待ち合わせ場所は、居住区の一角にある小さな広場だった。
民家の石壁に囲まれた広場の中心には、蓋のされた古井戸がある。上下水道の完備されたバストゥークにおいて本来の役目を終えたその井戸は、今では主に子供たちの遊び場になっているようだ。
案内役のブリジッドが、周囲を見回しながら声を張り上げた。
「ヴァラ、来たわよ? ヴァラ!」
返事はない。
見る限り広場には誰もおらず、井戸の裏に回ってみても、やはり誰かが隠れているようなことはなかった。
静かなものだ。
表通りにはちらほら人の姿もあったが、比較的小さな道の中程にあるこの場所は、白い壁と石畳に囲まれどこか周囲から切り離されているような印象を受ける。喧噪が遠い。
奥様方は夕食の支度、子供たちはその手伝いか、どこかで遊び回っているのか。いずれ通りは、家々から漂ってくる夕餉の香りで満たされることだろう。その辺りは地球もヴァナ・ディールも変わらないな。
「変ね、もう時間なのに」
「ここで約束してたのか?」
「えぇ、冒険者を連れてくるからって言ったのだけれど」
「それなら・・・・・・とりあえず待つしかないだろ」
バストゥークには大きな時計もない。したがって、外では懐中時計でも持っていないと、大工房が定刻ごとに鳴らす鐘の音くらいでしか時間を確認できないわけだ。懐サイズの時計というのはなかなか高価なものだし、少しくらい時間にルーズでも目くじらたてることはないだろう。っていうか子供相手だし。
だからそんなにぷりぷりしないであげなさいなブリジッドくん。
「もうっ、あの子ってば、どこほっつき歩いてるのよ」
「まあまあ」
ちなみに俺も時計なんか持ってないので、このところは太陽の位置で大雑把に時間を計るようになってしまっていたりする。人間適応するものである。
さてしかし、ここでぼんやりしているだけというのも確かに退屈だ。
ちらりと視線を向けると、レオンハートは壁に背を預け、腕組みをして目をつむっている。サイレスモードだなこれは。となると話し相手になりそうなのは1人しかいない。
「なあ」
「え?」
「ヴァラって子がかばんに入れていただいじなものって何だったんだ?」
「なによ、急に」
「いやまあ、仕事を円滑に進めるために聞いておこうかな、と」
「そう、ね。確かになにを探せばいいか知らないといけないわよね・・・・・・あの子のかばん、花でいっぱいなのよ。バストゥークじゃあまり花は咲いてないのに、いつもどこから見つけてくるんだか」
きっと道行く人にねだってるんだろうなあ、とかつて彼女に花を捧げた1人として、その真実はそっと胸に仕舞っておく。
ブリジッドの言うとおり、バストゥークは荒れ野の中、山に囲まれた盆地に築かれた石造りの都市だ。なかなかその辺に咲いてる花を摘むという機会も少ないのだろう。
そんな環境で花を集めようと思ったら、店で買うか、誰かに頼むしかないわけだ。
きれいな花を集めるのが得意なのよ、とブリジッドはどこか得意げに続ける。
「でもなんだか最近はお眼鏡にかなう花が見つからないって、あちこち駆け回ってたわ。おかげでこの辺の道には誰より詳しくなっちゃって、かくれんぼとかすると大変よ!」
ああ、ゲームじゃモグハウスの前に突っ立ってる印象しかないのだが、そうやって裏道抜け道を網羅してたのか。
やはり子供というのは、遊びの中で知識を蓄えていくものらしい。
そして関係ないのだがもうひとつ、この未来のファッションリーダーも普通に子供らしく遊んでるんだなと、こっそり安堵してしまったりしたのは内緒である。
「仲良しなんだな」
「そうね。他にも友達はいるけど、あの子とはなんだか話が合うの」
「サブリガとか?」
「それさえ分かってくれたら完璧なのよねえ」
大きなため息を吐いているが、親友にえらく高いハードルを設けたもんである。
