状況を説明しよう。
上が間抜けだった。
だから、こうして、前線で飛んでいる。
説明終了。
それにしても、空を飛ぶのは、実に恐ろしい。
姿を隠せる遮蔽物が雲以外に乏しく、身を守ろうと思えば、せいぜい身を丸める程度しかできないのだ。
魔導師は、ある程度は頑丈だ。
だが、頑丈だからといって死なないわけではない。
近距離でばら撒かれるライフル弾程度ならば、防御できる。
だが、貫通力重視の狙撃兵や、そもそも口径からして別次元の機関銃の前に立ちたいかと言われれば、断じてノーだ。
それでも、戦術上の優位を欲するがために、上は、飛べと命じてくる。
しがない一少尉としては、サラリーマン同様に、職務規定に従うほかにないのだ。
泣きたいことに、私は軍人で、しかも航空戦技に関しては士官学校で空戦技能章を授与されるほど頑張っている。
今さら、飛べませんという泣き言は通用しない。
だから、嫌々飛んでいる。
地上軍に先行する形で前方警戒線の斥候要員兼航空警戒要員というやつである。
「ホークアイ03より、ヴァイパー大隊。」
前方で鵜の目鷹の目で敵を探し、発見次第進撃中の友軍に伝達。
後は、接近中の敵集団と一定の距離を保って接敵しつつ情報を継続して収集。
場合によっては、直掩集団の誘導といった管制を兼ねる。
早い話、我が帝国軍地上軍を狙っているありとあらゆる軍隊にとって、真っ先に叩き落としたい的だ。
なにしろ、放置しておいていいことは何一つとしてない。
だから、最初に落とす。
こちらも、同じように、相手の前衛斥候を叩き落とす以上、お互い様というべきかもしれない。
「前方より、高速接近中の群影を感知。」
が、それはあくまでも飛んでいない人間の意見だ。
飛んでいる魔導師にしてみれば、たまったものではない。
敵を直接撃つ訳でもないのに、真っ先に狙われるのだ。
一番割に合わない。
無論、嫌々飛ぶ以上、身の安全は最大限配慮している。
通常の魔導師では、到達し得ず、敵航空機の襲撃時には、接近前に急降下して逃げ切れるぎりぎりの高度。
地上からの対空砲撃に関しては、下方に全力で防御膜を形成しているので、一撃程度ならば耐えられるだろう。
高度8000。
主の加護を受けし、95式様々だ。
詳しい理由?
呪われているからであって、不本意極まりない状況故にだ。
話したくもないような事情が背景にある。
昔読んだ漫画で、秘密は女性を美しくすると呟いた犯罪組織の一員のお方がいたが、あれは間違いなく嘘だ。
主を讃えることしかできない私には、内心の自由を回復したくてたまらないのだ。
まあ、いろいろと考えるよりも先に、目の前の仕事をやっつけでもよいからやっておかなくてはならないが。
「3時方向より、推定中隊規模の魔導師隊が急速接近中。」
西方からの進撃。
私が、こうして敵の的になる羽目に陥っている諸悪の根源ですらある。
つまるところ、間抜けにも西方からの進軍を招いた上の責任だ。
なにしろ、帝国は北方戦線に傾注していた。
戦果の拡大を欲して、本格的に蹂躙し始めた。
征服による併合すら、夢見ていた兆しがあるほどだからだ。
ここで、重要となってくるのは、地理的な条件である。
北方は北方方面軍という名とは裏腹に、実質的に北東の戦線を担当していた。
東方軍の支援が主たる戦略課題なのだ。
そのため、大規模な侵攻作戦を行うに際しては、動員した部隊が侵攻部隊として割り当てられる事となる。
これによって、問題が複雑化した。
あるいは、極端になったとも表現できるだろう。
軍隊の動員とは、事態をいろいろと加速させるのだ。
主として、悪い方向に。
長年の国境紛争や、領土問題に加えて過去数度にわたる局地的戦闘といった衝突を抱えていた西方の問題も再燃せざるを得ないのだ。
なにしろ、留守を撃てるとすれば、西方地域が大人しくなるわけもない。
それに、西方地域にしてみれば、この期を逃すわけにはいかない。
主力が北東にある時を狙う。
その考えは実に正しい。
なぜならば、放置しておけば、やがては北東の圧力から解放された帝国と対峙せねばならないのだ。
だが今ならば、東方への牽制から、東方軍が動けずに、本来西方軍が有していたであろう侵攻戦力が留守。
何しろ、こちらが軍を動員し、北東に戦力を投入している状況において、西方も沈黙し得るものではない。
最初はあくまでも、軍の動員には当然軍を動員することで、対抗せざるを得ないために動員したに過ぎないだろう。
だが、こちらの主力が、北東に赴いているとすればどうか?
