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[24705] 真・恋姫†無双 ~桃香ちゃん物語~  (袁紹伝の外伝っぽい)
Name: みどりん◆0f56c061 ID:81b7701d
Date: 2011/04/26 23:53
真・恋姫†無双 桃香ちゃん物語 (袁紹伝の外伝っぽい)


当初予定を変更して、袁紹伝の外伝っぽいものを書いてみることにしました。
うっすら、書いてみたいなあとは思っていた題材だったのですが。
袁紹伝の世界での話ですので、色々お気に召さない点があるかと思いますので、袁紹伝を受け入れることができる方のみお読みくださいますようお願いします。
当然のように色々史実、恋姫から色々逸脱している点もありますので、ご了承ください。
袁紹伝ともちがうことすらあると思います。

今回の主人公は、タイトルから分かるように袁紹伝の真の主人公(?)の劉備です。
これを読む前に袁紹伝を読んでおいたほうがいいかもしれません。

それでは、ご笑納いただければ幸いです。




と書いておきながら、今のところ最後までのシナリオが固まっていないので、中座してしまうかもしれません。
その際はご容赦いただきたいと思います。


110220
タイトル変えました。
当初名前の書き方をとうかちゃんにしようと思っていたのですが、袁紹伝で桃香ちゃんだったので、どうしたものかと思っていたところ、感想でとうちゃんと見間違えていたと言うのがあったので、これを機に本文中の表記と同じ桃香ちゃんに変更したものです。
これに伴い物語も漢字にしました。








序章

 劉備の母、劉弘は病で床に臥せっていた。

「お母さん、すぐに元気になるよ。お薬も買ってきたし。
これを呑んで元気になったら、また一緒に畑仕事をしようね♪」

そんな母を劉備は一生懸命看病している。
このとき、劉備はまだ満年齢で8歳。
父は早くに戦で死に、今は母と二人の生活を送っている。
二人で小さな粟の畑を耕し、僅かな収穫で何とかつつましく生活をしている貧しい家庭だ。

今回の母の病は、まだ幼い劉備にも何か普段の風邪とは違うということが分かるほど、様子が変だった。
劉弘本人は、そのことをよく分かっているだろうが、娘を心配させないためか、努めて明るく振舞っている。
それでも、劉備はどうにか薬を呑ませるか、医者に診せるかしたいと思っているが、そんな生活のため、薬代も払えない。
生憎華佗のような親切な医師もいない。
そこで、劉備は、村の豪農、金蔵に母の病状を訴え、薬代の無心をした。
彼は快く薬代を劉備に差し出してくれ、それを持って隣の街まで薬を買いに行き、そして、丁度今薬を持って帰ってきたところだ。

「桃香、ごめんなさいね、こんなに弱い母親で。
迷惑かけてばかりですね……ゴホ……ゴホ……」

明るく努めようとしている劉弘であるが、やはり病は重く、やつれた表情は隠せない。

「ところで、お薬はどうしたの?山で採ってきたの?」
「金蔵さんにお願いしてお金を借りたんだよ」
「金蔵さんに?……大丈夫かしら?」
「大丈夫だよ。金蔵さん、よろこんでお金を貸してくれたよ」
「桃香、でも無闇に他の人を信じてはいけませんよ。金蔵さんも、優しいだけの人ではないのですから。いつ、桃香に酷いことをするかわかりませんからね。どうもあの人は素直に信じることができなくて」
「はい、わかりました!」

劉弘は不安を覚えつつも、早く劉備を安心させようと薬を呑んで眠りにつく。


 だが、薬を呑み続けているにも関わらず、劉弘の病はいよいよ重くなってきた。

「ゲホ…ゲホ……」
「お母さん、大丈夫?」
「ええ、もちろん大丈夫よ。桃香、今日は大事なお話があるの。しっかり聞いておいてね」
「なあに?」
「お仏壇の後ろに木の箱があるから取ってきて」
「はい」

劉備は母に言われたとおり、仏壇の裏に隠してあった箱を探し出してくる。

「これ?」
「ええ、そうよ。開けてごらんなさい」
「はい……うわあ、立派な剣だね!」
「これは靖王伝家という我が家に代々伝わる宝剣です。
私達の祖先は中山靖王劉勝と伝えられています。
その庶子の子孫が私たちということになっています。
我が家に伝えられるところでは、本当は私達の先祖は正室の正統な嫡子だったそうなのですが、陰謀で皇帝の座を追われてしまったそうです。
その話が本当なら、今皇帝の座にいるのは私達のはずです。
もう、今となってはその話が本当かどうかはわかりませんが。
それでも、皇帝だけが持つことができる、この宝剣が手許にあるということが何を意味するか、しっかり考えなさい。
そして、桃香がこの酷い治世をよりよくすることを考えなさい。
……そう、代々語り継がれてこの剣も引き継がれているのです。
でも、そんな偉そうなことを私が言える立場にないのはよく知っています。
私も、そのように父母から伝え聞いていますが、私も私の祖先たちも何も出来ていません。
ですから、桃香、剣のことは忘れて幸せに生きなさい。
私はまだ年端もいかない桃香にこの剣を渡し、一人にしてしまうことだけが心残りです」
「……お母さん、それってどういうこと?
すぐに元気になるよね!そうだよね!
そして、また一緒に畑仕事をしようよ!
約束だよ、お母さん!」
「ごめんね、桃香。お母さん、約束できなそう」
「嫌だよ、お母さん!ねえ、お願いだから!ずっと一緒に暮らそうよ!!」

だが、劉弘はそれに答えず、辛そうに瞼を閉じてしまう。

「お母さん!!お母さん!!」

その夜、劉弘は「さようなら、桃香」と言葉を最期に、安らかに息を引き取ったのだった。

「うわーーーーーーん!!」

劉備は夜通し母の遺骸の傍で泣き続けたのであった。


翌日、劉備は泣きはらした目で近所の人々に母が死んだことを伝えて回る。
まだ、劉備は子供である。
近所の人も、金蔵も、劉備を助けるように葬式をあげてくれた。


葬式も無事終わり、劉備が悲しみで家にいると、金蔵がやってきた。

「あ、金蔵さん。色々手伝ってくれて、ありがとうございました」
「いやいや、困ったときはお互い様だ」
「本当に助かりました」
「それで、だ。こんなときに言うのも何かとは思うのだが、一つ言っておかなくてはならないことがあるのだ」
「はい、なんでしょうか?」
「薬代としてお金を貸したのは覚えていると思うが、あれをそろそろ返してもらいたいと思うのだ」
「え?!そんな!今、言われても困ります。
しっかり働いて返しますからもう少し待ってください」
「でもねえ、あんな小さな粟畑で一生懸命働いても返せるお金なんか高が知れてるよ。
いっそ、畑で返したらどうだろうか?」
「畑?それはどういうことですか?」
「劉備ちゃんの耕している畑を私に譲ってもらえないだろうか?
あそこは丁度家の畑の途中にあって邪魔なんで、譲ってくれると家も助かるんだが」
「でも、それでは私が食べられなくなってしまいます」
「そこでだ、劉備ちゃんには筵を作って売ってよいという鑑札を渡そうと思うのだ。
筵を作るのは畑仕事より楽だし、売れればいつでも収入を得ることができる。
畑仕事は一年に2、3度しかお金が入らないから、蓄えのない劉備ちゃんにはそっちのほうがいいと思うのだが」

金蔵は努めて冷静に話しているが、表情にうっすらと暗い影があるのは否定できない。
だが、まだ子供の劉備にそれを見抜くのは不可能だ。
加えて金蔵はこの地域の亭長、逆らうわけにもいかない。

「わかりました。金蔵さんの仰るとおりにします」
「うん、劉備ちゃんが物分りが良くて助かったよ。
それじゃあ、あとで筵の鑑札と、最初は筵の材料も渡すから、家に取りに来なさい」
「はい」

こうして、劉備は子供であるにも関わらず、自分で筵を作って、それを売って生計を立てなくてはならないという辛い生活を余儀なくされてしまったのだった。



 筵作りはそれほど困難な作業ではないが、体の小さな劉備にはなかなかに辛い作業である。
日の出と同時に作り始め、一日かけてようやく小さめの筵が1枚できるかどうかというペースだ。
大人の半分にも満たない作業効率である。
そして作業の合間に僅かばかりの粟や稗を食べ、どうにか生命を維持している。
数日に一度、出来た筵を街に行って売るのだが、これとて簡単なことではない。

「筵はいかがですか...?筵はいかがですか...?」

腹が減っているのも影響しているのだろう、元気もやる気もないような声で売り歩いていては、ただでさえ強い需要があるわけでもない筵が売れるわけがない。
それでも、時には買ってくれる人がいて、劉備もお金をもらうときには思わず涙ぐんでしまうのである。

「ん?どうした?何で泣いている?」
「はい、漸く筵が売れて嬉しいんです。
これで何日かご飯が食べられます」
「あんた、自分で稼いでいるのか?」
「はい、身よりもなく、今は一人です」
「そうか、大変だな。ま、頑張ってな」
「はい、ありがとうございました」

劉備はそう言って深々と頭を下げる。
だが、筵を買ってくれた人も、それ以上のことはしない。いや、できない。
彼だって苦しい生活なのだ。


 街から帰るときは傍の山に登って、何か食べるものがないかと探す。
本当は山にだって使用権があるので、本来なら泥棒なのだが、子供一人くらいと大目に見ているのか、たまたま気付かないだけなのか、劉備が木の実や何かを採っても咎められるようなことは今のところない。
そして、疲れて家に帰るとそれから自分が食べるための食事作り。
疲れたときは、火を熾すこともできず、団栗や雑穀を生のまま食べたりもする。
消化は悪いが、何も食べないよりはまだましかもしれない。
本当に疲れたときは、それもできず、バタンキューである。

「お母さん……」

一人で生活するには劉備は幼すぎた。
母を思って泣くのも当然のことであろう。


そんな劉備を気遣って、近所の人が時には差し入れを持ってきてくれることがある。
彼等、彼女等だって生活は苦しいのだが、劉備が余りに不憫なので、なけなしの食料を持ってきてくれるのだ。

「劉備ちゃん、これ、ちょっとだけど余ったから粟の雑炊。
良かったら食べて」
「ありがとう、おばさん」

劉備だって、余るほどの食料が彼女にないことは十分承知している。
彼女の厚意にいたく感激するのだ。

「でも、劉備ちゃんも大変ね。お母さんは亡くなってしまうし、畑は金蔵に取られてしまうし」
「お金を借りたから仕方ないんです」
「何言ってるの!あの金蔵、あんたんところの畑、前から狙ってたんだから。
それに劉備ちゃんがお薬を買ったところだって、金蔵の弟の店なのよ!
絶対、畑を奪うために何かしたに決まってんだから。
もしかしたら、薬だっていい加減な薬をくれたんじゃないの?
もっとしっかり人は見なくちゃだめよ!」
「そ、そうだったんですか?」
「そうよ!金蔵はそうやって汚いことして金持ちになったんだから。
亭長でなければ村八分よ!」

それでも、まだ金蔵をそれほど疑っていない無垢な劉備であったのだが、ある日、街に行ったついでに薬屋に薬の値段を聞いて愕然とする。
薬屋が教えてくれた値段は、劉備が支払った額の1/100でしかないのだった。


「金蔵さん!どういうことなんですか?」

村に戻るなり、劉備は金蔵にくってかかっている。

「ん?なんのことだね、劉備ちゃん」
「お薬のことです。あのお薬はもっと安い値段で買えるんじゃないですか。
騙したんですね!」
「いやいや、劉備ちゃん。騙すとは人聞きがわるいねぇ。
あれは劉備ちゃんの優しい心にうたれて、私が劉備ちゃんに言われたお金を貸しただけじゃないかね。
普通だったら利子を取るんだよ。
ああ、利子ってわかるかな?借りたお金より少し多く返さなくちゃならないんだ。
それが、世間の決まりというものだ。
お薬が安いかどうかは私にはわからない。
まあ、それについて訴えたいのであれば亭長にでも相談してみてはどうかね。
丁度私が亭長だから、訴えるのであればしっかり調べてあげるよ」

だが、薬屋とグルだということは、何をしても無駄だろうと判断した劉備は、金蔵を憎らしそうに睨みつけると、そのまま帰途に着くのであった。
そして日、家に帰るなり泣きながら宝剣を取り出し、固く誓うのである。

「お母さん、私、復讐するから!
あの金蔵を絶対許さないから!
こんな酷い生活を民に強いる漢王朝を絶対許さないから!
私が皇帝になって、平和な世界を作るから!」

劉備、8歳の決意であった。




あとがき
アニメ版の母親はやたら元気でしたが……



[24705] 問答
Name: みどりん◆0f56c061 ID:81b7701d
Date: 2010/12/10 23:29
問答

 劉備は10歳になった。
今、何をしているかというと、家の前で筵を作っている。
皇帝になる!と決意して皇帝になれれば苦労しないのであって、決意したところで生活は全く変わらない。
それが、現実だ。
そして、それから2年、状況は全く変化がない。
いや、少し変化があった。
劉備の体が大きくなったので、筵を作る速度が速くなった。
だが、だからといって皇帝に近づけたかというと、全くそんなことはない。
復讐を内に秘めたきつい表情で、相変わらず筵を編むだけだ。
大体、皇帝になるといっても、何をしたら良いのか見当もつかない。
というわけで、子供なりに固い決意をしたつもりではあったのだが、流石に状況は全く変えられないのであった。

筵を作る速度が速くなって生活が楽になったかというと、全くそんなことはない。
収入はほんの少しは増えたが、成長に伴い要求カロリーも増え、食料を多く買わなくてはならなくなったので、収支はむしろ悪化している。
成長期に十分な栄養をとっていないので、相も変わらず劉備の体はがりがりに痩せていて、生きていくのがやっとという状態である。
それでも、金蔵への憎しみや皇帝になるという子供なりの決意を未だに強く持っているのが原因だろう、彼女の瞳に憎しみと悲しみで構成された強い力が見えるのである。

そんな劉備をみて、深く付き合いたいと思う人は稀有なのであって、大抵の人は劉備との接触を最小限にとどめたいと思うもので、最初の頃は結構頻繁に劉備の世話を焼いてくれていた近所のおばさんも次第に劉備との距離をとるようになっていった。
そして、それが更に劉備の憎しみと悲しみと孤独を深くしていくのである。



 そんなある日のことである。
劉備がいつものように庭で筵を編んでいると彼女に声をかけてくるものがある。

「もし」
「なによ!」

劉備は尋ねた女性の方を向くことも、作業を止めることもなく返事をする。
大抵の人はこの返事を聞くと、「いや、何でも」とか答えて劉備の許から去っていくのであるが、彼女は少し変わっていた。

「何ゆえそこまで悲愴な表情で筵を編んでいるか気になったものでな」

劉備はそこで初めて声をかけてきた人間を眺める。
小柄で水色っぽい銀白色の短めの髪で、目がくりくりと可愛い少女である。
年は自分と同じくらいだろうか?
自分より余程血色がよい。
手には身長の倍はないものの、かなり大きな矛を持っている。
この辺では見たことのない少女だ。

「別に。どうでもいいでしょ」

劉備はそこまで答えると、また視線を手許に戻し、作業を再開する。

「確かに、どんな表情で筵を作っても構わぬが……
それにしても、それほど悲愴な表情で筵を編まなくともよかろうに。
一体なにがそなたをそこまで悲愴にしているのか、一つお聞かせ願えないだろうか?」

劉備は再度話しかけてきた少女を怪訝そうに眺めてから、

「皇帝になると決めたのに未だにこんなことをしている自分が情けないだけよ」

と、自嘲気味に答えるのである。

「何?何とおっしゃいましたかな?
皇帝になると聞こえたような気がしたのであるが……」
「そうよ。笑いたければ笑うがいいわ」
「あっはっはっは!いやいや、これは傑作。
私も武芸の修行のため諸国を回っておるが、皇帝になるといいながら筵を編んでいる人間には初めて出会い申した」

笑えと言ったものの、こうあからさまに笑われると流石にむっとするものである。

「もう、用がないならどこかに行って!」

と、その少女を睨みつけながら命ずる劉備である。
が、その少女はそんな劉備の様子を気にする風でもなく、質問を返してくる。

「それではそなたは皇帝になるために何をしていらっしゃるのかな?
まさか、筵を編み続けると皇帝になれるとは思っていまいて」
「それが分からないから情けなく感じているんでしょ!」
「ふむ…………それでは、どのような人間が皇帝になれると考えておるのかお聞かせ願いたい」
「どのような?」

劉備はここで初めて話しかけてきた少女にしっかりと向き合って会話を始める。
未だかつてこんな話をしたこともないし、しても誰も相手にしてくれないと思っていたのに、何の酔狂か彼女は劉備の幻想にしっかりと付き合ってくれている。
それに、どのような人間が皇帝になれるかなんて今まで考えたこともない。
劉備も初めて皇帝というものをまじめに考え始めることにした。

「それは………強い人がなる…………と思う」

ちょっと自身がなさそうに少女に答える劉備。
少女のほうも、もう劉備を笑うこともなく劉備とまじめに質疑をし始める。

「それでは、皇帝になるというのであれば武の鍛錬をするのがよいということではないのだろうか?」
「そう……かもしれない。でも……」
「でも、何であるかな?」
「何か違う気がする」
「ふむ、そうであろうな。私も武を極めるために諸国を回っているが、武がいくら立っても、将にはなれても皇帝にはなれぬ気がするな」
「それじゃあ、あなたは皇帝になれる人がどのような人かわかっているの?」
「ふむ……そう問われるとあまり深くは考えたことはないが、……考えるに、例えば人心を纏め上げる人物が相応しいのではないのだろうか?」
「人心をまとめる?」
「この人ならば皇帝を任せたいとか、この人なら大陸を任せたいとか、そう思わせる懐の大きな人物であることがまず第一なのではないのだろうか?
そのうえで、治世の能力とか、戦略を考えるということが必要になってくるのではないかな?
まあ、私も乱世をまとめて皇帝になった人物をこの目で見たことがないもので、それが正しいかどうかは分からぬが。
それにしても、そなたのような陰鬱な表情をしている人物が皇帝になれる気がしないというのは間違いないな」
「わかったわ。どうもありがとう。
そういう人物になれるように努力してみる」

笑顔はないが、憎しみが少し減った表情をする劉備である。

「それで、私がそういう人物になったら私が皇帝になる手助けをしてくれないかしら?」
「あっはっはっは!そういう人物になれるかどうかも分からぬうちから手助けを依頼するとは、またずうずうしいことこの上ないな。
だが、そのずうずうしさはもしかしたら皇帝に相応しい能力の一つかも知れぬ。
まあ、私もいずれは主君を決めねばならぬ身、そなたがそれに見合う人物になったら、それに付き合うのもまた酔狂。よかろう、何年か後に再びこの地を訪れたときにそなたが皇帝の器を少しでも持っているならば、私もそなたの手助けをすると約束いたそう」
「ありがとう!私の名前は劉備、真名は桃香」
「我が名は趙雲、真名は……劉備殿がそれに相応しいと思われたときに預けることといたそう」
「わかった。趙雲さんが戻ってくるまでにそれに相応しい人物になるように努力する」

劉備と趙雲、運命の出会いであった。
趙雲は、再び武者修行に出かけていった。



[24705] 変貌
Name: みどりん◆0f56c061 ID:81b7701d
Date: 2010/12/18 18:50
変貌

 そなたのような陰鬱な表情をしている人物が皇帝になれる気がしない、という趙雲の言葉が劉備の心を埋め尽くしている。
人心を纏め上げる懐の大きな人物とはどのような人物なのだろうか?
すくなくともこの村には思いつく人物はいない。
自分も趙雲が言うとおり、そうではない。
ほとんどの人々は、今日の生活が精一杯で、人のことに構っている余裕がなく、当然そういう人々が人心をひきつけることはない。
では、村を治める亭長はというと、どう考えても私利私欲の固まりのような人間で、とても尊敬できない。
そこで、劉備は子供なりに一生懸命にそういう人物像をイメージする。
自分だったらどういう人に惹きつけられるだろうか?
やっぱり、誠心誠意話を聞いてくれる人なのではないだろうか?
いつもにこやかで、話しかけやすい人。
そのうえで、問題があったらそれを正してくれる人、悪を憎んで弱き善を助けてくれる人、そういう人に自分だったら惹き付けられるのでは?

そう思う劉備である。

だったら、自分に出来ることは……権力も腕力もない自分には悪を憎んでもそれを滅ぼすことは全くできないだろう。
でも、誠心誠意話を聞く、いつもにこやかにする、このくらいなら出来そうだ。
趙雲という、自分と年が変わらないような少女であるのに妙に酔狂なところのある彼女の言うことが正しいのかどうなのかは全く分からないが、少なくとも今の自分では皇帝の対極にいるような性格だろうから、藁をすがる気持ちで彼女の言葉を、そしてその言葉から導き出された自分の考えに従うというのはそう悪いことでもないように思える。
だいたい、自分は皇帝になる!と決意はしたが、それから数年何もしていなかったではないか。
それよりは、趙雲の言うことを信じたほうがよさそうだ。
それに、彼女はこんな無力で無謀な妄想を抱いている自分の戯言をちゃんと聞いてくれて、そのうえ相談にも乗ってくれた。
悪意があってのこととも思えない。
じゃあ、早速今から自分の行動を改めよう!
と思うのである。

劉備は早速隣の家に話に出向く。
用があるわけでもないので、本当に話に行き、自分の決意を伝えるだけだ。

「こんにちは、おばさん、いる?」

いつになく明るい声の劉備に、隣人は目を白黒させている。

「どうしたの?劉備ちゃん。
きょうは随分明るい声じゃない?」
「うん、私、考え直したの。
いつまでも暗い気持ちでいるよりも、いつかきっといいことがあると思いながら明るくしたほうがいいに違いないって」
「そうそう、そうだよ、劉備ちゃん。
劉備ちゃんは明るいのが一番」
「うん!もう、暗い表情はしないから!
そして、みんなを明るくする天子様になるから!」
「あはは!そうそう、その意気だよ。
私も応援するからね。
そうそう、これ持ってきな!」

そういいながら、昔と同じようになけなしの食料を彼女に渡すのであった。

「ありがとう、おばさん!私、とっても嬉しい!」
「うんうん、いつでも劉備ちゃんの味方だよ!」

そして、劉備は自分の小屋に戻っていく。
確かに笑顔は強力な武器になるという確信を持って。


 その日を境に、劉備は別人のように明るく振舞うようになった。
多くの人が、となりのおばさんのように劉備を手助けしてくれるようになった。

「筵はいかがですか~?筵はいかがですか~?」

筵を売る声も明るくなり、それに比例して売れる筵の枚数も増えていった。
こうして、劉備の環境、特に食生活が大幅に改善し、この頃から急に劉備の肉付きがよくなっていった。
貧相な肉体は栄養を吸収する能力が高かったのか、本当に摂取した食料が全て劉備の血となり肉となっていった。
とりわけ、栄養は劉備の胸に向かったようで、その辺の娘の誰よりも大きな胸へと成長を遂げていき、なんとも色っぽい姿へと変貌しつつあった。
らくだのこぶのように栄養をためるのだろうか?


 それから数年、劉備はその笑顔と肉体的な魅力、そしてどんな人の話でも真摯に聞くという態度で、近隣の人々の心を強くひきつけることに成功していった。
そして人と多く接することで、次第次第に心の奥底で何を考えているかも分かってくるようになってきた。
それと同時に、人と多く話すことで色々な情報を聞き出すことが有効だということも分かってきた。

「え?隣の街では筵を売っているお店がないの?」
「ああ、それに行商もこないから、ここより買ってくれる人が多いんじゃないか?」
「本当?ありがとう!!」

多くの情報を得ること、これは多少のお金を得ること以上に重要なことだと気付いた劉備である。


また、自分の行動が相手にどんな影響を与えるかも試行錯誤していた。

まず、笑顔。
これは、万人に対して有効である。

それから、ちょっと抜けた雰囲気。
これもなかなか有効だということがわかってきた。
何でも知っている高尚な雰囲気を持った人間より、ちょっと抜けた人間を多くの人は応援するらしい。

あと、夢を語るというのも効果が大きいようだ。
途方もない、とても実現できないような大きな夢でも、それを語ると聞いている人もその夢を一緒に想ってくれるようだ。
この時代、夢も希望もほとんどない時代なので、夢、それもとてつもない大きな夢を語りあうというのは、人の心を掴むのに有効なのだろう。

歌もなかなか効果が大きい。
街中で歌っていれば誰でも劉備がいると言うことが分かるので、宣伝効果が期待できる。
それほどうまくなくても構わない。
人が聞いてちょっと楽しめる歌、ほのぼのする歌、そういうのが良さそうだ。

こうして、劉備は人々が自分を支えてくれるように自分の行動を少しづつ変えていった。
自分の呼び方も、『私』から『桃香ちゃん』に変え、話し方も工夫を加えた。



 そんなある日のこと。

「おや、劉備殿、また随分と雰囲気が変わりましたな」

劉備に声をかけたのは、久しぶりに劉備の許を訪れた趙雲であった。
あれから更に2年、劉備は12歳になっていた。
趙雲は2年前の約束を違えることなく、ちゃんと劉備の様子を見に来たのだ。
劉備は趙雲との最初の出会いのときと同じように筵を編んでいたが、表情はにこやかで、鼻歌まじりでご機嫌に見える。
最初の出会いのときとは全く雰囲気が異なるという趙雲の指摘は尤もである。

「あ!趙雲ちゃんだ!お久しぶりだね!
武者修行はうまくいっている?」

努めて明るく趙雲に答える劉備である。

「ふむ、その様子では何か皇帝になる道筋に光明が見えたようであるな」
「うん、桃香ちゃんもまだ分からない事だらけなんだけど、多分皇帝になるには大事なことが2つあるんだと思うんだ」
「ほう?それが何であるかお聞かせくださるだろうか?」
「あのね、あのね、
 『個別の案件については答えを差し控える』
ことと、
 『法と証拠に基づいて適切にやっている』
の二つだよ!」

一瞬で可哀想なものを見つめる表情に変わる趙雲、

「……すまぬ、用を思い出したので、これにて失礼する」

と、踵を返そうとするが、そんな趙雲の袖をぐっと掴んで、

「じょ、冗談だってば……」

慌てて弁解する劉備であった。



[24705] 支援
Name: みどりん◆0f56c061 ID:81b7701d
Date: 2010/12/24 23:17
支援

 とりあえず、趙雲は劉備の小屋に同居するようになった。
真名も預け、劉備の支援を約束する趙雲は、昼は近隣で武芸の修行や指導を行い、そして夜は劉備に自分の知っていることをあれこれ授けている。
武芸の指導や傭兵として雇われることは、需要があればなかなか高給で優遇される職であるが、常時その職の需要があるとは限らないところが辛いところである。
加えて趙雲がまだ子供なので、雇われたとしても最初のうちは比較的薄給であることがほとんどであるが、数日後に彼女の実力を認めざるを得なくなった雇用主は、最終的には趙雲の給料を上げていくので、これが趙雲の旅を支える資金となっていっていた。
既にそこそこの資金が貯まっているので無理に働かなくてもよいのだろうが、体を動かさないと鈍ってしまうと考えているのか昼間はこの地で武芸の指導を行って、それ相応の対価をもらっている。

 そして、夜は劉備の夢に付き合って、自分の知識を授けているのである。

「まず、文字と地理について私の知っている限りを教えて進ぜよう。
まだ桃香殿が皇帝になると旗揚げするには、年から考えて時期尚早と考える故、それより前に豊富な知識や経験を獲得しておくのがよいと考えるが、如何せん桃香殿は文字が読めぬゆえ、基礎の基礎として文字を習得しておいて損はあるまい。
それから、漢が今どのような状況になっているかということも重要なことであろうから、これも知っている範囲で教えて進ぜよう。
諸国渡り歩いているので、各地の様子もある程度は分かるつもりだ。
他に私で教えられることがあれば手助けいたすが、まずは文字の習得から始めることといたそう」
「よろしくお願いします」

昼間の能天気な表情とは全く別人の、まじめな表情の劉備が、年も殆ど変わらない趙雲を師と仰ぎ、漢字の学習から始めている。

「私もそれほど字を教えたことはないのだが、まずは名前でも読めるようにしたほうがよいのだろうか?」
「はい」
「それでは、……これが、劉」
「難しいんだね」
「そうだな。劉の字は難しいほうの字であろう。
だから、書けなくてもよいが読めるようにはしておいたほうが書物を読むにも便利であろう」
「わかった」
「それから、……これが、備」

その後も漢字の学習は継続して続けられ、劉備はある程度の書物であれば自力でも何とか読めるようになっていった。

 地理の勉強も並行して行われている。

「今住んでいる場所は幽州、漢の北の外れだ。
これより北はもう匈奴とか異民族しかいない」
「ふ~ん……」
「そして、この辺を治めているのは何進様」
「何進様?」
「うむ、漢は13の州で構成されていて、普通は州に一人州牧がいる。
ただ、力のある州牧だといくつかの州をまとめて治めることもあるようだ。
今、漢王朝が弱体化しているが、それに代わるとしたら州牧の誰かになるのが順当ではないだろうか?」
「そうなんだ……
だったら、私が皇帝になろうとしたら……」
「まあ、普通に考えればそれを全員倒すことだろうが、どう考えてもそれは無理であろうな」
「そうだね」
「うまいこと、どこかの州牧の目に留まって、運よくその州と兵を引き継げるとかいうことがあれば、もしかしたら、ということがないとは言えぬが……」
「それにしても、目に留まるような人物にならないと駄目だよね」
「そういうことだな。それは桃香殿にお任せしよう」
「わかった。でも、まだその時期じゃないね。
もう少し年をとってからでないと。
今は基礎を作る時期だね」
「そうだな。
そして、幽州の隣が冀州―――」

地理の勉強と同時に人の様子も色々聞いている。

「今、漢を倒して次の国を興すとしたら誰が一番なりそうなの?」
「うーーむ、それは難しい問いだな。
まず、ここを治めている何進様は、あまりに悲惨な政治を行っているので、暴動が起こるのも時間の問題であろう」
「そ、そうなの?」
「それは桃香殿も身を以って理解しているのではないか?
他の土地ではこれほど酷い生活はないぞ」
「そうだったんだ……」
「あ、揚州も酷かったな」
「だったら、本当に悪いのは漢王朝でなく、何進様なの?」
「そうとも言えるし、違うとも言える」
「どういうこと?」
「漢王朝の影響が小さくなってきたので、各地で州牧や太守が好き勝手しているというのであるから、本来国を治めるべき漢王朝に責任がないわけではないであろう」
「そうか。そうだね」
「それに噂によれば、昨今は州牧など官吏の地位を金で買うことができるらしい」
「お金で?州牧を?」
「まあ、噂ではあるがな。で、それを発案したのが皇帝らしいのだが……」
「そんなことをしたら、めちゃくちゃな人が州牧になっちゃうじゃない!」
「うむ、そういうことだ。
そして、そういう者が州牧になると、当然支払った金を回収したいと思うから」
「税が重くなる……」
「そういうことだ」
「じゃあ、やっぱり皇帝が悪いんだ」
「まあ、皇帝を名乗っているほどであるのだからな。
少なくとも国の政治が悪くなって全く無関係と言うわけには行かぬだろう」
「そうだね」
「それで最初の問いに戻るが、隣の冀州はどういう経緯か半分を袁紹様が治めていて、父親の袁成様がそれは有能な方だったので未だ袁家は各地の諸侯にそれは強い影響力を保っているから、袁紹様が次の国を興す可能性が一番高そうでもあるのだが……」
「うん」
「暗愚というほどでもないのだが、どうも気概というか迫力が感じられなかったな。
それに、将校や軍師同士でいがみ合っていたり、兵もだらけていたので、あそこは仕官もせずに去ったものだ」
「ふーん」
「あと、力をもっていそうなのは益州の劉焉様だな」
「益州って西南の端だね」
「そうだ。だが、益州は他から隔離されたような地形で、劉焉様はそこを治められれば満足というところがあって、次の国を興すようなことはないだろう。
あとは、それには一歩劣るような州牧ばかりであるように感じたので、誰と問われても難しいな」
「だったら、私にも機会があるのかもしれないね」
「まあ、そうだな。
だが、そういう気概だけなら、例えば豫州の曹操様なども人一倍だったぞ」
「そっか。そうだよね。この酷い時代をどうにかしたい人がいない訳はないよね」
「うむ。ただ、こういう時代だからこそ、桃香殿のような者にも機会があるやもしれぬ」
「うん、絶対に皇帝になるつもりで頑張る」
「そうだな。ただ、目的を履き違えないことだな」
「目的?」
「うむ、桃香殿は自分が皇帝になって民に幸せになってもらいたいことが望みであろう?」
「うん、そうだよ。
そうだけど……」
「けど、なんであるかな?」
「復讐したいという気持ちもあることは否定できない」
「まあ、人は誰しも聖人君子ではないのだから、それは仕方あるまい。
だが、権力を手に入れ始めると、次第に権力を得ることが目的となって、民の幸せはなおざりになってしまうことがよくある。
今の漢も、結局宦官や皇帝のとりまきが権力を得ることを目的としたのでこうなってしまったのであろう」
「うん」
「だから、桃香殿はそうはならないでいただきたいものだな」
「わかった。
星ちゃんも私が道を踏み外しそうになったら、指摘してね。
言うことを聞かなかったら私を殺して」
「うむ。その意気であれば問題ないであろう。
あとは、その気持ちを持ち続けることだな」
「うん」


 このように、趙雲に勉学の基礎を教わること約1年。
劉備は13歳になった。
漢字の数があまりに多く、必死で勉強している劉備でも様になるのにそれだけの時間がかかってしまったのだ。
だが、これで何とか基礎はできたのでは、と感じた趙雲は劉備に新たな師に就く事を提案する。

「時に桃香殿」
「なぁに?」
「大体私が知っていて基礎的なことは伝えたつもりだ。
だから、皇帝を目指すのであればもっと高尚な経験を積むことが必要であろう」
「うん、言っていることは分かるつもりだけど……
私には星ちゃんしか教えてくれる人がいないから……」
「実は心当たりがある」
「心当たり?」
「左様。盧植様という方がいらっしゃる」
「盧植様?」
「うむ。元は尚書であった方だが、党錮の禁で野に下り、今はここ幽州啄郡で私塾を開いていらっしゃる方だ。
皇帝になるというのであれば、私の拙い学では最早用をなさぬであろう。
彼女の許を訪れ、是非皇帝になるための道を尋ねるとよいと思う。
幽州啄郡なので、ここからそれほど遠くもなかろう」
「そう……なんだ。
でも、私塾で学ぶといってもお金が必要でしょ?」
「まあ、それはそうであろうな。
そして、桃香殿にそんな蓄えが無いことも承知している」
「だったら何で?」
「思うに、その程度の障壁すら乗り越えられぬようであれば、皇帝になるというのは諦めたほうがよかろう。
だから、最初の試練として無一文で学を乞う事が出来るかどうかを試してみるのがよいと思った次第」

ちょっと怒った様子の劉備であったが、その言葉を聞いて趙雲の言うことも尤もだと深く納得して趙雲の言葉に従うことにする。

「うん、そうだね。その通りだと思う。
わかった。星ちゃんの言うとおりにしてみる。
それで星ちゃんはどうするの?
一緒に盧植様のところで学ぶの?」
「いや、私は再び武芸の修行の旅と諸国の状況を見て回りたいと思う」
「そう……なんだ」

少し寂しそうな劉備。

「まあ、出来るだけ頻繁に手紙は送ろうと思うし、そこに居場所も書いておくから、劉備殿から私に連絡を取ることもできるようにしておこう」
「そうだね。私の誇大妄想にまじめに付き合ってくれていると言うだけでも感謝しきれないほどだというのに、これ以上頼るのは良くないね。
ありがとう、星ちゃんの言うとおりにする。
でも、盧植様のところに行く前に一つだけお願いしたいことがあるのだけど」
「ふむ、今までも出来ることなら大体なんでも依頼は聞いていたつもりだ。
出来ることなら桃香殿の言うとおりにするが……」
「うん、あのね……
私の覚悟を見てもらいたいの」
「覚悟?」


 その翌日、劉備と金蔵が街から少し外れた森の中の小川にいる。
ゲームに出てくるような雰囲気の場所だ。
金蔵が一人のときに、劉備がそれとなく体を差し出すような雰囲気のことを言ったら、金蔵がほいほいと劉備の指示した場所にやってきたのだ。
劉備はまだ13歳なので、妖艶という雰囲気は全くないが、胸は何故か人一倍大きくなってきているので、なかなか魅力的な体である。
破廉恥な金蔵は劉備の言葉にころっと引っかかって劉備の待つ森へと来てしまった。
全く、昔の自分の行動を覚えていないのだろうか?

「やあ、劉備ちゃん。劉備ちゃんの体を好きにしていいんだって?」
「うん、あのね、昔お母さんが死んだときは金蔵さんのことをそれは憎んだものだったんだけど、それから色々考えて金蔵さんもいいことをしてくれたなあって思う様になったの」
「うんうん、そうかそうか」
「それでね、それでね、桃香ちゃん、金蔵さんにも感謝の気持ちを伝えたいなぁって」
「ほうほう」

もう、金蔵の顔はでれでれである。

「でもね、桃香ちゃん、初めてで恥ずかしいから少し向こうを向いていてくれる?」
「ああ、もちろんだ!」

金蔵は言われたとおりに劉備の反対側を向く。
そして、衣擦れの音がして、ぱちゃぱちゃと水の音がした。

「金蔵さん、いいよ!」

金蔵が劉備の方を見てみれば、一糸まとわぬ姿で恥ずかしそうに小川の中ほどでしゃがんでいる。
まだ幼さも残っているが、胸はしゃがんでも隠しきれる大きさでなく、なかなかの肢体である。
金蔵は大喜びで服を脱ぎながらばちゃばちゃと劉備の許へと走って行く。

「もう、金蔵さん、せっかちなんだから」

劉備はそう言って金蔵の目の前で立ち上がるが、その手には短剣が握られていた。
一瞬金蔵の顔に恐怖の表情が浮かぶが、それはすぐに苦悶の表情へと変わる。
剣は既に金蔵の心臓を一突きにしていた。
ほぼ、即死であった。

「あのね、私が金蔵さんに感謝しているって本当なんだよ」

死につつある金蔵に話しかけようとしているのか、あるいは傍で聞いている趙雲に聞かせようとしているのか、劉備は裸体に返り血をつけたまま独り言のように話し始める。

「だって、金蔵さんのおかげで皇帝になるって決意も持てたし、星ちゃんと出会うこともできたし。
私ね、皇帝になったらみんなが笑顔で暮らせるような国を作りたいの。
私が泣いていても、他のみんなが笑顔で暮らせるようにしたいの。
もちろん、ちゃんと食べられるようにすることがまず第一だよ。
空腹じゃあ笑顔になれないもんね。
桃香ちゃんね、昔は毎日辛かったんだよ、食べ物が無くって。
金蔵さんは知らないかもしれないけど。
それからね、悪は許さない政治を行いたいの。
私が皇帝になったら非難されても悪は滅ぼしたいの。
だからこれは私が皇帝になるという決意。
金蔵さん、あなたは皇帝の命で殺された――そういつか納得できる日が来るから、それまで待っててね。
絶対だよ!」

劉備は血を洗い流し、殺害の痕跡を全て消してから村に戻った。

金蔵がいなくなったことは翌日には明らかとなったが、この時代野盗が多く、街の外で行方不明になってもあまりまじめに探されることがないため、劉備に疑いがかかることはなかった。

劉備は近所の人に別れを告げて、盧植の許へと向かっていった。



[24705] 入門
Name: みどりん◆0f56c061 ID:81b7701d
Date: 2011/01/07 22:52
入門

 劉備と趙雲が盧植の私塾に向かっている。
が、劉備はちょっと不満そうだ。

「ねえ、星ちゃん。どうしても歌ったら駄目なの?」
「うむ、どうもあれを聞いていると頭が春になってしまいそうでよくない」
「むー、折角星ちゃんのためにいっぱい歌を考えておいたのに」
「それは……ますます聞くわけにはいかぬな」
「つまんないの」

劉備は気持ちを入れ替えるように話題を変える。

「ところで、星ちゃん」
「ん?」
「桃香ちゃんの胸って人一倍大きいじゃない」
「うむ、同年代の女性の中では大きいほうであるな」
「最近気付いたんだけど、もしかしたら私の胸には特殊な能力があるんじゃないかって」
「ほう?それはどのような」
「んーとね、他の人を洗脳する程度の能力」

黙って元来た道を引き返そうとする趙雲。

「ごめんなさい、私が悪かったです。許してください。
ちょっと"程度の能力"って使ってみたかっただけなんです」

泣いて謝る劉備であったが、数年後、本当におっぱいで荀彧を洗脳することになるとはこのときは誰も知らないことである。
まあ、それがなくても男どもを魅了する力は十分にありそうなおっぱいではあるのだが。


 そうこうしているうちに、盧植の住まう場所のすぐ傍までやってくる。

「さて、ここから盧植様の私塾は一刻もかからないところにあるらしい。
ここからは桃香殿が自分自身で道を切り開くのがよかろう」
「わかった。星ちゃん、今までどうもありがとう。
本当に感謝してる。
盧植先生のところで学を修めたら、また私を手助けしてください」
「うむ、それが約束であるからな。朗報を待っているぞ」
「うん。それじゃあ、星ちゃんも気をつけてね」

こうして劉備は趙雲と一旦離れ、盧植の許へとむかうことになった。


 盧植。字は子幹。士大夫である。
漢は儒教道徳による統治を国是としていて、従って高級官僚は儒学の大家であることが必須である。
士大夫とは儒学に通じた高級官僚のことを指す。
今は洛陽から追放されているので、士大夫であったというのが正確であろうか?
兎も角も盧植はこの時代数少なくなってしまった儒学の大家にして、徳を以って治世を行おうとする立派な人物である。
体の端から端まで清流派、宦官に賄賂を贈るなんてもっての外。
結果、中央を干されて辺境に飛ばされたので、清流の志士を広く集めて濁流派への反撃の準備をしているというのが史実の盧植であったようだが、恋姫盧植はそれほど虎視眈々というほどでもなく、儒学の考えを広く伝えたいという本当に聖人のような人物のようである。
そんな盧植の私塾の門を劉備が叩いている。

「私を雇ってください!」

私塾につくなり劉備が頭を垂れている。

「ん?何なの、あなた」

塾生と思しき少女が劉備に聞いている。

「私を雇ってください!
お料理でも水汲みでも何でもやりますから」

劉備は再度雇ってもらいたいと懇願する。

「うーん、ちょっと私では分からないから先生に聞いてくるわね。
あなたお名前は?」
「劉備と申します」
「わかったわ。ちょっと待っててね」

少女はそう言って建屋の方に小走りで走っていった。
程なく彼女は戻ってきて、

「先生がお会いになるそうです」

と、劉備を中に招き入れる。


 劉備は室内へと案内される。
そこには、見るからに高潔な雰囲気を湛える女性が座っていた。
彼女が盧植であろう。
劉備は部屋に入るなり、そこに跪き、

「劉備と申します。
ここで働かせていただきたく、尋ねてまいりました」

と挨拶をして、盧植の言葉を待つ。

「劉備、と言う名なのですね?」
「はい」
「どこから来たのですか?」
「啄県楼桑村から参りました」
「そうですか。少し歩かないとここまで着きませんね。
ここで働きたい理由は何ですか?」
「今、漢の政治は酷い状態になっています。
役人は私利私欲に走り、民の生活は困窮を極めています。
私は学を修め、この漢の国を住みやすい国へと変えたいと思いました。
盧植先生の評判を伺い、是非先生に教えを乞いたいと思ったのですが、私は筵を売ってはようやくその日を生きているという暮らし、とても先生に教えを乞うための蓄えがありません。
そこで、盧植先生の許で働いて、空いた時間に私塾の方や、出来れば先生と議論をして見識を高められればと思ったのです。
食と住を頂ければ他は何もいりません。
是非、私をここにおいて、知見を得る機会を下さい」

ほとんど趙雲の受け売りのようであるが、士大夫である盧植の琴線に触れるには十分な台詞であった。

「劉備さん、素晴らしい考えです。
あなたのような方がもっと漢に溢れればよいのですが、今の漢の状況はそれに遠く及びません。
一人でも劉備さんのような人を増やすように私も協力しましょう。
ええ、あなたがここで働き、そして共に学ぶことを認めましょう!」

………
……



という流れになればよいのだろうが、残念ながら劉備の対外的な性格は、よく言えばおおらか、あからさまに言えばちょっと抜けた雰囲気、というよりアホな娘を演じるように決めているので、入塾するときだけまじめな性格を示して、その後すぐに元の能天気な性格に戻るというのも違和感ありまくりでそういう作戦はとれない。
それに、そのようなまじめな雰囲気の人間は、高級官僚にはなれても、皇帝にまで登り詰めるのは難しそうだ。
皇帝に取って代わるという人物には、もっと破天荒さや、何かとてつもない可能性が感じられることが要求されるから、今の劉備の対外的な性格の方が皇帝になるぅ!というのであれば適当かもしれない。
が、少なくとも只で入門したいとなると、その性格はマイナスにしか働かないように見える。
さて、劉備は無事に入門することができるだろうか?