「でも昨日は、自分のかばんが無くなったって気付いてから、ずっと落ち込んでたわ・・・・・・私がなにを言っても耳に入ってなかったみたいで」
「・・・・・・心配だな」
「気まぐれなミスラのことだもの、きっとすぐに元気になるとは思うけれど」
それが本心でないことは、ハの字にゆがんだ眉と、俺たちがここにいる理由を考えればすぐに分かった。意地っ張りな子だ。
それに大切にしていたものをなくしたショックというのは、結構引きずるものだ。俺も経験があるからな、色々と。
くしゃりと頭を撫でてやると、なにするのよ、とでも言いたげな目をこちらに向けた。
「安心しろって、失せ物探しも俺たちの立派な仕事だ。依頼主をがっかりさせやしないよ」
「だから別に心配はしていないけれど・・・・・・でもそうね、ヴァラは感激屋だから、かばんが見つかったらきっと跳んで喜ぶわね。そうなったら、報酬は期待していいわよ?」
「そりゃあますます気合い入れてかからないとな」
少女の挑戦的な笑みに、不敵に笑って返す。レオンハートも、俺たちを見守るようにかすかに微笑んでいた。
が、しかしだ。
当のヴァラが来ないと話が進められないのである。問題のかばんも今はヴァラが持ってるということだし。
・・・・・・もうどれくらい経ってる?
時計がないので正確にはわからないが、もう10分ほど待っているだろうか。未だ広場に人の来る気配はない。
まだ待ち時間自体は許容範囲なのだが、もしかしてヴァラに約束が伝わってない可能性もあるのではないだろうか。ブリジッドの言葉も耳に入らないほど落胆していたとも言っていた。
「冒険者を連れてくるって言ったとき、あの子泣きついてきたくらいだからそれはないと思うけれど・・・・・・」
「どこかで寄り道してるのか、それとも・・・・・・」
なにか来られない理由が出来たのか・・・・・・?
いや、悪い方に考えるのはまだ早計だろう。今まさにこちらに向かってる可能性もある。約束の時間になってから家を出るとか、そういう子供もたまにいる。
「こういう時にリンクパールがあれば便利そうなのに・・・・・・」
「ああ、確かにそうだな・・・・・・」
リンクパールは、リンクシェルという魔法の貝が産み出す不思議な真珠のことだ。
同じリンクシェルから産み出されたパールはお互いに魔法の力で繋がっており、遠く離れていても会話を交わすことが可能だ。ゲーム内では、同じリンクシェルに属しているプレイヤーが専用のチャットでいつでも会話でき、FF11におけるいわゆるプレイヤーギルド的な存在であった。
少々高価なアイテムなのだが、ひとつの貝から無限にパールを産み出すことが出来るため、仲間内でお金を出し合ってリンクシェルを購入することも多々あったものだ。
そういえば今のところ俺も持ってないし、メルや、レオンハート達が使ってる様子もないんだよな・・・・・・。
「なんて、無い物ねだりしても始まらないか。もう少しだけ待ってみよう」
「まったく、なにやってるのよあの子は・・・・・・!」
早く来た方がいいぞ、ヴァラ。君の親友は気が長い方じゃないからな。
それからゆうに30分は経過しただろうか。
「・・・・・・遅いな」
さすがに何かあったのではないかと心配になってくる頃合いだ。
先程からブリジッドも、落ち着きなく古井戸の周りをぐるぐると歩き回っている。
「どうしたっていうのよ、いつもこんなに遅刻することなんてなかったのに・・・・・・」
怒りを通り過ぎて不安が募っているようだ。なんだかんだ親友を気にかけている優しい少女だ、頭の中は良くない想像でいっぱいになっているようだ。
そろそろ動く頃合いかもしれない。これ以上ここで待ちぼうけしているのも不毛だし、探しに行くにしろ誰か1人残っていれば入れ違いになる心配もない。
「探しに行ってみるか。ヴァラの家ってどこだ?」
「私も行くわ、家の場所も分かるし! あの子昼寝でもしてたら叩き起こしてあげるんだから!」
