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[24492] 【習作】真・恋姫無双 孫皓伝 (オリ主 逆行)
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2010/12/14 20:01
零話.「ストライクフリーダムな孫」

Side:一刀

「一刀さま!」

慌ただしく駆け寄ってきた女性が1人、俺にすがり付いてきた。若い頃なら頭を撫でて抱きしめて「どうしたんだい(キラリ)」とするところだが、今の俺は70過ぎたジジイ。そんなことをする元気はない。

「一体そんなに慌てて、どうしたんだい。陸坑」

母親の爆乳は何処へ消えたのかと聞きたいほどの貧乳具合。本人も気にしているようなので言わないのが紳士だろう。彼女は現在の孫呉を支えている文官の筆頭でもある。

「そ、それが…」

「それが?」

ふふふ、今日はどうしたのかな。こんなにも取り乱して。いつもは何が起こってものほほ~んと構えている彼女なのに、珍しい…じゃ…ないか。まさか、いや、そんな。最近なりを潜めていたから油断していたが、まさか!?

「孫皓さまが“学校を作る”と言って文官を引き連れて、出て行かれましたぁあああああ!」

「嘘だろぉおおお!文官を向かわせ……って、すでに論破されているのかよっ!!」

「どうすればいいんでしょう」

「連れ戻すんだ!近衛兵たちはどうした?」

「すでに洗脳されて言うことを聞きません!」

「うがぁああああ!」

最近の俺の悩みはただひとつ。俺の孫たちの中で唯一男として生まれてきた孫皓のことである。


姓は孫、名は皓、字は元宋。
俺の孫の中で一番年下になる彼は、生まれてくる時代を間違えたと言っていいほど、才能を有り余らせる存在だった。
武術もこの大陸で彼と渡り合える人間はいない。知識も乾いたスポンジが水をどんどん吸収するかのように習得していく。それに比例して孫家特有の自由奔放さが表に出てきたことが問題だった。
雪蓮もシャオもフリーダムだったが、孫皓はそれを軽く凌駕するストライクフリーダムだ。
彼女たちの対象はごく限られたものだったが、彼が行うことは周囲の人間を巻き込みすぎる。
なんで、こうなってしまったのだろう。幼い頃の彼は、素直で天真爛漫で孫呉のマスコットキャラクターだったのに…。
やはり、母親である孫和が病気で死んだとき、落ち込んだ孫皓を彼女たちに預けたのが拙かったか。結局、孫皓は叔母や従姉妹たちにそそのかされて、女装をしたのがきっかけで随分とはっちゃけてしまった。
しかも、顔立ちが雪蓮にそっくりのため、彼が女装すると涙が…。味を占めたのか最近は化粧と演技で俺の残り少ないLPをごりごりと削ってくるし、最悪すぎる。

「なぁ、陸坑」

「何ですか、一刀さま。もしかして何か案が?」

「もうゴールしても(蓮華たちの元に逝っても)いいよね」

「キャー!医者ぁあああ!衛生兵ぃいいい!誰か助けてぇえええええ!」

本当に誰か助けて…。


翌日、お茶を飲んでいた俺の下に、走ってきたのか息切れを起こした女性がやってきた。

「ぜはっ…一刀…さま…、大変…です…」

「深呼吸、はい。すって、はいて、すって、はいて」

「すー、はー、すー、はー…」

「落ち着いた?」

「はい、おかげさまで…って、落ち着いている場合ではありません!孫皓さまが」

「今度は何をしたんだい(遠い目)」

「“俺は漁師になる”とおっしゃられ、河を下っていかれました」

「ぶほっ!?今すぐ連れ戻せぇえええ!つーか、何でそんなことに!?」

「街に新しく開いた『お寿司屋』で食べた寿司がまずかったそうです」

「漁業の改革か!?流通の確保もするつもりなのか!加工品も考えてくるつもりかぁあああ!」

「どうなさいますか?」

「どうするもこうするも、まずは孫皓を連れ戻して来い。話はそれからだ!昨日、学校建設に割かれた人員以外の文官を集めろ、足りなければ武官もだ。会議の場を設けて、そこに孫皓を放り込めぇええええ!」

「御意!」

も…もうだめぽ。
なんでこの年齢になってなお、こんなにも働かなければならないんだろう。俺も皆の元に逝きたい…。だが、あの孫皓を残したままじゃ、死ぬに死ねない。史実とは別の意味で孫呉が滅んでしまう。
ぐぅ…、結局俺がストッパーになるしかないのか。


翌日、目を覚ますと、すでに女性がスタンバっていた。嘘だろう、こんな朝早くから何をしたんだよ、孫皓の奴。

「ご報告致します。孫皓さまが」

「今度は何だ?学業か、税か、農業か、林業か、それとも」

「賊の討伐です」

「そう、賊の……討伐?」

「はっ。蜀との境界線に現れた山賊を討伐しに、昨夜の内に兵を100連れて出立なされました」

「そ…うか。報告ご苦労、下がれ」

「御意」

朝議に出るため玉座の間に向かうと、武官も文官も勢ぞろいしていた。玉座には娘である孫亮が座り報告を聞いていた。俺の存在に気付いた孫亮は立ち上がり声を掛けてきた。

「お父さま…」

「情勢はどうだ?敵の数は?」

陸坑が書類を手に取り報告する。

「敵の数は150、北の方から流れてきた物盗り集団であることも判明していますが、蜀の領内で村を襲い皆殺しにする蛮行を働いたようです。正規軍とは戦わずに山の地形を活かし逃げ回っていたようですが、孫皓さまが今回連れて行った100の兵は全て、周泰さまが育て上げた暗部の者たちです。殲滅は時間の問題かと思われます」

「はは、末恐ろしいですな、孫皓さまは」

「まったくです」

皆の言い分は理解できる。動きが早い上に先を見通す力はもはや神懸かり的だ。
武術・知識・政治・統制、全てにおいて秀でる彼を将の誰もが慕いそして信頼する。
『国とは民であり、民がいるからこそ国は成り立つ』という信念の下、彼は生きている。だから命を賭けて民を護っている。その姿を兵1人1人が見て家族に伝え、その家族が他の民に伝えることで彼を慕う民が増えた。今も増え続けている。
孫亮が次期孫呉の王として彼を推薦するのも頷けるのだ。

「…それに、蜀との共同討伐になるのであれば、彼女が来るよな」

「ええ。恐らく私に宛てた礼状と、お父さまに宛てた手紙を携えて、孫皓に会いに劉玄ちゃんが来ると思いますわ」

「ああ。彼女がくれば、しばらく孫皓も暴走しなくなるだろう」

「一刀さま、お茶になります」

「すまないな。いやぁ、久しぶりに羽が休めるなぁ」

「ふふふ、そうですね。……って、あら?」

ずずーっと、茶を啜る俺。

「報告致します!孫皓さまが行方不明になられました!」

「ブフーッ!!??がはっ、ごほっ…はぁあああ!?」

玉座の間に居た全ての人間全てが驚愕の表情を浮かべている。顔を青くした孫亮が駆け込んできた兵に尋ねる。

「ま、まさか…孫皓が討たれたのですか!?」

馬鹿な!孫皓が負ける程の手だれが相手ということは、この大陸に存在する将に勝ち目はない。

「違います。山賊は討伐完了しました。被害も零です。しかし、帰還する途中で管輅という占い師に遭遇し、孫皓さま自ら話をなさっておられたのですが、突然目を開けておられぬほど閃光がその場にいた全ての者を包み込んだのであります。光が収まって辺りを見回したのですが、孫皓さまも管輅という奴も忽然と消えてしまっていたのです!」

管輅?俺がこの世界に来ることを占ったっていう……。そいつがなんで孫皓を?

一体何が起ころうとしているんだよ…。


Side:???

とある荒野にて。

「……占いも捨てたものじゃないわね」

うつ伏せに倒れていた青年に近づき、女性はその青年の横顔を撫でた。



あとがき
コン太っす。
ふふふ、板を変えて孫皓君、復活っす。
ええーい、王道チート主人公系SSいやっふーっす。
【ネタ】バージョンもチラシ裏にあるけど、暗いよ…
感想お待ちしてます。



[24492] 一話.「私の血+天の御遣いの血=……」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2010/11/30 19:09
一話.「私の血+天の御遣いの血=……」※書き直しました?

Side:孫堅

「ふぅ…仕事から抜け出して飲むお酒はおいしいわ」

城壁の上で遥か先に見える地平線を眺めながら、私は杯をクイッと傾けお酒を飲み干した。
これで何かおもしろいことがあれば十分なんだけどなぁ、例えば…雪蓮にそっくりな男の子が現れるとか。あるわけないよね…。

「もしもし、そこで仕事をサボって酒盛りをしている太守さん。私の話を聞かんかね」

人聞きが悪いわね。そんなんじゃないわよ、ちょっと休憩しているだけよ。

「誰よ、貴女」

「私はしがない占い師じゃ。……私のことはともかく、東に10里程の場所に向かいなさい。そうすれば、貴女が今一番欲しているものを得ることが出来るであろう。では…」

「ちょっと、待ちなさいよ。貴女は誰なの?」

「……あーあんな所に大きな壺に入ったお酒が転がっている」

「何ですって!…って、ひっかかるか!……嘘、いないし」

胡散臭い占い師ねぇ。……今一番欲しているものか。暇だし行ってみよ。


何もない荒野のど真ん中にその子はいた。
長い薄紫色の髪、褐色の肌に紅い装具を細身でありながらしっかりと筋肉がついているその身に纏い、艶を出しながらも品のある装い。……顔を撫でてみたけど、肌はみずみずしくて張りがあってお餅みたいに柔らかったし…じゅるり、おいしそう。あれも大きそうだし…、お持ち帰り決定ね♪
胡散臭い占い師さん、ありがと。本当に一番欲しいと願った雪蓮にそっくりな男の子、確かにこの孫文台がいただきました。いやいや、今からいただくんだけどね。じゅるり…。

さて、この子を独り占めするには結依や祭に見つからないことが第一条件ね。むしろ雪蓮たちに見つかっても駄目じゃない。これだけ似ていたら、私の『隠し子説』や『雪蓮の双子説』が浮上しちゃうし、困ったなぁ。
一番簡単なのは、この子が起きて自らの足で私の部屋まで付いて来てくれることよね。でも、狼に食べられると分かっていて付いて来る子羊っているのかしら。いたらいいなぁ…。

「…う…、うぅ…」

「あら?」

目が覚めたみたい、これは好都合。
まずは、自己紹介よね。その後は、「頼っていいのよ」と安心させる雰囲気を作って私の部屋まで連れて行き、あとは、ぐふふふ…。

「此処は、…管輅!どういうことだ…って、どちら様ですか?」

「さっきの占い師、管輅っていうんだ。……ああ、ごめんね。私はあそこに見える街で太守をしている者よ」

「はぁ…、お綺麗ですね」

「あら♪ありがと」

私を確認していきなり「お綺麗ですね」って。真正面から見ると顔立ちは雪蓮そっくりだけど、やっぱり男の顔をしているじゃない。ああん、やっぱり息子も欲しかった。3人も生まれたんだから1人くらい男の子でもよかったじゃない。
目の前にいる男の子は、周囲を見回して自分の装備を確かめている。…って、あれ?

「その腰に携えているのって、何?」

「ん?これですか」

そう言って男の子は携えていた剣を抜き私に見せてくれた。幾千、幾万の戦いを乗り越えてきたような風貌に息を呑む。

「これは、俺の家に代々伝わる宝剣『南海覇王』です。武術の心得を持たなかった孫呉3代目の王である孫亮叔母さまから預けられている物で、俺個人の所有物ではないのですが」

孫呉…ね。私、まだこの街しか治めていないけど、いずれは大陸を得るにまで至ったのかしら。

「……貴方は、誰?」

「俺ですか?姓は孫、名は皓、字は元宋。『天の御遣い』の孫であり、孫呉の地を守護する孫家の突撃隊長ですね」

「孫皓……って、突撃隊長?」

「ええ。賊の討伐とかだったら、前線に出て兵を放っておいて1人で片っ端から敵を屠るんですよ」

「臣下は?」

「動きが遅いんで置いていきます」

えぇええええええ!?『南海覇王』を持っているだけでも驚きなのに、何やっちゃってんのよ、この子ぉおおおお!?
私の血?それとも『天の御遣い』とやらの血のせい?……確実に私の血だ。

「いやぁ、今回も胡散臭い占い師が「お主は女難の相が出ておる…歳の離れた親族には気をつけるがいい」って変なことを抜かすから、「一回、死んでみるか?」と言って南海覇王の柄を握った所だったんですけど…」

歳の離れた親族に気をつけろって、そのまま私のことを指しているじゃない。中々やるわね、管輅。

「童貞は母さんに貰われたし。孫休姉さんや孫亮叔母さまとも寝たことあるし、今更気をつけろって言われても、…ってどうかなさいました?」

「うん。少し、驚いただけよ…気にしないで」

私は私自身に流れている血が心底、嫌になった。ううぅ、今度から自重しようかしら。……って、すでにこうなっている未来は変えられないじゃないの、やめやめ。私は私のまま生きるわ。

「ところで太守さま、ここは何処なのでしょうか。貴女さまの肌の色を見る限り大陸の南の方であるということは間違いが無さそうなのですが、如何せんこんなにも荒野が広がっている場所は記憶にないので」

「えっと、ここは……って、待って?今、なんて言ったの?こんなにも荒野が広がっている場所に記憶はない!?」

「ええ。南の方は空いている土地、全てを耕して農業が出来るようにして米や麦、野菜などが何処を見ても生っていましたから。さすが俺、孫呉全兵力を使っての屯田祭りは楽しかった」

もしかして私、ヤバイのを引き当てた?

「これだけ手付かずの土地があるんだ、楽しいだろうなぁ。変えていくの。野菜類の改良とか、土壌改善とか、家畜・飼料の改良も今回は手をつけてみたいし、それに街道も整備したほうが良さそうだな。でも、俺は帰らないといけない場所があるし……、でも此処を改造してしまってからでもいいよね、お爺さま。という訳で、雇ってください」

何が「という訳で」よ。能力的には魅力的なんだろうけど、この子を連れて帰ったらヤバイ気がする。ここは心を鬼にして、引き下がってもらうしかないわね。これで他の所に行かれてそこが発展してしまったら、私の所為だけど、その責任は全て負うわ。だから…

「孫皓、ごめんなさい。今、私たちは自分達のことで手が一杯で、貴方を養う余裕は」

「お爺さまは言っていた」

ないと言い切ろうとしたときに言葉を被せるようにして孫皓がしゃべり始めた。

「勇敢な男は自分自身のことは最後に考えるものである、と」

「は?」

「ということで、まずは太守さまたちを幸せにすることから考えよう。資金が豊富になって生活が豊かになってから俺の考えていることを手伝ってもらうようにして貰えればいいし」

「ちょっ」

「まずは、あの街に太守さまを連れて帰らないといけないな。太守さまが乗ってきた馬はどっかに行ってしまったし」

「え……。ああ!いつの間に」

「ここは、お爺さまが常日頃言っていた、女性がされて一番喜ぶ抱き方で連れて帰らねば!」

一番喜ぶ抱き方?って、きゃああ。

「お爺さま曰く、『お姫様抱っこは女性の夢』らしい?」

「疑問系で抱きかかえていい物じゃないわよ!!」

「しかし、太守さま良い匂いですね。ちょっと欲情してしまって押し倒してしまいそうな……あそこに丁度よさそうな森があるのでそちらに行きませんか?」

「人の話を聞いてよ!お願いだから!」

「いやよいやよも、好きのうち。By叔母さまたち」

「え、えっ、えぇえええええええ!」

「ささ、行きましょう。太守さま、これで俺のことを気にいったら雇ってくださいね。俺、お爺さまの血を引き継いでますから、絶倫ですよ」

私の血+天の御遣いの血=雪蓮以上の自由奔放さと絶倫!?ちょっと、何の冗談!?

「誰か、助けてぇえええええええ!」

嗚呼、結依。今日は帰れ無さそうよ。祭、負担を掛けるけど、私の分の仕事も片付けておいてね……アッーーーーー。



あとがき
何処が増えたか解るかな……すんません、これが限界でしたm(__)m
二話でなんとか挽回しますのでご容赦を…っす。



[24492] 二話.「俺の特技は女装です」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2010/11/23 15:39
二話.「俺の特技は女装です」

Side:孫堅

森へ連れて行かれ情事を行っている途中、どうにか彼の意識を私の体から外せないかと考えて振った話題は功を奏し、中にするのだけは防ぐことに成功した。代わりに聞かなければ良かったという情報と士官させるという約束をしてしまったのはしょうがないと諦めることにした。そのときの話題とはこれである。

「貴方のお母さまってどんな方だったの?」

「えっと、俺が物心つく前に病で死んでしまったんですけど、お爺さま曰く毅然として凛々しかったけど、ショタだったそうです」

「しょた…って、何?」

「さぁ、お爺さまが母さんに注意しているのを聞いただけですから、詳細は俺も知りません」

「……そう」

それがなんなのか、彼が知らなくて良かったと思えるのは何でかしら。って、待って!

「物心つく前に亡くなっているの?」

「ええ、そうですけど」

さっき、彼は言わなかった?「童貞は母さんにもらわれた」…………。
ルールルー、聞いていないわ。私は何も知りません。ルルルー…あ、キツネが寄ってきた。


月明かりだけが街を照らす中、私と孫皓は建物の影に隠れながら移動していた。

城に帰る上で問題が2つあるのだ。ひとつは私の後ろをついてくる孫皓のこと。彼を城で働いている武官や文官の誰かに見られるわけには行かない。もうひとつは今日の政務をさぼった私自身である。祭ならまだ誤魔化せる気がする。最悪、高い酒を奢れば何とかなるはずだ。これの相手が結依の場合、幾ら私でも逃げ切れる自信は無い。孫皓のことも隠せない。なんせ、雪蓮を産んだ時、彼女も一緒にいたからである。
彼の戸籍をどうにかして確保するには、今は疎遠になっている妹の孫静の力がどうしても必要不可欠なのだ。

「手紙を書くにしても、一度城に戻らないといけないし、何より…」

「腹減った…」

後ろで暢気に腹を摩っている彼を私の部屋に隠さないと何を仕出かすか解ったものじゃない。この街に入ってすぐに彼は眼を輝かせてこう言ったのだ。

「宝の山だ」って。

何が!と訊こうとした私に罪は無いはず。今だって、「道幅が狭い」とか「建物の位置が」とか、色々と呟いているのだ。放っておいたら本気でヤバイことになるのは目に見えている。有能すぎるのもどうかと思わない?

「男を連れて夜道を散歩とは、いいご身分ですなぁ、堅殿ぉ」

「うひぃ!?」

角を曲がろうとした時、不意に声を掛けられた。この声は、

「あはは、こんばんは。祭」

「ほんの少しお酒を飲んでくると言って、結局戻ってこんとは……今日という今日は堅殿でも許さんぞ」

祭はそう言って担いでいた弓に手を掛けようとするが、その手は空を切る。

「はて?」

「あら?」

「へー。こうなっているのか、えっと弦の強度は…と。ほほーう」

月の光が差し込む一角で、孫皓は祭の多元双弓を分解し

「って、ワシの弓になにするんじゃー!」

すぐさま己の武器を取り返す祭だったが、綺麗に分解されていて、すぐに使い物にはならないことは分かった。

「坊主、よくも……って、策殿?え、ええ。いや、でも、胸もないし…」

祭は孫皓の身体を頭の頂点から足先まで見て胸の辺りを凝視し、私の顔を見てこう言った。

「……堅殿、ワシは酔っておるのじゃろうか。策殿が男になっておるぞ」

「んー。そんな訳ないでしょ。それとも祭は雪蓮に抱いて欲しいとでも?」

「いや、さすがにそういう訳では……なんじゃ?」

孫皓が私の横に来て手を喉に当てる。そして恐るべきことに

「あー、ああー。よし。……もう、困っちゃうわね。そんなに抱いて欲しいなら今からでもいいわよ」

と、雪蓮の声で祭に言い放ったのである。祭の顔色が白から赤へ、赤から青へと変わり「きゅう…」と言って倒れた。
私は目の前で起こったことが理解できなかった。いくら似ているからって、声まで真似できるはずがないと。

「最初は女装だけだったんだけど、お爺ちゃんの反応があまりにもいいんで演技とか化粧とかにも力を入れるようにしていたら、いつの間にかね。へへへ」

「お願いだから、その声で話すのは止めて…。違和感ありまくりよ」

「普段だったら、胸に詰め物して口紅を注すんだけど、これもあり?」

「無しよ!」

雪蓮の声でくすりと笑う孫皓と気を失った祭を見て、私は大きく溜め息をついた。


Side:孫皓

目の前にいる太守さまは気絶した銀髪の女性をどうするか悩んでいるようだ。
俺は彼女から少し離れて漆黒の闇の中に浮かぶ満月の月を見上げ、此処は一体何処なのかと自問自答する。
大陸の南側だっていうのはもう分かりきったことだが、なぜこの太守さまの雰囲気は叔母さまたちに良く似ているんだろうか。思わず身内にしか見せたことがないこの姿を晒すことになるし。

管輅の話によれば俺の祖先たちが築いたこの国を壊そうとしている奴らがいるっていうから力を貸すって言ったのに、明確な敵の像も告げずにいなくなるとかいくらなんでもおかしいだろ。それになんで俺はあんな所に1人でいたんだ。兵を100人程連れていたはずなのに。
悩めば悩むほど、次から次に謎が頭の中に出てくる。

「いくわよ、孫皓」

「彼女はどうするんですか」

「背負って連れて帰るわ」

「私…ああー…、俺が抱えていきましょうか?」

「……祭は私の大切な仲間なんだから、押し倒すとか無しよ」

「はーい。…よいしょっと」

俺は銀髪の女性をお姫様抱っこする。するとそれを眺めていた太守さまがぼそりと呟く。

「これを…私もされていたのね」

誰に似ているんだろう。孫亮叔母さまはお淑やかな所があるし、孫休姉さんとは違うなぁ……ああ、母さんだ。お爺さまから聞いた、母さんの像にそっくりなんだ。ああ、納得。


城の前まで行くと女性が1人立っていた。

「うぅ、すんなり部屋まで行けるかなって思ったけど、そんなに甘くないか」

そう言って、太守さまは頭を垂れる。どうやら彼女にとって、あそこに立っている女性は天敵のようだ。俺にとっての劉玄みたいな。あの娘、本気で天然だから、俺がしっかり見ていないと何をするか分かったもんじゃないんだよな。おかげで俺が政に参加して意見をいう時間すらない。お爺さまたちは、彼女が来ることを喜んでいたけどなんでだろう。

「美連!貴女、何度言えば分かるのよ……って、雪蓮ちゃん?」

「ああー…こほん。叔母さま、見ての通りだから彼女を部屋に連れて行ってあげたいの、私は通ってもいい?」

「ええ、いいわよ。用があるのは美蓮だけだから」

「嘘ぉおお!?」

「じゃあ、おやすみなさい。叔母さま、母さん」

「ええ。おやすみ雪蓮ちゃん」

至極簡単に通れた。太守さまがぴーぴー喚いているけど、まぁ問題はないだろう。さて、このお姉さんの部屋はどこかなぁ……。侍女さんでも探して聞けば大丈夫か。

「おねえしゃま…どこにいくの?」

「ん?」

振り向くと薄い桃色の髪を白いリボンでまとめた幼女が、俺の服を掴んでいた。名前がわからないのが悔やまれる…。

「どうしたの?」

「んー。おしっこ」

「…………行ってきたの?」

「……」

「いや、黙らないでよ」

「漏れる」

俺は銀髪の女性を放り捨てた。鈍い音がしたが仕方がない、俺は幼女の脇の下に手をいれ持ち上げ厠を探して廊下を駆けた。その甲斐あって間に合ったが、今度は幼女の部屋を探すことになり途方にくれることになったのであった。



あとがき
結依さんは冥琳の母になりますっす。
彼女が見分けがつかなかった理由は胸が黄蓋を抱きかかえていたことで見えなかったことと、顔自体が影によって見えにくくなっていたからです。
似た背格好と声だけなら、通れるかなと思うっす。



[24492] 三話.「過去には興味ありません」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2010/11/24 19:18
三話.「過去には興味ありません」

Side:孫堅

「結依のバカ…。なんで私だけ…ぐすっ」

結局、結依に見つかった私は、彼女からたっぷりと説教されることとなった。帰れなくした原因はさっさと城の中に入っていってしまうし、私は今の今まで酒を飲み歩いていたことにされてしまったし、最悪だ。
それにしても、彼の女装技術は凄いとしか言えない。なんせ思慮深く観察力が高いあの結依をいとも容易く突破したのだから。本気で女装した孫皓と雪蓮、2人が並んだ時、皆どう思うのだろうか…。

妄想―――

「こんにちは、私は孫皓。よろしくね」孫皓

「策殿が2人じゃとぉおお」祭

「まさか双子だったのか!」冥琳ちゃん

「姉さまが2人!?」蓮華

「わぁーい、おねぇしゃまがふえたー」シャオ

…………普通に受け入れられそうで怖いわ。


城の中に入ると、侍女が私の姿を確認したのか駆け寄ってきた。話を聞くと祭が廊下に倒れていたらしく、医務室に運ばれて医者に診せたそうだ。命に別状は無かったものの、お酒の臭いがしたことから飲み潰れて部屋まで辿り着けなかったのだろうと解釈されたらしい。

「祭、貴女も飲んでいたのね。…孫皓!」

「何、母さん」

「って、うひぃ!?」

いつの間にか私の背後に立っていたらしい孫皓に急に声を掛けられた私は、その場から飛び退いてしまった。は、恥ずかしい。
改めて彼を見ると眉を八の字にして困ったような表情を浮かべていた。そして、彼の肩の部分にちょこんと見える小さな手。なんとなく、彼がなぜこんな所にいるのか理由が分かるけど、

「孫皓、貴方こんな所で何をしているの?」

と訊いてみた。

「んー。困ったことに、この娘を背負って移動していたらいつの間にか眠っちゃって、どうすればいいのかわからなくなっちゃった。それで仕方なく城の中を歩き回っていたんだけど…」

「……何か言われなかった?」

「侍女たちから「あらあら」とか「姉妹仲がいいですね」って言われたけど?」

背負われた状態で眠っているシャオを見ながら、愛おしげに微笑む孫皓は、正しく雪蓮の顔にそっくりだった。
母親である私が認めるのだから、他人には本人に見えること間違いがない、胸以外。
このままだと本当に『雪蓮の双子説』が蔓延してしまうので、早々に手を打たなければならない。

「孫皓、とりあえず私の部屋に行きましょう。そこでこれからのことを話すの」

「ええ。母さん」

「雪蓮はね、私のことを母さまって呼ぶのよ」

「ええ。母さま」

私、今なんで訂正させたのかしら?違和感があったから?
ああ、いつか絶対私も騙される日がきっと来る…。


孫堅の自室にて――

シャオをそっと寝台の上に降ろし寝かせた孫皓は、シャオのおでこを優しく撫でた後そっと額に口付けを落とした。
って、いうか、なんでこの男は雪蓮の癖まで知っているのよ。シャオも本当に雪蓮にされたと勘違いして「うにゅう」って鳴いているし。

「本当に可愛いわね、この娘。ゴホンッ、ああー。太守さまの娘さんですか?」

声を元の男の状態に戻した孫皓は少し疲れたのか、体勢を少し崩して尋ねてきた。

「ええ。この子は小蓮。名前は孫尚香っていう私の三女ね」

「え゛!?」

突然、表情を彫刻のように固めた孫皓は心底驚いたような声を上げた。

「どうかしたの?」

もしかして、私が誰であるのか気付いたのかしら。ふふふ、もう慌てちゃって可愛いんだから。

「こ、この娘が、あの……」

「ん?」

「子育てに追われ疲れ切っていたお爺さまを、さらに追い詰め何度も昇天させようとした、尚香さまですか。……こんな無邪気に笑って眠るような頃もあったんですね」

シャオ…。未来で何があったのよ。

「俺が生まれた後もお爺さまに迫ることは多かったらしいですし……実際にお爺さまが襲われているところをみたことがありますけど…」

待って!黙って!私の可愛いシャオをこれ以上、汚さないでぇええええ!


1刻後…

「すー…すー…」

静かになった私の部屋にシャオの寝息だけが聞こえる。

「すみません、取り乱しました」

「もういいわよ。でも気をつけて、貴方の知りうる情報は皆にいらない衝撃を与えてしまうから」

「御意」

さっきまでとは打って変わって憂いある大人な男の表情を魅せる孫皓に、私の胸は否応なく高まってしまう。何なのこの感覚、さっきまでのふざけた感じがまったくなくなったと思ったら、いきなり格好良くなっちゃって…ヤバイ。子宮が疼いちゃう。

「(つまりギャップ萌ですね)」ぼそり

「何か言った?孫皓」

「いえ、別に…」

今、彼は椅子に腰掛けた私の前に片膝をついた状態でいる。つまり私が誰かということに気付いたっていう証拠。ちょっと残念な気もするけど、仕方がないよね。

「貴方も気付いているとは思うけど、私の名前は孫堅、字は文台よ。そして、此処は長沙。分かった、孫皓?」

「…………(゜×゜;)?」

あ、あれ?反応がまったく無い。ここは、『なんだってぇええ!?』とか『そんな貴女が孫堅さまだったなんて、今までのご無礼お許しください』って、なる所じゃないの?

「……誰?」

ここに来て、まさかの『……誰?』発言!?
え、ちょっと待ってよ。シャオを知っているということは、私の孫か曾孫に当たるんじゃないの?どうして私のことを知らないの?もしかして、名を残せていないの、わたしぃいいいいい!?

「えーと、孫和、孫権さま、孫策さま。…うん、知らない」

「今のは?」

「母方の親ですね。孫和が俺の母、孫権さまは俺の祖母、孫策さまが俺の曾祖母ですね」

「そこは私!孫堅が入るの!孫策、孫権、孫尚香は私の娘なのよぉおおおおお!(泣)」

「へー」

「反応が薄いっ!?」

「俺、過去には興味ありませんから」

「う…うわあぁあああああん!!」

いくらなんでもあんまりよぉおお!ぐれてやるー。今日は政務、絶対にしない!朝から晩まで飲みまくってやるわぁああああ!

「じー」

「…見ているっていうのは分かったけど、口で言うと格好悪いわよ」

「いやぁ、泣き崩れる孫堅さまも可愛いなぁ、と思って。…ちょっと一部が元気に」

私は自分自身の血の気が「サー」っと下がる音を聞いた気がする。
嫌な汗が止まらない。今、私の部屋にいるのは私と獲物を見つけた肉食獣と同じ目をした孫皓だけじゃない。シャオも私の寝台の上で眠っているのだ!

「孫堅さまが声を上げなければ大丈夫です」

「お、鬼ぃいいいいいいい!!」

ええ、昨日に引き続き今日もやられました。(すでに日が変わっている)

もう…つかれた。寝る……。



あとがき
孫皓君がいま何処にいるのかを知る回でしたっす。



[24492] 四話.「彼は『彼女』で私の『姉』」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2010/11/25 16:54
四話.「彼は『彼女』で私の『姉』」※この解釈は無理があったかも

Side:孫策

いつまで経っても起きて来ない母さまを起こしに、私は部屋の前まで来た。途中で妹達の部屋を覗いたが、末っ子のシャオの姿がなかった。恐らく母さまの元に行ったのだろうと思いながら、廊下を歩いてきたのだが、その途中で「姉妹仲がいいですね」とか「お姉さんの鑑ですね」と声を掛けられたけど何のことかしら。
母さまの部屋の扉に耳をつけて中の様子を窺う。母さまが誰かと会話している声が聞こえてくるので起きているのは間違いがなさそうだ。私は扉を開けて、母さまに朝議が始まらないことを伝えようとしたのだが…。

私の目に映ったのは、母さまが薄紫色の髪を持った誰かを足で踏みつけ、罵っている姿だった。
母さまとその誰かの視線が私を捉える。
私は自然と後退り、こう叫んで逃げ出した。

「母さまの変態――!」

「ちょっ、待っ、雪蓮、誤解よぉおお、戻ってきてぇええええ!?」


玉座の間にて―――

朝議の場に遅れてきた母さまの隣には外套を頭から被った誰かを連れて来た。恐らく今朝、母さまに踏まれて罵られていた誰かに違いない。

「えーと、朝議を始める前に、皆に紹介するわね。私の隣にいるのは、名前を孫皓といって私の妹である孫静の一人息子。見聞を広めるために私のところに来たそうなの。一人の兵として扱って欲しいということだから、祭。貴女の部隊で面倒を見てあげて」

「ほう…。孫静殿の息子とな。実力はいかほどなのじゃ?」

「それも貴女自身の目で見極めてあげて。私では身内贔屓してしまいそうだから」

「仰せつかった。大船に乗った気でいるとよい」

「うん、お願いね。……結依」

「分かっている。編成の方は私が何とかしておこう」

「ありがと」

母さまが何を言おうとしているのかを察知して長年連れ添った夫婦のように以心伝心する彼女達の姿を見て羨ましいと思った。私もいつか冥琳とこうなるんだと意気込んだのだが、その時、蓮華が疑問を口にしたのだった。

「どうして外套を脱がないの?」

言われて見ればその通りだ。さっきから彼?は身動きしない。

「…ああ、そうだったわね。でも、その前に一言だけいい?」

「どうしたの、美蓮。歯切れが悪いじゃない?:

そう言って結依小母さまが母さまを心配する。

「うん、雪蓮。貴女は一人で生まれて、姉妹は蓮華とシャオだけよ」

「当たり前でしょ、何を言っているの?」

「孫皓、脱いでいいわよ」

そして、外套を脱いでそこに現れたのは、長い薄紫色の髪、切れ長の透き通った蒼い瞳。褐色の肌に細く引き締まった体躯、艶を出しながらも品のある装い。ぶっちゃけたところ男装した私がいた。

「「「「「え゛え゛――!?」」」」」

従兄弟!?これだけ似ていて従兄弟だというつもりなの!?
耳を澄ませば彼を見た武官・文官の皆が「似すぎだろう」や「隠し子では?」とか「孫策さまの双子の兄弟では?」と騒いでいる。祭を見ても目を点にして驚いているし、結依小母様も眩暈がしたのか額を手で覆っている。蓮華は私と彼?の顔を交互に見て「あわわわ…」と慌てているし、シャオに至っては「おねぇしゃまがふえたー」って喜んでいる。って、どれだけ似ているのよー!

「孫皓、挨拶をして」

皆、息を呑んだ。静まる玉座の間、彼?が口を開く。

「こんにちは、私は孫皓。よろしくね……って、緊張して声が!?」

「孫皓のバカーー!?」

玉座の間に居た人間の内、現在しゃべっているのは母さまと孫皓だけ。なぜって…

「姉さまと同じ声……きゅう」

どさりと倒れる蓮華。気持ちは良く分かる。
私とそっくりの声で自己紹介をしてしまった孫皓は母さまに罵られている。きっと今朝も“男の声”で自己紹介できるように練習していたのだろう。そしてうまくしゃべることが出来ずに母さまからお仕置きされていたのだと思う。
古来より『双子は家を分かつ』ということで、不吉なものとされてきた。恐らく「彼」いや「彼女」は私を母さまの手元に残すために孫静叔母さまの下へ行かされた、私の双子の姉か妹になるのだろう。私はそう思うと涙が零れるのを抑え切れなかった。私が母さまや蓮華、シャオと楽しく過ごしている間、彼女はきっと寂しくて辛い思いをして生きて来たに違いない。
私は無条件で母さまの後を継ぐが、彼女は偉くなったとしても結局は私の臣下にしかなれない。同じ父と母の下に生まれてきたのに、この仕打ちはないだろうと私は思った。でも、今の私に彼女を救えるだけの力は持っていない。悔しい、悔しいよ。

「雪蓮…」

私を心配してか冥琳が声を掛けてくれた。私の内情を察するかのように、震えていた私の身体を抱きしめる。

「彼を…いや、彼女を必ず私たちの手で救ってみせよう。諸侯らに大丈夫だというのを見せ付けるのだ。お前達4人が笑って幸せに暮らすことができる国を造るんだ。私たちの手で」

「冥琳…。うん、そうよ。待っていて、お姉ちゃん」

彼女は私の顔を見ると愛おしく微笑んでいるかのように見えた。


Side:孫堅

「微妙に勘違いされている気がしますね。孫堅さま…」

「いや、あの娘、本気で勘違いしているわよ」

今朝、彼と話し合いをしている所を、雪蓮に見られた時から嫌な予感はしていたのよ。絶対に何か大事なことをヘマをする予感。案の定、孫皓が自己紹介を雪蓮の声色でするという大失態をおかした。
雪蓮たちの反応も気になるが、私たちを見守っている諸侯らの反応もおかしい。すごい騒ぎになるかと思っていたのに…。初老の文官に至っては「ぐぉお…双子は家を分かつというが……このような仕打ちを…与えるとは……神は血も涙もないのか…ぐぅぅ」と男泣きしているではないか。
うん…いい具合でヤバイわね。彼らの中ではすでに、雪蓮と孫皓は双子として認識されているようだ。

「孫堅さま、この誤解だけは解いておかないと後で泣きを見ます」

「待って、今これに火種を放り込んだら!」

「皆、聴いて!私と彼女は本当になんでもないの(キラリ)」

と、いらない演出(涙を一筋流す)をやってしまった孫皓。再び静かになった玉座の間だったのだが、次は耳を押さえなければやっていられない程の泣き声の合唱に頭を悩まされることになった。
「健気だ…健気すぐるー」とか「お、おねえちゃん、ぐすっ…待っていてすぐに皆で笑って暮らせる国を作ってみせるからー」とか「ぐぉお、酷すぎるのじゃー」とか、もう収拾がつかない。

「なんでこうなった……」

「貴方の所為でしょうが!」

と、私が彼を蹴ろうとすると、皆の視線が集まる。……うん、もの凄く痛いです。

私が…私が悪いの!?ねぇ、誰か教えてぇえええええ!!


あとがき
あんまりオチが強くないけど四話はこれで終りっす。
難しいな年頃の娘の内情は……精進っすね。
じゃ……下に陽炎くんが出てきてます。




アンケート調査

Side:太史慈

俺の名前は太史慈、字は子義。作者の都合で明るい王道チート系の孫皓のお守り役に前作から引っ張ってこられた、転生者だ。
前回に引き続き胃が痛めつけられそうな予感がするぜ。はぁ…。
ちなみに今、俺がしゃべっている部分はナレーション的な意味合いを持つから、物語には一切関係ない。念のため。
何をしに来たのかって、読者にアンケートを取る為だ。こういったのには俺が使いやすいって作者が言うんだぜ。いくら何でもヒドクね。作者め、爆発しやがれ。

訊きたいのは、

①オリキャラスカウトの為の旅期間延長について

②ステータス表示の有無

③ストッパー劉玄の有無

の3つだ。感想の所に意見をくれれば少ないLPを削って作者が奮闘するらしい。俺的には、③の劉玄ちゃんは欲しいな、俺の胃のために。②だと、俺は統制6武力8知識5政務6胃10。…胃に負担が掛かるキャラっていうのが一目瞭然になる訳だな。

ではここら辺で打ち切るとしよう。

次回の見所は俺と孫皓の闘いのシーンだ。血沸き肉踊る闘いに乞うご期待!





[24492] 五話.「俺も大概チートだと思っていたけどさ…」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2010/11/26 21:41
五話.「俺も大概チートだと思っていたけどさ…」

Side:太史慈

俺は黄蓋さまの下で兵として調練を行う新兵の一人、名前を太史慈っていう。史実を知っている方がいればこう思うはずだ。「なんでこの時期にここにいるのか」と。
俺は転生者だ。だから史実を知っている。だから手っ取り早く孫家のお膝元に来た。

早い段階から孫呉に仕えていれば、この英雄が女性にTSした世界で美人の嫁さんを貰って、結構いい給金をもらってにゃんにゃん出来るかなぁと考えてきたわけだ。
孫堅さま…いい。孫策さま…すごくいい。黄蓋さま…一生ついていきます。という風に、思っているわけだけど、さすがに王族には手を出すわけがない。
あれは、主人公キャラが落とすヒロインだ。俺じゃあない、断言できる。
確かに身体能力は高い、頭だって現代知識があるからある程度は出来る。だが、それだけだ。
それを使って何かをしろと言われても俺には何も出来ない。出来るのは新しい親父とお袋から貰ったこの人より頑丈なこの身体で戦うことだ。今までは山の動物を相手にしか戦ってこなかった為、勝手が違うことに頭がついてこなかったりしたが、最近慣れてきたこともあり黄蓋さまに見込みがあると褒められた。

内心踊りたい所だったが自重して今日も自分に磨きを掛ける。そんなある日、彼女?が新兵として黄蓋隊に組み込まれたのだ。同期の連中は彼女?に「いやっふー」と黄色い声を上げる。
黄蓋さまの隣にいたのは、長い薄紫色の髪、切れ長の透き通った蒼い瞳。褐色の肌に細く引き締まった体躯、艶を出しながらも品のある装い。ぶっちゃけたところ、男装した女性がいた。いたんだけど…俺の本能が言っている。あれは違う、騙されるなって……。

「こやつの名前は孫皓。堅殿の妹である孫静さまの一人息子じゃ。だからといって贔屓はせん。お主らと同じ新兵として組み込むことになった。……太史慈、孫皓の相手をしてもらってもいいかの?」

「はっ!」

俺は自分の槍を持って彼女?の前に立った。

「よろしくね」

そう言う彼女?に俺は周囲に聞かれないくらいの小さな声で一言、

「お前、男だろ?」

「…………あ゛-。よく分かったね」

マジで男なのかよ。まさか、他にもいるのか、こいつみたいなの…。


Side:黄蓋

「…………」

「…………」

互いに武器を構えて向かい合う孫皓さまと太史慈。
孫皓さまに関しては堅殿からワシ自身の目で実力を測るように言われている。
ただ、孫皓さまの相手をしてもらうのは新兵の中で頭一つ抜き出た存在である太史慈だ。彼は七尺七寸という恵まれた体に、切磋琢磨して自分の力を磨くという清き心を持っていた。好感が持てるし、これから策殿や権殿を支えていく武官の筆頭になりえるとワシは考えている。
しかし、彼は今伸び悩んでいる所が見られる。今回、孫皓さまと戦うことで、もし負けても何か得られるものがあると確信していた。
ワシが予想していたよりも彼らの能力は低くなかった。
向き合った瞬間から彼らから放たれる氣に新兵たちは次々と気を失っていく。ワシが鍛えた兵たちも彼らから放たれる氣に圧され後退りしている者が見られる。ワシ自身動きをとることが出来なくなっていた。
両者は何か動くきっかけを欲していた。息を呑むのも憚られる。その時、誰かが『ゴクリ』と喉を鳴らした。
それから、目を見張る彼らの攻防が始まったのだった。

「はぁああ!」

先に動いたのは太史慈だった。
その腕から捻り出される強力な一撃は、遠巻きに見ていたワシらに風を感じさせるほどの薙ぎであった。孫皓さまはその攻撃を切っ先で逸らし、一歩踏み込んだ。太史慈は槍を引き、孫皓さまに向かって突きを放つ。それを紙一重で避ける孫皓さま。しかし、次々に突きを放つ太史慈の攻撃に避け続けることを強要される。だが、その顔は喜びに満ちていた。ワシであればすでに捉えられているであろう高速の突きを涼しげに避け続ける孫皓さまに、ワシを初め遠巻きに見ていた全ての兵の視線が釘付けになる。よく見れば太史慈も笑っていた。

「いくぞ、孫皓!」

彼の槍の動きが変わる。大上段に槍を構える太史慈が地を駆けた。
大きく振るうことで遠心力を味方につけた彼の一撃が孫皓さま目掛けて振り下ろされた。その軌道を完全に見切った孫皓さまは隙を付いて彼の肩を目掛けて突きを繰り出す。太史慈は振り回すようにして強引に槍を振るって、その突きを払いのけた。

この攻防にワシは完全に興奮しておった。血沸き肉踊る闘いが、今目の前で繰り広げられておる。太史慈は完全に一皮向けたようだ、そして孫皓さまの強さは堅殿に通じる所がある。彼らの闘いは打ち合う度にどんどん研ぎ澄まされていく。そして、突然動きを止めた孫皓さまは太史慈に向かってこう言い放ったのだ。

「あははは、楽しいよ。太史慈……君の闘いぶりが“俺”の魂に火をつけた!」

太史慈の身体が『ビクッ』と震えた。彼はすぐに防御の構えを取ったが、槍を持ったまま前のめりに倒れた。彼の背後には、瞳を黄金色に爛々と輝かせる孫皓さまが立っておった。あの一瞬で彼の背中に回ったというのか…、なんとも末恐ろしいお方じゃな…。


Side:孫堅

祭とお酒を飲みに来たんだけど、彼女はすでに出来上がっていた。昼間、孫皓と太史慈っていう新兵の戦いを見て興奮したみたいで、お酒を煽る早さが尋常じゃない。

「堅殿ぉお、孫皓さまは逸材じゃぞー。いずれ策殿や冥琳と共に皆を率いていくことはもう間違いがないじゃろう。ワシは太鼓判を押すぞー」

そう言って、また杯を傾ける。『ゴクッゴクッ』と喉を鳴らして豪快に飲んでいく彼女の姿を見て、私は疑問をぶつけてみた。

「ねぇ、祭。孫皓はどっちだと思う?」

王として皆を率いていくのがいいのか、それとも臣下として雪蓮や蓮華を支えていくほうがいいのか。

「ふむ、そうじゃな…」

私は祭の答えを待った。

「あやつは…」

「孫皓は…?」

「見所がある“娘”じゃな。あれは堅殿に通じるものがあった。まぁ、ちと大人しい感じを受けたがの」

私は思わず机に伏した。

「私、言ったよね!孫皓は孫静の一人息子だって!」

「何を言っておるんじゃ、堅殿……いや、そういうことであったな」

「何?何を勝手に納得しちゃうの?違うのよ、本当に孫皓は私の子じゃ」

ないと言おうとした瞬間、祭がものすごく睨んできた。おかげで言葉を飲み込んでしまった。

「堅殿!いいんじゃ、いいんじゃぞ。もう苦しむことは無い。今、ここにいるのは、1人の母親とその愚痴を聞く1人の友人じゃ。本音を言っても誰も文句は言わんさ」

「いや…だから……」

「堅殿が何も言わずともワシはちゃんと分かっておる。つらかったのであろう、娘である策殿たちにも、幼馴染である結依殿にも明かすことが出来ずに、1人で悩んできたのだろう。もう、いいんじゃ。ワシは堅殿の味方じゃ、この先何があったとしてものう」

あ……ああ。祭の優しさがもの凄く、私の良心を抉っていくぅうう!なんで、こんなことに…。


孫堅の自室にて――

酔いつぶれた祭を部屋まで送っていき私は部屋に帰ってきた。
横になろうとしたら急に手首を掴まれ引き寄せられ、荒々しく抱きしめられた。こんなことをする人間に思い当たるのは1人しかいない。

「孫皓…、今日は疲れているの。お願い、寝かせ…て……!?」

彼の瞳を見て驚いた。なんと黄金色に爛々と輝いていたのだ。そして彼の身体はもの凄く熱を持っていた。

「孫堅さま……俺、俺…もう…」

これはきっと私が賊を殺しまくったり、血が滾るような闘いをしたりした後に陥るアレと同じものだろうと考えが及んだ。よくもまぁ、私が帰ってくるまで保ったものだと感心する。

「……いいわ。貴方の熱、私で治めなさい」

「すみません…」

そう言って寝台に孫皓は私を押し倒した。
まぁ、今までの中で一番荒々しく、そして強引で、逞しかったってことだけを記しておくとしよう。

…………

……

って、孫皓。何を!?ちょっと、そっちは駄目!!えっ、叔母たちは喜んでいた?だから私もきっとイケる!?

い、いやぁああああああ!やめ、アッ――――――――!!



あとがき
孫皓くんの本気は通常の三倍の速さで動く……だったらいいなぁっす。
読者の皆様、アンケートにご協力頂きありがとうございましたっす。これからも孫皓(改)伝をよろしくっす。では…


太史慈の部屋

こんにちは、あとがきの下に枠を勝手に作者が作っちまったのでちょくちょく出てくることになった太史慈です。よろしく。

アンケート結果について報告するぜ。

①については、「有り」や「延期」って言葉が書かれていたので第2部をまるごとそれに当てるらしい。作者が頑張ってプロットを作成してやがる。ざまぁ…。それから「風評を聞いて…」っていう意見も出たので、第1部にて孫皓になにかをやらせるらしいよ。孫堅ママの嘆きと一緒に…。

②については、「有り」という意見が多かったので、この場を借りて我らが主人公・孫元宋のステータスを表示するな。ただし、この板の孫皓は、王道チート主人公なので鋭い突っ込みは勘弁してくれ。

名前:孫皓 字:元宋 真名:鷲蓮 年齢:16歳
本来は統制9武力9知識8政務8なのだが、天気と自由が10というダブルコンボで普段は1/2状態。※興奮して血が滾ると瞳が黄金色になって本来の姿を取り戻す。おかげで瞬殺されたよ、トホホ…。

③については……。読者の皆様、俺と孫堅ママをそんなにいじめたいのか!?作者の奴、劉玄ちゃんが参加するはずだったプロット削除しやがったぞ!しかも、俺が胃薬を手に入れやすくするためにオリ医者キャラを作成しているし、真名を瑠音っていうそうだ。分かる人は分かるって言っているけど誰だ?

今回はこれで打ち切るとしよう。

本来ならここで次回予告なのだが、それは無しの方向で。一言いいか。

「孫堅ママに合掌ー!」

チーン………じゃっ、またな。



[24492] 六話.「孫皓姉さま、上着は脱いじゃ駄目!!」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2010/11/27 08:40
六話.「孫皓姉さま、上着は脱いじゃ駄目!!」

Side:孫権

その姿は一枚の絵画を見ているかのように美しいものだった。
剣を振るっていたのを終えたのか、汗を流すため彼女は水浴びをしていた。流れるような薄紫色の髪、その髪を梳く仕草、傷ひとつない玉のような褐色の背中。扇情的な光景であるはずなのに品があるように見えるのは、きっと彼女が王の血を継いでいるからに違いない。彼女が手拭いを取ろうとして私の方に振り向いた。細く引き締まった上半身が露になり、2つの桃色の突起が外気に晒され……さらされて?

「って!?孫皓姉さま、上着は脱いじゃ駄目―!!」

と私は彼女の元に駆け寄り手拭いで胸を急いで隠す。そして周囲を確認する。孫皓姉さまの肌を見た者など私が斬ってくれる。

「……孫権…さま。大丈夫ですよ、私は“男”ですから」

「なっ!?」

私は彼女の言葉に衝撃を受けた。
「私は“男”ですから」この言葉には、彼女が育ってきた環境の状況が滲み出ている。まず、姉さまとは赤の他人であり、“姉妹”と悟られるわけにはいかないから、男として生きるように強制されたに違いない。だから、上半身を晒したまま水浴びしても何とも思わないのだろう。
それに私のことを「孫権…さま」と躊躇いつつも敬称をつけて呼んだ。本来であれば、彼女とは姉妹として、真名を呼び交わす仲になっていたはずなのに…。

「孫皓…姉さま」

「孫権さま、私は貴女に姉ではありません。貴女のお姉さんは、…孫策さまだけです。お間違いのないように…」

「うぅぅ……孫皓…」

「それでいいのですよ」

そう言って彼女は上着を羽織、私に背を向け歩いていく。彼女の背中が少し震えていたように私には見えた。

「どうして…どうして?本当なら姉妹として生きられるはずだったのに……どうして、そんなことを言うの。どうしてそんな悲しい表情をして微笑むの……、孫皓姉さま」


Side:孫堅

うぅぅ…、汚されちゃった。汚されちゃったのー…。
まさか不浄の穴までやるとは、孫皓恐るべし。足腰が本当に立たなくなるまでやってくれたものだから、結依に頼んで今日は自室で政務をさせてもらうことにしている。ちなみに竹巻で山がひとつ築かれている。
私の隣には結依がいて心配そうに見ているけど、本当のことは言えない。

「美連…。彼女のことは私にも言えない秘密だったのだな」

…って、あれ?何この展開、もしかして結依怒っている?

「2人で決めたことであったのか、それとも……いや、愚問だな、彼女……いや彼のことは」

「結依。孫皓は孫静の息子。それ以上でも以下でもないわ」

もう!結依まで勘違いしちゃっているじゃない。雪蓮を産んだ時、一緒に居たでしょう!秘密にしていたってことが気にくわないのか、ちょっと不機嫌になっているし。

「ふむ、そういうことにしておこうか」

「結依…。孫皓は男よ」

「分かっている。“息子”なのだろう?」

「意味深に言わないでぇえええ!何か違う風に聞こえるからぁあああ!」

結依は何かを考える素振りを見せながら部屋から出て行った。静かになる室内。残されたのは私と積み上げられた竹巻の山×3……あれ、増えてる……。


Side:孫権

お母さまがいない朝議が終わった後、彼女は祭の下で調練するために修練場に向かう。私はそんな彼女の後を追った。遊びだと思ったのか、シャオもついて来ることになったのは予想外だったが、彼女を連れて行かない訳にはいかない。ここで拒否すれば妹は泣いてしまうだろう。そうしたら彼女に気付かれてしまう。

「おねえちゃま、どうするの?」

「孫皓姉さまはね、男として育てられてきた所為で、羞恥心が疎いの。だから、私たちが護ってあげないといけないの。分かった?」

「うん。シャオ、おねえしゃまをまもるー」

修練場についた孫皓姉さまは、剣を抜き赤い鎧をつけた大きな男の前に立った。男は槍を両手で構える。
そんな、明らかに孫皓姉さまが不利過ぎる!どうして祭は止めないの?シャオも顔を青くして私の服を掴んでいる。私たちはことの成り行きを見ていることしか出来ないの…?