相手は、軍事的にみた場合、主力が遥か彼方の戦線に投入されている。
自らは、動員が完了した戦力を相手の前線に完全に配置している。
なるほど、純粋な時間で見た場合には、一撃で北方戦線はけりがつきつつあるだろう。
まさに一瞬といってもよい。
だから、戦争の早期終結という発想は成立し得る。
だが、軍事的にみた場合あまりにも大きな時間をそこで必要とするのだ。
国の崩壊が数ヶ月というのはあまりにも、急激かもしれない。
しかし、軍事力が数ヶ月拘束されるということは、あまりにも長い。
長すぎるのだ。
今日の軍隊は数週間もあれば動員を完了し、完全充足の軍隊で、大挙して進軍し得る。
「さらに、1時方向より大隊規模の地上部隊を確認。加えて、機種不明なれども航空機複数が急速接近中。」
北方戦線で勝利を収めることを優先した。
つまり、戦略的な判断だと、上は強調しているが、要するにだ。
愚かにも、単純に裏をかかれただけだ。
もしくは、間抜けにもこの事態を想定していないかのどちらかだろう。
どうも、うちは軍隊が国家を所有しているような軍事国家で、外交下手というイメージがぬぐえないのが怖いところである。
『それは、帝国にとって、二正面作戦を避けるための秘策であり、新秩序の誕生を告げる砲火の咆哮でもある。』
などと、新聞やラジオは喚いているが、前線で戦う兵隊にしてみれば、そんなことはどうでもよい。
一発の銃弾や、一回の援護の方が切実に望まれている。
せいぜい、塹壕で退屈しのぎにジョークを作る以外には使い道のないプロパガンダなど、後方の連中にでも聞かせていればよいのだ。
前線では、大義や、理想よりも、現実が極端に重んじられる。
「敵前衛魔導師集団、我を感知した模様。なおも急速接近中。」
どう言葉で取り繕うとも、現実は実にシンプルイズベスト。
要するに、西方の方面軍は主力が戻ってくるまでサンドバッグにならざるを得ない。
卑近な事例で申し訳ないが、もっと具体的に言うとこの空域では私から。
教導隊やら、先行量産型を受領し実用評価を任務とする評価部隊などは、残留部隊といえども基本的には充実した戦力を持っている。
何故、前線で戦わなくてよいかといえば、本国において全軍の質的改善に努める方が、長期的には利益が大きいからだ。
精鋭をすりつぶすよりも、その精鋭が幾多もの部隊を精鋭に育て上げさせる方が、当然利益は大きい。
だが、誤解しないでほしいのだが、彼らはやはり精鋭部隊なのだ。
何かあれば、当然のごとく戦力として期待される。
具体的には、予想もしない火事が起きた時の火消し役としてこうして、表に立たされることとなるのだ。
「我、空域より退避す。貴隊の武運を祈る。」
敵から嫌われるのは簡単だが、友軍から嫌われるのはもっと簡単だ。
正々堂々と見捨てればよい。
もっといえば、助けられるにもかかわらず、自己の安全を優先すれば完璧だ。
「ヴァイパー大隊了解。貴官も無事で。」
つまりは、こちらに直掩を廻さずに防御に入っている連中のことだ。
まあ、地上戦力で互角。
魔導師の支援と航空援護があるという状況で、一介の魔導師を救うべく軍が動くというのはありえないのだが。
ありえないのだが、その連中に危機を知らせるということを体を張ってやっている魔導師に、それはやはり酷くないだろうか?
