真・恋姫†無双 桃香ちゃん物語 (袁紹伝の外伝っぽい)
当初予定を変更して、袁紹伝の外伝っぽいものを書いてみることにしました。
うっすら、書いてみたいなあとは思っていた題材だったのですが。
袁紹伝の世界での話ですので、色々お気に召さない点があるかと思いますので、袁紹伝を受け入れることができる方のみお読みくださいますようお願いします。
当然のように色々史実、恋姫から色々逸脱している点もありますので、ご了承ください。
袁紹伝ともちがうことすらあると思います。
今回の主人公は、タイトルから分かるように袁紹伝の真の主人公(?)の劉備です。
これを読む前に袁紹伝を読んでおいたほうがいいかもしれません。
それでは、ご笑納いただければ幸いです。
と書いておきながら、今のところ最後までのシナリオが固まっていないので、中座してしまうかもしれません。
その際はご容赦いただきたいと思います。
110220
タイトル変えました。
当初名前の書き方をとうかちゃんにしようと思っていたのですが、袁紹伝で桃香ちゃんだったので、どうしたものかと思っていたところ、感想でとうちゃんと見間違えていたと言うのがあったので、これを機に本文中の表記と同じ桃香ちゃんに変更したものです。
これに伴い物語も漢字にしました。
序章
劉備の母、劉弘は病で床に臥せっていた。
「お母さん、すぐに元気になるよ。お薬も買ってきたし。
これを呑んで元気になったら、また一緒に畑仕事をしようね♪」
そんな母を劉備は一生懸命看病している。
このとき、劉備はまだ満年齢で8歳。
父は早くに戦で死に、今は母と二人の生活を送っている。
二人で小さな粟の畑を耕し、僅かな収穫で何とかつつましく生活をしている貧しい家庭だ。
今回の母の病は、まだ幼い劉備にも何か普段の風邪とは違うということが分かるほど、様子が変だった。
劉弘本人は、そのことをよく分かっているだろうが、娘を心配させないためか、努めて明るく振舞っている。
それでも、劉備はどうにか薬を呑ませるか、医者に診せるかしたいと思っているが、そんな生活のため、薬代も払えない。
生憎華佗のような親切な医師もいない。
そこで、劉備は、村の豪農、金蔵に母の病状を訴え、薬代の無心をした。
彼は快く薬代を劉備に差し出してくれ、それを持って隣の街まで薬を買いに行き、そして、丁度今薬を持って帰ってきたところだ。
「桃香、ごめんなさいね、こんなに弱い母親で。
迷惑かけてばかりですね……ゴホ……ゴホ……」
明るく努めようとしている劉弘であるが、やはり病は重く、やつれた表情は隠せない。
「ところで、お薬はどうしたの?山で採ってきたの?」
「金蔵さんにお願いしてお金を借りたんだよ」
「金蔵さんに?……大丈夫かしら?」
「大丈夫だよ。金蔵さん、よろこんでお金を貸してくれたよ」
「桃香、でも無闇に他の人を信じてはいけませんよ。金蔵さんも、優しいだけの人ではないのですから。いつ、桃香に酷いことをするかわかりませんからね。どうもあの人は素直に信じることができなくて」
「はい、わかりました!」
劉弘は不安を覚えつつも、早く劉備を安心させようと薬を呑んで眠りにつく。
だが、薬を呑み続けているにも関わらず、劉弘の病はいよいよ重くなってきた。
「ゲホ…ゲホ……」
「お母さん、大丈夫?」
「ええ、もちろん大丈夫よ。桃香、今日は大事なお話があるの。しっかり聞いておいてね」
「なあに?」
「お仏壇の後ろに木の箱があるから取ってきて」
「はい」
劉備は母に言われたとおり、仏壇の裏に隠してあった箱を探し出してくる。
「これ?」
「ええ、そうよ。開けてごらんなさい」
「はい……うわあ、立派な剣だね!」
「これは靖王伝家という我が家に代々伝わる宝剣です。
私達の祖先は中山靖王劉勝と伝えられています。
その庶子の子孫が私たちということになっています。
我が家に伝えられるところでは、本当は私達の先祖は正室の正統な嫡子だったそうなのですが、陰謀で皇帝の座を追われてしまったそうです。
その話が本当なら、今皇帝の座にいるのは私達のはずです。
もう、今となってはその話が本当かどうかはわかりませんが。
それでも、皇帝だけが持つことができる、この宝剣が手許にあるということが何を意味するか、しっかり考えなさい。
そして、桃香がこの酷い治世をよりよくすることを考えなさい。
……そう、代々語り継がれてこの剣も引き継がれているのです。
でも、そんな偉そうなことを私が言える立場にないのはよく知っています。
私も、そのように父母から伝え聞いていますが、私も私の祖先たちも何も出来ていません。
ですから、桃香、剣のことは忘れて幸せに生きなさい。
私はまだ年端もいかない桃香にこの剣を渡し、一人にしてしまうことだけが心残りです」
「……お母さん、それってどういうこと?