「すみませ~ん」
「はい、なんでしょう?」

塾生らしい少女が門に現れた劉備に応対している。

「桃香ちゃん、ここで働きたいのぉ。
働かせてくれないかなぁ?」

見た目はふわふわでちょっと軽い雰囲気、そしてその受け答えには品や徳が感じられない。

「ごめんなさいね、ここにはあなたの働く場所はないの」

彼女は自分の判断で劉備の要求を拒絶することとするが、その程度で引き下がる劉備ではない。

「えー?そんなこといわないで。
ね?桃香ちゃん一生懸命働くから。ね♪おねがい!」

その後も少女と劉備との間で働かせろ!駄目だ!という押し問答が続いた。
と、暫くしてその騒ぎに他の塾生たちも集まってくる。

「ん?どうしたのだ?」
「あ、公孫讃さん。この娘がここで働きたいって譲らないのです」

公孫讃という言葉に、劉備の目が一瞬鋭くなったようだが、誰もそれには気付くことはなかった。

「そこの娘、どうしてここで働きたいのだ?」

最初の少女に代わって、今度は公孫讃が劉備の相手を始める。
公孫讃はこの塾の塾頭をしているほどの秀才で、武にも優れ、仁や徳を大事にし、他の塾生からも頼りにされ、盧植の信頼も厚い、この年にしてはなかなかの人物である。
『そこの娘』と偉そうに言っているものの、どうみてもほとんど同年代であるが、劉備はそれを気にすることもなく公孫讃に答える。

「んーとね、桃香ちゃん、馬鹿だからゆーめーな盧植先生のところで働いて、働きながらお勉強できたらいいなあって」
「うむ、そういうことか。確かに志は立派だが、生憎と今この塾にはそれほど余裕が無いゆえ、他をあたってはもらえないだろうか?」

さすがは公孫讃、相手の意思を尊重しつつも、やんわりと劉備を拒絶するのだが、

「あ、お金はいらないよ!その代わり一日一刻か二刻くらいお勉強を見せてくれたらいいなあって思うんだけど」
「お金は要らない?」

劉備の言葉にちょっと魅力を感じてしまう。
盧植塾は塾生の学費で運営されているが、それほど裕福なわけでもない。
公孫家は太守でもあり、比較的裕福ではあるが、野に下った人々の中にはそれほど裕福でない者も多い。
塾は数十名の大所帯だから、炊事洗濯掃除などそれなりに労働力を必要とするが、そんな作業を塾生に入るほどの身分の者が行うわけは無く、下働きの者を雇って彼、彼女等に作業をさせることとなり、当然それには費用が発生する。
安い給与では人が集まらないし、高い給与は支払い能力の問題がある。
が、彼女はそれは不要と言っている。
これはなかなかおいしい提案である。

「そういうことであれば、先生に尋ねてみよう」
「ありがとう、こうそんちゃんさん!」
「こうそんさんだ!」

こうして盧植に紹介されることとなった劉備であった。
そして、公孫讃はわずかな人件費のために生涯の疫病神、劉備を自ら招き入れてしまったのだった。



あとがき

アニメでは諸葛亮、鳳統の2名ほどしか塾生がいないシーンが描かれていたようですが、実際には50名は下らない塾生がいるほどのなかなかの大所帯だったようです。
アニメで登場人物が少ないのは、描くのが大変だからにちがいありません!
この話では大所帯という設定としました。
あと、分かりやすくするため時間の数え方は刻にしました(って、更を使ったことを知っている人がどれだけいるかわかりませんが)。



あとがきが間違っているようですが、本文には関係ないので無視してくださいませ。



[24705] 為政
Name: みどりん◆0f56c061 ID:81b7701d
Date: 2011/01/07 22:26
為政

 結果的に劉備は雇われることになった。
盧植とて、生計は重要である。
支出のない(食事程度の支出しかない)働き手はなかなかうまみがあるので、盧植も劉備を雇い入れることに賛同したのだ。
それに、普通の民で勉学に興味があるというのも盧植が気に入った点だ。
見た目かなり抜けているが、勉強したいというほどなのだから、それなりに努力するのだろうと、将来を買っての雇用である。

 そして、今日が最初の授業の日。

「みなさんにお知らせがあります」

劉備が塾生に紹介されている。

「今日から一緒に勉学に励むことになった劉備さんです。
彼女は朝と夕方はここで働いて、お昼過ぎの一刻に限りみなさんと一緒に授業を受けることになります。
それでは、劉備さん、一言挨拶を」

劉備が教室の様子を見てみる。
全員劉備と同じか、やや上くらいの年代の女子ばかり、今で言えば女子中か女子高のようなものだろうか?
劉備を見る目は、下賎なものを蔑むような雰囲気の視線が多いように感じる。
が、そんなものがあるからといって気にする劉備ではない。

「は~い♪桃香ちゃんで~す。
桃香ちゃん、あんまり頭がよくないから、盧植先生のところでお勉強して少しでも頭がよくなったらいいなぁって思いまーす。
色々分からないことだらけだと思うけど、親切に教えてくれたらうれしいでーす!
そしていっぱいお勉強して、皇帝になれるといいなぁって思いまーす!!」

生徒たちの視線が少し変わる。
蔑むような視線だったものが、可哀想なものを見つめるようなものへと変わってきた。
小さく吹き出している者もいる。
この変化は劉備が何度と無く味わってきたものだ。
そして、この変化は劉備が望んでいたものだった。
蔑むような視線の人間は、劉備をあくまで見下し、自分の優位性を見せつけようとするのだが、可哀想なものを見つめるようになった段階の人間は、もう見下すのは当然であるから自分の優位性を見せつけるような態度は取らず、全く仕方が無いなぁという態度に変わるのである。
馬鹿に自尊心を示したところで、全く役にたたないのは誰しも知っていることだから。
そうすると、今まで高圧的な態度を取るばかりで、話をするようなことは全くなかった人々が、じゃあこれだけだぞ、といった雰囲気で一言二言の会話をしてくれるようになってくる。
その後は劉備の思う壺といった感じだろうか、いつしか普通に話すようになって、結構重要なことをちらほらと話してくれるようになってくるのだ。
全員が全員そういうわけでもないのだが、高圧的な人々だって更に身分の上の人からは高圧的にされていて、鬱憤を晴らしたいのだ。
アホっぽい劉備が話をすると、なんとなく愚痴が出てきてしまって、結果劉備だけに、「秘密だからな!」という話をしてしまうのである。
彼らだって抑圧されているのだ。
接して特に実害の無い劉備になんとなく心を許してしまうのも分かろうと言うものだ。
というのが、劉備が子供ながらに会得した処世術である。
そして、それをここでも発揮しようとしている。
恐らく誰でもがやろうと思えば出来るだろうが、自尊心をどこまで捨てることが出来るかというところが、この戦略を取れるかどうかの分かれ目なのだろう。
盧植も若干苦笑気味に授業を始める。

「それでは、今日の授業を始めましょう。

子曰爲政以徳譬如北辰居其所而衆星共之

これの意味するところははなんでしょう?
公孫讃さん、どうですか?」

「はい、これは直接の意味は

先生がいわれた
政を為すに道徳によって行えば、北極星が自分の場所にいて、多くの星がその方向に向かって挨拶しているが如くとなる

ということです。
つまり、徳を持って政を行えば、人心が自然に為政者に帰服するという、徳の重要性を説いたお言葉です」
「そうですね。流石は公孫讃さんです。
それでは、今日はこの言葉について、背景や、その考え方についてもう少し深く掘り下げていきましょう」

と、普通に授業らしいことが始まるのである。
そして、劉備はといえば……何となくうつらうつらしているように見えるのだが………。


 授業以外の時間は約束通り盧植の所で下働きをする。
朝は早くから起きて朝食作りの手伝いをする。
首になると困るので、仕事はまじめにこなしている。
他の人が嫌がるような水汲みも、厠の掃除も率先して行っている。
その間、劉備はいつも笑顔で、歌を歌いながら仕事をする。
ボヘミア民謡ぶんぶん○んのような歌も聞こえてくることがある。


 こう そん ちゃん  すごいよね!
 べんきょう いちばん ぶじゅつに ひいでる
 こう そん ちゃん  かっこいい!!


まあ、何と言うか公孫讃を賛美する歌ではあるのだが……少なくとも、本人は聞いて嬉しい!といかない雰囲気100%の歌である。

「あのな、劉備」

なんとも困った表情をして劉備に話かけるのは、当の公孫讃である。

「あ、桃香ちゃんのことを呼ぶときは桃香でいいよ。
で、なぁに?」
「あのな、その……私を褒めてくれるのは、まあありがたいのだが……」
「だって、本当のことだもん!
お勉強はすっごくよくできるし、武術もすごいし!
かっこいいよね!すごいよね!」
「まあ、そうか。ありがとう。
だが、その歌はどうにか止めてもらうわけにはいかぬだろうか?」
「どうしてぇ?
とってもいい歌だと思うんだけどなぁ……」
「まずな、名前が違う」
「名前?こうそんちゃんさんじゃないの?」
「だからな、この間もいったからこうそんちゃんではなく、こうそんさんなのだ」

だいたい、こうそんちゃんが名前だったら、歌はこうそんちゃんちゃんにすべきだろうと思うが、余計なことは言わない。
姓が公孫なのだったら、こうそんちゃんでもよさそうなものだが、本人の中では公孫讃と名も含めて呼ばれることが重要なのだろう。
他の公孫姓の人物との区別も重要だろうし。

「えー?そうだっけ?
でも、

 こう そん さん ちゃん  すごいよね!

じゃあ、うまく歌に合わないし……」
「だから、歌わなければよいではないか!」
「そういうわけにはいかないよ!
だって、歌だよ!
みんな、歌を持っていないといけないと思わない?」
「い、いや、別に思わぬが……」
「だめだよ!
歌は自分を周りの人に広く知ってもらうために絶対に必要なんだよ!
歌を持っていない人は大物になれないよ!」
「そ、そうなんだろうか?」

無理やりな理論であるが……というより、最早理論とも思えないが、劉備の鬱陶しさに何となく洗脳され始めたようでもある公孫讃である。

「だから、どうにかしたいんだけど……」

公孫讃は、とりあえずこの場を何とかお仕舞にしたいという気持ちが働いたのか、余計な提案をしてしまう。

「そ、それでは、私の真名を預けよう。
白蓮というのだが、これで語呂がよくなるのではないか?」
「ぱいれん?……うん、そうだね!バッチリだよ。

 ぱい れん ちゃん  すごいよね!

うん、完璧!
それじゃあ、桃香ちゃんの真名も預けるね!
桃香ちゃんの真名はね、桃香だよ!」

知ってるよ!と思う公孫讃であった。
ちなみに、歌はその後も続き、結構街の人々に公孫讃を印象付けるには役立ったりしていた。
それを知った後も、やはりこの歌はどうも……と思う公孫讃なのだった。



[24705] 動物
Name: みどりん◆0f56c061 ID:81b7701d
Date: 2011/01/16 21:40
動物

 さて、公孫讃と言う人物、優秀なだけでなく、結構面倒見がよかったりする。
だから、無能丸出しの劉備相手でも、結構まじめに面倒を見ていたりする。

「ねえ、白蓮ちゃん。これは何て読むの?」

劉備の字の学習は1年強なので、まだまだ読めない字も多い。
そういう時は劉備は公孫讃に聞きにいっている。

「どれだ?………舊は、きゅう(旧)だな。

子曰恭而無禮則勞愼而無禮則子思勇而無禮則亂直而無禮則絞君子篤於親則民興於仁故舊不遺則民不偸

の故舊は昔からの親しい者と言う意味で、この全文の意味は―――」
「そっかー!さっすが白蓮ちゃん!
ありがとう」

字以外のことも聞きにいっている。

「ねえねえ白蓮ちゃん。曾子って誰?」
「ああ、曾子か?
曾子は孔子の弟子で―――」

と、結構難易度の高い質問をしてくるわりに、授業中はどうも眠っているように見えるし、そうでなければ仕事をしているのかやってこないこともあるし、試験の出来はめちゃくちゃだし、本当に他の部分は分かっているのだろうか?と疑問にも思う公孫讃である。
しかしながら、質問も確かにそこは難しいだろうという点を鋭く突いてくるから、あながち理解していないとも思えない。
もし字を含めて、他の部分を理解しているのであればもっと試験の出来はいいはずだし、わざわざ試験で悪い点をとるはずもないし、と理解に苦しむ。

 街の案内もたまにはしている。
本当に親切な公孫讃だ。

「桃香も仕事ばかりでは気が滅入るであろう。
たまには街に行って羽を伸ばしてきたらどうだ?」
「うーん、でも桃香ちゃん、街に行ってもすることないし、お金もないし……」
「……仕方ない。それでは、今日は私が案内してやろう」
「ほんと?うれしい!」

これがきっかけだった。

「ねえ、白蓮ちゃん!」
「ん?何だ?」
「はい、肉饅!」
「お?ああ、どうも」
「おいしいね!」
「ん?ああ、そうだな。
で、どうしたのだ、これは?」

そこで、話に加わる商店主。

「毎度ありがとうございます、2銭でございます」
「………」

彼女が無給なのは知っていて、多少は奢ってやろうとは思ったものの、ここまで露骨なのはどうなんだろう?と思う公孫讃である。
まあ、私塾にいる間くらいは我慢してやるか、という心の広い公孫讃であった。
……
……
……
心の広かった公孫讃であった。

「白蓮ちゃん!この服ね」
「桃香!いい加減にしろ!!」



 さて、私塾では論語が主に学ばれるが、他の事も授業に出てくる。
例えば孫子。
この時勢、上に立つものはある程度戦略、戦術も把握している必要があるので、現代でも史上最高の戦略書と言われる孫子の兵法術を学ぶこともある。

「兵法一曰度二曰量三曰數四曰稱五曰勝
地生度度生量量生數數生稱稱生勝
故勝兵若以鎰稱銖敗兵若以銖稱鎰

今日はこの言葉について考えて見ましょう。
この言葉の意味するところはなんでしょう。
公孫讃さん、どうですか?」
「はい、
度とは、国土の広さ。
量とは、資源の量。
数とは、人の数の事。
称とは、戦力。
戦力は勝敗を決める。
要するに大きな国が豊富な資源、人材を準備すれば戦力も豊富となり、負けることが無いと言うことです」
「その通りですね。それでは今日はこれについてもう少し詳しく見てみましょう」


 文書に頼らない授業もある。

「みなさんも知っていると思いますが、党錮の禁では竇武、陳蕃が宦官排除を目的に挙兵しましたが、失敗しました。
その結果、清流派の士大夫、党人らはあるものは牢に入れられ、あるものは私のように野に下ってしまいましたが、私たちはいつの日か再度決起し、宦官を駆逐しようと考えています。
今日は、そういう人々について現在分かる範囲で彼、彼女らの状況を説明します。
ここを離れ、彼らに会うことがあったら、彼らに漢を正しくする力を貸してください。
まず、ここ幽州ですが―――」

このような生々しい話は、実際に党錮の禁の被害者である盧植の言葉は重い。
清流派、濁流派それぞれどのような人物がいて、その関係がどうなっているかを事細かに塾生たちに伝えている。
その他、漢の財政状況、各地の人口、産業に加え、各地の豪族、有力者など、普通では知ることのできない情報も伝えている。
それも、塾生たちが漢を徳で治めるための力を得るために必要だと思っての盧植の授業であるのだが、その間も劉備は軒並み睡眠学習をしているか、どこかに失踪しているかのことが多いようである。
果たして、劉備の睡眠学習は効果があがるだろうか?

「だめだよう、白蓮ちゃん。
桃香ちゃんの肉饅だよ、それは……むにゃむにゃ」
「桃香の肉饅など取ってない!
とっとと起きろ!桃香!!」
「……んーー?なにーー?どうして怒っているの?白蓮ちゃん」

睡眠学習の効果は望み薄である。
そんな劉備を見て、盧植は「はぁ」と溜め息をつくのである。

「自ら学習意欲があると言うので期待したのだけど……
期待外れだったかしら」


 そんなある晩のこと、盧植がふと目を覚ます。
何か教室のほうに人気がある気がした盧植は、そちらに足を向ける。
教室から明りが漏れている。

「こんな真夜中に勉強をしている人がいるのかしら?」

怪訝に思った盧植が教室の扉の隙間から中を覗いてみると、桃色の髪の少女が、かなり眠そうではあるが真剣な様子で筆を取っている。

「あれは……劉備?」

だが、その表情は未だかつて見たことが無いほどに真剣なもので、常日頃見ている劉備とは別人のようである。
盧植はそっと扉を開け、中に入り、劉備に声をかける。

「劉備、随分夜遅くまで熱心なことですね。
何をしているのですか?」

劉備は、いきなり声をかけられ相当に慌てふためいたように見える。
そして、その直後、しまった!と言う雰囲気の苦渋の表情を一瞬示した後に、日頃の劉備のなんとも間の抜けた表情に変わる。

「あ!先生、どうしたんですか?こんな夜遅くに」

そういいながらさりげなく書いている途中の木簡を裏返すが、そこに今日の授業で話題になった士大夫の名前と、その居住地が記されていることを盧植は見逃さなかった。
だが、彼女はそれに気づかない様子で劉備に話しかける。

「ちょっと目が覚めたら教室のほうで人気があった気がしたので見に来たのですよ。
どうしたのですか?こんな夜遅くに勉強ですか?」
「えーっと……うん、そうだよ!
桃香ちゃん、あんまり頭がよくないから、少しは勉強しないとって思って字の練習をしていたところ!」
「そうですか。それで、今日の授業で教わった内容を書いて練習していたということなのですね」
「…………そ、そうだよ!」

やはりばれたか、と思った劉備ではあるが、受け答えは特に変えることなく応じている。

「そうですか。それはよいことですね。
昼間教えた内容を寸分違わず記すことができるような劉備であれば、立派な人物になれることでしょう」

暗に劉備の書き記したことを見たと伝える盧植であるが、それと分かっていても対応を変えない劉備は、

「えへへ、桃香ちゃん、そんな立派な人間じゃないから……」

と、答えるのである。
盧植は、劉備の真の気持ちを知りたく、もう少し突っ込んだ質問を返す。

「でも、皇帝になると常日頃公言しているではありませんか」
「うん!それはそうだよ!
桃香ちゃん、皇帝になるの♪」
「でも、この太平の世、皇帝を倒し、新たな皇帝になることは容易なこととは思えませんね」
「……そうかなぁ。そうは思わないんだけどなあ」
「それでは、劉備はどのように思っているのですか?」

劉備は少し躊躇したようだが、意を決したように盧植に答える。

「党錮の禁が起こったり、国に貧民が溢れているような漢は、もうおしまいだと思うんだけどなぁ。
だからね、きっと国を変えようっていう気運が起こってくるの。
桃香ちゃんはね、その気運に乗って新しい皇帝になるの!」

驚愕の眼で劉備を見つめる盧植は、劉備は無能な振りをしてはいるものの、間違いなく傑物の可能性を秘めた人物だと認識する。

「あ、でもね、このことは秘密にしてね。
みんなそんなことを言うと桃香ちゃんを馬鹿にするから」
「そうですね。
でも、私は信じていますよ、劉備なら、きっと立派な皇帝になれると。
劉備が皇帝になったら、私が日頃教えているように徳を以って治世するようにしてもらいたいですね」

それを聞いた劉備の表情に陰りが見え、そして目の輝きがどこまでも暗く沈みこんでしまう。
表情はすぐに元に戻ったものの、目の光は暗いままでこう答える。

「うーんとね、徳は立派なことだと思うんだけど、桃香ちゃんが皇帝になったら最初にすることは別だと思うな」
「そうなのですか?それでは劉備は何が一番大事なことだと思っているのですか?」
「えーっとね、食べられること!」

余りに予想外の答えに、盧植の目が点になる。

「食べられること……ですか?」
「うん、そうだよ!やっぱり、食べることが一番大事だよ!」
「そうかしら?
食べるだけでは、動物と変わりないではないですか」

劉備はがっかりした様子で逆に質問を返す。

「……先生は行き倒れになったことはありますか?」
「行き倒れ……空腹でもう動けなくなって、そのまま死んでしまうことですか?」
「うん、そうだよ」
「さすがに、そういう経験はありませんね」
「そうだよね、普通そうだよね。
桃香ちゃんはね、あるんだ……
あれはね、空腹で行き倒れになるんじゃないんだよ。
空腹でもあそこに行けば食べられるって言う希望……っていうか、執念があると、何とか体が動くんだ。
でもね、もうだめだ、もう疲れたからいいやって思うと、突然体の力が抜けて動けなくなるんだよ。
そうなったらおしまい。
もう二度と体が動かなくなって、そうして行き倒れになっちゃうんだ。
でもね、行き倒れも悪いことばかりじゃないの。
何か、とっても幸せな気持ちになれるの。
桃香ちゃんが子どものころ死んだお母さんが、にっこり笑って桃香ちゃんを抱きしめている感じがしたの。
本当に幸せな気持ちになれるんだよ。
あの時、たまたま通りかかった人が助けてくれなかったら、今頃桃香ちゃん死んでいたと思う」

盧植は余りに凄惨な劉備の過去をただ黙って聞いているだけである。

「それでね、もしも行き倒れになったときに、目の前に徳の大切さを諭してくれる立派な士大夫と、どこかの街を襲って得た食料を与えてくれる盗賊が現れたら、桃香ちゃんは盗賊に感謝する。
だって、ご飯無いと死んじゃうもん。
貧しい人はみんな、ご飯食べることに必死なんだ。
動物みたいだって言われても、とにかく何かたべなくちゃ。
貧しい人たちだってちゃんと働いているんだよ。
でも、痩せた土地であんまり収穫がないのに、税とかいってそれも持っていかれると、残った雑穀はほんの少し。
これじゃあ、食べるだけで精一杯だよ。
動物と同じような生活になるのも仕方ないと思わない?
たくさんあるところから奪いたくなるのも仕方ないと思わない?
桃香ちゃん、思うんだ。
徳を説く人は、結局そんな動物のような生活があるなんて想像もできないような裕福な人たちなんじゃないかって。
徳って結局裕福な人の自己満足に過ぎないんじゃないかって。
だからね、桃香ちゃんは皇帝になるの。
皇帝になって、そんな動物のような悲惨な生活じゃなくて、すべての人が人らしい生活を送れるような、食べ物が豊富な国を造るの!」

盧植は泣いていた。
そして、もはや劉備に言うべき言葉が何も思いつかず、そのまま自室に戻っていった。



[24705] 夜学
Name: みどりん◆0f56c061 ID:81b7701d
Date: 2011/01/22 23:14
夜学

 その後、盧植の劉備に対する応対が変わることは、劉備のお願いがあったためか特に変わることも無く、相変わらず授業中に睡眠学習をしている劉備を見ては溜め息をついているのであるのだが、夜の行動には変化があった。
その夜も劉備は一人復習をしているのか、教室でなにやら書き物をしている。
そこに盧植がそっと入ってきて、声をかける。

「劉備」

だが、来ることを予見していたのか、今日はそれほど驚いた様子も無く、普通に答える劉備である。
木簡も特に隠すことなく曝している。

「あ、先生だ。こんばんは~」
「誰にもあなたのことは話しませんから、私と二人だけのときは素の自分に戻ってはどうですか?」
「んーー、これが普通だよ?」
「はぁ、そうですか。
それでは今のままでいいでしょう」

かなり話しにくそうな盧植である。

「それで、相談があるのだけど、どうでしょう、仕事は止めて他の人と一緒に一日中授業を受けてみては」
「えー?それはとっても嬉しいんだけど、桃香ちゃん、お金がないから……」
「あなたは特別に出世払いと言うことにしましょう」
「だめだよぅ、そんなことは。
みんなお金を払っているのに一人だけお金を払わなくていいなんて許されないよ!」
「でも、私が認めたことですよ?」
「先生がいいって言っても、他の人はいいって思わないもん。
なんで、こんな馬鹿な娘が特別扱いされるんだって、不満に思うもん」

話し方は相変わらずだが、盧植の前ではまじめな応対をするようになった劉備である。
ばれたものは仕方ないという感じなのだろう。

「……そうですね、劉備の言うとおりでした。
私の考えが至りませんでした。
それでは、夜に少しだけお話をしましょうか?」
「お話?」
「ええ。先人がどのようなことを考えてきたか、私が何を考えているか、漢はどうあるべきか、そして劉備が何を考えているのか、そういったことをあなたと話してみたい気持ちになったのです。
あくまでお話ですから授業ではありませんよ」

盧植はそう劉備に微笑みかける。

「うん、それなら!」

劉備もこれには嬉しそうに答えるのであった。
このように、盧植と劉備の深夜の特別授業が始まることになった。

「孫子曰凡用兵之法
全國爲上破國次之
全軍爲上破軍次之
全旅爲上破旅次之
全卒爲上破卒次之
全伍爲上破伍次之
是故百戰百勝非善之善者也
不戰而屈人之兵善之善者也

これは孫子の謀攻篇の冒頭部です。
この箇所は孫子の兵法の基本と言っていいと思いますね。
即ち実際に戦を起こすことなく、相手を降伏させたり同盟を結んだりして自分に利するような成果を得ることが一番重要だということです」
「うん、桃香ちゃんもそう思う」
「劉備はそうやって皇帝になろうと思っているのでしょ?」
「うん、そうだよ!」
「でも、孫子はこの続きもあります。
兵法書というほどですから、兵をどのように動かすかについても記載されています。
相手との諍いがすべて調停で済めばよいのですが、どうしても戦争が起こってしまうこともありますから、そういったときの方法が書いてあるのですが、劉備が兵を動かすとしたらどのようにしますか?」
「うーーん……
桃香ちゃん、たった一人の部下も持ったことがないから想像も出来ないんだけど、多分兵隊さんを扱うのがうまい人に任せると思う」
「なるほど、そうですか。
それもいい考えですね。
実際、謀攻篇の最後の方にもこう記されています。

夫將者國之輔也
輔周則國必強
輔隙則國必弱

これは、将軍が優秀であれば、彼、彼女にすべてを任せ、あまり余計な口出しをしないというものですね。
今の劉備の言葉そのままですが、そのためには君主と将の信頼関係が重要だと説いています」
「信頼関係……」
「ええ。信頼関係は常に気をつけていないと、部下に裏切られたりしますから」
「先生は信頼関係が確実な人はいるんですか?」
「そうですね、何人かは。
この私塾も、その信頼関係をより広げていこうという心積もりもあるのです」
「じゃあ、先生は宦官を倒すときはそういう人と一緒に戦うの?」
「そうですね、そうありたいものですが……」
「?」
「人が多くなってくるとどうしても利害の対立が発生してきて、磐石な信頼関係を保つのは難しいことですね」
「……そうだよねぇ」
「でも、それは敵についても言えることですから、その辺をどうやって切り崩していくかが、敵に勝つ為の重要な用件の一つになっていくでしょう」
「そう……だね。
うん、そうだよね」
「劉備は最初は本当に信頼できる友を数人見つけることから始めることですね」
「うん、わかった♪」


いつも教えられるだけでもない。
時には二人で議論を闘わせることもある。

「劉備が授業を受けた時の論語の一説を覚えていますか?」
「うん、覚えているよ!
子曰爲政以徳譬如北辰居其所而衆星共之
だよね。
為政編っていうくらいだから、為政編の最初だね」
「よく勉強していますね。
孔子は徳こそが治世のために最も重要なことだと繰り返し述べています」
「でも、先生。先生たちがどんなに徳を以って治めていても、結局宦官は自分のために党錮の禁を起こしたんじゃないの?
相手が納得する前に自分が殺されてしまっては意味がないと思うんだけど」
「そうですね、それを言われると苦しいところです。
私も彼等に徳を説いて善政を敷かせる自信はありませんね」
「やっぱり、悪い人は罰しなくては駄目だと思うんだけど」
「それは一面の真理をついているのでしょうね。
孔子も、徳を以って治めるのが理想とは言っていますが、同時に徳を理解できないであろう人間が多くいることも認めています」
「じゃあ、孔子はそのときはどうすればいいって言っているの?」
「それに対する明確な答えはないですね」
「なぁんだ、そうなんだ」
「でも、だからといって論語が読むべき価値がない書物だとは思いませんよ。
やはり長く受け継がれてきている書物だけあります。
読むほどに味わいのある内容が記されていますよ」
「うん、まあ、それは分かるんだけど……」

どうも論語は肌に合わない雰囲気の劉備であった。


 このように、盧植の個人授業は深夜の短い時間ではあるが、毎夜のように続けられた。
時間は短いものの、劉備に必要だと思われる内容を厳選していたので、時間の割りに劉備が身につけたものは多そうである。


 そして、月日は経って、3年後。劉備16歳。
盧植の私塾は通例2年程で卒業するが、劉備の場合、授業を受けていた時間が短かったためか、卒業まで3年の月日を要した。
厳密には、3年かかっても、普通の人が受ける教程のすべてが終わってはいないが、皇帝になるというのが最終目標であるからいつまでもここに残るわけにはいかない。
なので、3年間の修学の後、ここを発って新たな世界を開こうと思ったのだ。
尚、公孫讃は既に卒業して自分の領地に戻っている。

「先生ー!今までありがとうございましたぁ。
桃香ちゃん、少しは頭がよくなったかなぁ?」
「ええ、きっとここで見聞きしたことは劉備の今後の糧となることでしょう」
「よかった。
全然変わらなかったらどうしようって思ってたんだけど。
じゃあ、桃香ちゃん、頑張って皇帝になるね!」
「ええ、劉備なら立派な皇帝になれるでしょう」

劉備はこうして盧植の私塾を後にした。
盧植は、本当に彼女は皇帝になるのかもしれないと思いながら、その後姿を眺めていた。



あとがき

多分、私塾に卒業とかいう概念はなかったのでは、と思いますが、まあ適当な年限で卒業することにしておきました。
事実ではこうでした、というのがありましたらご一報頂ければ幸いです。



[24705] 応援
Name: みどりん◆0f56c061 ID:81b7701d
Date: 2011/01/29 23:43
応援

 劉備が盧植の許を去ったと聞いて、趙雲が戻ってきた。

「久しぶりであるな、桃香殿」
「うん、星ちゃんのおかげでとっても貴重な経験が出来たと思う。
本当にありがとう」
「いやいや、努力したのは桃香殿であるからな、それほど感謝されるほどでもない」
「そんなことないよ。星ちゃんがいなかったら、未だに家で筵を編んでいたと思うもの。
星ちゃんにはどんなに感謝しても感謝しきれるものじゃないよ」
「そこまでいうのであれば……そうだな、感謝の言葉は桃香殿が皇帝になった後に聞くこととしよう。
で、今後どうするのだ?」
「うん、街をまわりながら私を助けてくれる人を探そうと思うの」
「ほう?それは、もう私はお役ご免ということなのだろうか?」
「違うわ。星ちゃんは私の大恩人。
これからもずっと私を助けてもらいたい。
でも、これからは影で私を支えるようにしてもらいたいの」
「影……とは、具体的にはどういうことであるかな?」
「私がやりたいと思うことがうまくいくように、事前に裏工作をするの」
「ほほう…」
「私がどこかに仕官したいと思ったら、事前にそこで私のことをよく思うように工作するとか。
これは私が皇帝になるよりも難しいことかもしれない。
それでも、まじめにやってもそう簡単には皇帝になれそうにないから、より確実に皇帝になれるように裏工作が必要だと思うの。
それを星ちゃんにやってもらいたい。
これを頼めるのは星ちゃんしかいないし、星ちゃんほどの実力の人なら私の期待に応えられると思う。
まだ、私は全然名前が売れていないし、私を知っている人でも私と星ちゃんとの関係を知っている人はほとんどいない。
でも、これから私が名前を売っていこうというときに、星ちゃんが助けてくれると、私と星ちゃんは当然一緒の集団だとみなされてしまう。
そうなったら、もう星ちゃんが私から離れて裏工作をすることができなくなってしまう。
だから、私達が分かれて行動するとしたら、今しかない。
お願い。今後は影から私を支える工作をしてください」
「ふむ……盧植様のところに行った所為か、人をのせるのもうまくなったな。
わかった。元々桃香殿を皇帝にするのが私との約束であったから、そういう希望であればそれに従おう」
「ありがとう、星ちゃん。
それじゃあ、最初に公孫讃のところにいってもらいたいの。
この剣を持って」

と、靖王伝家を渡しながらお願いする。

「ほう?
それは、もしかしたら剣を持ってはいくが誰にも見られてはまずいということであるかな?」

趙雲も興味を惹かれ、にやっと嗤って答える。

「そういうこと。
工作を起こす時期は暗文でお願いするから」
「わかった。期待に応えられるよう、努力いたそう」

趙雲は一人公孫讃の許に向かっていった。



 さて、一人残った劉備であるが、彼女の当面の目標は表の仲間集めである。
が、仲間になる人この指止まれ!と言って仲間がやってくるわけも無く、少なくとも最初はある程度は名前を売り回る必要がある。
といっても、流石に歌を歌うだけでは、名前は売れても有能な仲間がやってくることはなさそうなので、もう少し成果が上がるようなことをしなくてはならない。
ここで役に立つのが盧植の名である。

 劉備は色々な人と話をし、啄郡桃花村という村をターゲットに選ぶ。
この村は辺境にあって再三盗賊に襲われているが、規模が小さいためか、行政がまったくと言ってよいほど対策をおこなっていないところである。
そこに行って村人を助けよう!というわけである。
が、劉備の武は全く大したことはないし、基本頭がそれほどよくない振りをすることにしているので、画期的な戦術を指示することもない。
というわけで、劉備の考えた策は村人に立ち上がってもらうことである。
だいたい、素人の盗賊相手に篭城していたら、そう簡単には村や街は落ちないものだ。
桃花村を襲っている盗賊は、それほど規模が大きくはないことは確認済み。
武器も、剣を振り回す程度で、弓のような高度な武器は持ち合わせていないらしい。
小さな盗賊集団なんてものは、その程度であることが多い。
もっと小さな盗賊集団、というより数人の集まりであれば、街の外を1~2名で歩いているところを襲う程度のこと、即ちゲームの冒頭に出てきた3人組程度のことしかできないが、村を襲うとなるとそれよりは規模が大きな集団である。
それでも、大きな街を狙うほどの大集団ではないので、予想通りであれば村人が撃退することが十分可能なレベルである。
大事なのは村人が一致団結して戦おうという気持ちになること。
頭の悪そうな娘が一人外からやってきて、「みんな、一緒に盗賊に立ち向かおう!」と言っても全く意味がなさそうだが、盧植のところにいたという人間が同じ事をいうと、ちょっと説得力に箔が付く。
そういう点でも、盧植のところで勉強したというのはなかなか意味のあることだったのだ。

 劉備が桃花村にやってくると、そこは何とも陰鬱な雰囲気の村であった。
建物は一部破壊された状態がそのまま放置され、畑の作物も元気が無く、人々の表情にも活気が無い。
このまま廃村になってしまってもおかしくないような雰囲気の村であるが、考えてみれば昔は自分もこんな村に住んでいたと思うような、どこにでもある貧村の一つである。
そこに、劉備がやってきて村人達と話を始める。

「ねえねえ、みんな元気が無いみたいだけど、どうしたの?」

尋ねられた老人はゆっくりと顔を劉備の方に向け、

「ああ、ここんとこ何度も盗賊がやってきては、村を荒らしていくのだ。
悪いことは言わん、お前さんも早くこの村から去ったほうがええ。
盗賊は若い女も攫っていくでな」

と答える。

「えー?!盗賊がやってくるの?
だったら戦って村を守ればいいのに!」
「それが出来るくらいなら苦労せん。
相手は盗賊だ、儂らのようなものが戦って勝てる相手ではねえ」

他の村人たちも劉備のよく通る声につられて二人の会話を聞くために村のあちらこちらから集まってきている。

「そんなことないよ!
だって、盗賊だって元は普通の農民だった人が多いと思うよ!
戦って勝てないなんてこと無いよ!」
「だったらぁ、おめえさんは何か考えでもあるんかね?」

他の村人が劉備に聞いてくる。

「もちろんだよ!
村の守りをしっかりと固めて、敵が入ってくるのを防げばちゃんと村を守ることが出来るよ!」
「本当かぁ?
今までは盗賊たちは俺たちの命までを奪うことはなかったが、そんなことしたら怒って命までも奪っちまうかもしれねえじゃんか」
「そうだそうだ!」
「大丈夫だよ!
盧植先生のところでちゃんと教わってきたんだから!
一番大事なのはみんなが守ろうとする気持ちなんだよ!」
「ほう、盧植先生の……」
「あの盧植先生かえ?」

やはり劉備の読み通り、盧植の名前は効果絶大で、この一言で空気ががらっと変わる。

「うん、そうだよ♪
桃香ちゃん、働きながらだけど、3年もお勉強してきたんだから!」
「で、具体的には何をすりゃいいんだね?お嬢ちゃん」
「簡単だよ。
盗賊だって、普通の農民が変わったような人が殆どなんだから、みんながされると嫌がるような攻撃を相手にもすればいいんだよ!」
「俺らが嫌がること?」
「そうだよ。みんなは壁の中で守られているんだから、みんなのほうが有利なんだよ!
ちょっとくらい弱くったって、みんなが力を合わせれば何とかなるよ。
塀の上から石や土を落としたり、長い棒で追い返したりすれば、盗賊たちもそのうち攻める気がなくなって来なくなるんだよ。
大事なのはみんなが一緒に戦おう!っていう心構えなんだよ。
人数もみんなの方が多いんだし、場所も有利なんだから、後はみんなのやる気だよ!
怯えてばかりじゃだめだよ!立ち上がらなくちゃ!!」

劉備の力強い演説に、村人も何となくそんな気持ちになってくる。

「そうだなぁ、そうだよなぁ。
やられてばかりってのもなぁ」
「んだな。確かに俺たちの方が人数も多いしな」
「やってみれば、何とかなるかもしれんな」
「そうだよ!桃香ちゃんも応援するから、みんなでがんばろうよ!」

こうして、劉備の号令の元、桃花村は盗賊と対峙することになったのである。
劉備も簡単なアドバイスをすることで、村人の支援をする。
ただ、劉備は"応援"するだけ、というところが関与の深さ、というか浅さを示しているのではあるが。

村人達は男も女も体の動くものは盗賊対策のために村の防護の強化を図ったり、簡単な武器を準備したりしていた。
あとは、実際に盗賊を撃退できるかどうかである。

劉備の皇帝への長い長い道のりの第二段階がいよいよ始まる。



あとがき
劉備、単独行動をすることになりました。
うまくいくでしょうか?



[24705] 抵抗
Name: みどりん◆0f56c061 ID:81b7701d
Date: 2011/02/05 23:45
抵抗

 村人の話によれば、盗賊は月に一度の割合で襲ってくるらしい。
村を自分達のための食料庫、兼若干の金庫とでも思っているのだろうか?