無論、自分自身が相手の立場なら、それが魔導師の仕事だと割り切るのでダブルスタンダードだとは理解するが。
仕方のないことだと割り切るほかないのだろう。
とはいえ、其れ相応の給料くらいは、求めても悪くはないはずだ。
双方の契約関係上、これほどの献身ならば、高給でも払われない限り、不平等もよいところである。
95式は、使いたくない。
この、神の恩寵篤き演算宝珠めに頼るのは、本当に嫌なのだ。
視点変遷:共和国第228魔道捜索中隊
「Golf1より、CP。敵哨兵と遭遇。」
「CP了解。付近の直掩と思われる。排除しつつ、敵主力を引き続き捜索せよ。」
運がない相手だと、思う。
中隊規模の魔導師。
それも、軍集団の先鋒を務める精鋭に追いかけまわされるのだ。
優秀なのだろう。
先にこちらの接近に気がついていたらしい。
すでに、実用的とは程遠い高度8000にまで上昇している。
長くは持たないのだろうが、逃げを打つにはそれしかない。
こちらが、追撃を躊躇するような環境に持ち込むか、あとは、運を身に任せて低空のランダム機動しかない。
長距離進出している我々も、通常ならば、高度8000での追撃戦は忌避すべきだろう。
しかし、地上軍主力をむざむざと観測させるわけにもいかない。
「Golf1了解」
「聞いていたな?よし、Mike小隊は敵哨兵の排除。残りは私と強攻偵察だ。このまま突っ切るぞ。」
なによりも、帝国の警戒線が手薄な今こそが、共和国にとって唯一の勝機なのだ。
このような防衛線に時間を取られて、敵主力が引き返すに任せるわけにはいかない。
防衛線に一当てして、可能な限り情報収集。
可能であれば、撹乱と、突破起点の形成すら我々には期待されているのだ。
哨兵には悪いが、あまり時間をかけるわけにもいかない。
「了解、すぐに追いついて見せますよ。」
小隊長がそういうなり、Mike小隊は急速に高度を上げていく。
まあ、高度8000は、さすがに、共和国の精鋭といえども厳しい消耗を強いられる。
通常は4000が基本。よほど無理をしても6000までが実戦で耐えうるとされる高度だ。
その意味において8000を選択した敵は賢明だ。
実際、この追撃でMike小隊は消耗し、実質的に強攻偵察は2個小隊に規模を落とさざるを得ない。
戦力の誘因と遅延という観点からして、敵哨兵は極めて有意な貢献をしている。
とはいえ、そのように敬意を払うべき相手と、我々は戦争をしているのだ。
「Engage。Fox1,Fox1!」
戦域無線に耳を傾ければ、干渉式を封入した長距離射撃戦が開始され、逃げ切れないと悟ったのだろう。
Banditは急速に旋回し、獲物を手にMike小隊へ反転攻勢に出たらしい。
「Fox2,Fox2!信じられん!これをかわすのか!?」
いや、遅延による時間稼ぎか?
すでに中距離での応戦だ。
私の指揮する二個小隊からかなり離れた距離ではあるが、かすかにMike小隊が格闘戦機動を取り始めたのが確認できる。
混戦に持ち込み、時間をひねり出す?
悪くはないだろう。
だが、中隊ではなく小隊規模なのだ。
掻き乱すには少なすぎ、圧倒するには多すぎる戦力差だ。
勇気と決断に敬意は払われるだろうが、それは無謀という物。
「Tally-Ho!! Break!Break!」
私の判断と同じく、Mike各員は分散。
敢えて、格闘戦に応じる。
目的は敵の排除と、後続の支援なのだ。
奮戦する相手は知らないだろうが、どのみち、Mike小隊を消耗させようともすぐに後続が来る。
だが、それは、私の油断だった。
「Fox3!Fox3!クソッたれ!なんて固さだ!」
近距離故に、双方の射撃による応酬は当然激しさを増す。
だから、こちらの射撃が当たり始めるが、無線は、好機よりも、嫌な気配を漂わせ始める。
いや、嫌な予感しかしない。
「Mike3! Check six! Check six! ああ、畜生!」
「PAN PAN PAN!」
「なんなんだあれは!なんなんだ!あいつは!ええい、Fox4!」
錯綜する無線。
何なのだ?
思わず双眼鏡でのぞき込み、目の前で繰り広げられている光景に思わず私は目を疑う。
空戦機動において、中隊随一を誇るMike小隊が、翻弄され、遊ばれている?
・・・ありえん。
魔導師は、あそこまで、あそこまで動けるものなのか!?