勝負が始まった。燃え盛る劫火のように激しい攻撃を孫皓姉さまに放つ男。シャオは見ていられないのか目を瞑り、耳を手で塞いでいる。私は…不覚にも目を奪われていた。
彼の目を見張るような攻撃を軽くいなして、舞いを踊るような動きを見せる孫皓姉さまの姿に私は魅了されていた。
見れば祭や近くで手合いをしていた兵たちも2人の手合いに目を奪われている。そして、彼の攻撃を捌き切った孫皓姉さまは、一足で彼の懐に入り込み、無防備になっていた顎を蹴り上げた。闘っていた男の体が少し宙を舞う。そして彼は後ろ向きに倒れこんだ。まだ意識があるようで孫皓姉さまに向かって必死に手を伸ばしていた。孫皓姉さまも彼に向かって手を差し出している。まるで、「もっと闘おう」とでも言っているかのようだ。だが、彼の手は孫皓姉さまの手を掴むことは無かった。

私は格好良くて、強くて美しい、孫皓姉さまに魅了されてしまったようだ。
恐らく私の顔は完熟した桃のように朱に染まっているだろう。は、恥ずかしい…。

「おねえちゃま、おねえちゃま!」

「はっ!?どうしたの?」

イヤンイヤンと身悶えしていた私を揺するようにして気付かせてくれたのはシャオだった。

「あれ…」

そしてシャオが指差した先では、孫皓姉さまが胸当てを外そうとしていた。たぶん、汗を拭こうとしているのだろうけど、また上半身を晒すかもしれない。私はシャオの小さな手を握って彼女の下に走った。
彼女が上着の裾に手を掛ける。男達の視線も釘付けになっている。

「駄目~!!上着は脱いじゃ駄目なの~!!」

私は孫皓姉さまが細い腰回りとおへそが見えるくらいまで裾を上げた状態の所で、辿り着くことが出来た。途中、シャオの手を放してしまった為、向こうでシャオが転んで泣いている。

「孫皓、汗なら私とシャオが拭いてあげるから、こっちに来て。……貴方たち、こっち見たら殺すわよ」

私は物惜しそうに孫皓姉さまの身体を見ていた兵たちを睨み付けた。すると蜘蛛の子を散らすように、兵たちは元の場所に戻り手合いを再開させたが、心なしか肩が下がっている。

「権殿…」

「祭、分かっているわ…。でも、女の肌は安いものじゃないでしょ」

「分かっておられるなら、ワシは何も言わんよ」

そう言って祭は兵たちに喝を入れた。その声に飛び起きた孫皓姉さまと戦っていた男は、転んで泣いているシャオに気付いて歩いていっていた孫皓姉さまに向かって「次は勝ってみせる」と言った。それを聞いた孫皓姉さまはくすりと笑ったが、そのまま彼には何も言わずにシャオに向かっていく。「何も答えないの?」と尋ねようと思ったけど、彼の方もすでに祭の元に向かっていた。
孫皓姉さまは、お母さまや姉さまとは違った魅力があるように私は思えた。
私は恵まれている。だって、目標とする人がお母さまの他に頼れる姉が2人もいるのだから…。


Side:周瑜

母さんの仕事の手伝いを終え、部屋に帰る途中、私は彼女と出会った。そういえば、彼女とは面と向かって会話をしていないなと思った私は、何をしていたのかを訊いてみた。すると、剣を振るっていたと答えが帰ってきた。
小腹が空いたので厨房でつまみ食いをしてきた帰りで、軽く水浴びをした後眠るそうだ。

私はふと同行していいかを尋ね、許可を得て月明かりが地表を幻想的に照らす中庭に出た。
上着を脱いだ彼女の胸にはさらしが巻かれていた。
雪蓮とは違いまったく成長していない胸、「お前は男だ」と言われ続けたら自身は男だと頭は勘違いして成長しなくなるのかと思えるほど、男らしくと言っては失礼だが、引き締まった身体だった。
私の視線に気付いたのか、彼女はくすりと微笑んだ。
私は自分自身の体の中に熱が生まれたのを感じた。雪蓮に抱くものとは、また違った熱を…。

気付くと私は彼女の腕の中に収まっていた。絡み合う私たちの視線。
私たちが口付けを交わすのに、そう時間は掛からなかった。




あとがき
ノーコメントっすぅううううう!!



太史慈の部屋

作者ぁあああ!!おどれはなにをやっとんのじゃぁああああ!!読んで下さっている読者の方々へ謝罪しやがれぇええええ!!ぐぐぐ、作者の奴、こたつに潜り込んで出てくる気配がねぇ。………スイッチ入れてやる。出てきたら、皆様に謝罪するんだぞ!

今回のステータス表示は孫家の4人である。ちなみに作者は現在原作の6年前という設定で書いている。孫皓と違って彼女らはこの後飛躍的に成長していくから、これはあくまでも現時点でのステータスだ。そこんとこ、よろしく。
じゃあ、行ってみよう。

名前:孫堅 字:文台 真名:美蓮 年齢3?
統制7武力9知識6政務6相性10
孫皓を拾った孫呉の祖。なぜか曾祖母と曾孫の関係であるにも拘らず、身体の相性は抜群という悲(喜)劇。ことあるごとに抱かれる運命。一応、孫皓のことは手のかかる息子くらいに思っている。

名前:孫策 字:伯符 真名:雪蓮 年齢16
統制4武力4知識3政務2双子10
未来の小覇王。孫皓を双子の姉だと思い込み甘える予定。孫堅と孫皓の強さに憧れている為、これまでより一層鍛錬を積むことになっていく。

名前:孫権 字:仲謀 真名:蓮華 年齢11
統制1武力1知識2政務1真面目10
孫皓の親衛隊(羞恥心的意味合いで)隊長。成果として胸にさらしを巻く事に成功した。母と姉?2人を見て、王とはなんたるかを学んでいく予定。

名前:孫尚香 真名:小蓮 年齢7
…………ない
孫家のマスコットキャラクター。これからの成長に期待。


文句を言いたいのは分かるが、あくまで現時点(六話)での話だ。そこの所お忘れなく…。

で、作者なんだが、脱水症状でダウンしちまったぜ。阿呆だな、作者のやつ…。

じゃ…また、よろしく。



[24492] 七話.「あの子にはきっとヤンデレになる資質があると思う」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2010/11/27 21:21
七話.「あの子にはきっとヤンデレになる資質があると思う」

Side:太史慈

照りつける太陽、周りには完全武装の兵士たち、そして手に持つのは自慢の武器。
黄蓋さま率いる山賊討伐隊は荒野を東に向かって行進していた。先頭には黄蓋さま、その後ろに彼女が鍛え上げた精鋭たち、その後ろが俺たち新兵だ。その中に俺と孫皓が並んで歩いている。

「なぁ、孫皓…。なんで頭を垂れて落ち込んでいるんだ?」

「太史慈。…最近、皆から女扱いされている所為か。自分の本当の姿は女なんじゃないかと思うようになっていて…」

重度の精神障害じゃねえか。

「パオーンが消えたり…」

「ぶふっ!?」

「胸が大きくなったり…」

「げほっ!?」

「太史慈を誘う夢とかを見るようになったんだ」

「夢の話かよ!!」

人騒がせな。そしてなんて悪趣味な…。
少なくとも山賊討伐に向かう途中の行軍で話す会話ではない。先頭を行く黄蓋さまには聞こえていないようだが、周りにいた仲間たちは俺が噴出すのを聞いて何事かと見ている。

「……思い切って、髪…切ろうかな」

そういって自身の薄紫色の長い髪を梳く仕草をする孫皓の姿を見た仲間たちは、彼女?に詰め寄り「切らないでくれ」「俺たちの紅一点がぁああ!」とかを言ったり叫んだりした。そして、その言葉を聞いていた黄蓋さまに絞められた。馬鹿だな、あいつら。

「大体何も相談せずに、その綺麗な髪を切ったら、まず間違いなく何かあったのかと詰め寄られると思うぜ。こいつらでさえ、こんな反応なんだ。あのお前の肌を見られまいと奮闘していた女の子なんか目を△にして、そうするように言った奴を探して回ると思うぜ、剣を片手に」

殺す気満々で街を徘徊するだろうよ。想像するだけで怖い。

『ソンコウネエサマノカミヲキルヨウニイッタノハアナタナノ?ネェナンデキルヨウニイッタノ?ネェ、ネェエエエエ!!』

怖ぇえええ!あの子にはきっとヤンデレになる資質があると思うな。


Side:孫権

「くちゅんっ…」

「あら、蓮華。風邪?」

姉さまが私の顔を見て心配そうに聞いてきた。寒気もしないし頭も痛くない。

「たぶん、誰かが私の噂をしているんだと思うわ、姉さま」

「そう…。ねぇ、今日の冥琳を見た?」

「ええ。なんだか変だった」

いつもは凛としていて何があっても動じない彼女なのだが、今朝の彼女は違った。まず、顔が紅い。次に、ぼうっとしている。最後に、股に何かが挟まっているかのように歩きにくそうだった。
それを見たお母さまはニヤニヤと笑い、結依小母さまは満面の笑みで彼女の頭を撫でていた。何かあったのは間違いがない。

「姉さまも分からないんですか?」

「冥琳に聞いても、はぐらかされるのよ」

何があったのかを話さないなんて、姉さまと断金の誓いを交わした彼女にしては珍しい。ついでに何かを悟ったお母さまと結依小母さまも。

「なんだろう?」

「う~ん……お姉ちゃん絡みかな」

お姉ちゃんって、…孫皓姉さま?もしそれが原因だとしても訊く事が出来ないじゃない。なんせ、山賊討伐に祭の部隊と一緒に出かけていったのだ。結構距離があるらしく、帰ってくるのは少なくても一週間後という話だ。

……大丈夫かなぁ。皆の前でさらしを外したり、無防備な姿を晒したりしていないよね。


Side:太史慈

孫皓は男だ。ぱおーんが付いているし、本人が言っているから間違いない。だが何だ、この女っぽい仕草は!
彼女?が寝返りを打つ度、仲間の誰かが鼻血を垂らす。可愛らしい寝言を洩らせば、仲間たちはたちまち前のめりに身を屈める。止めは朝にする水浴びもしくは清拭……何人の仲間が犠牲になったか。
黄蓋さまは普段豪快であるにも拘わらず、そういった姿を見た者はいない。よって、彼女?に視線が釘付けになるのも仕方がないといえば仕方がない。だが、あれは男なのだ。
そりゃあ、心に軽くフィルターを掛ければスレンダー美女がそこにいるかのように見えるが、あいつは男と俺の本能が激しく抗議してくるので長いこと見ていることは出来ない。
彼女?の動きひとつであんなにも熱くなれる仲間たちが羨ましいような羨ましくないような……。

まぁ、そんな幻想もこれを見てしまえば何も言うことは無いな。
彼女?の周りには山賊だったモノの死骸が幾つも転がっていた。首だけがない死体、胴を断ち切られた死体、心臓を一突きにされた死体。様々なものが無造作に転がっていた。俺たちと一緒にきた新兵の仲間の内、何人が眼を背けずにこの光景を見ているのだろう。かく言う俺も膝が震えて立っているのがやっとの状態だ。孫皓がやったこと、それは圧倒的な殺戮だった。見(つけた)敵(は)必(ず)殺(す)ともいう。

山賊はとある山に拠点を作り、そこから近くの村を襲っていた。こいつらの所為で何人の良民が犠牲になっているのか考えたくもない。
黄蓋さまは、山賊を1人も取り逃がさないために黄蓋さまが率いる本隊と、孫皓と俺が率いる新兵の別働隊に分けて彼らの拠点を挟撃で急襲する作戦を立てた。誰も異論を唱えなかったため、すぐに決行された。だが、黄蓋さまにひとつだけ見落としていることがあったのだ。それは孫皓が賊を狩り慣れていることを知らなかったこと。

黄蓋さまが率いる本隊がいなくなったことを確認した孫皓は、急に走り出した。俺や仲間たちは驚いたが彼女?から置いていかれる訳にはいかなかったため、全力で追いかけた。そして、山賊の拠点に俺達が辿り着いた時点で、事は終わりかけていたのだ。急に飛び込んできた惨劇の光景に次々と目を逸らし、嘔吐する仲間たち。
そして孫皓の前には、たった1人生き残った山賊の頭らしき男が命乞いをしていた。武器は捨て、地面に額をこすりつけるように土下座して命ばかりはと喚いている。
俺は孫皓を見る。その身体は返り血で赤く染まり、賊を片っ端から斬ってきた剣からは血が滴り落ちている。彼女?は山賊の頭に向かって問い掛ける。

「そう言った人たちに、お前達はどう答えてきたのか」と。

頭の男が何かを言う前に、孫皓の剣が振り下ろされる。断末魔の声が山の中に響き渡り、黄蓋さま率いる本隊が辿り着いた時には、その全てが終わっていた。100体以上の屍の上に立つ孫皓から放たれる殺気はその場にいる者から意識を刈り取っていく。俺が何度も名前を呼ぶが反応は無い。黄蓋さまも必死になって孫皓の名を呼んだ。

それが終わったのは突然だった。『ピーヒョロー』と鳶が鳴く声が山に響いたのだ。
それを耳にした孫皓は空を見上げ、「ほうっ」と溜め息を漏らした。彼から吹き出ていた殺気はいつの間にか消えていた。
ただ、孫皓の瞳は黄金色に輝いていて、正直真正面には立ちたくなかった。


それから、数日を掛けて長沙に帰還した俺達は、街の人や他の部隊の人たちからよくやったと褒められることとなった。
今回は何もしていないのと同じのため、嬉しくはなれなかったのだが、いい経験にはなったと思う。
明日から何日か休みを貰えるらしいし、のんびりするとしよう。

ちなみに孫皓だが、街に入った瞬間から黄金色の瞳を△にして誰かを探しているようだった。そして、孫堅さまを前にした瞬間、消えた。孫堅さまも一緒に消えたのだ。
たぶん……あれだろうな。と思いつつ、俺は帰途についた。

うん。明日は何をしようかな。



あとがき
現在、孫皓が男だと確信を持っている人は4人っす。
今回は山賊討伐に赴いてみました。戦いのシーンが一切ないのはコン太の力量がないからっす。すみません。
じゃ…また、よろしくっす。



太史慈の部屋

まず、孫皓の考えは『賊に堕ちた時点で生きている価値はない。死んでしまえ』で、賊になった奴に容赦は掛けない。
対して、史実の孫堅さまは長沙郡太守になった際『良民を手厚く遇し、公文書の処理は正しい手続きで行い、賊も勝手に処刑しないように』と命令している。この世界の孫堅さまはどんな考えを持っているのかは、次回語られることになるだろう。

では、恒例のステータス表示。今回は黄蓋さまだ。

名前:黄蓋 字:公覆 真名:祭 年齢:27
統制7武力7知識5政務6姉御10
頼れる皆の姉貴分。孫堅さまに仕え、後に3代に渡って孫呉を支える宿将となる。孫皓が孫堅さまの娘であることを疑わない。俺を認めてくれている方だ。一生、ついていきます。

では、ここら辺で打ち切るとしよう。じゃ、またな。



[24492] 八話.「彼女の秘密」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2010/11/27 23:00
八話.「彼女の秘密」

Side:孫皓

油断していたと言い訳をするつもりはない。
先日の山賊討伐で血が昂ぶった俺は、久しぶりに全力を出した。そのおかげでしばらく男の状態でいることが出来た。
長沙に帰ってきて、孫堅さまを抱いて、何とか静める事が出来たわけなのだが、朝からの生理現象を止める術はない。
それにここは、孫堅さまからもらった俺自身の部屋であり、寝台の上。彼女がいること自体が変なのだ。
だけど、これで元通りだ。元々俺は男であり、勝手に勘違いして姉だの妹だの騒いだのは彼女たちの方。

けど……この沈黙は何?なんで彼女は頬を染めているの?

「…………」

俺のぱおーんを下穿き越しに手で確認する孫策さま。顔が引き攣る俺…。

「…分かったでしょう。私は“男”なの」

最近、変だな。女の声が地になってしまったかのように、男の声が出せなくなっている。

「………なのね」

「へ?」

「半陰陽だったから、追い出されてしまったのね。大丈夫、私はどんなお姉ちゃんでも受け入れるから、安心して」

え?えぇええええ!?


Side:孫策

お姉ちゃんは、私の言葉を聞いて呆然としている。
恐らく、今までそう言ってくれる人がいなかったからに違いない。お姉ちゃんの初めての人。なんて甘美な響きなのかしら。私はお姉ちゃんの背中に手を廻し、さらしの巻かれたその胸に抱きついた。
私の顔の前で心底信じられないと驚いた表情を見せて頬を紅くしている彼女が可愛く思えて、半開きにあけられたその唇に私は舌を潜り込ませた。


突然現れた彼女に興味を持つなといわれても、そんなことは無理だった。
彼女は何が好きなのだろう。何が嫌いなのだろう。どんな服を着るのだろう。朝は何をしているのだろう。調練では何をしているのだろう。私と好みは一緒なの?それともまったく異なるの?と知りたいことは山ほどあった。

武術の腕は調練を見る限り、私よりも数段上。政務の方はしているところを見ていないから分からないけど、意見を言うくらいはできそうな感じだ。本当は、すぐにでも問いつめたかったのだが私の方も勉学があったり、お姉ちゃんも山賊討伐に駆りだされたりとあったので機会は中々訪れなかったが、今日は私もお姉ちゃんも休みなのだ。なので、今日は1日中お姉ちゃんに付いて回る予定で、彼女の部屋に忍び込んだ。なんだかいけないことをしている気分。
「すー…すー…」と安らかな寝息を立てる彼女を起こさないように静かに歩み寄る。
頬を指で触ると、みずみずしくて、張りがあって、お餅みたいに柔らかかった。いつまでも触っていたい衝動に駆られたが、今日の目的のことを考えしぶしぶ手を引っ込める。私は布団を少しだけ捲った。するとさらしだけが巻かれた上半身が露になる。『ごくり』と息を飲み込んでしまった。そして、お姉ちゃんの顔をもう一度見る。未だに起きる気配は無い。私は布団を元に戻してお姉ちゃんの足の方へ移動した。そしてゆっくりと寝台に上がり、布団を捲り匍匐前進で彼女の布団の中に入っていった。そして、彼女の秘密に辿り着いたのだ。


「ん…んぅ…んん!?…んーーっ!?」

最初は私が攻め立てていたのに、息を吹き返したように私の頭を固定して口内を蹂躙するお姉ちゃんの舌に私の体は火照り始めていた。

「ぷは…はぁはぁ……お姉ちゃん」

「はぁ……はぁ……孫策…さま」

もう一度と唇を合わせようとした瞬間、突然扉が開き誰かが部屋に入ってきた。今、この状態を見られる訳には……と思った相手は母さまだった。


Side:孫堅

「「…………」」

気まずいっ!!
孫皓の部屋に入ってみたものとは、孫皓と娘の雪蓮が抱き合って口付け寸前の姿だった。艶っぽい吐息が漏れていることから一回はやったみたいね。雪蓮がちゃんと服を着ていることから性交の方はやっていなさそうだけど…。
雪蓮は顔を真っ赤にして言い訳を模索しているようだ。対して孫皓はあっけらかんとしている。そこらへん彼は図太いのよね。

ここでは何て言ってあげるのが正解かしら…

①「孫皓、話があるから後で私の部屋に来て」…雪蓮を見なかったことにする。

②「2人とも、今度から気をつけるのよ」…注意するに留める。

うーん。ここは、③の「私も混ぜて」よね。皆で恥ずかしい思いを共有すれば何も怖いことは無いわ!ということで…。

「あ、あの母さま、これは…ち、違うの」

「ええ。分かっているわ、雪蓮」

「え?」

「孫皓、私にも雪蓮と同じことしてー」

「母さま!?」

2人に向かって飛びついた私に、2人は面食らった表情を浮かべたが、孫皓は意を察したのか私の両頬に手を添えて口内をじゅうり……んんーー!?した。
彼の接吻は熱烈だった。生気を吸われてしまったかのように身体が重く感じ私はそのまま孫皓の右隣に横になる。
ぼやける視線で雪蓮の姿を捉えたが、彼女もまた彼の口付けを前に崩れ落ちた。この次はもう決まっている。きっと彼も自身のぱおーんの熱を収めるために私たちの体を使うことになるはず。
大体、孫皓と雪蓮がそういうことをしていたっていうことは、彼が男だっていう事を雪蓮が気付いたからに違いない。これで私の負担も減るかなぁ、って思っていた時に『ガチャッ』と扉を荒々しく開け飛び込んできた小さな影。

「おねぇしゃま、あーそーぼ!」

と言って入ってきたのは我が三女、シャオだった。それに続くように

「ちょっと、シャオ!まだ孫皓姉さまは眠っているかもしれないのに………あれ、お母さまに姉さま?」

まさか孫家全員が揃うとは、好かれているわね、孫皓。
……うぅ、今日は1日悶々とした状態で過ごさないといけないの?ぐすん…。


Side:孫権

「「「…………」」」

気まずいわ、本当に気まずい。
孫皓姉さまの部屋で見たものとは、姉さまが左側から、お母さまが右側から、孫皓姉さまの腰に手を廻して横になっている姿だった。これはどういう状況なのと2人に確かめる前に隣にいたシャオが「ずーるーい!!シャオもー!!」と言って、孫皓姉さまに抱きついた。シャオの下敷きになったお母さまが「ぎゅむー」と変な声を出した。寝台の軋む音がする。

ここではどうするべきかしら…

①見なかった振り。

②「何をしているの!」と注意する。

私は深呼吸して息を整える。そして選択肢③である「私も混ざる」を選んで寝台に上がり、姉さまと孫皓姉さまの間に割り込む。

「ちょっと、蓮華!」

「えへへー、たのしー」

「シャオ!落ちる、落ちちゃう」

「姉さまたちだけ、ずるいです」

「狭い上に苦しい…」

私たちはこの状態で冥琳が起こしにくるまで笑いあっていた。



あとがき
…………(脱兎)



太史慈の部屋
作者ぁああああ!性懲りも無くやりやがって……。
前回、俺の部屋で述べた、孫堅さまの考えには一言も触れてないなんてどういうことだ!
ん?(カンペを拾う)何々、次回で必ず触れる?
……今回だけだぞ!

さて、ステータス表示だ。今回は周家の2人だ。いくぜ!

名前:周笠 字:扇發 真名:結依 年齢:3?
何気に真名で呼ばれる率が高い。孫堅さまの幼馴染で孫皓を男だと見抜いている。ただ、孫皓は孫堅の息子だと勘違いしている所がある。ちなみに次に捕食される危険性があるのは、この人だったりする。

名前:周瑜 字:公瑾 真名:冥琳 年齢:16
孫策さまと断金の誓いを交わした未来の名軍師。孫皓に雪蓮とは違った恋心を抱く。そして、女に……。羨ましい限りだぜ。



じゃ、ここら辺で、またな。



[24492] 九話.「これからよろしく、旦那さま」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2010/11/28 18:04
九話.「これからよろしく、旦那さま」

Side:太史慈

休暇1日目。

俺は街を散策している。目的は特にない。目に止まった物を見て、小腹がすいたら何かを買って食べ、本屋には入って立ち読みをしたりするのが、俺の休日の過ごし方だ。
ここら辺の過ごし方は前世とあまり大差は無い。前世は職にもつけなくてフリーターとして何の目的も持たずに生きていた。毎日が灰色で生きている価値さえ分からなかったことに比べれば、この世界はなんて鮮やかなのだろう。
街に生きる人々の笑顔は温かい、商人の呼び込み、子供たちの笑い声、にぎやかな喧騒。これが、俺が護るべきもの。俺たちが護っている平和。この平和を護るという目的のおかげで俺はこれからも闘っていける。いずれ綺麗な嫁さんを迎えてにゃんにゃん……、そのためには強くならなきゃなぁ。

視界の端で、同期の孫皓が女物の服を着せられて落ち込んでいるのが見えた。うん、今日は関わらない方がよさそうだ。

どうせ、休暇が明けたら相談しに来るのが予想できるし…、胃薬を買っておこうかな。念のため…。
とは言ってもこの時代、医者の社会的地位はかなり低くこういった街の表通りには店を構えることが出来ない。裏通りっていうことになるのだが、一歩踏み入れると視線が気になる。今日はラフな格好(現代でいうTシャツとGパンみたいなの)をしているからな。最低限の金しか持ってきていないし。まぁ、さすがに俺みたいなのを狙ってくる馬鹿はいないけどな…。

「確か、ここら辺に…」

軍医の人が言っていた女の医者が居を構えているらしいのだが…これか?

「医局『捨施留』……なんて読むんだよ、これ」

何か入るのに勇気がいる医局だなぁ、おい…。このただ住まいを見ているだけで胃がチクチクするのはなんでだろう。さっさと胃薬を買って表通りに行って何か食おう。そう思って俺は扉に手を掛けた。


「……いらっしゃい」

医局の中はかなり薄暗かった。さすがに裏通りということもあって光が差し込みにくい立地だし、店主の雰囲気も暗い。
医局の主らしき女性をまじまじ見る。長い桃色の髪、薄い水色の瞳。髪の色よりも薄い桃色のコートを羽織っている。どこかで見たことがあるな…って、あれじゃね?某勇者王に出てきた「獅子の女王」。ええ、まさかなぁ…。

「……何か用?」

ぶっきら棒に訊いてくる彼女に目をやると黒い猫と白い猫にねこじゃらしを垂らし遊ばせている。むしろ自身が和んでいる。

「この子たち、闇竜と光竜っていうのよ。……可愛いでしょ」

聞いていないし、確信が持てたよ。しかし、猫になんて名前をつけるんだ。クロとシロでいいじゃないか。
気を持ち直して。

「胃薬が欲しいんだがあるか?」

「なんに使うの…。……胃薬も沢山あるわよ」

そういって机の上に並べる。彼女のコートから出てくる、出てくる…出て来すぎだろ!?

「……私は従兄弟さん(にいさん)とは違って、腕は良くないから。薬と器材の量で勝負しているの」

貴女の兄さんって誰だよ、つーか、何者?

「私はこの医局『捨施留(シャッセール)』の店主、華侘(かた)よ。ちなみに従兄弟に華陀(かだ)っていうのがいるわ」

「ぶほっ!?」

まさかのニアミス!いや微妙に合っているのか?

「で、何で胃薬がいるわけ?」

「友達に相談されたりする時に胃がチクチクするときがあるんだ。それを抑える薬が欲しい」

「何かを食べてとか、古傷でとかの痛みじゃないの?」

「違うもののはずだけど…、詳しいことは分からない」

華侘は何かを悩むような仕草を見せる。この時代にそんなものを対象にした胃薬はないか。

「……効きそうな薬は持ち合わせていないわ、ごめん」

「いや、こちらこそ。無理言って、ごめんな。とりあえず、気休めでいいからどれかを売ってくれないか」

「それはできない。駆け出しの医者だが、医に携わるものとしてそれは認められない」

「そうか…」

「だから、私が専属の医者としてお前に付いていこう。丁度、この店を閉めようと考えていた所だし」

What?何て言ったの、このお嬢さん!?

「ここに店を構えて随分経つんだが、アンタが始めての客なんだよね。正直、食べていくのもやっとなんだ。だから、私があんたの病気を治すから、私を養ってくれない?」

何、この逆プロポーズみたいなの。しかも、俺のほうがデメリット多いし。

「もれなく私の体も好きにしていいけど」

…………耐えろ。耐えるんだ、俺!これは正しく、人生の墓場に片足を突っ込むか突っ込まないかの選択だ。名前しか知らない女に負けるな、俺!輝かしい未来を手に入れた後に、綺麗な嫁さんを……って、華侘は当たりじゃね?
恐らく胃を痛める原因になる孫皓とは一生のお付き合いになるはずだ。主従の意味で。
となると、華陀の従姉妹である華侘を嫁さんに貰っておくことはこれからの為にいいんじゃ?
ちらりと彼女を見ると闇竜と光竜を抱いて、首をごろごろして可愛がっている。

「俺は太史慈っていうんだ。言って置くけど、孫堅さまの軍には入ったばかりで給金もそれほど良くないぞ。それでもいいのか?」

「私はこれでも人を見る目はあるほうだ。……太史慈、アンタはきっと大物になるよ。私と違ってね」

どう言っても付いて来そうだな。ならいいか。

「分かった。俺が治っても一生付いてきてもらうぞ、華侘」

「ありがと。……旦那になるアンタに真名を教えないのも変だし、教えるけど私は『瑠音(ルネ)』っていうんだ。これからよろしく、旦那さま」

こっちの世界に転生してよかった。こんな美人に逆プロポーズされて一緒になることになるなんて……、彼女がひもじい思いをしなくてもいいように、これまでより一層武芸に励まなくちゃな。

「……バカな男…」ぼそり

「何か言ったか、華侘」

「……別に」


あとがき
短い、そして、孫堅さまの考えが……。このままじゃ、太史慈に殺される…ガクブルガクブル
そうだ!『華侘のステータス表示任せた!』と書いたカンペをここにおいて、コン太は退避っす!



太史慈の部屋

九話にして嫁さんが出来ちまった!?
まだ、新兵から抜け出せてないのに、嫁さん+猫2匹の生活費も稼がないといけなくなっちまった。
どうもこうも、頑張っていかなきゃなーー!!(テンション上げていないとやっていられない)
何々?『華侘のステータス表示任せた?』……って、彼女は武将でも参謀でもないぞ!

名前:華侘 字:元方 真名:瑠音 年齢:18
統制3武力4知識(医)9政務3クデ10
クーデレ度10。作者がうまく表現できるのか、不安なキャラ。俺の嫁さん兼女医。彼女のコートは四次元に繋がっているとかいないとか。って、いうか普通にステータス表示されたし、彼女は闘えるわけ?もしかして夫婦喧嘩の時の…?


次回は嫁さんが出来た俺と女物の服を買わされた孫皓の反省会みたいなものだ。
だが、のんびりとするはずだった休暇中に商船が賊に襲われるのを目撃する。
どうする、俺!?その時、孫皓が言った。
「翔ぶ!太史慈、拳を貸せ!」と。彼の真名の意味が今、明かされる。乞うご期待!



[24492] 十話.「孫皓、お前の真名は『鷲蓮』だ。」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2010/11/28 23:15
十話.「孫皓、お前の真名は『鷲蓮』だ。」

Side:孫皓

それは――幼い頃の記憶。

お爺さまは、初めて男として生まれた子孫である俺に色んなことを教えてくれた。勉学然り帝王学然り。中でも際立っていたのは、お爺さまが英雄たちと共に戦場で戦っていたときに、何度も窮地を救ったという剣術だ。確か『北郷古武流六式飛天倭刀……なんたら剣術』、正直に言うとお爺さまの妄想だと思った剣術。

しかし、鍛錬自体は理に適っていた。体を捻らないようにして走る『なんば走り』は、体力付けに丁度良く。お爺さまが身振り手振りと効果音を口にして技を想像する訓練では、なんか新しい世界が広がったような気がした。究め付けが、空中でより高くより遠くへ移動する方法。

俺はこの鍛錬をすることで移動手段と攻撃手段をひとつずつ会得したのだ。

教えた側のお爺さまは冷や汗を流しまくりだったけどな。


Side:太史慈

休暇2日目。

俺の住んでいる部屋に、嫁さんとなった華侘を連れて帰った。その時の一言。

「……汚い」

俺のチキンでガラスなハートは砕け散ったね。その後は掃除、片付け、引越し作業。
部屋の2/3を彼女の私物で占領された。さすがに女性の荷持つは多かった。服もかさ張るし、彼女の場合、薬の材料もある。給金が上がったらちょっと広めの家を借りようと思った。闇竜と光竜が慰めてくれるのがちょっぴり嬉しかった。
で、今日は川に釣りに来た。
晩飯の足しになればいいなぁと、前世からの少ない特技の一つでもあるので大きな魚を釣るぞといき込んでいたのだが、いつの間にか膝を抱えて落ち込んでいる孫皓が隣にいた。そして、始まる悩み相談。今夜、早速彼女のお手並み拝見といくかもしれない。

「ねぇ、太史慈。男っぽく見せるにはどうしたらいいのかな」

と、急に尋ねてきた彼に、俺はこう切り返した。

「まずは、その女の声でしゃべるのをどうにかしろ」

彼が男の声でしゃべっているのを聞いたのは、調練の時に真剣に勝負してある程度経った後、もしくは山賊を殺しまくった後の瞳が黄金色に輝いている時だけだ。

「それが…最近うまくいかないんだ」

「うーん、だったら服装だな。見た目第一っていうし、男らしい格好を……したところで、お前の場合は男装に見えるのか。無駄だな、昨日みたいに泣く羽目になる」

「って、見ていたの!?助けてくれてもいいじゃない!」

「お楽しみしているように見えたんだよ」

100%嘘だ。ワンピースやらフリルのついた洋服を着せられて、買わされてどんよりと肩を落とす彼を街で何度か見かけた訳だし。その彼の隣には嬉々として次の店に向かおうとする孫策さまの姿があった。その時の俺は、彼に向かって思わず合掌していた。どんまい、きっといいことあるさってな。

「いっそのこと『覚醒状態(黄金色の瞳状態)』で過ごすとかは………無理なんだな」

彼の反応を見るからに「それが出来ていれば、こんなことに苦しんでねぇよ」と痛烈に言われた気がした。
体格が元々よくて筋肉がついていてゴツゴツした体を持つ俺がいくら悩もうが、孫皓のような体を持ったやつの問題は片付かない気がしてきた。なので、話題を変える事にしてみた。

「この間の山賊討伐のことで聞きたいことがあるんだが、……いいか?」

俺の質問に顔を上げる孫皓は、

「何かあったのか?」

と少し男の声だった。

「お前、この間の山賊を皆殺しにしていたけれど、孫堅さまは賊は勝手に処刑せずに、罪状を民衆の前で読んで聞かせ、彼らの目があるところで処刑するようにしている。悪事を働けばこうなるのだと、見せしめの意味を籠めてな」

「それがどうした?」

「だからさ、山賊を皆殺しにしてしまっては孫堅さまの政策を邪魔するんじゃないのかっていうことさ」

俺の言葉を吟味するようにして孫皓は腕を組んで考え始めた。今の彼の姿は間違いなく男のソレだ。この姿を見れば周囲の人間の意識も変わるんじゃないのかと思えるほどだ。

「確かに孫堅さまの考えていることも、太史慈の言うことも分からないでもない。だが、街まで賊を生かして連れてくる意味はあるのか?手間や費用も考えると、その場で皆殺しにしたほうがよくないか?」

「お前が考えているのはそういうことか。確かに、俺たちは民を護っているが、逆に言えば民がいなければ俺たちは成り立たない。俺たちは国民から税という形で養ってもらっている用心棒みたいなものだしな。無駄遣いは持っての他ってことか…」

「極論を言えば、そうなるかな……っと、太史慈。竿がしなっているぞ」

「おおう!忘れていた」

俺は竿を右に左にと振り食いついた魚を疲れさせる。結構な手ごたえを感じる。今日は魚の燻製でもするかなと、獲らぬ狸の皮算用をしているその時だった。商船らしき船が襲われているのを見たのは。

「おいおいおい!孫堅さまのお膝元でやるとはどこの江賊だよ…。でも、周りに適当な船は無いし、どうするんだ。孫皓」

俺が隣にいるはずの彼を見るとそこにはいなかった。代わりに俺の後方から声を掛けられる。彼の瞳は爛々と黄金色に輝いていた。

「翔ぶ。拳を貸せ、太史慈!」

「拳を?……そうか!!」

るろ剣で見たことがある、あの時は上にだったがベクトルを換えれば横にも可能だろう。
彼が俺に向かって駆けて来る。

「「おぉおおおおお!!」」

俺が打ち出す拳の勢いに乗った孫皓は、襲われている商船に向かって飛翔した。だが、途中で失速し川に落ちかける。が、そのしなやかな肉体、剣を振るうことによって得られた反動で、空中で加速した孫皓は商船の上に降り立った。って、おいぃいい!?

今の動きって確か、るろ剣の『疾空刀勢』じゃね?なんで出来るの?あれ漫画を読んだ奴じゃないと分からないやつだぞ…。と、俺が語っている内に商船の上では血飛沫が舞っていた。とりあえず、孫皓に見つかった江賊たちに冥福を祈るばかりだ。川に飛び込んで逃げようとする賊たちに追い討ちを掛ける孫皓。賊たちにとって孫皓は恐怖の塊だな、ありゃあ。


Side:孫皓

空を翔る俺の姿を見たお爺さまは言った。

「孫皓、お前には血とか家系とか運命など、そういうのに縛られるんじゃなくて…そうだな。あの鷲のように自由に生きて欲しい。だから、お前の真名は俺が付ける。孫皓、お前の真名は『鷲蓮』だ。孫家の血や運命なんか全て置き去りにして、自由に生きろ。いいな、鷲蓮」

「うん、お爺さま……。じゃあ、早速。孫家の全兵力を使って屯田をしましょう!孫家が治める地に荒野なんていう無駄な土地は要りません!」

「って、そういう意味で自由に生きろって言ったんじゃなぁあああああいぃいいい!!」



あとがき
孫皓暴走人生のルーツ。
一刀は自分の首を絞めるきっかけを自分の手で作り出したのだった。
商船に乗り移る描写……誰かいい描写がありましたら、だれかご意見くださいっす。



太史慈の部屋
孫堅さまの件はこれでよしとするか……。
しかし、ステータス表示をするキャラがもういない。
しばらく、休みかな。こりゃあ……。

じゃ、またな。



[24492] 十一話.「嘘だろ!冗談だろ!ドッキリだって言ってくれ!!」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2010/11/29 19:47
十一話.「嘘だろ!冗談だろ!ドッキリだって言ってくれぇええ!!」※会話文が多いよ。

Side:孫皓

ひとつ大事なことを忘れていた。
俺は商船を襲っていた江賊を殺し、川を泳いで逃げようとした奴らを追って川に入ったのだが………沈んだ。
江賊や商船に乗っていた船員、川岸でことの成り行きを見ていた太史慈は目を点にしていた。

「ごめん、あとたのぶくぶく……」

「「「「え゛え゛――!!」」」」

何でだか知らないが、俺は昔から泳ぐことが出来なかった。身体が浮かばないし、息継ぎも不可能。結局、江賊は逃げたため危険が無くなった商船の船員に救助されて、太史慈がいる川岸まで送ってもらった。もの凄く怒られた。

「俺さ、お前何でも出来ると思っていたんだけど」

「人間、得手不得手あるから、おもしろいんだよ」

「そして、女の声に戻っているし」

「あれっ?」


Side:太史慈

濡れ鼠となった孫皓を眺めながら俺は腕を組み考える。彼は強い、そして人を惹きつける何かを持っていると思う。ここ、2週間一緒に過ごした俺の感覚としてはな。だが、変なところが抜けている。

「なぁ、孫皓。孫堅さまが導入しようとしている『世兵制』という制度の概要を知っているか?」

「ああ、お爺さまから聞いたことがあるよ。確か将軍一族と兵士たちの主従関係を代々受け継ぐっていう制度のことでしょう。それがどうかしたの?」

お爺さんに聞いたって、孫堅さまの親になる方からか?その人から聞いたんだったら、今頃施工されていてもおかしくないだろうに。

「俺と孫皓、どっちが早く将軍として任官するかって考えたら、お前の方が絶対早い気がするんだ。その時、俺はお前の部下になる可能性が高い。だから、お前を支える上で、出来ること出来ないことを知っておきたいんだ」

じゃないと、いざっていう時に戦闘不能ですって言われても対応できないからな。

「うーん。別にいいけど」

「じゃあ、俺が質問するから答えてくれよ」

「分かった」


Q1.名前と年齢、ステータス

Q2.得意とする武器、苦手とする武器

Q3.特殊技能・特殊スキル

Q4.弱点

Q5.夢


孫皓の場合

A1.孫元宋 16歳 統9武9知8政8(1/2) 騎5槍5弓1

A2.剣又は剛刀 弓が苦手

A3.女装 毒は調味料

A4.泳げないこと 厨房に現れる「黒き覇王」

A5.大陸制覇

「……聞きたいことが三つあるんだけど、いいか?」

「いいよ」

①毒は調味料

「毒をあたかも食っている表現は何?」

「お爺さま曰く、好きな人を毒で亡くした経験があるからと言って私がそうならないように、毒に身体を慣れさせるという名目上、子供の頃から食事や飲み物に少しずつ量を増やしながら毒を入れていっていたらしくてね。世の中に出回っている毒に関しては、どんなに致死性があっても手足がちょっと痺れるくらいで済むの。おかげで毒キノコも関係なく食べられるから、お爺さまには感謝しているんだよねぇって、どうしたの?そんな青い顔して」

「…………(お前のお爺さんは忍者か何かかよ!)」

②厨房に現れる「黒き覇王」

「……駄目なのか?蜚(ゴキブリ)」

「出たという話を聞いた瞬間、部屋に閉じこもる自信がある」

「何があったかを聞いてもいいか?」

「幼い頃、お爺さまと一緒につまみ食いしに行った時にね、やつ“ら”が出たの」

「初っ端、複数はキツイよな、あれ…」

「ううん。その時に遭遇したのは大群だったの。翌日が大掃除だったのもあって、引越しの最中だったんだと思う」

「……想像するのも嫌な光景だ」

「しかも、私たちに向かって黒い波が近づいて…」

「…………」

③大陸制覇

「何これ?」

「お爺さまが、夢はでっかいほうがいいって」

「でかすぎだろ!」

こう考えてみるとチート主人公の典型的なステータスだよな。ちょっと格好悪い所もあるけど、いいなぁ…。

「じゃあ、次は私が太史慈に質問するよ」

「うん、いいぜ」


太史慈の場合

A1.太史慈 18歳 統6武8知5政6 騎1槍5弓5

A2.槍と弓 特になし

A3.特になし 強いていえば釣り

A4.馬に乗れない(体重的に馬が死ぬ)

A5.綺麗な嫁さんとにゃんにゃんだったが、早く将軍になること

①釣り

「特技って、そういうのもありなんだ」

「うん。お前が討伐に行っている間に、こんなにも釣れたぜ」

「おお!大中小合わせて、こんなにも…凄いや」

②馬に乗れない

「これは太史慈の所為じゃないと思うけど?」

「まぁ、乗れない事には変わりないな」

「なんかいい馬、探そうか?」

「いや、居場所は検討がついているから」

③綺麗な嫁さんと…

「太史慈も男だよね。けど、変わったのは何で?」

「ああ。俺、結婚したんだ」

「!?(゜□゜;)ナンダッテェエエ!」

「そんなに驚くことか?」

孫皓の瞳の色が一瞬で黄金色に変わり、声色も男の物に変わる。

「ご祝儀はいくらがいい?つーか式はいつ挙げた?誓いの言葉は?神父は?ええい、面倒だ!俺が全部取り仕切ってやる!!」

「ちょっと、待てぇえええ!」

「安心しろ、太史慈。俺は、こういうことにも手を抜かず全力でやる男だ!任せておけ!」

「俺は、そういうことをする気は…」

「花嫁の着る意匠はどうする?本人に聞くか。会場はどこにしよう、城か?いっそ街全体を巻き込んでお祭り規模でやるか?そうだな、やるからには派手にやろう。記憶に残って史実にも残るくらい盛大に」

やべぇ、会話がまったく通じねぇ。俺の胃痛の原因はこれか。俺の本能はきっと孫皓のこれをひしひしと感じ取って、チリチリと痛み出していたんだな。

「そうと決まれば、孫堅さまに直談判だ!予算を少し貰って、近隣の諸侯の元にも招待状を送ろう。もう面倒だ、大陸中の名士に片っ端から送って、商人もまとめて呼び込もう!祭りだーーーー!!」

と、街の方に向かって駆けていく孫皓。

「嘘だろ!冗談だろ!ドッキリだって言ってくれぇええええええ!!」

俺は彼の暴走を止めるため全力で走ったが、追いつくどころかすでに彼の背中は豆粒ほどの大きさにまでなっていた。
俺は立ち止まり両膝を付いた、そして天を仰ぐ。

「どうして、こうなった……」

俺は、この世界に来て初めてorzと、がっくりと落ち込んだのであった。



あとがき
孫皓くんの本性の前に、太史慈くん完全敗北っす。
次回も太史慈くんの苦悩が続くっす。



[24492] 十二話.「ニャンコの女王」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2010/11/30 19:08
十二話.「ニャンコの女王」

Side:孫堅

「結婚式をするから、金をくれ」

そう言って私の執務室に飛び込んできた瞳を黄金色に爛々と輝かせた彼の言葉に、私は噴出した。隣にいた結依も彫刻のように固まっている。私の脳裏に浮かんだのは着飾った孫皓の姿……って、何でなのよ。

「い、いきなり何を言い出すのよ」

というか、誰と誰がするの?

「ここに来る前にある程度の協力の願いはしてきた。部隊の仲間たちは『いやっふー』って言って協力は惜しみなくするそうだし、黄蓋さまにはお酒…ごほん、お願いしたら兵を快く貸していただけることになっているし、文官たちには商人を呼ぶことの利益を話したら諸手を上げて賛成してくれたし、街の職人達にこういうのが作りたいといったら意気揚々と参加してくれることになっているんだ。あとは孫堅さまの一声で全てが完了するんだ」

…って、えぇえええ!?
行動力ありすぎでしょう!結依もまさかここまで揃えてから私に言いに来たとは露にも思っていなかったようで、口を大きく開けて唖然としている。しかし、祭め。お酒を貰って快く貸すもひったくれもないわよ。

「で、近隣の諸侯や各地の名士たちにも招待状を送りたいんだけど…」

「それは駄目」

「くっ…、じゃあ、商人をたくさん招くのは?」

「街に店を出している商人じゃ駄目なの?」

「この長沙で営んでいる商人だけだと、お金は回るかもしれないけれど国としての利益は増えない。そこで独占的な市を廃止して近隣の諸国にいる新規の商人を呼び込む。そうすることによって、他国に回される筈だった利益をこの長沙で落としてもらうことで利益を得ることが可能だし、他国の情報を彼らから知ることが出来るというわけだ。これを『楽市楽座』っていうんだ」

さすがに未来から来ているだけあって、私たちが考え付かないことを言って来る。結依も彼の言葉を吟味しながら聴いて頷いている。けど、孫皓の目的はそれだけなのだろうか。私は彼の目をじっと見る。すると、私の視線に気付いたのか、彼は口端を吊り上げた。

「さすがは孫堅さま。俺が考えていることは、それだけでないってことがお分かりのようで」

黄金色の瞳と合わさり、腹を空かせた虎が獲物を前にして舌なめずりしているかのような獰猛な笑みを浮かべる孫皓の姿に、結依はペタンと腰を下ろし身体を震わせる。

「俺の目的は…」

「目的は…」

くぅ、覚悟を決めるのよ、私!彼が何を言おうとも、絶対に阻止するのよ!

「その得られた利益で俺の考えていることを実行していただきたい」

「「は?」」

私と結依の気の抜けた声が漏れた。しかし、孫皓はそんなことを気にせずにしゃべり続ける。

「山野を開墾し、水路を整備、田畑の大きさを一定に揃えた後に米や麦などの栽培、大量生産。働き手は兵農一体ということで、各部隊で交代しながらやればいいし、一段落したら大豆や胡麻を栽培して作物の加工と保存の研究。それと同時に畜産や飼料の改良、土壌改善のために肥料も開発したいな。造船技術も向上させて水運業の後押しも必要だな」

「孫皓…そんこーう」

「それが終わってしまったら山から銅を取ったり、海水から塩を精製したり、そうだ建業を整備しなきゃな。洛陽に負けないほどの大都市にしてしまおう。それでいて鉄壁の要塞化もしたりして、大砲も作ってみるのもいいかも、そうなれば火薬が必要になるな…それからそれから…んむ?」

私は仕方なくしゃべり続ける孫皓の口を塞ぐため口付けをした。興奮状態の彼を鎮める方法はこれしかない。何が起こったのか分からなかったのか、孫皓は目を白黒させていたがだんだんと理解したのだろう。私の舌に己の舌を絡めてきた。結依は突然の情事に対応しきれないのか、視線が私と孫皓の顔を行ったり来たりしている。彼女には悪いけど、彼を静めるのを手伝ってもらうことにしよう。

「…って、ちょっと待ちなさい。わ、私には操を立てた人が……いや、やめて。ああ、あああ…アッ―――――!?」


Side:太史慈

孫皓の暴走を止めることが出来ずに肩を落として家に帰ると、嫁さんが赤い髪を持った知らない男と楽しげに会話していた。
俺は静かに扉を閉めると孫皓を追った時よりも早く駆け出した。向かうは街中のおいしい酒が出る屋台。仲間たちでよく行っていた所だ。もう朝まで酒を浴びるように呑んでやるといき込んでいたら、首を掴まれて家の中に強制的に入れられた。

「よぅ!義兄弟(きょうだい)、俺の名前は華陀。そこで膝を抱えて落ち込んでいる瑠音の従兄弟で、五斗米道の教えを受けた流れの医者さ。よろしくな」

姿形はまったく違うのに、なんで某勇者王の人が思い浮かぶんだろう。声か?それとも雰囲気か?

「って、いうか何で彼女が落ち込むんだ?」

「さっきの義兄弟は扉を開けたときは満面の笑みだったが、俺と瑠音が会話しているのを見て一瞬でこの世の終りが来たような絶望の表情を浮かべただろう。それを見た彼女は「自分はそんな女だった」と誤解されてしまったとな『プスッ!』ぐぅう、な『ぷしゅーーー』………………」

流れの医者・華陀は動かなくなった。指でつついてみるが反応がない、ただの屍のようだ。
倒れた彼の後ろに立っていたのは、顔を真っ赤にして特大の注射器(メーザー光線砲と書かれている)を担いだ綺麗な嫁さん。

「た、ただいま、瑠音。模様替えは済んだかい?」

俺は倒れた彼を見ないようにして、彼女に問い掛けた。だが、

「フーッ、フーッ」

彼女は顔を真っ赤にしたまま、まるで猫のように威嚇してくる。何これ、メチャクチャ可愛い。もはや彼女は「獅子の女王」じゃない、正しく「ニャンコの女王」だ。異論は認めない。

「恋は盲目、俺が唯一治療できない、恋の病に陥ったよ『ぷすっ、ぷしゅーーー』…………」

復活した華陀に何の迷いもなく追撃を行う、彼女。まるで何かを言われるのを阻止しているかのようだ。だが、相手はピンチになっても勇気ひとつで乗り越えてきた破壊神。

「何度も打つな!俺だから何ともないが、他の人間なら安楽死一直線な量の麻酔だぞ!」

すげぇ、この人も孫皓と同じようなチートだ。物理的な攻撃に頑丈な俺とは違った身体構造をしているみたい。

「大体、『結婚したから、ご祝儀をよこせ』って召還しておいて言うことじゃないだろ!しかも、持て成しの料理がネコマ『がぼっ!?ぼごくごくごく……ぐふっ』…………」

再度倒れる医者王。次に彼女が手にしていたのは、前世で何度か見たことのある容器だった。宴会の席で見られる「ピッチャー」と呼ばれる奴。
そして、消毒用と書かれたラベルが貼られた空の容器が床に散乱している。恐らく中身はオキシドールに類かと思われる。
彼女は俺の顔を、頬を染めたまま見つめていた。

「太史慈……私はアンタのこと…」

「えっ?」

見つめ合う形になった俺と瑠音。彼女が意を決したかのように口を開きかけた時、気絶していたはずの彼が復活した。

「見せてやる……本当の勇k「「いい所なんだ、寝てろ!!」」ぐはぁっ……」

夫婦になって初めての共同作業がまさか従兄弟を殴ることなんて…、俺も染まってきたなぁ。しみじみ…。

2刻後――

落ち着いた彼女を膝の上に乗せて、俺は彼女の髪を梳きながら語りかけた。

「瑠音……君の真名を聞いておきながら、俺は自分の真名を君に教えるのを忘れていた。すまない。そして、受け取ってくれるか?」

彼女の顔を見ることは出来ないが、頭が縦に揺れた。

「俺の真名は『陽炎』だ。たぶん、親くらいしか知らないと思う」

「…陽炎か。今のアンタからは想像も付かない、儚い名前だね」

「幼い時は病弱だったからな」

「そうなのか?」

「今はどうってことはないがな」

俺の視界の端で蓑虫のように縄でグルグル巻にされた誰かが『ビクッ』と跳ねた。瑠音はそれを見るやいなや、冷たい声で言い放つ。

「アンタはそこで大人しくしときな」

その一言で動かなくなる物体。実に哀れである。

「陽炎…陽炎か…、ふふふ…」

と、俺の真名を確かめるように、何度も口にする彼女の姿に、俺の心臓は爆発寸前だ。
…はて、帰ってくる前は何を悩んでいたんだったかな。彼女に相談して解決しないとヤバイことになるとあれだけ慌てていたのに。

「陽炎?」

まぁ、いいか。思い出せないということは、大して問題ではなかったということだろうし……。



あとがき
クーデレ……書けるかー!!
後で、修正しとくっす(泣)
そして、凱にーさん登場ですの回。



[24492] 十三話.「でないと3日で別れる呪いが発動する」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2010/11/30 22:29
十三話.「でないと3日で別れる呪いが発動する」

Side:孫皓

中庭に急ごしらえで造られている会場。運び込まれる色取り取りの花々。道を作るように敷かれた真っ赤な絨毯。黄蓋隊の兵士や侍女たちが、工面を見ながら忙しそうに走り回って会場設営をしている。

「太史慈、すまない!今の俺ではこれが限界だった」

俺は彼の前で土下座していた。昨日、彼の前であれだけ豪語したのに、半分も用意することが出来なかった。結局、商人の呼び込みも見送られてしまったし…。
これはもう誠心誠意、謝るしかない。

「孫皓、これで十分だよ。というか、このくらいで良かったって思えるよ。ご協力、そして彼を止めてくださってありがとうございます。孫堅さま、周笠さま」

俺の横で腰を摩りつつ苦笑いを浮かべているのは、ここ長沙の太守である孫堅さまと、この国の財布の紐をしっかりと握っている周笠さま。

「ははは、まあね。けど、貴方には期待しているわよ」

「うふふ、そうだな。太史慈、期待しているぞ」

「はっ!……えっ?ちょっと、待ってください。この結婚式を許可したのって、そういう意味も含まれて」

「「いるわよ」」

「…………」

太史慈はがっくりと頭を垂れた。
やはりこの程度では満足してくれないのか。くっ、俺に力がないばっかりに太史慈が…。くそう…。


Side:孫堅

孫皓の背中が燃えている気がする。
それはともかく、昨日は激しかった。結依と2人がかりで相手をしたにも拘らず、今日まで引き摺っているし、あまりの変わり方に蓮華とシャオは引いてしまっていた。まぁ、雪蓮と冥琳ちゃんは身体をもじもじさせていたけどね。
さすがに雪蓮も気付いたよね……、気付いているよね?
太史慈に関しては、祭からどういう人間かっていうのを聴いていたが、一目見て分かった。彼は孫皓の暴走を止める側の人間だと。彼を男として認識しているし、調練にて彼と正面から正々堂々と闘えるくらいの強さを保有しているらしいし、普段や戦場の時に彼がまず防波堤になってくれるはずだ。なら、早いうちに恩を売っておく必要があった。
ついでに、孫皓が部隊を持ったら彼を副官にしよう。そうしてしまえば、うふふふふ…。
けど、いい機会だったかもしれないわね。孫皓が何をしたいのかを聴けて。けど、彼が政務に関われるようになったら、間違いなく私たちの仕事の量が三倍から五倍になるのは避けられないだろう。想像するだけで気が滅入ってしまう。やばい、胃が痛くなって…。

『元気になれぇええええ!!』ドゴーン!!