「ホントに叩くなよ? じゃあレオン、悪いんだけどここで・・・・・・ん?」
ぱたぱたと小さな足音。広場に面する小道から聞こえてきている。音の軽さからして、子供の・・・・・・1人分だ。
「来たかな?」
「ちょっと、遅いわよヴァ・・・・・・ラ?」
広場に姿を見せた少女は、しかし待ちかねたミスラの娘ではなかった。ブリジッドと同い年くらいに見えるヒュームの女の子だ。
「あ、いたいた、ブリジッドちゃーん」
「なんだ、あなただったの・・・・・・どうしたの、何か用?」
「なんだ、ってひどいよう」
ぷうと頬を膨らませ、はいはいごめんなさいと宥められているその子は、どうやらブリジッドの友達のようだ。
どうもブリジッドよりも幼く感じる・・・・・・というより、こうして並べてみると、ブリジッドの方がこの年頃にしてはだいぶ大人びているんだなと気が付いた。
「それで、私を探してたんじゃないの?」
「あ、そうそう、ヴァラちゃんからね、伝言があるよ」
「ヴァラから!?」
どうやらこの子、俺たちを待ちぼうけさせている張本人からのメッセンジャーのようだ。ということは、少なくともなにか不慮の事故にあって待ち合わせに来れないなどという最悪のパターンではないようで、密かに胸をなで下ろす。
ではどうしたのだろうか・・・・・・それを知る少女は、ヴァラの名を聞いた瞬間に思い切り詰め寄ってきたブリジッドの剣幕にあぅあぅと気圧されていた。あかんこれ。
「ブリジッド、それじゃあその子も話せないだろう」
「ッ・・・・・・ごめんなさい、つい。それで、ヴァラはどうしたの? もうずっとあの子を待ってるのよ」
「う、うん・・・・・・ええっとね、かばんのことはもう大丈夫だから、もう心配しないでって」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・って言ってた」
「はぁ!?」
確かにそう叫び出したくなる気持ちも分かる。心配して手を尽くしてやろうという相手の仕打ちがこれでは怒鳴りたくもなろうというものだ。
けどその子は言われたことをただ伝えただけで、なにも悪くはないんだぞー。
「さんざん心配かけて、人を待たせておいて、そのあげくがこれってどういうことなのよ!?」
「あぅあぅあぅあぅあー」
がっくんがっくんがっくん。
揺さぶられるたびに少女の頭がいい感じにシェイクされている。これ以上はいろんな意味で危険そうだ。
「その辺にしておけって」
「でも!」
「でもじゃない。それで、ヴァラはほかに何か言ってなかったか?」
暴れるブリジッドをがっちりホールドしたまま少女に訊ねる。どうにか目を回していた状態から復活した少女は、唇に手を当て可愛らしく首を傾げた。
「んっと・・・・・・なんだかごきげんな様子で、植木鉢を買いにいくにゃ、って言ってたよ?」
「植木鉢・・・・・・?」
「ちょっと! いい加減放しなさいよ!」
「おっと、悪い」
「まったくもう」
俺の手から解放され、ファッションリーダーらしく服装を整えたブリジッドは、幾分落ち着きを取り戻した様子で少女に向き直った。咳払いをひとつ。
「と、とにかくご苦労様、あなたはもう帰っていいわよ」
「えー、一緒にあそばないの?」
「これからやらなきゃいけないことが出来たのよ」
「そっかー、じゃあばいばーい」
手を振り去っていく少女。
ブリジッドは俺たちを振り返り、憤懣やるかたないと言わんばかりの勢いで言い放った。
「さあ、行くわよ!」
「ってどこに」
「鉱山区、ボイツさんの何でも屋よ!」
バストゥークで植木鉢を買おうとするなら、確かにそこに行くしかない。
やれやれ、仕方がない。鉱山区はブリジッド1人で行かせるには心許ない場所だし、同じく1人で向かったらしいヴァラも心配だ。なにより乗りかかった船である、ここで投げ出すのも寝覚めが悪い。ヴァラに一体どういう心境の変化があったのかも知りたいところだ。