そして村人なりに考えて防衛を固め、さらに待つこと10日ほど、見張りが大声で盗賊が来たことを知らせる。

「盗賊がやってきたぞー!!」

村人達は大急ぎで防衛の準備を始める。
もちろん、劉備も大急ぎで村を囲う壁の上に登る。
盗賊たちは村の様子に若干違和感を覚えたようだが、普段同様悠然と村に歩み寄ってくる。

「おーい!どうして門を閉めているのだ!
とっとと門を開けろー!
食料をもらいにきてやったぞーー!」

全く、盗人猛々しいという言葉は彼等にこそ相応しい。
だが、壁の上から盗賊に拒否の意志を伝える者がある。

「だめだよう、人の物を盗ったらいけないよぅ。
自分の物は自分で働いて手に入れなくっちゃ!!」

もちろん、こんな子供っぽい説得を試みるのは劉備である。

「誰だ、おめえ?見かけねえ面だな。
まあ、いい。おめえ、結構可愛いから可愛がってやろう。
とっとと門開けてこっち来い!」
「桃香ちゃんはね、桃香ちゃんだよ!
たまたまこの村に寄ったらね、いっつも盗賊が来て大変だっていうから、一緒にこの村を守ろうって村のみんなとお話したの。
だからね、お願い。もう、村の物を盗らないで帰ってくれない?」

流石の盗賊も、劉備の素直と言えば素直、幼稚と言えば幼稚な意見に目が点になっている。

「……おめえ、アホか?
盗賊が帰ってくださいって言われて帰るわけねえだろ!
ちったぁ頭使え!」
「でもね、でもね、他の人の物を盗るのは悪いことなんだよ。
この村の人だって、苦しくてもいっしょうけんめい働いているんだよ。
だから、そんな人から物を盗るなんて酷いよ!
盗賊さんもこの村の人と一緒に働こうよ。
そうしたら、ちゃんとご飯が食べられるよ?」

劉備の恐ろしさは、話していると何となくやる気が削がれてきてしまう所にある。
盗賊の頭領も、その例に漏れず、何となく攻撃する気が失せそうになってしまうが、これではまずいと思った彼は全員に突撃を指示する。

「う、うるせえ、うるせえ!!
構うこっちゃねえ!全員突撃だ!!」
「お、おぅ……」

だが、やる気が失せるのは他の盗賊だって同じだ。
加えて、まるで小さな子供に「おじさん、いけないよ!」と言われたような気がして、どうにも罪悪感が芽生えてしまった彼等は日頃の残虐さが失われてしまった。
それでも、頭領の命令である、全員が村に殺到するのだが、

「きゃーーー!!みんなーー!一生懸命守ろう!!」

という劉備の声に、村人全員が壁の上から棒のような槍でつっついたり、石や土を落としたりし始めると、明らかに分が悪いと感じて、

「一先ず引き上げるぞ!!」

と、大急ぎで退却していくしかないのであった。

「やったー!!」
「おお!!」

大喜びの村人達。

「よかったね、みんな!」
「俺達でもやりゃあできるんだな!」
「そうだな!これも桃香様のおかげだ」
「そんなことないよ。桃香ちゃんは、みんな頑張って!って言っただけなんだから」
「いやいや、桃香様がそう仰ってくださらなんだったら、今も襲われるだけだった」
「そうだよなぁ」
「でもね、でもね、聞いて。
きっと盗賊たちはまた来ると思うんだ。
そしてね、そしてね、今度は梯子を準備したり、長い棒を持ってきたりするから、今度が本当の戦いになるよ」
「そ、そうなのか……」
「でもね、でもね、みんななら絶対できるよ!
今日も、盗賊をあっという間に撃退したじゃない?
今度は、今日ほど簡単にはいかないと思うけど、やればできるよ!」
「そ、そうだな、そうだよな!」
「ああ、そうじゃ。儂らだってできるんじゃ!」
「そうだよ!みんなならできるよ!絶対だよ!」
「おお、何度やってきても皆で頑張ろう!」
「おおっ!!」

こうして、村人たちは新たな襲撃に備え、再び覇気を高めるのである。


 そして、数日後。

「また、盗賊がやってきたぞー!!」

見張りが盗賊の来襲を知らせる。

「みんなー!今日が本当の戦いだよー!
絶対に勝てるから頑張ろう!!」
「おおっ!!」

「おい、おめえら、今日はこの間みたいにはいかねえからな!
覚悟しろ」

盗賊の頭領が、劉備と話をすることも無く村に突撃を始める。
盗賊の面子も、今回は目が真剣だ。
劉備の言ったとおり、梯子や棒を持って、塀を越す準備もしている。

「かかれーー!!」
「ぅおおおっっ!!」

盗賊たちが一斉に塀に襲い掛かってくる。
襲い掛かる前に、全員耳栓をしたのは、劉備対策であろう。

「みんなー!みんなのほうが数が多いんだから!
何人かで一人を落っことせばいいんだから、落ち着いて攻撃してねっ!」
「任せてくれー!」

村人たちも劉備に励まされて一生懸命に村を守っている。
梯子をかけようとすれば、それを押して上れないようにし、槍で塀の上の村人を襲おうとすれば石や土を落としてそれを防いでいる。
盗賊に弓矢のような飛び道具がなく、盗賊は近接戦で強いので、専守防衛で傍によれない状況では、なかなか攻撃の糸口が得られない。
それでも、盗賊は盗賊で必死である。
食料を盗まなければ自分たちが餓えてしまう。
この村以外の村は、規模が大きく、自分たちでは攻めきれないことを知っている。
街道を歩く商人などを襲っても、得られるものは少なく、これもうまくない。
だから、村を四方八方から村人の隙を突くように攻め、どうにか塀を越そうとしている。

「みんなぁ!盗賊さんが入ってこないように気をつけてーー!!
あ!南の塀が手薄だよう!!」

守るほうの村人も劉備も必死である。
こんなことだったら趙雲を連れてくればよかったかと思う劉備であるが、裏工作の都合、どんなに辛くても村人に頑張ってもらわなくてはならないと思う劉備は、村人を全身全霊の気持ちを込めて激励する。
それに、この程度のことは自分ひとりで何とか対処できなかったら、今後皇帝になるなんて夢のまた夢だから、どんなに辛くても一人で乗り切らなくてはならない。
村人たちのほうも、劉備の激励に応え、また一人でも中に入れてしまっては一気に自分たちの守りが崩れてしまうと言う思いで、頑強に抵抗している。
盗賊たちは、それほどの抵抗があるにもかかわらず、粘り強く村を攻め立てている。
ただ、村人の方も盗賊を殺すほどの決定打は無く、盗賊も未だ塀を乗り越えられない。
双方決め手が無いまま、村人と盗賊の長い攻防戦が続く。
劉備の試練は長く厳しい。


あとがき
まあ、こんな都合のいい村は無いでしょうが……



[24705] 桃花
Name: みどりん◆0f56c061 ID:81b7701d
Date: 2011/02/13 17:44
桃花

 さて、その頃、桃花村から少し離れた路の上。

「や~まがあ~るから 山な~のだ~~
 か~わがあ~るから 川な~のだ~~」

劉備の歌といい勝負の抜けた歌が聞こえている。

「鈴々、たまにはもう少し気の利いた歌は歌えぬものか?」

歌っていたのは真名が鈴々、本名張飛、苦言を呈したのは真名が愛紗、本名が関羽である。

「鈴々は変なのが普通だから、これが普通に変なのだぁ!
鈴々が気の利いた歌を歌ったら、その鈴々は変に普通なのだぁ!」

聞き方によっては哲学的な答えをする張飛であるが、関羽はなんとも困った様子である。
一応、大陸を代表すると言っても過言ではない武将の二人連れなのだが、ほとんど、出来のよい姉と、出来の悪い妹のようにしか見えないのが残念なところである。

「ところで、女の人が騒いでいるみたいなのだぁ。
何をしているのか気になるのだぁ!」
「え?そうか?」

関羽は張飛の言葉に耳を澄ます。

「確かに!
襲われているのかもしれない。急ごう!」
「そうするのだぁ!」

二人は大急ぎで声のするほうに走っていく。


 二人のみた光景は、よく声の通る桃色の髪の少女が塀の上で村人達に檄を飛ばしている状況であった。

「みんなー!みんなも辛いかもしれないけど、盗賊さんも疲れているの!
辛くても頑張ってーーーっ!!」

その村の周囲に盗賊たちが剣や梯子や槍を持って攻め入ろうとしているのが見える。
どちらが悪いかは一目瞭然である。

「鈴々、行くぞ!」
「がってんなのだぁ!!」

盗賊たちは村に入ろうと、四方から攻めていたので、一箇所には数名づつしか配置されていない状態になっていた。
加えて、何刻も村人たちと攻防を繰り返していて、劉備の言うとおり疲労がたまってきていた。
そこに、天下無双の剣の使い手が二人も飛び込んでくる。
勝敗は一瞬で決した。
頭領を含む10人ほどの盗賊があっという間に殺され、他の盗賊たちは即投降を決意したのであった。

「やったー!みんな、やったよ!
みんなが頑張ったんで村を守れたんだよ!!」

劉備は村人たちに自分たちがやった成果を実感させてから、関羽と張飛の元に走りよっていく。

この二人、強い!趙雲を凌ぐのではないか?という程の剣の冴えを見せていた。
もし、この二人が自分に協力してくれたら!
と心の底で思いつつ、それを全く表情には表さないで二人に話しかける。

「ありがとう!村のみんながね、盗賊さんと戦っていたんだけど、盗賊さんも頑張るからみんな疲れてきていたの。
二人が助けてくれたんで、村のみんなが村を守ることができたんだよ!
桃香ちゃん、とっても嬉しい!
ありがとう!本当にありがとう」

と、二人の手をかわるがわる握手しながら謝意を表すのである。

「あなたが、この村の長ですか?」

と、尋ねるのは関羽。

「ううん、違うよ。
桃香ちゃんはね、たまたまこの村に通りかかっただけなんだ。
村のみんなが盗賊に襲われていて困っているっていうから、みんなで力を合わせれば盗賊さんをやっつけられるよ!ってみんなを応援しただけだよ。
村長さんは、あのおじさんだよ!」

紹介された村長が、おずおずと二人の前に歩いてくる。

「此度は誠に我々を助けていただき、感謝の念に堪えません。
本来ならば十分なお礼を差し上げなくてはならないところですが、見ての通りの寒村、加えて昨今盗賊に襲われ続けて、満足な金も食料もありません。
わずかな食料しか差し上げることができないのですが、お礼のほうはそれで承諾していただけますでしょうか?」
「い、いえ。私たちは別にお礼目的で助けたわけではありませんから。
困った人がいれば助けるのが当然。
ですが、食料を頂けると言うのは助かります。
今晩一晩の宿と食事をいただけると助かるのですが」
「ええ、ええ。そのくらいでしたら今の私らで出来る限り盛大におもてなしいたします」

と、関羽は謝礼の件をまとめたのちに、再度劉備に話しかける。
他の村人達は、村長と関羽の話がまとまったので、劉備や関羽、張飛に話しかけたそうだったが、二人が話しているのを見てぞろぞろと散っていった。

「あの、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?
どちらかの軍師様ですか?」

一応、村人をまとめて盗賊を撃退したと言う実績があるので、それなりの人物なのではと相手を立てる関羽である。

「桃香ちゃんはね、桃香ちゃんだよ!」

返ってきたのは、非常に能天気な自己紹介の声。
と、それに即反応したのは張飛。

「鈴々は鈴々なのだぁ!
お姉ちゃんは鈴々と気が合いそうなのだぁ!
鈴々のお姉ちゃんになってもらいたいのだぁ!」
「いいのだぁ!!」

「ちょ、ちょっと鈴々、相手の都合も考えなくては。それにもう少し人物を見極めるべきだろう」、と言おうとした関羽の傍で、物事はあっという間に決まってしまい、そして既に楽しそうに手を取り合っている劉備と張飛。
さすがに同類だけあって惹かれあうものがあったのだろうか。
張飛と劉備が姉妹になることはもう覆すことが出来ない現実となってしまったようだ。
さて、人間社会にはいくつか大事なルールが存在する。
その一つが多数決のルール。
致命的な不都合がなければ、大勢の意見に従うことにしようというものだ。
そして、劉備を義姉妹に入れるかどうかというのを決める案件に賛成2名、未投票1名、というわけで関羽の意思は全く汲み取られること無く、3人が義姉妹になることが決まったのだった。
雰囲気もへったくれもない3人の出会いであった。


 その晩の宴会にて。

「桃香様は劉備という名なのですね、本当は」

関羽と劉備が再び話をしている。
村人達から色々劉備の話を聞いて、意外になかなかの人物なのではという感触を得ての会話である。
どうやら、盧植塾にも通っていたらしいから、それなりの知識も持ち合わせているのだろう。

「うん、そうだよ。
桃香はね、真名だよ」
「そんな、真名を日頃使っていいものなのですか?」
「うーん、確かに真名は大事な物だって思うけど、でもね、でもね、みんなが仲良くなろうと思ったら、大事なものでも教えてあげるくらいの心構えがないと駄目だと思うんだ。
桃香ちゃんはね、大陸のみーんなが仲良く暮らせる世界を作りたいの。
だからね、みんなに桃香ちゃんのことをいっぱいいっぱい知ってもらいたいの。
そして、桃香ちゃんを少しでも信じてくれたら、それから少しづつみんなが仲良くなれる時代を造っていきたいの!!」

関羽は、自分は盗賊を退治するとかいう規模のことしか考えていなかったのに、この劉備は大陸全部が仲良くなれる平和を目指すと言っている。
あまりの器の大きさに、この人物なら自分を任せていいだろうと、劉備の方が年下であるにも関わらず、彼女を姉と慕う決心をしたのであった。


 その翌日。
劉備、関羽、張飛は桃花村を後にして別の村を目指している。

「や~まがあ~るから 山な~のだ~~」
「や~まがあ~るから 山な~のだ~~♪」
「か~わがあ~るから 川な~のだ~~」
「か~わがあ~るから 川な~のだ~~♪
楽しい歌だね、鈴々ちゃん!」
「うん、そうなのだ!
一緒に歌ってくれる人がいて、鈴々もうれしいのだ!」

ちょっと、いや、かなり後悔を始めた関羽であった。



あとがき
あっという間の合流でした。



[24705] 天恵
Name: みどりん◆0f56c061 ID:81b7701d
Date: 2011/02/20 11:24
天恵

 何て運がいいのかしら。
いきなり、こんなに強い武将、それも2名と義姉妹になるなんて。
愛紗ちゃんと鈴々ちゃん。二人が戦ったらどちらが勝つのか分からないけど、二人とも剣の冴えは圧倒的だった。
その辺の素人盗賊相手ではあったけど、数名を一度に相手にしても全くひるむことなく、剣を振るっていた。
その速度は私の目に止まらないほど。
星ちゃんといい勝負なのではないかしら?
もしかしたら、その上をいくかも。
もう、これは私が皇帝になるための天の啓示。
二人は天恵、天からの私への贈り物。
これで私が皇帝にならなかったら、天に申し訳ない。
絶対に皇帝になって見せるわ。

方法は当初考えていたとおり。
まず最初は、あちらこちらで盗賊を倒して、少しづつ名前を上げていく。
それから、名前が売れたところで、あちらこちらの諸侯に寄生して、諸侯同士を潰し合いをさせる。
そして私はどうにか益州に収まって他に対抗できる力をつける。
できれば、途中で武将を拾っていきたいけど、あまり大所帯になると移動も大変だし、他の諸侯に目をつけられてしまうから、益州に収まるまでは必要最低限の武将や兵のみを集めるようにしたほうがいい。

名前を上げるのは私一人でもできると思うけど、今回の桃花村のみんなが盗賊に対抗したように時間をかけなくては成果が上がらないのが問題。
愛紗ちゃんや鈴々ちゃんがいてくれれば、こちらから攻め込むような選択肢もできるから、盗賊退治に要する時間が短くなる。
一回に与える影響は、私一人でやったほうが大きいと思うけど、ある一定期間で考えたら、恐らく愛紗ちゃんや鈴々ちゃんがいてくれたほうがいいと思う。
本当は、頑張って!以外のことを皆に伝えられる人がいれば、より効率的でしょうけど、そこまで期待するのはいくらなんでも欲張りすぎ。
今の二人だけでも、望外の勢力なのだから。
元々は、集める義勇兵は50人か100人くらいを考えていたけど、この二人がいてくれるならその必要は全くないわ。
だって、二人だけで普通の兵、100人分以上の働きをするもの。
だから、人集めは止め。
3人で行動すれば、有名にはなっても諸侯に目を付けられることは少ないから、いい事尽くめ。
あとは、この二人と行動を共にして有名になる行動をとれば、次の作戦の時期が来る。
案外星ちゃんに連絡する時期は早くなるかもしれない。
10年位を考えていたけど、5年、うまくしたら3年くらいで連絡できるかもしれないわ。
星ちゃん、待っててね。

愛紗ちゃん、鈴々ちゃん、二人を騙して、私に尽くしてもらうみたいだけど、許して。
太平の世界を作りたいっていうのは本当だから、きっと二人の望む世界が出来ると思う。
お願い、私に付き合って。


という不穏な考えを全く表情に出さず、今日も劉備は、関羽・張飛と次の村や街を目指して歩いている。

「ねえ、ねえ、鈴々ちゃん。
桃香ちゃんの歌も聞いてくれる?」
「もちろんなのだぁ!」
「じゃあねぇ、歌うね!
愛紗ちゃんと鈴々ちゃんの歌!」


そして、メリーさ○の羊のような歌が始まる。

鈴々ちゃんの蛇矛 蛇矛 蛇矛
鈴々ちゃんの蛇矛 つよい~んだ!

愛紗ちゃんの青龍刀 青龍刀 青龍刀
愛紗ちゃんの青龍刀で やっつけた!


「すごくいいのだあ!
最高なのだあ!」

と、大喜びの張飛の脇で、脂汗をかきながら、口をひくつかせているのは関羽である。

(た、確かに器の大きさは感じるが、感じるが、しかし……
といっても鈴々は気に入っているし……)

葛藤すること仕切りである。


 それでも、街での劉備は街で色々役に立ちそうな話を聞いてくる。

「こんにちわー!」

街に入るなり、その辺の人に声をかけ始める。

「え?あ、ああ。こんにちわ」
「今日はいいお天気だね!」
「ああ、確かに天気はいいが……」
「え?何かお天気がいいと困ったことがあるの?」
「ああ、あまり雨が降らないと農作物が困るでな」
「そうだよね!お野菜は雨が大好きだもんね」
「そうなんだ。それで、畑に水を撒かねばならんのだが、井戸の水を余り使って井戸の水が枯れるとまずいから河に水を汲みに行かなくてはならぬのだが」
「ああ、水を運ぶのが大変なんだね!
だったら、桃香ちゃんが手伝ってあげるよ!」
「え?あ、ああ。それはそれで助かるのだが……」
「どうしたの?まだ困ったことがあるの?」
「最近、盗賊が多くなったと言うことで、それが心配で……」
「なーんだ!そんなこと。
だったら大丈夫だよ!
この、愛紗ちゃんと鈴々ちゃんが守ってくれるよ!
ね♪愛紗ちゃん、鈴々ちゃん!」
「え?あ、ええ、まあ」
「もちろんなのだあ!」

渋々答える関羽と、大喜びで答える張飛である。

「気持ちはとても嬉しいんだが、残念ながらわしらでは十分なお礼も出来ぬし……」
「ああ、それだったら心配いらないよ!
桃香ちゃんたちはね、みんなこの国を良くしたいなぁって思ってあちらこちらを周っているんだよ。
お金が欲しいわけじゃないんだ。
まあ、何にももらえないと桃香ちゃんたちも困っちゃうから、ご飯とかはもらいたいんだけど」
「……それだけでいいのか?」
「うん、いいよ!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。
俺一人じゃ決められねえから、亭長さんに相談してくる」
「分かった!待ってるね!」

と、まあこんな感じであちらこちらの村や街に行っては、関羽や張飛の活躍の場を探し出してくるのである。
そして、わずかばかりの謝礼をもらって仕事をこなす。
村や街に兵がいればいいのだが、どこも盗賊が多く、太守がいるような大規模な街でなければ兵は普通いない。
なので、太守に盗賊の討伐を依頼するのだが、兵の割りに盗賊が多く、頼んでもそう簡単に来てくれるものでもない。
かといって、傭兵を雇うとなると、法外な金を要求されることもあり、それもおいそれと取れる方法ではない。
ということで、劉備一行のような慈善集団は、本当に小さな村や街にとっては救いの神のような存在なのである。


 今日も水を運ぶ村人たちを襲おうとした盗賊を瞬殺してした関羽と張飛、村人たちに感謝されることしきりである。

「いえ、桃香様の約束通り、みなさまをお守りするのが私たちの役目ですから」
「いやいや、そうは仰っても、ほとんどただみたいな支払いでこれだけの仕事をしてくれるなんて、俺たちは大助かりだ」

と、劉備一行の評判が次第に高まっていくのに、二人の活躍は大いに役立っている。

「このまま、ずっとこの村にいてはくださらんか?」

と、村人が頼むのも尤もだ。

「うん、桃香ちゃんもずっとここにいたいんだけど、この辺の盗賊さんはいなくなったみたいだし、他にも困っている人がたくさんいると思うから、桃香ちゃんはみんな助けてあげたいの。
だから、ごめんね、また、盗賊さんがいっぱいこの辺に現れるようになったら、また桃香ちゃんたち戻ってくるから。
でも、そうならないほうがいいと思うんだけど……」

だが、劉備一行はそう言って、村をあとにし、別の村や街を目指すのである。

「……それもそうだな。
いや、今まで本当に世話になった。
ずっと、劉備様や関羽様、張飛様のことは忘れねえ」

村人たちも、そう言って劉備一行を気持ちよく送り出すのである。



 その道中にて。

「桃香様」
「なあに?愛紗ちゃん」
「それにしても、桃香様はよく盗賊に困っている村や街がわかるのですね」
「そんなのたまたまだよ。
それに、今は盗賊さんがいっぱいいっぱいいるから、きっとどこに行っても困っている人がいるよ」

この日照り続きで、井戸の水が少ないところ、それに盗賊の噂が多いところが喫緊に盗賊に困っていないはずがないじゃない!と、考えていても、そんなことは一切表面に出さない劉備である。

「……それも、そうですね。
それにしても、早く盗賊がいない平和な世界を作りたいものですね」
「そうだね。桃香ちゃんも頑張るから、愛紗ちゃんも鈴々ちゃんも応援してね!」
「ええ、もちろんです」
「がってんなのだあ!」

と、とりあえず劉備の行動に理解を示した後に、苦言の一つもいいたくなる関羽である。

「ですが、桃香様」
「なあに?」
「その、謝礼なのですが……もう少し頂いてもよいのではないかと思うのですが」
「うーん、そうだね、そうだよね。
愛紗ちゃん、みんなのお金預かっているから、お金が少ないと困るよね」
「ええ、まあそういうことです」
「でもね、でもね、村の人も苦しいの。
桃香ちゃん、貧しい村にいたから、よくわかるの。
盗賊さんがいなくなるような平和な世の中になったら、みんなゆとりができるから、そうしたらちゃんとお金をくれるようになるよ。
だから、お願い。辛いかもしれないけど、もう少し辛抱して」
「はあ、まあ、なんとかやりくりします」

そう言われると、流石に更なる反論は難しい。
苦しくてもそれを受け入れる信義の人、関羽であった。


あとがき
関羽の苦労は続きます。



[24705] 食堂
Name: みどりん◆0f56c061 ID:81b7701d
Date: 2011/02/25 22:08
食堂

 劉備らの旅は続く。
劉備らの活動も次第に有名になってきた。
村や街を無償に近い額で守ってくれるとあっては、有名にならないほうがおかしいと言うものである。
そして、関羽の苦労もやっぱり続く。
相変わらず収入と支出が拮抗している。

(えーっと、次の街で宿に泊まると、残るお金が…………このくらい?
食費も残らないかもしれない。
ど、どうしよう……)

と、胃をきりきりさせている関羽の脇で、劉備と張飛が一緒に歌を歌っている。


鈴々ちゃんの蛇矛 蛇矛 蛇矛
鈴々ちゃんの蛇矛 つよい~んだ!

鈴々ちゃんが戦った 戦った 戦った
鈴々ちゃんは戦ったら 無双だね

鈴々ちゃんは盗賊を 盗賊を 盗賊を
鈴々ちゃんは盗賊を やっつけた!


張飛のお気に入りのようである。
2、3番が追加されているが、4番、それ以降もあるのだろうか?
で、それを聞いてちょっと二人に小さな殺意を覚える関羽でもある。

「どうしたの?愛紗ちゃん。
顔に皺がよっているよ。
可愛い愛紗ちゃんの顔が台無しだよ」
「そうなのだあ。
愛紗は心配性なのだあ」

ちょっと二人に明らかな殺意を覚える関羽でもある。


 さて、劉備の盗賊探知能力、というか情報収集能力も万全ではない。
まれに外すこともある。
市井の人と話し、盧植の持っていた知識だけから、ここまでの結果を出す劉備は、よくそこまで出来るものだと賞賛をすべきなのであろうが、盗賊がいるのが当然と思っている、思い込まされている関羽にとっては、盗賊がいないということの方が驚きである。

「桃香様、この街は盗賊で困っていることはないということですね」
「そうだね!大陸がみんな、こんな平和な街だといいのにね」

だが、盗賊がいないと、それはそれで困ることが起こる。

「そうですね。
ですが、それはそれで困ったことが……」
「なあに?愛紗ちゃん」
「そろそろ路銀が底を尽きかけてしまってきたのですが」
「そっかー。それは問題だよね。
うーーーん、どうしよっかーーー。
そうだ!お腹が空いているといい考えも出てこないから、とりあえずご飯をいっぱい食べて考えよう!」
「おう!なのだあ」

「ちょ、ちょっと、食べるお金もないのですが……」と言う関羽の言葉は劉備に届くことなく、劉備と張飛の二人はさっさと食堂に入って注文を始めてしまう。

「あの、あのですね、桃香様」
「あ、愛紗ちゃんは何にする?」
「え?あ、それでは点心定食を……って、そうではなくて」
「点心定食一つ追加!あ、餃子もね♪」
「と、桃香様!」
「いっぱい食べてね!愛紗ちゃん、いっつも戦って疲れているもんね♪」
「はあ」
「それでね、それでね―――」

どうにも話すタイミングを逸してしまう関羽である。
そして、支払いの段になると……

「えーーー???お金ないの?」
「え?ええ、何度か話そうとしたのですが」

結局自分も食べてしまった関羽が申し訳なさそうに劉備に伝える。

「ねえ、ねえ、おにいちゃん!」

劉備が食堂のおっさんを捕まえて、交渉を始める。

「なんだ?おにいちゃんなんてなれなれしいやつだな」

だが、言葉とは裏腹にちょっとにたにたした表情である。
劉備に妹キャラは似合わない気がするのだが……。
……あうかも。

「あのね、あのね、桃香ちゃんたち、お金なくなっちゃったの。
それでね、とっても悪いとは思うんだけど、食べた分、このお店で一生懸命働くから、それで許してくれない?」

内容は何とも許せないものであるが、劉備が上目遣い、劉備口調で(一言で言えばエロゲの妹キャラ風)話しかけると、ちょっと断りづらいものがある。
しかも、一応全うな交換条件ではある。

「しかたねえな!じゃあ、今日一日働けばちゃらにしてやろう」
「ありがとう、おにいちゃん!
ついでに、今晩泊めてね!夜まで一生懸命働くから」

と、交渉で食事代と宿泊費をせしめる劉備であった。
ということで、食堂で働くことになった劉備一行である。

「いらっしゃーい!いらっしゃーい!
おいしいご飯はいかがですか~~?」

劉備は表でにこやかに呼び込みをしている。

「お?何か雰囲気が変わったな。
ちょっと入ってみるか」

と、結構呼び込みはうまくいっているようだ。

「注文をいうのだあ!
今日のお薦めは麻婆豆腐定食なのだあ!
激辛がいいのだあ!」

張飛ものりのりでウェイトレスをしている。
そんな二人の影で、

「あの、あの……ご注文はお決まりでしょうか」

死にたい、と思いながらウェイトレスをする関羽もいるのであった。
ただ、その恥ずかしそうな仕草が一部の男性客の心を掴んでいるようでもあったのだが。

「いやあ、よくやってくれた。
おかげで昨日は今までにないくらいの繁盛だった。
これ、ちょっとだけどお給金。受け取ってくれ」
「ありがとう、おにいちゃん!
また、お金がなくなったら働きに来るからね♪」
「ああ、お前さんたちなら、いつでも歓迎だ!」

それを聞いて、二度とごめんだ、と思いたいのは、もちろん関羽である。
が、手にしたお金の重みが、ちょっとその決心を鈍らせているようでもある。

「盗賊を退治するよりお金が多いと思うのは気の所為だろうか?」



 そういうアクシデントは時にはあるが、基本的に関羽、張飛は盗賊退治にあたり、劉備は(傍目、その辺の人と雑談しているだけだが)情報収集にあたるという日々を続けていた。
そして、劉備一行の名は幽州に広く知られるようになってきた。

 そんなある日のこと。
その日も盗賊退治は全く問題なく終わった。
問題はその後だった。
劉備と張飛は「今日は景気良く肉饅を買おう!」「そうなのだあ!」と、屋台に行って大量に肉饅を買い込んでしまっていたのだ。
後からやってきた関羽が、全身怒りでぶるぶる震わせながら代金を支払い、空に近くなった財布を握り締めながら二人に苦言を言い始める。
というより、とうとうぶちきれたようだ。

「ふざけないで下さい!!
いいですか!桃香様、鈴々。
肉饅を買ってはいけないとは言いませんが、なんですか、その量は!
少しはお金のことも考えてください!
だいたい、私たちのお金は―――」

と、二人に説教をし、それを神妙(?)に聞く劉備と張飛が小さくなっているところに客がある。

「あなたが劉備様ですね!」

と、ベレー帽の小柄な少女が、関羽の手をしっかりと握り締めながら関羽に挨拶を始める。

「私は諸葛亮と申します。
真名は朱里、私のことは朱里とお呼びください。
私の師である水鏡先生より、劉備様に仕えてみてはどうかというお話がありました。
劉備様のお噂はあちらこちらでお伺いしました。
大陸の平和を願う劉備様の志に強く賛同いたしました。
是非、この私もご一行に加えてください!」

関羽の目をまっすぐにみて、力強く挨拶をする諸葛亮なのだが、それに対する関羽は、

「あの、すまぬが人違いだ。
私は関羽。劉備様と行動を共にしている士だ。
劉備様はあちらの方だ」

そう申し訳なさそうにいって、今の今まで関羽に怒られていた劉備を指し示す。

「愛紗ちゃん、怖いね」
「そうなのだ。あそこまで怒らなくてもいいのだ」

といいながらも、買った肉饅をむしゃむしゃ食べている二人を見て

「え…………」

と絶句してしまう諸葛亮は、関羽を握る手の力を緩めてしまう。
だが、それと同時に、今度は逆に諸葛亮の手をしっかりと握り返す関羽。
諸葛亮が関羽の顔を見てみれば、目をうるうるさせて(私を見捨てないで)と訴えていた。
諸葛亮が劉備一行に取り込まれてしまった瞬間であった。



[24705] 水鏡
Name: みどりん◆0f56c061 ID:81b7701d
Date: 2011/02/28 22:57
水鏡

 諸葛亮と関羽が出会うより遡ること、約3ヶ月。
司馬徽、字が徳操、号が水鏡で、水鏡先生と呼ばれていることが多い女性のところの話である。
荊州にあり、隠士として暮らしていたが、そんな彼女のところに手紙がある。

「あら?盧植から手紙だわ。珍しいわね。
また、宦官を倒すのに協力しろとかいうのかしら?
いやぁね、全く……」

と、不満そうに手紙を読み始めるが、次第に不満そうな表情は失せ、真剣な表情に変わる。
何度も何度も手紙を読み返し、時折目をそっと袖で拭っている。
手紙を読み終えると、門下生を一人探し出す。

「朱里。朱里はいませんか?」
「は~い。先生、何でしょうか?」

司馬徽は諸葛亮を前に座らせて、話し始める。

「朱里、あなたは随分長くここで研鑽を積み重ねてきました。
そろそろあなたも世に出て、その才能を皆のために使う時期でしょう」
「いえ、先生。私はまだまだ未熟者。
まだまだ先生に教えを乞いたいと思います」
「朱里、気持ちは嬉しいのですが、才能と言うのは世のために使ってこそ初めて意味があるもの。
こんなことを私が言うのもお門違いと言うかもしれませんが、やはり隠遁生活を続けては、才能を伸ばすのにも限界があります。
多くの人々と接することで得られるものも多いものです。
それに、論語の教えは世間のためにあるのです。
ですから、朱里、あなたはそろそろここを出て、漢の現実を見たほうがいい時期でしょう」
「わかりました。先生がそう仰るのでしたらそうしようと思います」
「それで、面白い人物がいるという手紙が盧植より届けられました」
「盧植様ですか?」
「ええ、何でも元は貧農だったようなのですが、志が崇高で、仕えてみると色々な経験ができるのではと書いてありました。
私のところに適当な者がいたら、彼女に仕えさせてみてはどうだろうとあります。
名前は劉備というようです」

と、そこまで話してから、ちょっと間を取って、

「……ちなみに真名は桃香だそうです」

と、続ける。

「そ、そんな軽々しく真名を伝えてよいのでしゅか?」
「何でも自分を呼ぶのに『桃香ちゃん』と言っているらしいので、真名を知らないと本人を探せないかもしれないと言うので、真名も書き記したとのことです」
「……自分のことを『桃香ちゃん』と呼んでいるのですか?」
「そうらしいですよ」
「………」

さすがに、自分のことをちゃん付けで呼ぶ人物はどうなのだろうと思う諸葛亮である。

「先生は、そのような人に、私が仕えてもよいとお考えなのでしょうか?」
「そうですね。何とも判断が難しいところですが、盧植の手紙には民を心底大事にする人物だと書いてありました。
色々問題があるので、無理にとは言わないと書いてありますが、それでも一緒にいれば得るところも多いだろうとあります。
仕えるかどうかは別にして、とりあえずその人物を見てみてはどうでしょうね。
仕えるかどうかは、それから決めればいいことでしょう」
「あの……色々問題があるとは、具体的にはどんなことなんでしょうか」

それは心配ですよねぇ?

「それは記されてはいましたが、あまり細かいことは私の胸の内に留めておいてもらいたいと記されていましたので、言わないことにします」
「……わかりました。
それでは、先生の仰るとおり、まずその劉備様という方にお会いしてみます」

ということがあって、諸葛亮は司馬徽のところをでて、幽州を目指し、一人旅してきた。


 道中、街や村で劉備の噂を聞いてみる。

「劉備様?」
「ええ、何でもここ幽州で最近ご活躍だと伺ったのですが……」
「劉備様……ねえ。
おい?劉備様なんて聞いたことあるか?」
「ほら、あんた、そりゃ桃香ちゃんのことだよ」
「ああ、桃香ちゃんか!
それなら、よう知ってるで。
というより、この村のもんならみんな知っとるわ。
この村でも盗賊退治に協力してくれたからなぁ」
「そうだったんですか。
それで、あの、どのような方なのですか?」
「うーん、そうだなあ。
一言で言うと、儂らに元気をくれる人だな」
「そうだねえ。
桃香ちゃんがいると、村が明るくなる気がするんだよねぇ」
「そうだなあ。
一緒に盗賊をやっつけようっていわれると、できる気がしてくるんだよなぁ」
「そうなんですか」
「そして、本当にできたんだよ!!
俺たちもやれば出来るんだってわかったもんだ」

だいたい、どこで聞いても似たような劉備評である。
これは、意外に大人物なのではないか、というのが諸葛亮の感じた劉備の人物像である。
後は、実際に会ってみてまともそうな人間だったら仕えることにしようと決心した諸葛亮であった。

 そして、とうとう劉備がいると言う街にやってくる。
劉備はどこかと尋ねていくと、一人の黒髪の少女が桃色と赤色の少女を叱責している場面に行き着く。
あの叱責している女性が劉備だろうと判断する諸葛亮。
3人のなかで一番しっかりとした印象の女性。
とても自分のことを『桃香ちゃん』と呼ぶような雰囲気ではないが、みるからに彼女が3人のまとめ役に見えるから、彼女が劉備に違いない。
叱責している様子をみる限りは、一緒にいて元気が出ると言う様子ではないが、普段はおおらかで民の心をしっかりと掴む人物なのだろう。
もっと変な印象を持っていたが、彼女なら仕えても大丈夫だ、と判断した諸葛亮は黒髪の女性のところに自己紹介に向かう。

そして、劉備に対して漠然と抱いていた印象通りの劉備を紹介されたのであった。


「桃香ちゃんが桃香ちゃんだよ!」
「鈴々は鈴々なのだあ!」
「はあ……」

何とも形容しがたい自己紹介の二人に困惑した諸葛亮が、助けを求めるように関羽を見てみると、申し訳なさそうに諸葛亮を眺めているのみである。

「それで、桃香ちゃんと一緒にみんなが仲良くできる大陸を造るのに協力してくれるの?」
「え、ええ。まあ……」
「ありがとう!大歓迎だよ。ね、愛紗ちゃん♪」
「ええ、もちろんです!」

にこにこ顔の関羽である。
だって、自分の仲間、というか同類が増えるのであるから、ストレスも減ろうというものだ。
その間、ずっと諸葛亮が逃げられないよう、手をしっかりと握っている関羽である。

「じゃあね、歓迎の肉饅だよ」
「愛紗も食べるのだあ!」

たら~っと汗をかきながら、差し出された肉饅を受け取る諸葛亮と関羽だ。

「それでね、それでね、どうして桃香ちゃんのところに来ようと思ったの?」
「はい、先ほど関羽様には申し上げたのですが、水鏡先生の推薦があったので、劉備様に仕えてみようと思いました」
「水鏡先生?」
「はい、ご存知ですか?」

水鏡と聞いた劉備は、盧植から聞いた情報を思い出す。

水鏡、本名司馬徽で、今は確か荊州で、隠遁生活を送っていたはず。
でも、学は確かで、盧植先生も賞賛していた。
弟子の有無までは聞かなかったけど、彼女がそうなのだろう。
司馬徽の弟子なら、かなり期待してもいいのでは。
もう、関羽・張飛の武に加え、彼女の智が加わったら磐石。
私は神は信じないけど、こういうときは天に感謝したい。
これで、間違いなく私は皇帝になれる、いえ、ここまでお膳立てをしてもらったのなら、ならなくてはならない。
でも、どうして私のところに来たのかしら?