すぐに元気になるよね!そうだよね!
そして、また一緒に畑仕事をしようよ!
約束だよ、お母さん!」
「ごめんね、桃香。お母さん、約束できなそう」
「嫌だよ、お母さん!ねえ、お願いだから!ずっと一緒に暮らそうよ!!」
だが、劉弘はそれに答えず、辛そうに瞼を閉じてしまう。
「お母さん!!お母さん!!」
その夜、劉弘は「さようなら、桃香」と言葉を最期に、安らかに息を引き取ったのだった。
「うわーーーーーーん!!」
劉備は夜通し母の遺骸の傍で泣き続けたのであった。
翌日、劉備は泣きはらした目で近所の人々に母が死んだことを伝えて回る。
まだ、劉備は子供である。
近所の人も、金蔵も、劉備を助けるように葬式をあげてくれた。
葬式も無事終わり、劉備が悲しみで家にいると、金蔵がやってきた。
「あ、金蔵さん。色々手伝ってくれて、ありがとうございました」
「いやいや、困ったときはお互い様だ」
「本当に助かりました」
「それで、だ。こんなときに言うのも何かとは思うのだが、一つ言っておかなくてはならないことがあるのだ」
「はい、なんでしょうか?」
「薬代としてお金を貸したのは覚えていると思うが、あれをそろそろ返してもらいたいと思うのだ」
「え?!そんな!今、言われても困ります。
しっかり働いて返しますからもう少し待ってください」
「でもねえ、あんな小さな粟畑で一生懸命働いても返せるお金なんか高が知れてるよ。
いっそ、畑で返したらどうだろうか?」
「畑?それはどういうことですか?」
「劉備ちゃんの耕している畑を私に譲ってもらえないだろうか?
あそこは丁度家の畑の途中にあって邪魔なんで、譲ってくれると家も助かるんだが」
「でも、それでは私が食べられなくなってしまいます」
「そこでだ、劉備ちゃんには筵を作って売ってよいという鑑札を渡そうと思うのだ。
筵を作るのは畑仕事より楽だし、売れればいつでも収入を得ることができる。
畑仕事は一年に2、3度しかお金が入らないから、蓄えのない劉備ちゃんにはそっちのほうがいいと思うのだが」
金蔵は努めて冷静に話しているが、表情にうっすらと暗い影があるのは否定できない。
だが、まだ子供の劉備にそれを見抜くのは不可能だ。
加えて金蔵はこの地域の亭長、逆らうわけにもいかない。
「わかりました。金蔵さんの仰るとおりにします」
「うん、劉備ちゃんが物分りが良くて助かったよ。
それじゃあ、あとで筵の鑑札と、最初は筵の材料も渡すから、家に取りに来なさい」
「はい」
こうして、劉備は子供であるにも関わらず、自分で筵を作って、それを売って生計を立てなくてはならないという辛い生活を余儀なくされてしまったのだった。
筵作りはそれほど困難な作業ではないが、体の小さな劉備にはなかなかに辛い作業である。
日の出と同時に作り始め、一日かけてようやく小さめの筵が1枚できるかどうかというペースだ。
大人の半分にも満たない作業効率である。
そして作業の合間に僅かばかりの粟や稗を食べ、どうにか生命を維持している。
数日に一度、出来た筵を街に行って売るのだが、これとて簡単なことではない。
「筵はいかがですか...?筵はいかがですか...?」
腹が減っているのも影響しているのだろう、元気もやる気もないような声で売り歩いていては、ただでさえ強い需要があるわけでもない筵が売れるわけがない。
それでも、時には買ってくれる人がいて、劉備もお金をもらうときには思わず涙ぐんでしまうのである。
「ん?どうした?何で泣いている?」
「はい、漸く筵が売れて嬉しいんです。
これで何日かご飯が食べられます」
「あんた、自分で稼いでいるのか?」
「はい、身よりもなく、今は一人です」
