力50%ダウン。

(まき絵さん、このままではネギ先生の唇があの体力バカの二人に奪われてしまいます。
 ここはひとつ……どうでしょう?)
(うん、そうだね! ここは休戦で……同盟といこうか、いいんちょ! その代わり早い者勝ちだから恨みっこなしだよ)
(望む所ですわ)

 3班・4班残存兵合体。

「ゆ、ゆえ~、どうしてこんなところ通るの~?
 これじゃあ部活みたいだよ~。ネギ先生と関係あるの~?」
「し~。黙って着いてくるです。
 私の見立てではこのルートが最も安全かつ速いのです。
 ネギ先生の部屋は端っこですのでどうやっても新田先生や敵に当たってしまうです。それに士郎先生が朝倉さんの情報では部屋にいないということです。旅館に仕掛けられたカメラに映らないのですから用心に越したことはないのです」
「誰からの情報なの?」
「ハルナに決まっているですよ。
 部屋に残った人に情報を貰ってはいけないとは言ってなかったですから」

(のどか、今なら誰もいません。チャンスです。
 そこの304がネギ先生の部屋です。さぁ、のどか今のうちに)
(うん、ありがとう~)

(今なら誰もいない……チャンスだよ)
(あうぅぅ……こわいです~)

((ん?))
(あ! 5班!?)
(ふ~ちゃん、ふみちゃん!?)
(まさかこの二人がここまで来てるとは予想外です……ですが)

(鳴滝忍法、分身の術!
 甲賀しゅり……もげ!?)
(風香さん、史伽さん。私が相手です)
(おのれゆえ吉ちょこざいな!
 我ら甲賀忍群に敵うと思うてかでござる)
(……口上が長いです)


(あわわわ……ゆえが枕の上から本で……い、いいのかなぁ?)
(なにをしてるですか! ここは私が食い止めるですから、のどかは早くその扉から中へ……)
(う、うん! ありがとうゆえ!)

(おぉ、見つけたアルよ~)
(くっ……古菲さんと楓さんが……ですがここは通さないです!)

 2班、乱入。


「ネ、ネギ先生、すいません、こんな形で……で、でも私嬉しいです……
 先生……キ、キス させてください……」
(あれ? 前にもこんなことがあったような……?)

「どうしますか? この人はチューしたいみたいですけど」
「ですが、この人はここに留めて置かなければいけないと新たに命令されています」
「はい、ではチューさせるところはあそこで、そこに着くまではさせないということでいいのでは?」
「それでいきましょう」

「え?」 
 ネ、ネギ先生がいっぱい……目の前のは…ネギ先生。となりもネギ先生、後ろもネギ先生……え?
「ひゃあぁぁぁああぁっ!?」

(のどか!?)
(本屋! どうしたアル!?)
(なっ!? のどか~!?)

(ネギ君は窓から逃げただね! 史伽! 追うよ!)
(あ、待ってです~)
(私達も追うアル! かえで~!)
(あいあい)


「おぉ! 急展開だね~。これは盛り上がるよ~!」
「姉さん、朝倉の姉さん」
「ん? 何よ」
「何か……俺っちの目の錯覚かなぁ……
 ネギの兄貴が五人いるように見えるんだけど……」
「なっ……!?
 何これどういうこと~? 分身の術は存在した!? これは大スクープだわ!」
「そんなことより本物の兄貴はどれなんだよ~!」


(ネ、ネギ先生~、いらっしゃいませんか~?
 むむむ……304から逃げたとは聞きましたけど。ネギ先生はいったいどこへ……)
「いんちょさん……」
「!」

(ネギく~ん出ておいで~。
 う~んネギ君アメよかチョコの方が好きかなぁ? あ、このアメおいしい)
「まき絵さん……」
「!」

「……くーふぇさん」

「……史伽ちゃん」


「ネギ先生は必ずここに連れて来るですから、ここで休んでいるですよ。
 ……まずはお手洗いに……!? ネギ先生!?」
「あ、どうも夕映さん」
「ちょうど良かったです。先生、実はあの……」
「のどかさんは寝てるんですね。
 それは僕もちょうど良かった。
 あの……言いにくいことなんですが……いろいろと考えて僕……
 僕夕映さんのことが……キスしてもいいですか? 夕映さん……」
「!?」

「キ、キキ、キキキ、キス……ですか? 私と……」
「はい……」

「チューしていいですか?」
「え?」

「その……お願いがあって……その……キスを……」
「へ?」

「今から史伽ちゃんの唇をいただきます」
「「な”っ!?」」


「何これ~、マジでどうなってるのこれ~!?
 アンタ妖精なんだからなんとかしてよ~!?」
「妖精の俺っちだってできることとできないことがあるんだよ~!?」



「夕映さんキス……していいですか?」
「み、見損なったです! ネギ先生! のどかの告白されておいてすぐに私に迫るだなんて、それはないでしょう!?」
「それでも……夕映さんとキスしたいんです……ここで」
 そ、そんなのできるわけないです……!?
 いえ、これはネギ先生であるはずがありません! のどかに告白されておいてすぐに私に乗り換えるようなことを10歳のネギ先生がするはずがありません! これは朝倉さんの陰謀です! そうに決まっているです! でなければこんなネギ先生が……それにのどかに申し訳ないです……なっ!?
 テレビの中にネギ先生が4、5人!? ということは……!
「離れるです! アナタはいったい……な”っ!?」
 う、腕が伸びた!? 最近の子供はそんなことが……できるはずないではありませんか! そんなの人間ですらありません!

「う……うぅ…あれ? 私ネギ先生を……きゃあぁぁぁっ!?」
「ちゅ~―――もっ!」
「あわわわ……ゆ、ゆえ、ネギ先生を撲殺……!」
「落ち着きなさいのどか。
 このネギ先生はニセモノです。乙女の恋心を弄んだ者の末路はこんなものです」
「任務失敗、ネギでした」

「ケホケホ。ほら、見るです。やはろニセモノだったではありませんか。
 しかし……この紙型はオカルトの本で見たことがあるような……
 そうです! ここにいたのがニセモノということは他の所に本物のネギ先生がいるはずです! 探すですよ! のどか!」
「あ、待ってよ、ゆえ~」

「いいんちょさん」「まき絵さん」「くーふぇさん」「史伽ちゃん」
「はい……!」  「なに……!?」「アイヤ~」 「あぶぶぶぶ……」

    「「「「ここではしません」」」」
     「「「「え?」」」」


(あぁ! ネギ先生が……どこへいくのですか!? いえ、ご安心ください。私はどこまでもネギ先生について行くつもりです!!)

(ネギく~ん! 待って~!)

(待つヨロシ!)

(何で史伽なんだよ~!)
(お姉ちゃんが乱暴だからです~!)


(あぁ~足が痺れて感覚無くなってる自分がおもしろくなってきたよ千雨ちゃん)
(おいおい、そっちに楽園はないからさっさと戻って来い。私だって痺れて感覚無いんだから我慢しろよ)
(そんなことは言ってもね~。
 誰かネギ君にキスしたかな~?)
(知るか! 
 ……ん? 誰かこっちに来て……っておい! なんであのガキが4人もいるんだよ!?)
(おぉ~! さっすが朝倉! 影武者用意してるなんてやるじゃん!)
(それで解決なのかよ!? どう見ても本人じゃねぇか! 似すぎにも程があるだろ!?)
(だから影武者じゃないの?
 あ、4人のネギ君が奥の方に……あ”っ……新田やっちゃったよ……)
(うおぉ……私関係ないからな、新田)
(それに続いていいんちょにまき絵に1班に2班が追いかけて行ったよ~。盛り上がってるね~。
 お、遅れて5班も来たよ。こりゃ、いいんちょが一番かなぁ?)
(だから私に聞くなっつの)


 〔あやか START〕


 ネギ先生は非常口の方へ走っていきましたわね……ホ~ホッホッホ! 待っていてくださいネギ先生! 必ずやこの雪広あやか、4人のネギ先生から本物を見事当ててみせますわ~!

 さぁ、追い詰めましたわよ……

「待った~! いいんちょ! ネギ君のキスは私がもらうんだからね~!」
「待つヨロシ! ネギ坊主にキスするのは私アル!」
「史伽待て~!まだ納得してないぞ!」
「しつこいですお姉ちゃん! そんなだからネギ先生に選ばれないんです!」
 ちっ! 早くネギ先生にキスを……! 
 あら? 何故、非常口の扉が開いているにかしら……?

「残念だがここが終点だ。君達は自ら罰を受けにここに足を踏み入れた」
 !!?? し、士郎先生!? 扉から虎柄竹刀を構えたその姿は士郎先生ですね!?
「「「「任務完了、さよならみなさん」」」」

「アイヤ~、逃げるアルよ!」
「同感でござる」
 あぁ! お待ちなさい! 私を置いて逃げるなんて……!
「逃げたらさらに重く」
 その言葉にお二人の動きは石造になったように止まりました。
「な、何が重くなるアルか?」
「朝になるまで逃げるのはダメでござるか?」
「あまりお勧めはしない。
 私は逃げた者を地の果てまで追いかけよう。……それと長瀬……清水で前科があるな? それで逃げた場合はどうなることか……」
 こ、怖いですわ、士郎先生…。風香さん、史伽さんはその場に座り込んでただただ謝って…… 
 あぁ……申し訳ありませんネギ先生……
 私は志半ばで倒れます……お許しください……

「さて、哀れな君達に罰の軽減のチャンスをあげよう」
「な、何でもするでござるよ」
「そうアル! 何でもするアルから……許してほしいね!」
「そうか、それだったら……この騒動の主犯を吐け。それで少し軽くしてやろう。
 あぁ、みんなで一緒に行っても構わん」

 あぁ……その言葉に私は手を伸ばしてしまいそうです……いけません! 友人を売るなど私にはできませんわ! 
「いいんちょ、どうしよう……いったら少しは楽になるんじゃないかな……?」
「ですが……それではあまりにも……」
 やはりできません! 私にはやはりできないのです!

「では罰について話そうか……」
 聞いてはいけません! 古菲さんも楓さんもまき絵さんも風香さんも史伽さんも、その言葉を聞いてはいけません!
 そうです! その絶対に言わない姿勢はすばらしいですまき絵さん!

「……朝まで正座で……」
 それくらい我慢しますわ! 友人を売ることは絶対に……!
「膝の上に仏像を置け……」
「「「「「「朝倉和美です」」」」」」

 ごめんなさい……朝倉さん……私は負けてしまいました……



[2377] 魔法の世界での運命 29話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:f8d81ab0
Date: 2008/01/16 02:43
 〔千雨 START〕


 はぁ……いったいどうなってんだよ。
 あのニセガキ四人につられていいんちょ達がどっかに行っちゃったけどその後すぐに本物っぽいガキが来たじゃねぇか。

 宮崎となんか話してるみたいだが……全く聞こえん。
「ねぇねぇ、千雨ちゃん」
「何だ」
「ネギ君とか本屋ちゃんとか私達に気がついてないよね」
「そうだな」
「……ワザとなのかな? それだったらちょっとショックなんだけど」
「ただアウト・オブ・眼中なんじゃねぇか? 今は二人の世界とかな。
 話が終わったみたいだな。何か宮崎喜んでるが……あ!?」
「おぉ!」
 あのガキと宮崎がキ、キキ、キスした!? 何故!? ありえん!?
 相手はガキだぞ!? それでいいのか宮崎!?

「そうですか……ネギ先生も一緒に生徒と遊んでいたんですね……」
「あれ? 新田先生? ど、どうしたんですか? 
 それに僕が皆さんと遊んでるって……僕は見回りに行って今帰ってきたところなんですけど……」
 あぁ~……新田が起きたよ。ガキのニセモノに気絶させられたところは覚えていないみたいだが……運がなかったな。
「ネギ先生も正座です! それに綾瀬も宮崎も……!」
 すげぇ怒ってるよ。まぁ、あのクソ真面目な新田だし仕方ねぇか。
 お、いいんちょ達が戻ってきたが……何だあの落ち込みようは。
「お前達もか! それに雪広まで一緒になって遊んでいるとはどういうことだ!
 それに何故非常口の方から来た!」
「それは……士郎先生に捕まりまして……それでここで正座しろと……」
「では士郎先生はどこに行ったんだ?」
「……主犯を捕まえに行きました……・」
 おい、いいんちょ。どうしてそんな悲しそうな目をしている? それにいいんちょだけじゃなくて後ろの奴らも何でそんなに暗いんだよ。
 鳴滝姉妹なんて震えながら長瀬にしがみついてるし。

 士郎先生よ、いったいアンタこいつらに何したんだ?


 〔和美 START〕


「よぉっしゃ~!
 宮崎のどか仮契約カードゲットだぜ~!」
「いいんちょ達は失敗したみたいだね、契約のカードが結局出てこなかったし」
「それは仕方ないがちゃんとしたの一つできただけでも良しとしようや」
「よっしゃ! ずらかるよカモっち! 
 早くしないと新田が来ちゃうかもしれないしね―――痛っ、もうなんだ……よ……」

 扉を開けた私の前には……虎がいた。それもかなりご立腹。

「姉さん達者で!」
「置いてかないでよカモっち!」
 窓から逃げようと私から離れていくカモっち。でも、それを許すほど今の虎は優しくなかった。
 逃げるカモっちにどこからともなく現れた包丁がカモっちの周りを囲むように降り注いだ。
「カモ、お前は逃げること許さん。
 朝倉、君には言っておいたはずだな。生半可な気持ちで魔法の世界に踏み込むなと……それがどういうことだ? 弁解があるなら聞こう」
 いや、士郎さん。そんなくだらんこと言ったらどうなるかわかってるか的な目で見られたら正直に言って謝るしかないじゃん。
 でも、本当のこと言ったらマジで私この世界に帰って来れないような気がするのは気のせいですか?
「旦那! 俺達は兄貴のこと思ってこの作戦を実行したんだぜ!?
 まだ子供の兄貴がもしもの時のために俺達は戦力を確保しようとひぃぃぃッ!?」
 声はすれども姿は見えず。
 でも、悲鳴から察するに包丁がまた振ってきたんだろうな~。ってこんな人事のように考えてる場合じゃないよ。もしかしたら私があんな目にあうかもしれないんだから。士郎さん、そんなことしないよね?

「まぁ、いいだろう。このゲームの主犯がお前たちということは判明している。雪広達が教えてくれた。
 それではついて来い……お仕置きだ」
 
 さようならこの世界……私は今、旅立ちます……


 〔刹那 START〕


「士郎先生、朝倉さん達は大丈夫でしょうか……?」
 三日目の朝、私と神楽坂さんは士郎先生と一緒に大広間に向かっていた。
 私が聞いているのは昨夜の大騒動の原因となった朝倉さんとカモさん。それに士郎先生に捕まってしまい、一緒に正座することになったいいんちょさん方だ。
 士郎先生の話では朝倉さん、カモさん、楓を除く人達は説教と二時間の正座の後に解放したらしいのですが……楓は前科があるということで正座し、さらにその膝の上には高さ30cm、重さ約1キロの仏像を置いていた。それで三時間、耐えなければいけなかった。
 主犯である朝倉さんを売ったことによりこの程度で済んだらしいのだが……後の二人はかわいそうだった。
 朝倉さんは日が昇るまで正座、膝の上に楓と同じ仏像を置いて……
 カモさんは……あれは拷問といっても過言ではないのだろうか。
 足の下にはギザギザの石、人間で言う膝に当たる部分には重りの石……
 それをさすがにいいんちょさん達には見せられないので士郎先生の部屋で行われた。
 そこまでしたのは“一般人に魔法を暴露しかねない行為、及び危険にさらしかねない。あまりに軽はずみな行動だ”とのことだ。
 それには私も同意できる。下手をすればネギ先生が修行できないことになってしまうかもしれないのだ。
 加えて最初に言っていたことと違い、利益のためにあのゲームを行ったというのだから士郎先生が怒っても仕方のないことかもしれない。
 私もお嬢様に危険になることをしたのであれば夕凪を抜いていたかもしれない。

「大丈夫だろう。カモはしばらく満足に動けないだろうが朝倉は少し明るくなってから部屋に帰した。
 ネギ君は悪気があってやった訳ではないから一時間正座して帰した。しかし、最低限は正座しないと新田先生が納得しなかったからな」
 ネギ先生は士郎先生の弁護で一時間で済んだのだ。
 しかし、その新田先生も朝倉さんのことを弁護した。士郎先生の罰を少しやりすぎではないかと言い、最低限の睡眠をとることで合意した。


 朝食の時間にいいんちょさん達が来た時は士郎先生を見てビクッとしていたが、士郎先生が昨夜のことを気にしていないかのようにおはようと言うと安堵したようだった。


 賞品として出すはずだった仮契約のカードは士郎先生も仕方ないということで宮崎さんに渡した。
 しかし、士郎先生と神楽坂さんはカモさんの行動をことを朝食後に集って注意していた。
「まったくエロガモは……朝倉ももうこんなことしないでよね! 士郎さんの言う通り本屋ちゃんは一般人なんだから。 
 カードの複製は渡したのは仕方ないけどマスターカードは使っちゃダメだからね」
「魔法使いということもバラさないほうがいいでしょうね」
「えぇ~……あ、わかりました。わかりましたから許してください士郎先生」
 ……朝倉さん……トラウマのように恐怖が残っているのですね……

 ネギ先生の頭の上にはぐったりとしたカモさんが乗っているのだが……カードのことについてはまだ言いたいことがあるらしい。
「で、でもよ……あのカード…は強力そうなんだが……もったいない……
 それに旦那……旦那もパートナー…を作った方が……いい…ぜ……」
 そういって力尽きた。

 しかし、士郎先生はそれを拒否した。
「でも、士郎さん。パートナーがいた方がこの先、安心できるんじゃないですか?
 僕もアスナさんに助けられましたし、心強いですし」
 ネギ先生の言うことに私は賛成です。私も龍宮と一緒に仕事をして助けられたこともある。
 しかし、士郎先生は仕事の仲間という意味ではなく、仮契約のような契約をするパートナーという意味で拒否した。
「ど……どうしてなんだ……旦那……」
 少し回復したらしいカモさんが聞いてみると……

「この先、俺がパートナーとして契約するのは……一人だけだ」

 その言葉だけでこの話は終わった。ここにいる誰もがそれ以上は何も言わなかった。
 士郎先生にはたった一人だけ契約すると決めた人がいるのだとわかった。


 士郎先生は今日の完全自由行動はお嬢様から少し離れたところで見ていることを伝え、私は連絡のための念話の札を渡し、士郎先生はその場を去っていった。
「じゃあ、皆さん。今日は楽しんでください」
 ネギ先生もこの場を去り、少々顔色の悪い朝倉さんも行ってしまった。
「じゃあ、桜咲さん。私とネギは西の長さんって人に一緒に新書を渡しに行くからこのかのことよろしくね。士郎さんには言えなかったけど頼りにしてるからね」
「はい、わかりました。新書の方はお任せします」

 私はお嬢様達がいる部屋に向かった。


 〔士郎 START〕


 俺は昨日、椎名や柿崎達に選んでもらった服を着て旅館から出た。
 スーツでもいいかと考えたのだが、何をするでもないのにスーツでその場に留まっているのは逆に目立つのでは? と神楽坂に言われて私服に決定した。
 今は服を選んでくれた椎名や柿崎達に感謝だ。特にロングニットというものはありがたい。俺の目立ってしまう白髪を隠してくれる。
 俺はセンスというものが欠けているとは遠坂談だが、俺もそう思う。
 変な格好するよりは格段にマシだろう。よし、椎名や柿崎達にお礼を買って渡そう。

 このか達が旅館から出てくると……どういう訳か神楽坂が一緒に出てきた。
 神楽坂はネギ君と西の長に新書を渡す為に班とは別行動のはずだ。それが一緒に出てくるとは……

「“桜咲、何故そこに神楽坂がいるんだ?”」
「“はい……その場に私はいなかったのですが……おそらく、早乙女さんに見つかってしまったものと……”」
 早乙女に見つかってしまったのは仕方ないだろう。早乙女の勘の良さはすごいものがある。
「“わかった。何かあれば念話で頼む”」
「“はい、お願いします”」

 
 5班はここの名所を見るという計画ががあるわけでもなく、ただ京都を楽しむつもりだということだ。
 
 それはいい。それぞれ決めたことに俺が口を出す権利はない。
 ただ……それでもいきなりゲームセンターというのはどうだろう? 確かに人目について西の者もなかなか手を出せないとは思うが……
 いや、俺が言うことはないだろう。

 
 それにしてもやはり京都と言うべきか、修学旅行に来ているのだろう学生がよく目につく。
 そして日本人観光客よりも熱心に周りを見て写真を撮っているのが外国人観光客だ。
 この世界でも日本の京都は人気なのだろう。ネギ君達がゲームセンタに入ってから何人もの外国人が俺の前を通り過ぎていく。
 すると俺の後ろに誰かが立つ気配がして振り返ってみると外国人観光客が三人、何か尋ねたいような様子だった。
 俺が日本人に見えたのか慣れない覚えたての日本語で話しかけてくる。
「ス、スミマセン。ワ、私達ハ……キ、キヨ……」
 上手く発音できずに悪戦苦闘している。ここは英語で俺から話しかけたほうがいいだろう。
『大丈夫ですよ。俺は英語を話せます』
 そう言うととても安堵した表情で話しかけてくる。

『よかった、他の人にも話しかけたんですが英語が話せないと言われてここで迷ってたんです。あなたが英語を話せてよかった。
 道を教えてもらいたいのですがいいですか?』
『えぇ、俺がわかる範囲であればお教えします』
 この人が行きたい場所は清水寺だった。ここなら昨日行った場所だから俺も道を覚えている。
 だが、この場所からは少々離れている。これでは道を口頭で伝えてもまた迷ってしまうかもしれない。
『ここから離れているのですがバスなどの公共機関は使えますか?』
『いえ、昨日は観光バスに乗って大勢で移動していたので……バスや電車はちょっと不安なのですが……』
 確かにこの人達は地図を持っていたのだがローマ字表記だった。それを感じと照らし合わせることがおそらくできないだろう。
 時間があれば案内するのだが……今は申し訳ないができない。
 ……どうするか……そうだ。
『何か書くものを持っていますか? それとどこに行きたいんですか?』
『書くもの? ありますけど……あ、目的地はここと、ここと……』
『わかりました。ちょっと待っててください』
 行きたい場所はわかった。それを……こうして……できた。
『これでどうでしょう? 目的地までつけるようにを漢字とローマ字で書いておきました。これで照らし合わせて電車などで行けると思いますよ。
 もしタクシーを使うのであればこれを見せて目的地を指させばそこまで行けますよ』
『あぁ! ありがとうございます!
 ここであなたに会えてよかった、本当にありがとうございます』
『いえ、あなたの助けになれて俺としてもよかった。
 気をつけて京都を観光してください』

 三人は俺の方に軽く礼をして目的地に向かっていった。
 
 彼等と話しているときに視界にネギ君達が走っていくのが見えた。
 なんとか早乙女達の目を盗むことができたようだな。

『すいません、少し聞きたいことがあるんですけどいいですか?』
「はい?」
 俺はまた外国人観光客に尋ねられた。
 少し話しをすると先ほど、俺が観光客に英語で道を教えている所を見ていたらしく、終わった所に聞きに来たのだという。
 それはいいんだが……後ろに10人程いるのはどういことだろうか?

 俺がまだ道を教えていると桜咲から念話で語りかけてきた。なんとか頭に札をあてなくても念話ができるようになったのでが手で触れなければいけない。
 ポケットに手を入れ、念話に答える
「“士郎先生、ネギ先生が本山へ向かいました”」
「“あぁ、確認している。そっちはどうだ?”」
「“こちらに問題ありません。しいて言うなら……早乙女さんが士郎先生の方へ向かっているぐらいですね”」
「“……なんだって?”」
「“すいません……士郎先生の周りに外国人の方が集っているので目立っているのを早乙女さんが見つけてしまって、何故そこに集っているのか確認しようと近づいてます”」
 ……俺は逃げられない。俺の目の前には外国人観光客が道を尋ねてきているのだから。先ほどよりは人数は減ったのだがそれでもこの人数は目立つだろう。それも全員が外国人なら無理もない。


 俺が全員に道を教え終わると同時に早乙女が俺の前に出てきた。それも満面の笑みで。正直怖い。
「やっほ~、士郎さん。元気してた?」
「……偶然だな、早乙女。それにみんなも」
 本当は俺が全員に教え終わるまでずっと見てたんだろうがな。まぁ、俺も似たようなものだから人の事は言えないか。
「いやぁ~、士郎さんは教師の鑑だね~。
 もう時間だからとか言わないでめんどくさそうな顔もしないで教えるその姿に私はもう賞状をあげたいね!」
「それはありがとう。
 それで早乙女たちはどうしたんだ? どこかもう見たのか?」
 本当は何をしていたのかを知っているのだからどう話したものか……
「ん? 私達? そこのゲーセンでゲームしてたよ」
「もっと名所を回るとか考えないのか?」
「せっかくの修学旅行なんだから楽しまないと損でしょ?
 それにどこを見るかなんて決められたレールを歩きたくはないんだよ! わかる!? この自分だけの階段を上っていく感じが!」
「まったくわからん。
 まぁ、俺が言うことでもないからな。楽しんでくれとしか言うことはないさ」
「ふ~ん、まぁいいや。
 士郎さんこれから用事ある? ないんだったら一緒に回らない? 」

 ネギ君が自由に行動しているから俺もということなんだろうか。
 他の先生は生徒と比べると自由行動時間はほとんどない。生徒の自由行動時間は9時から19時まで。先生は長くて2時間。新田先生は1時間もない。
 俺はこのかを守るという仕事もあるが、もしも他の生徒が京都で何か問題に巻き込まれたりした場合は俺が行かなくてはならないかもしれないのだ。
 他の先生も京都で見回りなどをしているが、もし俺の近くで問題などが起これば近い俺が行かなくてはならない。
 ネギ君は子供、加えて日本に来るのが初めて。それなら楽しまないと今回のような機会は滅多にない。
 俺を含めた先生方でネギ君の仕事を引き受けてようやく自由行動にしてあげることができた。
 このことをネギ君は知らない。知らせることもないだろうと考えて先生全員が伝えることはなかった。気にすることもなく修学旅行を楽しんでほしいという気持ちが共通の意思だったからだ。

「すまない、俺はまだ見回りしないといけないんでな」
「な~んだ。士郎さん一緒だったらおもしろそうなことになりそうな予感がしたんだけどな~。
 それにしても士郎さん気がついてた? さっきから士郎さんに向けられるラヴな視線に……」
「なんだそれは。酷いかもしれないがいろいろ大丈夫か? 早乙女」
 何か危ない気配をかもし出してるな……
「それはな~士郎さん。
 今の士郎さんがカッコええからやえ~」
 そうなのか? 俺はそういう物に興味をもたないからよくわからない。
「そうだね~、士郎さん背が高いし桜子や柿崎が選んだものなんだから変になるはずはないんだけどね。
 それプラスどこからともなく危険な香りがさらに気を引くんかねぇ~」
 ? 本当によくわからんな。

 早乙女達と話をしていると桜咲から念話が入る。
「“士郎先生、そのまま聞いてください。
 ネギ先生が本山前の鳥居に入ったところ、罠にかかってしまいました。今のところは襲撃などはありませんが油断できない状況です。
 向かってもらいたいのですがよろしいですか?”」
 答えるまでもない。
 俺は新田先生に連絡用に新田先生の携帯を貸してもらっている。
 それを取り出してメールがきたように振舞う。
「早乙女、仕事が入った。
 すまないが私はここまでだ。気をつけて京都を散策するといい」
「あいさ~、またね士郎さん」
「またな~士郎さん。士郎さんにお土産買うておくから仕事がんばってな~」
「あぁ、ありがとう。このか」
 俺は不自然にならないように歩いていく。
「“このか達を頼んだぞ桜咲”」
「“はい、お任せください。お気をつけて”」
 

 俺は人気がないところまで歩き、人目についていないこと確認して一気に駆け出した。



[2377] 魔法の世界での運命 30話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:f8d81ab0
Date: 2008/01/17 11:35
 〔ネギ START〕


 僕達は西の長さんがいる本山に来たんだけど、西の人の罠に掛かっちゃった。
 鳥居に入ったら結界の基点を壊すか相手が解除するまで出られない無間方処というものらしい。
 
 休憩所みたいなところで休んでいたら……僕がゲームセンターであった男の子が襲ってきた。
 でも、いきなり出てきたのに僕よりアスナさんがすごいって言ってきて、それに西洋魔術師がキライとか好き勝手言って……僕だって怒る時は怒るんだぞ。

 でも、あいつは強かった。エヴァンジェリンさんとは違う強さだ。
 速いし、力も強いし……でもあいつに僕は負けるわけにいかなくなった。
 あいつは僕の父さんのことをバカにした。僕にとって父さんは強くて誰にも負けないヒーローなんだ。それを知りもしないのに大したことないなんて絶対に言わせない……!

 僕の……西洋魔術師の力を見せてやる!
      ・
      ・
      ・

「契約執行0・5秒間。ネギ・スプリングフィールド」
 僕は賭けに出てあいつの攻撃が大振りになったところを狙って、自分に魔力を貸して反撃した。
 賭けは成功、魔力パンチは大きなダメージを与えることができて。
 魔力パンチで大きく体勢を崩したのを狙って攻撃する。
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル。
 闇夜切り裂く一条の光、我が手に宿りて、敵を喰らえ。白き雷!!」
 0距離で白き雷を当てて、これならさすがに動けないだろう。

「どうだ! これが西洋魔術師の力だ」
 僕もこれ以上ないような手応えを感じたし、これで終わりだと思っていた。
「ま……待てぇっ!
 た……ただの人間にここまでやられたのは初めてや……さっきのは…取り消すで……ネギ・スプリングフィールド……
 だが……まだや……まだ終わらへんで! こっからが本番や、ネギ!」
 ウソでしょ……!? 変身した!? それにすごい力……でも、それでも僕は負けないぞ!

 でも、あいつは僕の捕らえられない速さで視界から消えた。
 どっち!? 右!? どっちから……!?
「左です先生~!!」
 !? 僕は叫ばれた通り、左から来るかもしれない攻撃を避ける。 
 すると、本当に左から攻撃が来た! 何で!? いや、それより今の声は聞き覚えが……声がした方向へ振り向くと……
「のどかさん!? どうしてここに……」
「え~とあ、それはその~……あっ! 右です先生! 上! 右うしろ回し蹴りだそうです~っ!」
 僕はのどかさんの言う通りに動き、そして避けることが出来ている。これは偶然じゃない。
 もしかしてこれは……!? しまった!?
「やってしもうたな! ネギ! 動きが読まれるんはどういう理屈か知らんけどなぁ、知ってても避けられへんかったら意味がないんや!!」
 決定的な隙を狙って攻撃が迫って……防御が間に合わな……

 ガキィッ!

 僕は攻撃が当たると思って目を瞑ったら……僕に攻撃は当たらなくて、目を開けてみるとそこには士郎さんが白と黒の剣で攻撃を防いでいた。


 〔小太郎 START〕


 俺の攻撃がネギに当たる思うたのに知らん兄ちゃんがいきなり割り込んできよって防がれてしもうた。
 なんやこいつ―――ぐぁっ!

 腹に思い切り蹴り喰らって間合いあけられてしもうた。
 
 こいつ……ただ者と違う。気配がネギや姉ちゃん達とまるっきり違う。
「あんた何者や」
「それを知ってどうする。今は関係ないだろう。
 神楽坂、ネギ君達を連れてここから脱出しろ」
「で、でもどうやってここから出るかは……」
「あ! 私わかるかもしれません!
 小太郎くん、ここから出るにはどうすればいいんですか?」
 そんなもん誰が教えるかい。教えたら俺が千草の姉ちゃんに怒られるやん。ここから東へ6番目の鳥居の上と左右の3箇所の隠された印を壊せばええなんて言えへんて

 あれ? でも、さっきあの姉ちゃん俺の攻撃の方向読んで……これマズないか?
「わかりました。
 ここから東へ6番目の鳥居に隠された上と左右に隠された印を壊せばいいそうです~」
「ふぉぉぉぉ!!」
「すごい!! 本屋ちゃん!」
「な、何ぃぃぃぃ。させるかい!」
「行かせないさ」
 ちぃぃっ! こいつ邪魔や!

 それに獣化した俺の攻撃を防げたんはまぐれや! でないとありえへん!
「ネギ君、早く行け。ここは俺が止めておく」
「でも、それだったら士郎さんが……」
「問題ない。これが結界の一種だということはわかっている。それなら俺にも出られる。
 小さい桜咲、この結界をまた作ることができたら俺ごと閉じろ」
「……わかりました。行きます! ネギ先生!」
「あ、ちびせつなさん……
 士郎さん、絶対に無事に追いついてきてくださいね!」

 そんなことさせるかい!
 
 俺の最大の速度でこいつの死角に回りこんだる! 一発でこいつ倒してすぐにネギに追いついたる!
 それにこいつ、戦いの場でチャラチャラした格好で来よって……なめとんのか!

 よし! 一気に側面に入ったで! これなら……何!?
 何でこいつ俺の方見てるんや!? こんら奴が俺の動き見切れるはずない! まぐれや、まぐれや!
 今度は背後に……!

 これならどうや! これなら視界に入るはずな……これも見えとんのか!? ありえへん、俺が見切られるなんて……!
まぐれで見つかるたびに動き止めてたららちがあかん。俺の獣化できる限界も近い……
 このまま攻撃してあいつの目から逃れたところで決めたる!
 見えたところで攻撃に反応できないんやったら意味ない!

 だが、こいつは俺の速さについてきよった。
 パンチは上体ずらされるだけで避けられ、蹴りは俺の側面に入られて範囲から外され、中段に虚をついて蹴り入れよ思うて上段のパンチおとりでやって、俺の予想通りパンチよけて、そして俺の蹴りの攻撃範囲に入った!
 これで決まった思うたのに逆にこいつ俺の方に踏み込んできて……こいつの右の白い剣の腹で俺の右の蹴りの威力流して、右で攻撃を流した動きで空いた左の黒い剣の峰で俺の左わき腹に一撃喰らわせよった。
 こいつ……速さに惑わされん! 

 速さでダメなんやったら力や! 力で押しきったる! 身体でかいからいい気になるんやないで! 俺の全力の力籠めた最強の一撃や! 
 こいつの変な剣の攻撃さえ避けてしまえば俺の勝ちや! 
「おぉぉぉぉぉっ!!」
 腕下ろして隙だらけやないか! やっぱりさっきのはまぐれなんや! 
 
 これでも喰らえやぁ!!


 ……こいつやっぱりただ者やなかった。
 俺の一撃喰らうギリギリまで動かんかったから俺の勝ちや思うたら、そのギリギリで避けよった。
 そして俺の攻撃の勢い利用して鳩尾に一撃、剣の柄で入れてきよった。
 ムカつくんはこいつ手加減して俺に一撃入れたことや。死なん程度の力で……屈辱や……! 勝負で手加減された……! 無理して獣化したんもこいつに全く歯が立たんかった……!

「殺せや……」
 こない屈辱を背負ったまま生きていくんは耐えられん……! いっそ死んだ方がマシや!
「何故、死にたいと思う」
「手加減されて、お前みたいなカッコした奴に負かされた恥背負うぐらいやったら死んだ方がマシやからや」
「勝負もついていないのにか?」
「何が勝負や! 俺は負けた! 手加減されて負けた! 勝負なんかついたも同然やろ!」
 このままおちょくるんやったら舌噛んで死んだる!
「俺とじゃない。ネギ君とだ。
 彼と君の勝負に決着はついてない。俺が割り込んだからな」
 ……確かにそうやな……けどそんなんどうでもいいことや。
「どうでもえぇ。今更そんなことそうでもえぇんや」
「そうか。それなら君はネギ君にも負けたんだな」
「誰が負けたやと! あのままあの姉ちゃん達が水差さんかったら俺が勝ってたわ! 
 タイマンしたら俺が勝つ……あ……」
 俺はまだ負け認めてないんや……
「そうだ。確かに君は俺には負けた。ネギ君達にも負けた。だが君はネギ君と一対一で負けてはいないと思っている。
 だったら君はまだ負けていないんだろう。ネギ君もまだ君との決着は着いていないと思っているだろう。
 今度は一対一で、お互いが万全の状態で全力を出せてこそ完全な決着がつく。
 屁理屈だと思っても構わないさ。これは俺が見て判断したことだからな。
 今回はもう手を引け、いつかまた機会が来るはずだ。君もネギ君もまだまだ強くなる。その時まで強くなれ。
 強くなってその時にまた俺に勝負を挑んで来い。その時はまた返り討ちにしてあげよう」
 
 そうや、俺はまだ負けてないと心のどこかで思ってるんや……なのに俺が負けた思うてたらネギに勝ち逃げされてるんと同じや。
 でも、最後の言葉と嫌な笑い方やめや。ホンマに悔しく感じる。
「じゃあな、もうこの件からは手を引けよ」
「待てや、ここからは鳥居の印を壊さんと出られへんで? それかこれ仕掛けた術者が解かんとダメや」
 俺は千草の姉ちゃんにネギを足止めして、そして本山に入らせんようにして新書を奪うんが契約や。
 姉ちゃんが戻ってくるまでこれは俺でも解けん。印の基点も変わってしもうたやろ。
「そうらしいな。しかし、このぐらいだったら俺になんとかなる」
 そう言うてこいつは日本刀をどこからともなく取り出しよった。そういえばさっきの白と黒の剣はどこにやったんや?
「その日本刀でどうするんや?」
「ん? これか?
 これは日本刀じゃない。これは古刀だ」
 古刀? なんやそれ。
「日本刀は反りがあるがこれにはそれがないだろう? 直刀は日本刀よりも昔に使われていた刀。
 それが古刀と日本刀の違いだ。
 これがこの結界を消す力を持っている」
 へ~、そんなただの剣がねぇ~。どうでもえぇけど。

 兄ちゃんはそれだけ言うて俺から離れて行こうとしてる。
 ……この兄ちゃんに興味出てきた。
「なぁ、兄ちゃん」
 俺の呼びかけに兄ちゃんは振り向いた。
「名前何て言うんや~? 俺は犬上小太郎っていうやけど」
「衛宮士郎だ。
 また機会があればまた会うだろう。またその時までな」

 そう言うて倒れてる俺からは見えなくなった。

 いったい何者やったんかな~? 獣化して全く歯が立たんて兄ちゃんどんだけ強いんやろ……

 
 俺がそないなこと考えてたら、空がガラス割れるみたいに割れて、そこから結界の空やのうて本物の空が見えた。

 負けたんは悔しいけど、どこかすがすがしいんは何でやろな~。



[2377] 魔法の世界での運命 31話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:a5e9f6ce
Date: 2008/01/20 00:32
 〔アスナ START〕


 私達はさっきの無間なんたらっていう変な空間から逃げてきたんだけど、ネギは結構ひどい怪我だし、いつの間にかついてきてた本屋ちゃんが仮契約カード使って助けてくれるし……どうなってるわけ?
 士郎さんも助けてくれたんだけど……自分ごと空間を閉じろって言ってちっちゃい桜咲さんは閉じちゃったけど大丈夫かなぁ……・士郎さん。
 あの変身した男の子、かなり強かった。ネギも最初ボコボコにされちゃったのに、また強そうな感じで変身しちゃうし……本屋ちゃんが来てくれなかったら私もどうなってたかわからないかも……うわ、鳥肌たっちゃった。
 それを士郎さんが一人なんてちょっと無理あるんじゃ……

 それに今は本屋ちゃんがネギの診てるから私がすることないし……ちょっと複雑。なんでだろ?
「ほっほ~。やっぱり姉さん、兄貴のことが……もげっ!?」
「しつこいわよ、カモ。
 いい加減にしないと士郎さんに料理してもらうわよ」
「すいません。それだけは勘弁してください」
 いや、土下座しなくても……ていうかそこまで士郎さんのこと怖いの?あんたにとっては士郎さんは捕食者な訳?
「カモが昨晩のようなことをしなければ大丈夫だ」
「うひゃぁっ!?」
「ぎゃあぁあぁあぁぁぁっ!? お、お助けぇぇっ!?」
 土下座してて士郎さんが来てたの気がつかなかったカモは私の後ろに隠れて震えてるし。よっぽど怖いのね。

「士郎さん怪我とかしてない? あいつ強かったでしょ?」
「あぁ、強かった。
 だが、怪我などはしてない。それにあの子にはこの件にはもう関わらないように言っておいた」
「それだけで士郎さんの言うこと聞くの? 簡単には言うこと気かなそうな奴だったけど」
「そうだな。だが、言わないよりはいいだろう?」
「そうだけど……士郎さんて甘いのか厳しいのかよくわからないわね」
 そう言うと士郎さんは苦笑して私から視線を外して……本屋ちゃんを見た。

 それに気がついた本屋ちゃんが俯いたまま士郎さんの方に自分から近づいていく。
「あ、あの……士郎先生……私は……その……」
 本屋ちゃんは俯いたままで士郎さんとは目が合わない。
 そんな本屋ちゃんに近づいていく士郎さん。士郎さんは腕を上げ、それを本屋ちゃんに伸ばしていく。まさか……叩く気じゃないでしょうね!?
 
 私が待ってという前に……士郎さんは撫でるようにぽんぽんと本屋ちゃんの頭に手を置いた。
「無事でよかった……」
 そう小さく呟く士郎さん……でも、私はその言葉がとても大きな声で言っているように聞こえた。
 優しく、すごく安堵した声。

「もう宮崎の気持ちは決まってるんだろう? だから危険を冒してまでネギ君達を助けた。
 この世界に入ったことを俺はあまり良く思ってないが……心に決めたことを諦めろと言う資格は俺にはない。
 だから、ここからは安全ではないということだけは覚えていてくれ」
 本屋ちゃんは士郎さんの顔を見たまま動かない。
 私が知ってる限りで本屋ちゃんはネギと高畑先生以外の男の人には話しかけられただけでも拒絶するのに今は頭を撫でられている。
 これはすごいことだよね? それだけ士郎さんに心を許しているのか……それともあまりにびっくりして動けないのか。

 でも、私の心配はいらなかったみたいだ。
「はいっ!」
 力強く返事をする本屋ちゃん。
 それを見た士郎さんは複雑そうな表情したけど、そのまま本屋ちゃんの頭を撫でて手を下ろした。


「桜咲、そっちは異常ないか?」
「はい、本体は今のところは……あっ!?」
「ど、どうしたの!?」
 いきなり桜咲さんの身体がかすれていく!?
「い、いけません! 本体のほうで何かが……連絡が途だ……」
 最後まで言い切ることなく桜咲さんは紙型に戻っちゃった。

「こ、こりゃ、マズい。
 刹那の姉さんのほうに何かあったな。それでちびせつなを使う余裕がなくなったんだ」
 そ、それってまずいことになってるんじゃない!? 
「し、士郎さん! どうし……あれ?」
「姉さん、旦那は?」
「わ、わからない。消えちゃった」
 
 士郎さんは私の後ろから風のように消えていた。


 〔刹那 START〕


 これは油断していたというしかない……
 街を歩いているといきなり西の者に白昼堂々街中で襲われた。
 私はお嬢様の手を引いて走り出したのだが、それに早乙女さんと綾瀬さんが追いかけて来ていた。
 このままでは二人を巻き込んでしまうと判断して近くにあったシネマ村に逃げたのだが……人目につかないだろうと思い、入ってしまったことが逆に裏目に出たようだ。
 シネマ村全体に結界を張られて念話は封じられ、士郎先生と念話ができなくなってしまった。

 お嬢様が私の貸衣装を選んでくれたり、シネマ村に来ていた他の学校の修学旅行生にお嬢様と一緒に写真を撮ってもらったりと……私が永く忘れていた“楽しい”という気持ちにこの状況でなっていた。
 お嬢様と一緒に京都を回り、このように貸衣装を来たりと……本当に楽しいと感じ、この時がいつまでも続けばいいと考えてしまう……
 ……この気持ちは抱いてはいけないのでしょうか……私のような者に幸せなど……

 
 ほどなくして私達を襲っていた本人だろう者が自らやって来て決闘を申し込んできた。
 貸衣装に身を包んだ月詠は私に手袋を投げ渡したのだが、お互いにこの格好では周りの客も劇か何かと勘違いしているようだ。
 それの一部始終を見ていたいいんちょさんや早乙女さん達も大きな勘違いをしているようでお嬢様と私の恋などと言っている。
 ここからは危険なので来てほしくないのだが……私にそれを止める手はなかった……
 途中、私の紙型を使って気の跡をたどってきたネギ先生の式と合流することができた。
 私はお嬢様やいいんちょさん達に聞こえないように話す。
「ネギ先生、今の状況はまずいです。いいんちょさん達を巻き込んでしまう可能性があります」
「そうですね……でもいいんちょさん達はかなり本気で刹那についていくつもりみたいですね。どうしましょう?」
「月読こちらの世界の人間ですから一般人に危害は加えないとは思うのですが……油断はできません。
 士郎先生は神楽坂さん達といるんですか?」
 士郎先生はネギ先生達を助けに行ってこのかお嬢様から離れたのだが、念話を封じられた為に連絡を取ることができずにいた。 
 ちびせつなは途切れてしまったのであの場所からどうなったかはわからない。
「え? 士郎さんここに来てないんですか? 僕達より早く鳥居のところを離れたんですが……」
 ……そうか……。見つけられないのか……
 そうすると増援は期待できない。場所が伝えられないのでは見つけるのは困難だろう。広い京都の中からこのシネマ村を特定するのは士郎先生には出来ないと聞いている。


 30分後、指定された日本橋まで来た。
 月詠は橋の上で待っていて、ここで何かすると聞きつけた客が周りを囲んでいる。

 月詠もいんちょさん達のような一般人を私との勝負に巻き込むつもりはないらしく、おかしな式に相手をさせている。
 私はネギ先生にお嬢様を安全な所に逃げてもらうために見かけだけだが等身大にした。
 ネギ先生はお嬢様の手を引いて人ごみに入っていき、私からは見えなくなった。

「いきますえ、センパイ」
 月詠が構えをとり、駆けてくる。
 私も迎え撃つ為に衣装についていた模造刀を抜く。

 正直、月詠は強い。私も気を抜けばどうなってしまうか……
 二刀流で攻めてくる月詠は模造刀をなんの問題もなく一合で破壊した。剣は速く、小回りが利くが威力は差ほど高くはない。
 右手の太刀で袈裟切り、それを防いだ所に小刀で右脇を狙ってくる。それを腕をとって防ぎ、間合いを少し開いた所で野太刀の長さを活かして打ち込む。
 しかし、それも月詠になんなく防がれ、反撃をもらいそうになる。
 太刀の逆袈裟、小刀の薙ぎ、小刀の突きと思わせた太刀の薙ぎ。変幻自在な月詠の太刀筋に押され、見慣れぬものに対応できずに私はほぼ防戦を強いられる。

 打ち合えば太刀筋も見慣れてくる。防戦を強いられることもなくなり攻めに転じる。
「やっとセンパイらしくなってきはりましたな~」
「無駄口叩いている暇に切り伏せてやろうか。お前に付き合っている時間が惜しい」
「つれないこと言わんでやセンパイ。ウチはこの時間を楽しみたいだけ……剣を交え、命のやり取りの最中に見える光……これがとても綺麗なんですえ。
 必死に何かを守り、命を落としてまで前に立つ。血に濡れた姿はまさに死化粧……その姿……ウチに見せてくださいな、センパイ」
 っ! 人格破綻者め……戦闘狂よりも性質が悪い! 

 かといって月詠との勝負に終わりが見えない。隙も見出せない……このままでは……!
 不意に視界の端に何かを見つけた。それに反応するように周りの見物人からも声が上がる。
 
 その先には……
「お嬢様!?」
 何故そんなところに……!
「アラ、よそ見はあきまへんえ」
 くっ! このままではまずい! 月詠を退かせなければ……・それが無理でも隙を見てお嬢様の所へ……
 天守には西の女と大猿の式紙。それに弓を構えた鬼。そして……子供? 
「あきまへんよ、今はウチだけを……」
「くっ……そこを退け! 月詠!」
 こいつ……何がなんでも行かせんとしてより苛烈に打ち込み始めた。
 ネギ先生は触れることはできても防ぐことはできない。あの弓を構えた鬼が矢を射れば……くそっ! どうかしなければ!