と考えていることは一切表情に出さずに、

「ううん、全然」

と答え、諸葛亮をちょっとがっかりさせている。

「でも、どうしてその水鏡先生は桃香ちゃんのことを知っていたのかなぁ?」
「何でも盧植様のところから手紙が来たらしいです」
「あ、盧植先生は桃香ちゃんの先生だよ♪」
「ええ、それで水鏡先生のところの誰かが、劉備様に仕えてみてはどうだろうと記してあったようです」
「ふーん。きっと、盧植先生は、桃香ちゃん抜けてるから、しっかりした人を付けてあげようって思ったんだね!
先生、優しいから」

それに違いないと思う諸葛亮と関羽、そしてその影で、盧植に深く感謝する劉備であった。



[24705] 御遣
Name: みどりん◆0f56c061 ID:81b7701d
Date: 2011/03/05 21:33
御遣

 劉備に合流した諸葛亮であるが、やっぱり劉備と行動を共にするのは止める!という選択肢もあったものの、関羽のうるうるした瞳もあったことだし、それに何より一緒に行動していると確かに何か惹かれるものを感じるので、結局劉備と行動を共にすることに決めたのである。
こうして、劉備一行は、

 民衆を奮い立たせる役 劉備
 作戦を考える役 諸葛亮
 民衆を支援する役 関羽・張飛

という役割分担が確立し、今まで以上に効率的に盗賊に対峙することができるようになった。
もちろん、諸葛亮の作戦はそれなりに有効に機能したと言うのも大きい。
劉備は無能な振りをし続ける宿命にあるので、こうしたいと思っても直接それを指示することができず、なんとなく相手がそう動くように考えるよう誘導する必要があり、当然うまく意図が伝わらないことも多いが、諸葛亮はそんな面倒なことをする必要はなく、いきなり作戦を提案することができる。
そして、諸葛亮が考えた作戦が劉備の作戦に相反しなければ、

「すごいね!朱里ちゃん。すごいよ!それならきっとうまくいくよ!!」

と、朱里の作戦にお墨付きを与えれば終わり。
後は諸葛亮と関羽・張飛が何とかしてくれる。
諸葛亮の作戦自体はいい作戦でも、それが劉備の方針と食い違う場合は、

「うーん、朱里ちゃんの作戦はすごいと思うんだけど―――」

と、何となくぴんとこないという雰囲気を伝えると、諸葛亮が別案を考えてくることが多く、結局劉備の方針に物事が進むことが多い。
また、関羽にとってもありがたい出来事があった。
価格交渉を劉備でなく、諸葛亮が行うようになったので、今までのような極貧生活から、中の下くらいにまでには懐具合が改善していった。

 作戦成功に比例して劉備一行の名声も高まっていき、そろそろ次の作戦を始めても良いだろうと劉備は考えるようになった。

 趙雲宛に手紙を書こうと考えているときに、その噂が伝わってきた。

「え?天の御遣い?」
「ええ。何でも袁紹様のところに天から御遣いが光と共に使わされたとか」

その噂を齎したのは、あちらこちらの街を渡り歩く商人だった。

何?それ。
天に認められたのは私だというのに。
関羽・張飛・諸葛亮と言う類まれな逸材を天に使わせてもらったのは、この私だというのに。
この私が皇帝にならなくてはいけないと言うのに。
勝手に天の御遣いとか言いふらされると困るのよ。
言葉は事実に関係なく広まっていってしまうの。
特に、この腐った世の中に救いを齎すような噂は。
しかも、管輅の予言に則った噂とあっては、信憑性も高くなってしまう。
まずい、まずいわ。
どうにかしないと……

と、思っていることは全く表情に出さずに、その商人との会話を続ける劉備。

「ふーん。その天の御遣いさんっていうのは何をしているの?」
「何でも、畑の見回りをしては収穫を上げているとか、新しい酒を作ったとか。
袁紹領の人、全員が毎日お酒を飲むことが出来るとか」
「すごいねえ。お酒ってあんまり飲めないもんね」
「そうなんですよ。しかもその酒がまたうまいのなんの……」
「え?そんなにおいしいの?」
「……という噂なので、残念ながら私も実際に飲んだことがないのですが」
「なぁんだ。ざんねん」
「でも、私にその話をしてくれた奴は、それはそれは絶賛していましたよ」
「ふうん」

彼の話では、袁紹領に天の御遣いというのがいて、農産物の収穫高を上げ、新しい酒も作った、その上その酒を全員が毎日飲めるとか。

「ねえ、朱里ちゃんはどう思う?」
「そうですね。新しいお酒を作ったとか、農産物の収量を上げたという程度でしたら、そういうことがあるかもしれないとは思いますが、そのお酒を毎日全員が飲めるとなると、ちょっと誇張が過ぎますね」
「そうなの?」
「ええ。いくらなんでもそこまで収穫が増えると言うことはありえません。
お酒を作るには大量の穀類が必要になりますから、そんなにお酒を作ったら民が飢えてしまいます。
禁酒令を発している太守もいるほどです。
少し収量が改善したので、それに喜んだ人がそういい始めたのではないでしょうか?」
「そうなんだ。
だったら、天の御遣いさんが来たっていう話は?」
「そうですねえ、恐らく新しいお酒を作ったというのは事実でしょうから、誰かそういう人がいるのは間違いないのでしょうけど、それを利用して袁紹様が自分の名を売ろうとしているという気がしてならないのですが」

そうよね、私もそう思うわ、朱里ちゃん。
一体酒を作るのにどれだけの穀類が必要になるか分かって言っているのかしら、その噂を広めようとしている人は。
もう少し、現実的な噂にすればいいものを。
まあ、希望も混じっているのでしょうね、それだけ大量に食料があればいいという。
それにしても噂の元は袁紹かしら?
もし、袁紹がそういう噂を流しているのなら、彼女も皇帝を狙っているということなのかしら?
どちらにせよ、袁紹は昔の名声と国力で現状を保っているだけだから、敵にはならないと思うけど、その天の御遣いというのには会ってみたいわね。

「だったら、その天の御遣いさんが困っているかもしれないね。
自分がやったことでもないことをみんなが噂して。
桃香ちゃんたちと一緒にみんなが仲良くできる大陸を造ることができればいいのにね♪」
「そ、そうかもしれませんが、まあ、とりあえずその噂は無視しておいていいのではないですか?」
「そうだね。ただの噂だしね」

とはいうものの、天の御遣いの噂は何とかしないとまずいと思ったので、まずはその本人に会ってから対策を考えようと考えた劉備は、趙雲に公孫讃のところで働く手配を整えてもらいたいと言う案件と、袁紹のところにいるという天の御遣いに会いたいと言う案件の二件の依頼をすることにした。


 それから数ヵ月後、別の噂が民衆の間に広まってきていた。
何でも公孫讃が盗賊退治の際、それはそれは立派な宝剣を手に入れたと言うものだ。
それを聞いた劉備は、諸葛亮、関羽、張飛に神妙そうに話を始める。

「あのね、あのね……」
「どうしたのですか?桃香様」

心配そうに尋ねるのは諸葛亮である。

「うん、あのね、桃香ちゃんは中山靖王劉勝の子孫だって話はしたと思うんだけど」
「そんな話聞いたことありません!
どうしてそんな大事なことを黙っていたのですか!
中山靖王劉勝の末裔であれば、もっと人々の関心も惹くことでしょう!
作戦も立てやすくなることでしょう!
これからは、私たちを仲間と信じてもっと色々桃香様のことを教えてください!」

もちろん、そんな話をしたことがあるはずがないので、諸葛亮にしこたま怒られる劉備だが、もちろん、すっとぼけるのである。

「あれ?そうだっけ?ごめんね、朱里ちゃん。
話したとばっかり思っていた」
「それで、話の続きは何なのですか?!」
「うん、それで桃香ちゃんが劉勝の子孫だっていう証の宝剣が家に伝わっていたんだけど」
「けど?……」

嫌な予感がする諸葛亮。

「盗まれちゃった。あはは!」
「あははじゃありましぇん!
どうしてそんな大事なことを黙っていたんでしゅか!」
「……朱里ちゃん、怖い」
「……わかりました。
もう、怒りませんから、話の続きを仰ってください!」
「うん、それでね、それでね、こうちょんさんちゃんが宝剣を手に入れたっていう噂があったじゃない」
「ええ、『こうそんさん』様が宝剣を手に入れたという噂は確かにありますね」
「それでね、それでね、もしかしたらその剣が桃香ちゃんのものじゃないかなあって」
「わかりました。それでは早速公孫讃様の所に伺って確認させてもらうことにいたしましょう」
「さっすが、朱里ちゃん!話が早い!!」

こうして、劉備一行は公孫讃の許へと向かう。


こんなこっといいな で~きた~らいいな
あんな夢こんな夢 いっぱいある~けど~
中国全部 平和にしよう
わたしのともだち かなえてく~れ~る~~
わ~るいやつらを やっつけた~いな~
「ハイ! 愛紗ちゃ~ん!」
アンアンアン とってもか~わい~い 桃香ちゃん

劉勝の末裔 す~ごい~ね桃香ちゃん
皇帝になったら すてきなくら~し~
みんなみんなみ~んな え~がお~でく~らす
わたしのともだち かなえてく~れ~る~~
りっぱなせいじを や~りた~いな~
「ハイ! 朱里ちゃ~ん!」
アンアンアン とってもえ~らい~な 桃香ちゃん


道中、劉備のご機嫌な歌が響き渡っていた。


あとがき
袁紹伝で劉備登場までで15話、桃香ちゃん物語で同じ歌が出てくるまでほとんど同じ14話。
桃香ちゃん物語は袁紹伝よりは短くしたいと思っているのですが……
ちなみに、この辺からは袁紹伝を見ていないと話が通じない場面が出てくるかもしれませんので、申し訳ありませんがそちらも併せてお読みください。



[24705] 規模
Name: みどりん◆0f56c061 ID:81b7701d
Date: 2011/03/15 21:25
規模

 結果的に劉備一行は公孫讃に仕えることとなった。
もちろん、趙雲の口利きの影響が大きい。
その夜、劉備は早速公孫讃に感謝の挨拶に伺う。

「白蓮ちゃん!桃香ちゃんを雇ってくれてありがとう」
「ああ、桃香か。すまぬ、ちょっと今手が離せぬので、またあとで来てくれ」

公孫讃は、昼間の劉備との応対で疲れていたので、体よく劉備を追い返してしまう。

「そうだったんだ。
だったら、星ちゃんにでもお礼を言ってこようっと」
「ああ、そうしてくれ」

そして、怪しまれること無く趙雲の部屋を訪れる劉備。

「星ちゃ~ん、こんばんは~」
「おお、桃香殿ではないか。どうしたのであるかな?」
「うん、白蓮ちゃんのところで雇われることになったので、挨拶をしようと思って」
「そうであるか。まあ、立ち話も何だから中に入っては如何かな?」
「うん、ありがとう!」

と、趙雲の部屋に入り込み、そこで本来の劉備に戻る。

「星ちゃん、ありがとう。
お願いした依頼を全て完全にこなしてくれて。
公孫讃のところには潜り込めたし、明日には天の御遣いにも会えそう。
本当にありがとう」
「いやいや、この程度造作も無いこと。
時期が悪いともう少し待っていただくことになったと思いましたが、時期もよかったですしな。
この程度でよければ、いつでも私を頼ってくだされ」
「ううん、そんなことないわ。
多分、他の人だとこんなにうまく事が運ばなかったと思う。
本当に星ちゃんがいてくれてよかった」
「まあ、そうおだてていただくと悪い気はせぬな。
それにしても、ずいぶんと早くにここを訪れたものであるな。
10年は公孫讃殿に仕えるつもりだったのだが、2年程しかたっていないではないか」
「うん、愛紗ちゃん、鈴々ちゃんという剣士二人に加えて、朱里ちゃんって言うなかなか頭の切れる娘が加わってくれたので、信じられない早さで自分の名前をこの辺に売り込むことができたの」
「そうか。それはよかったな。
確かに、関羽殿、張飛殿、何れも確かな武の才を感じる。
それにしても、もっと兵を潤沢に連れてくるのかと思っていたが」
「うん、最初はそう考えていたんだけど、最終的には益州を目指すから、兵はそこで集めようと思う。
そこにつくまではあまり兵が多いと、移動の制約にもなるし、それに兵を集めてしまうと諸侯の注目を集めてしまうから、愛紗ちゃん、鈴々ちゃん、朱里ちゃんと言う精鋭が揃った今、当面は4人だけで行動しようと思うの」
「なるほど、相分かった。
それでは、私はこれからも桃香殿の先回りをして、隠密裏に作戦を進めることといたそう」
「お願いします」

と、ここに来るまでの報告をざっとしてから、今後のことについて話題を変える。

「それで、その天の御遣いなんだけど、何か情報はある?」
「すまぬが、それは余り持ってはおらぬ。
日頃、軍と行動を共にしているのであまり市井の噂を聞くことも直接確認に行くことも出来ぬので、恐らく桃香殿が持っている情報と大差あるまい」
「そう。そうよね、ごめんなさい。何でも頼ってしまって。
それにしても、領民が全員酒を飲めるなんて大法螺の噂を広めるなんて、袁紹も何を考えているのかしら?」
「いや、全員酒を飲めるのは誇張でもないらしい。
少なくとも20万と言われる兵は全員毎日飲めるだけの量を生産しているらしい」
「………え?」

絶句する劉備。

「まあ、私も公孫讃軍の兵から聞いた話なので、ただの噂だといわれればそうかもしれぬのだが、何人も同じことを言っているのであながち嘘とも思えぬ。
明日になれば分かることだ。自分の目と耳で確認してはどうだろうか?」
「うん、そうする」


 そして、翌日。
劉備、公孫讃らは公孫讃自慢の白馬に乗って袁紹領を目指している。

「白蓮ちゃん、かっこいいお馬さんだね!」
「そうだろ、そうだろ。私の自慢の馬たちだ」

これは誉められて嬉しそうな公孫讃である。

「桃香の乗っている馬はな、名前が」
「まんぼんごんぎょう!」
「違うわ!!」

一転して不機嫌な表情に変わる公孫讃である。
ちなみに、かきゃくせんまんぎょんぼんごうは船の名前であり、馬の名前ではないということが知られている。


ということが道中あったが、基本、順調に袁紹領に入っていく。
そこで劉備の見たものは、圧倒的な規模の緑の海。
劉備はその風景を愕然とし、震えながら眺めている。


何?どうして?何が起こったの?
ありえない。
こんな風景、ありえない。
見渡す限りの緑の海。
それも、粟や稗といった雑穀でななくて、間違いなく麦の畑。
それがこんな大規模に広がっている。
私が今まで見た畑とは桁が違う。
この畑に比べたら、私が耕していた畑なんか誤差みたいなもの。
私が一生懸命荒地を耕していたという行為は、一体何のため?遊び?と言う程に、この畑の所有者から見たら意味のない行為に見えることでしょう。
それほどに圧倒的。
私が夢見た風景がここにある。
民がみんな安心して食べていける世界!
確かに、収量があがったという噂は本当でしょう。
だって、規模がちがいすぎるもの。
これだけの畑があって収量が増えていないはずがない。
これなら、全員が酒を毎日飲めるというのも誇張じゃなさそう。
これだけの仕事をした人間が天の御遣いと言われるのももっとも。

でも、何で?
私が天に認められた人間じゃなかったの?
どうして、天の御遣いが袁紹のところにいるの?
愛紗ちゃん、鈴々ちゃんという天下無双の剣士を得、朱里ちゃんと言う秀才を抱え、そのうえ星ちゃんのような鬼才に恵まれた私の立場は何?
彼が天の御遣いだとしたら、私の意味はなんなの?
私は何をすればいいの?
みんなを連れて天の御遣いの許に向かって、私達が配下になればいいの?

そんなこと出来ない。
今まで無力な私を信じて、……信じようとしてついてきたみんなに申し訳が立たない。
無能な私を見限ることなく、盛り立ててきてくれたみんなを裏切るようなことはできない。
そして、そんな逸材を私の許に遣わせてくれた天に申し訳ない。
だったら、どうすれば……

噂を消すのは無理。
だって、事実だから。
だったら、噂の元を消す?
それもできない。
彼は天の御遣いといわれるほどの人物。
今の、そしてこれからの大陸にはきっと必要な人物。
彼がいなかったら、こんなに豊かな生活は出来ないに違いない。
だから、彼に退場してもらうというのも、とりうる手段ではない。
私が皇帝になったとしても、自分や朱里ちゃんの力でこれだけの畑を作らせるのはとても無理。
彼の力無しには、これほど豊かな国ができない。
どんなに私達が頑張っても、結果としてこれほどに豊かな国が出来ることを造ることが出来ないと、この豊かさを知っている人々から不満が出るのは必至。
だって、私が出来そうなのは、10の収穫のうち、今まで半分を税として取っていたのを2割とか3割に減らすことくらいしかできないから。
そうすると、民の収入は今まで5だったものが7や8に増える。
この豊かさを知らなければそれでも満足するのでしょうけど、これは10の収穫を100や1000に増やそうとする劇的な変化。
そうなると、仮に7割をも税として取ってしまっても民に残るのは30とか300とか。
7や8と比べてどちらが魅力的かは一目瞭然。
だから、どうにか彼を味方に引き入れないと。
と言っても、現状維持では未来は袁紹のものになるに違いないから、どうにかしないといけないのだけど……。
その天の御遣いが私に協力してくれればいいのだけど、流石にそううまくはいくことはないでしょうね。
いずれにしても、その天の御遣いという人にあってみなくては。


そんなことを一刀によって圧倒的な規模にまで育て上げられていた麦畑をみて考えている劉備に、諸葛亮が声をかける。

「桃香様!この麦畑はすごいです!!
こんな大規模な畑、未だかつて見たことがありましぇん!!
これなら、領民全員が毎日お酒を飲めるというのも、あながち冗談じゃないかもしれませんね」
「そうね……」
「え?」

普段と違う雰囲気の劉備に思わず麦畑から劉備に視線を移す諸葛亮。

「え?あ、そうだね!うん、桃香ちゃんもそう思うよ。
桃香ちゃんが昔耕していた畑はね、こんなにちっちゃかったんだよ」

畑の規模は、劉備をして思わず一瞬地を出させてしまう程であったが、そこは劉備、すぐに普段の桃香ちゃんに軌道修正する。
諸葛亮も、きっと錯覚だろうと一瞬感じた劉備の違和感を追及することはないのだった。



おまけ
劉備が趙雲の部屋に入っていくのを知った公孫讃と趙雲の会話。

「星」
「なんであるかな?白蓮殿」
「星はよく桃香と話していておかしくならないな」
「ああ、桃香殿とまじめに話すと頭が変な方向にねじ曲がっていくので、できるだけ空にするようにしているのだ。
そうすると、その後熟睡できてよい」
「星、お前は偉大だよ!」



[24705] 歓待
Name: みどりん◆0f56c061 ID:81b7701d
Date: 2011/03/20 16:20
歓待

 それから、袁紹のところで色々あって、結果的に宝剣を取り戻すことに成功し、尚且つ一晩の宿を借りることにも成功した劉備たちであった。

 その晩、劉備一行は袁紹の歓待(?)を受けている。
劉備の横に座ったのは審配。真名が樹梨亜那というほどなので、どのような人物かは分かろうというものである。
ちなみに、反対の隣は関羽であるから、袁紹側の情報を聞き出そうとすると、審配に尋ねるしか手がない。


(うわー!この人すごい服。
 ほとんど裸にみえるんだけど、恥ずかしくないのかしら?
 でも、情報はこの人から聞きださないと)


と、琥珀色の液体を既に飲み始めていてちょっとご機嫌な審配に話しかける。

「んーとね、桃香ちゃんは桃香ちゃんだよ!」
「そうなの。桃香ちゃんは桃香ちゃんなのね。
私は樹梨ちゃんよ」

もう、審配酔っているのだろうか?

「ふーん、樹梨ちゃんっていうんだ!よろしくね」
「ええ、よろしくね」
「樹梨ちゃんが飲んでいる、それなあに?」
「ああ、これね?これはビールよ」
「ビール?あ!聞いたことあるかも!
確か、天の御遣いさんが作った新しいお酒があるって」
「あ、よく知ってるわね」
「うん、その話は有名だもん。
それに、領民みんなが毎日飲むことが出来るんだって!」
「んー、ここにいる皆は毎日飲めるけど、領民みんなが毎日は厳しいかもね」
「なあんだ、ただの噂だったんだ、お酒が一杯できるっていうのは」
「でも、兵士は全員毎日飲めて、それでも余った分が市場に流れているから、まあ大外れでもないんじゃないの?
領民だって、毎日飲みたいわけでもないでしょうから、大体飲みたいと思ったときには飲めるんじゃないのかしら」

(兵士全員が毎日酒を飲めるのは本当なのね。
 それに、領民も飢えている雰囲気がなかったから、それだけ作っても食べる分に事欠くことはないということね。
 すごいわ。すごすぎるわ。
 本当に、私の目指す世界が既にここにある。
 どうにか未来を変えなくては)

「ふーん、そうなんだ」
「まあ、桃香ちゃんも喋ってばかりじゃなく、飲んでみてはどう?」
「うん、そうする♪」

(これが、新しい酒ね。
 薄い琥珀色で……泡がある変わった酒ね。
 味は……!苦い……苦いけど……お、おいしい。
 コクがあるっていうのかしら?こんな飲み物初めて飲んだわ。
 それでいて、口の中ではじける感じがさわやか。
 これは、一度飲んだら、昔の白酒には戻れないわ。
 もしかしたら、このビールっていうのは今後の将来を決めるのに、結構重要な役割をするかもしれない)

と、ビールを評して、

「おいしいね!うん、すごくおいしい」

と、何気ない様子で審配に答える劉備は、天の御遣いに話題を振ろうとする。

「そうでしょ、そうでしょ」
「このお酒作った人、天才だよ!」
「あはは、そうね。おーい、一刀くーん、天才だって誉めてくれてるよ、桃香ちゃんが」

審配は、そういいながら末席に一人離れて座っている男に声をかける。
このとき、一刀は諸般の理由(一言で言うと肥料問題)により他の人々と距離をとられていた。

「はいはい、ありがとうございます」

一刀はぶすっとした様子で審配に答えている。

(あれが天の御遣い?
 普通の男じゃない。
 どうして、あんな末席、しかも離れたところに座っているのかしら?
 冷遇されているのかしら?
 だったら、袁紹の許を離れて私のところに来てくれるというのも、無理な相談でもないのかも)

「え?もしかしたら、あの人が天の御遣いって言われている人?」
「ええ、そうよ。良く知ってるわね」
「うん、だって天の御遣いって人が新しいおいしいお酒を作ったってみんな言ってたもん。
でも、なんであんな端っこに座っているの?」
「え?………その話は今はなし。
おいしいお酒がまずくなっちゃうから。
他の話をしましょう」

(……何があるのかしら?
 気になる。気になるわ)

ということで、その後も色々と審配から聞き出し、一刀情報以外はほぼ納得のいく情報は得たのであるが、残念ながら一刀に関する情報はあまり聞き出すことができなかった劉備であった。


 その晩、劉備は宛がわれた部屋の中をうろうろしている。

(噂は大体真実だということは確認したわね。
 そして、桁違いの収穫があることもわかった。
 何で、そんなに収穫を上げられるの?
 元々袁紹領は富裕だったはずだけど、彼が来て収穫は桁で上がったとか。
 たった一人の力でそこまで変わるものなの?
 欲しい。欲しいわ、彼のその能力が。
 欲しいというより、必須。
 彼が他の諸侯についていたら、そこが天下を取るに違いないから。
 彼の存在が民を豊かにするのだから、民衆の強い支持ができるのは必然。
 彼無しで天下を統一しても、今の袁紹領ほどの豊かさが実現できないから。
 だから、事前に味方につけるか、これが一番いいけど、出来なかったら次善の策としては一刀がいるところを滅ぼして部下とする。
 でも、彼のことはほとんど聞けなかったから、どうにか彼のことを調べたいのだけど……
 嫌われている様子ではないのだけど、距離はとられているのよね。
 何なのかしら?
 他の人もあまり話したがらない様子だったし。
 荀諶とかいう人は、『糞野郎!』って罵っていたし。
 収穫を上げた方法も、知ってはいそうなのに天の御遣いがやったことだから良く知らないと言っているし)

まさか、その糞野郎という言葉が距離をとられている原因を端的に示している言葉だとは知る由もない劉備である。

(それから、気になったのは袁紹陣営の雰囲気。
 袁紹は人をまとめる才覚がなく、部下はお互いにいがみ合っているって星ちゃんが言っていたけど、まるでそんな雰囲気はなくて、全員が一丸となっている感じ。
 唯一距離を置かれているのが天の御遣いってどういうこと?
 全くわからないわ。
 確認するにしても、袁紹の臣将の許に私が向かうわけにもいかないし……
 出来れば、あの天の御遣いとどうにか接点を持ちたいのだけど、何か方法はあるのかしら?
 直接話す機会もなかったし、他の人伝手でも接触が難しそうだったし。
 街の人に話を聞くにしても、明朝には帰らなくてはならないのだから、時間がない、時間がないわ。
 困ったわ、困ったわ……)

と、悩んでいると、部屋の前を人が通る気配がある。
誰かしら?と訝しがりながら戸の外をそっと見てみれば、今まさに考えていた天の御遣いその人。
何をするのか見ていると、一刀は関羽の部屋に入っていく。

(愛紗ちゃんに何の用かしら?)

と、様子を伺い続けると、今度は、一刀が入ったのを確認して袁紹臣下らしい女性達がぞろぞろと関羽と天の御遣いのいる部屋の前に集まってくる。
一刀の様子を伺っているようだ。

(なんだ、天の御遣いって、距離はとられているけど、愛されているんじゃない。
 簡単には引き抜けないわね。
 どうしようかしら?
 でも、これで愛紗ちゃんと接点が出来たことは間違いないから、何か作戦を考えて愛紗ちゃんにお願いすることにしましょう)

それから暫くすると、関羽の泣き声が聞こえてくる。
それも、さめざめと泣く感じでなくて、わんわん泣いている泣き声。
これにはさすがにちょっと笑顔がひくつく劉備。

(……愛紗ちゃん、あんなに泣いている。
 ちょ、ちょっと苦労かけすぎてしまったかしら?
 ごめんね、愛紗ちゃん。
 だって、だって、愛紗ちゃん頼りになるから、つい色々やってもらいたくなっちゃって。
 でも、そんなに苦労しているんだったら、もう少しお願いを減らすわね。
 我侭もあんまり言わないようにするわね。
 お金ももう少し考えるようにするわね。
 今では朱里ちゃんもいることだし。
 本当にごめんね)

と、思いながら更に様子を見ていると、関羽の泣き声もようやく止み、静かになる。
だがしかし、天の御遣いが部屋から出てくる気配が全くない。
どうして?と思っていたらそのうちに別の声、それも悩ましい種類の声が聞こえてくる。
同時に、劉備の顔も真っ赤になっていく。

(ちょ、ちょっとちょっと、あああ愛紗ちゃん。いきなり?いきなりなの?
 今さっきあったばっかりの男だよ?
 いいの?
 愛紗ちゃんの初めてをあげる男の人が、会ったばっかりの人でいいの?
 ま、まあ本人たちの合意だから、止めはしないけど)

視線を部屋の前に屯(たむろ)している女性達に向ければ、特に2名ほどが怒りで狂わんばかりである。
嫉妬の様相を示しているのは明らかだ。
あとほんの少し、怒りのレベルが上がったら、扉を蹴破り、乱入してしまいそうである。

(愛紗ちゃん、やっぱりごめんね。
 もっともっと愛紗ちゃんに頑張ってもらわないと。
 今のところ、愛紗ちゃんだけが頼りなの。
 それに、恋する女は何があっても狙った男をしっかりと捕まえなくちゃ。
 恋敵もいることだし、愛紗ちゃんも燃えるでしょ?
 頑張って!
 応援するから…………
 ………
 ………
 って、あの男のところに行っちゃったりしないわよね?
 ちゃんと私のところに戻ってきてくれるわよね?ね?
 愛紗ちゃん、ごめんなさい、私が悪かったです。
 戻ってきてください!)

そんなことを考えながら関羽の喘ぎ声を子守唄に、ちょっと、いやかなり不安を覚えながら眠りにつく劉備であった。


 翌朝、劉備ら一行は帰途にある。

「愛紗ちゃん、何か疲れているんじゃないの?」

目の下に隈を作っている関羽に劉備が声をかけている。

「ちょっと、顔良さんとの試合に疲れて」

と、答える関羽ではあるのだが……

「朱里ちゃんも疲れたの?」
「いえ、昨日のお料理のことを考えていたら眠れなくなってしまって」
「お顔も赤いわよ」
「きっとお酒の所為でしゅ」

(愛紗ちゃん、いくらなんでもやりすぎ!
 ほとんど寝てないんじゃないの?
 明け方、ちょっと目が覚めたときも、まだ喘ぎ声がした気がしたのは気の所為?
 まあ、初めてで気持ちよくなって昂奮するのはわかるけど。
 朱里ちゃんだって白蓮ちゃんだって私だって、とばっちりで寝不足よ!
 鈴々ちゃんは、良く寝てたみたいだけど。
 今度から、もう少し声は抑えてね!
 まったくもう、あんなににこにこしちゃって。
 肌だってつやつや。
 それに、何か昨日より色っぽい。
 でも………戻ってきてくれて本当によかった。
 本当によかった。
 ありがとう、愛紗ちゃん、私を信じてくれて。
 早く、一刀ちゃんを引き込んでね♪
 私も出来るだけ協力するから!
 そうしたら、毎日気持ちよくなれるわよ。
 お願いね!)

みんなにばればれである。

平和な日であった。



あとがき
この辺から袁紹伝を読んでいないと意味が通じない点が多く出てきてしまうと思います。
単独で読める作品……とも考えたのですが、ちょっと力量不足です。
申し訳ありません。



[24705] 葛藤
Name: みどりん◆0f56c061 ID:81b7701d
Date: 2011/03/25 22:21
葛藤

 公孫讃の治める土地に戻った劉備ら一行であるが、当面は公孫讃の客将として働くことになる。
そして、劉備は次の行動を起こす時期を探る日々を送る。


とりあえず、袁紹への顔見世は終わったわ。
これで、私は鬱陶しい女と認識されたはず。
そして、我侭を言い続けて、最終的に白蓮ちゃんを私のところに追い出してもらいたいのだけど……
だから、私は白蓮ちゃんのところに寄生して、時機を見て他に移る。
そうして、白蓮ちゃんの逃げ場を作ってから袁紹を焚きつける。
………はあ。
こうやって、自分のやろうとしていることを客観的に見ると、全く外道ね。
最低の人間だわ。
でも、私がどんなに恨まれても、今の悲惨な政を行っている漢を倒して、新しい国を造らなくては。
それにしても………そんな私の目指す国の形が既に袁紹領に出来つつあるこの状態って、どういうことなのかしら?
本当に私は天に選ばれた人間なのかしら?


と、民が餓えない国を造る方法に葛藤すること仕切りの劉備であるが、それでも、


まあ、それでも誰かがやらないと。
今の、この漢を倒すことを。
天の御遣いが袁紹のところにいたら、袁紹の統率の元、漢が復活してしまうかもしれない。
そんな生ぬるいことは許せない。
漢は今の民がこれだけ苦しんでいることの責任を取らなくては。
天の御遣いが食料調達をしてくれたからといって、今までの悪政はなかったことに出来るはずがないもの。


と、漢を倒す決意は忘れないのである。
一方で、趙雲に自分の感じた違和感を相談している。

「何ですと?袁紹殿の部下が一丸となっていたですと?」
「うん、何かそんな印象があったわ」
「ふーむ、桃香殿がそう感じるというのであればそうなのであろうが……何があったのであろうな?
一度調べてみる必要がありそうであるな」
「お願いします」


 そうこうしているうちに、劉備にとっては最高の、漢や民にとっては最低の事件が勃発する。
後に黄巾の乱といわれる民衆の暴動である。

「何進様の治める地で暴動が勃発した。
何進様は逆賊たちに殺され、何進様を守る兵も殺されてしまったらしい。
そして、その暴動が各地に広まり、大規模な暴動に発展してしまった。
だが、暴動の勢いが強く、それを鎮めようとする兵が逆にやられてしまっている状況らしい。
漢もとうとう暴動を鎮めるよう、官軍を動かすことになった。
そして、各地の太守にもそれに協力するよう要請があった。
幸か不幸か、我々は暴動の起こったさなかにある。
だから、我々もその暴徒の鎮圧に乗り出すことにする。
皆の奮起を期待する」

と、部下を相手に決起の挨拶を行っているのは公孫讃である。
ほとんど全員がそれに頷いているのだが、一人疑問をはさむものがいる。
もちろん、劉備である。

「ねえねえ、白蓮ちゃん」
「何だ?」
「鎮圧って、みんな殺しちゃうの?」
「……まあ、そうなるだろうな。
相手は逆賊、殺されても仕方あるまい」
「だめだよ、そんなの!
みんな今まで辛い生活を強いられていたのが、とうとう我慢できなくなっちゃっただけなんだよ!
それなのに、辛い生活を強いていた人ばかりを守って、みんなを殺してしまうなんて酷すぎるよ!」
「桃香、お前の言い分も尤もだ。
だが、相手はもう暴徒化している。
他に手はないだろう」
「そんなことないよ!
みんなに、仲良くしようって言ったら、また仲良く暮らすことができるよ!」
「その程度では暴徒の気持ちは変わるまい」
「ううん、心から訴えたら絶対みんな聞いてくれるよ!
だから、お願い!桃香ちゃんがみんなとお話してくるから、それまで待ってて!!」
「まあ、桃香が行くというなら、一度くらいは様子を見るが……」

ということで、黄巾党の説得に一人向かうことになった劉備である。


白蓮ちゃん、やっぱり白蓮ちゃんも皇帝の家臣なのね。
いくら皇帝の命とはいえ、そんなに簡単に民を殺す決断を下すなんて。
白蓮ちゃんの将としての能力は高く評価するけど、そういうところは許せない。
ねえ、一体民がどれだけ悲惨な暮らしをしてきたか知っているの?
あれは、片足を地獄に突っ込みながら暮らしているようなものなのよ。
足りない食料、暴れる盗賊、無理難題を押し付ける役人。
白蓮ちゃんは虫の幼虫を食べたことある?
あれはね、最初は泣きたくなってくるのよ。
なんで、こんなものを食べなくちゃなんないの?って。
それでね、暫くたって虫をおいしいって思える自分に、また泣けてくるのよ。
白蓮ちゃんは家の戸棚で盗賊に怯えた経験がある?
ないでしょうね、公孫家ほどの名家だったら。
盗賊を成敗する立場の人間が襲われるなんてないでしょうからね。
でも、だったらどうして民を守ってくれないの?
守ってくれない官を信頼できなくなるのも当然でしょ?
守ってくれるどころか、嬉々として搾取したのよ、私の住んでいた村の役人は。
税を納める必要性はわかるけど、あんなにとられたらやってられないわ。
そのうえ、役人の家の改築に協力しろって、本当にやるべき仕事なの?
それから、土木工事って本当にあんなに辛い作業なの?
死人が数多く出る工事って、ちょっと変だと思わない?
全部漢王朝がしっかりしないのが原因じゃない!
今では皇帝やその取り巻きが率先して贅沢をし、民から搾取をし、そして政を省みない。
漢王朝がしっかりしてくれたら、食料ももっと潤沢にあったろうし、盗賊も少なくなるだろうし、何より役人をしっかり管理すれば贅沢三昧の役人は減るでしょうに!
私だってここにいなければ暴動に参加したわよ。
だって、暴動をおこしてもおこさなくても地獄なんだったら、将来に少しでも希望が持てる地獄の方がまだましだから。
だというのに、そんな無能な皇帝の命を金科玉条のように敬って、暴動の背景を考えることもなく鎮圧に乗り出すなんて。
でも、きっと他の諸侯もそうなのでしょうね。
みんな裕福で、貧民の辛さなんかこれっぽっちも理解していないんでしょうね。
民は、無尽蔵にある労働力、収入源くらいにしか思っていないんでしょうね。
だから、やっぱり私が皇帝にならないと。
私が皇帝になって、真に民のことを思う国を造らないと。


と、決意を新たにして、当面の問題に向き合う。


で、将来のことも大事だけど、とりあえずは目の前の問題を片付けないと。
暴徒達は冀州や幽州の民。
そうよね、暴動を起こしたくなる気持ちはよく分かるわ。
だからこそ、私が説得すれば聞いてくれる。
今まで私が無償に近い報酬で盗賊を退治してきた結果が、今こそ得られる。
そう、私ならできる!私ならできる!


半ば自己暗示をかけるようにして、劉備は黄巾党の暴徒たちの前に一人向かっていく。


 劉備の目の前には数千人規模と見られる暴徒達が集まっている。
劉備の周りには誰もいない。
関羽も張飛も味方は遥か後方にいて、今劉備が襲われたら、武の才能に見るべきものがない劉備ではひとたまりもなくやられてしまうことだろう。
そんな背水の舞台に立って劉備は黄巾党に説得を始める。

「みんなーーーー!!」

劉備は大声で黄巾党に話しかける。
黄巾党は、いきなり現れた少女に、その進行をぴたりと止める。

「なかよくしようーーーーー!!!」

そして、呼びかけられた黄巾党が、なんとも間の抜けた声を発した少女を眺めている。

「もう、これからは白蓮ちゃんがこの辺を治めるから、今までみたいに辛い生活はしなくてすむよ!
だから、お願ーい。桃香ちゃんを信じて乱暴するのは止めて!!」

それを聞いた黄巾党の中で、ざわめきが起こってくる。

「桃香ちゃん」
「桃香ちゃんだ」
「ああ、桃香ちゃんだ」
「本当に、桃香ちゃんだな」

ここで黄巾党になっている民は、元は幽州の貧民である。
そして、幽州の貧民とは、即ち今まで劉備一行が盗賊から守っていた人々である。
劉備と共に過ごしたことのない民も少なくはないが、それでも劉備、というか桃香ちゃんの名前くらいは知っている者の方が多い。
劉備は彼等には圧倒的な支持がある。
黄巾党の戦意が急速に冷めていくのを劉備は実感する。
黄巾党の民達は、今まで張り詰めていた緊張が急に解け、そして救いを求めるように劉備の傍に集まってくる。

「桃香ちゃん、本当に俺らを助けてくれるのか?」
「もう、辛い生活をしなくていいって本当なのか?」
「うん!もちろんだよ。
桃香ちゃんも分かるよ!みんなが辛い生活していたことを。
だって、桃香ちゃんもそうだったもん。
桃香ちゃんもずっと辛い生活だったもん。
全然ご飯はないしさ、働いてもお金は入ってこないしさ、薬を買うなんて夢みたいなことだったしさ。
桃香ちゃんのお母さんだって、もっと暮らしが楽だったら……あれ?おかしいな」

劉備は幼少の頃を思い出したのか思わず目頭を押さえている。

「だからね、だからね、桃香ちゃんがみんなを守るから!
絶対に今までよりいい暮らしが出来るようにするから!
桃香ちゃんを信じて!お願い!!」

もう、黄巾党の人々に反逆の気持ちは残っていなかった。
彼等だって好き好んで戦っているわけではない。
戦わなくても平和に暮らせるならそのほうが余程良いに決まっている。

「桃香ちゃん、信じていいんだよな?」
「今までより楽な暮らしが出来るんだよな?」
「俺ら、殺されたりしないよな?」
「うん、大丈夫だよ!
みんなで、これからどうするか、白蓮ちゃんと考えよう!」
「白蓮ちゃん?」
「うん、白蓮ちゃん!
こうそんちゃんさんだよ!」
「公孫讃様……ですか?」
「うん。白蓮ちゃんがこの辺を治めると思うから、白蓮ちゃんに頼めば平和に暮らせるようにしてくれるよ!」
「本当ですか?」
「絶対だよ!桃香ちゃんも一緒にお願いするから!
ね?今から一緒にお願いに行こう!
桃香ちゃんがみんなを守ってあげるから!!」

そこまで自信をもっていわれると、民たちも何とかなりそうな予感がしてくる。
ということで、劉備を先頭に黄巾党の集団がぞろぞろと遥か後方で待っている公孫讃たちのところに歩いていく。


一方こちらは公孫讃達。

「桃香様はお一人で大丈夫でしょうか?」

と、公孫讃に尋ねているのは諸葛亮である。

「うむ、普通は全く説得できる見通しがないのであればあのようなことを言わないとは思うのだが……桃香だしなぁ……」
「……ええ」

非常に心配な公孫讃達である。

 そのうちに、劉備を先頭に、集団がぞろぞろと歩いてやってきた。

「こっちに向かってきますね、公孫讃様」
「ああ。説得に成功したのだろうか?」
「そうかもしれません。桃香様が先頭を歩いていますし」
「……桃香って、案外大人物なのかもしれないな」
「……はい」

何となく複雑な表情をしている公孫讃と諸葛亮である。
そのうちに、集団が公孫讃の目の前までやってくる。

「ねえねえ、白蓮ちゃん!
もう、みんな戦うことは止めて平和に暮らすって。
だから、お願い。白蓮ちゃんの力で、みんなが安心して暮らせるようにしてあげて!」
「そ、そうか。まあ、わからんでもないが……だが、一度は皇帝に背いたわけだし……」
「だって、みんな辛い生活を強いられていたんだよ!
みんなだって、戦いたくって戦ったわけじゃないんだよ!
でも、みんな白蓮ちゃんを信じて戦うのを止めてくれたんだよ!
だから、みんなの期待に応えてよ!お願い!
それに、それに、戦ったら白蓮ちゃんのところの兵隊さんにも死んじゃう人がいっぱいでてきちゃうよ!
白蓮ちゃん!心の広いところを見せて!」

そこまで言って劉備は公孫讃の目をじっと強い決意を持って見つめる。

「そ、そうだな。私に課せられた使命は暴徒の鎮圧であって、暴徒の殺戮ではないからな。
分かった。桃香の言うとおり、皆が安心して暮らせるよう、私が約束しよう!」
「ありがとう、白蓮ちゃん!!
みんな~!聞いてたでしょう?
白蓮ちゃんがみんなが安心して暮らせるように約束してくれるって~♪」
「ありがとうございます、公孫讃様!
ありがとうございます、桃香様!」

その後も、同じ調子で劉備は黄巾族を次々と投降させ、公孫讃は殆ど労せずして幽州を平定することに成功したのだった。



[24705] 指導 (R15)
Name: みどりん◆0f56c061 ID:81b7701d
Date: 2011/03/31 21:16
指導 (R15)

 これで、白蓮ちゃんは幽州を平定したという実績ができた。
この次の作戦ね、気をつけなくてはならないのは。
幽州は地理的に接しているのが冀州と并州だけだから、幽州にある白蓮ちゃんを襲って、追い出す可能性があるのは幽州の州牧か、冀州、并州の州牧しかありえない。
冀州の州牧は、何進が亡くなった今、恐らくは袁紹になるはず。
冀州を半分だけ治めるなんて、そもそも不自然だから。
并州は誰かしら?
袁紹が兼ねる可能性が高いわね。
だから、白蓮ちゃんにどうにか幽州の州牧になってもらいたいのだけど。
そうしたら、この時世で同じ州牧同士、敵対関係になることがあっても何の不思議もない。
ただ、白蓮ちゃん、実績は十分なんだけど、元々の身分が州牧になるにはちょっと低いのが問題。
幽州牧として、漢から誰か派遣されてきてしまうとちょっと厄介。
もう一度、ネタ仕込から始めなくてはならないから、予定が大幅に狂ってしまう。
最悪、白蓮ちゃんを諦めないとならないかも。
せめて幽州牧も袁紹が兼ねるのなら、接点はあるからまだ何とかしようがあるんだけど………まあ、こればっかりは私が手出しできる事柄ではないから、結果を見て今後の方針を考えなくては。


 ほぼ一人で黄巾党を降伏させるという大事業を成し遂げた劉備のところに、公孫讃が謝意を伝えにきている。
敵味方共に被害無しで賊を制圧できたのだからこれ以上に望ましい状況は公孫讃にはないだろう。
諸葛亮や関羽の劉備を見る目も、かなり変わったようだ。

「いやー、本当に桃香のおかげだよ。
よくやってくれた」
「うん!これで幽州は白蓮ちゃんのものだね!」
「いや、それは……だな」
「あれ?違うの?」
「何進様の治めていた土地は袁紹様が治めることになったのだ」

……そういうこと。
まあ、ある程度想定の範囲内ね。
でも、白蓮ちゃん、少しはごねないと。
州牧をよこせ!位の気概がないと、生涯袁紹の部下として働いてしまうことになってしまうわよ。
それに、そうならないと敵対関係ができなくて、私のところに来てもらうという予定が狂ってしまう。
わかったわ、少し白蓮ちゃんを応援してあげる。

「えーー?!だめだよー。
折角白蓮ちゃんががんばって乱を収めたんだから白蓮ちゃんが治めなくっちゃ。
それに幽州の人はみんな白蓮ちゃんのことを慕っているんだから白蓮ちゃんが治めた方がきっとうまくいくよ。
だから、幽州は白蓮ちゃんが治めたいっていったら袁紹ちゃんもきっと分かってくれるよ。
袁紹ちゃん、優しいから!」
「そうだな。頼むだけ頼んでみるか」
「そうだよ!そうするといいよ!」
「それじゃ、桃香も一緒に袁紹様のところに行ってくれるか?
桃香の頼みなら袁紹様も聞いてくださるような気がする」
「いいよ!一緒に行こう!」

それを聞いていた関羽も話に加わってくる。

「あの、桃香様……」
「なあに?愛紗ちゃん」
「私も同行したいのですが」

もちろん、一緒に行こう!そして、一刀ちゃんを連れてきてね♪と喉を過ぎて舌の辺りまで声がでかかったところで、劉備はそれを止める。

あれ~~?愛紗ちゃん、表情が変。
変と言うか恋?
うっとりとした表情、紅潮した頬、甘い喘ぎ声をあげたそうな可愛い口、とろんとした瞳。
ちょっと、愛紗ちゃん、可愛すぎ!
私まで思わずぞくっとしちゃう。
恋焦がれている一刀ちゃんに会いたいのはよーーーく分かるんだけど……ねえ、愛紗ちゃん、今回もちゃんと戻ってきてくれるの?
何か、今回はとっても不安。
愛紗ちゃんが一刀ちゃんのところに行ったら、今度は戻ってこないような気がする。
もう少し落ち着いてから一刀ちゃんと会うようにしようね♪

「大丈夫だよ、愛紗ちゃん、今回は政治の話だから。
盧植先生のところで政治は一生懸命お勉強したからうまくいくよ」

なんとか関羽を説得した劉備であった。


 そして、劉備はまた袁紹のところでわがままを尽くし、公孫讃は州牧にはならなかったものの、太守として治める領土を増やし、尚且つ袁紹と劉備との間により一層の軋轢を生むことに成功したのだった。
公孫讃も劉備と同一グループとみなされているので、袁紹と公孫讃の仲も若干ではあるが悪くなったであろう。
劉備は公孫讃の計らいで琢郡范陽県の県令にとりあえず落ち着いたのだった。

 で、劉備一行は公孫讃と別れ、范陽県に向かうことになって、今日が公孫讃と劉備が同じ屋根の下で過ごす最後の日。
例によって、劉備は趙雲のところに遊びに行っている。

「星ちゃん、そろそろ次の作戦に移ろうと思うの」
「うむ、そろそろ頃合であろうな。
で、次は陶謙殿のところであるかな?」
「やっぱり、星ちゃん、なんでもお見通しね」
「そして、更にその前に袁紹殿のところに寄ってもらいたいと言うのではないかな?」

ブラック劉備とダーク趙雲は二人顔を見合わせ、満足そうににやりと嗤う。
それから仔細を詰めて、劉備は部屋に戻っていった。


 さて、劉備や公孫讃のいる幽州は州牧が袁紹に変わったことで、劇的な変化があった。
まず、税率の変更。
ほとんど従来の半分である。
これだけでも民にとっては画期的だというのに、更に農業指導団がやってきて、袁紹領での農業のやり方を指導するというのだ。
袁紹領が富裕だという噂はちらほらと聞こえてきていて、民も大いに期待しているのだった。
指導団の団長は一刀であるが、流石に一人で回るのは無理なので、既に何人も指導員が育成されていて、彼等が幽州のあちらこちらで指導を始めている。
もちろん、団長の一刀も自ら指導に出向いているのである。

劉備のいる范陽県にももちろん指導団がやってくる。
そして、どういう星の巡り会わせか、ここに指導に来たのは一刀本人。
沮授も屯田制の手配のためにいるが、指導するのはもちろん一刀だけである。

その一刀、到着するなり、集められている農民達に新しい農業理論を教えていく。
指導を受ける側には諸葛亮もいて、一刀の説明にそれはそれは深く感激しているのである。

一方こちらは劉備の家、というより県令の城。
今日は一刀ら一行はここに泊まることになる。
その城内での話。

「ねえねえ愛紗ちゃん」
「なんでしょうか?桃香様」
「農業を教えてくれるために一刀ちゃんが来たって知ってる?」
「え?ええ……」

一刀と言う言葉を聞いただけで真っ赤になる、非常に分かりやすい関羽である。

「それでね、それでね、一刀ちゃんのお部屋をきれいにしてあげたいなって思うんだけど」
「私たちが……ですか?」
「うん!だって、天の御遣い自ら来てくれたんだもの、桃香ちゃんたちもそれなりの誠意を示さなくっちゃって思うの」
「桃香様がそう仰るのでしたら、私もお手伝いいたします」

というわけで、一刀が泊まる予定の部屋を雑巾掛けし始める劉備と関羽であったのだが……

「きゃあーーー!!」
「どう……」

したのですか、桃香様?という言葉が関羽の口から発せられることはなく、関羽はその身をもって何が起こったか理解した。
一体、どのように水桶を持っていたのか定かでないが、劉備の持っていた桶の水が全て関羽にかかってしまい、関羽はびしょぬれになってしまったのである。
まさか、劉備がわざと関羽に水をかけたなんて、夢にも思わない関羽である。

「ごめんなさい、愛紗ちゃん!
すぐ拭く布と服を持ってくるから、服を脱いで待ってて!!」

劉備はそういうなり部屋を飛び出していってしまった。

(全く、桃香様はそそっかしいのですから。
一体どんな風に桶を持っていたのですか?
もう少し気をつけてください!
この時期水は冷たいのですから。
………
………
って、桃香様にいわれるままに服を脱いだはいいですが、着る服がないではないですか!
自分の部屋に戻ってから服を変えればよかったですね。
今更この濡れた服を着るのも……
私も桃香様のことを言えない位そそっかしいですね。
とにかく、早く服を持ってきてください、桃香様!!
この部屋には何も布がないので、拭くことも着ることも出来ないです!
裸で待つのは寒いです)

と、裸でぶるぶる震えている関羽の耳に、劉備の声と足音が聞こえてくる。

「こっちこっち!早くしないと風邪引いちゃう!!」
「な、なんなんですか?劉備さん!!」

(え?一刀さん?)