「は?」

何か城の方から聞こえてきた。

「結依?」

「太史慈の相手の従兄弟で医者の華陀という男が、意匠を作っている者達に喝を入れているそうだ」

「へぇ……意匠?」

「孫皓が『これだけは譲れない』と豪語していた『うぇでぃんぐどれす』というやつだ」

「ああー。確かに言っていたわね」

「あいつ、そんなものも作らせているんですか!?」

太史慈が目を丸くして驚くような声を上げた。

「知っているの?そのうえだ……何とかどれすのこと」

「ええ、まぁ…」

挙動不審な行動をとり始めた彼がなんだか怪しく見えてきた。少なくとも私や結依が知らなかった“モノ”を知っているという反応の仕方。もの凄く、怪しい。
彼が知っていそうで、結依が知らないもの……そうだ。前に孫皓が言っていた。

「ねぇ、太史慈。孫呉って知っている?」

「えっと、孫“権”さまが建国した呉王朝のことのような気がしたけど、何のことだか分かりません!」

はい、黒。結依は首を傾げているけど、彼は冷や汗をだらだら滝のように流している。

「太史慈、結婚式が終わったら少しお話をしましょう」

「うぐぅ…」

彼は身を引いている。だが、私の考えを邪魔する者が1人。

「孫堅さま、それは駄目です。結婚式を終えた新婚2人は初夜を迎えた後、新婚旅行に行かなければならない決まりなんだ。でないと3日で別れるという呪いが発動する」

えー!そんなものをやろうとしている訳なの、孫皓…。

「新婚旅行の行き先は、太史慈に任せるけど、10日くらいでいいか?その間の太史慈の代わりは華陀に手伝ってもらうことになっているから、こっちのことは心配するなよ」

「あ、ああ」

「それに、丁度あっちの準備が整ったみたいだ。太史慈、お前も『タキシード』に着替えるぞ」

「って、そっちも作ったのかよ!?」

なんだか力説しているけど、そんなにいいものなのかしら…。


Side:孫権

「綺麗…」

着付けを手伝っていた侍女たちも、この意匠を作った職人たちも皆『うぇでぃんぐどれす』を着た彼女に見惚れていた。
姉さまや冥琳、ことの成り行きを眺めていた祭まで感嘆の声を上げる。

「瑠音…、きっと死んだ叔父さんも叔母さんも喜んでいると思うぞ」

「兄さん…。うん…」

赤い髪の男の人と『どれす』を着た女性は共に涙を零した。けど、その表情は悲しみではなく、これからに向かっての喜びの表情だった。

そして始まる孫皓姉さまが企画した結婚式。
特設された会場の周りには、溢れんばかりの見物人が集まっていた。祭の部隊の兵たちが仲間を呼び、侍女たちが仕事仲間を引っ張ってくる、何事なのかと出て来た武官や文官の姿もちらほら見える。
突然、拍手喝采が沸き起こった。白い正服を着込んだ体格のいい男が真っ赤な絨毯の上を歩き、会場に上がる。
そこにはすでに紺色の質素な服を着た孫皓姉さまが分厚い本と白い箱を持って立っていた。
そして、騒めきが消える。
一歩一歩、確かめるように歩く花嫁。その隣にはお兄さんが半歩先を歩いていた。けど、途中で花嫁を先に送り出し、彼は立ち止まった。花嫁はそのまま歩み続け会場に上がる。そして、男の人と向き合った。
2人の顔を見た孫皓姉さまが言葉を紡ぐ。

「その健やかなときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか」

男の人はしっかりと頷き、

「誓います」

と、はっきりとした口調で答えた。
女の人も俯きながらだが、

「…誓います」

と、はっきりと述べた。
その言葉を待っていたかのように、白い箱を開け中身を2人に見せる孫皓姉さま。

「指輪の交換を…」

私の位置からだと見えないが、男の人が女の人の左手に何かをつけているようだった。
そして微笑んだ孫皓姉さまは最後に一言。

「誓いのキスを…」

男の人が女の人に近づき『ヴぇーる』を外した。そして、長くて幸せそうな口付けを皆の前でしたのであった。


Side:孫皓

その後はブーケトスをして、結婚式が終わったわけだ。が、まさか説明を求められたからしたけど、あそこまで乱闘になるとは思いもよらなかったなぁ。孫策さまや孫権さまも必死だったし。結局獲ったのは侍女の子だったけど。
やっぱりお爺さまの言うとおり、女性はああいうのを心のどこかで求めているんだな。ふむふむ…。

「少しいいか?」

「ん?どうかしたのか、華陀」

「素晴らしい結婚式だった。天にいる叔父さんも叔母さんも喜んでおられると思う。本当にありがとう。この感謝の意味も籠めて、俺の真名を預けるよ。俺の真名は『凱』だ。よろしくな」

「ああ、こちらこそ。俺は孫皓、真名は鷲蓮だ。……って、ああ!太史慈に真名を教えていないや…。あいつが帰ってきたら教えておこう」

「これだけのものを開いたのに、真名を教えあっていないとは…変な奴らだな」

俺たちは苦笑いしながらも握手を交わしたのだった。



あとがき
まさか太史慈の結婚話で4話も消費するとは…さすが準主人公。
次回ですが少し時系列が跳ぶっすよ。
ちなみに陽炎くんは新婚旅行に出かけてしまったので、コン太がステータス表示するっすよ。

名前:華陀 字:元化 真名:凱
統制3武力4知識(医)9政務3
勇者王的な言葉を時々口にする医者王。麻酔に対してかなりの抵抗力を持つ。瑠音からは基本的にあんな扱いをされることが多い。

じゃ、またよろしくっす。



[24492] 十四話.「『弾丸跋』と名付けよう」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2010/12/01 21:15
十四話.「『弾丸跋』と名付けよう」

Side:太史慈

新婚旅行にて、実家のある故郷の村に帰省してきた。弟分である丁奉に、孫堅さまに仕えているんだぞと自慢して長沙に帰ってきたのだけれど、後悔した。

俺のいない10日の間に、孫皓隊が出来ていた。…まぁ、いいだろう。副官は俺。…予想していたさ。けど、孫皓+華陀=地獄の鍛錬って、ちょっと待てぇえええ!
俺の同期である『いやっふー』な仲間たちは元気ハツラツで『ひゃっほーい』と手合いやら走りこみをしているが、新兵や他の部隊から廻されて来た連中は死に体である。その悲惨さを目にしたら、ああ、涙が止まらない。
しかも、華陀という医者王が仲間としているため、倒れても『元気になれぇえええ!』でゾンビのように復活する破目になる。そして、繰り返される地獄。
ストッパーは?こうなるまでに止める役のストッパーはいなかったのかよ!って、俺かぁあああ!!
急に背後から気配を感じて振り向くとニコニコと笑顔を浮かべた孫皓がいた。

「おかえり、太史慈。待っていたよ。そして、俺の真名は『鷲蓮』だ。今まで伝えるのを忘れていたんだ、ごめん」

「あ、ああ。本当にいきなりだな。けど、この前は本当にありがとう。あ、俺は『陽炎』だ。改めて、よろしく」

「こちらこそ。……ジャア、カゲロウモイッショニ、タンレンシヨウカ」

と、ギラギラと輝く黄金色の瞳と吊り上げられる口端。俺は一瞬、意識を刈られかけた。
孫堅さまや周笠さまが、俺のことを追及せず「隊に行きなさい」と告げたのはこれが原因か!


鍛錬初日
孫皓と手合い→復活→手合い→復活→手合いのエンドレス組み手。周りで見守っている連中は口では声援しながらも目で語っている。『孫皓を引き付けておいてくれ』と。
家に帰って瑠音とにゃんにゃんする予定だったのに……ぐふっ…。もう死なせてくれ…。

2日目
H×Hの水見式をやらされた。
そんなの反応するわけがないと言ったが、水の量が増えた。強化系?
それを見ていた孫皓の目が『キュッピーン』と光った。その後は、ガクガクブルブル…

3日目
川岸まで連れてこられて小石を手渡された。
うん、知っているさ。このシチュエーションはよぉおお!
5日で「二重の極み」をやれって、原作よりも短くなってんじゃねえか!チクショー!!

8日目
今までの怨みも籠めて、孫皓とエンドレス組み手(2回目)。
瞬殺→復活→善戦→復活→瞬殺の繰り返し。
強すぎるのも問題があると思う。

13日目~18日目
孫堅さまから山賊討伐の命令を下された。
行きはルンルン。帰りはガックリ、なーんだ?
ちなみに討伐は、作戦?なにそれ、美味しいの?状態で楽勝だった。

20日目
孫皓に無理難題を吹っかけて、俺たちは楽をしようという話となり、俺は持っていた前世の記憶で流行っていた海賊王の物語の『六式』について、うろ覚えの知識を彼の前で語った。勿論、身振り手振りのみである。
作戦は成功し、俺たちは束の間の安息を得た。

24日目
孫皓が『六式』全てをマスターした。してしまった。
ヤバイ、どうしよう!予想外だ!
彼の強さがカンストしてしまった気がする。俺か、俺が悪いのかぁあああ!!

25日目~28日目
楽をしたツケが回ってきた。
始まってしまった六式の訓練。孫皓の地獄の鍛錬と華陀の容赦ない復活のおかげで、俺たちは六式のひとつである『鉄塊』を会得した。
鎧?なにそれ、必要なの?状態だ。

とりあえず、孫皓を産んだ父親と母親、それから彼の価値観を作ったらしいお祖父さんに呪いの言葉を送りたい……。


Side:孫堅

「孫皓に隊を持たせたのは、早計だったな…」

と、隣で太史慈からの報告を聞いていた結依が呟いた。

「何よ、結成する時は諸手を挙げて賛成していたのに…」

「うっ……、だがこのようになるなんて誰が予想できた?」

そんなこと言われなくても分かっているわよ。
たった一ヶ月で何者も寄せ付けない強さを手に入れた孫皓隊の処遇について、私たちは決めかねていた。
太史慈が帰ってきたから、全部丸投げしたのだがそれも失敗だった。まさか彼も取り込まれるとは考えていなかったのだ。
ただ、一段落ついたのか、あれだけ燃えていた彼から覇気が消失した。ここ一ヶ月、毎晩相手をさせられてきたのだが、鍛錬を終えた日から私たちは静かな夜を過ごしている。
太史慈に話を聞いたところによると、背景まで真っ白にしてしまう程燃え尽きてしまっているらしい。
雪蓮が目の前で誘おうが、蓮華が涙目で訴えようが、シャオが顔を突こうが反応がないようだ。

「どうしたのよ…一体」

何かが起こる前触れなの?

「俺だと孫皓の内部については分からないので、華陀を連れてきています」

「………話の途中、申し訳ないんだが。あれは俺の所為だと思う」

孫皓の鍛錬に一ヶ月も付き合わされた彼が、自分が原因だという。一体、どういうことなのか。

「ああ、彼が周囲の人間に“男”として見られたいと言うのでな、彼の中にある男としての本能を高める薬を調合して飲ませたんだ。どういう訳か、彼の中で今まで蓄積されていた何らかの力が爆発的に増大したことによってああいう風な状態を引き起こし、……まぁ、あのように燃え尽きる結果になったんだと思う。薬の方は、『弾丸跋(X)』と名付けようと思っている」

「「「…………」」」

太史慈が静かに深呼吸をした。そしていきなり華陀に向かって右拳を放つ。
それをギリギリで避ける彼だったが、彼の後ろにあった壁が文字通り“粉砕”された。

「お前か!お前の所為かぁああああ!!」

逃げる華陀、追いかける太史慈。私の執務室をある程度破壊して行ってくれた彼らの姿はもうない。
とりあえず、職人を手配しなきゃならないみたいね…はぁ……。


後日、意識を取り戻した孫皓は、この一ヶ月に及ぶ激動の記憶を覚えていなかった。


あとがき
孫皓、太史慈、華陀、ついでに一刀も自重しろっていう回でしたっす。
しかし、題の所にクロスオーバーって加えるべきですかね?




[24492] 十五話.「お姉ちゃん…、何もないんだけど?」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2010/12/02 12:29
十五話.「お姉ちゃん…、何もないんだけど?」※無茶しすぎかも

Side:孫堅

その日、玉座の間に居た人間の全てが凍った。彼のこの一言で…

「周笠さま、娘さんを下さい!」

私は口を開けて唖然とし、結依は耳がおかしくなったのかと首を傾げ、言われた本人は熟した桃のように真っ赤に頬を染め、雪蓮は剣を構えて臨戦態勢。彼女の目は物語っている『私の冥琳は渡さない!』そして『なんで私じゃないの?』と…。他にいた諸侯は「ほう…」や「これは中々」と感心しているようなしていないような反応をしていた。
孫皓の後ろにいた太史慈は、天を仰いだ。そして死んだ魚のような目をした彼は、孫皓の後頭部にその何でも粉砕してきた右拳を放った。しかし当たったもののそれ程衝撃は来なかったのか、孫皓はピンピンしている。

「いや、嫁に欲しいって言ったんじゃなくて、軍師が欲しいんですが」

あ、なるほどね。結依もそれを聴いて安心したようなちょっと残念なような微妙な表情を浮かべている。冥琳ちゃんは感情が顕著に表れていてがっくりと肩を落とし、雪蓮は行き場のなくなった剣の行き先をどうしようか慌てふためいている。

「軍師が欲しいのね、孫皓」

「ええ。隊を発足させていただいたし、これから賊の討伐や領土を増やすための戦いも増えるでしょうし、いつまでも作戦を考えないで戦っていくのは不可能ですし。それに、そんな戦い方を続けていけば死傷者が必ず出てしまう」

「(孫皓隊から死傷者が出ることは確実にねぇよ…、六式の『鉄塊』に華陀の『復活』もあるんだぞ)」ぼそり

孫皓が必死になって説明する中で、なんか太史慈の呟きが聞こえたような気がしたけど。
確かに孫皓の戦い方は危ういものだ。今までは雑魚で人数の少ない山賊や江賊を相手だったからどうってこともなかったが、これから相手していかなければならないのは、鍛え上げられた正規の軍。確かに孫皓隊の手綱を握れるものが欲しい。私は仕えている文官らを見る。見たのだが、全員に目を逸らされた。ついでに武官らも見る。しかし全員に逸らされた。ついでに結依も見てみた。彼女は私の視線に気付いた後、激しく首を横に振った。
雪蓮と冥琳ちゃんを彼の部隊に入れるっていうのも選択肢としては『あり』なんだろうけど、雪蓮が孫皓の自由奔放さを真似してしまった場合、最後の砦である冥琳ちゃんが心労で倒れる。これは確実である。

「太史慈、何かいい案はないの?」

「ぶはっ!?こんなにも優秀そうな文官が揃っているのに、俺に意見を訊きますか!!」

「だってぇ……ねぇ?」

私はちょっと目を細めた。私から溢れ出した気に圧されたのか、太史慈は腕を組んで悩み始めた。ごめんね、孫皓のハチャメチャぶりに今いる文官たちは、自分の手には負えないって確信しているのよ。私や結依も含めてね。

「俺は、新しい人材の確保を提案します。例を挙げるとすれば魯粛さまなどいかがでしょうか」

「…魯粛?結依、知っている?」

「いや…、誰かあるか?」

彼女は話を聞いていたであろう諸侯らに質問を投げ掛けた。
まさか結依も知らない人間の名を挙げるとは、彼も賭け事が好きね。いや、未来を知っているが故か。
孫皓はそこら辺気にしないだろうし、自称『過去には興味ありません』だもんね。うぅ、何か泣きたくなってきた…。

「確か居巣に住んでいる名士の娘さんのはずですが…いや、しかし…」

初老の文官が1人手を上げ前に出てきた。

「何か問題があるの?」

「はぁ。施しを盛んにしたり、家業を放り出したり、財産を投げ打ってまで困っているものに手を差し伸べたりという……、その誠に言い難いのですが、『魯家に、気違いの娘が生まれた』とも言われている者のことかと…」

うわぁ…。それを聴いていた諸侯らの顔もちょっと怪しくなった。
まさか、そこまで言うのかと、憤怒の表情を見せている太史慈の気持ちも分からないでもないが……って、何で彼が私の真正面にいるの?あれ孫皓は、何処に?

「結依……孫皓は?」

「うん?……はて?」

玉座の間を見渡すが、彼の姿は無い。というか、雪蓮の姿もない。冥琳ちゃんは、隣にいたはずの雪蓮と目の前にいたはずの孫皓の姿がいなくなっているのに今、気づいたのか挙動不審になっている。

「まさか……」

「その、まさかでしょうね。孫堅さま」

太史慈の言葉で、玉座の間に沈黙に満ちた、そして…絶叫が響き渡った。


Side:孫策

今、私はお姉ちゃんの後を追って馬を走らせている。
お姉ちゃんの部下である太史慈が「魯粛」という人物の名前、そして文官から「居巣」という地名を聞いた瞬間に彼女は玉座の間から抜け出していた。ここらへんお姉ちゃんは彼のことを信頼しているのよね。ちょっとだけ羨ましい。
お姉ちゃんは自室に戻った後、すぐに旅支度をして出てきた。私も皮袋に最低限いるものと剣を腰に付けて、彼女の後を追った。まさか馬を借りるとは思っていなかったけど、代金はお姉ちゃんが立て替えてくれた。うぅ、ちょっぴり嬉しかったりする。

朝議の中でお姉ちゃんが私を差し置いて『冥琳を欲しい』って言ったときはちょっとむかって来たけど。こんな形で2人きりになれるとは、どこにいるかも分からない神さまにちょっとだけ感謝しなきゃね。
お姉ちゃんの話を聞いたんだけど、一端は馬を走らせて移動するけど後は船で移動するんだって。船旅かぁ、いいなぁ。
私は帰ったら折檻されるんだろうなぁと思いつつも、お姉ちゃんとの旅を楽しみにしていたのだった。

岳陽で馬を引き払い、私たちは商船に乗せてもらって河を下る。
私は旅の中でお姉ちゃんと交友を深めながら、彼女の話を聞いたり鍛錬をつけてもらったりしていた。夜は抱きしめ合って眠ることは度々あったし、お姉ちゃんが考えていることの壮大さにちょっと顔を引き攣らせることもした。

そして、降り立った地は……

「お姉ちゃん…、何もないんだけど?」

「うん。ここにはまだ何もないけど、今から造っていくつもり。長沙や、いや洛陽に負けないくらいの都をね」

「ふぇ?……えぇええええ!!」

「さって、せっかくここまで来たんだし、下地作りも兼ねて職人を雇って造っていこうか」

「魯粛さんの所へは行かないの?」

「行くよ。ここに造るものがある程度分かるくらいになったらね」

「何年掛けるつもりなのぉおおお!!」

お姉ちゃんは私の数倍、自由奔放でした。母さま、冥琳、いつも好き勝手してごめんね。次から少し自重するわ…。


1週目
何もない荒野だったはずなのに、たった1週間で村規模まで作り上げてしまうその手腕、私は職人さんたちを褒めればいいの?それとも、現場で指揮しているお姉ちゃんを褒めればいいの?今は遠い地にいる冥琳、教えて…。
『貴女の自業自得よ…』と彼女の声が聞こえて来た気がした。

2週目
城壁の外側にも職人さんを率いて何らかの説明をしているお姉ちゃん。私は手伝えることがなくて今日も剣を振るう。
無人だった村には、職人さんの家族が引っ越してきた。子供たちと一緒に遊んでいると日が暮れるのも早く感じる。
今日の晩ご飯は職人さんたちの中でも高齢になる老夫婦のところでご飯を一緒に食べた。母さまのご飯が愛おしく感じた。

3週目
街ひとつ出来るくらいまで大きくなっていた。それに比例して住む人が増えた。
私はいつの間にか太守の真似事をさせられていた。3公7民って何?治水工事?治安維持?山越の民との和睦?
冥琳の存在がこんなにも愛おしいと思ったことはない。早く彼女に会いたい、だが会えない。何これ!!

4週目
様子を見に来た祭率いる黄蓋隊を、街の中に入るやいなや私が創設した親衛隊の者たちに捕らえさせた。

「ふふふ、思春、いい子、いい子」

「はっ!ありがとうございます」

ちなみにこの子は甘寧、字は興覇。上流からきた舟に背中に大きな傷を負って倒れているところをこの街の住人に保護されて、街に出来た“病院”に運び込まれて治療を受けていた。無一文だったらしく『働いて返す』と言ったみたいなので、私の親衛隊に入ってもらった。
剣の腕もいいし、性格も真面目で、蓮華と気が合うかもしれない。うふふ…いつになったら帰れるのかなぁ。蓮華、シャオ……会いたいよー。

5週目
祭に長沙にいる皆に宛てて書いた手紙を渡した。
とりあえず、私は元気です。心配しないで下さいと書いた。
街の方は、凄い速さで出来上がっていっている。城壁の組み立てに入った。
そしていつの間にか私の隣には、紺碧の長い艶やかな髪を持つちょっと毒舌な女性が、書類を片付けるようになっていた。
名前は魯粛。お姉ちゃんがここに来る切っ掛けを作った人である。お姉ちゃんはいつの間にか彼女を口説き落としていた。凄い手腕である。

「顔は同じなのに、貴女は子供っぽいわね」

と言われた、放って置いて欲しい。

6週目
私たちは今まで仮住まいで仕事をしてきたが、その必要もなくなった。
なんと、大きな城が建っていたのだ。
あまりの出来に毒舌な言葉しか吐かない魯粛が感嘆の声を洩らし、その瞬間に頬を染めて周囲を睨んだ。

「魯粛…貴女も可愛い所あるのね」

「うるさい!頭がお天気なぱーぷー娘」

「ぶーぶー!頭がお天気ってどういうことよ」

「そういうことよ!」

彼女とは仲良く出来なさそうだ。

7週目
母さまたちが呆然とした顔で長沙の民を引き連れて引越ししてきた。
私は思わず母さまに抱きつき、冥琳に頬ずりし、蓮華の唇を奪い、シャオを高い高いした。
蓮華が頬を真っ赤に染めて抗議してきたが、それも気持ちいい!これが家族、私が愛おしいと思っているもの。そして、私が守らないといけない大切なものなんだと、はっきりと再確認した。

8週目
ついに完成した。
ひとつの都を造るのにはあまりにも早い完成だが、細かいところは追々造り足していくそうだ。
この都に名前をつける必要があったが、母さまの『建業』で一致した。
私たちはこの建業を中心に江東の民を守っていくのだと、意思を固めるのであった。


Side:太史慈

孫堅さまも甘かったな。つーか、俺もか。
孫皓が企画した結婚式は、大陸に波紋を起こした。それはもう盛大に。
「あれじゃなきゃ嫌だ」と、世の女性は言い相手の男を困らせる。男は商人に結婚式の詳細を聞く。だが、その商人に願いをかなえるだけの情報はない。そこで孫皓自身に訊きに来る。
孫皓はお金に関しては無関心だったらしいので無償で商人に情報を渡した。そうやって世の女性のニーズに応えた孫皓式の結婚式は、江東だけでなく北の方でもされるようになった。『ウェデイングドレス』の意匠を考えるのは彼の仕事だった。この大陸で生きてきた職人たちは、己の価値観に邪魔されていいものが作れなかったのだ。というか、孫皓もそうであるはずなのになんで作れる?
そんなこんなで一大企業が作れそうな雰囲気で次々と結婚式を成功させていったそうな。
そして、ある日。孫皓から情報を得た商人たちが恩返しに来たのだった。
まぁ、これが『建業』を造る事が出来た財源だっていうことだ。しかも、まだ余っているというから恐ろしい所である。
魯粛参入の際にも、3千石貰ってきたようなのでちゃっかりしていると思う。

けど、ひとつだけ言っていいか、孫皓。
武将を雇うのは構わないんだが、何故に軍師が魯粛1人なんだ?
軍師の人数が増えなきゃ意味がないだろうがぁあああ!!


追加メンバー

甘寧(孫策さまの親衛隊)

蒋欽(方向音痴の暗殺者)

周泰(お猫さま命の忍び娘)

丁奉(引越しする際についてきた)

魯粛(毒舌軍師)

しかもキャラが濃いし…、孫皓の馬鹿ぁああああ!!



Side:甘寧

私は孫策さまに仕える以前は、江賊の1人として生きてきた。
人から物を奪うのは当然やってきた。物だけでなく、命も…。
しかし、心に隙があったのか私は背中に一太刀を受け、昏睡。下流へ流されてしまった。
こうなってしまえば、私の命もこれまでだ。恐らく、慰み者もしくは見捨てられ河の上か海の上で死ぬものだと思っていた。
だが、私は治療を受け生き永らえた。
治療をしてくれた老夫婦は無一文であった私に治療費は要らないと言ってくれた。
人の優しさをまともに受けてこなかった私には、老夫婦の優しさは醜き畜生道に堕ちた“私”を決壊させるには十分だった。私は泣いた。泣いて泣いて泣き続けた。
夜が明けた時、私は老夫婦に身体を売ってでもお金は返すと言った。

「私たちはそういうつもりで助けたんじゃないのよ」

とお婆さんが私の手を握り、目を見て言う。

「ワシたちにも娘がいたのじゃ。じゃがな、高い税が災いして娘が病気になったとき薬も買ってやれんで見殺しにしてしまったことがあるんじゃ」

とお爺さんは涙を零しながら私の頭を優しく撫でてくれる。

「ここを造っている方はね、妹さんと一緒に私たち民の為に、皆が笑って暮らせる国を作ろうとしていらっしゃるの。だから、思春ちゃんもそんな顔はしないで、笑って」

私はお婆さんの言葉を胸に、孫伯符さまがいる城に向かった。救ってもらった命を“私”が「私」として生きられるように、堅気の道へ進ませる。
ただ、孫伯符さまがいるという城が建っていなくて、建設中の街をあっちへフラフラ、こっちへフラフラ彷徨っていたら、ここに住んでいた人たちから出来立てホカホカの肉まんをいただくことになり、また涙を流すことになったのは余談である。



あとがき
長沙から新築『建業』へのお引越し。
次回からVS劉表・黄祖編へと入っていく予定っす。


太史慈の部屋
いや、さすがにこれはない。2ヶ月で作るとか無理だし。
ご都合主義と諦めてもらうしかないよな。申し訳ない、読者の皆様。

では、アンケート実施。
ズバリ聞くわよ『孫堅ママの今後』
黄祖っていう死亡フラグがいる以上、しかも孫呉弱体をするためにも、孫堅ママの弱体化は必須らしい、作者の話ではな。

案としては

①怪我するも生存…だが病に掛かる。

②怪我するも生存…だが身体が目に見えて衰える。

③D…

の3つである。
上記以外でこれがいいんじゃないかという意見のある人はどしどし感想を下さいってよ。
明るい話をモットーに書いているから、悲しい話が続くとやる気ががた落ちになるみたいよ、作者の奴。

じゃ、よろしく。



[24492] 番外編.「ここが最初のターニングポイントなのですよ、4代目」※ちょっと修正
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2010/12/03 11:53
番外編.「ここが最初のターニングポイントなのですよ、4代目」

Side:孫皓

誰かに呼ばれている気がして、俺は孫家に代々引き継がれてきた宝剣『南海覇王』を片手に自室を出た。
冷たい風が寝ぼけていた俺の意識を覚醒へと促す。
月の灯りが道を照らす。俺はその中を歩く。人の姿は無い。静かな夜だ。
俺は城壁の階段を一段ずつ確認するように上がり、久方ぶりに彼女に会った。

「お久しぶりですね、4代目」

「まだ、孫亮叔母さまは健在だが?」

相変わらず怪しい格好をした自称占い師・管輅が話しかけてきたのだった。

「どうです、この世界は?」

「どう…と言われてもなんと答えればいい?心地がいい…か。それとも充実している…か」

彼女はくすりと微笑んだ。

「貴方が望んだことですよ。自分の力を群雄が犇めく世で試してみたい…と。私はそれを叶えて、この世界へ案内した。貴方は自分の望み通りに動かれている」

「……お前が言っていた、倒さなければならない敵っていうのは?」

「敢えて言うのであれば、4代目。貴方自身ということになります」

俺自身…か。薄々、そんな気はしていたが…。

「そして、ここからが本番。なにせ、4代目貴方がここでどう動くかによってこの国は強国として存在し続けるか、民や部下を苦しめる、弱小の武装集団に成り果てるかが決まるのですから」

孫堅さまには建前上、『過去には興味がない』と言ったが話くらいは聞いたことがある。何故、袁術如きの客将を孫策さまたちがしていたのかくらいは。
呉の弱小化の理由は、孫呉の礎を築きそして領土を順調に広げていっていた孫堅さまの死が切っ掛けだった。彼女が死ぬことによって、王を継ぐことになった若き日の孫策さまの実力や思いの弱さに孫堅さまに従っていた諸侯が次々と離反、気付けば10人程までに勢力が減少してしまっていたのだ。

「4代目、貴方が率いる孫皓隊は、現在は100人ほどですが彼らを討てる者はこの大陸を探してもおらぬでしょう。もし孫文台が死ぬことになったとしても、貴方が孫伯符の側にいれば諸侯らは離反など愚かな真似をすることはないでしょう。彼らが孫伯符から離れることは、貴方に敵対すると同義語ですからね」

「……俺は民を苦しめる真似なんて絶対にしない。何より孫堅さまを死なせたくない。孫策さまや孫権さま、尚香さまが泣く姿を見たくない」

管輅は俺に背を向けて両手を月に向かって広げる。そして、一呼吸を置いて語り始めた。

「史実では、孫呉は4代目、貴方を最期の王に滅んでしまう。けど、“彼”が創った外史から生まれた貴方なら孫呉を滅ぼすことなく繁栄させ続けていけると思いました。しかし、あの外史は“彼”の死によってどうやっても閉じられてしまう。ならば、貴方を“彼”を受け入れる前の外史に連れて来さえすれば、私は未来(さき)を見ることが出来るのでは無いかと考えました。そうして、迎えた最初のターニングポイントなのですよ、4代目」

彼女は俺の方に振り向き答えを問う。

「貴方はどうなさいますか、孫呉4代目の王よ」

「俺は―――――」


Side:孫権

いつまで経っても起きて来ない孫皓姉さまを起こしに部屋に行ったけど、彼女の姿は無かった。
私はシャオを連れて城の中を探して回ったが探し出すことが出来なかった。
途中から姉さまと冥琳、そして甘寧率いる親衛隊も参加して彼女を探して回った。
彼女を見つけたと聞いたのは、陽が完全に昇りきったお昼時だった。
彼女は城壁の上で眠っていたらしい。
姉さまは「人騒がせな」と言いつつも何事も無くてよかったと呟いた。冥琳も同じ気持ちのようだ。
起きた孫皓姉さまは、身体を軽く動かした後足早に城へ向かうように歩き始めた。

「孫皓…具合悪いなら、今日はゆっくり休んだほうがいいわ」

「ん。大丈夫ですよ、孫権さま。ちょっと、頑張ろうかなって思っただけですから」

「ええー。お姉ちゃんが今まで頑張っていないんだったら、私は何もしていないのと同じじゃない。ぶーぶー」

「ふふふ。大丈夫ですよ、孫策さま。貴女には周瑜さまも甘寧も、そして私がずっと側にいますから」

この言葉を聞いた姉さまは頬を真っ赤に染めて、その場に硬直した。その後、すぐに歩き出したが手と足が一緒に出ている。今のはさすがに不意打ち過ぎる。
私や冥琳は自分が言われたんじゃないにも関わらず頬を染めてしまった。唯一、甘寧だけが憮然としている。

「私はすることがあるから、先に城に行きますね。では…」

そう言って孫皓姉さまは走り去ってしまった。
残された私たちはこれからどうしようかと悩むのだが、それは少し経ってからの話である。



あとがき
ええと、すみません。
孫皓がこの世界に来たのは彼と彼女の利害が一致していたからということで、どうかご容赦をっす。
それから、アンケートに答えていただきありがとうございます。

皆様の意見を吟味させていただいた結果、

「孫堅ママの生存」

「2人の妊娠」

「原作ブレイク」

の方向で書いていきたいと思います。ちなみにそこまで行くのに、後何話か挟む予定。延ばし延ばしですみませんっす。



[24492] 十六話.「鬼が出た」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2010/12/03 11:40
十六話.「鬼が出た」※手抜きと言わないで…

Side:太史慈

建業に越してきて1年ほど経った。
孫皓は、一時的に行方不明になった日から、蒋欽率いる暗部にちょくちょく偵察の命令を下したり、華陀と俺の嫁さんに新薬や特効薬の開発・後輩育成を依頼したり、泳げないのに江賊や海賊の討伐に出かけたりと奮戦してきた。しかし、孫皓隊の人員は100人から増えなかった。実力の差がありすぎるのだ。しかも最近20人減ったし。

「なぁ、魯粛。隊の人員を増やしたいのだが、山越族はどうやったら取り込めると思う?」

「…態々、彼らを取り込まなくても集められるのに、馬鹿なの?貴方」

「どうせ、和睦もしくは服従させないといけないんだ。早い方がいいに決まっている」

「どうせ、貴方の独断なんでしょうけど、彼らは一味違うわよ。なんせ、彼らの首領は馬鹿だもの」

俺の前で平然と進められる山越族攻略の話。確かに孫皓隊は80人と孫堅さまの軍の中では最少だが、その少ない人員をカバーするために異民族である山越族を当てようというのだから恐ろしい。確かに山越は孫権さまの代でほぼ従属させることに成功させていたらしいが、この世界はまだ対立状態の真っ只中だ。下手したら彼らとの戦争もありえなくもない。

大体、孫皓は凄すぎるのだ。普段はブレーキに必要なネジが一本取れた暴走機関車のようなやつだが、ここぞという所では決めてくる。賊の討伐も損害零で終えたり、2ヶ月で建業を建設したり、作物の収集具合だって馬鹿げていると思うくらい成果を挙げている。『屯田兵』や『兵農一体』の理念を諸侯らに説明して回り、今では建業の周囲は全て米か麦が実を生らしている。河まで水を汲みに行かなくていいように水路も整備されている。造船技術もいつの間にか向上させ、海鮮物の輸入もされるようになった。ただカマボコとかすり身などの加工品にされて運び込まれるのを見たとき、俺は眩暈がした。

これだけやられると孫堅さまに仕えている文官たちが可哀想だ。徹夜は当たり前だろう。最近は孫堅さまも執務室から出れないと嘆いているようだし、孫策さまも借り出されるようになったらしい。周家のお二方は言う必要もないだろう。
黄蓋さまは兵たちを連れて山賊討伐に出かけていることが多い。余程、政務がしたくないようだ。
孫皓も自らすることがあるのだが、効率がいいためさっさと自分の物を終わらせてどこかへ行ってしまう。
武力チートで政務チートってありなのか、この世界。

「山越族の首領で目聡いのは4人。黄乱、尤突、藩臨、費セン。若手に厳白虎と呼ばれる者もいるみたいよ」

「その5人を叩き潰せばいいのか」

って、おいぃいい!!無理無理、山越の兵士は『呉志』によると十五万ほどいたらしいんだぞ。

「所詮、奴らの首領など族で一番強いものがなるのですから、潰しても蛆の様に湧いて出てきます。孫皓さまとは違いましてよ」

魯粛は何をどうやって孫皓に口説き落とされたのかは知らんが、もの凄く信頼している。信頼といえば、暗部を率いている蒋欽。彼女の場合、信頼ではなく心酔の域に達しているから驚きだ。彼女自身、暗殺者としての腕や指揮能力は高いのだが、如何せん極度の方向音痴が災いしてどこに行っても、雇われなかったらしい。主君になってくれる人を探している途中で、捨て子だった少女・周泰を拾い自分の後継者として鍛えながら彷徨い歩き、この度めでたく孫皓という主君を得たのだった。
彼女の部下になった元孫皓隊の『いやっふー』な仲間たち20人は、近隣の諸国に工作員として潜入情報収集を行っている。最近では荊州の劉表や、袁両家の動きを探っているらしく、孫皓の部屋の上に特設された蒋欽の隠し部屋には機密情報が山ほど集まっているらしい。……蒋欽は最近、孫皓の護衛者からストーカーに進化したようだ。ヤンデレに進化するまであと――くらいだろう。

「あの覗き魔からは何も情報はないのですか」

「誰が、覗き魔ですかー!私は由緒正しい、孫皓さまの雌猫ですよー!いい間違えました、奴隷ですよー!」

「悪くなっているぞ、蒋欽」

「摩耶の話は7割聞き流したほうがおもしろいぞ、陽炎」

酷っ!?それはあんまりだろう…と彼女の顔を見たら頬を染めて悦んでいた。こいつ、真性のマゾだ。

「孫皓さまー、もっとー。罵ってー」

彼女の独特な語尾を延ばすような話し方に魯粛の額に青筋が浮かんでいく。また、この修羅場か。耳栓は…っと。装着完了。

「「―――!!―――。――!?――――!!!」」

さすが華陀だね。いい仕事している。真っ赤になって憤慨する魯粛と、髪の毛を逆立てて威嚇する蒋欽。
その中で考え事をする孫皓。やはり、こいつは大物すぎるわ。

「で、どうすることにしたんだ?」

「魯粛の話だと、山越の奴らは弱肉強食ということなので、殴り合いをしてこようと思う」

俺の脳裏に山越の奴らを千切っては投げ、千切っては投げる姿の孫皓が浮かんだ。
蜀王である劉備は孟獲と同盟を結ぶ際に7回倒し8回目で降伏させたという。

孫皓は何殺しで済ませるのだろうか…不安で、不憫でしょうがない。


Side:厳白虎

鬼が出た。
最近、建業なんていうふざけた都をオレたちが住む場所の目と鼻の先に作りやがった奴が、カチコミしてきた。
全員で殴って蹴って、ボコボコにしてあいつ等の都に送り返そうとしたら、全員ボコボコになるまで殴られ、蹴られ、投げ飛ばされて、追撃された。鬼だ、鬼畜だ、熊も猪もしてこないような執拗な攻撃だった。
オレの名前が厳白虎だと知ると奴の狙いはオレに絞られた。
オレの配下の連中は無責任な声援を送ってきやがるくせに、援護はしない。泣いた、全オレが泣いた。なんでオレがこんな目に合わなきゃなんねぇんだよぉおおお!

鬼畜+厳白虎隊200人追加(と書いて服従と読む)

最初に助けに来てくれたのは黄乱の姐さんだった。姐さんの武器はとてつもなくでかい大槌だ。あれに当たれば、骨は『グチャッ』と音を立てて潰れる。勝ったな、と思っていた時間があった。

「ウチらの縄張りで好き勝手したんだ覚悟はあるよなぁ!うらぁあああ!!」

『ガッ』

「何!?ウチの大槌を片手で止めるなんて」

フルボッコタイム―――

「ごめんなさいごめんさいごめんなさいごめんなさい……」

黄乱の姐さんが負けた。遠心力の加えられた強力な姐さんの大槌の攻撃は軽く無効化され、姐さんは(一応情けだったのか)顔以外を殴る蹴るされ降伏した。勿論姐さんの配下の連中もだ。

鬼畜+厳白虎隊200人+黄乱隊500人追加

次に助けに来てくれたのは、物静かな装いとは裏腹に鞭で攻め立てることが大好きな尤突の姉さん。

「ふふふ。豚のような悲鳴をあげなさい!シッ!!」

目で追える速さではない鞭の軌道。さすがにこの鬼畜もこれで終りだと思っていた時間が少しだけあった。

『パシッ』

「「「なっ!?」」」

初見で尤突の姉さんの鞭の軌道を見切り掴んだのだ。
その直後、鬼畜の姿が消えた。

「きゃうっ」

って、今の可愛い声は誰の?……うそぉ。気付いた時には尤突の姉さんが自分の武器であったはずの鞭で縛り上げられ、虐められていた。最初は抵抗していた尤突の姉さんだったが、いつの間にやら艶っぽい声を洩らし自ら鬼畜に絶対服従を誓った。彼女の部下の奴らは全員「「「私も虐めてください、お姉さまぁあああ」」」な状態であった。

鬼畜+厳白虎隊200人+黄乱隊500人+尤突隊200人(女性のみ)追加

次に助け?に来てくれたのは藩臨の姉御だった。
彼女は配下を持たない。なぜなら必要ないから。彼女は剛刀と呼ばれる剣を扱う、一匹狼だ。その強さは山越族一の強さだ。絶対に姉御は勝つ……勝ってくれなかったら、オレたちの敗北は確定だ。

「……逝く」

姉御は剛刀を大上段に構え地を駆けた。姉御の強さの特徴は力ではなく、その疾さである。一瞬で距離を詰め、一刀両断の名の元に手を屠ってきた。けど、その強さである疾さを上回られたら?
姉御が剛刀を振り下ろした先に鬼畜の姿は無い。姉御は剛刀を握る右手首を掴まれ投げられた。そして背中から叩きつけられ咳き込む。やっと調子を取り戻した彼女の目の前に己の武器を向ける鬼畜の姿……姉御は適わないと、鬼畜に頭を垂れた。

鬼畜+厳白虎200人+黄乱隊500人+尤突隊200人(女性のみ)+藩臨追加

最後にやってきた彼女には悪いが…

「主、ひと思いにやっちゃってくれ」

「うむ。この馬鹿に目に物を見せてやってくれい」

「あぁん、お姉さまぁあんん」

「諦めろ。費桟、お前じゃ敵わん」

「助けに来たのに、その言い様!?」

馬に跨ってやってきたのは、費桟という軍師。自らは戦えなくもないがオレよりも弱い。彼女は巧く兵を指揮して戦いに勝つような人間なので、彼女の配下が鬼畜と闘うわけだが……全員の目が物語っている、姉御に勝った鬼畜に勝てるはずがないと。

「うぅ…皆さん、私の強さを今ここに再認識させてやりますわ!皆、方円陣で彼を囲むのです!……って、あら、何でこちらに来るんですの?…ひゃわーーー!?」

哀れ、配下に差し出される軍師。
そして、彼女の前に立つのは見事首領3人とオレを容易く突破してきた鬼畜の主。

「ひゃわ…わわわわわわわ」

後ずさりたいのだが下がれないといったところだろうか。

「私の名前は孫元宋。……シタガッテクレルワヨネ?」

「「「「「一生、逆らいません!!」」」」」

オレたち、山越賊はこうして鬼畜…孫皓さまの配下に加わるのであった。
この話を聞いた山越の民は鬼神として孫皓さまを認識し、彼女が死ぬまで絶対に逆らわないということを皆で誓い合ったらしい。

鬼畜+厳白虎200人+黄乱隊500人+尤突隊200人(女性のみ)+藩臨+費桟隊500人(本人は軍師)追加


Side:太史慈

孫皓が帰ってきた。マジで山越族を相手に戦争してきたらしく、配下を増やしてきた。
合計すると1500人前後になるようだ。将軍4人に軍師1人か……また武官が増えるだけの結果かよ!
最近、胃薬の効力が弱まってきたのか、すげー痛い。
嫁さんに新しいのを貰おう。そして、ついでに孫堅さまにも差し入れに行こう。

後日、新しく入った4人と戦わされた。孫皓の相手をさせられている俺にとっては、彼女たちの攻撃など子供のお遊戯レベル…負けるはずがなかった。

厳白虎に『兄貴』と呼ばれるようになった。

藩臨に『超えるべき壁』として認識された。

黄乱には『酒飲み仲間』として黄蓋さまを紹介しておいた。

尤突は魯粛と蒋欽と『姦々しい猥談』を繰り広げるようになった。

費桟に『相談相手』に認定された。彼女も時々胃が痛くなるときがあるようなので、俺愛用の胃薬を渡しておいた。


『孫呉の未来は大丈夫なのだろうか』と、城壁の上で黄昏ていたら、丁奉に慰められた。

「孫皓の馬鹿野ろぉおおおおおおおううううう!!」

俺の叫びは夕日に届いたのだろうか。



あとがき
チートだなぁ…建業建設に引き続き。
あとは、まかせたっす。



太史慈の部屋
ちょっと待てや!作者ぁああああ―――!!
くそぅ。いきなり5人もオリキャラ追加かよ。蒋欽と魯粛の紹介も終わっていないのに!
ボクもだよ、かげ兄。
って、丸!?
さっさとやらないと皆の夏休みの宿題みたいになっちゃうから、今日は魯粛さんと蒋欽さん、それからボクのステータスを紹介するね。
いいぞ、丸。どんどんやれ。
って、かげ兄!コタツの中に入っていないで真面目にしてよう。


名前:魯粛 字:子敬 真名:藍
統制6武力2知識8政務9毒舌10
呉の毒舌軍師。孫皓に口説き落とされている。ちなみに孫皓を男として認識している。彼に好意を抱いていることから、孫呉の将たちとは争っていくことは間違いがない。

名前:蒋欽 字:公  真名:摩耶
統制7武力5知識(毒)9政務6迷子10
極度の方向音痴の所為で里から追い出され、職にもつけず、彷徨い続けてきた、すご腕の暗殺者。周泰の義母である。孫皓の元に来てラリッた。真性のマゾヒスト。ただし孫皓限定。

名前:丁奉 字:承淵 真名:丸
統制3武力4知識2政務1女子10
外見は完全に女の子。だがしかし男の子。現在、黄蓋隊にて修行中だが、すでにマスコット化されている。休みの日は周泰と一緒に猫を追いかけている。



っていうわけだ。ちなみに外見についてなのだが、手元に良い資料がないので、読者の脳裏にこんな人かなとイメージしてもらえたらと思う。
魯粛=るろ剣の高荷 恵さん
蒋欽=あいとゆうきのものがたりの月詠さん
丁奉=戦国バサラの森乱丸くん(髪はロングストレート)

じゃ、またよろしく。



[24492] 十七話.「……夢なら醒めて」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2010/12/04 18:02
十七話.「……夢なら醒めて」

Side:孫堅

鷲蓮が勝手に山越族を相手に戦いを挑み、なおかつ組み込んでしまった。これによって揚州の全域に私たちの名が轟くことになった。揚州全域が私たちの領土と言っても過言ではない。揚州の東側は海だし、南側も海が広がっているのでそちらの方は海賊に気をつければ良い話であり、当面の敵は袁両家と荊州の劉表だ。
劉表に関しては孫皓が工作員を送り込んで情報収集に躍起になっているため、実は少し楽しみでもある。最近政務ばっかりで身体を動かしてこなかったこともあり、戦いたくて闘いたくて仕方が無かった所なのだ。

「結依、荊州の劉表。落とせると思う?」

「負けはしないだろうな。ただ最近、雪蓮ちゃんより鷲蓮が目立ってしまっている。この戦いでどうにかできればいいのだが」

いっそのこと雪蓮と結婚してくれればいいんだけどなぁ。ここ半年で身体も重ねるようになったし、冥琳ちゃんと2人がかりで攻めるようにもなったし。

「けど…、私の跡継ぎは雪蓮なのよねぇ」

鷲蓮はあくまで孫静、私の妹の1人息子なのだ。正確には未来の曾孫に当たるんだけど。
そういえば孫静が様子を見に建業に来たとき、私よりも大人しくて儚げに見えた彼女を鷲蓮が部屋に連れ込んだのは衝撃的だったわ。しかも、彼女は『性欲を持て余す若い息子に乱暴された挙句、何度も犯られた上で孕ませられる』という流れでやったらしく、ほくほく顔で帰って行った。あの子も好き物だからねぇ。

「こんな時は…」

結依が出した案とは、彼を呼ぶことだった。

「俺ですか…」

そうやって肩を落とすのは鷲蓮のお守り役兼孫皓隊の副官である太史慈だ。毎晩お嫁さんとヨロシクやっているが中々出来ないと困っているらしい。

「孫堅さま、新しい胃薬です。周笠さまもいかがですか」

「ああ、貰っておこう」

「ありがと。最近効き目が弱まってきたと思っていたところなのよね」

「俺もです。」

「「「はぁ…」」」

私たちの胃痛の原因は鷲蓮である。領土が広がって、税収も増えて、なおかつ住んでいる民衆の笑顔が見られるのはいいことなんだけど、さすがに限度があると思う。

「雪蓮ちゃんの名声をどうにかして鷲蓮と同じくらいに引き上げたいんだけど、何か良い案はある?」

「尋ねていますけど、これ考えろっていう命令ですよね。思いついたのはありますけど」

「やっぱり貴方凄いわ」

「孫堅さまも周笠さまも望んでいることは、『孫皓の無力化』『孫策さまの強化』『自身の安息』ですよね。なら、孫皓、孫策さま、華陀の3人で修行に出てもらいましょう」

「「……まさか、アレを再び?」」

思い返すのは1年前、孫皓隊を結成した頃の鷲蓮の暴走である。あっ、思い出しただけで子宮が疼いちゃう。

「そうです。華陀の『弾丸跋』を孫皓に使用し、1ヶ月暴走1ヶ月休眠させます。その暴走の相手を孫策さまにしてもらい戦闘能力の増強、帰ってきたら孫皓の代わりに部隊を率いて賊の討伐に出てもらいます。朝・昼・晩…一日中孫皓の相手をすることになるので、体力は今までの10倍は堅いかと」

太史慈も中々いやらしいことを考えるのね。自分もいい加減に休息を摂りたいのだろう。彼にもようやく厳白虎という補佐がついたが、鷲蓮に仕えている将軍や軍師は、皆個性が強くその負担は全て彼の肩に圧し掛かっている。それに配下の数が100人から15倍の1500人に一気に増えたことも彼の心労に繋がっている。

「それで行くことにしましょう」

「美蓮…いいのか。雪蓮ちゃんが真相を知ったら…」

「大丈夫よ。大好きなお兄ちゃんと四六時中一緒に居れるのよって言えば、喜んで行くと思うわ」

「そうか?」

「最初だけね」

私は太史慈に強力な麻酔を用意して置くようにと伝えるのであった。


Side:孫策

母さまに呼び出された。部屋に入ると母さまと結依小母さま、それから祭と太史慈、華陀と冥琳の姿があった。

「母さま…。まさか、また政務のお手伝い?」

私は咄嗟に扉の取手に手を掛けて逃げる準備をした。

「ああ、違う違う。安心して、雪蓮。ちょっと、視察に行って来て欲しいのよ。呉付近の村で病が発生したらしくて、薬と医者が足りていないということだから、華陀が向かってくれることになったのよ。それに伴って鷲蓮も同行するっていう話になってね。貴女もどうっていう話よ」

「オチは?」

「……ちっ」

お兄ちゃんと一緒(華陀がいる)に行く事自体は構わない。むしろ嬉しい。だってお兄ちゃんを独り占めできるんだもん。けど、お兄ちゃんと華陀という組み合わせはいただけない。思い返される一年前の地獄の光景。
母さまが舌打ちをしたのを見て確信した。孫皓隊の人間を鍛えた時と同じように、私も鍛えさせるつもりなのだ。私は体を反転させ逃げ出そうとしたが、扉を開けた先にはお兄ちゃんがいて、私は抱きしめられた(抱きついたの間違い)。

「――!?は、放してお兄ちゃん!」

「は?何で、呉の辺りで海賊が出たという話を聞いて確かめにきたのだが」

「え、そうなの?」

「だろう、陽炎?」

「蒋欽の部下を劉表の土地ばかりに人員を割くからこういうことになるんだ。分かったら、今度から考えろよ」

「こちらでも人員の増強か。しかし、工作員に関しては中々育たないからなぁ。摩耶」

「すみませんー。全力を尽くしてー、やってみますー」

シュタッと現れ、シュタッと消える。今のは何?