「隙ありですえ、センパイ」
「しまっ!」
 眼前に迫る太刀。私を切り裂こうと凶刃が身体を……裂く直前、跳ねた。
「え?」
 月詠も何が起こったのか把握できていない。動きは止まり、太刀を弾いた物はどこにもない。
 私も唐突に起きたことに反応できていない。何が起きた? 確かに私の目の前まで月詠の太刀は迫っていた。それが何かに防がれた? いや、一瞬だが太刀を弾いた何かが通ったのを見たのだ。

 !! 今が好機! まだ月詠は動かない。
 私が考えに没頭したのは一瞬、それよりも月詠の方が長い! 今なら!
「っ! あきまへん、よく今の防ぎましたな。でも、次からは……」
 私が防いだと考えたのか……いや、今はお嬢様の所へ!
 
 月詠は後ろに跳び、弾かれた太刀を拾ってしまった。私の一瞬の状況把握の時間分か……!
 また私を迎え撃つ月詠。私が押し通ろうと構えるより速く、月詠が構えの方向を変えた。
 瞬間、幾多の閃光が月詠を襲う。
 数を知ることに意味は無い。しかし、わかることは……これは私を援護している。
 私に迫る閃光は一つたりともない。
 絶好の好機。これならば天守にいける!

「ま、待ってくぅぅ……」
 追手もない! 防ぐことで精一杯のようだ。

 城の天守に行く際、足を止めずに閃光が打ち込まれた方角を見るが……誰もいない。
 ならばこの考えは必要ない。もう、お嬢様を救うことだけを考えろ!
 
 天守に登った瞬間に目に入ったものは……消える鬼。放たれた矢。沈む女と子供。
 この情報を見た瞬間に反応し、脳が情報を処理する前にお嬢様の前に立ちはだかり……

 矢で肩を射られた。

 
 



[2377] 魔法の世界での運命 32話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:a5e9f6ce
Date: 2008/01/25 00:52
 〔ネギ START〕

 
 僕はこのかさんを安全な所へ連れて行こうとしたんだけど……お城の中でおサルのお姉さんに見つかってお城の一番上まで追い詰められちゃった。
 
 動いたらあの弓を持った鬼に射られる……それに今の僕は触れることは出来てもあの矢を防げない……
 どうしたらいいんだ……刹那さんは僕を信じてこのかさんを頼んだのに……僕はその期待に応えられない……
「ネギ君、大丈夫や」
「え?」
「せっちゃんが何があっても守る言うたんや。 必ずせっちゃんが助けてくれるて」
「こ、このかさん……」

 僕はこの状況ですごいと思ってしまった。
 これがお芝居と思っているのかもしれないけど、それでも刹那さんが助けてくれると信じてる。
 こんなにも綺麗な笑顔で恥ずかしがる様子もないこのかさんはきっと、どんな状況になっても刹那さんを信じるんだろう。

 すると突然、強風が僕達を襲った。
「ひゃ」
「このかさんっ!」
 強風でこのかさんはよろけたところをなんとか僕が支えられた。
 だけど……よろけたことで鬼が矢を放った。

「あ~~~っ!? 何で射つんや~っ!?
 このかお嬢様に死なれたら困るやろ~っ!」

 射られた矢は僕達に向かって一直線に飛んでくる。
 僕はそれをなんとかこのかさんに当たらないようにと身体を盾にして矢を防ごうと前に出る。
 矢は僕の身体を貫くことは簡単だと思う。あの鬼の持ってる弓は大きいしとても人が引けるような弓ではない。
 
 もう矢は僕の心臓を射抜こうとしている。どこかで死ぬ直前には風景が遅く流れると聞いたことがあった。今はまさにそれ。
 本当の身体はなくても痛みってあるのかな……でも、このかさんを守れればそれでいいかもしれない。

 鬼の放った矢は僕に貫く……瞬間、バラバラになった。
「「「え?」」」
 僕だけじゃなくてこのかさんもおサルのお姉さんも矢がバラバラになったことを理解できないでいる。
 何でいきなりバラバラに……もしかして魔法の射手? でも、いったい誰が……?
 それにどこからきたんだろう。僕は見えなかった。だとしたら横から?でも、刹那さんは魔法の射手は出来ないし……一般人に見られるようなところから魔法を使うわけはないし……

「そこどいてください」
 白い髪の男の子がクマの式神から降りてきておサルのお姉さんの後ろに立って……ものすごい数の光の筋が襲ってくる。
 それは白い髪の男の子の障壁に防がれてるみたいだけど、お姉さんと鬼を守るために防げなかったクマとおサルは光の筋に貫かれて消えていった。

 僕もこのかさんも一瞬、この光景に飲まれてしまった時。

「あ……あ…あぁああぁぁぁぁあぁぁぁっっっ!!!???」
 いきなりおサルのお姉さんが頭を抱えるように叫びだした。
 顔は蒼白。目の焦点はあってない。何かに怯えるような仕草でその場にしゃがみこんで震えている。
 その光景に白い髪の男の子はわかっていたかのように光を防いでいる腕をそのままにこっちに振り返って。
「ルビカンテ、二本目射って」
 その言葉にルビカンテといった鬼は弓に矢を構えて―――矢を射った。
 
 僕は突然のことで一瞬、反応が遅れた。
 とっさに腕を広げて何とか防ごうと思ったけど……容易く貫かれて矢はこのかさんへ向かっていく。
 僕は……成すすべなく僕の腕を貫いた矢を見送るしかなかった……

 このかさんに矢が迫る。このかさんは動くことも出来ずにいる。

 だけど、矢が射抜いたのはこのかさんではなく、盾のように立ちふさがった刹那さんだった。
 
 けど、矢で貫かれた衝撃と足場の悪さで足元が安定しない。
 そのまま……足を踏み外してお城の上から落ちる。
「刹那さ……!」
 落ちていく刹那さん。僕はあまりのことで頭が真っ白になって動けない。

「せ……せっちゃ~んっ!!」
「あぁ―っ!?」
「このか姉さんっ!?」
 僕は信じられないことを見て叫び、カモ君もしゃべったらいけないということを忘れて叫んでる。

 このかさんは落ちていく刹那さんに向かって躊躇なく飛ぶ。
 僕だってすぐにここで魔法を使わないで飛べなんて言われたら躊躇する。でもこのかさんはそんな素振りを見せることなく、その目には刹那さんしか見えていないと思う。
 空中で刹那さんに追いついて抱きかかえるように……落ちていく。
 僕は……今最悪の場面を想像していた。

 けど、その考えを吹き飛ばすように光がこのかさん達を包んだ。


 このかさんを中心に光が溢れて、空中に浮かんでいる。そして、ものすごい魔力を身体で感じている。
 
 僕の身体はさっきの矢で貫かれたことで等身大を保てなくなってちっちゃくなってしまった。
 でもこれでこのかさん達のところに飛んでいける。
「兄貴、これがこのか姉さんの……」
「そうみたいだね。でも、これって……」
 普通じゃない。魔力があるのはまだいいとしても……このひしひしと感じる魔力の量は尋常じゃない。

 
「刹那さ~ん。大丈夫ですか!?怪我はどうなってますか!?」
 このかさんが少し離れたところで刹那さんに近づいていく。矢が肩を貫いたんだからひどい怪我してると思ったんだけど……
「傷がない……」
「こ、こりゃ……どういうことだ?」
「はい。
 ……ですが今は話してる暇はありません。早くここを離れなければこの騒ぎを聞きつけたシネマ村の人が来てしまうでしょう」
 確かにそうかもしれない。
 さっきの光とかでお客さんが拍手なんかをして騒ぎになってる。

 刹那さんはこのかさんに近づいていく。
 そしてこのかさんを抱きかかえて驚くことを言った。

「お嬢様。今からお嬢様の御実家へ参りましょう。
 神楽坂さん達と合流します」



 〔刹那 START〕


 私はネギ先生の紙型を解除して向こうに戻して、お嬢様と急いで着替えをしていた。
 なぜなら先ほどの騒ぎを見ていた朝倉さん達から離れる為だ。
「着替え終わりましたか?」
「うん、せっちゃん」
 着替え終わったお嬢様の後ろからは早乙女さんと綾瀬さんが話を聞くためにこちらに来ている。

 すいません、お話できないこともあるのです。
「いきます、お嬢様」
 お嬢様を抱えて塀を飛び越える。
「ひゃ~」
 お嬢様の負担にならないように少し離れたら電車に乗ろう。慣れない移動手段ではお身体に障るかもしれない。

 お嬢様を抱えながら私は士郎先生に念話を送ろうとしたが……念のためにと新撰組の衣装の中にまで札を持って行ったのが仇になってしまったようだ。
 水に濡れて札の字が薄れてしまって効果がなくなってしまっている。これでは連絡を取ることができない。
 どこにいるかもわからないのでは士郎先生も困るだろう。加えて西からの襲撃がないとも言いきれない。

「あ、士郎さんや」
「え?」
 不意にお嬢様が私が考えていた人物の名前を言う。
 お嬢様の指差す先には……黒い服に目立つ白髪。私が知っている姿で該当するのは一人しかいない。

 私が人目につかない場所に着地し、平静を装って近づいていく。
「こんにちは、士郎先生」
「あぁ、桜咲にこのかか。こんにちは、偶然だな」
「士郎さんここで何してるん?」
 士郎先生は自然に話す。お嬢様に不自然に思われないようにだと思うのですが……すいません、私はここまで跳んできたので……もう無理かもしれません……

「見回りでな。このか達はシネマ村にでも行ってたのか?」
「そうなんよ~。よくわかったな~」
 お嬢様は気づいていないようだが、士郎先生の視線は私に向いている。
 これは士郎先生もあれを見ていたのか……?

 士郎先生も一緒の電車に乗って太秦を離れる。
 お嬢様は先ほどのことで疲れたのかこっくりこっくりと眠たそうにしている。

 それからすぐにお嬢様は私の肩を枕にするように眠ってしまった。
 その寝顔は……とても綺麗で魅入ってしまった。
「さすがに疲れたみたいだな」
「そうですね。今日は……私が助けられましたから」
 守る立場でありながら守られる立場のお嬢様に助けられるとは思いもよらなかった。
 けれど、どこかうれしかったのは気のせい……ではないな。
「怪我は大丈夫のようだな」
「……やはり見ていたのですね。どこからですか?」
 見ていたのなら助けてくれても良かったのではないかとおもうのですが。
「すまない、ゲームセンターから近場の名所を探していてな……見つけたのは桜咲があの貴族風な服を着た女の子が剣を振り上げて切りつけられるギリギリだった。
 本当にすまない……俺がもっと注意していればあんな危険な目に合わなかったかもしれないのに……」
 そう語る士郎先生の表情は本当に申し訳なさそうだ。
 しかし……それを見つけたということは近くにいたということだ。
「何とか切りつけられるのは防げたが……俺が近くにいれば矢で射られることはなかったかもしれない。
 いや、俺が矢を受ければよかったんだ」
「近くに……いれば?」
 この言い方からすると士郎先生は月詠の剣を防いでくれた。だが近くにはいなかった……いったいどういう……

「それはどういう意味ですか? 
 士郎先生はシネマ村にいたのではないのですか?」
「シネマ村にはいなかった。
 そこから離れた場所……というか丘があるだろう? そこからシネマ村が目に入ったときに見つけたんだ」
 丘……新丸田町通りの坂の上の場所か? いや、待ってください……あそこから確かにシネマ村は見えます。しかし、シネマ村からは1キロ近く離れていませんでしたか? そこから月詠の鋭い剣筋を防げるわけが……まさか士郎先生はそれを防げる魔法が……あの閃光のような光の線ということなのだろうか。

 それにまだある。
 剣を弾いた魔法があったとしても私達を見つけられるだろうか。天守にいたネギ先生ならまだしも私をあの位置から見えるのだろうか……?
「聞きたいことがあるのですがよろしいですか?」
「俺に答えられるものであれば構わない」
「では……士郎先生の言う場所からシネマ村の私がいた場所までは約1キロ。月詠の剣を防げる魔法があったとして本当に私達が見えていたのですか?
 確かに目が良い人であれば人の形や大まかな服装はわかるでしょう。ですが士郎先生は私が切りつけられる寸前だったというところまでわかっています。
 士郎先生は式神のようなものは使えないといいましたね。これはどういうことなんのでしょう」
 
 士郎先生は少し考えるように目を瞑って私の方に向き直った。
「確かに俺は式神のようなものは使えない。
 それに魔じゅ…魔法も種類としては数少ないものしか使えない。
 俺が桜咲達を見つけられたのは……この眼だ」
「……どういう意味ですか?」
「まぁ、よくわからないだろう。突然こんなことを言われてもな。
 俺は見るだけなら約8キロ先まで見ることが出来る。嘘に聞こえるかもしれないが本当だ」
 ……正直、この人は本当にありえない。8キロ先? 龍宮も肉眼では動きがわかる範囲で2キロと言っていたな……それに加えて精確に狙い打つのにスコープを使用するのに……
「何か道具は……」
「見るだけなら何も使わない。
 ただ剣を弾くような場合は道具を使う。それが桜咲を守るのに使ったものだが、これは……」
「うぅ~ん……」
 士郎先生の話の途中にお嬢様が動いて会話が中断した。

「この話はまた今度だな。
 機会があればまた話せるが……このかと近くにいることはなかなかなかっただろう。今だけでもそのままでいてやれ」
「……はい。
 まだ時間があるので言っておきます。私達は本山へいきます。できれば士郎先生にもついてきてもらいたいのですがよろしいですか?」
「あぁ、大丈夫だ。
 桜咲も疲れただろう。着いたら教えるから寝るといい」
 
 私は士郎先生の言葉に甘えることにした。
 何年ぶりだろうか……こんなにも近くにお嬢様がいるのは。この修学旅行で一気に離していた距離が縮まってしまった。


 だが……今だけはこうしていたい。
 私はお嬢様から離れてからこんなにも心が穏やかに眠れたのは初めてだった。



[2377] 魔法の世界での運命 33話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:a5e9f6ce
Date: 2008/01/26 17:48
 〔士郎 START〕


 本山の近くまで電車でやって来たのだが……これはどういうことだろうか?
 なぜ、ここにいるはずのないだろう人間がここにいるんだ。
 
「や、桜咲さん。それに士郎さんもね」
「……朝倉、何でここにいる」
 俺の目の前にいるのは朝倉に早乙女、綾瀬、宮崎……シネマ村で桜咲が置いてきたはずなのだが……

「いやね、桜咲さんの荷物にGPS携帯放り込んでおいたんだよね。
 それで見てたら電車で移動始めたからタクシーで追跡したわけ。たいした名所もない駅で降りるもんだから一番行きそうな所に向かったんだけど正解だったね」
 ……こいつは……行動的過ぎるのも考え物だな。

「士郎先生、どうしましょうか……」
「……しかたない。このまま連れて行こう。
 もしも西の襲撃者が見ていたら朝倉達を帰した所を襲われるかもしれない。西の長には悪いがそれは大目に見てもらうしかないな」
 本当なら連れて行きたくない。しかし、もしもということを考えるとこれが最も安全かもしれない。
 それを西の長が許してくれればいいが……

「士郎さんさぁ、何でここにいるの? 見回りはいいの?」
「これも仕事の内だ。ここにくる約束があったからな」
「ほほぅ、約束とな」
 む、早乙女にはおかしな意味に聞こえたようだ。
 だが、今すぐ帰れといってもこのメンバーなら言うことをなかなか聞かないだろう。


 少し歩くとネギ君達と合流することが出来たのだが、神楽坂が朝倉達がいることで驚き、俺と桜咲と朝倉は怒られてしまった。
 神楽坂の言うこともわかる。ネギ君は下手をすれば大怪我、桜咲にしても傷がなくなったから良かったものの、このかがそのまま何もで出来ずに動けなかったらどうなっていたことか……

 神楽坂がまだ俺達に説教をしていると早乙女が声を上げる。
 その先には西の協会の本拠地の入り口。

 それを見つけた早乙女達は走り出していく。
「あーーーっ!? ちょっとみんなー!?
 そこは敵の本拠地なのよ!? 何が出て来るか……!」
 
 あぁ、そうか。神楽坂達は知らないのか。なら警戒しても仕方ないことだ。


『『『『『お帰りなさいませ、このかお嬢様ーッ』』』』

 案の定と言うべきか、神楽坂もネギ君もポカンとしている。敵の本拠地だと思って警戒してみれば逆に出迎えられるのだから。
 ネギ君はそのまま立っていると出迎えた女性達に囲まれて怪我を見てもらったりしている。 早乙女達もここがこのかの実家ということを知って驚いてる。

 ようやく立ち直った神楽坂が桜咲に説明を求めている。
 ある意味、期待を裏切られたのだから動揺して慌てているが桜咲が説明をしていくと徐々に落ち着き、納得してきたようだ。

「すいません、どちら様でしょうか?」
 俺に近寄ってきた女性が少々、俺のことを不審者を見るような目で見ている。本来ならネギ君が行くはずで男は一人と連絡がいってたんだろう。そこにいかにも怪しい奴がいれば怪しむのも無理はないか。
「失礼、私は近衛このかのクラスで副担任をしている者で衛宮士郎という。
 事情があり、急遽私も同行することになってしまった。迷惑であれば速やかに去る」
「あ、そうでしたか。
 申し訳ありません、失礼を致しました」
「気にしないでいただきたい。本来であれば私がここに来ることはなかった。
 加えて彼女達も来ることになってしまったのは私の責任だ。謝罪をするのは私のほうであってあなた方ではない。申し訳ない」
 俺は頭を下げ、それにおろおろとしている女性。
 この女性もこちらの世界の人間だろう。それならば一般人である早乙女達がここに来ることは好ましくない。一方的に迷惑をかけているのはこちらなのだ。
 俺が謝ることはあっても彼女達が謝ることはない。

「顔を上げてください。このようなことも予測はしておりましたので衛宮様が頭を下げることはないのです」
「申し訳ない。
 私は出て言った方がいいだろう。押し付けるようになってようですまないが彼女達を頼む」
「その必要はありません。ここに来たネギ先生の関係者は全員、通すように長に仰せつかっていますので衛宮様も入らしてくださいませ」
「……わかった。では失礼する」
 
 中に入ってみると……これはかなり上等な歓迎だな。

「お待たせしました。
 ようこそ明日菜君、このかのクラスメイトの皆さん。そして担任のネギ先生に衛宮先生」
 西の長が現れるとこのかが駆けていって抱きつく。
 うん、微笑ましいな。親子の縁というものはどんなに離れようが無くなるものではない。
 だから早乙女、本人前にして意外に普通の人とか言うんじゃない。失礼だぞ。
 アスナも友達の父親に惚れるんじゃない。
 
 
 ネギ君が新書を渡し、西の長が歓迎の宴を開いてくれると言ってくれたのだが……俺はそこまでいるわけにはいかないだろう。
「私はここで失礼する」
 立ち上がり、そのまま出て行こうとすると女性達は少し驚いたような表情をしていた。俺がそのまま残って宴に参加すると思っていたのだろう。

「衛宮先生、今から下山すると日が暮れてしまいます。
 私としても あなたに出ていただきたいのですが」
「申し訳ない。俺はこれでも一応、教師という立場なので。クラスの担任、副担任がどちらもいないとなれば混乱するでしょう」
「それは私が身代わりの式を放っておきますから心配はいりません」
「そうもいかないのです。身代わりではクラスの生徒を抑えられないでしょう。
 そのことを考えて彼女達を見てみてください」
 少々、失礼な言い方だがそう言うと西の長はかなりハイテンションになっている早乙女を見て。
「……そのようですね。
 ですがこの時間からでは宿に着く頃には日が暮れているでしょう? どうするのですか?」
「そうですね……宿まで一直線に行くつもりですが……」
 
 少しの沈黙の後、長は笑った。
「はっはっは、そうですかその手がありましたか。
 わかりました、この本山にいる限り、彼女達は安全です。安心してお気をつけてお帰りください」
「ありがとうございます。では失礼します」
 
 俺は西の本山を離れた。



 旅館のロビーで完全自由行動から帰ってきた生徒達を迎える。
 雪広達の班は門限時間に余裕も持って京都を満喫したようだったのだが時間ギリギリに帰ってきた古の班は八つ橋などお土産を大量に買って帰って来た。
「ただいまアルよ、士郎さん!」
「あぁ、お帰り。楽しめたか?」
「もちろんアル! 金閣寺とかいう所は本当に金ピカだたアルよ」
 金ピカ……金ピカで唯我独尊の自己中……

「どうしたでござるか? いささか遠い目をしていたでござるが」
「何でもない。
 長瀬、それはチャイナドレスか?」
「そうでござる。どうでござるか?」
「似合ってはいるがとても普段着るものじゃないだろう?」
「たまたまあったので着てみたくなったんでござるよ」

 さて、もうほとんどの班は帰って来たがまだ帰ってきてない班がある。
 佐々木達の班だ。門限を過ぎてもなかなか帰ってこない。何かあったのだろうか……

 俺は新田先生から借りている携帯を取り出してボタンを押す。
 コール音が聞こえて4回目のコール音で相手がでた。
『もしもし』
「龍宮、俺だ」
 俺が電話を掛けた相手は龍宮真名。学園長に俺を紹介した際に念の為と教えたのだ。龍宮も仕事の時の為にと教えてくれたので俺の携帯が無くなってしまった今でも番号だけは覚えている。
『士郎さん、それだと詐欺の類だと勘違いされるから今後は気をつけた方がいい』
「今後を考えてくれてありがとう、これからは気をつけよう。
 それで今、どこにいるんだ?」
『嵯峨嵐山駅の前にいるよ』
「何だ近くにいるのか。早く帰って来いよ」
『そうしたいのですが……からまれてまして』
「なんだって?」
『不良にからまれて和泉は気絶、佐々木はそれを介抱。明石と大河内は口で応戦してますが、それも長くは“てめぇ! どこにかけてんだコラァ!” と言う風にからんでくるのです。さすがに麻帆良以外の一般人なので銃を使うわけにもいかないのでしょう?』
 電話口にその不良の声が聞こえてくる。ていうか麻帆良の人間だったら銃使ってもいいのか?
 だがな、龍宮。

「我慢できてるのか?」
『そろそろ限界に近いですね。いい加減にホルスターを抜きたくなってきました』
「我慢しろ、お前の銃なら殺しかねない。すぐに俺が行くからそいつら逆撫でしないようにして待ってろ」
『殺しかねないとは失礼ですね。せいぜい2/3殺しですよ。
 では待ってます』
 電話が切れた音の後、俺はすぐに旅館を出る。

 龍宮、2/3殺しって半殺し以上殺し未満だ。それってほとんど虫の息の状態だからな。



[2377] 魔法の世界での運命 34話 
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:1bcae1cf
Date: 2008/02/01 22:09
 〔真名 START〕


 さてと、士郎さんの方から連絡は来たがこれからどうしたものか。
 この見かけだけで他者を脅し、それによって自分が誰よりも偉いなどと勘違いも甚だしいことを思考する一般的に見れば不良などと表現する連中。
 私は正直、このような輩は気に食わない。プライドもなく、ただ自信の娯楽や力を示したいということでこのような行為をしている者が多いからだ。
 この連中も同じだろう。話しかけられるだけで不愉快極まりない。

 加えて相手が中学生(何故か私は嬢ちゃんではなく姉ちゃんだった)というのにも関わらず威圧し、暴力を振るおうとする。
 それに……あのニヤニヤとした気持ちの悪い表情を浮かべる。

 何を考えているかがはっきりとわかる。本当に不愉快だ。

「なぁ、いい加減素直に謝ったほうが身のためだぜ?
 こいつさぁ、こないだ君達みたいなやつらとぶつかられた時にキレちゃって歯ぁ全部折っちゃったんだよ。
 相手はそれにビビッてお金出すから許してくれって言ったけどこいつ完全にキレてそのまま病院送り。俺から見ても可哀想だったなぁ。
 今すぐ謝ってくれたら許してあげるよ。ただちょっとついて来てもらうけど」

「誰が謝るっていうのさ! 明らかにそっちがぶつかってきたんじゃん!
 それに少しぶつかったからってお金出せってどういうことよ! こっちに非がないなら謝る必要はないしあんた達恥ずかしいとか思わないわけ?
 中学生に男が4人で囲んでカツアゲなんて私ならできないね」

「裕奈の言う通りだよ。
 強さを誇示したいならボクシングでも空手でもすればいい。
 けど、あなた達みたいな人は絶対に強くなれない。自分が一番だとか他の人を利用して強く見せようとしてるから。
 それに亜子を突き飛ばして気絶させた……私は絶対に許さない」

 明石も大河内もかなり怒っているな。
 私としてもこんなところで暴力沙汰を起こしたくはないし、なにより彼女達に怪我をさせたくない。

「なぁ、姉ちゃん。無視しないでよぉ。
 な? 少しだけでいいんだって。30分くれたらすぐに気分爽快で帰してあげるからさ。いいところ行こうよ」
 
 そう言って……舐め回すように私の身体に視線を向ける

 ……士郎さんはまだ来ないのか? もう限界は超えているんだが明石達に見せてはいけないものになってしまう。
 それを考えて我慢したのだが……

「オレ駄目だ。もう我慢できねぇよ。
 お前らちょっと死んでみろや。んで泣きながら謝れ。ぜってぇ許さねぇけど」

 連中の中で一番身体の大きい奴が明石達に近づいてくる。
 そうは言っても私より背が低いのだがな。

 だが、それでも明石達から比べれば十分な図体だ。このままでは殴られて怪我をする。

 だったら……やられる前にやってしまえばいい。

 私は大柄の男と明石達の間に割って入る。
 その行動に明石達も連中も驚いたようだったが、それも連中には一瞬のこと。

「何だ、姉ちゃんが代わりに殴られんのか? 
 いいぜ、望み通りやってやんよぉ!」
 
 振り上げられる拳。その背後で不愉快な嘲笑を浮かべる連中。私の後ろでも明石達が息を呑んで目を瞑るのがわかった。

 好都合だ。見ているのがこの連中だけなら問題はない。


「おごぉっ!?」
 
 跳ね上がる男の顎。
 口が開いていたところへ下からの衝撃で強制的に閉じられ、その際の衝撃で歯が折れたのだろう。
 汚らしい唾液と血液がついた白い固形が数本舞っている。

 私はポケットに入っていた十円玉を打ち出して男の暴力を止めた。
 これは技……というのだろうか。これに似ているものは羅漢銭なのだがいささか違う。
 が、今はどうでもいいことだ。この手の連中に五百円玉を使うのは全くもって勿体無い。
 十円でも勿体無いと思っている。

「て、てめぇ! よくもたっくんをやってくれたな!
 もう許さねぇ! ぜってぇ泣かす。謝ったってぜってぇ許さねぇ!」

 同じことを二度も言わなくても結構だ。それぐらいのことを理解する思考回路は君達と違って持ち合わせてるものでね。
 それにしてもその倒れて気絶している男に“たっくん”などと愉快な呼称をつけているものだ。
 全国の“たっくん”に失礼というものだろう。

「た、龍宮さん! 危ないよ! 逃げよう!」

 そう言いながら明石が私の腕を引く。
 だが、私は今、少々不機嫌でね。こんな奴等のつまらない言葉をこれ以上聞きたくはない。

「女だからって容赦しねぇからな!」

 勿論だとも。そうでなくては今以上に不機嫌になる。
 そうなればただの怪我で済ませられるだろうか私でもわからない。女だからと言って手加減や差別されるのは戦う意思のある女性にはこれ以上無い侮辱なのだから。

 力任せに殴ろうとする男B(先ほど倒したのが男A)の拳が迫る。

 私はそれを防ごうとはしない。なぜなら……

 結果はすでに見えているから。

「そこまでにしておけ。それ以上やるというならばこちらも相応の対処をしなければならない」


 男Bの腕がつかまれる。
 あまりに唐突に止められたものだから男Bはつかまれた腕の見て、その先にいる人物をようやく見る。

「士郎さん! どうしてここにいるの?」
「龍宮に連絡したらここにいてからまれていると言うのでな。急いできたのだが……少々、遅かったようだ」
 
 そう言って倒れている男Aを見る。
 しょうがないじゃないか。正当防衛だよ。

「なんだてめぇ! 離せ!」
 つかまれている腕を振りほどこうとするが……動かない。

「おい、何ふざけてんだよ。さっさと振りほどけって。
 演技にしたらつまらねぇって」
 
 と、男C。
 連中は勘違いしているようだ。男Bがふざけて演技をしているものだと。
 だが、それは違う。動かしたくても動かせないのだ。つかまれた場所から腕が動いていないのだから勘違いしても仕方ないのかもしれないのだが。

「はなせぇ……っ!」

 その言葉と男Bの動きで士郎さんは腕を離した。
 男の腕にはくっきりと士郎さんの手の跡がついている。
 そして、男Bの手には刃渡り10センチ程のジャックナイフ。それを出したため、士郎さんは腕を離したようだ。

「てめぇ……変な頭しやがってふざけてんのかコラァ!」
「髪が白いからと言って見かけで判断するとは浅はかだな。
 私がどのようにしてこのようになったか君はわかるか? 当ててみたらどうかね」

 男Bの言葉に一切怯むことも無く全く自然に振舞う士郎さん。
 だけど、その質問は意味があるのかい?

「はぁ? お前なに言ってんの?
 わかるわけないじゃん。てめぇがどうなって髪染めたかなんて知らねぇし」
「勿論だ。知っていたら気持ち悪いだろう。私と君は初対面なのだから。
 ふむ、そのぐらいのことを考えられる頭は持ち合わせているようだな」

 ……なるほど、さっきの質問は相手を怒らせるためのものだったのか。
 完全に挑発して、さらに貶すとはね。

 男Bはナイフを持っていて優位な立場だと思っていたのにも関わらず、臆することなく正面から堂々と馬鹿にされたのだから顔を真っ赤にさせてい怒りを露にしている。

 士郎さんの言葉で他の男C・Dも表情を変え、睨みつけている。

「た、龍宮さん。士郎さんかなりやばくない?」
「心配ないだろう。少なくともあの連中には負けないさ。
 それより和泉はどうだ?」
「うん。亜子はまだ気絶してる。よっぽど怖かったみたい」
 
 和泉は大河内に膝枕されて寝ている。
 その方がいいだろう。この状況を見たらまた気を失ってしまうかもしれない。もしくは慌てて警察を呼ぶかもしれないな。

「てめぇ……死にてぇみたいだな……
 ……望み通り殺してやるよぉっ!」

 ナイフを右手に持ち、それを士郎さんに突き立てようと走る。
 普通であれば刃物を見慣れていたとしても身体が一瞬、硬直したり相手がナイフを持っていることで気圧されたりするものなのだ。
 例としてなら私の服の裾をつかんで怯えている明石。ナイフがこちらに近づいてきて固まってしまった大河内。

 ただ、どの世界にも例外がある。

 士郎さんが左拳を右肩辺りに上げ……

 ガキィンッ


「…え?」

 それはナイフで士郎さんに挑んだ男の声。
 想像もしていなかった金属音。加えて自分はナイフを持っていたはずだった。
 だが、今の男Bの手の中にはナイフなどというものは存在しない。

 明石も大河内も呆然としている。それはそうだろう。先ほどまで男Bの手の中にあったジャックナイフだったものは地面に落ちている。
 
「嘘だろ……なんで素手でナイフが……」

 そう。ジャックナイフだったものだ。
 ジャックナイフでなくなったものをナイフと言うわけにはいかないだろう。

 ジャックナイフだったものには今、刃の部分がついていない。
 刃の部分は折れて街路樹に突き刺さっている。
 士郎さんはナイフの刃を裏拳で折った。それがこの状況を沈黙させている。


「まだやると言うなら私が相手をしよう。
 その時は覚悟をもって挑んでくるがいい」

 その言葉に連中は気圧され、後退りしている。
 そして士郎さんは無言のまま一歩、踏み出す。

「う…うわぁあぁぁぁっ!!」
「お、置いていくなよ! 待ってくれよ!」
「ば、化け物だぁぁぁっ!」

 堰を切ったように逃げ出す。
 倒れている仲間を見捨てて自分だけ助かろうと必死で逃げる。
 テレビの中だけの出来事と思っていたものが現実に、しかも目の前で起こったのだ、あの程度の連中なら尻尾巻いて逃げるのが普通だろう。
 

 士郎さんは連中が見えなくなってからこちらに振り返った。

「みんな怪我は無いか?」
 
 その表情は先程までの鋭い眼光も何も無い、本気で私達のことを心配している表情だった。

「あ……うん。怪我とかはしてないよ。でも亜子が突き飛ばされて気絶しちゃったけどただ怖くて気絶しちゃっただけだから大丈夫だと思うよ。
 でも、アキラや龍宮さんがついてなかったら私ここまで粘れなかったよ。だから二人ともありがとう」
「そんなことないよ。
 私だって一人だったら怖くてどうなってたかわからないんだから……私の方こそありがとう」
 
 私はただいただけなんだが……いや、礼は受け取っておこう。

「みんな怪我が無くてよかった。
 すまない、俺がもう少し早く駆けつければよかったんだが……」
「問題ないよ士郎さん。明石も大河内も和泉も怪我してないんだ。結果オーライですよ」
 
 私がそう言うと士郎さんは少し苦笑しながら“ありがとう”と言った。
 何故? 私個人が助けられたわけではないが、礼を言うのはこちらだろう。
 なのに何故、士郎さんは私に礼を言う? ただ結果が良かったのだから気にしなくていいと言っただけなのに。

 士郎さんは私が倒した男Aに肩をまわして駅前のベンチに寝かせている。
 そんなことしなくても逃げた連中が思い出せば取りに来るだろうに親切なことだ。私なら必要ないことだから絶対にしないだろう。

「よし、みんな帰ろう。他の班も心配してる」
「うん。あ、でも亜子が……」
「そうだね、おぶったら見えちゃうかもしれないね」
 
 和泉はまだ気絶している。
 そして、スカートを穿いているためおぶってしまうと中が見えてしまうかもしれない。
 女の子としてそれは許容できないものが当然ある。

「だったら俺が和泉を旅館まで運ぼう」

 そう言って士郎さんは和泉を抱える。
 その姿はいわゆるお姫さま抱っこ。夢見る乙女であれば一度は体験してみたいというものだ。
 確かにこのメンバーの中で問題なく運べるのは士郎さんだろう。
 私もできないことはないが……なんとなくやめた方がいいだろう。そんな気がする。


 和泉は士郎さんの上着をかけられて旅館まで運ばれ、その姿を見た3-Aが何があったか明石や大河内に問い詰めている。
 その間に士郎さんは3-A包囲網を抜けてロビーのソファに寝かせている。

 その時、私の携帯が鳴った。
 プライベート用ではなく、仕事用の携帯にだ。

「もしもし」
 
 私はみんなに声が聞こえない位置まで移動して携帯に出た。

『おぉ、龍宮君! よかったわい、これでなんとかなるかもしれん』
 
 相手は学園長。しかし、いつもの穏やかな声色ではない。明らかに何かあったな。

「どうかしたのですか?」
『それは追々説明することにしよう。緊急事態なんじゃ、すぐに士郎君と代わってほしい』
「わかりました、少々待ってください」

 この場合、無闇に聞くことは避けた方がいい。
 今は士郎さんは携帯を持っていない。いや、持ってはいるが新田先生の物だ。
 それを知らなかったとしても学園長が私を介して士郎さんに代わってほしいと言うのだからそれなりの理由があるのだろう。
 それに自分に関係ないことに無闇に首をを突っ込むことは身の破滅をもたらしかねない。

「士郎さん、学園長からです」
「学園長から?」

 士郎さんは何事かというように携帯に出る。
 
 その途端、表情が変わった。
 明らかに深刻なことが起きたのだろう。今の士郎さんの気配は戦闘する者の気配。
 何があったか気になるところではあるが……無闇に他人の仕事に首を突っ込まない。それもプロというものだ。

「真名、ちょっといいでござるか?」
「楓? どうした」
「それがちょとマズイことになたアルよ」

 古も一緒か。それにマズイこととは一体なんだ?


 楓と古から話は聞いた。
 なるほど……それならば学園長が士郎さんに急ぎの連絡をするのも頷ける。
 
 楓は綾瀬から連絡を受け、助けに来てほしいと頼まれたらしい。
 その時の綾瀬はいつもの冷静なものではなく、明らかな混乱と焦りを持っていたという。
 状況は最悪、と言っても過言ではないらしい。
 いきなり少年が部屋に入ってくると早乙女を石にして宮崎も石にされ、朝倉が綾瀬を逃がさなかったら全員が石になっていたかもしれないということだ。

 手際から考えて相手はプロである可能性が高い。
 言い方は悪いが、兵法としては弱者から叩くのが基本。強者と戦う場合、いくら弱者と言えども割って入られれば自身の隙に繋がりかねない。
 邪魔なものから潰す、それがもっとも効率が良い。

「拙者と古はすぐにここを出る。
 できれば真名について来てもらえれば心強いことこの上無いのでござるが……どうでござろう?」
「……仕事料はどうなるかな?」
「学園長に請求すればいいでござろう。救援とはいえ立派な仕事でござる」

 そうか……なら問題は無い。

「わかった、私もついていこう」
「やたアル。これでバカリーダー達を救えるアル。
 ネギ坊主がどうなてるかわからないがきっと生きてるアル!」
 
 そうだな、そう信じていよう。

「龍宮、携帯ありがとう。
 それと、俺はこれから旅館を離れる。もしもの時は瀬流彦先生に頼んでくれ」

 士郎さんは言葉こそ冷静だがその眼は冷静ではないようだ。
 その眼には明らかな焦りが浮かんでいる。そして何かを責めるようなものも見える。

「ネギ先生の救援、ですか?」

 その言葉に士郎さんは一瞬、驚いたようだがすぐに元に戻る。

「……龍宮には関係ない」
「そうもいかない、楓に連絡がきたんですよ。綾瀬から救援に来てほしいとね」
「……そうだとしても、龍宮達を巻き込むわけにはいかない」
「それは侮辱ですよ。私と楓の覚悟は出来ている。古にも救援を頼みましたが、一般人である古にも覚悟も覚悟はできているんです。
 それなのにその覚悟を潰されるというのは許されることじゃない。それは士郎さん自信もわかっているでしょう」

 士郎さんは私達を巻き込みたくない。それはわかるが私からしてみれば関係の無いことだ。
 報酬をもらえれば私は何でもするし、悪にも正義にも付く。それがポリシーであり、仕事に対する誇りだ。
 それを踏みにじる権利はこの世界の誰にもない。

「……どうしても来るのか……長瀬も古も……」
「勿論でござる」
「当たり前アル。友達を救えなくて何が友情ね」

 私の後ろには楓に古。三人の決意の視線が士郎さんに注がれる。

 士郎さんは少しの間私達を貫くような視線を浴びせたが……私達は臆したりはしない。

「……わかった。
 それなら俺について来てくれ」


 折れた士郎さんが旅館を出て行く。

「士郎殿、電車で行くのではないのでござるか?」
「電車では行かない。もっと速い方法を知っている」

 そう言って士郎さんが指差す方向には……道が無い?
 
「士郎殿……これはもしや?」
「そうだ。民家を超え、山を越える。一直線で西の本山までいける。
 長瀬はついて来れるか?」
「しの……ごほん。山で育った身としてはそれくらいの距離は問題ないでござる。
 しかし、真名や古がどうかはわからないでござる」

 確かに私はそこまで体力が保てるだろうが……慣れていないことだ、この二人、もしかすると古にも遅れをとるかもしれない。

「私は少しついていけるか自信がないアル……すまないネ……」

 古も少々不安なようだ。

 だが、その不安は士郎さんの一言で吹き飛ぶ。

「わかった。長瀬、できれば古を運んでくれ俺は龍宮を運ぶ」
「了解したでござる」

 そう言って楓は古を抱える。それに状況を飲み込めてない古が慌てる。
 ん? 私もそれに入っていたような……と、そう考える間も無く。

「む?」
「嫌かもしれないが我慢しろよ。
 緊急事態なんだ。覚悟は出来てるんだろう?」

 ……き、汚い。それが先程まで来ることを拒んでいた者のする顔か? その人の言葉を逆手に取った表情は正直腹が立つ。

 士郎さんは私を抱える。それも…お、お姫様抱っこで……!

「ちょっと待っ「行くぞ長瀬、ついて来い」いや、聞け」


 私は文句を言う隙もなく抱えられたまま、夜の街に消えていくことになった。



[2377] 魔法の世界での運命 35話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:e7f442ff
Date: 2008/02/03 15:23
 〔士郎 START〕


 駆ける。道無き道を駆けていく。闇夜に隠れている今ならば一般人に見られてしまう危険も少ない。
 もし、姿を見つけてその場所を見たとしてもそこにはもういない。

 山に入り、その山を越える。
 後一つ、山を越えれば西の本山はすぐそこだ。

「士郎殿、ネギ坊主の位置はわかるのでござるか?」
「あぁ、なんとかな。
 魔法を使ったらしい。ここからでもネギ君の魔力を感知できる。ただ……その付近におそらく、人外だろう気配がする」
 
 この感じは死徒……とは違うが、人外だということはたしかだろう。
 それに……

「それと今、結界の中に入った。おそらく人払いと防音結界だと思う」
「結界? 何故そんなものがこんなところに……」

 俺の腕に抱えられている龍宮が疑問を言うが、それは俺にもわからない。
 ネギ君がいるだろう場所からここはまだ4キロは離れている。それなのにも関わらず、このように広範囲に結界を巡らす意味がわからない。
 戦闘の気配を外に漏らしたくないのであればその付近にだけ結界を張った方が力の消費も抑えられる。
 ここまで広範囲に結界を張る意味は無いと言ってもいいかもしれないが……そうしなければいけないくなった要因があるのだろうか……

「士郎殿、夕映殿の位置がわかったでござる。
 ここから三時の方向に2キロ」

 古が携帯を持っていることからGPSか何かを使ったんだろう。それなら詳しい位置がわかる。

「よし、なら綾瀬を救援し……長瀬ここから三時の方向と言ったな?」
「そうでござるが?」
「その三時の方向にもう一つ人外の気配が出た。
 加えてネギ君が移動しているが……人外の気配が動かない。もしかすると桜咲が一人だけで残っているのかもしれない」

 これはまずい。下手をすると隠れているかもしれない綾瀬が人外に見つかってしまうかもしれない。
 気配の規模からしてこちらの方が小さいが……だからといって安心など出来るはずもない。

 どうする? 距離だけなら綾瀬の方が近いだろう。
 だが、規模なら先ほどネギ君の魔力を感じた方向の方が大きい。その方向におそらく桜咲いるのだろう。
 一般人でこの状況の中で最も危険な立場にいる綾瀬を救いに行くか……規模が大きい方へ行き、桜咲を救いに行くか……
 
 だが……その方法ではどちらかを見捨てるということになりかねない。

 ネギ君達が綾瀬を助けに行ったとは考え難い。
 学園長に連絡を取ったネギ君は自分と桜咲と神楽坂以外全員、石にされてしまったといったらしい。
 ということは綾瀬がいなかったことを見落としている可能性が高いのだ。

 なら、ネギ君はどこへ? 他に何かあるのだろうか?

「どうするんだい? 士郎さん」

 
 俺は綾瀬も桜咲も見捨てたくない。いや、誰であろうと俺は見捨てない。
 救いを求めるのなら誰しも平等に、分け隔てなく救う。それが俺の選んだ道。九を救う為に一を見捨てるアイツのようにはならない。


 そう誓った。誰に対してではなく、衛宮士郎という存在そのものに。



 〔ネギ START〕


 変だ。これは絶対におかしい。
 僕の見えている方向には光の柱が空に向かってそびえてる。
 
 あの光は魔力のはずなのに……

「兄貴! 急げ急げ! 
 早くしなけりゃ姉さんも刹那の姉さんも時間と共に危険になっていく!」
「わかってるよ! でもカモ君!
 変だと思わないの? こんなに近くまで来てるのにあの光の柱からは魔力が――――っ!?」

 突然、後ろから何かが飛んでくる感じがした。
 それは黒い何かで……狗神!?

「風楯……!!」

 とっさに風楯を出したけど、狗神の威力に耐え切れなくて杖から落とされた。

「くっ……杖よ……風よ!」

 何とか地面にぶつからなくて済んだけど……狗神が飛んできたということは……


 そしたら森の中から足音が聞こえてきて僕から見える所まで歩いてくる。

 その姿は僕が予想していたものだった。

「コタロー君……!!」

 僕達が千本鳥居で戦った男の子、コタロー君。
 無言で俯いて表情は見えない。でも、身体は濡れていて、腕や髪から水が滴ってる。

 それがとても怖く感じる。

「……こ…ここ…は……通さ……へん……」

 苦しそうにそうそう呟いて……次の瞬間、大きな黒い影がコタロー君の周りに降り立った。

「なんや、久方ぶりに呼び出された思うたらこんな坊主の相手かいな」
「文句垂れるんやない。
 呼び出されたからには与えられた仕事をこなすんが契約や」
「せやな。殺さん程度に痛めつけ言われてるんや。
 動けんように手足の一本二本は折っとけとも言うてたな」

 降り立ったのはカラスの頭をした人(?)だった。
 全部で20人ぐらい……魔力をアスナさんに供給しててどんどん減っているのにこんな所で戦ってたらすぐに魔力が尽きちゃうよ。

「……や…れ……」

 襲いかかってくるカラス人間。コタロー君は動かないでその場に佇んでる。

 
 カラス人間の剣が僕頭に向かって振り下ろされる。
 ここで受けたら他のとり人間の剣でやられちゃう! そう判断して、避けながら隙を見て光の柱の所に向かおうと思ったけど……

 後ろに避けたら後ろからさらに剣が振るわれ、しゃがんで避けたところに突き刺すように剣が迫ってくる。
 横に転がりながら避ける。けど避けたところに蹴りが放たれてそれを避けることもできずに防ぐしかなかった。

 蹴り飛ばされて身体を宙に浮かされたところに追いかけてくるようにカラス人間が飛んできて剣を振るってくる。
 空中では避けられない! 

 風楯を腕に集中させて剣を防いだけど……そこに後ろから首を掴まれて―――そのまま地面に叩きつけられた。

「がっ…はっ……」

 強く叩きつけられて息が全部出される。

 痛い、苦しい……僕の肩にいたカモ君も叩きつけられた時に何処かへ……いた。
 僕から少し離れた所で横たわってる。気絶してるみたいだ。
 
 自分に魔力供給はもう出来ない。これ以上は魔力を使えない。
 でも、早くしなくちゃ……このかさんが……!!

「なんや、こんなもんかいな。
 拍子抜けや。もっと歯応えのある坊主やとおもったんやけどな」
「そう言うんやない。
 まだガキや。それにこれでは多勢に無勢っちゅうもんや。これでもまぁまぁとちゃうか?」

 そんなことを言いながらカモ君を掴んで僕の方に投げる。
 ……よかった大きな怪我はしてない。強い衝撃を受けて気絶しただけみたいだ。

 僕はそれを確認してから立ち上がろうとしたけど、カラス人間に仰向けに押さえつけられる。

「離して…・・・っ!!」
 
 何とか逃れようと暴れてはみたけど力が違いすぎる。それに僕に魔力供給もできてない今、僕はただ力の強い子供程度だろう。

 押さえつけられているところに水が僕の顔に落ちてきた。
 
 そこには……濡れた身体に光のない真っ暗な眼をしたコタロー君がいた。
 
 怖い……あの眼には何も見えてない。何の躊躇いも無く何でもするような怖い眼だ。
 千本鳥居で戦った時はもっと違う眼をしていたのにどうして……

「こ……ここ…で……寝て……ろ……」

 その言葉と共に振り下ろされる拳。
 その拳の先は僕の顔面。
 
 僕は目を瞑った。拳が怖かったんじゃなくて、コタロー君の眼がとても怖かったから……



 あれ? 目を瞑ってすぐにパンチが来るものだと思ってたけど……何の衝撃も来ない?
 
 目を瞑って聞こえるのは風の音と、何か不思議なものを見たようなカラス人間の声だけ。

 僕はおそるおそる眼を開いてみると……そこには震える拳を僕の顔ギリギリで止め、目から赤い涙を流しているコタロー君がいた。

 その口からは小さく言葉が呟かれている。

「い……いや…や……俺は…こないな……勝負…の…つけ…かた……しとう……ない……」

 その眼にはさっきの怖い眼じゃなくて、薄いけど確かな光が見えた。

 これは……もしかして操られてる? でもいったい誰に……?

「逃げ……ネギ……早く……」

 コタロー君は必死に自分を操ってる何かと戦ってる。それだけはわかる。
 それに逆らって僕を逃がそうとして必死に抵抗してる。僕はこれを無駄にしたらダメだ……!!

「―――契約執行3秒間。ネギ・スプリングフィールド」

 まだ魔力が全部尽きた訳じゃない! なのに諦めたらコタロー君もアスナさんも刹那さんも……みんながしてくれたことを僕が無駄にするわけにいかない!!