とっつかまえてやる、と剣呑に息巻くブリジッドに付き従い、俺たちは鉱山区へと足を向けることになった。
結局、ヴァラ・モルコットの尻尾を掴むことは出来なかった。
「ヴァラってば、いったいなに考えてるのよ!」
どんっ、とグラスをテーブルに叩きつけ、小さなファッションリーダーは荒く息巻いた。勢い余って中身がはねるが、それを気にした様子もない。相当に出来上がってるなこりゃ。
言っておくが、顔が赤くなっているのも、テンションが上がりきってるのも、単に彼女が怒り心頭だからであって、断じて酔いが回ってるわけではない。グラスから溢れた緑の液体はメロンジュースだ。
「まあ落ち着けって。きっとただの気まぐれだろ」
「だったらなおさら納得行かないわ! 昨日はあんなに騒いでたのに!」
「騒ぐな」
「ぅぐ・・・・・・」
レオンハートのひと睨みで、ブリジッドはしゅんと大人しくなる。が、その表情にはありありと不満が浮かんでいるので、どうやらまだ爆発したりないようだ。
いつの間にやら集まっていた周囲の客の視線に、愛想笑いで頭を下げるのは当然のように俺の役である。
俺たちが、というよりブリジッドがくだを巻いているここは、バストゥークが誇る名店・蒸気の羊亭である。何かにつけてはここで食事をとっているので、店員のメロアさん、ソウヤーさんともすっかり顔なじみだ。
時は既に夕刻、店内は仕事上がりの技師や鉱夫たちで盛況だ。俺たちのような冒険者の姿もちらほら。
ここ以外にもいくつか酒場はあるし、俺も行ってみたのだが、やはりここがバストゥークでは一番の店だと確信している。人気の理由の一端(というかかなりの割合)を担うヒルダさんは出掛けているようだが、彼女の作るソーセージは今日も今日とて好評のようだ。俺もあとでメルに買って帰ってやろう。ガルカンソーセージと食べ比べだ。
「ソーセージはどうでもいいのっ」
「ご馳走になってる人間の台詞じゃないなあ」
ブリジッドのグラスが握られてない方の手には、フォークに刺さったソーセージ。メロンジュースとあわせしめて1,130ギル。むろん俺のおごり。正直高い。
この世界、ものによるが総じてジュース系はやたら高価だ。ゲームにはなかったが、麦酒とか酒類の方が断然安かったりで、子供にはおいそれと手の出せない代物だ。
人の金だと思って迷いなく贅沢品を頼むあたり、将来有望な娘である。
「じゃあ何か用事が出来たのかも。そんなに怒ってやるなって、な?」
「もうっ、どうしようどうしようって泣きついて来たのは向こうなのにっ」
ぷりぷりと憤りながら、勢いよくソーセージにかじりつくブリジッドさん。さっきのひと睨みが効いたのか声は抑え目だが、今しばらく彼女の不機嫌ゲージが下がる気配はなさそうで、俺とレオンハートはどうしたものかとその食べっぷりを見守ることしかできない。
────あの後。
鉱山区の雑貨屋で、ヴァラは確かに植木鉢を購入していた。
だが、店を出たあとのヴァラの足取りはようとして知れなかった。道行く人に尋ねても、居住区に向かってたやら商業区で見たやら証言は曖昧で役に立たない。ヴァラはあちこちの抜け道を網羅してるので、思いもよらないところから出たりいなくなったり神出鬼没なのだと、ブリジッドのありがたい情報によって、捜索は順調に難航している次第である。
ひとつ気になるのは、どうやら俺たち以外にもヴァラを探してるやつがいるらしいということだ。聞き込みをした人の内の何人かが、俺たちが訊ねる以前にも、ヒュームの男に訊かれたと言っていた。
もしかすると、かばんを取り違えた男が、自分の鞄ではないことに気付いたのかもしれない。だがそれでは、ヴァラがドタキャンしたのはかばんを取り戻したからではないということになる。どういうことだろうか。
ともかく、それからヴァラの行方は判らないまま、もういい時間だし腹も減ったので、ひとまず食事をとろうという運びになったのである。