「そうか、大変だな。ま、頑張ってな」
「はい、ありがとうございました」
劉備はそう言って深々と頭を下げる。
だが、筵を買ってくれた人も、それ以上のことはしない。いや、できない。
彼だって苦しい生活なのだ。
街から帰るときは傍の山に登って、何か食べるものがないかと探す。
本当は山にだって使用権があるので、本来なら泥棒なのだが、子供一人くらいと大目に見ているのか、たまたま気付かないだけなのか、劉備が木の実や何かを採っても咎められるようなことは今のところない。
そして、疲れて家に帰るとそれから自分が食べるための食事作り。
疲れたときは、火を熾すこともできず、団栗や雑穀を生のまま食べたりもする。
消化は悪いが、何も食べないよりはまだましかもしれない。
本当に疲れたときは、それもできず、バタンキューである。
「お母さん……」
一人で生活するには劉備は幼すぎた。
母を思って泣くのも当然のことであろう。
そんな劉備を気遣って、近所の人が時には差し入れを持ってきてくれることがある。
彼等、彼女等だって生活は苦しいのだが、劉備が余りに不憫なので、なけなしの食料を持ってきてくれるのだ。
「劉備ちゃん、これ、ちょっとだけど余ったから粟の雑炊。
良かったら食べて」
「ありがとう、おばさん」
劉備だって、余るほどの食料が彼女にないことは十分承知している。
彼女の厚意にいたく感激するのだ。
「でも、劉備ちゃんも大変ね。お母さんは亡くなってしまうし、畑は金蔵に取られてしまうし」
「お金を借りたから仕方ないんです」
「何言ってるの!あの金蔵、あんたんところの畑、前から狙ってたんだから。
それに劉備ちゃんがお薬を買ったところだって、金蔵の弟の店なのよ!
絶対、畑を奪うために何かしたに決まってんだから。
もしかしたら、薬だっていい加減な薬をくれたんじゃないの?
もっとしっかり人は見なくちゃだめよ!」
「そ、そうだったんですか?」
「そうよ!金蔵はそうやって汚いことして金持ちになったんだから。
亭長でなければ村八分よ!」
それでも、まだ金蔵をそれほど疑っていない無垢な劉備であったのだが、ある日、街に行ったついでに薬屋に薬の値段を聞いて愕然とする。
薬屋が教えてくれた値段は、劉備が支払った額の1/100でしかないのだった。
「金蔵さん!どういうことなんですか?」
村に戻るなり、劉備は金蔵にくってかかっている。
「ん?なんのことだね、劉備ちゃん」
「お薬のことです。あのお薬はもっと安い値段で買えるんじゃないですか。
騙したんですね!」
「いやいや、劉備ちゃん。騙すとは人聞きがわるいねぇ。
あれは劉備ちゃんの優しい心にうたれて、私が劉備ちゃんに言われたお金を貸しただけじゃないかね。
普通だったら利子を取るんだよ。
ああ、利子ってわかるかな?借りたお金より少し多く返さなくちゃならないんだ。
それが、世間の決まりというものだ。
お薬が安いかどうかは私にはわからない。
まあ、それについて訴えたいのであれば亭長にでも相談してみてはどうかね。
丁度私が亭長だから、訴えるのであればしっかり調べてあげるよ」
だが、薬屋とグルだということは、何をしても無駄だろうと判断した劉備は、金蔵を憎らしそうに睨みつけると、そのまま帰途に着くのであった。
そして日、家に帰るなり泣きながら宝剣を取り出し、固く誓うのである。
「お母さん、私、復讐するから!
あの金蔵を絶対許さないから!
こんな酷い生活を民に強いる漢王朝を絶対許さないから!
私が皇帝になって、平和な世界を作るから!」
劉備、8歳の決意であった。
あとがき
アニメ版の母親はやたら元気でしたが……