「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ぬぉっ!? このガキ、まだこんな力を!?」

 僕は押さえつけられてた腕を解くために暴れ、片手が自由になった所で逆にカラス人間の腕を掴んで投げ飛ばす。
 それで魔力供給は切れちゃったけど、すぐにそこから横に転がりながらその場から脱出する。

 そしてすぐに抵抗しきれなくなったコタロー君が今まで僕がいた場所を殴っていた。
 今がチャンスだ! いきなりのことで他のカラス人間は反応しきれてない!

「杖よ!!」

 手放してしまった杖を呼び寄せ、まだ気絶しているカモ君を胸に抱えて飛び立とうとする。

「待てっ! この嬢ちゃんがどうなってもいいのか!」
 
 すぐにでも飛び立てるという時にカラス人間が叫ぶ。
 その方向に目を向けてみると……

「夕映さん!?」
「ネ、ネギ先生……すいません、捕まってしまったです……」

 そこには腕を掴まれている夕映さんがいた。

「やはりお前の仲間やったか……そこを動くんやないで? 動いたらどうなるかわかってるんやろな」

 くそっ……せっかくのチャンスだったのに……! 
 でも、夕映さんがどうしてこんなことろに……? みんな石にされたはずじゃ……

「よし、そいつを捕ま゛っ……」

 突然、カラス人間の声が詰まる。

 消えていく身体のその後ろからは……長身で右手に苦無をもった女の人がいた。

 そして僕の後ろからは……ものすごい勢いで森の中に木を折りながら飛んでいくコタロー君やカラス人間がいた。

 そっちにも小柄な女の人が……

「長瀬さん!? くーふぇさん!? どうしてここに!?」

 長瀬さんに支えられながら夕映さんがこちらに近づいてくる。

「私が携帯電話で呼んだのです。なんとか逃げられたのですがこのような非現実的なことに対処してくれるようなところが思い浮かばなかったので……
 そこで卓越した身体能力を有する楓さんに助けを頼んだのです」
「そこに私もいた、というわけアル。
 ちなみに真名もいるネ」
「えぇ!? 龍宮さんも!?」
「加えて、士郎殿もいるでござる。
 真名と士郎殿はもう一つの戦いの場に赴いたでござるよ」

 士郎さんも龍宮さんも……
 これで……これで……このかさんを救える……!

「あ…兄貴……行こうぜ」
「カモ君! よかった、気がついたんだね!」
「あぁ、でも早くしなけりゃこのか姉さんが危なぇ……俺っちも今、気がついたんだがあの光の柱、さっきより太く強くなってやがる。
 これは結界が張られてるんだが……普通の結界とは逆なんだ」
「え? それっていったい……」

 まだ話の途中だけど、森の中から狗神がこっちに向かって来た。

「ネギ坊主、ここは拙者達に任せて行くでござるよ」
「そうネ、早くコノカを助けにいくといいネ」
「……すいません、長瀬さん、くーふぇさん、ありがとうございます!」

 僕はこの場を任せてこのかさんの元へ向かった。

 
 そして、森を抜けたところでとても濃い密度の魔力を感じとることができた。

 このかさん、待っててください!!



[2377] 魔法の世界での運命 36話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:e7f442ff
Date: 2008/02/04 00:53
 〔刹那 START〕


 くっ……アスナさんが烏族に腕を掴まれ、こちらは大鬼とトンファーのような武器を持った狐女、それに月詠を相手にしなければならなくなった。
 
 まだ他の鬼などが300程いたのがまだ150前後残っている……

 この状況は最悪、援護は期待できない……ここは最早、あの力を使って敵の虚を突くしか……

 
 私が力を解放しようとした時だった。

「ぐぉっ!?」

 いきなり烏族が声をあげ、私がそちらを向くと……アスナさんを捕らえていたが腕が消えていた。
 そしてアスナさんが落ちるが、アスナさんも何が起きたか把握できていない。

「なんだ!? いったいな―――」

 烏族が言葉を発するより早く、烏族はそのまま何が起きたかもわからず消えていく。

 そして、大鬼や狐女の手前の地面に何条もの閃光が突き刺さる。
 私はこの光を間近で見たことがある。
 
 その閃光の正体は……細身の剣。柄の部分が短く、片手で使うにしても困難に見えるそれは私と鬼達とを間に突き刺さり境界線を作っている。

「……らしくない。苦戦しているようじゃないか?」
「えぇっ!? えぇぇーっ!?」
 
 アスナさんが想像もつかなかった人物が来たものだから驚きの声を上げ、私も少し驚いた。

 龍宮の背後には黒い弓を片手に佇む士郎先生がいたからだ。
 
 その眼は普段私達に見せる優しい眼差しではなく、全てを射抜かんとする鋭い眼をしている。
 鬼達も突然の乱入してきた士郎先生達に呆けている。

 そんな中、士郎先生が口を開く。

「鬼を統べる者よ、ここで引く気は無いのか」
 
 そう言い放つ士郎先生の言葉一つ一つが重い。静かな威圧感がこの空間を包んでいる。

「無い。元よりこの嬢ちゃん達の足止めの為に呼ばれたんや。
 そして呼ばれたからには与えられた命令をこなすんがワシらの契約や。
 ……ホンマは殺さんように言われてた。せやけどお前さんにはそないなことしとったらワシらがやられてまうな」
「そうか……」

 その言葉と共に龍宮の銃の炸裂音が響き渡る。

 そして他の鬼達が私やアスナさんだけではなく、龍宮や士郎先生に襲いかかる。

「嬢ちゃん達は後でええ! その白髪の兄ちゃんを囲むんや!
 その兄ちゃんが一番厄介や!
 烏族はそのテッポウの姉ちゃんや! 接近戦に持ち込めばなんとでもなる!」

 やはりこの大鬼……他の鬼を統べ、統率させる者か……!

「刹那さん! きたよっ!」
「くっ!?」

 だが今は自分のことを心配しなければいけない。
 いくら士郎先生に敵の大半が行ったとしても他にも鬼はいるのだ! そして月詠もいる。
 今は少し離れて戦況を見ているようだが……それがどう動くかはわからない。

 私が疲弊したところを狙ってくるか、もしくは大鬼が厄介と言った士郎先生を狙うかもしれない。


 士郎先生に向かっていった鬼は約80体。それが一斉に士郎先生に襲い掛かっていく。
 先ほどの私とアスナさんも似たような状況ではあったが二人で戦っていたからなんとか持ち堪えられていた。
 だが、それが一人。明らかに危険。
 
 しかし、手助けに入りたいのだがこちらも先程よりも強い鬼が襲ってくるものだからその糸口がつかめない。
 その度に士郎先生から視線を外し、向かってくる鬼を斬る。

 私は龍宮の実力は知っている。この程度の鬼が襲ってきたとしても難なく返り討ちにできる力を持っている。
 信頼しているからこそ心配することがない。振り返ってその安否を気遣う必要が無い。

 だが、士郎先生を信頼していないわけではないのだが……私は士郎先生の実力を知らない。
 大鬼が厄介とは言っていたが士郎先生の魔法は遠距離だ。先ほどの弓を見ればそれが良くわかる。
 あれも魔法の品なのだろう。そうでなければただの弓でシネマ村のような長距離射撃など出来るはずもない。
 だからこそ心配だ。接近戦では不利なのではないかと。
 
 だが、その心配は不要だった。

 敵の隙を突いて士郎先生の方向へ目を向けてみると……鬼の数が激減していた。
 鬼は80体前後は襲い掛かっていたはずだ。
 なのに……それが見てわかる限りでは20体程まで減っていた。
 私が士郎さんから視界を外して一分、という所だろう。その短時間であそこまでの数を倒したのか?

 士郎先生の手には……旅館の露天風呂で一回だけ見ることのできた白と黒の剣。
 その剣で襲い掛かってくる鬼を切り伏せていく勢いは私以上かもしれない。

 まだ見ていたいと思いはしたがそのようなことを鬼達が許してくれるはずもない。
 私は再び鬼達に向かい直り迎え撃つ。

 すでに私もアスナさんも20体を超える鬼達を送り返している。先ほどよりもこちらに向かってくる数は少なくなったものの、それでも油断は……

「なっ!? 何だあれは!?」

 視界に入ったものに私は戦闘中ということを忘れてしまった。
 何故、あのようなものが見えているにも関わらず今まで気がつかなかったのか……気配を全く感じなかった。

 あれほどの大きさの鬼……鬼と言えるものなのかさえ怪しい。
 そのようなものがお嬢様が向かった方向に何故いる? まさか……あれを呼び出すために天ヶ崎千草の狙いかっ!?

「せ、刹那さん! あのでかいのいったい何!?
 もしかしてあれってさっき人たちがやったやつなら……ネギの奴、間に合わなかったの!?」
「わかりません。
 でも助けに行かなければ……!」

 そうしたい気持ちはあるのだが…・・・それを許さない鬼の攻撃がある。

「センパイ、逃げるんですかぁ~?」

 さらにここを離れることを許さんとする月詠が動き出す。

 くっ、これではネギ先生の所へ向かうことがさらに困難になってしまう……!

 私に駆けてくる月詠は戦うことへの愉悦からか……私から見たら狂喜に満ちた笑みを浮かべている。


 が、その笑みは向きを変え、月詠を狙っていたものを二刀の剣で軌道を変える。

「行け刹那!
 あの可愛らしい先生を助けに! ここは私達に任せて早く!」

 烏族の包囲を抜け、私に向かってきていた月詠に銃弾を放っていた。
 その横には……襲い掛かってきたすべての鬼を返した士郎先生の背中があった。

「しかし……」
「大丈夫だ。仕事料ははずんでもらうがな」
 
 心配する私の心配を龍宮はいつもの調子で返してくる。
 わかっている。これは私に“心配ない”と言っているのだ。

「早く行け、このかが待っている。
 俺よりも……桜咲が助けに来ることを待っているだろう。それに応えてやれ」

 そう背中越しに語る士郎先生。

 ……この人達に任せたなら心配は要らない。
 
「わかりました、ありがとうございます。
 龍宮もすまない。
 アスナさん! 行きます!」
「う、うん」

 私とアスナさんはこの場を離れてネギ先生の下へ向かう。


 鬼のほとんどを士郎先生達が引き付けてくれたので追ってくる鬼はいない。

「大丈夫かな、士郎さんに龍宮さん……」
「龍宮の実力は私が知っていますし、士郎先生にしてもあの強さは本物です。
 それに……危険を冒して残ってくれたのですから私達がそれを無駄には出来ません。
 士郎先生も龍宮も大丈夫ですよ。今は私達が出来ることのやりましょう!」
「……うん。そうだよね!
 待ってなさいよ、このか! 絶対に私達が助けてあげるからね!」

 そうだ。絶対にお助けしなければいけないのだ。
 待っててください、お嬢様。必ず私がお助けします。もう、あなたに辛い思いはさせません。
 お嬢様を守るために私は強くなったのだから。

 もう二度と……あの日のような涙は流さない……!



[2377] 魔法の世界での運命 37話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:e7f442ff
Date: 2008/02/05 15:48
 〔小太郎 START〕


 今考えてみればおかしいと思わんかった自分がおかしくなってたのかもしれへんな。

 最初の襲撃の時、俺は新入りと待機しとる予定やったんやけど、姉ちゃんが出て行って少ししてから“ちょっと見てくる”なんて言うて出て行ってしもうたんやけど……
 
 その新入りが千草の姉ちゃんと月詠二人を連れて帰って来た。
 月詠はいいとして……問題は千草の姉ちゃんや。

 気絶して帰ってきて素っ裸やったのにも驚いたけど……なによりいつもの強気な姉ちゃんではなくなっていた。
 
 俺が一応、千草の姉ちゃんが気がつくまで側におったんやけど……気がつくやいなや叫びながら暴れだしよったんや。
 俺は暴れだした姉ちゃんを取り押さえられたんやけど、押さえてる間は“殺される!”言うてずっと叫びっぱなしやった。
 
 その叫び声を聞いた月詠と一緒になんとか落ち着かせることが出来たんやけど、落ち着いた後も自分の肩を抱いてずっと震えとった。
 
 月詠に何があったか聞いたけど。

「ウチはメガネ落としてしもて姿を見てませんえ。
 せやけど……ウチが新入りさんに助けだされる前に感じた殺気は一般人やったら気絶してもおかしくないし、ウチでもいきなりやったら隙みせてまうかもしれんなぁ」
 
 どんな人間やったかはわからへんかったけど……少なくとも只者と違うことは確かやな。
 月詠かて裏の人間や。それに強いし殺気もそこらの裏の人間よりも濃い。
 その本人が隙を見せてまうかもしれんと評価するんやからかなり強いんやろな。
 
 姉ちゃんは一日部屋に篭って出てこんかった。
 そこに新入りが様子を見に入ったんやけど正直、何もできずに出てくるもんやとおもっとったら姉ちゃん連れて一緒に出てきよった。
 “さぁ、次いきますえ”なんてホンマに人がかわったようやったな。あの時は。
 
 その時は新入りが何か言うて姉ちゃん立ち直らせたんやおもってる。


 二回目の襲撃の時、俺は士郎の兄ちゃんに負けてダメージ引きずって帰ってそのまま寝てもうたんやけど、どのくらい経ったかわからんぐらいの時、いきなり叫び聞こえたんや。

 何事や思て出てみれば姉ちゃんが叫んでるんや。
 その表情は恐怖で染まっとったし、顔色も蒼白。避けんどる内容も“射殺される!”なんて言うもんやから何があったか聞いたら新入りに“同一人物に邪魔された”と、それだけ言うて千草の姉ちゃんと部屋に入っていった。

 20分もしたぐらいやろか、千草の姉ちゃんが新入りと一緒に出てきたんや。
 姉ちゃんはさっきの顔色の悪さも、叫んでいたのもウソみたいな顔しとって俺も月詠も何がなんだかよくわかっとらんかった。

 俺は姉ちゃんに話しかけて大丈夫かと聞いたんやけど。

「はぁ? 何が大丈夫や、この程度の失敗で落ち込むウチやあらへん。
 これ以上はあのガキ共を本山に近づけられん。すぐに行きますえ!」

 さっきまでのがホンマにウソみたいや。20分前と今とやったら全く違う。豹変にも程があるで。

 俺は新入りに何かしたのか聞いてみた。そしたらあいつは。

「僕はアドバイスしただけ」

 それだけ言って姉ちゃんの後を着いていってしもうた。

 この時、俺はおかしいと気がつくべきやったんや。
 あれぐらい精神的に追い詰められとったら心に何かしらの傷が残ってるはずなんや。
 傷は深ければ深いほど治るのに時間がかかる。それをたかが20分程度で治して、さらに気にもしないなんてことはありえへん。
 それをあの時の俺は考えられてへんかった。
 士郎の兄ちゃんの手を引けと言う言葉が俺に圧し掛かってたからや。

 どんな仕事であろうとも引き受けたからには最後まで通すのがプロってもんや。
 それを途中で、しかも敵の言葉でやめたとあってはこの世界で仕事をするものにとっては下の下。もうそんな奴に仕事なんか来やせんわ。

 だが、ここで姉ちゃんが千本鳥居の失敗の内容のことを俺に聞かんかったのはある意味よかったのかもしれん。
 

 俺と月詠、新入り、姉ちゃんはネギ達が来るのを本山で待っとった。
 ネギ達が俺等の視界に入ったときに姉ちゃんはもう一度襲撃をかけようとしたんやけど、それを新入りが止めた。
 ここで戦うのは得策じゃないからだそうや。なんとも腰の抜けた奴や、と思っとったら……女を5人も連れた士郎の兄ちゃんが本山に歩いて来とるのが見える。

 
 兄ちゃんが来た所を千草の姉ちゃんは見てへんかった。月詠と今回の仕事の計画を練り直してる途中や。
 俺が士郎の兄ちゃんを見てると新入りが呟いた。

「彼は……」
「知っとるんか?」

 新入りは兄ちゃんを見て呟くもんやから知ってるのは確かやろ。

「……彼に一回目、二回目の計画を邪魔された」

 それだけ言うて新入りは千草の姉ちゃんの所に向かう。
 
 なるほど……士郎の兄ちゃんが千草の姉ちゃんをあそこまで怯えさせとったんか……
 士郎の兄ちゃんは強い。俺が獣化しても手も足もでなかったんやからな。
 それに俺は倒そ思て本気でやっとたのにも関わらず兄ちゃんは本気やなかった。手を抜いて、それでいてあそこまでコテンパンにされるんやから厄介や。
 
 ……なんやろ、思い出したら少しムカついてきよったわ。


 少ししたら士郎の兄ちゃんは一人で本山から出てきた。
 
「ん? 誰やあの白髪の兄ちゃんは」

 千草の姉ちゃんが士郎の兄ちゃんを見てそう言うた。
 あれ? おかしいな。姉ちゃんは士郎の兄ちゃんに邪魔されたんやないのか? 新入りはさっきそう言うてたんやけど……

「姉ちゃんはあの兄ちゃんのこと知らへんの?」
「知ってる以前の問題や。
 あんな変な格好した男なんて見たこともあらへんわ」
「でも邪魔されたっていうのは……」
「片方で髪結ったガキと髪を二つに結ったガキとホンマにガキの西洋魔術師だけや。あんや奴はおらへん」

 絶対にこれはおかしい!

「おい! 新入―――がっ!?」

 新入りは俺が振り返ると同時に膝蹴りを腹に蹴りこんできよった。
 その威力は俺が油断してへんくてもすごいダメージや。
 俺はそれを鳩尾にくらってすぐに意識が落ちそうになって、それを必死に堪えとったけど……

「この国には知らぬが仏と言う言葉があるらしいけど……君はまさにそれだね。
 このまま知らなかったほうが君にとって幸せだった」

 その言葉と新入りの拳で俺の意識は途切れた。


 
 次に気がついたときには俺の見ている景色は変わっとった。
 湖みたいな場所の近くの森の中で俺は立ってるように見える。
 それはまるで映し出されてる映像を見とるような感覚。映像では俺が動いてるはずやのに自分で動いてる感覚がまったくない。
 
「―――な――――入り。小太郎は東のスパイってホンマなんか?」
「本当ですよ。
 僕がちゃんと調べましたから。彼は隙を見てあなたを東に突き出すつもりだったみたいです」

 千草の姉ちゃんの式神がこのか言う姉ちゃんを抱えとるということは……どうにかして本山の結界を抜いたいうことか……
 それにしても……誰がスパイ? 俺? おい新入り! お前なに出鱈目言ってんねん! 
 くそっ! 口も動かせんのか! 

「そないな奴、殺したらいいんと違いますか?」
「まだ彼には利用価値がある。
 僕が彼を操ってこれからあの子供を足止めさせます」
「ほぉ……それは良い案やな。
 ほな、そこらへんはお前にまかせますえ」

 千草の姉ちゃんはそのまま祭壇の方へ歩いていってしもうたけど、新入り……いや、こいつは俺の方を見て……

「気がついていることを前提に話をしようか。
 君は僕が操ってる、でも心配はいらない。事が済めば解放してあげるよ。
 君にはこれかるくるだろうネギ・スプリングフィールドの相手をしてもらおう。ここまで彼を通さないように」

 それだけ言うてこいつも祭壇に歩いて行く。
 くそっ! 俺は忘れんからな! 覚えとれよ! いつか必ずお前をぶん殴ったるからな!


 数分もすると……ネギが杖で空を飛んでくるのが見えて、俺は狗神をネギに向かって放った。
 あいつは狗神にあたって森に落ちて、俺はその場所に向かう。
 俺がどんなに動かんと思っても俺の身体は全然言うこと聞いてくれん。

 俺が呟くと共に……20体ほどの烏族が俺の周りに舞い降りた。
 あいつ……こんな奴等まで喚びだしとったか……!

 烏族は強い。俺よりは弱いがこの数や。戦闘がド素人のネギやったらあっというまにやられてまう。
 そして……それは現実となり、ネギは烏族に仰向けに押さえられて、そこに俺が歩み寄って行く。

 おい……まさか……

「こ……ここ…で……寝て……ろ……」

 望みもしないその言葉。
 嫌や……俺はこんなことしとうない! こんな……操られて、そかも大勢で一人を倒すなんて事は勝負やない! ただの暴力や! そないなもん……俺は望んでなんかない!

 だが、それを無視して拳を振り下ろさんとする俺の身体。
 それはネギに向かっていく。

 やめろ……やめろ、やめろやめろやめろやめろやめろーーーっっっ!!!!

 ネギに俺のパンチが当たる瞬間、俺の身体に激痛が駆け巡る。
 そして、俺のパンチはネギの顔面スレスレで止まっとった。

「い……いや…や……俺は…こないな……勝負…の…つけ…かた……しとう……ない……
 逃げ……ネギ……早く……」

 それ以上は俺が言葉を出すことはできんくなった。
 痛い…いたい…イタイ……全身を駆け巡る今まで体験したことのない激痛。
 ネギを殴らんようにするとこの激痛が悪化する。

 でも、俺は激痛に耐える。
 俺は俺の認めた勝負のつけ方やないと嫌や。
 このまま俺が激痛に負けてネギを殴ったら……もうこいつの前に俺は出ることでできへん。
 
 それに……このままあの無表情のガキの思いのままになるんが一番嫌や!!


 一秒が一時間にも感じる。
 ネギ……早うここから逃げてくれ……! 俺ももう耐え切れんかもしれんのや。
 耐えるごとに俺の意識が遠ざかっていくのがわかる。もうお前の顔も見えへんぐらいまで目が霞んでるようや……

 俺がもう真っ暗に近くなった時、ネギの声が聞こえて、その声が正面から横に移動したのがわかった。
 

 それがわかって安心したのか……俺の意識はそこでまた、途絶えた。



[2377] 魔法の世界での運命 38話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:e7f442ff
Date: 2008/02/05 21:31
 〔楓 START〕


 ネギ坊主を送り出して拙者はいきなり現れた黒い犬のようなものを苦無で迎撃する。
 
 それにしてもなんとも面妖な者が揃ってるでござるな。
 さすがにこの面妖な輩に会ったことがない。というわけではないが久しぶりだということはたしか。
 
 拙者も裏の人間の端くれ、このような者がいることは知っていたのでござるが、なかなかそれに会う機会というものに恵まれなかった。
 その機会が訪れたのは二学年の始め、真名がきっかけでござった。
 
 一年前―――


 週末の修行に行こうかと思い寮をでたのでござるが、その時にバッタリと真名にであったのでござる。
 そしていつも持ち歩いているギターケースを持ち、その脇には旅行カバンがある。
 
 気になって聞いてみたのでござるが……いきなり予想外のことを聞かれたでござるなぁ。

「楓、鬼は見たことがあるかい?」

 鬼、そういわれて拙者は節分の際に体を赤くし、手には棍棒を持っている人を想像してしまったのでござるが……真名の眼が冗談を言っている眼ではなかったので真面目に“ない”と答えた。
 
 いることは知っていてもその眼で見なければしらないも同じ。
 拙者のその言葉に真名は。

「じゃあ、ついてくるといい。
 楓ぐらい腕の立つ者がこれぐらいのことを知らないのはマイナスにしかならない」

 そう言って歩き出す真名。
 修行に行くつもりだったので用意は出来てるのでござるが……お金はどうするのでござるか? 
 そう思い、真名に聞いてみると。

「すまないがそこまで私はできないな。
 報酬が減ってしまうんでな。なに、荷物は私が持ってやるから列車の天井にでも隠れていればいいさ。
 それが嫌だと言うなら自分で出すんだな」

 そうか、その手があったでござるな。それでいくでござる。

 と、そんなもしかするとお上の世話になることは避けたいので自分で出すことになったんでござるが……
 それなりに付き合いがあるからわかるのでござるが……真名は極力、お金を使わない。もしくはその時点で必要ないと判断すれば後に有益になるものでも買ったりしないのでござる。
 
 到着した所は東北、そこからさらに山奥に入っていき、宿をとって拙者は真名に仕事の内容をようやく聞くことができたのでござる。

 列車の中では“向こうについたら話す”と言あんみつ片手に言われた時は騙されたのでは? と思ったのは内緒でござる。

 内容は換ばれてしまった鬼を還すこと。
 人的被害は出てはいないのでござるが、熊などの動物の不自然な死骸を一般人が見てしまい、鬼のような存在が表の世界にさらけ出される前に早急に解決してしまおうということらしいでござる。

 それは東北に限ったことではなく、日本全国で起こるだと真名は言う。
 世界各地でもそのような者は換び出せるらしいのでござるが、そこは風土の違いなどで変わるという。
 真名が見た限りでは紳士風な格好をした者がいきなり翼の生えた悪魔に変わるものもいたと言っていたでござるな。
 今回のように何かの拍子で突然道が繋がり、鬼のような存在がこの世界に出てきてしまうことがあるらしい。
 それを見つけ、対処を依頼する機関があるらしく、今回は学園長が真名に依頼したということでござる。

 夜になり、宿を出て行って山に入り、少々歩くと……今回の仕事の相手が自ら出てきたでござる。
 数は20体ほど、今回のような場合は一体だけで出る方が珍しいらしい。

 拙者も真名もそれなりに力を持っている者でござる。
 拙者は鬼の相手は初めてでござったが……問題なく倒すことができたでござる。
 
 しかし、そこで慢心はできない。
 真名によれば倒したのは鬼の中でも力の低い鬼ということ。強い者だと……拙者の二倍の背丈がある鬼もいるし、拙者よりも低い背丈の河童のような者まで様々ということでござる。

 拙者はその後、何度か真名と共に仕事をし、そのことを踏まえてさらに修行に励むことができたでござる。


 現在―――

 それが……このカラスの頭をした者、でござるか……
 なるほど、一体一体があの時の鬼とは違って結構な力をもってるでござるな。

「やってくれたな、姉ちゃん」
「そうは言われても友が人質にとられたのでは優しくなどできぬでござる」

 夕映殿は一般人。なんの訓練もこのような存在がいることも知らぬ身であれば、危険が及ぶ前に片をつけるのもまた兵法でござる。

「ま、そうやな」

 おろ? 意外にもまともな反応でござるな。

「なんとも普通に返されたでござるな」
「姉ちゃんの言うことも一理あるからや。
 バレてへんかったら人質をとってる者が気づく前に片付けるんが普通や。
 某が言うのは“戦いを楽しむ前に還された”ということや。
 この世に出てくることは滅多にない。せやから出来る限り楽しんで元の世界に還ってその話を肴に酒を飲むんが娯楽の一つやし。 
 何もできずに還った奴には悪いが運が悪かったということで終いや」

 なるほど、この世界で死ぬことがないとなれば、そのような考え方もあるのでござるな。

「そういうことなら夕映殿には手を出さないと約束してもらえるでござるか? 
 それならば拙者もそれ相応の相手をいたそう」
「うむ、乗った。
 あの坊ちゃん行かせてしもうたから仕事は失敗やし。何もせんで還るんも味気ない。
 お前等わかったか?」
『『『おぉーう』』』

 なんとも気の良い……いや、その生を楽しんでいると言った方がいいか。
 このような約束を娯楽の為と受け入れるとなればあちらの世界はよほど娯楽が少ないと見える。

 ただ……問題はあの少年でござるな。

 暗い森の中から歩いてくる暗い瞳の少年。
 その眼には何も映っていない。感情というものが無い。

「さて夕映殿、ここから少し離れているでござるよ。
 近くにいては危険でござる」
「では楓さんも一緒に……!」
「それはできないでござる。
 敵とはいえ、約束してしまったでござるからな」

 近くにいれないことは申し訳ないでござるが、近くにいると巻き込まないという保障ができないのでござる。
 あの少年であれば巻き込んだ者も……それを考えればこそ、夕映殿には離れていただかなければならないでござるな。

「わかったです……ですが、楓さんもくーふぇさんも……無事に帰ってくることを約束してください」
「あやー、約束と言われたら弱いアルね」
「そうでござるな。こちらは勝手に約束してしまったでござるからな。
 わかったでござるよ。必ず拙者も古も無事に帰ってくるでござるよ。約束でござる」
「約束ですよ……」

 そう言って夕映殿は森の中へ入っていった。
 さて、これからが本当に大変でござるな。カラス頭の相手にあの少年の相手となれば……少しキツイでござるな。

「楓、まさか一人で相手しようなんて思てないアルか?」
「おや、そのつもりだったでござるが?」
「それはずるい――っとと」

 話の途中でまたも黒い狗が古と拙者に攻撃してきた。
 危ないでござるな。まだ話が終わってない時に仕掛けてくるとは。普通なら……と、今は普通の状況ではなかったでござる。

 それにあの少年、些か様子がおかしい。
 あの何の感情もない眼。加えて敵意も殺気も何もない、まるで人形でござるな。
 
「あやー、どうするアルか?」
「あの少年は拙者が相手をするでござるよ。
 古にはカラス頭の相手をしてもらってもいいでござるか?」

 古も通常人の中では極限まで体術を極めた人物でござるが、あの少年を人外の初戦にするには少々荷が重いと判断したのでござるが……
 古の実力を認めてないというわけではないのでござるが、今はまだ早い。

「そうアルね、私もそれに賛成アル」
「申し訳ないでござるな。
 納得がいかなかったら士郎殿に相手してもらうでござるよ」
「それ良いアルね」

 申し訳ないでござるな、士郎殿。

 さて、やるでござるか。


 少年は黒い狗を従え、こちらを見ながら構えをとる。


「甲賀中忍、長瀬楓……参る」


 



[2377] 魔法の世界での運命 39話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:c6815466
Date: 2008/02/16 22:40
 〔真名 START〕


 私に苦手な距離は無い。
 遠距離、中距離、近距離……どんな距離であろうとも対応し、受けた仕事に支障をきたすことなく遂行する。
 
 ライフル銃で鬼を撃ち、近づけば銃を使えまいと接近してきた烏族をデザートイーグルで圧倒する。
 この程度の化け物であれば問題はない。
 問題なのは……刹那と同じ神鳴流の剣士だ。

 刹那もそうだが飛び道具に対する防御、対処の仕方で神鳴流の右に出るものはいないだろう。
 私との相性が最も悪い相手なのが神鳴流だ。

 だが……それがどうしたというのだ。
 相性が悪いから私では勝てない? 銃だったから負けてしまった? 

 そんな戯言、私は言うつもりは無い。
 それまで銃で挑んだ者がどうだったかなど私は知らない。だが、負けたというならばその者達はただこいつよりも弱かったというのが結果だ。
 
 私は勝つ。
 勝つ事が出来なければそれは即ち死に繋がるというのが私やこいつの生きている世界だ。
 
 それに……まだ神鳴流に銃で勝った者がいないというならば私がその最初の人物になってやろうじゃないか。
 

「もう、お姉さんが邪魔しはるからセンパイ行ってしもうたやありませんか~。
 どうしてくれるんですか~?」
「それは悪い事をしたな。
 その代わりに私が相手をしよう。それとも……銃では不満かな?」

 もし不満だとかなんとか言ったものなら……

「あや~、やる気マンマンですね~。
 不満とかではないですよ。お姉さん相手やったら油断したら撃たれちゃいますから」
「そうか……ではいくぞ」


 銃を構え、神鳴流剣士に向かって撃つ。
 わかっていた事だがそれをあっさりと反応し、銃弾の軌道を左に持った小刀で変えられる。
 
 無駄な弾を使うようだったがこれはまだ相手の力量を見るのに使える。
 今の対処の仕方を見る限りでは……刹那よりも銃などの飛び道具に慣れているようだな。
 余裕すら感じられる対処、そして躊躇うことなくこちらに笑みを浮かべながら駆けて来る。

 
 右手の太刀で袈裟で切りつけ、返す刀で小刀と同時に切りつけてくる。
 私は袈裟切りを半身になって避け、二刀での切りつけてくるのをまともに受けないようにしながら銃で受け流す。
 
 神鳴流の得物は気で強化されている。それをまともにもらってしまえばただの刀だったり銃だったりすれば簡単に切断されてしまう。
 私のデザートイーグルはそのただの銃ではない特注のものだが、それでも油断は出来ない。
 
 
 この神鳴流剣士……刹那よりも剣筋が鋭いのに加えて小刀に太刀という神鳴流剣士にしては小振りの得物の分、速い。
 それにこの剣は神鳴流の目的としてる魔を討つ為の野太刀ではなく、対人の剣だ。
 魔よりも人間を念頭に置いたこの戦い方は確かに理に適っている。
 神鳴流も時代の流れに逆らえなかったという事だろうか。昔よりも魔を討つという事が少なくなり、呪術使いの護衛にしても人間相手が多くなったのだろう。
 私の仕事にしても学園長が言っていたが“昔よりも魔の仕事が減ったの~”とのことだ。
 それはそれでいいのかもしれないのだが流れというものは怖いな。
 
 
 神鳴流剣士の剣は迷い無く私を切る為に迫ってくる。
 ただの袈裟切りが速く、注意しなければすぐに防御を崩されしまう。
 
 私は台尻で太刀の軌道を変え、受け流し、受け流しが出来なかったとしても力の加わる場所をずらして受ける。
 それでなんとか銃を切断されずに済んでいる。
 弾はほとんど撃っていない。今、この状態では撃ったとしても当たらず、むしろ隙になってしまうからだ。
 
 防御に専念しているが、それが続いているという事はまだ力の差はそこまで開いていないともいえるかもしれないが、それは神鳴流剣士が手を抜いていなければの話だ。
 私から見た感じでは手を抜いているようには見えないがそれでも油断というものはそれまでの流れを変えてしまう。

 神鳴流剣士は太刀で頭を跳んで狙ってきた。
 だがそれは私から見れば隙を見せたとしかいいようがないほどだ。
 太刀は頭を狙っている、それを避けられないが防ぐ事はできる。それを銃で防いでもう片方で相手の腹部に銃弾を撃ち込めば流れはこちらに傾く。
 小刀一つで銃弾の連射を全て防げはしないだろう。もしも防いだとしても、それで太刀の剣は止めるしかない。
 
 さすがにこの銃弾で死にはしないだろうが術を施した弾丸だ、気をまとっているだろうから威力は軽減されても動きに多少の支障はでる。

 頭を狙ってきた剣が振り下ろされる直前、私は視界に入ってきたものに目を疑った。
 先ほどまで左手に持っていた神鳴流剣士の小刀が私の視界に入り、そして通りすぎる。
 
 その光景を見て私は今は空になっている神鳴流剣士の左手を見ると、そこには今まさに私に向かって気が打ち出された直後だった。
 それに対して私は肘から先だけで右の銃の向きを変え、打ち出された気を撃つ。

 それで気の直撃は逃れたが、それだけで終わらなかった。
 すでにに頭に太刀を振り下ろされ、それを受け止めるまではいい。だが、その打ち込みが先ほどまで私が受けていたものと重さが違う。
 それに気がつきすぐさま視線を狙っていた腹部から上に向けると、そこには先ほど宙を舞って私の視界を通り過ぎた小刀をつかみ、私にそれを振り下ろす。

 だが、それでは私には届かない。小刀では短すぎる。

 しかし、それも私を狙ったものではなかった。

 狙っている軌道は自らの太刀。
 それを見て神鳴流剣士の狙いがわかった私は右の銃を左の銃に交差するように合わせる。

 その後の刹那の瞬間、小刀が太刀に打ち付けられる。

 こいつ……速さを重視しているかと思えば今度は力技かっ!


 小刀を打ち付けた直後、こいつは私から距離を置き、こちらに視線を向ける。

 こいつが先ほどしたことは力技だが実戦使うには不向きなものだ。
 一撃目で相手の得物で防御させ、二撃目で力で叩き切る。そういうものなのだが、口で言うのは簡単だ。
 が、例を出すならば釘とハンマーだろうか。

 木にただ釘を手で打とうとしても精々ちょっとした穴が開くぐらいだがハンマーを使えばそのようにはならない。
 ハンマーで釘を打ち付けることによってただ釘を突き刺すよりも、比べものにならない力を出す事ができる。
 釘でそれ程の力をだすことができるのだ。それが今のように剣でそれも切れ味、耐久力を強化されたものであれば私の銃の片方だけでうけたのであれば切断されていた事だろう。

 加えて、あの打ち出した気だ。
 あれで相手に当てる事ができれば尚良いが、それができなくとも私のような二丁の銃を使うものだったら防いだ事で隙だと考え、そのまま攻撃に移ろうとするだろうが、その時には手から打ち出した勢いのまま上に投げた小刀を掴んで自分の太刀に打ち込み、こちらの得物を破壊し、そのまま頭を割る。

 あの時、些細な変化に気がつかなければ私は今このように思考する事もなかっただろう。


「驚きましたわ~、まさかあれに反応するなんて思ってもいなかったです~」
「それはこちらの台詞だ。
 あれの伏線の為にわざわざ小刀を離して自分を危険にさらすとは思わなかったさ」

 軽口を叩いてはいるが今の私は先ほどの私とは違う。
 なんとか二丁の銃で防ぐ事はできたが、それはギリギリだった。その所為で体勢は崩れ、それを辛うじて防ぐというのが精一杯だったのだ。
 そして腕の力だけで何とか防ぎはしたのだが、体勢が不十分だった分が腕に掛かり手首を少々、傷めてしまった。
 これではさすがにこの神鳴流剣士が相手ではこちらに不利という結果にしかならないだろう。

  
 すると、相手はこちらから視線を外す。
 なめているのかと思いはしたが、それは轟音に掻き消される。

 士郎さんが戦っているのだろうと思い、気にはなったがこちらは視線を外さない。
 むしろ、こちらは銃を向ける。

「戦いの最中に相手から視線を外すとは余裕があるな。
 それとも私では相手にはならないのか」
「いえ~、お姉さんはお強いですえ。
 ただ、今はちょっと休戦しませんか? ウチ、あの白髪の人の戦いが気になるんです~」

 それだけで私から視線を外すか……なめているとしか言いようがない。

 が、そう思考している最中も轟音が止む事が無い。
 まるで大砲が着弾しているかのような、そのような音が止まない。
 私の視界には入らない。それが気になりはするのだがこれがこの相手がこちらの隙を誘っているのではないだろうかと考えもある。

「もう、信じてくれないんやったらこれでどうですか?」

 そう言って持っていた太刀と小刀を地面に突き刺した。
 
「これで今はこちらに戦う意志はありませんえ。
 もうちょっと言うんやったら、あの人の戦いはそうは見られるものじゃありまへんえ」

 罠か…それとも真実なのか…
 ただ今言えることは本当に神鳴流剣士には現時点で戦う意思はないようだ。

 
「……いいだろう、その言葉を信じてやる」
「どうも~」

 こちらの手首の不安もある。休めるというならば普段ならばありえないが今は休んだ方がいいだろう。
 それにこいつ、こっちのこと忘れてるんじゃないだろうかと思うほどに私から意識を外している。


 私も鳴り止まぬ轟音の方へ顔を向ける―――そして目を疑った。

 大鬼が振り回しているのは士郎さんの胴の二倍はあるのではないかという太さの鉄の棒。
 どれほどの重さなのかと考える以前に大鬼はそれを振り回し、苦とも思っていないかのように笑っている。

「ぐぁははははっ!」

 笑いながらもその棒を止めることなく、大砲の着弾のごとく一撃が重く、それが連続して撃ち出される。

 士郎さんはそれを避ける、打ち下ろされる棒を半身で避け、そこから横に凪がれる棒を後退してその範囲から外れる。
 その攻撃範囲に入ったとしてもその両手に持つ白と黒の剣をもって受け流し、自身に負荷の無いようにしている。

 そのような動きを繰り返しながら大鬼は進み、士郎さんは後退する。その後に残されたのは破壊の跡。

「あや~、あの人はホンマに相手にしたくありませんな~」
「……お前でも相手にしたくないのか」

 呟かれた言葉に思わず反応して私も敵である相手に聞き返してしまう。

「そうですね~。あの大鬼さん、結構強いです。
 私でも時間がかかりますし、それにあのリーチであの攻撃の速さは手ごわいですね~。
 それを反撃していないとはいえ、あそこまで無駄のない動きで避けるんですから厄介としか言いようが無いですね~」

 確かに言う通りだ。
 大鬼の攻撃はあの巨体、あの得物だというにも関わらず速い。
 
 あれではその懐に行こうとしてもリーチの差で難しいだろう。
 加えてあの棒で繰り出される威力は凄まじいものがある。一撃でもまともに喰らえば良くて重傷、下手をすれば潰されて死ぬ。

 
 ふ。敵に話しかけ、そして私もその戦いに見入ってるとはな。


 つい十数分前はどちらに向かうかで判断を迷っていた人がこんな戦いをするのだから世の中というのはわからない。
 

 ―――戦闘前―――

 士郎さんは迷っている。
 刹那たちに援軍として向かうか、綾瀬のところへ向かうかで。
 
 そんなに迷う事だろうか。
 私はすぐに二手に分かれればいいと考えたのだが、それを士郎さんがわかっていないとは考え難い。
 この人は戦場を戦ってきた人間だ。場所は違うとしても戦場というものを体験している私にはわかる。

 ならば今のような状況になった場合に取る選択は私が考えるもので二つ。
 二手に分かれて行くか、もしくは見捨てるかだ。
 救いを求められているこの状況で見捨てるなどという選択は前提に置く事すら間違っているのだが、それならば何故、この人は迷っているのだろうか。

「士郎殿、もしや我々に危険が降りかかる事を危惧し、それで迷ってるのではござらんな?
 それで安全のためにまとまって動き、戦うのは自分だけなどと考えているのではござらんか?」

 ……なるほど、楓の行った事は正しいようだ。
 明らかに士郎さんの表情が変わった。苦虫を噛んだように、そして改めて迷っている。

 士郎さん、その考えはくだらない。
 今、刹那たちが置かれている状況はおそらく生きるか死ぬかだ。
 その状況で私達ができる事といったら援護、救援。
 そしてどちらも生き残る可能性を上げるには私達が二手に分かれることが最もその可能性を高くすることが出来るはず。

 それなのにまとまって動く事で得られるものなんて何も無い。
 それに私達は救援を求められたのだからそれを遂行しなければならない。

「助けを求められたのは士郎殿も拙者達も同じ。
 ならばどちらも救うというもの確かなものでござる。しかし、そこで士郎殿が迷っていてどうするのでござるか。
 どちらか一つに拙者達が行ったとしたら確かに最初に行った場所の人物は助けられるでござる。だが、もう一つの人物は助からないかもしれない。
 拙者達に多少の危険が及ぶ事など百も承知していること。それなのにも関わらず、拙者達を気遣う必要などない。
 今、考える事は刹那や夕映殿を助ける事。そのどちらも救う可能性を高くする方法は拙者達が二手に分かれること。
 それをわからない士郎殿ではないでござろう。
 ……士郎殿がどんな道を歩んできたかはしらないでござるが、今は拙者を古を真名を信頼してほしいでござる」


 楓の言葉を受けても士郎さんはまだ迷っているようだった。
 だが、その表情はすぐさま旅館で見せた表情に変わる。

「長瀬達の力を信頼していなかったわけではない。二手に分かれたほうがより効率が良いこともわかっている。
 だが、それでも心配だった。二手に分かれて長瀬達に危険が及ぶ事が不安だった。
 だが……信頼していいんだな? 大丈夫だな?」
「もちろんでござる」
「無問題ネ!」
「これでわかったろう士郎さん。私達は今だったら良い意味で普通じゃないんだよ」
「そうだな。
 よし、だったら俺以外は夕映の救助に向か「却下でござる」―――何故?」

 士郎さんの言葉を遮る楓。
 まぁ、今、士郎言おうとしたことは私にもわかったがね。
 “俺以外は夕映の救援に向かってくれ。俺は一人で桜咲のところに行く”だろう。

「真名、そのまま士郎殿について行ってほしいでござる」
「了解した」
「何故だ? 理由を言「士郎殿一人で行かせたら何をするかわからないでござる」―――今の俺はそこまで信用ないのか……」

 それもさっきまでの士郎さんの態度の所為さ。観念した方がいい。

 士郎さんは楓も私も古も意見を変えることがないとわかったのだろう。諦めた様な表情をしながら“わかった”と頷くしかなかった。
 
 そして唐突に。

「龍宮、俺の首に摑まってくれないか」
「は?」
「いいから」

 今の状況でさらに首に摑まれと? 一体なにがしたいんだこの人は。
 だが、意味あってのことだろうと判断して私は士郎さんの首に摑まって―――っておい、楓。その含み笑いはやめろ。

 士郎さんは服の上着の中に手を入れて何かを出した。
 
「士郎さん、それは?」
「おぉ! それは子母鴛鴦鉞アルね!
 ていうかどこから出したアルか? 抜身で持ってたらささらないあるか?」
「それは秘密だ。
 秘密があったほうがかっこいいだろう? 
 これを古は使う事ができるか? 使って戦いに支障が無いんだったら持って行ってくれ。役に立つかもしれない」
「それは女性が使うものではござらんか?
 今はいいでござるが」

 ほんとにどこから出したんだろう。少なくとも私が抱えられて運ばれている時はあれが懐に入ってるという感触はなかったんだが。

「一応、頑丈に作られているがもしも壊れたら消えるからそれを覚えておいてくれ」
「わかたアル!」


 それを渡して楓達と別れ、さらに速さを増した士郎さんに聞いてみた。

「士郎さん、さっきの本当にどっから出したんですか?
 本当は服の中になかったですよね」

 士郎さんは少し呻りながら答えてくれたのだが……

「魔法の品、ということで納得してくれないか?
 もうそろそろ桜咲達が見えてくるだろうからな」
「……わかりました」

 今は聞く時じゃないと判断して、それ以上は聞かなかった。


 ―――現在


 そんな本心がつかめない人が予想以上の力量で大鬼の相手をしている。
 わからない、ただただわからない。

 ここから見て取れる士郎さんの表情は鋭く、旅館で見せた時とは全く違う。
 旅館の時に見せたあの表情、貫くような視線が本質なのだろうと思ったのだが……全く違う。
 今の表情がこの人の本当の本質なのではないだろうか。
 

 大鬼の棒が士郎さんを捉えた。と、思わず考えてしまったのだが、士郎さんは棒の範囲外におり、大鬼はそれを追わずに棒を肩に抱えて何か士郎さんに話しかけている。

 ここからではその会話は聞こえないが、この空間の空気が重くなった事は感じとれている。
神鳴流剣士もそれを感じとり、若干、表情が険しくなっている。

 すると士郎さんは両手に持った白と黒の剣を消し―――なんだあれは……!?

 
 そして私は信じられないものを眼にする事になる。






[2377] 魔法の世界での運命 40話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:4f5665e7
Date: 2008/10/17 21:30
己が命じられたことをすればいいだけのはずだった。しかし、それだけでは治まらない衝動に襲われてしまっていた。目の前の男と全力で、そして負けさせることができたならばどれほどの歓喜が得られることだろうか。それだけを考えて攻めを一時的に止めただけだった。

 
 ただ、己が全力を出してぶつかるに値するものがこのまま全力を出さぬまま還るのはつまらなかっただけだった。


「兄ぃちゃん、このままやったらワシが還るのを待つしかないで?
 それやったらつまらん。ワシがつまらん。
 ……兄ぃちゃんは強い。確かに強いと感じられる。ワシも長すぎる年月を過ごしてきたから多少の力量は感じとれる。
 だからワシは今、全力で兄ぃちゃんに向かっとる。なのに兄ぃちゃんがそないやる気のない戦いをするんはワシに対する侮辱や。兄ぃちゃんは全力を出している相手にこないな侮辱をあたえるんか?
 武士でも侍でも騎士でもえぇ。その誇りが傷つかんのやったらまた始めるで」

 ワシの言ったことはただの挑発。
 今の兄ぃちゃんは俯いてどんな表情かわからんけど……これは期待できひんなぁ。

 そう思うて得物を構えた瞬間に空気が濃く重くなった。
 それまでも張り詰めとったが……やっぱ兄ぃちゃんはただ者やない。
 兄ぃちゃんから漏れ出るような空気は殺気とは違うが、それに引けをとらんような空気を出しとる。
 そやな……例えるなら覚悟やないかな?

 ワシを倒すという覚悟の決意が固まったんや。

「……すまなかったな。できるだけすぐに倒そうとは思っていたんだ。
 いや、それでは矛盾するか。確かに倒そうとは思っていたが、あんたが強くて迷ってたんだ。
 あまり……見せたくないものなんでな。この能力は」

 
鬼は思ったことだろう。
開けてはならない箱を開けてしまったのだと。

鬼の目の前にいる名も知らぬ男は何もない空間からその身体に合わぬ斧のような巨大な石の塊のようなものを出した。先ほどまで持っていた白と黒の剣はすでにその手にはない。
それだけでもおかしい光景であるにも関わらず、それを右手でつかみ、腰に構えるようにしている。
動かすだけでも困難だろうものを構えることが何の意味を持つのだろうかと普通であるなら考えるだろう。

 ただこの男は普通ではない。この世界にこれだけおかしい男はいないことだろう。

「おれも全力をだそう。
 だが、申し訳ないが一つの技で終わらせてもらおう。時間がない」
「挑発で言うたら挑発で返す。えぇで、兄ぃちゃん。勝負や…」

 空気がこれまでにないほど重くなる。
 兄ぃちゃんは何かを呟いとる……ということは魔法…? いや、それやったらあの得物の意味がなくなる。
 それやったら……やめや。
 今はこの戦いを楽しむ!! それだけや!!