「というか、ブリジッドはそろそろ家に帰った方がいいんじゃないか」
夜中というわけではないが、もう日も落ちている。初対面の子供を連れて酒場にいていい時間じゃない。そろそろ周囲の目も気になってくるのだが。
「平気よ、もともと今日はヴァラの家に泊まる予定だったもの、ママにもそう言ってあるわ」
「あ、そうですか・・・・・・」
抜け目ないというか、この場合たまたまなんだろうけど、ちゃっかりその状況を利用している要領のよさには感服する。するが、状況の根本的解決にはまったく寄与してくれないのである。
「もう、今日はヴァラを見つけるまで帰らないわよ!」
「いやいやいや」
なにを言ってるのこの子。
そんなことしてたらホントに衛兵に捕まっちゃいます俺ら。
かといってこの子や、ヴァラのことを放り出して帰る気にもなれず、さてどうしたものかと頭を抱える。
おそらくこの子をこのまま帰しても、きっと1人でヴァラを探しに行ってしまうだろう。大人としてそれはちょっといただけないところだ。そもそも帰れと言って大人しく帰るとも思えない。
さりとてこれ以上ブリジッドを連れ回すのもよろしくない。
「・・・・・・レオン、どうする?」
考えあぐねいてレオンハートに振ってみる。
寡黙なガルカは、ぐいとジョッキをあおった。こっちは正真正銘エールだ。
「・・・・・・帰っているのではないか」
「あ、そうか」
なんというか、うっかりしていた。
向こうも小さな女の子なのだ。いい加減腹も空かせて家に帰っててもいい時間だ。
「そうだな、もう一回ヴァラの家に行ってみようか」
「・・・・・・いいわ、今度こそとっちめてあげるんだから」
「おおい、友達だろうが」
物騒なことを言っているが、たぶん心配していた分の反動なのだろう。きっと。
ひとまず店を出ようと、残っていた食事を片付け席を立つ。
「そういえば、今ヴァラが持ってるかばんの中身ってなんだったんだ?」
「さあ、開けてないわ。あの子、自分のかばんには名前を縫いつけてあったから」
「ふうん・・・・・・」
さて外に出ようかというところで、店の戸口が向こう側から開かれた。
「あら、ごめんなさい・・・・・・まあリッケルトさんっ、いらしてたんですね」
「ヒルダさん、どうもごちそうさまです」
店に入ってきたのは、女主人のヒルダさんだった。
買い出しから戻ったところだろうか。手にはいっぱいに荷物を抱えている。
「持ちますよ」
「そんな、悪いですよ」
「気にしないでください、美味しいソーセージのお礼ですって」
「そうですか・・・・・・? なんだかリッケルトさんにはいつもお世話になっちゃって」
恥ずかしげに微笑むヒルダさんは、やっぱり若々しくて美人だ。某工房長らが入れ込むのも頷ける。
しかしお世話になってるのはどっちだろう。
確かに、1人で店を切り盛りする忙しい彼女からは、ちょくちょく買い出しやら出前やらの仕事をを請け負っている。なにげに冒険者リッケルトの上得意さんだ。
けど、俺もその見返りに食事をご馳走になったり、お小遣い程度ながら報酬をもらってもいる。稼ぎというほどではないが、こっちも何かと助かっていたのも事実だったり。持ちつ持たれつではあるのだか、こういう暮らしをしていると駆け出し冒険者ってホントにただの便利屋だなあとしみじみ思ったりする。
「ところで今日は・・・・・・レオンハートさんに、ブリジッドちゃん? 珍しい組み合わせですね。メルさんは?」
「はは・・・・・・メルの奴、ちょっとダウンしてて」
「こんばんは、ヒルダさん!」
元気に挨拶するブリジッドに、対照的に静かに会釈するレオンハート。間に挟まれている俺だが、やっぱりメルとはセットだと思われているらしい。
実際この間のパルブロ潜りまでは四六時中一緒だったので、否定できない・・・・・・まあする必要もないのだが、最近はリッケルトさん1人でも結構がんばってるんですよー?