「けど、雪蓮を鍛えるっていうのは本当なの」

え?母さま、今良い具合で終わった所なのに。

「やっちゃって、華陀」

「……悪く思うなよ、孫策さま」

私は…その直後に気を失い、気付いた時にはお兄ちゃんと2人きりで山の中にいた。たぶん華陀もどこかにいるとは思うけど。

「……夢なら醒めて」

それから、朝はお兄ちゃんと無限組み手、昼は「六式」と呼ばれる体術の訓練、夜はお兄ちゃんとの無限情事の繰り返しの日々。倒れたら即刻、華陀に復活させられる。私に安息の時は無い。

帰ったら、必ず母さまにも地獄を見てもらうんだから……って、お兄ちゃん!?そこは駄目!へっ?母さまも結局は喜んでいた?やっ、駄目、アッーーーーーー!?


あとがき
雪蓮ちゃんに合唱。
彼女の強化合宿が始まります。
この後、修正作業に入りますっす。


太史慈の部屋
前回も言ったが5人がいきなり追加となった。
しかし、5人の内の3人にまだ真名がない状態である。なので、募集。早い者勝ちということで頼む。出来れば彼女達の性格に合っていそうなものでお願いする。

名前:厳虎 字:厳白虎 真名:昴 年齢:15歳
統制4武力4知識3政務4器用10
俺の補佐に抜擢された白髪の少女。胸がなく男っぽい。元気ハツラツ系で、猪武将でもある。基本純粋。俺の嫁さんにトラウマあり。

名前:黄乱 字:    真名:幸 年齢:29歳
統制6武力7知識3政務3お酒10
黄蓋さまとさっそく真名交換し、休みの日には一緒に酒屋を梯子している。山越の姐さん的存在。結構豪快で配下の目の前で裸になることも多い。その度に配下が慌てて隠している。

名前:尤突 字:    真名:未定 年齢:21歳
統制6武力5知識4政務4百合10
女の変態。SとMどちらもいける口。魯粛と蒋欽の3人でいることが多い。部下たちとくんずほぐれずするのが日課。

名前:藩臨 字:    真名:未定 年齢:19歳
統制2武力8知識3政務2鍛錬10
いつも自分の力を高めるのに余念がない。というか彼女の周りに男の気配は皆無。最近甘寧ちゃんが自分を高めるのに彼女の所へ通っているのをよく見かける。

名前:費桟 字:    真名:未定 年齢:17歳
統制7武力2知識6政務7ロリ10
山越賊の軍師だった。体はロリボディ。気にしているようだが、周りの発達が良すぎるので最近諦めかけている。俺愛用の胃薬をよく使い、嫁さんの病院の常連になりつつある。

読者の皆様、作者に愛の手を…
じゃ、このへんで。




[24492] 十八話.「彼らのいない安息の日々・その1」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2010/12/04 20:34
十八話.「彼らのいない安息の日々・その1」※会話文多

Side:太史慈

俺の補佐として配属された厳白虎と竹巻を各部署に振り分ける分を整理していた時のことだ。

「えっ?孫皓さま、出掛けられたんですか?」

「ああ。視察という名の地獄の鍛錬にな」

俺が孫皓と華陀が1年前、何をやったのかを彼女に話すとおもしろいくらいに反応してくれる。
頭を抱えて「それはいやだー」とか顔を青くして「うっひゃー」とか挙句の果てには遠い目をしたり、孫策さまの命運を祈ったりと、今の孫堅さまに仕える武将の中でも純粋な部類に入る人格者だ。ああ、和む。

「けど、兄貴は行かなくてよかったんですか?」

「別に行く理由も無いし、今は嫁さんの機嫌を取る方に集中したい」

「オレの所為ですよね。挨拶に行った時のあの人は……ガクガクブルブル」

まさか厳白虎のことを愛人だと勘違いした彼女は両手に持てるだけの注射器(なんか怪しい色をした液体入り)を持って、「アンタを殺して、私も死ぬ!」と叫びながら追いかけてきた。途中で華陀を拾って、中身を訊くと『毒』だったり『媚薬』だったり挙句の果てには『惚れ薬(極)』だったりとバラエティー豊かで…豊かすぎて笑えんわぁあああ!!と泣いた覚えがある。
勘違いだと知った彼女は、「あら、私としたことが」と180度態度を変えて厳白虎に接したが、彼女の方にはばっちりとトラウマ認定されてしまったようだ。気持ちは凄く分かる。

「子供が出来ないって泣いていた時もあったしなぁ。俺が種無しなのかな…。訊きたいけど、肝心の華陀はいないし」

「オレにはむしろ、妊娠していてイライラしているように見えた気がしたけど」

「……え?」

「山越族だと、各村に1人は必ず妊娠した女性がいたから、オレらはそういうのには敏感なんだ。なんだったら、黄乱の姐さんに相談してみるといいと思いますよ」

「あ、ああ。ありがとう、厳白虎。もし彼女が妊娠していたら何か奢るからな!」

俺は黄乱の元に向かい、彼女を連れて瑠音の元へ駆けた。


Side:魯粛

暇ですね…。
やはり孫皓さまがいないと物足りません。彼の考えていることを形にするということの楽しさや喜びを知ってしまった以上、ありきたりな政務などやる意味がないしやる気が起きません。
普段であったなら、やる気を出させてもらうために彼に抱かれる所ですがいないので仕方がありません。1人で……というわけにもいきませんね。

「なんですか、尤突。貴女の相手をしている暇はないのですよ。雌猫のようにお尻を振っていないでさっさと山へ帰りなさい」

「くっ、孫皓さまがいないから、寂しがっているんじゃないかと思って来ましたけど、心配はいらなかったようですね」

「貴女のように万年発情しているわけではありませんから」

「あら、孫皓さまの前では貴女も雌猫になるのでは?」

「私が?何を根拠に」

私は彼女の言葉を鼻で笑った。しかし、

「魯粛は雌猫じゃなくてー、雌犬になるですよー。孫皓さまに従順になるですよー」

「って、蒋欽!!余計なことを!」

突然湧いて出た蒋欽の言葉に私はつい反応してしまった。私としたことが不覚。目の前で聞いていた尤突がにんまりとその口を吊り上げる。そして私の体を嘗め回すように上から下へとその視線を動かす。

「へぇ…貴女が。ふぅん…」

「くっ…」

蒋欽め、本当に余計なことを!

「むふふー、なのですよー。私もー、魯粛もー、孫皓さまの物という証であるー、首輪を持っているのですよー。尤突はもっていないですよねー」

「「!?」」

私は、またこいつ余計なことを!と思ったが尤突は衝撃を受けたようだ。
蒋欽の言葉を聞いて崩れ落ちた彼女はどこからか取り出した手拭いの端を噛み、よよよ…と泣き出した。

「私たちがこちらへ来て10日、手を出してもらえず放置されていると思って皆で慰めあっていたのに、貴女たちはそうやって……悔しい嫉ましい羨ましい!!」

そうは言うけど私たちだっていつでも抱いてもらえるかといえばそうではない。
彼は孫堅さまを始め、周笠さま、孫策、周瑜、私、蒋欽の6人と男女の関係になっている。さすがに孫堅さまや周笠さまに「今日は…」などと言えるはずもなく、基本的に彼の瞳が黄金色になっていて私か蒋欽が彼の目に止まった時に抱いてもらっている。いつも激しいから私たちはいつの間にか虐められて悦んでしまう身体になってしまったが、本当は……。

「私たちも混ぜて下さいまし」

「断るわ!」

「いやですー。ただでさえ少ないのにー」

「そんなことを言わずにどうかお願い」

こういった話を私たちは夜がどっぷりと更けるまで話し合うのであった。


Side:黄蓋

なんだか平和じゃのぅ。
孫皓さまがいないだけで、こんなにも……穏やかな時が流れるのじゃなぁ。

「昼間から酒飲みとは良いご身分だと言いたい所ですが、黄乱さんを借りていきますよ」

と、ワシらの前に現れたのは大柄な体格を持ち、孫皓さまを支える忠臣に育った太史慈であった。

「ウチになんのようじゃ?祭殿とこれから2軒か3軒、4軒か5軒と梯子しようと」

「呑み過ぎだ!相談したいことがあるんだ。酒飲みはまた今度にしてくれ」

「うぅぅ…ウチの酒ぇえええええ…………」

そういって幸殿は連れて行かれてしまった。残されたワシは、これからどうするかと悩もうとしたのじゃが、ワシの両隣にいつの間にか座る小さな影が2つ。

「丸と明命ではないか。なんじゃ、ここには酒しかないぞ」

「動かないで下さい、黄蓋さま」

「そうです、今黄蓋さまの膝の上にお猫さまが!」

ワシは少し身体を反らして己の下半身を見る。すると白猫が気持ち良さそうに寝ておった。可愛いものじゃな…って、早くこの猫を逃がさんとワシが大変なことになる!

「「参」」

2人が飛び掛る準備をする。

「ちょい待つのじゃ」

「「弐」」

白猫に狙いを定める。

「ええい、早く起きるのじゃ『にゃーん』じゃない!!」

「「壱」」

手をワキワキさせて、もふもふ、すりすりする準備万全な笑みを浮かべる2人。

「二人とも落ちつくのじゃー!!」

「「零」」

2人は両側から飛び掛ってきた。驚いた猫はワシの胸に飛びつく。丸は猫がおったところに手をやる。明命は胸を掴んで猫を追尾する。

「のぉおおおおお!明命、そこは胸じゃあ!あん、丸ぅそこは駄目なのじゃ!猫よ、胸の隙間に入るでない!?やめ…やめるのじゃ、2人ともぉおおお!あぁああんんん!!」

彼らはこうやって猫を追い求め今日もいざ走る。取り残されたワシは、身体あらゆる所を揉まれ尽くして痙攣させながら彼らの背中を目で追うのであった。けど…これでもう。

「黄蓋殿、昼間からお酒ですか。酔いつぶれるまで飲んでおられるとは、いいご身分ですね」

よりにもよって、冥琳に見つかるとは……今日は厄日じゃ。


Side:太史慈

家に帰ると嫁さんが薬を入れてある箪笥の引き出しを幾つも開けたまま、何かを探すように動き回っていた。

「ただいま、瑠音」

「おかえり……。ねぇ、陽炎。箪笥の一番右上に入れておいた錠剤の薬、知らない?」

箪笥の一番右上の引き出しは確か…

「俺の胃薬を入れているんじゃなかったか?」

「うん。失くさない様に入れておいたんだけど……って、まさか使ったの!?」

「まずかったか?」

「ええと……別にアンタが使う分には問題ないけど、アレは胃薬じゃないんだよ」

彼女は開けていた箪笥の引き出しを全て閉じて、座布団の上に座った。そして、俺が黄乱を連れているのにやっと気付いたのか、コートの中に手を入れ…

「待て待て、彼女は山越で何人か赤ん坊を取り上げたらしくてな。ちょっと瑠音の身体を調べてもらうだけさ」

「……昴から聞いた訳か。うむ、少々外に出ておれ」

「分かった」

俺は外に出て扉を閉めた。なんだか変な感じだな…。あれだ、分娩室の外で赤ん坊が生まれてくるのを待っているときの父親の心境。まぁ、一回も経験ないけど。その後、30分くらいして俺は黄乱に呼ばれて家の中に入った。

「まぁ、出来ておるじゃろうな。良かったのう、中々出来ずに悩んでおったのだろう。嫁さんの方も、随分と悩んでおったみたいじゃしの。仲のいい夫婦じゃ」

「……ありがとう。瑠音……お腹、触ってもいいか?」

「ええ…///」

俺はまだ膨らんでいない瑠音のお腹を撫でる。ここに俺の血を継いだ…子が…

「まだ生まれてもおらんのに、泣く奴があるか。そういうのは無事に生まれた時に取っておけ」

「すまない…。ああ、嬉しいな、本当に」

俺たちは新しい命の存在に笑いあった。


おまけ

陽「で、瑠音が探していた薬ってなんだったんだ?」

瑠「……赤ちゃんが生まれるようにする薬さ」

陽「ああ、排卵誘発剤みたいな奴か?」

幸「そんなものまであるのかい、ここには」

瑠「私と兄さんで作ったのさ」

陽「華陀も関わっているのかよ……だとすると、ただの薬じゃないだろ」

瑠「当たり。『弾丸跋』のある成分をちょっと混ぜてあるんだ」

幸「なんじゃ?『弾丸跋』っていうのは」

陽「男の本能を刺激して暴走状態にする薬さ……の何の成分を混ぜたんだ?」

瑠「それぞれの本能を少々刺激して、胤の濃度を上げたり、的を増やしたりするのさ」

陽「それってやばくね?下手すれば、双子、三つ子。最悪、五つ子もありえるぞ」

瑠「だからさ、アンタが使う分にはいいんだよ。相手は私なんだから、1人もし当たっても2人だ。だが、あの薬を女性が飲んだ場合…」

陽「…………桃色のやつだよな」

幸「誰かに渡した覚えがあるのか?」

瑠「誰にだい?最悪回収してこないと…」

陽「……孫堅さまと周笠さまに……その場で飲んで、たぶん夜は孫皓の相手をしたはず」

瑠・幸「「確実に当たったね」」

陽「…………」


あとがき
その2に続くっす。



[24492] 十九話.「彼らのいない安息の日々・その2」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2010/12/04 20:38
十九話.「彼らのいない安息の日々・その2」※会話文多

Side:藩臨

起床と同時に私は鍛錬着に着替え、中庭に出る。時間さえ合えば孫皓さまと一緒に鍛錬するが、今彼女はいない。
そういう訳で最近は1人でしている。
私の得意な攻撃は自身の疾さを十二分に発揮して一刀両断するようにしていた。だが、それだと効率が悪いということで孫皓さまから『倭刀術』というものを習っている。一度だけ技を見せてもらったのだが、流れるような技でありながら破壊力が凄まじかった。これに私の疾さを加えることができれば孫皓さまとも太史慈さまとも対等に戦えると思う。

今までは正直、愛刀であるコイツに振り回されてきたようなものだったので、基礎からやり直している。強くなるためだったら私はどんなことだってする。だって、私には妹が10人いるのだ。生まれたばかりの妹もいる。孫皓さまの下で将軍の1人として働けば彼女達はひもじい思いをせずに済むのだ。山越賊として生きてきた頃からは想像が出来ないほど裕福に暮らしていける。

「おはようございます。藩臨さま」

「うむ。おはよう、甘寧。……やるか」

「お願いします」

彼女の名前は甘寧。最近私の元に鍛錬しに来るようになった、王である孫堅さまの娘の孫権さまの親衛隊隊長だ。元々は姉である孫策さまの親衛隊をしていたらしいが、実力と性格と生真面目さを認められ抜擢された。そこは山越賊と変わらない。強ければ認められる。強くなればいい役職につけるのだ。これが孫堅さまの所以外だったら、こうはならない。首領であった私たちはまず殺されるだろう。そこを治める者たちに歯向かうものは死が待っていて、服従しても安い賃金と高い税を強制される。それが我々の立場だった。
けど、孫堅さまは。孫皓さまが治めるここは違う。違うのだ。
甘寧だって元々は、江賊に属して人から物や命を奪う生き方をしてきた。だが、彼女はこうやって王族の親衛隊を務めるまでになった。私たちにもきっと機会は訪れるはず。

私は家族の為に今日も剣を振るう。
そして、いつか……


Side:周瑜

休日の日、私は本を読んでいることが多い。
書庫に置いてあるものは一度全て目を通しているので、街にある本屋に定期的に行くようにしている。
建業に来てからは、多くの商人が出入りするため、今まで見かけなかった部類の本を手に取ることがある。例えば、
『鶏倶楽部』これは…まぁ、あれだ。子育て応援みたいな内容のもの。
『情事の全て・旦那様が喜ぶ奉仕の仕方』……さすがにこれを手に取る勇気はなかった。
他にも料理や魚釣り、海賊への道とか、簡単江賊入門など奇怪なものまで陳列してある。
私は料理の本を手に取り、中身を読もうとして彼女の姿を見つけた。彼女はある本を見上げ、手に取ろうとするがやめて他の所に行き、また戻ってきて手に取ろうとして…の繰り返しだ。決して届かないということではなく、手に取ろうかを悩んでいる様子だった。

「費桟、どうしたのだ?」

「ひゃうっ!?しゅ、しゅ、周瑜さまぁああ!?い、いや、何でも、何でもないのですよ。ひゃわわわわ」

私は彼女が必死に手を伸ばそうとしていたものに目を向ける。
『乳房を大きくする100の方法』

「…………」

「ひゃわわわ!?ち、違いますよ。もう諦め……ている訳では無いんですけど、100も方法があるんだったら、私にも未来があるかなぁ、なんて思ったりしなかったり……」

彼女の歳は私と同じだったな。育つ環境でこうも違うのかって、鷲蓮の時にも思った気がする。あれは私の勘違いだったが。ふむ…。

「牛の乳を飲めば大きくなると聞いた気が」

「孫皓さまが進めている家畜のあの牛さんのことですか?」

「待て、鷲蓮はそんなものもやらせているのか?」

「ええ。私たちの住んでいた所に大きな牧場を造って、牛とか豚とか鶏とかを育てさせていますよ。あと水路の引き方とか田畑の大きさとかを教えてもらったりとか、麦や米の種なんかも優遇してもらったりと結構…」

彼女達を取り込むだけでは飽き足らず、彼女たちの家族まで巻き込むのか。というかいつの間に?

「……周瑜さま。私たちの説得に孫皓さまが掛けた期間ってどのくらいでしたか?」

「ひと月だったが」

「私たちは3日で降伏したんですよ」

「ぶふっ!?3日だと!じゃあ、残りは…」

全部それに充ててきたのか?というかどれだけ強いのだ、鷲蓮は。

「周瑜さまは、料理の本ですか。実際になされたりするんですか?」

「まぁ、自分で食べる程度はな。他は料理長がいるので任せきりだ。費桟は違うのか?」

「私はこの身長なので届かないのです。しかも、私、大の辛党で…誰も共感してくれないんですけど、きっと大陸のどこかに私と同じ趣向を持つ人がいると思うんです。その人と超激辛キムチ鍋をハフハフしながら食べるのが夢です」

「ちなみにどのくらいの辛さなのだ?」

「太史慈さまが悶死するくらいです」

ご愁傷様だな、太史慈。鷲蓮は連れてくるだけ連れてきて、後は彼に任せ切りだからな。彼がいなかったら……待てよ。太史慈が有能すぎるから、鷲蓮は暴走し続けるのではないか。もし彼がいなかったら、隊の編成や将軍達の処遇、他の部隊との調整で鷲蓮は安易に動けなくなるのでは……いや、彼がいるからこそ私たちはあの量で済んでいるのだ。いなかったら、我々が死んでいるに違いない。

「太史慈さまにお嫁さんがいなかったら、確実に私は彼に嫁いでいるんですけど、残念です。太史慈さんもないより大きい方がいいですよね」

彼女は自分の胸を摩りながら、『はぁ』と溜め息をついた。
私は何も言えなくなり、彼女と共にしばらく本屋の中で佇むのであった。


Side:孫権

「ねぇ、お姉ちゃん。孫皓お兄ちゃんが出かけて、2週間経ったけど帰ってこないね」

「そうね…。そういえば、シャオは孫皓がお兄ちゃんだって気がついていた?」

「ううん。あの時、初めて知ったよ。ぱおーんを目の前で見たの初めてだったもん」

「だよね……ああ、恥ずかしい」

私たちが、孫皓が男でお兄ちゃんだと気が付いたのは姉さまと同じ日だった。あれは…

半年前――
建業での暮らしにも慣れてきた頃、孫皓が山の方に太史慈と魚釣りに出かけたと瑠音さんに聞いたのがきっかけだった。
あの時の私は瑠音さんにこう聞いたのを覚えている。

「孫皓が太史慈を誘惑するかもしれないっていうのは考えないの?」って。

そしたら瑠音さんはキョトンとした顔をして、ありえないと言い切ったのだ。
あの時は旦那さんである太史慈のことを信頼しているのね、くらいにしか思わなかったけど当たり前である。男が男を誘うわけがない。
私たちは姉さまと冥琳も誘って、彼らの後を追ったのだった。

そして、あの場面に遭遇した。
なんと孫皓が水浴びしていたのだ。裸で。
太史慈の姿が無かったので、きっと上流の方にでも釣りに行ったのだと思い、シャオ、姉さま、私の順で孫皓に近づいた。勿論、私たちも脱いで下着姿である。冥琳は川辺で待機していた。

そして、シャオが孫皓に声を掛け振り向いた彼女?の腰に抱きついた。
まぁ、後は察して欲しい。私たち3姉妹は大絶叫であった。特に目の前にパオーンが来たシャオは真っ白に燃え尽きるくらいの悲鳴を上げた。
見られたほうの孫皓は『別にどうした』とあっけらかんとしていて動じなかった。冥琳に助けを求めると、「貴女たち、まだ気付いていなかったの?」と呆れられた。
私たちはこうして、孫皓が男であるとやっと認識し直したのであった。

帰ってお母さまに報告すると、私やシャオはともかく姉さまは気付いているものと思っていたと言われた。姉さまは頭を垂れた。

回想終了――
孫皓がお姉ちゃんからお兄ちゃんに変わったのだけれども、私たちとの関係が変わるというのはなかった。
むしろお兄ちゃんになったことによって、シャオは今まで以上に甘えるようになったし、姉さまは抱いてもらっているらしい。冥琳も一緒だという。
私も、と彼に言ったことがあるのだけれど、大人になったらということで断られ続けている。
うぅ、彼のいう大人ってどのくらいなのだろう。



あとがき
感想にて、雪蓮→鷲蓮の「お兄ちゃん」疑惑が出たので急いでUPしたっす。
これで勘弁して下さいっす。



[24492] 二十話.「地獄を見る覚悟はいい?答えは聞いていないの」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2010/12/05 18:12
二十話.「地獄を見る覚悟はいい?答えは聞いていないの」

Side:孫堅

私はこの日、身が芯から凍えるような気配を感じた。予定よりも一週間ほど早いご帰還だ。
結依に命令し、私の執務室に来るためには刺客を倒さなければ辿り着けぬようにした。

第一陣
丁奉君&周泰ちゃん組

「なんで僕たち?」

身の丈ほどの大弓を肩に担いだ少女のような少年が呟く。隣にいた黒髪の少女は周囲をきょろきょろと見回し。

「あっ、お猫さま発見です!」

「しかも三毛猫だ!突撃~」

何もせずに陥落。予想はしていたわよ、まだ子供だもん。

第二陣
黄蓋&黄乱組

「ここを通ろうとするものを止めることが出来れば、秘蔵の美酒を堅殿が開けてくれるそうじゃぞ、幸殿」

「うむ。孫堅さま自ら酌をしてくれるというし、腕を揮いますかな、祭殿」

二人は自らの獲物を肩に担ぎ、妖艶な笑みを浮かべている。そして、仕事の後の一杯を心待ちにしているようだ。
この二人からが本番よ。くくく、通れるものなら通ってみなさい!

『―剃―』

「「へっ?」」

風か通り抜けた。しかも少々破廉恥な風であったようで…

「のぉおお!?」

「なんじゃったんだ?おろ、服がない」

身に着けていた服が剥ぎ取られ両手で身体を隠す祭と「しまったのぅ」と、あっけらかんと笑う黄乱。ちぃ……

第三陣
シャオ&蓮華組

「お母さまはここに立っていればいいって言っていたけど…」

「なんだろうね」

建業(ここ)を建てる際に2ヶ月近く離れ離れになった姉妹に対して、あのような熱烈な愛し方を見せた彼女のことだ、今回も十分する可能性がある。

「ん?あっ、おねぇ『ビュン!!』しゃま、おかえり……って、行っちゃった」

「お姉さま?……ということはお兄ちゃんも帰ってきているっていうこと?シャオ、行こう」

「うん!」

まっすぐ私の元に向かってきているみたいね。けど、ここからはそう簡単に進めなくてよ!

第四陣には堅物師弟・藩臨&甘寧組が、貴女が来るのを待ち構えているわ。腕の上がった2人の攻撃を捌けるかしら?

第五陣には軍師・周瑜&費桟&魯粛を立たせてある。冥琳ちゃんに構い倒したいという思いに勝てるかしら?

第六陣には蒋欽&尤突+配下組み。彼女達は少々痛め付けられても何度でも蘇る。しぶといわよー。

そして、最後に執務室の扉の前に陣取るのは孫呉最後の防衛要塞・太史慈よ。彼には育休を条件に任せているから、手を抜くことは無い!

「ふっ…勝ったわね」

「大した障害じゃ無かったわよ。母さま…」

あれぇ…随分とお早いお着きで……

「ねぇ、母さま。地獄を見る覚悟はいい?答えは聞いていないの」

「……お手柔らかにぃいいい。アッーーーー!?」


Side:周笠

美蓮の悲鳴が聞こえてきたような気がしないでもない。
気配を感じた瞬間に私のように街へ逃げればよかったのに、執務室に居座り続けるからそういうことになるのよ。
まぁ、娘に酷いことをしたっていう後ろめたさがあったのだろうし、今回はそういうことにしておいてあげましょう。
しかし…

「どうしたの、蓮華ちゃん。シャオちゃん」

「お兄ちゃんが何処にもいないの」

シャオちゃんも頷いている。雪蓮ちゃんだけ帰ってくるなんて……もしかして…

「雪蓮ちゃん、彼らから逃げてきたんじゃ」

「いや、それは外れだ。彼女の修行が完了した。才能とは恐ろしい、たった2週間で『六式』を会得し、太史慈を超える実力を得た。残りの1週間はちゃんと使いこなせるかを、そこら辺にいた山賊や江賊を相手に試してきたしな」

そう言って私の後ろに立つ華陀。けど女性の後ろに立つのはいただけないわよ。
私は彼の方に振り向く、すると衣服に少々焼け焦げた跡がある。蓮華ちゃんたちも気付いたようで、どうしたの?と彼を見上げる。

「ふっ……暴走状態に陥った二人から追われた挙句、火炙りにされたんだ。彼らの目には俺は熊に見えていたらしい。俺は何とか彼らから逃げ切って、近くの村で怪我人や病人を治療しながら彼の修行が終わるのを待ったのさ。結果はこれだ」

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名前:孫策 字:伯符 真名:雪蓮 年齢:18(+2)歳
統制6(+2)武力9(+5)知識4(+1)政務4(+2)依存10
未来の小覇王。『六式』会得完了。実力は鷲蓮に次ぐNo.2。2週間朝・昼・晩とみっちりやられた為、鷲蓮に完全に依存。虐められるのもいいかな…と、危ない一歩を踏み出しかけている。

駄目だ。早く何とかしないと、孫呉の未来がヤバイことになってしまう。

「で、華陀。お兄ちゃんは何処に行ったの?」

「ああ、城壁の上で待ち合わせをしている人がいるそうだ」

「「城壁?」」

彼が待ち合わせをする人っていたかしら。……美蓮に仕えている武将は皆、城にいるはずだけど…。


Side:孫皓

神出鬼没で姿形が一切変わらない彼女と城下町を眺めながら俺たちは城壁の上にいた。

「いやはや、さすが4代目。あのお方をあそこまで強化されるとは」

「雪蓮には強くなってもらわないと困る。俺はこの世界に来る代償として、身体能力の増大に関しては一切あがらないようになっている。『六式』などの武術やお爺さまから聞いた剣術に関しては別だが…」

「4代目は世界を渡る時点で一騎当千の力を有していましたから……と、今日はこういう話をしにきた訳ではないのです。私はあくまで“貴方の世界”の管輅であり、“この世界”の管輅ではない。あなたはあちらにとって、確実に異物なのです。もうじき貴方の存在に管理者たちも気付くでしょう。しかし、彼らに4代目をどうこうする力は無い。管理者たちの目的はあくまで“北郷一刀”なのですから」

一騎当千か…甚だ疑問が残るな。俺の周りに、俺と張り合える武力を持った奴はいなかった。その中で貴方は一騎当千の実力を持っていたのです、と言われても身体が納得しない。しかし、お爺さまからは『管理者』なんていうのは聞いたことは無かったのだが、何処かで関わっていたのか?

「そういう世界もあったということです」

俺の考えを読んだかのように彼女は言う。

「4代目、貴方も感じているでしょう。戦の火蓋が切って落とされるまで、もう時間は残されていません。『史実を変える』…それがどれだけ難しいことなのか、貴方はこの戦で知ることになるでしょう。……見捨てるのは簡単ですよ」

莫迦だな。俺が最初から諦めている奴なら、雪蓮も鍛えなかったし、山越の彼女たちも生かしておかなかった。俺はふざけた運命を変えるために、今まで準備を進めてきたんだ。そうだろう、管輅。

「ええ。私が見込んだ通りのお方です、4代目。この戦を終えた後、私はこの姿を捨て生まれ変わる。私を見つけて下さい、4代目」

「無論だ」

そう言った彼女は虚空に消えるように霞んでいき、光となって……。
まぁ、すぐに会う事になるんだろうけど、次は必ず真名を教えてもらうぞ。



あとがき
まさかの管輅、ヒロイン昇格!(転生するっすけど)
一応、案としては大小の間に中を入れるつもりっす。いけるか?

それから、尤突、藩臨、費桟の真名ですがそれぞれ考えた結果。

尤突=乃愛(のあ)

藩臨=千波(ちなみ)

費桟=海里(あまり)

真名を考えるのってキツイっすね。費桟に関しては山県阿波守さんの意見を参考にさせていただいたっす。
では、今後もよろしくお願いしますっす。



太史慈の部屋



俺の役目が凱に取られた……。






[24492] 二十一話.「劉表戦・前半」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2010/12/09 15:26
二十一話.「劉表戦・前半」

Side:太史慈

最近、荊州の劉表が兵を集めているようだと暗部から報告が上がった。孫堅さまの耳にもすぐにその情報が伝わり、一気に開戦ムードとなった。
鷲蓮率いる孫皓隊も前線に出ることは間違いがないと思われていたのだが…

「ほぇ?オレの部隊は孫堅さまの護衛ですか?」

「俺は孫皓隊(いやっふーな仲間たち×80)と黄乱隊と藩臨を率いて、孫策さまの下に付くのか?」

「私は摩耶の部隊と一緒に情報伝達ですか…」

「頼む」

そう言って彼は俺たちに向かって頭を下げた。
今、この場にいるのは俺を含む武官6人と軍師2人である。俺はともかく他の7人は鷲蓮が自ら集めた信頼のおける者たちである。将軍である彼の命令には何も云わずに従うだろう。だが、この分け方はなんだ?

「陽炎、お前は幸と千波と共に雪蓮の下で暴れまくれ。遠慮は要らない、敵兵を片端から殺して十二分に名を挙げろ。雪蓮の名を聞いただけで敵兵が逃げるようになれば十分だ」

「了解した」

「「はっ!」」

彼はそういって命令を下していく。尤突なんか何か耳元で囁かれたようでSモードになった。蒋欽も頬を染めてシュタッと消える。残された軍師の2人も彼に近づき、何かの命令を受けたのか本隊の方へ向かって駆けて行く。
俺はそっと彼に近付く。そして、周囲に気付かれないように小さな声で話しかけた。

「……何か考えがあるのか」

「嫌な予感がする。陽炎、お前には悪いが昴を借りるぞ」

「了解。藩臨には本気でやるように言っていいのだな」

「雪蓮に付いていかせろ。付いていけたら大したものだと言ってやれ」

「分かった。……で、孫皓はどうするんだ?」

鷲蓮は遠い所にある山をそっと見上げる。何かあるのかと俺もつられて見るが特に何も無い。
彼は少々肩を落とした感じでこう呟いた。

「『弾丸跋』の影響がもう少ししたら現れる……たぶん、今回の戦、俺は役立たずだ」

「……すまん」

そういう風にするように進言したのは俺だったな。正直に言う、ごめん。


Side:孫堅

「引けぇええ!退却だぁあ!!」

背中を向けて逃げていく劉表軍を眺めながら、私は大きく溜め息をついた。
鷲蓮があれだけ躍起になって情報集めを徹底させていたっていうのに、太史慈があれだけ山越出身の彼女たちを鍛え上げていたっていうのに、肝心の劉表本隊はこんなものだっていうの?
水軍に関しても気をつけないといけないと鷲蓮や蒋欽に言われていたけど、思春率いる水軍になすすべも無くやられていく劉表軍の水軍を見てしまった。
鷲蓮や太史慈、蒋欽が何故そこまで劉表のことを気にしているのか訳は聞かなかったけど、それほど強敵なのだろうと考えていた私は楽しみにしていたのに、随分と肩透かしを食らった気分だ。

「呆気…無かったですね。文台さま…」

私の気持ちを代弁したのは、鷲蓮の配下で太史慈の補佐をしている厳白虎。真名は昴というらしい。彼女は鷲蓮に命令され、私の身辺警護に加わっていた。正直、そこまで苦戦らしい苦戦は無かったのだが…。
前線で戦っていたはずの雪蓮もさっさと引き上げてきた。彼女の後ろにいる将や兵たちも表情を曇らせている。
こんなことなら、建業で留守番させている蓮華やシャオも連れてくれば良かった。

「文台さま、追撃部隊を編成するようです。よろしいですか?」

追撃か……鬱憤ばらしに丁度いいかもね。

「私が行くわ」

「えっ?……文台さまが行かずとも、我々だけでも」

「いいのよ。あっちの軍はすでに崩壊しているし、物足りないの」

「分かりました。それならば我々も付いていってもよろしいですか?」

「いいわよ。けど、付いて来れなかったら置いていくわよ」

「はっ。行くぞ、お前達!」

「「「応っ!」」」

私は馬を走らせようと手綱を握り締めた。が……

「母さま、ちょっといい?」

「ん…雪蓮?」


Side:厳白虎

オレは文台さまの背中を見ながら劉表軍を追撃している。
彼女の言うとおり、相手の軍にもはや抵抗の意思はなさそうだ。
オレが孫皓さまに文台さまの護衛に回るように言われたのって、やっぱり一番弱いからかな。うーん……姐御に修行を付けて貰おうかな。それとも兄貴に接近戦闘術を習おうかな。でも、文台さまの一刀両断する姿も格好いいなぁ。

瓦解した劉表軍はただ逃げるだけではなく、散発的な攻撃を仕掛けてきたりするがそんな攻撃を容易く受けるほど抜けてはいない。
無闇やたらに追撃してもしょうがないので、オレはもうそろそろ戻りませんか、と文台さまに進言しようとしたその時だった。

『ヒュンッ』『トスッ』

「文台さま!?」

「あっ……」

あろうことかまったく気にしていなかった林の方から矢が放たれ、文台さまの胸に突き刺さったのだ。
馬の上で項垂れる文台さま。ガサガサッと林の中を動く多くの影。

「伏兵!?ッく、引けぇええ!」

オレは急いで部隊を反転させようとしたが、すでに数え切れない程の弓兵に囲まれていた。文台さまの性格や気性を考えて、伏兵を仕込むなんてあちらもこっちのことを調べつくしてきていたようだ。

早く本陣に戻らないと文台さまが…。仲間を犠牲にオレが逃げるわけにはいかない!
オレは武器である『双爪武人』を構える。だが、オレたちを囲んでいる弓兵たちもいつでも矢を放てるように構えている。オレが動けば配下や文台さまにさらなる危険が迫る。どうすればいい…どうすりゃいいんだよ!

その時、弓兵たちが道を開けるようにして布陣を変えた。そして、空いた空間にニヤけた表情を浮かべた男が現れた。

「私は劉表さまに仕える黄祖というものです。孫文台、貴女の首は私がいただきましょう」

そう言って、男は剣を抜き、オレたちに近付いてきたのだった。



あとがき
あれぇ、明るいギャグは?
後半に続くっす。


太史慈の部屋
こんにちは。
感想の方に山越`sに真名は許されていないのか?というのがあったが、俺は基本的に呼ばないようにしている。つーか、女性の真名を呼んだが最後、嫁さんが般若の様相で迫ってくるんだわ。
ということで、今回はここで終り。じゃ。




[24492] 二十二話.「劉表戦・後半」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2010/12/09 15:35
二十二話.「劉表戦・後半」

Side:孫策

追撃に行った母さまが奇襲を受けて負傷したという報せが、本陣で彼女の帰りを待っていた私の耳に届いた。

私は色めき立つ諸侯らを一喝し鎮め、詳しい情報を得ようと蒋欽の部下に聞く。
今も母さまは奇襲を掛けた相手の部隊に取り囲まれているらしい。私はその報せを聞いた瞬間に冥琳や他の文官に指示を出す。が、

「ご安心を孫策さま。すでに黄蓋さま、太史慈さま、丁奉君、藍さんが弓兵部隊を率いて布陣しています」

「どういうこと?」

私はつい進言してきた彼女に対して睨んでしまった。小さな体躯を震わせながらも彼女はしっかりと説明してくれる。

「ひゃわわ…策はすでに打ってあります。摩耶さん率いる暗部の情報網はそんなに甘いものではないのです。劉表軍が伏兵を用いて奇襲を掛けてくることなんて、分かりきっていました。ですから劉表軍の動きを先読みし、彼らが粋がって本陣に向かって来たところを返り討ちにします」

「そのために…母さまを囮に使ったの!」

私の殺気は凄まじかったようで、周囲で事の成り行きを眺めていた諸侯らが腰を抜かした。けど、その中で私の殺気を真正面から受けることになった彼女・費桟はしっかりと立ち私の目を見たまま、こう言い返した。

「敵を欺くにはまず味方から。この作戦を知っていたのは、命令を直接下した孫皓さまと命令を受けた私と藍さんだけです。そして、本物の孫堅さまは華陀さんに協力してもらい、負傷者を治療する天幕の中で匿ってもらっています」

「え?」

待って。母さまが討たれたって、報告を受けて、こういう話をしているんじゃない。情報を持って来た暗部の兵も目を白黒させている。あれ、母さまはいつ戻ったの?いえ、母さまは華陀の所にいるんでしょ?あれ?あれぇええ??

「厳虎隊を率いて行った孫堅さまは……まさか!?」

冥琳が驚愕の声をあげた。

「確かに彼の技術力は承知の上だが、この緊迫した状態で出来るものなのか?」

「ひゃわわ…。『体はだるくて重いけれども、2年近く側にいてこの目で見てきたんだ。彼女の動きや仕草くらい真似出来る』とおっしゃっておられました」

母さまを近くで見続けてきて、動きや仕草を真似出来る。そんなの1人しかいないじゃない。

「鷲蓮が…あそこにいるのね」

返事は無かったが、もう確定事項であった。


Side:厳白虎

「さて、お嬢さん。孫文台をこちらに渡されたら、貴女方は見逃してあげましょう」

「抜かせ!王である文台さまを貴様らなんかに引き渡すものか!」

オレは吼えるが、黄祖と言った男はニヤけた表情を止めることはない。むしろ嗤いだした。オレたちを囲んでいる弓兵たちも笑い始めた。

「くくく。お嬢さん、あの煙が見えるかな。あれは我々の奇襲が成功したことを本陣にいる劉表さまに伝えるものだ。今頃、お嬢さん方の本陣には我々が流した孫文台が討ち取られたという情報が伝わっている頃だろう。そして、我々の軍は散らばっていた兵をもう一度再結集し、突撃を仕掛ける準備をしている。本格的に瓦解するのは貴様らの方だ」

「くそ……、オレは何も……」

オレは『双爪武人』を下ろし、頭を垂れた。配下の兵たちも戦意を消失させて…

「だるい……つーか、ここまで阿呆とは」

「「へっ!?」」

オレも黄祖といった男も驚き、文台さまを見た。

「耳を塞げ、お前ら…。『射て!!陽炎っ!!』」

その直後、矢の雨が降り注いだ。
暫くするとオレたちを囲んでいた弓兵たちは絶命し地に伏していた。腹に風穴が開いている者もいれば、胴体と首が離れている者もいる。黄祖といった男も剣を持っていた右腕を矢で射抜かれ、悶絶している。というか、文台さまぁああ!?胸に矢が刺さって、致命傷なのではないのですか!?江東の虎と呼ばれるようになると胸に矢が刺さっても死なないのですか!?
そういう疑問を持って文台さまを見上げると、矢を木で作った胸から引き抜く胸が無い文台さまがいた……。

「う、えぇええええ!?」

「ん。身辺警護、ご苦労さま。昴、いい働きだったよ」

「って、その声は孫皓さま?えっ、でも文台さま、そっくりで」

混乱するオレを横目に文台さまの格好をした孫皓さまは、黄祖に向かって剣を向ける。

「残念だったな。本物は本陣にいて今頃、再結集した劉表軍を叩き潰すために陣形を整えている頃だろうよ」

「き、貴様は何者だ!な、何故…」

「ふっ…。死に逝くお前に告げる名はないと言いたい所だが、劉表軍を早まった情報で躍らせてくれたことに敬意を表して言おう。俺の名は孫元宋。孫伯符さまn『ヒュンッ、グハァッ!』従兄弟…って、おい!!」

孫皓さま?が言い切る前に絶命する黄祖。その左手には小剣が握られていた。オレは矢が飛んできた方向を見る。
その先にいたのは、紺碧色の髪を持つ女性……って、まさかの魯粛さまですか。

「まぁ、無事に済んだし、これでよしとするか。昴、詳しいことが聞きたかったら藍か海里に…な……。くー…」

そう言って、今度は本当に馬の上で項垂れる孫皓さま?を見上げながらオレは配下の者たちと首を傾げていたのだった。


Side:太史慈

「何だ。鷲蓮の奴、情報をしっかりと得ていたんじゃないか」

俺と丸、そして黄蓋さまは弓兵部隊をそれぞれ率いて、黄祖の兵たちが隠れていた林の中に潜み時を窺う。魯粛も事の成り行きをしっかりと見据えているようだ。というか、

「魯粛、お前も弓を扱えたんだな」

「……誰にも言った覚えは無かったんだけれど、孫皓さまに言われたのよ。『隠すことはない』って。私から言わせて貰えば、貴方が弓を使えること自体驚きだけど?」

俺が今持っているのは孫堅軍の兵士が普通に使っているものだ。俺自身が持っているものじゃない。

「一応、丸に弓の基本を教えたのは俺だけど、……俺の実力は昔取った杵柄程度だぞ」

「だから、本職の2人である黄蓋さまと丁奉を連れて来たんでしょう」

話題に上った2人はというと、どこから切り屑して行くかを話し合っているようだが、俺たちでは付いていけそうも無い。俺はとりあえず一番近くにいる奴らから狙っていくかな。

「動いた……、あれは狼煙?」

「夜21時からやっていたサスペンス物のドラマで、高々と自分のやった犯行のことをばらす犯人みたいだな」

「何それ?」

「つっこむな、ただの独り言だ」

丸は身の丈ほどある弓を横に寝かせ、直系3cm程ある矢を5本同時に構える。鏃は細身で返しのないもので鎧をぶち抜く気満々であることが窺える。というか、こんな太さのものが飛んできたら、身体に穴が空くんじゃ?

『射て!!陽炎っ!!』

「討ちまくれ!」

「「了解(じゃ)!」」「命令しないで下さい!」「「「「応っ!」」」」

孫皓の突然の号令にざわめき立った黄祖の兵はどんどん狩られていく。俺たちの反対側からは潜んでいた暗部の者たちが慌てふためいた兵士を背後から斬り捨てていく。ああ、あいつら立派に成長して…。前は「いやっふー」と言ってはしゃいでいたのに寡黙な間者になったなぁ。
それから、丸の矢は案の定、相手の腹に風穴を開けやがったよ。頭に当たれば、首から上が無くなるし、とんでもないなぁ。嗚呼、黄蓋さま、丸をそんなにやって褒めないで下さい。まるで恋人同士でいちゃついているように見えるじゃないですか。

「っ!?」

俺は殺気を背中に受けた気がして後ろを見るが、誰もいなかった。しかし、改めて丸たちを見ると先ほどまでいなかった周泰ちゃんが丸を抱きしめて、黄蓋さまを睨んでいた。

うん……お幸せに。


Side:孫策

鷲蓮たちが戻ってきた。けど彼は馬の上で項垂れていた。まさか…

「母さまの代わりに負傷したの!?」

母さまの代わりに囮となり、胸に矢が刺さった状態の彼の姿が脳裏に浮かぶ。

「いや、寝ているだけだ。只でさえ、『弾丸跋』の副作用が出始めているから、こういう状態になるのは仕方『鷲蓮、いきなり服を剥くとは何すんのよキック!!』がないぃいいいい!?」

「母さま!?」

「ぷけらっぽげぇッッッ!?」

『ズシャァアアアア』と音を立てて戦場に散る鷲蓮。死因、自軍の王に蹴られ脳挫傷。って、笑えないわよ!!