「がぁあああああああっ!!」
「投影・完了 全行程投影完了―――是、射殺す百頭」

 その言葉があの戦いの最後の記憶。
 
 


 真名はそのありえない光景を一生忘れないだろう。
 神鳴流でもない男が神鳴流の技を……いや、それに酷似した技を繰り出すということが信じられないでいた。
 確かに魔力はかなり高い方ではあるし、先ほどの大鬼との戦いを見ていれば身のこなしは無駄がない。だが、それだけであのような技はだすことはできないだろう。
 ……剣で鬼を還している時の剣筋は鋭い。だがそれだけだ。


 士郎さんが私の方へ歩み寄ってくる。
 その視線は私ではなく、神鳴流の剣士に向けられている。剣を持ち、隙もなく歩み寄ってくる。

「……残念、終わりのようですな~」
「そのようだ、君達の負けのようだな」

 あの森の向こうに見えていた異常な大きさの鬼が消えている。

「う~ん、私もお兄さんと戦いたいんやけど、これ以上は時間外労働になりますね~
 また、今度にしょましょうな~。では、また」

 そう言って神鳴流剣士は森の中へ歩いて行き、消えていった。


 残った他の鬼は親玉となる大鬼が還されてから士郎さんに襲いかからなかった。
 その代り、あの大鬼とまた戦い以外で会うことがあれば酒でも飲んで語らってほしいと言い残し、その存在をこの世界から消していった。

「よし、急いで向かおう。状況が気になる」
「そうですね、行きましょう」

 会話もほどほどに私たちは刹那たちがいるであろう場所へ向かった。
 未だ消えぬ疑問を持ちながら―――




 その時の感想はどうだったろう。
 決まっている、情けない。ということだけだ。

 完全な油断奇襲を受け、しかも私よりもぼーやの方が早く気がついた挙句、私を助けようとするなどと思いもよらなかったことだ。
 結果は私がぼーやを突き飛ばしてあの小僧の魔法を食らった。
 まぁ、不死である私には意味はないがな。……めんどくさい、ということはあるがな。

「……なるほど。
 相手が吸血鬼の真祖では分が悪「うせろ、人形が」

 小僧の最後の言葉を聞かずに私は爪を薙いだが、その身体は水となって消えた。

「逃げたか……」
「マスター、御無事で」
「エ、エヴァちゃん! い、今のって!?」
「うむ。今のガキも人間ではないな。動きに人工的なものを感じた。
 どこの手の者かはわからんがな……まぁ、安心しろ。修学旅行中は私がついている」

 少なくとも私がそばにいる限りはあの小僧も手を出さんだろう。
 
 神楽坂明日菜は私があの小僧の魔法で腹を突き刺されたことで騒いでいたが問題はない。
 本当に騒がしい女だと考えている時、唐突にぼーやが倒れた。


「ネギくーん」
「ネギ先生!」

 近衛このかと刹那が合流し、そのすぐ後にも他の連中が合流したが、その中に衛宮士郎の姿はない。
 まだ足止めを食っているのか、それとも倒れたか……それはないか。
 今はぼーやの方が重要だ。
 
 そう思ったとき、森の向こうから衛宮士郎と龍宮真名の姿が現れた。
 こちらの状況を理解した時の衛宮士郎の表情は苦渋の色を見せ、こちらに駆け寄ってくる。

「何があった、エヴァンジェリン」
「見てそのままだ。
 ぼーやの身体の半身が石化、現段階では回復させる方法が思い浮かんでいない……」

 私も動揺して他の事に頭がよく回らない……どうする……



「駄目だね、いくら一度撃退したからといってすぐに油断したら」

 振り返った時には私の顔に生暖かい何かがかかっていた。
 視界を埋め尽くす真っ赤なナニカ……


 それは衛宮士郎の血だった。


「彼が最初からいたならば奇襲も無理だっただろう。
 けど、ネギ・スプリングフィールド。君のおかげで彼の命はここで尽きるだろう」

 口から大量の血を吐きながら何かを呟いているのが見えたのは私だけだろう。
 衛宮士郎の周りの空間に10はあろうかという剣が浮き、それが小僧に向かって打ち出される。

 大体は障壁に阻まれたが、一本だけ小僧の胸に刺さる剣があった。
 その心臓のある位置に突きささる剣を小僧は一瞥する。

「やはり君が一番油断できない。それだけの深手を負ったとしても反撃をしてくる。
 今回はこれで引こう。また会うだろう……」

 そう言い残して水となって消えた。


 その後に残ったものは石化の進むぼーやと血だまりに沈む衛宮士郎という事実だけだった。




「おい! 衛宮士郎! しっかりしろ!」

 私の前に横たわる男は今や命に関わる重傷。小僧が消えてから糸の切れた人形の様に倒れたのだ。
 他の奴らもこの状況に動揺している。こいつの名を呼び、そしてぼーやの石化の進行も進んでいる。
 
 どうする……っ!? 今の私は何の役にも立たん……


「! そうだ! パクティオーだぜこのか姉さん!」
「え?」
「こんな時に何言ってるのよ! このバカカモ!!」
「違うっスよ! このか姉さんが旦那とパクティオーすれば何とかなるかもしれないんだ!
 あの力がここで使うことができれば旦那だけじゃなくて兄貴も助かる!」

 そうか、その手があったか!
 小動物の考えに乗ってしまうのはいささか気が乗らんが今は仕方ない。
 興味のあるものが二つも消えてしまってはどうにもならん。


 小動物が仮契約の陣を作成し、準備は整った。
 近衛このかも小動物の案に賛成し、真剣な面持ちで衛宮士郎に顔を近づけていく。


 しかし、そこで邪魔が入った。

「待って…くれ……」

 今まさに命を失いかけている本人が近衛このかの肩を掴んで止めた。

「士郎さん! 気づいてたの!?」
「会話は……聞いた…
 おれ……より……ネギ君を……」

 それ以上は口を開くことさえできないのか、視線だけで私たちにぼーやをと訴えている。

「……近衛このか、ぼーやに早くやってやれ。
 でなければこいつは死ぬまでこのままだ」
「う、うん……」

 近衛このかが衛宮士郎に背を向け、ぼーやの方へ駆け寄ろうとした時だった。



 何とも形容し難い生々しい音が聞こえた。



[2377] 魔法の世界での運命 41話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:4f5665e7
Date: 2008/10/19 17:18
 ネギのお父さんの別荘に行った後、私達はエヴァちゃんの京都観光に付き合いながらお土産等を買っている。
 私たちの他にもお土産を買っている生徒がいて、とても楽しそうだけど……私たちはそこまで笑顔になって買うことはできないでいた。
 
「なんだ、まだ気にしているのか」

 エヴァちゃんが私を見てつまらなそうな顔をしているけど、これはだけはどうにもならないわよ……
 刹那さんやこのかだってそうだし……

「エヴァちゃんみたいに神経図太くないのよこっちは」
「ふん、だったら図太くなることだな」

 そう言ってすぐに他のお土産ものを見るエヴァちゃん。
 もう茶々丸さんの腕にもかなりのお土産ものがあるのにまだ買うつもりらしい。

「なぁ、アスナ。本当に大丈夫なんかなぁ……お父様は心配ない言うてたけど……」
「うん……そうよね。
 大丈夫だって言ってたって気になるわよね」


 正直、私はしばらくあの光景が頭から離れないだろう―――




 生々しい音。
 日常にいる人間では決して聞くことはないだろう。
 聞くとすれば戦場にいる人間かもしれない。それほどに聞くことのない音。

 誰もがその音を聞き、そして振り返った。


 少女の顔にアカイ何かが飛び散り、その色が頬伝って地に落ちる。
 微かなその音がこの場の空気を静寂から混乱に変える。



「っ!!??  見せるなっ!!」

 私の言葉にすぐに理解した者はすぐに見せてはいけないモノを見せないようにその人間の視界を塞ぐが、それでも一人だけ見てしまった。
 まだそういうものに関係のある連中はいい。似たものを見る機会は少なからずあったはずだからだ。

 長瀬楓が綾瀬夕映の眼を覆い、刹那が近衛このかの目を覆い、龍宮真名が古菲の目を覆う。
 その中で神楽坂明日菜だけがそれを見てしまった。

 赤いものが飛び散り、形をもっていたものが何かもわからないものになってしまったモノを。

「いやあぁぁぁあぁぁぁあっ!!」

 すぐに茶々丸が抱えて離れるが……いくらなんでもあれは辛いだろうな……

「おいっ! 衛宮士郎!」

 私の呼びかけに応じることなどとてもできないのだろう。
 苦痛に顔を歪め、左手は爪が割れんばかりに地に突き立てている。

 腹に穴を開け、大量の血を流している。それだけでも十分、死に至る。
 それに腕を串刺しにされたらどうなるだろうか?

 答えは簡単だ。
 並みの人間は死ぬ。

 衛宮士郎の右腕はもう腕と呼べるかどうかもわからないほどだ。
 腕だったものからは鋭利なモノが生えている。それは生えてきた腕だったものの血に塗れている。
 私でさえそれが一瞬何だかわからなかったが……理解した。

 これは剣だ。
 だがなぜ、これが腕から生えてくる? わからない。ありえない。

 かける言葉さえない。それほどに私もこの光景に圧倒されている。

 剣がどんどん生えてきている。
 ゆっくりと、しかし徐々に数を増やして。肉を突き破って切っ先を出している。

 どうする!? どうしようもないのか!?
 
 ! そうだ、やってみる価値はあるあもしれない!

「近衛このか! ぼーやと早く契約しろ!
 それで衛宮士郎が今よりはマシにはなるかもしれん! 早く!」
「う、うん!」

 
 近衛このかがすぐにぼーやと仮契約し、ぼーやの石化、そして周りの連中の怪我なども消えた。
 衛宮士郎は……

 腹の傷は良くなっているが……完治はしていないか……
 しかし、腕の剣は消えてきている。

 だが、油断はできないな……早く治療をしなければ先程のようなことになるかもしれん。

「本山に戻るぞ!」



 本山に戻り、近衛詠春や他の連中の石化を解き、すぐに衛宮士郎の治療ができるやつを呼ばせた。
 それからは部屋に籠ってしまったのでどのような状況かはわかんが……

 

 近衛詠春が他の連中に休むように言ったのだが、何人かは衛宮士郎が気にかかって眠れないと言う。
 無理もないことではあるが、このままでは面倒になると思い、魔法で眠らせた。

 神楽坂明日菜以外は。


「早く寝ろと言ったはずだが?」
「……あの光景が頭から離れなくて眠れないのよ」
「真正面から見たからな。だが、それだけを気にしていては潰れてしまうぞ。
 気にするなとは言わん。だが、貴様がこれからもあのぼーやと共に行くというのならばあの光景のようなことはあるかもしれん。
 それを受け止められないというのであれば、ここでやめてしまえ。その方がお前の為だ」
「そう簡単には受け止められないわよ……ついこの前までただの中学生だったのにいきなり魔法なんてものに巻き込まれて、今日みたいなもの見ちゃったら……」

 たしかにそうだ。
 こいつのいうことは間違ってはいない。普通に考えればそれが真っ当な意見だ。

 だが、それは一般人の答えだ。

「それでお前は逃げ出すという訳だな? は、何とも自分勝手な奴だ。自分から関わっておいて、今度は自分の都合で離れるというわけか? 
 これではぼーやの方がよっぽど大人だな」
「……どういう意味よ」

 睨むように私に向って視線を向けるが、それを嘲笑うかのように言葉を進める。

「ぼーやは今回のことを見てはいないだろう。
 だが、ぼーやはあれを見たとしても貴様のようにそこで立ち止まりはしないだろう。そうでなければただの才能だけでここなで来ることはできん。
 中途半端な心構えでは何も出来ん。守ることも出来ん。それがたとえ命を投げ出そうともな」

 日本人は命を懸けても、ということがあるが……それでなにもかもできてしまえば力なんてものは些細な力になってしまう。そんな生易しい世界ではないのだ、魔法の世界というものは。
 強くなりたければ力をつけろ、志を持ったのならば覚悟を決めろ。
 でなければとっとと逃げ出せ。

「私はあの時、ネギを守ったわよ! 石になっちゃうかもしれないのに!」
「それは貴様に魔法が効かないということが薄々勘付いていたからだろう。
 それは覚悟を決めたのではない、ただの博打だ。それを履き違えるな」

 私が何も見ていないというわけではない。
 ぼーやの行動は視ていたし、神楽坂明日菜の行動もすべてを視ていた。

 もう言い訳が尽きたようだな。何も言ってこない。

「お前はつまらないな。あの橋の上での戦闘の時に興味がでた私が恥ずかしいぐらいだ」
「じゃあ……どうしろっていうのよ……」
「力をつければいいだろう。
 それで今回のように博打で助けるのではなく、貴様の力で助ければいいだろう」


 そう言ってエヴァンジェリンは明日菜の下から去った。
 エヴァンジェリンは明日菜を気にかけたわけではなかった。ただ、あの状況を見た明日菜がどのようになっているかによってどうしようか確認しに来ただけだった。
 そこで見たものといえば士郎の状態を見て半ば傷心の形で佇んでいるだけだった。
 それが気にいらなかった。

 だから貶してやろうと思ったのだ。
 しかし、明日菜は後々気づくことになるが、これは励ましているととってもおかしくはない。
 本人は気付いていないようだが。




 今日は京都から麻帆良へ帰る日。
 このかもほかの皆ももう終りだっていうのに元気よね~ ネギもネギでお父さんの手がかりが見つかったとか何とかで元気だしね。
 
 うん、今度はちゃんと私の力でネギを守ろう。
 エヴァちゃんに言われたみたいに博打じゃなくて、私の力で守れるように力をつけなきゃ!

「ハーイ、皆さん。この後、私達は午前中のうちに麻帆良学園に到着、その後は現地にて解散。
 各自で帰宅となりまーす。
 修学旅行楽しかったですか~♪」
『は~~い』  (アホばっかです) (だから幼稚園かっつ~…)

「ネギ先生― ネギ先生からも締めの一言お願いしま~す」
「あ、ハーイ」

 あ~、ネギ。足元気をつけ

「あぅ~」

 また転んじゃって…… まったく、昨日とは別人ねー。


 ネギが締めの一言を言い終えると、いいんちょが手を挙げた。

「ネギ先生、士郎先生はどうなさったのですか?
 朝から姿が見えませんし……」
「あ、え、え~と……その……
 士郎先生は……ちょっと事情がありまして仕事に行ってしまいましたので……
「そうなのですか……修学旅行中にまで仕事なんて士郎先生もたいですわね……
 しかし! ご安心をネギ先生! 士郎が不在といえども、この雪広あやかがそれを補い、あまりある―――」
「はいはい、わかったよいいんちょ。
 ネギくん、次行ってみよ~」

 パルがいいんちょの暴走を軽くスル―して、他のみんなもそれに同意するように荷物を持って移動の準備をしている。
 
 ……士郎さん、本当に大丈夫かなぁ……
 あの後、士郎さんを見たのは誰もいないし、このかのお父さんから士郎さんは大丈夫だって聞いたけど、それでも心配よね……

 そう思っていたら私の肩を誰かが叩いた。
 刹那さんだった。

「アスナさん、今、長から式紙で言伝が届いたのですが、士郎先生は先程、気付かれたそうです。
 あの傷の後遺症もないですし、あの腕のことも問題ないそうです」
「ホント!? よかった~」
「はい、2、3日すれば麻帆良へ戻ることができるとのことなので、治癒も進んでいるのでしょう」

 本当によかった。
 あれだけ私たちのことを助けてくれたのにお礼も言ってないんだから。

 このことはネギや、あの場にいた人にも伝えられてみんな喜んでた。
 それでみんな安心したのかすぐに寝てしまって私も眠くなってきちゃった。
 ネギは―――もう、私の隣で寝ちゃってるし。先生が寝てちゃダメじゃないの。いいんちょからもなにかって……寝ちゃってるし。

 やっぱり士郎さんがいないとダメね。



[2377] 魔法の世界での運命 42話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:4f5665e7
Date: 2008/12/12 04:28
 修学旅行から帰って来て、私達は休日で休んでいた。
 私は変な夢を見て起きた。ふと、目を向けるとネギはもう起きていて机に向って何かを書き込んでいる。

「帰って来て早々、何カリカリやってんのネギ」
「あ、おはようございます。アスナさん」

 私はネギのロフトに飛び移って、そこに置いてあったチョコみたいのをつまむ。
 
 ネギが書き込んでいたのはこのかのシブいお父さんからもらった地図で、それはこの麻帆良学園の地図の束。 
 しかも、この地図はネギのお父さんがあの別荘に来た時に最後に研究していたものらしい。
 ネギは地図に書かれた暗号を解読しようとしているみたいだけど、妙にうれしそうだ。
 お父さんの手掛かりになるかもしれないし、それも仕方ないかもしれない。
 キラキラ目を輝かして、がんばってるの見ちゃうとホント、子供よねぇ。

 …あれ? なんで意気込んでるネギを見てドキドキしてるの私。


 ネギがいろいろやることがあるらしくて、私とネギはどこかに向かっている。
 なんでも修学旅行の件で力不足を実感して“あの人”に弟子入りしようと思っているらしい。
 あの人って誰?

 ついたところは森の中のログハウス。
 扉をノックして出てきたのは。

「これはネギ先生…ようこそいらっしゃいました」

 茶々丸さんだった。

「えぇっ!? てことはつまり弟子入りってエ、エ、エ、エヴァちゃんに!?」

 なんでまたエヴァちゃんなのよ! まだあんたの血をあきらめたわけじゃないのに!

「大丈夫ですよ明日菜さん。
 それに僕は力が欲しいんです。大切なモノを守る力が…
 今度何かあった時には…僕に守らせてください。このかさんや…アスナさんを」
「…」

 はっ! 何また私ドキドキしてるの?


 中に入ってネギがエヴァちゃんに弟子入りをお願いしたら

「は? それは本気で言っているのか? 私はお前の血をまだ狙っているのだぞ?
 加えて私は悪の魔法使いだ。そんな奴に弟子入りするなど何を考えている。弟子も取らんぞ」
「はい! それを承知で今日は来ました。
 何より京都の戦いをこの目で見て魔法使いの戦い方を学ぶならエヴァンジェリンさんしかいないと!」

 ネギがそう言うと、エヴァちゃんは表情がなくなった。
 まるでネギの言葉が信じられないかのように見定めているみたいだ。

「何よ、ネギの言ってることが信じられないのエヴァちゃん」
「…ふん。ぼーやが言っていることは本心なのかもしれないが、それが覆るかもしれんモノを私は知っている。
 ぼーやに教えておこう。魔法使いには二つのタイプがある。
 従者に前衛を任せる魔法使いのタイプ。従者とともに前に出て速さを重視した魔法剣士のタイプ。
 強くなればこの二つには区別はなくなるが、言うなれば私は魔法使いのタイプだ。魔法剣士の要素も必要にはなってくるが…ぼーやはどうなるかな? くくく…
 茶々丸、アレを見せろ」
「はい」

 すると茶々丸さんは部屋を暗くすると、目から光を出す。
 それは何かの映像で映っていたものは…士郎さんとあの鬼の軍勢だった。

「これは…」
「ぼーや達が祭壇に向かってからの記録だ。衛宮士郎の戦いが記録されている。
 神楽坂明日菜は見たかもしれんがな」

 映像の中の士郎さんが動き出す。
 両手に白と黒の剣を持って襲ってくる鬼たちを斬り、その動きに淀みはなかった。
 
 その光景にネギも食い入るように見入っている。
 そして映像は私の知らないところに来る。

 士郎さん正面に立つのはあの大鬼。
 少しだけ士郎さんと会話をしているらしく、二人は動いていないけど、それもすぐだった。
 大鬼が柱みたいな棒を士郎さんに向けて、振り下ろしながら攻める。
 それを士郎さんは避けるだけ。反撃もなにもしない。それを見るだけなら誰でも士郎さんが押されてるって言うだろう。

 でも、また動きが止まる。

 大鬼がなにか言って、それを士郎さんがただ聞いているだけだ。
 でも、大鬼が構えをとったら映像からでもわかるぐらい士郎さんの雰囲気が変わった。

 そしていきなり何もない空間から士郎さんと同じくらい大きい斧みたいのが出てきて、それを掴んで、士郎さんも構えをとる。
 大鬼が士郎さんに向って駆け出す。


 私には、その光景がほとんど見えなかった。


 大鬼が駆けて士郎さんに向かったところまでは見えた。でも、そのすぐ後には大鬼は消えていた。
 わかっているのは士郎さんがあり得ないぐらいの速さで斧みたいので大鬼を倒したってことぐらい。

 そこで映像が終わった。

「どうだ、信じられないものを見た感想は。
 これでも私の弟子になりたいと言えるのか? ぼーや」
「え? あ、いや…」

 あきらかにネギは動揺していて、どうすればいいかわからないでいるみたい。

「ねぇ、エヴァちゃん。
 たしかに士郎さんがすごいっていうのはわかったけど、これって魔法じゃなくて刹那さんみたいな技とか技術でしょ? なのになんでこれが弟子入りするのに関係あるの?
 魔法使いの弟子っていうなら、エヴァちゃんが適任じゃない」
「貴様の頭はザルか?
 さっきも言ったが魔法使いと魔法剣士のタイプは二つあり、強くなれば区別はなくなる。ということはだ、ぼーやが衛宮士郎のような体術を使えるようになってくれば、後の魔法の部分はぼーやお得意の勉強で最低限は何とかなってくる。
 さらに言ってしまえばあの人形のようなガキにしてやられたのはぼーやが自分の身一つ守れないほど体術の知識も動きもないからだ。その点で衛宮士郎に弟子入りすれば解決するかもしれん

 もう一つ、私に弟子入りできたとすればスクナをさっさと倒せるほどの魔法を身につけられるかもしれない。
 これで貴様の足りなさ過ぎる頭でも理解できただろう」

 う…たしかにちゃんと考えればそうかも…


 ネギも黙っちゃって、これ以上はまともな会話にならないとかでエヴァちゃんは私たちを帰らした。
 でも、今度の土曜までに結論を出したら考えてやらないでもないっとのこと。

 にしても、ネギずっと考え込んでるわね。
 ちょっと私が慰めてあげれば元気が出て、いつもの……はっ! なに考えてるのよ私は! ちゃんとネギが決めなきゃダメじゃない!



 私達は学園長のところに行き、士郎さんのことを聞いたら治療で一週間ぐらい麻帆良には戻ってこれないらしい。
 心配だなぁ……


それから本屋ちゃんたちと会って私の胸が苦しく……なってないなってない。

 そんなことがあったりしたけど、私のドキドキはカモのホレ薬が原因だった。
 よかったわ、ホント。



 夜になって、私達は夕飯を用意している。といっても私には料理はできないから食器の準備を刹那さんとしてる。
 なんで刹那さんがここにいるかというと、このかが刹那さんと仲直りしたそのお祝いとして、今日はこのかが腕をふるって料理を作ってる。

 刹那さんは戸惑ってるようにも見えたけど、準備しているこのかを見てすごくうれしそうな顔をしてた。

「あ、アスナ~。お醤油なくなってもうたから買ってきてくれへんか?」
「ん、わかった」
「あ、それでしたら私の部屋にありますから持ってきますよ」

 そう言って刹那さんが醤油を取りに戻ろうと部屋を出ると

「し、士郎先生!? どうしてここに?」

 刹那さんの驚く声が聞こえて向ってみると、士郎さんがそこにいた。

「いや、そのなんだ。帰ってきたんだけど…」
「そういう問題ではなくて、治療のために一週間は戻れないと長から聞いているのですが…」

 そう刹那さんが返したらあきらかに士郎さんが視線を逸らす。


 ピピピッ! ピピピッ!

 後ろから遅れてこっちに来たネギの携帯が鳴る。

「もしもし。あ、学園長。どうしたんですか? え? いなくなってるからこっちにいないか見てくれ?
 ……今僕たちの部屋の前にいます。
 ……はい、わかりました。伝えます」

 電話をやめて苦笑いを浮かべながらネギは言った。

「士郎さん、減給だそうです…」
「…わかった」

 とても現実的な伝言が伝えられた。



 士郎さんも一緒に夕飯を食べ、なんでここにいるのかを聞いた。
 なんでも、傷は完治したらしいけど元の傷がアレだからということで安静にさせられたらしい。 
 でも、早くこっちに戻って詳しい報告をしなくちゃと思ってこのかのお父さんに会って帰るということを伝えたら力ずくで部屋に戻されたらしい。
 それでも帰らなくてはと思って、部屋に張られてた結界をこっそり突破して新幹線に乗って今に至る。

「という訳だ」
「…」

 正直言って…

「士郎さんの真面目ぶりに呆れてしまうわぁ」
「このかと同じ。
 なんで安静にしてないの?」
「傷は治ってたし、動くことにも支障はほぼないぐらい、治癒は終わってたんだ。
 だったら長居をして迷惑をかけるよりこっちに帰って詳しいことを報告した方がいいだろう?
 それに仕事でも俺がいないことで迷惑がかかる」

 ここまで真面目すぎると逆に尊敬するわね。
 でも、大事ないということがわかっただけでもよかったわよね。刹那さんもこのかも安心してるみたいだし。
 
「あの、士郎さん」

 ネギが士郎さんに声をかける。

「ん? なんだネギくん」
「あの…修学旅行の時の士郎さんとおの大鬼の戦いを見ました」

 ネギの言ったことに士郎さんは一瞬、驚いて、そして真剣な表情になった。

「詳しく聞かせてもらおうか」




 士郎先生がネギ先生からあの大鬼達との戦いについて聞いている。
 私とアスナさんと龍宮と一緒に戦っている時から、私たち二人が離れてからの戦いをエヴァンジェリンさんのところで見たということを士郎先生は真剣な面持ちで聞いている。

 それにしてもネギ先生が弟子入りか…確かにあれほどの力を持ったエヴァンジェリンさんに弟子入りするという考えはとても良いと思う。
 その理由も真っ当なものだし、私も賛成だ。

 そしてエヴァンジェリンさんの言い分にも納得できる。
 戦いの道を選ぶ上で方向性を決めるということは重要なことだ。エヴァンジェリンさんと士郎先生のどちらも選ぶという選択肢は入っていない。迷って決めて、それに後悔のないような選択をしなくてはネギ先生の為にならないからだ。

「見られていたのか…
 エヴァンジェリンは誰が撮ったものか言わなかったか?」
「? はい、言いませんでいたけど。どうかしたんですか」
「…なんでもないさ」

 士郎先生は考えるように間を置いて、改めてネギ先生の方を見る。

「率直に言おう。
 ネギ君が俺を選んだとしても俺は弟子には絶対に取らないということを断言しよう」
「え?」

 早すぎる回答だった。

「どうして? 士郎さんぐらい強かったらネギを弟子にとっても問題ないんじゃないの?」
「強い弱いじゃない。
 ネギ君には俺が教えることは何もないからだ」

 それは何の迷いもなく、ネギ先生に向って言われた。その言葉にネギ先生も驚く。

「加えて言えばネギ君に意味を持たない」
「…それはネギ先生に士郎さんのような才能がないということですか?」

 私は士郎先生も言葉に対して反感を持った。
 ネギ先生には才能がある。そして努力することにもなんの躊躇いのないということもわかっている。どんなに辛くても選んだならネギ先生は投げ出さないと私は言える。
 それをまるで、才能が無いというような士郎先生の発言には私の感情も声に出てしまう。
 アスナさんも士郎さんを睨むようにして見ている。

「いや、すまない。言い方が悪かったな。
 ネギ君には本当に意味がないことなんだよ。才能があるから。弟子に取らないではなくて、取れない。といった方がよかっただろう」
「?」

 これには私もよくわからない。アスナさんもネギ先生も同じようだ。

「そうだな…桜咲、外まで付き合ってくれ。
 ネギ君も来てくれ」

 そう言って士郎先生は立ち上がり、部屋を出ていく。


 私達は士郎先生の意図がわからないまま、後を追う。



[2377] 第43話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:4f5665e7
Date: 2008/12/29 03:18
私は士郎先生に連れられて屋外へ出てきたが、まだ何をするかを伝えられてはいない。
 士郎先生も外へ出るということだけを私たちに伝えてそれ以外は話すことはなった。ただ、私から見た限りでは重い空気を背負っているわけでもなく、だからといって軽いわけでもない。
 私達は士郎先生の意図も解らず、外へ促されていく。

 外へ出て、さらに寮から離れていく。
 着いた場所は人目につかない広場。そこで士郎先生は私たちに振り返り、私たちも立ち止まる。

「ここでいいだろう。
 桜咲、悪いけど人払いと防音の結界を張って欲しい」
「わかりました」

 私は結界のための札を貼り、戻ってくると―――

「士郎先生、その刀は?」
「あぁ、これから必要な物なんだ」

 いったいどこに持っていたのだろうか? ネギ先生に視線を向けると、ネギ先生も解らないという視線が返ってきた。

 それにしても…清麿か。
 士郎先生が持っている日本刀は清麿。幕末で有名な刀工といったらこれが挙げられるだろう。
 切れ味も良い。それをここで出すということは…

「手合わせ…ですか?」
「そうだ。ネギ君に何故、意味がないのか、俺が教えることが何もないのかを桜咲が見て判断した方が良いだろう。
 俺が言葉で言うよりも実際に見て、そして判断するものがいた方が信じられるだろう」

 なるほど、士郎先生の言うことにも一理ある。
 ネギ先生のことだ。断ったところで何度も士郎先生に教えてほしいと言うことだろう。

 それに、私も興味がある。
 鬼達と戦ったときの士郎先生の力。それを私はほとんど見ていない。
 あの時の白と黒の剣ではないが、それでなくとも士郎先生の実力は本物だろう。それに気になっているのだ。士郎先生の実力が如何程なのか。鬼達との戦闘で本気ということはないだろう。
 話で聞いた斧のようであり得ない大きさのもので神鳴流の技と似た技を繰り出したいうのだ。それが士郎先生の実力の片鱗かもしれない。
 気になる。見てみたい。
 そして、今後の私の糧になるかもしれない。


 士郎先生は鞘を抜き、構える。その構えは脇構え。
 私は居合切りだが…士郎先生は私の構えを見て尚、脇構えを直さないのだろうか。
 脇構えは右方向からの攻撃にしかほぼ対応できない。居合は士郎先生から見て左からだ。明らかに対処が間に合うとは思えない。
 それとも…私を舐めているのだろうか?

 たしかに私の剣はまだまだ未熟の域を出ないだろう。月詠との戦闘の時もそうだった。いままで戦ったことのない相手の先方に戸惑った。幾多の戦いに適応できて長のように強く、守るべきものを守れるような剣を手に入れることができるのかもしれない。

 しかし、それでも私は私の剣に誇りを持っている。
 それを嘲笑うかのように自分の不利になるような構えを取るとは…少々、頭にきます。

「どうした? 何を警戒しているかわからないが。こなければ俺の力は図れないぞ。
 それとも…負けるのが怖いのか?」

 …言ってくれる。
 この手合わせはお互いに斬らない。寸止めで行うと言っていたが…斬らなければいいんですね?
 清麿も夕凪に比べれば切れ味、耐久性に欠ける。それに士郎先生は気も魔力も纏っているようには見えない。それでは少しの気弾があたれば少しの怪我では済まない。
 強いといっても油断していては意味がない。


 私は瞬動で一気に自分の間合いまで詰める。そして夕凪を鞘から抜く。まだ士郎先生はまだ動かない。
 見たことか、やはり対処ができていない。

 そう思った瞬間。

 私の夕凪は弾かれていた。
 一瞬の出来事に戸惑うが、すぐに立て直す。
 士郎先生は私が夕凪を抜いて斬りつけるギリギリで弾いていた。恐るべき反応速度とそこから弾くまでの剣の速さ。
 やはり強い。

 だが、私はそれぐらいでは止まりません。
 剣を振る。薙ぎ、袈裟、正面…あらゆる角度から士郎先生の態勢、重心を崩すように打ち込んでいく。
 が、それを払い、避け、弾く。その動作に淀みはない。
 だが、私はその動作に違和感を持つ。私とは何かが違う。今はそれしかわからない。

 
 士郎先生は私の打ち込みを受けても全く動じない。どれだけ打ち込んでも対処してくる。
 加えて、あの清麿に刃こぼれ一つない。おかしい…

 そう思考していると、攻めと守りの均衡が徐々に崩れてきた。
 士郎先生が少しずつ、前進してきている。

 そうはさせないと私は剣の速度をさらに上げる。
 それでも、士郎先生は先程と変わらず対処し、さらに前進してくる。

 私の間合いが狭くなってくるのはまずい。最適の位置で打ち込めなければ威力も半減だ。それではいけない。
 私は対処するために後退すると、一気に均衡が逆転してしまった。

 私の打ち込みの合間を狙って、士郎先生が攻めに転じ始めたのだ。最初の一撃は鋭く、まるで初めから狙っていたかのような動き。
 しかし、速くはない。なのに捌き難い。そしてその剣は重い。
 確かに成人の士郎先生と女である私では力は違う。しかし、それを補うように私は気で身体能力を上げているし、重心を使った打ち込みにしている。なのに、それを簡単に受け、弾かれてしまう。
 士郎先生は魔力、気を使っているようには感じないのに何故、ここまで重い。速度を上げたのに何故、ついてこれる。

 士郎先生の剣は私よりは確かに遅いだろう。なのに捌き難く、重く、とてつもなく鋭い。

 焦る。
 焦ってしまう私がここにいる。焦ってはいけない、冷静になり、戦局を覆さなければ私は負けてしまう。
 使いたくはないが、神鳴流の技が必要か…


 一瞬、士郎先生に隙ができた。小さな隙だが十分だ。
 そこに私は秘剣・百花繚乱を放った瞬間、それが止められた。

 清麿で私の剣を下に抑えられた。さらにそれを地面まで一気に下げられたのだ。
 その反動で士郎先生は清麿の柄を私の顔面に放つ。

 反応できず、私は眼を瞑った。

 しかし、そこに当たる感触はコツンというようなものだった。

「え?」
「言っただろう? 寸止めだって。
 まぁ、途中から桜咲が熱くなってきてからは俺を本気で斬ろうとしていたみたいだけどな」
「あ…すいません…」

 今の今まで最初に言ったことが頭から飛んでしまっていた。
 確かに熱くなりすぎたな…自重しなければ。

「いや、いいんだ。俺としてはそれが狙いだったからな」
「どういう意味ですか?」
「桜咲に本気で攻めてきてもらわないとネギ君に伝えるべきものが伝わらないからな。
 それで桜咲、俺と手合わせしてわかったことはあるか?」

 わかったこと…鋭く、重く…そして…あぁ、なるほど。

「ネギ先生、先生には士郎先生から教えてもらうことは確かに無いと思われます」
「え? どうしてですか?」
「それは―――」

 私はネギ先生に説明した。



 簡単に言ってしまうと“才能のある者に才能無いものが教えられることは無い”ということだろうか。
 たしかに士郎先生は強い。だが、それは積み重ねた強さだった。

「士郎さん、あんなに強いのに何で才能がないん?
 強かったら才能があるいうことでいいんとちゃうん?」
「いいえ、それは違います。言うなれば刀でしょうか。
 名刀は良い鋼、腕の良い刀工によって鍛えられます。ですが、ただの鋼があったとしても鍛える刀工がいなければただの鋼です。
 刀というのは鋼を熱し鎚で鍛えるなど…これ以外にも刀を造る工程はたくさんあります。
 しかし、それはすべてを知っている刀工達がいてできることであり、ただ鎚で鍛えることしか知らない刀工はそれができません。それでも、鍛えることしか知らない刀工が硬い鋼に何度も鎚を打ちつけ、形を長い月日を掛けて造り上げたものもまた、刀なのです。
 どんなに不格好であろうとも鍛え上げられた月日は嘘をつきません。

 ただの鋼を刀に仕上げるまでに圧縮された密度というものは名工が造った刀とは違います。
 それが士郎先生であり、その強さは鍛えられたものなのです。
 徐々に形が造られ鋭い刃となるまで鍛えあげられたものが動きであり、強さなのです。

 ネギ先生、あなたは才能がある。強い心がある。それは士郎先生とは全く違うものなのです。
 士郎先生は筋はいいが剣の才能が無かった。ただ強い心があっただけなのですよ。
 造り上げる術を知っている刀工に鍛えることだけを知れと言っているも同然なのです。

 それぞれが違う強さであり、道です。ただ、士郎先生の道はネギ先生には無いのです。
 それが士郎先生の言った教えることがない、意味がないという言葉の意味なのです」

 ネギ先生は考えるように俯いてしまった。
 厳しい言い方だったかもしれないが、それ以外に言う方法がない。これが最もわかりやすく、そのままの答えなのだ。

 だが、学ぶ面は無くとも、見習う点はあったのは確かだ。
 “諦めない”その一言に尽きると私は思った。

「ネギ君、先のことを考えてみたらいい。
 君は魔法使いでエヴァンジェリンも魔法使いだ。だが、俺は厳密には違う。
 俺の道を辿っていったところで君の魔法使いの道などどこにもない。
 エヴァンジェリンを師事した方がいい。厳しいが、それ以上に彼女ほど面倒見の良いのもいないだろう。辛い時にはさりげなく教えてくれるだろう。
 だが、彼女から教わることは全て君に必要なものだ」

 そう言い残して士郎先生は立ち去った。
 ネギ先生は少し考えるように俯いて、すぐに顔を上げる。

「すいません、僕ちょっと行ってきます!」

 行先はわかっている。ネギ先生の目に迷いはなかった。




 夜遅くの訪問者。話を聞き、結論をだして追い返す。
 まったく、人騒がせなぼーやだ。

 そしてまた一人の訪問者。

「貴様を呼んだ覚えはないのだがな」
「そうかもしれないが、こちらとしては巻き込まれたことに少しだけ言いたいことがあってね」

 もう一人の訪問者は衛宮士郎。こいつは私の隠していた意図に気付いているとわかっているので驚きはない。

「エヴァンジェリン、君は素直じゃないな。
 弟子にしたいと面と向かって言えなくとも、もう少し素直に弟子にしても良いというのを言葉で表せないか?
 エヴァンジェリンなら気づいているだろう? 俺のこの力が純粋なものではないというぐらい。
 最終的に君の所へ戻ってくることが分かっていてこれでは正直言って回りくどいな」
「やかましい、そんなわけないだろう。弟子などめんどくさい。
 仮にとったとしても私の修行方法では死ぬだろう。
 確かに貴様の力はわかっている。だてに数百年生きてはいない」
「弟子にとる気がなかったらその修業方法とやらも出てこないだろうに」

 …ふん。うるさい奴だ。

「だったらなんだ? お詫びに私に何かしてほしいのか?
 従者にでもしてほしいんだったら言っているがいい。案外、私の気が変って従者にしてやるかもしれんぞ?」
「冗談、いいように使われるか遊ばれるのが関の山だろう」

 そこまでわかっているのならこの問答も無意味だろうに。
 こいつ、本当に文句を言いに来ただけではあるまい。

「で、本題は何だ? わざわざここまで来るからには何かあるのだろう?」
「…」
 
 衛宮士郎はそれまでの空気を変え、重い空気がこの部屋を包む。

「あの映像は誰が撮った」

 その言葉だけでこの男が警戒しているのがわかる。


 私はあの映像が誰が撮ったものかを知っている。
 だからと言ってそれをこいつに教えるつもりもさらさらない。

「さぁな、気付いたら扉の前に置いてあったのを再生したらそれだったという訳だ」

 衛宮士郎は私を睨む。
 その視線は冗談めいてはおらず、こいつは本気だった。
 が、その視線もすぐに外し、いつものものに戻る。

「そうか、ならいい。邪魔をした」

 そうは思っていないのだろうがこれ以上は不毛だと悟ったのだろう。
 出て行こうとするが、私はそれを止める。

「案外、貴様の近くにいる人物かもしれんぞ」

 その言葉で衛宮士郎は立ち止まり、それから扉に手をかける。
 茶々丸に見送られ、衛宮士郎は出て行った。




 ―――あの映像はまっとうな方法で撮られたものではない。
 それだけはあいつも分かっていることだろう。



[2377] 魔法の世界での運命 44話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:4f5665e7
Date: 2008/12/30 16:45
 さて、どうしたものかと考えてみるがどうにも解決策が思い浮かばない。
 俺の目の前には大変、御立腹なエヴァンジェリンがいるわけで、さらにそれを見つけてしまった俺が喫茶店で愚痴を聞いている。
 それもかれこれ一時間。
 茶々丸は猫の世話があるらしく、最初からいなかったが、今は早く戻ってきてほしい。この空気は少々、堪える。

「まず、ぼーやが私に弟子入りを願ってきたくせにあの娘のカンフーに鞍替えしているとは思わなかったぞ。
 言い訳はしてくる、まったく…最近の若者はなっとらん」

 という感じでパフェをパクついている(俺の奢りになっている)
 
「はぁ、いいじゃないか。体術は必要なものだし、エヴァンジェリンは魔法を教えるんだろう?」
「そうだが、それも含めて私は教えてほしいとぼーやは思っていると考えていたのだが、それがこのように裏切られては腹が立つ。
 あぁ、そこの店員。ラズベリーパフェ一つ。
 今度のテストは絶対に手を抜かんように茶々丸に言っておこう」

 まったく。年寄りのような考えだと思えば弟子をちょっと取られて妬いているようにも見えてしまうのがなぁ。
 素直じゃない。

「なんだ、文句でもあるのか」
「まぁ、多少はな。俺の奢りで食うのはいいとして仕事があるこの身としては愚痴を聞いている暇はそんなにないものでね」
「私も仕事はあるぞ」
「そんな時々の仕事だろうものと他の人に必要な今の仕事を比べるな。
 重要度は比べたらそちらが上かもしれないが、生徒を預かる身にもなってみろ。これも重要な仕事だ」
「教え子の悩みを聞くのも先生の仕事だろうが」

 売り言葉に買い言葉だ。
 不毛だな。

「俺は行く。
 お金は置いて行くから気がすんだら帰るんだぞ」
「はん、教え子の悩みも解決できないで何が教師だ情けない」

 カチン

「ならとことん聞こうじゃないか」



 まったく、この時のことを考えると俺も子供だと考えてしまう。ちょっとした挑発で熱くなってしまうとは本当に情けない。
 ネギ君に根性がある、ないに始まり、合格できる、できないで拗れ、最終的に―――

「合格できなければ私と仮契約するということで構わないな!?」
「いいだろう! のった!」

 ホントに熱くなりすぎた。
 …思い返してみればこれがエヴァンジェリンの狙いだったんじゃないか? 結局はエヴァンジェリンの手のひらの上で踊っていただけかもしれない。
 ため息しか出てこない。

 ここまでのことになるとは思ってもいなかった。
 俺は誰とも契約する気はない。なのに…はぁ…

 これは何が何でもネギ君に勝ってもらうしかない。
 だからといって俺が教えることなんでほぼない。

 とりあえず、見に行くか…

 俺はネギ君が練習している広場へ向かった。


 ネギ君達は俺が見に来たことに驚いていたが、すぐに古の練習に戻っていく。
 その練習成果がテストの日に出るといいが、ネギ君を賭けごとに巻き込んでいるので気が重い。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 だが、思った以上にネギ君は成長しているようだ。
 終わってから古に聞いてみると、ネギ君は反則のような速さで技を覚えていくし、向上心もあるから強くなるとの話。
 やってみなければわからないが茶々丸との戦いも…とのこと。

 
 まぁ、もしもの場合は……なってからだ。ネギ君が負ける前提では失礼だ。

 日曜の午前0時までまだ日はある。すべてはネギ君次第だ。




 俺はネギ君の補佐をしているが、当然その中には教師として教鞭を持つということ時々ある。
 その場合はネギ君が授業中にくわえて他の先生たちも授業中という場合だ。さらにその先生たちの誰かが病欠などでいなくなれば比較的、時間に余裕やその授業を教えられたりする人物が出向く。
 今回は俺がその役を請け負った。

「というわけで今回の英語の授業は私が受け持つ。
 では授業を始めよう」

 クラスは麻帆良中等部2年。
 その中に一人だけ見知った顔がいるが…今はそれを気にする必要はない。

 頼まれたとおりに授業を進め、重要だと思われる部分には説明を付け加える。教科書通りのことしかしないのだが、どうも生徒の集中力が乏しい。
 わからないのだろうか…むぅ、これは今後の俺の課題だな。これでは補佐といえども役に立たない。
 英語が話すことができても意味がない。もっとわかりやすく、要点をまとめた上で教鞭を持たなければ…

 
 授業は終了5分前に終わり、俺は授業の内容で質問はないかと言ったのだが、反応はなかった。
 誰もが戸惑ったような感じであり、問われた本人たちが困っているようだった。

「何もないようだな。
 では今日の授業を終了する。各自、気をつけて帰るように」

 そう言い残して俺は教室を出る。


 やはり他の先生たちよりも早く終わったらしく職員室には先生達の姿は少ない。
 ホームルームはネギ君に任せてあるので授業が終わったその足でネギ君はクラスへ向かうだろう。
 となると、残っている仕事を片付けてしまうと暇になってしまうな。
 よし、見回りをするか。ここのところは新田先生やタカミチに任せていたからな。今日はキチンと行かなければいけないだろう。



 中等部を見回り、高等部に移る。
 今のところは特に異常はない。普段のように帰宅する生徒部活動に向かう生徒があふれている。
 その中で俺が教師で見回りをしていることを知っている生徒が挨拶をして帰って行き、それに俺は微小しながら返す。
 
 …教師というものは中々、良いものだと改めて実感する。
 この些細なやり取りだけでも何か満たされるものがあるのだから不思議なものだな。

 だが、この姿はやはり目立つようで周りには俺を見ている視線を感じる。俺を見たことのないもの、俺がいることに不快感を持つ者。さまざまな理由から話しているのかもしれないが、気にすることもない。
 見回りは仕事であって、彼女たちにどの様な目で見られるとしてもそれに差支えは無いからだ。俺をどのように見るかも彼女たちの自由だ。

「先生?」

 先生、というのが俺だと判断して振り返ると、ウルスラ女子高等学校の帽子をかぶった数少ない生徒がいた。
 そしてその生徒の姿には覚えがある。

「君は…高音・D・グッドマンだったかな?」
「はい、覚えてくれていたのですね。
 …といってもあまり忘れることのできない会い方でしたが…」

 彼女なりに気にしているようだった。

「き、気にすることはないさ。あれぐらいの方が忘れにくいというか衝撃的だったというか…」
「そ、そうですよね…衝撃的ですものね…」

 フォローのつもりが泥沼にハマっていくように彼女は表情を暗くしていく。

「な、何か用か?」
 
 無理やりだが話題を変えることにした。

「いえ、たまたま見かけたので声を掛けてみたのですが迷惑でしたか?」
「そんなことはないさ」

 …会話が続かない。
 とても重い空気になってしまう。どうしたものか…俺はこのぐらいの年頃の女の子の会話についていける自信はないし、どういう話題が良いのかも今この状況では思い浮かばない。とりあえず歩いてはいるが何かある当てはない。
 俺と同じことを彼女も思っていることだろう。何か話さなくてはこの空気は本当に気まずい。

「え、衛宮先生は何を目標にして魔法使いとして行動しているのですか?」
「魔法使いとしての目標?」

 俺は魔法使いではないが何か目標を持って行動するというのは魔術師も魔法使いも変わらないだろう。
 それに俺の目指すものは隠すものではないし、それが恥ずかしいという感情もない。

「俺はね、正義の味方になりたいんだ」

 俺の言ったことに彼女は面を食らったかのように目を丸くしている。
 他人から聞けばバカらしく聞こえるかもしれないが俺は本気だ。何を言われようとも諦めるつもりもなく、自分で自分の道を違えることもなく、この道を歩いていくことだろう。

「やっぱり驚いたかな。こんな大人がこういうことを言うとは思わないだろう」

 彼女は未だに口を開かない。

 
 そのまま歩いていると大学部の方向へ向かう道に来てしまった。
 おそらく彼女とはここで別れるだろうと思い。

「俺はこっちへ行く。
 気をつけて帰るんだぞ」

 そこでも彼女は戸惑ったようにした後、頭を下げる。
 
 それを見た俺は大学部の方向へ向かっていく。





 そしてネギ君のテスト当日。
 俺はテストが行われる広場へ行こうとしたのだが、ネギ君にいらないプレッシャーをかけるわけにもいかないと考え、その広場が見渡せる位置の木に登って見ることにしたのだが、そのテストを見て驚いた。

 茶々丸に一撃でも当てることができたら合格ということは知っている。しかし、それがここまで過酷なテストになるとは思ってもいなかったし、ネギ君があそこまで粘り強く、どれだけ打たれても諦めない姿勢は同年代の子供では滅多にいないだろう。

 やはり俺が教えるということはあり得なかったな。あれだけの才能を預けられたとすれば、俺がネギ君の成長の妨げにしかならなかっただろう。

 良いものを見たというのが素直な感想だろうか。
 木を下りて呟く。

「強いな、ネギ君は」
「そうだね。やっぱり彼の息子のことだけって訳じゃないね。
 様々な努力をしたからこそあそこまでがんばれる」

 すぐ近くの茂みから覚えのある声が聞こえてくる。
 姿を現したのはタカミチだった。

「気配は消していたんだけどやっぱり気づいてたのかい?」
「あぁ、そういう気配なんかには感覚が鋭くなっているもんでね」
「まだまだ僕も修行が足りないなぁ」

 タカミチは笑いなが俺の隣に立つ。


 当然。

「仕事の話か?」
「うん。
 こないだの仕事の続きさ」


 あの違法魔法薬を作っていた奴らのさらに上の組織のアジトがようやく見つかったらしい。
 場所は今回も海外で出発は明日の夜。

「キチンと決着をつけたいだろうと思ってね。
 行くかい?」
「俺の回答はわかっているんだろう?
 なのにそれを聞くことは意味がないさ」

 そうだね、と言いながらタカミチは資料を渡して帰って行った。


 絶対に、決着をつける。






 あとがき

 今回は話がまとまっておらず、正直なところ私も何を書いていいのか分かっていない状況でした。
 申し訳ありません。

 それと質問なのですが、オリキャラが出るのは読者様的にはありなのでしょうか?
 そこが気になって今まで書いてきたわけなのですが…どうなんでしょう?