「でもブリジッドちゃん、こんな時間までお外にいたらダメよ? リッケルトさん達も、小さな女の子を連れ回してるのは感心しませんよ」
ほうら言われてしまった。一部も言い訳する余地がないので、素直にすみませんと頭を下げるほかない。
そうでないものも若干1名いたが。
「平気よヒルダさん、今この2人の雇い主は私なんだから!」
「まあ・・・・・・そうなの?」
「そう、だからなにも問題ないわ!」
まったく根拠のない自信に満ち溢れるブリジッドに、俺もヒルダさんも苦笑を浮かべて顔を見合わせる。
子供には子供の理屈があるとは言うが、ここまで自信満々に言い切られてしまうといっそ清々しい。子供特有と言うより、ブリジッド生来の気質も大きいんだろうけど、この子はホント、将来大物になること間違いないな。
「でもね、ヴァラちゃんもそうだけど、あんまり女の子が夜遊びするのは、」
「ちょ、ちょっと待った、今ヴァラって?」
「あの子を見たの!?」
「え、えぇ・・・・・・」
急に気色ばんで問いつめる俺たちにヒルダさんは大いにたじろいでいるが、こちらとしても今の言葉は聞き捨てならない。
ヴァラちゃんも、とはどういうことか。もしかして彼女は、まだその辺をうろちょろしているのか?
「ヒルダさん、俺たちもヴァラを探してるんです。いつ、どこで見たんです?」
「ついさっき、お店に戻る途中よ? なんだか慌てた様子で、声をかけても気付かずに行ってしまったわ」
どういうことだろうか。昨日は落ち込んでいたのに、今日は上機嫌で植木鉢を買い付け、さっきは慌てていた? ずいぶんと忙しいことだが、この短期間でヴァラに何らかの変化があったのは間違いなさそうだ。
「それに、ヴァラちゃんのことを聞かれたのはこれで2度目ですよ」
「2度目?」
「ええ、やっぱり夕方頃、男の人にね。小さなミスラの子供を知らないかって」
やはりヴァラを探してるのは俺たちだけではないようだ。どうやら向こうもまだ彼女を見つけられてないらしいが。
「それで、ヴァラがどこに向かったかは?」
「たぶん居住区だと思うけれど・・・・・・そうそう、あの子これを落としていったんですよ」
「これ・・・・・・って、花、ですか」
彼女が取り出したのは、一輪の花だった。
12イルム・・・・・・約30cmくらいのところで手折られた茎の先は、頭を垂れるように緩く弧を描いており、その先端に口を広げた釣り鐘のような花が咲いている。花弁は淡く赤い。
あいにく草花には疎いのだが・・・・・・なぜだろう、俺はこのフォルムにどこか見覚えがある気がしてならない。
そういえば、クエストで要求される"ヴァラのセンスを唸らせるプレゼント"もアマリリス、赤い花だ。とすればこれも彼女の見初めただいじなもののひとつだろうか。
花、ヴァラの好む赤い花、植木鉢・・・・・・何か一致する符号が、どうにも繋がりそうで繋がらない。足りないピースは何だ?