「目が覚めたら全裸って笑えないわよ!」

母さまは目から滝のように涙を流して訴える……確かにそれは酷い。そういえば母さまの服を普通に着ているけど、お兄ちゃんの体型って私たちとそう変わりが無いの?それだと私、女としての尊厳崩れてしまう気がする。

「雪蓮、戦況は?」

急に真面目になられても付いていけないよ、母さま。

「ひゃわわわ。追撃部隊に奇襲を掛けてきた黄祖軍は全て排除完了しました。そして黄祖軍の早まった情報に踊らされた劉表軍本隊も孫策さま率いる本隊によって壊滅的な損害を与えることに成功。ぶつかり合った際、多少の死傷者が出たものの、大した被害は出ずに劉表軍は壊滅。総大将劉表も千波さんが討ち取り、この戦、我々孫堅軍の勝利です」

「……そっか。雪蓮が率いてね。……老兵はただ去るのみっていうけど。こんなにも早いなんて、大きくなったわね。雪蓮」

「母さま…」

「綺麗に閉まったところで悪いのだが、俺の患者は何処だ?」

「「きゃあああああ!?『ドゴンッ!!ぐふぅ…』って、華陀!」」

私と母さまが抱き合っているところに急に現れた彼に、つい親子揃って足を踏み込んだ一撃をいれてしまった。太史慈は何故だか分からないけど、私たちに拍手を送ってくる。

「な、中々、いい拳だったぜ。それはともかく、孫堅さま…安静にしてもらわないと困る」

ふらふらになりながらも医者としての仕事を忘れない彼に賞賛の拍手を送ると共に疑問を投げ掛ける。

「あそこで倒れているお兄ちゃんじゃなくて、母さまが患者?」

「……孫皓は寝ているだけだ、問題ない。むしろ孫堅さまと周笠さまは今すぐ、天幕の方へ来て頂きたい」

「私もか?」

母さまと結依小母さまの2人?
怪我をしている風にも見えないし、病気を引いたわけでもなさそうだけど…。

「ちょっとー、なんで私たちがいかないといけないのよ」

母さまは不満そうに頬を膨らませて抗議する。結依小母さまも本陣ですることがあるのだがと嫌みたい。

「あー、華陀。ここで言ってあげたほうが納得してもらえるんじゃないか?たぶん二度手間になるだろうし」

「うむ…。そうだな、はっきりと言おう。貴女方には安静にしていてもらわないと困るんだ」

「「「「なっ!?」」」」

華陀の話を聞いていた全ての将兵の顔色が変わる。勿論、私の顔色も悪くなっていることだろう。医者である華陀がそこまで言うのだ、なんらかの重い病を患ったとしか考えられない。祭も唇を噛み締め、冥琳も顔を伏せている。
母さまと結依小母さまは、覚悟は出来ていると言わんばかりに毅然としている。

「お二方は……」

華陀が宣告する。

「おめでただ。母体に負担が掛かると赤子に影響が出るので大人しくしていてもらいたい」

時が止まった。唯一、華陀と太史慈だけが会話する。

「そんなの戦が始まる前に伝えればいいものを」

「俺も孫皓が彼女を天幕に連れて来た時点で気が付いたんだ。気の流れを読んだ所、周笠さまもということに気付いた。むしろ、お前は知っていたようだが何故言わない?」

「華陀が言わないから、彼女たちは違うんだって思っていたまでだ」

妊娠していたことを知って固まっている本人たちと暗い話題から明るい話題へいきなり変わったことにより頭がついていけず思考が固まったままの私たちをおいて彼らの話は弾んでいく、そして、固まっていた時が動きだした。

「「「「「「「えぇえええ!?」」」」」」」

私たちは戦場の真ん中で、驚愕の声をあげたのだった。


おまけ
陽「なぁ、ぴくりともしないんだが、本当に大丈夫なのか?」

凱「仕方ないな……!?」

雪「どうしたの?」

凱「これは酷い、肋骨とあばら骨を数本骨折しているようだ。余程の戦闘だったのだな…って、どうしんだ?」

陽・雪「「ははは……」」」

凱「???」

あとがき
皆さん、お久しぶりっす。
コン太です。生きてますよ…。




[24492] 二十三話.「戦後処理作業中」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2010/12/11 08:55
二十三話.「戦後処理作業中」

Side:孫皓

「うばー……」

眠い・だるい・脇腹が痛い(注:あばら骨・肋骨計8本骨折及びひび割れで全治6ヶ月)。

さすがに孫堅さまの服を全部剥いたのは悪いとは思ったけど、命が助かったんだから大きな器で見逃してくれてもいいんじゃないと思ったのは、湿布を貼られて孫堅さまの前執務室・現俺の執務室で政務作業をしている時だった。
劉表戦後、荊州も取り込もうとしたのだが孫堅さまと周笠さまのご懐妊が発覚(陽炎は知っていたらしい)。孫策さま率いる本隊(武将として陽炎・千波・乃愛・昴・黄蓋さま・幸・丁奉、軍師として冥琳と海里)と建業に帰還する別働隊に分かれることとなり、俺は別働隊を率いて一足早く建業に帰還することになった。
劉表の子孫は2つの勢力に分かれていたため、その隙を突いて滅ぼす形になったが、雪蓮たちは荊州の民には友好的に迎えられたらしい。

本当は俺も本隊に入ってあちらの内情を見てくるつもりだったのに、脇腹を孫堅さまに蹴られた衝撃で骨にひびが入っているかもしれないと華陀に診断され強制的に連れて帰られるハメになった。結果的に折れていたけどな。

建業に帰ってきてからは、戦後処理の日々に追われる事となった。そして、陽炎たちの帰還を待って孫堅さまから雪蓮への王位移譲が行われた。周囲の諸侯からの反対意見は出なかったものの、数名不穏な動きをしたので摩耶に命じ監視させておいた。孫呉の不利に働くようなら暗殺も構わないと。

で、それからはしばらく鍛錬を禁止され、執務室に詰められ送られてくる仕事を消化する日々。うぬぅ、華陀に言われているのでなければ、さっさと外を見て回るのに…。

「……で、雪蓮。何故、王になった君がここにいるんだ?」

「だってぇ。仕事の量が多すぎるんだもん。母さまたちはご意見番っていう役職について気ままに生活しているのに……」

2人で逃げ出すっていうのは中々魅力的な案じゃないか?いや、あの華陀のことだ、罠もしくは監視体制をしっかりしているだろう。逃げ出すとしても、どちらかが犠牲にならないと逃げられないようなえげつないものが仕掛けられているかもしれん。

「……諦めろ、雪蓮。それが王としての責任だ」

「ぶーぶー。あーあー…蓮華、早く大きくならないかな。あの子、私より王としての資質はあると思うのよね。私は戦場でこそ輝く武将だから、皆の生活を守る王っていう柄じゃないのよねー」

まぁ、確かにな。お婆さまは、不器用だったけどお優しい方だったからな。
俺の出す案に耳を傾けて、「それでどうするの?」って聞き返してきてくれたのはあの人だけだったっけ……。


Side:太史慈

意外だ。孫皓が大人しく仕事しているよ。
てっきり我慢できなくなって、外をぶらりと巡るもんだと思っていたけど、肩透かしを食らった気分だ。孫策さまを諭している様だし、丸や周泰ちゃんには帰ってもらっても問題なさそうだ。そう思っていると華陀がやってきた。

「太史慈、孫皓はちゃんと部屋にいるか?」

「ああ。政務をちゃんとしているよ。いつも、あんなだったら俺の仕事も減るんだけどなぁ…」

「どうも『弾丸跋』の副作用成分のどれかが鎮静剤の役割をしているのかもしれない。孫皓の身体の中では『弾丸跋』は毒物として認識されたようで、効きが悪くなっていたんだ。副作用の効果もまっしろになるように燃え尽きる訳でもなく眠気が前面に出ていたし、身体全体に倦怠感が出ているだけのようだしな」

「孫皓は落ち着いた状態だとあんな(真面目に仕事をこなすよう)になるのか?」

「どの成分が効くのか分からないがな」

どの成分でもいいから量産してもらえないかな。俺の胃のために。

「それから、太史慈。気をつけろよ…」

「何がだ?」

「今日、……荒れていたぞ」

「そうか……」

仕方ないよな、妊娠した女性はいらいらするし、嫁さんの場合いきなり物事が飛躍してキレるときがあるからなぁ…。今日はどういって責められるんだろう。やべぇ、嫁さんの所に帰るのにも胃が痛くなってきやがった。

おまけ「劉表戦裏話」

雪「ところでさ、母さまと何処でどうやって入れ替わったの?母さまに聞いてもあのときのことは一切話してくれないのよね」

鷲「簡単だよ。雪蓮の声真似をして、天幕に呼び込み背後から……して、服を脱がせた後……させただけさ。薬を使うと何かあった時に対処ができないと思ってね」

雪「お兄ちゃんの変態!!『ドゴンッ』そんなことをすれば、母さまじゃなくても怒るわ…よ?」

鷲「…………」返事がない。ただの屍のようだ…。

雪「そういえば、華陀から絶対安静って言われていたっけ。……しーらないっ」

蓮「ネエサマ?ドコニイクノ?」

雪「はっ!?蓮華、いつからそこに?」


あとがき
第1部完っす。次回から第2部に入るまでの間話が続きます。
とりあえず、時系列が若い順番に出していきます。それからいくつかの作品の設定が混ざることがあります。


太史慈の部屋
必ず育休取るぞー!!
という訳で、間話の1回目は俺と新キャラが中心となります。
嫁さんの出産時期が近付いたのを期に育休願いを出しに行った俺に、立ちはだかる孫呉の王と軍師という壁。俺は少ないながらも仲間を得て、その壁を乗り越えるために闘うのであった。

次回『「育児休暇を取りたい」「彼女は取扱注意」』

の2本をお送りします。じゃ、これからもよろしく。



[24492] 二十四話.「育児休暇を取りたい」「彼女は取扱注意」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2010/12/13 20:25
二十四話.「育児休暇を取りたい」「彼女は取扱注意」

『育児休暇を取りたい』

Side:太史慈

最近の俺の日課は彼女の熱を測ることから始まる。

懐妊が発覚して8ヶ月、彼女のお腹は新たな命が日々成長しているのを目で確認することが出来るくらい膨らんできた。華陀の診断によれば双子らしい。
元々双子は家を分ける不吉なものというイメージがあったが、孫策さまと孫皓という実例によって悪い物では無いという考えが広がってきたおかげで、彼女は皆から祝福された。俺も勿論嬉しい。彼女はさっそく、名前を考えているようだが。頼む、トモロだけは止めてくれ。

朝ごはんを用意するのも俺の仕事になった。まぁ、彼女は自分でするからいいと言うのだけれど、放って置くと猫たちと同じ物を食べている時がある。つまり、ネコマンマだ。結婚して3年近くなるが彼女の料理のレパートリーは、海鮮ネコマンマ、山菜ネコマンマ、旬の野菜でネコマンマ、お鍋(作:俺)の後のネコマンマ、キムチ味のネコマンマと…成長しなかった。

俺は彼女に出会ったあの時から孫呉軍の中でかなり出世したと思う。家も一軒家(二階建て)を建ててもらったし、高給取りになった。部下の人数も増えたし、仕事も孫皓が執務室に縛り付けられているので楽になったといえば楽になったと思う。
少なくとも嫁さんと生まれてくる子供2人、猫6匹(闇・光・氷・炎・風・雷+竜)が飢えることはないだろう。だから、少しくらい贅沢してもらっても構わないのだが、如何せん彼女が料理を作るとネコマンマ化してしまう。
俺の両親を建業に呼ぶっていう手もあったのだが、彼女が気を使う可能性があった。この時期に心労はあまりかけたくない。ということで…

「育児休暇を取りたい」

王位継承がなされ、日々政務に追われてんてこ舞いの彼女達に直談判したのだった。

「……もう一度言ってくれないか?」

「育児休暇を取りたい」

「誰が?」

「俺が」

「「…………」」

孫呉を代表する王と軍師が眉を寄せて唸り出した所で、孫呉の育児休暇について説明しよう。

女尊男卑のこの世界。当然将兵や兵士の中の女性の率も高くなる。現在の孫呉に仕えている主な武将や軍師を省みれば分かるだろうが、若い男で将軍職に就いているのは俺と孫皓と丸だけだ。(他に武官や文官で仕えている者たちは孫堅さまや黄蓋さまの世代になる。)

当然、いかに女性のハートをキャッチ(鷲掴み)できるかが、人材集めの基本といえよう。元々、孫皓がここに来る前からあるにはあったのだが補償があまりされていなかった。つまり、休暇を取る=解雇という方式が成り立っていたのである。だが、

建業に越してきて思ったのだが、保育所とか幼稚園とか緑や遊具が多くある公園とかが普通に作られていた。奴の懐事情は化け物か!?とも思うほど、好き放題やりまくりだった。現代でいう保育士や保母さんなどの教育もされてきたようで、結構利用している兵や街の民も多い。
それも相成って孫皓は、育児休暇の政策としての中身を改革し始めた。例として挙げれば、「育児休暇の申し出や取得を理由に解雇してはならない」とか「育児休暇中の賃金は8割以下5割以上で支払う」とかな。賃金に関しては孫皓のポケットマネーから出るそうだ。(最近、奴の意匠は子供服やコスプレ服にまで手を出してきていて、収入が馬鹿にできないレベルに達している。俺も子供が出来たのを期に職人たちと協力してベビーカーを作ってみた所…ウケた。ちょっとした小遣い稼ぎになっている)
そして、育児休暇の期間に関しては、子供が1歳に達するまでとなっているが、都合上取得した日から1年が目安だ。

「太史慈……、今の我々の状態を知った上での陳情なのか?」

「最初に言うが、俺は仕事と家族のどちらを選ぶと言われれば、迷わず『家族』を取る男だ」

「くっ……、ここで駄目って言ったら完全に私が悪役じゃない」

「孫皓にも伝えてきたのだが、二つ返事で『いいぞ、もっとやれ』って言われたぞ」

その言葉を聞いて2人は机に伏した。
現在、建業にて政務をしているのは孫策さまに周瑜さま、それから孫皓と魯粛、あと文官や武官である。黄蓋さまは新兵の鍛錬に余念が無く、既存の兵に関しては統制練習も兼ねて藩臨と甘寧の師妹が鍛錬している。孫権さまと丸、周泰の3人は黄蓋さまの下で基礎訓練(体力付け)をしている。

他の将兵は荊州の戦後処理をした後、揚州で行っている政策をあちらの方で浸透させようと費桟と厳白虎を中心に奮闘しているようだ。
じゃあ、俺は何をしているのかといえば、孫皓の補佐をちょこっとやってきたのだ。嫁さんが妊娠していることもあって、孫皓は気を使って早めに帰してくれるし。このまま、ずるずる迷惑かけるのも悪いかなと思い、この決断に至ったわけだ。

「……太史慈がいなくなった場合、誰がその穴埋めをするのだ?」

「うーん。祭は…逃げるわね。いっそのこと、蓮華を……。いや、彼女の成長を促すためには駄目よね。結依小母さまを復活……って、彼女も妊娠しているっての」
「……分かった。太史慈、お前の代わりを務められる者の名をあげてくれ。母上に聞いた所、母上や美蓮さまには逆らえない理由があると聞いているが?」

「引退してなお俺を苦しめるのか…。うーん……、陸遜とか、呂蒙かな?」

「……なぁ、太史慈。休暇を取るのは止めないか?せめて、お前が言うその2人が来るまで」

「断る」

「ねぇ、冥琳。太史慈の言う『いい人材』って、魯粛以来よね。これで、その2人も当たりだったら、一回彼が知っている『いい人材』っていうのを全員あげて貰わない?」

「その分、仕事が増えるぞ。雪蓮」

周瑜さまは兵を呼んで何かを命令した後、机の引き出しに入れていた紙にさらさらと何かを書いた後、判子を押し俺に差し出してきた。

「太史慈、『育児休暇許可証』だ。……ただし何か大きな戦がある時は出てきてくれ」

「そのときはな…じゃあ、失礼しました」

俺はそのまま帰路についたのであった。


『彼女は取扱注意』

Side:周瑜

太史慈が挙げた『いい人材』とやらの1人目である、陸遜が建業に着き私の目の前にいる。
薄緑の髪を編み、眼鏡を掛けた少女だ。歳は蓮華さまより少し上で私たちより下か。だが、そんなことよりも目を引くものがある。
でかい。何がって?彼女が動けばゆれるものだ。歩けば、ゆれる。座っても、ゆれる。呼吸をすれば、ゆれる。振り向けば、ゆれる。しゃべっても、ゆれる。
太史慈の奴はでかいのが好みなのか?と勘繰ってしまう程、立派なものだ。私自身も結構自信を持っていたのだがな。

「よろしくお願いします~周瑜さま」

「ああ。その力、しかと孫呉のために役立ててくれ」

見た目どおり、おっとりとした口調で話す少女。
彼女の名は陸遜、字は伯珂。真名は穏。
名家である陸氏の才媛であり、知識も中々であるし貪欲な知識欲もあるそうだ。
太史慈は本当にいい文官を引き当てるな。魯粛を仕官させようとして武官を増やしてしまったのは、やはり鷲蓮の所為か。

「周瑜さま~私は何をすればよろしいのでしょうかぁ~」

「私のことは冥琳でいいぞ、穏。そうだな、お前には鷲蓮、孫皓の補佐を頼みたいの…だ…が?そんなに頬を染めて、どうした?」

「はいっ!孫皓さまっていうと、たった2ヶ月でこの建業を造り上げたり、山越賊を従えたり、様々な政策をこの世に生み出して揚州をより良き物にしていっているお方ですよねっ!是非っ、私にあの方の補佐をさせて下さいぃ~~~」

頬を上気させ、目尻に涙を溜めた彼女は私の腰にすがり付いてきた。そして、捨てられた仔猫のように私を見上げてくる。私は彼女の何か変な所を刺激したのか?

「冥琳、入るぞ……って、誰だ?」

「鷲蓮」

「はうぅ~ん!お初にお目に掛かります~陸遜といいます~」

一瞬、彼女の目がギラリと輝いたような気がしないでもないが…。

「あ…ああ。俺は孫皓だ、よろしく。ちょっと邪魔だから横に逸れてくれないか?……冥琳、少々相談したいことがあるんだ」

「なんだ?」

穏は鷲蓮の言葉を聞いて『シュンッ』と頭を垂れてがっかりとしたようだが、ちゃんと部屋の隅に行った。彼にしては珍しいと思ったが、彼が引き抜いた人材ではなく初対面だったから仕方がないかと納得しておくとしよう。

「学k……分かった、そう睨むな。今回、相談したいことは本格的な騎馬隊を設立したいんだが」

「騎馬隊?」

「歩兵は陽炎や千波がいる。弓兵は祭さんや丸、場合によっては藍もいける。暗部に関しては摩耶と明命ちゃんがいて問題はない。水軍に関しては甘寧だけだが、いずれここは増やそうと考えている。軍全体を率いる者として、雪蓮が積極的に前線に出るのは大きな戦だけ、細々した戦に雪蓮ほどの大物はいらないだろう。孫呉の軍で穴があるとすれば、騎馬隊を率いる目聡い将兵がいないことだと考える。誰かいるか?」

「ふむ…。凌操殿の娘が馬の扱いに慣れていると聞いたことがあるが」

「凌操さまが率いる兵は確か2000近くいたな。美蓮さまの『世代制』もあるから、彼女が率いることになるか…。なら今のうちにそれだけの馬を集めて、訓練しておくのがいいか」

「あの~?」

「ん、なんだ?陸遜」

「その役目、私にやらせて下さい~」

鷲蓮に言われて落ち込んでいた彼女は、私たちの会話に耳を立てて聞いていたようで会話に参加してきた。ぽやぽやとした感じはあるが、何か案があるのかその目には自信が窺える。

「……冥琳」

「うむ。では穏。この件お前に一任する。その力を我らに見せてみろ」

「はいお任せください~でもその前に。えいっ」

『むにゅっにゅ』と擬音が発されたような気がするほど、強い力で彼女は鷲蓮に抱きついた。彼はいきなりの行為に目を白黒させている。
『ぎゅむぎゅむ』と擬音を発しているかのように、彼女の豊満な果実が彼の身体に押しつぶされて淫らに形を変える。

「はうぅん!夢にまで見た孫皓さまが私の腕の中に~触れているだけで私の大事な所が疼いてきちゃう~」

「……助けてくれ、冥琳」

彼女は鷲蓮の正面に周り、膝をつこうとするが彼が押し止めている。まだ、陽も高いというのに何を発情しているのだろうか。そうこうしている内に、限界と感じたのか彼は指を鳴らした。彼の横に無音で降り立った摩耶が穏を抱えて『シュタッ』と消える。天井を見上げると、人を抱えていたために閉める事ができなかったのか、穴が空いていた。『雌猫は私だけで十分なのですよー。しかも、キャラが被っているじゃないですかー』と聞こえてきたが、恐らく幻聴だろうと思う。最後のあれが無ければといいのだがな…。太史慈が言っていた『いい人材』のもう1人に期待しようと思う。


あとがき
間話1回目でした。
普通人の陽炎くんが休暇を取ったことで、次回孫皓が酷い目にあいます。
乞うご期待。コン太でしたっす。



[24492] 二十五話.「今のところは…」「新規参入の2人」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2010/12/13 20:26
二十五話.「今のところは…」「新規参入の2人」

「今のところは…」


Side:孫策

最近、政策が整ってきて、長沙から来た民と山越出身者とのいざこざも折り合いがつき、私自身の仕事の効率も上がってきた事もあって、仕事の量が日に日に減ってきたように感じる。冥琳が思い切って、藍と太史慈が『いい人材』として名をあげた穏―陸遜―の2人を鷲蓮の下に付けたのが功を奏し回転率が上がったのも良かった。
太史慈が「育休」を取ってしまったのは誤算だったけど、彼の言っていた人材の2人目である呂蒙と、荊州の方にいる昴の妹である厳興が仕官したのも大きい。

呂蒙は当初私や孫皓に対してかなり怯えていたが、一度話してみたら誤解だっていうことを分かってくれたみたいで小動物のような仕草で私たちを和ませてくれる。本人は鋭い目を気にしているようだが、理知的で可愛いものだと思うのだけどなぁ。彼女は現在、冥琳の下で仕事を手伝いながら軍師としての勉強をしているようだ。

厳興は鷲蓮の配下で太史慈の補佐も務めていた厳白虎の妹に当たる。姉と同じ白髪だが彼女は腰の辺りまで伸ばした長髪。おしゃれに気を使っているようで一見、昴の姉妹には見えない。体つきも出ているところは出ているし、締まっている所は締まっている感じだ。闘い方は徒手空拳のようで、篭手や脚部にも武具をつけている。ただ、仕官する時にちょっとした出会いがあったらしく、丁奉に一目惚れしたらしい。明命と好敵手の関係に一発でなったそうだ。

名前が出てきたので、ついでに丁奉のことも言っておこうかな。
丁奉は現在祭の下で修行しているが、彼女曰く目覚しい進歩を遂げつつあるそうだ。今までも人員の配置を上から見ているような感覚である『鷲の目』を持っていたらしいのだが、祭に連れられて戦場を何度も経験する内に才能が開花、戦場全体を上から見ることが出来る『鷹の目』を手に入れたらしい。彼の目と明命の力が合わされば、敵は丸裸同然。休日はその能力を一杯使って猫を追い回して猫天国を作っているようだ。
今はまだ子供だからいいけれど、彼らがこれから何を見て、何を学ぶかによって、私たちの味方でいるのか、それとも敵として前に立つことになるのかが決まってくることになるかもしれない。
一層、引き締めて王として皆の前に立つようにしないといかないわね。

「雪蓮…」

「どうしたの、冥琳?」

いつの間にか私の正面に立っていた冥琳が心配そうに見ていた。

「雪蓮、何か不安なことがあるのか?」

「ううん。私は今後の身の置き方についてちょっと考えていただけよ。母さまの頃から仕えている将兵や、鷲蓮が連れて来た者たち、そしてこれからを担っていく子供たちに、どんな私を見せるかで印象とか見る目が変わってくるはずだから、考えて行動していかないといけないなぁ…と思ってね」

私はそう言って背伸びをした後、椅子に座り直した。彼女が私の執務室に来る理由は3つ、仕事の追加か休憩か何か事件があった時だ。休憩は先ほど2人でのんびりとお茶したから、冥琳の様子を見るからに仕事の追加だろう。

「遠慮しないで冥琳。今の私は心が燃えているから、どんな問題でもこなしてみせるわ」

「……なら、ちょっと鷲蓮の執務室に行ってみろ」

「へ?」

―移動中―

私は冥琳に言われたとおり、彼の執務室の前に来たのだが…

「摩耶!アンタはお呼びじゃないのよ!さっさと穴倉に引っ込みなさい!」

「なにおー!鷲蓮さまのお手伝いしてるですよー」

「あはは~。孫皓さまの補佐は私がしていますよ~」

は、入りたくない。
鷲蓮が最近大人しいとは思っていたけど、さすがにこれは無いわ…。侍女を呼んで話を聞いた所、ここ最近ずっとこの状態らしい。

そっと扉を少し開けて、中を覗くと机に伏した状態の彼の姿には目もくれず、3人でワイワイギャアギャアと言い合って、罵り合って、でもちゃんと手元で仕事をこなしている摩耶・藍・穏の姿があった。私の気配を察したのか、彼が顔を上げた。生気の無かった彼の瞳に、光が戻り

「しぇ「孫皓さまぁん!何か思いつかれたんですか~?であるなら、まず補佐である私に~」「抜け駆けは許さないわよ、雌猫2号!鷲蓮さま、愛玩動物2匹は置いておいて私と」「鷲蓮さまー、私も抱きついていいですかー」たすけ…」

私は無言で扉を閉めた。そして深呼吸をひとつ。

「私は何も見ていないし、ここには来ていない」

隣にいた侍女は、私の言葉に頷き一礼して去っていった。私も冥琳が待つ、自分の執務室に向かって歩き出したのであった。


「新規参入の2人」

Side:黄蓋

ワシの部隊に新しく入ってきたのは、現在荊州に行っている昴の妹である厳興という娘であった。真名は銀河。
腰のところまで伸ばした髪をうなじの辺りで青いリボンで括っている。控え目ながらも姉と同じような印象を受ける。姉である昴は拳(爪)を主体に戦うが、彼女は蹴技を主体に使用して戦うようだ。威力は試しに蹴ってみろということで用意した一般兵が使っている鎧だったにだが、鉄を使っている部分が粉々に砕けていた。まぁ、中々といった感じかのぅ。なんせ、太史慈は拳で粉砕・丸は弓で貫通・孫皓さまは斬鉄でバラバラにするからのぅ。
性格の方はやや姉よりもきっちりしているような感じじゃな、ちょっと真面目すぎる気がしないでもないが他の者からすればこのくらいが丁度いいのかもしれない。だが、問題がひとつ浮上した。何処で会ったのかは分からないが、彼女は丸に一目惚れしてしまったようだ。ワシが様子を見に行った時にはすでに、明命と竜虎相打つ状態の修羅場と化していた。あの時の丸の怯えた表情は、ワシの部下たちに大打撃を与えた。どのくらいかというと、愛情が鼻から滝のように流れるくらいじゃ。
丸自身も困惑しているようじゃった。

元々「僕を男として見てくれた彼女に失望されたくない」ということで、修行を重ねて才能を見事に開花させ『鷹の目』という唯一無二の力を手に入れた。これでようやく彼女の隣に胸を張っていられると思ったら、厳興の登場である。丸は元々、明命のことを意識していて彼女に認めてもらいたくて強くなったのに、明命の方が厳興を意識しすぎて場を混沌とさせてしまった。本当なら初々しい恋人が一組出来上がっていたかもしれんのに、やはり明命も丸の1歳年上とはいえ子供じゃったという訳だ。
丸も優しいところと甘いところがあるから、今の状態でどちらかを選ぶという器用な真似が出来ない。そのため、2人から熱心な誘いを受け続けていくことになるだろう。

「くくく。悩め丸よ、それが青春じゃ」

「って、思い出し笑いしないでくれよ。瑠音が起きてしまう…」

「すー…むぅ…」

ワシは時折、育休を取った太史慈の家に上がりこんで、彼の手料理に舌鼓を打った後、酒盛りをしておる。ここなら冥琳に見つかることもないからのう。ただ、酒を持参しないといけないのが難点なのと、相手が盛り上がりに欠けるというのがいかんがのう。太史慈は嫁さんが妊婦というのもあって仕方がないが、華陀よ。何故、一口で酔いつぶれるのじゃ?これでは良い酒でも飲み甲斐がないではないか。

「早く、帰ってこんかのう。幸殿は…」

ワシはそう思いながら、また杯を傾けるのであった。


Side:呂蒙

私は建業にある城の一室で周瑜さまのお仕事を手伝いながら、軍師としての勉強をしています。
周瑜さまがおっしゃられるように、建業は武官が充実している割に、文官の数が足りていない印象を受けました。建業にいらっしゃった文官の1人である程普さまにお話を窺った所によると、孫堅さまに仕えていた武官や文官の半数は長沙に残られて、あちらで政務を行っているようです。長沙の太守であられた孫堅さまは建業で隠居なされていると聞きましたが、朝廷は何も言って来られないのでしょうか?それとも、何かしら手を打たれているのでしょうか?
ちなみに残った方々には所帯があり、態々異民族がいて旨みの余りない建業に行くよりも住み慣れた地で生きていくことを選ばれたようです……。ということは?

「程普さまは…その…」

「ふふふ。私と祭は“売れ残り”という訳」

「そ、そういう意味で言ったわけじゃ…」

「冗談よ、呂蒙ちゃん。一人前の軍師になるために一生懸命になるのはいいけれど、ちゃんと女としての魅力も磨かなきゃ駄目よってこと」

「…はい。程普さま」

「堅いわね。呂蒙ちゃん、私のことは綾でいいわよ。体を壊さないように少しずつでいいから、色んなことを学びなさい」

「は、はい。綾さま」

『さま』はつけなくていいのにと苦笑いする彼女は、遠き地にいる母のような方だと思いました。
でも、何故こんなにも優しい方が結婚なさっていないのでしょうか。こんなにも綺麗なのだから、若いときは引く手数多だったでしょうに…。

「どうして?って思っているでしょう」

「…え?」

「そうやって口元を隠して考えるのね。でも、貴女が考えるほど難しいことじゃないわ。もっと簡単で根本的なこと」

「簡単で…、根本的?」

首を傾げた私を見て、母のような微笑を浮かべた彼女は私の耳元でこう呟いた。

「身体にも相性があるの」

そういう意味かと理解した私の顔は真っ赤に染まったのか「林檎みたいよ」と綾さまにからかわれてしまった。



あとがき
読者の皆様…大変お待たせしました。
間話2回目にございますっす。
今回出てきた新キャラは3人。次回も新キャラが登場します。


太史慈の部屋
『育児休暇中』のため居りません。



[24492] 二十六話.「孫権のお茶会」「男たちの友情」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2010/12/14 19:55
二十六話.「孫権のお茶会」「男たちの友情」

Side:孫権

私が丸君と明命の3人でお茶をしている時だった。
中庭をトコトコと横切る影があった。茶色の長髪をポニーテールにして、槍を片手に持つ私と同年代ぽい少女だ。ただ今までに見かけたことがない。
私が首を傾げたのを見て明命が、

「凌操さまの娘で、凌統という方らしいです」

と教えてくれた。

「孫皓さまが“力を入れたい”って言っていた騎馬隊を率いる予定の人だよ」

と丸君が付け加える。さすがに息が揃っているなぁ…と感心する。

「(凌統か…、お兄さまが力を入れるという騎馬隊…。ちょっと話がしたいかも…)」

そう思った時には、隣にいたはずの明命の姿が消えていて『キャーーー!?』と甲高い女の子の声が聞こえていた。

「お初にお目に掛かります、孫権さま。私、凌操が娘、凌公積といいます」

と、私の前で片膝をつき頭を垂れる彼女の姿を見て、改めて私は王族なのだと思い知らされた…けど。

「丸君!明命!何故、貴方たちまで膝をついているの!」

悪ふざけにも程がある。祭の下で一緒に鍛錬して、仲良くなって、真名交換もしたのに…。

「いやだって、僕は狩人の子だし」

「私は……だったし」

確かに2人は庶子だ。だけど、そんなことは言われたくない。言って欲しくない!

「それでも私たちは友達でしょう」

はっ、と顔を上げた2人は差し出された私の手を取り…

「あの…」

3人とも凌統の戸惑った言葉に我に返ったのだった。
その後は彼女も交えて4人でお茶会。
同じ槍を扱うものとして、太史慈に稽古をつけてもらいたかったらしいのだが、彼は育児休暇を取ってしまったために不在であり、誰の下で学ぶのが良いのかを悩んでいるそうだ。

「明命?」

「はっ。体力付けから始めるのであれば黄蓋さまの所、技を磨きたいのであれば孫皓さまの所、実戦さながらの鍛錬がしたいのであれば藩臨さまの所がいいです」

祭は新兵教育に余念がないし太史慈を鍛えたのも彼女だから凌統も導けるかもしれない。お兄さまは太史慈や姉さま、千波さんっていう前例があるから問題ないだろう。その千波さんだって思春が通っているから1人増えても問題ないだろう。

「あ、でも。藩臨さん、結局兵を指揮するのを諦めたみたいですよ。あの人、人に伝えるより先に体が動いてしまうみたいで、部隊が毎回置き去りになるんです。この前、飲み屋で酔いつぶれていた所を祭さんに保護されたそうですよ」

彼女が酔いつぶれるほど飲むなんて、余程のことだったのね。

「孫権さまたちは、黄蓋さまの下で鍛錬なさっておられるのですか?」

凌統が私たちの顔を見ながら聞いてきた。

「私はお兄さま…孫皓の所で剣の基礎を確認しながら剣を習っているわ。時折勉学も見てもらっているけど、最近の狙い目は早朝か就寝の直前ね」

最近のお兄さまは荊州の豪族や名士を取り込もうと奮闘しているようだし、太史慈の代わりに補佐についた陸遜と藍さんに指示を出して搾り取られる日々を送っているから、私がお茶やお菓子を持って会いに行くと喜んでくれるの。

「私は母さまの所で修行しています」

明命も私と同じ時期にお兄さまの下で『六式』を学んだ後、摩耶さんの下に付いた。母子の関係だが、仕事の時は厳しいらしい。

「僕は祭さんの部隊の副官として選ばれました。なので、鍛える側ですね」

丸君の成長は凄まじかった。これが才能なのね…と実感したこともあるし、彼の昇進は納得できる。

「なるほど…。やはり黄蓋さまの下で色々と学びながら鍛えるのがいいのですね」

「姉さまが率いて、お兄さまが集めたこの軍は、私たちが成長する上で必要なものが全て整っていると思う。だから何かしら目的を持っておくといいと思うわ」

「は、はい。ありがとうございます、孫権さま」

と、凌統は私に向かって頭を下げた。

「だから、頭は下げなくてもいいって!」

無意識にやってしまっていたのか、彼女は少々涙目で謝って来る。少し強く言い過ぎたかもしれない。

「あっ、いや、そういうつもりじゃ」

なかったの…と続けようとしたのだが

「許せ、凌統。蓮華さまには今まで心許せる友と呼べる存在がいなかったのだ。だから同年代の者に対して、どう接すればいいのか分からないのだ。だから気にするな、直に慣れる」

と、私の親衛隊の隊長を務めている彼女が説明?したんだけど…。思春、貴女そう思っていたんだ…へぇ…ソウナンダ。

「シシュン…チョット、オ・ハ・ナ・シ・シナイ?」

「!?…蓮華さま、ちょっと用事を思い出したので失r『ガシィ!!』イタタタ…」

Side:丁奉

さすがに今の説明の仕方はないよね。と、能面のような無表情なのに怒気が垣間見える蓮華さまに肩を掴まれ、涙目で連れて行かれる甘寧さんを見て思った。だって、要するに…

「蓮華さまには友達がいない」

って、凌統さんに言っちゃった訳だから、蓮華さまが怒るのは仕方が無いことだよね。

「えっと、丁奉…くん。私はどうすればいいのかな?」

「しばらくしたら戻ってくると思うから、ゆっくりとしていていいと思うよ。このお茶会だって、蓮華さまが企画してくれたんだし」

蓮華さまは真面目な所と世話好きな所、そして僕たち臣下に対して友好的な関係を築きたいという気持ちを隠さないで接してきてくれるから、居心地がかなりいいんだよね。

「明姉(みんねえ)はどう思…う…?あれ、どこに行ったの?」

「彼女なら、あそこで…」

と、凌統さんが指差すほうには、明姉と厳興さんが何かを叫びながら闘っていた。

「あの…丁奉くんの顔は何処がいい!とか、性格のこんな所が好き!とか叫んでいるけど……」

「凌統さん、そういうのは口に出さないのが優しさだと思うんです。あれは毎日やっているので恒例なんです。それよりも茶器を片付けるのを手伝って下さい、もうそろそろ」

「丸の膝の上は私のものです!」

「丁奉君の寵愛は私が受けるもの!」

と、抱きついてきて僕の体を取り合う2人を見て、目を丸くする凌統さん。こういう場合、どうすればいいのか僕には分からないよ。
助けて、かげ兄……。

1刻後――

お仕置きを済ませて戻ってきた蓮華さまが見たものとは、僕の身体で綱引きをする2人とどうしたらいいのか分からなくて慌てる凌統さんの姿だった。
明姉と厳興さんは石畳の上に正座をさせられた上で説教された。僕はひたすら死んだ魚のような目をした甘寧さんに頭を撫でられ続けたのだった。


「男の友情」

Side:華陀

太史慈が瑠音のために育児休暇を取ったというのは聞いていたが、それによって仕事がきつくなったと孫皓が俺の病院に来るようになったのは意外だった。
彼は怪我することはあっても、病気とは無縁だと思っていたからだ。医者が先入観を持つことはいけないことだなと少し反省する。
しかし、彼がここに来たのはそれだけではなかった。普段は言うことができない悩みを言っていくのだ。俺は病院の2階にある俺の家に彼を招き、彼の“独り言”を聞く。話題は様々だ。

「華陀……いや、凱。これは俺の独り言だ、聞き流してくれて構わない」

彼の独り言は毎回こういって話される。

長沙のこと、建業の太守のこと、蛮民族とのいざこざ、朝廷に睨まれたため官位を金で買ったこと、十常侍に賄賂を払っていること、など政治的な話もあれば。親になることへの不安、俺に家族を守っていけるのかという猜疑心、などの自分自身の悩みもある。そして、独り言の最後を締めくくるのは毎回これだ。

「俺はこの世界にいていいのだろうか」

というふざけた話。だが彼の話を否定することはしなかった。いや出来なかった。
彼の言葉には重みがあったし、冗談を言っているようではなかったからだ。普段の彼からは絶対に見ることは無い、彼の弱さを垣間見る気がするのだ。
恐らく今の彼には心のうちを全て曝け出して頼ることが出来る存在がいないのだろう。

なら医者として、彼の友として、俺が言うことは…

「お前を縛る戒めは俺たち(太史慈含む)が破壊する!だから見せてくれ、鷲蓮!お前の勇気の心を!」

「凱……ありがとう。何か元気になったよ。じゃあ、いつもの…」

「ああ、1階に置いてあるぜ」

彼は診療代と栄養剤の代金を払った彼はそのまま1階に降りて袋を片手に城の方に向かって帰っていった。

「鷲蓮……『弾丸跋(改)』はおまけしとくぜ」

後日、腰が痛いと孫策さまと周瑜さま、蒋欽と魯粛が俺の診療所にやってきたのは余談である。



あとがき
ただじゃ終わらないのが、華陀クオリティ!!
間話3回目が終わりました。
次回あたりで3名出産の予定。
親の公表と名前は本当にどうしようか……。誰かアドバイスを下さいっす。



[24492] 二十七話.「新しい生命」「小蓮のお姉ちゃん奮闘記」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2010/12/16 20:33
二十七話.「新しい生命」「小蓮のお姉ちゃん奮闘記」

Side:孫策

荊州に行っていた者たちが帰還した。あちらの内政に関しては元々劉表に仕えていた者たちが蔡瑁を中心としてやっていくことに落ち着いたようだ。
蔡瑁は荊州の豪族で名士のまとめ役でもあり、冥琳が自分と藍の力を束ねて掛からないと勝てないというほどの策略家でもあるそうだ。下手したら劉表配下の者たちともう一戦あるかもしれないと危惧していただけに、彼女を口説き落とした孫皓の手腕に拍手を送りたいと思う。私じゃ確実に無理だったと思う。
それに彼女を味方につけたことによって、孫皓の器の大きさや魅力が他の名士たちにも伝わったらしく、荊州に住んでいた名士や袁家に仕えていて自分の策を使ってもらえなかった文官たちがこぞって、仕官させてくれとやってくるようになった。嬉しいのだけれど、多すぎ。冥琳と穏、亞莎と綾の4人で使える者・使えない者の選別を慎重に行っている。

で、肝心の鷲蓮なのだが現在、城の中にいない。ならどこにいるのか。それは…


Side:孫堅

「あー…」「だー…」「ぷぁ…」「あぅー…」

4人の娘を抱きかかえた鷲蓮は今まで見たこともないくらい幸せそうな表情を浮かべていた。

「鷲蓮もあんな顔をするのね…」

もうなんて言えばいいのか分からないけど、一言でいうなら『でれでれ』ね。
私たちに陣痛が訪れたと聞いた彼は仕事を放って私たちの元に来て、私たちの手を握った。けど彼の顔は心配と不安などの心情を織り交ぜた複雑な表情を浮かべていた。しかし華陀に喝を入れられて私たちが安心できる男の表情を見せた。ただ…私たちが産んでいる最中はあまりの壮絶さに気絶していたらしいけど、私たちの手は放さなかった。
生まれたばかりの赤子に自分の指を握らせたりしているけど……なんだろうか。命を授かったばかりの娘に彼が獲られた様なこの気持ちは。

「安心しろ、2人とも。あいつはこれまで、自分が親になっていいのかと悩んでいたんだ。今、やっとその悩みから解放されたんだ。そっとしておいてやってくれ。どうせ、今度は嫁さんが子供にばっかり構っていることを悩むんだからな」

「医者になると親の気持ちも分かる様になるのか」

と、隣で我が子と彼の戯れを眺めていた結依が尋ねる。

「医者だからじゃない。俺が父親で経験者だからだ」

「「ええー!!」」

「あまり大きな声を出すと……ああなるぞ」

と彼が指差した先では、泣き声の大合唱に翻弄される泣き顔の鷲蓮の姿があった。

あやし中――

「やはり…父親よりかは母親の方が落ち着くのか……」

とがっくりと肩を落とす鷲蓮。そして彼の肩を優しく叩いて慰める華陀。先程の話を聞いていたはずの鷲蓮はあまり驚いていないようだったのでちょっと聞いてみた。

「鷲蓮は華陀が結婚して子供がいることを知っていたの?」

「ん、勿論。凱は自分が一人前かつ自分の病院を建てたら自分の所に家族を呼ぶと決めていたらしくて、現在引越しをしている最中だそうだ。俺の知り合いの商人に手伝ってもらっているから、ここ2週間以内に着くと思う」

「孫皓には何もかも世話になりっぱなしだからな。本当に感謝している」

「こちらこそだ、凱。お前のおかげで俺は…、俺は…親になることが出来た……ぐすっ…ありがとう…」

うわぁ…、鷲蓮が泣く所初めて見たわ。今日は彼の色んな初めてを見ることが出来るわね。

「鷲蓮も人の子なのだな……で、どうするのだ?」

結依が尋ねてきたのはこの娘たちの親を誰で公表するかだ。鷲蓮の名前は駄目。なので、信頼の置ける臣下の誰かから選ばないといけないのだが、彼しかいないのよね。

「ああー……祖茂に頼もうと思っているわ。彼、鷲蓮のことを雪蓮の双子だって疑わないし、尚且つ彼の実力を認めているからね。ただ…」

「ただ?」

「息子に手を出したって、彼に思われるのがなぁ…」

鷲蓮は孫静の一人息子だって、何度も言っているのに。……甥に手を出すっていうのも本当はいけないんだけどね。さらに言うと曾孫に手を出したって知られると本当にヤバイ。この秘密は墓まで持っていかないと。

「諦めるしかないだろう」

「はぁ…」

やっぱり仕方が無いか。


Side:太史慈

『母子共に健康』

という話を聞いた瞬間に俺の体からは歓喜の感情があふれ出した。それと同時に涙が止め処なく零れ落ちた。
黄乱と厳白虎が赤ん坊を取り上げてくれることとなったので、俺は産湯を用意したりタオルの代わりになるものを探したりと駆け回った。何故、華陀でないのかというと瑠音が拒否したためだ。従兄弟いえども下半身を見られるのは嫌だったそうだ。

「……ゆあ」「ああうー」

2つの新たな生命を抱きかかえた俺は、また涙を零した。

この世界には保育器や救急救命用の器材は存在しない。命を産むという行為は死と隣り合わせなのだ。だから彼女のお腹が膨らむ度に成長しているという喜びと本当に無事に産まれて来てくれるのかという不安、相反する感情に支配されてきた。俺がいない間に彼女に何かあるんじゃないだろうかと、内政が大変だというのが分かっていて育児休暇を取らせてもらった。あの時、彼女たちに言ったには紛れもない俺の本心だった。

「くくく。昴よ、よく見ておけ。あれが親になった瞬間の男の顔だ」

「本当に何度見ても、幸せそうですね。そして、瑠音さんの母性に満ち溢れた表情も」

「黄乱、厳虎。2人ともありがとう。感謝する」

俺は2人に向かって頭を下げる。やべっ、また涙が溢れてきた。

「よいよい。今度、酒を奢ってくれればなぁ」

「ははは、オレたちはこれで帰りますけど、瑠音さんも安静にしてくださいよ」

「ありがと。幸さん、昴…」

彼女の穏やかな笑顔も久しぶりに見た気がするよ。
孫皓も親になったのだろうか…。


「シャオのお姉ちゃん奮闘記」

Side:小蓮

「(おはようございまーす…)」

と音を出さないように気をつけて、寝台に忍び足で近付くの。
そろーっと、顔を覗き込むようにすると。

「うんうん。翊と匡、今日もぐっすりだね」

私は眠っている2人の頬をぷにぷにする。やわらかーい♪

「はっ!?和んでいる暇はないんだった」

私は部屋に入ってきた時と同じように忍び足で移動して、音を出来るだけ立てないようにして箪笥を開ける。そこから布を4枚取り出し、お兄ちゃまが意匠した赤ちゃんの服を2着取り出した。
今日はね、翊が赤色で、匡が白色の服なの。匡はシャオとお揃い~♪
2人の妹たちの朝のお着替えは、お姉ちゃんであるシャオのや・く・め♪
『お姉ちゃん』か…。いい!なんだか嬉しくなる!

2人のごはんはお母さまのおっぱいだから、シャオの役目は無い。隣では結依おばさまが赤ちゃんたちにごはんをあげているけど……いいもん。シャオもいつか大きくなるもん。お姉さまや冥琳なんかにはすぐにおいついてやるんだもん。

午前中は昼ご飯までは勉強するの。前は嫌だったけど、2人の妹たちが生まれた今そんなことは言っていられないの。シャオもお姉さまやお姉ちゃんに教わったんだもん。なら翊と匡に教えることになるのはシャオの役目!2人に不甲斐ない姿は見せられない。ちゃんと学ばなきゃ!そして2人が大きくなったら「「おねえちゃま、すごい!」」って褒めてもらうの。えへへー……、はっ!

昼ごはんが済んだらね、2人はお昼寝の時間。シャオはね、隣で本を読んであげるの。まだ何を読まれているか分からないと思うけどいいの。いつか…きっと……すぅー……

夕方になるころにね、中庭を少し散歩するの。太史慈が作ったっていう『赤ちゃん車』は便利でね、力があまりついていないシャオでも2人をつれて散歩できるんだよ。

えへへ、2人とも早く大きくならないかなぁ。


あとがき
間話4回目は、ほのぼの系で終了
第2部もついに一話をUPします。
時系列的にこの話から3年後くらい後になります。
では、よろしく。



[24492] 零話.「ここは何処なんだ、鷲蓮!?」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2010/12/24 12:34
零話.「ここは何処なんだ、鷲蓮!?」

Side:一刀

孫である鷲蓮が行方不明になって1年が経った。
現在も呉と蜀の両方で連携して捜索が続けられているが、彼の足取りはあの日報告にきた兵士が言っていたこと以上の物は見つからなかった。
次期の王にと呼び声が高かっただけに、親族や将軍、末端の兵士たちや呉に住んでいる民たちからも悲嘆の声が上がった。特に3代目の王であり、孫和亡き後の鷲蓮の母親のような存在でもあった孫亮は数日寝込んだ。現在は復帰し政務をこなしているが、時々空を見上げて涙を流している。

「一刀さま…」

「大丈夫だ、陸坑。俺も蓮華たちの所に逝くだけだから…」

「まだ、孫皓さまは戻ってきていらっしゃらないのですよ!一刀さまが亡くなったことを聞いたら…」

俺は鷲蓮がいなくなったという報告を聞いて、すぐに捜索隊を編成し各地に放った。そして、つい最近まで彼らを指揮して情報を集めていたのだが、どんなに探しても彼の足取りは掴めなかった。それは、まるで俺がこの世界に来たときのようにぷっつりと途絶えていた。

彼はもうこの世界にいないのだと認識してしまったら、……すぐだった。
まず無気力になった。疲労が取れなくなった。満足に眠れなかった。何が起きても、何を聞いても、何も感じなくなった。
俺は寝台に寝て、天井を見上げながらシャオが死んだ時以来の涙を流した。
ハチャメチャで、多くの人を巻き込んで、いつも騒ぎの中心にいた鷲蓮を叱ったり、怒ったり、慰めたり、一緒に酒を飲んだり、笑いあったり、施策を一緒に考えたりすることがいつの間にか俺の生き甲斐になっていたということに、俺はようやく気付いた。

「孫皓は大丈夫だ。あいつは強いからな……。それに、何故だろうな。俺はあいつに会える気がするんだ。愛しい彼女達にももう一度……」

会える気がする…と言おうとしたが、急に訪れた眠気に負けて俺は瞳を閉じ思考を止めた。
陸坑が俺の体を揺らすが、ごめんな……起きられそうもない。


しばらくまどろみの中を浮いているような、沈んでいっているような奇妙な感覚の中にいたのだが……。

「…なぁ、あと1年あるんじゃなかったのか?」

「……そんにゃことを、わたしにいわれてもこまりゅにょでしゅよ」

久しぶりに聞いた孫の声と、噛みまくりの幼い女の子の会話を聞いて、俺は体を起こした。
目を開けると薄紫色の髪を黒色の紐で結んだ青年と濃い紫色の髪をした幼女が俺を見ていた。
年齢をとってはいるが、俺が彼を見間違えることがあるだろうか。いや、ない(反語)!

「…鷲蓮……だな」

「!?お爺さまなのですか!」

彼は心底驚いたのか瞳を見開いて後ずさった。

「死ぬ前に、もう一度お前に会えたんだ。もう思い残すことは無い。これで蓮華たちの元に逝けるよ」

俺はそういって部屋を見渡した。そして鏡に映った自分の姿を見て固まった。あるぇえええ?若返ってんじゃねぇの、これってさぁあああ!?

「あの、お爺さま」

「ここは何処なんだ、鷲蓮!?つーか、お前が抱いているその幼女は誰だ!?まさかシャオ!?ここは過去なのか!?孫堅さま、雪蓮は、冥琳は、蓮華は生きていr『ゴスッ!』キュウー………」

「よんだいめ、さしゅがにあたまをたたきゅにょは、だめだとおもうにょでしゅよ」

「仕方が無いだろう。今は摩耶がいないからいいけど、雪蓮や蓮華のことを真名で呼んでしまっているんだ。一回落ち着いてもらわないと会話も儘ならないと思わないか」

「そうでしゅね……。しかし、ひょんとうにきおきゅをもちゅ、ひょんぎょうかじゅにょがきてしまいましたね」

「孫翊、もう一回言ってみ」

「……よんだいめがいじめりゅ」



あとがき
強化!まだ強化!更に強化!それが…、『コン太クオリティイイイイイ!!』(TOD2のロニ風)
ええい、呉を更に強化してやんよ。
楽しく明るくチートな孫呉一派を見てやって下さいっす。




[24492] 一話.「俺は、俺だぁああああ!!」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2010/12/24 12:39
一話.「俺は、俺だぁああああ!!」

Side:孫皓

俺が管輅…今俺の腕に抱かれている娘の孫翊に導かれ、この世界に来て早5年。元の世界でやれたことはほとんどしたはずだ。学校に関しては孫家一同に睨まれているために着手できていないがいずれやってみせると思っている。

現在、孫呉の領土となっているのは揚州全体と荊州の東側、残りは「劉表の子孫だ!」と名乗る奴らが蔡瑁たちに反旗を翻して勝手に都を築いてしまった。雪蓮は私たちに対する侮辱だと兵を集めようとしたが、冥琳と藍が待ったをかけた。理由は簡単、民衆が我々を選んだのだ。荊州の民のほとんどが孫呉の領土に移り住んできたこともあって、こちらから戦を仕掛けるまでには発展しなかった。ただあちらは、命知らずなことに何度か攻めてきたことがあった。しかし、こちらが尽く撃退する内にあっち自身が仲間割れ。最近は民衆の反抗もあって、攻めるとか守るとかの次元じゃないようだ。

揚州の南にある交州だが、そこを治めている諸侯らとは友好関係を築いている。これからの乱世に乗じてっていうのも考えられなくもないが、戦力は高が知れているため放っておいて構わないだろうと判断できるくらいだ。時期を見て蓮華に軍を率いさせて落とすのもいいかもしれない。

乱世の幕開けが近いのか大陸の各地で飢餓が起こったり、気候が変動したり、きな臭い雰囲気が漂ってきているらしい……が孫呉にはあまり影響はない。蓄えは十分にあるし、人材も集まってきている。
十常侍からの賄賂の催促が激しくなってきたところを見ると洛陽でも何かしら事件でも起こっているのかもしれない。

「ととさま…」

「摩耶もいないし、構わないぞ」

「よんだいめも、もにょじゅきなことで…///」

真っ赤になって照れる愛娘兼転生した管輅。舌足らずな3歳児の姿で難しい言葉をしゃべろうとするからだ。

「あといちねんほどでしゅよ…///」

また噛んだ。真っ赤になって俯く姿は可愛いのだが、話が進まないからさっさとして欲しい。

「お爺さまが来るまでだよな?」

「ええ。このがいしはよんだいめのせかいとはちがうから、どこにまいおりりゅかわからにゃいにょでしゅが……」

もう噛み噛みである。どこかの軍師が『はわわ…真似しないでください』と怒っている気がしないでもないが、こちらは3歳児。お前達がどうにかしろと言いたい。

「“ほんごうかじゅにょ”がこのがいしにおとじゅれることで、すべてがうごきだしゅのでしゅ……うぅ…ぐしゅ…」

ついには泣き出してしまった。彼女が前の身体に戻りたいと何度洩らしたことか。もう色々と残念である。
「生まれ変わるから私を見つけて下さい」と意味ありげに言って消えて行った管輅。てっきり俺と同年代の美女になっているのかと思えば、美蓮さまや結依さまに習って愛娘のおしめを換えている時に一言「おひしゃしぶりでしゅね、よんだいめ」である。何度もいうが、色々と残念だった。

「はぁ…」

「なぜ、ためいきをはくでしゅか、なんでやさしいめでわたしをみりゅのでしゅか、いいこいいこしにゃいでくだしゃい」

「ふふふ…、俺の世界の記憶を持ったお爺さまが来ないかな。あの方には本当にお世話になったから、愛娘を見せてあげたいなぁ」

「このからだになったにょはふかこうりょきゅでしゅ。たいはにゃいでしゅぅうう!!」

「はいは『ドサッ』い……??」

俺は天井を見上げた。摩耶の気配はないし、穴も開いてはいない。俺は立ち上がり降ってきたものの全体を見てみる。
窓から射し込む陽光を受けてキラキラと輝く衣服、子供の頃に見た茶色の髪、そして覗く横顔は蓮華や千草たちと同じくらいの大人になりきれていない少年のものだった。

「…なぁ、あと1年あるんじゃなかったのか?」

「……そんにゃことを、わたしにいわれてもこまりゅにょでしゅよ」

目を覚ましたお爺さまらしき少年に俺は話しかけようと近付いた。


Side:一刀

過去に来たことにテンパった俺は鷲蓮の一撃で昏睡しかけた。いや死んだと思っていたから別によかったんだけど。
暫く気絶していたらしい俺が起き上がると幼女が近寄ってきてコップを手渡してきた。俺はそれを飲み干して一息を付いた。そして深呼吸して、鷲蓮の顔を落ち着いて見る。

「落ち着きましたか?お爺さま」

「ああ。色々とすまなかったな…」

「いえいえ、お爺さまも普通の人なんだなと思いましたよ。あと、この子は俺の娘です。母親は孫堅さま」

「何やってんの、お前ぇええええ!?」

再会早々にこれかい!って、そうだ。これだよ、これ!俺の生き甲斐。ああ、和むわ…。って、和んでいる場合じゃない。ここは過去?えっ、でも孫堅さまが生きているっていう事は…。

「ほら、自己紹介しなさい」

「あう……こんにちは、孫翊でしゅ」

「ああ。ありがとう、俺は北郷一刀。…よろしくな」

俺は鷲蓮の娘という幼女と握手を交わしたのだが、鷲蓮は笑いを堪えるように肩を震わせていた。

「ひどしゅぎりゅにょでしゅよ!よんだいめぇええ!!」

「あははははは!」

『びえー』と泣き出した孫翊は鷲蓮に駆け寄りポカポカと叩く。ダメージはないのか、彼は腹を抑えて笑いまくり。俺はどういうことなのか、状況が理解できずに彼らの騒動が収まるまで待ったのだった。

「お爺さま。この子は孫翊という名前なのですが、元々は管輅とう名前でしがない占い師をしていた女性なんです。俺はこの子の導きでこの世界に来ましたって、お爺さま。どうか落ち着いて下さい」

「何で、お前はそんなに落ち着いているんだ!」

「元の世界は“北郷一刀”を始点として成り立っていた世界であり、“北郷一刀”が死んでしまったらその世界は閉じてしまうものだったそうです。史実とは違った存在である俺であれば、孫呉はもっと発展させることが出来たのではないかと彼女が群雄犇めく“北郷一刀”が来る前の世界に寄越したのですよ。己の身体を代償にして…。お爺さまや叔母さまたちには悪いとは思ったけど、俺は自分の力を試してみたかった。俺の力がこの世界で何処まで通用するのかを知りたかった。彼女を殴るというのなら、俺を殴って下さい。彼女に罪はありません。俺が望み、俺が願ったこと。彼女はそれを手助けしただけです」

そんなことを言われたら殴れないじゃないか。それにしても鷲蓮、いい顔をするようになったな。見違えたよ。
きっと孫堅さまや雪蓮たちの中で切磋琢磨することで大きく強くなっていったんだな。
ちょっと名残惜しいという気持ちもある。成長していくお前を見ていくのも俺の楽しみだったのにな。

「って、ちょっと待て。孫堅さまはご存命なの?」

「ええ。劉表と黄祖は討ち取りました」

「雪r……孫策や孫権たちは?」

「ここ、建業に皆住んでいますよ」

「袁術の客将には…」

「勿論、なっていません。孫呉の領土は揚州全体と荊州の東側を少々ですね。蛮族はまだですが、山越族は完全に従属させ、軍に取り込んでいます」

俺が来た時とは、えらく掛け離れているなぁ、おい!
もしかしたら、鷲蓮のことだ。未来知識をフルに使って究極の青田買いもしてんじゃないのか?そうなったら、孫呉に憂いは無くなる。雪蓮という莫大なカリスマを持つ王に各方面を支える大勢の武官と文官たち、もし曹操たちと劉備が同盟組んだとしても負けはないな。って、詰みゲーじゃないか!

「はぁ、……俺はどうなるんだ?この分じゃ、軍師として孫権を支えていくっていうのも出来なさそうじゃないか」

「お爺さまは軍師なのですか?」

「ん、若い頃はな。これでも孫権を支えて幾つもの戦場を駆けたんだぞって、空きがあるのか?」

「そうですね。文官は多いんですが、軍師となると周瑜、陸遜、呂蒙、費桟、魯粛……くらいしかいないんですよね」

「ちょっと待てぇええええ!張昭、張紘の“北の二張”はどうした!?」

「えぇ…あの爺ちゃんたちは苦手で…」

おまっ…子供かよ。いや、確かに厳しすぎた所もあったからトラウマになっていたのかもな。
えーと…陰たちは俺の一回り下だったから60代……現在は10代か?