[2377] 魔法の世界での運命 45話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:4f5665e7
Date: 2009/01/05 19:16
 長さんから貰った地図には父さんに繋がる手がかりがあった。
 以前行った地底図書室のさらに奥だと思われる位置にあるみたいだけど前と違って杖で簡単に行ける場所もある。
  でも、そこに夕映さんとのどかさんが行きたいと言ったけど、どんな危険があるかわからないからダメだって言ったのに…

「はぁ…」
「ネギ先生、もう諦めるです」
「すいません、でも…」

 僕が行こうとしたら狙ったようにいるんだもんなぁ。
 どうしてあの時間に僕が行くことがわかったんだろう? は! まさか二人とも予知夢を!? 

 そんなことを思うことも忘れるぐらい目的の場所に行く道は予想外に険しかった。
 クモの糸が絡み付いてくる、大岩が転がってくるなどなど・・・

 危険な目に遭わせたくなかったからダメだった言ったのに…


 目的の場所は結界があったりして、例え偶然に地底図書室に一般人が来たとしても近づけないようになっていた。
 それにこの場所にある大きな扉も何か仕掛けがあるみたいで魔力が感じられる。
 調べると長くなりそうだから夕映さんとのどかさんには休んでもらうことにした。


 この扉は…そのものが何かの結界のようになっている。それを解除しないと入れないようになっているようだ。
 でも、これはかなり強い結界が張ってある。時間がかかる。

「わ、ベタベター?」
「何ですかコレは…」

 のどかさん達が何か言っている。何かと思って振り返ってみると―――


 …え~と、翼があって大きくて尻尾があって何かに表現するとトカゲみたいなんだけど、その表現だったら優しすぎるというもの。でも表現するとしたらあの言葉しかないんだけど、あんな生物がこんなところにいるわけがないよ。
 うん、そうだあれは何か突然変異したトカゲなんだ。
 あれ? でもトカゲって翼なんてないし…現実を見てみよう。

 あれはドラゴンだ。うんドラゴン…ドラゴン!?

「ドッ、ドドド、ドラゴン!!?
 にっ逃げっ…夕映さん、のどかさん逃げてーーーっ!」

 僕は一瞬の逃避から覚めて叫ぶ。でも

「絵本にはこーゆー出来事はあまり―――」
「いえいえ、これはさすがにないでしょう。普通の学校に通っている場所のわずか数百メートル地下にこんなファンタジーなど。ハハ。
 そもそも―――」

 わー! こっちも現実逃避してる!?

「くっ」

 急がないと二人とも危険だ。
 僕は二人の所へ向かおうとする瞬間、となりを駆け抜ける誰か。

 その誰かがのどかさんと夕映さんを踏みつけられる寸前に助ける。それは―――

「ちゃ、茶々丸さん!?」
「脱出しますネギ先生」
「え…ハ、ハイ!」

 なんでという疑問を振り払って杖にのどかさんを乗せ、すぐに飛び立つ。

 それを追いかけてくるドラゴン。
 飛んで追いかけてくるし、火を吐いてくるし…追いつかれたらマズイ。

 でも思いのほか速い。

「! 綾瀬さん、申し訳ありません」

 唐突に夕映さんを僕の方へ投げる茶々丸さん。僕は驚きながらも何とか抱きとめる。

 
 瞬間。


 茶々丸さんの足を炎が包む。

 炎は容赦なく茶々丸さんの足を燃やす。 
 そして茶々丸さんは力なく地面へ落下していく茶々丸さん。

「茶々丸さん!?」
「ネギ先生! 茶々丸さんを助けるです!」

 助けなければ茶々丸さんは今まさに近づいているドラゴンに食べられてしまうだろう。
 でも、杖に乗せている二人も危険にさらしてしまう…

「ネギ先生!」

 のどかさんも叫ぶ。 
 迷っている暇はない。

「しっかり摑まっててください!」

 茶々丸さんを助けるために速度を上げる。
 ドラゴンと茶々丸さんの距離は僕が間に合うか間に合わないかのギリギリだ。マズイ…そう思いながらももっと速度を上げる。

 絶対に助ける。

 僕は手を伸ばす。あと少しで茶々丸さんを助けることができる。それでもギリギリ。
 ドラゴンが口を開く。茶々丸さんがもうすぐ手の届く場所にいる。

 絶対に助けるんだ!!


 ドラゴンの口が閉じられる瞬間。
 僕は茶々丸さんの手を取り助けることができた。

「ネギ先生…」
「逃げます! しっかり手を握っていてください!」

 僕がそう言うと、茶々丸さんは僕の手をしっかり握り返してくれる。
 その手を絶対に離さないと、僕も握る手に力を入れる。

 後ろから追いかけてくるドラゴンは獲物を取られたかのように怒っている。
 火を吐いてくるが僕はそれを避ける。
 何度も避ける。


 でも、もうすぐ後ろにドラゴンがついている。
 さすがに三人の重さがドラゴンを振り切るのを難しくしているんだ。

 ドラゴンが炎を溜める。それはこの距離ではどうしても避けられない大きさになっている。
 マズイ!

 

 でも、ドラゴンの炎は吐かれることはなかった。ドラゴンの頭で何度か何かが爆発したのだ。
それで炎は吐かれることがなくなったのだが、何故、爆発が起きたのか。
 
 ドラゴンが僕たちを追いかけることをやめて後ろを振り返る。
 その視線の先には―――


 士郎さんがいた。

 その手には黒い弓が握られている。それでドラゴンを狙撃した? 地面から結構、離れているこの位置を? もしかしたらあの黒い弓は何かのマジックアイテムなのかもしれない。
 そう考える僕に怒号が飛ぶ。

「何をしている! 早く行け!」

 士郎さんからの怒号は一瞬、身体が強張るぐらい怖かった。
 でも、身体はすぐに反応した。
 僕は三人を連れて地上へ向かう。

「ネギ先生! あのままでは士郎さんが危険です! 早く助けにいくです!」
「早くしないと士郎先生が…」

 夕映さんとのどかさんがそう叫ぶが今は絶対にできない。
 
「綾瀬さん、宮崎さん、今はできません」
「何故です! 今行かなければ士郎先生があのトカゲに食べられてしまうかもしれないのですよ!?」
「今の私達が士郎先生の足手まといなのです。それを理解してください。
 私達が行ってもしもドラゴンが標的を士郎先生から私達へ向けたら確実に士郎先生は私達を守るために盾となるでしょう。どれだけ士郎先生自身が傷つこうとも。
 それでも行きますか? 私達の所為で士郎先生が傷つくことを望みますか?
 私達がここから離れることで士郎先生の生存確率は上がるのです」

 茶々丸さんの言葉は深く夕映さんとのどかさんに受け止められたようで二人は何も言わなくなってしまった。
 僕もそれを思ったから二人に叫ばれた時も何も言わなかったのだ。


 地上に着き、僕は三人を杖から卸して、茶々丸さんの状況を見る。
 酷い…足が溶けて原型が崩れている。外が溶けて中のモノも見えている。

「問題ありません。ハカセに診てもらえば一日で治るでしょう」
「そうですか…よかった。
 すいません、僕がもっとしっかりしていれば…」
「ネギ先生の責任ではありません。
 私があそこで避けられなかったことに責任があるのです」

 僕も茶々丸さんも黙ってしまうけど、僕はそこでずっと黙っていることはできずに、扉を開けて杖にまたがる。

「どこへ行くのですか、ネギ先生」
「士郎さんのところです。まだ戦っているはずですし僕も戦ってきます」
「ネギ先生も士郎先生の足手まといにしかなりません。
 ネギ先生にはあのドラゴンに有効となる攻撃魔法を持っていません。それで行ったとしても…失礼を承知で言いましょう。邪魔にしかなりません」

 その言葉に返せるものを僕は持っていない。
 確かに僕の最大魔法を放ってもあのドラゴンにはほんの少しの傷がつけれて良い方だろう。それほどドラゴンは強い魔法生物なんだ。

 僕たちはただ、黙って待っていることしかできないでいた…




 数十分後、士郎さんが戻ってきた。
 その姿はところどころ火傷を負っていて…とても痛々しかった。

 でも、士郎さんがここにいるということは…

「あのドラゴンを倒したんですね?」

 そう僕が言うと士郎さんは少し間を開けて、行った。

「いや、倒してはいない。
 なんとかしてここまで来たんだ。さすがに一人では…」

 そう言うと士郎さんは茶々丸さんを抱き抱える。

「俺は茶々丸を病院へ連れていく。綾瀬達を頼んだよ。
 あぁ、それとあそこみたいに危険なところにはもう行くなよ」

 言い残して士郎さんは言ってしまった。
 二人を送っていく帰り道も何も話すことはなく、部屋の前で別れる際に二人が一言“ごめんなさい”そう言った。


 …僕は情けなかった。




 私を運ぶ士郎先生は建物の上を駆けている。方向を予測すると…一般的な病院へ向かっているようです。

「士郎先生、私は一般的な医療機関では修理できません。
 向かうなら麻帆良大学工学部へ向かってください。そこでハカセに私を見せてください」
「…わかった」

 そこから士郎先生は私にいくつか質問をしましたが私にはよく理解できないものでした。
 痛くないのかとか、具合が悪いところはないのか。そのようなことを聞かれましたが…私はガイノイド、人間ではありません。

 しかし…このよく理解できない会話が何故、私を戸惑わせるのかわかりません。
 もしかすると、回路に異常がでているのかもしれません。


 工学部に到着し、そこにいた工学部の人にハカセにこの状況を伝えてもらいました。
 すぐにハカセが来て、なにかとんでもないものを見たかのように表情を険しくしていました。何故でしょう。そこまで私には深刻な問題はないと思われますが。
 部品を交換し、修理すれば問題はないはずです。


「どう茶々丸、動作が良くない部分はある?」
「いえ、問題ありません。良好です。
 …どうかしたのですかハカセ」

 私を見てハカセは何かを考えるように黙ったまま、私の質問にも答えはありません。
 そのまま待つ時間が過ぎていきます。

「いまね、超が士郎先生と一緒にいるんだけど、いきなり二人きりで話させてほしいって言ったのよ。
 てっきり私は茶々丸のことかと思ったんだけどどうも違うみたいでね。
 茶々丸は何か考え当たる?」
「いえ…私には何も」

 そう話していると超がハカセの研究室に入ってきました。

「超、士郎先生は?」
「士郎サンなら寝てるネ。疲れてるみたいだたヨ」

 さすがにドラゴンと戦闘し、逃げ帰ってくれば疲労も蓄積するでしょう。

 超の話では傷は大したことはなく、魔法先生達のところで治療を受ければ今日中に治るものらしいです。
 私の修理も2時間ほどで終了し、問題なく研究室をでることができました。

 
 研究室から少し歩くと士郎先生が椅子で寝ていました。
 お茶が入っていたと思われる紙コップが置いてあるので、飲みかけで寝てしまったようですね。
 さすがに寝ているところを起こすというのも悪いと考え、私は士郎先生の隣に座って起きるのを待つことにしました。

 十数分後、士郎先生は起きました。
 どうやら自身でも気づいていないほど疲労が蓄積しているらしく、寝たことに少し驚いているようでした。


 帰り道、士郎先生に頼まれごとをお願いされました。
 今日のことをマスターには伝えないでほしいということでした。
 ネギ先生がこれから解決した方がいいのと、もしもマスターに知られると、あの場が跡形もなく破壊されるかもしれないとのことでした。
 後者に対して否定できるものをもっていませんが…

「あぁ、そうだ。 
 茶々丸、ネギ君に会ったら伝えてくれないか? 仕事で少し遠くへ行くから少しの間頼んだよって」
「わかりました、伝えておきます。
 そういえば士郎先生は何故、地底図書室にいたのですか? あそこは中々到達できる場所ではないと思いますが」
「そうだな、隠し扉を見つけなかったら少し行くのは難しかったな」

 士郎先生の話ではネギ先生達が来る前の夜からあそこで本を探していたらしい。その途中で隠し扉があり、そのさらに先へ進むとあの地底図書室に着き、あの場面に遭遇したという。

「そうですか…不幸中の幸いでした。 
 あそこに士郎先生がいなければネギ先生の無事ではなかったでしょう」

 これは事実。士郎先生ほどの実力者でなければ竜種と戦闘に加えて多少の火傷で済むということがありえないでしょう。

 


 士郎先生は私をログハウスの近くまで送ってくれました。
 マスターにはなんとか黙っていることは出来ましたが、もしも正直に話せと言われたら話してしまうしかないでしょう。

 それにしても仕事ですか…魔法使いの仕事でどこに行くのでしょうか。




「やぁ、士郎くん。準備はいいかな?」
「問題ない。
 それじゃあ、行こう」

 俺とタカミチは空港へ向かう。今回の仕事の行先はマレーシアのクアラルンプール。
 内容は魔法界から来た魔法使いを確保、そして組織の解体と違法魔法薬およびそれに関わる品の破壊、押収だ。

「それと新しい情報だ。
 重要人物の護衛が予想以上に出来るらしい。他の場所で戦闘した魔法使いが…再起不能だ」

 そう語るタカミチの表情は険しい。それほど強く、危険な仕事なのだろう。

「あぁ、油断はしない」
「うん、そうだね。
 この仕事を成功させて必ず救い出そう」

 この仕事にもう一つ、俺が最も心配なことは、組織が試作品の薬を人体実験で試しているという点だ。
 一般社会の製薬会社でさえ人体実験など絶対にしない。
 効果を試すために合意の上で薬の効果を確かめることはあるが、それは最低限の効果や人体に深刻な悪影響を起こさないように配慮されている。
 それも良しとは思はないが…人体実験は外道の所業だ。何の効果があるかもわからない。どんな副作用があるかなど作った本人でさえわかるはずもないだろう。

「必ず救い出す。
 そうだ、そのできる護衛は一人なのか?」
「いや、二人組だそうだよ。
 詳しい情報はわからないけど、確かなのは女性ということだね」

 女性、か。
 やりにくいな…女性に手を上げるのはどんな状況であろうとも良い気分にはなりえない。


 ただ…覚悟はできている。





 とあるビル。その中では人々が働き、士郎達が思っているような非道な事が行われているとは思えない。

 しかし、これは表の顔。
 そのビルの地下、もしくは一般人には知られない部屋の中では人体実験が行われているのだ。
 実験をされる人々の悲鳴が外に響かない。誰も、その苦痛に気付かない。
 注射を持つ人間は注射を打たれる人間を人間とは思っていないだろう。モルモットのように替えることのできるモノとしか認識はない。



 その場所から離れた部屋。
 その部屋の中には二人の女性がいる。その周りには白衣を着た男性、ローブを着た男性…男が十数人囲むようにして女性に近寄っていく。

 しかし、その近づいていく様子は決して下心やその類の感情が見えない。

 あるのはその女性達に魅了されている。その一点。

「ダイヤモンドの指輪をどうぞ―――」
「最高級の布地で作ったこのドレスはあなたにしか似合わない―――」

 口説く言葉以上にその女性に少しでも気に入られる為ならば自身が傷つくことも躊躇わないことだろう。
 数々の貢物をもってしてどのように気に入られるか、他の男よりも近づくためにはどうすればいいだろうか。そのことばかりを考える男達。
 
 女性達が見ている男性達に覚えはない。いや覚えていない。
 彼女達からしてみれば勝手に物をくれるし、気付けば近くにいるだけの奴ら。
 命令一つで男達はその命令に従って行動するし、何か欲しいと言えば必ず持ってくる。都合のいい奴隷…一般的にそう思っても不思議ではない。
 しかし、彼女達からしてみればその考えすらない。
 ただ持ってくるだけの人。それだけだ。

 ふと、女性の一人が時計に目を向け、男達にこの部屋から出て行くように言うとすぐにこの部屋から出て行き二人しかいなくなるが…その扉をノックする者が一人。

 彼女達が返事をするのを待つこともせず、傲慢に、そして自信に満ちた男が入ってくる。

 ローブ姿でフードをかぶっている為、顔は見えないが声を発する。

「妹は問題ない、今は僕の作った薬で寝ているよ」
「そうなのですか、それは良かったですわ」
「安心しろ、僕の薬は完璧だ。 
 君達はなんの心配もなく僕に従っていればいいんだ。そうすれば妹は生きていられる。
 まぁ、この僕にかかれば造作もないことだけどね」
「すばらしいしいですわ」

 男は高笑いをしながら部屋を出ていく。
 残された女性は閉められた扉を睨みつける。その視線は先ほどまでの魅力に満ちたものでわなく、殺意、不快感などで満ちている。

「我慢よ姉さま」
「そうね、そうしなければあの子は死んでしまう…」
「そう、私達のたった一人の妹…私たちをかばって傷ついてしまった哀れな妹…」
「かばったが故に眠り続ける愛おしい妹…」


 二人で慰めあうように身を寄せる。
 もしも、この場に男達がいたとしても近づくことはできないだろう。
 触れればその形が崩れてしまいそうなほど、その姿は儚かった。



[2377] 魔法の世界での運命 46話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:4f5665e7
Date: 2009/01/08 00:34
 俺達は飛行機でマレーシア、クアラルンプールに到着した。
 時刻はまだ昼。仕事が開始されるのは翌日の深夜となっている。それは地理や作戦等を打ち合わせるための時間となっている。

 しかし…

「タカミチ、今日行くことはできないのか?」
「今日かい?
 …気持ちはわかるけどそれは厳しいね。開始するのはできるかもしれないけど、中の状況、一般人の配置とかは一応、こっちで調べられるだけ調べてあるから、それを知らないと無意味に巻き込んでしまう可能性もあるからね。
 だから、辛いかもしれないけど今日は状況の把握を優先させよう」

 タカミチの言うことも正しい。
 確かに無意味な犠牲を出すことも考えられる。それは誰も望まない、誰も喜びはしない。




 俺とタカミチはホテルにチェックインし、状況把握と作戦を決める。
 今回は確保する重要人物の他にもう一つ重要なことがある。人体実験されているであろう人々を救いだすということだ。

 しかし、それは言うほど簡単ではない。その人たちがいるであろう場所が判明していない。 それが唯一の不安であり、相手の対応によってはその人達が盾になってしまう可能性もある。

「僕が考えているのはどちらかが派手に正面から突破、もう一人は薄くなった警備を潜って捕らえられている人たちを救出するというものだ。
 安直な考えかもしれないが、これが最も有効だと考えられるんだ。
 そして士郎君、君には正面から突入してもらいたい。僕は顔が知られていてこういう作戦には不向きになっているから…すまないね、危険な役を押し付けてしまって…」
「いや、気にすることはないさ。
 危険はもとより承知、それに俺は見つからないように潜入するとかは向いていない。
 だったらタカミチの提案に反対する理由なんてないさ」

 そうだ、俺は正面から向かうか…不意打ちしかできない。
 相手から数キロ離れての狙撃。それぐらいしか攻撃のパターンがない。

「ありがとう。
 それと、さっきから気になっていたんだけど、その竹刀袋は何だい? 微力な魔力が感じられるけど
「秘密の品物さ」

 タカミチはそう言われると少し、驚いたようだが少し笑ってまた話し始める。
 ホテルで作戦を立て、明日に備える。


 
夜に一度、ビルの下見に向かう。ただ、向かうのは俺一人だけだ。
 タカミチは顔が知られているから不用意に現場に近づくと警戒される可能性があるとのこと。

 …このビルは空気が澱んでいる。とても不快になる。


 すると突然、念話が入る。
 
 ここに来る前にタカミチから指輪をもらったのだが、これは特定の人物にのみ伝わる連絡用の指輪。
 明日の作戦でタカミチが捕らえられている人達の救出が完了した時に本格的に行動する連絡を取るものだ。

 それが一体何故…

『どうしたタカミチ』
『今、襲撃を受けたよ。
 僕の部屋は魔法による攻撃で消し炭、加えて魔法使いが数人と戦闘中だ』
『わかった、すぐに向かう』
『いや、そのままビルに突入して構わない。
 この分だったら警備は多少薄くなっているだろうし、僕もすぐ向うから』

 そう答えるとタカミチからの念話は終了した。 
 タカミチならば本当にすぐに来るだろう。幸い、竹刀袋も一緒に持って来ている。

 
 俺はビルの中へ足を踏み入れた。



 ビルの出入り口には警備員がおり、俺はそこで荷物をチェックされる。
 それを預け、ゲートをくぐると、当然ブザーが鳴る。
 近づく警備員。手を頭の後ろにしろと言われ、言う通りにするが近づいてくる警備員が一定の範囲に来た瞬間、手刀を振り下ろす。

 手刀をもらった警備員は卒倒、他の警備員は警棒―――ではなく杖を取り出す。
 こいつ等は魔法使い、警備員に扮しているが俺の眼は誤魔化せない。
 囲む魔法使いは4人、それぞれが魔法を放ち俺はそれをゲートをくぐってきた竹刀袋からあるものを出して、それを打ち払う。

 
 それは剣。一見、簡素な剣に見えるかもしれないがそれは間違いだ。
 この場にいるものであれば震え上がるだろう程の威圧感を出す剣。
 濃密過ぎるほどの魔力。

 その剣の名はグラム。太陽剣グラム。

 これはあの地底図書で投影したものだ。
 目的はドラゴンを殺すため。これで心臓、頭を射抜かれたならば確実にあのドラゴンを殺すことができただろう。
 しかし、それをしなかったのは邪魔されたからだ。

 ある人物に。

 俺はネギ君達に倒せなかったとは言っていない。
 “一人では…倒せるがその後が問題なんでな”という言葉を言わなかっただけだ。

 ただ、この剣を投影した影響で魔力は完全ではない。
 投影するだけでも魔力を多大に消費するのだ。それをここまで持ってきたのは理由がある。
 重要人物の護衛が出来るということだったからだ。

 その護衛に負ける気はさらさらないが、完全でない状態で挑むには不安要素が多い。
 グラムは保険として持ってきたのだ。
 近衛さんにお願いして魔力の漏れないようにグラムを魔法を施された包帯を巻き、同様の竹刀袋でさらに魔力を抑えていたのだ。
 しかし、このぐらいしてもこの剣は魔力を抑えることができない。

 この剣の魔力に気圧されて魔法使いたちはなかなか魔法を放ってこない。それも狙いだ。
 気圧されたことによって戦意喪失に近くする。それで余計な戦闘を減らしたいという狙いがあった。

 加えて…

「どけ」

 相手を射抜くように、俺の威圧感を飛ばす。守護者としての威圧感。
 人とは違う異質なものに魔法使いたちは身体が固まったように動かない。俺が近づくと震えだす。杖を落とし顔面蒼白になっている。

 その横を俺は通り過ぎる。
 戦う意思のないものに無闇に攻撃することはしない。

 背中を見せても攻撃してこないところを見ると完全に戦意は喪失したようだ。




 ビルの中を走り、隠し扉を通って重要人物がいると思われる場所へ向かう。
 途中、何度か魔法使いと遭遇したが剣の魔力と俺の威圧感でほぼ無力化している。
 …傷つかないのであれば、それでいい。
 命を投げ出すこともない。


 少々、走ると比較的広い空間に出る。
 そこの空間は魔力に満ちている。グラムの魔力とも俺の魔力ともまったく違うものの魔力。

 その中に立っているのは二人の女性。
 その魅力的な容姿、誘惑するようなラインは女神といっても過言ではないのではないのだろうか。

「あなたをここから先へ行かせるわけにはいきません」
「あなたはここで倒れ、私達は目的を達成する」

 何かが違うこの二人の女性。
 その姿自体に違和感、存在に違和感…そして俺のつけている指輪と共鳴しているような感覚がある。
 タカミチからもらったものではなく、大師父からもらった指輪がだ。

 一体、何故…?

 思考してしまった瞬間、俺の身体は宙に浮いていた。
 壁に激突するその瞬間までなにが起きたのか分からず、脇腹に鋭い痛みが走る。
 
 理解、俺は殴り飛ばされたのだ。
 とてつもない力とで殴られ、とてつもない速さで近づいてきていた女性に。

「あら、情けないですわ」
「そんなに簡単に倒れてしまうのでは男性失格ですわよ?
 その剣は飾りですか?」

 身体は…動く問題はない。
 あれはこっちが油断したことで攻撃をもらってしまった。意識を変えなければ…こちらが死ぬ。

「…不愉快ですわ。私達を無視するなんて」
「そうですわ…姉さま。
 すぐに足腰立たないようにさせてあげしょう」

 不敵に笑う二人。顔も背格好もすべて同じ、話には聞いていたが本当に女性とは…やはりやり難い。

 すると一人が消える。いや…後ろ!
 放たれた拳を腕で防ぐが、身体を浮かされるほどの威力。それにあの速さは異常だ。一瞬で俺の背後に回ってくる。
 反応できないことはないが、これが二人で―――っ!?

 着地とともにすぐに横に跳ぶ。
 すると俺のいた場所に光弾が降り注ぐ。
 もう一人が放ったのだろうが…そのもう一人は宙に浮いている。

 しかし、それについて思考する暇もくれない。
 すぐに間合いを詰めてくる。

 先ほど探り飛ばされた際にグラムは俺の手から離れてしまった。
 すぐに干将・莫耶で対応する。

「あら、女性に手を上げるなんて男性の風上にも置けませんわね」
「くすくす、お仕置きが必要ね…死ぬほどの…うふふふふっ」

 拳で戦う女性は力が異常に強い。魔力を帯びた身体、そしてそれを集中して拳が放たれる。
 それは俺よりも強い。

 そして、その動きはまるで踊っているかのように優雅で滑らかだ。
 いなし、避ける。

 避けた瞬間、風を切る音がする。
 間合いを開け、その場から離れると地面を切り裂くものが着弾する。
 かまいたちか…もらったら腕の一本は飛んでいくな。あの威力は。



 戦いを始めて十数分。
 相手の動きを観察しながら戦っていると、さすがに強い。隙が中々、生まれない。
 加えて前衛と後衛のバランスがお互いに何をするかが分かっているかのように絶妙のタイミングで攻撃が来たりするのだ。
 何度も殴ろ飛ばされ、ギリギリかまいたちを避ける為、ところどころ軽い切り傷ができている
 こちらが相手の動きを掻い潜って剣を振ろうとするとそれをさせないとばかりに上空からの攻撃が、そちらに干将を投げようとすると拳が。
 なかなか攻撃のチャンスが巡ってこない。

 しかし…巡ってこないのであればこちらから作るまでだ。

 
 上空からかまいたちが降り注ぐ。それによって俺のスーツは切り裂かれるが…中には聖骸布に身を包んだ姿。
 そして切り裂かれたスーツの影から投影する。
 
 投影するのは黒鍵。その数6本。
 切れ端の死角から上空の女性を攻撃する。地上からの拳は警戒しなければいけないが、タイミングは問題ない。

 射出。
 完全に不意を突かれる上空の女性。
 詠唱の途中だったのか全くの無防備。

「姉さま!」

 そしてこちらにも隙が生まれる。
 莫耶の柄で鳩尾に一撃、魔力の防御があるといってもこれは効くだろう。
 気を失ってくれればいいが…

 上空に射出された黒鍵は狙い通り外した。相手も何とか避けられるように射出したのだ。
 しかし、狙いはもう一方。

「姉さま!」

 俺が柄で攻撃した女性に気がいった瞬間、干将・莫耶を消し、黒弓と矢を投影。 
 それを番え、放つ。

 放った矢は腹部に当たる。
 力は加減してあるので貫通をすることはないが、衝撃はかなりのものだろう。

 力なく落ちる女性。


 倒れた二人は動かない。気を失ったのだろう。
 強かった…確かに普通の魔法使いではこの二人のコンビネーションに翻弄されてしまうだろう。

 俺は多対一の戦いがほとんどだった。だからなんとかついていける。
 それが違いではないだろうか。


 二人から離れ、グラムを取りに行く。まだ必要になるかもしれない。
 そう思い、背を向けた時、後ろで軽い爆発音がする。
 咄嗟に身構えるが、攻撃は何も来ない。ただ、二人の姿が変わっている。

 女性という表現よりも少女という表現が合うものに変化した。
 少々、戸惑いはしたが…仕方がない。
 二人の少女に近づこうとした時、二人が動いた。

「どうして…倒れないのよ…」
「私達は手を抜いてなんかいないのに…!」

 その発せられた言葉には感情そのものが籠められていた。
 思わず身構えてしまうほどのだ。

「あなたになんか負けるわけには行かないのに…」
「あなたなんかに邪魔されるわけにはいかないのに…」

 すると二人は苦渋の決断をするように表情を曇らせ、互いにカードを取り出す。

 あれは…

 そう思う瞬間―――

「「アデアット」」

 光が二人を包み、光が消えると二人に変化が生まれる。
 
 一人は両手に籠手を付け、もう一人は小型のハープを持っている。
 背筋がゾクリとする。
 マズイ、急いで二人の意識を刈らねば!!

 動き出す一瞬前にハープが弾かれる。
 美しい音色、それが耳から離れない。その音色以外の何もかもがどうでもよくなる。そんな感覚に襲われる。

 動くことさえも…

 そこから記憶が途切れている。
 気がつけば俺は壁にめり込んでいる。そして腹部に激痛。それ以外の感覚がない。
 …肋骨が7本折られている…は、意識が飛んで壁にめり込むほどの威力で肋骨ぐらいなら安いもんだ。
 まったく場違いな思考が過ぎるが、冷静に状況を見てみる。

 あの籠手を着けた少女に殴られたのだろうが…あの魔力に包まれていた身体ではなくなっている。
 その包まれていた魔力がすべてあの籠手に注ぎ込まれているようで、あの絶望的な威力はそれによるものなのだろう。
 あの威力は俺が身体の耐久力を上げるように強化しても多少の軽減にしかならないだろう。

 それにあのハープはこちらの思考に影響する。
 誘惑されるように、そしてこちらの戦意を削ぐような音色…厄介極まりない。

 俺がまだ意識があることに少女二人は信じられないような表情をしている。

「なんで生きていられるのよ…普通だったら死んでるわよ」
「そうよ、お願いだから倒れてよ…そして早くここらでていってよ。
 そうしなきゃ…
 倒れなきゃあなた死ぬわよ。私達はあなたを殺すことに躊躇わないわよ。目的のために」

 それはできない。俺はまだ倒れるわけにはいかない。
 まだ人体実験をされている人達の救出が完了したというタカミチからの連絡が来ていない。
 ならば俺は引かない。たとえ死ぬかもしれないとしても。

 そしてまた、ハープの音色が俺の頭を支配し、意識が朦朧とする。
 朧げに見える視界には籠手をつけた少女が姿勢を低くしている。止めを刺すつもりだろう。

『士郎君、捕らえられていた人達の救出は完了したよ。
 僕は別のルートから向かう』

 一気に意識が覚醒する。タカミチの念話が一気に意識を覚醒、この場の対処をさせる。

 まだ手に握っていたグラムの腹を盾に籠手の一撃を防ぐ。
 

 腕が軋む。腹部に激痛が走る。
 それでも俺は引かない。魔力を腕に対して強化に回す。



 一撃を耐え抜き、少女は驚愕する。
 この男のどこにそんな力があったのか。その一瞬の油断を俺は見逃さなかった。
 ほぼ感覚のない腕に力を込め、剣を振るい籠手を切り裂く。
 そして切り裂いていない籠手を掴み投げる。

 ハープを持っている少女は投げた少女を受け止めるが…すまない。
 俺はグラムを投げる…

 そして―――


 音とも思えぬ轟音と、光が発せられる。
 俺はグラムを爆発させた。壊れた幻想を使ったのだ。

 

 少女は瓦礫と埃にまみれ、動かなくなってしまった。
 気が重い…このような少女にまで手を挙げてしまったことに罪悪感しか生まれない。


 二人の脈をとると確かに生きている。
 良かった…お互いに瓦礫の破片は突き刺さり、軽いとは決して言えない傷を負っているが、命に関わるものはない。爆発に巻き込まれて死ぬかもしれないというギリギリのタイミングだった。
 

 俺は立ち上がり、奥へと進む。
 二人の少女には辛いだろうが関節を極めさせてもらった。投影した縄では強度が足りなすぎるため、腕力ではどうにもならないような極め方をし、さらにそれを縄でずれることのないように縛る。
 そのままの状態では外側からでなければはずすことはできない。
 …傷つけてしまった事実は元に戻らない。後悔は胸にしまい、前へと進むしかない。
 今はそうすることしかできない。


 ドン


 背中を押されるような感覚。
 そして押された部分が熱い。
 なんだと思い、振り返ればナイフを片手に持った少女がいて―――俺の背中を刺していた。


 何故? 二人が関節を極められた状態ではどうあっても縄は解けないし関節も…改めて少女を見ると、疑問も解決した。
 関節を外した。それが答えだった。
 少女にはまだ縄が縛られている。しかし、その縛られて極められている箇所の肘、それがあり得ない方向へ曲がっている。
 肘はすでにうっすらと青黒くなっている。ただ、その代償としてナイフを取り、俺を刺すことができている。

 抜かれるナイフ。
 溢れ出てくる赤いモノ… また油断をしてしまった。

 「お願いだから倒れてよ、でないと私達の妹が死んでしまうのよ…」

 今にも泣いてしまいそうな少女の表情に嘘は感じられない。
 ナイフを持つ手はカタカタと震えている。
 実際に人を刺すのは初めてだったのかもしれない…言葉では殺すことを躊躇わないといっていても、実際には本当にそうするつもりはなかったのだろう。

 それにしても妹か…この子達も誰かを守るためにしていたのか…


 だったら…仕方ないかもしれない。
 結果的に誰かを守って死ぬのであれば…いいかもしれない。


 俺の意識はそこで無くなった。



[2377] 魔法の世界での運命 47話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:4f5665e7
Date: 2009/01/14 17:54
 一人だけ戦闘にも関与せず、衛宮士郎がすぐ近くまで来ていたことにも気付かない男がいた。
 その男は士郎と戦った少女達の部屋に来た男。

 その男のいる空間は陰気な、そして不快な空気が充満している。
 理由は男の周りに色鮮やかな調合された魔法薬があるからだ。
 それから蒸気が上がり、その香りがこの空間を満たしている。その蒸気だけでは効果はないが、魔法薬を飲んだのであれば無事では済まないだろう代物。

 失敗策ではない。そのように考えられて作られたのだ。
 効果は麻薬のように中毒症状のあるものから1ミリグラムに満たない程の少量の雫をマウスにつけるだけで即死するようなものまで様々だ。
 それのようなものを作り続ける。


 不意に、テーブルの上に置いてある電話が鳴る。
 その音に不快な気分にさせられながらもボタンを押し、応じる。

「僕は忙しいんだけどね」

 用件を聞く前にまず、自分の文句を言う男。しかし、不快な気分を一蹴するような声が聞こえた後の男の表情は優越感のようなものが窺がえる。

『貴方が奇襲を仕掛けた魔法使いの内一人が忍び込み、それをここで仕留めました』
「そうか、さすが僕の従者だ。その程度の魔法使いでは手も足も出ないか。
 ふふふ…あっはっはっはっ!!」

 電話越しに聞こえた声は士郎と戦った少女の声。
 綺麗な声…しかし、今は言葉を発するだけでも苦しいそうなのが電話越しでもわかるほどだったのだが、それに男は気がつかない。

 自分が集めた情報を使い、魔法使いを二人仕留めることに成功。
 ホテルに襲撃した魔法使いからもあの高畑・T・タカミチを、そしていつの間にかこのビルの中に来ていたようだが自分の従者によって倒されたもう一人の魔法使い。

 それが愉快で堪らない。

『ですが、私達は負傷しました。
 この魔法使い、強かったです。油断をしなければこちらがやられていたことでしょう』

 少女は当然の報告をしたのだろうが、愉快な気分を害された男はそれが気に入らない。
 気に入らないのと同時にその魔法使いがどのような者なのか少しながら興味が湧いた。
 魔法界でも屈指の実力者になっているあの双子に強かったと言わせた奴は今までいなかったのだ。

「ふん…そいつを連れて来い。
 ここまで連れて来て話を聞かせてもらおうか」

 これはただの暇つぶし。
 この部屋で魔法薬を作り続けているのも少々、滅入ってきたところだ。気分転換にはちょうど良いだろう。
 そう思い、通話をやめて部屋を出ていく。



 少女が連れてきた男は長身、白髪に浅黒い肌をした男だった。
 ぐったりとはしているが生きてはいるようだ。

 男は少女に目を向けると何とも惨めな姿になっている。
 見目麗しい少女の服は所々破け、一人は腕が青黒く変色して腫れ上がっている。これではいくら自分の従者だからといっても見苦しい。

「下がって身なりを整えてから戻って来い」

 二人の少女は無言で部屋を出ていく。


 話は聞くことはできなかったが、あの少女とこの男の姿を見れば、多少は激しい戦いだったのだなと理解はできた。
 少女が刺した傷口からは血が流れている。このままにしておけばこのままにしておいても勝手に死ぬほどの。
 両手を鎖で後ろ手に縛っているあたりからして、まだ余力を残しているかもしれないとあの双子は判断したのだろう。



 男は士郎のタカミチからもらった指輪を捨て、もう一つの指輪を取ろうとしたがどうにも取ることができない。
 苛立ち、指ごと取ってやろうかと考えた時、士郎が気がつく。

「う…」
「なんだ、思ったよりしぶといみたいだな」

 士郎は虚ろに辛うじて見える姿が…信じられないでいた。
 記憶の彼方にいるはずの…もう二度と会えないだろうと思っていた人物。



「慎二…」

 士郎は驚きの声を上げるが、それが不快でならないように慎二とほぼ同じ顔の男は士郎の顔面を蹴り飛ばす。

「誰だそれは。僕を追ってここまで来たのに名前も知らないのか?
 ふん、冥土の土産だ。僕の名前を聞いて死ねよ。
 僕はレプトス・アンマリー。魔法界でその道では知らぬ者のいない魔法使いだ。
 どうだ、聞き覚えはあるだろう?」

 士郎は全く知らない。
 タカミチであればもしかしたら知っているかもしれないが、士郎は魔法界のことはほぼ知らないに等しい。
 それに情報では魔法界から来た魔法使いを確保というのが目的だったのだが、その名前は聞かされていない。

 その反応が自分の名を知らないということが明らかになっていたのだろう。
 レプトスは不快感をさらに露わにし、ローブの懐からナイフを取り出す。
 
 魔力を帯びたナイフは今強化による防護が一時的にできないでいる士郎にとってはさされれば死に至る可能性が高い。
 それはさすがにまずい。
 今、生きていられるのは儲けものなのだ。少女にナイフで刺された際には死んでもいいかもしれないと考えたが、結果的に生きているのであれば話は別だ。
 まだ人を助けられる可能性があるというだけでこの命、まだ投げ出すわけにはいかない。

「は…なんだ、貴様程度の魔法使いなど与える情報もないというところなのだろうよ」
「なに…!」

 さらに怒りを煽るように言葉をかける。

「レプトス…だったか。
 お前よりもあの少女達の方がよほど名の知れるような力を持っているな。それが何故、お前につき従っているか理解できん」

 自分をより高く見せようとするような人間は煽れば事と次第によれば自ら話し出してくれる。挑発というのはこういうときにも使う事が出来るのだ。

 そして士郎が発言したことに何かレプトスが優位になるようなことが含まれていれば、より饒舌にだ。

「うらやましいのか? あれだけの上玉にはそこまでお目にかかれるものではないからな」

 不敵な笑みと共にまったくこちらが思っていないことを話してくる。この間に意識をはっきりさせ、対応ができるようにしなければいけない。

「どうせ死んでしまうお前には話してやろう。僕はあいつ等の妹の治療をしていることになっているんだよ。
 魔法界の森へ薬草を採りに行った時に傷ついた妹に薬を投与して一時的に回復したようには見えたんだ」

 …していることになっている?