「もしよければあとで返してあげてほしいのだけど・・・・・・あら?」
「失礼する」
ガルカのでかい手が、ぬっと横から入ってきて花を摘みあげる。
きょとんとするヒルダさんを気にもとめず、レオンハートはしげしげと花を観察している。ガルカと花、今度は天空のなんとかのロボットを思い出すというか。
そんな感想を抱いた俺をよそに、ためつすがめつ花を見ていたレオンハートは、やがてなにがしかの結論に至ったのか、その瞳を僅かに見張らせた。驚きの表情、だろうか。
「これは」
「何か解ったのか?」
「夢幻花だ」
「むげんばな?」
ブリジッドが訝しげに首をひねる。ヒルダさんも同じように首を傾げている。そういうちょっと子供っぽい仕草が似合っているのがまた可愛らしい人だ。
しかし、残念ながら俺の意識は、花を見たときから感じていた既視感の正体の方に釘付けになっていて、美人女主人の萌え仕草を堪能することは出来なかった。
「そうか、思い出した。花粉が人に幻を見せるっていう花。どこかで見たと思ったんだ」
「極地でしか育たない貴重な花だ。サンドリア王国では定期的に冒険者に採取させてると聞くが」
そう、夢幻花はサンドリア王国のストーリーミッション後半で必要になるキーアイテムだ。
同国のデスティン国王は、亡き妻ローテの遺言に従い、この花を常に城の庭園に咲かせており、その入手に冒険者を使っている。
そして夢幻花には、サンドリアにまつわる隠された重大な力があるのだが、もちろんそれは単なるいち冒険者には知るよしもないことなので黙っておく。
しかし俺の記憶が確かなら、夢幻花が入手出来るのはアルテパ砂漠の西部。つまりゼプウェル島、コロロカの洞門の向こう側だ。海底トンネルが開通していない今この時期にここにあるはずもない。
いや、デスティン国王は洞門開通以前からローテ王妃の遺言を守り続けていたわけだし、あるいは別の入手場所があるのかもしれないが。
だがいずれにせよ、ヴァラが持っていたというのがあまりに場違いなことには変わりない。
小さなミスラと夢幻花、このふたつをつなぐ最後の鎖は?
「夢幻花なんて、そこらで買えるものじゃないよな」
「希少性の高さから、バストゥークでは取引を禁じられている」
「マジか、そんなもんどうやって・・・・・・」
何かがカチリとはまった。
ヴァラが持っていたのは、普通の店じゃ絶対に売らないような貴重な花だ。そう、普通の店じゃ・・・・・・では普通じゃない店なら、どうだ?
俺は知っている。
そういったご禁制の品や表には出せない商品も取り扱う、ヴァナ・ディールでも指折りの密売組織を。
「・・・・・・ブリジッド、ヴァラにぶつかってかばんを落とした男の特徴、覚えてるか?」
「え? うーん、顔は解らないけれど、格好は覚えてるわ。胴着に鉄板を合わせたような、センスのない赤い鎧よ!」
「そうそう、私にヴァラちゃんのことを聞いてきたのも・・・・・・あ、リッケルトさん!?」
ヒルダさんの言葉を最後まで聞く前に、俺は店を飛び出していた。
もしも俺の想像通りのことが起きてるなら、状況は相当にやばい。一刻も早くヴァラの身柄を保護しなければならない。
店の外はすでに暗い。
港を照らす街灯に灯が点り、家々の窓からも明かりが漏れている。
店に入ろうとした客とぶつかりそうになりながら、俺は不安と直感に任せ、がむしゃらに石畳の上を駆け抜ける。
がしゃがしゃと鎧を鳴らして走る俺の足音に、重たい足音が混じった。
「ヴァラを追ってるのは俺たちだけじゃない、そうだな?」
追いついてきたレオンハートが確認するように訪ね、俺はそれに頷きを返す。
「たぶんその相手は・・・・・・」
ブラックマーケットに多大な影響力を持つ闇の大手商会。
ジュノに本部を置き、ヴァナ・ディール各地にその食指を伸ばす巨大な犯罪組織。
────天晶堂。
===
やはりスマホからの投稿は厳しいですね。
推敲がうまく出来てません。誤字脱字等は日曜にまとめて修正します、すみません。
ところで、エオルゼアで週末冒険者始めてしまいました。
ユニコーン鯖でRickeltという名前でやってます。リックです。こちらも次は日曜にログイン予定。
ただ、鯖移転サービスが始まったら友人のいる鯖に移動するつもりですが・・・・・・。
そしてエオルゼアにも為がいる【カニ】【天】【国】【やったー!!】。
※ヴァナ・ディールの寸尺はヤード・ポンド法に対応していると思われる。イルム=インチ、ヤルム=ヤード、マルム=マイル、ポンズ=ポンド。