「陸凱とか朱家姉妹、顧家や虞家の人間はいないのか?」

「……」

「怒っている訳じゃないんだから、そんなに縮こまるな!そして孫翊は笑うな!」

この時代で仕官させることが出来そうな人間を書き出して、鷲蓮に集めさせよう……って、これじゃあ立場が逆じゃないか。

「鷲蓮…、何だか元気がなさそうだが何かあったのか」

「えっ?」

「元の世界では、もっとハチャメチャに暴風の如く皆を巻き込んでいたじゃないか。子供も出来て、嫁さんを貰って臆病になる気持ちは分かる。だからこそ、この国の為を思うなら今まで以上に全身全霊をかけて取り組んでいかなければならないんじゃないのか。安心しろ、鷲蓮。お前が道を間違えそうになったら、俺が止めてやる。だから、立ち上がって大きく羽ばたけ。そういう意味も含めて、俺は大空を舞う『鷲』という言葉をお前の真名に籠めたんだから」

「お爺さま……分かったよ」

「鷲蓮。俺の名前は北郷一刀だ。今は俺の方が年下なんだぜ、気安く『一刀』と呼べ」

「一刀……、俺はやるぞ!誰が愛玩動物3匹如きに負けてやるものか!俺は、俺だぁああああ!!」

「その意気だ、鷲蓮!!」

俺は鷲蓮と肩を抱きあい天に向かって拳を突き上げたのだった。


その後ろでポツリと孫翊が呟いた。

「はぁ…たいしじやそんけんままのなげきくりゅしみゅかおが、おもいうかぶのでしゅ……」


あとがき
陽炎くんの胃痛の原因復活。
次回は鷲蓮と一刀のコンビに陽炎くんが混ざります。
絶叫、悲鳴、大絶叫のオンパレードの予定。



[24492] 二話.「こう見えても中身は70代のジジイだ」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2010/12/26 16:15
二話.「こう見えても中身は70代のジジイだ」

Side:一刀

瞳を爛々と黄金色に輝かせ、活き活きしだした鷲蓮を見て『こうでなきゃ』と思ってしまう俺はおかしいのだろうか。

「一刀…まずは何をしましょうか。海軍・水軍の強化?それとも兵器開発?それとも人材収集?それまた暗殺?」

「最後のだけ却下な」

「なら海軍・水軍、兵器開発、人材集め、ついでに孫皓隊の実力の底上げ…、面倒だ!孫呉軍全体を強化だぁあああ!!」

孫翊が引いてしまっているだけに、最近の鷲蓮は大人しかったのだということが窺える。
ただひとつだけ気になることがある。前の世界では「次期国王」とか「副大将軍」とか「長沙桓王の如く…」等と言われていたほど、権力と名声を得ていた彼だが、ここではどんな扱いなのだろうか。客将…ではないな。若い頃の鷲蓮の姿を見て、孫家と関係ないと言い切れる者はいなかっただろうし、俺だったら……。『雪蓮の双子説』や『孫堅さまの隠し子説』を疑うな。

「どうしました、おじい…一刀」

「敬語じゃなくていいぞ。それと考えるのは自由だが、それを実行するだけの権限はあるのか?」

「美蓮さま…孫堅さまから『勝手なことはするな』と言われているので、まず陽炎…俺の副官である太史慈に相談して、その後文官たちと協議。最後に雪蓮に確認を取る形になりますね」

敬語が混ざった変なしゃべり方だが仕方がないか。元の世界で雪蓮に扮して俺のLPをごりごり削ってきた彼だけども、あれは俺に甘えたかったっていうことだったもんな。鷲蓮の父親はあいつが生まれた直後に死んでしまったから…。

「という訳で一刀、陽炎に会いに行きましょう」

「えーと、太史慈だったな。……太史慈?おおぅ!前の世界では結局会うことの無かった武将じゃないか!?」

「そうでしたっけ?」

「ああ。俺は記憶力だけには自信があるんだ。で、どういう奴なんだ?」

「まず七尺七寸という大柄な体躯、燃え盛る紅蓮のような瞳には皆惹き付けられます。部下や家族思いの強い義理堅い人物でもあります。陽炎には俺の背中を安心して預けられます」

ふむ。鷲蓮にそこまで言わせるなんて…丁奉と岑昏、陸凱の3人以来じゃないか。陸凱はともかく、丁奉と岑昏の年齢は確か元の世界では俺の一回り下だったから60代と仮定すると50年前のこの世界だと10代。いけるんじゃね?

「年齢はどのくらいなんだ?」

「俺の少し上ですね」

孫皓の副官を務めているっていうことは、鷲蓮のストッパーも兼ねていたと考えられる。ついでにこんな彼を見放すことなく一緒にいたっていうことは少なからず恋心を抱いているに違いない。中々罪な男だな、鷲蓮。さすが俺の孫。
鷲蓮の成長に一役買っているだろうし、ここはひとつ丁寧に感謝の言葉を伝えねばなるまいな。

しかし、紅の瞳に長身か…。可愛い系かな、それとも美人系?妹キャラかな、それとも姐御キャラ?はたまたクール系か、それともツンデレなのか。ああ…、wktkが止まらない。

―移動中―

orz

「おz…一刀?どうしたんだ!?」

「10分前の俺を殴りつけたい」

俺は“男”の太史慈を見て、がっくりと肩を落とした。いや、こっちが普通なんだけど、俺もかなり毒されたもんだな。ハハハ…はぁ。正直に言うと見たかったんだよ、イメージ的に思春+祭さん=太史慈(女)の姿をさ…。
きっと、超サラサラの銀色の髪、切れ長でルビーを思わせる紅の瞳、脚はモデルのようにスラリとしていて、お胸さまは呉特有のたゆんたゆん……。

本気で見たかった…orz(2回目)。


Side:太史慈

孫皓の暴走加減は最近収まりつつある。
さすがに20歳を過ぎて、子供が出来れば落ち着くよな。ずっと、あのまま暴走を続けるようだったらさっさと見切りをつけようと考えていただけに、安心したような甘い考えのような複雑な心境だ。念のために言っておくが、他の勢力に行こうっていう訳じゃない。今更、魔改造された孫呉から離れる奴なんか、いないっての。

俺は育児休暇を終えてからすぐに孫皓の副官に復帰した。理由は孫皓が泣いて孫策さまたちに懇願したため。帰ってきた俺に対して、孫皓は涙を流して「おかえり」って言ってくれた。「……そんなに壮絶だったのか、あの3人は」と思わず言ってしまうほど彼はやつれていたのだ。何かを思いつく度に搾り取られていたそうで、生きているのが苦痛だと感じていたそうだ。そして彼女たちはばっちり孫皓のトラウマとなった。彼女達が3人揃った状態だと、孫皓はまったく思考が働かなくなったそうだ。同じ空間にいるだけで、死んだ魚のような目になり全てが上の空。かなりの重傷。よって華陀のカウンセリングは2年近く続いている。

「陽炎、少しいいか?」

そんなことを考えていると本人がやってきた。そして、もう1人。孫皓の後ろについてきた男がいたのだが…

「なんだと!?」

と言ってがっくりと肩を落とした上にorzの態勢を取った。酷く不愉快な気持ちになった。

「俺の顔を見て、いきなり落ち込んでいるのは誰なんだ、孫皓?」

「あー、うん。新しく仕官させようと思っている北郷っていう男なんだ。しかも軍師希望」

北郷って…、そんな名前をした奴なんか三国志の武将にいたかな。と眺めること約3秒、俺は噴出した。

「化学繊維にまで手を出したのかよ、孫呉の職人達は!」

男が着ていた服は紛れも無い現代の制服だった。材質はポリエステル100%と思われる。

「かがくせんい?」

「なんで、三国志の武将がそれを知っているんだよ!?」

あれ…?孫皓はいつも通り首を傾げているが、北郷っていう男、今なんて言った?俺のことを『三国志の武将』って言わなかったか、コイツゥウウウ!?

「ちょっと待て!北郷、お前現代人か!?」

「!?そういうお前こそ、一体何者なんだ!どういうつもりで孫呉に来た?史実の太史慈は母親の恩師である孔融を救うために黄巾賊と戦ったり、劉ヨウに仕えて大将軍に任命されたりした後、孫策に下り孫呉の将になる人間だろうが!!」

「てめえ、歴史オタクか何かかよ!ふん、史実を知っているからこそ、有利な方に付くんだろうが」

「お前!」

「ああん!!」

「2人とも、いい加減に黙れ!!」

『ゴスン!!』×2

俺と北郷は一発ずつ、孫皓に強烈な拳骨を頭にお見舞いされた。『鉄塊』を拳に掛けた後に殴ったみたいで、頭を鈍器で殴られたような感じであり、脳内でグワングワン鳴っている気がする。北郷の方は舌を噛んだようで悶絶中。

「2人とも何をしゃべっているのか分からなかったから、もう1回どういうことなのか、説明してくれないか?」

今のを説明しろと……。いや、駄目に決まっている。そんなことを孫皓に語ってしまったら、俺は彼にどんな目で見られる?確実に今の関係には戻れなくなる。

「要するに…」

復活した北郷が何かを語ろうと口を開いた。させん、させてなるものか!俺は自分の執務室が血だらけになろうとも、この男の口を塞ぐことを迷わなかった。入ったばかりの軍師と苦楽を共にしてきた俺、孫皓が選ぶのは俺だと信じて…。
何もかもを粉砕する『二重の極み』を北郷に向けて放ち…

「俺と太史慈は一目で親友になったのさ」

彼の目と鼻の先で拳を止めた。

「「へっ?」」

孫皓と俺の驚愕の声が重なった。
北郷は俺に近寄ってきて孫皓から少し離れた所に俺を引っ張っていった。そして、孫皓に聞こえないくらいの小さな声で語り始めた。

「ごめんな、太史慈。なんか孫呉を馬鹿にされたような気がして血が上っちまったんだ。本当にすまなかった」

「いや、俺の方こそ。すまない」

「いい奴だな。鷲蓮が安心して背中を預けられると言った意味がよく分かるよ。俺の名前は北郷一刀だ。こう見えても中身は70代のジジイだ」

「は?どういうことだ」

「俺は一度この群雄犇めく戦乱の世の中を孫策たちと共に『天の御遣い』として駆け抜け、『大陸二分の計』を成功させたんだ。その後は孫権たちと交わり子を生した。そして、あそこにいる鷲蓮は俺の孫に当たる。あいつの真名だって、俺が名付けたんだぜ」

俺は北郷から齎される情報に眩暈がした。つまり孫皓は孫堅さまや孫静さまの息子ではなく、曾孫に当たるわけで、つまり……孫呉の最後の王で暴君の四代目である孫元宋……だっていうのか?あの鷲蓮が!?
確か強烈なファザコン・マザコンであり、臣下を殺したり、民を苦しめたりすることを何とも思わないで暴虐の限りを尽くしたっていう董卓にも引けをとらないアレだっていうのか?

「ありえない…。俺が知っている孫皓は『国とは民であり、民がいるからこそ国は成り立つ』と言い切る男で、孫呉をここまで発展させてきたのは紛れも無いあいつだ。山越の連中を仲間にして、普通だったら殺しているはずの人間を仲間にして部下として労う。孫皓が両親のことを口にしたのだって、祖茂さまの一件だけだった」

「それそうさ。俺が、俺たちがそうならないように手塩を掛けて育てたんだからな」

俺たちは孫皓の方を見た。そこでは孫皓が娘である孫翊ちゃんと戯れている姿があった。


Side:孫皓

2人でひそひそと秘密の会話をするかのようなお爺さまと陽炎にハブられた俺は、仕方なく連れて来た孫翊と話すことにした。

「いくらなんでも、あんまりだと思わないか?」

「しょうがないのですよ、よんだいめ。あなたをささえるのは、みなたいへんなのでしゅ……ふぇーん」

惜しい。珍しく噛まないで言い切れるかと思ったが、あと一歩のところで噛んでしまった。目尻に涙を溜めてすがり付いてくる孫翊の姿にちょっとだけ悶えると俺は彼女を抱きかかえていい子いい子と頭を撫でる。

ふと静かになった2人を見たらいきなり拳を天に向かって突き上げて叫んだ。

「「チート最高ぉおおおお!!」」

……チートって何?


あとがき
2話完成。というか、なんでこうなった?
一刀の太史慈(女)脳内イメージは、戦国○ンスの千姫さま)マテ





[24492] 三話.「孫の嫁が妻の母」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2010/12/28 18:48
三話.「孫の嫁が妻の母」

Side:太史慈

さすが、孫堅さま。子を生み前線を退いてもなお、その力は衰える事を知らないようだ。彼女から放たれる氣というか殺気で俺はちびりそうだ。
一方の北郷も別世界とはいえ群雄が犇めいた戦乱の世を生き残り、ある意味で暴君だった孫を(手塩を掛けて)育ててきたこともあって、その孫を奪った『嫁?』を睨み付けている。
当の孫皓は愛娘2人と戯れて『でれでれ』の親バカ状態になっている為、俺の前で繰り広げられている臨場感たっぷりの修羅場は見えていないらしい。

「……」

「……」

俺、何で此処まで付いてきてしまったのだろう。自室で待ってさえすれば、こんなことにはならなかったはずなのに。
元はといえば、泣きつかれたうとうとしはじめた孫翊ちゃんを寝かせると言うので孫堅さまの部屋に寄ったのだ。最初は良かったんだよ、最初はさ、和やかなムードで……。

―回想―

話を終えた俺たちは孫皓の提案を文官たちと協議すべく、俺の執務室を後にした。実の所、俺は行く必要が無かったので待っているといったのだが、北郷と孫皓の両名の願いもあってついていくこととなった。その際、孫皓から先ほどの話を説明してくれないかと言われたが、そこは北郷が巧くはぐらかして孫翊ちゃんがうとうとしているぞと優しく指摘。寝かせてあげようという話になり、行き先を孫堅さまの部屋に変更したのだ。
孫翊ちゃんを抱いた孫皓が先頭を歩き、俺と北郷はそれを追う形で歩いている。

「はぁ…」

「どうしたんだ?」

「前は自分の意見をやり遂げることしか頭に無かった鷲蓮が、大人になったな…と思ってなぁ。嬉しいような寂しいような複雑な気持ちだ」

北郷は愛おしそうに娘を抱く孫皓の姿を見て目を細めた。まるっきり父親の感想だなと思ったが、孫皓の本当の父親はすでに死んでいて、北郷が代わりを務めていたという話を思い出して静かに相槌を打つことにした。

「確かにな。育ての親を目の前にして言うことじゃないが、あいつのやることはいつも壮大すぎたと思うぜ」

北郷は俺の言葉を聞いて「くくくっ」と笑いを漏らした。

「例えば、どんなことをしたんだ?」

俺は腕を組み孫皓との出会った頃のことを思い返した。模擬戦から始まった俺たちの関係、良き相談相手の関係、戦場で背中を預けあい鍛錬で切磋琢磨する関係、結婚式のプロデュース…確かこの段階であいつの本性を知ったんだっけ。華陀を交えての地獄の鍛錬、賊の殲滅作戦、建業建設事件、山越賊を一方的にボコボコ事件……。そりゃあ、確かに政策の方でも革命を起こし続けてきたが、つくづく型にはまらない奴だよ、ホント。

「太史慈?」

「…え?ああ、すまない。ちょっと、思い出を振り返っていたんだ。えっと、孫皓がやったことだったな」

「美蓮、入るよー」

どうやら孫堅さまの部屋に着いてしまっていたらしい。俺は北郷に謝って孫堅さまの部屋に足を踏み入れた。

最初に目に映ってきたのは机の上に置かれた酒の山。昨夜辺りに黄蓋さまたちと酒盛りをやりやがったんだなと俺は確信した。今まで寝ていたのか頭はぼさぼさ、服は肌蹴ていてちょっとエロチック。必死に母親を起こそうとしていたらしい孫匡ちゃんが孫皓に気付き駆け寄った。そして抱えられた孫翊ちゃんの姿を見て「ととさま、わたしもだっこ」とねだる。ほのぼのだなぁ…。

「ふわぁ…、おかえり」

「美蓮さま、もうお昼になりますよ。昨夜はいつまで飲んでいたんですか?よいっしょっと」

「……朝まで」

そして大きな欠伸をする孫堅さま。こういう姿を見ると、この方は本当に江東の虎と恐れられた武人なのかと疑ってしまう。父親にじゃれつく双子の娘を見る姿は正しく優しき聖母のようだ。平和だなぁ…。

「美蓮、今度新しく軍師として仕官させることになった北郷だ」

「ほん…ごう?ふぅん…何も取り得がなさそうだけど?」

孫皓がさりげなく孫堅さまに北郷のことを紹介したのだが、まだ酔っているのかなぁ、孫堅さまは。ははは…。
孫堅さまはのそりと動いて執務机の方に向かう。そして椅子に座った後、酒瓶を傾けた。

「まだ、飲むの?」

と孫皓が2人の娘をあやしながら尋ねる。

「迎い酒よ、うふふふ」

華陀の健康管理は凄まじくて、妊娠が発覚した劉表戦の最中から禁酒された孫堅さまは、妊娠2ヶ月目にして幼児退行するくらい荒れた時期があった。彼女の酒好きにも困ったものである。彼女の様子を見ていた黄蓋さまは、「あんなに苦しいのであったらワシは子を産まんでもいいのう」と引いてしまうくらい大変なものだった。
そして、出産を終え産後の状態もいいだろうと華陀から太鼓判を押され、酒を解禁された孫堅さまは飲んで飲んで飲みまくって、酒に呑まれた。彼女が1週間も寝込んだ時は大変だったらしい。主に初心者マークを貼り付けたパパに成り立ての孫皓が。あっちへふらふら、そっちにふらふら。それはもう大変だったらしい。俺は育休でいなかった。

その時、執務机を挟んで彼女の前に北郷が立った。
その顔は笑っているが笑っていなかった。何を言っているか分からないと思うが、俺が見たままの感想だ。嘘じゃねぇ。笑っているのにこえぇんだよ。

「はじめまして、孫文台さま」(孫の嫁が妻の母なんて、どういう冗談かな?)

ひえぇえええ!何か副音声が聞こえた。てててて、天下の孫堅さまに向かってなんて事を…。いや、落ち着け俺。今の副音声が聞こえたのは俺だけだ。怖い笑顔を浮かべた北郷に恐怖するあまり変な幻聴が聞こえたに違いない。

「ええ、こちらこそ」(いつか来るって信じていたわよ)

「……(絶句)」

「いやぁ、お美しいですね。子供を5人も産んだ女性には見えませんよ」(いやいやさすが孫策たちの母親、子育ても酒瓶を片手に持ってやるんですか。真似出来そうも無いなぁ)

「あら、ありがとう。それにしても、そんなことまで鷲蓮は言っちゃったの?」(子供たちのことはこの際置いておくわ。けど、貴方たち彼にどんな教育を施したのよ?)

「いやぁ、鷲蓮のことを軽々しく真名で呼ばないでいただけます?」(俺たちが手塩を掛けて育ててきた鷲蓮に何か不満でも?)

「貴方こそ、私たちの愛の巣に踏み込んできて何を言っているのかしら?」(そんなことあるわけないでしょ、私がいいたいのは彼の価値観についてよ)」

表と裏の声の両方で喧嘩が始まったぁああああ!?2人とも笑顔で会話しているだけに逆に怖ぁあああ!!
俺は縋るような思いで孫皓を見た。彼が呼んでくれれば、俺はこの修羅場から逃れることが出来る。
しかし、俺の思いも空しく孫皓は愛娘2人に昔話の本(作者不明だが日本の昔話全集P500に及ぶ傑作)を読み聞かせていた。話のタイトルは『舌切り雀』。物語はまだ序盤だった。

「ふふふ…」

「ははは…」

だ、誰か助けて下さい!神が、神が俺を見放したんです!この際、誰でもいいから助けてぇええええ!!


Side:孫尚香

私は今、お姉ちゃんとして2人の妹に勉強を教えるために(一緒に街に行くために)お母様の部屋の前にいる。
いざ、扉を開けようとしたのだが、お母様やお姉さまたちと同じ自分の身体に流れる孫家の血がざわついた。この扉を今開けたら駄目だと…。お母様もお姉さまもお兄さまもお姉ちゃんにも流れるこの血には色んな力があるに決まっている。
お母様やお姉さまたちみたいに『ばいんばいん』になる力とか、お兄さまみたいに『一騎当千』になる力とか、お姉ちゃんみたいな『臣下を思いやれる』力とかがあるに決まっている。
そんな孫家の血が開けるなというのであれば、私も涙を呑んで従おう。

「新しく開いた茶店の桃饅頭、美味しいって聞いたのになぁ。……そうだ、シャオが買ってきて2人と一緒に食べればいいんだ」

そうと決まればと私は街へ走った。すべては妹2人の笑顔を見るために…。


Side:太史慈

千載一隅のチャンスが潰れた気がする。
廊下にあった気配がどんどん遠のいていくのが分かった。天井で様子を窺っていた諜報か暗部か分からないが、事の成り行きを覗いていた奴もすでにいない。雲行きが怪しくなった瞬間に気配が消えたのだ。さすがに危機管理を徹底していやがるぜ。
『前門の虎、後門の狼』
俺には口を開くことも、この場から離れるという選択肢もない。音を立てたら彼らの言葉という矛が俺自身に向きかねない。絶体絶命…どうする?やはり、頼みの綱は孫皓だ。この状況を変える事が出来るのは孫堅さまの夫であり、北郷の孫という立場である孫皓だけだ。『舌切り雀』程度、早くて5分、ゆっくり読み聞かせても8分は掛からない物語。もういいだろうと満を持して彼を見る。すると親子3人で寝ていたのだ。
か、神は死んだ…。いや、まだ手段はある。睨み合う2人に気付かれないように扉の方に行って出てしまえばいい。その時、

「母さま、ここに鷲蓮が来て…………しつれむぐぅ!?」

迂闊にも修羅場に踏み込んできた孫策さまを素早く俺の横に立たせる。その孫策さまは状況を理解したのか、俺を睨みあげる。彼女の目は語っている。『何故、私を巻き込んだのか』と。

「いらっしゃい、雪蓮」

「初めまして、孫策さま」

笑っている2人に声を掛けられた孫策さまは頬を引き攣らせた。良かった…幻聴はもう聞こえない。

「ちょっと、北郷とお話があるから2人とも出てってくれない?」

「ごめんな、巻き込んで」

「「了解っ!!」」

俺と孫策さまは一目散に孫堅さまの部屋から出たのであった。そして、俺はそのまま自室の方へ走る。孫策さまはそんな俺の後ろを追って来る。その手に握られたのは孫堅さまから引き継がれた宝剣『南海覇王』。

やべぇ、滅茶苦茶怒っていらっしゃるぅうううう!?だ、誰か、ヘルプミィイイイイイイ!!


あとがき
一刀VS孫堅ママの戦いは次回持ち越し。
陽炎くんは孫策を連れて(追われて)退場。
孫皓も愛娘2人とお昼寝タイムっす。



[24492] 四話.「孫皓の祖父=北郷」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2010/12/31 16:56
四話.「孫皓の祖父=北郷」

Side:一刀

さすが江東の小覇王と云われ雪蓮が恐れた人だ。前線から退いたそうだが、雪蓮とは違った姿で正に『王』という感じだ。雪蓮や蓮華の王としての姿のルーツはやはり彼女から齎されたものだったのだ。
太史慈や偶々巻き込まれる形となった彼女には悪いが、これから彼女と話す内容はあまり聞かれたくないし、知られたくない。態々殺気を振り撒いた甲斐があったというものだ。まぁ、その代償は大きく孫呉の礎を築いた彼女の機嫌を逆撫でしてしまった。目付きが腹をすかせた肉食獣の目になっているじゃないか。

……それにしても孫堅と一緒に結構な殺気を振り撒いたと思ったのに、孫皓はともかくあの娘たちまで寝るとは将来大物になるかもしれないな。

「……貴方が思っていた通りの展開になったけど、どういった話をするつもり?」

「……あれ、ばれてた?」

鷲蓮たちを見た後に振り返ると、椅子にもたれ掛かってくつろいだ姿の孫堅が俺に尋ねてきた。先ほどまでの険悪な空気は何処に消えたのやらと朝特有の静かな一時がそこにあった。俺はまず頭を下げた。

「すまなかった。本当はこの世界の右も左も分からなかったはずの鷲蓮を救ってくれたはずの方なのに酷いことを言ってしまって」

「気にしていないわ。上にいた者と太史慈を退出させるための演技ってことくらいは、最初からお見通しよ。大体、私に向けてではなくて周囲に向かって殺気を振り撒いていたら元も子もないじゃない」

彼女は杯に入れたお酒を飲み干し、カラカラと笑った。
精神年齢的には、俺の方が上のはずなのだが…。やっぱり現代人ではこの世界の住人にはなりきれないってことだな。

「太史慈には俺が鷲蓮の祖父であることは説明した。この世界とは違う所から来たこともな。勿論これから先、何が起こるかに関しては鷲蓮よりも俺の方が詳しく知っている。だが……」

「その未来は教えてくれないんでしょ」

「ああ。…必要ないだろう?」

彼女は杯に酒を注ぎ、何も聞かなかったかのように酒を飲む。彼女からの返事は無かったが、反応を見ていれば分かる。
鷲蓮は本当にいい環境で育ったようだな。いい部下といい上司、どちらかが欠けていても彼のあの成長はなかったはずだから。

「貴方はこれからどうする。1人の軍師として生きていくの?それとも、また『天の御遣い』を名乗る?」

「そうだな…。1人の軍師として生きることにしよう。鷲蓮がいて、孫策や孫権たちが頑張っているこの国に『天の御遣い』は必要ないはずだ」

「そう……。なら最初は鷲蓮の部隊に入れるように手配をしておくわね」

「ありがとう。……ところで」

俺は鷲蓮と一緒に暮らしてきた彼女に向かって気になっていたことを切り出すことにした。
彼女は何を質問されても『余裕で答えられるわ』と言わんばかりに酒を飲み続けている。俺はおもむろに左手の親指と人差し指でわっかを作り、右手の人差し指を通して彼女にこう言った。

「鷲蓮は、やっぱり後ろにも手を出したのか?」

「ブフゥウウーーー!?げほっ…がはっ……うぅうう」

予想通り、酒を噴出して咳き込む孫堅の姿を見て俺はニヤリと笑みを浮かべた。俺の予想外の反撃に彼女は目尻に涙を浮かべて俺を睨みあげる。

「勘違いしないように、俺は普通だ。体位は様々やったが、基本的に愛し愛される行為しかやっていない。これは断言する」

そう、鷲蓮の情事に関する様々な知識に関しては、俺はノータッチなのだ。さすがに倫理的に抵抗があったし。彼女達にとって幸運だったのは、彼がエスカレートする前に子供を授かったことだろう。孫休相手にボディペイントを試していた鷲蓮のノリノリな姿は忘れられない。夜中の露出デートとか、マジでやばい!!と、さすがに止めたけど。
政治方面ではっちゃけてやりまくるのは(フォローすれば何とかなる為)いいんだが、あっちは程ほどにしてもらわないと孫家の権威が失墜すると何度も言い聞かせた覚えがある。あれは鷲蓮が思春期真っ盛りの14歳の春先だったかな……。ただ、あいつの気が利いたところといえば、身内に対してしかそういうことはやらなかったことだろう。最悪、揉み消す事が可能だった。(やられた方はたまったものではない)

怒りの矛先をどこに向ければいいのか分からなくて、右往左往する江東の虎の姿を眺めながら俺は失笑するのだった。


Side:太史慈

北郷が来た翌日。建業から少し離れた修練場を貸しきって、孫皓隊に所属している将兵が集まった。

「というわけで、軍師北郷入隊記念。華陀医師を交えた10日間の合宿を行いたいと思う。今回は特別に挙手制にしたいと思うので、我こそはと思う者は前に出てきてくれ。ちなみに強制参加は新入り北郷と副官の陽炎の2人」

人の都合を考えてくれないかな…孫皓。合宿が何を意味しているのか分からない北郷は孫皓と肩を組んで一緒に盛り上がっている。

「アニキ、オレ…。参加はやめておこうと思います。頑張って」

と、厳白虎が頭を下げに来た。俺は周囲を2度しっかりと確認して、最後にもう1回確認した後に優しく彼女の頭を撫でた。しかし、底冷えするかのような殺気を感じて周囲を見回すも般若の姿はない。だが俺は気付いてしまった……鎧に何か挟まっていると思ってそれを引き抜くと白い紙に赤い文字でこう書かれていた…。

『浮気・絶対・殺害』

俺に安息の時はない。

結局、今回の合宿に参加表明したのは藩臨、尤突と特別参加:甘寧の3人の将軍と『いやっふー』な仲間たち80人に加え、黄乱隊の人間250人となった。
どうせ、「六式」を皆で反復練習するんだろうと思っていた時期がありました。
予想通り孫皓は『弾丸跋(改)』の影響ではっちゃけて兵たちに指導しているんだが、予想外だったのは北郷である。彼も『弾丸跋(改)』ちゃんと服用し、いざ「六式」をやるかと思えば藩臨に対して倭刀術を指導し始めたのだ。そういえば、孫皓は祖父から剣術を習ったって言っていたような気がしないでもない。……孫皓の祖父=北郷、元々の知識を持った奴が降臨!?ちょっと止めて!これ以上の強化は……アッーーーー!!

『藩臨のレベルが上がった』
統制1(-1)武力9(+1)知識3政務2鍛錬10
孫皓に下ってから鍛錬を欠かさず行ってきた彼女は北郷という教師を得て、ついに実力上の壁であった陽炎を超えた。
ついでに倭刀術の完成に向けて、一刀との師弟フラグが立った。

どうしたんだろう、目から汗が出て止まらないよ。
やっと大人しくなった孫皓も元に戻りつつあるのに、北郷の止め役も俺なのかよ!
誰か、誰でもいいから助けて下さい……。


あとがき
コン太っすよ。
あれ?更新一旦停止の文字が複合検索で“恋”とうったら出てきたっす。
密かに楽しみにしていたのに…。



[24492] 間話.「丸君の偵察という名の休日」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2011/01/02 19:54
間話.「丸君の偵察という名の休日」

Side:丁奉

孫皓さまが仕官させた『北郷』という人間の人となりを調べるために、蓮華さまから偵察の任務を受けた。
味方内で偵察とかいらないだろと思うかもしれないが、これもれっきとした演習のひとつなのだ。特に孫皓さまの秘密を探ろうと思ったら全力を尽くさなければ何も得られないというのはザラである。摩耶小母さんと明姉が調べれば丸分かりになることを何故僕が調べないといけないんだろうと思いつつも、偵察という名前の休暇を楽しむ気が満々という僕はなんて罪深いんだろう。

「たまにはいいよね…。僕の休暇に合わせて明姉と銀河さんが休暇を取るおかげで最近ではまともに休めた覚えがないんだもの。今日はゆっくりと羽を伸ばすんだ…」

なので、今日は男らしさを出すために髪はポニーテールにして、服装はかげ兄のお下がりであるラフな格好(1部九話参照)である。腰の部分にはズボンが落ちないように“べると”というものをつけている。
さて、一応任務をやりましたっていうのを形だけでも残さないといけないから、まずは彼が街の中にいるか調べないとね。かげ兄の気配は特殊だから見つけやすいし、隣にいる平凡そうな気配が彼のものだというのは調べ済み。

―鷹の目発動中―

「(……偵察の任務だって言ったのに、何でいるのさ2人とも!あ、祭さんだ。あれでも城で周瑜さまが探していたよね。周囲に居るのは幸さんと韓当さんだ。また酒飲み?好きだよね…って、この気配は周瑜さま?あー…、ご愁傷さまだっけ?肝心の彼は……あれ?一緒にいる気配は或真君だ。かげ兄は何か知らないけど高速で移動している)」

―鷹の目終了―

正面を見ると丁度かげ兄が亞小鐘ちゃんを抱えて全力疾走している姿があった。その後ろにいるのは般若の表情を浮かべた瑠音さん…ガクガクブルブル。彼女は「斬る斬る斬るkill(キルー)―!!」と叫びながら旦那であるかげ兄と娘を追い回す。かげ兄の方は「亞小鐘!それ以上、彼女をおちょくるなぁああ!!」と血涙を流しながら逃げる。原因らしい幼女は「おおきくなったら。とおさまのおよめさんになるー」と燃え盛る劫火に油を注ぐ。結果「陽炎は私の旦那なの!この泥棒猫がぁああ!殺す!ころぉおおおおすぅうううう!!」

僕は無言で手を合わせた。間違っても娘に言う台詞ではない。僕は彼と或真君のいる本屋に向かって走った。
本屋の前で物静かで大人しい或真君に対して、場を和ませようと話しかける彼の姿があった。僕は或真君の視界に入らないように近付き声を掛けた。

「可愛い子ですね。弟さんですか?」

「いや、この子は違うんだ……って、女の子?いや…男だよな、お前」

うわーい♪男性の初対面で僕を男扱いしてくれたのって、かげ兄以来だよ

「……こんにちは、丸にいさん」

「こんにちは、或真君」

僕は彼に目線を合わした後、頭を撫でた。かげ兄の子供なのに綺麗な顔立ちなんだよね、2人とも。やっぱり瑠音さんの血の方が強かったのかな。

「最初は和やかな家族のひと時だったんだ。なのに、一瞬であんなことに……」

「かげ兄のお嫁さんの瑠音さんは焼餅焼きで、独占欲が強い方ですから。かげ兄が他の女性の真名を呼んだ日は凄まじかったらしいですよ」

以来、かげ兄は真名を言わないように気を使う生活を余儀なくされている。
僕と北郷さんは自己紹介をした後、意気投合して本屋の隣にあった茶屋に入りお菓子を食べながら会話に華を咲かせていた。しかし、彼は僕の自己紹介の直後に「反転しすぎだろう、おいぃいい」と彼は呟いていたけど……なんでだろう。

「…はむはむ」

或真君はリスのように少しずつ頬張りながらお菓子を食べている。

「へぇ、黄蓋隊で副官を務めているのか…。俺と同い年か年下くらいなのに凄いな」

「切磋琢磨することが出来た環境と、僕の才能を見出して育ててくれる良き師に巡り会えたのが大きかったです」

これは勿論、祭さまのことだ。そして、誘ってくれたかげ兄にも感謝している。この分なら僕も近い内に綺麗な女の子を娶ることが出来るかもしれないって、なんであの2人の顔が思い浮かぶんだろう。ここは普通1人だよね。

「好きな女の子が複数いるだろ」

と北郷さんに指摘され、僕を慌ててしまった。これじゃあ、自分からばらしているようなものじゃないか。北郷さんの表情を見ようと顔を上げるとなんか微笑ましく見られていた。なんでだろうか……変に温かい目で見られると落ち着かないんですけど……。

「…ごちそうさま」

「お、えらいな」

「……///」

或真君は北郷さんに褒められて照れたようだ。それにしても丁度良かったよ、或真君。
支払いを済ませて店を出たら、かげ兄が探し物をしているかのように動き回っていた。それを見た或真君は駆け出して、かげ兄の脚に飛びついた。

「とうさん」

「うおっ!?或真…。よかった、2人と一緒にいたのか」

仲直りしたお嫁さんと娘さんは一足先に家に帰ったそうだ。北郷さんも一緒に行くようなのでここで別れる事となった。

「今度一緒に飲もうな、丁奉。相談に乗ってやるぞ」

「大きなお世話です……けど、楽しみにしています」

僕にとって北郷さんは同年代の男友達一号さんなのだ。彼とはこれからうまく付き合っていけそうな気がする……と、帰りながら思っていたんだけど。

「僕は何故、裏道で押し倒されているのでしょうか?」

「偶にはいいじゃないですか」

「そうそう、遠慮しないで」

明姉が僕の上着に手を伸ばしてくる。銀河さんは素早く僕がつけていたベルトを外した。ヤバイヤバイヤバイヤバイ!
く・わ・れ・るぅうううううう!!

「2人ともせめて、城に戻ってからにして」

「駄目です」

「そうよ、丸君。今日、何回街で声を掛けられた?」

えっと、男の人に12回と女の人から5回だっけ……、それがどうしたっていうのさ。

「「丸(君)は私のモノです」」

「2人とも1回落ち着こう。ね、落ち着けば分かるって……アッーーーーー!?」


あとがき
丁奉は完全に受けっすね。
弓を射るときはかなり頼もしいけど、私生活ではナヨナヨした感じで過ごしています。
普段の休日は両手に花ならぬ食虫花が咲いているので、ナンパはまずありえない。

ついでに、
前の世界の丁奉は外見アームストロング少佐で中身も熱血属性の熱―いお方でした。
なので、孫皓の案にノリノリで参加して周りを扇動、孫皓の暴走に一役買っていました。




[24492] 五話.「名前と年齢と性別以外の情報が無いっていうのがおかしいのよね」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2011/01/02 19:58
五話.「名前と年齢と性別以外の情報が無いっていうのがおかしいのよね」

Side:孫権

10日前、明命率いる暗部部隊よりお兄さまの部隊に新しく軍師として1人の男が入ったと報告があった。名を『北郷』というらしい。普通であれば、態々私に報告しにくるものではないのだが、この北郷という男はあろうことかお兄さまを真名である鷲蓮と親しげに呼んでいるらしいのだ。
真名とは、真なる名と書いて真名(まな)と読む。一朝一夕で呼ぶことの出来るものではない。姉さまや私たちだって、お兄さまの真名を教えてもらったのは随分と経ってからだったし、ましてや自分の部隊に入ったから教えるという人でもない。
つまり、北郷とお兄さまは私たちの所に来る前にある程度の親交があったということになる。同郷の幼馴染か親友だったと考えられる。私はすぐに思春・明命・亞 ・千草の4人を呼び、各方面から北郷についての情報を集めるように命令を下したのだった。


Side:孫策

玉座の間に集まった将兵は軽く30人を超える。母さまが王の時代から仕える者たちや私に仕えてくれる者たち、そして次期孫呉の王になるであろう蓮華を支える者たちだ。いないのは鷲蓮に近い将兵たちだけ。

「これより、孫皓さまの部隊に軍師として仕官した『北郷』についての報告会を開きます」

と、丁奉が前に出てそう宣言した。
2週間前、突然現れた謎の軍師『北郷』。私は仕官したての彼を見たが母さまと何やら争っていて、私に悪寒を走らせるほどの殺気のぶつけ合いをしていた。重苦しい空気や雰囲気もあってすぐに退出したため、彼とゆっくり話すことはできなかった。

「とは言っても、北郷さんは気さくで子供好きで面倒見のいい人だったと思うんですけど…」

「丸君!」

蓮華が丁奉に向かって注意したが、集まった将兵の半数は彼の発言に相槌を打った。残りの半数の将兵も頷くと同時に眉を八の字にして渋い顔をしている。その訳はただひとつ。

「名前と年齢と性別以外の情報が無いっていうのがおかしいのよね」

あと、真名が『一刀』だっていうのも分かってはいるが、彼のことを知るのにはあまり必要なものではない。

「姉さまの言うとおり、あの男の情報がここまで集まらないとなると、北郷という名は偽名であることも考えられる。そんな怪しい者をお兄さまの部隊にこのまま置いておくのは危険すぎる」

という蓮華の発言に「そうだ」とか「その通り」だという声が上がった。だがそれとは反対に…

「権殿、それは言いすぎじゃ。確かに素性の分からぬ者を置いておくというのは不安の残るものであると思うが、その者の本質を知るためには接してみんことには分かるものも分からないじゃろう。ワシから言わせて貰えば、北郷は悪い人間ではない」

と言った祭の発言にも賛成の声が上がった。両者の意見がこうも分かれてしまうのには理由がある。
前者は情報を仕入れてからその者に近付くのに対し、後者はその者に実際に会話したり接したりすることで知ろうとするのだ。どちらも一概に悪いとは言えない。だって、どちらも大切なことだからだ。

「雪蓮、どうするのだ?」

と、隣にいた冥琳が尋ねてきた。

「どうって……、鷲蓮が側に置いている彼を私たちがどうこうできるわけ無いじゃない。私たちが揃って彼を側に置いておくのは危険だと言っても、それは鷲蓮の考えを否定することになるわけでしょ。結局、どこで折り合いをつけるかどうかを決めるのは私たち自身なのよ……ところで、鷲蓮たちは今どこで何をしているの?」

私の疑問に答えてくれるものはいなかった。


Side:太史慈

孫皓・北郷・俺・祖茂さま・韓当さんというメンバーで、今日は飲み会である。(嫁さんには了解を取っているため、朝帰りしたとしても今日は大丈夫なはず)
ちなみに幹事は俺。なので、本日は兵たちの間で噂になっていた焼鳥屋にて宴会を開いております。

「「「「「かんぱーい!」」」」」

もうこれで三度目の乾杯である。そうやって皆でジョッキを傾けて飲んでいるものは夏子印の麦酒と呼ばれる物だ。ぶっちゃけたところの炭酸の無いビール。4年ほど前から流通し始めた代物で、最初はもの凄く高かったのだが、最近では奮発すれば庶民でも飲める程度にまで価格が下がってきた。炭酸が抜けてしまったとはいえビールはビール、今までの薄い水のような白酒には戻れそうにないくらい旨い。
男5人で飲みに来ているため、遠慮はしなくていい。孫皓と祖茂さまは「娘」談義で盛り上がり始めた。韓当さんは、それを聞いて苦笑いしながら相槌を打つ。北郷は焼き台の所に行って、色々と注文しているようだ。そして戻ってきた彼の手にはタレの香ばしい匂いが漂う手羽先が山のように積まれた皿があった。むしゃぶりつくと旨い。

酒も回り始めていい気分になってきた頃合いで祖茂さまが韓当さんに向かって一言呟くように言った。

「今宵の酒は格別に旨いのう。ところで、優(ユウ)は最近どうじゃ?」

「どう…とは?」

酒に酔っているのか頭を少し揺らしながら彼は祖茂さまの質問に首を傾げた。

「決まっておろう、黄蓋との仲のことだ。あやつの初心な花嫁姿を冥土の土産にしようと企んでおるのに、いつになったら拝めるのだ?」

「豪火(ゴウカ)殿!私と公覆殿はそのような仲では」

と一気に酔いから醒めた様子の韓当さんの言葉に被せるように俺は追撃をかけた。

「あれぇ、先日酔いつぶれてしまった黄蓋さまを家に招いたと聞きましたが?」

「陽炎殿ぉおおお!?」

独身貴族であり、最近黄蓋さまとの仲を注目されている韓当さんを祖茂さまと一緒に追い詰める。

「へー、優は黄蓋のことが好きなのか?」

と、孫皓もこちらの話題に乗りかかって来た。

「おもしろそうだな。姉ちゃん、麦酒5杯追加!俺も混ざるぞ。ネギマと砂肝を10本ずつ追加!」

そう言って混ざってきたのは手羽先を食べ終えた北郷だった。北郷の注文に給仕の女の子が困った表情を浮かべていたので復唱してあげた。

「孫皓さまに北郷殿、私と彼女はまだそのような関係ではありませんよ」

言質取ったぜ、韓当さんよう。

「なるほど…“まだ”か」

と、祖茂さまはニヤリと笑い、

「うんうん。“まだ”ね」

と、孫皓は腕を組んで感心し、

「へぇ…いずれはってことだよな」

と、北郷が意味深に言って韓当さんに本音が漏れていたことを知らせる。今更気付いた所で遅すぎるのだが、パニクった韓当さんは運ばれてきた麦酒のジョッキをすぐに持って一気に飲み干し……潰れた。ある意味で見事と言いたい。

「それにしても、この麦酒とやらは旨いのう。今までの酒は水じゃ、水!」

「夏子印って一体何を意味するんだろう……。夏子っていう人が作っているお酒?」

いやいや安直過ぎるだろう、孫皓。

「酒の蒸留技術は確か曹操が確立するはずだから、彼女たちが売り出している物なのか?だけど…何で夏子?」

と北郷も首を傾げる。まぁ、史実ではそうなんだろうけど、この世界ではもう常識は通用しないからな。

「こんな時は摩耶に頼『シュタッ』むとしよう」

「お呼びですかー?」

「「速過ぎるだろ、オイィイイ!?」」

俺と北郷はウサミミをつけた蒋欽にツッコミをいれるのだった。


あとがき
あけましておめでとうございますっす。
今年は兎年っすね。あれ、としおt……ゲフンッ。
コン太です。
孫皓伝の更新を途切れさせないように頑張って行きたいと思っています。
今年も孫皓伝をよろしくお願いします。
次回は他の情勢を蒋欽講師に講義してもらいたいと思いますっすよ。


ついでに
感想欄に四天王の話が出たことがあったので案として考えてみましたっす。
孫策の場合 周瑜・陸遜・呂範・太史慈
孫権の場合 甘寧・周泰・呂蒙・凌統
孫皓の場合 太史慈・北郷・蒋欽・魯粛
といった所でしょうか。陽炎くんは大人気だね。

陽「…………」





[24492] 六話.「えっと何々、『恋姫絵巻~禁断之曹家調教日記~』」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2011/01/03 16:41
六話.「えっと何々、『恋姫絵巻~禁断之曹家調教日記~』」

Side:一刀

蒋欽って、こんなキャラだったっけ?
鷲蓮に抱きついて頬ずりするウサミミをつけた彼女の姿を見ながら俺はそう思った。
見れば太史慈や祖茂は普段通りである。つまり彼女は、いつもこんな状態だということだ。
丁奉が『筋肉隆々の漢』から『男の娘』になっていたのもそうだが、なんで真面目な忠臣キャラだった蒋欽がこんなになるのだ?世界が変われば、その世界の住人も変わってしまうのだろうか。

「で、何の御用ですかー」

「ああ、この夏子印について聞きたくてな」

と、太史慈が麦酒の瓶を片手に持って尋ねた。

「夏子(かし)っていうのは略称なのですー。本当の名前は『夏侯子雲』印ですー」

夏侯子雲といえば……長坂で趙雲と戦って殺され青江の剣を奪われる人だな。正に、

「「歩く死亡フラグ」」

太史慈も同じようなことを思ったらしい。

「あなどっちゃ駄目ですよー。建業で取れた麦を買い取って麦酒の材料とするほどの財力を持ち合わせているんですからー」

材料を安価で大量に仕入れて、加工品にして売る。稼ぐ常套手段だが、いきなりビールを作れるのか?大体、曹操がいるのは陳留だ。結構な距離があるし、麦を運ぶにも人手がいるはず。

「夏子印では、他にどんなものを売っているんだ?まさか麦酒だけではないだろう?」

「そうですねー。例えば私が今付けている『兎になりきり道具』も夏子印の商品ですー」

そう言った彼女はその場でくるりと一回転した。確かにウサミミの他に兎の丸い尾を模した物が腰の部分に付けられている。

「『猫になりきり道具』もあったので娘の明命に渡してきましたー」

それは……随分と喜んだのだろうな。嬉しくて跳ね回る彼女の姿が思い浮かぶよ。

「あとはー、本なのですけどー。……見ますかー?」

「歯切れが悪いじゃないか、摩耶。一体どういったものなんだ?」

「娯楽用品なのですがー、私たちには見れませんー。見たら駄目な気がしてー」

と、蒋欽から俺たちに手渡されたのは何重にも布を巻かれた本らしき物体。
何を大袈裟にと俺は布を外し、それを見た。表紙にはこの本のタイトルが書かれていて、表紙の左下には丁寧かつ大胆に『18禁』の文字が……って、エロ本かい!?

「えっと何々、『恋姫絵巻~禁断之曹家調教日記~』いやに生々しいタイトルだなぁ……」

俺は適当にページを捲り……見てはいけないものを見てしまった。
隣で覗き込んでいた太史慈は絵の完成度に感嘆の声を漏らした。

「成る程、イラストノベルってことか…。けど、モザイクなしとかありえないだろう。だが所詮二次元の創作キャラクターだし問題ないか。って、どうしたんだ、北郷?」

俺は主人公らしい女の子を見る。
左右対称に結わった金糸のような美しい髪、西洋の人形を思わせる整った顔立ち。髑髏を模った装飾品が彼女を一層引き立たせる。小柄で華奢で胸が残念な人だが、戦乱の世を代表する魏武の王である曹操……が、何故に犬耳をつけて、首輪までされて、後ろの穴に犬の尻尾を刺されて虐められているんだろう。

立場がもろ逆転しているわぁあああ!!彼女はあくまでヤル側であって、ヤラれる側ではない。
それに誰なんだ?この曹操を調教している金髪美女は!顔立ちとか雰囲気とか、こちらの女性の方が前の世界の曹操っぽいぞ!
俺と太史慈はページを捲っていく。すると、案の定『夏侯姉妹』が出てきた。『猫耳軍師』も出てきた。親衛隊のあの『ピンク色の髪をした女の子』も出てきた。これで打ち止めかと思われたが、『濃い紫色の髪を束ねたボンテージ姿の妙齢の女性』が出てきた。金髪のお姉さんと幾らかの会話を交わし、調教されて目にハイライトがなくなった曹操のあられもない姿が大きく描かれて終了。次回に乞うご期待だそうだ。

「なぁ、蒋欽。これは陳留でも売られているのかい?」

「いえ、陳留以外の州で売られています」

だろうな。本人にばれたら極刑じゃ済まない気がする代物だもんな。作者の『西晴(にしはる)』っていう人、一体何者なのだろう。


―ところ変わって、とある州のとある屋敷にて―

雪のように白い髪を短く切り揃えた青年が執務机に山のように置かれた竹巻を次々と片付けていく中、青年の隣で自分が書いた原稿を何度も見直していた少年が、青年に持っていた原稿を差し出した。

「孟夏(モウカ)~、新作が出来上がったんだ。読んで感想をくれ」

「晴人(ハルト)。俺は同性愛を絶対に認めないと何度も言っているだろう。それに今は仕事中だ」

孟夏と呼ばれた青年の名は、夏侯恩。字を子雲という。孟夏は真名である。家主である姉が不在なので、代理として夏侯家を纏め上げている。

隣にいる少年の名前は、西郷晴人。とある肌寒い日に屋敷の庭にあった池に仰向けで浮かんでいたところを子雲に保護されたのだ。将来の夢はイラストレーター。兄のノートパソコンをいじくって出てきた二次元の女の子たちを正確に描写。物足りなくなった彼は同人誌作家となって、自分のブログに貼るほどの剛の者となった。しかし、厳格な親父にやってきたことがばれて、全てを否定された彼は雪が降り注ぐ中、当てもなく家出しトラックに轢かれた。普通なら享年17歳と続くのだが……何の因果か分からないがこの世界に漂着。『こうなったら同人誌の始祖になってやる!』と意気込み、今日も筆を取る。

「今回は純愛漫画なんだよ」

「へぇ、普通のも」

「男×男ものだけど」

「死ね。誰かこいつを摘み出せ。二度と俺の部屋に入れるな。むしろ筆を取らせるな。生きているだけで有害だ」

「そんな桂花みたいなことを言うなよ。あの娘だって、恋姫絵巻の新刊をどうやってでも手に入れたくて、態々猫になりきった格好をして僕の前で『新刊が欲しいニャン』って尻尾を振るんだよ。まぁ、1時間くらい彼女で遊んでから渡していますが」

特徴:ドS (よって彼が書くモノ全てが……)

「お前を保護したのは、駄目だった気がする」

「孟夏、もう僕と君は一蓮托生だよ。殺される時は一緒にね」

半強制的に人生の墓場に足を踏み入れることとなった子雲は大きく溜め息を吐き、仕事を再開するのだった。


―建業にある焼鳥屋―

Side:孫皓

お爺さまと陽炎は摩耶に手渡された本をまじまじと見ている。豪火さんと気がついた優も気になったのか、2人の間からそれを覗き込んだ。結果は……

「なんなんじゃ、これはぁああああ!!」

と顔を赤くして憤る豪火さん。

「……ぶはっ!?」

と鼻から赤い液体を噴射して、再度気絶する優。初心にも程があると思うんだけどなぁ。

「ところで、摩耶。管輅のことなのだが、何か情報は得られたか?」

「いえー。今のところは何もー」

「そうか。ご苦労さま、それから今日はそれを付けたまま、俺の部屋に来るように」

「はいー。楽しみにしてますー。では『シュタッ』」

言い終わった直後には消えてしまった彼女。しかし、彼女率いる諜報部隊にも引っかからないとなると、この世界の管輅は今何処にいるのだろうか。


あとがき
孫皓伝に出てくる登場人物その他に関しての事項はすべてフィクションであり、実際の史実とか外史の人物とはまったく関係ありませんって、何を言っているんでしょうねぇええええ。
恋姫絵巻に関しては、完全に西郷の二次創作モノであり、孫皓伝の曹操さんはいつも通りドSです。あしからず…

現在、登場人物一覧を作成中につき、しばらくお待ち下さいっす。コン太でした。



[24492] 間話.「皆のトラウマにならなければいいのだが……無理だろうな」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2011/01/04 11:19
間話.「皆のトラウマにならなければいいのだが……無理だろうな」

Side:???