「加えてその薬は僕にしか作れないと言ってやったらすがるようにどうかしてくれと言ってくる。
 それからいいように利用させてもらったよ。
 嫌がってはいたが無理やり仮契約をし、僕に関わる問題を解決して来いと言っても文句は言えない。妹の命がかかっているんだからな。いいように使える奴等さ。
 育ちはいいのかもしれないが所詮、世間知らずの女だ。使うだけ使って用が済めば捨てるに限る」
「…妹はどうする」

 士郎は感情を出さないように声をだすつもりだった。
 レプトスは優越感に浸っているのか底冷えするような士郎の声にも気がつかない。

「同じだ。薬の効き目もわからない、効果があっても薄い。そんな役にも立たないモノをいつまでも置いておくわけがないだろう。
 あいつ等と同じでいいだけ利用したら捨てて…ヒッ!?」

 優越感から一気に恐怖に変わる。
 士郎は倒れたままだ。しかし、その状態から睨まれたレプトスはまるで見降ろされているような気分なっていた。
 
 一歩、また一歩と後ろへ下がる。

「な、なんだよその眼は…ぼ、僕のモノを僕がどう扱おうが勝手じゃないか」
「命は…モノじゃない…!」

 ゆっくりと起き上がる。
 どこからともなく剣が現れ、その手を縛っていた鎖の元へ向かう。剣によって鎖は両断されて士郎の両手を封じるものはなくなった。
 しかし、傷つきレプトスが魔法を詠唱すればすぐにでも死にそうな男であることには変わりはないはずだ。それだけなのにレプトスは足が震える、歯がカチカチと鳴って頭が真っ白になる。

 だが、士郎の足が崩れる。
 出血により、意識が朦朧とし、負傷した身体が言うことを聞いていない。
 その光景に自分がまだ優位に立っていると思ったレプトスは杖を構える。

「は、はは。なんだ、起き上がるのもやっとじゃないか」

 ゆっくりと起き上がることのできた士郎、しかし、その足はフラフラとおぼつかない。
 魔力はあっても血が足りなくなってきていることを士郎自身は理解している。この状態で動けば出血が激しくなることも理解している。

 レプトスが魔法を詠唱しているもの気が付いている。
 それを受ければ死ぬだろうということも。

「死ねよ」

 放たれる魔法は氷の塊。“氷神の戦鎚”押し潰そうという狙い。
 死にかけの人間を殺しには十分だろう。

 迫る氷神の戦鎚にも動かない士郎にレプトスは勝利を確信した。

 氷神の戦鎚は砕け、氷の破片が舞う。

「あははははははっ! なんだ! 呆気ない死に方だな!
 僕に戦いを挑んだことをあの世で後悔し…あ?」

 大きな氷の破片が二つに分かれている。それも綺麗な断面でだ。

 煙の所為で見えにくいが…その中に立っている。
 
 その姿を見た瞬間に血の気が引いた。
 ゆっくりと歩み寄ってくる。
 その手に刀が握られている。
 
 レプトスには分からないだろう。

 銘は村正。
 徳川の一族に禁忌とされ、その刀を所持した者が不幸な死を遂げるとまで言わせる不幸を引き寄せる刀。

 宝具ではない。真名の解放もできない。耐久力では干将・莫耶に劣る。しかし、切れ味は絶大。
 魔法で作られたとしても形があり、この程度のものであれば容易に切り裂く。数百年の年月はその程度では刃こぼれすらしない。
 そして、これの恐ろしさはそれだけではない。

「この刀は扱う者を不幸にする。これによって斬られた者もな。
 だが…お前は気がつけ、人の不幸というもの、苦しみというもの」




 レプトスと名乗った男は動くことができないのだろうか。俺がゆっくりとした歩調で一歩一歩進んでも動かない。
 カチャリ、と村正が音を立てる。この刀には持つ者と斬られた者を不幸にする特性があるが、俺はこれでレプトスを傷つけることは考えていない。 
 これを投影したのには理由がある。これは相手の恐怖感を増す。冷静な判断ができなくなれば後は気絶させればいいと思ったんだが…

 その音に反応して足を縺れさせながら後ろにある扉へ向かって走って逃げる。
 それを俺も追いかける。 
 
魔法で身体能力を高めているのか思ったよりも速く走っていく。

 扉の奥はさらに道が繋がっていて、レプトスはまだ先にいる。もう少し早く走りたいのだが…意識を保つことにも気を配らなければいつ倒れるかわからない。
 しかし、できるだけ速く。

 あいつが奥に人をいたとして、その人を人質に取るかもしれない。それは最も避けたい。
 
 追いかけていくとそこは最も奥の部屋であろうところに着いた。
 ここの部屋は嫌な感じがする。おそらく誰しもが感じ取るであろうが…嫌な空気が漏れ出している。

 中に入るとさらに空気が悪い。
 そして机の前にレプトスが俯きながら立っている。
 息は切れ、肩で息をしている。しかし、その表情はつい数分前の優越感に浸っている表情だ。

「こちらの技術や科学というのはすばらしいな」

 そう言い、腕をこちらに向けると―――

 パンッ

 乾いた炸裂音。
 そして俺の背後の壁に小さい穴が穿たれる。

「魔法でも殺せるがこの方が確実に、そして簡単に殺せる。
 は、はは。残念だったな、これでお前も終りだ。魔法で反応速度をどうにかしないと避けられる速度ではないんでな。拳銃だったか。便利なものを旧世界人も作ったものだな。
 不意打ちをされれば魔法障壁を張っていなければ一発だ。
 どうやらお前は魔法障壁を張っていない。これで死ね」

 放たれる銃弾。

 だが、これが何の問題になろうか。

 避けることなどこの身なれば造作もない。
首を曲げることで回避する。

 銃口、指の動きなどを観察すれば狙いを見極めることは難しいことではない。
 それに俺は世界と契約し、人の域を超えている。
 例え不意打ちいであろうとも反応できる。それが出来なければ死ぬ世界で俺は生きてきた。
 

銃弾が避けられたことに動揺するも、尚撃ってくる。
 それを避ける。狙って撃ってくるには問題はない。しかし、それが動揺により狙いが定まることもなく乱発されるのが最も怖い。

「う、うわぁぁぁぁっ!!??」

 それが現実になる。
 乱発は狙いが定まっていないので身体に命中する可能性は低い分、いつ当たるか分からない。
 
 一発の銃弾が俺の頭部に迫る。
 それを―――振り上げた村正をもって一刀両断する。

 衝撃が傷口に響く。が、それが意識を明瞭にしてくれた。
 銃弾もなくなりカチカチと撃てなくなった拳銃の引き金を引くレプトス。

「終りだ」
「待てっ! あの双子の妹が何で眠り続けているのか気にならないのか!?」

 俺の動きが止まる。

「あいつ等の妹は魔法界でドラゴンに傷つけられたんだ。特殊なドラゴンで滅多に遭遇できるものではないし、生態も能力もほぼ分からないドラゴンだ」
「…どんなドラゴンだ」
「ドラゴンゾンビ、最もわからないドラゴンだ。傷つけられた者は呪いの契約により魔力を死ぬまで奪われるとか、死んだらゾンビとして生き返るとか訳の分からない事態で妹は眠っているんだよ。
 僕は魔力回復の薬を点滴として打っている。けど、それが効いているのかわかるはずもないし、他の薬を投与してもどうなっているのかわからないんだよ。
 見つけた時は調合した強力な鎮痛剤があったから傷の痛みとか、辛いものそのものをなくしていたんだ。だから一時的に持ち直したように見えたんだ」

 なるほど…嘘ではないようだ。
 この状況で嘘をつけるほど度胸も持ってなさそうだし…それに治療をしていることになっているというのはこれが原因だったわけだ。

 それにしても呪いの契約、死んだらゾンビとして生き返る。そのような伝承があるドラゴン。
 しかし呪いや契約であれば…

「わかった。その妹を見せてもらおうか」
「こ、こっちだ」

 俺はレプトスの杖を取り、その後ろをついて歩く。
 本棚の一部を押すと棚そのものがスライドするように動いていく。

 少し進むと、すぐに部屋に着いた。
 そこに点滴を打たれ、眠り続ける妹は…俺は愕然とした。

 俺はこの人物を知っている。
 エミヤシロウ記憶が記録している。

「ライダー…」

 聖杯戦争のサーヴァントの一人。反英雄、慎二のサーヴァント…
 何故、ここにいる。いや、これは本当にあのライダーなのか? ここは並行世界、姿形が同じ人物がいてもおかしくはない。レプトスの例があるのだ。
 それに魔力が著しく低くなっている。英霊としてではありえないほどに。これもそのドラゴンの影響か、ただの魔法使いなだけなのか…

「これがその妹だ。魔力は最初のころよりも落ちているがまだ生きている。と言ってもほぼ仮死状態に近い。
 脈も一分間に一回。本当に生きるための最低限の生命維持活動しか身体がしていない」

 …やってみる価値はある。しかし、もしもあれで効果がなかった場合は俺にはどうしようもないことになってしまう。
 だが、可能性がないわけではない。


 投影を開始し、その手に歪なナイフのようなものが生み出される。
 ルールブレイカー。破戒すべき全ての府。これならば何とかなるかもしれない。ただし、魔法にも効果があればだが…

 いきなりそれを取り出したことでレプトスは少々驚いたようだが気にしない。
 俺はルールブレイカーをライダーに刺す。



 …効果は見られない。というよりわからない。
 まだライダーは眠り続けているし、魔力の変動も見られない。

 しかし、このままにしておくわけにもいかない。
 俺はライダーを抱え、外に出ようとすると、何かが割れる音がした。

 振り返ればガラスごとボタンを押したのだろうと思われるレプトス。
 そして頭上で爆発音と振動。

 まさか…

「ここまでだ…僕のしたことがバレたならもうこれからなんてどうでもいい。
 一人で死ぬのはごめんだ、お前らを道ずれにさせてもらう。
 は、はは、はははっははっはっはあははははははっ!!」

 狂ったように笑い出す。このビルの爆破スイッチだったのだろう。こいつは技術と科学は便利だと言った。ならば拳銃の他になにかあってもおかしくはない。少し眼を離した隙に…!
 このままでは…生き埋めになるどころかあの二人の少女とライダー、レプトスも死ぬ。
 あの二人はここに向かっているかもしれない。すぐに地上へ向かわせなければいけない。

 俺はレプトスの腹に蹴りを入れ、気絶させた。
 そしてレプトスも抱えて俺は走り出す。


 すでに通路にはヒビ入り、ここも長くはない。破片も多少ながら落ちてきている。早く出なければ危険だ。

 俺の意識が覚めたところまで来ると、あの少女達がこちらに走ってきているところだった。おそらくライダーのことが心配になり危険を冒してまでここまで来たのだろう。


 だが、もうビルは限界だった。
 天井を突き破って落ちてくる大きな瓦礫は少女達の頭上へ落ちてくる。それに少女達はライダーに気がいっていて気が付いていない。

 まずい、と思った時。俺の肩から重さが消えた。そちらにはライダーを肩に抱える形になっていたのだが、まさか落としたかと思ったが、それも違う。
 視界の隅に何かが走り抜ける。

 しかし、それも確認すること叶わず、瓦礫が降り注ぐ。

 
 それは俺にも同様だった。




 僕が人体実験に利用されていた人達を救出し、重要人物の所へ行こうと思ったのだがこちらの味方の魔法使いが増援に来てくれた。
 話を聞き、ビルの中の一般人がいないことを確認すると、すぐに向かったのだが…途中でビルが震える。
 危険だと判断、それに士郎君が中から出てくることを信じて僕は不安とともにビルから出るしかなかった。


 ビルが倒壊し、魔法使いたちの中には士郎君はいなかった。
 僕が…あの時そのまま進んでいれば助けてあげられたかもしれない。後悔が生まれる。

 いや、まだわからない。瓦礫の隙間のところで助かっているかもしれない。それにここにいる魔法使いたちの魔力だけではない魔力を感じる。もしかしたら…
 それを信じ、救助に加わるが…見つからない。僕の力でどかせる瓦礫をどかし、いないかと探してみてもどこにも士郎君はいない。

 残るは…僕にも動かすことのできないとても大きな瓦礫の下ということになる。
 魔法使いたちの協力で大きな瓦礫をどかして、さらにその下にあった瓦礫を取り除いていく。

 すると…信じられない光景がそこにあった。
 何かの盾のように展開される五枚の花弁。大きく、すごい魔力を感じ取ることができる。
 まさかと思い、その下の方へ眼を向けると、そこには地面を赤に染めた長身の男と魔法使いらしき男がうつぶせに倒れていた。

「士郎君!」

 かけよる僕には士郎君が死んでいるのではないだろうかという考えがよぎったが、それは士郎君の言葉で否定される。

「助けられなかった…」
「え?」

 僕は何のことを言っているのか分からなかった。重要人物らしき人物は士郎君の隣で腰を抜かして動けなくなっている。彼を救ったのだから救えなかったというのはおかしいのではないか。

「目の前にいたのに…俺が抱えていたのに救えなかった…
 手の届く位置にいたのに何故助けられなかった、どうしてあと少しの力が足りないんだ…!」

 自問自答とるように誰かに答えを欲しているというわけではない。自戒のように刻みつけているのだろう。
 しかし、この男の他に誰かまだいたということになるが、この瓦礫の山では士郎君が展開していたと思われる盾を展開しなければ助からない可能性が高い。
 しかし…士郎君は見てとれるほどに満身創痍なはずなのにどうして魔力が別れる前と変わらないように感じられるのだろうか。

「おい! まだ誰かいるぞ!」

 魔法使いの一人が叫ぶ。
 それは士郎君の位置から少し離れたところで人を見つけたようだ。
 士郎君も傷ついた身体でその場所に向かう。他の魔法使いがその傷を見て止めようとするがそれを押しのけて士郎君は進んでいく。


 人が見つかった場所には三人いた。
 双子の少女、それに…身体に瓦礫が突き刺さっている女性。

 すぐにも治療しなくてはいけないというのに…何故、こうも触れがたいほど美しい光景なのだろうか。

「怪我はありませんか姉さま…」
「メドゥーサ…貴女、目が覚めて…」

 女性は微笑みながら、身体から抜けるように倒れる。

「メドゥーサ!」
「よかった…今度は守ることができました。
 私が怪物になったことで姉さまを守るということができませんでした。でも、今度は守ることができました…それだけで私は満足です。
 どうしてここに姉さまがいるということも、何故生きているということも…今はどうでもよいことです。
 大好きな姉さま…また会えてよかった…」
「メドゥーサ…メドゥーサ!?」

 徐々に薄くなっていく身体…これはいったい…

「くっ、誰かこの中に仮契約の魔法陣を描ける人はいないか!」

 士郎君が呼びかける。しかし、この状態で何故仮契約の魔法陣が必要なのかわからないが、一番この状況を理解しているのは士郎君のようだ。今は士郎君の指示に従った方が最もあの女性を助けられる可能性が高いだろう。僕にはそう思えた。

 すぐに一人の魔法使いが仮契約の魔法陣を描けるということで取り急ぎ描いているが…士郎君ももう限界だ。見てとれるほど出血が酷い。もう顔面は蒼白、足下もおぼつかない。
 それを見て魔法使いが傷口を魔法で治療しているが…血は戻ることはない。早くちゃんとした治療を受けなければ危険だ。


 仮契約の魔法陣が描け、準備は整った。
 メドゥーサと呼ばれた女性はもう地面が透けるほどに身体が透けている。
 それを見て他の魔法使いはざわめき始めている。しかし、それどころではないのがあの双子と士郎君だ。
 彼等は横たわる彼女を助けることで他の人間の動向など気にする余裕もない。


 少女と声を掛け合うと、士郎君が仮契約をすることになったようだ。

 士郎君との仮契約が成立するが仮契約の光に包まれる中、一人の男が倒れるのが僕には見えた。



[2377] 魔法の世界での運命 48話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:4f5665e7
Date: 2009/01/15 19:53
 目が…覚めた。
 ここはどこだろうと思うよりも早く、ライダーはどうなったのかと飛び起きようとした。
 しかし、それは叶わなかった。

 身体は鉛でも流し込まれたかのように重く、腕の動作だけでも辛い。
 加えて、俺の寝ているベットに横たわるようにしている人物が一人いるのだ。

「ライダー…」

 俺が仮契約をしたライダーがそこで眠っている。
 その眠っている表情はとても綺麗で、引き込まれるような魅力が溢れている。


 それにしても…契約してしまったか。
 俺は聖杯戦争の時まで誰とも契約は結ばないと思っていたのにだ。いや、後悔する必要があるのだろうか。
 確かに俺は契約をしたが、それはライダーを助けるためにしたことだ。契約をしなければライダーはあのまま消えていたことだろう。
 それによってあの双子の少女が悲しむ顔を俺はどうあっても見たくはない。誰かを助けることができた。それでいい。


 まだ疲れがあるのか、身体は睡眠を欲している。
 俺は瞼が落ちるのを妨げることができず、もう一度眠りについた。




 目が覚めた時にはライダーは病室からいなくなっている。
 個室の病室のようで俺の他には誰もいない。が、外からは病院なのに騒がしい。何故?

「メドゥーサ! 私の言うことが聞けないの!?」
「姉さま! ここは病院なので今は!」
「いいからこっちに来なさい!」

 …元気そうで何よりだ。
 軽く俺のいるところが病院だということを現実として外のことを切り離した思考をしている。
 そんなことを考えてると、タカミチが入ってきた。

「やぁ、賑やかだね」
「そう思うなら止めてくれ。ここは病院なんだから」
「そうしたいけどもう屋上の方へ引っ張って行っちゃったからね」

 止められなかったと…

 タカミチはお見舞いとして果物を持って来てくれた。それを頂きながら今の現状を確認。
 俺は二日眠っていたらしく、その間はタカミチも仕事は入っていなかったので今もこうしてリンゴをむいている。

 仮契約の後、俺は出血により意識がなくなってしまった。それは理解できるのだが、その後が少々、驚いた。
 レプトスが俺の為にと魔法薬をくれたというのだ。

「彼は近いうちに魔法界へ護送されるよ。罪がなくなるわけではないから。
 でもね、彼は君に伝言として『ありがとう』 そう言っていたよ」
「そうか…」

 それならよかったと思える。
 気がつくことのないままもう一度過ちを犯してしまうかもしれなかった。しかし、気がつけたというのならその可能性はとても低くなった。
 それだけで俺は本当によかったと思える。

 レプトスのことを聞くと、あいつは魔法界では薬などを調合して社会に貢献する家系の生まれらしい。
 しかし、自分の性格がその道に向いていなかったのか家から勘当され、その知識を間違った方向へ向かわせてしまった。
 その中で情報などが早く調達できるようになり、その情報で人の弱味で脅して自らの配下に加えていった。タカミチが襲撃されたのも情報がどこからか漏れたものらしい。まぁ、タカミチに返り討ちにされて襲撃した魔法使いに扮してレプトスに連絡を取ったところから計画は崩れ始めていたんだろうが。

「それと、あの三人は麻帆良が保護することになったよ。
 君と仮契約した子は君といなければいけない存在のようだからね」
「あの双子はどうしてだ?」

 ライダーは最もなことだ。しかし、あの双子の少女の方の理由はわからない。

「あの双子には魔法界にもちゃんとした身分を証明するものがないんだよ。こっちの世界にもね。
 なのにこちらの世界に来た。何故かといったら密入国ということになる。それは罪だ。仕方のないことだったとしても多少の罰は受ける可能性はあるんだよ。可能性としてだけどね。
 それと」
「それと?」
「姉妹を引き離すほど、僕たちは意地悪じゃないんだよ」
 
 冗談のように微笑みながら言うタカミチはとてもかっこよかった。
 しかし、それを実現させるのは簡単ではなかったはずだ。
 それを聞くと、タカミチは「秘密さ」そう言ってはぐらかされてしまった。

「それにメドゥーサさんは不思議な存在だ。精霊でも他の種族でもない、今まで例のない存在だ。
 それを魔法使いが見逃すはずがない。君には彼女を守ってもらうことと、あの双子の監視係といった仕事が与えられる。これは学園長からの指示だからね。
 それにあの子達もメドゥーサさんを守るためといったら快くこちらに来ると言ってくれたよ」
「タカミチはその特別な存在というのが気にならないのか?」

 俺はそう聞くがタカミチは誰かを救ってその人の事情は必要以上に踏む込まないものだよと言った。そう言い残してタカミチはまた明日来ると言って病室から出て行った。

  
 
 時刻はまだ昼少し過ぎといったところ。
 このままベットに横になっているというのも些か持て余すところ。
 幸い、歩けるぐらいには回復している。急な運動は無理だが、この分ならば一週間以内には問題なく動けるようにはなるはずだ。

 俺はライダー達が上がっていっただろう屋上へ向かいながら二日前のことを思い出す。
 
 俺は崩壊するビルの中、降り注ぐ瓦礫からレプトスを守るためにアイアスの盾を投影した。しかし、魔力は足りなくなり血も徐々に失われていく。
 それでも守りたいと強く願った。俺が倒れようともたとえ一人しか助けられなかったとしても絶対に守りたいと思ったときだった。

 指輪が外れたのだ。
 指輪が外れたとたんに俺の本来の魔力が身体に漲る。それによってあの瓦礫の雨を防ぎ切り、固有結界の暴走も魔力で抑えることが何とかできた。
 指輪が外れる条件はまだ微妙に分かっていない。何かを助けたと思っただけではダメ。危機的状況でなければ外れないのか…
 それではあの修学旅行の時に外れなかったのはおかしい。まだまだわからないな。

 しかし、まだ疑問は残る。ライダーとあの双子の存在だ。
 ライダーは俺の世界ではすでに消えた存在だ。あの双子もライダーが姉と呼ぶあたりからしてゴルゴン三姉妹の長姉・ステンノ。次女・エウリュアレということになってしまう。どちらも女神として神話に残る人物だ。
 それは本人達に聞かなければわからないだろう。


 屋上へ上がると、ライダーが二人の姉に首筋を噛まれていた。
 一般的にはこの光景を見れば何をしているんだと言うかもしれないが、この三人がしているとそんな行為も絵になってしまうのが困りものだと俺は思ってしまう。
 まぁ、このままにしていては涙目…いや、ほぼ泣いているライダーが可哀そうだ。

「二人ともそのぐらいにしておけよ」

 二人の姉の襟首を掴んで吸血を強制的に止めさせる。
 それに二人は少々、御立腹のようだったがそんなことは気にしない。


「ライダー、身体の調子はどうだ?」
「はい…問題はありません。
 それと私から質問です。あなたはアーチャーではなく、士郎ですね?」
「あぁ…そうだ」

 そう答えるとライダーは俯いたが、自分と契約を結んでくれたことに感謝を述べてくれた。
 俺としては当然のことをしたまでなので気にしないでほしいと言ったのだが、二人の姉が口を挿んでくる。
 やれ、妹の唇を奪った、私達に対して手を挙げた男。
 否定はしない。すべて事実だ。

「姉さま、仕方のないことですから…」
「いいわけないじゃない! 女神である私達に手を挙げることがどれほど罪なことか…!
 本来ならただの死ではすまないわ!」

 やはり…この二人はこちらの世界の住人ではなく、俺の世界のステンノとエウリュアレということで間違いないようだ。
 それが理解できれば本題へ移ろう。

「君達二人にライダーはどうやってこっちの世界に来たんだ? ここが違う世界だということは理解できているはずだ。
 並大抵の手段では来られないということも」

 二人は俯き、小さく話し出す。

「…怪物となったメドゥーサに私達は身を捧げて命を絶った。ということになっているのはこの子に聞いたわ。
 でも、実際は違う。この子に飲み込まれた時はまだ私達は生きていた。そして中には私達だけじゃなかったわ。一人だけ…いえ、人とは呼ぶことのできないモノがいた。 
 そいつは自分を魔導元帥と「魔導元帥!?」 え、えぇ」

 あの爺さん…いったいどういう行動してるんだ? どうやって怪物と化したライダーの中にいるとか色々理解できないところが…

「続けるわよ。
 その時の翁は言ったわ。『自らを捧げて妹を思う心。それは真の心。ここで命落とすには惜しい存在』だと。
 でも私達は…その…この子がいないところでは生きていけない。この子がいないのなら私達の命すら無意味だと答えたんだけど、それも笑いとともに一蹴された。
 『不死の身体を持つのならば妹の分も生きてやるのも姉としてできることはないのか。それがわからんで姉と名乗るな』 そう言って私達を光の孔に落としたわ。
 この二つで一つのネックレスとともにね。
 あんな失礼なじじぃ初めて見たわよ」

 少し恥ずかしそうにライダーを見ながら話していると思いきやコロコロと表情を変える。
 

 しかし、指輪が反応したのはこのネックレスが原因だったのか。おそらく共鳴に近いものがあったのだろう。
 第二魔法というものでどちらも魔力を使っていた。それによって共鳴してあの違和感を俺が感じることができたのだろう。
 もしかしたら…共鳴の影響で指輪が外れたのかもしれない。可能性の域は出ないが。


 孔に落とされた二人は気がつけば魔力の濃い魔法界にいて、数年を過ごして今に至るというわけらしい。
並行世界の時間の流れは違うからこちらの数年があっちの数百年ということもあり得る。
それからは聞いた話でライダーに守られ、レプトスに利用されていたということ。

「ライダーはどうなんだ?」
「私は桜が死に、座へと還る途中だったと思われます」

 ライダーの言葉に俺は疑問を持つ。
 桜というのは慎二の義理の妹、遠坂の妹である桜で間違いではないだろう。しかし、何故、桜が死んだことで座へと?
 ライダーは俺の記憶では学校で死んだはずだ。他に…待てよ。

「ライダー、俺はライダーの知る衛宮士郎じゃない。
 俺は聖杯戦争で聖杯をセイバーと遠坂で壊した。けど、ライダーの知る俺は違うだろう?」

 そう言うとライダーは少々、驚いたようで俺に説明を求める。
俺は大師父によってここに来たことや、いつこちらに来たことを伝えた。ライダーはそれについて何か言いたいようだったが後に回したようだ。今は話を続ける。

「座へ還る途中、私は何かに引っ張られ、こちらの世界に来ました。おそらく数か月前と考えられます。士郎がこちらに来た時と重なります。
 私の考えでは、こちらには今私達がいる世界と、魔法界と呼ばれる世界をつなぐ要石というのがあるらしく、それは第二魔法とよく似た効果です。
 それから考えられる可能性として士郎が送られた際にその要石が反応し、擬似的な第二魔法で私が引っ張られたのではないでしょうか。完全ではない分、直接こちらを繋ぐことは出来なかったようですが曖昧な所が座への道と繋がったのでしょうか。あれも普通では繋がらないものですからね。
 あくまで可能性の話ですが、私にはこれ以外には思い浮かびません」

 たしかにこれは可能性の話だ。どうしてこうなったのかというのは誰にも分からないだろうし、俺達以外に知られることもないだろう。
 
 ライダーがこちらに来た時の話を聞くと、魔法界では現界するだけならマナが濃いため問題はなかったらしいのだがドラゴンゾンビというイレギュラーによって魔力を奪われる事態に陥ってしまった。
 魔力が減っていけば当然、現界するもの俺達が来るのがもう数日遅れていれば確実にライダーは消えていたことだろう。

 仮契約によって魔力は問題なく供給されている。
 しかし、英霊を現界させるだけの魔力を供給することは俺の魔力は制限されているところからさらに削っているということだ。
 それは俺の魔術に制限が出る。
 ライダーも使っていないから分からないらしいのだが、宝具を使えば魔力はほぼ空になり存在することが精一杯になるだろうという。
 それに、令呪もない。なのでもしもライダーが俺を殺そうとしても妨げるものは何も無い。
 それを考えていると。

「士郎、私が自分の存在を救ってくれた者に手にかけると思っているのですか?
 それはよほどのことがない限りあり得ないことです」

 よほどのことがあればあり得るということだな? 
 だが、それはこの双子に何かをした時だろう。そんなことを俺はしない。


 ステンノとエウリュアレのレプトスとの仮契約は解除されたらしい。さすがにいつまでもそのままという訳にはいかないだろうが話を聞いてこの二人は大変そうだと改めて確信した。
 レプトスが連れていかれる少し前に死なない程度に二人で殴り飛ばしたというのだから…これはライダーも苦労したんだろうなと少しながら想像ができた。

 この二人は数年は苦労することもなく生活できていた。男が頼んでもいないのに衣食住を与えてくれるからだった。
 しかし、それだけでは欲求が満たされなかった。 
 異世界であるこの世界。ここの魔法に興味を持ち、魔法界の人間に教えさせたというこちらの魔法を使えるということがわかり、二人はそれぞれ違うものを吸収していった。
 ステンノは感卦法という技法を、エウリュアレはネギ君の使うような魔法を習得した。どちらもかなり上達が早く、教えた魔法使いをすでに抜いているらしい。

 ライダーは記憶は持っているが俺の知らないものだ。なので聞いたりはしない。ライダーの方から話してくれるのであれば聞きはする。
 しかし、俺は俺、向こうの俺とは違うのだ。


 
 ステンノとエウリュアレは一度、ホテルへ帰って食事を取りに出るようだ。それにライダーも連れられていく。
 しかし、ライダーは振り返り俺に何かを差し出した。

「士郎、これは仮契約のカードらしいのです。
 コピーは私が持ち、すでに使っています。得られるアーティファクト名は『無形封印』というものでした。
 カードの使い方を教えてもらい、私自身がアーティファクトの能力を調べたところ私が意識的に封印したいもの、私の眼などを封印したい場合はそれを間接的に封印できるものを想像し、形となった物を直接つけなければいけません。それがこの眼鏡ということになります。
 ただし、これを相手に使う場合は触れることが第一条件なので難しい能力です。人によっては注意すべき能力ですが」

 なるほど、だからライダーは眼鏡でいるわけか。
 気にはなっていたんだが話すきっかけがなくて聞けていなかった。


 …眼鏡姿のライダーはとても綺麗だ。大人の魅力とでも表すのだろうか。
 これであの双子の妹だというのだから初見ではそう思うことは無理だろう。

 ライダーは詳しい話はまたと言って双子の後を追っていった。




 翌日、タカミチと医者はもう俺が退院できることに驚いていた。
 全治一か月。魔法の力を使ったとしても一週間はかかるだろうと言われていたのだから驚いても仕方のないことかもしれない。俺は普通の身体ではないからとは言えないが。
 しかし、まだ身体に不安は残っている。動きが少々鈍い。これでは全快するのにもう少々かかるだろう。
 空港にはライダー達が数人の魔法使いに囲まれるように立っている。
 双子はその扱いに大変御立腹のようだったが、魔法使いたちはその容姿が気になっていることもあって少しはマシなようだ。

 学園長がこの三人が日本へ来られるように手配をしてくれたようだ。

 …ただ、これから不安だ。ライダーたちではなく、俺がだ。
 村正を投影した影響か、俺の靴紐は切れ、黒猫が横切り、コーヒーを飲んでいたのだがそのカップが真っ二つに割れる。
 明らかに不幸な気配。タクシーは故障し、それを補うためにタクシーを拾おうと思っても俺がやっているとほぼ乗っている客がいるか無視される。
 タカミチがやった瞬間に捕まった時は少々、悲しかった。
 これはまだ序の口だろう。まだまだ俺に降りかかるものはあるはずだ。恐るべし村正。

 プルルルルルッ

 ビクッと反応してしまう。暗い考えをしているところではさすがに驚く。
 携帯に電話が入ったようだ。液晶に映る名前は雪広だった。この携帯は衛星携帯電話。麻帆良技術の賜物なのだという。便利なものだ。海外でも使えるとはな。

「もしもし、どうした雪広」
『あぁ、士郎先生。今どこにいるのですか?』
「? 仕事でマレーシアのクアラルンプールだ」
『今すぐ迎えのジェットを向かわせますのでそれにお乗りください。
 …絶対ですわよ?』
「わ、わかった」

 通話は切れ、俺は何が何だかわからない。 
 一つ言えることは雪広の最後の言葉に強い念が籠められているようだった。詳しい説明が無くとも、拒否したら俺の身に何かとても良くないことが起こっていたことだろう。間違いない。

 タカミチに理由を話して先に麻帆良に帰ってもらうことにした。タカミチに双子を頼み、三人は飛行機に乗っていくがライダーは俺についてくると言って飛行機には乗らなかった。
 俺としてはいきなりライダーが雪広達に会うことに不安を覚えるが…まぁ、雪広だけならば問題はないだろう。常識ある子だからな。

 待つこと数時間。
 やはり普通に帰ればよかったかと思えたが、その間に空港の近くに買い物ができる施設があったため、そこでライダーと買い物をしていた。
 今のライダーの服装は白いブラウスにロングスカート。あの双子とお揃いの服だ。しかし、今のところはそれぐらいの服しかないので少しだけでも買っていこうかという話になったのだ。
 日本よりも安い、それに良い物をそろっている。
 
 ライダーは店の男性にオマケダト言われてアクセサリーをもらっていたり、ナンパされたりしていた。
 それも無理のないことだ。ライダーほどの美人というのは滅多にお目にかかれないだろう。

 雪広の執事だろうかと思われる老人が俺達の前にきて、案内をする。
 ゲートを通され、目の前に見えた物は飛行機。自家用の物なのだろうか。それを持つということはお金を持っていることの表れでもある。
 しかし、改めて何の用かと思う。
 ここまでして俺に何か用があるのだろうか。だったら待たせることなくそのままタカミチ達の乗った飛行機に乗ればいいだけの話だ。
 何故、待たせてまでこの飛行機に乗せる意味がわからない。
 が、ここまで来たら乗るしかないだろう。

 俺は執事らしき人にライダーも良いかと尋ねると、問題はありませんと言っていたが…あの含みは何だろうか。
 ライダーが零体化できればいいのだが、消えかけた時と今では状況が違うのか霊体化はできないらしく、ほぼ受肉した状態と変わりない。
 聖杯戦争の時と違うということか、もしくはこの世界が関係しているのか…

 飛行機の中で俺はふと、ライダーとの仮契約のカードを見る。
 描かれているライダーは眼帯をしておらず、眼鏡も掛けていない状態だ。聞けばこれは石化の魔眼が発動状態のもの、これに見たり見られた場合身体は石化する。俺にかけられた場合は石化するか行動に影響する重圧をかけられるとのこと。
 
 カードに書かれているものに徳性は“愛” 方位は“西” 色調は“黒” 星辰性は“流星”
 称号は“狭間の女神”となっている。



 俺とライダーは不安な飛行機の中で揺られながら、目的地を知らずに空を飛んでいく。
 

 不幸なことがありませんように…



[2377] 魔法の世界での運命 49話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:4f5665e7
Date: 2009/01/20 19:46
 どのくらい飛行機に揺られていたのかはわからないが少々眠っていたようだ。
 執事の人に起こされ、目的地に着いたと言っている。
 しかし、窓から見る分にはここはまだ空の上。ここから着陸態勢に入るからシートベルトを締めてほしいということだろうと思い、俺はシートベルトに手を伸ばす。

「いえ、それは必要ありません。
 これは水上着陸に適していませんので、ここから降りていただきます」

 …は?
 いや、確かに水上着陸には適していないだろうけど、ここで降りる?
 執事は後部座席の方へ行き、扉の向こうへ消えた。

 「どういう意味だろうなライ…」

 俺は言葉を失った。
 ライダーは作業用のようなツナギに着替えていて、ヘルメットを被り、背中にはリュックを背負っている。

「行きますよ士郎」

 ライダーに手を引かれ、俺も後部の扉を通り抜ける。
 そこにはライダーと同じ姿をした執事がおり、そして手渡されるものも同じもの。
 何故?
 
 状況が全く理解できていない中、俺は二人にされるがままにスーツの上から着替えさせられ、同じリュックを背負って…
 何この状況。


 飛行機に荷物を積み込むだろうこの場所。そこに通され、この装備。
 嫌な予感がぷんぷんしますね。はい。

 執事はごく当たり前のように床の扉を開ける。
 風が吹く。とても強風だ。
 それに気圧も俺が来てから調節してあるんだね。

 今すべての状況がりか「行きますよ」
「ちょっと待っ!!」

 俺とライダーと執事は上空からスカイダイビングをした。





 僕は南の島に来ている。
 いいんちょさんの所有するリゾートに招待された。最初は僕一人なのは寂しいなと思ったけど、飛行機に乗った時にはクラスの皆さんが先に乗っていたので安心した。
 いいんちょさんもみんなで来るつもりだったのか気にした様子はなかったし

 でも…アスナさんの方を見るとプイっと僕に背を向けて行ってしまった。
 ううぅ…まだ怒ってる…


 時刻は昼を過ぎて少し眠くなってくる時刻。ちょっと疲れたなぁ。
 マシュマロじごくだったり拳法だったり海が割れたり…とにかくあったけど色々あった。
 
 僕は今いいんちょさんとビーチに二人でいる。

「すみません、無理言っちゃって…」
「いえ、構いませんわ。ネギ先生の為なら!」

 水着の上にパーカーを着たいいんちょさんは笑顔で言ってくれるけど、やっぱり少し申し訳ない。
 するといいんちょさんが何かに気がつく。

「あ、来ましたわ」

 僕にも見えた。飛行機が一機、こちらに向かっている。エンジン音が徐々に大きくなってくる。
 でも、あれってどこに着陸するのかな? 海に着水できる造りにはなってないみたいだけど…

 すると、何かが落ちた。

「え?」

 いいんちょさんはー僕の顔を見て笑っている。
 いや、あれは―――でもまさかそこまで…でも…

 パラシュートが開いた。
 間違いない。

「いいんちょさん、あれ士郎さんですか?」
「えぇ、士郎先生ですわ。
 仕事で海外にいましたが自家用ジェットにて迎えに行かせました。あいにく、着水装備が無いのでスカイダイビングの形でこちらに来てもらうことになりました。
 景色も一望できますし気持ちいいですわ。今度一緒にタンデムでもいかがですか?」

 笑顔のままいいんちょさんは言うけど…大丈夫かなぁ、士郎さん。


 士郎さんの他に二人いるけど、一人は執事らしい。けどもう一人は誰だろう?
 ビーチに無事に着地できたみたいだけど、上からかぶさったパラシュートの中から士郎さんの声が聞こえる。

「知ってたのか?」
「はい、執事の方と話していたので。先ほど言った通りの状況になったわけです。
 士郎は眠っていたので知らないでしょうが」
「言ってくれ…起こしてくれてもいいから言ってくれよ…驚くから」
「その割には叫び声も上げずに状況を受け入れていたようですが?」

 いいんちょさんが言うには仕事先で麻帆良に来る人を迎えに行ったらしいけど、その人一人だけ麻帆良に行かせるのは不安だという理由で来ることになったらしい。
 声からして女の人みたいだ。
 
 士郎さんはパラシュートから出てくる。僕がいることに少し驚いたけど、何かを悟ったような目をしていた。
 その後ろから女の人が出てきてヘルメットと取ると…僕は驚いた。
 すごい綺麗な人で…言葉がなかなか出てこない。
 いいんちょさんとかも綺麗な人だけど、それとはまた違うような感じがする。



「ネギ君、これはどういう状況?」
「えぇ~とですね、いいんちょさんにここまで連れてきてもらったんですが、いつもお世話になっている士郎さんも来れなかったのかなって言ったんです。
 そしたらいいんちょさんが―――という訳です」
「そうか…雪広、他の事が見えなくなるタイプだな。
 それと、彼女なんだが―――」
「ライダーといいます。これはミドルネームみたいなものなので気にしないでください。
 貴女があやかですね? ここまで招待してくれたことに感謝します」

 ライダーさんは礼を言うといいんちょさんは少し焦ったように返答している。
 いいんちょさんもライダーさんに見惚れていたみたいだ。


 士郎さん達は水上コテージに向かった。
 士郎さん達が来たということはもうみんなに広まっていて、伝えたのは朝倉さんと早乙女さん。
 でも、何で二人はスケッチブックとデジカメを構えてるんだろう。 
 なんだか怖い。「お金になる」とか「次の作品に」とか。

 そして皆さんはライダーさんに会いに行こう! と言って走り出す。
 いいんちょさんは止めていたけど興味には勝てない。止めるいいんちょさんを振り切る。
 

ライダーさんがいると思われるコテージをノックする。出てきたのは皆さんの目的のライダーさんだった。 
 でもみんな最初の僕と同じようにポカーンとしてしまった。わかるけどこのままでは失礼と思って僕が切り出す。

「ライダーさん一人ですか?
 士郎さんはここにはいないんですか?」
「士郎ですか? 士郎は先ほどどこかへ行ってしまいましたよ」

  部屋にみんな入ってライダーさんに質問の嵐が飛ぶ。
 “どこの出身ですか?” “士郎さんとはどんな関係?” “スリーサイズは?” などなど。

 みんなの質問にライダーさんはテキパキと答えていく。
 泳がないのかと聞かれて水着がないとのことだったのだが、ここのホテルにあるとのことなので、後でいいんちょさんが案内することになった。
 

 部屋を出ると、早乙女さんから一つの号令が出された。

「士郎さんを探せぇ!! この島にいることは確実! 
 あのガタイを描くことができれば今度のコミケは無問題! 貴様ら士郎さんの肉体が見たいかぁ!」

 ハルナさんと朝倉さん以外は誰も同意しなかった。

「あ、あれ? どうしたの?」
「いや、だって士郎さんは大人で男の人じゃん。
 ネギ君だったら子供だし水着見られてもそんなに恥ずかしくないんだけど、いいんちょだって士郎さん迎えに出た時は上に何か着てたし。
 マジマジと見られると恥ずかしいし見るのも恥ずかしいなぁ。 他にたくさんの人がいる海とかならそこまででもないんだけど…」

 まき絵さんがそう言うと、他の人もうんうんと頷く。

「で、でも士郎さんとも遊びたいじゃん。いつも面倒みてくれるし困ったら助けてくれるし。
 士郎さんだけ仲間外れでいいの?」

 朝倉さんの言うことも最もだけど、みんなはやっぱり少し躊躇っているみたいだ。


 最後には朝倉さんとハルナさんが折れて士郎さんと一緒に遊ぶというのは諦めた。
 でも僕は何か違う感じがした。
 僕は士郎さんを探しに行くため、ビーチには戻らなかった。





 士郎はクラスのみんながいる場所とは反対の船着き場で釣りをしていた。
 竿は借り物、姿は黒シャツに黒いパンツという姿で南の島にはあまり相応しくない暑そうな姿。


 どうしてここにいるかといえば離れたかった。
 クラスの何人かがいるとわかった時点で部屋から出て離れた所、見渡しの良い場所に俺はいる。
 船着き場の先で投げ釣りをしいている。
 何故離れたかというと、彼女達は水着で、俺は男だからだ。
彼女達は男性というものがあまり近くにいない状況の学校に通っている。その学校の中に男性教諭はいる。しかし、このようなプライベートで水着姿を見られるとなると少女達には必ず抵抗が生まれる。
 仕方のないこと。俺が近づいたところで不快に思うだろう。だったら俺から離れれば問題はない。
こうして反対の場所で釣りでもしていればいいんだ
すると、誰か近づいてくる。俺は振り返る。来たのはネギ君だった。

「ここにいたんですね」
「ネギ君はみんなと遊ばなくていいのかい?」
「士郎さんだけ仲間外れにして僕は…」

 会話はそこで途切れてしまう。
 優しい子だと、俺は素直にそう思う。気にしなくていいのに俺に気にかけてくれる。

「僕はいらないことしましたか?
 士郎さんにお世話になってるのでこういう場所で疲れを癒してほしいと思ったんですけど…迷惑でしたか?」
「そんなことはないさ。感謝してる。
 普通に暮らしていたら滅多にこういうところには来ないし、景色も環境も良い。こういうところは疲れを癒せる。
 ありがとう、ネギ君」
「でも…」
「仕方のないこと。彼女達は女子校で育ち、俺はあくまで男性教諭。
 これでいいんだ」


 それ以上、ネギ君は口を開かなかった。
 責任を感じているのだろう。そんな必要はない。
 確かに少女達は嫌がったのだろうが、しかたのないこと。割り切って俺はここにいる。

 しかし、このままではネギ君達が楽しくないだろう。ならば、多少は俺が何かをしないといけない。
 それにネギ君はここにいてはいけない。早くしなければ

「ネギ君、魚料理は好きかい?」
「? はい、好きです」
「そうか、だったらみんなに伝えてほしい。
 今日の夕食はバーベキューなんだ。その中に俺がなにか料理を作るよ。迷惑だったらいいんだけど、呼んでくれたからには何かしないとね」

 俺にはこんな程度しか思い浮かばない。
 しかし、ネギ君は表情を明るくすると、すぐにみんなに伝えると言って走って行った。

 それでは、俺もいい魚を釣らないといけないな。



 士郎先生の料理がでる。
 それがクラスのみんなに広がった時には数人は喜び、数人は期待に目が輝いている。
 私は食べたことはないが、お嬢様は食べたことがあるようで楽しみにしている。

「士郎さんの料理ってほんまおいいしいんや。
 どうしたらあんな風においしく作れるんやろ? 士郎さんの手伝いしてこようかな?」

 お嬢様の料理は食べたが、とてもおいしい。それに私はお嬢様の作るものが一番おいしいと…
 それになかなか士郎先生が料理を作る姿が想像できない。



 お嬢様がネギ先生に仮契約の仕方を聞き…いや、私はお嬢様と仮契約をすることに不満は一切にないのですが、同姓でキスというのはどうかと思う訳で…
 しかしお嬢様、何故そこまで残念な顔をなさるのですか?

 水着から着替えてネギ先生から聞いた場所まで士郎先生を迎えに行く。まだ厨房には来ていないようだったのでまだ釣りをしているのかもしれない。

「なぁ、せっちゃん」
「なんでしょうかお嬢様」
「士郎さん何で時々悲しそうな表情や遠くを見るような感じでウチ等を見るんやろね」

 …それは私にはわからない。士郎先生を見ているわけではないからだ。

「そうなのですか? 私にはわかりませんが」
「士郎さんの表情がな、ウチを避けてた頃のせっちゃんにそっくりなんよ。
 遠くから見てるように、どこか一線を引いてるんよ。先生とか生徒とかそういうんは関係なく」
「…」

 そう言われて私は言葉に詰まってしまう。

「あ、ごめんな。もしかしたらウチの勘違いなだけかもしれんし気にせんといてな。
 行こ、せっちゃん!」

 私の手を取って笑顔で走るお嬢様。
 
 私と士郎先生が同じような表情をしていたのだろうか…?

 
 士郎先生が向こうからライダーさんと歩いてきた。
 ライダーさんは黒い水着で腰に布を巻き、同姓の私から見ても見惚れてしまう。
 その隣にクーラーケースと竿を抱えている士郎先生。その二人の姿は絵になっている。

「桜咲にこのかか。どうしたんだ?」
「士郎さんを迎えに来たんよ。
 士郎さんが料理作るんやろ? ウチも手伝わせて」

 お嬢様は笑顔で言うが…そう言われた士郎先生は微笑んでいた。しかし私は士郎先生の目に何かを見た。

「いや、せっかく南の島に来たんだ。他のみんなと楽しんだ方がいいさ。
 ライダー、二人を頼んだ」

 そう言って士郎先生は先に歩いて行ってしまった。
 お嬢様は少し残念そうだったが、声をかけられたライダーさんと一緒に歩いてみんなの所へ戻る。
 

 お嬢様の言ったとおりだった。
 私は士郎先生の目の中に悲しいものを視た。



 ライダーさんとお嬢様は楽しそうに話をしているが私はその会話があまり耳に入っていない。
 気になっている士郎先生のことだった。
 人は悩み、悲しみ、怒り…喜怒哀楽の感情を人には中々見せることなく隠している。それは人がうまく付き合っていくことに必要なことかもしれない。
 しかし、それを補うように友がいる。隠していたものを晒すことで気持ちが軽くなることも事実だ。

 私も修行をしてきた身だ。多少ではあるが人の奥にあるものが視える。
 今までは士郎先生の中に見えるものはなかった。それは士郎先生が隠していたからだろう。
 だがお嬢様に微笑みかけられた時に一瞬だが私は士郎先生の中に悲しいものを見た。深い、とても深いもの。
 闇、とでもいうのだろうか。士郎先生の闇は今まで私が見たこともない程の暗いもの。

「刹那、といいましたか。
 あまり気にしないことです。あれは士郎だけのもの、貴女が気にすることではありません。士郎もそれを望まないでしょう」
「ライダーさん、貴女は…」

 人の心が読めるのかと…私はそう言いたかった。

「顔に出ていますよ。士郎を見た時からです。
 ですが貴女の見たものは士郎自身が解決することです。私も貴女も口を挟むことではないのですよ」

 それ以上は詮索するなと言っている。
 その方がいいのかもしれない。私も触れられたくないことはある。それと同じことだ。

 お嬢様が不思議そうな顔をして私とライダーさんを見ている。私達の会話がよく分からなかったようだ。
 それをライダーさんはなんでもありませんよとお嬢様の意識を逸らすように別の話題を出す。

 だが、私にはまだ疑問がある。
 士郎先生が連れて来た人物なので、強く警戒はしていないが…
 ライダーさんは私と似ている気がする。性格、姿ではなく中身が―――



 士郎先生の料理はとてもおいしかった。刺身やムニエル。他には見たことのない料理が並んだ。
 お嬢様もみんなも箸が進む。

「いや~、おいしいね~
 まさか士郎さんがここまでおいしいものを作れると思わなかったよ」
「そうだね。もしかしたらそれをライダーさんは結構食べているとみた!」
「? 桜子はどうしてそう思う訳?」
「だって前に士郎さんに彼女はいないの?って聞いたらここにはいないって言ってたじゃない? 
 それで海外に出張してた士郎さんと一緒に来たライダーさん…これはありえるでしょ!」
「た、たしかに!」

 そういう話題に言ってしまうのも無理はないかもしれない。いきなりライダーさんのような綺麗な女性が士郎先生と一緒に来ればそのような話が出てもおかしくはない。
 お嬢様も興味があるようで話に参加している。

 
 ふと、アスナさんを見ると雪広さんと睨みあっていた。何故?
 ネギ先生の方も見てみると…落ち込んでいた。
 宮崎さんや綾瀬さんに慰められているが中々、立ち直れないようだ。
 何度もアスナさんに謝ろうと試みているようだったが中々うまくいっていない。早く仲直りできればいいのですが…

「あれ? 士郎さんは?」
「そういえば…どこにいったんだろうね。料理運んできてくれたのも違う人だし…
 お礼とか言いたかっただけどな~
 いいんちょ、士郎さんどこ行ったか知らない?」

 朝倉さんがいいんちょさんに聞くが、いいんちょさんも困った顔で顔を横に振った。

「私もわかりません…作っているところは確かに見たのですが、先ほど使用人達に同じことを聞いてもどこにいるかわからないとのことなんです。
 一体どこにいったのか…コテージにも帰ってないようですし…」

 みんなが心配する中、ライダーさんが来た。
 
「ライダーさん、士郎さん知らない?」
「士郎なら食事をとって夜釣りに出掛けましたよ。
 なにかあったのですか?」
「士郎さんがどこにもいないから心配になって…それに料理のお礼も言いたかったから」
「そうですか、わかりました。
 士郎にあったら私から言っておきましょう。ほら、料理が冷めてしまいますよ。
 それと…もうすぐなくなってしまいますよ?」

 見ると、古と早乙女さんがすごい勢いで料理を食べている。

 あわててみんなが食事を再開する。



 士郎は砂浜にいた。
 私が士郎の教え子に夜釣りをしていると言ったが、それは嘘。
 士郎は釣りをする雰囲気ではなく、何か見るように視線を周りに巡らしている。

「彼女達をあからさまに避けすぎではありませんか? 心配していましたよ」
「そうか…心配をかけてしまったか。でも、仕方のないことだ。俺の不幸に巻き込むわけにはいかない。
少しの接触が俺にとって不安でならない」

 …村正による呪のようなもの。約二週間ほどで効果は無くなるらしいが、それまでは本人が不幸だと思うことが現実になる。
 士郎の不幸、それは…

「俺が不幸と思うことは人が傷つくこと。
 俺がいることで周りが巻き込まれるというのなら俺から離れる。彼女達には悪いが最低限の接触しか取れない」
「しかし、もう少し何とかできるでしょう。
 何も言わず、姿もほぼ見せずとはやりすぎです。このかと刹那に会った時の士郎は不自然すぎました。
 中々隙を見せない士郎が多少とはいえ隙を見せ、それでも離れることを優先した。刹那に視られましたよ」

 視られてしまったことに士郎は苦笑する。
 笑う姿は自分を情けないと自虐しているようにも見える。

「そうか…だが仕方ない。
 こういう場合もあるから俺は離れなくてはいけないんだ」

 士郎の視線の先には一人立っている。
 その存在には私も気が付いている。その人物がこのあたりに結界を張ったということも。
 張られた結界は隠密性にすぐれているだろう。そうでなければここにいることが難しい。
 私達がここにいることが刹那などの人物にわかってしまうからだ。

「何の用か、というのは無粋かな?」
「理解が早くて助かります。
 それを渡していただきたい。それは未知の存在だ、調べる価値がある」
「彼女の意志は」
「ない。私はそれを引き取りに来ただけのこと。
 あなたに拒否権はありませんよ、拒否すれば政府が黙っていません。ここで人生を振るよりささっと引き渡した方が身のためですよ?」
 
 士郎が予想していたのはこの魔法使いがくること。士郎と飛行機の中で話していた内容の中にこの話もあった。
 私の存在というものを調べ、どのようなものかを調査する。消えかけた時に身体が透けたのが原因と考えるのが妥当なところでしょう。
 連れていかれればただでは済まないでしょう。非人道的なこともありえます。
 士郎は何も語らない。私も何も言わない。

「わかっていただけましたかな?
 ではそれをこちらへ」
「断る」
「ほぅ…もう一度言っていただけますかな?」
「断ると言った。
 ライダーは生きている。それをモノ呼ばわりするのが気に入らない」
「では彼女を渡していただけますかな?」

 私が何も言わないのは答えがわかっているからだ。

「断る」
「ではあなたには意識を手放していただきましょう」

 そう言う魔法使いの背後に無数の光弾が浮かび上がる。

 しかし、それは無数の光の筋にかき消される。

 それは士郎の背後から放たれた剣。今も無数に浮かぶ剣は魔法使いを狙っている。
 まぁ、士郎のことですから命を取るという行為はしないでしょうし、狙っているのは足元でしょう。

「帰って伝えろ。ライダーは渡さないとな」
「くっ…後悔しますよ」

 不利と悟ったのか、魔法使いは消えた。


「士郎、私があの魔法使いの相手をしても問題はありませんでしたが?」
「これもまたマスターの仕事だろ?」

 呆然とする私をニヤリと笑う士郎。

「…士郎は士郎なんですね」
「あぁ、頑固で物分かりの悪い衛宮士郎さ」

 士郎はどんなに苦労するとわかっていても自分を犠牲にすることで守ろうとする。
 私の知る士郎も同じことしています。
 しかし、

「アーチャーにも似てきましたね」
「ぐっ…」

 ただ言われているだけなのは嫌です。

 私のような人間離れした存在でさえ守るというのだから…困ったものです。
 ですが、そう言ったからには。

「ちゃんと私を守ってもらいますよ、マスター。
 いえ、私だけではなく貴方の教え子も全員含めて」
「力の限り絶対に」



 魔法使いが士郎の教え子に手を出すことはあまり考えられないでしょう。
 彼等も魔法使い。一般人に魔法を見られることや己の姿を見せることを良しとはしないはず。
 私や姉さまを匿ってくれた魔法使いは力があるようですし、いくら政府といえど何度も大きく動くことはできないでしょう。
 当事者である私と士郎の二人だけなら先程のように狙ってくるでしょうが…
 それに士郎の不幸というものが私を狙う魔法使いに巻き込まれるだけという訳ではないでしょう。他にも確実に何かある。
 どんなことであろうとも、士郎が良しとしないことが。



 ふと、気がつけばもう空は明るくなってきている。
 コテージに近づくにつれて私と士郎の目にある二人の姿が見えた。

「…あの光景を俺は守りたい」

 一人呟く士郎の表情は…私の知らない士郎だった。




 帰りの飛行機は避けても通れない。
 士郎もそれを理解している。だから諦めの表情で教え子と一緒に乗り込んでいる。
 彼女達は士郎に料理のお礼を言い、共に遊ぶことができなかったことを残念がっていた。それがさらに士郎を困らせる。
 士郎は自分のことで彼女達から離れていたのにお礼を言われることはないし、遊ぶことも自分から拒否していた。

「もう少し考える余地がありそうですね」
「…そうだな」

 苦笑する士郎。
 それを見た私は笑ってしまう。


 しかし、私は飛行機が麻帆良へ近づくにつれて不安が増していく。



[2377] 魔法の世界での運命 50話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:4f5665e7
Date: 2009/02/01 13:39
 僕達が南の島から麻帆良に戻ってきてから色々あった。
 

ある日学園長に呼ばれて学長室に入るとライダーさんと知らない双子の女の子がいた。その後ろには士郎さんもいて何か真剣な話をしているようだと思って一度出て行った。

 数分後、学園長から改めて呼ばれたので入ると、士郎さんは先程と違ってやっとか、というような表情をしていた。
 でも、また悩みの種がという表情も混じった複雑な表情をしている。

「ネギ君、君を呼んだのは彼女達を紹介するためでの。
 ライダー君は会ったことがあるじゃろうが一応の。メドゥーサ・R・ゴルゴンという。
 そして彼女は長女のステンノ・P・ゴルゴン、そして次女のエウリュアレ・F・ゴルゴン。彼女達は三姉妹で魔法の世界に通じておる」

 僕が最初に思ったことはゴルゴンという姓だった。それに三人の名前もすぐに思い浮かぶ。
 ギリシャ神話のゴルゴン三姉妹と全く同じだとすぐに思ったのだが、それと同時に珍しいこともあるんだなぁと思う。滅多にこのような名前を聞くことはないからだ。
 そして疑問はライダーさんが長女じゃないのかと思ったことだ。言われなかったら…あれ? でもメドゥーサって…

「ネギ、ライダーという呼称はミドルネームのようなものだと言ったでしょう?
 これが本名ですよ」
 
 あぁ、そう言えば言っていたような。

 でもゴルゴンって言うのもこう見たら頷いちゃうな。
 三人ともすごい綺麗だ。見惚れて石のように固まってしまうこともあるかもしれない。

「はじめましてネギ君、ステンノよ」
「はじめましてネギ君、エウリュアレよ」

 二人と握手をする。
 可憐な笑顔は本当に石になってしまうかのように見惚れてしまう。

「は、はじめまして。ネギ・スプリングフィールドです。
 これからよ、よろしくお願いします」

 ぺこりとお辞儀をすると、一瞬、背筋に寒気が走る。
 どうしてだろうと顔を上げてもステンノさんとエウリュアレさんが微笑んでいるだけ。
 ? 何だったんだろう。

「うむ、三人とは時々顔を会わせることになるじゃろうからよろしくの。
 そろそろホームルームが始まるのぅ。朝早くからすまんかったの、戻っていいぞい」
「はい、失礼します」

 僕が学長室を出て教室へ向かう。


 
 僕が教室に入ると、皆さんに囲まれた。

「ネギ君! ライダーさん学校に来てない!?」
「もしかしてここに赴任するの?」

 色々な質問が飛ぶ中で僕は何も知らされていないことを言うと、皆さんは少し残念そうな表情をしていた。

「そっか~、もし赴任するんだったら色々聞きたいことあったんだけどなぁ。
 どうやったら良いスタイルになるのかとか」

 ライダーさんが学校に来たという話題はもうクラスに広まっていた。
 誰がライダーさんを見かけたんだろうと思ったらやはりというべきか朝倉さんが噂を広めているのが見える。


 その日の授業が終わり、職員室へ戻ると僕の机の上に手紙が置いてあった。
 なんだろうと思って確認すると、それは僕宛のもので、差出人は士郎さんだ。いったいどうしたんだろう?
 封を切って中を確認すると、こう書かれていた。

『少しの間、ホームルームや授業に顔を出すことできなくなる。
 私的なことで迷惑をかけてしまうこと許してほしい。
 だが、いい機会でもあると思う。俺がいなくともネギ君、君は一人でもやっていけるほど成長した。
 あのクラスをまとめることは大変だろうが、がんばってほしい。また戻った時に俺ががっかりさせてくれるなよ?』

 短い文面だけどそう書かれていた。
 そうなんだ…しばらく士郎さんはこれないのか。でも、士郎さんがこう言ってくれるってことは僕も少しずつ成長してるんだ!
 よし! 明日からもがんばろう!