そう、どう考えてもちょっと怒った雰囲気の男の声は一刀のものである。
心臓がどきんどきんとなる関羽。
そして、その直後、部屋の扉が開かれ、一刀が部屋に放り込まれ、すぐに扉が閉められて、外から劉備の声がする。

「愛紗ちゃん、びっちょりになっちゃったから、一刀ちゃんお願い、愛紗ちゃんを拭いて、それから温めてあげて!」
「え?」

一刀が部屋の中を見てみれば、そこに佇んでいるのは素っ裸でびしょぬれの関羽。

「い、いや……見ないで」

裸で、寒さを防ぐため自分を抱きしめるように(=大きな胸を目立たせるように)腕を組み、女性の大事な部分を隠すように(=男を惑わすように色っぽく)脚を擂り合わせ、困惑と羞恥で(=期待と昂奮で)全身真っ赤になり、苦しそうに(=甘い息で喘ぎながら)呼吸をし、一刀を拒否する(=誘う)関羽である。
というより、裸でいるところに男が入ってきて、逃げも隠れも騒ぎもしない時点で関羽の気持ちは明らかである。

「あ、愛紗さん……ごめんなさい、すぐ出ますから」

関羽に襲い掛かりたい気持ちをどうにか抑えて部屋から出ようとする一刀だが、扉を動かそうとしても、鍵をかけられたのかびくともしない。

「ちょっと、劉備さん!怒りますよ!扉開けてください!劉備さんってば!!」

扉をドンドン叩いて、劉備を呼んでも、無視しているのか、既にそこにいないのか全く返事がない。
そのうちに、

「くちゅん……」

関羽の可愛らしいくしゃみの音がする。
一刀の節度もそこまでだった。

 劉備は扉に閂をかけて、中の様子を伺っていた。
最初のうちこそ、ドンドンと扉を叩き、叫んでいた一刀であるが、関羽のくしゃみの音と同時にそれも止む。
そして、しばらくたって関羽の艶かしい声が聞こえてくる。
満足そうに部屋から離れる劉備であった。


 その日、晩餐のために、一刀ら一行が食堂に入ってくる。
だが、一刀の様子は変というかなんというか……沮授にほっぺたをつねられた姿勢のまま、痛い痛いといいながらの登場であった。

「一刀の妻は私です。いいですね!」

沮授が劉備や関羽をじろりと睨みつけて宣言する。
劉備も、これでは流石に何もできない。
一刀の勧誘は、そんなに簡単にはいかないのであった。


あとがき
閂はどうしたか、ですか?
きっと沮授が外してくれたに違いありません。

あと、関羽がいるので、R15が何回かあることに気がつきました。



[24705] 県令
Name: みどりん◆0f56c061 ID:81b7701d
Date: 2011/04/05 21:51
県令

 一刀も去り、あとは陶謙のところに移る時期を待つだけである。
もちろん、それまでの間遊んでいるわけにはいかないから、県令としての仕事をするのだが、実務はほとんど諸葛亮にまかせっきり。
では、劉備は何をしているかというと、関羽や張飛を連れて街をうろうろとしては、街の人々の声を聞いて回るのである。
現在で言うところの移動相談窓口+パトカーといったところだろうか?
それで、民の不満、不安を諸葛亮に伝えて、それを改善する施策を諸葛亮が立てるので、十分に善政と言ってよいであろう。
もっとも、その善政は劉備よりも諸葛亮に依存しているところが多そうであるが。
もともと諸葛亮は軍事よりも政治に向いている特性があることだし。
パトカー役の関羽や張飛はあまり出番がない。
時々困っている人を助けるくらいなものだ。
それに反比例しているわけでもないだろうが、諸葛亮は政治、経済、農政に日々フル稼働の状態が続いている。

「ごめんね、朱里ちゃん。
桃香ちゃん、あんまり頭がよくないから、そういう詳しいことがよくできなくって」
「全然問題ありません。
最初は、ちょっと手間取りましたけど、元々いた役人の人たちに桃香様のお考えを伝えて、それに従って働いてもらっていますから、民が安心して暮らせるように進めています」
「ありがとう。でも、みんな桃香ちゃんの気持ちに賛成してくれたのかなぁ。
桃香ちゃんが昔住んでいたところの役人さんは酷い人だったから……」
「ええ、まあ、全員が全員心の底から賛同しているわけではないようですが、法に背いたら厳罰があると徹底していますから今のところ特に問題はおこっていません。
説得するときに鈴々ちゃんがいれば、みんな言うことを聞いてくれます」
「そう、よかった。
やっぱり悪いことをしても何もお咎めがないようじゃだめだよね!」
「はい、そう思います」
「それからね、それからね、お金は大丈夫?」
「それは、これからの課題ですね。
政治は上に立つ者の意向で大きく流れが変わることが出来ますが、経済は民のお金がどれだけ動くかで決まりますから、富が蓄積するにはまだまだ時間がかかります」
「そっかぁ、そうだよね、そんなにすぐにはみんながお金持ちになれるわけはないよね」

一応、会話の内容だけをみれば、十分に県令としての方針を示しているようではあるが、話し方が話し方なので、やっぱりどこかただのお人よしで無能に見える劉備である。

「ええ、それでも、税率は下げたので、民にお金が貯まるようになってきましたから、少しづつではありますが経済も活性化しているようです。
税率を下げても役人が贅沢をしなければそれほど問題ありませんし。
それに、この間一刀様がいらっしゃったときに袁紹様の所領で収穫が桁違いに上がった方法を教えていただきましたので、来年にはある程度の効果が見えてくるのではと思います」

マルサスの罠?何それ?関係ないね、とは北郷一刀の弁である。

「その方法ってすごいことなの?」
「ええ、それはもう。
一つは屯田で畑の規模を大きくすることですが、これは方法自体は誰でも思いつきそうですが、それを実際に行ったところが斬新です」
「ふーん」
「それから、農業理論。
これは、今まで聞いたことがないようなことばかりで感激しました。
いえ、畏怖しましたと言ってもいいかもしれません。
本当に一刀様は天の御遣いなのだと認識を新たにしました!」
「そんなにすごいの?」
「ええ!この空気の中にも肥料の元があって、豆はそれを使うことができるとか、同じ畑で同じ作物を育てると連作障害というのがおこるとか、連作して問題ない作物は水稲だけだというようなことは、天の知識としか言いようがありましぇん!!」

やたらと昂奮して説明を行う諸葛亮である。

「そ、そうなんだ……」

この間沮授がいなかったら!と強く思う劉備であった。

「ところで、この間一刀様がいらっしゃってから、愛紗さんの様子が変なんですが、何かあったのですか?
夕食時も沮授様に睨まれていましたし」
「うん、あのね、あのね、愛紗ちゃんがね、お掃除の間に水がかかってびっしょりになったから、一刀ちゃんに体を拭いて温めてあげて♪ってお願いしたの。
それから後はよく知らない」

大嘘付きの劉備の言葉に、大体何があったか想像できて真っ赤になる諸葛亮である。


 その関羽は何をしているかというと……

「はぁ……」

溜息をついている。
まあ、何となく原因は明確であるが。
劉備が県令に収まり、関羽も一応役人となってしまうと、昔のように日々のお金に苦労することもなく、時間にも心にも余裕が出来た、という時期にまた一刀と交わってしまった関羽が一刀のことを思って物思いに耽るのも仕方のないことだろう。

「愛紗は気が抜けているのだあ!
そんな愛紗をやっつけるのは、小指一本ですむのだあ!」

その関羽は、今張飛と訓練をしている。

「そ、そんなことはない。
私は充実しているから、鈴々なんかにやられるわけがない」
「うぐ、確かにそれほど弱くないのだあ。
こんなに気が抜けている愛紗に楽勝できないなんて、鈴々はなさけないのだあ!」
「だから、私は充実しているといったろう?」
「そんなことはないのだあ!
愛紗は物思いにふけっては溜息ばっかりついているのだあ!
どうみても気が抜けているのだあ!」
「そ、そんなことはないぞ」
「やっぱり、今太刀筋が乱れたのだあ。どこか気がそぞろなのだあ!」
「だから、そんなことはないと言っているだろう!」
「あ!一刀だ!」
「え!?」
「隙あり!」
「痛!」
「へっへっへ、やっぱり愛紗は気が抜けて………愛紗?」
「ふ、ふふ、ふふふふふ。鈴々、今、鈴々は私を怒らせた」
「じょ、冗談だったのだ。ほんの出来心だったのだ」
「問答無用!」
「ごめんなのだあ!!
でも、この間」
「まだ言うか!!」
「うわ~~~ん!!」

どういうわけか、必死で逃げ回らざるを得なくなった張飛であった。

戦い(逃亡?)のあとで……

「はあ……酷い目にあったのだ」
「どうしたんですか?鈴々さん」
「ああ、朱里だったのだ……実は赫々然々……」
「それは、今愛紗さんに言ってはいけないことですね」
「そうなのか?」
「ええ」
「でも、事実なのだ。この間、建物の傍に行ったら一刀の泊まる部屋から愛紗と一刀のいやらしい声が聞こえてきたのだ」
「昔から、真実と薔薇には棘があるっていうでしょ?
愛紗さんも、一刀様のことは触れられたくないことなのです。
恥ずかしいのでしょう」
「うーーん、まあ何となくわかった気もするのだ」

と、ほのぼのとした張飛と諸葛亮のところに関羽がにこにこしながらやってくる。

「鈴々、こんなところにいたのか。探したぞ。
まだ訓練の途中だったろう。
続きをやろうではないか」
「あ、愛紗……きょ、今日はもう十分なのだ。
少し休みたいのだ」
「いつもの鈴々ならまだ動き足りないところだろう?
今日は私も体を動かしたくて仕方がない。
もう少し付き合ってやろう」
「そ、そうだ!そういえば耳寄りな情報があるのだ」
「ほう?そうやって訓練をサボろうというのだな?」
「そうではないのだ。実は朱里が……」

もちろん、即効で逃げ出す諸葛亮であった。


とまあ、一時の幸せな時間を過ごしている劉備一行である。
そのうちに、劉備の元に手紙が届けられる。
劉備は、それを見てずっと何事かを考え続けている。
そう、手紙とは趙雲からもたらされたもの。
それには、次のようなことが書かれていた。

北郷一刀殿は袁紹殿がある日突然連れてきた。
出自は不明だが、漢ではないらしい。
本人も別の世界から来たと言っているので、本当に天である可能性がある。
自ら覇権を取る気は全くなく、袁紹を皇帝にすることだけを考えている。
袁紹殿は相変わらず有能とは思えないが、一刀殿が参謀たちの意見を袁紹殿に伝える役を担っており、結果参謀たちの意見が袁紹領では実現されるため、彼が来てから政治、軍事、経済何れも格段の向上が図られた。
部下のいがみ合いも、彼が肥料を畑に撒いたこと、及び関羽殿を会ったその日に関係したことで、部下達が一致団結して一刀殿と対抗するようになり、結果いがみ合いもなくなった。
結局、一刀殿が来て以降、袁紹殿のところは全てがうまく回るようになり、急速に力をつけている。
袁紹殿が皇帝に取って代わる日も、そう遠くないことと思われる。


 はあ、やっぱり北郷一刀は天の御遣いなのね。
まあ、何となく覚悟はしていたのだけど。
どうして袁紹のところに行ってしまったのかしら?
でも、これで私も覚悟を決めなくてはならなくなった。
一刀ちゃんを排除して、私が皇帝になって、でも今ほど豊かな生活を保障できないことを民に我慢してもらうか、私が皇帝になるのを諦めて、一刀ちゃんに実質的な権力を握ってもらうか。
前者は民の生活に犠牲を強いる。
後者は私を信じてついてきてくれた皆を裏切ることになる。
客観的にみれば、私が皇帝になるのを諦めるというのが一番いいのでしょうけど……


と、身の振り方について苦悶しているところに、そんなことを帳消しにするニュースが飛び込んでくる。
皇帝霊帝の死と、董卓・宦官の権力掌握。
董卓・宦官の打倒を指示する檄文が袁紹より送られてきて、公孫讃もそれに参戦することとなり、劉備ら一行もそれに随行することとなったため、劉備は一刀に従うかどうかについて董卓との戦いが終わってから再考することにした。
県令として百名程の兵を有しており、劉備はそのうちの半分を率いて公孫讃軍に随行することとなった。
劉備としては初の大規模な戦である。



[24705] 酸棗 (R15)
Name: みどりん◆0f56c061 ID:81b7701d
Date: 2011/04/10 21:13
酸棗 (R15)

 反董卓軍は酸棗に集結するよう袁紹より要請されていたため、公孫讃軍、劉備軍は指定の日時ぎりぎりに酸棗に到着するよう幽州を発つ。
というより、常日頃戦争のことを考えていなかったので、準備に手間取ったというほうが正確かもしれない。
兎も角、劉備は酸棗にあり、ここですべきことを考え始めている。


一刀ちゃんに下るにしても下らないにしても、袁紹軍の強さを把握はしておきたい。
本当に袁紹が大陸を統べるに値する力を持っているかを確認したいから。
一刀に下って、実は袁紹以外の誰かに天下を取られてしまっては、それこそ愛紗ちゃんや鈴々ちゃん、朱里ちゃんに申し訳なさ過ぎる。
それから、他の諸侯と実際に会ってみたい。
今までは盧植先生や星ちゃんの話だけでしかその人物を知らなかったから、実際にその人物がどのような感じか知りたいから。
これは、一刀ちゃんに下るのを止めて自分が皇帝になろうとした場合に特に重要となる情報。
味方となる可能性があるか、絶対に敵対するか、敵となるならば出来るだけ楽にその敵を倒すにはどうすればよいか、そういうことを考えるには実際に会ってみないと分からないことが多いから。
あとは……一刀ちゃんもきっとここに来ているから……

「ねえねえ愛紗ちゃん、お願いがあるんだけど」
「はい、桃香様。なんでしょう?」
「袁紹軍って、とっても強いって噂なんだけど、どんな訓練をしているかちょっと調べてきてくれないかなぁ」
「え?そのような行為は味方を裏切るようで、桃香様のお願いとはいえあまり賛同しかねますが」
「そっかー、そうなのかなぁ。うーん。でも、知っておいて損はないと思うんだけど」
「ですから」「あ!ところで一刀ちゃんもここに来ているのかなぁ」
「……そうですね、袁紹様の軍の強さを知れば、私達に有益なことも多いでしょうから、気は進みませんがちょっと調べて参ります」
「うん、お願い!」

まあ、うまくはいかないと思うけど、少しでも可能性があるなら仕込みはしておかないとね、愛紗ちゃん♪
頑張って!
運が味方するよう祈っているわ。
で、後は袁紹軍の強さを知る方法だけど……どの軍も基本的には自分の軍の強さを他の諸侯に見せたがらないはずだから、どうにか袁紹軍の戦いを直接見る方法は……うん、これがいいわ。

劉備は公孫讃軍を先陣として務めさせ、不足分を袁紹軍を借り受けることで袁紹軍の戦い方を見る方法を考え出した。
そして、諸侯の集まる会議で劉備は公孫讃軍を先陣として務めさせることに成功する。
あとは、わがままを言って袁紹軍の一部を借り受けることに成功すれば劉備の作戦は完遂することになる。


さて、その頃関羽は何をしているかというと、袁紹軍が陣取っているところをぶつぶついいながら歩き回っている。

し、仕方なくだ。
そ、そう、桃香様のご命令で仕方なく袁紹様の兵の様子を見てくるだけだ。
け、決して一刀様と会いたいなんて思っているわけではない。
そう、その通りだ。
大体、20万もいるという袁紹軍の中で一刀様にお会いするなんて、河(黄河)に落とした砂粒を探し出せるほどに滅多にないことだから、袁紹様のところに行ったからといってお会いできるはずが無い。
そ、そもそも私が一刀様とお会いしたいと思っているはずがないではないか!
桃香様は何か勘違いをしていらっしゃる!
ま、全くもって迷惑だ。
だ、大体私が裸でいるところに男を押し込めるなんて、何を考えていらっしゃるのだ!
一刀様も困惑していたではないか。
ま、まあ私のような非の打ち所がない美少女が裸でいたら、正常な殿方が理性を失われるのも理解できるから、そんな一刀様の欲求を少し受け止めて差し上げただけだ。
そう、あくまでそれだけだ。
あの後、ご正室が部屋にいらっしゃって、私達の様子を見てひどく不機嫌になってしまったが、わ、私はあくまで一時的に昂奮した一刀様を慰めて差し上げただけであって……
決して、私が一刀様のことを、その、す、す、すき、すきやき食べたい……わ、私は何を言っているのだ?
そうではなくて、私が一刀様のことを、あ、あ、あい、愛し、愛紗は私の真名だ……
な、なぜか私は童謡しているようだ。
少し、気持ちを落ち着けなくては。
 愛紗ちゃんの青龍刀 青龍刀 青龍刀
 愛紗ちゃんの青龍刀で やっつけた!
……童謡ではなくて、動揺だった。
鈴々でも数えて気持ちを落ち着けることにしよう。
鈴々が一匹、鈴々が二匹、鈴々が三匹、
「菊香~!」
菊香が四匹
「清泉~!」
清泉が五匹
……え?菊香?清泉?

自分の発した言葉に疑問を感じて、辺りの様子を伺ってみれば、「菊香!清泉!」と叫びながら走っている男がいる。

「あ、一刀さん……」
「愛紗さん……ちょっと一緒に来てください!」
「え?ええ…………って、困ります!
べ、別に私は一刀さんに会いに来たわけではないのですから。
あん、そ、そんなに強引に引っ張らないで下さい……」
「すぐ済みますから!ちょっとだけですから!」
「そ、そんなことを言われても私にも都合というものが……心の準備というものが……
い、一応勝負下着には着替えてきましたが、でもそれはすることを前提で着替えたというわけではなく、女の嗜みと言うか身だしなみと言うか……
それに、私がそんな軽い女だと思われては困ります!
とにかく、私が常日頃一刀さんのことを思っているとか、会ったらやりたいと思っているとか思われるのは心外なわけで……
いえ、一刀さんのことを思っていないとか、愛して頂きたくないといいたいわけでは……ああ、私は何をいっているのか。
だいたい、すぐ済むとかちょっとだけなんて失礼です。
どうせするなら、じっくりと時間をかけて……って私は何を期待しているのだ?」

何やらごちゃごちゃ言ってはいるが、一刀には全て聞き流され、一方で体のほうは手を握られ引っ張られるままについていく関羽である。
勝負下着って何?この時代にあるの?下着はないという設定だったような……という疑問はあるにしても、関羽は強引な一刀に天幕に引っ張られていき、着くや否や唇を奪われ、そのまま押し倒されてしまう。

「一刀さん、そんないきなりじゃ……」

文句をいいつつも、最初から期待していた関羽は一刀にされるがままになって、感じ始めているのであった。
そして、しばーーーらく経った後、

「どうしたの?愛紗さん」
「ご正室に見られています」

ちょっと優越感に満ちた表情で田豊と沮授に微笑みかける関羽であった。
その後、一刀に服を着せられた関羽はぽわ~~っとした様子で幸せそうに自軍に戻っていった。


 再び場面は劉備に戻る。
どういう風に持っていけば袁紹は軍を貸すことに賛同するだろうかと思案しながら自軍の陣地に戻りつつある劉備のところに趙雲がやってきて、一言「愛紗殿と一刀殿が愛し合っている」とだけ言って去っていった。
にんまりと嗤って作戦がうまくいくことを確信した劉備、関羽が帰ってくるのを待って公孫讃のところに顔を出す。

「一体どういうつもりなのだ、桃香!」

案の定公孫讃は劉備に怒りを露にしている。
只でさえ不十分な軍勢であるところに、先陣まで務めさせられたら壊滅的な被害を受けかねず、州牧ほどに大勢力ではない公孫讃の怒りももっともである。
だが、袁紹軍に応援を頼めばいいんでしょ?と劉備になだめられた公孫讃は、とりあえず劉備の行動結果を確認することにする。
まさか、本当に劉備が袁紹軍1万人を借り受けることはあるまいと思いながら。
そして、袁紹軍を借り受けてきた劉備に驚愕するのである。


 さて、袁紹軍に加え、一刀と言うおまけまで借り受けることに成功した劉備は、次の作戦にとりかかる。

「ねえねえ、愛紗ちゃん、鈴々ちゃん、朱里ちゃん。
これからみんなに挨拶に行こうと思うの。
一緒に付いてきてくれる?」
「そうですね、諸侯の様子を見る機会なんて滅多にありませんから、この機に諸侯とお会いすることはいいことですね」

と、極めて全うな答えをするのは諸葛亮。

「いくのだあ!」

と、本能丸出しで答えるのが張飛。

「はあ……」

と、まだ昂奮が抜けずにぼんやり答えるのが関羽である。

その4人組が最初に訪れたのは曹操のところ。
曹操は、豫州州牧で、本来なら劉備のような県令ほどの身分のものがほいほい会ってもらえるはずはないのだが、先陣を務めるということで謁見することが叶ったのである。
劉備が天幕で待つことほんの数分、外ががやがやと騒がしくなったと思うと、天幕の入り口から覇気に満ちた小柄の少女が入ってくる。
劉備ら一行は跪いて曹操を出迎える。

「劉備、面をあげなさい。
あなたのところが先陣を務めるということだけど……」

入ってきて早々に一方的に話し始める曹操であったが、面を上げた4人の中の関羽が視界に入ると、突然言葉を失ってしまう。
そして、ぎこちなく関羽に話しかける。

「あ、あなた……そこの黒い髪の」
「私ですか?」

さて、関羽がつい先ほどまでなにをしていたかと言うと、みんなにばれてしまったとおり一刀と愛し合っていた。
なので、関羽は未だ体の火照りが抜けず、全身からフェロモンを大放出しているまっ最中だ。
という関羽を目にした曹操、もともとレズで、関羽のような容姿が好みであるというところに、全身からフェロモンを放出されたら一目ぼれしてしまうのも頷ける。
今、関羽に触れたらどんな声で啼いてくれるのかしら?と思ってしまう曹操である。

「え、ええ、そうよ。あなた、名前は何ていうのかしら?」
「関羽と申します」
「そう、関羽、関羽ね。よい名だわ、関羽」

うっとりと関羽を見つめる曹操である。

「関羽、あなた好きなものは何?」
「は?私の好きなもの……ですか?」
「ええ」

もう、曹操にとって、劉備も諸葛亮も張飛も風景の一部になってしまったようで、曹操は関羽との二人の世界を築き上げてしまっている。
そんな曹操を二人の世界から現実に引き戻したのは猫耳軍師、荀彧である。

「華琳様!」
「え?」
「劉備、我々曹操軍は後方に待機し、いつでも公孫讃軍を支援できるよう準備しましょう。
今日の会見はこれで終わりです。
華琳様、戻りますよ!」

荀彧はそう言い放つや否や、曹操の腕を引っ張って天幕の外に曹操を連れていってしまう。
関羽の耳に「あぁ、私の関羽……」という曹操の言葉が聞こえたような気がして、思わずぞっとしてしまう。
その結果、未だ体内に一刀の証を含んでいる状態の関羽が心の奥底で(一刀さん、私が奪われないようにしっかり抱きしめていてください)と思ってしまったのも無理のないことだろう。



[24705] 袁術
Name: みどりん◆0f56c061 ID:81b7701d
Date: 2011/04/15 22:59
袁術

 曹操との面会は、何と言うか無理やり中断されてしまったようではあるが、というより、劉備は曹操とただの一言も喋っていないが、まあ人物像については何となく分かったのでよしとする劉備である。
劉備の感じた曹操像。

1)女好き、というより関羽に一目惚れ
2)自分が一番

一瞬しか会っていないので、流石に細かいことは分からないが、何となくそういう印象を持った劉備である。
少なくとも前者に外れはないだろう。
という情報を得たので、今度は別の諸侯のところに出向くことにする。

道中、張飛は関羽の方をちらちらと見てはにやにやと嗤っている。

「何だ、鈴々、随分にやけて不気味だな」

と尋ねる関羽に、待ってましたとばかりに

「最近の愛紗はモテモテなのだ!」

と冷やかす。

「ななななな何のことを言っているのかさっぱり分からないが……」
「『よい名だわ、関羽』って曹操が言っていたのだ。
絶対愛紗を狙っているのだ。
愛紗も体がいくつあっても足りないのだ」

それを聞いた関羽、黒いオーラが立ったような、青くなったような、赤くなったような、ともかく不気味な雰囲気になったので、これはまずいと感じた張飛、あわててフォローする。

「って、朱里が言っていたのだ」
「言ってましぇん!!!!」

その場を丸く収めようとするのは、そこはやはり劉備である。

「駄目だよ、鈴々ちゃん、あんまり愛紗ちゃんいじめちゃ。
愛紗ちゃんはみんなに愛されてるけど、愛紗ちゃんは一刀ちゃん一筋だもんね♪」
「桃香様!それは誤解です!!」
「で、一刀ちゃんのどこに惚れたの?」
「それは、辛いときに身も心も慰めていただいて、あんなに心が落ち着いて、体が喜んだことは初めてで……
って何を言わせるんですか!?」
「やっぱり好きなんじゃない。
自分の心に正直になったほうがいいと思うよ、桃香ちゃんは」
「いえ、その、あからさまに好きかと聞かれたら、それは私としても好きではないとは答えづらいところではありますが、だからと言ってだったら好きなのか?という話になると、それは、その、私も一刀さんのことを考えると何かぼんやりしたり、胸がときめいたりすることがないとはいいませんが、ないとは言わないだけで好きというのとはまた少し違うような、でもだからと言って嫌いというわけではないですし、どうも一刀さんのことが絡むとすっきりと答えが割り切れないというかなんというか、それでもやっぱり一刀さんと肌を合わせるとなにかとても幸せな気持ちになれて、ご正室に見られたときはちょっと恥ずかしかったですが、それでも今このときは一刀さんは私だけのものだという気がしてとてもうれしかったりして、あ、だからといって一刀さんをご正室から奪おうと考えているわけではないのですが、奪いたくないのかと聞かれるとそれがまた答えに窮してしまうのですが、だいたいご正室が天幕から出て行かれたのですから一刀さんも続きをしてくれれば私としてももっと気持ちよくなったというか何と言うか、その確かに一刀さんに抱かれているととても幸せな気持ちになるので、出来るならばずっと抱いていてもらいたいという……いえ、決して私は淫乱という訳ではなくて、体よりも心が幸せな気持ちに、あの体も気持ちよくなっていないわけではないのですが、誰でもいいと言うわけではなくてやはり一刀さんしか知らないですし他に知りたいとも思いませんし、だいたい一刀さんに抱かれたときに体がとろけるような感覚は他では得がたいものであれを味わってしまうともう一刀さんから離れられないというかなんというか―――(後略)―――
あれ?桃香様?」

関羽が周りを見てみれば、一人体をくねらせのろけ話をしている関羽を置いて、劉備、張飛、諸葛亮の3人はとっとと先に進んでいたのであった。


 さて、劉備たちが向かったのは袁術のところ。
ところが、応対したのは張勲と言う臣下の者。

「劉備とやら。お嬢様はもうお休みになりましたのでお嬢様にお会いしたいのでしたらまた明日お越しください」

と、冷たく対応するのである。

「そうなんだ。
桃香ちゃんたちが先陣を務めるからその挨拶をしようと思ったんだけど……」
「それなら、孫策にでも挨拶をするといいでしょう。
実際に攻撃に参加するのは孫策が主になるでしょうから」
「孫策ちゃんだね?わかった!ありがとう♪」

劉備はそう答えて袁術の元を離れていく。

袁術。
星ちゃんの話では、確か何進に負けず酷い政を行っていたはず。
民は困窮を極め、それどころか兵までも困窮を極めているという話だったような。
張勲と言う臣下もそういう雰囲気を十分に備えている。
利用することはあっても、仲間になることはないわね。
張勲というのは……よくわからないわ。
とりあえず袁術を崇拝しているのはわかったのだけど、今はそのくらいかしら?
で、今から会うのが孫策。
袁術にいいようにこき使われているというのが実態のようなことを聞いた気がする。
確か、願掛けで変わった服を着ているっていう話だったけど……


「桃香ちゃんで~す!先陣を務めることになったので、挨拶にきましたぁ」

と、孫策のところに顔を出した劉備の目に飛び込んできたものは、ボディペインティングの孫策、周瑜。

た、確かにすごい服……服?服?服なのかしら?服って何?
とにかく、すごい格好。
それほど強い願掛けなんでしょうね、きっと。
袁術を倒すとか、そんな感じなのかしら?

と、孫策らを目にして考える劉備である。

「あの、劉備とその一行です」

さすがに、桃香ちゃんでは分からないだろうと、諸葛亮が本当の名前を伝えている。

「劉備……公孫讃のところの武将ね」
「うん、そうだよ!愛紗ちゃんとか鈴々ちゃんとか、人数はそれほど多くないけどすっごく強いんだから」
「先陣、しっかり務めてね。
私達が砦に入る一番乗りを目指すから」

それから、方針を少し話し合って(といっても、このとき話しているのは諸葛亮)、劉備たちは孫策に別れを告げようとする。
と、そこまでは極めて普通だったのだが、別れ際に劉備は、

「ところで、どうして服を着ないで絵の具を塗っているの?」

と、一般常識からすると余計な一言を発してしまう。
大人の世界では、分かっていても口にしてはいけないことが多々あるのである。

「と、桃香様!!」

諸葛亮が小さく短い声で叱責するが、発せられてしまった声が許に戻るはずもなく、孫策は少し困惑したように

「え?……それは」

と、ちょっと返事を躊躇する。

「わかったぁ!服を買うお金がないんだぁ!!」
「と、桃香様!いくらなんでも失礼です!!」

関羽にも怒られてしまい、劉備は関羽にポカリと殴られてから腕をつかまれ、ずるずると外に引きずり出されてしまう。
諸葛亮は、孫策らにすみません、すみません、と何度も土下座までして頭を下げて、それから孫策の天幕を後にしたのだった。

外に出ると、もちろん劉備は諸葛亮や関羽にしこたま怒られる。

「桃香様!いくらなんでも言っていいことと悪いことがありましゅ!」
「そんなこと言っても、服を着ていないのは事実だし……」
「だからといって、それを口に出さないというのも大事なことです。
大体、お金がないとは失礼にも程があります!」
「だって、冗談だって分かるから、笑ってくれるとおもったんだもん……」

その後も劉備はねちねちと諸葛亮、関羽に絞られていたのだった。
だが、その最中も劉備の考えていたことは全く別。


孫策、私と同じ匂いがする。
貧乏で辛い日々を送る人間が醸し出す雰囲気。
服を買うお金がないといったときの孫策の表情、あれは、まさにその通りの事があったと言っているように見えた。
きっと、袁術にお金を借りたことが原因で、袁術に復讐を誓って……といったことがあったに違いないわ。
彼女はきっと私の味方になってくれる。
私も、彼女の敵を排除するよう協力を惜しまないわ。


それから、劉備らは、他の諸侯のところを回って公孫讃の陣地に戻っていった。


 一方こちらは孫策と周瑜。

「何か、今日は服のことをよく言われる日ね」
「まったくだ。我々を裸だと言った男はいずれ制裁を加えねばならぬがな」
「そうね。それにしても、服を買うお金がない……か」
「確かに貧乏なのだろうな、我々は。
昔も今も……」

孫策と周瑜は昔の話を思い出す。

それは、孫策の母、孫堅の話。
確かに、孫堅はその当時も裕福とは言えず、戦のたびに袁術から資金やら食料を借り受けていた。
だが、度重なる借用に袁術は呆れたのか、ある日こんなことを言い出した。

「全く、お主らは戦さえしておれば金も食料も湧いてくると思っておるのかの?」
「申し訳ございません」

お前の命令に従って戦をしているのだろう!と袁術を罵りたいのを精一杯我慢する孫堅である。
孫堅の後ろに控える程普、韓当、黄蓋、祖茂にも孫堅が怒りで震えているのが分かるほどだ。

「たまには返してもらいたいものじゃの」
「いえ、ですが……」
「まあ、お主らに返せぬことくらい分かっておる。
今日は、お主が今着ているその服で返済したことにして進ぜよう。
どうじゃ?妾は親切であろう?
服一枚で金も食料ももらえるのじゃからな」

袁術はにやりと嗤って孫堅を眺める。
孫堅は怒りと羞恥で先ほどよりさらに激しく体を震わせている。

「ん?どうした?早く脱がぬか?
それとも、金も食料もいらぬというのか?」

孫堅はすっくと立ち上がり、服を脱いでそれを床に叩きつける。
袁術の部下の下品な視線が孫堅の裸体を舐めるように眺めている。

「これでよいのだろう!」
「うむ、そうじゃな。
配下の者も自分の服を孫堅に着せようなどとは考えぬことじゃ。
よいな?」

袁術はにやにやしながら孫堅の姿を見ている。
彼女をそんな恥ずかしい姿のまま城内を歩かせようとしているのだ。
と、孫堅は体になにやら生暖かいものが触れたのを感じた。

「もうしわけございません、孫堅様。
ちょっと怪我をしたのですが、血が孫堅様にかかってしまいました」

孫堅が見れば、程普が自分の手首を噛み千切り、そこから飛び出る血を孫堅に振りかけているところだった。
血で少しでも肌を覆うことが出来れば、という程普の優しさである。

「鉄蛇……」
「おっと、私も怪我をしてしまいました」

黄蓋、そして韓当、祖茂までもが自分の血を孫堅に振りかけはじめる。

「みんな……」

孫堅の体はみるみるうちに血で覆われていった。
服は着ていないが、何となく体は隠れたように見える。

「ふん、好きにすればよいわ!」

袁術は不機嫌そうに言い捨てて、去っていった。

それ以来、孫堅は服の代わりに体を赤い絵の具で覆い、袁術に対する憎しみを忘れないようにした。
袁術も、孫堅のそんな姿を見て、苦々しそうにしていたものだった。
孫堅亡き後は、その意志を孫策が継いでいた。


「でも、北の地でこれは確かに寒いわよね」
「ああ、復讐も大事だが、それ以前に体を壊しては元も子もない」
「あの北郷一刀に侮辱されたので仕方なく服を着ないとならないわね」
「復讐は、だからといってなくなるわけではないがな」
「ええ」

こうして、孫策らは普通の服と一刀に対する憎しみを身に纏ったのだった。
それにしても裸はひどすぎるわよね~!折角怒りで恥を忘れようとしているのにそこまで露骨に言われたら気なってしまうであろうと、二人意気投合して一刀に対する怒りを醸成させながら。



あとがき
まあ、とってつけたような理由ですが……



[24705] 同床 (R15)
Name: みどりん◆0f56c061 ID:81b7701d
Date: 2011/04/23 21:53
同床 (R15)

 劉備が公孫讃のところに戻り、汜水関を攻める方法について議論している最中に、彼女等を訪れるものがある。

「すみません……」

北郷一刀である。

「あー!一刀ちゃんだー!
愛紗ちゃんに会いに来たんでしょう!
愛紗ちゃん、よかったね!」
「いえ、そうではありません」
「えー?ちがうのー?じゃあ、どうして来たの?」
「実は…………家を追い出されてしまいまして」

一瞬の沈黙の後、関羽以外全員が大笑いする。

「アハハ。それで愛紗ちゃんのところでも行きなさい!って言われたんだ」
「まあ、そういうことです。
袁紹軍のところでは誰も泊めてもらえなかったので、仕方なくこちらに氾水関との戦いが終わるまでお世話になりたいと……」
「いいよねえ、愛紗ちゃん。
一刀ちゃんをしばらく泊めてあげても。
ずーっと一緒でもいいよね!」
「お、お願いです。
愛紗さんの天幕は勘弁してください。
これ以上何かあったら、本当に戻れなくなってしまいます」
「えー?でも、愛紗ちゃんの天幕しか開いている場所がないよ。
ねえ、みんな?」

劉備がいたずらっぽくみんなに同意を求める。

「そうなのだあ!
鈴々の天幕は小さくておにいちゃんは入れないのだあ」
「そうだな。私の天幕も男子禁制で」
「はわわ、私もまだ貞操を失いたくないので……」
「桃香ちゃんも愛紗ちゃんに恨まれたくないから」
「あの、普通の兵士と一緒でいいんですけど」
「一刀殿、それはだめだ。
一刀殿は良いかも知れぬが、兵士が袁紹軍の大将と一緒では気兼ねしてしまう。
それにそんなことは公孫讃軍の面目が許さない」
「決まりだね!」

こうして、関羽と一つ屋根に住むことになってしまった一刀である。


愛紗ちゃん!絶好の機会よ!
今を逃したら、もう次の機会はないわ!
絶対に一刀ちゃんをものにするのよ!!