「ここが孫呉の美女たちが住む城か……くくく。腕がなるぜぇえええ!」

「目的を間違えることのないように気をつけるでござる」

人が勢い付けようとしているのに、無粋に忠告を入れてくる頭の頂点から爪先まで黒い衣服に身を纏った相棒。

「大丈夫だって。俺たちの目的は下着を盗…ごめん冗談アメリカンジョークだってば」

「本当でござるな……というか、ソレで本当に侵入するでござるか?」

相棒はキラリと月夜の光を反射した刃物を懐に直しながら俺に告げてきた。

「夏子印に特注した特別スーツだぜ!もう動きやすくって快適快適♪」

「拙者には、ソレを直視することはつらいでござる……」

相棒にそれだけの精神的苦痛を与えるのだ、耐性の無い奴は気絶すること間違いなし。

「孫呉が何故こんなにも発展したのか、その秘密を探れれば月ちゃんの使用済みおぱんつがご褒美。じゃ、行って来まーーす。とうっ!!」

「賈駆殿、そうやって奴を釣ったでござるか。はぁ……阿鼻叫喚の絵図が思い浮かぶでござる」


Side:丁奉

日の昇りきらない朝早くにそれは起こった。

「ギャア嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼!!!!!!」

僕は自分の寝台から飛び起きて、絶叫を発した場所に向かおうとしたのだが…。

「なんですか、今のは」

「うにゅぅ…」

彼女たちの格好と自分の格好を見てみる。全裸である。このまま出て行ったら変態である。僕は急いで服を着るのであった。
声がした場所―厨房―には人だかりが出来ていた。見れば孫堅さまやかげ兄、蓮華さまや程普さんなど役職は違えど、孫呉の重鎮たちが揃っていた。人だかりの間に身体を割り込ませて最前列の方へ行くと、厨房の床に仰向けで死んでいるかのように倒れている孫皓さまの姿があった。周囲には紅い液体が彼を中心に広がっている。

「まさか孫皓さまが」

暗殺されたのかと言いそうになったのだが、

「いや、床に広がっている液体は“けちゃっぷ”だ。ここで誰かが“おむれつ”を作っていたらしい。それを目撃した鷲蓮が何故ここで気絶しているのかが理解できないんだ」

と北郷さんが教えてくれた。しかし“けちゃっぷ”って何?“おむれつ”って料理のこと?
その北郷さんを穴が開きそうな勢いで見ている人たちがいる。蓮華さまたちだ。北郷さんは態とそちらを見ないように意識して、状況検分を行っている。ちなみに孫皓さまは起きる気配がない。

2刻後―玉座の間にてー

「これより、城の大掃除を行う。各部屋の隅々まで徹底的にだ。蒋欽と周泰の部隊は屋根裏まできっちりとな」

「「「はっ!」」」

かげ兄の号令で散っていく兵隊たち。残ったのは将軍たちだ。

「丸、侵入者がいると思われるので悪いが鷹の目で城全体を見てくれないか?」

「うん、分かった」

神経を研ぎ澄まして城全体の気配を見る。

「(強い気配はほとんど、この玉座の間に集まっているから分かりやすい…孫呉の兵たちの波長も知っているから迷うことは無いし……ん?屋根の上に1人と孫策さまの部屋に1人、知らない奴がいる!?)」

僕は鷹の眼を解除して、声を張り上げた。

「孫策さまが危ない!」

と。


Side:孫権

丸君の報告に私は衝撃が走った。
他国の刺客が何故この国に入って来ることはないと考えてしまったのか、自分の浅はかさに反吐が出る。北郷程度に気を使っている場合ではなかったのだ。
私は集団から抜け出し一目散に姉さまの部屋を目指す。

「蓮華さま、私も共に」

そう言って思春が隣を走る。その後ろには千草がいる。
姉さまはこの国に必要な方なのだ。絶対に殺させはしない!私は帯刀している剣の柄を握り締め、姉さまの部屋の扉を勢い良く開け部屋の中に飛び込み、ソレを見た。見てしまった。

長い触角と長い尾毛。全身は押しつぶされたように平べったく、狭い場所に潜むのに都合がよい体型をしている。太い手足が6本生えていて、背中には切れ目がある。ソレ全体は黒光りしていて、凶悪な怖気を全身から発している。普通であれば、つまんで外に捨てればいいくらいの大きさだが、今目の前にいるのは私たちと対して変わらない大きさであり、2足歩行している。何が言いたいのかって、そんなの決まっているじゃない。

「「「きゃあああああああ!!!???」」」

私たちの悲鳴を聞いて、ソレは正面を向いた。大あごのところに女性物の下着が何枚か銜えられているがそんなことを気にしている場合ではない。ソレは『ジャキン』と威嚇するかのように羽を広げた。私たちは武器を捨て抱きしめあい震え上がる。

正にソレが私たちに向かって飛び掛ってきた瞬間、ソレと私たちの間に割り込んできた影があった。

「孫権たちを泣かせるんじゃねぇえ!!」

そう言ったのは北郷でソレを殴り飛ばした。その先にいたのは黄乱、その手には大槌が握られている。

「ゴキブリは『ぐしゃっ』と潰すものじゃろうて……のう!」

『ぷちっ』

終わってみれば何のことは無い。虫が人間に勝つ道理などないのだ。

「大丈夫か?」

と北郷が私たちに手を差し伸ばしてきた。貴方の手は借りないと言おうと思ったけど、3人とも腰が抜けてしまって立てそうに無かった。仕方なく、彼の手を握り立たせてもらった。凄く温かくて、優しかった。

「ゴキブリ程度どうってことはないじゃろうに、まだまだ子供じゃな」

と黄乱に言われてしまったが事実なので反論のしようがない。私は俯いてしまったのだが、

「黄乱……潰れたはずのゴキブリはどこに行ったんだ?」

「はぁ?そんなもの此処で潰れ…て………なんじゃと!?確かに手応えはあったはずじゃぞ!?」

ア・レ・が・ま・だ・生・き・て・い・る・だ・と…………はぅ―――。
私が目を覚ましたのは全てが終わった後のことだった。


Side:太史慈

丸は教えてくれた。孫策の部屋に侵入者がいること。そして、城の屋根の上にも侵入者がいることを。
俺は厳虎隊を引き連れて屋根の上に上がった。丸には別方向から黄蓋隊を率いてもらっている。

「アニキ。……怖くないんですか?」

ガクガクと膝を震わせて俺の後を付いてくる厳虎。俺は屋根の上くらい、嫁さんから逃げる時に走ったりしているから慣れてしまって怖くない。けど、それを言うのは格好悪いので、

「別に、この程度のことは何でもないさ」

と安心させるように言ってみたが、また鎧に何か挟まっているじゃないか。何が書かれているか分かっているが見ずにはいられない。白い紙に赤い文字で『何を企んでいるの?』と書かれていた。俺はぼそりと呟く。

「3人目欲しくないか?」

と、返事は『命に2人を預けてくる』だった。なんなんだろうな、これ……。

そして城の屋根の一番高い所につくと、全身黒尽くめの人間が立っていた。その周囲には蒋欽と周泰の2人と部隊の兵が数人倒れていた。
反対側から上ってきた丸は目の色を変えて弓を射る。

「よくも明姉を!!」

だが、それよりも早く侵入者が先に動いた。懐から取り出したのは細い筒が幾つも付いた紐みたいなもの。それに火をつけて丸の方に放った。丸はそれを射抜こうとしたが、

『パパパパンパンパンパンッ!!』

と小規模な爆発を起こしたそれに驚き弓を射損ねた。

「爆竹って、お前は何者だ!」

「答える必要性はないでござるが、敢えて言わせてもらうでござる。鬼嫁の尻に敷かれている太史慈殿」

手前、本人が聞いていたら殺されるぞ。ツンとデレが極端すぎるから、彼女であってデレデレの彼女など嫁さんじゃないんだよ。

「拙者の名は、南郷。とある儚い少女に仕える忍びでござる」

「実の所、忍者に憧れる花火職人の息子なんだけどな」

「いつ戻ったでござるか、鉄之助……って、ぎゃああああ!?でござる」

侵入者の隣にもう1人の侵入者が現れたのだが、潰されてクリーム色の何かが飛び出した物体Xになっている。(孫皓が気絶したと聞いてゴキブリ関係だと思ったが、まさか人間サイズのゴキブリが出てくるとは夢にも思わなかっただろう)
女性陣は次々に気絶、丸も目が良すぎるため細部までくっきり見えたのかアウト。一気に壊滅状態へと追い込まれた厳虎隊と黄蓋隊。

「いやぁ…、やられちゃった。けど、安心してくれ鳴門。お目当てのものは、ちゃんとほらこの通り」

「おお、これであの方も喜ばれ……って、何でござるか、これ?」

「え?『ばいんばいんになる為に』っていう「江東の海女」っていう人が書いた参考書。それから俺の趣味で漁ってきた美女たちの使用済みの下着たち!部屋に飾ってもまだまだある量だぜ!……て、なにこれ?あれ…鳴門?お兄さん、何処に行ったのさ『ちゅどんっ!!』」

火の点いた焙烙玉の爆発で星になったゴキブリ男。南郷と言った男は遠い目をしながら俺にこう告げてきた。

「いい国でござるな。拙者も出来ればこの国に降り立ちたかったでござる。だが拙者はもう仕えるべき人を見定めたでござる。今度合間見えるときは戦場で……では。…………鉄之助が盗んだ下着は後日返品するでござる」

そう律儀に言って消えていった男、南郷鳴門。
この大陸を統一するのは簡単にはいかないらしい。

でだ、この惨状はどう片付ければいいのだろうか?皆のトラウマにならなければいいのだが……無理だろうな。


あとがき
ギャグです。まるっきり。
孫皓の弱点のひとつがまったく出てきていなかったので書きました。



[24492] 七話.「ちょっとくらい付き合ってよ、一刀」
Name: コン太◆eee7501b ID:071fd47e
Date: 2011/01/05 21:14
七話.「ちょっとくらい付き合ってよ、一刀」

Side:一刀

俺はこの世界に来てからというもの孫である鷲蓮から「六式」という体術を習っている。おかげで前の世界の頃とは比べ物にならないくらいの体力と武力を得ることが出来た。ただ、「鉄塊」と「剃」という最もポピュラーな技が取得できずにいた。代わりに得ることが出来たのは「紙絵」という攻撃を紙一重に避けるものと「嵐脚」という斬撃を飛ばす技だ。だが、どちらも鷲蓮には通じない。所詮俺は軍師にしかなれないのだと思い知らされた。

鷲蓮との鍛錬が終わると俺は海里と厳虎の2人と今日やらなければならない仕事を分担する。現在の孫呉には優秀な文官も充実している為、仕事を分担してしまえば昼前にはその日の分の仕事は済ませることが可能なのだ。

「今週の警邏は厳虎隊に任せることにしましょう」

「分かったよ。けど、最近黄巾党のこともあって民たちが変な動きをしていると丁奉くんから報告があったんだ。だから、人員を少し増やしてもらいたんだけど」

「なら俺が鷲蓮に言って」

「いえ、ここは孫策さまに陳情して…」

と大まかに会議した後、他の軍師や文官たちと話し合うようにしている。
基本的に国の大きな政は孫策や孫権らが行い、鷲蓮や太史慈の部隊は街の警邏や暴徒の鎮圧などの細々したものから、異民族関係の仕事などを主に活動している。

「そういえば北郷さん」

「どうしたんだ?厳虎」

「いつから海里の真名を許されたんですか?」

「「え……言わなきゃ駄目?」」

「気になるんですよ。北郷さんが真名で呼んできたのは孫皓さまだけじゃないですか」

「そうそう。私も気になるー」

はて、仕事の分担を終えてちょっと休憩してから仕事に取り掛かろうか…みたいな感じでゆっくりしていたはずなのに、何故ここに彼女がいるんだろう。

「あ、そうだ。この案件は早く鷲蓮に見せないといけないなー(棒読み)」

「ぶーぶー。ちょっとでいいから、お話したいの。態々、冥琳の隙をついてここに来たんだから、ちょっとくらい付き合ってよ、一刀」

名前を呼ばれた瞬間、俺の中に様々な感情が溢れ出して涙腺を刺激した。だが堪える。堪えたけど涙で視界が歪んでしまっていた。あの日、あの場所に2人きりで行かなければ、俺が守ることができていれば、彼女の代わりに俺が討たれていれば……。何度後悔しただろう、何度己の無力を呪っただろう、何度も何度も……。

「うぅ」

泣くな。涙を見せるな。耐えろ、彼女は『この世界』の彼女なんだ。俺が愛した彼女ではないのだから…、

「あ、ごめんね。いきなり真名はまずかったかしら」

いきなり様子の変わった俺を気遣うかのように孫策は謝ってきた。俺は袖で涙を拭うと笑顔を作って、気にしなくていいと伝えた。早く終わらせないと、彼女を探して周瑜まで来てしまうかもしれない。次は耐えられる自信がない。

「で、海里は彼とどこで会ったの?」

「ひゃわわ……あの、その、本屋です。えぇ……見られたくなかったんです」

憂い満ちた表情で遠い目をする海里。俺に原因があるのでちょっとだけ反省するが、あんな場所で会うなんて誰が予想するんだよ。(成人指定の本置き場の前で「西晴」の本を手に取っている所だった)

「俺は蒋欽に見せてもらった物の続編、又は前作を買いにいった所だったんだ」

「私は新作の『東郷兄弟』のむがむが…」

俺は海里がしゃべりきる前に口を押さえた。そして、孫策と厳虎に聞こえないように海里に言い聞かせる。

「それを彼女たちに伝えたらとんでもないことになるっていうのが分からないのかい?」

「ひゃわーーー!?」

「ねぇ、仲がいいことは分かったから、どういった経緯で真名を交換したのよ」

どこでって……やおい本を見て目が血走っていた彼女を見つけた→「ひゃわー」→俺がここに来たことも彼女の口からバレるかもしれない→「ひゃわわー」→お互い見なかったことにしよう→「ひゃわわわ」→何故に俺の服の裾を掴む?→「ひゃわわわ、出来心なんです。ちょっと興味があっただけなんです。今日が初めてなんです。後生です、私の真名でよければ預けるので見逃して下さいぃいいいい~~~」

碌な出会いではなかったことだけは確かである。

「まぁ、太史慈に紹介してもらったんだ」

「そうです。陽炎さまに紹介してもらったんですぅうううう」

「「へぇ…」」

完全に見抜かれているな、さすがだね。孫策。
というか、東郷兄弟?他にも俺みたいなのがいるのかよ。


Side:孫皓

「なにをみていりゅのでしゅか?よんだいめ」

「うん。摩耶の部隊にこの世界の管輅を探させていたら、お爺さまみたいに急に現れた人間が何人かいるんだ。これは、彼らの情報を纏めたもの」

「ほんごうかじゅにょがくることではじまりゅがいしなにょでしゅが……なぜ?」

それに関しては俺が知るところではないので気にせず眺める。

西郷晴人……夏侯家居候 西晴の名前で本を出している。

南郷鳴門……董卓軍客将 全員撃退された為、何をしているか不明。

東郷大空……野宿その1 見た目は10歳くらいの少年。だが、熊を一撃で倒す武力を持ち合わせている。

東郷大地……野宿その2 でかい。強い。けどウチの隊長並の方向音痴。

北郷一刀……孫呉軍軍師

待遇がいいのはお爺さまと最近侵入してきたという南郷っていう男だけだな。むしろ東郷の2人が可哀想で仕方が無い。

「とうごうのふたりがいりゅのはどこになりゅのでしゅか?」

「えっと……幽州?幽州といえば…公孫 かな。でも野宿しているっていうことは客将でもない訳だろ」

揚州や荊州、交州に関しては分かるんだが、大陸の北の方になるといまいち覚えていないんだよな。後で陽炎かお爺さまに聞くとするかな。

「よんだいめ。もう、そろそろなのでしゅよ」

「そうだな。行くか」

今日は美蓮と結依さんの2人と娘4人と一緒に食事に行く日であるのだ。なので今日は午後から休み。だが、気になるのは頭の片隅でニヤリと笑う幼女。

「今回は助言ないのか、孫翊」

「あのこのこうどうはよそくふのうなのでしゅ」

俺は扉を開けて一歩を踏み出し『ガンッ』と、頭部に何かが直撃して倒れた。

「べたなのでしゅ。『たらいおとし』」

「地味に痛い……」

戦いの時には「鉄塊」を多用するけど私生活でそんなものを使うやつはいないだろ。

「よんだいめ。まちのおみせにいくまでのみちにょりはまだまだながいにょでしゅよ」

「水に濡れるような罠でなければ何でもいい……」

だが、その認識は甘かったのだ。
落とし穴に嵌まったり、犬の大群に追われたり、店の場所が書かれた地図が微妙に違っていたり、止めは集合時間が1時間早いというおまけつき。
俺は食事の時間、ずっとボロボロの状態でぐったりと過ごすのだった。


あとがき
ベタないたずらが思い浮かばない……
一刀の心情を表すのもなんだかなぁレベルだし。
うぅ、精進せねば。



[24492] 八話.「……これなんて、拷問?」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:8446fefa
Date: 2011/01/10 13:08
八話.「……これなんて、拷問?」

Side:孫皓

「……あの日、妹の不注意で起こってしまった火事で、姉の陶磁器のように美しく木目細かで白く輝いていた肌は醜く焼けてしまった」

結依さんとの間に生まれた娘である周忠と周尚を膝に乗せて、俺は周忠に読んでとせがまれた本を最初から読みきかせていた。

「姉は己を醜き姿へと変えた、今まで一緒に仲睦ましく暮らしてきた最愛の妹を怨み、憎しみ、妬み、ついに妹を肉欲という闇に引きずり込んだ。今宵も屋敷からは若き少女の悲鳴が……って、これなんて、拷問?」

「ととさま、つづき!はやくつづきをよんで!」

と、明らかに俺が困惑する姿を見て喜んでいるようにしか見えない周忠。あらすじの背景に書かれている絵をガン見している周尚。なんで結依さんの部屋に『恋姫絵巻~曹家淫欲之饗宴~』(先日、摩耶が持って来た本の前巻にあたる)があるのだろうか。彼女も愛読者?それとも、今俺の膝の上に座って続きをせがむ、この子が?

「ととさま。このちゅじゅきがみたいでしゅ」

と、周尚に上目遣いでお願いされた。だが、これをこのまま読み聞かせて大丈夫だろうか。彼女たちの教育上、絶対に駄目な気がするが、愛娘のお願いを断る父親っていうのも……。

「曹家の屋敷の庭にある大きな倉庫から、少女の悲鳴が響き渡った…」

やるからには全力で。
俺は今まで培った技術を駆使して、臨場感満載の朗読を披露する。あらすじの所は男の声で、姉の方は美蓮の声、妹の方は雪蓮の声で読み進めていく。朗読していて思ったのだが、絵もうまく構成もしっかりしていている。何より現実にあったことのようにビシビシと伝わってくるので引き込まれる感覚さえもある。確かに男たちがこぞって買い求めるのも分からないでもない。

物語は中盤に差し掛かり、終焉に向けてどう物語が加速していくのか楽しみになりつつあったのだが、紙を捲る手を小さな手でしっかりと押さえられる。手の持ち主を見ると、涙目で「ととしゃま、ごめんなしゃい。もうやめて…ぐしゅ」と言ってきたので朗読は中止した。周尚は耳を両手で塞いで小さく縮こまっている。周忠は俺の手から本を奪うと、膝から『ぴょん』と降りて化粧台に向かい、引き出しの奥に直して戻ってきた。この子たちには少々刺激が強かったようだ。それと本の持ち主は結依さんだったらしい。欲求不満なのだろうか……そうだな。今日は泊まって美蓮と結依さんを満足させるとしよう。


Side:太史慈

北郷一刀という強力な助っ人が入ったこともあって、今まで手を出してこなかった有能な三国志の武将というか文官を獲得しようと兵を放ったのだが…。

「張昭と張紘の2人はそれぞれ曹操と董卓に仕えていて、呉の承相や大司馬を務めた顧 や盧翻も曹操に仕官しているだと!?」

俺みたいに未来の知識を持った奴がいるといういい証拠だ。南郷は確定、一緒にいたゴキブリ男も怪しい。恋姫絵巻を書いている西晴っていう奴もそうだし、夏子印を開いた夏侯恩もだ。くそ、ここにきて後手に回るとは。俺も油断していたってことか。だが、孫呉の優位性は変わらない。

夏子印の商品が出回ったのは、ごく最近だし。奴等は孫呉から食料を買うお得意さんでもある。要するにあちらには揚州のような食料が安定して取れる地はないという証拠だ。

孫呉は孫皓が3年…いや5年かけて変革を促してきたこの揚州という地は、大陸全土を見渡しても稀に見ない肥沃な土地である。まず食料の心配はしなくていい。獲れる物も多く、これまで獲れて来た物を保存するために作った蔵の中に貯蓄してきた分もある。陸路も街から街にと繋げた整備された街道があるし、海路も改良に改良を重ねた造船技術で作られた帆船がある。よくよく考えれば異常だよな、このまま発展し続けたら蒸気船の登場も近いかもしれん……。

「あ……。石炭、取ってない。いや、いきなり石炭を使っても耐えられる釜がないか」

鍛冶職人を集めて、まずは石炭の火力に耐えられる釜を作らないといけないな。でも、職人をどうやって集めよう。そういえば、孫皓ってあの“ボロボロ”の剣をいつまで使うつもりなのだろうか。揚州で職人を集めるなら……孫皓の剣を作るために、腕利きの鍛冶職人を募集っていうのはどうだろうか?

「アニキ、どうしたんですか。こんな所で?」

「こんな所でって……何で俺は中庭にいるんだ。無意識に歩いてきたのか、俺?」

「気をつけて下さいね、アニキ。アニキがいなくなったら、たぶん孫皓さまと北郷を抑えられる人間はこの国にいないんですから」

「……ちょっとは手伝おうという気持ちはないのかよ。……厳虎、お前が今読んでいる巻物ってなんだ?」

「奥義の書です。街の本屋で特b……譲ってもらったんです」

「少し見せてもらってもいいか?」

「どうぞ」

そう言って彼女から手渡された巻物の中身を見る。『第壱之技―魔神拳―』というのがデカデカと書かれて、その横に図解でどうすれば出来るみたいなのが……って、TOLのセネセネの技かよ。確かに厳虎は白髪で爪を使って戦うけど、これは本当にどこから出てきたんだ?

「ちなみに何か出来るようになったのか?」

「はい!一応第壱から第九之技までなんですけど」

「ふむ……」

俺は厳虎から2mくらい離れた所に仁王立ちの姿勢を取る。

「打ち込んでこい、厳虎。孫皓が認める、俺の鉄塊の防御力を超えられるかな?」

「は…はい。はぁあああああ!!」

そういった厳虎は氣を練り込んでいく。

「行きます!」

「来い!」

どういう技が来るか知らないが俺は全力を以って対処してやろう。兄貴としての威厳を見せてやる。

「鉄塊・轟」

「獅子旋哮!!」

おいおい、氣の使い方がまったくなってないな、厳虎。威力を籠めすぎなんだよ、だからそうやってへばるんだ。それじゃ、戦場では使い物になんねぇぞ……。
俺はその日、空を飛んだ。そして綺麗な放物線を描き落下。運が良かったのは落下予測地点に孫皓がいたことだろう。

「お帰り、孫皓。出来れば受け止めてくれぇええええ」

「ああ。太陽が黄色いな……」

朝帰りの孫皓は役に立たなかった。迫り来る衝撃に俺は仕方なく自分の身体に鉄塊をかける。

「今日は早退させてもら…ぺぶろっぱぁああああ」

その後、俺は厳虎隊の兵たちに運ばれて、嫁さんの働く華陀の診療所に連れて行かれた。処置を受けて、寝台に横になったのだが、

「とおさま、あそぼ♪」

そういって、娘が俺の腹に乗る。次いで、息子が本を読んでと目で訴えてくる。あげく、嫁さんが仕事の合間を縫って、ツンデレ風味に「しょうがないわね、仕方が無いから添い寝してあげるわ。言っておくけど、暇じゃないんだからね」と布団の中に入り込んでくる。華陀からは温かい目で見られるし。作者(神)よ、俺が何かしたのか?


あとがき

短いけどUPしたっす。お待たせしたのでもういっちょっす。




[24492] 間話.「恐怖!夏子印の露紙餡大福」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:8446fefa
Date: 2011/01/10 13:12
間話.「恐怖!夏子印の露紙餡大福」

Side:孫権

恒例となった私が主催するお茶会。
人数も増えたことだし、話される議題も増えて有意義な一時を送るように慣れたと思っている。
本日もたくさんのお茶菓子と共に盛り上がろうと思っていたのに、どうしてこういう状況になってしまったのだろう?
私は、原因の“一口で食べられる大福”を睨み付けた。

最初に被害を受けたのは明命と丸君と銀河の3人だった。和やかだったお茶会が音を立てて崩れ去ったのは、直後の事だった。3人はのた打ち回ってお茶を飲み、今度は熱いお茶の所為で悶絶。兵たちに医務室へ運ばれていった。

次に被害を受けたのは亞莎と穏の2人だった。「おいしそうです…はむ」と小動物みたいに食べる亞莎と「蓮華さまのお茶会に出るお菓子は全部おいしいんですよ~」と何の躊躇いもなく食べる穏。この2人ものた打ち回り、お茶を飲んで悶絶し、医務室に運ばれていった。

この次に来たのは、千草と留賛と賀斉の騎馬隊を率いる3人だった。今日はこれから色々な運用方法を試してみようと画策していたらしいのだが、私がお茶会を開いていたことを知らなかった千草が謝りに来たので「気にしていない」と告げて着席、留賛と賀斉の2人も一緒にという流れだったのだが、3人とも1つ目のお菓子に選んだのが件の大福。私と思春が止める間も無く、3人の口の中に放り込まれる大福。結局3人とまともに会話する暇もなく、医務室に運ばれていくのを見送るしかなかった。

「……私、海里に何か酷いことをしたのかしら…」

海里から、「今度のお茶会には参加できないので良かったらどうぞ」と貰ったこのお菓子。残りは8個。

で、次の生贄としてやってきたのは姉さまと彼女に無理矢理引き連れまわされている北郷の2人だった。
さも当然のように座る姉さまと居心地悪そうに景色を見る北郷。

「あら、蓮華。今日は2人でお茶会なの?」

「いえ。皆、一度は来たのですが」

「ふぅん」

「姉さま、先ほど冥琳が来て『雪蓮を見ていないか』と聞いてきたのですが」

「えー。ちゃんと昨日の分の仕事は終わらせたし。今日の分も半分くらいは終わらせたわよ」

「そういうことを言っている訳ではないのですけど…」

私が睨んでも姉さまはあっけらかんとしたまま、例の大福をつまみ口の中に入れた。にこにこと微笑みながら味わっていた姉さまの額に汗がひとつふたつと増えていき……

「!?か・かかかかかか辛いぃいいいいい!?み・水!水ぅうううう!」

そう言って、姉さまはお椀に入っていたお茶を飲み干した。

「ぶふー!?あっちゅーい!?かっらぁあああ、あっつぅううう」

目尻に涙を溜めてのた打ち回る姉さま。北郷は姉さまが飲み干したお椀に水を入れて手渡した。そして、大福が入っていた箱を持ち上げ眺める。

「夏子印の『露紙餡大福(激辛版)』。こんなものも作っているんだ」

「ひたが、わらひのひらがー、ひたいー」

「元々入っていたのが、ひぃふぅみぃ…16個。で、孫策が食べる時点で1/2の8個に減っていた。態々、ハズレを食べるなんて、運がいいのか悪いのか」

「うぅ~」

姉さまは恨みがましい視線を北郷に向ける。

「なら北郷。貴様もひとつ食べてみるといい」

と、思春が彼を睨みながら言った。

「うん?いいぜ。“ろしあん”という名の付くものは、大抵ハズレはひとつって決まっているんだぜ。『パクッ』うん、あ…………辛っ!?つーか痛い!!」

そう言った北郷は姉さまが持っていたお椀を奪い、水を一気飲みする。これで10個連続の“はずれ”ね。
残った大福はあと6個。

「……北郷、男ならもう1個食べろ」

「無理」

「軟弱者が」

「だったら、甘寧も食べてみたらどうだ?」

北郷に正論を言われてしまった思春は後ずさる。
それもそうよね。皆、食べたんだし。ここで私だけが食べなかったらどう思われるかしら。
お兄さまも姉さまも率先して前線に出て、兵たちと一緒に闘ってきた。その姿を見た兵たちは士気をあげて共に戦う。彼らとの信頼関係はきっとそんな所から出ているに違いない。

「私が食べるわ」

「蓮華さま!?」

「思春、大丈夫よ。私はお兄さまや姉さまみたいになりたいの」

「蓮華さま……。この甘興覇、どこまでも共に参ります!」

「思春…」

私はいい臣下を持った。私は敵を見る。残っているのは3つ……あれ?

「かっらぁあああああ!?」

と昴が悲鳴をあげ、

「……海里愛用の菓子だったか」

と千波が悶絶しながら呟き、

「…………」

何も言わずに固まったお兄さま。彼の食べ残した大福の中には、皆と違って何やら“緑色のもの”が見え隠れする。

「鷲蓮がアタリか。……これは何だ?『パクッ』ふむふむ、これは……うひぃいいいいいい!?水をくれぇえええ、いや、これは牛乳じゃないと!?がはっ……」

返事がない。ただの屍のようだ。その屍は地面に何やら意味不明な文字を書き残している。『犯人はハバ―』

「さ、さすがにこれ以上のものはないよね」

「お、恐らく…」

私は残った3つの内1つを選んで口の中に入れた。ゆっくりと味わうように舌で転がす。
思春は潔く噛んだようで、水を求めてのた打ち回っている。

「(大丈夫よ、思春。私もすぐにそっちへ逝くから、お水の用意をお願いね)」

私は大福を噛んだ。最初に舌を刺激したのは餡の甘味、続いて酢の酸味、唐辛子の辛味、野菜の苦味、ズキズキと来る痛み、鼻を衝くような刺激臭、生塵が不敗した時の腐乱臭、そして蜂蜜を煮込んで凝縮させたような甘ったるい匂い……。全てが合わさり、未知の領域の味。

「ナ・ナニコレ……げふぅ」

私は味を認識した瞬間、気絶したらしい。

翌日、目を覚ました私はいきなり北郷に抱きつかれた。いきなりの事で意味は分からなかったけど、悪い感覚ではなかったということだけ記しておこう。

後日、海里が間違えたとお詫びにやってきた。代わりに持って来たのは普通の豆大福。彼女の味覚は理解できない。


おまけ 「最後の1個の行方」

翊「はむはむ。おいちい、まねだいふくなのでしゅ」

雪「残り物には福があるっていうけど…」

翊「あむあ……む?うにゃにぬぬひれにゃうわわわー!?ぎにゅ…………『ぱたり』」

雪「ぎゃぁあああ!ちょっと、孫翊!医者ぁあああ!誰か、助けてぇえええええ!!」


結局、14個が激辛。超激辛のアタリが1個。謎の物体Xなアタリが1個という、夏子印の『露紙餡大福(激辛版)』好評発売中。現在2名の方が愛用中。配達も受け付けています。


あとがき
夏子印…恐るべしな巻でした。




[24492] 九話.「さて、皆はどうしたい?」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:8446fefa
Date: 2011/01/27 20:57
九話

Side:とある国の工作員

大陸の南東に位置する揚州を治める孫呉。
孫文台が下地を作り、娘である孫伯符が引き継ぎ、息子である孫元宋が発展させてきた地だ。首都は建業である。
すぐに動かせる兵力は10万以上に達すると思われる。国中の兵力を集めたら30万以上だとも云われている、大陸有数の勢力のひとつである。武官・文官ともに潤沢におり、将の質も高ければ、兵の質も高い。軍全体の兵力は正に脅威だ。

今回、私が主から調査してくるように命じられたのは、管輅の占いで読まれた天の御遣いのひとりである可能性が高い、孫皓隊の軍師北郷についてである。隙があれば暗殺もと命じられているので目を光らせることにしよう。
主が言うには、孫呉がこれ以上発展するのはどうやってでも阻止しなければならない重要事項だということだ。

……私は今、民家の屋根裏にてこの報告書を作成しているのだが、何故こんなにも生活感ありふれるのだろうか。


調査一日目

「……(゜□゜;)」

朝、孫元宋と一緒に鍛錬を行う軍師北郷。
報告書によれば将軍である孫元宋のなだめ役とあるが……何故、あの鋭い斬り返しを容易く避けられる?しかも紙一重で、何度も。何で一介の軍師が将軍並の武力を持ち合わせているのだ!?危うく暗殺に赴く所だった。確実に返り討ちにされていただろう。本国に妻と子がいる以上、命は大切にしないといかん。
報告書に書いておかねば『軍師北郷は、私(工作部隊小隊長)よりも強い。注意せよ』。……よし。次だ。


調査二日目

本日は休みらしく朝から街をぶらりと散歩している。街行く人たちに声を掛けられ陽気に答える北郷。子供もすぐに寄って来て、彼の行くところにはいつも人だかりが出来ている。ふむ…人徳もあるのだな。…カキカキ。
子供らと別れた彼は大通りにある本屋の前に来た。何か書物で所望していたものがあるのだろうか。足を踏み出した北郷にぶつかる影があった。私とは違う工作員の仕業か!?と思ったが、小さな影の正体は小さな帽子を頭に載せ、ひらひらとした服を身に纏った少女であった。彼らの話を盗み聞くとこのような会話がなされていた。

「ひゃわー!?べべべべ別に、新刊を手に入れたので早く読みたくて前が見えていなかったわけではありません!」

「駄々漏れだ、海里」

「ひゃわわー!?」

私は調査書を懐から取り出し、彼女のことを調べる。
ふむ。孫元宋の配下で山越出身の軍師『費桟』か。夏子印が売っている『びーえる本』とやらを好むようだ。
こういってはなんだが私も夏子印には世話になっている。主に愛する妻との性活で……コホン。

彼女と別れた北郷は店の中に入っていった。私も町民に変装し店に入る。彼がいたのは女人禁制かつ十八未満の男が見ることが出来ない本の類が立ち並ぶ区域だった。妙に堂々としている辺り、常連なのかもしれない。彼が手にとって眺めている本を見てみると『恋姫絵巻~終局・曹家姉妹之行末~』と書かれていた。なんと西晴の最新作ではないか。どれ私も一冊購入して……。


調査三日目

本日は孫呉の兵力、そして将軍や軍師らの実力を測る絶好の機会に恵まれた。なんと模擬戦とやらを行うそうだ。私も調査対象である北郷の部下に成りすまして見物するとしよう。
…………
……

戦いを見ていて思った事。

一.孫伯符・孫元宋・藩臨の3人は超危険。戦場で会ったら腕に自信があっても逃げろ。我が軍で対抗できるかもしれないのは李儒さまか主のみである。

二.他の将軍たちも一筋縄ではいかない曲者揃いである。複数対1の状況で戦うことを推奨する。

三.孫皓隊の兵士は、一介の兵士とは格が違う。強さが3:1の割合である。我が軍であれば将軍に入ってもおかしくないのが大勢いる。明日、引き抜きに掛かる。

四.一般兵もよく鍛えられていて連携に隙がない。

五.模擬戦終了後、兵に配られた「おにぎり」と「麦茶」はおいしかった。


調査四日目

本日は孫呉が行っている政策について調査する。ここに孫呉の強さの秘訣があると見た。
さて……。


調査五日目

建業に移住しようかと、本気で悩んだ。
何、この国?
福利厚生がしっかりしていて、兵が働きやすく、子を生しても育てやすい環境で、年老いてもゆったりと過ごせるとか。正直羨ましい。此処であれば、妻も仕事を辞めずに済んだかもしれないのに……帰ったら主に陳情してみるか。
昨日、言っていたように引き抜きに行ってみた。だが、

「今ならこれだけ払いますよ」

「孫皓さまの敵になる?馬鹿だろ、お前。俺には愛する妻と息子がいるんだ。態々死に行くなんて誰がするか」

「ですよねー」

と、きっぱりと断られた。確かに一理ある。

さて、本日は北郷の調査に戻りたいと思う。
今日は孫皓隊の副官である太史慈と一緒に警邏をするようだ。
調査書によれば「太史慈」は孫元宋と同期であり、北郷との仲も深い関係らしい。彼の妻は様々な薬を作り、庶民が手を出しやすい安価な値段で売っているようだ。種類も豊富で、どれが何処に効くのか素人には判別が出来ない。夏子印も目を付けたが、当人が首を縦に振らなかったので未だに揚州でしか出回っていない。

話を元に戻す。
太史慈と北郷は街を隅々まで回りながら、街の人の声に耳を傾け『めも』していた。街の人と政治が密接に繋がっている所も孫呉繁栄に一役買っているのだろう。


その夜。

これにて調査は終了した。報告書も仕上がったし忘れ物もない。だがしかし、この部屋にもお世話になったし一応礼の意味も含めて掃除していくのがいいだろう。丁度良く、壁に箒と塵取りが掛けられていることだしな……。


Side:孫策

「というわけで、今週侵入してきた工作員の数は全部で21人。追跡が出来なかったのは、涼州に董卓軍のみです。その他は部下を紛れ込ませることに成功しています。以上で報告を終わります」

摩耶の報告を聞いていた一刀が思わず呟く。

「暗殺とか機密を探りに来た連中が、何でこの国のことを学んで満足して帰って行くかなぁ?」

「一刀、それは言わないお約束よ」

他の面々も「いつもの事かー」みたいに聞いちゃいない。でも気を抜いていていいのはここまでなの。

私は冥琳に目配せをする。彼女は頷き、懐から書状を取り出した。漢王朝から、私宛に届いたものだ。書かれていた内容を皆に聞こえるように説明する冥琳。
どんなことが書かれていたかというと……

『黄巾党と呼ばれる暴徒が揚州以外の州に現れ、暴虐の限りを尽くしている。そして、自らでは鎮圧できなくなった漢王朝は各地の有力諸侯に討伐命令を下したということ』

である。

「さて、皆はどうしたい?」

私は皆の顔を見て尋ねるように声を掛けた。
まぁ、答えは聞くまでもなさそうだけどね。



あとがき
コン太です。
気分転換が功を奏し、続きが書けたっす。
次も明日中にはUP出来ると思うっすよ。



[24492] 十話.「娘の恋愛事情で酒を飲むなー!!」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:8446fefa
Date: 2011/01/28 18:36
十話.

Side:太史慈

ついに三国時代が幕を開けるのだなぁとしみじみに思っていたのだが、ここで問題がひとつ浮上した。
此処の所、大規模な戦いが無かった為、誰もの目が行きたいと物語っている。正直な話、俺も行きたい。

「摩耶、一番近くの敵はどのくらいの規模だ?」

と、孫皓が蒋欽に尋ねる。奴等の数によって参加できる人間の数が変わってくるため、皆静かに待ったのだが…

「荊州に入り込んだ黄巾党の数は本隊が1万、分隊で2千から3千かと」

「予想に反して少ないわね」

孫策さまがちょっと気落ちしたように呟いた。玉座の間にいた人間の総意といっても過言では無い。
そのような人数では数を送り込むだけ無駄である。少数精鋭で素早く片付ける必要がある。

「黄巾党自体はもっと強大なのだが。今回は諦めろとしか言いようが無い」

「では、誰が行くのがよいのでしょうか、お兄さま」

と、孫権さまが孫皓に尋ねた。というか普通、そこは…

「私に尋ねないのは何でなの、蓮華?」

るーるるーと涙を流す孫策さま。悪意はまったく無かった孫権さまもその姿を見て慌てて弁明するも、「いいもんいいもん。鷲蓮の方が王様っぽいもんね」と落ち込むような仕草を見せて膝を抱えた。すかさず北郷が「子供かっ!」とツッコミをいれる。

「大将は雪蓮」

「……は~い」

孫皓は今の今まで行われていた漫才を完全に無視して編成を口にしていく。

「将軍には黄蓋、丁奉、太史慈。軍師には周瑜、陸遜、北郷。と、俺は考えているが皆の意見はどうだ?」

黄巾党との初戦のメンバーとしては妥当なのかどうかだが、玉座の間に集まっていた人間の顔を見るに反対の意見はなさそうだ。それにしても、俺と北郷をいれたのに自分を入れないなんて、どういった心境の変化なんだ、孫皓?

「意見のある者は……いないようね。では、各自出陣の用意を。蓮華、留守はお願いね」

「はい!姉さま」


Side:一刀

皆が出陣の準備をするために、玉座の間から出て行く彼女たちの後姿を眺めながら、俺は前の世界の時との違いを肌で感じていた。前の世界では、雪蓮たちは袁術の客将という立場で兵数や軍資金、兵糧といった問題が山積みなっていた。結局はスポンサーである袁術に全部出させることで落ち着いたが…。

「おじ……一刀、どうしたんだ?」

「鷲蓮、いい加減に割り切ってくれないか?」

「もう少し、時間を下さい」

「しょうがないな。で、今回の編成は鷲蓮の独断か?」

「いえ、美蓮と結依さんに相談しました。最初は丁奉と陽炎は入れていなかったのですが」

つまり、行く事になっていたのは、雪蓮・冥琳・祭さん・穏・俺という前の世界と同じメンバーになりかけていたのか。偶然?いや、何かの干渉があったのかもしれないな。

「北郷さぁ~ん。行きますよ~」

「分かった、すぐに行く。鷲蓮、皆のこと……って、言うまでもないな」

「ええ。行ってらっしゃいませ、お爺さま。皆の国(いえ)は俺たちが守りますから」

俺は鷲蓮の物言いに苦笑いしつつ、彼に背を向け、入り口の所で俺を待っている陸遜の下へ駆けた。

「私は、輺重隊の手配をしますので~、北郷さんは~」

「各部隊の作業状況は公謹さまが見るのだろうし、俺は蒋欽と周泰の部隊から荊州に現れた奴等の情報を集めてまとめるとしよう」

「おぉ~。では~またあとで会いましょう~」

そう言って陸遜は駆け足で去っていった。
俺は深呼吸する。

「(今の俺はただの孫皓隊の軍師の1人に過ぎない。だからこの戦いで功績を得れば、それは俺のステータスになる。前の世界で培った力、思う存分に発揮させてもらうぞ)……よし!」

俺は準備を万端にするため城の中を駆ける。

「まずは蒋欽の部隊からだ」

俺は目の前のことに集中しすぎていて、興味深そうに俺を見ていた視線に最後まで気付くことはなかった。


Side:孫策

「太史慈や鷲蓮を疑っていた訳ではないが、北郷の奴、いい洞察眼を持っているな。そして、自分がすべきことをよく分かっている」

一刀と穏が会話するのを物陰から隠れて見ていた冥琳が呟いた。冥琳はずっと一刀のことを観察してきた。蓮華が部下に言って集めさせた情報にも目を通してきたし、直接彼の元を尋ねて会話をしたこともあったみたい。そして、今日、晴れて信頼に値すると判断したようだ。

「今時、北郷のような男は滅多におらんぞ。経験を積めば、良い軍師になることは間違いがないじゃろう」

「祭は早くから一刀のことを認めていたものね」

「うむ。奴と1対1で話をしたこともあるし、酒を飲み交わしたこともあるからのう……(そういえば、あの日は何故韓当の部屋で寝ておったんじゃったか…)」

これで一刀のことを認めていないのは、蓮華たちだけとなった。一刀の何が気に食わないのだろう。
仕事は真面目にきっちりと行う、街の皆との仲も良好、彼独特の采配もあり兵からも頼りにされていて、公私を使い分けている。女性関係の噂も全く聞かないし……。
あの生真面目な蓮華が嫌う要素なんてひとつもないのに。これじゃあ、まるで……

「好きな男の子の前で素直になれない意地っ張りな女の子よね」

「そうそう……って、母さま!?」

妙に体をクネクネさせる母さまが割り込んできた。見れば孫匡が冥琳にペコリと頭を垂れて挨拶して、頭を撫でられて頬を染めて照れている。

「堅殿、そういうことは大きな声で言うものではないと思うのじゃが…」

「えー。祭、考えてみてよ。あの娘の周りにいた同年代の男って、鷲蓮と妻帯者の太史慈と部下の丁奉君くらいでしょ。この3人にそんな感情を抱いたことは無かったはずよ。だって一度もそんな素振りをみせたことは無かった訳だからね。けど、ここで年齢が近くて、真面目で、優しくて、自分を“普通の女の子”として扱ってくれる者に出会ったらどうなると思う?今の蓮華は、彼のことが知りたくて知りたくて堪らないはずよ」

「つまり……今、蓮華さまの命令で必死になって北郷を嗅ぎ回っている者たちには悪いが、それは蓮華さまの自己満足の為という事ですか?」

「蓮華は、北郷にどう接すればいいのか分からないから、遠回りに調べさせているのよ。一言、彼に尋ねる勇気さえあれば、こんなことにはなっていないのよ」

「ははは……。あの娘らしいわね」

「と、言っている雪蓮。貴女はどうなの?何か思うところがあったからこそ、彼のことを構うんでしょ。いや、逆ね。構って欲しいから、自分を見て欲しいから、彼に近付いているのよね」

私は母さまに言われたことを反復した。私が一刀に近付いたのは、私自身を見て欲しいから?……ええ!?

「雪蓮、顔が真っ赤だぞ」

「策殿、図星か」

「ちっ、違うわ!」

「何気にシャオも彼に懐いているし、まさか三姉妹揃って同じ男を好きになるなんてね。くは~、祭。今度の酒宴はこれを肴に飲みましょ♪」

「娘の恋愛事情で酒を飲むなー!!」

「あはは~」

と、母さまは孫匡を抱えて笑いながら去っていった。

「あいかわらずだな、小母さまは」

政務から解き放たれて時間が有り余っている所為で、からかってくることが多くなって、私たちにはいい迷惑よ。

「しかし、北郷はもてもてじゃな。早く動かんと、何処の誰とも知れない女子に浚われてしまうかもしれんぞ、策殿」

「別に私は……それより祭は韓当とはどういった具合なの?この前、家に泊まって一夜を共にしたって聞いたけど?」

「馬鹿な!?誰にも言っておらんのに……あっ。…………兵を編成せんといけなかったな、では儂はこれで」

足早に去っていく祭の背中を見送り、私は隣で眼鏡のレンズを拭いていた冥琳に話しかけた。

「私って一刀のこと好きなのかな?」

「さぁ、私には分かりかねるな」

「う~ん……。一緒に居ると心地いいって思うのは、一刀のことを好きだからなのかなぁ……」

私の呟きに冥琳は答えてくることはなかった。


あとがき
どの段階で彼女達が一刀のことを好きになったのか、コン太にも分からないのです。
今のところ、一刀が天の御遣いだと知っているのは孫呉では鷲蓮のみです。
なにせ管輅の占いの噂が揚州の民の間では流行らなかったからです。
三英傑が揃うあの場面で、暴露される話がもうひとつ追加されました。



[24492] 十一話.「うっかり殺しちゃったら駄目よ♪」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:8446fefa
Date: 2011/01/29 11:57
十一話.

Side:太史慈

孫呉の領地である揚州から荊州に移った辺りで軍全体の雰囲気がどんよりと重くなったように感じた。
その理由は、荒廃した村がいくつも点在していたことである。黄巾党や山賊に襲われたという訳ではなく、ここに住んでいた住民が何もかもを捨て去り安寧を求めた様子が見て取れた。
21世紀を生きてきた現代人には馴染みないかもしれないが、この時代の人間は祖先が切り開き自らも育ってきた故郷を容易く捨てられるものではない。足掻いて、足掻きつくして、でもそれでは家族を守れないから、身を斬る思いで移住して行ったのだろう。
住人を失った家屋には、クモの巣が張り、至る所に野草が生え、人が住める環境ではなくなっていた。

「やっぱり、容赦せずにあの時、滅ぼしておくんだった」

と、くやしげに孫策さまが呟いたのが印象的だった。
荊州は現在、劉表の子孫と名乗る勢力と蔡琩を中心とした孫策さまから政治をするようにと委託された勢力が鬩ぎ合いをしている。国が安定しないということは、その国に住む民の暮らしも安定しないということだ。それによって疲弊した民は安寧を求めて、故郷を捨てる決意をする。荊州から揚州への移民は小規模だが続いているのだ。普通は制限してしまいそうなものだが、全部賄えてしまう辺り、孫皓が作り上げた揚州(改)は凄すぎるのである。

俺、本当に早くから孫呉に来ていて正解だったな。もし、史実通り行動していたら今頃どうなっていたことやら……、あれ?もし、史実通り劉ヨウに仕えていたら、この孫呉(笑)と一戦やらないといけなかったんじゃなかったっけ?やべぇ、選択をミスっていたら死んでいた。セーフ?俺、セーフ?

(※陽炎がいなかったら、鷲蓮も孫皓隊も引いては孫呉全体もチート+にはなっていませんでした)


Side:一刀

冥琳は丸に斥候を命じたようだ。確かに今此処にいるメンバーで彼ほどの適任者はいない。というか、彼の『鷹の目』という能力は異常すぎる。戦局を上空から見ることも出来る、狙撃する際に何も使わずに遥か彼方を見ることが出来る、あと太史慈から聞いたのだが丸には死角がないらしい。これは丸自身も把握していないらしいが……。

「いよいよ戦乱の幕開けね……ふふっ、ゾクゾクしてこない、一刀?」

危ない発言をする雪蓮に思わず頭が痛くなる。そういえば前の世界もこんなノリだったっけ?

「何で俺に同意を求めるんだよ?」

「だって、冥琳や祭も私と同じ気持ちだろうし、一番乗り気になっていないのは初陣の一刀じゃないかなぁ…なんて思ってね」

「ふっ、雪蓮の気持ちは分かるが相手が黄巾党では少々……いや大分物足りない気がするが」

「ふむ。いつもやっておる模擬戦に比べたら今回ほど楽な戦いはないじゃろう。じゃが、命のやり取りをしたことのない若い兵たちの経験を積むのには適しておる」

確かに黄巾党は兵法を知らない賊風情だ。あまり気にすることはないのだろう。けど、この世界は俺が経験した世界ではない。鷲蓮だけが異常ではなかった。恐らく曹操や劉備といった面々の所にも太史慈や俺のような存在はいるだろう。それと同時に“黄巾党”の中にもいる可能性はおおいにある。
俺の心配は余所に穏が雪蓮たちに同調するかのように言葉を発した。

「はい~。やるからには最高の勝ち方をしないといけませんね~」

「俺としては少々、緊張感を持ったほうがいいと思うぞ」

さすが太史慈。緩みかけた雰囲気を一言で締めてくれた。

「大丈夫よ、黄巾党なんてさっさと皆殺しに出来るわ」

「孫策、俺たちは圧倒的な勝ち方をしないといけないんだ。それなりの策を用いる必要がある」

俺は彼女を宥める様に言った。今の雪蓮なら1人で黄巾党くらい殲滅できそうで怖い気がするのだけどな。

「雪蓮、北郷の言った通りだ。人の記憶に残るような、痛快で、敵に大損害を与える勝ち方をしなければならないわ」

「ふーん……そこまで言うんだから、何かあるのよね?」

前の世界では仕方が無さそうに冥琳の話を聞いていた雪蓮だったが、この世界ではちゃんと皆の意見を聞くんだな。成長……いや、鷲蓮がいるし見て学んだのだろうな。

「火を使うなんてどうかしら?」

冥琳は眼鏡をクイッとあげると不敵に笑った。

「……良いわね。真っ赤な炎って好きよ」

「では決定ですね~」

「なら油と火矢の準備が必要だな。誰か!」

俺もこの世界に馴染んだようだな。あんなに嫌悪感を持って戦いに臨んだのが、もう遥か昔のことのように感じる自分がいる。前は人を焼き殺すっていう事を躊躇いも無く提案する冥琳に恐れを抱いたものだが、今の俺は太史慈が言ったことのほかに何かすることはないかと探している。

「なんだ?北郷。私の顔に何かついているのか?」

「いや、なんでもない」

「只今、戻りました!」

俺が冥琳と会話している時、斥候から戻ってきた丁奉が息を切らしながら地図を片手にやってきた。丁奉の帰還に気付いた皆が集まり、彼らの集めた情報が書かれた地図を覗き込む。
やはり、前と同じように平原に展開して……あれ、この陣形って。

「なんで、黄巾党が鋒矢陣を敷いているんだ?それに騎馬の別働隊が伏せられている上に、森には弓兵が伏せられているだと!?誰だ、黄巾党が兵法を知らない賊風情だと言ったのは!?」

「ごめん」「すまん」「悪い」

雪蓮、祭さん、太史慈の3人がそれぞれ謝った。
悪い予感が当たってしまった。この世界は、一筋縄じゃいかないわけだ。

「でも~、冥琳さま。こうやって敵の情報が丸裸になっている以上、怖くはありませんよ~。皆さんの言う通り、所詮は賊風情なので~」

「確かに兵の錬度はかなりお粗末でした。武器も鍬や鍬といった農具で、まともに武装しているのは伏せられている部隊のみ。むしろ平原に展開している部隊は全部『囮』だと思います」

「もしそうなら、腸が煮えくり返る……」

「一刀?」

平原に展開しているのは恐らく荊州の民がほとんどのはず。そして、作戦も碌に教えられていないだろう。将軍の野朗は自分が功績を得るために、弱き民を扇動して矢面に立たせているに違いない。そして農民がいくら死のうが気にしていないはずだ。俺は無意識に奥歯を噛み締め、握り拳に力を入れる。爪が皮膚を突き破り血が滴り落ちて、それを雪蓮に指摘されて我に返った。

「丁奉の情報が確かなら、敵の大将は農民たちを率いて平原にいるはずだ。それである程度、前線が崩壊した所で森に引き寄せ、弓兵で奇襲を掛け、こちらの足並みが崩れた所で騎馬隊に突撃させる……といったところか」

「概ね、冥琳さまのおっしゃった通りだと思いますね~」

冥琳が地図の布陣を見て、奴等の作戦を読み取り穏が肯定する。

「けど、こういう作戦を立てる奴に限って、小心者が多いよな」

「自分のすぐ横を太い矢が通り過ぎたら、どうなるかな?」

太史慈が腕を組みながらニヤリと笑った。隣にいた丸も『くすくす』と笑っている。

「ふふっ……もし、自分を援護してくれる“はずの”騎馬隊も奇襲部隊も“存在”していなかったら、こいつらを率いている将軍はどんな行動を取るのかしら?」

雪蓮も妖艶な笑みを浮かべている。少々、目がギラギラし始めた。

「後方に奇襲部隊は展開しているので~、先ほどの火計はそちらで使っちゃいましょう~」

穏がのほほ~んとした口調で奴等の退路を塞ぐ提案した。

「儂は策殿と平原で戦っておった方がよいじゃろう。これでも堅殿の代から戦場には出てきたからのう。知っておるものも多いはずじゃ」

祭さんは奴等の目を引く囮になるということを自ら宣言した。なら、俺は…

「俺は巧く隠れきったと思っている騎馬部隊に奇襲を掛けてくる。縄と兵を少し借りていくぞ」

「うん、そっちは任せたわ。頼りにしているわよ、一刀」

今回の方針は固まったようだ。

「言う必要も無いと思うが、配置を言うぞ。先鋒は伯符と黄蓋殿、太史慈は騎馬隊が隠れている左翼、丁奉は右翼から本隊を急襲、私と伯言は後方に回り時期を見て火を放つ。北郷、貴様は敵の騎馬隊を無力化しろ。それが終わり次第太史慈と合流だ」

と不敵な笑みを浮かべた冥琳が配置を述べた。

「最初に言っておくけど、敵方の大将は嬲り殺す予定だから、うっかり殺しちゃったら駄目よ♪」

と、雪蓮が言えば。

「逆に言えば、殺さなければ何をしてもいいのじゃろう?」

「僕と祭さんで的にしても」

祭さんと丸が弓の弦を弾きながら雪蓮に似た笑みを浮かべて言う。

「息さえしていれば~真っ黒こげでも~」

「構わないのであろう?」

穏と冥琳も似た考えのようだ。

「兵たちの準備も整ったみたいだ。では、孫策さま。出陣の号令を」

太史慈が雪蓮に告げる。戦いはもう、すぐそこまで来ている。

「ふふ、任せて♪」

雪蓮は鞘から剣を抜くと、兵たちに向かって高らかに声を挙げた。

「勇敢なる孫家の兵たちよ!いよいよ我らの戦いを始める時が来た!