 
 残っている仕事を済ませて夕方には女子寮に帰る。 …あれ? 士郎さんの部屋の前に人が。
 その中にはまき絵さんや桜子さんがいる。どうしたんだろう?

「どうかしたんですか?」
「あ、ネギ君。士郎さんが…」

 
 士郎さんはこの部屋から出ていったのだという。
 部屋の荷物と思われるものを抱えて玄関から出ていく士郎さんを見かけ、気になって部屋を覗いてみると部屋にはほぼ荷物は残っていないのだ。
 突然のことにみんな驚いているようだ。表情が暗い。

「最初は男の人がって思って不安だったのに…いつもよくしてくれて困ったことがあったら助けてくれた。
 それがこんなに突然いなくなるのは…寂しいな…」

 いつも明るい桜子さんが暗い表情をしている。
 それに士郎さんが僕に手紙を残したこととか、こうして出ていく行動がおかしい。
 何かあったんだ。
 考えてみれば同じところで働いているのだから直接僕に言ってもおかしくはない。なのに手紙にしたのは何か理由があったのかもしれない。
 もう会わないから…?

 僕はその場を離れて士郎さんを探しに出た。


 学校の方へ戻って辺りを見回してみるけどどこにも士郎さんはいない。
 他の所も探すけど見つからない。

 まさか本当に麻帆良から出て行ったのではないかと本当に考えてしまう。
 理由はとか何故僕にだけ手紙を書いたのかなど悪い方へ考えを向かわせていると、後ろから声をかけられた。

「どうしたのよネギ、先に帰ったんじゃないの?」
「ア、 アスナさん。あの、実は…」

 僕は士郎さんが出て行ったことを伝えると、アスナさんは驚き、一緒に探すことになった。

「士郎さんがどこにいったとかどこで見かけたとか聞いてないの?」
「はい、朝倉さんにも聞いたんですが知らないみたいで」
「そうなんだ…う~ん、高畑先生なら知ってるかもしれないわね」
「聞いてみましょう!」

 タカミチはまだ学校にいるだろう。
 職員室を出る時にタカミチは資料を作っていたはず。あの後すぐに終わって帰ったとは思えない。
 十分タカミチが残っている可能性はある。


 職員室に入ると、タカミチは瀬流彦先生と一緒に話をしていた。

「やぁ、ネギ君。どうしたんだい? 忘れ物?」
「タカミチ、士郎さんがど「高畑先生、士郎さんがどこにいったか知りませんか?」

 アスナさんに突き飛ばされたけど、すぐに立ち上がってタカミチに迫る。
 理由を話すと、タカミチは何かを思いだしたみたいだ。

「士郎君かい?
 あぁ、そういえば今日だったかな。ネギ君、士郎君は引っ越しをしたんだ」
「引っ越し?」
「うん、今までは教員寮とかに空きがなかったからあそこに仕方なく住んでいたんだけど、最近になって住むところが見つかってね。
 それが今日引っ越しだったんだ」

 そうなんだ…よかった。士郎さんが麻帆良を出ていったわけじゃなかったんだ。

「もしも会いに…これ言っていいのかな? 瀬流彦君」
「う~ん、ネギ君ですからいいのではないでしょうか?」

 小さな声で瀬流彦先生と話をするタカミチは何か悩んでいるようだった。
 
「ネギ君、教えてもいいけど…アスナ君以外に教えないでくれるかな?」
「? うん」

 小声で話すタカミチの言った場所は僕の知っている人の住所の近くだった。


 僕とアスナさんが来たところはエヴァンジェリンさんのログハウスの近くだった。
 道が少し違うだけで、少し進むと同じような造りのログハウスが見えてくる。

「ここで合ってるのよね?」
「はい、ここだってタカミチからもらった地図には書かれてます」

 タカミチからもらった地図ではここに間違いない。
 でも、ログハウスの中からは…叫び声が聞こえる。

「…間違ってるんじゃないの?」
「…合ってるはずです」

 僕がベルを鳴らすと、少しして扉が開いた。
 開けたのは士郎さんだった。

「ネギ君、どうしてここに?」
 
 戸惑った表情には焦りのようなものも見えた。


 僕はここにきた理由を説明している。
 聞いている士郎さんはこうしているのも落ち着かないようで挙動不審だ。一体どうしたんだろうと思いながら話していると。

「シロウ、誰が来たのよ」

 知っている人が出てきた。どちらかはわからないけど、ステンノさんとエウリュアレさんのどちらかが顔をだす。
 でも、アスナさんはこの人は誰だというより、士郎さんをまるで軽蔑するかのように睨みつけている。

「…士郎さん?」
「説明をさせてくれ…」

 がっくりと肩を落とした士郎さんは何かを諦めたように見えた。



 士郎さんの説明では、ステンノさんとエウリュアレさん、ライダーさんは生活能力が無いに等しいらしく、その三人だけで住むというのは不安なので学園長の頼みでここで暮らすことになったのだとか。
 でもこれっていいのかな? 小さい女の子と綺麗なライダーさんと一緒に暮らしてたら確実に噂は立つ。
でも、なんで学園長という言葉に棘があるの?

 それにしても、エウリュアレさんに抱きつかれているライダーさんはどうしてそんなに涙目なの?

「そうなんだ、理由はわかったんだけど…士郎さん大丈夫なの?
 子供と一緒に暮らしてるってわかったら問題になるんじゃないの?」
「あの二人はライダーの姉だ。あんな姿でもな」
「ウソ!? ライダーさんが妹なの!?
 逆にしか見えないんだけど。それになんであんなに子供の…あ、知ってるのいた」
「とにかく、ここにはあまり来ないでほしいんだ。
 この状態が朝倉とか早乙女にバレたらどうなるかは目に見えてる」
「そうね…安心して、私は言わないから」
「助かる」

 朝倉とかパルに間違った情報でバレたら士郎さんクビになるかもだし、今以上の状況を脚色した情報を流すことだろう。。
でも理由が理由だから仕方のないことだし、どっちも成人してるならなんとか言い訳はできる。


 理由はわかった。
 士郎さんが引っ越しをしただけだということをみんなに知らせれば安心するわね。どこに引っ越したとかはごまかさないといけないけど。
 私とネギが帰ろうとした時にステンノさん? エウリュアレさん? に声をかけられた。

「もう暗くなっているから送りますよ。
 ライダー、送って差し上げなさい。あなたが一緒の方がいいでしょう」
「え?」

 突然言われたことに私ではなくてライダーさんが驚きの声を上げる。

「いえ、大丈夫ですよ。
 そんな気をつかっていただかなくても」
「そういうわけにはいきません。
 シロウを心配してくださってここまできたのですからね」
「ですが姉さま、わざわざ私が―――」
「メドゥーサ、姉の頼みを…断るの?」

 悲しい顔をするお姉さん。
 するとライダーさんはすぐに私とネギを送ると言って隣に立つ。

「は、早く行きましょうネギ、明日菜」

 背中を押されるように私とネギはログハウスを出た。


 三人で歩く道は私がライダーさんに質問する形になっている。
 かわいいお姉さんだねとか、優しいねとか。
 でも、それをライダーさんは苦笑しながら聞いている。そしてどうしてかはわからないけど、寮の所まで送ると言って本当に寮の前まで送ってくれた。

「ありがとうございます、ライダーさん」
「いえ…ここで別れるのが残念なぐらいです。
 何故、もっと遠くではないのか…」

 ? 最後の方の言っていることが聞こえなかったけど、まぁいいか。

 お礼を言って中に寮の中に入ろうとすると、ライダーさんに声をかけられる。
 何だろうと思うと、士郎さんのことだった。

「しばらく士郎から距離を置いてほしいのです」
「どうしてですか?」
 
 ネギが尋ねると、ライダーさんは真剣な顔をしていった。

「今はそれを士郎が願っているのです。
 詳しい理由は言うことができませんが…貴方達の為に、そして士郎自身の為にお願いします」

 私にはその言葉が嘘ではないと信じた。
 それだけライダーさんは真剣に私達に話していて、そして士郎さんに対する信用があったからだろう。

「うん、わかった」
「ありがとうございます。
 それではおやすみなさい。ネギ、明日菜」

 そう言ってライダーさんは帰って行った。




 ライダーがネギ君達を送りに行き、ログハウスの中には俺とステンノとエウリュアレが残った。

「猫かぶるのもお手の物か」
「いいじゃない、こうしていた方が私は自然なんでしょう?」

 見た目や仕草が上品なだけにそうした方がいいのかもしれないなボソッと言ってしまった自分を後悔してる。
 この二人に新たな武器を与えてしまったかもしれないのだから。

 それにライダーに悲しげな表情エウリュアレが見せていた時、エウリュアレの表情はネギ君達にも見えていた。ただ、ネギ君達の背後にステンノがいて、俺とライダーからはステンノの表情がはっきりと見えていた。
 ライダーに向かって笑っていた。とても綺麗に、怖いほどに。
 俺も少し昔を思い出してしまったぐらいの表情にライダーは怯えて送りに行ったのだ。

「それで士郎は私に話があるんでしょ?」

 それがライダーをここから離すことが目的だったのだからライダーは不幸な流れ弾に当たってしまった。

「近衛が私やメドゥーサを保護、さらに守りを強化するために士郎をここに住まわせてもまだ話があるんでしょう、士郎は」
「あぁ、この話をする時にライダーがいない方がいいと思った」

 これはライダーがいてはこの二人が話さないだろうという確信があったからだ。

「ステンノ、エウリュアレは男の憧れが具現化した存在。二人には今のような力も抗う力すらなかった。ライダーに聞いた時は信じられなかったがな。
 だが、ライダーから話を聞くにつれて一つの仮説が俺には浮かんでいたんだ」
「それは?」

 憮然とした表情で俺の言うことを聞いている二人。
 だが表情だけで眼の奥は動揺している。

「二人の力は悔いたことによって得た力、という仮説だ」
「…」

 二人は何も言わず、そのまま話してみろと言っている。

「ライダーが怪物と化し、二人は命を断とうとした。結果的に大師父にここに飛ばされたが、事実は変わらない。
 ライダーが怪物と化したことも、その原因の一つが自分であるということもだ。
 もしも、ライダーを怪物として倒しに来る戦士を自分が追い返して守ることができたら、自分にそれだけの力があればあのままあの島で―――」

 それ以上は言えなかった。
 二人が本当に泣きそうな表情をしていたからだ。

 少しの沈黙があったが、それを破るようにステンノが話す。

「…確かにシロウの言っていることは正しい。
 私の力はただの気紛れで得たものではないわ。こんな力にはなんの興味もない。あの島にいた時ならばそうだったかもね。
 でも、メドゥーサが徐々に怪物になっていくのを私は見ているしかなかった。もうこれ以上メドゥーサには人を殺さないで私といつまでも一緒にいてほしかった。
 …私がメドゥーサを愛する毎日が続くことを祈っていた。

 でもメドゥーサは怪物となり、私は死を選んだ。
 
 宝石の翁にこっちの世界に飛ばされた時はただ悔しかった。言われたことが思い浮かばないこと、死ぬことができなかったこと。
 でも、一番悔いたこと。それは妹を守れなかった私の力の無いこと…どうして私には守る力は与えられずに妹に力を与えたのか。
 妹を殺しにくる男の偶像になったことが堪らなく憎かった。私は私を憎んだ。

 こんな私は捨てる。愛する妹すら守れない私と決別したかった。あの頃の私を否定するように私は力を欲した。
 
 どんなに困難だろうと、醜い男に教えを乞おうとも今の私が昔の私ではないと証明したかった!
 妹を守れない私を忘れたかったのに…! 私はドラゴンからあの子を守れなかった…それでも生きているあの子を守るためにあの男とも仮契約をして、汚いことにも手を染めたわ。
 メドゥーサを守るためだったらなんだってすると私が誓ったから」

 一気に話したステンノは俯いてしまい、表情は見えないようになってしまった。
 だが、それに続くようにエウリュアレが話す。

「私を汚いと思う? 手に入れた力で人を傷つけ、笑っていた私を卑劣と思う?
 どう思われたところで私の誓いは変わらない。どれだけ狙われようとも、これだけは変わらないわよ。
…貴方は何を思うかは知らないけどね」

 確かに俺がどうこういったところで二人のライダーを思うこと、誓ったことを曲げるとは思わない。
 助けたということを恩に着せたとしてもだ。

 だが、俺はそのようなことをする気もない、曲げろとも言わない。
 ただ―――

「誇っていいことだろう。
 二人がライダーを思ったことに汚いものなんてない。その気持ちがあるからこそたった数年でそこまでの力をつけることができたんだ。並の心構えではその力に手を掛けることさえもできなかっただろう。
 自分で手に入れた力だ。使う道を間違わなければそれはきっと正しい力だ。
 だからこそ学園長は君達をここに住まわせた。もう間違わないようにと。レプトスの所へいた頃へと戻らないように。
 今までしたことを水に流す訳にはいかない、だが償いことは出来る。俺も出来る限り手を貸そう。元の道へ戻ろうとするのなら気付かせよう。そうするだけの価値がある。

 二人が妹を思う気持ちは本物だ。
 だからこそ綺麗なままでいてほしい」

 誰も何も言わない。
 ステンノもエウリュアレも俺も、何も言わない。 俺は言うべきことはもうすべて言ったと思っている。
 すると、ステンノが顔を上げた。

「だったら士郎にも手伝ってもらうわよ。
 メドゥーサを守ること、この力の正しい使い方っていうものを私に教えてもらおうじゃないの」

 堂々とした表情は先ほどまでの弱々しい面持ちはどこにもない。
 だから俺は頷いた。



 だが、もう一つ思うところがある。
 確かに二人のライダーを思う気持ちは本物だ、そこに疑う余地はないだろう。

「もう少し優しい態度をとってやれないのか?」
「あら、あれが普通よ」

 即答だった。

「それにしてもメドゥーサったら、士郎にそこまで話してるなんて…ご褒美をあげなきゃ」
「そうね、私からのご褒美をあげましょう」
「待て、その笑顔を見せたらライダーはすぐに逃げるぞ」
「逃げるだなんて人聞きの悪い。
メドゥーサも追いかけっこを楽しんでるだけよ」

 楽しんでいるだったらライダーがあそこまで泣きそうな表情もすることはないだろうに。
 すると。

「た、ただいまもどりました…ヒッ!?」
 
 帰って来たライダーをとても良い笑顔で迎える二人。

「「メドゥーサ~」」
「な、なんでしょうか…姉さま…」

 なんて言おうとも、もう止まらないんだろうな。

「「ご褒美!」」
「―――!?」

 言葉にできない絶叫。
 これは止めることができないんだろうな。遠坂とルヴィアのように…がんばってはみるが…

 ふと、視線を上げるとステンノに投げ飛ばされたライダーが一直線に俺に向かってくる。
 それを抱き止める。

「あ、ありがとうございます。士郎」

 礼を言うライダー。だが、ステンノとエウリュアレはそんな俺を見て一言。

「「女誑し」」

 抱き止めてこの言われよう。

 あぁ、不幸だ。



[2377] 魔法の世界での運命 51話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:4f5665e7
Date: 2009/03/07 00:23
 左右に振られ、腹部に蹴りが入る。
 今度は魔法の射手。それを―――

「ぷろっ!?」
「誰が動きを止めろと言った? 戦闘ではこの程度の攻撃で動きを止めるようではすぐに命取りだ。
 なんだ6秒とは、情けない。この有様では白髪の少年に完全な一撃入れることは不可能だな。
 この間のことは神楽坂明日菜がいたからこそできたことだということを忘れるな」

 うぅぅ…全然歯が立たないってことを改めて実感する。
 それほどまでに実力差がある。僕にもわかる事実。今は地道に鍛えることしかできない。
 
「この程度で弱音を吐くまいな?」
「は、はい!」
 
 
 僕はもう一度三対一の訓練に入る。
 エヴァンジェリンさん…いや、マスターとの訓練が始まってから数日、学校と別荘を行ったり来たりしている。
 でも僕が望んだことだ。強くなるためにマスターに弟子入りをした。だから後悔なんてしないしやめようとも思わない。
 修学旅行の時のような悔しい思いはしたくない。

「次行くぞ」
「はい!」



 その日の修行が終わり、24時間が経つまで眠ることにした。
 けど、眠る前に茶々丸さんと会って思い出したことがあった。

「茶々丸さん。
 この間の…士郎さんの戦っている映像を見せてもらえませんか?」
「あの時の、ですか?
 マスターの許可があれば再生します」
「構わん、見せてやれ」

 いつの間にかマスターもいて、許可が降りたので茶々丸さんが映像を映し出す。


 もう一度見ても圧倒的な強さだと思う。
 それまでは大鬼が確かに押しているにも関わらず、唐突に出てきた大きな斧による攻撃。それで大鬼を倒す。
 奥の手、と言えばそれまでなのかもしれないけど、士郎さんがあれだけの動きができるのはどれだけの修行、訓練をしたのだろうか。
 今の僕では大鬼の攻撃を避けられる自信はない。ものの数秒で魔法を唱えることもなく倒されてしまうのが簡単に予想できる。

「そうだな、ぼーやが従者を前に出させて魔法を唱える戦法を取ることができず、一人で戦うという場面になったのであれば数秒だな」
「…声に出てました?」
「そういう顔をしている。
 今は衛宮士郎や白髪の少年と比べるだけ無駄だ。それだけの差がある」

 たしかにマスターの言うとおりだ。
 でも、士郎さんは剣の才能は無いと言っていた。努力のみでこれだけの力を得たというのだから。
 どれだけの…

「…才能というのはその道を導き出してから向き不向きが決まる。
 ぼーやは魔法の才があった。だがそれだけだ。宝石のように原石のままでは綺麗な輝きなど生まれない。磨くことでその宝石の真価を出すことが出来る。
 ぼーやの考えていることはわかっている。才能無いと言った衛宮士郎が何故、あそこまでの強さを有しているのか。答えなどすでに出ていることだ。悩む必要がどこにある?
 鍛えた、ただそれだけなんだよ。理由はどうあれ鍛えることが必要だった。
 ぼーやの理屈っぽい頭で考えればわかることだろうに。
 わかったらさっさと寝ろ。でなければ回復もしない」
「あ、はい」


 たしかに答えは簡単なのかもしれないけど、どうもすっきりしない。
 僕みたいに強くなりたいとか力が欲しいとかには理由があるのかもしれない。でも、マスターや士郎さんのように強くなる為にはただ今のような修行とは違う方法ではいけないのかもしれない。
 
 修行の仕方? イメージトレーニング? 魔法の質? それもどれをとっても僕には違う気がした。
 どうすればあんな風に強く立っていられるのか気になった。





 士郎さんとはしばらく会うことができなくなった。
 学校でも麻帆良の中でも、クラスの皆さんも会うことはほぼないみたいだった。

「士郎さんはどうしているんですか?」
「私も士郎が何をしているかはわかりません。ただ夜には帰ってきます。
 教員の仕事は近衛に頼んで休みを取っているというだけで私達にはあまり詳しいことを教えてくれませんから」

 ライダーさんとは時々会うことがある。アルバイトを探しているらしく、面接の帰りなどに会う。
 今日もアルバイトの面接だったらしいけど、採用はしなかったのだという。

「そうですか…」

 聞きたいことがあったんだけど…いや、これを僕が聞けるかどうか分からないけれど、ただ士郎さんに会いたいと思った。

「ネギ、士郎に伝言があるのでしたら私が伝えておきましょう」
「いえ、大丈夫です。
 ライダーさんもがんばってください。それでは失礼します」

 今日もマスターの所へ修行に行かなくてはいけない。


 マスターの家の前まで来ると、茶々丸さんが立っていた。

「こんにちは、茶々丸さん
玄関の前でどうしたんですか?」
「こんにちは、ネギ先生。
 今はマスターがステンノさんとエウリュアレさんと話をしています。マスターが今はネギ先生に会えないとのことですので、本日はお引き取りください。
 また後日ということで」
「そうなんですか?
 わかりました、また明日来ます」

 明日も覚悟しておけと言っていたから今日も過酷な修行が待っていると思っていた。
 だから少し驚いた。


 来た道を戻る。
 でも、不意にログハウスの方を振り返ると、そこには士郎さんがいた。
 離れているからか、士郎さんは気づいていない。
 

 僕はマスターに怒られるだろうと覚悟しながらも士郎さんのところへ戻る。


 ベルを鳴らす。
 でも、誰も出ない。もう一度鳴らしても同じ。誰も出てこない。
 失礼と思いながらも勝手に入ると、中には誰もいなかった。様子を見ていたり、気を落ちつかせていたから10分ぐらいの間だったんだけどなぁ。
 もしかしたら、と思って僕は奥へ進んでいく。

 奥に会ったのは別荘のミニチュア。
 やっぱり使用中になっている。中にいるんだと思い、僕も中に入る。


 一瞬、身体が浮くような感覚の後に別荘の中に入る。
 そして、僕の意識はそこで途切れてしまった。




 ネギが目が覚めた時には視界には士郎が映っていた。

「大丈夫かい?」
「…あれ、どうしてぼく」

 別荘に入った時は覚えている。しかし、その後から全く記憶がない。
 そして頭がくらくらする。

「ぼーやは飛んできた石の破片を避けることもそれが飛んできたことも気がつくこともできずにぶつかって気絶したんだ。
 全く、情けない。今までの修行の成果が全く見られないとは何事だ。これはもっと修行に力を入れなければいけないな」

 気絶した理由は後に回すとして、ネギは今までより修行が過酷になることに青ざめる。
 嫌だとか、そういう弱音を吐くのではなく今より辛いというのがどれだけのものだろうと想像し、その結果が悲惨だった。




 士郎に話を聞くと、エウリュアレとステンノがエヴァンジェリンに用があったらしいのだが、その過程で士郎が巻き込まれたのだ。
 何の用かは聞かなかったが、それがどうして石が飛んでくる事態になったのか。

 タダで物事を引き受けるほどエヴァンジェリンは易い相手ではない。条件を提示すると士郎の意見も聞かずに了承し、こうして詳しい説明を受けることもなくここに来た。
 そして、その条件はその三人の力を見せろというもの。
 だが、一人一人では意味がないとし、二対一。士郎が一人で二人を相手にすることになった。
 エウリュアレとステンノの実力は中々に高い。そうなれば士郎もそれに対応できるだけの力を出さなければならない。
 ステンノの拳が地面を砕き、その破片が絶妙のタイミングでネギが現れた所へ飛んで行き、ネギが気絶する結果になった。

「すまないね、ネギ君」
「いえ、大丈夫ですよ」
「そうだな、この程度で壊れる身体はしていないだろうが…今日の修業は無しだと茶々丸が言っていなかったか?」

 ネギは固まった。

「言ったはずだな。
 なのにどうして貴様はここにいる?」

 逃げ場を探そうとする。だが意味はない。

「何か言い訳があるなら聞こう」

 きっと聞くだけだろう。

「待っているものは変わらないだろうがな」

 ネギは色々覚悟をしなければいけなくなった。


「と、言いたいところだが貴様にチャンスをやろう」

 一筋の光が見えたとネギは思う。
 エヴァンジェリンがこうしてチャンスを与えることなんて滅多にないだろうと理解しているからこそ、そこに嘘はないと信じられる。

「こうなった一端は衛宮士郎にもある。
 もしも私がいう条件をこなすことができれば修行の段階を上げることを今少し待ってやる」
「どうすればいいんですか?」

 ニヤリとエヴァンジェリンが笑う。
 これに士郎が嫌な予感がしている。いや、確信だ。自分が悪いということはわかっているのだが…

「いや、俺の意志は?」
「ない。
 条件は衛宮士郎に一撃でも入れられたらだ。魔法で死なない程度であればなんでもありだ」

 

 
 結局、士郎の意志は無視されて、ネギは少しだけ申し訳ない気持ちになる。
 が、良く考えていくと勝てる要因がどんどんなくなっていく。魔法が効くのか、体術で勝てるのか…疑問が浮かび、それが嫌な想像をさせる。
 まさか、あの大鬼にやった技を自分にもやるとは思わない。あれだけの威力ならネギの魔法障壁で防ぐことは不可能だ。死ぬ可能性もある。
 技があれだけとは限らないが、少しだけ気持ちが楽になった。まだ一撃を入れられる可能性がある。

「安全を想像するな。
 戦いに安全など存在しない。貴様は力があるのか? 勝てるというだけの自信があるのか? 生死に関わるものではないから安心だと思っているのか?
 だとすればここで貴様の修行は終りだ。軟弱な精神でこれから生きていけると思うようならば…」

 エヴァンジェリンは士郎を見る。
 その視線を受けとめ、頷く。裏の世界を知っているからこそ、忘れてはいけないことがる。
 それをネギは知らない。仕方無いことかもしれない。だが、少しでもそれを知ることはこれから必要だ。

「ネギ君、危険だと思ったらすぐに下がってくれ」

 まだ士郎は人と関わることを極力避けている。今回は仕方のないことと割り切っているが…
 


「衛宮士郎、攻撃は当てるな。
 ぼーやは死なさない程度であれば魔法は許可する。全力でやれ、先程言ったことを忘れるな、余計な思考は不要だ」
「はい!」

 エヴァンジェリンの言葉には深い意味がある。
 それを信じ、前に出る。全力を尽くす。修行のことも今は忘れよう。


 開始の合図もなく、張りつめた空気。
 二人の間合いは近い。一瞬で詰められる距離。だが、ネギはそれを詰めようとしない。
 
 士郎はただ立っているだけなのに、肩を掴まれているような感覚がある。押さえつけられ、動きを阻害されているような感覚。
 前に出なくては、そう思うほどに身体が動いてくれない。

 一歩、一歩踏み出すことができれば何かが変わるかもしれないのに踏み出せない。



「どう? ネギ君の様子は」
「今は全くダメだ。
 完全に衛宮士郎に呑まれている。あいつは威圧しているだけだろうが、それだけでもぼーやには重く圧し掛かっているだろうな」

 エヴァンジェリンの後ろにはステンノとエウリュアレが立っている。
 今まで別荘の中でくつろいでいたのだが、二人の気配を感じて出てきたのだ。

「まぁ、勝つことも一撃を与えることも不可能だろう。前のテストの時よりも過酷になっている。
 これだけの実力差があれば衛宮士郎が油断したとしても、それは致命的ではない」
「確かに、今のネギ君は私でも勝てるわね」
「そうだな。
 ぼーやには足りないものがある。そして決定的に足りないものをぼーやは気がついていない。
 それに気がつくことができれば、小さな山を超えることができるだろうな」

 それは自分で見定めなければならない。
 エヴァンジェリンが、ステンノが、エウリュアレが。そして衛宮士郎が持っているものをネギはまだ持っていない。
 それが戦いの中で差となり、生死を別ける。


 まだネギは動けない。汗が止まらない、心臓の鼓動が激しい。耳元で聞こえている気がする。
 一歩、たった一歩踏み出すことできれば次の行動ができるとネギも気がついている。なのに踏み出せない。

 
 ネギの動きを待つことなく、士郎が先に動いた。
 瞬間

「うわぁぁぁぁっ!!」

 恐怖か、思いきりがついたのかはネギにはわからない。
 何かがネギを動かし、一歩を踏み出して拳を士郎に向けて放つ。

 鈍い音がする。
 だが、それは士郎に拳を打ち込めたのではなく、拳が士郎によって止められた音。


 士郎は何も言わず、ただネギを見ている。
 しかし、もうその眼によって動きが妨げられるということはない。

 流れるように拳、肘、蹴りが放たれ、それが避けられ、流される。

 
 そして魔法が詠唱され、士郎に向って放たれる。
 戒めの風矢。数は29。殺到する魔法にも士郎は焦る様子もなく、いつの間にか握られていた干将・莫耶を構える。

 
 そして、29全ての戒めの風矢を切り裂いた。
 苦とも思う様子もなく、ネギだけを見ている。


 

 結局、ネギは一撃をいれるどころか掠り傷を負わせることもできずに膝をつくまで動き続けた。
 大抵の魔法は避けられ、、体力も尽き、ある種の絶望に近いものを感じていた。
 力の差は自覚している。だが、一撃を入れられる可能性を考えなかったわけではない。だが、これほどまでに圧倒的に防がれ、息の一つも乱さない。

「どうだ? 感想は」

 笑うこともなく、ただそう言うエヴァンジェリン。

「…少しでも可能性があると勘違いをしていたんだなと思いました。そんなもの全くなかったんだ、そう思うこと自体が間違いなんだと思い知らされたような気がします」
「確かに、可能性は全くなかった。衛宮士郎が油断しようが、流れはぼーやには傾かない。
 だがな、一つの勘違いとぼーやにないものの差がこの結果だ。わかるか?」

 勘違いと足りないもの? と、ネギは勘違いについて考えてみる。勝てると思ったことが傲慢だったのか?
 だが、エヴァンジェリンは怒っているわけでも呆れているわけでもなく、ネギに何かを気がつかせようとしているように見える。
 ネギもそう感じ取ったからこそ、考える。

「功夫が足りないのはわかるんですけど…勘違いは勝てると思ったことが勘違いなのではないですか?
 それが傲慢だったと」
「確かに勝てると思ったことは間違いだ。だが、それだけでは50点だ。
 功夫が足りないのは当然だ、考えるまでもない。それ以前の問題なんだよ、ぼーやは。
 それに気がつけないなら、成長しても本物には勝てないだろう」

 本物、その言葉に少しだけ疑問を持つが、言い終えるとエヴァンジェリンは別荘から出ていった。


 士郎にそれがなんなのか聞いてみるが、士郎も自分が気がつかなければ意味がないと言った。
 ただ、ネギの拳が軽い。それだけ言って士郎はテラスへ戻っていく。

 
 疑問は拭い去られないまま、聞きたいことも聞けないまま、ネギの修行は続く。





 



 夢を見る。
 誰もいない麻帆良。
 自分だけが立っている。
 
                  「見殺しにした」

 手には干将・莫耶。

                  「助けてって言ったのに」

 血に染まる手。
 自分がやったのではない。

                  「人を超えてるくせに」

 目の前で殺された人の返り血。

                  「何もしなかった」

 迷ったが故に。
  
                  「みんな殺された」

 背後には数えきれない死体。

                  「理想を優先したから」

 それが結末だった。
 姿の見えない声が、俺を責める。





「夢…か」

 夢なんてどれだけ見ていなかっただろう。思い出せないほど、見ていない。
 全身に汗をかいて俺は目を覚ました。

 まだ朝にはならない。日付が変わって少ししか経っていない。寝て間もなく夢を見て、そして起きた。
 もう眠気などどこにもない。
 それに寝たくもない。また、さっきの夢を見たくない。


 重い足取りで今に向かうと、居間には明かりが灯っている。

「あら、シロウ起きてきたの?」
「…顔が青いわね。怖い夢でも見て寝れなくなったのかしら?」

 二人は笑いながらこっちを見て、からかう。
 だが、それに返す余裕もなかった。

「あぁ、そうだ…眠れない」

 そう言ったことが意外だったのか、二人は驚いている。
 あの夢の中には二人の死体もあった。無残に引き裂かれ、眼を見開いたまま死んでいた。
 その光景が思い浮かび、思わず視線を逸らして外へ出ようとする。
 だが、俺の手を掴む小さな手。

「ちょっと付き合いなさい」

 引っ張られ、座らされる。
 テーブルの上には色々な酒が並べられ、何本かは空だ。

「飲み過ぎじゃないか?」
「こんなもので酔うほど子供じゃないわ」

 酒を渡され、飲んでいるが、会話がない。
 少し気まずい。

「ライダーはどうした?」
「酔って部屋で寝てるんじゃない?」

 …それだけで終わってしまう。
 それにしてもペースが二人とも早い。俺はゆっくり飲んでいるが、その間に三本空けている。

「…まだ村正の呪いが解けないの?」

 見抜かれている。
 呪いの効果が切れると思われていた日はとっくに過ぎている。だが、いままでこれといった不幸というものが来ない。
 呪いが効いていないということはないだろうが、ここまで何もないということはおかしい。もしかしたら今までの呪いが一気に襲ってくるのかもしれない。
 だから今も極力人との接触は避けている。
 ステンノ、エウリュアレ、ライダーもそうだ。

「あぁ、何故か何も起こらない。それは喜ぶべきことなのだろうが…ここまでなにもないと不安だ」
「だから今もこうして私を避けているの?」
「そうだ」
「ふぅん…」

 今さらかもしれないが、俺はここにいない方がいいのかもしれない。
 こうして巻き込んでしまったこと、それが間違い。自分一人だけなら何がおこっても我慢が出来るが、誰かが巻き込まれることは許容できない。

「私に力がないから、こうなったのよね」
「違う。俺が巻き込んだ。
 村正を使ったことは俺の意志だ。二人には関係のないことだし、俺のことだから気にする必要もない。俺が離れればいいだけの話なんだ。俺だけ傷つけばいい」

 立ち上がるステンノ。そのまま俺の前に来ると腕を振り上げる。



 乾いた音。頬に伝わる痛み。 
 どうして頬を張られたのかはわかっている。こうして巻き込んでいるからだ。この二人はライダーを失いたくはない。もしかするとその原因を作ってしまうかもしれない俺がいることが不快なのだろう。
 今までこうして共に生活していたのはあっちも我慢していたからかもしれない。だが、まだ呪いが続いていて、まだ巻き込まれるかもしれないことに怒っているのだろう。
 それを黙っていたことも。

「すまない」
「…あんたにはわからないでしょうね。
 私の気持ちが」

 
 居間にたった一人残され、少しだけ何かを考える士郎。



 その日から、士郎の姿が消えた。














 どうもお久しぶりです、快晴です。
 最近、どうも時間を作ることができずにしばらく投稿することができませんでした。
 これからもそうなることが多くなると思います。なので投稿も遅くなってしまいます。
 楽しみにしている方には申し訳ありません。

 これからも感想やご指摘のほど、よろしくお願いいたします。



[2377] 魔法の世界での運命 52話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:4f5665e7
Date: 2009/03/29 00:54
 人の前から姿を消した衛宮士郎。
 その存在を魔法先生、生徒が捜索するが一向に見つからない。魔法を使用しても、その魔法の先に場所に衛宮士郎がいないために発見には至らない。

 エヴァンジェリンの話では学園の外に出た様子はないとのこと。
 それ以上を話さない為、学園長にもそれ以上をどうすることもできないでいる。ここまで存在を隠すことができる人物も稀有だろうが、責任感や使命感の強い衛宮士郎が任された仕事を放棄したことが信じられない。

「どうしたのかのう…」

 一人の学長室で呟くが、当然応える人物はいない。
 
 その部屋にノックの音が響く。

「失礼します」

 入ってきたのはネギだった。
 ネギもまた、士郎の行方を心配してここに来たのだった。


 しかし、その話をしても結果は同じ。見つかっていない。それが今の事実だ。

 仮契約をしているメドゥーサに居場所を聞いてみても、魔力は供給されているが居場所まではわからないとのこと。
 二人の姉は今の現状にまったくの興味を持っていない。そのことに疑問に思いながらもメドゥーサは日々を過ごすしかないでいた。


 

 ある雨の酷い日。
 エヴァンジェリンはネギ達一向を見送った後に何かに反応した。
 衛宮士郎が外に出たのかと考えたが、その反応がいささか違う。気の所為かと放置する。
 しかし、その数時間後にその考えを改めることになる。

 それは微弱ながらも魔の気配。
 しかも隠密に優れているらしく、他の魔法先生等は気がついていないかもしれないほどだ。唯一気がついているとすれば学園長だろうが今はそれを確かめている暇がない。
 自分の弟子が生活している場所へ向かっていく。

 もしも何かあればそこまでのことだと諦めのつくのかもしれないが、それはそれでおもしろくはない。
 
 しょうがない、と席を立ち、反応がした方向へ向かおうとすると、ログハウスの前で強烈な気配がする。
 茶々丸も反応を示す。

 が、あくまでエヴァンジェリンは毅然とした面持ちで表へ出る。
 

 表へ出ると、そこにはレインコートに身を包んだ青年がいる。笑みを浮かべながらこちらを見ている。
 そして、この気配は人のものではない。

「ほぉ、やはり吸血鬼の真祖ともなると魔力を封印されていても存在感が違いますね。
 容姿に惑わされて油断をすれば、気がついた時にはあの世だ」
「油断をせずともあの世へ逝くのは貴様か?
 こうして私の目の前に姿を現す愚かな者は逝くというより堕とすが合っているかもしれん。
 何用だ」

 一片の油断もなく両者は視線を交わす。
 
「余計な言葉は不要ですな。
 礼儀を欠くのは趣味ではないものでこうして参上いたしました。他者の領域に土足で踏みいる訳ですので。
要件はこの学園を戦場とさせていただきます。あなたのではなく、あなたの弟子のね」

 女子寮に向かったのはそのためかと予想がつくが、こうしてエヴァンジェリンに知らせる必要は無いはずだ。
 
 その本当の意味は他にあることだろう。

「そしてあなたには手を出さないでいただきたい。あなたの弟子を殺す訳ではありませんが、こちらとしても仕事を済ませないことには我々の沽券に関わるもので」
「くどい、私を動かせない条件を言え」
「これは失礼、しかし話が早くて助かります」

 鋭い視線で目の前の男を威圧する。
 だが、それに動揺を見せることもなく飄々と話を進めようとする。

 半端な条件であれば鼻で笑い飛ばして目の前の男も消し飛ばすまでだ。
 しかし、興味のある条件であれば呑んでやらないこともない。

「条件は―――」



 男の言葉はエヴァンジェリンの興味を抱かせるには十分だった。




 男が去り、エヴァンジェリンは中へ戻り、茶々丸にお茶を要求する。
 茶々丸は用意を始めるが、聞きたいことがあるという表情をしている。

「私がこうして条件を呑むことが意外か?」
「はい、ネギ先生が関わることもそうですが、何故、あの人なのかも私には答えを求められません」

 あの男の条件は興味を持つには十分だった。 
 弟子であるネギが傷つこうとも構わないと宣言しているのだから。

 だが、程度はどうあれこの苦境を乗り切れないのであればそれこそ弟子をとる価値は無いともエヴァンジェリンは判断した。
 経験は成長を促す。経験は今までの修行という蓄積がどのように表れるか、そして本物の戦いはただの修行の日々を凝縮したものになる。それが良い方向へ動けば今回の戦闘でネギの真価がわかる。ダメならばそこまでの話だ。このことに迷いはない。

「人の内に秘めたものを見るというのは中々に骨が折れる。
 隠している者が色々な意味で強ければ尚更だ。だが、それはある条件によって見ることができる。
 己が無視できない時だ。大切な物、人、立場など種類は様々だが、失いたくないもの大きければ大きいほど見られる可能性は高くなる。その人物の本性も然り、だ。守るためには可能な限り手を尽くすのが人というものだからだ。
 あいつにとって大切なものはこの学園などでは納まりきらん。だからこそ真実が見られる。

 ここに来た男はぼーやでは確実に敵わん。あの男自身が戦うのだろうさ。それほどの力はあるだろうし、今の学園で私とじじぃを除けば勝てる者など一人しかいない」

 用意されたお茶を飲みながら語るエヴァンジェリンは笑みを浮かべる。
 いったいどれほどのものなのか、興味があるのだ。
 

 用意されているであろう娯楽に心躍らせる子供のように、笑みは残酷なほどに無邪気だった。




 ドロドロ、ヌルヌルの生物のようなものに浚われたのは10人。
 水牢に入れられた近衛このか、古菲、朝倉和美、宮崎のどか、綾瀬夕映。そして水牢に入れられ、さらに眠りにつかされている生徒が桜咲刹那、那波千鶴だ。

 そしてステージの上で腕を拘束された状態になっているのは神楽坂明日菜だ。今ままだ眠っている。

 
 生徒はこの8人。残りの2人はさらに特別な水牢に入れられている。

「伯爵、それはあなたの趣味ですか?」
「いやいや、これの方が雰囲気が出るだろう?
 囚われのお姫様がパジャマ姿というのはやはりこう「真剣に語ってんじゃないわよ
―っ!!」ろもっ!?」

 目が覚めた明日菜に蹴りの一撃を入れられながらも気取るヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマン伯爵。
 ほぼ下着姿の明日菜にとっては日々のことも含めてトラウマになりかねない。


 そして自分の他に囚われた友人を見て驚きを隠せない。
 
「彼女達は観客だ。
 人質というには君を含めて6人だ」

 刹那と千鶴と共に眠りにつかされている人物は明日菜には見覚えがある。

「メドゥーサさんにお姉さんまで…
 ネギに関係のない人まで巻き込んでどうするつもりよ」
「君達とネギ君だけなら今後の脅威になるかならないかの“調査”だが、彼女達は違う。人質と…リミッターを外す役割を担っている。
 エミヤシロウという不思議な人物の真の姿を見たい。依頼者にはそう依頼されている。ここで果てるならばそれでよし、叶わぬならばその能力を知る。
 と、来たようだね」

ヘルマンの視線の先には二人の姿が見えている。明日菜の目にも映るその姿。見なれた少年ともう一人、何故と考える少年がいる。
 そしてネギから放たれた魔法がこちらに向かってくる。

 しかし、その魔法はヘルマンの手に触れた瞬間に消えてしまう。
 同じ瞬間に明日菜に下げられたネックレスによっておかしな感覚が走る。


 彼の姿に明日菜達は安堵し、そしてもう一人の少年にやはり驚きを隠せない。

「小太郎君!!」

 犬上小太郎。修学旅行の一件でネギと戦い、そして士郎に敗れた少年。

「あなたはいったい誰なんです!?
 こんなことをする目的は!?」
「いや、手荒な真似をして悪かったネギ君。
 ただ、人質でも取らねば君や…エミヤシロウは本気で戦ってくれないと判断したのでね。
 とりあえず、主役が揃うまで自己紹介と行こう。
 私はヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマン。爵位は伯爵だ」
「私はティーラン・デフール・ディー・ベルフ。同じく伯爵です…おや、ようやく来たようです。
 呼びかけ通り正面から来ていただけるとはありがたいですね」

 おそらく、結界が張ってあったのだろう。これほどのものが近くに来たというのに気がつかないはずがない。
 

 殺気。それも射抜くような視線の圧力。
 それを感じたネギと小太郎は背筋が凍る思いだ。これほどのものは体験したことがないのだろう。そして外に身をさらしている明日菜は他の思考ができないほど頭が真っ白になっている。ここからいなくなりたい。そんな気持ちにさせられる。

 戦う者として、古菲はその眼にとらえた士郎に恐怖する。
 あれが自分の知る衛宮士郎なのかと。確かに修学旅行の時は厳しい表情をしていたが、これほどまでに恐怖を抱いただろうか。

 
 赤い外套に身を包み、ゆっくりとした歩調でこちらに向かってくる。

「ふふふっ、こちらの招待を快く受け取ってもらえたようです」

 この空気の中、笑みを浮かべるベルフ。その眼もそれまでの柔和な目ではなくなっている。
 

 ヘルマンとは確かに同じ爵位ではある。先程までは柔和な笑顔、他人から見ても美青年である。流れるような金髪が自分と同じ帽子から出ている。

 ベルフのことをヘルマンはよく知らない。依頼者が封印を解いた時にはこうして共にいた。
 行動を共にして使命を果たせと命を受けた。


 丁寧な口調で、常に楽しそうにしていたがこうした表情を見せるとは思わなかった。そしてスライムたちを連れていったかと思うと、人ではない者を連れて来た。それは命に関係することだったからまだいい。しかし、吸血鬼の真祖であるエヴァンジェリンに堂々と正面から出向き、交渉するとは思わなかった。うまくいったから良いものの、一歩間違えれば厄介な相手になるところだった。