劉備は、これこそが千載一遇のチャンスと考え、会議のあとで強い決意で関羽の説得を始める。

「ねえねえ、愛紗ちゃん」
「は、はい……」
「いい?これは天が愛紗ちゃんにくれたまたとない機会なのよ!
絶対に一刀ちゃんを自分のものにしなさいっていう。
だから、この機に絶対に一刀ちゃんと親密な関係になって、これからはずっと愛紗ちゃんのところに一刀ちゃんがいるようにするのよ!」
「え、ええ……ですが、ご正室もいらっしゃることですし」
「だって、一刀ちゃんを返していただかなくて結構です!って言っていたじゃない?」
「ええ、まあ」
「それに、聞いた話だと正室って言ってるけど、実際に正室になっているわけじゃないらしいし」
「ええ、まあ」
「それに、愛紗ちゃんが将来結婚するとして」
「け、結婚?!」
「ええ、愛紗ちゃんだって生涯独身ってわけじゃないんでしょ?」
「ええ、まあ」
「一刀ちゃん以外と結婚することって考えられるの?」
「それは………」
「一刀ちゃんがいいんでしょ?一刀ちゃんと愛し合っているときは幸せなんでしょ?」
「え、ええ……」
「恋も戦いなの。一刀ちゃんを勝ち取らなくちゃ!
いつまでも遠慮ばっかりしていたら、一刀ちゃん、逃げていっちゃうわよ!
だから、絶対にこの機に一刀ちゃんを自分のものにしなくっちゃ!
心の底から一刀ちゃんを欲したら、きっと一刀ちゃんも愛紗ちゃんの気持ちに応えてくれるよ!」
「わかりました……」

ということで、一刀強奪作戦を始めた関羽、最初のうちこそ一刀が離れて寝ようとしていたが、結局一刀と同じ床に寝るように仕向け、これからが作戦の本格的な開始である。
自分がこれからやろうとすることをイメージして、思わず息が荒くなっていく関羽。

「はあ……はあ……」
「どうしたんですか?愛紗さん」
「あの、一刀さん……?」
「はい?」

関羽はごそごそと体を動かし、一刀の体に乗っかってくる。

「一刀さん、私、私……一刀さんのことを……はあ、はあ……好きです。愛しています!
一刀さんのことを考えるだけで、胸が張り裂けそうになるのです。
お願いです、私を愛してください。これから、ずっと私と一緒にいてください」

そういいながら半裸というより、既にほぼ全裸になった体で一刀に抱きついていく。
今までは一刀にされる一方だったのが、初めて関羽のほうからアクションを起こしたのだった。
だが、そんな関羽の一世一代の行動に対する一刀の答えは冷たかった。

「ごめんなさい、愛紗さん。
俺も愛紗さんのことが好きです。
でも、やっぱり菊香と清泉から離れることはできない」
「えっ?」

それ以降関羽は一言も発さず、その姿勢のまま一刀の胸の中で泣き続け、そのうちに眠ってしまったようだ。
翌朝、一刀は早起きをして、一晩中一刀に抱きついていた関羽を静かにどかしてから関羽の天幕を飛び出していった。
関羽は、そんな一刀の後姿を見て、再度涙するのであった。

 程なく、劉備が関羽の許へとやってくる。

「ねえ、愛紗ちゃん、どうだった?うまくいった?」
「いえ、残念ながら」
「そう、でもまだ時間があるから平気だよ。
今晩も、明日もお願いすれば、きっと一刀ちゃん、愛紗ちゃんのところに来てくれるよ!!」
「そうでしょうか?」
「そんな風に疑問を持ったら駄目!
絶対に一刀ちゃんを振り向かせるって信念を持って一刀ちゃんと向き合わなくちゃ」
「……そうですね」

劉備の言葉に、関羽もにっこりと頷くのであったが、残念ながら劉備の目論見は見事外れ、翌晩には一刀は戦場に行ってしまい、関羽と床を共にする機会はなくなってしまった。
戦の後で、関羽が最後に引き留めのお願いをしたが、それも虚しく一刀は袁紹陣へと去っていった。
劉備は、これが最後と一刀に先回りをし、土下座までして一刀に頼み込む。

「一刀ちゃん、お願い!愛紗ちゃんのところに戻ってあげて!
愛紗ちゃん、本当に一刀ちゃんのこと好きなんだよ!
ちょっと内気なところがあって、自分の気持ちをちゃんと伝えられないんだけど、本当に一刀ちゃんのことが好きなの!
もう、一刀ちゃん無しでは生きていけないの!
だから、お願い!愛紗ちゃんのところに戻ってあげて!」

それでも、一刀はにっこりと劉備に微笑みかけて

「ごめんなさい」

とだけ言って去っていってしまった。
残された劉備は、土下座した姿勢のまま、泣いていた。


終わった。
私が一刀ちゃんを味方に引き入れて、皇帝になるという可能性はこれでなくなってしまった。
可能性だけの話をするなら今後二度とそういう機会がないとは言えないけど、きっとこの機会が天が私に与えてくれた唯一の機会。
これほど好都合な機会をものにできなかった私には、もう一刀ちゃんと共に国を造る機会はないに違いない。
残された可能性は、一刀ちゃんのいる袁紹に下るか、それとも……


劉備は趙雲と話しをするため、誰もいなくなってしまった戦場に歩いていく。

「あー、星ちゃんだー」
「おお、桃香殿ではありませぬか。
なぜ、このようなところに?」
「うん、ちょっと外の空気を吸おうと思って」
「酒もありますから、如何ですかな?」

と、偶然を装って一緒になると、それから小声で話し始める。

「一刀ちゃんを殺して」
「……は?」
「一刀ちゃんを殺して。
流れ矢に当たったように装うでもして殺してしまって。お願い。
星ちゃんなら、できるでしょ?」
「できるかどうかと言う問いには出来ると答えるが、まずその理由をお聞かせ願いたい」
「一刀ちゃんが私のところに来る可能性は、恐らくなくなった。
そういう状態で私が皇帝になろうと思ったら、一刀ちゃんにいなくなってもらうしか道が残されていない」
「ふむ……なるほど。
して、桃香殿はそれが最善の策だと考えておるのかな?」
「………」

劉備は、さすがにこれには即答できず、口をつぐんでしまう。
趙雲も、劉備が話し始めるのを待っている。
重い沈黙がその場を支配している。
暫くして劉備はぽろぽろと涙を流し始めて、こう趙雲に話し出す。

「一刀ちゃんに下ることにする」
「おや?それはまた、先ほどとは全く違う内容であるが……」
「私だって知ってるわ、民のために一番いいことが何かって」

趙雲は黙ることで劉備に話を促している。

「安心して暮らせて、満足できる衣食住が供給されること。
そして、一刀ちゃんは少なくとも食は私とは比べ物にならないほどに潤沢に準備することができる。
恐らく衣や住も。
安心して暮らせることができる政治体制は、国が安定すば誰でもそれほど違いがない。
ということは、一刀ちゃんがいるということが民のためには大事なこと。
だから、私が皇帝になるのを諦めるというのが民にとっては一番いい。
一刀ちゃんに下った後に袁紹が滅ぼされたら元も子もないけど、今日の様子を見る限り袁紹軍の強さは圧倒的で、まず他の諸侯にやられることはないと思う」
「ほう、それを知っていて何故一刀殿を殺すことを依頼したのであるかな?」
「私の手で漢を終わりにしたかった」

今度は趙雲が黙り込んでしまう。

「あ~あ、皇帝になるなんて大言壮語を吐きながら、県令どまりなんて情けないわね。
ごめんね、星ちゃん、折角今まで私に尽くしてくれたのに。
今も陶謙のところに行ってもらっているというのに。
愛紗ちゃんや朱里ちゃん、鈴々ちゃんにも申し訳が立たないわ。
こんな無能な私に今まで協力してくれたっていうのに、結局苦労かけただけで終わってしまって……」
「だが、よりよい未来のために自分の夢を捨て去るというのは、それはそれで立派な判断であろう」
「ありがとう、そう言ってくれるとうれしいわ」
「それに、敵にするには相手が悪すぎる」
「どういうこと?」
「一刀殿は、なんというか本物の天の御遣いだな。
一刀殿がいるところが天下を取る、そういう雰囲気がある。
一刀殿自身は取り立てて何をするというわけでもないのだがな。
それに、どうもこれから起こる未来を知っている風がある」
「……そうなの?そんなことがありえるの?」
「うむ、陶謙殿のところに行くといったら、攻め込まれるから気をつけろと言っていた。
言葉は濁したが、雰囲気から察するに恐らく曹操殿が攻め込むであろうことを予見しているようであった。
他にも、どうも未来を知っているとしか思えない言動が何度かあった」
「ふーん……そうなんだ」
「私も、いざと言うときのために一刀殿とは主従関係を結んでおいた」
「……何それ?」
「いやなに、いずれこういう日が来るだろうと予想して、一刀殿と関係を持っておいたほうが良いだろうと思った次第。
まあ、主従関係と言っても一方的に体を差し出して主従関係を名乗っているだけだから、一刀殿がどれほど本気かは分からぬが、まあ尋ねていったときに無下にされることもあるまい。
……おや?鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして如何なされたかな?」
「一刀ちゃんに抱かれたの?」
「そう言ったつもりであるが。
酔った時に抱かれたので、力が入らず一刀殿にされるがままだったな。
あれだけ酔った時に激しくされたので、天に昇ったような快感で、その上ぐるぐると全身をかき回された様に感じたので、感じ過ぎで死んでしまうのではと思った程だった。
ああ、これは愛紗殿には秘密にしておいていただけるとありがたいかな?」
「そうやって、周りにいる女をみんな自分のものにして一刀ちゃんは天下を統一するのかしら?」
「いや、そうではないとは思うが……」
「一刀ちゃんに下ったら、私も手篭めにされちゃうのかしら?
鈴々ちゃんや朱里ちゃんも貞操を奪われちゃうのかしら?
そ、それでも鈴々ちゃんや朱里ちゃんはいいって言ってくれるかしら?
わ、私は自分のことだから我慢するけど、鈴々ちゃんや朱里ちゃんは許してもらえるのかしら?
そ、それ以前に私が抱かれたら愛紗ちゃんが怒っちゃうかしら?
ど、どうしよう、どうしよう……」
「まあ、そういう事態にはならぬだろう。が……」
「が?」
「一刀殿の場合、運命的に抱かれてしまうことがあるようで……」
「あぁぁ、そんなこと考えたくない。
お酒でも飲まないとやってられない。
星ちゃん、お酒持ってきたんでしょ?」
「ああ、まあ……」
「頂戴」

夢が終わった寂しさ、悲しさを、自分達が犯される将来像と酒で不自然に明るく誤魔化そうとする劉備であるが、やはりその程度のことで紛らわすことができるはずもなく、酒を飲んでいる間、涙が枯れることはなかった。
必然、飲む酒の量も増えていき、

「これであるが……
非常に強い酒で……
その様に一気に飲むと……
その様に酔いつぶれてしまう。
私もそうだった」
「うーーーーー、世界がゆれるぅぅぅぅぅ、星ちゃんが二人にふえたぁぁぁぁ」
「ちなみに、明日は頭痛が酷いから覚悟しておくように」

趙雲は劉備を天幕まで運ぶ破目になったのである。
翌日、劉備が二日酔いの頭痛で悩まされるたのは、いうまでもない。



[24705] 帰郷
Name: みどりん◆0f56c061 ID:81b7701d
Date: 2011/04/25 23:31
帰郷

 その後、連合軍は何とか虎牢関を落とし、洛陽も落とすことに成功する。
そして、洛陽炎上で幕を閉じる。
総大将の袁紹からは、作戦の終了と皇帝の身柄を確保したこと、及び褒章などは後日連絡する旨連絡があり、各自自領に戻るよう指示があった。
公孫讃軍も、燃え落ちてしまった洛陽に留まる必要はなく、安心した様子で幽州に軍を進めている。
公孫讃と諸葛亮が嬉しそうに話をしている。

「董卓も宦官も滅ぼされたようで、これでまた平和な世になるといいですね」
「ああ、そうだな。
陛下も袁紹様に助けられたようだし。
今度は業が都になるのだろうか?」
「そうでしょうね。
陛下も今まで宦官に虐げられていたのでしょうから、これで安心して政に取り組むことができるといいですね」
「うむ、陛下も宦官に囲まれていて可哀想だったな。
そして戦がない平和な時代がくるとよいのだがな」
「本当ですね。でも、なんとなく袁紹様のところに陛下が行かれたらうまくいくような気がします」
「ほう?それはどうしてだ?」
「だって、袁紹様のところみんな楽しいっていうか、馬鹿っぽいっていうか……
あ、秘密でしゅよ、これは」
「あはは。確かにそれは言えるな。
昔はもっとぎすぎすしていたのだが、一刀殿が来たころからか、何となくほのぼのとした雰囲気になった気がするな」
「一刀様ですか……ぷふっ……」
「ん?どうしたのだ?」
「いえ、一刀様と聞いたら、愛紗さんの顔が頭に浮かんで……」
「ぷっ……確かに」

その様子を劉備はぼんやりと眺めている。

ねえ、どうして?
どうして笑っていられるの?
全然理解できないよ。
ねえ、皇帝が助かっちゃったんだよ?
漢の皇帝が助かっちゃったんだよ?
今まで漢がどれだけ酷い状態だったか忘れちゃったの?
その漢の皇帝だよ?
悪政を行っていた張本人だよ?
宦官がやったから、皇帝は悪政に関係ないの?
宦官やその他の取り巻きの力が強すぎて、皇帝として何もできなかったら、皇帝は悪政には関係ないの?
そうなの?
皇帝って、私達と同じくらいの年なんじゃないの?
ちゃんと自分で善悪を判断できるんじゃないの?
自分が無能だと知ったら、皇帝を退位できるほどの判断は出来るんじゃないの?
それもしないでのほほんと皇帝を続けているのに、悪政に無関係だってどうしていえるの?
全然わかんないよ。
宦官に自由を束縛されていたから可哀想なの?
そうなの?
私のお母さんは、貧乏が元で病気で死んじゃったんだよ?
ご飯も満足に食べられなかったから、ちょっとした病気でも体力がなくて治らなかったんだよ。
ちゃんとした政治だったら、多分もう少しましな生活が出来て、病気にもならなかったと思うよ?
隣のおじさんも、戦争に引っ張り出されて死んじゃったんだよ?
別に行きたくて行ったんじゃないんだよ?
そんな人たちよりも皇帝は可哀想なの?
どうして?
生きているのに。
今回の戦だっていっぱいいっぱい兵隊さんが死んじゃったんだよ。
何人死んだの?100人?1000人?1万人?それとももっと?
その人たちの命よりも皇帝の命は大事なの?
ねえ、教えてよ、白蓮ちゃん。
桃香ちゃん、馬鹿だから全然わかんないよ。
盧植塾の筆頭でしょ?
頭いいんでしょ?
朱里ちゃん、私たちの兵隊さんが何人死んだか知ってる?
3人死んじゃったんだよ。
50人連れて行って、3人帰れなくなっちゃったんだよ。
その人の家に行って、にこにこしながらご主人は亡くなりましたが陛下は無事助けられましたっていうの?
桃香ちゃん、できないよ、そんなこと。
それでも、皇帝の命は大事ですっていうの?
皇帝ってみんなの犠牲の上になりたつものなの?
皇帝が国を纏め上げて、みんなを救ってくれるものなんじゃないの?
ちがうの?
朱里ちゃん、教えてよ。
天才なんでしょ?
桃香ちゃんに分かりやすく教えてよ。
でもね、何となく分かってはいたんだよ。
白蓮ちゃんや朱里ちゃんと、私とは根源的に違うところがあるって。
白蓮ちゃんも朱里ちゃんもお金持ちだもんね。
お金持ちには私たちの分からないお金持ちの論理があるんだよね、きっと。
貧乏人はどうでもいいんでしょ?
兵隊さんが100人死んだら、一般兵100人死亡っていう報告だけなんでしょ?
皇帝とか州牧とかそういう重要人物が一人死んだら大問題なんでしょ?
そのくらい貧乏人の命は軽いんでしょ?
そうなんだよね。
でも、違いがあるって認めたくなかったの。
朱里ちゃんは仲間だって思いたかったの。
でも、やっぱり違うんだよね。
皇帝が一番大事なんだね。
そんなに大切な皇帝ってなにをするの?
宦官にいいように使われるのが終わったら、今度は袁紹にいいように使われるのが皇帝なの?
そうだよ、袁紹のところに行っちゃったんだよ!
一刀ちゃんのいる袁紹のところだよ。
酷いよ、一刀ちゃん、信じてたんだよ。
一刀ちゃんは天の御遣いで、みんなの味方だから、もう私が皇帝になることは諦めて一刀ちゃんに託そうって思ったんだよ。
一刀ちゃんは私達貧しい人の味方になって、みんなを豊かにしてくれるって信じてたんだよ!
この戦が終わったら、ごめんなさいって投降しようと思ってたんだよ。
でも、もう出来ないよ。
皇帝を救うことを一刀ちゃんも賛成したんでしょ?
袁紹に提言するのはいつでも一刀ちゃんなんでしょ?
一刀ちゃんがそれがいいと思ったから提言したんでしょ?
一刀ちゃんもお金持ちの味方だったんだね。
皇帝の味方だったんだね。
そんな一刀ちゃんに投降することはできない。
戦ったら負けることが分かっていても、それでも皇帝を助けた一刀ちゃんに投降することはできない。
この先ずっと戦い続ける!
造れないことが分かっていても、私は真に貧しい人のことを考える国を造ることを諦めない!
私一人になっても一刀ちゃんとは戦い続ける!
でも……でも……
みーんなお金持ちの味方だよぅ。
桃香ちゃんのことを理解してくれる人が全然いないよぅ。
桃香ちゃん負けちゃいそうだよ。
星ちゃん、助けて……

「ん?どうしたのだ、桃香。そんなに涙を流して」
「……へいたいさん、いっぱいしんじゃった」
「そうですね、桃香様。でも、それも平和を守るための尊い犠牲。
彼等のおかげで漢も平穏を取り戻せました。
陛下も無事助け出されました」
「そうだな、それが結局戦と言うものだからな。
多少の犠牲は已むを得まい」

朱里ちゃんも白蓮ちゃんも嫌いだよ!
大っ嫌いだよ!!


 その後、范陽県に戻った劉備は亡くなった兵の家を周って、悲しい現実を報告しに行く。

「毛さん、こんにちは」
「あ、劉備様、わざわざこんなむさくるしいところにおいでいただき申し訳ございません。
それで、劉備様自ら何の御用でしょうか?
劉備様がいらっしゃったということは主人も戻ってくるのですね?」
「うん、あのね……あのね……」

劉備はそこまで言ってから、ぽろぽろと涙を流し、

「ごめんなさい、ごめんなさい。
東さん、もう戻ってきません。
桃香ちゃん、全員を連れて帰ってくることができませんでした。
本当にごめんなさい、ごめんなさい」

と、土下座して、何度も何度もごめんなさいと繰り返すのである。
夫人のほうも、ある程度は覚悟していたのか、

「いいんです、これも運命だったんです。
劉備様、お顔をあげてください」
「桃香ちゃんには謝ることしかできないの。
だから、ずっと謝らせて……」
「劉備様……」

夫人はそれだけ言うと、目頭を押さえて奥の部屋に走っていってしまった。
その後も劉備は「ごめんなさい、ごめんなさい」といい続けていた。

諸葛亮は、昔、水鏡先生に言われたことを思い出しながら、そんな劉備の様子を愕然とした様子で眺めていた。

―――才能と言うのは世のために使ってこそ初めて意味があるもの
―――多くの人々と接することで得られるものも多いものです
―――盧植の手紙には劉備は民を心底大事にする人物だと書いてありました

自分の才能って、何なのだろう?

  子曰爲政以徳譬如北辰居其所而衆星共之

という論語の言葉は知っているけど、徳とはなんなのだろう?
自分は、本当に民のことを思って行動していたのだろうか?
自分が治世したら、民はついてくるのだろうか?
自分は目の前にいる劉備のように普通の兵のことを大切に思っていただろうか?
自分は普通の民のことを思って心の底から泣くことがあるだろうか?
自分は劉備が兵が死んだといって泣いていたときに何と言ったろうか?
平和を守るための尊い犠牲―――そんなに簡単に割り切れるものなのだろうか?
夫を失った妻はそれで納得するのだろうか?
自分のやってきたことは、所詮は全て机上の空論に過ぎなかったのではないだろうか?
劉備こそ、真に徳を備えた人物なのではないだろうか?

「桃香様……」

そんなことを考えながら諸葛亮は劉備に声をかける。

「桃香様、もう奥様は奥の部屋に行かれました。
まだ報告に行かなくてはならない家が2件あります。
そちらを伺いませんか?」

そう言って劉備の体を起こすと、漸く劉備も「うん」と言って立ち上がる。

歩いていると、劉備の声が聞こえてくる。

「ねえ、朱里ちゃん」
「はい」
「亡くなった兵隊さんのお家が困らないように助けてあげて」
「分かりました」

水鏡の言っていたことが初めて少し分かった気がする諸葛亮であった。



あとがき

次回あたりから陶謙のところに行くのですが、そこでのストーリー展開がまだ出来ていません。
ちなみに、その先も未です。
というわけで、次回更新は少し遅れると思います。



[24705] 恭祖
Name: みどりん◆0f56c061 ID:81b7701d
Date: 2011/05/03 22:14
恭祖

 一刀に下るという選択肢がなくなった今、劉備のやることは当初予定通り陶謙のところに寄生することである。
趙雲には既に、一刀に投降する可能性は無くなったので当初予定通りに進める、と手紙を送った。
趙雲からはいつでも可能との返事があったため、いよいよ劉備は次の作戦に移ることにする。

「ねえ、朱里ちゃん」
「はい、何でしょうか?桃香様」
「桃香ちゃんね、県令止めて、他の州に行ってみたいなあって思うんだけど」
「桃香様がそう仰るのでしたら、私もついていきます。
范陽県が豊かになっていくのを確認できないのはちょっと残念ですが、桃香様に従います」

この間の一件以来、劉備を心の底から尊敬するようになった諸葛亮は、劉備に従うと即答する。

「ありがとう、朱里ちゃん。
ところで、朱里ちゃん、最近何か暗くない?
何か困ったことがあるの?
桃香ちゃんで出来ることならお手伝いするけど。
まあ、朱里ちゃんの方が頭いいから、桃香ちゃんが出来ることはあんまりないかもしれないけど……」
「いえ、ちょっと考え事をしているだけ……やっぱりお聞きしてもいいですか?」
「うん、いいよ!」
「桃香様は"徳"とは何だと考えていらっしゃいますか?」
「徳?」

そんなの、金持ちが道楽に考えた反吐が出るような自己満足でしょ!
と、答えるわけにもいかず、諸葛亮が何を悩んでいるか何となく分かったので、それに応えるように何とか答えをひねり出す。

「そうだなあ……う~~ん……
みんなが楽しく暮らせるようにするための努力……かな?
ごめんね、桃香ちゃん、あんまり難しいこと分からなくって、こういうことしか言えないんだけど」
「いえ、大変参考になりました。
みんなが楽しく暮らせるようにするための努力……
みんなが楽しく暮らせるようにするための努力……」

諸葛亮はそういいながら去っていった。
おーい!ちょっとちょっと朱里ちゃん、そんな即席の答えを後生大事にしてもらっても困るんだけど……と、困惑した劉備を後にして。

その後、関羽や張飛、公孫讃を説得して、いよいよ陶謙の許へ向かうことになった劉備の許に范陽県の人々、兵たちが大挙して押し寄せてくる。

「劉備様、お願いです。
我々も一緒に行動を共にさせてください」
「劉備様ほど私たちのことを考えてくださった方は、いませんでしただぁ」

口々に劉備と行動を共にしたいと訴えているのだ。
流石に劉備も感動でほろりとするが、

「みんなありがとう。
でも、これから行くところがどんなところかわからないし、陶謙様に仕えることになったとしてもみんなに食べさせてあげることはすぐには出来ないと思うの。
だから、お願い。ここに残って一生懸命働いて、幸せになって。
一刀ちゃんもいることだし、きっとみんな幸せになれるよ
桃香ちゃんはみんなが幸せになってくれることが一番嬉しいの!」

と、同行を断るのであった。
大勢の人々の見送りで劉備は陶謙の許へと発っていった。


 陶謙。字が恭祖。このとき大体60歳の老人である。
何故か史実どおりの年齢である。
60歳と言っても、まだまだ若々しい人物もいるが、彼は既に気概を失い、本当に気力からして老人となってしまっている。
年齢以外は史実とは色々違っていて、まだ曹操とは敵対していないとか、実は僅かばかりの兵を反董卓連合に送り込んだとかあるが、まあ、陶謙は陶謙である。
反董卓連合に送られた僅かばかりの兵の主要な武将が客将である趙雲であるというのは、全く形だけの派兵に過ぎないということがよく分かる事実である。
本人は徐州に篭ったままだし。
曹操に攻め込まれてもいないのに、なんでここまで気力がないのか不思議であるが、まあその程度の人物だったと考えるしかないであろう。

「ああ、劉備とやら。よく来た。
そなたの活躍は多いに聞いている。
民をこよなく愛す人徳に優れたものであると。
そなたの能力を存分に発揮してもらいたい。
平原国の相に任ずるので、その地の治安に務めてもらいたい」

ちなみに、劉備の活躍をそれとなく吹き込んでいるのはもちろん趙雲の仕事である。
その後袁紹に追い出されるであろう公孫讃を受け入れるには青州にいたほうがよいので、劉備を青州に行かせるように提言したのも、趙雲の仕事である。
事実、この時期青州の治安は、黄巾の乱以降不安定で、そこをまとめるというのもそれはそれで意味のあることだったため、陶謙はまさか趙雲と劉備が通じているとは思わずに、ほぼ趙雲の提言どおりに行動したのである。

「うん、桃香ちゃん、いっぱいいっぱい頑張るから!」

こうして劉備は平原国で盗賊制圧にあたることとなる。
県令から郡司相当職へ、大出世である。


 相になったからといって、やる仕事はあまり変わりない。
相変わらず有能な諸葛亮に政治の大部分を任せ、劉備は城外をうろうろしているが、平原国では大事な仕事が加わった。
盗賊の制圧である。
……が

「朱里ちゃん、これから盗賊さんとお話をしてこようと思うの」
「……え?盗賊のところに行くんですか?」
「うん、盗賊さんもちゃんと話をしたら、悪いことしなくなると思うんだ。
だから、桃香ちゃん行ってお話してこようと思うの」
「いくらなんでも無謀でしゅ!!」
「そうです、あまりに危険すぎます、桃香様!」
「そうなのだあ。悪い奴等はやっつければいいのだあ」

その方法が危なすぎると、諸葛亮、関羽、張飛全員に猛反対されてしまう。

「うん、桃香ちゃんもね、昔はそう思っていたんだけど、やっぱり違うんじゃないかって思うようになったの。
黄巾の人たちとおなじで、みんな最初から悪い人って訳じゃないと思うの。
だから、一生懸命お話したら、きっといい人になってくれるよ」
「桃香様、黄巾の乱の時は、もともとどのような素性の人が乱に加わったか分かっていましたし、その人たちが桃香様にお世話になっていたことも分かっていました。
ですから、桃香様の説得にも応じたのだと思いますが、今度はどうですか?
まず、桃香様のことを知らないでしょうし、仮に名前くらいを聞いていたとしても桃香様には全く恩義を感じていない人々が相手です。
そんな盗賊のところに行けば、殺されてしまうか、命は守られても犯されてしまうことでしょう!
そんな無謀なことは止めてくだしゃい!」
「朱里ちゃん、ありがとう、桃香ちゃんのことを心配してくれて。
でも、盗賊さんたちだって、生きるために仕方なく悪いことをしているんじゃないかって思うの。
それなのに、上に立つ人がみんなが楽しく暮らせるようにするための方法を教えもしないでやっつけてしまうっていうのは、やっぱりよくないよ。
だからね、まずお話しようと思うの。
その代わり朱里ちゃんにはどうしたらみんなが楽しく暮らせるかを考えておいてもらいたいんだけど」

この間の徳の話もあり、そう言われると諸葛亮はちょっと反論するのが難しくなってしまう。

「では、せめて私と鈴々を同行させてください」
「そうなのだ。愛紗と鈴々がいれば大丈夫なのだぁ」
「うん、ありがとう、愛紗ちゃん、鈴々ちゃん。
でも、これは桃香ちゃん一人でやらなくちゃならないことなの。
愛紗ちゃんや鈴々ちゃんがいたら、どうしても盗賊さんと敵対しちゃうの。
こっちが武力で対抗しようとしたら盗賊さんも武力で対抗しようとしちゃうの。
だから、桃香ちゃん一人で行かないと、盗賊さんと心を割ってお話しすることができないの。
だからね、みんなが心配してくれるのはとってもうれしいんだけど、桃香ちゃん一人で行くから」

そこまで言われると、もう諸葛亮にも関羽にも張飛にも劉備を説得する言葉が見当たらない。
仕方無しに劉備一人を盗賊の許に向かわせるしかないのであった。

出掛けに劉備は諸葛亮に

「桃香ちゃんに何かあったら、あとはお願いね、朱里ちゃん」

と能天気劉備にしてはまじめそうな表情で諸葛亮に囁いていく。
諸葛亮も、劉備の決死の覚悟を理解して、もう彼女を留めるようなことはせず、

「わかりました」

とだけ答えるのであった。


あとがき
とりあえず書き初めてみました。
ただ、ストーリー展開がまだ固まりきっていないので、数話削除して書き直し、ということがあるかもしれません。
その際はご容赦ください。



[24705] 何様
Name: みどりん◆0f56c061 ID:81b7701d
Date: 2011/05/10 23:31
何様

 劉備は一人盗賊の本拠地に向かう。
盗賊と言っても、アリババと40人の盗賊のような盗賊集団をイメージするとかなり違っていて、今で言うなら反政府組織と言った方が適切であるような集団で、男だけでなく女もいるし老人も子供もいる、村のようなものである。
というより、村である。
その集団が、バリケードを築いて外からの攻撃を防いでいるのと同時に、官軍のいるところを攻撃し、時に強奪をするので、確かに盗賊ではあるのだが、やはり反政府組織的な色合いが強い。
数名、多くても数十名の盗賊集団であれば純粋に盗賊の構成員だけで成り立っている場合もあるが、数百名、数千名の集団が組織的、永続的に政府と抗争を繰り返しているような場合には、盗賊の実働部隊だけで成立することはありえず、村などの集落の構成そのままで反政府組織になっている。
盗賊の実働部隊だって仕事の後には家に帰ってほっとしたいだろうし、食事の準備も必要だろうし、洗濯も必要だろうし、長期間に亘って抗争を続けるのであれば子孫を作らなくてはならないし、要するに抗争だけでは集団は維持できないので、村の構成員がそのまま維持されるのは道理なのである。
黄巾党も、実際に戦闘に参加する実働部隊の構成比率が一説では3割程度と言われていたのはそれが原因である。
彼等だって、全ての物を強盗行為や集団内での生産だけで賄うことはできるはずがなく、従って外との接触を一切断つわけにはいかないし、彼等に賛同する人間がいれば集団に引き入れることもあるから、外から彼等を訪れる人間があれば、まず様子を伺うのが自然である。
女を見れば襲うのが当然、という強姦集団でもないので、ここに交渉の余地がある。
そんな盗賊の集落のバリケードの前に立って、劉備は声を張り上げる。

「こんにちは~~~。桃香ちゃんで~~す!お話に来ましたぁ」

一方こちらは盗賊側。

「変なのが来たな」
「ああ。女が一人だけのようだが……」
「ほっとくか」
「それがいいな。害もなさそうだし。
あーー、そこの変な女。とっとと帰れ!俺達はお前を中に入れることはない」

と、見張りの盗賊に判断されて、中に入ることすらできない劉備である。
味方になるわけでもなさそうだし、商売に来たわけでもなさそうなので、彼等としては変な女を中に入れる必要が全くない。
が、その程度のことで諦める劉備ではない。

「ねえねえ、中にいれてよう!お話しようよう!!」

しつこくしつこく声をかけてくる。
見張りの盗賊もだんだん鬱陶しくなってきたので、弓を向けて脅してみる。

「うるせえ!
あんまりしつこいと、撃っちまうぞ!」
「お話しするまで帰れないから。ねえ中に入れてったらぁ」

だったらというので、劉備の傍に矢を射てみると……

「危ないじゃない!当たったら、どうするのよ!
大切なお話なんだからそんなことしたらだめだよ!」

あまり、驚いた様子もない。
弓で射ればすぐに死んでしまいそうだが、それはそれで無抵抗な女を殺したとあっては後味が悪い。
彼等だって所詮は普通の人間だ。
殺人鬼ではない。
とうとう根負けしてリーダーを呼んでくることにしてしまう。

「頭目、変なのが門の前で騒いでいます」
「そんなの弓で脅せばいいだろう?」
「それは、やったんですが、駄目でした。
射殺すのは簡単でしょうが、女一人で、殺してしまうのも後味が悪いんで、どうしたもんかと」
「女一人?何しに来たんだ?」
「さあ?話をしたいとだけ言ってますが」
「何の話だ?」
「大事な話とは言ってますが、内容までは聞いていないんで……」
「仕方ねえなあ」

頭目はぶつぶついいながらも、その女の様子を見に行くことにする。
変な女、劉備は食事の最中であった。
パンっぽいものをぱくぱく食べている。
初っ端から意気が下がる頭目、ずっこけて、砦から落っこちてしまいそうになる。

「誰だ、おめえ?」

劉備は慌ててパンを水で飲み込んで、

「んーとね、桃香ちゃんは桃香ちゃんだよ」

と、どうにか答える。

「で、何しに来たんだ?」
「お話したいなあって思って」
「何の話だ?」
「お願いだからね、もう街を襲わないでね。
そして、みんなで仲良く暮らそうって」

次第に頭痛がしてきた頭目である。
見張りの気持ちもよく分かる。
まじめに答えるのも馬鹿らしい気がするが、それでも「帰れ!」で納得することもなさそうなので、仕方なくまじめに答える頭目だ。

「あのな、今まで散々官軍と戦ってきているんだ。
それはな、漢のやり方が気に入らないからだ。
だから、官軍のほうが俺たちに投降するっていうんなら、話を聞かないこともないが、そんなことあるはずねえだろ?
だからな、俺らが投降するなんてありえねえ。
それに、今までの漢のやりかた見たら、うまいこと言って俺たちを投降させたら、俺たちを殺戮するに決まってんだ。
誰に言われて来たんだか知らねえが、そういうわけで俺達が漢と仲良く暮らすなんてことはねえ!
どんなに話し合ったって無理だ。
帰れ帰れ!帰らねえと犯っちまうぞ!」
「んーーとね、官軍が投降したら仲良く出来るんだったら投降するよ」

頭痛が酷くなってきた頭目である。

「そのーーー………どう言ったらいいのかなあ。
官軍ってのはな、お前みたいな小娘がどうこうできるもんじゃねえんだ。
お前が何様か知らねえが」「桃香ちゃんは平原国の相だよ♪」

頭痛が更に酷くなってきた頭目である。

「ああ、そうだったのか。お前が平原国の相ね。
そりゃすげえや。
俺もな、今まで隠していたが実は漢の皇帝陛下なんだ」
「それは嘘だね」
「なんだ、そりゃあ!
お前が平原国の相なのは本当で俺が皇帝なのは嘘なのかよ!」

とうとう、ぶち切れる頭目。

「うん。だって、この間劉協は袁紹に助けられて冀州にいっちゃったもん。
だいたい、劉協、女だし。
でも、どうせ能もなにもないから袁紹のところに行ってもいいように使われるだけだと思うよ」
「………お前なあ、相ほどの身分だったらもっと皇帝を敬うもんじゃねえのか?」

盗賊に皇帝を敬えと説教される相……非常に珍しい状況と言えよう。
この相、皇帝を名前で呼んでいるし、呼び捨てだし。

「そんなことないよ。桃香ちゃんの夢は、漢を倒してみんなが楽しく暮らせる国を造ることだもん。
劉協なんて洛陽で死んじゃえばよかったのに」
「ほう?お前、アホっぽい割りに言うことはおもしれえな。
いいだろう、ちょっと中に入って来い」

こうして劉備は平原国の相ということは全く信じられていないものの、盗賊の拠点に入り、そして頭目、他数名と話を始める。

「あのね、信じてないかもしれないけど、桃香ちゃんが相っていうのは本当なんだよ」
「ああそうかい。
で、相がなんでまたこんな辺鄙なところに一人でくるんだ?」
「だから、言ったじゃない。
みんなで仲良く暮らそうって」
「あのな、さっきも言ったけど、俺たちゃ盗賊だ。
漢に反抗しているんだ。
漢と仲良くできるわけがねえだろ?」
「うん、桃香ちゃんも漢と仲良くできるとは思わない」
「……そこがわからねえんだ。
おめえは漢の役人じゃねえのか?
漢を尊重するのは当たり前じゃあねえのか?」
「桃香ちゃんはね、昔は貧しい農民だったんだ」

それから、劉備はその生い立ち、今何をしているか、何を考えているか、何を目指しているかを話し始める。
そして、数時間後。

「我々は今後はここにいらっしゃる劉備様に従うことにする」
「ええ~~~~~~~~~~っっ?!?!」

変な女と家に入っていき、出てきたと思ったらそんなことを言う頭目の言葉に全員がぶったまげてしまう。
それはそうだろう、アホっぽい娘がやってきたかと思ったら、数時間後には彼女に従うと言うのだから。

「正気ですか?頭目」
「妖術でもかけられたんじゃないの?」
「その女が巨乳なんでころっと騙されちまったんじゃないんすか?」
「…それは………………ない?」
「その微妙な間は何なんだ!!」
「何で疑問形!!」

部下たちに一斉に突っ込みを入れられるが、頭目はそれを一蹴する。

「いや、劉備様は本物だ。
俺は惚れた。
俺たちのために本当に幸せな国を造ってくれるに違いない。
俺は、劉備様が要求するなら、どんなことでも手伝いたいと思う」
「まあ、頭目がそういうなら、ついていきますけどね……
本当にそんなアホっぽい女に従って大丈夫なんですか?」

それでも結構人望のある頭目らしく、部下達はいやいやながらもそれに従う意思を示すものの、同時に劉備に対する不信も露にする。
それには劉備が答える。

「んーとね、桃香ちゃんは平原国の相なんだよ」
「……頭目、まさかそれを信じたわけでは」
「多分、信じられないと思うからね、桃香ちゃん、しばらくここにいるから、誰かお城に行って朱里ちゃんって娘(こ)を呼んできてくれない?
そうしたら、本当だってわかるから。
それからね、その朱里ちゃんって娘とどうしたらみんなが仲良くなれるか一緒に考えよう。
もし、呼びに行った人が戻ってこなかったら、桃香ちゃんのことを殺しても何してもいいから」
「その、朱里って娘を訪ねればいいんだな?」
「うん、そうだけど……あ、朱里ちゃんは真名だから、えーっと、名前は……しょ、しょ、証城寺でも処女痔でもなくて、しょ……」

真名しか覚えていない劉備、必死に名前を思い出した結果は……

「しょぅがくせい?」

それは名前でなく、体形だった。
色々な意味で残念。




あとがき
袁紹伝では劉備の身分は不明確でしたが、少なくとも相ほどの身分ではないように記載してありました。
どうしたものかと思ったのですが、とりあえず桃香ちゃん物語では、相になったという設定でご了承ください。



[24705] 夫人
Name: みどりん◆0f56c061 ID:81b7701d
Date: 2011/05/17 22:36
夫人

 それから数日後、諸葛亮が張飛、数名の文官を伴ってやってくる。
どうやら、本名を忘れた振りをした劉備のいい加減な名前でも何とか通じたようだ。
……真名で分かったのか?
諸葛亮は砦に入ってくるなり劉備のところに足を運び、経過の確認をする。

「桃香様、説得がうまくいったのですね?」
「うん、ちゃんとお話したら、桃香ちゃんの考えに賛成してくれるって♪」

それを聞いた諸葛亮、劉備の前に跪き、

「桃香様、私は今まで桃香様を侮っていました。
民を大切にするのはこの間身に染みてわかりましたが、それでも皇帝の器ではないと思っていました。
でも、桃香様は本当に海より深い徳で人々の心を纏め上げる立派な人物でした。
漢の民は桃香様を新たな皇帝として迎えることでしょう」

と、尊敬の念を示す。
が、劉備や張飛に

「ど、どうしたの?朱里ちゃん。今日の朱里ちゃん、変だよ。
桃香ちゃん、全然変わってないよ?
いつもどおり、仲良くしようよ?」
「そうなのだ。お姉ちゃんは全然変わってないのだ。
前からでっかいんだ! (←何が?)
そんなことも分からないなんて、朱里も案外頭が悪いのだ」

と、変呼ばわりされてしまう。
それを聞いて、諸葛亮もにっこりと笑って

「そうですね。みんなで仲良くできるのが一番ですものね」

と、普段の様子に戻っていく。

 諸葛亮が村に到着するまでの数日間で、劉備の人柄が頭目以外の人にも知られるようになり、確かに劉備は尊敬に値する人物だということがわかったので、諸葛亮が投降後の盗賊の処遇(一応投降扱いになる)を劉備の意思を尊重して決めるということに誰も反対しなかった。
実質、今までの盗賊行為は不問とし、今後どのように協同していくかということをまとめるだけで、そのため数名の文官も連れてきていたのだ。