「Mike1? Mike1?」
気がつけば、すでにMike小隊は半身不随だ。
1と3は落とされ、4は演算宝珠をやられたのだろう。パラシュート降下中だ。
2が辛うじて、持ちこたえているが、あれとて長くは持たない。
「くそっ、Bravo,Golf反転、Mikeを援護するぞ。」
ありえん。
魔導師にいくら個体差があるとはいえ、ここまで一方的とは。
帝国の魔導師は確かに一部にチューンされた特機と称される演算宝珠と、生まれ持った高出力魔力で武装しているのはいる。
だが、それとて、せいぜいツーマンセル相手に持つかどうかだ。
対魔導師戦闘で、各個撃破ではなく、小隊規模を相手取ってそのまま料理できるなど、想像もつかない。
「Bandit in range!」
すでに、Banditはこちらの射程に入っている。
距離はややあるが、決して長距離射撃をはずす距離ではない。
相手もそのことを理解しているのだろう。
急激に回避機動を取っている。
ほとんど、信じられないような乱数機動そのものとしか言えない。
「Fox1,Fox1!」
しかしなにより悪夢なのは、その防御膜の固さだ。
長距離射撃故に命中精度を優先したとはいえ、曲がりなりにも誘導干渉式に爆裂式くらいは混ぜている。
その直撃に微塵も動ぜず、応射してくるなど、何かの冗談かとすら思いたくなる。
「I'll engage! cover me!」
らちが明かない。
そう判断したのだろう。
golf2が、近接魔導刀を手に突進していく。
いくら固かろうが、近接戦で魔導刀を叩きこめば、無事では済むまい。
其の判断自体は、悪くない。
「Got it, Fox2,Fox2!」
「Bandit未だ健在!?そんなバカな!」
「golf2,Break!Break!」
だが、牽制と援護を兼ねた中距離射撃は、ことごとく防御膜に弾かれる。
それどころか、近接戦に持ち込もうとしたgolf2に至ってはMike2の援護があって辛うじて虎口を脱しているありさまだ。
加えて、敵からの射撃は、こちら側の防御膜をあってなきもののように引き裂き、あっという間に2機喰われた。
嵌められた!高度8000は、欺瞞行動。
こちらの分散を狙っての行動だ。
まんまと乗せられ、確固撃破される愚を犯している。
「MAYDAY MAYDAY MAYDAY!敵新型と遭遇!」
「糞ったれ!何が、楽勝だ!Golf1よりCP,ただちにRTBを要求する。」
視点変遷:95式評価委員会
新型兵器というものは、コストに加えて、整備性・稼働率といった前線でなければ評価しにくい要素も多い。
だから、急遽西方からの脅威に備えるということで試験的に導入された95式もめでたくコンバットプルーフされる事となった。
それも、極めて良い方向に予想を裏切る形で。
「それで、戦果は?」
「見事なものです。撃墜6、撃破2、未確認2です。観測班によれば、未確認2も帰還できるか果てしなくおぼつかないとのこと。」
駄目でもともと。
それが、奇跡的に実験に成功したというから、試験運用してみれば驚きの戦果だ。
確かに、デグレチャフ少尉は、銀翼突撃章を授与されるほどの戦上手ではある。
だが、それとて混戦を幸いに、上手く増援到着まで持ちこたえられたということに過ぎない。
「実質的に、ほぼ単独で中隊を屠りました。」
そう。
相手が引いたから、全機撃破には至っていないというだけで、単独で中隊を駆逐してる。
この持つ意味は、圧倒的な質的優位以外の何物でもない。
「ふむ、まさか、これほどとはな。」
常識からすれば、信じがたい成果としか形容しがたい。
まさに、革新的以外の何物でもないだろう。
「ですな。エレニウム工廠での実績からすれば、よほどの欠陥機かと覚悟していましたが。」
蓋を開けてみれば、これまでの失敗続きとて、一気に許容できるような成果だ。
なるほど、コストがかさむのだろう。
製造も複雑なのだろう。
だが、これほどの成果ならば全てが許容し得る。
コストも、量産すれば案外かなり下げることも見込みうる。
「いや、実際に欠陥機以外の何物でもないのですよ。」
だが、そういったもくろみに対して、技術部が盛大に水を差す。
彼らにしてみれば、運用側の思考が手に取るようにわかるのだ。
革新的な技術。
革命的なまでの、質的改善への願望。
その全てが、技術部に言わせれば、不幸なことに幻想でしかないのだ。
夢からは、早く醒めてもらわねばならない。
「どういうことですかな?戦果としてみた場合、単独で望みえる戦果以上だ。」
「さよう。魔導戦の在り方を変えるような代物ではないのか。」
たしかに、それは事実だ。
だからこそ、95式は評価試験対象となったのだ。
4機同調による魔力変換固定化の実戦運用とその可能性。
その探究は、魔力を固定化し、弾丸のように保存し得ることの戦術的価値の探究に尽きる。
いつでも、好きな時にためておいた魔力を戦闘に活用し得る。
これは、魔力保有限界を事実上消失させた。
加えて、4機同調による4倍の出力実現。