 先王、孫文台は“事情”により、戦線を退いたがその魂は我ら姉妹に引き継がれた!

 我らの悲願、我らが本当の平和を手にするためにっ!

 天に向かって高らかに歌い上げようではないか!誇り高き我らの勇と武を!

 敵は無法無体に暴れる黄巾党!獣畜生に堕ちた賊共に孫呉の力を見せつけよ!

 剣を振るえっ!矢を放て!正義は我ら孫呉にあり!」

『うおぉおおおおお!!!!』

雪蓮の口上に兵たちの士気は最高潮まであがる。久しぶりに聞いた彼女の言葉に鳥肌が立った。太史慈に指摘されるまで気付かなかったが、涙が一筋流れていたらしい。俺は服の袖で涙を拭う。

「全軍抜刀するのじゃ!」

祭さんの号令で剣や弓を構える兵たち。
そして、雪蓮が敵兵に向かって剣をかざす。

「全軍、突撃せよ!!」

『オォオオオオー!!!!』

雄たけびを上げ突撃して行く兵たちと同様に雪蓮や祭さん、太史慈や丸も吶喊していく。

「さぁ~て、私たちもいきましょう~、冥琳さま~」

「ああ。北郷、『任せた』ぞ」

「応っ!」

さぁ、この世界での初陣だ。俺たちの力、思い知れ、黄巾党!!



あとがき
湧き出る文章、閃くアイディア、そして減少するコン太の気力。

『とらぬコン太の皮算用』ではないですが、連合軍どうしようか、迷っています。
折り合いはどうやってつけたらいいのでしょう。
邪なる野望を秘めた転生者の暴走?……ヤバイ、考えるだけで死ねるっす。



[24492] 登場人物一覧
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:10b3192c
Date: 2011/01/05 21:16
登場人物一覧

名前  字   真名  説明

孫皓  元宋  鷲蓮  一応主人公であり、未来から来た孫呉4代目の王(仮)。現在4児のパパ。

孫策  伯符  雪蓮  現在の孫呉の王。個性豊かな臣下たちを纏め上げるカリスマがある。

孫権  仲謀  蓮華  信頼の置ける者たちを集めて派閥を形成している。国を割る火種になりそうな予感。

孫尚香     小蓮  双子の妹たちの勉強係に任命され、日々成長中の少女。天真爛漫なのはどの世界も一緒。

孫堅  文台  美蓮  孫呉の礎を築いた江東の虎と呼ばれた人物。現在はご意見番として穏やかに隠居中。

孫翊          鷲蓮の娘で、管輅の転生した姿。噛み噛みでしゃべる姿が大人気。

孫匡          同じく鷲蓮の娘。将来、大物になるのが期待できる女の子。

周笠  扇發  結依  孫堅の幼馴染にしてずっと支えてきた軍師でもある。彼女もご意見番として隠居している。

周瑜  公謹  冥琳  孫策と断金の誓いを交わし、いつも共にいる軍師。現在も鷲蓮の部屋に通っている。

周忠          活発でいたずら大好きな女の子。未だに登場の機会は無いもののいつかド派手に…。

周尚          物静かで本を読んでもらうのが大好きな女の子。周尚と一緒で近い内に必ず…。

黄蓋  公覆  祭   孫呉の宿将にして、若手を育てるのが巧い将軍。最近、韓当との関係が噂されている。

祖茂      豪火  孫呉の宿将にして、一応孫堅と周笠の旦那扱い。義理堅く熱血属性。現在爺バカ化している。

程普      綾   孫呉の宿将にして、若い文官たちの教師役も兼ねている。最近行き遅れそうで焦りが…。

韓当      優   孫呉の宿将にして、仕事をきっちりとやる頼れる常識人。最近黄蓋との仲を注目されている。

呂範      輝莎  目立ちやがりやだが、公私をきっちりと弁えている孫策らと同年代の女性。国庫の守り人。

甘寧  興覇  思春  孫権の親衛隊隊長。原作よりも強化されているが、代わりにちょっとKYな発言が…。

陸遜  伯珂  穏   今まで彼女の性癖が完全に消化されたことはないため、悶々エネルギーが充電されている。

周泰  幼平  明命  暗部部隊を率いる猫大好き忍者。猫と同じくらい丁奉のことを想っている。

呂蒙      亞莎  真面目で日々学ぶ姿勢を忘れない期待の軍師。彼女の眼鏡に関して、一刀とイベント有り。

凌統  公積  千草  孫呉にて騎馬隊を率いる武官。復帰した太史慈に弟子入りして、切り込み隊長化している。

留賛      羅壕  騎兵指揮官として太史慈によって呼ばれた人物。左目に眼帯をしたレッツパーリーなお方。

賀斉      深海  凌統の部下。実は太史慈と仲が良く、よく飲みに行っていた。最近は宿将の彼女と…。

太史慈 子義  陽炎  妻1人、子2人の4人家族の大黒柱。ついでに孫呉の最後の良心。胃薬をまた飲み始めた。

丁奉      丸   黄蓋隊の副官で弓の名手。外見は完全に女で、一刀にリアル『男の娘』認定された。

魯粛      藍   弓も扱う毒舌軍師…なのだが。どうやって物語に絡ませていこうか。いっそのこと一刀に…。

蒋欽      摩耶  諜報部隊を率いる周泰の義母。鷲蓮に心酔しており、何事においても優先させる。

厳虎      昴   太史慈の補佐を務める少女。最近見つけた奥義の書に心をときめかせている。一刀フラグ。

黄乱      幸   山越族の姐御的な存在。仲の良い2人がくっつきそうな為、身を引いている。一刀フラグ。

藩臨      千波  鷲蓮や雪蓮並の強さを得た孫呉の切り込み隊長。一刀とは師妹関係。    一刀フラグ。

尤突      乃愛  めっきり出番がない。どうしようか悩むキャラ。一刀とは合わないような気がするし。

費桟      海里  ひゃわわ軍師。最近、枕を変えてきょぬーになった夢を見るようになった。 一刀フラグ。

厳興      銀河  丁奉の補佐を務める昴の妹に当たる女性。丁奉に一目惚れし、周泰と日夜争っている。

北郷      一刀  鷲蓮の部隊の軍師として仕官した。前の世界で孫呉を発展させた英雄。老若幼女いけます。


他勢力人物案(ネタバレ……書き直すかも)



名前  字   真名  説明

夏侯  子雲  孟夏  転生者。夏侯惇の弟だが、生真面目で同性愛が理解できない人。「百合?ワロスwww」

西郷      晴人  天の御遣い。恋姫絵巻というエロ本で、とんでもない稼ぎを生み出している。一部は国庫へ。

曹撰  孟貴  花琳  転生者。曹操の姉という位置づけに生まれた。元々が男のTS転生の為、内心複雑。



関平      龍斗  転生者。関羽の弟なのだが、1人で旅していた。が、途中で東郷兄弟に出会い…

東郷      大空  天の御遣い。ロリショタ系。ただし武術の達人で武力は呂布に匹敵する!?平和主義者。

東郷      大地  天の御遣い。190cm近い長身に鍛え上げられた体躯。兄には絶対に頭が上がらない。

馬休      杉形  転生者。能力は普通なのに周りに出来るやつがいないため、強制的に軍師をさせられている。



李儒      鉄之助 転生者。一言で言うと『エロ担当やられ脇役キャラ』だが、防御力∞というチート。

南郷      鳴門  天の御遣い。「~でござる」口調が特徴の忍者に憧れる花火職人の息子。よって、火薬は此処。


あとがき
3人ほど設定を書きなおしました。



[24492] 十二話.「今のうちに、蓮華に差をつけておかないといけないしね」仮
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:8446fefa
Date: 2011/01/29 22:23
十二話.

Side:丁奉

「狩り尽くせ!賊相手に容赦は必要ない!」

孫策さまの掛け声に反応するように兵たちが黄巾党の奴等を蹂躙していく。
この戦いでこちら側の優位は、最初の孫策さまの口上で決まっていた。自分達が対峙しているのが孫呉軍だと分かる否や彼らの戦意は喪失していた。農具を構えていた者たちも僕たちに背を向けて逃げ出していた。哀れで、可哀想だと思ったけど、一度人の道を踏み外した人間はヒトじゃない。逃がせば逃がしただけ、泣くことになる人が増えるだけなのだ。だから、僕は心を鬼にして矢を放つ。

「前線は大崩れだ!一匹たりとも逃すんじゃない!」

かげ兄の咆哮がこちら側にも聞こえてきた。
部隊を後退させようと馬の上から大声を張り上げていた男がいた。かげ兄や孫皓さまと同年代の男だった。けど、彼らに抱くような気持ちにはならない、逆に同じ空気を吸っていることが嫌になるくらいの嫌悪感があった。

「丁奉さま?」

『最初に言っておくけど、敵方の大将は嬲り殺す予定だから、うっかり殺しちゃったら駄目よ♪』

「…チッ…ハァ!」

孫策さまの言葉が頭をよぎり、狙いを奴の頭から馬の頭へと変更し、矢を放った。矢は命中し、馬の後頭部を弾けさせた。ぐらりと倒れる巨体、馬上から地面に勢い良く叩きつけられる男、逃げまどう兵に蹴られ踏まれている。

「いい気味だ……。弓兵、構え!こんな食い放題は他にないぞ!放てー!」

『おお!!』」

別働隊の騎馬隊が出てこない所を見ると、北郷さんの奇襲は成功したみたいだね。
火の手も上がり始めたことだし、ほんと……

「楽な戦だったねー」

正直、僕があんなにも必死になって情報を集める必要がなかったと胸を張って言えるほど、お粗末な戦だった。
とりあえず、アレの回収に行かなきゃならない。うわぁ…、こんなに嫌って思うのは初めてだよぉ……。


Side:一刀

黄巾党の別働隊を無力化するためにやってきたのだが、

「これを見てどう思う?」

「下衆ですな」

「男の風上にもおけんぞ!」

あろうことか、別働隊の奴等は近くの村を襲い、若い女性たちを自分達が隠れている所まで連れてきてやりたいようにやっていたのだ。つまりは大人数で陵辱。
馬を見ている奴は1人もいない。外を見張っている奴も1人もいない。自分達が奇襲を受けることも、そして現在戦いになっていることも気にしない、戦いを舐めたふざけた奴等だ。

「とりあえず、馬は全部貰おう。それから、火と油の準備。後はあの天幕を全員で囲もう。準備が出来たら、天幕に火を放ち、阿呆面を晒して出てきた奴らを片っ端から殺す」

『了解』

「かかれ!」

俺の掛け声で散っていく兵たち。素早く動き、嬌声の響く天幕を包囲する。

「……なんか情けなく思えてきた」

俺はそんなことを呟きながらも兵たちに合図する。静かに忍び寄り天幕に油を染み込ませ、火を燃え移らせる。天幕は布で出来ているため、すぐに燃え広がっていく。暫く黒煙を上げて燃える様子を眺めた。嬌声が悲鳴に変わった瞬間、兵たちは馬鹿の姿を見た。武器も鎧も身に着けず、フルチンで外に飛び出してくる馬鹿を。
兵の一振りで首が飛ぶ。次々と飛び出してくる全裸の野朗共の首を刎ね続け、気付けば周囲に転がるのは別働隊を組んでいたはずの男たちの死体ばかり、女性たちは精神が壊れ見るに耐えない状態だったので、俺が責任を持って殺した。

「北郷さま……」

「太史慈隊に合流する。皆、馬には乗れるか?」

『勿論です』

俺たちは彼らから奪った馬に跨り山を降ろうと思ったが、俺はストップをかけた。
皆が首を傾げる中、俺は振り向き様に言った。

「罠を全部解くぞ。このままいけば、自分で仕掛けた罠に自分達が引っかかる!」

『ああー!?そういえば!!』

俺たちが罠を全部解いて山を降った時には全てが終わっていて、敵の将軍らしき男が雪蓮の真名を口にしようとしていた。俺は馬の腹を蹴り突撃した。


Side:孫策

確かに私は言ったわよ。「最初に言っておくけど、敵方の大将は嬲り殺す予定だから、うっかり殺しちゃったら駄目よ♪」って。
けどね、正直に言うけど。こんな奴だったら、戦場で殺してくれたほうが余程よかったわ。

「うっひょー!なぁ、孫策ぅぅ。この縄を解いてくれないか。そうしてくれたら、いいことを教えてやるぜ?ふふ、その『ボンキュッボン』なナイスバディな身体になぁ!!」

「殺そ♪」

私は兵から剣を借りて奴の目の前に剣先を向けた。こんな奴に『南海覇王』を向けるのは絶対に嫌。

「おいおいおい。それは何の真似だい、ハニー?俺はな、強くて、頭が良くて、格好良くて、未来が分かるんだよ。俺と一緒に居たら大陸統一も夢じゃないぜ?どうだ、俺を助ける気になったかい?ハニー?」

頭の中で何かが切れる音がした。柄を握っている拳に力が入る。

「……あー、心中察するぞ、孫策さま。北郷には俺から言っておくから、このうざいナマモノをさっさと殺してくれ」

「同じ空気を吸っているのも嫌です」

心底嫌そうな表情を浮かべている太史慈と塵を見るかのような冷たい表情を浮かべる丸くん。太史慈はともかく、丸くんがそんな顔をするなんて珍しい。余程、嫌なのね。

「策殿、儂も我慢ならんぞ」

「さっさと殺(や)れ、雪蓮」

祭と冥琳が言い放った。

「へー。それがハニーの真名なんだな。ハニーに相応しい、……しぇ『がぼあっ!!』」

私の真名を言おうとした男は颯爽と現れた馬に跳ね飛ばされた。そして地面にうつ伏せで倒れ、何事かと顔を上げた所を馬の強靭な後ろ足で追撃された。加えて、

「嵐脚白雷」

という強烈な蹴り攻撃で、また空を飛んだ。落ちて『ゴキャッ』という鈍い音がしたが、男は虫の息になりながら自分を蹴り上げた人間を睨んだ。そして、叫ぶ。

「お前、お前、オマエェエエエエエエ!!何で、俺様の邪魔をするんだぁああああ!天和も地和も人和も、この世の全ての女は俺様のものなんだよ!!お前ら、男どもは皆、俺様の手足になって牛馬の如く働けばいいんだぁああああ!!」

傲慢にも程があるのよ。私は、奴を殺そうと近付こうとしたが、太史慈と丸くんに止められた。

「こいつは俺たちが殺すわ。同じ男として、絶対に許されないことを言ったコイツを許せそうに無い」

「どれだけ痛めつけてもいいんだよね。答えは聞いてないよ」

「お前に大切なことを教えてやろう。真名はな、彼女たちの生き様が詰まった神聖な名前なんだよ。お前みたいな、下衆野朗が口にしていい名前じゃないんだ!」

三者三様の言葉を吐き捨てて、奴に近付く3人。

「来るな、来るんじゃねぇええ!俺は選ばれたんだ!俺は神に選ばれたんだ。この容姿を見ろよ!銀髪に紅の瞳と蒼の瞳のオッドアイでイケメンなんだぜ。未来の知識も持っている。お前らとは違う!俺は神に選ばれたオリ主なんだよ!!」

何か変なことを口走る男だ。こんなキチガイの相手は二度とごめんよ。

「へー。神さまに選ばれたのなら死なないよね」

「そうだな、全知全能不老不死のチートが標準装備だしな」

「いい加減、耳障りだ。……死ね」

丸くんは背負っていた太い矢を持って、太史慈は自分の武器である槍を構えて、一刀は何処からか手に入れた剣を振り上げた。これから自分の身に何が起ころうとしているのかを、やっと悟った男の顔が青くなる。

「ははは、嘘だ。俺はオリ主なんだ。ハーレムを作って、世界を征服するんだ!……やめろ、やめグギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――――――――――」

そして、3人は矢を、槍を、剣を一斉に男の身体に突き刺した。何度も何度も……。

「なんかどっと疲れたわ、冥琳」

「私もだ」

私は物言わぬ骸となった死体に剣を執拗に斬りつけている一刀たちを見た。兵の幾人かも混ざって蹴ったり、斬ったりしていて、もはや原型を止めていないだろう。あの時、一刀が馬であいつを跳ね飛ばしていなかったら、私の真名があいつに呼ばれていたところだった。その点は一刀に感謝しなきゃ……って。

「冥琳、なんであの時、私の真名を言ったのよ!」

「すまない。むしゃくしゃしていたんだ」

「ぶーぶー!一刀が守ってくれたから良かったけど、危うかったんだからね!」

せっかく、圧倒的勝利を飾ったのに気分はもう最悪よ。何かで気を紛らわせないとやっていられない!

「せっかくじゃし、一刀を閨に招いたらどうじゃ?今日の礼を兼ねてって言えば、北郷も悪い返事はせんじゃろ」

それもいい考えよね。でも、まずは一刀に私の真名を許そう。
彼に真名である『雪蓮』って呼んでもらえたら……ふふふ♪まだ、呼ばれてもいないのに胸がぽかぽかしてきたわ。
それに今のうちに、蓮華に差をつけておかないといけないしね。


あとがき
ごめんなさい。
文章がかなり変です!改訂は間違いない。なので、この文章はこうしたほうがいいという方、ビシバシと感想にご指摘下さい。コン太の周りには読んでくれる人がいないんです。
というか、今回出した自己中なオリキャラくんは台詞を考えただけで萎える。色んな意味で萎える。きっと読者も萎える。肩にどっと疲れが圧し掛かったっす。こんなキャラ、二度とごめんなさいです。



おまけ 復活・太史慈の部屋

陽「皆さん、こんにちは。陽炎だ」

丸「助手の丸です」

一「ついでに主人公であるはずの鷲蓮より出番がある北郷です」

陽「今回は俺たち3人で読者の疑問に答えていきたいと思う。まずはカグラさんの疑問」

一「『雪蓮は孫皓ダイスキーからいつ俺のことを好きになったのか?』だったな」

丸「ぶっちゃけた話、2章に入った時点でその偽りの恋愛感情は無くなっていた。つまり孫皓さんがお父さんになった時点で、愛娘を可愛がる孫皓さんの姿に気持ちが萎えたんじゃないかな?」

陽「女は子を産んだら母になるっていうけど、男も自分の血を引く子供が生まれたら父になるんじゃないか。で、自分を見て欲しかった孫策さまはいつの間にか孫皓に恋していた気持ちがどこかに消えてしまったんだろうな」

一「次は船員Cさん。すげぇな」

陽「マジでパネェよ」

丸「作者、軽く死んだと思う。図書館で本を借りたり、Wikiを覗いたりしているみたいだけど、所詮付け焼刃の知識で書いている小説だもんね。期待されるのは嬉しいけれど、その重圧に押しつぶされるんだよね」

一「その作者なんだけど、董卓の“姉妹”をござる野朗の嫁にしようかっていうプロットを考えてんだぜ?」

陽「嫁といえば、丸。周泰と厳興と結婚式を挙げるときは孫皓に黙っていろよ。酷い目に合うから(第一章十一話から十三話参照)」

丸「普通に2人と結婚することになっているのはなんで!?」

陽「大丈夫。祝福するから」

一「ご祝儀って幾ら位?……丁奉って、職場の同僚に当たるわけだから…」

丸「妙に生々しいのはやめてぇえええええ!!」



おまけ ラストエンペラーズが鷲蓮の部屋に来訪しました。

Side:孫皓

朝、起きたら見たことの無い美女が3人と幼女が1人、俺の部屋にいた。
1人は見たことがある。劉玄の母親である劉禅さんだ。ただし、かなり若くなっている。
金髪の背の高い女は会った事はないが、恋姫絵巻に出てきた曹操に似た雰囲気がある。胸が“微”な所もそっくりだ。
この際、船を漕いでいる金髪幼女は置いておくとして、問題はこの儚げな少女である。
俺の頭は自然と警鐘を鳴らし続けている。この少女に関わったら一貫の終りだと。

「ふあ……ここは?」

「む、眠ってしまったのか」

「すー、……ななのぉ、わらわのはちみつを……ぐぅ」

「…………姉さま?お母さま?ここは何処なのです!?う、ふぐぅ、ふえぇえーん」

神さま、俺、何か悪いことをしましたか?

―説明中―

「ふぅん。貴方……。私の願いはある意味叶ったのかしら?」

「これから、どうしましょうか」

「わらわは、蜂蜜水を所望するのじゃー」

「あの……えと……」

えー。上から、曹奐、劉禅、袁術、そして劉協という名前らしい。正直、悪い夢だと斬り捨てて二度寝したい。でも、そういうことを考えているときに限って闖入者が来るんだよ。

「お兄さま、朝議が……へ?」

「扉を閉めて、中に入って来い蓮華。ちょっと手伝ってくれ」

「はぁ……」

―説明中―

劉禅さんと曹奐は王様つながりなのだろう。だが、蜂蜜水を2人で啜っている袁術と劉協とは何者だと思っていたら、蓮華が一言。

「帰っていいですか、お兄さま?今日は誰もお兄さまの部屋には近付かないように言って置きますから、どうか、私をここからだしてぇええええええ!!」

と、泣き始めたので解放した。その様子を見ていた孫翔が逃げようとしていたので捕まえて部屋に入れた。

「吐け」

「わたしはなにもかんよしていないのでしゅぅうううう!」

「嘘だ!」

何か思い当たることはないか4人に聞いてみた。

「確か、執務室で政務をしていたら管輅という人に…」

「月を見ていたら私の願いを叶えてあげるって管輅が…」

「七乃を待っておったら黒尽くめの女が蜂蜜飴をくれたのじゃ」

「確か息を『はぁはぁ』と切らすようにしながら私の身体を触ろうとした輩を蹴り飛ばした人の名が管輅…」

「…………」

孫翔は逃げ出した。
しかし、鷲蓮に回り込まれた。
孫翔は逃げ出した。
しかし、鷲蓮に回り込まれて抱きかかえられた。

「ぜんぜん、わたしはしりゃにゃいのでしゅぅううううう!!」

しかし、このままでは埒が明かないと俺は意を決して女性たちに話しかけようとしたのだが、

「「「「こんな所に落ちていたのですか」」」」

俺の前に胡散臭い格好をした管輅が4人現れた。声の抑揚もピッタリ同じとはやるな。
腕に抱えている孫翔も目をぱちくりさせて口が開いたままになっている。

「さぁ、貴女の望む強い男たちがいる世界に行きますよ。『ごっど』で『ふぃんがー』な男たちがたくさんいます」

「貴女のお望み通り、お母様を他の王のように才能とカリスマがある女性に変えてきましたよ。これで蜀ルートも安泰」

「まったく、待っていなさいと言ったでしょう。七乃が心配していましたよ、男根を生やして」

「ああ~ん。劉協ちゃん、良かった、無事だったのね!劉協ちゃんの白い肌に傷がついていたらどうしようかと」

突然現れた管輅たちによるいきなり始まった暴露大会についていけず、俺たちは呆然とするばかりであった。

「「「「開け、旅の扉!お世話になりました!孫呉のラストエンペラー!」」」」

彼女たちが去った後、部屋に残ったのは俺と孫翔の2人だけ。まるで嵐だったなと思いつつ、俺は孫翔の頭を撫でた。

「ど、どうしたのでしゅか、よんだいめ?」

「んー、お前が普通の管輅でよかったよ」

「???」

かくして、不思議な不思議な一日は終りを告げた。
けど……

「おお!蜂蜜水をくれたいい人なのじゃ」

「ちょっと、美羽!相手は孫伯符さまのお兄さんにあたる方なのですよ。……娘が申し訳ありません。あの……同盟の申し込みに来ました、私、徐州伯の袁逢と申します」

翌日、なんか来た。




[24492] 間話.「天の御遣い談義」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:8446fefa
Date: 2011/01/30 12:06
間話.「天の御遣い談義」

―曹操陣営の場合―

「なんかさー、領土内に現れた黄巾党を殲滅してきたはずの孟徳たちから覇気が失われていて気持ち悪いんだけど、孟夏は何か知らない?いつも情報をくれるオジサンは知らないみたいなんだ」

「お前の如何わしい情報のルーツはそいつか……。まぁいい、黄巾党に“俺”みたいな奴が複数存在していたそうだ。ただし、『百害あって一利なし』の虫けらだったそうだがな」

「ははは。孟夏みたいなのはレアに決まっているじゃないか。他はどうせ「ハーレムだ」「男は奴隷だ」「転生やっふー」って、現実逃避した連中ってことだろ。生温い現代を生きてきた人間が、人の命が金で買えてしまう様な殺伐としていて、女性になったけど歴史に名を残す英傑がひしめき合う世界を生き残れるはずがないじゃん。俺は絶対に人を殺したくないし、殺されたくない。孟夏には悪いけど、一生この屋敷で本を書き続ける。どうせなら、胸の大きい女の子を紹介してー。政略結婚でもいいから」

夏侯恩は目の前で『ぐてー』と寝転がる西郷の腹を蹴り上げた。身体が『く』の字になり咳き込む西郷。

「寝言は寝て言え、馬鹿野朗。俺だって、気立てのいい女性と結婚したいわ。知っているか、孫呉に太史慈という男がいるのを」

「知ってるー。所謂、勝ち組だろ。夫婦円満、子煩悩、孫呉の武官と文官を纏められる人材で、チートの塊である孫元宋の右腕。義理堅く、真面目で、部下からの信頼も厚い。孟夏と同じレアな転生者」

西郷は指を折りながら太史慈の情報を並べる。夏侯恩が夏子印で集めた情報と遜色がないものだった。

「(情報源は商会の会員10人の内の誰かか……)」

ちゃっかり西郷の情報源を潰そうと画策する夏侯恩であった。


―義勇軍の場合―

「今回の敵も厄介な者たちばかりでしたね、桃香さま」

「うぅ…、どうして皆、私の胸ばかり見るの!私って……ぐすん」

「にゃはは」

「さすがにあの人たちは失礼すぎます!」

艶やかな黒髪を横で束ねた少女(関羽)は肩に担いでいた武器を壁に立て掛けながら主君である少女に同意を求め、少女に話しかけられた栗色の髪と少し垂れた大きな瞳が特徴の少女(劉備)はおもむろに「はぁ…」と溜め息をつき、そばで話を聞いていた赤い髪を短く切り揃え虎をあしらった髪飾りをつけた小柄な少女(張飛)は苦笑いし、金の髪に大きな瞳可愛らしい服を身に纏っているせいで尚更幼く見えるこれまた小柄な少女(諸葛亮)は昼間に受けた侮辱を思い出して憤った。

「みんな、こんなにも可愛いのにねぇ」

「……気にする必要はない」

「あわわ、あわわ。……大地さま、頭をあまりにゃでにゃいでくだっ……あうー、かんじゃった」

4人の話を側で聞いていた赤い髪の少女と同じくらいの身長しかない少年(東郷 天空)と短く切り揃えた黒髪と見上げるような長身を持つ青年(東郷 大地)は慰めるような声を掛けた。魔女っ子のような帽子を被った青い髪を持った少女(鳳統)が恥ずかしさのあまり頬を朱色に染め上げる。

「って、はわー!雛里ちゃんだけ、ずるいです!大地さん、私もここを『なでなで』してください」

諸葛亮はおでこを指差しながら青年に近づいていった。

「…………(なでなで)」

「はうーん」

「朱里ちゃん……」

青年に頭を撫でられて猫撫で声を上げる親友の姿を見て、自分もと期待の眼差しを送る少女。それに気付いた青年は優しく少女の頭を撫でた。

「はぁ……、大地さま。あまり2人を甘やかさないで欲しいのですが」

と、関羽が諌めるような発言をしたが

「いいんじゃないの?戦いも終わったことだしねぇ」

少年はニコニコと笑いながらそれを止める。

「天空(そら)の言う通りなのだ!それよりも勇貴兄ちゃんは、さっきから何をしているのだ?」

「戦利品の目録作成中。数はちゃんと把握してないと、駄目だからな。つーか、お前らもやれ」

談話をしていた彼女たちから離れて、兵たちから報告を聞いて紙にその情報を書き記していた、長い黒髪を姉である関羽とは逆の方向で束ねた少年(関平)は強い口調で言った。

「勇貴、その言い草はなんだ!」

「人の上に立っているんだから、やるべきことはやれって言っているんだ!そのでかい胸に栄養を取られて、器が小さくなった馬鹿姉!」

「なぁ!?言っていいことと、悪いことも分からんのか!武器を取れ、勇貴!その腐った頭、叩き直してくれる!」

言い合いによって2人のボルテージは一気に上がり、一触即発の雰囲気になる。

「……二人とも喧嘩はだめだよ~」

2人の間を取り持つように後に蜀の大徳と呼ばれることになる少女が2人を諌めるのだが、

「桃香さまは黙っていてください!」「ぽややん大将は黙ってろ!」

『ピシャッ』と言われた拒絶の言葉に、大きな雷がその身に落ちたようにがっくりと膝をつき項垂れる劉備。落ち込む彼女に付き添うのは2人の軍師である。

「……やめろ、2人とも」

次に彼らを諌めようとするのは青年である。だが…

「黙ってて下さい、幼い少女が大好物な御遣いさま!」「ロリペド野朗は黙ってろ!」

2人の暴言の前にがっくりと項垂れる青年だった。ちなみに彼に付き添うのは赤髪の少女だった。

「2人とも喧嘩は駄目なの」

「「いい加減にしてくれ(ださい)、これは姉弟の『ぱきっぽきっ』もんだ……い……?」」

今まで睨み会っていた関羽と弟である関平は、肩をがたがたと震わせながら声を掛けてきた少年を見る。

「いい度胸だねぇ、2人とも。そんなに喧嘩がしたいのならねぇ、僕が相手をしてあげるねぇ(ニコリ)」

『ガタガタブルブル!!』

2人の姉弟は今まで対峙していたのも忘れ、正面から抱き付き合い『がたがた』と身体を震わせる。彼らの前にいるのは、義勇軍最強の武人。幽州に落ちてきた『天の御遣い』の片割れである『東郷 天空』である。ちなみに大地の1歳年上の兄である。
普段は見た目相応の子供のような仕草と言動で大きいお姉さんたちのハートを鷲掴みにして放さないが、一度キレれば暴れ終わるまで一切手出しできない阿修羅へと変貌する。武道の達人であり、元の世界では小・中・高の空手・柔道・合気道の全国大会を計9年間総なめにしてきた猛者で、全力で戦うと核兵器なみの強さのため国連の査察を受ける。ちなみにオリンピックからは出場拒否されている。(モデル=某ホスト部蜂蜜先輩)勿論、この世界でもその強さは実証済み。

「覚悟はいいよねぇ……答えは聞いてないっ!」

『ぎゃああああああ!!』

2人の姉弟の悲鳴が青い空に響き渡った。


―董卓軍の場合―

「あ…頭が痛い。鉄之助を見てきた所為で、あれが基準になってしまう。……でも、鉄之助はあいつらと比べたら、もの凄くいい奴だったのね……。いやいや、騙されるな!あれは変態、あれは変態」

「賈駆殿、とりあえず使えなさそうな奴はすべて殺したでござるよ。残りの選別は鉄之助に任せたから恐らく大丈夫でござる」

「鳴門、それって、本当に大丈夫なの?だって、あいつは『鉄之助』よ」

「奴は、この世界での生き方をよく知っているでござる。覚悟のある者無い者、思想が汚れている者いない者、自分の立場を弁えている者いない者を見抜く力は本物でござる。でなければ、奴はこの董卓軍で参謀に選ばれていないはずでござる」

私は腕を組んで思考する。確かに青年(南郷 鳴門)が言うことには一理あるのだ。鉄之助が自重しなくなったのは、目の前にいる青年が現れて、月が彼に恋してしまったからである。だが、彼女がその思いを自覚する前に彼は彼女へ忠誠を誓い、闇を生きる「御庭番衆」という部隊を作り上げその総長となった。その強さは他国から送り込まれてくる工作員を全て、涼州の外に弾き出してしまうほどだ。

闇で、私たちの影で生きることを選んでしまった彼を夫にすることが出来ないことを知った月は私の胸で泣いたのである。その頃だったかな、鉄之助が鳴門に食って掛かったのは。何度も鉄之助を倒す鳴門、何度も起き上がる鉄之助、そして涙を流しながら2人を止めた月。ここで3人は手を取り合い、戦乱の世を鎮めた後、決着をつけようという流れになり、鉄之助が壊れた変態になった。何を言っているのか分からないと思うけど、私が気付いた時には鉄之助は変態になっていた。時と場合とか、話の流れとか、そんなちゃちなもんじゃない。神さまのいたずらをこの身で味わったわ。

「ただいま~。賈駆ちゃん、ご褒美のぱん『グギュー!!』」

「いきなり、下半身目掛けて突撃してくるんじゃないわよ!この変態!!」

私は鉄之助の頭に踵落としをかました。そしてじりじりと踏み込む。だが…

「今日は青と白のしましまぱん『ぐぎゅうー!』……ああ、賈駆ちゃん、もっと強く踏んでー」

「きもい!」

私は踏んでいた右足を大きく振り上げ、鉄之助の顔を蹴飛ばした。吹き出る鼻血、恍惚の表情を浮かべて宙を舞う鉄之助、無言でそれを見上げていた鳴門が鉄之助の服を掴み地面に叩きつけた。
鉄之助は部屋の床にめり込んだ。だが、2秒もしないうちに復活して鳴門の胸倉を掴む。曰く、「なんで夢から目覚めさせたのか」と……。

「あ、頭が痛い」

米神あたりが本当に痛いわ。そんなことを思っていると淡い紫色の髪に儚げな雰囲気を身に纏った少女(董卓)が所謂『めいど服』とやらを身に纏って私の部屋に入ってきた。狂喜乱舞する鉄之助に私と青年の拳が炸裂したのは言うまでも無い。

「3人ともご苦労さま。お茶をどうぞ(ニコッ)」

月~。貴女、逞しくなったね(泣)。
親友として、嬉しいような、寂しいような、悲しいような、複雑な気分だよ~。



あとがき
現在出ている転生者は減らせないけど、これ以上は増やさない。
これから出てくるオリキャラは孫策さんたちと同じ、この世界の住人さんです。
どの勢力も自己中なオリキャラは排除の方向で動きました。
義勇軍のみ、その描写はありませんでしたが、軍師2人と片割れできっちりとやっています。



[24492] 十三話.「私、間違ってないよね?」
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:8446fefa
Date: 2011/01/30 16:36
十三話.

Side:孫権

姉さまや冥琳たちが黄巾党討伐に出発した2日後、私たちが住む城に来客者の姿があった。
その姿を見た母さまは「あら♪」と古き友の来訪を歓迎した。
金糸のような髪を腰の辺りで束ねた母親とその女性の服を『ぎゅっ』と握った娘。
母親の名前は袁逢。徐州伯を務めているそうだ。娘の名前は袁術。ここに来た当時は偉そうで偉くなさそうな言い回しをして、場を混乱の渦に巻き込んだが、お兄さまの姿を見て落ち着いた。

「同盟……ですか?」

「はい。恥ずかしながら、私が治める領土には孫呉のような屈強な兵がいません。我が軍の軍師が予測できない闘い方をしてくる黄巾党の者達に、我が軍は防戦しかすることが出来ず領土に住む民たちは怯えてしまっています」

要するに兵を派遣して欲しいということか。お母さまに相談しようにも、貴女自身で決めなさいと言わんばかりに徹底的に目を逸らされるし、お兄さまに相談しようと思っても、袁術に言い寄られて……ううん。孫翔や孫匡たちと同じような扱いを袁術にしている。紫色と金色なのに親子に見えてしまうのはなんで?

「……ひとつだけ確認させて欲しいことがあるのだけれど」

「なんでしょうか」

「私たち孫呉が貴女たちと同盟を組んで、何か利益を得ることは出来るの?」

我ながら酷いことを聞くものだ。黄巾党の脅威に怯える民を抱えている人に、こんなことを聞くなんて。
けど、この乱世が幕を開けたこの時に、何の利益も齎さない同盟は無意味だ。

「……不肖ながら我が領土には揚州に勝るものはひとつとてありません。ですが、文官の質はどこにも引けを取らないと思います。我が軍から文官を孫呉軍のお手伝いに行かせるというのはどうでしょうか」

「信用できない。同盟を組んだからといって、寝首を掻かれないとは限らないからな。もし、その条件で同盟を結ぶというのであれば……お前の娘を人質に取ることくらいはしないといけない」

お母さまとお兄さまの目を見るのが怖い。
けど、今の私は姉さまの代わり。王の代行を行っているのだ。失敗は許されない。

「美羽、ちょっといらっしゃい。今の話は聞いていたわね。領土に住んでいる人たちを守るためには、孫呉とどうしても同盟を組まないといけないの。お母さんと離れ離れになるけど、我慢できる?」

「……わかったのじゃ。皆、わらわによくしてくれたのじゃ。皆を守るためなら仕方が無いのじゃ」

「美羽、ごめんね。……孫仲謀さま、その条件、承りました。同盟の方、よろしくお願いします」

肩を震わせて頭を下げる袁逢さんと目尻に涙を一杯溜めて、気丈に振舞う袁術を見ていたら、私の中で罪悪感という重石がずっしりと肩に乗った気がする。私、間違ってないよね?


Side:孫堅

雪蓮の代わりに王として、袁逢に接した蓮華の姿を見てなんだか嬉しくなった。
ちゃんと王としていい成長をしている。今の判断も悪くない。私が王だったとしても、何の利益も生み出さない同盟はしないもの。でも、あちらもこちらの現状をよく理解していた。

孫呉は優秀な武官は多いが、政務を行える優秀な文官が少ないのだ。数はいるのだが、命令や指揮されなければ動けない者が多い。それでは駄目だ。自分で考え、自分の意思で動けて、自分の考えを披露できる文官が今の孫呉には必要なのだ。

「母さま、お手紙…」

「うん。毎週、いえ毎日出すわ。愛しの美羽」

しかし、彼女のあれは演技なのかしら?だとしたら性質が悪いわね。蓮華が纏っている空気がどんどん重くなっていっているけど……そうだ。

「鷲蓮、ちょっと袁術ちゃんの所に行って慰めて」

「うん?……いいけど」

さぁて、貴女はどんな反応を見せるのかしら鈴羽(りぃん)?


Side:袁逢

はぁ、やはり一筋縄ではいきませんでしたね。
美羽には辛い思いをさせてしまうことになりますが、領土に住む民を守らないで何が太守ですか。
とりあえず、文官の者達には孫呉で行われていることを学んできてもらって、徐州を豊かにできるように務めなければなりませんね。しかし、美蓮の娘は皆、王の資質を持っているようですね。せっかく孫策ちゃんがいない内に、私たちに有利な同盟を結べればと思いましたが、後ろに美蓮、横に美蓮の息子である孫元宋がいるとは……とほほです。しかも、美羽を人質として明け渡さないといけなくなるなんて、七乃ちゃんには悪いことをしてしまいました。彼女を美羽の側に置いたら、何を考えているのだと勘繰られていらない誤解を生んでしまうかもしれないので、自重しないといけません。しかし、美羽は1人で大丈夫でしょうか。おねしょも、まだ終わっていないのに。

「袁術ちゃん、こんにちは」

「う…うむ?」

え、ああ。さっきも美羽と話していましたね、孫元宋……確か名前は孫皓だったかしら。孫呉を強大な国へと発展させてきた逸材。

「これから大変だと思うけど、困ったことがあったらおじちゃんにいつでも話しかけてくるんだぞ」

そういって彼は美羽の頭を優しく撫でた。父親のような優しい微笑みに、美羽はこれから同盟を組んだとはいえ知り合いが1人もいない場所で暮らしていかなければならないという不安な気持ちが弾けた様で、ボロボロと涙を零して彼の胸に抱きついた。

「って、ええぇえええ!?み、美羽ぅうううう、何でお母さんじゃなくて、そっちなのぉおおおおお!?」

「甘いわね、鈴羽。娘はね、極限状態で母親と父親をどちらか選ぶのかだったら、父親を選ぶ生き物なのよ!」

いつの間にか近くに来ていた美蓮の言葉に

『ガガーン!!』

何故か、頭を鈍器で思い切り殴られたような衝撃があり、私は腰砕けになってその場に崩れ落ちた。私の目の前では、孫皓くんに抱っこされて胸元に縋りつく美羽の姿が……。

「『がくっ…』こ…こんなことって、……ありなの?」

「大丈夫、私は最近毎日こんな状態だから。孫翔と孫匡の2人も、最近私じゃなくて鷲蓮を添い寝の相手に選ぶようになっちゃったのよ。おかげで、部屋で1人寂しく酒宴を開けるようになったわ」

ほろりと涙を流した親友に私は胸が苦しくなった。同情じゃない、同じ思いを味わえるという仲間意識だ。

「だからね、最近ではシャオや蓮華の部屋に上がりこんで彼女たちに『寂しいでしょ、今日は母さんに甘えていいのよ』って言って潜り込んでいるの」

「お母さまー!自分の欲求不満を私たちで解消しないで下さいー!!」

「あれ、落ち込んでいたんじゃないの?引き摺るようなら今夜も貴女の部屋に行こうと思っていたんだけど」

「結構です!そんなに寂しいんだったら、お母さまがお兄さまの部屋に行って4人で寝ればいいじゃないですか!」

「おぉっ!?それだ!」

先ほどまで落ち込んでいた美蓮は生き生きしだした。彼女の問題は解決してしまったようだ。

私の方はまだ解決して

「母さま」

ないんだけど……。

「な、何?美羽」

「わらわはここでいい子にしているから、母さまは頑張って皆を守ってくるのじゃ」

何、この勝者と敗者の会話みたいなの。

「う…うわぁあああああん!必ず、領土内の黄巾党を駆逐して美羽を返してもらうんだからね!覚えておきなさい!!」

そう台詞を言い残して玉座の間を後にしたのであった。


後日、徐州の領土に同盟の証として援軍が到着した。

「こんにちは、袁逢さん」

「ええ、すっごく予想外なんですけど」

「美蓮がどうしてもって言うから、……で、彼女から聞いたんですけど。旦那さんはもうお亡くなりになっているとか」

「え?まぁ……美羽も小さな頃だったので、父親というものを覚えていなかったのだと。それが何か?」

「いえ、別に。美蓮には『もう1人くらいはいいよ』と許可はもらっているので……」

「は?」

その後、話をはぐらかされた私はその日が終わるまで頭を悩ませていたのですが……その夜、

「ぐへへ…、どうめいをはきされたくなかったら、おとなしくしてな(棒読み)」

私は猿轡をされ、手は後ろ手に拘束されていました。

「うはは…、たまのようなしろいはだだぜ。こちらはそうかな?(棒読み)」

「んぐー、んんぐー」

「……はぁ、なんでこんなのが好きなんですか?袁逢さん。俺は気分的に萎えるんですが」

美蓮から来た手紙には私の性癖を彼に教えておいたから、安心して抱かれなさいってあったのに、これじゃあ蛇の生殺しよ!やるんだったら、最後まで全力でやりなさい!と思いを籠めて睨みあげたら伝わったのか。

『ここから先は描写できません。』

翌朝、私は久方ぶりに殿方の腕の中で目が覚めました。長いこと忘れていましたけど、やっぱりいいわぁ~。彼は1ヶ月ほど滞在するようなので、私たちの軍を鍛え上げてもらうと同時に美羽の弟か妹も作ってもらいましょう。


あとがき
久方ぶりに孫皓が暴走?
同盟は半永久的なものになりそうです。繋がり的に……。

本日は結構UPしましたが、今週はテストなのでたぶん出てこないと思います。
では…



最近、XXX板にも手を出そうかと考えているコン太です。





[24492] 14話
Name: コン太◆a0ea3b6c ID:8446fefa
Date: 2011/03/22 14:19
十四話.

Side:一刀

荊州の黄巾党を粗方殲滅し終わった俺たちは建業に帰還した。
出迎えを受けた俺たちは厳虎・厳興姉妹先導の下、城に戻ったのだが、知らない顔がちらほら居たのであった。
雪蓮は周囲を見渡して孫権を見つけたので事情を聞きに行ったのだが、俺は鷲蓮の娘である孫翔と孫匡が一緒になって遊んでいる少女に注目した。自分のことを「わらわ」と呼び、「~なのじゃ」と語尾につけ、好物は蜂蜜の金髪少女といえば……

「なんで、建業の城の中に袁術がいるんだ?」

「徐州の袁逢と同盟を結んだんですって……彼女は私たちを裏切らないように要求した人質だそうよ」

俺の疑問に答えたのは事情を聞いて戻ってきた雪蓮だった。王である雪蓮が居ない間に同盟を結びに来たっていうことは、たぶん自分達に有利な条件で同盟を結ぼうとしたんだろうな。けど王の代行を務めていた孫権が弱いところを見せなかったため、泣く泣く彼女を差し出したんだろうな。

「で、どんな同盟だったんだ?」

「兵が足りていないから、援軍を出して欲しいって。派遣されたのは鷲蓮よ」

それを聞いてちょっと悩む。各地でも黄巾党は狩られつつある。直に「黄巾党本隊を潰すから手を貸せ」みたいな檄文が届くことになると思うから、次は孫権を連れて行きたかったんだけどなぁ。鷲蓮がいないとなると……。

「一ヶ月もすれば戻ってくるみたい。徐州に現れている黄巾党の数はそんなに多くないらしいしね」

「そっか…。帰ってきたら、孫呉の守りは鷲蓮に任せて、次は孫権も連れて行こう」

「そうね…。あの子は大きな戦いをまだ経験していないからね。ただ、耐えられるかしら“アレ”に」

「たぶん、米神に青筋を浮き上がらせて『がおー』って吼えるかもな」

「何の話なの?姉さま、北郷」

今回戦ってきた黄巾党の将を思い出して乾いた声で笑っていた俺たちに、腕を組んで話しかけてきたのは孫権だった。表情はなんとなく、おもしろくないものを見た感じで『むすっ』としている。雪蓮もその雰囲気に気付いたようで、俺の腕に自分の腕を絡ませた。俺が「何を」と言う前に孫権が目を細めて俺を睨む。

「ふーん。そんなに一刀を睨んで、どうかしたの蓮華?」

「べ、別に何でもありません」

「そう。じゃあ、一刀。私の部屋に行きましょ。結局、お礼は出来なかったし、これからゆっくりじっくりと」

まるで孫権を煽るように態々彼女を見ながら雪蓮は言う。ここで俺が気を付けなければならないのは、雪蓮と彼女の前で真名を呼ぶことである。彼女は結構、ヤキモチ焼きであるため煽りすぎるとトンデモナイことになるのだ。決着が付いた後、心にゆとりを持てた後でも時々甘寧を伴って闇討ちしようとしてきたからな。

『天の御遣い、妻に惨殺される!?』

こんなのでお茶の間を汚したくないと散々フォローしたのを覚えている。

「むー……。ずっと、一緒にいたんじゃないの?私だって、北郷とおしゃべりしたいのに」

あ、何か嬉しいことを言ってくれた気がする。俺は雪蓮に「孫権に報告しないといけないことが」と言おうとしたが、その前に「……ちりーん……」という鈴の音が聞こえてきた。久しぶりだな、『鈴の甘寧』。でも、音がいつも(未来という名の過去)に比べて小さいような気が……。

「思春?なんのつもりかしら?」

「ちりーん……」

「ちっ、厄介ね。けど…」

「ちりー「そこね!」ちっ、バレたか!」

ターゲットは雪蓮の方でした。彼女の忠誠心には脱帽だね。対峙しているのは、この国の王なのに。
雪蓮と甘寧は剣を抜き、威嚇し合う。
孫権は目の前で起きている状況を理解したのか、2人を注意しようとしたが、1人になった俺を見て数瞬天を見上げた後、俺の近くに来て「ちょっといい?」と俺の返事も聞かずに手を取って歩き始めた。


Side:孫策

「どういうつもりなの、思春?」

「無論、蓮華さまの為だ。雪蓮さまには申し訳ないが、暫く私に付き合っていただく」

先ほどまで私の隣にいた一刀の姿は無い。さっき蓮華が彼の手を取って連れて行ったからだ。

「まぁ、いいわ。蓮華よりも数歩、先を歩いているからね。奥手で堅物の蓮華じゃ、時間が掛かる所までね」

「それはどうですかな?あれで蓮華さまも危機感を抱いておられました。ですから、これまで留守を預かっている間に黄蓋殿や黄乱殿、程普さまから助言を得てきたのです。今頃、2人で寝台の上で重なり合っていることでしょう」

祭たち、蓮華に何を吹き込んだのよ。というか、目の前にいる彼女は何だ?今まで一刀を目の敵にしていたはずなのに……。

「何故?と考えていらっしゃいますね、雪蓮さま。確かに貴女に引き摺り回される北郷は頼りなく、なよなよしていて見ているのも嫌になりますが、普段の北郷は凛々しく、真面目で、仕事をきっちりと行い、頭も切れる。フッ、蓮華さまの旦那になる資質は十分にある。私自身、仕えてもいいと思えるほどな」

一刀を最も評価していたのは、思春だったか……。私は唇を噛み締める。このままでは歳も近い蓮華に、一刀を取られてしまう。一刀は私を女の子として見てくれた大切な男。いくら可愛い妹でも、これだけは譲れない!

「どきなさい、思春」

「ここを通りたくば、我が屍を超えていけぇえええ!」

私は剣を振り上げ、

「雪蓮!」

一刀の声で我に返った。

「一刀……私……」

「北郷、どうしたのだ?」

「いや、あのな、その……孫権が倒れたんだがどうすればいい?」

「「はぁ!?」」


Side:孫堅

娘の蓮華を診断するのは、建業の城下に診療所兼自宅を構える華陀。
大人しく診断結果を待っていたのだが…

「ふむ、ただ単に気を失っているだけだな。外傷も無いし、極度の緊張の所為で貧血でも起こしたのだろう?」

私はその時、すぐ側に居たという北郷に話を聞くのだが、顔を赤くするばかりで返答はしどろもどろ。
首を傾げていたが、答えは意外なところから出てきた。

「ねえさま、ひものぱんちゅはいてるよ、かあさま」

と、孫匡が言った。
その場に居た人間全てが『紐?』と反復する。そして、そそくさと逃げようとする影が2つ。

「祭、幸?どこにいくのかしら?」

「え、ははは。兵の鍛錬にな」

「街に警邏に行かねばなるまい」

「ちょっと、お話をしましょうか。周泰、丁奉、蒋欽、2人を捕らえて私の部屋に突っ込んでおいて」

「はっ」「了解」「御意―」

抵抗らしい抵抗も出来ずに運ばれていく2人。
つまり蓮華は恥ずかしさのあまり気絶してしまったのだろう。なら、何故恥ずかしいと感じてしまったのか。

「北郷、何を蓮華に言ったの?」

「うぇっ!?い、いや……あー……『姉さまに比べてどう?』って聞いてくるから……その……」

「その?」

「君の『自己規制』は『自己規制』で『自己規制』な女性だと……ってどうしたんだ、孫堅」

「あんた、間違いなく鷲蓮の祖先よ。だから、あの子もあんな風に育っちゃうのよ!」

とりあえず、彼にされた一風代わった愛され方を思い出した私は「天誅」と言いつつ北郷に斬りかかるのだった。


太子慈の部屋

陽「作者、この一ヶ月どこに行っていたんだ?」

作「テスト終了→卒業式→就職先の説明会→「職場の雰囲気になれるために来るよね?」→ボランティアで仕事(休み無し)」

鷲「えーと…、おかえり」

作「東北の地震で亡くなった方々にご冥福をお祈りします。コン太は熊本の就職先にて、テレビで速報を見ておりました」


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