諸葛亮と(元)盗賊達の話し合いも何とかまとまりそうになったので、劉備は一人先に帰って、次にどこの盗賊と交渉を始めるべきか考えることにした。
……のだが

「ねえねえ、何でついてきているの?盗賊の親分さん」

頭目が劉備にくっついてきている。

「ん?言ったろ、お前に惚れたって。
だから、お前のためなら何でもしよう。
俺の一生をお前にささげよう。
これから、ずっとお前と行動を共にして、お前を手助けする」
「うーーん、それは嬉しいんだけど、村に残った人は大丈夫なの?」
「ああ。漢に強硬に反抗しないで普通に生活するだけなら、誰が指導者になっても大きな問題は起きないだろう。
だから、他の奴にみんなを導いてくれと託してきた」
「ふーん。親分さんがそれでいいなら、桃香ちゃんも歓迎だよ♪」
「その親分さんっての、止めてもらえねえか?」
「でも、名前知らないし……」
「そうだったな。俺は劉甘だ」
「劉甘ちゃん。あまちゃんだね」
「……何か妙にむかつく気もするが、まあいいだろう」
「じゃあね、あまちゃん、桃香ちゃんのことも、お前じゃなくて、桃香ちゃんって呼んで」
「……やっぱり、あまちゃん止めてせめて甘(かん)ちゃんにしてくれ」
「甘ちゃんね。うん、いいよ」
「呼び方は分かった。桃香でいいんだな」
「それで、甘ちゃんの真名は何なの?」
「真名?!!!」
「うん、そうだよ。
桃香ちゃんに真名を預けてくれないの?」

劉甘は、ちょっと躊躇したようだが、声を落として劉備に強い調子で話しかける。

「いいか?俺の真名は絶対他の人間に知られるなよ!
口に出すのも禁止だからな!」
「うん、わかった」
「俺の真名はな」
「うん……」
「○○んだ」
「……よく聞こえないよ?」
「……夫人だ」
「夫人?男なのに?」
「だーーかーーらーーだ!
絶対に口にすんなよ!わかったな!!」
「うん、わかった!!」

劉備、運命の人、甘夫人との出会いであった。
この後、劉備は甘夫人に精神的にも政略的にも多いに助けられることになる。

その後の行程は……

「…………ぷっ」

劉備は劉甘をちらちらと見ては時々吹き出している。

「おい、桃香!」
「な、なあに?甘ちゃん」
「お前、俺の真名のことを考えていたろ!」
「……そんなことないよ」
「お前なあ……視線が泳いでいるぞ」
「そ、そう?」
「まあ、いいや。桃香が笑っているなら、それで満足だ。
泣きたいときは、胸を貸すくらいしてやるから。
頻繁に来てくれると、俺もちょっと……嬉しいかな?」

下心丸出しの劉甘である。

「桃香ちゃんは泣いたりしないよ。
いっつもにこにこだよ」
「……あのな、俺もずっと漢に虐げられてきているんだ。
ずっと貧乏だったし、今でも貧乏だ。
昔の桃香よりはましかもしれないがな。
そんな人間と、役人とか権力を振りかざす人間の間には決定的な差異があることくらいよく知っている。
上に立つものは贅沢をしないことが悪であるとでも思っているんだろうな、とにかく民からは搾り取り、自分は贅沢をする、そういう連中だ。
だから、貧しい人間のための国を作るということを、そういう人間達のなかでどうにか相手を言いくるめながら実行するということの困難さは何となく分かる気がする。
桃香の仲間だって、口では色々綺麗事を言ってるかもしれないが、心の底に流れているのは権力を持つ側の思想だったんだろ?
あの諸葛亮って娘だって、この間の様子を見る限りじゃ、多分今回始めて桃香の気持ちが少し分かったんじゃないのか?
それでも、少し分かった気になっただけで、本当の辛さなんか分かるはずがない。
あれは、経験した人間だけが分かる辛さだ。
だから、桃香は周りの人間を動かそうとしても、全然思い通りに動いてくれない。
やりたいことが出来なくて、叶わなくて、辛くなっても愚痴を言う相手すらいない。
周りは権力を持つ側の人間だけだもんな。
そんな孤独な状態で、気を張り詰めて頑張ってると、そのうち倒れちまうぞ。
愚痴を言いたいときは言うがいい。
泣きたいときは泣くがいい。
その相手くらいならいつでもしてやるから」

劉備は劉甘をじっと見つめてから、

「桃香ちゃんは泣かないもん!」

と言い返すものの、どう見ても目に涙が浮かんでいる。

「桃香ちゃんは泣かないもん。
桃香ちゃんは泣かないもん」

劉甘はそんな劉備をぎゅっと抱きしめる。
劉備は劉甘の胸の中でずっと泣き続けるのであった。
もし、泣いているシーンが夜、妖しい月の光の射すベッドのある部屋、であったとしたら、関羽&一刀と同じ運命を辿ったのかもしれないが、幸か不幸か真昼間、屋外なので、体まで癒されるようなことはなかった。


 これほど心が癒されたのはまだ母親が健在だった頃より後には記憶にない劉備は、新たな元気をもらって城に歩いていく。
さて、劉備が居城に近づいていくと、なにやら妙な緊迫感が漂っている。

「どうしたの?何かあったの?」

劉備が衛兵に尋ねると、彼は

「あ、劉備様。
いえ、その、どう言ったらよいのか、政務が厳しくなったようで……」

と答える。

「政務が厳しくなった?」
「まあ、百聞は一見に如かずと申しますから、劉備様ご自身でご確認ください」

怪訝に思いながら政務室に近づいていくと、女性のヒステリックな声が聞こえてくる。

「今年度の麦買取価格について?
去年との比較は?
収量見通しは?
よし、承認!
次!
何?平原国に漢で一番の超級電脳を設ける?
漢で一番になる理由は何があるんでしょうか?
2番ではだめなんですか?
……答えられないようであれば却下!
次!!
平原国の中に秋葉村を作る?
萌えの聖地にする?
命奴喫茶は必須?
ふ、ふざけるなああ!!
次ぃ!!」

劉備が政務室をそっと覗いてみると、関羽が目を吊り上げながら政務案件を処理していた。
どうやら、諸葛亮が留守の間、関羽に替わってもらったらしい。
関羽にも政の才があったのか、諸葛亮の引継ぎ方法がうまかったのか、意外に政務を速やかに処理しているが、それでも依頼案件の方が関羽の処理能力を超え、待ち案件を抱えた人間が関羽の前にずらりと並んでいる。
人が並んでも、根がまじめな関羽は手抜きをすることもせず仕事に取り組んでいててんぱっているうえに、禄でもない案件を持ってくる人間もいたりして、関羽はカリカリしている。
やっぱり、苦労の人、関羽である。

「きっつい女。
あんな女を好きになるか、せめて耐えられる男なんているんかね?」

ぼそっと独り言を吐いた男の眉毛がブォンと動いた関羽の青龍刀で剃り取られる。

「何か仰いましたか?」

不自然ににこやかに微笑みかける関羽に

「な、なんでもございませーーん。申し訳ありませんでしたーー!!!」

と、ただただ謝って逃げることしかできないのであった。
男女の問題は、今はまだ関羽にはしてはいけない話題である。
まだまだ失恋の傷は癒えていない。
裸で抱きついている最中の男に、やっぱり今の女がいいと言われたらショックを受けるのも当然である。
劉甘を紹介するのも、時期を考えなくてはならなそうだ。

「愛紗ちゃん、大変そうだね……」
「あ、桃香様。お待ちしておりました」

恐る恐る声をかけてきた劉備に、関羽は極上の笑みを浮かべながら答え、

「さ、さ、桃香様。とりあえず今日はこれだけです。
他は私が処理しておきましたから」

と、木簡が山積みになった机に劉備を案内する。

「ちょ、ちょっと今日は休みたいし、また他の盗賊さんとお話にいかなくちゃならないし……」

と、事務処理をちょっと拒否したりしてみる劉備であるのだが、

「私は毎日この何倍も処理してきました。
桃香様なら、このくらい簡単ですよね。
そもそも桃香様のお仕事ですしね。
お願いしますね♪」

と、有無を言わさぬ笑顔で脅迫されると、

「はい」

と答えるしかないのである。
関羽の後ろに黒いオーラが立ってるし。

「でも、これ全部処理するの、時間がかかりそう」
「大丈夫です、桃香様。
どんなに夜遅くなってもお付き合いしますから」

その日だけで劉甘にもらった元気を悉く使い果たしてしまった劉備であった。



あとがき
劉甘は袁紹伝には登場しませんでしたが、何かと便利そうなので登場させることにしました。
そのうち夫婦になるのでしょうか。



[24705] 二人
Name: みどりん◆0f56c061 ID:81b7701d
Date: 2011/05/24 23:28
二人

 政務の都合で、他の盗賊のところを回る時期がやや遅れてしまったが、それでも盗賊の投降は劉備と劉甘の説得が効を奏して徐々に進んでいった。
むしろ、既得権益にしがみつこうとする役人や兵、将校の意識改革の方が余程困難で、どうしても劉備の意向に従わない人間は役を解く、早い話が解雇するしか手がないのであるが、そうするとそういう人間が今度は治安を悪くする方向に働いて、それはそれで問題になるのだが、解雇をちらつかせればほとんどの人間はいやいやではあろうが劉備の意向に従うので、実際に役人たちを指示する立場にある諸葛亮もそれほど苦労せずに済んでいる。
そうそう、劉備は仕方なしに諸葛亮が戻ってきてから劉甘を関羽らに紹介したのだが、

「そうですか。劉甘様ですか。桃香様をよろしくお願いします。
桃香様、それで劉甘様と"お二人"で盗賊の説得に向かうのですね。
お二人で。お二人で。
そうですよねえ、お一人では大変でしょうからね、お二人で……。
仲良く行ってらっしゃいませ、お二人で。
いえ、お二人の仲をうらやんでいるというわけではありません。
ええ、そうですとも。私が他の男女の仲をうらやむなんていうことがあるはずないではないですか。
ただ、ちょっと桃香様が心配なだけで。
劉甘様、決して桃香様を見捨てることのないようお願いします。
捨てられた女ほど無様なものはありませんからね~♪」

失恋真っ最中の関羽に、それはそれはにこやかに(しかし、たまたま手にしていた木簡は粉々に粉砕された状態で)挨拶を返され、

「か、甘ちゃん、助けて」

と、劉甘の後ろに隠れてしまう劉備に、今まで散々官軍と戦ってきた劉甘も、

「い、いや、人間できることとできないことがある。
一人で官軍10000人を相手にしたほうがまだ気が楽だ」

と、劉備の後ろにくるりと回ってしまう。
再度矢面に立ってしまった劉備は、下手な言い訳は火に油を注ぐようなものだということをしっかり理解しているので、

「あは、あはは……」

と、冷や汗を流すしかないのである。
今の関羽に対抗できる人間は、漢広しといえども、皆無に近いであろう。
そんな関羽と劉備、劉甘の様子を張飛はにやにやと、諸葛亮は「はわわ」と眺めているのであった。
関羽の、このぴりぴりとした様子は、彼女の恋心が満たされぬ限り続きそうだから、劉甘は当分関羽から目の敵にされること、間違いなしである。

「鈴々さん」
「何なのだ?」
「相談があるんですけど」
「朱里から相談なんて珍しいのだ。それで、どんな相談なのだ?」
「ええ、愛紗さんのことなんですが……一緒に仕事をしていると辛いので、どうにか昔の雰囲気に戻せないかと……」
「それは無理なのだ。それができるのは一人しかいないのだ」
「……一刀様ですね?」
「そういうことなのだ。だから、それは鈴々に相談しても意味がないのだ」
「そう……ですよねぇ」
「朱里は頭がいいのだから、一刀を連れてくる方法を考えればいいのだ」
「一刀様を連れてくる?」
「そうなのだ。二人を同じ部屋に放り込んでおいたら、愛紗はすぐにでれでれになるのだ」
「そうですねぇ。
一刀様を連れてくる……一刀様を連れてくる……」

諸葛亮は、そうぶつぶつつぶやきながら去っていった。
そして、目の前の関羽に全く気付かなかった。

「一刀様を連れてくる……一刀様を連れてくる……」
「これはこれは朱里様ではありませんか。また、何やら面白いことを画策しているようですね」
「え?」

ここで、ようやく関羽に気付いた諸葛亮、関羽の引きつった笑顔を見て、魂が口からスポーンと飛び出していってしまったのは仕方のないことであろう。
関羽については、暫くそっとしておくのが一番いいにちがいない。
ちなみに、諸葛亮の魂はふわふわと浮遊しているところを張飛が捕まえて諸葛亮に戻しておいたので、再び諸葛亮が生命活動を始めたというデマがあるらしい。


 盗賊の説得に向かう時間は、劉備と劉甘の二人の時間である。
二人の時間と言っても、関羽と一刀のように愛し合うことがメインではない。
というより、この二人、まだ一度も肌を合わせていない。
関羽がああいう状態だと、ちょっとやりづらいし、そもそもこの二人、まだそこまでの関係でない。
道中は他に誰もいないので、秘密の話をするのにもってこいである。
特に重要なのは、今までの情報の交換である。

「え?盗賊さんのところにも、他の街の様子が入ってくるの?」
「もちろんだ。漢には漢の情報網があるが、盗賊だって負けてられねえ。
官軍の動きをいち早く他の仲間のところに伝えるのも重要な仕事だ。
そうでもしなかったら、盗賊集団なんて個別にやられてあっという間に駆逐されてしまう。
その情報を元に、どこで待ち伏せをしたらいいかとか、どの村に応援に行かなくてはならないとかいうことを判断するんだ」
「ふーん、そうなんだ」

それを聞いてなにやら思案を始める劉備、こう続ける。

「瑯邪国の様子も分かるかなぁ?」
「瑯邪国?何でまた」
「うん、実はね、天の御遣いって人が徐州には曹操が攻め込んでくるから気をつけろっていうようなことを言っていたんだって。
特に兌州と瑯邪国の間は危ないって」
「天の御遣いって、袁紹様のところにいるとかいう噂のある男のことか?」
「うん、そうだよ。
名前は北郷一刀っていって、愛紗ちゃんの元恋人。
何回も愛し合ったのに、振られちゃった。
愛紗ちゃんの初めてをあげたのに………」
「………」

本人がいなくても、何か非常に気まずい劉甘である。
劉備もそれ以上に関羽の話題に触れるのははばかれたようで、その後二人は黙ってしばらく歩き続けることになる。

「瑯邪国にも伝(つて)があるから何かあったら知らせてくれるよう伝えておこう」

と、劉甘が返事をしたのは、かれこれ1時間ほど黙ったまま歩いた後のことであった。
これ以降、劉備の情報収集能力が大幅に向上することになる。


 さて、それから数ヶ月、相変わらず反政府組織との融和と既得権益にしがみつきたい役人や将校の懐柔を進めていた劉備に、劉甘からもたらされた情報は瑯邪国からのものでなく、冀州からのものであった。

「そういや、袁紹様が公孫讃様を攻めるらしいぞ」

それを聞いた劉備、満面の笑みでにや~っと嗤い、

「へぇ、そうなんだ」

と答える。それを見た劉甘の感想は……

「……桃香ってさ、前から思ってたが相当腹黒だよな」
「そ、そんなことないと思うけど」
「だって、今の顔は相当酷いぞ。
悪巧みがうまくいって満足だっていう、悪魔の笑顔をしている。
どうせ桃香のことだから、公孫讃様に何か罠でも仕掛けてきたんだろ?」
「そんなこと……ないよ」
「お前な、笑顔が引きつってる。
説得力皆無だな。
ま、安心しろ。誰にも桃香の本性は話さねえから。
でもさ、腹黒桃香と貧民を本当に大切にする桃香と、どっちがお前の本性なんだ?」
「うーん……多分、両方本当なんだと思うよ。
みんなを大切にしたいんだけど、それをするには色々策を講じなくてはならないから」
「まあそうなんだろうな。
だがな、これは覚えておけ。
数人の仲良し集団でいる間はみんなが仲良くってのも、あながち夢物語ではないが、集団が郡とか州とか大きくなってきたら、全員仲良くっていうことは絶対ねえ。
どんなに善政を敷いても、不満を持つ人間は絶対に現れる。
そして、善政を敷くためには、どうしてもある程度の犠牲も必要になってくる。
ある人間にとっての善政が、別の人間にとって悪政になることだって、いくらでもある話だ。
場合によっては、桃香の目指す善政を行うがために、民の命を犠牲にしなくてはならないこともあるだろう。
桃香の実現しようとしている国には、そういう桃香の望まぬ現実も、必ず起こると心しておくことだ」
「知ってるわよ、そんなこと。
……言われなくったって知ってるわよ」

それから二人は妙にシリアスな雰囲気になって、黙々と歩みを進めるのであった。
劉備の作戦が公孫讃の取り込みだということを劉甘が知ったのは、それからほんの数週間後のことである。

 公孫讃は太守を務めたほどの人物ではあるのだが、青州で権力を振りかざそうとすることもなく、劉備の部下となって地道に政務をこなすことを是としている。
自分の立場をわきまえているのかもしれないが、それにしても良く出来た人間であると言ってよいであろう。
公孫讃の加入で、政務は今まで以上に充実して取り組むことができるようになった。
諸葛亮が城に留まり、公孫讃が劉備と行動を共にして盗賊集団と投降後の処遇を決めるという役割分担になり、内政が滞るようなことがなくなっていった。
と、何となく劉備体制がうまくいきそうになったところで、劉甘経由で瑯邪国の情報が入ってきた。

「瑯邪国の開陽で、曹操の父と妹の曹嵩、曹徳が殺されたみたいだぞ」
「えっ!!」

その情報を聞いた劉備は、今までにないほどに驚愕し、そして全身驚きのためか、恐怖のためかぶるぶると震えてくる。

「どうしたんだ?」

劉甘が今にも崩れ落ちそうな劉備を抱きしめると、劉備は劉甘の腕の中で

「そ、そんな……一刀ちゃんはこれを知っていたっていうの?
瑯邪国の民がみんな殺されることを知っていたの?」

と、独り言のようにつぶやく。

「瑯邪国の民がみんな殺される?」
「ええ。今まで聞き集めた情報から、曹操が身内を大事にしているのは明らか。
そして、親兄弟を殺されたとあってはその怒りもどれほどのものか。
恐らく冷静な判断も出来ずに、全軍で瑯邪国に攻め込んできて、怒りに任せて殺戮を繰り返す。
きっとそうなるに違いない。
多少の戦争であれば一刀ちゃんも注意することはないと思うから、それをわざわざ注意したということはそれだけ大事件だということ。
今の陶謙軍には曹操軍に対抗できる力がないから、攻め込まれたら為す術がない。
自分の領地であればみんなを逃がすこともできるけど、それだって領民は何で?って思うのが普通。
ましてや瑯邪国は州も別。
陶謙が強力な指導力で命じればなんとかなるかもしれないけど、陶謙は腑抜け同然でとてもそんなことはできそうにない。
逃げるように私が説得に行ったところで、みんな耳を貸さないで、そうこうしているうちに曹操軍に攻め込まれたら私まで巻き添えを食って死んでしまう。
だから、私に出来ることは曹操が攻め込んでくるという情報を流すことと、曹操が去るのを待って陶謙の元で立場を確かにすること、それしかできない……けど、そんな風に他人を犠牲にして自分がのし上がって許されるのかしら……」

劉甘は、暫く黙っていたが、こう答える。

「桃香の最終的な夢が貧しい民が虐げられることのない、食に困らない国を造るということは聞いているが、陶謙様の許に来た理由はなんなんだ?
そして、その理由というのは夢を実現するために必要なことなのか?
もし、そうであるならこの間も言ったがどうしても犠牲なしでは物事は進まないのだから、瑯邪国の民の命は桃香の夢の実現のために必要な犠牲だった、そう割り切るしかないだろう。
そして、桃香は自分の夢のためにそれだけの犠牲があったということを心に刻んで、夢に向かって進んでいく、それが犠牲になったものへのせめてもの償いになるんじゃないか?」

劉備は劉甘をしばらく見つめていたが

「いいの?本当に桃香ちゃんだけがそんなにいい思いをしていいの?」

と、再度尋ねる。
劉甘はそれには答えず、劉備をぎゅっと抱きしめることで答えとする。

 劉備の予想通り瑯邪国が曹操に襲われ、全滅したという報を聞いたのは、それから僅か10日後のことであった。
劉甘を通じて曹操襲撃の予想を伝えたが、それを信じて難を逃れたのは、1万人にも満たなかった。



[24705] 踏台
Name: みどりん◆0f56c061 ID:81b7701d
Date: 2011/05/29 11:56
踏台

 陶謙にとっては死神がやってきたようなものだが、劉備にとっては陶謙の許で立場を確かにする、そして麋竺の資金を活用するためのまたとない機会である。
志は崇高なのかもしれないが、黄巾の乱といい公孫讃放逐といい曹操襲撃といい、結局は他人の不幸を踏み台にしているのだから、客観的に傍から見たら極悪非道だと言われても仕方のない劉備である。
だいたい、公孫讃が袁紹に攻撃されることになった原因の一因は劉備にあることだし。

 今回の曹操襲撃の際に劉備が取るべき作戦は主に次の2点。

1)真っ先に陶謙の許にかけつけ、絶対忠誠を宣誓して存在をアピールすること
2)無理難題でも要求を全て受け入れること

今は民がどうこういう必要は全くなく、陶謙に媚び諂えば結果は自ずとついてくる、そう判断しての行動である。
劉備は曹操軍襲撃の報を聞くや否や軍を下丕にすすめ、陶謙の支援に向かう。
もし、途中で曹操軍にぶつかったらひとたまりもなくやられてしまうだろうが、その懸念をして出発を遅らせると真っ先に陶謙の許にかけつけるということができなくなる可能性が高く、フライング気味の出発である。
ある意味賭けと言えよう。
まあ、劉備程度の勢力の人間が皇帝になろうと思ったら、博打まがいのことを繰り返すしかないから、それも仕方ない。
そして、劉備は賭けに勝ち、今は小沛にある。
平時の身分としては、平原国の相とそれほど変わらないか、寧ろ下がった感もあるが、重要度は激増である。
曹操と真っ先に戦うとしたらここ小沛が最前線になるのだから。
当然陶謙軍の中で劉備の重要度も急上昇する。
劉備には陶謙の私兵数千が与えられたが、それも重要度が上がったためである。
まあ、兵を与えられたといっても、どう考えてもそれで曹操軍数十万を相手にするのは不可能であるのだが。
陶謙を数日延命させる程度の効果しかないだろうが、自分が最前線に立つよりは気分的に楽だ。
虎の子の私兵を渡すといっても、最早自分で指揮して兵を動かす気力もないから、自分を守ってくれる人間がいたらぱっと渡してしまってもそれほど残念に思うこともない。
数千の私兵よりも自分の心の安寧、それが今の陶謙の優先順位である。
さて、その劉備、小沛にあって城を眺めている。

「小沛だね、朱里ちゃん」
「ええ、桃香様」
「ここで曹操軍を防ぐことはできるかなぁ」
「無理でしょう」
「うわ!即答?」
「ええ。変に期待を持たれても困りますから。
私たちにできることは、せいぜい数日足止めできる程度でしょう」
「そうだろうな。だが、足止めするにしても城を要塞化しておくに越したことはないだろう。
2~3日の足止めが2~30日に伸ばせるかもしれぬ」

と、劉備と諸葛亮の話に割って入ってきたのは公孫讃。
彼女も、極めて普通だとか影が薄いといわれる割にはそれなりの将校だから、というより盧植塾では筆頭を務めていたほどの人物だから、そういう戦術にも戦略にも長けている。
え?それほどの人物が何で顔良というか袁紹軍に負けたか?
それは簡単、兵站で袁紹軍に圧倒的に負けていた、これに尽きる。
一刀の戦略は超単純明快、戦は兵站だよ、多少局所的に負けたって食べ物を十分に準備して兵を養っていられる程に国力が十分なら最終的には勝てるさ、とほとんど現代戦略そのままの考えで国富を増大することだけに注力している。
そんな人間がいて、元々普通の戦術、戦略に秀でている人間がいる袁紹軍に勝てる道理はなかったのだ。
公孫讃も軍の差異を十分に知っていたから、無理に戦うようなことをせずにとっとと逃げてきたというのが実情だ。
そういう面では的確な状況判断だったと言えよう。

「そうですね。何もしないで曹操軍にいいようにやられるよりは、一矢でも報いてから投降したいものですものね」

諸葛亮もその意見に同意している。

「じゃあね、白蓮ちゃんがお城の守りを固めるようにする係、朱里ちゃんが攻める武器を作る係、これで曹操ちゃんが来る前にできるだけのことをするでいいかな?」
「ああ、私はそれで構わない」
「私もいいです」

というわけで、公孫讃と諸葛亮が分担して小沛城の守備力の強化を図ることになった。
それにしても……武器係、守り係。係ですか。小学校じゃないんだから。
その結果、

「急げーー!!急ぐんだーー!!」

どこかで見たような風景が展開されている。
公孫讃自ら陣頭指揮をとって、小沛城の城壁の強化を行っている。
攻城兵器に対抗できるよう、城壁を高くし、城門を頑丈にしている。
って、ほんの数ヶ月前、彼女は易京で工事をしていたような。
つくづく要塞作りが好きな公孫讃だ。
工事の最中に曹操軍がやってきて、

「ちょっと、あなた、何をしているのよ?」

と曹操が公孫讃に尋ねないことを祈るばかりである。

 主な仕事を公孫讃と諸葛亮に任せた劉備は何をしているかというと……

そうよねえ、朱里ちゃんも白蓮ちゃんもさすがよね。
曹操軍の攻撃に耐えられるのは数日、もって1ヶ月で、その後は投降、私もその展開には賛同するわ。
でも、その展開を見据えたうえで私がやりたいことは別。
どうせ私達じゃ曹操軍に決定的な被害を与えることはできないだろうから、ここで投降したら曹操軍が勢いがあまり変わることなく下丕まで侵攻して、そこで陶謙を滅ぼす。
そうなると、一番注目を浴びる人間はそこで最後に曹操と戦った人間。
小沛で少しくらい頑張ったところで、人の心に最後に残るのは、最終的に戦った人間なのだから。
だから、私は小沛にいてはこれより上に登れない。
どうにかして下丕に戻らなくてはならない。
でも、私は陶謙に乞われてここ小沛にいるのだから、下丕に戻る方法は………
陶謙様、ごめんなさい。
あなたには本当に感謝しています。

何やら手紙を書き始めている。
そして劉甘に怪しい依頼をしている。

「これを下丕にいる趙雲に届けてくれる?
絶対に中は見ないように」
「わかった。中は見たら駄目なのか?」
「ええ。甘ちゃんに罪を被せたくないから」
「……そういう内容の手紙なんだな?」
「ええ」
「わかった。じゃあ、今この場で読んでおこう」

劉甘はそういうと手紙の封を剥がして極秘の手紙を読み始めてしまう。

「ちょ、ちょっと!」
「言ったろ?桃香一人が苦労を背負い込む必要はないって。
俺も仲間だ、桃香の苦労なら一緒に背負ってやろう。
それにな、そういう極秘の内容は手紙にしたら駄目だ。
口伝えで直接伝えなくては、秘密は必ず漏れてしまうもんだ。
だから、俺が覚えて趙雲というのに直接伝えてやろう」
「……馬鹿なんだから。
本当に馬鹿なんだから」

そう劉甘を非難する劉備は、しかし嬉しそうな表情をしていた。

「……で、書いてある内容がさっぱり分からないんだが?」

手紙を読み進めている劉甘が劉備に聞いている。

「うん、だって暗文で書いてあるもん。
これを読んで分かるのは星ちゃん、って趙雲のことだよ、だけだよ。
今までも普通に手紙を送ってたんだよ」
「……お前、なかなか頭いいな」
「だから、この手紙を星ちゃんに届けてくれるだけでいいよ」
「俺が内容を知る必要はないのか?」
「甘ちゃんに罪を被せたくないって言ったじゃない」
「……桃香も本当に馬鹿だな」
「うん。泣きたいときに泣かせてくれればそれでいいから」
「わかった。任せておけ」

そう言って、劉甘は下丕に向かっていった。

 それから1ヵ月と少し後、陶謙の死去と劉備への州牧就任依頼が麋竺よりなされたのであった。


 下丕でやることも小沛と余り変わらない。
というより、戦術的には全く変わらない。
篭城して敵をやっつけられるよう、武器を準備し、城壁を強化する、ではあるのだが戦略的には戦うことなく投降する気でいるので、劉備自身はあまりその方面に力を注ぐつもりはない。
が、州牧が最初っから投降する気でいるというのも、士気に関わるので、一応公孫讃や諸葛亮には曹操に対抗するよう準備を進めてもらっている。
というわけで、

「急げーー!!急ぐんだーー!!」

またまた、嬉々として要塞を作っている公孫讃がいる。
本当に要塞オタクである。
易京で史実通りの要塞ができなかったので、フラストレーションが溜まっているのだろうか?

劉備は何をしているかというと、下丕にいた人々との話し合い。
主に麋竺。
なんと言っても、徐州に来たのは麋竺の資金が目当てなのだから、彼に今後の資金援助を約束させなくてはここに来た意味がない。
州牧なんてどうでもよかった。
どうせ、すぐに手放す破目になるだろうし。
まあ、一度でも州牧を経験しておけば、その後のネームバリューはつくから、やっておいて損はない。
というより、これが後々ものをいうのではあるのだが、本人はまだそこまでの展望は持っていない。

麋竺は、劉備、諸葛亮らと今後の方針について話し合ったが、諸葛亮からは下丕を守り、曹操を撃退するのは無理だろうとの意見がでた。
麋竺はそれに対し、金で解決できるなら自分の金を使えと言ったものの、劉備は曹操も少しは頭を冷やしたろうから、投降すれば命を奪うことはないに違いないと随分と楽観的な回答があるのみであった。
麋竺は、諸葛亮が去ってから劉備と二人でもう一度突っ込んだ話を始める。

「劉備様、投降すれば命は守られるというお考えのようですが、どうにも私には楽観的過ぎると思うのですが」
「あ、桃香ちゃんのことは桃香ちゃんって呼んで」
「桃香様ですか。畏まりました。それでは私のことは清老頭とおよび下さい」
「チンロウトウさん?」
「はい。それが私の真名です。
で、先ほどの投降の件ですが」
「うん、桃香ちゃんはね、あんまり楽観的とも思っていないんだけど」
「それは、また何故でしょうか?」
「だって、本当にまた虐殺を繰り返すつもりだったら、豫州に戻らないで侵攻を続ければよかったはずだし」
「しかし、それは豫州をあまり長い間空にしておくと袁紹様に攻め込まれる可能性があったから戻っただけで」
「うん、そう言われてるけどね、袁紹は今北方に目が向いていて南は守りに終始している。
どうも、袁紹は元々大勢力であまり焦る必要がないみたいだから、じっくりと着実に領土を広げようとしているみたい。
豫州を攻めるほどの勢力は今のところ袁紹以外にはいないから、袁紹が攻め込まなければ当面は安泰だと思う。
で、曹操も豫州に戻ってそれが分かったはずなのに、再侵攻をしようとしない。
食料が欲しいなら、再侵攻をかけて略奪したほうが余程効率的だし、圧倒的勝利で兵の士気も高まっているから、戦略的には再侵攻をしたほうがいいはず。
徐州には曹操軍に対抗できる力がないことも明白だし。
むしろ、侵攻する時期を遅らせると、袁紹が攻める準備を整えるとか、徐州も反撃の準備をするとか曹操にとっては悪影響があるから、攻めるなら早いほうがいい。
なのに、それをしないということは戦略的な問題でなく、内面の問題で再侵攻を躊躇していると見るべき。
となれば、前回の虐殺はやりすぎと反省しているだろうから、仮に再侵攻をかけてきたとしても、今度は虐殺はしないだろうという見通しはそれほど楽観的じゃないと思うんだけど」

麋竺は驚愕の目で劉備を見つめている。
民への受けはいいし、陶謙への忠誠も人一倍だったので、陶謙が州牧にすると言い残して逝ったことは理解できるが、それにしても劉備は能天気でちょっと足らない女で、どうせ攻め込まれたら殺されてしまう名前だけの州牧にするには適当な人物だと侮っていたが、どうして情勢分析がしっかりしていて陶謙や陶商、陶応より余程頼りになりそうだ。
表面上無能を装っているが、実はかなりの切れ者なのでは?と、劉備評を変える麋竺である。
劉備は、更に言葉を続ける。

「それにね、曹操ちゃんが相手だったら、絶対に桃香ちゃんたちが殺されない秘策があるの」
「秘策?それはどのような」
「秘策っていうくらいだから、秘密だよ」
「そうですか。で、その秘策と言うのは本当に効くのでしょうか?」
「うん、曹操ちゃんには絶対効くよ。
他の人には全然効果がないと思うけど」

対曹操最終兵器、その名は「関羽」!
それにしても………失恋の最中の関羽を曹操への餌として使うとは。やっぱり劉備、悪党だ。
関羽も自分の処遇がひどいということにいい加減気付けばいいものを。
まあ、それでも律儀に劉備に従うところが関羽らしいところなのだろうけれども。

「そんな策があるのですか?」
「うん。だから、下丕のみんなの命と財産は絶対に守れると思うよ」
「わかりました。もう、私の命も財産も諦めていましたから、無事私の命と財産が守られましたら、今後は私も私の財産も桃香様の持ち物と考え、ご自由にお使いください」
「ありがとう。桃香ちゃんが本当に困ったときはお手伝いしてね」

予定通り麋竺の資金を手に入れ、にんまりとする劉備であった。


 それから大事なのが趙雲との打ち合わせ。
久しく離れた場所にいて、手紙だけのやりとりしかしていなかったが、やはり直接会って今後の展望について話し合うことも重要である。
手紙で送られる情報量も限られていることだし。

「ありがとう、星ちゃん。もう少し遅れたら曹操が攻め込んできてしまったと思う」
「何、この程度造作もないこと」
「で、どうやったの?」
「どうやった……とは?」

趙雲は質問の内容が分かっていて劉備にその質問の意図を確認する。
表情もなんともダークな満面の笑みである。

「陶謙」
「陶謙殿?さて、桃香殿は何か勘違いをしているのではないかな?」
「もったいぶらずに教えてよ」
「私は特になにもしていないがな。
ただ、魚の肝を少し料理に含ませておいただけだ。
陶謙殿が元気になればよいと祈念して。
肝は健康に良いという話だからな」
「魚の肝?」
「そう。たしか、河豚とかいう名前の魚であったかな?」

いや、それ駄目だから。テトロドトキシン満載だから。

「ふぐ?それってどんな魚なの?」
「うむ、なんというか丸みを帯びた魚なのだが、大体それを食べた犬や猫は死んでしまっているようだな。
滋養が強すぎるのであろうかな?
人間相手では問題ないと思っているのだが。
………まさか桃香殿は私が魚の肝を陶謙殿に差し上げたことが陶謙殿の死亡と関係しているとでも思っているのであるまいな?」
「その魚の肝ってまだあるの?」

趙雲はダークな笑みを更にダークにする。
それから、今後の作戦を色々話し合う。
当面、趙雲はここ下丕に留まることになったようであった。

「あと、一刀ちゃんのことなんだけど、一刀ちゃんは瑯邪国で起こる事件のことを知っていたのかしら?」
「まあ、直接曹操が攻め込んで虐殺をすると言ったわけではないのだが、何かそこまでの出来事は分かっているようであったな」
「………とても太刀打ちできないわね」
「うむ、桃香殿が一刀殿に歯向かおうとするのであれば、もう自身の敗北と死を前提にことを進めるしかないのであろう。
それに、それは桃香殿も納得して一刀殿と決別したのであろうに」
「それは、そうなんだけど……
実際にその影響力のすごさを目の当たりにすると、無理やり奮い立たせていた自分の自信ですら揺らいでしまいそうで。
私達がどんなに頑張ったところで、そして一刀ちゃんの裏を掻こうとしたところで、それがやる前から分かってしまっているっていうことなんでしょ?」
「んーー、一刀殿とて何から何まで知っているというわけではないだろうが、未来に大事件と語られるような事柄についてはある程度は知っているのではと疑ってかかるべきなのであろうな。
いっそ、劉協を殺して、一刀殿に投降するというのはどうだろうか。
曹操の脅威にも対抗でき、いいこと尽くめの気がするのだが」
「……一度皇帝を助けた人間なんか信じられない」

その日の打ち合わせはそこまでとなった。


あとがき
ちなみに河豚に河がつくのは、昔は黄河で河豚が獲れたのが由来だとか。
黄河の河豚にも毒はあったのでしょうか?
まあ、徐州は海に近いから海産の河豚でも入手できたことにしましょう。



[24705] 微乳(R12?)
Name: みどりん◆0f56c061 ID:81b7701d
Date: 2011/06/03 23:53
微乳

 要塞オタク公孫讃は下丕の防衛強化に余念がないが、攻撃担当の諸葛亮は小沛での作業同様攻撃兵器の製造を指示している。

「最終的に、この腕木を芯棒に通して、台座に据え付けます。
まず、全員でこの台座の片側を立ち上げてください」

霹靂車でも作っているのだろうか?
とりあえず、今のところ曹操の攻撃はなく、霹靂車下丕一号機はまもなくできるような時期になったようだ。
さて、そんな諸葛亮の様子をじっと見ている、ちょっと身分の高そうでまじめそうな、少年、若しくはちょっと青年と言った方がいいような年代の男がいる。
諸葛亮と同年代か、少し上くらいだろうか?
その少年、諸葛亮の仕事が終わるとタオルというより布巾を持って諸葛亮の許へと歩み寄っていく。

「諸葛亮さん、お疲れ様でした」

と、布巾を差し出しながら労いの言葉をかける少年に、諸葛亮はタオルを受け取りながら返事をする。

「ありがとうございます。
あの、あなたは?」
「僕は麋柔。麋竺の末の弟です」
「ああ、麋竺様の。
麋柔様、どうして私にこのようなことを?」
「えっ?どうして……って言われても」

麋柔は顔を赤らめてもじもじしていたが、

「諸葛亮さんが可愛いすぎるから」

と、答えるのである。

「えっ?!」

今度は諸葛亮が真っ赤になって、

「布巾、後で返しましゅ!」

と、走って逃げていってしまった。
諸葛亮にも春の風が吹いてきたようである。

「あ、諸葛亮さん……」

諸葛亮に逃げられた麋柔は非常に残念そうだった。
それにしても、諸葛亮を好きになった男の名前がびにゅうとは………なんとも微乳、ではなく微妙だ。
微乳でなく美乳なのだろうか?

その日は逃げていった諸葛亮であるが、同じ街にいて諸葛亮が毎日何をするかは明らかなのだから、次の日合わなくてすむというわけにはいかない。
諸葛亮は翌日も同じ場所で働かなくてはならないから、やってきた麋柔に見つめられてしまう。

「はわわ、えっと、
まず、全員でこの台座の片側を立ち上げてください」

作業員は全員怪訝そうに諸葛亮を見つめるが、そのうちの一人がこう諸葛亮に進言する。

「諸葛亮様、それは昨日やりました。見ての通りもう立ち上がっています。軸も通っています」
「え?あ、そうでしゅよね、そうでしゅよね。
それでは、作業方針なんですが……」
「諸葛亮様、それも昨日伺いました。
大丈夫ですか?諸葛亮様」
「はわわわ、も、もちろん大丈夫でしゅ、もちろん大丈夫でしゅ」

そういいながら諸葛亮は何かから逃げるよう、じりじりと後ずさりをしていくが、そのうちに地面においてあった材木に引っかかってひっくり返りそうになってしまう。

「危ない!」

と言って諸葛亮に走りよって、彼女を抱き留めたのはもちろん麋柔。

「大丈夫ですか?亮さん」
「はわわわわわ」

生まれて初めて男に抱かれ、真っ赤になってしまう諸葛亮であるが、

「だいじゅぶでしょう!!」

と、余り大丈夫そうにない言葉を発して自分の部屋目指して走って逃げていってしまった。
ちょっと、攻撃兵器の製造は遅延しそうである。
まあ、劉備は最初から対曹操最終兵器を投入する気だろうから、霹靂車は出来ても出来なくても気にしないだろうが。

「亮さん!」

慌てて諸葛亮を追いかけようとする麋柔を

「まあ、ちょっと待つのだ」

と引き止めるものがいる。
話し方から分かるように張飛である。

「どうしてですか!
あんなに諸葛亮さん慌てて、心配じゃないですか」
「麋柔は女心が全然分かっていないのだ。
今すぐ行ってもだめなのだ」
「そ、そうなんですか?」
「そうなのだ。女の部屋を訪ねるときは丁秘奥に気をつけなくてはいけないのだ」
「てぃーぴーおう?」

それから張飛は麋柔に色々とアドバイスをしていたようだ。
麋柔もそれをうんうんとまじめに聞いている。

「わかりました、張飛さん。
どうもありがとうございました」

と礼を述べて去っていく張飛の顔はにやにやとしている。
ちょっと悪戯好きな張飛である。

 一方、自室に引きこもってしまった諸葛亮は、というと……

はわわ、はわわ、ど、どうしよう。
殿方に抱かれたら、次は、次は……

そういいながら視線をベッドの下に向け、そこから何かを取り出している。
そこには、諸葛亮秘蔵のエロ本が隠されているので……

あ、あんなことや、こんなことを……
いやあああっっ!!
麋柔しゃん、だめでしゅぅ!!