 しかし、それも早いか遅いかの違いだったのだろうと判断できる。
 
 エミヤシロウ。この人物の力を見極め、可能であれば消す。
 最初こそ手こずるだろうができると考えたが、これは自分では殺すことができない。自分の力が足りない。

 そしてそれをベルフができるのか。それがわからない。
 まだこの青年の力は未知数だ。力はあるのだろうがそれを感じ取らせないのだ。隠しているのだが、それがどれほどのものなのかがわからない。

 しかし、伯爵の爵位にいる彼がエミヤシロウを倒せるとは思えない。


「招待状はお気に召したかな?」
「…」

 無言。しかし、こちらに対する視線の圧力が増す。彼がエミヤシロウに対して何をしたかは知らないが、この圧力から察するにはよほどのことをしたのだろう。
 実際に相手をするのはベルフだ。ヘルマンは自分がエミヤシロウの相手をしなくていいことに内心、ほっとする。

 ヘルマンの興味はあくまでネギだ。
 それを楽しむことができないまま元の世界に還るというのはなんとも味気ない。


「その殺気を抑えないと彼女達に影響しますよ?
 ほら、彼女なんか蒼白になっているじゃ―――おっと」

 明日菜に触れようとした瞬間にベルフがいた空間に剣が突き刺さっていた。
 
「合図もなく手を出すのは闘う者としてはどうなんでしょうね」

 殺気はなくならないが、方向性のない殺気ではなくなった。
 ベルフに殺気は向けられ、少しだけであるが明日菜達の気は楽になる。
 だが、明日菜達は今も目の前にいる士郎が自分達の知る人物と同じ人物であるというのが信じられない。


 明日菜は修学旅行でこのかが浚われた時に士郎の怖さを知っている。千草に対して殺気を向け、あの時は士郎が怖いと思ったが今ほどではない。
 その表現するよく方法がわからないが、空気が濃いのだろうと明日菜はギリギリの思考で考えている。

 士郎がここにいることによって何かの空気が濃くなったのだと。

「本気ですね。良い眼です。
 ですがここでは少々狭いですね、場所を変えましょう。ヘルマン伯爵、こちらは任せました。
 私は―――」

 ベルフが言った言葉を明日菜達は聞き取れなかったが、ヘルマンは当然だが聞こえた。



 “私は楽しく、殺します”


 そう言っていた。




「さて、ネギ君。ようやく君と戦える環境になった訳だ。
 遮るものも邪魔する者も手助けしてくれる者もいない。彼女達を返して欲しければ私を倒すことだ」

 そして戦いは始まる。










 木々の間を駆け、二つの影は止まった。
 ベルフと士郎。両者は一定の距離も保ったままここまで来たが、いつ戦闘が始まってもおかしくないほどの空気だった。

「さて、ここでいいでしょう。
 ここにも結界は張ってありますから思う存分力をだせますよ」

 いまだに士郎は無言だが、殺気はステージよりも増している。
 あれでも抑えていたのだ。だが、抑えきれない感情が殺気として漏れ出していた。

「おや? もしかして怒っているのですか?
 別にあなたと深い関係にあるわけでもないでしょう。気にする必要があるのですか?」
「…何故、巻き込んだ」

 士郎の殺気をその身に受けてもベルフは飄々としている。
 
「あなたがどこにいるのかわからなかったので、血の匂いなら気がついて来てくれると思ったのですよ。
 案の定、あなたは来た」


 あのステージにはメドゥーサとエウリュアレしかいなかった。ステンノ一人がいない。

「血で書かれた招待状は気にいりましたか?」

 無数の剣がベルフに向かって放たれる。
 
 それをベルフは避ける。
 いつの間にかその手には鉤爪があり、それで剣を弾く。


 士郎もそれだけに頼らず、自ら前に出て干将・莫耶を振るう。
 打ち込まれた干将をどうということもなく鉤爪で防ぐ。

 防いだベルフは笑みを浮かべる。

「ほぉ、良い剣ですね。これではヘルマン伯爵の拳も傷ついてしまうでしょう。
 そしてと唐突に現れた剣、その威力…普通の魔法使いや悪魔ではすぐに消されてしまいますね」

 鍔迫り合いの状態から士郎を突き放してベルフは帽子を取って士郎を見る。

「すでに気がついているかもしれませんが、私ももう一人も悪魔です。
 遅れてしまいましたが私はティーラン・デフール・ディー・ベルフといいます。爵位は伯爵。
 依頼者の命に従い、あなたを殺します」

 名乗り、構えを取るが攻撃をしてくる様子はない。

 士郎にも名乗れと言っている。

「衛宮士郎…」


 
 瞬間、士郎の目の前に姿を現し、鉤爪で突く。
 それ士郎は莫耶で弾き、干将で返すが防がれる。

 お互いが両手での戦闘が可能。
 しかし、まだ士郎の方が士郎の方が動きが鋭く、戦況を展開させていく。
 
 だが、変則的な動きで士郎の攻めを掻い潜り、反撃をするベルフ。


 数合打ち合い、二人の間合いが開く。
 そして次の行動に移るのは士郎の方が速い。

 弓を構え、瞬く間に無数の矢を放つ。
 矢はベルフに殺到するが、矢は鉤爪に防がれ、避けられる。

「私の急所を確実に捉え、この威力…凄まじい…
 すばらしい。召喚されてこれほど愉快なことはありません」

 笑顔で語り、足を止める。士郎もまた足を止めているが無表情でそちらを見ている。

「…戦いが楽しいものか」

 即座に弓を構え、放つ。
 今度は矢ではなく、剣を放った。


 土砂が舞い上がり、視界が悪くなった。
 それでも士郎の殺気が収まることはなかった。






 拳が突き出され、それを避けられずに倒される。
 倒されたままにはならず、すぐに立ち上がって反撃を試みる。

「良い連携だ。
 ここにスライム達が入れば少しの足止めにしかならなかっただろう。
 しかし…」

 ヘルマンから放たれる拳は魔法の射手よりも威力があり、詠唱もなく速い。そしてその一撃は重く、ネギ達のダメージは重くなっていく。

 二対一。ヘルマン対ネギ・小太郎の戦いは依然としてヘルマンの優勢のままになっている。
 
 
 瓶には四体封印されていた。ヘルマンとスライムが三体だったのが、ステージにはその中のヘルマンしかいない。
 何故か。それはスライムを利用してライダーとエウリュアレを眠りという牢獄を作り上げたからだ。
 そうしなければライダーの対魔力がただの水牢、眠りの魔法や効果を打ち消してしまうからだ。
 スライム三体の命という糧をライダーの水牢に使用している。

 ベルフがライダーとエウリュアレをここに運び、普通の水牢では意味がないということを理解した時、ベルフが三体の命を糧に水牢をという提案をした。
 しかし、それをスライムは拒否をした。自分達が何故、戦いという娯楽を楽しむこともできずに、そして命を糧にそんなことをしなければならないのかと。
 そんなことをするぐらいであれば殺してしまえと、気絶している今ならそんなことも容易いだろうと。

 だが、スライムの拒否をさらにベルフは拒否した。
 笑顔で一体のスライムを吊るし上げると、目に見えぬ何かで少しずつ削られていった。復元することもなく、ただ削られた。
 響く絶叫を心地よいオペラを聴いているかのように目を閉じる。

 その光景を他のスライムが見ている。恐怖しながら、ただ見ている。
 彼等は悪魔だ。恐怖・畏怖の象徴である彼等にとって恐怖とはあまり関係のないものだったはずだ。なのに恐怖する。同じ悪魔のはずなのに、そうと思っていない。

 すると、ベルフが言う。
 どうしろという説明もなく、なんの感情も乗らない言葉を吐き出す。

「やれ」

 残酷に殺されるぐらいなら、自ら命を投げ出す方がいい。その方がプライドは傷つかない。
 そうスライム達は判断して、命を糧に水牢を作り出した。


 そのことをヘルマン知っている。
 だからこそベルフの行動に恐ろしさを感じることがある。悪魔であるその身にはいらない感情のはずなのに。

 
 ネギは今の状況に焦る。
 彼等を封じていた瓶はその役割をなさず、小太郎との攻撃はことごとく拳で返される。
 
 その行動にまだ余裕すら感じさせるヘルマンの動き。
 ネギはそれにまだ付いていくことができない。

「つまらないな」

 一人飛び出した小太郎は拳によって吹き飛ばされ、地面を砕きながらようやく停止した。

「本気で戦っているようにも思えない。だからといってこちらに意識を集中していないわけでもない。
 中途半端な気構えでここに立っているという訳か。なんとも彼とは違う。
 
 戦うという意思ではなく、巻き込んだという偽善に近い責任感。まったくつまらない」
「ぼ、僕は本気で…!」

 

反論するようなネギの言葉をヘルマンは無視して己の言葉を出す。
 
 ヘルマンの言葉はネギの心に圧し掛かる。
 小太郎のように強くなる喜びを感じていない訳ではないが、今の状況でそれを感じられることはない。
 
 ネギはどうやってヘルマンから囚われている人を助けられるかを考えている。倒すということも考えていない訳ではないが、それよりも助けたいという気持ちの方が強い。
 それを見抜かれている。

「間違いだと一蹴するつもりはないよ。
 エミヤシロウもそれに近い感情だ。今までは、だがね。

 今の彼は激昂している。表面では冷静を装っていても、内面ではそれこそ地獄の業火に匹敵するだろう怒りの炎。
 何が変化を与えたのかは私にはわかりかねるが、それも強さの一つだ。

 相手を倒す。そうではなく、殺す。その違いが戦場では大きな差だ。気持ち一つで人はいくらでも残酷になれる。
 海の上に投げ出され、自分を浮かべる木片は隣に浮かんでる者が掴んでいる。自分が助かる為にはどうする? 奪うしかないだろう。
 他者を押しのけ、奪い、必要とあれば殺す。それも一つの強さだろう?
 自分が生きたいという気持ちが奪った者より強かったのだから。残酷な選択が自分を強くする。他者を押しのける強さが君にはあるか? それだけのことをする気持ちがあるかい?」

 殺気を飛ばす。
 その殺気はネギを硬直させ、明日菜達が震えるには十分なものだった。

「ほら、今の気持はどうかね?
 逃げたい、そう考えているだろう? 逃げればこれ以上痛い思いをしなくてすむ。彼女達は犠牲になろうとも自分だけは助かる
しかし、それを否定する自分もいる。だが君の気持は逃げたいという気持ちが大きいかもしれないな。
 君は今も逃げている。あの忌まわしい雪の夜の記憶から逃げている。

 しかし、これはどうかな?」

 ヘルマンが帽子を取り、一瞬顔が隠れ、次に移った顔は違うものだった。

「これを見ても逃げるかな?
 自分の村を壊滅させた張本人を前にしても、まだ逃げるかな?」

 ネギの目の前には自分の村人を石に変えた仇がいる。
 

 他のことが考えられない。

 ここに仇がいる。

 ではどうする?

 あの夜の記憶が蘇る。

 自分を守るために二人の人が立っている。

 誰?

 自分の代わりに石化の攻撃を受けている。

 足が砕けて倒れる。

 誰?

 姉だった。


 何かが変わる気がした―――



 音が消え、ネギはその中で爆ぜた。



[2377] 魔法の世界での運命 53話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:72799c48
Date: 2010/11/17 22:55
 それはあくまで個人の戦い。
 悪魔一人と人だった者の戦い。しかし、逸れのどちらもが次元を超えた戦いをしている。

 士郎の放った剣軍は間違いなくベルフの身体を貫き、向こうの世界へ戻すにふさわしい威力を持っていた。
 その威力はネギの魔法障壁はおろか、熟練した魔法使いのそれさえも貫通しただろう。一発ではなく、複数の剣弾が圧倒的な速度と一点に集中した威力にはただの対物魔法障壁では太刀打ちできない。




 それでも――――


「素晴らしい!
 ここまで私を動かせるとは!」


 目の前の悪魔には届いていなかった。
 しかし、士郎もあの程度の攻撃で目の前の悪魔が倒れるとは考えていない。その程度ならばライダー達が遅れを取るとは思えなかったからだ。


 座からの情報や法具の有無さえわからずとも、ライダーは英霊であり人外。ただの悪魔など相手ではない。 
 例え人質を取られていようとも。




 ベルフはすでに人の姿など晒していない。
 それはまさに悪魔。鋭い鉤爪のついた腕が四本。口は裂け、人の骨格など見る影もない。背中には大きな翼。何より、士郎を警戒させたのはその口から生える二本の牙。
 ただの牙ではない。間違いなくあれは最悪の代物。そう感じ取った。

「素晴らしい…素晴らしい!
 あなたほどの強者に会えるのならば私が無意味に過ごした数百年を有益なものにしてくれる!
 もっと! もっともっともっともっと! 私をもっと楽しませてくださいエミヤシロウ!」
 
 見た目だけならトカゲに近かっただろうが、これに比べればどこぞの島にいると言う恐竜の子孫とかいうトカゲの方が余程マシだろう。


 士郎には最初から油断なんてものはない。
 最初から最期まで目の前にいる相手を倒すことが最優先だ。このままにしておいては学園に被害を及ぼさないとも限らない。






 得物を弓から二振りの中華刀に変え、士郎は迎え撃つ。
 四つ手の悪魔であろうとも、対処はできる。速く、鋭くてもまだ青い槍兵に及ばない。
 
 だが、何故か士郎はすぐに決めにはいかない。いや、いけない。
 一歩踏み出すたびに背中に冷たい感覚が過り、慎重に攻めていた。動きを大胆にすれば自分も危うい。


 
 しかし、いつまでもこのままでは千日手。
 退路を確保し、フェイントを入れて干将を振るう。


 瞬間


 ベルフの口から放たれる液体。
 それに干将が触れた瞬間に音を立てて干将が腐食する。

 やはり、と士郎は思考するが、それで終わらない。
 液体と一緒に突き出された腕を莫耶で切り落として後ろに跳び、莫耶を投げるが、それは叩き落されてしまう。

「ふむ、良い剣ですね。
 私の腕を切り落とせるとはなかなかのものです」

 どうとでも無いように語るベルフ。
 叩き落した莫耶を拾いながら、液体を吐き出して莫耶も溶かしてしまう。

「ですが、武器を失ってしまっては―――おや?」
「驚くふりをするな。
 これも予想の範囲だろう? 依頼者とやらから情報を得ているはずだ」
「これはこれは、それもわかっていましたか」

 白々しい、と士郎は思う。
 だが、決して自分も有利ではない。腕を切り落としても全く安心できない。

 すぐに投影して干将・莫耶を構える。

「そうです、そうこなくては」

 楽しそうに悪魔が哂う。




 そして、生々しい音を立てて切られた腕が生える。



 

 接近戦は士郎にとって不利という訳ではない。
 腐食する液体と、四つ手の動きにさえ注意していれば戦っていられる。


 だが、時々ではあるが後ろに跳んで即座に弓を構えて剣を撃つ。
 

 それが、ベルフには気に入らなかった。
 死の危険、一瞬の油断、そのスリルが堪らない。
 なのに、手を抜いたかのような剣が放たれるだけの攻防。構えた二刀も素晴らしくはあるが、自分の求めていたものがこの程度だったのかと、落胆を隠しきれない。
 だからと言ってこれ以上の戦いが期待できるかといえばそうでもなさそうだ。

 

 所詮、人間などこの程度か…



 やはり、エヴァンジェリンを相手にするべきだった。




この学園には彼女以上の化け物などいないのだから。




 今は魔力を封じられていると聞くが、それの要因さえ破壊してしまえば伝説の存在である彼女と戦えることができる。
 契約などあってないようなものだったのだから。


 そうと決まれば行動は早い方が良い。
つまらなくなったおもちゃで遊んでいるのは時間の無駄というもの。




 さっさとこの学園を壊してしまおうとベルフは結論した。




 ならば早く。
 この動く肉を喰い、アリを踏み潰すがごとく。






 変化は一瞬。
 士郎もベルフがこちらに対しての興味が無くなってきているのは承知していた。
 自分も目的の為にベルフを足止めしているに過ぎず、ベルフはそんな士郎の行動に飽きたのだ。


 士郎もベルフを倒してしまいたいが、見てしまったものをまずどうにかしなければいけないと判断した。
 だが、まだはや――――



 そこで士郎は自分の失態に気がつくのだった。
 もっと早く決着をつけるべきだったと。
 どこかにいつでも倒せるという慢心があったのかもしれない。


 つい数秒前には体格的にはヘルマンと大きな違いはなかったはず。
 それが、一瞬で。


 本当に一瞬でゾウの二倍はあろうかという巨体になった。
 四つ手のトカゲの頭は変わりないが、翼が違う。二枚が六枚。



 士郎の放つ矢を避け、腕を振るった時には轟音を立てて木々が薙ぎ払われた大地が広がるだけだった。
 士郎の姿はそこには無く、遠くで木々が倒れる音がするだけだった。











「ちっ、油断しおって…」

 失望した、とでも言うようにエヴァンジェリンは士郎の戦いから目を離した。
 士郎の強さには興味がある。しかし、あの程度の悪魔相手に油断したとはいえ一撃をもらう程度なのか。

 いや、違う。
 あの男は甘いと判断した。


 戦いの場は非常だ。いつどんなことが原因で命を落とすかわからない。ならば常に対応できるように。迎撃できるように。いかなる奇策、奇襲にも動ずることなく冷静な判断で対応するべきだ。
 
 士郎のように、足止めに留め、まるでいつでも殺せるというような行動。
 それは戦いに置いて決して愚かなことではない。エヴァンジェリンはそのような行動を否定はしない。

 全ては自分次第なのだから。その油断で殺されるも自分次第。弱者の命を弄ぶことも、この世界には快感に思える輩もいる。

 例え、ここで衛宮士朗が倒れようともそれは自己責任であるべきだからだ。
 この程度の悪魔、屠れて然り。


「結局、奴も人ということか」

 興味を失った眼でエヴァンジェリンはネギの戦いに興味を移す。


 眼に映るのは暴走したネギ。

 悪魔から放たれる魔法。

 ネギを跳びつきそれを避ける小太郎。


「ふん…」

 やはりぼーやの潜在能力はヤツ譲りか。
 脳裏にこの学園で待ち続けた男の姿を映すが、それをすぐに破棄。

 希望はあるが、今はどうでもいい。
 


 それにしても暴走状態であれば悪魔を圧倒していたというのに、決め手の一つも打ち込めないとは。

 情けない。それでも私の弟子かと、エヴァンジェリンは舌打ちをする。
 意識ではなく、無意識のレベルで身体に叩きこむか。

 ネギの地獄がここで決まったが、それはまだ先の話。
 戦いの行方を見届けながら修業の内容を考え――――


「クッ」
「? どうかされましたか、マスター?」
「あれを見てみろ」

 エヴァンジェリンが指差す先には―――


「え?」

 アスナは腕の拘束が唐突に外れたことに驚いた。
 魔法を消し去る不可思議な力を通りぬけ、アスナを縛る拘束の鎖を砕き、木乃香たちの水牢を破壊された。
 
 なにがどうなっているのか。




 
 地上に降り立つヘルマンは、見た。
 悪魔の眼を持ってしてもそれは視認することは難しい。
 しかし、雨の中を飛来するすれは、雨を弾き、水の軌跡を残していた。

 その事実と、改めて彼女たちの拘束していたものを破壊した飛来物を見る。


 それは黒塗りの矢。
 間違いなく、ベルフと戦っているはずのエミヤシロウのものだ。


 それはほぼ同時に彼女たちの拘束を破壊した。
 いかなる手段を持ってして、この芸当を成し遂げたのか。


 寒気が走る。
 少なく見積もったとしても数百メートルはある距離を正確無比に彼女たちを傷つけることなく拘束だけを射抜くその技術、千里眼のごときその眼、必殺であるべきそれを射る躊躇の無さ。


 
 今を持って悪魔は安堵する。
 とてもではないが人の範疇の考えではない。行動ではない。



 彼と戦わなくてよかった、と。










 ベルフは動き出す。
 森の木々を踏み倒し、今にも飛び立たんとしていた。

 この森を抜け、この学園を破壊し、あの真祖の吸血鬼と戦いたい。


 だが、その前にあの邪魔な人間どもを掃除しなければ。


 ベルフの視線の先には麻帆良の魔法先生達がいる。
 この騒ぎを嗅ぎつけられない彼らではないが、さすがに遅すぎたというべきだろう。

 守るべき生徒は浚われ、ネギという子供を戦わせてしまった。


 
 だが、彼等はもう成すすべは無い。
 この悪魔はヘルマンのような伯爵ではなく、公爵。


 悪魔の中の最高位の爵位を持ち、戦いを欲するがために召喚されやすい伯爵の爵位まで自ら望んで堕ちた。


 その考えは間違ってはいない。 
 彼は確かに楽しめた。エミヤシロウという男は一時ではあったが彼を楽しませることができたのだから。

 それが長く続かなかったのはざんね―――


『あなたは私を飽きさせませんね』


 この結界内の魔力が根こそぎ喰らい尽くしたような虚ろな空間。
 寒気を通り越して痛覚に感じさせるほどの殺気。
 人知を超えた存在という圧力。



 先程の人間とはとても思えないが、それでも―――


『どうでモイイッ!! ワタシヲタノシマセロニンゲン!!』


 ベルフは確実に隙を見せた。いや、故意に見せただけかもしれない。
 彼の力をもってすればただの人間にとってあってないようなものかもしれない。


 だが、エミヤシロウにとっては絶対の好機。


 それすらも楽しみだと、悪魔は嗤う。


 その場に留まることなく跳び退くように背後に振り返る。







 その眼には――――



 木々を跳び越え―――



 深紅の槍を―――

                    あれは不味い―――

 投合せんとする―――

                    あれはワタシを―――

 “人外(エミヤシロウ)”がいた―――

                    殺し得る―――










 まるでコマ送りのように投合された深紅の槍が貫かんと迫ってくる。
 防ぐために全力で迎撃をするための四本の腕は紙のように貫かれた。

 避けるには余りにもこの身体は大きすぎた。

 いや、仮に避けられたとしてもあの槍の有効範囲が大きすぎる。




 そんな、死の気配を禍々しく感じさせる深紅の槍が身体に触れるその時まで―――




 ――――悪魔は嗤う。




 悪魔の半身を槍が消し飛ばした。

 かろうじて死には至っていない。
 まだ動けるはずだ…
 



 結界を消し飛ばすほどの魔力の爆発がなければ――――












「…私は、死ぬのですか?」

 士郎は応えない。

「これが、死の気配なのでしょうか?」

 元の国に帰るように、煙とならない。
 残った半分の顔面と辛うじて肩と思われる部分が灰のように少しずつ崩れていく。

「まだやりたいことがあったんですがねぇ…」

 
 もうこの悪魔にできることはないだろう。
 

 士郎の他に、麻帆良の魔法先生達がベルフを囲む。
 その中の一人、シスターシャークティが完全にベルフを滅するべく、超高等呪文を唱える。


 しかし、他の先生たちに余裕なんてものはなかった。
 この悪魔を滅することができる魔法使いという認識。
 結界を消し飛ばすほどの出鱈目な魔法。
 それを知らずにこの学園の中に置いていたという事実。

 学園長は知っていたのだろうか?
 いや、確実にこの男の実力を見抜いていたはずだ。今回の悪魔の襲撃だって察知していたはずだ。

 むしろ意図的に私達に知らせなかったのではないか?

 疑問は尽きない。
 しかし――――

 目の前の悪魔を見てしまうと、自分たちだけで勝てたのかという疑問が残る。
 明らかに普通の悪魔ではない。ここまで灰となっているにもかかわらず口を聞くことができる。死を恐れていない。


 なにより―――


 倒した衛宮士郎自身の負傷の程度を見て、とてもではないが余裕というものは無い。
 左腕はだらりと力なく下げられ、身体中至る所に血の滲みが見て取れる。



 なにより、精神の疲弊が激しい。いや、意識が朦朧としているのかもしれない。


 魔法先生が無事か話しかけても虚ろに“俺がやらなければ… 俺がやらなければ…”――そう繰り返す。


 迸る魔力に驚きながらも、この場に彼がいてくれたことに感謝しなくてはならないだろう。

 



 すでに口すらギリギリあるという状態で溜息を吐くベルフ。見て魔法先生達は彼が諦めたのだと見て取れたのだろう。
 安堵ともとれる溜息を洩らしている。


「仕方ありません」


 その呟きに、士郎は背筋が凍る。朦朧としていた意識がクリアになる。


「妥協しましょう」

 こいつは―――



「“彼等”で」



 この人達を道連れに―――っ!!









 魔力の嵐が我々に叩きつけられる。
 その瞬間、私の防御が甘くなり、ネギ君の肘が腹部に突き刺さるように決まる。

 だが、魔力の嵐に動揺したのは私だけではなく、ネギ君と小太郎君にしても同じ。

 一瞬のすきを突いて距離を取り、トドメの一撃を回避する。
 雷の上位古代語魔法らしきものは私を捕らえることなかったが… 私にとって状況が悪いのは変わらない。


 すでに人質は解放され、エミヤシロウの次に厄介だろうと判断した長身に魔眼を持つ女性。
 彼女の捕縛すら解こうとしているのだから。


 すぐには意識は戻らないだろう。
 しかし、それも時間の問題。退魔師の少女はすでに意識を取り戻しているようだが、状況判断ができていないというところだろう。それもまた、時間の問題だ。


「ふむ、すばらしい才能と、短期間で付けた力、か…
 やはり君はサウザンドマスターの息子たる力を有している。将来が楽しみだ」
「は、そんな余裕かましといて大丈夫なんか、おっさん!」

 小太郎君が今にも跳びかかってきそうに構えるが… 警戒している。
 いや、先程の魔力の嵐の動揺を落ち着かせようというところか。


 だが、あれは確実にもう一人の悪魔のものではない。
 その少々前に感じ取った黒い魔力が彼のものだ。やはり、伯爵などではなかったようだが…
 それも、どうでもいい。


「問題ないよ。私は、君たちを――――っ!?」






 なんだこれはっ…!?
 先程までの魔力の嵐のどころではない! 


 魔力は確かに感じる。しかも膨大な。
 だが、この絶対零度の中に悪寒。肌で感じる憎悪。今にも殺されると思うほどの殺気…

 なにより…




 声に聞こえない慟哭。



 悪魔の私には感じられないが、何かしらの叫び。
 


 まさか吸血鬼の真祖? いや、彼女ではあるまい。
 だが、これが人間の魔力か? これが人間に与えられたモノなのか?

 この方向は… エミヤシロウと彼が―――――








「――――っ!?」







 気がつけば私は悪魔の姿を取り、石化の魔法を放っていた。





 だが、目の前にはおろか視界のどこにも人のすがたなどない。
 あるのはただ、雨の降る舞台だけ。




 危険だ。
 依頼者にとってもここでネギ君が倒れるのは不本意だろう。感情の見えない何かだったが、それでもネギ君にだけは感情を見せた。
 依頼は遂行できそうにない。だが、少しでも依頼者の要望に応えられるような仕事をすることが私の使命だ。


「ネギ君! ここから逃げ―――」

 
 逃げろ。そう言いたかった。
 だが、それは無理な注文のようだ。


 ネギ君は強烈な殺気を浴びせられた影響か嘔吐し、小太郎君は腰を抜かし、茫然としている。

 スライムが浚ってきた少女達は一人を除き、意識を手放している。

 唯一意識を保っているのが退魔師の少女。だが、それもギリギリだ。
 呼吸を荒くし、眼を見開き、全身が震える。それを抑えるように自らの身体を抱きたい。しかし、彼女の視線の先に倒れる長い黒髪の少女に向けて震える手を伸ばす。
 守らなければという意思。

 すばらしいが…




 ここから生きて帰れればの話し、か。





「ヘルマンとやら」
「君は…吸血鬼の真祖」
「中々楽しませてもらった。ぼーやの潜在能力が見れたのは貴様のおかげだ。
 だが、今はぼーやどころから貴様の身すら危ういぞ」
「一体、どういう…」


 言葉の途中で、私はもう一つの対象のことを思い出した。
 自分の中の疑問が晴れる。依頼者が殺せと言ったのは間違いではない。彼は万人に危険なのだ。



「衛宮士郎はヒトではなくなった。
 表現するなら化け物といっても過言ではない。化け物という意味ではアレは私と同類かそれ以上だろうさ。
 今はこの学園の教師が足止めをしているが、それも長くは続かん。もし、還るのであれば痛みを感じさせずにやってやるが?」

 そう言ってくれるのは先程言っていたネギ君の潜在能力の感謝という意味なのだろう。
 だが、彼女はそう言わない。照れているのか数かしいのか…



 どうでもいいか。

「そうもいかないのだよ。
 私は悪魔。依頼者の依頼を達成してこそこの存在がある。ネギ君は残念だったが、前途有望な少年の未来を閉ざされてしまうのは本意ではない。
 そして私は依頼を果たすためにやらなければいけないことがある」

 私の言葉を聞いた吸血鬼の真祖は、その従者ともう一人の長身の少女?と共に気絶した少女たちを運ぶ。ここにいては彼女たちの命は保証できない。




 さて、私も行くとしよう。
 一歩踏み出すと同時。

「メドゥーサさん!」

 私の横を紫電が如く駆け抜ける姿。



 彼女の纏う気配や魔力を感じ取って初めて知る。


 

 彼女も人外なのだと。


 





あとがき


 …すいませんとしか言えないです… すいません…



[2377] 魔法の世界での運命 54話
Name: 快晴◆c835a6b1 ID:0b81f3cf
Date: 2010/11/28 22:19
 ガンドルフィーニは油断していた。
 衛宮士郎に意識がいっていたことは確かだが、戦場に立つ者として、全てに注意を傾けなければならない。

 死にかけの悪魔といえども注意を逸らすことは言語道断だろう。

 いや、それはその場にいた全ての魔法使いに同様だ。

 戦わずに済んでよかったと思う者。悪魔に対して恐れを抱く者。悪魔に憤りの感情を抱く者。
 その様々な思考を閉ざす、生々しい音。


 油断。


 悪魔の姿ではなくただの肉塊。
 元の悪魔の姿ではなく、人型の姿で横たわっていた悪魔が今や大きな肉塊となっている。




 それは風船のように――――




 そう、水を限界まで入れた水のように――――




 ゾブリ、と音を立てて――――




 弾ける。







 その光景を間近で見ていたのはシスターシャークティだった。
 意識を集中して目の前の悪魔を滅するために魔法を唱えている途中、悪魔が何かを言っていた気がした。しかし、事故に集中していた所為でほとんど聞こえなかった。


 
 後に後悔するが、もう遅い。
 何故もっと詠唱を速くできなかったのか、何故もっと力を磨かなかったのか。



 気がつけば悪魔は肉塊となり弾ける寸前。



 
 そして、弾ける瞬間に彼女は弾かれた。


 痛みさえ感じる間もなく弾かれた。


 誰、といえば――――



 エミヤシロウだった。








 悪魔はその存在が負の感情といってもいいだろう。
 憎悪、憤怒、悲哀、狂気… 様々な負の感情の塊の存在。

 
 悪魔に憑かれたと言われた人間の行動は常軌を逸している。そう表現されるのは、それまでの人間性からは考えられないほど豹変するからに他ならない。


 大人しかったあの人が人を殺すなんて――――
 

 人はその豹変振りに驚きを隠せない。
 だが、それはその人の感情の器が溢れてしまっただけかもしれない。人は自己の感情という内的要因を制御できないと外的要因に変換する。


 それが暴力だったり、殺人であったりする。



 しかし、それは器の容量を感情が超えてしまった場合だ。


 まるで何事もなく平和に暮らしていた人間が豹変する場合は些か赴きが異なる場合がある。
 

 唐突に、そう唐突に平和な家庭が無残な人間の最期を物語る場所になる。


 悪魔に憑かれてしまった。
 その実態の一例として悪魔に憑かれてしまった場合、人の感情の器は矮小なものとなってしまう。

 平和な家庭にあろうともストレスはどの生物にも存在する。ストレスを感じない生物は生物として破綻している。
 生物にとってストレスは切っても切れないもの。


 そのストレスや感情全てを受ける器が小さくなってしまったとき、人は感情が制御できなくなってしまう。
 濁流のような感情の波が小さな器を一瞬で満たし、溢れて止まることを知らない。


 内的要因が外的要因をどんどんどんどん肥大化させていき、常軌を逸した残酷な結果となる。



 ベルフの肉塊に秘められたものはそれだ。
 他の悪魔よりも狂気に満ちたベルフの血肉はより人を変質させる。


その血を浴びた者を破綻させる、精神汚染。


 その最も近くにいたシャークティはエミヤシロウによって助けられた。
 突き飛ばされた直後、彼達の姿を覆い隠すように人の身の丈を超える剣軍が降り注ぐ。
 


 結果、エミヤシロウ以外の魔法使いは助けられた。


 しかし、それは悪夢の始まり。

 
 彼等は本当の意味で人の域を超えたナニかの力を目の当たりにすることになる。









 ベルフを滅するべく向かった魔法先生たちは9割が戦闘不能になってしまった。
 

 意識のあるもの無い者の共通の疑問はアレが何の魔法か一切理解できないということだ。
 自分たちの魔法障壁を破壊し、意識を奪い。行動不能にした魔法。衛宮士郎が出したと思われる無数の剣は、衛宮士郎が飛び上がるように円の中から脱出した瞬間爆発した。それと同時に禍々しい殺気と嵐のような魔力の猛りを叩きつけられた。

 爆発を逃れたのは魔法先生の葛葉と神多羅木だけ。
 他のものは爆発の影響で意識を失ったり、戦闘不能となっている。爆発する剣の最も近くにいたと思われるシャークティはその中で一番酷い怪我を負っていた。

 だが、もしも衛宮士郎が突き飛ばしていなければ… ゾッとする。



 しかし、今この状況で命の危機にあるのは葛葉刀子と神多羅木の二人だ。
 容赦のない殺気を浴びせられ、躊躇のない打ち込みをしてくる。


 目の前の男は全身を赤黒い血を浴び白髪は猛る魔力に焦がされたかのように黒。
 変質した衛宮士郎の剣を受け流す。




「はっ、はっ… くっ…」

 息が上がる。
 鬼を相手にしたってここまで息は上がらない。まだ衛宮士郎と剣を交えて2分経ったかというところ。

 
 神多羅木の援護の魔法も相手の隙と思われる瞬間に葛葉と同時に放たれている
 無詠唱魔法だからといって威力は軽視できないはずなのに、目の前の男は目視すらせずに叩き落とす。

 まるでそこに来ることが分かっていたかのように。
 葛葉の剣を避けながら――――哂いながら。


 攻撃型の詠唱魔法を詠唱しようとすると牽制のようにどこからともなく無数の剣が現れる。魔法で撃ち落とそうにも速さと威力を兼ね備えた剣にはほんの僅かしか軌道をずらすことが出来ない




 奥義を放ちたくても放てない。
 その瞬間をタイミングを外されてしまうから放てない。


 相手は片手だというのにっ!



 魔法先生側は数と相手の負傷という有意な立場に立っているはず。なのに攻めきれない。
 早く治療を施さなければ衛宮士郎の精神は崩壊してしまう。


 だが、すでに二人は満身創痍だった。
 経験したことのない凄まじい殺気。猛る魔力の圧力。押し潰されてしまいそうな衛宮士郎の存在感。

 なにより、片手だというのに熟練の魔法先生に引けを取るどころかあっとうして余裕さえある。

 身体に無数の裂傷を負いながらも目を離すことなく、二人は衛宮士郎に対峙し続ける。


 そして、すでに二人の見解は一致していた。



 このまま私たちが倒れては。この学園に被害が及ぶと。



 だからこそ一気に勝負をつける。
 もう、自分たち以外に戦力は期待できない。ならばこそ、体力が僅かにでも残っているまさに今、ここで衛宮士郎を倒さなければならない。


 たとえ、それが死という結果を招こうとも。





 一気に瞬動で間合いを詰めにかかるが行く手を剣が遮る。
 しかし、それこそ神多羅木が全力を出さなければならない。

 放つことができる無詠唱魔法を剣に向けて放つ。
 限界の速度で放ち続けて、道を開く。




 自身の間合いに入った瞬間、溜めた力を解き放つ。


「神鳴流奥義! 百裂桜華斬!」


 全力をもって奥義を放った。




 殺った!


 本来は複数の敵に対して放つものだが、手数で、目視などできないほどの速度で振られる刀を片手だけで受けきれるはずがない!


 















「――――剣が増えたわけでもあるまい」







「え…」





 思わず出てしまった言葉。
 
 音すら消えていく中、意識を失う直前に見たものは、切り上げられる刀を片手で持った剣で抑えられた光景と、葛葉の身体を貫く無情な無数の剣だった。






 パートナーを失い、体力も精神力も限界に来ていた神多羅木。


 もう駄目だと、思ってしまった。
 詠唱している間にやられる。無詠唱は叩き落とされる。相討ちなんてものは不可能。



衛宮士郎は哂いながら、ゆっくりと歩み寄ってくる。
 

 せめてここにタカミチいれば状況は違っていただろう。 
 一度でも衛宮士郎の戦いを見ている彼ならば自分たちのような遅れを取ることはなかったはずだし、倒しえたかもしれない。





 だが、それももう意味がない。






 もう、剣は振り下ろされる寸前なのだから。




















「おや、貴方らしくないですねシロウ」






 腕に巻きつくのは鎖付きのダガー。
 振り向く先には――――






 かつて、第五次聖杯戦争と同様の姿をしたサーヴァント、ライダーがいた。













「助太刀しに行かなくてよかったのでござるか?」

 
 長瀬楓はエヴァンジェリンに聞く。
 自分では力不足もいいところだが、このクラスメイトならば。と考えていた。

「私がか?
 は、それは不可能だな。私が行ったところで血だまりがもう一つできるだけだ」

 細められた目を見開き、真偽のほどを見極めようとしたが…



 嘘ではない。

 そう物語っていた。


「まぁ、封印状態でなければ負傷した奴を仕留めるのは簡単だ。
 しかし、今の状態ではとてもではないが他の奴らより少し長く戦っただけで結果は変わらん。
 今の奴は恐ろしいぞ? 力に制限をかける要因が何もないのだから。足手まといもいない、守るべき者もいない、優先すべきは自らの感情だ。
 止められるとしたらさっき駆けて行った女ぐらいだろうさ。もう一人の悪魔では囮はできても倒せはしまい」

 衛宮士郎の戦いは守るものがあるのが常であった。
 今は何も守るものはない。自らを遮るものはない。抑える必要もない。



 エヴァンジェリンは楓達を先導しながら、振り返ることなく口を開く。

「私も久しぶりに見たが、悪魔の血によって精神を―――そうだな逆にされたとでも言おうか。
 そうなってしまった人間を御するというのは生半可な技量では成しえんのだ。人は自らの命を優先する。それの逆は自らの命を投げ出すに等しい行為をいとも簡単にやってしまうからな。それを憐れとは思わん。生物における生存本能だからな。

 命を省みない行動ほど怖いものはない。テロなどでもそうだろう? 一つの命を投げ出すことで多くの命を道連れにできる。そういうことのできるやつらに法だのなんだのを説いたところで何も変わることはない。命の尊さ、そんなものは持ち合わせていない。

 ましてや今の奴の力をもってすればタカミチ厳しいだろうな。いや、先ほどの―――赤い槍のような奥の手を用いれば魔法使いなんてものは脆弱。踏みつぶすだけだ」

 振り返り、お前でも無理だというように、自嘲も含めた微笑。
 本当に、今の彼女では勝てない。封印を解かなければこの学園は――――

「む?」

 衛宮士郎とライダーのいる森から結構な距離が開いたところで電子音が鳴る。
 エヴァンジェリンは不愉快そうな舌打ちをしながら電話に出る。


「何だじじぃ。言っておくが私は手を貸さんぞ。
 貸したところで文句を言われるからな。いちいちうるさいんだよ貴様達魔法先生は」


 向こうで学園長がうなる様子が想像できるが、正論でもある。 
 彼女の立場は非常に厳しい。かつての賞金首、悪名と轟かせた彼女が正義を口々に語る魔法先生たちに受け入れられるはずがなかった。例え封印状態であってもだ。

 善意で動く。そういったことはエヴァンジェリンにとっては稀だろうが、少なくも今の状態で魔法先生、ましてやこの学園に手を貸す気は更々無い。

「封印を解いたところで貴様に私が強制できるのか?
 そのまま自体の行く末を見届けろ。貴様自身が出ないというのならば、あのメドゥーサとかいうデカ女に任せるしかあるまい。
 これ以上なにもないな。では切るぞ」

 そのままエヴァンジェリンは携帯の電源をoffにしてしまった。




「さて、ここまでくれば問題ないだろう」

 糸で運んでいたネギ達を下ろすと、森に配置した人形を通して戦いの行く末を見届けるエヴァンジェリン。
 
 人形を通して見えるものは、確実に人の域を超えた何かだ。
 それが非常に興味をそそる。どちらも人外。
 

 さて、どういう結末か。


 本物の戦いに、童女の如く心が躍る。









 まるで現実味を帯びない戦いだろう。
 目に見えぬほどの速さで森の中を三次元に動きまわるナニか。
 目に見えないはずなのに、その姿を見失うことなく常に視界に収め続けるナニか。

 
 ジャラジャラと音を立てながら投合される楔。
 虚空から現れる名刀、名剣の数々。


 森を破壊し、尚止まらない。


 片や健全。片や重傷。
 勝負の行方など、火を見るよりも明らかなはず。どちらが勝っているかなど一目瞭然。


 そのはずなのに――――






 哂う。


「はっ!」


 哂う。


「はははっ!」


 哂う。

「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははぁっ!!」

 自らの不利など関係がないように哂う。


 


 衛宮士郎はもう、ヒトではなくなっていた。





 ライダーは攻めあぐねる。
 自身が優れているのはスピードだけだからだ。

 接近戦では確実に、遠距離では賭けになる。
 魔眼はおそらく使えないだろう。ライダーが知っている衛宮士郎ならば問題なく使用できただろうが、目の前にいるのは守護者、エミヤだ。

 
 数々の英雄の宝具を心象世界に内包する彼は侮れない。
 こうしている間でも今か今かと忌々しいあの鏡を投影してくるかもしれない。そうなればかつての自分の末路をこの世界でも歩むことになる。

 唯一救いなのは弓が使えないことだろう。剣を射出するしかないのであればまだ避けられる。
 また、ほとんどの宝具も使用不可だろう。

 宝具を使用したとしても膨大な魔力量だが、負傷した彼にしてみればもう一度宝具を使うことは自身の破滅を迎える。
 両手持ちの宝具、エクスカリバーやデュランダルなどの剣は確実に不可。

 ルールブレイカ―での仮契約の破棄も考えられたが、あれを使う瞬間は使える右手がふさがり、自身の身体に刺すという行動が求められる。その隙に殺すことができる。

 身体能力を制限された状態、お互いに決め手に欠ける状態だからこそこの状況だ。


 故に千日手。
 お互いが必殺を使えないが故に、森は蹂躙され続けられる。




 だが、ライダーはこのままではいけないのだ。
 彼は自身のマスターではないが寄り代。この世界に自らを顕現させる重要な要。

 腐っても英雄であるライダーを顕現させ続けることのできる者など指で数えられるほどだ。
 まして、御せられる者など彼以外は現時点で存在しない。



 ライダーは焦る。



 早くしなければ、この衛宮士郎は壊れてしまう。
 身体ではなく心が。




 エミヤシロウの強さは宝具でも弓でもない。
 
 他を圧倒する強靭な精神力。
 
 針に糸を通すという行為を、その規模の何百倍という戦いを、戦争を、命の危機を。



 常人どころか英雄でさえ発狂しかねない。道を違え、見捨て、命を投げ出し、死にたいと願うかもしれない。


 
 そんな人生を歩み続けてきた。
 だが、衛宮士郎は投げ出さない。諦めない。見捨てない。


 弱音を踏み潰し。
 慢心を燃やし尽くし。
 迷いを断ち切る。



 例え意識を深層に落とされたとしても彼は必ずそこにいると信じて。
 必ず悪魔の精神汚染を打倒して戻ってくると信じる。








 なぜなら――――







 彼は、幾たびの戦場を越えて不敗なのだから。



 そうでなくては、衛宮士郎ではないのだから。







「――――殺」

 細く、今にも折れてしまいそうな声が聞こえた。

「銃殺」

 それと同時に攻撃が止む。

 しかし、止んだ変わりにライダーの背筋すら凍るような呟き。

「絞殺、溺死、轢死、焼死、毒殺、餓死、刺殺――――」

 何を言っているのか、とは思わない。いや、思えない。
 それはエミヤシロウの歴史、存在、あり方、歪み方、死に方…


 そのすべて。


「絞首台」


 どれほどの思いがあるのか。


「封印指定」


 後悔があるのか。


「実験材料」

 
 消してしまいたいのか。

















「ふざけるなっ!」





 大気を揺らすほどの怒声。

 弾けるように、破裂するように、吐露するように。

「後悔は無い! してはいけない! それは俺が救えなかった人達への侮辱!
 殺されたことに怒りも悲しみもない! 俺の死で救われる人がいたならば喜ぶべきだ!」

 溢れる感情を制御できない。

「正義の味方になりたかった、あの時の約束は間違いではない! それだけを目指して、理想を掲げて、追いかけたモノを!
 助けられずに見捨てた! 守り切れずに殺してしまった!
 諦めて何が悪い! 救えなくて誰が悪い!」




 いつしか、ライダーはダガ―を下ろし、眼帯に手をかけていた。

「俺はセイバーを裏切り、凛を裏切り、桜を裏切り――――!!!
 数え切れないほどの人間を裏切ってきた… それの何が悪いというのだ! 私は一を切り捨て九を救うという方法で数え切れないほどの人を救ってきた!
 数え切れないほどの人を切り捨て殺した! 切嗣と同じ方法で多くの人を救った! 救って救って殺して殺して…」


 手に眼帯を握り、目を瞑る。

「たった一人の味方にもなってやれずに、俺は死んだ! 
 イリヤ助けられなかった!
 腕に浸食されて自らを失った! 
 全身を剣に貫かれて死んだ!
 衛宮士郎という存在を消すことだけを唯一の希望とした!」


 唐突に夫婦剣を投影して駆けだした。
 とっさのことに反応できない。身体が一瞬でも硬直してしまった。

「だから!」

 これは致命的だ。もう間に合わない。
 だが、やらなければならないことがある。ここで止めなければ彼はずっと悲しい存在になってしまうから。
 



「俺を、殺してくれライダー!!」



 命に代えても。




「この時を待っていた!!」


 今まさにライダーと衛宮士郎が決する時、ヘルマンはそこを狙っていた。
 気配を殺し。自分を殺し、気がつかれずに目標を達成するために。


 悪魔の姿をもって、石化の魔法をもって。目標を達成する。




 だが、石化の魔法は放たれず、その口腔には剣が突き刺さっていた。





































 しかし、それこそがヘルマンの狙いでもあった。


 一瞬でもライダーから注意が逸れたのだ。
 それだけで十分だ。



 結果的に衛宮士郎を一時的にでも排除、もしくは能力を知ることができれば依頼は達成されたことになるのだから。
 屁理屈かもしれない。それでも良かった。





 この世界でも破格の、元の世界で特例の中の最高位。




 石化の魔眼が彼の姿を捉えた。


















 一瞬の抵抗を見せただけで、衛宮士郎は完全に石化した。
 視力が極端に落ちても問題はない。目を瞑りながらライダーはヘルマンへと近づいた。


「ふ、美女に看取られるのもいいものだ」
「そうですね。感謝してもいいとは思います。
 ですが、その前に聞きたいことあります。消えるのはその後にしてもらってもかまいませんか?」

 うむ、とヘルマンは頷く。
 すでに身体は半分、口には穴が開いていたが、存外喋れるものだと思った。

「何故、あのタイミングで?」
「私では一瞬で消されてしまう。
 ならば君に可能性を託したというだけだ。」
「それでは意味が通りません。私が殺された瞬間に同様のことをしても結果は得られたでしょう。

 真意を、私は聞いているのですよジェントルマン?」

 ふっ、と小さく彼は哂った。

「ではいう代わりに伝言を頼まれてほしい。
 ネギ君と小太郎君に私が失望させてくれるなと、伝えてほしい」

 コクリとライダーは頷いた。
 そして、ヘルマンは悪魔らしからぬ言葉を、消えゆく身体とともに残した。




「なに、私はこの憐れな人間にこれ以上傷ついてほしくなかっただけだよ」





 そう残して消えた。


 麻帆良の傷は深く、まだ騒ぎは治まることはないだろう。
 しかし、戦いの終わった今この時だけは、雲の切れ間に覗く月のように静かにあってほしいと、彼女は一人願うのだった。







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