はっきり言って、試してみたかった。
だから、投入してみた。
身も蓋もない言い方をすれば、技術検証以外の何物でもないのだ。
「成功例は、一件のみ。技術検証目的とした場合を除けば、大失敗ですよ。」
「他の事例は?」
一番の成功事例は、同時に唯一の成功事例なのだ。
まともに量産できるめどがあるかと言われれば、そもそも再現できるかすら怪しいと言わざるを得ない。
なにしろ、恒常的に暴発だの回路不備による自壊だのが起きている代物だ。
確かに、魔力で一度コーティングを成功させてしまえば、後は頑強だろうが、そのコーティングの成功率は絶望的水準なのだ。
「酷いのだと、前線で爆発事故を起こして小隊ごと駄目にしています。」
同調実験に失敗し、4倍の魔力爆発による相乗効果で、試験運用中の小隊が吹き飛んだ。
あれは、ひどい損失としか形容しがたい出来事である。
なにしろ、教導隊や先進技術検証団の精鋭が小隊規模で吹き飛んだのだ。
「・・・しかし、魔力をバーストできるのだぞ?捨てがたい魅力だ。」
運用側が、喰いついてくるのは想定し得る。
なにしろ、本当に魅力が豊富極まりないのだ。
これまでの、魔導師中隊に匹敵する火力と機動性に防御力まで単独の魔導師が保有し得る。
その可能性だけで、彼らは目の色を変えて、欲する。
「使いこなせているのは、デグレチャフ少尉のみ。彼女以外の検証要員では、吹き飛ばないのが最大の成果です。」
だから、釘を盛大に刺しておかざるを得ない。
技術的な革新性ということには、技術部も衝動的に探究の精神が刺激されるのは事実だ。
しかし、冷静になってみればその危険性や、困難さも一番よく理解できる。
理解できてしまう。
「成功事例があるのだろう?それの再現を行えばよいではないか。」
「・・・エレニウム工廠が消失寸前までいったのですよ?デグレチャフ少尉の成功とて、ほとんど偶然です。」
4機同調による魔力変換固定化は、想像以上に危険が大きい。
奇跡的に成功したが、失敗していればエレニウム工廠を吹き飛ばすには十分すぎる量が観測されているのだ。
当然、まともに考えて、それほどの規模が消失するような実験を何度も失敗させるわけにはいかない。
「偶然とは?」
「核が魔力暴走で融解しかけた瞬間に、暴走した干渉波が一致したがために辛うじて、融解寸前で同調。」
要するに、制御できなくなった魔力が、勝手に上手く絡み合ったということだ。
検証しようにも、偶然としか形容しがたい。
敢えて言えば、魔力が暴走し、上手く調整し得れば、可能性がありうるという結論だが、結論とも言えないような代物だ。
まともに再現できるものではない。
雷が落ちて、その結果できあがったオブジェがたまたま立派な形をしたというのを、再現せよというに等しい。
「それによって、暴れていた魔力が魔力変換固定化を起こした。要するに、ほとんど奇跡の偶然です。」
実験の報告書にシューゲル主任技師が、『神の御業』故に成功したと記載したことからして、その奇跡の度合いが推し量れるというものだ。
ほとんどありえない事態。
それが、たまたま人の理解を越えて起きてしまったようなものなのだ。
95式を作り上げたシューゲル主任技師からして、この継続開発を断念してるのだ。
彼でさえ、この演算宝珠は神にでも選ばれねば使えまいと最終的に結論している。
この事からも、その至難さが推し量れる。
「つまりは?」
「よくわからないものを、よくわからないまま、無理やり運用しているのが実態です。」
技術の成果を試験的に試してみたい。
たまたま実戦の機会があったがゆえに、投入してみよう。
投入してみたら、大きな成果が上がった。
要するに、そういうことくらいしか、わかっていないのだ。
原理の解明にも、再現にも、莫大な時間と労力を必要とする上に、その成功確率事態も、賭けるに値しないようなものしか算出できない。
「いっそ、デグレチャフ少尉を祭り上げたほうが、有効かもしれんな。」
「・・・同意いたします。そちらのほうが、寄与するところは大きいでしょう。」
ならば、いっそのこと。
こうした技術を宣伝し、相手に研究させるのではなく、個人の力量に起因させてしまった方がプロパガンダに使いやすい。
幸い、デグレチャフ少尉は銀翼突撃章をあの若さ、あるいは率直に言えば幼さで授与されているのだ。
その力量を賞賛するという意味では、そちらの方が賢明やもしれない。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
うん、更新はペースが落ちて申し訳ない。
今回は、95式という前回出てきた演算宝珠が何故か上手く機能していると認識してもらえるだろうか?
まあ、世の中には上手い話などあるわけもないから、いろいろと訳ありなのは御理解いただけると思う。
空戦の描写は、敵さんに限ってすこしやんきー風に。
これで、特徴を付けて区別してみようという発想です。
英語力?
うーん、日本の教育システムを信じてほしいとしか・・・・。
ZAP中です。
ZAPZAP
ZAP