エッチな妄想をしているようだった。
いや、普通はそんなエロ本のような急な展開はないのだが……。

 それから半日後、もうあたりは真っ暗になっている。
諸葛亮の妄想もそろそろ落ち着いてきたようで、とりあえず食事も普通に済まし、入浴も普通に終え、部屋でくつろいでいるようだ。
くつろいでいるといっても、顔はかなり赤く、ちょっと平常心とは異なっているのは明らかで、何を考えているかも何となく想像はつくのだが。
部屋の外に出るときも、辺りを伺って様子を見ながら食堂や浴場に行っていたことだし。
朝から夕方まで何をしていたかは追及するのは、彼女の名誉のため止めておこう。
そんな諸葛亮の部屋の扉を叩く音がする。

「鈴々なのだ」
「え?はい、鈴々さん?」

普段部屋を訪れることのない張飛が尋ねてきたので、訝しがりながらも扉を開けてみると、そこに立っていたのは張飛と麋柔。

「麋柔が朱里と話をしたいと言っているのだ。
後は若いもの通し、しっかり話をするといいのだ」

と、張飛は麋柔を部屋に押し込んで、扉を閉めてしまう。
って、張飛さん、あなたも十分若いから。

「はわわ、はわわ、困ります」
「諸葛亮さん、麋柔です。こんばんは」
「だめ、だめでしゅ!出て行ってくだしゃーい」

諸葛亮が必死に拒否するが、既に麋柔は部屋の中にあり、そのうえ鍵を締めてしまう。

張飛のアドバイス、その1:朱里は暗くなってから部屋を尋ねられるのが好きなのだ
張飛のアドバイス、その2:麋柔が入っていいか聞いたら、だめって言うに決まっているから、入るときは鈴々が助けるのだ。
張飛のアドバイス、その3:二人で話をしたいなら、邪魔されないように、鍵を締めるといいのだ

張飛のアドバイスを律儀に守る麋柔であった。

「今日は亮さんの様子が変だったんで心配だったんです。
もう、大丈夫ですか?」

そういいながら、麋柔は諸葛亮に近づいていき、諸葛亮を抱きしめてしまう。

張飛のアドバイス、その4:話をしているときにまたひっくり返ると困るから、しっかり抱きしめながら話をするといいのだ

アドバイスに従う麋柔であるが、さすがにこれは麋柔も恥ずかしそうである。
が、抱かれた諸葛亮はもうパニックである。

「はわわ、そんな、駄目でしゅ。駄目駄目でしゅ」

そして、張飛の最後のアドバイス、その5を実行に移す麋柔、

「僕、聞いたんです。亮さんがそこまでおかしくなってしまうのは、閨の下にその原因が潜んでいるんだって。
だから、僕がその原因を取り除いてあげます」

そういいながらベッドの下に手を突っ込んでそこにあったものを取り出してみる。

張飛のアドバイス、その5:
「朱里がおかしくなるのは閨の下に原因があるのだ。だから、麋柔はそれを取り除けばいいのだ」
「閨の下に原因があるんですか?」
「そうなのだ。それはそれは邪悪なブツがあるのだ。
そこにあるものが朱里を変にしているのだ。
だから、麋柔は朱里からその邪悪なものを取り除けばいいのだ」
「その邪悪なものって何なんですか?どうして、とっとと捨ててしまわないんですか?」
「それはとても口にはできないのだ。捨てないのは、そのものが邪悪すぎるから朱里が捨てようと思っても朱里の心を惑わしてしまうから、捨てられないのだ。
もし、他の人が捨てたとしても、その邪悪なものは邪悪な手段でまた朱里に取り憑こうとするのだ」
「そ、そうなんですか。
でも、僕に亮さんからそれを取り除くことができるんでしょうか?」
「愛の力があればできるのだ。
本当に朱里を愛するものだけが邪悪なものを忘れさせることができるのだ」
「わかりました。よくわからないけどやってみます!」

ということで、ベッドの下にあったものを取り出してみてみれば、当然そこにあったのは諸葛亮が今日一日世話になっていたエロ本。

「え……?」
「はわわわわわわわ……」

もう、恥ずかしくて死んでしまいたい諸葛亮である。
麋柔から必死で逃げようとする諸葛亮なのだが、麋柔は逆に諸葛亮を抱きしめる腕の力を強くする。
その夜、麋柔が諸葛亮の部屋からでてくることはなかった。
エロゲーの世界なので、このようにエロ本のような急な展開があることもあったのだった。
思い出してみれば、関羽もそうだった……というより、関羽はもっと急だったので(出会ってから10分くらい?)、この程度(出会ってからは暫く、初めて会話をしてから2日目)は想定内であろうか。

 その後、諸葛亮と麋柔が仲良く仕事をしているシーンが見られるようになったということである。

「朱里、霹靂車なんだけど、短期間で作るためには、移動を諦めて車無しにして固定式にしたほうがいいんじゃないかな?
どうせ今回攻めてくる曹操のためだけに作ればいいんだから、短期間で大量に造ることに専心したほうがいいと思うんだけど。
あと、いくつか並べて造ったら、台を共有化できて、同じ材料でたくさん霹靂車ができると思うよ」
「そうですね、その通りだと思います。
それでは、ちょっと設計変更しましょう」


 一方、諸葛亮の周りの風景は、というと……

「桃香様、作業の追加です。お願いします」
「ね、ねえ、愛紗ちゃん。少し休みをとらない?」
「何か仰いましたか?」
「う、ううん、何でもない」

諸葛亮と公孫讃が兵器、要塞作りに当たっているので、政務はまたまた関羽に任されていて、当然劉備も政務をしなくてはならなくなっていた。
曹操の攻撃への対応も重要であるが、だからといって他の政務がなくなるわけでは当然ない。
その関羽は能面の笑顔で政務をこなしていた。
劉備は、恐ろしくて逃げたくて逃げたくて仕方がないのだが……

「じゃ、じゃあ桃香、俺はちょっと街の様子を見てくるわ」
「あ~ん、甘ちゃ~ん、置いていかないでぇ~~」
「桃香様?手が止まっているようですが」
「桃香、頑張れ……」

劉甘の励ましに、がっくりうなだれるしかないのであった。

「ところでさぁ、愛紗ちゃん」
「何ですか?休むとかそういう話でなければ伺いますが」

これではどちらが上司かわからない会話である。

「うーんとね、大事なお客さんを出迎えるとき、どんな服がいいかなぁって思って」
「大事な客?」
「うん。例えばね、例えばね、愛紗ちゃんが一刀ちゃんを出迎えるとして、どんな服にする?
とっても扇情的なの?官能的なの?それとも敢えて体を隠すようなおとなしい服?」
「普通でよいのです」
「そ、そうなの?だって、一刀ちゃんを出迎えるんだよ?普通でいいの?
思いっきり腰巻を短くするとか、胸をおおきく開けるとか、すけすけの生地にするとか」
「普通でよいと言ったら普通でよいのです。
何か問題でも?」

あくまで能面の笑顔を崩さない関羽である。

「そ、そうだよね。普通でいいよね。あはは」

曹操を出迎える時に関羽に着せる服を思案していた劉備であったが、結局普通の服を着せるしかなさそうだ。


 政務の後で。

「愛紗も我を張らないで冀州に行けばいいのだ」
「ななななな何を言っているのだ、鈴々は?
わわわわ私は別に我など張っていない」
「朱里に男が出来てからよりきつくなったのだ」
「そんなことはない。政務が忙しく、きつく見えているだけだ」
「大体、他の男女が仲睦まじくしているのを見てそんなにいらいらするなら、もし鈴々や白蓮にも男が出来たらどうするのだ?」
「鈴々や白蓮様に男?」

関羽は張飛をじっとながめて……

「そ、そうなのか?」

と声を落として尋ねるのだが、それに対する張飛の答えは

「まあ、世の中何があるか分からないのだ」

と、なんとも含みを持たせたものであった。
張飛にも春が来るのだろうか?
公孫讃は?




あとがき

甘夫人を登場させたので、麋夫人も登場させようと思って、今回の話になりました。
劉備にくっつけるのも難しそうなので、諸葛亮にくっついてもらうことにしました。
それほど重要ではない予定で、出番も余りないと思うのですが、少しはでてくるかもしれません。
夏侯淵のいとこは登場するのでしょうか?
公孫讃の旦那は「普通の男」?
一刀と違ってハーレムでなく、結構健全な集団です。

次回あたりから曹操のところにいくことになるのですが、これもまた構想が出来ていないので次回登録は少し遅れると思います。



[24705] 広報 (R15?)
Name: みどりん◆0f56c061 ID:81b7701d
Date: 2011/07/27 21:27
広報

 さて、徐州の州牧に就いた劉備であるが、彼女の最大の仕事は徐州の民の命と財産を守ること、これさえ行えばこのご時勢劉備の評判が上がることは間違いない。
攻めてきた曹操を撃退すれば、もう評判があがるなんていうレベルでなく、崇拝されるレベルになることとなるだろうが、さすがにそれが出来るとは劉備も思っていない。
瑯邪国状況も当然伝わっているし、曹操がここ徐州に攻め込んでくるのも時間の問題だと諦めている民で、既に逃亡の準備を始めている人間も多いことだから、劉備はまず彼等に安心感を与える必要がある。

「みんなーー!きいてーーー!」

そして、街のあちらこちらで広報活動を行っている。
緊急放送もインターネットもテレビもラジオもないので、言葉だけが広報活動の武器となる。

「今度州牧になった桃香ちゃんだよーー!
桃香ちゃんは、桃香ちゃんの命に代えてもみんなの命と財産は守るから、安心してーーー!!
桃香ちゃんや朱里ちゃんの命は奪っても、みんなの命は守ってくれるようにお願いするから~~」

と、一応広報活動をしてみるものの、命と財産を預かるのは敵、曹操だから、劉備がいくら騒いだところでそれが実現されるかどうかは全く保証の限りでない。
劉備が何をしていたか位は伝わっているから、民を大事にするとかいうのはどうも本当らしいということは知っているものの、だからといって命と財産が守られるかというとそれは全く別問題である。
民に優しいというのと、民を敵から守るというのは自ずと必要とされる能力が違ってくるものだから。
そして、今のところ、劉備が民を敵から守るということを実践したことがなく、劉備がどんなに訴えても民に希望を植えつけることに成功していない。
金に余裕があったり、職業上移動しても問題なかったりする人々は徐々に下丕から脱出を始めている。
唯一成功しているのは諸葛亮と麋柔の仲を深めることくらい。

「ととと桃香様があんなことを仰ってますけど、だだだだ大丈夫でしゅよね?」
「大丈夫。朱里は僕が守る」
「今夜もしっかり抱きしめていてくだしゃい」
「抱きしめるだけでいいの?」
「……牡啄さんは、いじわるでしゅ」

麋柔の真名は牡啄(おたく)らしい。
真名の読みはなかなかオタクっぽいが、行動はその見かけや真名の読みと異なり、なかなか絶倫で、諸葛亮から邪悪なエロ本を取り除くことに性交……ではなく、成功している。
だって、牡(オス)で啄く(つつく)ってくらいだから。。。
啄木鳥類は一秒間に20回前後木を啄くらしいから、牡啄もきっと………………諸葛亮がエロ本を見向きもしなくなるのも当然である。

劉備の話に戻って、彼女が最初から投降することを予定していると言えば、少しは反応が違ったのかもしれないが、それはそれで今武器の製造や城壁の要塞化をしている兵たちの士気を落としてしまい、それに続いて街全体の士気が落ちていってしまう可能性が高いので、今のところ公にはしたくない情報である。
それでも、徐州の下丕以外の街にはそろそろ無抵抗で降伏してよいと伝えておかなくてはならない時期になってきたので、劉備はあちらこちらの街にその旨手紙を書いて送りつけている。
劉甘は平原国に使いに行ってもらう事にしている。

「曹操が攻めてきたら、すぐに投降してよいという檄を書いたから、これを平原国に届けてもらいたいの。
あそこは地元だから様子がよくわかるでしょ?
瑯邪国のときとは状況が異なり、いきなり全員が殺されることはないと思っていることも書いておいたし、そもそも平原国には曹操が来ることはないと思う。
それで、曹操が攻め込んできた後は、あちらこちらの情報を私に届けてもらいたいの。
きっと、私と愛紗ちゃん、それから朱里ちゃんもかな?その辺は曹操に捕まってしまうと思うから、商人か何かの振りをして私に接触を図ってほしいの」
「わかった。いいだろう。
でも、あの趙雲ってやつは使えないのか?」
「星ちゃんは次に逃げ込む先の準備をお願いしてる。
こういう仕事は甘ちゃんじゃ無理でしょ?」
「そうだな。趙雲って、そんなにできるのか?」
「うん、天才だね。
今の私が着実にその地歩を固めているのも、星ちゃんが作ってくれた道を歩いているだけだもの。
私が漢を倒して皇帝になりたいって妄言を吐いたら、その夢に協力しようってずっと手助けしてくれているの。
私の努力なんて微々たる物で、苦労の大半は星ちゃんがしているの」
「そんなにすごい奴が、何で自分で皇帝に取って代わろうとしねえんだろうな?」
「さあ?酔狂って言ってるけど……
でも、星ちゃんは皇帝を奪い取るって感じの性格には見えないわ」
「うーーん、まあ何となく分かる気もするな。
まあ、趙雲の話は兎も角、平原国に行った後に情報を届けるという件はわかった。
期待に沿えるよう頑張ろう」
「おねがい」

このように、劉備や諸葛亮がそれなりに準備をしているにもかかわらず、何となく不安感が広がっているところに、予想通り曹操の攻撃があり、当初予定通り劉備は無抵抗で投降することとした。
関羽を舐めるように眺める曹操の嬉しそうな表情が印象的だった。
徐州、青州は曹操の勢力化になったものの、劉備の宣言どおり、民の命、財産は守られることになり、劉備の名声は自然に上がっていく。
対曹操最終兵器「関羽」の威力が絶大だったのであるが、それを知る者は極僅かで、名声があがるのは劉備のほうである。
まあ、最終兵器を用意したところは劉備の功績かもしれないが、それにしてもやっぱり関羽ももう少し自分の不遇さに嫌気を催して一刀のところに逃げていってもいいとおもうのだが。


 さて、曹操は劉備一党のうち、主だった武将としては劉備、関羽、諸葛亮の3名のみを捕虜として許に連れていくことにし、他は徐州や青州の治安にあたらせる、早い話が曹操の部下として使うことにした。
特に青州は、劉備のいた平原国はかなり落ち着いてきたものの、他はまだまだ盗賊がはびこっているので、公孫讃や張飛はそこの制圧に向かわされている。
公孫讃に曹操の以前からの配下が全くついていないところを見ると、あまり成果に期待していないのかもしれない。
そのうえ、食料などは現地調達という指示を見ると、ほとんど厄介払いのために公孫讃らを青州に追いやったようにも見える。
この場合、変に劉備の元部下に気を使わなくてよいというメリットがあるものの、好き勝手できて曹操に叛旗を翻す準備をさせることにもなりかねないので、余り得策ではない方針の気もするのだが、公孫讃や張飛ではそこまでの気概はないと見ているのか、ほとんど放任、放逐状態になってしまっている。
結果として、これがその後劉備と行動を共にする一因となってしまうのだが、そんな先のことは曹操にも分からない。

 一方、元々は下丕にいた人間はそのまま下丕に留まらせて政務などに就かせている。
こちらは放任とすることはなくて夏侯惇が州牧相当職として目を光らせていることになっている。
補佐は張遼、許緒。
だが、夏侯惇は夏侯惇なので一番神経をすり減らしているのは張遼である。
軍師系の人材がもう少し豊富だったら郭嘉あたりを遣わせたのだろうが、それはそれで袁紹方面に向かわせる予定なので下丕のようなどうせ攻めてきても袁術程度の街に遣わせるにはもったいなさすぎる。
というわけで、夏侯惇がいることはいるのだが、愛する曹操からも離れ、力を発散させる場もないので、ちょっと不貞腐れている。

 というのが公孫讃や下丕の簡単な様子であるが、これから話をするのは劉備や曹操のいる許の街。

「劉備、関羽、諸葛亮。あなた達は私に投降したのですから、私の部下として忠誠を誓ってもらいたいわ。
そして、私の意向に沿って行動する。
その限りにおいてはあなたたちやあなたの部下たちの命は保証するわ。
いいわね?!」
「うん、みんなが助かるなら桃香ちゃん、なんでも言うとおりにするよ♪」

何かその返事を聞いただけで、妙に脱力してしまう曹操であるが、他の二人にも確認を取ることを忘れない。

「関羽も諸葛亮もそれでいいわね?!」
「え、ええ。桃香様がそう仰るのでしたら」
「はい、私もそれでかまいません」

とまあ3人の服従の意思……はあるかどうか微妙なので、言葉を確認している曹操であるが、欲しいのは関羽の体だけ。
適当な機会を伺っているが、そんなことは知っていてもお構い無しの振りをする劉備は、能天気に許の街をふらついている。
曹操も劉備に何かを期待しているわけではないので、好きにさせている。
そのほうが関羽に対する印象がよくなると思って。

というわけで、劉備は街にいる。

「ねえねえ、朱里ちゃん。なにか活気のあるいい街だね」
「ええ、本当にそう思います。その辺が曹操様の力のあるところなのでしょう」

この二人は結構いつでもマイペースだ。
諸葛亮は命が助かったのでほっとしているというのもあるのだろう。
この二人と違って、様子が変わってしまったのは関羽。

「はぁ……」
「どうしたの?愛紗ちゃん。ためいきなんかついちゃって」
「いえ、なんでもありません。
何か気が抜けてしまっただけで」

桃香様に仕えていた時分より、捕虜として捕らわれてしまった今の方が自由で気楽であるというのは、一体どういうことなんですか?桃香様。とはさすがに言えなくて、しかし日々の生活はそう思うほどに楽になって、仕事もしなくてよくなって、敵に怯える心配もなくなってしまって、何となく気が抜けてしまった関羽の気持ちはよく分かる気がする。
そんな劉備一行に声をかける者(物?)がいる。

「おうおう、姉ちゃんたち。暇そうやないか」
「あ、あなたは……えっとーーー」

声をかけてきた者(物?)を見て、その名前を思い出そうとする劉備の答えは………。

「チェリーボーイちゃん!!」
「どどどど童貞ちゃうわ!!宝慧や!!はぁはぁはぁ………」

一瞬で沸騰して劉備に怒鳴り返す宝慧。

「あれ?そうだったっけ?」
「おんどりゃー、わざと間違えているやろ?」
「そ、そんなことないよ。あはは。
じゃね、チェリーちゃん!」

劉備はそれだけ言って大急ぎで逃げていってしまう。

「待たんかい!!」

という、宝慧の脅しが劉備を止めることは全くないのであった。
劉備の運動能力はたいしたことないが、程昱の運動能力はさらにたいしたことがないので無事逃げ切れたようだ。
これ以降、程昱というか、宝慧が何かと劉備を目の敵にしてその行動を監視するようになっていったのは、ある意味必然と言えよう。


 関羽も数日経てば環境になじんできて、のんびりとした生活を楽しむゆとりが出来てくる。
そんな関羽に夏侯淵が声をかけてくる。

「関羽殿」
「あ、これは夏侯淵様。いつもお世話になっています」
「そんな敬語を使わなくても、普通に話してくれたほうが私も楽なのだが……」
「いえ、これでも一応捕虜の身。身分はわきまえております」
「捕虜と言うが、同じ曹操様の臣下として振舞ってもらいたいのだがな」
「はあ、まあ期待に副えるようにはしたいと思いますが……
それで、何か私に用でしょうか?」
「ふむ、実は関羽殿とは一度じっくりと話をしてみたいと思ってな。
何と言うか同じ境遇にある関羽殿を赤の他人と思えなくて」
「同じ境遇?」
「猪突猛進でめちゃくちゃな性格だが、素直で、どこか憎めない姉妹に振り回される境遇。
わが道を突き進む主君に苦労をかけさせられ続ける境遇」
「よーーーーく分かります、夏侯淵様!!」

夏侯淵の手をぎゅっと握り締める関羽。
そして関羽と夏侯淵は、夏侯淵の部屋で愚痴合戦を始めることとなる。
まあ、愚痴と言っても相手を嫌っての愚痴ではないので、ほのぼのとしたものではあるのだが。
時々、関羽の劉備への愚痴に棘が混じっているのは……ちょっと、劉備も関羽を酷使しすぎだからだろう。

 こうして夏侯淵と親密な関係になった関羽は、久しぶりにすっきりとした気分になったのだが、その気分がどん底に落ちるのはそれからすぐのことだった。

「関羽、こっちを向きなさい」

そう、今の主君になる曹操から声をかけられ、そのまま唇も奪われてしまったのであった。
体の友、一刀も今はそばにはおらず、慰めてくれる人が誰もいない状況で、関羽は呆然として佇んでいた。
その窮状を救ったのは、本来の主君、劉備であった。
劉備は曹操の閨には自分が行くと言って、とりあえずその晩は曹操の危機から逃れることができたのだ。

 さて、その劉備。

やっぱり愛紗ちゃんを狙ってたのね。
でもね、曹操ちゃん、愛紗ちゃんは私の最後の切り札なの。
そう簡単には手に入るとは思わないことね。

そしてその晩、劉備は曹操の寝室に入っていく。
人が尋ねるということは警備兵も知っていたので、姿かたちが暗闇では関羽とあまり見分けがつかない劉備が曹操の部屋に入るのは容易なことであった。
閨に寝ていると、嬉しそうな曹操が歩いてくる様子が分かる。
劉備は頭まで布を被って曹操を待つと、案の定嬉しそうに劉備の体を関羽の体と思って触れてくる。
だが、所詮ばれるのは時間の問題で……

「どうして劉備がいるのよ!
関羽はどうしたのよ!!」

と、曹操が怒り狂うのは時間の問題であった。
それでも、どうにか曹操をなだめすかして、

「わ、わかったわよ。
関羽は諦めるわよ。
…………今日のところは」

と、関羽を諦めさせることに成功する。

「うれしい!
やっぱり、曹操ちゃん優しいね!」

劉備はそういって比較的小柄な曹操の体をぎゅっと抱きしめる。

ありがとう、曹操ちゃん。
ふふ、愛紗ちゃんが欲しくなったらいつでも相手をしてあげるわよ。
私の体が使えるときには使わなくては。
必要だったら貞操だってなんだってあげるわよ。
でもね、まだ愛紗ちゃんはだめ。
私がここで自由に振舞えるのは、愛紗ちゃんの影響があるからだもの。
曹操ちゃんだって思ってるんでしょ?愛紗ちゃんがいなかったら、私なんか死んだっていいって。
だから私も必死なの。
ごめんね、曹操ちゃん。いつか愛紗ちゃんを抱く機会が来ると思うけど、それまでは私で我慢してね。
私も必死に愛紗ちゃんを守るから。

と、曹操を抱きしめながら考えていた劉備であるが、そのうちに違和感を覚え始めた。

あれ?あれ?あれ?あれ?
曹操ちゃんどうしたの?
ぐったりしてどうしちゃったの?

慌てて抱きしめていた力を緩めて、曹操を閨に横たえてみてみれば、どうも息をしていない。
どうやら、劉備の巨乳に口か気道を塞がれ、窒息してしまったらしい。

うそ嘘ウソuso、冗談よね、曹操ちゃん。
ちょっと、息してよ!
まずいわよ、これは。
曹操ちゃんが死んでいるのが見つかったら、どう考えたって、愛紗ちゃんも私も朱里ちゃんも殺されちゃうもん。
ねえ、お願いだから息をして!

と、祈ったところで状況は全く好転しない。
目的が曹操を殺すことであれば目標完遂であるが、自分が皇帝になるためには自分が死んでしまっては意味がなく、曹操殺害の嫌疑をかけられては困るのである。

どうしよう……どうしようどうしようどうしよう……
そ、そうだ。息をしていないんだったら無理やり息をさせればいいのよ。

と、なんとも素人考えではあるが、無理やり呼吸をさせる、早い話がマウストゥマウスの人工呼吸法を行う。
傍目には女二人が裸で抱き合ってキスしているようにしか見えないのではあるが。
しばらく息を曹操の体に送り込んでいるうちに、劉備の人工呼吸法がうまく効いたようで、曹操が自発呼吸を始め、そしてぱっと目を開ける。

「あーーよかった。よかった。よかった。
曹操ちゃん、もう戻ってこないかと思って心配しちゃった!!」

劉備はそう言って、再度曹操にキスをして、ぎゅーっと抱きしめるが、曹操はそれでまたまた気を失ってしまった。

 その頃、曹操はどこに行っていたかと言うと………

あら、ここはどこかしら?
今の今まで自分の部屋にいたはずなのに。
見渡す限りのお花畑。
綺麗な景色。
なにか、心の底から洗われる気がするわ。
おだやかな気持ちになれる。
……あそこに川があるわ。
いってみようかしら?
……綺麗な水。
川なのに静かな湖のように凪いでいる。
泳げそうね。
あ、今私は裸じゃない。
って、部屋で裸だったから、当然の気もするけど。
でも、今はそんなことはどうでもいいの。
服をきているかどうかなんて、些細なことの気がするわ。
今はとってもいい気持ち。
水は冷たいのかしら?

曹操は川に足をつけようとするが、その瞬間突風が彼女を襲う。

きゃああ!なによ、この風は!
体が飛ばされるー!
痛い、痛い、痛い!!体が地面にたたきつけられて全身痛い!
呼吸もなんだか風の所為か苦しい!!
いやああ!止めて!!体が、壊れるぅぅ!!

と、突風で体が吹き飛ばされている幻想をみているうちに、ぱっと意識を取り戻す。
その曹操が見たものは、自分の唇を奪って、にやぁと嗤っている(ように見える)劉備。
その後劉備にディープキスをされ、抱きしめられた曹操がショックでまたまた気を失ってしまったのは当然の出来事と言えよう。
その夜、劉備は曹操を一晩中抱きしめて(拘束して?)寝た。

それ以来、どうも劉備に苦手意識を持ってしまった曹操は、とりあえず劉備の目のあるうちは関羽に手出しをしなくなる。
それと同時に、女にこだわるよりも、素直に男としたほうが案外幸せになれるのではないだろうかと、うすうす思い始めた曹操の心境の変化が、その後一刀と結ばれてそれなりに幸せを掴む一つのきっかけになり、それが劉備-孫策軍に最悪の結果をもたらすことになるとは、このときは誰も想像すらできないことであった。
その証拠に、曹操はこの事件以降、新たに抱くことになった女は関羽だけなのである。


あとがき
次回も遅れる見通しです。
すみません。



[24705] 監視
Name: みどりん◆0f56c061 ID:81b7701d
Date: 2011/09/07 21:22
監視

 曹操に妙なトラウマを植え付けることに成功した劉備であるが、その後の行動は全く変わらず、許の街を関羽や諸葛亮とうろうろしては街の人と話をすることしかしていない。


「そうだよね、そうだよね。あのビールっておいしいよね」
「ええ。それにずいぶん強いお酒で、すぐ気持ちよくなるし」

まったくもってつまらない話をしている。
が、そんな劉備にも監視の目がついている。
散々馬鹿にされた程昱である。
やっぱり、チェリーボーイちゃんはまずすぎだろう。

「くそっ、あの女(あま)、能天気にビールの話なんかしやがって。
一度しばいたろか!」
「まあまあ、そんなにいきりたつものでもないのですよう。
こうやって見張っていればそのうちボロをだすものなのですよう」

……程昱が、客もいないのに一人芝居をしている。
ご苦労なことだ。
結局、劉備はアホな振りをした結果として程昱を自分の監視にしてしまっているように見えるが、程昱は最初から劉備に不信感を持っていたようなので、程昱を怒らせても怒らせなくても監視していたことだろうから、劉備の行動は程昱には何の影響も与えなかったというのが現実だろう。
そんな程昱が劉備を見張っていると、劉備が一人の商人風の男に近づいていく。

「あれ~?その服、平原国の人?」
「ああ、そうだ。よく俺が平原国から来たってわかったな?」
「うん、ちょっと前まで平原国の相をやってたんだ♪」
「もしかしたら、桃香様?」
「うん、そうだよ!桃香ちゃんは桃香ちゃんだよ。
よく分かったね」
「ああ、桃香様のおかげで暮らしが随分と楽になったから。
あ、申し遅れた、俺は劉甘という名だ」

何のことはない、劉甘が公孫讃らの状況を連絡するために来ていたようだ。
監視もついているだろうから、赤の他人の振りをして会話をしているのだ。
白昼堂々衆人監視の下、スパイ活動を行っているが、夜忍び込むのは大変だし、そんな行為をしていたらスパイ行為をしていることが明らかなので、却ってこういう形態の方がうまくいくのだろう。

「劉甘ちゃん……甘ちゃんだね!」

さすがに、あまちゃんとは言わない劉備である。
劉備はにこにこして、こう続ける。

「平原国って、今どんな感じ?」
「ああ、公孫讃様がいらっしゃって、そこを拠点に盗賊退治をしているようだな」
「ふーん、そうなんだ。白蓮ちゃんも頑張ってるんだ。それから、他には?」
「そうだなぁ、俺のような商人にはあんまり細かいことはわかんねえが―――」

それから劉甘は公孫讃や下丕の様子を簡単に説明していく。

「そうなんだ。色々教えてくれてありがとう。
また、ここに来たらお話を聞かせてね♪」
「ああ、俺の話でよければいつでも聞かせるぜ。
まあ、それほど頻繁には来ないがな。
あ、そうだ、つまらねえものだが、これでももらってくれ。
今まで世話になった礼……というにはみすぼらしいが、俺の気持ちと思って受け取ってくれるとありがてえ」

と、なにやらあまり清潔とは思えない包みを荷物から取り出して手渡す。
まあ、その当時としてはそれが普通なのだろうが。

「ありがとう!気持ちだけでもうれしいよ!」
「じゃあな、また今度来たときはよらせてもらうから」

劉甘はそう言って去っていった。

「劉備、その包みを見せなさい」

劉甘が去ると直ちに劉備に鋭い質問をかけるのは、程昱である。
普段の間延びした雰囲気とは別人のように鋭い雰囲気を醸し出している。

「え~っと~~、あなたは~~~」
「見せなさい」

冗談を言う雰囲気はなさそうなので、劉備は仕方なく手にしている包みを程昱に見せる。

「それは何?」
「んー、桃香ちゃんももらったばっかりだから知らない」

劉備が包みを開けてみると、中から茶色っぽい固まりがでてきた。

「お砂糖……かな?」
「そのようなのですよう。怪しいものではなさそうなので、そのまま持っていていいのですよう」
「うん、ありがとう……えっと~~」

程昱とオブジェは劉備をぎろりと睨みつける。
劉備は冷や汗を垂らしながら、発した言葉は……

「コンドームちゃん?」
「おんどりゃあ、わざと間違えてるやろ!
そこに直りやがれ!!!」
「ごめんなさ~~~い!!」

またまた程昱を怒らせている劉備であった。
だが、劉備は相手を甘く見ていた面もあった。
元々抜けた雰囲気がある程昱を怒りと冗談で丸め込めば、自分への監視が少しは甘くなるのではと考えたのだが、程昱はそんなに甘い人間ではなかった。
やはり劉備はどうも怪しいと、監視の目を緩めることはせず、更に劉備と接触した劉甘にも兵士をつけ、尾行させていた。
劉備たちもある程度は覚悟して行動しているのでその程度は予測範囲、劉甘はいつの間にか尾行を撒き、また劉甘が劉備に渡したもののうち重要なのは、中の糖ではなくそれを包んでいた布のほうだったので、情報伝達は滞りなく行われたのだった。
更に記載している文字が例の暗号なので、布を取られてもそれほど問題ない。
その時は別の情報伝達手段を考えればいいだけである。
今のところ劉備サイドの方が一枚上手である。

 劉備の行動が程昱の癇に障るのは、許の民への受けがいいこともある。
苦言でも不平不満でも何でも、親身に聞いてくれる行為に触れると親近感を持つことが多い。
例えば、

「そうなんだぁ、息子さんが行商に行って暫く帰ってこないんだぁ。
うん、心配だよね、あっちこっちで戦も起こっているし、盗賊もいっぱいいるし……」
「そうなんです。息子は大丈夫でしょうか?」
「うーん、桃香ちゃん分からないけど、きっと大丈夫だよ」
「本当でしょうか?」
「多分。冀州に行っているんだったら、あそこは袁紹ちゃんが治めていて、最近は治安がいいらしいから。
桃香ちゃんも聞いただけだから本当かどうか知らないけど、そういう噂があるところならきっと大丈夫だよ!」
「ありがとうございます、それを聞いて少し安心しました」

というようなことがあったり、

「税って大変だよね」
「そうなんです、収入の半分も持っていかれちゃうんです」
「でもね、税を使って国を豊かにしたり、国を守ったりするから必要なんだと思うよ」
「それは分かるんですが……」
「それに、曹操ちゃんのところはいいほうだと思うよ。
聞いた話だと、八割も取られちゃうところもあるらしいよ。
やっぱり、曹操ちゃん、立派な太守だよね」
「そうですか、そうですね」

というような事があったりした。
つまらない話をしていることがほとんどであるが、話しやすく、いつでも親身に話を聞き、たまにはこういうまじめな会話もしている劉備が民の共感を呼ぶのは必然と言えよう。
そしてその様子は程昱にいつも見られている。
声までは聞こえていないが、程昱は劉備と話をしていた民に内容を聞いているという徹底振りである。

おかしい。
冀州の治安がよいとか、税率がどうこういう話は私には絶対にしないのですよう。
それどころか、諸葛亮と一緒のときにもしていないようなのですよう。
自分の知識を隠しているようにしか思えないのですよう。
やっぱり、食わせ物の気がしてならないのです。
でも、目的は何?
華琳様を殺すこと?
そんなことをしても、春蘭か誰かに殺されてお仕舞なのですよう。
だとすると、華琳様に取って代わる?
それなら、民への印象をよくするのは有効な策のようですけど、家臣がついてはこないでしょう。
私も劉備に仕えるなんてもってのほかなのですよう。
単純に周りを困らせるのが好き?
そうは思えない。
……わからない。
そもそも、劉備は今まで何をしてきたかというと……
ここに来る前は徐州で州牧をしていて、その前はどこかの太守だったような。
その前は?
名もなかったような気がする。
僅かな期間で急に立場を上げてきている。
まさか、そうやって最終的に皇帝を目指しているとか。
もしそうだとすると、劉備は周りの状況を利用するだけ利用して、利用価値がなくなったら捨ててしまうことを考えている?
だったら、華琳様のところにいる理由は?
…………袁紹を倒させる?
でも、それだけなら劉備がいてもいなくても大差ない。
諸葛亮は少しは役立ちそうですし、関羽は強いのでしょうけど、大勢には影響がないでしょう。
うーーーん、やっぱり何を考えているかわからないのですよう。
でも、あの女は疫病神には違いないから、早々に排斥しておいたほうがいいと思うのですよう。

で、程昱は曹操に進言に行く。

「華琳様、劉備を殺してください」

だが、劉備は皇帝になることを夢見ていて、周りの人間をとことん利用しつくす最低の女です!と言ったら、自分の方が大丈夫かと疑われてしまうので、民への忠誠心を前面に押し出して説得したが、結局うまくいかず、劉備はその後もてへらてへらと街を歩き回っている。

一方の劉備は………

あの程昱って鬱陶しい。
桃香ちゃんは曹操の味方だっていうのに。
………少なくとも、袁紹を倒すまでは。
もう少ししたら袁紹の所に攻め込むんでしょ?
まだ、そんな雰囲気が全然ないから、きっと収穫が終わってから行動を起こすんでしょうけど。
でも、きっと負けちゃうわよ。
曹操って、不必要に自尊心があるっていうか……戦で正々堂々なんて言っていたら、負けるわよ。
国力の差を考えたことあるの?
袁紹のところ、すごいわよ、あれは。
戦術の妙を尽くせば、何回か勝つことが出来るかもしれないけど、兵も資金も半端でなくあるから、そのうちジリ貧になって結局負けちゃうわ。
ああいうところは、内から壊す方法を考えなくっちゃ。
大体、曹操、あなた張三姉妹抱えているんでしょ?
冀州や幽州にはいくらでも元黄巾党だった人間がいるのよ?
それを使わない手はないでしょうに!!
ああ、言いたい言いたい。
言うとしたら、今、私にぴったりくっついてきているこの荀彧だけど……曹操が正々堂々って言ったら、流石は華琳様!ですって?
主従揃って大馬鹿よ!
少しはあの鬱陶しい程昱を見習ってもらいたいものだわ。
きっと程昱が曹操に何か告げ口したから、こうやって荀彧が私にくっついてきているんだし。
私を殺せとでもいったのかしら?
ああ、もう少し頭を曹操が勝つために使いなさいよ!
一体、普段何しているのよ!
……
……
……って、私の見張り?
考えてみれば荀彧まで私にくっついていて……もしかしたら、私が曹操軍の軍師の才能を殺しているの?
うああああーー!!何と言う皮肉!!
曹操の味方をするつもりが、曹操の一番の疫病神になっていたなんて!!
大体、この間は曹操を殺しかけたし。
まずいじゃない!これじゃあ、袁紹がより強くなっちゃう!
もしかして、私が袁紹の敵に取り付いていることが、袁紹をより強くするために働いているとか……
最低じゃない!
私はどうすればいいの?
捕虜だから逃げるわけにはいかないし、死ぬわけにもいかないし、部下になるのも論外。
……袁紹のところに行けばいいのよ!
そうすれば、袁紹のところが弱体化して……って、袁紹、私のこと嫌ってるから、冗談抜きで殺されてしまう。
袁紹が強くなった要因の一つに、私を嫌っていることがあったりして。
はは、嗤えないわね。
嗤ってるけど。
ああ、どうしようどうしようどうしよう……
やることなすこと全て裏目に出てしまう気がする。
でも、少なくとも時機を見てここから逃げる算段を考えておかないと。
あの程昱、本気で私を排除にくるに違いないから。
まだ大丈夫そうだけど。
時機が重要よね。
だいたい、逃げた後の行動も考えておかないと。
最初は下丕ね。
そこで白蓮ちゃんと合流して……
そのあときっと深く考えない曹操が私を追ってきて……
袁術のところに逃げ込むのだけど……
足止めが必要だから愛紗ちゃんをとうとう曹操に引き渡すしかないかしら。
ごめんね、愛紗ちゃん。
少しは悪いと思っているのよ、これでも。
……かなり悪いと思っているのよ。
本当よ。
ここまでやってこれたのは愛紗ちゃんがいたからだもの。
折角私を頼ってくれたというのに、こき使うことばかり。
挙句の果てに、曹操に抱かれてっていうんだから。
お詫びのしようもないわ。
でも、それもこれで最後。
折を見て一刀ちゃんのところに行って頂戴。
そうしたら、愛紗ちゃんも人並みに幸せになれるわ。
………きっと。
ほ、本妻との関係は、一刀ちゃんがどうにかしてくれるわよ。
………
………
………多分。
ああ、本当に愛紗ちゃんのことを考えると自己嫌悪に陥るわ。
つくづく私は悪人なんだって。
もういいわ。
悪人は悪人らしく曹操を騙して袁紹を倒す算段を考えましょう。
まずは、この荀彧を垂らしこんで、私に対する敵意を軽くすることから始めましょうか。
私が作戦を伝えるのと、程昱が私を排斥に来るのとどちらがさきか。
賭けね。

こんなことを考えていた。
そして、ぴったり後ろから荀彧が付いてきているのを確認して、自分の部屋の直前でぴたりと止まって後ろを向く。
当然、荀彧は劉備が止まるなんて考えてもいなかったので、劉備の大きな胸にぼよ~んとぶつかってしまう。

「ねえ、荀彧ちゃん、どうしてそんな怖い顔をして桃香ちゃんをつけてくるの?」
「うるさいわよ!華琳様の命令で、あんたがよからぬ事をしないか見張っているのよ!」
「え~?桃香ちゃん、そんな悪いことしないよ。
みんなとなかよくしたいだけだよ」
「知ってるわよ、そんなこと。
あんたがそんなに頭がよくないことくらい見ればわかるわよ。
昔から巨乳の女は乳に栄養が行った分、脳に栄養が行かないから頭が悪いと相場が決まっているのよ!」

それを聞いた劉備、

あれ?荀彧って、小さな胸に劣等感を持ってるのかも!
これは使えそう。

と、思い、

「なぁんだ、荀彧ちゃん、おっきいおっぱいがいいんだ!
じゃあ、いいことがあるよ」

と言って、荀彧の手を引っ張って自分の部屋に連れ込んでしまう。
荀彧は、

「ちょ、ちょっと、何するのよ!」

と、嫌がっているものの、体格差の所為か劉備にずるずると引きずられていき、そのまま劉備の閨に連れ込まれてしまう。
そこで劉備は巨大なおっぱいを取り出し、荀彧に

「はい、どうぞ」

と言って乳首を荀彧に含ませてしまう。

私は華琳様だけを崇拝して……

と思う荀彧であるが、ほわほわのおっぱいを唇と掌に感じて、

お、おっぱいの感触を楽しむくらいなら問題ないわよ。
そ、そうよ。私がこれからどういうおっぱいになるか知っておくのも重要なことよ!

と、自己弁護をしてそれから少しの間劉備のおっぱいを吸ったり揉んだりしていた。
が、流石に長時間やるのはまずかろうと、程なく劉備から離れ、

「乳が大きいのは頭が悪い証拠なのよ!
でも、曲がりなりにも華琳様の部下である劉備が頭が悪いと困るから、私が揉んだり吸ったりして小さくする協力をしてあげるわよ!」

と、勝手な理由を付けて、それ以降も劉備の胸を揉むことを正当化しているのであった。

「うん、お願い♪」

劉備も嬉しそうにそれに答えている。

 さて、その後本当に荀彧は劉備のおっぱいを揉んだり吸ったりしていたが、それが荀彧の女性ホルモンを活性化したのか、本当に荀彧のおっぱいは急激に大きくなってきた。
生気が奪われ、おっぱいが心持ち小さくなった様にみえる曹操とはまるで逆である。
あたかも、曹操のおっぱいが荀彧に劉備経由で移ったようにも感じられるが、全く関係ない出来事である。

 自分のおっぱいを安心した様子で揉んでいる荀彧を見て(揉んでいるときだけは安心した様子である)、

そろそろ頃合かしら。
張三姉妹も公演をするみたいだし。
あとは、どうやって切り出すか、ね。

と、考えている劉備であった。
が、張三姉妹が公演をするということは出陣が近いということで、その前に劉備の息の根を止める必要があると程昱が考え始めていることをまだ劉備は知らないのであった。


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